機動戦士ガンダムIS(インサイド・ザ・ストラトス) (見知らぬとまと)
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プレリュードIS

世界があった。

 

「貴様ほど急ぎすぎもしなければ、人類に絶望もしちゃいない!」

 

世界があった。

 

「しかしこの暖かさをもった人間が地球さえ破壊するんだ。」

 

世界があった。

 

「わかっているよ!だから!世界に人の心の光を見せなけりゃならないんだろ!!」

 

世界があった。

 

「νガンダムは伊達じゃない!」

 

 

 

 

 

 

 

世界があった。

 

「父さん・・・・母さん、ごめん。

俺は・・・・、行くよ!」

 

世界があった。

 

「ここが知っている。自分で自分を決められるたった一つの部品だ。なくすなよ。」

 

世界があった。

 

「チャンスは必ず来る。その時は迷わず、ガンダムに乗れ。」

 

世界があった。

 

「ユニコォォォオオオオオオオン!!!」

 

 

 

そして・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園。これがこの学園の名前だ。

 

 

彼はこの学園特有の女子だらけの教室内で注目を集める三人のうち一人だった。

 

彼はそれを望んでいたわけではなかったが、特に何ができるわけでもなかった。

 

「特別研修生アムロ・レイだ。これからよろしく頼む」

 

「「「「「「キャーーーーーーーーーッ!!!」」」」」」

 

彼はある世界の「一年戦争」と呼ばれた戦いの英雄にして伝説のパイロット、アムロ・レイ。

 

後にアクシズ・ショックと呼ばれるアクシズ攻防戦にてサイコフレームの共振で小惑星を弾き返し・・・・

 

宇宙に消えていった。

 

しかし何の因果か、彼はこの異世界に、半壊した愛機、νガンダムと共に流れ着いてきてしまったのだ。

 

「ねぇ、あの人、すごくダンディでカッコイイと思わない!?」

 

「なんか大人の余裕のようなものを感じるわよね!」

 

「キャー素敵ー!」

 

そして女性にしか動かせないといわれている超兵器(MSも十分超兵器だが)、「インフィニット・ストラトス」を動かしてしまい、このような事態に陥っているのだ。

 

最も、哀れな被害者は彼だけではないのだが。

 

 

 

「織斑一夏です」

 

「えぇ・・っと、ほかには・・・?」

 

「以上です!」

 

すると、どこからともなく現れた黒髪の麗人が、持っていた出席簿でおもむろに

 

スパァン!!

 

叩いた。後に出席簿アタックと呼ばれることになったのは言うまでもない。

 

「挨拶もろくに出来んのか、馬鹿者」

 

「ち、千冬姉!」

 

スパァン!

 

「織斑先生と呼べ」

 

いま教師(ISの伝説的パイロット、しかも彼の姉)と姉弟漫才をしているのが織斑一夏。彼は元からこの世界の住人であったそうだが、似たような境遇には親近感が湧く。

 

 

「「「「「「「「「キャーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!」」」」」」」」

 

 

しかし、そこで先刻に倍する絶叫が教室を揺るがした。

 

「ねぇ、あれ本物の千冬様よね!」

 

「そのために九州から来ました!」

 

「弟さんもイケメン・・・!」

 

「しかもISが動かせるなんて!」

 

 

 

 

もっとも、アムロと真に似たような境遇であるのは彼ではない。

 

もう一人、ここには場違いな男子生徒がいる。

 

「バナージ・リンクスです。これからよろしくお願いします。」

 

「「「「キャーーーーーーーーーッ!!」」」」

 

(以下略

 

 

 

そう、彼――バナージ・リンクスは宇宙世紀において『ユニコーンガンダム』に乗り戦った、即ちアムロと同じ境遇の人物である。

 

尤も、アムロが宇宙に消えた後の話のために、アムロは聞いただけであるが。

 

しかし、アムロとバナージはとある山の中に機体とともにやってきたのだが、なぜかタイミングは殆ど同じだった。

 

時系列は曖昧なのかもしれない。

 

しかもバナージは『ユニコーンガンダム』――彼本来の愛機ではなく、『シルヴァ・バレト・サプレッサー』という機体とともに流れ着いた。

 

話を聞くにサイコ・フレームは封印されようとしているらしい。

嘗ての好敵手、赤い彗星との戦いにおいてその『可能性』を垣間見たアムロにとっては当然と思う一方、少し寂しくも思うのが本音だ。

 

 

 

 

 

初日ということもあり、これでおよそ授業は終わった。

 

あのあとクラス問わず女子生徒たちに追い掛け回されたときはどうなるかと思ったが、一先ずは落ち着けそうだ。

 

 

アムロとバナージは同じ学生寮の部屋だ。

 

0079というルームナンバーの掛けられた部屋の中が、彼らの新しい私室だった。

 

「お疲れ様でした、アムロさん」

 

バナージが声をかけた。

 

アムロは窓際でコーヒーを飲みながら答えた。

 

「異世界に来たと思ったらこの様だ。人生分からないもんだな。」

 

「ニュータイプにだって未来は分かりませんよ。解っていいものじゃない。」

 

その言葉には、かつてサイコシャードによって垣間見た未来・・・

あるいは、『虹の彼方』を見た者としての重みが込められている。

 

「・・・そうだな。」

 

そうして彼らは学寮の窓から夜空を見上げた。

 

かつて彼らの生活圏であった宇宙は、今はまだここでは手の届きがたいものとして星々を輝かせている。

 

 

 

こうして、彼らのIS学園での生活が始まったのだった。




主は機械知識ほぼ皆無です。

ほぼにわかガンダム知識のみで機体関係は書き上げていきます。


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インフィニット・ストラトスという兵器

数日後。

 

「クラス代表トーナメントに向けて、クラス代表を決めます。誰か推薦・立候補する人はいますか?」

 

副担任の山田真耶教諭が言った。

 

そうすると女子生徒がざわめきだした。

 

「はい!私は織斑君を推薦します!」

 

「私はリンクス君を推薦します!」

 

「じゃあ私はアムロさん「レイ研修生は研修生だから無理だ」・・・じゃあバナージ君を!」

 

「じゃあ私は織斑君を!」「いやリンクス君でしょ!」「いや織斑君でしょ!」「おりむーもいいけどりんくんもいいよねぇ~」「それでも私は断固としてリンクス君を(ry

 

 

熱く盛り上がっていた二人には出席簿アタックが飛んだ。

それでもざわつく教室内に、一つ、声が響いた。

 

「納得いきませんわ!」

 

声を上げたのは長い金髪の少女、『セシリア・オルコット』だった。

 

「みなさん珍しい男性だからと言って担ぎ出して。女性として恥ずかしくないんですの!?ISの実力も分からない、こんな男性なんかにクラス代表をさせることは断固として反対ですわ!」

 

みんなが顔を見合わせた。

 

「だったら、模擬戦でもやればいいだろう。

実力が分からないというのなら実戦が一番わかりやすい。」

 

 

声はアムロのものだった。

 

そこに織斑先生が畳みかけた。

「織斑、リンクス、オルコット。お前たちはそれでいいか?」

 

バナージはうなずき、オルコットも肯定を返した。しかし、織斑が言った。

 

「あれ?ハンデは無しでいいのか?相手は女の子なのに」

 

 

 

みんなが沈黙した。

 

改めて明記しておきたいのだが、この世界は女性専用兵器ISの影響で女尊男卑の世界である。

 

 

「いいでしょう。その余裕を打ち砕いて見せますわ!」

 

 

当然と言っては何だが、オルコットは怒っていた。

 

彼女はイギリスの代表候補生である。

 

ただでさえ男性を(日本という極東の島国についても)見下しているオルコットにとって、それは挑発行為に他ならなかった。

 

 

織斑教諭はそんな様子に辟易としながらも、しっかりと纏めて終わらせにかかった。

 

「時間はリンクス・織斑両名の専用機到着後とする。解散!」

 

面倒なことになった、とバナージは思った。

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

 

アムロとバナージはIS練習用のアリーナに来ていた。(織斑は幼馴染とと練習中らしい)

 

専用機が来るまで、通常のISで操縦を学ぼうというわけだ。

 

受け取ったISは、正にパワードスーツといったサイズ感で、MSに慣れている身としては非常に違和感があった。

 

その上、ISは武装を粒子化して保存しており、現在は展開していないため、ノーマルスーツと大差のない状態だ。

 

これが軍事バランスを掌握しているというのだから、まったくもって驚きだった。

 

 

 

「アムロさん動かせますか?」

 

バナージが聞いた。

 

「これではモビルスーツというよりノーマルスーツだな。これで重武装できるというからすごいものだ。」

 

 

今二人が搭乗しているのは日本(国産)IS、『打鉄』だ。

 

 

とりあえず歩けるようになった二人は、(ISは操縦者の意思に感応して動く)空を飛ぶことにした。

 

ISにはPICという慣性を自在に制御できる装置が付いており、それによって推力を発生させている。

 

そのため、自在に飛行することが可能なのである。

 

 

しかし、できるかどうかとやれるかどうかは別問題。

 

歩くまでは肉体で慣れているものの、感覚で飛行するというのは少し難易度が高かった。

 

 

 

先に感覚を掴んだのはバナージだった。

 

「アムロさん、サイコフレームで機体を動かすイメージで動くんです。そうすると、思い通りに動かせます。」

 

そのアドバイスからはアムロも早かった。

 

もっとも、アムロはフル・サイコフレームMSに搭乗したことがない。

 

標準的なISパイロットより早く感覚を掴んだバナージも含め、この飲み込みの速さは、二人の素質の高さを物語っている。

 

 

 

 

それから2時間で、彼らは基本的な回避駆動、武装の展開(これも少しコツが必要だった)、挙句にはMS時代にキレは劣るものの、それに近い戦闘機動まで習得した。

 

 

 

 

「一体何者なんでしょうね、二人は・・・・?」

 

「わからん。ただやがて見えてくる物もあるだろう。」

 

それをモニター越しに見ていた織斑千冬と山田真耶は、それを複雑な感情で見ていた。




次回は二人の専用機開発になると思われます。


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MIS開発計画

翌日。

 

アムロとバナージは国産IS開発企業、『倉持技研』の第二研究所を訪れていた。

 

 

 

中で案内された雑多な会議室には、中年男性が作業服のままいた。

 

「君たちがアムロ・・・さんにバナージ君だね?」

 

「はい」「ああ」

 

「君たちから先日提供された()()()()()()のデータ・・・あれはとても興味深いものだった。だけど、あれをISにするには問題が多すぎる。それがこの一覧だ」

 

そう。二人はそれぞれ半壊したνガンダム、またシルヴァ・バレト・サプレッサー(と周囲にあったナラティブ・ガンダムやユニコーンガンダム3号機の部品)ごと転移してきている。

 

それらのデータは政府によって、ISとして開発・研究することが決まっていた。

 

 

 

しかし、渡された作業中に書いたメモとおぼしき紙には、問題が列挙されていた。

 

 

 

・高度な技術の使われた専用(ワンオフ)機の制作は現状難しい。

 

・小型核融合炉によるエネルギーの再現が難しい

 

・機構の小型化が困難

 

・サイコ・フレームの解析が不十分

 

などなど、問題点が簡潔にまとめられていた。

 

「そうでしたか・・・・」

 

「確かにこれは問題だな・・・」

 

二人とも技術的な心得がある。問題の重大さは身に染みた。

 

 

 

「まぁ待て。少しついてきな」

 

そう言って案内された作業場には、2機のISがあった。

 

「あんたらの機体の中には、友軍機なり敵機なりで多くのデータが入ってた。こいつらはそれをフィードバックしたもんだ」

 

 

「これは・・・!!」

 

「あれは・・・!!」

 

「アムロさん、あんたの機体だが、『リ・ガズィ』ってやつをベースに使わせてもらった。

 BWS(バック・ウェポン・システム)は限定的な再現だが、ISの機能で収納することで、複数回使用できる。

 一応既存ISの武装も積んどいたから、MS転用武装が事故ったら使いな。」

 

 

「見事だ、出力はどこから?」

 

「機体に残ってたものを解析して、ISの技術なんかも使いながらミノフスキー粒子ってやつを再現したのさ。

 今山奥に試験型MS搭載型核融合炉が機密扱いで隠してあるが、そこでISに積んだ武装用バッテリーに充電すんのさ。

 ジェネレーターにも繋いであるが、基本はPICで動ける。出力はこれで削減できるし、ジェネレーター直結型の武装はエネルギーパックで使えるように改良した。

ここはビームマグナムってやつの技術が使われてるが・・・・まぁそんなところだ。」

 

 

「で、バナージ君。あんたのだが、シルヴァ・バレトってやつだ」

 

「凄い完成度だ・・・お見事です」

 

「ただし、ビームマグナムは積めなかった。まだあの出力に対応するIフィールド・ジェネレーターは作れねぇ。」

 

「そうでしたか・・・・」

 

「ただし、アムロさんのやつの試験を兼ねて、『ファンネル』ってやつを積んどいた。有線式の上に試験型だがな。複数タイプ積んだからデータよろしくな」

 

「もちろんです!ありがとうございます。」

 

「じゃあ、数日後にはあんたらのところに送れる。

それまで待っててくれよ。」

 

二人はかつての愛機に乗れるときもそう遠くはないことを悟った。

そして、

 

「ありがとうございました。」

「すまない、世話になる。よろしく頼む」

 

 

二人が礼を言うと彼はニヤッと笑って、

 

「いいってことよ。男にしか分からんマシンの浪漫ってやつがある。

世界でこんな最高の開発に関われるやつはそういねぇからよ!」

 

 

 

 

こうして、MS-IS開発計画、『MIS開発計画』は始動したのだった。 



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クラス代表決定戦

今回は時間の都合で繋ぎ回です。

急いで書いたので誤字脱字等あったら(ほかの話も含めて)どしどしご報告ください。


数日後。

 

「これより、代表候補生決定戦、織斑対オルコットの試合を始める!」

 

IS用のアリーナの放送室で織斑教諭が宣言した。

 

そして飛び出してきたのは白いISを纏った織斑一夏。

 

機体名は『白式』。近接戦を主とするISらしい。

 

 

待ち構えるのはセシリア・オルコット。青いIS『ブルー・ティアーズ』を纏っている。

 

「アムロさん、この戦いどちらが勝つと思いますか?」

 

バナージが聞いた。

 

「オルコットだろう。

 一夏君の戦闘では惜しくも届かない、といったところだろう。戦いは経験も重要な要素だからな。」

 

 

そうして始まった試合だが、オルコットは長距離型レーザー・ライフルで射撃。

 

そして驚くべきは、彼女がファンネル(この世界では充電式のものもビットと呼ぶようだが)を使っていたことだ。

 

アムロもファンネルを使っていた身だ。彼女の能力、特に空間把握能力は疑うべきもなく高いのだろう。

 

 

それを織斑がかわしていたが、オルコットの機転により、アムロの宣言通り織斑が劣勢となった。

 

ISには装甲、そしてシールド・エネルギーというものがある。

 

これがISに対する攻撃を障壁となり受け止め、これがなくなったときISは強制解除される。

 

いわばHPとも言えるものだ。

 

 

シールド・エネルギーをじりじりと失っていた織斑だったが、第一形態変化(ファースト・シフト)と呼ばれる適応(自動チューンアップ)を起こし、シールド・エネルギーが全回復する。

 

 

さらにビットの動きを見切り、剣の間合いまで接近する。

 

それと同時にISの『奥の手』、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)を発動。自分のシールドエネルギーを消費してレーザー・ブレードから超強力な斬撃を放つも、

 

ホイッスルが鳴る。その消費によって織斑のシールド・エネルギーがなくなったのだ。

 

 

 

 

 

そんな話をバナージは後から聞いた。

 

バナージは納期遅れでついさっき届いた『シルヴァ・バレト』を着装した。

 

 

 

 

オルコットのビットは破損したものの使用可能だったが、本人が棄権したため(織斑に心打たれたようだった)、代わりに副担任の山田教諭が模擬戦の相手になった。

 

 

MSとは違う感覚に、違和感を感じたが、このISの『意思』・・・ISコアの感情とでもいうのだろうか。それと通じ合う感覚がバナージは好きだった。

 

「リンクス、問題はないか?」

 

「はい、行けます!」

 

 

 

 

 

 

 

宇宙世紀同様にISを射出するのはカタパルトだ。バナージはそれに両足を乗せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上空で愛機、量産型だが第2世代と呼ばれる現行一般モデル最後発の汎用機、『ラファール・リヴァイヴ』を着装し山田真耶は待ち構えていた。

 

そこに現れたのはISにはほとんどない、『完全に人間の見えない』重厚なISだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バナージ・リンクス、シルヴァ・バレト、行きます!」

 

 

 

今、この世界で初めて、MS型のIS、『MIS』が動き出した。

 

ツインアイタイプのセンサーが双眸となって、新たなる戦闘目標(IS)を見つめていた。

 




MISの詳しい設定は資料回で公開すると思います。(イメージと違うかもしれませんが。)


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蒼く輝く残光

多くの生徒が見守るなか、山田真耶 対 バナージ・リンクス の試合が始まった。

 

山田真耶は今こそ生徒たちに親しまれる副担任ではあるが、元代表候補生である彼女の実力は、IS界の生ける伝説、織斑千冬にも認められるほどだった。

 

 

 

とは言っても今回はあくまでバナージ・リンクスの実力をほかの生徒に伝え、またデータも得られればいいのだ。

 

彼女の駆る『ラファール・リヴァイヴ』は多彩なISだ。まずは牽制にアサルトライフルを射撃した。

 

 

 

 

 

バナージはすぐに彼女の狙いを見破った。

 

シルヴァ・バレトはもともと高性能で様々な試験機として使われた機体である。

 

背中にはビーム・カノンが装備されている。この武装なら50mほど離れたアリーナの向こう側の空域を飛ぶ彼女にも十分にダメージが与えられるだろう。

 

蒼いビーム砲が実体弾の中を突き進む。

 

 

 

強力なビーム砲であるがゆえに連射はままならないが、正確な射撃は真耶でも舌を巻いた。掠めるビーム粒子がシールド・エネルギーをじりじりと削っていく。

 

(リンクスくん、思った以上にやれますね。でも、あんな大きな機体では近接戦は!)

 

彼女はマガジンを打ち切ると、グレネード・ランチャーを数回発射、そこからは大口径ショットガンを用いて接近戦を挑んだ。

 

 

 

 

 

バナージは現在射撃しているバルカンでは致命的なダメージも時間稼ぎも不可能だとすぐに判断すると、両腕部に搭載されたビーム・ガンを一斉射した。

 

急激に削れていくシールド・エネルギーに怯む真耶。回避行動をとるも、それが致命的な隙となる。

 

そしてビーム・サーベルを取り出し、起動すると試作型のビーム・サーベルは少し不安定になってからではあるがしっかりと収束し、刃を形成した。

 

そしてショットガンの間合いの中、ビーム・サーベルより僅かに遠い間合いで彼は『ファンネル』を射出した。

 

 

そして・・・・スラスターを吹かし近接戦を挑んだ。

 

 

 

 

真耶はISにほとんどない急速な加速に驚愕した。

 

それもそのはずである。本来PICとエネルギースラスターのみで駆動するように設計されたISにないほどの大出力スラスターを、PICというISの移動手段と共に使い、高速での移動を可能にしているのである。

 

しかし真耶がいくら驚いても、シルヴァ・バレトは現実に急加速して襲ってきている。

 

真耶は大口径ショットガンの引き金を引いた。

 

しかし彼はビーム刃の剣を振りかぶったままシールド・エネルギーを収束させて防御した。

 

 

ISのシールドエネルギーを収束させて防御するというのは、まだ教えていない上にそれなりの高等技術だ。

 

しかしそれを機体の腕や手に盾のように形成するのではなく、言うなればその()()()()()()いるかのような本体と独立した防御。強いイメージ力であることは間違いない。

 

 

 

 

しかし真耶も熟練したパイロットだ。なんとかビーム刃を躱し、懐に潜り込んでナイフ型武装で迎え撃った。

 

シルヴァ・バレトのシールド・エネルギーが大きく減少する。

 

 

しかし、膝蹴りで蹴り飛ばされ、そのまま吹き飛ばされ、さらにビーム刃で追撃される。視界に映しだされるISの仮想スクリーンを見ると、シールド・エネルギーはもう危険域に突入していた。

 

 

 

しかしそこで真耶はナイフを投げつける。怯むシルヴァ・バレト。削れるシールド・エネルギー。

 

そこに大型のバイルパンカー、盾殺し(シールド・ピアース)とも呼ばれるそれを振りかぶった。

 

高威力近接兵器であるこれならば、とどめを刺せるだろうと考えたのだ。

 

その刹那。

 

 

彼女は背中に衝撃を感じた。鳴り響くブザー。

 

 

 

「試合終了。勝者、バナージ・リンクス」

 

織斑先生のアナウンスが響いた。

 

 

 

振り返るとそこには、浮遊する独立砲台・・・・ビットとこの世界で呼ばれ、そして真耶は知らないが、宇宙世紀においてファンネルと呼ばれるそれがあった。

 

 



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伝説 VS 伝説

後で再投稿するかもです(この話)


あのあと散々女子生徒に絡まれた(褒めちぎられた)バナージはほとほと疲れ切った表情で部屋へと戻ってきた。

 

「お疲れ。いい戦法だった。ファンネルはどうだった?」

 

先に部屋にいたアムロが声をかけた。

 

「ファンネルは少し反応が鈍いですが、試作とは思えないほどの再現でした。

  ・・・・あれ?アムロさん、出掛けるんですか?」

 

「ああ、少し出かけてくる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋を出たアムロが向かった先はアリーナだった。

 

出撃口でIS、『リ・ガズィ』を纏う。

 

 

 

上空で待ち構えていた対戦相手、それは

 

「さあ、始めるか」

 

 

IS界の伝説、『ブリュンヒルデ』の称号を持つ織斑千冬その人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

放送室には、他のクラス含めて多くの教員がいた。

 

 

あの憧れである織斑千冬が、相手が新入生とはいえISで戦うというのだ。

 

どうせ短時間で決着がついてしまうだろうが、一目見てみたいと思ったのだ。

 

 

 

 

織斑千冬の纏うISは訓練機として使われている、専用機ですらない『打鉄』。

 

 

刀剣を主武装とする、ガードに主眼を置いた操作性と安定性に長けたISだ。

 

しかしそれでも、IS無しでも閉所ではISに勝るとすら言われた織斑千冬が勝利することは目に見えていた。

 

 

正式な試合でもないため、合図などない。

 

しかし、動いたのは同時だった。

 

 

近接戦を得意とし、刀剣を展開して高速で接近する千冬と、距離を置いて試作ビーム・ライフルで牽制するアムロ。

 

それを千冬は躱していく。そしてアムロはそれを読んで射撃する。そしてそれすらも読んで千冬が回避する。

 

勿論アムロの卓越した能力は確実にダメージを与えていくが、カノンですらないビームが掠めただけでは決して致命傷にはならない。

 

そしてマガジン式のビームライフルをISがストレージから自動装填する一瞬をついて千冬が切り込む。

 

 

 

しかしリ・ガズィは後ろに大型のバックパックを展開すると、そのスラスターで急速に上昇し距離をとった。

 

BWS(バック・ウェポン・システム)。リ・ガズィの機動力・火力などを大幅に増加させる宇宙戦闘機形態のバックパック(をIS用に改良したもの)だ。

 

 

「そこだッ!」

 

BWS(バック・ウェポン・システム)にマウントされた高出力ビーム・キャノンが火を噴く。

 

BWSにはバッテリーが積み込まれており、疑似的にジェネレーター直結型の武装を再現していた。

 

 

高出力のビーム・キャノン。直撃は辛うじて免れたにも関わらず想像以上に削れたシールド・エネルギーを見て千冬は舌を巻く。

 

千冬は無理を押して距離を詰める。

 

 

 

「動きが甘い!」

 

「ちぃっ!早いッ!」

 

そして接近戦の間合いに持ち込んだ千冬は刀剣で隙の少ない斬撃を畳みかけて反撃を許さない。

 

今度はアムロの消耗する番だった。

 

しかしバルカン・ポッドでできたわずかな隙を逃さず、腰にマウントされた試作ビーム・サーベルを抜き取り、反撃に出る。

 

 

ビームの光と鋼色の刃が数回交錯し、お互いのシールド・エネルギーを奪う。

 

高速で行われた、しかし考え抜かれた(あるいは身に付いた高度な反射)斬撃が見るものの目を奪った。

 

 

しかしその時、試作ビーム・サーベルが明滅して消えた。試作品であるビーム・サーベルが高度な接近戦に耐えられなかったのだろう。

 

瞬時にもしもの時のために用意されていたIS用コンバットナイフを展開。

 

他の刀剣に劣る性能をカバーするため、ここには敵の刀剣をホールドするための窪みがついていた。

 

嚙み合う刀剣。

 

 

 

片側のスラスターを吹かし放たれたアムロの高速の回し蹴りと、千冬の前蹴りが同時に命中する。

 

吹き飛ばされる両機体。しかしISの姿勢制御で勝る千冬が繰り出した刀剣の投擲が追撃し・・・

 

 

 

「試合終了!勝者、織斑千冬!」

 

 

 

お互いのシールド・エネルギーが危険域に突っ込む激戦だったが、試作品の初期不良とISでの経験が二人の伝説の勝敗を分けたのだった。

 

 



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MISV

資料回です。



MISーARX-014

シルヴァ・バレト(・サプレッサー)(ISファンネル試験型)

 

装甲:試作ガンダリウム合金

 

武装

・頭部5mmバルカン・ポッド

 バルカン・ポッドになっている。装填はISのストレージから行う。

 

・試作両腕部ビーム・ガン

 (原作のビームハンドとして分離する機能はISに不可能であるためオミットされている。)

 

・試作ビーム・ライフル

 

・試作ビーム・サーベル×2

 

 腰にマウントされている。

 

・有線式大型ファンネル(プロト・フィン・ファンネル)

  四種類搭載されている。

 

  ①旧来のISのビット。

  完成度はブルーティアーズ(オルコットのIS)に劣るが、原理は同じ。

 

  ②準サイコミュのISインコム。

  IS本体と同じように操作できるが、操作難易度が非常に高い。

 

  ③ナラティブ・ガンダムのサイコフレームが外装に取り付けられたファンネル。

 

  ④解析中の模造サイコフレームを使用したファンネル

   ③と比べ動きが鈍い。山田真耶戦で使ったもの。

 

・ビーム・カノン(キャノン)

  背部バインダーに搭載。高出力。マガジン式になったことにより弾数が少ない。

 

・(ビーム・マグナム)

  未完成。これを搭載して『サプレッサー』になる予定。

 

・IS用アサルト・ライフル+コンバットナイフ

 試作武装が不良を起こしたとき用。

 

【解説】

この世界におけるバナージ・リンクスの現状の愛機。

ミノフスキー粒子を使った『メガ粒子砲』系統の兵器を積んだ現状二機のみのISのうち一機。

性能は非常に高いが、相応の負荷をパイロットにかける。

 

ファンネルを搭載したISで、また高火力を使った遠・中距離戦はもちろん、ビーム・サーベルやビーム・ガンでISに多い接近戦にも対応している。

 

また、ビーム・マグナムを装備することが予定されている。

 

 

 

 

 

MISーRGZ-91

リ・ガズィ(BWS搭載型)

 

装甲:試作ガンダリウム合金

 

主武装

・5mmバルカン・ポッド

 

・試作ビーム・ライフル

シルヴァ・バレトのものより連射性に優れる。(主な射撃武装であるため)

 

・試作ビーム・サーベル

 

・腕部グレネード・ランチャー

 

 

 

・BWS(および付属する武装)

使い捨てではなくなった。

中に大型バッテリーパックを内蔵しており、疑似的にジェネレーター直結型武装を使用できる。

バッテリーはISのストレージに予備が2つ常備されている。

 

 

 

IS用アサルト・ライフル+コンバットナイフ

 試作武装が不良を起こしたとき用。

 

【解説】

この世界におけるアムロ・レイの現状の愛機。

ミノフスキー粒子を使った『メガ粒子砲』系統の兵器を積んだ現状二機のみのISのうち一機。

性能は非常に高いが、相応の負荷をパイロットにかける。

 

BWSによって高度な作戦行動が可能になり、ISのストレージに収納することで回収しなくてはならないという元々の弱点を克服した。

 

BWSには今後メガ・ビーム・ランチャーを始めとする様々な装備の試作品が付属されることが予定されている。

 

 

 

 

 

 




MISのイメージとしては、『MS少女』のようなフレームが生身になっているイメージです。

しかし、フレームの関節装甲や顔の部分は開閉式で、閉じるとMSと同じフォルムになることを想定しています。

中はMSでいうメインカメラからの映像を受け取り、ISと同じように仮想スクリーンに展開するイメージです。





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気付きと絆

そろそろ毎日投稿厳しいかも・・・・


戦闘回に関しては後々改稿する可能性が非常に高いです。


その後。

 

 

 

解析されたデータを見ながら、織斑千冬と山田真耶は困惑していた。

 

第一形態変化(ファースト・シフト)が起きていない・・・・?」」

 

「はい、確かにリンクス君とレイさんのISは専用機であるにも関わらず、第一形態変化(ファースト・シフト)が起きていません」

 

「馬鹿な・・・あれは半分ISとのフィッティングも兼ねているんだ。

そのうえ装備などの調整も行われるんだ・・・・模擬戦時に解析できた装備はどうなっている?」

 

 

「ええと、それが・・・・・・」

 

困惑した表情で差し出されたそれには、もはや第一形態変化(ファースト・シフト)が起きないことを前提としたような、このまま兵器に転用しても使えそうな汎用武装群が表示されていた。

 

 

それに大きな特徴として、ISは武装を量子変換してストレージに収納して持ち運ぶのが一般的なのに対し、このISは一部の武装を除き殆どが機体に直接マウントされているのだ。

 

人体を極力出さない装甲の構造、量子変換を使わない武装、それらから考えられる予測は・・・・・

 

「まるでIS以外の兵器みたいですね・・・・」

 

「そうだな、そう言わざるを得ない。しかしそれならPICなどのISの機能が前提として使われているレーザー兵装などをあんなに多く使うか?」

 

「確かにそうですね」

 

「それにそれなら私たちのところに多少なりとも情報が上がってきているはずだ。過ぎた心配だろう」

 

そういいながらも千冬の表情は晴れなかった。

 

 

何故なら彼女は山田真耶にも知らされていない彼らの素性を知っていたからだ。

 

(元居た世界のモビルスーツとやらを再現しているのかもな・・・こちらに()()()()()()()()()()救いだったか)

 

千冬は自分の知る情報と照らし合わせて思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、学園全体の注目を浴びていることもあり、織斑一夏とバナージ・リンクスがともにクラス代表に就任した。

 

クラス代表といえば学級委員のような仕事を思い浮かべがちだが、どちらかというとすぐ先にあるクラス代表トーナメントなどが代表的な出番のようだ。

 

翌朝には

 

「でもうちら一組以外専用機持ちいないんでしょ?」

 

「リンクス君の戦闘なんてすごかったし、これじゃ楽勝かもね~!」

 

クラスには楽勝ムードが漂っていた。

 

期待を背負うバナージはプレッシャーを感じていたが、(無論、ニュータイプ的な意味ではない)その時ドアが勢いよく開け放たれた。

 

 

「その情報、もう古いよ!!」

 

その先にいたのは、最近隣の二組に転校してきた、凰 鈴音(ファン・リンイン)という、茶髪ツインテールの少女だった。

 

 

話を聞くに、彼女自身が専用機持ちであるらしい。(ちなみに織斑一夏の幼馴染であるようだった)

 

 

そして、一組屈指のマイペースな少女、布仏 本音(のほとけ ほんね)(通称のほほんさん)からも、

 

「そういえば、4組の簪ちゃんも専用機が届いたって言ってたね~」

 

という専用機持ちに関する情報が届いた。

 

 

「まあでも、二人なら大丈夫でしょ!」

 

「そうそう、応援してるよ~一夏くーん!」

 

「期待してるよ~リンクスくぅ~ん!」

 

 

専用機持ちと戦う可能性も生まれ難易度が上がったにもかかわらず、こちらにも呼びかけてくるほどの女子生徒たちの期待にプレッシャーを感じたクラス代表二人。

 

 

だけども結局は、その期待に応えるため、今日の放課後はISの練習を積まなければと思うお人好しな二人なのだった。

 

 

 



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新たなる刃

実は『MISV』をはじめとした一部のサブタイトルに元作品のオマージュがあるのにお気づきでしょうか。

暇だったら探してみてください。(ほとんど原型が残ってないものも・・・)



また、感想、誤字報告などありがとうございます。


アムロとともに武装を調整のため倉持技研に送ったバナージは、2日後の到着を待たずに、元々のIS用装備で一夏と訓練を積んでいた。

 

もっとも、バナージのISは手にビーム・ガンを内蔵しており、肩部バインダーにもビーム・カノンを搭載しているため、手は装甲なし、肩部パーツはまるごとないという、機能制限版である。

 

 

しかし、近接用武装、蒼いエネルギー刃の剣『雪片弐型』が唯一の装備であり、さらにそれ自体も高火力ながらシールド・エネルギーを消費するという欠点を持つ武装である。

 

いかに自身の間合いに持っていくかを課題としていた一夏にとっては、アサルトライフルなどで弾幕を張る戦法の対策はいい勉強になったようである。

 

 

バナージにとっても、大推力の元である肩部バインダーがない環境は、ISのPIC駆動に慣れるいい練習になった。

 

アリーナを借りた時間が終わりそうなところで、バナージと一夏は練習を終わることにした。

 

 

「ありがとう。いい練習になった!」

 

「いやいやこちらこそ。ISの駆動が学べてよかったです。またやりましょう!」

 

 

二人は和気あいあいとした雰囲気で毎日訓練を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。バナージは整備室にいた。

 

 

理由はは他でもない、ISの装備が届いたからだ。

 

初期不良の類は前回より入念に検査したそうだ。バナージは到着した元来のものを含んだ装備をまずストレージに収納し、次に新装備のデータを覗き込んだ。

 

「すごい・・・」

 

思わずバナージは声を漏らした。

 

 

 

 

ビーム・セミマグナム。

 

それが新装備の名前だった。

 

ビーム・ライフルを改装して作られたらしいソレは、ビームマグナムに近いフォルムだ。ただし、不自然なまでに長い銃身が未完成であることを著実に示していた。

 

 

そしてその下には、バナージの愛機『ユニコーンガンダム』と対峙・共闘したMS、『ユニコーンガンダム2号機 バンシィ・ノルン』に搭載されていた武装、『レボルビング・ランチャー』が装備されていた。

 

出力はビーム・カノンを超え、使用するカートリッジはビームライフル2・5個分というソレは、ビーム・マグナムほどの火力を持たなくとも、その代用品として、確実にバナージの戦力になるだろう。

 

 

 

 

 

同じころ、アムロのところにも整備済みの装備と共に新装備が到着した。

 

 

 

IS用メガ・ビーム・ランチャー。

 

 

BWSのバッテリーに直結する仕様の両手持ちのビーム・ランチャ-である。

 

 

かつてのZ計画の機体などが装備していた武装のIS仕様だ。

 

特徴は高火力。

 

宇宙世紀においてはただのビームライフルすらも致命傷となりえた。

 

しかしISはそうはいかない。

 

高火力の攻撃をぶつけなければ、シールド・エネルギーによる『絶対防御』を持つISの致命傷とは成り得ないのだ。

 

 

ある意味、MSよりもISに向いた兵装と言える。

 

 

 

 

 

 

これだけでも十分に驚いたアムロだったが、もう一つの装備に驚き、そして口角を上げた。

 

BWSに搭載された新武装、それは・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、クラス代表トーナメントの対戦が発表された。

 

バナージは一回戦・一試合目で4組の専用機持ち、更識簪と。

 

一夏は一回戦・最終試合で2組の専用機持ち、凰 鈴音と対戦することとなった。



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クラス代表トーナメント初戦・前半

思ったより長引いてしまったので前後回に分けます。

半端な所で終わりますがご了承ください。m(_ _)m


クラス代表トーナメント当日。

 

シルヴァ・バレトの最終確認を終えたバナージは、相手のISの対戦記録を見ていた。

 

名前は打鉄弐式。その名の通り打鉄の後継機である。

 

特徴は荷電粒子砲や48連装のミサイルポッド。そして精密性と耐久性では他の追随を許さないと言われる打鉄とは打って変わって、スピード型の機体になったことである。

 

白式の後に完成したようで、殆どデータがない。実際の試合データは全くなく、期待データもあくまで参考値レベルに過ぎない。

 

が、それはお互い様だ。

 

 

 

ピットで一際重厚なIS、シルヴァ・バレトを着装する。白い光が満ちれば、己の手足と一体化したシルヴァ・バレトの感触を確かめながら、カタパルトに両足を乗せる。

 

「バナージ・リンクス、シルヴァ・バレト、行きます!」

 

もはや癖になってしまった台詞を言いながら、シルヴァ・バレトは蒼い大空のアリーナへと飛び出した。

 

 

 

およそ開始位置につき、空中で制止する。すると目前にいたのは、青い髪に紅い瞳と眼鏡が印象的な少女、更識 簪(さらしき かんざし)と、その専用機、データ通りのスタイリッシュなフォルムを持つ打鉄弐式だ。

 

 

「さて、両選手試合の準備が終了するまで、しばらくお待ちください!」

 

 

ISに搭載された通信機能のオープンチャンネルからは実況などが流れ込んでくる。そこにはかつての管制のような切迫さは全くない。宇宙世紀とは違うんだ、という不思議な感覚を今更ながらに覚えた。

 

 

しかしそんな感傷に浸る間はなく、お互いに向き合う。準備ができたこと示すアナウンスが流れ始める。

 

「クラス代表トーナメント第一回戦、バナージ・リンクス 対 更識 簪 用意、始め!」

 

 

号令の瞬間、シルヴァ・バレトが消える。

瞬間的に宇宙世紀式のスラスターを吹かし後退したシルヴァ・バレトと引き換えに、ISのPICの比にならないGがバナージを襲う。しかし、そんなことは宇宙世紀から慣れたことである。彼は余程の暴れ馬を乗りこなして来たのだから。

 

バナージはビーム・セミマグナムを両手で構え、素早く一射した。

 

 

「くぅ・・っ!」

 

打鉄弐式には遠近両方の武装が積まれている。初の対戦で間合いを取りそこなった簪は、慌てて荷電粒子砲を構えた。しかしその時には、既にビーム・セミマグナムの熱線が打鉄弐式を打ち据えていた。

 

 

しかし流石に専用機持ち、体勢を立て直し返す荷電粒子砲を構える。

荷電粒子砲の銃口がシルヴァ・バレトを睨み、、ロックオン警告がISで鳴り響く。

(狙いがわかりやすい。これなら・・!)

狙いはビーム・セミマグナムを構える一瞬。簪は目を凝らす。

 

 

しかし、バナージも冷静さを失っていなかった。

ビーム・セミマグナムを構えた瞬間の一瞬の予備動作を感じ取り、射撃を中止して荷電粒子砲が放たれる直前に右方向に回避。そしてビーム・セミマグナムをもう一度発射する。

 

 

 

しかし簪も日本の代表候補生である。

咄嗟に向きを変えた荷電粒子砲がビーム・セミマグナムと激突、相互干渉による相殺で両者の弾が掻き消えた。

 

 

 

そこで相殺されたビームの閃光の奥では、ビーム・カノンが飛んできていた。

簪は咄嗟にシールドを展開して被害を最小限に抑える。そして牽制にもう一度荷電粒子砲を打ち込む。

 

 

再びのロックオン表示にバナージは急速上昇してそれを躱す。

 

 

 

しかしそれはあくまで牽制、簪の本命は別にあった。

 

「お願い、当たって・・・!」

 

弾数の少ないビーム・セミマグナムの自動装填を待っていたバナージに、ついに打鉄弐式の48連装ミサイル、『山嵐』が襲いかかった。

 

「なんて数なんだ・・・!」

 

思わずバナージは呻いた。

圧倒的な弾数。それは宇宙世紀における戦艦のそれに匹敵した。

 

映像とはまるで違う迫力で襲い掛かってくる、その名の通り嵐のような弾幕を前に、シルヴァ・バレト、そしてバナージは身を強張らせた。

 




アンケートの『宇宙世紀以外』は、とりあえずガンダムのシリーズに限ります。


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クラス代表トーナメント初戦・後半

アンケートは明日午後5時前後までとしたいと思います。
思ったよりも守ったら負ける!攻めろ!(肯定派)と
冗談ではない!(否定派)の数が近かったので。


バナージのシルヴァ・バレトに襲い掛かる48連装ミサイル、『山嵐』。

 

バナージはバルカン・ポッドでそれを迎撃していくが、48連装のミサイルはまだまだ残っていた。

 

 

PICの性能を生かして地面スレスレまで急速下降し距離を稼ぎ迎撃するが、もうミサイルの奥では簪が荷電粒子砲を構えている。

 

しかしバナージはまだ勝機を感じていた。

 

「まだやれる・・・!」

 

今度はスラスターを吹かした急速上昇。追いきれなかったミサイルの大半が地面に衝突し爆散する。

 

そして追ってきたミサイルを躱すように後退。

 

ミサイルと荷電粒子砲を構えた打鉄弐式が一直線に並ぶ。

 

「そこだッ!」

 

ミサイルを自らの手で撃ち落とす形になり迷う簪だったが、バナージのビーム・セミマグナムのロックオン警告で狙いを悟り、迎え撃つ形で荷電粒子砲を放つ。

 

 

ミサイルを爆散させながら交錯する荷電粒子砲とビーム・セミマグナム。

 

ビームの光がミサイルの煙より早く薄れ、簪は射撃を警戒していた。そこから出力は高くないが2発のビームが飛んでくる。

 

 

 

簪は予想通りに回避する。そして荷電粒子砲を向こう側に打ち込もうと構えた。

 

 

「そこっ!」

 

 

しかしバナージは煙の下側からビーム・サーベルを持って迫っていた。

 

2発の光はファンネルによる射撃だった。シルヴァ・バレトはスラスターを吹かし瞬間的に簪へと肉薄する!

 

荷電粒子砲を撃つが近接距離では容易く躱される。

 

 

簪は反射的に超振動薙刀『夢現』で迎撃する。

 

(速い!流石は代表候補生!)

 

反応の速さに驚くバナージではあったが、ビーム・サーベルで切り込む。

 

そして始まる近接戦。バナージの隙に簪が突き込み、簪の隙にバナージが切りつける。簪とバナージの実力はこの近接戦においてはほぼ拮抗していた。

 

 

しかしバナージは武装の多彩さを発揮する。簪が薙刀で突いたタイミングでビーム・サーベルを握っていないノーマークの左手を伸ばすも、薙刀の間合いでは拳は届かない。

 

 

そこでバナージは左手のビーム・ガンを発射。

 

シールド・エネルギーの消耗に焦った簪がそれを防ぐためより接近する。

 

しかし薙刀は懐に潜り込まれると弱い。簪は薙刀の扱いに長けていたが、バナージもまたビーム・サーベルの扱いに長けている。武装相性の不利を覆せるほどの実力差はなかった。

 

(くぅぅっ、強い!ここまでやって押し切れないなんて・・・!)

 

 

そこからはじりじりと簪が押し込まれた。ビーム・ガンの時点でお互いに三分の一程度だっただろうシールド・エネルギーは、もう5%を切っていた。

 

簪の焦りが太刀筋に出る。振りかぶった大きい袈裟斬りを躱した隙にバナージがビーム・サーベルを大きく切り込む。

 

それが決定打となり、ブザーが鳴り響く。

 

「試合終了!勝者、バナージ・リンクス!」

 

 

 

 

クラス代表トーナメント一回戦は、バナージ・リンクスの勝利に終わった。

 

 

バナージも危険域に突入したシールド・エネルギーを見て、ほっとした。

 

ビーム・ガンを使った間合いの維持が無ければ、負けていたのは自分だったかもしれない。

 

 

そんなことを考えながら、級友である一夏の応援をしようと、対戦相手に一言かけたらすぐに観客席にあがろうと思ったバナージだった。



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騒乱の序章

アンケート有難うございました。

とりあえず、少なくとも一区切り着くまでは宇宙世紀作品以外のキャラは出さないつもりです。

一区切りついて再検討する時にはまたアンケートをとると思います。

ご協力ありがとうございました。


バナージは試合が終わり、対戦相手を一言挨拶しようと思っていたところ、ちょうど廊下で対戦相手の少女と出会った。

 

「お疲れさまでした。凄いですね、専用機はまだ来て間もないのに」

 

「いえ、まだまだです・・・次の試合、頑張って下さい。」

 

 

バナージはどうやら更識簪という少女はあまり人と話すのが(とりあえず自分とは)得意ではないのだろうと判断し、下手に話を引っ張ることもなく、観客席へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そのころ、アムロは。

 

「すまない、対戦結果を入力しておいてもらえるか」

 

「ああ、俺も一応は『研修生』だ。そのくらいはやろう」

 

教員チームの手伝いをしていた。

 

「しかしバナージ君やっぱりすごいんですね・・・なんか『戦い慣れた』感じがします」

 

「そうだな。一発目の肩部ビームからビットのビームを使うところなど、相手の心理をうまく戦いに活かしている。」

 

なにもすることのないアムロは、教員たちにコーヒーでも淹れて差し入れようと動き出した。

 

 

 

 

 

 

アリーナでは、初戦と同じく注目を浴びる、織斑 一夏 対 凰 鈴音 の試合が行われていた。

 

何やら因縁のある二人だったらしいが、その戦いは十分に熾烈なものだった。

 

基本的に近接戦・中距離戦・遠距離戦全てをこなせるバナージと簪の試合とは対極的に、鈴音のISである甲龍(シェンロン)は近接型、一夏の白式に至っては近接戦特化型である。

 

 

お互いがいかに牽制し、有利に近接戦の間合いに持ち込むかが観客の関心を集めている。

 

 

 

しかし甲龍(シェンロン)には衝撃を発射する、砲弾どころか砲身すらも不可視の『衝撃砲』両肩にあり、白式は劣勢を強いられていた。

 

しかしながら、ISのハイパーセンサーの機能の一つである、『視覚強化』で砲弾をなんとか『歪み』として見ることによって回避、接近し、近接戦の間合いに持ち込んでいた。

 

 

そこからは白熱の戦いだった。

 

火力で勝る白式の『雪片弐型』と、応用力で勝る2基装備されている大型の青龍刀、連結することもできる甲龍(シェンロン)の『双天牙月』が交錯し、熱戦を繰り広げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬と真耶の雑談を聞きながら手持ち無沙汰に画面を見つめていたアムロは、何かを感じた。

 

「!?」

 

「?どうしましたか、アムロさん?」

 

 

 

余りにも久しぶりに感じたそれは、プレッシャーというよりは何かもっと直感めいたものだった。

 

危険なナニカがくる。

 

しかしアムロは疑問を覚えた。それならそれこそプレッシャーとまでは行かなくても、危険を感じ取るより先に、殺意を感じ取るはずである。

 

 

「すまない、少し席を外させてもらう。」

 

「構いませんが・・・体調不良なら無理しないでくださいね?」

 

 

 

アムロは都合よく勘違いしている真耶に多少の罪悪感を感じながら、半ば直感的にアリーナを走って出る。すると見えた。

 

目を凝らさ無ければ見えない距離に飛行する・・・・()()()()()()()

 

 

 

 

すぐにリ・ガズィを展開し、放送室へつながる教員チャンネルに話しかける。

 

「すまない、3機の黒いISがこちらへと飛んできているのだが、許可された機体か?」

 

 

「何・・・?・・・・!?各員、迎撃態勢!」

 

 

 

 

 

 

緊急事態に混乱するIS学園を尻目に、アムロはメガ・ビーム・ランチャ-を展開すると、足止めに向かった。

 

 

 




筆者のにわか知識が露見している(´・ω・`)

多くのご指摘ありがとうございます。これからもおかしいところがありましたらよろしくお願いします。


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黒いIS

これからは投稿頻度が落ちるかもですが、失踪ではありません。

・・・・多分。


IS学園を背に飛び立ったアムロは、まずは避難を始めとした迎撃態勢を整えるため、時間稼ぎをすることにした。

 

近づいてきた黒いISは、人体の露出がなく、膨れ上がった腕が特徴的な異様なISだった。

 

ISのデータベースにも該当機はない。

 

(妙だな・・・、新型か、それとも極秘の機体なのか)

 

アムロは手にしたメガ・ビーム・ランチャーの出力と収束率をRifle mode(高出力ビームライフル)に設定する。

 

 

そしてISに向けて射撃。

 

3機がこちらを敵として認識し、歪な腕をこちらへと向ける。

 

すると腕に取り付けられていたビーム砲が発射される。

 

直感的に躱したアムロだったが、背後の道路が焼け爛れているところを見ると、その出力に驚く。

 

(ISの内蔵武装とは思えない威力だ・・・・だが!)

 

 

「当たらなければどうということはない!」

 

奇しくもかつての好敵手と同じ台詞を吐きながら、アムロは腕そのものの動きとロックオン表示を頼りに回避し、メガ・ビーム・ランチャーを正確に当てていく。

 

しかし、敵ISは防御にも長けているらしく、Rifle mode(高出力ビームライフル)のメガ・ビーム・ランチャーでは致命傷に成り得ない。

 

 

(ここに織斑が居れば・・)

 

 

織斑一夏のIS、白式のもつ単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)である『零落白夜』は、『バリア無効化攻撃』と呼ばれる自身のエネルギー刃で相手のエネルギーを大きく削り取る超高出力の斬撃を可能にする。

 

その火力があればあのISにも致命傷を与えられるかもしれないが、生憎彼らは対戦中でアリーナの中だ。

 

救援に来れるとしても、まだ先のことだろう。

 

 

無い物ねだりをしても仕方がない。アムロは綱渡り状態の射撃戦を続けた。

 

 

しかし、敵ISはこちらの狙いに気づいたのか、一機を残してアリーナの方に飛び去っていく。

 

 

 

それを止めようにも、残った一機のビーム砲がこちらを牽制する。

 

 

 

「こちらアムロ、教員チームへ。すまない、アリーナの方向に二機逃がした」

 

『仕方ない。二機はこちらで対処する。そちらの対応を頼む』

 

すぐに千冬が応答する。

 

アムロは一機ならばと、目標を『足止め』から『撃破』へと変えた。

 

 

そのころ、アリーナでは。

 

「避難、終わりました!」

 

避難指示の終わった教員チームがISをとりに向かう。

 

 

しかしアムロの足止めもここまで、飛んできた黒いISはシールドを突き破ってアリーナ内部へ侵入しようとする。

 

「鈴!」「一夏!」

 

 

しかしそのゴーレムを二機のISが迎撃する。

 

 

さっきまで対戦していた二人だ。

 

 

 

今度は息の合った連携で敵ISと対峙するが、すぐにもう一機ISが降ってくる。

 

しかしピットから新たなISが出てくる。

 

シルヴァ・バレトと打鉄弐式、一回戦の二人だった。

 

バナージがスラスターを吹かして体当たりし、敵ISを一時的吹き飛ばし隙を作る

 

『こちらは私とバナージさんで引き受けます!そちらをお願いします!」

 

 

 

通信を入れたのは簪だった。

 

バナージと簪は連携してアリーナの外に敵機を誘導する。

 

 

 

そしてアムロの方にも、新たなISがきていた。

 

突如敵ISを水が包んだかと思うと、爆発したのだ。

 

 

 

『IS学園生徒会長、更識楯無。 援護するわ、アムロさん』

 

「すまない、頼む」

 

 

 

三機の敵ISと六機の味方IS。

 

こうして、IS学園側と黒いISの戦いが始まるのだった。



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黒い鉄壁を破る者

黒いISを撃破することに決めたアムロは、まず友軍であるIS学園生徒会長という青い髪に赤い瞳の少女の実力を観ていた。

 

 

彼女のISは『ミステリアス・レイディ』。

 

ナノマシンを使って水を操るという宇宙世紀のMSでは考えられない戦いをするISだ。

 

 

しかし、その特性は実に多様な戦術を可能にする。

 

現に高水圧ガトリング砲やランス、そして水の爆破など多彩な攻撃で、黒いISのシールド・エネルギーを着実に奪っていく。

 

 

そして特筆すべきはISの周囲に纏った水、『アクア・ヴェール』だ。

 

水の幕がエネルギーを分散し、ダメージを軽減する効果があるようだ。

 

しかし、黒いISの火力は絶大で、高火力で『アクア・ヴェール』を貫通してくるため油断はできない。

 

 

 

しかしアムロとて黙って見ていたわけではない。

 

Rifle mode(高出力ライフル)に設定していたメガ・ビーム・ランチャーをBlast mode(ビーム・バズーカ)に設定。

 

その動きの隙を狙い、あるいは味方である楯無の隙をフォローするように撃ち込み、時に態勢を崩し、時には直撃でダメージを与える。

 

 

 

 

 

やがて、高いシールド・エネルギーを持つ黒いISといえども、底が見えてきた。

 

しかし二人の表情は晴れない。

 

 

楯無は妹である簪の元へ向かいたい。そのため、早期決着を望んでいるのだ。その焦りが隙を生み、黒いISのビーム砲が楯無の隙に狙いを定めるが、Blast mode(ビーム・バズーカ)でアムロが妨害する。

 

「大丈夫か」

 

「ええ、ありがとう。危なかったわ」

 

一応上級生としての余裕を持とうとしているようだが、アムロは楯無が焦っていることを正確に見抜いた。

 

そこで、楯無が話を切り出した。

 

「そろそろ決着をつけましょう、このISの最高火力を使うわ」

 

「いや、その必要はない」

 

アムロは黒いISにビーム・ライフルで牽制しながら否定を返した。

 

 

アムロは発見早期から戦闘を続けている。

 

現に、今使っているビーム・ライフルの残弾も余裕がない。

 

BWS用のバッテリーこそ予備があるものの、中途半端な状態で自分が救援に行くよりも、ここでナノマシンを温存して楯無が行く方が戦力になると考えたのだ。

 

 

 

アムロは絶対に使わないと思っていたメガ・ビーム・ランチャーのデフォルトで定形設定されている最後の一つのモードを選択した。

 

 

Lancher mode(戦術ビーム・ランチャー)

 

かつて百式などが用いた、チャージして放つ戦術兵器の、超高出力ビームである。

 

この威力はシールド・エネルギーの通常バリアどころか、ISの『絶対防御』すらも貫通しうる超高火力である。

 

 

こんなの試合で使おうものなら相手を殺しかねない代物だったが、相手がこちらを殺すつもりの『戦争』でなら使える。

 

 

 

 

 

楯無は武装の概要を聞くと、足止めに向かった。

 

流石はIS学園生徒会長だ、水を使った爆破、高水圧のガトリング、そしてランス。

 

それらの武装を使って足止めを行う。

 

 

 

(エネルギー充填45%・・・50%・・・・55%・・・・)

 

アムロは全出力をチャージに回している。ビーム・ライフルの残弾はもうなく、腕部グレネード・ランチャーを使うには距離がある。

 

アムロはチャージに専念した。

 

 

そうしてアムロが動けない間にも、黒いISは楯無を屠らんと狙う。

 

 

黒い巨腕が質量兵器となって楯無を襲う、が

 

「おねーさんはそう簡単にやられてはあげないわよ!」

 

身を翻して空中に跳ね、ガトリング砲を撃ち込む。

 

それを追って空中に来たISを爆発が襲う。

 

 

 

そこで通信が。

 

「エネルギー充填完了!後は任せろ!」

 

飛び込んだアムロと入れ替わるように後退する楯無。

 

アムロは黒いISの下側に潜り込み引き金を引いた。

 

 

 

 

 

アリーナへ向かう楯無の後方で、黒いISは空へ昇る極太の光条に飲み込まれた。

 

 

原型を辛うじて残した黒いIS。その中には動く上で絶対に必要な———

 

 

()()()()()()()()()

 



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銃爪を彼女は引けない

新年あけましておめでとうございます。2020年ですね。現実世界でISとMSはいつ完成するんでしょうか。

毎日投稿止めたので長い話もあります。

感想があると作者のモチベが単一仕様能力並みに上がります。有難うございます。


アリーナ上空で黒いISと戦っていたバナージと簪の二人は、苦戦を強いられていた。

 

「更識さん!」

 

黒いISに射撃戦を挑んでいた二人だったが、簪に黒いISが肉薄する。すかさずバナージはビーム・セミマグナムでフォローする。

 

すると黒いISがバナージを狙う。ビーム砲を躱せばすぐそこに巨大な腕が迫っている。

 

 

背部バインダーを大きく吹かす。それによって強引に敵機の攻撃を躱す。そしてビーム・セミマグナムの隙を補い下側のレボルビング・ランチャーを射撃する。

 

しかし黒いISの本体はもちろん、『絶対防御』どころかバリアにすら十分なダメージを与えられない。

 

 

 

 

 

 

一見ただ苦戦しているだけに見えるが、このペアには弱点がある。

 

バナージの『シルヴァ・バレト』は一見高火力に見えるが、実際には必殺というには中途半端な火力のビーム・セミマグナムが最高火力で、メガ・ビーム・ランチャーのような高火力砲撃はもちろん、白式の『零落白夜』のような近接戦用超高出力武装も持っていない。

 

 

 

 

そして簪の『打鉄弐式』は、そもそも未完成の状態である。

 

打鉄弐式を担当する企業である『倉持技研』は、知ってのとおり『MISシリーズ』の開発をしている企業だ。

 

それと同時に織斑一夏のIS、『白式』の開発も倉持技研なのだが、本来『打鉄弐式』の開発をするはずだった開発チームが、『白式』の開発に、そしてサポートに当たっていたチームが『MISシリーズ』の開発に移ってしまったことで、『打鉄弐式』の開発が滞ってしまった。

 

そこで更識簪の姉である前述した生徒会長、更識楯無が自身でIS『ミステリアス・レイディ』の改装、最終調整を行ったという実績を鑑みて、80%完成といった状態の『打鉄弐式』がその段階の安全確認だけ行われ簪のもとに渡ったのである。

 

 

その未完成なものの最たる部分が武装、それも射撃武装だ。

 

まず『打鉄弐式』を代表する武装である48連装ミサイルポッド『山嵐』だが、これは特長である『マルチ・ロックオン・システム』のOSが完成していない。

 

『山嵐』は本来、計48基のミサイルポッドが各自相互干渉を起こさないように計算された複雑な軌道を描いて敵機を攻撃するようプログラムされている。

しかし現状はさっきバナージが躱して見せたように、単調な軌道のミサイルでしかない。

 

 

その上、背中にマウントされた荷電粒子砲『春雷』も、本来は高速で連射できる武装である。

 

しかし、現状は連射速度が所定の性能を発揮しない不具合を起こしている。なんとか簪が間に合わせで一発あたりの出力を上げることで対処しているが、これも本来の性能に比べたら汎用性、DPS(秒間火力)共に劣っていると言わざるを得ないだろう。

 

 

 

 

その二人は苦戦ゆえに長期戦を強いられているだけでなく、相手の隙にも満足な一撃を叩き込めない状況にあるのだ。

 

 

 

しかし、耐久性が高いといってもISはIS。いずれシールド・エネルギーにも終わりが来る。

 

そう信じて攻撃を続けるバナージと後方支援に徹する簪。

 

アリーナにいた2機のISを引きはがす時こそ大声を出したものの、簪は基本的に気弱な少女であるし、なにより命を奪い奪われる実戦の経験がない。そのためバナージの指示で、後方支援に徹していたのである。

 

 

 

ビーム・サーベルで斬り付けるバナージのシルヴァ・バレト。しかし黒いISはそれをものともせず腕で吹き飛ばしにかかる。

 

食らえば致命傷となりうる一撃を、局所的に任意展開したバリアで逸らし、ビーム・ガンを斉射する。

 

ギュゴゴゴゴゴッ!という音ともに、ビーム・ガンが連続で炸裂し、シールドを削り取る。

 

 

 

そして一気に離脱すると、ビーム・セミマグナムを再展開、射撃する。

 

 

しかし黒いISは明らかにおかしい関節の駆動でそれを回避すると、そのまま強引に振りかぶりバナージを吹き飛ばした。

 

「ぐぅぅあぁぁッ!!」

 

 

PICで無理やり空中で持ち直したバナージを黒いISは追撃へ向かう。

 

レボルビング・ランチャーが火を噴くがそれをものともせず黒いISは向かってくる。

 

 

 

もう一度離脱を試みるバナージだったが、下からビーム砲が飛んでくる。

 

一夏と鈴と交戦していた黒いISのビーム砲だ。

 

 

偶然の流れ弾。それを避けるためにスラスターを止める。

 

 

 

しかしISは3次元機動が可能だ。PICとスラスターを全出力で吹かし上に逃げようとする。

 

しかし、それを狙っていたのはバナージと元々交戦していた黒いISだ。

 

ビーム砲が放たれ、それを躱しきれなかったバナージ。その隙に黒いISが掴みかかり、殴打を繰り返す。

 

 

 

 

 

急速に減少するシルヴァ・バレトのシールド・エネルギー。

 

ただでさえシルヴァ・バレトは連戦と負荷のかかる高速機動を繰り返しており、それに重なった先ほどの回避駆動。

 

試験機であるシルヴァ・バレトはすでに限界を迎えていた。

 

現にバナージの視界には警報が鳴り響き、赤と黒の斜線で縁取られた重度警告ウインドウが幾つも表示されていた。もう機体には数か所となく機能不全を起こした箇所があった。

 

ビーム・ガン。スラスター。装甲。

 

 

 

やがて黒いISは簪からの攻撃を警戒したのか、シルヴァ・バレトを投げつけるように放り投げた。

 

打鉄弐式の横を掠めたボロボロのシルヴァ・バレト。すでにシルヴァ・バレトは微動だにしなかった。

 

 

 

実はバナージは先程の無理矢理な出力の回避駆動で殆ど気を失っていたのだ。

 

 

ISには瞬間的な最大速度を引き出す『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』とという技法があるが、スラスターとPICを全出力で使ったバナージはそれを上回るGに襲われた。

 

その時気を失ったのは一瞬だったが、これまでの疲弊が重なり、ついにバナージは殆ど気絶した状態になっている。

 

 

 

 

打鉄弐式を見つめる黒いIS。

 

簪はこの戦いで、バナージに信頼関係を覚えていた。

 

彼は簪より強かったし、優しかった。それにこんな状況になっても、冷静に指揮を執り、最前線で戦っていた。

 

そう、彼はまるで簪が憧れた――――――

 

 

 

 

一縷の希望を失ったときの絶望はより深いというが、バナージという希望を失った簪の絶望もまた深かった。

 

そもそも簪は警報が鳴った時に立ち竦んでいた。そんな臆病な彼女を連れ出していったのがバナージだったのだ。

 

別にそのことは間違っていないし、恨んでもいない。

 

ただ元々簪はそれに耐え得る精神を持っていなかったのだ。

 

 

 

警戒してなのかこちらへゆっくりと近づいてくる黒いIS。

 

簪はただ立ち尽くして見つめることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、一発のビーム砲が黒いISに命中した。

 

見覚えのある強力なビーム。その方角には――――――――!



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反撃の狼煙

大変投稿が遅れました。申し訳ありません。


バナージ・リンクスは地面に衝突した衝撃で目を覚ました。

 

全身が痛む。そして肝心のISはというと、着地時の衝撃を緩和する『絶対防御』を最後に、ほとんど指示を聞かない状態だった。

 

それもそのはずである。シールド・エネルギーは底をついている上、損傷状況を示すARウインドウに映る機体は、正常(グリーン)の箇所は無く、殆どが黄色を通りこして赤色を示している状態である。

 

しかし、そこでバナージは、目撃する。

 

 

簪―――正確には彼女の乗る『打鉄弐式』に迫る黒い影。その存在が、挫けかけていたバナージの戦意を奮い立たせる。

 

といっても今のバナージに出来ることなどたかが知れている。何しろ、ISが動かないのだ。

 

 

しかし裏を返せば、ISが動けば戦えるということ。

 

バナージは手動ウインドウを開き、腕部分と背部スラスター・ジェネレーター改めバッテリーユニットを展開する。

 

まだ簪のために―――あと少し時間が稼げれば何とかなるという、バナージは己の()()()()()()()()()()()()を信じた。

 

普段なら何の苦もない装備ではあるが、パワーアシストもPICもない状態では、その重みが圧力となって傷ついたバナージへ圧しかかる。

 

しかしそれを意思で抑え込み、『MIS』用の予備のバッテリーを呼び出し、それをISのエネルギーに変える。

 

辛うじて息を吹き返した『シルヴァ・バレト』だったが、背部のビーム・カノンは一門がひしゃげ、有線式ファンネルも1機損壊し、3機しか稼働できる状態にない。

 

しかしバナージはビーム・セミマグナムを呼び出すと、伏せて狙撃手のように狙いを定めた。

 

ビーム・セミマグナム、背部ビーム・カノン、そして3機のファンネルで狙いを定める。

 

 

照準が一点に重なる。

 

バナージは、ビーム・セミマグナムの引き金を力強く引いた。

 

猛るビームの光条が、黒いISへと吸い込まれていき、バリアと激しい火花を散らす。

 

偶然にもビーム・セミマグナムとファンネルのビームが交差し、激しく相互干渉を起こした部分の出力が疑似的にバリアの許容量を超え、『絶対防御』が発動する。それにより、大きく黒いISのシールド・エネルギーを削り取った。

 

脅威判定を更新した黒いISが、バナージを今度こそ屠らんと腕部の大型ビーム砲を構える。

 

 

 

しかしそれが発射されることはなかった。

 

黒いISの周囲の空間から黒いISに向けて、ビームが放たれている。

 

 

それを見た瞬間、バナージは感じた。

 

これは間違いない。アムロ・レイ、()()()()()()()()()()()であると。

 

ISのハイパーセンサーで目を凝らすと、シルヴァ・バレトの有線式ファンネルによく似た、しかし無線式のファンネルが黒いISの周りを飛び回っているのが確認できた。

 

 

しかし試作型だろうか、どこか動きが鈍いそのファンネルは、少しづつ撃ち落とされていく。

 

しかし、そこに割り込む影があった。

 

 

「簪ちゃんは・・・・やらせないッ!!」

 

IS学園生徒会長にして更識簪の姉―――更識 楯無である。

 

纏うISである、『ミステリアス・レイディ』。それに搭載された槍やナノマシンを駆使し、黒いISを翻弄していく。

 

 

 

そしてその空中戦の行われている下―――アリーナでは、黒いISが織斑一夏、凰鈴音、そしてセシリア・オルコットの連携によって撃破された。

 

 

戦いの終わりは、近い。

 

 



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赤い瞳に映ったもの

相変わらずの亀更新です。申し訳ありません。


最後の一機である黒いISとIS学園生徒会長である更識 楯無の戦いも、終局が見えてきていた。

 

「ああもう、しつこいわね!」

 

その楯無の声を理解したかどうか定かではないが、黒いISはもはや何度目振るったかわからないその剛腕を再び『ミステリアス・レイディ』に向けて振るった。

 

しかし楯無は余裕を持ってそれを躱すと、『ミステリアス・レイディ』特有の水を纏ったランス、『蒼流旋』をバリアへと突き刺す。

 

直撃。その一撃はバリアを突き抜け、一部装甲を傷つける。そこで楯無は離脱するが、黒いISもその楯無を追うように飛ぼうとする。

 

しかし、ナノマシンの爆発に行く手を阻まれる。

 

これもまた言うまでも無く、『ミステリアス・レイディ』の武装である、『清き情熱(クリア・パッション)』という爆破技だ。

 

 

 

これまでの猛攻でシールド・エネルギーに底が見え、破れかぶれに特攻を試みる黒いIS。

 

しかし最後は、

 

「これで終わりよ!」

 

楯無が展開した蛇腹剣『ラスティー・ネイル』によって大きくバリアを切り裂かれ、エネルギー切れで停止、そしてアリーナへと落下した。

 

上がる砂煙。それが晴れたところに見えた黒い機体は大部分が粉砕されており、行動不能になったことは明らかだった。

 

 

そしてこれを以て3機の黒いISによるIS学園襲撃事件は終わりを告げたのであった。

 

 

 

 

 

 

その後、教員チームによって発見されたバナージは、アリーナ地上部にて別の同型機と戦闘し、同じように負傷した一夏ともに、医務室に運ばれていた。

 

「バナージか。気が付いたのか?」

 

 

 

 

バナージが医務室で目を覚ますと、カーテンが開き隣のベッドの一夏の声が聞こえた。

 

「ああ、今起きたところだ」

 

同じ男子同士である、しかも同年代であるバナージと一夏は仲がいい。

 

お前もか、と怪我をした一夏と同様のバナージは顔を見合わせて苦笑した。

 

 

その後先に事情説明を受けていたらしい一夏から聞いたことの顛末を聞いていると、医務室の扉がガラッと開いた。

 

「大丈夫でしたか、リンクス君」

 

「ふむ、状態はどうだ?リンクス」

 

入ってきたのは織斑先生と、山田先生だった。

 

「大丈夫です。ISの凄さを身に染みて感じました」

 

どうやらバナージの戦闘中に負った傷はそこまで酷くなく、大部分はISの重い兵装が全身にのしかかっていたことや、落下時の衝撃による打撲だという。

 

近いうちにISにも乗れるだろう、と織斑先生が言うと、よかったな、と一夏も喜んでいた。

 

そこでバナージは気になっていたことを聞くことにした。

 

「更識さん―――打鉄弐式のパイロットはどうなりました?」

 

 

その質問をすると、織斑先生と山田先生は何とも言えない顔をした。

 

「怪我はない。ただ・・・・会ってみればわかる。」

 

怪我はない、という言葉にほっとしたバナージ。

 

しかしながら良からぬ状態であることも同時に察したバナージは、先生が医務室から去ってなお、考え込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

簪は自分の部屋のベッドにうずくまっていた。

 

照明も碌につけていない部屋の中で、彼女はタブレット端末を見つめていた。

 

「私のせいだ・・・・」

 

無意識のうちに、そんな言葉が浮かんでくる。

 

今も脳裏に焼き付いて離れない、半壊したリンクス君のIS、『シルヴァ・バレト』。

 

 

今も医務室にいるという彼は、私をどう思っているのだろうか。

 

見込み違いだったと、諦めているだろうか。

 

あるいは不甲斐ないやつだと、責めているだろうか。

 

 

なぜ、簪があの時戦いに赴いたのか、簪自身にもわからない。

 

いや、本当はわかっているのだ。今も、耳元にこびりついて離れない、あの声を忘れるはずがないのだから。

 

 

 

「―――貴女は、無能のままでいなさいな」

 

「ッ!?・・・・・」

 

自分の脳裏に響く残滓(呪い)だとわかっていても、思わず反応してしまう。

 

 

そうだ、あの戦いに赴いた理由はただ一つ。

 

姉を超えたかった。何故かと問われても答えは出ないし、あるいは無数にあるのだろう。

 

 

更識 簪の姉―――IS学園生徒会長、更識楯無は超人だ。

 

どんなことも、常人には到底できないようなことを、『努力すればできる』と、そんな風に言って簡単にこなす。

 

その上嫉妬どころか、そのカリスマは他人を惹きつけてやまない。そういう(ヒト)なのだ。

 

そして彼女は言った。「貴女は私が守る。――だから、貴女は無能のままでいなさいな」と。

 

 

 

いつだって現実は非情かつ理不尽で、遠ざかっていくその背中に簪が追いつくことはできない。

 

 

 

だから、簪は考える。夢想する。

 

いつか、こんな自分を変えてくれる。この世の不条理から解き放ってくれる。

 

 

そんな、ヒーローの到来を。

 

 

思惟に耽る簪は、再生される大好きな戦隊ヒーローでさえ、目に入っていなかった。

 

 

 

 

 

 

世界のどこか。

 

暗い部屋の中、高難度のフラッシュ暗算にも匹敵するスピードでスクロールされる情報を眺める、異様な恰好の少女がいた。

 

「ふんふんふふーん♪」

 

鼻歌も歌いながら超高速でこれまた異様なキーボードを叩き、そのたびに頭に載せたうさ耳―――今の彼女のお気に入りである、一人『不思議の国のアリス』コスチューム――が揺れる。

 

彼女こそ世界が血眼でその行方を追う天才科学者―――『人類最高(レユニリオン)』とも称される彼女こそ()()()()()()()()()()()()()()()()()()篠ノ之 束(しののの   たばね)である。

 

そして世界最高の頭脳を持つと言われる彼女は今、()()()()()()()()()()()I()S()によって収集したデータに考えを寄せていた。

 

黒い三機の無人IS――――名を『ゴーレムⅠ』という―の中でも今回は、データ収集のため防御性を大幅に強化したモデルだった。

 

それを撃破した複数のIS。織斑一夏(いっくん)の白式は兎も角として、彼女が興味を寄せていたのは残り二人の男性操縦者の操るISである。

 

しかもこの2機―――()()()()()I()S()()()()()()

 

篠ノ之 束は珍しく本格的に興味を寄せ、端末のキーボードを叩いた。

 

 



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ボーイズ・ミーツ・ボーイ

今回は少しだけ長めに。

アムロの『研修生』という肩書ですが、どちらかというと教育研修生に近く、教員に近い感じで考えています。


数日後。

 

バナージの体調も一応は回復し、一夏も同様に回復したころ。

 

「ええとですね、今日は転校生を紹介します。しかも二名です!」

 

朝から山田先生の第一声にクラスが大きくざわついた。

 

同じクラスに転校生が二人とは珍しいことだ。しかし、最大の驚きはこの後に待っていた。

 

 

 

教室のドアが開き入ってきたのは、金髪(ブロンドヘア)と碧眼が印象的な―――

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いと思いますが、みなさんよろしくお願いします。」

 

()()()()()()()()

 

 

きゃあああああ!!と沸き立つ教室。

 

「織斑くんともリンクスくんとも違う感じの美形!」

 

「守ってあげたくなる系の!」

 

「ううっ、これはわたしもデュノア君派に・・・」

 

「攻めの織斑くん・・・受けのデュノアくん・・・閃めいt(ry」

 

 

美形、と称されるその風貌は中性的だ。

 

首の後ろで束ねた金髪(ブロンドヘア)と碧眼、そしてスマートな体つきがいかにも『貴公子』然とした印象を創り出していた。

 

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

 

担任の織斑先生のひと声にクラスは落ち着きを取り戻すが、興奮冷めやらぬ様子は抜けていなかった。

 

「みなさん、まだ自己紹介は終わっていませんから・・・」

 

 

副担任の山田先生が言ったそのとき、件の二人目の転校生が教室へと入ってきた。

 

 

黒眼帯を左目に付けた長い銀髪の少女。

 

身長は低いが、その冷め切った視線と『軍人』じみた印象からから放たれる威圧感はシャルルの比ではない。

 

 

アムロとバナージはそこに既視感を感じた。

 

正確にはその仕草、一挙手一投足というべきか。

 

(印象だけでなく、本当に軍の経験者のようだ・・・)

 

アムロとバナージも似たようなもの(実戦経験者)ではあるが、どちらかといえば彼らがラー・カイラムやネェル・アーガマで共に戦った正規兵のような挙動を二人は見て取った。

 

 

 

そんな彼女だが、教壇前の中央付近で口を開かぬまま、腕を組んで生徒をその冷め切った眼で眺める。

 

 

そしてその後は、織斑千冬の方を見つめた。

 

「・・・挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

「私はここでは教官ではない、教師だ。織斑先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

 

どうやら軍人時代に関わりがあったようだった。

 

織斑千冬は今で世界最強《ブリュンヒルデ》の名を冠する人物だ。

 

それが一国家の教官を務めるとは少し考えにくいが、まあ深く詮索することでもないだろう。

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 

彼女はこちらを向くと一言だけそう言った。

 

そして彼女は席へ―――正確には織斑一夏の席へ向かった。

 

 

 

パシッ!

 

「・・・何のつもりだ?」

 

「そっちこそなんなんです!急に人を平手で打とうだなんて!」

 

 

例の少女――ラウラからバナージが感じたものは『敵意』だった。

 

それが明確に友人でもある織斑一夏を狙っていると分かったとき、バナージの体は自然に動いていた。

 

ラウラは一夏の顔を平手打ちしようとしたが、バナージはそれを先読みしてその手首を掴んだのだ。

 

 

ラウラは掴まれた手から逆に関節を攻撃しようとするも、その敵意を読んだバナージは先んじて手を離した。

 

「・・・・フン」

 

ラウラはバナージ、そして一夏を一瞥すると、自分の席へと戻った。

 

 

それを頭が痛そうに見ていた千冬だったが、

 

「織斑、リンクス。同じ男子生徒だろう。デュノアの面倒を見てやれ」

 

そう言うと、次の授業へ向かってしまった。

 

 

 

一夏とバナージはアイコンタクトすると、

 

「シャルル、急いだほうがいいぜ。遅れると、千冬ね―――織斑先生の鉄拳制裁が炸裂するからな」

 

そのままシャルルの手を引いて次の授業の行われるアリーナへ急ぐ一夏、そして同じく急ぐバナージ。

 

 

 

しかしその先には、

 

「転校生の美少年発見!しかもリンクス君と織斑君と一緒!」

 

「ものども出会え出会え~!」

 

妙なテンションの女子生徒たちが立ちふさがった。

 

「仕方ない・・・バナージ。ここは俺に任せてシャルルと先に行け!」

 

同じく妙なテンションの一夏。

 

 

ある意味、バナージはこの世界ではかつて出来なかった―――バナージは高校の時期にユニコーンガンダムと出会ったから――青春の続きをしているのかもしれない。

 

バナージはまるで普通の高校生のように笑いながらアリーナを目指した。

 

 

 

 

なお、その後アリーナに3人は遅れたことをここに記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

週末。

 

 

「ひどい目にあった・・・」

 

あの後もシャルルと一夏とバナージは様々なところで追い回され、バナージはへとへとだった。

 

もっともそんな生活にも慣れてきたバナージは、整備室を借りて、『シルヴァ・バレト』の修理に取り掛かった。

 

各部の装甲や破損したパーツを倉持技研から送られてきた資材で修理し、何しろ新武装を搭載する。

 

新しく拡張領域(バススロット)に収納されたソレは、バナージが最も愛用した武装だった。

 

 

ビーム・マグナム。

 

今度は完成系であり、その火力は現行全ISの中でも単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)を除く常設携行武装では最強クラスの火力を持つ。

 

丸一日かけて『シルヴァ・バレト』・・・どちらかというと『シルヴァ・バレト・サプレッサー』というべき―ISを完成させたバナージ。

 

バナージは試験運転の為、お披露目も兼ねて一夏が借りているアリーナへと向かった。

 

 

 

 

 

下では一夏がセシリアや鈴、そしてシャルルと共に訓練に勤しんでいた。

 

 

近づくとだいぶ打ち解けたシャルルや一夏がおーい、と声をかけてくる。

 

「バナージ、機体修理終わったんだな。改装はしてないのか?」

 

「いや、武装が増えたんだ。一夏の調子はどう?」

 

「今、シャルルからライフルを借りていろいろ勉強してるところだ。」

 

 

 

一夏のIS、『白式』は近接戦用の武装しか持たない極めて特殊なISである。

 

 

拡張領域(バススロット)がほとんどなく、通常時の実体刀剣と変形時の強力なエネルギー刃を武器とする『雪片弐型』のみを武装とする『白式』は、高度な立ち回りが求められるISだ。

 

IS――正確には今や行方を眩ました篠ノ之束博士が残した400個余りのISコアは、それぞれがコア・ネットワークで繋がっていると同時に、それぞれが『意思』ともいえる個性を持っている。

 

そして肝心な『白式』の個性はというと、遠距離攻撃武装を一切受け付けない(インストールできない)のだ。

 

もちろん今のようにすでに実体化した銃器などを借りて――ISはそれぞれに許可した武装しか他人には使えないが―射撃をすることはできる。

 

しかしそれも自動装填などのIS特有の補助を受けることはできないため、実質的に『白式』は近接戦以外できないISといえる。

 

 

そんな風につかの間の談笑をして、いざ試験運転のため、武装を展開したとき――

 

『白式』の近くの地面が爆ぜた。

 

 

それが何らかの射撃攻撃であると理解したバナージ。

 

バナージが出てきた反対側のピットを見ると――

 

「・・・・・・」

 

銀髪の転校生――ラウラ・ボーデヴィッヒが、『黒い雨(シュバルツェア・レーゲン)』の名を冠する黒きISの砲口をこちらに向けていた。

 

 




『機動戦士ガンダムNT』については、設定に関してはほとんど触れない予定です。

(投稿主がにわかのため。申し訳ありません。)



誤字報告、指摘、感想など、お待ちしています。



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立ちはだかる者、そして

「何のつもりです!急に発砲するだなんて!」

 

 

銀髪の転校生、ラウラ・ボーデヴィッヒは、声の主であるバナージ、それと一夏へ声を掛けた。

 

「貴様らも専用機持ちなのか。丁度いい。私と戦え」

 

見下したように言う――実際に見下しているが―ラウラの挑発。

 

しかし、それに対して一夏は、

 

「断る。戦う理由がねえよ」

 

と断る。ラウラはそれを聞いて不快げに眉を寄せると、

 

「貴様にはなくても私にはある。

  ――――貴様がいなければ教官が2連覇の偉業を成し遂げたことは容易に想像できる」

 

2連覇。『ブリュンヒルデ』織斑千冬。そして織斑一夏。ここまでの言葉でやっとこの世界の歴史に詳しくないバナージはラウラの怒りの原因に辿り着いた。

 

 

 

IS世界大会、『モンド・グロッソ』。

 

そしてその総合優勝者にのみ与えられる称号、『ブリュンヒルデ』。それを世界最初に手にした『世界最強』――織斑千冬は、第二回大会決勝戦において、棄権により不戦敗となった。

 

その棄権の理由こそが――両親などのいない千冬にとって唯一の肉親、織斑一夏の誘拐事件だった。

 

駆けつけた織斑千冬によって一夏は無事救出され、今に至る。

 

しかしこの女尊男卑社会の中で英雄視される織斑千冬の功績を傷つけたということで、女性主義団体などから一夏は悪し様に言われることも少なくないのだ。

 

 

 

 

「ならば、戦うしかないようにしてやる!」

 

肩部にマウントされたレールガンの砲口を『白式』に向けた。

 

 

それを見たシャルルは瞬時に物理シールドを展開、『白式』の前に構える。

 

しかし、それが発射されることはなかった。

 

ピットの上にいたラウラのすぐ近くに、何者かが現れたからだ。

 

「!?貴様ぁ!」

 

振り向きざまに手からプラズマの刃を展開したラウラだったが、手首を掴まれる。

 

「アリーナで両者の許可無く戦闘を行うことは禁止だ」

 

振り向いた先にいたのは男の研修生――アムロだった。

 

しかし、纏うISは『リ・ガズィ』ではない。

 

 

量産型の第二世代IS、『打鉄』である。

 

アムロのリ・ガズィは調整のため倉持技研に出されている。そこで男性操縦者という立場の危険性を鑑みて、一時的にIS学園の訓練機を申請無しで使用できるのだ。

 

 

その後すぐに放送室から今日のアリーナ担当の教師から、

 

「そこの生徒!何をやっているんですか!」

 

と放送が飛ぶ。ラウラはそれを聞き再び眉を顰めると、ピットの奥へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

その後、一夏たちは早めに上がり、アリーナの観客(野次馬)たち――練習用に開放されているので観客とは言い難いかもしれない―も引き上げた後に幾つかの性能チェックをし、バナージも引き上げることにした。

 

 

バナージはピットのシャワールームを使い、部屋に帰ってきた。アムロはまだ用事があるらしく、部屋にはまだ帰ってこないらしい。

 

 

そんなバナージがいつも通り――女子生徒からの遠巻きの様々な視線に晒される廊下やエントランスを抜けて―部屋のドアを開けた。

 

「ちゃお♪」

 

そこにいたのは、紅い眼と水色がかった青い髪が印象的な――女子生徒。

 

 

見覚えがある。確か無人IS襲撃事件の時の――

 

「更識生徒会長ですか?どうしてここに?」

 

更識楯無。IS学園の生徒会長である。――また、更識簪の姉でもある。

 

「自分の部屋に関わりの薄い異性がいることに関してはノーコメントなのね・・・まあいいわ。

 そう、私が生徒会長更識楯無よ。よろしく、バナージ・リンクスくん」

 

「は、はぁ・・・」

 

 

バナージのために弁解しておくが、バナージは驚きである程度頭が回っていない上に、かつてのネェル・アーガマやガランシェールなどの経験もある上に、ここが女子寮ということもあり、『そんなものなんだろう』と思っているだけである。

その上生徒会長が急に来たため、重要な用事かな?と思っているというのもある。

 

断じてバナージの女性の趣味(タイプ)だとか女性経験には関係ない。

 

 

それはさておくとして、この破天荒な生徒会長なのだが、簪より大人びた顔立ち――姉なのだから当然だが――でスタイルもモデルのようだった。

 

そして何より、このIS学園(女子高生の集い)の生徒会長らしく―と言ったら失礼かもしれないが―異性、同性問わない魅力、言うならばカリスマを持った人だ、とバナージは思った。

 

 

「それで、急で申し訳ないんだけど・・・」

 

そして少し真面目な顔になると、彼女は頭を下げて言った。

 

 

「簪ちゃんをお願いします!」

 

バナージは目を白黒させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと・・・・どういうことです?」

 

そういうと楯無は僅かにしまった!というような顔をした後に、溜息を吐いて説明を始めた。

 

「えーっと、この後学年別トーナメントがあるのだけれど・・・・

 少しルール変更があって、タッグ戦になるのよ。それで簪ちゃんの相手をバナージ君にお願いしたいの。」

 

ルール変更の発表なんかあったかな、バナージは首をひねったが、とりあえずは話を続けた。

 

「なるほど、事情は分かりました。でも、更識さん・・・だと分かりにくいな、妹さんにも予定があるんじゃないですか?」

 

バナージが聞くと楯無はうぐっ・・という表情をして、

 

「あの子・・・暗いところがあるから、友達が少ないのよ。それでしかも、この前の襲撃事件があったじゃない?あれ以来、なんか凹みっぱなしみたいで・・・だから、お願いできない?」

 

それを言われるとバナージが戦いに彼女を誘った責任がある。

 

 

 

 

しかしバナージにも渋る理由があった。

 

「あの後、妹さんの部屋に行ったんですけど・・・・返事がなかったんですよ。一夏とかに頼んだ方がいいかもしれませんよ」

 

 

 

時はIS学園襲撃事件の数日後に遡る。

 

更識さんが妙に元気がないんです、と簪のルームメイトや山田先生から相談を受けたバナージは、もともと実戦経験のなかった彼女を心配して行くつもりだったのもあり、会おうとしてみるも、妙に出会わない。

 

ルームメイトの少女の提案で部屋を訪ねてみるも、簪は居留守で出なかったのだ。

 

 

 

その話を聞くと楯無はあちゃ~、とでも言いたげな顔をした。

 

「あー、それはね・・・多分二人で話してみれば解決すると思うわよ。」

 

不思議に思ったバナージではあったが、「取り敢えずやるだけやってみようと思います」と楯無に答えた。

 

それを聞いて楯無は満足そうな笑みを浮かべて、「よろしくね」と言って部屋から去っていった。

 

 

しかし去り際に楯無が思い出したように言った。

 

「あ、私が関わったってこと、簪ちゃんには言わないでね。――――じゃあ、よろしく」

 

 

 

 

嵐のような来訪者にぽか~ん、というような表情で立ち尽くしたバナージだった。

 

が、―――最後に楯無が振り向きざまに浮かべた寂しそうな笑みが、焼き付いて離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁー・・・余計なお節介だったかしら・・・」

 

 

「更識」

 

「へっ?」

 

部屋を出た楯無に話しかけてきたのは、部屋に戻ろうとしていたアムロだった。

 

「妹思いなのはいい事だがな・・・・」

 

「え?あ、はい」

 

急に話しかけられたことと、話の要点が掴めず素で返してしまう楯無。

 

アムロは、溜息を吐きながら言った。

 

「タッグマッチへの予定変更は、部外秘だ」

 

「・・・すいません(´・ω・`)」

 

 

なお楯無はこのあと織斑先生に呼び出されたそうな。

 

 



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それぞれのトーナメント

そして、数日後。

 

教室へ入ったバナージと一夏、そしてシャルルに大勢の女子生徒が群がった。

 

「リンクス君、わたしと組まない?」

 

「織斑君、一緒に組もう!」

 

「デュノアくん、学年別トーナメントのタッグ組もうよ!」

 

 

当然のことではあるが、学年別トーナメントのタッグ勧誘である。

 

しかしバナージはもう決まっている。

 

「ごめん、組む予定の人がいるんだ」

 

ざわつく女子。

 

すると一夏が、

 

「あ、俺はシャルルと組むから。ごめんな」

 

といった具合に男子は決まっており、撃沈した女子であった。

 

 

 

 

バナージは、その放課後、自分の部屋・・・・ではなく、整備室へと向かっていた。

 

MIS『シルヴァ・バレト・サプレッサー』は、ある種の退化をした機体である。

 

それは、この機体の持つ最強の武装・・・『ビーム・マグナム』を使う上で仕方のないことなのだが、アリーナでのデータを反映させるのには、もう一度調整が必要だったのだ。

 

「ここ、どうなってるんだ。ここの腕部装甲のプリセットが機能しないと不具合が起きるな・・」

 

ISはソフト面での調整も勿論必要だが、ハード面での調整も必要だ。

 

少し特殊な工具が必要になったため、整備室を一度出たバナージは、そこで思わぬ人物と遭遇した。

 

「・・!?リンクスくん」

 

「更識さん・・・」

 

はっ、と驚いた様子の簪。そんな彼女の硬直が解け、逃げ出そうとしたその寸前にバナージは、声をかけることに成功した。

 

「更識さん、俺と一緒にクラス対抗トーナメントに出てくれませんか?」

 

「へっ!?」

 

 

 

 

 

簪の借りている整備室。

 

とりあえず息を落ち着けた簪は、びくびくしながら聞いた。

 

「ど、どうして私と・・・?」

 

「い、嫌なら良いんです。「そんなことは・・・!」――ただ、更識さんなら、頼れると思ったんです。」

 

簪はその一言を聞いて、驚いたように目をしばたたかせると、顔を俯きがちに伏せた。

 

「私は・・・・その、あの時、動けなかったんです。怖くて。リンクスくんのISがやられるのを、見ていることしか出来なかった・・・・!」

 

そう語る簪。バナージはその手を包み込むように握った。

 

驚いた簪がバナージの顔を見つめる。

バナージは戦っている時のように真剣で、けれど故郷でも懐かしむような面持ちで、どこか遠い(宇宙)を見上げて言った。

 

「誰だって戦うことは怖いんです。それでも、自分が死ぬのも、人が死ぬのも冗談じゃないって思うから、やれることをやるんです。」

 

簪は目線を戻したバナージと目が合って、手を離して目線を逸らす。

 

「・・・簪」

 

「えっ?」

 

「名前で呼んでほしい。姉さんも、更識だから」

 

少し気恥ずかしそうに言った簪に微笑ましく思いながら、バナージは言った。

 

「じゃあ、よろしく。簪さん。」

 

「よろしく、リンクスくん」

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________________

 

 

 

 

トーナメント受付最終日。

 

アムロは唐突に織斑教諭から――即ち千冬だ―声をかけられた。

 

「レイ研修生、誰とも組まないでいいのか?ランダムになるが」

 

「・・・・やはり出なければならないのか」

 

「当然だろう。どれだけの組織が注目していると思っているんだ」

 

アムロははぁ、と溜息をついてから歩き出した。

 

「当てはあるのか?」

 

と、問う千冬に対して、

 

「これでも教師の真似事をしているんだ。生徒の伸び代でも見ることにするさ」

 

とアムロは背中越しに答えた。

 

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

 

IS学園の剣道場。

 

剣道部も去った後のそこには、ただ一人だけの人影があった。

 

「ふっ、はっ、ふっ、はっ・・・・」

 

素振り、というには特殊な『型』を繰り返し練習する少女。

 

特徴的に結った長い黒髪が特徴の彼女は、篠ノ之束の妹――篠ノ之 箒である。

 

そんな彼女の元へ歩いてきた一人の人物。

 

 

 

言わずもがな、アムロである。

 

箒はアムロとの関わりが薄い。

 

だが箒が普段一緒にいる一夏が普段戦闘に関してアドバイスなどを聞いているため、ほかの生徒よりは関わりはある。

 

「篠ノ之、少しいいか?」

 

「あ、はい。なんでしょうか」

 

「学年別トーナメント、タッグは決まっているか?」

 

「いえ、決まっていませんが・・・」

 

 

 

「なら丁度いい。タッグを組まないか?」

 

 

 

しかしそれを差し引いても、これは箒にとって、余りにも唐突だった。

 

 

 

 

 

一息休憩を入れて、着替えてきた箒が(他の女子の注目を浴びると面倒な為、剣道場のままだが)アムロに聞いた。

 

「理由を伺ってもいいでしょうか」

 

アムロは一応はクラスメイトだ、敬語は要らない、と苦笑してから、本題に入った。

 

「見ての通り組む相手が居なくてな。そちらも浮いているようだしな。それに・・・・」

 

箒は少し遠慮の無い物言いだな、と感じつつ、アムロの話の続きを待った。

 

「今の篠ノ之は・・・・『危なっかしい』」

 

「『危なっかしい』・・・・ですか?」

 

アムロは反復して帰ってきた問いに首肯した。

 

「織斑を心配するのは分かるがな、専用機も無い上に、ISの操縦にも慣れていないのでは無茶だ。だが今の篠ノ之にはそういうものを度外視して突っ込んでしまいそうな『危なっかしさ』がある」

 

反論は、無かった。

 

実際IS襲撃事件の際には、もう少しで飛び出してしまいそうだった程だ。

分かっている。そうしたことが自分自身、ひいては一夏の身を危険に晒しうるのを理解しているだけに、箒はアムロの話を黙って聞いていることしか出来なかった。

 

 

俯いた箒を見かねたか、アムロは苦笑しながら言った。

 

「何も悲観することはない。力が無いのなら付ければ良い。

     ――――――今の『型』を見ていれば、才能が無い訳では無いのは分かる」

 

 

 

 

 

_____

 

 

その夜。アムロは作戦を考えながら、物思いに耽っていた。

 

 

なぜ篠ノ之とタッグを組んだか。根も葉も無いことを言えば、アムロは篠ノ之の危なっかしさとその近接戦における才能を元々気に掛けていた、というだけに過ぎない。

 

なまじ非IS戦闘、剣術において力がある故に、何かの弾みで下手な行動に出る。

 

それも、(一夏に)評価されたいという動機が有ればなおさらだ。

 

 

アムロは嘗ての―ホワイトベースにいた時、鉱山基地襲撃のために飛び出していった自分―と近い危なっかしさを感じていた。

 

故に今回のことも、心配、というよりは人生経験のある研修生としての指導、といった風な動機が大きい。

 

 

 

しかしやるからには手は抜くまい。

 

アムロは自分仕様の武装になった『打鉄』のデータ分析を始めた。

 




箒は織斑くんのヒロイン枠です(断言)

簪の口調、難しいですね・・・


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学年別タッグトーナメント攻防戦

トーナメント当日。

 

注目の1回戦第一試合を務めるのは、注目を集めて止まないタッグ2組だった。

 

「・・・頑張ろう、リンクスくん」

 

一組目は倉持技研の従来機『打鉄』から大きく設計思想を変更し、速度を重視した汎用高性能専用機、『打鉄弐式』を用いる更識簪。

 

「ええ。勝ちましょう!」

 

そして高頻度で武装の変更などが行われる、全身装甲型の謎の高性能試作機、『シルヴァ・バレト・サプレッサー』を用いる男性操縦者、バナージ・リンクスのペア。

 

 

 

そして、このペアに相対するのは、

 

「篠ノ之、気を張り詰めすぎるな。3次元を把握する余裕を常に持った方が良い」

 

同じく男性操縦者、だが今回は量産機『打鉄』を用いるアムロ・レイ。

 

「了解しました。・・・勝ちましょう、この戦い」

 

ISの生みの親、篠ノ之束の妹にして剣道において全国大会でも結果を残すほどの実力者、篠ノ之箒。

 

両方とも安定性と耐久性が持ち味の倉持技研製量産機、『打鉄』を用いている。

 

 

 

 

 

 

 

スタートにしてクライマックスすぎるこの対戦表に、アリーナの観客は浮足立っていた。

 

「シャルル、この戦い、どっちが勝つと思う?」

 

「うーん。やっぱり機体の性能差が大きすぎるね。バナージくんと更識さんのペアじゃないかなぁ」

 

「確かに。でもアムロさんは噂によると凄い強さらしいからな。どうなるんだろうな」

 

 

 

 

そんな観客の期待も載せ、今、試合開始の合図が鳴る。

 

「一回戦第一試合、始めッ!」

 

 

試合が始まると同時に動いたのは、アムロだった。

 

本来の打鉄用近接ブレード『葵』ではない西洋剣を手に、一瞬でバナージへと肉薄する。

 

「貰ったッ!」

 

「まだ!」

 

しかし加速性能では上を行く『シルヴァ・バレト』のスラスターを用いて、すぐさま距離をとるバナージ。

 

しかし、バナージの目の前に高速で弾丸が直撃した。

 

アムロが用いたのはISにおける最長射撃記録を持つ『撃鉄』。

 

左腕にマウントしておいたソレを瞬時に打ち放ったのだ。

 

 

態勢をわずかに崩したバナージに、アムロが斬りかかる。

 

シールド・エネルギーを一点に集中させることで防御を試みるバナージ。しかし、

 

ヴゥン!という特有の発振音とともに西洋剣の刃部分には紅色のビームが現れ、想定以上のダメージをシールドに与えた。

 

 

倉持技研製の試験段階のビーム刀剣、『六花零式』。

 

『雪片弐型』、『ビーム・サーベル』のデータをもとに造られたこの武装は、少し頼りない物理刀剣として使えるだけでなく、『雪片弐型』の65%の出力を武装用(ウェポン)エネルギーで展開する。

 

 

 

対するバナージもビーム・サーベルを展開し、激しい干渉光を散らし合いながら接近戦が始まる。

 

 

 

 

一方、残り二人はというと。

 

「ふッ!!」

 

「・・・!」

 

試合開始とともに飛び込んだアムロを迎撃すべく荷電粒子砲『春雷』を構えた簪へ、箒は作戦通り()()()()()

 

 

 

IS適正が高い訳でもなく、ISに乗りなれている訳でもない箒にアムロが考えた作戦は、

 

『常に生身での剣術をイメージし、近接戦に持ち込み倒す』

 

といういたってシンプルな戦い方だった。

 

 

だから箒は、従来のIS操縦のイメージのように『飛ぶ』のではなく、一歩『踏み込む』イメージで間合いを詰める。

 

同時に半ば無意識に瞬時に出力を上げたスラスターが、その一歩の踏み込みをIS戦の距離に対応させる。

 

 

 

簪はそれを捉え、荷電粒子砲『春雷』を構えて、撃ち放つ。

 

それを更に下方向に踏み込んで躱す箒。人型のISはどうしても足元の相手には攻撃しにくい。

 

 

しかし簪は専用機持ちの代表候補生である。全身の角度を変えてもう一射。さらに射撃を続ける。

 

 

荷電粒子砲『春雷』はトーナメントへの調整で本来の連射性能を取り戻し、これまでのようなクールタイムは存在しない。

 

簪はバナージから箒を引き剝がすように反対側で交戦する。

 

 

箒はその砲身を見て躱すも、被弾が重なる。

 

 

箒の視界の端、シールド・エネルギー残量を示すメーターは、3分の2を切ろうとしていた。

しかし。

 

「ここだッ!」

 

「ッ・・・!」

 

 

しかし簪の『打鉄弐式』は――すでに間合いの中だった。

 

簪も薙刀『夢現』を展開し迎え打つ。しかし、この間合いでは性能を差し引いても互角だった。

 

 

しかし簪は冷静だ。

 

(まだ、さっきの『春雷』で稼いだダメージがある・・・このまま行けば勝てる)

 

その上武道の経験を持つ簪には、箒の、主に左半身に無駄な動きがあることが分かっていた。

 

実家の剣術、『篠ノ之流』を継いでいるという箒。その『癖』が出ているのだろう、と簪は思った。

 

 

 

 

 

しかし、やはり観客の視線を集めるのはアリーナの反対側で繰り広げられている、男性操縦者二人の、激しい干渉光を散らし合う戦闘だった。

 

だが徐々に押されるのは当然、

 

「はぁッ!!」

 

「まだだッ!」

 

機体性能で劣るアムロだ。戦闘経験では勝るアムロではあるが、武装面でも良くて互角、他の機体性能は殆どで劣るアムロが優位に立てるほど、ISにおける戦闘能力に開きはなかった。

 

 

しかしアムロは左手に本来の近接用ブレード、『葵』を展開し、ビーム・サーベルを持つ手を下方向に切り払う。

 

 

瞬時に一度後退するバナージ。

 

しかしすぐに顔面を狙い投げつけられた『葵』。

 

しかしバナージはそれを横方向に首をかしげるようにして躱す。

 

左手の『撃鉄』は投げたモーションで下に向いている。

 

 

バナージは上空へ距離を取り――――『ビーム・マグナム』を展開した。

 

 

すぐさま視界下部で専用のウインドウが開く。

 

――――ビーム・マグナム 出力75% 使用可能―――――

 

その文字を確認したバナージはロックオン済みのアムロへ、引き金を引いた。

 

 

 

一方、アムロの視界には見たこともないほどの紅さで、

 

『注意!高出力ビーム兵器にロックされています!』

 

という警告が浮かび上がり、ビープ音を鳴り響かせていた。

 

直感のままにISに全力で『後退』の指示を出すアムロ。

 

そのアムロを掠めたのは――僅かに紫電すら纏った光条だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

膠着した箒と簪の戦局にも動きがあった。

 

二人の間に、アムロの投げた刀が飛んできたのである。

 

それを箒は――左手に装備した。

 

かちり、と動きがはまる。

 

 

違和感を感じつつも、その隙を逃すまいと斬りかかる簪。

 

しかし2秒後、薙刀が切り払われた、と認識した時にはもう大きくSE(シールド・エネルギー)を減らすこととなっていた。

 

 

 

篠ノ之流剣術、『一閃一断の構え』。

 

『一閃目で閃き、二閃目で断つ』とされるコレは、一刀流、二刀流問わず用いられる篠ノ之流剣術の代表格である型である。

 

その名の通り、一撃目で敵の攻撃を受け流し、2撃目で相手に致命傷を与えることを目的としたこの型。

 

篠ノ之流剣術がもともと女性用の刀があるなど女性用にも受け継がれてきた実戦剣術であることに由来する、攻防一体の強力な技である。

 

 

 

あえて最初から2刀流を想定して動くことで簪の油断を誘いつつ、予定通り2刀流になった時に瞬時に移行することで一気に勝負をかける作戦だ。

 

そこで一度ペースを崩されてしまうと理知的・戦略型の簪は弱い。

 

 

そのまま押し込み、最後に右手の紫電一閃。

 

 

 

 

 

 

 

____________________

 

 

アナウンスが響いた。

 

「勝者、更識・リンクスペア!」

 

結局あの後ビーム・カノン等の遠距離攻撃で箒はあえなく陥落し、更識・リンクスペアの勝利となった。

 

 

 

お互いに握手を交わすペア。アリーナに、惜しみない拍手と喝采が響き渡った。




機体性能で劣る箒が簪と拮抗できたのは、篠ノ之流剣術が『受け流す』剣術であったことと、マシンに拘る簪の油断あってこそです。

簪が弱い訳ではありません。相性が悪かったですね。


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タッグトーナメント・一回戦最終試合

本来は次の話までで一つの予定だったのですが、一度分割します。
しばしお待ちください。


いくつかの試合が終わり、第一回戦最終試合。

 

注目のカード。それは―

 

「勝とうね、一夏」

 

「ああ、わかってる」

 

織斑一夏、シャルル・デュノアの男子操縦者ペア。

 

シャルルのISは、第二世代型、『疾風の再誕(ラファール・リヴァイヴ)・カスタムⅡ』。オレンジ色に塗装されたリヴァイヴのカスタム汎用機だ。

 

そして一夏のISは、言わずもがな『白式』。

接近戦に特化した、必殺の刃『雪片弐型』、そしてその威力をさらに強化し、バリア無効化攻撃を放つ単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『零落白夜』を持つ第三世代型ISだ。

 

 

「うんうん、いい感じ~」

 

「・・・フン」

 

そしてそれに対するのは、のほほんさんこと布仏本音、そしてラウラ・ボーデヴィッヒのペアだった。

 

ラウラのISはドイツの第三世代型IS、『黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)』。

AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)という第3世代型兵装を始め、肩部大型レールガン、両腕部プラズマブレードなど、強力な武装を持った黒き大型ISだ。

 

そして専用機を持たない布仏本音。主に整備を得意とし、姉に対し『組み立ての本音』の異名をとる少女であるが、射撃はからきしである。

 

 

 

初戦と同様の盛り上がりを見せるアリーナ。

 

『第一回戦最終試合、織斑・デュノアペア 対 ボーデヴィッヒ・布仏ペア。 始め!』

 

号令と同時に、一夏はラウラへ、シャルルは本音へと飛び出す。

 

 

雪片弐型を構える一夏へラウラのレールガンが火を噴く。

 

しかし身を落とすことで躱した一夏は、ラウラへと肉薄する。

 

 

「はああああっ!」

 

「隙だらけだ」

 

しかしそれをプラズマ手刀で迎え撃つと、シュバルツェア・レーゲンから4基のワイヤーブレードが射出される。

 

その名の通りワイヤーの先端にブレードを取り付けた武装だが、恐るべきはそれがビットのように両手両足を使わず意思だけで三次元操作を行える点である。

 

 

咄嗟に雪片弐型で迎え撃つも、プラズマ手刀が胴体を狙う。

 

(頼んだぜ・・・シャルル!!)

 

一夏は必死で攻撃の嵐を捌き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、シャルルと本音。

 

本音のISは、シャルルのISの基本形である『ラファール・リヴァイヴ』。

 

しかし本音のISはシャルルのよく知るリヴァイヴとは違っていた。

 

 

「じゃじゃーん。ラファール・リヴァイヴ本音カスタム~」

 

もちろん専用機ではないのだが、恐るべきはその訓練機のカスタム能力。

 

 

入れ替えたのは武装面。

 

本来追加パッケージ『クアッド・ファランクス』のものであるガトリング砲を各1門、両腕部のシールドの内側、本来のリヴァイヴではパイルバンカーがある部分に装備。

 

腕よりよほど長い銃身を持つガトリング砲の弾丸をばら撒くことで、本来の射撃能力の低さを補う弾幕を張っているのだ。

 

しかし当然、そんな状態では近接戦は出来ない。

 

 

一方のシャルルはオールラウンドな戦術に定評のある操縦者である。

 

「これはすごいね・・・でも、いくよ!僕のリヴァイヴ!」

 

物理シールドを構え、回避しながら接近したシャルル。

 

その手には大口径ショットガン。

 

 

しかし。

 

「引っ掛かったな~!」

 

「!?」

 

 

瞬間、本音の周囲で大爆発が起こった。

 

盾の外側に、ある程度指向性を持たせたハンド・グレネードを展開し、一斉に爆発させたのだ。

 

 

「えへへ~。これで全部使っちゃったけどいい感じだからいっか~。」

 

 

 

 

 

爆炎の中で独りごちる本音。

 

「へ~。それはいいことを聞いたね」

 

「あれ?」

 

しかしすぐそばにはシャルルがいた。

 

当然といえば当然である。ガトリング砲で受けたダメージ以外目立ったダメージのないシャルルが、その上物理シールドまで構えていたのだ。

 

確かに大きくシールド・エネルギーを削られはしたが、一撃で落ちるほどではない。

 

 

ショットガンを構えるシャルル。

 

「ぎゃぁ~~~!」

 

本音のコメディめいた悲鳴がこだました。

 

 

 

 

 

そんなところを横目に、ラウラは一夏に激しい攻撃を仕掛けていた。

 

 

「ほら。その程度か?」

 

「くっ・・・・!」

 

白式は防戦一方。両手、つまり二本存在するプラズマ手刀を雪片弐型で弾きながら、飛来するワイヤーブレードを両足を使い刃の側面を蹴り弾く。

 

しかしシールド・エネルギーは大きく損耗し、脚部のISアーマーは何か所も削れている。

 

しかし紙一重の防御を続ける白式を苛立たしげに見ていたラウラだったが、急にその顔を笑みに歪めた。

 

 

「!?」

 

理由はすぐに知れた。

 

雪片弐型を持つ、右手が動かない。

 

慣性停止結界、AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)。その干渉波が、一夏の右腕を捉えたのだ。

 

「よく耐えたようだが、これで終わりだ」

 

4本のワイヤーが両手両足も縛り上げ、プラズマ手刀の一振りが大きくシールド・エネルギーを欠損させる。

 

愉悦の表情を浮かべるラウラ。

 

 

しかし一夏は冷や汗を流しながらも、笑みを崩さない。

 

「・・・・気味の悪い。今の貴様に何ができる」

 

「俺は何も出来はしないさ。この状態だからな。」

 

 

苛立ちを露にするラウラ。危険域の近づくシールド・エネルギー。それでも一夏は笑みを崩さない。

 

 

「・・・・・・・」

 

「ああ、もしかして知らないのか?それとも、忘れてるのか?俺たちは・・・・!」

 

 

そこでとどめを刺そうとしたラウラ。しかし、そこでラウラは吹き飛ばされた。

 

ワイヤーから解放された一夏は、ニヤッ、と笑みを浮かべた。

 

 

 

「二人組なんだぜ?」

 




本音のハンド・グレネード祭りは『アーキタイプ・ブレイカー』の爆発するおみくじ?なるものから来ています。wikiで概要を見かけただけなので多分全然違う感じですが・・・w


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白き闇を超えて

長くなりました、戦闘回後編です。



窮地の白式を助けたのは、言うまでもなくパートナーである橙色のリヴァイヴ・・・シャルルだった。

 

「無茶しすぎだよ、一夏」

 

「ははっ、悪い悪い」

 

 

そして少し遠くには、砂煙の中で二人の睨み付けるラウラの姿があった。

 

「一人増えた程度で・・・図に乗るなッ!」

 

シャルルにワイヤーブレードが飛ぶ。その本数は、6本。

 

そして飛び込んできた一夏の『白式』を、プラズマ手刀で迎撃する。

 

 

今度こそ時間稼ぎではなく撃墜するつもりの『白式』の雪片弐型の刃が、プラズマ手刀と交錯する。

 

 

(冷静に、こちらの刃は2本、相手は一本。このままなら押し切れる)

 

しかし手数の差は実戦において有利不利に直結する、先程のように防御だけに徹することのできない以上、一夏はじりじりと押されていく。

 

 

(落ち着け、落ち着け・・・こんな時、アムロさんならどうする?バナージなら?千冬姉なら?)

 

『白式』の残りエネルギーは決して多くない。――一夏はこの一撃で勝負を決めようと決意した。

 

 

ラウラの右手のプラズマ手刀を左手で腕を掴むことで防ぎ、右手の雪片弐型でラウラの左手のプラズマ手刀を迎え撃つ。

 

そして――大きく前蹴りを繰り出す。

 

 

一夏の後方のシャルルとの連携を予想していたラウラは前蹴りで体勢を崩す。

 

しかし不安定な空中で、強引に前蹴りを繰り出した影響で、足を突き出した体勢の『白式』には、雪片弐型での攻撃は叶わない。

 

そこで一夏は―――自らの得意技である、『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』を使った。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)とは、ISのエネルギースラスターにエネルギーを大きく溜め、一瞬のうちにそれを一気に解放することで、爆発的な加速を可能とする技術である。

 

 

足を突き出したまま空中で急加速した『白式』は、特撮ヒーローのライダー・キックのようにラウラの――シュバルツェア・レーゲンの腹部を蹴り飛ばす。

 

今度こそ地面まで吹き飛ばされる『シュバルツェア・レーゲン』。

 

それを追う一夏の、再びの『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』。そして最後の切り札は、当然『零落白夜』。

 

右上に振りかぶった雪片弐型の、極大化した刃が『バリア無効化攻撃』の性能を遺憾なく発揮し、ラウラの肩部レールガンを両断する。

 

発動した『絶対防御』がラウラのシールド・エネルギーを大幅に削り取り――

 

 

 

 

一夏の『白式』は飛び退いた。やがてその形も無くなるだろう。シールド・エネルギーを大幅に消耗した結果である。

 

 

しかし、そこに飛び込む影があった―――シャルルのリヴァイヴである。

 

 

ラウラの『シュバルツェア・レーゲン』はシールド・エネルギーを危険域へ突っ込ませたものの、何とか生存した、という状態である。

 

当然、AICほどではないが集中を要するワイヤーブレードの操作は前蹴りを受けてから完全に断絶していた。

 

 

プラズマ手刀で迎撃を試みるも、肩部の中型物理シールドで防がれてしまう。

 

反撃とばかりに撃ち込まれたライフル弾を、辛うじてラウラはAICを使って無力化する。

 

 

しかしシャルルは、そのライフルを投げ捨て、溶解したシールドをパージした。

 

その下から現れるのは、かつてバナージとの戦いで山田真耶も使用した超高火力武装。

 

灰色の鱗殻(グレー・スケール)』。『盾殺し(シールド・ピアース)』の異名を持つ、連装式パイルバンカーである。

 

ラウラは最後の抵抗とばかりに、『AIC』での防御を試みる。

 

極限の集中の中、網目状に投射するAICで点の突撃であるパイルバンカーを、捉えることに成功した。

 

 

その瞬間、横合いから一発の銃弾がラウラに命中した。

 

さっきシャルルが投げ捨てたライフル。それは射撃訓練の際に、『白式』に使用許可を出したものである。

 

銃撃の主――一夏は、研ぎ澄まされた感覚の中、横から見れば棒立ちのラウラへ、残された銃弾を撃ち込んだのだ。

 

 

AICの集中が途絶える。パイルバンカーがラウラを捉える。

 

ガゴンッ!という鈍い音が炸裂する。

 

シュバルツェア・レーゲンはその形を失った。――――はずだった。

 

 

 

 

唐突だが、兵器として容易に転用しうるISには、条約により禁止されていることが数多く存在する。

 

そのうちの一つが、『ヴァルキリー・トレース・システム』である。

 

ヴァルキリーとは、最も権威あるIS国際大会、『モンド・グロッソ』の各部門優勝者に与えられる称号である。

 

『ヴァルキリー・トレース・システム』・・・・それ即ち、『ヴァルキリー』の動きを模倣することで、疑似的に『最強』に近い力を得ることに他ならない。

 

 

ラウラのIS、『シュバルツェア・レーゲン』には、条件付きで発動する『ヴァルキリー・トレース・システム』が組み込まれていた。

 

ISのダメージレベル、操縦者の精神状態、そして――操縦者がその力を、欲するか否か。

 

 

 

ラウラはその禁忌の力を――――望んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どろり、という擬音が相応しいだろうか。

 

IS『シュバルツェア・レーゲン』は、その形を失った。――液体のように。

 

黒い液体と化した『シュバルツェア・レーゲン』()()()ISは、ラウラを包み、やがて少女のような形へと収束した。

 

黒いその異形の少女が手に持つ武器はただ一つ。『刀』である。

 

 

ライフルを持った一夏へと、一瞬で肉薄した『ソレ』は、ライフルを横薙ぎの一刀で切り裂いて、刀を上段に構えた。

 

 

一夏はとっさにその斬撃を躱し―――激昂した。

 

「あれは、あれは、あれはーッ!」

 

雪片弐型を呼び出そうとした一夏だったが、幸か不幸か、『白式』にそのエネルギーは残されていなかった。

 

『緊急事態です!生徒の皆さんは、アリーナから避難してください!』

 

 

放送が鳴り響く。しかし一夏はそれでも尚、握った拳一つで『ソレ』へと立ち向かおうとし―――

 

ISを纏ったバナージに止められた。

 

「どうしたんだよ、一夏。何があったっていうんだ」

 

「放してくれ、バナージ!あいつは、千冬姉の技を――!!!」

 

 

そう、ラウラだった『ソレ』が模しているのは最強のIS操縦者。

 

彼の姉、織斑千冬の技である。

 

 

 

そんな一夏を、相棒であるシャルルは――でこぴんした。

 

「ッ・・・!?」

 

「落ち着いてよ、一夏。ISもない状態で、どうするの?」

 

「それでも、俺は――!」

 

 

なおも食い下がろうとする一夏に、バナージはある提案をした。

 

「一夏、俺に考えがあるんだ――シルヴァ・バレトのエネルギーを、『白式』に移そう』

 

「バナージ・・!すまん、頼「でも、聞きたいことがあるんだ」・・・何だ?」

 

 

「一夏は、どうして戦うんだ?」

 

「・・・・・」

 

「多分今一夏がやらなくても、先生方がこの事態を収束してくれると思う。

 ―――――それでも、一夏には戦う理由があるのか?」

 

 

一夏は首を横に振った。――――否定ではない。分かってないな、とでも言うように。

 

 

「違うぜ、バナージ。確かに千冬姉の真似事をしてるラウラのISは気に食わねえし、それにいいようにされてるラウラも一度ぶっ飛ばしてやらないと気が済まねぇ。

 

――――――でも、そういうことじゃないんだ。

ここでもし退いたら、俺は俺じゃなくなる。俺が『織斑一夏』であるために、戦うんだ」

 

 

バナージは苦笑した。――――分かってたよ。そんなこと、とでも言うように。

 

一夏の『白式』へエネルギーが流れ込んでくる。

 

 

バナージの『ビーム・マグナム』を使えば、おそらく、いや殆ど確実に『ソレ』を止められるだろう。

 

『ビーム・マグナム』は撃つごとに反動を逃がした腕部装甲の取り換えが必要になるが、それだって拡張領域(バススロット)からの交換がすでに完了している。

 

 

しかしそれでもバナージはエネルギーを一夏へと譲り渡した。

 

MISはエネルギー関連が特殊であるが、その構造性故に他の機体へのエネルギー移譲は簡単になっている。

 

 

 

「一夏、ISを-極限定で呼び出して。それで、『零落白夜』が使えるはずだから」

 

シャルルのアドバイスに従い、白式を呼び出す。

 

腕部装甲と『雪片弐型』、そして脚部装甲しか具現化できていないが、しかし一夏の視界には確かに【『零落白夜』発動可能】の表示がされている。

 

 

「一夏、無事に帰ってきてね」

 

シャルルが言った。

 

「ああ、任せろ。ここで失敗したら男じゃねえよ」

 

「じゃあ、これで無事に帰ってこなかったら一夏には女子の制服で通ってもらうから」

 

「・・・ああいいぜ?なんたって失敗しないからな!」

 

 

シャルルが微笑んだ。緊張がほぐれ、頭も冷えた一夏も笑みを返した。

 

 

 

 

人の減ったアリーナで、箒が一夏を見ていた。

一夏が見つめ返した、『信じて待っていればいい』、そう伝えるために。

 

しかし箒は心配していなかった。

 

箒が一夏のために、徒手でなぞって見せたのは、『一閃一断の構え』。

さっき『ソレ』も使った、千冬の得意技にして、『篠ノ之流剣術』の型。

 

 

一夏はそれを目に焼き付けた。必ず勝って帰ってくるために。

 

 

 

 

 

最後に、バナージと拳を突き合わせた。

 

二人に言葉は必要なかった。ただ拳を合わせるだけで、お互いの気持ちは余すところなく伝わった。

 

 

 

 

『零落白夜』を発動させた一夏へ、『ソレ』が構えをとる。

 

 

荒ぶる『雪片弐型』の刃。一夏は『白式』に語り掛けた。

(今回はそんなに大きくなくていいぜ。鋭い、洗練された刃でいい)

その意思を受け、刃は鋭く収束する。

 

かつて、一夏が千冬に持たせてもらったことのある、真剣の『日本刀』の形へと。

 

 

 

 

『ソレ』がこちらの刃を弾くべく斬りかかってくる。

 

恐るべき速さの一閃。

 

その刹那、一夏の脳裏に稲妻じみた予感が走った。

まるで数秒後の動きが見える。いや――感じる。

 

その予感をなぞる高速の一閃を、一夏は切り払った。

 

 

『ソレ』がやっているのはあくまで千冬の真似事にすぎない。

 

そこに千冬の意思はない。ただ似ているだけ。

 

その型にも、箒のもののような鋭さはない。ただ早いだけ。

 

そしてその動きにも、アムロのような戦略性もなければ、バナージのような想いもない。

 

 

そして――― 一夏のような、熱意がそこにはない。

 

 

 

切り払ったその隙へ、一夏は雪片弐型を上段に振りかぶる。

 

見える――感じる。ラウラがどこにいるのか、どこを斬ればいいのか。

 

 

ラウラから伝わってくる、どこか怯えたような思惟。

 

それを受けながら一夏は―――『ソレ』を断ち切った。

 

『ソレ』を破壊する最低限、浅く切りつけた『ソレ』の内側から、気を失ったラウラが出てくる。

 

 

一夏は、受け止めたラウラのどこか安心したようなその顔を見て、

 

「まあ、ぶっ飛ばすのは勘弁しといてやるよ」

 

駆け寄ってくる仲間達を背後に感じながら、呟いた。

 

 




今回はあまり陽の目を浴びていなかった一夏とシャルル(それとバナージと箒)の回でした。

誤字報告、感想等頂いています。
本当にありがとうございます。今後も『機動戦士ガンダムIS』を宜しくお願いします。


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余波と予兆と

とても短いです。繋ぎ回なので、申し訳ございません。

追記:PCの故障により、次回更新が大幅に遅れると思われます。
   別端末で書いていますので、もうしばらくお待ちください。



「――以上が事の顛末だ。なにか質問はあるか」

 

「・・・・・・」

 

医務室で目を覚ましたラウラは、教官――織斑千冬から、状況の説明を受けていた。

 

ラウラにもわかっていた。ヴァルキリー・トレース・システムの発動は、彼女の意思によるものだと。

 

そんな彼女に、千冬は表情をこれまで以上に引き締めて言った。

 

「ラウラ!」

 

「はっ!」

 

「お前は誰だ?」

 

「わ、私は・・・・」

 

言えなかった。自分が『ラウラ・ボーデヴィッヒ』であると。

 

 

ラウラはドイツの遺伝子調整体――その完成形である。

 

高い身体能力、知力、その他の能力を兼ね備えた、『理想の兵士』。それが彼女。

 

彼女は軍でも優秀であり続けた―――IS、その出現までは。

 

彼女にはIS適正がなかった。だが、方法は存在した。

 

越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』。疑似ハイパーセンサーとしての役割を果たすナノマシンを目に移植することで、ISとの適正値を向上させる、という方法が。

 

 

しかし、彼女はソレを扱いきることが出来なかった。

 

一切危険性は無いとされていたソレが、暴走を起こした。常に発動し制御が効かなくなったのだ。

 

彼女は最強の座から転落し、『出来損ない』の烙印を押された。

 

そこからの救ってくれた恩人こそが当時ドイツ軍で指導をしていた、織斑千冬その人である。

 

 

 

そこから再びのし上がってきたはずの彼女。

 

しかし、彼女は黙り込むことしか出来なかった。

 

 

 

そんな彼女に、千冬は言った。

 

「お前が誰でもないのなら丁度いい。お前はこれから『ラウラ・ボーデヴィッヒ』になるがいい。

   ――――なに、焦る必要はない。なにせ、時間はたっぷり、死ぬまであるからな」

 

 

啞然とする『ラウラ』に、そして彼女は去り際、こう言った。

 

「お前は私にはなれないぞ。

 ――――――アイツの姉は、こう見えて苦労が絶えないのさ」

 

 

 

バタン、と扉が閉まる。

 

 

医務室で一人になったラウラの頭の中では、目覚める前のやり取りがリフレインしていた。

 

『お前は・・・なぜそんなにも強いんだ?』

 

『俺は強くなんてないさ。でも、強いて言うのなら――強くなりたいから、強いのさ』

 

『強くなりたいから、強い・・・?』

 

 

 

『それに、強くなったら、やってみたいことがあるんだ』

 

『誰かを守るために、戦いたい』

 

『そうだな、だから、お前も守ってやるよ・・・ラウラ』

 

 

 

 

 

「織斑一夏、か・・・」

 

 

教官(織斑千冬)がかつて自らの弟(織斑一夏)について言っていたことを思い出した。

 

『あいつに会うことがあれば、注意しておいた方が良い。うっかりすると、惚れてしまうぞ?

  ―――――――――――あいつは、妙に女を刺激するからな』

 

 

そう言っていたときの、わずかに、しかし嬉しそうに緩んだ頬は今でも頭に残っている。

 

きっとさっき医務室を出たときも、似たように微笑んでいたのだろう。

 

 

成程―――――――これは確かに、惚れてしまいそうだ。

 

 

 

全くズルい姉弟だと、ラウラは一人、笑いを溢した。

 

 

 

 

 

 

 

 

___________

 

 

バナージとアムロの部屋。

 

「入るわよ~?」

 

「どうぞ」

 

ガチャ、と扉を開けて入ってきたのは、更識――楯無である。

 

「ありがとね、簪ちゃんの件。助かっちゃった」

 

「いえ。簪さんとは、僕もやりやすいですから」

 

そのバナージの一言を聞いた楯無は、一瞬目を丸くした。

 

「あの簪ちゃんに異性の友達ができるなんて・・・バナージくん、簪ちゃんをよろしくね?」

 

「いや、俺と簪さんは「あ、もしかしてもう『友達』を越えて――」なんでそうなるんですか!」

 

「でもその割には簪ちゃんのこと名前で呼ぶようになったじゃない?」

 

どこからともなく取り出した扇子には、白地に達筆な字で 

 

「進展」

 

と書かれている。何種類あるのだろうか・・・

 

「俺と簪さんは普通の友達ですよ。それにそれを言うのなら―――」

 

「言うのなら?」

 

 

 

「会長さんも、あまり逃げているべきではないと思いますよ

     ―――――――これは貴女が、直接話すべき問題です」

 

 

「そうね・・・・」

 

 

 

 

 

「大丈夫ですよ、簪さんは――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________

 

 

倉持技研第二研究所、その一室。

 

アムロは『六花零式』の返却、そして自らのISの受け取りのためにここに来ていた。

 

「アムロさん、例の品だ。次のIS学園の運用テストにはデータを頼んますぜ」

 

「素晴らしい完成度だ。これで取り敢えずは完成、ということだな」

 

MIS開発プロジェクトの例の主任と、笑みを交わす。

 

その目の前に座すのは、『リ・ガズィ』のコアを引き継ぐ、『アムロ・レイ大尉』の専用機。

 

「ああ、そうだ。こいつこそが―――「MIS-RX-93  νガンダム」



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臨海学校の風

お待たせしました。
これからも超不定期投稿が続くと思われますが、少し駆け足で(日常回が減るかも)キリのいいところまでは行きたいと思います。


IS学園には、いくつかの大きな行事がある。

 

学年別トーナメント、キャノンボール・ファストなどなど・・・

 

 

そのうちの一つが――――――――臨海学校である。

 

 

 

 

 

 

 

トンネルを抜けた先には、一面の蒼が広がっていた。

 

「おおおおぉおおぉおお!」

 

美しい海。窓越しにでも潮風が感じられそうな解放感に、生徒たちが歓声を上げるのも無理はない、と千冬は思った。

 

しかし千冬にとって意外だったのは、大人びた印象のあるバナージも目を輝かせていることだ。

 

 

「バナージは海、好きなのか?」

 

姉弟同じことを考えていたのか、バナージの隣に座っていた一夏が質問した。

 

「いや、観光で海を見たことがほとんどなくて。確かにこれはみんながわくわくするのもわかる」

 

「へー。水着は忘れてないよな?俺が海での遊び方ってやつをレクチャーしてやるよ」

 

いつもISのことを教えてくれたお返しな?と笑いながら言う一夏を見ていると、バナージも自身の年齢相応にはしゃぎたくなる。

 

 

そんな二人を見ていると、バナージと一夏にとって楽しい思い出になると良いな、と千冬は姉としても教師としても思った。

 

 

 

 

 

やがてバスは目的地である旅館、『花月荘』に着いた。

 

千冬の指示で―――浮かれている生徒にもそのカリスマ性は健在である――それなりに素早く整列した生徒たちを出迎えたのは、旅館の女将さんだった。

 

「それでは、ここが三日間お世話になる『花月荘』だ。くれぐれも迷惑をかけないようにしろ」

 

「「「「よろしくお願いしまーす」」」」

 

千冬の言葉に続くようにして、生徒たちが挨拶をする。

 

「はい、こちらこそ。ふふ、今年の一年生も元気があってよろしいわね」

 

上品な笑顔で女将さんは挨拶をすると、バナージと一夏に目を向けた。

 

「あら、こちらが噂の?」

 

噂、というのは男性IS操縦者のことだろうとすぐに理解した。

 

「ええ、今年はこの関係でいくつか大変で申し訳ありません」

 

「あらあら、礼儀正しい、いい子そうな感じを受けますよ」

 

 

「バナージ・リンクスです、三日間、お世話になります」

「織斑一夏です、よろしくお願いします」

 

話が自分に回ってきたことを察知して挨拶したバナージと、それに続いた一夏。

 

 

 

全く困った弟です、とぼやく千冬と、身内には厳しいんですねと笑う女将さんと、何とも言えない空気に頭をかく一夏。

 

 

 

そんな三人が、バナージには微笑ましかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

当然といえば当然だが、バナージ、一夏。それとアムロで専用の大部屋を使うことになっている。

 

 

「これが和室か・・・これを『粋』っていうんだっけ」

 

実際に見たことはほとんど無い――宇宙世紀ではもちろん、日本に来てもあまり見る時間など無かった――『和室』の独特の雰囲気に感動するバナージ。

 

畳の独特な匂いは、嗅ぎなれていないにも関わらず妙な安心感を与えた。

 

 

アムロもあまり見たことはないため感心しつつ――さすがに声には出さないが―荷物を部屋の端に置いていく。

 

「今日は一日自由時間だ。一夏、バナージを頼んだぞ」

 

アムロは、日本(と女子)に慣れている一夏に――千冬との区別のため、また親しさゆえにアムロはファーストネームで一夏を呼ぶ――バナージを託し、自分は独り部屋に残った。

 

 

 

 

「し、失礼しまぁ~す」

 

「失礼するぞ、レイ研修生」

 

 一日目は自由時間だが、教員にはいくつかやることがある。広いアムロの部屋は、一日目の教員会議場所となっていた。

 

異性の部屋に落ち着かない様子の山田先生だが、気持ちを切り替えると概要を切り出した。

 

「今日の仕事は各国から送られてきた試験用装備の回収、配布とスケジュール組みです」

 

 

IS学園の臨海学校2日目は広い海という屋外でのIS訓練を兼ねている。

 

しかし、各国の干渉を避けるため、各国の人員は来ることを禁止される。

当然装備だけが船で届けられ、必然的に沿海での荷物の護衛や整理などもIS学園教員の仕事となるのだ。

 

「そちらは私と山田先生で対応しましょう。千冬教諭は生徒たちをお願いできますか」

 

アムロは千冬に気を使い―勿論自分では生徒の管理ができないということもあるが―護衛任務を自分が務めることにした。

 

千冬は少しバツの悪そうな表情をした後、

「―――分かりました。お願いします」

 

と言って席を立った。

 

 

尤も、山田先生が提案したことで、細かいすり合わせはもう済んでいる。

 

アムロは哨戒用の船に乗るため準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――夏の日差しが、砂浜に照り付ける。

 

「リンクスくん!お願い!」

 

「はぁっ!」

 

一夏が一瞬で女子に――主にセシリアやシャルルや鈴――に捕まってしまったため、バナージはクラスメイトとビーチボールを楽しんでいた。

 

戦闘で鍛えられた体と反射神経―ニュータイプ能力は使っていないと信じたい―で経験の差を補って頑張るバナージ。

 

 

男子高校生としてはやはりこういう運動には心が躍るものだ。

年相応に笑いながら、バナージはトスに合わせてスパイクを繰り出した。

 

 

 

 

 

 その後戻ってきた一夏と遠泳で勝負したり、一夏が鈴を背負っていたの見て、せがんできた女子をおんぶして騎馬戦もどきをやったり。最後には千冬の水着に一夏が見惚れて(?)一悶着あったりした。

 

 ちなみに一悶着の中身はというと、専用機持ち7人対千冬のビーチバレー。

これだけいても勝てず、最後に千冬が「まだまだだな」と笑ったのが印象的だった。

 

 

 

 

 

そんなこんなで、一日が終わるころには、二人ともへろへろになっていた。

 

夕食の席で伸びをして腰を伸ばす一夏とバナージ。

 

「あー疲れた。――――楽しかったな、バナージ」

 

「はしゃぎ過ぎだよ――またやろう、一夏」

 

 

 

それでも笑顔の二人を見て、アムロと真耶、そして千冬は頬を緩めた。

 




今回久々の投稿をするに至ったのは、今でも読んでくだっさる読者様が励みになったからです。
端末も直ったので、不定期ですが投稿はしていくかもしれません、よろしくお願いします。


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人類最高、篠ノ之束

まさかの連日投稿です。


楽しかった時間はあっという間に過ぎ去り、合宿2日目。

今日は各自のIS装備のテストなどが行われる日だ。

 

1年の専用機持ちは全員集められ、千冬の号令でそれぞれのテスト場所へと向かった。

 

しかし、割り当てられた海岸試験場は専用機持ちの数より二人分多い。

 

 

「篠ノ之、お前に()()()が届いている」

 

 

一機は篠ノ之箒の専用機―――『第四世代型IS』【紅椿】。

 

 

 

 

そしてもう一機は。

 

「全く、倉持技研もとんだ無茶をしてくれる。

   ―――――再び、この機体に乗れる日が来るとは」

 

MISの名を冠する機体、その()()()の一つ。

 

名を――――ν(ニュー)ガンダムと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

篠ノ之箒は、『紅椿』の性能に驚愕していた。

 

AICの様に奇抜な武装が積んであるわけでも、あるいはブルー・ティアーズのように強力な特殊兵器が積んであるわけでもない。

 

ただその機体は―――速く、強い。

 

 

 

「んふー。さすが私。また天才してしまったか」

 

「全く、お前という奴は・・」

 

 

『紅椿』の性能を観測し、リアルタイムで調整している少女。

 

兎耳の生えた奇抜なファッションの特徴的な――今は『一人アリスインワンダーランド』らしい―

彼女の名を、『篠ノ之 束』。言わずとも知れた、ISの開発者である。

 

 

束は一通り紅椿の動きを確認すると、満足げな笑みを浮かべた。

 

「うん、うん。展開装甲も機能しているし、とりあえずはこれで大丈夫かな。」

 

そう行って海岸線を歩いて行く束。

 

「何処へ行く?お前の興味を引くような者は他にいないと思うが」

それは彼女を知る者には意外なことで、隣でため息を吐いていた旧知の親友、千冬が指摘したのも無理はない。

 

篠ノ之束は、基本的に身内以外に一切の興味を持たない。

その身内には一夏と千冬も含まれているが、一夏とはさっき会ってきたようだ。

 

だが束は躍るような調子でそれを否定した。

 

「いるんだよ。彼は――――相当な面白さ(イレギュラー)だよ」

 

 

束の進む先には勿論―――白亜の機体が飛んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

投影された仮想ターゲットを超高速で撃破していくアムロ。

 

恐らくシャルロットならば「洗練された」と評し。

ラウラならば「磨き抜かれた」と評し。

一夏ならば「凄まじい」と評し。

 

バナージであれば「見たこともないほどのエースパイロット」と評するような。

 

完成された戦闘が、そこにあった。

 

 

 

ビームライフルが火を噴き、仮想ターゲットを瞬時に撃破。

 

そして宙返りしながら背中のニュー・ハイパー・バズーカが火を噴き背後の敵を撃破。

 

そして上下反転した状態でビームライフルを3発命中させ、複雑な回避軌道を描きながらバルカンで牽制。

最後にはビームサーベルでの斬撃からシールドバッシュ、そこへシールド裏のミサイルとビームキャノンでの追撃。

 

 

あまりにも速い。千冬はそう思った。

 

これならば今にでも『モンド・グロッソ』の並みの出場者を3機相手にしても勝てるだろう。

 

これではこちらに気づかないだろうと思った千冬だったが、意外にもすぐに海岸へと飛んできた。

 

 

頭全体を覆う特徴的な装甲―宇宙世紀ではガンダム・フェイスと呼ぶ―の顔部分が開き、アムロの素顔が明らかになる。

 

そしてアムロが口を開くより早く、束は彼にずいっ、と近づいた。

 

 

「ふむふむ・・・面白いね、そのIS。その背中の板はビットだよね?

  ――――しかも、ISの制御を介さないでも動かせるシステムでしょ?」

 

サイコフレームの一端を一瞬にして掴んだ束は呼吸でもするようにISのシステムに割り込み、プログラムを見る。

 

「プログラムも面白いね。一見普通のIS用プログラムだけど、ところどころ()()()()()()()()プログラム言語が使われてる。

しかも個人作にしては洗練され過ぎてるね。まるで何十年、いや()()()()()のプログラムみたいな――」

 

 

そこまで束が話したところで、アムロは防御用プログラムとカウンタークラック用のプログラムを作動させた。

 

 

「おっと危ない。んふーー。ますます君に興味が湧いてきたよ。

      ―――『ロンド・ベル所属 アムロ・レイ大尉』?」

 

「ッ!?」

 

アムロは驚愕と同時に納得した。

アムロは今ISを動かしていないが、彼女から感じる思惟は警告音すら連想させる

   ―――『子供のように純粋な意思』。

 

今の自分は――少なくともIS無しでは―子供の手の中で弄ばれる蝶と同じなのかもしれないと、そう思わせるのに十分な思惟――いや、()()()()()()だった。

 

 

その裏付けに彼女は満足げな笑みを浮かべながら、

 

「きっとまた会うかもね。ちーちゃんもまったねー!」

 

と言いながら姿を消した。―――おそらくは超高性能のステルス装備で。

 

 

若干未だ状況の呑み込めていない千冬に、アムロは声をかけた。

 

「とんでもない友人をお持ちのようだな、千冬教諭」

 

「ああ・・・・全くだ」

 

苦い顔で海を見つめる二人。

 

 

 

 

 

 

 

水平線は未だ青く、それがアムロには大西洋での戦いの前のベルファストに重なって見えた。

 

 




ついにMISの完成形が出てきました。
今回急いで(というか慌てて)書いたので、ミス・誤字脱字の報告、感想等頂くと喜びます。


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白亜と白銀

再びの連日投稿です。
不定期なので・・・
お気に入り数、しおり数など増えていて喜びました。応援ありがとうございます。


宿に帰るための集合時間が来た。

 

専用機持ちはしっかりと集まっている。――――バナージを除いて。

 

 

「まさか、到着予想時刻を見誤ったのか?」

 

バナージは今回、多少の戦闘訓練の後に、沖へ向かって長距離航行能力のテストを行っている。

 

千冬が違和感を感じたその時、バナージからアムロににプライベート・チャネルで連絡が来た。

 

アムロはガンダムフェイスをクローズし、外部に音が漏れないように装着。

 

 

 

フェイスを開いたアムロに千冬が怪訝そうに尋ねたが、すぐに表情を青くした。

 

そのとき、ちょうど千冬とアムロの端末にも警報が鳴りだしたからだ。

 

 

 

内容は米軍・イスラエル共同開発の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の暴走。

 

その航行予想ルートには――――バナージの航行予定地がちょうど重なっている。

 

 

 

 

千冬と真耶と数瞬ハンドサインを交わすと、アムロは海へと飛び立っていく。

 

 

「緊急事態だ。専用機持ちは各自装備を整えて職員部屋に集合しろ」

 

そう言った千冬の焦燥した様子が、事の緊急性を顕著に伝えていた。

 

 

 

 

 

 

 

時は十数分前に遡る。

 

 

低速長距離航行試験の最中、予定地点までの航行を終え、帰投しようとしたとき、『ソレ』はやってきた。

 

 

ISに搭載されたステルス装備で空間から湧き出るように現れたそれは――白銀のISだった。

 

 

バナージはすぐにオープン・チャネルで呼びかけた。

 

「こちら、日本所属、バナージ・リンクス。Please respond(応答願います)

 

「・・・・・・・・・」

 

MSパイロット時代の癖で英語で呼びかけたにも関わらず、白銀のISは一切の反応を見せなかった。

 

 

そして突然弾かれたように動き出し―――こちらに攻撃を仕掛けてきた。

 

「La♪」

 

「!?」

 

特徴的な音とともに銀の両翼がこちらを向き、エネルギー弾を広範囲にばらまいてくる。

バナージは垂直上昇で躱し、ビーム・カノンで応戦する。

しかし白銀のISは一射目、二射目と難なく躱す。間違いなくMISシリーズに並ぶほどの高性能機だ。

 

 

しかし、それこそがバナージの狙い。誘導された白銀のISを、狙い澄ました一際威力の高いビーム・カノンが突き刺さる。

 

シールド・エネルギーを削り取った手応え。その隙に、バナージのビーム・マグナムが展開される。

 

 

【出力70パーセント・対人高出力モードです】

 

表示を横目に、教員かつISを待機状態で保持しているアムロへとプライベート・チャネルで最短の要件だけを連絡する。

 

 

そして体勢を立て直した白銀のISから、今度は全方位へのエネルギー弾が迫る。

 

一度後退し、密度が低くなった隙間を抜けて回避、再びビーム・カノンを撃ち込む。

 

しかし学習し上手く回避する白銀のIS。しかし、宇宙世紀でのエースパイロットたるバナージには尚及ばない。

 

 

「当たれぇッ!」

 

裂帛の気合ととも撃ち放たれたビーム・マグナムが、白銀のISの翼を掠める。

紫電を纏う光条は、シールド・エネルギーを削り取った上に、翼の一部を溶解させた。

 

それに警戒を強めた白銀のISは、回避軌道を描きながらエネルギー弾による弾幕を展開してくる。

 

バナージは気持ちを切り替え、ブラフとしてビーム・マグナムは左手で保持したまま、右手にビーム・サーベルを構える。

 

そして継続して襲い掛かってくるエネルギー弾を、ハイパー・センサーで遅れて見えるのを利用しビーム・サーベルで弾く。

そしてこちらからはビーム・カノンとバルカン・ポッド、そしてハンド・ビームガンで応戦する。

 

 

膠着した戦況。

近・中距離での戦闘に長けた―――正確には長距離においてはビーム・マグナムにおいても高火力支援のみに特化している―シルヴァ・バレト・サプレッサーの不利を補う操縦技術で、バナージは機体相性を考えると非常に善戦していた。

 

 

 

しかし、バナージには足りないものがあった―――エネルギーと推進剤である。

 

あえて本来得意とする近・中距離での戦いを避けた一つ目の理由だ。

 

 

ついに回避しそこなったエネルギー弾がバナージの装甲を灼いていく。

 

ここからはジリ貧だ。ビーム・マグナムもこんな不安定な状況では当たるまい。

 

 

 

 

バナージのシールド・エネルギーが危険域に突入した。

それでも――この状況を打開する術を、バナージは持っていなかった。

 

「La♪」

 

福音の狭い範囲に集中した高エネルギー弾がシルヴァ・バレト・サプレッサーに直撃し

―――ついに、バナージ・リンクスは、ISで初めての完全な被撃墜を経験することとなる。

 

 

 

 

全身が紅く表示されていたISが除装され、衝撃ですでにぼろぼろの生身で海へと落ちていくバナージ。

 

 

意識を手放すその瞬間―――緑と蒼のISが見えたような気がした。

 

 

 

 

アムロは海上を高速で飛行していた。

 

バナージからの連絡は、

 

『所属不明の銀色の全距離型ISから攻撃を受けています。応援を要請します』

 

という極めてシンプルなものだった。―――それは、それほどまでに余裕のない状況だということを示している。

 

(間に合ってくれよ・・・!)

 

思惟をISに乗せ、アムロはνガンダムを疾駆らせる。

 

 

そしてついに見えた、白銀のIS、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』。

 

今、白銀と白亜のISが、激突する。

 

 

 

3度閃いたビームライフルが余すことなく直撃し、『福音』はこちらを向いた。

 

「La♪」

 

小手調べだ、とばかりに撃ちこまれたエネルギー弾。

それを動くことすらなく模造ガンダリウム合金製のシールドで防御しながらバルカン・ポッドで両翼を攻撃し、発射途中のエネルギー弾が誘爆し、翼へ大きくダメージを与える。

 

 

遠距離戦は不利だと判断したらしい『福音』が突っ込んでくるが、そここそがνガンダム、いや『アムロ・レイ』の間合い。

 

「そこだッ!」

 

瞬時にビーム・サーベルが引き抜かれ、超高速のキックを斜めに構えた盾で逸らし、翼を切断する。

 

 

 

初めて受けた致命的なダメージに、福音が退こうとする。

 

しかしその隙にもシールド・ビームキャノンが撃ちこまれ、シールド・エネルギーを確実に損耗させていく。

 

そしてその隙にプライベート・チャネルで連絡を取る。

「山田先生、更識、バナージのセーブは」

 

『問題ありません、これより撤退します

  ―――ですが、本当に一人で・・・・?』

 

「時間は稼いでおきます。撃墜するつもりでいきますよ」

 

 

 

そう、アムロの役目は、超高速で移動する福音をここに引き付けておくこと。

 

時間がどれだけかかるかもわからない――そこは千冬たちがいかにスムーズに動けるかで決まる――上、競技用とは違い、完全にISの限界を突き詰めた軍用機を相手に戦う危険な任務だ。

 

 

しかし、自分以外にこれを成し遂げることができる者がいないのも、客観的な事実。

 

真耶と更識簪の撤退を確認し、通信を切り、気合を入れなおす。

 

 

再び迫るエネルギー弾を斬り飛ばすと、アムロはビームライフルを『福音』に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

千冬は職員部屋のスクリーンで情報を整理しながら、唇を噛んでいた。

 

米軍内部で派閥争いが起きている影響で、司令部が汚点を晒したくないという動機で日本への連絡が遅れたこと。

 

高性能全距離型の軍用ISであること。そして―――暴走中のソレとアムロが交戦しているということ。

 

 

千冬にとってアムロは、好感の持てる同僚だ。

 

礼儀は弁えており、気遣いもできる。そしてその大人びた感じとは裏腹に――裾の内には子供じみた熱情を秘めた、凄腕のパイロット。

 

彼の実力は信頼しているが、ラウラのIS暴走事件からもわかるように、暴走中のISというのは何をしでかすかわからない。

 

―――もし、福音がセカンド・シフトでもしたら――

 

そんな悪い予感が頭をよぎりかけ、かぶりを振る。今考えるべきは、いかに早く最善の増援を送るかだ。

 

 

 

千冬がそんな考え事をしているうちに、それぞれが『福音』についての情報分析を終えた。

 

 

束が手にかけただけあって、『紅椿』は恐るべき超高性能機だ。

   ――その束がこの部屋で口を出してきているのは頂けないが。

 

 

「『紅椿』と『白式』での超音速奇襲を行い、そこからは無人島があるエリアへと誘導。

  消耗している『福音』をそこで専用機持ちでの遠距離攻撃で仕留める。異論は無いか」

 

「「「「「「はいっ!」」」」」」

 

 

 

強力な防御用パッケージを持つ更識簪はバナージの救出へ向かっている為、他の専用機持ちが慌ただしく準備を始める。

 

 

 

『リンクス君への応急処置終わりました。ISの装甲を上手く生かしていたみたいで、そこまでの外傷はありません。意識も戻りそうです』

 

 

「了解した。山田先生はこの宿の警護を」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――千冬の中で、決戦はもうすぐそこに迫っていた。

 



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銀鐘の音、群青の翼

アムロの福音との戦闘開始から十数分。

 

エネルギーも切れはじめ、カートリッジの切れたビームライフルを収納し、IS用の実弾ライフルで射撃する。

 

アムロの苦戦の原因は二つ。

 

一つ目は、軍用IS『銀の福音』が極めて多いシールド・エネルギーを有した、耐久力に優れた機体だったこと。競技用ISとの差は、それほどに顕著だった。

 

 

そして二つ目は、νガンダムのファンネルが作動しないエラーを起こしているということ。

 

νガンダムのファンネルは未だ、姿勢制御装置以上の役目を果たさないまま背部にくっついている。

 

 

ただ、アムロには確かな勝算があった。エネルギーが尽きかけているのは『福音』とて同じ。

 

 

しかし、アムロには奥の手がある。

 

感覚的にわかる。もう少し、あと少しで届くと。

 

シールドミサイルも底を尽き、『福音』が全方位の高出力エネルギー弾を撃ってきた、まさにその時。

 

 

一 次 移 行 (ファーストシフト)完了】

 

 

待っていた、この時を。

 

 

エネルギーの全快と共にνガンダムが最適化され、感覚がクリアに、シャープに研ぎ澄まされていく。

 

実は、元から改良が予定されていたシルヴァ・バレトとリ・ガズィは、専用機化処理が行われていなかった。つまり、アムロは今初めて、()()()()()()()()()を手にしたのだ。

 

 

新武装の表示を見るまでもなく、アムロは叫んだ。

 

「フィン・ファンネルッ!!」

 

背部に搭載された6基のフィン・ファンネルが動き出し、『福音』へ狙いを定める。

福音は敵機の方向から発射されたBT兵器に類する兵装を瞬時に識別すると、回避態勢に入った。

そして一定の間合いに入った瞬間、3基の砲口が同時に福音へと火を噴く。

それを福音は体を捻って回避すると、返す刀とばかりにエネルギー弾での反撃を試みる。

しかしそこに、有機的なまでの軌道で残る三基が追撃をかける。

シールド・エネルギーを削られながら福音は離脱を選択。大出力のスラスターを吹かし、BT兵器の飛び交う領域から瞬く間に離脱する。

 

そしてその福音が次に捉えたものは、ビーム・サーベルを手に一気にスラスターを噴射したνガンダムが福音に肉薄する姿だった。

 

かつてのMSの、コンピューターに囲まれたリニア・シート――コクピットにいた時と同様に、研ぎ澄まされた感覚で攻撃の隙をを突く。

ISが最適化され、ニュータイプ能力が十全に発揮される。

暴走中だからか、あのISからは『思惟』を感じられない。

しかし、元々ニュータイプとは広い宇宙で遠い彼方の人を感じるためのもの。

 

その予感じみた超感覚は機械的な動きの初動を正確に捉える。

 

「そこだッ!」

 

交錯するように飛び込んだνガンダムのビーム・サーベルが迸り、ついにもう片方の翼を切断する。

 

そしてエネルギー切れになったビーム・サーベルを収納し、振り向きざまの福音にガンダリウム合金の拳が炸裂する。

ガキンッ!という甲高い音が響き、もはや残り少ないバリアを削っていく。

福音が最後に動く、その刹那。その間隙すら見逃さずに、アムロはスラスターを吹かす。

 

 

「とどめだッ!」

 

νガンダムの回し蹴りが福音を打ち付け、強かに吹き飛ばす。その先は、離脱したはずのファンネルが飛び交う死の空域だった。

 

6基のビームが、回避不能な軌道で福音を射止める。

 

 

【敵IS沈黙】

 

 

『やったぁ!』

『流石ですね!』

 

生徒たちの歓声が飛び交う中、アムロはファンネルを自機付近に帰還させると、静かにビームライフルを展開した。

 

 

 

敵IS沈黙の確かな表示の後、『福音』はそれきり動きを止めていた。――――――――空中のまま。

 

 

アムロは直感的に感じた―――来る、と。

 

変化はすぐに起きた。

痛々しく斬り飛ばされた翼の断面から、輝くエネルギーが噴出する。

それはやがてエネルギーの翼を形作る。空に溶け込むような、美しい群青の翼。

 

「La♪」

 

凶器と化した翼が、アムロへと迫る。

 

しかしそれより尚速く、既にファンネルはνガンダムを取り囲む6面体の頂点に位置取っている。

 

ギュイイインンッ!!という独特な音を立てて、翼とファンネルが展開したビーム・シールドが激突する。

 

 

その隙に離脱したが、アムロは舌を巻いた。

―――とんでもない攻撃性能だ。しかし恐らく、あれは白式のような攻撃特化状態、防御に割けるエネルギーはそう多くはないはず。

 

 

アムロのファンネルとビームライフル、そして『福音』のエネルギー弾が入り乱れ、海上を死の輝きが染め上げる。

 

 

 

人間なら間違いなく躊躇うその網を潜り抜けるようにして一瞬のうちに接近した『福音』。その速度は、瞬時加速(イグニッション・ブースト)に匹敵していた。

 

 

しかし、アムロは後方から感じている。

灼けつくような強い―――戦うことで守り抜くという意思を!

 

 

スラスターの急制動で高速上昇したνガンダムの足元を、紅白の影が一瞬で過ぎ去っていく。

 

―――――。()()()()()()()()()

 

 

 

 

「うおおおおおおッッッ!」

 

 

紅椿から跳躍した『白式』が、雪片弐型の蒼白の刃を構える。

 

左下から右上に斬り上げる逆袈裟切り。

 

 

 

その斬撃は速く、鋭く―――空を切った。

 

 

 

 

「馬鹿者っ!『零落白夜』すら発動できていないぞ!」

 

箒は叫んだ。しかし体勢の崩れた一夏から帰ってきたのは、

 ――――――――――彼の姉、千冬の様に、不敵な笑みだった。

 

 

その体勢のまま白式は爆発的に加速した―――鮮やかに瞬く流星のような瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 

さすがの『福音』も第三世代速度型の加速から逃れきれず、『白式』の腕が『福音』の肩を掴んでホールドする。

 

そして輝く―――――諸刃の一撃必殺(ワンオフ・アビリティー)、『零落白夜』の刃。

 

 

 

操縦者を傷つけないよう胸部装甲を切り裂く、群青の刃。

それが『福音』から『絶対防御』を引き出し――シールド・エネルギーを大きく消し去った。

 

 

しかし、『福音』はそれに耐えきった。

 

「La♪」

 

射程圏内で、隙だらけになった『白式』に、死の翼が一夏を捕らえんと蠢く。

 

 

 

しかし、一夏の成長はそこに活路を生み出した。

 

零落白夜を即時発動・解除する訓練を積んだ一夏。

友人と恩師(バナージとアムロ)のアドバイスがもたらしたエネルギーは、『白式』の翼へと集まる。

 

 

後退の『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』。

瞬時に離脱してエネルギーを使い果たした『白式』を待っていたのは―――『紅椿』だった。

 

 

 

「あまり無茶をするな!全く、私が待っていなかったら・・・」

 

心配する箒に、一夏はただ一言。

 

「それはねえよ。なんとなく、()()()()()からな」

 

 

会話中の二人だが、敵は待ってはくれない。

 

 

追撃へ迫る『福音』を、しかし紅椿は長刀の一閃で切り払った。

 

剣の道を邁進した箒のための主武装、雨月・空裂(あまづき・からわれ)の二振りの刀。

 

そのうちの一本、長刀『空裂』から放たれたエネルギー刃が、『福音』に直撃したのだ。

 

さらに後を追いかけるように、数発のビーム、そしてさらに時間差で放たれた六本のビームが福音を追撃する。

 

 

「俺はフォローに回る!任せたぞ!」

 

 

アムロの力強い射撃支援を受けながら、二人は『福音』との戦闘を続け、事前にプライベート・チャネルで伝えられた作戦通りに、無人島へと誘導していく。

 

 

そして予定空域。

 

 

 

 

「準備いいか!誘導いくぞ!」

 

「「「「OK!!」」」」

 

 

「3、2、1・・・・今ッ!!」

 

 

 

 

一夏の号令と共に専用機持ちが一斉に攻撃する。

 

それぞれの機体から飛行中の福音へ降り注ぐ幾条もの主力級の遠距離攻撃が、『福音』を撃墜する―――はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らは忘れていた。第二形態移行(セカンド・シフト)の真の恐ろしさを。

 

 

 

 

 

「La♪」

 

 

 

 

 

 

 

―――『白き讃美歌(ホワイト・キャロル)』。

 

―――――――――遂に解き放たれた、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が、ついに牙を剥こうとしていた。

 

 

 

 

 

 



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絶望の空

挿入更新です。
それに伴いいくつかの話で改稿、および発生した不具合(?)に伴う修正を行ったので、何かあれば誤字脱字など報告お願いします。


 

「あいつ、なんなのよっ!あれだけの砲撃の直撃を受けてもまだ尽きないなんて、どれだけのシールド・エネルギーがあるの!?」

思わず鈴が毒づくと、苦々しく表情を歪めたセシリアが同調する。

「ブルー・ティアーズの残りエネルギーもそう多くはありません・・・一体どうなって」

 

「ぐっ!?」

 

「篠ノ之!代われ!」

 

エネルギー翼に気を取られ、エネルギー弾の直撃を受けた箒と引き換えに、アムロのνガンダムが前衛に出る。

 

エネルギーを充填したビーム・サーベルでそれより遥かに大きなエネルギー翼と切り結びながら、フィン・ファンネルが的確にシールド・エネルギーを削っていく。

 

近づこうとする福音にはシールドから放たれたミサイルが直撃し、その機先を制する。

 

「そこだっ、撃ち抜く!!」

 

その一瞬を突くように、ラウラのレールガンが福音へと突き刺さる。

 

『紅椿』そして『νガンダム』。二機の高性能機、そして後衛機の連携の取れた攻撃。明らかな優位にもかかわらず、それでも福音は墜ちる気配もなかった。

 

「あーもう埒が明かないわ!」

 

衝撃砲が通じにくいと理解すると、『甲龍』が青龍刀を構えて前に出る。福音がエネルギー弾を放った直後の、一見して完璧なタイミングだった。

 

「まずい!凰、今は!」

 

「くっ!きゃあああああ!」

 

誘いこまれた。そう理解した時には、すべてが遅かった。

エネルギー翼に包み込まれるようにしてシールド・エネルギーを大幅に損失した鈴。

 

「鈴!!」

 

その翼に切り込んだのは、一夏の『白式』だった。

 

「よくも鈴を!!」

 

『零落白夜』でエネルギー翼を切り裂き、鈴を救出すると、そのまま福音の追撃を躱す。

 

「動きが見える、今の俺には!」

 

 翼が触れる一瞬。瞬間的に発動した『零落白夜』が、最低限のシールド・エネルギー消費で福音の攻め手を横一文字に切り払う。

 

「はああああああッッ!!!」

 

心に刻まれた姉の技。切り払いからの上段、一閃二断の構えが福音の『絶対防御』を吹き散らし、シールド・エネルギーを大きく損耗させる。

 

「あとは任せろ!フィン・ファンネル!」

 

明らかな致命傷に畳みかけるように、連携による連撃が浴びせかけられる。

 

 

 

それでも爆風の晴れた先には、装甲が一回り削れただけの福音が佇んでいるのだ。

 

 

『一体どうなってる!?まだ撃墜できていないのか!?』

 通信越しにアムロに焦りを隠せない様子の千冬の声が響く。

しかし、アムロはただ黙していた。

この状況をもたらす最悪のファクターに、ついに思い至ったからだ。

 

「まさか、そんなことが可能なのか・・。しかし、ISなら・・・」

 

『どうした、何か気づいたのか!?』

 

アムロは直ぐにオープン・チャネルを開き、すべての生徒に呼びかける。

 

 

 

「ビーム兵器でヤツに攻撃するな!福音の翼は・・・エネルギー兵器を吸収する可能性があるッ!!」

 

 

 

『何ですって!?』

『そんな!?』

『バカな、そんなことがっ!?』

 

 驚愕する生徒たちに代わり再び前衛に出るアムロ。しかし、もはやビーム・サーベルすら満足に切り結ぶことができない。そのエネルギー吸収性能が未知数な以上、それは危険すぎる賭けだった。

 拡張領域から緊急事態用に格納された実体ブレード、そしてIS用のライフルを取り出す。

しかしそれは、福音とνガンダムという最新鋭機同士の戦いにおいて、あまりに役不足な武器だった。

 エネルギー翼と実体ブレードが干渉光を飛ばし切り合う。しかしその様相は、ビーム・サーベルを使えていた頃とは様変わりしていた。

 

(武装のパワーで押し負けている・・ッ)

 

 あまりにも長く切り結べばそれだけで実体ブレードが溶解してしまう恐れすらある状態で、一撃一撃が致命の輝きを持つ銀の福音と格闘戦を行う。そんな曲芸じみた戦い自体、一年戦争の後には様々な機体で戦ってきたアムロ・レイというパイロットでなければ成立もしなかっただろう。

 

 ブレードの限界を感じれば一瞬のうちに距離を取り、大した弾数もないIS用ライフルと機体にマウントされた兵装での射撃戦に移行する。しかし、それも長くは続かない。銀の福音の学習能力、ブレードの耐久性、そして・・・

 

ハイパーバズーカを構えたνガンダムが、何度目かの射撃を行う。一発目は福音の読み通り。しかし、それすらも予測してアムロは福音を捉える。

しかし引き金を引いても、現れたのはピーッ!という警告音だけだった。

(ミサイルに続いてハイパー・バズーカも・・・)

 

「La♪」

 

弾切れ。その攻撃の空隙に差し込むように、福音の翼がνガンダムを捉えようと迫る。

一気に危険域に突っ込むシールドエネルギー。それを意識の端にも入れずに、シールドをパージして投げつけることで離脱する。

 

あと一撃か、二撃か。追撃を受ければ間違いなくこの機体は堕ちていた。その確信があるから、もはやアムロは迂闊に動けない。

 

 そして、十何度目かの支援砲撃が福音に浴びせかけられる。

 その煙から晴れた福音は、危険度は高くとも攻撃能力が低下してきた撃墜が難しい機体から、他の機体へと攻撃対象を移した。

 

 

「総員、現在地から回避しろーッ!」

 

アムロの号令に咄嗟に動いた後衛機体たち。そのうちのラウラとシャルロットに、福音が襲い掛かる。

 

「やはりレールガンは脅威だったか・・・・!」

 

 アムロにもはや福音を引き付けうる戦力はなく、バナージは不在。そして、一夏はエネルギー損耗が激しく、箒は実戦経験不足。他の機体には・・・あの機体と一対一を張れるほどの戦力はない。アムロは歯噛みした。

 

 

「万事休すか・・・」

 

 

あまりにも絶望的な戦況。思わずそう呟いたアムロに、返す声があった。

 

 

「俺はいけます!」

 

 

通信越しでなく届いたその声は、紅椿の箒と同行していた一夏だった。

 

「俺は、まだいけます。俺が、福音を止めます!」

 

それと同時にデータ共有された『白式』のエネルギー残量に、アムロは目を見開く。安全域を通り越して満量まで回復していたからだ。

 

(これが、ISの見せる奇跡・・・福音だけではなかったか)

 

 

「俺があいつを食い止めます。俺の零落白夜なら、福音も無視できないはずです!」

 

「しかし、一夏。おそらく最早支援は期待できないと思ったほうがいい。本当に単独で、福音を撃墜できるのか」

 

「いいえ」

 

一夏はここで初めて否定を返した。希望に満ちた否定だった。

 

「バナージは、必ず来ます。聞こえるんです、バナージの声が」

 

「・・・・・・一夏。よし!前衛は任せる。全機、『白式』を支援しろ!」

 

『『『『『はいっ!!』』』』』

 

(慕われているな、一夏・・。)

そうアムロは遠ざかる白式を見送りながら瞑目した。そして、箒に声をかけた。

 

「篠ノ之、もし白式と福音の戦闘に支援ではなく介入できるとしたら、残弾と性能から見てその『紅椿』だけだ。」

 

「・・・」

 

「大丈夫さ。機体よりも何よりも、積み上げてきた自分の力というものは、案外裏切らないものさ」

 

「・・・はいっ!」

 

 

 今度こそ飛び立つ箒を見送り、アムロは福音に肉薄した白式の様子を捉えながら、ゆっくりとスラスターを吹かした。

 

 機体が変わり、重力が変わり、仲間が、時代が、敵が、世界が変わり。アムロ・レイというパイロットは、あらゆる戦場を経験してきた。

 

 

 

「時代を変えるパイロットは、ここでも若者の中から現れるんだな・・ブライト」

 

その言葉は、青い空に溶けて、やがて消えた。

 



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機動戦士ガンダムIS Ep.0 ユニコーンの―――

バナージは、日も沈んだ旅館の一室で目を覚ました。

 

「ん・・・・」

 

僅かに痛みの残る体を起こすと、傍らの少女が目に入る。

 

「簪さん?」

 

ホロモニターを見つめていた簪は、声を聴いたとたんに跳ね上がり枕元へと駆け寄ってくる。

 

「バナージくん!大丈夫!?」

 

 

簪の心からの心配が伝わってきて、バナージは苦笑いで返す。

 

「うん。ISの性能のおかげで。

      ところで、あのISは――――?」

 

 

しかしそれに続けた問いには、簪は俯いて答えた。

 

「―――リンクスくんの交戦したIS、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』は、あのあとレイ先生によってシールド・エネルギーを全損。その後、第二形態移行(セカンド・シフト)するも織斑くんやその他専用機持ちによって大きくダメージを負った。けれど―――」

 

 

その先が芳しくない『現在』だということを、バナージは察した。

 

 

「『福音』の第二形態移行(セカンド・シフト)による単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)は推定『エネルギー吸収』。

 不定形のエネルギー翼に触れたエネルギーを吸収する能力で、それに気付くまでに『福音』のシールド・エネルギーは殆ど回復。

その上実弾で攻めても、こちらがエネルギー翼から攻撃を()()()()()()()()から吸収するから・・・・。」

 

 

 

『ブルー・ティアーズ』はエネルギー兵器に依存している特性上ほとんど戦力外。

 

『甲龍』は近接戦を挑んだが、翼による抱き着きでほとんどシールド・エネルギーを損耗。

 

『ラファール・リヴァイヴ』と、『シュバルツェア・レーゲン』はセットで後衛。

 

『白式』は残り少ないエネルギーで4機の護衛。

 

 

『紅椿』、そして『νガンダム』は空中で前衛を務めている。

 

 

 

 

しかし、各国の最新技術の粋を結集した専用機で堕とせなかった『福音』を堕とす戦力がすぐに動かせるはずも無い。故に――――――増援は絶望的。

 

 

そんなとき、バナージの端末に通話がかかってきた。発信元は―――倉持技研。

 

「はい、こちらリンクスです」

 

『倉持技研、MIS担―主任――だ。リンクス。米軍のISと―――ったってい――はIS学園だな?』

 

「はい、そうですが・・・」

 

『すまない、電波が―――瞭だ。率直に言う。』

 

 

ミノフスキー粒子下のようなノイズ交じりの回線の中、彼は狙ったようにノイズが一瞬晴れた時、決定的な一言を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『RX-0を受領する気はあるか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いします」

 

 

 

 

 

『OK。そちら―――師に――渡す。

 コアは入ってないから、―――――――レトのコア―――してくれ。』

 

「そ、そんな。無茶だよ、急にコアの装着だなんて」

 

隣の簪が慌てていたが、バナージはもう心を決めていた。

 

『やり方のメモは―――の装甲に挟ん―おく。ア――――高専に通ってたんだろ。そんくらい出来る筈だ』

 

「分かりました、やります」

 

 

 

返事を聞くや否や、ぶちっ、と通信が切れた。

これは回線によるものではない、一刻も早く動くためだ。

 

 

バナージは体を布団から起こし、送られてきたデータを睨むように読み込んでいく。

 

「リンクスくん・・・行くんだよね?」

 

「もちろん。俺が行かないわけにはいきませんから」

 

纏う雰囲気もパイロットとしてのものに変わったバナージの手を握り、簪は言った。

 

 

 

 

 

「私も行くよ」

 

 

 

 

 

彼女は一歩、前に進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

・・・・懐かしい夢だ。

 

 

 

まだ一年戦争が終わって間もないころ、アナハイム高専の卒業式にはひとりの青年が立っていた。

 

「―――――。

 そして自分は、ここで学んだかけがえのない知識を基に、ミノフスキー博士のような革新をもたらしたいと思っています。

 

 そして、ここで共に学んだ仲間たちと、その技術が生かし、人々が未来に夢を描く、ロマンのある社会を創りたいと思います。

 

  先生方、並びに技術指導をしてくださったアナハイムの皆様。そして学友への感謝を以て、卒業生代表の挨拶と代えさせて頂きます。」

 

 

 

 

 

 しかし、再び幾度も戦争が繰り返され、プチモビ開発で多大な業績を上げた自分が兵器開発の部門に配属されるのは半ば当然の成り行きと言えた。

 

 

 

夢に描いた未来とは遠く離れた日々。

しかし、やがて転機が訪れる。

 

カーディアス・ビスト直々の招集。

彼に与えられた仕事は、『未来を託すに値する、一機のガンダムを創る』こと。

そのためのシステム、『NT-D』システムを創る一員となることだった。

 

 

そこからは機密統制のためビスト財団の管理下に置かれ、しかしそれをはるかに上回り有意義な日々が続いた。

 

「やはり、NT-D発動時の固定はかかるGの大きさを考えると、この強さが適正だろう」

 

「いや、その強さだとインテンション・オートマチック・システムの駆動に悪影響があるかもしれない。もう少し締め付け感がないようにこの位が」

 

「強さはそのままに、内部材質を変えりゃーいいんじゃねーの?なんかいい感じの技術が水中機の製作部門になかったっけ」

 

 

志を同じくする友と、未来を切り拓く仕事へ取り組む。

これこそが、最も強く求めてきたものだった。

 

 

やがて、アナハイム側からビスト財団特別チームへ機体が届き、数回目の『NTーD』稼働実験でテストパイロットとなった。

 

 

「計器異常なし。これより『NT-D』ver4.2~稼働実験へ移る」

 

 

非ニュータイプの使用のため、マニュアルで感度は最大に。

 

モニターが特徴的な表示に染まり、『NT-D』システムが動き出した、その時。

 

 

 

 

『『NT-D』が暴走している?!』

 

『サイコフレームがオーバーロードしてる!早く切れ!』

 

『外部から切断試してます!』

 

 

そんな同僚たちの声を最後に、俺は意識を失った―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________

 

 

 

倉持技研、MIS研究室。

 

IS開発企業にしては極めて珍しく男性の多いこの部署では、各員が慌ただしく動いていた。

 

 

「ビーム・マグナムは!?今カートリッジはいくつ出せる!?」

 

「25だ!まだメガ粒子がここまで手が回ってない!」

 

「トンファーは!?動作確認どうなってる!?」

 

「両腕とも耐戦闘テスト済ませた!」

 

 

 

 

 

慌ただしく動く部下を尻目に、開発主任である彼は椅子にもたれかかっていた。

 

仕事を押し付けているようにも見えるが、むしろ逆。

 

 

おおよそ組みあがっていた『RX-0』をνガンダムのデータが送られてから調整していたところ、IS開発企業の特権で飛び込んできたIS襲撃のニュース。

 

 

そこから一気に最終調整まで済まし、OS面を最後の仕上げ。

 

 そこまでの作業の内、手のかかる困難な作業や部下のミスを一人で背負い、一気に完成までこじつけた彼に、部下たちは『これ以上は俺たちでやりますから、休んで!』と、休みを押し付けられてしまったのだ。

 

 

「あんたも無茶するねぇ。そんなに『ぼくのかんがえた最強のIS』が見たかったのかい?」

 

「『ぼくたちでかんがえた最強のMIS』だ、間違えるな。」

 

そんな彼に後ろから話しかけてきたのは、旧知の仲であるテストパイロットの遼子だ。

 

「あんた、()()()()()()()()()あの機体を完成させるんだー、って言ってたものね。

 ()()()()のあんたが覚えてたってことは、よほど大事なものだったんでしょ、あの機体。」

 

 

大切どころの話ではない。あの機体は、自分の人生そのものだ。彼は思った。

 

 

いまでも自分の作業用机には、あの時にポケットに入れていた当時の『RX-0』のデータが入ったUSBが保管してある。

 

 

当然、このMISにもあのシステムは―――

 

 

 

「んじゃ、送るのは任せな。あんたはゆっくり休んでなさい」

 

「済まねぇ、後は頼んだぜ。」

 

 

この女尊男卑の生きにくい世界。

 

結果を出す自分を妬み、テストパイロットも融通されにくい自分に、対等に自分と分かり合ってくれる彼女は――絶対に言わないが――かつての同僚と同じく、大切な存在だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界を渡ってなお、夢を追ったある名もなきメカニックが作り上げた『RX-0』は。

 

彼の信頼するISのテストパイロットへと託され。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして本来のパイロットたる―――かの青年へと託される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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紅のワンオフ・オビリティ

久々すぎてストーリー以外の設定と書き方があやふやです。
本当に申し訳ございません。そして、お待ちいただきありがとうございます。


専用ISスーツに身を包んだバナージは、高速で作業を進めていた。

 

説明書通りにコアの設定を済ませ、本来より一回り大きい背部スラスターにコアを装着する。

 

 

 

「リンクス君!ISは装甲に慣らすまで時間がかかるんです。そうすぐに使えるものでは―――」

 

『RX-0』を受け取ったときから山田先生が言っていることだが、バナージはこの機体がその枠に囚われないだろう、と思った。

 

根拠は無い、理由は(ニュータイプ)の直感。しかし一つの勝算ならある。

 

 

作業中にも装甲の隙間から見える、紅の鋼材。

明らかに試作時よりも完成度が上がり、本物と遜色ない『サイコフレーム』だ。

 

 

 

そしてその予想はすぐに裏付けられる。

コアを装着した途端に脈動するサイコフレーム。気づいたときには、もうすでにバナージはその機体を着装していた。

 

 

絶句する山田先生に「クラスの皆を頼みます」と一言残し―――『RX-0』は空へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

「一夏、大丈夫か!?」「ああ、助かったよ」

 

「La♪」

 

「くっ!このっ!」

 

 

篠ノ之束製第四世代型IS『紅椿』すら圧倒している『福音』は、久方ぶりに脅威判定最大の標的を発見した。

 

 

海岸からほど近い海上を飛ぶ一機の白いIS。

 

問題はそこではない。

 

その圧倒的な速度。

 

紅のフレームから漏れ出す光は、『紅椿』の移動時の『展開装甲』とほぼ同等、そして同質だ。

 

 

全身エネルギースラスター。アナハイム高専きっての秀才は、スラスター機能のみの劣化版とはいえ、篠ノ之束と同じ発想にまで辿り着いたのだ。

 

 

 

 

かつてのデストロイ・モードのように紅いフレームを輝かせ――白き獣は、一角のまま、右手の引き金を引いた。

 

 

 

奔る紫電。出力を25%下げ、連射性の上昇したビーム・マグナムは直撃コースで福音へ迫る。

 

吸収能力を持つ翼すら突き抜け、ダメージを与える一撃。

 

一騎当千、無双の機体。それはまさしく第四世代の名を冠する次世代の力だった。

 

「よそ見してる場合かッ!!いくぞ一夏!」

 

「おう!」

 

その一瞬に、白式の『雪片弐型』が最強の光を帯びる。

それは、すべてを友人に託すための最後の一撃。

 

「はああああああああ!!」

 

 福音の単一仕様能力、そして絶対防御すらも貫いて『零落白夜』の一撃が福音のバリアを引き裂く。

 

「あとは頼んだぜ・・・バナージ!!」

 

 

その答えの代わりに、空中を一瞬のうちに駆け抜ける白き一角獣。

そして再び迸る紫電が、友人を追撃せんとする福音を大きく押しのけた。

 

刹那、肉薄する一角獣が福音を返す刀で追撃する。

 

「・・・La!」

 

遅ればせに聞こえる銀の福音の音色は、戦場の趨勢を表しているようですらあった。

 

 

紫電が迸るたび、エネルギー吸収すら突き破り銀の福音が悲鳴を上げる。

 

 

 

 

しかし箒は、その機体の弱点を知っている。

 

 

「!」

 

 

紅い光が急激に薄れていく。全身をスラスターとする『展開装甲』は、非常に多くのエネルギーを消費するのだ。

 

空中へ静止した機体。好機とばかりに、エネルギー弾を放った。

 

 

 

 

空中に爆裂する幾千の弾丸。

 

 

しかし、色を失った獣は――――その角を開いた。

 

 

 

 

―――――第一形態移行(ファーストシフト)単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)、【NT-D(ニュータイプ・デストロイヤー)】。

 

バナージの表情はガンダム・フェイスに覆われて窺い知ることはできない。

しかし、その姿に浮かぶのは余裕でも、嘲笑でも、緊張でもない。

 

 

郷愁だ。

 

金色の双角(アンテナ)が解き放たれ、全身の装甲が展開する。

それと同時に第一形態移行(ファーストシフト)によるエネルギーの全回復が行われ、色が消えた展開装甲からは紅の光が漏れだす。

 

 

 

「・・・・La!」

 

ビーム・マグナムを警戒した銀の福音が接近を試みる。

その刹那、ビーム・マグナムを量子収納(パージ)したユニコーンがより早く、拳を突き入れる。

 

エネルギー・シールドから光が迸り、福音のシールド・エネルギーを削る。

 

 

予定外の行動に硬直する福音。その一瞬に、ユニコーンはビーム・サーベルを引き抜く。

 

「はぁぁぁあああッッ!!」

 

高出力の荷電粒子束が福音のシールド・エネルギーを奪い取る。

一合、また一合と切り結ぶたび、福音からは光が飛ぶ。

 

「La・・・・!」

 

福音が翼を広げれば、その内側で本体を殴り飛ばす。

 

福音が格闘を試みれば、サーベルとバルカンが装甲を切り伏せる。

 

射撃の間合いへの離脱のための一瞬には、体勢を崩す回し蹴りが。

 

 

圧倒的な機体性能、経験値、そして・・・現状のハイパーセンサーを大きく超えた、知覚能力。

 

 

 

 

「なんだ・・・あの機体は」

 

その言葉を漏らしたのは、箒だったか、指令室の誰かだったか。

 

明らかに異質。スポーツの道具としてのISではない。

 

―――銀の福音と同質の、軍用ISのような(戦争のための)機体だと誰もが、確信した。

 

 

 

MIS、RXー0(ユニコーンガンダム)

その名が歴史に刻まれるまで、そう遠くはない。

 

 

 

 



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震える海

大変長らくお待たせいたしました。
後々大規模改稿を行う可能性があります。


海上に紫電と白光が交錯し、お互いの生命を削り合う。

 

「La♪」

 

しかし、相手は最新鋭の戦闘用マシン。

徐々に、バナージの戦闘パターンを学習していく。

 

バルカンの自動装填の一瞬の空隙に、鋭く福音の前蹴りが突き刺さる。

 

「ガッ・・はぁッ」

 

デストロイモードは推力を上昇させるが、その分パイロットへの負担も増す。

一瞬意識を手放すバナージだが、ISのブラックアウト防止機能、そして注入されている薬剤がバナージの意識を繋ぎ止める。

その間にエネルギーウイングの出力を片翼だけ急上昇させ、福音は一気に距離を取る。

 

「La♪」

 

福音が鳴る。荘厳に、美しく、そして命を刈り取るために。

 

ユニコーンが左手のシールドを構える。アナハイム・エレクトロニクスの技術の結晶、それを模倣した擬似Iフィールド・ジェネレーターが翼から放たれたエネルギー弾を受け止める。

 

爆ぜる灰色の爆風。それが晴れた時には既に、一角獣はゼロ距離にいた。

 

 

「はぁあああああ!!!」

 

デストロイ・モードにより変形したスラスターの大出力が、紅き双角獣に異次元の駆動を可能にする。

 

蒼き翼が振るわれる。その直前に内側に潜り込んだバナージは、「福音」本体にビーム・トンファーを突き立てる。

 

「La.....♪」

しかし福音も迸る蒼きエネルギーの翼をスラスター代わりに、高速でバナージを振り払う。

 

「はぁあああ!!」

 

刹那、交錯。

 

ユニコーンの機体からはシールドエネルギーの消費を表す蒼い光が散り、福音の機体では熱量をシールドが相殺し切れずに白銀の装甲を灼く。

 

ビーム・サーベルがはためけば白銀の装甲を散らし、

 

翼が振るわれれば白亜の機体に傷がつく。

 

死の舞踏。

バナージが一手間違えれば『福音』はそのワンオフ・アビリティでシールド・エネルギーを回復し、福音が一手間違えれば大出力から放たれる一撃が装甲を削り取る。

ワンステップのミスが致命傷になる戦いがそこにあった。

 

 

「すごい戦いだ...」

 

紅椿に乗る箒が呟いた。

 

「だが、接近戦闘は不利だ。あの間合いでは、どう立ち回っても攻撃中は奴のエネルギー翼の射程内だ。触れられれば、おそらくあの機体でも致命傷だぞ」

 

オープン・チャネルからラウラが答える。

 

 

ラウラたちの距離からの砲撃では、あの異次元の駆動を捉えることは愚か、誤射することにもなりかねない。

 

そして何より、損耗しきった彼らが行ったところで足手まといになることは明らかだった。

 

 自分たちを単独で追い込んだ、圧倒的な戦闘能力を持つIS、『銀の福音』。それを相手にあの機体は一機で互角の戦いを演じている。

 もはやラウラや箒は、祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、戦況が動いた。

 

「リンクスくん、上に跳んで!!」

 

 

 

後方からの可憐な、しかし決意を込めた鋭い声。

バナージのように卓越した技術がなくとも、荷電粒子砲(メインウェポン)が封じられていても。

彼女は彼女なりのやり方で、戦うと決めたのだ。

 

 

「マルチロックオンシステム手動構築・・・完了!『山嵐』、全弾発射!」」

 

ユニコーンがそのバーニアで急上昇したのと同時に、更識簪の打鉄弐式から放たれるマルチロックオン・ミサイルが、まるで生物のように不規則に『福音』に襲い掛かる。

 

防御態勢を取る福音。これまで応戦してきたアムロや箒、そして一夏たちの積み上げてきたダメージと比べれば、それは決して大きくはない。

 

しかし、戦場でのハイエンド機体同士の戦いにとっては、大きすぎる意味を持っていた。

 

 

「La♪」

 

黒煙を吹き散らす福音。しかしその直後に遥か上から、白い影が飛びついた。

 

ビーム・サーベルを収納したユニコーンが、福音の両肩を抑え込むように掴んだのだ。マニュピレーターに掴まれた、『福音』の傷つき切った実体装甲が悲鳴を上げる。

 

「・・・・La♪!」

 

しかし当然、その背後から包み込むように、致命の蒼い翼が迫る。

 

 

 

「う、おおおおおおおお!!」

 

 バナージの裂帛の気合いと共にユニコーンのバーニアが爆ぜる。福音のエネルギー翼を遥か後方に置き去りにして、展開装甲化したサイコ・フレームと背部バーニアの全出力でユニコーンは日本海上を翔ける。

 

「はぁあああああああ!!」

 

 莫大な瞬間出力による解決。バナージは紅い残光をはためかせながら、エネルギー翼が本体に追従できない程の超高速で福音を押し出す。

 常人ではすぐにでもISによる保護込みでも断続的に気絶してもおかしくない程のGを受けながら、デストロイ・モードによる薬剤注入とその精神力でバナージは福音を無人島に叩きつける。

 

ギュガガガガガッ...!!!!

 

 装甲と岩が削り合う激しい音を鳴らしつつ、バナージは福音を激突させ続ける。シールド・エネルギーへのダメージだけでなく、装甲の超高速での地面との激突による本体に直接かかった強い衝撃が、福音に致命的なダメージを与えていた。

 

「これで.....終わりだァアアア!!!」

 

 

ユニコーンが吼え、右手に再展開した深紅のビーム・サーベルが、福音に深々と突き刺さる。蒼い光(絶対防御)は、もはや白銀のISを守らなかった。

 

最期に弱々しく鐘を鳴らし、福音はついに機能を停止した。

 



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