宇宙世代日本国召喚 (白糸)
しおりを挟む
第一章 転移直後→日本・ロウリア戦争終結
001 転移
25世紀のエネルギー革命以来、地球文明は宇宙での活動領域を徐々に広げていった。
第五種永久機関の実現により半永久的な航行力を持つ宇宙船が建造されてからというもの、各国はこぞって自国の領土と資源を求めて宇宙へ進出した。
その流れの中で、大きな変動が幾つもあった。
それは、例えば軍事面。態々爆撃機を出さなくても、宇宙からの精密攻撃が出来る。態々民間船に護衛艦を付けなくても、宇宙からの一括管理と即時攻撃が可能になる、etc.
もはや旧来の兵器は宇宙兵器に敵うことはない。消えていくのは自明の理だった。
例えば金銭面。国の殆どの金は宇宙開発に費やされるようになった。その為道路補修などがおろそかになりつつあった。そして金、資源等の殆どが火星・月などにあり地球にはない状況にあった。
そのような状況だったが、国家運営においては然したる問題にはならなかった。しかし日本政府は、誰もが想像し得なかった理由でこのようないびつな状況を放置したことを後悔することになる。
クワトイネ公国沖
青い、青い空を飛ぶワイバーン。その背には相棒の人間が乗っている。クワトイネ公国第六飛龍隊のマールパティマは、公国北東部の海の警戒飛行を行っていた。
元々人類至上主義を掲げていたロウリアと亜人の多いクワトイネはいつも緩い緊張状態にあったが、どうも最近軍部が活発に動いているということを聞かされていたので、いつもより幾分か気をつけている。
とは言っても、ロウリア王国は西側の国ではあるのでロウリア軍が迂回でも企てない限りはこちら側から攻められることはない。ましてや、クワトイネから東には他の国は存在しないので、商船さえ見かけることのない退屈な職場だ。
あくびを噛み殺して、目の前に広がる大海原を一路北へと進んでいた。
「………?」
ふと、マールパティマは何かを見つけた。
「まさか、ロウリアか?」
しかし、ワイバーンの航続距離からして、大回りに迂回することは不可能だ。
では何だというのだ………?
徐々に距離が縮まっていく。予定表によればこの空域は現在自分しか見方機はいないはずだ。マールパティマは魔信を用いて司令部に報告した。
「………こちら第六飛龍隊所属マールパティマです。所属不明機を発見。これより要撃を行います。座標は────」
そうこうしているうちに敵機はすぐそばまで迫っていた。
「羽ばたいていない………飛行機械?!それになんてデカさだ!」
彼が見たのは、信じられないほど大きな鉄船だった。
すれ違い、並走する。速度はおおよそ200㎞/hと言ったところか。全長は、150mはある。葉巻型で、上部には大型の魔導砲らしき物が見られる。
「司令部、司令部、こちらマールパティマ、敵機は巨大飛行機械!国旗も確認できず!応援を求む!」
「こちら司令部、ムーの飛行機械でも現れたのか?しかし今は第三文明圏周辺には飛行機械はいないはずだ。」
「しかし………」
「………確認に3機上げる。しばし待たれよ。」
魔信が切れるのとほぼ同時に、不明機から大きな声が発せられた。
「これで聞こえますかね?──こちらは日本国自衛隊所属航宙護衛艦「灘風」です、聞こえますか?」
これが日本とこの世界の国家のファーストコンタクトだった。
謎の発光現象が起こってからというもの、日本国内では小さな混乱が起きていた。宇宙及び他国との連絡がぷっつりと途絶えたのだ。そしてすぐに星の配置が今までのものと違うということが判明し、二日後には航宙機が確認に出てどうも地球は異世界に転移してしまったようだということが判明した。しかし、現実味が無かったためか、しばらくすれば国民はかなり冷静になった。
ただ、その影響で資産が無くなった人、会社は数知れず。その経済的影響は数千兆円にも及んだ。
日本政府もほぼ全ての資金を失ってしまいただ事ではなかったが、とにかく国家の存続のため、日本本土に改修のためやって来ていた航宙護衛艦「灘風」を用いて宇宙偵察時に確認された近隣の文明と接触、市場を作り経済を復活させるプランを実行した。
「しかし、こんな事が実際に起こるとは………」
外務省の職員である朝田は、自宅で朝食を取りながらニュースを見ていた。朝田は外交官なので、自分がリストラされるのではないか、と若干危機感を覚えた。
「こんな事が起こったのに、パニックにはならなかったみたいね。」
そう言ったのは、彼の妻だった。
「そうだな。別に電気が使えなくなるわけでも、飯が食えなくなるわけでもない。強いて言えば、株で儲けていた人が食べていけなくなって、近隣の星から仕入れていた金属が入ってこなくなるくらいか。」
現在の日本では、永久機関によってエネルギー自給率は100%を保っており、食料も地下のプラント栽培で自給率ほぼ100%という状況だ。生活において、喫緊の問題が起こることは無いだろうと考えられる。
「財務省役員は宇宙への投資が消えて大変だろう。でも、そのおかげでこれからは本土にお金を使ってもらえるな。
あと、防衛省は随分苦労しているみたいだ。戦闘用航宙機の技術の一部は相変わらずアメリカが持っているし、本国にある100機が潰されれば再生産出来ない。あと、航宙護衛艦も改修で本国に来ていた1隻しか残っていないみたいだ。海洋艦艇や航空機は全廃されているしね。尤も、この星の文明相手にはそれで事足りるだろうと言うのが国の見解だけど。」
「ならいいけど………」
朝田はごちそうさま、と告げてスーツを整え、妻にネクタイを結んで貰って外務省へ向かった。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
002
結局初接触を行った「灘風」は、翌日同じ場所での再会を約束し日本へと帰っていった。
その話は即日クワトイネ政府まで届き、外務局の役員が複数名、灘風を誘導する予定のマイハークに派遣された。
また、日本でも約束を取り付けてすぐに外務省がクワトイネに派遣する外交官を選び、クワトイネに提出する資料も取り纏めた。
そして邂逅の翌日早朝、外交官を乗せた灘風はクワトイネ公国へと向かった。
無事第六飛龍隊との再会を果たし、マイハーク港へ入港した灘風。暫くすると3隻の帆船がやって来て荷物や人員の運搬を始めた。
それを丘の上から眺めているのは、クワトイネ公国外務局のヤゴウだった。
「あれは何ともまぁ、大きな飛空船だ………」
ヤゴウは翌日行われる協議に参加することと、事がうまく運べば日本国に視察へ行くことが決まっていた。同僚からはかなり羨まれたが、第三文明圏外国の中では圧倒的な衛生観念、生活水準をもつクワトイネ人としては、他の新興国家なぞに行きたいとはとても思わなかった。
この飛空船を見るまでは。
「これなら日本国はミリシアルやムーと同じくらい綺麗かも知れないな。」
魔法技術には疎いヤゴウだったが、外務局員というのもあってパーパルディア皇国や第三文明圏国家の技術については大まかに知っている。あの飛空船はパーパルディアが背伸びしても作れないものである事はよく分かる。
正直、ムーやミリシアルでも無理だろうとは思うが。
ヤゴウは既に日本国に興味津々だった。日本国の技術、町並み、生活、全てを知りたい!
その前に協議を成功させなくては、と気合いを入れ直したヤゴウだった。
「………ふぅ。」
日本国との会談は無事終了したが、何とも信じがたい話の目白押しだった。
日本国が転移国家であるということ。人口は昔は4億2000万人だったが、宇宙という空の上の世界の人々を置いてきたので7000万人であること。領土は38万㎢と人口の割には狭すぎること。科学文明国家であること。
これだけの情報であれば、バッサリ嘘だと切り捨てることも出来たが、いかんせん窓越しには港にホバリングしている灘風があったため誰一人疑いの声を上げることは無かった。
そして驚くべき事に、日本国は軍事同盟を前提に無償での技術供与を提案してきた。というのも、日本国の軍事兵器とはすなわち古の魔法帝国の「星の僕」のような兵器であり(灘風もそのうちの一つだそうだ)、それがほぼ全て無くなってしまったため日本はいま丸腰なのだそうだ。我が国に技術を供与する対価として、日本国の国防を我が国が担う。流石にこれは返事を先送りしたが、恐らく政府は賛同するだろう。
「ロウリアとの戦争に間に合うだろうか………」
マイハーク近郊の丘の上では、灘風を一目見ようと人々が集まっていた。
「ねぇねぇお母さん!あれなーに?」
エルフの少年は母に尋ねた。
「外国のお船なんだって。お母さんも詳しいことは知らないんだけど、すごく発展した国らしいわよ。」
既に日本国から技術供与を受けることは決定しており、耳の早い彼女はその事を既に知っていた。
それを聞いた子供は、目を輝かせて聞いた。
「じゃあ、あの人達がロウリア軍をやっつけてくれるの?」
「………そうね、きっと私達を守ってくれるわ。」
また、普段から酒場に通う一部の者達は酒盛りを始めていた。
「俺はあの船は古の魔法帝国のものだと思う。」
一人の商人がそう言った。
「馬鹿言え、もしそうなら今頃俺達は嬲り殺されてるだろうよ。」
「でもあれはミリシアルの第零魔導艦隊の船より強いぜ?長い間ミリシアルで働いてた俺が言うんだから間違いねえ!」
「ハハハ、ミリシアルより強いから魔法帝国って言うなら、100年後にはムーが魔法帝国かもな!」
隣の商人は馬鹿げた話だと一蹴した。しかし、彼はまだ続ける。
「なぁ、パルキマイラって知ってるか?」
「なんだそれ?」
「ミリシアルが保存しているとされる魔法帝国の兵器だ。国は存在を否定しているが、目撃例があんまり多いから公然の秘密といった感じだ。
俺は直接見たことはねぇが、そいつは空を飛んで大きさは200m位だって話だ。」
「おい、それって………」
かの商人が言うとおり、ミリシアルにはパルキマイラという古の魔法帝国の超兵器がある。しかし、実際はベンツのロゴマークのような形をしており、灘風とは似ても似つかぬ容姿をしている。
ただこの話は噂好きの商人達の手によって広められ、第一文明圏の列強国、神聖ミリシアル帝国まで伝わることとなる。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
003
ちなみに日ロ戦争は一方的に片付けますが、終わった辺りから日本がダメージを受け始めます。
1639/03/20 厚木
「というわけで、第二十一航宙隊を今度新設されるダイタル基地に配属する。」
「それは無理です。」
第二十一航宙隊隊長の 大内田 は、一応地球駐在の自衛隊員の最高位である 高橋少将 からの命令を断った。しかし高橋はそれを気にする事はない。
「………だよなぁ、俺も無理だと思うよ。」
「航宙機のことなんにも分かっちゃいないんですね、政府は。」
航宙機は、大気圏内での作戦行動を想定していない。
航空機のように翼があるわけではない。宇宙を目指す鉛直向きの飛行ならまだしも、水平飛行などは殆ど不可能に近い。その為本来なら宇宙空間に一度出てから大気圏に再突入するのだが、生憎この惑星は地球とは異なる点がいくつもあるので軌道計算コンピュータが使えず、宇宙空間の移動は不可能だ。
「しかしなぜ急に転属命令を?」
「どうも近々、ロウリアがきな臭い動きを始めているらしい。そこで援軍を送る方向性になったんだが………」
あぁ、と納得する大内田。現在の日本の戦力は航宙機100機と航宙護衛艦1隻のみ。灘風は敵海軍の対応を取らなければならないので、陸軍の対応に航宙機が駆り出されるのはやむを得ないことだった。
「せめて航空機を寄越して欲しいんですが………」
「20世紀レベルのレシプロ機なら用意できるとかなんとか………ジェット機はやはり金が掛かるからなぁ………」
「え、推力中心が前にある航空機は怖いですよ。もはや航宙機と何のつながりも無い………」
「私も何とかしたいとは思うが………やはり予算がなぁ………」
高橋はこの後政府に掛け合ったが、あまり芳しい答えは返ってこなかった。国家予算は既に税収の大幅減とクワトイネ軍の支援、シーレーン確保のための護衛艦建造でズタズタになっていたからだ。
1639/04/08 横須賀
横須賀基地のドックでは、実に300年振りに海洋艦艇の進水式が行われた。自衛隊が、浮いた今年度分の航宙護衛艦の維持費を用いて建造した護衛艦だ。
初雪は日本─クワトイネ間の海路を護衛するために急遽設計された航洋駆逐艦だ。
全長100m近い20世紀レベルの駆逐艦だが、少なくとも第三文明圏外では十分通用するだろうということで建造された。砲撃能力を重視した設計だが、対空ミサイルもいくらかは積んである。拡張性も高く、有事には強化もしやすいようになっている。
進水式には一般人のみならず報道陣も詰めかけていた。彼らの目的は半分が新たな護衛艦の進水式を見ること、そしてもう半分は………
「なんだかすごく見られていましたね………」
賓客として招かれたクワトイネ人を見ることだった。
軍関連の視察要員としてブルーアイが、クワトイネ政府代表としてカナタがやって来ている。
実は既にネット上ではクワトイネ公国にエルフなどの亜人がいることは有名で、一目エルフを見るために集まった人も少なくはない。しかし今日は亜人はブルーアイ一人しか居ない。
「日本には亜人はいないそうですからね。ブルーアイさんの容姿が珍しいのかと。
それにしても大きな軍船ですね………」
カナタは先ほど進水式を済ませた初雪を眺めながらそう言った。カナタから言わせればこのレベルの艦艇を売ってくれるという話に裏があるのではないかと疑ってしまうのだが。
「ブルーアイさんから見て、初雪はどれ程の戦力になるとお考えですか?」
カナタは興味本位でブルーアイにそう聞いた。どうせ後になれば報告書として上がってくるだろうが、直接軍人から意見を聞いてみたかったのだ。
「少なくとも第三文明圏に於いては敵なしと言えるでしょう。パーパルディア皇国の戦列艦など、50隻集まっても初雪を沈めることは出来ないと思われます。ムー国の新鋭艦と同レベルと言ったところでしょうか。まぁ、我々の聞いている情報が正しければ、ですが。」
ブルーアイは率直な意見を述べる。彼は日本との軍事同盟を締結してからこの日まで一ヶ月強、クワトイネにある分全ての第三文明圏の軍事情報を掻き集めていた。その為ある程度は初雪の強さを理解していた。
「そうですか………心強いことこの上ないですね。」
「それにしても、これ程の艦艇をこの速度で量産できるのなら、我が国の存在意義はやはり殆ど無いのではないでしょうか………?」
ブルーアイはクワトイネが日本に都合のいいように扱われるのではないかということを心配していた。
それについては、カナタも心配するところだった。
「………今は日本国を信じるしかありません。」
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
004
後、言ってませんでしたがこれは不定期投稿です。
1639/04/10 マイハーク
「突然申し訳ありません、朝田さん。」
「いえいえ、お気になさらず。喫緊の問題とお見受けします。どうなさいましたか?」
ヤゴウ重要な案件を持ってはマイハークにある日本大使館に訪れていた。色々あって駐クワトイネ大使となった朝田は、ヤゴウから数枚の書類を受け取る。
「ロウリアへ放った密偵から入った情報です。ロウリアでは陸上部隊を4/12までにギムへ、4/25までにマイハークに侵攻させることが決定したそうです。どうか、どうか日本国から援軍を派遣しては頂けませんか?」
書類には、ロウリア軍の詳細な作戦内容が書いてあった。規模、質、共にとてもクワトイネ軍が勝てるものとは思えない。しかし、日本も国土防衛すら未だ回復したとは言い難い状況であるのに、必要以上にこちらに力をさくことなどできない。とはいえ日本には最初からクワトイネを見捨てるなどという選択肢もない。
日本の選択は既に決まっていた。
「………了解しました。本国に確認を取りますが、いいお返事が出来ると思います。しかし、灘風とダイタル基地航空隊しか援護に回せません。そこはご了承下さい。」
「ありがとうございます。我々も戦争へ向けて十分な準備を進めて参ります。」
ヤゴウはそう言ってそそくさと大使館を出て行った。それを見送った朝田は、紅茶を飲みつつ必要な書類を手に入れるために外務省へメールを送った。
マイハークは今日も美しい。でもこの世界では、明日も美しい保証はないのだ。それは、この世界で飛び抜けている我が国とて同じだということを、ゆめゆめ忘れてはいけない。
同日 ダイタル基地
しとしとと雨の降る夜、ダイタル基地に高橋からの連絡が入った。
「もしもし、こちらダイタル基地の大内田です。」
「ああ大内田さん、どうも。突然なんですが、ロウリアがそろそろ動くようです。」
大内田はそれを聞いて、無意識に姿勢を正す。ロウリア軍が動きを見せる、それが即ちどういう事かをよく理解していたからだ。
「第二十一航空隊に告ぐ。これから我が国はロウリア王国に宣戦を布告する。クワトイネ軍と協力し、ロウリア軍を撃退せよ。」
「………拝命しました。」
「では早速準備を始めてくれ。クワトイネ軍も明日の朝エジェイ基地を出発し、その晩にでも到着するそうだ。」
「分かりました。それでは失礼します。」
受話器を置いた大内田は、深いため息を一つつき、自室に戻った。
街が遠いので、部屋からは煌めく美しい星空を見ることが出来る。彼は自衛隊に入ったときから国民のために人を殺す覚悟を決めていたが、なぜか今夜はあまり眠る気にはならなかった。彼はなぜか湧き出る不快な感情を、星空を硝煙と血で汚してしまう罪悪感に因縁付けた。
「本日は我が国への支援、誠にありがたく思います。」
クワトイネ軍からは、日本から供出された兵器が配備された精鋭部隊『特別ロウリア軍対策小隊』だけを派遣してきた。これはブルーアイの進言によるもので、剣と盾と弓では日本の足手まといになるだけだという判断からだった。そして実際、この判断は正しく大内田はこの編成に大変満足した。
「早速ですが、明日の作戦をお伺いしたいのですが。」
マイハーク防衛騎士団団長であり、特別対策小隊の隊長でもあるイーネは本題を切り出した。翌日にはロウリア軍のギム侵攻が始まるとされているのだ。一刻も早く作戦を聞き、調整を始めなければならない。
「ええ、まずロウリア軍の現在の動きですが、12日にでもギムに到着すると考えられています。ロウリア軍がギムから10㎞の領域に到達したとき、我が軍の航空隊から30機が航空攻撃を行います。その後、我が軍の航宙隊70名がNi25式(2925式という意味。9=Nineより。2925年=1625年)105㎜無反動砲でおおよその敵を撃退します。
この段階で敵軍が撤退もしくは全滅しておらず、ギムから5㎞まで近づかれた場合、航宙隊と貴軍と合同で防衛します。」
「なるほど………」
イーネは作戦の概要を聞いて納得した。しかし、心配していることが一つあった。
「しかし、いくら貴国の軍とはいえど、何万という軍人をこの短時間で殲滅することは可能でしょうか?敵はワイバーンもかなり用意していると聞きます。」
イーネの心配は尤もだった。クワトイネ軍に支給された兵器は確かに強力なものだったが、実戦経験がないため敵にどれだけの犠牲を出せるのか疑問が残る。そして何よりギムには十万の人間が生活している。何があってもギムへのロウリア軍の侵入は防がなくてはならない。
「ご心配なく。我が軍の航空隊は文字通り『一機当千』、確実にロウリア軍に甚大なダメージを与え、指揮系統に甚大な被害を与えることが出来ます。」
大内田は自信満々にそう告げた。
「その言葉に偽りはないか?」
「モ、モイジ殿、やめないか!」
しかし一人、大内田の答えに難色を示した者がいた。彼は、今回の副部隊長であり猛将と名高いモイジだった。彼は大内田の答えに不満があったらしく、彼を睨みつける。
彼は、長い間妻と子とギムに住まい、街を魔獣から盗賊から守ってきた。彼のギム防衛に掛ける想いは人一倍強く、たったの100人の自衛隊派遣にかなりの不安と憤りを感じていた。
「………あなたがモイジ殿ですか、お噂はかねがね伺っております。勿論モイジ殿の意見は分かります。ですがここは信じて頂くしかありません。我が軍も出せるだけの力をこの戦争に掛けています。生半可な気持ちでないのはこちらとて同じです。」
大内田はモイジの出す武士のオーラに内心かなり怯えながらも、しっかりと強く返事をした。
モイジと大内田の睨み合いはしばらく続いた。
「………なんにせよ、戦いのために準備を始めなければなりません。今日のところはこれで解散にしましょう。」
結局、イーネの判断でこの場は解散となった。しかし、モイジは未だ納得が出来ずにいた。
目次 感想へのリンク しおりを挟む