機動戦士ガンダムSEED Natural Gifted (風早 海月)
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プロローグ
ジブラルタル、ザフト襲来


C.E.(コズミック・イラ)58、12月24日。

 

大西洋連邦…旧イギリス領のジブラルタル。そこで1人のナチュラルの女の子が産まれた。

 

誕生日にちなんで()()と名付けられた彼女。彼女が後に地球連合軍・ザフト軍双方から注目される人物である。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

エイプリル・フール・クライシスと呼ばれる作戦によって、核エネルギー(核分裂反応エネルギー)を取り上げられた地球上では異常なほどのエネルギー不足に陥り、物流・生産その他が行えず食料不足→餓死者・凍死者が多く出た。その数は10億を超えるとされ、地球全人類の10%を超える。

 

そんな中で、珊瑚海海戦によってジブラルタルではさらなる動揺が拡がっていた。

 

「イヴ!逃げるぞ!」

「待ってて。……もう少しで……」

「そんなロボット作って何になるんだ!今となっては持っていくわけにも―」

「何言ってるの?お父さん。これはジブラルタルを守るための力だよ。」

 

イヴはその全長14m程の機体を見上げる。

 

電力がないなら内燃機関積めばいけるべなと、ジブラルタルではほとんど見られないバイオ燃料をかき集めて、バッテリーの代わりにエンジンと燃料とオルタネーターを搭載した人型のロボット――モビルスーツもどきである。

 

「装甲は軽金属製だから期待できないけど、その分機体は軽くて機動性ならバクゥには勝てないけど、ディンとかジンなら勝てる。」

「バカ言ってんじゃねぇ!こんな所でお前が戦う必要なんてねぇ!」

「でも軍人たちは逃げちゃったし…みんなが逃げるまでの時間稼ぎだよ。幸いこのジブラルタルは旧イギリス領だからそのツテで本国…ブリテン島に行ける。」

「民間人への攻撃はない!」

「なわけないよ。人種間で殺しあってるんだから。」

 

イヴはモビルスーツもどきのコックピットに乗ると、エンジンを起動する。

 

「電圧チェック。オルタネーター…正・副・予備、全てよし。エジェクションシート正常。戦術データ、インストール確認。機内備品よし。……《ベータ》、正常に起動。これよりジブラルタル防衛に向かう。」

 

時にC.E.70、5月26日。第1次カサブランカ沖海戦の翌日、ザフト軍がジブラルタルに上陸した日である。

 

 

 

 

 

 

この日のザフト軍のジブラルタル上陸の戦闘報告は以下の通りである。

 

―――――

 

 

戦闘特記事項概要報告

 

 

撃墜・未帰還

ディン4機、グーン2機、ジン8機、バクゥ1機

 

損傷

ディン2機、ジン4機、ボズゴロフ級1

 

戦果

ジブラルタル占領、モビルスーツもどき1機撃破

 

 

備考

敵性小型のモビルスーツもどきのみの被害である。しかしながら、撃破後に確認したその設計や工作の状況によると町工場での工作品の可能性が高く、正規品でないと考えられる。また、パイロットの腕も高く、とてもナチュラルとは思えないどころか、赤服のエースでさえも手玉に取られる状況から我ら同胞の中でも優秀なものが搭乗していたと考えられたが、それについての報告は下記の補足にて行う。

今後の展開にて、現住者のコーディネーターからの反撃がある可能性をかんがえて侵攻する必要があるだろう。

なお、上陸を指揮したセントー隊長が意識不明の重体であるため後送された。そのため、ジブラルタル基地の建築の責任者は副長である私、ディエイン・ティルピッツが当たる。

 

 

ディエイン・ティルピッツ

 

 

 

 

 

補足…後日追記

先日の報告にあったモビルスーツもどきについて、訂正する箇所があるため追記する。

敵性小型モビルスーツもどきを撃破した際に飛び出したエジェクションシートに気を失った少女(外観年齢で12~13歳程)がいた。コックピット・シートの狭さから彼女専用に作られたもののようである。遺伝子に改変の跡はないためナチュラルと認定された。しかしながら、ナチュラルでありながらモビルスーツもどきを運用するだけに限らず、我がザフト軍の誇るセントー隊に大きな損害を与えたのは驚異である。

彼女は《ナチュラルギフテッド》、天然物の天才であることは疑いようはない。その才能を地球連合軍に利用されたものと見て、コルシカ条約違反に当たる《少年兵》と認定し、保護している。

現在、保護してから2日目であるが、未だ目は覚ましていないため、これらのことは推測であることに留意されたい。

 

―――――

 

 

 



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プラント

C.E.70、7月。

 

イヴはプラントのザフト高官から尋問を受けていた。それまでドクターストップがかけられていたのがようやくOKが出たのだ。

 

「…なっ!つまり君はあの機体を自作したのか!?」

「はい。流石にOSはプロトジンのものを参考にしましたが…あのエイプリル・フール・クライシスで電力不足になることは予測されたのでそうそうにバイオ燃料を買い占めて、ガスタービン・エレクトリック方式での駆動に変更しました。」

「……嘘だろ?」

「本当ですよ。まあコックピットを小さくまとめられたので、その分機体を小さくできて、機体の軽量化ができて…」

 

ザフトの尋問を担当する士官は唖然とする。今の時代にエンジン駆動の機体にするという思い切った換装を行える胆力を持つ技術者はザフト・地球連合軍どちらを見てもいないだろう。

 

「結局、君はこちらがコルシカ条約違反に当たる《民間人虐殺》を行うかもしれないということを想定して義勇兵…と言うより民兵となったわけだ。」

「その扱いで結構です。」

 

コルシカ条約はハーグ陸戦条約などを手本に作成されている。交戦者と認められるのはコルシカ条約第1条で規定される。

条件だけ抜粋する。

 

・部下の責任を負う指揮官が存在すること。

・遠方から識別可能な固有の徽章を着用していること。

・公然と兵器を携帯していること。

・その動作において、戦争法規を遵守していること。

 

ただし、例外がある。

 

コルシカ条約第2条。

未だ占領されていない地方の人民でありながら、敵の接近にあたり第1条に従って編成する暇なく、侵入軍隊に抗敵するため自ら兵器を操る者が公然と兵器を携帯し、かつ戦争の法規慣例を遵守する場合はこれを交戦者と認める。

 

この場合、ジブラルタルではこの第2条が適用されるため、軍事的な識別用の徽章を着用せず、指揮官がいなく、かつ少年兵に当たるイヴでも、義勇兵として認識される。

 

ちなみに、プラント側の意向もあり少年兵の使用禁止年齢は13歳以下禁止と、かつてのジュネーブ条約などでのそれよりも引き下げられている。これは、プラントでは社会的に14歳前後で仕事に付けるからだ。

 

捕虜となったイヴだが、その年齢…11歳ということもあり、捕虜労働には付かせられないということで、どうするかと頭を悩ませていたプラントの捕虜情報局だった。

 

 

そんな時に、イヴに面会に来た人物がいた。

 

 

シーゲル・クラインである。

 

「体調はどうだね?」

「問題ないです。」

「そうか。」

 

彼はその幼さと、コルシカ条約の抜け穴…少年兵に当たらない条件だったイヴに驚き、こうして何度も足を運んでいた。

 

「君は家族と離れ離れになったことを悲観していないのかね?」

「私は自分で言うのもなんですが、天才です。齢6にして大学を卒業したのはその証拠ですね。父は親としては愛してくれましたが、人としては不気味がっていたのはよく感じられました。こうして文通するだけでも嬉しいです。」

 

捕虜情報局を介したやり取りは中立国であるスカンジナビア王国やオーブ連合首長国やコペルニクスなどを仲介とする。大西洋連邦のプラントにおける利益保護国はスカンジナビア王国とオーブ連合首長国であり、プラントの大西洋連邦における利益保護国もまた同様である。

 

しかしながら、スカンジナビア王国とオーブ連合首長国には大きく違いがあり、それは武装への考えである。どちらかと言うと、スカンジナビア王国は非武装中立であり、オーブ連合首長国は武装中立である。

 

「……今日は2つ、プラント最高評議会として話がある。まぁ本来なら私じゃなくて官僚たちに任せればいいのだろうが、私自身が君と話したくてね。」

「そうですか。」

「悲しい話と比較的軽い悲しい話、どちらが先がいいかな?」

「悲しい話からで。」

「……そうか。ジブラルタル基地からの報告によると、ジブラルタル脱出船は地球連合軍によって撃沈された。」

「えっ………」

「どうやら、ジブラルタル方面からでてきたためにザフトの輸送艦と思われたらしい。生存者はいなかった。」

「そう………ですか。」

「2つ目の話だ。君の能力は地球連合軍にとって喉から手が出るほどのものだ。捕虜交換を望んでいる。我々が示すことの出来る道は4つだ。捕虜交換で地球連合軍に行く。捕虜交換を拒否する。プラントに帰化する。………そして、オーブ連合首長国に亡命する。詳しい話はこの書面に書いてある。後で目を通してくれ。」

 

 

シーゲルはイヴの頭に手を置いてから、イヴの住むザフトの女子寮の一室であるこの部屋から退室した。

 

 

 

 

―――――

 

 

・地球連合軍の捕虜交換を受け入れる場合

地球連合軍の軍人として扱われる。流石にコルシカ条約違反に当たる少年兵としての出兵は無いだろうが、技術者としては動員されるだろう。なお、ブルーコスモスに目をつけられればその限りでなく、少年兵としても有り得るであろう。

 

・捕虜交換拒否した場合

このまま捕虜を継続する。コルシカ条約に則った待遇となる。

 

・プラント帰化した場合

国家への忠誠を見るため、ザフト関連の職につくことが求められると共に15歳になると共に3年間の兵役が課せられる。

 

・オーブ連合首長国に亡命した場合

オーブ連合首長国の保有するヘリオポリスにて保護。カレッジ学生として4年間の保護期間を要する。なお、この措置はオーブ連合首長国の法律的に15歳未満の労働が認められず、保護者の必要とする年齢であるためである。以前の大学卒業の単位は認定する。

 

 

―――――



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ヘリオポリス編
ヘリオポリス


イヴはオーブ連合首長国の保有するヘリオポリスのカレッジ学生として編入した。

 

彼女はその平和を享受していた。

 

 

 

「キラ、追加。」

「うぇぇえ!?またぁ?」

 

イヴは同じ加藤ゼミの学生で、よく教授の仕事の手伝いをさせられているキラ・ヤマトにデータチップを手渡す。

 

「イヴ、手伝ってくれてもいいんじゃないかな?」

「イヴ、こどもだからわかんなぁーい!」

「キラ、分かるけど抑えろ!」

 

サイがキラを羽交い締めにする。大学生活の日常風景だった。

 

 

このまま卒業までずっとこうして平和でいられるはずだった。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

イヴはゼミの部屋から出て、お手洗いに行って、出てきた時だった。強い揺れを感じた。

 

隕石なども自動迎撃で揺れは微かなものになるのが多いのだが、これは異常だ。

 

 

意志をサッと固めたイヴは手元のノートパソコンでヘリオポリスの宇宙港管制をハッキングしだした。

 

(……ザフトが攻撃?なんで?中立国のはずじゃあ…?………!?G計画……………なるほど。オーブも1枚岩では無いか。せっかくなら連合との合同開発じゃなくて鹵獲したジンとかを手本にすればいいのに……連合とつるんでも大して旨みはない。)

 

 

イヴはザフトのこの作戦のやり方に少し疑問を持った。

 

(プラントだって1枚岩では無いけど、コルシカ条約どころか人としての倫理観すら無い人達がやってるのか……穏健派がいるならここの襲撃でこんな作戦は取らない。)

 

ノートパソコンを閉じて、モルゲンレーテへ向けて走る。

 

(多分シェルターはカレッジの周りは満員……掛けるならモルゲンレーテしかない!)

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

モルゲンレーテに着いた時には、シェルターはなかった。

 

 

「来い!」

「左ブロックのシェルターに行きます!お構いなく!」

「あそこはもうドアしかない!」

 

 

イヴは撃たれたザフト兵の持っていた小銃と予備弾倉を拾う。

そして、1人の赤服のザフト兵の後ろから突きつけた。

 

「無用な殺傷はやめてください。ここはモルゲンレーテ。民間人もいるのですよ?」

 

突きつけた銃口に歯噛みする赤服。

 

「中立国が連合の戦艦とモビルスーツを作るかよ。」

「西暦時代には永世中立国が武器を開発して他国に売ることはありましたが?何か?」

 

スイス製の銃はなかなか有名である。

 

「…なるほど。」

 

それで納得していいのか赤服よ。

 

イヴは銃口を離して、銃を下ろす。

 

「武器の鹵獲は日常茶飯事。持っていくことは何も言いませんが。」

「……有難く頂く。」

 

赤服……ラスティ・マッケンジーとイヴの初対面がこの時であった。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

G計画によって開発された機体は5機。のはずだった。

 

(この機体……データになかった!……とりあえず、ジンは追い払わないと……ね。)

 

その機体のコックピットに座る。だが、身体が小さくて、フットペダルに届かないことに気がついた。

イヴはシートに寄っかかるように座り、何とか操縦できるようにした。まあ固定ベルトは出来ないが。

 

起動した機体のデータやOSを確認していく。

 

「なるほど。オーブの自作機か。OSは……うん、まあ書き直そ。」

 

いくら技術大国オーブでも、OSは酷いものだった。

プラントで、1度だけ聞いたことのある士官学校の授業ではこう言っていた。「結局のところ、モビルスーツのOSは格ゲーのコンボみたいなものだ。」と。

 

「MBF-P00、アストレイ0号機…アストレイ イエローフレームね。」

 

イエローフレームを立たせたイヴはヘリオポリス内部に向けてスラスターを吹かした。

 

 

ヘリオポリス内部に出ると、ジンともう1機のモビルスーツが戦闘していた。さらにその後ろにもう1機いる。イエローフレームのメインシステムが直ぐにデータを画面に呼び起こす。

 

X105ストライクとX303イージスだ。

 

 

そのストライクに重斬刀が振り落とされる瞬間、イエローフレームは割り込んで、アーマーシュナイダー2本で受けた。

 

『なっ!?』

 

先程キラに大声を上げていた地球軍の士官の女性が驚きの声を発する。

 

『そこのジンの人、直ちに離脱してください。これ以上の戦闘は望みません。民間人の避難もまだ完了してません。』

『……ミゲル、離脱だ。』

 

さっきの赤服―――ラスティはどうやら奪取に失敗してイージスに同乗しているらしい。

 

『ラスティ!』

『Gの装甲はフェイズシフトだ。乗り込まれた時点で奪取失敗だ。離脱するぞ。援護を。』

 

さらにイージスを操縦する赤服もイージスのフェイズシフトを起動しながら告げる。

 

フェイズシフトは暖色の方が強く、寒色の方が弱いという性質がある。イージスの赤色はとても強いフェイズシフトであることを示していた。

 

『だが…アスラン――っ!』

『諦めろ。』

『ちぃっ!離脱する!』

 

 

こうして、ザフトをなんとか退けたのだった。



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コーディネーターとナチュラル

シグーを駆りながら、クルーゼは後方から追撃してくるメビウス・ゼロによる、執拗なまでの射撃を回避しつつガンバレルを一つづつ潰す。

やがて二機は追撃戦の末──ヘリオポリス内部へと侵入。

ところどころに黒煙が立ち上がり、これが平和の国が抱える中立のヘリオポリスの景色である。

 

──中立のコロニーを、ここまで破壊することを「悪行」というのだろうか? いや、違うな……。それは大いなる見当違いだ。

 

 

「地球軍の兵器を造っているこのコロニーの────どこか中立だというのだ」

 

 

ラスティが口にした理論と同じである。が、ラスティと違うのは恐らく反論されても止まらないことだろう。

 

「ふむ、いよいよ邪魔だな、ムウ・ラ・フラガ!」

 

華麗に身を翻すシグーに、反応は出来てもゼロが着いていかず。ゼロを叩き切ろうとした斬撃は残った唯一の武器だったリニアガンを切り裂き、ゼロの戦闘力を奪った。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

地球連合軍の士官―マリュー・ラミアス大尉は学生たちを拘束していた。

まあ彼女1人では何も出来ないので、結局彼ら学生たちを使って作業をしていた。

 

その時、ゼロとシグーがシャフトから飛び出してきたのだった。

 

「…!」

 

イヴはイエローフレームに飛び乗った。そして、モルゲンレーテで見つけたモビルスーツ用の機関銃をシグーに向ける。

 

「よーく狙って……そこ!」

 

イエローフレームの撃った機関銃弾がシグーを襲う。たまたま機体色が後ろのビルの保護色になっていて、意識外からの攻撃となり、シグーのライフルをたたき落とす。

 

「ちぃっ!見落としたか…あれが計画外…吸い出したデータにも無い機体……ふむ、その機体貰い受ける!」

 

直ぐに重斬刀をかざして接近してくるが、その時だった。

森林地帯から大きな船が飛び出してきたのだった。

 

「なに!?」

「あれは…」

 

イエローフレームのメインコンピュータが名前とデータを表示する。

 

「アーク…エンジェル…」

 

この世界で今現在唯一、地上・宇宙両用艦として設計された宇宙艦だった。類似艦としてはオーブのイズモ級が挙げられるが、これは地上での運用はほとんど考慮されていない、部分連絡艦である。それに対して、このアークエンジェルは地上での戦闘も可能な能力を持つ。

 

そのアークエンジェルからミサイルが発射された。

 

「当たる!」

 

シグーに、ではなく、ヘリオポリスにだ。

致し方なく、弾幕を張ってメインシャフトをミサイルから保護する。

 

シグーを助けた形だ。

 

それを見たクルーゼは引き際をわきまえていた。

が、そこにストライクに搭載されたランチャーストライカーのアグニが襲った。

 

その威力も知らずに。

 

 

 

 

シグーは間一髪……というか掠った。そのビームはそのまま真後ろのヘリオポリスの地表に大穴を開けた。

その穴からシグーは飛び出し、逃げていった。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

アークエンジェルのデッキに降り立ったストライクとイエローフレームは手に乗せていたサイやミリアリアたちを降ろした。

 

「ラミアス大尉!」

 

デッキに走ってくる人達がいた。

 

「バジルール少尉。」

「ご無事で何よりでありました。」

「あなたたちこそ、よくアークエンジェルを…おかげで助かったわ。」

 

コックピットを開いたキラとイヴがワイヤーで降りると、ザワザワした。

 

「ら、ラミアス大尉…これは…?」

 

ラミアスが言い淀んでいると、男の声が響いた。

 

「へぇー、これは驚いたなぁ。」

 

男は敬礼して名乗る。

 

「地球軍第七艦隊所属、ムウ・ラ・フラガ大尉。よろしく。」

「第二宙域第五特務師団所属マリュー・ラミアス大尉であります。」

「同じく、ナタル・バジルール少尉であります。」

「乗艦許可を貰いたいんだけどねぇ。この艦の責任者は?」

「………艦長以下、艦の主だった士官は皆戦死されました。よって今はラミアス大尉がその任にあると思いますが…」

「…ぇ!?」

「無事だったのは、艦にいた下士官と工兵だけです。私はシャフトで運良く難を逃れました。」

「艦長が?そんな…」

「やれやれ…なんてこった。まぁ、とにかく許可をくれよ、ラミアス大尉。俺の乗ってきた艦も落とされちまってねぇ。」

「は、はい。許可致します。」

「で、あれは?」

 

ムウが振り返って、キラとイヴを見る。

 

「ご覧の通り、民間人の少年たちです。ストライクの少年は襲撃を受けた時、何故か工廠区にいて、私がGに乗せました。あっちの機体の少女はモルゲンレーテの他の区画で見つけたオーブの自国用機を見つけ、ヘリオポリス防衛のために乗り込んだそうです。キラ・ヤマトとイヴ・ルイスです。」

「ふぅん。」

「彼らのおかげで先にもジン1機を撃退し、あれだけは守ることが出来ました。」

「ジンを撃退した?あの子供たちが?」

「俺は…あのパイロットになるヒヨっ子たちの護衛で来たんだがねぇ……連中は―――」

「ちょうど艦長に着任挨拶をしている時に爆破されましたので、共に……」

「そうか…」

 

ムウはキラとイヴに歩み寄る。

 

「な、なんですか?」

「君ら……コーディネーターだろ?」

 

その一言に、その場にいた人達は色んな意味でざわつく。

 

「はい。」

 

キラの一言に、地球軍の警備兵が小銃を鳴らす。

 

「なんなんだよ、それはぁ!」

「トール…」

「コーディネーターでもキラは敵じゃねぇよ!さっきの見てなかったのか!?どういう頭してんだよ、お前らは!」

「……銃を下ろしなさい。」

 

ラミアス()()の命令に警備兵は顔を見合わせてから銃を下ろす。

 

「ラミアス大尉…これはいったい!?」

「そう驚くことも無いでしょう?ヘリオポリスは中立国のコロニーですもの。戦火に巻き込まれるのを嫌でここに移ったコーディネーターがいてもおかしくないわ。違う?キラ君。」

「ええ、まぁ…僕は一世代目のコーディネーターですから……」

「一世代目?」

「両親はナチュラルってことか…いや、悪かったなぁとんだ騒ぎにしちまって。俺はただ聞きたかっただけなんだよねぇ。」

「フラガ大尉…」

「ここに来るまでの道中、これのパイロットになるはずだった連中のシュミレーションを結構見てきたが、ヤツらノロくさ動かすにも四苦八苦してたぜ……やれやれだな―――」

「あの。」

 

ムウが歩きだそうとした時だった。イヴが声を上げる。

 

「2点、言いたいことがあります。まず、誤解されてるでしょうけど、私はナチュラルですからね?」

「「「「「な!?」」」」」

「…マジかよ…おいおい。」

「そう驚くことも無いでしょう?コーディネーターを上回る天才のナチュラルがいたって。」

「いや、そういねぇよ。」

「エンデュミオンの鷹のあなたがそう言いますか?あなたとてジンを撃墜したことだってあるでしょう?あなたもコーディネーターに上回る能力を持っているということですよ。そして、2つ目。キラはコーディネーターとしてもかなり高位の能力を保有していることを自覚して欲しいな。コーディネーターでも、モビルスーツを全員が戦闘レベルで動かせる訳では無いし、戦闘中にOSを書き換える?普通のコーディネーターには無理です。これは捕虜としてプラントにいた私だからこそ分かると思いますけど、コーディネーターだからといって生まれて直ぐになんでも出来るわけじゃないんです。努力すればするだけ能力が伸びる可能性がナチュラルよりはあるだけです。努力しないコーディネーターは凡人以下です。」

 

イヴの主張に、地球軍・学生問わずに言葉を失った。

 

彼らもまた、偏見や先入観に呑まれていたことを自覚したのだった。

 

 



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ヘリオポリス脱出

「はぁ……コロニー内の避難はほぼ100%終わっているそうだけど、先程ので警報レベルはナインに上がったそうよ。」

 

ラミアスは艦長席の受話器を戻すと、艦の士官が揃った艦橋でそう切り出した。

 

「シェルターは完全にロックされちまったわけか。…ああ、そんじゃああのガキどもはどうすんだ?」

「え?」

「もう、どっか探して放り込むって訳にもいかないじゃないの。」

「彼らは軍の機密情報を見たため、ラミアス大尉が拘束されたのです。このまま解放する訳には…」

「じゃあ…脱出にも付き合ってもらうってのか?出てきゃあド派手な戦闘になるぞ。」

「ストライク…そして例の機体の力も必要になると思うのですが…」

「あれをまた実戦で使われると?」

「使わなきゃ、脱出は無理でしょう?」

「あの坊主は了解してるのかい?」

「今度はフラガ大尉が乗られれば…」

「おい、無茶言うなよ。あんなもんが俺に扱えるわけないだろ。あの坊主が書き換えたっていうOSのデータ、見てないのか?あんなもんが普通の人間に扱えるのかよ?嬢ちゃんみたいなGiftedならともかく。」

「なら…元に戻させて……とにかく、あんな民間人の……それもコーディネーターの子供に、大事な機体をこれ以上任せるわけには…」

「そんでノロくさ出てって的になれっての?」

 

 

バジルールはムウの言い分に反撃出来ず、口ごもるのだった。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「コロニー全域に電波干渉。Nジャマー数値増大。」

「なんだと?」

 

艦長席に座る艦橋指揮を任されていたバジルールが聞く。

 

「ちぃっ…やっぱこっちが出てくまで待つ気はないかぁ、あのヤロウ!」

「またヘリオポリス内で仕掛けてくるつもりですか?」

「楽だぜぇ?こっちは発砲出来ない。むこうは撃ち放題だ。」

 

ムウは笑うが、笑い事ではないのである。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「お断りします!僕達をもう戦争になんて巻き込まないでください!」

「キラ君…」

「あなたの言うことは正しいのかもしれない。僕達の外の世界は戦争をしているんだって。でも、僕らは戦いが嫌で中立のここを選んだんだ!それを…!」

 

その時、艦内に放送がかかる。

 

『ラミアス大尉!ラミアス大尉!至急ブリッジへ!』

 

ラミアスは近くの通信機のスイッチを入れる。

 

『どうしたの?』

『モビルスーツが来るぞ!早く上がって指揮を執れ。君が艦長だ。』

『私が?』

『先任大尉は俺だが、この艦のことは分からん。』

『分かりました。総員第一戦闘配置。アークエンジェル発進準備。大尉のモビルアーマーは?』

『ダメだ、出られん。』

『では、フラガ大尉にはCICをお願いします。』

 

通信を切ると、ラミアス艦長は振り返る。

 

「聞いての通りよ。また戦闘になるわ。シェルターは今レベルナインであなたたちを下ろしてあげることも出来ない。どうにかこれを乗り切ってヘリオポリスを脱出することが出来れば…」

「卑怯だ、あなたたちは…!」

「キラ君……」

「キラ、あなたは出なくていい。私がイエローフレームで出る。」

「イヴ…!?」

「マードック軍曹にも話してあります。シートは私サイズのものがモルゲンレーテにあったので付け替えてもらっています。……今更コルシカ条約なんてあってないようなものでしょう?」

「…ごめんなさい。頼むわ。」

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「ヘリオポリスからの脱出を最優先とする。戦闘ではコロニーを傷付けないよう、留意せよ。」

「無茶だろ…」

 

ラミアス艦長の指示に、CICの下士官が呻く。

 

「1番コンテナ開けぇ!エールストライカー装備だ!」

 

マードック軍曹の指示で同規格のバックパック接続のイエローフレームに追加装備が付けられる。

 

「接近する熱源2。熱源パターン確認。ジンです。」

「なってこったい!こりゃあ拠点制圧用の、重爆撃装備だぞ!あんなもんをここで使う気か!?」

「さらに後方、熱源2。」

「イエローフレーム、発進させろ。」

「はっ!これは…1機はX303、イージスです!」

 

ピンと張った空気が流れる。

 

「もう実戦に投入してくるなんて…!」

「今は敵だ!あれに沈められたいか!?」

「コリントス、発射準備。レーザー誘導。」

「フェイズシフトに実体弾は効かないわ。主砲、レーザー誘導。焦点拡散!」

 

 

有効距離を短くすることで、コロニーへの被害を減らすのだ。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「ふん!そぉら、堕ちろぉー!」

「重粒子砲……ジン本体のエネルギーでは無い……射撃数は少ないか。なら全てシールドで防ぐしかないかな。」

 

ストライク用のシールドを掲げて、重粒子ビームを受け止める。

 

「ラミネート装甲…そう長くは持たないか。」

 

イエローフレームは持ってきたビームライフルを構える。

 

「1発で止める…!よーく狙って……ここ!」

 

イヴの的確な狙撃に、重粒子砲持ちのジンは肩と胴体の間を撃ち抜かれて損傷する。

 

「ぐぁあ!?くそ、機体が…離脱する!」

 

ミゲルは重い機体を翻して、コロニー外へ逃げる。

 

「よし。アークエンジェル…!」

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「イエローフレーム、ジンを撃退!」

「やるなぁ嬢ちゃん!」

「ジン2機、来ます!」

「主砲制御こっちに回せ!手動でやる!」

 

アークエンジェルのCICではやはりムウが強かった。手動で主砲をジンに当てたのだ。

 

「オロール!くそぉ!」

 

「さらに1機来ます!」

「迎撃!」

「間に合いません!」

 

アークエンジェルは並の戦艦ではない。装甲こそラミネート装甲だが、戦艦特有の排熱性能を誇り、かなりの防御力を持つとともに並でない攻撃力を持つ。

 

被弾しても、従来の艦ほどのダメージはない。

 

『ラミアス艦長、艦の設備で非居住地区を撃ち抜いて脱出出来ませんか?これ以上コロニーに被害が出れば、強硬手段が取れなくなります。』

『……それしかないわね。』

 

幸いにして、まだコロニーの自動修復ナノマシンの残量は何とかなるだろう。

 

 

「特装砲発射準備!照準、採光部。発射と同時に機関一杯!」

「りょ、了解!」

「ローエングリン、照準!…撃て!」

 

ラミアス艦長はイエローフレームが甲板に着艦したことを確認して、ローエングリンを撃った。

 

「開口部開きます!」

「全速!急げ!自動修復ナノマシンが塞ぐ前に!」

 

 

 

「馬鹿な!なんてむちゃくちゃな離脱方法だ!」

 

アスランは唖然としながら、母艦に通信を入れる。

 

『ヴェザリウス、応答せよ!』

『こちらヴェザリウス。』

『敵艦が外壁を撃ち抜いて離脱!そちらに向かう!』

『了解した。なあに、こちらは2隻だ。心配するな。』

 

 

アスランは少しばかり胸騒ぎがしてたまらないのであった。



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ヴェザリウス大破

「これより遠距離砲撃戦に移行します。アンチビーム爆雷投射!ゴッドフリート、バリアント、照準!ナスカ級!特装砲は?」

「25分ほどの再装填時間が必要です!」

 

アークエンジェルが逃げ切ることだけを考えるならば、ヘリオポリスの崩壊を引き起こした方がいいだろう。その方が熱源特定をされづらい。

 

だが、ここにいるのはハルバートン提督の教え子だ。軍人として、人として、何をすべきかを考えられる人たちである。

 

「艦尾ミサイル発射管、全門スレッジハマー装填!岩礁方面に投射!熱源センサーパッシブ!目標はナスカ級だ!諸元入力しろ!」

 

『カタパルト1番開いてください。コンジット接続してアグニで砲撃戦に参加します!』

『了解。アグニもデッキに搬入しておく。』

 

『こちらX105ストライク。キラ・ヤマト。…僕も行きます。』

『キラ…』

『2番カタパルト開いてください。予備のランチャーストライカーを!……イヴみたいな小さい女の子に、全て任せるなんて出来ないよ。イヴも卑怯だよね。』

『……今更だよ?……キラ、ソードのシールドも持った方がいい。デッキの中が被弾したら大変なことになる。カタパルトに飛び込みそうな攻撃は迎撃かシールドで受け止めないとダメだよ。』

『分かった。』

 

特装砲ことローエングリンに比べれば火力は下がるが、主砲のゴッドフリートMk.71よりも単発火力は高い。さらに、連射性も艦上で砲撃戦に使うならば比較的良好だ。

 

「攻撃始め!」

「ゴッドフリート、バリアント、スレッジハマー、全射線てぇ!!」

 

ラミアス艦長の命令の瞬間、CICでバジルールが射撃を開始した。

同時に、2本のアグニも火を吹いた。

 

「各射線、準備出来次第、順次発砲!」

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

ヴェザリウスとガモフは、アスランとミゲルを受け入れた後、直ぐに残ったモビルスーツ―デュエル・バスター・ブリッツの3機をガモフから発進させようとした。

 

だが、その前に砲撃戦が始まってしまった。

 

「主砲、副砲、撃て!」

「……アデス、ヴェザリウスをガモフの前に出せ。」

「は、しかし…」

「今戦えるのはあの3機だけだ。ミゲルは被弾し、アスランはエネルギーの問題。ラスティは機体がない、私も機体は本国修理が必要だ。その点、ガモフの3機ならば戦える。ヴェザリウスを盾にしてもガモフのモビルスーツ発進を援護しろ。」

「は。」

「イージスも充電完了次第発艦させる。準備を怠るなよ。」

「はっ!」

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「ナスカ級、ローラシア級の前に出ます!」

「火力集中!ローラシア級からモビルスーツが来るぞ!」

 

『……坊主、艦内に下がれ。ランチャーを置いて、エールに換装だ。リニアカタパルトで発進したら敵のモビルスーツを抑えろ。撃破しなくていい。アークエンジェルに近寄らすな。いいな?』

 

ムウはこの中で最も実戦経験を持つ士官であり、直感の鋭さは折り紙付きだ。

 

「艦長、ストライクの出撃、許可貰えるな?」

「…なぜストライクなのですか?」

「坊主の方が命中率が悪いからだ。」

 

ゴッドフリートの照準射撃をしていながら、きちんとモビルスーツ2機の砲撃も見ていた。

 

「…そう。…面舵20!最大戦速!30秒後、ロール角左15!ナスカ級をクロスファイアポイントへ誘導して!」

 

そう、先にばらまいておいたスレッジハマーの罠を使うのだ。

 

 

 

 

 

 

『こちらストライク、エールを装備しました。』

『左から来るぞ!』

 

探知担当からもたらされた情報から、機体を翻すキラ。

 

(…あの船が沈められれば………)

 

学友たちの笑顔が、日常が、頭をよぎる。

 

 

「ええい!こっちに来るなぁ!」

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「ぐぁあぁああ!」

 

ヴェザリウスのブリッジ内が真っ赤に染まる。

 

「右舷に被弾!艦の稼働率69%まで低下!」

「機関は!」

「右舷スラスタが喪失しかけています。操舵不能になりかねません!」

「くっ!」

 

アデスは歯を食いしばる。火力が比較的低いナスカ級で善戦はした。一般的に艦同士の戦いにおいて、地球軍の方が優秀なのは否めない。その中で、出来うることはした。

装甲はあちらの方が優秀。

火力もあちらが優秀。

速度はほぼ変わらない。

 

決定的なのは、岩礁に潜ませられていた対艦ミサイルに引っかかったことだ。子供だましな作戦だったが、逆に考えていなかったのだ。

 

「イージスは!」

「今、整備終わりました!」

「隊長…」

「イージス発進。その後、最大戦速で敵艦横を突っ切れ。反航戦だ。ヘリオポリスを盾にして離脱する。ガモフには追撃を命じろ。」

「はっ!」

 

『イージス、作戦終了後はガモフに収容を。また、右舷の被弾が激しく、リニアカタパルトの展開が不能である。自機の推力のみで発進せよ。』

『了解…アスラン・ザラ、出る!』

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「陽電子チェインバー、再充填完了!」

「ローエングリン1番、発射準備!目標、ナスカ級!」

 

「ナスカ級、モビルスーツハッチ開いてます!」

「X303イージス!」

「構うな!」

「ローエングリン、照準……てぇ!」

 

 

イヴの第1カタパルトの真下から伸びるビーム。その威力はアグニを大きく上回っていた。

 

「命中!」

 

 

そのビームは真っ直ぐに長く、太く、ナスカ級のモビルスーツハッチに突き刺さっていた。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

アスランは冷や汗をかいていた。

あと数秒遅ければ、あの()に突き刺さっていた…どころか、蒸発していただろう。

 

『こちらイージス。ヴェザリウス!応答願います!ヴェザリウス!』

『……こ…ら……リ…ス………』

『ヴェザリウス!』

『こち…気にす…ザッ…ンエン…やられ……だ……』

 

 

 

 

 

 

ヴェザリウスはモビルスーツデッキを貫通して、メインエンジンを撃ち抜かれていた。幸い、艦の主だった機能は両舷と下部に伸びた部分に多くあるため、モビルスーツが全損したのとエンジンが抜かれただけで済んだ。

 

が、モビルスーツハッチの真上にあるブリッジはその余波でボロボロであった。

 

「ぐっ…クルーゼ隊長。ガモフへお移りください。本艦は大破、自力帰還不可能です。」

 

飛んできた艦の破片が、アデスの身体を叩いていた。他のオペレーターたちも意識を失っていたり…はらわたが顕になっていたりする。

 

クルーゼ自身はアデスに庇われて無事ではあった。

アデスは艦長席に座り直し、手元の割れたデバイスを操作する。

 

「幸い、左舷の内火艇は無事です。ですから……」

「ここで死ぬならそれまでの男だったということだ。ガモフに打電、打てるか?」

「本艦のNジャマー干渉は止まっています。」

「戦闘停止だ。ヤツら、機体を収容した。離脱する気だな。…ガモフではトレース出来ん。」

「はっ。」

 

 

(ふむ、モビルスーツ発進前に艦対艦戦闘になると競り負けるか……)

 

 

これがネルソン級などならまだ何とかなっただろうが、アークエンジェル級の装甲と火力と速度を甘く見てはいけない。そう確信したクルーゼだった。

 

 

 

 

 




アークエンジェル側が不利でない序盤がダメだと誰が決めたのかね?



発進中の攻撃はDestinyの方でもありましたよね。
なお、ローエングリンの使用は特定条件が厳しいので、今回みたいな事例は少ないでしょう。

休日が終わったので、更新はまた今度。


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補給

地球連合軍の艦船は無補給でおよそ2~3ヶ月の行動が可能として設計されている。なぜなら、宇宙で1番怖いのは食料・水の調達である。

 

「…水は濾過器を通せばサイクルは出来ますが……」

 

濾過器は非常用である。なぜなら、壊れやすいからだ。

 

「うーむ、搭乗員数は?」

「100に満たない数です。というか50ほどです。」

「なるほどねぇ…節水すれば第八艦隊に合流まで持つかね?濾過器を併用前提で。」

「ですが、途中で濾過器が壊れれば一気に水不足になります。」

「そりゃあそうだが、船籍のないこのアークエンジェルで、アルテミスかどっかでも行くか?即拿捕だぜ?」

「それは…否定しきれませんが……さすがにユーラシア連邦と言えど………」

「まあ、ともあれ私たちは決断せねばなりません。私もアルテミスは反対です。キラ君やイヴちゃんたちがいなければ…いえ、いなければここに私たちはいませんか。」

 

ストライクとイエローフレーム無しにクルーゼ隊を退けることは不可能だろう。

 

「マードック軍曹からの報告によりますと、まもなく先の戦闘の修理が終わるそうです。」

「……そうねぇ…ヘリオポリスには頼れないかしら?」

「ま、面の皮が厚いけど、それが1番なんだがねぇ。」

 

あれだけの被害を出した理由の片割れにやるものは無いと言われても仕方ないのである。とはいえ、無人の港からホースを引っ張ってくるだけになのであまり問題は無い。

 

「では港の方に…」

「だな。いいな?艦長?」

「ええ。お願いね、ナタル。」

「はっ。」

 

バジルールは操船要員に招集をかける。

 

「…にしても…警戒レベル下げて貰えたらなぁ。すぐにでもガキども下ろしてやれるんだが……」

「ええ。そうね。」

 

ヘリオポリスのシステムでは、1度上がった警戒レベルはコロニーの管理者でないと戻せず、現在の管理者はオーブ連合首長国から依頼を受けたジャンク屋と代表首長であるウズミ・ナラ・アスハのみであるため、到着まで警戒レベルは変わらないのである。

 

 

 

 

 

「艦長、操船クルー配置につきました。」

 

2分ほどで操船に必要なクルーが配置につく。

 

「機関始動。両舷前進微速。赤黒なし。アークエンジェル発進。」

「機関始動。両舷前進微速。赤黒なし。アークエンジェル発進。」

 

ラミアス艦長の指示を復唱するノイマン。

 

「ヘリオポリス港の前で相対速度合わせ。その後、艦尾を後ろに入港する。ガイドレーザーはでない、留意して。」

「了解!」

 

ガイドレーザーがない宇宙でのドッキング(入港や接舷)は頭がおかしいほど難しい。まともにぶつかればその運動エネルギーで、アークエンジェルはお釈迦だろう。

昔の西暦時代にあった宇宙開発期初期のドッキングは数時間もかけて行われていた。

 

 

「制動噴射まで…2、1、噴射。……相対停止。」

 

ノイマンは機械の手助けを受けながらも類まれなる操艦技術で綺麗にアークエンジェルを入港させた。

 

「おいおい…ガイドレーザーもガイドビーコンも無しに入港とか…」

「ノイマン曹長って…」

 

ロメロ・パルとダリダ・ローラハ・チャンドラⅡ世の両伍長はひきつった顔が止められない。元々戦闘機乗りで、宇宙艦の操縦など初めてだったはずなのだ。それをこんなにも綺麗に、早く、1発で決めるとなると、もはや順応性どころの話では無い。神がかっている。

 

「作業班は直ちに燃料と水の補給を。食料もせっかくだから倉庫から貰っていきましょう。」

「いいのかい?」

「モルゲンレーテとの契約的にはあちらが補償するはずよ。…でも、謝罪文くらい置いていこうかしら?」

「おいおい、それじゃあ怪盗だぜ。」

 

軍服の袖をまくって少し着崩したムウは、手を上に向けて肩を竦める。

ムウはブリッジを出て、格納庫に赴く。

 

「おや、フラガ大尉…どうしたんですかい?」

「なに、クルーゼの事だ。何かあるかもしれんからな。一旦引いたとはいえ、ローラシア級は生きてるしG4機はまだ健在だ。…今のうちにゼロを少しでも…な。とっさの時の反応が遅れてたってのもあるんだがね。」

 

ムウはOSの設定を少しだけ敏感にするのであった。



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イエローフレーム、鹵獲

 

 

「…!砲撃来ます!」

「ノイマン曹長!」

「分かってます!」

 

当直に当たっていたサイがエネルギー反応を確認して、報告する。

アークエンジェルはバカみたいな戦闘機動をして初撃を回避する。

 

アークエンジェルが目指したのは地球低軌道上にいる第八艦隊との合流であった。ヘリオポリスで水と燃料の補給ができたことで余裕が生まれ、デブリベルトに隠れながら第八艦隊と合流するつもりなのだ。

だが、今回はそれが裏目につき、大きなデブリの影から奇襲を仕掛けられたのだ。

 

「総員第一戦闘配備!機関増速!デブリベルトに逃げこむ!」

 

高速艦であるアークエンジェルだが、常に最高速度という訳でもない。だから、クルーゼの読みの速さがあればナスカ級よりも鈍足なガモフでも先行出来るのだ。

 

「モビルスーツ発進急がせろ!フラガ大尉は!?」

 

バジルールも大慌てである。

 

「後方、ローラシア級!接近!」

「なぜ気づかなかった!」

「ガス噴射による慣性航行をしていた模様です!敵艦外壁に多数の後付けガスボンベを確認!」

「くっ!アンチビーム爆雷投射!」

 

慌ただしく戦闘配置につく。そこにはサイやミリアリアたちの姿もあった。

 

『こちらイエローフレーム、エールでお願い。』

『了解!アストレイ イエローフレーム、エールを装備します。イヴ、無事を祈るわ。』

 

イヴはモルゲンレーテで発見した追加ストライカーを使いたい所だったが、まだ調整が終わっておらず、エールストライカーを選択した。

 

『ストライクにもエールを!』

『了解!キラ、頑張って!』

 

ミリアリアが艦載機管制に入っている。

 

「面舵5、下げ舵15!」

「バリアント照準!てぇ!スレッジハマー、当てなくていいばらまけ!」

 

ラミアス艦長とバジルールの連携もヘリオポリスの時のド派手な艦対艦戦闘を超えて、なかなかと言えるはどにはなっていた。だが、誰が予想しただろうか。艦載機の戦いは劣勢を極めていた。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「クソ!なんてこったい!モビルスーツ12機の大所帯じゃないの!」

 

本来ならローラシア級であるガモフには6機分のスペースしかないが、露天繋止のように艦の外に繋止することで搭載機数を増加させている。

 

イージス、デュエル、バスター、ブリッツの4機の他に、ジンが配備されていた。

8機のジンの中には、クルーゼのシグーの代機のジン・ハイマニューバ、ミゲル専用ジンカスタム、ラスティ専用ジンカスタム、の姿もある。

 

『ミゲル、しくじるなよ!』

『お前こそ!』

 

「そぉら!当たれ!」

 

ミゲルの好みの武装であるバルルス改特火重粒子砲をイエローフレームに撃ち鳴らす。

 

『ミゲル、ラスティ。私はエンデュミオンの鷹を相手する。不明機は頼むぞ。』

『はい、分かってますよ!』

『了解。』

 

ラスティ専用ジンカスタムの持つ115mmレールガン シヴァが連続で火を吹き、イエローフレームの発泡金属装甲を掠める。

 

「っ!この2機…連携が上手い…!」

 

操縦技術は2人を有無も言わさぬほどに突き放しているイヴだが、決して戦闘経験が多い訳では無い。その点、戦術などを細かく士官学校で指導された2人はイヴに勝る。

 

「くっ!」

 

 

 

 

 

「クルーゼ!」

「ムウ…今度こそここで消えてもらう!」

 

ムウとクルーゼの一騎打ちは互角で推移する。

 

ジンに比べれば機動性は上がるものの、代機ということもありレスポンスが悪い。対して、ゼロはムウの反応についていけてないが、先よりは向上している。そこにゼロのオールレンジ攻撃が加わり、互角の戦いとなっていた。

 

「ええい、お前に構っている暇はないというのに!」

「…まあ第一作戦目標は不明機だからな。今は見逃してやろう、ムウ。」

 

イージス、デュエル、バスター、ブリッツの4機もストライクが何とか押さえ込んでいる。

 

『ミゲル、ラスティ、離脱しろ。試製グングニール、起動しろ。』

 

クルーゼはサッと機体を翻らせて、戻る。

 

「クルーゼ…!」

 

だが、キラとイヴの劣勢に助太刀が先と、ストライクの方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

試製グングニール。ザフトの戦略兵器のひとつとして開発が進む兵器のひとつだが、実戦実験をクルーゼが引き受けていた。

 

試作型の名の通り、現行型では極小範囲にしか電磁波を放てないのである。さらに、レーダー照準を避けるためNジャマーを運用しているため、電磁波の一つであるグングニールも影響を受けて能力が下がる。もちろん、最終的にはNジャマーが常に作動している地上で運用する予定なので、今後の開発が進むことに期待されている。

 

『暗証番号、入力。後退しろ!後はクルーゼ隊長が作戦宙域に誘導する!』

 

中途半端にラスティたちを追撃したところを、ムウがイヴを引き止めた。

 

「ふっ、ムウ、お前の止める位置は予測済みだ。……さあ、最強のナチュラルを迎えようではないか。」

 

クルーゼがニヤリと笑うと、グングニールが起動した。

 

 

『ラスティ、お前は不明機を鹵獲後、撤退しろ。ミゲル以下残ったジンは足つきへ向かえ。』

『了解。』『りょーかい。』

 

「ふっ、無様だな、ムウ!」

 

クルーゼは“右側のバックパックスラスターの破損”に口を歪めながらも、ムウの指揮を嘲る。

 

(だが……あの距離で私を狙った…?流れ弾とは思えん。)

 

クルーゼはムウから離れたすぐに撃ち込まれた数条のビームにバックパックスラスターを撃ち抜かれていた。

 

()()は軍事教練も受けていないのだぞ…!既に集団戦技能を持っているというのか!?)

 

クルーゼはガモフに戻る道すがら、イヴの才能に恐れを抱いていたが、すぐに口元を歪めた。

 

 



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低軌道会戦編
イヴの真実


まだ最初の方なんですけどね!イヴの生まれをご紹介しますよ!

これは後でイヴの心の揺れに大きく作用するので、先にさせてもらいました。謎解きは後だろ!っていう人にはごめんなさい。


 

 

 

 

 

「君はよくよくここが好きなのかね?」

 

イヴの視界ど真ん中にはシーゲル・クラインの顔があった。そして、その後ろにはラウ・ル・クルーゼがいた。

 

「済まないが、コペルニクスに亡命は出来なくなってね。2度目となると…ね。」

「いえ。」

「やはり、連合は君を取り戻したいようだが、戻るかい?」

「……この戦い、簡単には終戦なんてしないでしょう。クラインさんも分かりますよね?」

「……政治家としてはそうだな。宇宙生命学者としては早期講和を望むが…」

 

シーゲルは頭を振る。

 

「プラントとして示すことが出来るのは前より選択肢は狭い。君を戦場には送りたくないがね。済まない。」

「力はただ力。殴り合う2人の間に性能の良い武器があればそれを使うでしょう。後は倫理観なだけです。」

「済まない。今度来る時までに決めておいてくれ。ああ、クルーゼ隊長も話があるそうだ。」

 

シーゲルはそのまま、部屋を辞した。

すると、後ろにいたクルーゼが話し出した。

 

「私が話すことは君の生まれについてだ。私と同じく業を背負った少女よ。」

 

クルーゼは仮面を外す。

 

「私が幾つに見える。」

「30代半ばから後半…ですか?」

「私はまだ23だ。」

「え…」

「私は生まれつきテロメアが短くてね。細かい話、君も知ってるあのムウ・ラ・フラガの伯父…が1番近いのか?でね。」

 

クルーゼは嘘は言っていない。ムウの父親のアル・ダ・フラガの遺伝子を利用したクローンなのだから、アル・ダ・フラガの双子の弟とも言える。

 

「とても優秀なナチュラルのクローンなんだ。つまり私もナチュラルなのだが、まあ、クローンという時点で自然ではないな。」

 

嘲るように話すクルーゼの顕になっている瞳には憎悪や憎しみ、悲しみに包まれているが、イヴはその奥に優しい光が見えた。

 

「その元になった人物がムウ・ラ・フラガの父親なのだよ。もう既に故人だがな。」

 

クルーゼは椅子に座ると、薬を数粒飲む。

 

「細胞分裂抑制剤さ。こうでもしなければあっという間に老人だよ。」

 

ズボンの中の足が何か堪えるように力が入っているのは副作用か。

 

「まあそんな話はいい。君の話だ。C.E.30年代の事だ。密かに生まれていたコーディネーターが各方面で才能を開花させていくと、《ヒト》としての性能差が顕著になり、C.E.40には反コーディネーター感情は高まっていた。そして、その中でコーディネーターを超えるナチュラルを作り出そうという動きがあった。その流れが今の連合軍の一部には流れている。薬物漬けにして一時的に潜在能力を強制的に開花させてやるのが当時の主流だった。だが、別な観点を持つ科学者がいたのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という夢物語を説いた。確かに、長期的に見れば、遺伝子上の劣化は進まないだろう。しかしそう上手くはいかん。自然交配で最高の()()を生み出すことはもはや確率論でしかなかった。だからこそ、フラガ家の特殊能力に目をつけたのだよ。」

「特殊能力…?」

「先を読む力。これはフラガ家のどの代の当主も必ず持っている。強弱はあれどな。この遺伝子を使えば、最高のナチュラルが作れると考えたその科学者はフラガ家の遺伝子を手に入れようとした…が、既にフラガ家で生き残っていたのは出来損ないと言われたムウ・ラ・フラガだけだった。が、最高の性能だったアル・ダ・フラガのクローンがいた。私の遺伝情報を奪った彼はそれを持って最高のナチュラルを作り上げようとしたが、科学者はふと立ち止まった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。」

「なんて…まさか……」

「そう、自然交配でなければ意味が無い。そう考えた彼は()()遺伝情報からクローンを作った。そして、母親は……ほかの科学者の作った()()()()()()()()()()()()()()()()()()……優秀だが病弱と判断された少女…いや、幼女と言うべき年齢の彼女を用いた。今の君よりも若く…6歳程だったらしい。強制的に成長させられて、初潮を無理やり引き出したのを確認すると、クローンと交配させられて、3ヶ月だ。もちろんクローンも強制的に成長させられて5~6歳程に成長させられて、薬で強制的に精通させられた。2人とも麻薬の組み合わせで作られた媚薬によって3ヶ月間、睡眠と食事以外常に交尾を続けさせられた。そして、やっと出来たのが……君だ。C.E.58、12月。母親となった少女は出産で亡くなった。私のクローンもまた、血流関係で亡くなった。………ふん、皮肉なものだ。最高のナチュラルだったアル・ダ・フラガの遺伝子。そして、最高たれと作られた優秀なコーディネーターの間で自然交配した子供……ヘリオポリスにいることはあとから知ったが…やっと同志に会えたと思った。結局、君もまた、失敗作なのだからな。」

 

イヴはその情報量の多さにパンクしそうだったが、脳はその優秀さを発揮して、無意識にでも理解していた。()()()()()()()も告げていた。

 

「何が失敗か…君ならもう気がついているのだろう?」

「……成長障害。」

「正解だ。君が10歳前後で成長が止まることは生まれてすぐの検査で分かった。だから孤児院に預けてしまったのだよ。」

 

クルーゼの瞳が憎しみの瞳から表面に押しでてきた優しい瞳に変わる。

 

「……これで君の身の上話も終わりだ。さて、伝えることは伝えた。これを聞いて何をする訳では無いが、君は知っているべき人間だと思っただけだ。これで失礼する。」

 

クルーゼが立ち上がり、仮面を付けて、制服の白服の裾を翻すと、イヴが呼び止める。

 

「…………あの!」

 

クルーゼは振り返ると、ギュッとした感覚を得た。パステルイエローに近い明るい金髪が自分の腹にあることに気づく。

 

「父はあなたが元になってるんですよね………」

 

自分の腹に抱きつくイヴに、仮面の奥の瞳が揺れる。

イヴは頬を染めながら、クルーゼを見上げる。

 

「パパと呼んでもいいですか?お父さんは育ててくれた人がいるから……」

「………好きにしろ。」

 

したから見えるクルーゼの耳が赤くなっていることを、イヴの優秀な目と脳は見逃さなかったのであった。

 

 

 

 

 

 




イヴ「パパっ」
ラウ「てぇてぇ」


外見年齢的にラウとイヴって確かに親子っぽい……


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ザラ隊とアマルフィ隊

「すみません、隊長。隊をお預かりしていたにも関わらず……」

 

クルーゼがプラントに戻っているあいだに、指揮を取っていたのはアスラン・ザラであった。本来ならアデスに頼むところだったが、ヴェザリウスが大破し、現在修理中であることもあるが、彼の負傷も軽くはなかった。

アスラン指揮の下、アークエンジェルを何度となく襲撃したものの、こちらの方が損害を受ける始末であった。ジンのパイロットは数名を失った。

 

「構わん。全員揃っているな?」

 

現在、クルーゼ隊に所属するパイロットは以下の通りだ。

 

アスラン・ザラ

イザーク・ジュール

ディアッカ・エルスマン

ニコル・アマルフィ

ラスティ・マッケンジー

ミゲル・アイマン

リーサ・ミッケル

リズ・フォークナー

コーネリアス・ケント

 

の計9人だ。そこに隊長のクルーゼも加わる。

 

「まずは度重なる出撃に労を労おう。通知が2つある。1つは……来い。」

 

ブリーフィングルームに入ってきたのは、ザフトの制服に身を包んだ幼い少女……イヴである。

 

「なっ!こいつは…!」

 

イザークが驚くが、それもそうだ。ついこの間鹵獲した機体のパイロットだったのだから。しかも、その少女が《赤》を纏っていたのだから。

 

()()()()()()()()()だ。私の養子となった。不便だからな、普段は旧姓のルイスを使う。彼女が我がクルーゼ隊に加わる。あの機体は電装系がダメになっていて、特別な機体を配備することとなった。これが1点。2点目はこのクルーゼ隊を2つの分隊に分けて運用することを決定した。1つはザラ分隊。もう1つはアマルフィ分隊だ。アマルフィ隊は新たに配備されたヘルダーリンに移乗せよ。これが2点目だ。メンバーはこの表を見て行動しろ。」

 

 

―――――

 

 

ザラ分隊

アスラン・ザラ

イザーク・ジュール

ディアッカ・エルスマン

ミゲル・アイマン

コーネリアス・ケント

 

アマルフィ分隊

ニコル・アマルフィ

イヴ・ラ・クルーゼ

ラスティ・マッケンジー

リーサ・ミッケル

リズ・フォークナー

 

―――――

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「ヘルダーリン艦長のカルロス・ベルモンドじゃ。よろしく頼む。」

 

イヴは、プラントからの航路で慣れたが、ニコル、ラスティ、リーサ、リズの4人はあっけに取られている。

 

「わしゃあ第1世代コーディネーターの親のナチュラルでな。この年齢じゃが、我が孫らのために参加したのじゃよ。」

 

ベルモンド艦長は、実は94歳という高齢であるが、元々東アジア共和国の宇宙艦で再構築戦争を生き抜いた生え抜きである。なお、プラントには定年という制度はなく、実力主義で、年老いても実力さえあればよい。

まあ、要するに、このベルモンド艦長はスーパーおじいちゃんである。

 

「ニコル・アマルフィです。若輩である僕の指揮下に入って頂くのは心苦しいですが、よろしくお願いします。」

「うむ、そういうものだ。ザフトは実力主義じゃからのぉ。だからこそわしゃあ今でもこの席に座れとるんじゃ。気にゃぁせんよ。まあ、よろしく頼むぞ、隊長殿。」

 

意外と力強いベルモンド艦長との握手であった。

 

 

 

 

 

 

その後、すぐにブリーフィングルームに集まる。

 

「とりあえず、ルイスさんは全員初対面みたいなものですから、自己紹介と行きましょうか。」

「初めまして…はおかしいですかね?イヴ・ルイスです。腕は…皆さんが知ってる通りです。とある個人的な理由でパパの養子になりました。普段はイヴ、もしくはルイスで呼んでいただいて結構です。私に配備された機体は先行試作機YMF-600プロトゲイツです。」

 

一瞬顔に朱が入ったラスティはすぐにそれを隠すように自己紹介を始める。

 

「俺はラスティ・マッケンジー。ヘリオポリスではどうも。今はジンに乗ってる。よろしく頼むぜ。」

「じゃあ次は―――」

 

ニコルが指名するよりも先に元気よく自己紹介する緑服の少女。

 

「はいはーい!リーサ・ミッケルです!14歳で、恋愛対象は女の子です!彼女募集中!良かったらお付き合いを前提に○○○○しませんか!?」

「はい、そこまでっしょ!」

 

ラスティがリーサの首筋に手刀を落として、意識を狩る。

なお、○部分は各自で妄想せよ。

 

「あ、私は違いますからね!?…まったく、リーサのせいで私までそんな目で見られたくないわ。えっと、リズ・フォークナーです。対艦戦闘が得意です。よろしくお願いしますね。」

「リズ、私はいつでも待って―――」

「あ゛?」

「ひっ!?」

 

イヴはリズの顔を見てしまい、この人は絶対に怒らせないようにしようと心に決めた。

 

「最後に、僕が隊長をやらせてもらうことになったニコル・アマルフィです。よろしくお願いします。」

 

 

 

後に、伝説となるアマルフィ隊の初期メンバーがここに揃ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




イヴのイメージ

ニコル・アマルフィ
美少年。ってか男の娘?

ラスティ・マッケンジー
オレンジ髪。ムードメーカー。

リーサ・ミッケル
レズ。ヤバいやつ。

リズ・フォークナー
常識人。怒らせるとやばい。ヤバいやつ2。

キラ・ヤマト
友人。だけど、親友にあらず。

ラウ・ル・クルーゼ
家族を失ってぽっかり空いていた心を埋めた人。パパ。

ムウ・ラ・フラガ
頼りになるお兄さん。実は従兄弟?…異母兄弟?的な。


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低軌道会戦

「地球連合軍、第八艦隊、距離8000!」

「うむ、艦隊戦では敵わん、モビルスーツ発進準備じゃ。よろしいですな?分隊長。」

『はい。僕も出るので、ヘルダーリンはベルモンド艦長の指揮下で随意行動してください。』

 

ブリッツに乗り込むニコルは通信を閉じると、ため息を漏らす。

 

「はぁ……隊長って書類仕事多いんですね……」

 

電子化されたとはいえ、ザフトも組織である。自由の効くザフトと言えども、書類からは逃げられない。

西暦時代のアニメにあったパンツじゃないから――の隊長も言っていたが、これでは自身の撃墜数どころの話ではなくなるのは分かってしまう。

 

ちなみに、クルーゼはその能力を遺憾なく発揮している上にそうそう自分で出撃しないのでやっていけてるのである。

 

『ニコル・アマルフィ、ブリッツ、出ます!』

 

 

リニアカタパルトから飛び出して、ブリッツを踊らせる。

 

『アマルフィ分隊各位へ。今作戦の我が隊の目標はあくまで足つきを地球に降ろさないことです。その点に留意しつつ各自臨機応変に対応してください。』

『了解!』『はい!』『はーい!』『っしょ!』

 

「い、胃が痛くなってきた……」

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

ジン1機に対して、メビウス5機と言われる戦力比。

それがクルーゼ隊の精鋭であるならばそれはさらに広がる。

 

戦闘において、コズミック・イラ70年代においてもランチェスターの第二法則に基づく計算は有効である。Xt^2/‪α‬=戦力である。数の二乗を兵器や兵士の能力を定数化した数で割るのだ。

 

その結果が大きく数で勝る地球連合軍はクープマン分析、つまり局所的有利も相まって、乗積で数の暴力があるにもかかわらず、地球連合軍とザフトは泥沼の戦いをしていた。

 

 

『コーネリアス!』

 

 

メビウスに囲まれて、リニアガンを多数撃ち込まれたジンが爆散する。

 

 

『クソ!イザーク、ディアッカ、前に出すぎるな!ジンでは追従できない!』

『フンっ!腕が悪いだけだ!行くぞディアッカ!』

『おう!』

『おい!』

 

アスランの指揮下だったジンが一機爆散したことで、流石にアスランが突出する2人を窘めるが、アスランをライバル視しながらも、席次の低かったニコルにもう1つの隊長席を奪われたと思っているイザークはお供のディアッカを引き連れてさらに前に出る。

 

ディアッカのバスターは遠距離戦だけでなく、対雑魚相手の制圧戦も得意としている。さらに、アサルトシュラウドを装備したデュエルも、武装を増やし、暴れ回る。

 

『アスラン、僕たちはあくまで…』

『分かっているさ!』

 

アスランはニコルの忠言に、苛立ちながら2機を追う。

 

ちなみに、ミゲルは大好きなバルルス改特火重粒子砲で船を遠距離でちまちまとつついている。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

『ヘルダーリンより各位。ヘルダーリン及びガモフ後方10000に敵増援確認。地球連合軍、第十一艦隊を認む。』

『ガモフ了解。クルーゼ隊長から命令だ。艦を前に出す。第十一艦隊が来る前に第八艦隊を葬るとの事だ。』

 

ベルモンド艦長はその指示に少しだけ悩む。何か違和感が拭えないのだ。

 

「アマルフィ分隊長は?」

「現在敵陣前で前線指揮を執っています。」

 

ベルモンド艦長は再び長考に入る。

 

「ガモフより入電。我に続け。との事です。」

「…………ガモフの後ろを詰めろ。本艦は即応態勢で中央に配置しろ。索敵を密にせよ。」

「はっ!」

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「ゼルマン、私も出る。ガモフは射程圏内に入り次第順次援護を開始せよ。」

「はっ!」

 

クルーゼはガモフからジン ハイマニューバで出撃した。

 

だが、ここで違和感に気づいた。

 

「……まさか……ふむ、だが、ベルモンド艦長は流石だな。これを見越していたのか。ガモフには生贄になってもらおう。」

 

第八艦隊と第十一艦隊の位置と陣形に違和感を持ったクルーゼだが、その持ち前の直感で何かが横槍を入れてくることが分かった。

 

 

 

 

 

 

―――――ドン!ボゥフ!ズドゥン!

 

 

 

 

 

 

いきなり横から攻撃を受けたガモフは、一気に中破した。

 

 

『ヘルダーリンより各位。ガモフ8時方向距離700に、地球連合軍第十三艦隊を確認。』

 

ニコルは直感的に、そしてこれまでの知識から、第十三艦隊は特殊任務絡みの部隊であることを知っているため、今回の近距離に突然出現したのがミラージュコロイドであると推察出来た。

 

『ブリッツよりアマルフィ分隊へ。全機、回頭!第十一艦隊を抜けて離脱します。ザラ分隊はガモフの退艦を援護してください。ヘルダーリンはガモフに付けて!』

『その必要は無い。ガモフより各位。退艦希望者は既にランチで出発した。本艦はこれより殿を務めさせていただく。』

『ゼルマン艦長!』

『アマルフィ、覚悟を決めた男の誇りを踏みにじる気か!』

『くっ…了解。クルーゼ隊長は?』

『私も既にジンで出ている。第十三艦隊をおちょくってはいるが、そう長くはもたん。ゼルマン、頼むぞ。』

『はっ!』

 

通称『特務艦隊』と呼ばれる地球連合軍の第十三艦隊は艦隊としては少ない数だが、指揮官のカツト・オオツカ准将の《忍者戦法》は度々ザフトに痛撃を食らわせる。

第八艦隊の智将、デュエイン・ハルバートン少将(艦隊の増備に伴って昇進)の先見性は戦術単位でも健在である。

 

 

そして、ニコルが突破を選んだ第十一艦隊。地球連合軍の宇宙艦隊で唯一女性提督である。エレーナ・イワーノヴナ・スミルノフ少将は柔軟な艦隊運用で知られる包囲殲滅戦のエキスパートだ。

 

ニコルは1番難しい脱出経路を選んでしまったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、第八艦隊奥にいたイザークとディアッカは通信に気が付かなかった。




この作品では、地球連合軍の宇宙艦隊には穏健派が多くしてあります。
アークエンジェルを追っているのがクルーゼ隊と知ったハルバートンが3個艦隊で包囲することを目論みました。

各艦隊司令官を詳しく書き出します。

第八艦隊司令官:デュエイン・ハルバートン少将
大局観が鋭く、戦争という《外交手段》を用いているという認識。だからこそ、戦争の早期集結を望んでいる。地球連合軍穏健派の中心的人物。

第十一艦隊司令官:エレーナ・イワーノヴナ・スミルノフ少将
柔軟な艦隊運用を得意としていて、包囲殲滅戦を好む。穏やかな人柄で、美人で、30代半ばで将官になるまで貰い手がおらず、未だに独身。もう不惑の文字がすぐそこにあり焦っている。

第十三艦隊司令官:カツト・オオツカ准将
熱源を絶った隠密行動を得意とする。艦隊としては半個艦隊程しかないが、多大な戦果を上げている。旧日本出身で、核を使ったり味方ごと自爆したりする地球連合軍上層部に違和感を持っている。


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娘の叫び

「デュエル、バスター、ジン、なおも接近!」

「っ!」

 

アークエンジェルは危機感が募っていた。本隊であるガモフとヘルダーリンを中心として包囲網を作ったものの、第八艦隊の奥深くまでデュエルとバスター、さらにビーム装備のジンが突貫していた。

 

『ミゲルか!』

『足つきを落とす!だろう?』

『ああ、お前たちを援護する。足つきに行け!他は俺が引き受ける!』

 

たった一機のジンで、第八艦隊を相手にする。それが無謀なことはミゲルも承知だ。だが、ここで本隊に合流すると確実に母艦を包囲するだろう。母艦を失った機動兵器ほど孤独で怖いものは無い。しかも、放っておくとイザークとディアッカが通信をどうせ聞いてないか無視しているので、2人だけで突貫するだろう。

ミゲルはそれは避けたかった。

 

「……アークエンジェルを地球に降ろします。大気圏降下シークエンス準備!メネラオスに打電!」

「ですが、艦長!」

「第八艦隊にとって我々という護衛対象はお荷物です!」

『あー、艦長!俺たちを出せ!少なくとも降下の時間くらいは稼いでやる!』

『フラガ少佐!…俺たち?』

『僕も行きます!』

『キラ君!?なんで…』

『いいから出せ!』

『ストライク、メビウス・ゼロ、発進させろ!フェイズ3までには戻れよ。メビウス・ゼロもストライクも一応単機での突入が可能とはいえ、やったやつはいないんだからな!』

「バジルール中尉!」

 

アークエンジェルクルーは全員が1階級昇進して、船籍も与えられた。

ラミアス艦長も、戦艦の艦長としては中佐辺りが妥当なところだが、問題ない階級にはなった。

 

 

「くっ、直ちに降下シークエンスへ!」

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

イザークのデュエルがストライクと。

ディアッカのバスターがメビウス・ゼロと。

 

それぞれが1対1で戦う中、ミゲルは苦しい戦いを強いられていた。敵陣ど真ん中ということもあり、流れ弾で撃破数こそそこそこあるものの、飛んでくるミサイルの迎撃回避だけで精一杯なのに、そこに対装甲リニアガンや戦艦や護衛艦のビームが飛んでくるのだ。

 

「クソ!」

 

ガモフは第十三艦隊を引き付けている。

 

そして、彼ら3機は第八艦隊を釘付けにする必要があった。

 

メビウスだけでも100を超える数があった。

 

「だとしても…!」

 

今ほど突撃銃が恋しいものは無い。バルルス改特火重粒子砲では弾数が少ない。

 

「チィっ!」

 

ジンの正面はイーゲルシュテルンでもある程度耐え、メビウスの40mmバルカン砲に至っては背面部でも抜くのは難しい。

 

だが、ミサイルや対装甲リニアガンでは撃ち抜かれるし、ビームなんて以ての外である。

 

だからこそ、回避と防御に徹しているのだが、バルルス改特火重粒子砲も残弾もあと少しとなった。

 

「イザークッ!まだか!?」

 

余裕を失い、通信がオフになっているのに気付かず、喚くが、もちろん返事が来ることは無い。

 

「クソッタレめ!おぉちろぉぉおお!」

 

バルルス改特火重粒子砲の最後の一撃で護衛艦を撃沈したものの、もはや遠距離武装は無かった。

 

バルルス改特火重粒子砲を放棄して、左腰にマウントしてあった重斬刀を右手に握る。

 

「うぉぉぉおおおおお!」

 

重斬刀を片手にAMBACを多用してメビウスや艦船からの攻撃を避けつつ切り裂いていった。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

『あれはやばいっしょ。ルイス、ここ頼んだ!ヘルダーリン!重突撃機銃と予備弾倉4つ!射出してくれ!』

『へ?ちょ、ウソでしょ!?』

『承知した。』

 

ラスティは両手に持った115mmレールガン シヴァに予備弾倉を取り付けつつ泣き言を言う。

第十一艦隊は定数的には1個艦隊だが、メビウスの量が多いのだ。これは旗艦の他にもアガメムノン級が7隻も擁しているからである。

 

1隻で30機のモビルアーマーを運用できる大きな母艦である。計8隻のアガメムノン級と他多数の戦艦と護衛艦、全てのメビウスを含めると330機程のメビウスがいる。

 

他の隊よりも個の力が強いクルーゼ隊とは言え、この数の暴力は厳しい。

技量的には可能でも、物資が間に合わない。

 

『アマルフィ分隊長へ。このままでは推し負けます。ヘルダーリンを全面に押し出しつつ敵中に混ざるしかありません。後方に出れれば、ナスカ級の快速性を活かして離脱できます。』

『……それしかありませんか。分かりました。各位、補給を受けた後、ヘルダーリンと歩幅を合わせつつ全速で第十一艦隊に混ざります。恐らく敵は縦深陣を仕掛けてくるでしょうが、それを突破する他に活路はありません。アマルフィ分隊は敵中突破します。』

 

今更、背を向けて第十三艦隊や第八艦隊を抜けるのは難しい。回頭した瞬間に狙い撃ちにされるのは目に見えている。

しかも、第八艦隊の位置取りが上手く、抜けたとしても、引力を抜け出せないだろう。

 

『行動開始してください!』

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

『ラスティ、どこへ行くのだね?』

『ミゲルに補給と援護です!』

『要らん。奴らは命令を無視してでも殿となることを選んだ。それだけだ。アスラン、そろそろ我らもニコルたちに合流するぞ。イザークとディアッカならば最悪大気圏突破も出来るからな。心配するな。』

『……はい。』

『ラスティ、いいな?』

『っ……はっ。』

『ゼルマン、第十三艦隊は頼むぞ。5分でいい。』

『はっ!』

『ああ、ゼルマン。例の件も頼むぞ。』

『お任せを。』

 

第十三艦隊を引き付けていたガモフ共に戦っていたアスランとクルーゼもアマルフィ分隊に合流する方向に急ぐ。

 

それに伴うラスティもまた、来た道を戻る。重突撃機銃と予備弾倉を第八艦隊の方へ投棄して。

 

 

 

ラスティは赤のヘルメットを外して、溜まってしまった水滴をコックピットに飛ばしたのだった。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

『こちらヘルダーリン、敵陣突破。繰り返す、我、敵陣突破。総員着艦せよ。』

 

何とか第十一艦隊を突破した時、クルーゼ隊にはもはや継戦能力はないに等しかった。

リーサとリズの2人は被弾してヘルダーリンの装甲板に打ち付けられ、ニコルとアスランはエネルギー切れでフェイズシフトが落ち、ラスティはバッテリーの持ちはあまり気にされない燃費であるジンのバッテリーをほぼ空にし……せいぜいイヴのプロトゲイツとクルーゼのジン ハイマニューバだけが多少の余力を残していた。

ヘルダーリンも艦の稼働率82.4%と、大きく損傷していた、が、命綱であったメインエンジンだけはベルモンド艦長の腕で守っていた。

 

何とか離脱して、ブリーフィングルームに集まったパイロットたちは目が虚ろであった。

リーサに至ってはリズの補助が無ければ移動出来ない程の打ち身と足の骨折を起こしていた。

 

「報告。」

「ザラ分隊はコーネリアスが撃墜、イザーク・ディアッカ・ミゲルの3人が未帰還、母艦のガモフは撃沈です。」

「アマルフィ分隊は全機帰投しましたが、損耗はかなり…ヘルダーリンもエンジンこそ無事でしたが……」

「ではコーネリアス・ケントをMIA認定とする。未帰還3人は1週間後までに音沙汰なしの場合は同様とする。」

 

クルーゼもこの戦いで数歳年老いたように、イヴには見えた。イヴはパイロットスーツの胸の当たりをギュッと握りしめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリーフィングルームから各々が出ていくと、残ったのはクルーゼ親子だけだった。

 

 

「パパ……これ以上戦わないで。」

「なぜだね?」

「……パパ、命を削って戦ってるでしょう?」

 

クルーゼは顔をピクリと反応していまう。

 

「パパの分は私が戦うから…お願いだから私を1人にしないでよぉ……」

 

イヴはクルーゼの腹に飛び込んで泣きわめきながらクルーゼにお願いするのだった。

 

いくら天才と言えども、家族を失って、知らない土地で拘束されて、また別の土地で暮らすことを強要されて、また戦火に巻き込まれる。

 

その中で会えた肉親、しかもほとんど親である肉親である。クルーゼに依存することはある意味必然であり、偶然であった。

 

 

 

 

 



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砂漠の虎編
砂漠の虎


ほぼ壊滅状態と化していたザラ分隊の行方不明3人だが、3人ともジブラルタル基地に保護された。単独での大気圏突入が不可能なジンで、なぜミゲルが生き残ったかと言われると、クルーゼがゼルマンに頼み事をしたことが鍵である。

 

ガモフを初めとするローラシア級のモビルスーツ格納庫はそのまま大気圏突入カプセルとして運用できる。イザーク達が敵陣ど真ん中に突入しているのを見た時にはクルーゼはガモフの大気圏突入カプセルを使うことを決断していた。

 

 

足つきことアークエンジェルが降り立った砂漠の地。それを追撃するべく、降り立ったのはイヴとリズの2人だった。

クルーゼとアスラン、それからニコルは連戦続きであったため休暇である。

 

「暑い。」

 

これは降下したクルーゼ隊の心の声をイヴが代弁した言葉である。

 

ジブラルタル基地に降下してすぐに、イヴはジブラルタル基地の端に花を手向けた。その後、バルトフェルド隊と合流した。

 

「ようこそ、砂漠の地へ。北アフリカ駐留軍司令官のアンドリュー・バルトフェルドだ。」

「クルーゼ隊アマルフィ分隊のイヴ・ラ・クルーゼ以下2名、並びにザラ分隊のイザーク・ジュール以下3名、着任しました。指揮代行は私に任されております。」

「ふむ、いい目だ。諸君、コーヒーはどうかね?」

 

駐留軍の司令部が置かれている大きな豪邸の一室。

 

「砂糖多めのカフェオレでお願い出来ますか?」

 

少しだけ目を輝かせながらイヴがバルトフェルドに頼む。

 

「ふふははは、まだ苦いものはダメか。バルトフェルド特製カフェオレ砂糖増しで作ってやろう。そっちのお嬢さんはどうするかね?」

「私は…砂糖半分でお願いするわ。」

「よし来た。」

 

 

ちなみに、イザークたち3人はここに来ないで、地上戦への適応訓練を受けている。

 

「あら、新人さん?」

「いんや、彼らはクルーゼ隊の諸君さ。」

「そう。」

「こいつはアイシャだ。私の恋人でね。射撃の腕は私以上だよ。」

「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。」

 

ちょっと独特なイントネーションの美人な女性はアイシャといい、バルトフェルドの恋人であり、凄腕の砲手なのだ。あの美貌を作るのにどれだけの遺伝子操作をしたのやら。

 

「……めんく―――」

―――パシッ

 

思わず漏れそうになったイヴの口をリズが抑える。決してバルトフェルドが面食いな訳では無い…はずだ。そう信じたい。

 

 

出てきたカフェオレは砂糖抜きになっていた。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

今回イヴたちには新しい機体が配備されていた。

 

イヴとリズはラゴゥ 強襲型。

ミゲルはディン。

 

ディンは装甲こそ薄いが、偵察戦で散見したらしい支援航空機に対応する機体としては最適だろう。

 

そして、イヴとリズはラゴゥの強襲型だ。通常のラゴゥとの違いはイエローフレームで得た発泡金属による軽量化とハードポイントの増加による武装の増加だ。

武装は2連装ビームキャノン、2連装ビームサーベル、クロー、400mm2連装ミサイル発射筒14基、115mmレールガン シヴァ 2門。

リズが機長で、イヴが砲手だ。これは、イヴの格闘戦技能がすこぶる悪いせいだ。イヴの真骨頂は大局的に相手の嫌なところに攻撃を『置く』のが得意なのである。だからこそ、高機動戦や遠距離砲撃戦などが得意で、遠距離戦では命中率こそキラを多少上回る位だが、外している弾は『置き弾』であり、無駄な外れ弾では無い。

 

 

「動き出しちゃったって?」

「はっ、北北西に向けて進行中です。」

「タルパディア工場区跡地に向かっているか……ま、ここを突破しようと思えば僕が向こうの指揮官でもそう動くだろうからねぇ…」

「隊長!」

「う〜ん、もうちょっと待って欲しかったが…仕方ない。」

「出撃ですか!」

「ああ…レセップス発進する!ピートリーとヘンリーカーターに打電しろ!」

「はっ!」

「バルトフェルド隊長、我々も出撃準備に入ります。Gの2機はレセップス艦上で攻撃に徹してください。バルトフェルド隊長の指揮に従ってください。ミゲルさんは航空戦です。地上の熱対流や独特な気流に注意を。リズ、行きましょう!」

 

 

イヴは最低限の指示をクルーゼ隊に対して出すと、直ぐにラゴゥ強襲型に向かう。その後ろを慌てて追いかけるリズは、ここ数日イヴの出すピリピリとした空気に当てられていて、なるべく怒らせないように動いていた。ちなみに、男連中はそのピリピリ感を感じておらず、リズはちょっとイラッとしている。

 

『バルトフェルド隊長、私たちは先に出ます。』

『了解した。レセップスの砲撃で地雷原を潰すから、驚かないでくれよ。』

 

やはりユーモラスなバルトフェルド。通信画面に出ていたイヴが持っていた腹ごしらえ用のケバブを見てバルトフェルドが気づく。

 

『お、ケバブにヨーグルトソース、味のわかる子はいいねぇ。』

『バルトフェルド隊長、私はチリソースの辛みが苦手なだけです。普段はかけない派です。』

『バカな…ケバブにソースをかけないなんて冒涜だよ!』

 

イヴがキレるんじゃないかとハラハラしながら後ろの操縦席に座るリズ。

 

 

リズはこれが終わったら胃薬を絶対に貰いに行くと決心するのだった。



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歪む愛の姿

バルトフェルドのラゴゥ、イヴとリズの強襲型ラゴゥ、ミゲルのディン、イザークのデュエル(アサルトシュラウド)、ディアッカのバスター。

そこにそれぞれ数機の、バクゥ、ザウート、戦闘ヘリ。

そして、レセップス、ピートリー、ヘンリーカーター。

 

これがザフトの戦力。

 

そして、敵はアークエンジェル、ストライク、支援航空機、明けの砂漠。

 

だが、油断は禁物だ。なぜなら、モビルスーツの最も輝く戦域たる宇宙では無いのだ。それこそ、宇宙ではジン1に対してメビウス5と言われるが、空戦ではディン1に対してスピアヘッド2と言われる。数で大きく上回り、かつ地球圏での戦闘経験の多さがザフトの地上での脅威となっている。

 

地上の戦い…特に砂漠という過酷な環境下では泥沼化しやすい。戦力比の差が小さくなることも多い。

 

「イヴ、アークエンジェル発見したよ。10時の方向、距離10,000!」

「射撃開始用意。」

 

強襲型ラゴゥのメイン武装のビームキャノン・ミサイル・シヴァはイヴが管制する。

 

「攻撃始め!」

 

前腕の肩部と羽の間に搭載された二門のシヴァが開戦の花火をあげる。

 

アークエンジェルの側舷装甲に命中するも、アークエンジェルの分厚いラミネート装甲は貫通を許さない。

 

 

 

 

 

 

「くっ…被害状況知らせ!」

「左舷上部第28ブロックに被弾!」

「熱紋照合…!ラゴゥ…いや、ラゴゥの改修機と思われます!」

 

アークエンジェルのCICに怒号が響く。

 

「ラゴゥ改修機、こちらに火力集中!28ブロックの装甲が過熱しています!排熱追いつきません!」

「ミサイル発射管、4番から6番、ウォンバット、撃て!1番から3番、対空榴散弾頭準備!」

「対空用ですよ!?」

「当たればいい!装填急げ!ゴットフリート、バリアント照準、てぇ!」

「後方駆逐艦!前方に戦艦と駆逐艦それぞれ一杯づつ!さらに戦闘ヘリ多数接近!」

「迎撃!ちぃっ!艦長!ローエングリンの発車許可を!」

「ダメよ!あれは地上への汚染が大きすぎる!バリアントの出力とチャージサイクルで対応して!くっ、回避!」

 

ザフトの部隊の戦力は、戦艦レセップス級1隻、駆逐艦ピートリー級2隻。

戦艦1隻を攻めるにはいささか多い戦力だ。

 

「取舵いっぱーい!回避!」

 

操舵手のノイマン少尉(昇進した)は元々戦闘機パイロット。大気圏内の飛行はお手の物…とはいえ、これだけのデカブツを手足のように操るには大きすぎる。

 

だが、ザフトの戦力はアークエンジェルを攻めるのには、いささか少ないと言えた……

 

 

「ええぇい!当たれよ!」

 

 

ムウのスカイグラスパーに搭載されたアグニがピートリー級の甲板に載っていたザウートもろとも撃ち抜く。

 

 

 

 

 

 

「ピートリー被弾!速力落ちてます!」

「工場区の影に下がらせろ!…なんて強力な砲だ!あんなものを支援航空機に載せるなんて…!」

 

スカイグラスパーはその性質的に、ムウが宇宙で乗っていたメビウス・ゼロに比べてかなりの火力を誇る。特にランチャーストライカーを装着した場合、アグニの火力が高速で空を舞うという恐ろしい死神となる。

アグニの火力はヘリオポリスでも証明されている通り、フルチャージだったとは言えコロニーの外壁すら撃ち抜いた。スカイグラスパーの強度的にフルチャージは撃てないが、それでも艦船を撃ち抜くのは簡単だ。

 

「ええい、弾幕切らすな!あの支援機に砲撃を撃たせるな!」

 

 

 

 

 

 

戦場は大きく3つに分割されている。

 

 

アークエンジェル・明けの砂漠 VS ラゴゥ強襲型・戦闘ヘリ(アジャイル)・レセップス

 

スカイグラスパー VS ピートリー・ヘンリーカーター・ディン

 

ストライク VS ラゴゥ

 

 

既にバクゥは全滅している。

その戦場のうち1つに決着が付きかけている。

 

 

「スカイグラスパー2号機、発進!」

「なんだと!?」

「パイロットはカガリさんだそうです!」

 

ソードストライカーを搭載したスカイグラスパー2号機が発進。推力の下がっていたピートリーに2機のスカイグラスパーが攻撃を集中する。

 

「やるねぇ、お嬢ちゃん…落ちるなよ!」

 

それが鍵となり、ピートリーが戦闘不能。

そこにアークエンジェルとラゴゥ強襲型の戦場が近づく。

 

「あの戦闘機…ムウさん!」

 

遠距離からアークエンジェルへの射撃を続けていたイヴが標的を変える。

 

「騎兵隊参上ってね!」

 

そう、ムウがアークエンジェル援護に戻ったからだ。

 

「リズ、回避!」

「えっ…っ!?ぐぅっ!」

 

リズは意識外の空からの攻撃に…否、慣れない四足モビルスーツの視界への適応不足から、ムウのアグニを避け損ねる。

 

「アークエンジェル…走攻守共に1級…いや、超1級の戦艦なだけあるね…」

 

最初こそ数に押されていたアークエンジェル側だったが、ストライクがバクゥを壊滅させたことから始まって、ムウの地味にでもしっかりとアジャイルを落としていたこと、スカイグラスパー2機のピートリー撃破。更には途中で命令されていたレセップス艦上での迎撃行動を放棄したイザークとディアッカ、砲撃を当て続けていたにもかかわらず大天使撃破に至らなかったイヴとリズ。

形勢は既に傾いている。これをひっくり返すのはもう難しい。

 

『おい、どーすんだよ、指揮代理さん?』

『バルドフェルド隊に続きます。』

 

ミゲルがアークエンジェルをおちょくるように空を舞いつつ機関銃を撃つが、ウィークポイントでも無い限り効果はない。アークエンジェルをこれだけ追い詰めながら落としきれない理由は明らかだ。落とすには強力な火砲が必要なのだ。高機動電撃戦が売りのバルトフェルド隊には無いものだった。しかも、それを持つディアッカのバスターは既に砂の上で足を取られている。

アークエンジェルの砲火力はレセップスを痛めつけていた。

 

『ダコスタ君。』

『は、はっ。』

『退艦命令を出せ。』

『たっ隊長!』

『勝敗は決した。残存兵を纏めてバナディーヤに引き上げ、ジブラルタルにコンタクトを取れ。』

『隊長!』

 

バルドフェルドが通信を切ったようで、もうなにもバルトフェルドからの言葉は無かった。

 

『くぅっ……総員退艦!』

『アイマンさんはレセップスの退艦を援護。イザークとディアッカは各個に撤退。』

 

イヴはそれだけ言うと、通信を切る。

 

「リズ、撤退しましょう。」

「ごめん、それは出来ないよ。」

 

機体を伏せさせたリズはシートから身を乗り出すと、下の砲手席(小柄なため特注)に座っていたイヴをシートから抱き上げる。

 

そして、地面が近くなっていたコックピットからイヴを追い出す。

 

「ごめんね、イヴ。バルトフェルド隊長は死なせたくないんだ、私。あの人は私がザフトに入隊して初めて面倒を見てもらった隊長でさ……憧れの隊長で…初恋の人で…何より、今でも想い人なんだよ。」

 

リズはコックピットに戻る。

 

「これは私のわがまま。だからさ…」

 

 

コックピットが閉まる。

 

 

「ごめん。」

 

 

勢いよく駆け出したラゴゥに、特注の桃色のノーマルスーツに身を包んだイヴはボーゼンとしていた。

 

そして、イラッときて、直ぐに悲しくなった。

 

「わがままって…私は肩を並べるに値しないってこと…か…」

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

リズが駆けつけた時、目に映ったのは、アーマーシュナイダーが突き刺さったラゴゥだった。

 

「間に合えーーーーー!!!!!」

 

 

軽量化されたラゴゥ強襲型の前足のクローが、ラゴゥの胸の装甲とその内側の機材少しを抉った。

 

その瞬間、ラゴゥは爆発した。

 

「…うそ…でしょ…間に合わなかった…の?」

 

 

それを見たリズの頭の中で、()()()

 

 

 

「ストライクゥーーーー!」

 

 

既にエネルギー切れのストライクに、クローを突き立てようとするが、キラもバルトフェルドとの戦いでSEEDが割れている。

ラゴゥ強襲型の胸部に膝蹴りを打ち込み、スラスターで下がる。

 

『坊主!』

 

上空から投下したムウのランチャーストライカー。それを受け取り、()()()()()()。そして、牽制に120mm対艦バルカン砲と小型のミサイルと頭部イーゲルシュテルンを撃つ。

 

邪魔だと言わんばかりにムウのスカイグラスパーに連装14基のミサイル発射管からミサイルを放つ。

 

だが、その一瞬の隙だった。

 

 

「そこぉおおおお!!!!!」

 

キラはアグニを構えて、撃った。

 

「―――ッ!」

「詰めが甘いぜ…リズ」

 

近距離のアグニをリズが避けることが出来た理由…そう、それは…

 

「ぐっ…しくったか…でも、悔いは…あるな……リズ、お前が好きだったんだぜ……それだけ言えずに死なれたくなか…った……」

 

ドーン!という爆発と共に、()()()()()()()()爆発した。

 

 

愛した男とならどこへでも、と戦ったアイシャ。

バルトフェルドに片想いして、助けようとしたリズ。

リズに片想いして、身代わりになったミゲル。

 

愛とはなんなのだろうか、愛が人を殺すこの世界は…

 

「……バカ…もっと早く………言いなさいよ……こんな時じゃなくて………」

 

そして、アグニを近距離で余波とはいえ受けたラゴゥ強襲型もボロボロ。リズもまた、機体の配管のひとつと思われる金属製のパイプに腹を貫かれ、シートに縫い付けられていた。

 

「こんな時…なんて言うんだったっけ……………あぁ…」

 

 

 

 

 

 

激痛の瞬間。リズの唇は確かに動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無念。」

 

 

 

 

 




お久しぶりです。

お久しぶりで、どシリアス&飛ばしすぎなストーリーですみません。

ミゲルがヘリオポリスで生き残った理由はここで死ぬため……え?SEEDで爆散は死んでない?ふ、フラグちゃうで!?(泳ぎ目)

ここからアマルフィ隊は原作の流れから離れます。


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アマルフィ隊独立編
デブリベルト


たった1人で小型シャトルに乗る。本来傍らにいるべき相方のリズはもういない。行先は低軌道上のヘルダーリンだ。

 

本国での修理を終えたヘルダーリン。ニコルを中心に新たな任務が待っていた。

 

「短い帰郷だったなぁ…」

 

旧イギリス領ジブラルタル。そこはイヴにとってのふるさとである。ジブラルタル基地に待機していた間、変わり果てた故郷の姿を眺めていた。

 

シャトルの窓からはジブラルタル海峡の姿が鮮明に見えた。

 

 

 

 

シャトルがヘルダーリンに着艦して、ハンガーに降りる。

 

「おかえりなさい、ルイスさん」

 

分隊長のニコルがわざわざ出迎えてくれていた。

 

「イヴ・ラ・クルーゼ、ただいまアマルフィ分隊に帰参いたしました」

「報告は聞いてます。とりあえず部屋を案内します。グリニッジ標準時16:00からブリーフィングを行いますので、それまではゆっくりくつろいでください」

 

 

まだイヴは気づいていなかった。この先にある末路を。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

ニコルの父親、ユーリ・アマルフィはマイウス市の代表で最高評議会議員だ。そして、マイウス市は工業的に発達しており、モビルスーツ設計局や工場が集中している。

それを踏まえて、ユーリは新型機開発の責任者にもなっていた。そこから、新型機のテストパイロットをニコルの部隊に任せることになった。

 

 

それが、イヴと、本来ならばリズを呼び戻す理由だった。

 

 

「という訳で、僕たちアマルフィ分隊はクルーゼ隊から独立してアマルフィ隊となります」

 

隊長用の白服を纏ったニコル。

 

「…なんか何度見ても似合わねぇのな」

 

ラスティが呆れながらそう指摘するのも無理はない。着られてる感がある。ザフト軍設立からまだ数年(軍となってから)だが、史上最年少の隊長である。

 

「ルイスさんにはこれを」

 

黒服。それは階級のないザフトにおいて指揮権を持つということを表す。

ザフトの指揮系統はその役職によって定められる。つまり、通常の軍隊のような役職と階級というふたつの系統の上下関係が片方に集約されているのだ。

 

制服の色は隊の指揮序列を表すものである。隊長用の白服と、その副官(副長)クラスの黒服、その下に赤服と緑服がある。

 

現在アマルフィ隊にいる黒服はヘルダーリン艦長でスーパーおじいちゃんのカルロス・ベルモンドただ1人だ。

 

「私が?」

「はい。任務上僕以外でモビルスーツ指揮を担当できる人が欲しいんです。本来ならラスティに頼みたいところですが…」

「俺は柄じゃないっしょ?」

「という訳で、リーサにも頼もうとしたんだけど…リーサは本国休暇中にセクハラで謹慎中だから…」

 

という訳で…と困ったようにニコルは笑う。

 

「ま、ルイスは戦場全体を見れる力があるしな。妥当な人選っしょ」

 

その言葉に、イヴは心に針が刺さるような思いになる。戦場は見れても、同じ機体に乗っていた彼女のことは見れていなかったのだから。

 

それでも、イヴは表面的にはちっとも感じさせずに、黒服を受け取る。

 

ちなみにサイズ的にもちろん特注品であり、所々にかわいらしくリボンが付けられていて、ズボンではなくレイヤードスカートだ。

 

「ちなみにそれにするように言ったのは僕じゃなくてザラ国防委員長だからね?」

 

おおう…とイヴがパトリック・ザラの顔を思い浮かべながら若干引いていると、そこにラスティも付け加えた。

 

「あれ?クライン議長も口出してたって聞いたけど?」

 

おっさん2人は何をしているのか…甚だ疑問だが、制服…いや、現代の標準的な服の話をしたいと思う。

服のほとんどは基本的に重力によって垂れることを前提に作られているのは自明のことだろう。だが、プラントや宇宙や月に暮らす人々にとっても、地球に住む人々にとっても、無重力空間は比較的身近になっている。そのため、重力によって垂れることを前提に作られている服は垂れない無重力空間では本来の役割を果たさない。

例えばスカートは重力で下を向いており上からは中が見えないが、無重力空間では簡単にめくれてしまう上に、下から見られるということも多い。

そのような事が多発していたために現在売られているほとんどの服は形状記憶が行われている。無重力下でも重力下でも綺麗に見えるように、それでもたなびくなどの動きが阻害されないように、肌触りが悪くないように…と、とても研究された逸品となっているのだ。

 

シワのない黒服に袖を通したイヴ。威厳よりもロリっ子感が強いのはその容姿のためか、その制服のせいか…

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

ヘルダーリンに搭載されているモビルスーツは全部で6機。内2機はニコルのブリッツとラスティのジンだ。問題は残りの4機だった。

 

ZGME-XDWAC00 Dフラッグ

QF/A-X001 マリオネット 3機

 

の4機となっている。

 

Dフラッグの元となったZGME-XWAC00 フラッグは、次世代哨戒偵察機や大規模戦での前線管制を行う隊長機(指揮官機)または観測機などとしての役割を担う機体として期待されている複座の機体だ。現在制式化を審議されている機体だ。

 

そして、今回テストを行うDフラッグはそのフラッグに量子型通信指揮装置を搭載して武装を一部変更した機体だ。前線管制を行うためにも設計されているフラッグで無人機の指揮機となるべく設計された。

 

そして、その無人機たるものがマリオネットだ。数で劣り、1人のパイロットの戦線離脱が戦線に影響を与えるザフト。そこで人的損失を防ぐために考案されたもので、母機からの量子通信での指示を元に動く操り人形とも言えるものだ。

 

それを1人で複数機動かすことができるなら…という試験をこのアマルフィ隊が行うのだという。

 

Dフラッグは操縦をイヴが、マリオネット操作をリーサが担当する。

 

「パッケージ式リニアスナイパーライフル…ですか?」

「はい…イヴさんなら気付くと思いますけど、この機体は量子型通信指揮装置が搭載されています。量子通信はかなりの電力を使いますから、機体からの給電による射撃武装は避けるべきだ…という理由から外装式バッテリーとなっていて、弾倉の他にバッテリーも交換することを頭に入れておいてください」

「了解です…」

 

ニコルの説明にこの機体のハードがとても考えられていると感じる。一応彼女も工作レベルは町工場とはいえジブラルタルにいた時にはモビルスーツを自作しているのだから、設計も理解出来る。

 

「プラントで技術蓄積のないリニアライフルにしたのは哨戒偵察機として単独で長期間行動するのに必要な命数を稼ぐためということですか」

 

プラントの電磁投射装置は基本的にレールガンが使われていた。代表的なものではシヴァが挙げられるだろう。

 

「そうです。Dフラッグはその量子型通信指揮装置で長距離強行偵察も任務として考えられていますから…」

「理解しました。じゃあ、さっそく機種転換訓練に行ってきますね!」

 

ニコルにニコっと笑いかけてブリーフィングルームから出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………かわいい」

「ニコルならそんなに年の差もないし、いいのか…?」

「わっ!?ラスティ、いたんですか!?」

 

顔を赤く染めたニコルは恥ずかしさのあまり、そのままラスティと近接格闘訓練(ガチ)を始めることとなったのだった…



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新型機開発

 

 

マリオネット。それは糸などで操る人形のことを指す。

 

QF/A-X001 マリオネット

 

この機体もそれを意図して命名されている。

 

「くぅ…難しいですね」

 

デブリ帯でマリオネットの操作をするのはリーサが合流していないので、隊長のニコルがその席についている。だが、同時に多数の機体(今回は2機)をある程度オートで動いてくれるとはいえやはり機械じみた動きしか出来ず、実戦には程遠い結果だった。事実として、ラスティのジン1機相手に3対1で押されている。

 

「…動いていいです?」

「え…あー、ごめんなさい、引かせます」

 

ニコルは2機のマリオネットを後退させて援護射撃に徹するように命令する。要は固定砲台だ。

 

「照準良し…攻撃、始め」

 

ジンが認識できる距離よりも遠くから光学式望遠偵察哨戒装置に連接されたFCSを通して照準を定める。そして、トリガーを引く。

 

「フラッグはいい機体ですね。マリオネットを差し引いても、観測機としても指揮官機としても長期偵察機としてもよく纏まってると思います」

「そうですね。逆にこのマリオネットは曲者ですね…もしかすると、今研究段階のドラグーンシステムと同じで、特殊な能力を持っていないと使えないタイプなのかもしれません」

 

そもそも、1人で2機もしくはそれ以上の機体を操作するのはいくらコーディネーターだとしても難しい。

 

「ん…?」

「どうかしましたか?」

 

イヴが何かに気付いた。

 

「右130°、上方70°に何か…異常な動きをする何かが…」

「…マリオネットに行かせましょう」

「なるほど、そういった使い方も出来るんですね」

 

ニコルがマリオネット1機を偵察モードで当該方向へ向かわせる。

すると、そこには…

 

「連合軍ですね」

「これは…アガメムノン級が8隻…第11艦隊ですね…今の僕たちの戦力では1戦かけるには不足ですね。せめてマリオネットが全てジンなら何とかなったでしょうけど…」

 

以前はクルーゼやアスランがいたため強行突破出来たが、流石に今の戦力では難しい。

 

「ですが、マリオネットの二次案のテストには良さそうですね」

 

マリオネットの二次案は、艦船からの遠隔操作によって戦闘を行わせる案である。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

ヘルダーリンはプラント方面に離脱する準備を進めながら、並行してマリオネット3機にジンのD装備を取り付けていく。

今回の作戦では、マリオネットによる3方向からの奇襲とDフラッグによる遠距離射撃と共にマリオネットの撤退援護。その後、即座に離脱する嫌がらせにも等しい作戦だった。

 

「作戦を開始します」

 

ヘルダーリンの遠隔操作ブースでは、ラスティと怪我で引退した元パイロットのオペレーター2人の3人がそれぞれ1機を担当している。

D装備のマリオネットが第11艦隊の上下と横の3方向から大型ミサイルを放る。もちろん、第11艦隊はそこまで危機意識がない訳でないのでこれをほとんど迎撃に成功するも、マリオネット3機Dフラッグの援護射撃の中で撤収。ヘルダーリンは最大戦速で離脱。これに成功して、アマルフィ隊初の実戦作戦を成功となった。

 

だが、あまりにもマリオネットの評判がオペレーターたちにも悪く、マリオネットはプラントに帰還後お蔵入りとなるのであった。

 

ちなみにDフラッグは、隊長のニコルから良好な評価によって増加試作を行うことになるのであった。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

C.E.71 4月17日。

実験部隊であるアマルフィ隊に、リーサが合流し、パイロット4人に拡充した。

マリオネット3機を返却する代わりに、ジン1機と試験機2機が割り当てられた。だがこの機体は…

 

まず、ヘルダーリンの乗員を含む全てのアマルフィ隊メンバーに対して特に厳重な箝口令が敷かれた。

 

何故ならば、その試験機というのが…

 

「核動力…まさか完成させているとは」

「なるほど、これ程厳重な箝口令の理由になりますね」

 

新型機の動力源は、ニュートロンジャマーキャンセラーを搭載した核動力機であり、半永久的な活動を可能にした機体だ。

だが、ニュートロンジャマーキャンセラーの情報が漏洩すれば、プラントは再び核の火の手が迫る事になる。

 

「現在、ヘルダーリンは核動力機整備用装備の搭載と、あのデカブツのための専用格納施設を搭載するため改造中です。オペレーションスピットブレイクには間に合いませんが、それ以上に重要な任務が与えられています」

 

研究員が機体の前に案内する。

 

「ZGMF-X07A ミッドナイト。以前極秘裏に開発していた核動力機のデータを元に、核動力の双発化と高火力重装甲化を目指した機体です。いくつか並行して開発している核動力機と同じ核エンジンを搭載していますが、単純に2基載せることで出力は2倍となっています。その装甲にはPS装甲が採用されていますが、圧倒的な出力と特殊なピークパフォーマンスシステムによってビーム兵器すらも通用しないレベルの強度のPS装甲となりました。さらに兵装においても、単機で要塞攻略が可能な火力が備わっています」

「高火力インパルス砲…」

「その代わり小回りが効かないので、僚機のサポートを要します。そのサポートにはDフラッグの単座型が妥当だと見てます。また、機動力の低さは追撃戦にも適性が低く、扱いの難しい機体です」

 

具体的にいえば、ミッドナイトの砲の火力は高負荷モードでアークエンジェルのローエングリンに匹敵する。

 

「ちなみに、リーサとラスティはDフラッグの単座型に機種転換しますから、その機種転換訓練も同時並行ですからね」

 

アマルフィ隊のDフラッグは量子型通信指揮装置を改修した量子型無線給電装置を搭載し、ミッドナイトからエネルギーを供給することが可能となっている。

そもそも量子型装置が高価であるため一般機への搭載は見送られているが、今後母艦への帰投を要さないモビルスーツの開発が進んでいく。

そのプラント最先端のモビルスーツ技術のテストに携わっていることにイヴは少しワクワクが隠せないのであった。

 

 

 

 



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