淫魔王のいる学園 (ドン・ドナシアン)
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プロローグ
 第1話   すべてを失った日


 自分が他人より不幸だと思ったことは一度もない。

 

 理不尽な仕打ちを受けたが、それはいまも同じ思いだ。

 今回のことは、さすがにへこんだが、それでも、最高の不幸に比べれば、このくらいは「中くらい」の不幸にすぎないに違いない。

 

 坂本真夫(まお)は、駅前のベンチに座り、駅から吐き出される人の群れに目を凝らしながら、そう思った。

 

 真夫は孤児だ。

 

 しかし、物心ついたときから、なぜかガールフレンドに不自由したことがない。

 いつも周りには、親切にしてくれる女性がいた。

 顔がかっこいいというわけでもない。

 また、性格が男らしいとか、スポーツの能力に秀でているということもない。

 自分で言うのもなんだが、ひとりの少年としては極めて平凡だと思う。

 いや、平凡というよりは、おそらく、ちょっとした異常性欲者かもしれない。

 小学生の頃からひそかに「SM雑誌」を手に入れて、淫らな夢想に耽ってばかりいたし、付き合ったことのある女の子とは、SMの真似事もした。

 もっとも、さすがに、叩いたり、傷つけたりということはしない。

 縛ったり、目隠しをさせたりして抱くのだ。

 ただ抱くよりも異常に欲情した。

 十二歳で童貞を卒業したときも、三歳歳上の「姉ちゃん」を紐で縛ってから抱いた。

 

 興奮した。

 

 性欲も強い。

 何発でも続けて射精できるし、一晩中勃起させたままでいられる。

 

 もっとも、女の子との付き合いは、中学生までのことだ。

 高校に入ってからは、男しかいない寮生活をしていたから、さすがに異性との付き合いとは無縁だった。

 

 ただ、その高校生活も二年余りで終わった。

 退学になったのだ。

 

 天涯孤独の自分には、退学で寮を放り出されれば、住む場所も頼る親類もいない。

 とりあえず、施設に戻るしかなく、全財産が入っている鞄ひとつを持って、電車に乗ろうとしていた。

 

 だが、その前に是非とも、もう一度会いたい少女がいる。

 ある女子高生だ。

 名前も住所も知らない。

 しかし、あのとき身に着けていた制服は、ここから少し距離のある山中にある寄宿舎制の私立高校のもののはずだ。 

 だから、真夫は、駅前のベンチに座り、駅から駅前バスセンターに向かう人の群れにじっと目を凝らすことにしたのだ。

 真夫に痴漢の冤罪をかけた、あの女子高生を見つけるために……。

 

 あれは、一箇月近く前のことだった。

 

 寮からバイト先の夜間スーパーに向かう途中で、真夫と同じくらいの男子高生に痴漢をされている女子高生を見たのだ。

 はっとするほどの美少女であり、同じくらいの年代の少年たち三人に電車の端に押し付けられるような感じで、身体のあちこちを触られていた。

 その女子高生は、泣きそうな顔をして、必死に身体を手で庇っているだけだった。

 ちょうど夕刻の帰宅ラッシュの時間であり、車両の隅で行われているその淫らな状況に気がついた者はいないようだった。

 真夫は、痴漢だと大きな声で告発した。

 車内がざわめき、少年たちはばつの悪そうな表情で少女から手を離した。

 そのとき、ちょうど電車がホームに停車した。

 

 それがこの駅だ。

 

 少女は電車の扉が開くと同時に逃亡した。 

 駅員がやって来たときには、その少女はいなくなっていて、真夫とその三人の少年だけだった。

 そのまま四人で駅員室に向かうことになった。

 しかし、それからがまったくわけのわからないことだった。

 駅員室に到着すると、いきなりその三人が痴漢をやったのは、真夫だと主張し始めたのだ。

 自分たちは、そばにいただけだと……。

 驚いたが、ほかの証人は、電車に乗ってそのまま去ったあとだ。

 肝心の少女もいない。

 お互いに相手が犯人だと主張し合う真夫と三人に、駅員が困惑した感じだった。

 そこに、あの少女が戻ってきた。

 

 ほっとした。

 

 これで馬鹿げた話から解放される……。

 痴漢を告発して、逆にその痴漢に冤罪をかけられるなど聞いたことはない。

 だが、信じられないことに、彼女が蒼白な顔で駅員に痴漢だと告発したのは、真夫の方だった。

「痴漢はこの人です」

 彼女は真夫の顔を見ずにそう言った。

 横の三人が勝ち誇ったように声をあげたのをよく覚えている。

 

 それからは、次々に事が起こった。

 被害者の証言により、真夫の「痴漢」の犯罪は、警察に通報されることになった。

 警察に対する真夫の無実の訴えは、一笑されただけだった。

 真夫が、施設出身の孤児であるというのも、警察が真夫の主張を信じない理由のひとつになった。

 それに比べて、あの三人とも、それなりの金持ちの子弟であり、この付近では有数の進学校で通っている新設の私立高の生徒だったらしい。

 いまにして思うと、その女子高生も、三人の痴漢も同じ高校の制服だった。

 示し合わせて、真夫を陥れたのか?

 連中に陥れられる覚えもないが、そんな風にも考えたくなる。

 

 いずれにしても、あの少女が警察に訴えることなく、あのまま再び駅から逃げたため、警察は事件として処理できずに、最終的には「説教」されただけで真夫は解放された。

 だが、警察からの通報により、真夫が痴漢をしたということになり、学校は退学に決まった。

 通学にあたって、真夫は奨学金と孤児に与えられる国からの補助金を使っていたが、それも取り消しだ。むしろ、二年間の分の返金をしなければならない。

 生活費にするためにやっていたバイトも首になった。

 

 孤児とはいえ、それなりに順風満帆だと思っていた人生が暗転するのは、あっという間だった。

 

 養護施設出身の奨学金生徒とはいえ、成績優秀だった真夫は、高校でも寮でも、よくしてもらっていた。

 それが手のひらを返したように、誰も彼もが軽蔑の眼で真夫を見るようなった。

 やっぱり、孤児はクズだと、面と向かって罵声を浴びせられもした。

 親しいと思っていた同級生や大人が一斉に真夫に冷たく接し始めた。

 自分は無実だという主張は、誰ひとりとして相手にしてくれなかった。

 真夫は、改めて、この世の理不尽を知った思いだ。

 

 そして、退学の手続きが終わり、寮を出されることになり、こうやって出てきたのだ。

 孤児の真夫に、行くところがあるわけがなく、とりあえず、生まれ育った養護施設に戻るしかない。

 本当は、四月の誕生日で十八歳になった真夫は、施設にはいられない年齢なのだが、施設の園長が孤児である真夫の身元保証人になっていて、とりあえず保護してくれることになったのだ。

 

 まあ、すぐに新しい居住場所を見つけて、すぐに出ていかなければならないとは思うが……。

 

 だが、駅に入ろうとして、真夫は、この駅が、あのとき痴漢に仕立てられた駅だということを思い出し、もしかしたら、ここで待っていれば、あの女子高生に会えるのではないかと思ったのだ。

 もちろん、あのときは、ただ痴漢に遭った恐怖で、とりあえず停車した駅に逃亡しただけかもしれないが、万が一ということもある。

 いまの時間は、あのときと同じ夕刻だ。

 駅からバスセンターに向かう人の群れを観察していれば、あの少女にもう一度遭える可能性もあるかもしれない。

 だから、真夫は駅前広場の隅のベンチで、駅から出てくる人の群れを観察することにした。

 夜まで待ち、会えなかったらそのまま施設に戻る。

 そのつもりだ。

 どうせ、ほかにすることがあるわけでもない……。

 

 いまさら、なにかの償いをしろとか、あるいは、ひどい目に遭わせたことを罵るつもりはないのだ。

 ただ、どうして、本物の痴漢ではなく、痴漢を告発した自分を駅員に痴漢だと訴えたのか、その理由を知りたかった。

 ついでに、彼女が嘘を言ったために、自分は高校を退学させられ、住んでいた暮らす場所を失い、さらにバイトも首になってしまったのだと言いたかった。

 それが、せめてもの彼女への仕返しだ。

 

 坂本真夫(まお)──。

 

 真夫は、生れてからずっと、「まお」という女のような名が好きではなかった。

 養護施設、つまり、孤児院に預けられる子供というのは、実際にはどちらかの親がちゃんと生きているのがほとんどだ。

 ただ、親の虐待だったり、経済的な事情だったりで、親と一緒に生活することができず、かといって、ほかに育てられる親族とかがいなくて、養護施設に預けられるのだ。

 だから、ちゃんと親からもらった名がある。

 

 しかし、真夫は、完全な孤児だった。

 父親は知らない。

 母親は、真夫が乳幼児のときに、突然に真夫を抱いたまま心臓麻痺で道端で死んだのだという。

 所持品のようなものは持っておらず、結局身元はわからなかったらしい。

 真夫は親から名前すらもらえなかった。

 

 ただ、母親の鞄に、「まおうへ」とだけ書きかけた手紙があったという。

 名前のない孤児の姓名は、養護施設のある市町村長が名づけるのが決まりであり、名をつけることになった当時の市長は、母親の唯一遺した「まおう」という字から、その男の子に「真夫(まお)」とつけたらしい。

 坂本という姓は、たまたま、その市長が「坂本龍馬」のファンだったからだという。

 「坂本」はともかく、「まお」はないだろう。

 どうせなら、もっと男らしい名にして欲しかった。

 まあ、もう十八年前の話であるから、当時の市長はもう生存していないかもしれないし、名付け親の市長に会ったとしても、今さら不満をぶつけるつもりはないが。

 

 養護施設で育った子供は、性的に早熟だという話があるらしい。

 それが真実なのかどうか、真夫には判断できない。

 確かに、真夫の初体験は十二歳だったから、同世代の少年に比べば早いようだった。

 二年間の男だけの寮生活で、真夫は同学年の男たちの多くが、まだ性体験がないのがわかった。

 

 なんの話でそうなったのかわからないが、やっと初体験を済ませたという男子生徒がいて、その男がそのときのことを自慢げに語ったのをほかの寮生徒たちが目を丸くして聞き入っていた。

 そのときの、ほかの少年たちの顔から、ほかの者にはどうやら女性との体験はないというのがわかった。

 

「施設の子だから、もう同じ施設の女とはやってんだろう? お前はどうなんだ?」

 

 そのとき、集まっていた者のひとりが真夫に言ったのが、その言葉だった。

 真夫は、その言葉と、さらにそのことを当然のように興味あり気に頷くほかの者の表情で、施設の子はそんな風に思われているのだと悟った。

 

「いや、経験なんかないよ。童貞だよ」

 

 とっさに真夫は答えた。

 経験があると言えば、当然にそのことを話さなければならない。

 「あさひ姉ちゃん」のことをあんな風に与太話のひとつとして語りたくなかったのだ。

 

 あのとき、真夫は十二歳──。

 あさひ姉ちゃんは、十五歳……。

 

 あさひ姉ちゃんは、もうすぐ施設を出ていくことが決まっていた。

 

 施設には、本当は十八歳になるか、高校を卒業するまでいられるのだが、中学校を卒業するときに残っている生徒は、就職して働きだすか、寮のある高校に通うことになって、施設を出ていくのが普通だった。

 進学であれば、そのための奨学金や補助金も手続きしてくれる。

 真夫もそうやって、いままでの高校に通っていたのだが、あさひ姉ちゃんも、寮にある高校に入って施設を出ていくことが決まっていた。

 施設には、普段は誰も使わない物置になっている屋根裏部屋があった。

 あさひ姉ちゃんが、もうすぐ施設を出ていくことが決まっていた三月──。

 真夫は、あさひ姉ちゃんに連れられて、そこであさひ姉ちゃんと愛し合った。

 

 真夫とあさひ姉ちゃんは、もともと特別の関係だった……。

 初恋の人だ。 

 あさひ姉ちゃんの名は、朝比奈(あさひな)(めぐみ)──。

 

 彼女が施設に入ってきたのは、あさひ姉ちゃんが十歳のときで、父親の虐待が原因だった。

 詳しいことは知らない。

 虐待されていたというのも、本人から聞いたわけじゃない。

 あさひ姉ちゃんのことを養護施設の先生たちが語るのを盗み聞きしたというお兄ちゃんたちから、さらに又聞きしただけだ。

 あさひ姉ちゃんは、とても可愛い顔をしていた。

 また、入所してすぐに裸を見る機会もあったが、肌も真っ白でとてもきれいだった。

 親に虐待された子は少なくなく、親に虐待されたという子は、大抵は普段は見えない身体に虐待の痕があるのを知っていた。

 しかし、あさひ姉ちゃんには、それがまるでなかった。

 七歳ながらも、それがなんとなく不思議だったのを覚えている。

 

 とても明るくて、陽気なあさひ姉ちゃんは、すぐに施設でも人気者になった。

 当時に施設で流行っていた遊びに「銀行強盗ごっこ」というのがあった。

 警察と立てこもり犯に分かれて、人質役になった子を犯人役の子が押し入れに監禁し、それを警察役の子供たちが包囲して交渉するのだ。

 そのときは、人質役はあさひ姉ちゃんだった。

 犯人役は、真夫ひとりだった。

 小学生のごっこ遊びといえども、扮装などは本格的なものだった。段ボールで作ったパトカーもあったし、紙でこしらえた警察の服などもあった。テレビで見たものをみんなで作り合ったのだ。

 犯人側も鉄砲そっくりに作った段ボール細工もあったし、人質になる子は、本当に猿ぐつわとか、浴衣の紐で縛ったりもした。

 あさひ姉ちゃんも、ごっこ遊びが大好きで、愉しそうに縛られて、のりのりで怖がったふりとかした。

 そのとき、寝転がって身体を動かしていたあさひ姉ちゃんのスカートがまくれて、真っ白い下着が見えたのだ。

 

 どきんと鼓動が高鳴った。

 

 あのときに自分がとった行動はいまでも自分でも信じられないし、どうして、そんなことをしたのかわからない。

 だが、そのときの衝撃だけは克明に覚えている。

 不思議な衝動に我慢できなくなった真夫は、あさひ姉ちゃんの下着の股間の真ん中の部分をぎゅっと指で押したのだ。

 

「んんんっ」

 

 あさひ姉ちゃんがそのとき、いきなりぶるぶると身体を震わせた。

 

 びっくりした。

 慌てて手を引っ込めたが、絶対に叱られると思った。

 怒られると覚悟した。

 七歳ながら、やってはいけないことをやってしまったのだという強い悔悟の念が生まれた。

 言い訳をするかのように、急いであさひ姉ちゃんの猿ぐつわを外した。

 

 でも、あさひ姉ちゃんはなにも言わなかった。

 ただ、悪戯っぽく笑っただけだ。

 

 そしてそれは、真夫とあさひ姉ちゃんのずっと続く秘密になった。

 

 あさひ姉ちゃんは、そのときのことを誰にも喋らなかったが、強盗ごっこをするときには、狙って真夫を犯人役にして、自分が人質役になった。

 人質役になると、みんなにわからないように、あさひ姉ちゃんは、腰を動かしてスカートから下着が見えるようにした。

 真夫は、その下着の上からぎゅっと指で押す。

 

 それが決まりだった。

 

 真夫とあさひ姉ちゃんの「秘密の行為」は、施設の子どもたちのあいだで強盗ごっこが流行らなくなってからも続いた。

 

 あさひ姉ちゃんは、真夫とふたりきりになると、こっそりとスカートをあげて下着を見せた。

 真夫はその下着をぎゅっと押す。

 

「んんっ」

 

 決まって、あさひ姉ちゃんは、押し殺すような声を出して、腿をがくがくと震わせた。

 

 そんな関係が続いた。

 

 真夫が小学校の高学年になり、あさひ姉ちゃんが中学生になってもだ。

 中学生になったあさひ姉ちゃんは、近所でも有名な美人になっていた。

 

 そして、もうすぐあさひ姉ちゃんが施設を出ていくことが決まっていたある夜に、真夫はあさひ姉ちゃんに連れられて、屋根裏部屋に行った。

 

 そして、あさひ姉ちゃんと愛し合った。

 そのとき、あさひ姉ちゃんが準備していたのが、あのときと同じ浴衣の紐だった。

 

「手と足を縛って猿ぐつわをして、真夫ちゃん。あのときの強盗ごっこみたいに縛って欲しいの……。最初はそれがいい……。そして、今日はぎゅっと押すのをやめないで……」

 

 あさひ姉ちゃんは言った。

 真夫は言われた通りにした。

 あさひ姉ちゃんは、ミニスカートをずらせて、股間から下着を見せた。

 約束の仕草だ。

 真夫はいつものように、あさひ姉ちゃんの下着をぎゅっと押す。

 いつもと違うのは、すぐにやめないことだ。

 

「んっ、んんっ」

 

 押し続けると、だんだんと猿ぐつわをしていたあさひ姉ちゃんの鼻息がだんだんと荒くなり、声も少し大きくなった。

 真夫は、声が洩れないように、あさひ姉ちゃんの口を手で押さえた。

 すると、ますますあさひ姉ちゃんの悶え方が大きくなった。

 そのあいだも、真夫の指はあさひ姉ちゃんの股を押し続けている。

 だんだんと、染みのようなものが大きくなるのがわかった。

 あさひ姉ちゃんも我慢できなくなったかのように、真夫の指に腰を押し付けるようにしてぐりぐりと動かす。

 

 そして、いきなりだった。

 

「んんんっ」

 

 あさひ姉ちゃんが縛られた身体をぐいを弓なりにしたかと思うと、がくがくと身体を震わせたのだ。

 

 そして、脱力した。

 いきなり死んだように動かなくなったあさひ姉ちゃんから、急いで真夫は猿ぐつわを外した。

 

「あ、ありがとう……。やっぱり、真夫ちゃんは凄いね。真夫ちゃんの指は特別だよ。とても優しい指……。本当にありがとう……。今度は、あたしが真夫ちゃんに身体をあげる。脚だけほどいて……。そして、下着は鋏で切って……。そこに持って来ているから……。ううん……。やっぱり、先に下着を切って……。それから脚をほどいて」

 

 あさひ姉ちゃんが言った。

 あさひ姉ちゃんが持って来た袋には、鋏のほかに、替えの下着が入っていた。

 あさひ姉ちゃんは、最初から下着を真夫に切ってもらうつもりで準備していたのだと悟った。

 

 そして、あさひ姉ちゃんを抱いた。

 ちゃんとあさひ姉ちゃんの股の中で射精できたのは、一度外に出してしまってからだ。

 

「……い、いいのよ。中に……出して……。真夫ちゃんの……赤ちゃんなら、あたし……産んでも……いいかも……」

 

 射精のとき、動物のように興奮して腰を前後させる真夫に、あさひ姉ちゃんは優しく言った。

 そのときのあさひ姉ちゃんの顔は、まるで仏さまのようだった。

 

 そして、あさひ姉ちゃんの身体の中に精を放った。

 

 いくらでもやってもいいというので、さらに三回放った。

 あさひ姉ちゃんは目を丸くしていた。

 四度目のときには、あさひ姉ちゃんは、もう一度、おこりが起こったようにぶるぶると身体を震わせた。

 

 あさひ姉ちゃんが、そのとき処女ではなかったと悟ったのは、もう少しして、真夫に性知識が増えてからだ。

 

 それからも、あさひ姉ちゃんが出ていくまで、毎晩のようにふたりで抱き合った。

 決まって、あさひ姉ちゃんは真夫に縛られて抱かれるのを好んだ。

 

 やがて、あさひ姉ちゃんは施設を出ていった。

 別れの前の夜、あさひ姉ちゃんは、次に最年長組になる少女の中からひとりを真夫の前に連れてきた。

 

「明日からは、彼女があたしの代わりをしてくれるわ、真夫ちゃん」

 

 あさひ姉ちゃんはにっこりと笑って言った。

 

 それから五年……。

 それ以来、一度も、あさひ姉ちゃんと会ったことはない。

 

 最年長組の女の子が真夫のセックスの相手をするという奇妙な「しきたり」は、三年間続いた。

 

 そのとき、真夫は思念から覚めた。

 

 いた……。

 

 あの娘だ。

 

 真夫に痴漢の冤罪を与えたあのときの少女だ。

 駅から出てバスに乗ろうとしている。

 同じ制服だ。

 間違いない。

 

「待て」

 

 真夫は大きな声をあげて、その少女に向かって駆けた。

 その娘がぎょっとした表情になって立ち止まった。



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第1章  純愛【朝比奈 恵】
 第2話   初恋の相手との再会


「待てよ、あんた」

 

 その少女は、紛れもなく、あのときの娘だ。

 電車で見たときと同じ洒落た刺繍のついたブレザーの制服だ。胸にある白と紺のリボンにも見覚えがある。

 なによりも、真夫を認めたときに、さっと顔色が変わって表情が引きつったようになった。

 

 間違いない。

 

 その娘は、とっさに真夫から逃げるようにバスに乗り込みかけたが、そのときには、真夫はその娘の前を阻む位置にいた。

 

「話がある。俺には、その権利があると思う。あんたのせいで酷い目に遭ったんだ」

 

 真夫は早口で準備していた言葉を発した。

 本当は、あれも言ってやろう、これも言ってやろうと言葉を準備してあったのだ。

 だが、真夫を見たときの怯えたような彼女の表情に触れたとき、なんとなく怒りが小さくなるのを感じた。

 間近で見ると、やはり彼女は可愛らしい顔をしていた。

 こんなとき、男は損なのかもしれない。

 可愛らしい女の子の泣きそうな顔を見ると、ついつい情にほだされた気分になってしまう。

 

「あ、あの……」

 

 その娘が言った。

 そのとき、彼女が手提げ鞄に入れていたスマホが音を立てた。

 驚いたことに、彼女は顔に恐怖の色を浮かべたかと思うと、真夫を無視して、さっとスマホを手に取って画面を確かめた。

 そして、ほっとした顔になる。

 なにを怯えているのだろう……?

 真夫は違和感を覚えた。 

 

「……ちょっと話がある。いいだろう」

 

 とにかく、真夫は彼女に毅然と言った。

 スマホを持ったままだった彼女は、はっとしたように顔をあげた。

 どうやら、一瞬、真夫のことを忘れていたみたいだ。

 

「あ、あの……ひ、人違いです……」

 

 すると、その娘は、また真夫の前から横に逸れて、バスに向かおうとした。

 真夫は、その腕を掴んだ。

 

「な、なに?」

 

 その娘がきっと真夫を睨んだ。

 こんな険しい顔もできるのだと思った。

 彼女はいつもなにかに怯えたような顔ばかりしていて、こんな風に感情を表情に出すことは初めてだと思った。

 

「なにじゃないよ。なんの人違いなんだよ。俺はまだなにも喋ってないぜ」

 

 真夫は言った。

 少女は困惑した顔になった。

 真夫は手を離した。

 

「……いまさら、あんたを警察に連れていったりするつもりはない。ただ、話をしたいだけだ。そこのベンチでいい。ちょっと来てくれ」

 

「バスが出るから……」

 

 その娘は呟いた。

 さすがにかちんとなった。

 

「バスがなんだ。あんたのせいで、俺は学校を退学になった。バイトも首になり、住む場所もなくなった。友達も全部失くした。それは全部、あんたのせいだ。だけど、俺はあんたに謝って欲しいわけじゃない。なんで、あんな嘘をついたのか知りたいだけだ。それなのに、あんたは、バスに乗れなくなるのを気にするのか?」

 

 怒鳴った。

 少女が驚いたように顔をあげた。

 

「退学? うそっ? だって、わたしは警察には訴えなかったわ。痴漢は親告罪でしょう? だったら、警察には捕まらないはずじゃない」

 

 よく知っていると思った。

 言葉もしっかりとしているし、実は頭もいいようだ。

 

「警察に捕まらなければいいのかよ。警察から学校に連絡があり、俺は退学処分になった。学校からバイト先にも連絡があり、首になった。それがあんたのやったことだ。どういうことなんだか説明しろよ」

 

 真夫は言った。

 そのとき、バスを待っている者の多くが、こっちに聞き耳を立てていることに気がついた。

 少女もそれに気がついたようだ。

 真夫と少女は、さっきまで真夫が座っていたベンチに移動した。

 

「……ご、ごめんなさい……。あ、あのとき、わたし、気が動転していて……」

 

 ベンチに着くとすぐに、少女が言った。

 彼女はベンチに座ろうとしなかったから、真夫も座らなかった。

 どうやら、彼女は立ち話以上のことはするつもりはないようだ。

 

「気が動転していて、痴漢ではなく、痴漢から助けようとした方を訴えるのかよ。冗談じゃないぞ」

 

「ご、ごめんなさい……。ほ、本当に……」

 

 少女は頭をさげた。

 しかし、その態度にはなんとなく薄っぺらいものを感じる。

 本気で悪いと思っていないのだ。

 それがわかった。

 

「あんたの制服、聖マグダレナ学園だよな? 山の方にある全寮制の私立だろう? そして、考えてみると、あのときの三人組も、やっぱり同じ学園の男子の制服だ。俺はあんたらがグルになって悪戯をしたんじゃないかと思っている」

 

 真夫は言った。

 この娘やあの三人組が、その学園の生徒だということは、後で調べてわかった。

 平日は寄宿舎で寮生活だが、週末になれば帰宅も許可される。

 そんな学校であることも知った。

 あの日は、金曜日の夕方だった。

 そして、今日も金曜日だ。

 だから、駅で待っていたら、この娘に会えるんじゃないかと思ったのだ。

 

「そ、そんな……。悪戯だなんて……。そんなことはわたしは、しません」

 

「だったら、どういうことなんだよ?」

 

 さすがに、のらりくらりと話を逸らそうとする彼女にむっとした。

 すると、彼女が俯いたまま大きく息を吐いた。

 そして、顔をさっとあげて、真夫を睨みつけた。

 

「あのときは申しわけありませんでした。で、でも、わたしだって酷い目に遭ったんです。あなたに助けられたために」

 

「俺に助けられたために酷い目に遭った?」

 

 さっぱりわからない。

 

「とにかく、もう行きます。週末だから家に帰るんです。バスに乗ります」

 

 少女はくるりときびすを返した。

 

「待てよ。話はまだだ」

 

 真夫は再び少女の腕を浮かんだ。

 

「離して。声をあげますよ」

 

 すると、少女が顔だけ振り向いて、真夫を睨んだ。

 

「声を出す?」

 

「そうです。声をあげます。そうすれば、捕まりますよ。あなたは、わたしに痴漢したということになっているんですよね。警察に訊ねられれば、あのときの痴漢にもう一度、町で呼びとめられて捕まりそうになったと言います。今度は親告します。きっと捕まるでしょうね。しかも重い罪ですよ」

 

 唖然とした。

 こんなに冷たい言葉が、こんなに可愛い少女の口から出るとは信じられなかった。

 真夫は手を離した。

 少女は逃げるように、まだ停車していたバスに駆けていった。

 

 


 

 

 あることに気がついたのは、施設に戻るために乗った電車の中で、次の到着駅が乗り換えのためのターミナル駅だと告げたアナウンスがあったときだ。

 

 スマホ……。

 

 最初に真夫があの娘を呼び止めたとき、彼女は音が鳴ったスマホを怯えるように画面確認した。

 そのときに、なにかの違和感を覚えた。

 

 おそらく、あの音はメールの着信音だろう。

 貧乏な孤児の寮生徒では、とてもじゃないがスマホなど無縁だったが、ほかの寮生徒は例外なく持っていたので、携帯電話やスマホについては知っている。

 あのときの音はメールの着信を知らせる音だ。

 

 そして、そのメールを怯えるように覗いた彼女の表情……。

 さらに、彼女が最後に感情を吐き出すように叫んだ言葉──。

 

 『わたしは、あなたに助けられたために、酷い目に遭った』

 

 もしかしたら、彼女は脅されていた?

 そういえば、一箇月前の痴漢事件で、駅員に連れられて駅員室に向かったとき、三人のうちのひとりが、しきりに携帯電話に触れていたような気がする。

 

 つまり、彼女は、彼らに弱みを握られていて、あのとき嘘の供述をするように強いられたのではないだろうか……?

 もしも、拒めば、彼女が困る事態になるというようなことで……。

 

 それで彼女は、仕方なく駅員室に戻って来て、三人ではなく真夫を訴えた。

 

 そう考えると、一応の辻褄は合う。

 

 真夫は溜息をついた。

 彼女を許すつもりにはなれないが、真夫の勘が正しいとすれば、可哀想だとは思う。

 むかしから、勘だけは鋭い方だった。

 きっと当たらずといえども、遠からずというところだと思う。

 

「真夫ちゃん?」

 

 そのとき、声をかけられた。

 若い女性の声だ。

 真夫は顔をあげた。

 

「あさひ姉ちゃん?」

 

 叫んだ。

 そこにいたのは、紛れもなく、五年前に施設を出ていってから一度も会っていなかった朝比奈(あさひな)(めぐみ)だった。

 肩に大きな鞄を抱えて、白のシャツに紺色のスカートとジャケットを身に着けている。

 髪は、最後に会ったときよりも短くなっていた。

 そして、びっくりするほどにきれいな女性になっていた……。

 年齢は二十一歳のはずだ……。

 もう大人だ。

 

「やっぱり? もしかしたら、そうじゃないかと、ずっと見てたの。こんなところで会うなんてねえ。ところで、どうしたの? 旅行?」

 

 あさひ姉ちゃんは、真夫が足のあいだに挟んで床に置いていた鞄に視線をやって訊ねた。

 その顔には満面の笑みが浮かんでいる。

 真夫に再会して、とても嬉しそうにしてくれている。

 それが嬉しい。

 

「あさひ姉ちゃんこそ、こんなところでなにしているの? というか、いまどうしているの?」

 

「ふふん……」

 

 すると、あさひ姉ちゃんは、自慢気に鞄からパスケースを出した。

 それは、中心都市にある国立大学の学生証だった。

 

「いまは大学生よ。花の女子大生。バイト掛け持ちで大変だけどね……。まあ、いろいろと援助とか受けながら、大学生をやってるわ。あたし、学校の先生になりたいと思っているの」

 

「きっと、あさひ姉ちゃんなら、いい先生になれるよ」

 

「ありがとう。真夫ちゃんにそう言ってくれると、誰よりも嬉しいよ。ところで、どこに行くの? 真夫ちゃんも学校に行っているんでしょう。高校三年生よね……」

 

 あさひ姉ちゃんは、真夫が通っていた高校の名を口にした。

 真夫は、あさひ姉ちゃんが、真夫の通っていた高校の名を知っているという事実にちょっと驚いた。

 

「……退学になったんだ……」

 

 真夫は言った。

 あさひ姉ちゃんは、眉をひそめた。

 

「どういうことよ?」

 

 そのとき、電車がターミナル駅に到着するアナウンスが響いた。

 

「とにかく、話を聞かせて」

 

 あさひ姉ちゃんは、真夫の手首をぎゅっと掴んだ。

 

 


 

 

「ひ、酷い……。真夫ちゃん、それで、なんで、そんなに落ち着いているのよ。もっと、怒りなさいよ。怒鳴りなさいよ。どうして、その女を逃がしちゃったのよ。ねえ、名前、訊かなかったの? 冗談じゃないわよ。もう一度、捜すわよ。電車で学校に通っているということは、同じ電車に乗るということよね。今日は金曜だから、月曜日の朝ね。次はあたしも行くわ。なんとしても見つけるのよ」

 

 あさひ姉ちゃんはまくしたてた。

 駅ビルにある喫茶店だ。

 その一番奥の席で、真夫とあさひ姉ちゃんは向かい合っている。

 そこで、真夫はあの冤罪事件の経緯について説明した。

 すると、あさひ姉ちゃんは激怒した。

 

「落ち着いてよ、あさひ姉ちゃん。これは俺の勘だけど、もしかしたら、その娘は、その三人組に脅されているかもしれないんだよね」

 

「脅されている?」

 

 あさひ姉ちゃんは怪訝な顔をした。

 

「うん」

 

 真夫は頷いた。

 そして、自分の考えを語った。

 だが、あさひ姉ちゃんは、ますます怒ったようになった。

 

「脅されていようが、殺されそうであろうが、それで、真夫ちゃんを陥れていいということにはならないわよ。とにかく、あたしに任せてよ。ちょっと、許せないわ、その子」

 

 あさひ姉ちゃんは、また怒鳴った。

 

「……だとしても、どうしようもないよ。謝ってくれたところで、もう一度復学するというのは無理だと思う。もう退学になったんだ」

 

 真夫は首を横に振った。

 

「どうしてよ。その娘に、真夫ちゃんの高校の校長の前で、本当のことを喋らせるのよ。真夫ちゃんはなにもしてないのよ。それどころか、その子を助けようとしたんでしょう。それなのに、恩を仇で返すなんて──。あたしは、許せないのよ。そもそも……」

 

「でも、いいんだ──」

 

 真夫は、強い口調で、あさひ姉ちゃんの言葉を遮った。

 あさひ姉ちゃんは呆気にとられたように、真夫の顔を見た。

 

「……いいんだ。戻れるとしても、もう、あそこには戻りたくない」

 

 真夫は静かに言った。

 二年間の学校と寮の生活で、施設出身の自分をみんな受け入れてくれて、すっかりと仲良くなったものと思っていた。

 だが、それは幻想だった。

 真夫が痴漢をしたと学校に通報された途端に、友人だと思っていた者たちが、手のひらを返したように真夫を罵り始めた。

 所詮は「施設の子」だと繰り返して悪口を言われた。

 冤罪だと主張する真夫の言葉は無視された。

 施設の子はやっぱり素行が悪いのだと、誰も彼もが言った。

 誰ひとりとして味方はなかった。

 もう、そんな連中のところには戻りたくはない。

 真夫は、自分の想いを静かに語った。

 あさひ姉ちゃんは、深刻な表情で真夫の言葉を聞いてくれた。

 

「……でも、泣き寝入りなんて絶対にだめよ。真夫ちゃんがよくても、あたしが許せない……」

 

 そして、ぽつりとそれだけを言った。

 それから、ちょっとだけ、考え込むような感じになった。

 

「……ねえ、真夫ちゃん、その子の学校って、聖マグダレナ学園だって、言ってたっけ? それは間違いないんでしょう?」

 

 やがて、不意に訊ねた。

 真夫は間違いないと応じた。

 すると、ちょっと待っていて欲しいとだけ言って、あさひ姉ちゃんは、携帯電話だけを掴んで店の外に出ていった。

 どうやら、どこかに電話をかけるようだ。

 

 戻ってきたのは、十分後くらいだった。

 

「……明日の午前中、あたしの知り合いに会うわ。大学で講師をしたりしている男の人なんだけど、確か、その学園の関係者と言っていたと思うから、電話してみた。明日、会ってくれるそうよ」

 

 あさひ姉ちゃんは席に座るなり言った。

 

「会ってどうするの?」

 

 真夫は首を傾げた。

 

「しっかりしなさいよ、真夫ちゃん。真夫ちゃんを酷い目に遭わせたその連中を見つけるのよ。そいつらのやったことを学園に教えてやるのよ。そして、謝らせるのよ。そいつらこそ、退学になればいいわ。なんで、なにもしていない真夫ちゃんが退学になんてならないといけないのよ」

 

「そ、そんなにしなくても……」

 

「なんでよ?」

 

 怒られた。

 真夫は、ちょっとびくりとした。

 すると、あさひ姉ちゃんは、すっと真夫がテーブルに置いていた右手に自分の手を伸ばして重ねた。

 

「いいから……。いい? これは施設の先輩としての忠告よ。あたしたちのような立場の者は、誰にも絶対に舐められちゃだめよ。どんな相手でも……。世間そのものでも」

 

 あさひ姉ちゃんの顔は真剣だった。

 その迫力に、真夫は思わずうなずいた。

 すると、あさひ姉ちゃんが、ぱっと破顔した。

 

「とにかく、明日の午前中に、滝田(たきた)さんと会うわ。あなたも一緒よ」

 

 嫌も応もない迫力があさひ姉ちゃんにあった。

 真夫は、わかったと答えた。

 明日に会うあさひ姉ちゃんの知り人は、滝田という男の人らしい。

 

「……ところで、今夜はあたしのところに泊まってね。さっき、施設には連絡しておいたわ。真夫ちゃんは、あたしが預かりましたと言っておいた。任せてくれるそうよ」

 

「えっ?」

 

 これにはちょっと驚いた。

 女子大生のあさひ姉ちゃんのところというのであれば、ひとり暮らしだろう。

 そこに泊まるということは……。

 

「汚くて小さいアパートよ。驚かないでね。布団だって一枚しかないから」

 

 あさひ姉ちゃんは、白い歯を見せた。

 

「い、いいの?」

 

 それだけを言った。

 

「なに言ってんのよ。真夫ちゃんがあたしのところに来るのが、だめなわけないでしょう……。言っておくけど、あたしの家に誰かが来るのは初めてだからね。本当に小さくて汚いから、誰も呼べなかったのよ……。恥ずかしくて……」

 

 あさひ姉ちゃんがはにかむように言った。

 

「だったら、俺には恥ずかしくないの?」

 

 真夫はからかった。

 

「だって、真夫ちゃんは、あたしの一番汚いところまで知っているから……」

 

 あさひ姉ちゃんは顔を赤らめた。

 

「そんなの知らないよ。あさひ姉ちゃんは、とてもきれいだよ。昔から……。もちろん、いまも……」

 

「ばかね……」

 

 あさひ姉ちゃんは、さらに顔を赤くした。

 

「……ところで、真夫ちゃんは、随分と男らしくなったね。見違えちゃった」

 

 あさひ姉ちゃんが言った。

 

「お姉ちゃんこそ、びっくりだよ。本当に眩しいくらいきれいになってんじゃん」

 

 真夫も言った。

 すると、あさひ姉ちゃんがなにかを思い出したかのように、鞄をごそごそと探り出した。

 そして、一本の紐を取り出した。

 

「……これは、あのときの浴衣の帯よ……。いつも、肌身離さずに持ち歩いているの……。これがあると、あたしは元気になる。寂しいときも寂しくない。つらいときも元気でいられる。あたしの宝物なの……」

 

 あさひ姉ちゃんがすっと上目遣いで真夫を見た。

 

 その顔は、とてもきれいで……。

 

 そして、すごく淫らな色がしていた。



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 第3話   淫乱な男嫌い

 あさひ姉ちゃんと一緒にやって来たのは、ターミナル駅から三駅ほどの小さな駅だった。

 駅そのものはホームを跨ぐ二階にあり、そこから東口と西口と書かれているどちらかの出口に階段で降りれるようになっている。

 真夫は、あさひ姉ちゃんに言われて、改札口の前にある待合室の椅子に腰かけて待っていた。

 

 陽は落ちて、夜になっている。

 売店もなく、駅員は自動券売機の向こうにいるだけなので、周囲に人影はない。

 すると、階段を駆けあがってくる足音がした。

 真夫は立ちあがった。

 

「待った? ごめんね、真夫ちゃん」

 

 どうやら走ってきたようだ。

 真夫の前に立ったあさひ姉ちゃんは、少し息が切れていた。

 駅から少しある大通りに面したコンビニで、あさひ姉ちゃんはバイトをしているらしい。

 それで、今日はバイトに行けないと断りにいってきたのだ。

 

「どうだったの? 無理しなくてよかったのに」

 

「無理するわよ。真夫ちゃんが家に来るんだもの。大丈夫よ。掛け持ちしているバイトで急にシフトを代わって欲しいと頼まれたと言ってきたわ。ほらっ、あたしって、親がいない苦学生だから、たくさんバイトしているのを店長も知っているのよ。無理して働きすぎないようにって、同情してくれたわ。あたしの交代に来てくれる人も頼んだし、問題ないのよ」

 

 あさひ姉ちゃんは、明るく笑った。

 

「でも、交代してくれる人に悪いかもね」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんの笑顔に釣られるように微笑んでしまった。

 

「それも大丈夫よ。いつも彼女が合コンとか、デートとかのたびに代わってあげているんだから。こういうときはふたつ返事よ」

 

 あさひ姉ちゃんは言った。

 

「その人にも、バイトの掛け持ちって言ったの?」

 

 なんとなく訊ねた。

 

「ううん。本当のこと言った」

 

 すると、あさひ姉ちゃんは悪戯っぽく笑った。

 

「本当のこと?」

 

「うん……。好きな人が家にくるって……」

 

「えっ?」

 

 真夫は思わず言葉に詰まった。

 どきどきした。

 

「大丈夫よ。恋人とは言わなかったわ。あたしが好きな人って言ったのよ。それだったら、嘘じゃないでしょう。さあ、行きましょう。あたしのアパートは、反対側なの」

 

 真夫は気の効いた言葉でも返さなければと思ったが、そのいとまもなく、あさひ姉ちゃんは歩き出していた。

 

「ところで、これ見て」

 

 歩き始めるとすぐに、あさひ姉ちゃんは手に持っていたコンビニの袋を見せた。

 中には弁当が二個入っている。

 

「ただよ、ただ。いつもこれで助かっているのよね」

 

「ただ?」

 

 驚いて訊ねた。

 すると、あさひ姉ちゃんは、ちょっとだけ立ち止まって、袋の中の弁当に貼られているシールを見せた。

 賞味期限が今日の夕方で終わっている。

 

「コンビニでは、売れ残った弁当は捨てることになっているの。店員が持って帰るのも禁止。だけど、あたしが貧乏な孤児だと知っているから、店長とかが見て見ぬふりをしてくれるのよ」

 

 なるほどと思った。

 確かに、賞味期限切れの弁当を売るわけにはいかない。

 売れ残りは捨てるしかないのだろう。

 だが、時間が過ぎたからといって、すぐに弁当が悪くなるわけでもない。

 それをもらってきたようだ。

 

「もっとも、こっちはちゃんとお金払ったわ」

 

 あさひ姉ちゃんが見せたのは、もうひとつの小さな袋だ。

 中はビールだ。

 二本入っている。

 

「真夫ちゃんは、お酒は大丈夫よね?」

 

「まあ、少しはね」

 

 真夫は苦笑した。

 あさひ姉ちゃんは、真夫が未成年だということを忘れているのではないかと思った。

 もっとも、真夫もビールくらいなら寮の仲間とこっそりと飲んだことがある。 

 

「よかった。あたしも普段は飲まないんだけど、今夜はお祝いだから……」

 

「お祝い?」

 

「真夫ちゃんと再会したお祝い……」

 

 あさひ姉ちゃんは、そう言って、嬉しそうにまた歩き始めた。

 しばらく、小さな防犯灯に照らされるだけの暗い住宅街を進みながら、他愛のない会話をした。

 語ったのは、施設を出てからのお互いの近況とかだ。

 あさひ姉ちゃんも、頑張っているようだが、未成年でたったひとりで生きるというのは、やっぱりそれなりに苦労もあったらしい。

 でも、あさひ姉ちゃんは、相変わらず明るくて陽気だった。

 親がいないということで不公平を感じることも多いようだが、この人柄のおかげか、周りにはいろいろと助けてくれる人もいるみたいだ。

 真夫は安心した。

 

「……ねえ、あさひ姉ちゃんは、恋人いないの?」

 

 しばらくして、なんとなく訊ねた。

 中学生のあさひ姉ちゃんもきれいだったが、いまのあさひ姉ちゃんは、その十倍もきれいだ。

 こうやって話をしていてもすごく愉しい。

 絶対にもてるだろうと思った。

 

 実のところ、今夜泊まっていけという、あさひ姉ちゃんにどう接していいか迷っていた。

 もちろん、真夫はあさひ姉ちゃんに対して、とても淫らな気持ちを抱いている。

 こうやって、平静を装って歩いていても、考えているのは、中学生のあさひ姉ちゃんと愛し合ったときのことばかりだ。

 アパートに泊めてくれるというのは、またあさひ姉ちゃんを抱いてもいいということだろうか……?

 あのときもきれいだったけど、遥かにきれいになった大人のあさひ姉ちゃん……。

 

 だけど、あれは子供の頃だけの悪戯のようなものであり、あさひ姉ちゃんは、いまさら、真夫のことなど、男として相手にはしてくれないのではないか。

 それくらい、あさひ姉ちゃんは大人に見える。

 

 逆にいえば、もう男としては見ていないので、気安く家に誘うんじゃないかだろうか……?

 だいたい、いまのあさひ姉ちゃんに恋人がいないわけがない。

 

 とにかく、あさひ姉ちゃんにとって、真夫はどういう存在なのだろう。

 真夫は、ずっと当惑の気持ちのままでいたのだ。

 

「……男の人とつき合ったことはないわ……」

 

 すると、あさひ姉ちゃんは急に真顔になって呟くように言った。

 

「そ、そうなの……?」

 

 ちょっと、ほっとした。

 

「……うん……。男の人が怖いの……」

 

「えっ?」

 

 思わず聞き返した。

 

 男が怖い?

 

「……普通に話をするとか、近くに寄るのはなんともないの……。でも、手を繋ぐとか、肌と肌を接するとかはだめ……。全身が凍えるように寒くなって、どうしようもなく身体が震えてくる。全身が恐怖に包まれるのよ……。だから、演技をする……。あたしでないあたしになるのよ。一生懸命に喋って明るい女の子を演じるの……。そうすると喋れる……。でも、だめね。一対一で喋るなんて、いまでもだめ」

 

 驚いた。

 歩きながら横顔を見るが、冗談を口にしている雰囲気ではない。

 

「でも……」

 

 真夫は首を傾げた。

 真夫の知っているあさひ姉ちゃんは、男であろうと、女であろうと、いつも屈託なく明るく話す元気な女の子だった。

 そもそも、真夫も男だ。

 それにもかかわらず、男が怖いというのはどういう意味だろう。

 

「だめなの……。昔からそう。一度、診てもらったこともあるのよ……。男性恐怖症というんだって……。つまり男の人に接すると、心が小さい頃に受けたトラウマを呼び戻しちゃうんだって」

 

 小さい頃に受けたトラウマ……?

 それで、真夫はふと頭に浮かんだことがあった。

 養護施設にやって来たばかりの頃、あさひ姉ちゃんのことを親から虐待を受けた子供だと養護施設の先生が言っていたのを……。

 当時はわからなかったが、親からの虐待というのはなにも暴力とは限らない。

 

 性的虐待……。

 

 もしかしたら……。

 

 そういえば、まだ施設にいた頃、一度だけ、あさひ姉ちゃんと親の話をしたことがある。

 親がいて施設に預けられる子は、時折は親が面会にやって来る。

 時には、限られた時間だけ一緒に外出したりもする。

 親のいない真夫は当然として、親がいるはずのあさひ姉ちゃんにも親がやって来るということはなかった。

 それで訊ねたのだ。

 

 すると、当時のあさひ姉ちゃんは、母親はあさひ姉ちゃんが九歳のときに死んだと教えられた。

 でも、お父さんのことを訊ねても喋らなかった。

 だが、少なくとも、あさひ姉ちゃんのお父さんは生きていたはずだ。もしかしたら、いまでも生存しているかもしれない。

 だけど、あさひ姉ちゃんの父親は一度も来なかった。

 つまり、あさひ姉ちゃんのトラウマというのは……。

 

「施設にいたときもそうだったのよ。あたし、真夫ちゃん以外に、男の子とふたりきりになったことなかったでしょう?」

 

 あさひ姉ちゃんは言った。

 そう言われればそうかもしれないが、あさひ姉ちゃんの周りには、男の子でも女の子でも、いつもいっぱいいたから、男の子とふたりきりになるのを避けていたと言われても、よくわからない。

 

 それに、腑に落ちないこともある。

 真夫は男だ。

 「秘密の行為」をしていたから、あさひ姉ちゃんとふたりきりなるのは、しょっちゅうだった。

 ましてや、限られた期間とはいえ、真夫とあさひ姉ちゃんは、男と女になったのだ。

 すると、真夫の疑問を悟ったのか、あさひ姉ちゃんが口を開いた。 

 

「真夫ちゃんは別なのよ。なぜか平気。だから不思議なの……。だけど、ほかの人はだめ……。施設を出てからは、特にだめ。それを何度も思い知ったわ。多分、あたしは、真夫ちゃん以外の男の人とはだめだと思う……」

 

 そのとき、あさひ姉ちゃんが開いている手で、すっと真夫の手を握ってきた。

 

「……やっぱり……」

 

 あさひ姉ちゃんは、ほっとしたように笑った。

 

「やっぱり、真夫ちゃんだと大丈夫……。不思議な手……」

 

 あさひ姉ちゃんの手はとても温かかった。

 そして、薄っすらと汗をかいていた。

 真夫はぎゅっとあさひ姉ちゃんの手を握った。

 すると、あさひ姉ちゃんも握り返してくる。

 しばらく、手を繋いだまま無言で歩いた。

 

「あっ」

 

 しかし、あさひ姉ちゃんが突然になにかを思い出したように声をあげた。

 

「どうしたの、あさひ姉ちゃん?」

 

「買い忘れた。こっち側にはコンビニなんてないのに……。でも、いまさら駅に戻るなんて……」

 

「買い忘れたって、なにが?」

 

 真夫はきょとんとした。

 

「な、なにって……。あれよ。あれ……」

 

 すると、あさひ姉ちゃんが顔を赤らめたのが、夜目でもわかった。

 

「あれって?」

 

「ス、スキン……。真夫ちゃんは持ってないよねえ?」

 

 あさひ姉ちゃんがちらりと見た。

 

「ああ、あれか……。ごめん、持ってない」

 

 仕方なく言った。

 この二年、女性と付き合ったことなどない。

 避妊具など不要だったのだ。

 だが、二年間、女と付き合っていないというと、あさひ姉ちゃんは、目を丸くした。

 

「うそうっ? 真夫ちゃんが二年間も我慢できるわけないじゃない。だって、あんなに……」

 

「俺を淫乱男みたいに言わないでよ。別に女をいつもいつも抱いてないと我慢できないわけじゃないよ」

 

「嘘、嘘──。真夫ちゃんはすごくエッチよ。あたしは知っているんだから」

 

 あさひ姉ちゃんはからかうような口調で言った。

 そして、けらけらと笑いだした。

 真夫は苦笑した。

 しばらく笑ってから、再び真顔になったあさひ姉ちゃんは、なにかを指で折って数え始めた。

 

「……多分、大丈夫かな……。いえ、大丈夫ね……。うん、大丈夫、大丈夫……。大丈夫よ」

 

 よくわからないが、呪文のように大丈夫という言葉を繰り返している。

 

「大丈夫よ、真夫ちゃん。今日は大丈夫の日──」

 

 そして、顔をあげて、勢いよく真夫に言った。

 その表情がなんだか不思議に面白くて、真夫は噴き出してしまった。

 あさひ姉ちゃんの顔が、我に返ったように真っ赤になった。

 

「ご、ごめん……。あたし、馬鹿みたいに興奮して……。あ、あたし、真夫ちゃんに会って嬉しくて……」

 

 あさひ姉ちゃんは、恥ずかしそうにうつむいた。

 真夫は、さっきまで、あさひ姉ちゃんのことを大人の女であり、真夫なんかが、手を出してはいけない人のように感じていたのだが、その感情がすっと小さくなるのがわかった。

 そうすると、あさひ姉ちゃんのことが、とても可愛らしく思えてきた。

 

 優しいあさひ姉ちゃん。

 きれいで……。

 可愛いくて……。

 そして、ちょっと……いや、とてもエッチなあさひ姉ちゃん……。

 

 ほっとした。

 

 あさひ姉ちゃんは、真夫とエッチなことをしてくれるつもり満々だったのだ。

 

 真夫があさひ姉ちゃんを犯したいと思ってしまうのと同様に、あさひ姉ちゃんも真夫を男として受け入れてくれる気があったのだ。

 

 なんだか、急にむらむらとした気持ちになってきた。

 真夫は握ったままだったあさひ姉ちゃんの手をまた少し強く握った。

 すると、あさひ姉ちゃんの手がかっと熱くなった。

 

「……ねえ、真夫ちゃん……」

 

 あさひ姉ちゃんが歩きながらぽつりと言った。

 

「なに?」

 

「あたし、本当はとてもエッチな女よ。知っているでしょう?」

 

 あさひ姉ちゃんは小さな声で言った。

 

「うん、知っている。あさひ姉ちゃんも知っているよね? 俺もとてもエッチだって……。そして、変態だって……」

 

 真夫は自分がおかしな性癖ということがもうわかっている。

 相手の女を縛ったり、苛めたりすると、ものすごく興奮するのだ。

 普通に抱くよりも、十倍くらい欲情する。

 自分は変態だ。

 

「あ、あたしも変態……。本当はエッチなことが大好きな悪い子なの……」

 

「あさひ姉ちゃんは、悪い子じゃないよ。エッチだけどね」

 

 真夫はくすくすと笑った。

 すると、あさひ姉ちゃんも同じように笑った。

 

「……そうよ、あたしはエッチなの。でも、そんなことは誰も知らない……。あたしのこと、男を近づけない潔癖な女だとみんなは思っている……。でも、本当はエッチなこと好き……」

 

 あさひ姉ちゃんは、不意に感極まったように立ちどまった。

 真夫は、街頭と街頭のあいだくらいの少し薄暗いところで、あさひ姉ちゃんと向かい合うかたちになる。

 

「あさひ姉ちゃん?」

 

「でも、男の人は怖い……。怖いけど、エッチだけは好き……。ねえ、真夫ちゃん、お願い。あたしにエッチなことして……。真夫ちゃんと別れてから、あたし、おかしくなしそうだった。エッチなことばかり考えるの……。真夫ちゃんは、あたしのこと知っているから、真夫ちゃんだけ言うね……」

 

 あさひ姉ちゃんがぐっと真夫に近づく。

 ほとんど、真夫の耳に口を密着させる。

 

「えっ……」

 

「あたしって、いつもエッチなことしか考えていない。多分、淫乱なんだと思う。だけど、男の人は怖い……。とても、怖いの……。でも、真夫ちゃんだけは大丈夫……。この数年間、ずっとそれで悩んでた。あたしは、自分でも嫌になるくらいに淫乱なの」

 

 あさひ姉ちゃんが心の中をさらけ出すように言った。

 性欲は男だけのものであり、女にはない──などというのがくだらない戯言だということは、真夫は知っている。

 

 男に性欲があるように、女にも性欲がある。

 

 あさひ姉ちゃんが、ほかの女の人よりも、性欲が強いというのは、なんとなく感じている。

 でも、あさひ姉ちゃんが、それを悩んでいたのだということは、初めて知った。

 そして、あさひ姉ちゃんは、それを恥ずかしいと思っていたのだ。

 

 だが、そんな恥ずかしい悩みを真夫に打ち明けてくれたことは嬉しかった。

 だから、あさひ姉ちゃんだけに、恥ずかしい思いをさせてはいけない……。

 そう思った。

 

「ねえ、あさひ姉ちゃん」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんから手を離して、身体を真っ直ぐに向けた。

 

「なに、真夫ちゃん?」

 

 あさひ姉ちゃんがきょとんとした表情になる。

 

「俺、あさひ姉ちゃんとエッチがしたい。すごく変態なことがしたい。ねえ、いいでしょう。俺はあさひ姉ちゃんとしたい。あさひ姉ちゃんと変態なことをして、犯したい。ねえ、させて」

 

 真夫は言った。

 あさひ姉ちゃんはくすりと笑った。

 

「……ふふ、やっぱり真夫ちゃんね。とても勘が良くて、人の考えていることがわかって……。そして、優しいの……。ねえ、知ってる? 施設で真夫ちゃんのことが大好きだった女の子は、あたしだけじゃなかったんだよ。だけど、ほかの子には、取っちゃだめって言っていたの。だから、ほかの子は真夫ちゃんには近づけなかったのよ……」

 

「えっ?」

 

 知らなかった。

 真夫は、あさひ姉ちゃんとの「秘密の行為」のことは、誰にも喋らなかったので、あさひ姉ちゃんも、真夫との「関係」のことは内緒にしていると考えていた。

 だが、そうでもなかったようだ。

 

「その代わり、あたしが施設を出るときには、真夫ちゃんのことが大好きな子に真夫ちゃんの相手をするように託したのよ……。真夫ちゃんって、不思議な能力があるよね。女の子をみんな好きにさせちゃう。そして、真夫ちゃんとのエッチはもっと不思議……。とても落ち着く……。あたし、セックスが怖かったの」

 

「怖い?」

 

「うん。矛盾しているようだけど、エッチで淫乱のくせに、セックスがとても怖いの。でも、真夫ちゃんとは自然にできた。とても気持ちよかった……。うん、あたしも真夫ちゃんとしたい。ねえ、あたしに変態なことやって」

 

 あさひ姉ちゃんが言った。

 そういえば、あさひ姉ちゃんが出ていく前の日に、真夫は明日から相手をしてくれる女の子だといって、次に最年長になる女の子を紹介してから去った。

 

 それを機会に、なんとなく女の子に不自由のない日々が続いた。特定の子だけでなく、時にはほかの子を抱くこともあった。

 男女の営みのことは、大抵のことは、施設ですごした時間で覚えた。

 でも、やっぱり、あさひ姉ちゃんと愛し合ったときが一番どきどきした。

 

 真夫は、あさひ姉ちゃんが持っていた弁当とビールの入った袋──。さらに、大学の講義のための勉強道具などが入った鞄をとりあげた。

 

「な、なに?」

 

「ねえ、SMしようよ」

 

「えっ?」

 

 あさひ姉ちゃんが焦ったような、期待しているような複雑な表情をした。

 

「SMだよSM。一度でいいから、本気のSMしたかったんだ……。手を後ろで組んでよ。右手で左手首を握ってくれない」

 

 真夫は言った。

 あさひ姉ちゃんは困惑した顔になる。

 

「で、でも、ここで?」

 

 あさひ姉ちゃんは、驚いているようだ。

 周囲に歩いている人はいないとはいえ、ここは外だ。

 しかも、あさひ姉ちゃんが暮らしている場所のすぐ近くのはずだ。

 

「そう、ここでだよ」

 

 真夫はきっぱりと言った。

 すると、あさひ姉ちゃんは周りをきょろきょと見回した。

 そして、大きく息をしてから、ぺろりと口の周りを舌で舐めた。

 

「い、いいよ……。なんでもしていいよ……。その代わりに条件があるわ……」

 

「条件?」

 

「うん。さっきから使っている“あさひ姉ちゃん”という呼び方やめて……。“恵”って呼び捨てにして。呼び捨てで命令して……」

 

 あさひ姉ちゃんの声は緊張でかすれていた。

 

「わかった……。恵、手を後ろに回せ。その手を見えない紐で縛る。もう、どんなことがあっても、恵の手は解けない」

 

 あさひ姉ちゃんが甘い溜息を吐きながら、手を後ろに回した。

 真夫は、持っていた荷を横に置くと、あさひ姉ちゃんのスカートの中にすっと両手を差し入れた。



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 第4話   夜道の誘惑

 真夫は、あさひ姉ちゃんのスカートの中に両手を入れると、下着とストッキングをまとめて、すっと足首に向かっておろしていった。

 

「えっ、な、なに?」

 

 あさひ姉ちゃんは動転したように声を荒げかけたが、慌てたように口をつぐんだ。

 でも、真夫が背中で握るように命じた左手首は離そうとしない。

 

 真夫は知っている。

 あさひ姉ちゃんは、根っからのマゾなのだ。

 

 マゾで……。

 すごくエッチで……。

 可愛くて……。

 

 優しいあさひ姉ちゃんなんだ。

 

 真夫はあさひ姉ちゃんの背中をちょうど横にあった電柱にもたれかけるようにしてやった。

 そして、片脚から順番に靴を脱がせて、ストッキングと下着を足首から抜いてしまう。

 

「ううう……。恥ずかしいよ、真夫ちゃん……」

 

 靴を履かせ直して立たせると、あさひ姉ちゃんはノーパンの脚をスカートの中ですり合わせるようにした。

 真夫は、ストッキングをあさひ姉ちゃんの手提げ鞄に入れ込むと、小さな下着だけを手に持った。

 

「随分と濡れているね、恵」

 

 真夫はわざと、あさひ姉ちゃんから脱がせたばかりの下着の染みの部分をあさひ姉ちゃんの顔に近づける。

 こういう駆け引きは、羞恥責めの醍醐味のようなものだ。

 

「ご、ごめんなさい……。ま、真夫ちゃんといやらしいことすると思ったら……。どうしても、気持ちを抑えられなくって……」

 

 あさひ姉ちゃんが恥ずかしそうにうつむく。

 その可愛い言葉と仕草に、真夫は自分の股間が硬くなるのがわかった。

 

「抵抗しちゃだめだよ、恵……。恵は、見えない縄で手首を縛られているんだからね」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんの下着をポケットに突っ込んだ。

 あさひ姉ちゃんは、両手を背中に回したまま、恥ずかしそうに身悶えした。

 だが、実際には、あさひ姉ちゃんにはなんの拘束もしていない。

 あさひ姉ちゃんが抵抗しないのは、あさひ姉ちゃん自身の意思だ。

 真夫は、あさひ姉ちゃんのスカートに手を入れた。

 

「こ、こんなところで……。ね、ねえ、真夫ちゃん……」

 

 あさひ姉ちゃんは、腰を引くようにして、真夫の手を避けようとしたが、抵抗はそこまでしかしない。

 無理に逃げることもないし、やっぱり後ろで組んだ手は離さない。

 

 真夫の指があさひ姉ちゃんの陰部に触れる。

 あさひ姉ちゃんの鼻息が荒くなる。

 すっかりと興奮しているのが、真夫にははっきりとわかった。

 真夫は、あさひ姉ちゃんの恥毛をまさぐり、ゆっくりと秘唇をくつろげた。

 

 あさひ姉ちゃんの股間の亀裂は……。 

 信じられないくらいに熱くて……。

 びっしょりと濡れていた……。

 

「はあっ……、はっ、んふうっ」

 

 真夫は粘液の溢れるあさひ姉ちゃんの股間をかき分けて、少しずつ奥に進みながら、指先を動かした。

 あさひ姉ちゃんの股間からつっと蜜が指先にまとわりついてくる。

 

 思い出した。

 

 あさひ姉ちゃんは、とても濡れやすくて、それで蜜が多いのだ……。

 むかしと一緒だ……。

 真夫は少し嬉しくなった。

 

 指先であさひ姉ちゃんの股間を愛撫しながら、あさひ姉ちゃんの顔を見る。

 あさひ姉ちゃんは、気持ちよさそうに眼を細めている。

 真夫は、指先をあさひ姉ちゃんの小さな突起に移動させ、少し乱暴気味にそこを擦った。

 

「ひうっ……くくく……んんんっ……」

 

 あさひ姉ちゃんは甘い悲鳴をあげ、すぐに、ここが外であることを思い出したように口をつぐんだ。

 

 真夫はあさひ姉ちゃんのクリトリスに親指の腹を当てて、じわじわと力を入れていった。

 

 昔のように……。

 

 あさひ姉ちゃんとの……。

 

 秘密の行為……。

 

「んんっ、んふううっ」

 

 あさひ姉ちゃんの身悶えが大きくなる。

 真夫は、あさひ姉ちゃんのスカートを大きくまくりあげて、あさひ姉ちゃんの口に噛ませてあげた。

 完全にさらけ出されたあさひ姉ちゃんの恥丘が、がくがくと震えだす。

 

 親指にさらに力を入れた……。

 

 しかも、少しずつ上下左右に動かしてやる……。

 

「んんっ、んんっ、んんんっ」

 

 あさひ姉ちゃんの口から漏れる声が少し大きくなった。

 それとともに、腰の悶えが大きくなる。

 

「んんんっ」

 

 あさひ姉ちゃんが、突然に腰を前に突き出してきた。

 そして、真夫の指が当たっている場所を激しく動かした。

 

「んんふうううっ」

 

 あさひ姉ちゃんが身体を一瞬弓なりにして、身体を硬直させた。

 どうやら、いっちゃったようだ。

 その気持ちよさそうな表情が嬉しくなって、真夫は思わず微笑んでしまった。

 

 そのとき、あさひ姉ちゃんの下半身ががくがくと震えて、膝が落ちそうになる。

 あさひ姉ちゃんは、それでも背中の手を離さない。

 真夫は慌てて、あさひ姉ちゃんの腰を支えた。

 あさひ姉ちゃんが咥えていたスカートの縁を離したので、ぱらりと股間が隠れた。

 

「はあ、はあ、はあ……あ、ありがとう……。き、気持ちよかった……。や、やっぱり……、ま、真夫ちゃんの指はすごい……。すごいよ……」

 

 真夫の手にもたれながら、あさひ姉ちゃんがうっとりとした口調で言った。

 

「あさひ姉ちゃんが……、いや、恵がとってもいやらしいから、俺も興奮しちゃった……」

 

 真夫は、あさひ姉ちゃんから手を離すと、ズボンのチャックをさげて、すっかりと勃起している怒張を外に出した。

 それに視線をやったあさひ姉ちゃんがごくりと唾を飲んだ。

 

「……舐めて……。いや、舐めろ、恵。さっき、おしっこしたばかりだからな。汚いぞ。恥垢だって溜まっている。きれいにしろ」

 

 真夫はわざと言った。

 

「き、汚くなんてない……。真夫ちゃんのだもの……。あたしが……恵がきれいにするね……。きれいにしたい……」

 

 あさひ姉ちゃんがその場に跪く。

 相変わらず、両手を背中で組んだまま、あさひ姉ちゃんは、真夫の怒張を口に含んだ。

 

「んふうっ」

 

 小さな口を限界まで開けて、真夫の一物を受け入れたあさひ姉ちゃんは、すぐに大きな鼻息をした。

 あさひ姉ちゃんは、真夫の股間を舐めさせられて、すっかりと欲情しているようだ。

 あさひ姉ちゃんの身体が甘く痺れたようになっているのが、真夫にはわかった。

 

 真夫の一物に触れているあさひ姉ちゃんの舌が口の中で上下左右に動き出す。

 

 そういえば、あさひ姉ちゃんと暮らした施設での最後の一箇月間、真夫は、あさひ姉ちゃんとあらゆることをやった。

 フェラチオだって、そのとき初めてしてもらった。

 そのあと、ほかの女の子を抱く機会が多かったので、何人もの女の子から口で奉仕をしてもらったことがある。

 あさひ姉ちゃんのテクニックは、その子たちと比べて、けして上手とはいえなかったが、真夫は誰よりも、あさひ姉ちゃんに口で奉仕してもらうのが気持ちよかった。

 

 いまもそうだ。

 

 あっという間に快感が高まってくる。

 真夫の興奮が伝わったのが、あさひ姉ちゃんも自制できなくなったかのように、激しく真夫の一物をしゃぶり始めた。

 

 あさひ姉ちゃんが一心不乱に口の奉仕を続ける。

 

 先端の亀裂に唾液をからめて舌ですくい取る。

 そして、いったん口を離して舌を巻きつかせる。

 さらに睾丸を含むように一個ずつしゃぶる。

 また、怒張を吸う。

 全部、気持ちいい……。

 

「……ま、真夫ちゃん……気持ちいい……? なんでも言ってね。真夫ちゃんにならどんなことでもするよ……。どんな風にしたら気持ちよくなるか、恵に教えて……」

 

 あさひ姉ちゃんが一度口を離してそう言った。

 そして、再びしゃぶり始める。

 

「一生懸命にしてくれる恵が好きだよ。初めて会ったときから……。七歳のとき、初めてあさひ姉ちゃんを見たときから、ずっと、あさひ姉ちゃんが好きだった。優しいあさひ姉ちゃん……。エッチなあさひ姉ちゃん……。すごく好きだよ」

 

 真夫は言った。

 心からの想いだ。

 すると、真夫のあさひ姉ちゃんの身体が不意にぶるぶると震えた。

 視線をやると、あさひ姉ちゃんの眼に薄っすらと涙がにじんでいる。

 ちょっと驚いた。

 

 そのとき、なにかの気配を感じた。

 真夫は慌てて、あさひ姉ちゃんの口から男根を抜いて、ズボンにしまった。

 

「手を離していいよ、あさひ姉ちゃん。立って……」

 

 真夫が小声でささやいた。

 それでわかったようだ。

 あさひ姉ちゃんは、さっと立ちあがると、服を整えてながら、口の周りを手で拭いて、髪を直した。

 横に置いたままだったそれぞれの荷を持つ。

 

 その瞬間に路地から犬を散歩させているおじいさんが曲がってきた。

 

「こ、こんばんわ」

 

 あさひ姉ちゃんは何気ない様子を装って、その老人に挨拶をした。

 どうやら、知り合いのようだ。

 

「ああ、こんばんわ、恵ちゃん。そちらは……?」

 

 犬を連れた老人が胡散臭そうな視線を真夫に向けた。

 

「弟です」

 

 あさひ姉ちゃんは元気に言った。

 

「弟?」

 

 老人が怪訝そうな声を発した。

 

「弟のようなものです。同じ施設の子なんです。偶然に電車で会って……。あたしたち施設の子は、みんな、こうやって頼り合って生きているんです。ほかに身寄りもありませんから」

 

 あさひ姉ちゃんがそういうと、合点がいったというように、老人の顔が二、三度大きく頷いた。

 どうやら、あさひ姉ちゃんが施設の出身で孤児だということを知っているようだ。

 それで弟と紹介されたとき、不審そうな表情になったのだろう。

 

「そうか……。君も……。つらいこともあると思うけど頑張るんだよ」

 

 老人が真夫に話しかけてきた。

 

「はい」

 

 真夫は老人の言葉に耳を傾けるふりをしながら、老人に気づかれないように、あさひ姉ちゃんのスカートの後ろから指を入れて、お尻の亀裂にすっと指を動かした。

 

「ひっ」

 

 あさひ姉ちゃんが小さな悲鳴をあげた。

 老人があさひ姉ちゃんに目をやった。

 

「あっ、な、なんでも……」

 

 あさひ姉ちゃんが慌てて、老人に向かって首を横に振った。

 その顔が真っ赤になっているのが、横からでもわかる。

 そのあいだも、真夫の指はスカートの中のあさひ姉ちゃんのお尻の穴を触っている。

 

「……まあ、とにかく、困ったことがあれば、なんでも言っておくれ」

 

 老人はそう言って立ち去っていった。

 真夫はやっとあさひ姉ちゃんのスカートから手を出した。

 

「も、もうっ──。き、近所の人なのよ。変なことをしているのがばれたら、ここに住めなくなるわ」

 

 あさひ姉ちゃんが言った。

 ただ、口調は怒っているようだが、顔は笑っている。

 

「で、でも、感じているんでしょう、あさひ姉ちゃん。ここまで、あさひ姉ちゃんの淫らな香りがするよ」

 

「ば、ばか」

 

 あさひ姉ちゃんは真っ赤な顔のまま笑った。

 

 それからしばらく歩いて、あさひ姉ちゃんの住んでいるアパートに着いた。

 歩きながら、真夫は時折スカートの中に手を入れたり、服の上から胸を揉んだりした。

 あさひ姉ちゃんは恥ずかしそうに身体をくねらせるが抵抗はしなかった。

 アパートに着く頃には、あさひ姉ちゃんがすっかりと淫情に染まっているのがわかった。

 

 アパートは二階建ての木製のアパートだった。

 確かに小さくて古そうな建物だ。

 あさひ姉ちゃんの部屋は、一番道路に面している一階だった。

 小銭入れから出した鍵で扉をあげたあさひ姉ちゃんは、真夫を中に導くと、扉を閉めて鍵をした。

 

 玄関に入って、すぐに小さな台所があり、奥に和室がひとつあるだけの部屋だ。

 部屋の中はきれいに片付いていて、きちんと掃除もしてあった。

 さすがは、あさひ姉ちゃんだと思った。

 

「座ってて。お弁当を温めるから」

 

 靴を脱いで部屋にあがると、あさひ姉ちゃんは荷物をそのまま台所に置いて言った。

 部屋には、意外にも物が揃っていた。

 台所側には小さいが冷蔵庫もあり、その横には電子レンジもある。部屋にはテレビや机まであった。

 

「ふふ……。全部、貰い物よ。大学では可哀想な孤児のアピールを精一杯してるのよ。そしたら、いらないからって、こんなに集まっちゃった」

 

 台所であさひ姉ちゃんが笑った。

 真夫は自分の鞄を部屋の隅に置くと、すぐにあさひ姉ちゃんの後ろに近づいた。

 そして、背中側からスカートの横に手をやって、フックを外して、その場に落とす。

 あさひ姉ちゃんの真っ白いお尻が露わになる。

 

「ま、真夫ちゃん?」

 

 当惑したような、それでいて、誘うような表情であさひ姉ちゃんが振り返る。

 真夫は、そのまま台所の床に下半身だけが素裸のあさひ姉ちゃんを押し倒した。

 

「あ、明るいよ、真夫ちゃん……。で、電気を……」

 

「駄目だ、恵……。俺は明るいまま、恵を犯したい。脚を開け。命令だ」

 

 真夫は言った。

 “恵”と呼ぶと、あさひ姉ちゃんは、まるでスイッチが入ったかのように、くなくなと脱力してしまった。

 そして、膝を立てた下肢をわずかに開く。

 

「もっとだよ、恵。限界まで開くんだ」

 

「ああっ」

 

 あさひ姉ちゃんは仰向けに寝そべったまま、ほとんど水平に近いくらいまで股を開いた。その股間は、夜道での痴態の余韻を引き継ぐかのように、まだたっぷりと濡れていた。

 

「腕を背中に回すんだよ、恵……。また、見えない縄だ」

 

 真央の言葉で、すぐにあさひ姉ちゃんが両手を背中に回して、ウエストの後ろに置く。

 あさひ姉ちゃんの股間は、ただそれだけで、さらに蜜を溢れさせてきた。

 さすがにマゾのあさひ姉ちゃんだ。

 もうすっかりとうっとりとした顔をしている。

 

 真夫は、ズボンと下着をその場で脱いだ。

 そして、猛り切った怒張をあさひ姉ちゃんの股間に近づけていく。

 

「お、お願いよ、真夫ちゃん……。こ、ここ、壁が薄いの……。く、口になにかを咥えさせて」

 

 あさひ姉ちゃんが焦ったように言った。

 真夫は、道端で脱がせたあさひ姉ちゃんの下着がズボンのポケットに入れっぱなしだったことを思い出した。

 脱いだズボンに手を伸ばして、あさひ姉ちゃんの下着を取る。

 それをあさひ姉ちゃんの口に押し込んだ。

 自分の下着を口に入れられるというのは、レイプっぽくて、あさひ姉ちゃんも好きなはずだ。

 

「んふうっ」

 

 あさひ姉ちゃんが酔ったような表情で鼻で息をする。

 真夫はあさひ姉ちゃんの身体に膝立ちで覆いかぶさった。

 シャツをまくって、ブラジャーを上にあげて乳房を出す。

 そして、その乳房を掴んで、裾から舌を這わせる。

 

「んっ」

 

 あさひ姉ちゃんが身体を淫らに悶えさせる。

 すぐに股間に怒張を押し込みたいのを我慢して、あさひ姉ちゃんの乳房を揉みながら舌を動かし続けた。

 

「んふう、ふうっ、んんんっ」

 

 あさひ姉ちゃんの身体の乱れが大きくなる。

 真夫は汗ばんできたあさひ姉ちゃんの乳房を揉みながら、わき腹から腰の括れにかけて舌を這わせた。

 

「んんっ、んんっ、んんっ」

 

 台所の床を背にしたあさひ姉ちゃんの身体が、可哀想なくらいにおののく。

 真夫は、大きく開いたあさひ姉ちゃんの股間に舌を移動させた。

 

「んふううううっ」

 

 真夫があさひ姉ちゃんのクリトリスを口に含んでぺろぺろと舌先で跳ねるようにしてやると、あさひ姉ちゃんは悲鳴のような声をあげて、身体を弓なりにした。

 真夫の顔の前で、まとまった蜜がねっとりと亀裂からにじみ出たのがはっきりとわかった。

 真夫は顔をあさひ姉ちゃんの股間から離した。

 

「いくよ」

 

 真夫は亀頭の先端をあさひ姉ちゃんの股間に押し当てると、そのまま一気に突き立てた。

 

「ふううっ」

 

 声を出すと聞こえると自分で言ったくせに、あさひ姉ちゃんの声はかなり大きかった。

 あさひ姉ちゃんが、しなやかな上肢をぴんと反らせて、小さく震える。

 少しきついが、たっぷりと濡れた襞が真夫の怒張全体に気持ちよくまとわりつく。

 真夫はさらに深く亀頭を潜り込ませた。

 最奥に到達したとき、あさひ姉ちゃんの身体はなにかに耐えるようにびくびくと大きく震えた。

 

「んんっ、んんっ、んんっ」

 

 律動を開始した。

 さらにあさひ姉ちゃんの乱れが大きくなる。

 二度、三度と抽送を繰り返すと、早くもあさひ姉ちゃんの身体は絶頂の兆しを示し始めてきた。

 

「はあうっ、はあっ、んぐうううっ」

 

 突然にあさひ姉ちゃんが歯を食い縛りながら、身体を大きく反り返らせた。

 

「んんっ、んふううっ」

 

 耐えきれずに、軽く達したようだ。

 真夫もまた、もう自制する余裕はない。

 さらに律動を激しくしながら、両手で乳房をもう一度揉みあげる。 

 そして、あさひ姉ちゃんの唇に口を近づける。

 あさひ姉ちゃんが舌で下着を押し出し、真夫の口にむさぼりついてきた。

 唾液と唾液、お互いの口の中に残っていた精液と愛液が、それぞれの口の中で混じり合う。

 

「ああ、真夫ちゃん──」

 

 あさひ姉ちゃんが顔を横に逸らせて叫んだ。

 白い裸身が、またもやがくがくと弾ける。

 真夫は再びあさひ姉ちゃんの口の中に舌を差し入れると、昂ぶる欲情の印をあさひ姉ちゃんの子宮めがけて迸らせた。

 

「ふううっ」

 

 唇を重ね合わせたまま悲鳴をあげたあさひ姉ちゃんは、強い股の力で真夫の怒張を締めあげながら、全身を歓喜にわななかせた。

 絶頂を続けるあさひ姉ちゃんに、真夫は二射、三射と精を注ぎ込む。

 

 やがて、ありったけの精を注ぎ込んだ真夫は、疲労を感じてあさひ姉ちゃんの身体に突っ伏してしまった。

 ただ、あさひ姉ちゃんの股間を貫いている股間は、まだまだ勃起を保ったままだ。

 

「……て、手を離していい、真夫ちゃん……?」

 

 そのとき、身体の下のあさひ姉ちゃんが控えめな口調で言った。

 

「うん」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんの胸に顔を置いたまま、こくりと頷いた。

 すると、あさひ姉ちゃんが真夫の身体をすっと抱き締めてきた。

 

「素敵なエッチをありがとう……。とっても気持ちよかった……。やっぱり、真夫ちゃんのエッチはすごい……。本当に、何度もありがとうって言いたくなる……」

 

 あさひ姉ちゃんが言った。

 

「俺も気持ちよかった……。でも、まだまだだよ。俺が一回くらいで終わらないのは知っているでしょう」

 

 真夫は言った。

 すると、あさひ姉ちゃんが「ばかね」と小さく言って微笑んだ。

 

 そのとき、電話の音がした。

 あさひ姉ちゃんの鞄からだ。

 真夫は、手を伸ばして鞄からあさひ姉ちゃんの携帯電話を取り出すと、あさひ姉ちゃんに渡した。

 

「このまま?」

 

 あさひ姉ちゃんが苦笑している。

 しかし、そのまま電話に出た。

 

「はい」

 

 あさひ姉ちゃんが話し出した。

 真夫は、その時を狙って、わざとゆっくりと律動を再開した。

 

「ひんっ……。あっ、い、いえっ、な、なんでもないです。えっ、は、はい……? ええっ? ううっ……」

 

 あさひ姉ちゃんの声が、必死だが、とても狼狽した口調に変化した。



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 第5話   ひとり遊びのねた

「あっ……は、はい……。わ、わかり……ました……。で、では……あ、明日……」

 

 震えるような声と息を洩らしながら、あさひ姉ちゃんが携帯を切った。

 そして、すぐに携帯電話を床に放り捨てる。

 

 あさひ姉ちゃんがかかってきた携帯電話で話をしているあいだ、真夫はずっと怒張をあさひ姉ちゃんの股間に挿入して、ゆっくりとした律動を続けていたし、時折は乳首や首筋に舌を這い回らせたりして、会話の邪魔をしていた。

 あさひ姉ちゃんは、必死になって快感を噛み殺して、平静を装って電話を続けた。

 その一生懸命さが可愛くて、真夫はついつい意地悪を続けてしまったのだ。

 

「ひ、ひどいわよ、真夫ちゃん」

 

 あさひ姉ちゃんが顔を真っ赤にして覆い被さっている真夫の背中を両方の拳でぽかぽかと叩いてきた。

 だが、それが本気でないことはわかる。

 あさひ姉ちゃんの顔は、すっかりと妖しい淫情の色に染まっていた。

 

「でも、興奮したでしょう? あさひ姉ちゃんがだんだんと欲情していくのが、はっきりとわかったよ」

 

「もう、ばか──」

 

 あさひ姉ちゃんは拗ねたような表情になった。

 真夫は、貫いたままだった男根をあさひ姉ちゃんの股間から抜いた。

 抜かれるときに、あさひ姉ちゃんは、艶めかしい声をあげた。また、真夫自身が呆れるくらいの量の精が流れこぼれた。

 

 随分、出したな。

 まあ、溜まっていたし、相手は大好きなあさひ姉ちゃんだし……。

 

 とりあえず、一度あさひ姉ちゃんの上半身を抱き起して、脱げかけている上衣やブラジャーを全部脱がせた。

 真夫自身も素裸になる。

 

「布団を敷くね、あさひ姉ちゃん。ご飯は、もう少し落ち着いてからにしようよ」

 

 真夫は言った。

 

「真夫ちゃんは、まだ、落ち着かないのね」

 

 あさひ姉ちゃんが股間で勃起を保っている真夫の股間を眺めて、赤い顔で笑った。

 その表情がなんともいえず可愛い。

 もう二十一歳のあさひ姉ちゃんを可愛いと思うなど、変かもしれないけど、こうしていると、最初は大人と感じていたあさひ姉ちゃんが、歳下の女の子ようにしか思えなくなってきたから不思議だ。

 自分が敷くというあさひ姉ちゃんを留めて、真夫は和室に入り、押し入れを開けた。

 あさひ姉ちゃんは、まだ身体が気だるそうだ。

 

 押し入れの下半分には衣装ケースと小さな本棚があって、上半分に一組の布団がある。きちんとした性格のあさひ姉ちゃんらしく、押し入れの中もちゃんと片付いていた。

 真夫は、小さなテーブルを部屋の隅に寄せて、とりあえず敷き布団だけを敷いた。

 そのとき、下の段の押し入れの奥の隅に、小さな段ボール箱があることに気がついた。

 段ボール箱といっても、側面には花柄の紙が貼ってあり、上の部分を切り取って、別の段ボール細工で蓋が作ってある。

 

 なんとなく、なにかを隠している予感がした。

 あさひ姉ちゃんには悪いが、真夫はそれをさっと外に出して、蓋を開けた。

 

「あっ、そ、それ、だめえっ」

 

 あさひ姉ちゃんが奇声をあげて、素っ裸で台所から飛んで来た。

 しかし、もう遅い。

 真夫は、開いて中身を見てしまった。

 

「ああ、恥ずかしい。だめえっ」

 

 あさひ姉ちゃんが箱の蓋を閉めようとしたのを真夫は笑いながら制した。

 

 中身は、たくさんのエッチグッズだった。

 真っ赤な色をした首輪や手錠──。

 SM用の縄束──。

 きちんと容器に入っているローターまである。しかも、リモコンで操作できるものだ。

 さらに、縄束や枷で拘束された女性が載っているSM写真集もある。

 

「あさひ姉ちゃんのひとりエッチのグッズだね」

 

「ううう……。恥ずかしい……。誰にも言わないでね……」

 

 あさひ姉ちゃんは、両手で胸と股間を隠しながら全身を真っ赤にしている。

 

「確かにね。でも、ローターは開いた形跡もないみたいだね。ロープも封がついたままだ」

 

「怖くて使えないよ。ただ想像するだけなの……。ねっ、内緒にしてね」

 

 あさひ姉ちゃんは必死の口調で言った。

 かなり焦っている感じであり、本当に面白い。

 

「さあ、どうしようかなあ……。へえ、あさひ姉ちゃんって、こんなの持ってんだ。どこで買うの?」

 

 真夫は首輪を取り出しながらからかった。

 

「通信販売よ──。ねえ、お願いだから、誰にも言わないでね、真夫ちゃん」

 

 あさひ姉ちゃんが泣きそうな顔になった。

 真夫は、持っていた首輪をすっと、あさひ姉ちゃんの首に近づけた。

 あさひ姉ちゃんがびくりと身体を震わせた。

 

「いいよ。俺とあさひ姉ちゃんの秘密にしよう……。その代わり、この首輪を嵌めてくれたらね」

 

 真夫は言った。

 あさひ姉ちゃんがちょっと驚いたような表情になり、すぐに、ふっと口元が緩んだ。

 そして、ちょっとはにかんだようなあさひ姉ちゃんが、目を細めてぺろりと唇を舐める。

 

「い、いいわよ……。も、もちろん……」

 

 あさひ姉ちゃんの髪は肩に触れるか触れないかくらいの長さだ。あさひ姉ちゃんは、両手で髪を上にあげるみたいにした。

 真夫は、赤い首輪をあさひ姉ちゃんの首に嵌める。

 そのとき、首輪の後ろの留め具のような金具が装着していることに気がついた。

 

 なるほど……。

 

 真夫はさらに箱の中から革枷の手錠を取り出した。

 これも赤い色の革だ。首輪と対になっているものだとわかる。

 

 つまり……。

 

「あさひ姉ちゃんは、この手錠と首輪で拘束されることを想像して、エッチな気分になっていたんでしょう? 正直に言ってよ」

 

「うう……。そ、その通りよ……。も、もう苛めないで。死ぬほど恥ずかしい……」

 

 首輪を嵌めたあさひ姉ちゃんが両手で顔を覆った。

 真夫はその手首を握って、自分の方に引き寄せる。

 

「えっ?」

 

 あさひ姉ちゃんが声をあげた。

 真夫が手錠をあさひ姉ちゃんの両手首にがちゃりと嵌めたからだ。

 そして、鍵は箱に戻す。

 これであさひ姉ちゃんは、真夫が鍵で外すまで手錠を取ることができない。

 さらに真夫は、あさひ姉ちゃんの両手を頭の後ろに曲げさせて、手錠の鎖を首輪の後ろの金具に嵌めた。

 これは、本来こうやって使うものなのだろう。

 あさひ姉ちゃんは、両手を頭の後ろに置いたまま動かせなくなった。

 

「明日の朝になったら外してあげるね、あさひ姉ちゃん。それまで、おしっこも、食事も全部そのままでするんだよ。あとでお風呂にも入ろうね。あさひ姉ちゃんの身体は、俺が隅々まで洗ってあげるからね」

 

「そ、そんなあ、困るわ」

 

 あさひ姉ちゃんは驚いたような声をあげた。

 

「だめ、だめ、これはエッチなあさひ姉ちゃんの罰だよ。それに、こんな風に拘束されることを想像して、エッチな気分になっていたんでしょう?」

 

 真夫は敷いてある布団の上にあさひ姉ちゃんを押し倒した。

 そして、両手を塞がれているあさひ姉ちゃんの股間の亀裂にすっと指をあてて動かす。

 

「んふうっ、ああっ」

 

 あさひ姉ちゃんは、それだけでびくりと身体を跳ねあげた。

 さらに乳房を吸いながら、黒い恥毛をくつろぐように上下に優しく動かす。

 

「あうううっ」

 

 あさひ姉ちゃんの脚ががくがくと震えて、力がくたくたと緩んだみたいになった。

 真夫はあさひ姉ちゃんが気持ちよくなる場所を探って、股間をまさぐった。

 でも、あさひ姉ちゃんは、真夫にどんな風に触られても、気持ちがいいようだ。探す必要などなさそうだ。

 

「だ、だめえっ、こ、こんなの感じすぎる。また、口になにか押し込んで。ねっ、お願い。押し入れの一番下の引き出しにタオルが入っているから」

 

 あさひ姉ちゃんが必死の口調で言った。

 

「駄目だよ。恥ずかしい声を響かせたくなかったら、我慢してね」

 

 真夫は構わず、舌を乳房から脇の下に動かしながら、一本の指であさひ姉ちゃんの膣を掻きまわしてやる。

 あさひ姉ちゃんの秘肉の奥は、おびただしい量の蜜で溢れていて、しかも内側の粘膜が指に絡むように吸い付いてくる。

 

「んふうっ、ふうっ、あっ、ああっ」

 

 指を深く、浅く、抽送する。

 

 あさひ姉ちゃんは、懸命に歯を食い縛ろうとしているようだけど、どうしても我慢できないらしく、いやらしい声がだんだんと大きくなっていく。

 

 もう、どこをどうすれば、あさひ姉ちゃんが感じるのかを思い出してきた。

 真夫は、指を二本に増やして、あさひ姉ちゃんの感じる膣の奥の場所を強く弱く刺激した。

 

「はあああっ」

 

 いきなり、あさひ姉ちゃんが悲鳴のような声をあげた。

 さすがに慌てて真夫は口を塞いだ。

 あさひ姉ちゃんは、理性を失ったように、激しく腰を動かし始める。

 

 絶頂はもうすぐのようだ。

 真夫は、指の動きをさらに加速させた。

 あさひ姉ちゃんの身体の悶えが激しくなる。

 

「んふううっ」

 

 手で押さえている口から大きな声が迸り、あさひ姉ちゃんの身体が弓なりになった。

 だが、真夫は指の動きを不意に緩やかにした。

 すると、あさひ姉ちゃんが物欲しそうに腰を振り立てた。

 

 しかし、無視する。

 

 そして、たっぷりと時間を開けてから、改めて激しく指を動かした。

 でも、また達しそうになるのを見計らって、刺激をやめてしまう。

 あさひ姉ちゃんは、緩急のたびにもどかしそうに身体を悶えさせ、ときには、焦れったそうに鼻にかかった息をあげる。

 

 同じことを五回繰り返した。

 

「ま、真夫ちゃん、意地悪しないで。お願いよっ」

 

 あさひ姉ちゃんは、切羽詰まったように叫んだ。

 

「俺の雌犬になると誓えば、本物をあげるよ、恵」

 

 わざと言った。

 

「ああっ、なる。なります。真夫ちゃんの雌犬に。ああ、う、嬉しい……」

 

 すると、あさひ姉ちゃんが感極まったように声をあげ、そして、まるで気をやったようにぶるぶると震えた。

 ちょっと驚いた。

 

「脚を開いて、恵……」

 

 真夫は言った。

 あさひ姉ちゃんが素直に大きく脚を開く。

 真夫はそそり立っている怒張をあさひ姉ちゃんの中に貫かせていった。

 

「んあああっ」

 

 あさひ姉ちゃんが激しく腰を突きあげた。

 首輪と手錠で拘束された状態で犯されることで、あさひ姉ちゃんはすごく欲情しているようだ。

 細く高い声を出して、身体全体で愉悦を表現しながら、まずます色っぽく身体をくねらせる。

 

 だが、真夫はさっきの指で焦らしたときのあさひ姉ちゃんの狂乱したような仕草がもう一度見たくて堪らなかった。

 幸いにも、さっき一度出したから、真夫はかなり自制ができる状態だ。

 それに比べて、あさひ姉ちゃんがすっかりと追い詰められているのは明らかだ。

 

 真夫はさっきと同じことを続けた。

 怒張で激しく突きあげながら、あさひ姉ちゃんが絶頂しそうなところで、律動を中断して少し落ち着くのを待つのだ。

 

 実際にやった。

 いきそうになってはやめ、やめては突くということを繰り返した。

 五回を超えたところで、あさひ姉ちゃんは泣きじゃくりだした。

 

 十回になると、あさひ姉ちゃんはがくがくという身体を震えがとまらなくなり、しゃくりあげるような嗚咽とすすり泣きを繰り返すようになった。

 股間はまるでおしっこでも洩らしたように蜜が垂れ続ける。

 

「真夫ちゃん、もう、お願い」

 

 十五回目であさひ姉ちゃんが泣きながら言った。

 もう、あさひ姉ちゃんの身体は汗びっしょりで、眼は朦朧としている。

 真夫は、律動を激しくした。

 あさひ姉ちゃんの裸身が跳ねあがる。

 

「んふうう、あああっ」

 

 そして、あさひ姉ちゃんは、もう声を抑えることを忘れて、吠えるような声をあげながら絶頂した。

 

 真夫は、今度は逆に、あさひ姉ちゃんに休む間を与えないように、股間を突き続けた。

 限界を超えた焦らしで、あさひ姉ちゃんは膨れあがった快感の袋のような状態になっていたようだ。達したばかりだというのに、それに重なるようにすぐに絶頂の反応を示した。

 

 そして、二度目の絶頂……。

 

 間髪入れずに、三度目──。

 

「も、もう、無理いいっ」

 

 あさひ姉ちゃんが悲鳴をあげた。

 

「お、俺も……」

 

 真夫もこれ以上は自制は無理だった。

 全身を限界まで弓なりにして、がくがくと身体を震わせるあさひ姉ちゃんに、真夫はありったけの精を注ぎ込んだ。

 

「ああ……、ま、真夫ちゃん……」

 

 精を注ぎ込んでいる途中で、急にあさひ姉ちゃんが脱力したのを感じた。

 ふと見ると、眼が閉じられて完全にぐったりしている。

 どうやら、軽い気絶状態になったみたいだ。

 

「あ、あさひ姉ちゃん?」

 

 びっくりして、あさひ姉ちゃんから怒張を抜いた。

 とりあえず満足した真夫の男根は、やっと落ち着きを取り戻したところだ。

 

「あさひ姉ちゃん、ご、ごめん……。大丈夫?」

 

 施設にいた頃には、あさひ姉ちゃんだけでなく、同じ施設の女の子をたくさん抱いたけど、エッチの最中に気を失われることは初めてだ。

 ちょっと驚いてしまった。

 

 だが、あさひ姉ちゃんは、すぐに眼を開けた。

 真夫はほっとした。

 

「……はあ、はあ、はあ……。も、もう、動けない……はあ、はあ、はあ、ちょっと……休ませて……。だ、だめ、あたし、真夫ちゃんだと……か、感じすぎちゃう……」

 

 あさひ姉ちゃんが荒い息をしながら、うっとりとした視線で真夫を見上げた。

 その色っぽさに、真夫はどきりとした。

 

「か、身体を洗おう、あさひ姉ちゃん……。お風呂沸かしてくるね」

 

 真夫は立ちあがった。

 

「あっ、あたし、入れるわ……。こ、これ、外して、真夫ちゃん……。また、嵌めてもいいから」

 

 あさひ姉ちゃんが身体を起こした。

 だけど、あさひ姉ちゃんの両手は、手枷で首輪の後ろに固定されたままだ。

 

「駄目だよ、あさひ姉ちゃん、明日の朝までそのままと言ったでしょう。待ってて」

 

「そ、そんなあ、うう……」

 

 あさひ姉ちゃんが裸身を恥ずかしそうにくねらせる。

 真夫は笑いながら立ちあがった。

 そのとき真夫は、あさひ姉ちゃんが首輪や手錠をしまっていた箱の中に入れてあるSM写真集のあいだから、紙片が挟まれて出ていることに気がついた。

 小さな写真にも見える。

 

「なあに、これ?」

 

 真夫はもう一度腰をおろして、箱から今度は写真集を出した。

 

「ひいっ、そ、それは、やめてっ。み、見ないで」

 

 あさひ姉ちゃんが絶叫した。

 見るなと言われれば、余計に見たくなる。

 真夫は、写真集を開いた。

 

「ああ……開けちゃった……。ご、ごめんなさい、真夫ちゃん。ごめんなさい……。ごめん……」

 

 あさひ姉ちゃんが泣くような声で謝りだす。

 その理由はすぐにわかった。

 そして、驚いた。

 

 SM写真集に紙片が挟まれているように見えたのは、あさひ姉ちゃんが写真集に張っていた小さな顔写真が剥がれて、写真集に挟まれたようになっていたのだ。

 顔写真は、施設にいた頃の真夫の顔だった。

 しかも、そのページに限らず、写真集に映っている責め側の男の顔の全部に、それをコピーした真夫の顔写真が貼ってあった。

 

 これはあさひ姉ちゃんがエッチな気分になったときに使うものだと思うが、つまり、あさひ姉ちゃんは、これを真夫の顔を貼って使ってくれていたのだ。

 

 あさひ姉ちゃんが、真夫に責められることを想像して、ひとりエッチをしてくれていたのかと思うと、真夫は有頂天になった。

 自分の恥部をあっさりと真夫に見つかってしまったあさひ姉ちゃんは、完全に意気消沈している。

 

「謝ることないよ、あさひ姉ちゃん……。そして、ありがとう。俺も本当のこと言うね。この二年間、寮でひとりエッチするときは、いつもあさひ姉ちゃんと愛し合ったときのことを想像していたよ。本当だよ」

 

「うう……ありがとう、真夫ちゃん。嘘でも嬉しい……」

 

 あさひ姉ちゃんは言った。

 

「嘘じゃないよ」

 

 真夫はにっこりとあさひ姉ちゃんに微笑んだ。

 あさひ姉ちゃんは、ちょっとだけほっとした顔になった。

 

 真夫は両手を頭の後ろで拘束されているあさひ姉ちゃんを引き寄せると、あさひ姉ちゃんの唇に口を重ねた。

 すると、あさひ姉ちゃんの舌がすぐに真夫の口の中に入って来て、むさぼるように舌を吸い始めた。



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 第6話   少年に関する調査報告

「さすがに、君だな、玲子(れいこ)。一週間でよくこれだけの調査ができたものだ。ありがとう」

 

 工藤玲子は、報告書を読み終えた「魔王」が満足気に微笑んだを確認して、安堵の気持ちが全身に拡がるのを感じた。

 

 「主」に仕事を評価してもらえた。

 その悦びは、性感の刺激によるエクスタシーにも似ている。

 

 無論、セックスにより得られる絶頂ほどの衝撃はないが、それでも褒められるだけで、軽い酔いのようなものは感じる。

 玲子は、スーツのミニスカートの内側に嵌められている革の下着に包まれた股間からじわりと樹液が滲むのがわかった。

 

「恐れ入ります」

 

 玲子は頭をさげた。

 聖マグダレナ学園の理事長室である。

 

 玲子は学園の顧問弁護士という肩書であり、いまここで、「魔王」こと、学園の理事長に対して、一週間前に命じられた「ある調査」について報告をしているところだ。

 時刻は、すでに夜の十時を過ぎている。

 

 寄宿舎制のこの学園では、夜でも人がいなくなるということはないが、さすがにこの時間はほとんどが寄宿舎側にいて、こっちの校舎側にはいない。

 それに、今日は金曜日であり、職員も生徒も学園を離れている者が多い。

 おそらく、いま校舎に残っているのは、理事長と玲子のふたりきりだろう。

 

「う、うあっ」

 

 次の瞬間、玲子は股間を両手で押さえて、がくりと膝を折りかけた。

 玲子のクリトリスには、超精密機器を埋め込んだ特殊なリングが根元に食い込まされている。

 玲子に対する「調教」の一環なのだが、それは「理事長」の手元にある機器で自在に振動をさせることができる。

 

 それがいきなり強い振動で動き出したのだ。

 ふと見ると、操作具を理事長が握っている。

 玲子の股間の「クリリング」を理事長が作動させたようだ。

 

「あはあ、あっ、はあっ」

 

 玲子は声をあげて、太腿をすり寄せたまま、手を股間にあてがうようにしゃがみ込みそうになった。

 だが、それは禁止されていた。

 もしも、勝手に座り込めば、破廉恥な罰が待っているだろう。

 これまでの「調教」で受けた数々の仕打ちを思い出して、玲子は歯を喰い縛って耐えようとした。

 

 満員電車の中……。

 大勢の人間が歩いている白昼の歩行者天国の真ん中……。

 あるいは、打ち合わせの最中……。

 衆人の視線のある場所で、何度も気をやらされる屈辱と羞恥は、いくらやらされても慣れるということはない。

 

 玲子は懸命に脚を踏ん張った。 

 この男に捕らわれてから、ありとあらゆる「調教」を受けたが、このリングの調教が玲子の最後の抵抗心を砕いたと言っていい。

 

 このリングは、手術により皮膚の内側に埋め込まれて一体化され、外れないようにされているだけでなく、特殊な周波数帯の電波を使用することにより、玲子がどこで、なにをしていようとも、この男の好きなときに、好きなように振動を与えることができるのだ。

 電流さえも、遠隔操作で流せる。

 これで四六時中、苛まれることによって、玲子は完全にこの男の与える肉欲の調教に屈した。

 

 いまは、逆らう気にもなれない。

 

 司法試験に大学の在学中に合格したほどの若い優秀な女弁護士の玲子だったが、もはや、すっかりと「洗脳」されて、目の前の男の奴隷だ。

 高い自尊心も有能な弁護士としての誇りも完全に砕かれた。

 いまの玲子は、この男に与えられる調教に悦びを覚える破廉恥な雌犬でしかない。

 

「いい仕事をしてくれたご褒美だ。気をやらせてやる。ただし、学園の顧問弁護士らしく、身体を真っ直ぐにしろ。行儀よく直立不動のまま達してみせろ」

 

 理事長が笑った。

 

「は、はいっ……あっ……ああっ……あっ、あううっ……」

 

 玲子は身体を起こそうとした。

 しかし、脳天まで突き抜ける衝撃に、なかなか腰を真っ直ぐにできない。

 

「だ、だめええっ」

 

 そして、激しい衝撃が襲い、玲子は耐えられずに、ついに膝を落としてしまった。

 慌てて立とうとするが、脚にまったく力が入らない。

 目の前の机の向こう側の理事長が、にやにやといやらしく笑っているのがわかる。

 

 だが、我慢できない。

 

「あはああっ」

 

 玲子は跪いたまま、身体を弓なりにして、ぶるぶると身体を震わせた。

 革の下着に包まれた股間からどっと潮が吹き出るのがわかる。

 ふと見ると、密着した革の下着でも阻めなかった蜜液がスーツの股間に大きな染みを作っている。

 

 振動がとまった。

 玲子はがっくりと脱力した。

 

「すっかりと気をやるたびに潮を噴く体質になったな、玲子……。帰りはシャワーを浴びた方がいいだろうね。新しいスーツ代を今回の報酬に足しておくよ」

 

 理事長が笑いながら言った。

 ほっとした。

 許可なく座り込んだことへの「お咎め」は、勘弁してくれるようだ。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 玲子は言った。

 股間に嵌まっている「クリリング」だけでなく、この革の下着も、玲子を管理している「調教手段」のひとつだ。

 

 この革の下着は、縁の部分に金属のワイヤーが組み込んであり、指を差し入れたりすることもできない。

 また、腰の部分の留め具が電子ロックされていて、解除信号を送ってもらわなければ脱げないのだ。

 無論、その解除信号も、理事長が手にしている操作具でしか送れない仕掛けである。

 クリリングと同様にロックも遠隔操作可能だ。

 しかも、この革の下着は外部からの直接の刺激は、ほとんど内部には伝えない材質になっている。

 だから、焦らし責めにも、悶え耐える以外のことはできない。

 つまりは、玲子は、排便も排尿も快感も、すべてを理事長に下半身を完全に支配されてしまっているということだ。

 

 いま、理事長がシャワーを浴びていいと言ったのは、その間、下着を外してもらえるということを意味する。

 だから、お礼を言ったのだ。

 もっとも、それが終われば、再び、玲子の股間は「封印」される。

 

 逃亡の試みは無意味だ。

 下着の封印を免れたところで、玲子の股間には、あの忌々しい「クリリング」がある。

 遠くに逃げても、クリリングを振動させられて、絶頂地獄が待っているに過ぎない。

 

 警察に訴えることもできない。

 なにしろ、この男の持っている影響力と財力は、国家権力くらい簡単に動かせる。

 それは、顧問弁護士である玲子が、誰よりも知っている。

 私立学園の理事長など、途方もない財力を持っているこの男の道楽のようなものだ。

 もっとも、それほどの人物でありながら、この男は絶対に表に出ることはない。注意深く正体を隠して、影の人物であり続けている。

 

 通称、「魔王」──。

 政財界でも、知らぬ者のない存在でありながら、その正体を知っている者はほとんどいない。

 

 玲子は、「魔王」を知る数少ない人間のひとりだ。

 

「すっきりしたところで、報告の続きだ、玲子。つまりは、その真夫という少年は、俺の血が繋がっている可能性が高いということだな?」

 

 理事長が訊ねた。

 玲子は身体の気だるさと、股間の気持ち悪さに耐えて、身体を立ちあがらせる。

 

「ひそかに手に入れた血液の検査分析によれば、理事長と血縁関係にある可能性は九十五パーセントです。限られた調査期間による結果ですので現段階ではと申し上げます……。ただ細部調査をしても、この数値が上がることはあっても、下がることはありません」

 

 玲子は、精一杯の気丈さを装って応じた。

 理事長が嘆息した。

 

「なるほどな。いまとなっては、子を宿しながら、なぜあの女が逃亡してしまったかわからないが、まさか妊娠していたとはなあ……。そうと知っておれば、俺の全能力を費やして探し出したのだがな。あの頃は、逃亡したといっても、大勢の愛人のひとりがしばらく顔を見ないというくらいにし考えなかったしなあ」

 

 理事長が苦笑した。

 いまでこそ、これでも、ある程度の「常識」をもって愛人たちに接しているこの男であるが、かつて、この男の女扱いが相当に惨いものだったというのは耳にしている。

 

 ただ、その女性はそもそも、どうやって、「魔王」の「支配」から逃げることができたのだろう?

 

 謎だ。

 

 考えられるのは?「魔王」から逃亡したという女は、もしかしたら、心を病んでいたのかもしれないということだ。

 だから、「魔王」の「支配」から逃れられた?

 

 彼女が生来の病弱だったということまではわかっている。

 身体の弱い者が心も病みやすいというのはよくある。

 

 いずれにしても、その女性が、どうやって、また、なぜ、この男から逃亡したのかはわからない。

 

 わかっているのは、この男が自分の前から去ったその女を無理に探すことをしなかったということだ。

 

 しかし、その女性は驚いたことに、男の子を宿していた。

 そして、子を産んだ直後に、彼女は突然の心臓麻痺で死んでしまった。

 もともと、身体が弱かったのが、出産でさらに弱くしたのかもしれない。

 

 身元を特定する物を持っていなかった彼女は、身元不明のまま死亡処置され、遺った男の子は孤児として養護施設で育てられた。

 

 男の子の名は、「坂本真夫(まお)」──。

 

 姓名は、養護施設に保護されてから付けられたものだが、「真夫」は、その女性が道端で倒れたとき、「まおうへ」と書きかけたメモを所持していたことによるらしい。

 このメモが、彼女が「魔王」に子の誕生を教えようとしたものであったのか、あるいは、単なる日記のようなものだったのかも、いまとなってはわからない。

 

 とにかく、真夫は、自分の親を知らぬまま十八歳になり、国や自治体の援助金を頼りながら、高校三年生にまでなっていた。

 

 いまは、この学園の理事長である「魔王」もまた、息子の存在は知らなかった。

 

 もしも、本学園の生徒とのトラブルがなければ、目の前の理事長と血が繋がっている少年だということも気づくことなく、ふたりの関係は、人の海の中に埋もれて終わっただろう。

 

 だが、たまたま本校の生徒がひとりの高校生を痴漢の冤罪に陥れたという事件があったことが発覚し、それについてひそかに調査していくうちに、その被害者が理事長の息子かもしれない可能性にぶつかった。

 

 そして、さらに調査をした結果、その可能性がかなり高いことがわかった。

 玲子としては、ほぼ間違いない事実だと思っている。

 

「……俺の血筋は、子を作りにくい体質でな。実際のところ、女を妊娠させる能力はほとんど無いに等しいのだ。代々の父祖が多くの女を愛人にしたのも、それが理由でもある。数多く試さなければ、子を産んでくれる対象を見つけることができないのだ。この俺自身、これだけの女と関わりながら、いまだ子を成すには至っていない……。この真夫という少年を除けばな」

 

 理事長は言った。

 

「お指図のとおりに、真夫様については、現在の高校を退学させられるように工作しました。本日付で暮らしていた寮も退寮になっています」

 

 玲子は言った。

 

「当然だ。俺の息子である可能性のある者があんな二流の学校の生徒であるということなど許されん。この学園で教育を受けさせる。そのように処置せよ、玲子」

 

「かしこまりました……。ところで、もしも、ご子息だと確信に至った場合は、認知なさいますか? つまり、その真夫様に父親の存在を教えるのかどうかということですが……」

 

 玲子は訊ねた。

 すると、理事長は大声で笑った。

 

「俺が父親だと言ったところで、相手は戸惑うだけであろうよ。無論、息子ならば、俺の持っているものはすべてを与えたい。ただ俺の息子に引き継がせるべき遺産は、本来、この血に備わる能力そのものだ。それで、調査書には書かれていなかったが、真夫は“能力”に開眼しているのだろうか? もしも、いまだに“力”が眠ったままであるならば、それを解放してやりたい。それこそが、父としての役目だろう……。それで、どうなのだ?」

 

「まだ、わかりません。ただ、養護施設においては、数多くの女の子が彼と関係を持ったという事実はあります」

 

 玲子の言葉に、理事長は満足気に頷いた。

 

「さもあろう……。女を自然と惹きつける血なのだ。女を支配する力──。それはわが一族に備わる能力のひとつだ。真夫が、本当に俺の血を継ぐ者であるならば、まるで磁石が鉄をひきつけるように、女は自然と真夫に引き寄せられるはずだ……。まあいい。ところで、真夫は、いまはどこにおるのだ? いままでの二流校の寮は追い出されたのであろう。育った養護施設とやらに戻ったのか?」

 

「ところが、今夜は施設には戻らず、ひとりの若い女のアパートに向かったと報告を受けています。朝比奈(あさひな)(めぐみ)という二十一歳のひとり暮らしの女です。いま、真夫様とどういう関係なのか調査をさせています」

 

「どういう女だ?」

 

「調査中です。明日の朝には、まとまった報告ができるものと思います。ただ、ちょっとわけありということまではわかっています。真夫様の養護施設時代の女のひとりのようですが……」

 

「わかった……。それにしても、寮を出て、すぐに女のところに泊まりに行ったか。ますますわが血を受け継ぐ一族に間違いないように思えてきたな」

 

 理事長は嬉しそうに笑った。

 

「明日、真夫様に会います。学園への編入については、そのときに承諾を得るつもりです。先ほど、理事長のご意向は確認いたしましたので、真夫様には、理事長との関係については、一切教えずに処置を進めます」

 

「ああ」

 

 理事長が頷く。

 玲子は頭をさげた。

 退出するためだ。

 とりあえず、当面必要な事項は確認できたと思う。

 とにかく、一刻も早く、このいまいましい革の下着を脱いで身体を洗いたい。

 

 いつもの通りであれば、玲子が学園のシャワー室に着いたところで、下着のロックが解除されると思う。

 この男は、学園内に監視網を張り巡らせているらしく、なぜか、その場にいなくても、学園内の出来事をすべて把握するのだ。

 

「……そういえば、そもそもの原因となった生徒についての処置がまだだったな。真夫を陥れた三人の男子生徒と女子生徒だ。男はともかく、女子生徒はどんな女だ?」

 

 玲子は、理事長を見た。

 「魔王」の鬼畜の血が、その顔に浮かんだ気がする。

 

「容姿は特Aですね。資産家の子女です。名は、白岡かおりといい、あの白岡家のひとり娘です……」

 

 玲子は説明した。

 しかし、理事長には、その女子生徒が、真夫という少年と同学年の三年生であると言及したときに話をとめられてしまった。

 

「わかった。同学年であれば丁度よい。真夫専用の奴婢に落とせ。もっとも、明日の確認で俺の息子であるという確認ができたらの話だがな。ただ、これまでの報告であれば、ほぼ間違いあるまい。それにしても嬉しいものだ。俺にも、力を受け継がせるべき相手ができた。早速、その女子生徒を使って、“教育”をしていくとしよう」

 

 理事長は言った。

 だが、玲子はちょっと驚いた。

 

「……でも、その女子生徒の実家は、資産家の白岡家ですよ。我が学園にも多額の寄付をしており……」

 

「それがどうした。この学園など、俺の道楽のひとつのようなものだ。どうでもいい。とにかく、明日の面談のときに、真夫に条件をつけろ。自分を陥れた女子生徒を調教レイプしろとな。それが学園編入の条件だといえ」

 

 理事長は玲子の言葉を遮った。

 

「……でも、女子生徒を調教レイプなど、真夫様が承知するでしょうか?」

 

「なぜ、承知しないのだ? 自分を冤罪に陥れた恨みがあるだろう。段取りはしてやるから犯せといえば、犯すさ。別に断る理由もあるまい」

 

 しかし、玲子は首を捻った。

 これまでの調査で得られた限りにおいて、この真夫という少年は、特有の能力こそ、目の前の鬼畜理事長の血を引いている可能性は極めて高いが、性格は異なる。

 いきなり、ある女子生徒をレイプしろと言われても、無条件に応じるようなタイプではない。

 

 まあ、確認できた限りでは、鬼畜の片鱗は、その性癖に現れているようだが……。

 

 ただ、この真夫という少年は、中学時代に同じ養護施設の同世代の女の子とかなり頻繁な性接触をしながら、男子校の寮で暮らすようになってからは、それが嘘のように、慎みのある生活を続けていた様子だ。

 それひとつを取っても、真夫と目の前の理事長とかなり性格の異なる人間だということはわかる。

 

 だが、この理事長に「常識」を唱えたところで無駄だろう。

 玲子の役割は、理事長がその真夫にその女子生徒をレイプさせたいのであれば、手段を尽くして、それを承知させることだ。

 

 その説得方法を明日までに考えて、処置を済ませなければならない。

 間に合うだろうか?

 玲子は小さく嘆息した。

 

「そういえば、そもそも、なぜ白岡家の娘が三人の男子生徒の言いなりになり、真夫を嘘の痴漢に陥れたのだ?」

 

 玲子は調査結果を説明した。

 「魔王」こと理事長は、不快な表情になった。

 

「わかった。じゃあ、三人の男子生徒の処置だが……」

 

 理事長が口を開いた。

 玲子は視線を向け直す。

 

「……三人とも退学。ただし、痴漢事件そのものは隠せ。そして、俺の息子にちょっかいを出したことにに対する相応しい罰を与えよ。息のかかっている暴力団に命じて、たまたま出くわしたチンピラを装って襲わせろ。殺す必要はないが一箇月以上は病院に入らなければならないくらいには痛めつけろ。顔も潰せ。見せしめだ」

 

「処置します」

 

 玲子は頭をさげた。

 

「……それと、明日、その真夫が俺の息子という確信に至った場合だが……」

 

 さらに理事長が言葉を足した。

 

「はい」

 

「……お前は真夫に与えることにする。俺の息子を主として仕えよ。真夫を新しい主人として、支えてやってくれ」

 

 理事長がなんでもないことのように言った。

 玲子は驚愕した。

 

 だが、抗議をしようとした玲子が口を開く前に、理事長の瞳が大きく開いて、呪文のような言葉が口から呟かれた。

 

 なんと言ったのか、玲子には聞き取れなかった。

 

 突然にかすみのようなものが頭を覆って、なにも考えられなくなったのだ。

 

 だが、戸惑いは一瞬だ。

 すぐに、頭ははっきりとしてきた。

 

 明日、真夫という少年に会える──。

 

 玲子は嬉しくて、浮き立つような気分で心が一杯になるのを感じた。



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 第7話   湯舟のプロポーズ

「んふうっ、ふうっ、ううっ……」

 

 バスタブにあさひ姉ちゃんの色っぽい声が響き渡る。

 あさひ姉ちゃんのアパートの風呂だ。

 あまりに狭くて、ぼろだからと、あさひ姉ちゃんは恥ずかしがっていたが、その分密着できるから嬉しい。

 

 真夫は、あさひ姉ちゃんと一緒に湯船に浸かっていた。

 

 湯船の中で、真夫は浴槽の左右に脚を拡げるようにして浸かり、あさひ姉ちゃんはその脚のあいだに、真夫と同じ方向を向いて、背を真夫に預けるようにしている。

 あさひ姉ちゃんには、首輪の後ろに両手首に嵌めた手錠を繋げさせたままだ。

 

 真夫は、性交の疲労を湯で癒しながら、脚のあいだに抱えているあさひ姉ちゃんの乳房を後ろから揉み続けていた。

 湯に上気して、肌を桃色に染めているあさひ姉ちゃんはとてもきれいだった。

 

 このアパートにやって来て、二度もあさひ姉ちゃんに精を放ったのに、こうしていると、また新しい欲情の昂ぶりが沸き起こってくる。

 そして、あさひ姉ちゃんもまた、真夫に乳房を揉まれ、眼を細めて官能に酔ったような表情をしていた。

 

 何時間でもこうしていたい。

 真夫は、あさひ姉ちゃんの乱れた息遣いを心地よく聞きながら思った。

 

「……ところで、明日、滝田さんという人に会うのは、どこで何時なの、あさひ姉ちゃん?」

 

 真夫は思い出して訊ねた。

 真夫が聖マグダレナ学園の生徒に冤罪に陥れられたことに抗議するため、明日の午前中に、滝田という学園の関係者と面会することになっている。

 アポを取ってくれたのはあさひ姉ちゃんだが、そういえば、詳しいことを教えてもらっていなかった。

 

「はあ、はあ、はあ……ああっ、はあ……。ま、真夫ちゃん……」

 

 だが、あさひ姉ちゃんは、うわの空で気持ちよさそうに眼を細めているだけだ。

 どうやら、聞こえていないようだ。

 

「ねえ、あさひ姉ちゃんってばあっ──」

 

 真夫はちょっと面白くなり、わざと大きな声をあげた。

 ただし、そのあいだもしっかりと、あさひ姉ちゃんの胸をゆっくりと揉み続けている。

 

「あっ、は、はいっ。き、気持ちいいです、真夫ちゃん」

 

 あさひ姉ちゃんがびくりと背筋を伸ばして、慌てたように言った。

 真夫は噴き出してしまった。

 

「えっ、な、なに?」

 

 やっと、あさひ姉ちゃんが我に返ったように首を後ろに向けた。

 

 なんだか、あさひ姉ちゃんがとても愛おしい気持ちになった真夫は、そっと唇をあさひ姉ちゃんに近づけた。

 すると、あさひ姉ちゃんもすぐにうっとりとした顔になり、そっと唇を寄せてくる。

 目を細めて、半開きの唇を真夫の唇に合わせてきた。

 あさひ姉ちゃんの舌が熱い吐息とともに真夫の口の中に滑り込んできて、真夫の舌に絡みつく。

 

 真夫は、手錠の繋がった首輪が嵌まっているあさひ姉ちゃんの首を強く引き寄せると、しばらく欲情のまま、あさひ姉ちゃんの口腔を蹂躙して愉しんだ。

 あさひ姉ちゃんは、乱暴な真夫のキスに抵抗しない。

 むしろ、真夫以上の激しさで、口づけを交わしてくる。

 

「……ご、ごめん……、な、なにか、さっき言った、真夫ちゃん?」

 

 唇を離すと、あさひ姉ちゃんが虚ろな眼をしながら訊ねた。

 

「明日の約束のことを訊ねたんだよ」

 

 真夫は微笑みながら言った。

 

「あっ、明日のこと……」

 

 あさひ姉ちゃんは、やっと大きく頷いた。

 

「……ご、ごめんなさい。そのことを言わないといけなかったんだ。さっき電話がかかってきたでしょう。それは、そのことだったんだよ……。でも、真夫ちゃんが意地悪するから……」

 

 あさひ姉ちゃんが拗ねたように言った。

 このアパートにやって来てすぐのことだと思った。

 あさひ姉ちゃんと一緒にここにやって来た真夫は、自制できなくなり、部屋に入ることなく、玄関を入ってすぐの台所で、そのままあさひ姉ちゃんを押し倒して抱いた。

 その行為の直後に、あさひ姉ちゃんの携帯に電話があり、真夫はつい悪戯心が芽生えて、電話で話をするあさひ姉ちゃんの股間に怒張を埋めたままゆっくりと律動したり、舌で乳首を舐めたりして、会話の邪魔をして悪戯したのだ。

 あさひ姉ちゃんが必死になって快感に堪えて平静を装う仕草は、本当に色っぽかった。

 

「ごめん、ごめん。それで、なんて?」

 

 真夫は笑いながら言った。

 

「それがね──。予定が変わって、約束の時間が午後になったのよ。しかも、滝田さんだけじゃなく、工藤という女の人も一緒に来るということよ。その人は、学園の顧問弁護士だって」

 

「顧問弁護士──? なんで?」

 

 真夫はちょっと驚いた。

 わざわざ、顧問弁護士がやって来るなど、随分と大袈裟な気がしたからだ。

 

「さあ……。とにかく、場所もホテルのロビーの喫茶店になったわ。その工藤さんという弁護士さんは、首に青いスカーフを巻いているのでわかるはずだと言っていたわ」

 

 あさひ姉ちゃんは、待ち合わせ場所になったホテルの名を言った。

 真夫でも知っている超一流のホテルだ。

 約束の時間は午後二時だそうだ。

 

「ふうん……。まあとにかく、約束が午後なら、今夜はゆっくりでもいいということだね。じゃあ、しっかりと遊ぼうよ、あさひ姉ちゃん」

 

「ばかね……」

 

 あさひ姉ちゃんが満更でもなさそうな顔で微笑んだ。

 真夫は右手をあさひ姉ちゃんの乳房から、あさひ姉ちゃんの股間に移動する。

 あさひ姉ちゃんは、固く膝を閉じていたが、真夫が太腿の隙間に手を入れようとすると、すっと腿の力を抜いて脚を開いた。

 

「んんっ……」

 

 あさひ姉ちゃんがびくりと身体を震わせる。

 真夫は、あさひ姉ちゃんの女陰の中に、ゆっくりと指を湯とともに埋めていっていた。

 柔らかなあさひ姉ちゃんの膣の肉襞が指に心地よくまとわりついてくる。

 

「ああっ、そこは──」

 

 だが、真夫が前側の穴に悪戯している右手に対し、もう一方の左手を反対側にある菊門に移動させると、さすがにあさひ姉ちゃんは身体を固くした。

 だが、それほどの抵抗はない。

 

 真夫がさらに執拗にお尻の穴に指をなぞらせると、あさひ姉ちゃんは恍惚の呻き声を洩らしながら、さらにぐったりと裸身を真夫に預けてきた。

 

 しばらく、あさひ姉ちゃんを愉しんだ。

 あさひ姉ちゃんは、またもやそのまま達しそうな仕草を示しだした。

 しかし、真夫はすっと両手を一度離した。

 

「……約束だからね。身体を洗ってあげるよ。湯船の中でいい? 最後に一緒にシャワーを浴びよう」

 

「えっ?」

 

 あさひ姉ちゃんは、当惑した声をあげたが、真夫は返事を待たずに、洗い場からボディーソープとスポンジを取った。

 そして、たっぷりとスポンジにソープ液を含ませる。

 

「さあ、大人しくね」

 

 真夫は肩口からあさひ姉ちゃんを洗い始める。

 

「うふっ、くすぐったいっ」

 

 あさひ姉ちゃんはそれだけで、くすくす笑って身震いした。 

 だが、これだけ密着した状態では、身悶えしても、スポンジをかわすこともできない。

 

 真夫は、泡を肩から脇に……。

 そして、脇から二の腕に移動していく。

 

 じわじわとスポンジを動かしていくうちに、あさひ姉ちゃんのくすぐったそうな笑い声が、切なそうな喘ぎ声にだんだんと変わっていった。

 そして、雌そのものの嬌態を示しだす。

 

「こんなところも、あさひ姉ちゃんは感じるんだよね」

 

 真夫はからかうような物言いをしながら、脇腹から脇へ、脇から二の腕にかけてと、スポンジを入念に滑らせていく。

 

 あさひ姉ちゃんの裸身に触れているうちに、中学生だったあさひ姉ちゃんの身体に対する記憶が、目の前の大人のあさひ姉ちゃんにしっかりと重なってきた。

 

 どこをどうすれば、あさひ姉ちゃんが感じるのか……。

 それが、なぜかはっきりと真夫の頭に浮かぶ。

 

「う、ううっ、そ、そんなあ……。はああっ」

 

 明らかに感じた声をあげるあさひ姉ちゃんは、ここが外の通路に接している風呂だということを束の間忘れたような感じだ。

 

 まあいい……。

 

 真夫はあさひ姉ちゃんが好きなのだ。

 だから愛し合う行為に、別に疚しさも恥ずかしさも感じない。

 

 むしろ、自分こそ、あさひ姉ちゃんの恋人なんだと、あちこちに宣言して回りたい。

 それで、あさひ姉ちゃんが、真夫のことを受け入れざるを得なくなればいいのだ。

 

「ここも洗おうね、あさひ姉ちゃん」

 

 真夫はさっとスポンジをあさひ姉ちゃんの美しい乳房に当てて、なぞりまわした。

 

「ふうううっ」

 

 あさひ姉ちゃんが身体を弓なりにして声を響かせた。

 

「スポンジが気に入ったんだね、あさひ姉ちゃん」

 

「そ、そんなこと……」

 

 恥ずかしいのか、真夫がからかうと、反論のような言葉を口にしようとする。

 だが、真夫が、スポンジで乳房の表面を撫ぜてやると、途端に顔を仰向かせて上体を捩じった。

 可愛いものだ。

 

「お、お願いよ、真夫ちゃん。自分で身体を洗わせて……」

 

 あさひ姉ちゃんはやがて、耐えきれなくなったように哀願した。

 だが、もちろん、こんなに面白いことを中止するわけがない。

 真夫は、返事の代わりに、スポンジを湯の中ですっとあさひ姉ちゃんの股間に移動させて擦る。

 

「んふうううっ」

 

 途端に歯を食い縛った悶え声が響く。

 そのままスポンジを太腿に這わせる。

 あさひ姉ちゃんが激しく反応した。

 真夫は、湯の中であさひ姉ちゃんを反転させ、あさひ姉ちゃんを真夫に向かい合うようにさせる。

 

 片脚をあげさせた。

 膝から脛をスポンジで丁寧に擦る……。

 

 さらに、ふくらはぎから足首……。

 

 足の甲から踵……。

 

 足の裏から足の指……。

 

 一本一本まで丹念に擦る。

 片脚が終われば、もちろん、反対の脚もだ……。

 

 やっと脚全体を擦りあげたときには、あさひ姉ちゃんは、すっかりと荒い息をして脱力状態になっていた。

 

「ヴァギナは、スポンジじゃなくて、特別な洗い方をするね」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんを引き寄せると、湯の中で対面で向かい合ったまま、怒張をあさひ姉ちゃんの膣の中に挿入させた。

 

「ああっ」

 

 あさひ姉ちゃんが鼻の奥から出すような悩ましい声を出す。

 

「あさひ姉ちゃん、愉しもうよ……。もっと愉しもう」

 

 真夫は言った。

 湯の中であさひ姉ちゃんの尻たぶを抱えるように、二度、三度と上下させて怒張の傘を子宮にぐいぐいと繰り返し当てていく。

 続けるうちに、あさひ姉ちゃんはまたもや狂乱を示し始めた。

 

「あだ、あはあっ、す、すごい。やっぱり、真夫ちゃんはすごい。ああっ、す、凄いよっ」

 

 リズミカルに腰を上下をさせながら、あさひ姉ちゃんは引きつった声をあげた。

 

 さらに律動を続ける。

 

「うぐうううっ、んふううううっ」

 

 やがて、あさひ姉ちゃんが、真夫に抱かれたまま、がくがくと腰を揺すった。

 

 達したのだ。

 

 真夫は今度はそれに合わせるように、あさひ姉ちゃんの中に精を放った。

 

「あああ……、真夫ちゃん……」

 

 あさひ姉ちゃんが精根尽きたように、ぐったりと真夫に体重を預けてきた。

 

 しばらく真夫はその状態のままあさひ姉ちゃんと抱き合ったままでいた。

 

 時間がすぎるうちに、真夫の怒張はあさひ姉ちゃんの中で萎えた状態になった。

 一度抜き、態勢を直す。

 そして、また抱き合った。

 

 そのまま、時間が経つのを忘れるかのように、ふたりでくっついていた。

 

「……ねえ、あさひ姉ちゃん」

 

 やがての果てに、真夫は耳元でささやいた。

 

「えっ?」

 

「俺、ここに、ずっといちゃいけない?」

 

 すると、びくりとあさひ姉ちゃんの身体が跳ねあがるように真夫から距離を取ろうとした。

 もっとも、狭い湯船なので、身体を離すことなどできないのだが、あさひ姉ちゃんの態度は、明らかに大きな動揺をしたことを示していた。

 

「俺、もう十八なんだ……。高校も退学になっているし、本当は施設には戻れないんだよね。まあ、園長先生は、少しのあいだなら、いてもいいと言われているけど、なるべく早く出ていきなさいとも言われているんだ……。とにかく、働くよ……。だけど、できれば、このまま、あさひ姉ちゃんと暮らしたい……」

 

「えっ」

 

「ねえ、いいでしょう、あさひ姉ちゃん……。俺は働いて、お金を入れる。そうすれば、あさひ姉ちゃんも楽になるでしょう。バイトを少し減らして、学生に専念できるんじゃない。ねえ、そうしようよ……。俺、あさひ姉ちゃんが好きだし……。だから……」

 

 だが、真夫の話の途中で、突然にあさひ姉ちゃんが湯船の中で立ちあがった。

 その態度があまりにもいきなりだったので、真夫はびっくりしてしまった。

 

「あんまり、ずっと入っているとのぼせちゃうわね」

 

 あさひ姉ちゃんは、にっこりと微笑んだ。

 だが、その笑顔があまりにもぎこちなくて、真夫は変な感じがした。

 

 どうしたんだろう。

 変な感じだ……。

 だが、真夫はもう決心していた。

 

「ねえ、あさひ姉ちゃん、さっきも言ったけど、俺は四月に十八歳になったんだ。結婚だってできる年齢だよ。俺は、あさひ姉ちゃんと……」

 

 真夫は思い切って言った。

 結婚なんて、いまのいままで全く考えていなかった。

 だが、頭に思い浮かんでしまうと、それしか考えられなくなった。

 あさひ姉ちゃんと夫婦なって、一緒に歳をとる……。

 そのあまりにも甘美な将来に、真夫は酔いのようなものまで感じた。

 

 きっと、あさひ姉ちゃんも……。

 

「やめてえっ」

 

 そのとき、浴室に金切り声が響いた。

 あさひ姉ちゃんに怒鳴られたのだと悟ったのは、少しの間が必要だった。

 

 そして、我に返った。

 

 いくらなんでも、どうやら、あまりにも自分が性急すぎたようだ。

 

 あさひ姉ちゃんとは、五年ぶりだ……。

 

 真夫があさひ姉ちゃんを想っているのと同じように真夫のことを想っているわけがないか……。

 

 この五年、真夫はあさひ姉ちゃんを忘れたことなどなかったが、同じようにあさひ姉ちゃんが想ってくれたなどというのは虫がよすぎる。

 

 よく考えれば、真夫など、ついさっき高校を退学になったばかりの子供じゃないか。

 

 ちょっとくらいセックスしてもらったくらいで、一人前の男の真似をして求婚など、なんて、恥ずかしいことをしたのだろう……。

 

 さすがに優しいあさひ姉ちゃんでも、どう対応していいか困るだろう……。

 

「ご、ごめん、あさひ姉ちゃん……。へ、変だよね。いきなり、結婚だなんて……。ご、ごめんとしか言えない……。でも、撤回はしないよ。俺、仕事を探すから……。そして、ちゃんとした仕事についたら、改めて、あさひ姉ちゃんに……」

 

 真夫は、なんとか自分の気持ちだけは伝えようと、懸命に言葉を探った。

 だが、あさひ姉ちゃんの顔を改めて見たとき、絶句してしまった。

 

 あさひ姉ちゃんは泣いていた……。

 とても悲しそうな顔だった。

 どうして、そんなに悲しい顔をするの……?

 

 あさひ姉ちゃん……。

 

「ち、違うの……。嬉しいの……。とっても嬉しいよ、真夫ちゃん。あたしだって、真夫ちゃんが好き。好きなの……。本当に好きなの……。だけど、あたしは真夫ちゃんと一緒にはなれない。ごめん。ごめんなさい。あたし、真夫ちゃんに黙っていたことがある……。実はあたし、あと半月もすれば、大学をやめるの」

 

「大学をやめる?」

 

 真夫は驚いて声をあげた。

 

「このアパートも引き払う。真夫ちゃんには関係のない話だから、心配させないことだけを言って……。あたしはちゃんと大学生をしているんだということだけ見せて……。そして……そして、思い出だけをもらって……。それで、別れよう思っていた……。なのに……。それなのに真夫ちゃんの意地悪……。結婚しようだなんて、どうして、そんな意地悪を言うの──。意地悪……。意地悪……。意地悪……。意地悪……。そんなこと言われたら、あたし、真夫ちゃんと別れられないじゃないの……。ああっ、意地悪──」

 

 あさひ姉ちゃんが声をあげて泣き出した。

 真夫は呆然としてしまった。



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 第8話   神様のごほうび

「……あたし、施設に連れていかれるまで、ずっとお父さんに犯されてた……」

 

 あさひ姉ちゃんが語り始めたのは、一枚の布団の中で、真夫とあさひ姉ちゃんが天井を向いて並んで横になって、すぐだった。

 真夫は下着一枚を着ているだけだったが、あさひ姉ちゃんはしっかりと下着とパジャマを身に着けている。

 

 浴場の中であさひ姉ちゃんが興奮したように泣き始めたとき、真夫は慌てて浴場の外に走って、あさひ姉ちゃんにしていた首輪と手錠を外した。

 

 あさひ姉ちゃんの気は完全に動転していて、とてもじゃないが、一緒にSMを愉しむというような状況ではなかったからだ。

 

 なぜ、真夫の求婚にあさひ姉ちゃんが泣き出してしまったのか……?

 あさひ姉ちゃんが、大学をやめ、このアパートも引き払うというのはどういう意味なのか……?

 

 真夫は、すぐに問い質したかったが、なんとかそれを自重した。

 

 少し落ち着く時間を与えてあげれば、あさひ姉ちゃんが真夫にそれを語ってくれるだろうというのがわかっていたからだ。

 

「随分と長くエッチしてたね、あさひ姉ちゃん」

 

 浴室からあがると、できるだけ明るい口調に聞こえるように真夫は言った。

 そのときは、まだあさひ姉ちゃんは、なにかに追い詰められたような顔をしていたが、一瞬、きょとんとした表情になり、そして、くすりと笑った。

 

「……真夫ちゃんて、すごくエッチなんだね……。あたし、知ってたつもりだったけど、外で下着を脱がされたときはびっくりしちゃった」

 

 あさひ姉ちゃんが微笑みながら言った。

 

「でも、あさひ姉ちゃんも興奮したでしょう? もっとやりたいなあ。あさひ姉ちゃんって、リモコンローター持っているよね。今度、使ってみようよ。ねっ、いいでしょう?」

 

 すると、見ていて面白いくらいに、あさひ姉ちゃんが真っ赤になった。

 あさひ姉ちゃんがひとりエッチのために集めていた道具は、どれも封を切らずにいたものばかりだった。

 あさひ姉ちゃんは、いやらしい道具を買っただけで、あとは、使うことを想像して、エッチな気分になって満足していたらしい。

 だから、実際には外でそんなことはやったことはないと思うが、リモコンローターとかを買ったということは、そんなプレイにも大いに興味があるということだ。

 

「い、いいよ……。真夫ちゃんがしたいなら……」

 

 あさひ姉ちゃんが真っ赤な顔のままもじもじしながら言った。

 

「うん、したいよ。やりたいこといっぱいあるよ。これから愉しみだね。でも、今日は終わり。エッチじゃなくて、お話ししよう」

 

 真夫は言った。

 言外に、風呂で叫んだことに関して、語って欲しいと伝えたつもりだった。

 

「ばかね……」

 

 あさひ姉ちゃんは、それだけを言って、バスタオルで身体を覆った。

 それから、温めた弁当を食べて、一缶ずつのビールを飲んだ。

 真夫は下着だけをはき、あさひ姉ちゃんはパジャマを身に着けてた。

 食事のときに話したのは、他愛のないことだ。

 好きな芸能人とか、映画とかの話だ。

 ただ、真夫はほとんどテレビは見ない生活をしていたし、あさひ姉ちゃんも勉強とバイトで忙しい日々を送ってばかりだったので、芸能人の話はあまり弾まなかった。

 ただ、真夫は本を読むのが好きだったが、あさひ姉ちゃんも読書好きだということがわかった。

 真夫が本が好きになったのは、図書館ならただで本が借りられるからというのが大きかったが、あさひ姉ちゃんも頻繁に図書館で本を借りるらしい。

 だから、今度、一緒に図書館に行こうとか、そんな会話をした。

 

 そして、寝支度をして、ふたりで一枚の布団に横になった。

 電気を消して、部屋が真っ暗になると、あさひ姉ちゃんは語り始めた。

 

「……あたしのお父さんは、どんなことでも我慢ができない人……。欲しいと思ったらどんなことでも我慢できなくなるの……。だから、うちにはいらないものがいっぱいあった。その代わり、借金もあったみたい。お父さんとお母さんはいつも喧嘩してた……。多分、お父さんは浮気もしていたと思う……。お父さんは、我慢できない人だから……」

 

 真夫は口は挟まなかった。

 その代わりに、布団の中であさひ姉ちゃんの手をぎゅっと握った。

 「聞いているよ」という合図だ。

 すると、あさひ姉ちゃんも真夫の手を強く握り返してきた。

 

「……もともと、あたしの家は壊れていたのかもしれない。でも、本当に壊れたのは、お母さんが死んだとき……。外で買い物をしているときに倒れてそれっきり。あたしは、お母さんが倒れたって、学校で教えられて、すぐに病院に行ったけど、そのときには、お母さんは死んでた。本当にあっという間……」

 

「十歳のとき?」

 

 真夫は訊ねた。

 あさひ姉ちゃんが施設にやって来たのは、あさひ姉ちゃんが十歳のときで、小学校四年生のときだったからだ。

 しかし、すぐに、真夫はあさひ姉ちゃんのお母さんが死んだのは、九歳のときだと教えてもらっていたことを思い出した。

 

「……九歳。小学校三年生……。でもね……、そのときに、お父さんが壊れちゃったの……。お父さんはお母さんを大事にはしてなかったけど、いなくなったら壊れちゃったの……」

 

「壊れた……?」

 

「うん、なんか、おかしくなっちゃって……。あたしは変だと思った……。お父さん、それまで、いつも外に出てばかりで、あまり家にいなかったんだけど、お母さんが死んでからは、ずっと家にいた。お母さんの遺骨を抱いてぼんやりとして……」

 

「うん……」

 

 とりあえず、返事だけをする。聞いているという合図だ。

 

「泣いたり……。そうかと思ったら、突然に叫んだり、物を壊したり……。お父さん、もともと、お酒はそんなに飲まなかったはずなのに、お酒ばかり飲んでいたし……。目を離すと、突然に包丁を持ってぼんやりとしたり……。あたし、怖かった。お母さんが死んだことは悲しかったけど、お父さんが壊れていっているということがわかって、それはもっと怖かった……」

 

「壊れたって……」

 

「そう、壊れたの……。それで、あたしは、お父さんがおかしくなっているなとわかったら、ぎゅっとお父さんを抱き締めてあげたの。そうしたら、お父さん、少しだけ落ち着くの……。お父さんがおかしくなったら、あたしがだっこしてあげる……。ずっとそれをやってた……。でもね……あるとき……」

 

 あさひ姉ちゃんがぎゅっと手を握ってきた。

 真夫はあさひ姉ちゃんの手が震えているのがわかった。

 しっかりと、手を握り返す。

 すると、あさひ姉ちゃんの手の震えがちょっとだけ収まる。

 

「……お父さんがあたしを犯したの……。あたしがいつものように、お父さんをだっこしてあげたとき……。あるとき……。お母さんの名を呼びながら……」

 

 あさひ姉ちゃんが言った。

 

「……痛かった……。怖かった……。でも、嫌がったら、お父さんがもっと壊れるような気がした……。だから、我慢した。それから、お父さんは毎晩のように、あたしを犯すようになった……。……あたし、施設に連れていかれるまで、ずっとお父さんに犯されてた……」

 

 あさひ姉ちゃんが静かに言った。

 そして、暗闇の中で真夫に顔を向けたのがわかった。

 

「びっくりしないのね、真夫ちゃんは? お父さんに犯されていた女なんて、引くでしょう?」

 

 あさひね姉ちゃんは、ちょっとお道化た口調で言った。

 だけど、あさひ姉ちゃんの不安と動揺が、触れている手を通じて、真夫に伝わって来た。

 

「……多分、俺、知っていたと思う……。なんとなく」

 

 真夫は言った。

 多分、知っていた。

 あさひ姉ちゃんと最初に施設で愛し合ったとき、あさひ姉ちゃんは処女じゃなかった。

 そのとき、あさひ姉ちゃんの初めての相手は、あさひ姉ちゃんのお父さんじゃないかと思った。

 あさひ姉ちゃんは、父親の「虐待」を受けて、施設にやってきたということは知っていた。

 

 性的虐待……。

 

 当時七歳の真夫にはその知識はなかったが、十二歳の真夫にはあった。

 

 あさひ姉ちゃんは、お父さんに性的虐待を受けた子なんだろうな……、と、そのとき、思った。

 

「……そうなんだ。やっぱり、真夫ちゃんだね。昔から勘がよくて、頭が良くて……。でも、よかった……。こんな話をしたら、真夫ちゃんに嫌われるんじゃないかと……」

 

 あさひ姉ちゃんが安心したような溜息をついたのがわかった。

 

「あさひ姉ちゃんを嫌いになるわけがないよ。ましてや、そんな話くらいで」

 

 真夫はちょっと憤慨した。

 

「あ、ありがとう」

 

 あさひ姉ちゃんがくすりと笑うのが聞こえた。

 

「……それで、あたしは、お父さんと引き離されたの……。あたしがなにかで倒れて、学校から病院に連れていかれたことがあったんだけど、そのとき、病院のお医者さんが、おかしいとわかったらしい。それからは、なにがなんだか……。あたしは施設に……。お父さんとはそれっきり……。お父さんは警察に連れていかれたと教えられた。しばらくして、釈放されたみたいだけど、お父さんは、あたしには会いに来なかった……」

 

「そうなんだ……」

 

 真夫は言った。

 もともと天涯孤独の真夫には会いに来る親もいないが、お父さんがいるはずのあさひ姉ちゃんもまた、誰も会いに来なかった。

 やっぱり、そういう事情だったのだとわかった。

 

「……そして、お父さんとは、ずっと会わなかった……。冷たいかもしれないけど、あたし、お父さんと会わなくなって、ほっとしてたの……。ううん……。違うかも……。もしかしたら、あたしが会わなくていいなら、会いたくないと言ったかもしれない……」

 

「……うん……」

 

「とにかく、もう、お父さんが壊れるのを見なくて済むし、お父さんに犯されて、怖くて痛い思いもしなくて済む……。冷たい人間かもしれないけど、お父さんがいなくなって嬉しかった……。あたし、それで、もうお父さんのこと忘れた。施設は愉しかったし、お父さんのことなんて思い出すこともなかった……。真夫ちゃんもいたし……」

 

「あさひ姉ちゃんは、冷たい人じゃないよ。とても優しい。初めて会ったときからずっと思ってた……。あさひ姉ちゃんは、とても可愛くて……きれいで……優しくて……。そして、とてもエッチで……」

 

「やな人、真夫ちゃん……。でも、エッチかもね……。だけど、真夫ちゃんにだけなんだよ。真夫ちゃんと一緒にいたり、真夫ちゃんのことを考えるとエッチになるの……。もともと、あたし、男の人怖かったんだから……。でも、真夫ちゃんに最初に触られたとき、まるで電気が走ったみたいに、びりびりとなっちゃった。不思議な手……。あれから、真夫ちゃんのことから、頭が離れられなくなったの」

 

 あさひ姉ちゃんが施設に入ってきたばかりのときの話だとわかった。

 警察ごっこをしていて、人質役のあさひ姉ちゃんの下着の股の部分を真夫は、思わず指でぎゅっと押した。

 あれから始まった「秘密の行為」だ。

 

「……施設では愉しかったな。真夫ちゃんは、いつもエッチなあたしの相手をしてくれたし……。お別れの前だって……。本当に嬉しかった。あたし、お父さんのことなんて、一度も思い出すこともなかった……。どうしているんだろうなあ、とも思わなかった……」

 

 あさひ姉ちゃんは言った。

 そのとき、隣に寝ているあさひ姉ちゃんの手の震えが、再び大きくなったのがわかった。

 

「……だけど、お父さんと会ったの……。この前……」

 

 あさひ姉ちゃんがぽつりと言った。

 

「えっ?」

 

 真夫は思わず声をあげてしまった。

 

「……大学に林さんという若い男の人が訪ねてきたの。あたしを探して……」

 

「林さん?」

 

「うん……。林さんというのは、闇金の人。あたしにお金を返せって言いに来たの。お父さんの借りたお金を……。あたしね、お父さんの借りたお金の連帯保証人になってたんだって」

 

 あさひ姉ちゃんは静かな口調で言った。

 

「ええっ、どういうこと?」 

 

 真夫はがばりと身体を起こした。

 たったいま、あさひ姉ちゃんは、ずっとお父さんには会っていなかったと言っていたはずだ。

 それにもかかわらず、「連帯保証人」とはどういうことなのだろう?

 起きあがった真夫に対して、あさひ姉ちゃんも布団の上に座り直した。

 暗闇でよくわからなかったけど、あさひ姉ちゃんは、静かな笑みを浮かべているみたいだった。

 

 なんだか、すべてを諦めたような……。

 そんな顔のようにも思えた。

 あさひ姉ちゃんが続いて口を開く。

 

「あたしもどういうことかわからなかった。だけど、林さんに教えられてわかった……。林さんというのは、その闇金さんの若い人なんだけど、あたしの担当なんだって……。とにかく、あたしは、お父さんのことは知らなくて、生きているか、死んでいるかも知らなかったけど、お父さんは、ずっとあたしのことを知っていたみたい。学校も知っていて、住んでいるこのアパートも知っていて……」

 

「お父さんが?」

 

「……うん、それで、お父さん、その闇金の人にお金を借りるとき、連帯保証人が要るとか言われて……。身内でもいいと言われて……。それで……、あたしの名前を使ったみたい。印鑑も勝手に押して……。あたしは、その林さんが大学にやって来たとき、初めてお父さんが生きていることを知った……。そして、あたしの名前を使って、借金をしたことも……」

 

 だんだんと話がわかってきた。

 もしかして、あさひ姉ちゃんが大学をやめたり、引っ越しをしなければならない理由って……。

 

「ちょ、ちょっと待って、あさひ姉ちゃん、まさか、その借金をあさひ姉ちゃんが払わないとならないことになってんの?」

 

 真夫は言った。

 自分の声が怒鳴り声のようになっていることに気がついたが、とても冷静に聞ける話じゃない。

 

「つまりは、そういうこと……。ただの貧乏大学生のあたしに、払えるような額じゃなかった……。だけど、その闇金の社長さんが、借金を払えるような仕事を紹介してくれることになったの。それで、あたしは働くことにした……。大学をやめて、住み込みでね」

 

「そ、そんな馬鹿な……。借金って、いくら?」

 

「一千万円」

 

「……一千万……」

 

 真夫は呆然とした。

 だが、腹が立った。

 なんで、あさひ姉ちゃんがそんなお金を払わないとならないのか……。

 

 あさひ姉ちゃんは、はっきりとは言わなかったが、闇金が紹介するような、一千万を返済するような仕事といえば、どんなことをするかは想像がつく。

 

 冗談じゃない──。

 

「……そ、そんなの払うことないよ。ちゃんと、どこかに相談しよう。それこそ、一緒に行ってあげる。絶対に払っちゃだめ。自分が印鑑を押したものじゃない保証人の借金なんて、払う必要はないんだよ──。それが法律なんだから」

 

 真夫は言った。

 しかし、あさひ姉ちゃんは首を横に振った。

 

「……法律なんていうのは、ああいう人には関係ないのよ、真夫ちゃん。それに、あたしだって、払うつもりなんてなかった。冗談じゃないと思った。そんな馬鹿げたこと聞いたことない。あたしは、学校の先生になろうと思っていた。それこそ、その夢を実現するために必死で働いた。それなのに、なんで、あんな人のために──。そうよ、払う必要なんてないのよ。馬鹿馬鹿しい──。あたしだって、冗談じゃないと思った……」

 

 あさひ姉ちゃんは、少し声を荒げた。

 でも、すぐに我に返ったように静かな感じになる。

 

「だったら……」

 

「……でもね、真夫ちゃん……。あたし、その林さんという人に連れられて、闇金さんの事務所に行ってお父さんに会ったの。お父さんは一度逃げようとして、それで捕まって監禁されているんだって……。お父さん、すっかり変わってた。髪の毛もなくなって……、皺だらけで……。なんか、へらへらと笑うだけで……。あたしを見ても、なんか、ぺこぺこして……」

 

「だ、だったら、そんなやつの……」

 

「でも……でも、確かにお父さんだった……。本当にお父さんだった……。あたし、本当にお父さんがあたしを勝手に保証人にして借金をしたんだと、すぐにわかった……。ああ、本当なんだって……」

 

 あさひ姉ちゃんの肩が揺れ始めた。

 泣いているようだ……。

 真夫はあさひ姉ちゃんをそっと抱いた。

 それで、あさひ姉ちゃんはすぐに落ち着いた感じになった。 

 

「……ねえ、あさひ姉ちゃん、もしも、そうだとしても……」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんを抱いたまま言った。

 そんな借金など払う必要はない。

 警察にでも訴えればいいんだ。

 それで、あさひ姉ちゃんは助かるはずだ。 

 だが、真夫は言葉を続ける前に、あさひ姉ちゃんは、真夫の腕の中で首を横に振った。

 

「……あたし、闇金さんの事務所でお父さんと再会したとき、お父さんを怒鳴った。思い切り殴った。二度と顔なんて見たくなかったって叫んだ。小学生のあたしを犯した禄でなしだとも罵倒した……。お前なんて、お父さんじゃないとも……。とにかく、あのとき、あたし、興奮しちゃってて、なにを言ったかも覚えてない……」

 

 あさひ姉ちゃんは不意に笑いだした。

 だけど、両眼からはぼろぼろと涙が出てた。

 あさひ姉ちゃんは泣きながら笑ってた。

 

「覚えているのは、へらへらと笑う、お父さんの姿だけ……。お父さん、頼む、頼むって……。それだけ繰り返して……。頼むってどういうことだ──って、あたしは、また怒鳴った。あたしがあんまりすごい剣幕だったから、周りの闇金の人もびっくりしてた……」

 

 あさひ姉ちゃんが、自嘲気味に微笑んだ。

 

「ね、ねえ、俺と一緒に逃げようよ、あさひ姉ちゃん。ふたりなら、なんとかなるよ。とにかく、逃げよう……。ねえ、そうしようよ。あさひ姉ちゃん、このままじゃ、大変なことになるんだよ。それはわかるんでしょう?」

 

 真夫は言った。

 すると、あさひ姉ちゃんは、不意にくすくすと笑った。

 どうして、笑ったのかわからずに、真夫はあさひ姉ちゃんの顔を見ようと、一度抱き締めていた手を緩めた。

 

「……実はね、闇金さんにも同じことを言われたの……。あの人たち、あたしを追い込むために、お父さんのところに連れてきたんだけど、あたしとお父さんがそんな関係なんて知らなかったんだって……。それで、上の組織との関係があるから、借金を棒引きにすることも、あたしに払わなくてもいいということもできないんだけど、もしも、あたしが逃げても、追わないと言われた……」

 

「逃げても、追わない?」

 

 なんだ、それ?

 

「……その証拠に、このアパートを見張っている人もいなかったでしょう? あの人たち、あたしが逃げてもいいようにしてくれてるの。普通は考えられないのよ。だけど、半月したら、迎えに来るからって、誰もいなくなっちゃった……」

 

「だ、だったら……」

 

 真夫は声をあげた。

 確かに、このアパートの周りには、借金取りの影はない。

 

「……だめよ、真夫ちゃん。あたし、その言葉で決心できたの。あたしは逃げるわけにはいかないって……。あたしが逃げたら、多分、お父さんは殺されるわ。そういう人たちなの。闇金さんたちはお父さんに怒ってた。あたしとの事情を知って、人間の屑だと罵った。だから、あたしが逃げたら、お父さんが死ぬ……。それで、あたしは決心したのよ……。これは仕方のないことだって……」

 

「し、仕方がないことなんてあるもんか──」

 

 真夫は大声で言った。

 あさひ姉ちゃんが闇の中で真夫に視線を向ける。

 真夫は、あさひ姉ちゃんの両肩を掴んだ。

 

「……ねえ、やっぱり逃げようよ、あさひ姉ちゃん──。そんなのお父さんじゃない。放っておけばいい。闇金の人ですら、そう言ってんだよ。逃げよう……。逃げて、ふたりで暮らそう。あさひ姉ちゃんが学校の先生になる夢は、時間がかかるかもしれないけど、俺がいつか実現してあげるから……」

 

 だけど、あさひ姉ちゃんは静かに首を振っただけだ。

 真夫はかっとなった。

 

「……な、なんでだよ。一緒に逃げるって言えよ、あさひ姉ちゃん──」

 

「でも、お父さんなの──」

 

 すると、あさひ姉ちゃんが大きな声で叫んだ。

 そして、激しく泣き出した。

 

「……でも、お父さんなの……。あんなんでも……。憎い……。憎い……。いまは、ただ憎しみしかない……。正直にいえば、これっぽっちの愛情もない……。だけど、お父さんなの……。あたしが見捨てれば……すでに、闇金の人たちにも見捨てられているし……、あたしが見捨てれば、お父さんは殺される……。あ、あんなんでも、お父さんだったの……。お父さんだったのよ……」

 

 あさひ姉ちゃんは大声で泣きながら言った。

 

「……あ、あさひ姉ちゃん……」

 

 真夫は、もうそれしか言えなかった。

 やっと、あさひ姉ちゃんの覚悟がわかったのだ。

 そんな連帯保証人の借金など支払う必要はないのは、あさひ姉ちゃんも十分にわかっている。

 逃亡してもいいし、警察や誰かに相談して、どこかの弁護士事務所に訴えることもできる。

 

 それは、あさひ姉ちゃんもわかっているのだ……。

 

 だけど、あさひ姉ちゃんが、そのお父さんの借金を背負わなければ、あさひ姉ちゃんのお父さんは殺される……。

 だから、あさひ姉ちゃんは、お父さんが殺されないために、自分が犠牲になる決心をしたのだ。

 

 それは、お父さんに対する愛情……というものとは違うだろう。

 だけど、見捨ててはならない……。

 そう思ったのだと思う……。

 

「くっ」

 

 真夫は思わず呻いた。

 情けなかった……。

 

 あさひ姉ちゃんに悩みに対して、なにもできない自分が情けなかった。

 

 すると、あさひ姉ちゃんがそっと真夫を抱き締めてきた。

 

「……あたし、すっかりとなにもかも諦めていた。あと半月……。そうしたら、あたしは、まったく別の人生を送ることになる。男の人とふたりきりでいられないようなあたしが、務まるのかどうかもわからないけど、とにかく、あたしが犠牲になれば、お父さんは、少なくとも死ななくて済む……。そんな風に考えて、人生に絶望していた……。そうしたら、真夫ちゃんと会った……。電車の中で偶然に……。あたし、夢じゃないかと思った……。そして、神様が、最後にご褒美をくれたんだと思った……」

 

 あさひ姉ちゃんが真夫を抱き締めながら言った。

 

 くそっ……。

 

 だけど、真夫は口惜しかった。

 

 自分は無力だ……。

 そう思った。

 

 一千万円……。

 

 それだけあれば、あさひ姉ちゃんは不幸なことにならなくて済む。

 真夫とも一緒に暮らせるだろう……。

 

 一千万円……。

 

 お金さえ、あれば……。

 

 お金さえ……。

 

「……ねえ、真夫ちゃん」

 

 真夫を抱き締めているあさひ姉ちゃんが耳元でささやいた。

 

「な、なに?」

 

「ねえ、して……」

 

「えっ?」

 

「……ねえ、して……。なにもかも忘れさせて。真夫ちゃんのエッチには、そんな力がある。あたし、真夫ちゃんに愛されると幸せになれる。どんなに不幸なことが待っていても、とても幸せな気分になれる。だから、抱いて……。それにね、真夫ちゃん……」

 

 あさひ姉ちゃんが陽気な口調で言った。

 

「それに?」

 

「それに……。さっき、真夫ちゃんは、“今日はもうエッチはやめよう”って、言ったけど、もう、今日じゃないよ」

 

 あさひ姉ちゃんがくすくすと笑って、卓上のデジタル時計を指さした。

 時刻は零時を少し回っていた。

 

「……本当だ。もう、今日じゃなくなったね」

 

 真夫もくすりと笑った。

 

「……だから、して」

 

 あさひ姉ちゃんが言った。

 

「わかった……」

 

 それで、あさひ姉ちゃんが、ほんのちょっとでも幸せな気分になれるなら……。

 あさひ姉ちゃんにしてあげられるのが、それしかないのなら……。

 

 真夫はあさひ姉ちゃんを布団に静かに横たわらせ、そっと唇を重ねた。



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第2章  操心
 第9話   魔王の後継者


 玲子は、早朝の公園に立っていた。

 昨夜は忙しかった。

 

 「理事長」に命じられた真夫という少年に関する調査結果を報告し、それから真夫がいまいる場所であるアパートで生活している朝比奈恵という女子大生のことを調査報告を受けてまとめた。

 

 真夫と朝比奈恵は、同じ養護施設で育った幼馴染だ。

 しかも、ふたりは「恋人」関係という間柄だったようだ。

 朝比奈恵が養護施設を出てから再会した形跡は認められなかったものの、真夫がこれまでの高校を退学になって暮らしていた寮を追い出されると、すぐに朝比奈恵のところに行ったところを考えると、ふたりはずっと関係を続けていたのだろうか。

 

 ただ、調査を指示した者による報告書ではそれはわからなかった。

 

 まあいい……。

 

 いずれにしても、この朝比奈恵と真夫が特別な関係であるというのは確かだ。

 「理事長」の意図である、白岡かおりという女生徒を真夫に調教させよという指示も、彼女を使えばなんとかなるかもしれない。

 なにしろ調査結果によれば、その朝比奈恵には、ろくでなしの父親が闇金に作った多額の借金があるらしい。

 それで、近々、闇金の息のかかっている売春組織に売り飛ばされることになっているようだ。

 

 その闇金についても調べた。

 大きな暴力団組織に繋がっている中堅クラスの下部組織であり、手を回せばどうにでもなる連中だ。

 真夫という青年を取り込むカードとしては使えるだろう。 

 

 さらに、理事長に指示されたのは、真夫を痴漢の冤罪にかけた三人組の男子生徒の処置だ。

 

 学園の生徒だが、平素から評判の悪かった、どうしようもない連中であり、白岡かおりという女子生徒をレイプして痴態の映像を撮り、その映像で脅して、白岡かおりを玩具にして遊んでいた者たちだ。

 そもそも、真夫が巻き込まれた痴漢も、この三人組が白岡かおりを呼び出して、電車で悪戯をしていたのだ。

 それを真夫が痴漢として訴えたとき、連中は現場から逃亡したかおりを携帯で脅迫して、真夫を真犯人だと告発させた。

 

 かおりもかおりだが、三人組は相応の酬いを与えるべきだろう。

 理事長には、その三人については、退学に加えて、見せしめの襲撃を指示された。

 

 その処置も夜のうちの仕事だ。

 

 玲子がここで待っているのは、襲撃をするチンピラをけしかける仕事をさせた部下からの報告を受け取るためだ。

 学園は寄宿舎制だが、週末については希望する者で許可を受けた生徒は、外出や帰宅が許される。

 例の三人組が、一端の不良きどりで、週末になれば、家にもほとんど戻らずに、夜通し遊びまわっているのは確認済みだ。

 

 玲子が部下に指示したのは、偶然を装って夜遊びをしている連中に与太者をけしかけて、三人を襲わせることだ。

 部下といっても、実際には「理事長」の使う若者であり、玲子の仕事を手伝うために、理事長につけられている何人かのひとりだ。

 とにかく、それを昨夜のうちに終わらせろと言った。

 面倒な仕事ではないし、すぐに終わったと思う。

 

 玲子は、この公園で部下から、顔を潰した三人の男子生徒の写真を受け取ることになっていた。 

 わざわざ、メールではなく、手で受け取ることにしたのは、三人が金持ちの子弟であり、うっかりと犯罪の証拠となるデーターがネットに流れて、足がつくのをできるだけ防ぎたかったからだ。

 

 それにしても遅い……。

 玲子がいるのは、街の真ん中にある大きな公園のベンチだ。

 時計を見ると、朝の四時を十分ほど過ぎている。

 待ち合わせの時刻は四時だから、もう十分も遅れている。

 玲子は苛立ちを感じていた。

 

「偶然だね、玲子。こんなところでなにを?」

 

 不意に背後から声をかけられた。

 

「しゅ、秀也様……」

 

 驚いて振り返った。

 そこにいたのは、Gパンに紺のジャケットを身に着けた木下秀也だった。

 学園の三年生であり、学園の生徒会の副会長をしている男子生徒だ。

 玲子は、顔が引きつるのを感じた。

 なにしろ、この男子生徒は……。

 

「こ、こんなところで、なにを……?」

 

 とりあえず、それだけを言った。

 すでに喉は緊張でからからだ。

 

「おいおい、玲子、それは俺が訊ねたんだぜ?」

 

 すると、秀也がけらけらと笑った。

 そして、なにかを企んでいるような表情をして、玲子の腰かけるベンチに座ってきた。

 

「なあ、玲子、お前、俺に報告することがあるんじゃねえか?」

 

 隣に腰かけた秀也が意味ありげに言った。

 

「ほ、報告と言われても……」

 

 玲子はとぼけた。

 秀也が玲子からなにを喋らせようとしているのかは、すでに察しがついた。

 

 真夫のことだろう。

 

 あの「魔王」こと、学園の理事長に、血の繋がった息子が見つかったという話をどうやってか知らないが聞きつけたに違いない。

 だが、玲子としては、いずれわかることとはいえ、理事長の許可なく、真夫のことを秀也に暴露するわけにはいかない。

 それで白を切ろうと思った。

 すると、秀也がジャケットのポケットに手を入れた。

 

「はうっ」

 

 その瞬間、股間のクリリングが激しく振動を始めた。

 玲子は両手を股間に押さえて上体を屈めた。

 いきなり動かされたクリリングの刺激は、脳天まで突き抜けるような衝撃だった。

 すっかりと調教され尽した身体は、玲子の身体を信じられないくらいに敏感なものにしている。

 しかも、クリトリスの根元の皮一枚内側に埋め込まれている超高性能の淫具は、玲子の身体の反応のデーターを蓄積していて、玲子がもっとも感じる強さと振動波を股間に注ぎ込んでくるのだ。

 

 クリリングの振動の波は三段階──。

 

 “低”は、決して達しない程度の振動を延々と送り続けるような刺激。なんとか平静を装うことも可能だが、淫らな疼きが身体から離れることはないように、じわじわとした振動を変化をさせながら送り続ける。

 しかも、玲子の身体を検知し、玲子が達しそうになれば、振動は停止し、しばらくして動くという動きだ。

 ある意味、三段階の中でもっとも苦しい刺激かもしれないと玲子は思っている。

 

 “中”は、さらに激しい振動。口を押さえていなければ声も出るし、腰も震えてくる。基本的には、玲子を絶頂させるための振動なのだが、比較的時間をかけて責めてくるような動きになる。

 

 “高”は、瞬時に昇天させるような激しいものだ。

 どんな状況の場所であろうとも、ほとんど三十秒ももたずに昇天させれるような強い刺激だ。

 とにかく、高の場合は、クリリングは、検知できる玲子の体調を判断して、もっとも短時間で効率的に絶頂させられる刺激を選んで送り込んでくる。

 これを受けると、どんな場所であろうとも、あっという間に玲子はその場で昇天するしかない。

 

 秀也がクリリングに送り込んできたのは、“高”の刺激だ。

 

「あぐうっ、くうっ、や、やめて……こ、こんなところで……」

 

 玲子は股間をスカートの上から押さえたまま、悲鳴をあげた。

 しかし、どんなに振動を手で押さえようと思っても、リングは実際には皮膚の下なのだ。

 どうすることもできない。

 しかも、刺激を遮断する革の下着が外部からの刺激を封じてしまう。

 

「ああ、ああっ、や、やめて……く、ください……」

 

 玲子は必死で言った。

 するとスイッチが切られる。

 玲子は、はあはあと息をしながら、秀也の顔をまじまじと見た。

 

「それとも、こっちがいいかい?」

 

 口を開こうとすると、秀也がジャケットのポケットからクリリングを操作するリモコンを取り出した。

 

「ひぎいいっ」

 

 玲子は絶叫して、ベンチからのけぞり落ちた。

 今度は電撃がクリリングから放たれたのだ。

 股間の内側から浴びせられる電撃の激痛は生易しい苦痛ではない。

 玲子は、秀也の足元で絶叫した。

 

 そして電撃がとまる。

 玲子は脱力した。

 すでにスーツの下は汗びっしょりだ。

 

「座れよ、玲子」

 

 秀也は言った。

 もはや、逆らう気力はない。

 玲子は諦めて、秀也の横に座り直した。

 

増応院(ぞうおういん)理事長の血の繋がった男が見つかったんだろう? さっさと喋りなよ」

 

 すぐに秀也は言った。

 やっぱり、そのことか……。

 玲子は思った。

 

 “増応院”と秀也が呼んだのは、学園の「理事長」にして、「魔王」と称される政財界の闇の帝王である玲子の「飼い主」のことだ。

 無論、増応院は本名ではない。

 金を出して手に入れた戒名だ。

 

 本名は豊藤(とよふじ)龍蔵(りゅうぞう)──。

 

 いまでは闇に隠れて支配力を発揮しているが、かつては豊藤財閥と称される国際的な巨大財閥の「帝王」だ。

 

 だが、実質的な表舞台からの引退とともに、増応院という戒名の名乗りを始めた。

 “増応院”というのも、自ら名付けたらしい。

 読み方を変えれば、“まおう”とも読める。

 つまりは、しゃれなのだ。

 

「…しゅ、…秀也様、理事長の許可なく、わたしが喋るわけにはいきません。お察しください……」

 

 玲子は早口で言った。

 だが、秀也は年齢とは似つかわしくない冷酷そうな笑みを浮かべただけだ。

 そして、手に持っているクリリングのリモコンをかざした。

 

「ああっ、ううっ」

 

 また、クリリングの衝撃がクリトリスを襲った。

 再び身体をくの字に曲げた玲子に、今度は間髪入れずに電撃が襲う。

 

「ひぐううっ」

 

 またもや、ベンチから転げ落ちた。

 電撃はすぐに止まったが、玲子は恐怖で震えが止まらなくなった。

 

 この木下秀也が理事長と同じ玲子に埋められたクリリングを操作できるリモコンを保持している理由は簡単だ。

 一年前にあの理事長に捕らえられたとき、玲子を直接に調教したのが、この木下秀也だったのだ。

 だから、理事長が操作できる玲子用の淫具の操作具は、この秀也も持っていて、いつでも操作できるというわけだ。

 

 秀也は、増応院こと、学園の理事長である豊藤龍蔵の親族の子弟になるらしい。

 増応院は、秀也のことを「甥」と説明しているが、実際の関係はもっと遠縁ぽい。

 

 ふたりがどのくらいの血縁関係なのかは玲子にもわからないが、秀也自身が発言した言葉のとおりであれば、理事長は自分の持っている権力を秀也に与えるために、「帝王学」を学ばせているのだという。

 それで、自分の手元に置くために、理事長の「隠居施設」とも呼べる「聖マグダレナ学園」に入学させたのだそうだ。

 

 それが本当であれば、秀也は後継者のいない「魔王」こと増応院の後継者候補ということになるのだろう。

 

 秀也が理事長の関係者であることは、ほとんど者に秘密にされているが、理事長が秀也に学園を利用して「帝王学」を学ばせていることは、紛れもない事実だ。

 

 なにしろ、理事長が秀也に施した帝王学教育の一環が、玲子という「教材」を調教させることだったのだ。

 

 実は、理事長が指示した玲子に対する調教を実際に施したのは、この木下秀也だ。

 玲子がクリリングを埋め込まれた学園内の「手術室」でも、秀也は理事長とともに立ち会った。  

 だから、玲子にとっては、理事長同様に、秀也には逆らえないというのが頭に刻み込まれている。

 女を調教させることで、人を支配することを学ばせるというのは、あの増応院特有の帝王学教育のようだ。

 秀也に玲子を調教させたのと同じように、真夫にも白岡かおりという女生徒を調教させようとしていることからも、それはわかる。

 

「座れ、玲子……。もう一度、訊ねるぞ。理事長の息子という男のことを教えろよ。学園に入ってくるというのは本当か……?」

 

 秀也の声が上からかけられる。

 

「ほ、本当です……」

 

 答えるしかない。

 クリリング与える振動が甘美な羞恥地獄であれば、電撃は恐ろしい拷問そのものだ。

 それを繰り返される苦痛から抵抗することなど不可能だ。

 

「なるほど……。それよりも立てよ。俺の前にな。ちょっとでも質問に答え遅れたら、次は一分間続けて電撃を流す。いいな」

 

 秀也は言った。

 

「は、はい……」

 

 玲子は頷いた。

 訊問が始まった。

 

 結局、玲子は坂本真夫という青年のことを秀也に説明させられた。

 秀也の立場なら、真夫は、秀也の前に突然に割り込んできた財閥の後継者のライバルということになるはずだ。

 だが、秀也が真夫についてどう思っているかは、表情ではわからない。

 

 ただ、訊問のあいだ、玲子は五回もクリリングを操作された。

 しかも、必ず“高振動”の後の電撃という過程を繰り返すのだ。

 雰囲気からすると、玲子が喋ることについては、すでに秀也はほとんどのことを承知している気配だった。

 ただ、玲子を苛めて愉しむために、この訊問を続けているという感じだ。

 

「まあ、こんなところか……。じゃあ、しばらくすれば、学園にその真夫という男子生徒が編入してくるということだな。俺にとっては親類にもなるわけだ。仲良くするとするよ」

 

 秀也は言った。

 玲子は許されて、その場に両膝をついてしまった。

 繰り返された淫具の振動と電撃によって玲子の身体は疲労困憊していて、もう立っているのもやっとだったのだ。

 

 そして、玲子はふと時計を見た。

 もうすぐ、五時……。

 

 そういえば、ここで報告受けのために待ち合わせをしていた部下との約束の刻限を一時間近くも過ぎている。

 

 おかしい……。

 玲子は我に返った。

 

「どうした、玲子? 待ち人が来ないのが不思議か?」

 

 そのとき、目の前の秀也が言った。

 玲子は、その意味ありげな口調に顔をあげた。

 

 秀也が合図をする。

 すると、正面の茂みの中から、複数の人影が出てきた。

 玲子は声をあげた。

 現われたのは、紛れもなく、玲子が部下に命じて襲撃させたはずの三人の男子生徒だ。

 夜のうちに、チンピラを装った暴漢に襲わせたはずなのに、負傷どころか、服装には汚れひとつない。

 

 どういうこと──?

 玲子は目を丸くした。

 

「へへへ、秀也さん、なかなか面白いものを見物させてもらって、ありがとうございますね」

 

「でも、もうちょっと色っぽいとよかったかな。でも、学園の顧問弁護士の工藤さんが、秀也さんの奴隷って本当だったんですね。さすがっすよ」

 

「ねえ、この女弁護士さんをやらせてもらっちゃだめですか? 秀也さんの言いなりなんでしょう?」

 

 三人が出てきて、地面にしゃがみ込んでいる玲子に卑猥な視線を向けた。

 

「欲張んなよ。お前ら、顔面潰されて、酷い後遺症が残るくらいの怪我を負わされるところだったんだぜ」

 

 秀也が言った。

 玲子は混乱した。

 それにしても、なんで、あの三人がここに?

 

「……悪いが、理事長の命令は、俺が手を回して取り消しさせた。こいつらは俺の大切な子分でね。理事長の決定だから退学はやむを得ないだろうけど、怪我をさせるのは勘弁してやってくれよ。理事長には、うまくあんたから報告しておいてくれ、玲子」

 

 秀也がにやにやと笑いながら言った。

 玲子は驚愕した。

 また、三人が秀也の息がかかっている者ということにも驚いた。

 三人について調査したときには、そんな事実はわからなかった。

 それが本当なら、秀也は余程に用心深く三人を操っていたようだ。

 なにしろ、玲子の調査網にも引っかからなったくらいなのだ。

 

 そして、はっとした。

 もしかしたら、白岡かおりを連中が脅迫していたという事件そのものにも、秀也が関わっている?

 

 いや、十分にあり得ることだ。

 この三人が、秀也に従っているというのであれば、彼らは秀也の知らないところで、女子生徒をレイプしたり、脅迫したりはしないだろう。

 とにかく、玲子は秀也に指示されたことに愕然としてしまった。

 

「そ、そんな──。理事長の命に逆らうなど……ましてや、ご命令を取り消してしまうなど、いくら秀也様でも許されることではありませんよ」

 

「許されるのさ。どうせ、理事長は学園からほとんど出ないしな。こいつらも、もう学園には戻さない。学園内のことで理事長の意向には背けないから、退学は変更できないからな。だけど、外のことなんて、わかりはしないよ。玲子が適当に口裏を合わせていれば済むことさ」

 

「そ、そんなことできません──。理事長に逆らえば、わたしが殺されます。そんなことは……」

 

「いいから、俺の眼を見な」

 

 秀也が静かに言った。

 

「あっ」

 

 玲子は思わず声をあげた。

 その瞬間、玲子は自分の心の中に秀也のなにかが入り込むのを感じたのだ。

 心が鷲掴みされたような不思議な感覚が襲い掛かり、全身が硬直して自分の意思では動けなくなる。

 

 「操心術」だ……。

 

 増応院とともに、この木下秀也は、ある不思議な術を遣う。

 

 他人の心や感情を操るのだ……。

 催眠術……とも似ているようだが、それとはまったく異なる気もする。

 

 とにかく、増応院龍蔵は、その怪しげな術で、世界中の政財界の巨頭をひそかに支配下に置き、絶対権力者として君臨しているのだ。

 

 それが豊藤財閥、すなわち、「魔王」の秘密だ。

 玲子は、実際に心を何度も操られることで、それを悟った。

 

 そして、この秀也もまた、龍蔵の一族の者らしく、同じような力を駆使する。

 玲子の見たところ、増応院ほどの強力さはないようだが、ただの人間である玲子には、秀也の施す操心術には逆らえない。

 

「はうっ」

 

 なにか強いものが玲子の心からやっと離れた。

 次の瞬間、玲子は、秀也が三人の男子生徒を匿ったという事実を理事長に報告する意思を失っている自分を発見した。

 

 操心術を刻まれた……。

 それははっきりとわかった。

 

 だが、今回のことに関する記憶は残っている。

 理事長の操心術は、そんな記憶でさえも書き換えてしまう。

 そういう意味では、秀也の「力」は、理事長には及んでいないようだ。

 

 いずれにしても、玲子は、これで秀也の「裏切り」を報告することができなくなった。

 多分、理事長の前に出れば、言いつけの通りに処置したと喋ってしまうに違いない。

 

「……ところで、玲子、さっき聞いたんだけど、こいつらは、学園の顧問弁護士で、理事長の秘書のようなことをやっているあんたに、ひそかに憧れてたんだってよ。だから、悪いが、三人のチンポをここで舐めてやってくれねえか。これから、ちょっとした仕事をさせようと思ってな。その駄賃代わりだ」 

 

 秀也が何でもないような口調で言った。

 すると、秀也の後ろの三人が歓声のようなものをあげた。

 

「な、なんで、そんなこと──」

 

 さすがにかっとなった。

 理事長でも秀也でもない男の奉仕をするなど……。

 ましてや、学園の不良男子生徒の股間を舐めるなど……。

 

「うわっ、はううっ」

 

 そのとき、またもや強い振動が股間を襲った。

 玲子は両手で股間を押さえてのけぞった。

 

「断れば、今度は人の多い駅前に連れていって同じことをするぜ、玲子。まだほとんど人のいねえ、早朝の公園で済ませた方がいいんじゃねえか」

 

 秀也がリモコンを玲子に向けながら酷薄な笑みを向けた。



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 第10話  公園の羞恥遊戯

「こ、こんなところで無理です、秀也様」

 

 玲子は必死に哀願したが、今日の秀也はいつになく冷酷で執拗だった。

 結局、クリリングの強振動と電撃の繰り返しで、三人の男子生徒の前に跪かされた。

 秀也に屈したというよりは、クリリングの責めで腰が砕けて立てなくなったのだ。

 

「手を押さえつけろ」

 

 秀也の命令で三人の男子生徒が跪いている玲子の腕を掴む。

 すると、秀也がスマホを取り出して、なにかの数字を打ち込みだした。最後にそのスマホから電話を発信する。

 

「あっ」

 

 玲子は小さく声をあげた。

 スーツスカートの中で調教用の革下着の電子ロックが外れたのだ。

 両側と後ろ側の留め具が解放され、革下着はそのままぼとりと地面に落ちた。

 

「すげえもんだな。よくもこれだけ蜜を出したもんだ。臭気と蒸れを防ぐ特別製の樹脂でできているといっても、限度があるぞ。感じすぎだぜ、玲子」

 

 秀也が地面に落ちた下着を取りあげて言った。

 さらに、手を伸ばして、スカートの横のホックを外す。

 

「ちょ、ちょっと」

 

 玲子は驚いて声をあげた。

 だが、抵抗しようにも、三人がかりでしっかりと身体を押さえられている。

 玲子は竦みあがった。

 抵抗を失ったスカートが腰からばっさりと落ちて、股間が丸出しになったのだ。残っているのは、ガーターストッキングだけだ。

 膝と足首を浮きあがらされ、そのスカートまで取りあげられる。

 

「三人のちんこを舐める気になったかい、玲子? 三人から精を搾り取れば、スカートだけは返してやるぜ。革の下着はもう卒業だと、理事長から命令されているから、返さねえがな」

 

 秀也が言った。

 

「卒業?」

 

 人気のない夜明けの公園とはいえ、陽射しのある野外で下半身を露出させられた羞恥と緊張感で、玲子は気を失いそうだった。だが、秀也が口にした“卒業”という言葉が引っかかった。

 

 玲子の下半身を完全管理していた革の下着は、クリトリスの真下に埋め込まれたクリリングとともに、玲子が龍蔵理事長や秀也に屈するしかなかった決定的な「調教手段」だった。

 股間を洗うにも、尿意も便意も、いちいち秀也か理事長に許可を求めて、下着の電子ロックを解除してもらわなければならない。一年にも及んだその生活は、玲子自身に、龍蔵や秀也の「奴隷」であることを心の底から自覚させた。

 

 それが卒業?

 

「ああ卒業だ。それどころか、俺は玲子の調教係を外されることになったよ。あんたは、さっきの真夫という突然現れた男の奴婢にするようだ。冗談じゃないと思わねえか? 玲子は俺の女だぜ。龍蔵伯父貴(おじき)のものでもねえ。お前を調教したのは俺だ。それなのに、なんで伯父貴の気まぐれで、お前を奪われなきゃならねえんだ」

 

 秀也が吐き出すように言った。

 いつにない秀也の苛立ちのようなものを感じるのは、そのせいかと思った。

 

 確かに、玲子は昨夜、龍蔵理事長から、真夫という少年が自分の血を引く者であるなら、これからは真夫に仕えろと命令された。

 だが、龍蔵に捕らわれて一年──。

 

 玲子を直接に調教したのは、ずっと秀也だった。

 それは、龍蔵特有の「帝王学」教育の一環であるらしく、他人を支配するという手段と精神を女を調教するという行為を通じて植えつけるのだそうだ。

 さっき外された革の下着の管理ひとつにしてもそうだった。

 玲子が尿意や便意を催したときに連絡して、革の下着を一時的に解除することを求めるのは秀也に対してだ。

 そうすると、秀也が所持している特別な携帯電話を使って、解除ロックを発信するという習わしだった。

 どうやら、玲子を手放せという龍蔵の命令は、秀也にとって不本意なものであるらしい。

 

「……あんただって、そう思うだろう? そのよくわからねえ真夫というやつの奴隷になるんだぜ。あんた自身は、見たこともなかったやつの奴婢になれという命令なんて我慢できるのかよ?」

 

 秀也が言った。

 だが、玲子はわざと皮肉の色を湛えた笑みを秀也に向けてやった。

 

「……わたしにとっては、秀也様だって、最初は、よくわからない見たこともなかった“やつ”でしたよ。わたしに自由意思はありません。奴婢になれと指示された方に仕えるだけです」

 

 玲子が言い放つと、すっと秀也の顔色が変わったような気がした。

 

「……へっ、言うじゃねえか……。まあいい。とっととしゃぶれよ。そろそろ、犬の散歩でもする者が来てもおかしくない刻限だ。そのすっぱんぽんの股を晒したければ別だがな」

 

 秀也が冷たく言った。

 

「まずは俺からだ」

 

 玲子を押さえていた三人の男子生徒のひとりが玲子の前に出てきた。

 目の前にズボンのチャックから出した男の性器が突きつけられる。

 玲子は大きく嘆息した。

 そして、口を開いて、それに唇を押し被せた。

 こうなったら、少しでも速くこの少年たちから精を出させたかった。

 玲子は口全体をストロークさせて、積極的に舌を傘や幹に絡みつかせた。

 

「お、おおっ、き、気持ちいい……」

 

 途端に、性器を咥えている少年の一物が玲子の口の中で膨張を増し、同時に呻くような声がした。

 玲子は小鼻を膨らませながら必死に奉仕した。

 鼻息を鳴らしながら懸命に、口の中の怒張を刺激する。

 

「う、うう……」

 

 少年が我慢できなくなったように声を出すのに、それほどの時間はかからなかった。

 やがて、口の中に白濁液が放たれた。

 玲子はそれを口で受けた。

 しかし、それをどうしていいか迷った。

 

「飲み込むな。外に出せ」

 

 そのとき、秀也の強い声がした。

 玲子は口の中のものを地面に吐きだした。

 

 ふたり目が始まった。

 今度もそんなに時間はかからなかった。

 やはり、秀也は精を飲むなと強く命令した。

 

 そして、三人目が終わった。

 三人目の精を口から吐きだしたとき、玲子はほっと安堵の息を吐いた。

 なんとか、人が来る前に終わらせることができた……。

 

「は、早く、スカートを」

 

 玲子はそれだけを言った。

 とにかく、こんな下半身になにも着ていないという破廉恥な恰好から解放されたい。

 そのために、三人の不良男子生徒の股間を奉仕するという屈辱に甘んじたのだ。

 

「……焦るなよ、玲子」

 

 秀也が意味ありげににやりと笑った気がした。

 次の瞬間、突然に頭の中がなにかに掴まれたような衝撃を感じた。

 

 操心術……?

 

 そう思ったが、頭の中が真っ白になり、それ以上なにも考えられなくなった。

 

 


 

 

「……えっ?」

 

 はっとした。

 玲子は外気の冷たさを肌に感じ、同時に違和感を覚えて戸惑った。

 

「な、なに? なに、これ?」

 

 思わず叫んだ。

 玲子は全裸だった。

 さっきの公園のベンチに玲子は座っていたのだが、玲子は下半身だけでなく、上半身も含めて、なにも身に着けていない素裸にされていた。

 唯一の例外は踵が低めのパンプスだが、ほかにはなにもない。

 

「ひっ」

 

 玲子は慌てて、両手で身体を隠してベンチに隠れるようにしゃがみ込んだ。

 周りには誰もいない。

 秀也もいないし、あの三人の男子生徒もいない。

 脱がされたのだと思う服もない。

 バッグでさえも、どこかに持っていかれている。

 秀也の仕業だと思った。

 あの「操心術」で意識を失わせ、そのあいだに玲子から服を脱がせて、バッグとともに持ち去ったのだと思った。

 

 だが、途方に暮れた。

 こんな格好でどうすればいいのか。

 そのとき、ベンチの上に小さなメモ用紙が、小石の重しの下に置いてあるのを見つけた。

 

 

 “西の男子トイレの奥に行け”

 

 

 そうあった。

 秀也の字だ。

 

「そ、そんな……」

 

 玲子は思わず声をあげてしまった。

 西側のトイレというのは、ちょうど公園の反対側の場所だ。

 素っ裸で公園を横切れということだろう。

 なんという嫌がらせだと思った。

 

 しかし、すぐに考えている暇はないのだと決心した。

 行くしかない。

 じっとしていれば、この公園は人でいっぱいになる。

 

 玲子は両手で乳房を隠して立ちあがった。

 パンプスを脱いで片手に持つ。

 裸足の方が速いはず。

 

 駆けた。

 

 住宅地とは離れた早朝の中心街の公園だ。

 ほとんど人影はない。

 だが、まったくいないというわけでもない。

 距離が離れたところには、散歩をしているような人影がちらほらと見える。

 

 気のせいか、こっちを向いてなにかを叫ぶ声がしたような気がした。

 

 無視した。

 考えない。

 とにかく、全力で走る。

 

 幸いにも、西のトイレに着くまでに、直接にすれ違う者はいなかった。

 玲子はトイレの横の繁みに飛び込んだ。

 

「はあ、はあ、はあ……しゅ、秀也様……。わ、わたしです……。玲子です……」

 

 玲子は、公衆トイレの脇の繁みから男子トイレに向かって、小声でささやいた。

 しかし、誰かがいるような気配はない。

 仕方ない。

 玲子は中に入った。

 

 やはり、誰もいない。

 最奥へ……。

 

 そこに、服が置いてあるのだろうか……?

 

 奥の個室に飛び込む。

 洋便器がそこにある。

 

「えっ?」

 

 誰もないし、服もない。

 玲子は訝しんだ。

 だが、排水の管があり、それに手錠がかけられている。

 さらに、その手錠の横に貼り紙があった。

 

 

 “管に鎖をかけたまま、両手に手錠をかけろ”

 

 

「そ、そんな……」

 

 玲子は与えられている指示に気が遠くなるのを感じた。

 手錠をかけてしまえば終わりだ。

 もう逃げられない。

 

 なにかの「調教」の一環とは思う。

 しかし、万が一にもここに置き去りにするのが秀也の考えだったらどうしよう。

 秀也は、玲子の調教係から外されて、玲子は真夫のものになるのを面白く思っていないようだった。

 それで、どうせ自分の「玩具」でなくなるならと、腹いせに、玲子を警察に連れていかれるような羞恥と行為を強要しようとしているとすれば……。

 

 手錠をかけて誰も来なければ、玲子は終わりだ。

 警察に連れていかれても、龍蔵のことを喋るわけにはいかないのだ。

 

 やはり、逃げるか……。

 

 だが、玲子は全裸だ。

 公園には人気がないが、通りに出ればもうかなりの通行人もいるだろうし、車も走っている。

 

 無理だ……。

 

 玲子は観念した。

 ふと、トイレの扉を見る。

 鍵は外されてなくなっている。

 おそらく、これも秀也たちの仕業に違いない。

 玲子は意を決して、壁を向くと管にかかっている手錠に自ら手錠をかけた。

 

 それから間もなくだった。

 複数の足音がトイレに入ってきたのがわかった。

 玲子は身を竦めた。

 

「んふうっ」

 

 そのときだった。

 突如として、股間のクリリングが振動を始めたのだ。

 強度は“中”だ。

 

「あっ、ああ……」

 

 抑えようとしても、どうしても声がこぼれてしまう。

 トイレの扉が開けられた。

 

「あっ、いやあ」

 

 思わず声をあげた。

 入ってきたのを確かめようとした瞬間に、目の上になにかをかけられたのだ。

 

 目隠しだ……。

 視界を奪われてしまった。

 

「しゅ、秀也様ですか……? あ、あの……く、くうっ……」

 

 玲子は股間の振動に耐えながら言った。

 だが、返事はない。

 玲子は恐ろしいほどの不安に襲われた。

 

 クリリングが作動したタイミングを考えると、秀也たちに決まっている。

 だが、確証はない。 

 誰かの両手が玲子の腰の横を持ち、ぐっと引き寄せられた。

 

「いやあっ」

 

 玲子は腰を振って暴れた。

 

 犯される──。

 そう思うと、本能的に身体が動いたのだ。

 

 そのとき、別の手が尻たぶに伸びて、ぐいと玲子の尻を開くようにした。

 

「あっ、あああっ、や、やめてっ」

 

 玲子は泣き声をあげた。

 尻の両横を持っている手とは別の指が、玲子の肛門に指を挿し入れてきたのだ。

 つまり、肛門に指を挿し込んで、玲子が腰を振って抵抗するのを邪魔しようということだろう。

 指にはなにかを潤滑油を塗ったのか、指の第二間接くらいまでがつるりと上側から挿し込まれた。

 

「んふうっ、ああっ」

 

 玲子は声をあげた。

 尻穴の快感を覚えさせられたのは、龍蔵に捕らえられてすぐだった。

 調教したのは、やはり秀也だったが、昼夜にわたり器具と媚薬で尻を調教され、いまや、玲子の肛門は第二の性器といえるほどの敏感な場所になっている。

 その尻に指を入れられ、さらにクリリングを作動されて、それだけで玲子は追い詰められそうだ。

 

 そこに背後から膣めがけて男の怒張がぐいを挿し込まれる。

 今度は腰が肛門に挿さった指で固定されている。

 逃げられない。

 

「うああっ」

 

 犯された。

 悪夢のような現実を改めて実感した。

 

 実のところ、これだけ長く龍蔵や秀也の調教を受け入ている玲子だったが、生身の性器を股間に挿入するのは、ほとんどなかった。

 

 いや、もしかしたら皆無だったかもしれない。

 操心術で記憶をぐちゃぐちゃにされているので判然とはしないが、龍蔵も秀也も性具で玲子をいたぶるのを専らにしていて、自らの性器で犯すということはしなかったように思う。

 

 だが、いまは犯されている。

 

 これが秀也の性器なのか、それとも、三人組の誰かなのか、あるいは、まったく見知らぬ男のものなのか……。

 

 本格的な挿入が始まった。 

 

「あっ、ああっ、ああっ」

 

 歯を食い縛って、女の反応を防ごうとするが、灼けるような傘が後ろから出し入れされ始めると、玲子の口からは甘い嬌声が迸った。

 

 なにしろ、犯されながら、尻にも指が入り、クリリングは激しく動いて玲子の官能という官能をかきたてているのだ。

 さすがに、これに耐えることなど不可能だ。

 

 いく……。

 

 そう思った。

 玲子は声を防ぐために、必死で歯を食い縛った。

 

 そして、玲子は股間に男の性器を受けながら激しく絶頂した。

 それに合わせるように、玲子を犯していた男が溜息とも呻きともつかない声を出して、一気に玲子の股間に樹液を注ぎ込んだ。

 

 終わったか……?

 

 そう思ったが、やはりまだ続いていた。

 すぐに性器が抜け、ほかの性器が挿入してきた。

 一方で、クリリングの振動もまた続いていた。

 

 絶頂と精を受けた余韻を落ち着かせることを許されずに再開された律動に、玲子はもうなにも考えられなかった。

 玲子は泣き崩れるような声をあげて、あっという間に二度目の絶頂を迎えた。

 

 二人目が玲子の中で果てたのは、玲子は三回目の昇天をしたときだ。

 もう、玲子の身体は歯止めを失っていた。

 クリリングを動かされながら犯されるという仕打ちに、玲子は立て続けに絶頂を繰り返すしかなかった。

 

 そして、三人目──。

 

 やっと終わる。

 もう腰が砕けそうだ。

 そのまましゃがみ込みそうになり、尻たぶを思い切りはたかれた。

 

「きゃああ」

 

 激痛に悲鳴をあげた。

 だが、容赦なく二度、三度と叩かれる。

 座るなということだろう。

 

 玲子は懸命に脚に力を入れて腰をあげた。

 

「ああっ」

 

 四人目が挿入してきた。

 もう、なにも考えられない。

 玲子はあられもない声をあげていた。

 必死になって自制しようとした。

 こんな公衆トイレで声などあげてしまっては、ほかの者を呼び込んでしまうかもしれない。

 

 だが、四人目は執拗だった。

 三人の精を受けて、どろどろになっている玲子の子宮を押し上げ、奥を強く擦りあげては引いていく。

 それが十回、二十回と繰り返す。

 調教によりしっかりと超敏感な肉体に作り替えられている玲子が耐えられるわけがない。

 

「あうううっ」

 

 玲子はなにも考えられずに、何回目かの絶頂をした。

 どうしようもない。

 これほどの愉悦は初めてだったかもしれない。

 なにしろ、この一年、股間に受けるものは、ほとんどが性具ばかりだったのだ。

 生身の肉棒に犯されるという興奮が、玲子の雌としての本能をかき乱している。

 

「はううううっ」

 

 一番激しい喜悦のうねりが襲い掛かった。

 身体全体の細胞が一気に燃えあがるような感じだった。

 そこに、四人目が樹液を玲子に注ぎ込んだ。

 

 玲子の性器から肉棒が抜けていく。

 玲子は今度こそ、その場にしゃがみ込んでいた。

 

「はあ、はあ、はあ……しゅ、秀也様……秀也様ですよね……? お、お願いです。ク、クリリングを……」

 

 玲子は言った。

 終わったはずだ。

 しかし、いまだにリングは振動を継続している。

 さらに 玲子を犯した四人は一度も言葉を発していない。

 

 しかし、愕然とした。

 四人が個室から出ていく気配を示し始めたのだ。

 玲子に装着した目隠しも、手錠もそのままだ。

 もちろん、クリリングの刺激もほったらかしだ。

 

「ちょ、ちょっと待って、置いていかないで……ああっ、ああっ」

 

 玲子は叫んだ。

 口を開くと、どうしてもクリリングの振動による刺激で甘い声が出てしまう。

 とりあえず、目隠しを外そうとするが、後ろで金具で止めてあるようであり、手で外れない。

 そのあいだに、四人は完全に個室から出てしまった。

 

「あ、ああ……あ、あのう……しゅ、秀也様なんでしょう? 待ってください。お願いです──。ま、待って──」

 

 玲子は叫んだ。

 その大声で、誰かが来るかもしれないという怖れよりも、このまま置いていかれる恐怖が遥かに上回った。

 

「……大声を出すなよ、玲子」

 

 そのとき、外から声がした。

 やはり、秀也の声だった。

 ちょっとだけ安堵した。

 

「……お願いです。手錠を……。そして、服を返してください……。と、とにかく、リングの振動も……」

 

 玲子は声を低めて言った。

 だが、外から少年たちの笑うような声が戻ってきた。

 

「いや、玲子、俺は決めたよ。お前を真夫という男に与えるように命じられるくらいなら、お前を世間には出れないように、破滅させてから捨てることにする。服はトイレの前に撒き散らしておいてやる。そのうち、誰かが警察を呼んでくれるさ」

 

「ま、待って」

 

 玲子は恐怖した。

 必死に手錠を外そうともがく。だが、そんなこと可能なわけがない。しかも、股間の振動で力さえ入らない。

 

「どうせ、俺や龍蔵伯父貴のことを訴えても、警察は相手にしねえ。だが、あんたのことは、マスコミが面白おかしく紹介してくれるかもしれねえな。じゃあ、達者で暮らしてくれ。リングの振動でいきすぎて、まともに警察に喋れないなんてことがねえようにな」

 

 秀也が鬼畜な笑い声をあげた。

 玲子は火照っていた身体に冷や水を浴びたような気がした。

 

「ああっ、あっ、あっ、ま、待って、待ってください、秀也様──」

 

 玲子は手錠をがちゃがちゃと鳴らしながら必死で訴えた。

 だが、秀也たちの足音は遠ざかり、トイレの中の人気は消えた。

 

 玲子は置き去りにされ、本当に誰もいなくなった。

 トイレの入り口で、服がまき散らされる音が聞こえたような気がした。



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 第11話  若き調教係の要求

「安心してください。はいてますよ」

 

 テレビのお笑い芸人を真似たお道化た言葉が、くすくすという笑い声とともに耳に入ってきた。

 

 そして、気がついた。

 

 玲子は公園のベンチに座っていて、横にはにやにや笑っている秀也がいたのだ。

 裸でもなければ、ここは男子トイレでもない。

 最初からいた公園のベンチだ。

 しかも、ちゃんとスーツを身に着けている。

 

 白昼夢……?

 

 いや、秀也の操心術だ。

 どうやら、秀也の力によって、玲子はベンチにすわったまま、幻想を見させられたようだ。

 しかし、どこからが現実で、どこからが幻想……?

 

 玲子は慌てて、スーツの上から身体を触った。

 服を脱がされて、改めて着せられたという感じではない……。

 服は一度も脱がなかった……?

 

 ただ、あの革の下着は外されている。

 スカートの下はガーターストッキングだけで、なにもはいていない。

 また、まるで絶頂した直後のような気だるさと、身体の火照りは残っている。

 

 だが、あの三人組の姿はない。

 周りにいるのは、横に座っている秀也だけだ。

 

 どう考えればいいんだろう……?

 玲子は混乱した。

 

「くくく……。大丈夫だよ。まだ、なんにもしてねえよ。ただ、肝が冷えたろう? 俺を敵に回せば、どうなるかを教えてやっただけだよ」

 

「操心?」

 

 呟いた。

 だが、実際のところ、なにが操心術による幻想で、なにが現実なのかわからない。

 それが、秀也の操心術なのだ。

 

「だが、もうわかっただろうけど、お前には俺に従うしか道はないんだ。学園に閉じこもって、覗き趣味しか愉しみがねえ龍蔵の伯父貴には頼れねえぞ。いまや、伯父貴は学園の外のことはあんたに任せっぱなしで、玲子が報告しなけりゃあ、なにもわからねえ。だが、その玲子は、俺の操心術で、俺に関わることが報告できねえように心が縛られている。伯父貴には頼れねえんだよ」

 

 秀也が言った。

 事実だと思った。

 

 あの理事長は、怖ろしい権力者ではあるものの、確かにいまはほとんど隠居の身の上であり、大抵のことは部下に任せっきりで、各所からやってくる報告を玲子を通じて接し、特に必要なことだけを玲子に伝えさせるだけだ。

 その玲子が、秀也の操心術で情報制御されている可能性は考えていない気がする。

 龍蔵は、秀也が自分を裏切るという可能性など、皆無だと思っている気配だ。

 

 しかし……。

 

「ましてや、真夫とかいう男は無理だ。龍蔵の伯父貴の血を引くとしても、操心術が活性化するのは、後々のことだ。もしも、その真夫が本当の伯父貴の直系で嫡子だとしても、真夫がお前を俺から守れるようになる前に、お前が真夫のものになった時点で、俺は玲子を破滅させる。いとも簡単にな……。それがわかっただろう、玲子?」

 

 秀也が喉の奥で鬼畜に笑った。

 玲子は、秀也に見えない側の拳をぐっと握った。

 

「わたしになにをさせたいのですか、秀也様?」

 

 玲子は、できる限り平静を装いながら訊ねた。

 

「スマホの待ち受け画面を見てみな」

 

 秀也が言った。

 玲子のバッグは身体の横にある。

 言われたとおりに、携帯を見た。

 

「あっ」

 

 思わず声をあげた。

 そこには、学園の制服を身に着けたさっきの不良生徒のひとりの股間を頬張っている玲子の顔の写真が待ち受けに張りつけられていた。

 

「な、なんですか、こんなの──」

 

 自分の顔が真っ赤になるのをなるのを感じながら、とりあえず、待ち受けからその写真を削除する。

 すると、横で秀也が大笑いした。

 

「わかっていると思うが、あいつらは全員一年坊主。つまり、まだ、誕生日を迎えてねえ十五歳だ。その十五歳の股間をちゃんと成人しているあんたがこんな破廉恥な行為をしちゃあいけねえんじゃねえか? 淫行条例とかいうんだっけ? もしも、お前が俺を裏切れば、その写真があんたの名前付きでネットに出回ることになる。女弁護士の資格なんて、なくなるだろうなあ……」

 

 秀也がけらけらと笑い続ける。

 玲子は呆然としてしまった。

 

「ばかなことを……」

 

「龍蔵の伯父貴は手遅れになったときに、やっと事態に気がつくかもしれないけど、おそらく、俺の勘じゃあ、俺は軽くお叱りを受けて終わりさ。だが、役立たずのあんたは、お払い箱だ。龍蔵の伯父貴にとっちゃあ、あんたなんて、ただの玩具だ。肉親の俺をどうにかしてまで、守っちゃくれねえよ」

 

 秀也は言った。

 玲子は歯噛みした。

 だが、秀也は正しいと思う。

 秀也が龍蔵を裏切るという行為であれば、龍蔵は秀也を許さないかもしれないが、拉致して調教した女を破滅させたということだけであれば、不愉快な気持ちにはなるだろうが、それで秀也をどうにかしようとまでは考えないと思う。

 龍蔵にとって、玲子はその程度の存在だ。

 

「……で、でも、わたしには、龍蔵様を裏切る勇気はありません」

 

 玲子はそれだけを言った。

 

「わかっているよ。俺も龍蔵伯父貴を裏切るつもりはない。ただ、お前が真夫のものになるのが許せんだけだ」

 

「でも、真夫殿の奴婢になるのが、龍蔵様の命令なのです」

 

 真夫に従えという命令に背くことが、裏切りそのものなのだ。

 玲子はそう伝えたつもりだ。

 それに、玲子は龍蔵を見限るつもりもないし、いまさら、逃げたいとも思わない。

 龍蔵は、隠居の身とはいえ、魔王と称されるほどの絶対的な権力者であり、その専属として仕えるというのは、玲子のキャリアや年齢ではありえないほどの職務だ。

 やりがいのある仕事として、これ以上望めることはないだろう。

 それに、報酬も悪くない。

 意思を許されない「奴隷」だとしても、龍蔵は学園の専属弁護士で、秘書的な仕事をしている玲子に、十分すぎる報酬を支払っている。

 また、学園から出ることのない龍蔵の代わりに、直接的な伝言を運ぶ役割をしている玲子は、ある意味で、龍蔵が握っている巨大な豊藤財閥の権力の一端を握っているともいえるのだ。

 拉致されて完全に調教されたのは、悪いことばかりでない。

 そう考えてもいる。

 

「ああ、その通りなんだろう。わかっているよ。俺は伯父貴を裏切れと言っているわけじゃねえよ。もう一度言うが、真夫のものになるなと命令しているだけだ」

 

「その違いは、わたしにはわかりません」

 

 玲子はきっぱりと言った。

 すると、秀也がこれまでのにやついたような微笑みを消して真顔になる。

 

「……玲子には、俺たち一族の秘密に関しては、俺と伯父貴の両方の口封じの暗示がかかっている。だから、教えてやる。実は豊藤一族の不思議な血には秘密がある……。まずひとつは、操心の術は同じ血を持つ同族にはかからないということだ。これは知っているな?」

 

 玲子は頷いた。

 それは教えられたことがある。

 だから、龍蔵の操心術は秀也にはかからず、もちろん、秀也の操心術は龍蔵には影響することはない。

 そのはずだ。

 

「……もうひとつは、女に関することだ。豊藤一族の強い操心術は、関係を持った女の心を次々に縛ってしまう。その男を裏切れなくなるんだ。ただ、最初の一族のひとりの男だけだ。一族のうち、最初にその女の子宮に精を注いだ男の心だけに、その女は縛られる。後から精を受けてもだめだ。一度、精を受ければ、“刷り込み”が消失することはない。その女は、最初に結んだ豊藤一族の男の忠実なしもべになる」

 

 秀也は言った。

 だが、玲子は眉をひそめた。

 

 精を受ければ、心が縛られる……?

 

 そんな馬鹿げた話が……。

 一瞬、そう考えかけたが、相手の心を操ってしまうという操心術そのものが、信じられないような馬鹿げた話なのだ。

 あるいは、本当なのだろうか……?

 

 しかし……。

 

「だから、伯父貴の命令で真夫という男の奴婢になるとしても、絶対に子宮に精を受けるな。つまりは、生出しさせるなということだ。そうすれば、心は縛られないはずだ。俺の女であることが保たれる。別に難しいことじゃない。普通に避妊具を使えばいいことだ。つまりは、子宮に精が届かなけりゃいいんだ」

 

 秀也は言った。

 どうやら、それが秀也の言いたいことの核心のようだが、玲子は首を傾げざるを得なかった。

 秀也の言葉が、偽りでないとしても、なぜ、秀也が真夫の精を受けるなと告げるのかが理解できなかったのだ。

 

「わかりません。精で心を縛る云々の話は正直半信半疑ですが、だったら、わたしは、すでに龍蔵様に心を捉われているはずでしょう。真夫殿の精を受けても、わたしが、真夫殿に心を縛られるはずがありません」

 

 玲子は言った。

 だが、秀也は爆笑した。

 

「……あんたは、伯父貴と関係を結んだことがあるつもりだったのかい──? 伯父貴はもうあの歳だ。すっかりと精力は衰えちまって、実は五年くらい前から、あれが勃起しねえんだ」

 

「えっ?」

 

 勃起しない?

 そんな、馬鹿なことが……。

 

「あんたは、伯父貴の操心術でまるで犯されたような気分になっていただけだ。実際のところ、伯父貴は淫具しか使っちゃいねえよ。さもなきゃ、あんなに、学園内に隠しカメラを備え付けて、覗きなんてやっちゃいねえ。伯父貴は勃起しない精を発散するために、若い女の裸身を見るのが愉しみなんだ」

 

 秀也は笑いながら言った。

 玲子はびっくりした。

 ただ、言われてみれば、そんな気もする。

 とにかく、龍蔵自身に犯されたという記憶はまるでないかもしれない。

 

 龍蔵にしろ、秀也にしろ、責めのときに「操心術」を多用するので、玲子の記憶はぐちゃぐちゃになっている。

 さっきもそうだったが、なにが現実で、なにが操心術による幻想だったのか、いまだにわからないのだ。

 

「さもなきゃ、お気に入りのあんたを俺に調教させるわけがないだろう。伯父貴は、自分が失った性機能の身代わりとして、俺を使ってたんだ。監視カメラで俺があんたを責めるのを覗くんだ。それが、あのじじいのお愉しみなのさ。まあ、情けないよな。好色で常軌を逸した女遊びを続けてきた龍蔵伯父貴のなれの果てが、他人が自分の女を責めるのを覗くことだとはな」

 

 秀也は自嘲じみた笑みを浮かべた。

 だが、それで合点がいくところもある。

 龍蔵と会うたびに思ったのだが、龍蔵は前の日に受けた秀也からの調教の内容のことをよく知っている感じだった。

 それほど頻繁に秀也と龍蔵がやり取りしている様子でもないのに、前日の秀也の責めに対する玲子の反応のことを、龍蔵は数時間後の朝には承知していた。

 それは、とても不自然なことである気がしていたのだ。

 

 つまりは、龍蔵はずっと秀也が玲子を責めるのを見ていたということだったのかと思った。

 考えてみれば、秀也が玲子を責めるのは、ほとんどが学園内だけだ。

 学園には、龍蔵の備え付けた隠しカメラがあらゆる場所に設置されている。

 おそらく、龍蔵は、それで秀也が玲子を責めるのを監視していたに違いない。

 

「真夫のことだって、そうだぜ。どうせ、あの伯父貴のことだ。あんたが、真夫と関係する場所を指定してるんじゃねえか? どこでもいいとは言っていないはずだ。伯父貴は、それをどこかでまた覗き見するつもりなんだぞ」

 

 秀也がくすくすと笑った。

 玲子ははっとした。

 

「り、理事長には、午後に真夫殿と会うホテルの一室で、真夫殿に抱かれるように指示されています」

 

 玲子は言った。

 そのホテルは龍蔵の支配する豊藤財閥の系列のホテルだ。学園内と同じように、客室に隠しカメラを備え付けるのは簡単だろう。

 

「だったら、十中八九まで、伯父貴はその部屋の映像を転送させている。まあ、せいぜい、覗き趣味の老人を愉しませてやれよ」

 

「だ、だったら……」

 

 玲子は驚きで口に溜まった唾を飲み込みながら言った。

 

「……その理事長の監視の中で真夫殿の精を受けないというようなことは不可能じゃないですか」

 

 すると、秀也はさっと小さな容器を差し出した。

 

「これは?」

 

「避妊ゼリーだ。真夫と会う前に、これを膣に濡れ。それで精は殺され、直接的に子宮に精を受けないのと同じことになる。事前に塗るんだから、伯父貴にはばれない。そして、あんたは、真夫の支配を受けることもないということだ」

 

 玲子は避妊ゼリーを受け取った。

 迷ったがとりあえずバッグに入れた。

 だが、もうひとつだけ腑に落ちないことがある。

 玲子はその疑念を口にすることにした。

 

「秀也様のことが本当だとすれば、なぜ、秀也様はこんなまどろっこしいことをしているのです? そもそも、一族のうちの最初に精を与えられた男の支配にわたしが陥ってしまうのであれば、わたしはあなたの支配に陥っているのではないですか?」

 

 すると、秀也は初めてばつが悪そうな表情になった。

 

「……もともと、伯父貴には直接にあんたに精を注ぐことは禁止されていた……。犯すときには、必ずそのゼリーを事前に塗らされた……。伯父貴は、自分の代わりにあんたを俺に調教させても、俺にあんたを与えるつもりはなかったんだ……」

 

「えっ?」

 

 玲子は思わず叫んだ。

 確かに、龍蔵だけでなく、秀也もまた、あまり玲子を直接に犯すことがなかった気もする。龍蔵同様に器具を多用し、精を放つのを自制していたように思う。

 秀也の若さでは、その自制心は不自然だと思ってもいたが、それは龍蔵の監視下だったから、勝手に精を放つということができなかったということのようだ。

 

 だが、それでも……。

 

 そもそも、おかしな小細工をして、真夫の精を無効にするようなゼリーを玲子に使わせるよりも、秀也の目的を果たすのであれば、もっと有効で手っ取り早い手段がある。

 

 いま、犯せばいいのだ。

 玲子は秀也に逆らうのは不可能だ。

 この瞬間にだって可能だ。

 しかし、秀也はそうしない。

 そのとき、秀也が玲子の疑念を見透かしたように口を開いた。

 

「……それに、俺は一度もあんたに精を放たなかったわけじゃねえ。実際には何度も試した……。だが……。だが、なぜか支配は……」

 

「だが……? 支配……?」

 

 玲子は首を傾げた。

 しかし、続く言葉は秀也の口からは出なかった。

 ただ、口惜しそうな表情をしているだけだ。

 

 玲子にはそれで十分だった。

 秀也に玲子は、わざと挑戦的な笑みを浮かべた。

 

「なるほど、わかりました……。実際には、何度も試したけど、あなたの精はわたしを支配するには至らなかったのですね……つまり、あなたには一族の能力が不完全だと。もしかしたら、それを理事長も知りましたか? それで見限られましたか? 女を支配することができないのでは、一族の長としての能力は不完全だとか……。それで、理事長は真夫殿を真の後継者として……。あっ、あぐうっ」

 

 股間に走った衝撃に、玲子は両手をスカートの上からあてて全身を弓なりにした。

 クリリングが信じられないような高振動で動き出したのだ。

 脳天まで突き抜けるような衝撃に、玲子はベンチから腰を滑り落してしまった。

 

「ああ、あっ、だ、だめえっ、あああっ」

 

 慌てて口に手を当てる。

 声が我慢できない。

 猛烈な甘美感が次から次へと襲い掛かっている。

 

「そんなの納得できるか──。なんだ、その女を支配する精なんて──。そんなの信じられんし、あり得ん。その能力に欠けるだけで、俺は操心術の真の後継者でないというのか。馬鹿馬鹿しい──。その真夫とかいう男にだってない。そんな戯けた話は、龍蔵伯父貴の妄想だ」

 

 秀也は激しくなじるように怒鳴った。

 玲子はそれどころじゃない。

 性感が爆発したかのような快感が全身に拡がる。

 異様なまでの衝撃が脳を灼き尽くすかのようだ。

 

「んぐううっ」

 

 玲子はあっという間に絶頂していた。

 クリリングの高性能の振動は、玲子がどんな刺激に強く反応するかを詳細にメモリーしていて、もっとも効率的に玲子が絶頂する振動と波動を注ぎ込んでくる。

 しかも、玲子の身体の反応そのものを探知して、玲子の絶頂の方向に確実に導くのだ。

 そこから快感を逃れさせるのは不可能だ。

 

「お、お願い、とめて……とめてください……んん、んふううっ──」

 

 玲子は一度果ててもとまらないクリリングの責めに、地面の上でのたうち回るしかなかった。

 

「……だいたい、なんで伯父貴は、会ってもいない真夫に、最初から執着しているんだ。俺には、玲子の調教係を命じても、お前を与えようとはしなかったんだぞ。それなのに、真夫には最初から玲子をくれてやるつもりでいる。面白くねえ」

 

 秀也は怒鳴り続けている。

 玲子はそんな秀也に何度もリングをとめてくれと哀願した。

 

 そして、やっと秀也がクリリングを停止したのは、玲子が二度目の昇天をしたときだった。

 終わっても玲子はすぐに立ち上がれなかった。

 肩で息をしながら、秀也の座るベンチの足元にしゃがみ込んだままでいた。

 

「……そんな玩具で一生弄ばれる暮らしをしたくねえだろう、玲子。もともと、お前はプライドの高い女だ。こんな風に玩具にされるのは我慢できないはずだ。俺に従えば、クリリングを無効にする方法を教えてやってもいいぜ」

 

 秀也が言った。

 

「ほ、本当?」

 

 玲子は顔をあげた。

 すると、秀也はにやりと笑った。

 

「ああ、本当だ。手術で埋めつけたものだから、もう一度手術して外すのが一番なんだが、ある特殊な信号を流せば、それでリングの内部チップが破壊される仕掛けになっている。なにしろ、龍蔵伯父貴には敵が多いしな。万が一、あんたが捕らえられて、クリリングを見つけられれば、それを拷問具として使われてしまう。そうならないための保護機能だ。ほかにもいろいろと機能や秘密があるんだが、まあ、俺でも、そのリングを無効にする方法はいくつか知っている」

 

「そ、それを教えてくれるというの?」

 

 玲子は自分の声が大きくなったのがわかった。

 この忌々しいリングが無力化できる。

 その方法があれば、どんなに素晴らしいことか……。

 解放されたい……。

 この恐ろしい淫具から……。

 

「その代わり、俺に従え。真夫に抱かれる前にさっきのゼリーを塗れ。そして、伯父貴には、真夫には女を精で支配する能力はないようだと報告しろ。あの伯父貴の頭では、一族の長である証の真の操心術は、女を支配する能力にこそあるということらしい。とにかく、真夫にそんな力がないとなれば、それで、少なくとも俺と真夫は同列ということになる」

 

 玲子には、秀也の目的がやっとわかってきた気がする。

 精で女を支配する力──。

 そんなものが本当に存在するのかどうかはわからない。

 だが、もしも、本当に真夫がその能力を受け継いでいるのであれば、龍蔵は自分の後継者は真夫だと完全に認めるだろう。

 秀也は、それを阻止しようとしているのだ。

 

「これは、あんたと俺が一蓮托生の仲間になる見返りだ」

 

 秀也が手を伸ばして、しゃがんでいる玲子の胸のシャツのボタンの上からふたつを外した。そして、ブラジャーに包まれている胸の谷間を露出させると、そこに紙を突っ込んだ。

 玲子はそれを手に取って拡げた。

 

 二千万円の小切手だ。

 

「俺のポケットマネーだ。真夫に会う前にゼリーを膣の中に塗れ。それだけで、それが手に入る」

 

「拒否すれば?」

 

「さっきのスマホの待ち受けの写真が大量にネットに流出する。あんたと三生徒のプロフィールと一緒にな」

 

 秀也は言った。

 玲子は立ちあがった。

 スーツには土や草がたくさんついて皺くちゃだ。

 午後に真夫たちに会う前に、着替えなければならないだろう。

 

「選択の余地はなさそうですね。わかりました、秀也様」

 

「賢いあんたなら、わかってくれると思ったよ」

 

 秀也が満足そうに微笑んだ。

 確かに選択の余地はない。

 真夫が龍蔵の望む本物の後継者なのであれば、玲子が真夫の精を直接に受ければ、玲子は真夫に逆らえない本物の「奴隷」になるのだろう。

 

 これは、まったく選択の余地のない話に違いない。 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、こんなところか……」

 

 玲子が去った公園で、秀也は呟いた。

 大いなる満足心とともに……。



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 第12話  都合のいい女

「うう、真夫ちゃん、恥ずかしいよう……」

 

 あさひ姉ちゃんが小さな浴室の洗い場で素裸の身体を壁に着け、大きく股を開いている。

 両腕は背中側で腰の括れで重ねさせ、縄掛けをして腰の括れにしっかりと固定させていた。両脚は特に縄掛けをしていないが、あさひ姉ちゃんは、真夫の命令で膝を立てた股を大きく限界まで拡げてくれている。

 いわゆるM字開脚というやつだ。

 

「さあ、始めるよ、あさひ姉ちゃん」

 

 真夫は石鹸と湯桶をあさひ姉ちゃんの脚の間に置き、さらに女性用の安全カミソリをその横に置いた。

 まずは、湯で濡らした左手にたっぷりと石鹸の泡をつけて、あさひ姉ちゃんの黒い陰毛に擦りつけていった。

 

「あっ、んんっ、や、やっぱり真夫ちゃんの手、き、気持ちいい……。こ、声が出ちゃう……。ねっ、さ、猿ぐつわを……猿ぐつわしてよ、真夫ちゃん」

 

 あさひ姉ちゃんが懸命に声を低めて訴えた。

 なにしろ、このあさひ姉ちゃんのアパートの浴室は、アパートの廊下に面している。

 ちょっとでも派手な声を出せば、たちまちにあさひ姉ちゃんの恥ずかしい声が外に漏れてしまう。だけど、両手を背中で括られているあさひ姉ちゃんは、自分で手で口を押さえて声を我慢することもできない。

 だから、あさひ姉ちゃんは必死な表情だ。

 

「だめだね。あさひ姉ちゃんと俺が恥ずかしいことをしていることがばれたって、俺はちっとも困らないよ。俺はあさひ姉ちゃんのことが好きだし、もう、あさひ姉ちゃんの恋人のつもりだしね」

 

「そ、そりゃあ、あたしだって、真夫ちゃんのことが知られても困らないけど……。うう、や、やっぱりだめえっ……。は、恥ずかしい、くううっ」

 

 恥毛に手で石鹸を擦り付けられるあさひ姉ちゃんは、真夫の手が股間に触れるたびに、ぶるぶると身体を震わせて、噛みしめた口から甘い声を洩らしていく。

 そんなあさひ姉ちゃんは、本当に色っぽくて可愛かった。

 

 あさひ姉ちゃんのアパートの浴室だ。

 いまの時間は、そろそろ午前中の十時を過ぎようとしているところだ。

 

 昨夜は、あさひ姉ちゃんと遅くまで愛し合い、朝は少し遅めの目覚めとなった。

 目が覚めると、すぐにあさひ姉ちゃんと愛し合い、朝食を食べて、また愛し合った。

 だけど、午後には、あさひ姉ちゃんの知り合いの滝田さんという人と、聖マグダレア学園の顧問弁護士の工藤さんという人と会うことになっているので、身体を洗おうということになった。

 それでいま、あさひ姉ちゃんが沸かしてくれた朝風呂にふたりで入っているところだ。

 風呂に入るときにあさひ姉ちゃんを縛りたいとい頼むと、あさひ姉ちゃんは大人しく縄で縛らせてくれた。

 

 そして、真夫は浴槽で一度温まってから、今度はあさひ姉ちゃんの陰毛を剃りたいと頼んでみた。

 あさひ姉ちゃんはちょっと驚いたようだったが、やっぱり嫌だとは言わなかった。

 真夫ちゃんがそうしたいのであれば……と恥ずかしそうに頷いてくれたのだ。

 

「じゃあ、いくよ。動かないでね」

 

「う、うん……」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんの股間に剃刀を当てた。

 軽いが硬い抵抗感が手に伝わってくる。

 だんだんと茂みが小さくなっていく。

 

 ざくっ……ざくっ……。

 

 気がつくと、あさひ姉ちゃんの内腿が小刻みに震えていた。

 しかも、股間の亀裂からは、明らかにあさひ姉ちゃんの興奮の証拠である樹液がじっとりと溢れ始めている。

 どうやら、マゾ体質のあさひ姉ちゃんは、縛られて陰毛を剃られるという行為にすっかりと欲情しているようだ。

 真夫は、なんだか嬉しくなった。

 

 無言の時間が流れる。

 

 剃刀が真夫姉ちゃんの股間を滑る音に混じって、だんだんとあさひ姉ちゃんの息の声が大きくなっていく。

 一方で、真夫は手を動かしながら、真夫は昨夜から繰り返し心に浮かぶ言葉を再び思い浮かべた。

 

 もしも、自分にお金があれば……。

 

 そのことを昨夜から何度思ったかわからない。

 

 もしも、あさひ姉ちゃんが背負わされた闇金の借金を代わりに支払うだけの蓄えが真夫にあれば、いまのこの時間は永遠に続く、真夫とあさひ姉ちゃんの幸せの始まりになるはずだったと思う。

 

 だけど、これは終わりの始まりだ……。

 

 あと十日もすれば、あさひ姉ちゃんは、お父さんの借金を支払うために、暴力団の息のかかっているような売春組織に身を任せて、身体を売ることになる。

 

 一千万円……。

 

 その金がなければ、借金を払えないあさひ姉ちゃんのお父さんは、闇金に追い込まれて殺されることになる。

 人によっては、なんでもない額かもしれないけど、孤児である真夫やあさひ姉ちゃんにとっては、途方もない大金だ。

 

 闇金の人は、あさひ姉ちゃんとお父さんが親娘とは程遠い関係であることを知り、あさひ姉ちゃんには逃げても追わないとまで言ってくれたようだ。

 

 だが、あさひ姉ちゃんは、逃げないことを選んだ。

 お父さんを見捨てることができなかったのだ。

 かつて幼いあさひ姉ちゃんを犯し、そして、あさひ姉ちゃんを捨て、まったく断絶した状態だったのにかかわらず、あさひ姉ちゃんが二十歳をすぎると、勝手に書類を偽造して、自分の借金の連帯保証人にするようなクズ男のことをあさひ姉ちゃんは見捨てることができなかったのだ。

 

 優しいあさひ姉ちゃん……。

 そのあさひ姉ちゃんはいなくなる。

 

 あと十日で……。

 

 もしも、真夫に金があれば……。

 金で済むことなら……。

 

 真夫は思念を振り払った。

 

「きれいになってきたよ、あさひ姉ちゃん……。もっと、脚を拡げてくれる。谷間にも少し生えているしね」

 

 真夫は一度剃刀を置いた。

 あさひ姉ちゃんの股間は、すっかりと陰りを失い童女のそれに近くなった。

 もう少しだ。 

 左手で石鹸を足す。

 

「んんふううっ」

 

 相変わらず敏感なあさひ姉ちゃんは、真夫の手が股間に触れると、まるで電撃でも浴びたように身体を震わせる。

 

「大袈裟だなあ、あさひ姉ちゃん」

 

 真夫は思わず笑った。

 

「ち、違うの、真夫ちゃん。ほ、本当にあたし、こんなんじゃないの。だけど、真夫ちゃんの指、なんか、おかしいのよ。触られると、とってもじんとして、そして、なんか、安心するというか……。とにかく、本当に幸せな気分になるの。それで、どうしても我慢できなくなって……」

 

 泣くような口調であさひ姉ちゃんは訴えた。

 その必死な物言いが、なんとも言えずにおかしかった。

 

「はいはい。とにかく、剃るよ」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんの柔肌を指先でつまんだり、押し広げたりしながら、安全カミソリを動かしていく。真夫の指があさひ姉ちゃんの股間に当たるたびに、あさひ姉ちゃんは身体を剃らせて、妖艶に腰を捩った。

 真夫は、一本の剃り残しもないように、すべてをきれいに剃り落し、やがて、背を伸ばした。

 

「とっても、可愛くなったよ、あさひ姉ちゃん。あと、十日……。俺が毎日剃ってあげる。だから、別れてからも、自分で剃ってよ。このなんにもないあさひ姉ちゃんの股は、あさひ姉ちゃんが俺のものである印だよ。だから、毎日剃るんだ。いいね」

 

 真夫は言った。

 すると、あさひ姉ちゃんは股を開脚にしたまま、薄っすらと眼に涙を浮かべた。

 

「うん、剃る──。恵はずっと真夫ちゃんのものだよ。ほかの男の人に抱かれないといけないかもしれないけど、あたしは真夫ちゃんのもの。いつもきれいにしておく。絶対にそうする」

 

 あさひ姉ちゃんはぐっと涙をこらえるように息を吸った。

 真夫は満足して頷いた。

 そして、真夫はあさひ姉ちゃんに近づくと、指先をすっと無毛になった亀裂に埋めた。

 

 すべすべとした肌の感覚だけだ。

 しかも、しっとりと濡れているあさひ姉ちゃんの股間はとても肌触りがよかった。

 

「あううっ、んんっ」

 

 大きな声を洩らしかけたあさひ姉ちゃんは、慌てたように口をつぐんで声を殺した。

 真夫は構わず指を前後に抽送していく、

 あさひ姉ちゃんは小刻みに身体を震わせながら、ぐっと身体を軽くのけ反らせた。

 

「ねえ、あさひ姉ちゃん、俺、決めたことがあるんだ……」

 

 真夫は指をあさひ姉ちゃんの股間に出入りさせながら言った。

 

「あ、ああっ……。き、決めたことって……?」

 

 あさひ姉ちゃんは目を細めて恍惚の表情を浮かべながら言った。

 真夫は、仏様のようなあさひ姉ちゃんのこの表情が大好きだった。

 我慢できなくなって、狭い洗い場のタイルの上にあさひ姉ちゃんの身体を押し倒した。

 そして、上から跨るように、あさひ姉ちゃんの股間に勃起した怒張を沈めていく。

 

「ん、んんんっ──。だ、だめえっ、声、声、出ちゃうの──。あ、あはああっ」

 

 あさひ姉ちゃんの身体がぶるぶると震えた。

 真夫は上から叩き付けるように、あさひ姉ちゃんの股間に男根を沈め、沈めてはあげ、あげてはまた突き沈める。

 

「お、俺、あさひ姉ちゃんが……で、出ていっても……こ、ここに……住む。ここに住んで……あさひ姉ちゃんが……戻るのを……待つ……。だ、だから……あさひ姉ちゃんも……ここで……俺が……待っていることを……忘れずに……必ず……も、戻って……来て」

 

 真夫は上からあさひ姉ちゃんを犯しながら言った。

 あさひ姉ちゃんは、真夫の股間の突き沈めによがりくねりながらも、真夫の言ったことに驚くように、眼を大きく開いた。

 

「そ、それだけじゃ……ない……。あさひ姉ちゃんの……借金は……俺も返す……。ふ、ふたりで……か、返せば……、かかる時間は、は、半分になるかもしれない……。だ、だから……」

 

「だ、駄目よ。そ、そんなの──、あっ、あっ、ああっ」

 

 あさひ姉ちゃんは一瞬抗議するような言葉を吐きかけたが、その声はすぐに大きな喘ぎ声に飲み込まれた。

 

 真夫はあさひ姉ちゃんの股間に律動を続けた。

 もう、あさひ姉ちゃんがどんな風に突かれれば感じるのか、どんな風に真夫が動けばよがるのか、しっかりと覚えている。真夫は、あさひ姉ちゃんが一番感じる角度と深さで怒張を突きまくった。

 あさひ姉ちゃんは、子宮の入り口付近を少し乱暴なくらいに突かれて、さらに、抜く前にぐりぐりと擦られるのが大好きだ。

 それを繰り返す。

 あさひ姉ちゃんはすっかりと狂乱した。

 

「いぐうっ、真夫ちゃん、いぐうっ」

 

 そして、喉を突きあげるようにしながら、大きな声を出して身体を震わせた。

 真夫は苦笑した。

 声が出ると恥ずかしいとか言っていたが、あれだけの派手な声なら、アパートの廊下どころか道路まで聞こえたかもしれない。

 まあいい……。

 あさひ姉ちゃんは、真夫のものなのだ。

 

 あさひ姉ちゃんが達するのに合わせていき損ねた真夫は、そのままあさひ姉ちゃんのヴァギナを突き続けた。

 あさひ姉ちゃんの中はとても気持ちよかった。

 驚くほどに潤いに満ちていて、真夫の怒張を絡みつくように適度に締め付け、そして、吸い込んでくる。

 肉棒全体が溶けていくような気持ちよさだ。

 

「あうううっ」

 

 あさひ姉ちゃんに二回目のエクスタシーがやってきたとき、真夫は今度こそそれに合わせて、最深部に押し当てた傘の先から興奮の印である白濁液をあさひ姉ちゃんの子宮に注ぎ込んだ。

 

「はああ、ああ……はあ、はあ、はあ……」

 

 あさひ姉ちゃんはしばらくがくがくと身体を揺らしていたが、やがてがっくりと脱力した。

 さすがに今朝だけで三回目だ。

 真夫は幹が萎えていくままに余韻に浸り、あさひ姉ちゃんの中から肉棒を引き抜いた。

 

 抜いてもあさひ姉ちゃんはすぐには動かなかった。

 ただ、胸を上下させて荒い息をするだけだ。

 

「う、動けない……。ま、真夫ちゃんの意地悪……。こんなに感じさせるなんて……」

 

 やがて、ちょっと拗ねたような顔をした。

 真夫はあさひ姉ちゃんの上体を引きあげてやった。

 

「それより……、だ、だめよ、真夫ちゃん……。さ、さっきのこと……」

 

 すると、あさひ姉ちゃんが満足そうに微笑んでいた表情から一変して、きりっとした真顔になった。

 

「だめ?」

 

 なんのことかわからず、真夫はきょとんとした。

 

「さっきの話……。あたしを待つという話……。それはだめ……。あたしなんか忘れて……。お願い。このひと晩、あたしは十分すぎるほどの幸せをもらった。そして、あと十日もいてくれるって言ってくれた……。それで十分。あたしは、その思い出だけで、残りの人生を幸せに生きていける……。でも、真夫ちゃんを犠牲にはできない。ましてや、あたしのお父さんの借金を真夫ちゃんも払うなんて──」

 

「それは俺が決めたことだよ。俺があさひ姉ちゃんをここで待ちたくて、待つんだ。あさひ姉ちゃんが一日でも早く戻って来られるように、俺が金を払いたいから払うんだ。俺は朝から晩まで働く。大した額にはならないかもしれないけど、それで一箇月でも、二箇月でもあさひ姉ちゃんが早く戻れるなら、それでいいんだ。いいね──。これは決めたことだからね」

 

 真夫はきっぱりと言った。

 でも、あさひ姉ちゃんは悲しそうに眼に涙を浮かべて、首を横に振った。

 

「無理よ……。あたしは汚れるわ……。多分、戻ってきたときには、もう真夫ちゃんの知っているあたしじゃなくなっている。すっかりと汚れて、真夫ちゃんをがっかりさせるだけよ。戻れればの話だけど……。それに、本当のこと言うと、あたし、真夫ちゃん以外の男の人が怖いでしょう? だから、お客をとるためには、頭がぼっとする薬を飲まないといけないかもしれない。多分、身体もぼろぼろになるわね。だから、無理なのよ……」

 

「そんなこと──」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんの言葉を否定しようと思ったが、あさひ姉ちゃんはそれを遮って、さらに言葉を続けた。

 

「……ねっ、だから、お願い。真夫ちゃんはあたしのことは忘れて、新しい人を見つけてよ……。いまだから言うけど、真夫ちゃんて、とってももてるのよ。施設のときだって、真夫ちゃんのこと好きだっていう女の子はたくさんいた。ねっ、真夫ちゃん」

 

 あさひ姉ちゃんがまるで子供を諭すような物言いで真夫に訴えた。

 最後はわざと軽口のような口調だったけど、あさひ姉ちゃんの顔からはつっと涙がこぼれている。

 とにかく、真夫は腹がたった。

 あさひ姉ちゃんことを忘れろ──?

 そんなことができるわけがない。

 

 汚れた女──?

 あさひ姉ちゃんが汚れるわけがない。

 そんなことはないんだ。

 

 真夫はすっくと立ちあがった。

 あさひ姉ちゃんの顔に向かって性器を向ける。

 

「うわっ、いやっ」

 

 あさひ姉ちゃんが悲鳴をあげた。

 真夫はあさひ姉ちゃんの顔におしっこをかけたのだ。

 最初はびっくりしたみたいだけど、すぐにあさひ姉ちゃんは顔をおしっこのする方向に向けて、自ら真夫の尿が顔に当たるようにした。

 これには、真夫は驚いた。

 そして、おしっこがとまる。

 あさひ姉ちゃんの髪と顔はすっかりと真夫の尿にまみれた。

 

「汚れるんなら、いまあさひ姉ちゃんは俺のおしっこで汚れた。だから、これ以上汚れることなんてないよ。あさひ姉ちゃんが汚れるなら、俺も一緒に汚れてあげる。あさひ姉ちゃんが苦しいなら、俺も一緒に苦しんであげる。だから、ここで待たせて。そして、あさひ姉ちゃんも俺がここで待っていることを忘れないで。俺はいつまでも待っているよ」

 

 すると、あさひ姉ちゃんは、ぼろぼろと泣き出した。

 

「ば、ばか……真夫ちゃんのばか……」

 

 あさひ姉ちゃんは縛られた後手のまま肩を揺らして泣き始めた。

 真夫は湯桶で湯をすくうと、あさひ姉ちゃんの頭と顔に湯をかけて、おしっこを洗い流してあげた。

 

「大丈夫だよ。ふたりで頑張れば、きっと一千万円くらい、一年もかからずに返し終わるよ。そうしたら、ここで一緒に暮らそう」

 

 真夫は屈み込むと、あさひ姉ちゃんの身体をぎゅっと抱き締めた。

 そのまま、あさひ姉ちゃんは、しばらく泣き続けた。

 

 あさひ姉ちゃんが落ち着いたのは少ししてからだ。

 真夫の胸から顔を離して、真夫を真っ直ぐに見た。

 

「あ、ありがとう。あたし、真夫ちゃんの気持ちに甘えることにする。うん──。真夫ちゃんが待ってくれるというなら、それを信じる。あたし、真夫ちゃんのことを忘れないようにする。真夫ちゃんがもしも忘れても、あたしは忘れない。約束する」

 

「俺が忘れるわけないよ」

 

 真夫は微笑んだ。

 しかし、あさひ姉ちゃんは首を横に振った。

 

「……だけど、これは絶対の条件よ。これを受け入れてくれないなら、あたしは真夫ちゃんの提案は受け入れられない。真夫ちゃんは、ほかにも女の人を作って──。あたしがいるからって我慢しないで。だったら、あたしは真夫ちゃんのところに返ってくる。いつになるかわからないけど、お父さんの借金を返し終わったら戻る」

 

 あさひ姉ちゃんはきっぱりと言った。

 だが、真夫は首を傾げざるを得なかった。

 

「どういうこと?」

 

 真夫は言った。

 

「だから、真夫ちゃんも女の人を作るの。真夫ちゃんが、あたしがいるからって、女の人を我慢するのはいや。真夫ちゃんって、とってもエッチなんだもの。あたしがいなくなってから、ほかの女の人とエッチしないなんて死んじゃうよ。可哀想。ねっ、本当はあたしが代わりの人を見つけてあげたいくらいだけど、それはもうできないから、今度は自分で見つけて」

 

 あさひ姉ちゃんは真面目な顔で言っているが、その内容のおかしさに、真夫は吹き出してしまった。

 そういえば、養護施設であさひ姉ちゃんと愛し合った日々の後、あさひ姉ちゃんは、高校の寮に入るために施設を出ていくにあたって、真夫の性の相手だと言って、次の女の子を真夫の前に連れてきた。

 

 どうやら、あさひ姉ちゃんにとっては、真夫は病的な精力家だということになっているらしい。だから、そんな発想になるのだろう。

 でも、真夫は施設を出てから、二年間男子校の寮にいたから、女の子との付き合いとは無縁だった。バイトも男ばかりの場所だったので、考えてみれば、女性とは二年間無縁の生活をしていた。

 とにかく、笑いながらそう言った。

 だが、あさひ姉ちゃんはさらに首を横に振った。

 

「それはたまたま、真夫ちゃんの周りの女の子がいなかったからよ。真夫ちゃんには不思議な力があるのよ。あたし、思うんだけど、多分、真夫ちゃんがいいなあ、と思った女の子はみんな真夫ちゃんを好きになる気がする。その代わり、真夫ちゃんが嫌だなあと思ったら、その子は近づかないの」

 

「そんな、都合のいいこと……」

 

 真夫は笑った。

 

「ううん──。そうよ。都合がいいのよ──。それが真夫ちゃんの力……。真夫ちゃんの前では、女の子はみんな“都合のいい女”になるの。そうよ。きっとそうよ。そうなのよ──。だって、あたしだってそうだもの──。それが、真夫ちゃんの不思議な力……」

 

「不思議な力?」

 

「あたし、ちっとも、真夫ちゃんがあたしひとりのものになって欲しいと思わない。だけど、あたしは、真夫ちゃんだけのものになりたいと思う。そうだわ。そうなのよ」

 

 あさひ姉ちゃんは、なにか納得できたみたいなことを口走っているが、真夫にはよくわからない。

 そもそも、あさひ姉ちゃんは、真夫のことをそんなに知らないだろう。

 あさひ姉ちゃんが知っているのは、施設にいる頃の小学生の真夫だけだ。

 

「じゃあ、仮に俺があさひ姉ちゃんのほかに女の子を作るとして、あさひ姉ちゃんが戻ってきたらどうするのさ? その子とは別れるの? そんなの可哀想だよ」

 

「そんなの、その子と一緒に、あたしを愛してくれればいいじゃないの。当たり前じゃない。なに言ってんのよ、真夫ちゃん」

 

 あさひ姉ちゃんはあっけらかんと笑った。

 真夫はちょっと驚いた

 

「そんな都合よくいかないでしょう」

 

「都合よくいくのよ。真夫ちゃんにはね」

 

 なにを根拠にそんなことを言っているのか意味不明だが、まあ、ここはそれ以上、追及しないことにした。

 真夫が、あさひ姉ちゃんをここでひとりで待てばいいだけのことだし、真夫はあさひ姉ちゃんが早く戻れるように、それこそ、昼夜を忘れて働くつもりだから、女の子と付き合う余裕などあるわけない。

 

「わかったよ、あさひ姉ちゃん。あさひ姉ちゃんが、それでいいなら」

 

「うん」

 

 あさひ姉ちゃんが明るく頷いた。

 真夫は首を竦めた。

 まあ、いいや。

 

「ところで、俺ばっかり、おしっこをするのを見られたのは不公平だな。あさひ姉ちゃんがおしっこするのも見せて。いまここで」

 

 真夫は不意に思いついて言った。

 そういえば、見てみたい。

 あさひ姉ちゃんは、真っ赤な顔になった。

 

「そ、そんな、恥ずかしいよ、真夫ちゃん」

 

 あさひ姉ちゃんは嫌がったが、真夫が強く言うと、おずおずと洗い場にしゃがみ直して、大きく股を開いた。

 

「ああ、見ないで、真夫ちゃん。本当に恥ずかしいのよ」

 

「見ないで、どうするんだよ。食い入るように見てるからね」

 

「ああ、真夫ちゃんの意地悪」

 

 あさひ姉ちゃんはぐっと目をつぶった。

 

「だめだ。しっかりと眼を開けろ、恵──。俺の顔を見て、おしっこをするんだ」

 

 真夫はわざと強い口調で言った。

 すると、あさひ姉ちゃんは、興奮したように、ぶるぶると身体を震わせた。

 そして、顔がとろんと欲情したような表情に変化する。

 

「ああ……。し、します……。命令に従います……」

 

 マゾのあさひ姉ちゃんが酔ったような口調で言った。

 そして、ちょろちょろと尿が流れ出し、すぐにまとまった噴流となった。

 じょろじょろとあさひ姉ちゃんのおしっこが流れ出す。

 恥ずかしそうにしているあさひ姉ちゃんの姿を見ていると、もっと意地悪をしたくなった。

 真夫は尿を続けているあさひ姉ちゃんの股間に手を伸ばすと、おしっこが出ている付近をぐりぐりと指で刺激してやったのだ。

 

「う、うわあっ、なにするの、真夫ちゃん──。いやあっ」

 

 あさひ姉ちゃんが悲鳴をあげる。でも、やっぱりあさひ姉ちゃんは真夫のやることから逃げようとはしない。

 真夫の手で、あさひ姉ちゃんの尿が飛び散り、ふたりでおしっこまみれになりながら、なんだか楽しくて、真夫はけらけらと笑ってしまった。



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 第13話  和解の条件

「な、なんか、すごいね、真夫ちゃん……」

 

 あさひ姉ちゃんが気後れしたように横で言った。

 聖マグダレナ学園の関係者である滝田さんと学園の顧問弁護士の工藤さんという人と会うことになっているホテルの前だ。

 

 誰でも知っているような有名な超一流ホテルだが、来たのは初めてだ。

 とにかく、ロビーでさえも入るのに躊躇するほどの豪華な建物であり、真夫はあさひ姉ちゃんと一緒にホテルを前にして立ち止まってしまった。

 いまは昼過ぎで、約束の時間の三十分前くらいだ。

 

「……で、でも、大丈夫よ。あたしがついているからね。行こう。一階のロビーに喫茶店があるそうなの。そこで、工藤さんの名を出せばいいと言っていたわ」

 

 あさひ姉ちゃんが意を決したように歩き出した。

 頼もしいことを言っているが、あさひ姉ちゃんがすっかりと緊張しているのは、真夫から見れば明らかだ。

 でも、真夫の手前、できるだけ平静を装うとしているのだろう。

 それがちょっと面白い。

 

「……ありがとう、あさひ姉ちゃん。でも、心細いから、少しだけ手を握らせて」

 

 真夫は横を歩くあさひ姉ちゃんの手をぎゅっと掴んであげた。

 実際のところ、すごい建物だなあとは思うが、真夫にはそれほどの不安はない。

 ただ、あさひ姉ちゃんを落ち着かせてあげたかったのだ。

 

「う、うん……」

 

 あさひ姉ちゃんはちょっと照れたように、横で顔を赤らめた。

 ぎゅっと力を返してきたあさひ姉ちゃんの手は、やっぱりちょっと汗ばんでいた。

 でも、真夫が手を握ると、あさひ姉ちゃんの心の動揺がすっと静まったのがわかった。

 なぜだかわからないが、そう感じたのだ。

 

 ホテルのロビーに入る。

 正面の大きな喫茶店に向かう。

 真夫は、あさひ姉ちゃんと繋いでいた手を離すと、誰も見ていないのを確かめながら、あさひ姉ちゃんのスカートの上からぎゅっとお尻を触った。

 

「ひゃんっ」

 

 あさひ姉ちゃんがびっくりして大きな声をあげた。

 周囲の人の何人かがこっちに視線を向けるのがわかった。

 だが、そのときには、真夫の手はあさひ姉ちゃんから離れている。

 あさひ姉ちゃんは、周りの視線に慌てたように顔を俯かせた。

 そして、すっと横目で真夫を見て、声に出さずになにかを言った。

 

 ば、か……。

 

 あさひ姉ちゃんはそう言ったようだ。

 

「……ノーパンのお尻の感じはどんなのかと思ってね」

 

 真夫は小声で軽口をささやいた。

 あさひ姉ちゃんは紺色のスーツ、いわゆる、リクルートスーツを身に着けていて、真夫は学生服を着ていた。

 最初は真夫は普通にジーパンで行くつもりだったのだが、あさひ姉ちゃんにたしなめられたのだ。

 確かに、ここは、そんな軽装で来るところではないようだ。

 あさひ姉ちゃんの言うことをきいてよかったと思った。

 

 それはともかく、真夫はこのホテルに向かう前に、降りた駅の駅ビルの隅で、あさひ姉ちゃんがはいていたストッキングと下着を脱がしていた。

 特に意味があったわけじゃない。

 ただ、そんな悪戯がしたかっただけだ。

 

 あさひ姉ちゃんは、真夫の意地悪な命令に、引きつったような顔をしたが、あさひ姉ちゃんの面白いところは、真夫がどんなにエッチで理不尽な命令をしても、絶対に駄目だとは言わないことだ。

 そのときも、慌てたように周りを見渡すと、真っ赤な顔をしながら、スカートの中に手を入れてストッキングと下着を脱いでくれた。

 だから、それはあさひ姉ちゃんの持っている大きな布の手提げバッグに入っている。

 

 従って、いまのあさひ姉ちゃんは、膝上のスカートの下は、ノーパンの生足だ。

 真夫は、そのあさひ姉ちゃんのお尻をスカートの上から撫ぜ、それだけじゃなくて、お尻の穴の付近を狙って、ぐっと指で押したのだ。

 それで、あさひ姉ちゃんは悲鳴をあげてしまったというわけだ。

 でも、あさひ姉ちゃんは顔を真っ赤にしていて、満更でもなさそうに微笑んでいる。

 どうやら、すっかりと落ち着くことができたようだ。

 真夫は安心した。

 

 ホテルのロビーと喫茶店は大きな隔てがあるわけでなく、広いロビーの真ん中から奥が喫茶店のようになっているという感じだった。

 

「どうぞ」

 

 あさひ姉ちゃんが“工藤”という名を出すと、制服を着た女性の店員がふたりを案内してくれた。

 驚いたことに、連れていかれたのは一番奥であり、そこはガラス張りの仕切りのある個室だった。

 透明のガラスなので、外から中が見えるが、ひと目でほかの場所から一線を画したひと際豪華な造りであることがわかる。

 真夫たちは、そこに案内された。

 まだ、滝田さんも、工藤さんという人も来ていないようだ。

 

 真夫はあさひ姉ちゃんと並んで、個室の入り口に近い側に並んで腰かけた。

 すぐに、案内をしてきた女性店員とは別に男性店員がガラスの扉から水を持って入ってくる。

 目の前に手拭きや水が置かれて、真夫たちの前にすっとメニューが差し出された。

 

 ……うわっ……。

 

 声には出さないがびっくりした。

 一番安いコーヒーでも、二千円の値段がついている。

 真夫は、コーヒー一杯がそれだけの値段がするなんて驚いてしまった。しかも、コーヒーだけで十種類くらいあり、三千円もするコーヒーまである。

 

 なんだ、これ?

 本当に真夫の知っているコーヒーのことか?

 思わず疑いたくなる。

 

 横目であさひ姉ちゃんを見る。

 あさひ姉ちゃんも目を丸くしていた。

 

「……コ、コーヒーをください……。ブレンド……」

 

「あ、あたしも……」

 

 真夫がとりあえずそう言うと、すぐにあさひ姉ちゃんが続けた。

 ふたりの店員が出ていく。

 なんだか、これだけでどっと疲れてしまった。

 

「……な、なんかすごいね……」

 

「うん」

 

 真夫が言うと、あさひ姉ちゃんが再び気飲まれしたような表情で頷いた。

 

 すぐにコーヒーが運ばれてきた。

 店員がいなくなるのを待って一口飲む。

 あさひ姉ちゃんも同じようにコーヒーに口をつけた。

 

「ど、どう、真夫ちゃん?」

 

 あさひ姉ちゃんが真夫の顔を見た。

 

「普通……だと思う。なんで二千円もするのかなあ……?」

 

 真夫は正直な感想を言った。

 

「そ、そうよねえ。よかった。あたしも普通だと思ったのよ。でも、本当はすごくおいしいのかなあって……。でも、真夫ちゃんが普通と思うなら、やっぱり普通なのね。よかったあ」

 

 あさひ姉ちゃんは嬉しそうに笑った。

 なにがよかったのか、よくわからない。

 それから少しのあいだ、あさひ姉ちゃんと雑談をした。

 だが、しばらくすると、あさひ姉ちゃんは、急に顔を引き締まらせた。

 

「……とにかく、真夫ちゃん。あたしに任せてね。真夫ちゃんは優しいから、強く言えないかもしれないけど、真夫ちゃんは被害者なんだからね。絶対に負けちゃだめよ」

 

「別に勝つとか、負けるとかはないんじゃないの? そもそも、学園の顧問弁護士さんはどういう用件で来るのかなあ?」

 

「それはわかんないけど、でも、なんにもしていない真夫ちゃんを痴漢で訴えるなんて、その女子高生は酷いわよ。三人組の男子生徒も許せないけど、助けてもらったのに、逆に真夫ちゃんを訴えるなんて、どんな理由があっても許せないわ。絶対に妥協しちゃだめよ、真夫ちゃん」

 

「妥協と言われても……。まあ、いまさら、どうでもいいよ。なんか、そんな気分なんだ」

 

「だから、そんな風に思っちゃだめって言っているのよ。もういいわ。とにかく、あたしに任せてね」

 

 あさひ姉ちゃんはきっぱりと言った。

 真夫は首を竦めた。

 いずれにしても、あの痴漢事件は、もうどうでもいいと思っていることは確かだ。

 真夫はもうあさひ姉ちゃんのお父さんの借金のために働く決心をしているし、真実が明らかになっても復学はするつもりはない。

 それよりも、昨夜、あさひ姉ちゃんが陥っている状況のことを知って、真夫の冤罪事件など、どこかに思考が飛んでいったというのが本音だ。

 

 やがて、個室にふたりの男女がやってきた。

 真夫はあさひ姉ちゃんとともに立ちあがった。

 ひとりは三十過ぎの男の人だ。この人があさひ姉ちゃんが最初に相談した滝田さんだろう。

 もうひとりは、スーツ姿の若い女性だ。

 首に青いスカーフを巻いている。

 

 この人が学園の顧問弁護士の工藤さん?

 女性とは聞いていたが、なんとなく、もっと年配の人を想像していたので、現れた美貌の若い女性にちょっと驚いた。

 

「こちらで呼ぶまで、誰も来させないでください」

 

 工藤さんだと思う女の人が、ついてきた店員を引き払わせた。

 店員がいなくなると、透明の扉を閉じて、彼女が真夫たちに向き直った。

 

「遅れて失礼しました。聖マグダレナ学園の顧問弁護士をしております、工藤玲子です。このたびは、わざわざ足を運んでいただいてありがとうございます」

 

 いきなり、工藤さんは深々と頭をさげた。

 初っ端からの丁寧で、かつ低姿勢な態度に真夫は意表を突かれた。

 それに、彼女たちはちっとも遅れてない。

 真夫たちが早く来すぎたのだ。

 

「あ、あの……」

 

 あさひ姉ちゃんが口を開きかけた。

 しかし、頭をあげた工藤さんが、先に滝田さんに視線を向けた。

 

「あなたはこれで結構です。ありがとうございました、滝田さん」

 

 一緒にやって来ながら、いきなり帰れという言葉には、少し驚いたが、工藤さんの物言いは、柔らかいものの、なんとなく有無を言わせぬ迫力みたいなものがあった。

 また、滝田さんも気を悪くした感じはない。

 最初から、自分たちを工藤さんに引き合わせるのだけが役割だったみたいだ。

 

「じゃあ、朝比奈さん。この工藤さんになんでも相談するといい。彼女は信用のできる人だからね」

 

「あっ、は、はい……。で、でも……」

 

 滝田さんは挨拶もそこそこに個室を出ていった。

 あさひ姉ちゃんは、なにか言いたそうな表情になったが、そのときには滝田さんはいなくなっていた。

 真夫たちは三人だけになった。

 

「こちらにどうぞ、坂本様、朝比奈さん」

 

 工藤さんが示したのは、テーブルを挟んで向かい合う席のうち奥側だ。どうやら、真夫たちには、奥に座って欲しそうだ。

 

 それにしても、真夫が“坂本様”で、あさひ姉ちゃんが“朝比奈さん”──?

 なんとなく違和感がある。

 とにかく、言われるままに座った。

 

 真夫たちが腰をおろすのを待ち、工藤さんはいままで真夫たちが腰かけていた側に座った。そして、ふたりが飲んでいたコーヒーをこっちに移動させる。

 

「改めてご挨拶をいたします。学園の顧問弁護士の工藤です。これからよろしくお願いします」

 

 工藤さんが真夫たちの前にそれぞれ名刺を差し出した。

 “聖マグダレナ学園 顧問弁護士 工藤玲子”

 名刺にはそうあった。

 

「あ、あたしは……」

 

 あさひ姉ちゃんが口を開きかけたが、工藤さんがそれを制した。

 

「存じあげております。ここにおられる坂本真夫様の幼馴染で同じ施設で育たれた朝比奈恵さんですね。おふたりのお関係は、恋人同士と考えてよろしいのですか?」

 

 工藤さんがにこにこと微笑みながら言った。

 真夫は、目の前の工藤さんが、真夫たちの名前だけでなく、養護施設で育った幼馴染であることを知っていることに少しびっくりした。

 

「ど、どうしてあたしたちのことを……?」

 

 あさひ姉ちゃんが怪訝な表情になった。

 

「失礼ながら、真夫様のことは調査させていただきました。恵さんについても同様です。当学園は入学や編入にあたって通常の学力検査や内申書のほか、非常に厳しい家庭や人格の調査を行っております。当学園には、富豪や名家の子弟も多数入園しておりますので、素行調査には万全を期してます。ご理解ください」

 

「あ、あのう……。意味がわからないんですが……」

 

 あさひ姉ちゃんが当惑したように言った。

 真夫も同じだ。

 それにしても、微妙に真夫とあさひ姉ちゃんの呼び方が変化した。

 まあ、気にしないが……。

 

 いずれにしても、入学とか編入とかは、なんのことだろう……?

 

「もちろんです。まず、これもご確認ください」

 

 工藤さんは、再び名刺を出した。

 今度は、肩書が顧問弁護士ではなく、“理事”と書いてある。

 

「まず、わたしが顧問弁護士というだけでなく、学園の理事のひとりであり、これから話すことは、理事会の承認を受けていることとご認識願います。さらに、今回の真夫様に対する冤罪事件については、すでに学園としての調査が終わっております。全面的に当方の生徒に落ち度があります。まずは謝罪いたします。また、実はこちらから近日中に、真夫様にはお話をしに行く予定でした。そちらからの申し出になってしまったこともお詫びします」

 

 工藤さんが立ちあがって、深々と頭をさげた。

 どうやら、この件は、昨日からの話ではなく、ずっと以前から関わっていた気配だ

 

「い、いえ、別にあなたに謝ってもらわなくても」

 

 とにかく、真夫は言った。

 この工藤さんが謝ることではない。謝るのは、あの男子生徒と女子生徒だろう。

 真夫はあさひ姉ちゃんを見た。

 あさひ姉ちゃんも、すっかりと気勢を削がれた感じだ。

 

「いえ、当方の学園の生徒のやったことですから、学園としてもできる限りの償いをしたいと考えています。特に、真夫様におかれては、不当な理由でこれまでの高校を退学になったのですから、その責任もあります。つきましては、当学園の三年生として編入学の準備があります。実は必要な学力調査と資格審査は終了しており、真夫様の意思さえあれば、特別待遇生徒として、真夫様を学園は喜んでお迎えします」

 

 工藤さんが座り直してから続けた。

 

「えっ?」

 

 真夫は、思わず声をあげた。

 聖マグダレナ学園に編入学──?

 あそこは、創設六年目の私立学園だが、すでに名門の名がつきかけていて、この界隈でも有名なエリート養成の秀才高校だ。

 しかも、ヨーロッパの伝統的な寄宿制の学校をモデルにした全寮制であり、なによりも、入園にも修学にも多額の学費や寮費が必要な金持ちの集まる学園である。

 

「……もちろん、真夫様から学費や寮費の一切は頂きません。さらに、学園生活に必要な衣食住をはじめとした物品やその他の生活費などについても、すべて学園で負担します。失礼ながら、真夫様がこれまで通っておられた学校に復学するよりも、待遇的にも、卒業後の学歴としても、当学園が遥かに上回ると考えます」

 

 新しい学園に編入──?

 しかも、生活費や学費の一切は要らないという……。

 真夫にとっては、これ以上ないという待遇ではあるのだが……。

 

 でも、真夫は……。

 真夫はあさひ姉ちゃんを見た。

 もう、真夫としては、すでにあさひ姉ちゃんの借金を返すために働くことを決意している。

 いまさら……。

 

「そ、それは、本当ですか? 真夫ちゃんは、まだ高校生を続けられるんですね?」

 

 すると、あさひ姉ちゃんが喜色ばんだ声をあげた。

 

「もちろんです。いまのことは、すでに書類にしています。同意していただければ、先程の条件で、真夫様を当学園にお迎えします。つまりは、これは、今回の事件に関する和解条件ということになります──。本書面は、真夫様が今回の事件を今後公の問題としない代わりに、当学園が真夫様を特別待遇生徒として、学費等免除のうえ、生活費等の無償支給の条件で受け入れるという内容になってます」

 

 工藤さんが鞄から書類を出して拡げた。

 さっきの内容が書面になっていて、すでに学園の理事長の名で印が打ってある。

 

 学園の理事長は“増応院(ぞうおういん)龍蔵(りゅうぞう)”というらしい。

 その下には、真夫が署名と捺印をするようになっていた。

 

「よ、よかったじゃない、真夫ちゃん──。問題ないわよね? あの学園に入れるなんて、すごいよ」

 

 あさひ姉ちゃんが興奮したように言った。

 しかし、真夫は困惑している。

 真夫には、もう高校生を続ける意思がないのだ。

 

「で、でも、なんでこんな待遇を?」

 

 とりあえず言った。

 本当は、あさひ姉ちゃんのために働きたいから、どんな条件であろうと学園に入るつもりはないのだが、それを言うと、横のあさひ姉ちゃんが黙ってない気がしたので、断る理由を探すために、そう訊ねた。

 

「あなたに対する当学園の仕打ちは、学園にとって不名誉なことです。つまりは、口止め料と思ってください。それとも、彼らを訴えますか? それでも構いませんが、できれば彼らの処置はこちらにお任せしていただきたく思います。無論、訴えると言われれば、学園は真夫様にお味方します。あるいは、そちらからなにか別に要求があれば、言ってください。可能な限り対応します」

 

 工藤さんはきっぱりと言った。

 真夫は嘆息した。

 ますます断る理由は皆無だ。

 すると、工藤さんが、真夫の動揺を見透かしたように、すっと書類をテーブルの端に移動した。

 まだ、話がある気配だ。

 

「……和解条件は以上です。ところで、こちらから真夫様に、もうひとつ提示があります。これについては、真夫様だけと交渉したいのです。よろしければ、恵さんは、別の席でお待ちいただけますか。料金はこちらで持ちます。なにを頼まれても結構ですので……」

 

「だ、だめです。あ、あたしは真夫ちゃんの付添人です。なんの話かわかりませんが、一緒に聞きます」

 

 すると、あさひ姉ちゃんは怒ったような口調で言った。

 きっと、自分のいないところで、この工藤さんが真夫を丸め込もうとしていると考えたのかもしれない。

 

「……大丈夫だよ。この工藤さんは悪い人じゃない。どんな話だったのかは、ちゃんと後であさひ姉ちゃんに言う。だから、言うとおりにして」

 

 真夫は言った。

 この人は悪い人じゃない。

 根拠はないが、真夫の勘がそう主張している。

 それにしても、きれいな人だと思った。

 あさひ姉ちゃんも可愛くてきれいだが、同じくらいにきれいだ。

 しかも、とても色っぽい……。

 そんなことを思ってしまい、真夫は慌てて、邪まな考えを頭から消した。

 

「で、でも、真夫ちゃん……」

 

 あさひ姉ちゃんは真夫から席を外してくれと促されたのが不満そうだ。

 すると、その様子を見ていた工藤さんが口を開いた。

 

「……ところで、わたしの最初の質問ですが、どうなのです?」

 

 工藤さんが不意に言った。

 

「最初の質問?」

 

 真夫はきょとんとした。

 

「……あ、あのう……。おふたりが恋人同士なのかということです……」

 

 工藤さんがちょっともじもじとしながら言った。

 驚いたが、工藤さんは心なしか顔を赤らめている。

 どうして、そんな表情をするかわからなかったが、はにかんだような表情の工藤さんは、とても可愛らしかった。

 

「そうです。恋人です」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんが口を開く前にはっきりと言った。

 横で、あさひ姉ちゃんが真っ赤な顔になり、そして、こらえきれなくなったかのように、にやにやし始めた。

 どうやら、真夫が「恋人」と言ったのが嬉しかったようだ。

 本当に可愛い……。

 

「そうですか……。だったら……、恵さんにも、わかってもらう必要がありますね……。わかりました。恵さんにも説明します。でも、とにかく、最初に真夫様だけと話をさせていただけませんか。そのあいだ、やっぱり、お待ちください。ただし、この場所で……」

 

 工藤さんはすっと一枚のカードを差し出した。

 どうやら、カードキーのようだ。

 このホテルのどこかの一室の部屋の鍵だろう。

 工藤さんは、あさひ姉ちゃんの返事を待たずに、テーブルにあったボタンを押して従業員を呼んだ。

 

「この方を予約している部屋に案内してください……。恵さん、ちょっと込み入った話をしなければなりませんので、場所を変えたいと思います。あなたにも必ずお話をしますが、いまは先に待っていてください」

 

 あさひ姉ちゃんは不安そうに真夫を見たが、真夫はあさひ姉ちゃんが安心できるように、できるだけ微笑んでみせた。

 

「……大丈夫だよ。工藤さんは信頼できると思う。俺たちもすぐ行くのだと思う。だから、待っていて、あさひ姉ちゃん」

 

 真夫がそう言うと、あさひ姉ちゃんは「わかった」と頷いて、ホテルの人と一緒に個室を出ていった。

 

「可愛い人ですね……。仲良くできるといいんだけど……」

 

 工藤さんがあさひ姉ちゃんが立ち去る後姿に視線を送りながら、まるでひとり言のような口調で呟いた。

 

「えっ?」

 

 真夫は思わず言った。

 

「あっ、な、なんでもありません」

 

 真夫が声を出すと、我に返ったように工藤さんが居ずまいを正した。

 几帳面で真面目そうな態度だが、本当は可愛い女性なのだと思った。だけど、ちょっと気を張っている感じだ。

 さらに、しっかりと自分を持った人だ。

 そんな印象を受けた。  

 

 工藤さんは、真夫に向き直ると、鞄から一枚の紙片を出した。

 

 なんだ……?

 

 有名な都市銀行の名称とともに、下の方に工藤玲子と書いてあって、印鑑が押してある。

 中央には“一千二十万円”の数字もある。

 

「小切手です。わたしの名で開いている口座のものですが、実際には学園の資金です……。というよりは、理事長の個人的な資産です。この金額は、さっきの朝比奈恵さんが背負うことになった借金と同額のものです。これがあれば、恵さんは、暴力団の経営する売春組織などには連れていかれなくて済みます。それだけじゃなく、今後、お父さんにも、恵さんにも手を出さないように、あらゆる暴力団に、こちらで手を回す準備もあります……。これを差しあげます」

 

「こ、小切手? あさひ姉ちゃんの借金と同額の……?」

 

 真夫はあまりのことに絶句した。

 工藤さんがあさひ姉ちゃんとお父さんの事情を完全に承知していることにびっくりしたが、それよりも、それを肩代わりしていもいいという申し出には、あまりの驚きで思考が停止してしまった。

 

 なんで……?

 どうして……?

 

「……さらに、真夫様だけでなく、恵さんについても学園で引き受ける準備もあります。真夫様の専属の家事手伝い人、つまり、メイドとしてですが、実は特別待遇学生は、実家から複数の侍女や従者を随行してくるのが、暗黙の常識なのです。そういう境遇の者が入るのが、特別待遇生徒寮ですから……。当方で準備してもいいのですが、真夫様としても、気心の知れた方がいいでしょう?」

 

「えっ、あさひ姉ちゃんをメイドに?」

 

 突然の話でびっくりしてしまった。

 

「なにしろ、随行のメイド等とは、同じ寮室内で生活をともにすることになるんですから……。無論、真夫様がお許しになれば、メイドとしての仕事をこなしながら、いままでどおりに、恵さんが大学に通うことも可能です。通学用の車両は学園のものを使ってもらって構いません。恵さんは自動車免許を持っておられますから、ご自分で運転できるでしょうし」

 

 真夫は唖然とした。

 この工藤玲子という顧問弁護士の女性は、本当になにからなにまで知っている。

 

 本当に何者……?

 

 さすがに、恐怖のようなものも感じてくる。

 あさひ姉ちゃんのお父さんのことまで知っているなど、いくらなんでも知り過ぎだ。

 だけど、確かに、この小切手があれば……。

 

「……それで、これを受け取るにあたって、俺になにを要求するんですか?」

 

 真夫は言った。

 こんな大金をただで理由もなくもらえるわけがない。

 これは怪しい金だ。

 それは真夫でもわかる。

 だけど……。

 

 これがあれば……。

 

「察しがいいですね。さすがは真夫様です。これを受け取る代償はふたつです。ひとつは、白岡かおりという女生徒のことです。あなたを痴漢の冤罪にしたあの女子生徒です。当学園の三年生になります」

 

「ああ、あの娘……」

 

 真夫は思い出した。

 昨日、あの駅前で声をかけて、冷淡な態度をされたあの娘は、白岡かおりというのか……。

 そう思った。

 

「その白岡かおりを学園内で調教レイプしてください。それがひとつ目の条件です」

 

「は、はい?」

 

 あまりもの意外な言葉に、自分の声が裏返るのがわかった。

 それとも、いま、なにかの聞き間違いをしたか?

 

 調教レイプ──。

 

 そう聞こえたのだが……。

 

「助けようとしたあなたを冤罪にするような性悪娘です。遠慮なく調教してください。真夫様がなにをしようとも、その女生徒がどこにも訴えられないようにしますので安心してください。それについては、心配することはありません」

 

 工藤さんは言った。

 やっぱり、聞き間違いではないようだ。

 だが、女生徒を調教レイプ──?

 

 なんだ、それ──。

 真夫は絶句した。

 しかし、工藤さんは、驚いて口を開けない真夫に構わず、鞄から再び一枚の書類らしきものを出した。

 

 

 “奴隷契約書”

 

 

 その書類の表題はそうあった。

 

 そして、さっと、目をやると、目の前の工藤玲子さんが、真夫に奴隷として仕えるという内容のことが書かれている。

 

 なに、これ?

 

 真夫はびっくりした。



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 第14話  奴婢志願

 玲子は困惑の極致にいた。

 

 持ち前の演技力で精一杯の平静を装っていたが、実際のところ、内心の動揺を表に出さないようにするので必死だった。

 

 これから、このホテルの最上階の「特別室」で、この少年に抱かれることになる。

 そう思うと、どうしても緊張で脚が小刻みに震えてくる。

 恥ずかしいが、どうやら自分はこの少年にすっかりとのまれているらしい……。

 そう思った。

 

 どう見ても、目の前に座っている少年は、特に美男子というわけでもなければ、際立って「男」を感じさせるなにかがあるわけでもない。

 

 外見は平凡。

 言葉使いも丁寧で、物腰はどちらかと言えば静かな感じだ。

 態度も妙にへりくだったり、逆に威圧的になったりするわけでもなく、あるいは、背伸びしたような気取った態度をとるわけでもない。

 あくまでも自然体。

 それだけに、玲子は、なぜ自分が会ったばかりの少年に対して、ひどく落ち着かない気持ちになるのかが不思議だった。

 

 魔王の血──。

 

 やはり、それだろうか。

 あの龍蔵理事長は、若い頃には多くの女を調教して妾として囲い、女扱いにかけては、「淫魔」とまで称されたほどの性豪だったと耳にしたことがある。

 顔は似ていない。

 それなのに、玲子はこの坂本真夫という少年に、あの龍蔵に感じるものと同じものを感じていた。

 あるいは、玲子の調教係だった秀也だろうか。

 

 いや、それ以上のなにかの不思議な力だ……。

 

 とにかく、女を支配し、屈服させ、自分の奴婢にしてしまう「淫魔の血」……。

 それをこの少年にも感じる。

 

 これまで玲子は、この少年の生い立ちや、ひそかに採集した血液からDNA鑑定などをして、この真夫と龍蔵の関係を調べてきた。

 その結論は、限りなく、この真夫は龍蔵の子に間違いないということだったが、いま、ここで実際に目の前で話をして、玲子ははっきりとわかった。

 

 この真夫は間違いなく、龍蔵の血を継いでいる──。

 あの魔王の血を……。

 玲子は確信した。

 

「奴隷契約書? 面白い人ですね、工藤さんは……。なにかの冗談ですよね」

 

 真夫は驚いた表情でしばらく玲子の作った書面の内容に見入っていたが、ふと頬を緩めて、書類を玲子に返した。

 玲子はどきりとした。

 この不思議に人を圧倒するような気……。

 これは天性のものだと思った。

 生い立ちは異なるが、龍蔵と同様に、生まれながらにして持っているものに違いない。

 

 玲子は真夫が差し出した書面を引き取り、鞄に戻した。

 こんな小細工が恥ずかしくなったのだ。

 「奴隷契約書」なんてものを作ったとき、玲子は、こんな悪戯をぶつけることで、まだ十八歳の少年を困惑させ、驚かせ、あるいは、興奮させることにより、交渉を優位に進めることを考えていた。

 だが、真夫は、玲子が真夫に奴隷として仕えるという文面に接し、少しは驚いたものの、それほどの動揺を示した感じではない。

 それよりも、これがどういう意味であるかということを冷静な態度の下で懸命に量っている様子だ。

 

 やはり、彼は龍蔵の子なのだと思った。

 

「確かに、この奴隷契約書は、わたしの冗談でした。でも、わたしがあなたに仕えるということは冗談ではありません。すなわち、ふたつ目の条件というのは、あなたがわたしを抱いてくださることです。すでに部屋は確保しています。先ほど、先に恵さんに先に行ってもらったのが、その部屋です」

 

 玲子はきっぱりと言った。

 胸が痛くなるほど、心臓が鼓動するのがわかる。

 玲子は緊張しているようだ。

 これからやることは、玲子という女を真夫が受け入れるように説得することだ。

 

 ここにやって来る前は、玲子が真夫に抱かれたいと申し出れば、おそらく真夫は拒否などしないと思っていた。

 正直にいえば、玲子は自分の外見の美しさに自信があったし、相手は十八の少年だ。

 断るわけがない……。

 そう考えていた。

 

 しかし、真夫に接することで、そんな自信は完全に消失してしまった。

 もしも、真夫が玲子を受け入れてくれなかったらどうしよう。

 ここに来る前に、身体を洗い、念入りにメイクをしてきたものの、せめて、通っているエステに行っておけばよかった……。

 そんな後悔が走る。

 

 なんで、そんな風に考えるのかわからない。

 だが、この少年に気に入られたい……。

 せめて、嫌われたくない。

 そればかり、考えてしまう……。

 玲子の緊張はどんどんと高まっていく……。

 

「……つまり、俺はあなた方から、一千万という大金を貸してもらい……」

 

「貸すのではありません。それは譲渡です。返済の必要はありません」

 

 玲子は急いで言った。

 真夫は頷いた。

 

「……では、こんな大金をもらい、その代償は、学園のひとりの女生徒をレイプすることであり、あなたを抱くということという……。なんでです? さっぱりわかりません」

 

 真夫は首を竦めた。

 玲子はその態度から、この少年が非常に明晰に頭を動かしているということがわかった。

 いや、むしろ、信じられないような困惑する内容に面食らい、それが真夫の心を逆に平静を保たせているのだろうか。

 そんな感じだ。

 

 とにかく、この少年に小細工はしない。

 玲子は決めた。

 

「……これは、非常に大きな力を持った老人の道楽と思ってください」

 

 玲子は言った。

 

「道楽?」

 

 真夫は眉をひそめた。

 その表情は、龍蔵というよりは、秀也を連想させる。真夫の年齢が龍蔵よりも秀也と年齢が重なるからだろう。

 なんとなく、玲子はそれをおかしく感じた。

 

「そうです、道楽です……。まず、わたしのことを話します……。わたしは、学園の顧問弁護士であり、理事でもあると申しました。でも、もうひとつの肩書があります」

 

「肩書ですか?」

 

「はい。わたしは、学園の理事長であって、豊藤(とよふじ)財閥という巨大財閥を牛耳る魔王と称される増応院龍蔵の愛人です……」

 

 玲子は言った。

 さすがに真夫は、眼を大きく見開いた。

 

「豊藤財閥……。歴史の勉強で聞いたことはあります。でも、財閥なんて、もうなくなったものだと思っていました」

 

 やがて、真夫はそう言った。

 

「いまもあります。影に隠れているだけです。特に豊藤財閥は、闇に隠れ、世界中の財閥をさらに操る国際的にも並ぶもののない巨大財閥です。その総帥が増応院龍蔵であり、学園の理事長です……。これはほとんど知られてはいないことですが……」

 

 増応院龍蔵、すなわち、豊藤龍蔵が、事実上の引退をして隠居の場所として学園の理事長をしているというのは、実は秘密中の秘密だ。

 これだけの財閥だ。

 国際的にも敵は多い。

 実際、龍蔵の父親は、当時の政敵だった男が雇った暗殺者の凶弾に倒れている。

 だから、その頂点に君臨する龍蔵の存在は、可能な限り、余人には知らせないようにしていた。

 しかし、この真夫には、玲子はできるだけ隠し事をしたくなかった。

 龍蔵が真夫の父であるということは口止めされているので、喋ることはできないが、それ以外のことはできるだけ包み隠さずに教えるつもりだ。

 

 実際のところ、話す必要のないことは喋る気など皆無だったのだが、真夫に会って気が変わった。

 真夫にはできるだけ、なにもかも知らせたい。

 少なくとも、情報を小出しにして、真夫を操るようなまねは、大変に失礼なことだ。

 そう考えるようになった。

 

「その龍蔵という方の道楽が、俺があなたを抱くことなんですか? ご自分の愛人のあなたを?」

 

 真夫は言った。

 

「……それが、わたしに与えられた命令です。わたしは龍蔵様には逆らうことはできません。そんなことは思いもよらないことです。その龍蔵様に、わたしは、これからは、真夫様に奴婢として仕えよと言われました。だから、実のところ、真夫様にわたしを受け取ってもらわないと困るんです」

 

「奴婢?」

 

「性奴隷です」

 

 玲子ははっきりと口にした。

 

「……お気持ちはわかります。こんなことを馬鹿馬鹿しいとお考えになるのも無理からぬことと思います。だから、これは、龍蔵氏の道楽だと申しあげました。自分の愛人をまるで“物”のように、誰かにくれ与える。そんな行為で、わたしを蔑むことに嗜虐的な悦びを感じるのです」

 

「はあ……」

 

 真夫はさすがに唖然としたようだ。

 玲子は続けた。

 

「そればかりではありません。おそらく、わたしが真夫様に抱かれろと指示を受けた部屋には、隠しカメラがあると思います。龍蔵様は、わたしが、会ったばかりのあなたに身を預ける映像をどこかで観て、愉しむのだとも思います。ご自分の性的欲求を満足させるために……」

 

 龍蔵がすでに不能であり、自分以外の男を使ってしか、女を犯すことができないというのは、今朝秀也に教えてもらったことだ。

 だから、準備されているこのホテルの部屋にも、隠しカメラがあるだろうと……。

 秀也にそれを言われたときには驚いたが、考えてみると、いろいろと合点がいくところがある。

 

 そのとき、目の前の真夫が突然にくすくすと笑いだした。

 これには、玲子はちょっとびっくりした。

 

「……なんとなく道楽というのは納得ができる気がしてきましたよ。あなたを抱くのも、あるいは、白岡かおりという女生徒を調教レイプしたりするのも、その龍蔵さんという人の身代わりなんですね」

 

「身代わり? あっ、いえ、そうかもしれません」

 

 多少は異なるが、なかなかの推察だ。

 玲子は、それに乗ることにした。

 

「ご自分は、破廉恥なことをしたい。女を凌辱したい。だが、立場もあるし、もしかしたら、年齢的なものもあるのかもしれない。だから、それをなんの関係もない、ひとりの孤児の少年にやらせて、それを代償行為として受け入れる。そういうことなんですね」

 

「そう……ですね」

 

「うんうん。そして、たまたま、俺という生徒が手に入った。だから、白羽の矢を当てたということです。つまり、龍蔵さんは、ご自分のやりたいことを俺にさせたいんですね……。そして、それをすれば、俺はあさひ姉ちゃんを助けることのできるお金がもらえると……」

 

 真夫は言った。

 玲子はすぐに口を開く。

 

「そして、こう考えてもいいと思います……。龍蔵様の好色を満足させるように、白岡かおりという少女をレイプしてください。それで、さっきの恵さんは救われます。でも、あなたは犯罪者です。決して捕まることのない犯罪ですが、ひとりの女生徒を繰り返し強姦するんですから、間違いなく犯罪者です。その代わりに、わたしという女も、あなたにお仕えします。それと、申し述べますが、わたしも共犯することを付け加えます」

 

「応じなければ?」

 

 真夫は言った。

 なんとなく、真夫はこの会話を愉しむ気分になっているようだ。

 

「恵さんは救われず、見知らぬ男性に抱かれる人生が待つだけです。おそらく、二度と日の当たる生活はできないでしょう。いまの借金は一千万ですが、一年後には倍になっているでしょう。甘いことを言っていても連中はそういうことをします。真夫様のところに戻ることはあり得ません。だけど、あなたの手が汚れることもありません。あなたひとりのことですが、清廉潔白な暮らしができます」

 

「選択の余地はないですね」

 

 真夫はテーブルの上にあった小切手を手に取ろうとした。

 だが、玲子はそれを制した。

 

「よければ、わたしがこの小切手で、わたしが連中と交渉しましょうか? こういうことには、慣れているんです。もう二度と、恵さんには手を出さないように処置します。それと、お父さんが恵さんに近づかないようにもします。恵さんのお父さんについても調べましたが、ああいう男は、味をしめれば、また同じことをします。今度は、もっとたちの悪い闇金に恵さんを売るかもしれません。そうならないように処置した方がいいと思います」

 

 すると、真夫は頷いて、小切手を取ろうとした手を引っ込めた。

 

「そうですね。そうしてください……。でも、お父さんのことはあさひ姉ちゃんには黙っていてくださいね。俺から、お父さんは助かり、二度と近づかないと約束させたと伝えます」

 

「承知しました……。それと、これからは、どんなことでもわたしを便利にお使いください。大抵のことには役に立てると思います」

 

「わかりました。よろしくお願いします」

 

 真夫の言葉に、玲子は頭をさげた。

 恵の借金と父親についての処置……。

 これは、真夫から初めて与えられる玲子の仕事になる。

 なんとしても、きちんとやり遂げて、自分が有能であることを示さねばならない……。

 心からそう思った。

 とにかく、テーブルの上にものを片付ける。

 

「ほ、本当にいいんですね?」

 

 玲子は最後に念を押した。

 真夫は、随分とあっさりとしたものだ。

 もっと、説得にはてこずるかと思っていただけでに、あまりの潔さに、逆に心配になったのだ。

 

「いまさら、なんです。まさか、怖気づきましたか?」

 

 真夫が不思議そうに言った。

 

「い、いえ、違います……。あ、あの、恵さんのことです。彼女は同意してくれるでしょうか? つまり、わたしのことですが……」

 

 玲子は不安になり言った。

 実際のところ、玲子にとっての一番の心配はそこだった。

 あの恵は、真夫の恋人だろう。

 それにも関わらず、真夫は玲子という新しい女を引き受けることになるのだ。

 そして、さらに白岡かおりについても……。

 

「あさひ姉ちゃんは、俺が説得します。そうするしかないんだから、拒否はさせません。だから、あなたにも、俺でいいのかとか、見知らぬ男子高校生に性奴隷として下げ渡されるというような屈辱は平気なのか、というようなことは訊ねません。それ以外に、あさひ姉ちゃんを助ける方法はないと思います。だから、あなたには、無理矢理にでも俺の奴婢とやらになってもらいます」

 

 真夫は断言した。

 玲子はなぜか、真夫に押されるものを感じて、すぐに口を開くことができなかった。

 

「……ところで、最初に言っておきます。抱くと決めたからには、俺も欲情を押さえませんよ。実のところ、俺はエスなんです。あなたのことも、容赦なく扱いますからね。縛ったり、辱めたり……。もちろん、いまさら、嫌だとは言わせませんけど」

 

 その顔は柔和に微笑んでいる。

 玲子はどきりとした。

 

「……だ、だったら、わたしも最初に申しておきます……。わ、わたしは、エムです……。それはもう……徹底的に……エムです……」

 

 玲子は言った。

 すると、真夫がにんまりと笑った。

 

「………を脱いでください」

 

「はっ?」

 

 玲子は驚いて声をあげた。

 聞き間違いかと思ったのだ。

 

「ここで下着を脱いでくださいと言いました、工藤さん。気がついていなかったと思いますけど、さっきのあさひ姉ちゃんも、スカートの下はノーパンだったんですよ。俺の女になるんなら、命令には服従です。さあ、こっちに寄越してください。ストッキングもです」

 

 真夫はしっかりと玲子を見ながら言った。

 玲子はびっくりしてしまった。

 

 そして、思った。

 やっぱり、龍蔵の子だと……。

 それはもう、間違いなく……。

 あの鬼畜趣味の好色男の息子だ……。

 

「さあ、脱いで」

 

 真夫は手を差し出した。

 そこには、なぜか絶対に逆らえないというなにかがある。

 

 逆らえない……。

 

 玲子はくらくらと目まいのようなものを感じた。

 

「わ、わかりました……」

 

 玲子は立ちあがった。

 いつも装着させられていた革の下着は、今朝、秀也から外された。

 いま身に着けているのは、ごく普通の絹の白い下着だ。

 

「どこにいくんですか?」

 

 真夫が声をかけた。

 

「な、なにって……トイレに……」

 

「俺はトイレに行っていいと言っていませんよ。あさひ姉ちゃんだって、駅ビルの階段の踊り場で脱がせたんです。工藤さんもそうしてください。ここで脱ぐんです」

 

「ええっ?」

 

 玲子は声をあげてしまった。

 だが力が抜けて、くたくたと腰をソファーに沈めてしまった。

 

 抵抗できない……。

 この少年の言葉には、玲子に逆らう気を失わせるなにかがある。

 間違いない……。

 心を操る能力を抱く者が持つ圧倒的な説得力だ。

 

「さあ」

 

 有無を言わせぬような真夫の言葉に玲子は観念して、スカートの中に手を入れた。

 ガラス壁の向こうには、大勢の客や店員がいるが、こっちを見ている客など皆無だ。

 いまなら……。

 玲子は急いでスカートの中に手を入れて、腰からスッキングと下着をまとめて引きおろした。

 あとは難しくない。

 脚に添わせるように一気に足首までさげるだけだ。

 

 片脚ずつ引き抜き、小さく丸めると、真夫に差し出した。

 どきどきしていた。

 龍蔵や秀也の調教は、心が凍りつくような恥辱と屈辱の繰り返しだったが、たったいま真夫にさせられた行為にはわくわくするような興奮を覚えた。

 それが不思議だった。

 

「じゃあ、行きましょうか、工藤さん」

 

 真夫は満足そうに笑うと、受け取ったストッキングと下着を鞄に入れて立ちあがった。

 玲子は慌てて立ちあがり、真夫を追う。

 

「……ところで、真夫様」

 

 真夫が個室のガラス戸を開いたときに、玲子は真夫に追いついて小声でささやいた。

 

「なんです?」

 

 真夫が振り返る。

 

「……このわたしに、丁寧な言葉遣いはやめてください。呼び方もただの玲子と……。困るんです。わたしは奴婢ですから……」

 

 すると、真夫がにやりと笑った。

 

「だったら、あえて、工藤さん……いや、玲子さんがいいかな……。とにかく、そう呼ばせてもらいます。俺はあなたの困る顔がたくさん見たいですから。さあ、行きましょう、玲子さん」

 

 真夫の言葉に、玲子はなぜかかっと身体が熱くなるのを感じた。



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第3章  心酔【工藤 玲子】
 第15話  露出ごっこ


 どきどきしていた……。

 

 わからない……。

 玲子は、どうして、こんなに自分が興奮しているのか、理解できないでいた。

 下着とストッキングを脱いで、ホテルのロビーを歩く。

 ただそれだけのことなのに……。

 

 普通よりも短い玲子のスーツのスカートの丈のせいはないだろう。

 短いといっても、不自然に破廉恥なほどの短さではないし、普通にすごしていれば、玲子のスカートの中がノーパンであることなど、他人には、わかりようもないはずだ。

 それでも、玲子は、ホテルの従業員や商談をするために来ている者たちの前を歩いていくことで、胸が締めつけられるような切ない気持ちと、妖しげな心の昂りを覚えていた。

 

「……エレベーターで最上階にあがります」

 

 フロントの横にあるエレベーターの前に到着すると、玲子は内心の動揺を隠し、顔をあげて真夫に声をかけた。

 そして、はっとした。

 真夫はすでに立ち止まって、じっと玲子のことを見ていたいのだ。

 

 その瞬間、まるで裸を眺められているような不思議な恥ずかしさに襲われた。

 それがどうしてなのか、まったくわからなかったのだが、玲子がすでに欲情しかけているのをすっかりとこの少年に悟られてしまっているような、おかしな気持ちになった。

 たかが、ノーパンにされたくらいで、こんなにも平静でいられなくなったことを気づかれるのは、玲子にとっては、堪らない羞恥なのは間違いない。

 

 無論、そんなわけはないのだが、なぜか真夫にじっと見られると、なにもかも見透かされているような恥ずかしい気持ちになる。

 やはり、この少年にはなにかある……。

 そう思わずにはいられなかった。

 

 そのとき、真夫が急に玲子に近づいてきた。

 そして、まるで顔と顔を接するくらいに、玲子の耳元に口を寄せてきたのだ。

 玲子の心臓は早鐘のように鳴りだした。

 

 そして、さっきからの落ち着かない気持ちの正体をはっきりと悟った。

 

 自分は、この出逢ったばかりの少年に恋をしている?

 そう思って、愕然とした。

 

 信じられないが、この感情はそれに間違いないだろう。

 一目惚れなどということがあるとは知っているが、玲子は自分がそれに陥るとは思っていなかった。

 ましてや、相手は、まだ十八歳の高校生だ。

 あの龍蔵の血を引く息子とはいえ、玲子よりも八歳も歳下の少年なのだ。

 

 だが、この感情は……。

 玲子は自分自身の心に対して、半ば呆然とした。

 そのとき、真夫が玲子の耳元で口を開いた。

 

「……随分と興奮しているんですね……。そんなに、ノーパンになったのが恥ずかしいですか? ちょっと、露出狂の気もあるんですね、玲子さんには」

 

 真夫がくすくすと笑った。

 玲子はびっくりした。

 本当に見抜かれてしまっている……。

 玲子は驚きといたたまれない気持ちに襲われた。

 

「そ、そんなことはありません……。と、とにかく、上に行きましょう。恵さんが待っています」

 

 玲子はそう言いつつも、思わず顔を伏せた。

 とても、真夫の顔を凝視できなかったのだ。

 

 なんで……?

 どうして?

 

 こんなにも真夫に対して恥ずかしい気持ちに襲われるのかわからなかった。

 しかし、自分がどうしようもなく真夫に気圧されることには間違いなかった。

 

「本当ですか? だったら、試してみます? ここじゃなくて、もっと奥にあるようなエレベーターはありますか? あまり、人がいないところがいいですね」

 

 真夫が言った。

 最初は、なにを言われたのかすぐにわからなかったが、すぐに、別のエレベーターについて訊ねられたということがわかった。

 

「……べ、別のエレベーターであれば、階段の横にありますけど……」

 

 いくつかあるうちのエレベーターのうち、ここから少し離れた階段にある場所を真夫に教えた。

 ただ、どうして、そんなことを訊ねられたのかはわからない。

 いまから向かおうとしている最上階の部屋は、このフロントの前のエレベーターから上がった場所の正面だ。

 ほかのエレベーターだと、最上階で廊下を歩くことになる。

 そう説明した。

 

「ところで、俺にも不思議なんですけど、俺って、エッチなことについては、勘がいいというか……。なんか、相手の女の人の心が読めるような感じになるんですよ。だから、もしかして、玲子さんは、ちょっと露出狂の傾向があるんじゃないかと思って……。人に裸を見られたリ、外でエッチなことをされたりすると、玲子さんは異常に興奮するんじゃないですか?」

 

 真夫がほかの者には聞こえないような小さな声で言った。

 玲子はびっくりした。

 

 心が読める……?

 それは、まさにあの増応院龍蔵の血を引く者である確証であるに違いなかった。

 

 しかし、そうはいっても、自分が露出狂だと言われたのは心外だった。

 龍蔵や秀也に限りない辱めを受けてきた玲子であるが、露出狂などということは断じてない。

 

「……わ、わたしは露出狂なんかじゃ……」

 

 とにかく、それだけを言った。

 別に腹立たしいという気持ちにはならなかったが、玲子にはそんな性癖だけはないということは、はっきりと説明しておいた方がいいと思ったのだ。

 

「いいですよ。とにかく、もうひとつのエレベーターに移動しましょう」

 

 真夫が言い、玲子はそこに案内した。

 玲子が次に連れてきたエレベーターは、フロントのずっと裏手にあたり、正面に階段のある場所だ。

 フロントの前に十分な数のエレベーターがあるので、あまり、こっちを使う者はいない。

 

「あさひ姉ちゃんに、あとで悪戯して遊ぶつもりだったから、準備してあったんですよね……。玲子さん、両手を後ろに回して、親指と親指を重ねてください」

 

 真夫がそう言って、玲子の背後にまわった。

 

「こ、こうですか……?」

 

 玲子は鞄を背後で両手で持つかたちに変えて、なにも考えずに言われたようにした。

 

「あっ」

 

 そして、次の瞬間、声をあげてしまった。

 身体の後ろで両方の親指の付け根をまとめて硬い糸のようなもので縛られてしまったのだ。

 これでは、両手が使えない。

 

「な、なにを……?」

 

 玲子は狼狽えて、真夫に声をかけた。

 だが、真夫は素知らぬ顔をして、エレベーターのボタンを押した。

 すぐに扉が開く。

 

「……あさひ姉ちゃんがいるのは、最上階ですよね?」

 

 さっきから、真夫が“あさひ姉ちゃん”と呼ぶのは、朝比奈恵のことだろう。

 

「え、ええ」

 

 真夫は玲子を強引に押し込むようにして、エレベーターの中に押し込んだ。一方で自分は、扉が閉じるのを身体で押さえながら、エレベーター内の操作盤の最上階のボタンを押す。

 そして、なにを思ったのか、二階、四階、さらに十二、十三、十四階のボタンも押した。

 その上が最上階だ。

 

「こっちにきてください、玲子さん」

 

 真夫が言った。

 玲子が真夫に近づくと、真夫は玲子のスカートの腰に手を伸ばして、片手で器用にホックを取り外して、ファスナーを下ろす。

 抵抗を失ったスカートが玲子の足元にぱさりと落ちた。

 

「いやああっ」

 

 玲子は悲鳴をあげて、その場にうずくまった。

 だが、それは途中で阻止された。

 しかも、床まで落ちていたスカートを足首から抜かれて、真夫から取りあげられてしまった。

 

「な、なにをするんです?」

 

 玲子はその場にしゃがみ込んで、片膝を立てて股間を隠すようにして真夫に抗議した。

 なにしろ、玲子の下半身は、なにも身に着けていない素裸だ。

 スーツの上衣はきちんと身に着けているのに、腰から下はすっかりと裸というのは、全裸よりも恥ずかしい気がした。

 

「なんか不思議ですね……。玲子さんを抱いていいと言われた瞬間に、なぜか無性に玲子さんを苛めたくなったんですよ……。それに、実際のところ、玲子さんもそういう遊びが悦ぶような気もして……。まあ、いいでしょう。さっきも言いましたけど、俺はエスなんです。こういうことが好きな変態だと知ってください。じゃあ、俺は別のエレベーターであがりますから、最上階で会いましょう」

 

 真夫はにっこりと笑って、玲子のスカートを手に持ったまま、エレベーターの「閉」のボタンを押して、外に出た。

 抗議する暇もなかった。

 声をあげたときには、すでにエレベーターの扉は閉まり、上昇を始めた。

 

「……あ、ああ……」

 

 思わず玲子は息を吐いた。

 驚いたことに、あの少年は、下半身を露出させた玲子だけを乗せて、エレベーターに乗せてしまったのだ。

 

 最上階以外のボタンを押した意味もわかった。

 とにかく、玲子はあまりの羞恥に生きた心地もなく、床にしゃがみ込んだままでいた。

 

 やがて、エレベータが押してある最初のボタンの二階に止まった。

 

 誰かに見られたら……。

 ましてや、入って来られたら……。

 

 恥ずかしさは頂点に達していた。

 扉が開いて、もう一度閉じるまでの時間が、怖ろしく長い時間に感じた。

 早く扉を閉めるために、立ちあがって、「閉」のボタンを押すことも考えたが、玲子にはその勇気はなかった。

 いずれにしても、いまのように後手で拘束されていては、操作盤には届きそうにない。

 

 やっと、扉が閉まり、エレベーターが再び上昇し始める。

 次は四階……。

 

 すぐに上昇がとまり、扉が開く

 今度も人はいない。

 とりあえず、ほっとする。

 

 また、扉が閉まり、エレベーターが上昇する。

 だが、愕然とした。

 次は十二階のはずだ。

 しかし、エレベーターは、次の五階に停止したのだ。

 つまりは、外から人が入って来るということだ。

 

「そ、そんな」

 

 どうしていいかわからず、思わず、誰もいないエレベーターで助けを求める声を出してしまった。

 扉が開く。

 やはり、人がいる。

 

「ひっ」

 

 玲子はしゃがんだまま、その場に顔を伏せて顔を隠した。

 エレベーターの中にその人物が入って来た。

 

「俺ですよ、玲子さん」

 

 声がした。

 玲子は顔をあげた。

 エレベーターに入ってきたのは、はあはあと息切れをしている真夫だった。

 

 どうやら、真夫は一階から階段を走ってあがって先回りしたらしい。

 玲子は安堵のあまり腰が抜けそうになった。

 

「ひ、ひどいです、真夫様」

 

 玲子は声をあげてしまった。

 だが、ほっとした。

 置き去りにされたかと思ったが、そうでもなかったようだ。

 

 おそらく、真夫は最初に止まった二階や四階でも人がいないことを確認しながら、この五階から入ってきたのだ。

 

 鬼畜だが、優しいのだ……。

 

 そう思った。

 すると、なんだか、心がじんとなる感じがした。

 

「……さあ、立ってください、玲子さん。この時間なら、ほとんど客室には人はいませんよね。人が来たら、プレイだと言ってください。あとは俺は誤魔化しますから」

 

「ご、誤魔化すって……」

 

 誤魔化すといっても、誤魔化しようもないだろうと思ったが、もう、真夫にはなにも口答えする気力もない。

 すっかり圧倒されていた。

 

 玲子は真夫に腕を取られて立たされる。

 足を曲げて必死に股間を隠すようにするが、あまりの恥ずかしい姿に死にそうな気持になる。

 

 結局、十二階、十三階、十四階と誰も人は入ってこなかったし、ほかの階で止まることもなかった。

 だが、下半身を露出して真夫とエレベーターをあがるあいだに、玲子の身体は信じられないくらいに熱くなり、股間は気持ち悪いくらいに蜜で濡れていた。

 

 感じている……。

 そう思うしかなかった……。

 

 そして、真夫の眼はしっかりと、玲子の剥き出しの股間に注がれていた。

 きっと、感じてしまったことを見抜かれている……。

 そう思うと、とてもいたたまれない感情に襲われた。

 

「どうですか、もっと続けますか? それとも、自分が露出狂だと認めますか、玲子さん」

 

 最上階についたとき、真夫が玲子をエレベーターの外に押し出しながら言った。

 そこにも誰もいなかった。

 玲子の膝はがくがくと震えている。

 どうやら、限界を越えた羞恥によるもののようだ。

 

「み、認めます……。わたしは、もしかしたら、恥ずかしいことをされれば、感じる変態なのかもしれません……」

 

 小さな声で言った。

 この真夫には逆らえない。

 すでに、そんな気持ちに襲われている。

 龍蔵や秀也に感じた恐怖とは異なる不可思議な感情だった。

 とにかく、戸惑うほどの疲労感をたったこれだけで感じてしまっていた。

 

「……結構です。変態同士仲良くしましょう。俺の勘ですけど、玲子さんとあさひ姉ちゃんは仲良くできると思いますよ……。さあ、糸を解いてあげます。スカートも返しますよ。あさひ姉ちゃんのところに行きましょう」

 

 真夫が明るい口調でそう言って、玲子の親指を縛っていた糸をさっと解いた。



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 第16話  端女(はしため)と恋人

「真夫ちゃん、あのね……。この部屋、すごいよ。まるで、家みたい……。部屋だけで三つもあるのよ……。あれっ……?」

 

 部屋の前にあった呼び鈴を押してから、玲子さんから受け取ったカードキーで部屋に入ると、あさひ姉ちゃんが勢いよく入り口に出迎えにきた。

 だが、真夫から少し遅れて、部屋に入ってきた玲子さんの様子に気づいて、少し驚いたように口をつぐんだ。

 

 玲子さんは、真夫のちょっとしたエレベーターでの悪戯で、精根尽きたようになってしまい、真夫から見ても、ぐったりと脱力したような感じになってしまったのだ。

 でも、疲れたというよりは、すっかりと肩の力が抜けた様子であり、かなり上気している顔やスーツの着こなしが緩んでいるところなんて、妙に色っぽい。

 

 さっきのエレベーターで苛めたときなんて、泣きそうな顔をして必死に恥ずかしがる玲子さんの姿は、本当に可愛くて愛らしかった。

 歳上であり、立派な弁護士さんの玲子さんをそんな風に思ってしまうなんて、ちょっとおこがましいかなと思わないでもないけど、玲子さんと接していると、なぜか、いやらしいことをしたくなるのだ。

 

 だけど、下のロビーできびきびしている玲子さんしか見ていないあさひ姉ちゃんからすれば、玲子さんの雰囲気ががらりと変わったことに違和感を覚えたのも仕方ないだろう。

 

「……お、お待たせしました、恵さん。ま、真夫様には、わたしの提案を承知していただけました。その内容についてご説明したします……。中に入りますね」

 

 玲子さんが息を吐きながら言った。

 真夫には、玲子さんがさっきの羞恥責めでちょっと淫靡な気持ちになっているようだということがわかった。

 どうやら、玲子さんも、あさひ姉ちゃんと同じでかなりのマゾっ子のようだ。

 真夫は嬉しく思った。

 だが、ふと、どうして、自分はそんなことがわかるのだろうという疑念が頭をよぎった。

 

「あ……、は、はい……」

 

 あさひ姉ちゃんが、妙に色っぽい玲子さんの姿に気飲まれしたように、真夫と玲子さんが入るための場所を開いた。

 

 三人で部屋に入る。

 確かに、豪華な部屋だ。

 真夫の目から見ても、室内の調度品がどれも最高級のものだということはわかる。

 だが、なによりもびっくりしたのは、その広さだ。

 入口に面した部屋だけで、あさひ姉ちゃんが暮らしているアパートの一室の三個分くらいありそうだ。立派なソファーセットも二組あり、部屋の真ん中と少し離れた端に置いてある。

 それに、あさひ姉ちゃんの言った通りに、まだほかにも部屋があるみたいだ。

 

「すごいなあ」

 

 真夫も感嘆して言った。

 

「ねっ、すごいよねえ、真夫ちゃん。あたし、びっくりしちゃった」

 

 あさひ姉ちゃんも興奮したように言った。

 すると、玲子さんが口を挟んだ。

 

「おふたりが学園に入るまでは、ここをお使いください。もちろん、料金は学園が負担いたします。食事などはホテル内に入っているすべてのレストランでとることもできますが、ルームサービスでも大丈夫です。すべて言ってありますので、お二人は無料です。それも学園がすべても持ちます」

 

「えっ、ふたり?」

「えっ、ここを?」

 

 あさひ姉ちゃんと真夫は、ほぼ同時に疑問の言葉を口にした。

 ただ、引っかかったのは、それぞれ異なるようだが……。

 

「と、とにかく、お座りください」

 

 玲子さんがソファーを促した。

 真夫はとりあえず、真ん中のソファーに腰をおろす。

 すると、あさひ姉ちゃんが、すぐ隣にちょこんと座ってきた。

 こんなにたくさん椅子があるのにと思ったが、あさひ姉ちゃんは真夫にくっつきたいというよりは、どこに座っていいかわからなかったみたいだ。

 もしかしたら、この部屋で待っているあいだ、ずっと立ったままだったのかもしれない。

 そういえば、入り口で出迎えてくれたとき、そんな感じだった。

 

「わ、わたしからご説明します、恵さん。恵さんの背負ったお父様の借金は、真夫様がすべて肩代わりをされることになりました。その代わり、真夫様だけでなく、恵さんについても学園に入っていただきます。真夫様の専属メイドとして……」

 

「えっ?」

 

 玲子さんが語りだした。

 あさひ姉ちゃんは、当然、驚いた顔になった。

 

「待って、玲子さん。まずは、俺が話すよ……。それよりも、玲子さんも座って」

 

 真夫は言った。

 玲子さんは「はい」と言って、真夫たちと向かい合うソファーに腰をおろそうとした。

 だが、真夫はそれを呼び止めた。

 

「はい?」

 

 玲子さんは座りかけた腰を真っ直ぐにして、真夫を見た。

 

「ここだよ。こっちにおいで」

 

 真夫が示したのは、真夫とあさひ姉ちゃんが座っている長椅子であり、あさひ姉ちゃんが座っている反対側の真夫の隣だ。

 玲子さんは、あさひ姉ちゃんに説明するのに、ちょっと緊張しているようだった。

 おそらく、玲子さんは、真夫があさひ姉ちゃんのことを恋人だと言ったから、その真夫とあさひ姉ちゃんのあいだに、玲子さん自身が入ることになることに、少し気が咎めているのではないかと思った。

 なんとなく、玲子さんからあさひ姉ちゃんに対する後ろめたさの感情のようなものが伝わって来た。

 だからそう言ったのだ。

 すると、玲子さんは顔を真っ赤にした。

 

「あれ……?」

 

 そのとき、あさひ姉ちゃんが呟いた。

 もしかしたら、あさひ姉ちゃんは、真夫と玲子さんの特別な関係のようなものをなにか感づいたのかもしれない。

 

 玲子さんは顔を赤らめたまま、真夫の隣に腰をおろした。

 真夫は、玲子さんに言って、さっきの小切手を出してもらった。

 

「あさひ姉ちゃんの借金は、これで支払ってくれることになったよ。もう、どこにも行かなくていいんだ。この玲子さんがなにもかもやってくれるって」

 

 真夫がそう言うと、あさひ姉ちゃんは、真夫と玲子さんと小切手に代わる代わる視線を動かして、目を丸くしていた。

 

 真夫は説明した。

 

 とりあえず、あさひ姉ちゃんに語ったのは、学園の理事長である増応院龍蔵という老人の道楽として、真夫が玲子さんというその老人の愛人を受け取ることになったということと、真夫が玲子さんを抱いたり、「調教」したりするところをその老人は、隠しカメラで覗くだろうということだ。

 ほかにも、理事長の命令でなんでもやらないとならないと思うが、その代わりに、あさひ姉ちゃんの借金を支払ってくれることになったと説明した。

 また、真夫が入るのは、メイド帯同で入らなければならない特別待遇生徒寮であって、あさひ姉ちゃんを自分のメイドとして連れていくとも言った。

 だが、白岡かおりという女子高生をレイプしろとも言われたことは、まだ黙っていた。

 それは、時機をみて、ゆっくりと説明しようと思った。

 

「……えっ……で、でも……そ、そんな……。だ、だって、そんなの……。あ、あたしのことなのに……。ま、真夫ちゃんだって……。そ、それに、玲子さんも……」

 

 あさひ姉ちゃんは、なにをどう言っていいかわからないようだ。

 それだけ喋って、あとは言葉がみつからないかのように口をまごまごとした。

 真夫はわざと険しい顔をして、あさひ姉ちゃんの手をぐっと掴んだ。

 

「四の五の言うんじゃない、恵。これは決めたことだよ。恵は、もうどこにも行かない。どこにも行かせない。どんな方法を使えば、あさひ姉ちゃんと別れなくて済むのかと、昨夜からずっと思っていたけど、それが見つかった。俺はこれを受け入れることにした。これが、なにかの罠で、怖い陰謀に巻き込まれたりしたって構わない。俺にとっては、あさひ姉ちゃんのことを手放さないで済むことが最優先なんだ」

 

 真夫は一気に言った。

 そのとき、玲子さんががばりと立ちあがった。

 そして、なにを思ったのか、いきなり身に着けているものを脱ぎ始める。

 さすがに、真夫も驚愕した。

 

「れ、玲子さん?」

 

 真夫は声をかけた。

 横であさひ姉ちゃんも呆気にとられている。

 しかし、玲子さんは、構わずに、どんどんと服を脱いで、反対側のソファーに置いていく。

 やがて、玲子さんは生まれたままの姿になった。

 

 さっきは、よく見えなかったけど、玲子さんの股間には一本の恥毛もなかった。ただの亀裂があるだけだ。

 そして、その股間は少し……いや、たっぷりと濡れている。

 とにかく、玲子さんの裸はとても綺麗だった。

 真夫はごくりと唾を飲んだ。

 

 玲子さんは、その場に跪いて、手と頭を床にぴったりとつけた。

 全裸土下座だ。

 真夫は度肝を抜かれた。

 

「恵さん、この通りです。わたしを受け入れてください。わたしは真夫様にこの身体を受け入れてもらわないと困るんです。その代わりに、真夫様が罠や怖ろしい企てに巻き込まれないように努力します……」

 

「ちょっ、ちょっと待ってよ、玲子さん」

 

 真夫は口を挟んだ。

 だけど、玲子さんは興奮状態みたいだ。

 構わずに、口を開き続ける。

 

「……とは言っても、龍蔵様の力は偉大です。その龍蔵様から真夫様を守り抜いてみせるとは約束できません。でも、全身全霊で真夫様にお仕えます。だから、わたしを端女(はしため)だと思って、真夫様の相手として受け入れてください、恵さん」

 

「えっ、えっ、えっ?」

 

 いきなり、自分の名を呼び掛けられて、あさひ姉ちゃんは動転している。

 

「分は守ります。恋人としての恵さんの領分を侵したりはしませんので……。でも、とりあえず、わたしはここで真夫様に抱かれなければなりません。それが龍蔵様の申し付けなんです。龍蔵様はそれを隠しカメラを使って遠くで観察するはずです。それは許してください……。このとおりです」

 

 玲子さんがまくしたてた。

 真夫は驚いた。

 だが、横のあさひ姉ちゃんは、真夫以上にびっくりしたようだ。

 俄かに立ちあがるや、転がるように玲子さんの前に跪いた。

 

「そ、そんな……。あ、あたしなんて……。ちょ、ちょっと待ってください、工藤さん……」

 

 あさひ姉ちゃんが狼狽えて言った。

 

「玲子さんだよ、あさひ姉ちゃん……。そう呼ぼうよ……。まだ、会ったばかりで、この玲子さんがどんな人なのかなんて判断できないかもしれないけど、この人はとてもいい人だよ。ただの勘だけどね……」

 

「ま、真夫ちゃん……」

 

 あさひ姉ちゃんが真夫を見た。

 

「でも、それはわかるんだ……。そして、この玲子さんを信じれば、あさひ姉ちゃんは、俺とずっといられる。これが嘘でもいい。俺はあさひ姉ちゃんと一緒にいたい。どこの誰かもわからないような男たちに、あさひ姉ちゃんを渡すものか。渡すくらいなら、犯罪者でも、ポルノ男優にでもなってやる」

 

 真夫も腰をあげて、ふたりが跪いている床に胡坐で座り直した。

 玲子さんがまだ頭をさげたままだったので、それを起こさせる。

 

 あさひ姉ちゃんは、まだ呆然としていて、しばらく思考停止状態になったかのように、じっとしていたが、やがて、ぽろりと涙をこぼした。

 すると、それを皮切りに堰を切ったかのようにあさひ姉ちゃんがわっと泣き出した。

 

「……あ、ありがとうございます……。ありがとう……。ま、真夫ちゃん、あ、あたし、本当は嫌だったの……。娼婦になるなんていや……。それしかないと諦めていたけど……真夫ちゃんに会ってしまって……それで……それで……。それで、やっぱりどうしても嫌になって……。でも、でも……でも、どうしようもないし……。真夫ちゃんに迷惑かけるし……。でも、それでも真夫ちゃんと一緒にいたいし……。あ、あたしはどうしていいかわかんなかったの……。ほ、本当にいいの? このお金を受け入れていいの? こんなの受け取れない……。受け取っちゃいけないと思う……。でも、本当にいいの?」

 

 あさひ姉ちゃんが泣きながら言った。

 真夫は、あさひ姉ちゃんの肩にすっと手を回した。

 

「受け取ろう、あさひ姉ちゃん。そして、玲子さんに頼ろう。玲子さんは、あさひ姉ちゃんのお父さんのこともなんとかしてくれるって……。よかったね、あさひ姉ちゃん……。俺にもまだなにがなんだかわからないけどね。でも本当は、あさひ姉ちゃんのお父さんを殺そうかとまで思っていたんだ。そうしたら、あさひ姉ちゃんが身体を売ってまで守る人はいなくなるから……。俺はそれくらいに、あさひ姉ちゃんのことを誰にも渡したくないんだ」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんを引き寄せて抱き寄せた。

 あさひ姉ちゃんの嗚咽がますます大きくなった。

 だが、少しのあいだだけ抱いたところで、真夫はあさひ姉ちゃんの身体を離した。

 そして、その場で正座に座り直すと、玲子さんに向かって土下座をした。

 

「俺たちは申し出を受け入れます。これで、あさひ姉ちゃんは助かります。ありがとうございます……。あなたのことは、まだよく知らないけど、俺はあなたを好きになると思います……。いえ、もう好きです。だから、あなたも、俺とあさひ姉ちゃんのことを受け入れてください。このとおりです」

 

 真夫は頭をさげたまま言った。

 あさひ姉ちゃんも慌てたように頭をさげる。

 

「や、やめてください。そ、そんなこと言わないで」

 

 玲子さんは悲鳴のような声をあげた。

 そして、なにを思ったのか、また真夫たちに向かって土下座をした。

 

 しかし、真夫はそれで少し我に返ってしまった。

 三人揃って、なにをしているんだろう……。

 そう思と、おかしくなり、ぷっと噴き出した。

 すると、玲子さんも頭をさげたままくすりと笑った。

 

 顔をあげる。

 真夫と玲子さんは、そのままくすくすと笑ってしまった。

 あさひ姉ちゃんだけが、きょとんとしていた。

 

「俺の勘ですねど、俺たちはきっと仲良くなれますよ、玲子さん……。実のところ、あさひ姉ちゃんもすごくエッチなんですよ。そして、マゾっ子です。玲子さんと同じです」

 

「えっ? マゾっ子?」

 

 声をあげたのはあさひ姉ちゃんだ。

 一方で玲子さんは顔を真っ赤にしている。

 

「そして、あさひ姉ちゃん……。この玲子さんは、とっても恥ずかしがりやなエッチだよ。だけど、恥ずかしいことをさせると、とっても興奮するんだ。さっき、玲子さんはスカートの下に下着をつけていなかったでしょう。あさひ姉ちゃんと同じように俺が脱がせたんだ。それだけじゃなくて、エレベータの中でスカートも脱がせたんだよ。玲子さんは大興奮だったよ」

 

 真夫は笑いながら言った。

 

「そ、そんなことばらさないで──。ああっ……。で、でも認めます……。わ、わたし、あんなことされて、怖いとか、嫌だとかは思ったことがあるけど、あんなにどきどきした気分になるなんて初めてです……。すごい洗礼でした。真夫様は、きっとすごい調教者になると思います」

 

 玲子さんが「はああ」と甘い息を吐きながら言った。

 そして、思い出したように、両手で胸と股間を隠した。

 

 そのとき、あさひ姉ちゃんが立ちあがった。

 今度はあさひ姉ちゃんも服をどんどんと脱いでいく。

 

 玲子さんと同じように素っ裸になったあさひ姉ちゃんは、玲子さんの前に正座をすると再び土下座をした。

 

「ど、どうか、あたしをよろしくお願いします。そして、本当にありがとうございます。あ、あたし、玲子さんに頼ります。真夫ちゃんにも……。龍蔵様というお方にも……。感謝します。そして、さっきのことですけど、玲子さんが端女なんて、とんでもありません。あたしこそ、端女でいいです。だから、あたしも、このまま真夫ちゃんのそばにいさせてください」

 

 あさひ姉ちゃんが言った。

 

「そ、そんな……」

 

 玲子さんはびっくりして、また土下座をしようとした。

 真夫は慌てて、それをとめた。

 

「もう、土下座ごっこはやめようよ。きりがいないよ」

 

 真夫が言うと、あさひ姉ちゃんと玲子さんは、やっとほっとしたように笑いだした。

 

「……ところで、さっきの話ですけど……」

 

 しばらく三人で笑ったあと、あさひ姉ちゃんが思い出したように口を開いた。

 

「なに?」

 

 真夫は、裸のあさひ姉ちゃんに視線を向けた。

 だが、あさひ姉ちゃんは、玲子さんに顔を向けている。

 

「玲子さんは、これから、真夫ちゃんに抱かれるんですよね? そ、そのう……。龍蔵様という人のご命令とかで……」

 

「え、ええ……。め、恵さんにとっては気に入らないのかもしれないけど……」

 

 玲子さんは申し訳なさそうな顔になった。

 しかし、あさひ姉ちゃんは慌てたように、首を横に振る。

 

「あっ、ち、違うんです。嫌だとか、そういうことじゃなくて……。つまり、さっきの話によれば、真夫ちゃんと玲子さんが愛し合うところを見られちゃんですよね。その龍蔵様というお方に……」

 

「そういうことになります……。実はわたしも詳しいことはわからないのですが、どうやら、龍蔵様が真夫様に要求されるのは、ご自分の代わりといってはなんですけど……。わたしのような女を真夫様が抱くのを覗くことのようなんです。お金を出す代わりに、真夫様にそんなことをさせたいとお考えになったようで……」

 

 玲子さんはちょっと困ったような口調で言った。

 そのとき、真夫はなんとなく、玲子さんの物言いに引っかかるものを感じた。

 嘘をついているという気配ではないが、なにか大事なことを隠しているというような……。

 

 根拠はない。

 ただの勘だ。

 まあいい……。

 玲子さんはいい人だ。

 それに関する思いは、少しも揺るぎはない。

 だから、信じよう。

 真夫はふたりを交互に見た。

 

「……俺は別に見られてもいいよ。さすがに、目の前で見物されるのは気になるかもしれないけど、隠れて覗くくらいなら……。まあ、これだけのものをもらうんだし」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんに言った。

 

「だけど、真夫ちゃんと玲子さんだけに、そんな恥ずかしいことさせるなんて……。だったら、あたしも参加させてください。玲子さんと真夫ちゃんが愛し合うのに……。も、もちろん、お邪魔でなければですけど……。おふたりだけに恥ずかしいことをさせるのは、なにか気が咎めて……」

 

「わ、わたしは問題ありませんが……」

 

 玲子さんも当惑したようだが、三人で愛し合うというあさひ姉ちゃんの申し出そのものは問題ないようだ。

 だが、判断を求めるように、玲子さんが真夫に視線を向けた。

 

「もちろん、問題ないよ、あさひ姉ちゃん。そして、玲子さん……。そうだね。最初は三人で愛し合おう……。もちろん、俺流のやり方でね」

 

 真夫はにやりと笑った。



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 第17話  ライバルの影

「真夫様、恵さん、こちらにおいでください」

 

 玲子さんが、なぜか小さなポーチだけを持って、真夫とあさひ姉ちゃんを隣室に導いた。

 玲子さんもあさひ姉ちゃんもすっかりと全裸であり、真夫だけが学生服を着たままだ。

 ふたりともちょっと恥ずかしそうに、両手で身体を隠しているのが可愛い。

 

 隣室は書斎のようなかたちになっていて、壁際に古風な洋書の百科事典がずらりと並び、手前には木製のアンティックな机と椅子があって、その反対の窓際側には壁から伸びた台にノートパソコンが置いてある。

 この部屋だけで、あさひ姉ちゃんのアパートと同じくらいか……。

 また、そんなことを思った。

 真夫はなんだか苦笑してしまった。

 

「もしも、お気に入りになれましたら、この部屋は真夫様たち専用にするように、ホテルの者に伝えましょうか? 学園に入るまでに限らず、外出をしたときなどに気が向いたときにいつでも使える場所として確保させておきます。真夫様には部屋のキーカードを渡しましたが、恵さん用のも準備させます。いかがです?」

 

 真夫たちのため息のようなものが聞こえたのかに、玲子さんが顔だけをこっちに向けて言った。

 

「こ、ここを?」

 

 あさひ姉ちゃんが声をあげた。

 驚いたのか、声が裏返っている。

 真夫としても、それに不平があるわけもないが、そんなことをしてもらっていいのだろうか。

 

「後で手続きしますね……」

 

 玲子さんがくすりと笑った。

 どうやら、真夫もあさひ姉ちゃんも、感情が顔に出てしまったようだ。

 次いで、玲子さんは百科事典の一番上に手を伸ばした。

 

「操作を説明します……。この上から三段目の段のどの巻でも構いませんから、まずは、一冊をちょっとだけ引いて戻してください。そして、同じ段のほかの巻をまた少し引いて戻します」

 

 玲子さんが説明をしながら、壁に並んだ本棚の百科事典を二度出したり戻したりした。

 すると、本棚が横に動いて、奥に部屋が出現した。

 

「うわあ……」

「へえ……」

 

 隠し部屋だ。

 真夫とあさひ姉ちゃんは感嘆の声をあげてしまった。

 玲子さんに続いて、中に入る……。

 

「こ、これはっ」

 

「すごい……」

 

 もう一度声をあげてしまった。

 奥にあった部屋は、さっきのソファのあった部屋と同じくらい広いのだが、いわゆる「SMルーム」だったのだ。

 天井からは鎖つきの枷がいくつも垂れているし、十字架の磔台や金具などが壁についている。一方の壁は全部棚になっていて、そこには大小さまざまなSMグッズが置かれていた。

 また、部屋の一画には、ソファーもあり、かなり大きな寝台もあった。ちょっと見ると、寝台の四隅には革ベルトが繋がっている。

 部屋の床は、絨毯が敷き詰められている場所と、タイルのような感じになっている場所などに分かれていて、タイルの方には排水のようなものもある。

 さらに奥には、一段高くなったガラス張りの場所に、やはりガラス張りの洋便器がある。

 もちろん、なんのための透明の便器なのかは想像はつく。

 

「あさひ姉ちゃん、ここにいるあいだは、あさひ姉ちゃんのトイレはあそこだよ。小さいのも、大きいのもね」

 

 真夫はすかさず言った。

 ちょっとからかっただけのつもりだったが、あさひ姉ちゃんの顔が真っ赤になり、表情が引きつったようになった。

 

「い、いやよ、真夫ちゃん。は。恥ずかしいわ。そ、それに大きいのもって……」

 

 あさひ姉ちゃんが絶句しちゃった。

 だが、こんなに恥ずかしがるなら、絶対にやらせようと思った。

 別に真夫は、あさひ姉ちゃんなら、うんちだって汚いとは思わない。

 

 そのとき、ふと横を見た。

 玲子さんがあさひ姉ちゃんと同じように、真っ赤になって真夫を凝視している。

 どうやら、玲子さんも、真夫に見られながら用を足すことを想像しちゃったみたいだ。

 真夫は何気なく壁のSMグッズに目をやった。

 ちゃんと浣腸プレイ用の道具や液剤がある。

 使ったことはないが、使えると思う。

 あとで本当にやってみようかな……と思った。

 

「ほ、本当に真夫様は、エス……なんですね……」

 

 玲子さんがぼそりと言った。

 

「もちろんですよ……。そう言ったでしょう」

 

 真夫は玲子さんの白いお尻に指を伸ばして、亀裂に指を添わせると、ちょうどお尻の穴あたりをくりくりとしてあげた。

 

「ふんんっ、ひいいっ」

 

 すると玲子さんは、こっちがびっくりするような悲鳴をあげて、その場に座り込んでしまった。

 

「大袈裟だなあ……。玲子さんって、随分と感じやすいんですね」

 

 反応の大きさに真夫は、苦笑してしまった。

 

「ち、違うの……。いえ、いえ、違うんです。な、なんですか、いまの? さ、触られたとき、なにかびりびりっとした不思議な強い疼きのようなものが……。な、なにか、したんですか?」

 

 しゃがみ込んだ玲子さんが身体を両手で隠すようにしながら、驚いた顔を真夫に向ける。

 だが、真夫も呆気にとられた。

 なにがどうしたというのだろう……?

 

「も、もしかして、玲子さんもですか? あ、あたしも真夫ちゃんに触られると、いつもびりびりってした感じになります。と、とっても、不思議な指なんです……。施設のときに、ほかにも真夫ちゃんに触ってもらった女の子もいるんですけど。その子たちはなんでもないって……。で、でも、あたしは、いつもびりびりしちゃって……。あたしだけがおかしいのかと思ってた……」

 

 そのとき、あさひ姉ちゃんが口を挟んだ。

 

 びりびり……?

 なんのこと……?

 

 真夫は首を傾げた。

 

「……そ、そうなんですか……。と、とにかく、すみませんでした……。ちょ、ちょっと驚きました。わたしは初めてだったので……」

 

 玲子さんはまだ動揺している感じで立ちあがった。

 気がつくと、いつの間にか、開いたままだった隠し扉が閉じて、こちらからはただの壁になっている。

 ただ、悪魔のような化け物が裸の美女を犯している絵が飾ってあった。

 

「この絵の額縁の横の壁に、扉を開くセンサーがあります。これを知らなければ開きませんし、真夫様と恵さんの手でしか開けられないように設定できます。誰かを監禁するときにも使えます。順に手を壁に置いてください」

 

 玲子さんが意味ありげに微笑んだ。

 真夫とあさひ姉ちゃんは、順に言われたとおりに壁に手をつけた。

 玲子さんはポーチから取り出したスマホのようなもので、なにかの操作をした。

 あっという間に、登録は完了したみたいだ。

 玲子さんは、次いで、真夫たちを寝台のある場所まで導く。

 

 玲子さんはあさひ姉ちゃんとともに、寝台のへりに腰をおろした。真夫は向かい合うようにソファに腰かけさせられた。

 

「……さ、さて、どうしましょうか……? さらに奥には浴室があります。地下から出ている温泉水を沸かしたもので、常に湯は張ってありますので、二十四時間入ることが可能です。先に身体を流した方がいいですか……?」

 

 これまで、てきぱきと真夫たちを案内してきた玲子さんが、急にどうしていいかわからなくなったように、おろおろした雰囲気になった。

 なんか面白い。

 

「身体を流すのはひと汗かいてからにしましょう。ふたりともベットにあがってください」

 

 真夫はそう言ってから、SMグッズの並んでいる棚にいき、数束の縄と幾つかの革枷を持って来た。

 玲子さんとあさひ姉ちゃんは、寝台にあがって待つ態勢になっていたが、真夫が戻ったとき、玲子さんがはっとしたように寝台から降りた。

 

「も、申しわけありません。大切なことを忘れていました。ちょっと待ってください、真夫様」

 

 玲子さんが一度立ちあがって、本棚の隠し扉の近くにあったトレイを寝台の横まで持って来た。

 そこに玲子さんは、最初に持っていたポーチを置いていたのだ。

 戻ってきた玲子さんは、ポーチの中から小さな錠剤を取り出して、あさひ姉ちゃんに手渡した。さらにトレイに載せてあったコップに水差しの水を注いで渡す。

 

「避妊ピルよ。あなたはまだ学生だから飲んでおく方がいいわ。とりあえず、一箇月分を後で手渡すわね」

 

 玲子さんがあさひ姉ちゃんに低い声で言った。

 あさひ姉ちゃんはちょっとびっくりしたみたいな顔をしたが、すぐに大人しく錠剤を飲んだ。

 玲子さんがあさひ姉ちゃんから受け取ったコップをトレイに戻す。

 

 トレイは二段になっていて、一番上には、水差しとコップがある。

 下の段には、口の広い容器やチューブがたくさんあって、さらに透明のケースに入れてある錠剤もあった。錠剤はケースの中でさらに数種類に分かれている。

 おそらく、あれは媚薬の類いだろう。ほかにも、潤滑ゼリーもあるみたいだ。

 とにかく、この部屋にはあらゆる性具が揃えられている。

 真夫は改めて思った。

 玲子さんは、上の段にあるポーチをまた取り、小さなスマホのようなものを取り出した。

 

「真夫様がわたしを受け入れることを決められたら、これを手渡すように龍蔵様に命じられていました。忘れておりました。申し訳ありません」

 

 玲子さんが真夫にそれを押しつけた。

 なんだろうと思った。

 さっきの操作具とは似ているけど、別のものだ。

 

 スマホじゃなくて、リモコン?

 

 なんとなく、その単語が頭に浮かんだが、小さな画面の表面にはなにもなかった。

 だが、真夫が握ると、なにもないと思っていた表面に、不意に画像が浮き出てきた。

 

「……すでに真夫様用に調整してあります。ほかの者が触っても、なにも映りません」

 

 玲子さんが言った。

 確かに、画面にはいくつかのボタンのような画像がある。

 

「これはなんですか?」

 

 真夫は訊ねた。

 

「わ、わたしを支配する操作具です。わたしは、これを使われて調教され、龍蔵様から逃げ出せない身体にされました」

 

 すると、玲子さんが言った。

 

「はあ?」

 

 思わず訝しむ声を出してしまった。

 

 玲子さんが真夫に説明を始めた。

 つまりは、自分の股間にはクリリングという淫具が埋め込まれていて、このリモコンで操作できる……。

 青色のボタンは小振動……。マイクロコンピューターが内蔵されていて、玲子の反応を感知し、いくにいけない微振動を延々と流し続ける。

 黄色は、中振動……。強い振動を玲子に与える刺激。

 そして、赤色は、強振動……。強制絶頂であり、これを押されると、玲子さんはどんな状態でも、大抵は一分以内に絶頂してしまう……。内蔵のコンピューターがセンサーで探知しながら、最大限の刺激を加えるので、玲子さんには抵抗不可能……。

 また、振動の解除は、一番上の白ボタンの画面に触れればいい……。

 そして、この信号は、どんなに距離があっても逃れられない。

 おそらく、地球の反対側でも衛星電波を使って追いかけてくる……。

 

 自分を苦しめる操作具について、淡々と説明する玲子さんに、真夫は唖然としてしまった。

 あさひ姉ちゃんも横でびっくりしている。

 ほかに、画面を横スライドして別の画面を出し、クリリングに電撃を流す要領も教えられた。

 

「へえ……」

 

 説明を聞き終えて、真夫はびっくりしてしまった。

 まさに、女を家畜のように支配してしまう道具と言えないだろうか。 

 また、これはこれで大した技術だ。

 真夫は、玲子さんを支配していた龍蔵という人物の力の大きさの一端を垣間見た気持ちだ。

 

 そして、できるだけ感情を押し殺したように説明する玲子さんから、真夫はこの操作具に対する、玲子さんの心からの嫌悪感のようなものも感じてしまった。

 玲子さんは、クリリングとかいうものを手術で埋め込まれて苦しんだのだろう。

 

 そして、恥辱され……。

 虐げられ……。

 脅され……。

 意思に反した快感を強要され……。

 惨めな扱いを受け……。

 ときには電撃で苦しめられ……。

 

 そうやって、玲子さんは心を支配された……。

 

 ふうん……。

 

「玲子さんのクリリングというものを操作するリモコンはほかにもあるんですか?」

 

 真夫は訊ねた。

 玲子さんは真夫の質問に驚いたようになった。

 そして、顔を曇らせた。

 どうやら、それはあまり触れられたくないことだったようだ。

 だが、しばらくして口を開いた。

 

「……あ、あと、二個あるはずです」

 

 玲子さんは言った。

 なんとなく渋々という感じだ。

 

「持っている人のひとりは龍蔵さんという方ですね? でも、もうひとりは?」

 

 訊ねた。

 何気無くした質問だった。

 だが、そのリモコンを持っている者もまた、これまで玲子さんをそうやっていたぶり続けた者ということになるのだろう。

 その人物が龍蔵という人のほかにいるのは、ちょっと不思議な感じがした。

 

 すると、玲子さんははっきりと顔色を変えた。

 どうやら、その質問は玲子さんにとっては、答えたくない質問だったようだ。

 

「教えてください……。それとも、教えるのを禁止されているのですか?」

 

 真夫は自分の口調が詰問調になっていることに気がついた。真夫が不機嫌になる理由はないのだが、真夫には、玲子さんの抱いた不安がなんとなく伝わってきたのだ。

 そのことが、なぜか真夫を不愉快にさせた。

 

「そ、そんなことはありません……。もうひとりは秀也という人です。真夫様とは同学年になる学園の生徒のひとりです……。そして……」

 

 玲子さんはそこまで言って、なにかを確かめるように一度口を閉じた。

 だが、すぐに口を開いた。

 

「……そして、龍蔵様の親族にもあたります」

 

 玲子さんは言った。

 なんとなく、それで、なぜ、秀也という学園の生徒が、玲子さんを支配する道具を持っているかがわかった。

 

「……もしかして、その秀也という人は、玲子さんの直接の調教係? あるいは、俺の前の男……?」

 

 真夫は言った。

 今度こそ、玲子さんの顔は強張った。

 どうやら、その通りだったようだ。

 

 まあ、だからといって、なんだというわけじゃないが……。

 しかし、なんとなく、ほかの男の影というのは、気持ちのいいものじゃない。

 どうやら、龍蔵という支配者は、女を他人に責めさせるのが趣味のようだが、龍蔵という支配者に関してなにも感じなかった不愉快さを秀也に対しては感じた。

 もしかしたら、それは嫉妬のような感情なのかもしれないと、真夫の冷静な部分は思った。

 

「……わかりました。だけど、もしも龍蔵さんというお方が、俺に玲子さんを譲渡するというのであれば、その秀也という人物からは金輪際、横入りされたくないですね。できれば、龍蔵さん自身の操作具でも──。この玲子さんは、言われた通りに、俺の奴婢にします。でも、それなら、俺以外の者には触れて欲しくありません」

 

 真夫はわざと大きな声で言った。

 

「そ、それは……」

 

 玲子さんは困った顔をしたが、別に真夫は玲子さんに、なにかを喋ったつもりはない。

 玲子さんには、どうにもならないことというのは承知している。

 ただ、もしかしたら、この会話を龍蔵という人が聞いているかもしれないと思ったのだ。

 さっきの玲子さんの話によれば、龍蔵という人は、玲子さんを抱く真夫をどこかで観ていると言っていた。

 それはいま観ているのかもしれないし、後で観るかもしれない。

 

「龍蔵さん、聞いていますか? 俺はあなたの指示のとおりに、あなたの奴隷にでも、道具にもなりましょう。だけど、玲子さんを操作するものが、俺以外の者にもあるのは我慢できません。玲子さんは俺専属にしてください」

 

 だが、この真夫の言葉は、龍蔵に届けたかった。

 だから、大きな声を張りあげた。

 

「ま、真夫様――」

 

 玲子さんが叫んだ。その顔は真っ青だ。

 だけど、これがなにかの機嫌を損ねることになってもいいと思った。

 真夫には、玲子さんを支配できる者がほかにもいるというのが、本当に愉快ではなかったのだ。

 

 そのとき、突然に持っていた操作具がかすかに振動した。

 真夫はびっくりした。

 

 

 “承知。その操作具以外の信号はすべて無効にした”──。

 

 

 画面に突然にその言葉が出現した。

 さすがに真夫も驚いた。

 本当に、どこかで観ているのだ……。

 

 改めて周りを見渡してしまった。

 ただ、隠しカメラのようなものは、わからない。

 

 まあいいか……。

 

「あ、あの、どうかしましたか……?」

 

 真夫の様子が突然に変化したのかもしれない。

 玲子さんは、真夫に不安そうな視線を向けている。

 

 その玲子さんに真夫は微笑みかけた。

 

「なんでもありません。ただ、龍蔵さんは、本当に玲子さんを俺だけのものにすることを承知してくれたようですね」

 

 真夫は言った。

 玲子さんはきょとんとしている。

 

 真夫は立ちあがった。

 服を脱ぐためだ。

 最初に真夫は、とりあえず、渡されたリモコンをトレイの上のポーチの横に戻した。

 そのとき、ポーチから小さな容器が落ちそうになっているのが見えた。

 なんとなく、手に取った。

 

「これは?」

 

 玲子さんを見た。

 特に理由はないが、真夫がそれに手を触れたとき、玲子さんが動揺したように思えたのだ。

 

 しかし、玲子さんは、すぐに落ち着いた感じになり、微笑んだ。

 一瞬にして、なにかに対して腹を括った……。

 そんな風に思えた。

 

「……どうというものではありません。さっきの秀也様……、いえ、秀也に渡されたものです。必要はないので使ってません」

 

 なんとなく意味ありげな感じだ。

 とにかく、真夫はその容器をポーチに戻した。

 

「あさひ姉ちゃん、少し趣向を考えていたけど、それは後にするよ。悪いけど、先に玲子さんを抱くことにする。だから、ちょっとこっちで待っていて」

 

 真夫はそう言って、寝台の上にあがり、服を脱ぎ始めた。とにかく、大きな寝台だ。三人あがっても、まだまだ余裕がある。

 一方で、あさひ姉ちゃんがにっこりと微笑んで頷いた。

 そして、寝台の隅の方に寄っていった。

 

 いずれにしても、龍蔵という人が見ているなら、まずはその人に、玲子さんが真夫のものになったということをはっきりと示したい。

 そう考えた。

 会ったばかりだが、もう玲子さんのことを真夫はすっかりと気に入ってしまっていた。

 

 だから、真夫は玲子さんを抱く。

 そして、玲子さんと真夫が、完全に心を通じ合わせるところを龍蔵に示すのだ。

 

 玲子さんと抱き合うのはこれが初めてだし、真夫には男として数多い経験があるわけでもないが、なぜか、玲子さんと真夫が完全に相性がいいということが真夫にはわかるのだ。

 ただの勘だが、絶対だ。

 

 一度抱き合えば、真夫も玲子さんも、そして、龍蔵という人も、さらに秀也も納得するはずだ。

 

 玲子さんは、真夫のものだ──。

 

 不思議だが、真夫にはその確信があった。

 

「ま、待って──」

 

 そのとき、玲子さんがびっくりしたように声をかけてきた。

 

「自分で脱がないでください。ご主人様の服の着脱は、わたしたち奴婢の役目です──。さあ、恵さんも」

 

 玲子さんが真夫に飛びついて、慌てたように真夫の服に手をかける。

 

「は、はい」

 

 すぐに、あさひ姉ちゃんもそれに倣った。



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 第18話  優しい手管と潮吹き女

 真夫はあさひ姉ちゃんや玲子さんと同じように完全な素裸になった。

 ふたりの女たちが争うように、真夫から服を脱がせたのだ。

 

 真夫は、緊張した感じの玲子さんに、真夫に近づくように促した。

 すると、あさひ姉ちゃんが、寝台の隅に移動しながら、握り拳を身体の前で両手で作って、真夫にぐいと示した。

 

「じゃあ、真夫ちゃん、頑張ってね」

 

 真夫は思わず苦笑してしまった。

 まるで、これから真夫がスポーツでもやるような応援の仕草だったからだ。

 しかし、真夫はいまから玲子さんを抱くのだ。

 つまり、あさひ姉ちゃんは、真夫がほかの女を抱くところを見物することになることになる。

 だが、あさひ姉ちゃんはちっとも嫌じゃないようだ。

 

 真夫は、玲子さんと一緒に寝台にあがった。

 そのときには、さっき準備した縄束を持っている。

 

「玲子さん、俺に背を向けて両手を後ろに回して下さい」

 

「は、はい、真夫様……」

 

 真夫がそう言うと、すぐに玲子さんは、手を後ろに回して、腰の括れのところで水平にした。

 その玲子さんに真夫は、高後手縛りという緊縛をすることにした。

 

 真夫は玲子さんの両手を掴み、下側から二重にした縄を通して両手首に巻き付けた。まずはここで縄を留める。しかし、この手首の縄はあまり強くしてはならない。

 強く縛ることで、玲子さんを苦しめたいなら別だが……。

 

 次いで縄尻を左腕に回して乳房の上を通し、右腕の上から戻って、手首に巻いている縄に下から戻す……。

 

 大丈夫だ……。

 ちゃんと、縄道は手が覚えている……。

 

 施設にいた頃には、あさひ姉ちゃんや、あさひ姉ちゃんを継いだ女の子を相手に、こういう緊縛法を何度も何度も練習させてもらったものだが、いまは久しぶりだ。

 だが、しっかりと手が覚えてくれていることがわかった。

 まったく迷うことなく、正確に縄を玲子さんの裸身に施していけている。

 

 手首に戻した縄を今度は左手首に巻いている縄の下を通して戻した。

 反対側も同じようにして、やはり、縄を手首の縄に戻す。

 そして、最後に縄留めをする前に、一度ぐいと絞った。

 

「んっ」

 

 そのとき、玲子さんは強く鼻息を吐いた。

 

「痛いですか、玲子さん? そのときは言ってください」

 

 真夫は声をかけた。

 

「い、いえ……、だ、大丈夫です……。も、もっと、乱暴にしてもいいというか……。むしろ、気持ちよくて……。あ、あの……お上手なんですね……」

 

 玲子さんが甘い息を吐きながら言った。

 

「真夫ちゃんは、エッチなことは、なんでもすごいんです。すごく上手なんです」

 

 すかさず寝台の隅からあさひ姉ちゃんが、嬉しそうに口を挟んだ。

 真夫は苦笑するしかなかった。

 

 どうも、あさひ姉ちゃんは、真夫に対する奇妙な思い込みのようなものがあるみたいだが、真夫が女の人に本格的な縄掛けをするなんて久しぶりだ。

 確かに、中学校の頃には縄をかけさせてくれる女の子が周りにいたから、繰り返し練習させてもらったりしたが、自己流であり、そんなに熟練の腕というわけでもないし、そもそも、二年ぶりなのだ。

 ただ、不安を表に出すと、その真夫に身体を委ねる玲子さんが困惑するだろうから、懸命に平然とした態度を装っているだけだ。

 

 次に真夫は、さらに一束の縄を手に取ると、手首に巻き付けている縄に結んでから、首の横を通して乳房の上下を挟んでいる横縄を割るようにし、玲子さんの乳房を縄で強調して、反対の首の横を通して縄尻を手首の縄に戻した。

 胸は少し圧迫する程度に強く……。

 だが、首は絶対に締めつけない。

 縄が緩まない程度でいい……。

 ひとつひとつ思い出しながら、最後に縄道を整理してから、しっかりと結び留め、余長分を整えた。

 

 完成だ……。

 

 ほっとした。

 どうやら、ちゃんとできた。

 

 真夫は改めて玲子さんを見た。

 未熟な真夫の縄掛けで痛がったり、苦しがったりしていないかどうか確かめるためだ。

 

 だが、玲子さんはなんだか顔を赤くして、ぼうっとしているように見えた。

 いずれにしても、苦しがっているような感じではない。

 

「さあ、愉しみましょう、玲子さん」

 

 真夫は、真夫に対して背を向けていた態勢の玲子さんをぐいと引っ張り、真夫の胡坐の上に横抱きに抱っこするような感じにして乗せた。

 

「わっ、あっ、なっ……」

 

 すると、玲子さんは、見ていて面白いくらいに、身体を真っ赤にして狼狽えた感じになった。

 

 この初心(うぶ)そうな反応は、面白い……。

 

 真夫は左手で緊縛した玲子さんの身体をしっかりと抱きながら、右手を玲子さんのそそりたつ乳房の膨らみの裾から、すすっと乳首に向かってなぞりあげる。

 

「ううっ」

 

 玲子さんは、まるで電流でもあびたように、胸元をぶるりと弾ませた。

 すぐに今度は、同じ手を玲子さんの太腿に乗せ、股間の頂に向かって下から撫であげる。

 

「ふうううんっ」

 

 玲子さんは真夫の手の動く方向に向かって腰をぐいと浮きあがらせた。

 

「やっぱり、感じやすいんですね、玲子さん」

 

 真夫はくすくすと笑った。

 ちょっと触っただけだが、玲子さんの股間はすでにびっくりするくらいに濡れていた。

 

「ち、違うんです……。い、いえ……。そ、それは、感じやすいかもしれないけど……。で、でも、変です……。ま、真夫様の手はやっぱりおかしいです……。そ、それに、こんな風に抱っこしながら、触るなんて……」

 

 玲子さんは顔を真っ赤にして、狼狽した口調で言った。

 

「手がおかしい?」

 

「そ、そうです。また、さっきみたいに、びりびりって……」

 

 玲子さんは一生懸命に言った。

 真夫は笑うしかない……。

 

 あさひ姉ちゃんといい、玲子さんといい、真夫の指に特別なものがあるとかいうけど、それがなにかわからない。

 とにかく、真夫はただ、真夫が触りたい部分に普通に愛撫をしているだけだ。

  

 まあいいや……。

 

 真夫は、あさひ姉ちゃんに部屋の棚からアイマスクを持って来てもらうように頼んだ。

 部屋の壁に並べられているSMグッズのある棚の一画に、さまざまなタイプの目隠しがあったことを覚えていたのだ。

 

 あさひ姉ちゃんは、すぐに立ちあがって、駆けるように棚に寄っていく。

 戻ってきたときには、黒い革のアイマスクを持ってきた。

 

「ありがとう」

 

 真夫は、そのアイマスクを玲子さんの顔に装着して視界を塞いでしまう。

 

「ひっ」

 

 玲子さんはそれだけで、もう追い詰められたような声をあげた。

 

「玲子さんのことをいろいろと教えてください。どこが感じるのか……。どんなことをされると、いやらしい気持ちになるのか……。どんな可愛い声で泣くのか……」

 

 真夫は玲子さんの顔を自分の口元に寄せて、耳の中と縁にすっと舌を動かした。

 

「うはっ、んふうっ」

 

 玲子さんは、大きな呻き声とともに、身をよじらせた。

 その激しい仕草に真夫は思わず微笑んでしまった。

 

「耳が敏感なんですね」

 

 真夫は言った。

 

「……そ、そうなんでしょうか……。ひいっ」

 

 玲子さんの弱点のひとつが耳であることはわかったので、抱いている側の指で今度は反対側から耳の穴をくすぐった。

 意表を突かれたのか、玲子さんが、感極まったような声をあげた。

 

 それにしても反応がいちいち大げさで面白い。

 

 真夫はしばらく、手を思うままに玲子さんの裸身に這わせた。

 

 手を首筋から肩……。

 そうかと思えば二の腕……。

 上半身を責めたかと思えば、一転して膝の裏を撫で、びくりと反応したところで、再び乳房の裾を指で円を描いてなぞる……。

 

 延々と続ける……。

 ねちっこく……。

 飽きるほどに……。

 玲子さんの反応のひとつひとつを確かめるように……。

 

 しばらくすると、玲子さんの息が驚くほどに荒くなった。

 だが、真夫は玲子さんへの微妙な愛撫をやめなかった。

 

「はあ、はっ、ああっ、こ、こんな……こんな優しい手……ず、狡い……。こんなの……はああっ……」

 

 真夫は指で玲子さんの白い肌を掃くようにほんのかすかな刺激だけを与え続ける。

 玲子さんは、やがて真夫に抱かれながら小刻みな震えのようなものが止まらなくなってきたようだ。

 声も大きくなる。

 

 真夫は続けた。

 

 また、続けているうちに、どこか玲子さんの強い性感帯なのかもわかってくる。

 それが判明したら、そこを徹底的に刺激を繰り返した。

 ただし、そこを集中的に責めるわけじゃない。

 ほかの部分に指を這わせておいて、玲子さんの構えがほかに向いたと思った頃に、そこに戻って責め立てるのだ。

 

 何度も繰り返す。

 執拗に……。

 

 玲子さんの反応がだんだんと大きなものになるとともに、喘ぎ声が嬌声そのものになった。

 

「ああ、こ、こんなに優しく責めるなんて……。く、苦しいです……。く、苦しいのに……き、気持ちいい……。ああ、ま、真夫様、こんなの優しすぎます……。も、もっと苦しめていいです──」

 

 玲子さんが悶え泣くような声で訳の分からないことを叫んだ。

 だが、まだ真夫は、玲子さんをもっと責めたい。

 しばらくは、このままいたぶるつもりだ。

 

 それに、いまのところ、真夫はあえて、玲子さんの乳房そのものや股間には直接には触れていない。

 さっと当てるだけで逃げるか、その周辺を執拗に刺激を加えているだけだ。

 それが切ないような悶えを玲子さんに与えているのかもしれないが、まだまだ愛撫は序の口部分だ。

 

 しばらくすると、玲子さんは、真夫の指が近くを這うたびに、胸を押し付けてきたり、股間をぐっとせり出したりするようになった。

 ほとんど無意識の動きだろうが、本当にそんな玲子さんは艶めかしくていやらしい。

 

 また、玲子さんの股間からは、すでにおびただしい愛液が漏れ出ている。

 真夫は、そろそろ頃合いだと判断して、すっかりと尖り切っている玲子さんの片側の乳首を指でぎゅっと押した。

 

「あはああっ」

 

 玲子さんは大きく上体を波打たせて、露わな声を放った。

 真夫はしばらくのあいだ、縄で強調している玲子さんの豊かな胸を丹念になぞりあげ続けた。

 玲子さんの反応はまずます大きくなる。

 

 次に真夫は手を太腿に移動させた。

 

「ううっ、はああっ」

 

 玲子さんが目隠しをしている顔を左右に激しく振った。

 しかし、真夫は性急には責めない。

 もちろん、すぐに玲子さんの股間にすでに猛り切っている怒張を埋めたいという気持ちはあるが、それよりも、真夫は玲子さんが気持ちよさそうに、右に左にと真夫の腕の中で身体を悶えさせるのを見るのが愉しかった。

 

 気持ちよさそうに乱れる玲子さんに接するのが愉しい。

 玲子さんが快感によがれば、それで真夫は玲子さんを征服しているような気持ちになる。

 

 真夫は玲子さんが悦ぶのを見たかった。

 こんな真夫に、これほどに可愛くて綺麗な玲子さんが翻弄してくれて、悦びの声をあげてくれるのがなによりも嬉しい。

 

 それは、自分が気持ちよくなるよりもずっと愉しい。

 

 だから、さらに執拗に真夫は玲子さんを翻弄することに専念した。

 そして、真っ赤に熟れたように赤くなっている亀裂や肉芽は避けて、その周りばかりを指で刺激する。

 

「ま、真夫様……も、もうっ……」

 

 やがて、玲子さんが切羽詰まった声をあげた。

 いつの間にか、玲子さんの身体は真っ赤になっていて、全身にかなりの汗をかいている。

 

「これが欲しいんですか?」

 

 真夫は微笑みながら、玲子さんのもっとも敏感な雛尖をぐっと押した。

 

「んふうううっ」

 

 玲子さんがいきなり、がくがくと身体を揺すって吠えるような声をあげた。

 そして、少しだけだが、股間からまとまった汁の塊がぴゅっと飛び出した。

 

「ああっ、ま、真夫様……。わ、わたし、もしかしたら、い、いくときに漏らすかもしれません……。そ、そのとき、笑わないでくださいね……」

 

 そのとき、玲子さんが、よがり声とともに、泣きそうな顔で言った。

 

 漏らす?

 

 よくわからなかったが、真夫は大丈夫だと応じた。

 

「あ、ありがとうございます……。あ、あの、キ、キスしてくれませんか、真夫様……。お、お願いです。こ、こんなに優しくしてくれるなんて……。ああ、お願いです。もう、我慢できません──」

 

 玲子さんが不意に訴えるように叫んだ。

 真夫は玲子さんの唇を重ね合わせた。

 舌を真夫が玲子さんの口に入れると、玲子さんはすぐに積極的に舌を絡めてくる。

 

「舌を出してください……。俺が舌を離すまで、舌を引っ込めてはだめですよ」

 

 しばらく舌をむさぼり合ってから、真夫は一度舌を抜いて、玲子さんに言った。

 

「は、はい」

 

 すぐに玲子さんは舌を思い切り口から出す。

 真夫はその舌を口に含んでぺろぺろと舐めた。

 

「ひゃ……ひゃ……あ……はああ……」

 

 玲子さんが伸ばした舌をしばらく舐める。

 すると、玲子さんがまるで酔っ払ったかのような表情になっていった。

 

 そうやって、玲子さんの舌舐めを五分は続けた。

 玲子さんの息遣いがだんだんと淫らなものになるのがわかった。

 

 そろそろ、玲子さんも真夫に犯して欲しそうだ。

 

 だが、まだまだ早い……。

 真夫は、玲子さんの唇から唇を離すと、乳首を口に含んだ。

 

「ひゃああ」

 

 玲子さんが大きな悲鳴をあげて、身体を大きく弓なりにした。そして、胸を真夫に突き出すようにする。

 真夫は続いて、もうひとつの乳首を口に含んだ。

 舌を這わせながら、さっき濡らした側の乳房を優しく揉み始める。

 玲子さんは、激しく身体を悶えさせた。

 

 真夫はさっきの舌舐め以上の時間をかけて、玲子さんの乳首を刺激し続けた。

 玲子さんは激しかった。

 

 全身を大きくくねらせて、いまにも達するのかと思うほどに反応した。

 そのまま執拗に胸を責めれば、玲子さんは真夫の胸責めだけで達しそうな感じだったが、真夫はそれはさせないように気をつけた。

 

 心を研ぎ澄ませて観察していれば、もうすぐ玲子さんが達するというのがわかるのだ。

 そのときは、すぐに口を離して、一度胸責めをやめ、反対の乳首に戻るか、あるいはまったく関係のない場所を責めるのだ。

 

 なぜ、そんなに冷静に相手を観察できるのか自分自身でもわからないが、真夫にはわかるとしか表現できない。

 

 あさひ姉ちゃんのことも、玲子さんのことも、真夫には全部わかる。

 

 美人だけど、とても可愛くて、心から真夫を慕ってくれるあさひ姉ちゃん。

 とてもエッチだけど、ちょっと臆病で、そして、とても心がきれいなあさひ姉ちゃん……。

 

 そして、玲子さん……。

 

 頭が良くて、すべてに自信を持っていて……。

 多分、この人はなんでもひとりできる。

 すごく優秀で、絶対に迷わない人だ。

 どんな困ったことが目の前にあっても、自分の経験や知識を最大限に発揮して、筋道立てて、自分の向かうべき方向を決めることのできる人だ。

 

 でも、セックスに関しては違う……。

 

 玲子さんは男の人に責められるのが、なによりも弱い女の人のようだ……。

 エッチさでいえば、あさひ姉ちゃんの方がずっとエッチだとは思うが、感じやすいという点では、玲子さんがあさひ姉ちゃんよりもずっと淫らな身体をしている。

 心ではそうでもないのに、身体はとてもエッチだというのが玲子さんのようだ……。

 そして、その心の奥底には、責められれば責めれるほど……苛められれば、苛められるほど淫らになるマゾの心が潜んでいる……。

 

 それが玲子さんだ……。

 

「ああ、も、もう許して、真夫様……。こ、こんなに優しくされたら、玲子は死んでしまいます。お、お願いですから、もう思い切り、乱暴に扱ってください。もっと、わたしを道具のように扱って──。真夫様が気持ちよくなるように、わたしを使ってください──」

 

 やがて、玲子さんが感極まったように悲鳴をあげた。

 真夫はその必死の口調に笑ってしまった。

 

「わかりました、玲子さん……。じゃあ、そろそろ、俺も玲子さんをもらいます。玲子さんの中に射精したいですから……。でも、その前に俺を気持ちよくしてださい。今度は玲子さんの番ですよ」

 

 真夫は、玲子さんの身体を起こしてうつ伏せの体勢にすると、真夫の股間に顔を埋めさせた。

 なにを要求されたかわかるのだろう。

 玲子さんが縛られた身体をもじもじと動かしだす。

 

「は、はい……。ご、ご奉仕します……」

 

 アイマスクをしている玲子さんが舌で探るように、真夫の股間に口を寄せてきた。

 真夫の股間はとっくの昔に勃起して、ずっとその状態を保持していたが、その怒張の先端に玲子さんの口がぱくりと被さる。

 玲子さんの舌がぺろぺろと真夫の亀頭の亀裂に這いだした。

 

 温かくて、くすぐったくて、とても気持ちいい……。

 

「あ、あの、真夫ちゃん──」

 

 そのとき、ベッドの下からあさひ姉ちゃんの真剣な声がした。

 真夫は視線を向けた。

 あさひ姉ちゃんの身体が真っ赤だった。

 そして、自分の手を胸と股間にやって、くねくねと動いていた。

 どうやら、真夫と玲子さんが愛し合う場面と延々と眺めていて、あてられてしまったようだ。

 

「どうしたの、あさひ姉ちゃん」

 

 真夫は笑いながら声をかけた。

 

「あ、あたしも、玲子さんと一緒に真夫ちゃんに奉仕していい? ほ、ほかは我慢するから……。ちょ、ちょっとだけでいいの」

 

 あさひ姉ちゃんは切羽詰まったような口調で言った。

 やっぱり、エッチなあさひ姉ちゃんは、すっかりと欲情しちゃったのだ。

 甘えたような口調で訴えてくる。

 しかし、真夫は迷った。

 

「さあね……。でも、いまは玲子さんの番だし……」

 

 ちょっと困って真夫は言った。

 

「あっ、い、いいです。も、もちろん、いいですとも、恵さん、一緒に真夫様に奉仕して」

 

 すると、玲子さんが、真夫の怒張から一度口を離して言った。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 あさひ姉ちゃんが嬉しそうに叫んで、寝台にあがってきた。

 そして、玲子さんと同じように、真夫の股間に顔を埋めて横から真夫の一物の幹を舐め始める。

 玲子さんも反対側から舌を伸ばす。

 

 右からあさひ姉ちゃん……。

 左から玲子さん……。

 

 ふたりの可愛らしい女性の舌が、真夫の亀頭や幹、そして、睾丸を代わる代わる刺激してくる。

 さすがに、真夫はこれ以上我慢できなくなった。

 

「ご、ごめん、あさひ姉ちゃん、もう終わり……。玲子さんを抱かなきゃ……。あさひ姉ちゃんはこれで我慢して」

 

 真夫はふたりを股間から顔をあげさせ、とりあえず、あさひ姉ちゃんを引き寄せた。

 あさひ姉ちゃんの股間に指をつける。

 

 あの秘密の行為……。

 

 昔と同じように……。

 

 あさひ姉ちゃんの肉芽に指を置いて、じわじわと力を加えていく……。

 

「あっ、ああっ、真夫ちゃん、それは……。ああ、そこ、いいいっ──。ああ、びりびりする。びりびりするのおっ」

 

 すぐにあさひ姉ちゃんが、ひと際大きな声をあげた。

 そして、次の瞬間、どっとあさひ姉ちゃんの股間から蜜が洩れて、あさひ姉ちゃんは全身を弓なりにしてがくがくと震えた。

 

「……いまは、これで我慢してね、あさひ姉ちゃん」

 

 真夫は、脱力したあさひ姉ちゃんの股間から指を離して身体を横たえさせた。

 そして、横に待たせた感じになっていた玲子さんに覆い被さると、怒張を深い亀裂の奥にあてがって一気に押し入った。

 

「はああっ、はああっ、あああっ」

 

 玲子さんは不自然なくらいに大きな声を出して、背中を反らせながら真夫を受け入れた。

 あとは突くだけだ。

 

 真夫はさっきまでのねっちこい愛撫から一転して、激しく怒張を玲子さんの中に撃ち込んでいく。

 

「ううっ、ああっ、ああっ」

 

 玲子さんはもう大きな甘美感で全身が席巻されているのか、吠えるような声を出して上体を左右に捩じり悶えさせる。

 

 すぐに玲子さんは、大きなすすり泣きの声をあげ始めた。

 そして、反応がますます激しくなる……。

 

「あああっ」

 

 不意に玲子さんは大きな声を張りあげた。

 全身を突っ張らせて、がくがくと震えだす。

 玲子さんの身体に深いエクスタシーが襲ったのがわかった。

 

 しかし、真夫は危うく精を出しそうになるのを我慢した。

 真夫が精を放つのは、もっと玲子さんを愉しませてからだ……。

 そう決めていた。

 

 真夫はセックスで自分が気もよくなるよりも、なによりも相手が快感で我を忘れたようになるのに接するのが好きなのだ。

 自分の快感はそれからでいい……。

 玲子さんをもっと悦ばせたい……。

 

「えっ、あっ、そ、そんな……」

 

 玲子さんは、自分が達しても、律動のテンポを崩さない真夫に動転したような表情を示した。

 だが、玲子さんがすぐにさらに欲情していったのが真夫にはわかった。

 真夫は、巧みに腰の位置を調整して、玲子さんの膣に入る角度や亀頭の当たる場所を変化させながら、玲子さんが一番気持ちよくなる角度を探して腰を振り続けた。

 

 玲子さんが二度目の絶頂の兆しを見せたのは、そんなに長い時間ではなかった。

 真夫は、今度は自分も射精すべく、スパートをかけた。

 

「はああ、はああ、はうううっ」

 

 玲子さんが泣き声をあげた。

 そして、二度目のオルガスムスに到達する。

 それに合わせるように、真夫は猛り切った欲望の塊を玲子さんの中に放った。

 

「んぐううう、だめええっ」

 

 そのとき、まだ真夫の一物を咥えたままだというのに、玲子さんの股間からいきなり尿のようなものが勢いよく飛び出た。

 

「うわっ」

 

 真夫は思わず声をあげた。 

 怒張を挿しているすぐ上のところから、突然に噴き出したまるでクジラの潮吹きのような体液が、真夫の身体をびっしょりと汚してしまったのだ。

 

「あ、ああっ、ご、ごめんなさい、ごめんなさい、真夫様」

 

 すると、玲子さんがこれ以上ないと思うほどの狼狽えた声をあげた。



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 第19話  奴婢ふたり

「それじゃあ、身体を流しに行きましょう。あさひ姉ちゃん、玲子さん、じゃあ、歩いて」

 

 真夫は、選んだSMグッズを入れた籠を載せたトレイを押しながら、元気に言った。

 とりあえず、玲子さんも真夫も身体を洗おうということになったのだ。

 

 玲子さんが二度目のエクスタシーに達したときに出たおしっこのようなものは、「潮吹き」というのだそうだ。

 おしっことは別のものみたいであり、そんなに匂いもしなかった。だけど、出たのはおしっこの穴からのように思えた。

 玲子さんによれば、興奮が大きくなりすぎると、潮を噴くことがよくあるらしいのだが、二回目くらいで潮を吹いたのは初めてだとか、これまで器具で潮を拭くことはあっても、性交の最中にして人にかけてしまうなんてありえないとか、ごちゃごちゃ言っていた。

 なんか、一生懸命に、わけのわからない言い訳と謝罪を必死に繰り返す玲子さんは可愛いかった。

 

 とにかく、狼狽える玲子さんの姿は、見ていて笑いたくなるほどであり、真夫があさひ姉ちゃんと一緒に床を拭いたときなど、ほとんど泣きべそをかいていた。

 だから、わざと玲子さんの縄を解かずに、そのままにしていたのだ。

 玲子さんの縄を解いたのは、すっかりと床を掃除して、玲子さんが汚した寝台のシーツをあさひ姉ちゃんと一緒に交換してからだ。

 そのあいだ、ただ横で立っているしかなかった玲子さんは、まるで苦しめられているような顔をしていた。

 

「は、はい。じゃあ、前足から、恵さん」

 

「は、はい……」

 

 あさひ姉ちゃんと玲子さんが、「せーの」とか言いながら横歩きで真夫を追いかけ始める。

 いま、あさひ姉ちゃんと玲子さんは、裸のまま背中合わせにして押しつけ、ウエストの細い部分をまとめて縄で縛り、さらにふたりの足首と腿も離すことができないように縄で固定している。

 胸の下でも縛った。

 そして、お互いの両手首は、背中方向に回させ、相手の股間の前で手錠をかけている。

 つまり、ふたりは背中とお尻をぴったりと密着し合って離れられないようになっているのだ。

 

 移動するにも、一緒に脚を動かさないと転んでしまうので、声をかけ合って「カニ歩き」をするしかない。

 

「ま、真夫様、浴室はその扉の向こうです……」

 

 少し遅れて着いてくる「一対のカニ」から玲子さんの声がする。

 大きなSMルームの突き当りに、横開きの扉がある。

 そこを開くと、大きな更衣室のような場所があり、さらに奥の扉を開けると、浴室が出現した。

 

「うわっ、ひろっ」

 

 真夫は湯気のたちこめる浴室に入って、まずその言葉を吐いた。

 部屋に連接している湯舟だというので、もっと小さなお風呂を想像していた。

 そこにあったのは、真夫が暮らしていた寮の浴場よりも広い大浴槽だ。おそらく、三十人くらいは軽く一緒に入れるだろう。

 洗い場も広くて、大理石の豪華な彫刻のあちこちに飾られている。

 普通の浴場と違うのは、壁や天井に人を拘束できるベルトや枷、あるいは鎖や横パイプなどがあちこちにあることだ。

 ここもまた、SMをする場所なのだと思った。

 

「す、すごい……」

 

 遅れてやってきたあさひ姉ちゃんと玲子さんだったが、あさひ姉ちゃんもまた感嘆の声をあげた。

 真夫は持って来たトレイを湯舟のそばに置くと、洗面器でふたりの身体に湯をかけてあげた。

 

「あ、ありがとうございます……」

「真夫ちゃん、ありがとう……」

 

 ふたりが恐縮するような声でお礼を言った。

 その二人の手を取り、支えるようにして湯の中に入れた。

 湯は少しぬるめだけど十分に温かい。多分、長く入っていられるように、この温度に調整してあるのだと思う。

 湯の高さは、ちょうどふたりの腿の半分くらいだ。

 真夫はふたりをしゃがませずに、そのまま立たせたままにして、湯舟の天井から繋がっている鎖を引き寄せた。

 そして、トレイで運んで来た籠から、繋がった二つの首輪を取り出し、ふたりの細い首に嵌めて、それを天井から伸びている鎖に繋ぐ。

 これであさひ姉ちゃんも玲子さんも湯舟で立ったままでいるしかない。

 

「ふたりとも、俺が全身を洗ってあげますよ。でも、その前に、もっとふたりには仲良くなってもらいますね……。ところで、玲子さん、トレイに載っている媚薬のたぐいの中で、猛烈な痒みを引き起こす責め剤はありますか?」

 

 トレイの上の段には、水差しとコップをおろして、真夫が籠を積んできたが、下の段には媚薬類が載せたままになっている。

 真夫がそれを訊ねると、玲子さんの顔が引きつったようになった。

 

「……そ、その白い無地のチューブです……。それを塗ると、狂うような痒みに襲われます……。だ、だけど、身体には無害です……。あ、あの、それを使うんですか……」

 

 玲子さんがおずおずと言った。

 向かい合わせのあさひ姉ちゃんも、痒み責めと聞いて、顔色を変えている。

 

「使いますよ」

 

 真夫は持って来ていた籠から、今度は両端に革ベルトのついている五十センチほどの金属棒を取り出した。

 それの端をまずはあさひね姉ちゃんの膝の上に装着し、反対側は玲子さんの脚の膝に固定する。

 これで、ふたりは大股開きを閉じることもできなくなったということだ。

 

 準備ができたところで、真夫はチューブから薬剤を出して指に乗せると、玲子さんとあさひ姉ちゃんの股間にたっぷりと塗ってあげた。

 

「あ……」

「んんっ……」

 

 真夫の指が敏感な部分に触れるたびに、ふたりの腰がもじもじと動く。

 だが一方が動けば、密着している反対側の者も動くしかない。

 それがふたりとも恥ずかしそうだ。

 とりあえず、真夫はふたりの肉芽と股間の亀裂にかなりの量の薬剤を塗った。

 

「さあ、これからどうなるかわかるね、ふたりとも? 痒くて痒くてたまらなくなると思う。だけど、痒みを癒すには、相手にやってもらうしかない。だから、そんな拘束をしているんだ。ふたりには、これから相手の痒いところを癒してもらうよ。お互いにどこを弄って欲しいか頼むんだ。ただし、条件がある。絶頂するのは、二人一緒でないとだめ。もしも、同時に達することができなかったら、先にいった方だけに浣腸をするよ。その恰好のままでね」

 

 真夫は籠に入れてきた十個ほどのイチジク浣腸をぱらぱらと見せた。

 ふたりの顔が蒼くなった。

 

「そ、そんな真夫ちゃん……」

「あ、あのう……」

 

 ふたりが抗議のような言葉を口にしようとしたが、すぐに口をつぐんだ。

 さすがに、「奴婢」になった立場で、「ご主人様」に抗議をするのは躊躇ったのだろう。

 もっとも、真夫としては、別に抗議をしてもらってもよかったのだが……。

 まあ、それで責めを中止するわけじゃないが……。

 

「これが俺の調教だよ。ふたりで息を合わせて絶頂しよう。その練習だ。ただし、俺の許可なく始めてはだめだ。まずは、許可があるまで我慢してもらう。勝手に開始したら、ふたりとも浣腸だからね」

 

 真夫は言った。

 ふたりが諦めたように俯いた。

 真夫はほくそ笑んだ。

 後は待つだけだ……。

 

 そして、あさひ姉ちゃんと玲子さんが、「痒い」と泣き出すのに、そんなに時間はかからなかった。

 最初は、腰を動かすと、臀部を密着している相手の腰も動かすことになるので、遠慮がちだったふたりだったが、一分もしないうちに、そうもいっていられなくなったらしく、悲鳴をあげて激しく腰を振り出した。

 

「ああ、か、痒い。痒いよ、真夫ちゃん」

 

「か、痒いです、真夫様」

 

 ふたりが悲痛な顔をして、悲鳴をあげ続ける。

 余程に痒いらしく、ふたりとも必死になって、股間の前にある相手の手に自分の股間を押しつけようとする。

 だが、真夫から「お預け」を与えられているので、相手の股間に触れるわけにもいかず、ふたりとも腕を少し持ちあげるようにした。

 すると、ほとんど無意識の行動だと思うが、ふたりとも、そこに向かって腰を突きだそうと、さらに前に腰を出そうしはじめた。

 だが、ふたりの腰は繋がっているので、引っ張り合うようなかたちになる。

 本当に悲痛な姿だ。

 

 また、真夫は少し観察していたが、どうやら、この掻痒剤は痒みだけではなく、薬剤の力で局部を蕩けさせる効果もあるのかもしれない。

 真っ赤になっているふたりの股間からは、なにも触れさせていないのに、おびただしい樹液が流れ出していた。

 

「ああ、真夫ちゃん、もう許して」

 

「ま、真夫様……」

 

 ふたりが代わる代わる悲鳴をあげて、ついには涙をこぼし始めた。

 もうしばらく、ふたりが苦しがる姿を見物したい気持ちはあったが、とりあえず、相手の股間を弄ることを許した。

 

「ああ、ありがとう、真夫ちゃん……。はあっ、れ、玲子さん、お願いします。も、もう……」

 

「わ、わたしもお願い、恵さん──。ああっ、も、もっと強くして──」

 

 真夫が許可した途端に、あさひ姉ちゃんと玲子さんは、聞いていてこっちが恥ずかしくなるような赤裸々な物言いで相手に自分の股間を弄ってくれとせがみ合った。

 だが、局部を擦り合えば、媚薬成分もある掻痒剤だけに、たちまちにふたりとも追い詰められるようになる。

 ふたりとも、すぐに切羽詰まった喘ぎ声を出し始めた。

 

「だ、だめ、ちょ、ちょっと待って、恵さん」

 

 突然に悲鳴をあげた玲子さんが上体をぐいと突っ張らせた。

 多分、玲子さんは、さっき二回も達しているので、感じやすくなっていたのだと思う。

 

「あっ、えっ?」

 

「だ、だめえええっ」

 

 あさひ姉ちゃんがはっとしたように、手の動きを緩めたときにはもう遅かった。玲子さんは呆気なく、先に達してしまったようだ。

 

「じゃあ、玲子さんは罰だね」

 

 真夫はイチジク浣腸のキャップを外すと、ぴったりくっついているふたりのお尻の下側からイチジク浣腸の先を潜り込ませた。そして、玲子さんの肛門を探し当てると、一気に中身を注入する。湯で温めていた浣腸液が玲子さんのお尻の中にあっという間に吸い込まれる。

 玲子さんは、恐怖で引きつったような顔をしていた。

 

 ふたつ……三つ……。

 

 玲子さんのお尻に浣腸剤を注いだ真夫は、改めてふたりの股間にさっきの掻痒剤を塗り足して、二回戦を命じた。

 

 始まった。

 

 だが、二回目は痒みよりも、便意が気になったのか、玲子さんはなかなか達することができないようだった。

 それに比べれば、まだ達していないあさひ姉ちゃんは、ずっと敏感になっていたのだろう。

 今度は、玲子さんよりも先に、あさひ姉ちゃんが達してしまった。

 真夫はあさひ姉ちゃんにも、イチジク浣腸を三個注いだ。

 

「……うう、ま、真夫ちゃん……」

 

「も、もう……」

 

 三回戦目をさせようかと思ったが、玲子さんが限界のようだったし、そろそろ危ないと判断した。

 

 真夫は、ふたりの首輪を吊っている鎖と膝のあいだに装着していた横棒を外して、浴槽から出し、さらに浴室の流し場の端っこに連れていった。

 そこに大きな排水溝の入り口があることに、さっき気がついたのだ。

 おそらく、そこは、こういうプレイを浴室でもできるようにするための設備なのだろう。

 そこの壁にはシャワーだけじゃなく、普通のホースも水道に繋げて置いてある。

 

 真夫は苦しそうにカニ歩きしてきたふたりの首輪を今度は、排水溝の真上に来るように調整して、そこに垂れている鎖に繋いだ。

 

「ふたりとも、もう少し我慢だよ……。じゃあ、玲子さんからね……」

 

 真夫は立ったままの玲子さんの股間に怒張を貫かせると、手を伸ばしてあさひ姉ちゃんの乳房を揉みながら、抽送を開始した。

 

「ああ、そ、そんな、真夫様」

 

 玲子さんは悲鳴をあげた。

 排便を許されずに、あさひ姉ちゃんと後ろで密着し合ったまま、立って真夫に犯されるのだ。

 玲子さんは苦痛と快感をまぜこぜにしたような泣き声を迸らせた。

 

 でも、すでに数回昇天して敏感になっていて、しかも、便意を全力で堪えなければならない玲子さんは、真夫の責めに対応することなどできなかったようだ。

 あっという間に絶頂し、がくがくと身体を震わせた。

 

 真夫はがっくりとしている玲子さんから怒張を抜き、今度は反対側に回って、あさひ姉ちゃんを前から犯した。

 もちろん、玲子さんの乳房を揉みながらだ。

 あさひ姉ちゃんもまた、真夫が快感を覚える間もなく、すぐに昇天してしまった。

 

 真夫はふたりから身体を離して、シャワーを手にとると、湯を出す準備をした。

 ふたりとも絶頂の火照りで身体は真っ赤だが、一方で激しい便意に襲われて、すっかりと肌に粟が立っている。

 

「じゃあ、ふたりとも、していいよ。汚れは、全部俺がきれいにするから気にしないで」

 

 真夫は言った。 

 ふたりは苦悶の悲鳴をあげたが、真夫が本気だと悟ると、諦めたようになった。

 そして、ふたりで同時に出そうと、励まし合うように喋り合う。

 

「うう……」

「ああっ」

 

 ふたりが消え入るように小さく叫んだ。

 同時に崩壊が始まった。

 真夫はふたりの足のあいだにシャワーによる放水を開始した。

 

 


 

 

 排便姿を見られる……。

 しかも、立ったままでだ。

 

 想像を絶するような辱めであるはずなのに、玲子は恵とともに、真夫の目の前で排便をさせられるとき、はっきりとした快感を覚えたのを記憶している。

 

 それは、紛れもなく、羞恥と恥辱の中に生まれた震えるような恍惚感だった。

 

 そして、それでなにかが吹っ切れたようになった。

 やっと恵と背中合わせにされていた拘束を解かれ、真夫に汚物のついたお尻と脚を洗ってもらったときには、この若い「ご主人様」に積極的に甘える気持ちになっていた。

 

 この真夫は、玲子のご主人様……。

 真夫に奴婢として、生涯仕える……。

 そう思うと、どうしても笑みが頬に浮かびあがってしまう。

 

 また、恵は同志だ。

 同じ男に仕え、同じように愛し、愛されるパートナーだ。

 排便ひとつのことで、自分でも呆れることだが、あんなに恥ずかしいことを一緒にやったというのが、恵との一体感を生んだ気がした。

 

 拘束を解かれて、玲子は真夫と恵に身体を洗われ、その後、玲子は真夫とともに、恵の身体を洗った。

 

 不思議に愉しかった。

 笑みがこぼれて仕方なかった。

 

 恵とともに真夫を洗ったときなど、ふたりがかりで真夫をくすぐったり、お尻やおちんちんに悪戯したりして、まるで童心に返ったような愉しい気持ちになった。

 

 そのあと、もう一度プレイルームに戻った。

 首輪に鎖を繋がれて、恵とともに四つん這いで進まされた。

 

 秀也に同じことをさせられたとき、屈辱の涙を流しながらやったことを、そのときは不思議な高揚感を覚えながら行った。

 

 そのあと、もう一度後手に緊縛され直して、真夫と恵と愛し合った。

 そして、真夫に抱かれて昇天した。

 

 恵との百合プレイもさせられた。

 

 さらに、ふたりで奉仕し、それから、身体に真夫の精を受けた。

 

 もちろん、避妊具や避妊ゼリーなどない。

 はっきりと子宮に真夫の生の精が注がれるのを感じ、玲子は悦びにむせび泣いた。

 

 三人で倒れるように寝台に眠り込んだときには、すっかりと夜になっていた。

 

 玲子もまた、少しまどろんでいたと思う。

 目を覚ましたときには、玲子が横になっていた寝台では、まだ真夫と恵が寝息をかいていた。

 

 玲子は起こさないように気をつけながら、寝台を降りた。

 服を着る前に身体を洗おうかどうか迷ったが、いまは、真夫と恵とともに愛し合った痕跡を身体から失くしてしまうのが惜しい気がした。

 だから、汗だけを拭いて、そのまま服を着ることにした。

 

 部屋を出る前に、もう一度寝台を見る。

 まだ、寝ている……。

 玲子は真夫の頬に口づけをした。

 

「……わたしのご主人様……」

 

 小さく呟いた。

 そして、ふたりを起こさないように気をつけながら壁まで移動し、額縁の横の壁に手を触れさせて、隣の部屋に戻る隠し壁を開く。

 隣の部屋のソファーには、真夫と恵と玲子の着ていたものが無造作に置いてある。

 玲子はまずは自分の身支度をし、次いでふたりの服を洋服掛けに片付けた。

 

 時計を見た。

 七時を回っている。

 

 フロントに電話をして、ふたりの食事を部屋の外に置いておくようにルームサービスの手配をした。

 

 次いでメモを残す。

 

 夕食が部屋の外の廊下に置いてあること……。

 着替えや下着は、棚の中に着替えの分も含めて置いてあり、遠慮なく着て欲しい……。

 汚れ物はまとめておけば、明日の朝、ホテルの者が取りに来て、クリーニングをする……。

 朝食はホテルのカードキーでホテルのどのレストランでも好きなものを食べれるし、ルームサービスでもいい……。

 明日の昼前にまた顔を出す……。

 最後に、玲子の連絡先のスマートフォンの番号を書いておいた。

 

 さて……。

 

 玲子は部屋を出た。

 やることはたくさんある。

 

 まずは、恵のお父さんのことと借金の始末……。

 これは今夜中に始末をつけて、明日にはふたりに報告したい。

 

 また、恵のアパートの解約……。

 それは手続きだけは進めるが、恵にやってもらうこともある。

 真夫のメイドとして寮に入る恵は、身の回りのものくらいしか持っていくことができない。だから、特に大切な物以外は、処分してもらわければならないのだ。

 それに比べて、真夫は鞄ひとつで以前の寮を出てきたみたいなので、そのままでいい。

 

 それから、恵がバイトをやめる手配……。

 恵は、もうすぐ闇金融の者に連れていかれることになっているにも関わらず、ぎりぎりまでバイトを入れていたようだ。

 すでに近日中にすべてやめる調整はしていたようなので、それが少し早まることには問題はないと思う。

 

 そして、龍蔵への報告……。

 

 それから……。

 

 玲子は処置すべき事項を頭の中で整理しながら、部屋を出るとエレベーターに向かってホテルの廊下を進んだ。

 エレベーターはすぐそこだ。

 だが、そこに人がいた。

 玲子はぎょっとした。

 

「よう」

 

 そこにいたのは、壁にもたれかかって立っていた秀也だ。

 

「話がある。ちょっと、来いよ」

 

 有無を言わせぬ口調で、秀也は玲子を真夫たちがいる部屋とは別の部屋に玲子を促した。



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第4章  深化【恵】
 第20話  愛人頭と少年


「話がある。ちょっと来いよ。そこの部屋だ」

 

 秀也が言った。

 有無を言わせぬ口調だった。

 秀也が示したのは、真夫たちがまだ寝ている部屋に隣接するスイートルームだ。

 真夫たちがいるのは、龍蔵が趣味で作った特別室であり、客に泊まらせる部屋ではない。秀也が示した部屋こそ、このホテルで最上級の部屋になる。

 

「その前にお話があります」

 

 玲子は言った。

 真夫のものになったことをはっきりと通告する必要があると思った。

 それは、玲子にとってのけじめのようなものだ。

 いずれにしても、玲子の心が真夫に落ちてしまったことを秀也に隠し通すことはできないだろうし、下手に小細工をしても、秀也の怒りが真夫や恵に向く可能性もある。

 それだけは、阻止する必要がある。

 もしも、秀也が感情的になったら、その矛先は玲子に限定させなければならない。

 

「話は、部屋でもできるだろう」

 

 秀也は背もたれていた壁から身体を離すと、ジャケットの内ポケットからなにかを取り出した。

 

 はっとした。

 紛れもなく、それは玲子の股間にクリリングを操作する発信機だ。

 とっさにスカートの上から両手で股間を抑えた。

 

 だが、なにも起きない。

 そして、秀也が笑いだした。

 玲子は呆気にとられた。

 

「知らなかったのかい? 龍蔵の伯父貴があんたのクリリングを操作するコードを変更しちまったのさ。伯父貴自身の操作具も解除しちまったから、いま、その股間の玩具を動かせる操作具は、真夫に渡したものだけさ。やってくれやがったな、玲子……。というよりは、やったのは、あの真夫か」

 

 秀也は笑い続けた。

 とっさには、なんのことかわからなかったが、そういえば、玲子を操るクリリングの操作具を真夫に渡したとき、真夫が不自然に怒ったような大声を発したことがあった。

 そして、その直後に、なにかに満足したように微笑んだのを思い出した。

 多分、あのときに、龍蔵によるなにかの操作と真夫への伝言が行われたのだろう。

 玲子は、いまさらながらそれに気がついた。

 

 真夫が自分のために……。

 玲子はちょっと嬉しくなった。

 

「へっ、色呆けのような顔をしやがって……。お前の面白いところは、いつまで責めても、本当には落ちないことだったんだけどな。たった一回寝ただけで、あんな男にころりと惚れてしまうのかよ。興醒めだな。まあ、いいや。とにかく、こっちに来い」

 

 秀也は歩き始めた。

 玲子はそれに従いながら、怪訝に思った。

 秀也はまるで、玲子が真夫たちと過ごした光景を見ていたような口ぶりだ。

 龍蔵が玲子たちの痴態を隠しカメラで見物することは予想していたが、秀也までもそれを眺めていたとは予想もしなかった。

 

 それにしても、意外なのは、秀也が上機嫌であることだ。

 いつもなら、玲子が秀也に逆らうような態度をとれば、冷酷な表情で玲子が苦しみのたうつまで「罰」を与えるはずだ。

 だが、いまは秀也は、むしろ喜んでいるように思える。

 

 秀也がカードキーを使って、目的の部屋を開いた。

 玲子は大人しく入っていった。

 

「連れてきたぜ」

 

 秀也が部屋の中に声をかけた。

 玲子は視線を向けた。

 

「あっ、時子さん」

 

 玲子は声をあげた。

 入口に正面を向けているソファーに腰かけているのは、龍蔵の「愛人頭」の時子だった。もう八十を越える老婆であり、龍蔵の女では、もっとも古い女だ。

 おそらく、もう龍蔵の性の相手はできないと思うが、龍蔵が十五歳で豊藤財閥を継ぐことになったときに、最初に愛人にしたのが、この時子なのだ。

 

 もともとは、龍蔵の父親の妾のひとりだったらしいが、龍蔵の父が凶弾に倒れて死んだとき、龍蔵は、ほかの妾は金を与えて追い払ったが、この時子だけは手放さずに、自分の愛人にしたのだそうだ。

 そのとき、時子も十五歳だったらしい。

 以来、龍蔵は数多くの女を愛人にしては、飽きれば金を与えて追い払うということを繰り返していたが、この時子のみは、一環として自分のそばに置き続けた。

 いわば、時子は、一度も正式の結婚をしたことのない龍蔵の「正妻」のような立場であり、同時に玲子のような龍蔵の愛人の「しつけ係」でもある。

 玲子は秀也同様に、この時子に、「しつけ」として厳しく調教を受けた。

 とにかく、気難しいという印象のある龍蔵に、もっとも影響力を持っているのが、この時子であることは間違いない。

 

 だが、なぜ、ここに……?

 

 そのとき、時子の正面のテーブルにある小さなモニターに気がついた。

 そして、悟った。

 あれは、この部屋とは隣室になる真夫たちがいる部屋にある隠しカメラの映像を映しているのだ。

 どうやら、時子は、この部屋でモニターを使って、秀也とともに隣室の様子を見物していたようだ。

 

 驚いたが、それ以上に「なぜ?」という疑問が玲子の頭を支配する。

 

 秀也が時子の右隣のソファーに座った。

 玲子はふたりの前までやって来て、そのまま立つ態勢になる。

 そっと、玲子はモニターを覗いた。

 

 やっぱり……。

 

 そこにはプレイルームの寝台に横たわる真夫と恵の映像が映っていた。いまはふたりとも眠っているので声は聞こえないが、どうやら、音声もここに流れていた気配だ。

 

 あれを見ていた……?

 

 隠しカメラがあることは覚悟もしていたし、いまらさどうでもいいが、龍蔵だけではなく、時子や秀也にまで、ここで三人の痴態を眺められていたかと思うと、ちょっと腹がたった。

 

 それに、あれは玲子にとっては、もっと特別で神聖なもののように思っている。こんなところで、見世物のようにされるべきものじゃないのだ。

 時子がモニターの画面を消して、玲子に視線を向けた。

 

「龍蔵の指示で、秀也と一緒にあなたを試験していたのよ。もちろん、龍蔵も同じように屋敷でこれを見ているわ。あなたが秀也の脅迫に屈せずに、龍蔵の指示に従って、真夫君に忠誠を誓ったことについて、龍蔵は非常に満足しているわ。あたしたちの意見も同じ。合格よ、玲子」

 

 時子が言った。

 試験……?

 合格……?

 なんのことかわからず、玲子は唖然とするしかない。

 

「あ、あの……」

 

 玲子は口を開きかけた。

 だが、時子が横に置いていた指し棒を手に取り、びしりとテーブルを叩いた。

 玲子はびくりと身体を緊張させた。

 

「それよりも、玲子──。あんた、愛人頭に対する挨拶はどうしたんだい。しばらく、しつけをしてないから、行儀作法も忘れたのかい。愛人頭に会ったら、それ以外の愛人はどうするんだい? あたしが作った特別ルールがあったろう」

 

 時子がもう一度テーブルを差し棒で強く叩きながら怒鳴った。

 玲子は慌てて両手でスカートの裾の前を握った。

 時子は、自分以外の龍蔵の愛人に、自分に会ったらスカートをまくって下着を露出するように厳命をしていた。

 自分以外の愛人に、そんな屈辱的な恰好を毎回させることで、時子とほかの愛人との立場の違いを理解させるためらしい。

 龍蔵もそれを許していて、玲子はこの老婆には逆らえないということを身体で覚えさせられた。

 急いでスカートをめくろうとする。

 ほとんど条件反射のようなものだ。

 

 だが、はっとした。

 いま、スカートの中は……。

 

「早く、おし」

 

 時子が苛立った口調で怒鳴った。

 彼女に対する恐怖は、玲子にとっては、龍蔵や秀也を上回るものだ。

 玲子は、スカートをたくしあげて、股間を露出した。

 

「ご、ご挨拶……も、申しあげます……。れ、玲子でございます……」

 

 スカートをめくったまま玲子は言った。

 それが躾けられた、愛人頭に対する挨拶なのだ。

 そのとき、秀也がぷっと噴いた。

 

「おい、下着はどうしたんだい、玲子? はき忘れたのか? 革の調教下着は外してやったが、別に普通の下着をはくことは禁止していなかっただろう」

 

 秀也が大笑いしながら言った。

 そうなのだ……。

 玲子は真夫のところから出てくるときに、下着もストッキングも身につけないまま出てきた。

 

 別に禁止されてたわけでもない。

 ただ、最初に会ったときに、このホテルの一階の喫茶店で真夫に脱ぐように命じられて取りあげられた。

 あれはまだ真夫の荷の中にある。

 勝手に持って来るつもりにはなれなかった。

 

 真夫に取りあげられたのだから、真夫が返すまで……というよりは、真夫が玲子に下着を身に着けてよいと許可するまで、はいてはならない……。

 そんな気がしたのだ。

 そして、玲子はそうしたかった。

 

「スカートをおろして、手の甲をお出し」

 

 時子が静かに言った。

 玲子は言われたとおりにした。

 その玲子の手の甲に、びしりと指し棒の打擲が襲う。

 

「ひっ」

 

 玲子は悲鳴をあげた。

 しかし、手を引っ込めるのは許されない。

 許可なく、それをすれば、もっと激しい懲罰があるのだ。

 

「なんで、スカートをめくったんだい、この淫乱女」

 

 時子がもう一度指し棒で玲子の手を叩いた。

 

「ぐうっ」

 

 今度は手の骨が折れたかと思うくらいに痛かった。

 時子は棒を引きあげて、指で手を戻していいと合図した。

 玲子は手を戻して、痛みの走る部分を手で覆う。

 まだ、痺れたように痛む。

 

「訊ねたことに答えるんだよ、玲子。わたしは、なんでスカートをめくったのかと訊ねたんだよ」

 

 時子が不機嫌そうに言った。どうやら、急に腹をたてたようだ。

 だが、玲子は、その理由がわからない。

 

「……そ、それは、時子さんがそうせよと……」

 

 とりあえず言った。

 いつものしつけに従い、スカートをまくって挨拶をした。

 それでなんで叱られたのか……?

 

「馬鹿垂れが──。それは、お前が龍蔵の愛人だったときのルールだろう、玲子。お前はずっと試されているんだよ。あの真夫君は、もしかしたら、龍蔵の後継者になるかもしれない少年なんだ。龍蔵はそれを期待もしている。なんで、お前が龍蔵から離れて、真夫君に仕えるように命じられたのかわかんないのかい──」

 

「えっ?」

 

「龍蔵は、お前が真夫を支える女になってくれることを期待しているんだよ。だから、試されたんだ……。お前が本当に真夫君に忠誠を誓って仕えてくれるのか……。裏切ることはないか……。お前に真夫君のことを任せるのが相応しいのか……。そういうことをずっと試されてるんだ──。それにもかかわらず、あたしのような女に厳しく言われたくらいで、秀也の前で股ぐらを晒すとは何事だい──」

 

「試し?」

 

 玲子は唖然とした。

 

「そもそも、あたしにスカートをめくって挨拶をするのは、龍蔵の愛人のルールだ。お前は、ついさっき、あの真夫君と過ごして、生涯の忠誠を誓う気になったんじゃなかったのかい──。あたしにはそう見えたけどね……。だったら、なんで、“もう、わたしは真夫君の愛人だから、お前には従う必要はない”と言い返さないんだい。お前は、真夫君の愛人だろう。しっかりおし、玲子」

 

 時子が厳しくまくしたてた。

 玲子ははっとした。

 

「も、申しわけありません……」

 

 玲子は自分の非を悟った。

 時子が怒っている理由もやっと理解できた。

 つまりは、時子は、真夫の愛人になった以上、もう、龍蔵にも、秀也にも、時子にも従うなと主張しているのだ。

 それが時子にとっての「正しい愛人としての行為」であり、それにもかかわらず、玲子が時子の命令に従ってしまったことに怒ったのだ。

 すると、険しかった時子の表情がすっと和らいだ。

 

「誰に謝っているんだい……? 謝るのは、お前のご主人様だろう? 次に会ったときには、真夫君には、もっと詳しく龍蔵やあたしたちのことを説明するんだろう? そのとき、罰を受けるべきことをしたと言って、処罰してもらいなさい……。そして、これで、あたしからのお前へのしつけは終わりだ」

 

 さっきと一転して優しい口調だ。

 玲子は当惑した。

 

「……いずれにしても、龍蔵には、玲子はちゃんと真夫のものになったと報告しておくよ。試験には合格したとね……」

 

 時子が続けた。

 

「あ、あのさっきから、試験とか……。合格とか……。なんのことでしょう……? 説明していただけませんか?」

 

 玲子は言った。

 すると、秀也が口を開いた。その顔にはずっと笑みが浮かんでいる。

 玲子はこれほどまでに上機嫌の秀也をいままで見たことがない。

 それが却って、玲子を不安に誘う。

 

「……それよりも、お前、よくも俺に逆らえたな。真夫に生出しされやがったら、俺がお前を破滅させると教えただろう。約束通りに、ネットにばらまいてやったからな。下品なマスコミに追いかけまわされる生活を送るといいぜ」

 

 秀也がせせら笑った。

 だが、玲子はそれに冷笑で返した。

 

「……どういたしまして……。わたしを見くびらないでくださいね。秀也様……いえ、秀也さんは、わたしに操心術をかけたままにしましたね。確かに、わたしは公園で、あの三人組に犯された幻を見させられ、そのあと、彼らの股間を口にしている写真であなたに脅迫されました……。でも、わたしは、その後、念のために、あの三人組を調べました。半日ありましたからね。それですぐに突き留めました。彼らは、昨夜のうちに半身不随にされて入院していましたよ。秀也さん、わたしを騙しましたね」

 

 玲子は言った。

 これには、秀也も驚いたようだった。

 目を丸くしている。

 しかし、玲子には秀也が突然に、龍蔵を裏切るようなことを口にしたのが、ちょっと不自然に感じたのだ。

 玲子のことはともかく、龍蔵が処分を指示した三人組を匿うなど、龍蔵に対する挑戦も同じだ。

 

 秀也はもっと用意周到で頭のいい少年だ。

 その秀也が、龍蔵に逆らうという危険を冒してまで、あの三人組を守るとはどうしても信じられなかった。

 そうすると、案の定、その三人組は、昨夜のうちに暴漢に襲われて大けがをしていたことがわかった。

 手口も玲子が手配させた内容に合致する。

 それで、玲子には秀也が、玲子を騙したということに気がついたのだ。

 

「こりゃあ、参ったな。操心術をかけてやったのに、それを見破りやがったのかい。まあ、悪く思うな。これも伯父貴の指示だ。あんたが俺の脅迫に屈せずに、真夫とかいう男に生出しさせるか、伯父貴が知りたがったんだ」

 

「龍蔵様のご指示?」

 

 それにしても、さっきからそう言っているのは、本当のことか?

 つまりは、秀也の脅迫は全部、芝居……?

 龍蔵の指示で玲子を追い込んだ?

 

「そんな顔をするなよ。俺はあの真夫という小僧を嫌いじゃないぜ。なかなかの女扱いだしな。今度、ちゃんと紹介してくれ。学園では、俺のSS研にも入ってもらいてえな……」

 

 「SS研」というのは、秀也が学園にひそかに作ったサークル活動であり、「ソフトSM研究会」の略なのだそうだ。

 そこで秀也は、学園のアイドル的な女をこっそりと集めて、破廉恥な行為を続けている。

 つまりは、秀也の愛人クラブのようなものだ。

 そこに真夫を……?

 

「それに、伯父貴には、あんたの代わりに、新しい玩具をもらった。俺には他人に心を奪われた女には興味はねえ。それほど、女には不自由していないぜ」

 

 新しい玩具?

 玲子は首を傾げた。

 すると、時子が口を挟んだ。

 

「……それよりも、玲子。龍蔵からの指示を伝えるわ。あなたがいままでやっていた龍蔵の秘書としての任を解くそうよ……。あなたは、龍蔵ではなく、真夫君の女になったのだから、その真夫君の女を自分の手元に置くべきではないと龍蔵は思ったのよ。龍蔵があなたの能力を見限ったとは思わないようにね。むしろ、あなたのこれまでの仕事には、感謝しているそうよ」

 

「えっ?」

 

 これには驚いた。

 龍蔵の秘書の地位を解任されるとは考えていなかったのだ。

 しかし、言われてみれば、そうだろう。

 龍蔵は、玲子から見ても病的なくらいに、他人に接するのを恐れている。

 玲子が龍蔵に接することができたのは、玲子が龍蔵の女であり、逆らうことができないのを知っていたからだ。

 だが、玲子は、血の繋がった子供とはいえ、龍蔵のコントロールの外に出た。

 だったら、あの龍蔵が玲子を手放すのは当然だ。

 龍蔵とは、そういう男だ。

 

「……あなたには、学園の理事長代理の職を準備したそうよ。これからは、真夫君の近くに仕え、理事長代理として真夫を守りなさい。無論、真夫君の専属弁護士兼秘書を兼務よ。彼に全身全霊で仕えなさい」

 

 時子が続けた。

 

「えっ? は、はい」

 

 驚いたが不服はない。

 急いで返事をした。

 真夫に会う前には、さまざまな打算から、龍蔵の近くに侍り続けることを望んでいたが、いまは真夫の近くで仕事ができることに悦びしか感じない。

 だが、ひとつ疑念がある。

 

「……で、でも、わたしの後任の秘書は誰になるんですか……?」

 

 あの病的なくらいに、他人が近づくのを嫌う龍蔵だ。

 その龍蔵が、玲子に変わって、身辺に置くことを許した者は誰だろう?

 

「俺だ」

 

 秀也が満足そうな表情で言った。

 

「しゅ、秀也さんが?」

 

「まあ、そういうことだ。伯父貴は、俺に伯父貴のそばで本格的に仕事を学べと言ってくれたんだ。真夫には悪いが、伯父貴は別に俺のことを見放してもいねえらしいな。そういうわけだから、これからは、そんなに学園にも顔を出せないかもしれないが、時々は顔を出すぜ。さっきのSS研には、男がいねえと始まらない。それを真夫に継がせたいのは本気だぜ」

 

 秀也は、本当に機嫌がいい。

 だが、やっと玲子は、秀也がその理由がわかった。

 龍蔵の秘書役というのは、表には出ない龍蔵に代わって、外に対する命令を伝えたり、逆に各所からの龍蔵への報告を届ける重要な任務をする。

 自然と、それはひとつの大きな権力になる。

 それを任せられることになったのだ。

 野心家の秀也としては、嬉しいに違いない。

 

 それにしても、解せないのは、龍蔵の愛人頭の時子と秀也がやたらに親しそうなことだ。

 これまで、こんなにこのふたりが仲良くしているのに接したことはない。

 

 それで、ちょっと思いついたことがあった。

 もしかしたら、秀也は自分に都合のいい人事をさせるために、龍蔵の愛人頭の時子に近づいた?

 まさかとは思うが、秀也ならやりそうな気がした。

 

 まあいい……。

 いまは真夫だ。

 玲子の役割は、あの真夫という少年に仕え、彼の身辺を守ることだ。

 それだけでいい……。

 

「そういえば、秀也さんの新しい玩具ってなんですか?」

 

 玲子は、思い出して、なんとなく言った。

 

「ああ、紹介するぜ……。おい、ナスターシャ、入って来い」

 

 秀也が怒鳴るとともに、テーブルにあったボタンを押した。

 すると、隣室が開いて、ひとりの金髪の若い美女が入って来た。

 見事な金髪をしたスラリとした均整のとれた体形だ。

 二十代後半というところだろうか。

 だが、高慢さが顔に出ている。

 玲子を上から下まで眺めまわしてから、おもむろに口を開いた。

 

 フランス語だ……。

 

 ただの挨拶だが、やはり、フランス語の口調に玲子だけじゃなく、時子や秀也に対して、どことなく蔑視するような響きがある。

 そんな風に思えた。

 玲子もフランス語で返す。

 ナスターシャは、ちょっとだけ驚いた顔になった。

 

「へえ、命令されてスカートをまくるような娼婦のくせに流暢なフランス語喋るじゃないの。もしかして、ヨーロッパ育ち?」

 

 今度は日本語だ。

 日本語の発音も完璧であり、白人の美女の口から、違和感のない日本語が発せられるのは、逆におかしな感じだ。

 

 それにしても、さっきの恥態を覗かれていた?

 玲子は、恥ずかしさでかっと身体が燃えるのがわかった。

 とにかく、このナスターシャが軽蔑の眼差しを向けている理由も知った。

 

「いいえ、日本以外に住んだことはありません」

 

 玲子は、動揺を悟られないようにして、日本語で応じる。

 

「ふうん……」

 

 ナスターシャは見下すような視線で玲子を見た。

 

「……まあいいわ。それよりも、秀也、いつになったら、龍蔵様に会わせてくれのよ。わたしは、まだ来日以来、一度も龍蔵様に面会していないわ。秘書として仕えるんだから、早く会いたいわね」

 

 ナスターシャが秀也に視線を向けた。

 

「出しゃばるなよ、ナスターシャ。お前の仕事は俺の仕事を支えることだ。龍蔵の伯父貴には俺が会うから、お前が会う必要はねえよ。そう言ったはずだぞ」

 

 秀也が言った。

 

「ふん、まあ、どうだかね……。子供に務まるとも思えないけど、まあ、好きにしなさい。その代わり、大きな失敗する前にわたしに言うのよ。その年齢なら、失敗してものを覚える年頃だけど、あんまり大きなミスは、フォローするのも大変だからね」

 

 玲子はびっくりした。

 なんという無礼な態度をとるのだろうと思った。

 だが、秀也は怒るでもなく、にやにやしている。

 いや、あれはなにかを企む顔だ……。

 そう思った。

 

「このナスターシャを雇ったのですか?」

 

 玲子は思わず言った。

 

「ああ、フランスにある豊藤ファミリーの企業にいた優秀な女性のようだぜ。伯父貴が呼び寄せたらしい。まあ、俺の部下だ」

 

「来日して、いきなり子供のお守りをさせられるとは思わなかったけどね。まあ給料はいいし、言われたことはするわ」

 

 ナスターシャはわざとらしく首を竦めた。

 

「とにかく、あんたが本格的に仕事をするのは、うちの健康診断が終わってからだ。明日、指定した病院に行ってくれ。俺も立ち会うからよ。もう、今日は戻っていいぜ」

 

「はいはい……。じゃあ、また明日、ボス」

 

 ナスターシャは手を振って、部屋を出ていった。

 玲子ははっとした。

 雇われた直後の健康診断といえば、玲子はそのときに、股間にクリリングを手術で埋め込まれてしまい、龍蔵や秀也に逆らうことのできない身体にされた。

 

 もしかして、あのナスターシャにも……?

 玲子は秀也を見た。

 すると、秀也が意味ありげに微笑んで、片目をつぶった。

 

 


 

 

 玲子が戻ると、時子が口を開いた。

 

「あんなんでよかったのですか、秀也さん?」

 

「上出来だ。まあ、玲子を失ったのは多少残念な気もするが、新しい玩具も仕入れたし、しばらくは退屈もしのげるだろうさ。あの玲子は、一年かけても、ついには、本当に落ちることはなかったが、今度のフランス女はどうかな……。あのナスターシャも、多少は愉しませてくれるといいんだけどな」

 

 秀也は笑った。

 

「ナスターシャは、すぐに落ちますよ。ぽっきりとね。まあ、気は強いようだけど、もって一箇月というところじゃないですかねえ。玲子とは違いますね。そのあとは、あなたの忠実な性奴隷になります」

 

 時子が媚びを売るように笑った。

 

「だが、驚いたのは真夫だな。まさか、あの玲子をあっという間に、しかも、あそこまで従わせてしまうとはなあ……。これも豊藤の嫡子の血というものなのか……」

 

「それもあるんでしょうが、女扱いのうまさは天性のものなんでしょう。あの子は優しいわ。あなたみたいな強引なやり方とは違ってね……。女はあんな風に責められると、参ってしまうのよ」

 

「俺よりも、あいつの方が女扱いがうまいというのか──?」

 

 むっとして言った。

 しかし、時子はけらけらと笑った。

 

「嫉妬するんじゃないわよ、秀也さん。あの子とあなたとでは立場が違うでしょう」

 

 時子がなだめるように言った。

 秀也は柄にもなく一瞬、感情的になったことを恥じて苦笑した。

 

「……そういえば、あなたって、玲子に、真夫の精を受ければ、あなたの操心術は通じなくなるって言ったんだって? それは本当? 操心術にはそんな秘密もあるの?」

 

 時子は訊ねた。

 秀也は笑った。

 

「そんなことは出鱈目だ。玲子の脅迫の材料のひとつだ。他人に操られることなど、人一倍嫌う玲子だからな。初めて会った男の奴隷にされると言われれば、嫌がると思ったんだ。あんなに、あっさりと真夫を受けれるとは思わなかった……。それに、操心術にそんな効果があるなら、俺はあんたを操れなかった。そうだろう?」

 

「……だと思ったわ」

 

 時子は首を竦めた。

 

「それにしても、面白いことになったな……。いずれにしても、真夫は、豊藤龍蔵の後継者となり得るかな? まあ、龍蔵の血を引くことは確かなんだろうが、それだけで後継者としての資質ありとは見なされんだろうからな」

 

「だったら、そのときには、誰が後継者になるの?」

 

 時子が意味あり気に言った。

 

「……もちろん、能力のある相応しい者が豊藤龍蔵の跡を継ぐ──。当たり前のことさ」

 

 秀也もにやりと笑った。

 

「それで、あたしはどうしたらいい?」

 

 すると、時子が真顔になった。

 

「これからも、龍蔵の愛人頭として振るまってくれ。これまで通り、この秀也とは一線を画してな。そして、真夫を見張れ。俺もそれほどは学園にはいられなくなったからな。刻一、真夫のことを教えてくれ」

 

「わかったわ」

 

 時子がねだるように小さく口を開いた。

 秀也は、この老いた女に、操心術を使って、女としての快感を送り込みながら、その唇に口を重ねた。



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 第21話  ご主人様の飴と鞭

 脂汗が流れては全身を伝い落ち、そして、つま先立ちをしている玲子の足の指の下に溜まっていく……。

 

 眼には見えないが、すでにかなりの大きさの水たまりになっているはずだ。

 その汗だまりが、ただでさえ力を失って崩れそうなつま先と床とのあいだに入り込み、足をとる。

 だが、脚を滑らせることは許されない。

 また、ただの一瞬も足先から力を緩めることも許されない。

 

 なにしろ……。

 

「んぎいいっ、ひぎいいいっ」

 

 玲子は悲鳴をあげた。

 身体の芯を抉るような激痛が股間から迸ったのだ。

 どうやら、真っ直ぐに保っているつもりだった身体がいつの間にか、斜めに傾いてしまったようだ。

 玲子の視界は目隠しで塞がれていて失われている。だから、姿勢の安定を保ちにくいのだ。

 そして、叫んでしまったことで身体が揺れ、それによりもう一度激しい痛みが加わる。

 

 玲子は泣き叫びながら、懸命に吊られている身体を安定させようとした。

 残っていた全身の力を振り絞ることで、なんとか股間への針を刺されたような痛みをじわじわと捩じり続けられるような疼痛に変化させることができた。

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

 玲子は激しく息をした。

 つまりは、いま玲子は、両手を後手に拘束され、一本の硬い糸によってクリトリスの根元を縛られて、さらに、その一本の糸だけで天井から陰核そのものを吊られているのだ。

 しかも、玲子がつま先立ちするまで、酷く糸を吊りあげている状態で……。

 

 それをしたのは真夫だ。

 そして、真夫はさらに目隠しをして、玲子を放置した。

 真夫たちがこっちのプレイルーム側にいないことはわかっている。

 真夫は狼狽える恵を強引に連れて、隠し扉の向こう側に出ていった。

 目隠しをされていたので、その光景を見たわけではないが、玲子ははっきりと扉の向こうに人が消えていく気配を感じた。

 

 それからどれくらいの時間が経ったのか……。

 

 一時間……?

 二時間……?

 

 わからない。

 もはや、時間の感覚は玲子から消えている。

 

 ただただ、陰核を糸で抉りあげられる激痛と、つま先立ちを続けなければならない筋肉の疲労の苦痛があるだけだ。

 

 だが、それを抗議することは許されない。

 その気もない。

 これは罰なのだ。

 当然に玲子が甘受しなければならない、当たり前の懲罰なのだ。

 

 事の発端は、玲子が真夫の奴婢になって二日目、一日動き回った玲子が、夕方よりも少し早い時間に、真夫と恵のいるホテルの部屋に戻って、一日の報告をしたことから始まった。

 

 まず説明したのは、恵の父親に関して、二度と問題が起きることはないだろうということだ。

 借金は支払い、同時に闇金融屋については、二度と、恵にも恵の父親にも近づかないことを誓わせた。裏社会においては、表社会以上に豊藤財閥の恐ろしさは浸透していて、恵に豊藤の後ろ盾がついたことをはっきりと明言したので、もはや、彼らが恵の周辺に関わることはあり得ない。

 仮になんらかのやり方で恵に関与しようとしても、今度は違うやり方で事を鎮めるだけだ。

 暴力団のひとつやふたつくらい、豊藤財閥が本気でかかれば、いくらでも消滅させることができる。

 

 次に、学園のバックボーンである豊藤グループの総帥である龍蔵とその周辺のことを説明した。

 学園の理事長が豊藤龍蔵という「魔王」と称されるグループの総帥であり、学園がその道楽であることは事前に説明していたが、それをもう少し補足するとともに、秀也という龍蔵の親族の若者のことや、時子という龍蔵の愛人頭のことも言った。

 真夫も恵も注意深くそれを聞いていたし、自分たちとは別世界の世界だねえと笑ったりもしていた。

 

 もっとも、真夫が龍蔵の子である可能性が極めて高いということは口にしなかった。

 できないのだ……。

 それを喋ろうとすれば、まるで頭が痴呆にでもなったかのようにぼうっとして、なにも考えられなくなる。

 一族に伝承すると言われる操心術についても同じだ。

 語ろうとすると、一種の脳の停止状態に陥る。

 玲子は、いまだに龍蔵の操心術は、しっかりと玲子に影響を与え続けていることを自覚しなければならなかった。

 

 玲子自身が、秀也や時子から、調教されていたことも説明した。

 真夫は黙って受け入れてくれた。

 

 だが、真夫の形相が変わったのは、今日の朝、時子に命じられ、秀也の前で下着を身に着けていないスカートをまくりあげて、股間を晒したことを白状したときだ。

 真夫は明らかに機嫌が悪くなった。

 

「別に玲子さんの過去のことはなにも気にしない。だけど、玲子さんが俺の奴婢になると誓いながら、自ら局部を他人に晒すなど許せない」

 

 真夫はそう怒鳴った。

 昨夜の「プレイ」のときだって、終始余裕のある笑みを絶やさず、大きな声ひとつ出すわけでもなかった真夫が、感情を激したようになったのはびっくりした。

 

 玲子は慌てて、その場に土下座をした。

 これについては、当の時子にも叱られたし、自分には真夫の女になったことの自覚が足らなかったのだと思う。

 そう言った。

 

 しかし、真夫はそれが奴婢が謝る恰好なのかと冷たく言った。

 玲子は慌てて身に着けていたスーツを脱ぎ捨て、下着もとって全裸になった。

 そして、もう一度、土下座をして謝った。

 

 だが、真夫は不機嫌だった。

 玲子の髪の毛を掴んで、プレイルームに連れ込むと、懲罰だといって、後手に拘束し、いまやっているような陰核吊りをして、玲子を部屋に放置して立ち去ったのだ。

 恵は懸命に真夫をなだめるようとして、あいだに入ろうとしてくれたが、真夫は聞く耳をもたなかった。

 

 そして、いまに至っている……。

 

 あれから、どれくらいの時間が経ったのか不明だ。

 夥しい汗が流れ続け、永遠とも思える時間がすぎていく。

 

「あっ、ぎっ」

 

 糸で陰核が引っ張られる激痛で玲子は呻き声を迸らせた。

 長時間の豆吊りで、感覚は痺れ切っている。

 少しでも身をよじらせれば、情け容赦なくぴんと張っている糸がクリトリスを抉るのだが、筋肉の震えが止まらなくなり、身体を静止しておくことができなくなってきたのだ。

 

 だが、身体を崩せば終わりだ。

 結ばれた糸は硬い。

 真夫は何気なく使ったかもしれないが、このプレイルームにあったこの糸は、絶対に切断されることはない。

 玲子が倒れれば、切断されるのは糸ではなく、クリトリスそのものだろう。

 それを知っているだけに、玲子は恐怖に包まれ続けている。

 

「ああ、んぐうっ、はあ……ああっ……」

 

 耐えようと思うのだが、口から悲鳴が漏れ続ける。

 身体が揺れる。

 

 そのたびに鋭い痛みが走り、糸に抉られる。

 慌てて身動きを止めようとするが、もはやがくがくと震える身体を止めることは不可能だ。

 

 怖い……。

 

 そのとき、身体が大きく揺れた。

 いや、揺れたと思った。

 実際にはどうなっているのかわからない。

 急に身体の平衡感覚がなくなったのだ。

 

「い、いやあっ」

 

 一度感覚を失うと、どっちが上で、どっちが下かもわからなくなってきた。

 身体を真っ直ぐにしようとするのだが、それがどの方向なのかがわからない。

 

 身体が倒れる……。

 駄目だ……。

 

「た、助けて」

 

 玲子は初めて助けを求めた。

 しかし、このプレイルームは完全防音だ。

 声が真夫に届くことはない。

 玲子はクリトリスが切断されるのを覚悟した。

 その瞬間、がっしりと身体を支えられた。

 

「えっ?」

 

 驚愕した。

 

 誰──?

 

 こっちのプレイルームには、誰もいないはず……。 

 だが、この温かい手は……。

 

 そして、股間を引っ張る糸の痛みが急に消滅した。糸が緩んだのだ。

 砕け落ちようとしていた玲子の身体がゆっくりと倒されて、誰かの胡坐の上に乗せられる。

 

 でも、玲子には、すでにそれが誰であるかがわかっている。

 目隠しが外された。

 

「玲子さん、よく頑張りましたね」

 

 そこには、にっこりと微笑んでいる真夫がいた。

 玲子はもうなにも考えれずに、ただただ泣きじゃくった。

 

 どうして、ここに真夫がいるのか……?

 もしかして、ずっと見守っていた……?

 

 疑念はあるが、そんなことは、もうどうでもよかった。

 感情が激しく迸り、玲子は号泣していた。

 真夫は、玲子が落ち着くのを待つように、しばらくのあいだ後手縛りの玲子の裸身をぎゅっと抱き続けていてくれた。

 

「ど、どうして……。わ、わたしは、真夫様に放置されて……。そ、そして……」

 

 やっと玲子が口を開いたのは、たっぷりと数分は泣き続けてからだ。

 思い浮かべた疑問を口にはしたものの、やっぱり実際には、そんなことはどうでもいいと感じていた。

 絶望を感じたときに真夫が玲子を支えてくれ、いまこうやって抱っこしてくれている。

 ほかになにも要らない。

 まるで赤子でもなったような安心感に包まれ、玲子は大きな恍惚感に陥っていた。

 

「外に出たのは、あさひ姉ちゃんだけですよ……。それよりも、頑張ったね、玲子さん。まさか三時間も耐え続けるとは思いませんでした……。玲子さんの罰は終わりです。さあ、脚を開いて。糸を外しますから……」

 

 真夫が言った。

 

「ああ……」

 

 また安堵の涙が出た。

 やっぱり、真夫は優しい……。

 玲子は慟哭をしながら思った。

 

 真夫はすっかりと玲子を見限ったように放置したように見せかけておいて、ずっとすぐそばに息を殺して見守っていてくれたのだ。

 

 玲子が真夫の気配を一切感じなかったということは、真夫もまた身じろぎせずにじっと息を殺していたということだ。

 それはそれで、結構大変だったろう。

 

 いずれにしても、とにかく嬉しかった……。

 とてつもなく、嬉しかった……。

 

 また、嬉しかったのは、実は、真夫は玲子を見守ってくれていて、最後には救いを与えてくれたことだけではない。

 こうやって、ちゃんと罰を与えてくれたことだ。

 

 服従を約束したくせに、平気で他人に恥部を晒す……。

 

 ある意味では、真夫にとっては、それは玲子の裏切りも同然だろう。

 もしも、真夫がそれになにも反応しなかったら、玲子はもしかしたら、失望したかもしれない。

 

 だが、真夫は玲子に厳しい罰を与えてくれた。

 つまりは、それは、真夫自身が、自分が玲子の「ご主人様」であることを認めてくれたということに違いない。

 

 ご主人様……。

 玲子のご主人様……。

 

 玲子は何度も心の中で繰り返していた。

 

 ご主人様に支配され、罰を受け、許され、そして、愛される……。

 

 その悦びと安心感に、玲子は震え続けていた。

 

 ご主人様……。

 玲子のご主人様……。

 

「さあ、糸は外れましたよ。でも、ちょっと赤くなっているかな……。あとであさひ姉ちゃんに薬を塗ってもらいましょう……。だけど、苦しんでいる玲子さんをずっと見続けていたら、俺もすっかりと欲情しちゃいました。あんまりきれいだから……。だから、犯すよ」

 

「は、はい」

 

 玲子は床に横たえられた。

 すぐに、真夫が玲子を犯しやすいように、膝を曲げて脚を開いた。

 

 自分が興奮しきっていることに、玲子自身が気がついている。

 真夫に犯される。

 それを思うだけで、すっかりと媚肉が蕩けてしまい、蜜が垂れ流れてきていた。

 

「すごいね。やっぱり、玲子さんは変態だ。俺やあさひ姉ちゃんと同じように……」

 

 真夫が玲子の秘部の状態に気がついてくすりと笑った。

 

「も、もちろんです。わたしも、おふたりと同じ……。いえ、わたしこそ、変態です」

 

 自分は一体全体どうしてしまったのか……。

 秀也からは、屈辱として受けた蔑みの言葉を、相手が真夫なら甘美な響きとして感じる。

 

 変態……。

 

 真夫や恵と同じ……。

 

 それは、まったく侮蔑の言葉ではない。

 玲子にとっては、真夫が玲子を受け入れてくれたというありがたい称賛の言葉のようにさえ思える。

 

 玲子は自分がこれほどに他人を愛することができるとは思いもよらなかった。

 打算的で計算高く、決して感情的にならず、かなり酷いことでも淡々と処置できる。

 自分はそんな女だと思っていた。

 

 しかし、真夫に対しては違う。

 この少年が豊藤の後継者候補だということと関係なく、玲子は真夫に惹かれている。

 もしも、真夫が豊藤龍蔵の後継者にならなくても、躊躇なく玲子は、真夫と運命をともにするだろう。

 

 打算などという忌まわしいものと無関係でいられる唯一の存在が真夫だ。

 

 真夫に愛されたい……。

 罰せられたい……。

 翻弄されたい。

 

 この真夫と会ったのが、たった一日前のことだなんて、本当に信じられない。

 

 だが、玲子は恋に落ちた。

 それは間違いない……。

 

「入れますね。クリの根元が擦り剥けているかもしれないので、ちょっと痛いかもしれませんよ」

 

「か、構いません。むしろ、痛い方が気持ちいいかもしれません。真夫様の罰ですから」

 

 玲子は言った。

 

「罰は終わりだと言ったでしょう……」

 真夫が苦笑した。

「……でも、すっかりと、マゾっぽくなってきましたね」

 

「マゾです。真夫様専用のマゾです」

 

 玲子ははっきりと言った。

 すると、真夫がにっこりと笑った。

 その微笑みで全身がぞくぞくとなった。

 自分は本当に真夫のことが心から好きなのだと自覚した。

 その玲子自身の感情が嬉しかった……。

 

 真夫の熱い怒張が挿入を開始した。

 すぐに腰が震えた。

 全身の毛穴という毛穴が一斉に反応する。

 

 そして、玲子の膣の最奥の一番気持ちいい場所に、真夫の亀頭が届いて、ぐりぐりと擦られる。

 

「ああっ、き、気持ちいいです。そ、そこ、気持ちいい──」

 

 玲子は縛られた身体をのけ反らせながら叫んだ。

 

「玲子さんもエッチですね」

 

 真夫がにこにこと微笑んだ。

 違う──。

 玲子は叫ぼうとした。

 こんなに赤裸々になるのは、真夫に対してだけだ。

 秀也にも、時子にも、こんな感情にはならなかった。

 だが、激しい甘美感が玲子の思念を消失させる。

 

 律動が始まったのだ。

 玲子は歓喜の声をあげていた。

 唇を震わせて悶えた。

 

「き、気持ちいいです、真夫様……ああっ……」

 

 なにも考えられない。

 馬鹿みたいに同じことばかり言っている。

 

 だが、本当に、ただ気持ちよかった。

 ほかになにもない。

 

 それ以外の一切の感情や思考がなくなる。

 ただ、気持ちいい……。

 それだけだ。

 

 玲子は、真夫に身を任せ、そして、子宮の痺れるままに声をあげた。

 真夫の怒張が玲子の媚肉を掻き分けるたびに、電撃でも浴びたような全身の痺れが襲う。

 玲子は津波のような連続の愉悦に泣き叫んだ。

 

「ま、真夫様、真夫様……、玲子は……あっ、ああっ、も、もう真夫様のもの……。はっ、はあっ、に、二度と、二度と……あ、あんなことはしません──。ああ、ああっ……」

 

 自分でもなにを言っているのかわからなかった。

 真夫がストロークをするたびに、腰骨が砕けるのかと思うほどの快感が襲う。

 

「秀也と……いう人には……会う……。礼儀も……尽くす……。でも、玲子さんの……男だったことは……聞きたくない……。それは……わかっているけど、それを……秀也と……いう人が……口に出すのは……我慢できない……。俺も嫉妬深いですね」

 

 真夫が律動しながら言った。

 

 嬉しい。

 嬉しい……。

 

 玲子のことで真夫が嫉妬してくれるなど……。

 

 嬉しい……。

 

「ああ、んはあっ、しゅ、秀也……さ、さんが……れ、玲子の……お、男だったことは……あ、ああっ、あ、ありません。彼は……調教係……。わ、わたしは……ま、真夫様だけ……ああ、ああっ」

 

 全身の感覚のすべてが快感に変わる。

 肌に当たる真夫の汗……。

 真夫の声……。

 その息の音……。

 そのすべてが気持ちいい……。

 快感が怒涛の激流となって全身を駆けあがる。

 

「で、でも、しゅ、秀也には……い、言っておきます……。で、でも、か、彼には……こ、こんな感情……い、抱いたこと……ああっ、な、無いんです……。ああっ、い、いきそうです。も、もういっちゃいます」

 

「いっていいですよ、玲子さん……。玲子さんが好きです。俺も大好きです」

 

 真夫が激しく玲子を突き立てながら言った。

 もう、なにも考えられない。

 玲子を好きだと言ってくれた真夫の言葉だけが、頭で繰り返している。

 なにか途方もないものが込みあがり、弾け、砕けて、散った。

 

 飛翔している……。

 どこまでも、どこまでも……。

 

 玲子は絶頂していた。

 

「ああっ、はぐうっ、ああっ、真夫様、真夫様、ああ、真夫様──」

 

 玲子は痴呆のように、真夫の名を繰り返し呼び続けていた。

 その真夫がしっかりと緊縛されている玲子を抱き包む。

 真夫が精を玲子の子宮に注ぎ込んだのがわかった。

 

 目の前の景色が消え、玲子は押し寄せる快感と疲労感にすべてを飲み込まれていった。

 その瞬間に、尿のようなものが迸ったような気がしたが……。



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 第22話  バイト先への挨拶

「はい、こっちの階段は終わり。次は?」

 

 真夫は、回収した空のコンテナを配達用の小型トラック積んで、あさひ姉ちゃんに声をかけた。

 別の階段に対する食材の配達と空容器の回収を終えて荷台のところで待っていたあさひ姉ちゃんは、紙挟みの配達表を確認しながら顔をあげた。

 

「うん、これで終わり。手伝ってくれてありがとう、真夫ちゃん。助かっちゃった」

 

「じゃあ、事務所に戻ろうか」

 

 真夫とあさひ姉ちゃんは、トラックに乗り込んだ。

 あさひ姉ちゃんが運転席で、真夫が助手席だ。

 

 真夫とあさひ姉ちゃんが、玲子さんが手配してくれたホテルで寝泊りするようになって三日目になる。

 いよいよ、学園で暮らすのが明後日になったので、今日の午後は、あさひ姉ちゃんがアルバイトをしていたところに、仕事をやめる挨拶回りをすることにしたのだ。

 真夫も、ひとりでホテルで待っていても仕方ないので、一緒についてきた。

 

 それに、挨拶回りの後で、あさひ姉ちゃんのアパートから、荷を持って来ることにもなっている。

 真夫の荷はアパートに置きっぱなしだし、あさひ姉ちゃんも必要なものを荷作りして運び出さなければならない。

 残した荷は、後日、玲子さんが手配して、部屋の解約手続きとともに、回収業者に引き取らせて処分することになっている。

 

 もっとも、いま身に着けている私服や下着もそうだが、生活に必要なものはすべてホテルにもあるし、寮にも揃えているのだそうだ。

 真夫としても、あさひ姉ちゃんとしても、本当は全部置いていってもいいくらいだ。真夫自身のことであれば、持っていきたいような思い出の品のようなものもない。

 荷の中にあったのは、本当に身の回りの品と着替えだけだし、そのまま、捨ててもまったく惜しくはない。

 あさひ姉ちゃんも同じようなものだと思っていたが、そうはいかないらしい。

 

 あさひ姉ちゃんが押し入れに隠すように持っていた淫具だ。

 必要だから持ってくるわけじゃない。

 淫具のようなものも、寮には揃えていると玲子さんは言っていた。

 真夫がこれから暮らすことになる寮は、白岡かおりという女子高生を調教することになる場所にもなるからだ。

 ただ、あさひ姉ちゃんは、あれを絶対に他人の目に晒したくないのだ。

 どんなものを置いていっても、あの押し入れの奥にあった箱の中の物だけは、他人に見られたくないらしい。

 

 それにしても、あまり知らない女子生徒をレイプして調教する……。

 

 実際のところ、気が進まないというのが本音だ。

 エッチなことであれば、あさひ姉ちゃんと玲子さんだけで間に合っているし、いまにして考えれば、そのかおりという女の子は、真夫とあさひ姉ちゃんが龍蔵という理事長に助けられるきっかけを作ってれたと言えないこともない。

 もしも、学園に拾われなければ、あさひ姉ちゃんは、お父さんが闇金融に作った借金のために、どこかに監禁されて、身体を売るような仕事をしなければならなかったのだ。

 実際のところ、もう恨みのようなものは感じていない。

 でも、もう、お金は貰っちゃった。

 その白岡かおりという女子生徒を調教レイプするというのが、真夫が大金をもらった条件だ。

 やらなければならないということは、わかっている……。

 

 それはともかく、あさひ姉ちゃんがあいさつ回りをしたバイト先は三軒だ。

 コンビニ、居酒屋、そして、最後に食材を配達する会社だった。

 退職そのものの手続きは、玲子さんがすでにそれぞれの店などに事情の説明と必要な事務処理を終えていて、あさひ姉ちゃんはただ、これまでお世話になりましたと挨拶をするだけになっていた。

 玲子さんは、あさひ姉ちゃんは聖マグダレナ学園で住み込みで働くことになったと説明したらしく、コンビニの店長さんなどは、「恵ちゃんは真面目だったから、辞められてしまうのは残念だけど、立派な学園で働くことになったのだから仕方ないねえ」と言ってくれた。

 

 実際のところ、真夫のメイドとして学園に入ることになっているあさひ姉ちゃんの給与は、学園が肩代わりすることになっている。

 玲子さんに金額を聞いたが、かなりの給与だった。

 ほかにも、真夫自身にも生活費という名目で毎月、それなりの額が支給される。

 しかも、学園内の生活についての衣食住はすべてただだ。

 

 孤児にすぎない真夫やあさひ姉ちゃんに、これだけのことをしてくれるのは、龍蔵という人の気紛れだけのことなのだが、だからこそ、真夫は与えられた龍蔵の指示は果たさなければならない。

 真夫があのかおりという女子生徒をレイプしなければ、真夫だけではなく、このあさひ姉ちゃんだって、露頭に迷うことになる。

 もう、後には引けない、

 真夫は自分に言いきかせている。 

 

「じゃあ、行くね」

 

 真夫がシートベルトを着け終わるのを待ち、あさひ姉ちゃんが声をかけた。

 すぐにトラックは団地内の道路を進み始めた。

 

 挨拶だけのはずの食材の配達業者の仕事をふたりでやっている理由はなんでもない。

 バイトを管理する主任という人に泣きつかれたのだ。

 どうやら、バイトで来るはずだった人が、急に来れないと連絡をしてきたらしい。

 それが配達する直前の時間だったので、それから人を手配するとなると、食材配りの時間に間に合わなくなると困っていた矢先に、あさひ姉ちゃんと真夫がやって来たのだ。

 それで、手伝うことにした。

 

 仕事の内容は、契約をしている各家庭の玄関前にその日の夕食の食材を配り、さらに昨日の配達に使ったコンテナを回収するということだ。

 二時過ぎから回り始め、いま、最後の団地地帯での仕事を終えたところだ。

 時刻は四時を少し回っている。

 なんとか、決められた時刻までに終えることができて、真夫もほっとした。

 

「だけど、本当に車の運転ができるんだね。驚いちゃった」

 

 真夫は運転をしているあさひ姉ちゃんに話しかけた。

 

「高校三年のときに許可をもらってとったの。車の運転ができるとバイトに便利だと思ってね。真夫ちゃんも取ったらいいんじゃない。十八歳になったんでしょう? あの学園からだと教習所に毎日通うのは不便そうだけど、夏休みとかに合宿免許とかあるのよ」

 

 あさひ姉ちゃんは言った。

 なんだか、あさひ姉ちゃんは、とても愉しそうだ。

 

「そうだねえ……。でも、あの玲子さん、本当になんでも準備してくれるから、もしかして、免許が欲しいなあとか頼んだたら、翌日には、本物の免許をくれたりしてね」

 

 真夫は軽口を言った。

 もちろん、冗談だ。

 技術もなしに、試験に合格もしていないのに、免許なんて作れるわけがない。

 ただ、案外、本当に準備しそうで玲子さんは怖い。

 本当に、なんでもできるスーパーウーマンなのだ。

 あさひ姉ちゃんも笑った。

 

 トラックは、団地の前の県道の前に出たところだ。

 団地の出入り口を左折して県道に入る。

 

「……頼むといえば、あのホテルのプレイルームの透明のトイレ……。俺たちが出掛けているあいだに、和式に変えるはずだよ。昨夜、玲子さんが来たときに頼んだんだ。すぐに手配すると言っていたから、あの玲子さんのことだし、多分、夜に戻ったときには、絶対に工事は終わっているよ。戻ったら、さっそく俺の前でやってもらうからね、あさひ姉ちゃん。愉しみだなあ。あさひ姉ちゃんが和式トイレに座っておしっこをするのを前から眺めるのが……」

 

「え、ええっ」

 

 あさひ姉ちゃんは、顔を前に向けたまま真っ赤になった。

 あんまりからかうと、運転に支障があるといけないから、それ以上のことは言わなかった。

 ただ、玲子さんに頼んだというのは本当のことだ。

 そのときには、玲子さんも、いまのあさひ姉ちゃんと同じように顔を真っ赤にしていた。

 

 玲子さんは、数日前から龍蔵という理事長の秘書ではなく、学園の理事長代理になったと言っていた。だから、これまで以上に、学園の細かいところまで掌握しなければならないし、そのための事務手続きで毎日遅くまで仕事をしているようだ。

 ただ、どんなに遅くなっても、必ず、真夫たちのいるホテルにやってくる。

 

 だから、朝は必ず三人一緒だ。

 そのとき、あさひ姉ちゃんはもちろん、玲子さんにも、あの透明トイレを真夫の目の前で使わせている。

 排尿も排便もだ。

 

 お尻や股を自分で拭くのも禁止だ。

 洗浄機の操作も真夫が全部する。

 ふたりとも、死ぬほど恥ずかしがる。

 

 だが、逆らわない。

 それがいい。

 真夫も、あさひ姉ちゃんや玲子さんのものであれば、うんちだって汚いとは思わない。

 それよりも、お尻や股を真夫にきれいにされながら、うっとりと恍惚するような表情をするふたりの姿がいい。

 

「いいね、あさひ姉ちゃん。ホテルに戻ったら透明トイレだよ。それだけじゃなくて、寮の部屋にある侍女用のトレイも同じような造りにするって言っていたよ。特別寮の部屋って、とっても広くって、トイレだって部屋の中にあって、しかも、本生徒用と侍女用に分かれているんだって。毎日のトイレ観察はずっと続けるからね」

 

「う、うう……。ま、真夫ちゃんがそうしたいなら……」

 

 あさひ姉ちゃんは顔を真っ赤にしたまま言った。

 ただ、顔だけは真っ直ぐに前を見ているが、ふと見ると、ミニスカートに包まれている両脚が内腿を擦るつけるように、もじもじと動き始めた。

 どうやら、透明の和式トイレで股を開いて、真夫の前で粗相をすることを想像して、ちょっと興奮してきたみたいだ。

 スカートの下は、あさひ姉ちゃんはストッキングも下着もはいていない。

 玲子さんがそうしているのを知って、自分でそうしたのだ。

 

 もっとも、別に真夫はふたりにノーパンを強要しているつもりはない。ただ、なにも言わなかったら、勝手にふたりがそうしたのだ。そのうち、下着だけは身につけるように言おうと思っているが、いまは面白いので、そのままにさせている。

 

 とにかく、いま、あさひ姉ちゃんはノーパンだ。

 真夫は、運転をしているあさひ姉ちゃんのスカートをめくって股間をむき出しにさせたい誘惑にかられたが我慢した。

 きっとあさひ姉ちゃんは、真夫のやりたいようにさせるとは思うが、気を取られて、本当に事故でも起こされたら困る。

 真夫は話題を変えることにした。

 

「……でも、玲子さんで本当にできる人だよね。俺が気まぐれで、和式トイレにしたいって口走ったら、すぐにあちこちに電話して、あっという間に手配しちゃったもの。横で見ていて呆気にとられちゃったよ」

 

 真夫は言った。

 

「本当……。でも、あんなに仕事ができるのに、真夫ちゃんの前では、すごく可愛くなるのよね……。あたしも、玲子さんみたいな魅力的な女性になりたいなあ」

 

 あさひ姉ちゃんは溜息をついた。

 

「あさひ姉ちゃんだって、十分に魅力的な女性だよ。いつもきちんとしているし、優しいし……。それにエッチで変態だし……。俺はいまのあさひ姉ちゃんが大好きだよ」

 

 真夫は言った。

 すると、あさひ姉ちゃんがさらに顔を赤くして、笑いを一生懸命に我慢するような顔になった。

 真夫がちょっと口で好きだと言っただけで、本当に嬉しそうな顔をしてくれるので、こっちまで微笑みがうつってくる。

 

「ああ、そうだわ……。今朝、ホテルの掃除の人が来たとき、シーツのこと頼んだよ、真夫ちゃん。余分に置いてくれるって。とりあえず、二十枚くらい」

 

 あさひ姉ちゃんが言った。

 真夫はありがとうと返事をした。

 

 あさひ姉ちゃんと相談して、ホテルの人にこっそりと頼んだのは、寝室のシーツのことだ。

 実のところ、あの玲子さんは、真夫とセックスをするとき、感極まると、決まって股間から潮を吹くのだ。

 そのたびに、絶望的な顔をして、玲子さんは謝るのだが、自分でもどうしようもないようだ。

 

 それはいいのだが、困るのはシーツのことだ。

 一回くらいのことであれば、とりあえず真夫たちだけで交換もできるが、達するたびに潮を吹かれると、一枚や二枚で済まなくなる。

 だけど、玲子さんとエッチをするときに、ビニルシートのようなものを敷くのも可哀想だし、玲子さんがとても気にしているのがわかるので、玲子さんには内緒で、替えのシーツを余分に部屋に置いてくれと、ホテルの人に頼むことにした。

 とりあえず、二十枚だということだから、いくらあの玲子さんでも、それだけのシーツを全部ひと晩で汚してしまうことはないだろう。

 

 そんなことを話しているうちに、会社に戻った。

 あさひ姉ちゃんとともに、空のコンテナを卸して決められた場所に置き、トラックを駐車して事務所に戻った。

 借りていた会社の上着を返納する。

 主任がにこにこしながらやってきた。

 

「本当に助かったよ、恵ちゃん。ありがとう。君もね」

 

 主任は封筒をふたつ差し出した。

 

「これは?」

 

 あさひ姉ちゃんが小首を傾げた。

 

「今日のバイト代だよ。先日までの分については、あの女弁護士の人に清算したんだけど、今日の分は入ってなかったからね。君の分もある。少ないけど二時間分だ」

 

 主任は笑った。

 確かに中身は千円札一枚と小銭のようだ。

 

 あさひ姉ちゃんは、最後に事務所の人の全員に挨拶をして、真夫とともに出た。

 これから歩いて駅に向かう。

 次に向かうのは、電車に乗って、あさひね姉ちゃんのアパートだ。

 

 配達会社は、駅の裏側の階段からそれほど離れていない。

 すぐに、駅にあがる階段の前に到着した。

 こっち側は、商店街の裏になるので、通行人も少なくひっそりとしている。

 周囲に人影がないのを確かめてから、真夫は物陰にあさひ姉ちゃんを連れ込んだ。

 

「な、なに?」

 

 あさひ姉ちゃんは、ちょっと不安そうで、それで、ちょっと期待しているような複雑そうな顔をした。

 まあ、真夫がこんな風に物陰に連れていくときには、エッチなことをするためだというのはわかっていると思う。

 

「スカートをあげてよ、あさひ姉ちゃん」

 

 真夫は言った。

 あさひ姉ちゃんは、辺りを見回して、誰もいないのを確かめてから、おずおずとスカートを両手でまくりあげた。

 あさひ姉ちゃんの無毛の股間が露わになる。

 

「トラックの中では危ないから我慢したけど、電車だと問題ないよね。さあ、あさひ姉ちゃんのアパートに着くまで遊ぼう」

 

 真夫は準備していたローターを二個取り出すと、それぞれの表面にたっぷりと掻痒剤のクリームを塗りつけた。

 ひとつは専用のテープを使ってあさひ姉ちゃんのクリトリスの上に貼りつけ、もうひとつはヴァギナの中に挿入する。

 

「ん、んんっ」

 

 あさひ姉ちゃんが懸命に周りを気にする素振りをしながら、腰をぶるぶると震わせた。あさひ姉ちゃんの股間はたっぷりと濡れていて、挿入するのになんの問題もなかった。

 

「ま、真夫ちゃん……。そ、そんな……」

 

 あさひ姉ちゃんは、スカートをまくりあげたまま、身体をくねくねと悶えさせる。

 

「さあ、できあがりだ。じゃあ愉しもうね。もうスカートをおろしていいよ」

 

 真夫はポケットに隠していたふたつのリモコンローターの操作具をちらつかせながら、駅の改札口に向かう階段にあさひ姉ちゃんを導いた。



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 第23話  変態カップル

「ま、真夫ちゃん……。手を……手を繋いで……」

 

 恵は耐えられなくなって、階段の途中で立ち止まって小さく呟いた。

 駅の改札口は、線路を跨ぐ二階にあり、ホームに降りるためには、階段を下りていく必要がある。

 だが、いよいよローターに塗られた掻痒剤が本領を発揮して、桁違いの熱さと痒みが襲い掛かって来たのだ。

 とてもじゃないが、足がふらついてしまい、階段をまともに歩けそうにない。

 

 だが、はっとした。

 たったいままで、真横を歩いていたと思っていた真夫がいない。

 

 ふと見ると、すでにホームにいて、階段を下りる多くの乗客の向こうにいる。

 いつの間にか遅れてしまったと思って、恵は慌てて脚を進めた。

 しかし、追いつくのは簡単ではない。

 なにしろ、恵を追い詰めているのは、怪しげなクリームによる痒みだけではないのだ。膣に挿入されているローターとクリトリスに貼り付けられているローターは、恵が身体を動かすたびに、これでもかという疼きを恵に伝えてくる。

 とにかく、転ばないようにとだけ思って、手すりを掴みながら、なんとかホームまで降りた。

 

 だが、やっとのこと到着したホームで、真夫の姿を見つけられなかった。

 ホームはそれほど客が多いわけじゃないが、それでも三、四十人はいる。

 恵は、階段の陰にでもいるのかと思って、そっちに移動しようとした。

 

 そのとき、突然にヴァギナに押し込まれているローターが強い振動を始めた。

 

「うっ」

 

 恵は、立ち竦んでがくりと膝を曲げた。

 このホームのどこかにいる真夫が、リモコンローターのスイッチを入れたに違いない。

 周りにいたほかの乗客たちが、怪訝な表情で恵に視線を向けようとしているのがわかった。

 慌てて、表情を整えて、真っ直ぐに姿勢を保つ。

 

 とにかく、急いでその場を離れた。

 幸いにも、ローターの振動は一瞬で終わっている。

 逃げるように移動して、階段の裏側に来た。

 こっちには、ほとんど人がいない。

 だが、そこで、またもやローターが微弱な振動を開始した。

 今度は肉芽に密着しているローターも同時にだ。 

 

「うぐっ、ぐうっ」

 

 恵は懸命に歯を食い縛った。

 さすがに今度は、平静を装うことはできなかった。

 耳たぶまで真っ赤になるのを感じながら、恵はスカートの上から下腹部を押さえてしまった。

 それほどまでに、痒みに襲われている股間に駆け巡る振動の刺激は鋭く、甘美な悦びに満ちている。

 恵はなおも振動に襲われながらも、必死に真夫を探した。

 

 いた……。

 

 降りて来た側とは反対の階段の向こうに立って微笑みながらこっちを見ている。

 なんだか、愉しそうに手招きしている。

 恵はかっと熱くなるものを感じながらも、震える脚を真夫に向かって、前に進めた。

 

 しかし、どうしてもへっぴり腰になっていまう。

 とにかく、真夫のところに……。

 たった二十メートルほど……。

 だが、いまの恵には、遥かな遠くにも感じる。

 

 頬が上気する……。

 汗が全身から滲み出す……。

 

 恥ずかしい……。

 死ぬほど恥ずかしい……。

 

 しかし、真夫の視線を感じると、この恥ずかしさが震えるような恍惚感に変化するのが不思議だ。

 

 多くの見知らぬ他人がいる場所で、こんな風に真夫に辱められる……。

 それは、恵が想像の中で思い浮かべ、自慰のネタにしたシチュエーションだ。

 

 実のところ、恵は何度も何度も、同じように責められていることを想像の中で繰り返し、封を切らないローターを股間に当てて、幾度となく指で達した。

 それと、全く同じことを「本物」の真夫にされて、責められている……。

 これは、本当のことなのだろうか。

 いまでも、信じられない……。

 

 もしかして、真夫は恵の頭にあった願望を盗み見て、それでこんなことをしてくれているのではないか……。

 そんな風にさえ思える。

 

 それとも、これは真夫にそうされたいという恵の願望が産み出した妄想なのだろうか?

 その証拠に、これは、なにからなにまで、恵が描いた自慰のネタそのままだ。

 

 この痒みの苦しさ……。

 周りに人がいるのに、こっそりとローターで辱しめられる恥ずかしさ……。

 声を耐えるのも難しいような容赦のない快感……。

 そして、それを少しもやめてもらいたくないという興奮と恍惚……。

 

 妄想でもいい……。

 真夫といられるなら……。

 

「ああっ」

 

 また、声が出た。

 距離は半分だが、そこでさらに肉芽の振動が強くなったのだ。

 歩けない……。

 つっとかなりの量の熱い蜜がノーパンの股間から内腿を伝って脚先方向に垂れる……。

 慌てて、脚を閉じてそれを隠す。

 

 恵は首を横に振った。

 

 お願い……。

 駄目……。

 

 恵はこっちを離れて見ている真夫に、そう伝えたつもりだ。

 すると、真夫の顔から笑みが消え、がっかりしたような表情になった。

 

 愕然とした。

 

 あの顔を真夫にされるなんて……。

 慌てて、首を横に振ったことに対して、また首を振り脚を前に出す。

 真夫がにっこりと笑った。

 

 真夫が悦んでいる……。

 なら、恵も嬉しい……。

 進まなきゃ……。

 這ってでも……。

 

 でも、これは……。

 

「うっ」

 

 また、声が出て、膝ががくりと落ちた。

 

 さらに、振動が強くなった……。

 ちょうど、周りに人がいない場所なので、真夫も容赦なく、恵を責める気なのだと思う。

 

 なんとか、腰を落としたまま進む。

 

 やっと、真夫のところに着いた。

 恵は安堵の息を吐いた。

 

「よくやったね、あさひ姉ちゃん」

 

 真夫がふらつく恵の腕を掴んでくれる。

 そして、頭を撫でた。

 

 駄目……。

 これは病みつきになる……。

 頭を撫でられながら思った。

 

 狡い……。

 真夫は狡い……。

 

 真夫に責められて、その後にこんな風に優しく頭を撫でられたら、嬉しくて恵はどうしようもなくなるじゃないか。

 

 本当に狡い……。

 

 振動がとまった……。

 ほっとしたのは一瞬だ。

 リモコンローターが振動をやめると、すぐに恐ろしいほどの痒みが再び襲いかかってきたのだ。

 

「あっ、ああ、真夫ちゃん……」

 

 恵は太股を擦り合わせて、苦痛を訴えようとした。

 だが、階段を下りてきた乗客が数名そばにやって来た。

 恵は口を閉ざすしかなかった。

 真夫も、恵から腕を離して少し距離を開ける。

 恵と真夫のあいだに、数名の男性が立つかたちになる。

 

 歯を喰い縛って、身体を伸ばした……。

 

 痒い……。

 熱い……。

 

 そして、怖い……。

 

 とまっていると、どんどんと痒みが強くなる。

 だが、まさか、こんなところではしたなく脚を擦り合わせるわけにはいかない……。

 どうしたら……。

 頭が朦朧とする。

 

「んっ……」

 

 そのとき、かすかだが振動が……。

 

 恵は強烈な快感を覚えながら、痒みが少しだけ癒される幸福感に我を忘れそうになった。

 しかし、振動は一瞬だ。

 再びふたつのローターは静止する。

 途端に、また痒みが……。

 

 だが、耐えられそうになくなると、また一瞬の振動……。

 そして、淫具がとまって痒みが襲い、忘れた頃にまた責めてもらえる。

 

 それを繰り返された。

 もう恵は、なにがどうなっているのかもわからなくなってきた。

 

 掻痒感の苦しみとそれが癒される快感……。

 

 恵は、電車がやって来るまでのあいだ、ひたすらに股間の振動のオンとオフの洗礼を浴び続けた。

 

 やがて、電車がやってきた。

 乗客が動き始める。

 

「絶対に、自分の手で触っちゃだめだよ、あさひ姉ちゃん……」

 

 電車に押し込まれながら、真夫が恵の耳元でささやいた。

 

 


 

 

 真夫の悪戯は、電車に乗るとぴたりとなくなった。

 恵は、真夫に押されるようにホームに入って来た電車に乗せられ、車両の隅の連結部に近い部分に押し込まれるように立たされた。

 座席はいっぱいであり、恵のすぐ前にも座っている客がいる。

 真夫は、わざとのように少し離れて吊り革に捕まって立っている。

 じっと耐えたのはほんの少しだ。

 扉が閉じて、電車が動き出す頃には、恵は身体を連結部に完全向けて前側を隠し、脚を擦り合わせては、小さな足踏みを繰り替えしていた。

 

 我慢するのは不可能だった。

 じっとしていようと思っても、股間の痒みが刺すように全身に拡がる。

 それが恵を追い詰める。

 

 ほんのちょっと……。

 少しでいいから、ローターを……。

 恵はすがるような思いで真夫に視線を送る。

 だが、真夫はこっちを見てはいるが、まだ苦しみ方が不足だとでもいうように、小さく首を振った。

 恵は項垂れて、熱い息を吐いた。

 

 だが、あまりの痒さで無意識のうちに、手が下腹部に向かいそうになる。

 それとも、電車の連結部の角のところに、股間を思い切り擦りつけられたら……。

 

 しかし、自分で触ってはならない……。

 真夫にそう「命令」されたのだ。

 だから、触ってはならない。

 

 恵の「ご主人様」の命令だ──。

 

 ご主人様……。

 そういえば、恵が真夫のことを「ご主人様」だと夢想をし始めたのは、いつの頃からだっただろうか……。

 

 真夫は恵の心の中で、いつも恵に恥ずかしいことを強要する鬼畜の「ご主人様」だった。

 

 女が縛られたり、恥ずかしい仕打ちを受けているSM写真集の男側に真夫の写真を貼って、恵が真夫にそうされているのだと思い浮かべて、どれだけ股間を濡らしたかわからない……。

 

 そのたびに、自分のあまりのいやらしさに嫌悪感を覚えた。

 

 だが、一方で、もしかしたら、あの「真夫ちゃん」なら、恵と同じようにいやらしくて、そして、変態で、恵がやって欲しいこんな「プレイ」を一緒になって愉しむのではないかと思った。

 

 いや、願った……。

 

 真夫と会わなかった五年……。

 

 おそらく恵は、真夫のことを考えない日は、ただの一日もなかったかもしれない。

 施設のときの子供時代の真夫との秘密の行為……。

 あれは、いま思っても、恵の宝物だ……。

 恵が中学校のとき、まだ小学校だった真夫は、とってもエッチで、そして、SMが大好きな男の子だった。

 

 最初のきっかけは、施設で流行っていた警察ごっこだったが、そのとき、人質役だった恵の股間を犯人役だった真夫が、突然にぎゅっと押したのだ。

 まだ、ふたりとも小学生であり、真夫など小学校の低学年だったと思う。

 

 びっくりした。

 なにが起きたのかもわからなかった。

 一瞬にして、電気が走ったように全身が痺れて、あまりの気持ちよさに目の前が真っ白くなった。

 

 一秒……?

 二秒……?

 

 おそらく、それはほんのちょっとの時間だったはずだ。

 しかし、あのときの恵は、まるで長い時間、ずっと気持ちのいいことをしてもらっていたかのような大きな充実感を覚えた。

 なによりも、あの真夫の指の気持ちよさ……。

 

 父親に犯されたという経験から、男との交わりは吐気を及ぼすような嫌悪でしかなかった恵に襲った突然の晴天の霹靂だった。

 

 そして、恵は真夫に夢中になった。

 人目を忍んでは、真夫に同じことを頼み、そのたびに、あのときと同じように、恵は真夫に縛られているのだと想像して、悦に耽った。

 

 いまの恵の性癖は、そのときの施設における真夫との秘密の遊びが形成したものだ。

 

 だが、寮のある高校に入ることになり、施設を出ることになった。

 

 これを機にこんなことはやめよう……。

 恵は決心した。

 自分の欲情した身体を癒すために、「真夫ちゃん」を使うなんて……。

 そして、最後にセックスをしてもらい、恵は真夫と別れた。

 

 真夫には別の女の子まで準備して、完全に関係を絶った。

 忘れようと思った……。

 

 しかし、忘れられなかった。

 自分が信じられないくらいに淫乱な女だと気がついたのは、施設を出てすぐだった。

 悶々とした身体の火照りを抑えられない。

 あの真夫との秘密の行為が欲しくてたまらない。

 恵はそんな淫乱な女なのだ。

 それを思い知った。

 

 セックスを求めて、身体を癒してくれる男の子を見つけるということもできなかった。

 恵に告白をしてくれる男の子も少なくはなかったが、そもそも、恵は男の子が怖いのだ。

 ふたりっきりで身体が恐怖で震えない男性は、唯一、真夫だけだ。

 

 真夫に会いたい……。

 会いたい……。

 

 だが、身体の疼きがとまらないから会いに行くなど、あまりに真夫に失礼だ。

 恵は躊躇した。

 

 真夫がどこでどうしているかは、ずっと恵は追っていた。

 どこの高校に通い始めたのかということも知っていた。

 

 しかし、会いにはいかなかった。

 もう真夫は恵のことなど、遠い思い出のように忘れているはずだ。

 そのために、新しい女の子まで準備して、真夫を申し送ったのだから……。 

 それに、その当時の自分のやったことは、あまりにも破廉恥すぎた。

 それが恵に真夫に会いに行くことを拒ませ続けた。

 

 恵の醜くて、汚くて、いやらしい欲望に真夫を巻き込んではならない。

 

 そう思った。

 

 だが、想像はした。

 突然に真夫と出逢い、それで、実は真夫も恵と同じようにエッチで変態なのだ。そして、女の子を苛めたり、辱めるのが大好きで、恵がそれを強要されるのだ……。

 だったら、どんなにいいだろう……。

 

 そんな想像を繰り返した。

 そして、自慰をした。

 

 おこがましいかもしれないが、もしかして、真夫はまだ、恵を好きだと思ってくれていて……。

 あの施設での「秘密の遊び」が、子供時代の興味本位の悪戯のようなものではなく、本物の愛情に根付いたもので……。

 真夫もまた、恵のことが忘れられなくて……。

 

 そう夢想した。

 そんなはずはないとわかっている。

 でも、もしも、そうだったら……。

 

 ずっと、思っていた……。 

 

 恵は本気だった。

 生涯にひとりだけ……。

 真夫だけ……。

 真夫にとっては、恵は一緒の施設にいた淫乱で変態な変わり者の少女にすぎなかったかもしれないが、恵はおそらく、大人になっても、真夫以外の男性をこれ程までに好きになるわけがないという確信はあった。

 

 そう思って、恵はひとりで悶々とし続けた。

 だが、本当に真夫のところに会いに行く勇気はなかった。

 

 さらに、その夢想さえも、諦めなければならない事が起きた。

 

 恵の父のことだ……。

 

 突然にやって来た借金取り……。

 見せられた恵の名がある連帯保証人の書類……。

 再会した哀れな父親の姿……。

 娘に媚びる父の声……。

 その父を死ねと怒鳴り続けるやくざたち……。 

 

 恵はすべてを諦めた。

 

 夢は夢……。

 しかも、自分には夢を心に浮かべることも許されないないのだと思った。

 

 だが、思いがけない真夫との再会……。

 真夫が恵のことを忘れておらず、同じように施設のときのことを特別に思っていてくれたという告白……。

 しかも、恵のことを好きだと言ってくれた……。

 自分でも嫌になるような恵の内心の淫らな変態的な欲望に対し、自分も同じ変態だと笑ってくれた真夫……。

 

 そして、真夫は鬼畜で……。

 淫らで……。

 変態で……。

 

 セックス……。 

 

 もう、それで十分だった。

 一生分の幸せをもらったと思った。

 これで悔いなく死ねる。

 娼婦になるまでの残りの十日間を生涯忘れらない思い出にしよう……。

 それだけでよかったのだ。

 

 だが、あっという間の事態の変転……。

 突然の救いの手……。

 真夫の奴婢になるのだという思いがけない話……。

 いまでも信じられない。

 

 しかも、玲子さんという「仲間」までできて……。

 

 それにしても……。

 

 痒い……。

 

 痒い。

 痒い。

 痒い。

 

 痒いのだ……。

 もう、なにも考えられない……。

 

 そのとき、電車の速度が落ち始めた。

 恵は朦朧さの中で行っていた思念から醒めて、現実に戻った。

 電車がターミナルステーションに近づいたようだ。

 ほとんどの乗降客が、扉に移動していく。

 恵と真夫が降りる駅は、さらに二つ先なのでここでは降りない。

 

 そのときだった……。

 股間の二つのローターが激しく振動を開始した。

 

「んふううっ」

 

 さすがに声が出たが、それは電車のブレーキの軋む音でかき消された。

 全身を硬直させながら、恵は両膝を折って、下腹部を両手で抑えていた。

 しかし、出口に向かう乗客とは反対側にいるので、恵の姿はほとんど人目に引くことはなかったようだ。

 

「あさひ姉ちゃん、座ろう……」

 

 そのとき、いつの間にか、真夫が隣にいて、降りるために席を立った空席に恵を導く。

 真夫もその隣に腰かけた。

 

「ん、んん、んん……」

 

 恵は、座席に腰かけたまま、歯を食い縛って身体を震わせ続けた。

 

 電車が停まった。

 扉が開いて、目の前からも人がいなくなる。

 

 そのあいだも、股間の振動は続いている。

 しかも、さらに強くなる。

 ふと見ると、真夫の左手は上着のポケットに入ったままだ。

 

 いく……。

 このまま……。

 

 恵はエクスタシーの衝撃を感じて、ぐっと身体を硬直させた。

 だが、まさに絶頂をしようとした瞬間に、ローターがぴたりと静止した。

 愕然として横を見たが、真夫はにやにやと笑っていた。

 

「……続きは、俺たちが降りた駅のトイレでね……」

 

 真夫が耳元でささやく。

 

「ああ、真夫ちゃんの意地悪……」

 

 恵は身体を悶えさせて泣き声をあげた。

 

「そうだよ。意地悪で、鬼畜で、あさひ姉ちゃんを苛めるのが大好きな変態の真夫だよ」

 

 真夫が笑った。

 ホームから入って来た乗客が恵と真夫の前にもやってきた。

 恵は両腿をぴったりと合わせて、上気した顔を隠すために顔を俯かせた。



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 第24話  公衆トイレで

 足元がおぼつかないあさひ姉ちゃんを改札口前の多目的トイレに連れ込んだ。

 いまの時間は、乗降客そのものがまばらなので、このトイレを使う者はほとんどいないはずだ。

 

 ターミナル駅の手前で電車の座席に座ってから、あさひ姉ちゃんのアパートに向かうための駅で降りるまでの時間は、十分ちょっとだったと思うけど、そのあいだに真夫は、リモコンローターで七回は寸止めをした。

 絶頂寸前で刺激が取りあげられるたびに、あさひ姉ちゃんはとても淫らな顔で切なそうに震えた。

 その苦悶の姿がぞくぞくした。

 真夫は病みつきになりそうな気がした。

 

「服を脱いで、あさひ姉ちゃん。靴だけは履いてていいよ。だけど、それ以外は全部俺にちょうだい」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんを便座に座らせて言った。

 あさひ姉ちゃんは抵抗しなかった。

 大人しく一枚ずつ脱いでは、脱いだものを真夫に渡していく。

 乳幼児用ベッドがあったので、真夫は渡されたものをそこに置いていった。

 

 あさひ姉ちゃんが素っ裸になった。

 その全身は汗にまみれていて、真っ赤に紅潮していた。

 また、真夫が強要している無毛の股間からは、おびただしいほどの蜜で濡れている。

 

 とりあえず、真夫は、陰核の上からテープで貼っていたローターを外し、膣深くに挿入しているローターは自分で取り出すように言った。

 あさひ姉ちゃんは、恥ずかしそうにしながらも、指を膣に入れ、さらにいきむような仕草をしながら、ローターを取り出した。

 それを受け取る。

 

「じゃあ、そのままオナニーしてよ。それともっと脚を開いてね」

 

 真夫は便座に座っているあさひ姉ちゃんの正面に立って言った。

 

「えっ?」

 

 あさひ姉ちゃんはちょっと驚いた顔になった。

 

「聞こえなかったの、あさひ姉ちゃん。オナニーだよ。俺は、あさひ姉ちゃんにオナニーしろって命じたんだよ」

 

 わざと強い口調で言った。

 

「あっ、は、はい」

 

 あさひ姉ちゃんは慌てたように、手を乳房と股間に向かわせる。

 

「脚──」

 

 真夫は苛ついているかのように、あさひ姉ちゃんが座っている便座を軽く蹴った。

 もちろん、これは「プレイ」だ。

 だけど、あさひ姉ちゃんは、ちょっと乱暴にされたり、意地悪をされたりするのが好きなんだ。この数日、ずっと一緒に過ごしているからわかっている。

 そして、いまみたいに、頭ごなしに破廉恥なことを命令されるのが好きみたいだ。

 

 その証拠に、あさひ姉ちゃんは、怯えたように脚を水平になるくらいまで拡げながら、それだけで感極まったようにぶるぶると震えた。

 すでにかなりの興奮状態みたいだ。

 淫情に酔ったような表情のあさひ姉ちゃんは、すごくエッチそうで、すっごく真夫も欲情する。

 真夫は、にんまりしそうになって、すぐに顔を険しいものに戻した。「鬼畜プレイ」の最中に、責め側が笑ってしまっては醍醐味が台無しだろう。

 

「ああ、真夫ちゃん、恥ずかしいよう……」

 

 あさひ姉ちゃんが泣きそうな声で言った。

 だけど、指が乳首を転がし、クレヴァスに沿ってするすると上下に動き始めると、たちまちに大きな鼻息をして身体をびくりと硬直させた。

 結局のところ、掻痒剤を塗った股間は、ローターによる刺激は与えられたものの、一度も達していない宙ぶらりんの状態だ。

 痒みクリームで感度があがり切っているうえに、寸止めをされ続けたあさひ姉ちゃんの身体は、もう最後の絶頂までの刺激への欲望が暴発しそうになっていると思う。

 あさひ姉ちゃんは、すぐに淫らな声をだしながら、激しく指を動かしだした。

 

「ま、真夫ちゃん、真夫ちゃん、真夫ちゃん……」

 

 やがて、あさひ姉ちゃんは、真夫の名を小さく呼びながら、明らかに絶頂の道へと駆け昇る仕草を示し始めた。いまや、あさひ姉ちゃんが動かす股間の指のあいだからは、糸を引いて熱い蜜が滴り落ちている。

 

 そろそろ、達するな……。

 真夫にはそれがわかった。

 

「駄目、お預け──」

 

 真夫は声をあげた。

 あさひ姉ちゃんは、ぎくりとしたようにとまった。

 だが、まさにあさひ姉ちゃんは、いく寸前……というよりは、達している途中のような感じだったと思う。

 そこで寸止め命令をされたあさひ姉ちゃんは、愕然としている。

 

「そ、そんな、ま、まだ……」

 

 あさひ姉ちゃんは、真夫に恨めしそうな顔を向けた。

 真夫は、そのあさひ姉ちゃんの顎を乱暴に握って力を入れる。

 

「んぐっ、ま、真夫ちゃん」

 

 首を斜め上に捩じりあげられたあさひ姉ちゃんが苦しそうに顔を歪めた。

 

「なんで、そんな顔をするの、あさひ姉ちゃん? あさひ姉ちゃんは、俺の奴婢でしょう? 奴婢の身体は、全部ご主人様のものだと教えたでしょう。だったら、あさひ姉ちゃんをいかせようが、いかせまいが俺の勝手でしょう。それとも、あさひ姉ちゃんは、俺の奴婢をやめる? だったら、好きにすれば。いくらでもいっていいよ」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんの顎を掴んだまま、できるだけ冷たい口調になるように気をつけながら言った。

 

「ああ、い、意地悪言わないで、真夫ちゃん……。あ、あたしは、真夫ちゃんの奴婢だよ。命令には逆らわない。もっと、意地悪なことしてもいい……。だから、捨てないで……」

 

 あさひ姉ちゃんが泣くような声を出した。

 

「だったら、どんな風にあさひ姉ちゃんの身体を弄ろうが文句はないよね。これは、俺のものなんだから、俺がどう扱っても自由なはずだよね」

 

 真夫はまだ股間に置かれたままだった、あさひ姉ちゃんの手を払いのけて、股間の指を挿入して膣の中を愛撫した。

 あさひ姉ちゃんの股間は信じられなくらいに蜜で溢れていて、しかも、熱かった。

 あさひ姉ちゃんの感じる場所はもうわかっている。

 親指でクリトリスを刺激しながら、人差し指で膣の入口に近い上側の土手を押し揉んでやる。

 いわゆるGスポットだ。

 

「あ、ああっ、あああっ──。ま、真夫ちゃんの指……、き、気持ちいい……。じ、自分でするのとは……ぜ、全然……」

 

 あさひ姉ちゃんが真夫にしがみつくようにもたれかかってきて、身体を痙攣させた。

 だが、真夫はさっと指を離した。

 あさひ姉ちゃんは、むせび泣くような声をあげて身体を悶えさせた。

 

「どうして欲しい、あさひ姉ちゃん? 俺はあさひ姉ちゃんが寸止め責めで苦しむのを見るのが好きだから、もっと寸止めしたいと思っているんだよね。あさひ姉ちゃんが俺の奴婢なら、あさひ姉ちゃんの身体は俺のものだから、もっと寸止めするよ……。だけど、あさひ姉ちゃんがどうしても達したいというなら、最後までしてあげてもいいよ……。どうする? それとも、自分でオナニーする? それでもいいよ。でも、勝手に達したら、奴婢じゃないからね」

 

 真夫は言った。

 あさひ姉ちゃんは歯を食い縛ったような感じで、真夫に口を開いた。

 

「……い、意地悪……意地悪、真夫ちゃん……。あ、あたしが真夫ちゃんのこと大好きなの知って来るくせに……。あ、あたしは、真夫ちゃんの奴婢だよ。心の底から……。真夫ちゃんが愉しいなら、それがいい。もっと、寸止めしてあたしを苦しめて……。あたしは、真夫ちゃんが愉しいのがいい」

 

 あさひ姉ちゃんは言った。

 

「……わかった。じゃあ、もっと寸止めしよう。その代わり、今度はいきそうになったら、あさひ姉ちゃんが自分でとめてくれと言うんだ。できるだけ、絶頂する寸前で声をかけるんだよ。ただし、本当に達してしまったら、奴婢失格とみなすからね。さあ、両手を頭の後ろに……」

 

 真夫は言った。

 あさひ姉ちゃんが両手を頭の後ろに置く。

 真夫は再び指であさひ姉ちゃんの股間を愛撫を始めた。

 

 すぐに、あさひ姉ちゃんが甘い声を出しながら、痙攣のような震えをした。

 真夫は指であさひ姉ちゃんの膣の中への刺激を続ける。

 あさひ姉ちゃんは、歯を食い縛っている。

 どうやら、真夫の命令のとおりに、できるだけぎりぎりまで耐えようとしているのだろう……。

 

 それとも、快楽への欲望に負けて、このまま達するかな……?

 まあ、どっちでもいいけど……。

 

 やがて、さらに震えが大きくなった。

 

「と、とめてっ、真夫ちゃん。とめてっ」

 

 あさひ姉ちゃんは叫んだ。

 真夫は指を離した。

 あさひ姉ちゃんが精根尽きたようにがっくりとなった。

 

「さすがは俺の奴婢だね。ご褒美だよ。舌を出して」

 

 真夫が言うと、あさひ姉ちゃんが嬉しそうに舌を出す。

 その舌をぺろぺろと舐めまわしてやる。

 あさひ姉ちゃんは、うっとりとした顔になった。

 

 しばらくして、少し火照りも収まったかと思った頃に、また同じことをした。

 今度もあさひ姉ちゃんは寸止めを選んで、真夫の刺激を中断させた。

 ただ、寸止めをしたとき、本当に苦しそうに悶え震えた。

 

 同じことをさらに三回やった。

 今度こそ、あさひ姉ちゃんは、寸止めの苦しさに負けて、声をかけないかと思ったけど、あさひ姉ちゃんは、健気にぎりぎりのところまで自分を追い詰め、そして、真夫に声をかけて愛撫を中断させるということをやり通した。

 

「偉かったね、あさひ姉ちゃん。もう、許してあげるよ。立って、壁に手を着いて、お尻を後ろに出して」

 

 最後の寸止めの後で、ご褒美キスが終わったとき、真夫はぽんぽんとあさひ姉ちゃんの頭を叩きながら言った。

 

「う、うう……。も、もういいの、真夫ちゃん……? す、寸止めでもいいよ……。ま、真夫ちゃんがそれが好きなら……」

 

「でも、俺も最後までしたくなっちゃった。さあ、立って」

 

 このまま、最後まで寸止めもいいかもしれないけど、それじゃあ、あさひ姉ちゃんがおかしくなってしまうだろう。

 それに苦しめた後は、ご褒美が必要だ。

 あさひ姉ちゃんは、随分と頑張って、真夫を愉しませてくれた。

 ご褒美の価値がある。

 

「あ、ありがとう……。ありがとう、真夫ちゃん」

 

 あさひ姉ちゃんが言われたとおりにした。

 真夫は、脇の下から手を伸ばして、包み込むように乳房を握った。そして、素早くズボンと下着を足首まで降ろして、お尻の下からあさひ姉ちゃんの膣に怒張を貫かせた。

 

「はあっ」

 

 途端にあさひ姉ちゃんは、大きく息を吸い込んだ。

 真夫は苦笑して、大きな声を出すなと注意しなければならなかった。

 

 胸揉みと律動を開始する。

 あさひ姉ちゃんは、すぐに快美感で震えだした。

 

「あ……あ、と、溶けちゃう……。ま、真夫ちゃん……こ、このままだと、す、すぐ……い、いく……。が、我慢できない……あっ、ああっ、ああっ……」

 

「我慢しなくていいんだよ。いっていいから……」

 

 真夫は腰を前後させながら言った。

 途端に、あさひ姉ちゃんは顔を上に向けた。

 

「んぐうううっ」

 

 四肢をエクスタシーに撃ち抜かれたように、あさひ姉ちゃんは必死に食い縛っている口から歓喜の呻き声を放った。

 さすがに早すぎるあさひ姉ちゃんの絶頂に合わせることができず、一回目は流した。

 

 二回目の絶頂もすぐだった。

 仕方なく、それも流した。

 

 続けざまにあさひ姉ちゃんは、三度目の絶頂をしたが、やっと真夫はそれに合わせることができた。

 深い絶頂に身体を震わせるあさひ姉ちゃんのヴァギナに、真夫はありったけの欲望の塊を注いだ。

 

「はああ……」

 

 真夫があさひ姉ちゃんから離れると、溜息とともにあさひ姉ちゃんは、その場にするずるとしゃがみ込んでしまった。

 しかし、すぐにはっとしたように、気だるそうな身体を真夫に向ける。

 

「ご、ごめん、真夫ちゃん……。お、お掃除するね……」

 

 あさひ姉ちゃんが射精の終えた真夫の性器をぱっくりと咥えた。全体を舌で舐めて掃除し、さらに亀頭から残りの精を吸い出すようにする。

 真夫はあさひ姉ちゃんに合図をして口を離させ、下着とズボンをはきなおして服装を整える。

 

 あさひ姉ちゃんはすぐには動けないらしく、真夫へのお掃除フェラが終わっても、そのまま跪いたままでいた。

 

「……あ、あの……真夫ちゃん……」

 

 だが、思い出したように、顔をあげて真夫を見た。

 

「なに?」

 

 真夫は微笑んだ。

 

「あ、あたし、も、もう戻れない……。真夫ちゃんのいない日にはもう戻れない……」

 

「戻る必要ないさ。それに、俺も同じ気持ちだよ、あさひ姉ちゃん……。あさひ姉ちゃんがエッチでよかった。おかげで毎日愉しい」

 

 真夫は笑った。

 だが、この幸せを守るためには、それなりの代償もある。それは、もう覚悟をしている。

 

 すると、あさひ姉ちゃんは、急にたじろぐような強い視線を向けた。

 

「ほ、本当に、こんなあたしでいいの? 真夫ちゃん、本当に呆れてない? あたし、真夫ちゃんといると、本当にエッチになる。自分でも嫌になるくらいに……。真夫ちゃんに苛められるたびに、自分で自分が呆れるほど、もっといやらしいことをして欲しくて堪らなくなる。あ、あたし、いつもいつも、真夫ちゃんのことしか考えていない。真夫ちゃんとエッチなことをいっぱいしたくて、どうしようもなくなるの。でも、こんな女、嫌でしょう? 迷惑じゃない?」

 

 あさひ姉ちゃんは、なにか切羽詰まって訴えるような口調で言った。

 だが、真夫は首を傾げたくなった。

 エッチでなにが悪いのか……。

 誰にでもエッチなのは困るが、真夫にだけエッチなら、いくらでも淫らでいて欲しい。

 

 そう言った。

 

「あ、ありがとう……。やっぱり、真夫ちゃんは優しい」

 

 あさひ姉ちゃんは、なにかそれだけで満足したように、胸に両手を置いてほっと息を吐いた。

 

「それよりも、早く服を着なよ、あさひ姉ちゃん……。それから……」

 

 真夫は鞄の中から、準備していた女性用の下着を出した。

 ホテルの引き出しに準備してあったもので新品だ。   

 

「今日からはノーパンは禁止。下着だけははくこと。そして、俺が命令したら、恥ずかしそうに脱ぐこと……。最初からノーパンなのも悪くないけど、やっぱり、途中で脱がせるのが鬼畜の醍醐味だよね」

 

 真夫は笑った。

 あさひ姉ちゃんはきょとんとしたが、すぐにくすりと微笑んだ。

 

「……真夫ちゃんがそう言うなら……」

 

 あさひ姉ちゃんははにかむような顔をした。

 

 やがて、あさひ姉ちゃんは服を着終わった。

 それを待って真夫は、あさひ姉ちゃんに後ろを向かせ、スカートをめくりあげた。

 そして、いまはかせたばかりの下着をぺろりと剥がす。

 

「な、なに、真夫ちゃん?」

 

 あさひ姉ちゃんが当惑した声をあげた。

 構わず、さっき外したローターをお尻の穴に入れていく。

 あさひ姉ちゃんが服を着ているあいだに、たっぷりと潤滑油を塗ったので、ちょっと窮屈だったが、なんとかお尻の奥にローターを押し込むことができた。

 真夫は下着とスカートを元に戻す。

 あさひ姉ちゃんは、今度は狼狽した仕草をした。

 

「今日から、アナル調教をするよ。あさひ姉ちゃん。とりあえず、ローターからだ。だんだんと太いバイブに変えていって、最後には俺の性器を挿入できるようにするよ。いいね、あさひ姉ちゃん」

 

 真夫は明るく言った。

 エッチなあさひ姉ちゃんだが、まだお尻は自慰にも使ったことはないことはわかっている。だけど、セックスをするときや、真夫の前で排便をしたあとに、お尻を拭いたりするときに、あさひ姉ちゃんはかなり感じているような反応をする。

 多分、お尻はあさひ姉ちゃんの強い性感帯なのだろう。

 だから、是非、あさひ姉ちゃんにはアナル調教をしたいと思っていた。

 

「う、うう……。真夫ちゃんがそうしたいなら……」

 

 あさひ姉ちゃんは真っ赤な顔で言った。

 

 


 

 

 お尻の異物が気になるのか、あさひ姉ちゃんの歩きは、最初はぎこちなかったが、しばらくすると慣れてきたようだ。

 そんなに不自然な歩き方でなくなった。

 真夫も忘れたふりをして、しばらく放っておいた。

 

 駅からあさひ姉ちゃんのアパートまでの道はわかっている。

 道なりは、静かな住宅街を通っていて、通行人はまばらだ。

 真夫は、他愛の無い話を続けながら、ちょうど、公園の横の辺りに差し掛かって、ちょっとにぎやかになったときを選んで、あさひ姉ちゃんのお尻に埋まっているローターのリモコンをオンにした。

 

「きゃん」

 

 あさひ姉ちゃんは、真夫がびっくりするくらいに派手な反応をして、お尻をスカートの上から押さえてしゃがみ込んだ。

 

 公園で遊んでいた子供やその母親と思われる集団が一斉にこっちを見たのがわかった。

 顔を真っ赤にしているあさひ姉ちゃんの姿に笑いながら、真夫はスイッチを切る。

 あさひ姉ちゃんは、わざと怒ったように頬を膨らませた。

 でも、その顔はしっかりと笑っている。

 

 そんなことを二度、三度と続けた。

 

 やがて、アパートに到着した。

 到着したときには、すっかりとあさひ姉ちゃんは、でれた感じになり、真夫の腕にしがみついて身体にもたれるようにした。

 

「ね、ねえ、真夫ちゃん……。も、もう、このアパートも最後だし……。ちょっと、ゆっくりしていかない……? なにしてもいいから……」

 

 あさひ姉ちゃんが甘えるような声を出した。

 つまりは、あさひ姉ちゃんは、また、すっかりとエッチな気分になり、アパートで遊ぼうと誘っているのだ。

 真夫はにんまりしてしまった。

 

「なにしてもなんて、そんなこと言ったら、うんと意地悪するよ。そうだねえ。浣腸してホテルまで我慢してもらおうかな? それとも、犬のように四つん這いで近所を散歩してもらおうかな」

 

 真夫は言った。

 あさひ姉ちゃんは、そんな責めをされている自分を想像したのか、顔を蒼ざめさせて、ぶるぶると震えた。

 だが、その後、ちょっとだけ、顔を赤らめて、「真夫ちゃんがそうしたいなら……」と消え入るような声で言った。

 

 これには、真夫も逆に驚いた。

 あさひ姉ちゃんには、タブーというのはないのだろうか?

 

 そのときだった。

 アパートの奥側から誰かがのそりと起きあがり、こっちに歩いてきた。

 

 男だ。

 

 髪の毛は長くぼさぼさで、無精ひげが生えている。

 着ているものは汚れていて、まるで浮浪者だと思った。

 男は煙草を吸っていて、それを指に挟んでこっちにやって来た。

 

「恵の男というのはお前か? 随分と若いな……。とにかく、噂によれば、うちの恵といろいろといいことしているらしいじゃねえか。まあ、ちょっと話をしようか」

 

 その男が言った。

 

「お、お父さん──」

 

 そのとき、真夫の隣であさひ姉ちゃんがぱっと真夫から手を離して、絶句したように息をとめた。



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 第25話  父来たる

「お、お父さん──?」

 

 恵は狼狽した。

 なんで、ここに……?

 どうして──?

 

 そして、慌てて、真夫と繋いでいた手を離した。

 

「おい、坊主、ちょっと話をするぞ。とりあえず、部屋にあがれや……。恵、鍵を開けな。大家のやつ、俺が恵の父親だというのに、ちっとも信用しやがらねえ。それで朝から、ずっと待つ羽目になったじゃねえかよ」

 

 恵の父は、不貞腐れるように吸っていた煙草を投げ捨てて、足で吸殻を踏み消した。

 

 真夫はなにも喋らなかった。

 ただ、挑むように恵の父親を睨むだけだ。

 恵は、とにかく真夫に迷惑をかけてはならないと思い、前に出た。

 

「……わ、わかったわ……。部屋に入って、お父さん……。それと、真夫ちゃん、悪いけど、先に戻っていて……。あとで連絡するから」

 

 恵は言った。

 

「ああっ?」

 だが、恵の父は不機嫌そうに声をあげた。

「……俺はこの盗っ人小僧に用事があんだよ、恵──。いいから、鍵を開けろ。坊主も逃げんじゃねえぞ。一緒に来るんだ」

 

 恵の父が怒鳴り声をあげた。

 

「お、大きな声を出さないでよ……。と、とにかく、部屋に入って……」

 

 恵はどうしていいかわからず、とりあえず、部屋に父に入れようと思った。

 真夫はこのまま返せばいい。

 考えていたのはそれだけだ。

 真夫に迷惑をかけるわけにはいかない。

 そのとき、いきなり、恵の肛門の中のローターがぶるぶると振動を始めた。

 

「あっ」

 

 恵は悲鳴をあげかけて、慌てて唇を噛み縛った。

 リモコンローターのスイッチをオンにしたのは真夫だろう。

 

 いまは、許して……。

 

 恵は噴きあがりかける悲鳴を必死に噛み殺して、すがるように真夫を見た。

 だが、はっとした。

 真夫は怒っていた。

 こんなに怒った顔をした真夫を見たのは久しぶりだ。

 

 いつも柔和な物腰を崩さない真夫だが、その真夫が一、二度怒ったのを見たことがある。

 まだ施設にいるときであり、真夫は小学生だったが、そのときは歳上の恵でさえもぞっとするような怖い表情をしたのを覚えている。

 激昂して怒鳴るわけでも、乱暴な態度をとるわけでもない。

 ただ静かに怒るのだ。

 そして、次の瞬間、驚くほどに冷酷な行動を起こしたりする。

 

 それがいまの顔だ。

 恵はびっくりした。

 

 すっとローターの振動がとまった。

 恵は、息を整えながら、崩しかけていた膝を伸ばして背筋をまっすぐにした。

 

「んっ?」

 

 恵の父が怪訝な表情になった。

 だが、まさか、恵がお尻に穴に淫具を挿入して、それを刺激されてよがっているとまでは思いもしないだろう。

 

「……ね、ねえ、真夫ちゃん……」

 

 恵は真夫に対して、口を開こうと思ったが、またローターのスイッチがオンになった。

 恵は、また小さな悲鳴をあげて、腰を落としかけた。

 今度はすぐに振動がとまったが、どうやら、喋るなということのようだ。

 仕方なく、恵は口をつぐんだ。

 

「おい……。なんか、変だなあ……。おい、坊主、うちの恵になんかやってんのか?」

 

 恵の父が険しい顔になった。

 気づかれた……。

 恵は全身がかっと羞恥に熱くなるのがわかった。

 

「……あんたの恵じゃない……。俺の恵だよ。なにをしようが関係ない。ただ、これだけは言っていくよ。二度と、あさひ姉ちゃん……いや、恵に近づかないでくれるかなあ、おじさん……。おじさんには、これ以上言うことはないね。じゃあ、帰ってくれる」

 

「なんだと、生意気言いやがって──。誰に口きいてんだ、坊主。俺は恵の父親だぞ」

 

 恵の父が激昂して手を振りあげた。

 とっさに、前に出ようと思ったが、真夫の腕にそれを阻まれる。

 さらに、真夫が恵を庇うように前に一歩出た。

 

「や、やめてっ」

 

 恵は必死で叫んだ。

 真夫が恵の父に殴られる……。

 そんなことをさせたら、恵は真夫に申し訳がなくて、どんなふうに詫びたらいいかわからない。

 だが、恵の父が、振りあげた手をおろすことはなかった。大きな舌打ちをして、その手を下げた。

 

「ちっ、俺が先に殴っちゃ、なんにもならねえか……」

 

 恵の父がひとり言のように呟くのが聞こえた。

 

「お、お父さん、真夫ちゃんは、お父さんの借金を肩代わりしたのよ。お父さんがいまこうやって生きているのは、真夫ちゃんのお陰よ」

 

 恵は早口で言った。

 真夫に黙っていろと言われても、これだけは言わねばならない。

 

「ああ? この坊主が?」

 

 恵の父は一瞬、呆気にとられた表情になった。

 そして、そのまま大笑いを始めた。

 

「なるほど、そういうことか……。どこの坊主か知らねえが、金持ちのお坊ちゃんだったということか。そりゃあ、ありがとうよ。うちの恵に惚れて、恵の身請けをしたということだな。まあ、恵は、借金のかたに娼婦になる予定になっていたからな……。わかった。恵はくれてやるよ。だが、ただでとは言わせねえよ……。恵が欲しければ、俺にも金を払いな、坊主。それで、手を打ってやる。なにしろ、どこの闇金も俺に金を貸してくれなくなって、ちょっとばかり事業の資金が不足しているのよ。五百万でいいや。一千万もの金をぽんと払らったくらいだから、それくらいはまだ出せんだろう、坊主? もう五百万だ。それで恵は完全にお前にものになる。恵に惚れているんなら、あとそれだけ出しな」

 

 恵の父が顔をほころばせて、あの薄笑いを浮かべて言った。

 なんてことを……。

 いくら実の父親でも、許せないことはある。

 

 恵は愕然とした。

 いや、こんな父親じゃない……。

 なにをしに来たのかと思ったら、まさか、真夫に金をせびりに来ただなんて……。

 

 そういえば、玲子さんが、恵の父には手を出さないように、あちこちの闇金融や暴力団に手を打ったと言っていた。それで恵の父は解放されたのだが、一方で、闇金に相手にしてもらえなくなった恵の父は、金の出所を失って困ったのだろう。

 それで、恵が借金を肩代わりしたのだから、今度はその伝手を自分も手繰ろうと思ったに違いない。

 恵は、頬でもひっぱたいてやろうと思って、手を振りあげた。

 

「んふうっ」

 

 だが、またもや、お尻のローターがぶるぶると激しい振動をした。

 恵はぐいと背筋をのけぞらせて、小さな呻き声をあげた。

 そのとき、真夫が首を横に曲げて、恵の父には見えないように、恵ににんまりと意地悪に微笑んだ。

 どきりとした。

 そして、くたくたと力が抜けた。

 同時に、真夫に対する畏敬にも似た感情が噴きあがるのがわかった。

 

 いずれにしても、真夫が恵の父親の出現に激怒しているのは明らかだ。

 それにも関わらず、一方で余裕のある態度で、恵に淫靡な悪戯を仕掛けてくる余裕……。

 なんて人なんだろう……。

 

「さっき言ったろう、おじさん……。俺は失せろと言ったよ。金なんかないけど、あってもおじさんには一円だって払わないよ。それと、もう二度と恵は近づくなよ」

 

「なんだとう」

 

 真夫の胸ぐらを恵の父がつかんだ。

 恵は手を伸ばそうと思ったが、微弱だが意地悪な振動がお尻の中で続いていて動けなかった。

 

「なんだととは、こっちのセリフだよ、おっさん──。俺は、あんたを殺してやろうと思っていた。さっきから、はらわたが煮えくりかえってるのを一生懸命に我慢してんだ。言いたいことは山ほどあるけど、あんたとは口もききたくない。さっさと失せるんだよ。それとも殺されたいか──」

 

 真夫が恵の父親の胸ぐらを掴み返した。

 恵の父にかけた怒声は、大きな声ではなく、むしろ静かな口調だった。

 だが、肚の底から響くような声であり、真夫の怒りそのものが言葉のひとつひとつにはっきりと込められていた。

 恵は、その言葉の持つ不可思議な迫力に、なぜか心の底からの恐怖心が沸き起こってしまい、その場にしゃがみ込んでしまった。

 

「ひ、ひいいっ」

 

 だが、次の瞬間、いまにも真夫を殴るのかと思うような感じだった恵の父が、急に真っ蒼になり、真夫から手を離して尻もちをついた。

 

 恵は父を見た。

 恵の父親は、全身から恐怖心を醸し出して、がくがくと震えていた。

 しかも、口からは泡のようなものまで出ている。

 一瞬にして、ここまで人間が恐怖を覚える情景を恵は初めて目の当たりにした気がした。

 

 だが、いま、真夫はただ、恵の父の胸ぐらを掴んで、罵声を浴びせただけだ。

 その口調もそんなに恐怖心を起こするほどの激しいものではなかった。

 ただ、確かにもの凄い不思議な力のようなものを恵は感じた。

 それで、恵もうずくまってしまったのだ。

 あれをまともに浴びた恵の父は、完全に腰が抜けたような感じになってしまったようだ。

 

 いまのはなに……?

 恵は呆気にとられた。

 

「ひ、ひいいっ」

 

 恵の父が尻もちをついたまま後ずさりをして、すぐに立ちあがって逃げるように走り去っていった。

 

「ま、真夫ちゃん、い、いまのなに?」

 

 やっとのこと立ちあがった恵は、真夫にやっと口を開くことができた。

 でも、真夫は、恵以上に呆然とした顔だ。

 

「な、なに、いまの……? 俺、いま、なにをしたのかなあ……? なんかすごく腹がたって、それであさひ姉ちゃんのお父さんに、その怒りをぶつけようとしたんだよね。そしたら、急に、あさひ姉ちゃんのお父さんの頭の中のようなものが頭に入って来て……」

 

「あ、頭の中……?」

 

 恵は呆気にとられた。

 

「うん……。それはともかくとして、なんか腑に落ちないんだよね。あさひ姉ちゃんのお父さんは、なんで、ここに今日来たんだろう?」

 

 真夫が首を傾げた。

 

「……えっ……。な、なんでって……。お、お父さんは、闇金から解放されて……。で、でも、玲子さんが闇金からお父さんが金を借りられなくしたから……。それで、お金に困って……」

 

「違うよ。俺が言っているのは、なんで“今日”なのかということだよ。あの人は、“朝から待っていた”とは言ったけど、“何日も待っていた”とは言わなかった。だから、待っていたのは、本当に今日の朝からなのだと思う。でも、俺たちがここに、今日荷を取りに来ようとしていたのをなんでわかったのかと思ってね。もちろん、ただの偶然ということもあるだろうけど……」

 

 言われてみれば、確かにちょっとおかしいかもしれない。

 この数日、ずっと恵と真夫は、玲子さんに手配してもらったホテルに泊まっていて、ここには戻っていない。

 今日だって、荷をちょっと取りに来て、すぐに戻るつもりだ。

 どうして、恵の父は、ここで恵たちがやって来るのを待ち構えることができたのだろう……?

 

 だが、恵の思念はそこまでだ。

 もう、我慢できない……。

 とにかく、いまはそれよりも……。

 

「ね、ねえ、真夫ちゃん……。ちょ、ちょっと、お尻の中のもの……。とめて……。さ、さっきから……ず、ずっと、動いているよ……」

 

 恵はしゃがんだまま、小さな声で真夫に訴えた。

 恵の父が真夫の胸ぐらを掴む前にスイッチを入れられて、ずっとオンにされたままになっていたのだ。

 

「ああ、忘れてた」

 

 真夫はあっけらかんと返事をした。

 そして、上着のポケットに手を入れる。

 

「うふううっ」

 

 しかし、恵は思わず声をあげてしまい、慌てて手で口を押さえた。

 お尻に入れられているローターの振動が最大振動に近くなったのだ。

 

「ほら、あさひ姉ちゃん、いつまでも座ってないで立つんだよ。部屋の鍵を開けて」

 

 真夫が鬼畜な笑みををしながら、恵の腕を掴んで引っ張り起こした。

 そして、小さな声で、あるセリフを言えと恵の耳元でささやいた。

 

 それはとても口にできないような恥ずかしい言葉だった。

 だけど、それを真夫に強要されると、口にしなければならない気持ちになってくる。

 

 それに、真夫にそれをしてもらえる……。

 嫌じゃない……。

 いや、むしろ……。

 

 それにしても、さっきの真夫は逞しくて男らしかった。

 あんな父親、いくら血が繋がっていたとしても、親じゃない。

 真夫はそれを教えてくれたのかもしれない。

 

 真夫は頼りになる。

 恵は生れて初めて、縋って生きることのできる相手を見つけた気がした……。

 

 その真夫に苛めてもらえる……。

 それが、嫌なことであるわけがない……。

 

「ま、真夫ちゃん、あ、あたし……の……。い、いえ、め、恵は……お、お尻の穴に悪戯されたい……。恵のお尻の穴を苛めて……」

 

 それはさっき耳元で口にしろとささやかれた言葉だった。

 実際に口にすると、恵は恥ずかしさだけでなく、期待と興奮でぞくぞくとした。

 もう、さっきの恵の父の醜態のことなんて頭からなくなった。

 

 頭に占めるのは、ローターの振動でだんだんと大きくなるお尻の疼きの気持ちよさだけだ……。

 

「エッチなあさひ姉ちゃんだねえ」

 

 真夫はさっき見せた怒りの片鱗が嘘のように朗らかに笑って、恵の腰に手を回して、部屋の前のドアの前に導いた。

 

 


 

 

「まったく役に立ちませんでしたね、秀也さん。せめて、一発で殴られてくれれば、警察に通報して、学園に入る前に、あの坊やを捕まえさせて、うまくいけば、学園に入る前に追い出すことができたんですがね……。そういう打ち合わせをしたんでしたが、すみませんでした」

 

 運転手だが、いまは秀也とともに車両の後部座席に座って、そこに映されている隠しカメラの映像を眺めている正人(まさと)が舌打ちとともに悪態をついた。

 

 秀也と正人がいるのは、住宅街の道路上に駐車させたバンタイプの一般車の中であり、この車は、今日の顛末を見張るにあたって、秀也が正人に命じて準備させたものだ。

 映っているのは、恵のアパートの前に設置した隠しカメラの映像と音声である。同じものを部屋の中にも仕掛けていたが、結局、それらは役に立たなかった。

 

 正人は秀也が部下として使っている二十五歳の男であり、外見は、美人の女と見誤るくらいに線が細くて、女っぽい。

 実際に、性欲は男に対してしかなく、面白いから秀也は手元に置いて便利に使っていた。

 こうやって、秀也のさまざまな工作の手伝いをさせるだけでなく、学園の寮では女の恰好をさせたメイドとしても使っていて、時折は、こいつの珍棒を擦ってよがらせて遊んだりもする。

 女のように感じやすく、実に愉しい玩具だ。

 

 それでいて、武道に通じているので、立派な護衛役もこなす。

 なによりも、秀也に絶対の忠誠を誓っていて、決してそれが揺らぐことはない。

 それが気に入っている。

 この男は、豊藤財閥でも、その総帥の龍蔵でもなく、秀也個人に仕えてる。

 秀也としては、安心してそばに置いておける大切な存在だ。

 

 玲子が追い払ったはずの恵の父親を捕らえて、恵と真夫が今日ここにやって来ることを教え、さらに、ふたりが思わぬ幸運で、恵の父親の借金を無条件で肩代わりするくらいの大金を手にしたはずだと、あの男に仄めかしたのは、正人の仕事だ。

 

 正人はいい仕事をした。

 うまく、あの駄目男の金銭欲を突いて、しかも、恵に男ができたと愚図男に言い、恵の父親に真夫に対する嫉妬の怒りのようなものを燃やさせることに成功していた。

 

 あの男は、事もあろうに、実の娘である恵に、自分の女であるかのような感情を抱いていて、恵に恋人ができたと知ると、まるで女を奪われたような顔をして腹をたてたのだそうだ。

 

 本当にうまく乗せられてくれた。

 玲子は、恵の父に、恵に近づいたら容赦はしないと諭したらしいが、それは玲子の詰めが甘い。

 あんな駄目男は、いくら脅したところで、理詰めで物を考えない。

 そのとき、そのときの感情で動くだけだ。

 だから、ちょっと炊きつければ、恵が手に入れた幸運や恵自身についても、自分の物を奪われたような気持ちになって、のこのことふたりの前に向かっていったというわけだ。

 

 あんな男を本当に排除しようと思えば、ぶち殺すか、それとも、近づくことが物理的に不可能な外国でも放り捨てるしかない。

 さもなければ、いずれは、また恵の前に現れるに決まっている。

 

 いずれにしても、あの男はもう用済みだ。

 今度はこっちに付きまとわれても面倒なので、あれが恵と真夫の前に現れたことを玲子に教えて、今度こそちゃんと始末をさせようと思った。

 

「まあ、真夫については、機会はまだあるだろう。とにかく、あいつは龍蔵が大事に育てようとしている豊藤家の嫡男だしな。今日は、あいつの能力の一端を垣間見ることができた。それだけで十分な成果があった。あの迸るような力は、間違いなく操心術だぞ。おそらく自覚はないだろうが、あの真夫は、操心術で恵の父親の心に、凄まじい恐怖心を植えつけて、それで追い払ったんだ」

 

 秀也は喉の奥で笑った。

 これは面白いことになって来た。

 やはり操心術の遣い手か……。

 

 どうやら、あいつの力は感情をコントロールすることのようだ。

 どちらかというと、秀也は記憶改変が能力の主体であり、一瞬にして、人の感情を変えてしまうというのは、秀也にもできないことだ。

 

 だが、あの真夫は、まだ力の出し方も知らない現段階で、それをやってのけた。

 あるいは、あの玲子があっという間に真夫の軍門に下ったのは、その能力を使われたのではないかとさえ、ちょっと思った。

 

「……今回は残念でしたが、必ず、俺が秀也さんの敵である、あの真夫を追い出してみせます。きっと機会はあると思います。豊藤財閥を受け継ぐのは、秀也さんでしかあり得ません。あんな、突然にやって来た小僧に、豊藤の総領の座を渡すなんて……」

 

 正人が口惜しそうに言った。

 秀也はにっこりと微笑んだ。

 そして、正人のズボンの上からがっしりと性器を掴んだ。

 

「あっ、しゅ、秀也さん……。あ、ああっ」

 

 途端に正人がなよなよと身体をくねりだす。

 まるで女のような悶え声が面白い。

 

「……さっきも言ったが、今日は真夫の力の一部が見れただけで成果があった。よくやった。これからも尽くしてくれ……。これは褒美だ……。ズボンの中でそのまま出せ。ただし、そのまま学園まで、お前のいやらしい愛汁の染みをズボンに作ったまま戻るぞ……。夕方には、玲子が龍蔵伯父貴のところに来ることになっている。そのときには、そのズボンのまま会え。いいな」

 

 秀也は股間を握る手の動きを激しくした。

 正人はますます甘い声を出して悶える。

 車の窓ガラスには、目隠しがついているし、防音にもなっているので、外に正人の姿がばれることはない。

 

「あっ、いく……いきます、秀也さん、ああっ」

 

 正人が女そのものの喘ぎ声を出しながら、ぶるぶると腰を震わせた。

 ズボンの中で勃起している正人の一物から、精液が飛び出した感触がはっきりと秀也の手に伝わってきた。



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第5章  波乱
 第26話  突然の啓示


「……ん、んんんっ」

 

 あさひ姉ちゃんが床に付けている横顔を真夫に向けて哀願した。

 顔は真っ赤で、ぼろぼろと涙を流している。

 汗びっしょりだ。

 鼻腔は膨らみ、鼻息も荒い。

 

 一方で、あさひ姉ちゃんの口には小さなハンカチを丸めたものが二枚突っ込まれていて、さらに口を荷物用のテープで塞いでいる。

 真夫が強要したのではない。

 あさひ姉ちゃんが、自分からそうしてくれと頼んだのだ。

 

 真夫が強要したのは、あさひ姉ちゃんの口を塞ぐことではなく、アパートの玄関の前の台所で扉にお尻を向けるように縛られることだ。

 だから、あさひ姉ちゃんは、下半身をすっぽんぽんの状態で仰向けになり、ほうきの端と端に足首を縛られ、さらに左右の手首もその位置に固定されている。

 つまりは、あさひ姉ちゃんは、ほうきの両端に左右の足首と手首を縛られ、大きくお尻をあげた状態で剥き出しの股間を玄関に向けているのだ。

 

 こんな玄関前でお尻の調教を受けろという真夫の鬼畜な命令に対しても、あさひ姉ちゃんは逆らわなかった。

 だけど、「声が洩れないように口を塞いで欲しい」と泣きそうな顔で頼んできた。

 それで、あさひ姉ちゃんの口には荷物用のテープが貼ってある。

 

 真夫は、時計を見た。

 

 十五分……。

 

 やはり、これくらいが限界か……?

 あさひ姉ちゃんのお尻の穴に、改めて掻痒剤のクリームを塗り足して十五分が経過している。

 「じっとしていろ」という命令にも関わらず、あさひ姉ちゃんの腰はかなり激しく左右に動いていた。多分、静止などするのは不可能なのだろう。

 

「……だめだよ、あさひ姉ちゃん。俺はじっとしていろと命令したのに、さっきからあさひ姉ちゃんは、いやらしくお尻を振ってばかりだよ。そんなんじゃあ、尻穴調教はしてあげられないね」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんのお尻の横に座るように床に胡坐になっていたが、わざと突き放すように言った。

 

「んんんっ、んんんっ」

 

 あさひ姉ちゃんがすすり泣きのような声を出して腰を動かすのをやめた。

 だが、それでも、ぶるぶると小刻みな震えは残っている。

 

 無理もない……。

 

 このクリームが女体にとって、どれだけ強い痒みを引き起こすかは、あさひ姉ちゃんや玲子さんを相手に散々に試したため、真夫は十分に知り尽くしているつもりだ。

 それをお尻の穴に埋め込むように入れて放置し、すでに十五分……。

 すでに、あさひ姉ちゃんは、真夫にお尻の穴を弄ってもらうことしか考えられなくなくなっているはずだ。

 

 それでいい……。

 

 真夫は、今日はこのあさひ姉ちゃんのアパートで、もっともっとあさひ姉ちゃんを追い詰めるつもりだ。

 ちょっと可哀想だが、真夫はこうやって鬼畜に責めることで、あさひ姉ちゃんの頭から、あんなお父さんのことなんか忘れさせてしまおうと思っている。

 実際のところ、あさひ姉ちゃんは、突如のお父さんの出現にさっきまで落ち込んでいたようになっていたのだが、いまでは、そんな記憶など吹っ飛んでしまっている感じだ。

 

 真夫は小指を突き立てて、あさひ姉ちゃんのお尻の菊の(つぼみ)に、ゆっくりと忍ばせていった。

 クリームが潤滑油になってあまり抵抗を受けなかったが、あさひ姉ちゃんのお尻の穴は入口が狭くて、小指を入れるのもかなり窮屈だった。

 そういえば、駅のトイレでローターを入れたときにも、かなりの抵抗力はあった。

 

「んんっ、んぐううっ」

 

 あさひ姉ちゃんが背中をのけぞらせて、呻き声をあげた。

 痛みを訴える声ではなく、明らかに感じている声だ。

 

 痒みにただれているお尻に指で刺激を受けるのは気持ちがいいのか、あさひ姉ちゃんは真夫がゆっくりと指を前後すると、欲情で真っ赤になっているお尻を大きくうねり始めた。

 

 いずれにしても、これなら大丈夫だ。

 少しほぐれたところで、真夫は指を小指から人差し指に変えた。

 

「んんっ、んんっ」

 

 あさひ姉ちゃんの掲げられているお尻がぶるぶると動く。

 指を入れたり、抜いたりするたびに、尻たぶにえくぼが浮いたり消えたりする。

 

 手を伸ばして、前の穴にも指を入れた。

 

「んふううっ」

 

 あさひ姉ちゃんの女陰は、驚くくらいの蜜で溢れていた。

 真夫が指を入れると、あさひ姉ちゃんがいきなりがくがくと身体を揺らして、絶頂の仕草を示し始めた。

 さっと、前後の穴から指を抜く。

 

「こらっ、じっとしろと言っただろう」

 

 ぴしゃりとお尻を叩く。

 叩くときには手を抜かない。

 力の限り、お尻を平手でひっぱたいた。

 

「んんっ」

 

 あさひ姉ちゃんが痛みに顔をしかめた。

 ただ、その顔はまるで尻を叩かれた痛みさえも、気持ちいいかのようにうっとりとなっている。

 

 いや……。

 

 あるいは、本当に気持ちいいのかもしれない……。

 本当のマゾであれば、好きな相手に受けた痛みは、それさえも最高の快感に変えてしまうのだそうだ。

 

 あさひ姉ちゃんのマゾ度からかなり高いというのは、真夫も知っている。

 もしかしたら、あさひ姉ちゃんは、お尻を叩かれてちょっと嬉しがっている……?

 

 そんな風に思えるほど、あさひ姉ちゃんは欲情しきったような表情をしている。よく見ると、顔にうっすらと笑みさえも浮かべている感じだ。

 

 真夫は、ちょっとあさひ姉ちゃんに意地悪をしたくなった。

 手を伸ばして、あさひ姉ちゃんの口からテープを外して、口からハンカチを取り出す。

 

「あっ、ま、真夫ちゃん……」

 

 猿ぐつわを外されてしまったあさひ姉ちゃんは、狼狽したような声をあげた。

 

「罰だよ。これからは自力で声を我慢するんだよ、あさひ姉ちゃん……。声を出すと、恥ずかしいのはあさひ姉ちゃんだからね」

 

 真夫は横に置いていた荷袋からローターを取り出した。

 そして、微振動をさせると、先端をあさひ姉ちゃんのお尻の穴にあてがう。

 

「あんっ、んんんん」

 

 あさひ姉ちゃんには、真夫がいるお尻側は見えない。

 いきなり、振動をするローターをあてがわれたかたちになったあさひ姉ちゃんは、大きな声をあげた。

 だが、すぐに慌てたように口をつぐむ。

 

 当然だろう。

 壁の向こうは、アパートの住民がとおる廊下であり、しかも、あさひ姉ちゃんの部屋は、道路のすぐ近くだ。

 さらに、まだ昼間であり、恥ずかしい声を迸らせるわけにはいかないはずだ。

 

 両手を拘束されていて、手で口を押さえることのできないあさひ姉ちゃんは、必死の表情で歯を食い縛っている。

 その一生懸命に声を耐えようとしている姿が、真夫の嗜虐心を誘う。

 

「入れるよ……」

 

 真夫はぐいと指でローターを押し込んだ。

 

「あ、あああっ」

 

 あさひ姉ちゃんが、ここが玄関先だということを一瞬忘れたかのように、甲高い声をあげて拘束された身体を弓なりにした。

 真夫は苦笑した。

 

「……そんなにお尻は気持ちいいの、あさひ姉ちゃん? そんな声を出していいの……?」

 

 真夫は意地悪く言うと、リモコンであさひ姉ちゃんのお尻の穴に入っているローターの振動を「微弱」から一気に「中」にする。

 

「んあああっ、ま、真夫ちゃん……。い、いやっ、こ、声が……声が出ちゃうの……あっ、あああっ……あっ……」

 

 あさひ姉ちゃんが全身を悶えさせて泣き声をあげる。

 必死で声を噛み殺そうとしているが、どうしても声が出てしまうようだ。

 快感に苦悶しているあさひ姉ちゃんは、本当に可愛い……。

 

「ローターをお尻から出すんだよ……。さもないと、お尻だけじゃなく、クリトリスを挟むようにして、ローターを貼りつけちゃうよ。そうすれば、絶対に声なんて我慢できないと思うよ……」

 

 真夫は耳元でささやいた。

 

「……あっ、ああ……、ま、真夫ちゃんの意地悪……」

 

 あさひ姉ちゃんは全身を真っ赤にしながら、腰を小刻みに震わせたまま、気張るような仕草をした。

 やがて、ローターの先があさひ姉ちゃんのお尻の穴からぷっくりと顔を出す。

 

「……偉いよ。もう少しだよ」

 

 真夫は言った。

 あさひ姉ちゃんの顔は、すっかりとうっとりと快楽に酔いしれている。

 振動を続けるローターがゆっくりと外に出てくる。

 

「頑張ったね。もう一回だ」

 

 真夫は指でぐいとローターを押し込み返した。

 ローターが、激しく振動したまま、指一本分が完全に潜り直す。

 

「んぐううっ」

 

 あさひ姉ちゃんの身体が弓なりに反り返った。

 

「もう一回だってば」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんの生尻を軽く叩いた。

 

「は、はいっ」

 

 すると、あさひ姉ちゃんがすっかり被虐に酔ったような口調で応じた。

 

 真夫がいきんでお尻から出せと命じると、あさひ姉ちゃんは泣きそうな顔をしながら、再び一生懸命にローターをお尻から出そうとする。

 だが、またもや半分ほど出たところで、一気に押し返す。

 あさひ姉ちゃんは悶え狂った。

 

 同じことを十回近く繰り返した。

 あさひ姉ちゃんは、完全に脱力してぐったりとなった。

 全身からは夥しい汗が流れている。

 かなりの荒い息だ。

 

 今度は、「もう一度」と命じる代わりに、もうひとつローターを取り出して、さらに指で押し込んだ。

 その振動のスイッチも入れる。

 

「あ、ああっ、ま、真夫ちゃん……こ、こんなのだめ……。な、中でふたつ……あ、暴れて……ああっ、ま、真夫ちゃん……」

 

 あさひ姉ちゃんが激しく悶えだす。

 そのため、拘束しているほうきがばたばたと動いて、大きく音が鳴った。

 真夫は慌てて、ほうきの柄を膝で押さえて動かないようにした。

 

「……ほら、暴れて恥ずかしいのは、あさひ姉ちゃんだよ。大人しくして……」

 

 耳元で言った。

 あさひ姉ちゃんは我に返ったように口をつぐんで、暴れるのをやめた。

 だが、すぐに腰が動きだして、しかも、さらに大きく震えだす。

 本当に気持ちいいのだろう。

 

 真夫は、さらにもう一個ローターを取り出した。

 これで、たまたま準備していたローターは終わりだ。

 三個目のローターもお尻に挿し込んだ。

 

「んああっ、ま、真夫ちゃん……」

 

 あさひ姉ちゃんは狂乱し始めた。

 だが、もちろん、それだけで終わりじゃない。

 真夫は、三個目のローターも振動をさせた。

 これで、あさひ姉ちゃんのお尻の中では、三個のローターが暴れまわっていることになる。

 

「んぎいいっ、んふううっ、ま、真夫ちゃん……ああ、真夫ちゃん──」

 

 あさひ姉ちゃんは食い縛った口からあられもない声を出した。

 真夫は、ローターが外に出てこないように、あさひ姉ちゃんのお尻の穴にテープを貼った。

 そして、再び、耳元に口を近づける。

 

「……“自分はお尻で感じるアナル奴婢です”……って繰り返して、あさひ姉ちゃん。いいというまでずっと続けるんだよ。そうすると、それが暗示になって頭に擦り込まれて、本当にお尻が一番気持ちのいい場所になるからね……」

 

 真夫は言った。

 喋り終わってから、何気なく口にした自分の言葉に、ちょっと面食らった。

 

 暗示が頭に擦り込まれる……?

 本当に……?

 

 そんなことは知らなかったが、口から溢れ出た言葉は、当たり前のように知っていた知識として、真夫の中に浸透した。

 

 こうやって限界まで追い詰めながら、自分で自分に言葉で繰り返させると、脳がそれを頭に刻み込み、本当に言葉のままの身体になるのだ……。

 なぜ、そんなことを思ったかはわからないが、突然にそんな知識が頭に浮かんだ……。

 そして、それは確かなことだという思いも不意に沸く。

 

 いまでも、それは強い認識として存在している。

 これは催眠術のようなものだが、実際にはまったく異なる……。

 

 洗脳……。

 むしろ、それに近い……。

 

 だが、洗脳だって……?

 どうして、真夫はそんなことを考えたのだろう。

 不思議な感じた。

 

 しかも、真夫には、それができる……。

 なぜか、そんな気がした……。

 そんなはずなどないのだが、不思議にもできるような感じになっている。

 

 よがり続けるあさひ姉ちゃんに接していて、もっともっと苦悶させるために、あさひ姉ちゃんをどうしようもなくお尻で感じてしまう、とってもエッチな身体にしてやりたいと強く考えた。

 それで、もうあさひ姉ちゃんが絶対に、真夫から離れられないように支配したいと思った。

 

 真夫はあさひ姉ちゃんが好きだ。

 あさひ姉ちゃんは、真夫のことを好きだと言ってくれるが、間違いなく、真夫はあさひ姉ちゃんに執着している。

 もちろん、玲子さんも大切だが、あさひ姉ちゃんは特別だ。

 

 誰にも渡さない。

 あさひ姉ちゃんを支配するのだ。

 

 もっと……。

 もっと……。

 

 それを強く思ったとき、突如としてそれができるという感覚が沸いた……。

 なんで……?

 

 真夫は首を傾げるしかなかった。

 

 まあいい……。

 

 真夫は、なぜか頭に浮かんだことを利用して、あさひ姉ちゃんをお尻で感じる「アナル奴婢」に本当にしてあげようと思った。

 とにかく、いまのあさひ姉ちゃんには、さっきのお父さんのことなんて忘れ去ってしまうような強烈な新しい記憶が必要だ。

 

 そして、あさひ姉ちゃんを真夫から離れられなくする。

 

 あさひ姉ちゃんは、真夫のものだ。

 ましてや、あんなあさひ姉ちゃんのお父さんのものなんかじゃない……。

 

 たとえ……。

 

「……さあ、あさひ姉ちゃん……。俺の言うことをきくんだよ……。さっきの言葉を繰り返して……。あさひ姉ちゃんをもっともっと恥ずかしい身体にしてあげる……。二度と俺から離れられないような……」

 

 真夫は促すように言った。

 

「に、二度と……? ほ、本当──? う、嬉しい……。あ、ああ……ま、真夫ちゃん……、う、嬉しい……。あたしを真夫ちゃんから離れられないようにして──」

 

 すると、あさひ姉ちゃんは、突然に極まったかのように、ぶるぶると震えた。

 ちょっと驚いた。

 

「……さあ」

 

 とにかく、真夫はもう一度言った。

 あさひ姉ちゃんは、大きく嘆息すると唇を動かし始める。

 

「……あ、あたしは……お、お尻で……か、感じる……ま、真夫ちゃんの……ア、アナル奴婢です……」

 

「いいというまで続けて──」

 

 真夫はお尻の穴に三個のローターを入れてよがっているあさひ姉ちゃんの股間に前側から手を伸ばすと、クリトリスをぎゅっと押した。

 

「あ、あんんんっ……。あ、あたしは……」

 

 あさひ姉ちゃんが腰を激しく振ってよがりだす。

 

「やめるな。言葉を続けろ──」

 

 真夫はあさひ姉ちゃん怒鳴った。

 あさひ姉ちゃんにお尻の快感を擦り込むのだ……。

 

「……あたしは……あっ、ああっ……ああ……ま、真夫ちゃん……アナル……奴婢……ああっ」

 

 こうやって、お尻に刺激を受けさせながら、激しい快感に襲わせて絶頂させる──。

 それが繰り返されれば、あさひ姉ちゃんは、今度はお尻だけでも達してしまう本当の「アナル奴隷」になる。

 しかも、口にしている自己暗示の言葉……。

 

 あさひ姉ちゃんを支配する。

 身体も心も……。

 

 真夫はそれを強く念じた。

 

「……あ、ああ……あ、あたしは……お、お尻で感じる……んんっ、だ、だめ……こ、声が……。お、お尻で感じる……。感じるようっ、真夫ちゃん──」

 

 あさひ姉ちゃんの声がだんだんと甲高いものになる。

 

 真夫は指に入れる力をじわじわと大きくした。

 なぜか、これであさひ姉ちゃんは、簡単に達してしまうことを真夫は知っている。

 この子供の頃の「秘密の行為」の再現は、あさひ姉ちゃんにとっては、「魔法の指」も同じなのだ。

 

「い、いくうっ──。あ、あたしは真夫ちゃんの──。アナル……ううううっ、ぬひいいっ──んぐうううっ」

 

 あさひ姉ちゃんの声がひと際大きくなった。

 絶頂するようだ。

 真夫はぎゅっとクリトリスにさらに力を入れた。

 

「……ま、真夫ちゃんの奴婢──。奴婢……です……あぐうううっ」

 

 あさひ姉ちゃんががくがくと震えた。

 

「う、うわああっ」

 

 だが、同時に真夫も悲鳴をあげていた。

 なぜか、あさひ姉ちゃんの感じているものが突如として、真夫の心にも入り込んできたような気がしたのだ。

 

 それは凄まじいほどの甘美感と幸福感だった──。

 

 これは、あさひ姉ちゃんの……?

 

 な、なに、これ──?

 真夫は狼狽した。

 

 あさひ姉ちゃんの心を感じる。

 それが真夫の中に流れ入って来る。

 しかも、次から次へと……。

 

 怒涛のように入って来る大きな感情に、真夫はパニックになりそうになった。

 

 あさひ姉ちゃんの孤独……。

 寂しさ……。

 嫌悪感…。

 心の飢え……。

 不安……。

 緊張……。

 悲しみ……。

 恐怖……。

 怒り……。

 

 あらゆる負の感情……。

 

 だが、一転して正の感情……。

 それは喜び……。

 

 たくさんの負の感情に比べれば、正の感情はただひとつ……。

 

 喜び……。

 あるいは、愛情と言い換えられるかもしれない。

 

 ただひとつ……。

 

 だが、たったひとつでも、無数の負の心を圧倒して、さらに余りある巨大な感情だ。

 それが真夫にも押し寄せる。

 

「うわあああっ」

 

 真夫は叫んでいた。

 

 襲ってくる。

 流される──。

 包まれる──。

 

 それがなにだかわかった。

 真夫自身だ。

 

 あさひ姉ちゃんの中にある真夫自身だ。

 それに対する凄まじいほどの悦びの感情に真夫は潰されそうになった。

 

「いぐううっ」

 

 あさひ姉ちゃんの声がした。

 

 意識を現実に戻す。

 あさひ姉ちゃんが拘束されている身体を限界まで反り返らせている。

 大きな絶頂感にあるのは明白だ。

 

 そして、真夫もまた大きな白いものに包まれる……。

 

 意識が……。 

 ああ……。

 

 しかし、真夫はその中に引きずり込まれそうになるのを辛うじて耐えた。

 津波のような感情の迸りを壁のようなもので閉鎖し、あさひ姉ちゃんとの心の繋がりだけを残す。

 

 なんとか成功する。

 

 真夫は我に返った。

 

 気がつくと、大きな絶頂感により、あさひ姉ちゃんは意識を失ったようになっている。

 そんなに大きな快感だったか……?

 

 真夫は、慌てて三個のローターの振動をオフにした。

 あさひ姉ちゃんの身体ががくりとなる。

 

「あ、ああ……ま、真夫ちゃん……」

 

 あさひ姉ちゃんは、すぐに目を開いた。

 その瞳は完全に潤んだようになっていて、真夫をうっとりと見つめてくる。

 

 そのとき、すぐ近くのアパートの扉がとんとんを外から叩かれた。

 

 真夫もどきりとしたが、あさひ姉ちゃんは大きく目を見開いた。

 なにしろ、あさひ姉ちゃんは、その扉に剥き出しの生尻を向けたまま動けないのだ。

 

「……朝比奈さん、回覧板よ」

 

 外から声をかけたのは、中年くらいの女性の声だった。

 おそらく、同じアパートか、あるいは、近所に住む人だろう。

 

 真夫はにやりと笑った。

 そして、ローターのリモコンをあさひ姉ちゃんの視界に入るようした……。

 

 さらにローターのスイッチをオンにするボタンの上に指を置く……。

 あさひ姉ちゃんが目を見開いたまま、激しく首を横に振った。

 

 真夫は微笑んだまま、スイッチをオンにした。

 微振動だが、あさひ姉ちゃんのお尻の中に入りっぱなしのローターが三個とも再び動き出す。

 

「はい、お待ちください」

 

 真夫は返事をした。

 そして、外から中が見えないように、扉を開いて外に出る。

 だが、少しだけ扉を開けておく。

 回覧板を持って来た中年の女性が、真夫の姿を見てびっくりした顔をしている。

 

「あらっ? 朝比奈さんは?」

 

 怪訝な表情をしている中年の女性に対して、真夫は引っ越しの手伝いにきたあさひ姉ちゃんの友人のひとりであり、あさひ姉ちゃんはトイレに入っていると応じた。

 

「引っ越し?」

 

 そのおばさんは、あさひ姉ちゃんがアパートを引き払うことは知らなかったようだ。

 真夫の言葉に、とても驚いている。

 

 一方で、真夫はちらりと扉の隙間から部屋の中に目をやった。

 よくは見えないが、あさひ姉ちゃんのお尻のようなものが見えた気がした。

 おそらく、こっちの声は聞こえるだろう。

 だから、あさひ姉ちゃんは少し扉が開いていることには気がついているはずだ。

 

 おそらく、必死で声を耐えているに違いない。

 ちょっとでも声が洩れれば、このおばさんは、強引にでも中を覗くかもしれない。

 真夫は、部屋の中でお尻の快感と必死で戦っているはずのあさひ姉ちゃんの姿を想像して、ローターの振動を「微弱」から「強」にした。

 

 がたん──。

 大きな音がする。

 かすかなあさひ姉ちゃんの呻き声も聞こえた気もした。

 

「あらっ? なにかペットでもいるの?」

 

 目の前のおばさんが、首を傾げながら中を覗こうとした。

 真夫はそれを身体で阻止し、「手伝いの仲間が何人かいます」と答えてから、回覧板を受け取った。

 すると、おばさんが、「じゃあ、朝比奈さんによろしくね」と言って戻っていった。

 

 部屋の中に戻った。

 あさひ姉ちゃんは、ぶるぶると震え続けていた。

 真夫は、今度はしっかりとアパートの扉を閉めた。

 ふと見ると、さっきの絶頂の直後以上の樹液が、大きく開いた股の真下の床に拡がっている。

 

「回覧板だそうだよ、あさひ姉ちゃん……。よく頑張ったね」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんの顔側に移動すると、真夫の顔が見えるようにした。

 あさひ姉ちゃんの顔は蒼白だった。

 それでいて、顔は淫情しきっていた。

 しかも、だらしなく涎も垂れて、充血した眼からは涙がぼろぼろとこぼれている。

 相当の興奮だったのは明白だ。

 真夫はほくそ笑んだ。

 

「……ま、真夫ちゃんのい、意地悪……。も、もう、とめて……。こ、怖い……。こ、声なんか、我慢できない……。あ、ああっ」

 

 あさひ姉ちゃんが必死の口調でささやく。

 その言葉の途中途中で、ローターにお尻を責められている快感で喘ぎ声が洩れ出てくる。

 本当に可愛い……。

 

「でも、いまので軽くいっちゃんたんじゃないの、あさひ姉ちゃん?」

 

 真夫はからかった。

 

「ああ、真夫ちゃんの意地悪……」

 

 すると、あさひ姉ちゃんの顔が泣きそうな顔になった。

 どうやら、図星だったようだ。

 

「意地悪じゃないよ──。どうして、そんなにお尻が感じるの、あさひ姉ちゃん? あさひ姉ちゃんが変態で、いやらしいからでしょう。だから、そんなに感じるんだよ。それを人のせいにするなんて──。これは罰だよ」

 

 真夫はぴしゃりと尻を手で叩いた。

 

「あ、ああっ」

 

 あさひ姉ちゃんが欲情した声をあげた。

 

「さあ、もう一度、さっき教えた言葉をいってごらん。もっと、もっと刻み込もうね」

 

 真夫はまたお尻を叩いた。

 そのとき、あさひ姉ちゃんの身体が硬直するように伸び、そして、小さく震えた。

 もしかして、いまのでもいった……?

 

 これには真夫はちょっと驚いた。

 

「……あ、あたしは……ま、真夫ちゃんの……ア、アナル……奴婢……で、です……。あ、あたしは……」

 

 あさひ姉ちゃんが小さな声で呟き始める。

 完全に酔ったような感じだ。

 真夫は満足した。

 十回ほど繰り返させる。

 真夫は、もう終えていいと言った。

 

 これでいい……。 

 

 おそらく、「真夫のアナル奴婢」という言葉は、あさひ姉ちゃんの心と身体にしっかりと刻み込まれた。

 根拠はないが、そんな気がするのだ。

 とにかく、真夫は満足した。 

 

「……よくできました……。ご褒美だよ……。まだ、後ろは無理と思うけど、いつかお尻でもセックスするからね。なにしろ、あさひ姉ちゃんは俺のアナル奴婢だものね」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんの背後に回ると、素早くズボンと下着をおろして、あさひ姉ちゃんのどろどろに濡れたヴァギナに怒張を貫かせた。

 

 あさひ姉ちゃんの粘膜に包まれるた穴の中は、とても熱くて、びっくりするほどにびしょびしょだった。

 そして、興奮したあさひ姉ちゃんがぐいぐいと一物を締めつけてくる。

 しかも、皮膚の薄い壁越しにローターの振動も伝わって来る。

 真夫もさすがに、いきそうになり、すぐには動かさずに、少しのあいだ静止しようとした。

 

「だ、だめえっ、真夫ちゃん──。ま、真夫ちゃん──」

 

 しかし、あさひ姉ちゃんが、快感をむさぼるように腰を激しくがくがくと振った。

 真夫は苦笑して、ぴしゃりとあさひ姉ちゃんの横尻をはたいた。

 

「動くんじゃない、雌犬め──」

 

 真夫は罵倒した。

 もちろん、演技だ。

 あさひ姉ちゃんが歯を噛み鳴らすような仕草をしながら、悶えるのをやめた。

 だが、すっかりと追い詰められているのは間違いないようだ。

 

「……も、もっと……」

 

 そのとき、あさひ姉ちゃんの口から無意識で迸ってしまったような言葉が洩れた。

 真夫はにやりとした。

 

「雌犬め、だったら、声を張りあげろ──。どこまでも聞こえるような声でよがってみせろ──」

 

 真夫は怒張を貫かせたまま、反対の尻を横から叩いた。

 

 もちろん、ただ辱めるだけの言葉だ。

 いくらなんでも、本当にあさひ姉ちゃんが、薄いアパートの壁があるだけのこの部屋で、大きな嬌声をあげるとは思っていない。

 

「あ、ああ、き、気持ちいいの……。ま、真夫ちゃん、気持ちいい──、いぐうっ、いくううっ」

 

 だが、その直後、あさひ姉ちゃんは本当にどこまでも聞こえるような大声で叫んだ。

 真夫は心の底から驚愕して、あさひ姉ちゃんの口を手で塞いだ。



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 第27話  最後の挨拶

 学園の敷地内から小路で繋がった場所に、森に囲まれた一軒の洋館があり、そこが学園の理事長であり、豊藤グループの総帥である豊藤龍蔵の屋敷だ。

 学園内とも地下道で繋がっているが、今日については、表の玄関から玲子はやって来た。

 時刻は、そろそろ陽が暮れかかっていて、夕方から夜になろうとしている頃だ。

 約束の刻限は、もっと前だったが、急いで処置しなければならない案件が起こったため、この時間になってしまった。

 学園からの地下通路ではなく車でやって来たのも、案件を処置するために外に出ていたからだ。

 

 玲子の運転する車が洋館の堅牢な鉄門の前に停まると、自動的に門が開いた。

 そのまま通過して洋館の前庭に車を置く。

 洋館は二階建てであり、地下道に繋がっている地下階を含めて三層になるが、全世界の富を牛耳る豊藤グループの総帥の屋敷としては、こじんまりとしたものだろう。

 もともとは、龍蔵の愛人の時子に与えた屋敷であり、龍蔵は半ば隠居状態になってから、この洋館に住まいを移していたのだ。

 本来は時子ひとりが暮らしていた住まいなので、屋敷と庭園を管理する者も三人が住み込みでいるだけであり、龍蔵の暮らしぶりは質素なものだ。

 

 玄関の前に立って、玲子であることを告げる。

 一見しただけではわからないが、鉄門を通過するときに引き続いて、ここでも厳重なセキュリティチェックが行わていれる。

 隠しカメラによる人物確認、声紋及び眼球照合、金属及び火薬探知機による手荷物確認など、そのチェック数は十以上に及ぶ。

 透視撮影により服の下についても確認されている。

 それをコンピュータ制御で行い、あらかじめ登録された者でなければ絶対に扉は開かない。

 

「どうぞ」

 

 扉が開いた。

 出迎えたのは、意外にも秀也が学園で随行従者として使っている正人だ。

 もっとも、これまで学園には、それほど出入りすることのなかった玲子は、正人とは面識があるという程度だ。

 秀也が護衛としても使っていて、印象としては、秀也に影のように寄り添う青年というものだ。秀也によれば、女には興味のないゲイであるという話だが、確かに秀也に受ける調教にこの男が同席することはあっても、正人から「男」を感じることはなかった。

 その辺りも、秀也がそばに置いている理由かもしれない。

 いずれにしても、正人がここにいるということは、秀也が来ているということだろう。

 

「みなさん、地下でお待ちですよ」

 

 正人がくすくすと笑った。

 その笑いには、なんとなく玲子を小馬鹿にするような響きを感じる。

 一応玲子は、ずっと龍蔵の秘書の仕事をしてきたので、正人はそれなりの礼節を持って接するが、正人にしてみれば、玲子は、正人が仕える秀也の「奴婢」にすぎない。外面以上の敬意を玲子に示す理由は皆無だろう。

 

 ただ、ふと見ると、正人の股間の部分に、白く変色した染みのようなものがある。玲子がそこに視線をやったのに気がついたのか、さっと正人が顔を赤らめた気がした。

 玲子は、この青年がそんな反応をしたのに初めて接したので、ちょっとだけ驚いてしまった。 

 

「わかりました」

 

 とにかく、玲子は正人に先立って、地下に降りる階段に進んだ。

 屋敷の地下の大部分は、いわゆる「調教室」だ。

 また、この洋館の住人である龍蔵や時子が一日の大部分をすごす居室も、その地下階にある。

 

 地下に降りて廊下を進んでいくと、女の悲鳴が轟いた。

 悲鳴が聞こえてきたのは、「プレイルーム」からだ。

 玲子が部屋の前に辿り着くと、扉が開いて秀也が出て来た。

 

「おう、遅かったな。伯父貴は中だ。時子さんの躾が始まっていてな。中で待て」

 

 秀也が言った。

 玲子がここにやって来たのは、龍蔵に呼び出しを受けたからだ。

 約束の刻限から一時間ほど遅れているので、いつもの面談室ではなく、ここに案内されたのか、あるいは、最初からここに玲子を通すつもりだったのかは知らない。

 

「あ、あの秀也さん……。報せについては感謝いたします。ありがとうございました」

 

 玲子は頭をさげた。

 今日の昼間、あの恵の父親が、恵と真夫を待ち伏せて因縁をつけたと教えられたのは秀也からの連絡だった。

 秀也によれば、たまたま通りかかったときに、恵のアパートの前で真夫を脅すように怒鳴っているのを目撃したのだそうだ。偶然に秀也が通りかかったというのは信じられることではないが、いずれにしても、それが事実であることは、すぐにわかった。

 その処置をするために遅れたのだ。

 

 いまの玲子には、龍蔵の呼び出しよりも、真夫たちに関する案件処置が優先する。

 それで、少し遅れると事前に連絡し、必要な対処をしてきた。

 ともかく、真夫も恵も大事には至ってないようだ。

 それについては安心した。

 

「へっ、お前の落ち度だぞ。詰めが甘いからそうなるんだ。それで、あのろくでなしはどうした? コンクリートにでも埋め込んで、海にでも沈めてきたか?」

 

 秀也が笑った。

 

「仮にも恵さんの父親ですから、そんなことはしません……。ただ、彼には二度と日本に戻って来れないように処置します。今夜中には旅立たせます」

 

「まあ、俺にはどうでもいいか……。それにしても、あの小僧が恵の父親に脅されるような事態を許したのは、お前のミスだ。きっちりとお仕置きを受けろや」

 

 確かにそうだ。

 玲子の失敗に間違いない。

 この後、真夫たちに会うことにもなっているので、そのときに、今回の処置について説明し、ふたりへ謝罪をするつもりだ。

 同時に、お仕置きという言葉に、玲子は先日の糸吊りの罰のことを思い出していた。

 あんなに壮絶で苦しい思いをさせられたのに、玲子にはあれについては、甘美で砕けるような悦びの記憶しかない。

 

 今回はどんな罰なのだろう。

 

 玲子は不謹慎だと思いながら、真夫の「罰」を待ち望むような自分の気持ちに気がついていた。

 

「はっ、あの玲子も変われば変わるものだな。あの小僧の罰が、そんなににこにこするほど嬉しいかい。呆れたな」

 

 秀也が吐き捨てるように言った。

 どうやら、顔に感情が出ていたようだ。

 玲子は慌てて、表情を隠した。  

 

「正人はここで待て」

 

 秀也は玲子だけを促して、プレイルームの中に入れた。

 

「ひぎゃあああ」

 

 部屋に入ると、あのナスターシャが股間を押さえて、床でのたうち回っていた。

 ナスターシャは素っ裸だ。

 ただ、首に赤い首輪が嵌められている。

 そして、そのナスターシャがうずくまっている正面には、並んだ革椅子に腰かけている龍蔵と時子がいる。

 浴衣姿の龍蔵は、にこにことナスターシャが苦しむ様子を眺めており、その隣に座っている時子は、ナスターシャに向かって、スマートフォンを思わせる器具を向けている。

 その時子が操る器具がなんであるかは、玲子にはすぐにわかった。

 

 クリリングの操作具だ。

 時子は、ナスターシャの股間に埋め込んだクリリングを使って、股間に電撃を浴びさせているのだ。

 やはり、ナスターシャもまた、騙されて陰核の真下の股間にクリリングを埋められたようだ。

 

「ひぎいいいっ、ぐああああっ」

 

 ナスターシャが獣のような声を出し続ける。

 しかし、床で暴れまわるナスターシャに対し、龍蔵も時子も鬼畜な笑みを注ぐだけだ。

 

 それにしても長い……。

 

 一瞬だけでも怖気を覚える股間への電撃を玲子が入って来てからだけでも、すでにずっと流しっぱなしだ。

 玲子は無意識のうちに、自分の股間をスカートの上からぎゅっと押さえていた。

 すると、横で秀也が喉の奥で笑った。

 

「心配するな。もう、ここには、お前に手を出すのはいねえよ。」

 

 秀也が笑った。

 龍蔵と時子が座る椅子の横に同じような革椅子がひとつある。また、その隣には、さらに横長のソファーがあった。

 秀也は龍蔵の横の革椅子に座り、玲子にソファーに座るように示した。

 

 そのあいだも、ナスターシャの悲鳴は続いている。

 あまりもの長い電撃に、ナスターシャの目は白目を剥き、口からは泡のようなものが出てきた。 

 

 ナスターシャの股間から尿の水たまりが拡がった。

 すると、やっとナスターシャががくりと脱力した。

 

「今度は堪えただろう、ナスターシャ。さあ、ちんちんのポーズだ。これから、生意気なお前の奴隷の挨拶は、ちんちんのポーズにしてやるよ。あたしか龍蔵様に会ったら、例外なく、そのポーズをしな」

 

 時子は言った。

 ナスターシャがよろよろと立ちあがり、尿の水たまりを避けるように、その前に両脚を左右に拡げて腰を床すれすれに落とした。

 いわゆるM字開脚のポーズだ。

 そして、両手はヴァギナの襞を掴んで左右にぐいと引っ張った。

 正面に腰かけている玲子には、ナスターシャの股間に、まったく陰毛がないことがわかった。

 

 おそらく、クリリングを埋められる手術の前に、全部抜かれて永久脱毛処置をされたのだろう。

 玲子もそうだった。

 

 産婦人科の開脚椅子みたいなものに脚を拡げて拘束され、服従の誓いを強要されながらも、一本一本、龍蔵と秀也と時子に抜かれたのだ。

 あれが最初の洗礼だった。

 服従を誓って、クリリングを埋めてくれと口にすれば、痛くないように抜いてやると繰り返しささやかれ、玲子が屈服するまで、毛抜きで一本ずつ抜かれた。

 玲子が服従の言葉を口にしたのは、たしか半分ほど抜かれたときだったと思う。

 

「もう伯父貴に話しかけていいぜ。いま、ナスターシャには、お前と俺が知覚できないように、操心術で擦り込んだ」

 

 秀也が言った。

 

「擦り込み?」

 

 思わず玲子は口にした。

 いま、玲子の存在が認識できないようにしたと秀也は言ったか?

 そんなことも操心術で可能なのか……。

 玲子は改めて、それを悟った。

 

「なんだ、すっとぼけたような顔をしやがって。お前自身、何度も経験しているだろう……。まあ、もっとも、操心術にかけられていた側じゃあ、なんにもわからねえか……。じゃあ、折角だから、教えておいてやる。お前が伯父貴に調教を受けていたときの大部分は、俺も同席していた。だけど、ちっとも覚えてないだろう。操心術の擦り込みというのはそういうもんだ。記憶を操作するんだ」

 

 玲子の不審顔に気がついたのか、秀也が横から声をかけた。

 だが、玲子はその内容に驚いてしまった。

 龍蔵からの調教はかなりの回数になるが、そのほとんどについて、秀也が一緒にいたという記憶はない。

 本当だろうか……。

 まあ、嘘の多い秀也だけに、どこまでが真実で、どこからが出鱈目なのかわからないが……。

 

「……玲子」

 

 そのとき、龍蔵がこっちを向いた。

 

「は、はい──」

 

 玲子は慌てて立ちあがって、直立不動の姿勢になった。

 龍蔵はにこやかに笑って、座れという合図をした。

 玲子は迷ったが、秀也にも声をかけられて、とりあえず座った。

 

 だが、龍蔵には、礼を言わなければならないことがたくさんある。

 

 ──玲子を龍蔵と秀也から解放して、真夫の奴婢として仕えるように命令してくれたこと……。

 ──真夫と恵の窮状を救ってくれたこと……。

 ──ふたりに温情を与え、自由にグループの資金や施設を使用することを許してくれていること……。

 ──なによりも、玲子を信頼して、真夫をサポートする役割を与えてくれたこと……。

 ほかにも……。

 

 玲子はとりあえず、まずは真夫の奴婢にしてくれたことに対して、礼を言った。そして、続いて感謝の気持ちを伝えようとしたところで、龍蔵から「もう、わかった」というように手で合図された。

 玲子は口をつぐんだ。

 

「……時子から聞いていると思うが、お前が真夫の忠実な家臣としてやってくれるということを理解したので、お前のこれまでの職を解き、学園の理事長代理の職を準備した。これからは、学園の切り盛りはお前に任せる。ただし、勘違いするな。お前の本来の役割は、学園の管理ではない。それは、あくまでも二の次だ。それよりも、真夫をしっかりと育てろ。あれを支えて指導しろ。とにかく、真夫が学ぶべきなのは、まずは自分自身の力量によって、他人を支配することを覚えることだ。それまでは、豊藤龍蔵の血を引いていることは、本人のみならず、誰にも口にしてはならん。豊藤の後継者とわかれば、誰もが真夫にひれ伏すのはわかっている。だが、真夫には己の力のみで、他人を支配する力量を身に着けてもらいたいのだ」

 

「承知しました、龍蔵様」

 

 玲子は頭をさげた。

 いずれにしても、玲子には、まだ龍蔵の操心術が効いていて、真夫の血については、余人はおろか、真夫自身にも教えることができない。

 教えようとすると、頭が白痴にでもなったように、ぼうっとしてなにも考えられなくなるのだ。

 

「また、今後は、お前とは直接会わん。用件があるときは、ほかの企業主たちと同様に、まずは秀也を通せ。指示が必要だと思えば、秀也を通して伝える。今度、この屋敷に出入りすることも許さん」

 

「わかりました」

 

 これまで玲子がやっていた龍蔵の「秘書」の役割は、秀也が務めることになる。実際には、秀也というよりは、このナスターシャなのだろう。

 そのために、秀也の部下として連れて来られたはずだ。

 

 玲子はナスターシャに目をやった。

 ナスターシャは、M字開脚をしたまま自分の手で股間を開くという行為をずっと強要され続けている。本当に玲子のことは認識できないようだ。

 もしも、玲子のことがわかるのであれば、自分が調教を受ける光景を玲子に見物されることに、あの気性のナスターシャが反応しないわけがない。

 

 そのとき、ナスターシャが小さな声でなにかを呟いた。

 フランス語だ。

 ナスターシャが、母国語で時子に対する侮蔑的な言葉を口にしたのだ。

 

「ひぎゃあああ」

 

 次の瞬間、ナスターシャがひっくり返った。

 時子が電撃をオンにしたようだ。

 

 ナスターシャは、さっき尿を漏らした場所の前で姿勢を取っていたので、真後ろにひっくり返ることで、身体を自分の尿まみれにしてしまった。

 そのナスターシャに、時子がフランス語で罵倒している。

 

 馬鹿な女だ。

 フランス語なら、老婆の時子には意味がわからないと思ったのだろう。

 だが、時子は長年にわたり、龍蔵に認められて、性生活でも、仕事でも、ずっと龍蔵のパートナーを務めた女だ。有能さでは並みの女ではない。

 

 電撃が止まった。

 時子に怒鳴られて、ナスターシャは再び、さっきの「ちんちん」のポーズになった。

 

「ふあっ、はああっ」

 

 開脚をしているナスターシャの身体ががくりと揺れた。

 その身体がぶるぶると震えだし、あっという間に赤色に染まっていく。

 

「姿勢を崩すんじゃないよ、ナスターシャ。理由なく姿勢を解けば、また電撃でのたうち回ることになるからね」

 

 時子がクリリングの操作具を手に持って笑っている。

 今度は電撃ではなく、振動を開始する信号を送ったのだろう。 

 ナスターシャは、泣きそうな顔を淫情に染めながら、身体をがくがくと震わせている。

 手で開いている股間からは、ナスターシャの愛液がどろりと流れてきた。

 

「……なかなか、頑張るじゃないか。だったら、これはどうだい?」

 

 時子がリモコンを操作した。

 ナスターシャが絶叫して、そのまま再びひっくり返った。

 振動を「強」にしたに違いない。

 クリリングの「強」振動は、絶対に妨げることのできない強制絶頂だ。

 倒れたナスターシャは、大きな嬌声をあげて悶絶した。

 絶頂したのだろう。

 次の瞬間、またもや股間を押さえて暴れ始める。

 時子が電撃を流したのだ。

 自分ではないとはいえ、一年前を思い起こさせる容赦のない時子の責めに、玲子は自分の身体に、どうしようもない恐怖が帯びるのを感じた。

 

 さらに時子は、今度はリモコンではなく、椅子にある操作具に手を触れた。

 すると、床から一本のバイブレーターが出現した。

 色が黒いことを除けば、グロテスクなくらいに本物そっくりの形状であり、さらにクリトリスに当たる部分に小枝が出て、刺激を追加するようになっている。

 それが床から生えて、しかもすでに激しく振動をしている。

 

「ナスターシャ、これを根元まで挿すんだ。さっきのちんちんのポーズでね。そうすれば、電撃がとまる。ただし、ちょっとでも、根元から股が離れれば、そのクリリングが電撃を再開するからね」

 

 時子の言葉に、電撃を浴び続けているナスターシャが、懸命に張形を股で咥えようと這いつくばって進んだ。

 やがて、なんとか股間まで挿入することに成功し、ナスターシャがほっと脱力する。

 ただ、すぐに振動が与える快感にM字開脚の姿勢で悶えだす。

 

「じゃあ、龍蔵様に挨拶だ。そのまま、いいというまで龍蔵様のお道具を奉仕するんだ。精を飲めば、今日の調教は終わりにしてやるよ。そのまま明日の朝まですごしていい。ただし、根元から張形を離せば、電撃が発生することにはかわりないけどね……。生意気なお前へのご褒美にバイブの振動は強めにしておいてやるよ。朝までそうやっていれば、かなり素直になっていることだろうよ」

 

 時子が笑った。

 あのまま、朝まで……。

 玲子はぞっとした。

 

 そういえば、玲子も同じことをさせられた。

 ああやって股間にバイブを挿入したまま、本当に朝までいさせられるのだ。

 玲子がやられたままの責めをナスターシャも受けるとすれば、彼女も、これから三日間、一睡もすることを許されずに、快楽調教を続けさせられるのだろう。

 玲子も、それですっかりと逆らう気持ちを奪われてしまった。

 

 龍蔵が浴衣を左右にめくりながら立ちあがった。

 だが、思い出したように玲子に振り返った。

 

「……そうだ。お前の個人口座にとりあえず二億振り込んだ。お前については、これからは真夫に仕えてもらうので、手切金というわけではないが、これまでの貢献料だと思ってくれ。真夫を頼むぞ」

 

 龍蔵は言った。

 その金額に驚愕した。

 とにかく、玲子はお礼を言った。

 すると龍蔵は、玲子にもう行っていいという仕草をした。

 玲子は立ちあがった。

 

「じゃあな、玲子──。小僧に躾けられろよ」

 

 部屋を出るとき、秀也が声をかけてきた。

 玲子は苦笑した。

 

 そして、扉の前に移動して、振り返る。

 ちょうど龍蔵が、ナスターシャの口に浴衣の下の一物を咥えさせようとしているところだった。

 龍蔵の股間はしっかりと勃起していた。

 

 そういえば、数日前、秀也が龍蔵はもう不能だと話したことを思い出した。

 だが、見たところ、その感じはない。

 しっかりと龍蔵の股間の一物は大きくなっている。

 

 やっぱり、嘘の多い少年だ。

 

 玲子は秀也のことをそう思った。

 

「本当に、お世話になりました、龍蔵様」

 

 玲子は、心からの感謝の気持ちを込めて、龍蔵に頭を深々とさげた。



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 第28話  懲罰ふたり

 玲子は、恵とともに食事の支度を整えた二台のワゴンを隠し部屋のプレイルームに運び込もうとしていた。

 拘束はされていないものの、一糸もまとっていない。

 一方で、隣の恵も服は着ていなかったが、股間に革の下着だけは身に着けている。

 

 このプレイルームに置いてあった調教用の下着であり、縁に金属のワイヤーが入っていて外側から手が入れられないようになっているとともに、後方の基盤で電子ロックをかけるようになっていて、誰かが遠方からリモコンで解除信号を送らなければ、外すことができないというものだ。

 

「んふっ……」

 

 ワゴンを押す恵の身体が玲子の横で艶めかしく動く。

 さっき、真夫から受けた説明によれば、恵のお尻には細いアナルバイブが挿入されているらしい。

 それが小さく動き続けていて、恵に淫らな刺激を与え続けているようだ。

 恵の肌はすでに真っ赤に染まっている。

 

「恵さん……。ほら……気をつけないと、がに股になっているわよ……」

 

 玲子はワゴンを押しながら小声でささやいた。

 お尻に挿入されている異物が気になるらしく、恵はどうしていも無意識に股間を開き気味にするような歩き方をしてしまうようだ。

 ただ、「アナル拡張」の調教は時間をかけるし、その調教が始まった最初の頃は、玲子も秀也から四六時中アナルバイブを入れっぱなしにする生活を強いられた。

 だから、できるだけ自然な姿勢ができるように気をつけなければならないのだ。

 玲子の忠告は、「奴婢」の先輩としての助言のようなものだ。

 

「は、はい……。んんっ」

 

 恵が慌てたように脚を閉じる。

 そのとき、恵が喉を軽くのけ反らして、甘い息を吐くような仕草をした。

 股間やお尻に異物を挿入して歩くときに脚を狭めれば、どうしても穴が収縮して、挿入されている異物を締めつけてしまう。

 だから、感じてしまうのだ。

 だが、それを耐えて、表に出さないようにするのも、「奴婢」の「たしなみ」のようなものだ。

 

 それにしても、恵はお尻に異物を挿入されたのは、今日が初めてだと言っていた。

 最初であれば、アナルバイブには快感などなく、痛みだけがほとんどのはずだ。

 しかし、恵は、明らかに欲情しているように色っぽく顔を染めているし、乳首だってしっかりと勃起している。

 玲子にはそれが不思議だった。

 だから、小さな声で訊ねてみた。

 

「……ま、真夫ちゃんだからだと思います……。真夫ちゃんがしっかりとクリームを塗ってくれましたし、あ、あたしが受け入れられる程度の太さのものから開始してくれました……。それに、これを入れる前に、真夫ちゃんが一時間以上もかけて指で触ってくれたんです……。だから、いまでも中に入っているのが真夫ちゃんの指のような気がするんです……。真夫ちゃんの指だと思えば、痛くなんてないです……」

 

 恵はうっとりとした表情で答えた。

 

「は、はあ……」

 

 玲子は自分のときとは、まるで異なる恵の「初アナル調教」に呆気にとられてしまった。

 かつて、玲子が秀也から本格的なアナル調教を受けたときは、屈辱と痛みしかなかった。

 やがて痛みは消え、そこからしっかりと快楽を覚えるようになったが、やはり排泄器官を男の性欲解消の場所として使われるのは、大きな恥辱だった。

 しかし、恵は、それを恍惚とした「マゾ」の悦びで受けとめているようだ。

 

 ともかく、真夫と恵は、今日から恵をアナル調教すると決めたらしい。

 とりあえず、今日から少しずつ挿入する張形を太くしていき、真夫のものを問題なく受け入れるとともに、しっかりと快感を覚える器官に変えていくのだと真夫は言っていた。

 もっとも、調教役の真夫も、誰かにアナル調教をするのは初めてなので、「あさひ姉ちゃんと一緒に試行錯誤だよ」と笑っていた。

 

 それを教えられたときの玲子の心境は、ふたりの初々しい「調教」に微笑ましい感情に襲われるとともに、嫉妬のような気持ちにもなった。

 玲子が一年かけて受けた「マゾ奴隷」としての調教をこれから受けることになるのであろう恵は、嫌悪感の欠片もなく、それを大きな喜びとして受け入れていて、なによりも、とても幸せそうだ。

 

 それにしても、淫具をお尻に入れる前に、一時間も指でほぐした?

 玲子は、そんなことはしてもらえなかった。

 

 真夫に一時間も……。

 

 本当に羨ましい……。

 

「おいしそうだね。じゃあ、玲子さんはテーブルの上に乗って」

 

 プレイルームに到着すると、待っていた真夫が真っ白いテーブルクロスを敷いた卓を指さして、玲子に言った。

 人ひとりが楽に寝ることのできる長方形のテーブルだ。

 

 特に拘束をするものはない。

 玲子は真夫が準備してくれていた椅子を使って、テーブルに乗った。

 そして真夫の指示で両手を体側に添わせて、やや脚を開き気味にして仰向けに横になった。

 

「じゃあ、あさひ姉ちゃん、ワゴンの料理を玲子さんの身体に置いていってよ。玲子さんを皿だと思って、じかに盛りつけるんだよ」

 

 真夫が笑った。

 真夫はTシャツと短パンというラフな姿であるものの、この三人の中ではしっかりと服を着ている。

 裸身の真夫も好きだが、玲子は服を着ている真夫の前で裸で辱められるという状況が実は好きだ。

 相手がちゃんと服を着ているのに、こっちはまったくの全裸……。

 それが、まさに「調教」という気持ちになるからだ。

 

 これが、今日、恵の父親が恵に接触することを許してしまった玲子に対する真夫の懲罰だ。

 つまり、「女体盛り」の「皿」になるということだ。

 それにしても、これが本当に「懲罰」なのだろうか……。

 玲子は疑問に思ってしまう。

 

 玲子は、真夫や恵が食する食事の女体盛りにされると言われて、むしろ興奮している自分を発見していた。

 これでは、むしろ懲罰を望むようになるのではないか……。

 真夫が相手だと、どうしても自分の感情をコントロールできない玲子は、真剣にそれが心配になりそうだ。

 

 「懲罰」と言われて、玲子の頭に浮かぶのは、学園に隣接する龍蔵の屋敷で惨めに股間に電撃を流されて七転八倒していたナスターシャの姿だ。

 あれは、まさに一年前の玲子自身の姿であり、そして、それから一年間、ずっと続けられた秀也から懲罰を受ける玲子そのものだ。

 

 そして、ふと思った。

 そういえば、真夫は、一度もクリリングを操作するリモコンを玲子に対して使っていない……。

 リモコンそのものは、真夫は大切に保管している気配であるが、振動や電撃で玲子の身体を操作しようという様子はない。

 真夫が好色で、さらにSM趣味があり、だから、クリリングのような淫具で女を嗜虐することに興味がないわけでもないとは思うが、なにか理由があるのだろうか……。

 機会があれば、訊ねてみたい……。

 それに、真夫になら……。

 

「の、乗せますね……」

 

 恵が声をかけたので、玲子は思念をやめた。

 真夫と恵が二つのワゴンに準備した料理を次々に玲子の裸身に移し替えていく。

 料理によっては、冷たかったり、あるいは、少々熱かったりする。

 どうしても、身体を揺すりそうになり、玲子は懸命に身じろぎしないように我慢しなければならなかった。

 

「……お臍には刺身用の醤油をいれようか……。玲子さんはお臍もいい感じにへこんでいるから、十分に醤油が入ると思うよ……。それから……」

 

 真夫が指図をして、あっという間に玲子の身体には、さまざまな料理でいっぱいになった。

 

「もう乗らないかな……。じゃあ、玲子さん、静かに脚を閉じてくれますか……。ただし、お股にこれを咥えてからね」

 

 すると、真夫がくすくすと笑いながら、長さが十五センチほどの一本の太いソーセージを手に取った。さらに、そのソーセージの表面にたっぷりとマヨネーズをたっぷりと塗った。

 

「こんな料理を乗せられただけで済むとは思いませんでしたよね、玲子さん。さあ、これを股に入れて脚を閉じるんです。もちろん、ソーセージも後でみんなで食べるからね」

 

 驚いたが、もちろん拒否することなどできないし、その気もない。

 真夫はゆっくりとマヨネーズをまぶした太いソーセージを玲子の股間に埋めていく。

 

「ん……あっ……んは……」

 

 玲子は身体を反らしたいのを我慢して、声だけで喘いだ。

 太いソーセージがマヨネーズを潤滑油替わりにして、膣の奥に入って来る。

 

「……勝手に外に出したら駄目ですよ、玲子さん……。そうしたら、本当の罰だよ……」

 

 真夫が小声で耳元でささやいた。

 玲子はぐっと股間を締めつけて、脚を閉じた。

 真夫は恵に指示して、閉じた玲子の股間にも料理を並べさせた。

 

 


 

 

 料理を玲子さんの裸体に乗せ終わると、真夫は恵に両手を背中に回すように命令した。

 恵は、気を抜けば、呆けてしまいそうになる気を引き締めて、言われたとおりにした。

 背中でがちゃりと音がして、両手首に手錠がかけられたのがわかった。

 

 それにしても……。

 

 なんともいやらしいお尻の淫具だった。

 今日の夕食前にホテルに戻って来て、真夫に挿入されたものだ。

 決して太くはないし、蠕動運動も小さなものだったが、その代わりに、ずっとバイブは静かな振動を続けていて、休むことなく、恵のお尻の中で動き続けている。

 

 それが恵を悩ましていた。

 

 痛くはない……。

 むしろ、気持ちいい……。

 

 なにしろ、これを挿入する前に、真夫はかなり長い時間をかけて、潤滑油を塗った指で、恵のお尻の穴をほぐしていたし、それだけじゃなくて、いま動いている淫具の動きは、その前に真夫が延々と恵のお尻をほぐすためにしていた指の動きそのものなのだ。

 

 おそらく、真夫は後で淫具を挿入するつもりで、その動きに慣れさせようと、同じ動きで恵のお尻をほぐしたのだと思うが、そのために、この淫具の動きは、まるで真夫が、相変わらず恵のお尻を弄ってくれているような錯覚をさせてしまうのだ。

 だから、ともすれば、恵はアナルバイブに気を取られて、ぼうっとなってしまう。

 

「さあ、あさひ姉ちゃん、食事にしよう」

 

 真夫が玲子さんが皿になっているテーブルの前に準備した椅子に腰かけ、さらに恵を自分の膝の上に招き寄せた。

 

「ああっ」

 

 真夫が恵の胸に顔を埋めると、音が鳴るくらいに強く恵の胸を吸ってきた。

 

「あっ、ま、真夫ちゃん、か、感じちゃう……」

 

 恵は喘ぎながら真夫の膝の上で顔をのけぞらせた。

 そして真夫は、さらに恵がはかされている革の下着の股間の上に手を置き、革の内側を恵の股間に押しつけるようにぐいぐいと回してきた。

 

「あんっ」

 

 革越しに与えられる刺激は大したものでないはずなのだが、真夫の愛撫だと思うと、もうそれだけで、あっという間に革の下着の中で恵の果肉が弾けて、自分でも恥ずかしいくらいに蜜が漏れ出る。

 

 本当に真夫が相手だと、恵の身体は狂ったように反応してしまう……。

 恵は真夫の膝の上でひたすらに悶え続けた。

 

 しばらく、恵の口から甘い嬌声を引き出させてから、真夫は玲子さんの腹の上から刺身を摘まむと、臍の醤油だまりにつけてから、ぺろりと食べた。

 

「うん、おいしい……。玲子さんの汗がよく染みている。こっちはどうかな?」

 

 真夫は今度は乳房あいだにあるステーキ肉を手で取り、玲子さんの乳首に擦りつけるようにした。

 ステーキ用にソースを乳首にたっぷりとつけていて、そのソースを肉に移したのだ。

 

「んんっ」

 

 玲子さんがくすぐったそうに身体を軽くひねった。

 それで身体の端にあった食べ物が幾つか落ちた。

 玲子さんは、真夫にたしなめられて、慌てたように身体を硬直させ直していた。

 

「あさひ姉ちゃんにもあげるね」

 

 真夫は、ステーキをもうひと切れ摘まんで、ソースを乳首から取り、口に放り込んでから数回噛み、恵の口に唇を重ねてきた。

 

「んぐ」

 

 口を開くと、真夫の唾液とともに、咀嚼された肉が恵の口に入って来る。

 肉は美味しかった。

 一流ホテルのルームサービス用の上等な肉であるということもあるが、なによりも、真夫の匂いのこもっているものだと思ったら、ぞくぞくするような快感を覚えた。

 

「さあ、今度は、玲子さんにも食べさせてあげて、あさひ姉ちゃん。俺たちばかり、食べてちゃあ可哀想だよ」

 

 真夫が再び恵の口の中に咀嚼した肉を入れて来た。

 恵はそれを二回くらい噛み、真夫の膝から下りて、玲子さんの顔に口を近づける。

 

「あ、ありがとう、恵さん……」

 

 玲子さんも三人で口移しで食べ物を分け合うという状況にうっとりとなっているように見えた。

 

「今度はミネラルウォーターだ。今度はあさひ姉ちゃんが最初だよ」

 

 真夫がミネラルウォーターの瓶を手に取り、恵の口に入れる。

 恵は、それをまずは真夫に口移しで移動させ、真夫が玲子さんに移動させた。次には、真夫はそれを自分で飲み干し、今度は自らの口に入れたものを恵の口に注ぎ込む。

 

 そうやって、皿になっている玲子さんも含んで、真夫と恵は飲み物と玲子さんの身体の上にある料理を三人で口移しで食べさせ合い続けた。

 

 小一時間ほど、そうやっていたが、やがて、やっと玲子さんの身体の上のものが、ほとんどなくなった。

 玲子さんの身体は、食べ散らかした食事の残りや、あるいは醤油やソースやマヨネーズなどで汚れた状態になっている。

 

「最後の片付けは、あさひ姉ちゃんにお願いするよ。残り物は俺が引き受けるから、ここまで運んできてよ。ソース類は舌で舐めあげてあげてよね」

 

 真夫が言った。

 両手を後手に拘束されている恵は、犬のように直接に口で食べ物を咥えると、数回咀嚼してから、それを真夫のもとに届けるということを繰り返した。

 また、舌で玲子さんの肌の上に残ったものを舐めあげていく。

 

「あっ……いっ……く、くすぐったい……ああっ……」

 

 しばらくすると玲子さんが身体を真っ赤にして身悶えをするようになった。

 その鼻から出る甘い声は、玲子さんが恵の舌で快感の疼きを覚えている証拠に間違いない。

 

「……最後はとっておきのソーセージだね。じゃあ、脚を開いてください、玲子さん……。少しずつ出してね。俺も貰うよ」

 

 真夫は立ちあがって、脚を開いた玲子さんの股間に横から顔を埋めるように近づけた。

 

「ああ、そ、そんなところ舐められたら、玲子はいってしまいます。だ、出します。出しますから、舐めないでください」

 

 玲子さんは身体を硬直させるように伸ばして、狼狽えた声をあげた。

 どうやら、真夫は舌を伸ばして、玲子さんの陰核をぺろぺろと舐めているようだ。

 玲子さんの慌てぶりは、潮吹き体質であることからの焦りだろう。

 その姿がいつもの凛々しい玲子さんとは違っていて、とても可愛いと恵は感じた。

 そんな玲子さんのギャップが真夫が気に入っている面でもあるのだろうと思う。

 実のところ、恵も、玲子の二面性はとても可愛いと思っている。

 

 とにかく、玲子さんは、身悶えしながらも、膣の動きだけで、挿入されたソーセージを少しずつ出してみせた。

 恵は密かに感嘆した。

 そして、自分もいつか、あんな技ができるようになるのだろうかと思った。

 

「じゃあ、次はあたしです、玲子さん」

 

 恵は真夫と交代すると、真夫の真似をして、ぺろぺろと玲子さんの陰核を舌で刺激する。

 そのあいだも、恵のお尻では、真夫が操作している細いバイブがうねうねと動き続けている。

 恵は自分の感じている淫情をぶつけるように、玲子さんの股間を念入りに舐める。

 

 玲子さんが悲鳴をあげた。

 

 恵だけではない。真夫も玲子さんの股間を舐めているのだ。

 いま、恵と真夫はほどんど顔を密着させるように、左右からふたりで舌を恵の股間に這わせていた。

 舌と舌がぶつかり、お互いに舌を舐め合いながら、さらに玲子さんの股間を舐めている状態だ。

 玲子さんは狂乱している。

 恵には、感じやすい玲子さんが、もう達しそうであることがわかる。

 この数日、恵も玲子もお互いが絶頂する姿を何十回と見ている。

 だから、わかる。

 

 その玲子さんの股間から、うにうにとソーセージが出てきた。

 恵はそのソーセージに口をつけた。

 

「ロシアンルーレットだね。どっちが食べているときに、玲子さんが潮を吹くかな」

 

 真夫が笑って、舌を内腿に移動させて今度は擦るように舌を動かした。

 あそこは玲子さんの隠れていた性感帯のひとつだ。

 そこを局部とともに刺激されると、いつも玲子さんはあっという間に達してしまう。

 恵は、玲子さんの潮吹きが顔にかかるのを予感しつつ、膣から出てくるソーセージを口に入れ続けた

 

 


 

 

「ほら、ペースが落ちたぞ、雌犬」

 

 正人がナスターシャの後ろから、その白い尻に向かって九尾鞭を放った。

 

「んぎゅう」

 

 四つん這いの姿勢で動く床を走らされているナスターシャが悲鳴をあげた。

 ただし、ナスターシャの口には穴の開いたボールギャグを嵌めている。だから、言葉は発することはできず、ただ声が迸っただけだ。

 そのナスターシャの悲鳴とともに、たくさんの涎が小さな穴から飛び出し、糸を引いて床に垂れる。

 

 秀也はその光景をテーブルに準備させた夕食をとりながら眺めていた。

 ナスターシャへの「懲罰」は、食事の余興だ。

 

 ナスターシャにやらせているのは、床の一部がルームランナーのように動くトレーニング設備の上で、四つん這いになって、ひたすらに進み、一定の場所を保持するという「拷問」だ。

 

 時子による躾のあと、精根尽きたようになったナスターシャだったが、体力が回復すると、今度は秀也に悪態をつき始めた。

 秀也のことをただの十八歳の少年だと思っているので、脅せば屈するとでも考えたのかもしれない。

 時子と龍蔵がいなくなってから、これからは秀也がナスターシャの「調教係」だと伝えると、ナスターシャが、ものすごい剣幕で怒鳴り始めたのだ。

 それは、日本語とフランス語の混じったものだったが、要するに、こんなことは許されるものではなく、ナスターシャをすぐに解放しなければ、日本の警察に秀也は逮捕されて、その人生は終わるだろうという内容だった。

 

 秀也は、その返答として、小一時間ばかり、クリリングの電撃で痛めつけ、ナスターシャに逆らう気持ちを消滅させてから、学園内にあるこのトレーニングルームに連れ込んだ。

 そして、ボールギャグを嵌め、手首と足首と首に特殊な器具を装着させて、動く床を四つん這いで走るように強要したのだ。

 手首と足首に嵌めたのは、特殊なセンサーを内蔵した人間を「犬」にしてしまう器具であり、四つん這いの姿勢を崩すと首に嵌めた首輪に強い電撃が流れるようになっている。故意に外そうとしても同じだ。

 それを装着されたナスターシャは、数回の電撃で四つん這いの姿勢を崩すことはできないのだと悟り、いまのように犬のように四肢で這う姿になった。

 

 そして、この動く床だ。

 それほどの速さではないが、動き続けて一定の場所を保たなければ、正人の構えている鞭がナスターシャに浴びせられる。

 もう結構な時間になるので、ナスターシャは汗だくだし、かなり息も荒い。

 

「ほら、また下がったよ。もっと、前だ。前──」

 

 正人の鞭がナスターシャの白い肌に飛んだ。

 先端が九個に分かれている九尾の鞭は、一本鞭よりも傷はつきにくいが、正人には容赦なく叩けと指示しているので、ナスターシャの白い肌は、無数の蚯蚓腫れでいっぱいだ。

 あの美貌で勝気のナスターシャの服の下に、消えることのない鞭痕をたくさん残す……。

 それも面白いかもしれない。

 秀也は料理を口にしながら思った。

 そして、気まぐれにクリリングに「微弱」の振動を送り込んだ。

 

「んぐうっ」

 

 ナスターシャの背中が一瞬のけぞり、すっと身体が後ろに下がった。

 正人が激しく鞭を連発する。

 ナスターシャは、奇声をあげて、懸命に前に戻った。

 その慌てぶりに秀也は大笑いした。

 

 それをしばらく続けさせる。

 

 ちょうど食事も終わって、時間も三十分を越えると、目に見えてナスターシャの動きが鈍くなり、よたよたと、何度も躓くようになってきた。

 

「よし、休憩だ。十分後に再開だ。ナスターシャ、そのあいだに体力を戻しておけ」

 

 秀也はそう言った。

 正人が操作して、動いている床が止まる。

 ナスターシャは、体力を使い尽したように、その場にへたり込んだ。

 さすがに、悪態をつく気力もないようだ。

 かなり、ナスターシャが屈しているというのは、手が自由でありながらも、ボールギャグをむしりとらないということでもわかる。

 

 そして、もちろん、秀也はナスターシャに休息などさせるつもりなど微塵もない。

 クリリングの振動を「弱」から「強」にした。

 

「んぎゃああ、ああああ」

 

 ナスターシャがのたうち回り始める。

 だが、四つん這いの恰好を崩せば、センサーが反応して首輪から電撃も走るので、よがるのも犬のように這いつくばったままだ。

 なかなかに愉快な光景だ。

 

 とにかく、クリリングで「強」の信号を送れば、そのあいだは、ナスターシャは短い時間で強制絶頂を繰り返す。ナスターシャの身体の反応を感知して、クリリングに内臓されているコンピュータチップがもっとも効果的な振動を与えるように制御するのだ。

 クリリングの振動から逃れることは不可能だ。

 

 おそらく、十分もあれば、少なくともナスターシャは五回は絶頂する。

 それが終われば、また動く床で運動だ。

 秀也は、生意気な奴婢をいたぶる快感に酔いしれる気持ちになった。

 

「……秀也様、あの小僧について提案があるのですが……」

 

 秀也の前にあった食事の終わった食器を片付けながら正人が声をかけてきた。

 「小僧」というのは、真夫のことに違いなかった。

 なにか考えがあるようだ。

 秀也は、話すように促した。

 

「……俺に考えがあります。必ず、すぐに学園から追い出してみせます。やらせてくれませんか?」

 

「真夫は伯父貴が目をかけている息子だぞ。下手なことをすると、そのとばっちりは俺になる。伯父貴はあの真夫に帝王学を施して、後継者にするつもりなんだ。真夫に手を出せば、伯父貴はそいつを許さんだろう。それは、俺も例外にはならん」

 

「わかっています。だから、あの小僧には、自分から学園を去るようにさせます。絶対に、こっちで裏で糸を引いたことは悟らせません」

 

 正人はにやりと笑った。

 

「どうするのだ? あの小僧には、活性化してないとはいえ、操心術もある。昼間のことを覚えているだろう?」

 

 恵の父親をけしかけたとき、恵の父親が急に恐怖を覚えて逃亡してしまったのは、間違いなく豊藤家の嫡男のみに伝わる強力な「操心術」だ。

 真夫がしっかりと豊藤家の力を受け継ぐ存在であることには間違いないのだ。

 

「……あの小僧のウィークポイントは、あのとき一緒にいた娘です。それを攻めます。任せてください。真夫が学園に入ることが気に入らない者がいます。そいつを使います」

 

 秀也には、その言葉で正人が誰を利用しようとしているのがわかった。

 なるほど、真夫を気に食わない者か……。

 

 実は、この学園内には、生徒たちによる派閥のようなグループが三つ存在していた。

 それは、五人組と呼ばれる「当別待遇生徒」たちを頂点にしている三個の徒党だ。

 この学園は、事実上の「階級」構成制度を敷いていた。

 即ち、その最高位が、「特別待遇生徒」と称する五人の生徒だ。

 次いで、学園に多額の寄付をしている名家の子弟の「A級生徒」となり、一般生徒は「B級」、最下層は特別生徒やA級生徒の従者生徒たちであり「C級生徒」となる。

 この差は厳然としていて、はっきりとした待遇の違いがあり、与えられる調度品や生活用品、利用できる施設などまったく異なる。

 しかも、特別待遇生徒の許可により、使用設備などを下級階級の生徒に一時的に使わせることもできる。一般生徒は、それを「恩恵」と表現しているようだ。

 だから、特別待遇生徒の権限は強大だ。

 そうしていると、生徒たちは、いつの間にか、特別待遇生徒を頂点とするそれぞれのグループを作ってしまったのだ。

 

 特別待遇生徒の枠は五人だ。

 五人のうち、ひとりは秀也であり、もうひとりが西園寺絹香という生徒会長の女子生徒だ。

 秀也は一度も「恩恵」を与えたことはない。学園の授業や行事に加わることさえ珍しく、普通の生徒たちからすれば、ほとんど面識のない存在だと思う。従って、秀也を中心とした派閥は存在していない。

 また、絹香については、生徒会長として一般生徒とは一線を布いた行動しかしていない。会長として必要な活動以外に「恩恵」を与えることもない。

 だから、会長として慕われているわりには、絹香を中心とする人のまとまりはない。

 

 従って、事実上の枠は残りの特別待遇生徒の三人であり、その三人の生徒がそれぞれのグループの頂点になっている。

 しかし、玲子は真夫を特別待遇生徒にするために、そのうちのひとりを特別待遇生徒から「A級生徒」に落としたのだ。

 その男子生徒が真夫に不当な恨みを抱いているというのは、耳にしていた。

 

 あんな生徒間の派閥など、いずれ消してしまおうと思っていたが、残しておいてよかったと、いまは思っている。

 正人の提案に従い、そいつをけしかけるというのは、悪いアイデアではない。

 真夫がどう対処するかという愉しみもある。

 

「よかろう、やってみろ……」

 

 秀也は正人に微笑みかけた。

 正人は満足したように頭をさげ、食器を片付けるために離れた。

 

 秀也は、ふと離れた床で悶え続けている白人の女に視線をやった。

 どうやら、もう三回目の気をやったようだ。

 

「無様だな、ナスターシャ。まだ、大人ではない俺に嗜虐される気分はどうだ? まだまだ、終わらないぞ。お前が心の底から俺に屈服するまで、この懲罰は続く。俺に逆らう気持ちがあることが、お前には許されない罪なのだ」

 

 秀也はナスターシャに言った。

 すると、ナスターシャは、悶え狂いながらも、秀也にはっきりとした憎しみの視線を向けた。



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 第29話  女狐と女狐

「冗談じゃありません。そんなこと承知できるわけがありません」

 

 目の前に座っている白岡かおりは、はっきりと言った。

 玲子は、この女生徒と一対一で面と向かうのは、これが初めてだ。

 これまでの調査で得た評判によれば、この白岡かおりは清楚で性格のいい少女であるということだったが、一方で玲子は調査の中で明らかになる彼女の別の一面に当惑していた。

 だが、これではっきりした。

 やはり、この白岡かおりという女子生徒は女狐だ。

 

 学園の理事長室に隣接する生活指導室である。

 学園内には、このような生活指導室が幾つかあるが、ここはそのひとつだ。

 いまは放課後であり、午後の授業を終えてA級生徒用の女子寮に戻る直前の白岡かおりを玲子は呼び出していた。

 そして、真夫に対する例の冤罪事件のことを突き付けるとともに、その当事者に対する懲罰として、C級生徒への格下げを通告したところだ。

 

 真夫が学園にやって来る日は、明日に迫っていた。

 これまで、かおりに対する直接の対話と通告を引き伸ばしていたのは、この白岡かおりに一筋縄ではいかない「女狐性」を感じたからだ。

 もっとも、それは、あの三人組に付け入られる程度の「狐」にすぎないが、それでも、罪のない少年を警察に突き出して、未だに平気で知らないふりをしている、小狡さとふてぶてしさもある。

 だから、すっかりと外堀も内堀も埋めるまで、このかおりは泳がせていたのだ。

 

 そして、話の当初で、あの三人組のことを持ちだしたときには、すすり泣きをして、白いハンカチでしきりに涙をぬぐう仕草までを示していたくせに、真夫を痴漢の冤罪に陥らせた責任を取り、特別待遇生徒としてやってくる真夫の「侍女生徒」をしろと告げると、途端に豹変した。

 

 これまで大人しく従順そうだった表情が、うって変わって怒ったものになったのだ。

 おそらく、この不貞腐れたような態度こそが、彼女の素なのだろう。

 玲子は、事前調査で感じた自分の勘が正しかったと思った。

 

 確かに、あの三人組に破廉恥な写真で脅され、酷い目に遭っていた点は気の毒とは思うが、元はといえば、このかおりの自業自得といえるところもある。

 

 玲子の調べによれば、あの三人組の評判の悪さは以前からのもので、遊び半分で女生徒を脅したのは初めてではない。

 だから、多くの生徒は彼らには危険なものを感じて接しないようにしていたのだが、この白岡かおりは、三人組のひとりの外見の顔のよさと、作り物の品に騙されて、自ら近づいたのだ。

 そして、最初は普通にひとりと性行為をし、そのときに写真を撮ることを承知して許し、その後、その写真を使って脅されて、ほかのふたりとも関係を持つことを強要されたのだ。

 つまり、かおりは、その程度の身持ちと頭の悪さということだ。

 

 玲子は、清楚で美しい少女が男子生徒の「いじめ」に遭って、性行為を強要された挙句に、かおりを助けようとした真夫を「仕方なく」冤罪に仕立てあげなければならなかったというのは、この事件の「真相」とはかなり異なっているということを改めて認識した。

 

「あなたの意見を求めてはいないわ。わたしは、理事長代理として、理事会の決定を伝えているだけよ。本日より、あなたは、坂本真夫という男子生徒の侍女生徒、すなわち、奴婢よ。真夫君は、明日の昼過ぎに、特別待遇生徒として特別寮に入って来るわ。それまでに、部屋の掃除を完璧に終わらせておきなさい。そして、これはC級生徒の制服よ。これが今日からのあなたの制服になるわ」

 

 玲子は横に置いていた紙袋から、灰色を基調としたC級生徒の制服と靴、さらに下着類の一式を机の上に放り投げた。

 

 この学園は、学園に対する寄付金の額や貢献度などを査定して、生徒を四段階に格付けしていた。

 マグダレナ学園は全寮制であるため、当たり前の修学施設のほか、生活棟や食堂、ジム、診療所、遊戯施設、各種売店などが広大な敷地内に完備している。

 だが、それらについては、生徒であれば、全員がどの施設でも使用していいということにはしておらず、生徒の実家が学園に支払っている寄付金の額などに応じて、使用できる施設などを区分している。

 

 その格付けの最高位が、最高級の寮施設とすべての学園施設の使用、そして、最高級の食事、文具、生活用品、衣類の提供、さらに必要により賓客並みのサービスを学園生活中に受けられるという特別待遇生徒、つまり、「S級生徒」だ。

 さらに、S級生徒には、生活の面倒を看るための「従者」や「侍女」の同居帯同を許可していた。

 この従者の衣食住についても、学園が保証している。

 

 ただし、これは五人に限定されていて、いかなる場合でも増員はない。

 特別寮が五人分の部屋しかないからだ。

 そのひとりが秀也であり、もうひとりは学園の生徒会長に無条件に与えられることになっているので、いまは西園寺絹香という女子生徒が双子の侍女生徒とともに使用している。

 残り三部屋は、これまで、加賀豊、金城幸太郎、竜崎康弘という男子生徒が使用していた。

 この三人とも、実家から多額の寄付金を学園で受けている。

 

 ただし、玲子は、坂本真夫を特別待遇生徒として受け入れるため、竜崎康弘という生徒をA級に落とした。

 当然のように、竜崎の実家から抗議の電話があったが、知ったことじゃない。

 玲子にとっては、真夫のことが絶対だ。

 竜崎家には、不満があるなら退学しろと一蹴すると、それで向こうは抗議を取りさげた。

 もっとも、竜崎康弘本人については、まだ不満があるようであり、ぐずぐずと文句を言っている気配ではあるが……。

 

 S級に次ぐ格付けは、「A級生徒」であり、一定の金額を学園に支払っている実家を持つ生徒たちだ。ほとんどが名家か資産家の子弟だ。

 この白岡かおりも、いままではA級生徒だった。

 A級生徒については、従者の同室は認めていないものの、特別な条件を満たせば、生徒従者の入寮も認めている。また、使用できる施設はS級と同じであり、いわば、S級とA級生徒がこの学園における「貴族身分」ということだ。

 

 生徒の格付けは、さらに、一般生徒の「B級生徒」、最下級がS級及びA級生徒の従者生徒の「C級生徒」となる。

 B級生徒は、A級以上に認められている施設については利用できないが、それに準じる施設があり、それらを自由に利用できる。

 ただし、C級生徒は、いかなる理由があろうとも、「主人生徒」と同伴でなければ、修学施設以外の学園施設は利用できないことになっている。

 なにしろ、従者ということで、従者生徒分の授業料等は受け取ってはいないことになっているのだ。

 金を払わないのに、学園施設を使わせるわけにはいかないという建前だ。 

 

 このように、学園としては、格付けに応じて利用できる施設が異なるので、それを管理するために、格付けごとに制服が異なっている。

 S級については、紺と紫と白を基調とした制服、A級については茶系統のブレザー、B級生徒は黒地に白の模様のある制服──。

 そして、C級は、いまかおりに渡した灰色の制服だ。

 

 この灰色の制服を着るというのは、かおりにとって大きな屈辱なのだろう。

 その顔が蒼白になり、身体が小刻みに震えている。

 

「早くしなさい。ここで着替えるのよ。A級生徒として支給したシャツも下着もすべて、ここで没収よ。身に着けていいものは、その制服の入った袋に全部入っているわ。靴もね。とりあえず、いま支給する下着は一組だけだから、着替えのために何枚必要なのかは、主人である真夫君に頼みなさい。今後の学園支給品は、すべて真夫君を通して支給するから、そのつもりでいて」

 

 玲子は言った。

 かおりには、この部屋で素っ裸になって着替えさせるつもりだ。

 もちろん、その姿は、この部屋のあちこちにある隠しカメラで克明に撮影する。

 床にも椅子にも、机にもカメラは仕掛けているので、かおりがどんな姿勢で着替えようとも、それこそ陰部まで撮影できるはずだ。

 真夫が学園にやって来るのは明日だが、今夜には真夫には、かおりの裸の写真を届けようと思っている。

 そのための処置でもある。

 

「わ、わたしは承服できません……。お、お断りします……」

 

 かおりが玲子をきっと睨んだ。

 手は震えているが、それは恐怖ではなく、怒りのようだ。

 かおりの顔には、玲子に対するはっきりとした憎しみの色がある。

 

「物分かりが悪いわねえ……。これは決定事項の伝達だと告げたはずよ。あなたに選択権はないわ。早く着替えなさい。わたしも忙しいのよ。とにかく、テーブルの上に身につけているものを載せなさい。そうすれば、このC級生徒用の制服を渡すわ」

 

 玲子は冷たく言って、一度、さっきの灰色の制服の包み一式を引きあげた。

 だが、かおりは動こうとはしなかった。

 そして、大きく息を吐いた。

 すると、また表情が一変した。

 今度は、顔に不敵な笑みを浮かべている。

 玲子は訝しんだ。

 

「そんなことしていいんですか、理事長代理……。理事長代理に就任したてで張り切るのはいいですけど、わたしは、これでも白岡家の娘なんですよ。わたしの実家にこのことが伝われば、大変な騒ぎになるんですからね。どうなっても知りませんよ」

 

 かおりは玲子を見て、にやりと微笑んだ。

 どうやら、これがかおりの切り札のつもりのようだ。

 確かに、白岡家といえば、日本全国に名が轟いている大手電機販売企業であり、かおりはその会長の孫娘だ。

 学園に納めている寄付金も半端じゃなく、その総額はS級生徒に匹敵する。

 かおりとしては、最終的にはそれを仄めかせば、なんとかなると考えているのだろう。

 

 もっとも、かおりは、この学園の創始者が豊藤龍蔵という豊藤財閥の総帥であることは知らない。もともと、この学園の運営資金は、龍蔵の老後の道楽として財閥から供出されており、生徒たちからの授業料や寮費、そして、寄付金などは本来は不要のものだ。

 

 実際のところ、白岡家にも、既にかおりをC級に降格させることを納得させており、寄付金も全額返金している。白岡家としても、豊藤財閥としての圧力を仄めかした玲子に対しては、それを承知せざる得ず、この小娘がなにを言おうとも、すでに決着はついている。

 

 ただ、玲子は、無実の少年を冤罪に落とした罪を自ら悔いる気持ちを抱いて欲しいからと説明して、実家からこの件でかおりになにかを言うことは制限していた。

 だから、かおりは、すでに玲子が実家と話がついていることは知らないのだろう。

 

 そのことを説明して、かおりを諦めさせてもいいが、玲子は別のやり方を使うことにした。

 玲子が出したのは、ハンドバックに入れていた大きな茶封筒だ。

 その中からあった二十枚ほどの写真を出し、テーブルの上にぶちまけた。

 出したのは、見るのも恥ずかしいかおりの様々な恥態の写真だ。あの三人組が持っていたデータを取りあげたものだ。

 

「あっ、いやああ」

 

 かおりの顔が真っ赤になり、慌てたようにテーブルに身体を伏せて写真を隠した。

 そして、その写真を懸命に集め始める。

 

「……全部、あなたにあげるわ。こっちには、データがあるから、いくらでも作れるし、他にも写真はあるしね。映像だって押さえているわ。あんたが犬の首輪をつけて片脚でおしっこしている映像だけどね。ほかにも、顔の映っていない男子生徒の股間を舐めて、Vサインしている映像もあったわね。あなたって、随分と恥ずかしい姿を男友達に撮影させる趣味があるのね」

 

 玲子はわざとらしく笑った。

 

「そ、それは……さ、さっきも言いましたが、わたしは脅迫されたんです。それで、あんな写真や映像を撮られたんです」

 

「だったら、わたしも脅迫するわ、早く制服を脱いで、C級生徒の制服に着替えなさい。さもなければ、写真と映像を全校にばらまくわ。一瞬にして、あなたはこの学校で知らぬ者のない有名人よ」

 

「そ、そんなの犯罪よ。許されることじゃないわ」

 

 かおりが怒鳴った。

 しかし、玲子はできるだけ冷淡に見えるように、肩を竦めた。

 

「わたしに言わせれば、罪のない男子生徒を冤罪にすることこそ、許されない罪よ」

 

 すると、かおりは、きっと玲子を睨んだ。

 

「……だって、あの坂本真夫って子、孤児院の出身じゃないですか……。そもそも、なんで、あの子が特別待遇生徒なんですか? おかしいでしょう。いくらなんでも、そんなのみんな認めませんよ。しかも、その侍女生徒なんて冗談じゃないです」

 

「あ、あなた、真夫さ……、いえ、真夫君が孤児院出身って知っていたのね」

 

 玲子は思わず声をあげた。

 

「もちろん、知ってましたよ……。それにわたしが逃げたから、警察には補導されてないこともわかってます……。そもそも、迷惑かけたっていっても、その孤児院出身の子が退学になったくらいじゃないですか。だったら、お父さんに頼んで、その子を就職させてあげます。孤児院出身の子なら、いくら学校を出ても、就職は大変なはずです。うちの企業の系列に入れるなら、あんな学校を卒業するよりましだと思います。実はすでにお父さんに頼んでもあります。慰謝料だって、わたしが二十万くらい払ってあげますよ。それでいいでしょう?」

 

 かおりは捲したてた。

 玲子は唖然とした。

 

 どうやら、この白岡かおりは、自分なりに、自分が冤罪にした真夫のことを調べていたようだ。

 そして、あるいは、流石にあの冤罪事件のことは気にして、かおりなりに償いのことを考えていたのかもしれない。

 それが、白鳥系列の企業に就職だの、慰謝料だのと、突然表明した内容なのだろう。

 

 その中身は、真夫をかなり馬鹿にしたものだが、玲子がなによりも気に入らないのは、その償いについても、かおりが真夫が孤児だと知って、すべて放置することに決めた気配のあることだ。

 かおりが、彼女の準備した「和解内容」を口にしたのは、真夫の奴碑になれと、玲子が言ってからのことだ。

 

 玲子はそのことで、かおりに対する同情的な気持ちが完全に消失してしまったのを感じた。

 

「……それに、本当にわたしをあの孤児の侍女にするなら、考えがありますからね……」

 

「考え?」

 

 玲子は眉をひそめた。

 かおりは、さらに不適な笑みを玲子に向けた。

 

「ええ、そうです。もしも、そんなことになれば、わたしは、新しい特別生徒が本当は孤児だと言い触らします。そうなれば、結局のところ、坂本という子は学園になんかいれなくなります」

 

 玲子は嘆息した。

 色々なことを考えて、次々に喋る娘だ。

 あの三人組は、よくも、このかおりを言いなりにできたものだ。

 

 もっとも、調べた限りに置いては、この白岡かおりは、自分よりも弱い格下相手にはどこまでも態度が大きい反面、強い相手には逆に逆らえなくなってしまうようだ。

 つまり、差別意識が強いのだ。

 そもそも、あの三人組のひとりは、白岡家以上に大きな財閥系の子弟だった。

 そうやって、かおりは、あの三人組に支配されてしまったのだろう。

 

「もういいわ。話し合いは終わりよ」

 

 玲子はスマホを操作すると、それを机の上に置いて、かおりに示した。

 スマホの画面には大きく数字が出て、百からのカウントダウンが始まっている。

 もう、九十だ。

 

「な、なんです、これ?」

 

 かおりが不審そうな声をあげた。

 

「この数字が零になれば、さっきのあんたの裸の写真のデータがネットに流出するわ。そのプログラムを作動させたわ。止めて欲しければ、零になる前に着ているものを全部脱いで机の上に置きなさい。下着も靴も、なにもかも全部よ。あんたは、もうそのA級生徒の制服や下着を身につける資格はないんだから」

 

「ひ、卑怯です、そんなの」

 

 かおりは顔色を変えて、悲鳴をあげた。

 

「あと七十ね。言っておくけど、そのスマホには触らないでね。下手なことをすれば、零になるまでもなく、さっきの写真があなたのプロフィール付きで流れてしまうわよ……。おや、もう六十よ」

 

 玲子は微笑んだ。



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 第30話  全裸検査

「ぬ、脱ぎました……。せ、制服をください……」

 

 玲子相手とはいえ、他人の前で素裸になるのは抵抗があるらしく、かおりはかなりの躊躇を示した。

 玲子に向ける言葉も、当初は、玲子へ真偽を問うものだったが、それが抗議になり、最後には哀願に変化した。

 玲子は、その都度、冷たく残り時間を告げるだけで応じた。

 

 結局、かおりが最後の一枚の下着を脱いだとき、スマホのカウントはすでに一桁になっていた。

 玲子は、スマホを操作して、カウントダウンを消滅させた。

 

 かおりは、両手で乳房を抱き締めるように隠して、玲子と向かい合っている椅子の横にしゃがみ込んでしまっている。

 さすがに恥ずかしいのだろう。 

 

 さっきまで小生意気にも真夫のことを馬鹿にしてみせたかおりも、素っ裸にさせられては、気の強さのようなものも消失して泣きそうな顔だ。

 そして、机に隠れるように必死になって、裸身を隠そうともがいている。

 

 だが、玲子の腹は煮えまくっている。

 

 かおりが、真夫のことを侮辱するような言動や行為をしたことが、なによりも許せないのだ。

 本当は、ここで着替えさせるくらいのことしかするつもりはなかったが、このかおりには、それなりの辱めを与えなければ、誰よりも玲子の気が済まない。

 

「たかが裸になるのに、随分と時間がかかったのね。じゃあ、脱いだものをこれに入れなさい。畳まなくていいわ。どうせ、全部処分するものだから……。それから、わかっていると思うけど、あなたについては、今後わたしが一切を見張っていると思いなさい。おかしな素振りを示せば、あなたの恥ずかしい映像を学園中どころか、白岡家の主立つ者に送りつけるわ。嘘だと思うなら、生徒指導室で裸にされて辱められたと、警察でもマスコミでもどこにでも訴えなさい。だけど、あなたのような小娘がなにをしようとしても無駄よ。きっちりとあなたを破滅させてあげる。それを忘れないことね」

 

 玲子は空の紙袋を机越しに放った。

 かおりがやっと怯えるような表情になった。

 

 このかおりが、玲子のことを弁護士の資格を持つ一介の理事のひとりくらいにしか思っていなかったのは明らかだ。

 白岡家の令嬢であるかおりの立場からすれば、玲子はまだ「目下」の人間だ。

 どうやら、この娘は、かなり上流意識が強くて、「目下」の人間と判断した相手を軽んじる悪癖があるようだ。

 だから、玲子に大きな力があることを教えてやった。

 かおりが怯えたのは、玲子の言葉と表情に、はったりなどではない「本当」の力を垣間見たためだろう。

 

 それに、玲子が握っている「かおりの映像」というのは、かおりが脅されて破廉恥なことをしているという内容ではなく、このかおりが自ら恋人と狂態を演じている映像だ。

 あの三人組のうち、最初にかおりを引っ掛ける「恋人役」と映したもののようであり、少し変態気味の「プレイ」をその少年と興じているという内容のものだ。

 あの映像が出回れば、かおりが「被害者」であるとは、誰も思わないだろう。

 しかも、相手の少年が、かおりを罠に嵌める意図をもって映像を撮ったのは明らかであり、かおりの姿は明白に映っているのに、当の少年については、巧みに身体しか撮影されていない。

 

 そんな映像であるために、かおりも、映像を公開するぞと脅せば、逆らうことも、どこかに訴えたり相談したりすることもできなかったに違いない。

 なにしろ、あの映像は、白岡かおり本人に留まらず、白岡家の令嬢の痴態として、白岡家そのもののスキャンダルにもなるだろう。

 いずれにしても、恋人と信じ込んでいたとはいえ、あんな映像を撮ることを許すとは、このかおりが案外馬鹿なのではないかと思う。

 玲子に言わせれば、自業自得だ。

 まあ、だからこそ、あんな三人組の支配に陥ってしまったのだろうが……。

 

「……さ、逆らいませんから、早く制服を……」

 

 かおりが観念したように机の下で言った。

 玲子は内心で微笑んだ。

 こんな女子高生ひとりくらいなら、玲子の表情ひとつで、いくらでも言いなりにできる。

 だが、これから一緒に生活する真夫と恵のこともある。

 本格的な調教は真夫に委ねるとしても、もう少し懲らしめておく方がいいだろう。

 玲子は、わざと力強く机を脚で蹴った。

 

「ひっ」

 

 大きな音に対して、かおりが反射的に身を竦めた。

 

「聞こえなかったの、グズ。脱いだものをその空袋に入れろと言ったでしょう。さっさとしなさい」

 

 玲子の言葉で、かおりは自分の座っていた椅子に置いていた制服や下着を慌てたように入れ始めた。

 その紙袋を取りあげて後ろに隠す

 これで、玲子が新しい服を渡すまで、かおりは素裸でいるしかない。

 

「立ちなさい」

 

 玲子は、かおりが脱いだものを入れた袋に加えて、C級用の制服の入った荷物を持って立ちあがった。

 この生活指導室は、理事長室と隣り合わせであり、廊下に出なくても扉が繋がっている。

 かおりが脱いだものをいったん全部部屋から出すことにした。

 そうすれば、玲子に従うしかないということが、嫌でもわかるだろう。

 

「本当にグズねえ。立っていろと言ったのが聞こえないの」

 

 そのとき、玲子は、まだかおりがうずくまったままであることを見て、怒鳴りあげた。

 かおりがびくりとして、身体を両手で隠すようにして立ちあがった。

 

 玲子は理事長室に戻ると、荷を置き、机からひとつの巻き尺を取り出した。

 そして、すぐに戻ろうとしたが、思い立って、生活指導室とは反対側の部屋になる「モニター室」に向かう。

 

 ここは、いわゆる「学生監視室」である。

 出入り口は理事長室と繋がっている扉だけだが部屋はかなり広い。

 この部屋には、学園中に張り巡らされている無数の隠しカメラの映像と音声がここに集められるようになっていて、撮影方向をここからコントロールできる定点カメラだけでも数百台。遠隔装置により移動できるマイクロカメラが百台。さらに、学生寮の全個室の室内やシャワー室、さらにトイレの映像までここで見ることができる。

 無論、そのすべてを記録しているわけではないが、スイッチひとつでいくらでも記録は可能だ。映像の自動編集ソフトまであり、簡単にマイクロチップに保存もできるし、それのモニター再生もディスプレイに表示させたリストに触れるだけでいい。

 

 玲子は理事長代理になる以前に、何度もここで龍蔵の指示で映像管理をさせられており、この部屋の操作は自由自在だ。

 いずれにしても、この部屋ひとつだけでも、この学園が豊藤龍蔵の好色趣味で運営されているものであるということがわかる。

 なにしろ、この部屋で記録されている生徒の映像は、創設六年目になる学園に所在したことのある女子高生や女性教師の痴態の映像ばかりだったのだ。

 それが、スイッチひとつでいくらでも再生できることになっている。

 

 玲子自身のもあった。

 秀也に調教されているものだけであり、龍蔵に嬲られているものは存在しなかったが、クリリングの電撃に怯え、快感に我を失くしている自分の姿が克明に記録されていた。

 

 ほかの女性や少女のものもある。

 例えば、この学園には、「四菩薩」と称する四大美人とされている女生徒と女教師が存在している。

 

 生徒会長の「西園寺絹香」。現在三年生であり、特別待遇生徒ということで、真夫や秀也と同様に特別寮に部屋を持っている女生徒──。

 

 その親友で女子サッカー部のキャプテンであり、同じく三年生の「前田明日香」──。

 

 すでに数本の映画にも出演経験があるテレビでも有名な若手女優で二年生の「相場まり江」──。

 

 さらに、女体育教師の「伊達京子」──。

 

 この四人は四菩薩と呼ばれ、男子生徒だけでなく、女性生徒のあこがれのような存在なのだが、その四人全員の「オナニー映像」というのもあった。

 どうやら、龍蔵がこの四人が口にする飲料に強力な媚薬を混入させ、ひとりきりになった自室で自慰に耽る姿を撮影したものであるようだが、これらの映像ひとつだけでも、この四人を支配できるかもしれない。

 そんなのが無数にあるのだ。

 もちろん、玲子は、真夫が入学したら、この部屋も映像も自由にさせようと考えている。

 玲子が与えられている力は、すべて真夫に捧げる。

 そのつもりなのだ。

 

 玲子はモニターを切り替えて、かおりが待っている生活指導室の映像に合わせた。

 素裸で待っているかおりの姿を前後左右、さらに下からも撮影し続けている。

 かおりは部屋の中を懸命に物色して、身に着けるものを探している気配だ。

 もちろん、そんなものはないが、身体にまとうものがあれば、そのまま逃げようとでも考えているのだろうか。

 

 とにかく、玲子はモニター室を出て、さらに理事長室を経由して、かおりがいる生活指導室に戻った。

 部屋を歩き回っていたかおりが慌てたように元の場所に移動する。

 

「なにをしていたの? まさか、逃げようとしていたんじゃないでしょうねえ」

 

 玲子は詰問調で言った。

 だが、かおりが意を決したように、玲子を強い視線で睨み返す。

 

「こ、こんなことは許されることじゃありませんからね。ふ、服を返してください。わ、わたしは訴えます。せ、生徒会に告発しますから……。それと……」

 

 全裸のかおりが身体を隠しながらも懸命に言った。

 どうやら、時間を与えたことで、少しだけ冷静になったのかもしれない。

 だが、そんな風に態度を変えるだろうということについては、玲子はすでに見抜いている。

 こんな女子生徒は、どんなに屈したようになっても、すぐに気持ちが変わって、また反抗するような行為をとったりするものだ。

 だから、その都度、こっぴどくもたげた反抗の気持ちを叩いてやらなければならないのだ。

 

「だったら、さっさと行きなさい。生徒会の部屋はすぐ近くじゃない。早く駆け込むがいいわ」

 

 玲子はつかつかと部屋を横切って、廊下に出る扉を開け放ってやった。

 いまの時間、たまたま、近くに誰もいないことは、さっきのモニター室で確認済みだ。

 だが、素っ裸でいるかおりは、外から部屋を丸見えにされたことで、悲鳴をあげてうずくまった。

 

「い、いやあっ──。あ、開けないで、理事様──」

 

 かおりが泣きべぞのような声をあげたのに満足し、玲子は部屋の扉を閉め直した。

 そして、わざとらしく鼻を鳴らす。

 

「もう一度、わたしの前で反抗的な態度を取れば、容赦しないわよ。あなたが仕えることになる真夫君とその連れの恵さんという女性に逆らってもね──」

 

「め、恵?」

 

 かおりがきょとんとした。

 坂本真夫という男子生徒の「奴婢」になると言われたものの、その連れがいるとは思いもよらなかったのだろう。

 

「坂本真夫君と特別室で同居することになる朝比奈恵さんよ。侍女扱いだけど、実際には、真夫君の恋人だからね。真夫君同様に、真摯にお仕えするのよ。いいわね」

 

 玲子は怒鳴った。

 かおりの顔色が変わった。

 真夫という男子生徒だけはなく、その恋人にも仕えよという言葉に、かおりは衝撃を受けたようだ。

 かおりが受けた屈辱感が表情に明白に出ている。

 

「とにかく、立ちなさい」

 

 玲子はかおりのいる横の椅子に座った。

 かおりは今度は大人しく立ちあがった。

 

「……両手を頭の後ろで組みなさい。断れば、さっきのカウントダウンを再開するわ。確か、残りは八秒ほどかしらね」

 

 玲子の言葉に、かおりははっとしたようになったが、だが、すでに観念する気持ちになったのか、言われるまま両腕を頭の後ろに組む。

 かおりの恥部が露わになる。

 もちろん、この姿も克明に記録されていることだろう。

 

「名前と年齢……。それと身長と体重を言いなさい」

 

 ややあって、かおりは口を開いた。

 もうなにを言っても、この場では屈服するしかないと理解できたのだろう。

 

「……し、白岡かおり……。し、身長は……百六十四……。た、体重は、四十……五……」

 

 玲子は立ちあがると、かおりの乳房に巻き尺を巻いた。

 かおりは、思わず逃げかけたが、玲子が一喝すると、もう大人しくなった。

 

「バストは八十ね。じゃあ、次はウエストよ」

 

 玲子は無造作に巻き尺を移動させる。

 

「ウエストは五十六……。ヒップは……」

 

 玲子は淡々とした口調で数字を読みあげていく。

 口惜しいのかかおりの身体が小刻みに震え始める。

 

「ヒップは八十五ね……。じゃあ、男性経験は何人?」

 

 玲子が訊ねると、うちひしがれていたようだったかおりの顔がきっと引き締まった。

 

「な、なんでそんなことを喋らないとならないんですか?」

 

 かおりが背筋を伸ばして、きっぱりと告げる。

 美しい顔で射すくめるような表情に、玲子もちょっと驚いたが、こういう交渉事については、玲子とかおりでは場数が違う。

 大勢の暴力団員のいる場所に乗り込んで、かなり危険な交渉もすることのある玲子だ。

 多少のことでは、気後れすることなどあり得ない。

 

「決まっているでしょう。あなたは、真夫君の奴婢になるのよ。もしかしたら、真夫君が気紛れであなたを犯したくなることもあるかもしれないじゃない。だから、あなたのことについては、克明に教えておこうと思うのよ」

 

「わ、わたしに、その孤児の少年に抱かれろと言うんですか──」

 

 かおりがむっとして言った。

 その顔は真っ蒼だ。

 かおりにとって、それがどれだけ屈辱的であることなのかが、その反応でわかる。

 

「……質問に答えなさい。男性経験は何人? それとこっちは事前調査をしているから、もしも、事実と異なるようなら、映像公開よ」

 

 玲子は冷たく言った。

 

「……ろ、六人です……」

 

 すると、やっとかおりがか細い声で言った。

 玲子は、さらにその相手について喋らせた。

 六人のうち三人は、例の三人組だが、それ以前のふたりは、いずれも名の通った家の青年だ。初体験は、中学生のときで、受験のときに雇った家庭教師の大学生とらしい。

 なかなかの尻軽ぶりに、玲子も少々呆れた。

 

 玲子は喋らせ終わってから、懐に隠していたボイスレコーダーを机に置いて再生した。

 隠しカメラとマイクでも、かおりの裸身と声は記録しているのだが、この娘は、じわじわとわかりやすく追い詰めるのが一番効果的だろう。

 

 かおりの声で、最初に名前を告げるところから始まり、次いで男性経験を赤裸々に話す声が再生され始めると、かおりがぎょっとした顔になった。

 

「今後、わたしだけじゃなく、真夫君や恵さんに、反抗的なことをしてごらんなさい。これを学園の全寮に流すわよ。さぞや、話題になるでしょうね」

 

 かおりが驚きで目を見開いた。

 だが、玲子はもうかおりの相手をするつもりはない。

 無視して立ちあがると、理事長室に一度置いたC級生徒用の制服と靴の入った袋を持って来て、かおりに渡した。

 

 かおりはひったくるようにそれを受け取ると、がさごそと中をすぐに探り出す。

 だが、すぐに顔をあげた。

 

「……あ、あの……し、下着がありません。せ、制服と靴だけです」

 

 かおりが訴えた。

 玲子は冷笑をかおりに向ける。

 

「靴下はあるでしょう。手間をかけさせた罰よ。下着は没収。真夫君に頼むのね。それまでは、そのノーパン、ノーブラで制服だけですごしなさい……。それとあなたが、特別寮に持って行っていい荷は、段ボールひとつにまとめて、すでに移動させたから、A級生徒用の寮には戻る必要はないわよ。もっとも、戻ろうとしても、認証リストからあなたは外しているので寮には入れないけどね……。ほかにも、学園内のすべての施設に入ろうとしても、ロックがかかって警告音が鳴るわ」

 

 学園内の全施設には、声紋と眼の生態認証システムチェックがあり、許された者しか出入りはできないようになっている。

 従者生徒である「C級生徒」は、すべての施設にひとりで入る権限がなくなるので、A級生徒からC級になったかおりは、すでに修学施設とC級生徒用の食堂、そして、これから生活することになる特別寮の真夫の部屋以外には出入りできないようになっている。

 与えられなかった下着を入手しようとしても、売店で購入することもできないというわけだ。

 

「……へ、部屋に入れないって……。わ、わたしのほかの荷はどうなるんですか? か、勝手に持っていっていい荷だけを箱詰めしただなんて……」

 

 かおりは玲子の言葉の中で、それに一番ショックを受けたようだ。

 

「余分な荷物は白岡家に送り返したわ。あなたは、C級生徒になったから、不相応な個人荷物は学園には置けなくなったと説明してね。とにかく、その制服を着たら、じっくりと自分の立場を理解して、これから仕えることになる真夫君の部屋に行きなさい。そして、隅々まで掃除よ。あなたには、わたしの眼が光っていることを忘れないようにね」

 

 玲子はその言葉を言い捨てて、理事長室ではなく廊下に出る扉に向かった。

 かおりは、自分がC級に落とされたことを実家が知っているということに驚いたようだ。

 

 だが、玲子はかおりがもっと衝撃を受けることがあるということを知っている。

 実は、かおりが所有している携帯電話の契約はさっき解除契約を終え、もう使えなくなっている。この学園は深い山中にあるために、徒歩ではどこにも行けない。

 外部との連絡なしに、生徒がひとりで逃げることは不可能だ。

 

 玲子は、呆然としているかおりを部屋に置いたまま、廊下に出た。

 そして、疲労感に襲われて、大きく息を吐いた。

 

 だが、次の瞬間、びっくりしてしまった。

 理事長室に近い生徒会の部屋の前に、さっきはいなかった秀也がいたのだ。

 しかも、こっちを見てにやにやと笑っている。

 玲子は眉をひそめた。

 

 なんで、ここに……?

 

「そんな顔をするなよ、玲子。俺は生徒会の副会長だぜ。副会長が生徒会の前にいて、なにがおかしい」

 

 秀也は笑っている。

 だが、なにかを企んで愉しんでいるようなそんな顔だ。

 玲子は秀也に薄気味悪いものを感じた。

 

「……それにしても、とんだ女狐だったな。あの白岡かおりは……。だが、お前の女狐ぶりも愉しかった。なかなかに面白い見世物だったよ」

 

 玲子はぎょっとした。

 秀也は、あの生活指導室での出来事をどこかで観察していた?

 

 理事長室の隣のモニター室には秀也はいなかったので、どこかほかの場所から秀也は、玲子たちを見ていたということだろうか……?

 とにかく、玲子はちょっと驚いた。

 

 そのとき、生徒会室の扉が開いて、ひとりの女子高生が出て来た。

 生徒会長の西園寺絹香だ。

 だが、なんとなく様子が不自然だ。

 歩き方がぎこちなく、額に不自然な汗をかいていて、顔が真っ赤だ。

 

 はっとした。

 

 この秀也が、これまで玲子以外にも、何人かの女子生徒を「愛人」のようにしているという事実は承知している。

 ただ、玲子はこれまで頻繁に学園内に来ることはなかったので、秀也の愛人という女生徒が、どういう素性の者たちであるかということまでは知らない。

 

 だが、秀也に続いて部屋からできていた感じの西園寺絹香の様子を垣間見ると、どうやら絹香は、秀也の愛人のひとりではないかと思った。

 学園の四菩薩の一角である生徒会長の西園寺絹香だが、考えてみれば生徒会長の絹香と副会長の秀也は、一緒にいるときが多いだろう。

 秀也が、美少女の絹香に手を出さないということは、あまり考えにくいことだ。

 

「あっ……、工藤さん」

 

 絹香が玲子の存在に気がついて、ぎくりと身体を反応させた。

 工藤というのは、玲子のことであり、多くの生徒が、理事長代理である玲子のことをそう呼ぶ。

 

 それにしても、絹香のあの反応……。

 おそらく、なにか淫らな仕掛けを秀也にされている……。

 玲子にはそれが本能的な勘でわかった。

 

「四菩薩の筆頭である西園寺絹香と新菩薩の筆頭である玲子さんの初顔合わせだな。これを機に仲良くしろよ。まあ、あんたも理事長代理なら、これからは、生徒会長である絹香と昵懇でなければならんだろう? 折角だから紹介するぜ」

 

 秀也が言った。

 理事長代理をすることになった玲子が生徒会長の絹香と仲良くすべきというのは、確かにそうなのだが、それよりも、秀也が「新菩薩」と口にしたことを玲子は訝しんだ。

 

「新菩薩とはなんですか、秀也君?」

 

 玲子の物言いも、秀也の物言いも、他生徒である絹香を意識した他人行儀のものだ。

 理事長代理の玲子と生徒の立場の秀也があまりに密接な間柄であることが他の生徒に知られるのはまずい……。

 

「知らねえのか? もちろん、四菩薩というのは、この学園の生徒が言い出した学園のトップ美女四人のことだが、あんたが理事長代理になったことで、さらに菩薩を加えなければならなくなったと専らな風評でな。いまは玲子さんを含めた新菩薩というのを決めようと、多くの生徒たちが躍起になっているらしいぜ。本当に、ガキのすることは面白いな」

 

 自分自身が同年代のくせに、秀也はまるでずっと年嵩のある男のような物言いで笑った。

 

 それにしても、「新菩薩」?

 

 まあ、秀也ではないが、確かにこの世代の高校生のすることは面白い……。

 

「おい、工藤玲子──。お前、覚悟はできてんだろうなあ──」

 

 そのとき、突然に激しい剣幕の声が背後からした。

 玲子は振り返った。



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 第31話  理事長代理の啖呵

「おい、工藤玲子──。お前、覚悟はできてんだろうなあ──」

 

 そのとき、突然に激しい剣幕の声が背後からした。

 玲子は振り返った。

 そこにいたのは、竜崎康弘だ。

 身長が二メートルに近い巨漢の男子生徒であり、一応は学園の柔道部の主将でもある。

 もっとも、玲子に言わせれば、身体が大きくて力が強いだけのただのデブであり、そのくせ、身の程知らずにも、自分を無敵だと思っている阿呆であって、なにかにつけ学園に盾突いてくる厄介な子供だ。

 しかも、こんなお坊ちゃんお嬢ちゃん学園で馬鹿馬鹿しいが、本人はこの学園の番を張っているのだと主張しているらしく、いつも子分替わりの柔道部員を取り巻きとして連れている。

 いまもふたりの二年生を後ろに従えており、玲子を見つけると、威嚇するように三人で玲子の目の前に立ちはだかった。

 

「覚悟?」

 

 玲子はできるだけ冷笑的な印象を与えるように、竜崎に顔を向けた。

 竜崎の背は玲子の頭ふたつ分は大きいので、どうしても見上げる体勢になる。

 

「お前、俺の荷物を勝手に外に出して、A級生徒寮に移動させやがったな。しかも、俺をS棟に入れなくしただろう。ふざけんじゃねえ」

 

 竜崎が大きな声で怒鳴った。

 玲子は、小さく嘆息した。

 この手の手合いは大人も子供も同じだ。

 耳元で大きな声を出せば、玲子のような若い女なら、すぐに怖気づいてしまうと思い込んでいるのだろう。

 だが、これでも、玲子は修羅場を数限りなく潜り抜けている。

 十七か十八の子供に怒鳴られたくらいで、一瞬でも怖がってしまうような可愛げは持ち合わせていない。

 

「わたしは、最後通告を何度もしたはずだけどね、竜崎君。あなたは、S級生徒からA級生徒になったので、寮の荷を昨日までに移動させろと、わたしは文書でも口頭でも告げたわ。そして、こうも言ったわ。今日の朝までに、荷が部屋から出ていなければ、全部、ごみとして処分するとも……。まあだけど、特別の温情で捨てはせずに、A級寮の部屋への移動の処置をこっちでしてあげたのよ。感謝して欲しいわね」

 

 玲子は言った。

 実は、この竜崎隆弘は、昨日までは特別寮生徒、いわゆるS級生徒だったが、真夫をS級生徒として迎えるために、玲子の裁量でA級に格下げをしていた。

 こんな粗暴な男でも、実家からの学園に対する寄付金については、同じS級生徒の加賀豊と金城光太郎に次ぐ、三番目であり、それを理由として、これまではいわゆる「五人組」と称されている五人限定のS級生徒のひとりにしていたのだ。

 

 竜崎隆弘をA級に格下げすることについては、すでに実家の竜崎家には承知させているが、当の本人はそれを納得せず、なかなか荷を移動させずに、あてがわれた部屋に竜崎は居座り続けた。

 それで今日、竜崎が授業に出席しているあいだに、竜崎の部屋から荷をA級生徒用の部屋に移動させ、寮に入ることのできる者の認証リストから削除した。

 授業が終わって、特別寮に戻ろうとした竜崎はそれに気がついたのだろう。

 だから、怒り心頭に達したような顔をして、理事長室にやって来る途中だったというところに違いない。

 

「俺はS級だ。理由のないA級への降格は認めねえぞ。そう言ったはずだ」

 

 竜崎が吠えた。

 玲子は鼻で笑ってやった。

 まあ、ここまで感情的になる理由もわからなくもない。

 学園内における特別恩恵生徒の権力は大きい。

 なによりも、特別恩恵生徒、すなわち、S級生徒でしか使えない施設などもたくさんあり、それをS級生徒は、ほかの生徒に一時的な使用許可を与えることができるのだ。これを生徒たちは「恩恵」と呼んでいるようだ。

 そのほか、同じような権限はいくつかあり、自然とS級生徒には取り巻きのような存在ができあがっていく。

 だが、竜崎はS級生徒でなくなったために、これまでの取り巻きたちに「恩恵」が与えられなくなったのだ。

 もともと、性格のいい男ではないし、すぐに人も離れていくと思う。

 玲子の知ったことではないが……。

 

「学園の規約をよく読むのね。生徒の等級については、学園の理事会において、成績や実家の学園に対する貢献度、そのほか、さまざまな要因を総合判断をして、学園側が自由に決定することになっているのよ。異議は認めらないわ──」

 

「なんだとおっ」

 

「それと、あなたは、いま理由がないと言ったけど、たったいま、あなたは、理事長代理であるわたしを呼び捨てにして、そうやって悪し様に罵るような行為をしたわ。降格処分として十分な理由よ。さらにB級に落とされないだけ、ありがたく思いなさい。それ以上、つべこべ言うと、本当にB級に落とすわよ」

 

「お、お前、竜崎家が学園に対して、どれだけ貢献しているかわかってんだろう。言っておくが、こんなことは認められねえぞ。加賀や金城にも言って、連中の実家からの寄付金も停止させる。そうなったら、学園がどうなるかわかってんのか──?」

 

 竜崎は声をあげた。

 玲子は嘆息した。

 どうして、このくらいの年頃の若者は、実家の力をまるで自分自身の能力であるかのように振る舞うのだろう。

 誰ひとりにも頼らず、自分自身の力でやってきた玲子としては、二言目には、実家の力のことを持ち出したがる、この学園の生徒たちの傾向には鼻白むものがある。

 

 いずれにしても、この竜崎が、S級生徒であって学園の二大派閥の首領的存在である加賀豊と金城光太郎に影響力を持っているはずもなく、三人で結託するというのは、彼特有のはったりか、あるいは、自意識過剰の思い込みなのかもしれない。

 

 そのとき、さっきまでいた生徒指導室の戸が開いた。

 現われたのは、灰色のC級生徒用の制服を身に着けたかおりだ。

 ここにいた者のほとんどは、かおりには注目はしなかったが、かおり自身ははっとしたように、スカートの裾を押さえる仕草をした。

 玲子が下着を取りあげたために、制服を直接に身に着けるしかなかったかおりは、かなりの短い丈のスカートの内側をノーパンでいるのだ。

 いずれにしても、この場を離れる方向は、竜崎たちが廊下を阻むようにしている。

 かおりは身を隠すように、壁に張りついて離れた場所で立った。

 

 まあいい。

 とにかく、これで真夫を迎える準備はできた。

 ただ、このかおりについては、これからもしばらくは、しっかりと監督をした方がいいだろうと思った。

 

「好きにしなさい、竜崎君。じゃあ、わたしは忙しいから」

 

 玲子はきびすを返そうとした。

 しかし、肩を後ろからがっしりと掴まれた。

 

「待てよ、話は終わってねえ」

 

 強い力だ。

 だが、さすがに身体を掴まれるという暴力に、玲子はかっとなった。

 思い切り払いのけてやろうと思ったが、玲子の力では丸太のような腕に対してびくともしない。

 そのまま、竜崎はぐいぐいと玲子の肩を掴む手に力を入れてくる。

 玲子は痛みで顔をしかめた。

 

「おいおい、生徒会二役の目の前で、理事長代理に暴力を振るうのか、竜崎? 降格どころじゃ済まねえぞ」

 

 声をかけてきたのは、まだ生徒会室の前で絹香と一緒に立っていた秀也だ。

 粗暴な竜崎だが、かねてから秀也の言うことには大人しく従う。

 あるいは、秀也の操心術を使っているのかもしれないが、いまも秀也の一言で竜崎は、すぐに大人しく玲子の肩から手を離した。

 

「へっ、暴力なんてとんでもねえよ。俺は、ただ理事長代理殿と話をしているだけだぜ」

 

 だが、態度は大きい。

 竜崎は馬鹿にしたように笑いながら、両手を秀也たちに拡げてみせた。

 

「……そうだ。お前たちからも、ちゃんと説明してくれよ、秀也に西園寺──。今回の突然の等級変更は、学園側による生徒自治への不当なる介入だ。生徒自治会として、正式の不服申し立てをするとな。例の書類は、早速、生徒会から理事会に通知しろよ。頼むぜ──」

 

 竜崎は、今度は秀也と西園寺絹香に向かって脅すように怒鳴った。

 生徒自治会とは、名目的なものにすぎないが、生徒代表でもある生徒会が、自治会として生徒側の総意という形式で、要求や抗議などを正式に学園側に行う制度だ。

 生徒会が自治会も兼ねており、どうやら竜崎はその生徒自治会を通じて、正式抗議をさせようとしているのようだ。

 生徒自治会からの文書申し立てには、学園側からも正式に文書回答を行うという決まりだ。

 一応は生徒自治会を通じての抗議となれば、玲子も門前払いというわけにはいかず、それなりの形式による回答を求められる。

 しかし、秀也は首を傾げた。

 

「例の書類? なんのことだ、会長? もしかしたら、あんたは知っているのか?」

 

 秀也が絹香を見た。

 絹香は小さく肩を竦めた。

 

「この竜崎君からの申立書という内容のものがわたしに届けられたのは事実よ。もっとも、あんなもの認められないから、すぐにシュレッダーにかけました」

 

 絹香はあっさり言った。

 

「な、なんだと──。あ、あれは正式の申立書だぞ。それを勝手に捨てただって──? ふざけんなよ、西園寺」

 

 竜崎が怒りで真っ赤な顔になった。

 横で秀也はぷっと噴き出している。

 西園寺絹香がすっと前に出た。

 

「残念ながら、あんなものは正式の申立書とは認められないわね。あれは、あなた自身の直筆じゃないわね。誰かに代筆させたでしょう? 生徒自治会を通じる申立書は、原則として申立者本人の直筆によらねばならない──。その条文に違反しているわ。だから、受理はしませんでした」

 

 絹香は竜崎を見下すような口調で言った。

 

「お、俺の字じゃねえだと──。な、なんで、そんなことわかんだよ……。まあいい……。わかったよ。じゃあ、俺が書きゃいいんだな。すぐ書くから、お前ら手続きしろ──」

 

 しかし、絹香は鼻を鳴らした。

 

「何度出しても同じよ。今度は別の理由をつけて却下してあげるわ。そもそも、わたしは、今回S級生徒があなたからほかの者に入れ替わるということに賛成なの。前から思っていたけど、あなたは少しうるさいののよね。わたし、下品で粗野なのは好きじゃないのよ。はっ──。S級生徒が入れ替わる──? 個人的に大賛成よ。S級生徒には、それに相応しい品格というものがあるはずよ。あなたって、どう見ても品格不足だから」

 

 西園寺が馬鹿にしたように笑った。

 玲子のお株を奪われたような絹香の物言いに、玲子は思わず苦笑してしまった。

 

「ひ、品格不足だと──? 言いやがったな、西園寺──。今度、俺と入れ替わるのは他校からの転校生だろうが──。そのどこの馬の骨ともわからねえ奴と比べて、この竜崎隆弘が品が落ちると言ってんのか──」

 

「そうじゃないように聞こえたの、竜崎君? やっぱり、あなたって五人組のひとりとして、学園の顔になるには力不足よ。とにかく、大人しくしなさい。あなたがS級生徒でいられたのは、あなた自身の品格でも能力でもなく、あなたの実家が学園に多額の寄付をしていただけのことなんでしょう? だったら、もっと実家に力のある転校生が来れば、等級をさげられるということもあるわよ」

 

 絹香が竜崎に言った。

 竜崎はますます怒りで顔を赤くしている。

 

「新しい特別生徒は孤児です。特別生徒に相応しいなど、とんでもないわ」

 

 そのとき、突然に別の場所から声がした。

 離れて立っていた白岡かおりだ。

 玲子は内心で舌打ちした。

 別段に、真夫が孤児であることを隠すつもりもなかったが、あえて拡めるつもりもなかった。

 このかおりは、黙って竜崎と絹香の会話を耳にしていて、真夫が孤児であることをぶちまけた方が、自分に有利になるかもしれないうと考えて、それを喋ったに違いない。

 

 玲子はその性根が気に入らなかった。

 これも後でしっかりと罰を与えてやろうと思った。

 

「こ、孤児だと──? おい、玲子、お前、よりにもよって、俺を孤児と入れ替えるというのかよ──? いや、そもそも、この学園にそんな素性の者が入って来るのか? しかも、S級生徒として──? ちゃんと説明しろよ、玲子──」

 

 竜崎が声をあげた。

 だが、玲子の我慢もこれまでだ。

 玲子は竜崎に指を突きつけた。

 

「竜崎隆弘君──。あなたは、理事長代理であるわたしを何度も呼び捨てにするけど、それだけで、あなたを停学にする理由に十分なのよ。今度転入する真夫君の素性など、あなたに説明する理由もないし、そのつもりもありません。一秒以内に、わたしの視界から消えなさい──。それと、白岡かおり──。あんたもよ。C級生徒になった、あんたにはやることを命じたはずよ。それとも、わたしにこの機器を操作させたいの?」

 

 怒鳴った。

 玲子は、鞄からスマートフォンを取り出した。

 かおりの羞恥動画が入っている機器だ。

 ほかの者には、なんのことしかわからないだるうが、かおりにはこれで十分だ。

 かおりの顔色が変わるのがわかった。

 

 一方で竜崎は、いまにも殺すような目で玲子を睨みつける。

 

 結局、竜崎たちとかおりは、それ以上は口を開くことなく、そのまま立ち去っていった。

 ふたりがいなくなると、玲子は大きく嘆息した。

 

「……工藤さんも、あんな啖呵を切るんですね。覚えておきます」

 

 すると、絹香が驚いたように言った。

 

「先に部室に行ってろ、絹香」

 

 そのとき、秀也が声をかけてきた。

 絹香が頷く。

 

「うっ」

 

 だが、次の瞬間、突然に絹香が股間を押さえるようにして、両膝をがくりと曲げた。

 はっとした。

 

 これは、間違いなく、淫靡な悪戯を秀也が絹香に仕掛けたに違いない。

 絹香はなにかを懸命に耐えるように、下半身を小刻みに震わせるようにしている。

 しかも、秀也はたったいま、絹香に「部室に行け」と告げた。

 秀也が部室というのは、秀也が「SS研」と呼んでいる表向きには「社会科学クラブ」という名称になっている部活動のことだが、実際には、秀也の愛人倶楽部そのものだ。

 

 やはり、この秀也は、生徒会長であり、四菩薩とも称されているらしい学園を代表する美少女のひとりである西園寺絹香を愛人にしているのだと思った。

 

 つまりは、性奴隷に……。

 

 絹香は明らかにおかしな仕草で、よろけるように廊下を立ち去っていく。

 玲子は、秀也の右手がずっとズボンのポケットに入ったままであることに気がついていた。

 秀也がさっきからポケットの中でなにかを操作する仕草を続けていることも……。

 

「転校前から真夫も大変だな。いろいろと前途多難だ。まあ、絹香くらいには、真夫の味方になるように言っておくよ。承知のとおり、俺もいろいろと忙しくなるしな。真夫のことを気にかけてもいられねえのさ」

 

 ふたりきりになると、秀也がからかうような口調で玲子にささやいた。

 秀也が忙しくなると言っているのは、玲子の代わりに龍蔵の秘書の仕事をすることになったことを言っているのだろう。

 もっとも、真夫がもっとも注意すべきなのは、この秀也に対してだと玲子は思っている。

 口では真夫の味方のようなことを言うが、やはり、この少年が本当はなにを考えているのかまったくわからない。

 

 ただ、生徒会長の西園寺絹香が真夫の味方になるように処置するという申し出はありがたい。

 真夫が孤児院出身だというのが、すぐに学園に拡がってしまうのは間違いない。

 上流意識の高い生徒の多いこの学園では、それだけで真夫や恵に対する風当たりは強くなるだろう。

 そんな状況の中で、西園寺絹香ほどの女生徒が真夫の味方になってくれるのであれば、かなり、真夫も楽になるだろう。

 玲子は素直に受け入れることにした。 

 

「……そうしてもらえると助かります……。それにしても、もしかして、西園寺さんはSS研だったんですね?」

 

 玲子は訊ねた。

 SS研に所属する女生徒であるということは、秀也の愛人であることにもなるはずだ。

 

「まあな……。よければ、お前も入らないか? 別に教師でも、理事長代理でも、入部資格に問題はねえ。SS研は喜んで、あんたの入部を受け入れるぜ」

 

 秀也が笑った。

 玲子は肩を竦めた。

 

「……折角の申し出ですけど……」

 

 玲子は断った。

 秀也に躾けられていた以前ならともかく、いまの玲子は龍蔵にも認められた真夫の正式の奴婢だ。

 どうして、秀也の愛人倶楽部になど……。

 

「そう言うなよ。玲子……。実のところ、俺はSS研をやめるつもりなんだ。さすがに、伯父貴のところで修行をするとなると、放課後にこうやって遊んではいられねえしな。だが、やめるのはいいが、そうなると、一応は俺の後釜が必要になる。いま所属する女生徒はふたりなんだが、真夫が俺の後を継いでくれるのが一番いいように思うんだ。これは本気だぜ。一応の正式部長は、さっきの絹香だが、絹香には新部長に真夫を推薦しておく……。なあに、あいつは俺の命令には逆らわねえ。そのうちに、絹香から真夫にアプローチでもさせるさ」

 

「SS研を真夫様に?」

 

 玲子は驚いた。

 秀也は本気だろうか。

 つまりは、自分の愛人を真夫に譲りたいという意味にも聞こえるのだが……。

 

「もちろん、真夫が承知すればだぜ。もっとも、これは無理強いはしねえ。だが、伯父貴にも話してみたが、伯父貴は真夫が帝王学を学ぶ舞台として、SS研もいいだろうと言ってる。承知のとおり、あの伯父貴の帝王学は特別だからな」

 

 秀也は笑った。

 確かに、豊藤財閥の首領である豊藤龍蔵は特別な感性の帝王学論の持ち主だ。

 

 すなわち、女を鬼畜に性で支配することで、他人を支配するということがどういうことなのかを学ばせるというのだ。

 そのための材料にされたのが玲子であり、龍蔵が調教レイプを真夫にさせようとしている白岡かおりだ。

 また、玲子が龍蔵の手元から離れると同時に連れて来られたあのナスターシャは、秀也に対する帝王学教育の一環のためだろう。

 

 だから、真夫がこの学園で複数の女を支配する場所として、秀也が使っていたSS研の部室を使わせるとともに、秀也の女をそのまま、真夫にも支配させるというのは、いかにも龍蔵が気に入りそうな案のようにも思った。

 

「まあ、頃合いを見て、絹香から勧誘させる……。それよりも、さっきの話だ。俺がやめて、真夫がSS研の主人になれば、お前はSS研に入るか?」

 

「それは、多分……」

 

 玲子は答えていた。

 SS研の部室の中に入ったことはないが、この秀也の性癖を考えると、ただの愛人部屋ではない気もする。

 いわゆる「調教部屋」のような造りになっているのではないかと思う。

 

 そこで、真夫に辱められる……。

 もしかして、この理事長代理としてのスーツのまま……。

 それとも、想像もできないような恥ずかしいことされる……?

 玲子はなんだか、頭がぼうっとなってしまった。

 

 だが、思念は秀也の高笑いで中断させられた。

 玲子は、つい恥ずかしい想像をしてしまったことに、顔を赤らめてしまった。

 

「やっぱり、お前はすっかりと色呆けだよ。さっき竜崎相手に、威勢のいい啖呵を切った女と同一人物とは思えねえぜ」

 

 秀也は笑いながら、立ち去っていった。



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 第32話  固定された絶頂

「じゃあ、生徒会長殿の尻振りダンスを見せてもらうか」

 

 椅子に座っている秀也が手元にあるリモコンを押したのがわかった。

 

「ひいっ……う、ううっ……」

 

 次の瞬間、革の貞操帯の内側で蜜部に埋め込まれているバイブが淫らな蠕動を開始して、絹香は両手を吊られている身体をがくりとのけぞらせた。

 

「もうひとつだ」

 

 ショックを噛みしめる間もなく、尻穴を犯されているバイブもまた回転運動を始める。

 またもや、大きくのけ反り、絹香は両手を吊りあげている鎖をほとんど無意識に握りしめていた。

 制服の下で装着されている貞操帯には、二本のバイブがついていて、それは絹香の股間と菊穴にしっかりと埋まっていた。しかも、挿入する前に秀也によって、たっぷりと媚薬を塗られていて、それがいやらしい運動を始めると、絹香は秀也のからかいのとおりに、はしたない腰振りをしてしまう。

 

 「SS研究部」と称する文化部の部室の並ぶ棟の一室だった。

 SS研究部、すなわち、“Social Sciences”研究部は、一応は名目上は、人間社会におけるさまざまな面を科学的に探究することを目的とした文化部であり、人類学、考古学、経済、歴史、地理、あるいは集団行動心理などを総合的に体系化することを活動の趣旨としてたが、創始者の秀也は、“SM Split”の略だと称していて、実際には秀也の言葉のとおり、秀也が絹香や、あるいは、もうひとりの部員である前田明日香が秀也とSMプレイをするための場所だった。

 

 この秀也が一体全体、本当は何者であるかは知らないが、秀也は自分の性的な好奇心を満足させるための場所として、この文化部棟の一角を手に入れ、しかも、そこにほとんどの者に知られていない地下室を繋げて、そこに「プレイルーム」を作っているのだ。

 SS研は文化部棟の二階の端にあり、なんでもない文化部の体裁をとっている一室から隠し階段を下ると、この地下のプレイルームに辿り着けるようになっている。

 

 絹香は、今日久しぶりに生徒会室にやってきた秀也に連れられて、このSS研にやってきた。

 そこで、制服のまま両手に手錠をかけられて、その手錠を天井から伸びる鎖に繋がれたのだ。

 床に両足はついているものの、両手は引きあげられて立っている姿勢を崩せない。

 その状態で、秀也は絹香を眺める体勢で椅子に座り、絹香に装着させている貞操帯の内側の二本のバイブを操作し始めた。

 

「あ、ああっ、あううっ」

 

 皮一枚を隔てて、粘膜と粘膜がこれでもかとばかりに攪拌される。

 口からあられもない声が洩れ続ける。

 

「明日香に乳を揉ませて、レズプレイを見物したいところだがな。あいつは大会の前で忙しいんだとよ。片手だけ外してやる。その代わり、自分の手で制服の下に手を入れて乳房を揉め」

 

 秀也が別のリモコンを操作した。

 すると手錠の右手の部分の電子ロックが外れて、片手が自由になる。

 

「早く、モミモミしろよ、会長」

 

 秀也がにやにやと笑いながら言った。

 絹香は観念して、片手で制服の上着とその下のシャツのボタンを外してくつろげると、ブラジャーの下から手を入れた。

 絹香は、眼を閉じて、固く尖っている乳首を摘まんで転がす。

 

「んふう、ああっ」

 

 すぐに甘い声が吐息とともに口から洩れた。

 そのあいだも、膣肉とアナルではバイブがくねくねと卑猥な振動を続けている。

 秀也に躾けられ、すっかりと敏感な身体になった絹香は、たまらずに腰を揺すった。

 

「淫乱な会長さんだぜ。そういえば、前よりも後ろの穴が感じるんだったな。じゃあ、尻穴の回転をあげてやるぜ」

 

 秀也が小馬鹿にしたような口調でリモコンを操作した。

 その途端に、圧倒的に押し寄せる快楽の波動に耐えられずに、大きな声をあげた。

 

 どんなに声をあげても、この部屋の声はどこにも漏れないようになっている。

 この部屋で親友の前田明日香ともども、快楽に悶え狂う色情狂のような身体にされた。

 それがいつだったのか、あるいは、どういう経緯だったのか、なぜか覚えていないのだが、絹香はここで秀也に調教されて、どんな破廉恥な命令にも逆らうことのできない秀也の「性奴隷」にされていた。

 いまも、自分で乳房を揉めという命令に逆らうことができずに、はしたない恥態を秀也に晒している。

 

 峻烈な快美感が襲ってきた。

 絹香は自分で乳房を揉みしだきながら、競りあがった快感の槍に貫かれた身体をがくがくと震わせた。

 

「さっそく、絶頂したか。じゃあ、俺の精液をお前に注ぎ込んでやるぜ。そら、今度は鎖を緩めるから尻を出せ」

 

 秀也が立ちあがる。

 同時に片手を吊っていた鎖がからからと音を立てて緩んだ。

 そして、やって来た秀也が、絹香の右手をもう一度手錠に繋ぎ直した。

 

「ほら、尻だ。早く、しろよ」

 

 秀也がスカートのホックを外して、床に落とす。

 絹香は、両手を鎖にもたれかかるようにしつつ、背後に立った秀也に向かって、お尻を突き出すようにした。

 

「んはあっ」

 

 貞操帯が外され、張形が抜かれて、絹香は声をあげた。

 

「んふううっ」

 

 次いで、突き出している尻たぶの下から怒張が突き出された。

 いつの間に、ズボンを下ろしたのかもわからなかった。

 とにかく、秀也が絹香の腰を押さえながら、ゆっくりとヴァギナをこじ開けていく。

 そして、数回道を探るように前後したかと思うと、一転して一気に貫かれた。

 

「ひいいっ」

 

「ほらほら、好き者め。そんなに、男のチンポが気持ちいいか。女はどれも同じだな。犯されてよがることしか知らねえ。それでも学園の男子が憧れる美人生徒会長か。ほれっ、これがいいのか。これもいいのか」

 

 秀也が口汚く罵りながら、絹香を犯し続ける。

 小馬鹿にしたような口調と態度で女を犯すのは秀也の癖だ。

 おそらく、意図的にそうしているのではなく、秀也は心の底から女という生き物を蔑んでいる。

 それは、普段から接する態度から、絹香にもわかる。

 だが、それにも関わらず、秀也から与えられる快感は、抵抗することのできないものがある。

 自分のことを完全に蔑んでいる相手に冷笑されながら犯されることに恥辱はあるが、膣肉が怒張に擦れる感覚が気持ちよくて、絹香はもうなにも考えることができなかった。

 

「ううっ、ああっ、ああっ」

 

 秀也の律動が続く。

 巨大な快感が込みあがってきた。

 絹香はいつしか腰を自ら振って、快感をさらに引きあげるようにしていた。

 

「ここか? ここがいいのか、雌豚?」

 

 秀也が笑いながら、絹香の尻たぶに腰を叩きつけるように激しく犯す。

 絹香はよがり声とともに、身体をのけぞらせた。

 またもや、絶頂が襲ってきた。

 絹香は悲鳴のような声を迸らせて、全身を弓なりにさせた。

 

「そらっ、たっぷりと味わえ」

 

 秀也がぶるりと腰を震わせた気がした。

 股間に挿入されている肉棒が、心なしか熱を持ち、そして、膨らんだと思った。

 次の瞬間、子宮に向かって、白濁液が噴き出されるのがはっきりとわかった。

 悲鳴のような嗚咽をしぶかせ、絹香は膣に注がれる粘性物を陶酔の中で受け止めた。

 

「な、なに、なに? ああ、あああっ、ああ、な、なに? なに?──」

 

 しかし、絹香はすぐにパニックになった。

 大きな快感を覚えた身体が飛翔した場所から下がって来ないのだ。

 絶頂したまさにその瞬間のまま、快感が保持されて、固定されている。

 絹香は、あり得ない状況に陥り、混乱して絶叫した。

 

「い、いやあ、な、なにが起こったの? いやあ、ああっ、はあああっ」

 

 絹香は身体をあまりのことに暴れさせた。

 秀也が笑いながら怒張を抜く。

 しかし、引きあがった快感が下がらないという状況には変わりがない。

 絹香は絶頂したまさにその瞬間で、快感を固定されてしまったのだ。

 

「絹香、よく聞け。知っているとおり、明日の昼間、週末を利用して、坂本真夫という三年生が特別寮に入って来る。お前はなぜか、そいつに気に入られたくなる。不思議にも心を魅かれるんだ……。そして、抱かれろ……」

 

 秀也が耳元でささやいてきた。

 しかし、絹香にはその言葉の意味さえも、うまく知覚できない。

 絶頂したままの状況は、そのままだ。

 絹香はどうしていいかわからなかった。

 ただ、ひたすらに悲鳴をあげ続けた。

 

 壊れる──。

 助けて──。

 

 絹香は心の底から叫んでいた。

 その絹香に秀也が喋り続ける

 

「……抱かれた途端に、お前は真夫に接している女たちが疎ましくて仕方がなくなる……。お前は頭のいい女だ。真夫に気づかれないように、真夫がいまの女たちから心変わりするように仕向けろ。真夫を奪え。真夫に女という生き物を幻滅させるんだ。それが、お前の仕事だ……」

 

 秀也がなにかを話している。

 わからない。

 だが、大きな楔のようなものが、心に突き刺さるのを感じる。

 それが膨らみ、全身を覆い尽す。

 

 真夫という転校生を好きになる……。

 その真夫に抱かれなければならない……。

 そして、真夫をほかの女から奪う……。

 真夫から女を幻滅させる……。

 

 その言葉が頭から繰り返されている。

 おかしくなりそうだった。

 そして、相変わらず、絶頂は継続している。

 絹香はひたすらに悲鳴をあげた。

 

「……そして、これは最後の命令だ。このお前はこの後、気を失うが、秀也という少年に関する記憶をほとんど失う……。繰り返し犯されたという記憶もないし……、調教されたという事実もない……。もちろん、擦り込まれた暗示が俺によるものという意識もない……。すべてはお前の自発的な意思によるものだ……」

 

 声が続く。

 もう、なにもわからない。

 

 絹香は全身を暴れさせて、固定された絶頂の苦しみに悲鳴をあげ続けた。

 

 


 

 

 目の前では、制服姿の絹香が両手を天井から繋がれたまま、絶叫をして身体を暴れさせていた。

 その横には、絹香の股間から外した貞操帯があるが、実際のところ、秀也がやった絹香に対する処置は、それだけだ。

 

 だが、絹香の心には、貞操帯で一度絶頂させられ、次いで、秀也自身に犯されて精を膣に注がれ、さらに、その絶頂から下りて来られない快感の苦しみを味わい続けているはずだ。

 そして、さっき秀也が絹香に吹き込んだ暗示の言葉を繰り返し、頭の中で反芻させているはずである。

 

 絶頂状態で快感を固定されるというのが、女にとってどれくらいの快感と苦しみを覚えるものかということは秀也は知らない。

 ただ、この状態を保持させると、女はほとんど頭が空っぽになってしまい、どんな暗示でも完璧に擦り込まれてしまうのだ。

 おそらく、次に意識を戻して、正常な状態になったとき、絹香はいまのことをまったく記憶してはいないが、秀也に刻まれた暗示だけは、しっかりと心の奥底に根付かせた状況になっているはずだ。

 

 部屋の中の呼び鈴が鳴った。

 地下道に通じる隠し扉の外に誰かがやって来たのだ。

 しかし、それが誰であるかはわかっている。

 このSS研の地下室と学園内に走っている地下道との通路を知っているのは、秀也以外ではひとりしかいない。

 秀也は通路解放を許可する信号を送った。

 

 ただの壁だった場所が開き、そこから時子が入ってきた。

 すでにかなりの高齢の老婆だが、その美貌は少しも衰えてはいないと秀也は思っている。

 時子は、部屋の真ん中で悲鳴をあげながら全身を激しく震わせている絹香を一瞥して、頬に苦笑を浮かべた。

 

「また、女生徒と遊んでいるのですか、秀也さん? あなたのことだから、操心術であり得ないような快感を与えているんでしょうね」

 

 時子が秀也の横に立って言った。

 その言葉使いは、目の前の絹香という女生徒を意識したものだろう。

 正気を保っているとは思えないが、念のためだと思う。

 

「直接犯すことは、龍蔵がうるさいからな。せめてもの道楽だ……。そして、いまは真夫への罠を操心術で仕込ませている。あの真夫が女に対して幻滅するような罠を仕掛けるように心に擦り込んだ。どうも、あの坊やの弱点は、女のようだからな。女に心を許すようじゃあ、まだまだ未熟者だ。その過ちをしっかりと教えてやるさ」

 

 秀也は言った。

 そのとき、絹香が甲高い声で咆哮した。

 身体が完全に脱力して、スカートの下から尿が滴り落ちてきた。

 どうやら、快感が絶頂状態で持続する感覚に耐えられずに、意識を失うとともに失禁をしたようだ。

 もっとも、すべては、絹香自身が作り上げている幻想によるものだ。

 

 時子が秀也の椅子の手すりからリモコンを取りあげて、絹香の両手を吊っている鎖を引き下ろした。気を失っている絹香の身体が地面に倒れていく。

 時子は絹香に近づくと、尿で汚れている床に直接身体が倒れないように、絹香の身体を動かして床に横たわらせた。

 

「あなたからすれば、あの坊やが女に優しすぎるようにように思えるんでしょうね」

 

 時子が絹香の手錠を外しながら言った。

 時子は戸棚から絹香の着替えのスカートと下着を取り出すと、小さな籠に入れて絹香の横に置く。

 さらに、絹香が汚した床を別の用具箱から取り出した雑巾で拭き始める。

 

「恵という女にしても、玲子にしても、真夫は大事にしすぎる。女など冷酷に道具として扱うだけの度量がなければ、豊藤の総帥は務まらねえよ」

 

 秀也は肩を竦めた。

 床の掃除が終わった時子が、汚れた雑巾を処分して戻ってくる。

 時子の顔には、秀也の言葉を可笑しがるような表情が浮かんでいた。

 

「なんだよ。なにか言いたいのか、時子?」

 

 秀也は肩を竦めてみせた。

 

「あたしも女ですよ。忘れたんじゃないでしょうね。女を使い捨ての道具のように言うのは聞き捨てならないわ」

 

「忘れちゃいねえさ。お前は女さ。歳をとったババアだがな」

 

 秀也は時子を引き寄せて、唇を重ねた。

 舌腹に唾液を乗せて流し込むと、時子はおいしそうにそれを飲み、秀也の舌に自分の舌を絡めてくる。秀也は、しばらくのあいだ、愛人頭の老婆とのディーブキスを愉しんだ。

 

「ほらな。俺の舌はうまいかい? 歳はとっても男に与えられるキスにはそうやって、鼻を鳴らして甘い声をあげてしまう。それが女だ」

 

 秀也は時子から口を離すと、からかうように言った。

 

「いまらさ、あなたに教え諭そうは思わないけどね。まあいいわ……。それにしても、あなたは、あの真夫を陥れたいのかしら? それとも、大切にしたいの? 判断に悩むところがあるわね。正人君をあのかおりという女生徒にけしかけさせましたね。映像で見ていたけど、特別寮に侍女としてやってきたかおりちゃんが入って、すぐに正人君が近づきましたよ。なにか、不穏なことを吹き込んでいたけど、あなたの差し金でしょう?」

 

 時子が訊ねた。

 正人は特別寮に入っていることになっている秀也の従者扱いだから普段は特別寮にいる。

 だから、真夫の奴婢としてやってきたかおりに近づき、早速、活動を始めたのだろう。正人に許したのは、真夫を陥れる罠を仕掛けることだが、操心術者の兆しも示している真夫が、それにどう対応するのか、秀也は興味があった。

 いずれにしても、正人のことにしても、絹香に与えた暗示にしても、その対応で真夫の素質は判断できると思っている。

 また、学園に隣接する龍蔵の屋敷となっている建物からでも、学園全体に仕掛けている隠しカメラの映像と音声を確認できる。

 時子は、それで観ていたに違いない。

 

「まあな。あいつを鍛えるというのは俺に与えられた使命だしな。俺もそう自由になる時間があるわけじゃない。真夫には厳しいかもしれんが、これも真夫の成長のためだ」

 

 秀也はにやりと時子に笑いかけた。

 

「そんなことを言って、真夫が本当に潰れてしまったらどうするのですか? 豊藤グループとしては大きな損失じゃないの? あの子が豊藤の正統な後継者の血を引いているのは確かなのでしょう?」

 

「正統な血を引いているとしても、能力にそぐわない地位を与えられれば、それはあの小僧の不幸になる。小僧に能力がなければ、それに相応しい者が豊藤が継げばいいことだ。いずれにしても、俺は、あの小僧を見捨てるつもりはねえよ。ただ、どの程度の器量なのか見極めたいだけさ」

 

 秀也はうそぶいた。

 今度は時子が肩を竦めた。

 

「まあいいです。それよりも、龍蔵がお呼びですよ。今日は決められた日のようだけど、夕方のいまになるまで、やってこないと龍蔵殿が文句を言っていてましたよ。それで、あたしが、あなたを探しにきたというわけです」

 

 時子は言った。

 秀也は、それで前に龍蔵のところに行ってから、今日が三日目だということを思い出した。

 龍蔵には、三日ごとに必ず龍蔵のところに顔を出すように命じられていた。

 定期的に秀也を確認する必要があるそうだ。秀也としては、もうどうでもいいと思っているが、従わないと、この時子も態度を豹変して、秀也に怒鳴るだろう。

 とにかく、それが、こうやって、学園側で好き勝手やることの条件なのだ。

 

「ふん、あのじじいには、金髪の玩具を与えてやっただろう。あいつは、結構、ああいう西洋人の白人を嗜虐するのが大好きなのさ。暇なら、俺なんかじゃなく、あの金髪と好きなだけ遊べといえよ。俺に構うなとな」

 

 秀也は言った。

 だが、時子の顔から笑みが消えて、秀也のことを睨んだ。

 秀也は嘆息した。

 

「わかったよ。そんな顔するな。だけど、三日ごとに行かなくても、そんなに変化なんかないさ。それに、高校生というのは案外に愉しくてね。ついつい、時間を忘れちまう」

 

「とにかく、行きましょう、秀也。龍蔵がお待ちかねです」

 

 時子が厳しい口調で言った。

 

「はいはい、お婆さん」

 

 秀也はお道化ながら立ちあがった。

 そして、まだ意識のない絹香に一瞥した。

 目が覚めたとき、この絹香は、なぜ、自分がここで横たわっているのか、うまく思い出せないことだろう。秀也のことも記憶にはあるが、自分が調教を受けていたという認識は欠落していると思う。

 それでいて、このSS研のことは、しっかりと頭に残っていて、自分がSS研という「SMルーム」の部長であることも知っている。

 その一員である絹香は、その入部に相応しい男子生徒を探し始め、頭に擦り込んだ真夫に対する好奇心と結びついて、やがて、真夫をSS研に誘うことになると思う。

 

 だが、絹香が真夫を気に入るとともに、恵や玲子に対する強烈な嫉妬心が絹香に襲い掛かることになる。

 この絹香のことだ。

 玲子はともかく、恵という世間知らずらしい娘くらいなら、その恵が真夫を裏切るように仕向ける罠に嵌めることは難しくないはずだ。

 

 真夫の弱点は恵だ──。

 

 正人の言い草じゃないが、秀也もそう思う。

 豊藤グループの総帥になろうという者に弱点などあってはならない。

 

 ましてや、それが女であるなど……。

 女など道具だ。

 

 容赦なく屈服し、洗脳し、そして、完全に支配すべき動物だ。

 それを真夫には思い知らせる必要がある。

 

 可哀想だとは思わない。

 

 秀也に残された時間は少ない。

 もはや、手段など選んでいる場合ではないことは、秀也自身が一番よくわかっている。

 

「じゃあ、行くか、時子」

 

 秀也はSS研から地下通路に向かう方向に足を向けた。



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第6章  前夜【恵、玲子】
 第33話  カラオケ遊び


 約束の場所は、大通りに交差するアーケード内にあるカラオケボックスだった。週末の夜ということで、場内はいっぱいであり、空き室待ちのグループもいくつかいた。

 

「店長はいる?」

 

 玲子は、彼らの前を通り過ぎて、カウンターに向かうと、自分の名刺を差し出した。

 すると、受付係をしていた若い女が首を傾げながら、奥に入っていき、すぐに慌てたように四十過ぎの男が出てきた。

 この店長には面識はないが、全国にチェーン店が拡がっているこのカラオケ会社は、豊藤グループの末端企業のひとつだ。

 玲子が差し出したのは、総帥である豊藤龍蔵の部下としての肩書の名刺であり、玲子がここにやって来ることは、さっき電話で知らせていた。

 だから、店長は驚いて、玲子を出迎えにきたのだろう。

 

「さっき連絡をした工藤です。仕事ではありません。プライベートです。二十二号室のお客様はまだ在室かしら?」

 

 玲子は言った。

 二十二号室というのは、真夫から連絡のあったボックス番号であり、恵とともにそこで玲子を待っているのだ。

 店長は、受付記録を確認して、一応、あと一時間半の予定だと玲子に教えてくれた。

 

「では、退出時刻はこちらから連絡するまで延長です。確認コールは必要ありません。退出のときには、こちらから連絡します……。それと、ここには監視カメラがあったわね」

 

 玲子は言った。

 店長は頷いた。

 

「二十二号室の監視は外しなさい。巡回もしないでください。それと、先に入っているふたりは、なにか注文をしたのかしら?」

 

「……いえ、入室のときに、ワンドリンクを注文しただけですが……」

 

 店長は当惑気味に言った。

 そうだろうと思った。

 昨夜、明日はカラオケボックスにでも遊びに行くというようなことを話していたので、玲子は事前にこのカラオケ店の場所を教えたのだ。

 ここなら、なんでも注文してもいいし、しかも、料金は支払う必要はないとも告げていた。

 だが、あまり、贅沢なことや、特権を駆使するくせのないふたりは、玲子の名を出すことなく、普通に受付をして空き室待ちでしばらく待ってからここに入ったようだ。

 玲子は、それをここにやって来る直前に、それを知って歯噛みした。

 

 真夫は特別な人間だ。

 

 カラオケに入りたければ、店ごと貸し切れるし、このカラオケ店に限らず、宿泊しているホテルで扱うどんな料理や飲み物でも、代金なしで贅沢に飲み食いして問題ない。

 だが、どうも、真夫も恵も、贅沢をしない習慣が身についているのか、ホテルのレストランにしても、ルームサービスにしても、それほど高価なものは食べないし、飲み物だって、備え付けのミネラルウォーターどころか、水道の水で済ませてしまう始末だ。

 このカラオケボックスについても、玲子の名を出せば、特別待遇で扱われるように手配してあり、それを説明したつもりだったが、あのふたりは、ほかの客と同様に普通に受付をしてしまったのだ。

 もっとちゃんと説明しておけば、こんなカラオケボックスのロビーで待たせるような失礼をしなくて済んだのにと、玲子は思った。

 

「では、フルーツの盛り合わせ……。そして……」

 

 玲子は、真夫と恵が好きそうなものを数種類見繕って、部屋に運ぶように命じた。

 飲み物については、ふたりが注文したものを大きな容器に入れて、氷やグラスなどとともに、トレイに載せて運べとも言った。

 さらに、代金については、これで処理せよと指示して、手持ちのクレジットカードを差し出した。

 

「すぐにしなさい」

 

 店長は、玲子のてきぱきとした指示に気後れしたようになり、すぐにやりますと応じた。

 玲子はすぐには真夫たちのいる部屋には向かわずに、注文したものが準備できるまで待ち、料理と飲み物を載せたトレイとともに、部屋に向かった。

 二十二号室はたまたま、この店の最奥の部屋だ。

 このカラオケ店は、この界隈ではもっとも大きな敷地面積があり、廊下も長い。

 玲子は突き進んだ。

 

 トレイを押す店員を手前で待たせて、覗き窓から室内をそっと覗いた。

 ふたりがいた。

 歌っているのはを恵であり、少し前に流行ったグループソングを熱唱していた。

 

 玲子は、ちょっとほっとした。

 実のところ、もしかしたら、室内で「プレイ」でもしていないか心配だったのだ。

 だが、こういう場所で、そういうことをすると、すぐに店員が駆けつけてきて客を追い出すか、場合によっては警察に通報するシステムになっている。

 だから、玲子の名を出してから入って欲しかったのだが、いずれにしても、「いまは」ただ普通にカラオケを愉しんでいるだけのようだ。

 

 しかし、少し様子が不自然でももある。

 歌っているのは恵だが、マイクを恵の口にかざしているのは真夫なのだ。

 恵の両手は、座っている椅子側に回されて背中の後ろだ。

 なにか、おかしい。

 

「も、もういいいわ。戻りなさい。さっきも言ったけど、この部屋については巡回は不要です」

 

 トレイを受け取り、慌てて店員を追い返す。

 部屋をノックしてからトレイとともに入った。

 

「あっ、玲子さん」

 

 恵が歌をやめて、トレイを押しながらやって来た玲子に声をかけた。

 室内は、四畳半くらいのスペースであり、六人分の机と椅子。そして、カラオケ機器とディスプレイがあった。

 

 真夫が玲子ににっこりと笑いかけて、手で挨拶をしてきた。

 玲子は、ただそれだけで、胸が締めつけられるような感じになり、同時に全身がかっと熱くなるのがわかった。

 

 わからない……。

 

 とにかく、真夫に対する玲子自身の反応は異常としか思えない。

 だが、真夫に会うと、いつもそれだけで頭がぼっとして、なにも考えられなくなる。

 こんな気持ちになった経験がないので、玲子はどうして、そんな風になってしまうのか、皆目見当がつかないでいる。

 

「遅くなりました、真夫様、恵さん。これはおつまみにどうぞ。飲み物も作り替えますね」

 

 玲子は、大皿に乗せた果物や食べ物を机に置くとともに、空になりかけていたふたりの前のグラスを取りあげた。

 新しい飲み物を作っていく。

 

「あさひ姉ちゃん、歌を途中でやめたから、罰が三個だよ。さあ、次はどこを外そうかな」

 

 そのとき、真夫が中途になった演奏を中止させるとともに、恵に手を伸ばした。

 

「そ、そんな、いまのはなしよ、真夫ちゃん。だって、玲子さんが来たんだもの。ねえ、いまのはなしだったら」

 

 恵が顔を真っ赤にして目を見開く。

 玲子は違和感を覚えた。

 

「駄目だね。じゃあ、三点分でブラを外してしまおう。それで勘弁してあげるよ」

 

 真夫が笑いながら恵の胸元に手を伸ばす。

 玲子はぎょっとした。

 部屋の外から見ただけでは気がつかなかったが、恵の恰好は普通じゃなかった。

 ミニスカートの下は靴も靴下もなく素足であり、ブラウスのボタンは上から三個まで外れていて、しっかりと白いブラジャーが見えている。

 しかも、スカートのホックは完全に外れているようだ。

 あれでは、立ちあがるだけでスカートは足首に落ちてしまうだろう。

 

 さらに、両手は背中側で拘束されている気配だ。

 両手を背後に回したまま、真夫がマイクをかざしていたのは、そのためなのだと悟った。

  

「ま、待って、待ってください、真夫様。こういうところには、監視カメラがあるんです。待って──」

 

 玲子は急いで言った。

 監視カメラは、客に不快な気持ちにさせないように隠しカメラになっていて、無線で映像を事務室に送るようになっている。

 玲子は、バッグから映像データの送信を遮断する装置を隠しカメラの位置に貼りつけ、映像の伝送をカットさせた。

 監視をするなと命じたが、念のためだ。

 また、廊下から巡回するために扉の一部に、小さな監視穴があるのだが、そこもシールで貼って隠す。

 

「へえ、そんな風になってんだ。知らなかったですよ」

 

 真夫が玲子の動作を見て、感心したように笑った。

 

「で、でも、なにをしていたのです?」

 

 玲子は処置を済ませてから訊ねた。

 

「カラオケですよ。採点装置で遊んでたんです。でも、ただ歌ってもなんだから、得点が八十を超えなかったら、少しずつボタンやホックを外していくというルールにしたんです。だけど、あさひ姉ちゃんは意外にしぶとくてね。結構抵抗するんですよ」

 

 真夫が笑った。

 玲子は驚いた。

 やっぱり、エッチな遊びをしていたのだと思ったが、慌ててやって来てよかったと思った。

 放っておけば、通報されてもおかしくなかった。

 

「だって、玲子さん、真夫ちゃんたら、狡いんですよ。歌っているときに、わざとくすっぐたりするんです。そんなんで歌えるわけないと思いませんか」

 

 恵が玲子に訴えた。

 玲子は嘆息した。

 

「あ、あの……。さっきも言いましたが、こういう場所では、おかしなことをすると、警察に通報されたりすることもあるんです……」

 

 玲子は困惑して言った。

 しかし、真夫はにやりと笑っただけだ。

 

「……でも、その怖れは、玲子さんが排除してくれたんでしょう。つまり、もう、ここで遊んでも大丈夫なんじゃないんてすか?」

 

 真夫が片目をつぶった。

 どきりとした。

 この顔はなにかを企んでいる表情だ。

 おそらく、真夫は、恵だけでなく、玲子にも、これからエッチな悪戯をしようとしている……。

 それはわかっている……。

 

 だが、困惑しつつも、なぜか本気で逆らう気になれない。

 むしろ、玲子の一部には、真夫だったら取り返しのつかないくらいの羞恥責めに遭ってもいいという、期待感のようなものまである。

 玲子は、自分の感情に戸惑うしかなった。

 

「……とにかく、あさひ姉ちゃんはブラ取りあげね。抵抗は無意味だよ」

 

 真夫が恵の胸に手を伸ばした。

 鋏を準備していたらしく、ボタンの外れているブラウスにそれを差し込んで、片紐と横を切って、恵からブラジャーを抜いてしまった。

 しかも、乳首が見えるぎりぎりのところまでブラウスをくつろげてしまう。

 

「あ、ああ……。は、恥ずかしいよ、真夫ちゃん……」

 

 白い乳房と桃色の乳頭の一部を露出されてしまった恵が、顔を真っ赤にして俯く。

 羞恥に悶える恵だが、その両手は背中で拘束されているために、服を戻すことはできない。

 玲子は、そんな恵の仕草を見ていると、なぜか股間がじゅんと濡れてくるのを感じた。

 

「可愛いよ、あさひ姉ちゃん……。じゃあ、次は玲子さんだね。でも、遅れた分は、最初からいくらか脱がすよ。そうじゃないと、あさひ姉ちゃんに比べて、ハンディをもらい過ぎだからね」

 

「そ、そんなあ……」

 

 玲子は抗議しようとしたが、真夫に腕を掴まれると、それでもう気が萎えてしまって、一切の抵抗心を奪われてしまう。

 身に着けていたのはスーツだが、最初に上着を取られて、さらにスカートも脱がさせられた。

 

「ま、真夫様、やっぱり、こんなところでは……」

 

 真夫の言いなりになってスーツの上下を脱いでしまったが、上はボタンのついた白いシャツで、下は横で紐で結ぶ白い下着だけの姿だ。

 やはり、こんな場所で半裸になる羞恥に、内腿が震えてしまう。

 いくら、従業員に念を押してきたとはいえ、扉に鍵がつけられているわけでもないし、扉を開いて覗かれでもしたら終わりだ。

 緊張のあまり、一気に全身から汗が吹き出す。

 

「手を後ろに回してよ」

 

 真夫に両手を取られた。

 やっぱり駄目だ……。

 真夫には絶対に逆らえない……。

 手首に背中側で手錠をかけられる。

 

「ま、真夫様、どうか……」

 

 玲子は小さな声で訴えたが、自分でもなにをお願いしているのかがよくわからなかった。

 こんなことをやめて欲しいのか、それとも、責めを少し緩めて欲しいのか……、あるいは、ただ、口先でそう言っているだけで、玲子の本心は、すっかりと真夫に弄ばれたがっているのか……。

 

 自分でもわからない……。

 

「さあ、歌を選んでください、玲子さん……。制限時間は十秒だよ。歌を入れられなければ、素っ裸になるだけじゃなく、これを塗るよ」

 

 真夫はさっと背後から小さな容器を取り出した。

 玲子ははっとした。

 それは、ホテルのプレイルームに備え付けてある強力な掻痒剤だった。

 あれを局部に塗られでもしたら、地獄の痒みに襲われて、玲子は泣き叫ぶしかなくなる。

 顔がさっと蒼くなるのがわかった。

 ふと見ると、真夫が掻痒剤を取り出したのを見て、恵もまた、引きつったような表情になっている。

 

「……あと十秒」

 

 真夫が言った。

 

「だ、駄目なんです。わ、わたしは歌が下手で」

 

 玲子は必死で言った。

 実のところ、玲子は音痴だ。

 人前で歌うなどとんでもない。

 ある意味、まだ裸になった方がましだと思うくらいだ。

 

「五秒、四……」

 

 しかし、真夫は容赦なく、カウントダウンをする。

 

「ま、真夫様……。ゆ、許してください」

 

 玲子は言った。

 しかし、真夫は、笑いながら数字を唱えるだけだ。

 

「ど、どんぐりころころを──」

 

 玲子は仕方なく叫んだ。

 残り一秒。

 だが、真夫は呆気にとられている。

 

「どんぐりころころ?」

 

 真夫だ。

 

「童謡のですか? 玲子さん、童謡を歌うんですか?」

 

 対面で座るかたちになっている恵もきょとんとしている。

 玲子はかっと赤面した。

 

「わ、わたし、本当に歌は……」

 

 玲子は泣きそうな声で言った。

 だが、真夫は笑いながら機器を操作して、マイクを玲子にかざす。

 前奏が流れ出した。

 仕方なく、玲子は口を開く。

 だが、歌を人前で歌うなど、玲子の人生ではありえないことだ。

 

 生まれつき、音痴のいう人間は絶対にいる。

 玲子がそうだ。

 自分でいうのもなんだが、ほかのことなら、玲子はどんなことでも、少し練習するだけで、一流に近いことをこなせる。

 しかし、歌だけは駄目なのだ。

 

「どん、ぐり、ころころ、どんぶりこ」

 

 とにかく、歌いだした。

 だが、自分でも歌い出しから間違っていることがわかる。

 曲は耳に入るが、それをどうしていいかさっぱりわからない。

 真夫も恵も笑いはしなかったが、結局散々なものだった。

 なぜか、画面の歌詞の文字が変わっても、まだそこを歌い終わってなかったり、逆に、曲は続くのに、もう画面には歌う歌詞がなかったりするのだ。

 

 拷問のような時間が終わった。

 採点は五十五点。

 真夫の言った合格点には遥かに及ばない。

 玲子は項垂れてしまった。

 

「ある意味、童謡をそんなに下手に歌えるなんて才能ですね」

 

 真夫が笑った。

 

「か、からかわないでください──」

 玲子は声をあげた。

 

「でも、玲子さんにも苦手なものがあるんですね。ちょっと、安心しました」

 

 今度は恵が言った。

 

「わ、わたしが音痴なことを誰にも言わないでくださいね。絶対ですよ、もう──」

 

 玲子は頬を膨らませて見せた。

 すると、真夫と恵がぷっと噴き出した。

 玲子も苦笑するしかない。

 だが、ふたりが声をあげて笑うので、玲子も結局声をあげて笑った。

 そして、しばらく三人で笑い合った。

 

「でも、罰は罰ですからね。じゃあ、次から、じゃんけんにしましょうか。野球拳です」

 

「野球拳?」

 

 だが、玲子は首を傾げた。

 玲子も恵も後ろ手に手錠をかけられている。

 どうやってじゃんけんをするのだろう。

 だから、そう言った。

 

「だったら、手以外でやればいいでしょう。でも、その前に──」

 

 真夫が玲子の腰に手を伸ばす。

 

「ああっ、やっ」

 

 玲子は逃げようとしたが、真夫は玲子の腕を掴むと、腰の横で結んでいる紐を解いて、あっという間に下着を取りあげてしまった。

 

 玲子は下半身を素っ裸にされてしまい、思わず椅子からおりて、床にしゃがみ込んだ。

 

「じゃあ、じゃん拳のやり方を説明するよ」

 

 だが、真夫はそれを無視して語り始めた。



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 第34話  見知らぬ玩具

 真夫に命じられて、玲子と恵はテーブルを挟んで向かい合うように、両脚をM字開脚してソファの上に乗せさせられた。

 その真夫は、向かい合う二個の長いソファではなく、その真ん中の小さな椅子に腰かけている。

 

 玲子は、あまりの羞恥の恰好に身悶えした。

 なにしろ、恵はまだ下着をはいているからいいが、玲子はすでに下着もスーツのスカートも真夫に取りあげられているのだ。

 玲子の秘所は真夫の視線に露わになっている。

 

 一方で向かい合う恵は、ブラウスのボタンが半分は外され、はだけられた襟から乳輪が垣間見えている。また、スカートはすでにホックが外されていて、M字に開脚することにより、ずり落ちて下着の横の紐が剥き出しだ。

 

 玲子も恵も、ふたりで話し合って、真夫がいつでも脱がすことができるように、腰の横で紐を結ぶタイプの下着を身に着けるようにしていた。

 はっきりと見える恵の下着の股の部分は、恵がかなりの興奮をしている証拠である丸い染みがくっきりとしている。

 女の玲子から見ても、かなりの卑猥な姿だと思った。

 もっとも、玲子も同じなのだろう。

 恵も、正面に位置する玲子に視線をやりながらも、困惑したように真っ赤な顔を左右に向けたりしている。

 

「じゃあ、脱衣を賭けたじゃんけんゲームだよ……。とはいっても、ふたりとも後手に手錠をしているから、普通にはできないよね。だから、こんなものを準備したんだ」

 

 真夫がにこにこしながら、テーブルの上におかしなものを並べ始めた。小さくて白いカップ状の平たい吸盤のようなかたちのものだ。

 大きさは親指の先ほどであり、それが十個ほどある。

 縁の部分には、金属の縁取りのようなものが見える。

 これまでに見たことのないものだ。

 ホテルのプレイルームには、そんなものはなかったはずだ。

 玲子は不思議に思った。

 

 しかし、玲子は次の真夫の動作を見て、ぎょっとした。

 真夫はその吸盤を手に取ると、内側の引っ込んだ部分に、さっき見せた掻痒剤のクリームをたっぷりと盛ったのだ。

 そして、玲子に近づき、ブラウスのボタンをふたつほど外すと、ブラに包まれた乳房を出し、さらに乳ブラの内側にさっきの吸盤を差し込んできた。

 

「ちょ、ちょっと、真夫様……」

 

 玲子は狼狽の声をあげた。

 だが、真夫のすることには、なぜ一切が逆らえないという気持ちをが沸き起こり、玲子の抵抗心を奪ってしまう。

 真夫が吸盤を玲子の片側の乳首の上に被せた。

 次の瞬間、吸盤がきゅっと搾りを加えた感じになり、玲子の乳首を強く包み込んだ。

 

「あっ」

 

 玲子は声をあげた。

 吸盤が乳首に強く密着したような感じが襲ったのだ。

 しかも、内側に塗っているクリームの刺激が玲子の乳首をかっと熱くした。

 瞬時に効果を及ぼすくらいの強力な媚薬なのだ。

 玲子は思わず、身体を弾かせてしまったが、乳首に張り付いた吸盤はぴったりと玲子の肌に吸いついて離れない感じた。

 しかも、びりびりという小さな刺激が襲っている。

 おそらく、そういう淫具なのだと思う。

 玲子は得体の知れない刺激に、後手の身体を悶えさせてしまった。

   

「へえ、本当に注文通りのものだね。新しい淫具なんだけど、内側の表面には人の肌に吸い付く微弱な帯電をしているんだって。その電流を解除しないと外れないはずだよ」

 

 真夫が愉しそうに言って、別の吸盤を手に取り、さらに同じように内側に掻痒剤を塗りたくって、玲子の反対側の乳首に吸盤を貼りつける。

 玲子はまたもやびくりと身体を跳ねさせた。

 

「……もうひとつですよ。動いちゃだめですからね、玲子さん……。命令です」

 

 真夫がにこにこしながら、もうひとつの吸盤を取る。

 やはり、掻痒クリームを内側に塗り、開いたままの玲子の股間に吸盤を近づけていく。

 

「ま、真夫様、それだけはお許しを……。こ、このカラオケ会社はグループ傘下の企業なんです……。へ、変なことをしているのを店員に知られると、これからのわたしの仕事に差し支えが……」

 

 玲子は狼狽えて言った。

 だが、身体は金縛りになったように、動かすことができない。

 拘束されているのは手首だけで、M字に脚を開脚しているのは玲子の意思だ。

 しかし、真夫が玲子に淫靡な悪戯をしようとしていると思うと、それを跳ねのけて逃げようという気になれないのだ。

 いつ誰が来るかわからないカラオケルームで辱められるというのは、恥ずかしいし、こんなことはしてはならないとは思うのだが、どうしても真夫の与える責めに期待する自分がいて、それが玲子を動けなくしている。

 

 そして、玲子の哀願に、真夫はせせら笑うような声をあげた。

 

「玲子さんの仕事は、もう学園の理事長でしょう。関係ないさ……。それに嫌なら逃げればいいよ。だけど、抵抗しないのなら、俺の好きなようにさせてもらいますよ。ほら、逃げなよ。逃げなければ、痒み剤のついたこの吸盤を玲子さんのクリに貼りつけるからね。一度貼りついたら、俺が別の機器で信号を送らないと、絶対に取れないよ……。だけど、玲子さんが逆らえば、俺はすごく失望すると思うよ……。残念だなあって……」

 

「そ、そんな……」

 

 そんな物言いをされれば、玲子は逃げることなど不可能になる。

 真夫は、抵抗をしない玲子の股間に、吸盤を持っていない側の指を触れさせた。

 

「んんっ、ああっ……」

 

 玲子は椅子の上に脚を拡げたまま、身体をのけぞらせた。

 電流を流されたような、強烈な刺激が襲った。

 しばらく、真夫の指の刺激が続く。

 

 真夫の指……。

 だめ……。

 

 快感が拡がる。

 頭が白くなる……。

 

 気持ちよさが、どんどんと大きくなり、なにも考えられなくなる。

 

 だが、突然にそれがなくなった。

 次の瞬間、クリトリスが強く絞られる小さな痛みと、ぴりっとした強い刺激が襲う。

 股間を見ると、玲子の肉芽にも吸盤が貼りついていた。

 これで、股間と両乳首の三箇所に吸盤が装着されたことになる。

 

「あ、あん……」

 

 真夫の指が離れたことで、玲子の身体には中途半端な火照りが残った感じになり、それが玲子に小さな悶え声をあげさせた。

 すると、真夫がそんな玲子の表情を笑うように、じっと微笑みを向けていることに気がついた。

 玲子はかっと身体が熱くなってしまった。

 

「じゃあ、次はあさひ姉ちゃんだよ」

 

 しかし、真夫はそれ以上は玲子には何もせずに、恵に向かっていく。

 

「あ、ああん、真夫ちゃん……」

 

 恵も痴態を演じ始めた。

 そして、恵もまた、玲子と同じように、両乳首と局部の三箇所に吸盤型の淫具を装着される。

 

「じゃあ、じゃんけんの仕方を説明するよ」

 

 真夫は荷から手のひらの半分ほどの薄い電卓ようなものを二枚取り出した。

 

「……ええっと、こっちは玲子さん用のリモコンだね……。それで、こっちはあさひ姉ちゃんだ」

 

 真夫がテーブルの上に、それぞれのリモコンだという板を置く。

 玲子は訝しみながらそれに視線を向けた。

 恵も不審な表情をしている。

 一方で、玲子は早くも身体に襲ってきた感覚に歯を食い縛った。

 真夫は吸盤の内側に塗ったクリームの刺激がだんだんと本格的なものになり始めてきたのだ。

 痒みのような鈍痛がじわじわと込みあがって来る。

 おそらく、もうすぐ、これが強烈な痒みそのものに変化するはずだ。

 玲子は、思わず背中側の手をぐっと握った。

 

「……じゃあ、操作方法を教えるよ。説明が終われば、ふたりにそれぞれ、このリモコンを持たせてあげるからね。ボタンの位置と数字を覚えてよ。この板に三個のボタンがあるけど、これがそれぞれ、“グー”、“チョキ”、“パー”になるんだ。それぞれのボタンの上に“グー”は小さな突起が一個、“チョキ”は二個、“パー”は三個の突起があるから、後ろ手でもわかるはずだ……。“グー”を選べば……」

 

 真夫がテーブルの上にある二枚の板の一個の突起の下のボタンを同時に押した。

 

「ああっ、んんんっ」

「あ、ああん、真夫ちゃん──」

 

 身体に装着された吸盤のうち、クリトリスの吸盤が突如として振動を始めたのだ。

 しかも、痒みが襲い始めてきた直後の強い刺激に、玲子は腰をくねらせて悶えた。

 口からあられもない声が迸る。

 だが、すぐにここがカラオケボックスであることを思い出して、玲子は慌てて口を閉じる。

 カラオケボックスでは、大きな音でデモ演奏が流れているから、ある程度の悲鳴はかき消してくれると思うが、それでも外に洩れたのではないかという恐怖が玲子を襲った。

 だが、真夫がそれを気にする様子はない。

 ふと見ると、恵も顔をしかめて、必死で口を閉じていた。

 

「これはチョキ……」

 

 そして、真夫が今度は真ん中のボタンを押した。

 股間の振動は止まり、その代わりに両方の乳首の吸盤が振動する。

 玲子と恵は乳房を左右に振って悲鳴をあげた。

 

「そして、パーだ」

 

 今度は三個の吸盤が一斉に振動を始めた。

 

「ああっ」

「だ、だめえっ」

 

 もう玲子には、ここがカラオケルームであることなど、一瞬吹き飛んでしまった。

 M字開脚の姿勢のまま椅子から落ちそうになり、真ん中の椅子に座っている真夫に身体を支えられた。

 

「これで、ふたりとも仕掛けはわかったね?」

 

 玲子の身体を戻した真夫が、別の機器を取り出して操作した。

 すると、振動をしていた三個の吸盤がやっととまった。

 玲子はがっくりと身体を脱力させた。

 だが、すぐに吸盤の内側から痒みが襲い掛かる。

 股間と乳首の蟻が這い回るような痒みに、玲子は恥ずかしさも忘れて腰をくねらせるしかなかった。

 

「あ、ああ……。ま、真夫ちゃん……。か、痒いよ……。痒い……」

 

 恵も泣きべそのような声をあげている。

 だが、真夫はにこにことしているだけだ。

 

「じゃあ、じゃんけんだよ。負けたら一枚服を脱ぐ。どっちか、脱ぐものがなくなった方に、この痒み剤を前後の穴にたっぷりと塗ってもらうからね。それだけじゃなく、革の貞操帯で股間を封鎖してしまうよ。そして、そのまま外に出て外を散歩だ……。それが嫌なら、じゃんけんに勝つことだね」

 

 真夫が立ちあがって、ふたりの背中側に手をやって、さっきの操作具を持たせた。

 

「そ、そんな……」

「ま、真夫ちゃん……」

 

 玲子と恵は同時に狼狽の声をあげたが、真夫は素知らぬ表情だ。

 

「さあ、早速、いくよ──。じゃんけん……」

 

 そして、真夫が大きな声をあげた。

 玲子は急いで操作具を握り直す。

 確かに、見えなくても、どれがグーで、どれがチョキで、パーのボタンであるかはわかった。

 だが、それを押せば、どうなるかも思い起こす。

 

「ま、待って、真夫ちゃん……。ま、まだ、握れない……」

 

 向かいの恵が声を出した。

 真夫が恵の背中に手を伸ばして、リモコンを持たせ直した。

 そのあいだに、玲子は少しだが、考える時間を得ることができた。

 そして、覚悟を決めた。

 とにかく、こうなったら、真夫の遊びに付き合うしかない。

 真夫は優しいが、調教には容赦はない。

 勝負に負ければ、きっと痒みに襲わせたまま、夜の街に連れ出して、玲子を悶え苦しませるだろう。

 

 玲子はとりあえず、最初のボタンは“グー”を選ぶことにした。

 多分、恵はチョキを選ぶと思う。

 乳首二箇所の刺激なら、まだ耐えられるだろうし、玲子も最初はチョキを選ぼうと思っていた。

 さっきの三箇所同時の刺激は、それだけ強烈だった。

 だから、裏をかいて、玲子は“グー”を出すことにしたのだ。

 恵には悪いが、この勝負は負けたくない。

 

「じゃんけん、ポイっ──」

 

 真夫の声とともに、玲子はボタンを押す。

 股間で振動が起こる。

 クリトリスの刺激を受けた玲子は、とても姿勢を保つことができずに、またもや崩れそうになった。

 

「はああっ」

 

 だが、ひと際大きな嬌声が恵からした。

 恵はM字開脚の身体を前後に揺らして、身体をくねらせていた。

 どうやら、恵は“パー”を選んだようだ。

 股間だけでなく、恵の乳房もまた、自然ではない振動でぶるぶると震えていた。

 

「玲子さんの負けだね。じゃあ、まずはブラかな」

 

 真夫が笑いながら、鋏を出して服の下からブラを切断して取り去った。

 

「ね、ねえ、真夫ちゃん、こ、これ、どうやって止めるの──? し、振動がとまらないよう」

 

 すると、向かい側の恵の必死の声がした。

 同じことを玲子も思った。

 振動をとめたいのだが、どうやっていいかわからない。

 試しに、ほかのボタンを押してみたのだが、クリを刺激し続ける吸盤以外は静かなままだし、逆に股間の振動は延々を続くままだ。

 操作できないのだ。

 

 恵はパーを選んだはずだから、三箇所同時の振動に襲われているはずだ。

 さすがに堪らないだろう。

 

「俺がこの操作具で、開始ボタンを押さないと、ふたりに渡したリモコンのボタンは無効になったままさ。ふたりが持っているのは、じゃんけん遊び用の操作具であって、本当の操作具はこれだしね……」

 

 真夫は自分が持っている操作盤を見せた。

 玲子は目を丸くした。

 やっぱり、この淫具は玲子がこれまでに接したことのないものだった。

 しかも、ただの淫具じゃない。

 

 かなりの高い技術による精緻な仕掛けだ。

 そこら辺にあるような大人の玩具とは物が違う……。

 

「本当に時子さんって、すごいものをくれるよね……。とにかく、じゃんけんだけじゃなく、振動に負けて絶頂しても、じゃんけんに負けたものとみなすからね……。一生懸命にいかないように頑張るんだよ」

 

 真夫が言った。

 しかし、玲子は真夫の言葉の内容よりも、口に出した名前に驚いてしまった。

 

「と、時子さんと言いましたか──? 時子さんとは、どの時子さんですか……?」

 

 玲子は股間の振動に耐えて言った。

 “時子”というのは、龍蔵の愛人であり、玲子の調教をした愛人頭の老婆である、あの時子だろうか?

 あの時子だとすれば、時子が玲子を通さず、真夫に接触していたということになるが、それはちょっと信じがたいことだった。

 

「えっ、だって、玲子さんは、時子婆ちゃんを知っているんじゃないの? 少なくとも、時子婆ちゃんは、玲子さんをよく知っていると言っていましたよ」

 

 すると、真夫が不思議そうな顔をした。



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 第35話  奴婢対奴婢

「真夫様は、時子さんとお話をなさったんですか?」

 

 玲子は信じられなくて声をあげた。

 

「まあね……。不思議なお婆ちゃんでしたね。実のところ、この淫具も時子婆ちゃんからもらったんです。よくわからないけど、研究所みたいなところがあるから、俺がこんなものが欲しいと言えば、すぐに持って来るし、開発もするからと言われました。自分の会社のようなつもりで声をかけてくれと言われちゃった……。今朝のことです。ホテルに連絡があって、玲子さんと最初に会った喫茶店で話をしました」

 

 真夫が言った。

 

「と、時子さんから真夫様に連絡をしてきたのですか?」

 

 玲子は訊ねた。

 このあいだも肉芽への淫具による責めは続いている。

 だが、玲子としては、それどころではない。

 驚きが股間への刺激を遥かに上回っている。

 

 研究所というのがなんのことかは玲子も知らないが、龍蔵のことだから、女を調教するための淫具の作る設備や人手をどこかに隠し持っているのかもしれない。

 考えてみれば、玲子の股間にいまだに埋まっている“クリリング”もそこで開発されたもののひとつだろう。

 時子は、それを自由に使っていいというような意味合いのことを真夫に告げたようだ。

 真夫に対する時子の思い入れが、それだけでもわかる。

 

「そうです。俺に会いたいということで……。俺も誰なのかわからなかったけど、俺を学園に招いてくれた理事長の知人だと言っていましたね……。玲子さんのことも、とてもよく知っていましたよ。知り合いなんでしょう? とにかく、驚きました。なんの用事なのかと思ったら、渡されたのが淫具なんだから……。本当に気さくで優しいお婆ちゃんでした」

 

 真夫は笑った。

 あの時子が気さくで優しい──?

 

 玲子の頭は混乱で渦を巻いている。

 気さくで優しいというのは、あの時子に一番似合わない言葉だ。

 玲子は、躾という名の厳しい時子からの調教や、先日のナスターシャに対する残酷ともいえる仕打ちの光景を思い出し、真夫が時子に会ったときの印象が合致しなくて戸惑った。

 

「……め、恵さんも会ったの?」

 

 玲子は恵に視線を向けた。

 相変わらず、股間に貼りつけられている吸盤がこれでもかと刺激を伝えてくるが、いまは時子のことが気になって、それどころじゃない。

 とにかく、溶け落ちそうな甘い感覚に腰をくねらせながら、懸命に意識を真夫との話に集中しようとした。

 

「も、もう話をしないでえ──。あ、会ってません。ま、真夫ちゃんにだけ会いたいって……。んくうっ」

 

 そのとき、恵が悲鳴をあげた。

 玲子ははっとした。

 

 玲子は、さっきの“じゃんけん”により、股間だけに刺激を受けている状況だが、恵はそれに加えて両乳首にも刺激受けているということを思い出したのだ。

 しかも、恵と真夫がこのカラオケボックスに入ってから、少なくとも半時間は過ぎている。

 そのあいだ、恵は真夫からずっと悪戯をされ続けていたはずだから、すっかりと恵の身体は火照り切っているに違いない。

 それなのに、玲子が真夫と話し込んでしまったので、ついに限界になってしまったのだ。

 

「あ、あああっ」

 

 恵の身体ががくがくと震え、食い縛った歯のあいだから、恵の明らかな嬌声が迸った。

 

「ふふふ……。いっちゃたね、あさひ姉ちゃん。じゃあ、罰だよ」

 

 真夫が笑いながら吸盤の淫具の操作具を取り出して操作した。

 股間を責めていた振動がぴたりと静止する。

 玲子もがくりと脱力してしまった。

 正面の恵もM字開脚のまま、のけぞらせていた首を前のめりに項垂れさせている。

 

「……とにかく、あさひ姉ちゃんは、いっちゃったからね。服を一枚剥ぐのに加えて、ローターだよ」

 

 真夫は今度は一個のローターを取り出した。

 リモコンで操作のできるコードのないものだ。あれは、ホテルのプレイルームに備え付けているものだと思う。

 そのローターにたっぷりと掻痒剤のクリームが塗りたくられる。

 真夫は、恵の紐パンを外して股間を剥き出しにすると、すでにびっしょりと濡れている恵の股間に指でそのローターをぐいと押し込んだ。

 

「んんっ、んんっ」

 

 恵がぶるぶると身体を震わせる。

 

「奥まで押し込んであげるね。声を出しちゃだめだよ。俺が気持ちよくなるまで声を我慢できたら、振動を止めてあげるよ」

 

 真夫が恵の前に立つとズボンを下着ごと膝までおろした。

 そして、たったいまローターを挿入した恵を抱くようにすると、その膣に真夫の性器をぐいと挿入した。

 しかも、いつの間にか手にカード式のリモコン操作具を持っていて、それを操作した。おそらく、こっちは挿入したローターを振動させるリモコンだと思う。

 恵はローターの振動を受けながら、さらに真夫の怒張の抽送を受けるということだ。

 

「うはっ、すごいよ。俺の一物もぶるぶると震えるね」

 

 真夫が恵の股間を突きながら嬉しそうな声をあげた。

 

「んああ、ああ、だ、だめえっ、ま、真夫ちゃん、こ、こんなの我慢できない──」

 

 恵は声を出したのはすぐだった。

 真夫はその瞬間、恵と離れてしまった。

 

「残念だったね。じゃあ、そのままだよ。次のじゃんけんをしようか」

 

 真夫がさっと恵の身体から離れた。

 その瞬間、恵が切なそうに身体を震わせる。

 真夫は下着とズボンをはきなおして、元の椅子に戻る。

 

「さあ、じゃんけんだよ」

 

 真夫が愉しそうに宣言した。

 

「ず、ずるいよ、ま、真夫ちゃん……。と、とめて……。こ、股間の中の……と、とめて……」

 

 恵が泣き声をあげた。

 しかし、真夫はにやにやするだけだ。

 

「じゃんけん──」

 

 容赦のない真夫の掛け声が続く。

 玲子は、さすがに今度は恵は、“チョキ”に逃げると思った。

 後手に持たされている操作具のボタンから“グー”を選択した。

 

「ぽん──」

 

「んんんっ」

「ふううっ」

 

 玲子と恵の声が同時に部屋に響く。

 果たして、恵が選んだのは、“パー”だった。

 恵に貼りついている吸盤は、股間だけでなく両乳首でも左右に激しく動いている。

 勝つつもりで、“グー”を選んだのに、負けるとは思わなかったし、追い詰められている恵が三箇所責めの“パー”を選ぶとは予想外だった。

 

「玲子さんの負けですね……。あさひ姉ちゃんって、昔からじゃんけんだけは強いんだよね」

 

 真夫は玲子のブラウスのボタンを全部外して、左右に分かれた布を後手の手首に集めた。これで、玲子の裸身を隠すものはない。

 

「んん、んんっ、んん」

 

 一方で恵は必死になって、奥歯を噛みしめて淫具から与えられる刺激に耐えている。恵は、乳首と肉芽の吸盤の振動だけじゃなく、股間の奥深くに挿入されているローターの刺激にも耐えなければならないのだ。

 

 だが、真夫が恵はじゃんけんに強いと言ったことで、玲子は恵の意外な才能を知った。

 どうやら、恵はこの淫具を使ったじゃんけんのルールを受けて、股間を責められる“パー”も“グー”も恵が選ぶことはないだろうと、玲子が読むだろうと考え、その逆を突いているのだと悟った。

 決して当てずっぽうに選んでいるわけじゃなさそうだ。

 つまり、恵は、結構、人の心理などを読むのが得手なのかもしれない。

 

 いずれにしても、だったら、その裏をかけばいい……。

 玲子は、次は“チョキ”を選ぼうと決めた。

 負けても股間を苛む刺激から休むことができるし、“パー”を選び続けている恵に勝つ可能性も高い。

 

「次に負けたら、玲子さんにも、たっぷりと掻痒剤を塗ったローターを入れますからね」

 

 真夫が言った。

 そして、じゃんけんが始まる。

 

 玲子と恵の選んだのは、ふたりとも“チョキ”だった。

 あいこになるとともに、恵がほっとしたような嘆息をした。

 やはり、追い詰められている。

 

 玲子は確信した。

 

「……あいこで……」

 

 真夫の掛け声が飛ぶ。

 

 玲子は“グー”にした。

 恵は絶対に“パー”だけは選ばない……。

 そう思った。

 

「あっ」

 

 玲子は思わず声をあげた。

 恵は泣き声のような悶え声を出しながら、またもや“パー”を選んだのだ。

 

 また、負けた……。

 実のところ、玲子もまた、じゃんけんというのは自信があった。

 他人の心理を読むということは、玲子もまた得意とすることだ。

 だが、負けた。

 恵に心を読み負けたのだ。

 玲子は呆気にとられる気分だ。

 

「また、玲子さんの負けですね」

 

 真夫が掻痒剤を塗ったローターを玲子の股間に押し込む。

 

「んああっ、うううっ」

 

 全身に震えが走った。

 ローターそのものよりも、真夫の指が膣に挿入されるときに得体の知れない淫情が全身を駆け巡ったのだ。

 

 真夫の指……。

 

 それが限界まで追い詰めている玲子の股間を襲う……。

 ローターを押し込めるために、さらに真夫が膣の中をぐりぐりと抉る。

 玲子はそれだけで恍惚感に襲われて、達しそうになった。

 懸命に我慢する。

 そして、やっと指が抜かれる。

 

「じゃあ、玲子さんも、もっと奥まで押し込めますよ。だけど、やっぱり声が出たら、振動しっぱなしで放置ですからね」

 

 次いで真夫が、目の前で下半身を露出して、M字開脚の玲子の胯間に男根をぐいと挿した。

 

「あふううっ」

 

 玲子は絶叫した。

 正面に立つ真夫が驚いたような表情になったのがわかったが、もう玲子には、なにもかもわからなくなった。

 怖ろしいほどの興奮が玲子を襲い、目の前が真っ白になる。

 

「うああああっ、だ、だめええっ」

 

 叫んでいた。

 稲妻に打たれたような衝撃に襲われ、股間を生温かいものが包んだと思った。

 

「あっ」

「きゃあ」

 

 真夫と恵の声が同時にした。

 玲子は目を開いた。

 そして、愕然とした。

 どうやら、玲子は一瞬にして絶頂してしまったようだが、それでまたもや潮を吹いて、真夫の股間と床を汚してしまったのだ。

 

「ああ、ご、ごめんなさい……。ごめんなさい。申し訳ありません。拭きます。拭きますから」

 

 玲子は狼狽えて言った。

 だが、真夫は怒るでもなく、ただ笑っただけだ。

 そして、玲子の手錠をそのままにして、恵だけに近づいて手錠を外した。

 さらに、手元の二個のリモコンを操作して、身体を責めていた淫具をすべて静止させた。恵は股間に埋められたローターも停止してもらったようだ。玲子のローターはもともと、まだ動いてはいない。

 

「あさひ姉ちゃん、エッチな玲子さんの汚した床を掃除だ。玲子さんは罰として、いいというまでそのままですよ。動いちゃだめですからね」

 

 真夫が言った。

 玲子はお願いだから、自分で掃除をさせてくれと哀願したが真夫は聞き入れず、真夫と恵がふたりがかりで床を掃除し、真夫についた体液を簡単に拭くのをM字開脚のまま見学させられた。

 玲子にとっては、なによりの拷問だった。

 

「さて、これでいいか。だけど、負けは負けだからね。玲子さんは絶頂した罰を加えて、お尻にもローターを入れるからね。さあ、お尻を出してください」

 

 掃除が終わると、やっと玲子は手錠を外してもらった。

 だが、真夫の命令で今度はお尻を突き出す恰好にさせられた。

 

「うう……」

 

 ずぶずぶと肛門の中にローターを挿入され、玲子は思わず呻いた。

 だが、すぐに革製のTバッグの下着で股間を封印される。

 電子ロックが腰の後ろでかかったのがわかった。

 これで、真夫が解除信号を送らない限り、玲子の股間からTバッグの革帯は外れない。

 しかも、これは外からの刺激を遮断できる特殊な材質と構造で作られた貞操帯だ。

 玲子は早くも襲い掛かって来た股間の痒みに、ほとんど無意識に股間に手をやって、ほんの少しの刺激も貞操帯の内側には伝わらないのを知って、愕然とする思いになった。

 そして、玲子の前後の穴には、痒み剤がたっぷりと塗られたローターが挿入され、肉芽にはさっきの吸盤型の振動具が装着されたままだ。

 

「さあ、外に行きますよ、玲子さん。スーツを着ていいですよ」

 

 真夫が言った。

 玲子は仕方なく、横に置かれているスーツ類に手を伸ばした。

 素肌に直接ブラウスを身に着けていく。

 

「じゃあ、あさひ姉ちゃんの勝ちだからね。あさひ姉ちゃんの淫具は全部外してあげるよ……。それとも、玲子さんと一緒に、外で恥ずかしいことをされたい? あさひ姉ちゃんの好きなようにしてあげるよ」

 

 真夫が恵に言った。

 すると、恵がうっとりとした悩ましい視線を真夫に向けた。

 

「ああ、真夫ちゃんの意地悪……。玲子さんだけなんて狡いよ。あたしのことも苛めていいよ……。ううん……。苛めて……。あたしも真夫ちゃんに、外で調教されたい」

 

 玲子は驚いたが、真夫は恵の言葉は特に意外には感じなかったようだ。

 

「そう言うと思ったよ。さあ、あさひ姉ちゃんもお尻を出して」

 

 真夫はそう言うと、荷からさらにローターと貞操帯を出してテーブルの上に置いた。



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 第36話  夜の街

 玲子は、知らず肩を並べて歩く恵の手をぎゅっと握りしめた。

 カラオケボックスを出た玲子と恵は、人通りの多い繁華街を連れだって歩いている。

 また、奥歯はこれでもかというくらいに噛みしめられていた。

 

 それは横を歩く恵も同じだろう。

 なにしろ、玲子と恵の股間と乳首には、猛烈な痒みを引き起こす淫乱剤が塗り込められているのだ。しかも、お尻の穴にまでたっぷりとだ。

 さらに、乳首とクリトリスには、吸盤型の淫具がしっかりとそれぞれの根元を締めつけている。

 それは、真夫の持つリモコンで好きなように振動できるのだが、別に振動されなくても、歩くたびに淫具がわずかに動いて、痒みと疼きでただれている乳首と局部に気持ちのいい刺激を与え続ける。

 

 それが玲子を悩ませる。

 

 また、股に食い込んでいる貞操帯には、ちょうど肛門に当たる部分に丸い突起があり、それがお尻を抉っている。

 それも、脚を進めるたびにおかしな刺激を玲子に与え続ける。

 

 カラオケボックスを出たところで、玲子の左手首と恵の右手首には、手錠をしっかりとかけられた。

 いまは、真夫はそばにはいない。

 並んで歩くように伝えられ、離れていっていたのだ。

 後ろからついてきているとは思うが、振り返ることは禁止された。

 だから、玲子は恵と並んでただ歩くだけだ。

 どこに向かうかは事前に教えられなかった。

 それは、乳首とクリトリスの淫具で伝えると言われていた。

 

 繁華街とはいえ、夜道ではよく見なければ、ふたりの女が手錠をしていることはわからないと思うが、さすがに、ふたりが離れれば、ふたりが手錠で拘束されて歩いていることはわかる。

 だから、玲子と恵は、手を繋ぐことにした。

 スーツ姿の玲子とミニスカートの軽装姿の恵が手を繋いで歩くのは不自然かもしれなかったが、手錠を隠すためにはそれしかなかったし、手を繋ぐことで、恵もまた痒みの苦しさと恥ずかしさに耐えているがわかり、それが玲子の不安を少しは軽減してくれる。

 

「だ、大丈夫、恵さん……?」

 

 玲子は横を歩く恵に声をかけた。

 恵の顔は真っ赤に上気し、眉がひそめられている。

 ただ、苦しそうな息がずっと続いていた。

 それは、玲子も同じだったが、玲子は自制心を総動員して、懸命に平静を装っている。

 カラオケボックスを出るときに、見送りに来た店長にも、身体の異変を少しも感じさせなかったくらいだ。

 

「だ、大丈夫です……。で、でも、玲子さんは……へ、平気ですか……? こ、この真夫ちゃんの調教……」

 

 恵が少しだけ怪訝な顔をした。

 あるいは、恵は、玲子が自分ほど苦しんでいないと思ったのかもしれない。

 玲子は思わず、小さく噴き出した。

 

「へ、平気のわけないじゃない……。か、痒くて、し、死ぬほど苦しいし……こんなことをされて、街を歩かされるのは恥ずかしいわ……。真夫様は鬼畜ね……」

 

 玲子は恵の耳元でささやいた。

 すると、恵は汗で前髪が貼りついた笑顔を恵に見せた。

 だが、次の瞬間だった。

 

「うっ」

 

 突然に恵ががくりと身体を沈めたのだ。

 

「め、恵さん」

 

 手錠で繋がっている玲子は、恵の身体に引っ張られて身体を沈ませかけたが、恵の手を引きあげることで、なんとか体勢を戻した。

 恵も脚を踏ん張るようにして、身体を真っ直ぐにする。

 

「……ひ、左です……。ち、乳首と、ま、前が……」

 

 恵は甘い息を吐きだしながら言った。

 玲子はさっと恵の身体を見た。

 スカートに包まれている股間はもちろんわからないが、ブラジャーをしていないブラウスの下では、淫具の振動でぶるぶると乳房の先端が揺れている。

 それが動き続けているということは、恵の股間でも振動が起こっているということだ。

 玲子は恵の腕を自分に引き寄せるようにして、身体を支えてあげた。

 

 真夫に事前に指示されていたのは、左側にいる恵の淫具が振動をすれば左に曲がり、右側の玲子の淫具が動けば右に曲がれと言うことだ。

 そして、ふたり同時に淫具が動けば、淫具がとまることで前に進む指示があるか、あるいは、左右のどちらに進むのかが伝えられるまでは、そこに留まれということだった。

 

 つまりは、淫具を使った「リモコン遊び」だ。

 もっとも、遊ぶのは真夫であり、玲子と恵は、淫具で操られる玩具そのものになることだったが……。

 

 目の前は交差点だった。

 玲子と恵は交差点を左に曲がって道路を渡った。

 横断歩道の途中で恵の身体からさっと緊張が解けるのがわかった。

 左に曲がったので、「指示」が消えたのだろう。

 しかし、恵は振動がとまっても、まだ苦しそうにしていた。

 

「あっ」

 

 道路を渡り切ったところで、今度は玲子の乳首と股間に吸盤が動き始めた、

 思わず空いている右手で股間を押さえかけて、玲子はすぐに姿勢を伸ばした。

 

「み、右……」

 

 小さく恵にそれだけを言った。

 しかし、信号は赤だ。

 

「んっ」

 

 横の恵が再び小さく呻いた。

 玲子の淫具はまだ動き続けていて、さらに恵の淫具も動いたことになる。

 つまり、赤信号なので「とまれ」なのだ。

 とにかく、道路を青になるのを待つために、ほかの歩行者たちと同じように立つ。

 しばらくすると、信号が青になる。

 すると、振動がとまった。

 玲子はほっとした。

 

 だが、ほっとしたのは束の間だ。

 吸盤の振動がとまるなり、これまでとは桁違いの身体の熱さと痒さが巻き起こったのだ。

 我慢していた痒さが、振動で一瞬だけ癒されることで、まだ眠っていた痒みの感覚を完全に目覚めさせたのだ。

 振動がとまってからも恵が苦しそうな仕草だったのが、これだったのかと悟った。

 

 確かにつらい……。

 

 しかし、ちゃんとしていないと、周りの者が変に見るはずだ。

 ただでさえ、恵と玲子が手を繋いで歩いているのは、周囲の気を引いていると思う。

 

「め、恵さん……し、自然にして……」

 

 玲子は自分自身の表情を取り繕いながら言った。

 一方で、ふらつきそうになっている脚に意識を集中する。

 

 真夫の「指示」で進む道は、かなりの若者たちでにぎわうような人混みの通りであり、玲子はその道を局部と乳首を苛まれながら歩くことに、かなりの緊張感を味わわなければならなかった。

 横を歩く恵は、どうしても通りすがりの男たちの視線を集めるような可愛い女だし──おそらく、自分もそうなのだろうが──、そのふたりが手を繋いで不自然に歩くことで、そのために往来の人目を集めてしまっている気がする。

 そして、これも玲子も同様なのだと思うが、恵の全身からは汗がしたたり出ていて、息を吐くたびに小鼻が開いている。

 色っぽすぎるのだ。

 

 いずれにしても、懸命に脚を前に進めながら、玲子はさっきの淫具の振動を待ち望む気持ちになっていた。

 この猛烈な痒みを受けながら、これ以上平静を装うのは無理だと思った。

 

 股間の刺激をとめられてもつらいし、動かされてもつらい……。

 すでに玲子はすっかりと追い詰められていた。

 

「ううっ」

「はんっ」

 

 そのとき、玲子と恵の口からは同時に声が迸った。

 突然に、予想外の振動が局部と乳首に発生したのだ。

 玲子と恵は、その場に立ち止まり、同じように肢体を折って、その場に崩れかけた。

 辛うじて、うずくまることを防いだのは、恵と手錠で繋がっていて、座り込めば恵を引きずってしまうだろうという懸念と、周りの視線だった。

 なにしろ、ここは交差点でもなんでもない、歩道の真ん中だ。

 そこで、強い振動をクリトリスに与えられたのだ。

 

 ふたりの寝具が同時に振動した場合は「とまれ」だ──。

 だから、動くわけにはいかないのだが、それにしても振動が強くて長い……。

 

 玲子は思わず空いている手で下腹部を押さえてしまった。

 ふと見ると、恵もたまらずにそうしている。

 もっとも、いくら押さえたところで、外からの刺激を完全に遮断する革の貞操帯は、玲子が無意識に股間を揉むようにする動作に対して、股間への刺激を完全に防いでいる。

 改めて、この苦しみを癒すためには、真夫に頼らないといけないということを自覚せずにはいられない。

 

「うう、くうっ」

 

 玲子は恵と一緒に、食い縛る歯のあいだから、苦悶の声が洩れ続ける。

 ふたりで周りの通行人の注目を集めながら、歩道の真ん中で悶え続けた。

 それがどんなにみっともない姿であることであるかも気にならないほど、痒みに襲われている股間と乳首を襲う振動により、全身を駆け巡る感覚は鋭く、甘美な衝撃に満ちている。

 

 やがて、振動がとまった……。

 玲子は、恵に声をかけ、いまだに震えている脚を前に進ませた。

 とにかく、早く、ここを離れよう……。

 思ったのはそれだけだ。

 

「おおっ」

「んんっ」

 

 しかし、その刹那、またもや振動が起こった。

 菊座に食い込んでいる貞操帯の突起だ。

 それも動くとは知らなかったが、それが初めて動いたのだ。

 叫ぶのは防げたが、玲子も恵も天を仰ぐように全身を硬直させた

 そのお尻の振動は、掻痒感を解消してくれただけでなく、身体を支える腿全体の力を完全に弛緩させるような衝撃を与えていた。

 おそらく、長い時間、そのままだったら、玲子は今度こそ座り込んでしまっただろう。

 さすがに、往来の男女が玲子と恵の痴態に気がついたのは明白だ。

 

 だが、振動はすぐにとまった。

 玲子は恵ととともに、急いでその場から離れた。

 

 それからも、玲子と恵のそれぞれ、あるいは、ふたり同時に淫具の振動を“オン”にされたり、“オフ”にされたりするのを繰り返されながら、玲子と恵は目的地もわからず進み続けた。

 

 やがて到着したのは、植え込みの多い大きな公園だった。

 相変わらず、真夫の姿は見えなかったが、振動だけが真夫の存在を玲子に伝えてくれる。

 

 この公園は、若いカップルのデートスポットのような場所であり、公園を進みながら、玲子はベンチや草むらに座って身体を接し合っている男女の姿をたくさん見た。

 玲子と恵は、その中を淫具の「指示」により、公園内を右に左にと曲がっていく。

 

 そして、数本の樹木が立っている場所に到着した。

 ちょうど、公園灯の下であり、羞恥を煽るように周りから目立つ感じだ。

 

 そのときだった……。

 

「だ、だめえっ……」

「ああ……」

 

 恵と玲子はふたりの手を繋いだまま泣き声をあげてしまった。

 微弱だが、乳首と肉芽、そして、菊座の突起のすべての振動が起こったのだ。

 

 「ここで待て」という指示だと思うが、さすがに歩きながら刺激を受け続けた身体は、そんな小さな振動でも全身が砕けるような刺激を受け取ってしまう。

 

 玲子と恵は太腿を擦り合わせながら、懸命に声を我慢して、次の指示を待ち続けた。

 

 


 

 

 公園の灯りがふたりをスポットライトのように、目立たさせている。

 真夫の視線は、公園の一角で腰をもじつかせながら立つあさひ姉ちゃんと玲子さんの姿をちゃんと捉えていたが、ふたりからはこっちは見えないようだ。

 あさひ姉ちゃんは、諦めたようにただ目をつぶって、加え続けられる振動の刺激に耐えるだけのようだが、玲子さんは、懸命に顔を動かして、真夫を探そうとしている。

 それでも、いまのところ、少し離れた草むらの裏のベンチにいる真夫を見つけらないらしい。

 まあ、向こうには灯りが当たっていて明るく、こっちは暗い。

 それで余計にわかりにくいのだ。

 

 ふたりをあそこに立たせて、そろそろ五分経つ。

 真夫は、自分の責めに痴態を示し続けるあさひ姉ちゃんと玲子さんの姿に有頂天な気持ちを味わっていた。

 ふたりは、とても色っぽかった。

 そのあさひ姉ちゃんと玲子さんをこんな風に夜の街で、好きなようにもてあそぶことができる……。

 真夫は、自分の中に、だんだんと冷酷な嗜虐心が芽生えてくるのをはっきりと感じた。

 

 そろそろいいだろう……。

 真夫は、微弱を保っていたふたりの身体を責めている振動を一斉に、“微弱”から“強”にした。

 

「ああっ──」

「んぐうっ」

 

 あさひ姉ちゃんと玲子さんがここまで聞こえるような嬌声をあげた。

 同時に、ついに耐えられなくなったように、ふたりともその場にしゃがみ込んだ。

 

 真夫は立ちあがって、ふたりが真夫の姿を確認できる場所に移動して、手招きをした。

 ふたりとも、真夫に気がついたようだ。

 真夫は、リモコンで淫具の振動を停止する。

 ふたりがのそのそ立ちあがって、こっちに進んできた。

 

 ここからふたりのいる場所まで、五十メートルほどだ。

 真夫は、ふたりが半分ほど進んだところで、全部の淫具を“最強”にした。

 

「や、やあっ」

「はんっ」

 

 ふたりが手錠のかかっていない手で股間を押さえてしゃがみ込む。

 しかし、真夫はリモコンをとめなかった。

 すがるようにこっちに視線を向けてくるふたりに、さらに手招きをする。

 

 “立てないなら、這ってでも来い──。”

 

 身振りで伝える。

 あさひ姉ちゃんは、その真夫の「命令」に立ちあがろうとしたが、手錠で繋がっている玲子さんは、もう立てないようだ。

 玲子さんの方が気丈なのだが、身体の感度は玲子さんが桁違いに敏感だ。

 ここまで受けてきた真夫の責めで、玲子さんはついに両膝に力が入らなくなったみたいだ。

 

 恵は玲子さんの腰を引っ張るようにして、なんとか立ちあがらせ歩いてくる。

 進んでくる公園の通りにはベンチが幾つかあったので、そこにもカップルはいたが、ふたりの姿にそれほどに気に留めた様子はない。

 

 数分かけて、ふたりが真夫のいる草むらまでやって来た。

 

「よく頑張ったね、ふたりとも……」

 

 真夫はふたりを完全な繁みの中に連れ込むと、振動を静止させて跪かせた。

 繁みは胸ほどの高さなので、公園のほかの場所からは、立っている真夫の姿は確認できるが、ふたりの姿はこれで隠れる。

 

 いずれにしても、この夜の公園で、ほかの男女に気を取られる者はほとんどいない。それぞれに自分たちのことに集中している。

 ここはこういう場所なのだ。

 もっとも、それを目当てに覗きをしようとする者はいる。

 ただ、そんな覗きからも、この場所は見えにくいところだ。

 ふたりにスリルを感じさせながらも、比較的安全に痴態をさせられる。

 

 真夫は、ふたりの手首を繋げていた手錠を外して、それぞれの両手を後ろに回させる。

 そして、ふたりの親指の付け根に指錠をした。

 あさひ姉ちゃんも、玲子さんも抵抗はしない。

 ただ、うっとりとしているような視線を真夫に向けるだけだ。

 真夫は、その表情にぞくぞくするような快感を覚えた。

 このふたりの美女を支配している。

 そのことは、真夫の欲望を完全に満足させるとともに、さらに真夫のやり方で愛してやりたいという黒い欲求を引き起こす。

 

 真夫は電子ロックを解除して、貞操帯を外した。

 跪いているふたりの股間から、ぼとりと貞操帯が地面に落ちる。

 真夫はそれを拾いあげて手提げ袋に片付けると、ふたりの前にしゃがんで、左右の手でそれぞれの股間にスカートの下から手を触れた。

 

「あっ」

「ま、真夫ちゃん……」

 

 ふたりが身体をくねらせる。

 構わず、真夫は吸盤の淫具の貼りついている場所の下の亀裂にぐいと指を入れる。

 

「んんっ」

「んはあっ」

 

 指をくねくねと動かすと、あさひ姉ちゃんも玲子さんも、我慢できなくなったように甘い声をあげた。

 だが、その声が結構大きかったので、真夫は苦笑するしかなかった。

 

「ふたりとも声が大きいよ。ここは覗きが多いことで有名な公園だからね。もっと、我慢しなきゃ」

 

 真夫は指を抜いて言った。

 すると、恵が赤い顔で恨めしそうな顔を向けた。

 

「……だ、だって、真夫ちゃんがエッチだから……」

 

 あさひ姉ちゃんは不満そうな口調で言った。

 しかし、そのあさひ姉ちゃんがすっかりと、夜の公園で辱められることに酔ったようになっているのを真夫は知っている。

 その証拠に、あさひ姉ちゃんの顔は、まるでお酒でも飲んでいるかのように、赤くてとろんとしている。

 

「……め、恵さん、そんな言葉は……」

 

 しかし、横の玲子さんが真夫に不満を言ったあさひ姉ちゃんをたしなめるような言葉をかけた。

 玲子さんは、あさひ姉ちゃんが真夫の責めに文句を言ったと感じたようだ。

 真夫はにっこりと微笑んだ。

 

「いいんですよ、玲子さん……。玲子さんも言いたいことを口にしてください……」

 

 真夫は言った。

 しかし、玲子さんは首を小さく横に振った。

 

「い、言いたいことはありません。どうぞ、好きなように扱ってください、真夫様……」

 

 玲子は言った。

 真夫は頷いた。

 そして、玲子の頭にそっと手を置く。

 

「いい子ですね、玲子さんは……。じゃあ、ご褒美です……」

 

 真夫は玲子の口に唇を重ねた。

 口の中を舐めまわす。

 玲子は鼻息を荒くして、興奮したようにしばらく真夫と舌を絡め合った。

 

「やっぱり、玲子さんの方が奴婢の心得えをちゃんと身に着けているようだね。あさひ姉ちゃんも見習わなきゃ」

 

 玲子さんから口を離すと、真夫はあさひ姉ちゃんの顔に視線を向けてからかった。

 

「そんなあ」

 

 すると、あさひ姉ちゃんは、さらに不満そうに頬を膨らませた。

 真夫は、その無邪気そうな表情に笑ってしまった。

 

「さて、じゃあ、奉仕をしてもらいましょうか。ふたりとも俺の性器を舐めてください。俺が射精できたら、振動をとめてあげますね」

 

 真夫はリモコンでふたりの乳首とクリトリスの吸盤淫具に強振動を加えた。

 

「んふうっ」

「はううっ」

 

 跪いたままのふたりが身体を弓なりにして悲鳴をあげた。

 真夫はさらに、ふたりのスカートのホックを外して足首から抜き、ふたりからスカートを強引に奪う。

 

「あ、ああ、そんなあっ」

「ま、真夫様、それは」

 

 二枚のスカートを手に取る真夫に、ふたりが剥き出しになった腰をくねらせながら、羞恥に悶える顔を向ける。

 

「スカートを返して欲しければ、少しでも早く俺をいかせることですね。じゃあ、始めてください」

 

 真夫はそう言うと、すっと立ちあがって、ふたりの顔の前にズボンの前から出した性器を突きつけた。



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 第37話  奴婢失格

「あっ、そ、そんな……」

 

 玲子は腰を捩った。

 しかし、すでにスカートは、足首から取りあげられて、真夫の手にある。

 下着代わりに身に着けていた貞操帯は、すでに外されていたから、これで腰から下にはなにも身に着けていないことになる。

 それを玲子に教えるように、掻痒剤で火照り切った股間が風でひんやりと冷える。

 

 玲子は竦みあがった。

 いくらなんでも、夜の公園で下半身を剥き出しにされるなど恥ずかしすぎる。

 しかも、真夫に後ろ手に指錠を嵌められてしまったために、誰かが覗きに来ても、手で隠すこともできないのだ。

 玲子は目まいがするような羞恥に襲われてしまった。

 

「スカートを返して欲しければ、少しでも早く俺をいかせることですね。じゃあ、始めてください」

 

 真夫が笑って、ズボンから勃起した男根を出した。

 

 こんなところで……?

 玲子は躊躇したが、横で玲子と同じような姿にされている恵が、「ああ、真夫ちゃん」と甘い声を出しながら、小さな口で真夫の一物を躊躇くなく舐め始めた。

 玲子は横で、目を丸くしてしまった。

 

 しかし、玲子も我に返って、慌てて真夫の怒張に横から舌を伸ばす。

 同時に、人目のある公園とはいえ、「主人」である真夫の命令を一瞬躊躇った自分のことを恥ずかしく感じた。

 

 それに比べて、恵はほんの少しの迷いもなかったように思えた。

 「ご主人様」の命令は絶対──。

 それは、あの時子にしつこいほどに教え諭されたはずなのに、玲子は少しだけ迷ってしまった。

 

 すぐに命令に従った恵に比べて自分は……。

 玲子は忸怩たる気持ちになった。

 

 そのとき、すでに口吻で鼻息を荒くしている恵が、玲子のために真夫の性器の先端部分の場所を解放してくれた。恵は横側から幹と睾丸に舌を伸ばす仕草に変化している。

 玲子は、急いで、正面から真夫の怒張を頬張った。

 

「気持ちいいよ、ふたりとも」

 

 真夫が優しく言った。

 

「んんっ」

 

 そのとき、玲子は堪らずに声をあげてしまった。

 夜の公園で、下半身を剥き出しにして、真夫の性器を舐めるという行為に対して、激しい羞恥に襲われながらも、同時に開放感にも似た快楽の戦慄が全身を駆け抜けたのだ。

 しかも、真夫が悦んでくれた……。

 どうしても声をあげずにいられない、異様なまでに妖しげな興奮だ。

 

「……ふたりとも、いい子ですよ……。じゃあ、ご褒美です。痒い場所を擦りつけていいです」

 

 真夫が跪いている玲子と恵の脚のあいだに、両方の足を差し出すように前に置いた。

 痒みにただれている股間の下に、ちょうど真夫のズボンの膝が当たるような感じだ。

 汚してはいけないと躊躇したのは一瞬だけだ。

 玲子は、気がつくと股間全体を真夫のズボンにごしごしと擦りつけていた。

 

「ああ、真夫ちゃん、真夫ちゃん……」

 

 横では同じように恵が真夫のズボンに股間を擦っている。

 しかも、恵は股間だけでなく、胴体全部を真夫の脚に擦りつけ、激しく乳房にまで刺激を貪っていた。

 負けじと玲子もそうする。

 もう痒みは限界だったし、痒みの苦しさは羞恥など麻痺させている。

 それに、真夫と恵と一緒の「プレイ」なら、どんな醜態であろうとも、それを恥ずかしいと感じるのはあるべき姿ではない。

 真夫の命令に、喜々として従っている風の恵を見て、玲子はそう思った。

 なにも考えずに、真夫に甘えて従う。

 いまは、真夫の脚に身体を擦りつけていいという真夫の温情に、ひたすらに甘えようと思った。

 

「ふわあっ」

 

 玲子も気持ちよさで声をあげてしまった。

 全身を刃のように貫き続けていた痒みが少しずつ消失する。

 しかも、吸盤型の振動具は股間と乳首にまだ装着されたままなので、それが真夫の脚に当たってぐりぐりと敏感な場所を揺り動かして、それが快感を産みだしてもいる。

 玲子は恵とともに、身体を震わせて、悶え声をあげた。

 

「こらこら、ふたりとも、奉仕を忘れてるじゃないか」

 

 真夫が苦笑しながら言った。

 玲子ははっとした。

 確かに、玲子も恵も股間と乳房の痒みを癒すのに夢中で、真夫の性器から口を離していたのだ。

 

「あっ、申しわけありません」

「真夫ちゃん、ごめん」

 

 玲子と恵は急いで、真夫の股間を奉仕する体勢に戻った。

 しかし、それを真夫が制して、ズボンの中にまだ勃起している性器を戻すと、玲子と恵をその場に立たせた。

 

「あっ、真夫様、申しわけありません。や、やり直しますから、もう一度やらせてください。さあ、恵さんもお願いして」

 

 玲子は焦った。

 命じられている奉仕を途中で中断して、自分の快感に耽るなど、奴婢失格も甚だしい。

 奴婢として、あるまじき態度に間違いない。

 

「いいんですよ……。もちろん、後で罰は受けてもらいますけどね……。だけど、俺の悪戯のせいで、狂いそうなくらいに痒いんでしょう? さあ、ふたりとも脚を拡げて……」

 

 真夫がその場に跪きながら言った。

 玲子と恵は、その真夫の顔の前に並んで股間を晒すようなかたちになる。

 

「あさひ姉ちゃんは手だよ……。だけど、玲子さんは、いつもお世話になっていますから、特別サービスしますね」

 

 真夫が悪戯っぽく笑うと、いきなり玲子の無毛の股間に口をつけてきた。

 

「ううっ、はおっ」

 

 玲子は痒みの極致だった股間に舌を這わされて、身体を震わせた。

 しかも、次の瞬間、真夫の舌だけでなく、吸盤の淫具が股間と両乳首の三箇所で急に振動を再開したのだ。

 真夫の左手がズボンのポケットに入っているのが見えたので、真夫がリモコンで操作をしたということは間違いない。

 

「あ、ああっ」

 

 とにかく、真夫の舌だけでなく、吸盤の振動も受けることになった玲子は、あまりの峻烈な快感に悲鳴のような声をあげた。

 

「ああ、ま、真夫ちゃん、真夫ちゃん」

 

 横で恵も切羽詰まった甘い声をあげている。

 恵は、真夫の右手で股間の愛撫を受けているようだ。

 真横で真夫の手が恵の股間で動き続けている。

 

「ふたりとも、声が大きいよ。もっと我慢して」

 

 真夫が一瞬だけ、玲子の口から舌を離して言った。

 だが、叱るというよりはからかっているという口調だ。

 真夫が、この状況を面白がっているのは間違いない。

 また、さっきのことを怒っている気配もなかった。

 それは、ありがたかったが、奴婢失格の行為をしたにも関わらず、「ご褒美」の舌責めをもらえるというのは、玲子としては複雑な気持ちだ。

 

 だが、すぐに、そんな玲子の思考など吹き飛ぶ。

 

 吸盤の振動に加えられる真夫の舌責め……。

 目まいがするほどの興奮と快感に、玲子は必死になって声を殺すために唇を強く噛み続けるだけだ。

 

「はっ、はあっ」

「あっ、ま、真夫ちゃん……はあっ、はああっ」

 

 しかし、声が出るのを防ぐのは容易ではない。

 横では恵が必死に押し殺す声もしている。

 

「んああっ、んああっ」

 

 玲子の口からひと際大きな声が洩れてしまった。

 真夫が舌だけでなく、鼻先を使って吸盤が包んでいるクリトリスを押し揉み始めたのだ。

 異様なまでの興奮が全身を駆け巡る。

 玲子は膝の震えを止めることができなくなった。

 

 絶頂に向かって快美感が全身を駆けめぐる。

 自制することなど不可能だ……。

 

 真夫が玲子の股間を舌で……鼻で……刺激をしてくれているのだ。

 しかも、こんな夜の公園というスリリングな場所で……。

 玲子の身体は妖しいまでの愉悦に巻き込まれて、全身をおののかせた。

 

 次々に突きあげる苛烈な快感に、玲子の腰は夥しい果汁を出しながら、知らず真夫の顔に股間を押しつけるようにしていた。

 そして、身体ががくがくと大きく震えた。

 

「いく、いきます」

 

 露わな声を放って、玲子は一気に絶頂に駆け昇った。

 膝の力が完全に抜けて、玲子はその場にしゃがみ込んだ。

 

「あっ」

 

 玲子はその瞬間、股間の力が完全に弛緩して、尿意のようなものが込みあげているのがわかった。

 慌てて、股間に力を入れようとするのだが、まったく力が入らない。

 なにしろ、股間と乳首では、達したにも関わらずに、相変わらずの激しさで振動を続けているのだ。

 

 股のあいだから、しゅっとゆばりが落ちた。

 そして、それがたちまちに奔流になって地面をうち始める。

 

「あ、ああ……」

 

 玲子はまたもは醜態を晒してしまった自分に泣きたくなった。

 カラオケボックスでは絶頂の快感で潮を噴くという失敗をしてしまった。

 今度は本格的な放尿だ。

 

 しかし、真夫は気にした風もない。

 ただ、くすりと笑っただけだ。

 

「じゃあ、次はあさひ姉ちゃんだね。玲子さんに負けないように、派手に気持ちよくなってね」

 

 真夫が舌責めの相手を恵に変えた。

 

「ああ、真夫ちゃん」

 

 恵がさらに甲高い声をあげる。

 その恵が絶頂に達するのに、それほどの長い時間はかからなかった。

 Tシャツ一枚の恵は、その上体を大きくのけ反らせ、両脚をぴんと伸ばすように突っ張らせた。

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

 恵もがっくりと座り込んだ。

 玲子はふと真夫を見た。

 差し込む公園灯の明かりで、真夫の顔がべっとりと玲子と恵の垂れ流した愛液で汚れているのがわかった。

 

 玲子はとっさに、真夫の顔に近づいて、その汚れに舌を這わせた。

 汚れをきれいにしてあげたいと思ったが、両手は指錠で背中から外れないので、そうするしかなかったのだ……。

 ほとんど無意識の行動だった。

 

 奴婢だから、そうしなければならないとか、なにかの計算や「躾け」のようなものを思い出して、そうしたわけじゃない。

 真夫のためになにかしたかった。

 

 不思議な気持ちだった。

 玲子は自分が嫌になるほど、計算高い女であることを知っている。

 その自分が、まったく考えることなく、本能的に動いたのは初めてではないだろうか……。

 そんなことを感じた。  

 

 とにかく、玲子は犬になった気持ちで、真夫の顔の汚れを舌で舐めまわし続けた。

 そのあいだ、真夫はにこにこと微笑んでくれている。

 玲子の胸がきゅんとする痛みが走った。

 

「あ、あたしもする……」

 

 恵が荒い息をしながら寄って来る。

 しかし、またもや、それを真夫は制した。

 

「……あさひ姉ちゃんは、その前に、その場でおしっこしてよ。玲子さんはさっきしたからね。ただし、立ったままだよ」

 

「え、ええ?」

 

 恵が驚いたような声を出した。

 だが、真夫は「命令だよ」と少し強めの口調で言った。

 そして、玲子は真夫の顔から口を離されて、恵に向かって身体を向けられる。

 恵は赤い顔をしたまま、その場に立ちあがった。

 真夫と玲子はしゃがんでいるので、恵が立つと、ふたりからだと見上げる態勢だ。

 恵の股間は、玲子の視線の真正面になる。

 

「……は、恥ずかしいよ、真夫ちゃん……」

 

 恵が甘えるよな声でささやいた。

 次の瞬間、恵の開いた股間からじょろじょろと尿が落ち始める。

 玲子は、真夫とふたりで、恵の股間から小尿が流れ落ちるのを微笑みながら眺めた。

 そして、そのおしっこも終わった。

 

「ああん、こんなところで恥ずかしかった……」

 

 恵が感極まったように、もう一度、しゃがみ込んだ。

 

「ねえ、ふたりとも、じゃあ、今度は男がおしっこするところが見たい?」

 

 すると真夫が立ちあがった。

 玲子は少し驚いてしまった。

 だが、俄然、興味が沸いた。

 玲子は男が目の前でおしっこをするところなど見たことない。

 

 見たい……。

 

 そう思ったが、さすがに口に出すのははばかられた。

 

「見たいよ、真夫ちゃん──。見せて」

 

 すると、恵が嬉しそうな声で勢いよく言った。

 真夫がにっこりと笑って恵に頷くと、今度は玲子に視線を向けた。

 

「み、見たいです……」

 

 玲子は小さな声で言った。

 真夫がズボンから再び性器を出した。

 ズボンから出てきた性器は、まだ太くて大きかった。

 玲子は、そういえば、さっき奉仕の途中で中断してしまい、真夫はまだ射精をしていないということを思い出した。

 恵も玲子も満足させてもらったが、肝心の真夫を満足させていない。

 それを思い出した。

 

「そ、そういえば、真夫ちゃん、まだだよね……。す、するよ。ご奉仕させて……」

 

 すると、恵が横から言った。

 

「そ、そうです。奉仕をさせてください」

 

 玲子も言った。

 だが、真夫は笑って首を横に振った。

 

「いいんだよ。それに俺はおしっこしたいんだ。いま、奉仕してもらったら、ふたりの顔に小便をかけちゃうよ」

 

 真夫が笑って応じた。

 

「か、かけてもいいよ──。ううん……。あたしの顔に真夫ちゃんのおしっこかけて──。あたし、真夫ちゃんのおしっこかけられたい」

 

 恵が喜色ばんで言った。

 玲子はその言葉にちょっと驚いたが、確かに、真夫におしっこをかけられて辱められるプレイというのは、やってみたいかもしれない。

 玲子はそうやって、恵とともに真夫に辱められる自分を想像して、ちょっとぞくぞくという興奮を覚えた。

 

「それもいいけど、今度ね。ちょっと、これから三人で行くところがあるんでね。小便臭かったら、さすがに電車には乗れないよ」

 

 真夫が笑った。

 

 電車──?

 

 玲子はその言葉に訝しんだ。

 真夫たちが寝泊りをしているホテルは、ここからそうは離れていない。

 歩いても、そんなにかからないのだから、電車に乗るというのは、どこかに向かうということだろう。

 

「わっ」

「あら」

 

 だが、次の瞬間、思念は吹き飛んだ。

 真夫の男根の先から、しゅっと尿が迸ったのだ。

 それは、玲子と恵のあいだを通って放物線を描いて、地面に落ちていく。

 

「うわあ……」

「へえ……」

 

 玲子と恵は呆けたような声を出していた。

 そして、それに気がついて、ふたりで顔を見合わせて笑った。

 

 やがて、真夫の尿も終わった。

 玲子はこれだけ近くで男がおしっこをするのを凝視したのは生れて初めてだ。

 

 他愛のない時間……。

 他愛のない行為……。

 玲子は恍惚とした幸せを感じた。

 

 その刹那、さっと恵がおしっこが終わったばかりの真夫の性器をぱくりと口にした。

 

「あっ」

 

 思わず声が出た。

 奉仕をするのではなく、どうやらおしっこの終わった真夫の性器を舌で掃除をするだけのようだが、玲子は、恵に先を越されたという気持ちに襲われる。

 ちょっと口惜しい……。

 

「さあ、綺麗になったよ、真夫ちゃん。それとも、もっとする?」

 

 掃除フェラの終わった恵が、にこにこと真夫を見上げて微笑んだ。

 真夫がぽんと恵の頭に手を優し気な手つきで置いた。

 

「ありがとう、あさひ姉ちゃん……。でも本当に、いまはいいんだ……」

 

 真夫が言った。

 その優しい物言いに、玲子は呆然となった。

 しかし、それが、すぐに腹が捻じれるような感覚に変化する。

 玲子には、それがなにかわからなかった。

 ただ、不思議にも、なにか腹立たしい気持ちになる。

 さらに、玲子も真夫の役に立ちたいという気持ちが猛烈に沸き起こる。

 

 真夫の役に立たなければ……。

 玲子は、懸命に考えて、口を開いた。

 

 そういえば……。

 

「そ、そうだ、真夫様。さっき、どこかにお出かけになると言われましたよね? だ、だったら、車を手配します。電話をかけさせてもらえませんか」

 

 玲子は言った。

 だが、真夫はにっこりと笑って、ぽんと玲子の頭の上にも手を置く。

 玲子は大きな悦びに包まれた。

 そして、玲子はさっきのおかしな感情は、ただ、玲子もこうやって、真夫に頭を撫ぜてもらいたかっただけだということがわかった。

 真夫に頭を撫ぜられて、股間と胸が狂おしいほどに熱くなる。

 きゅんと心が温まるような心地だ。

 

「……だけどいいんです、玲子さん……。それよりも、俺にお尻を向けてください。頭をさげてね。ふたりともだよ」

 

 真夫が言った。

 

「は、はい」

「えっ? わ、わかった」

 

 玲子と恵は戸惑いながらも、言われたとおりの恰好になった。

 つまり、真夫に向かって、剥き出しのお尻を高く掲げている姿勢だ。

 

 ふたりの両手は指錠で拘束されたままだし、下半身にはまだなにも身に着けていない。おそらく、お尻を向けている玲子と恵の恰好は、怖ろしく破廉恥な姿に違いない。

 玲子は、真夫が凝視しているであろう自分の恥ずかしい姿を想像して、身体が熱くなった。

 

 背後でがそごそと、真夫が荷物からなにかを出す気配がする。

 なんだろうと考えていると、横の恵が急にびくりと身体を動かした。

 

「な、なに──? ま、真夫ちゃん? なんなの?」

 

 恵はひどく動転した声を出している。

 玲子は訝しんで恵に視線を向けようとすると、玲子のお尻になにかが突き刺さり、冷たいものがぴゅっと内部に流れ込むのを感じた。

 

「ひっ」

 

 玲子も声をあげた。

 その玲子と恵の顔の前になにかが降ってきた。

 それは空になったイチジク浣腸の容器だ。

 玲子は自分の顔が引きつるのがわかった。

 二個ある。

 それを一個ずつ注入されたのだ。

 

「ま、真夫ちゃん?」

 

 恵の驚いた声がした。

 

「さっき罰を与えると言ったでしょう? 奉仕を途中でやめちゃったのをふたりとも忘れてないよね。まさか、ここでいい気持ちになったのが罰のわけないでしょう。とにかく、動かないんだよ。まだ、あるからね」

 

 真夫が愉しそうな声をあげた。

 再び恵が小さな声を出す。

 空の容器がまた、ぼとりと目の前に落ちる。

 恵が二個目のイチジク浣腸を注入されたのだ。

 

 すぐに、玲子のお尻にも二回目の浣腸液が流れ込む……。

 

 結局、玲子と恵は三個ずつのイチジク浣腸を体内に注がれた。

 真夫は玲子と恵と立たせると、スカートを取り出して、やっとふたりに身に着けさせてくれた。

 しかし、指錠は外そうとはしない。

 その代わりに、両手を使えない玲子と恵から草を払い、髪を整えてくれる。

 

 だが、玲子は、すでに強烈な便意が沸き起こり、ごろごろと下腹部が鳴って、さっそく強い便意に襲いかかられていた。

 

「ど、どこに……?」

 

 恵が言った。

 

 恵もまたもう苦しそうだ。

 

「とりあえず、駅かな? 電車に乗るよ。だけど、目的の駅は教えない。罰だしね……。目的地に着いたらトイレに行かせてあげるよ……。それが一時間後か、二時間後か知らないけどね……。さあ、歩くんだ」

 

 真夫が三人の荷を持って歩き始める。

 仕方なく玲子は、恵とともに、便意に顔をしかめながら、慌ててその後を追いかけた。



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 第38話  野外排便

 とり合えず、真夫は、公園の出口で、あさひ姉ちゃんと玲子さんの指錠は外してあげた。

 その代わりに、さっきのようにふたりの手首を手錠で繋いでしまう。

 

 スーツ姿の玲子さんと、Tシャツでミニスカートのあさひ姉ちゃんの組み合わせというのも奇妙なものだが、そのふたりがしっかりと両手を握りしめて歩いているというのは、よく見れば違和感のある光景に違いない。

 それに、ふたりとも、美人でスタイルもよく、どうしても周りの視線を集めてしまう。

 そのふたりがぴったりと寄り添うようにして身体を寄せてぎこちなく歩くのは、夜はいえ、行き交う人の興味を抱かせてしまうようだ。

 

 公園から駅までは、五分ほどだ。

 真夫は、数メートル離れた後ろから、ふたりの背を追っていた。

 ふたりとも、かなり苦しそうであり、歩きがぎこちない。

 

 無理もない。

 

 公園での悪戯の後、真夫はふたりのお尻に大きめのイチジク浣腸を二個も抽入していた。それだけでなく、あの掻痒剤をクリトリスにもう一度塗り直してもいたのだ。

 カラオケボックスで塗ってあげた薬剤は、公園でのセックスのときに汗と体液でほとんど効き目が小さくなっていた。

 

 だから、公園の出口で指錠を外すとき、ふたりを物陰につれていき、ふたりにスカートを自分で捲らせ、一度吸盤バイブを外してから、真夫はクリスリスの皮を剥いて陰核にたっぷりと追加してあげた。

 そのうえで、また、改めて吸盤バイブを被せたのだ。

 

 ふたりとも作業のあいだは、呆けたように甘い息を出して悶えていたが、公園を出発させると、すぐに苦しみに襲われた姿を示しだした。

 痒みの苦しさだけでなく、強い便意にも襲われだしたからだろう。

 

 しかし、真夫は、すっかりと従順になったふたりの美人「奴婢」の痴態に、完全に気分が高揚している。

 あさひ姉ちゃんにしても、玲子さんにしても、真夫にはもったいないほどの美人だ。

 そのふたりが、まったく真夫の言いなりになり、こんなに破廉恥で鬼畜な仕打ちにも、唯々諾々と従って、懸命に責めに耐えてくれるのだ。

 真夫の嗜虐欲は、ますます、膨れあがる。

 

 駅に着くと真夫は、ふたりを待たせて切符を買った。

 そのあいだ、ふたりが壁に隠れるようにして、身体を隠しながら、しきりに腿をもじつかせているのは、とても色ぽかった。

 お互いに接する両手首が手錠で繋がれているとはいえ、反対側の片手は自由なのだから、この場で痒みを手で癒せないことはないのだが、さすがに、この人混みの中でスカートの中の股間を掻くわけにはいかないだろう。

 だが、ふたりは壁に身体を向け、拳をスカートの前に置いて、もじもじと腰を微妙に動かしていた。

 

 しっかりと掻いている……。

 真夫は笑った。

 かなりのいやらしい姿なのだが、もうふたりとも、理性を保つ余裕もないのかもしれない。

 

「こんなところで、自慰なんてしないでよね、ふたりとも……。さあ、切符だよ」

 

 真夫は、ほかの者には聞こえないように小さな声でささやきながら、玲子さんとあさひ姉ちゃんに、一枚ずつ切符を手渡した。

 ふたりが、はっとしたようにスカートの上から手をどける。

 

「ねえ、真夫ちゃん、お、おトイレに行かせて……」

 

 すると、あさひ姉ちゃんが苦しそうにささやいてきた。

 切符を買う前は、顔色は真っ赤だったのに、いまは真っ蒼だ。

 かなり便意が苦しいものになっているのだろうと思う。

 

「五個目の駅で乗り換えだからね。そのとき、トイレに連れていってあげるよ。それまで漏らさないでね」

 

 真夫はふたりを改札口に促した。

 ふたりとも、便意と痒みの苦しみに顔をしかめながらついてくる。

 

 自動改札を抜け、階段を下りてホームに出ると、すぐに電車が入線してきた。

 通勤帰りのサラリーマンと同方向のコースであり、また週末ということもあってか、それなりに電車は混んでいた。

 もちろん、座ることはできずに、三人でドアのそばに立っていた。

 

「あ、あのう……。が、学園のことで申しあげることが……」

 

 すると、ずっと口を開くのもつらそうな顔をしていた玲子さんが、小さな声で真夫とあさひ姉ちゃんに語り始めた。

 それは、明日から寮に入ることになる聖マグダレナ学園のことだった。

 玲子さんによれば、どうやら、真夫は、あのお坊ちゃん、お嬢ちゃん学園の生徒には、あまり歓迎されていないようだということだった。

 だから、最初は、真夫に居心地の悪い思いをさせるかもしれないとしきりに謝っていた。

 だが、学園の理事長代理として、なんとか、状況の改善を図るように努力するから、少しのあいだは辛抱してくれとも言った。

 

 真夫は一笑に付した。

 

「……そんなことまでしてもらう必要はありませんよ、玲子さん。俺も……そして、あさひ姉ちゃんも、生活する場所を提供してもらうだけで満足していますから……。俺たちのような立場の者は、なかなか、色眼鏡で見られることも多いですからね……。特に、あの学園のような金持ち学校では、簡単には受け入れてもらえないということは覚悟のうえです……。ねえ、あさひ姉ちゃん?」

 

 真夫は言った。

 

「ま、真夫ちゃんには……、あ、あたしがついているから……」

 

 あさひ姉ちゃんが、はあはあと荒い息をしながら言った。

 本当に苦しそうだ。

 

 玲子さんは、続いて語りだした。

 学園には、五人の特別待遇生徒という存在があるのだそうだ。

 真夫が、その特別待遇生徒という者のひとりだということは、ずっと以前から聞いていたが、玲子さんによれば、それは学園に対して多額の寄付をしているような特別な生徒のみに与えられる特権のような立場であり、その特別待遇生徒であるそれぞれの生徒を頂点として、学園には三個の大きな派閥があるとのことだった。

 

 ひとつは、加賀豊という三年生の男子を頂点とするグループ──。

 そして、金城光太郎という同じく三年男子の作るグループ──。

 さらに、もうひとつが竜崎康弘という柔道部の主将の作るグループなのだそうだ。

 

 ただ、真夫が特別待遇生徒になることで、その竜崎というのは、格下げになり、その逆恨みを真夫にぶつけるかもしれないと、玲子さんは申し訳なさそうに口にした。

 五人が定員の特別待遇生徒なのだが、そのひとつをあの秀也が占めており、もうひとつは生徒会長である西園寺絹香という女生徒の枠なのだそうだ。

 だから、真夫を入れるために、竜崎という生徒を玲子さんが外したのだという。

 

 真夫はちょっと驚き、別に真夫は特別待遇生徒でなくてもいいからと言いそうになったが、すぐにそれを自重した。

 そういえば、あさひ姉ちゃんと一緒に住めるのは、真夫が特別待遇生徒として入るからであり、真夫がそうでなくなれば、あさひ姉ちゃんは学園には入れない。

 それは嫌だ。

 

 それに、真夫をそんな立場にするのは、あの龍蔵こと、増応院という理事長の考えなのだろう。

 まだ顔を見たことはないが、その理事長がただ者ではなく、なにかの理由があり、真夫やあさひ姉ちゃんを学園に引き取ったということはわかってきた。

 学園の一女生徒が、真夫に冤罪をしかけただけで、あんな一流ホテルの特別室のようなものを与えられたり、玲子さんのような女性を「奴婢」としてあてがわれたりするわけがない。

 ましてや、あさひ姉ちゃんのお父さんの一千万以上の借金まで肩代わりしてくれて……。

 

 とにかく、真夫はもう達観している。

 

 なるようになるだろうし、こうなったら、これから行くところがとんでもない場所であっても、あるいは、差し出されるものが毒のようなものであっても、すべてを真夫は受け入れるつもりだ。

 もう、あさひ姉ちゃんを守るにはそれしかないし、玲子さんを秀也のような者に取り返されないためには、龍蔵の望むことを真夫がするしかない。

 

 もう覚悟を決めているのだ。

 

 話をしているあいだ、玲子はすっかりと蒼ざめた顔をしていた。

 玲子さんにしても、あさひ姉ちゃんにしても、排泄感は断続的に襲ってくるらしく、口を開くこともできない時間と、比較的普通に話すことができる時間が交互にあるようだった。

 

 そのとき、車内アナウンスが、電車に乗る前にふたりに伝えた五個目の駅であることを告げた。

 

「さあ、乗り換えだよ」

 

 真夫はふたりを電車からおろした。

 これから、次の電車に向かうために、階段をのぼって、再び、別のホームに降りなければならない。

 便意もあるが、掻痒剤の痒みもある。

 ふたりともかなり苦しそうだ。

 

「ねえ、真夫ちゃん……」

 

 一度、階段を昇ったところで、あさひ姉ちゃんが音をあげたような声を出した。

 さっき、乗り換えのときに、トイレに連れていくと言ったことを覚えていたのだろう。

 真夫は、立ち止まって、にっこりとふたりに微笑んだ。

 

「忘れてないよ、あさひ姉ちゃん。こっちにおいで。改札口の近くにトイレがあって、そこに多目的トイレがあるから、そこが使っていなければ入るよ……。ただし、させてあげるとは、言っていないからね」

 

 真夫の言葉に、あさひ姉ちゃんも玲子さんも、怪訝な表情になった。

 とにかく、ふたりを改札口近くのトイレに連れていく。

 幸いにも、トイレへの通路そのものに人影はない。目的の多目的トイレも空いている。

 真夫は、ふたりを中に引き入れた。

 

「トイレに入っても、うんちを許さないなんて、鬼のようだと思うかもしれないけど、これもプレイの一環なんだ。さあ、ふたりとも、これをはいてもらうよ」

 

 真夫が鞄から取り出したのは、準備をしていた大人用の紙おむつだ。

 それをふたりに示すと、ふたりとも顔が引きつった。

 

「そ、そんなの嫌よ、真夫ちゃん──」

「わ、わたしも……それだけは……」

 

 あさひ姉ちゃんも玲子さんも、びっくりしたように顔を激しく横に振った。

 真夫は、無言で手錠の鍵を取り出すと、ふたりの手錠を外した。

 ふたりとも、手錠を外されたことに、少しだけ驚いている。

 

「だったら、これでプレイは終わりだ。俺はもう、ふたりに、こんなに手酷い命令することなんてしない。多分ね……。俺はこういう変態だし、いまさら、それを隠すことはしないよ。この数日でわかったけど、おそらく、俺は、どうしようない鬼畜であり、これからも、もっともっと変態的なことがしたいんだと思う。その歯止めが効かなくなるような予感はある……」

 

「ま、真夫ちゃん……」

 

 あさひ姉ちゃんが怪訝な表情で声をかけた。

 玲子さんも困惑の顔を向けている。

 また、ふたりとも、脂汗をかいていて苦しそうだ。

 

「ふたりとも、なんでも俺の言うことに従い、どんなことでも逆らわないけど、このまま放っておけば、俺はどうしようもない鬼畜になり、女にむごいことを強いて興奮するような意地悪な男になると思う……。だから、逃げるのも、引き返すのもいまだよ。いまなら、後戻りできる……。だけど、これ以上するなら、ふたりには、逃げさせないし、一生、ふたりを支配して、ふたりに耐えられないような仕打ちをする。それが俺の愛し方だ……」

 

「う、うん」

「は、はい……」

 

「ふたりが決めていい。こんなプレイは、二度とごめんだと思うんなら、ここで排泄をしていい。そして、ホテルに戻る──。だけど、これからも、ずっと俺の奴婢でありたいと考えて、命令に従うのなら、このおむつをはいて、次の電車に乗るんだ」

 

 真夫は言った。

 あさひ姉ちゃんも玲子さんも、一瞬呆然としている。

 そして、泣きそうな顔になった。

 

「わ、わたしは、真夫様の奴婢です。どんな命令でも従います……。命令に背くようなことを口にしたことは申し訳ありません」

 

 玲子さんが手を出して、おしめのひとつを手に取った。

 そして、自らはき始める。

 

「ま、真夫ちゃん、狡い……。そんな言い方……。あたしが……あたしたちが、どんなことでも真夫ちゃんに逆らえないことを知っているくせに……」

 

 あさひ姉ちゃんも、おしめを手に取った。

 

 そんなこと知らないよ……。

 

 真夫は、あさひ姉ちゃんの物言いに対して、口の中だけで呟いた。

 

 結局、ふたりとも、ここで排泄をせずに、さらに真夫の責めを受け続けることを選んだ。

 真夫は、彼女との約束を果たせたことに満足した。

 

 多目的トイレを出る。

 

 再び改札口から離れて、さっきとは別のホームに向かう階段を降りる。

 排泄も痒みも癒されることがなかったふたりは、歩くのもつらそうに真夫についてきた。

 

 ホームについたときには、ふたりとも脂汗をびっしょりとかいていた。

 真夫は、電車を待つ列に立ったまま、ふたりだけに見えるように、リモコンの操作具をポケットから出した。

 ふたりのクリトリスに被せている吸盤バイブの操作具だ。

 あさひ姉ちゃんと玲子さんが気がついて、力なく首を横に振る。

 

 だが、真夫は容赦なく、リモコンを使ってバイブの振動をさせた。

 

「んっ」

「はあっ」

 

 ふたりが同時にがくりと膝を曲げる。

 真夫の後ろに並んで立っているあさひ姉ちゃんと玲子さんが、真夫にもはっきりと聞こえるくらいの荒い息を続けた。

 三十秒ほど、そのままにしてから、真夫はスイッチをオフにした。

 ふたりが、ほっとしたように吐息をするのが聞こえた。

 

 電車が入ってきた。

 さっきの電車とは異なり、ベッドタウンではない郊外に向かう電車なので、中はがらがらだった。

 真夫たち三人は、並んで座席に座った。

 すぐに、真夫はポケットの中でバイブのスイッチを入れた。

 

「あんっ」

「んんんっ」

 

 実は目的の駅までは、二駅しかないが、どれくらい我慢しなければならないのかわからない二人には、永遠とも思うような時間だろう。

 

 それに、ふたりは激しい排泄感と掻痒感──。

 電車の振動に、バイブの振動──。

 さらに、なにも知らないほかの乗客の視線とも戦わなければならないのだ。

 本当に地獄の時間に違いない。

 

 真夫はにやにやとしながら、あさひ姉ちゃんと玲子さんの横顔を眺め続けた。

 汗びっしょりのふたりが、思い切り顔をしかめたり、崩壊寸前になりながらも、なんとか波をやりすごしたりする表情は、なんとも艶めかしかった。

 

 やがて、目的の駅に着いた。

 真夫はとりあえず、リモコンを停止した。

 ホームは一番ホームであり、電車を降りれば、階段を使うことなく、外に出れる。

 目的の場所は、その駅前からすぐの場所にある。

 ふたりがまるで病人のように、前に進んでいく。

 真夫はそのふたりの後を指示をしながら歩いていたが、駅を出たところで、再びリモコンをオンにした。

 

「うう、うううっ、ううううっ」

 

 あさひ姉ちゃんが立ち止まり、ぶるぶると身体を震わせた。

 そして、両膝をがくりと曲げる。

 

「……ああ、だ、だめえ……」

 

 か細いあさひ姉ちゃんの声がした。

 次の瞬間、汚臭があさひ姉ちゃんから匂い出す。

 ついに、我慢できなくて、おしめの中に脱糞をしてしまったのだ。

 

「う、ううっ」

 

 すると、玲子さんも呻き声をあげて、身体をくの字に曲げた。

 玲子さんもまた、最後までもたなかったようだ。

 

「電車の中でせずによかったですね、ふたりとも。さすがに、匂いますよ。いくらおしめをしていたとはいえ、大騒ぎになっていたかもしれません」

 

 真夫はからかった。

 しかし、あさひ姉ちゃんも玲子さんも、もやは生気を失ったかのようにがっくりと落ち込んだ様子だった。

 真夫はそのふたりの手を取り、強引に歩かせる。

 ふたりは、ほとんどすすり泣きのような声を出しながら進む。

 だが、さすがに汚物をしたおしめをしたまま歩くのは気持ちが悪いのだろう。

 歩き方は、とてもぎこちなかった。

 

 目的の場所に到着した。

 駅前のマンションだ。

 真夫は、財布からあらかじめ渡されていたカードキーを取り出して、マンションの中に入った。

 そのまま、エレベーターに乗り込む。

 

「……ここはどこですか? どこに向かっているのです、真夫様?」

 

 エレベーターに乗り込む前に、玲子さんが我に返ったような口調で言った。

 真夫は、すぐにわかりますとだけ言った。

 

 十階まであるマンションの最上階で降りた。

 目的の部屋はエレベーターの隣だ。

 真夫は、表札のないその部屋の呼び鈴を鳴らした。

 

「ま、真夫ちゃん、ここ、どこ?」

 

 あさひ姉ちゃんもやっと怪訝な顔をした。

 玲子さんは、はっきりと訝しむ表情だ。

 

「ふたりを紹介すると約束してね」

 

 真夫はそれだけを言った。

 そのとき、扉が向こう側から開いた。

 

 そして、そこにいた人物にふたりが驚いた声をあげる。あさひ姉ちゃんは、面識がないので、単純に誰かが出てきてたことにちょっと驚いただけのようだったが、玲子さんの声は悲鳴に近かった。

 

「と、時子さん──」

 

 部屋にいたのは、時子婆ちゃんだ。

 昼間、ホテルで面会したとき、真夫に責められるあさひ姉ちゃんと玲子さんの姿を一度見せるという約束だったので、こうやって連れてきたのだ。

 

「なるほどねえ……。おしめをして連れてきてみせると言っていたけど、あたしは、プライドの高いお前が、真夫坊の命令とはいえ、おしめをして外を歩くなんてことを承諾するとは思っていなかったよ。だけど、おしめをするどころか、大便までしてみせるとはね……。すっかりと、骨抜きに躾けられているようじゃないかい、玲子」

 

 時子婆ちゃんが相好を崩した。

 逆に、玲子さんは、横で「ひっ」と引きつった声をあげた。



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 第39話  天賦の才能

「時子婆ちゃん、汚れたおむつはゴミ袋に入れたから頼むね」

 

 真夫が洗い場の外で椅子に腰かけている時子に声をかけた。

 

 玲子は、恵とともに、時子の待っていたマンションの浴室に、素裸で両手首を手錠で束ねられて、その手錠に浴室の天井の金具に取り付けた鎖を繋がれて立たされていた。

 鎖の長さにはかなりの余裕があり、ぴんと延ばせば胸くらいの高さがあるので、真夫の命令により、ある程度の姿勢の変化をすることもできる。

 

 いまは、ふたりとも両足を拡げて、真夫に尻を付き出すようにして立っていた。

 真夫により、大便のついた尻を隅々まで洗ってもらうためだ。

 

「ほっ、ほっ、ほっ……。こっちの隅に置いておけ。明日には家政婦が片付けるだろうて。玲子のことも知っている使用人だからな。玲子がプレイでやったおむつだと言っておく。きっと驚くだろうのう」

 

 時子が意地悪そうな声で笑った。

 

「駄目だよ、時子婆ちゃん。玲子さんを苛めていいのは、もう俺だけだよ。俺の女になったんだからね」

 

 真夫がそう言うと、時子は「すまん、すまん」と嬉しそうに笑い声をあげた。

 いずれにしても、こんなに優しげで機嫌がいい時子に接するのは、玲子は初めてだ。

 真夫に語りかける時子には、玲子やあのナスターシャを厳しく調教する愛人頭の姿はない。

 まるで、孫に接する祖母のように、真夫を慈しむような態度で真夫に接している。玲子の見る限り、真夫に「婆ちゃん」と呼ばれる時子は、本当に嬉しそうだ。

 

 実際に時子にとっては、血が繋がっていないとはいえ、真夫のことは、自分の孫も同然なのに違いない。

 もはや、真夫が龍蔵の血を受け継ぐ子供であることは疑いの余地はない。龍蔵の正妻という立場に近い時子にとっては、龍蔵の唯一の息子である真夫は、まさに自分の肉親にも感じるだろう。

 

 玲子をはじめ、龍蔵の関係者は、龍蔵の操心術により真夫自身にそれを伝えることはできないようになっているが、接する態度は自由だ。

 時子は、今日の昼間、わざわざ真夫を訪ねて会いにいき、わずかな時間であっという間に意気投合してしまったようだ。

 

 時子自身がどういう立場の女だと自己紹介したのかは知らない。

 ただ、真夫と時子は、昼間の面会の中で、真夫が玲子や恵を調教するところを見せると約束したようだ。

 

 それで、真夫は玲子と恵に浣腸して電車に乗せ、紙おむつをはかせて、ふたりがそれに排便せざるを得ない状況に追い詰めてから、約束の場所であるこのマンションの一室まで連れてきたということらしい。

 玲子はそれをこのマンションに着いてからのふたりの会話から悟った。

 

 ただし、ここは玲子の知らないマンションだ。

 時子は、普段は学園の裏の屋敷に龍蔵と暮らしているはずだから、ここは、今夜、真夫と会うためだけに準備したマンションかもしれない。

 龍蔵の愛人頭のともなれば、マンションのひとつやふたつ、簡単に買えるお金は持っている。

 玲子自身、龍蔵の性奴隷にされていた一年のあいだに貰った代価は、軽く数億を超える。

 

「それにしても、真夫坊は面倒見がいいのう。女の漏らした大便を嫌な顔ひとつせずに洗い、しかも、手で汚物を取ってやるとはなあ……。外で見ているあたしは、臭くて鼻が曲がりそうだったがな」

 

 時子が笑った。

 ここは、そのマンションの浴室であり、ここだけで数名は寝られそうな広い洗い場だ。

 玲子と恵は、紙おむつで粗相をしていまって汚れたお尻をここで真夫に洗ってもらったのだ。

 そのあいだ、両手の自由を奪われていて、真夫に汚物を洗ってもらうしかなかった玲子は、恥ずかしくて、申し訳なくて仕方なかった。

 しかも、その一部始終を時子に、ああやって見物されもした。

 本当に複雑な感情に苛まれた時間だった。

 

「別に嫌じゃないさ。臭いけどね。だけど、奴婢の糞尿の始末くらいできないと、ご主人様は務まらないよ」

 

 真夫が白い歯を見せた。

 

「ま、真夫ちゃん、ありがとう……」

 

 横で玲子と同じように両手を吊って立たされている恵が、うっとりとしたような声をあげた。

 すでに恵は、真夫にお尻を洗ってもらう途中から、完全に呆けたようになってしまい、時子の存在などまったく気にならないようになっている。

 玲子からすれば、それだけ無警戒に真夫に没頭できる恵がなんだか羨ましい。

 嫉妬すら感じるほどだ。

 

「いいんだよ、あさひ姉ちゃん。その代わり、俺はこれからも、もっと酷いことをあさひ姉ちゃんにするからね。あさひ姉ちゃんがとても、耐えられないようなことをね。でも、あさひ姉ちゃんは、無理矢理にそれをさせられるんだ。いいね」

 

「う、うん……。あ、あたし、真夫ちゃんにとても耐えられないようなことされたい……。嫌だけど、無理矢理にそれをさせられるの……」

 

 恵が虚ろな顔をして言った。

 真夫は、そんな恵の様子に愉しそうに微笑んだ。

 なんだか、恵に負けたような心地に襲われ、玲子は胸が痛くなる。

 玲子だって、同じことを訊ねられれば、そう答えたのだ。

 そのとき、時子の大きな笑い声がした。

 

「これは完全に真夫坊に躾られた娘っ子じゃな。なかなか、ここまでは仕込むのは難しいぞ。真夫坊、その娘は、もう何年も調教しているのか?」

 

 時子だ。

 だが、真夫は首を横に振った。

 

「まだ、十日ほどだよ、時子婆ちゃん。昔馴染みだけどね」

 

「十日?」

 

 すると、時子が絶句したような態度を示した。

 

「さあ、玲子さん、今度は洗浄水です。二百cc入れます。十分間我慢するんですよ。排便してもいい時間になったら合図をするので、その時は出してください。その次に、なにが待っているかわかりますね?」

 

「は、はい……」

 

 真夫が言った。

 腸を掃除するための浣腸は、その後のアナルセックスを意味する。

 真夫にお尻を犯される……。

 そう思っただけで、玲子の股間は痛いくらいに疼いてしまった。

 すると、後ろから浣腸器の管が挿された。

 

「あっ、も、もう少し……、う、上を向けてください……」

 

 真夫の挿した嘴菅は少し角度が違っていた。

 だから、思わず口走ったが、すぐに、真夫がわざとそうしたのだと思った。

 なにしろ、この数日間で真夫に浣腸されたのは始めてではないし、真夫はその度に、まるで玲子の身体を知り尽くしているかのように、完璧な角度で薬剤を注入してきた。

 それが今回に限って、まるで玲子を試すように、角度を違えたのは、真夫は玲子の従順ぶりを時子に見せたかったのではないだろうか……?

 

「ほう……。あの小生意気な玲子がなあ……」

 

 すると、時子が感嘆する声を出した。

 

「婆ちゃん、玲子さんは、ちっとも生意気じゃないよ。とっても優秀で、そして、素直で可愛い女の人だよ」

 

 真夫が言った。

 

「お、おそれいります……」

 

 玲子は嬉しかった。

 「ご主人様」に誉められる……。

 それが、こんなに震えを感じるほどの歓びを覚えるとは思わなかった。

 しかも、それが、あの時子に対して、告げられた言葉であろから尚更だ。

 真夫のためにも、絶対に我慢しよう……。

 そう思った。

 

 すぐに温かい洗浄水が腸の中に注ぎ込まれるのがわかった。

 しかし、その異様な感覚には、どうしても思わず眉をひそめてしまう。

 やがて、浣腸器が抜かれた。

 真夫は続いて、恵にも宣言をしてから、同じ量の洗浄水をお尻に注ぎ込んだようだ。

 

「なあ、真夫坊、実は玲子はあまり浣腸には慣れておらんぞ。二百ccを十分など我慢できるか? ましてや、その若い娘はほとんど経験がないのではないか?」

 

 時子が懸念を示した。

 

「大丈夫だよ、時子婆ちゃん。ふたりは、俺の命令なら、多分、死んでも守ってくれると思うよ。十分間と言ったら、十分間耐えるさ……。そうだよね、ふたりとも?」

 

 真夫がすでに猛烈な排泄欲が迫っている玲子と恵のお尻の穴をまさぐり出した。

 

「あ、ああっ、だ、駄目よ、ま、真夫ちゃん。で、出そうっ」

 

「真夫様──、ひいいっ」

 

 声を出すのもつらい排便感に襲われているアナルを直接になぶられるのは、嫌悪感を越えて恐怖だった。

 それでも、玲子は時子の前で真夫に恥をかかせてはならないという一心で尻に力を入れ続けた。

 一度でもその力を緩めれば、それで終わりだ。

 玲子は必死で耐えた。

 

 真夫は、気紛れのように玲子と恵の尻を愛撫したり、胸を揉んだり、股間をまさぐったりした。

 そのたびに、玲子も恵も悲鳴をあげた。

 

 やがて、真夫が十分間の終わりを告げた。

 ほっとした。

 これで許される……。

 玲子は、真夫が排便の許可をくれるのを待った。

 

「じゃあ、また十分間の我慢だよ。今度はグリセリンを追加するね。しかも原液を百ccだ。ちょっときついかもしれないけど、ふたりなら我慢してくれるよね」

 

 いつの間に準備していたのか、真夫が新しい薬液を入れた浣腸器を取り出した。

 玲子は信じられない思いだった。

 

 十分間耐えれば排便の許可をもらえる。

 それだけを考えて耐えたのだ。

 もう、数瞬も待てない。

 ましてや、グリセリンの原液など耐えられるわけがない。

 玲子は愕然とした。

 

「ほほほ、十分間と告げておいて、さらに十分間の追加を命じるとは、真夫坊も鬼畜だのう」

 

 時子が笑い声をあげた。

 

「そ、そんな……ま、真夫ちゃん……、や、約束が……」

 

 すると、横の恵が弱音を吐いた。

 その直後、恵の尻で大きな音がした。

 真夫が恵の尻たぶに思いきり平手打ちをしたのだ。

 

「俺は嘘はつかないよ。十分間我慢しろと言っだけだよ。確かに排便の許可を与えたらしろとは言ったけど、最初の十分間で終わりとは言ってない。俺はふたりが、俺のために我慢する姿が可愛かったので、また十分間それを見たくなった。それは駄目なのかい?」

 

 真夫が残念そうな口調で言った。

 玲子はその真夫の言葉に悄然となった。

 恵だけでなく、玲子もまた、真夫の責めが理不尽だと思った。

 だから、真夫を失望させたのは、玲子も同じだ。

 

「ああ、ごめんなさい、真夫ちゃん……。あ、あたし、頑張る……」

 

 恵が排便感によるおこりのような震えをしながら言った。

 

「いい子だよ、あさひ姉ちゃん。ご褒美だ。舌を出して」

 

 真夫は恵に舌を出させると、それをぺろぺろと舐め始めた。

 この状況で、真夫の舌の愛撫を受けるのは、それだけで責め苦のようなものだが、恵は気持ちよさそうに甘い声を出した。

 

「よし、じゃあ、あさひ姉ちゃんは、罰として、グリセリンは二百ccに増やす。いいね」

 

「は、はい……」

 

 恵がか細い声で返事した。

 

「飴と鞭か……。なかなかに奴婢扱いがうまいのう。これは天賦の才能か……?」

 

 時子が感心したような声を出した。

 

「ま、待ってください、真夫様……。ば、罰ならわたしも……。実はわたしも、心の中で真夫様の仕打ちを理不尽だと考えてしまいました。奴婢として、あるまじきことです。わたしにも罰を……」

 

 玲子は言った。

 すると、真夫がにっこりと微笑んだ。

 

「よく、自分から告白してくれました。それでこそ。俺の奴婢です」

 

 真夫が玲子の頬を手で挟んで、口づけをしてきた。

 玲子は夢中になって、真夫の舌と唾液を味わった。

 無論、そのあいだも、お尻の筋肉だけには力を入れ続けている。

 

「これは驚いた。本当にこれが、あの玲子なのか?」

 

 時子の声だった。

 しかし、いまは真夫のことしか考えられない。

 真夫に誉められたい……。

 真夫を失望させたくない……。

 それだけだ。

 そして、恵ともども、新たに二百ccの薬剤を追加された。

 

 次の十分間は地獄のような時間だった。

 限界を遥かに越えた排便の痛みに、玲子は耐えた。

 時折、頭が真っ白になりかけることもあったが、気を失えば終わりだ。

 玲子は必死で意識を保った。

 幸いだったのは、今度は尻の愛撫はなかったことだ。 

 それで、なんとか耐えられた。

 

 だから、十分後、真夫が五十ccの薬剤の追加と、五分間の延長を宣言したときには、それだけで気が遠くなった。

 今度は考えることもできなかった。

 ただ、無心で真夫が許可をしてくれるのを待った。

 排便ひとつをとってみても、玲子と恵の肉体は真夫の自由意思によるもの……。

 それが心の底からわかった。

 

「さあ、これで終わりだ、あさひ姉ちゃんと玲子さん。今度はふたりが尻から排便するのを見たくなった。するんだ──」

 

 真夫が玲子と恵の股間に手を伸ばして、ヴァギナとクリトリスを刺激しながら言った。

 

「あ、ああっ」

「ふわあっ」

 

 お尻が恵と向き合っているかたちだったので、お互いの身体に薬剤混じりの汚物をかけ合うことになったが、玲子と恵は、恍惚感とともに排便した。

 

 玲子は排便をしながら、真夫に股間をいじられて、あっという間に達してしまった。

 また、玲子だけでなく、恵も排便しながら達したようだ。

 

 そして、再び、真夫に身体を洗われ、また洗浄液を注入されて、三度目の排便を命じられた。

 今度は我慢することなく、すぐに、出すように言われた。

 玲子も恵も命じられるまま、お尻を緩めて排便した。

 今度は、排泄の液はほとんど色がついていなかった。

 

「いくよ」

 

 いきなり、真夫が尻たぶを掴んだ。

 間髪入れずに、真夫の肉棒が玲子のお尻に入ってくる。

 なにかの潤滑油を塗ってあるらしく、真夫の怒張は抵抗なく、玲子のお尻に入ってくる。

 

「あ、ああっ」

 

 玲子は、いきなり襲われた絶頂感に我を忘れた。

 たった一度の挿入で軽くいき、出ていくときに本格的に達した。

 しかも、股間から潮吹きまでしてしまった。

 玲子は信じられないくらいに、自分が敏感になっているのがわかった。

 真夫が苦笑しながら、玲子のお尻から性器を抜いたのがわかった。

 

「あ、ああ……。も、申し訳ありません……。わ、わたしばかり、先に気持ちよくなって……」

 

 玲子は真夫を満足させられなかったことに、深い失望感を覚えてしまった。

 すると、真夫がぽんぽんと玲子の頭を軽く叩いた。

 

「そんなことは気にしなくていいんですよ。俺は自分の女が快感でどうしようもなく悶えるのが好きなんですから」

 

 嬉しかった。

 玲子はしばらくのあいだ、真夫の言葉に酔いしれ、大きな恍惚感に浸った。

 

「ほら、玲子さん、ぼっとしてる暇はないですよ。あさひ姉ちゃんは、初めての尻姦なんです。アドバイスしてあげてください」

 

 真夫に声をかけられた。

 慌てて、我に返った。

 真夫は自分の一物に、潤滑油を兼ねた殺菌のためのゼリーを塗っている最中だった。

 

「あっ、お願いです、真夫様。こ、これを外してください。恵ちゃんをサポートします」

 

 とっさに口走ったが、玲子は自分で驚いた。

 発言の内容ではなく、恵に対する呼び掛けだ。

 恵のことを「恵ちゃん」などと呼んだのは初めてだ。

 だが、玲子はこのところ、連日のように、真夫の調教を恵とともに受けている。

 いつの間にか、恵のことは、大切な「戦友」のような気持ちでいる。

 だから、つい、そう呼んでしまったのだ。

 すると、真夫がにっこりと微笑んだ。

 

「いいですね、その呼び方……。これからは、あさひ姉ちゃんのことをそう呼んであげてください。いいよね、あさひ姉ちゃん?」

 

「う、嬉しいです……」

 

 恵が照れたように、顔を赤くした。

 そして、真夫は、塗りかけていた絶頂を横に置いて、玲子の手錠を外した。

 玲子はさっと、真夫が置いた絶対のチューブを取り、塗布の続きをする。

 塗りながら、恵に声をかけた。

 

「じゃあ、恵ちゃん、とにかく真夫様を信頼するのよ。ゆっくり息をしてリラックスよ。真夫様に任せれば大丈夫だから」

 

 玲子は、真夫の性器にゼリーを手のひらでまぶすように塗りながら、恵に声をかけた。

 そして、真夫に視線を向ける。

 

「わたしが恵ちゃんのお尻をほぐしていいですか?」

 

 玲子は言った。

 考えているのは、初めてのアナルセックスだという恵が少しでも楽でいられるようにすることと、真夫が恵のお尻を愉しめるように導くこと……。

 それだけだ。

 特に恵は、このところの数日間、アナル拡張の調教を頑張った。

 だから、うまくいかせてあげたい。

 

「いいですよ。お願いします」

 

 真夫が頷く。

 玲子は、ゼリーを今度は指先に載せる。

 そして、恵のアヌスを揉みほぐすように深く塗っていった。

 

「あ、ああっ」

 

 恵が、苦痛とも快感ともとれる昂った声をあげた。

 しかし、しつこいように指で愛撫を続けると、やがて、恵の声は快楽そのものになり、前側の亀裂から、はっきりと女の蜜が滴ってきた。

 

「さあ、真夫様、お待たせしました」

 

 玲子は場所をあける。

 真夫が恵のお尻に肉塊をずぶずぶと挿し込んでいった。

 

「あっ、あっ、ま、真夫ちゃん」

 

 恵が狼狽するように、声を張りあげる。

 

「大丈夫、恵ちゃん、緊張しちゃだめ──。すべてを真夫様に委ねるの」

 

 玲子は恵の前に回った。

 そして、少しでも恵が快楽に浸れるように、舌でクリトリスを吸うように舐めてあげた。

 

「んふふうっ」

 

 たちまち、恵が狂乱したように悶え出す。

 真夫は、そんなに恵の乱れを嬉しそうな顔をして、お尻を犯し続ける。

 真夫が嬉しそうなら、玲子も嬉しい。

 玲子は一層、恵への舌責めに没頭した。

 

「い、いくっ、いくうっ、いくうっ」

 

 やがて、恵はひと際高く声をあげたかと思うと、ついに、身体をぶるぶると震わせて気をやった。

 ふと見ると、真夫もまた、その恵に合わせるように、腰を数回強く動かして、恵のお尻に精を放ったのがわかった。

 

 玲子はほっとした。

 真夫と恵の組み合わせによる、初めてのアナルセックスを成功させることができたからだ。

 真夫は恵のアナルに精を放ち、恵は最初のアナルセックスで女の歓びを味わえた。

 

 よかった……。

 玲子は安堵して、その場に脱力してしゃがみこんだ。

 

 そのとき、背後で拍手がした。

 時子だ。

 つい、夢中になって忘れていたが、時子がずっと見物していたということをやっと思い出した。

 

「こりゃあ、驚いた。なんとも、幸せそうな三人だろう。女ふたりをこんなにも夢中にさせるとは、真夫坊はやはりすごいのう」

 

 時子が言った。

 

「俺がすごいんじゃないよ、時子婆ちゃん。ただ、俺たち三人の相性がいいだけさ。いずれにしても、これでわかったでしょう。あさひ姉ちゃんは当然として、玲子さんもすっかりと俺のものだからね。龍蔵という人にも言っておいてよね……。まあ、多分、この映像も隠しカメラかなんかで、見物しているかも知れないけどね」

 

 玲子ははっとした。

 確かにそうだ。

 隠しカメラによる監視は、龍蔵の十八番だ。

 これを眺めているのは、間違いないと思う。

 

「いまのセックスを見てしまっては、龍蔵殿も認めざるを得んじゃろう。確かに、玲子は真夫坊のものになった。もう、誰にも手は出させん。あたしの責任をもって、それは守らせる」

 

「ありがとう、時子婆ちゃん」

 

 真夫がにっこりと笑った。

 もしかして、今夜のことは、真夫と時子のなんらかの取り引きが後ろにあったのだろうか?

 なんとなく、そんな感じだ。

 

「さて、じゃあ、三人とも、そのまま汗を流してくるといい。手料理だが軽い食事を準備しておる。一緒に食べよう。真夫坊の転入も明日だからな。あたしからのお祝いじゃ」

 

 時子が相好を崩した。

 手料理?

 この時子が?

 雪でも降らなきゃいいが……。

 玲子はそんなことをふと思った。



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第7章  復讐【白岡 かおり】
 第40話  学園転入


 学園の門を通過しても、玲子さんは運転しているワゴン車を停止させる素振りはなかった。

 どんどんと車を走らせながら、学園の案内を続けている。

 真夫は、玲子さんの隣の助手席にいて、ゆっくりと流れる学園の景色を眺めていた。

 

 聖マグダレナ学園内の敷地は驚くほど広かった。

 また、幾つもの建物があり、校舎や寮舎だけでなく、ショッピングセンターや遊技場、病院まであり、敷地内を間隔なしに動くシャトルバスもあった。

 さらに、シャトルバスは、週末と休み明けには、最寄りの駅やバスターミナルを往復もするようだ。

 

 ただし、週末帰宅も許可制であり、平日外出は原則禁止だそうだ。

 また、家族の送迎も例外なく許されない。ここには、名門の子弟も多いが、全員がシャトルバスと公共の交通機関を使用して学園に通う。

 学園の方針らしい。

 無断外出も無理そうだ。

 ここまでの道のりで、学園から街までの道なりは、整備はされていたが随分と険しい坂であり、さらに数個の無人検問所のような設備もあったので、おそらく勝手に外に出ることも、逆に外部から潜入することも難しいという感じがした。

 

 いずれにしても、今日は週末だが、定期テスト前でもあるし、クラブ活動も盛んな時期なので、平素よりも残留者は多いと、玲子さんは車で案内しながら説明してくれた。

 確かにうろうろしている生徒は少なくなかった。

 また、週末は許されるらしく、私服姿の生徒が大半だった。

 

 とにかく大きな学園だ。

 後ろの席のあさひ姉ちゃんも、唖然としている気配だ。

 しかし、それよりも真夫は、理事長代理の怜子さんが、こうやって、ひとりの編入生徒を自ら送迎しているという状況が気になっていた。

 見られて噂になったら、玲子さんの状況が悪くなるのではないか……。

 それを心配している。

 

 だが、玲子さんは、むしろ他の生徒に見られるのを望んでいるかのように、人目をはばからず、学園内を車で走らせて案内をしてくれる。

 ついに、真夫は気になっていた指摘を口にし、あさひ姉ちゃんとともに、寮まで歩いていくと申し出た。

 

「S級生徒用の特別寮までは結構ありますよ、真夫様。それに、荷物もあるのに……。第一、これはわたしと真夫様の繋がりを宣伝したくて、わざとうろうろしてるのです。そうすれば、真夫様を軽く見る者も減るでしょう。せめてもの、わたしの配慮です。真夫様が養護施設出身であることを知られたのは、わたしの落ち度です。それを少しでも償いたくて……」

 

 玲子さんは申し訳なさそうに言った。

 真夫が孤児であることは、昨日、白岡かおりという女生徒のために、一度に学園内に広まったらしく、玲子さんはそれをとても気にしていた。

 真夫は笑った。

 

「心配いりませんよ。おかしな色眼鏡で見られるのは慣れてますから。ましてや、こんな上流階級の人たちばかりの学園ではなおさらです」

 

 真夫は言った。

 そのとき、玲子さんがなにかを言いたそうな妙な素振りをした。

 だが、結局、口が開くことはなかった。

 時折見せる仕草だ。

 なにかを告げたいのに、それを躊躇している……。

 そんな感じに思える。

 真夫は、最近、ちょっと気になりだしていた。

 

「真夫ちゃん、とにかく、いじめられたら、あたしにすぐに言うのよ。そんな連中、あたしがとっちめてやるから」

 

 そのとき、後ろからあさひ姉ちゃんの声が響いた。

 真夫は苦笑した。

 だが、素直にわかったと返事をした。

 

「……それと、あの子のこともね……。真夫ちゃんは優しいから、強く出れないと思うけど、あたしが代わりにやってあげるから。もちろん、真夫ちゃんが好きなようにやっていいわ。だけど、真夫ちゃんは、本当に優しいから……」

 

 さすがに吹き出した。

 「あの子」というのは、無論、白岡かおりという女生徒のことだ。

 真夫がこの学園に入り、あさひ姉ちゃんが背負った借金を肩代わりしてもらったのは、少し前に真夫を痴漢の冤罪で陥れたその白岡かおりを「調教レイプ」するというのが条件だ。

 もちろん、犯罪だ。

 

 しかし、玲子さんによれば、そのかおりに何をしても、警察に訴えることのできない弱味は握っているので心配ないという。

 また、たとえ、訴えたところで、龍蔵という人の権力なら、窮地に陥るのは、白岡家の方だそうだ。

 だから、存分にやれと諭された。

 もう後戻りはできない。

 真夫の覚悟は決まってる。

 

 それにしても、確かに、ほとんど知らぬ女生徒を強姦するというのは、真夫も気が咎めるが、「優しい」というのは、真夫には当てはまらないだろう。

 この数日間、あさひ姉ちゃんと玲子さんを徹底的に「調教」して愉しんだ。その内容は、とても「優しい」とは言えないものだったはずだ。

 しかし、あさひ姉ちゃんの思考回路では、真夫は優しいということになるようだ。

 これには真夫も笑うしかない。

 運転席の玲子もくすくすと笑っている。

 

「じゃあ、あさひ姉ちゃんにも、しつけ係を頼むよ。でも、一度会っただけだけど、かなり気が強そうで手強そうだったよ。それに、いいところのお嬢さんだってさ」

 

 真夫は、バスに乗る彼女を待ち伏せて、問い詰めたときのことを思い出して言った。

 一筋縄では落ちることのなさそうな、頑迷さを彼女から感じた。

 また、かおりのプロフィールも玲子さんから受け取っている。

 あの白岡電器の会長の孫娘という肩書きにはびっくりした。

 それが、今回の懲罰として、真夫の「従者生徒」にされたというのは、さらに驚愕した。

 

 そして、そのプロフィールが秀逸物であり、彼女の正確な身体の身長、体重はもちろん、スリーサイズ、就学成績をはじめ、どうやって調べたのか、これまでの男性経験から日常的な自慰の回数、おまけに、その自慰やほかの誰かとのセックスの写真まで同封されていた。

 しかも、自慰の写真は様々な場所で五十枚はある。

 どうしたのかと訊ねたら、かおりが口にする寮の食事に強力な媚薬をこっそりと混ぜ、それで隠し撮りしたのだそうだ。

 

 また、セックスの写真は、彼女を脅していた男子生徒が持っていたもので、やはり、かおりは真夫があのとき見た男子生徒に脅されていたようだ。

 詳しいことも玲子さんから教えてもらった。

 気の毒とは思うが、バス停留所で会ったときの悪びれない彼女の態度を思い出すと、あまり同情する気にはなれない。

 それに、巧みに男の顔だけを隠した写真は、脅迫されて撮影されたものでは、断じてなかった。

 いずれにしても、かおりの調査に関する精緻さと、人権を無視したやり口には、真夫も笑うしかなかった。

 

「お嬢さんだろうが、なんだろうが、あたしは真夫ちゃんを陥れたその子が許せないの。真夫ちゃんは庇わないでね」

 

「任せてよ、あさひ姉ちゃん。俺も愉しむことにするから」

 

 真夫はとりあえず言った。

 

「も、もちろんよ。真夫ちゃんは愉しんでいいのよ。じゃあ、いきなりレイプしちゃう? いいものがあるから」

 

 あさひ姉ちゃんが胸ポケットから、ペンタイプの伸縮式の指し棒を出した。それをするすると伸ばす。

 なんだろうと何気なく背後に視線を向けていると、突然にバチンと強い音がして、尖端が光った。

 

「うわっ、なにそれ?」

 

 真夫は言った。

 

「指し棒型のスタンガンよ、真夫ちゃん。電撃の強さも調整できて、痛めつける程度から、気絶させるくらいの強烈な電流も流せるそうよ。かおりという女の子を調教するために、玲子さんにもらったの」

 

「雌犬用のしつけ具です、真夫様……。ほかにも入り要があれば、遠慮なく言ってね、恵ちゃん。すぐに手配するから」

 

 玲子さんが毅然と言った。

 よくわからないが、このふたりは、かおりという女生徒を最初から嫌うと決めている様子だ。

 真夫は、ひとりで肩を竦めた。

 

 やがて、特別生徒用の寮に着いた。

 驚いた。

 それは、六角形の銀色の鏡張りの二階建ての大きな建物だった。

 地階もあるということだ。

 

 玲子さんによれば、六角のうちの正面の一角が玄関であり、中央の吹き抜けのホールが共有スペースになっていて、残りが一角ずつ五人の特別待遇生徒に割り当てられているのだという。

 つまり、地下を含めた一階と二階の部分の一角ということだ。

 

「特別待遇生徒に与えられるスペースは、完全なプライベートが保たれるシステムになっています。教師や職員であっても、手続きなしに室内への立ち入りは禁止です。だから、わたしも入れません。もっとも、表向きだけですけどね」

 

 玲子さんが言った。

 つまりは、裏ではしっかりと監視態勢が取られているということに違いない。

 必要な場合の隠し地下通路などもありそうだ。

 一郎は微笑んだ。

 

「わたしは、ここで失礼します。荷物は共有ロビーに置いておきますので、かおりに運ばせてください……。いるはずですから……」

 

 玲子さんが言った。

 真夫はわかったと答えた。

 

「それと、必要なときはすぐに、わたしを呼び出してくださいね。困ったことがあっても……。それと、ほかの特別待遇生徒は、全員が週末外出の手続きをしていますので、明後日の夜か、月曜の朝まで戻らないと思います。この建物内には、週末は真夫様たちと、かおりだけということです。どうか、ご存分に真夫様の洗礼を与えてやってください……」

 

 玲子さんが意味ありげに言った。

 

「洗礼ね……」

 

 真夫は肩を竦めた。

 つまりは、早速、その女生徒を犯せということだろう。

 それを監視する隠しカメラもあちこちにあるはずだ。

 かおりという女生徒には申し訳ないが、真夫もいまさら、後には引けない。

 真夫が躊躇すれば、おそらく、あさひ姉ちゃんは借金のかたとしてどこかに連れていかれて、二度と真夫には会えない。玲子さんも消えてしまうだろう。

 やるしかない。

 

 それに、白岡かおりは、理由があるとはいえ、痴漢から助けたはずの真夫を逆に痴漢として訴えたような女だ。

 だから、仕返しをしていい……。

 真夫は自分に言いきかせた。

 

「恵ちゃん専用の自動車は、明日には届けるわ。注文の車種よ」

 

 三人で車を降りると、玲子さんが言った。

 

「わおっ、愉しみ」

 

 あさひ姉ちゃんが元気な声を出した。

 真夫の「侍女」として、この寮に同居することになるあさひ姉ちゃんだが、大学に通うために、学園から車が提供されることになっている。それを玲子さんは、あさひ姉ちゃんの希望する新車で準備したのだ。

 いずれにしても、このふたりは随分と仲良くなった。

 真夫も嬉しい。

 

「じゃあ、中にどうぞ。荷はロビーまで運び入れさせておきます」

 

 玲子さんは、入り口のガラス戸の横にあるインターフォンで寮の管理人を呼び出した。

 ここには、数名の管理人が交代で常駐しており、施設管理を行ってくれるのだそうだ。室内施設の補修や消耗品の交換・補充などを管理人に手配するのは、従者の役割ということだ。

 

 また、インターフォンの隣には、指紋と瞳の人体認証を受けるためのチェック機がある。玲子さんによれば、登録された者しか扉が開けられないようになっていて、すでに真夫とあさひ姉ちゃんの登録はしてあるという。

 

「これがそうね? あたし、やっていい、真夫ちゃん?」

 

 あさひ姉ちゃんが興味津々に真夫に言った。

 いいよと応じると、あさひ姉ちゃんは嬉しそうに認証チェック機に向かう。

 あさひ姉ちゃんが少し屈んで、小さな黒面を覗き込むようにして、さらに手の形の線がある台に手を乗せた。

 ピッという音がして、扉がさっと開いた。

 

「うわあ、すごい」

 

 あさひ姉ちゃんは、それだけで感嘆の声をあげた。

 

「来たな、真夫坊」

 

 そのとき、台車を転がしながら、年配の女性が中からやって来た。

 驚くことに、時子婆ちゃんだ。

 

「と、時子さん、な、なんでここに?」

 

 玲子さんがひきつった声をあげた。

 時子婆ちゃんは、悪戯っぽく笑った。

 

「なんでと言われてもな……。今日から寮母として、ここに通うことになった。よろしくな、真夫坊、そして、恵」

 

「嬉しいです、時子さん」

 

 あさひ姉ちゃんも嬉しそうに言った。

 夕べの浣腸プレイのときに初めて会ったあさひ姉ちゃんと時子婆ちゃんだが、一緒に食事をしたときに、すっかりと受ち打ち解けて、ふたりは仲良しだ。

 だが、玲子さんは、まだ納得いかない感じで、立ち尽くしている。

 

「ど、どういうことです、時子さん?」

 

 玲子さんは言った。

 

「龍蔵様の許可を受けてな。だが、あたしのことは黙っておけよ。生徒にも、ほかの管理人にも余計なことは言うな。よいな、玲子。真夫坊たちも頼むぞ」

 

 時子婆ちゃんが、学園の理事長の龍蔵という人の愛人頭という立場の人というのは聞いている。

 しかし、それは内緒にしろということらしい。

 とりあえず、真夫とあさひ姉ちゃんは頷いた。

 

「車の中の荷をロビーに運べばいいのだな? じゃあ、真夫坊たちは、もう行け」

 

 時子婆ちゃんが台車を押して、ワゴン車の後ろに進んでいく。

 

「ま、待ってください、時子さん。わたしがやります」

 

 玲子さんが慌てて、台車を時子婆ちゃんから取りあげようとした。だが、それを不機嫌そうに時子婆ちゃんが制した。

 

「馬鹿垂れ。理事長代理のお前が荷を運んで、寮母のあたしが見てるだけというのは不自然であろう。そこで黙って立っておれ」

 

「でも……」

 

 玲子さんの狼狽えた声がした。

 真夫はくすりと笑った。

 とりあえず、真夫は、ふたりを置いて、あさひ姉ちゃんを促して、建物内に入った。

 

「うわあ、ホテルみたい……」

 

 あさひ姉ちゃんが声をあげた。

 真夫も同じ感想を抱いた。

 玄関から入ったところにあったのは、観葉植物とソファが並ぶ丸いスペースのロビーだ。

 その壁には、五個の扉があり、さっきの人体認証機とインターフォンがそれぞれについていて、部屋番号と名前が彫られたプレートが扉につけてある。

 

 

 1.Syuya Kinoshita

 

 2.Kinuka Saionji

 

 3.Yutaka Kaga

 

 4.Kotaro Kinjoh

 

 

 そして、五号室には、“5.Mao Sakamoto”とある。

 また、入り口の横には、管理人室という表示と受付用のインターフォンもあった。この中が時子婆ちゃんの詰所でもあるのだろう。

 真夫は、自分の名のある扉の前に立った。

 

 いよいよ始まりだ。

 真夫は覚悟した。

 これから部屋でやることは、間違いなく監視されている。

 時子婆ちゃんが寮母でやってきたのも、単なる酔狂とは思えない。

 真夫のかおりに対する態度が、龍蔵という人に気に入られれば、真夫とあさひ姉ちゃんの人生は保証される。

 その試金石に失敗すれば、玲子さんも含めて三人ともバラバラにされる。

 真夫は認証機で扉のロックを外した。

 ガチャリと音が鳴る。

 

 自室ということになっている部屋に入る。

 室内は共有ロビーに負けず劣らずの高級感のあるロビーだ。調度品については、最高のものを揃えると玲子さんが言っていたが、その通りの光景だ。

 広い空間の一画にソファが置いてある場所がある。

 そこに、灰色の制服を身につけた女生徒が不機嫌そうな顔をして座っていた。

 

「白岡かおりよ。よろしく、坂本くん」

 

 かおりが座ったまま、毅然とした態度で言った。

 真夫の従者生徒のくせに、この偉そうな態度は、彼女のせめてもの片意地と挑戦状なのかもしれない。

 かおり自身が、従者生徒になることにまったく同意していないというのは、玲子さんから耳にしている。

 

 しかも、じっと視線を向けるのは真夫だけであり、あさひ姉ちゃんに対しては、まるで存在しないかのように顔も向けない。

 なかなか、愉しくなりそうだ。

 

 真夫は、隣で早くもむっとしているあさひ姉ちゃんを制して、かおりの元に歩み寄った。

 かおりの腰かけるソファの右側のソファに腰を沈める。

 また、あさひ姉ちゃんについては、眼で合図して、かおりの背後に回ってもらった。

 かおりがびくりと身体を竦める。

 この偉そうな態度は緊張感の裏返しのようだ。

 かおりが息を飲んだのがわかった。

 

「俺のことを覚えているだろう、かおり? お前に冤罪に陥れられた間抜けさ。その節は世話になったね」

 

 かおりの表情がひきつった。

 悪かったという後悔の感情はあるようだ。

 

「あ、あのときは……。じ、実は……」

 

「言い訳はいい。事情は知っている。だが、同情する気にもなれん」

 

 真夫はかおりの言葉に口を挟んだ。

 かおりが、はっとした表情になった。

 

「それよりも、話は後だ。靴と靴下を脱がせて、スリッパを履かせろ。これからは、毎日、お前の仕事になる」

 

 真夫は足を組んだ。

 すると、かおりの顔が真っ赤になった。

 

「わ、わたしは白岡電器の……」

 

 かおりが喚きだした。

 真夫は、かおりの後ろのあさひ姉ちゃんに頷いた。

 あさひ姉ちゃんは、すでに準備していた指し棒型のスタンガンをかおりの首に当てた。

 

「ふぎいいいっ」

 

 かおりが奇声をあげて、椅子から落ちた。

 

「あんたがどこの孫娘でも関係ないわ。真夫ちゃんになにを命令されたの? 思い出すまで、スタンガンを使うわよ。言っておくけど、強さはいまので最弱よ」

 

 あさひ姉ちゃんが冷たい口調で言った。

 

「あ、あんたら、わたしの素性を知っているのに……」

 

 かおりは信じられないという顔をしている。

 あさひ姉ちゃんが芝居がかった雰囲気で高笑いした。

 

「知ってるわ。白岡電器の会長の孫娘なんでしょう? あんたこそ、あたしたちの素性を知っているんじゃないの? 得体の知れない孤児院の出身よ。なにをするかわかんないわよ」

 

 あさひ姉ちゃんがすっと、指し棒型スタンガンを動かした。

 かおりは恐怖の声をあげて、真夫の足元に寄ってきた。

 スリッパは、ソファの前にある。

 かおりはそれを引き寄せる。そして、屈辱に顔を歪めて、真夫の足に両手を伸ばした。

 ちらりと、一瞬あさひ姉ちゃんを見たのは、余程にスタンガンが堪えたのだろう。

 真夫は、かおりの顔に足の裏を接しさせて、思い切り顔を足で押した。

 かおりが蹴り倒れる。

 

「ひいっ、な、なにすんのよ──?」

 

 身体を起きあがらせて、かおりが叫んだ。

 

「手を使うな。口だ。口でしろ、奴隷」

 

 真夫は冷たく言った。

 かおりの顔は限界まで赤くなる。

 

「ふざけないでよ。そんなこと、できるわけないでしょう」

 

 すかさず、真夫は玲子さんから受け取ったかおりの自慰の写真の束を床にぶちまけた。

 これでどのくらい効果があるかわからないが、追い詰める材料のひとつにはなるだろう。

 

「う、うわっ、な、なによ、これっ?」

 

 今度はかおりは顔色を蒼くした。

 赤くなったり、蒼くなったり忙しいことだ。

 かおりは写真に飛びついて集め始める。

 あさひ姉ちゃんがかおりの首に棒型スタンガンを押し付けた。

 

「ひぎいいいっ」

 

 かおりがひっくり返った。

 そのとき、短いスカートがまくれあがって、かおりの白い尻が露になった。

 さっと、かおりが手でスカートをなおす。

 

「なんだ、お前? スカートの下に下着をはかないくせがあるのか?」

 

 真夫は笑ってやった。

 すると、なにを思ったのか、かおりはテーブルの上にあった一枚の紙を真夫に突きつけた。



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 第41話  異能者の兆し

 かおりがテーブルの上にあった一枚の紙を真夫に突きつけてきた。

 

「な、なんだ?」

 

 そのとき、真夫は思わず声をあげた。

 かおりがかざした紙切れに対してではない。

 そんなものはどうでもいいのだが、いきなり、強い突風にあおられたような衝撃を感じたのだ。

 

 しかし、すぐにそれが錯覚だとわかった。

 ここは部屋の中だ。

 かすかな風の流れもありはしない。

 感じたのは、かおりそのものだ……。

 真夫の前に一枚の紙を突き付けてきたかおりから、不可思議な衝撃を感じた。

 

 強い力……。

 いや、虚勢……?

 

 大きな自尊心……。

 負けるものかという意地……。

 

 それでいて、なにかにすがりたいという依存心……。

 目の前にあるものに対する反感……。

 

 大きな屈辱感……。

 真夫たちに向けられる悪意……。

 

「な、なんだ、これ……?」

 

 真夫は呆然と呟いた。

 しかし、すぐに少し前にも同じことが起きたことを思い出した。

 あれは、あさひ姉ちゃんのアパートに荷物を取りに来たときだった……。

 突然にあさひ姉ちゃんのお父さんが出現して、真夫に金銭を要求したときのことだ……。

 真夫は怒りのあまり、あさひ姉ちゃんのお父さんを殴りそうになったが、あさひ姉ちゃんのお父さんは、真夫がその怒りを表に出す前に、急に怯えて逃げていった。

 そのことも不思議だったが、もっと不思議なことは、その後で起こった。

 心を傷つけたあさひ姉ちゃんとアパートで抱き合っているときに、突如としてあさひ姉ちゃんの感情のようなものが、真夫に流れ込んできたのだ。

 

 あのときと同じだ。

 

 つまり、いま、真夫は、目の前の白岡かおりの心の感情に触れた……?

 いや、まさに触れている……。

 それがわかった。

 真夫は唖然としていた。

 

「なによ、それ、あんた?」

 

 あさひ姉ちゃんが怒ったような声をあげた。

 おそらく、真夫の驚きの叫びと、その後の沈黙をかおりに対して絶句するほど怒っていると勘違いしたに違いない。

 真夫は、あさひ姉ちゃんがかおりに当てようとしたペン型スタンガンを慌てて制した。

 

「真夫ちゃん?」

 

 あさひ姉ちゃんが怪訝な表情になった。

 しかし、真夫は、いまは、あさひ姉ちゃんよりも、かおりに注視している。

 かおりから感じるのは、真夫やあさひ姉ちゃんに対する「壁」だ。

 

 この壁を崩せば……。

 

 あるいは、なにも暴力を使わずとも、目の前のかおりに、真夫のことを受け入れさせることができるのではないか……。

 かおりを服従させることが、この学園の理事長である龍蔵という人の要求でも、必ずしも、暴力や脅迫を使うことは求められてないないはずだ。

 

 ならば……。

 

「いいから、あさひ姉ちゃん……」

 

 真夫はもう一度、あさひ姉ちゃんを制してから、とりあえず、かおりが差し出した紙を見た。

 

 “物品要求書”──。

 

 それには表題がそうあった。

 紙には、物品のリストがあり、寸法や数量が羅列されている。

 文房具の類いのものから、私服品。下着、制服の予備、細々な日用品の名があり、さらに生理用品までリストされている。

 

「これ、なに?」

 

 真夫は言った。

 

「これに承諾のサインをして──。聞いているでしょう? 従者生徒の物品要求は、すべて主人生徒の承諾サインが必要なのよ。わたしをここに送り込んだ玲子は、あたしに下着さえも渡さなかったのよ。身につけるものも、この制服だけ。運動着さえないわ。さあ、あんたが、わたしの主人だというなら、サインしなさい。これは主人の義務よ」

 

 かおりがまくしたてた。

 声にはかなり激昂したような響きがあったが、真夫は、かおりが言葉ほど、心に真夫に対する反抗心を抱いていないことを悟った。

 むしろ、かおりから流れてくるのは、大きな不安だ。

 それが、かおりの大きな自尊心を通すことで、怒りのような表現に近くなっているようだ。

 もっとも、それは、真夫に流れてくる心の感情の動きが、本当にかおりのものだとした場合の話だが……。

 

 しかし、間違いない……。

 真夫は確信した。

 自分はかおりの心に触れている……。

 

「あ、あんた、自分の義務も果たさないで、要求だけはするの?」

 

 あさひ姉ちゃんが怒鳴った。

 そして、再びペン型スタンガンを握り直す。

 かおりがそれに気がついて、あさひ姉ちゃんを負けじとばかりに睨んだ。

 だが、面白いのは、かおりの心だ。

 スタンガンを振りかざすあさひ姉ちゃんに対して、かおりは一片の恐怖も抱いていなかった。真夫には怯えや不安のようなものを抱くくせに、実際に暴力を使っているあさひ姉ちゃんには、怒りそのものしか抱いていない。

 真夫は笑ってしまった。

 

「な、なに?」

 

「どうしたの、真夫ちゃん?」

 

 にらみ合っていたあさひ姉ちゃんとかおりが、きょとんとした。

 そうだろう。

 なにしろ、これだけ険悪な状況の中で、不意に真夫が理由なく笑いだしたのだ。

 ふたりが呆気にとられているのがわかる。

 だが、ふたりの心の感情のようなものが、真夫に伝わって来る。

 

 さっきよりも、はっきりとわかる……。

 この状況に緊張しているのは、かおりだけではない。

 あさひ姉ちゃんも同じだ。

 ふたりの心からは、言い知れない不安が伝わって来る。

 

 不思議だが、受け入れるしかない……。

 真夫は、その気になれば、相手の心の動き、すなわち、感情の動きがわかるのだ……。

 

「これにサインをすればいいんだね?」

 

 真夫はかおりから用紙をとりあげて、胸ポケットから電子ペンを抜いた。

 玲子さんから与えられていたものであり、事前に使い方も教わっている。用紙の右上のサイン欄に電子ペンの先を触れさせて、登録している動きをする。実際に線が描かれるわけでないが、電子ペン側から小さな電子音が鳴った。

 サインが用紙に埋め込まれてあるタグに登録されたのだ。

 これで、サインは完了だ。

 

「さあ、これでいい、かおりちゃん? このサインがタップに入力されている用紙があれば、売店に入れるし、書かれている品物はすべて手に入る。代金は俺持ちでね……。そういう仕組みなんだろう?」

 

 真夫は用紙を返した。

 

「か、かおり……“ちゃん”?」

 

 だが、かおりは、真夫があっさりとサインしたことよりも、“ちゃん”付けで呼ばれたことに驚いたようだ。

 あさひ姉ちゃんも、ちょっと当惑した表情になった。

 しかし、真夫には確信するものがあった。

 このかおりには、脅迫よりも、普通に語った方が案外抵抗なく、話を受け入れる感じがした。

 怒鳴ったり、脅したりしたときに感じた大きな「壁」は、真夫が普通の口調になったときには、すっと低くなる感じがする。

 思ったよりも素直な性質なのだと思った。

 

「ねえ、かおりちゃん、取り引きしないか?」

 

 真夫はにっこりと笑った。

 

「取り引き?」

 

 かおりから驚きの感情が流れてくる。

 やはり、そうだ……。

 このかおりは、やっぱり素直だ。

 きちんと話せば、真夫の言葉を真っ向から拒みはしない。

 

 そして、なぜ、自分がそれがわかるのかという疑念のようなものも、次第に薄らぐ気がした。

 できるものはできる──。

 真夫の頭は、それを受け入れかけている……。

 

 しかも、それだけではない……。

 真夫は、かおりの感情に触れるような気がした。

 

 心に感じる相手の心の糸を解く……?

 実際には、そんな感じだ。

 複雑に絡んでいる糸を解き、真夫が望む感情の線を刺激して太くし、望まない感情は静かに抑えるようにする……。

 真夫はやってみた。

 呆気なく、実際にそれをやっている感覚が返ってくる。

 

 心に触れる……。

 そして、刺激し、あるいは、なだめる……。

 それをする。

 かおりの心を緩める……。

 抵抗の心を削いでいく……。

 真夫は、心の中でそれをしながら、一方でかおりに語りかけていく。

 

 かおりは、口説くような物言いに弱い……。

 なんとなく、それがわかってきた。

 優しい物言いをしている限り、かおりの心の抵抗は最小限でしかない。

 ただ、強い物言いをすれば、あっという間に、かおりは心の壁を作りあげてしまう。

 

 面白い子だ……。

 真夫は、かおりのことがわかるにつれ、だんだんと自分の頬が緩むのがわかった。

 

 この子の心に触れるのは、決して強い態度に出ないこと……。

 強い態度には無条件な壁を作る……。

 だが、柔らかい接触には……。

 

「……取引きが不満なら、お願いという言葉に変えてもいい……。あんたは、俺の奴婢として、俺の調教を受け入れるんだ。面倒なやり取りはなしにしよう。どうして、そんなことをしなければならないかという質問もなしだ。調教を受け入れて、俺に身体を自由にさせることを承知してくれれば、俺ができることなら望むものをしてあげるよ。いまみたいに、物品要求書のようなものには無条件にサインする。A級生徒に復帰させる権限はないけど、俺に与えられるもので、事実上、それに匹敵する待遇を約束してもいい。俺を受け入れればだけどね」

 

 真夫は言ってみた。

 

「は、はああっ?」

 

 かおりが眉間に皺を寄せた。

 当然だろう。

 真夫が言ったのは、かおりを真夫が好きなように犯すことを承知しろということだ。そんなことを要求すれば、怒るのは当たり前のはずだ。

 しかし、思ったよりも、「壁」が強くないことに、真夫は気がついた。

 

 やはり……。

 

 真夫が下手に出た態度をとることで、かおりの中に存在した「心の壁」のようなものが、すっと薄くなったのを感じた。

 要求しているのが、かおりの身体を好きなように弄ばせろということに等しい内容にも関わらずである。

 

 強い言葉や追い詰める態度をとらないこと……。

 それさえ守っていれば、かおりは落ちる……。

 真夫は思った。

 

 真夫の要求など、この年代の女生徒には、受け入れることなどできないはずのないものだ。

 なにしろ、かおりの身体を好きなようにさせろと言っているのだ。

 だが、真夫が態度を改めたことだけで、かおりは内心の壁をむしろ低くした。

 それは真夫には、とても意外だった。

 

 最初にあさひ姉ちゃんが、スタンガンで痛めつけ、真夫が脅迫的な物言いで、かおりの破廉恥な写真をばら撒いた。

 そのときには、かおりからは絶対的な反抗心しか感じなかったのに、いまは、むしろ、真夫の話を少なくとも聞いてみようというリラックスした心を感じる。

 

 不思議だが、それが、このかおりの性質のひとつなのだろう。

 かおりの心を探る……。

 その理由もすぐにわかった。

 

 かおりは、すでに真夫に性的なことを強要されることを覚悟しているようだ。

 それは、すでに玲子さんが、かおりに引導を渡しているせいかもしれないし、しばらくのあいだ、三人の不良生徒に脅迫されて、凌辱されていたという事実があるからかもしれない。

 いずれにしても、かおりは、すでに真夫に犯されるということは覚悟している気配だ。

 

 なぜ……?

 

 なぜ、かおりはすでに、真夫を受け入れてもいいと思っている?

 

 真夫は再び、かおりの感情を深く探った。

 大きさは小さいが強い感情……。

 それが引っかかった……。

 

 なに……?

 

 まあ、とにかく、犯されることを覚悟しているのであれば、そっちの方向にゆっくりと押してやることだ。

 それでかおりは屈服する……。

 

「……こう考えてもいいんじゃないかな、かおりちゃん……。かおりちゃんは、俺を受け入れず、あくまでも抵抗することもできる。そのときは、俺はかおりちゃんを痛めつけ、無理矢理に犯し、絶対に公開されたくないような映像や写真を撮るよ……」

 

「ど、どういう意味よ……?」

 

 かおりが気丈に真夫を睨んだが、それは口先だけなのはわかった。

 内心に明らかにたじろぎの感情が発生している。

 

 信じられない気持ちだったが、確かに、かおりの感情を読むことができるのは間違いない。

 ただ、考えていることがわかるわけではない。

 感じるのはかおりの精神の揺れだ。

 真夫は懸命にそれを手繰っている。

 かおりの中に感じる真夫に対する好奇心、親しみ……。

 そういうものを探していた。

 

 そして……。

 ……見つけた。

 

 それは大きなものでも太いものでもなかったが、確かに強く存在していた。

 さっきから感じる「恐怖」の感情のようなものと複雑に絡んでいて判別しにくかったが、真夫に対するささやかな「同情」と「後悔」の感情のようなだった。

 かおりの中に存在している真夫への「悔悟」の感情……。

 それを刺激した。

 

「……どういう意味もないさ……。俺たちは、そこにある写真などとは、比べ物にならないような写真や映像を撮って、かおりちゃんを脅迫するだろう。残念ながら、かおりちゃんは、それをどこにも訴えることなどできない。誰かに相談しても無駄だ。そんなことをすれば、かおりちゃんは破滅するだろうけど、俺たちは大して失うものはない。なにしろ、知っている通り、俺たちは家族もいない孤児だしね」

 

「ひ、卑怯よ」

 

 かおりが蒼くなった。

 真夫はにやりと笑った。

 かおりの中の精神の紐ががっしりと引っ掛かるのを感じたからだ。

 そして、それは、かおりの中の恐怖心が拡大するにつれて、真夫に対するその「悔悟」の引っ掛かりも大きくなった。

 

「もちろん、卑怯だよ、かおりちゃん」

 

 真夫はできるだけ穏やかな口調で言った。

 

「そ、そんな……」

 

 かおりの口調が明らかに変化した。

 

 一方で、隠れていたかなりの部分を表側に出すことに成功した。

 真夫は、言葉を続けた。

 

「……喩え話だよ。そうするとは言っていない。あくまでも仮定のことさ。だけど、それは簡単なことなんだよ。試しに、部屋の外に出ようとしてごらん。すでに電子ロックがかかっていて、かおりちゃんには開けられなくなっているからね」

 

「わ、わたしになにかしたら、大声を出すわよ。わたしがなにもできないと思ってるんじゃないでしょうね──」

 

 かおりが叫ぶように言った。

 もう少し……。

 掴んだ紐を手繰り寄せる……。

  

「いいよ。大声で悲鳴をあげるといい……。ここの部屋の物音は外には漏れない。漏れたところで、誰も助けに来ないことは保証する。かおりちゃんが拒否すれば、俺は無理矢理に、かおりちゃんを犯す。渡した書類は破って捨てるし、かおりちゃんは、もうこの部屋から出ることはできない。俺が卒業するまで、ここに閉じ込める。誰も文句は言わないはずさ」

 

「そ、そんなことできるわけないわ」

 

 かおりは叫んだ。

 だが、かおりの心にある恐怖心が際限なく拡大するのがわかった。

 なぜかわからないが、かおりは真夫にはそれだけの力があると感じているようだ。

 真夫の脅しとハッタリは、かおりにとっては、真実に近い重みがあるらしい。

 玲子さんが事前にさんざんに脅しているはずなので、それも効いているのだと思う。

 

「……すでに詰んでいるということを教えているだけさ。俺はかおりちゃんの返事に関わらず、かおりちゃんを好きなように扱うことができる……。だけど、いまは、お願いをしている……。かおりちゃんが俺を受け入れれば、少なくとも、大切には扱う。欲しいものは与えるし、監禁のようなこともしない……」

 

 真夫は言った。

 かおりが怪訝な表情になった。

 

「……真夫ちゃん、こんな子に、お願いなんてしなくてもいいわよ──。わたしがやってあげる」

 

 そのとき、あさひ姉ちゃんが怒ったように言った。

 

「大丈夫だよ、あさひ姉ちゃん。多分、かおりちゃんは説得に応じると思うよ……。かおりちゃんは、頭がいいんだ。真摯に説明すれば、きっと損になることじゃないことがわかるさ……」

 

 口でなだめることを言いながら、真夫は、さっきから、かおりにやっていることと同じことをあさひ姉ちゃんにやってみた。

 あさひ姉ちゃんの中に感じる精神の中で、激情的なものを選んで抑え込む。

 すると、目の前のあさひ姉ちゃんが急に落ち着いた感じになり、表情を和らげた。

 

「……真夫ちゃんがそう言うんなら……」

 

 あさひ姉ちゃんが、そう言って再び口をつぐんだ。

 やはり真夫は、他人の感情を動かせる……。

 真夫は驚いたが、それを確信した。

 

「……ねえ、かおりちゃん、頭のいいかおりちゃんなら理解するはずだよ。まずは、俺を受け入れてよ。逆らっても、かおりちゃんには拒む方法はない……。だが、受け入れるふりをすれば、俺は可能な限り親切にすると誓うよ。ふりをすればいいんだ……。心の中はどうでもいい……」

 

 真夫はさらに受け入れやすい条件をつけた。

 屈服するのではなく、屈服するふりをすればいいというのは、かおりの自尊心の辛うじて範囲内に収まってくれるかもしれない。

 手応えのようなものを感じた。

 一瞬だけだったが、かおりが心を緩めたのだ。

 真夫はそれを見逃さなかった。

 かおりの心に浮かんだものを引っ掛けて手繰り寄せる。

 そして、完全に鷲掴みにした感触を得た。

 かおりの顔に諦めのような色が浮かぶ。

 

「い、いいわ……。受け入れる。た、ただし、口先だけよ……。ふ、ふりだからね」

 

 かおりは不貞腐れたように言った。

 

「なにを?」

 

「なにをって?」

 

 真夫の質問に、かおりは怪訝な顔になった。

 

「なにを受け入れるのかを口にしてよ」

 

 真夫は言った。

 すると、かおりの顔が真っ赤になった。

 感情の起伏は激しいんだな。

 顔はおかしくなった。

 だが、最初とは異なり、真夫はがっしりとかおりの精神の紐のようなものを握っている。

 すぐに、感情を鎮めることに成功した。

 

「わ、わかっているでしょう──。わたしは受け入れると言ったのよ──」

 

 かおりが怒ったように叫んだ。

 

「なにを受け入れるかを口にするんだ。それで言葉が心に刻まれる。そんなものなんだ」

 

 どこかで聞いたセリフだと思ったが、すぐに真夫は自分自身の言葉だったということを思い出した。

 よくわからないが、真夫はそれを確信していた。

 口にすることで言葉が身体に刻まれて、その通りになる……。

 そういうものなのだ……。

 

「だ、だから、あんたの調教を受け入れると言っているのよ──」

 

 かおりがはっきりと言った。

 真夫はにやりと笑った。

 

 落ちた……。

 

 真夫は立ちあがった。

 

「じゃあ、行こう」

 

「い、行くってどこに……?」

 

 かおりの心に急に怯えが走るのがわかった。

 

「地下室だよ」

 

 真夫は言った。

 

「地下室? この部屋には地下があるの?」

 

 かおりは知らなかったようだ。

 まあ、当然だろう。

 真夫とあさひ姉ちゃんは、事前に玲子さんから知らされていたが、地下への入口は、完全な隠し扉になっている。

 かおりにわかるわけがない。

 

「あるのさ。さあ……」

 

 真夫は、さすがに不安そうな顔になったかおりの腕を引っ張って立たせて、壁の本棚に向かう。

 

「あさひ姉ちゃん、頼むよ」

 

 真夫が言うと、あさひ姉ちゃんは、玲子さんの教えられていた本の操作をする。

 すると、がらがらと本棚が左右に開いて、地下に下る階段が出現した。

 かおりが目を丸くした。

 

 


 

 

「……ね、ねえ、なにかしたの? どうして、あいつは急に態度を改めたの……?」

 

 地階に進む階段を降りながら、あさひ姉ちゃんがささやいてきた。

 かおりについては、真夫たちよりも先に進ませて、その退路を真夫とあさひ姉ちゃんが阻むような態勢だ。

 あさひ姉ちゃんには、かおりが急に真夫の調教を受け入れると口にしたことが、不思議でたまらないようだ。

 

「見ていた通りだよ……。ただ説得しただけさ」

 

 真夫は言った。

 感情を読み、それを操作したなどと説明しても、あさひ姉ちゃんが信じるわけないし、そもそも、真夫も信じられない。

 だが、確かにそれをやった気がする。

 ほとんど、意識してのことじゃなく、感情が突然に流れ込んできたので、試しに触れてみたら操作できたので、都合のいいように動かしてみた。

 そんな感じだ。

 

 とにかく、かおりは、真夫の調教を受け入れるということを口にして、いまこうやって地下に向かっている。

 真夫自身ですら半信半疑だ。

 

「な、なによ、ここ──」

 

 階段を降りて、かおりが扉を開くと、自動的に照明がついたのだが、そこに拡がった光景にかおりが驚愕している。

 後ろからやって来た真夫とあさひ姉ちゃんも感嘆の声をあげた。

 今朝までいたホテルの「特別調教室」を思わせる部屋だ。

 天井には無数の鉄パイプと金具があり、そこから数十本の鎖やロープが床に垂れ下がっている。部屋の入口に向かって左右は鏡張りであり、その鏡の前には、十字架や三角木馬、ほかにも拷問具を思わせる責め具が所狭しと置かれている。

 奥には棚もあり、たくさんのSM具が並べられているし、さらには、入り口の反対側には、一段高い場所に設置されて透明のガラス張りの壁に囲まれている透明の和式便所まで備えていた。

 玲子さんが手配したものだろう。

 真夫はほくそ笑んでしまった。

 

「す、すごい……」

 

 あさひ姉ちゃんも目を丸くしている。

 そして、部屋の中央には、玲子さんではなく、時子婆ちゃんに頼んでおいたものも置かれている。

 二台の革張りの椅子だ。

 椅子といっても、普通の椅子ではなく、足置きの台や肘掛けなどがあるものだ。それには、椅子本体だけでなく、足置きや肘掛けのいたるところに、電子ロック式の固定用の革ベルトがついている。

 つまりは、調教椅子だ。

 

「こ、こんなの信じられない……。な、なんなのよ、この部屋……」

 

 部屋の異様な光景に、かおりが制服の上から、自分の身体を抱き締めるようにしながら、後ずさりを始める。

 

「受け入れると約束したよね、かおりちゃん……。さあ、あの椅子に座ってくれる」

 

 真夫はすかさず、あさひ姉ちゃんとともに背後を塞ぐ。

 かおりは当惑したような表情になり、一度大きく嘆息した。

 

「わ、わかったわよ……」

 

 諦めたように前に進んでいき、大人しく椅子に腰かける。

 真夫は、あさひ姉ちゃんとともに、手首足首のみならず、膝、太腿、腰、肘、肩とどんどんと革ベルトで固定していく。

 かおりがだんだんと恐怖心を拡大していくのがわかった。

 

「じゃあ、始めようかな」

 

 真夫は椅子の側面にあったリモコンを取り外して手に取ると、かおりの座る椅子に向かってスイッチを押した。

 操作方法には迷うことはなかった。

 初めてでもわかるように、液晶画面に操作方法が表示されている。

 

「きゃっ」

 

 モーター音がして、かおりの両足を固定している足置きが左右に割れて開き始めた。

 

「い、いやっ、ちょ、ちょっと待って、あんた……。ね、ねえ、待ってたら──」

 

 かおりにはスカート越しではなく、直接にお尻が椅子の革に触れるように座れと命じていたので、短いスカートは、足置きが左右に分かれても、かおりの脚を大きく開かせる邪魔にはならない。

 かおりは、内股に必死に力を込めて、開いていく脚を止めようとするような仕草をしたが、機械の力にかてるはずもなく、ゆっくりと脚は開いていった。

 同時に背もたれも倒す。

 かおりはまるで産婦人科の椅子に仰向けに腰かけているような恰好になる。はいていた短い制服のスカートは股間の付け根近くまでまくれ、下着を身に着けていないかおりの股間が露出しそうになってしまった。

 

「や、やっぱり、嫌よ──。は、離して、離してよ」

 

 かおりが拘束された身体をばたつかせ始める。

 しかし、こうなったら、かおりにはどうしようもない。

 真夫は、あさひ姉ちゃんに振り返った。

 

「じゃあ、とりあえず、一度、絶頂させてみようか。棚の道具を使って、かおりちゃんをほぐしてあげてよ、あさひ姉ちゃん」

 

 真夫はにやりと笑った。



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 第42話  調教開始

 あさひ姉ちゃんが取り出したのは、電動式のあんま器だった。

 それが振動を開始すると、かおりがぎょっとした表情になった。

 

「さあ、いくわよ」

 

 ここにあったのは、充電式のコードレスの道具であり、強弱も三段階でつけられるもののようだ。ホテルにあったものと同じなので、真夫もお馴染みだ。

 あさひ姉ちゃんは、椅子に拘束されて大きく股を開いているかおりの股間に、スカートの上からあんま器をぴたりと当てた。

 

「はうううっ」

 

 かおりが、襲いかかった激しい快感に全身を跳ねあげる。

 

「ああっ、や、やめっ、やめなさいよ、へ、変態女」

 

 その身体が椅子の上で、大きく弓なりに反りかえった。

 

「変態女とはよくも言ったわね。それよりも、そんなに腰を上にあげたら、大事な場所が丸見えよ。まあ、どうせ、すぐに真夫ちゃんが剥ぎ取ると思うけど……」

 

 あさひ姉ちゃんの言葉で、かおりははっとしたように腰をおとしたが、あさひ姉ちゃんがくすすくすと笑って、あんま器を軽く揉み押すように動かすと、また、あられもなく暴れだした。

 かおりは、背骨を駆け抜ける衝撃に耐えられないのか、革紐で括られている全身を限界までのけぞらせて、腰を跳ねあげるような格好になる。

 当然に短すぎる制服のスカートは、下着をつけていないかおりの股間がいまにも覗けそうなくらいにせりあがってしまう。

 本当にエロチックだ。

 

 真夫は仰向けに近いかたちに椅子を倒して、かおりの乳房をゆっくりと揉み始める。

 かおりは、制服のブラウスの下には、まったくなにも身に着けていなかった。

 布越しにかおりの勃起した乳首のこりこりとした感触が伝わる。

 それを回し動かすと、かおりは色っぽい声をあげた。

 

「ああっ、や、やめてえっ、も、もういやあっ──。み、見ないで。や、やっぱり、こんなの嫌よ」

 

 かおりが悲鳴をはりあげる。

 真夫とあさひ姉ちゃんは、そのまま制服越しにかおりを責め続けた。

 すると、かおりの反応が追い詰められたものに変化を始める。

 

「んふうっ、はあっ、だ、だめよ。こ、こんなのやっぱり、いやだって。や、やめてっ」

 

 もう絶頂が間近なのがわかるのだろう。

 勢いで、真夫たちからの「調教」を受けることに応じたとはいえ、前後から覗き込むかたちで、真夫とあさひ姉ちゃんに責められ、激しい羞恥を感じているようだ。

 かおりが耐えられなくなったように、顔を横に向ける。

 

「なにをやっているの、かおり。ちゃんといくときの顔を真夫ちゃんに向けないと、やめてあげないわよ」

 

 あさひ姉ちゃんが、布越しだった電機あんまをスカートの中に差し入れる。

 電機あんまの当たった場所が、かおりのクリトリスの真上だというのは、かおりの反応ですぐにわかった。

 かおりはさらに大きな叫び声をあげると、バネ仕掛けの人形のように、拘束された身体で背中を反らせるだけ反らせた。

 

「はああっ」

 

 そして、かおりは、太腿を激しく痙攣させて、がっくりと首を垂れた。

 達したようだ。

 だが、すぐに悲鳴をあげた。

 あさひ姉ちゃんが、あんま器をかおりから離さなかったからだ。

 たちまちに、かおりの身体がびくびくと震え始める。

 

「や、やあっ、い、いった。も、もういったわよ。いったってばあっ」

 

 かおりが奇声をあげる。

 しかし、あさひ姉ちゃんは酷薄そうに笑い声をあげた。

 

「それがどうしたの、かおり? 誰が一度で終わりっていったのよ」

 

 真夫は、自分には向けることはないあさひ姉ちゃんのサディストの一面に苦笑してしまった。

 そういえば、施設の頃、あさひ姉ちゃんは、女の子を仕切るボス的存在だった。真夫には強い態度はとらないが、一方で、同性にはまったく別の厳しい一面がある。

 本来はかなり気も強いのだ。

 それがあさひ姉ちゃんだ。

 だから、あさひ姉ちゃんが施設を出るとき、ほかの女の子を真夫にあてがうということが強要できたりしたのだ。

 

「あ、ああん、あっ、あっ、ああっ」

 

 かおりが激しく悶え暴れる。

 しかし、あさひ姉ちゃんは、かおりのクリトリスの上にぴたりと電機あんま器を保持して動かさない。

 かおりは、服が乱れるのを厭わずに暴れ続けるが、椅子に完全拘束されている身では、大きな抵抗もできるわけもなく、やがて呆気なく二度目の絶頂を晒した。

 

 だが、あさひ姉ちゃんは、それでも許さず、三度目の絶頂をかおりの強要する。

 さすがに、泣きべそをかき始めたかおりだったが、あさひ姉ちゃんは容赦なく、そのかおりから、またもや絶頂を極めさせた。

 

 かおりの全身が完全に脱力した。

 どうやら、続けざまの絶頂で、息が止まったようになって、軽い失神状態に陥ったようだ。

 

 真夫は、ぐったりと動かなくなったかおりを椅子から解放すると、かおりの汗びっしょりの制服を脱がせて素裸にし、今度はかおりの右手首と右足首、左手首と左足首をそれぞれに革枷で繋ぐ。

 

 意識を戻したかおりが、はっとして顔をあげたのは、すでに再び拘束されてしまってからだ。

 かおりはすっかりと濡れている股を隠すように、しっかりと正座をして裸身を真夫に対して斜めにした。

 すると、あさひ姉ちゃんがそのかおりの顎を掴んで、真っ直ぐに真夫に向ける。

 

「さあ、かおり、これから、あんたを犯してくれる真夫ちゃんのおチンチンに口づけしなさい」

 

「い、いい加減にしてよ。もう気が済んだでしょう。こ、これを離して。約束じゃないの」

 

 かおりがあさひ姉ちゃんをきっと睨む。

 あさひ姉ちゃんは、わざとらしく、せせら笑った。

 

「まだ始まったばかりじゃないの、かおり。真夫ちゃんの調教を受けると約束したんだから、大人しく奴隷に徹しなさいよ」

 

「じょ、冗談じゃないわよ。こ、こいつならともかく、さっきから、なんであんたがやってんのよ。わ、わたしに、触るんじゃない、この変態女」

 

 かおりが凄まじい剣幕で怒鳴った。

 真夫は内心で感嘆していた。

 拘束されての無理矢理の三連続絶頂の洗礼は、このかおりの心を全く折りはしなかったようだ。

 それどころか、ますます反抗心を増した気がする。

 余程に心が強くできているのかもしれない。

 真夫は愉しくなってきた。

 

 ならば、今日のかおりに対する調教は、この強いかおりの心を叩き折るところが主体になるだろう。

 真夫は、あさひ姉ちゃんに耳打ちした。

 あさひ姉ちゃんは、にっこりと頷くと、真夫に言われたことを準備するために、部屋の隅に向かっていく。

 

「ねえ、かおりちゃん、こうなったら、覚悟しなよ。俺もあさひ姉ちゃんも、本当は優しいものさ。だけど、このくらいのプレイなら、まだ調教とも呼べない程度だよ」

 

 真夫はかおりの横に座り込み、肩を抱くようにしてぐいと身体を倒す。

 途端に、はっとしたかおりの感情が真夫の心に注ぎ込む。

 真夫は、かおりが、あさひ姉ちゃんには随分と激しい敵対心を抱いている反面、真夫にはそれほどに反発がないことに気づいた。

 

「な、なにさ……」

 

 拘束されている裸身を真夫に預ける体勢になったかおりが、戸惑ったような声を出す。

 そして、真正面から裸を見られて恥ずかしいのか、真夫から裸身を隠そうと身体をねじる。

 しかし、真夫はそれを許さず、肩に回している手をかおりの小ぶりの乳房に移動させるとともに、脚が崩れることで開いたかおりの股にさっと腕を差し込んだ。

 

「あっ、ちょ、ちょっと……」

 

 かおりが慌てて、脚を閉じようとした。

 だが、すでに真夫の手はすでにかおりの股のあいだにあるので、腿でぎゅっと挟み込むようになっただけだ。

 今度は当惑したように、力を緩めた。

 構わず真夫は、かおりの胸と股間に愛撫を開始した。

 このところの連日のあさひ姉ちゃんと玲子さんとのセックス漬けの日々で、真夫もどこをどんな風に触れば、女の子が悦ぶのかは十分にわかっていると思う。

 

 つまりは、最初はからがっついたように激しく責め立てるよりも、触るか触らないかくらいの力でそっと撫ぜるくらいの方が、女の身体は強く燃えあがるのだ。

 それを知っている真夫は、乳首とクリトリスの周囲を中心をさわさわとしたタッチで撫で続けた。

 

 さっきの器具による強引な強制絶頂から一転して、繊細な責めだ。

 真夫はわざと深くは抉らずに、指の先だけで、ゆっくりと秘部と乳首の周囲だけを動かす。

 しかも、肝心のところは、触るか触らないかの微妙な距離だ。

 かおりの抵抗が一気に消滅する。

 

「う、ううっ、そ、そんなに、や、優しいのは……」

 

 かおりがうなじを浮き立たせるように、身体を小刻みに震わせ始める。

 そして、身体の底から突きあげる官能の昂ぶりに苛まれたかのように、それぞれ左右で束ねられている四肢を艶めかしく悶えだす。

 真夫は、しばらくのあいだ、そうやってゆっくりとした愛撫を続けた。

 かおりの身体が溶けたようになるのに、いくらもかからなかった。

 

「んふっ、ああ……。はっ、んふう……」

 

 かおりの鼻息がかなり荒くなった。

 全身からは、再びびっしょりと汗が吹き出して、身体は真っ赤だ。

 

「……そろそろ、犯されたくなった、かおりちゃん? だったら、そう言ってよ。喜んで犯してあげるから」

 

 真夫はゆっくりとかおりの身体を愛撫しながら言った。

 すでに、かおりの股間からは夥しい蜜が垂れ洩れている。

 かおりの心はともかく、身体は受け入れ準備は万全だ。

 しかし、真夫は、すぐにかおりを犯すつもりはない。

 かおりを犯すのは、もっと追い詰めて、お願いだから犯してくれと哀願させてからだ。

 そう決めた。

 

「な、なに?」

 

 うっとりとしていた感じだったかおりが、はっとしたように眼を見開いた。

 

 この瞬間にだって、真夫が犯そうと思えば、かおりはそれほどの抵抗もなく、真夫を受け入れることはわかっている。

 しかし、それでは面白くない。

 

 このかおりを屈服させるという行為は、あさひ姉ちゃんや玲子さんにはない、別の愉しさがある。

 もっと、このかおりが受け入れることができないようなことを強要して、それを無理矢理にさせてみたい。

 真夫の心のに黒い欲求が浮かんだ。

 

 だから、あえて、かおりが嫌がる物言いをした。

 案の定、真夫の優しい愛撫に、束の間心をくつろげた感じだったかおりが、我に返ったような表情に戻る。

 真夫はほくそ笑んだ。

 そうこなくっちゃ、愉しくない。

 

「な、なに言ってんのよ……。犯すなら犯せばいいじゃない……。わたしは、あんたの調教を受け入れると言ったわよ」

 

 かおりが顔を真っ赤にして言った。

 なんとなく不満そうな口調だ。

 真夫は、わざと肩を竦めてみせた。

 

「別に犯したくはないね……。実のところ、セックスは、あさひ姉ちゃんで間に合っているんだよ……。あさひ姉ちゃんはすごいよ。どんなエッチな命令でも逆らわないんだ。最高に可愛い人だよ。俺としては、別にかおりちゃんを犯したくないけど、やって欲しければしてあげるよ」

 

 真夫は呷るように言った。

 かおりが顔に怒りをはっきりと浮かべる。

 かおりは、相当に侮辱されたような気分になったようだ。

 

「だ、だったら、あんたらふたりで、いくらでもやりなさいよ。わたしを巻き込まないで」

 

 絶叫して暴れ出す。

 真夫は再び、かおりを押さえつけて愛撫する。

 

「んんあっ、あああ」

 

 あっという間に、かおりの口からは激しい喘ぎ声が始まる。

 だが、今度は感じてしまうのが口惜しそうだ。

 必死になって、真夫の手から逃れようとしている。

 真夫は、そんなかおりにいよいよ本格的な激しい愛撫を加えてやる。

 

「あ、ああっ、ひいいいっ」

 

 たちまちにかおりはさらに興奮したような声を出した。

 

「俺とキスしたい、かおりちゃん?」

 

 真夫は裸身を艶めかしく悶えさせているかおりを責めながら訊ねた。

 

「し、したけりゃ……。あ、ああっ、し、しなさいよ……。あ、ああっ……か、勝手に……す、すれば……んふうっ」

 

 かおりががくがくと激しく震えだす。

 そろそろ、頂上近くに昇りつめそうなのがわかった真夫は、いまの責め手を休んで、別の場所にさっと愛撫の場所を変えた。

 しかも、再び、柔らかい繊細な愛撫に戻る。

 かおりは、真夫の腕の中でほっとした様子を示すも、一方で切なそうに身体をくねらせた。

 真夫は、わざと素知らぬ顔をした。

 

「……かおりちゃんがキスをして欲しいと言わなければ、やっぱりしないよ……。そして、犯して欲しいと言わない限り、絶対に犯さない……。安心していいよ」

 

 真夫は言った。

 かおりは複雑そうな表情になった。

 

 しばらくしてから、真夫はかおりへを追い詰める激しい愛撫を再開した。

 すぐに、かおりは太腿を震わせて甲高い嬌声をあげた。

 真夫は、またしても、さっと手を引きあげる。

 

「はあああん」

 

 かおまりが切なそうに、大きな声をあげた。

 

「……それとも、いかせて欲しい、かおりちゃん? いかせても欲しければ、そう言ってね。いかせてあげるから」

 

 真夫は笑った。

 しかし、かおりは怒ったような視線で真夫を睨むだけだけで、なにも言わなかった。

 どうやら、焦らし責めをされていることにやっと気がついたようだ。

 だが、なにも言わない。

 ただ口惜しそうに唇を噛むだけだ。

 

 真夫はまたもや、愛撫を開始する。

 だが、かおりがいきそうになると、さっとその手を休める。

 かおりは悶え震えた。

 

 同じことさらに三度やった。

 

「い、いい加減にしてよ、あんた。こ、こんなのないわよっ」

 

 するとかおりが怒りに任せた感情的になって、金切り声をあげ始めた。

 その迫力には、真夫も少し驚いた。

 

「あら、真夫ちゃんに、そんなに愛してもらっているのに、なんでそんなに怒っているの?」

 

 しばらく、部屋の隅で待機するようにしていたあさひ姉ちゃんが寄ってきた。

 

「やっぱり、素直になる薬をした方がいいみたいさ、あさひ姉ちゃん」

 

 真夫はかおりの身体を前側に倒して、がっしりと押さえつける。

 そして、近寄って来るあさひ姉ちゃんに、かおりのお尻が向くように固定した。

 

「な、なによ?」

 

 かおりが驚いた声をあげる。

 だが、顔をうつ伏せにするように倒されているかおりには、あさひ姉ちゃんが手に準備しているものが見えないはずだ。

 もしも見えていれば、それこそ無我夢中で抵抗したに違いない。

 

 あさひ姉ちゃんが持っているのは、数個のイチジク浣腸だ。

 さっき、真夫が指示したものであり、すでに準備が終わっている。

 あさひ姉ちゃんは、その一個の先端をかおりのお尻に差し込むと、ぎゅっと潰して薬液をかおりにのお尻の中に注入した。

 

「ひいいっ、な、なにすんのよ」

 

 かおりが身体を仰け反らせた。

 お尻の中にいきなり、冷たい薬液を注がれたのだ。

 かおりが悲鳴をあげて暴れるのを、真夫はしっかりと押さえる。

 

「なにって、浣腸よ……。あんたが、素直になるようにね。まだ、あるわよ。三個準備したから、すぐに効いてくると思うわよ。真夫ちゃんにおねだりもできないようなグズは、まずは、浣腸で躾ないとね」

 

 あさひ姉ちゃんが空になったイチジク浣腸の容器を床に捨てて、次の一個をかおりに注ぎ始める。

 かおりは死にもの狂いで暴れようとしているが、真夫はそれを両手で防ぐ。

 結局、あっという間に、かおりは三個のイチジク浣腸を抽入された。

 

「ああ……、な、なんてことを……」

 

 かおりが蒼い顔で呻き声をあげた。

 真夫はかおりからやっと手を離した。

 いきなり三個も薬剤を注入されて、かおりは、早くも顔に脂汗をかいて、歯をカチカチと鳴らしている。

 かなり効き目が速いようだ。

 

「……さあ、かおり、さっき言ったことを覚えている? あんたを犯してくれる真夫ちゃんのおチンチンにキスをするのよ。それとも、いつまでも、そうやっている? 言っておくけど、もしも、床に粗相したりしたら、あんたの舌で全部拭き取らせるからね」

 

 あさひ姉ちゃんが真夫もたじろぐような迫力でかおりを睨んで、さっと指し棒型スタンガンを胸ポケットから抜く。

 一方で、真夫は、顔に恐怖を浮かべたかおりの顔に、おもむろにズボンのチャックから、ペニスを取り出して突きつけた。

 

「う、ううっ」

 

 かおりが口惜しそうに、歯を食い縛った。



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 第43話  美少女排泄

「くっ……あ、あんたら……」

 

 かおりが顔をしかめた。

 あさひ姉ちゃんがかおりに注入したのは、大きめのイチジク浣腸三個だ。

 早くもかおりは、便意をもよおしてきたようだ。

 

「さあ、真夫ちゃんのおチンチンに挨拶よ。それとも、お尻にスタンガンを打ってあげようか?」

 

 あさひ姉ちゃんが、手に持っていた棒状のスタンガンをかおりのお尻にすっと持っていった。

 

「うわっ、や、やめなさい。や、やるわよ。やるから」

 

 かおりが悲鳴をあげて、裸体を跳ねあげる。

 ただ、かおりは左右の手首と足首をそれぞれに革枷で繋がれている。

 実際には、ぴょこんと正座状態の身体が動いただけだ。

 

 そのかおりが、不自由な身体をよちよちと進ませてくる。

 真夫は、かおりの顔が真夫の股間に届くように、そばの椅子に腰かけてやった。

 

「よ、よろしく……、お、お願いします……」

 

 かおりが口惜しそうな表情で挨拶をする。

 だが、なかなか唇を真夫の性器に密着させるのは抵抗があるようだ。

 真夫は、かおりの黒髪を鷲掴みにすると、かおりの顔に一物を擦りつけた。

 

「早くした方がいいんじゃない、かおりちゃん。トイレにいかなくていいの? 俺たちは変態だからね。本当にここでさせるよ」

 

 真夫は笑った。

 もちろん、本気だ。

 すると、それがわかったのか、かおりがぞっとしたような表情になる。

 

 真夫は、かおりの心にある抵抗心のように感じる部分を、そっと鎮めるようになぞってやる。

 さっきと一緒だ。

 だんだんとやり方もわかってきた。

 このかおりは、随分と心の動きが大きくて、感情の起伏を掴みやすい。

 かおりの顔がすっと観念したように穏やかになる。

 

 やっぱり、そうだ……。

 

 自分は、目の前の相手の心に触れて、それをある程度操ることができる……。

 真夫は確信した。

 

「わ、わかったわよ……。あ、あんたの言うことは聞くわ……。まあ、借りもあるし……」

 

 かおりが唇を寄せて、真夫の一物の先端にキスをした。

 真夫がかおりの頭の後ろに手をやり、ちょっと顔を真夫の股間に向けて押すようにした。

 かおりは、素直に口を開いて、真夫の亀頭を唇で包み込んだ。

 

「フェラチオは初めて、かおりちゃん?」

 

 真夫は肉棒をしゃぶり始めた目の前の美少女の不慣れな舌遣いからそう思って訊ねた。

 

「は、初めてよ……」

 

 かおりは一度口を離して、吐き捨てたように言った。

 

「だったら、練習だね。このまま一度出すまで頑張ってよ。そうしたら、トイレに行かせてあげるから」

 

 かおりが怒ったように目を鋭くしたが、真夫はすかさず、かおりの心を探って、落ち着かせるように感情を抑える。

 すると、かおりが諦めたように嘆息し、再び真夫の性器を舐め始める。

 

「あさひ姉ちゃん、かおりちゃんのおっぱいを揉んであげてよ。そろそろお腹が苦しくなってきたようだから、紛らせてあげようよ」

 

 真夫は言った。

 あさひ姉ちゃんがかおりの背後に回り込んで、乳房を揉み始める。

 

「んぐっ、や、やめなさいよ」

 

 かおりが真夫の股間をぱっと離して、あさひ姉ちゃんに悪態をつく。

 だが、あさひ姉ちゃんは、意地悪く笑うだけだ。

 抵抗のできないかおりの乳首を指で強く擦る。

 かおりが身体を捩って、甘い声をあげた。

 

「さっさとしなさい、かおり。ゆっくりやっていると、損をするのはあんたよ。それとも、ここでうんちをしたい?」

 

 あさひ姉ちゃんがかおりの乳房を揉みながら言った。

 かおりが目に涙を浮かべたのがわかった。

 余程に、あさひ姉ちゃんに意地悪をされるのが気に入らないようだ。

 真夫は、かおりの心を抑えようと試みたが、今度はうまくいかなかった。

 あさひ姉ちゃんに対する反発心が強すぎて、抑えてもすぐに激しく動き出す感じだった。

 

「ほら、舐めて」

 

 真夫はすでに勃起している股間をかおりの口に突き出すようにした。

 かおりは、真夫の言葉には大人しく従い、素直に口に含んで、再び舌を動かしだす。

 あさひ姉ちゃんには、こんなに頑なな心が、真夫に対してはそれほどでもないのが不思議だ。

 

「そうそう、あんたがトイレにいくには、そうやって、真夫ちゃんから精を出してもらうしかないんだからね」

 

 あさひ姉ちゃんがかおりの胸を刺激しながら言った。

 かおりが、あさひ姉ちゃんに不満をぶつけるように、ふんと大きく鼻息を鳴らした。

 

 しかし、やがて、かおりの様子が明らかに落ち着かないものになってきた。

 遠慮がちだった舌が激しく口の中で踊るように動くようになり、口だけじゃなく、頭まで使って大きく上下に動かしだす。

 いよいよ、便意が切羽詰まったものになりかけてきたのだと思った。

 だから、少しでも急いで真夫から精を搾り取ろうと必死になったのだろう。

 

 かおりの全身からは、かなりの脂汗も滴ってきていて、さらに小さく震えもしている。

 真夫は、そんな美少女の女子高生であるかおりの様子を眺めていると、自分の心にある「S」の心がふつふつと興奮してくるのがわかった。

 だが、いずれにしても、このかおりの稚拙なフェラでは、真夫は早々に出せそうにない。

 真夫は、かおりの口から怒張を抜いた。

 

「……やっぱり、かおりちゃんは、まだだね。あさひ姉ちゃん、変わってよ」

 

 真夫は言った。

 あさひ姉ちゃんがかおりの胸を弄ぶのをやめて立ちあがる。

 

「うん、真夫ちゃん……。どいて、かおり」

 

 あさひ姉ちゃんが拘束されているかおりを肩で押しのけるようにして、真夫の股間の前に跪く。

 

「な、なにすんのよ。や、やるわよ。さ、最後までやるったら、邪魔しないで──」

 

 そのとき、かおりが激昂したように叫んだ。

 真夫はびっくりしてしまった。

 しかし、あさひ姉ちゃんは、ふふんと小馬鹿にしたように笑っただけだ。

 あさひ姉ちゃんは、たったいままでかおりが奉仕していた真夫の股間を口に咥えて刺激し始める。

 

 すると、かおりの表情が口惜しそうなものに変わった。

 しかも、これまでに感じた中で一番に怒りの感情が膨れあがったのがわかった。

 

 真夫は呆気にとられた。

 フェラを強要されたときよりも、やめろと言われたことで、こんなにもかおりが怒るというのが意外だったのだ。

 かおりの視線を見る限り、反感の感情は、真夫ではなく、あさひ姉ちゃんのみに向いているらしい。

 

 だが、なんでだろう……?

 

 しかし、真夫も思念の余裕がなくなってしまった。

 もともと、かおりからの長い刺激により、そろそろ射精できるくらいになっていたのだ。

 最後のもうひと押しが足りなくて、もがいていたようなものだったが、あさひ姉ちゃんの舌の刺激で、あっという間に、精を放つことができるくらいになる。

 

「もういいよ、あさひ姉ちゃん、ありがとう」

 

 真夫はそう言って、あさひ姉ちゃんの口から肉棒を抜き、横のかおりの顔に向けた。

 

「うわっ、やあっ」

 

 かおりが悲鳴をあげた。

 真夫が精をかおりの口から胸に向かってまき散らしたからだ。

 顔と乳房に白濁液をつけられたかおりは、恨めしそうにしかめ面をしている。

 

「よかったね、かおりちゃん。これでトイレに行けるよ。じゃあ、トイレはそこだから、行っていいよ」

 

 真夫は言った。

 この地下の部屋の隅には、壁がガラス張りになっているトイレがある。壁だけでなく、便器そのものも透明であり、さらに便器は和式だ。

 かおりがそのトイレに振り返って、まだ真夫の精液がついたままの顔をひきつらせた。

 

「い、いやよ、一階の普通のトイレに行かせて」

 

 かおりが絶叫した。

 この真夫の特別寮は、トイレが個室内に備え付けてあり、真夫にあてがわれているこの室内にも、三箇所のトイレがある。すなわち、この地下の調教室に一箇所と一階に二箇所だ。

 

 地下には、あそこの透明トイレだけだが、一階には洋式の普通の壁に囲まれたトイレと、ここと同じ透明の和式トイレが並んでいる。

 しかも、ここもそうだが、透明トイレは、小さな階段を昇って、下から透明の床の下から排便を眺められるような造りだ。

 真夫の注文であり、玲子さんからは、指示の通りに準備をしたと言われていた。

 

 真夫は、普通のトイレは、自分専用にし、透明トイレはあさひ姉ちゃんとかおりたちのトイレにするつもりである。

 これから、毎日愉しめそうだと思っている。

 

「どうしたの、かおり? トイレはすぐそこよ。早く行きなさいよ」

 

 あさひ姉ちゃんが意地悪そうに言った。

 

「で、でも、あんなの……」

 

「あんなのじゃないわよ。まさかとは思うけど、あんた、いままで一階の普通のトイレを使ってた? あれは、真夫ちゃん専用よ。あたしたち奴婢は、こっちの透明トイレよ」

 

 あさひ姉ちゃんが、かおりの身体の横に屈み込み、下腹部をぎゅっと押す。

 

「ああっ、や、やめて、許して」

 

 かおりはなんとか、あさひ姉ちゃんの手から逃れようともがく。

 だが、左右で手首と足首を束ねられている状態では、なんの抵抗もできない。

 必死に歯を食い縛って、身体を震わせるだけだ。

 

「あうっ、ああっ、はうっ……。わ、わかった……。行く……。行くから……。枷を……は、外して……」

 

「枷は外さない。そこまで歩いていくんだ。これが調教というものさ」

 

 真夫は言った。

 そして、脚の指を伸ばすと、かおりの白いお尻の亀裂を下から足の指で刺激してやった。

 

「ううっ、はっ」

 

 かおりは激しい反応を示して、身体を仰け反らせた。

 おそらく、いまのかおりには、身体に受けるすべての刺激が直腸に響くほどに追い詰められているはずだ。

 激しく動いたために、かおりはひっくり返りそうになった。

 真夫は間一髪で抱きとめる。

 

「さあ、行くんだよ、かおりちゃん。もう、限界なんだろう?」

 

「う、ううっ……。あ、あんたたち……お、覚えてなさいよ……。い、いつか……」

 

 かおりが諦めたように、しゃがんだまま、よちよちと進み始める。

 しかし、左右で手足を束ねられているかおりは、ただその恰好で動くだけでもつらそうだ。それなのに、かおりのお尻は、三個のイチジク浣腸のために追い詰められているのだ。

 すぐに、かおりは全身におびただしい汗をかいて、荒い息をし始める。

 

 かおりが透明トイレの前の階段の前に辿り着いたときには、ほとんど動くことができないほどになっていた。

 真夫は左右の足首の革枷を外してやると、改めてかおりの両手首を背中側で手枷を嵌め直す。

 かおりは、抵抗しなかった。

 身体を前に倒したまま、後ろ手のまま、階段をふらふらと昇っていく。

 真夫は、後ろからついていく。

 

「ああ、も、もうっ……」

 

 やっとかおりが便器に辿り着いた。

 観念をしたのか、便器に跨って腰をおろす。

 真夫は、壁のスイッチを押した。

 トイレ全体が眩しいほどの明かりに包まれる。

 

「きゃああああ」

 

 かおりがちょっと大げさすぎるくらいの声をあげた。

 光は天井だけでなく、透明のトイレの下に埋め込まれたライトからも強烈に照らされているのだ。

 

「真夫ちゃん、ばっちりよ。こっちに来たら?」

 

 トイレの下側に位置しているあさひ姉ちゃんが言った。

 ビデオカメラを抱えて、ガラスの床越しにかおりが和式便器に跨る姿を撮影をしている。真夫の命令ではないから、あさひ姉ちゃんがかおりを辱めようと思って、考えついたのだろう。

 真夫は苦笑した。

 

「あ、あんた、なにしてんのよ──」

 

 かおりが大きな声をあげた。

 だが、次の瞬間、かおりが「ひっ」と小さな声をあげた。

 興奮したために、一瞬、お尻を必死ですぼめていた力が抜けたみたいだ。

 

「あ、ああ……あああ……」

 

 かおりの大きな叫び声を出す。

 茶色の液体が音を立てて噴出を開始する。

 真夫は透明の便器を茶色の液が染めていく様子を眺めていた。

 

「ああ、もう、いやあ……」

 

 液体の噴出が終わると、さすがに、気の強いかおりもがっくりと首を垂れた。

 

「まだ、終わりじゃないよね。ここでやめたら、ずっと苦しいだけだよ」

 

 真夫は手を伸ばすと、かおりの下腹部をぎゅっと押してやった。

 

「ああ、もう許してっ」

 

 かおりが身体を捩る。

 しかし、真夫は構わず下腹部をぐいぐいと押す。

 

「う、うううっ」

 

 かおりの顔が険しくなる。

 その股のあいだに、ぼとりぼとりと固形の大便が落ちていく。

 かおりが眼に涙を浮かべた。

 

「よくやったね、ご褒美だよ」

 

 真夫は下腹部を押していた手をさらにさげると、かおりの性器を激しく愛撫してやる。

 浣腸責めの前は、徹底的に焦らし責めをしていたので、すでにかおりの性感は燃えあがるだけ、燃えあがっているはずだ。

 

「や、やよ……。き、汚いから……」

 

 かおりが困惑したように身悶えする。

 

「汚いことなんてないよ」

 

 真夫は笑って、さらに刺激を強くした。

 かおりが真夫に抱きかかえられるような状態で、ぶるぶると身体を昇天させた。

 

 真夫は、放心状態になったかおりのお尻を拭くために、紙を使い始めた。

 かおりが恥ずかしそうに身体をくねらせた。

 

 


 

 

 三人で風呂に入った。

 この寮の部屋は、高校生用の寮というよりは、豪華なマンションという感じだ。

 地下も含めて、三層になっており、一階にはシャワー室があるが、バスルームは地下だ。

 しかも、浴槽もゆったりと広い。

 

 いまは、後手に拘束されたままのかおりが浴槽に浸かり、真夫とあさひ姉ちゃんが洗い場にいる。

 あさひ姉ちゃんが、真夫に奉仕する見本を示すというのだ。

 

「こうやって、おっぱいに泡を立てて、真夫ちゃんの身体を洗ってあげるのよ。ちゃんと、真夫ちゃんの顔を見て、気持ちよさそうな表情をしているのかどうかを、しっかりと観察しながらね」

 

 あさひ姉ちゃんが石鹸の泡を乳房につけて、上下に動いて背中を胸で擦ったり、唇をあてて首の付近を刺激したりする。

 その様子をかおりは、少し不機嫌そうな顔で眺めている。

 

 だが、偉そうなことを言っているが、あさひ姉ちゃんも、おっぱいで真夫を洗うなど、ほとんどまだやったことはない。

 エッチの知識だけはあるみたいだから、その受け売りだと思う。

 真夫は、一生懸命に背伸びしているあさひ姉ちゃんに接していると、吹き出しそうになる。

 

「ふん、あんたみたいに、胸は大きくないのよ。そんな風にはいかないわよ」

 

 かおりが不貞腐れたように言った。

 真夫は笑った。

 確かに、あさひ姉ちゃんのエッチな身体に比べれば、かおりの胸は小さめだ。もっとも、小さすぎるというほどではない。あさひ姉ちゃんの胸が、ちょっと目立つくらいに大きいだけだ。

 

「じゃあ、今度は前を洗ってもらおうかな、あさひ姉ちゃん」

 

 真夫は言った。

 すぐにあさひ姉ちゃんが、胸にボディソープを垂らして、手と湯で泡立て始める。

 あさひ姉ちゃんが真夫に抱きつくようにがに股になって、胸で真夫の肌を擦りだす。

 真夫は指を伸ばして、あさひ姉ちゃんの股間の敏感な部分を刺激してやった。

 

「あっ」

 

 あさひ姉ちゃんが身体を仰け反らして、喘ぎ声を出す。

 

「ほら、感じてたら、かおりちゃんの見本にはならないよ、あさひ姉ちゃん。もっと動かなきゃ」

 

 真夫はわざと煽った。

 

「う、うん……」

 

 あさひ姉ちゃんが慌てたように、乳房を上下する行動を再開する。

 だが、真夫はあさひ姉ちゃんをもっと感じさせるように、指をクリトリスに這わせ、ほかの指をヴァギナの入口付近の敏感な部分に潜らせて動かす。

 

 すぐに、あさひ姉ちゃんは悶絶して果てた。

 膝を落として、がっくりと脱力する。

 

「勝手にいったらだめだよ、あさひ姉ちゃん。残念だけど、あさひ姉ちゃんも、後で調教のやり直しかな……」

 

「だ、だって、真夫ちゃん、意地悪なんだもの……」

 

 あさひ姉ちゃんが、まだ赤い顔のまま、頬を膨らませた。

 真夫は笑った。

 

「いずれにしても、交代しよう。あさひ姉ちゃんは湯船に入っていい……。かおりちゃんは、おいで」

 

 真夫は、あさひ姉ちゃんの身体をざっと湯で流してから、かおりを湯舟から出させた。

 半分困惑したような表情ながらも、かおりは大人しく湯船からあがってくつ。

 理由はわからないが、かおりに目の前で排泄をさせ、その臭いがたちこめた状態で指で昇天させてやってから、真夫に対する抵抗心がほとんどなくなった気がする。

 

 真夫の読心の能力でも、かおりの心には、真夫に対してについては、抵抗らしい抵抗は感じない。

 

 かおりがあさひ姉ちゃんと入れ替わって、洗い場に出てきた。

 真夫はかおりの裸身をあぐら座りの膝の上に抱きあげ、泡を一杯にした手のひらで、胸をそっと撫ぜる。

 

「あっ」

 

 かおりが小さな喘ぎ声をあげる。

 みるみると尖ってきた乳首を真夫は、真夫は悪戯っぽくしつこく擦る。

 それとともに、つややかなかおりの乳房の肌をゆっくりと揉んでいく。

 

「う、ううっ」

 

 かおりがやるせないような声をあげた。

 

「大人しくなったね。乳房はもちろん感じるよね。じゃあ、これから、かおりちゃんの感じる場所をじっくりと調べさせてもらうよ……。ここはどう?」

 

 真夫は石鹸をつけた手を首筋に這わせる。

 

「はんっ」

 

 かおりがぶるりと身体を震わせた。

 

「じゃあ、ここは?」

 

 今度は横腹をすっと撫ぜる。

 

「んふうっ」

 

 今度も大きく身悶えた。

 

「なんだ。あっちこっち感じるんじゃない。全身が性感帯みたいに感じる女の子なんだね」

 

 真夫はからかった。

 すると、かおりがきっと険しい顔をした。

 

「な、なに言ってんのよ──。あ、あんたの手が特別なのよ。わ、わたしをその女みたいに淫乱みたいに言わないでよ。あんたの手が特に感じるだけよ」

 

 かおりが顔を真っ赤にしながらも、必死の口調で真夫に訴えた。

 真夫は吹きだしてしまった。



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 第44話  浴場レイプ

 どうにも、後先考えることなく、感情的に行動するのが、自分の悪い癖だ。

 かおりは、自分自身を省みて考えた。

 

 確かに、真夫のことについては、分別のある対応ではなかったかもしれない……。

 結果的にだ。

 懲罰として、孤児の真夫の侍女生徒になれと言われたときには、あの玲子に悪態もついたが、考えてみれば、償いとして、そうしてもいいのかもしれない。

 さっきまでは、そんなに深く考えていなかったが、今日真夫に会って話をするうちに、なぜかそんな気持ちに変化した。

 ちょっと、それは不思議なくらいの感情の変化だ。

 

 いずれにしても、その真夫に裸で横抱きにされ、かおりは激しく反応してしまっている。

 それが恥ずかしいし、かおりがこれほどよがっても、真夫は手慣れた感じで、淡々と申し訳程度の愛撫を繰り返すだけだ。

 それが面白くない。

 

「俺の手が特別? 別にどうということもない愛撫だよ。いや、こんなの愛撫のうちにも入らないね。こんなところがそんなに感じるの?」

 

 真夫が胡坐の上で、かおりを横抱きにして、首筋に指をつっと這わせてきた。

 

「あうっ」

 

 途端に、かおりは身体を身体をびくりと動かしてしまう。

 異常なほどの気持ちよさが全身に染み込んできて、恥ずかしい反応をどうしても抑えることができなかったのだ。

 

 どうして、こんなに感じるのか……?

 

 器具で、何度も絶頂させられて、身体が敏感になっているせい……?

 それとも、いきそうで、いかせてもらえない焦らし責めを続けられたため……?

 あるいは、ボディソープの泡という潤滑油が、微妙な肌感覚を作っているせいだろうか。

 

 とにかく、真夫の指のほんのちょっとの刺激にも我慢できないくらいに、敏感になっている。

 それは確かだ。

 口惜しいが、かおりは、もう身体が火照り切ってしまって、この真夫に滅茶苦茶にしてもらいたくてたまらなくなっていた。

 

 しかし、孤児で素性も知れない男に、かおりの方から犯してくれなどとねだるなど、かおりのプライドが許さないでいた。

 もっとも、もう、それもどうでもいいと思い始めているが……。

 素性は知れなくとも、この男子が善良であることは確かだろう。

 

 随分と女扱いに手慣れた雰囲気ではあるが……。

 

 おかしな男……。

 

 かおりは改めて、自分を抱いている奇妙な転校生を下から眺めた。

 

 顔は……。

 まあ、普通……。

 特に美形でもないが、気持ちが悪いということはない……。

 どちらかといえば、味のある顔?

 

 身体は……?

 これも普通……。

 スポーツマンというほどの筋肉質でもないが、無駄な贅肉のようなものもない。

 

 性格は……?

 これはわからない。

 ただ、善良ということは認めざるを得ないだろう。

 かおりは、始めてこの真夫と会ったときのことを思い出していた。

 あの悪人どもに脅迫されて苛められていたかおりを、無条件に救ってくれようとした、あのとき……。

 

 あのとき、かおりの周りには、三人もの男子学生がいた。

 いまは、なぜかいなくなってしまったが、そのうちのひとりと関わってしまったばかりに、かおりは、その三人に犯され、共有の玩具のように扱われていたのだ。

 そのときの電車でも、かおりは公衆の前だというのに、その男子たちに胸を揉まれ、スカートの中を悪戯され、ローターまで使われて遊ばれていた。

 

 みじめだった。

 

 しかし、逆らえば、破廉恥な映像や写真がネットでばら撒かれるのだ。

 かおりは、言いなりになるしかった……。

 

 それを助けようとしてくれたのが、この木下真夫という少年だ。

 

 嬉しかった。

 

 だが、かおりは、その真夫を痴漢だと駅員に訴えさせられた。

 あのときの、真夫の驚いたような顔は忘れられない。

 本当に申し訳ないという気持ちになった。

 

 でも、かおりになにができたというのだろう。

 あの三人組に従わなければ、かおりは破滅させられるのだ。

 

 三人のうちのリーダー格の男子の実家は、本物の名家であり各世界に影響力があって、白岡家でも、とてもかなわない力があるのだ。

 かおりが訴えたところで、三人がちょっとした処分で終わり、かおりは三人の玩具にされたビッチ女だという烙印が押されて終わるだけだ。

 なによりも、かおりは自分が学校の男たちに、玩具のように扱われていることを実家に知られたくなかった。

 

 かおりは、駅員に捕まえられながらも、かおりになぜ嘘をつくのだと叫ぶこの真夫の前から、文字通り逃げだした。

 トイレに行くふりをして逃亡したのだ。

 

 とにかく、それでなんとか終わると思った。

 被害者がいなければ、事件として立件されるわけはないし、事件にならなければ、そんなに迷惑をかけることもないと考えた。

 

 ところが、しばらくして、偶然に、その少年がかおりのことが原因で通っていた学校を放校になりそうになっていることを知ってしまった。

 愕然とした。

 

 それで、その学校を訪ねようとしたものの、正直なことを告白しにいく勇気はなかった。

 かおりのことは、四六時中、三人組が見張っている。真夫の無実を訴えるということは、三人組を告発することでもある。

 そんなことは、できない。

 

 なにもせずに戻ったものの、かおりが真夫の学校に行こうとしたことを知られて、厳しく罰を受けた。

 それで、もう、かおりの意志は砕けた。

 

 それに、同時に、その少年、すなわち、真夫が一介の孤児であるということも知ったのだ。

 だったら、無理をせずとも、償いようもあると思った。

 

 父親に頼んで、白岡グループで雇ってあげれば……。

 お金だって、かおりの持っているものをすべてあげればいい……。

 

 だが、できなかった……。

 

 あの三人組だ。

 

 あの痴漢事件以降も、毎日のように呼び出されて、セックスの相手をさせられた。

 そして、ありとあらゆる破廉恥なことを強要された。

 どこで、見張っているかもわからない。彼らは、かおりが真夫の無実を話すことがないように、あらゆる手段でかおりを監視していた。

 

 それに、他人のことなどを考える余裕は、かおりにはなかった……。

 真夫がかおりを探しだして、寮から実家に戻るバス停の前で待ち構えたいたときも、かおりは冷たく扱った。

 かおりは、真夫と別れたバスの中で、自己嫌悪に苛まれ続けた。

 

 だが、突然の事態の急変……。

 

 三人組は突如として姿を消し、退学処分となって、かおりの前からいきなりいなくなり……。

 最初は、脅しに使われた映像などが、出回るかと恐怖したが、その気配もなく、かおりはもう安心した気持ちになりかけている。

 

 だが、真夫のことをどうしようかと考える暇もなく、玲子という若い美人理事長代理に、あの少年の真夫の侍女生徒になるように強要され……。

 

 その真夫が、恵という美人の恋人と一緒にやって来て……。

 

 真夫と恵の提案した「調教」を、なぜかかおりは受け入れる気持ちになり……。

 

 しかし、この真夫は、優しそうな口調からは、思いもよらないくらいに鬼畜で……。

 エッチで……。

 

 服を脱がされて、身体をいたぶられ……。

 

 器具で絶頂させられ……。

 

 浣腸されて、排便姿を見られ……。

 

 いまは、身体を拘束されて、身体を隅々まで見られながら、身体を洗われて……。

 

 そういう死ぬほど恥ずかしいことを、真夫はにこにこしながら、かおりにさせるのだ。

 だが、この真夫は優しい……。

 

 おそらく、かおりがこれまでに出逢ったくだらない男たちとは全く違う男子だ。

 鬼畜だが、優しい。

 

 愛撫のひとつひとつが染み透るくらいに身体の芯に響いてくる。

 それは、この真夫が、こんなかおりごときに、愛情を傾けてくれているからだろう。

 

 かおりは馬鹿だが、馬鹿ではない……。

 馬鹿じゃないのだ……。

 

「どうしたの、かおりちゃん? 急に黙りこくっちゃて」

 

 真夫が言った。

 どうやら、かおりはかなり長く、じっと真夫を見続けてしまったようだ。

 なぜか、かおりは、かっとなった。

 真夫に対する理不尽な怒りが込みあがる。

 

「な、なんなのよ、あんた──。な、なんで、そんなに優しく触るのよ。それじゃあ、感じるのが当たり前しょう。あ、あんた、わたしのことが憎いでしょう。軽蔑しているでしょう。わたしが、あんたにやった仕打ちを覚えているでしょう。それなのに、こんなに優しく触らないで。もっと、わたしを道具のように扱いなさいよ」

 

 怒鳴った。

 自分でもなにを言っているのかわからなかったが、わけのわからない感情が爆発して、かおりはまくしたてしまっていた。

 

「な、なに言ってんのよ、あんた」

 

 怒鳴り声が返ってきた。

 真夫ではなく、恵だ。

 すると、かおりの心に、さっきとは別の腹立たしさが込みあがる。

 真夫と一緒にやってきた真夫の恋人……。

 

 この恵と真夫が男女の関係であるのは、ひと目でわかった。

 そして、目の前でふたりが淫らにいちゃつく場面を見物させられた。

 わからないが、かおりは、それに対して、とても苛立ってしまう。

 

「まあまあ、あさひ姉ちゃん……。ところで、どうしたの、かおりちゃん……? 俺の手が感じるって? それが口惜しいの?」

 

 相変わらずの優し気な口調で、真夫がかおりの内腿をすっと擦る。

 

「ああっ、そ、そこを触らないで」

 

 かおりは痺れるような快感に、真夫の膝の上で、後ろ手の身体を仰け反るように悶えさせた。

 

「面白いね」

 

 真夫の指が突然に股間に潜り込んで、かおりのヴァギナをめくるように悪戯した。

 

「いやあっ、ああっ、だ、だめえっ」

 

 かおりはがくがくと身体を震わせた。

 やっぱり、おかしい……。

 感じすぎる。

 

 こんなに痺れるような気持ちよさは、生れて初めてだ。

 

 ……というよりも、かおりは男に触られて、気持ちいいと思ったことはほとんどない。

 好きになった男に抱かれはしたことはあるが、始まってしまえば、早く終わって欲しいと思うだけで、こんなに感じてしまうことはなかったように思う。

 

 しかし、真夫は違う。

 

「じゃあ、ここは?」

 

 真夫の指がアヌスにつるりと潜り込んできた。

 

「う、ううっ」

 

 恥ずかしさと異様な衝撃に、かおりは思わず、手枷が繋がっている鎖を鳴らした。

 

「こっちの経験はあるの、かおりちゃん?」

 

「そ、そんなのあるわけないでしょう、この変態」

 

 声をあげた。

 だが、ボディソープの泡が、抵抗を感じさせない潤滑油の役割を果たし、あっという間に真夫の指がかおりのお尻の穴に挿入される。

 

 それも二本……。

 

「これは、どう?」

 

 真夫が指をお尻の穴の中で交互に弾くように動かす。

 

「んひゃうっ」

 

 自分でも馬鹿みたいな声が口から迸った。

 恥ずかしい……。

 みっともない声を聞かれるのが恥ずかしい……。

 

 自分はなにもない女だ。

 

 この自分に価値があるとすれば、白岡家の会長の孫娘であるということだけだろう。

 それは、多少は美少女にはなるだろうが、きれいで可愛い女の子は、ほかにどこにでもいるし、かおりに興味を示す男の子は、まずはかおりの家柄に価値を置く。

 

 いままでに付き合った男の子たちはそうだったし、かおり自身も自分にそれ以上の価値があるとは思わない。

 自分は、富豪の娘であるというだけの女の子だ。

 

 それ以外になんの価値もないことは、あの三人組に虐げられていたしばらくのあいだに、思い切り心に刻み込まれた。

 だから、はしたない姿を真夫に見せてしまえば、本当に自分は奴婢以下の存在になり果てると思った。

 

「や……やめ……て……」

 

 かおりは必死で股を閉じて、腰を動かしてアヌスに入り込んでいる指を抜こうとした。

 しかし、真夫がそれを許さない。

 ますます、抉るようにかおりのお尻の中で指を動かす。

 気の遠くなるような甘美感が襲いかかる。

 

「あ、ああっ……ああっ」

 

 嬌声としか言えない声が出た。

 かおりは必死に口をつぐもうとした。

 それなのに、かおりの口は、かおりの心を裏切って、いやらしい声を喘ぎ続ける。

 

「キスしようよ、かおりちゃん」

 

 真夫が唇を寄せてきた。

 

「し、したいなら……、す、すればいいじゃない──」

 

 憎まれ口が勝手に出る。

 本当はこんなこと言いたくないし、酷いことをしたこともちゃんと謝りたい……。

 たけど、そんなこと、いまさら……。

 

 浴槽の恵が、また文句を言ったが、それはかおりの耳には入らない。真夫がかおりの唇に口を重ねて、かおりの舌を吸いにかかったからだ。

 

「む、むむむっ」

 

 かおりは夢中になって、真夫の舌を舐めた。

 全身の血が沸騰するように熱くなった。

 男の舌を吸って、こんなにも興奮するというのは、かおりには人生で初めての経験だった。

 

「俺としたいと言ってくれない、かおりちゃん。そうしないと、俺はかおりちゃんを犯さないと決めてしまったからね。だけど、本当は、俺はかおりちゃんとやりたくてたまらないんだよ」

 

 しばらくして、唇を離した真夫が笑って言った。

 

「ば、ばかね……。じゃ、じゃあ、言ってあげるわ……。し、して……。してください……。わ、わたしを犯して……」

 

 かおりは言っていた。

 

「レイプしてと言うんだ」

 

「レイプして」

 

 すぐに言った。

 

「もっと、大きな声で」

 

「レイプして」

 

 怒鳴った。

 すると、真夫がにっこり笑った。

 思わず、引き込まれそうになるような屈託なさそうな笑顔だ。

 

 その真夫が柔和な微笑みを浮かべたまま、姿勢を取り直す。

 犯されるのだ……。

 心臓が苦しいくらいにドキドキする。

 

 真夫が、かおりのアヌスに指を入れたまま、かおりを真夫に向き合うように抱きなおし、股間に亀頭を当ててゆっくりと奥に沈めていく。

 

 みるみると硬い真夫の肉棒が、かおりの中に挿入されていく……。

 

「うはああっ」

 

 完全に真夫の性器がかおりの股間を刺し貫いた。

 心の準備など、まだなかったが、犯されてしまうと、これこそが待ち望んでいたものだと思い知った。

 

 真夫の怒張がかおりの膣の奥の子宮近くまで到達する。

 だが、真夫は性急にかおりを犯して射精をしようとする仕草はなかった。

 その代わりに、奥まで怒張を挿したまま、指が入っているアヌスの壁肉を真夫が入っている肉棒に押し擦るようにした。

 

「あううっ」

 

 真夫の指がじかにぶつかって来て、気の遠くなるような快感に包まれた。

 かおりは、気が狂わんばかりになる。

 

 どうなっているのか……?

 なんで、こんなにも感じるのか……?

 

 かおりは、まるで生まれて初めて交合しているような不思議な感覚に襲われた。

 いや、事実、生れて初めての衝撃だと思う。

 

「ああん、き、気持ちいい──」

 

 かおりは叫んでいた。

 

「可愛いね、かおりちゃん」

 

 真夫に可愛いと言ってもらえて、頭の中のなにかが弾けた。

 気がつくと、かおりは乳房を向かい合う真夫の胸板に擦りつけるように、激しく上体を動かしていた。

 

「う、嬉しい──。嘘だとわかっているけど、嬉しい」

 

 かおりは叫んだ。

 こみあがる……。

 得体の知れないものが身体にせりあがってくる。

 それがなんだかわからなかったが、かおりは途方もない、なにかに全身を包まれようとしていた。

 

「かおりちゃん、キスだ」

 

 真夫がもう一度口を突き出した。

 かおりは夢中になって、真夫の舌を吸う。

 

 おいしい……。

 キスをすると興奮する。

 気持ちよさが、一瞬ごとに倍になる。

 かおりは我を忘れた。

 

 真夫を受け入れている部分が痙攣したように震えた。

 

「なに? なに? なにかくる……。なにかが来るのよ……。くる、くる、くるうっ」

 

 かおりは口を離して悲鳴をあげた。

 頭が白くなる。

 気持ちよさを求めて、かおりは再び、真夫の唇にむしゃぶりついた。

 

「あはああっ」

 

 次の瞬間、かおりは背筋を反り返らせた。

 恐ろしいほどの衝撃が身体の芯を突き抜け、かおりはがくがくと身体を震わせる。

 次の瞬間、真夫がかおりの中で精を放ったのがわかった。

 よくわからないが、かおりは自分の目から、ぼろぼろと涙が出るのがわかった。

 

 しばらくのあいだ、かおりは後手に拘束された身体を震わせながら、真夫にもたれかかるようにしていたが、やがて我に返った。

 おそらく、自分は気をやってしまったのだろう。

 経験はなかったが、いまの状態が絶頂するという行為だったということは、なんとなく理解できた。

 

「わ、笑いたきゃ、笑ってよ……。わ、わたしは、あんたに……真夫に……いえ、真夫君に犯されて、はしたなくいったのよ……。笑いなさいよ……」

 

 急に途方もなく恥ずかしくなって、かおりは言った、

 

「笑わないよ……。気持ちよかったよ」

 

 真夫が言った。

 かおりは今度は自分から求めて、真夫に口づけをした。

 

「さあ、俺たちも湯船に入ろうか。あがったら、今度はあさひ姉ちゃんも縛るよ。さっき、勝手に達したよね。だから、罰だよ。かおりちゃんと一緒に、あさひ姉ちゃんも調教するからね」

 

 真夫が口を離して言った。

 

「は、はい……、真夫ちゃん……」

 

 すると、恵の酔ったような声が湯船から聞こえた。

 

 


 

 

 湯舟からあがった真夫は、地階のソファに腰かけていた。

 身につけているのは、一枚のガウンだ。

 この寮の部屋に最初から備えつけられていたものであり、おそらく、玲子さんが準備したものだろう。

 

 足元には、ふたりの女体の裸身が転がっている。

 ふたりとも革の貞操帯を股間に装着しているだけの素っ裸だ。

 

 あさひ姉ちゃんとかおりだ。

 

 ふたりが股間に装着している貞操帯に内側には、二本のバイブがあり、両方ともふたりの前後の穴にしっかり挿入されている。

 そして、ふたりとも両手を腰の後ろで重ね合わせにさせていて、革帯を巻いている。

 

 真夫は無造作に、何十度目かの、手元のスイッチを押した。

 

「はうっ」

「あ、あんっ」

 

 ふたりの股間に嵌まっているバイブをリモコンで動かすためのスイッチであり、ひとつのスイッチで、ふたりが嵌めている淫具が同じように動くようになっている。

 だが、すぐにとめてしまう。

 ふたりががくりと脱力する。

 

「いい感じになってきたね。ところで、ふたりは後ろと前ではどっちが感じるの?」

 

 今度は、真夫はふたりのアナルに埋められているバイブのスイッチを押す。

 

「あううっ、真夫くん」

「ひんっ、ま、真夫ちゃん──」

 

 足元のふたりが、またもや同時にびくりと身体を震わせる。

 ふたりとも汗びっしょりだ。

 さっきから、息をつく暇もないくらいに、バイブで責め立てている。

 ふたりは、息も絶え絶えだ。

 

「それとも、やっぱり、両方がいいのかなあ?」

 

 真夫は、今度は後ろ側を動かしたまま、もうひとつのボタンを押す。

 

「も、もういやあっ」

 

「ああ、真夫ちゃん、許して」

 

 細身のふたりが同時にがくりとのけぞる。

 四つの白い乳房が揺れ、あさひ姉ちゃんとかおりの唇が苦し気に震える。

 ふたりがどうしてもはしたなく開いてしまう股間を懸命に閉じようとしているのが、はっきりと見てとれる。

 

「じゃあ、ゲームをしようか……。ふたりのうちで、早く果ててしまった方は、痒み剤を塗って、くすぐり責めを受けてもらうよ。くすぐるのは、ふたり掛かりだからね。しかも、気絶するまでくすぐり続けて、明日の朝まで痒み放置にしよう。それが嫌なら、一秒でもいいから、相手よりも遅くいくんだ」

 

 真夫はそう言って、ダイヤル式の操作具で、二人の股間に入っている二本のバイブのゆっくりと振動をあげていく。

 

「あううっ、んぐう」

 

「ああっ、ま、真夫ちゃん、真夫ちゃん──」

 

 かおりとあさひ姉ちゃんのふたりが、同じように限界まで身体を弓なりにし、そして、必死の表情で歯を食い縛ったのがわかった。



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 第45話  肉欲の海

「あ、ああっ、くうっ」

「う、うううっ」

 

 革帯で後手に拘束されているふたりの女体が、床でのたうち回っている。

 

 当然だ。

 

 あさひ姉ちゃんとかおりの股間には、真夫が装着させた革の貞操帯が食い込んでおり、その内側には大小のバイブが取り付けられていて、それはふたりの前後の穴にしっかりと挿入されている。

 しかも、真夫は、それを手に持っているリモコンで蠕動運動をさせているのだ。

 股間とお尻の中で蛇のようにくねっている淫具に、ふたりは汗びっしょりになって、歯を食い縛っている。

 

 真夫が命じているのは、相手よりも一秒でも長く絶頂を我慢することだ。

 罰ゲームは、掻痒剤を塗りたくった挙句のくすぐり責めと宣言をしているので、ふたりとも必死だ。

 ふたりとも、すでに限界に近い快感を懸命に我慢している。

 

「ふたりとも可愛いよ。じゃあ、もう少し振動をあげてあげるね」

 

 真夫はリモコンをすっと前にかざす。

 

「あ、ああ、真夫ちゃん、もう……もうだめよ」

「そ、そんなあ」

 

 ふたりが同時に悲鳴をあげた。

 だが、真夫は容赦なく目盛りを調整して、膣に挿入されているバイブの振動を強くする。

 

「んんっ、あああっ」

「ひあああっ」

 

 ふたりが身体を弓なりにして絶叫した。

 

 拘束された女性の身体を徹底的に快楽責めにする。

 真夫が一番好きな責めだ。

 しかも、それを必死に我慢している姿は本当にそそる。

 

 だが、いずれにしてもふたりとも、そろそ限界だろう。

 あさひ姉ちゃんもかおりも、全身が真っ赤であり、たっぷりと汗をかいている。

 真夫は、そろそろ決着をつけさせることにした。

 

 実のところ、真夫はどっちに負けさせるか、すでに決めている。

 

 あさひ姉ちゃんだ。

 

 かおりがすでに真夫に屈しているのは感じている。

 それがかおりの贖罪なのかもしれないが、器具で絶頂させられ、浣腸をされて排便姿を晒されて挙句に、浴室で犯したことで、かおりはいつの間にか真夫に対して、心を許す感情を持つようになっていた。

 それは、なんとなく感じるかおりの感情からわかる。

 

 だが、一方で、かおりは、あさひ姉ちゃんに対して、大きな敵愾心を抱いている気配でもある。

 最初にあさひ姉ちゃんが、杖状のスタンガンで徹底的にかおりを脅迫した。

 それを根に持っているのかもしれない。

 だから、次は、かおりにあさひ姉ちゃんを責めさせてやろうと思っているのだ。

 調教をする側から、される側になるのは、あさひ姉ちゃんとしては屈辱だろうが、まあ、マゾのあさひ姉ちゃんなら、そういうシチュエーションも愉しむに違いない。

 

 真夫は、あさひ姉ちゃんに追い打ちをかけるために、あさひ姉ちゃんだけに、クリトリスにあてがわれているバイブの枝の部分を振動させた。

 

「あ、ああっ、あっ、あくうぅ」

 

 敏感なクリトリスを振るわせられて、あさひ姉ちゃんが激しく暴れ始めた。

 

「だ、だめえっ、いくっ、ま、真夫ちゃん、いっちゃううっ」

 

 すぐにあさひ姉ちゃんは、淫らな叫び声をあげて、腰をがくがくと震わせながら、一気に昇りつめた。

 

「勝負ありだね。あさひ姉ちゃんの負けだ」

 

 真夫はふたりを責めていたバイブのスイッチを同時に切った。

 ふたりの汗まみれの身体が、がくりと脱力した。

 

「じゃあ、かおりちゃん、今度は、あさひ姉ちゃんをふたりで責めよう。拘束を解いてあげるよ」

 

 真夫は、はあはあと荒い息をしているかおりに近づいて、背中で両腕を重ね合わせて拘束している革帯を外そうとした。

 すると、かおりがびくりと反応した。

 

「ま、待って──」

 

 かおりがぱっと真夫の手から身体を避けた。

 真夫は怪訝に思った。

 

「どうしたの、かおりちゃん?」

 

「お、終わり? こ、こんなのひどいわよ。わ、わたしが勝ったのに、どうして、こいつが調教される番になって、わたしは終わりなのよ──。ちょ、ちょっと、それはひどいんじゃない」

 

 かおりが憤慨した表情で、真夫をきっと睨んだ。

 そして、身体を起こして、真夫が外そうとした背中を真夫から避けるように、こっちに身体を向ける。

 だが、真夫は当惑した。

 

「えっ、かおりちゃん?」

 

 真夫はまじまじとかおりを見た。

 すると、かおりは我に返ったような反応をして、もともと火照って赤かった顔をさらにぱっと赤くした。

 

「な、なんでもない……」

 

 かおりは、自分の言葉にはっとしたように口をつぐんだ。

 そして、拗ねたようにぷいと横を向く。

 ますます、わからない。

 すると、あさひ姉ちゃんから、くすくすと笑う声が聞こえた。

 

「な、なによ──」

 

 かおりが憤慨した顔であさひ姉ちゃんを睨む。

 しかし、あさひ姉ちゃんは、にやにやとかおりを見ている。

 

「あんたも、真夫ちゃんに苛められるのが愉しくなってきたんでしょう……。わかるわ……。だって、真夫ちゃんの調教って、気持ちいいものね」

 

 あさひ姉ちゃんが身体をだるそうに起こした。

 

「あ、あんたみたいな変態と一緒にしないでよ」

 

 かおりが声を荒げた。

 だが、確かにかおりの感情は、「怒り」とは全く別で、「羞恥」と「照れ」が入り混じったような複雑なものだった。

 それは真夫がかおりの心に触れてみようとすることでわかった。

 

 しかし、それは、あさひ姉ちゃんの言う通り、本当は、かおりが真夫にもっと調教して欲しいと願っているということだろうか……?

 真夫は困惑してしまった。

 すると、あさひ姉ちゃんが、今度は真夫に顔を向ける。

 

「……どっちにしても、真夫ちゃん……。このまま、かおりの責めが終わりっていうのは可哀想よ。一生懸命にいくのを我慢して、それでお預けってひどいわ。かおりは、真夫ちゃんに犯して欲しいのよ。そうじゃないと、ご褒美にならないわ」

 

 あさひ姉ちゃんが言った。

 そう言われてみれば、淫具とはいえ、絶頂をしてしまったあさひ姉ちゃんに対して、かおりはまだ、達してはいないことになる。

 だが、真夫は、気位だけはやけに高そうなかおりが、本当に真夫に犯して欲しいと思うようになるとは考えていなかったのだ。

 

「よ、余計なことを言わないでよ──」

 

 そのとき、かおりが大きな声で怒鳴った。

 だが、そのときに、かおりの心から強い感情が迸ったために、真夫にもあさひ姉ちゃんの言葉が正しいということが理解できた。

 

 それにしても、本当にかおりは、感情が読みやすい女の子だ。

 真夫に芽生えようとしている「読心術」の練習台として、ちょうどいい感じだ。

 感情が複雑でないので、すごくわかりやすい。

 

 とにかく、真夫は嬉しくなった。

 無理矢理に調教をしている女の子だが、真夫のことを好ましいと思うようになってくれて、愉しくないわけがない。

 真夫は、手元のリモコンに手を伸ばして、かおりの股間に嵌まっている淫具だけを微小に運動させた。

 

「ううっ」

 

 かおりは電流にでも打たれたかのように、上体を震わせて、乳房を弾ませた。

 真夫は、かおりを抱き寄せて、膝の上に横抱きにする。

 

「な、なによ」

 

 かおりが真夫の手から脱しようとする仕草をしたが、その抵抗は小さい。

 真夫は、指先で固く勃起しているかおりの乳首めがけて、ふくらみの裾野からすっとなぞりあげた。

 

「やんっ」

 

 かおりの身体が真夫のあぐら座りの脚の上で跳ねあがる。

 

「俺にもっとレイプして欲しい、かおりちゃん?」

 

 真夫は微振動を続けている貞操帯の股間部分をぐいと手で押した。

 

「ふうっ」

 

 かおりが貞操帯の嵌まっている股間全体を真夫の手にぐいと押しつけるように動かした。

 だが、すぐに自分のはしたない身体の動きを恥じたように、顔を真っ赤にして横を向く。

 

「黙っていちゃ、わかんないよ。だったら、あさひ姉ちゃんを抱いちゃうよ」

 

 真夫はわざとかおりを膝からおろして、あさひ姉ちゃんに埋まっている二本のバイブの振動も再び作動させる。

 あさひ姉ちゃんが、甘い呻き声をあげて身体を悶えさせた。

 そして、逆に、かおりの股間で振動をしていたバイブを停止する。

 

「あっ」

 

 かおりが残念そうな表情になった。

 本当にわかりやすい。

 真夫は愉しくなってきた。

 

「あさひ姉ちゃん、舐めて」

 

 真夫は裸身にまとっていたガウンを脱ぎ捨てて横に置くとともに、あさひ姉ちゃんの股間のバイブの振動を強くする。

 ついでにクリトリスに当たっている枝の部分の振動もオンにした。

 しかも、一気に最大限まで強くする。

 

「あふううっ」

 

 あさひ姉ちゃんが大きく身体を仰け反らせる。

 やっぱり、クリ責めは効くみたいだ。

 あさひ姉ちゃんは、細く括れたウエストから腰にかけてを捩らせながら、必死に真夫に向かって来ようともがきだす。

 だが、振動が強すぎて腰が抜けたようになってしまって立てないようだ。

 

「あ、ああっ、ま、真夫ちゃん……。つ、強い──あああっ」

 

 あさひ姉ちゃんが両腿をひくひくと痙攣させながら、一生懸命に腰をあげようとしているのが見て取れる。

 

「わ、わたしに命じなさいよ。ちょっと──」

 

 すると、かおりが憤慨したように怒鳴った。

 

「なに、舐めたいの?」

 

 真夫は、横のかおりをからかうように上を向いている怒張を揺すってみせた。

 かおりが真っ赤になる。

 

「な、舐めろって命令されれば舐めるわよ──。わ、わたしの調教をしている途中じゃないのよ──」

 

 だが、意を決したようにかおりが声をあげた。

 真夫は吹きだしそうになった。

 しかし、いい傾向だろう。

 とにかく、かおりが調教を受け入れる気持ちになっていることは確かなのだ。

 

 すかさず、真夫は、さっとリモコンに手を伸ばして、かおりの貞操帯についても振動を再開した。

 あさひ姉ちゃんほど強振動じゃないが、その代わり、ずっと動かしていなかったクリバイブも動かしてやる。

 

「んふうっ」

 

 かおりの腰ががくんと砕けたように沈む。

 真夫は、ふたりが、すぐには動けなくなったのを確認して、部屋に備えつけてある冷蔵庫に向かった。

 なにかプレイに使えるものがないかと思ったのだ。

 すると、中にミネラルウオーターとともに蜂蜜の瓶があった。

 真夫はそれを取り出す。

 

「さっさと来るんだよ、ふたりとも」

 

 真夫はその場に座り込んだ。

 さっきいた場所とは少し離れているから、あさひ姉ちゃんとかおりがバイブで悶えている場所からは、ちょっと距離がある。

 

「だ、だって、真夫ちゃん……」

 

「ああっ……ま、真夫……君……。あ、あああっ」

 

 だが、ふたりは立てないようだ。

 真夫は、ふたりの股間の振動を停止させた。

 がっくりとなったふたりが、やっと立ちあがる。

 

 しかし、すぐに真夫はまたもや三箇所のバイブのスイッチを入れる。

 

「んふうっ」

「や、やめてっ」

 

 立ちあがったふたりが、またもやしゃがみ込んだ。

 まるで、操り人形のようで愉しい……。

 

「立てないなら這ってくるんだよ、ふたりとも」

 

 真夫はバイブの振動を滅茶苦茶に動かした。

 アナルとヴァギナとクリトリスを責めている場所をランダムに強くしたり、弱くしたりしてやる。

 あさひ姉ちゃんとかおりが奇声をあげて、のたうつ。

 

「さっさとしないと、浣腸をして外で排便させるよ。どうせ週末だから、ほとんど生徒はいないはずだしね。ちょっとくらい素っ裸で外に出たって大丈夫さ」

 

 真夫はわざと意地悪を言った。

 だが、口に出してみると、それも面白いかなとちょっと思った。

 この建物の外に、本当に裸で連れていくのだ。

 そろそろ、夕方くらいの時間のはずだし、この特別生徒用の棟は、明日までは真夫たちで貸し切りのようなものだ。

 多分、大丈夫だろう。

 

 だが、真夫の表情で、真夫がちょっと本気になりかけているのがわかったのだろう。

 あさひ姉ちゃんとかおりの表情が、少し蒼ざめたようになった気がした。

 

「か、かおり、す、進んで」

 

 あさひ姉ちゃんがかおりを促すように、膝立ちで進み始める。

 立とうにも本当に力が入らないのだろう。

 

「う、うん……」

 

 かおりもあさひ姉ちゃんとともに、股間を淫具で苛まれながら懸命に足だけで這い寄って来る。

 そして、やっとのこと、ふたりが真夫のところまでやって来た。

 真夫はふたりのバイブのスイッチをオフにする。

 あさひ姉ちゃんとかおりが、汗だくの身体を脱力する。

 真夫は蜂蜜を取り出すと、自分の性器にだらりと垂らした。

 

「かおりちゃん、一滴残らず舌で舐め取るんだよ。あさひ姉ちゃんはこっちだ」

 

 自分の胸から腹にかけて、蜂蜜を垂れ落とす。

 

「ああ、真夫ちゃん……」

 

 あさひ姉ちゃんが甘えたような声を出して、真夫の身体をぺろぺろと舐め始めた。

 かおりも、それに当てられたように、真夫の怒張に舌を這わせ始める。

 

「さあ、次はこっちだよ」

 

 真夫は新しい蜂蜜を幹から睾丸にかけて垂らす。

 鼻息を鳴らしながら舌を動かしていたかおりが、舌先を真夫の怒張の付け根に這い動かしていく。

 

「全部舐めるんだ、かおりちゃん。一滴も残しちゃだめだよ。床に落ちたものだって、全部舌で拭き取るんだからね」

 

 真夫はそう言って、頭を屈めて真夫の股間にむしゃぶりつくかおりの白い背中にだらりと蜂蜜を流した。

 

「あさひ姉ちゃん、ほら」

 

 興奮した様子で真夫の身体を舐めまわしていたあさひ姉ちゃんに、真夫は言った。

 

「は、はい……」

 

 あさひ姉ちゃんがほとんど躊躇なく、かおりの背中に舌を這わせだす。

 

「あっ、くすぐったい」

 

 かおりが顔をあげて小さな悲鳴をあげた。

 

「なにも考えるな、かおりちゃん。ふたりとも、俺の奴隷だからね。ただ、蜂蜜をこぼしたところを無心で舐めていればいいんだ……。ほら、こっちだ」

 

 真夫はわざと新しい蜂蜜を床にこぼしてやった。

 かおりは不満を表に出すことなく、こぼれた蜂蜜を追うように真夫の股の下の床に顔を動かす。

 

 真夫は犬のように、懸命に舌を這わせ続けるふたりの姿に満足し、次に、リモコンに手を伸ばして、ふたりの股間のバイブを微振動させた。

 

「んんっ」

「はんんっ」

 

 途端にふたりがびくりと身体を震わせる。

 

「ほら、舌を動かすんだ。まだ、いっぱい蜂蜜はあるよ。今度はここだ。ふたりともおいで」

 

 真夫は自分の舌の上に蜂蜜をたっぷりと乗せて、舌を出した。

 あさひ姉ちゃんとかおりは、争うように左右から真夫の舌にぺろぺろと舐め始めた。

 三人の舌が絡み合い、お互いの唾液がそれぞれの口の中を行き来する。

 

「は、はあ、はあ、ま、真夫ちゃん……」

「あ、ああっ……」

 

 舐めながらも、ふたりとも股間を苛むバイブレーターの刺激に、時折切なそうに甘い声をあげている。

 

 真夫は、ふたりの女奴婢のそれぞれの喘ぎ声を聴きながら、自分もどっぷりと肉欲の海に浸かり始めているのを感じていた。

 

「じゃあ、かおりちゃんから、おいで」

 

 真夫は電子錠をリモコンで解除し、まずはかおりの股間から貞操帯を外す。

 

「あんっ」

 

 バイブを抜くとき、かおりが切なそうに声をあげた。

 真夫はかおりを導き、仰向きになった自分の股間にかおりを跨がらせる。

 

「あ、ああっ、真夫君……」

 

 かおりが真夫の上で大きくよがった。

 真夫は寝そべったまま、手を伸ばして蜂蜜をかおりのお尻の亀裂に沿って流す。

 

「はあ、はあ……んんっ……」

 

 すぐにあさひ姉ちゃんが蜂蜜を目掛けて、かおりのお尻を舐めだす。

 

「や、やんっ、め、めぐみさん──」

 

 かおりが大きな声で悲鳴をあげた。



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 第46話  三人の奴婢

「んんっ……んんっ、ああっ……んんっ」

 

 かおりが四つん這いの姿勢で、ソファに腰かけている真夫の股間を舐めている。

 両手は背中だ。

 ウエストの細いところで横に束ねさせたかおりの両腕には、しっかりと革帯が巻きついている。

 

「あ、ああ……だ、だめ……ん、んん……」

 

 何度も口を離しながら、喘ぎ声を出すかおりには、たった数時間前に、あれほど頑なな態度を示した気の強さのようなものはまったくない。

 真夫に命じられるままに、涎まみれになりながらも、淫乱な娼婦さながらに真夫の肉棒を口で咥え続けている。

 

「駄目よ、かおり、真面目にやりなさい」

 

 かおりの後ろから激しい口調で、あさひ姉ちゃんが叱咤する。

 そのあさひ姉ちゃんも、かおり同様に、背中で両手を拘束している革帯以外は一致まとわぬ素っ裸だ。

 

「だ、だって、め、恵さん……」

 

 またもや、かおりが真夫の股間から口を離して、泣き声のような甘え声をあげた。

 無理もない、

 

 かおりは、口で真夫の一物を奉仕しながら、一方であさひ姉ちゃんによって、お尻の穴を舐められているのだ。

 あさひ姉ちゃんの舌が尻の亀裂を上下するたびに、ぶるぶるっ、とかおりの裸身が揺れる。

 かおりがあさひ姉ちゃんの尻責めにたじたじになっているのは明らかだ。

 

「気持ちくなってばかりじゃなく、しっかりと舐めるんだよ、かおりちゃん」

 

 真夫は男根で軽くかおりの頬を叩いた。

 

「ご、ごめん……。でも、あっ」

 

 顔が真夫の先走り液とかおり自身の唾液で汚れるが、かおりは気にする様子もない。

 うっとりと目元を潤ませながら、口でぱくりと真夫の怒張を咥え直す。

 

「口に咥えるだけじゃなく、横から舐めたり、おたまを吸ったりするといいのよ、かおり」

 

 あさひ姉ちゃんが先輩面をして、フェラチオのやり方をかおりに伝えた。

 もっとも、あさひ姉ちゃんも、そんなにフェラチオの経験があるわけじゃない。あさひ姉ちゃんのは、全部、ひとりで読んだエロ本の受け売りだ。

 それにも関わらず、性技をすっかりと知っているベテラン奴婢のように、かおりに教えるのがちょっと面白い。

 

「う、うん……」

 

 かおりが言われるままに、一度口から出して、舌でぺろぺろと男根の幹を舐めまわしだす。

 真夫は気持ちよさに、だんだんと怒張の固さが増していくのを感じていた。

 

 相変わらずの寮の地下にある調教室だ。

 真夫とあさひ姉ちゃんとかおりは、ここでかなりの時間をすごしている。

 

 かおりを浣腸責めにした後、三人で風呂に入り、そこでかおりを犯した。

 それから、今度は、かおりだけじゃなく、あさひ姉ちゃんも一緒に責めることにして、ふたりの股間にバイブ付きの貞操帯を装着させて、さんざんに弄んだ。

 そして、さらに蜂蜜プレイを愉しみ、かおりとあさひ姉ちゃんにレズプレイを強要しながら、ふたりにフェラをさせ、気が向いたら犯し、精を放ったら、元気になるまで交互にフェラをさせるということを繰り返している。

 かおりとあさひ姉ちゃんを犯した回数も、もう何度になるかもわからなくなった。

 

 また、三人でよがり狂ってお互いに達し続けるごとに、不思議な絆で結ばれるような気がした。

 最初は、かおりのことを難い仇のように思っていたふしがあるあさひ姉ちゃんも、いつの間にか、真夫を挟んだかおりとのレズプレイを大きく愉しむようになっている。

 元来、マゾっ気が強いあさひ姉ちゃんは、真夫に命令されて、かおりの尻の穴を舐めさせられるという恥辱に、震えるような興奮を覚えているのだ。

 かおりの心にも、いまはあさひ姉ちゃんに対する特別な敵対心は感じない。

 三人の淫情に酔い耽る時間が流れ続いている。

 

「んん、んんっ」

 

 しばらくすると、かおりの身体がぶるぶると震えだした。

 もう何度も見たからわかる。

 かおりが達しようとしているのだ。

 何時間もあさひ姉ちゃんに、執拗にお尻を舐められて刺激をされ続けているので、すっかりと感じてしまっているようだ。

 それに、もともと、アナルの素質もあるのかもしれないが……。

 

「どうせ、いくなら、俺のちんぽでいってよ、かおりちゃん」

 

 真夫はかおりの口から怒張を抜き、かおりを仰向けに寝かせた。

 かおりの両腿を掴んで、亀頭をかおりの股間に突きたてる。

 

「あ、ああっ、き、気持ちいいよう──。ま、真夫君、気持ちいいっ」

 

 すぐにかおりが感極まった声を発した。

 真夫は律動を開始する。

 一時間ほど前にふたりに続けて精を放っていたので、ふたりが絶頂しても、真夫は精を放たないという時間が続いていたが、そろそろもう一度出せそうだった。

 真夫は、かおりの腰を持ちなおして、亀頭を深々と子宮近くまで押し込むように律動する。

 

「あさひ姉ちゃんも、横になってよ。十回ずついくからね。俺がいきそうになった方に出すよ」

 

 真夫はかおりのヴァギナを突きながら言った。

 

「ああ、ず、ずるい……。わ、わたしに──」

 

「なにがずるいのよ……。ま、真夫ちゃん、あたしにして」

 

 あさひ姉ちゃんが、素早くかおりの横に仰向けに寝転んで足を開いた。

 真夫は、十回かおりの股間を律動してから、さっと隣のあさひ姉ちゃんに怒張を移動させる。

 抜きときに、かおりが切なそうな声をあげた。

 

「あ、ああ、真夫ちゃん、あたし、いく……。すぐにいっちゃいそう──」

 

 今度はあさひ姉ちゃんが切羽詰まった声をあげた。

 

「先にいったら終わりだ。そしたら、かおりちゃんをずっと犯して、最後に精を放つことにする」

 

 真夫は言った。

 

「あっ、ず、ずるい……。だ、だったら、我慢する……」

 

 あさひ姉ちゃんが歯を食い縛るような仕草をする。

 

「ね、ねえ、真夫君、そろそろ、わたしじゃない……?」

 

 隣のかおりが甘えるような声を出す。

 真夫は笑いながら、肉棒をあさひ姉ちゃんから、かおりに移動させる。

 

 三人の性の祭はまだまだ続く。

 

 


 

 

 隠し扉になっている本棚が揺れたのがわかった。

 玲子は微睡(まどろみ)から身体を目覚めさせ、突っ伏していたソファーのひじ掛けのところから身体を起こした。

 がらがらと本棚が開いて、真夫がやって来た。

 

 ひとりだった。

 理事長室の隣室で、ずっとモニターで観察していたときと同じで、地下の調教室に玲子が準備したガウンを身に着けている。

 

「ま、真夫様」

 

 立ちあがって、真夫を迎えた。

 ふと、壁の時計に目をやる。

 すでに夜中の二時に近い。

 

「多分、待っていると思いましたよ、玲子さん。やっぱりいましたね」

 

 真夫はにっこりと笑った。

 その瞬間、玲子は全身から力が抜けてしまって、身体が溶けたように熱くなるのを感じた。

 

 駄目だ……。

 玲子は、本当に自分はこの少年に参ってしまっているのだと自覚した。

 

 玲子は、自分は心の冷たい女であり、恋愛など無縁の人間だと信じ込んでいた。

 だから、無理矢理に龍蔵の奴婢にされたときも耐えられたし、龍蔵や秀也に調教されることで得ることのできた地位と財産に満足した。

 だが、それは、真夫と出逢うまでのことだ。

 なにもかも投げ打っても失いたくないものが、ここにある。

 真夫のためなら、いま自分が持っているすべてのものを捨てることができる。

 そんな気持ちに自分がなるということは、玲子には信じられないことだった。

 

 そして、今日……。

 

 真夫はついに、白岡かおりの調教を開始した。

 

 玲子は、真夫の荷を運び入れると、すぐにこの特別寮を後にして、理事長室に隣接するモニター室に向かった。

 モニター室からは、この学園内に張り巡らせているすべての隠しカメラと映像を見ることができるのだ。この真夫たちのいる部屋の地下も例外ではない。

 玲子は、多少の興奮を抑えながら、モニター室から真夫たちの様子を眺めた。

 

 真夫が、どのようにかおりを残酷に扱い、そして、落とすのか興味があったのだ。

 それに、もしも、真夫と恵の手に負えないようだったら。そのときは、さらに玲子も調教に加わるつもりだった。

 人を屈しさせるというのが、実際にはどんなに難しいかは、玲子自身がよく知っている。

 

 玲子は、龍蔵に調教され続けた一年間、実際には、龍蔵にまったく屈してしなかったと思う。

 

 それは、玲子の調教係となった秀也に対しても同じだ。

 玲子は、ただ屈したように見せかけていただけであり、それは、そうすることが玲子の得になると思えばこそだった。

 彼らの仕打ちは、確かに玲子の心を砕き、反抗の意思と牙をすっかりともぎ取ったが、それは、別の面から観察すれば、玲子自身が望んだ結末でもあった。

 龍蔵と秀也に従い、彼らの望む女奴隷になっていれば、一介の女弁護士では考えられないほどの地位と財産、そして、得難い経験を得ることができる。

 

 豊藤財閥の中枢に接することができるという立場を得ることができるのであれば、女としての矜持や自尊心など、なにほどのものもない。

 そう思い込んできた……。

 

 だが、もう駄目だ。

 

 玲子は真夫という少年と出逢ってしまった。

 いま、真夫と別れることを代償に、豊藤財閥そのものを与えると言われても無理だろう。

 確かに、真夫は、あるいは、龍蔵の地位を継いで、豊藤のすべてを手に入れる少年なのかもしれない。

 しかし、もしも、そうでないとしても、玲子は喜んで真夫についていく。

 それが豊藤財閥を決別することであったとしても、玲子はほんの少しの躊躇も抱くことができないと思う。

 玲子は、冷たい自分が、ここまで真夫に熱くなってしまったということがいまだに信じられない。

 

 だが、それが事実だ。

 

 いまも、真夫がかおりを調教し、それだけでなく、恵まで交えて、仲睦まじく抱き合うのを見ていて、いてもたってもいられなくなってしまった。

 玲子は、真夫がかおりを残酷に扱い、あの生意気な性格を叩きのめして、ぐうの音も出ないくらいに痛めつけるのだと思い込んでいた。

 それが、同情できる点があるとはいえ、真夫を冤罪に陥れて、厚かましくも、その事実を隠してきた女生徒に相応しい仕打ちであると思ったし、事前にかおりに接した玲子は、むしろ、真夫がかおりを冷酷に扱い、そのプライドを無慈悲に打ち砕く光景に期待さえしていた。

 

 しかし、真夫がやったかおりに対する「調教」は、玲子の知っているものとは、まるで違っていた。

 確かに、最初こそ、恵に与えたスタンガン棒の洗礼から始まった調教だったが、電撃の痛みくらいでは恵が屈することはないと判断したのか、真夫は一転して、「軟派」でかおりを責め始めた。

 

 すなわち、かおりに「奴婢になってくれ」とお願いしたのだ。

 

 これには玲子も驚いたが、この一言で、あれほど頑なに見えたかおりが一変した。

 なんと、あっさりと、真夫の奴婢になることを受け入れたのだ。

 

 それから先は、モニターで観察している玲子が嫉妬さえ思える光景がずっと続いた。

 

 浣腸をして目の前で排便させて恥辱を与えたかと思えば、その代わりに浴室で優しい愛撫と口づけ──。

 それからは、かおりだけでなく、恵も交えた責めだ。

 それは、調教というよりは、快感に悶える三人の若い男女の性の遊戯そのものだった。

 玲子は、真夫と恵と仲良さそうに悶え狂うかおりに嫉妬さえ感じた。

 いずれにしても、あんな風に鞭と飴を繰り返されたら、どんなに石のように冷たい女でも真夫に落ちる。

 そう思った。

 

 ともかく、玲子は、いてもたってもいられなくなってしまった。

 どうしても我慢できなくなり、ここまでやって来たということだ。

 

 その真夫が目の前にやって来た。

 玲子は思念から我に返った。

 

「あ、あのう……ふたりは?」

 

「寝てますよ。多分、朝まで起きて来ないと思います。それに、起きてもここには来られません。首輪をして、床の金具に鎖で繋げてきました。明日は一日、ふたりを雌犬にして遊ぶつもりです。犬のように、口で食事をさせて、目の前で糞尿をさせ、運動をさせたりね……。ふたりを一階に連れ来るのは夕方です。それまでは、あのふたりには、人間であることを忘れてもらいます」

 

 真夫が笑った。

 なんとなく失望感を覚えた。

 真夫に丸一日も犬として躾けてもらえる……。

 そんなプレイなら、玲子も受けてみたい。

 だが、かおりがいる場所で、玲子が真夫に抱かれるわけにはいかない。

 

「……じゃ、邪魔をするつもりはなかったのです。でも、時子さんから預かり物が……」

 

 玲子は話題を変えようと言った。

 言葉にしたことは本当だった。

 理事長室の隣のモニター室にいた玲子に時子から電話があり、真夫に渡すものがあるから、受け取れというのだ。

 そして、すぐに、理事長室に使いがやって来た。

 驚いたことに、使いは、あのナスターシャだった。

 たったひとりだったが、最初に見たときの傍若無人さはかき消えていた。

 なにかに怯えるようにおどおどとしていて、玲子に荷を渡すときも、すごく緊張している感じだった。

 玲子はちょっと可哀想になった。

 結局、ナスターシャとは、ほとんど会話をすることなく別れた。

 

「これです」

 

 玲子はテーブルに置いていた時子からの預かり物を手に取ろうとした。

 荷は小さなケースだ。

 中身は知らない。

 電子ロックがかかっていて、認証用のタップに指紋を押しつけて解除するタイプのものだ

 おそらく、真夫の指でなければ、開かないようになっているのだと思う。

 

 しかし、その瞬間、ぱんという音が玲子の頬で鳴った。

 次いで、痛み……。

 

 真夫が玲子の頬を叩いたのだとわかったのは、数秒がすぎてからだ。

 玲子は真夫に叩かれたという事実に、呆然としてしまった。

 

「ま、真夫様?」

 

 玲子は思わず、真夫の顔を凝視した。

 しかし、続けざまに反対の頬を叩かれた。

 玲子は衝撃のためというよりは、真夫に折檻をされたというだけで、腰の奥が熱くなった感じになってしまって、ソファーに尻もちをついてしまった。

 

 真夫がソファに崩れ落ちた玲子の隣に座り込む。

 そして、スカートの中にさっと手を入れて、さらに、下着の股間に部分をずらされ、指をつっと膣に挿入してきた。

 

「う、ううっ」

 

 玲子は身体を仰け反らせた。

 

「嘘は駄目ですよ、玲子さん。玲子さんは、俺に抱かれたくて来たんじゃないんですか? そりゃあ、時子婆ちゃんからの預かり物があったかもしれないけど、それは、こんな夜中にすぐに届けなければならないものじゃなかったはずだよ。時子婆ちゃんも、明日の朝に届けなさいと言っていたんじゃない?」

 

 真夫が指を玲子の股間から抜き挿ししながら言った。

 しかも、その指が玲子のGスポットをぐいぐいと刺激する。

 玲子は、たちまちのうちに脳天が痺れるような疼きを感じてしまった。

 

「あ、ああっ、も、申しわけありません……」

 

 玲子は思わず言った。

 早くも全身には、怖ろしいほどの情欲が吹き荒れてしまっている。

 いきなり、頬を二発も叩かれて、玲子はもう真夫に飲まれてしまったようだ。すっかりと理性が飛んでしまっている。玲子は、ほとんど絶頂と思わせる感覚に、頭の上から足の爪の先までを貫かれた。

 

 それに、真夫の言葉も事実だった。

 

 時子が玲子に言ったのは、明日にでも、明後日にでも届けろということであり、こんな夜中に真夫の部屋を訪れてまで、早急に届けなければならなかったものではない。

 玲子は、真夫に会いたくて来ただけだ。

 真夫が恵だけでなく、かおりのことまで親しそうに抱くのを見て、いてもたってもいられなくなった。

 それが真相だ。

 

 玲子が叱られた理由は理解した。

 真夫に抱いて欲しくなったのなら、小賢しくも用事があって来たなどと説明すべきではなかったのだ。

 玲子は、本当に自分自身のそういう性質が嫌になる。

 

「あ、ああっ、ま、真夫様に会いたくて……き、来ました……。あ、会えなくても……。そ、そばに行きたいと……」

 

 玲子は息を荒くしたまま言った。

 真夫が玲子をいたぶる指は一本から二本になっていた。

 玲子の股間からは、はしたない水音がはっきりと聞こえてくる。それだけ、玲子が股を濡らしていたということだ。こんなにも蜜を溢れさせているにもかかわらず、小賢しいことを口にした自分を真夫は呆れたことだろう。

 玲子は泣きそうになってしまった。

 

「嬉しいですね。俺も玲子さんに会いたかったですよ。贈り物があるんです……。でも、その前に、玲子さんをレイプしますね」

 

 真夫は玲子の両腕を背中にもっていった。

 いつの間に手にしていたのか、真夫は手錠を持っていて、玲子は両手首に手錠を嵌められた。

 真夫は指で股間を弄りながら、さらに巧みにクリトリスの包皮を剥き、露わになった肉芽を転がしだす。

 そして、片手をブラウスの中に差し込んで、ブラジャーをずらして乳房を揉みだした。

 

「ああっ、ああっ、はああっ」

 

 玲子はあられもない声を噴きこぼした。

 真夫の指は信じられないくらいの快感を玲子から引き出す。

 

「明後日から授業が始まりますね。そうすると、玲子さんは、また、生徒の俺に遠慮して、抱かれに来るのを躊躇うかもしれない。だから、明後日からは、玲子さんの股間は貞操帯で封印します。股間に俺のペニスそっくりのバイブを挿入してね。貞操帯のまま、おしっこはできますが、大きいのは無理です。だから、玲子さんは、どうしても、定期的に俺に会いに来なければならないということです……。どうですか、この考え?」

 

 真夫が玲子の片脚を掴んで、下着の股間部分をずらして、そこから肉棒を貫かせた。

 玲子は大きな声をあげた。

 気持ちいい……。

 なにも考えられない……。

 一気に駆け昇った戦慄に、玲子は全身を大きく身体を弓なりにした。

 

「う、嬉しいです……。れ、玲子を管理……し、して……く、ください……ああっ」

 

 玲子は真夫に犯されながら叫んだ。

 龍蔵や秀也に受けた股間管理を真夫にもされる。

 玲子の心に震えるような高揚感が沸き起こる。

 

 真夫にしがみつきたいと思った。

 だが、両手が自由にならない。

 まるで本当にレイプを受けているような感覚が、さらに、玲子を興奮させる。

 

「うううっ、い、いきそうです……。ま、真夫様、い、いくうっ、いってしまいます……」

 

 狂うかと思うような快感で身体全体にいっぱいになる。

 玲子は全身を突っ張らせた。

 

「いってください、玲子さん」

 

 真夫が律動を続けながら優しく言った。

 

「んぐううっ」

 

 次の瞬間、玲子は大きな快楽の高みに押しあげられてしまった。

 頭が真っ白になる。

 終わらない快感が全身を繰り返し席巻し続ける。

 そして、真夫が玲子の中に精を放ったのがわかった。

 玲子は、さらなる幸福感に全身を包まれた。

 

「可愛いですね、玲子さん」

 

 真夫が喘ぎ声が続いている玲子に口づけをしてから、さっと玲子から離れた。

 

「あ、ありがとうございました……」

 

 玲子は荒い息をしながら言った。

 そのとき、真夫が細い金属のチョーカーを玲子に近づけているのがわかった。

 銀色をしていて、首輪にはなんの模様もないように見えた。

 だが、それが顔のそばまで来たとき、小さな文字が表面に刻まれていることに気がついた。

 薄く刻まれているだけなので、余程に目を凝らさないと、チョーカーの表面に文字があるなどわからない。

 文字はアルファベットのようだ。

 ふと見ると、玲子が預かって来た時子からの届け物の鞄が開いている。

 中身は、十本ほどの同じチョーカーだ。ほかにも、たくさんの輪っかがある。

 真夫はそのうちの一本を取り出して、玲子の首に嵌めようとしているのだ。

 

「これをしてください。あさひ姉ちゃんにも、かおりちゃんにも同じものをさせます。俺の奴婢であることの証となるものです。同じものをしているのがばれれば、目ざとい者は、あさひ姉ちゃんやかおりちゃんと同じように、玲子さんも、俺たちと特別な関係であることに気がつく可能性もありますが、そのときはそのときです。時子婆ちゃんに作って欲しいものがないかと訊ねられたので頼んだんです。手首に嵌めるブレスレットを接触させれば、この首輪から出る電磁力によって、手が離れなくなります。解除は俺でないとできません。外すことも……」

 

 真夫は玲子の首にチョーカーを嵌めた。

 閉じていた輪が後ろで閉まるとき、電子音が鳴って、確かに電子錠がかかったのがわかった。

 真夫は続いて、チョーカーと一対の一組のブレスレットを取り出した。

 それも、時子から預かったケースに入っていたものだ。

 

 真夫が玲子の後ろ手錠を外すと、玲子は自分から両手を差し出した。

 玲子の手首にブレスレットがかかる。

 ただのアクセサリーにしか見えないが、間違いなく、これらは拘束具だ。

 真夫の拘束具を日常から嵌めて生活をする。

 そう思うと、玲子はぞくぞくと身体が震えそうになった。

 

 そのとき、玲子は手首のブレスレットにも、なにかの文字が刻んでいるのがわかった。

 さっき、チョーカーに刻まれていたものと同じように見える。

 玲子は目を凝らした。

 

 

 “Ego sum servus Mao.”

 

 

 ふたつのブレスレットには、同じ言葉が刻まれている。

 おそらく、チョーカー、すなわち、首輪も同じだろう。

 

 ラテン語だ。

 

 “私は真夫の奴隷です”

 

 意味はそうだ。

 玲子はうっとりとしてしまった。

 

「あ、ありがとうございます……。嬉しいです……」

 

 玲子は込みあがった笑みを隠すことができずに、口元を大きく綻ばせたまま言った。

 

「お礼を言うことじゃないですよ。説明した通り、それは拘束具です。SM具ですから……。それと、それだけじゃないですよ。足首に嵌めるものもあります。首と手足の足首。五本で一セットです。これで、いつでもどこでも、俺に好きな体勢で、好きなときに拘束されることになるんです。覚悟はいいですね?」

 

 真夫がお道化て言った。

 

「でも、嬉しいです。本当です……。それに、叱ってもらえたのも……」

 

「叱って? ああ、叩いたことですか。軽いプレイのつもりだったんですけど、痛かったですか?」

 

 真夫が少し困惑の表情をしている。

 

「いえ、嬉しかったのです。これからも、どんどん叱ってください。すっかり癖になりそうです」

 

 玲子は、真夫の胸に抱きついた。

 真夫が苦笑した。

 

 もう迷いはない。

 この人に出逢えてよかった。

 そして、いまは、ただ抱きつきたい。

 抱きつきたいから抱きつく。

 それだけでいいのだ。

 

 真夫がそっと玲子の身体を抱き締めてくれた。

 玲子は真夫にしがみついたまま、ソファーにしばらく横になったままでいた。

 

「……わたしと、恵さんと、かおり……。だけど、時子さんからの贈り物は、まだ数がありますね」

 

 ケースに入っていたのは、十組の輪っかだ。

 三人にそれを装着させても、まだ七組分もある。

 

「……時子婆ちゃんが、すぐに必要になるからって……。俺は十分だと言ったんですけどね」

 

 真夫が頭を掻いた。

 玲子は首を横に振った。

 

「確かにそうですね。真夫様なら、確かに十組では足りないかもしれません」

 

「まさか?」

 

 真夫が笑った。

 どうやら、玲子の言葉を冗談だと捉えたようだ。

 だが、玲子には予感があった。

 この真夫は女を虜にする男だ。

 確かに、真夫はすぐに、この十組の拘束具の装飾具を使い切るような気がする。

 

「いえ、絶対です……。どうぞ、気に入った女生徒がいれば、ご遠慮なさないでくださいね。約束してください。生徒会長の西園寺絹香などどうですか? 明日の夜には、実家から寮に戻るので眺めてください。気に入りそうであれば、わたしが罠を仕掛けますし……」

 

「なにを言ってんですか、玲子さん。そんなことできるわけないでしょう」

 

 真夫が笑いながら言った。

 玲子の物言いをまだ冗談と思っているようだ。

 しかし、真夫には、玲子ごときの女だけでは不足だ。恵もそう思っていると思う。ましてや、かおりなど不十分だ。

 この少年は、女を支配する能力を持った豊藤の血を引く少年なのだ。

 もっと一流の女たちに、かしずかれるべき存在だ。

 

 そのとき、西園寺絹香には秀也の手がついているかもしれないということをふと思い出した。

 だが、それがなんだとも思った。

 秀也は危険だが、龍蔵が真夫に秀也が手を出すのは許さないはずだ。

 だったら、この真夫が秀也から女生徒を奪い、秀也が口惜しがってくれれば、一年ものあいだ、馬鹿にされ続けてきた玲子の溜飲も下がる。

 

「本気です」

 

 玲子は強く言った。

 すると、真夫が目を丸くした。



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第8章  危機
 第47話  特別寮の生徒たち


「大きなテレビねえ。あたし、なにかと思っちゃった」

 

 あさひ姉ちゃんが目を丸くしている。

 特別寮の中にある共有のリビングだ。

 玄関から入ったところにある広間であり、ここから五個の各居室に繋がっている。

 真夫とあさひ姉ちゃんとかおりは、丸二日入り浸った自室からやっと出てきて、ここにやって来た。

 充実した二日間であり、まだまだ続けたかった気もするが、もう日曜日の夜だ。

 ほかの寮生に、今日のうちに挨拶くらいは済ませたい。

 それで、ここで待つことした。

 

 待っているあいだにつけたのが、備え付けのテレビだ。

 かおりがチャンネルを選んだが、流れてきたのは歌番組だ。

 真夫たちは、なんとなくそれを三人でソファーに並んで座って眺めている。

 

 また、部屋から外に出てきてわかったが、それぞれの五個の扉の居室の上にある光の表示がある。

 真夫たちの部屋は赤くなっていて、あの秀也の部屋は光が消えたままだ。ほかにも、西園寺絹香と表示のある部屋と加賀豊の部屋も無点灯だ。

 一方で、金城光太郎の部屋は青く光っている。

 

 真夫の勘では、無点灯は室内に人がいないということであり、光がついているのは室内に人がいるということではないかと思った。

 だから、金城光太郎という生徒は、もう週末外泊から戻っていると思った。

 ほかの者はまだに違いない。

 真夫の部屋と金城の色が違うのは、真夫が部屋の外に出ているからだろう。真夫が部屋に戻れば、自動的に光は青に変わる気がした。

 ともかく、最初は、真夫の方から部屋をノックして、まずは、その金城光太郎という男子生徒に挨拶をしようと思った。

 だが、かおりに制された。

 特別寮の部屋は、緊急の用事がない限り、他者が部屋を訪ねてはならない決まりがあるらしい。完全プライベートが保障されているということだ。

 もしかしたら、もう部屋の外には出てこないかもしれないが、そうであれば、朝ここで待って挨拶をする方が無難だという。

 

 よくわからないが、上流階級のマナーなどは、かおりに教えてもらうしかない。

 真夫は従うことにした。

 だが、まだ、残りの三人はここで待っていれば、挨拶のタイミングがある。

 もっとも、長く玲子さんの調教係だったという秀也という少年に会うのは複雑な感情ではある。

 だが、考えてみれば、真夫はまだ一度も秀也は見ていない。

 どんな人物だろうかという興味はある。

 

「なによ、これくらいのテレビ。普通でしょう。恵ったら大袈裟ねえ」

 

 かおりが呆れたような声を出した。

 昨日までは、対立し合いながらも“恵さん”と呼んでいたかおりだったが、今日一日の「遊び」ですっかりと打ち解けて、呼び捨てで呼び合う仲になった。

 まあ、よかった。

 これも、丸一日の雌犬ごっこのおかげだろう。

 あれだけ、お互いの恥部を晒し合えば、打ち解けるなという方が無理がある。

 

「そういえば、あさひ姉ちゃんのアパートって、テレビなかったね」

 

 真夫は思い出しながら言った。

 あの部屋には、結構な電化製品があったが、テレビはなかったように思う。

 

「テレビなんて、真夫ちゃんと暮らした施設っきりよ。高校の寮にもなかったしね。真夫ちゃんは?」

 

 真夫は同じだと肩を竦めた。

 これまでいた真夫の高校の寮にもテレビはない。テレビなんて、もう何年もみてないと応じた。

 すると、真夫の隣に腰かけているかおりが目を丸くした。

 

「テレビがないって? じゃあ、専らネット?」

 

 かおりが言った。

 

「まさか」

 

 真夫は笑った。

 ネットどころか、携帯電話も持っていなかった。

 いま持っているのは、玲子さんから渡されたものだ。

 かおりがびっくりしたような顔になった。

 

「だったら、どうやって外の情報を仕入れるの? ファッションとかは?」

 

「あたしはネットはするわよ。大学のゼミのやつだけどね。なんにも知らないのは真夫ちゃんよ。好きな芸能人とかいないでしょう?」

 

 あさひ姉ちゃんが笑った。

 真夫は首を傾げた。

 確かに、好きな芸能人とか訊ねられても思いつくものがない。

 そもそも、いまどんな芸能人がいるのかも、よくわからない。

 

「へえ……。本当に貧乏だったのね。同情するわ……」

 

 かおりが笑った。

 だが、その笑いには悪意のようなものはなかった。

 だから、横のあさひ姉ちゃんもつられて笑っている。

 

「かおりちゃんの好きな芸能人は?」

 

 訊ねてみた。

 すると、かおりは、アイドルグループだという歌手の中のなんとかという男が大好きだと答えた。教えてもらったものの、まったく真夫には聞き覚えのない名前だ。聞いたそばから忘れてしまった。

 知らないと応じると、かおりがショックを受けた顔になった。

 

「……まあいいわ。じゃあ、恵も同じようなもの? 芸能人とかには興味なし?」

 

 かおりがあさひ姉ちゃんに視線を向ける。 

 

「あたしは、真夫ちゃん一筋よ」

 

 あさひ姉ちゃんがきっぱりと言った。

 真夫はこっちが恥ずかしくなった。

 

「なによそれ」

 

 かおりがぷっと噴き出した。

 真夫も苦笑した。

 

「いずれにしても、世間には疎いということね。じゃあ、わからないことがあれば、なんでも訊いて。教えるから」

 

 かおりが言った。

 真夫はよろしく頼むと言って、かおりを抱き寄せて、額に軽くキスをした。

 

「う、うわっ、そんなの卑怯よ」

 

 すると、かおりの顔が真っ赤になる。

 だが、なにが卑怯なのかよくわからない。

 

「……そういえば、真夫君って、なんで、あさひ姉ちゃんって呼んでいるの? 恵じゃないの?」

 

 すると、かおりが急に話題を変えるように訊ねた。

 

「あたしの名前よ。朝比奈恵……。最初に会ったときに、名字で呼んじゃったのが癖になったのよね」

 

 あさひ姉ちゃんが言った。

 

「朝比奈? あんたって、そんな苗字だったの?」

 

 すると、かおりが首を傾げた。

 これには、真夫もちょっと驚いた。

 

「あたしの苗字、知らなかったの?」

 

 あさひ姉ちゃんもびっくりしている。

 

「あの玲子も、恵としか言わなかったしね。恵なのに、真夫君が“あさひ姉ちゃん”と呼ぶのが変だと思ってたのよね」

 

 かおりが屈託のない感じで笑った。

 真夫もあさひ姉ちゃんも、つい噴き出してしまった。

 

「あれっ、新しい人ね?」

 

 そのとき、寮の入口が開いて、数名の女生徒が入って来た。

 やって来たのは、三人の女生徒だ。

 一番前を長い黒髪をした美貌の女生徒は白と紺を基調とした清楚な制服だ。

 すでに真夫も支給されているがS級生徒を表す制服だ。また、後ろで荷を持っているふたりは、灰色の制服だ。

 これは従者生徒の制服のはずだ。

 いまは、真夫の従者生徒になったかおりも、同じものを着ている。

 相変わらず、制服の下はなにも身につけていない。

 二日間のセックス三昧で、売店棟に行く暇がなかったのだ。

 可哀想だが、明日の登校まではそのままで、教場棟に向かう前に、立ち寄るつもりだ。

 

 いずれにせよ、彼女たちは、生徒会長の西園寺絹香と従者生徒に間違いない。

 

 絹香の従者生徒は、可愛らしい顔をした小柄なふたりだ。

 前髪の分け目が左右で違うだけで、同じ顔をしている。

 双子のようだ。

 

「西園寺さんですね。坂本真夫です。こっちは、一緒に暮らすことになった朝比奈恵と白岡かおりです。よろしくお願いします」

 

 真夫は立ちあがった。

 すると、ふっと彼女の顔が不自然に緩んだ気がした。

 そして、ぱっと紅が差すように、頬が赤くなる。

 

「えっ?」

 

 真夫は思わず声を出してしまった。

 絹香の外面の変化ではない。

 外からはわからない内面の心の不自然な変化が、真夫に急激に入り込んできたのだ。

 

 いや、入ってきたというよりは、あまりにも不自然な心の動きだったので、真夫に芽生え始めている特殊な能力が勝手に絹香の感情を読んでしまった感じだった。

 

 最初に存在したのは、真夫たちに対する純粋な好奇心のようなものだったと思う。それは自然な感情だったので、真夫自身も心を読んでいるというつもりもなかった。

 しかし、すぐに、それが急激に真夫に対する好感情に置き換わったのを感じた。

 だんだんと変化するのではなく、なにかの巨大な力によって、無理矢理に変化した感じだった。

 一方で、絹香の心に、あさひ姉ちゃんとかおりに対する悪感情も沸き起こっている。

 それは非常に危険なもののように思った。

 だから、真夫は、その不自然さにすぐに反応してしまった。

 

「どうかした、真夫ちゃん?」

 

 あさひ姉ちゃんが心配そうに声をかけてきた。

 真夫が急に黙りこくったためだろう。

 しかし、真夫は目の前の絹香に集中している。

 

「どうかした? そんなに見ないでよ……。恥ずかしいわ……」

 

 すると、絹香が妖艶に微笑んだ。

 だが、これは、絹香であって、絹香ではない。

 真夫は確信した。

 

「変な人……。でも、悪くないわ……。ねえ……」

 

 絹香がすっと真夫に寄ってきた。

 そして、いきなり真夫の唇に唇を重ねてくる……。

 これには、真夫も度肝を抜かれた。

 

「ええっ?」

「な、なにっ?」

 

 大きな声は、あさひ姉ちゃんとかおりの悲鳴だ。

 背後の双子も驚愕している。

 

 しかし、真夫は口づけよりも、あの不可解で、かつ、不愉快なものを排除したい……。

 それを強く思った。

 

 絹香の心にある、得体の知れない黒い影──。

 あれを消してしまおう……。

 ほとんど無意識によるものだったが、真夫でも絹香でもない、ほかの誰かに、目の前の女生徒の心が関与されようとしているのが不快だったのだ。

 それに、特に苦労せずにできそうでもあった。

 真夫は、絹香の口づけを受けながら、念を強くした。

 

「えっ?」

 

 すると、絹香の身体がぐらりと崩れた。

 

「絹香様」

「お嬢様」

 

 後ろの双子が手を伸ばそうとした。

 だが、真夫の方が対応が早い。

 倒れかけた絹香をしっかりと真夫は両手で抱いていた。

 すでに、絹香の心にあった黒いなにかの影は消滅している。

 真夫が念じることで、やはり、それは容易にかき消すことができた。

 

「わっ、な、なに?」

 

 絹香が当惑している。

 そして、まじまじと真夫を凝視した。

 

「は、離して──」

 

 絹香が動揺したように、真夫の胸をどんと押した。

 真夫は大人しく絹香から離れた。

 すると、絹香がぱっと顔を赤らめた。

 

「あっ、ごめん。とっさに……。で、でも、わたし、どうしたのかしら……。あれっ? 一瞬、記憶が跳んで……」

 

 絹香は混乱している感じだった。

 真夫は首を傾げた。

 

「倒れかけたんですよ、大丈夫?」

 

 真夫は言った。

 

「いきなり、真夫君にキスしたのよ」

 

 かおりが不機嫌そうに言った。

 

「キス……?」

 

 絹香は首を傾げている。

 そして、顔がまたみるみる赤くなった。

 

「覚えてないの?」

 

 あさひ姉ちゃんが口を挟んだ。

 

「お、覚えている……。で、でも、なんで、あんなことしたのか……。ご、ごめんなさい……」

 

「いいえ、光栄ですよ。あなたのような美人にキスされて嬉しいですね」

 

 真夫は笑顔で言った。

 だが、一方で、笑顔の下では、さっきのことを考えていた。

 あれは、おそらく、催眠術のような心の操りだろう……。

 絹香は何者かによって、なにかの暗示を刷り込まれていた?

 それが、真夫に会うことで発動した……。

 

 整理すると、そういうことになるのだろう……。

 しかし、誰が……?

 

 つまりは、真夫に芽生え始めた、他人の心に触れる力を持つ者がほかにいるということだが……。

 真夫は、なんとなく秀也という少年の影を感じた。

 考えてみれば、玲子さんは奇妙なくらいに、秀也のことも、龍蔵という人のことも語らない気もする。

 それは、玲子さんと真夫との関係を考えれば、奇妙なことでもあった。

 もちろん、玲子さんの心を疑うわけではないが……。

 

 つまり、ふうん……。

 

 絹香は当惑している感じだったが、すぐに乱れていた呼吸を整え直して、動揺を隠すような仕草をした。

 

「だ、大丈夫……と思う。よくわからないけど……。まあ、で、でも大丈夫……。改めてよろしく、坂本君」

 

 絹香がすっと手を出した。

 

「よろしくお願いします、西園寺さん。また、不意打ちでキスをしてもらっていいですよ。いつでも、大歓迎です」

 

 真夫は絹香に握手を返しながら言った。

 

「……バカね……」

 

 絹香が吹き出した。

 今度こそ、濁りのない本物の感情だ。

 真夫はほっとした。

 

「……それと、“さん”付けはやめてよ。あなたとわたしは同じクラスよ。クラスメートになるんだから、もっと打ち解けた感じで呼んで欲しいわね」

 

 絹香が笑った。

 笑うとすごく可愛い顔になる。

 真夫も頬をほころばせてしまった。

 

「じゃあ、呼び捨てで。俺のことは、真夫と呼んで欲しいね、絹香。坂本と呼ばれるのは好きじゃないんだ」

 

 真夫は絹香から手を離して言った。

 

「どうして?」

 

 絹香が首を傾げた。

 

「坂本という名は、本当の名じゃないんだ。市長さんが適当につけただけの苗字でね。だけど、真夫というのは、俺の母さんからもらった名前らしいんだ。だからだよ」

 

 真夫は言ったが、絹香がよくわからなかったようだ。

 ただ、じゃあ、真夫と呼ぶとだけ言った。

 そして、恵に挨拶をし、さらにかおりに視線を向けた。

 

「一昨日は随分と不満そうだったけど、今日は機嫌がよさそうね、かおり。真夫君の従者生徒になったあなたも転級よ。わたしと同じクラス。よろしくね」

 

 絹香が言った。

 その物言いには、心なしかからかうような響きがあるように思った。

 

「よろしく、会長。真夫君の奴婢生徒の白岡かおりよ」

 

 かおりがにんまりと微笑んだ。

 奴婢生徒というのは、従者生徒の蔑称だ。

 その言葉で堂々と自己紹介したかおりに、絹香が気圧されたように眉をひそめた。

 

 そのとき、別の喧噪が入口から起きた。

 真夫は視線をあげた。

 やって来たのは、長身で明らかに髪を茶色く染めているとわかる男子生徒だ。五人ほどのほかの男子生徒が続けて入って来たが、その長身の男子生徒だけがS級生徒の制服を着ている。

 ほかの男子生徒は取り巻きだろう。

 飲み物や菓子類を包んでいるとわかるレジ袋を持っている。

 

「あっ、加賀君。こっちは新しくこの寮にS級でやって来た坂本真夫君よ。真夫君、こっちは加賀豊──。ほかの人は……。いつもの取り巻き。ああやって、いつも、周りに人を集めてるわ」

 

 絹香が肩を竦めた。

 

「坂本真夫といいます。よろしく」

 

 真夫は手を出した。

 しかし、加賀は立ち止まって、首を傾げる仕草をしただけだ。

 握手を返そうとする気配はない。

 真夫は手を引っ込めた。

 

「ああ、例の……」

 

 やがて、加賀はぽつりと言った。

 そして、しばらく値踏みをするように真夫のことをじっと見続けたあと、口を開いた。

 

「お前、どこの家だ?」

 

「家?」

 

「実家だよ、実家。結局、どうなってんだよ。この時期に突然、S級に割り込んできて、本当に孤児院出身ってことはねえだろ。本当はどこの家なんだよ?」

 

 加賀は苛立った口調だ。

 だが、不機嫌そうな外面に対して、真夫はこの加賀という男子生徒の心にある密かな恐れのようなものを感じた。

 

 なんてことはない。

 

 怒ったような外見の裏は、正体のわからない真夫に対する恐怖心があるようだ。

 そう考えると、ちょっとおかしくなった。

 

 真夫はわざとらしく首を竦めてみせた。

 

「孤児というのは本当だよ。ただ、新しい理事長は俺の女でね。それで、特別待遇になったということさ」

 

 真夫は言った。

 

「えっ?」

 

 横で小さな声をあげたのは、あさひ姉ちゃんだ。

 真夫があっさりそれを白状するとは思わなかったのだろう。

 だが、加賀がそれを信じるわけがない。

 真夫には確信がある。

 

 案の定、加賀がけたたましく爆笑した。

 そして、取り巻きたちも続いて笑う。

 

「愉快なやつだな。まあ、あのゴリラよりも余程いい。あいつのおかげで、S級も格が下がっていたが、替わりにお前が入るんなら、S級の品もあがるというものさ。よろしくな」

 

 加賀が手を差し出す。

 真夫はしっかりと手を握り返した。

 

 そのとき、背後で扉ががちゃりと開く音がした。

 真夫は視線を向けた。

 扉が開いたのは、特別寮の生徒である金城光太郎の部屋だ。

 しかし、現れたのは、男のような軽装をした可愛らしい顔立ちをした女の子だった。

 

 光太郎の従者生徒?

 

「おう、光太郎、新入りだ。なかなか愉快な男だぜ」

 

 加賀が言った。

 光太郎?

 真夫は驚いた。

 だが、てっきり、女の子だと思ってしまったが、そう言われれば、胸は平らで膨らんでない。

 しかし、そう思っても不自然でないくらいの女の子のような顔立ちだ。

 

「ああ、あのゴリラの入れ替わりか。歓迎するよ」

 

 光太郎が破顔した。

 笑うと、ますます女の子に見える。声も太くなく高い。

 真夫は複雑な気持ちになった。

 

「とりあえず、これでS級全員か。だが、こうやって一同に会すのも珍しいことだな。なら、折角だ。たまたま、色々と買ってきたから、ここにいるみんなで歓迎会といこうぜ」

 

 加賀が陽気に言った。

 絹香と光太郎が頷く。

 これには、真夫は驚いてしまった。

 

「秀也という人は?」

 

 真夫は言った。

 

「秀也?」

 

「ああ、そうか」

 

「えっ?」

 

 三人を含め、他の者もきょとんとした顔になった。

 まるで、存在はしているのは承知しているが、秀也に対する印象そのものがない感じだ。

 真夫は唖然とした。

 そして、すぐに納得もした。

 

 つまり、ふうん……。



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 第48話  新たな日常

 目が覚めた。

 温かいものが横にある。

 寝息をたてている真夫だった。

 かおりは、妙な幸福感に包まれた。

 

 この真夫を一昨日は憎い敵のような気持ちで、この部屋で待ち構えた。

 だが、いまにして思うと、なんでそんな感情を抱いてしまったのか、不思議で仕方がない。

 

 冷静に考えれば、真夫は誠実な男子だと思う。

 

 かおりを鬼畜に調教したり、恵と一緒にかおりを抱いたりと、ちょっとばかり常軌を逸するほどのスケベなところはあるが、それを含めて、女に対しては優しさのようなものを感じる。

 

 縛られたり、叩かれたり、侮辱的に扱われて、愛情を感じるというのは不可思議としかいえないが、事実、かおりはすでに、真夫に支配されることを悦んでいる。

 あの三人組に弱味を握られて、情けない思いをすることになったときは、人生の終わりのように感じていたが、真夫に支配されるのは悪くない。

 

 いや、全く悪くない。

 

 かおりは、少しのあいだうっとりと真夫の顔を眺めていた。

 

「……おはよう、かおり」

 

 寝台の横にある椅子から声がした。

 かおりは視線を向けた。

 

 恵だった。

 すでに、きちんと服を身につけている。

 かおりは寝台に備え付けられている時計を見た。

 六時前だ。

 夕べ寝るときは、恵もかおりと同じように素裸で真夫と寝たはずだから、随分早く起きたものだと思った。

 

「おはよう、恵……」

 

 かおりは言った。

 初めて会ったときには、かおりに対してスタンガンを使ったりして、どうしてやろうかと思ったが、結局のところ、この女子大生は、真夫のことしか考えていない変態マゾ女だった。

 かおりに乱暴したのも、かおりが真夫のことを冤罪に陥れたのが心底気に入らなかったからのようであり、そのくせ、真夫がかおりを受け入れ、プレイとして命じれば、かおりとのレズでも、かおりから責められることでも、なんでも受け入れる。

 

 完全な真夫の奴婢であり、真夫への傾倒ぶりは、かおりも呆れるほどだ。

 とにかく、真夫に調教されるのが嬉しくて仕方がないという感じであり、特に昨日丸一日の「雌犬プレイ」では、一緒に調教されたかおりも、たじろぎを覚えるような甘えぶりだった。

 

 いずれにしても、気がつけば、かおりは恵を受け入れていたし、恵もかおりを受け入れてくれていた。

 いまは、同じ男に仕える「同志」という気持ちだ。

 

「真夫ちゃんが許可したのは買っておいたわ。さすがに、今日から登校なのに、制服一枚しかないんじゃあ困るだろうしね。制服も簡単にしわを伸ばしておいたわよ。でも、ここって、本当に便利なところね。生徒しかいないのに、二十四時間開いている売店もあるなんて」

 

 恵が言った。

 かおりはびっくりした。

 確かに、寝台の横に準備された服掛けに、丁寧にアイロンがかけられている真夫の特別生徒用の紺と紫と白を基調とした男子用の制服と従者生徒用の灰色の女子用の制服が並んでいる。さらに下の籠には、制服以外のブラウスや下着もあった。

 

 かおりは、A級生徒から従者生徒に落とされるにあたって、あの理事長代理から、これまでの支給品と私物品を処分されてしまい、それこそ身に付けていた下着まで奪われて、制服一枚だけでここに来たのだ。

 従者生徒の持ち物は、全て「主人」生徒の許可を必要とする決まりだからだ。

 

 それだけでなく、ここの生徒は、売店でものを買うのに、各生徒の指紋による認証システムで購入し、代金は登録している口座などから引き落とされるシステムなのだが、奴婢生徒になったことで、かおりは許可なく売店でものを買えなくなった。

 奴婢生徒は、購入希望リストに主人にサインしてもらい、それを届け出ることで、やっとその品物を認証システムで受け取れるようにしてもらえるという仕組みなのだ。無論、代価は主人生徒の登録口座からの引き落としだ。

 

 真夫の奴婢になることを納得し、調教を受け入れることを条件に、必要とするものを買う許可はもらったが、まだ、売店棟に行く余裕もリストの届け出の時間もなかった。

 どうやら、恵はわざわざ早起きして、かおりのものを買ってきてくれたようだ。

 

「恵があたしのために?」

 

 かおりは目を丸くした。

 

「その代わり、真夫ちゃんのこと頼むわね。真夫ちゃんは、新しい学校のこと、なにもわからないんだから、助けてあげてよね。それと、誰かにいじめられたりしたら、必ずあたしに教えるのよ」

 

「はあ?」

 

 この真夫のことを守れとか、いじめられるとか冗談でも言っているのかと思ったら、その表情は真面目だ。

 かおりは、おかしくなった。

 

「大丈夫よ。夕べ、五人衆が真夫君のこと認めたでしょう。そもそも、真夫君自身が五人衆のひとりなんだから……。それに逆らって、手を出す生徒なんてないわよ。少なくとも表だってわね」

 

「五人衆?」

 

 恵が首を傾げた。

 

「五人衆というのは、この寮にいる特別待遇生徒、つまり、S級生徒のことなの。特に、加賀君と金城君に認められたのは大きかったわね。だから、大丈夫よ」

 

「でも、真夫ちゃんは孤児院出身なのよ。ただでさえ、真夫ちゃんは、大人しいから……」

 

「大人しい?」

 

 今度こそ呆れた。

 女子二人を奴婢として、平気でふたり並べてSMプレイするような男子を世間では「大人しい」とは言わない。

 そもそも、真夫はどう考えても、女に守ってもらうことを必要とするような大人しい感じでもない。

 

 それはともかく、さっきの恵の発言の中に、かおりも教えてもらいたいことがあった。

 真夫もまだ寝ているようだし、恵に訊いてみようと思った。

 

「ねえ、本当のところ、真夫君って何者なの? いきなり、この学園に、三年生で編入なんて聞いたことないわ。しかも、S級なんて、あり得ないわよ」

 

「だから、それは言ったでしょう。あんたのおかげだって……」

 

 恵が笑った。

 それについては、恵から昨日聞いた。

 かおりが真夫を冤罪にした償いを学園としてするために、真夫を恵ともども学園で引き取ったというのだ。

 しかし、恵はそんなことは、たわ言だと思っている。

 そんな馬鹿げた話があるわけがない。

 そう言った。

 すると、恵は声を顔をかおりにぐいと近づける。

 

「……だから、それも、こっそりと教えたでしょう……。あんたを調教して、エッチなことをするのが、この学園の理事長の趣味なのよ……。多分、昨日のエッチも隠しカメラで見られてるわよ。あんたも不本意だろうけど我慢してね。あたしも、真夫ちゃんも見られてるんだから……」

 

 その話も聞いた。

 だが、あまりにも、不自然な話だと思う。

 かおりは、三人組に脅されて、もっと人には見せられないような映像をたくさん撮影されている。

 それを入手したのであれば、わざわざ手の込んだことをしなくても、かおりはその相手の言いなりになるしかないだろう。

 だが、かおりに求められているのは、このSM趣味の奇妙な少年の女のひとりになることだ。

 かおりには、なんとなく、冤罪のことなど、真夫をこの学園に向かい入れる口実のように思えてならなかった。

 女子生徒の調教シーンの見物を代償に、一介の男子生徒を無料でこの学園のS級生徒に迎え入れるなど、この学園の理事長がどんなスケベ親父だとしても不自然だ。

 

「しっ、真夫ちゃんが起きるわ。あんた、上がいい? それとも、下?」

 

「はあ?」

 

 何を言っているかわからずに問い返した。

 しかし、恵はかおりの返事を待たずに、寝台にあがってくる。

 そして、自分の顔を真夫の顔に屈めた。

 

「あんた、まだ裸だから下ね。もうわかったと思うけど、真夫ちゃんは、とてもエッチよ。これから、しっかりと毎日頑張ろうね」

 

 恵が言った。

 そして、真夫が目を覚ました。

 

「おはよう、真夫ちゃん……。今日もよろしくね」

 

 すぐに、恵が甘えるような声を出しながら、真夫に抱きついてキスをし始めた。

 真夫はほんの少しぼんやりとしていたようだったが、すぐに、はっきりと目が覚めたみたいであり、恵の口の中に舌を差し入れて、舐め回し始める。

 

「ん、んん……」

 

 軽いキスではなく、口の中全体を舐め尽くすような濃厚な口づけだ。

 恵が我慢できなくなったように悶え始めた。

 

 この恵は、かおりも驚くほどに感じやすい。

 身体が敏感というよりは、真夫にいやらしいことをされると、まるで酔っぱらったように、くたくたになるのだ。

 その変化は、接していて面白い。

 

「あ、ああっ、真夫ちゃん──」

 

 恵が真夫の口から顔を離して、身体を大きくのけぞらせた。

 ふと見ると、いつの間にか、真夫の手が恵のスカートの中に入っている。

 

「ほら、俺があさひ姉ちゃんを悪戯するときは、いつも手は後ろだよ」

 

 真夫が笑いながら言った。

 その手は明らかに恵の下着の中でもそもそと動いている。

 この真夫はつくづくわからない。

 普段はむしろ物腰も口調も、柔らかすぎるくらいなのだが、エッチのときには人が変わったように、性癖全開の「オス」になる。

 

 まあ、それがいいのだが……。

 

「は、はい……」

 

 恵がよがりながら、両手を背中に回す。

 すると、真夫がちらりと、かおりに視線を向けた。

 

「なにやってんの、かおりちゃん。ここが空いてるよ」

 

 真夫が腰にまとわりついていた掛け毛布をはぐって、股間をあわらにした。

 恵が言った「上が恵で、下がかおり」というのは、こういうことかと思った。

 そこには、隆々と真夫の性器が勃起している。

 かおりは急いで、それを口に含む。

 

 フェラチオのやり方は、昨日、真夫に仕込まれた。

 昨日は、真夫からなかなか筋がいいと褒められもした。

 嬉しかった。

 かおりは、もう一度、真夫に褒められたくて、一心に舌を動かす。

 

「あ、ああっ、真夫ちゃん、真夫ちゃん……」

 

 一方で、かおりの声が激しくなった。

 相変わらず、真夫の指は恵の下着の中で無遠慮に動いている。

 多分、恵は、真夫から指を秘裂に挿し入られながら、クリを刺激されまくっている。

 真夫の手が入っている恵のミニスカートの中が、こっちの角度から丸見えなので、手の動きでわかるのだ。

 恵の下着の股の部分がどんどんと蜜で濡れてきていた。

 

「んああっ、ま、真夫ちゃん、真夫ちゃん……」

 

 恵の声がさらに大きくなった。

 おそらく、そろそろ達する。

 お互いに、昨日何度も目の前で絶頂し合ったから、相手がいきそうなときはわかる。

 

「ほら、さぼらない。キスだよ、あさひ姉ちゃん」

 

 真夫が笑った。

 恵が慌てて、真夫の口に唇を重ね直す。

 

 一方で、かおりもまた、真夫の一物を舐めながら、だんだんと全身が熱くなり、欲情している自分を感じていた。

 真夫の股間に触れている舌先がビリビリと痺れたようなり、そこから淫欲の疼きが身体中に拡がっていくのだ。

 それは、かおりの奉仕で、真夫の性器がさらにたくましくなり、亀頭の先から真夫の精液が滲み出るようなって、ますます顕著になった。

 これまで、かおりは男の精を好ましいものと感じたことなどなかった。

 でも、真夫が興奮してくれているのだと思うと、かおりもどんどんと興奮してくる。

 

「んあああっ」

 

 やがて、かおりが真夫から顔を離して、身体を弓なりにして果てた。

 

「可愛いね、あさひ姉ちゃん。下着を替えないとね……」

 

 真夫が恵のスカートからすっと下着を膝の上までおろした。

 

 奉仕をしながら、かおりはちらりと恵の下着を見た。

 その下着は股の部分がべっとりと蜜で濡れていた。

 

「う、うん……」

 

 恵が気だるそうに身体を起こして、真夫に半脱ぎにさせられて、膝の上に引っ掛かっている下着を手で触れようとした。

 

「いたっ」

 

 そのとき、パシリと小さな音がした。

 そんなに強い力じゃないが、真夫が恵の手を叩いたのだ。

 

「あっという間にいっちゃった罰だよ。しばらく、パンツをそのままですごすんだ」

 

 真夫が笑って言った。

 蜜で汚れたら下着を膝にかけたまますごすのは、ノーパンよりも恥ずかしいだろう。

 案の定、恵は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうな表情になった。

 しかし、恵は、真夫にこんな風に辱しめられるのが大好きなのだ。

 同時に恵が、うっとりと欲情したような表情になる。

 かおりは、真夫の肉棒を舐めながら、なんだか吹き出しそうになった。

 

「……じゃあ、抜いてもらうのは、かおりちゃんにしてもらおう。俺を跨いで上になってよ。あさひ姉ちゃん、後ろからかおりちゃんを愛撫して」

 

 真夫が言った。

 かおりは、真夫の命令の通りに、仰向けになってる真夫の股間の真上に膝立ちになった。

 恵がのそのそと動いて、かおりの後ろから乳房と股間に手を這わせてくる。

 

「ん、んんっ……そ、そんなことしなくても……も、もう……ぬ、濡れてるよ……、ま、真夫君……、あ、ああっ……め、恵……」

 

 かおりはよがり声をあげた。

 だが、真夫はかおりに、両手を背中で組むように命令し、恵にはかおりの両手を革帯で巻くよう指示した。

 恵が枕元に備え付けてある拘束具類から革帯をとり、かおりの両腕に巻きつける。

 

「かおりちゃん、先っぽだけ挿していいよ。だけど、それ以上は駄目だ。もしも、勝手に腰を沈めたら罰だからね」

 

 真夫が言った。

 かおりは、言われたように、ちょっとだけ腰を沈めて、もうびしょびしょの膣をずぶりと真夫の勃起した怒張に埋める。

 だが、許されたのは亀頭の部分だけだ。

 中腰の体勢がちょっときついし、中途半端にしかさせてもらえないもどかしさていっぱいになる。

 

「あさひ姉ちゃん、かおりちゃんをいかせたらだめだよ。まだ、少し時間があるからね。しばらく寸止め責めをしようよ」

 

「わ、わかった、真夫ちゃん……。よかったね、かおり……。朝から真夫ちゃんに可愛がってもらえるね。寸止め好きでしょう」

 

 恵がかおりの後ろでくすくすと笑った。

 冗談じゃない。

 

 かおりは寸止め責めが嫌いだ。

 いけそうなのにいかせてもらえないもどかしさをいつまでも続けさせられるのだ。

 そんなのが好きなわけがない。

 昨日もとことん寸止め責めをされて、絶頂をねだって様々な恥態をさせられた。

 

 そして、奴婢の身体は、奴婢の身体でなく、主人の真夫の身体なのだということを徹底的にしつけられた。

 かおりの中にかすかに残る理性が、たった二日でこんなにも奴隷根性が染みついてしまったことを不思議がっていたが、それは真夫の奴隷になっている心地よさが、すぐに吹き飛ばしてしまう。

 

「じゃあ、あさひ姉ちゃんは、お尻と胸ね。俺は股を受け持つよ。かおりちゃんは、乳首をちょっと強めにこりこりと刺激されるのが好きだからね。代わる代わる左右とも可愛がってあげて」

 

「わかっているわ、真夫ちゃん……」

 

 真夫とかおりが、後ろからと下から、本格的にかおりを責め始める。

 ふたりには、週末の二日で、かおりの身体は知られ尽くした。

 そのふたりがかおりの胸とお尻とクリトリスを同時に愛撫するのだ。

 しかも、すでにかおりのヴァギナには、真夫の一物が先っぽだけだけとはいえ埋まっている。

 かおりはあっという間に達しそうになった。

 だが、ふたりはさっと愛撫をやめて、快感を逃がしてしまう。

 そして、ちょっと絶頂感が収まると、またもや激しいふたりがかりの愛撫を開始するのだ。

 

 それを四度繰り返された。

 

「あ、ああっ、もう許してよ──。もっと奥までごつごつしてえ──。お願い」

 

 五度目には、かおりは泣き叫んでしまった。

 

「いいけど、そんなことしたら、俺はかおりちゃんの中に射精しちゃうよ。避妊具なんて使ったことないし、そのまま、かおりちゃんの子宮にザーメン流し込むからね。かおりちゃんに意地悪して、避妊剤をあげないかも」

 

 真夫が笑った。

 昨日から、かおりは避妊剤をもらっており、一日一粒飲むように指示されている。身体には害はないということであり、恵も同じものを飲んでいる。

 真夫の物言いは、いまだけの意地悪だとはわかっているが、孕めと命じるのであれば、かおりは悦んで真夫の子を産んでもいいと思った。

 

「あ、あんたの子なら産む」

 

 かおりは愛撫を受けながら叫んだ。

 実家には烈火のごとく叱られるだろうが、面倒は看てもらえるだろう。

 真夫のことも、恵のことも喋らない自信はある。

 そんなことを瞬時に思考した。

 

「嘘だよ……。俺やあさひ姉ちゃんが親のない子を作るわけないよ。でも、ありがとう」

 

 真夫が笑って、奥まで入れていいと許可してくれた。

 かおりは腰をぐんとさげる。

 

「んふうっ」

 

 子宮近くに真夫の性器の先が届いて、それだけで軽く達した。

 しかし、休むことは許されない。

 お尻に指を挿している恵が、無理矢理にかおりの腰を上下に律動させる。

 

「あ、ああっ、あうううっ」

 

 すぐに、かおりは二度目の絶頂をした。

 

 真夫がかおりに精を放ったのは、連続で三度目の絶頂のときだ。

 頭が真っ白になった。

 全身が弛緩して、温かくて優しいものに包まれた気がした。

 

 そして、はっとした。

 かおりは、絶頂しながら失禁してしまっていたのだ。

 まだ、真夫に埋まっているところから尿が滴り続ける。

 

「ああっ、と、止まらない……。止まらない……。ごめんなさい……」

 

 かおりは狼狽えた。

 

「あらあら、朝エッチのときは、おしっこに注意しないとね」

 

「あさひ姉ちゃんもときどきするよね」

 

 ふたりが笑っている。

 なんだか、こうなるのを予測していた気配さえある。

 

「ううう、恥ずかしい……。ごめんなさい……」

 

 放尿が終わり、真夫から性器を抜いてもらうと、さらに恥ずかしさが倍増した。

 身体の下にいた真夫だけでなく、背後から愛撫していた恵の手足も、かおりのおしっこでびしゃびしゃだ。

 しかし、ふたりとも愉しそうに笑うばかりだ。

 

 三人揃って、シャワーを浴びた。

 後手の革帯を外してもらえないかおりは、前後から真夫と恵に身体を洗われて、またもや、いきそうになってしまった。

 

 シャワーが終わる。

 

 哀願したのに、革帯は外してもらえなかった。

 真夫がかおりの身体を拭き、恵が髪を乾かして整髪してくれる。

 奴婢になったはずなのに、まるでふたりに奉仕されているようで複雑な気持ちになった。

 

 食事になる。

 

 朝食は恵がパンとスープとサラダを仕度してくれていた。

 ただ、ガウンを着るのは真夫だけで、かおりと恵は素裸だ。

 それだけでも恥ずかしいのに、食事のときも、かおりだけ後手を外してもらえない。

 だから、かおりについては、左右の真夫と恵の差し出すものを口を伸ばして食べさせられた。

 

 そして、食事の前に、真夫から、かおりも恵もイチヂク浣腸をされた。

 一個だったので、すぐには効いてくることはなかったが、途中から激しく便意が込みあがってきて、恵とふたりで食事の途中から苦しい息をし合うことになった。

 

 排便は食事のあとだ。

 

 透明の和便器に跨がって、真夫の前で順番にする。

 真夫の目の前で排便し、真夫はそれをにこににこしながら眺め、さらに汚れたお尻をお湯で指で洗った。

 本当に変態だと思うが、その変態行為にうっとりしてしまうかおりも、もう変態の仲間だなあと、ちょっと思った。

 

 排便が終わって、やっと後手を外してもらった。

 

 そして、ようやく着衣だ。

 真夫の身支度は、かおりと恵がふたりでする。

 それから、女ふたりが服を着るのだが、真夫が自分で服を脱いだり着たりするのは禁止しようとか言い出して、ふたりで下着の着せ合いをさせられた。

 

 教材や文具を鞄に入れたりして、すべての登校の支度が終わった頃には、八時を回っていた。

 教場棟に向けて出発する時刻だ。

 

「じゃあ、いってきます」

「いってきます」

 

 起きたのは早かったが、三人でじゃれつく時間が多くて、すっかりと巡回バスのやって来る時刻になっていた。

 朝の登校時に限らず、この学園内には乗り降り自由の巡回バスが走り回ってる。

 学生も教師もほとんどは、それを利用する。

 S級生徒は、実費を支払えば、学園から運転手付きの専用車を手配してくれるが、真夫は断ったらしい。

 

「かおり、あなたのおしっこで濡れたシーツは、大学に行く前に、クリーニングに出しておくわ」

 

 恵がからかいの口調で言った。

 恵は真夫の編入準備に合わせて、通っている大学を休学していたが、今日から通うらしい。

 今日は真夫たちが出立してから一時間後に出て、昼過ぎには戻ると言っていた。

 移動手段は学園から支給された自動車だ。

 

 これひとつをとっても、真夫が特別扱いというのわかる。

 専用車は、S級生徒のみの特別措置であり、この学園では教師さえも、通学は学園の運行する部外シャトルバスで行い、私有車の乗り入れは認められていない。外に出るときも、申請が必要で、しかも、運転手は学園の者だ。

 自ら運転できる自動車で学園に出入り自由というのは、例外中の例外だ。

 

「ばあか……」

 

 かおりは口を尖らせた。

 すると、真夫と恵が声をあげて笑った。

 

 扉に向かう。

 

「真夫君、鞄を……」

 

 私室から共有リビングに出る直前に、真夫から鞄を取りあげた。

 怪訝な表情になる真夫に、奴婢生徒は主人生徒の荷物をすべて持つのが慣習だと説明した。

 

「おはよう、真夫」

 

 リビングには、真夫と同じように、巡回バスで登校する西園寺絹香と従者生徒の双子がいた。

 絹香に続いて、双子がぺこりと頭を下げた。

 ほかのS級生徒は、専用車で登校なのだろう。

 ここには、まだいないようだ。

 

「おはよう」

「おはよう」

 

 真夫に続いて、かおりも挨拶をする。

 絹香は真夫を見て、顔を赤らめて照れたような仕草をした。

 夕べ、絹香が真夫にいきなりキスをしたときには、かおりも驚愕したが、なんであんなことをしたのかをいくら訊ねても、わからないの一点張りだった。

 しかし、そのことで絹香は間違いなく真夫を意識している。

 いつも、冷静沈着な雰囲気を保っている絹香の、はにかんだような表情でそれは明らかだ。

 

「バスが来たぞ」

 

 そのとき、特別寮の新しい管理人だという時子という老婆が、表からやって来て、声をかけてきた。

 表に出る前に、真夫は少しだけ、管理人の時子と話をしていた。

 世間話という感じだが、とても親しそうな雰囲気だ。

 遠慮して距離をとっているかおりには、話の内容は聞こえないが、時折ちらちらと時子がかおりに視線を送ってきたような気がして、かおりは当惑した。

 

 とにかく、かおりの「奴婢生徒」としての新しい日常が始まったのだ。

 

 外に出た。

 特別寮前の停車場に先客がいた。

 

 「まさと」だ。

 姓は知らない。

 あの秀也が、そう呼んでいるので名を知っているだけだ。

 ものすごいイケメンであり、学園でも、かなり有名な存在だ。

 だが、同じS級生徒の木下秀也の従者であり、社会人なので、この時間に、教場棟に向かう巡回バスに乗るのは珍しい。

 

「ねえ、話があるんだけど……」

 

 バスに乗り込むと、絹香が真夫の手を引いて、自分の隣の席に導いた。

 特別寮と一般寮は場所が違うので、この時刻でも車内は空いている。

 従者生徒は、座席には座らないのが慣習であり、また、許可なく会話に加わるのも「無礼」とされている。

 かおりは真夫と少し離れたところに立って、手すりに掴まる。

 絹香の従者の双子も同じようにしている。

 

「よう……」

 

 まさとがかおりの立つすぐそばの座席に腰掛け、ほかには聞こえないように、かおりに声をかけてきた。

 

 それで、思い出した。

 本当にいまのいままで忘れていたが、このまさとに、あることをけしかけられていた。

 

 だが、それは、もういい。

 すでに、すっかりとその気はなくなってしまっている。

 

「あの話はなしよ……。わたし、本気で真夫君の奴婢生徒になること決めたから」

 

 かおりはあっさりと言った。

 それで、あの話は終わりだ。

 そのつもりだ。

 すると、まさとが舌打ちした。

 

「……やっぱり、しっかりとしつけられたか……。このビッチが……」

 

 まさとが、口汚く罵る小声がした。

 さすがに、むっとした。

 かおりは言い返そうとしたが、その前に、真夫に週末にあったことを告げることが先だと思った。

 かおりは、まさとを無視して、真夫に近づこうとした。

 それにしても、なんでいまのいままで、「あのこと」を忘れていたのだろう。

 この朝になって、突然に思い出したが、恵についての大切なことだった。

 まるで、記憶に蓋をされていたように、思い出さなかった。それが、まさとに話しかけられることで、突如としてよみがえった。

 

 とにかく、かおりは携帯電話も取りあげられているが、真夫は持っている。

 真夫から、恵に連絡してもらえばいいか……。

 

 “……身にしみてひたぶるにうら悲し。鐘の音に胸ふたぎ、色かえて涙ぐむ……”

 

 そのとき、まさとが急におかしな言葉を呟いた。

 フランス語の詩であり、かおりには意味がわかった。

 

 すると、かおりはなぜか、急に頭が真っ白になり、なにも考えられなくなった。



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 第49話  策謀の黒い影

 秀也は少しも機嫌がいいようには見えなかったが、実際にはかなりの上機嫌であることが時子にはわかった。

 これまでの事態の推移をすごく面白がっている──。

 そんな感じだ。

 

 実際のところ、まだ真夫を自分の手のひらに載せている……。

 そう思っているのだろう。

 

 だが、真夫はそんな簡単な少年ではない。

 ああ見えても真夫は、人を惹き付ける不思議な雰囲気を持っている。

 それは、秀也にもない真夫の不可思議な魅力だと思う。

 真夫は、操心術と異なる力で、人を支配するのではないだろうか……。

 あの玲子が、真夫に一瞬にして一目惚れしてしまったのが、その証拠だ。

 秀也とは異なり、実際に真夫に接している時子にはそれがわかる。

 

「時子、今日は俺の一物を舐めてくれ」

 

 時子の新しい住まいとなった特別寮の管理人室にやって来た秀也は、すぐに時子に口で奉仕をするように命じた。

 時子は驚いた。

 もう、この数年、そんなことは一度もなかったからだ。

 

 そもそも、秀也の一物は勃起をすることができない。

 それは、相手が時子だからというわけでなく、どんな若い美女であろうと、秀也の股間は役には立たないのだ。

 だから、最近の秀也は操心術による疑似セックスを専らにしている。

 操心術で、女には性交の記憶と実感をさせておき、現実には秀也はなにもしないのだ。

 秀也と関係したと思っている女たちも、実際には暗示の中で秀也の相手をしただけであり、挿入されたとしても、ディルドやバイブのことだ。

 しかし、それは、時子だけが知っている絶対の秘密だ。

 秀也は、自分が「男」としての機能を失っていることを誰にも知られないようにしているのだ。

 

「いいのですか……? 龍蔵様から禁止をされているのでは?」

 

 時子は首を傾げた。

 秀也の女遊びは激しい。

 だが、秀也の身体に、従来にはなかった健康上の異常を見出すようになってから、龍蔵は秀也に女遊びを慎むように命じていた。

 気の強い女を調教して屈服させるのが好きな秀也の性癖だったが、女を調教するのはいくらやってもいいが、実際の性行為はなるべく避けるようにと、龍蔵は厳命したのだ。

 それ以降、秀也は、そのとおり、操心術で女を想像で犯すことはあっても、女を本当に犯すということはやらなくなったが、それは龍蔵の命令に従ったのではなく、その機能を失っていたからというわけだ。

 そのことは、秀也は時子にしか言わず、龍蔵にも教えていないはずだ。

 

「いいから、萎えている俺の一物をしゃぶってくれ。勃起しなくても、俺は快感を覚えられる」

 

 秀也はモニターに面して椅子に座り、大きく股を拡げた。

 時子は、その秀也の足のあいだに跪き、ズボンから性器を出すと、口の中に含む。

 唾液を利用して、舌だけでなく口全体で包み込むようにして奉仕を開始した。

 すると、すぐに秀也は、気持ちよさそうな小さな呻き声を出した。

 

「やっぱり、お前の舌遣いは絶品だな。いろいろな女にやらせたが、どんな女でもお前の舌にはかなわない。勃起しない体質になってよかったのは、お前の舌を長く味わえることだな。さもないと、あっという間に精を出しそうだぜ」

 

 秀也が自嘲気味に笑った。

 口ではそう言うが、この秀也も男としての機能を失ったというのは寂しいはずだ。

 時子には、その寂しさがわかるだけに、それを少しでも紛らわしてあげようと、一心不乱に口で奉仕し続けた。

 

 ここは特別寮の管理人室でも、そこから隠し経路を使って降りた地下室である。

 また、目の前のモニターは、学園内の理事長室の横や、学園敷地外の「豊藤龍蔵」の屋敷に存在するものと同じであり、学園内にある数千の隠しカメラの映像と音声を確認できるものだ。

 中央の大きなモニターを囲むように、左右に八個のモニターに同時に映像を映すことができるとともに、手元の音声マイクで制御して、自由に映像と音声を切り替えられるようになっていた。

 

 そして、地下は五人分の特別生徒の地下ルームに隠し通路で繋がっているだけでなく、学園内を縦横に走っている地下経路にも通じている。

 だから、地上に出ることなく、カートで龍蔵のいる屋敷にも移動ができるし、学園内の各棟にも行ける。

 ただ、学園内の地下経路の存在は、維持管理をする特別作業員を除けば、ほとんど知らせてはいない。

 

 いま、中央モニターに映っているのは、教室にいる真夫の様子だ。

 さっきまで、時子もそれを眺めていたが、学園初日は特に問題ないようだ。

 龍蔵の隠し子であるということは表沙汰にはせずに、孤児院出身の少年ということで編入させたことで、いじめのようなことを時子は心配していたが、学園の生徒会長である西園寺絹香が親しそうに接しているということもあり、少なくとも同じ教室の生徒たちは、あっという間に真夫を受け入れた感じだ。

 真夫の従者生徒となり、その真夫がたった二日で落としてしまった白岡かおりについても、特にトラブルのようなものはなく、クラスメイトは自然に接している。

 時子はほっとしていた。

 

「……ゆっくりでいいぜ。話しながらやってくれ。その代わり、しばらく続けくれねえか……。本当に気持ちいいんだ」

 

 秀也は言った。

 

「遠慮なさるとは、秀也さんらしくありませんよ……。こんな老婆でよければ、半日でも、一日でも奉仕しますよ」

 

 時子は口を離して言った。

 そして、すぐに奉仕に戻る。

 

「……俺にとっては、お前は老婆じゃねえよ。俺には、若くて美しかったお前の姿が心の中で見えるんだ。どんなに女に狂っても、それは玩具としての愉しみにすぎないが、お前は別だ。だから、俺はお前を奪ったのさ」

 

「嬉しいことを……」

 

 時子は口に包む場所を幹から睾丸に移しながら言った。

 勃起はしないが、秀也がちゃんと快感を受けていることは、しっかりと時子には伝わっている。

 

「……それにしても、真夫には驚いたな。あの白岡家の娘のことは予想外だ。随分と面白そうな女狐のようだったから、屈服にはてこずるかと思ったが、二日で完落ちさせるとはな……。しかも、真夫は操心術を遣ったようだ。驚いた成長だ」

 

 秀也は言った。

 真夫がかおりを調教する様子は、時子とともに、秀也はこの部屋でずっと観察をしていた。

 いまや、秀也の興味は、真夫に集中しているといっていい。

 直接は真夫の前には姿を現さないものの、かなりの時間を隠しカメラで真夫を観察することに費やしている。

 

 一族の後継者になるかもしれない真夫という少年のことを……。

 

「操心術でなくても、かおりという少女は真夫に落ちたでしょうね。真夫は女を手懐ける術を本能としてわかっている気がしますよ……。飴と鞭……。どこまでも優しく、そして、どこまでも厳しく……。そして、女としての快楽の与え方……。あなたを越える女たらしになることは確かでしょうね」

 

 時子は股間に奉仕をしながら言った。

 

「俺を越えるか……。まあ、いずれは操心術でも越えられるかもしれねえな。あいつは、あっという間に、俺が絹香にかけた操心術の暗示を解いてしまったからな……。おかげで、かけ直すのに苦労した。今度は、なかなか解かれないように、注意深く刻んだ。だが、真夫なら気がつくかもしれねえ。まあ、そのときは、そのときだ」

 

 秀也の言葉に、時子はびっくりしてしまった。

 思わず、口を秀也から離した。

 

「また、絹香嬢に暗示をかけ直したんですか? なぜです?」

 

「絹香だけじゃねえ。白岡家の娘にもかけ直した。あいつらは、真夫に対する“試し”の道具だ。絹香には、真夫をSS研に誘うように命じている。そこで、女をあてがって、操心術を磨いてもらう。女遊びが真夫の操心術を鍛えるのに最適だというのは、今回のことだけで明白だ……。それよりも、やめるなよ。話はしていいが、奉仕はやめるな」

 

 時子は慌てて、口に秀也の一物を咥え直した。

 相変わらずの勃起しない性器だったが、時子は時子で、この秀也に対する奉仕に心からの悦びを感じている。

 そもそも、時子はもう八十三だ。

 こんな老婆をひとりの女として扱ってくれる男など、この秀也を除いて皆無だろう。

 十五のときに、秀也の父に強姦されて妾にされたときには、晩年にこんな人生が待っているとは思わなかった。

 

 いずれにしても、真夫について秀也がなにを考えているか、真実はよくわからない。他人の心を操るくせに、人一倍自分の心を読まれるのを嫌う男だからだ。

 真夫のことも、時子の前では、もう後継者として認めるような発言をしているものの、実際にはまだなにかを企んでいる気配さえある。

 

「……だが、ひとつ気にいらねえ……。真夫……、あいつは女に甘い。ひとりの女に縛られねえというのは、一族の後継者として合格だ。だが、女は道具だ。道具のひとつひとつに心を移す必要はねえ。そういう意味で、あの孤児の娘はちょうどいい。俺は、あの女を使って、真夫のことをもっと試したい」

 

「女を道具だと言い切るなんて……。あたしも女ですよ。婆あですけど……」

 

 時子は秀也のもの舐めながら笑った。

 

「……今度、自分のことを婆あと言ったら、折檻するぞ。調教し直してやる。俺がそう言っても、お前は言うな」

 

「まあ、久しぶりすぎて、ぞくぞくしますね。この歳で、あなたのような若い男に調教をしてもらえるなんて」

 

 時子は秀也の軽口を、それ以上の軽口で返した。

 秀也は苦虫を潰したような表情になった。

 

「……俺を若い男と言うなよ……」

 

 やがて、秀也は言った。

 

「じゃあ、折檻してくれますか?」

 

 時子は誘うように応じる。

 秀也がぷっと噴き出した。

 

「お前にはかなわねえな。いいだろう。そこで待っていろ」

 

 秀也が立ちあがってモニター室を出ていく。

 戻ったときには、箱に入れた調教具を持って来ていた。

 

「両手を出せ、時子」

 

 秀也は椅子に座り直して、さっきの姿勢のまま床に跪いている時子に向かって、両手首に嵌める革枷を差し出した。

 手には、革枷のほかに一本の乗馬鞭も持っている。

 時子が両手を出すと、その手首に革枷が嵌められる。

 

「手錠をされたら、すぐに首の後ろに両手を持っていけ──。そんなことも言われないとわからねえのか」

 

 乗馬鞭が横腹にびしりと食い込む。

 

「うっ」

 

 そんなに強い力ではなかったが、鞭で打たれた衝撃に、時子の股間には、忘れていた熱さがかっと込みあがった。

 時子は急いで両手を首の後ろに置く。

 その首に、真っ赤な首輪が付けられ、首輪の後ろ側の金具に手枷の鎖が繋げられた。

 

「勃たなくても、こういう便利なものはあるぜ」

 

 秀也がズボンと下着を脱いで、萎えている一物に革のベニスサックを被せる。

 男性器の覆いを付けた秀也の股間には、確かに勃起したペニスが生えたかたちになった。

 

「……で、でも、龍蔵様に禁止されているのでは……」

 

 時子は遠慮深く言った。

 性交ではないといっても、ペニスサックを使って犯すのであれば、性交と同じではないか?

 

「俺を龍蔵と、どっちを優先するんだ?」

 

 秀也が試すように言った。

 

「場合によりますね」

 

 時子は応じた。

 秀也が満苦笑する。

 

「そこは、嘘でも俺だと断言すべきだろう」

 

「秀也さんには、まだ長生きして欲しいんです」

 

「そりゃあ……悪かったな……」

 

 秀也が意味ありげに微笑む。

 

「……いくぞ……。心を楽にしろ。俺を受け入れるんだ」

 

 そして、その秀也が時子の頭にそっと手を当てた。

 すぐに、操心術が時子に流れ込んできた。

 時子の身体は、まるで二十代のときのようにかっと燃えあがり、そして、八十三歳の老婆の股間にあふれるような蜜がにじみ出てきたのがわかった。

 

「これで、お前の身体は一時的だが、淫靡に火照り切った若い雌だ。全身に媚薬を浴びせられたようになったはずだ。これで満足か、時子」

 

 秀也が乗馬鞭を時子に肩に振り下ろす。

 

「あ、ああっ」

 

 痛みよりも、強い性欲の疼きを覚えてしまい、時子は思わず甘い声をあげた。

 秀也が時子の長いスカートの下から手を伸ばし、鋏を使って下着を剥ぎ取る。

 その下着を点検するように、秀也が見た。

 そして、にやりと微笑む。

 

「十分に濡れているな。だったら、すぐに股げ。できるはずだ。ぐずぐずするな」

 

 秀也がまたもやびしりとスカートの上から、時子の尻を鞭を打った。

 時子は声をあげて、腰を悶えさせた。

 

 


 

 

「……結局、よくわからないなあ……。SS研って、なんなの?」

 

 真夫は肩を竦めた。

 四時限目の授業が終わり、昼食時間を兼ねた昼休みになった。

 すると、すぐに絹香が寄ってきて、朝のバスで真夫に喋った内容と同じことを話し始めた。

 絹香がずっと言っているのは、絹香が部長代理をしている「SS研」という部外活動に真夫も参加して欲しいということだ。

 

 それはいいのだが、それがなんの活動であるのか、さっぱりと要領を得ない。

 結局のところ、わかったのは、SS研は、生徒会室に近い一室を活動場所としていることと、部員は絹香のほかに、絹香の従者生徒の双子と、絹香の親友の前田明日香という女生徒のみということだ。

 “SS”というのがなんの略であるかということさえ、言葉を濁してはぐらかす。

 

 繰り返すのは、一度、部室に遊びに来て欲しいということと、気に入れば部長になって欲しいということだけだ。

 そのほかのことは、いくら質問しても、部室に来てくれれば説明するの一点張りだ。

 これには真夫も困ってしまった。

 

「だったら、いまでもいいわ。昼休みに部室を見学するということでどう? 後悔はさせないから……。とにかく、ここでは詳しく話せないのよ」

 

 絹香が妖しく微笑んだ。

 真夫は訝しんだ。

 絹香の話の内容に対してではない。

 昨日、いきなりこの絹香に口づけをされたときに絹香の心に感じた「黒い影」のようなものをいまも感じた気がしたのだ。

 だが、昨夜とは異なり、非常に注意深く様々な感情の壁の後ろに隠されている。

 余程に注意深く観察しないと、それがあることさえわからなかったかもしれない。

 

 しかし、今日は、昨日のように真夫が意識を集中しても、消えていかない。

 いや、消えたように思っても、しばらくすると、存在をまた見つけてしまうのだ。

 それをずっと繰り返している。

 

 とにかく、今日の半日、絹香は授業と授業の中休みのあいだ、べっとりと真夫に付きまとい、SS研に来てくれと口説きまくった。

 おかげで真夫は、ほかのクラスメートと満足に会話をすることができなかった。

 この学園の生徒の格付けというのは非常に厳しいものであるらしく、S級生徒である絹香と同じS級生徒の真夫との会話に、勝手に口を挟んではいけないという掟のようなものがあるらしい。

 真夫は、新しくやってきた新入生の真夫に興味を抱きながらも、話しかける機会がなくて、遠巻きに見守っているほかのクラスメイトたちの存在に気がついていた。

 どっちにしても、真夫が除け者にされるのではないかという玲子の心配はいまのところない。

 まだ初日だが、この新しい学園は真夫にとって、居心地の悪いものでもない感じだ。

 

「真夫君、食事はどうする? 食堂棟に案内するわ」

 

 そのとき、後ろからかおりが声をかけてきた。

 ふと見ると、かなりの同室の生徒がすでにいなくなっている。

 みんな食事に向かったのだろう。

 

「……いいわよ。わたしが案内するから……。ねえ、真夫、昼休みくらい、このかおりを解放してあげなさいよ。S級生徒が食事のできる場所は、ほかの生徒とは隔離されたところにあるのよ。かおりを連れていっても、かおりはそこでは食事はできないのよ。可哀想よ。わたしの従者の双子も、授業のあいだは解放しているわ」

 

 絹香が口を挟んだ。

 もっとも、絹香の侍女生徒をしている双子は、まだ一年生らしい。

 それで、真夫のように、同じクラスにはなれないという事情もあるようだが……。

 

「一緒に食事ができないって、そうなの?」

 

 とにかく、真夫はちょっと驚いた。

 かおりは肩を竦めた。

 

「従者が主人と一緒に食事をするわけないじゃない。わたしは、あなたの給仕をするわ」

 

「給仕は従者生徒がいなければ、食堂専任の給仕がつくわ。わたしはそうしているもの」

 

 絹香が横から言った。

 真夫は、たかが昼飯に、給仕がつくということの方にちょっとびっくりした。

 

 そのとき、不意に携帯電話が鳴った。

 玲子さんから連絡用に与えられているスマートフォンだ。

 しかし、電話はすぐに切れてしまった。

 それを覗くと、ワン切りの相手は玲子さんだ。

 すぐに、メールが来た。

 

 内容は、よければ、理事長室にこっそりと来て欲しいということだ。

 メールの文面にも、玲子さんの遠慮深い感情が見え隠れしている。

 真夫は顔をあげた。

 

「悪いけど、用事ができちゃった、絹香。悪いけど、さっきのはパスね……。それと、かおりちゃん、じゃあ、自由にしていいよ。食事は自由にとって……。売店でもどこでも、買い物ができるようにすぐに処置してもらうから」

 

 これから行くのは玲子さんのところだ。

 玲子さんに言えば、すぐにかおりの認証システムを売店やレストランで自由に使えるように、操作してくれるはずだ。

 理事長室はこの棟内にあるが、食堂や売店のある棟は、シャトルバスで移動するくらいの距離はある。

 そこにかおりが着く頃には、処置できると思った。

 

 かおりはちょっと考えた感じになり、だったらS級寮に戻ると真夫に告げた。

 そこで食材の余りがあるから、食べるというのだ。

 真夫は、自由にしていいと、繰り返した。

 

 しかし、真夫はふと思い出した

 そういえば、あさひ姉ちゃんは、午前中で戻るはずだ。

 あさひ姉ちゃんのことだから、無駄遣いはせずに昼食は自炊で取ろうとすると思う。

 かおりは、あさひ姉ちゃんと一緒に食事をしようと思っているかもしれない。

 

「自由にするわ。ご心配なく、真夫君。じゃあ、五時限目の前に戻るから」

 

 かおりが教室を出ていこうとする。

 

「待って。途中まで一緒に行こう」

 

 残念そうにしている絹香を置いて、真夫もかおりと一緒に教室を出る。

 そのとき、かおりの心にも、絹香と同じような黒い影が垣間見えた気がした。

 

 ただ、それはあまりにも微かで束の間だったので、もしかしたら勘違いだったのかもしれないが……。

 

 とりあえず、真夫はかおりと別れるまでに、かおりの心の影を消すように思考した。

 黒い影は、すぐにわからなくなる。

 

「じゃあ、真夫君」

 

 だが、廊下で離れるときにも、かおりの外観の様子に、なにかの変化は観察できなかった。



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 第50話  裏切りの拉致

 最後の自動検問を通過するときに、助手席に置いてあった通信端末にメールの受信を報せる振動と緑色の表示が点滅していることに気がついた。

 

 恵は、車を発信させる前に、手を伸ばしてメールの画面を見た。

 発信者の欄には、登録されていない発信者らしく見知らぬアドレスが表示されていたが、件名欄には “緊急 白岡かおり”とあった。

 

 恵は首を傾げた。

 かおりは、なにもかも玲子に没収されて、真夫の従者生徒として、S級寮にやってきたはずだ。

 かおりが持ってきたのは、身につけていた灰色の従者生徒用の制服のみであり、ほかの持ち物は一切なかったはずだ。

 もちろん、通信端末のたぐいはない。

 真夫が持っているスマホのアドレスは登録しているので、それを借りたとすれば、“真夫ちゃん”という表示が出るはずなのだ。

 

 そのとき、通過許可の標示とともに、ゲートが解放された。

 ここから先は、完全な学園内の敷地だ。

 侵入者防止の高い外壁があり、それを越えて、しばらく両側を壁に隔てられた一本道が続く。

 そして、警備員と係員のいる詰所があり、そのにも内壁がある。学園の施設はその向こうだ。

 

 恵は、一度車を発信させて、学園側に車を移動させると、路肩に停めて通信端末をとった。

 

 “真夫君の件で電話して”

 

 メールにはそうあった。

 連絡先の電話番号もある。

 少し不自然さを感じた。

 だが、躊躇ったものの、とりあえず、電話をしてみた。

 果たして、電話に出たのはかおりだった。

 

「どうしたの、かおり? 真夫ちゃんになにかあったの?」

 

「そうなの……」

 

 電話の向こうのかおりは、少し口調が変だった。淡々としていて、感情が少しも揺れない感じだ。

 それでいて、どことなく、そわそわしている感じだ。

 

「なにがあったのよ?」

 

「そ、それが……」

 

 かおりは、言いにくそうだ。

 しかし、真夫のことだと、かおりは言った。

 わざわざ、知らせてくるのだ。

 なにかあったに違いない。

 

「早く、言ってよ」

 

 恵は少し苛立って言った。

 しかし、はっとした。

 

「いじめ? もしかして、真夫ちゃん、教室でなにかあったのね?」

 

 とっさに思ったのは、真夫に対するいじめのことだ。

 玲子も心配していたし、ここは超一流のエリートの家庭の子息だけが通うような学園だ。

 恵と同じ孤児院出身の真夫が学園の生徒に受け入れられないのではないかという懸念は、玲子もしていた。

 だから、そうじゃないかと思ったのだ。

 

「そ、そうよ。そうなの……。真夫君をクラスメイトとして受け入れられないっていう騒ぎがあって……。先生もうまく対処できなくて、とりあえず、わたしも真夫君も一度、寮に戻りなさいって……。先生が言うには、真夫君のいないところで、みんなで話し合うことにするからって……」

 

 かっとなった。

 真夫の敵は、恵の敵だ。

 真夫に失礼なことをするのは許せない。

 

 だが、孤児に対する謂れのない偏見と差別は、簡単には解決できないということもわかっている。

 少しずつ、実際の行動で信頼と信用を得るしかないのだ。

 恵にはもちろん、玲子にも、かおりにもどうにもならないだろう。

 だが、真夫を慰めることはできる。

 これは、同じような境遇の恵にしかできないことだ。

 

「真夫ちゃんは、どうしてるの?」

 

「寮よ。わたしも……」

 

「すぐにいくわ」

 

 かおりは電話を切った。

 再び車を発信させる。

 詰所の横を通過して、学園施設内を走らせた。

 だが、すぐに停まることになった。

 いくらもいかないうちに、道端にかおりがいたのだ。

 こっちに手を振っている。

 この辺りは、一般寮のエリアであり、いまの時刻は生徒がいないので、ひっそりとしていた。

 

 恵は訝しんだ。

 かおりは、真夫とともに、特別寮にいるはずではないか?

 ここから、特別寮までは少しある。

 どうして、ここにかおりが……?

 

「ここで、なにしているのよ、かおり……?」

 

 恵は車を路肩に停めて、外に出た。

 ぎょっとした。

 突如として、顔に白い覆面をしたジャージの集団がわらわらと、建物の陰から出てきたのだ。

 

 五人──。

 屈強そうな身体の大きな男たちだ。

 この学園の生徒?

 

 なぜ──?

 

 ……ということを考える暇もなく、彼らが恵を捕らえようとしてきた。

 誰かに助けを……。

 

 通信端末──。

 

 しまった……。

 車の中だ……。

 そのときには、車と恵のあいだに、ひとりに身体を入れられていた。

 

「誰か──誰か来て──」

 

 絶叫した。

 しかし、この付近にはいま、誰もいないのは明白だ。

 覆面の男たちも、慌てた素振りはない。

 恵を取り囲み、さっと手元から、なにかを出した。

 

 スタンガン……。

 それが五個……。

 

 逃げられない……。

 背中に冷たいものが走る。

 その直後、その五個のスタンガンが恵に押しつけられた。

 

 恵は崩れ落ちた。

 そこに、一台のワンボックスが静かに近寄ってきていた。

 ワンボックスが停車し、扉がスライドして開く。

 覆面の男たちが、倒れているかおりを抱えあげて、強い腕力で押し込もうとする。

 抗おうとする気持ちがなくなったわけじゃないが、痺れきった身体はまったくいうことをきかなくなっていた。

 声を出そうにも、舌も口も動かない。

 

「この一帯をの監視カメラを解除できるのは五分だけだそうだぜ。それ以上は警報が鳴るはすだ。急げ」

 

 襲った男のひとりがほかの者に言った。

 声は若い……。

 この学園の生徒か……?

 

 かおりを真ん中のシートに座らせると、左右の扉から五人が次々に乗り込んでくる。

 それほど精練された行動とも思えなかったが、男たちは素早く真ん中のシートの恵の両側と後ろに座り込み、恵の口に布を詰め込んで、その上からボールギャグをつけた。

 さらに、革の枷で足首を床に、両手を後ろ手に拘束する。

 

「走らせろ」

 

 左隣の男が命じた。

 車が動き出す。

 

 朦朧とする意識の中で、恵はパニックに陥った。

 あの恐怖症の発作だ。

 男性恐怖症の発作が出たのだ。

 すさまじい恐怖心が恵に襲いかかる。

 全身から汗が吹き出し、痙攣のような震えが走った。

 

「んんっ、んんがっ、んんっ」

 

 恵は拘束されたまま暴れた。

 

「うるせいなあ。もう一発、スタンガンをくれてやれ」

 

 左の覆面の男がそう言うと、すぐに後ろと横からスタンガンの衝撃が襲った。

 

 意識を失う直前に、車の窓ガラス越しに見たのは、走り去る車をなにをするということもなく、ぼんやりと路肩から眺めるかおりの姿だった。

 

 


 

 

「よくやったな。これで、あのサルたちは、調子に乗って、あの孤児の女をレイプしまくるだろうね。脅迫の材料にしろとけしかけたから、自分たちの犯罪の証拠をしっかりと撮影しながらね」

 

 不意にくすくすという笑い声とともに、横から声がかけられた。

 だが、激しい苦しみがかおりを襲っている。

 頭が割れるように痛い。

 とにかく、息が苦しい。

 

「う、ううっ……」

 

 かおりは、その場にしゃがみこんでしまった。

 

「おやおや、下手にかけられた暗示に逆らおうとするから、身体が葛藤で苦しむんだよ。自分のやったことを受け入れるんだ。そうすれば、心と感情のズレがなくなって、苦しいのが消えるさ」

 

 また、声がした。

 誰の声かは、わかっている。

 

 まさとだ。

 

 あの秀也の従者であり、真夫の編入に不満を抱いている竜崎に、真夫の恋人が恵であることを教えて、恵が学園内でレイプされれば、真夫はすぐに学園を去るだろうとけしかけ、それを実行させた張本人だ。

 

 竜崎は、真夫がやって来る前は、S級生徒のひとりであり、真夫が学園にやって来たことで、降格してA級になっていた。

 竜崎はそれを逆恨みしていて、恋人が酷い目に遭えば、真夫は学園を去るだろうと教えると、すぐに手下となる者を集めて実行に移した。

 

 このすべての絵図を描いたのは、このまさとだ。

 ただし、本人はなにも動いていない。

 

 すべては、かおりがやったことになっている。

 

 かおり自身が竜崎に恵のことをけしかけ、恵がひとりでいる時間と場所を教え、あの五人が恵をさらうのを協力さえした。

 しかも、その一帯の警備カメラが、拉致の五分間だけ作動が止まるように細工をしたことを教えもした。

 かおりが監視カメラのことなど知っているわけがなく、それはまさとから知らされたことだ。

 だが、竜崎たちは、かおりが監視カメラの細工のことを伝えると、ただそれを信じた。

 なぜ、かおりがそんな工作ができるのかなど、訊ねられもしなかった。

 

 しかし、わからないのは、なぜ、かおりがそれをやったのだろうかという動機だ。

 

 いまのかおりには、真夫と恵を学園から追い出す理由はなにもない。かおりは、真夫の奴婢であることを受け入れたし、いまや恵は友達といえる間柄だと思っている。

 なにより、かおりは、真夫に鬼畜に辱しめられることをすっかりと悦ぶようになりつつある。

 

 真夫や恵をひどい目に遇わせる理由はない。

 

 それなのに、かおりは恵を罠にかけさせて、恵を連れ去られるに任せた。

 

 なぜだ……?

 

 とにかく、頭が痛い……。

 もう、なにも考えられない……。

 しかし、考えるのをやめてはならないと、かおりの中の誰かが心で叫んでいる。

 かおりは、歯を食い縛った。

 

「驚いたねえ……。まだ、抵抗しているのかい? 本当に狂っちゃうよ……。やめなよ。自分がやったこととを受け入れるんだよ。そうすれば、楽になるったら」

 

 まさとが呆れたような声を出した。

 かおりは、顔をあげて、きっとまさとを睨んだ。

 荒い息の中から、懸命に言葉を振り絞る。

 

「あ、あんたよ……。あんたが……やらせた……。あんたが……変な……言葉を……言うと……頭が……ぼんやりして……、そ、それで……いいなりに……」

 

 そうだ。

 思い出した。

 

 まさとが現れて、かおりの耳元でフランス語の詩をささやくのだ。

 それがきっかけとなり、かおりの意思は消え、その言葉に従う人形になる。

 そして、命じられるまま、竜崎にコンタクトをとった。

 そもそも、かおりは、もともと竜崎やその取り巻きのような粗野な連中が嫌いだ。

 すき好んで、かおりから竜崎に接触するなど、あり得ない……。

 しかし、まさとの唱える言葉で、なぜか操られたような感じになり、幾度か竜崎に連絡をした。

 最終的に、恵を捕らえさせることもした……。

 

 頭が割れる……。

 吐き気もする……。

 かおりは、またもや頭を抱えた。

 

「へえ……。驚いたねえ……。なんで、記憶を留めておけるのさ? 自分のやったことは記憶に残っても、俺のことは記憶できないはずなんだけどねえ……」

 

「あ、あんたよ……。あんたが……わたしを操って……」

 

 懸命に声をあげた。

 

 いや……。

 

 そもそも、このまさとのほかに誰かがいた気もした。

 ぼんやりと思い出す……。

 

 あのフランス語の詩を耳元でささやいて……。

 これを耳にしたら、このまさとの言葉に従えと言われたような……。

 

 若い……。

 紺と紫のブレザーの制服……。

 真夫と同じS級生徒……?

 

 だが、まさとがけたたましく笑って、かおりの思考は中断した。

 

「誰かに操られただって? そんなこと誰も信じないよ。とにかく、竜崎のレイプはすぐに明るみになるさ……。まあいいさ。それこそが、こっちの狙いだしね。あの女が出ていけば、真夫も出ていかざるを得ない。とにかく、ああいう竜崎のような男は、自分には特権があると信じ込んでいて、孤児院出身の女を犯すことを犯罪とも思ってないからね。なにをしても許されると思ってるんだ……」

 

 まさとが憎々しげに言った。

 その口調は、特定の誰かに怒っているというよりも、もっと大きな何かに腹をたてているという感じだった。

 

「お前もそうなんだろう? 一流企業の会長の孫娘だから、孤児のひとりくらい冤罪にしても、悪意の欠片もなかっだろう? だから、あの真夫が無実にも関わらず、放校になったような羽目になっても、なんでもない顔をして生活できたんだ。あんたらのような家の者はみんな、そう思うのさ。庶民は虫けらだってね」

 

 まさとが、さらに強い口調で、かおりを罵った。

 

「わ、わたしは……わたしは……」

 

 頭が痛い……。

 なにも考えられない……。

 

 だが、かおりは罪を犯した。

 それは正しい……。

 

 真夫を痴漢の冤罪に陥れ……。

 なにもしなかった……。

 

 罪の意識……。

 あまりなかった……。

 

 僅かな金と祖父へのコネで、なんとかすればいいと考えてしまった。

 

 真夫をひどい目に遭わせた……。

 深い後悔が襲う。

 

「……お前はひどい女だ。主人生徒を裏切るなんて、お前がやりそうなことだ。いいか、お前は孤児のくせに、自分の主人生徒になった真夫が気に入らなかった。だから、罠に嵌めた。竜崎をけしかけたのはお前だ。それ以外の事実などない。なにしろ、お前は自分が一流の家の出身だから、自分がその孤児の奴婢生徒になるなど許せなかったんだ。だから、真夫も恵もここにいられないようにしようと思った」

 

 大きな声がした。

 なぜ、怒鳴られているかわからない。

 なにを叱られているかも、判然としない。

 だが、かおりが、ひどい女だということはわかる。

 

 自分は悪い女だ……。

 

「お前は裏切り者だ。竜崎が捕まったとき、竜崎はお前にそそのかされたとはっきり言うさ。それ以外のことなど、知らんしな。そして、お前も、それを認める。なにしろ、お前は悪い女だ。裏切り者だ。いいか──。それを頭に刻み込め──。お前はひどい女で裏切り者──。だから、恵を陥れた。ほかになにもない。記憶にもない」

 

 かおりは、悪い女で裏切り者……。

 ほかに記憶はない……。

 

 それを認めると、あんなに苦しかった呼吸が楽になった。

 頭の痛みも消えてくる……。

 

「わ、わたしは……ま、真夫君を……裏切った……」

 

 かおりは呟いた。

 

「そうだ。お前は真夫を裏切った……。これでいい……。あいつに、女など信頼に値するものではないということを教えて、この学園を去らせるのが、あの人の望みだしな……」

 

 誰かが言った。

 まるで独り言のような口調だったが、そこにいるのが何者か思い出せない。

 なにもかも、ぼんやりとしている。

 

「お前は悪い女だ。顔をあげろ」

 

 かおりは、その言葉のままに顔をあげた。

 その顔に不意に唾がかけられた。

 

「きゃあああ」

 

 かおりは、悲鳴をあげて、尻餅をついてしまった。

 

「お前は裏切り者だ。それに相応しく生きな。このまま、なにも知らないと白ばっくれろ。真夫たちが出ていけば、お前は元のA級生徒だ。孤児の連中など、気にするに値しねえ……。十まで数えろ……。そしたら、俺との記憶がすべて消滅する……」

 

 誰かが立ち去っていく。

 しかし、かおりは、やらなければならないことをやるだけだ。

 十までの数字を数えるのだ。

 

「一、二、三……」

 

 数えるにつれ、苦しいのは消えていった。

 かおりは、悪い女で裏切り者だ。

 その思いがだんだんと大きくなる……。

 

「……十……」

 

 はっとした。

 

 ここがどこなのか、すぐにはわからなかったが、どうやら、ここは生徒寮の近くだ。

 ひとりだ。

 周りには誰もいない。

 ただ、一台の軽自動車があった。

 誰も乗っていないようだ。

 

 それにしてもわからないのは、なぜ、かおりがここにいるのかということだ。

 かおりは、真夫の奴婢生徒になって、特別寮で暮らすことになったのだ。

 この一般生徒棟は、かなり特勉寮とは離れている。

 

 そして、ぎょっとした。

 急にすべてを思い出したのだ。

 かおりは真夫を裏切って、竜崎たちに恵をさらわせた。

 しかも、レイプをけしかけた……。

 目の前の自動車は、恵が乗っていたものであり、かおりがそれをここで停めて、竜崎たちが恵を襲撃する機会を作ったのだ。

 

 ぞっとした。

 なんていうことをしたのだろう……。

 身体から血の気が引くのがわかった。

 

 かおりは裏切り者だ。

 だから、それに相応しく行動しなければならない……。

 

 そのとき、かおりの頭にその言葉が響き渡った。

 白を切れという言葉も浮かんだが、それよりも、かおりは悪い女だという言葉がすべてを支配した。

 

 かおりは裏切り者で悪い女だ。

 それに相応しいことは、“ご主人様”に罰を受けることだ。

 それ以外になにがあるというのだろう。

 

 かおりはふと、恵が乗っていた車を覗き込み、助手席に通信端末があることに気がついた。

 

 操作をすると、かおりの知りたい電話番号があった。

 電話をかける。

 少し時間がかかったが、相手が出た。

 

 真夫だ。

 

「もしもし、どうしたのかおりちゃん?」

 

「真夫君……、いえ、ご主人様……わたしは悪い女で裏切り者です……。どうか罰を与えてください……」

 

 かおりは言った。



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 第51話  レイプ開始

「お寝覚めか……」

 

 男の声がした。

 同時に複数の男たちの笑い声もしたと思った。

 

 恵は、まだ痛みの残る朦朧としている頭をなんとかあげた。

 どこか薄暗い小屋のような場所だ。

 だが、次の瞬間、いきなり強い光を当てられて、なにも見えなくなった。

 

 ここは……?

 どうして……?

 

 思考を巡らすが、とっさには思い出せない……。

 しかし、すぐに学園の中で自動車を走らせている途中でかおりに出くわし、車を停めて車外に出たところをジャージ姿の覆面に襲撃をされたという記憶が蘇った。

 

 だんだんと光の明るさにも目が慣れて、恵の視界に覆面姿の若い男たちの姿が入って来た。

 その瞬間、恵をパニックの発作が襲った。

 

「んんっ」

 

 ありったけの悲鳴をあげたつもりだったが、口に丸いボールギャグが押し込まれている。

 うまく声が出ない。

 

 怖い……。

 怖い……。

 目の前に男……。

 

 久しぶりに味わう恐怖症の発作だ。

 手足が痙攣のように震えはじめるとともに、すっと頭から血の気が引くのがわかった。

 同時に激しい嘔吐感を襲い掛かる。

 

「んんっ、んおおっ、んぐううっ」

 

 恵は激しく暴れた。

 だが、手がまったく動かない。

 それでわかったが、恵は両手首を束ねて縄で天井から吊るされていた。そして、左足だけが床に装着されている金属の杭に縄で足首を固定されている。

 恵は運動部の倉庫を思わせる場所の中心で、両手を頭の上にあげて立たされていたのだ。

 

「んぐうっ、んんっ、んんっ」

 

 縄はとてもじゃないが、暴れて外れるようなものでもない。

 それでも、恵は狂ったように暴れ続けた。

 全身を恐怖心が襲いかかっている。

 気がつくと、あっという間に滴り落ちるような汗をかいていた。

 その汗が木の床にぼたぼたと落ち続ける。

 

「様子がおかしいですよ、竜崎さん……。怖がるのは当たり前だけど、この汗は異常ですよ。それに鳥肌がすげえ……」

 

 恵の前に立っている覆面の男が言った。

 目の前には六人ほどの覆面の男がいたが、その中でもっとも小柄な男が中心にいる男に向かって心配そうな口調で言った。

 覆面の男たちに心当たりはないが、この学園の生徒たちだろう。

 恵にかすかに残っている理性がそれを悟らせた。

 ただ、全員が筋肉質の体格をしている。

 おそらく、なんらかのスポーツをしているのだと思う。

 でも、なんでその連中が恵を襲うのだ……?

 

 いずれにしても、襲撃者が狼狽えるほどに、恵は異常な状態らしい。

 恵は完全にパニックに襲われていた。

 しかも、だんだんと呼吸まで苦しくなる。

 

 助けて……。

 怖い……。

 

 真夫ちゃん……。

 助けて、真夫ちゃん──。

 恵はボールギャグ越しに必死に、声にならない悲鳴をあげた。

 

「てめえ、なんで俺の名を呼んだ──」

 

 そのとき、声をかけられたもっとも大柄の少年が小柄な男を蹴り飛ばした。

 

「んげえっ、す、すんません──」

 

 壁に吹っ飛んだその小柄な少年が必死に頭をさげる。

 

「……まあいい……。いずれにしても、こんな状況じゃあ、興醒めだ。もう少し後で使うつもりだったが、さっそく使うか……。あんたには、ちょっとばかり、気持ちよくなってもらうぜ。レイプされたものの、俺たちの珍棒が気に入って、いつの間にか、淫乱に腰を振ってよがり狂ったというのが、今回の設定なんだ……。おいっ」

 

 巨漢の男の合図でさっと少年たちが恵に群がり、恵の身体を前後からがっしりと掴んだ。

 ひとりが筒状の細い金属の器具を恵の首筋に近づけた。

 

「んんっ」

 

 すぐにちくりという痛みを感じた。

 針のようなものに刺されたと思った。

 さらに反対側からも首に刺される。

 

 注射器……?

 

 金属の道具は注射器のようだ。平らな先端を肌に押しつけてボタンを押せば、針が飛び出して薬液を体内に注入する仕掛けのようである。

 得体の知れない薬物を注射されたとわかったとき、恵を別の意味でパニックが襲った。

 

 だが、いきなり、がくりと全身が脱力した。

 それとともに、全身にまるで無数の蟻が這い回るような感覚がやってきた。

 同時に、頭がまたもや朦朧としてきた。

 身体だけでなく、思考も動かなくなってくる。

 そのため、恐怖症の発作は薄れてきたが、それは身体への新しい恐怖に変わった。

 

「う、あううっ、ああ……」

 

 恵は声を出していた。

 あっという間に、全身がまるで炎にでも炙られているように熱くなってきたのだ。

 しかも、局部が怖ろしいほどに疼いてもくる。

 なにを注射されたのかは、薄々わかった。

 

 おそらく、媚薬だ……。

 

 しかも、信じられないくらいに強力で即効性のあるものだろう。

 だんだんと全身に凄まじい疼きを感じてくる。

 

 特に、股間だ。

 まるでただれるように疼く……。

 

 それだけでなく、乳首の疼きもすごい。

 ブラジャーに包まれているふくらみの裾野から、尖った先端にかけてびりびりと電流でも流れているようだ。

 

 発作による大暴れをやめて、荒い息を始めた恵の前に巨漢が立った。

 顎を掴まれて、顔を上に向けられる。

 とっさに振りほどこうとしたが、信じられないくらいに力が強い。

 媚薬の効き目が回りだした恵には、男の手を払いのけることはできなかった。

 

「どんな気持ちだ、あんた? これはアマゾン原産の特殊な麻薬が配合されていてな。これを打たれれば、どんな女でも狂ったようによがり狂う。系列の医薬会社から、ひそかに回してもらったものだ。もちろん、外には出回ってねえ、正真正銘の媚薬だ。以前に、親父のつてで遊んだモデルに使ったが、そりゃあ、大変だったぜ。みんなで廻したときには、最後には泡を吹いて、小便まで垂れ流したからな。まあ、小一時間もすれば、あんたもそうなる」

 

 巨漢が言った。

 そして、恵を押さえつけていた男たちとともに、巨漢も離れていく。

 その巨漢がさっき蹴飛ばした小柄男を見た。

 

「おい、お前、罰として撮影係だ──。すぐに大人しくなる……。そうしたら、始めるぞ──。ただし、お前の番は、俺たちがこの女のマンコを精液だらけにしてからだ」

 

「は、はい」

 

 小柄な男が渋々という感じで、どこからかビデオカメラを取り出して、恵にレンズを向ける。

 

 撮影……?

 恵は自分を映し始めたカメラに目を丸くした。

 

 しかし、だんだんと鈍くなる頭のおかげで、恐怖症の発作は緩まって来た。

 だがら、少しだけ思考が戻ってくる。

 そして、この小柄の少年が大柄の少年を“竜崎”と呼んだことを思い出した。

 

 その名に記憶がある。

 確か、竜崎というのは、真夫が特別寮に入るにあたって、玲子がS級生徒からA級生徒に格下げした男子生徒の姓だ。

 つまり、これは真夫に対する腹いせ──?

 恵は訝しんだ。

 

「さて、じゃあ、いつものやつから始めるか」

 

 竜崎という学生だと思わせる巨漢が笑いながら言うと、ほかの男たちがさっと動き始める。

 なにをされるのかと思ったが、右の足首に革枷が嵌められて、その枷についている短い鎖が、天井についている滑車に繋がっている細い鎖に接続される。

 

 恵は滑車の先を見た。

 足首に繋がっている鎖が滑車を通って、床に垂れている。

 その先端は、恵の頭の高さくらいで宙に浮いていて、少年たちが金属の接続具を使って、鎖の先にバーベルの重しを装着しようとしている。

 

 はっとした。

 

 なにが始めるのかわかったのだ。

 しかし、次の瞬間、鎖にとりついていた少年たちがさっと手を離した。

 鎖にバーベルの重さが加わり、それが滑車を通じて、すごい力で恵の右足首を引っ張り出す。

 

「んああっ、ああっ、ああっ」

 

 恵は歯を食い縛った。

 右足首が上に引っ張られるが、あげてしまえば短いスカートから股間がさらけ出されることになる。

 さっきの媚薬で猛烈に疼ている股間をこの少年たちの前に出してしまえば、なにをされるかわからない。

 恵は必死で足に力を入れた。

 

「おお、すげえな。あの媚薬を打たれて、最初の重りの難関を堪えたのは、あんたが初めてかもしれねえ。だが、時間の問題だ。媚薬はどんどん効いてきて、あんたの力を奪うし、重りはいつまでもあんたの足を引っ張る続ける。あんたが脚を上にあげきってしまったのが祭り開始の合図だ」

 

 竜崎が笑った。

 そして、さっとポケットからあるものを取り出して、恵に示した。

 

 目を疑った。

 それは恵がはいていたはずの下着だった。

 そういえば、股間を覆うものに、物足りなさのようなものを感じていた。

 どうやら、気絶をしているあいだに、下着を脱がされていたのだ。

 

「やっとはいてないのに気がついたのかい、美人の姉ちゃん。随分と色っぽい下着をしてるんだな。紐パンとはな……。そして、パイパンもあんたの恋人の坂本って小僧の趣味かい?」

 

「もちろん、すでにしっかりと撮影しているよ。だから諦めて脚を拡げな。そうしたら、ここにいるみんなで、あんたをやってやるからよ。すぐに、恋人のことなんて、もう考えられなくなると思うぜ。どんな女もさっきの媚薬でそうなった」

 

 竜崎の左右の少年たちが、大人のような好色な笑い声をあげた。

 

 だが、恵にはもうなにも考えられない。

 足がつるような猛烈な痛みが右足に襲い掛かっている。

 そして、媚薬に痺れはじめている股間から、つっと蜜が垂れ落ちてスカートの裾から下に流れるのも感じた。

 

 恵は懸命に脚に力を入れ続けた。

 

 


 

 

「絹香さんにしつこくされて、なにかお困りのようでしたので……。ご迷惑でしたか……?」

 

 理事長室に入ると、すぐに玲子さんが立ちあがって、もじもじとしながら真夫に歩み寄って来た。

 

 学園登校の初日であり、真夫は昼休みになったところで、メールの呼び出しを受けて、玲子さんのいる理事長室にやって来たのだ。

 理事長室に隣接する隠し部屋には、この学園中に備え付けられている無数の隠しカメラとマイクを映像や音声を確認できる装置がある。

 それは、教場や各種施設、グラウンドやレクレーション施設だけにとどまらず、生徒の寮の個室、浴場にシャワー室、トイレの中までの情景をここで確認することができる。

 また、その記録等も残すことができ、真夫は玲子さんから、この学園の主出す女生徒のオナニーシーンや、あるいは学園内で行われているセックスシーンなども観ることができると教えられた。

 真夫は、とりあえず、そんな隠し映像などには興味は沸かなかったが、監視システムそのものにはびっくりした。

 

 ともかく、玲子さんは、それを使って、絹香からSS研のことでしつこくされていた真夫のことを確認していたのだろう。

 それで、わざわざメールをして、理事長室に呼び出し、絹香から離れる口実を作ってくれたようだ。

 

 もちろん、一介の生徒が無遠慮に理事長室でひとりで入るところを誰かに見咎められるわけにはいかない。

 真夫がやってきた経路は、あまり人のやって来ない廊下にある隠し扉からやって来る通路であり、やはり、隠し扉からその通路から部屋に入るものだ。

 事前に玲子さんに教えてもらっていたものであり、初めて使ったが、すぐに使いこなすことができた。

 部屋に入る前に、通路側から理事長室を覗き穴から確認し、室内にいるのが玲子さんのみであることはしっかりと確認をしている。

 

 真夫を出迎えたスーツ姿の玲子さんの顔は真っ赤だった。

 額にも薄っすらと汗をかいている。

 真夫はほくそ笑んでしまった。

 

「本当にそれだけですか? ほかにも用事があるんじゃないですか」

 

 真夫は理事長室にあるソファーに腰をおろす。

 玲子さんは困ったような赤ら顔で、真夫の前に立ったままだ。

 

「スカートをめくってください。俺の可愛い奴婢理事長代理様が、ちゃんといい子だったかどうかを確かめるんです。それとも、仕事をしながらいやらしいことを考えていたような淫乱理事長代理だったら、罰を与えようかな」

 

 真夫は笑って言った。

 もちろん、戯れだ。

 

 しかし、なんとなく、このところ、玲子さんの性癖の傾向もわかってきた。

 玲子さんは、なぜか真夫の仕掛ける言葉責めや陰湿っぽいいじめのような責めが好きだ。そんな責めをした後で、思い切り可愛がってあげると、日ごろの生真面目っぽさが嘘のように、玲子さんは、でれでれになる。

 

「ああ、意地悪を言わないください……」

 

 案の定、玲子さんは色っぽく悶えたような仕草をする。

 早速、スイッチが入ったみたいだ。

 真夫はちらりと時計を見た。

 この学園の昼休みは長く、昼食を含めて二時間はある。

 玲子さんのことだから、真夫がここで食事をしたいと言えば、すぐに準備をしてくれるだろうし、あるいは、一時間ほど、ここで玲子さんといちゃいちゃしてから、一度寮に戻ってもいい。

 あさひ姉ちゃんも戻る頃だし、さっきかおりも、一度寮に戻ると言っていた。

 

 いずれにしても、この十日間ほど、あさひ姉ちゃんだけでなく、玲子さんと肌を接しない日はなかったのに、学園にやって来てからは、玲子さんと交わる機会がさすがに減っている。

 真夫は、それが気になっていた。

 

 それに、時折垣間見る玲子さんの感情には、なぜか、玲子さん自身に対する厭世心のようなものが垣間見えるのだ。

 真夫たちからすれば、いつも完璧な玲子さんは感嘆するほど立派なのだが、もしかしたら、玲子さんはそんな自分が好きではないのかもしれない。

 だが、真夫といやらしいことをするときの玲子さんは、そんな感情が消滅して、心を完全に解放している。

 玲子さんが、真夫との「プレイ」を本当に愉しんでいるというのはよくわかっている。

 そのくせ、玲子さんは、どうしても真夫に対して遠慮気味であり、自分から進んで求めるのは気が咎めるようなのだ。

 

 真夫に言わせれば、エッチなくせに、ちょっと面倒な困ったお姉さんなのだ。

 

「ほら、早く」

 

 真夫は言った。

 玲子さんはおずおずと、短いスーツのスカートの裾を両手で掴んであげる。

 

「ああ……。は、恥ずかしいです、真夫様……」

 

 玲子さんが俯きながら小さな声で言った。

 スカートがめくられることで露わになった玲子さんの股間には、革製の細い貞操帯がしっかりと食い込んでいる。

 玲子さんに嵌めるために、時子婆ちゃんに頼んで準備してもらったものであり、見た目は革製のTバッグの下着だが立派な貞操帯だ。

 腰の後ろで電子ロックがかかっていて、真夫自身が指の指紋で開錠しない限り、玲子さんはそれを外すことはできない。しかも、股間を食い込む革の縁にはワイヤーが埋め込んであり、玲子さんにはずらすこともできない。おしっこはそのままできるように、尿道口には小さな穴があるが、大便は真夫が外さないと不可能だ。

 また、貞操帯の内側には、大小の張形が装着されており、それはしっかりと、玲子さんの前と後ろの穴に挿入されている。しかも、遠隔操作で張形を動かすこともできる。

 昨夜、玲子さんに寮の部屋で会ったときに、真夫自身が玲子さんにはかせたものだ。

 

 今日の午前中、真夫は十回ほど、玲子さんの前後の張形を短い時間動かした。

 もちろん、玲子さんの仕事の予定はしっかりと把握しており、それの阻害になるような時間は避けた。それだけではなく、玲子さん側からも、真夫の遠隔の悪戯を解除できる信号操作だけはできるように仕掛けも施している。

 つまり、どうしても、悪戯をされたくない状況にあるときには、玲子さん側から遠隔操作を遮断できるのだ。

 その場合は、真夫にその操作を知らせるメールが自動的に入るようになっているのが、少なくとも、玲子さんは、今日の半日は、一度も自らは遠隔操作の信号は解除してこなかった。

 

「びしょびしょじゃないですか、玲子さん」

 

 真夫はスカートの中を眺めてからかった。

 果たして、玲子さんの股間は固く食い込んでいる貞操帯でも防げないくらいの量の蜜が縁から滲んでいる。

 玲子さんがひと晩中……、そして、今朝からこの張形付きの貞操帯で悩みまくった証拠だ。

 

「やっぱり、こんなに濡らしていましたね……。それでも、俺を呼び出したのが、俺にいやらしいことをして欲しかったからじゃないと言うんですか?」

 

 真夫は笑った。

 

「……ご、ごめんなさい、真夫様……。し、して欲しいです……。お呼び出ししたときに、もしかしたら、ここで犯してもらえるかもしれないと期待としていました……。申し訳ありません……」

 

 玲子さんが項垂れた。

 なんだか、その意気消沈した顔が可愛い。

 真夫は、スマホを取り出して、アプリを出す。

 

 真夫が時子婆ちゃんに貞操帯とともに開発してもらったものであり、「玲子さん調教ソフト」だ。

 

 画面に出現した操作具を使って、さっそく貞操帯の淫具を振動させる。

 とりあえずは、張形の方ではなく、クリトリスに接触している突起からだ。

 

「あ、ああっ、ま、真夫様──」

 

 玲子さんががくりと膝を折った。

 

「スカートをめくたっままま、じっと立っているんです。声も出しちゃいけません。これは調教ですからね」

 

 真夫はすかさず叱咤した。

 

「は、はい……」

 

 玲子さんが懸命に歯を食い縛るような表情になる。

 めくられているスカートの中にある白い内腿が、小刻みに震えている。

 必死で快感を耐えているのだろう。

 真夫は、あっさりと振動を止めてあげた。

 玲子さんはほっとしたように脱力する。

 

 しかし、すぐに振動を入れ直す。

 

「あっ、ああっ……ん、んんっ」

 

 慌てて、玲子さんが口をつぐむ。

 真夫は、玲子さんが耐えようとすると、すぐにスイッチを切り、逆にほっとしたところで、振動をさせるということを数回繰り返した。

 たちまちに、玲子さんは、スイッチを切っても、淫情に我慢できなくなったようにもじもじと悶え始めるようになった。

 

 真夫は色っぽい玲子さんの姿に嬉しくなった。

 興に乗ってきた真夫は、本格的に玲子さんをここでいたぶってあげたい気分になっていた。

 いよいよ張形も動かそうと、画面に指を伸ばす。

 

 そのとき、着信を知らせるメッセージがスマホの画面に出た。

 かおりからだった。

 真夫はスマホを操作してアプリ画面から電話用の画面に切り替える。

 

「もしもし、どうしたのかおりちゃん?」

 

「真夫君……、いえ、ご主人様……わたしは悪い女で裏切り者です……。どうか罰を与えてください……」

 

 すると、電話の中から感情を失ったような抑揚のない口調のかおりの声が聞こえてきた。



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 第52話  屈辱の愛撫

「うっ……ふっ、うう……」

 

 柔道部の倉庫でボールギャグ越しに女の呻き声が続いていた。

 すごい汗だ。

 

 皮膚注射による媚薬の影響が出ているのだとも思うが、あれだけの重しで引っ張られる脚を必死になって抵抗しているためでもあるだろう。

 すでに、媚薬はすっかりと身体に溶け込んでしまって、力などほとんど出ないはずなのだが、大した気力だ。

 

 もっとも、それも時間の問題だと思う。

 さっきまで、地面にしっかりとついていた右足がほんのかすかに宙に浮いてる。

 おそらく、頑張りもここまでだ。

 このあとは、あっという間に脚が引っ張られて、足首が頭の上まで跳ねあがる。

 そうなれば、当然、下着をはいていないミニスカートは股の付け根までまくれ、露わになった秘所を竜崎たちが、好きなだけなぶる態勢が整うということだ。

 

「竜崎さん、そろそろですよ。やっと脚が浮きましたから」

 

 女の周りにたかっている竜崎の手下の生徒たちも揶揄の声をあげた。

 確かに、女の太腿が激しく痙攣している。

 

 無理もない。

 右足首に繋がれた縄を天井の滑車を通してバーベルの重しで引っ張られているのだ。

 しかも、あれだけの強力な媚薬を打たれている。

 これまで頑張れたのが、奇跡のようなものだ。

 

 竜崎がやらせたことであり、竜崎を目当てに近づいて来る女は、いつもこうやって仲間内で辱めて廻すのを習慣にしている。

 輪姦したあとは、それなりの金を与えて追い払う。

 大抵は、それで落ち着くのだが、それでも承知しなければ、竜崎家の権力を使って黙らせる。

 竜崎たちが相手をするのは、この学園に通うような力を持っている実家の子女ではなく、その辺の普通の家庭の女子高生や女子中学生などだ。

 竜崎家の息のかかっている者が脅せば、庶民など泣き寝入りするしかない。

 

「頑張るな、女。ここまで頑張ったのはお前が初めてだぜ」

 

 竜崎はせせら笑った。

 この女に恨みはないが、竜崎がS級から蹴り落とされるきっかけとなった坂本真夫とかいう小僧の恋人だったことが運の尽きだ。

 しかも、真夫にしても、この女にしても、実家の後ろ盾どころか、身寄りもない孤児出身だという。

 だったら、相当のことをしても問題はない。

 かなりのいい女だから、一回きりというだけじゃなく、しばらく「便器」として飼ってやるのもいいかもしれねえ。

 

 どうせ、あの真夫とかいう小僧には、なんにもできない。

 絶対に、竜崎家の力には逆らえない。

 泣き寝入りした挙句に、学園を出ていくしかないだろう。

 まあ、ぜいぜい、一介の庶民がこの学園に入ろうとした愚かさを悔いるがいいのだ。

 

「んふうっ、ふううっ、ふううっ」

 

 竜崎が女の前に行くと、すごい形相で女が睨んだ。

 余程に気の強い女のようだ。

 竜崎は嬉しくなった。

 

「ほら、もっと頑張れよ。恋人がいるのに、俺たちに犯されたくねえだろう? 脚がすっかりとあがったら、さっそく始めるからな」

 

 竜崎は両手を吊りあげられて引きあがっている胸の膨らみを服越しにぐいと掴んだ。

 

「んぐうっ」

 

 女の身体が弾かれたように動いた。

 媚薬の影響なのだが、やった竜崎がたじろぐほどの感じようだ。

 

「んふうっ」

 

 そのとき、ボールギャグの下から、女の泣くような声がした。

 胸をいたぶられて、一瞬脱力してしまい、それで一気に右足があがったのだ。

 

「おっ?」

 

 手下の生徒たちのひとりが嬉しそうな声をあげた。

 

「ぐううっ」

 

 そのとき、女が吠えるような声を出した。

 見ると、足首は膝から上にあがったものの、膝が降り曲がったところで女が辛うじて、それ以上脚があがるのを堪えている。

 ここまで耐えた女も少なかったと思うが、途中で耐えたのは本当に最初だ。

 竜崎は感嘆した。

 

 そのとき、なにかが砕けるような音がしたと思った。

 

「ぷはあっ」

 

 女がなにかを口から吐き出したと思った。

 次の瞬間、眼に尖ったなにかの破片を吹きつけられた。

 

「いてえっ」

 

 竜崎は思わず、眼を押さえて顔を屈める。

 

「あっ、竜崎さん」

「なにすんだ、女──?」

 

 手下たちが一斉に声をあげた。

 どうやら、目の前の女は、ボールギャグを噛み砕いてしまったようだ。

 それを顔に吹き付けられたらしい。

 

「こなくそっ」

 

 すると、衝撃が鼻で起こった。

 

「ぐあっ」

 

 目の前で火花のようなものを感じて、そのままうずくまってしまった。

 

「こいつ、なんてことを」

 

 手下のひとりが女を捕まえている。

 竜崎の顔に女が思い切り頭突きをしたらしい。

 

「あ、あたしにこれ以上触ったら、ただで置かないよ、この卑怯者──」

 

 女がすごい剣幕で怒鳴りあげた。

 ボールギャグは、球体の部分が砕けて口から外れている。

 竜崎は、呆然と女を見てしまった。

 そして、かっと心が熱くなった。

 

「お、面白れえ。こんな女、初めてだぜ」

 

 竜崎は言った。

 怒りよりも興奮が上回っている。

 

「あ、ああっ、いやあ」

 

 そのとき、女の悲鳴が部屋に轟いた。

 右足が完全に上にあがり、頭の上まで引きあがったのだ。

 スカートはまくれあがり、ほとんど股間が剥き出しになっている。

 両手を吊られているので、女の身体は斜めに傾いた状態になっている。脚があがっている側からは、女の股が剥き出しだ。

 

「竜崎さん、さっそく犯しましょう」

 

 手下の生徒が嬉しそうに言った。

 竜崎もまた、その気になって、女に近づく。

 

 最初は竜崎だ。

 それは決まり事なので、手下たちが遠慮するように、女から離れる。

 竜崎が、このまま女を片脚で立たせたまま犯すのが常であるのを知っているのだ。

 巨漢の竜崎だからこそできることであり、それが終われば、改めて女を縛り直して、全員で犯すことになる。

 

「いやあっ……」

 

 女が泣き叫んだ。

 必死で、足をおろそうとしているようだが、一度上がり切った足首をもう一度さげる力は残っていないようだ。

 

 とにかく、竜崎は嬉しくなった。

 気の強い女が泣くのはいい。

 竜崎は股間が硬く勃起するのが、はっきりとわかった。

 

 そのとき、竜崎の心になにか引っ掛かるものを感じた。

 引っ掛かるというよりは、不思議な啓示のようなものだ。

 

 犯してはならない……。

 辱めるだけで、最終的には犯さずに終わらす……。

 

 不思議な声が頭の中でささやいた気がした。

 

「そ、そんな馬鹿な……」

 

 竜崎はつぶやいた。

 ここまで来て、女を犯さないなど……。

 

「どうしたんです、竜崎さん」

 

 手下のひとりが、じっと止まってしまった竜崎に怪訝そうな声をかけてきた。

 

「な、なんでもねえ……」

 

 竜崎は片脚を大きく上げたまま、どうしようもできない女の股間に手を伸ばした。

 

「んぐうっ、だ、だめえっ。ああっ、だ、誰か……、誰か助けて──」

 

 竜崎の指が秘所に触れてびくりと反応するとともに、女が助けを求める悲鳴を絶叫した。

 反応が激しいのは、媚薬を使っているからだ。

 女の股間はまるで小便でも洩らしたかのように蜜で溢れていた。

 

「りゅ、竜崎さん、騒がれるとやばいですよ」

 

 手下が慌てたように言った。

 竜崎は、ポケットに入れていた女の下着を掴むと、嫌がる女の口をこじ開けて捩じり込んだ。改めて縄で口の上から縛り、口から布片が出ないようにする。

 すると、媚薬の容赦のない効き目で顔を真っ赤にしている女が、ぼろぼろと涙をこぼしだした。

 

 泣いている女を犯すのはいい。

 

 竜崎は改めて、ズボンから怒張を出そうとした。

 すでに臨戦態勢だ。

 あとは、嵌めてよがらすだけだ。

 

 しかし、またもや不可思議な感情に襲われた。

 どうしても、直接に犯すのは躊躇った。

 なぜ、そんな気持ちになるのかわからないが、そんな感情になるのだ。

 

 竜崎は舌打ちした。

 

「……いや、もう少しいたぶってやる。お前ら、女を愛撫していかせ続けろ。媚薬で狂っているような身体だ。この気の強い女がすっかりと雌の顔になるまで嬲り尽せ。ただし、本番は駄目だ。それはもう少し後だ」

 

 竜崎が告げると、手下たちが歓声をあげて女に群がる。

 女は悲痛な悲鳴をあげた。

 だが、身体のあちこちをまさぐられて、望まない快感に悶え始める。

 

 これでいい……。

 

 とにかく、犯さないわけじゃない。

 後にするだけだ。

 これなら、感情の矛盾に応じられる。

 一方で竜崎は、この期に及んで、どうしても犯すことを躊躇う自分の気持ちに首を傾げていた。

 

「んふう、んんんっ」

 

 そのとき、四人ほどの男に一斉に愛撫を受けている女が、口惜し涙を流しながら、さっそく最初の絶頂に身体を震わせた。 

 

 


 

 

「とにかく、そこにいるんだ、かおりちゃん。命令だ。絶対に動くんじゃない」

 

 真夫はスマホを通じて叫んだ。

 胸騒ぎがした。

 電話の向こうのかおりは、明らかに様子がおかしい。

 自分は真夫を裏切ったと繰り返すが、なにをどうしたのかと訊ねても、同じ言葉を人形のように繰り返すだけだ。

 

 とっさに頭にひらめいたのは、秀也のことだ。

 まだ一度も会ったことはないが、玲子さんの調教係だったという男子生徒が、真夫と同じような能力を持っているという予感があった。

 

 つまり、人の心を操る力だ。

 

 少し以前の真夫なら、その可能性すら想像しなかったと思うが、数日前から真夫にも他人の感情を読む力と、それを動かす不思議な力が覚醒している……。

 おそらく、秀也はそれを駆使するのではないかと思う。

 

 そうすると、辻褄の合うことがあるのだ。

 まずは、玲子さんが不思議なくらいに、秀也のことを真夫に教えないし、言及もしないのだ。

 秀也という男子生徒に調教をされることを余儀なくされたことを口にしたくないという感情もあるのだとは思うが、学園の中で秀也という男子生徒は、異常な力を持っているのはなんとなくわかる。

 それにも関わらず、秀也という生徒のことを真夫にまったく語らないのは不自然だ。

 ほかのS級生徒のことは、ある程度の詳しいことを真夫に事前に説明したにも関わらずだ。

 

 真夫にはそれは不自然な沈黙のように感じた。

 

 不自然な沈黙はほかにもある。

 昨日、S級用の寮でほかのS級生徒と会話をしたとき、彼らの誰もが、秀也のことについて、ぽっかりと記憶が抜けたようになっていた。

 秀也のことが思い出せないということではない。

 言われれば思い出すが、自分からは頭に思い浮かばないという様子のようだった。

 

 特に、生徒会長の絹香にしてからも、同じ生徒会の副会長の秀也については、「そんな人もいたかもしれない」という態度だった。

 会話の中で秀也とはどんな生徒なのかと、何度か訊ねたが、あそこにいた誰もが、特に印象はないと応じた。

 

 あまりにも不自然な沈黙と忘却……。

 

 真夫はなんらかの思考制限を彼らがされているという予感がしていた。

 根拠も低く、荒唐無稽だとは思う。

 だが、数日前から、その荒唐無稽な力がほかならぬ真夫にも備わりつつあるのだ。

 真夫としては、自分にできることであれば、その秀也にもできないことはないと思うしかなかった。

 そしてまた、真夫と同じような能力を秀也という見知らぬ生徒も駆使できるとすれば、それは偶然とも思わなかった。

 

 いずれにしても、数日中に自分なりに調べてみよう……。

 そう思っていた矢先の今回の事象だ。

 かおりは、なんらかの操りをされている……。

 真夫はとっさに思った。

 

「真夫様、どうかしましたか?」

 

 玲子さんが怪訝そうに言った。

 真夫はかおりの様子がおかしいと首を捻りながら言った。

 玲子さんが真顔になった。

 

「玲子さん、監視システムを使わせてよ──。かおりちゃんがどこにいるかを見つけて」

 

 真夫は言った。

 その口調で、ただごとでないということを玲子さんも悟ったのだろう。

 たったいままで、真夫の悪戯によがっていたとは思えないような引き締まった顔になるとともに、さっと素早く理事長室の奥の本棚の横の壁に走る。

 

「こっちに」

 

 玲子さんが真夫を促した。

 そのときには、なにもなかった壁に、さらに奥の部屋に進む入口ができていた。

 

「おお……」

 

 真夫は思わず声をあげてしまった。

 奥はちょっとした広めの空間だ。

 部屋全体は薄暗くなっており、片側一面には十数個のモニターがあり、それらが大きなモニターを囲んでいる。

 その反対側の一面の壁には、ロッカーのような大きさのコンピューターがびっしりと隙間なく並んでいた。

 

「お待ちください」

 

 玲子さんはモニターに面する制御盤をすごい早業で動かしだす。

 すぐに、中央のモニターに一個の映像が映った。

 正門に近い学園の外郭部のようだ。

 携帯電話を握りしめたかおりが、呆然と立っている。

 その横には、一台の軽自動車があった。

 

「真夫様、あれは今日、恵さんにお貸しした学園の車です」

 

 玲子さんが慌てたように言った。

 真夫も見た。

 そして、車両の中には誰もいないということを確認した。

 

 あさひ姉ちゃんになにかが起きた……?

 とっさに思った。

 

「玲子さん、あさひ姉ちゃんを探して──。もしかして、誰かに連れていかれたのかも」

 

「ま、まさか……」

 

 玲子さんは驚いたように言ったが、すぐにシステムを動かし始める。

 モニターには、学園内の監視カメラのあちこちの映像と思われる画面が、次々に入れ替わっては映り始める。

 

 真夫は、まだ手に持っていたスマホを使って、こっちから、かおりに電話を掛ける。

 

「かおりちゃん、あさひ姉ちゃんはどうしたの? どうしたの?」

 

 携帯に出た叫んだ。

 かおりは泣いているようだ。

 やはり、判然としない。

 真夫を裏切ったのだと喋るだけだ。

 

「おかしいわ……。恵さんの居場所がわからない……。学園内にいる者は、このシステムですぐに居場所がわかるようになっているのに……」

 

 玲子さんが焦ったように呟くのが聞こえた。

 

「どういうこと、玲子さん? そのシステムでは、本当は学園にいる者はすぐに居場所がわかるようになっているのに、いま、あさひ姉ちゃんがどこにいるのか、システムで捜せないということ?」

 

 真夫が訊ねると、玲子さんはその通りだと言った。

 実のところ、学園内に入っている者については、生徒や教師などに限らず、出入りの業者に至るまで、入門の際の指紋登録の際に、マイクロチップを皮膚の下にひそかに埋め込み、居場所だけでなく、身体の状態や行動内容などを追跡できるようになっているらしい。

 もちろん、真夫もあさひ姉ちゃんも、一昨日学園にやって来たとき、登録完了していたとのことだ。

 それにも関わらず、たったいま、あさひ姉ちゃんがどこにいるかを検索しようとしても、エラーが出るだけで、わからないという。

 こんなことはあり得ないと玲子さんが途方に暮れた顔になった。

 

 ほとんど存在を知られていないはずの学園の監視システムを誰かが不正操作した……?

 

 考えられるのは、そういうことだろう。

 ただの故障とは考えなかった。

 真夫の勘だが、なにかの人為的なものを真夫は感じる。

 

 そして、学園の監視システムを操作できる者となれば、おのずとその人物は特定できる……。

 

「玲子さん、もしかして、いま、この瞬間に起動していない監視カメラがあるんじゃない? なんらかの理由で動作が停止しているものが──」

 

 真夫はふと閃いて言った。

 あさひ姉ちゃんの居場所をシステムで検索できないように操作したとすれば、もしかしたら、あさひ姉ちゃんが連れていかれた場所も、監視カメラを切断するように制御しているのではないかと考えたのだ。

 

 玲子さんが制御盤を叩き始める。

 

「あります。十数個の監視カメラが、理由なく動作停止をしています」

 

 玲子さんが興奮したように叫んだ。

 

「地図に投影して」

 

 真夫は声をあげた。

 中央のモニターがどこかの映像画面から、学園の地図画面に切り替わる。

 その地図上に赤い点が浮かんでいる。

 それが、動作停止をしている隠しカメラなのだろう。

 赤い点は、学園の一部の一角を囲むようになっていた。

 真夫は、それがこの理事長室がある棟から、さほど離れていない場所だということがわかった。

 

「ここは、どこ?」 

 

「柔道部の倉庫……だと思います」

 

 柔道部……。

 確か、真夫が入って来たことでS級生徒からA級に降格した男子生徒は、竜崎という柔道部の主将……。

 

「竜崎──。ねえ、竜崎という生徒の居場所は?」

 

 真夫の言葉で玲子さんがシステムを動かす。

 

「その倉庫の中よ。ほかにも、五人の生徒がいます」

 

 そのとき、突然に電話の着信を知らせる音が鳴り響いた。

 真夫ではなく、玲子さんのものだった。

 

「秀也さん?」

 

 玲子さんが驚愕した声を出した。

 真夫は、それを無視して、監視システムのある隠し部屋を駆け出ていた。

 秀也がなんの目的で玲子さんに電話をかけてきたのかわからない。

 だが、まだ、真夫があさひ姉ちゃんの居場所を特定したことは知らないはずだ。

 秀也の目的は不明だが、こっちが先手を打つのだ。

 

 後ろで玲子さんが、慌てたように、真夫になにかを叫ぶのが聞こえたと思った。

 しかし、そのときには、すでに真夫は理事長室から廊下に飛び出していた。



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 第53話  覚醒のとき

「んうううっ」

 

 恵は顔をしかめて呻き、またもや身体をぶるぶると震わせて気をやってしまった。

 

「へへ、兄貴、もう三回目ですよ。まだ続けるんですか。もうやっちまいましょうよ」

 

 恵の身体にたかっている男子生徒が媚びを売るように、巨漢の覆面男に言った。

 だが、リーダーらしいそいつは、腕を組んだまま首を横に振る。

 

「まだだ。まだ、その時じゃねえ。もっと狂わせろ。犯すのはそれからだ」

 

 それだけを言った。

 一度、離れた手が一斉に、恵に近づく。

 恵は身動きできない身体を悶えさせて、泣き声をあげた。

 

 どこかわからない学園内の倉庫のような場所だ。

 恵は、突然に暴漢に襲われて、ここに連れ込まれ、こうやって半裸にされて身体をいたぶられている。

 

 恵の両手は天井に向かって束ねて持ちあげられ、片脚は大きく足首を頭の上まで引きあげられていた。

 身動きはできない。

 口にはも脱がされた下着が詰め込まれていて、悲鳴をあげることさえできない。

 しかも、身体は怪しげな媚薬を注射されたために、気が狂うほどに熱い。

 

 その敏感な身体を四人もの男子生徒にいじられるのだ。

 感じまいとしても、彼らの粘っこい愛撫に耐えきれずに、恵は甘い嗚咽を口から洩らしながら、女の樹液を滴らせるしかなかった。

 真夫以外の男に身体を触れさせるなど、怖気でしかない。

 しかし、どうしても感じてしまうのだ。

 恵はぼろぼろと涙をこぼしながら泣き続けた。

 

「んんんっ、んんっ」

 

 局部を弄られ、左右の乳房を別々の手に揉まれ続ける。

 クリトリスもお尻の穴も、とにかく、薬物の影響で全身がただれるように熱くなっている身体のあらゆる場所を責められる。

 恵にはどうしようもなかった。

 おそらく、ここでさんざんに恥をさらされた後で、全員から犯されるのだろう。

 

 死にも等しい汚辱の拷問……。

 そして、またもや頂上に昇りかけてきた。

 

 すると、覆面の男子生徒たちはかさにかかったように、愛撫の手を激しくする。

 恵は、身体を燃えたぎらせてしまい、痛烈な快感が背骨まで貫いて、くぐもった声をあげて汗びっしょりのうなじを仰け反らせる。

 いずれにしても、この男子生徒たちは、随分と女扱いに慣れている感じだ。

 会話の中で口にしていたが、こういう強姦はいつもやっているのだろう。慣れた手つきで、あっという間に快感を極めさせられてしまう。

 

「遠慮せずにいきなよ。恋人のことなんて、俺たちが完全に忘れさせてやるからよう」

 

 ひとりが、まるで子供をあやすような口調で恵をからかう。

 そして、恵は、またもや昇天させられてしまった。

 

 そのときだった。

 

 勢いよく扉が外から叩かれるような音がして、次いで蹴り飛ばされた。

 

 真夫ちゃん……。

 

 そこにいたのは、真夫に違いなかった。

 手に鉄の棒のようなものを持っていて、すごい形相で睨んでいる。

 

「俺の女から離れろ、虫けら」

 

 真夫が脅すような声で怒鳴ると、つかつかとこっちに歩いて来た。 

 

 


 

 

「俺の女から離れろ、虫けら」

 

 真夫は言った。

 身体を包んだのは、純粋な怒りだった。

 おそらく、真夫の人生でこれほどまでに怒ったことはないだろう。

 鉄の棒を掴んだまま、恵に向かって進む。

 なんの棒か知らない。

 ここまでやって来たとき、あさひ姉ちゃんのくぐもった声が聞こえたような気がした小屋の前にあったのを拾ったのだ。

 

「うわっ」

「なんだ、こいつ」

 

 真夫が鉄の棒を持っているのを見て、あさひ姉ちゃんに群がっていた男子生徒がびっくりしたように悲鳴をあげて、あさひ姉ちゃんから離れる。

 どうしてやろうかと思ったが、とりあえず、あさひ姉ちゃんだ。

 真夫はあさひ姉ちゃん駆け寄る。

 

「遅くなってごめん」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんの右足首に繋がっている縄に繋がっているバーベルを外した。金具で縄で作った輪っかに引っ掛けているだけなので、留め具をひねるだけで簡単にバーベルは床に落ちた。

 あさひ姉ちゃんの吊りあげられていた足が、脱力するように床まで落ちた。

 次に、あさひ姉ちゃんの手首を縛っている縄を見上げる。

 こっちはしっかりと結んであり、簡単に解けそうにない。

 

 次の瞬間、背後から襲い掛かって来る気配を感じた、

 真夫は身体をひねってかわすと、鉄の棒を横に振って、そいつの腹に喰い込ませる。

 

「ぐああっ」

 

 襲い掛かってきたのは、とりあえずひとりだけだった。

 そいつが反吐を吐きながら膝をつく。

 顔全体を覆う覆面をしているが、口と眼の部分はくり貫いて穴が開いているのだ。

 

「こいつ、全員でかかって半殺しにしてやれ。目の前で自分の女が犯されるのを見物させてやる」

 

 巨漢が怒鳴った。

 こいつも覆面で顔を隠しているが、この巨漢が竜崎という男子生徒であることは間違いないだろう。

 

 その言葉を合図にするように、竜崎以外の部屋にいた男たちが一斉にかかってきた。

 全員がそこら辺にあった棒やら、器具やらを持っている。

 とりあえず棒を振り回して払いのける。

 

 すると、顔に白いものを投げつけられた。

 石灰……?

 

 思ったときには、粉が眼に入って見えなくなってしまった。

 

「くっ」

 

 真夫は手で目を擦る。

 

「んんっ」

 

 すぐそばで、あさひ姉ちゃんの悲痛な声がした。

 なにかを背中に押しつけられたと思ったときには、どすんという衝撃が全身に走った。

 

 スタンガンか……。

 真夫は崩れ落ちた。

 持っていた鉄の棒が蹴られて遠くにやられるのがわかった。

 

「押さえつけろ」

 

 竜崎と思う男子生徒の声がした。

 背後から羽交い絞めにされて、仰向けにされる。

 身体の上に誰かが乗ってきた。

 

 やっと目が見えてきたが、上から拳で顔を殴られて、一瞬視界が飛ぶ。

 乗っているのは竜崎だ。

 顔を続けざまに殴られて、また、視界が白くなる。

 とにかく、乗られている身体を退けようと、下から脚を掴んだ。

 だが、ほかの男子生徒たちに、両腕を押さえられて手を剥がされる。

 

 顔に衝撃が来た。

 上からまともに顔面を殴られたのだとわかった。

 口の中に血の味が拡がる。

 鼻が詰まったようになったことで、鼻血も出したことを悟った。

 身体ががっくりと脱力した。

 

「もう一発、スタンガンをくれてやれ。そして、縛りあげろ」

 

 竜崎が立ちあがって、腹を思い切り踏みつけた。

 

「んげええっ」

 

 真夫はのたうち回った。

 そこを押さえられて、またもやスタンガンを肌に密着される。

 今度は首だ。

 

 逃げようとしたが、衝撃が走って身体が動かなくなった。

 

「勇ましく飛び込んできやがったが、飛んで火にいるなんとやらだぜ。そうだ。柱に縛りつけたら、ズボンと下着を脱がせてやれ。恋人が犯されるのを見物しながら、おっ勃っているのを写真に撮るんだ」

 

 竜崎が下品な笑い声をあげた。

 手下たちが歓声をあげながら群がる。

 また、猿ぐつわをされているあさひ姉ちゃんの悲痛な声も聞こえた。

 

 畜生……。

 畜生……。

 

 口惜しさが身体に溢れかえる……。

 いや、身体ではなく心か……。

 なにかが溜まってくる。

 それが破裂する感覚が襲いかかってきた。

 

 腕と脚を押さえられて縄で縛られようとしている。

 縛られれば終わりだ。

 

 なにかが満ちた……。

 破れる……。

 

 とにかく、拘束されたくない。

 真夫は強く思った。

 

 頭が真っ白になった。

 

「うう……」

「あぐう……」

「うっ、うっ……」

「うう……」

 

 気がつくと周りに男子生徒たちが倒れていた。

 覆面は全部剥がされていて、顔は血だらけだ。

 腕がおかしな方向に曲がったりしている。

 ふと見ると、最初から襲撃には加担せずに、ビデオを回していた者も同じように呻き声をあげていた。

 ビデオはぐしゃぐしゃに壊れている。

 手を見ると、記憶媒体を握っていた。

 なぜ、それを持っているかわからない。

 あさひ姉ちゃんを撮影した記録をビデオカメラを壊す前に抜いた……?

 状況的にはそうなのだが、まったく記憶にない。

 

「な、なんだ、お前……?」

 

 声がした。

 竜崎だ。

 まだ、覆面をしたままだが、明らかに真夫に対して、怯えの様子を示している。

 

 どうしたのだろう……?

 もしかして、この五人を真夫が打ち倒したのか?

 

 思い出してあさひ姉ちゃんを見た。

 まだ両手を吊られて立たされたままだったが、そのあさひ姉ちゃんまで目を見開いて、真夫に対する恐怖を見せている。

 

 なんだ……?

 なにをやったのだ?

 真夫は途方に暮れた。

 

「く、くそう」

 

 竜崎が叫んで飛びかかってきた。

 手にスタンガンを持っている。

 

 いや、正確にいえば、竜崎は注意深く右手を背後に隠している。

 真夫には見えていない。

 だが、真夫には竜崎がスタンガンで真夫を襲おうとしているのがわかったのだ。

 

 寸前で身体を振ってかわす。

 どの方向から腕を振ってくるのか事前に頭に入ってきたのだ。

 わかっているので、避けるのは簡単だ。

 しかも、竜崎の身体はまるでスローモーションのようにゆっくりだ。

 実際には目にも止まらないように動いているのだが、真夫には止まっているかのようなのだ。

 動きがわかる。

 どんどんと、事前に竜崎の動きが頭に入って来る。

 

 真夫はかわしながら足を引っかけて竜崎を転ばせ、仰向けに倒れたところで、股間を力任せに踏んづけた。

 

「うぎゃああ」

 

 竜崎が絶叫して、覆面の口のところから泡のようなものを出した。

 真夫は竜崎が落としたスタンガンを拾うと、ズボンの上から股間にスタンガンをおみまいしてやる。

 

「んぐううっ」

 

 竜崎が悶絶したのがわかった。

 真夫の中で竜崎に対する殺意にも等しい憎しみが沸き起こる。

 

「そう言えば、俺のズボンと下着を脱がそうとしてくれたんだよな」

 

 真夫はうそぶくと、ほとんど気絶している竜崎の覆面を剥ぎ取る。

 次いで、ズボンのベルトを外して、一気に下着ごと引き下ろした。

 

「う、うわっ」

 

 気がついた竜崎が腕を振り回して真夫を殴ろうとする。

 だが、またもやそれが起きる前に、真夫には竜崎の考えることが頭に入ってきた。

 簡単に避けて、スタンガンを剥き出しの尻に喰らわせる。

 

「ぐえええ」

 

 みっともない声を出して竜崎が倒れた。

 その竜崎からズボンを下着ごと足首から抜き取る。

 

「た、助けて……。助けてくれ……」

 

 よろよろと起きあがった竜崎がフルチンのまま外に出る扉に向かう。

 見ると、小便をしている。

 こいつは、おしっこを洩らしながら逃げようとしているのだ。

 みっともない竜崎の姿に、思わず笑みをこぼしながら、真夫は力の限り尻を蹴飛ばした。

 

 すると、悲鳴が外からあがった。

 竜崎を追って小屋の外に出る。

 小屋の外には、何人かの男女の生徒が集まっていた。

 人気の無い場所だったが、さっきからこの騒ぎだ。

 たまたま近くを通りがかっていた生徒たちが、おかしな喧噪に気がついて、やって来たのだと思う。

 

 そのとき、さらに大勢の人間が近づく気配を感じた。

 玲子さんだ。

 五、六人の警備員らしき者や、男の教師を連れてきている。

 ほかにも、かなりの生徒たちも一緒に来ていて、その中に生徒会長の絹香もいるのがちらりと見えた。

 

 どうでもいい……。

 真夫の憤怒は続いている。

 

 よろけて四つん這いになった竜崎の顔を下から蹴りあげる。

 竜崎が呻き声をあげて、ごろごろと転がった。

 女生徒たちの絶叫が聞こえた。

 

「ゆ、許してくれ……。な、なあ、か、金を払う……。そ、それで……」

 

 竜崎が弱々しく言った。

 

「金だと──」

 

 またもや怒りが身体を支配する。

 あさひ姉ちゃんを汚した行為を金で償うというのか……?

 逃げようとする竜崎の身体を心で念じて動きを止める。

 竜崎が起きあがろうとした不自然な体勢のまま、金縛りになったかのように静止した。

 自分がそれができるのはわかっていた。

 そして、できた。

 真夫は身動きのできなくなった竜崎の顔面を足で横蹴りにする。

 鼻を完全に潰した感覚が伝わってきた。

 

「ま、まおさま……。いえ、坂本君、落ち着いて──」

 

 背後から身体を羽交い絞めにされた。

 玲子さんだ。

 

「離してください……。こいつを許すことはできません……。それよりも、小屋にまだあさひ姉ちゃんがいます。助けてあげてください。それと男は入れないで」

 

 真夫は玲子さんに振り返りながら言った。

 あさひ姉ちゃんは竜崎たちに襲われて、完全に服が乱れていた。

 だから、男は入れるなと言ったのだ。

 玲子さんがびくりとしたように手を離す。

 あるいは、余程の形相をしていたのかもしれない。

 

「あ……は、はい……。め、恵さんね……。い、行ってきます」

 

 しかし、玲子さんは慌てたように小屋に駆けだしていく。

 何人かの女生徒が一緒に行った。

 その中に絹香も混じっているのを真夫は見た。

 

 振り返る。

 竜崎は男教師たちに助け起こされていた。

 真夫の周りにも、真夫を止めるように警備員が囲んでいる。

 もう、襲うのは無理だ。

 

 だが、手を出すのではなく、頭の中に触れることはできそうだ……。

 

 真夫は竜崎の頭の中を透視する。

 少し前から覚醒していた他人の感情を覗いたり、操作したりする力……。

 それが真夫の中ではっきりとしたかたちとなっていた。

 なにをどうすれば、どんなふうになるのかはっきりとわかる。

 真夫は、竜崎の頭の中にある線を滅茶苦茶に引き千切ってやった。

 

「う、うう……」

 

 明らかに頭の線が切れたような顔になった竜崎が、焦点を失くした表情になって、くたくたと座り込んだ。



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第9章  対面
 第54話  封印のもや


「あ、ああ、気持ちいい、真夫ちゃん。気持ちいいよう」

 

 真夫の怒張を濡れほぞった股間に挿入してあげると、あさひ姉ちゃんは叫びにも似た嬌声をあげて、狂ったように身体をよじらせた。

 特別寮の地下だ。

 真夫は、そこで連れ帰ったあさひ姉ちゃんを寝台で抱いていた。

 

 まだ、昼間であり、教室では午後の授業をしている時分である。

 しかし、真夫は理事長代理としての玲子さんから、処分が定まるまで、寮における謹慎を言い渡されたのだ。

 もちろん、玲子さんとしては、あの場をそれで収めるしかなかったのだと思う。

 

 なにしろ、真夫は大勢の生徒や教師の見ている前で、竜崎をほぼ半殺しの状態にしたのだ。

 手下の五人も大怪我だ。

 

 竜崎については、実際には頭に回復できない損傷を与えてやったので、治療不能のダメージということになる。

 だらしなく涎を垂らして正気を失った竜崎の様子に、周りの者たちが恐怖の色を浮かべたのを覚えている。

 ほかの者は、真夫に与えられた恐怖により、竜崎が頭を狂わせてしまったのだと思っているかもしれないが、真夫がやったのはもっと直接的なものだ。

 竜崎の頭を意図的に壊してやったのだ。

 おそらく、もう回復することはないと思う。

 

 真夫とあさひ姉ちゃんに事情を訊ねるのは後ですると、玲子さんが宣言して、とにかく寮に戻ることを許された。

 そして、戻ってきた。

 本当は真夫自身の治療をするように勧められたのだが、真夫はあさひ姉ちゃんとともに、寮に戻ることを選んだ。

 殴られた痛みは、もうそれほどでもない。

 ちょっと、鈍くうずく程度だ。

 鼻血ももう止まっている。

 

 これからどうなるのかわからないし、そもそも、あの騒動がどうなったかもわからない。

 真夫は竜崎というどこかの財閥の子弟に致命傷を負わせたのだ。

 手下だって、そこそこの家柄の息子のはずだが、いずれも大怪我だ。

 たとえ、向こうに非があっても、過剰防衛もいいところだと思う。

 

 とにかく、真夫は、ただ玲子さんが手配した学園の車で、あさひ姉ちゃんとここに戻ってきただけだ。

 ふたりで戻ると、真夫はすぐにあさひ姉ちゃんをここで抱き始めた。

 

 ただ抱いただけじゃない。

 あさひ姉ちゃんが受けた恥辱や恐怖の記憶……。

 これを可能な限り小さなものにした。

 他人の記憶や感情を操作する方法は、もう真夫は完全に習得している。

 ただ、念じればいい。

 それだけだ。

 

 読もうとしなければ人の心などわからないが、逆に知ろうとすれば、ある程度のことまで相手の考えていることがわかる。

 それだけじゃなく、操作さえもすることができるのだ。

 竜崎にやったように、回復不能の損傷を心に与えることさえできるだろう……。

 

 人の心を操る力──。

 つまり、「操心術」だ。

 

「ああ、んふううっ、す、すごい、ま、真夫ちゃん、いく、いくうっ」

 

 長い前戯の末にようやく挿入と律動運動を開始すると、あさひ姉ちゃんはさらに激しく悶え狂った。

 普通に抱いているだけじゃなく、あさひ姉ちゃんの心にある真夫に対する慈愛の気持ちや、性交に対する快感線のようなものを可能な限り増幅してあげている。

 いまのあさひ姉ちゃんは、まるで全身が敏感な性感帯になったかのように、どこをどう触っても悶え狂う。

 また、実際にあさひ姉ちゃんは、竜崎たちに強い媚薬を皮膚注射されてもいる。

 その影響ももちろんあるだろう。

 

 いずれにしても、あさひ姉ちゃんの竜崎たちとの記憶は、この真夫との性交の記憶と置き換わるはずだ。

 すでに起きたことをなかったことにするのは難しいが、思い出そうとしてもよく思い出せないくらいに忘却させることは簡単だ。

 真夫は、あさひ姉ちゃんを抱きながら、あさひ姉ちゃんの中にある暴漢の記憶を懸命に封印していっている。

 

 さらに……。

 

 いまは他人の心を操作することができるようになった真夫は、あさひ姉ちゃんの心の根底にある真っ黒い闇のようなものも併せて、思い出すことが難しい記憶として蓋をしてあげた。

 おそらく、それは幼いあさひ姉ちゃんを獣のように毎夜犯した父親の記憶だと思う。

 

 しかし、もうあさひ姉ちゃんが、その記憶に苦しめられることはないはずだ。

 真夫は、あさひ姉ちゃんを抱きながら思った。

 もうあさひ姉ちゃんが、男性恐怖症に悩まされることもないと思う……。

 

「ね、ねえ、真夫ちゃん、いく、いってもいい?」

 

 あさひ姉ちゃんが真夫の背中を抱き締めながら叫んだ。

 真夫はくすくすと笑った。

 

「いいよ。その代わり、一度達したら、今度はここだよ」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんを犯しながら、人差し指で秘裂同様に蜜でびっしょりのアヌスを撫であげた。

 しばらく、調教を続けていたあさひ姉ちゃんのお尻だが、そろそろ普通に真夫の一物を受け入れられるようになっている。

 ちょうどいいから、今日をその日にしようと思った。

 それで、あさひ姉ちゃんの今日の記憶は、竜崎たちに身体をなぶられたというものから、真夫からアナルを犯されて絶頂した日というものに変わるはずだ。

 

「んんんっ。は、はい……。あ、あたしは真夫ちゃんのもの……。奴隷なの──。真夫ちゃんの奴婢よ、あ、あああっ」

 

 あさひ姉ちゃんは返事をするだけで、いっぱいいっぱいの感じだ。

 それでも、真夫の奴隷だという言葉を酔ったように繰り返す。

 可愛いあさひ姉ちゃんだ。

 真夫は、激しくあさひ姉ちゃんの子宮を突く。

 あさひ姉ちゃんは、絶叫して果てた。

 

「まだまだだよ」

 

 脱力したあさひ姉ちゃんを裏返しにすると、今度は一気にあさひ姉ちゃんのお尻の穴に怒張を貫かせていく。

 

「んん、あああ、ひいい」

 

 あさひ姉ちゃんが悲鳴をあげた。

 だが、真夫の怒張は信じられないくらいの柔らかさで、あさひ姉ちゃんのアヌスに呑み込まれていく。

 四つん這いに近い状態になっているあさひ姉ちゃんは、背中を大きく反り返して、乳房を激しく揺らしながら、びくびくと全身を痙攣させた。

 

「ほら、忘れるんだ、なにもかも──。次の絶頂であさひ姉ちゃんは気を失うけど、目が覚めたときにはとても愉快な気持ちになっているからね」

 

 真夫は腰をゆっくりと前後させながら、あさひ姉ちゃんの快感を「操心の力」で活性化させる。

 

「んふううう」

 

 途端にあさひ姉ちゃんの身体が真っ赤になり、その肢体が全身を弓なりになった。

 

「ま、また、いくうっ──。お、お尻が……お尻が気持ちいいのう──、真夫ちゃんにお尻を犯されて、気持ちいい──」

 

 あさひ姉ちゃんが雄叫びをあげて、絶頂に達した。

 身体が二度、三度と激しく震える。

 そして、がっくりと脱力した。

 真夫は、力を失っていくあさひ姉ちゃんのお尻に精を放った。

 

 あさひ姉ちゃんが寝息をかきだしたのを確認して、真夫は怒張を抜いた。

 仰向けにして、裸身に毛布を掛けてあげる。

 あさひ姉ちゃんは、うっとりとした表情になって幸せそうに微笑んでいた。

 

 


 

 

 地下の部屋にあさひ姉ちゃんを寝かせたまま、真夫は一階にあがった。

 すでに、真夫は軽い部屋着に着替えている。

 一階のリビングでは、果たして、玲子さんがしょんぼりとソファーに座っていた。

 

「あさひ姉ちゃんは眠っています。目が覚めても、この一件を思い出すことはありません。事情聴取はできませんよ」

 

 真夫はそう言って、玲子さんと向かい合うようにソファに腰かけた。

 玲子さんは怪訝な顔になったが、やっと真夫に寮で謹慎せよと命じたとき、事情聴取を後ですると告げたことを思い出したのだろう。

 すぐに、合点がいった表情になる。

 

「さ、さっきは偉そうな態度をして申し訳ありませんでした。みんなの手前……」

 

 玲子さんが申し訳なさそうな顔になった。

 

「いいんですよ」

 

 真夫は笑った。

 玲子さんはちょっとだけほっとしたように微笑んだ。

 しかし、その笑みはすぐに消えて真顔になる。

 

「そ、それよりもお怪我は……? 恵さんとともに、医務室に行かれてはいかがでしょう……。それとも、ここに医療班を派遣しますか?」

 

 そう言いながらも、玲子さんはすでに携帯電話を取り出して、どこかに電話をする素振りを示す。

 真夫は笑って、もう大丈夫だと言った。

 治療は後で行くからと安心もさせた。

 玲子さんはとりあえず頷く。

 

「……それよりも、俺はどうなるんですかね? 転入したてで、さっそく退学ですか? なにしろ、竜崎というのも、それなりの家柄の出身なんでしょう? 面倒だったら、俺たちを見捨てて構いません。覚悟はできています。いまは、なにとだって戦ってみせます。あさひ姉ちゃんを連れて逃げます」

 

 真夫は言った。

 すると、玲子さんが傷ついたような顔になった。

 

「わたしが真夫様を見捨てると思うのですか──? 真夫様たちのことはわたしの命を懸けても救います。処分などありません。ただ、ちょっと関係部署の調整に手間取るかもしれません。でも、絶対に真夫様に迷惑はかけません。わたしに任せてください」

 

 玲子さんははっきりと言った。

 

「そうですか……。すみません」

 

 真夫は頭をさげた。

 一瞬でも、玲子さんが真夫を見捨てる可能性を考えてしまい、悪いことをしたと思った。

 玲子さんは、どんな代償を払ってでも、真夫たちのことを助けるだろう。

 それは最初から信頼すべきことだった。

 頭をさげた真夫に対して、玲子さんは困った様子を示した。

 

「と、とにかく頭をあげてください……。いずれにしても、竜崎の悪事は明らかです。加担した生徒たちは全員がすぐに自白しました。ただし、口を揃えて竜崎に命じられたと言っています。ただ、肝心の竜崎については……」

 

「頭が狂ってしまったんでしょう。俺も少しやりすぎたかもしれません。竜崎はただの道具です。道具にあんなことをしても仕方なかったかもしれませんね」

 

 真夫は苦笑した。

 だが、それは口だけだ。

 いまでも、竜崎はあれだけの酬いに相応しいことをあさひ姉ちゃんにやったのだと思っている。

 

「あ、あのう……。ところで、あれは真夫様がやったのですか……?」

 

 玲子さんがおそるおそるという口調で訊ねた。

 竜崎の頭を真夫が発狂させたことを質問しているのだろう。

 真夫は「そうです」と応じた。

 玲子さんは驚いたように、眼を見開いた。

 

「驚くことはないでしょう。あの秀也にもできることです。どうやら、俺もその能力を使えるようになったみたいですね」

 

「秀也……?」

 

 秀也の名を出されて、玲子さんは戸惑ったようになった。

 真夫は、そのとき、玲子さんの心に黒いもやのようなものが浮かんだのがわかった。

 やっぱりだ……。

 

 おそらく、あれは封印されている知識や感情だと思う。

 想像していたとおりに、玲子さんは、何者かの手によって、心に手を加えられたうえに、そこに鍵をされている。

 さっき、真夫があさひ姉ちゃんにやったことと同じだ。

 そして、その黒いもやは、竜崎にもあった。

 あの乱闘のあいだ、真夫はしっかりとそれを竜崎の心に感じていた。

 

 いまにして思えば、黒いもやを心に宿している者はほかにもいた。

 生徒会長の西園寺絹香……。

 

 そして、かおりちゃんにも……。

 

 かおりにもあった異変に、真夫は事前に気がついてあげられなかった。

 悪いことをしたと思っている。

 電話口で真夫に謝罪をするかおりの苦しそうな口調……。

 そのことを真夫は思い出した。

 

 いずれにしても、記憶を失っているわけではないが、思い出すことや知覚することが難しいもの──。

 そういうものとして、秀也に関することが玲子さんの心に刻まれているようだ。

 もちろん、それをやったのは秀也だろう。

 秀也は、真夫が覚醒をした能力と同様の「操心術」を遣える能力がある。

 真夫はもやは、それを確信している。

 そもそも、真夫が理事長室から飛び出したとき、玲子さんは秀也からなにかの連絡を電話で受けた感じだった。

 それなにの、いまこうして話していても、玲子さんはそのときのことを語ろうとしていない。

 少し前から感じている秀也に関する不思議な沈黙だ。

 

「ところで、かおりちゃんは?」

 

 真夫は話題を変えた。

 玲子さんは、はっとした顔になる。

 

「彼女をどうするのか真夫様の指示を受けようと思っています……。かおりは、すでに事情聴取を終えて、いまは生活指導室で待機させてます。恵さんが竜崎たちに襲わせるきっかけを作ったのは、あのかおりです。かおりがはっきりと自白しました。かおりは車を学園で走らせていた恵さんを途中で呼び止めて……」

 

「待ってください」

 

 真夫は口を挟んだ。

 玲子が口をつぐむ。

 詳しいことはわからないが、予想はついている。

 玲子さんは、かおりが裏切ったと考えていると思う。

 スマホの電話でも、かおり自身がそう言っていた。

 だが、竜崎が黒幕ではないように、かおりもまた加害者ではない。

 かおりは利用されたのだ。

 

「かおりは俺の奴婢ですよ、ここに戻してください。これまで通りです」

 

「これまで通り? いいのですか? 竜崎はいずれにしても退学処分です。加わった竜崎の仲間も同様です。そして、かおりが竜崎に加担したのであれば、当然に……」

 

 玲子さんは、かおりちゃんが真夫を裏切って、あさひ姉ちゃんを竜崎に襲わせたと知り、かおりちゃんも放校処分にするつもりなのだろう。

 真夫は玲子の言葉を制した。

 

「かおりちゃんは利用されたんです。罪はありません。そう手配してください──。後は俺がやりますから」

 

 強く言った。

 玲子は面食らったような顔になる。

 

「わ、わかりました……。では、すぐに……」

 

 玲子さんは携帯を取り出して、どこかに指示をしようとした。

 真夫は手を伸ばして、その携帯をとりあげて、テーブルに置く。

 

「な、なにか?」

 

 玲子さんが怪訝な表情を真夫に向ける。

 

「それよりも、玲子さん……。いまから、俺はあなたを事情聴取するつもりです。俺に隠してくることがありますよね。それを喋ってもらいますよ」

 

 真夫は言った。

 

「わ、わたしは、真夫様に隠していることなど──」

 

 玲子さんは憤慨したような顔になる。

 しかし、真夫は素知らぬ口調で、玲子さんにその場に立つように命じた。

 玲子さんはおずおずと立ちあがる。

 

「スカートをめくって」

 

 真夫は言った。

 玲子さんは当惑した感じだったが、大人しく両手でスカートの裾を持って、股間がはっきりと真夫に見えるまでたくし上げる。

 そこには、真夫がはかせた革の貞操帯がしっかりと見えた。

 

 玲子さんは突然にスカートをまくって股を露わにさせられて、恥ずかしそうにしている。

 一方で、真夫が考えていたのは、どうやって秀也の封印を玲子さんから解くかだ。

 

 だが、だいたいのやり方は思いついている。

 まずは、玲子さんの心を真夫でいっぱいにするのだ。

 そして、まずは身体……。

 次に心を鷲掴みする……。

 心の底から玲子さんが真夫のことだけでいっぱいになり、玲子さんが真夫に同化したようになれば、それがどんなに強い封印であろうとも、真夫はそれが自分の心を動かすように容易に解くことができるだろう。

 

 玲子さんの心を捉えるのも簡単だ。

 マゾの玲子さんだ。

 思い切り苛めてあげればいい……。

 

「これを見てください、玲子さん……。花ですよね……。綺麗ですね。まるで玲子さんのヴァギナのようですよ……」

 

 真夫はテーブルの上にあった花瓶の花に手を伸ばした。

 いつの間にか飾ってあったものであり、誰かが毎朝交換をしているのか、いつも花がそこにある。なんの花か、真夫は詳しくないので知らないが、大きな花びらの薄桃色の花に触れた。

 それをくるくると撫ぜるように擦る。

 

「あっ、なに?」

 

 玲子さんががくりと膝を折った。

 花びらを触っている刺激が、股間を弄られる刺激として伝わったのだ。

 真夫の言葉で暗示にかかったに違いない。

 

「なにをしているんですか。勝手に姿勢を崩さないでください、玲子さん……。それよりも、この花瓶もつるつるして、玲子さんのお尻のようです。さしずめ、花瓶の口は玲子さんのお尻の穴ですね」

 

 花瓶の表面を撫でながら、花が生けてある花瓶を縁を擦る。

 

「あ、ああっ」

 

 玲子さんが顔を真っ赤にして腰をもじつかせる。

 いま、玲子さんには、お尻を指で触られる感覚が玲子さんに伝わっているはずだ。

 

「ま、真夫様、あなたって……?」

 

 そして、玲子さんがよがりながらも目を丸くした。

 真夫が操心術をはっきりと駆使したことにびっくりしているのだろう。

 

「これからは気をつけてくださいね。俺がなにかの花を触っているのを見るたびに、この感覚が襲いかかりますからね……。じゃあ、クリトリスは俺の指にします。指が擦れるのを見てくださいよ」

 

 真夫は玲子さんに見えるように右の親指を左手で擦る。

 

「んふううっ」

 

 玲子さんは顔を真っ赤にしてがくりと膝を折る。

 真夫はすかさずに自分のスマホを取り出して、「玲子さん調教ソフト」のアプリを出すと、今度は貞操帯の張形を振動させた。

 

「あ、ああっ、んはああ」

 

 暗示による愛撫のほかに、本当に張形の振動の衝撃を受けた玲子さんは、呆気なくスカートをまくったまま昇天してしまった。

 

「じゃあ、今度は拍手です。俺が手を叩くと、五回目で性感が暴発して激しく達してしまいます」

 

 真夫は玲子さんが息を整えるいとまを与えることなく、次の暗示を与えて手を叩き始める。

 

「一、二、三……四……五──」

 

「や、やああっ」

 

 しっかりと五回目で、玲子さんはまたもや、立ったまま悶絶してしまった。



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 第55話  能力解放

 玲子は目を覚ました。

 途端に全身の気怠さが襲いかかってきた。

 

 はっとした。

 ブラジャーとショーツだけの下着姿になっている。

 身体の下に柔らかい絨毯を感じた。

 そして、くすくすという笑い声がした。

 

「真夫様」

 

 身体を起こす。

 ここは、真夫たちの暮らす学園内の特別寮の一室だ。

 どうやら、あまりの連続絶頂で、玲子はいつの間にか意識を飛ばしてしまったようである。

 なにしろ、真夫はただ手を叩くだけで、玲子が絶頂に達するという暗示をかけ、手を叩き続けて玲子に連続絶頂をさせたのだ。

 

 真夫にそんなことができるとは驚きだが、真夫はあの豊藤龍蔵の血が繋がっている息子である。

 ならば、操心術を駆使する能力が備わっているということは、十分に予想していた。

 龍蔵もまた、それを期待していた気配はある。

 

 だが、玲子が見つけた真夫は、操心術の能力を持っている兆しさえなかった。

 しかし、それがついに覚醒したようだ。

 おそらく、恵が竜崎に襲われるという衝撃をきっかけにして、なにかが真夫に起こったのだと思うが、いまや、真夫が龍蔵や秀也と同じように、豊藤家の男のひとりとしての能力を使えるようになったのは間違いない事実だ。

 

 そして、玲子はその洗礼を受けた。

 その結果、玲子は激しい連続絶頂責めで失神してしまったようである。

 いまだに身体は火照って熱いし、身体が脱力しているようになっているのはそのためだろう。

 

「随分、気持ちよさそうでしたね。ところで、決めたことをお話しします。俺はあさひ姉ちゃんと一緒に、この学園を出ていくことに決めました。玲子さんには、随分と世話をしてもらったのですが、やっぱり、俺たちのような出自の者が、こんな家柄の人ばかり集まる場所で生きるというのは無理があると思います。いままでお世話になりました」

 

 ソファに座っていた真夫が床に座ったままの玲子に向かって、がばりと頭をさげた。

 玲子は驚愕した。

 

「ど、どうして、そんなことになるんですか? ちょっと待ってください」

 

 たったいままで、そんな話はしていなかった。

 少なくとも、真夫がおかしな術を玲子に使い始める直前まではだ。

 確かに、真夫は学園を出ていくことを口にしていはしたが、それは竜崎たちに暴力をふるって再起不能にしたことで、学園が真夫に懲罰を与えざるを得なくなった場合のことであり、それは玲子に解決可能なことだ。

 

 しかし、いま突然に、真夫はやっぱり学園を去るという。

 なぜ、そんなことを言い出したのかわからない。

 そもそも、真夫が豊藤家の男の象徴である「操心術」を駆使することができるようになったということは、真夫はもう、孤児でもなんでもなく、それどころか、世界有数の豊藤財閥の後継者となるべき人間だということでもある。

 出ていく必要などない。

 

「いえ、決めました。あさひ姉ちゃんも承知してくれましたからね。とめても無駄ですよ。暗示をかけました。玲子さんには俺たちが出ていくのをとめられません。それをしようとすると、身体が硬直して動けなくなり、舌さえも口に貼りついたように喋れなくなります」

 

 そんな馬鹿な……。

 

 真夫に抗議しようとして、はっとした。

 本当に身体も硬直し、声が出なくなったのだ。

 驚いてしまった。

 

 操心術……。

 

 確信した。

 まさに、秀也や龍蔵が駆使するのと同じ力だ。

 あるいは、この力を身につけたことがわかったからこそ、もはや、学園に頼らなくても生きていけると悟ったのかもしれない。

 

 それとも、これもプレイ?

 そう思わせるほどの唐突さだ。

 

 いずれにしても、もはや、真夫が龍蔵の血を引いていることを告げることで解決することだ。

 玲子は口を開こうとした。

 だが、駄目だった。

 真夫に操心術によって、引きとめるという行為の一切を禁止されているというのもあるが、もともと、玲子は龍蔵によって、真夫が龍蔵の血を引いていることを告げることをできなくされている。

 その二重の縛りによって、玲子には真夫に真実を伝えることが不可能だった。

 

 真夫がすっと立ちあがった。

 奥の部屋から恵が出てきたのだ。

 恵は大きな鞄二個に荷をまとめている。

 

 本当に出ていくつもり……?

 玲子は愕然とした。

 

「待って」

 

 玲子は口を開いた。

 真夫が一度恵に向けた視線を玲子に向け直した。

 

「とめても無駄だと言ったでしょう。俺もあさひ姉ちゃんも、もうあんな目に遇うのはご免なんです」

 

 真夫は言った。

 玲子は、そのときの真夫の顔から、これは本気の話なのだということを悟った。

 理由はないが、突如としてそれがわかったのだ。

 

「とめません。でも、付いていきます。真夫様はまだ未成年です。恵さんだって大学生でしょう。ふたりで生きていくといっても不自由だと思います。その点、わたしは役に立ちます。連れていってください」

 

 すらすらと言葉が出た。

 真夫たちを引き留める言葉ではないからだろう。

 ふたりが出ていくなら、玲子も出ていく。

 それを決めた。

 その決心をするのは簡単なことだった。

 これが龍蔵の意に沿うことなのか、怒らせることなのかわからない。

 だが、もはや玲子にとっては、真夫のことが最優先なのだ。

 もう、真夫から離れて生きるつもりはない。

 

「まさか本気ではないですよね。嬉しいですけど、こんな大きな学園の理事長代理までやっている玲子さんが、それを捨てて、俺たちのような者と一緒に行くなんてあり得ないでしょう? これまで、玲子さんが俺によくしてくれたことは覚えています。でも、それは、地位や名誉までを捨ててまでということではなかったはずですよね?」

 

 真夫が首を横に振った。

 なんだか腹がたった。

 

 そもそも、豊藤財閥の庇護を棒に振って、学園を出ていくにしても、恵は連れていくのに、玲子のことは最初から置いていくつもりなのだというのが腹立たしい。

 それは、同じ施設で育った恵と真夫ほどの心の結びつきはないかもしれないけど、玲子はこの短い期間で、十分に真夫に心を通わせたつもりになっていた。

 それなのに、端から玲子は、一緒には来ないと決めてかかっていることが不本意だ。

 

「地位も名誉もいくらでも捨ててみせます。どうか、一緒に……」

 

 玲子は訴えた。

 すると、真夫がにやりと笑った。

 

「じゃあ、玲子さんの覚悟を試していいですか? 本当に俺たちと一緒に来る気があるなら、別にもうこの学園で仕事ができなくなっても平気ですよね?」

 

 真夫が言った。

 玲子は戸惑ったが、真夫は玲子の返事を待たずに、恵に視線を向けた。

 

「……ちょっと、玲子さんと散歩をしてくるよ。待っててくれる、あさひ姉ちゃん」

 

 真夫が言った。

 

「どうぞ……。だけど、やっぱり、玲子さんは、一緒に来てくれると言ったでしょう、真夫ちゃん」

 

 恵が意味ありげに言う。

 

「そうだね。じゃあ、玲子さんの覚悟を見せてね」

 

 真夫がなにかを持って、玲子にすっと近づいてきた。

 それは、いつの間にか手にしていたプレイ用の首輪だ。

 首輪には鎖がついている。

 

 真夫はそれを玲子の首に嵌めて、がちゃりと鍵をした。

 

 


 

 

「ま、真夫様……。む、向こうには人が……」

 

 思わず、玲子は言った。

 恥ずかしさは尋常なものではない。

 

 学園の中を走る道路である。

 その歩道を玲子は、真夫とともに歩いていた。

 ただし、下着姿だ。

 しかも、四つん這いである。

 

「だったら、立ちあがって逃げればいいでしょう。それとも、大声で助けを呼んでもいいですよ。俺はなんの拘束もしていません。ただ、首輪に繋がった鎖を持っているだけです。それを振り切って逃げるなんて、造作もないはずです。ただし、逃げれば、それで終わりです。それだけのことです」

 

「い、意地悪を言わないでください……」

 

 玲子は遠くに見える人影に怯える思いをしながら、真夫に鎖をひかれるまま、四つん這いで懸命に歩道を進んだ。

 

 どうしてこうなったのか……。

 

 玲子はいまだに夢うつつの気分であった。

 竜崎との暴力事件を起こした真夫と会いに、真夫のいる特別寮に行き、そこで真夫に出ていくことに決めたと言われた。

 真夫の決意は固く、玲子には翻意させることができないような気がした。

 それならば、玲子も一緒に連れていけと申し出たのだ。

 すると、真夫は玲子の心を試すのだと言って、下着姿で寮の外に連れ出し、四つん這いで着いて来るように命じたのである。

 驚愕もしたし、恐怖も感じたが、真夫の言葉にはなぜか逆らうことができないものがあった。

 

 真夫が言うには、本当に一緒にこの学園を去る気があるのであれば、学園の理事長代理などできないような破廉恥なことをしても、問題はないだろうというのだ。

 嫌ならやめればいい。

 そのときは、真夫は恵だけを連れて、そのまま逃避行をすると口にした。

 玲子は覚悟を決めた。

 

 だが、いざとなれば、その恐怖は並大抵のものではない。

 数日前には、夜の街で真夫と「プレイ」をしたが、あれは暗闇の中だったし、見知らぬ者しかいない雑踏や電車の中だった。

 しかし、いまは違う。

 ここは、玲子が龍蔵から預かっている学園であり、自分でいうのもなんだが、美貌の理事長代理として、玲子は職員どころか、生徒たちにもかなり顔を知られている。

 そこをこんな格好で進むのだ。

 恥ずかしさで心臓が爆発しそうではあるが、逆らえば、玲子を捨てると告げられれば、逃げることは許されない。

 真夫の命令は、どんな拘束具よりも、玲子の心を縛っている。

 

 幸いだったのは、まだ陽の照りつける真っ昼間だが、まだ学園の生徒たちは午後の授業をしている時間だったことである。

 特別寮のある場所は学生や職員の生活棟のある一画であり、この時間はほとんど人がいない。

 だから、歩いてしばらくは、誰にもすれ違わなかった。

 

 だが、真夫はどんどんと人のいる方向に向かっている。

 商店や喫茶室などが入っている学園内のいくつかある厚生棟の方向に進んでいるのだ。

 さすがに、そっちには人がいる。

 

「大丈夫ですよ。堂々としていれば、案外に大騒ぎにはならないものです」

 

 真夫はあっけらかんと言った。

 そして、ぐいぐいと首輪を引っ張る。

 玲子は、もうなにも考えられずに、そのまま進んでいった。

 

 やがて、周りが喧噪に包まれるようになった。

 厚生棟に着いたのだ。

 学生はいないが、外来者や学園内で働く雇用者、もちろん、厚生棟で働く職員がいる。

 彼らが下着だけの半裸姿で、鎖に繋がれて四つん這いで歩いて来る玲子の姿に、奇異の視線を向けているのだ。

 

「ほらね。案外と騒ぎにならないでしょう?」

 

 真夫は平気な顔をして、厚生棟の前までそのままやって来た。

 そして、棟の中には入らなかったが、テラス式の喫茶店がある場所に向かう。

 玲子はただひたすらに顔を伏せて、せめて玲子のことがわからないようにしようと思った。

 

 だが一方で玲子は、もしも騒ぎになった場合のことを懸命に考えていた。

 そのときは、玲子が矢面に立ち、真夫のことは守り切るつもりだ。

 真夫に絶対に被害が被らないようにする。

 そのためなら、玲子自身が破廉恥な色情狂呼ばわりされても構わない。

 

 やがて、喫茶店に着いた。

 真夫は室内側には入らずに、樹木の枝の下側になる外の席に着くと、玲子の首輪に繋がった鎖をテーブルの脚に結び付けた。

 ここまで四つん這いで進ませられて、両腕と肩、そして両膝に疲労がたまっていた。玲子はその場に座り込んでしまった。

 いつの間にか、玲子は自分が汗びっしょりになっていて、ぽたぽたと汗が地面に滴り落ちてもいた。

 

 喫茶店には、ほとんど客はいなかったが、皆無というわけではなかった。もちろん、店員もいる。

 また、玲子と真夫に驚愕して遠巻きに見物している者が出てきたことに、玲子は気がついていた。

 

「あ、あのう……」

 

 そのとき、女の店員がやって来た。

 テーブルの下の玲子の姿をちらりと見て、困惑顔を向けている。

 彼女はテーブルに水をふたつ置いたものの、「いらっしゃいませ」とも言わずに、立ち竦んでいるような状態になった。

 

「アイスカフェオレをひとつ。それと小皿を持って来てくれますか」

 

 真夫がまったく気にしていない口調で言った。

 玲子はそのとき、カウンターにいる店長がどこかに連絡をしようとしていることに気がついた。

 

「り、理事長代理の工藤玲子です──。店長にどこにも連絡しないでと伝えて──。それと、この人の言うとおりに」

 

 とっさに言った。

 比較的大きな声をあげたので、店の中の店長の耳にも届いたと思う。

 その代わり、周囲の圧倒的な注目を浴びてしまった。

 玲子は羞恥でがくがくと身体が震えるのがわかった。

 

「さすがですね、玲子さん」

 

 女の店員が逃げるように立ち去ると、真夫が玲子の頭をそっと撫ぜた。

 

 真夫に褒められる……。

 ただ、それだけのことが、こんなに嬉しくなるとは思わなかった。

 玲子は羞恥の震えが、瞬時に喜悦の震えに変化するのを感じた。

 だが、学園本部に通報されることを防いだ代償は大きかった。

 一気に遠目に見ている者たちのざわめきが大きくなったのだ。

 カメラ機能付きの携帯電話やスマートフォンが玲子と真夫の姿に集中するのもわかった。

 しかし、真夫は素知らぬ顔だ。

 

「あ、あの……小皿です」

 

 さっきの若い女店員がやってきた。

 皿をテーブルの上に置いて、逃げるように立ち去っていく。

 

「ほら、水ですよ、玲子さん」

 

 真夫がテーブルの下にしゃがみ込んでいる玲子の前に、その小皿を置く。

 そして、水を注いだ。

 さすがに躊躇した。

 遠巻きとはいえ、いつの間にかかなりの者が玲子の姿に注目している。

 さっき名乗ってしまったため、自分が理事長代理であることは、すでに周囲には知れ渡ってるであろうし、あるいは、店長以外にも誰かが学園本部に通報した可能性もある。

 

「あ、あの真夫様……。かなり注目されています……。だ、誰かが通報をしている可能性も……」

 

 ここに学園の警備部がやって来る可能性を言及したつもりだ。

 もはや、玲子はどうなってもいいが、このままでは真夫もただでは済まない。

 そのとき、いきなり頭の上に圧力を感じて、顔が地面に押しつけられた。

 真夫の靴に頭を踏んづけられたとわかったのは、悲鳴のような声があちこちから聞こえて来たときだ。

 

「そんなことをどうでもいいでしょう、玲子さん。俺は水を飲めと命じているんですよ。だったら、飲めばいいでしょう。玲子さんは俺のなんなんです。何者なんです、工藤玲子さん」

 

 真夫が足をどけて言った。

 玲子は思わず顔をあげた。

 そこには、地面に這いつくばっている玲子を見下ろしている真夫の酷薄そうな顔があった。

 

「わ、わたしは……真夫様の奴婢です……」

 

 そう言った。

 その瞬間に、得体の知れない愉悦が身体に拡がった。

 たったいままで存在した不安や心配……。

 なにかに追い詰められるような恐怖心も消えた。

 

 奴隷だ。

 真夫の奴隷……。

 奴婢……。

 

 それだけの存在なのだ。

 玲子は小皿に舌を伸ばした。

 今度は躊躇いもない。

 周囲からの視線のことも気にならなくなった。

 

 奴婢……。

 そうだ。

 奴婢なのだ。

 命じるままに「主人」に仕える奴婢……。

 

 いつもは若い理事長代理として……。

 その前は、世界的な大財閥の謎の支配者である豊藤龍蔵に仕える唯一の秘書として、常になにかと戦い、神経を使い、精神を疲労させて生きてきたが、いまは下着姿で犬のように振る舞う姿を晒されるただの奴婢だ。

 

 そして、これからもずっと……。

 

「お、お待ちどうさまでした」

 

 どうやら真夫の頼んだものが運ばれてきたようだ。

 女店員に代わって、運んで来たのは男の店長だった。

 だが、玲子にはどうでもいいことだった。

 玲子は憑かれたように、一心不乱に舌だけで皿の水を舐め続けた。

 

「ところで、玲子さん、おしっこはいいんですか? さっき、利尿剤入りの水を飲んでから、かなり経っていますよね。トイレに行きたくないですか?」

 

 しばらくしてから、真夫が言った。

 玲子は顔をあげて、真夫を見る。

 

「い、行きたいです……」

 

 小声で返す。

 実は、寮のある建物を出る前に、大量の水を飲まされていた。

 それに利尿剤が入っていたということは、たったいま知ったが、この喫茶店にやって来る頃に込みあがった、猛烈で急激な尿意は、確かに利尿剤によるものとしか思えない。

 

「そうですか。だったら。カフェオレを飲み終えるまで待ってください。そうしたら、トイレに連れていきます。それまで我慢するんです。玲子さんは、俺の飼う奴婢……。今日は犬です。犬にはトイレに自由に行く権利などないんです。それを味わってください」

 

 真夫は言った。

 

「は、はい……」

 

 そう言うしかなかった。

 

 自分はトイレに行く自由もない奴隷……。

 真夫の飼う犬……。

 

 さっき感じた得体の知れない愉悦が、再び込みあがってきた。

 しかも、一段と激しく、身体に突きあげてくる。

 そして、はっとした。

 玲子は、無意識のうちに太腿を淫らにすり寄せて、腰をもじもじと動かしていたのだ。

 

 しかも、下着の中の股間は、触らなくてもわかるくらいにびっしょり濡れている。

 だが、時間が経つにつれて、その愉悦も激しい尿意に置き換わっていく。

 やがて、尿意はいよいよ切羽詰まったものになってきた。

 

「あ、あの、真夫様……」

 

 玲子は小さな声で訴えた。

 もはや、尿意が限界に達している。

 

「まだ、半分も飲んでいません。声をかけないでください。飲み終われば、寮に戻ります。そうすれば、トイレでさせてあげます」

 

 真夫は玲子を見ることなく言った。

 それは絶望的な宣告だった。

 もう一分だって我慢できない。

 いや、数秒しか……。

 

 それが、このまま待たされて、しかも、寮まで戻るまでトイレはないという……。

 そんなに我慢するなど不可能だ。

 

「で、でも」

 

 玲子はさらに訴えた。

 

「仕方ないですね。じゃあ戻りましょうか。帰りは、立って歩いていいですよ」

 

 突然にぐいと鎖が引かれた。

 真夫が立ちあがって、玲子の首輪の鎖を引っ張ったのだ。

 

「あうっ」

 

 慌てて立ちあがったものの、よろけてしまった。

 その刹那、ほんの一瞬緩んだ股間から、尿意が崩壊した。

 

「あ、ああっ」

 

 漏れ出した尿は、もはや自分の意思ではどうすることもできなかった。

 堰を切ったような激しい奔流となって、両脚のあいだの地面に降り注ぐ。

 

 周囲から大きなどよめきが起きた。

 玲子はなにも考えることができずに、両手で顔を覆った。

 

「玲子さん」

 

 その手首が強い力で握られた。

 真夫だ。

 唇が塞がれる。

 真夫が玲子にキスをしてきたのだ。

 しかし、いまだに玲子の放尿は続いている。

 自分の尿が真夫の脚を汚すことに躊躇い、玲子は離れようとしたが、真夫の力は強くて離れられなかった。

 それに、これだけの辱めを受けながらも、真夫に口づけをされたことで、玲子は途方もない愉悦に見舞われてしまい、まるで桃源郷にでも誘われたような、うっとりとした心地になっていった。

 

 もうどうでもいい……。

 なにもかも、どうでもいい……。

 

 真夫に辱められ、いじめられ、そして、愛される悦びさえあれば、もうなにも必要ない……。

 

 真夫……。

 玲子のご主人様……。

 

 周囲にある一切のものが、玲子の心の中にあったもやもやとしたものとともに消滅していく。

 

 玲子は真夫の奴婢……。

 

 いまこそ、わかった。

 それだけが、確かなものであり、ほかにはなにも必要ない。

 

 そして、はっとした。

 周囲が変わっていたのだ。

 気がつくと、部屋の中にいる。

 どうやら、特別寮の真夫の部屋のようだ。

 

 玲子はその部屋の中で、下着姿のまま真夫に口づけをされていた。

 脚のあいだからは、おびただしい放尿が流れ続けている。

 

「派手なおもらしですね、玲子さん……。ありがとうございます。玲子さんの心にあった封印を解くために、幻想をみてもらいました。偽物の出来事とはいえ、玲子さんがすべてを捨てて、俺に着いて来る選択をしてくれたのは嬉しかったです。ありがとうございます」

 

 真夫が玲子から口を離して言った。

 玲子は呆気にとられた。

 

 幻想……。?

 操心術だったのか……?

 

 秀也から、幾度となく幻を見させられて「調教」されたから、操心術を解かれれば、あれが作り物の出来事だったということはわかる。

 どうやら、真夫はやはり、あの秀也の操心術と遜色のない力を駆使することができるようになったのだ。

 

 やっとおしっこが止まった。

 部屋の中も、玲子も真夫も放尿でびしょびしょだ。

 だが、真夫は気にする様子もなく、にこにこして玲子を抱き締めたままだ。

 また、玲子もまた、憑き物が落ちたようなすっきりとした気分になっていた。

 

「幻想をかけているあいだに、玲子さんのかかっていた操心術の暗示は解かせてもらいました。気分はいかがですか? いま、玲子さんからは、いかなる暗示も消滅しているはずです」

 

 真夫がそう言ったが、なにかが変化しているという感じはない。

 それよりも、おしっこまみれで真夫に抱き締められているという気恥ずかしさでいっぱいだ。

 

 そして、どきどきしていた。

 なぜだかわからないが、この少年が途方もなく頼もしく感じる。

 いや、本当に頼もしい……。

 

 そのとき、玲子は、真夫に伝えるべきことを思い出した。

 いまこそ、教えるべきだろう。

 

「真夫様、聞いてください──。真夫様は、実は豊藤グループの総帥、増応院様こと、豊藤龍蔵様の本当のお子様です。豊藤グループの後継者たるべきお方なのです」

 

 玲子は声をあげた。

 真夫が大きく目を見開いた。



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 第56話  動き出した人間関係

 秀也が苦虫を潰したような顔をしている。

 時子は苦笑した。

 

「あなたにしては珍しいですね。あの恵ちゃんを酷い目に遇わせたことを後悔しているのですか? あそこまでするつもりはなかったと?」

 

 時子はからかうように言った。

 秀也は一瞬、時子を睨んだが、すぐに気を取り直したように肩を竦めた。

 

「なんとでも罵るがいいさ。いまさら、言い訳をするつもりはない。だが、一応は小僧の女が寝取られるようなことだけは回避させていたんだぞ。ただ、思ったよりも、竜崎の小僧がゲスだったというだけさ。いずれにしても、あの小僧が操心術を開花するには、激しい怒りが必要だった。これは、代々の豊藤家の男に引き継がれている秘密の儀式のようなものさ。脳が沸騰するような激しい怒りを覚えたとき、豊藤の男は、一段上の段階に力を覚醒させる……。この俺もそうだったしな」

 

「あの真夫坊は能力を開花させたの?」

 

 時子は小首を傾げた。

 

「竜崎を再起不能にした時の映像を見ただろう。間違いねえ。小僧は操心術で竜崎の動きを瞬時に読みながら、なおかつ、求める行動をとらせることによって、竜崎をぶちのめした。しかも、竜崎は完全に脳を壊されている。二度とまともに喋ることもできねえだろう。それをほぼ一瞬でやった。大したものだ」

 

 秀也が首を竦めた。

 あの真夫が紛れもなくもなく豊藤家の血を引いていることは、時子は最初に接したときにすぐにわかった。

 豊藤の男の血が引き継いでいるのは、操心術ばかりでない。

 異常なほどに、女を惹き付ける。

 それも、豊藤の男の特徴のはずだ。

 そして、その力はむしろ、真夫は秀也よりも遥かに強いのだろう。

 いや、むしろ、操心術については、秀也はかなりの能力があるが、その女を惹きつけるという能力については、秀也は低いといっていい。

 その証拠に、玲子は、一年ものあいだ秀也の調教を受けたものの、ついに秀也にはなびかなかったのに、真夫に出逢った途端に、真夫の虜になった。

 今回、竜崎に酷い目に遇った恵にしても、異常なほどに真夫に執着しているし、真夫に反発を抱いている感じだった白岡家の娘にしても、わずか数日で真夫になびいている。

 

 思わず、女が世話をしてあげたくなる……。

 そんな力が真夫にはある。

 おそらく、男の秀也には理解はできないのだろうか、それこそが真夫の力なのではないかと思ったりする。

 

「だが、やっぱり、あの小僧は女に甘いな。大勢の男が集まっているところに、なんの策もなく飛び込んでいくなんざ、愚の骨頂だ。もしかしたら、死んでもおかしくなかった。そんなことをするような甘ちゃんは、やはり、豊藤の総領は務まらねえよ。お前のお気に入りの小僧だけど、これでわかったろう?」

 

 秀也が時子を見た。

 

「それこそ、あの真夫坊の強さだと、あたしは思いますけどね。これで、あの恵という娘は真夫坊を助けるために死も厭わないわ。あなたのために、死んでくれる部下があなたには何人いるの? 操心術なしでね」

 

 時子は言った。

 

「お前、誰に向かって口をきいているんだ──」

 

 秀也は眼に見えて、不機嫌になった。

 しかし、時子は言ってやらねばならないと思っていた。

 秀也は焦っている。

 その焦りが、おかしな方に事態を変質させている気がするのだ。

 そもそも、真夫の女に罠にかけて、素行の悪い男子生徒に襲わせるなど、まったく秀也らしくない。

 

 もっとも、秀也の焦りの気持ちもわからないでもない。

 これまで、豊藤家を支えられるのは、秀也ひとりだった。

 豊藤家には子はおらず、後継者問題など起きようもなかった。

 だが、そこに真夫という新しい血が出現した。

 秀也としては気狂いしても不自然ではない。

 だが、その焦りのようなものが、おかしな事態を引き起こしかねない。

 

「いいから、お聞きなさい、秀也さん。真夫坊の女に手を出すのは、金輪際おやめなさい。真夫坊が女性に優しいのは、短所ではありません。長所です。このあたしも女ですからね。あたしにはわかるんです。そもそも、会いもしないで、真夫坊がどんな人間かを判断するのは早計です。あの子はとてもいい子よ。会えば印象も変わると思うわ」

 

 時子は言った。

 実際のところ、秀也が気狂いするほど真夫のことを気にしているのはわかっている。

 それでいて、いまだに秀也は隠しカメラ越しに真夫を観察するだけで、直接は会おうとはしない。

 

 その理由もわかっている。

 秀也は操心術の達人だ。

 つまりは、秀也はこれまでの人生において、操心術の通じない相手と面と向かって向き合ったことはほとんどないのだ。

 しかし、操心術は、同じ能力者の者の心を操れない。

 それがこの能力の決まりらしい。

 そのことも、秀也がなかなか真夫に会わない理由だと、時子は思っている。

 実は臆病な男なのだ。

 

 すると、時子の頬で激しく音が鳴り、目の前に火花が飛んだかと思った。

 秀也の平手が時子の頬を打ったのだ。

 

「俺は女に説教されるのは好かん」

 

 秀也が形相を変えている。

 時子は、もう一度殴られるのを覚悟したが、秀也はそのまま気分を害したように、部屋を出ていった。

 

 部屋にひとりになると、時子は溜息をついた。

 そのとき、突然に電話が鳴った。

 果たして、かけてきたのは、龍蔵だった。

 

「もしもし、そちらから電話をなさるとは、珍しいですね。ナスターシャのことで相談でも?」

 

 時子が電話口に笑いかけた。

 ナスターシャというのは、少し前に秀也が見つけてきたフランス女であり、いまは新しい愛人として秀也が龍蔵にあてがっている。

 龍蔵の機嫌をとるための、秀也の気遣いのひとつだ。

 

「ナスターシャは相変わらずだ。ちっともなびかん。それが面白いのだがな……。だが、今日は秀也のことだ。そこに秀也はいるか?」

 

「たったいま、出ていきました。私室だと思います。呼び出しましょうか?」

 

「いや、だったら都合がいい。その秀也のことで話をしたいのだ。あなたとな……。すまんが、こっちに来てくれ。迎えの車を寄越す。運転は例のナスターシャだ」

 

 電話口の龍蔵は、言葉遣いこそ明るいが、口調の陰になんだか深刻そうな響きがあった。

 時子は首を傾げた。

 

 


 

 

「……宮田月子さんと言われる女性だったそうです」

 

 玲子さんは語り始めた。

 心の中にあった操心術の暗示を解くと、玲子さんは驚くべきことを真夫に話し始めた。

 なんと、真夫は、この学園の理事長であるだけじゃなく、世界的な大財閥グループである豊藤家の総帥である増応院(ぞうおういん)こと、豊藤龍蔵(とよふじりゅうぞう)の実の息子だというのだ。

 俄かには信じられる話じゃなかった。

 

 だが、玲子さんは冗談を喋っている感じではない。

 操心術で覗く限り、玲子さんは至って真剣であり、嘘は言っていない。

 少なくとも、玲子さんが真実だと思っていることを喋っている。

 また、もう何者かに操られて、真実でないことを真実だと思い込まされている様子もない。

 

「……月子……」

 

 真夫は繰り返した。

 それが、真夫の母親の名前なのだそうだ。

 真夫には記憶はないが、真夫の母は真夫を産んですぐに死んだと教えられていた。

 まだ、名前も付けられていないときであり、真夫という名は、その母親だという女性が唯一持っていたメモに“まおう”と書かれていたことから取っている。

 実際の名付け親は、真夫が引き取られた施設のあった土地の市長さんだ。

 

「ど、どんな女性だったんですか……?」

 

 とりあえず訊ねた。

 だが、正直に言えば、どんな母親だったのか、本当に知りたいと自分が思っているのかどうか疑問だ。

 なんとなく頭に思いついたありきたりな質問……。

 それを口にしただけだ。

 

 ましてや、父親が大きな財閥の総帥だと言われても、なにかぴんと来ない。

 それは本当のことなのだろうか。

 だが、そうであるとすれば、突然にこの学園に真夫が引き取られたということには合点がいく。

 この学園の理事長がとんでもないスケベ親父であり、真夫が女子生徒を調教している光景をこっそり眺めたいからだという理由よりは、余程に納得できた。

 また、母が残した“まおう”というメモも辻褄が合った。

 “魔王”というのは、増応院という総帥のあだ名だそうだ。

 増応院というのは、龍蔵の戒名なのだが、“まおういん”とも読めるし、大きな力を持つ龍蔵への尊称でもあるそうだ。

 しかし、そんな大人物が父親だと言われても、困惑しかない。

 そもそも、真夫はまだ一度も龍蔵と会っていない。

 一度、電話で話しただけだ。

 

「そこまではわかりません。ただ、龍蔵様の大勢いた妾のひとりだったということしかわたしには……。あるいは、時子さんならもう少し詳しく知っているかもしれません。ともかく、真夫様を身ごもってすぐに、龍蔵様のもとから逃亡をされたそうです。その理由も不明です。真夫様の存在がわかったのは、本当に偶然のことです。あの白岡かおりのことがあって、たまたま調査にあたったわたしが、真夫様と月子様の関係に気がついただけです。月子様がお産みになったお子様なら、龍蔵様のお子様に間違いありません」

 

「わかりませんよ。ほかの男の人の子を身ごもったから逃げたのかも」

 

 真夫は軽口を言った。

 しかし、玲子さんは首を横に振った。

 

「失礼ながら、遺伝子鑑定をこっそりとしました。龍蔵様の血が繋がっている可能性は約九十パーセントです。なによりも、動かしがたい証拠があります。あなたが豊藤家の一員であることは、もはや百パーセントになりました」

 

「なんですか?」

 

「操心術です。他人の心を操る力……。これこそが豊藤の秘密であり、その力を引き継いでいることが豊藤の男の証なのです」

 

「ああ、あの不思議な力……」

 

 真夫は頷いた。

 そして、ふと思った。

 

「もしかして、秀也という人も?」

 

「豊藤家の男です。しかし、龍蔵様のお子様ではありません。わたしには、実際のところ秀也さんがどいういう豊藤の血を引いているのかは、教えられていないのです。豊藤家の傍系(ぼうけい)の血だとしか知りません。木下の姓を名乗っていますが、それが本当の姓なのか、単なる偽名なのかも、わたしは知りません」

 

「なるほど……」

 

 真夫は納得のいくものがあった。

 まだ、会ったことはないが、この学園にやってきて以来、いつも秀也の存在を感じていた。

 秀也の施した操心術の影を通じてだ。

 今回のことも、秀也の仕業の匂いがぷんぷんしている。

 その理由もこれでわかった。

 

 真夫がいなければ、秀也はその龍蔵という人の後継者に目されていたのだろう。

 だが、それが真夫の出現により危うくなった。

 秀也としては面白くなかったに違いない。

 

「……申し訳ありません。もっと早くお教えするべきでした。でも……」

 

「わかっています」

 

 真夫は玲子さんの言葉を遮った。

 玲子さんは、単に龍蔵という人に口止めされていただけでなく、操心術によってその知識を伝えることを封印されていたのだ。

 玲子さんに口止めの操心術を施したのが、秀也なのか、あるいは、龍蔵という人なのかは知らない。

 だが、豊藤家の男の能力が操心術だというのであれば、龍蔵という総帥もまた、操心術の操り手に違いない。

 

「こうなった以上、すぐにでも、真夫様と龍蔵様の対面の場を作ります」

 

 玲子さんが頭をさげた。

 だが、真夫は首を横に振った。

 玲子さんは怪訝な表情になった。

 

「それよりも、秀也という人に会わせてもらえませんか。父親だという人に会う前に話したいことがあるんです」

 

 真夫は言った。

 

 


 

 

 真夫の呼び出しを受けたのは夕方になってからであり、場所は生徒たちの集まる厚生棟のファーストフード店だった。

 かおりは、意気消沈して指定された店の隅の席で待っていた。

 

 自分のやったことははっきりと覚えている。

 恵を陥れるために、自動車を運転して外出から戻る恵を途中で呼び止め、竜崎たちが恵を襲うのに任せたのだ。

 いまにして考えても、なぜあんなことをしたのかまったくわからない。そそのかされたのは覚えているが、はっきりと断った。

 恵を恨みに思うような気持ちなど、もうまったくなかった。

 

 それよりも、恵とは、なんとなく同じ男に仕える奴婢としての仲間意識のようなものさえ生まれかけていた。

 それなのに、かおりは竜崎たちに恵が連れていかれれば、どんな目に逢うかということの予想がついていながら、恵が連中に誘拐されるのに協力した。

 

 どうして、そんなことをしたのか、まったくわからない。

 その前後の記憶がないのだ。

 

 しかし、はっきりと恵を……、そして、真夫を裏切ったのだということだけはわかっている。

 それで起こったことも承知している。

 

 恵を助けようとして、真夫は竜崎たちが恵を拉致した場所にひとりで飛び込み、竜崎をこっぴどくぶちのめしたらしい。

 ただ、真夫も怪我をしたそうだ。

 

 いまや、学園はその小気味のいい話題で持ちきりだ。

 もともと、竜崎たちのグループは粗野な者が多くて、学園内ではよくは思われていなかった。

 だが、身体が大きく乱暴者の竜崎に面と向かって逆らう者はいなかった。

 また、なによりも、竜崎家はこの学園に通う名門の家柄のうちでも、有数の名家であり、その実家には大きな権力があったのだ。

 それが竜崎という男をのさばらせていた。

 

 その竜崎を完膚なきまでに殴り倒したのだ。

 真夫という転校生の名は一日にして知らぬ者のない存在になった。

 

 しかし、その騒ぎの中で、かおりはまるで置き去りにされた幼女のような気分になっている。

 すべての原因を作ったのは、ほかでもない自分なのだ。

 真夫と恵を裏切った。

 そればかりが、頭の中で繰り返している。

 

「やあ、かおりちゃん」

 

「かおり」

 

 声がかけられた。

 はっとした。

 真夫と恵だ。

 

 かおりは立ちあがって、まずは頭をさげて謝ろうとした。

 許してもらえるようなことではないということは、さすがにかおりもわかっている。

 だが、謝るしかない。

 しかし、かおりが立ちあがるいとまもなく、真夫と恵が両側からかおりの肩を押さえつけて、立ちあがるのを邪魔をした。

 そして、ふたりが両側からかおりを挟むように密着して腰かけた。

 

「あ、あの……恵……さん……」

 

 とりあえず、謝るのは恵だろう。

 かおりは恵を見た。

 しかし、なんだかにこにこしている。

 さっきあんな目に逢ったとは思えないような朗らかさだ。

 恵が竜崎に拉致されたとき、あの小屋で犯されたという専らの噂だったし、そうでないとしても、ひどい目に逢ったことだけは確かだろう。

 それにしては、恵は随分と上機嫌だ。

 かおりは不思議に思った。

 

「なにも言わなくていい。先に言っておくけど、あさひ姉ちゃんは怒ってないそうだよ。もう許すって。そして、俺としても、かおりちゃんをどうにかしようという気持ちはない。かおりちゃんは、俺の奴婢だ。これからも奴婢として一緒に生活してもらう。なにも変わらない。いいね」

 

 真夫が言った。

 かおりはびっくりしてしまった。

 真夫の奴婢としての生活は終わりだろうと思っていたのだ。

 A級生徒から奴婢に落とされたことがあんなに屈辱だと思っていたのが信じられないくらいに、かおりは真夫の奴婢という立場が気に入りかけていた。

 それがもう終わるのかと思っていたことも、かおりの暗い気持ちに拍車をかけていた。

 しかし、真夫はかおりを追い出すつもりはないようだ。

 ほっとしたものの、驚いてしまった。

 

「だ、だって、わたしは……」

 

「真夫ちゃんが許すと言ったから、あたしも許してあげるわ。だから、こうして迎えに来たのよ。なぜだがわからないけど、真夫ちゃんだけじゃなく、あたしもあなたのことを少しも恨んでないし、怒ってもいない。また、一緒に頑張ろうね。真夫ちゃんはエッチだからね。あたしだけじゃあ、身体がもたないわ」

 

 恵がお道化た口調で笑った。

 屈託のない恵の笑顔に、かおりは目を丸くしてしまった。

 

「……とはいえ、なにもなく許してしまったら、けじめというものもないしね。だから、罰を与えることにするよ。いまから、かおりちゃんは、“はい”という言葉しか言っちゃいけない。なにを言われても絶対服従。それが罰だ。いいね──」

 

 真夫が言った。

 かおりは身体がぶるぶると震えるのがわかった。

 たったいままで、かおりは恐怖に包まれていた。

 なにをそんなに恐れていたのかわからなかったが、いまわかった。

 かおりは、真夫に捨てられることを恐れていたのだ。

 

 しかし、いま、真夫はかおりを捨てるつもりがないということを明言した。

 それがかおりを歓喜に包んだ。

 そのことで、かおりは、自分が本当に真夫に奴婢として仕えることを望んでいたのだということを悟った。

 

「というわけで、これよ。さあ、中に十枚ほどのカードが入っているわ。引いて」

 

 恵が札入れを差し出した。

 呆気にとられたが、とりあえず、言われるままに中から一枚のカードを引いた。

 

 “オナニー”──。

 

 そこにはそう書いてあった。

 

「な、なに、これ?」

 

 かおりは首を傾げた。

 

「おお、さっそく、それかあ……。じゃあ、頑張ってな。ここでオナニーしてよ。もちろん、いくまで続けるんだよ」

 

 真夫が笑いながら言った。

 かおりはびっくりした。

 店の隅のボックスのような席とはいえ、店の中には三十人くらいの生徒がいる。

 

 こんなところで、オナニーを──?

 

「え、ええっ?」

 

 かおりは声をあげてしまった。

 

「返事は“はい”──。たったいま、真夫ちゃんに命令されたばかりでしょう。ほら、始めて──」

 

 恵がくすくすと笑いながら、かおりの右手を取って、スカートの裾に押しつけた。



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 第57話  ふたりの後継者

「んんっ、んんんっ」

 

 かおりは歯を食い縛ったまま、身体をぶるぶると震わせた。

 すばやく、スカートから手を抜く。

 下着の中がまるでおしっこを漏らしたようになっているのがわかった。

 とにかく、誰にもばれなかった。

 周りの席には、多くの生徒がいるが、おしゃべりに夢中でかおりたちに視線を向ける者などなかった。

 

「いっちゃった?」

 

 隣に座っている恵が含み笑いをしながら俯いているかおりの顔を覗き込んだ。

 

「ご、ごめんなさい、お、怒っていると思うけど……。わ、わたし、どうして、あんなことをしたのか、本当にわからなくて……」

 

 かおりは言った。

 レイプしようとしている男たちをけしかけるなど、人として許されないことをしたという思いはある。同じことをされれば、かおりは絶対に相手を許さないだろう。

 しかし、恵とは、真夫という「ご主人様」を通じて、心を通わせつつあったと思っている。

 それにもかかわらず、なぜ、恵を罠にかけることに協力してしまったのか、いまだにわからないのだ。

 

「何度も謝らないで。もう怒ってないと言っているじゃない。それよりも、二枚目を引いて……。それと、これは怒っているから仕返しをしているわけじゃないわ。真夫ちゃんがかおりを調教したいと言っているから、それに協力しているだけ。あなたも逆のことを言われたら、容赦なくあたしを苛めていいのよ。あんたが真夫ちゃんのことを想ってくれている限り、あたしはあなたを見放さないわ」

 

 恵がさっきの札入れを差し出した。

 調教メニューが書いているカードが入っている札入れだ。

 それにしても、なぜ恵はこんなにも機嫌がよさそうなのだろう。

 つい数時間前に、あんな目にあったわりには、完全に心を切り替えている気配だ。

 とにかく、かおりはカードを引いた。

 

 “浣腸”──。

 

 カードにはそう書いてあった。

 かおりは顔が青ざめるのがわかった。

 

「立って」

 

 真夫が短く言った。

 かおりはテーブルに両手をつくようにして、ちょっと前屈みの体勢でその場に立つ。

 こちら側の後ろは壁なので、背後から見られる心配はないものの、真夫は無造作にスカートに手を入れて、下着を外した。

 恵もかおりも、普通の下着ではなく腰の横で紐で結ぶ下着をしている。

 いつでも真夫が脱がせやすいようにだ。

 恵に言われて、そうしたのだが、別段の不満はない。

 そもそも、許可を受けて売店で購入できたのは、そういうエッチな下着だけだったのだ。恵は大会社の社長令嬢で小遣いにも不自由はしていないのだが、奴婢生徒のあいだは仕送りもおろせないので、生活用品は真夫に買ってもらうしかない。当然、下着も服も、真夫や恵が許可をしたものしか手に入れられない。

 

「ううっ……」

 

 思わず声を出した。

 ちゅるっというかすかな音とともに、浣腸剤がお尻の中に注入されたのだ。

 イチジク浣腸のようだ。

 

 二個……。

 三個……。

 

 容赦なく次々に注がれる浣腸液……。

 五個分を注入されたところで、やっと座ってもいいという許可が出た。

 ただし、下着は返してもらえなかった。

 座ったときには、すでに下腹部が苦しくなっていた。

 強い便意も襲い掛かる。

 

「そうだ。忘れていた。今日からこれをしてもらう。俺の恋人になったという証のものさ。もちろん、調教具だけどね」

 

 真夫が小さな声で説明しながら、荷から三個の金属の輪っかを出した。

 

 調教具……?

 さっきから気がついていたが、恵も首に同じものをしている。

 首と両手首だ。

 

 一見すると装飾具なので、気にはならなかった。

 真夫はかおりに手首を差し出させて、一個一個装着していく。

 金属の輪が閉じるとき、小さな電子音がした。

 真夫以外には外すことができないと説明をされる。

 最後に、首にも嵌められる。

 やはり、きゅんという小さな電子音が鳴る。

 

「手を背中でくっつけてごらん、かおりちゃん」

 

 言われたとおりにした。

 すると、金属がぶつかる音とともに、接触した部分が外れなくなった。

 かおりは驚いた。

 

「電子磁石だよ。特殊な信号を送ることで、人の力では離れないほどの強力な力で密着する。外すときにも、俺の持っている解除信号がないと外れない」

 

 真夫が荷からちらっとスマホを見せる。

 だが、それはすぐにしまわれた。

 どうやら外す気はないようだ。

 

「あ、あのう……。ま、真夫君……。お腹が……」

 

 ぐるぐるとお腹が鳴る。

 込みあがる便意の苦しみに、かおりは脂汗が出てくるのがわかった。

 

「札入れの中に、トイレというカードを足したよ。それを引くまで、排便はなしだ。ここでみんなの前で垂れ流すのなら、それはいいけどね。そのときでも、俺たちはかおりちゃんを見捨てはしないから安心して」

 

「でも、真夫ちゃんの奴婢生徒が“うんち女”というあだ名がついたら嫌かな。だから、なるべく我慢してよ、かおり」

 

 恵がにこにこしながら言った。

 そして、カードを引けと促して、カードの入った札入れをかおりの手のある背中側に回した。

 

「ああ……」

 

 かおりは手探りでなんとか一枚のカードを引く。

 

「あれ、今度はこれだね」

 

 “掻痒剤”──。

 

 今度はそう書いてあった。

 排便を許可するカードじゃなかった。

 恵がチューブから出したクリームをかおりのクリトリスとヴァギナにたっぷりと塗りつけてきた。

 

 それからは、便意に加えて、痒みとも戦うことになった。

 

 泣き出したいほどの苦痛だったが、これも「お仕置き」なのだと納得させた。

 もっと酷いことをされたとしても、なんの文句も言えないのだ。

 そう考えると、こんなことで許されるのは生ぬるい気がした。

 

 次のカードは“ローター”とあった。

 真夫が言及していた“トイレ”のカードは、またもや出てこない。

 

 真夫がかおりのスカートの中に手を入れて、前側の穴に大きめのローターを押し込んだ。

 かおりは、それによって自分の股間が信じられないくらいに、濡れているのがわかった。

 ふと見ると、スカートの股間部分が丸く染みができている。

 厚地のスカートに染みができるだけの愛液が出ているのは、最初のオナニーだけじゃないだろう。

 

 他人の眼のある場所で辱められて興奮しているのだ……。

 かおりはそれがわかった。

 

「お待ちどうさまです」

 

 やがて、目の前にハンバーガーと飲み物が運ばれてきた。

 運んで来たのは、学園で雇われている女店員だ。

 テーブルで頼んだ覚えはないので、真夫たちがテーブルにやって来る前に、事前に注文したのかもしれない。

  

「あっ」

 

 女店員が食べ物をテーブルに並べているときに、突然に股間の淫具が振動を始めたのだ。

 猛烈な痒みが振動で消えていく甘美感は、まさに天に飛翔するような快感だったが、あやうく大声をあげることだった。

 声を我慢できたのも、肛門の力を緩めなくてすんだのも奇跡のようなものだ。

 横を見ると、真夫がにやにやしながら、荷に手を入れていた。

 真夫がリモコンでローターを操作したのは間違いない。

 振動がぴたりと止まる。

 すぐさま、痒みが襲いかかる。

 

「ひ、ひどいわよ」

 

 かっとなり、思わずきっと睨んだ。

 すると、真夫がにっこりと笑った。

 

「そうでなくっちゃ」

 

 真夫が“トイレ”と書いているカードを荷から出して、かおりの前に置く。

 なにが“そうこなくっちゃ”なのか知らないが、とても嬉しそうに微笑んでいる。

 そして、やっと理解した。

 札入れの中には、“トイレ”と書いているカードは入っていなかったのだ。

 だから、荷から出てきたということだ。

 

「トイレに行っていいよ、かおりちゃん。ただし、目の前のものを全部食べ終わってからね」

 

 背中から金属音がして、手が外れた。

 しかし、それだけだ。

 すぐに、ローターの振動が再開された。

 このまま食べろということなのだろう……。

 

 なんという意地悪……。

 

「ううっ」

 

 かおりは、目の前のハンバーガーに挑みかかった。

 ものすごい勢いで口に押し込み、無理矢理に飲み物で喉に押し込む。

 すでに便意は限界だし、掻痒剤を塗られた股間が灼けるようだし、ローターは容赦なくかおりの神経をすり減らすような快感を引き起こす。

 

 そして、周囲に他人がいる場所で辱められるという屈辱……。

 

 すべてを吹き飛ばすように、ハンバーガーを口に押し込む。

 少しの間、呆気にとられたようだった真夫だったが、すぐに笑い出した。

 なにがおかしのか、かおりを見て笑い続けている。

 

「それでこそ、かおりちゃんだ。あさひ姉ちゃん、一緒に連れていってあげて」

 

 強引にハンバーガー全部を口に入れると、真夫がかおりと恵に声をかけた。

 ローターの振動は止まらない。

 真夫はこのままさせるつもりらしい。

 

「ふふふ、意地悪な真夫ちゃんね……。さあ、おいで、かおり。歩けなければ、肩に捕まってもいいわよ。目立つけど」

 

 恵が手を取ってかおりを立ちあがらせた。

 大丈夫だと手を振りほどこうとしたが、ローターの振動で腰に力が入らなくて、手を伸ばして恵にしがみついてしまう。

 かおりは、恵に支えられるようにして、店のトレイに向かって歩いた。

 

 


 

 

「よう」

 

 部屋に入ると、端正な顔をした男子生徒が真夫に視線を向けた。

 最初に感じたのは、圧倒的な存在感だ。

 強い気のようなものに襲い掛かられた心地がした。

 自分と同じ年齢の男子生徒に、圧倒されるということに違和感があったが、実際にそうなのだ。

 

 木下秀也だ。

 ここで会うことになっており、約束の時間と場所にやって来たところだ。

 秀也に対しては、ずっと思うところもあったが、真夫は自分が豊藤の血を引いていることがわかった時点で、すぐに話し合う必要があると思っていた。

 

 そして、部屋の中にはもうひとり男がいた。

 女みたいに綺麗な顔立ちの男であり、部屋の隅にで壁にもたれるように、真夫を睨んでいる。

 こっちは、正人(まさと)だ。

 正人が秀也の従者のような立場の男だというのは、玲子さんから教えられて知っている。

 やってきたのは、『SS研』という名の部室だった。

 

「正人、行っていい」

 

 真夫が入ってくると、すぐに秀也が言った。

 正人が不満そうな表情になった。

 

「ちょ、ちょっと待ってください、秀也さん。秀也さんとこいつをふたりきりにするわけには……」

 

 正人が慌てた口調で言った。

 

「聞こえなかったのか」

 

 秀也が正人を一瞥した。

 すると、急に正人の顔が無表情になり、無言で部屋を出ていった。

 操心術だ……。

 真夫は思った。

 

「役には立つが面倒な男だ。お前には、もう手を出すなと釘を刺しているが、もしかすると、ちょっかいを出すかもしれん。そのときは、操心術でもかけてやれ」

 

 秀也が冗談めかしく言った。

 すでに、真夫が操心術を覚醒したことは知っているようだ。

 玲子さん以外に、真夫の操心術のことを口にしてはいないのだが、玲子さんが時子婆ちゃんにでも喋ったのだろうか。

 まあ、秘密にしろとは玲子さんにも言わなかったから、玲子さんが真夫の操心術の能力を口外したことで、別に裏切りというわけでもないが……。

 

 正人がいなくなると、部屋の中は秀也と真夫だけになった。

 ほかには誰もいない。

 SS研の部室らしいが、ここに用事があるのではなく、秀也と話したいと頼んだところ、向こうから指定されたのが、ここだったのだ。

 この数日、うるさいくらいに生徒会長の西園寺さんから、SS研への入部を勧められていた。

 そのくせ、なんのクラブなのかまったく説明しない。

 困惑していたのだが、入ってみて、存在していたのは、数個の机と椅子だけだ。

 貼り紙のようなものもなければ、書類のひとつもない。がらんとした部屋だ。

 結局、なんのクラブなんだろう。

 真夫は首を傾げた。

 

 秀也と会う機会を作ってくれと願いしたのは玲子さんにだ。

 玲子さんは、時子婆ちゃんにそれを伝え、時子婆ちゃんも尽力して、今日の対面を段取りしてくれたのだ。

 ただ、頼んだのは、あさひ姉ちゃんが竜崎たちに襲われる事件があった直後なので、それから一週間が過ぎている。

 玲子さんと時子婆ちゃんによれば、秀也は随分と真夫と面談をすることを渋っていたらしい。

 その理由はわからない。 

 

「初めましてだね。なんと呼べばいいのかな? 木下君? 木下さん? それとも、下の名前で呼んでもいいのかなあ。玲子さんは、秀也さんと呼ぶしね。秀也さん? 秀也様?」

 

 真夫は意識してお道化た。

 秀也が面食らった表情になった。

 

「秀也と呼んでもらおうか。苗字で呼ばれると、誰のことかわからねえしな。木下は本当の名じゃねえ。知っているらしいから言うが、本名は豊藤秀也だ。この学園の理事長であり、豊藤グループの総帥の豊藤龍蔵こと、増応院(ぞうおういん)の甥になる」

 

 だが、秀也はすぐに落ち着きを取り戻したようになり、にやりと笑う。

 そして、真夫に正面の椅子を示した。

 ふたつのテーブルが向かい合わせになっていて、椅子が正対をしている。そのひとつに秀也が座っている。

 真夫は大人しく椅子に腰かけた。

 

「どうやら、喧嘩をしに来たという感じじゃねえな」

 

 秀也は言った。

 

「なにか、喧嘩を仕掛けられる覚えでも?」

 

 真夫はじっと秀也を睨む。

 なにを考えているかよくわからないが、敵意のようなものは感じない。

 すると、なにかが頭に割り込んでくるような不快な感覚が襲いかかってきた。秀也の操心術だと思った。真夫は簡単にそれを遮断した。

 秀也が驚いたような表情になる。

 

「やっぱり、豊藤の血か……」

 

 秀也がぼそりと呟いた。

 

「面倒な話は好きじゃない。玲子さんにも言われたし、時子婆ちゃんにも事実だと言われたんだけど、俺が豊藤龍蔵という人の息子というのは事実なの?」

 

 真夫は言った。

 すると、秀也は首を竦めるような仕草をした。

 

「なんで、俺に訊ねる。知らねえな。時子の婆あが言ったなら、本当なんじゃねえか。あいつは、半世紀以上も龍蔵に連れ添っている愛人だ。伯父貴の女遊びのことも全部知っているだろうさ」

 

「時子婆ちゃんは、間違いないと言っていた。月子という女の人だと言っていたね。OLだったけど、龍蔵という人に無理矢理に手込めにされて、愛人にされたんだそうだよ。だけど、妊娠したときに逃亡して、それっきりだったらしい。孤児院で育った俺が発見されたのは偶然だって。見つけたのは、玲子さんで、偶々、月子さんという女の人の存在を知っていた玲子さんが、俺を産んだ人が月子という人じゃないかと思って、血液鑑定をしてみたんだそうだ」

 

 この一週間で玲子さんと時子婆ちゃんのそれぞれに教えられたことだ。

 このふたりは、いままで、なぜ真夫がこの学園に連れて来られたのかということを隠していたが、真夫が操心術を覚醒させ、玲子さんが喋ったことを機会に、すべてを教えてくれた。

 正直、まだぴんと来ない。

 母親の名が月子だということはわかったがそれだけだ。

 どこにでもいる市井の女性だということ以外のことはなにもわからなかった。

 自分の親がどんな人だったのろうかと悩んだこともあったが、判明してみれば、そうかと思っただけだ。

 

 父親についても同じだ。

 特別な感慨はない。

 突然、豊藤グループという巨大財閥の総帥が自分の父親だと教えられても、特にありがたいと思う気持ちはなかった。

 ただ、だったら、あさひ姉ちゃんのことを守ることができるかもしれないと思った。

 玲子さんのことだって、このまま真夫のものにすることも不可能じゃないだろう。

 しかし、それ以上の野心はない。

 この秀也と争って、龍蔵の後継者になるつもりはない。

 真夫は、それを秀也に伝えるのがこの面会の目的のひとつだ。

 

「玲子は優秀だからな。お前が考えている以上に優秀だ。そして、時子はああ見えても、怖ろしい女だぞ。豊藤の総帥は直接に人に指図しない。表にも出ない。必ず、余人をあいだに立てて、必要な指示を伝えるんだ。それが伯父貴のやり方だ。それをずっとやって来たのが時子だ。豊藤のすべてを知っていると言っていい」

 

 驚いたが、どうやら一年間、玲子さんがやっていた役割をしていたのが、時子婆ちゃんだったのだろう。

 真夫には優しい面しか見せないが、玲子さんも怖い人だと言っていて、いつも、時子婆ちゃんにはびくびくしていた。

 

「だけど、いま、その役割をしているのは君なんだろう、秀也?」

 

 真夫は言った。

 玲子さんの仕事を引き継いだのも秀也だと知っている。

 玲子さんが言ったことであり、そのため、秀也は学園に籍を置きながら、事実上の休学措置になっているらしい。

 

「だから、なんだ?」

 

 秀也の苛立ったような声が返って来る。

 

「腹を割って話したいと思ってね」

 

 真夫の言葉に、秀也がちょっとだけ眉をひそめた。

 しかし、すぐに口元に笑みがこぼれた。

 

「もしかして、腹を割って話すというのが、俺に会いたがった目的か?」

 

「まあね。だけど、一週間かかった。そんなに怖がらなくていいのに」

 

 真夫は微笑み返した。

 秀也の身体から緊張が消えるのがわかった。

 

「……思ったよりも、面白みのあるやつだな、お前。俺に文句があるんじゃないのか」

 

「さっきから変なことばかり言うね。俺を怒らせるようなことをした心当たりがあるの?」

 

 真夫はわざと言った。

 一週間前の事件のことが、おそらく秀也の仕業だということは予想がついている。だが、いま、それをとやかく言うつもりはない。

 もちろん、あさひ姉ちゃんを危険な目に合わせ、もしかしたら、心にトラウマになるかもしれなかった仕打ちをされたことについては、まだ腹が煮えかえっている。

 しかし、それをここで問い詰めても始まらない。

 真夫は、秀也と喧嘩をしに来たわけじゃない。

 話し合いをしたいのだ。

 

「お前の女についてのことは悪かった。正直にいえば、竜崎があそこまでするとは思わなかった。すまん──」

 

 すると、秀也がその場で頭をさげた。

 秀也の人となりについては、玲子さんからも教えられていたから、素直に頭をさげられたのは意外だった。

 そして、なにかを取り出した。

 小さな黒い箱だ。

 秀也は、それを机に置いて横のスイッチのようなものを入れる。

 

「これで、しばらくのあいだ、あらゆる監視は遮断される。伯父貴は屋敷から一歩も出ないが、それでいて、すべてを見張っている。監視カメラや盗聴器を使ってな。この学園だけじゃなく、必要であれば、関連企業や施設、公共場所に設置されている盗撮装置を使って周囲を見張っている。腹を割った話は、伯父貴に見張られたままではできん」

 

 秀也が言った。

 驚いたが、あの小箱の機械は、監視カメラの映像データがどこかに発信されるのを妨害する装置のようだ。

 

「俺たちの会話が監視を?」

 

「当り前だろう。伯父貴は、今日ここで俺とお前が会うことを知っている。どんな話をするのか興味があるさ。玲子に教えてもらっている思うが、学園内にはあらゆる場所に隠しカメラと盗聴器がある。お前は、豊藤龍蔵の血を引いているんだから、伯父貴はどんな人間なのか知りたいはずだ。自分の一挙手一投足は監視されている思ってろ」

 

 それではっとした。

 だから、秀也は真夫が操心術を覚醒したことを知っていたのだ。

 部屋の中で、玲子さんと真夫が語った内容も聞かれていたのだろう

 

「どんな人物なのか知りたければ、会えばいいじゃないか」

 

 真夫は言った。

 豊藤龍蔵が父親だと教えられてから、真夫は、まずは秀也に会いたいと頼んだが、もちろん、龍蔵にも会いたいと、時子婆ちゃんに頼んだ。

 だが、時子婆ちゃんは首を横に振った。

 その時が来るまで、無理だという。

 理由を訊ねても、教えてもらえなかった。

 玲子さんにお願いしても、反応は同じだった。

 その代わり、会いうことになったのが秀也だ。

 

「伯父貴は簡単には人には会わん」

 

「なんで?」

 

「命を狙われている。わかるだろう? 豊藤の秘密は家長の持っている操心術だ。それで世界の財閥家を操っている。人ひとりの能力に支えられている巨大財閥だ。つまりは、操心術を持っている家長が死ねば、グループは瓦解する。暗殺の危険は常にある。実際に殺し屋を日本に送られたという情報もある」

 

 秀也はなんでもないことのように言った。

 真夫は目を丸くしてしまった。

 

「すでに釘を差されているだろうが、豊藤の名はまだ語るな。豊藤の後継者が世に出れば、もちろん、そいつも暗殺のターゲットだ。しばらくは、孤児の坂本真夫でいるんだな。どうせ、親子の対面なんかしても無駄だ。そんな人間的な感情を持っている男じゃねえよ、魔王は」

 

 魔王とは、増応院という戒名を持っている龍蔵のことだと、玲子さんに教えられている。畏怖の呼称でありながら、同時に揶揄する呼びかけだとも言っていた。

 

「……あれは伯父貴の指示でやった……」

 

 秀也がぽつりと言った。

 真夫は驚いた。

 あれとは、襲撃事件のことだろう。

 

「えっ? なんで?」

 

「帝王学だ」

 

「帝王学?」

 

「女に心を許しているお前を、心もとなく思ったんだろうな。女は支配しろ。だが、信用するな。それが伯父貴の信条だしな」

 

 秀也は言った。

 

「つまり、あれは、俺を試すためか、あるいは、鍛えるためにやったということ?」

 

 おかしな話だが、合点がいくこともある。

 最初は、俺という新たな後継者が出てきたことに対する秀也の嫌がらせだと考えた。あわよくば、俺を学園から追い出そうとしていたのだろうと……。

 しかし、それにしては回りくどいし、徹底を欠いている感じもした。玲子さんに聞いたことによれば、竜崎たちがあさひ姉ちゃんを監禁してすぐに、秀也からそれを知らせる電話があったらしい。

 つまりは、あさひ姉ちゃんそのものに危害を加えるのは目的ではなかったのかもしれない。

 屈服したかおりが真夫を裏切ることをするということを示すのが、目的だったとすれば、納得のいくところもある。

 

「まあ、それが伯父貴のやり方だ。ありとあらゆることで試されるし、鍛えられる。豊藤の総帥の後継者になるんだ。それくらいの試練は当然だろうさ」

 

 秀也の口元には笑みが浮かんだままだったが、真夫を小馬鹿にする態度はない。

 真夫に対して、真摯に話をしているというのは、なんとなく感じる。

 それにしても、秀也のことは、もっと嫌な男かと思っていた。

 しかし、こうやって語り合っていても、真夫は秀也に不快感はない。

 それよりも、真夫に対する優しさのようなものまで感じる。

 

「豊藤の血を引いていると認められて、後継者になるのは、試練を受けるのが必要?」

 

「あの伯父貴はそう思っている」

 

「あんたも試された?」

 

 真夫は言った。

 秀也が真夫の質問に面食らった表情になった。

 だが、すぐになにかを思い出すような顔になる。

 そして、しばらくしてから口を開いた。

 

「……そうだな。女は支配しても、心を許すな。女も部下も“物”だ。それを徹底的に受けつけられた。それが豊藤を継ぐ試練であり、心得えだと言ってな。俺があいつに殺意を抱いたのは、あれがきっかけだったよ」

 

 殺意……?

 真夫はその過激な言葉にびっくりしてしまった。

 

「なにがあったのさ?」

 

 訊ねてみた。

 すると、秀也がにやりと笑った。

 

「……惚れた女がいた。心の底から愛しいと思った女だ。相思相愛になり、結婚も誓った。だが、あいつは、それを知って、手を回して自分の妾にした。そして、俺の目の前で俺が惚れた女を犯した。俺に『女など、ただの物だと覚えろ』と言いながらな」

 

 秀也が静かに言った。

 真夫は驚愕した。

 本当の話なのだろうか。

 しかし、秀也には、こんなことで嘘をつく理由もないと思う。

 その顔には、はっきりとした怒りがあった。

 思い出したことで、ふつふつと隠していたものが浮かびあがったという感じだ。

 真夫の表情に、秀也がはっとした顔になる。

 そして、再び、人を食ったような笑みが戻る。

 

「そ、その女の人は?」

 

 そうであれば、まだ龍蔵のところに、秀也が好きだったという女がいることになる。

 玲子さんのことだろうか?

 秀也は玲子さんのことを一年間も調教をしていたはずだが……。

 しかし……。

 

「死んだよ」

 

 秀也はそれだけを言った。

 真夫は「嫌なことを聞いてゴメン」と言ったが、秀也は首を横に振った。

 

「あいつの言うとおりだったけどな。女など、ただの物だ。部下もな。豊藤の総帥ともなれば、そういう心にならないとな」

 

 秀也は作ったような笑みを浮かべたまま言った。

 

「そのことだけどね……」

 

 真夫は言った。

 秀也が真夫に視線を向ける。

 

「……俺は豊藤の総帥になんかになるつもりはない。それが言いたかったんだ。総帥にはあんたがなればいい。なんの興味もないんだ。あさひ姉ちゃんと、玲子さん、そして、かおりちゃんがいればいい」

 

「総帥の地位がいらないのか?」

 

「わかっているでしょう。その器じゃないよ」

 

 秀也は少しだけきょとんとしていたが、やがて大笑いした。

 なにがそんなにおかしいのかわからないが、秀也はしばらくのあいだ笑い続けた。

 

「まあいい。近いうちに、伯父貴と会う機会を作ってやる。同じことを伯父貴の前で言え。玲子も連れてくるといい。いずれにしても、腹を割った話はそろそろ終わりだ。正人が戻ってくるはずだ。監視装置の妨害器を使っているからな」

 

 秀也が笑いをやめて真顔で言った。

 

「なぜ、正人さんが? あんたの従者じゃないの?」

 

「そうだが、龍蔵の息もかかっている。普段は俺に忠誠を誓っているが、腹の底では、実は伯父貴の部下だ。知っているが、俺は知らないふりをしているだけさ」

 

 どこまでが本当で、どこまでが嘘かわからない。

 恋人を龍蔵に奪われたという話も、もしかしたらでまかせかもしれない。

 そのとき、扉が開いて正人が戻ってきた。

 

「秀也さん、これを預かってもよろしいですか? 俺のところに直接に命令が来たんですよ。部屋に変な機械があるはずだから、取りあげろって」

 

 正人が申し訳なさそうに言った。

 秀也が笑いながら、例の小箱を正人に押しやった。



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 第58話  父と子(?)

「緊張しないでくださいね、真夫様」

 

 玲子は、無人操縦システムによって動いている車両が速度をあげて進むのを感じながら、隣に腰かけている真夫に言った。

 すると、真夫がくすりと笑った。

 玲子は、そのことで、自分が同じセリフを三度くらい繰り返していたことを悟った。

 

「も、申しわけありません。緊張しているのはわたしでした……。それにしても、真夫様は冷静ですね」

 

「親との対面といっても、実感がわかないんですよ。正直、嬉しいという感じはないですね」

 

 真夫が首を竦めた。

 魔王あるいは、増応院(ぞうおういん)こと豊藤(とよふじ)龍蔵(りゅうぞつ)のいる屋敷に向かう自動車の中である。

 ただし、運転する者はいない。

 運転席のない座席だけがあるコンパクトカーであり、すべての窓が真っ黒になっていて、車内から外が見えないようになっている特別仕様車だ。

 もちろん、この車で公道を走ることは許されないが、学園地域を含む龍蔵の私有地内なので問題はない。

 玲子の秘書時代からそうだったが、龍蔵のところに直接赴くには、こうやって内側から車外が見えないようになっている無人車に乗るしかない。

 帰りも同じだ。

 

 龍蔵の居場所を特定されないための処置であり、送迎の無人車を呼び出して乗車し、到着したところで車が停止するシステムになっている。

 秘書時代は、学園が建っている丘の麓で呼び出し、この窓のない無人車に乗り換えて、山ひとつ分の敷地のどこかにある、樹木に囲まれた龍蔵屋敷の前に停まるという仕掛けだった。

 まだ、同じ場所に住んでいるのだとすれば、そこにこの車は向かうはずだ。

 

 そのあいだ、どこを通過しているのかは乗っていてもわからない。

 何度も乗ったことはあるが、その都度、経路はランダムに変えている気もする。

 なぜ、そんな手の込んだことをするのかといえば、暗殺対策だ。

 世界経済を牛耳る大財閥の総帥だが、その秘密は龍蔵の操心術にある。

 それは秘中の秘だが、国際組織の中には、その秘密に気がついているところもあるようだ。

 だから、龍蔵を殺すか、誘拐するかすれば豊藤の組織は瓦解する。

 そう考えて、龍蔵を狙う暗殺組織は後を絶たない。

 

 だから、龍蔵に接触できる人物も最小限だし、居場所も限られた者しか知らない。玲子も学園の理事長代理になってから、龍蔵のところに向かうのは初めてだ。今回指示のあった場所も、以前とは異なり、特別寮の前だった。

 そこから、この車両に乗り込んで進んでいる。

 今日は、真夫とともに、この無人車で龍蔵のところに向かうのだ。

 

「……俺の父はどんな人ですか?」

 

 真夫は何気ない口調で言った。

 しかし、玲子は返答に迷った。

 怖い人という以外に、玲子には印象はない。

 仕えているあいだは、あの龍蔵に好意のようなものを感じていたことを思い出すが、考えてみれば、あれは操心術による影響なのだろう。

 いまは、正直、嫌悪感しかない。

 

 だが、仮にも真夫の血の繋がった父親だ。

 悪口は言いたくない。

 すると、また真夫がくすりと笑った。

 

「わかりました。そういう人なんですね」

 

 真夫が喉の奥でくっくっと笑った。

 玲子は慌てて否定したが、だからといって龍蔵に対する褒め言葉は出てこない。

 女を人間として見ない男としかいいようがない。

 真夫とは正反対だ。

 

 そのとき、車が不意に停車した。

 ドアロックが自動的に外れる。

 扉が外から不意に開かれた。

 

「来たわね、真夫坊」

 

 そこにいたのは時子だ。

 玲子は慌てて、外に出て頭をさげた。

 夕暮れの赤い空を背景に、アンティークな二階建ての屋敷があった。

 玲子が知っている龍蔵の屋敷ではない。どうやら、玲子が去ったことで、居住場所を変えたようだ。相変わらずの暗殺対策のための秘匿の徹底ぶりだ。

 

「時子婆ちゃん、今回のことはありがとう」

 

 真夫が車から降りるなり言った。

 

「玲子も言ったかもしれんが、あまり人間味のある男でないからのう。期待するでないぞ」

 

 時子が笑った。

 いつも思うのだが、本当に真夫に対する時子の態度は優しい。

 まるで、孫に接する祖母だと思う。

 そもそも、玲子は時子の笑った顔など、真夫が現われる以前には見たことなどなかった。

 鬼のような女調教師というのが、玲子の時子への印象だ。

 

「時子婆ちゃんも一緒にいてくれるの?」

 

 時子が先導するように歩き出すと、真夫が声をかけた。

 

「秀也も一緒にな。龍蔵殿の指示じゃ」

 

 秀也が同席するというのは、玲子の事前に聞いていた。

 おそらく、龍蔵はこの席で後継者をどうするのか口にするのではないかと思っていた。

 そのため、玲子は手足が震えるほどに緊張しているのだが、当の真夫は達観したものだ。

 真夫にも真意を確かめたが、真夫には豊藤グループの総帥になる野心はないらしい。

 それは、少し寂しく思うが、それが真夫の気持ちなら仕方がない。

 玲子は、真夫がどういう立場になろうとも、生涯を支えていこうということだけは決めている。

 

 屋敷の外観も中もはごく普通の建物だ。

 むしろ、世界的な富豪の龍蔵の住まいとしては、わびしすぎるだろう。

 だが、実はこの屋敷には数層に及ぶ広い地階部分があり、そこが居住空間のほとんどだということを知っている。

 外観など、ただの飾りだ。

 

 案の定、屋敷に入るとすぐに地階に降りるエレベーターに案内された。

 少しの時間、エレベーターは沈み続けた。

 玲子も、龍蔵の居場所がどのくらいの深さの位置にあるのか知らされてはいないが、秀也から核ミサイルが落下してもしばらくは大丈夫だとは教えられたことがある。

 エレベーターが停止して扉が開いた。

 そこは待合室のような場所になっていた。

 

「しばらく、そこで待っておくれ、真夫坊。玲子、なにか飲み物でも入れてやれ」

 

 時子はそう言い残して、奥に通じる扉の向こうに消えていった。

 玲子は真夫をソファに座らせて、セルフサービスになっている湯茶のある場所に向かった。だが、真夫がなにもいらないというので、戻って来て真夫の隣に座り直す。

 

「龍蔵殿がお呼びじゃ」

 

 それ程の時間が経たないうちに、時子が戻ってきた。

 さっき時子が出ていった扉の向こうに進む。

 そこも長い廊下になっていて、やがて両開きの自動ドアが出現した。

 三人で入る。

 その内側は小さな部屋になっていて、さらに先に扉がある。

 

「すごいですね。厳重だ」

 

 真夫が感心したように言った。

 

「この場所で隠し持った武器などがないかどうかをチェックされます。不審物を所持していれば、両方の扉とも開かなくなり、捕らえられます」

 

「へえ」

 

 真夫はただ驚いているようだった。

 入ってきた扉が閉じてから、少しの時間がすぎてから奥側の自動扉が開く。

 

 そこは大きな部屋になっていた。

 奥側に、脚の部分の隠れた大きな机があり、和服姿の龍蔵がいた。

 その手前に革製のリビングセットがある。

 すでに、その一角に秀也が腰かけていた。

 

「真夫と玲子は秀也の反対側に座れ。これで家族全員が揃ったというわけだ」

 

 玲子と真夫が言われた場所に腰かけると、龍蔵が声をあげて笑った。

 一方で時子はソファには腰かけずに、部屋の隅にある椅子に腰をおろした。

 

「真夫、初めて会うな。わしが龍蔵だ。お前の父になる。元気か?」

 

「元気です。そのう……、いろいろと感謝します。あさひ姉ちゃんのこと……。それに、玲子さんを俺につけてくれたこと……。かおりちゃんのことも……。助けてくれなければ、俺もそうだし、あさひ姉ちゃんも露頭に迷うところでした。本当にありがとうございます」

 

 真夫が立ちあがって深々とお辞儀をした。

 玲子も慌てて、それにならって頭をさげる。

 

「恨み言のひとつでも言うのかと思ったが、礼を述べるとはな。まあいい。いちいち、礼には及ばん。座れ」

 

 龍蔵は言った。

 真夫が座り直す。玲子も腰をおろす。

 

「お前は、豊藤の血を引いておるのだ。それなりに遇するのは当然だ。ただし、親子の籍は入れん。そんなものに意味があるとも思えんしな。お前を後継者に相応しいと思えば、わしがいまいる席をそのときになれば、お前にくれてやる。実際のところ、お前はわしの血を直接引いている。ほかに子はおらん。豊藤のすべてはお前にくれてやるつもりだ。もっとも、それはすぐにというわけじゃない。少なくとも、学園にいるあいだは、一介の高校生として生活せよ。卒業すれば、本格的にビジネスことを学んでもらう」

 

 龍蔵が口元に笑みを浮かべたまま言った。

 玲子は思わず唾を飲んだ。

 

「そのことですけど、俺はそのつもりはありません……。というよりは、俺にはそんな大それた立場はとつとまらないと思うんですよね。俺が現われなければ、その秀也君が後継者に決まっていたはずです。そのつもりで秀也君もこれまで学んできたんでしょう? 豊藤の後継者は彼にしてください」

 

 真夫ははっきりと言った。

 玲子はちらりと秀也を見た。

 秀也は余裕のある態度で、微笑んだままだ。

 

「豊藤の財はいらんということか?」

 

「そうは言っていません。ただ、総帥などというものは、血の濃さで決めるものではなく、それに相応しいかどうかで決めるべきだと思うだけです。俺はつい数日前まで、俺に親がいることさえ知りませんでした。ただの高校生です。大きな財閥を動かすやり方も、人の使い方も知りません。俺が後継者の器であるとも思えません。ただ、でき得れば、その秀也君の下でなにかしらの仕事をもらえればありがたいです。あさひ姉ちゃんのお父さんの作った借金こともありますし」

 

「あんなものは、もう存在せん。玲子に聞いていないのか? あの娘の父親も、父親にたかる高利貸しも、お前や、あの娘に接触することなどない」

 

 龍蔵が呆れたように言った。

 玲子も小さな声で、その通りですと付け加えた。

 恵の父親のことなので意図的に話していなかったが、二度と恵の父親が近づけないように処置をした。おそらく、再び日本の地を踏むことはないはずだ。

 

「そうですか。安心しました。いずれにしても、俺はその能力はないと思います」

 

「玲子がいるだろう。その玲子は奴婢としては力不足だったが、ビジネスについては優秀だ。表の仕事でも、裏の仕事でも、その年齢で信じられんほどそつなくこなす。そういうものを支配しろ。お前にはその力があるはずだ。お前自身が経済を動かす能力を身につける必要はない。豊藤の総帥は、能力のある者を支配して、その力をすり減らすまで使うことをすればいい」

 

 龍蔵は操心術のことを言及しているのだと思った。

 確かに、真夫もそうだが、龍蔵にも操心術がある。だから、能力のある者を見つけて支配し、その者に経営を任せればいいのだ。

 操心術のために裏切ることはないし、能力に限りがあることがわかれば、任せる人間を入れ替えればいい。

 なにも自分で経営のようなことをする必要はない。

 

「その力は秀也君にもありますよ」

 

「お前にもあると聞いている」

 

 龍蔵がきっぱりと言った。

 そのときだった。

 龍蔵の机の上にあった小さな器具からアラーム音が鳴ったのだ。

 

「ちょっと待て。女を一匹調教中でな。時間までに精を出させろと命じたのに、できんかったわ」

 

 龍蔵が不意ににたりと卑猥な笑みを浮かべた。

 そして、引き出しから小さな操作具を出して、くいと捻った。

 はっとした。

 あれは、「クリリング」を操作する器具だ。

 あれで、玲子も散々に苦しめられたのだ。

 

「ほわああっ──。んぐうううっ──、あぐうううっ」

 

 すると、龍蔵の座っている机の下から女の悲鳴が聞こえてきた。

 そして、がたんと大きな音がして、その女が机の下からのたうち回って、横に転がった。

 びっくりしたが、その女は上半身こそスーツ姿だったが、下半身にはなにも身につけていなかった。

 

 ナスターシャだ──。

 

 フランス語で必死に哀願をしながら、股間を両手で押さえて、涙を流している。

 おそらく、電撃を股間に流されているのだと思う。

 どうやら、話をしているあいだも、机の下で龍蔵の股間を奉仕させられていたようだ。

 

 横を見ると、真夫が目を丸くしている。

 龍蔵は苦しむナスターシャの姿に、嗜虐心が満足されたような酷薄な笑みを浮かべている。

 

「いつまで経っても、舌遣いがうまくならんわ。今度は寸止めモードにしてやる。しかし、今度も時間以内に精を出せなかったら、電撃の強さを倍にするからな。ほら、さっさと机の下に戻らんか──」

 

 龍蔵が器具を操作した。

 ナスターシャはがくりと一度脱力し、次いで、腰をくねらせて悶えだす。

 すぐに、隠れるように机の下に潜った。

 龍蔵の言いつけ通りに、フェラ奉仕を再開したのだろう。

 玲子は呆気にとられた。

 また、真夫がぽかんとしているのに対して、秀也はにやにやしていた。

 なんとなくだが、秀也は、龍蔵の足元でナスターシャが調教を受けているのを知っていた気配だ。

 

「すまんな。だが、躾も大事だからな……。さて、なんの話だったか……。おう、後継者の話だったな。それで、真夫、お前には野心がないのか? 豊藤の総帥になる野心は? その気になれば、すべてのものを支配できる力が手に入るぞ」

 

 龍蔵が真夫を睨んだ。

 だが、その目線には強いものはない。

 なんだか、状況を面白がっている様子だ。

 

「……後継者の地位に興味はありません。俺は俺の家族を守るだけの力と財があれば、それ以上のものは望みません」

 

「家族とは?」

 

「ここにいる玲子さんです。そして、あさひ姉ちゃん。それから、いまはかおりちゃんも家族だと思っています」

 

 真夫はきっぱりと言った。

 玲子は自分の顔がかっと熱くなり、頬がみるみると赤くなるのがわかった。

 すると、突然に秀也が横で大笑いした。

 なにがおかしいのか知らないが、けらけらと笑い続ける。

 

「伯父貴、言った通りでしょう。こいつには野心などない。豊藤の総帥の器じゃありません。残念ながらね。だけど、俺はこいつを可愛いと思う。女がいれば、なにもいらないなどと、ぬけぬけと言えるセリフじゃありませんよ」

 

 やがて、笑うのやめた秀也が初めて口を開いた。

 

「確かにな」

 

 龍蔵も苦笑している。

 

「まあいい。地位よりも女だというのであれば、それもいいだろう……。ところで、玲子。会うのは久しぶりだが、しばらく見ないあいだに、また女ぶりがあがったのではないか? いまさらだが、惜しくなったな。その真夫は豊藤の後継者には興味はないようだ。だが、お前の才能はわしは買っておる。どうだ。一度、わしのところに戻るか……。お前は、後継者となる側につけたいのだ」

 

 龍蔵が引き出しから、ナスターシャに使ったのと、同じ器具を取り出した。

 くいと手でダイヤルを捻るのが見えた。

 

「あ、ああっ」

 

 玲子は叫んで、ソファの下に崩れ落ちてしまった。

 股間のクリリングが突如として激しく振動をし始めたのだ。

 

 そのとき、真横で大きな音がした。

 ふと見ると、ものすごい怒りの形相で真夫が立ちあがっている。

 大きな音は、真夫が机を蹴り飛ばした音のようだ。

 

「ま、待って──」

 

 玲子はびっくりした。

 こんな態度を龍蔵に向けるなど……。

 股間の刺激のことも一瞬忘れて、玲子は真夫の脚にしがみついた。

 

「だ、大丈夫です、ま、真夫様──。す、座って、座ってください」

 

 玲子は必死に叫んだ。

 すると、またもや不意にクリリングの振動がとまった。

 がくりと脱力してしまった。

 

「伯父貴、悪戯がすぎるぜ。玲子は真夫にくれてやったんだろう」

 

 そのとき、秀也がたしなめるような口調で言った。

 玲子は、秀也が玲子を庇うような物言いをしたことに驚ていてしまった。

 

「そうだったな……。真夫、これが玲子のクリリングを操る最後の操作具だ。お前にくれてやる。好きにしろ」

 

 龍蔵がさっきの器具を床に放った。

 玲子は慌てて、それを拾って真夫に手渡した。

 

「そうですか。ありがとうございます、龍蔵さん」

 

 真夫は龍蔵を睨みながら言った。

 玲子はまだ真夫が怒っているということに気がついた。

 その証拠に、“お父さん”という呼びかけでなく、まるで他人を呼ぶような“龍蔵さん”と呼びかけた。

 玲子は、龍蔵の顔を思わず見た。

 だが、その顔にある感情は玲子は読めなかった。

 

「……真夫、だったら、お前の望み通り玲子はくれてやる。ただし、わしの条件を飲め。それができなければ、玲子は取りあげる。さっきも言ったが、玲子は優秀だ。わしは後継者になる気概もないような男に、玲子をやるのは勿体ないと思っている」

 

 龍蔵が真夫を見た。

 

「条件とはなんですか?」

 

「秀也が学園で運営していた『SS研』というクラブがあるはずだ。その部長になれ。そして、十人以上の愛人を作れ。このあいだ時子を通じて送った十個の金属の首輪があるはずだ。それを十人の女にしろ。レイプでも、合意のもとでも、操心術で無理矢理にでもなんでもいい。そのSS研で女を集めてハレムを作れ。それが条件だ。少なくとも十人。期限は半年。それができなければ、本当に玲子は戻す」

 

「えっ?」

 

 真夫が驚いている。

 玲子も意外な言葉に当惑した。

 首輪というのは、拘束具でもある銀色の金属の首輪のことだろう。

 いまは、玲子、恵、かおりの三人がしている。

 女子生徒を集めてハレムを作れというなら、残りは七人だ。

 

 だが、思い出した。

 龍蔵は帝王学について特殊な思想を持っていて、女をたくさん作って支配することが、人を支配することを学ばせるために非常に効果的だと考えているのだ。

 龍蔵は、真夫に自分の独特の帝王学を強引にやらせるつもりだ。

 つまりは、龍蔵は真夫を後継者にする可能性を捨ててはいないということだと思う。

 

「なんのためにですか?」

 

 真夫が言った。

 

「終わりだ──。期限は半年──。わかったな」

 

「でも……」

 

 真夫は当惑したままだ。

 

「終わりだと言っただろう……。そして、玲子、真夫と別れたくなければ、条件を達成するように真夫を焚き付けろ。さもなければ、真夫についての記憶を消して、お前を真夫から離す」

 

 龍蔵が強い口調で言った。

 

 それで終わりだった。

 玲子は真夫とともに退出した。

 時子と秀也は、まだ話があると龍蔵に言われて、一緒には出て来なかった。



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第10章 覚醒【玲子】
 第59話  決意


 龍蔵の屋敷を出るときには、すっかりと陽が落ちていた。

 例の窓のない自動操縦車は玄関前に待っていて、そのまま玲子は真夫とともに車に乗り込んだ。

 龍蔵と別れてから、真夫は一言も口をきかなかった。

 なにか考え事をしている雰囲気であり、玲子は声をかけそびれていた。

 玲子たちふたりが乗り込むと、車が滑るように進み始める。

 少し進んだところで、真夫が不意に顔をあげた。

 

「あれっ? もしかして、遠回りをしてますか?」

 

 玲子は真夫の勘の良さに、ちょっと驚いた。

 龍蔵の屋敷を往復する自動操縦車は、訪問者に屋敷の場所をわかりにくくするように、経路がランダムに変更するようになっているはずだと説明した。真夫がそういうことですかと頷く。

 そして、再び真夫は黙りこくった。

 

 沈黙が破られたのは、しばらくしてからだ。

 

「龍蔵さんは……父は……、俺が後継者を拒否したのを気に入らなかったようですね……」

 

 そして、大きく溜息をついた。

 玲子は真夫に視線を向けた。

 

「で、でも、真夫様の選択は当然だと思います。突然に大財閥の総帥の後継者になれと言われても、受け入れられないのは当たり前です」

 

 玲子自身は真夫が後継者を拒否したことは残念に考えている。

 それは、総帥の座が秀也よりも真夫の方が相応しいと思っているだけではなく、玲子自身のこともある。

 龍蔵は、玲子については、後継者となる側の「女」にすることを仄めかした。つまりは、真夫が後継者とならなかった場合は、玲子は真夫のもとから去らなければならないということだろう。

 この場合、玲子の意思など関係ない。

 玲子は自分が龍蔵、つまりは、豊藤グループに逆らえるとは思っていない。もちろん、それは望むことではないが、玲子が龍蔵に逆らうということは、真夫が龍蔵に逆らうということにもなり、そんなことをさせるわけにはいかないのだ。

 真夫が怪訝そうな表情で、玲子の顔にじっと視線を向けてきた。

 玲子は続けて口を開く。

 

「総帥の立場は苛酷です。龍蔵様は有り余る財を自由に動かすこともでき、世界経済を牛耳るほどの人物ですが、ある意味、屋敷に閉じ込められた囚人です。暗殺や誘拐の危険は常にあり、屋敷からほとんど出ることはありません。真夫様も恵さんも、もっと自由で気楽な生き方ができると思います。真夫様の言われる通り、後継者とならなくても、龍蔵様が真夫様を見捨てることはありませんから」

 

 玲子は言った。

 そして、内心の寂しさを隠すように、無理矢理に口元に笑みを浮かべた。

 頭の中では、龍蔵が最後に口にした何気無い言葉が繰り返している。

 

 真夫から龍蔵を取りあげるという言葉だ。

 

 龍蔵が命令した真夫への条件は、十人の女子生徒を奴婢にしろということだったが、真夫がそれに従うのかどうかは知らない。

 しかし、従わないのではないか……。

 そう思っている。

 真夫は恵のことをとても大切にしているし、玲子のことも、かおりのことも大切に想ってくれているようだ。

 それは接していて、ものすごくわかる。嬉しく思う。

 それだけに、無秩序に女を増やすということを真夫はしたがらないような気がする。

 真夫は、真夫は自分を慕う女性を特別視するところがあり、それについては、女を道具のように考える龍蔵や秀也とは違う。

 

 ただ、龍蔵の意図は明白だ。

 龍蔵は、帝王学を身につけさせるのに特殊なやり方をする。

 たくさんの女を支配させて、ハレムを作らせるのだ。

 大勢の女を支配し、仲違いしないように制御して、ひとつのまとまりとして保持させるという行為を通じて、大勢の人間を支配するノウハウを身につけさせるらしい。

 龍蔵が真夫にそれを強要しているということは、龍蔵は真夫を後継者にすることを諦めていないと思う。

 いずれにしても、玲子は真夫の意思を尊重するつもりだ。

 もしも、真夫が……そんなことは考えていないと思うが……玲子のことを気にして迷っているのだとすれば、真夫の選択にそんなことを考慮して欲しくない。

 

「……ただ、もしも……もしもの場合ですけど……龍蔵様がわたしを真夫様から引き離すということがあれば、そのときはわたしの記憶をすべて抹消していただけませんか……。真夫様のことを記憶したまま、ほかの方に仕えることは、もはやできそうにありませんから……」

 

 玲子は言った。

 操心術を遣えば、それができることはわかっている。

 もしかしたら、無理な記憶抹消は、玲子の頭脳になにかしらの影響を及ぼすのかもしれない。

 ただ、それでもいい。

 玲子はもはや、真夫なしの人生など考えられない。どうなってもいいのだ。

 そう言った。

 すると、真夫は明らかにむっとした表情になった。

 あまり怒らない真夫だけに、玲子はちょっと動顛した。

 

「あがああっ」

 

 その途端だった。

 突如として股間に激痛が走った。

 クリリングの電撃だ。

 玲子は座席を飛び跳ねるようなかたちで身体を崩し、股間を両手で掴んだ。

 ふと見ると、真夫がクリリングの操作具をぽんと投げていた。さっき龍蔵が「玲子のクリリングを操作する最後の器具」だと称して真夫に渡したものだ。

 それを真夫が操作したのだ。

 真夫が玲子の身体をすごい力で抱き締めた。

 手を払いのけられて、スカートの中に手を入れられる。

 そのあいだも、電撃は流れ続けていた。

 玲子は全身から脂汗が噴き出すのを感じながらも、必死で悲鳴を押し殺した。

 

「なんで──。なんで、そんなことを言うんです、玲子さん──。俺は誰も手放すつもりなんかありません。玲子さんがどう思っているか知りませんけど、もう玲子さんは家族のようなものだと思っています。あんなに、仲良く、そして、なにもかもさらけ出して付き合ったのに、どうして俺から離れるのというようなことを言うんですか──。玲子さん、なんでですか──?」

 

 怒鳴りあげられた。

 そして、電撃の流れる股間を荒々しく愛撫される。

 このところ、真夫の命令で革の貞操帯を身につけることが多かったが、さすがに今日は普通の下着だ。

 ストッキングもない。

 真夫の指が下着の中に入り込み、クリトリスをまさぐって来る。

 たちまちに快感に襲われる。

 

 電撃の激痛と真夫の愛撫の気持ちよさ……。

 

 これがない交ぜになって、玲子は頭がおかしくなりそうだった。

 玲子は電撃の苦しさと愛撫の激しさに身体をがくがくと震わせて、すがるように真夫の背中を両手で掴んだ。

 

「俺は誰も渡したくない──。俺の大切な人とは別れたくない。や、やっと、やっと手に入れたのに……。な、なんで、なんでですか──。玲子さんは俺と別れて平気なんですか──? なんでですか──」

 

 真夫が耳元で怒鳴った。

 玲子は電撃の苦しさに意識さえ失いそうになりながらも、懸命に謝罪の言葉を口にした。

 真夫が激怒していることはわかった。

 それは、玲子が真夫との別れを仄めかしたからだろう。

 だが、それは玲子にはどうしようもないことであり、龍蔵は真夫が後継者にならなければ、玲子を取りあげる。それに逆らえるとも思わない。

 しかし、嬉しくもあった。

 玲子と離れることに、これほど真夫が拒絶を表してくれるとは思わなかったし、玲子に執着してくれていることは心の底からありがたかった。

 

「ま、真夫様、申しわけ……申しわけ……」

 

 玲子は必死で繰り返した。

 あまりもの長い時間の電撃で、玲子の舌はもう麻痺してしまっている。

 真夫がはっとしたように、リモコンに手を伸ばして電撃を止めた。

 玲子は真夫に抱きついたまま、がっくりと脱力した。

 

「す、すみません……。これだけは使うつもりはなかったんです……。玲子さんがこれに精神的にも苦しめられたのは知っていますから……。申しわけありません……」

 

 真夫がうな垂れたように言った。

 龍蔵が、真夫に玲子の股間に埋まっているクリリングを操作する器具やスマホソフトを渡しているのは知っていたが、真夫がそれを操作しようとしないことにはもちろん玲子は気がついていた。

 確かに、これを股間に埋め込まれて脅迫されることにより、龍蔵や秀也の言いなりになるしかなかった記憶は、玲子にとって嫌悪と屈辱そのものだ。

 しかし、玲子は真夫に抱きついたまま首を横に振った。

 

「あ、謝らなくていいです……。わ、わたしは真夫様の奴婢です……。そ、それに、ま、真夫様がわたしを離さないと言って嬉しかったです……」

 

 玲子は懸命に息を整えながら言った。そして、「うっ」と声をあげる。電撃はなくなったが、真夫の愛撫はまだ続いているのだ。

 たったいままでの荒々しい愛撫から、いつもの溶けるような優しい手管に変化している。すでにびっしょりと玲子の股間は濡れている。

 

「……で、でも、よければ……よければですが……クリリングは……つ、使ってください……。あ、ああ……。わ、わたしを……し、支配して……。な、なにもかも……ああっ」

 

「いいんですか? これは嫌な思い出でしょう?」

 

 真夫が言った。

 

「そ、そうです──。で、でも……ま、真夫様がしてくれれば……す、素敵な……思い出に……上書き……さ、されますから……」

 

 クリリングは玲子にとって、脅迫の屈辱の記憶でもあるが、支配の象徴でもある。玲子は真夫にこそ、このクリリングで冷酷に支配されたい気がする。

 

「上書き? 面白いことを言いますね、玲子さん」

 

 真夫が笑ったような声を出した。

 そして、指をすっと秘裂の中に挿し込んできた。

 いわゆるGスポットをぐいぐいと刺激される。ほかの指でクリトリスを弄りながらだ。

 玲子は背中を仰け反らせてがくがくと痙攣をしてしまった。

 

「これだけは言っておきます、玲子さん。俺は誰も手放しません。あさひ姉ちゃんも、玲子さんも、そして、かおりちゃんも……。別れたくなんです……。身勝手かもしれないけど、俺はみんなと家族になりたい。いえ、家族にします。玲子さんのことも手放しません。玲子さんの意思など無関係に、俺は玲子さんを一生、そばに置きます」

 

 真夫が断言した。

 そして、スーツのスカートからすっと下着が抜かれた。玲子は普通に下着を身につけるときには、真夫が脱がせやすいように腰の横で紐で結ぶタイプのショーツを身につけるようにしていた。恵と話し合った結果だ。

 真夫は玲子から脱がせた下着を座席の下に放り投げた。

 

「あ、ありがとうございます……。か、家族などと……。あ、ありがとう……。あ、ああっ、そ、そこは、あああっ」

 

 玲子は快感に身をよじらせた。

 真夫が玲子のことを家族だと言ってくれたことで、快感は通常の二倍も三倍にもなっている気がする。

 玲子は真夫の背中を掴む手に力を入れた。

 そのとき、すっと車が停車した。

 特別寮の前に到着したのだろう。

 がちゃりとドアの鍵が解除される音がした。

 しかし、真夫は玲子を離さない。

 

「秀也に後継者を譲ると言ったのは、そっちの方がみんなを守れるために最適と思ったからです。でも、そうでないなら、後継者にもなります。俺は正直に言えば、後継者なんかどうでもいい。だけど、それが俺が大切な人を守るための手段なら……、玲子さんを俺のところに置いておくのに必要であれば、後継者にもなってみせます」

 

 真夫は言った。

 玲子は真夫の愛の告白ともいうべき言葉を聞きながら愛撫を受け、そのまま絶頂に昇りつめようとしていた。

 同時に、真夫の「家族」に対する執着がわかって、はっとした。

 孤児院育ちの真夫は、生まれてから家族といえるようなものには無縁に育った。だから、「家族」とは真夫にとって、渇きで水を欲するような心の求めであり、本当に手に入れたかったものに違いない。

 憧れであり、拘りなのだろう。

 それにしても、真夫が玲子たちのことを「家族」とみなしていたことにはちょっとびっくりした。

 

「俺は家族のことしかないんです。さっきも言いましたが、俺は身勝手な人間です。玲子さんの意思に関わりなく、俺は玲子さんを家族にします。」

 

「……りゅ、龍蔵様は……?」

 

 だが、家族といえば、血の繋がった龍蔵だろう。

 しかし、真夫は龍蔵のことを「家族」のひとりとして一言も口にしない。

 真夫は首を横に振った。

 

「……玲子さん、俺の操心術は感情を読めるんです。人の心の動きがわかるんですよ。知っていましたか?」

 

 真夫がささやいた。

 知らなかった。

 龍蔵と秀也は記憶を操作したり、まるで催眠術のように他人の心を操るが、感情を読めるとは耳にしたことがない。

 あるいは隠しているだけかもしれないが、少なくともあのふたりは、他人の感情を気にするタイプでもなさそうだ。

 玲子はとりあえず、知らないと応じた。

 一方で真夫の愛撫は続く。

 玲子は意識をまともに保つのが大変だった。

 

「父の……龍蔵さんの感情には、俺に対する愛情のような心はありませんでした」

 

 一瞬だけ玲子の股間でまさぐる指を止めてぽつりと真夫が言った。

 そして、すぐに愛撫が再開される。

 

 とにかく、玲子はそれで少しわかった。

 真夫は家族ともいえる存在に会いに行った。

 だが、持っている能力で、真夫は血の繋がる父親が自分に家族愛を抱いていないことを悟ってしまった。

 だからこそ、真夫は玲子や恵たちに対する「家族」としての執着が突然に強くなったのだろう。

 

「玲子さんたちは俺のものです。誰にも……どこにもやりません……」

 

 真夫の指の刺激がまたもや熱のこもったものになる。

 そして、本格的な指による律動が始まる。

 ただの指だが、真夫の指だ。

 

「あ、あああっ、真夫様、あああっ」

 

 玲子は必死に声をこらえて激しく身体を悶えさせた。

 快感が込みあがってくる。

 玲子は真夫を抱く手に力を入れた。

 

「んふうううっ」

 

 ついに絶頂した。

 激しく震えながら、玲子は燃え尽きたように真夫にがっくりと身体を預けた。

 だが、はっとした。

 じょろじょろと股間からゆばりが迸っている。

 あまりもの快感で失禁してしまったようだ。

 

「あ、ああっ、ご、ごめんなさい。ど、どうしよう──。ああ、真夫様、どうしたらいいですか?」

 

 玲子は狼狽えて言った。

 一度緩んでしまった股間はもう玲子にもどうしようもない。

 玲子の尿は玲子のスカートと車の座席を濡らして、周囲を汚していく。

 

 真夫は笑ってスマホをとった。

 そして、メールをどこかに打ってから玲子に笑いかけた。

 

「時子婆ちゃんに、連絡しておきました。あとでからかわれるかもしれないけど、なんとかしてくれますよ」

 

 真夫が言った。

 

「からかわれるどころか……。叱られます。ううっ」

 

 玲子は意気消沈した。

 真夫が慰めるように口づけをしてきた。

 玲子はしばらくのあいだ、真夫の舌に舌を絡める気持ちよさにうっとりとした。

 

 すると、口を離してから、なにを思ったのか、真夫が玲子のスカートに手を伸ばして腰のホックを外してきた。

 なにをされているのかの自覚もなく、腰を浮かせて真夫が玲子からスカートを脱がせるのに任せる。

 玲子の下半身はなにも身につけない状態になった。

 

「玲子さん、これからなにかありますか? 急ぎの仕事とか」

 

 不意に真夫が言った。

 玲子は今日はなにもないと告げた。

 龍蔵と真夫との面談があったのだ。なにがあるかわからないのに、その後に仕事など入れるわけがない。

 

「……だったら、デートしましょう。学園の生徒は平日外出は禁止ですけど、理事長代理の許可があればOKですよね」

 

 真夫は微笑んだ。

 そして、玲子の返事を待たずに、スマホで今日は帰らないし、夕食もいらないと電話をした。電話の相手は恵のようだ。

 

「これでいいです。じゃあ、玲子さんの車に乗り換えましょうか」

 

 真夫は車の扉を開いた。

 

「ま、待ってください。こ、このままですか?」

 

 玲子は驚いた。

 びしょびしょになった座席はともかく、玲子の下着とスカートは座席の上と下に放り投げられたままだ。

 いま玲子は上はスーツだが、下はなにも身につけていない状態だ。

 

「このままですよ。大丈夫です。いまは誰もいないようです。手を繋いであげますから」

 

 玲子は無理矢理に車の外に連れ出されてしまった。

 外は完全な夜だったが、ひんやりとした外気がなにも身につけていない股間を襲う。

 龍蔵の屋敷に向かうために、乗り換えた玲子の私有車はそこにある。

 玲子は慌ててそっちに向かおうとするが、手を握る真夫にそれを阻まれた。

 

「慌てないでください。せめておしっこを拭きましょうよ」

 

 真夫が笑いながら言い、玲子の片手を握ったまま、反対の手でハンカチを出して玲子の股間と内腿を拭き始める。

 

「あっ、そ、そんなこと……。よ、汚れます。じ、自分でします」

 

 玲子は言ったが、真夫に手を振り払われ、しかも、手で隠すなと命じられてしまった。

 

「おかしいなあ……。拭いても拭いても、どんどんと股間が濡れてきますよ。どうしたんですか?」

 

 執拗に股間を刺激するようにハンカチを動かしながら、真夫が意地悪く言った。

 しかし、特別寮の前とはいえ、学園内だ。しかも、寮の前は街灯で明るい。

 玲子はいつ誰かにこの光景を覗かれるのではないかと気が気ではない。

 緊張で心臓が爆破しそうだ。

 

「さあ、行きましょう」

 

 やっと真夫が言って、玲子の手を離した。

 玲子は自分の車まで全速力で走った。



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 第60話  夜のデート

「とても準備がいいんですね。漏らしたときの用心とは、さすがは玲子さんです」

 

 くすくすと真夫は笑ってしまった。

 

「笑わないでください。真夫様のせいですよ。こんなの準備するようになったのは……」

 

 玲子は顔を真っ赤にしながらも、車を二十四時間対応している駅前近くのコインパーキングに駐車した。

 その玲子さんは、上半分はスーツだが下半分はすっぽんぽんだ。

 真夫が脱がせたのだ。

 

 学園のある山から三十分ほど車を走らせたところにある市街地である。

 平日の夜だが、まだまだにぎやかだ。

 真夫はあまり知らないが、この辺りは真夜中になっても開いている店も多くて、人通りが絶えることはないらしい。

 

 学園のある小高い山から、玲子さんの運転する私有車で市街地まで下りてきた。

 特段の理由はない。

 ただの気紛れだ。

 本当は学園の生徒は、寮のある敷地内に完全に隔離されており、こうやって夜に抜け出して街に繰り出すなど不可能だ。

 学園の外縁を二重三重の警戒設備が取り巻いているだけでなく、山ひとつ分が豊藤グループのものであり、車がないとどこにも辿り着けない。また、学園と街を繋ぐ道路もまた豊藤グループの私道であって、そこも警備要員によって監視されている。

 道以外には無数の警備線が張られていて、文字通りの罠もあちこちにあるらしい。

 最初に玲子さんの説明を受けたときには、まるで「要塞」ですねと笑ってしまった。

 だが、それに対して、玲子さんは「まったく、その通り」だと、大真面目な顔で応じた。

 豊藤グループの総帥である豊藤龍蔵は、その能力のために、常に世界中の組織からの暗殺と誘拐の対象になっていて、この聖マグダレナ学園の敷地を利用し、学園が建っている山のどこかに住居を作って、身を隠しているらしい。

 さっきまでいた屋敷の地下部がそうなのだが、それが学園内のどこかにあるのかは、玲子さんもよく知らないようだ。

 

 いずれにしても、屋敷から帰る自動操縦の車の中で、玲子さんは真夫の悪戯によって、例によって失禁してしまった。玲子さんは、あまりにも感じすぎると、絶頂とともにおしっこを漏らす癖があるのだ。

 それで、下半身をそのまま脱がせて、玲子さんの私有車で山を下りてきたのだが、さすがに街に出てくるとなれば、せめてスカートをどうにかしなければならなかった。

 真夫としては、玲子さんを駐車場に待たせて、真夫がどこかで買ってくるつもりだったが、玲子さんは替えのスカートと下着を私有車のトランクに、小さなスーツケースに入れて置いてあったのだ。

 それで、準備がいいと笑ってしまったのだ。

 

 車が停まると、真夫だけが一度降りて、後部トランクからスカートを一枚持って戻った。

 おしっこ癖のある玲子さんとしては、こんなときのために準備していたようだが、スカートだって何枚もある。真夫は、その中で一番短いスカートを選んだ。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 戻ってきた真夫からスカートを受け取ろうとして、運転席の玲子さんは手を伸ばした。

 しかし、真夫はさっと、スカートを後ろに隠す。

 怪訝な表情をする玲子さんに、真夫は後部座席で、まずは上衣のスーツもなにもかも脱いで素っ裸になれと命令をした。

 人通りの多い繁華街だが、ここはビルとビルに挟まれた駐車場だ。玲子さんは、その中でも一番奥に車を停めたので、ここには人目はない。

 

 玲子さんは一度車の外を見て、人影がないのを確かめてから、運転席から後部座席側に移動をした。

 玲子さんの丸いお尻が真夫に向かって露わになる。とてもエロチックで可愛い。

 真夫については、もう一度外に出てから、外から後部座席に座った。

 玲子さんの車はワゴンタイプなので後ろが広い。なんでもやる玲子さんだから、必要なときには荷物なども運べるようにだろう。

 

 真夫は、なにもかも脱いで靴以外には全裸になった玲子さんから衣類を取りあげて片付けた。

 

「じゃあ、俺から離れるというようなこと口にした罰を与えますね。あのとき、俺は本気で腹がたったんですよ」

 

 真夫は言った。

 すると、玲子さんが狼狽えたように真っ赤になった。

 

「あ、あれは……」

 

 玲子さんが口を開いたのを真夫は手で制して黙らせた。

 

「そこでオナニーしてください」

 

 真夫は車内灯をぱちりとつけた。

 車内灯くらいでは、駐車場の外の通行人に見咎められる心配はほとんどないが、玲子さんにすれば羞恥の恐怖が拡大するはずだ。

 案の定、玲子さんは引きつったような顔になる。

 

「なにやってんですか、玲子さん。玲子さんが俺から離れてもいいと口にしたのは、玲子さんへの調教がまだ足りなかったためですよね。だから、今夜は徹底的に辱めてあげます。そのために、外に出てきたんですよ」

 

 真夫は言った。

 すると、玲子さんはしょげたようになってしまった。

 

「も、申しわけありません……。二度と口にしませんから……」

 

「口にしていいですよ。ただ、俺は玲子さんを手放しません。俺は玲子さんが好きです。どんなことをしても、玲子さんをそばに置きます。それについて、玲子さんの意思など、俺には関係ありません」

 

「は、はい。も、もちろんです。わ、わたしは真夫様の奴婢です。ど、どうか……」

 

 玲子さんは嬉しそうに頷いた。

 

「さあ、オナニーですよ。やったことはありますか?」

 

 真夫は玲子さんの言葉を遮った。

 恥ずかしい質問をするのも、羞恥責めのひとつだ。

 玲子さんはますます顔を赤くする。それは車内灯の明るさ程度でもよくわかる。

 

「……あ、あります……」

 

 聞こえるか、聞こえないかくらいの小さな声だった。

 玲子さんは指を股間と乳房に持っていく。

 指で乳首を挟むようにして乳房を揉み、一方で股間の指はクリトリスを触り始めた。

 

「はあ、ああ……、ああ……」

 

 玲子さんの静かな悶え声が聞こえ始める。

 無論、真夫は玲子さんの自慰を注視しながらも、誰かが車のそばにやってくる気配がないかを確認している。まあ、いまのところ、なんの問題もないようだ。

 

「最初のオナニーは何歳ですか?」

 

「……は、ああ……、じゅ、十二……で、です……」

 

 美しい顔を陶酔したように呆けさせながら玲子さんは言った。

 

「早いですね。場所は?」

 

 真夫は、玲子さんが恥ずかしくて答えられないような質問を次々に浴びせて、玲子さんを辱めた。玲子さんは、それによって、ますます淫情に酔ったような表情になる。

 やがて、感極まってきたのか、身体をがくがくと震わせだした。

 

「あ、ああっ、ま、真夫様……、ああっ」

 

 玲子さんが真夫の名を呼びながら、身体を仰け反るようにした。

 真夫はすかさず、玲子さんの手を掴んで身体から離してしまう。

 

「あっ、ど、どうして?」

 

 玲子さんがびっくりしたように、真夫の顔を見た。

 

「どうしてじゃないですよ。オナニーはしろと言いましたが、いっていいとは言わなかったですよ。今夜は調教だと言ったでしょう。簡単に気持ちよくなんかなれませんから……。じゃあ、食事にでも行きましょう。これを着てください」

 

 真夫はさっき選んだスカートとスーツの下に身につけていた白いブラウスだけを玲子さんに差し出した。

 玲子さんは絶頂寸前で快感を取りあげられたことに呆然とした様子になりながら、真夫から衣服を受け取った。

 そして、すぐにはっとした顔になる。

 

「あ、あの……」

 

 おずおずと顔を真夫に向ける。

 渡したのはミニスカート一枚とブラウス一枚だ。

 下着もなにもない。

 だから、戸惑ったのだろう。

 

「それだけですよ。嫌なら裸で外に出しますよ。なにしろ、これがあれば、逆らえませんしね」

 

 真夫はクリリングの操作具をちらつかせた。

 もちろん本気ではないし、玲子さんもそれはわかっている。

 だけど、マゾの玲子さんは、それだけでうっとりとした目つきに変わった。

 

「わ、わかりました……」

 

 玲子さんは素肌に衣服を身につける。

 寸止めオナニーをしたばかりの玲子さんの汗がブラウスの白地に貼りつくようになった。乳首だってまだ勃起しているので、服の上に突起がしっかりと出ている。

 玲子さんは、それを懸命に皺で誤魔化すように直した。

 

 真夫は玲子さんの手を取り、スカートの真横に持っていかせた。

 スカートの横部分の裾には、さっきトランクから取り出したとき、真夫が小さな金具を装着していた。

 玲子さんの手首にある腕輪が、電磁石の仕掛けによって、ぴたりとスカートの横のその金属に密着する。

 

「あっ」

 

 それに気がついた玲子さんが声をあげた。

 しかし、構わず真夫は反対の手首も同じようにスカートの裾と接合させる。

 

「その腕リングはこんなこともできるんですよ。これで、玲子さんは手を動かせば、スカートがめくれてしまいますね。ノーパンの股やお尻を見られたくなかったら、手を動かしちゃいけませんよ」

 

 真夫はにんまりと笑った。

 玲子さんは「そんな」と小さな声で呟く。

 

「もう少し、サービスしますか。これは調教ですしね」

 

 真夫は玲子さんのブラウスのボタンを上からふたつ外して左右に拡げた。

 乳房の半分くらいが露出して、ミニスカートと相まって、びっくりするくらいにセクシーになる。

 

「わっ、こ、これは……。ま、真夫様、これは勘弁してください。こんなにされたら、外は歩けません」

 

「もちろん、歩けますよ。服は着てるじゃないですか」

 

 真夫は、動顛した声をあげた玲子さんをさらに追い詰めるためのことをした。

 こっそりと準備していあった掻痒剤のチューブを出すと、玲子さんの乳首とクリトリスにしっかりと塗り込めたのだ。

 玲子さんは身悶えしながらも、泣きそうな顔になった。

 

「さあ、外に出ましょう」

 

 真夫は無理矢理に玲子さんを車の外に出した。

 

 


 

 

 正人(まさと)は、秀也と龍蔵の指示により、ナスターシャを一台の寝椅子に拘束した。

 寝椅子というよりは、産婦人科の診察室にある診察台のようなかたちのものだ。

 ナスターシャはわずかに嫌がる素振りを示したものの、時子がクリリングの電撃を一度見舞うと、それだけですっかりと抵抗の意思を失ったようになった。

 

 正人も、この小生意気な白人女にはずっと接しているが、派手に悪態をついていたのは最初だけだ。いまではすっかりと諦めたように、龍蔵たちのサディスティックな責めに従順になっている。

 お陰でこのところは手間もかからない。

 いまも簡単に、椅子の数箇所にある枷で、全裸のナスターシャを両足を開脚した状態で固定することができた。手足の関節の前後だけでなく、首にもウエストにも金具があるので、もうナスターシャはほとんど身動きすることができない。

 

「どれ、次は一リットルの浣腸といくか」

 

 龍蔵が言った。

 すると、時子が心得たようにイルリガートルの浣腸を準備する。

 椅子のお尻の下の座席の部分は左右に割れていて、真ん中はなにもない。

 だから、このまま尻も股も責められる。

 

「う、うう……」

 

 日本人同様に日本語ができるので、なにを言われているのかわかっているはずだが、ナスターシャはもう抗う気力もないのか、なにも言わずに唇を噛みしめたままだ。

 

 正人は時子から浣腸管を手渡されて、ゼリーを塗ってからナスターシャの肛門に管を挿し込む。

 ただの栓じゃない。肛門栓にもなっていて、挿し込むと内側で傘のように開くので抜けなくなるものだ。浣腸責めをするときの龍蔵のお気に入りの責め具のひとつである。

 

 時子が浣腸液の入っている容器の栓を開いた。

 すぐにナスターシャの腸に薬液が注がれ始める。

 ナスターシャが歯を食い縛ったのがわかった。

 

 正人の仕事は秀也に仕えることだ。

 雇っているのは龍蔵らしいが、正人は秀也が主人だと思っている。

 ただ、このところ、やけに秀也が龍蔵のところにいることが多いので、自然と正人も龍蔵のところにいる時間が長くなる。

 嗜虐好きの龍蔵と秀也なので、ふたりで女を責めるときの手伝いをするのも仕事のうちだ。

 このところは、ふたり揃ってナスターシャを責めるのがお気に入りだ。

 この気の強い白人女を泣かせるのことに、ふたりとも夢中のなのだ。

 

「あ、ああっ、も、もう……」

 

 一リットルの浣腸液を注がれて、ナスターシャがフランス語混じりの日本語で哀願を始めた。

 

「だいぶ、牙も抜けてきたようだのう。でも、まだまだ、気の強さが抜けておらんわ。まあ、その調子でいつまでも屈服せずに、龍蔵殿たちを愉しませてやっておくれ」

 

 時子が鳥の羽根のようなものを持ち出して、両手を上にあげているために無防備に露わになっているナスターシャの脇の下をくすぐり始める。

 

 龍蔵の愛人の変態婆さんだ。

 ただ、正人が秀也に仕えるようになった二年前には、すでに秀也と男女の関係になっていた。

 いい歳しながら、自分の孫のような秀也と浮気をしている性悪女だ。

 まあ、それも、場合によっては、龍蔵を出し抜いてでも総帥の地位を奪うための秀也の取り込めなのだろうが……。

 

「ほら、苦しいか、ナスターシャ。口惜しければ逃げてみよ。逃げねばもっとくすぐるぞ。ほら」

 

 相好を崩した龍蔵も、鳥の羽根を持ってナスターシャの内腿をくすぐりだす。どう見ても、ただのひひ爺だ。大財閥の総帥の貫禄も威厳もなにもないと、正人は思った。

 すると秀也も筆を持ち出して、ナスターシャの裸身を撫ぜ始める。

 女に興味のない正人としては、拘束された身体を右に左にと捩るナスターシャの姿を前にしても、なにも感じないが、おそらく、とても色っぽい光景なのだろう。

 三人は、しばらくのあいだ、かさにかかったようにいつまでもナスターシャをくすぐり続けた。

 ナスターシャは、便意の苦痛に顔を歪めながら笑い泣きをして、暴れ続ける。

 正人には、嗜虐趣味もないので、これについても顔をしかめたくなる光景だ。

 

 やっとくすぐり責めが終わってナスターシャが排便を許されたのは、ナスターシャの身体の下に大きな汗の水溜まりができてからだ。

 ナスターシャはすでに疲労困憊で息も荒い。

 

 龍蔵の指示で正人はナスターシャの尻の下に大きな容器を置いた。

 栓を抜く。

 ナスターシャの悲痛な泣き声とともに、尻から噴流が飛び出し、続いて固形物がぼとりぼとりと落ちていく。

 臭気もあるが、床と壁にある脱臭装置によって、すぐに匂いは消えていった。

 

 三人からからかわれながら排便を終ったナスターシャは、時子の後始末を受けて、さすがに身体の力が抜けたようにぐったりとなっていた。

 すると、がらがらと秀也が奇妙なかたちに器具を運び込んできた。

 

 以前に、同じものを玲子に使ったのを見たことがあるので、正人はあれがなんの機械か知っている。

 しかし、ナスターシャは初めてのはずだ。

 ナスターシャが不安そうな顔をした。

 

「な、なに、それは……?」

 

 耐えられなくなったのか、ナスターシャが自分の尻の下に機械を置く秀也に訊ねた。

 

「まあ、それはお愉しみだ。俺たちはこれから、大事な話し合いがあるんで忙しい。だから、今夜の調教はこれで終わりにしてやろう。その代わり、これを朝まで取り付けてやろうということだ」

 

 ナスターシャの尻の下にある機械にはシリコン製のバイブがある。それに潤滑油を塗ると、秀也が機械の操作盤に触れた。

 機械音がして、ゆっくりと張形が上昇してきた。

 秀也が機械の位置を移動させて、ナスターシャのアヌスが張形の先端が当たるようにする。

 

「あっ、や、やめてっ、こ、怖い──」

 

 ナスターシャが叫んだ。

 しかし、張形はゆっくりと上昇して、しっかりとナスターシャの肛門に挿入されていく。

 龍蔵と時子が横から手を出して、機械についたベルトでナスターシャの腰と太腿に固定した。これでナスターシャが暴れたところで、張形はナスターシャのアヌスから抜けることはない。

 

 つまりは、あれはアヌス調教機械なのだ。

 コンピューター制御で、一晩中でも女の尻を責め続けるロボット張形であり、今夜はナスターシャにあれをつけっぱなして放置することになっている。

 一応は正人が監視役を命じられているものの、基本的には機械がナスターシャの身体を感知しながら、肛門から快感をむさぼらせるように責め続ける。

 まあ、あれをひと晩やられれば、どんな女でも抵抗の意思を失うだろう。

 あの玲子でさえもそうだった。

 

「ああ、とめて、とめてえっ、破ける──。お、お腹が破けるううっ」

 

 じーという規則的な振動音をしながら、張形が上昇し続けているのがわかる。

 ただ、まだ十五センチほどしか喰い込んでいないはずだ。機械のゲージがそうなっている。

 しかし、ナスターシャはすでに恐怖に打ちのめされている様子だ。

 

「じゃあ、朝まで愉しむがいい。では頼むぞ、正人」

 

 龍蔵が言って、部屋を出ていく。

 秀也と時子がそれに続いた。

 機械から尻を責められるナスターシャとふたりきりになった。

 

 三人の大事な話というのが、なんのことなのかは知らない。

 おそらく、後継者の話なのではないかと思う。

 夕方、あの真夫が玲子とともにやってきて、後継者になることを龍蔵に拒絶したというのは秀也から聞いていた。

 

「ああ、お、お願い。お願いよ。止めて、止めて、ああっ、お願い──」

 

 ふたりきりになると、ナスターシャは正人に哀願をし始めた。

 

 正人はちらりとナスターシャに視線をやると、とりあえず食事をするために、準備のしてあった夕食をナスターシャを見守る位置にある机の上に置く。

 そして、食事を始めた。

 

 そのあいだ、いつまでもナスターシャの悲鳴は部屋に響き続いていた。

 正人は淡々と食事を続ける。

 

 しかし、しばらくしてから、いつの間にかナスターシャの声がまったく聞こえなくなっていることに気がついた。

 正人は怪訝に思って視線をナスターシャに向けた。

 

 ナスターシャの姿は変化はなく、尻に挿入されている機械も相変わらずナスターシャを責め続けている気配だ。

 ナスターシャが快感に襲われている証拠に、ナスターシャの身体は全身を赤くして、淫らに悶え続けている。

 だが、声がしない。

 

 気絶しているのか……?

 

 正人はナスターシャに近づいて顔を覗き込みに行く。

 すると、ナスターシャの眼が開いた。

 

 違和感があった。

 

 なにかが違う……。

 

 それがなにかすぐにはわからなかったが、すぐに正人はそれに気がついた。

 ナスターシャであるはずの目の前の女が、まるで違う人間のように感じたのだ。

 

 顔は同じだ。

 身体もそうだ。

 しかし、違う。

 説明は不可能だが、なにかが違うという感じがした。

 

「……起きろ、正人……。覚醒せよ……。“赤ずきんは白い谷の上で狼とコニャックを愉しむ。つまみはクラッカーとチーズ”……」

 

 日本語に続いて、ロシア語が、ナスターシャ……いや、ナスターシャの中にいるほかの何者かの口から発せられた。

 いや、実際にはほとんど唇が動いただけだ、声には出していない。

 しかし、正人にはなぜか、しっかりと耳に届いた。

 

 その瞬間、正人の中のなにかが覚醒した。



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 第61話  食事しながら

「ちゃんと前を見て歩かないと、みんな変な目で見ますよ……」

 

 真夫は夜道を歩きながら言った。

 人通りの多い繁華街の歩道である。

 行合う人も多い。

 ミニスカートで胸元を半分くらい露わにしている玲子さんを視線を向ける通行人もかなりいる。それだけ、玲子さんは美人なのだ。

 そんな玲子さんをこうやって好きなように弄ぶことができると思うと、真夫もちょっと優越感を感じる。

 

「は、はい……」

 

 玲子さんは慌てたように顔をあげた。

 すっかりと顔は上気して、汗で髪の毛が額に張りついている。

 やっぱり、掻痒剤の責めはつらいみたいだ。

 とても苦しそうだし、そして、恥ずかしそうだ。

 しかし、その表情がとても色っぽい。

 だからこそ、いくら責めても飽きない。

 真夫もこっそりとズボンの中で一物を隆起させてしまっている。

 

 しばらくのあいだ、真夫は玲子さんを連れまわして、適当に街の中を歩き回った。

 玲子さんは、それだけでかなり追い詰められたようになってしまった。

 

「お腹ががすきましたね。玲子さん、食事をしましょう」

 

 やがて、真夫は言った。

 

「えっ? あ、あれっ、ここは……」

 

 玲子さんがはっとした表情になった。

 どうやら、ぼうっとしていたようだが、真夫が声をかけたのは、最初に玲子さんと出逢った豊藤系列のホテルの正面だ。

 真夫と玲子さんは、大きな交差点の信号待ちで立っていて、大通りの向かい側にホテルがある。

 玲子さんは声をかけられるまで、気がつかなかったようだ。

 

 しかし、真夫は最初から、ここで食事をしようと決めていた。

 ここなら、かなりの融通が利くし、多少のことをしても通報のようなことをされることもない。なによりも、個室のような目立たない場所も準備してくれるだろう。

 それに、最上階の特別室は、いまだに真夫がルームキーカードを持ったままだ。

 いつでも自由に寝泊りできるように、真夫専用の部屋になっているのだ。

 玲子さんとエッチをするための道具も揃っている。

 

「でも、さすがに、この恰好じゃあだめか……」

 

 真夫は玲子さんの上衣のブラウスに手をかけて、くつろげて乳房を半分露出していたのを襟を直して、ボタンを嵌めてあげた。

 もっとも、両手首はスカートの横裾にある金具に密着して、両手を動かせばノーパンのスカートの中が露わになる仕掛けであるのは変わりないし、ブラジャーをしていないので、よく見れば勃起した乳首が汗で薄っすらとブラウスの上から透けて見える。

 

「お、恐れ入ります……」

 

 それでも玲子さんはほっとした顔になった。

 

「その代わり、クリリングを入れますね。どうせ、そろそろ痒みも我慢できないですよね」

 

 真夫は言った。聞こえるかどうかのぎりぎりの声だ。少なくとも周りの人間にはふたりの話声など聞こえるはずはない。

 玲子さんはかなりの動揺を示した。

 

「……でも、いやならいいですよ。そのままにしてあげます。だけど、痒いでしょう? クリリングを動かした方がいいんじゃないですか?」

 

 意地悪く言った。

 すでに掻痒剤を塗ってかなりの時間が経過している。

 もう、放置されるのも限界のはずだ。

 玲子さんは、少し迷っていたようだが、やがて決心したように口を開いた。

 

「お、お願いします」

 

 玲子さんは言った。

 もちろん、玲子さんにとっても大きな賭けだろう。

 しかし、痒みをそのままになどできないと思う。

 

「その代わり、ここで俺とキスをしてもらいます」

 

 真夫は言った。

 

「えっ、ここで?」

 

 玲子さんは当惑している。

 いま真夫と玲子さんが立っているのは、大きな交差点だ。

 駅にも近く、周りにはかなりの人がいる。

 

「そうです。これも調教です。玲子さんが俺の物だということを身体に染み込ませるためです」

 

「わ、わかりました……」

 

 すると玲子さんは決心したように小さく頷いた。

 真夫は玲子さんを抱き締めた。

 玲子さんの唇を奪う。

 

 ちょっと、周りでざわめきがあった気がした。

 だが、それほど珍しくない風景だろう。騒ぎててる者はさすがにいない。ちょっとしたバカカップルと思われるだけと思う。

 一方で真夫はクリリングのスイッチを入れる。

 強度は第一段階。

 焦らすのが目的で、いくかいかないかと微妙な振動が続く。そんなモードらしい。

 

「んっ、んんっ」

 

 真夫の腕の中で、玲子さんの力がだんだんと抜けていくのがわかる。

 玲子さんは腕を動かせないので、両手は身体の横に垂らしたままだ。

 信号が青になり、周りから人がいなくなるのがわかった。真夫はそのまま玲子さんの口の中を蹂躙した。玲子さんもしっかりと舌を絡め返してくる。

 やがて、信号も赤になり、束の間、人がいなくなった。

 真夫はやっと、玲子さんから口を離す。

 ただし、まだ玲子さんを抱いたままだ。

 玲子さんが完全に力が抜けたようになり、手を離すとそのまましゃがみ込みそうな感じだったのだ。

 

「……ふふふ……、か、軽くいってしまいました……」

 

 玲子さんがすとんと真夫の胸に頭を付けて言った。

 真夫はにんまりとしてしまった。

 

 次の信号を待って道路を渡る。

 ホテルに入った。

 玲子さんの股間では静かな振動がクリリングによって続いたままだ。

 

 ロビーに入ると、玲子さんのことを知っているホテルの従業員がすぐにやって来た。

 玲子さんの代わりに、真夫がふたりで食事をする場所を頼んだ。できれば、あまり目立たない店がいいとも言った。

 このホテルには、レストランだけでも数軒入っている。

 すぐに手配がされて、そのうちのひとつに案内を受けた。

 そのホテルマンは、さすがに顔色ひとつ変えなかったが、その視線がちらちらと玲子さんの胸と太腿に向かうのを真夫は気がついていた。

 

 案内されたのは、照明の薄暗い静かな音楽が流れる店だった。

 食事というよりは、お酒でも飲むような店の感じだ。

 そのとおり、すでに店にいた数グループのお客さんは、全員がお酒を飲んでいた。

 真夫と玲子さんは、そのもっとも奥の通路面以外が壁に囲まれている席に案内された。玲子さんを座らせると、真夫は向かい合わせではなく、玲子さんと隣り合うように座る。

 

 やって来た女の店員にメニューを渡されて開く。

 驚いた。

 料理名らしきものが並んでいるが、まったくどんな料理なのか見当もつかなかったのだ。

 ついでに、値段もない。

 これはメニューなのだろうか。

 玲子さんには、利用額が無制限だというクレジットカードも渡されているので、いくらでも問題はないと思うが……。

 

 真夫は適当にメニューに指をさして注文した。

 さらに飲み物を訊ねられたので、玲子さんにはグラスビール、真夫にはコーラを頼んだ。それ以外のものは、なにが出てくるのかちっともわからなかったのだ。

 いつもなら、玲子さんにすべて任せるのだが、クリリングの刺激を受けっぱなしの玲子さんには、注文は無理そうだ。

 

「やっぱり、よくわかりませんね。でも、この店、さっきのメニューに値段がありませんでしたよ」

 

 店員が立ち去ってから、真夫は玲子さんに笑いかけた。

 さっきのメニューにあった料理名もよくわからない。

 魚料理なのか、肉料理なのかわかるくらいだ。選んだのは肉料理だと思う。子羊という単語が辛うじて読み取れた。

 それにしても、値段のないメニューなんて初めてだ。

 

「……そういう店なんです……。値段を気にするような……も、者は……ここは選びません……。企業の接待にも……つ、使いますので……逆に、値段がわかると……都合の悪い場合もあります……。ホテルの中でも……もっとも格式の高い場所です……」

 

 玲子さんがやっと顔をあげてにっこりと微笑んだ。

 その表情はとても色っぽかった。

 真夫はどきりとした。

 

「一流のお店ということなんですね。でも、相手が俺なのに、わざわざ、こんな高級そうな場所にしなくても……」

 

 ホテルの人は、真夫を見て店を選んだはずだ。

 それとも、玲子さんだから、ここを選んだのだろうか?

 

「ま、真夫様だからですよ……。真夫様の名で最上階の……へ、部屋をずっと確保させてます……。何者なのか不思議がっていると思いますが……真夫様がただの高校生でないことは……わかっていると思います……。い、言っておきますが……わたしだけなら……ここには入れません……。このホテルは……、この店は……客を選びます……」

 

 玲子さんは言った。

 

「へえ……」

 

 真夫は驚いてしまった。

 

「……そういえば……、以前にこのホテルに滞在したときには……、あまりレストランの食事はふたりともしなかったですよね。あとで清算しようとして、ちょっと驚いたことがあります……。もっと贅沢してもよかったのに……」

 

 玲子さんが嘆息しながら言った。

 いまでも、玲子さんの股間はクリリングの振動が流れっ放しだ。痒みが癒されている代わりに、かなり追い詰められていると思う。

 

「俺もあさひ姉ちゃんも、こんなところ慣れないんです。なにを食べてもいいと言われても、なんか、よくわからなくて、途中からホテルの外のファーストフードばかり行ってました」

 

「そうみたいですね」

 

 玲子さんがくすくすと笑った。

 真夫は玲子さんの身体に手を回して、ブラウスの上から乳首を擦ってあげる。股間はクリリングで刺激して癒してあげているが、ここは掻痒剤を塗ってからずっと放置だ。

 

「んふうっ」

 

 玲子さんが気持ちよさそうに声をあげ、慌てたように口をつぐんだ。

 しかし、すぐに店員がやって来るのがわかったので、真夫は手を離す。

 ふたりの前に女の店員が料理を置いた。飲み物も置かれる。よくわからないが、竹の皿に入った小さな料理が五つほどあるだけだ。

 もしかして、これで終わり?

 食べ終わるのに、二分もかからないだろう。

 真夫は戸惑った。

 適当に頼んでしまったが、失敗だったのだろうか。

 

「……これは前菜です。真夫様が選んだのはコース料理ですから、順番に出てきますよ……」

 

 玲子さんが耳打ちした。

 真夫はほっとした。

 

「へへ、豊藤の総帥候補になるんなら、こういう場所での注文のことも覚えなければなりませんね。飲み物の名前もわかりませんでしたよ」

 

「わ、わたしが……お、お教えします……。恵さんにも……」

 

「お願いします。かおりちゃんは、そういうことも知っていそうですけどね」

 

 かおりちゃんは、あれでもいいところのお嬢さんだ。

 こういう店も慣れているだろう。

 

「……そ、それにしても、総裁候補……を目指す……決心をしたのですね……。う、嬉しいです……。あ、ありがとうございます」

 

 玲子さんが頭をさげた。

 

「玲子さんを失わないためですから」

 

 真夫はまずはビールをとると、玲子さんの口に持っていった。

 玲子さんの両手はいまでもスカートにくっついたままなのだ。

 手は動かせない。

 玲子さんは戸惑った顔をしたが、大人しく飲み物を飲む。

 次に真夫は、玲子さんの前にある料理を箸で取ると、玲子さんの口に持っていった。

 

「あっ、あ、あのう……。自分で食べさせてください……」

 

 玲子さんが顔を真っ赤にした。

 いままでも赤かったけど、本当にゆでだこのように赤くなる。

 

「駄目です。今日はこうやって、全部、俺の手から食べるんです。調教ですからね」

 

 玲子さんは目を丸くして、驚いた表情になる。

 だが、素直に口を開いて、真夫の差しだしたものを口に入れる。とても照れくさそうな感じだ。

 真夫は、そのあいだに自分のものを口に入れた。

 なかなか、美味しい……。

 料理名は知らないが、美味しいものだというのはわかる。

 

「……ところで、SS研というのは、なんのクラブなんですか?」

 

 しばらく、料理を味わってから、真夫は訊ねてみた。

 龍蔵に言われたのは、玲子を失いたくなければ、学園でSS研の部長になり、女生徒たちを全部で十人愛人、すなわち、奴婢にしろという命令だ。

 奴婢十人はともかく、SS研とはなんだろう?

 

「……SS研とは……しゅ、秀也さんの……愛人クラブのようなものです……」

 

 玲子さんが語りだした。

 

 それによれば、SS研は一応は、“social sciences 研究クラブ”、つまり社会科学研究クラブという名目になっているが、活動実態はなく、ただ秀也が愛人にしている女生徒を放課後に呼んで遊ぶ目的の場所だということである。

 先日、秀也と対面したときの場所だ。

 龍蔵という真夫の父親でもあるらしい総帥は、非常に奇妙な帝王学の価値観を持っていて、人を支配する能力やコツを複数の女を支配させることで養わせるのだそうだ。

 秀也も、龍蔵の指示でSS研を作って、女生徒を愛人にしていたということだった。

 玲子さんが秀也に与えられたときには、秀也はすでにSS研を所有していて、そこで好き放題やっていたようだ。

 

「……なるほど……。だったら、俺にSS研の部長になって、女を大勢作れと命じたということは、龍蔵さんは俺のことをまだ総帥にすることは諦めていないということですね」

 

 安心した。

 総帥にはならずに、秀也の下で働くと宣言したものの、それによって玲子さんを失うことになるなら話は別だ。

 真夫は秀也を出し抜いてでも、総帥になるつもりだ。

 

「そ、そうだと思います……。と、ところで、あ、あの……む、胸を触ってもらって……いいですか……」

 

 玲子さんが遠慮がちに言った。

 痒いのだろう。

 いつにない甘えぶりだが、ここが閉鎖された場所であることが玲子さんを大胆にしているのだと思う。

 真夫は手を伸ばして、荒々しく乳首を擦ってあげた。

 がたんと音がして、玲子さんが身体を大きく震わせた。大きな音は玲子さんがテーブルを蹴ってしまったのだ。

 慌てて、玲子さんが身体を大人しくする。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 玲子さんが言った。

 真夫は手を離した。

 再び、玲子さんに食べ物と飲み物を運ぶ動きに戻る。

 

「秀也という人はどういう人ですか……? つまりは、龍蔵さんとの関係とか……。どこの生まれとか……」

 

「わ、わかりません……。知っているのは、龍蔵様の甥……である……ということだけです……。で、でも……、わたしは……龍蔵様に兄弟がいることも……知りません。少なくとも、豊藤グループの……主要メンバーでは……ないと思います。そうであれば、わたしは……全員を知っていますから……」

 

 玲子さんが荒い息をしながら言った。

 真夫はちょっと意外だった。

 玲子さんは、一年にわたり、豊藤龍蔵という総帥の秘書のようなことをした。

 当然に、豊藤家のことも、ある程度知ってしまったと思う。

 それなのに、その玲子さんにもわからないというのは不思議だ。

 グループとして、意図的に隠していると思っていいと思う。まあ、暗殺対策と思うが……。

 いずれにしても、秀也とは何者なのだろう?

 これから、総帥の座を争うことになるなら、秀也のことを知っておきたい。

 真夫はそう言った。

 

「……しゅ、秀也さんのことを知りたいのであれば……や、やっぱり、SS研でしょう……。SS研の部長となれば……、その部員……が……真夫様の最初のターゲットということになります……。彼女たちなら、わたしが知らない秀也さんのことも知っているかもしれません……」

 

 確かに、SS研が秀也の愛人クラブだったということなら、その女を奴婢にすれば、少なくとも秀也の性格や性癖などはわかるのだろう。

 まあ、その辺りからか……。

 真夫は思った。

 

「秀也の愛人の女生徒とは?」

 

「ひとりは西園寺絹香さん……。S級生徒であり、真夫様も知っていますよね。生徒会長です」

 

 もちろん知っている。

 今日もしつこく、SS研に入れと誘われた。

 だが、SS研が秀也の愛人クラブなら、どうしてあんなに熱心に真夫を誘うのだろう。

 わからない……。

 

「……もうひとりは、前田明日香……。絹香さんの友人です。A級生徒。女子サッカー部のエースです……」

 

 真夫はその名を頭に留めた。

 

「あ、あの……。その気になってくれて……う、嬉しいです。わ、わたしもできるかぎり、秀也さんのことを調べます……。もしかしたら、真夫様の役に立つこともあるかもしれませんし……」

 

 玲子さんは言った。

 真夫は頷く。

 玲子さん調査能力は真夫は完全に信頼している。

 なにしろ、あさひ姉ちゃんのお父さんのこともあっという間に片付けてくれたし、なによりも、世間に埋もれていたはずの真夫のことを見つけ出してきた女性なのだ。

 

「でも、秀也さんのことを調べるなら……、正人(まさと)のことも調べた方がいいかも……」

 

「正人?」

 

 真夫は首を傾げかけたが、すぐに思い出した。

 秀也と会ったとき、最初にその場にいたイケメン男だ。

 正人のことを秀也は完全に信頼していない感じだったが、秀也の付き人だと言っていたと思う。

 

「……正人も謎の男です……。わたしは……経歴を知りません。一度……調べたこともあります……。でも、ちょっとわかりませんでした……」

 

 玲子さんでもわからないということは、彼もまた、なにかの秘密を持っているのかもしれない。玲子さんでも調べられないというのは、相当に秘密が厳重だということだろう。普通の人間がそこまでしっかりと身辺を隠す必要はない。

 

「……また、調べてみます……。いままでは、そんなに念を入れて調べたわけでも……、あ、ありませんし……。そ、それと……ま、また、胸をお願いしていいですか……」

 

 玲子さんは完全に甘えモードになったみたいだ。

 真夫は微笑みながら、玲子さんの胸に手を持っていく。

 玲子さんが気持ちよさそうに、身体を震わせる。

 今度はしっかりと口をつぐんでいる。

 

「ところで、玲子さん、調べるのであれば、さっきの外人の女性もお願いします。龍蔵さんのところにいたあの女の人です」

 

 真夫はしばらく乳首を刺激してあげてから、手を離して言った。

 

「ナスターシャを?」

 

 玲子さんは真夫の指示が意外そうだった。

 

「……ちょっとだけですが、彼女の感情がまったく読めませんでした。操心術を遣い慣れていないから、ただ失敗しただけなのかもしれませんが、操心術が遣えるようになってから、感情に触れられなかった相手はふたりだけなんです。ひとりは秀也……。そして、もうひとりが彼女です。ナスターシャというんですか、彼女は……」

 

 真夫は言った。

 そして、ナスターシャという名も、しっかりと記憶に留めることにした。



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 第62話  潜入者たちⅠ─封印された記憶

「“赤ずきんは白い谷の上で狼とコニャックを愉しむ。つまみはクラッカーとチーズ”……」

 

 その瞬間、正人の中の何かが弾けた。

 封印されていたものが表に顔を出したのだ。

 それとともに、正人の心身に不快で忌まわしい苦痛が襲いかかった。

 正人の洗脳は、普段はかつてあの国で拉致されて拷問を受けたときの記憶とともに眠っているが、記憶の深層に刻まれた合言葉によって表に出て、目の前のナスターシャ、いや、そのナスターシャの中にあるもうひとつの人格である「スカーレット」の操り状態になるのだ。

 

「う、うう……」

 

 正人は吐気に耐えながら目の前の女に視線を向けた。

 この苦痛は、正人の隠されている部分が覚醒したときに必ず沸き起こる。時間とともに消えていくが、何度味わっても慣れるというものではない。

 

「んんっ、んんんっ」

 

 目の前の女が尻を機械に犯されて女の悶え声をあげた。

 しかし、たったいままで存在していた恐怖と絶望の色は、その強い視線にはない。

 この女がスカーレットであることは間違いないようだ。

 ナスターシャとスカーレットは、同じ身体を共有するふたつの人格、すなわち多重人格者であり、スカーレットが主人格であり、ナスターシャが副人格らしい。つまりは、ナスターシャが表に出ているときの記憶はスカーレットにはあるが、スカーレットの記憶はナスターシャにはない。

 人を操る能力を持っている龍蔵に対する処置であり、普段は操られてもいい側の人格を表に出し、その裏に諜報員としての人格を隠しておくのだ。

 

 正人の受けている処置も似たようなものであり、洗脳を受けた部分の意識は外には出ずに、記憶とともに切り離されている。

 これにより、豊藤家の持つ不思議な操りの影響を受けないようにしているというわけだ。

 スカーレットと正人は、ある国際的な諜報組織に送り込まれている組織の一員というわけだ。

 

(ま、待て)

 

 正人がなにかを語りかけようとしたとき、スカーレットの首と唇が微かに動いた。

 スカーレットの視線の先には、天井の監視カメラがある。

 正人にはわからないが、いま龍蔵たちによるモニターが始まったのだろうか。

 そういうことのわかるプロの諜報員なのだ。

 正人は素知らぬ顔をして、スカーレットから離れた。

 

 


 

 

 正人の頭に忌々しい過去の記憶が蘇る……。

 

 五年前のことだ。

 まだ学生だった正人は、夏休みを利用して、ある国をひとり旅行していた。かつては共産主義国家だったが、すでに崩壊して資本主義国となっている大国だ。旅行先をその国に選んだのは、大学でとっていた第二外国語がその国の言葉だったからだ。

 

 東側の街から入り、大陸鉄道を使いながら五日目くらいには首都のホテルに一泊した。

 夜中に、物音に目を覚ますと、見知らぬ男たちから寝台を囲まれていた。

 驚いて身体を起こそうとすると、身体を押さえつけられて、腕に注射をされた。

 そして、気を失った。

 

 意識を取り戻したときには、正人は取調室のような場所にいた。

 目の前にいたのは屈強そうな男の警官らしき男たちだ。四、五人いたと思うが、いずれも正人の倍ほどの肩幅と胸板がある。背もずっと大きい。

 

「お前はスパイ容疑で逮捕された。まずは身体検査をする。一枚残らず服を脱げ」

 

 正人はその言葉が理解できた。

 しかし、冗談じゃないと抗議した。

 

「俺はスパイなんかじゃない」

 

 大きな声をあげた。

 すると、いきなり首を掴まれて、床に放り投げられた。

 棒が首筋に叩きつけられた。

 

「うぐっ」

 

 その場にうずくまりかけた。

 容赦のない一撃だった。

 だが、下から腹を突きあげられた。

 正人は仰向けにひっくり返った。 

 

「な、なにをするんだ……?」

 

「余計なことを喋るな。言われたとおりにすればいい」

 

「な、なにを……」

 

 想像を絶する暴力に正人は呻き声とともに、文句を言った。

 すると、上から棒が降ってきた。

 

 横腹──。

 背中──。

 尻──。

 雨のように棒が振り下ろされる。

 

「んぐうっ、があっ、や、やめてくれっ、んぐうっ──」

 

 髪を掴まれて、強引に立たされた。

 

「服を脱げ──。全部だ」

 

 よろめく足元に段ボール箱が蹴り寄せられた。

 寝ていたところを連れて来られたので、ジャージを着ていた。

 上下のジャージを箱の中に入れる。

 

「ぐずぐずするな──」

 

 さすがに下着を脱ぐことに躊躇していると、またもや棒で殴られた。

 またもやうずくまり、再び髪の毛を掴まれて立たされた。

 

「面倒だ。鎖を首に巻け」

 

 ひとりだけ椅子に座っている指揮官らしき男がそう口にすると、正人の首に金属の首輪が嵌められて、天井からおろされた鎖に繋げられた。これで正人はうずくまることができなくなった。

 左右から腕が伸びてきた。

 シャツとパンツをびりびりに破かれて剥ぎ取られる。

 

「両手は身体の横に置け」

 

 両腕を殴られた。

 骨が折れたかと思うような激痛だった。

 正人は仕方なく手を身体の横に移動させる。

 素っ裸になって、股間を晒して立たされる。

 歯ぎしりするほどの屈辱だった。

 

「解放して欲しいか?」

 

 ずっと椅子に座ったままだった男がすっと立ちあがって、正人の前に来た。

 手を伸ばして、正人の睾丸と性器を揉み始める。

 

「うわっ、なにを──」

 

 さすがに正人はその手を払いのけた。

 だが、左右と背中から棒の打撃が襲う。

 正人の身体は脱力して、一瞬首だけで吊られた状態になる。

 慌てて脚を踏ん張って立つ。

 

「動くなという命令に逆らうからだ。口を開けろ」

 

 もう逆らう気持ち起きない。

 口を開くと、棒が挿し込まれた。

 しばらく口の中を調べられてから、やっと口から棒が出される。

 

 次は、再び前から性器を揉まれだす。

 今度はなにかを手に塗っていた。

 なにかのクリームのようなものを塗られて、性器がかっと熱くなったのを覚えている。

 股間は勃起し、早口の下品な言葉でからかわれた。

 

 正面の指揮官が笑いながら、勃起した正人の性器をしごき始める。

 やがて、呆気なく正人の怒張からは精が放たれた。

 また、げらげらと笑われた。

 正人はいつの間にか、自分が泣きじゃくっているのがわかった。

 さっき性器に塗られたものがなにかわからないが、射精したというのに勃起は鎮まらない。

 高く天井を向いたままだ。

 

「ここにはなにもないようだな。ときどき、チンポの中にチップを隠しているものがいるんでな。やっぱり、アヌスだろう。男でも女でも、スパイはそこに物を隠す」

 

 指揮官の合図で尻の穴に指が入れられた。

 やはり、なにかを塗っているのか、ぬるりとしたゼリーのような油剤の感触が襲い、驚くほどに簡単に奥まで指が入る。

 

「あ、ああっ」

 

 なぜか女のような声が出る。

 それが情けなかった。

 尻穴への指の愛撫は、交代でかなりの時間続いた。

 おそらく、三十分は尻穴を刺激され続けたのではないかと思った。

 そのあいだ、正人は動くことを禁止され続けた。

 やがて、やっと首の鎖を外された。

 だが、そのまま上半身を机にうつ伏せにして押さえつけられた。

 左右の手首にそれぞれに手錠をかけられて、反対側の机の脚にもう一方の輪っかを繋げられる。

 さらに、脚を開かされて、足首も机の脚に固定された。

 

 なにをされるのかわかって、正人はさすがに悲鳴をあげて喚いた。

 だが、背中に棒を叩きつけられて、口を閉じさせられる。

 

 男の怒張が尻穴に入ってきた。

 泣き叫ぶ正人の尻を犯し、その男は二度射精をして出ていく。

 

 呆然とする正人に次の男が尻穴を犯してきた。

 結局、その部屋にいた全部の男に尻を犯された。

 

「スパイの疑いが濃くなった。しばらく監禁する」

 

 最後に告げられたのは、その言葉だった。

 取調室を出された正人は、後手に手錠をされて、素っ裸のまま鉄格子のある牢に入れられた。

 連行したのは、正人を犯した取調官のうちのふたりだ。

 そのふたりは、牢の中で、さらに正人を犯した。

 

 


 

 

 取り調べは、二週間続いた。

 つまりは、取り調べという名の凌辱だ。

 訊問室であろうとも、牢の中であろうとも、正人は下着一枚許されなかった。

 とにかく、スパイであることを認めろと繰り返しながら、性的虐待を彼らは正人に続けるのだ。

 一度でも認めたら終わりだと思ったので、それだけは耐えた。

 

 正人は媚薬を使われ、ときには淫具のようなもので性器と尻穴を凌辱され続けた。

 取り調べは、最初のときの男たちが専門にあたった。

 おそらく、正人の取り調べは、捜査員の中でもホモだけが集められたのだと思う。

 

 食事は粗末だった。

 それよりも耐えられなかったのは、牢にやって来る者たちが、次々に正人の尻を犯すことだ。

 

 


 

 

 二週間後、突然に釈放された。

 容疑が張れたというのだ。

 治療のために、病院で検査をするというので、そのまま連行された。

 病院では検査と称して、おかしな薬物を大量に飲まされ、得体の知れない機械を身体に繋げられたりした。

 病院で四日目、ある女がやってきて、正人を再逮捕すると告げた。

 それが、スカーレットだった。

 

 


 

 

 新たな施設で行われたのが、正人に対する徹底的な調教と洗脳だ。

 その施設でわかったのは、いつの間にか正人は女に欲情しない性質になってしまっていたということだ。

 スカーレットは問題ないと口にした。

 

 正人に与えられた処置は、強制的な一種の精神分裂だった。

 意図的に心を分離させて切り離し、普段は一方の精神から離しておき、必要なときだけ繋げるという処置だ。

 また、繰り返し拷問と施術を受けて、スカーレットに逆らうことのできないロボトミー処置も受けた。

 普段は隠れている心の一部を表向きの心に繋ぐ合言葉もそのときに植えつけられた。

 また、この国での記憶も完全に抹消された。

 記憶が呼び起こされるのは、合言葉によって隠れている部分が表側と繋がったときだけのことだ。

 だから、秀也たちと会っているときの正人には、かつて外国で受けた拷問のことはまったく記憶にはない。

 

 そして、その施設で知ったのだが、正人が服従を受けつけられたスカーレットもまた、正人と同様に誘拐されて、スパイに仕立てあげられた女だということだった。

 彼女もまた、正人と同じように意図的な精神分裂処置を受けていた。

 スカーレットの場合は、もっと完璧で、スカーレットとは完全に別人格の「ナスターシャ」というフランス人の有能な弁護士の人格を作りあげていた。

 その人格を表に出しておき、心の後ろでスカーレットがナスターシャの記憶だけを手に入れるということをするそうだ。

 

 いずれにしても、その国における正人の滞在は一年にも及んだ。

 そして、正人は日本に戻された。

 豊藤家に接触するためだ。

 連中がターゲットにしたのは、龍蔵ではなく秀也だった。

 正人はさらに二年をかけて、秀也の付き人になることに成功した。

 

 いま、隠れている部分が繋がっている状況では、すべては連中の手配と命じられたように動いた結果だということはわかるが、普段の正人には、その記憶はない。

 自然なかたちで、正人は秀也に見出されて、従者として学園に入ることができた。

 それだけだ。

 

 そして、さらにその一年後、あのスカーレットもやってきた。

 ナスターシャの人格を使ってだ。

 

 いまは思い出しているが、こうやってスカーレットの人格と正人が接触するのは三回目のようだ。

 しかし、その都度、正人の記憶は抹消された状態になるので、そのことを覚えていないだけらしい。

 最初に、スカーレットに再会したとき、正人は本当に驚いてしまったのを覚えている。

 

 


 

 

 正人は回想から現実に思念を戻した。

 いまは、スカーレットの人格が出ているナスターシャが目で唇の見える位置に移動するように伝えてきた。

 正人は立ちあがって、拘束椅子に座っている彼女の顔が覗ける位置に移動をした。 

 

(さっきの真夫とは何者だ?)

 

 スカーレットが声を出さずに、唇だけで正人に問いかけてきた。

 

(突然に出現した龍蔵の息子だ)

 

 正人も唇の動きだけで答えた。

 声に出さないのは、万が一にも隠しカメラや隠しマイクを恐れてのことだ。この屋敷に監禁状態にあるナスターシャ(スカーレット)は、真の人格を表にすることがどんなに危険であるかを承知している。だから、いままでほとんど表には出て来なかった。

 従って、正人の封印されていた側の部分も表には出てくることはあまりなかった。

 だが、今回、こんな状況で覚醒したということは、余程に重要なことだと判断したに違いない。

 

(どんな少年だ?)

 

(女に弱い。豊藤の血を引いているのは間違いなく、秀也と龍蔵が接触して、すぐに操心術を覚醒した。だが、豊藤の後継者となることを拒んだ……)

 

(それはわかっている。ナスターシャを通じて、さっきの会合のことは記憶している)

 

 スカーレットが正人の言葉を遮った。

 そのあいだも、尻責めをされているスカーレットの苦悶の声は続いている。

 尻を犯されながら、諜報の指示を出すのだから、大した女だと思う。

 

「んふううっ、うううっ」

 

 スカーレットの身体が弓なりに反った。

 達したようだ。

 しかし、休むことは許されない。疲れることを知らない機械は、正人か秀也が電源を切るまで、繰り返し目の前の尻を犯し続ける。

 すでに肩で息をしているスカーレットが、すぐにぶるぶると震えだした。

 間髪入れずに、機械の尻責めが継続されているようだ。

 

(少し止めようか?)

 

 正人は伝えた。

 この屋敷にいるのは、龍蔵と秀也と時子の三人だけだ。三人のいる部屋からも、この部屋のことは監視できるようになっていると思うが、正人に監視をさせている以上、ナスターシャのことは放っている可能性が高い。

 だが、スカーレットは首を横に振った。

 このままでいいということだ。

 

(息のかかっている女生徒をその真夫につけろ)

 

 機械姦の与える刺激に歯を食い縛ったまま、スカーレットが正人に伝える。

 正人は頷いた。

 

(口に耳を持って来い)

 

 スカーレットの唇が動いた。

 正人が言われたとおりにすると、ささやき声が聞こえてきた。

 

「眠れ。女生徒を真夫につけておくのを忘れるな……。シンデレラと白雪姫はワシリーサの産んだ娘かもしれない。最後はハッピーエンドで終わるが人生は苦悶そのものだ」

 

 正人は自分の人格と記憶の一部が急速に心の深い部分に沈んでいくのがわかった。 

 

 


 

 

「あ、ああっ、や、やめてっ、ああっ──」

 

 ナスターシャの大きな悲鳴が耳元で聞こえた。

 はっとした。

 

 一瞬眠っていた?

 正人は離れて位置にある椅子座っていはずなにに、拘束されているナスターシャが急に目の前にいてびっくりしてしまった。

 不思議に思いながらも、ナスターシャから離れてテーブルに戻った。

 まだ食事の途中だったのだ。

 食べかけがテーブルに置かれたままだ。

 

「や、やめて、やめて、もう許して──」

 

 ナスターシャが日本語で泣き叫んでいる。

 そばにある計測器の数値を見た。

 いまは、ナスターシャの尻を抉っている筒がゆっくりと侵入をしようとしている状況のようだ。

 ナスターシャの尻圧がどんどんと大きくなるのも数値で出ている。

 

「少しでも楽になりたけりゃあ、尻の力を抜いたほうがいいぜ。いつまでも痛いのがいいなら、それでもいいがな」

 

 正人は声をかけた。

 聞こえているのか聞こえていないのか、ナスターシャは官能と苦痛の尻責めにただただ泣き声をあげるだけだ。

 そして、今度はフランス語が悲鳴に混じりだした。

 

「おおっ、おおっ、おおおおっ、ひぎいいいい」

 

 その声が一段と甲高くて大きなものになった。

 ふとセンサーを見ると、尻穴の奥まで達している筒が蠕動と回転運動を開始している。しかも、微弱な電撃を流しながらだ。

 刺激の速度も種類も、ランダムに設定されているので、正人にも制御はできない。

 ただ、刺激をランダムにしているのは、長時間の連続刺激を加えられても、絶対にナスターシャがそれに慣れることができないようになっているのだ。

 なんともサディスッティックな仕掛けだと思う。

 

 ナスターシャの悲痛な声を聞きながら、正人はあるひとつのことを考え続けていた。

 生徒会長の西園寺絹香のことだ。

 まずは、彼女を真夫にくっつけるのだ。それで問題は解決できるはずだ。

 観察したところ、すでに絹香はその気だが、真夫が躊躇するようなら必要な手を打たなければならないと思う。

 なにしろ、絹香を真夫に接触させることは、どんなことにも優先しなければならない重要事項だからだ。

 

 しかし、なぜ、それが重要事項なのかということは考えられない。

 だが、それはやらなければならないことだ。

 まるで脅迫されたことのように、正人は同じことを繰り返し考え続けていた。 



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 第63話  遮断した視線

 個室にウェイターが入って来ると、すかさず股間のクリバイブが静かな振動を開始した。

 ここで食事をしているあいだ、ずっと続いている真夫の悪戯だ。

 玲子は必死に歯を食い縛って漏れ出そうになる声を我慢した。

 

 とにかく、身体は燃えあがるまで燃えあがってしまっている。

 なにしろ、ここは玲子が普段世話をしているホテルなのだが、そこにいつもの玲子では考えられないような、乳首まで透けるような薄着で、しかも、座れば股間が見えそうなくらいに短いスカートでやってきたのだ。

 さらに、両手はそのスカートの裾に密着されて、少しでも動かせばノーパンの股間がさらけ出るように仕掛けをされている。

 

 密室とはいえ、やって来る従業員はそれとなく、こっちを観察して食事の様子を観察しているはずである。

 それなのに、真夫は素知らぬ顔で掻痒剤に苦しむ玲子を愛撫しつつ、クリバイブで刺激を受けたままで、玲子に真夫の手で食事をすることを求めるのだ。

 もっとも、玲子もこの状況に酔ったようになってしまい、真夫に甘えるような気分になってしまっている。

 

 いずれにしても、従業員たちに奇異の目で見られることは、もうすっかりと諦めてしまったものの、とにかく、責められ続けながら食事をするのは堪らなかった。しかも、そんな姿も見られていると思う。さもないと、ウェイターはタイミングよく、コース料理を運んでこれない。

 

 とても味などしないが、これも「罰」だと言われれば、従うしかない。

 いまや、玲子にとっては、真夫のことが最優先であり、それに比べれば、明日からの自分の評判など守るに値しないものだからだ。

 

「失礼します。食後のコーヒーです」

 

 ウェイターがまずは真夫の前にコーヒーを置いて、次いで玲子の前にカップを置く。

 そのときだった。

 横に並んで座っている真夫の手が後ろからスカートの下に入り、お尻の下に潜り込むとアヌスにすっと指を入れたのだ。

 なにかを塗っていたのか、つるりとお尻の穴に真夫の指が入り込んでしまった。

 

「んっ、あっ」

 

 思わず声が出そうになり、必死で口をつぐむと、愕然として真夫を見た。

 

(……じっとして)

 

 真夫の口がそう動いた。

 だが、そんなの不可能だ。

 お尻だけでなく、玲子の股間ではクリバイブが静かな振動を継続している。

 玲子は腰がぶるぶると動いてしまうのを防ぐことができなかった。

 

「し、失礼しました」

 

 カップを置こうとしたウェイターの手元が動いて、がちゃりと音が鳴ったのだ。

 ウェイターが大きく動顛した結果であることは間違いない。

 玲子の痴態に気がつかれてしまったのだ。

 もはや、生きた心地もしなかった。

 

 だが、もっと玲子に動揺を誘ったのは、玲子自身の気持ちだった。

 玲子は、真夫にこんな風に辱められて、その羞恥と緊張感の極限に陥り、一方で、それによってどうしようもなく興奮していたのだ。

 玲子の胸には、もっと真夫に苛められたいという願望がどんどんと大きくなっている。

 

 やっぱり、自分はすっかりと真夫に参っているのだ。

 

 そう思った。

 同じことを秀也にやられたときには、心が冷えるような嫌悪感しか覚えなかった。

 だが、いまや欲情による興奮は、玲子の鼓動をその音が感じるくらいに激しくしている。

 

「玲子さん、コーヒーを飲みましょうよ」

 

 赤ら顔になったウェイターが個室の外に向かいかけると、やっと真夫が玲子のお尻から指を出した。

 

 しかし、そのときあることに気がついた。

 玲子の痴態に、どんな侮蔑と軽蔑の表情をするのだろうかと思って、さっとウェイターの顔を覗いたのだが、赤い顔だったウェイターがすっと能面になって表情が消えたようになったのだ。

 そういえば、この部屋から出ていくとき、このウェイターはずっと同じように反応していたと思う。

 

「やっと気がつきましたね……。問題ありません。ここを覗いている不特定多数の視線はすべて部屋のことを認識できないようにしています。さっきのウェイターさんについても、玲子さんのことは、すべて記憶を消してしまっていますから……。大丈夫です。なにも覚えていませんよ。ホテルの従業員の方々もね」

 

 ウェイターがいなくなると、真夫が笑って言った。

 玲子は驚愕してしまった。

 

「そ、そんなことができるのですか?」

 

 実のところ、操心術でなにができるのかということは、玲子はほとんど知らない。

 だが、真夫は操心術を開眼したのは、数日前のはずだ。

 それにも関わらず、そんな大それたことができるというのは信じられない。

 

「やってみたらできたんです。できたというのも感覚でわかります。さもなければ、玲子さんが後で困るようなことを俺がやるわけないじゃないですか。だから、俺を信じて、この場を愉しんでください。露出狂の玲子さんは、こんな風に恥ずかしいのが大好きですよね?」

 

 真夫が玲子の服に手をかけてすべてのボタンを外して、乳房を露出した。

 

「あっ、ボ、ボタンをかけて」

 

 痛いくらいに勃起している乳首まで露出して、乳房が完全に剥き出しになる。

 

「大丈夫と言ったでしょう。それよりも、コーヒーですよ」

 

 真夫が玲子のコーヒーを手に取ると、皿を取って床に置いた。そして、その皿にこぼれない程度のコーヒーを垂らす。

 玲子はびっくりした。

 

「今日は骨の髄まで、玲子さんが俺の物だということを教え込むと言ったでしょう。さあ、飲んでください。これも調教ですよ」

 

 真夫が言った。

 その瞬間に、クリバイブが静かな振動から、かなりの激しいものに変化した。

 

「あうっ」

 

 玲子は思わず上体をのけ反らせた。

 

「止めて欲しければ、コーヒーを飲むんです。飲み終わったら、部屋に行きますよ。明日の朝までたっぷりと可愛がってあげます。覚悟してください」

 

 女の敏感な蕾をその内側から刺激されるのだ。とてもまともに立ちあがることもできずに、玲子は崩れるように椅子の下にしゃがみ込んだ。

 

「気持ちよさそうですね。さっきも言いましたが、俺の操心術で視線は遮断しています。安心して、羞恥責めを愉しんでください」

 

 真夫が笑った。

 仕方なく、玲子は真夫の足元にある皿に這いつくばって、舌でコーヒーを舐めて始める。

 すると、ぞくぞくと全身が震えたのがわかった。

 果てしなく興奮したのだ。

 なにもかも真夫の言う通りだと思った。

 自分は羞恥責めや露出責めが好きな破廉恥な女のようだ。

 そんな自分の隠れた性癖など、真夫と出逢うまでまったく気がつかなかった。

 そんな風に調教されながらも、自分は秀也たちのいう「奴婢」などというものとは程遠いものと思っていたのだ。

 だが、自分は真夫の奴婢だ。

 それに途方もない悦びを覚えてしまっている。

 

 コーヒーがなくなると、すぐに真夫はそれを継ぎ足していく。床にこぼれることもあったが、それも舐めさせられた。

 

「うう、うううっ、んんんっ」

 

 それを続けるうちに、ついに玲子は気をやってしまった。

 

「じゃあ、行きましょうか、玲子さん」

 

 すると、真夫が玲子の腕を取って立ちあがらせた。

 しかし、捲くれたスカートは直してくれたが、乳房を晒したブラウスは元に戻してくれない。

 

「そ、そんな、真夫様……。ふ、服を直してください」

 

 玲子の腕をとって、そのまま出ていきそうな真夫に、玲子は驚愕した。

 

「大丈夫と言ったでしょう。俺を信じて……」

 

 真夫はにやりと笑って、そのまま強引に個室から玲子を出してしまった。

 

「あっ、いやっ」

 

 流石に思わず声をあげてしまった。

 乳房を露出して歩くなど、想像もできないほどの恥ずかしさだ。

 そもそも、レストランだって、ホテルにだって不特定多数の人間がいる。その全員の視線を操心術で遮断するなどできるものなのだろうか。

 

「ありがとうございました」

 

 個室を出ると、店長らしき年配の男が待ち構えていて深々とお辞儀をした。

 だが、玲子は生きた心地がしなかった。

 ふたつの乳房は完全に剥き出しだ。

 それが真夫に腕を取られて歩くたびに、ゆさゆさと触れたりもする。

 とにかく、異様な光景だろう。

 しかし、店長だけでなく、周りの客も従業員も表情を変化させる様子はない。どうやら、真夫の言葉のとおり、全員が操心術で視界をカモフラージュされているらしい。

 玲子は度肝を抜かれてしまった。

 

 いずれにしても、これが周りに認識できないとしても、玲子が乳房を露出して歩いているということには変わりない。

 だが、一方で玲子の身体は、この羞恥の中で極限にまでに欲情もしていた。

 実際に、ひどく息苦しいし、胸は熱い。痺れるような酔いのような感覚が頭の上から足先まで包んでいる。

 

「大声をあげたり、不自然な態度を取らない限り、俺の術は解けません……。周りに不審の感情を抱いている者はいません。ほら、俺に身体を預けて……」

 

 真夫が右手首を解放させて、真夫の腕と組むようにさせてくれた。

 玲子はぐったりと身体を預けてしまった。

 あまりのことに、足元がふらついてまともに歩くこともできなかったのだ。

 そして、どうしようもなく股間を濡らしてしまってもいた。

 

 結局、店を出るまでに、玲子に特別な視線を向けた者は皆無だった。

 ほっとすると、緊張で感じなかった媚薬の痒みが襲いかかってきた。乳首とクリトリスだけじゃなく、お尻も痒い。

 どうやら、さっきお尻を悪戯されたときに、塗り足されたらしい。

 

 だめ……。

 こんなの興奮しすぎる……。

 ともかく、まともに歩けない……。

 

 玲子は、さらに真夫にもたれかかった。

 

 


 

 

 最上階の特別室に、玲子さんと一緒に到着したときには、玲子さんはすっかりと興奮しきった状態だった。

 

 部屋に入るや否や、真夫は玲子さんの身につけているものを全て剥ぎ取り、さらに、玲子さんの両手首に背中側で手錠をかけた。

 驚くことに、玲子さんは真夫が裸体を抱き締めてキスをしただけで、呆気なく達してしまった。

 これには真夫もびっくりした。

 

 真夫は、隠し扉の奥に玲子さんを連れていき、さらに最奥のジャグジールームに向かった。そこには、こんこんと温かい湯が満たされているジャグジー付きの大きな浴槽があるのだ。

 

 真夫は自分も裸になると、玲子さんと一緒に湯舟に浸かる。

 おそらく、掻痒効果のある媚薬は、玲子さんを限界まで追い詰めてしまっているだろう。

 真夫は、玲子さんの身体を慰めるように、玲子さんの身体を手でマッサージした。

 

「んん……あ、あん……んんっ」

 

 すぐに玲子さんは切なそうな声をあげて、真夫にもたれかかってくる。

 

「頑張りましたね、玲子さん。恥ずかしかったでしょう? でも、これで終わりです。その代わり、二度と、俺と別れてもいいということを口にしないでください。俺は玲子さんのことは家族だと思っています。俺と一生一緒にいること。それを玲子さんの罰にします。玲子さんの意思に関わらず、俺はそうしますから」

 

 真夫ははっきりと言った。

 すると、またもや玲子さんは感極まったように、ぶるぶると震えた。

 

「あ、ああ……う、嬉しいです……。一生懸命に仕えます。本当です。心の底から嬉しいです」

 

 玲子さんが完全に真夫の胸に身体を預けてきた。

 真夫は湯の中の玲子さんの乳頭をそっと摘まむ。

 

「ああっ、あああっ」

 

 その途端に、まるで電撃でも流されたかのように、玲子さんは艶めかしい声をあげて、裸身を身悶えさせた。

 

「大袈裟ですねえ。それとも、こんなに玲子さんって、敏感でした?」

 

 あまりにも激しい反応に、真夫は苦笑して、そっと玲子さんの無毛の股間に手を伸ばす。

 

「ま、真夫様だからです──。ああっ、あああっ、ま、また、いっちゃいます。だ、だめえっ」

 

 再び玲子さんがぶるぶると身体を震わせた。

 

「何度でもいってください。今夜は玲子さんだけを相手にしますから。骨の髄まで俺のことを玲子さんに染みつかせるつもりです」

 

「あ、あふうっ、ふううっ」

 

 玲子さんは完全に真夫に身を委ねるようにして、全身を弓なりにした。

 本当に達したようだ。

 今夜の玲子さんは、本当に反応が激しい。

 羞恥責めが効いたのだろうか。

 

「可愛いですね。玲子さん……。でも、玲子さんばかりずるいですね」

 

「ご、ごめんなさい……。で、でも、今夜は本当に身体がおかしいくらいに敏感になってしまって……」

 

 玲子さんが言い訳めいた口調で言い、顔を恥ずかしそうに真っ赤にした。

 真夫は玲子さんを抱え直すと、真夫に跨らせ、玲子さんの股間をそそり勃っている真夫の怒張にゆっくりと挿入させていく。

 

「あっ、ああっ、ああ……」

 

 すると、またもや玲子さんの身体が脱力したようになり、ぐったりとしてしまう。

 顔もいつものきりりとした玲子さんの顔じゃなく、完全に快感に身を任せた感じで、目つきもとろんとなった。

 真夫は完全に玲子さんの股間に怒張を埋めてしまうと、玲子さんの腰を真夫の股間に押しつけるようにして、ゆっくりと揺すりはじめた。

 すっかりと勃起して大きくなっている玲子さんのクリトリスを押し揉むようにしたのだ。

 ついでに、湯舟の外に置いているスマホに搭載している操作具で玲子さんのクリリングを作動させた。

 さらに、アヌスに指も入れて、くちゃくちゃと動かす。

 

「ああっ、だ、だめええっ」

 

 玲子さんは見事なまでに反応し、背中を弓なりにして甘い嬌声をあげた。

 

「可愛いですね、玲子さん」

 

 真夫は倒れそうになる玲子さんの裸体を支えながら、口づけをした。

 玲子さんがむさぼるように真夫の舌を吸ってくる。

 

「んんっ、んくう、あんんっ、んああっ」

 

 舌を絡ませながら、玲子さんはますます激しく身悶えを始めだす。

 

「ま、またいきます。んあああっ」

 

 玲子さんは呆気なく昇天した。

 もちろん、まだまだ真夫は満足していない。

 さらに続けて玲子さんを乗せていたぶり続ける。

 

 真夫が玲子さんに射精をしたのは、玲子さんがさらに二度の絶頂をしてからだ。

 

 まだまだ元気だったが、真夫はそれで自重した。

 夜はまだ終わらない。

 ベッドの上でも、もっと玲子さんを愉しみたいと思ったからだ。

 前の穴だけじゃなく、もちろん後ろの穴もだ。

 

 


 

 

 そして、たっぷりとこの夜は玲子さんをなぶり尽くした。



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第11章 玩弄【西園寺 絹香】
 第64話  待っていたふたり


「お、遅い──。急に戻らないなんて連絡してきて──。心配したのよ──」

 

 寮に戻ってくると、部屋の入口の前で、かおりちゃんが仁王立ちをしていた。

 昨夜は結局、玲子さんと例のホテルの最上階に泊まって、たっぷりと玲子さんを堪能した。

 プレイを終わったのも随分と遅くなったし、あの玲子さんが朝すぐに起きれる状態にはなかったので、玲子さんに頼んで、電話で真夫の欠席の手続きをしてもらって、遅い朝食をとってから、この学園の寮に戻ってきたのだ。

 

 すでに、十一時に近い。

 ふと見ると、かおりちゃんだけでなく、あさひ姉ちゃんも部屋にいた。

 

「どうして、ふたりとも……? かおりちゃんも学校は?」

 

 とりあえず、全員で部屋に入ってから、すぐに訊ねた。

 この学校は三学年目になると単位制に代わるので、全授業を出席する必要はないらしいのだが、真夫もかおりちゃんも授業のない日ではないはずだ。あさひ姉ちゃんだって、大学がある。

 

「い、行けるわけないでしょう──。なにかショックなことがあったんじゃないかって、心配してたんだから。恵だって、どこの誰に会いに行ったのか、教えてくれないし……」

 

「ま、真夫君、平気? どうだった? 心配していたのよ」

 

 ソファに腰かけていたあさひ姉ちゃんも、不安そうにこっちにやって来た。

 あさひ姉ちゃんには、龍蔵のところに向かう前に、真夫が豊藤グループの総帥の増応院(ぞうおういん)こと、豊藤龍蔵の血を引いていることがわかったことだけは伝えておいた。そして、その龍蔵に会いに行くとも……。

 だから、心配していたのだろう。

 ただし、かおりちゃんには、まだなにも言っていなかった。だが、あさひ姉ちゃんの様子から、なにかあるのだと察したのかもしれない。

 

「うん、会ってきた……。あのね、かおりちゃん、実は……」

 

 まずは、かおりちゃんに、真夫の出自のことを告げておくべきだと思った。

 最初はそれからだろう。

 

「ま、待って──。は、話は待って──。とにかく、待って……」

 

 すると、いきなり、かおりちゃんが顔を真っ赤にした。

 ふと見ると、最初こそ仁王立ちだった姿勢が、しっかりと股間を擦り合わせるようにぴったりとくっついている。

 しかも、スカートの中の太腿を擦り合わせるようにもじもじとしていた。

 

「ど、どうかしたの?」

 

 真夫はきょとんとした。

 

「ト、トイレにいく許可をちょうだい……。も、もう、洩れるのよ……。ず、ずっと我慢していて……」

 

 かおりちゃんが顔を歪めて言った。

 真夫は驚いてしまった。

 

「な、なんで我慢しているんだよ。いつから行ってないの?」

 

 そう言えば、かおりちゃんには、大きい方でも小さい方でも、常に真夫の許可なくするなと告げてあった。

 調教の一環としての遊びのようなものだが、学園では真夫の従者生徒ということになっているかおりちゃんは、ほとんどの時間を真夫と一緒に過ごす。だから、そう命令してあったのだ。それに比べれば、同じ奴婢でも、真夫と一緒にいないことの多い玲子さんや、あさひ姉ちゃんについては、そんな意地悪なことを言っていなかった。

 かおりちゃんの排尿と排便のことを忘れていたといえばそれまでだが、まさか、ずっと律儀に我慢していたのだろうか。

 

「き、昨日からよ……。だ、だって、あんたの命令でしょう──。奴婢のわたしが勝手なことはできないわよ。ね、ねえ、お願い、許可をちょうだい……」

 

 かおりちゃんが必死の口調で言った。

 

「許可って……。俺がいないんだから、そんなこといいんだよ。それに電話だってできたでしょう」

 

 真夫は呆れてしまった。

 

「……ほらね。あたしは許可なんか必要ないからしなさいって、言ったのよ──。でも、この()は、自分は奴婢だから、許可なくやっちゃいけないし、電話なんかで許可を求めてもいけないんだの一点張りで……」

 

 あさひ姉ちゃんが口を挟んだ。

 その口調は真夫同様に呆れたという感じだが、顔は微笑んでいる。

 「奴婢」としての自覚と態度をすっかりと取るようになったかおりちゃんを微笑ましく思ったようだ。

 真夫も同様だ。

 馬鹿だとは思うが、そんな風にしてもらうと、かおりちゃんが可愛くて仕方がなくなる。

 

「わかった……。これからは、俺がいないときには、我慢せずにすること。病気になっちゃうからね。命令だ……。ところで、大きい方……? 小さいほう……?」

 

 真っ赤な顔で腰をもじつかせている姿を見ると、やっぱり急にエスの血がもたげてくる。

 真夫は早速意地悪な質問をした。

 

「さっきまでは小さいほうだけだったけど……。い、いまは両方……」

 

 かおりちゃんが消え入るような声で言う。

 いまのかおりちゃんは、奴婢用の灰色の上下のブレザーだ。

 真夫はかおりの手首にしている金属の腕輪を首の後ろに持っていかせると、やはりセットになっている首輪に信号を送って密着させる。

 

「……じゃあ、行こうか……」

 

 真夫は両手を首の後ろから動かせなくなったかおりちゃんのスカートに手を伸ばすと、ホックを外して脱がせてしまう。

 ブレザーのスカートの下はノーパンだった。

 これも真夫の命令だ。

 制服はいいけど、下着については一切が許可制だ。

 真夫がいないので、許可を受けられないかおりちゃんは、おそらく制服以外にはなにも着ていないと思う。

 

「おいで」

 

 余程に切羽詰まっているのか、かおりちゃんは完全なへっぴり腰だ。そのかおりちゃんを真夫は腕を取って、奴婢用のトイレに連れていく。

 一方で、あさひ姉ちゃんはついて来ない。

 原則として、女たちの排便に同行するのは、いつも真夫だけだ。

 ほかの女たちの前でさせるというのは、なにかの罰以外では真夫もやらせない。

 

 トイレはこの部屋の奥の仕切りの向こう側にあり、完全に周りが透明になっているガラス製の和式の水洗トイレである。

 真夫が玲子さんに注文して備え付けてもらったものであり、いまはあのホテルのプレイルームにも同じものがあって、今朝だって、玲子さんに真夫の前で排便と排尿をさせてきた。

 真夫は、自分の女たちを辱めるために、目の前でトイレをさせるのが嫌いではない。

 むしろ、大好きだ。

 

 一緒にトイレに入る。

 外にいても、正面だけでなく下から眺めることもできるが、一緒に入るのがどの女も一番恥ずかしがるので、真夫もそうすることが多い。

 

「じゃあ、していいよ」

 

 真夫はかおりちゃんを座らせると、優しく声をかけた。

 

「う、うん……」

 

 かおりちゃんが真っ赤な顔を俯かせて、すぐにしゅっと放尿を開始した。

 真夫はしっかりとそれを眺めてやる。

 しっかりと目をつぶっているかおりちゃんに、見ているということを告げてやると、ますますかおりちゃんは泣きそうな顔になった。

 だが、それでいて、かおりちゃんは随分と興奮している。

 操心術のおかげで、女たちの感情を感じることができるようになった真夫には、女たちのマゾ度がどんどんとあがっていくのがはっきりとわかるのだ。

 三人の中で、一番マゾ度が低かったのはかおりちゃんだったが、この十日ほどで玲子さんやあさひ姉ちゃんに匹敵するほどのマゾになった気もする。

 

「お、大きい方も……していい……?」

 

 おしっこが終わると、かおりちゃんがほとんど聞こえないような声で言った。

 奴婢としてのマゾ度が進んでも、相変わらずため口で生意気な態度のかおりちゃんだが、この排便のときだけは、完全に被虐の極致に追い込まれたように弱気の声と態度になる。

 

「いいよ」

 

 すぐに固まった便が落ちだす。

 やっぱり我慢していたのだろう。

 

「ストップ──」

 

 真夫は途中で命令してやった。

 かおりちゃんが驚愕したように全身を硬直する。

 かおりちゃんの可愛いお尻からは、固形の便がちょっと顔を出している状態だ。

 かおりちゃんは顔をひきつらせている。

 それでも、理不尽な命令を守って、排便を途中でやめてもいる。

 真夫はその姿に笑ってしまった。

 

 


 

 

 いい子だったご褒美として、真夫はかおりちゃんのお尻を指で洗いながら一回と、続いてクリトリスを刺激しながらもう一回絶頂させてあげた。

 終わると、頭の後ろにしていた手首を背中側で密着し直して、真夫はかおりちゃんをソファまで連れてきて座らせる。スカートについては、あさひ姉ちゃんに命じて、とりあえずはき直させた。

 あさひ姉ちゃんも含めて、三人で長いソファに横に座る態勢になった。

 真ん中が真夫だ。

 

 真夫は、まずはかおりちゃんに、自分が豊藤龍蔵の血を引いているらしいということを教えた。それだけでなく、嫡男である彼は、ほかに子のない龍蔵の有力な後継者候補だとも教えた。

 もうひとりの後継者候補は秀也である。

 それも言った。

 排便の興奮と指マン絶頂の余韻に浸っていて、ぼうっとしていた感じだったかおりちゃんだったが、途中から目を見開いて絶句したようになった。

 そして、口が完全に開いて閉じなくなる。

 なんだか面白い。

 

「……これは本当のことらしい……。俺自身も信じられないけど、昨日は総帥の龍蔵という人と会ってきた。つまり、俺の父親ということになるのかな……」

 

 説明した。

 ただ、真夫に、まるで、子供としての関心がない様子であり、真夫について期待しているのは後継者としての存在のことでしかなさそうだったとも言った。

 あさひ姉ちゃんもかおりちゃんも、それについてはなんと言っていいかわからないようだった。

 しかし、真夫ももはやどうでもいいと思っているし、そんなものだと考えているとだけ言った。

 また、真夫の母親は死んでるが、名前が月子であるということはわかったとも教えた。

 これについては、少し前に玲子さんから教わっていたことだったが、このふたりに説明するのは初めてだ。

 

「……もともと、俺は豊藤の後継者の地位なんかどうでもいいと思っていた。だから、昨日の会合では、後継者を辞退すると言いに行ったんだ。だけど、気が変わった。俺は秀也という人と争って、豊藤の後継者を目指す。少なくとも、それをしなければ、俺が欲しいものを失うかもしれないとわかったからだ──。はっきりと言うね。俺は豊藤グループの後継者を目指す。そして、君たちを手放さない……。俺は結構エゴイストかもしれない……。ねえ、かおりちゃん……。俺は君を一生奴婢として支配してやろうと考えている。この学園を卒業するまでじゃない。終わっても一生だ──。そのために、豊藤の総帥を目指す。馬鹿げた動機だと思うかもしれないけど」

 

 真夫はぐっとかおりちゃんとあさひ姉ちゃんの腰を両手で掴んだ。

 

「あ、あのう……。そ、そう……。わ、わかった……。ちょ、ちょっと突然で戸惑っているけど……。そ、それがあんたのやりたいことなら……」

 

 かおりちゃんはまだ呆然としている顔のまま言った。

 

「あ、あたしはほっとしている……。真夫ちゃんがどこの何者であっても、あたしにとっては真夫ちゃんは真夫ちゃんよ。あたしは真夫ちゃんから離れないし、離して欲しくない。もう絶対に離してあげない。だから、そばに置いてね。どんな立場でもいいから、あたしを真夫ちゃんから遠くにやらないでね」

 

 あさひ姉ちゃんは、必死の様子だ。

 もしかして、真夫が一介の孤児ではなくとんでもない大財閥の跡取りだとわかったことで、真夫から捨てられるということを心配しているのだろうか。

 そんな馬鹿なことはあり得ないのに……。

 

「だけど、条件を出された。俺を後継者とするには、あることを達成しなければ許さないと言われたんだ。もしもできなかったら、俺から女を取りあげるかもしれないとね」

 

 取りあげるとはっきりと告げられたのは玲子さんのことだけだけど、龍蔵の口調から考えると、真夫をその気にさせるためであれば、どんなことでもやるのではないかという感じはした。

 それに、すでに真夫の腹は決まっている。

 手に入れたいものを手元に完全に残すためには、誰よりも強くなればいい。

 真夫が豊藤の後継者になれば、あさひ姉ちゃんも、玲子さんも、かおりちゃんも失わなくて済むことだけははっきりしている。

 だったら、そうすればいい。

 

「じょ、条件って、なによ──?」

 

 かおりちゃんが怒ったように言った。

 あさひ姉ちゃんも、眉間にぐっとしわを寄せて険しい表情になる。

 真夫は一度立ちあがって、ふたりに待っていてくれと告げてから、一度地下に行ってあるアタッシュケースを持って来た。

 

 戻ってきた真夫は中を開いた。

 それは十組の首輪と腕輪のセットが入っていた鞄だ。すでに、あさひ姉ちゃんと玲子さんとかおりちゃんの三人には装着させていて、それが入っていた場所には空間ができている。

 

「条件というのは、半年以内に、学園にいる十人の女を奴婢にすること。その証拠がこの首輪と腕輪を女たちが受け入れることなんだ。それができなければ、後継者にはしないそうだ。それははっきりと言われた」

 

 ふたりは唖然としている。

 真夫はさらに詳しく説明をした。

 SS研のことも言ったし、龍蔵という人は特殊な帝王学の価値観の持ち主であり、そうやって人を支配することを教育するようだとも言った。

 最後に真夫の操心術のことも教えた。

 玲子さんを含めた三人に対しては、もう一切の隠し事をするつもりはない。

 そう決心していたからだ。

 

「あ、あんたの話はわかった……。とにかく、わたしたちを含めて十人集めればいいのね。もちろん、協力するわ。な、なんでもね……。ところで、ここには、首輪類が七組しかないわ。わたしたちはふたり……。残りのひとつはどこにあるの?」

 

 かおりちゃんが首を傾げた。

 玲子さんのことは、まだかおりちゃんは一切を知らない。

 真夫は口を開こうとした。

 そのとき、寮の部屋に訪問者がやってきたことを告げる音が鳴った。

 部屋の外のチャイムを外から、誰かが押したのだ。

 

「タイミングがいいね。やって来たようだ」

 

 真夫は立ちあがって扉を開いた。

 玲子さんが一個の箱を持って立っていた。

 

「れ、玲子──。……じゃない……。理事長代理──」

 

 いきなり部屋にやって来た玲子さんの姿に、かおりちゃんがびっくり仰天して立ちあがった。

 そして、両手を拘束されていることを思い出したのか、それを気にして落ち着かない動作を示す。

 

「久しぶりね、かおり……。というよりは、わたしはしっかりとあんたを監視していたけど……。まあ、真夫様に受け入れられる奴婢になって安心したわ。わたしは放逐しようと思ったんだけど、そばにいられるのは、真夫様のおかげよ。感謝の心を忘れないように」

 

 箱をひとつ抱えている玲子さんは、部屋に入って来ながら、かおりに言った。

 かおりちゃんは顔を引きつらせている。

 ただ、どうして玲子さんがここにやって来たのか、まだわかっていない雰囲気だ。

 

「そんなに驚く必要はないわ、かおり……。こういうことよ……。よろしくね」

 

 玲子さんは、ふたりのそばまでやってくると、箱を置いてスカーフで隠していた首を露わにした。

 そこには、真夫が装着させた銀の首輪がある。

 もちろん、両手首にもだ。

 

「あ、あんたが三人目──?」

 

 かおりちゃんは声をあげた。

 

「二人目よ。あんたが三人目……。ところで、真夫様、言われたものを持ってきました。最初のターゲットになる西園寺絹香についての資料です。隠し映像もあります……。ほかにも、ここで全女生徒の資料や映像に関する情報バンクをこの部屋から検索できるようにセッティングしておきますね」

 

 玲子さんが箱から出したのは、一台のノートパソコンだ。

 それをテーブルの上に出して開く。

 すぐに起動画面が立ちあがる。

 

「ね、ねえ……、いま、最初のターゲットが西園寺絹香って言った?」

 

 かおりちゃんが怪訝な声をあげた。



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 第65話  生徒会長の性癖

「ね、ねえ、西園寺絹香って……。あの絹香でしょう? 生徒会長の……」

 

 かおりちゃんがちょっと驚いている。

 

「だから、なに?」

 

 真夫は床にお尻をつけて座り込んでいる体勢のかおりちゃんを引き寄せ、玲子さんが準備したノートパソコンの前に胡坐をかいて座ると、かおりちゃんを膝の上に載せた。

 かおりちゃんの両手は背中側で手錠をかけられている。なにも抵抗できない。

 真夫はかおりちゃんのスカートの中に手を入れると、ゆっくりと指を股間の亀裂に沿って動かした。

 

「あっ、ま、真夫君……」

 

 かおりちゃんがぶるりと身体を震わせて反応する。

 ノーパンのかおりちゃんの股間は、あっという間に熱を帯びだして、ねっとりと濡れ始めた。

 

「あら、いいわねえ、かおり。真夫様に可愛がってもらって」

 

 玲子さんが振り返って言った。

 

「今夜はやっと四人が揃った日なんです。愉しみましょうよ。さあ、玲子さんも、もっとこっちに来てください。まずは、かおりを三人で責めましょう……。人形ごっこです。人形になった者はなにをされても絶対に抵抗しない。されるがままです。そういう決まりにしましょう。とにかく、四人の親睦を深め合うことにします」

 

 真夫はかおりちゃんの股から指を離して言った。

 きょとんとした視線を向けている玲子さんとあさひ姉ちゃんに悪戯っぽく笑いかける。

 同時に、ほんの少しだが、玲子さんとあさひ姉ちゃんの心の抵抗を操心術で削いであげた。

 

 考えているのは、これから始めようとする悪だくみを前にして、この四人の結束を深めるための儀式だ。

 つまりは、四人で絡み合って、とことん身体の関係を深めようということだ。真夫とそれぞれの女たちということじゃなく、真夫抜きの結びつきも作るのだ。

 あさひ姉ちゃんとかおりちゃん、あるいは、あさひ姉ちゃんと玲子さんについては、以前から真夫を挟んで同時に愛されるということはやっているが、かおりちゃんと玲子さんについては、まったく初めてだし、本格的な百合の愛は三人ともやっていない。

 

 だから、今日はそれをやると決めている。

 なにしろ、これからやろうとしているのは、選んだ女生徒をこちらの都合だけで支配してしまおうということであり、立派な犯罪というだけでなく、道義的にも許されないことだ。

 それをするのだから、できれば真夫を通じなくても、女同士だけでも愛し合えるくらいの深い関係になっておきたい。

 まあ、本音を言えば、そんな大義名分だけじゃなく、美人で可愛いこの三人が、女同士で淫らに絡み合う光景を眺めたいというのもあるのだが……。

 

「な、なによ、人形ごっこって……。四人でするっていうこと?」

 

 後手に拘束されているかおりちゃんが当惑の表情を浮かべた。

 

「四人じゃない。基本的には女三人でお互いに責めあってもらう。俺は気が向いたときに、手を出すだけさ」

 

 真夫の言葉に、かおりちゃんだけでなく、あさひ姉ちゃんも玲子さんも目を白黒させている。

 真夫はすかさず、再び頭をもたげた三人の心に芽生えた反発心を抑えてしまう。

 すぐに、かおりちゃんの目がとろんと溶けたようになった。

 真夫の指は、たったいままで、かおりちゃんの股間を弄り続けていた。

 四人で遊ぶと宣言されて、ちょっと緊張で固くなったかおりちゃんの身体は、それがなくなったことで、すっと熱さが戻ってくる。

 また、玲子さんの顔も、あさひ姉ちゃんの顔も赤みを帯びたものになった。

 

「……仕方ありませんね。じゃあ、今日は真夫様とかおりについては休講の手続きをします。ちょっとのあいだお静かにお願いします」

 

 玲子さんが携帯電話を取り出して、どこかに連絡をし始めた。

 かおりちゃんが、「本当に真夫君の言いなりなのね……」とぼそりと呟いた。

 電話が終わると、玲子さんが真夫に小さく頷く。

 処置が終わったのだろう。

 

「じゃあ、人形ごっこの、百合百合遊びだ」

 

「しょ、しょうがないわねえ……。は、恥ずかしいけど、あんたの提案に乗ってあげるわよ。だ、だけど、わたしの番だけじゃないでしょうねえ。わたしにも、この玲子を責めさせてくれるの?」

 

「もちろん、玲子さんが人形になる番もあるよ。プレイのときには、なにをしても構わないさ。外には出ないけどね。じゃあ、一時間交代だ。さあ、ふたりとも、かおりちゃんをうんと苛めてあげてね」

 

 真夫はかおりちゃんへの指責めを再開する。

 

「わ、わかったわ……。た、愉しみね……。あ、ああ……。れ、玲子の、番の、ときには、う、うんと、泣かしてやる。それだけでも、あんたの、奴婢に、なってよかったかも……。で、でも、いい気持ち……。あ、あんたって、本当に上手……。ああっ……」

 

 かおりちゃんが身体をくねらせながら、さらに真夫の身体に全身を預けるようにしてきた。それどころか、腰を上下に動かして、積極的に感じる部分に真夫の指を誘導しようとしてくる。

 しかし、真夫はかおりをすぐに手放し、まだ当惑気味のあさひ姉ちゃんと玲子さんに押しやった。

 

「あんっ、もう終わり……?」

 

 愛撫が中途で終わったかおりちゃんが、切なそうに身体をくねらせた。

 ここで奴婢として暮らすようになったかおりちゃんだが、毎日のように調教をすることで、だんだんと淫らでエッチな身体になってきた。

 いまでは、三人の中では誰よりも積極的に真夫に迫る気もする。

 

「終わりじゃないさ。始まりだよ。さあ、ふたりともかおりちゃんを責めたてるんだよ。後で自分がやられるからって、手加減をしたら罰だからね……。そうだねえ。痒み剤を塗って一日、ここの地下に放置ってどう? きっと苦しいと思うよ」

 

 一方で、ふたりがさっと顔を蒼ざめた。

 痒み責めの苦しさは、ふたりとも嫌というほどに体験している。

 そして、真夫はやると決めたら、絶対にやるつもりだ。

 真夫の本気が伝わったのが、あさひ姉ちゃんと玲子さんにも、さっきとは別の緊張のようなものが走るのがわかった。

 

「じゃ、じゃあ、やりましょう。恵さん……。で、でも、なにをする?」

 

「そ、そうですねえ……。じゃあ、こいつのお股に、うんと興奮する薬を塗ってあげるというはどう? そして、ほかのところは責めるけど、そこは責めてあげないの。きっと泣くと思いますよ」

 

 あさひ姉ちゃんがくすくすと笑った。

 真夫が百合プレイの抵抗心を失くしてあげたせいだとは思うが、あさひ姉ちゃんがぐっと積極的になった。実は、真夫に対してはとことんマゾっ子のあさひ姉ちゃんは結構エスでもある。施設にいたときに、真夫に「強盗ごっこ」遊びをしてもらっていたエッチなあさひ姉ちゃんだが、一方で何人かの女の子を自分の「ペット」のようにしていたのを真夫は知っている。

 あさひ姉ちゃんが施設を出ていくとき、真夫にあてがったのは、そんな女の子のひとりだ。

 三人の中でなら、あさひ姉ちゃんが一番エッチなのは絶対だ。

 

 それに比べれば、玲子さんは根っからのマゾっ子だ。

 普段の生活ではとても強気で、相手がどんな大物でも物怖じせず、相手がやくざであっても平気なくせに、エッチとなると真逆のとても受け身的になる。

 それがいいのだが……。

 

「ちょ、ちょっと、なに言ってんのよ、恵──。ひ、ひどいことしたら、あんたらにもやるからね──」

 

 かおりちゃんが声をあげた。

 だが、いまのひと言は反則だ。手加減をしてはならないという真夫の言葉に反するように手加減を要求するとは、いつもながら感情のまま喋るかおりちゃんらしい……。

 真夫はたまたま近くにあった鋏を手に取った。

 そして、まだはいたままのかおりちゃんのスカートに手を伸ばす。

 

「な、なに?」

 

 スカートに鋏を近づけられたかおりちゃんが驚いたように、後ずさろうとした。

 だが、その身体を玲子さんとあさひ姉ちゃんが押さえてしまう。

 

「いまのは、完全に懲罰ものの言葉だね。かおりちゃんには、特別に別の罰を与えるよ。これからいけないことを発言するたびに、スカートを短くするからね。明日からの登校で、超ウルトラミニで教場に向かいたくなければ、人形役のあいだはなにを言われても、なにをされても逆らわないことだね」

 

 真夫はいまでも十分に短いかおりちゃんのスカートの裾に五センチほど切り込みを入れた。あとでこれに合わせて、あさひ姉ちゃんにでも裾全体をつめてもらおうと思った。

 

「わっ、わっ、そ、そんな──。だ、だめよ──。そ、そんなに短くしたらパンツが……」

 

 かおりちゃんが慌てている。

 真夫はにんまりとかおりちゃんに微笑みかけた。

 かおりちゃんがはっとした顔になる。

 

「“だめ”って、言ったね。さらに、二センチ」

 

 真夫はじょきりと切り込みを深くする。

 かおりちゃんは真っ赤になって、口をつぐんだ。

 

「じゃあ、三人とも裸になってよ。脱いだら、先に地下のプレイルームに行っていて。俺もすぐに行くから。かおりちゃんも一度拘束は外すけど、人形だからね。脱がしてもらうのは、ふたりにしてもらうんだ。ちょっとでも嫌がったら、スカート切りつめの罰だよ」

 

 真夫は手元のスマホを手に取って信号を送った。

 電子音が響いて、かおりちゃんの両手首の輪っかが外れる。

 だが、自分ではなにもしてはならないと言われているので、動くことはできない。

 そのあいだに、玲子さんもあさひ姉ちゃんも、躊躇することなく、次々に身につけているものを脱いでいく。

 

 真夫は三人への注目を中断して、玲子さんが持って来たファイルを手に取る。

 生徒会長であり、このS級生徒寮の一員でもある「西園寺絹香」についての個人ファイルだ。

 

 それによれば、彼女は元華族の家柄の出身であり、世が世なら立派な「お姫様」という身分のようだ。奴婢として連れてきているのは、彼女の実家の西園寺家に代々仕える家人の娘であり、「松野(なぎさ)」「松野(あずさ)」とあった。絹香が真夫と同じ三年生であるのに対して、双子は一年生だ。

 

 それにしても、すごい個人情報だ。

 ファイルには、彼女の経歴、家族、成績、健康歴などあらゆる内容が記録されている。

 事前に聞いている玲子さんからの説明によれば、これは今回のために準備した資料ではなく、全生徒について同様の秘密ファイルがあるらしい。もっとも、詳細度には差があるらしいが……。

 西園寺絹香は、S級生徒であり、特に詳しく調査されたものがあるのだそうだ。

 

「へえ……」

 

 真夫は思わず唸った。

 驚いたことに、どうやって調べたのか、身長・体重などは当然として、スリーサイズや初潮の年月日、さらに、初めての自慰の日付まで書かれている。

 それによれば、身長は160センチ、体重46キロ。スリーサイズは85、56、88。最初の自慰は十歳のときだ。

 かなり早熟のようだ。

 股間の写真というものまで掲載されていた。

 一年生と二年生のあいだは薄毛だがしっかりと陰毛があるのに、最新の日付のものは完全な無毛だ。もしかしたら、三年生になってから、秀也によって剃られたということだろうか。

 

 さらに、性経験などについては、より詳細な記録もある。

 法律無視のすごい資料だ。

 それにしても、気になるのは、秀也との関係が一切入っていないことだ。絹香が秀也の性的な愛人であり、秀也の「愛人クラブ」であるSS研の一員だということはわかっているので、性の記録ということになれば、当然にSS研での活動は加わってくるはずだが、ただ記録については、「SS研部長」と一行書かれているのみである。

 まあ、秀也のことを記録に残さないための処置ということに違いない。

 

 また、資料には、彼女に関する映像データの一覧もある。

 ほとんどが学園内で隠し撮りされたのときのもののようだ。

 映像内容の説明も添付してあり、最初は、彼女が一年生のときの入寮したてのときであり、A級寮の女子トイレで自慰に耽っているときのもののようだ。そういえば、この学園はそんな映像を撮影するために、ターゲットになった女子生徒に、密かに強力な媚薬を飲食物に混ぜるのだと、玲子さんに聞いたことがある。

 その映像を皮切りに、学園内で撮影された彼女の入浴映像、トイレの映像、こっそりとやった自慰、あるいは、そのほかの痴態映像などがあるようだ。すべて、場所や日付、その状況などが簡単に書かれている。そして、やはり秀也と関わる映像はない。

 

「んんっ、これは?」

 

 真夫はもっとも新しい映像記録に目をやった。

 わずか十日前だ。

 場所は、このS級寮の彼女の自室とある。

 

「ちょっと待って、下に行く前に、みんなでこれを観ましょう。彼女の落とし方の参考になると思うから」

 

 真夫はすっかりと全裸になって、地下に向かおうとしていた三人を呼び止めた。

 玲子さんが寄ってきて、真夫が示した記録の映像番号を確かめて、目の前のノートパソコンを操作する。

 そのとき、真夫の顔の間近で、玲子さんの豊かでかたちのいい乳房がぷるんと揺れた。

 思わず、ちょんと突く。

 

「あんっ、び、びっくりしました」

 

 玲子さんが一瞬手を止めて、はにかんだように笑った。

 すぐに、パソコンの操作を再開する。

 

「わ、わたしの番なのに……?」

 

 すると、かおりちゃんが不満そうにぶつぶつと文句を言った。

 真夫は戻ってきたかおりちゃんの乳房と、ついでに、あさひ姉ちゃんの乳房を一回ずつぎゅっと握る。ふたりとも大きく身体を震わせて呼吸を乱した。

 

「映像が出ます」

 

 玲子さんがディスプレイを解放するように横に移動した。

 画面に映像が流れ始める。

 下側に日付と時間がある。

 やはり、つい一週間前の日付だ。時刻は“23:10”とある。

 すでに、真夫たちもこの特別寮に入居している。

 

「うわっ」

「へえ……」

 

 すぐにかおりちゃんとあさひ姉ちゃんが声をあげた。

 流れ始めたのは、パジャマ姿で向き合って、天井から両手を吊るされている双子の姿だ。だが、ふたりとも下半身はズボンをはいていない。その代わりに、革の貞操帯のようなものが股間に喰い込んでいる。

 ふたりの腰が淫らに動いていることから、ただの貞操帯でないことは確かだ。

 また、正面には、ふたりの横に椅子を持って来て、嗜虐心いっぱいの表情で双子を眺めている絹香が映っている。

 その絹香の手元にはなにかの操作具がある。

 おそらく、双子の股間に当たっていると思われるなんらかの淫具を操作するリモコンだろう。

 

「あ、あいつ、こんなアブノーマルの性癖があったの? 真面目で頭がいいだけの優等生かと思っていた……。あっ、でも、考えてみれば、いきなり、あんたにキスするような変な女だっけ。ずっとあんたに絡んでくるし……」

 

 かおりちゃんが真夫に視線を向けた。

 

 学園内の評判は、確かに絹香は生徒会長をしている生真面目な生徒というもののようだ。短いあいだだが、真夫もだんだんとそれを承知してきた。

 しかし、真夫自身の印象は違う。

 なんらかの操心術の影響を予想されるものの、会っていきなり真夫に口づけをしてきたし、そのあとも、なにかとSS研への勧誘を続ける。

 SS研がどんな場所であるということについては、絹香は口には出さないが、絹香の積極的なアプローチには、秀也あたりから強要されていたという以上の彼女自身の好奇心があるような気がする。

 真夫は、操心術とは関係なく、絹香は相当のエッチな女の子だと思っている。

 

「音声を出しますか?」

 

 玲子さんの問いかけに真夫は頷いた。

 すると、玲子さんがキーボードを操作し、パソコンから声が出始める。

 

『今夜の“頑張れメロスゲーム”は(あずさ)が鬼よ。探すのは手錠の鍵をふたつと、貞操帯の鍵ひとつよ。部屋の外のロビーのどこかにあるから探しておいで。(なぎさ)はそのあいだ、我慢ね』

 

 絹香が妖艶に微笑んだ。

 そして、一時的に画面から消える。

 待っているあいだも、ふたりの腰は淫らに動き続け、喘ぎ声のようなものが迸り続けている。

 しばらくすると、絹香が戻ってきた。

 手に持っているのは、数個のイチジク浣腸だ。

 絹香は双子のひとりの背後に回ると、鍵のようなもので貞操帯を外した。

 愛液にびっしょりと濡れた貞操帯の内側が床に落ちる。

 貞操帯の股間の部分のクリトリスに当たる部分に、ローターが貼りつけられていた。床に落とされた貞操帯の振動がいまだに続けている。

 貞操帯を外された側はがくりと脱力している。一方でまだ装着したままの方は、苦しそうに喘ぎ声を出し続けている。

 床に落ちている貞操帯で起きている振動をまだ受け続けているということだろう。

 

「渚、力を抜きなさい」

 

「は、はい……。お、お姉様……」

 

 貞操帯を外された側の女の子がなにをされるかわかっているように、若干お尻を突き出すような姿勢になった。絹香はその子のお尻にイチジク浣腸を持っていくと、一気に絞った。

 

 そして、二個目……。

 さらに、もう一個……。

 

 合計三個のイチジク浣腸が、渚と呼ばれた側の双子のお尻に注入された。

 

「……真夫様、西園寺絹香が双子の従者生徒に過激な遊びを強いるようになったのは最近のことです。もっとも、それ以前にも、そんな関係があったようではありますが……」

 

 玲子さんが補足するように真夫にささやいた。

 最近……ということは、もしかしたら秀也があまり学園に来なくなってからということだろうか。

 秀也の愛人クラブであるらしい「SS研」だが、秀也が玲子さんに代わって、龍蔵の秘書役をするようになってからは、ほとんど活動が停止状態になったということは耳にしている。

 少なくとも、真夫がこの学園にやって来てからは、絹香がSS研の部室に向かったような様子もない。SS研最後の活動は、真夫がやって来る二日ほど前だと聞いている。玲子さんが調べてきてくれたのだ。

 

「つまりは、解消されなくなった性的不満を従者の双子にぶつけるようになったということかもしれませんね……」

 

 真夫は思わず頬をほころばせた。

 

「欲求不満?」

 

 玲子さんが首を傾げた。

 

 いずれにしても、絹香には随分と倒錯趣味があり、従者の女子生徒をエッチに「飼育」するような特殊な性癖があるということもわかった。

 だったら、遠慮なく絹香を「奴婢」に落としてやることができそうだ。

 

『さあ、行ってきなさい、梓。渚が漏らす前にね』

 

 画面の絹香がそう言って、渚という名前らしいもうひとりの拘束を外した。だが、貞操帯はそのままだ。

 うずくまって股間を押さえている梓に、絹香がパジャマのズボンを放り投げる。

 

『早くしなさい。渚が漏らしたら、ふたりの舌で掃除させるわよ』

 

 絹香が言った。

 

『う、うう……。あ、梓、お、お願い……』

 

 両手を吊られたままの渚が弱々しく呻いた。

 

『う、うん……』

 

 梓がぎこちなくパジャマの下を身につけた。

 すると、絹香はすぐに、取り出した手錠をパジャマのズボンをはいた梓に後ろ手にかけてしまった。

 

『さあ、行ってきなさい』

 

 絹香が梓の腕を取り、扉を開いて梓を部屋の外に出した。

 画面が切り替わって、共有スペースであるロビーが映し出される。

 太腿を擦りつけるようにして歩いている梓が、後手のまま懸命にあちこちを探し始める。その股間はあっという間に丸い染みができている。

 これがつい一週間前ということだ。

 

「もういいですよ。とめてください」

 

 真夫は言った。

 玲子さんはすでにこの映像を観ていたのか、そんなに動揺をした様子はないが、残りのふたりはかなり驚いている。

 しかも、この映像は、三人がここにやってからのものであり、あんな卑猥な行為が、扉の外のロビーでも行われていたということに、真夫も含めて驚いてしまった。

 

「まあ、これで落とし方もわかった。随分と欲求不満が溜まっているようだしね。せいぜい、遊んであげようよ」

 

 真夫は三人に言った。

 

「絹香ったら、双子の従者相手にやりたい放題じゃないのよ……。真面目だと思っていたけど、随分と鬼畜な性格なのね。まあ、あんたほどじゃないけど……」

 

 かおりちゃんが呆れたように言った。

 だが、真夫は首を横に振った。

 

「……根本的に違うね。俺はやりたいから、やっている。それ以外のものじゃない」

 

「さっきの絹香ちゃんは、そうじゃないというの?」

 

 あさひ姉ちゃんが口を挟んだ。

 絹香とは同じ寮なので、あさひ姉ちゃんも度々会う。

 あさひ姉ちゃんは、絹香のことを“絹香ちゃん”と呼ぶ仲になっている。

 

「そうだね。違うよ。このところの絹香の感情に接する機会があったからわかるんだ。絹香から、ずっと大きな焦燥感とか、喪失感のようなものを抱いていのを感じていた。だけど、今の映像からその理由もわかった。なにをされたいかということもね」

 

「なんですか?」

 

 玲子さんだ。

 

「絹香は本当は誰かにあんな風に辱められたいんだよ。だけど、秀也はいなくなり、それをしてくれる人はいなくなった。それで、溜まりに溜まった不満を、従者であり、百合遊びの妹分の双子にぶつけるようになったということさ……。まあいいさ。じゃあ、しっかりと発散してもらうとしようよ。きっかけはオーソドックスに、脅迫でいいかな? さっきの映像を送ってあげてよ。匿名でね。絹香はきっと言いなりになると思うよ。だって、本当はそうされたいんだ」

 

 真夫は言った。

 絹香については、素直にSS研に加入してものにするだけでも目的を果たせると思うが、まあ、もののついでだ。

 絹香にも、しっかりとスリルを味わってもらって、愉しんでもらいたい。

 

「手配します」

 

 玲子さんがしっかりと頷いた。

 

「脅迫って……。わかってないと思うけど、あんた、いま、とっても鬼畜な顔をしてるわよ」

 

 かおりちゃんが呆れたという口調で言った。

 

「そ、そんなこと……。それにしても、あなたさっきから、真夫様に失礼だし、いつもそんな感じなの?」

 

 玲子さんが嗜めた。

 

「いつも、こんなのよ。わたしはここでは、素のわたしを出すことにしてるの。こんな鬼畜にはそれで十分よ」

 

「まあ、あんた……。それに、真夫様はそんなに鬼畜じゃあ……。ね、ねえ、恵さん?」

 

 玲子さんがあさひ姉ちゃんを見た。

 あさひ姉ちゃんはにこにこしている。

 

「そうねえ……。でも、鬼畜で意地悪かも……。でも、それがいいのよ。そうでなくても、真夫ちゃんは真夫ちゃん。とても素敵なんだから」

 

 あさひ姉ちゃんがきっぱりと言った。

 真夫は笑ってしまった。

 

「いずれにしても、明日からのことさ。今日は四人の日だ……。そろそろ、地下に行こう。俺も行くよ」

 

 真夫は三人を促して、地下への階段のある隠し本棚に向かい始めた。



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 第66話  マゾっ子の試し

 寮に戻って、勉強部屋に入った西園寺絹香は、部屋に置いてあるパソコンを開いてメールが届いているのを確認した。

 すると、操作をしないのに勝手に動画の再生が始まった。

 西園寺絹香は内心で舌打ちをした。

 

 コンピューターウィルスか……?

 

 とりあえず、パソコンの電源を切ろうと思って、目を見張った。

 画像に写っているの背景に見覚えがあったのだ。

 この寮だ。

 しかも、絹香の部屋のリビングである。

 

 これは……?

 

 そして、絹香は眼を見開いたまま顔色を失った。

 画像に映っているのは、間違いなく絹香だった。また、絹香に仕えている侍女生徒の梓(あずさ)と渚(なぎさ)である。

 しかも、下半身を露出させたふたりを拘束し、鳥の羽根でくすぐって悪戯をしている下着姿の絹香だ。

 

 いつの間に……。

 絹香は愕然とした。

 

 これは数日前……?

 

 このところ、絹香は「ペット」のように可愛がっているふたりの侍女を毎夜のようにレズプレイをして遊ぶということを続けていた。

 その映像のようだ。

 

 部屋に隠しカメラが……?

 慌てて、もう一度画面で撮影されている方角と場所を確認する。

 大体の場所はわかった。

 映像は切ることができなかったので、モニターだけを落としてリビングに向かう。

 

「あっ、お嬢様、戻られたのですね。気がつきませんでした。すぐにお着替えを……」

 

 そこで浴室から出てきた(なぎさ)と会った。すでに制服から侍女服に着替えている。浴室の掃除をしていたのだろう。部屋に戻ったとき、奥にいることに絹香も気がついていたが、中断させては悪いと思って、声をかけることなく先に勉強部屋に行ったのだ。

 

(あずさ)は?」

 

「委員会で遅くなると……。どうかしましたか?」

 

 渚は首を傾げている。

 絹香は余程に焦った顔をしているのだろうか。

 しかし、この部屋に、隠しカメラなど、簡単に仕掛けられるわけなどない。

 特別なセキュリティが整えられているS級生徒の寮だ。

 もしも、隠しカメラを仕掛けられるとしたら、侍女生徒である楓と梓くらいだろう。

 だから、思わずメールで送られた映像のことを口にすることを躊躇した。

 

「なんでもないわ」

 

 絹香はとりあえず、隠しカメラを探してみようとした。

 見当をつけた方角にはリビングボードがあり、その後ろの壁には風景画が飾られている。その風景画そのものは、生徒会長になったことでS級生徒になったお祝いに両親から送られていたものだ。

 

「あっ」

 

 絹香は思わず声をあげた。

 

 渚はきょとんとしている。

 しかし、絹香はそれどころではなかった。

 その絵の額縁の下側に、わかりにくいが丸い異物がある。おそらく、これがカメラだ。

 

 いつの間に……。

 絹香は背に冷たいものを感じた。

 

 いつから……?

 そもそも、誰が……?

 

 最初からついていたとすれば、この隠しカメラは絹香が三年生になってすぐに、実家から送られるときから、ついていたことになる。そして、カメラを取り付けたのが両親、あるいは業者?

 しかし、そんなことはあり得ない気もする。

 そうでなければ、誰かが部屋に侵入して取りつけた?

 でも、どうやって……?

 

「あ、あのう……。なにか……?」

 

 渚が当惑した口調で声をかけてきた。

 

「なにか、貼るものを持って来て。ビニルテープでも、絆創膏でもなんでもいい」

 

 渚はすぐに小物入れから絆創膏を持ってきた。

 

「どうかしたのですか?」

 

 渚は小首を傾げている。

 絹香は額縁の下の丸い異物の部分に絆創膏を貼った。

 すぐに、渚の顔を見る。

 しかし、渚に様子に変わったところはない。

 

 渚はなにも知らない……。

 絹香は確信した。

 

「あのね、渚……。落ち着いて、聞いて」

 

 絹香はおかしな映像のことを話そうとした。

 そのとき、持っていたスマホに着信音が鳴った。

 発信者は「非通知」になっている。

 また、合わせたように、部屋に訪問者があることを告げるチャイムが鳴る。

 

「渚は出て。わたしはちょっと部屋で電話を……」

 

 絹香はとりあえず、そう言って個室に引っ込んだ。

 モニターの電源を入れてみる。

 いまだに、画像が流れ続けている。絹香はすぐにモニターを切って電話に出た。

 

『もしもし、絹香ね』

 

 馴れ馴れしい感じの女の子の声がした。

 声に聞き覚えはない。

 なんとなく機械で変声をしている感じだ。

 

『誰ですか?』

 

『映像を観たでしょう。それを送った者よ』

 

『な、なんのために……』

 

 かっとなって思わず声をあげる。

 

「面白いものが撮影できたんでね。こんなのが撮れるとは思わなかったけど。それと、もうすぐ荷が届くと思うけど、とりあえず中身を見てね。それから、映像のことは双子には喋っちゃだめよ。喋ったら、すぐに、この映像から落とした写真のデーターが学園中にばらまかれるわ。隠しカメラを見つけたようだけど、あんたの部屋にはたくさんのカメラがあるからね。こっちで見張っているのを忘れちゃだめよ」

 

『い、いったい、どういうつもりで……』

 

 絹香はやっとのこと言った。

 

『どういうつもりって、わからないの?』

 

 電話の向こうで、くすくすというわざとらしい笑い声がした。

 

『ふざけないで──』

 

『ふざけちゃいないわ……。まあ、わかりやすく言うと、これは脅迫よ。じゃあね。待っているわ』

 

 電話が切れた。

 待ってる?

 絹香は通常我画面に戻ったスマホを呆然と眺めた。

 すぐに操作して、発信者をもう一度確認しようとした。

 だが、相手先の電話番号はなぜか出てこない。通話記録そのものが残っていないのだ。

 

 誰だろう……?

 秀也?

 

 こんなことをしそうな相手として、まず思いついたのは、木下秀也だ。

 秀也とは、この数箇月、男と女の仲だった。SSクラブという活動の中で、秀也の仕掛けるソフトSMの相手をするということをずっとしていた。

 なぜ、絹香はそんなことをすることになったのか、その記憶がなぜかない。

 ある日突然に秀也に誘われ、断る気が起きずに、それ以降、彼の命じるままのさまざまな破廉恥な行為をするようになった。

 

 縛られたり……。

 

 淫具で弄ばれたり……。

 

 ときには、恥ずかしい恰好や危惧を装着したまま、学園内を歩き回ったりもされた。

 その過程の中で、当然に関係も持った。

 

 だが、どうして、そんなことを承知したのか、まったく当時の記憶がないのだ。

 もともと、秀也という生徒は同級生であるものの、その存在も知らなかった男子だ。だが、あのとき、秀也に求められるまま、彼に仕える愛人、すなわち「奴婢」になった。

 あれ以降、絹香は秀也に逆らうことができなくなり、ほぼ毎日のように彼から与えられる被虐的な性愛を受け続けた。

 

 絹香だけでなく、絹香の親友であり、「恋人」の前田明日香もまた……。

 

 しかし、それはある日突然に終了した。

 ほんの二週間ほど前だ。

 秀也が、しばらく学園には登校することはないので、SSクラブをやめると言い出したのだ。

 絹香は呆気にとられた。

 だが、それは本当だった。

 あれ以降、絹香は学園でも、SSクラブでも、生徒会でも秀也の姿を見ていない。

 不思議なのは、絹香もまた、秀也と別れたことを気にしていないことだ。

 あれだけの関係だったのだから、恋愛感情のようなものがあったはずなのだが、いまの絹香には、愕然とするほど、秀也のことは忘れてしまっている。

 

 実際、あれから、いまのいままで、秀也のことが頭に浮かんだのは、いまが初めてではないだろうか。こんな映像で脅迫めいたことして、エッチなことをさせるというのは、いかにも秀也がやりそうなことだったのだ。

 

 だが、秀也はもう絹香には関わらないとはっきりと宣言をした。

 あの様子から考えると、もう絹香を構ってくるとも思えなかったのだが……。

 

 いずれにしても、あの日々があって、絹香はすっかりとおかしくなってしまった。

 悶々として、身体が疼くのだ。

 秀也がいなくなってから、以前からひそかに女同士の関係だった梓と渚の双子と、ハードな遊びを繰り返すようになってしまっていた。

 だが、それを撮影されていたとは……。

 

「お嬢様」

 

 部屋の戸が叩かれた。

 渚だ。

 返事をすると、渚が小包を持ってきた。

 

「管理人の時子さんがこれを……」

 

「わ、わかった。そこに置いておいて」

 

 そういえば、さっきの電話の女も、荷物が届くと言っていたと思う。

 荷は学園の外から配達されたものだ。

 宛先人は書いてあるものの、まったく知らない相手だ。

 さっきの電話の相手が送ったものだとすれば、偽名だと思う。

 

 それにしても、なんのために……。

 とりあえず、絹香は渚をさがらせた。

 中から出てきたのは、真っ赤なミニスカートと白い絹のブラウスだ。どちらも新品だ。

 そして、携帯電話もあった。

 

 すると、その電話から突然に着信音がした。

 メールのようだ。

 

 「【指令1】」

 

 メールの題名にそうあった。

 とりあえず、中身に目を通す。

 

 “その服を着て、外に出ること。ただし、ブラジャーはしてはならないよ。パンティは特別に許してあげるわ。もちろん、ストッキングなんてだめだからね。それと、持って来ていいのはこの電話だけ。外にやって来た時点で、この写真を剥がしてあげる。早くしないと、誰かに見られるよ”

 

 どういう意味だろう?

 絹香は訝しんだ。

 すぐに、再びメールの着信音がした。

 

 開くと今度は写真だった。

 

「あっ」

 

 声をあげる。

 映っていたのは生徒会長室の入口だ。

 さっき送られてきた映像から落としたらしい写真が貼ってある。

 携帯の画面では詳細にはわからないが、双子を縛って下着姿で責めている絹香の写真だと思う。

 こんなものを誰かに見られれば、絹香も終わりだし、梓と渚だって、ここにいられなくなる。ましてや、実家に知られでもしたら……。

 写真の中に、腕時計が映っている。

 どうやら、たったいまの時刻のようだ。

 迷っている暇はない。

 絹香は目の前にある服を着るために、慌てて制服を脱ぎ始めた。

 

 


 

 

「あなたも、ノリノリね……。結構、愉しんでるでしょう?」

 

 絹香に送りつけたメール文を横から覗いていたあさひ姉ちゃんが、にんまりと微笑んでかおりちゃんに言った。

 真夫はそれを聞いて、思わず苦笑した。

 さっきから変声機を使って電話をしたり、絹香への脅迫文のメールを送ったりしているかおりちゃんが愉しんでいるのはわかるが、真夫に言わせれば、それ以上にあさひ姉ちゃんの方が愉しんでいる。

 

 S級生徒寮の真夫の部屋の地下だ。もともと調教部屋だったここの一部が、いまはパソコン室になっている。

 

 真夫たちは、絹香の帰宅を確認すると、最初のターゲットである絹香を落とすために、まずは、ここから脅迫文を送りつけた。

 部屋にいるのは、真夫とかおりちゃんとあさひ姉ちゃんだ。

 玲子さんは、準備のためにいろいろと手伝ってもらったけど、ここにはいない。

 昨日も付き合ってもらったし、準備のときもかなり時間を拘束した。だが、玲子さんはこの学園の理事長代理であり、様々なことで学園の活動を仕切っている。

 本当は忙しいのだ。

 

「これを送ればいいのね」

 

 かおりちゃんは、準備している写真を、荷物の中に入れて渡した携帯にメールで発信する。

 写真は生徒会室の入口に、絹香たちの恥ずかしい写真を貼りつけている映像だ。

 もっとも、たったいま貼っているように見せかけているが、本当は今日の午前中のうちに、玲子さんの作ってもらった写真だ。実際には、いまは写真は貼っていない。万万が一にも、誰かに見られれば大変なことになる。

 そんなことまでやる必要はないのだ。

 

「送ったわよ。さて、どうなるかな。本当にあの服を着て出てくるのかしら」

 

 かおりちゃんが言った。

 

「出てこなけりゃあ、絹香をターゲットにするのはやめるよ。俺は彼女が俺を受け入れる余地がない普通の娘だったら、奴婢にするつもりはないんだ。これは、あくまでも試しさ。彼女が俺たちと同じようなエッチな子なのかどうかを確認するためのね」

 

「えっ? じゃあ、もしも、絹香がメールの指示に従わなければ、もう、手を出すのはやめるということ?」

 

 あさひ姉ちゃんがちょっと驚いたように言った。

 

「そうだね。命令に従わず、誰かに相談したり、どこかに訴えたりしてもやめる。だけど、俺は絹香は出てくると思う。彼女は自分でどう思っているかはともかく、絶対にマゾっ子だよ。こんな風に恥ずかしい命令をされるのが心の底では好きに違いないと睨んでいる。だから、出てくる」

 

 真夫は断言した。

 そして、横のパソコンの映像を部屋の外のロビーの現在の映像に切り替える。

 玲子さんは、このパソコンでこの学園の秘密映像にアクセスできるようにしてくれただけでなく、数千個以上あるらしい、学園内のすべての隠しモニターとマイクをここから確認できるようにしてくれたのだ。

 

 画面に部屋の外の共有ロビーの映像が映る。

 誰もいない。

 だが、しばらくすると、絹香が入っている二号室のドアが開いた。

 

 つばの大きい帽子をかぶって顔を隠すようにしている。

 だが、かなり目立つ格好だ。

 なにしろ、ブラウスは前ボタンの普通のものだが、わざとサイズが少し小さいものを送りつけた、だから、ブラジャーのしていない絹香の胸がやたらと強調されたような感じになっている。

 玲子さんの資料で「バスト:88cm」とあった豊かなバストが丸みを帯びて浮かびあがっていた。もしかしたら、乳首まではっきりと露になっているかも……。

 

 そして、圧巻はミニスカートだ。

 超ミニを超越した短い丈である、スカート丈そのものよりも、露わになっている太腿が長いのだ。

 スカートというよりは汗ふきタオルを腰に巻いている感じだ。

 さすがに恥ずかしいのか、必死になってスカートの裾を押さえるようにして出てきた。

 

「わっ、本当に出てきた。あんたの言う通りね」

 

「真夫ちゃん、監視映像でも、絹香ちゃんは誰にも言ってないわ。ひとりいた渚という一年生にも、伝言だけして見られないようにして出てきたみたい」

 

 玲子さんが今朝持ってきたもう一台のパソコンで、絹香の部屋の監視映像や携帯電話などの通話チェックをしていたあさひ姉ちゃんが言った。

 

「オッケー。じゃあ、外に出た時点で、生徒会室から貼り紙を剥がした映像を送ってあげて、かおりちゃん。そして、二通目の指示を送ってよ。そのまま歩いて売店のある厚生棟に向かうようにとね。ただし、十分以内に来なければ、さっきの写真を厚生棟のロビーにばらまくって伝えておいて。絶対に乗り物を使ってはだめだと強調しておいてよね」

 

 すると、かおりちゃんが呆れた声をあげた。

 

「うわあ……。あんたも鬼畜ねえ。あそこまで十分なんて、走らないと間に合わないわよ。あの格好の絹香を走らせるつもりなの?」

 

 かおりが笑った。

 だが、その顔にはすっかりと悪戯を悦んでいる表情だ。

 

「二度目の試しだよ。命令に従うかどうか……。そして、その命令で、絹香が濡れるかどうか……。命令に従わなくても、そして、恥ずかしいことをさせられて濡れる体質じゃなくても、もう絹香には手を出さない。だけど、絹香が俺が思っているようなエッチな女の子ならば、彼女を四人目の奴婢にするための調教を本格的に開始するつもりさ」

 

 真夫は笑った。

 

「はいはい、仰せのままに、ご主人様」

 

 かおりちゃんがお道化た口調で応じて、パソコンでメール文を叩き始めた。



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 第67話  いい子の黒い影

「はあ、はあ、はあ……」

 

 絹香は必死で学園内の通りを走っていた。

 メールで届いた指示は、十分以内に売店のある厚生棟まで辿り着くことだった。

 S級生徒寮は、学園内の寮棟地区の外れにあるので、A級以下の生徒用の寮に近い厚生棟まではかなりある。

 とてもじゃないが、歩いて間に合う距離じゃない。

 

 それにしても、外に出てみると、さすがに、この異常に短いスカートに鼻白んだ。

 丈は太腿の付け根のぎりぎりまでしかなく、少しでも歩幅を大きくして歩くと、ミニ全体がずれあがって、完全に下着が丸見えになるのだ。

 走っている絹香は、まるで下着を晒しながら進んでいるようになっている。

 

 だが、「命令」には逆らえない。

 絹香が双子の従者生徒を相手に淫らなレズプレイをしているあんな写真などばら撒かれたら、身の破滅だというのはわかる。

 

 それにしても、誰がやっているのだろう……?

 絹香の頭には、何人かの候補者の顔が浮かぶ。

 いずれにしても、相当の力を持っている者という気はする。

 なにしろ、あのガードの固いS級生徒寮の中に隠しカメラを仕掛けるような人物なのだ。

 もしかしたら、こうやって、走っている姿もどこかで監視しているのかもしれない。

 

 いずれにしても、幸いだったのは、学園の中心方向からS級寮や外門に繋がるこの道には、ほとんど人通りがないことだ。

 少なくとも、第三者から、この露出狂のような絹香の姿を見られることはない。

 ただ、それも厚生棟に着くまでのことだ。

 課業外のこの時間であれば、そこはかなりの生徒でごった返しているだろう。

 絹香は、そこにこの恰好で行かなければならないのだ。

 わずかな救いは、つばの大きな帽子だ。

 これで少しは顔を隠せる。

 もっとも、それでも生徒会長としている絹香のことに気がつく者はいるかもしれないが……。

 

 そのときだった。

 

 後ろから自動車の音がして、絹香を通り過ぎていった。

 慌てて脚の歩みを普通にして、スカートの丈を一生懸命に引っ張って戻す。

 焦ったが、特になにもなく自動車は通り過ぎていった。

 絹香はほっとした。

 

 チロン──。

 

 はっとした。

 この服と一緒に送られてきた携帯電話からの音だ。

 何者かは、絹香にほかの物を一切持たずに、この携帯電話だけを持って出るように強要をしていた。

 絹香はその携帯電話を握りしめたまま走っていた。

 

 手に持っている携帯電話の画面を見る。

 画面は勝手にタイマーになっていたが、そのタイマーが残り時間が二分であることを告げる音だった。

 絹香は再び走り出した。

 

 やがて、厚生棟の近くに着いた。

 当然ながら、そこにはかなりの生徒がいる。

 普通寮に近いので、制服姿もいれば、私服姿の者もいる。

 さすがに絹香はここでは走ることなどできずに、必死で顔を伏せながら、人混みの少ない場所を避けて歩き進んだ。

 

 そのとき、びっくりするくらいの大きな音でいきなり鳴りだした。

 慌てて電話を取ったが、それによって周囲にいた生徒の視線が一気に絹香に集まったのがわかる。

 急いで、帽子で顔を隠す。

 

『なにをしている。さっさと建物に入れ。一番奥の喫茶店だ。その一番奥の席に座るんだ』

 

 変声をした男の声だった。さらに店の名を告げて電話は切れた。

 やはり、どこかで見ているのだろう。

 絹香は周囲を見渡す。

 だが、多くの視線を感じて、急いで顔を伏せる。

 超がつくほどのミニスカートはかなりの注目を浴びていた。

 自分の脚ががくがくと震えているのがわかった。

 

 とにかく、棟の中に入る。

 喫茶店の中には十人ほどの客がいた。ほとんが生徒だが、出入りの業者らしき大人もいる。

 最奥の席は窓際になっている。

 絹香は店全体に背を向けるように腰をおろした。

 ぴったりと太腿を付け合わせて、同時に両手で前を隠す。

 ただでさえ短いスカートは、椅子に座ったためにずれあがり、両脚が完全に剥き出しになっている。

 

 だが、どうしたらいいのだろう。

 絹香は電話の男の指示により、財布ひとつ持たずにここにやって来たのだ。

 持っているのは携帯電話のみである。

 

 ウェイトレスがやって来た。

 学園で契約をしている業者の若い女性だ。

 水を置いたウェイトレスに、とりあえず、紅茶を注文した。

 

 やがて、その紅茶も運ばれてきた。

 すると、電話が鳴った。

 今度は普通の音だったので、外で大音響で鳴ったのは、嫌がらせの意味があったのだろう。

 

『時間切れだね。三分も遅れた。君たちの映像はネットに公開したよ。反対側のシートにスマートフォンがある。それを見てごらん』

 

「えっ?」

 

 視線を向けると、シートと同じ色だったのでわからなかったが、確かにそこにスマートフォンがあった。

 腰を浮かせて反対側に座り直し、携帯を持っている手とは反対側の手でそれを手に取る。

 

「あっ」

 

 思わず声をあげた。

 絹香が手に取ると、スマホが勝手にネットに繋がり、ひとつのサイトが現われたのだ。

 

 

 “S学園 三年生 西園寺絹香(17)”

 

 

 周囲の卑猥な画像とともに、はっきりとそう文字が書かれている画像データーがある。

 しかも、絹香が(あずさ)(なぎさ)を淫らに「調教」している映像だ。それが流れている。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。消して──消してください」

 

 絹香は自分の顔が真っ蒼になるのを感じながら、携帯電話の相手に必死で哀願した。

 

『駄目だね……。もっとも、このままじゃあ、君も困るだろうからね……。データを消してあげるための条件を言おう……。その場で下着を脱ぐんだ。そこで脱ぐんだぞ──。そうすれば、画像を消してやる。早くした方がいいぞ。こうしているあいだにも、知っている者がその画像が見つけるかもしれないし、一度でもネットに出た画像は、いつまでも世界中に拡散する可能性があるらしいね』

 

 電話が切れた。

 絹香は唖然とした。

 ここで下着を脱ぐなど……。

 

 しかし、従うしかない。

 周囲を見回す。

 絹香の席は奥ということもあり、誰もこっちには注目していないし、死角にもなっている。少なくとも、ここでなにかをしていることがはっきりとわかるくらいの距離にいる者はいない。

 

 もう一度、反対側の客に背を向ける側の席に移動した。

 スカートの中に両手を入れる……。

 激しく鼓動が鳴っていた。

 手が震えた。

 

 直接は見られていないとはいえ、こんな場所でノーパンになる緊張感と恥ずかしさは尋常じゃない。

 

 本当に、ここで下着を……?

 まさか……。

 絹香は自問自答した。

 そんなことができるわけがない……。

 

 でも……。

 

 しかし……。

 

 だが、一方でぞくぞくするような倒錯感が沸き起こったのを感じた。

 客たちには背を向けている。

 絹香のことを注目している者などないはずだ。

 それなのに、絹香は背中からすべての客の視線が向いているような錯覚を感じていた。

 それは怖ろしいほどのスリリングな緊張だった。

 

 恥ずかしい……。

 だけど……。

 

 気がつくと、絹香は下着を掴んで、すっとさげていた。

 巨大な解放感……。

 できた……。

 不思議な達成感も生まれる。

 

 あとはそんなに面倒ではない。

 絹香は足首から下着を抜き取ると、さっと自分の手の中に隠した。

 

 いま、自分はノーパンだ。

 あまりにも短いこのスカートからは、股間そのものが露出しそうである。

 とてつもない羞恥は、絹香に手足が痺れるような戦慄を与えていた。

 

 だが、その手をいきなり、がっしりと掴まれた。

 

「ひっ、あっ」

 

 絹香の手を掴んだ相手の顔を見て、絹香は大きな声をあげてしまった。

 しかし、自分の声に驚いて口をつぐむ。

 そこにいたのは、坂本真夫だった。

 新しくやってきた転校生であり、転入早々に学園の恥部といわれていたあの竜崎と諍いを起こして叩きのめし、絹香がずっと「SSクラブ」への加入を呼びかけている真夫である。

 絹香は全身の力が脱力していくのを感じた。

 

「も、もしかして、こ、これ、あなたが……?」

 

 呆然とした。

 こんなことをするような相手とは思って思いなかったのだ。

 絹香の感じている真夫は、どちらかといえば紳士的であり、女に対して優しいという印象だった。恥辱的な写真や映像で脅迫して、女を辱めるタイプとは想像が違っていた。

 

「愉しかった、絹香? スリルがあったかい」

 

 真夫が絹香から下着と帽子をひったくった。

 

「ま、待って──」

 

 帽子はともかく、下着を取り戻そうとした。

 

「そんなに激しく動いたら見えるよ」

 

 真夫が笑った。

 

「えっ? いやっ」

 

 自分の身体を見る。

 確かに、スカートが捲くれあがっていた。

 絹香は裾を掴んで、椅子に座り直す。

 すると、手首でがちゃりと金属音がした。

 ふと見ると、真夫に捕まれていた腕に銀色の金属の腕輪がついている。

 真夫に嵌められたらしい。

 

「これは?」

 

「そのうちわかる。反対側もだよ。左手を出して」

 

 真夫の言葉には有無を言わせないなにかがあった。絹香は言われるまま、左手も差し出した。

 その手首にも銀色の金属の腕輪が嵌まる。

 

「こ、これはどういうことなの──。説明して、真夫──」

 

 しかし、真夫はにこにこと笑うばかりで、なにも応じない。

 その代わりに、絹香の反対側の席に腰かけると、手に持っていたスマホらしき機械でなにかを操作した。

 そして、顔をあげた。

 

「さっきの映像は消去したよ、絹香……。もっとも、別に本当に公開していたわけじゃないけどね。あれは、絹香に渡した受信機だけに送ったものなのさ」

 

 絹香は唖然とした。

 どうやら、一連の脅迫はこの真夫の悪戯だったようだ。

 口を開こうとしたが、すぐに店員がやって来て、真夫の前に水とコーヒーを置く。

 あらかじめ頼んでから、この席にやって来たのだろう。

 それはともかく、絹香は必死に両手でスカートの裾の部分を隠した。

 下を向いている絹香に、なんの意識を動かした様子もなく、ウェイトレスが立ち去っていく。

 真夫はすぐに落ち着いた素振りでコーヒーを口に入れた。 

 

「な、なんで、こんなことを……」

 

 店員が完全に去ったのを確認して、絹香は真夫に言った。

 

「もちろん、君を試すためさ」

 

 真夫には、悪びれた様子もない。

 

「試す?」

 

「俺をSS研にやたらに誘う美少女生徒会長様が、どれだけ淫乱なのかの試しさ」

 

 真夫は手に持っていた絹香の下着を拡げた。

 

「い、いやっ、拡げないで──」

 

 絹香は真夫から下着をひったくろうとした。

 だが、さっと手を避けられてしまった。

 

「見てごらん、君の下着だ。べっとりと濡れている。絹香はただ命令されて、短いスカートでここにやってきただけなんだよ。それなのに、こんなに濡れているのはなんで?」

 

 真夫が絹香から取りあげた下着をかざした。

 確かに、そこは、ここからでもわかるくらいに、べっとりと絹香の蜜で汚れている。

 絹香は欲情していた。

 それはわかっている。

 

「か、隠して……。晒さないで」

 

 絹香は低い声で懸命に言った。

 同時に全身がかっと熱くなるのを感じる。

 さらに太腿を締めつけた。

 真夫に指摘されるまでもない。

 絹香の股間からは、いまこの瞬間だって、とめどもない蜜がちろりちろりと流れている。しっかりと脚を締めなければ、その愛蜜でシートの座席を汚してしまいそうな気さえしている。

 

「変態だからでしょう? 絹香、君は変態だ。俺と……俺たちと同じようにね。君の言う通り、俺はSS研に入ってあげるよ。ただし、部長は俺だ。君は俺に仕える部員という名の奴婢として、俺に仕えるんだ」

 

 真夫がやっと下着を隠した。

 

「ああ……」

 

 絹香は全身が脱力するのを感じた。

 まるで、真夫の言葉は催眠術のようだ。

 この人には逆らいたくない。逆らえないという気持ちにさせる……。

 そんな気持ちにさせていく。

 

「大人しくした方がいい……。脅迫者の犯人が俺だとしても、状況に変更はないんだよ。絹香は、俺に絶対に逆らえない弱みを握られてしまった。だから、脅迫に屈して、そんなエッチな恰好でここにやって来た。そういうことなんだよ」

 

 真夫が笑った。

 絹香は目を丸くした。

 この人は、こんな顔もできるのかと思うような好色でいやらしい微笑みだったからだ。

 それでいて、この人に服従しなければならないという暗示のようなものも走る。

 

「……君は普通じゃない……。その自覚はあるはずだ。君はこうやって、脅迫に屈して、そんな恥ずかしい恰好で出てきた。そして、こんなにも興奮して股間を濡らしてしまった。いまだって、平静を装えないほどに動揺しているはずだ。それは君が変態の証拠だろう?」

 

 真夫はにやりと笑う。

 

「わ、たしは変態じゃあ……」

 

 否定しようとしたが、その言葉が途中でとまってしまう。

 そもそも、従者生徒とあんな関係というのは言い訳のしようがない。

 

「乳首、立っているよ……。ボタンを外した方がいい。上ふたつくらいはね。そうすれば、谷間は見えるけど、服が緩んで、余程注意しないと見えなくなる」

 

「えっ?」

 

 驚いて胸を見た。

 小さめのブラウスにノーブラの乳房が張りついているだけじゃなく、走ったために汗で濡れて、はっきりと絹香の桃色の乳首がシャツに浮き出ている。

 こんな恥ずかしい恰好のままだったのかと思って、またかっと身体が熱くなる。

 とにかく、急いで言うとおりにした。

 確かに胸元の裾野は露出したが、少しは目立たなくなる。

 

「いずれにしても、自覚しているんでしょう? 普通はどんなに脅されたところで、こんな格好では外には出ない。脅迫に屈したという時点で、君には露出願望、あるいは、被虐願望があるということさ」

 

 真夫は笑った。

 今度は、ねちっこいいやらしい笑いではなかった。

 どちらかというよりは、屈託のない愉しそうな笑いだ。

 絹香にこんなことを強要しながら、そんな笑顔を向けることのできる真夫は不思議な男子だと思った。

 

「……そ、そんなことは……」

 

 言いかけた言葉がまた途中でとまった。

 さっきの言葉……。

 

 絹香に被虐願望があるというのは……。

 否定できない……。

 

 それを絹香に言ったのは二人目だ。

 なぜか、いままでほとんど思い出さなかったのに、急に思い出したのだ。

 

 そうだ。

 そのとおり……。

 

 絹香にはどうしようもない被虐願望がある。

 自分自身に、それを認めてみた。

 すると、まるで、心の闇がすっと消えていくような気分になった。

 

「想像してごらん……。絹香は俺に逆らえない秘密を握られた……。今日から、毎日、寮でも……授業中でも……、こうやって課業外の学園でも……あるいは、実家にだって、俺の破廉恥な命令が送り続けられるかもね……。そして、ちょっとでも命令に逆らえば、君が破滅するような写真や映像を公開されるんだ……。あの双子……。今度は彼女たちを脅迫しようかな……。だけど、彼女たちには手を出さない。脅迫するのは、あの子たちに、君を調教させるためだ。想像してごらんよ。君がペットのようにしている一年生の双子から、絹香は毎日調教されるんだ……。どんな気分?」

 

 絹香は、いまここで悪質な脅迫者(実際にその通りなのかもしれなかったが)に呼び出されて、破廉恥なことを強要されるのだと想像してみた。

 

 この真夫に……。

 梓と渚に……。

 

 途端に、絹香の五体に全身を痺れさせるような得体の知れない衝撃が走った。

 わけのわからない興奮と開放感に襲われた。

 

「……手は身体の横にしてよ。そして、脚を開いてね。いいというまで閉じたらだめだ」

 

 真夫がにやりと微笑んだ。

 絹香はぎょっとした。

 真夫は手に十数枚の写真らしきものを持っていた。

 それを床側にかざしている。

 しかも、それは絹香たちの痴態の写真に間違いなかった。

 

「わかるね? 俺の手はとても敏感だ。あっという間に、手が離れて床にばらかまれるかもしれない」

 

 真夫の声には、絹香のことを見抜いて、それを嘲るような響きがあった。

 

 ぞくぞくした……。

 

 あるいは、それは絹香の錯覚なのかもしれない。

 なにしろ、こんな風に辱められるというのは、絹香自身がずっと望んでいたことに違いなかったからだ。

 

 


 

 

 絹香はある名家の正家の一人娘だった。

 

 長く子供のできなかった両親に生まれた大望の子供であり、おそらく考えられる限りの愛情と、そして厳しい躾と英才教育を受けながら育ったと思う。

 幼いころから、「いい子だ、いい子だ」とずっともてはやされて育った。

 

 実際に絹香は、自分でいうのもなんだが、同世代の誰よりも頭がよく、器用だったと思う。

 両親をはじめとする周囲の絹香に対する称賛と期待は、幼い絹香がたじろぎを覚えるほどだった。

 しかし、絹香はそれに十分に応えてきた。

 なにしろ、絹香には、それができるからだ。

 絹香は周囲が求める子供になろうとして努力し、努力によって実を結んだ成果は、さらなる期待を絹香に向けた。

 そして、絹香はみんなが求める「絹香」を追い求め続けた。

 だが、それはいつまで経っても終わることのない「仮面」の日常でもあった。

 

 絹香の子供時代は、まるで、自分に似合わない衣装と演技を次々に重ねていくような作業だったような気がする。

 だが、絹香は頑張った。

 誰もが求める「いい子」を目指し、ずっと努力した。

 周囲の期待に応えようと思った。

 そして、そうなった。

 

 しかし、実際の絹香はずっと平凡で普通の娘だ。

 心には悪辣なことも、狡いことも、いやらしいことだって存在している。

 エッチなことにも興味があるし、人並みに性欲もある。

 いや、むしろ、他人よりも、ずっと好色なのかもしれない。

 オナニーだって、初潮も始まっていないときから、ずっとやっている。

 

 だが、そんなことはおくびにも、外に出すことはできない。

 なにしろ、絹香は、誰もが認める「いい子」なのだ……。

 そんな淀んだ心を持っている絹香は、周囲が求めている絹香ではない。

 

 だが、いつしかそれは絹香自身の中に、どうしようもない破綻のようなものを生み出した気がする。

 黒い闇と言い換えてもいいかもしれない。

 いつしか絹香は、自分の心の底に隠れている黒い欲望のようなものに気づくようにもなっていた。

 

 そして、それはやがて、絹香を鬱積した倒錯の世界に走らせた。

 

 自分に逆らうことのできない梓と渚をペットのようにしたのだ。

 ふたりは実家の屋敷に住み込みで暮らしているシングルマザーの家人の連れ子であり、ふたりとは姉妹のように育ったものの、絹香の実家が見捨てれば、母娘ともども生活ができないような立場だったのだ。

 ある事情で彼女たちの母親は借金をしており、それを実家が肩代わりもしていた。

 だから、絹香は、梓と渚が絶対に絹香に逆らえないのを知っていた。

 どんなことをしても、この双子が誰にも訴えることもできないことも認識していた。

 

 それで彼女たちを罠にかけたのだ。

 そして、秘密を作り、絹香の性欲を解消するための道具にした……。

 十五歳のときだ。

 

 絹香の心の苦しさは消滅した。

 梓と渚の前では、なんの飾りもない剥き出しの自分でいられる。

 そして、その秘密の行為はだんだんとエスカレートもしていった。

 

 十六歳になって、この学園に入った。

 この学園に入っても、常に最優秀生徒だった絹香は、やはり、ここでも求められる自分を演じた。

 それによって溜まるストレスは、週末に実家に戻るたびに双子を性的にいたぶることで解消した。

 だが、それでも癒されないなにかが、絹香を次第に追いつめていった。

 

 しかし、転機がやって来た。

 秀也の出現だ。

 

 なぜかあの秀也は、絹香の隠している性癖を簡単に見抜いて、絹香にそれを暴露した。 

 秀也が言ったのは、絹香には被虐願望があるということだった。

 しかし、その欲望は誰からも癒されることがなく、絹香の中に巨大な漆黒の闇のようになってるのだそうだ。

 どこから得た情報か知らないが、秀也は絹香が家人の双子を「玩具」のようにしているのを知っていて、それは絹香が得ることのできない願望を癒すための代償だと指摘した。

 だが、本当に絹香が求めているのは、双子を「ご主人様」としていたぶることではないそうだ。

 

「お前は、本当は、あの双子から奴隷のように扱われたいんだ」

 秀也は言った。

 

 絹香はまるで操られるように、秀也の「性奴隷」になった。

 十七歳……。

 二年生の冬のことだ。

 

 だが、それはすぐに終わった。

 秀也が絹香から去っていったのだ。

 なぜか、秀也がいなくなると、秀也のことはほとんど思い出さなくなった。

 しかし、その秀也は絹香の前から消える前に、まるで呪いのような言葉を残した。

 

 「転校してくる坂本真夫の奴婢になれ」と……。

 

 絹香はその言葉に捉われた。

 

 そして、いま、その真夫が絹香に向き合っている。

 絹香が絶対に秘密にしたい映像や写真を手に入れ、それを公開したくなければ、与えられる破廉恥な命令に従えという。

 

 ぞくぞくした。

 それはまさに絹香がずっと追い求めてきた「ご主人様」の言葉だったからだ。

 

 ご主人様──。

 

 そうだ。

 それを求めていたのだ。

 

 秀也は残念ながら絹香の「ご主人様」ではなかった。

 彼は絹香と遊びはしたが、束縛はしようとはしなかったからだ。

 

 絹香は束縛されたかった。

 命令されたかった。

 絶対に実行することなどできない命令を与えられ、それを無理矢理に服従させられたかった。

 

 そして、もうひとつだけ確かなことがある。

 絹香は真夫に恋をしていた。

 ただ礼儀正しく大人しい男子とだけ思っていた真夫の、竜崎に示したあれ程までに残酷な憤怒──。

 彼の大切な女性のために……。

 そんなものを目の前で見せられてしまっては、絹香も参ってしまわないわけにはいかない。

 

 あれ以降、真夫をSS研に誘う絹香の言葉は、秀也にささやかれた言葉の暗示のようなものではなく、絹香自身の本心になった。

 

 


 

 

「命令だよ、絹香──。脚を開け。逆らうことは許さない」

 真夫は言った。

 

「は、恥ずかしいよ……」

 

 絹香は小さく言った。

 しかし、ゆっくりと脚を開いた。

 両手は身体の横だ。

 短すぎるスカートはずれあがり、しっかりと絹香の剥き出しの股間が露わになっている。

 

「そこでオナニーをするんだ。やらないと、この写真が全校生徒の携帯の端末に強制的に送られることになる」

 

 真夫が絹香の姿をスマホで何枚か写真を撮ったのがわかった。その写真の中には、絹香が股間をスカートの下から晒している写真もあるとわかる。

 

 逆らえない……。

 絹香はおずおずと手を自分の股間に持っていった。 



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 第68話  わたしは変態マゾ

 絹香の自慰が本格的なものになるのに、それ程の時間はかからなかった。

 真夫は、操心術でほんの少しだけ、絹香の抵抗心を削いでやっただけだ。本当に触れるか触れないか程度の改変であったのに、あとは雪崩を打つように、絹香の心が勝手に淫情でいっぱいになった。

 

 絹香は美しい外見と、真面目な優等生としての素行とは裏腹に、その内面にはびっくりするくらいの性欲で溢れている。

 しかも、かなりの特殊な性癖だ。

 真夫は、それを操心術による読心で理解した。

 

 辱められたい……。

 汚されたい……。

 支配されたい……。

 しかも、徹底的に……。

 

 そんな願望で満ち溢れていた。

 そして、その欲望が従者生徒である双子への性的悪戯に発展していたようだ。

 いまこそ、わかった。

 

 試すも試さないもない。

 

 ちょっとばかり、脅迫電話と写真で脅せば、絹香は呆気なく、それに屈して……、いや、屈したと自分自身に思い込ませて、およそ、平素の絹香では考えられないような破廉恥な恰好でやってきた。

 おそらく、絹香はなにを言われても、なにを命令しても逆らうことはないだろう。

 なにしろ、絹香の本当の欲望は、絹香自身を完全に壊してくれることなのだ。

 もしかしたら、絹香自身も気がついていないかもしれないが、絹香の平素の姿が、誰もが認める「いい子」なのは、その性癖の代償だ。

 いつもの絹香が清楚で有能で真面目そうであればあるほど、壊されたときのギャップが大きい。

 絹香は自分を恥辱のどん底に追い込んでくれる存在を心の底から待ち望んでいるのだ。

 真夫には、それがわかった。

 

 自虐癖……。

 露出癖……。

 被虐癖……。

 

 そんなものが絹香の心を支配している。

 だから、ちょっとしたきっかけさえあればよかったのだ。

 

 しかし、それだけに、絹香には問題がある。

 心の願望が強すぎるようなのだ。

 おそらく、自分自身ではストッパーが効かない。

 放っておけば、どこまでもエスカレートして、どんどんと歯止めがなくなる。

 絹香はそういうタイプだ。

 真夫にはすぐにわかった。

 だから、こうやって出てきた。

 ひとりにさせたら、脅迫のまま、本当に素っ裸で人前で痴態を晒しそうだったからだ。

 

「あ、ああっ、んふう、ああっ」

 

 いまもだ。

 自慰を命じたが、だんだんと声も大きくなっていっている。

 人に聞こえるかもしれないという興奮が、却って絹香を大胆にさせている。

 

 なにしろ、これは脅迫だからだ。

 言うことをきかないと、破滅させられる……。

 そう思い込むことで、絹香は自分自身を解放させているのだ。

 

 いずれにしても、彼女には、ちゃんと支配してくれる「ご主人様」が絶対に必要だ。

 さもなければ、おかしな男に捕まり、徹底的に利用されて、骨の髄までむしゃぶり尽くされるのが落ちだ。

 変な男が絹香の真の性癖に気がついたら、絹香はいとも簡単に破滅への奈落に転落するだろう。

 真夫は嘆息した。

 

 絹香を支配してやるしかなさそうだ。

 そして、一度面倒を看たら、最後まで管理する必要もあるかもしれない。つまりは一生だ。

 真夫ははっきりと決意した。

 

「声を我慢しないか、絹香。勝手にいやらしい声を出すな、雌犬。さかりのついた犬か──。この写真や映像がある限り、絹香は俺の言いなりだ。許可なく声を出すな。自慰は続けろ」

 

 真夫は言った。

 

「は、はい……。ご、ごめんなさい……。はあっ、んん、んんっ」

 

 絹香がぶるぶる激しく震えた。

 どうやら、口汚く罵られただけで、本当にいきそうになったみたいだ。

 本当に変態なのだ。

 真夫はにんまりしてしまった。

 

 やがて、絹香の身体の震えが激しくなった。

 真夫はすかさず、絹香の隣の席に移動した。

 だが、自慰に没頭している絹香は、それさえも気がつかないようだ。

 真夫は、絹香の両手を掴むと、さっと背中側に移動させる。

 直前に送った信号で、さっき絹香の両手首に嵌めさせた金属の輪が電子磁石モードになっている。

 両手首の金属の輪が絹香の背中でがちゃんと金属音をたてて密着した。

 

「あっ、そ、そんな」

 

 絹香がびっくりして顔をあげた。

 そして、きょろきょろと顔を動かして、真横に真夫を認めて眼を丸くした。

 やっと、真夫が隣に座っていることに気がついたようだ。

 

「なにがそんなだ。誰が勝手にいっていいと言った。奴隷のくせに」

 

「えっ?」

 

 絹香は呆けた感じで唖然としてる。

 まだ、達する寸前で自慰をやめさせられたことに当惑しているようだ。

 

「なに? まさか、すぐに開放してもらえると思った? 絹香はもう俺の奴隷だよ。徹底的に支配してあげるね」

 

「ど、奴隷……?」

 

 絹香の顔が驚きで硬直したようなった。

 しかし、一方で、絹香の心に大きな期待感と激しい興奮も沸き起こった。

 本当に愉しい子だ。

 真夫はいままで知らなかった絹香のことが知れて嬉しくなった。

 

「まあいい。奴隷の作法はゆっくりと教えてやろう。じゃあ、自分の立場を理解してもらうために、絹香には二つの選択肢があることを教えてあげるよ」

 

「選択肢?」

 

「ああ……。ひとつは、俺が手に入れた写真や映像を暴露されて、自分の恥部をなにもかも他人に知られて破滅することだ。そのときには、絹香の両親や双子のお母さんにも、すべて知らせてあげる」

 

 絹香が双子を「ペット」にした過程は、玲子さんの調査記録にかなり克明に記録されていた。面白い読み物だったが、あんなものを調べあげるとは、さすがは玲子さんである。

 

「そんな……」

 

 絹香が顔色を変えた。

 もちろん、それは絹香には選択のできない側だ。

 それはわかっている。

 こういう追い詰め方も、まあ、「プレイ」の一環だ。

 

「……もうひとつは、俺の肉便器になることだ。俺がしたいときに犯し、やりたい放題に辱める。絹香のことはすべて管理する。着る服も、排便も、セックスも。自慰もね。勝手にいくことも許されない。達していいのは俺が許可したときだけだ。なにもかも管理する。それが肉便器だ。好きなときに、好きな場所で犯し、気が向いたら孕ませるかもしれない。悪戯だってする。俺専用の玩具だ。もう、普通の生活はできないと思ってよね」

 

 絹香は管理してやらなければだめだ。

 真夫は本能でそれを感じた。

 

「あ、ああ……」

 

 絹香がうっとりとなったのがわかった。

 本当に困った女の子だ。

 真夫は微笑んだ。

 

「どうするの?」

 

 真夫は写真をちらつかせながら迫った。

 

「あ、あなたの肉便器になるわ……。い、いえ、なります……」

 

 絹香が言った。

 そのとき、絹香の身体が不意にぶるぶると震えた。

 どうやら、自分自身の言葉に感極まってしまったようだ。

 真夫は、第二ボタンまで外してあったブラウスのボタンをさらに外した。

 

「あっ、こ、困るわ」

 

 絹香は驚いて上体をよじったが、両手を遣えない絹香には抵抗のしようもない。

 一番下のボタンを残して、ボタンを外されたブラウスからは、絹香の大きな乳房とお臍まで覗けた。

 真夫は、さらにブラウスを完全にくつろげて、乳房そのものを剥き出しにする。

 

「や、やめてったら」

 

 絹香は驚愕している。

 

「さっき約束したばかりじゃないか。これは俺のおっぱいだ。絹香は俺の肉便器なんだしね。絹香にはなにも文句を言う権利はない。そうじゃない?」

 

 それにしても大きいな。

 かおりちゃんやあさひ姉ちゃんはもちろんだが、もしかしたら玲子さんよりも大きいかも……。

 真夫はそろそろと乳房を裾野から中心に向かって指を動かした。

 

「ん、んんっ? そ、そうは言ったけど……」

 

 絹香は困っている。

 いくら店側に背を向けているとはいえ、こんなところで胸を丸出しにする緊張感と羞恥心は尋常じゃないだろう。だが、その絹香の内心は、激しい欲情と期待感でいっぱいだ。

 

「水を……」

 

 真夫はわざとウェイトレスを呼んだ。

 絹香が目を丸くした。

 

「ま、待って、ボタンを……」

 

 絹香がはっとしたように言った。

 しかし、真夫は素知らぬ振りだ。

 一方で、操心術を駆使して、この店の者の意識から絹香の存在を注意深く消していく。おそらく、その場では絹香を「見る」ことはできるが、一度店を出れば、もう思い出すこともないと思う。

 そんな風に「処置」した。

 また、これも真夫の操心術の練習だ。

 先日の玲子さんのときもうまくいったし、おそらく、今回も大丈夫だろう。

 完全に野外のような不特定多数の状態では不可能だが、この店内にいる十名ほどの人員であれば、いまの真夫でも細工はできる。 

 

「……お、お願いよ……。ボ、ボタンをかけて……」

 

 絹香が泣きそうな顔で言った。

 真夫は無視して、水の入ったコップを飲み干すと、わざと絹香の正面に置く。

 やってきたウェイトレスがコップに水を注ごうとして、びくりと竦んだのがわかった。

 一方で、絹香は必死に顔を下に向けて隠している。

 ウェイトレスの手は一瞬止まり、真夫と、なによりも絹香に対して侮蔑と嫌悪の表情を向けた。

 しかし、すぐにその顔が能面になる。

 真夫の操心術が影響を及ぼしたのだ。

 そして、淡々と水を注いで戻っていった。

 だが、下を向いていた絹香には、その変化には気がついていない。

 

「ひ、ひどい……」

 

 絹香はぶるぶると震えている。

 だが、絹香はすごい興奮状態だ。

 もはや、操心術で感情を探るまでもない。

 短すぎるスカートの裾の内側から伝い流れてきた絹香の愛汁が、すぼめている内腿の内側にまで落ちてきている。

 

「だけど、絹香はこんなに興奮して濡れている……。これじゃあ、変態じゃないか。ねえ、露出狂で変態の生徒会長さん?」

 

 真夫はスカートをまくって完全に恥部を露わにしてやった。

 絹香の無毛の股がさらけ出される。

 

「あっ、いやっ、も、戻して……。お、お願いします」

 

 絹香が必死で脚で股間を隠そうともがき、懸命に哀願した。後手の絹香にはスカートを捲られても、直すことなどできない。

 こんなところで、乳房も股も剥き出しにされて、絹香は全身を真っ赤にした。

 

「ほら、見てごらんよ。濡れてるでしょう。それともわからない。だったら、理解するまでこうしてるからね」

 

「み、認めます。認める。ぬ、濡れてるわ。こ、興奮して……。だ、だから、隠して……」

 

 真夫は満足して、スカートだけは直してやった。

 その代わり、指をスカートの下に持っていった。

 びしょびしょに濡れている絹香の股に指をなぞらせる。

 

「ひっ」

 

 絹香が思わず声をあげ、そして、必死の様子で歯を食い縛る。

 もっとも、真夫の愛撫も本格的なものではない。

 その気になれば、我慢できないでもないくらいのものだ。

 それくらいで追い詰めるのが愉しいのだ。

 

「だったら、絹香は変態だね。それとも、まだ、そうじゃないと言うの? だったら、もっとするよ」

 

 真夫は完全に膨らんでいる肉芽を見つけると、ぐいとそこを押した。

 

「んんんんっ。み、認める……。それも、認めるから──」

 

 絹香が観念したように言った。

 

「なにを認めるの?」

 

 しかし、真夫はとぼけた。

 どこまでも、絹香を追いつめるのだ。

 絹香も内心では、それを望んでいることがわかっている。

 こんなのは、お互いのプレイの駆け引きの範疇だ。

 

「だ、だから……。わ、わたしはへ、変態……。み、見られて……意地悪されて感じる……露出狂の、マ、マゾ……。マゾです……」

 

 絹香が必死の口調で言った。

 

「はい、よくできました。ご褒美だよ。布を噛ませてあげるね」

 

 真夫は持っていたハンカチを絹香の口に押し込んだ。

 絹香はわけがわからず、目を白黒させている。

 しかし、すぐになんで布を噛ませられたか、理解するだろう。

 

 そのまま抱き寄せて、片手を剥き出しの胸をまさぐりながら、股間をまさぐった。

 絶頂させるのを目的にした本格的な愛撫だ。

 絹香は抵抗する手段もなく、一生懸命に布を食い縛って全身を反応させる。

 そして、絹香が気をやるのはあっという間だった。

 

「んんんんっ」

 

 布を噛んでいる絹香がぶるぶると震えた。

 真夫は絹香を起こした。

 汗まみれの乳房をしまって、ブラウスを戻してあげた。

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

 真夫の指で達してしまった絹香が肩で荒い息をしている。

 すでに呆然としている感じだ。

 だが、すっかりと満足して、口からはだらしなく涎まで垂らしている。

 こんな絹香を見たら、平素の絹香とのギャップにみんな驚愕するだろう。

 

 しかし、まだまだだ。

 今日は絹香の歓迎式だ。

 こんなもので終わるわけがない。

 

 真夫は準備していた掻痒剤を取り出すと、たっぷりと絹香の股間に塗ってあげた。

 しかし、絹香はなにかをされているのがわかっていないようだ。

 それくらい、ぼうっとしていたらしい。

 やっと気がついたのは、すでに真夫の指が離れてしまってからだ。

 

「あ、あれ、な、なにかした?」

 

 絹香ははっとしている。

 しかし、真夫は立ちあがった。

 

「そろそろ、出ようよ」

 

 真夫は手に取って伝票を持って去ると、絹香が慌てて腰をあげた。

 こんなところに、置いておかれては困ると思ったのだろう。

 しかし、すぐに竦んだように止まった。

 なにしろ、短いスカートは座っていたために、しわでさらに短くなっている。だが、両手が後ろで拘束されているために、絹香は手で引っ張りおろすこともできないのだ。

 

 そのあいだに、真夫はすでに代金を払い終わっている。

 決心したように、絹香が真夫のところまで走り寄ってきた。

 またまた、店にいた者たちが驚いて絹香の姿を見ているが、それも真夫と絹香が店の外に出るまでだ。

 ここで目撃したものを記憶することのできる者はいない。

 まあ、そうでないと、さすがに絹香を知らない生徒はいないのだから、明日には絹香がびっくりするような露出狂の姿で店にいたことが評判になってしまうだろう。

 店を出る直前に、真夫は念のための絹香が持ってきたつばの広い帽子を被せた。

 

 店の外については操心術は効かない。

 だが、そこには、車を横付けしたあさひ姉ちゃんとかおりちゃんが待っている。

 

「あ、あれ?」

 

 絹香がふたりの存在に気がついて小さな声をあげた。

 しかし、そのときには、かおりちゃんが助手席から出てきて、後部座席を開いて、絹香を押し込んでしまっていた。

 

「ううう、興奮しちゃった……。あんた、ちょっと怖くてかっこよかったかも。どきどきしちゃった……」

 

 続いて真夫が助手席に乗り込むときに、かおりちゃんが太腿をもじもじさせながら言った。どうやら、店の中のことをモニターで覗いていて、かおりちゃんも欲情しちゃったみたいだ。車の中から店のことが眺められるように、隠しカメラの映像と音声を車内のモニターに繋げてあったのだ。

 ふと見ると、運転席のあさひ姉ちゃんも顔が真っ赤だ。

 

「な、なんで……?」

 

 絹香はいきなりかおりちゃんとあさひ姉ちゃんが登場したことに、驚いているみたいだ。

 

「なんでって、ずっと電話で話していたじゃないのよ。電話をしていたのは、この真夫君じゃないのよ。わたしよ」

 

 かおりちゃんが言った。

 絹香は呆然としている。

 一方で、かおりちゃんが今度は助手席ではなく、反対側の扉から後部座席に入ってきた。

 絹香は左右を真夫とかおりちゃんに挟まれた態勢になる。

 

「行くわね」

 

 車が走り出した。

 

「どこに行くの?」

 

 絹香が後ろ手のまま、もじもじして言った。

 

「あんたが気にする必要はないのよ。だって、変態のマゾなんでしょう?」

 

 かおりちゃんが言うと、絹香が引きつったようになった。

 

「心配しないで。絹香ちゃん……。あたしたちも一緒だから」

 

 運転しながら、あさひ姉ちゃんが言った。

 

「そういうことね」

 

 かおりちゃんが絹香に目隠しをする。

 

「わっ、な、なんで……」

 

 絹香が小さな悲鳴をあげる。

 

「いいから、いいから、気にしない。あんたはただ、恥ずかしがっていればいいのよ」

 

 かおりちゃんが絹香の服を鋏で切り始める。

 普通に脱がしてもいいが、こっちの方が絹香は恥辱を感じるだろうというかおりちゃんの発案だ。

 真夫も反対側からじょきじょきと服を切り刻んでいく。

 

「そ、そんな……。ま、待って、いやよ」

 

 絹香は声をあげたが、その抵抗は小さい。

 あっという間に、絹香は生まれたまんまの姿にされた。

 靴と靴下まで、かおりは絹香から取りあげた。

 

「じゃあ、ゲームの続きよ。次のステージは教室だからね。頑張ってね」

 

 かおりちゃんが絹香に言った。

 

「きょ、教室って……」

 

 目隠しをしている素っ裸の絹香がびくりとする。

 しかし、その直後、急に脚を激しく暴れさせ始めた。

 

「か、痒い──。な、なに、これ? か、痒いよ」

 

 やっとさっきの掻痒剤が効果を発揮し始めたようだ。

 必死の仕草で腿を擦りつけ出す。

 もちろん、そんなもので、その痒みが消えるわけがないが、真夫はもっと意地悪を準備している。十センチほどの金属の棒にの両端についた膝枷を絹香に嵌めたのだ。

 がに股で歩けば、歩くことには支障はないが、これで股を擦りつけることはできなくなる。

 

「じゃあ、あさひ姉ちゃん、しばらく人通りの多いところを進んであげてね」

 

「はい、真夫ちゃん」

 

 あさひ姉ちゃんは最初からの取り決めによって、真夫の指示とは全然別の、外柵沿いのまったく人の少ない場所に向かう。

 しかし、そんなことは、目隠しをされている絹香にはわからない。

 びくりと絹香の身体が竦んだ。

 

「注目されたければ、痒いと大騒ぎしてね、生徒会長さん」

 

 かおりちゃんが意地悪な口調で、窓を開いた。

 外気の風を感じた絹香が「ひっ」と小さな悲鳴をもらした。



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 第69話  鬼畜ゲーム Ⅰ ・放置

「ね、ねえ、だいたい、どこに……。どこに連れていくの……? お、お願いよ……」

 

 車が止まると、絹香は素っ裸のまま車の外に降ろされた。

 汗だくの身体に触れる外気が火照り切った身体を冷やす。それが絹香の羞恥を誘う。

 

「どこだっていいでしょう。ちゃんと進まないと、このまま手を離してどっかに行っちゃうわよ、マゾ会長さん」

 

 かおりの声が聞こえた。

 そのかおりは絹香の左側にいる。

 右側は恵だ。

 ふたりとも真夫の従者ということになっていて、いずれも性奉仕をする奴婢だということは、絹香も知っている。

 

「あんたも、結構、鬼畜ねえ」

 

 恵が半ば呆れたような口調で反対側から言っている。

 

「だって、いつもわたしばっかり、苛められ役なんだもの。こっちの方が愉しいかも」

 

 かおりが嬉しそうにくすくすと笑った。

 だが、絹香にとっては笑い事ではない。

 

 局部に掻痒剤を塗られ、気が狂うような痒みと股間の疼きに襲われたまま、車の中で素っ裸にされて、かなりの時間をそのまま学園内をドライブさせられた。

 どこをどう走っていたのかわからなかった。

 目隠しをされていたのだ。そして、その目隠しはいまもされている。

 また、両手首には背中で手首に嵌められた金属の腕輪で拘束されていた。それもそのままだ。

 車の中では足を閉じられないように、両膝になにかの器具もつけられていた。

 

 いずれにしても、その状態で両側から真夫とかおりに、身体のあちこちを弄られ続けたのだ。

 しかし、声を出すと外に聞こえるよと脅され、絹香はただただ歯を食いしばって声を出さないように我慢するしかなかった。

 

 そして、いま、突然に車が停止されて、目隠しと拘束のまま、裸で外に出されたのだ。

 脚の金具が外されたのは、車の外だ。

 そのとき、そのまましゃがみ込んで、必死になって内腿を擦り合わせたが、もちろん、そんなものでは痒みはなくならない。

 また、かおりと、運転をしていた恵に両側から抱えられて、強引に立たされた。

 逆らうことはできない。

 歩かないとここに置き去りにすると脅されたのだ。

 本当にそんなことをするかどうかわからないが、ここがどこかなのかも、絹香にはわからない。

 そんなところに、目隠しと手錠をしたまま放置されてしまったらと思うと、怖くて彼女たちに逆らえないのだ。

 そしていま、こうやって、彼女たちに両側から腕を掴まれて、歩かされているところだ。

 

「でも、かおりちゃんの立場は変わらないよ。絹香が加わっても、やっぱり、かおりちゃんは俺たちの中では一番下の奴婢だからね。今日は特別ということさ」

 

 不意に後ろから真夫の声がした。

 そして、かおりが手を離して、急に悶え声を出す。

 

「あっ、だ、だめえっ、こ、こんなところで……。う、ううっ」

 

 なにをされているかわからない。

 だが、すぐ隣で真夫とかおりがじゃれ合っているというのだけはわかる。

 

「ふふふ、でも、羨ましいかな。最下層の奴婢は、なんだかんだと、一番真夫ちゃんにくっついているんだから」

 

 恵が笑いながら絹香から手を離して、そっちに寄っていくのがわかった。

 

「あっ、そ、そんな、手を離さないで──。ああっ」

 

 両脇からかおりと恵が離れたことで、絹香にすさまじいまでの恐怖が襲いかかった。

 その場でしゃがみ込む。

 だが、三人は絹香のことを忘れたように、すぐそばで絡み始める。そんなことをするのだろうから、ここには誰にもいないのだろうが、明らかにここは外だ。それに彼女たちは服を着ているが、絹香は全裸だ。

 目隠しをしているので、掴まれていた身体を離されると、一気に恐怖心が襲いかかる。

 

「い、いやだったら、真夫君」

 

「奴婢には拒否権はないのよ、かおり……。ほら、邪魔な手をどけて」

 

「声さえ出さなきゃ、こっちには誰も来ないよ」

 

 三人がじゃれ続ける。

 気配からすると、かおりが真夫と恵から悪戯をされている感じなのだが、とにかく、絹香は怖くて仕方がなかった。

 一方で、股間の痒みが気が狂うようなものになって絹香に襲いかかってもくる。

 かなりの長い時間、その状態が続いた。

 

「ん、んん、んんんっ」

 

 やがて、噛み殺したようなかおりの喘ぎ声がした。

 まるで達したときのような声だ。

 すぐに、かおりの荒い息が聞こえてくる。

 本当に、この場で絶頂をしてしまったような感じだ。

 

「う、うう……」

 

 一方で絹香は、ただひとり痒みに苦しめられたまま、この場で素っ裸のまま放置されている。

 

「じゃあ、次はあさひ姉ちゃんだよ」

 

「あ、ああ、そんな真夫ちゃん……」

 

 満更でもなさそうな恵のちょっと嬉しそうな声がしたかと思うと、今度はかおりも責め手に加わって、恵が責められだしたようだ。

 しばらく、恵の我慢しているような嬌声が響く。

 そして、その恵も達したみたいだ。

 結局、そのあいだ、ずっと絹香は声もかけられることなく放置された。

 すると、いきなり声がしなくなった。

 絹香は不安に襲われた。

 

「……ね、ねえ……」

 

 じゃれ合いが終われば、絹香のところに戻ってくるのと思っていたのだ。

 しかし、誰も絹香のところにやって来ない。

 やっぱり、いつの間にか三人の気配が消滅している。

 絹香はパニックになりかけた。

 

「ね、ねえ、う、嘘でしょう? そ、そこにいるんでしょう──? い、意地悪しないで……」

 

 びっくりして声をかけた。

 だが、返事はない。

 それよりも、声を出したことで怯えてしまった。

 もしかして、本当に三人がいなくなっていから……。

 このまま、この恰好で放置……?

 それに、誰かが、さっきの絹香の声でやってきてしまったらどうしよう。

 そう考えると、もう怖くて声などさせない。

 絹香はしゃがみ込んだまま、息を殺した。 

 

 どこかに行ったはずはない……。

 これはただの悪戯に決まっている……。

 わかっているのだが、どこなのかわからない野外に、ひとりぼっちで裸で放置される恐怖は想像を絶する。

 

 どこかに隠れようと思っても、どこに隠れていいもわからない。

 そもそも、ここはどこなのだろう。

 耳を澄ます。

 すると、グラウンドでなにかの練習をしているような声がかすかだが遠くから聞こえるのがわかった。

 

 学生棟の近く……?

 かなり声が遠いことを考えると、やはり、周囲に人影はないのだろう。

 だが、それでも声が聞こえるということは、誰かが絹香を見つけることもあるかもしれない。

 とにかく、待つしかない。

 しかし、じっともしていられないくらいの痒みが襲う。

 とはいっても、呻き声さえも、怖くて出せない。

 絹香は必死に歯をぎりぎりと噛み続けた。

 

 どのくらい時間が経っただろうか。

 やがて、がらがらと台車のようなものが押されてやって来るの気配が聞こえだした。

 

「ひっ、ね、ねえ、真夫──。ま、真夫……。かおり、恵さん……。ね、ねえ……」

 

 驚愕して、声を出した。

 ただし、ほんの小さな声だ。

 

 返事はない……。

 台車の音が近づく……。

 人の気配もはっきりになった。

 もう、怖ろしくて声も出せない。

 

 怖い……。

 怖い──。

 誰か来る──。

 

 真夫たちだろうか……。

 そうだと思う……。

 でも……。

 もしも……。

 

 絹香はもうどうしていいかわからず、さらに身体を小さくした。

 股間の痒みは気が狂うほどにもなっていたが、いまはあまりの緊張感でそれを忘れていられるほどだ。

 そして、台車とともに、誰かがすぐ横にやって来て……。

 

 絹香の横で……止まった。

 

「ひっ」

 

 絹香は恐怖で声を出してしまった。

 

「ふふふ、お待たせ。怖かった、絹香?」

 

 かおりの声だ。

 

「あ、あああ……。い、意地悪──。ああっ」

 

 あまりの安堵に、全身が脱力する。

 

「でも、あんたって、本当にマゾっ子なのね。こんなに乳首が立っちゃって」

 

 いきなり胸に手が伸ばされて、乳首を指が摘まんだ。

 

「んふううっ」

 

 その瞬間、まるで電撃が流されたような衝撃が走り、絹香は悶絶しそうになった。

 

「うわっ、びっくり」

 

 絹香のあまりの過激な反応に、かおりが驚いたように指をさっと離すのがわかった。

 

「さあ、立つんだ。パーティの準備ができたよ、お姫様……」

 

 真夫のお道化た声がした。

 後ろ手錠の腕をとられる。強引に立たされた。

 それでわかったが、ほとんど力が入らないくらいにふらふらだった。

 絹香は崩れ落ちそうになり、足を踏ん張った。

 

 すると、なにかが股の間に差し込まれた?

 そして、異物が股間に当たり、ぎゅっと締めつけらる。

 

「い、いやあっ、な、なにしたの──?」

 

 絹香は悲鳴をあげた。

 

「そんな大きな声を出しちゃだめよ、絹香さん。樹木の影とはいえ、見えるところに生徒がいるわ」

 

 恵のささやき声だ。

 横にいる。

 

「う、うう……」

 

 股間になにかを装着されたと途端に、異様な感覚が襲いかかる。

 股の部分にはなんだかいぼいぼのような丸いものが無数にあって、それが局部やクリトリスを圧迫しているのだ。また、お尻には小さな管のようなものがぐいと挿し込まれた。

 

「な、なんなの、これ?」

 

 声が大きくならないように、ささやき声で訊ねた。

 革の下着?

 感覚的にはそんな感じだ。股間だけでなく腰周りもなにかに締められてから、後ろで電子ロックの音がした。

 

「ただの貞操帯だよ、革のね。さあ、口を開いて」

 

 今度は口になにかを押し込まれて、頭の後ろでぎゅっと締められたのがわかった。

 おそらく、これはボールギャグだと思う。

 絹香も双子に使ったことがある。

 息をするとひゅうひゅうと音がした。だから、球体に小さな穴がたくさん開いていて、涎が垂れ流しになるタイプだろう。

 

「じゃあ、こっちだ」

 

 三人に押されて移動させられる。

 そして、脚を抱えられるようにして片脚をあげられ、腰の高さほどのなにかを跨らせられた。

 

 段ボール……?

 

 足の裏にあたる感覚でそう思った。

 反対の脚も同じように、大きくなにかを跨がらせられる。

 

「はい、隠れて」

 

 ぐいと首を押されて、しゃがまさせられた。

 また、片側の耳の穴になにかが押し込まれる。

 

「あ、ああっ」

 

 思わず声が出た。

 やっぱり、段ボール箱だと思った。

 その上蓋が締まり、目隠し越しに感じる光が消える。

 

『聞こえるでしょう、絹香……。ここから先はしばらく、人のいる場所を通るからね。声を出さないのよ』

 

 耳からかおりの声がした。

 状況を把握するいとまもなく、ぐらりと身体が揺れる。

 箱全体が移動し始める。

 どうやら、台車に載せられた大きな箱に入れられたまま絹香は運搬されているようだ。

 

 しばらくすると、周囲から喧噪が聞こえてきた。

 廊下を歩いている生徒の声だ。

 この学園では、あと一箇月後に文化部発表会があり、いまの時刻はまだまだ、その準備のための活動をしている時間だ。

 だとすれば、各文化部クラブの部室が並んでいる校舎を進んでいるのだろうか……?

 いずれにしても、絹香は必死になって、箱の中で息を殺し続けた。

 

 そのときだった。

 

『……そろそろ、痒みも我慢できないよね。だから、贈り物だよ……。これは無音の淫具だから、声さえ出さなければ大丈夫だよ』

 

 耳からまた声……。

 今度は真夫だ。

 

 すると、いきなり、股間に装着された貞操帯の内側の丸い突起物がゆっくりと振動をし始めた。

 絹香は思わず声を出しそうになり、それこそ、ボールギャグを噛み潰さんばかりにして、それを耐えた。

 痒みに苦しめられていた股間を襲う振動は、脳天まで突き抜けるかと思うような衝撃だ。

 絹香は震えてくる裸身を必死に縮こませた。

 

「どこにいくの、みんな?」

 

 声がかけられたのがわかった。

 はっとした。

 クラスメートの女子生徒だ。

 台車が停止する。

 

「部室に持っていくの。荷物運びよ」

 

 かおりの声だ。

 さらに、箱の外の喧騒から、ここにはほかにもたくさんの生徒たちがいるということがわかる。

 この場所が文化部棟だとすれば、多分ここは、部室が集まっている場所の中心にあるロビーのような場所だ。

 人が集まって談話ができるようなテーブルや椅子がたくさんあり、自動販売機で飲み物などが買える場所である。

 その自動販売機の前かもしれない。

 箱の外をたくさんの人間が行き来する気配がある。

 

 おそらく、大勢の生徒が箱の外にいる。

 そこで素っ裸のまま箱の中に隠され、淫具で痒みに襲われている股間を刺激されている……。

 

 想像も絶する辱めに、絹香は気が遠くなるようだった。

 だが、同時に体内に渦巻く快感のうねりで神経が麻痺するような感覚も襲っている。

 絹香は興奮していた。

 全身に沸き起こる快美感は凄まじいものだった。

 実際、責められている股間からは、貞操帯に覆われているにもかかわらず、それでも抑えきれなかった花蜜が内腿に溢れ出てもいる。

 内腿にどんどん増えていくぬるぬるとする樹液でそれがわかる。

 

 そのとき、さらに股間の振動が強くなった。

 絹香は全身を弓なりにしてしまった。

 どんと身体の一部が箱に当たった。

 心臓が爆発しそうになった。

 

「えっ、なにか、箱で音がした? 生き物なの?」

 

 声をかけた女生徒が訝し気な声を出す。

 絹香は懸命に息を殺す。

 しかし、少しずつ股間の振動が大きくなっていく。

 絹香はボールギャグを噛みしめる。

 

「いいえ、本よ。図書館から特別の許可をもらって借りてきたの」

 

 かおりの声。

 相手はそれで納得したようだ。

 ほっとした。

 すると、振動が小さくなった。

 なんとか我慢できるくらいまで刺激が弱まる。

 

「ふうん……。それでこっちの方は?」

 

 どうやら、恵のことを訊ねているようだ。

 

「真夫君の侍女の朝比奈(あさひな)(めぐみ)です」

 

 恵の声……。

 

「あっ、あの……」

 

 女生徒の困惑したような声……。

 おそらく、竜崎事件のことを記憶に思い出したのだろう。

 竜崎が真夫の恋人の恵に手を出し、それを真夫が激怒して、完膚なきまでに竜崎たちを殴り倒した半月前の事件は、もはや学園の伝説だ。

  

「気にしないで。もう、大丈夫だから」

 

 恵がそう応じている。

 

「そういえば、あんたたちって、クラブなんて、入ってたっけ?」

 

「SS研に入ったんだ」

 

 真夫が応じた。

 

「へえ、そういえば、会長が一生懸命に坂本君のこと勧誘していたものね……。だけど、いまいち、あのクラブって、なのをしているのかわからないのよね。ねえ、なにのクラブなの、あれ?」

 

「まあ、社会学の研究サークルというとこかな。文化部発表会のときには、SS研も展示するから、そのときにでも見学に来てよ」

 

 真夫が言っている。

 

「ええっ、興味ないなあ……。社会学の研究ねえ……」

 

 女生徒は苦笑いしている。

 

「いや、ちょっと愉快だと思うよ。何せ、今回は拷問の歴史の研究発表だからね」

 

「へえ……」

 

 今度は女生徒は少し興味を抱いたような響きになった。

 絹香も、そうなのかと思ったが、それはちょっと愉しそうかもしれない。

 

 そして、挨拶を交わすと、再び台車が動き出した。股間の振動も完全に切られた。

 さっきの悪戯はわざとやっていたのは明白だ。

 

 それからも、かなり台車は進んだ。

 さっきの文化部棟から一度外に出た感じになり、また、どこかの棟に入った気配だ。

 隣の棟といえば、運動部の部室がある棟ではないだろうか。

 さっきの棟が文化部棟だとすれば、そうなると思う。

 それを裏付けるように、こっちの棟に入ってからは、さっきの文化部棟のような喧噪はなく、ひっそりとしている気がする。

 運動部はいまの時間は、ほとんどがグラウンドや体育館などにいるのだ。戻るのは着替えのときになるはずだ。

 やがて、その棟の廊下を少し進み、どこかの部屋に入ったと思った。

 

「お待たせ。鬼畜ゲームのスタート地点に着いたよ」

 

 真夫の声がした。

 

 鬼畜ゲーム?

 

 箱が開いた。目隠しの外に光を感じた。

 強引に両側から腕を持たれて立たされる。箱に入ったときと同じように、両側から抱えられるような感じで箱の外に出て台車をおろされた。

 

 ここは、どこ?

 訊ねようとしたが、ボールギャグのために、鳴るような音になっただけだ。

 とにかく、周囲はとても汗臭い。

 

「ここは男子野球部の部室だ。文化部系の部室を通り抜けて、運動部棟だ。そこに来たんだよ、絹香」

 

 真夫が笑った。

 

 やっぱり、運動部の部室棟……。

 

 だけど、男子野球部……?

 なにをさせるつもり……?

 

 絹香は自分の顔が引きつるのがわかった。

 だが、横で音がして金属の扉のようなものが開いた音がした。

 ロッカー ──?

 わけもわからず、そこに押し込められる。

 背中と腕にひんやりとした金属の冷たさを感じた。

 

「……いいかい、絹香……。これは、俺の肉便所になった君の歓迎式だ。野球部の活動は多分、あと十分くらいで終わると思う。その連中がここに戻って来て着替え終わり、最後のひとりがいなくなったときが、ゲーム開始だ。そのとき、顔の目隠しが遠隔操作で自動的に外れるから、そうしたら、文化部棟のSS研の部室までやって来るんだ。簡単でしょう」

 

 真夫は言った。

 文化部棟?

 しかし、ここが本当に運動部の部屋だとすれば、それは隣の棟だ。

 一階でも、二階でもいいが、渡り廊下を通り抜けなければならない。

 

「んん、んんんっ」

 

 必死に首を横に振った。

 そんなこと……。

 

「今日は運動部は早終わりの日だけど、文化部は発表会の準備があるから、夜まで活動が許可されているのよね。だから、文化部棟はずっと人がいると思うから、そっちにやってきたら気をつけるのよ、絹香」

 

 かおりだ。

 

 確かに、そうだ。

 生徒会長である自分が統制していることであり、今日は午後の七時までの夜間活動が認められている。二十個ほどある文化部のうち、半数は申請を出していたと思う。

 

 無理……。

 絶対に無理。

 SS研はどの経路を使っても、二階の奥になる。

 そこに辿り着くには、活動をしている文化部の部室の前をこの恰好で通るということだ。

 絹香は必死で首を横に振り続けた。

 

「それと、いま絹香が入っているのは、適当な選んだ空ロッカーだよ。男子生徒が着替えをしているときに、声を出さない方がいいね。不審に思って開けられてしまうからね。また、このロッカーには鍵は閉めない。さっきも言ったけど、最後のひとりが部室を出たときに、遠隔で目隠しを外す。そうしたら扉に体当たりして、外に出るといい。フライングして、その前に逃げたら目隠しは外れないからね。それでもいいなら別だけど……」

 

 真夫が言った。

 絹香は気が遠くなりそうだった。

 

「じゃあ、そろそろ行くよ。それから、このゲームはもちろん時間制限がある。ただし、その制限時間は絹香次第だ」

 

 意味が分からなかった。

 しかし、ずっとお尻の穴に入ってた管から、冷たい液体が注入され始めた。

 絹香は驚愕した。

 

「んふうっ、んんんっ」

 

 さすがに悲鳴をあげる。

 

「静かにした方がいいよ。誰かに見つかりたければ、もっと大きな悲鳴をあげればいいけどね。それは浣腸剤さ。しかも、特別性のものでね。少量でもかなり効くと思う。それが三十分置きに一定量がお尻の中に注がれる。だから、ぼやぼやしていたら、貞操帯の中でうんちをしてしまうことになるということだ」

 

 なにかが貞操帯の横に装着された。

 重さを感じたので、もしかしたら、それは浣腸剤のタンクのようなものかもしれない。

 

「じゃあ、グッドラック。健闘を祈るよ」

 

 ロッカーの扉ががちゃんと閉じられる音がした。

 そして、部室の中から、真夫たちが出ていく気配も……。

 

 絹香は気が遠くなった。

 

 


 

 

 どのくらいがすぎただろうか……。

 

 絹香はいま、激しい便意と痒みの苦痛──。

 そして、いつ閉じ込められているロッカーの扉を開けられるのかという恐怖と戦っていた。

 

 真夫が宣言したとおり、この中で待っていると、すぐに野球部の部員たちがやってきて、着替え始める音が外から聞こえてきた。

 絹香は必死で息を殺した。

 

 どのくらい待てばいいのか……?

 

 十分?

 十五分……?

 

 しかし、野球部も一度に部員が戻ってくるわけじゃなく、後片づけをしていたり、グラウンドで話しこんだりしている者は遅れて来るようであり、この部室に外から誰かが入ってきたり、あるいは出ていったりという物音がずっと続いている。

 だから、いつここが空っぽになるのかという予想はまったくつかない。

 

 だが、絹香はそんなに長く耐えられないという予感がしてきた。

 待っているあいだに、疼痛のような便意がだんだんと大きくなってきたのだ。

 しかも、股間が痒い。

 泣きそうなくらいに痒い。

 しかし、この状況では腿も擦り合わせるということさえできない。

 そんなことをすれば、異変に気がついて、男子野球部の誰かが、思わぬ気まぐれで、ここを開けないとも限らないのだ。

 絹香は必死で耐えた。

 ともかく、ここが空っぽになれば、どこかでそれを監視している真夫たちが、目隠しを信号で外すのだ。

 それが合図だ。

 それまでは我慢するしかない。

 

 そのときだった。

 いきなり、また、股間の貞操帯の振動が動き出したのだ。

 

「んふっ」

 

 突然の刺激に、まったく備えていなかった絹香は、思わず高い声を洩らしてしまった。

 

 しまった──。

 全身からどっと冷汗が出たのがわかった。

 いまの声を聞かれただろうか……?

 

「……なんだ、いまの?」

 

 すると誰かが目の前で口にしたのが聞こえた。

 絹香は懸命に息を殺した。

 だが、いまだの股間の振動は続いている。

 しかも、意地悪なことに、だんだんと強くなっていく。

 絹香はこれ以上、声を我慢できそうになかった。

 息をする音も、どうしても荒くなる。

 

「んんっ……」

 

 また声が出てしまう。

 もう、終わりだ。

 絹香は絶望に襲われる。

 

「なんか、変だな……。息の音もするぜ」

「ここじゃねえか? このロッカーに誰かいるみたいだぜ」

 

 だんだんと絹香が閉じ込められているロッカーの前に人が集まってくるのがわかる。

 絹香の身体はあまりの恐怖にがくがくと激しく震えてしまった。

 

「あっ、また、音がした──。絶対に誰かいる。おい、開けろ──」

 

 強い口調の声がした。

 がんと手がロッカーにぶつかり、ばんと扉が開いたと思った。

 絹香の身体に手が伸び、誰かに引きずり出される。

 

「んふううっ」

 

 思わず座り込む。

 そのとき、いきなり目隠しが落ちて、明るい光が絹香の目に飛び込んできた。   



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 第70話  鬼畜ゲーム Ⅱ ・露出

 腕を掴んでロッカーから引きずり出された。

 

「いやああっ」

 

 絹香は絶望の悲鳴をあげて、その場に必死にしゃがみ込んだ。

 脚に目隠しが当たって、床に落ちる。

 ただの目隠しじゃない。

 端にワイヤーが編んであり、後ろの部分は留め具を差し込んで電子ロックのようになるものだ。それが外れて落ちたのだ。

 ただの目隠しにしては、相当に作り込んである器具だと思った。

 

 それはともかく、せめて顔を見られまいと思って、必死に顔を伏せた。

 だが、なんだか様子がおかしい……。

 女の子の笑い声だけが、すぐそばで聞こえる。しかし、ほかの声は聞こえない。

 顔をあげた。

 唖然とした。

 そこには誰もいなかった。

 がらんとしている。

 ただ、かおりだけが、すぐ横に立っていて、くすくすと笑っている。

 

「ん、んん?」

 

 「どういうこと」と言おうとして、それはボールギャグで阻まれた。

 とにかく、絹香は唖然とした。

 

「驚いた? つまり、こういうことよ。だけど、こんなことをよく思いつくわよね。しかも、ちゃんと準備したりして……。ああいうところは、あの真夫君もすごくマメなのよねえ。まあ、作るのは玲子だけど……」

 

 玲子?

 誰のことだろう……。

 

 しかし、かおりが絹香が閉じ込められていたロッカーを指さしたことで、思念は途切れた。

 そこには、小さな手の平ほどのラジオのような機械が磁石で張りつけてあった。

 かおりがその機械に触ると、突然に男子生徒たちの会話やざわざわとした喧噪が聞こえてきた。

 絹香は呆気にとられた。

 どうやら、最初から誰もいなかったようだ。

 目隠しをされていたので、すっかりと騙されていたのだ。

 ほっとするとともに、全身の力が抜けたようになってしまった。

 その絹香から、かおりがボールギャグを外した。

 ふと見ると、そのボールギャグも電子ロック式のものだ。

 

「ほら、腕を向けて。そのままじゃ、ドアも開けられないでしょう。ここで外してあげるように言われているのよ。とにかく、頑張って、SS研までやって来てね……。まあ、こんなことやってもらいたくて、真夫君をSS研に誘ったんでしょうけどね……。彼、とっても張り切っているわよ」

 

 かおりが絹香に背中を向けさせて、持っていた肩掛け袋から、小さな操作具を取り出した。

 金属音が背中で鳴って、ずっと密着していた金属の腕輪が外れた。

 

「ああっ」

 

 絹香はほとんど無意識に股間に手を持っていった。

 貞操帯の上から必死で股間を擦る。

 もう痒みは限界にまで達している。

 なにしろ、十五分か、二十分のあいだ、ずっと腿を擦り合わせることすら我慢していたのだ。

 

「う、ううう……」

 

 しかし、すぐに苦痛の呻き声をあげてしまった。

 ほとんどなにも感じないのだ。

 どういう構造になっているかわからないが、いくら上から押しても、揺すって動かしても、なにも触ってないかのように股間に刺激が伝わらない。

 さらに横から指を入れようとしても無理だった。ここにも細いワイヤーみたいなものが編んであり、指どころか細い棒のようなものすら入りそうにない。

 

「無理よ。わたしも、その貞操帯は何度も装着されたことがあるもの。その掻痒剤もね……。苦しいのも、本当にわかるけど、我慢するしかないわ……。その貞操帯は外からの刺激は完全に遮断されてしまうし、その痒み剤も特別性よ。掻いても痒みは収まらないわ。男の人の精液に混ざらないと中和されない成分になっているんだって。痒みを消したければ、真夫君のところにいって、犯してもらうしかないわね……。まあ、それとも、二日ほど経てば、痒みも消えるらしいけど……。そんなんでも、開発に億単位の経費がかかっているらしいわ」

 

 なんだか、かおりが気の毒そうな口調で言った。

 億単位?

 本当に……?

 

 そして、気がついたが、かおりの手首には、絹香が装着されているものと同じ金属の腕輪がある。

 また、同じような構造の金属のチョーカーも首に……。

 

「これ? あんたと一緒よ。真夫君の奴婢の印……。あの恵も同じものをしているわ。あんたも腕輪は貰ったしょう? 多分、犯した後で首につけるものをくれると思う。まあ、これはそのための遊びのようなものね……。いまは、とりあえず、これよ。こっちも真夫君の言いつけだから、悪く思わないでよね……」

 

 かおりは絹香の首に手を伸ばすと、かおりの首についているものとは異なる太い金属の輪っかを嵌めてしまった。それには、まるで犬の首輪のように一メートルほどの細い鎖が繋がっている。

 

「ね、ねえ、こんなことやめて……。い、いくらなんでも、SS研になんて行けるわけないでしょう。文化部棟にはいっぱい生徒がいるわ。裸でなんて行けない」

 

 懸命に訴えた。

 しかし、かおりは首を竦めただけだ。

 

「わたしになにを言っても無駄よ。わたしは真夫君の奴婢なの。あんたを許してあげる権利なんてないわ。まあ、あの恵なら、真夫君の恋人だから、いうことをきかせることくらいできるかもしれないけど、わたしたちじゃ無理ね。だったら、夜中まで待ったら。きっと、人はいなくなるわ。真夫君なら、こういうことに手間暇惜しむタイプじゃないから、きっと待っているわ」

 

 かおりは笑った。

 

「そ、そんなに待てない……。わ、わかっているでしょう。お、お腹が……」

 

 すでにさっきからごろごろとお腹が鳴っている。

 注がれている強烈な浣腸剤が猛威を振るっているのだ。

 こうやっているだけで、ちょっとでも油断すれば、お尻からなにかが出そうな感じだ。絹香は一生懸命に、お尻に力を入れ続けている。

 

「だったら、頑張るしかないわね……。だけど、あんただけが、こんなことをしているわけじゃないのよ。あたしだって、こんなことばっかり、やらされているんだから。わたしが授業に出るとき、いつもそれと同じ貞操帯を装着しているの知らないでしょう」

 

「えっ?」

 

 絹香は思わず言った。

 真夫が転入して来てから、その真夫の従者生徒になったかおりは、いまは絹香と同じクラスに編入になっている。

 だから、かなりの授業は一緒だ。

 この学園は、選択単位制だから、同じクラスだからといって、必ずしも全授業を一緒に受けるわけじゃないが、少なくとも、朝夕のホームルームは一緒にいる。

 そういえば、ときどき、びくりと身体を動かしたり、なにかを我慢しているような素振りをしていたような気もする。従者生徒になって、ちょっとどきっとするような短いスカートもはいているし、なんだか急に色っぽくなったような感じもしていた。

 絹香は驚いた。

 たが、教場で授業を受けているときにも、ひそかに淫具で辱しめられる……。

 想像すると、絹香の中に怪しい淫情が目覚めた気がする。

 

「ふふふ、想像した? 満更でもなさそう……。わかりやすいわね。そんなに乳首、大きくしちゃって」

 

 かおりが絹香の胸に手を伸ばした。

 絹香は慌てて両手で乳房を隠す。

 かおりはけらけらと笑った。

 絹香は赤くなってしまった。

 

「……まあいいわ。とにかく、我慢するのね。あっ、でも、あんたにとっては我慢じゃないか。マゾだものね……。いずれにしても、わたしたちは勝ち組よ。あの真夫君の奴婢になれるんだもの。そこら辺の御曹司の正妻になるよりも、ずっといいわ。わたしは運がよかったと思っている。絶対に真夫君から、もう離れないわ。そのためなら、なんだってするし、もっときれいになるように努力もする。役にも立てるようにならないと、捨てられるかもしれないし……」

 

「勝ち組?」

 

 絹香は首を傾げた。

 真夫は確か両親のいない孤児であり、養護施設の出身のはずだ。

 かおりのいう勝ち組とはどういう意味だろう。

 

「……あの坂本真夫君は、豊藤グループの御曹司なのよ。隠し子……。こうやって、女子高生の奴婢を集めているのは、その後継者になるための試験なのよ……。わかる? わたしたちは選ばれたのよ。彼に……」

 

 かおりが小さな声で言った。

 絹香はびっくりしてしまった。

 

 しかし、言われてみれば、しっくりくる。

 そもそも、なんの伝手(つて)もなく、財産家の子弟しか入れないようなこの学園に入れるわけがないし、しかも、いきなりのS級生徒だ。従者生徒だって、一流企業の娘である目の前の白岡かおりが就かされた。

 なるほど、この学園は、豊藤系列の学校法人だ。

 特別待遇だとは思っていたが……。

 

「わかるでしょう……? まあ、とにかく、お互いに競い合おうね。真夫君の寵愛がもらえるように……。そして、彼が後継者になるように協力しよう……。まあ、真夫君が後継者になっても、ならなくても、もう彼はわたしの面倒を看てくれるって、言っているけど、どうせなら、豊藤の後継者なって欲しいじゃない」

 

 かおりは言った。

 絹香は呆然とした。

 

 しかし、考える暇もなく、一緒に来なさいと言って、ぐいと首輪の鎖を引っ張っられた。

 

「ま、待って、や、やっぱり、外になんか……」

 

 絹香はたじろいだ。

 

「外にでなきゃどうするのよ。言っておくけど、男子野球部は今日は部外に行っているのよ。あと三十分もすれば、本当に戻るわよ。こんなところに、じっとなんかいられないんだから」

 

 ぞっとした。

 そう言われると、もういくしかない。

 片手で胸を隠し、片手は股間にやってついていく。いくら擦っても痒みは癒えないことはわかっているのだが、そうしないとすごせないのだ。

 また、だんだんと便意が強いものになっていく。

 

 そのときだった。

 

「あっ」

 

 絹香はその場でくの字に身体を曲げてしまった。

 新しい浣腸液がさらに追加になったのだ。

 お腹の苦しさが倍増する。

 絹香は懸命にお尻の筋肉を引き締めた。

 念のために腰の横を見る。

 やはり装着式の液体のタンクがそこにある。管のようなものが貞操帯の内部に繋がっていて、ちょっと触ったが、とても外れそうにもない。

 

「だ、だめ……。で、出る……」

 

「こんなところで出さないでよ。多分、真夫君に頼まないと、うんちもさせてもらえないと思うから……。言っておくけど、真夫君の奴婢は毎日、彼に見られながらうんちをするのよ。お尻だって、彼が拭くの。最初はびっくりするし、恥ずかしいけど、いまは逆に気持ちいいくらいよ。本当に支配されているんだって気になるんだから」

 

 かおりが思い出すように笑った。

 絹香は仰天してしまった。

 そして、かおりが絹香の首輪を引いたまま、廊下に出る扉を開ける。

 慎重に外を見ている。

 

「大丈夫よ。誰もいない。いまよ……」

 

 かおりが強い力で首輪を引っ張る。

 絹香はついていくしかない。

 廊下に出た。

 

 確かに廊下そのものには人はいないが、ずっと向こうの文化部棟に向かう渡り廊下の方向には、何人かの生徒がいる様子が見える。

 絹香は慌てて、身体を低くして身を隠す。

 かおりは渡り廊下とは反対側の二階にあがる階段の方向に向かった。

 そっちの階段をあがった二階にも、文化部棟に向かう渡り廊下はある。

 

 そのとき、がちゃんと音がした。

 びっくりしていると、鎖の反対側に留め具があり、それが廊下にあった自動販売機の金具に繋げられている。

 

「あっ」

 

 固定されたのだ。

 慌てて鎖を引っ張るけど、これも電子ロックだ。

 外れる感じはない。

 

「じょう、冗談はやめてよ。は、外して──。外してったら──」

 

 絹香は鎖を引っ張りながら言った。

 腰は可能な限り低くして、いまはしゃがみ込んだような体勢だ。

 

「真夫君からの伝言よ。最初の課題だって……。胸だけで達しなさいって……。そうすれば、その鎖の留め具は外れるらしいわ」

 

「そ、そんな──」

 

 絹香は愕然とした。

 こんなところで……。

 

「何度も言うけど、わたしはただの奴婢よ。あんたと同じ──。わたしにはなんの力もないから……。あの変態に盲目的に従うだけよ……。さっそく始めたら……? あっ、そうだ。どうしても無理なときは、これを使っていいそうよ。その貞操帯を振動させるリモコンよ。ただし、それにも仕掛けがあって、強くなる方には動くけど、弱くする方には動かないわ。一度ひねれば、SS研まで強いままよ。考えて動かしてね」

 

 かおりは、そのリモコンを絹香に握らせると、そのまま階段の方向に立ち去ってしまった。

 そして、あがっていなくなる。

 絹香は呆然とする。

 

 しかし、もうどうしようもないのだろう。

 とにかく、自動販売機の陰に隠れるようにして、両手で乳房を揉む。

 感じるが、排泄感が邪魔をして、快感があがるまでいかない。そもそも、胸だけでなんて、自慰のときだっていったことない。

 無理だ。

 絹香は泣きそうになった。

 

 今度は胸を揉みながら、貞操帯を力一杯、手で動かしてみた。

 でも、やっぱり刺激が股間に伝わらない。

 しばらく、もがいた。

 だが、とてもじゃないが絶頂なんて状況にはならなかった。

 すると、違和感を覚えた。

 

「えっ?」

 

 運動部棟の前にバスが近づく気配を感じたのだ。

 おそるおそる身体を沈めている体勢から、顔だけをあげて窓から外を見る。

 外はすっかりと陽が落ちていたが、あれは野球部のバスだ。

 絹香は確信した。

 そういえば、さっきかおりが野球部は部外活動だと言っていた。

 しばらくすれば、戻るとも……。

 つまりは、ここに来る。

 まだ、野球部の部室の目の前だ。

 しかも、バスが窓の外に停車した。

 ユニホーム姿の男子野球部の部員たちが、荷物を持って降り始める。

 愕然とした。

 

「だ、だめよ……」

 

 もう背に腹は変えられない。

 絹香は貞操帯の振動を動かすダイヤルをぐいと思い切り回した。

 凄まじい緊張感と猛烈な痒みに、貞操帯の淫らな振動が一気に伝わり、絹香の頭は一瞬にして真っ白になる。

 

 だめ……。

 強く、動かしすぎた……。

 焦って、回しすぎたのだ。

 

 慌てて戻そうとした。

 しかし、さっきかおりが告げたように、逆の方向にダイヤルは回らない。

 

「んふううっ」

 

 とにかく、お陰で、あっという間に達してしまった。

 その瞬間に、がちゃんと金具が外れる。

 外れたのは、鎖の先端の側だ。

 絹香は急いで鎖を集めると、それを束にして掴む。

 

 そして、階段の方向に……。

 だが、股間の振動が強くて、腰に力が入らない。

 しかも、それを狙ったように、三度目の浣腸液も……。

 

 そんな、早すぎる……。

 

 絹香は歯を喰いしばった。

 仕方なく、四つん這いのまま床を這って行く。

 

 階段に着く。

 必死になって手すりにつかまって、とにかく上にあがる。

 下の階に、どやどやと野球部がやって来たのは、絹香が辛うじて二階にあがる踊り場を越えたのとほぼ同じタイミングだった。

 絹香は二階に這いあがった。



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 第71話  鬼畜ゲーム Ⅲ ・下剋上

 掻痒感に襲いかかる貞操帯の振動に、絹香は腰が抜けたようになってしまった。

 

「う、ううっ」

 

 懸命に手で口を覆う。

 さもないと、声が出そうなのだ。

 脳天から突き抜けそうな気持ちよさに、絹香は完全に四つん這いの状態だ。

 真下では、たったいままでいた一階の廊下に戻ってきた野球部の男子が、どやどやと部室に向かっていくのが聞こえる。

 今度こそ、音のまやかしではない。本物だ。

 絹香は怖くてがくがくと震えてしまっていた。

 

 とにかく、SS研まで行かなければ……。

 絹香は階段を這い進む。

 しかし、手に持っている首輪の鎖がついつい床に当たって、何度も金属の音が鳴る。絹香はその度に、身体が凍りつくかと思うような恐怖に襲われた。

 

 やっと、一番上まで辿り着いた。

 一方で、激しい便意はもう限界になりつつある。

 必死で肛門の筋肉を締めつけているが、もう一瞬でも緩めれば中身が噴出しそうだ。

 もう、もたない……。

 

 幸いにも二階の廊下には誰もいなかった。

 だが、どの部室に人がいて、そこから誰かがいつ出てくるとも限らない。

 そうかと言って、ここにいても同じだ。

 もう進むしかない。

 迷っても無駄だ。

 絹香は決心した。

 

 しかし、貞操帯の振動はいまでも激しく絹香を責め続けている。

 立とうにも、両膝に全く力が入らない。

 仕方なく、そのまま四つん這いで進む。

 

 いずれにしても、自分でも気が狂わないのが不思議なくらいの恐怖だ。

 だが、一方で、絹香は自分が燃えたぎるほどの甘美感のうねりに襲われてもいることがわかっていた。

 

 このスリル……。

 この惨めさ……。

 この快感……。

 

 ほかの生徒のいるかもしれない学園の廊下を素っ裸で這う自分に、絹香は確実に酔っていたし、この極限の羞恥に神経が麻痺しかけてさえいる。

 実際のところ、貞操帯によって隙間なくきつく締めつけられているはずの股間からは、それでも抑えきれない股間の樹液が内腿をびっしょりと濡らしていた。

 

 やっとのこと、文化部棟に向かう二階の渡り廊下の手前まで辿り着いた。

 ここは、廊下の両側が、解放されたちょっとした休憩場所になっていて、いくつかの長椅子と飲み物などの自動販売機がある。

 絹香は、とりあえず、渡り廊下に面する扉の窓から、向こうの文化部棟を見た。

 

 絹香に絶望感が襲う。

 運動部とは異なり、向こうの文化部棟では、いまでもかなりの生徒が廊下にもいた。

 学園の文化部発表会は今月末であり、もう一箇月足らずである。

 運動部と掛け持ちの生徒もいて、そんな生徒たちも、いまの時期は発表会の準備で忙しい。

 平素よりもかなり多いのだ。

 そんな生徒で廊下は溢れている。

 

 無理よ……。

 真夫、助けてよ…… 

 許して……。

 

 絹香はここにはいない鬼畜男の名を必死で心の中で呼んだ。

 しかも、だんだんと便意は切迫して来る。絹香は目の前が真っ暗になる気持ちになった。

 

 そのときだった。

 

 運動部棟の二階の反対側の渡り廊下の扉ががらりと開かれる音がした。

 そして、かつかつと靴音を響かせて、誰かがこっちにやって来る。

 絹香は心臓が止まりそうになった。

 

 来ないで──。

 絹香は必死で祈った。

 

 だが、運動部棟の向こう側は、絹香も活動している生徒会室もあれば、職員用の施設などもある。生徒の各種委員会の部屋もあるし、教場棟も向こう側だ。

 従って、そっちからやって来たということは、運動部棟そのものに用事があるのではなく、文化部棟側に通り抜けようとしている可能性が高い。運動部の活動はもう終わりかけなので、いまこの棟に新たに用事がある者は少ないだろうからだ。

 すると、必ずここを通る……。

 絹香は今更ながら、ここではなく階段の横にあったトイレにでも隠れればよかったと思った。そうすれば、最悪個室に隠れているということもできただろう。

 漏らしても、貞操帯を水で洗うことだってできたかも……。

 

 しかし、もう無理だ。

 人が来る……。

 

 絹香は片手に貞操帯の操作具。片手に首輪に繋がった鎖を握りしめて、ただただ長椅子の陰で震えていた。

 足音がだんだん近づく。

 やはり、中央の一階に降りる階段には向かわずに、こっちの文化部棟に向かってきた。

 

 そして……。

 

 足音がすぐそばでとまった……。

 絹香は顔を伏せた。

 息を飲む声がした。

 

「お、お嬢様……?」

 

 その声に、びっくりして顔をあげた。

 そこにいたのは、絹香の従者生徒である双子のひとりの松野|梓(あずさ)だ。

 そう言えば、委員会で遅くなるとか言っていたっけ……。

 

「な、なにをしているのです?」

 

 梓は目を丸くしている。

 しかし、最悪の結果は免れた。ほんの少しの安堵も沸き起こる。

 

「な、なにって……」

 

 どう説明していいかわからない。

 

「だ、だって、こんなところで裸で……。服はどうしたのです?」

 

「……プ、プレイよ。う、ううっ……」

 

 仕方なく、そう言った。

 

「プレイ?」

 

 梓は唖然としている。

 しかし、絹香はさっと閃いたものがあった。

 

「お、お前、命令よ……。せ、制服を……、はあ、はあ……、ぬ、脱ぎなさい。わたしに……貸すのよ」

 

 そう言った。だが、少しでも油断すれば、振動で責め立てられている気持ちよさで、いやらしい声が出そうだった。絹香はそれを一生懸命に耐える。

 それはともかく、ここで梓の制服を借りれば、文化部棟の奥のSS研の部屋まで辿り着くことができる。

 その代わりに、梓は下着姿になるしかないが、それはいまの状況では仕方がない。

 

「な、なんで……」

 

 梓は困惑している。

 しかし、絹香は身体を両手で隠しながら梓を睨んだ。

 

「い、言うことを……きくのよ。さ、さもないと、お前の写真を……ネットに……ば、ばらまくわよ」

 

 絹香には従者でもある双子を調教して撮影したふたりの恥ずかしい写真が無数にある。そのデータはパスワードをかけて、寮のパソコンの中に保存している。あれがある限り、絹香の従者の双子は、絹香には逆らえないのだ。

 梓の顔がさっと蒼くなった。

 

「わ、わかりました……。で、では、トイレにでも……」

 

 梓は諦めたようだ。

 しかし、絹香は首を横に振った。

 

「い、いま、こ、ここで脱ぎなさい──」

 

 声を荒げた。

 もう限界なのだ。

 トイレになんて逆戻りしたくない。

 

「わ、わたしに服を貸したら、お前はトイレにでも隠れてなさい。あ、後で迎えに行くから──」

 

 本当に迎えに行けるかどうかは知らない。絹香だって、真夫の鬼畜な遊戯を強制されている最中なのだ。しかし、いまはなにを誤魔化してもいいから、梓の制服が欲しい。

 

「わ、わかりました……」

 

 梓は絹香のそばまで来ると、抱えていた荷物をおろして、制服のスカートと上着を脱ぎ始める。

 それを順に手渡してきた。

 従者生徒用の灰色の制服だがいまはどうでもいい。また、まだ一年生の梓は、絹香に比べれば、ちょっと小柄だ。だが、入らないことはないと思う。それもどうでもいい。

 

 絹香は梓の制服を着こんだ。

 首輪は目立たないように、上衣の内側を通して服の下側から出して隠し持つ。

 いまだに貞操帯は激しく動き続けている。

 最後に梓をちらりと見た。梓は長椅子の陰で小さくなって下着姿を隠している。

 

 とにかく、SS研に……。

 壁にもたれかかるようにして、必死に立つ。

 だが、振動で腰が抜ける。

 立てない……。

 

「あ、ああっ」

 

 絹香は崩れ落ちて、泣いてしまった。

 その瞬間、なぜか急に貞操帯の振動が止まった。

 梓がなにか声をかけた気もするが、絹香は考えることなく扉を開けて、向こう側に出た。

 

 渡り廊下を通り……、いよいよ、文化部棟だ。

 ほかの生徒たちが立ち話などをしている横をよろけるようにして通り抜ける。

 幸いにも、絹香であることに気がつく者もいないし、気に留める者もなかった。

 やっとのこと、最奥のSS研に着く。

 安堵のあまり脱力しそうになるのを我慢して、絹香は扉を開けようとした。

 

 開かない……。

 鍵が締まっている。

 なんで──?

 

『絹香、やっと、そこに来たね。だけど、残念ながら、俺たちはそこにはいない。君のことは監視カメラで見ている』

 

 耳から声がした。

 真夫の声だ。

 ずっとイヤホンを耳に入れっぱなしにされていたのだ。

 見回すが周囲には真夫たちはいない。監視カメラのようなものもない。

 しかし、少なくとも、この扉の向こうにいる気配もない気がする。確かに、向こう側には人気がない。

 

『……だけど、従者から服を取りあげるなんて反則だよ。これは絹香のゲームなんだからね……。とにかく、服は返しておいで。そして、さっきの梓の命令に従うんだ。本当のゴールの場所は梓が知っている』

 

 声が消えた。

 愕然とした。

 まだ、どこかに向かわされるのか……?

 そして、それよりも驚愕するのは、梓の命令に従えと指示を受けたことだ。

 この「遊び」にまさか、梓が関わっている?

 

 なぜ──?

 どうして──?

 

 しかし、迷っている暇はない。

 本当に洩れそうだ。

 

 絹香は仕方なく、さっきの廊下を逆に戻る。

 速足で進みたいのだが、もう、それもできない。

 絹香はなんとか、再びさっきの運動部棟の自販機の場所まで戻ることができた。

 

「来ましたね、絹香様……。いえ、絹香……。じゃあ、制服を返してもらいましょうか」

 

 梓は相変わらず下着姿で小さくなっていたが、絹香が戻ってくると、にやりと挑戦的な笑みを浮かべて、絹香を睨んだ。

 そのとき、絹香ははっとした。

 梓の両手首と首に、絹香の両手首にある者と同じ金属の輪が嵌まっていることにやっと気がついたのだ。

 さっき、かおりは、あれは真夫の奴婢の印だと言っていた。かおりにもあったし、かおりによれば、真夫は絹香を犯したときに、首輪についても嵌めるだろうと言っていたのだ。

 しかし、目の前の梓には、もう首輪がついている。

 まさか……。

 

 それにしても、梓はおかしい。

 たったいま、梓は絹香のことを呼び捨てにした。

 それは、いままであり得なかったことだ。

 

「早く、返してよ、絹香──。お前にはこれを準備しているわ。それを裸の上に来なさい」

 

 梓は荷からレインコートを取り出して、絹香に放り投げた。学園のものだ。

 だが、それよりも、梓の態度は信じられない。

 絹香は呆然としてしまった。

 

「早くしなさいよ。こうしてあげるわ。残り全部の浣腸液を流し込んであげる」

 

 梓はさらに荷から操作具のようなものを取り出し、ぐっとボタンのようなものを押し込んだ。しかも、押し続けている。

 

「んぐううっ」

 

 絹香は両手でお尻を押さえて崩れ落ちた。

 貞操帯の中でもの凄い激流となって、浣腸液がお尻の中に流れ込んできたのだ。腰の横に密着していたタンクがみるみる軽くなるのもわかった。

 

 梓がけらけらと笑う。

 そして、立ちあがると、絹香から貞操帯の振動の操作具を取りあげて、一気に全開までダイヤルを回したのだ。

 

「うはああっ」

 

 歯を喰いしばっても洩れ出る悲鳴が迸った。

 絹香は完全に脱力してしまった。

 そして、あっという間に達してしまう。

 

 出る……。

 もはや、便意に耐えることなどできず、完全にお尻を緩めた状態にしてしまった……。

 しかし、出ない。

 限界まで排便が襲っているのはわかるが、辛うじて貞操帯の直前でとまっているようだ。

 

「浣腸液はあたしが操っていたのよ。流すたびに、お嬢様が顔を蒼くするのが愉しかったわ……。ところで、その貞操帯は肛門栓にもなっているそうよ。本当はしたくても、貞操帯を外さないと出せないんだって」

 

 梓は笑い続ける。

 何がどうなっているか、さっぱりとわからないが、ともかく、この「鬼畜ゲーム」には、絹香の従者生徒であり、絹香の奴婢のうちの、少なくとも梓も関わっているということだ。

 

「ほら、返してったら」

 

 梓はうずくまっている絹香から制服を無理矢理に脱がせて、もう一度着る。逆らいたくても、力が入らなくて、まったく抵抗できない。

 絹香はまた貞操帯だけの素裸に戻った。

 投げられたレインコートを着ようと思うのだが、振動がきつくて指も動かない。

 

「んんっ、んんっ、んんんっ」

 

 ぶるぶると震えた。

 また、いきそうなのだ。

 絹香は股間を両手で押さえて、身体を弓なりにしてしまった。

 

「あらあら、さすがは、マゾの絹香ね……。ねえ、あたし知っていたんですよ。本当は絹香がマゾだってこと……。マゾなのに、あたしたちを調教して、エスの振りをしていたんですよね。だけど、もう終わり。これからは、あたしがご主人様です。渚(なぎさ)と絹香は、これからはあたしが飼育する。ちゃんと、真夫さんの許可は受けているし」

 

 梓は言った。

 ぐるぐると疑念が頭を走る。

 真夫の許可──?

 梓が、渚と絹香のふたりを飼育する──?

 そう言った?

 

 しかし、もうそれ以上考えられなかった。

 またもや襲いかかってきた絶頂感に、絹香はこの鬼畜ゲームで数回目になる昇天をしていた。

 

「んふううっ」

 

 慌てて片手で口を押さえたが、それでも大きな声が迸った。

 すると、突然に股間に振動が静止した。

 絹香は脱力した。

 そして、顔をあげると、梓はさっき振動を全開にした操作具とは別の操作具を手にしていた。それで振動をとめたのだとわかった。

 もう完全に確信するしかなかった。

 真夫は、この梓に絹香をいたぶることを指示して、さまざまなものを手渡しているのだ。

 

「さあ、行きましょう。排便をさせてあげます。そして、真夫さんのところに連れて行きますね」

 

 梓が絹香に浸けられている首輪に繋がっている鎖を握る。

 そして、ぐいと引っ張って強引に立たせた。

 

「んぐうっ、ひ、引っ張らないで──」

 

 絹香は悲鳴をあげた。

 とにかく、よろけながらも必死で立つ。そのとき、慌ててさっきのレインコートを掴んだ。

 

「ま、待って、梓──。も、もっと、ゆっくり……」

 

 絹香は哀願した。

 だが、梓の嘲笑が戻ってきた。

 

「絹香のために急いでいるのよ。そんな恰好、誰かに見られたんですか」

 

 梓は足を遅くする様子はない。

 いまだに腰に力の入らない絹香は、へっぴり腰になりながらも、懸命に歩くしかなかった。

 また、歩きながら、渡されていたレインコートを着る。

 

「あっ」

 

 思わず声をあげた。

 意地の悪いことに、コートのボタンは全部切断されていたのだ。

 仕方なく、両手で前を押さえるようにして歩いた。

 

 梓は絹香を反対側の渡り廊下まで連れて行き、そこから外の階段で一階に絹香をおろした。

 そのまま、棟の後ろの裏の広場のような場所に向かった。

 外はもう夜だが、学園内は防犯灯がたくさんあり、暗闇ではない。

 

「ど、どこに……?」

 

 絹香は喘ぎながら訊ねた。

 だが、返事はない。

 やがて、物置の陰のような場所に着いた。

 そこにも防犯灯があり、その真下には大きな穴が開いていた。

 また、その防犯灯の柱に金具が取り付けられていて、そこにはその金具にぶら下がった手錠があった。

 さらに、防犯灯の穴に向けられているビデオカメラが三脚で立てられている。しかも、前後に二台。

 

「ほら、穴を跨いで立つのよ」

 

 レインコートを剥がされて、どんと押し出された。

 なにをさせられるのかがわかって、さすがに絹香は逃げようとした。

 

「いやあ」

 

 しかし、数歩進んだところで、突如としてまたもや貞操帯の振動が襲いかかった。

 腰を落としてしまって、ふと見ると、梓が操作具を手に持っている。それを動かしたのだとわかった。

 

「世話のやけるいままでのご主人様ねえ……。もう、観念しなさいよ。絹香が、本当はマゾだったことは、モニターでもわかったわ。売店でオナニーしたときは、本当にのぼせちゃってたじゃないのよ。気持ちよかったんでしょう? なんだかんだといっても、こうやって侍女のあたしに苛められることで興奮しているんでしょう」

 

 梓はそう言いながら、絹香の腕を掴んで引き戻し、強引に立たせて、両手首を防犯灯にぶら下げらた手錠に嵌めてしまう。

 もう絹香はカメラの前から逃げられなくなってしまった。

 穴は真下にあるので、どうしてもそれを脚で跨ぐような体勢になる。

 

 それにしても、さっきの梓の言葉……。

 いままでずっと虐げていた梓に、鬼畜に苛められて、確かに絹香は興奮していた。

 それは事実だった。

 絹香の身体は便意のおこりとも、振動による気持ちよさとも異なる、嗜虐の悦びに激しく打ち震えもしていた。

 

 惨めだ。

 しかし、この惨めさがいい。

 嫌がりながらも、逃げられない鬼畜……。

 絹香はまるでなにかに酔っているような朦朧とする心地に襲われていた。

 

「さあ、始めようか」

 

 梓がカメラのスイッチを入れる。

 そして、荷からまたもや操作具を出した。

 

 カチリ──。

 

 貞操帯の背後で電子音が鳴った。

 締められていた貞操帯が緩むのがわかった。

 

「ご開帳──」

 

 梓がお道化た口調で手を伸ばして、貞操帯を引っ張った。

 振動を続けていた貞操帯が離れるとともに、お尻に刺さっていた浣腸液の管も抜ける。

 

「ああああっ」

 

 絹香は泣き声をあげた。

 瞬時に液便がお尻から噴流して、固形物とともも真下の穴に向かって流れ落ちたのだ。それだけでなく、勢いのある液便は背後の防犯灯の柱にかかって汚しもしている。

 

「だめねえ、ちゃんと穴にも入れられないの、絹香お嬢様?」

 

 梓がわざとらしく揶揄する。

 絹香は興奮で打ち震えた。

 やがて、やっと排便が終わった。

 排便だけでなく、おしっこもしたが、そのすべてを撮影されてしまった。

 

「さあ、身体を洗ってあげるわ。絹香が汚した柱もね。だけど、その前に言いなさい。あたしたちの写真を開くパスワードを──」

 

 梓はカメラのスイッチを切ると、物置の横の水道からホースを伸ばしてきた。これもあらかじめ準備をしていたのだろう。

 絹香は項垂れたまま、双子の痴態の写真データーのフォルダのパスワードを口にする。

 

「ありがとう。じゃあ、それはすべて消去するわね。新しくいまの映像データを別のパスワードを使って保存するわ。それがある限り、絹香お嬢様は、あたしのペットよ。真夫さんは、絹香を奴婢にするつもりのようだけど、あたしの飼う雌犬にもするわ。いいわよね──。これも知らなかったと思うけど、実は渚もあたしのペットなのよ。これからは、絹香お嬢様もね」

 

「はい……」

 

 絹香は小さく言った。

 密かな、心からの悦びとともに……。



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第12章 双子【絹香、松野 梓、松野 渚】
 第72話 【回想】少女たちのSとM


 (あずさ)(なぎさ)の父は、実業家だったそうだ。

 もっとも、梓は、ほとんど家に戻ることがなかった父のことは、なにも覚えていない。

 その父は、その事業に失敗をして、自殺をした。

 梓たちが小学校一年生のときだ。

 

 遺ったのは、母と、双子の娘と、多額の借金だけだったそうだ。

 それ以外のものは、住んでいた家を含めて、すべて借金の抵当に入っていた。

 母は父の死のことよりも、生命保険に掛ける金さえも事業の運転資金に回していた父の遺した借金のことで途方に暮れたようだ。

 なにしろ、父のかなりの借金の先は、闇金といわれるところだったのだ。

 

 母は、財産家でもない親族に頼ることもできず、かといって、母自身にはなんの力もなかった。

 母は大学の在学中に梓たちを妊娠したために大学中退をしていて、資格も能力もない、ただの専業主婦であり、その母には借金を支払うなんの力もなかったようだ。

 それで、母が思いついたのは、知人であった、ある財産家の女性に借金の肩代わりをお願いすることだ。

 闇金への借金を返す金を貸してくれと土下座をしたのだ。

 随分と虫のいい話だが、その女性は夫と相談のうえ、応諾すると伝えてきたそうだ。

 それだけでなく、屋敷に双子の娘とともに、家政婦としてだが暮らしてもいいと……。

 つまりは、借金を代わりに払ったうえに、生活の面倒まで申し出てくれたのだ。

 

 ただし、それには条件があった。

 

 その条件というのが、どんなものかは知らなかったが、梓はずっと後でそれを知ることになる。

 いずれにしても、それが西園寺家との出会いだ。

 

 西園寺家の主人は、西園寺寿太郎(じゅたろう)、当時五十二歳──。

 母が借金の肩代わりを申し出た女性は、西園寺摩耶(まや)、当時四十八歳──。

 そして、梓たちの母は、松野多恵(たえ)、当時二十八歳──。

 

 それが、その三人の関係の始まりだ。

 

 そして、母とともに西園寺家の屋敷にやってきた梓と渚は、そこで、西園寺家のお嬢様と初めて出会った。

 西園寺絹香──。

 梓たちよりも二年上の小学校三年生。

 そのとき梓は、なんてきれいな女の子なんだろうと思った。

 まるで人形のように美しい……。

 絹香に対する最初の印象はそれだった。

 そして、絹香は外見だけでなく、とても優しい少女だった。

 勉強もでき、才能もあり、なにをしても失敗をせず……。

 まさに、完璧ないい子……。

 でも、たったひとつだけ困った性質があった……。

 

 それが絹香という少女だった。

 

 


 

 

 借金の肩代わりをしてもらった家政婦と、その連れ子としての生活だったが、梓と渚の生活は、むしろ父が存命中よりも、ずっと恵まれたものになった。

 通っていた小学校は西園寺家の伝手(つて)で、絹香の通う有名私立小学校に編入になったし、勉強や生活に必要なものは、すべて絹香と同様のものを与えられた。

 ほかの家人たちも優しくしてくれたし、なによりも西園寺家の夫婦や絹香もまた、梓たちのことを本当の家族のように親切に接してくれた。

 

 母の多恵もまた、そんなに惨めな生活はしていなかった。

 夫婦の身の回りのものを専門に世話をする役目を与えられたため、ほかの家政婦よりも、夜の仕事の時間が長かったように見えたものの、その代わりに昼間などは簡単な雑用しかやらないし、時にはまったく仕事がなさそうな感じだった。

 それで給料がもらえて、不自由のない生活ができるのだから、闇金に追い立てられて、もしかしたら一家心中でもしなければならなかった立場としては随分と恵まれた境遇だ。

 

 それは、後日、母がどんな条件で、この生活を手に入れたかということを知ってさえも、そう思っている。

 母も梓たちも、西園寺家には随分と大切にしてもらった。

 それは、母が西園寺家の夫婦にとって、なくてはならない役割を果たしていたからだ。

 

 


 

 

「ねえ、自慰って知っている?」

 

 突然に絹香から、そんなことを訊ねられたのは、屋敷で生活をするようになって一年ほど経ったときで、小学校二年生のときだ。

 絹香は四年生、十歳だ。

 もちろん知らなかった。

 

「オナニーともいうのよ。だったら、教えてあげる。一緒にやるのよ」

 

 そして、誰にも内緒だと念を押されて、渚も加えて三人でやることになった。

 三人で、スカートとパンツを脱いで、絹香の指示に従い、股のところに指をやって、気持ちよくなるまで揉むのだ。

 最初はなんとも感じなかったが、しばらくすると、なんだかほんわりしたように身体が熱くなり、ぼうっとして気持ちよくなってきたのを覚えている。

 絹香は、そんな梓たちの姿を写真に撮り、これは絶対に内緒の秘密だと言った。

 もしも、誰かに喋ったりしたら、あんたたちも、あんたのお母さんも、ここに住めなくなるからね──。

 と、怖い顔で言った。

 

 梓は、ここに住めなくなるということよりも、あの絹香があんなに怖い顔をするということにびっくりしてしまった。

 もちろん、誰にも言わなかった。

 それから、絹香は以前よりも増して、梓と渚に優しくなった。

 自分が必要なくなった高価な服やアクセサリーも、どんどんくれるし、絹香に対して、誰かが持ってきたお土産や贈り物も、いつも双子に分けてくれた。

 その代わり、三人で隠れてのオナニーごっこは、かなり頻繁にやったりした。

 

 最初にエクスタシーを覚えたのは、秘密の遊びを開始して、二箇月くらいしてからだと思う。あのときは、おしっこでも洩らしたのかと思って、びっくりしたのを覚えている。

 

 やがて、自分でやるよりも、三人でやりあっこをした方が、ずっと気持ちいいと絹香が言い出し、三人で相手の股間を刺激し合うようになった。

 絹香に梓たちが手で刺激したり、逆に絹香が双子に刺激したりだ。

 あるいは、梓と渚でお互いにすることもあった。

 いまにして考えると、絹香は自分が絡まないときには、必ずデジカメで梓たちの写真を撮影していたように思う。

 

 一方で、梓は自分がやられるよりも、梓の指で絹香や渚が気持ちよさそうにすることに、なんともいえない愉悦を感じるようになっていた。

 確かに、絹香の言う通り、オナニーよりも興奮すると思った。しかし、それは絹香の言葉のままじゃなく、梓は自分がエクスタシーをするより、ほかのふたりが梓によって、エクスタシーに達するのが愉しかったのだ。

 

 ともかく、梓たち三人の少女の淫らな秘密の行為は、かなり長く続いた。

 

 


 

 

 やがて、転機が訪れた。

 

 それまで、「秘密の遊び」は夜のことであり、そして、必ず絹香の部屋のことだった。

 それ以外の場所では一度もやったことがない。

 しかし、あのとき、絹香は、今度は外でやりたいと言ってきたのだ。

 三人で外に遊びに行き、こっそりと隠れてやろうと……。

 すでに三人は中学生になっていて、絹香は中学三年生で、梓たちは一年生だった。

 

 絹香は自分の計画をとつとつと語りだした。

 向かうのは、電車に乗った先の隣町の県立図書館だという。

 図書館には、ほとんど誰も来ないような書庫の場所があるのだそうだ。すでに探してきており、そこで三人でスカートの中に手を入れてやり合うのだ。

 あらかじめ下着は脱いで鞄に入れておく。

 声が出たら困るので、口に噛むハンカチも準備する。

 絹香は、喜々として自分の計画を説明した。

 さらに、絹香の妄想は続いた。

 それが成功したときの次の目標はこれをすることで、そして、こんなこともやってと、絹香の計画は呆れるようなほどの妄想の垂れ流しであり、梓は唖然とした。

 

 そのときの絹香の表情は、明らかに恥ずかしい目に遇う自分を想像して、欲情しているときのものだった。

 梓はこのとき、はっきりと絹香の本当の性癖を知った。

 絹香はマゾだ。しかも、露出狂の……。

 さらに、ひそかに、さっきの「計画」とやらが破綻して、自分が羞恥のどん底に陥ることさえ期待している……。

 梓たちを誘うのは、ともに三人で汚れることをこいつは夢見ているのだ。

 ぞっとした。

 

 渚は大人しくて、絹香に言われたら断れないタイプなので、もじもじするだけで、返事はしないままだった。

 だが、梓ははっきりと断った。

 あれは外でやるものじゃないし、万が一、誰かに見られたら、取り返しのつかないことになると……。

 

 絹香と会って初めて、絹香に逆らったときだった。

 だが、彼女は怒るでもなく、ともかく、梓が断ったということに驚いている感じだった。

 「誰かに見られるから嫌なの? 大丈夫よ」と言う絹香に、「見られないとしても、外でやるのが嫌なんです」と答えると、絹香は本当に目を丸くしてびっくりしていた。

 その日はそれで終わった。

 

 絹香もそれ以上、なにも言わず、あんな話など、なにもなかったように、それからも同じような関係が続いた。

 夜のオナニーごっこだけは、毎日の儀式のように三人の中で続いていた。

 

 しかし、その一箇月後のことだった。

 

 絹香が再び、例の図書館での計画の話を持ち出したのだ。

 梓は当然に断ったが、今度は絹香の物言いが違っていた。

 断れば、梓と渚の写真をふたりの母親である多恵に見せるというのだ。

 かっとなった。

 梓は、そんなことをすれば、絹香もとんでもないことになる。そんなことはできないと怒鳴った。

 絹香と口争いを始めた梓に、渚はただただ、おろおろしていた。

 

 すると、絹香曰く、梓たちの母親の多恵は、おそらく、それを絹香が見せても、絹香の両親にはなにも言わないだろうというのだ。

 だから、絹香は叱られることもないし、なにかが変わるわけじゃない。

 ただ、梓と渚が実は破廉恥な娘だったということを多恵に知られるだけだと絹香は言った。

 

 そして、隠していた袋から別の写真を見せた。

 渚とともに、唖然とした。

 

 それは裸で縛られている母親の多恵の写真だった。

 十枚ほどだったが、赤い紐で縛られて、蝋燭を垂らされたり、首輪をつけられて四つん這いになったりしていた。身体にぴったりした革の服に身を包んだ絹香の両親に前後から責められているような写真もあった。

 隠して撮影されたもののようであり、写真はあまりきれいには撮れていなかった。

 だが、紛れもなく、絹香や梓たちの親の写真だった。

 

「知らなかったと思うけど、あなたたちのお母さんは、わたしのお父さんとお母さんの性奴隷なのよ。お母さんは、多恵さんが性奴隷になることを条件に、借金を肩代わりしたの」

 

 絹香は言った。

 愕然とした。

 

 おそらく、当時の絹香の知識では、あの三人の本当の関係のことはよくはわかっていなかったかもしれない。

 ただ、絹香は当時の知識で、少しずつ知り得たことを整理して、そう三人の関係を類推したようである。

 もちろん、西園寺家の夫婦が、多恵のことを絹香に教えたわけでもなく、おそらく、いまのいまですら、三人のことを娘たちが知っているということは想像もしていないと思う。

 

 だが、梓たちは、母親がこの絹香の両親の共通の性奴隷であるということを知った。

 

 しかし、実際には多恵が西園寺夫婦に酷く虐待されていたとか、そんな簡単な関係ではない。後で知り得たことも含めて整理すると、こういうことだ。

 

 そもそも、梓たちの母親の多恵と、西園寺摩耶は、女同士の百合セックスの関係だったらしい。それがどういうきっかけだったかまでは知らないが、母は父が生きていた頃から、絹香の母親とそういう間柄だった。

 だから、もしかしたら、なんとかしてくれるのではないかと思って、ダメ元で借金の肩代わりを頼みに行ったのだ。

 そして、西園寺摩耶はそれを承諾した。

 条件は、多恵が夫婦生活に加わり、夫婦の共通の性奴隷として、性の相手をすることだ。

 よくはわからないが、ふたりはそういう性癖であり、ふたりきりでは夫婦はうまくいかないのだが、多恵のような立場の者がいると、心の底から快感を得られる時間を送れるのだそうだ。

 こうして、多恵がふたりの夫婦生活に加わる生活が始まった。

 ほとんど破綻してした西園寺家の夫婦の性愛も、多恵がやってきたことで活発になり、円満さを取り戻したそうだ。

 それはいまも続いていて、いまだに三人は、とても円満な関係を継続しているとのことだ。

 これらのことは、三人の寝室に仕掛けた盗聴機や隠しカメラ、あるいは、家人たちの内緒話に聞き耳を立てたりしてわかっていった。

 親たちの寝室に盗聴機や隠しカメラを仕掛けたのは絹香だ。

 彼女は、ああいうプレイをこっそりと見るのが大好きなのだ。

 このアブノーマルな好色さは、すべてに完璧な絹香の唯一の困ったちゃんだ。

 

 もっとも、そのときは、ただ写真に圧倒され、母親はこの家の夫婦に完全に嗜虐されて、虐げられているのかと思ってしまった。

 いずれにしても、絹香のいうとおり、多恵に写真を示しても、多恵が西園寺夫婦になにかをできるとも思えなかった。

 そして、絹香は、やると言ったら本当にやりそうだ。

 梓と渚は、絹香の「命令」に従った。

 

 


 

 

 それを境にして、絹香の「遊び」はどんどんとエスカレートして、梓たちの秘密の写真は、絹香の膨大なコレクションになっている。

 もはや、あれがある限り、梓たちは絹香の奴隷だ。

 

 絹香は中学校を卒業して、この学園に入ったため、毎日の嗜虐はなくなったが、その代わり、週末に戻ったときには、かなりの過激なプレイを強いるようになった。

 さらに、梓たちが高校に入る年齢になると、この学園に絹香の従者生徒として入学することを申し渡されて、いまに至っている。

 

 だが、いまでは当然にわかっているが、あの絹香はどうしようもないほど好色だ。しかも、梓たちに破廉恥な行為を強いるわりには、マゾなのだ。

 その昇華することのできないマゾの性癖を発散するために、逆に梓たちに、自分がして欲しいことを強いるというわけだ。

 

 梓にはわかっている。

 

 そして、あの転機のとき、もしも、梓が断らなかったら、あるいは、三人の関係は、違うものになっていかたかもしれない。

 絹香は自分の性癖の発散を梓たちに求め、自分が奴隷のように恥ずかしいことをさせられるような関係に誘導していったかもしれない。

 絹香はすべてを計画通りにやる頭のよさを持っている。絹香がそうしたいと考えれば、遅かれ早かれそうなったと思う。

 

 だが、梓は断り、絹香は梓にさらなる遊びを強要するために、脅迫によって、梓と渚を「性奴隷」にしなければならなくなった。

 そして、そうした。

 そういうことなのだ。

 

 最初の「計画」だって、絹香がやりたいことをするのに、双子が付き合うということであり、双子だけがやらされるというものではなかったのだ。

 しかし、一箇月に修正された「計画」により、梓と渚だけが図書館の中で二人で手で愛し合わされ、その姿を絹香に撮影された。

 

 もっとも、いずれにしても、梓はともかく、渚に絹香の「ご主人様」は無理だったろう。

 彼女は根っからの「エム」だ。

 たから、いまでは、梓の調教するペットでもある。

 渚とそういう関係になったのは、絹香から過激な「プレイ」をさせられるようなってすぐだ。

 そして、梓は、絹香に「調教」されたあと、すぐに、今度は梓が「ご主人様」になって、渚を「調教」するようになった。それは、梓の心の平静を保つために必要なことだった。さもなければ、耐えられなかった。

 絹香の本当の性癖が「エム」であるように、梓の本当の性癖は「エス」だったのだ。そんな自分が、「エム」として扱われる。

 そんなことは我慢できなかった。

 だから、絹香にやられたあとで、渚をいたぶる行為をした。

 渚は逆らわなかった。

 渚は根っからの「エム」だ。

 そんな渚が、絹香の激しいエムの欲求を満足させることのできる「エス」になれるわけがない。

 

 とにかく、この学園のS級寮で、絹香と梓と渚の生活が始まって二箇月──。

 寮で絹香が梓たちに求めるプレイは、だんだんと歯止めのようなものがなくなっているような気がしていた。

 

 


 

 

 そんな矢先だった。

 S級生徒として、絹香の前に現れたばかりの坂本真夫という三年生の生徒が、玲子という理事長代理とともに、梓だけを呼び出して、生活指導室に呼び出したのは……。

 

 絹香にも、渚にも知られないように工夫して、ふたりは梓だけしかいない時間を狙って、接近してきた。

 ほんの数日前のことだ。

 

「これはあなたね?」

 

 玲子という理事長は、笑みひとつ浮かべない厳しい表情で、一枚の写真を見せた。

 梓は驚愕した。

 

 


 

 

 それは、西園寺家の家人のひとりと、梓が性行為をしている写真だった。

 家人の中でも、妻も子もいる男であり、彼とそういう関係になったのは、一年ほど前だった。

 中学校三年生の修学旅行で、梓たちの学校は、ある国に海外旅行に行ったのだが、そのとき渚が交通通事故に遭い、現地の病院にしばらく残るということがあったのだ。

 そのとき、その男が西園寺家の主人に指示されて、必要な手続きや現地に残った渚と梓の面倒を看るためにやってきた。さもないと、遠い外国で双子だけになってしまう。

 入院している渚は当然として、梓もまた病院に介護人の名目で寝泊りをして残留していたのだ。

 

 その男は屋敷にいるときとは異なり、梓とふたりきりになると、随分と馴れ馴れしく接してきた。

 そして、多恵と絹香の両親の関係のことを知っているようであり、それを仄めかしながら、西園寺夫婦に飼われる性奴隷の娘は、やはり性奴隷の素質があるのだろうなと言ってきた。

 ぶん殴ってやろうかと思ったが、梓は自ら求めて、彼に身体を許した。

 どうして、そうしたのか、いまもってわからない。

 

 だが、母親が性奴隷……。

 その言葉に激しく内心で反応してしまったのは記憶している。

 母親は西園寺家の夫婦の性奴隷で、娘たちは西園寺家の娘の性奴隷……。

 それを指摘されたようで、梓は表には出さなかったが、沸騰するような怒りの感情に襲われた。

 渚はなんの問題も感じていないようだったが、梓はそんなのは許せないと思った。

 母親のように、誰かに支配されて生きるなど嫌だ。

 梓の頭には、童女時代、梓の指に翻弄され、泣いたように悶える絹香の姿がある。

 あれこそが、あるべき姿であり、いまの関係は違う……。

 梓の中の誰かがそう訴える。

 

 だが、いまの梓は、やっぱり絹香の支配だ。

 そう思うと、なにもかもぶち壊したくなった。

 

 そして、思った。

 目の前の男に抱かれれば、なにかが変わるのではないか……?

 絹香の知らないところで、絹香とは無関係に処女を捨てる。

 そのことで、絹香の人形から抜けられる。

 思いつくとぞくぞくした。

 これをきっかけに、再び元の関係に戻れるようにさえ思った。

 

 だから、抱かれた。

 つまり、あれは、絹香への反乱だったのだ。

 

 そいつは、梓が生娘だったことに、ちょっと戸惑ったみたいだった。

 中学生を抱いといて、処女だったことに驚くこともないものだと、笑いたくなった。

 

 そして、それから、その男との関係が続けていた。

 面倒なので嫌なのだが、拒否するとしつこいし、乱暴なこともする。それで入れるのを許しているだけだ。

 

 


 

 

 真夫と玲子のふたりが示した写真は、絹香とともに先週に週末を利用して屋敷に戻ったとき、屋敷の中であいつに抱かれたときのものだ。

 それがどうして、彼らが入手できたのか、そもそも、あれをどうやって撮影したのか、いまでもまったくわからない。

 

「君は選択肢をあげる。いずれにしても、この男は玲子さんに頼んで、西園寺家にはいられなくしてもらう。それについては心配しなくていいし、君はなにもできない。次に西園寺家に戻ったときには、その男はいない。それだけだ」

 

 真夫は言った。

 梓は驚いた。

 この真夫は、絹香と話しているときに、梓たちもそばにいたことがあるが、どちらかというと大人しいような感じで、こんな喋り方をするタイプじゃないと思っていたのだ。

 そのときの真夫は、とても堂々としていて、ちょっと怖くて、そして、魅力的だった。

 

「だ、だったら、なにを……?」

 

 梓は言った。

 

「君がある条件を承諾するなら、この写真はどこにも出ない。君の双子の姉妹である渚に知られることもないし、絹香にも教えない。無論、君の親にも……。だけど、拒否すれば、その全員にこの事実が知られることになる。君は不純異性交遊という不名誉な理由により学園を退学になるかもしれない」

 

「条件とはなに?」

 

 梓は溜息をついた。

 そのときには、出された条件がなんであれ、従う気になっていた。

 

「君は俺に犯されて、俺の奴婢になる。その代わりに、同じように奴婢にするつもりの絹香を君の性奴隷にしてあげよう」

 

 真夫は言った。

 梓は耳を疑った。

 だが、本当──?

 しかし、断る理由はない。

 絹香が梓の性奴隷……。

 まさに、あるべき姿だ。

 

 そして、あの男を梓の前から消してくれ、さらにその秘密は守られる……。

 絹香も好きなようにさせてもらえる。

 なにが、どうなっているのか、さっぱりとわからない。

 ただ、言えるのは、これは梓にとって、ものすごく「おいしい話」だということだ。

 

「いつ犯すの?」

 

「いまだよ」

 

 真夫は立ちあがると、向かい側の椅子に座っていた梓をテーブルに引っ張りあげて、自分もまたあがってきた。

 

「真夫様、隣室で待機をしております。ご用があったらお呼びを……」

 

 立ちあがった理事長代理の玲子をそのときの真夫は呼び止めた。

 

「だめですよ、玲子さん。玲子さんは、俺たちのセックスを眺めながら、そこで自慰をしてください。命令です」

 

 真夫は梓の制服を脱がしながら、鬼畜な笑みを浮かべてそう言った。

 梓はぞくぞくしてしまった。

  

「は、はい」

 

 玲子は裏返った声で返事をすると、倒れるようにばたんと椅子に座り込んだ。その顔は真っ赤だった。

 たったいままで、冷徹そうな女に見えていたから、その少女のような反応には、驚きよりも、可愛いなときゅんとなってしまった。

 

「さあ、始めよう。終われば、君は俺の奴婢だ。奴婢の象徴として、この金属の首輪と腕輪を嵌める。俺が、君を支配する証だ」

 

 真夫は脱いだ自分のブレザーのポケットから三個の金属の輪を取り出した。

 そのとき、ふと見えた。

 真夫の奴婢の証だという金属の輪が、しっかりと玲子の首にも嵌まっていたのだ。

 

 そして、真夫に学園の生活指導室の机の上で犯された。

 

 生まれてはじめて、梓は、セックスでエクスタシーを感じた。

 また、その横で玲子は可愛らしく、オナニーで絶頂していた。

 

 


 

 

 そしていま、運動部棟の裏の倉庫の後ろで、素っ裸になって、防犯灯の柱に拘束されている絹香が目の前にいる。

 真夫は約束を果たしてくれた。

 

 彼が絹香を「調教」する光景も、玲子に呼ばれて、学園内の監視カメラの映像で見ていた。あの生活指導室の裏には、隠しカメラのモニター室のようなものがあったのだ。

 映像の中の絹香は、いやがっているわりには、真夫の鬼畜な命令に酔っていた。新しいご主人様を見つけて、このエムは悦んでいる……。

 梓には、はっきりとわかった。

 

「ありがとう。じゃあ、それはすべて消去するわね。新しくいまの映像データを別のパスワードを使って保存するわ。それがある限り、絹香お嬢様は、あたしのペットよ。真夫さんは、絹香を奴婢にするつもりのようだけど、あたしの飼う雌犬にもするわ。いいわよね──。これも知らなかったと思うけど、実は渚もあたしのペットなのよ。これからは、絹香お嬢様もね」

 

 梓は目の前の絹香に言ってやった。

 

「はい……」

 

 絹香は項垂れながらも、はっきりとそう答えた。

 これで、あるべき関係になった。

 梓は心の底から思った。

 

 そして、梓は水道で周囲を掃除し、絹香の身体を洗った。

 このエムは、梓にお尻や脚を洗われてよがり、侮蔑したような言葉をかけられて悶えた。

 そこには、西園寺家のお嬢様としての姿も、学園の生徒会長としての姿もなかった。ただの変態だ。

 

 梓は絹香に頭からホースで水をかけてやった。息ができないくらいに顔に連続にかけ、胸に、股間に強い圧力で水を飛ばす。

 

「あっ、ああっ、や、やめて」

 

 拘束されて避けられない絹香は、必死で哀願した。

 だが、梓は、一方で、絹香がどうしようもなく興奮していることを見逃さなかった。

 

 梓は洗い終わると、絹香から外した貞操帯を装着し直した。ただし浣腸栓のパーツだけは外した。

 そして、手錠を外す。

 

「ほら、片付けなさい。いやがったら、裸のまま、ここに放り出すわよ」

 

 倉庫からショベルを出して、絹香に投げた。

 絹香が、びしょ濡れのまま、自分の汚物の入った穴を埋め始める。

 梓は、操作具で貞操帯の振動を作動させた。

 

「あ、ああっ、そ、そんなあ」

 

 絹香ががくりと腰を落とした。

 

「馬鹿みたいな声を出して、ここに人を呼びたいの? さっさとやりなさい、牝犬」

 

 梓はさらに振動を強くする。

 

「ん、んんんっ」

 

 絹香が泣きそうな顔になり、腰を引いて、膝を震わせた。

 それでも、必死でショベルを使い続ける。

 

 その姿は、みっともなく、惨めそうで、哀れで……。

 

 そして、誰よりも可愛かった。

 とても、とても、愛らしかった。



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 第73話  鬼畜ゲーム Ⅳ ・散歩

 素っ裸に革の貞操帯だけという煽情的な恰好の絹香を、(あずさ)は首輪の鎖を引っ張りながら歩かせた。

 絹香が、遮断されている股間とお尻に塗られている掻痒剤の苦しみに悶えだすのに、いくらもかからなかった。絹香は乳房を片手で隠し、もう一方の手で貞操帯の股間に拳を必死になって押しつけるようにして、中腰で歩いている。

 よくは知らないのだが、あの貞操帯はどんなに強い刺激を与えても、中には伝わらないのだという。しかも、絹香が塗られている薬は、いくら掻いても痒みは消えず、男の精液……しかも、ただの精ではなく、真夫の精液でしか中和できないように調合されているのだそうだ。

 洗い落としても無駄らしい。

 もう、真夫に犯してもらうしかないということだ。

 

 ちょっと眉唾だが、まあ男の精液でないと中和できないというのは本当だろう。

 あんなものでも、数億、数十億以上の資金がかかっているということであり、梓はさすがの豊藤財閥の力には、舌を巻く気持ちである。

 それにしても、あの転校生の先輩が豊藤の総帥の隠し子とは……。

 聞かされたときには驚いたが、いまは納得する思いだ。

 絹香にこんなことをさせるなど、なかなかの鬼畜さだ。

 梓など、ただ真夫の指示する駒のひとつとして動いているだけだ。

 愉しいけど……。

 

「お、お願いよ、梓……」

 

 後ろをついて来る絹香が泣くような声をあげた。

 梓は学園の教場隊舎の方角に向かっている。

 すでに外は真っ暗だが、まだ電気のついている教場もいくつかあるのだ。文化部発表会は文化部が主体なのだが、各教室で出展をするグループもいる。そういうメンバーは、こっちで準備をしているのだ。

 文化部と同じように、いまの時期は遅くまで準備をすることが認められている。

 そこに近づいていることに、絹香は途方もない不安を覚えているに違いない。

 

 マゾの露出狂のくせに……。

 梓は、鞄に入れている絹香の貞操帯の操作具のダイヤルをぐいと捻った。

 

「んふう、んんんっ」

 

 絹香が膝をがくりと崩して座り込んだ。

 貞操帯の内側の振動を一気に限界まであげてやったのだ。

 だが、すぐに切る。

 痒みで苦しませるためだ。

 絹香はすぐには立てずに、肩で息をして四つん這いのような恰好で震えている。

 

「ふたりきりのときには、あたしのことは“梓様”と呼ぶのよ、絹香──。その代わり、あたしも、ほかの人の前では、お前を“お嬢様”とか“絹香様”と呼ぶわ。ただし、その分、お前をあとで折檻もするけどね。いいわね」

 

 梓は怒鳴った。

 

「は、はい……。あ、梓様……」

 

 絹香がよろよろと立ちあがりながら、か細い声で言った。

 梓は、凄まじい淫情が頭のてっぺんに駆けあがるのを感じだ。

 その悄気返った絹香の姿に、梓は途方もなく欲情した。

 なんという哀れでかわいらしい絹香だろう……。

 その姿を目の当たりするだけで、いきそうだ。

 

 駄目だ……。

 

 この絹香を好きなように嗜虐して、これほどまでに貶めている。

 その愉悦に、どうにかなりそうだった。

 梓は、改めて、この絹香を自分が愛しているのだと思った。

 梓特有のやり方と心情でだか……。

 

 梓は我慢できなくて、衝動的に自分のスカートに手を入れて、下着をその場で脱いだ。

 本当は自分の股間を舐めさせたかった。その代わりに下着を口に入れさせようと思ったのだ。

 やっぱり、股間の部分は信じられないくらいにびっしょり濡れていた。

 梓は、その下着を絹香の足元に投げた。

 

「犬──。罰よ。それを口に咥えて歩きなさい。四つん這いでね。逆らえば、明るい場所に首輪の鎖を結びつけて置き去りよ」

 

 絹香がぶるりと震えた。

 あまりもの恐怖と羞恥で一瞬、目まいのようなものを起こしたに違いない。

 だが、同時に欲情もしたのを梓は見逃さなかった。

 

 絹香は貞操帯の隙間から漏れ出ている愛汁が足の内側を伝って、絹香の脚の指まで垂れているが、いままた、全身が真っ赤になって股間の汁が溢れ出たと思う。

 とにかく、すごい濡らしようだ。

 その姿は、学生舎の裏庭にある防犯灯に煌々と照らされている。

 一方で、梓は絹香を嗜虐することに、途方もなく興奮していた。虐められて、情けない姿の絹香はまさに美しい。

 

『そっちに人が来るわ。灯かりの下から離れて……。そこの樹の後ろに隠れるといいわ。もしも、見つかりかけたら、こっちで対応するから』

 

 梓の耳に入っている受信機から指示の声が聞こえた。

 これは玲子だ。

 

 こうやって、さっきから梓は、絹香を羞恥責めにするにあたって、誰かが近づいたり、見つかったりすることがないように、細かい指示を受けながら行動をしている。

 玲子が、あの生活指導室の奥にあるモニター室で周囲の生徒の動きなどを確認しながら、こうやって指示を送ってくるというわけだ。

 絹香は、裸で学園を歩き回る恐怖と戦っていると思うが、実は監視システムの粋を極めた管理により、かなり安全に「プレイ」をしているということだ。

 

 それにしても、本当に真夫というのは何者だろう。

 豊藤グループの後継者候補というのは教えてもらったが、あの理事長代理の美女をこんなプレイに顎で使うとはすごい。

 しかも、玲子は真夫に命令を受けるのがとても嬉しそうだ。

 梓自身も、まだ僅か数日だが、真夫から離れられない感情に陥っている自分を感じる。

 

「ほら、おいで、雌犬」

 

 梓は梓に下着を咥えさせられて、四つん這いになった絹香を導いて、防犯灯とは離れている樹木の陰にやってきた。

 すると、教場棟から、B級生徒であることを示す制服姿の女子生徒が二名出てきた。

 絹香がびくりとして、その場にひれ伏すようにうずくまる。

 だが、向こうは明るくて、こっちからよく姿が見える反面、明るい向こうからは、光の照らされていないここは見えにくいものだ。

 梓は絹香の狼狽が面白くて、悪戯を仕掛けることにした。

 

「もしも、あたしの下着を落としてごらん……。さっきの排便姿をネット公開よ」

 

 さっきの貞操帯の操作具を出して、貞操帯の内側の淫具を振動させる。

 

「んっ」

 

 絹香ががくがくと震えるのがわかった。

 必死になって声を我慢しようとしている。

 手を口に押し当てて、泣きそうな顔になった。

 梓はぞくぞくした。

 その必死の絹香の姿に、下着をつけていない梓の股間から、つっと汁が流れたのがわかった。

 梓もまた、スカートの上から自分の股間をぎゅっと押さえてしまった。

 やがて、女子生徒は見えなくなる。

 

 玲子からも、もう大丈夫だという言葉とともに、さっき女子生徒が出てきたドアから、棟の中に入ってくるように指示があった。

 同時に、真夫の指示として、入ったところに水筒があるので、中身を一滴残らず絹香に飲ませろとも言ってきた。

 なにか知らないが、真夫のことだ。

 さらなる悪戯を考えているに違いない。

 

「出発よ、犬」

 

 梓は絹香の首輪の鎖を引っ張った。

 教場棟に向かう。絹香が諦めたように四つん這いで着いて来る。口にはさっき梓が脱いだ下着だ。

 しかし、さすがに絹香が途中でおじけづいたように足を竦ませた。

 向かっているのが、まさに、明るい教場棟の方角とわかったからだろう。

 

「んんんっ」

 

 口に下着を咥えているために、言葉を喋れない絹香が顔色を変えて首を横に振った。

 しかし、強引に引っ張って連れていく。

 絹香は結局、大人しくついてきた。

 

 真夫の言うとおりだった。

 絹香は最終的には、サディスティックな命令には逆らえない。本質的にマゾなのだからだと真夫は言ったのだ。

 真夫のいうとおりだと梓も思うが、真夫は絹香と出逢ったばかりのはずだ。それなのに、完全に絹香の隠れた本質を見抜いているというのはすごいと思った。

 

 教場棟に入る。

 果たして、そこに一本の水筒が床にあった。

 梓は、絹香の口から下着を取りあげて、水筒を渡す。

 

「飲みなさい、十秒以内」

 

「な、なに、これ?」

 

 絹香は呆気に取られている。

 

「九、八、七……」

 

 梓は秒読みをする。

 絹香は慌てて飲み始めた。

 だが、喉が渇いていたのだろう。

 あっという間に飲み干してしまった。

 梓は、空になった水筒を荷にしまって、絹香に咥えさせていた下着も荷に入れた。

 この水筒の飲み物にどんな仕掛けがしてあったのかわからない。

 それを絹香に喋らせようと思ったのだ。

 

『……いいというまで、そこで待機……。指示に従って、三階まで上がってきて……。いえ……。は、はい……。それと絹香さんを置き去りにして、怖がらせろというご指示よ。適当な場所に鎖を繋いで』

 

 玲子の声──。

 玲子があんな物言いをするのは、そばに真夫がいるか、あるいは、真夫が玲子に指示を送っているかだ。

 それにしても、真夫はつくづく鬼畜だ。

 本当にぞくぞくするくらいに……。

 

 すぐそばには階段があるが、確かに、二階側に話し声が近づいている。

 絹香は泣きそうな顔をしている。

 彼女にも、その声は聞こえているはずだ。

 緊張で心臓が爆発しそうだろう。

 

 梓は絹香の首輪の鎖を、階段の手すりに金具で固定する。

 絹香がはっとした顔になった。

 

「ちょっと、おしっこしてくるね。それまで、愉しんでいいわ」

 

 梓は貞操帯の振動を動かしてから、さっとその場を離れた。

 

「ま、待って──。そ、そんな──」

 

 絹香が必死の口調で呼び止めようとした。

 しかし、そのときには、梓は絹香から見えない側に曲がってしまっている。

 離れさせていく足音をわざとさせながら、実際にはその場にとどまる。

 絹香が鎖を外そうとしているのか、がちゃがちゃという鎖の当たる音がする。だが、すぐにしなくなった。

 その代わりに、もっとも、絹香の殺したような息の音が響くように聞こえてくる。

 恐怖に襲われているような感じだが、それはそれとして、興奮もしているようだ。

 かなり、鼻息が荒い。

 

 やれやれ……。

 さすがは、マゾの変態お嬢様だ。

 

 かなりしばらくしてから、二階に登って来いという玲子の指示が来た。

 すでに二階からの話し声はない。

 

 梓は遠くから戻ってきた振りをして、絹香の前に戻った。

 絹香は階段の下で隠れるように、身体を小さくしていた。

 だが、様子がおかしい……。

 両手を股間にあてて、小刻みに震えている。痒みのせいというのもあるが、それだけじゃない気がする。

 しかも、とても辛そうだ。

 さらに、梓がやってきたというのに反応が薄い。

 

「気分はどう?」

 

 とりあえず声をかけた。

 

「あ、あんた……。い、いえ、あ、梓様……」

 

 絹香が汗びっしょりの顔を向けた。

 その眼には涙が溜まっている。

 

 そして、はっとした。

 この仕草は……。

 

「おしっこがしたいの?」

 

 梓は笑った。

 さっきの水筒の水に違いない。

 裏庭で排便をさせたときに、おしっこもしていたので、こんなに急激に尿意を覚えるというのは、利尿剤があれに含まれていたに違いなかった。

 さすがは、真夫だ。

 笑ってしまった。

 

「行くわよ。ついて来ないと、また置き去りよ。今度は人が来るかもしれないわね」

 

 梓は鎖を手摺りから外して、階段の上に引っ張る。

 絹香は四つん這いで着いてい来るが、その顔は苦しそうだ。

 

「あ、梓様、お、お願いします……。ト、トイレに……。あ、あの……、お、おしっこが……」

 

 絹香は脚を震わせながら言った。

 

「あたしは行ったばかりだもの。まだ行きたくないわ。お前は奴隷になったんだからね。お前じゃない。あたしの都合に合わせるのよ。さっさと歩きなさい。洩らしたら、口で始末させるからね」

 

 それだけを言った。

 絹香は歯を喰いしばって、階段を上っていく。その顔は悲痛だ。余程に強い利尿剤なのだろう。

 それにしても、貞操帯の中の痒みとともに、今度はさらに尿意の苦しみまで与えるとは、あの真夫は、本当に根っからの(エス)だ。

 だが、鬼畜であることには、梓も負けてはいられないと思う。

 梓は必死になって階段をあがっていく絹香をもっと追い詰めるように、操作具を出して、何度も振動の“オン”と“オフ”を繰り返す。

 絹香はそのたびに、脚をよろけさせながら、食い縛る口から甘い声を迸らせた。

 

 やがて、絹香の脚の震えはとまらなくなった。

 汗は滝のようになり、三階まで昇る階段には、絹香の流した汗の痕が点々と続いた。だが、梓には、そこに汗以外の体液がかなり滴りもしたようにも思えた。

 

 そして、三階に着く。

 指示を受けたところは、三年生の教場だ。

 絹香や真夫のクラスルームのはずだ。

 絹香がそれに気がついてはっとしている。

 

「ここは……」

 

 ぎょっとしている。

 そのとき、消灯していた目の前の教室の灯かりがついて、がらりと中から人が現われた。

 

「ひっ」

 

 絹香が羞恥に身体を竦める。

 

「来たわね、絹香さん。どうだった? 真夫ちゃんの鬼畜ゲーム。ここがゴール地点よ」

 

 出てきたのは恵だ。

 梓も知っている竜崎事件で襲われた真夫の恋人であり、とてもきれいでかわいい人だ。その彼女がいる。

 

「聞くまでもないわ。お愉しみよ……。そうでしょう、絹香?」

 

 さらに、かおりだ。

 ここで待っていたらしい。

 

「あ、あのう……。あたしは……」

 

 梓は慌てて挨拶をしようとした。

 真夫の女という立場で会っているのは、まだ玲子だ。あとは、間接的にふたりも真夫の女だと教えられただけだ。

 もちろん、ふたりのことは知っている。

 同じS級寮にいるのだ。

 だが、絹香の従者生徒の梓は、ふたりとまともに口をきいたことはない。

 

「よろしく、梓ちゃん」

「やっほう」

 

 恵とかおりがにっこりと笑って、それぞれ自分の首にある金属の輪に手を触れた。

 真夫の女である証しの首輪だ。

 つまりは、真夫と身体の関係があり、これからも真夫だけを一緒に愛すると誓っている女たちということだ。

 梓は、絹香については、ここで真夫が犯すことになると聞いている。

 真夫もここにいるのだろうか……。

 すると、その真夫が教場側から出てきた。

 

「ここがゴールだ、絹香。頑張ったな──」

 

「あっ、真夫……さん」

 

 絹香は真夫のことを呼び捨てで呼んでいたが、もはや、その気にならなくなったのだろう。

 その真夫が絹香の腕を掴んで立たせ、教場に引っ張り込んだ。

 

「ここが最後のプレイの場所だよ。すでに支度はできている。ミーティングデスクでね。明日から、ここでミーティングをするたびに、今夜のことを思い出すよ、絹香」

 

 真夫が絹香を連れて行ったのは、六個ほどある白い台のような大机だ。

 ここはクラスルームと呼ばれている教場であり、実際の授業のときとは違う場所である。朝と夕方の会をクラスで各班ごとにミーティングディスクについてするのだ。

 一年生の梓の教場にも同じものがあるからわかる。

 絹香は、そのうちのひとつに、無理矢理にあげられた。

 それには、片側の端に四個の革ベルトが事前に取り付けてあった。

 

 真夫はふたりの女に手伝わせて、まずは絹香を仰向けに寝かせると、絹香の両手を伸ばすようにして、内側の革ベルトに手首を拘束してしまう。さらに絹香の胴体をテーブルに縄で固定する。

 絹香は抵抗しなかった。

 抵抗しようにも、力も入らない感じだ。

 梓も手伝って、絹香を拘束していく。

 

「あ、ああっ、そ、そんな……」

 

 そして、絹香は、両脚を抱えられて頭側に曲げられ、その外側の革ベルトに足首を繋げられた。

 脚を頭側に曲げて腰を上に向けさせられた姿勢だ。

 いわゆる「まんぐり返し」の恰好だ──。

 絹香はその体勢で動けなくされてしまったのだ。

 女として、これほどに羞恥の姿勢はないだろう。

 

「さて、貞操帯を外してあげるよ。つらかっただろう」

 

 真夫が携帯電話のようなものを操作した。

 金属音がして、絹香の貞操帯が外れたのがわかった。

 貞操帯が絹香の腰の下から引き抜かれる。

 

「あ、ああ、ま、待って──。べ、ベルトを外して……。ね、ねえ、下ろして……。ま、真夫さん……、わ、わたし、あの……」

 

 絹香がやっと我に返ったように、狼狽えだした。

 多分、なによりも激しい尿意のためだと思う。

 絹香はそれを訴える間もなく、テーブルに固定されてしまったのだ。

 

「わかっているよ。おしっこがしたいんでしょう。最後のゲームをクリアできたら、トイレでおしっこをさせてあげるよ」

 

「ゲ、ゲーム?」

 

 絹香が怯えている。

 今度は、なにをさせられるのかと思って、恐々しているようだ。

 

「うん、簡単なゲームだよ。絹香にはもうひとりの侍女生徒がいるよね。(なぎさ)ちゃんのこと──。彼女をここに呼び出すんだ。彼女が辿り着いたら、おしっこを普通にさせてあげる。拘束を解いてね……。だけど、我慢できなかったら、絹香は恥ずかしいおしっこ姿を撮影される……。梓、撮影係をよろしく」

 

 真夫が言った。

 

「任せてください」

 

 梓は手提げからビデオカメラを取り出した。

 さっき、絹香の排便姿を撮影した二台のうちの一台だ。

 

「そ、そんなあ……。そんなに我慢できない。も、もう、洩れそうなの」

 

 絹香が悲鳴をあげた。

 しかし、かおりが準備していた絹香の携帯電話を操作して、絹香の口のところに持っていく。

 

「絹香の頑張りが勝つか。それとも、渚ちゃんが間に合うか……。これが本当の『走れメロス』ゲームさ。自分がやらさせるとは思わなかったでしょう?」

 

 真夫がうそぶいた。

 数日前、『走れメロス』ゲームという嗜虐を、梓は絹香からやらされていた。

 どうやら、真夫はそれを知っていたようだ。

 いつから、梓たちは真夫たちに監視されていたのだろう……?

 

『はい、お嬢様……』

 

 電話は音を周囲に出すモードになっている。今回のことについて渚はまだなにも知らない。

 梓もなにも言っていないし、真夫もまだ手を出してはいないと言っていた。

 その渚の声が電話から響いた。

 

『す、すぐに来て。教場棟のわたしの教場よ。できるだけ、急いで──』

 

 絹香が電話に怒鳴るように叫んだ。



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 第74話  鬼畜ゲーム Ⅴ ・破瓜

「あ、ああっ、だ、だめ、漏れちゃう……。お、お願い……」

 

 絹香が脂汗を流しながら、身体を痙攣させている。

 縄で胴体をミーティングテーブルに縛りつけられて、両手だけでなく、両脚を頭側に折り曲げられて縛られている絹香の股間は天井を向いていた。

 この状態で放尿をすれば、間違いなく尿は噴水のように上にあがり、絹香の全身を汚すことになるだろう。

 真夫は、その状態の絹香をほかの女とともに、テーブルを囲んで見守っている。

 

(なぎさ)がここに、やって来るまでに、どんなに急いでも二十分はかかるかな? うまく、巡回バスを捕まえられれば、半分くらいの時間で来れるかもね」

 

 ビデオカメラを絹香の顔側から構えている(あずさ)がからかいの声をあげる。

 絹香をサディスティックに責めることができて、心の底から嬉しそうだ。

 一方で、絹香は、さすがに、尿意に襲われたまま、女として最も恥ずかしい恰好にされるという仕打ちに、震えるぐらいの羞恥に襲われているのがわかる。

 それだけじゃなく、股間の掻痒剤は、もはや限界を通り越して、狂いたくなるくらいになっているはずだ。それをこうやって、なにも刺激されずに、放置されて眺められるのは、死ぬほどつらいと思う。

 だが、それでも絹香はどうしようもないほどに、欲情もしている。

 

「絹香、君は恥ずかしければ、恥ずかしいほど、心が痺れたようになって感じるんだよ。そうだよね」

 

 真夫は絹香の股間に鼻がくっつくほどに近づいて、ささやいてあげた。

 

「ああ、そ、そんなあ……。は、離れて……離れて……」

 

 絹香は消えいるような哀願の声を出したが、その股間はびっしょりだ。

 それだけじゃなく、真夫の視線が密着したことで、どんどんと汁が溢れてくる。さらに、息遣いが荒くなり、ますます全身が紅潮してくる。

 また、いつでも崩壊しそうな尿意の我慢をしている股間に密着されて、本当に悲痛な表情だ。

 

「ねえ、裸で学園を歩かされてどうだった、絹香? すごく興奮したよね? 正直に言ってごらん」

 

 真夫はそう言いつつ、操心術でほんの少しだけ、絹香の心の(たが)を外した。正直な欲望を口にしやすくさせたのだ。

 ただし本当に少しだけだ。

 心の改変は行っていない。

 

「……あ、ああ、こ、興奮した……。し、死ぬほど、恥ずかしいけど、こ、興奮した……。か、身体が熱くなって……」

 

「こうやって、見られると気持ちよくなるよね……? そういうのなんて呼ぶの?」

 

「ろ、露出狂……。ああ、わたしは……た、多分、露出狂で……。み、見られると……は、恥ずかしいけど……、こ、興奮もして……。も、もうだめ……。で、出ちゃう……。ほ、解いて……。ま、真夫さん……、解いて……」

 

 絹香が泣くような声で言った。

 しかし、自分で恥ずかしいことを口にしているというシチュエーションに、限りなく欲情しているのも事実だ。

 絹香の股は、知らずもじもじと動いている。

 媚薬の影響もあるが、夥しい樹液が溢れ出ている。

 

「自分の侍女に苛められるプレイはどうだった?」

 

 真夫は、かおりちゃんに持って来させて、指にアヌス調教用のゼリーをたっぷりとつけると、お尻の穴にすっと指を挿し入れた。

 

「あっ、ひぐうう」

 

 絹香が絶叫した。

 だが、必死の形相で、歯を喰いしばって尿意を堪えたようだ。

 そんな必死の表情を眺めていると、真夫はさらに淫靡な気持ちが込みあがり、絹香をもっと追い詰めてあげたくなる。

 つくづく、自分も変態だと思う。

 

「質問をしているんだよ……。答えないと、こうだよ」

 

 真夫は絹香の股間をぺろりと舌でひと舐めした。

 

「んぎいいっ、だ、だめえええ──。こ、興奮しました──。うっ、うっ、ううっ」

 

 絹香が呻いた。

 それとともに、がくがくと身体を震わせて、白い喉を仰け反らせた。

 面白いのは、足首から先が激しく上下左右に動くことだ。面白い我慢の仕方をするものだと思った。

 

「一生懸命に我慢してね、絹香……。もちろん、漏らしたりしたら、相応の罰があるよ……。そうだな。また、段ボールの刑にしようかな。明日の放課後、SS研の前に段ボールに入れて放置だ。素っ裸でね。痒み剤とローターつきだ」

 

「真夫さん、それとさっきの貞操帯をさせてもいいですか? 授業のあいだ、一年の教場から遠隔で振動をさせて、苦しめてあげたいんです」

 

 梓がビデオカメラを回しながら、声をかけてきた。

 絹香の痴態と恥ずかしい告白は、すべて記録に収められている。

 

「いいとも……。もっとも、かおりちゃんにも同じものをつけるから、そっちも連動するけどね」

 

「な、なんで、わたしもなのよ──」

 

 かおりが真っ赤な顔で抗議した。

 

「いいわねえ、かおり。明日も苛めてもらえて……。あたしは大学に行くから、車の運転中は危ないしなあ……」

 

 あさひ姉ちゃんが残念そうに言っている。

 

「戻ったら、ちゃんとあさひ姉ちゃんも調教するよ。ちょっと、ハードな責めを考えていてね。あさひ姉ちゃんは実験台になってもらうつもりさ」

 

 真夫は言った。

 

「うっ」

 

 実験台と聞いて、ちょっとだけあさひ姉ちゃんの顔色が蒼くなる。

 

「いいわねえ、恵。明日も苛めてもらえて」

 

 かおりちゃんがすかさずさっきの反撃をした。

 

「あ、ああ、も、もう、漏れるうう……。さ、触らないでえ──」

 

 絹香が必死の声をあげた。

 真夫の指はずっと絹香のお尻の穴に入り込んでいるのだ。そして、ずっとお尻の穴をほぐす動作を続けている。

 絹香のお尻にも、掻痒剤を塗っているので、そこを弄られる気持ちよさは腰が抜けるほどのはずだ。

 だが、そのおかげで、とても尿意を耐える力を入れ続けることなどできないくらいの愉悦が走っているだろう。

 しかし、絹香はよく耐えている。

 

「……じゃあ、なんとか渚ちゃんが来るまで我慢できるように、気を紛らわせてあげるよ。かおりちゃんとあさひ姉ちゃんは、準備しているものを持って来て」

 

 真夫は言った。

 すぐに、ふたりは水筆を持ってきた。絹香の上半身の両側につく。

 

「絹香、これからやるゲームを説明するね。ふたりが順番に絹香の身体に水筆で“字”を書くからね。それを当てるんだ。正解しなかったら、股間を五舐めするよ」

 

 真夫は言った。

 絹香は悲痛な声をあげた。

 

「始めるわね……。まずは、こんなのはどうかな……」

 

 かおりちゃんが、絹香の無防備な脇の下に、さっと筆を動かした。手先を見ていると、平仮名で“あ”と書いたようだ。

 

「ああっ──」

 

 絹香が身体を激しくくねらせて絶叫した。

 

「ははは、当たりいい」

 

 かおりが大笑いしている。

 真夫も苦笑した。絹香はただ悲鳴をあげただけだ。

 

「じゃあ、あたしはこれよ……」

 

 あさひ姉ちゃんが真夫の目くばせに小さく頷き、絹香の乳房の上に、三本の線を書いた。しっかりと、絹香の勃起した乳首を震わせるくらいに、筆を強くなぞっていだ。

 

「んんんんっ──。さ、三──。漢数字の三──」

 

 絹香が叫んだ。

 

「残念。川でした──」

 

 あさひ姉ちゃんが明るく言った。

 

「そ、そんなの卑怯──」

 

 絹香が悲痛な声を出す。

 

「約束の罰ゲームだ」

 

 真夫は顔を屈めると、舌で絹香の肉芽をぺろりと舐める。

 

「んふううっ」

 

 絹香が暴れた。

 構わず、どんどんと舌を動かして刺激を加える。

 おしっこをかけられることは覚悟していたが、案外に粘って絹香は尿意に耐えきった。

 大したものだと思った。

 

「じゃあ、次ね」

 

 かおりが反対側の胸に筆を動かし始めた。

 

「ふううっ、うっ、ううっ、ゆ、許して、も、もう……、ううっ」

 

 絹香が身体を跳ねさせながら呻く。

 そして、ぼろぼろと涙をこぼしだした。

 余程につらいに違いない。

 

「“ふ”じゃないわ……。じゃあ、真夫君、罰」

 

 しかし、かおりは容赦ない。残酷に罰の宣言をする。

 真夫は再び五回股間を舐めた。

 結局、絹香は五文字目までは頑張ったが、六文字目には至らなかった。

 五文字目で答えられずに、真夫が絹香の股間を舐め終って、顔をあげた瞬間に、しゅっという音まで聞こえるような激しさで、尿を迸らせた。

 

「あ、ああ、も、もう指を動かさないでええ──」

 

 絹香が悲鳴をあげた。

 筆文字とその罰としての舌舐めの一方で、真夫はずっと絹香のお尻を指でほぐし続けていたのだ。お尻を弄られながら、おしっこをするのは嫌なのだろう。

 だが、もちろん、真夫が許すわけもなく、お尻に指を入れて淫らな責めをいまだに続けている。

 また、まんぐり返しのための真上を向いている絹香の尿道は、真上に放尿を飛ばし、おしっこを絹香の全身に浴びせ続けている。我慢しすぎて余りにも勢いが強いので、高く上がった放尿は、さらけ出している股間だけでなく、腹や乳房、真っ赤になっている顔にまでびしょびしょと飛び散った。

 もちろん、真夫もおしっこでびしょびしょだ。

 尿道から出た尿が上から下に落ちて、無毛の亀裂からお尻の穴を洗い流すように激しい流れが作られる。

 思わず声をあげたくなるような圧巻の光景だ。

 

 絹香が号泣し始めた。

 その顔は限界を越えた羞恥と屈辱のために歪んでいる。

 だが、一方で、操心術で覗ける絹香の心は、激しい解放感と恍惚感で包まれてもいる。

 圧倒的な恥辱が絹香の心を麻痺させ、持ち前の被虐心に増幅されて、みんなの前で噴水のように放尿する羞恥が、彼女の中に大きな快感を作っているのだ。

 

「すごい」

「うあっ」

 

 一方で、かおりちゃんとあさひ姉ちゃんは、さすがにさっと離れた。

 ビデオを動かし続けている梓は、絹香の噴水のような放尿と、それをする絹香の顔をしっかりと撮影し続けている。

 

 そして、放尿が終わった。

 あさひ姉ちゃんとかおりちゃんが戻って来て、手際よく飛び散ったおしっこを拭いていく。

 梓も撮影を終えて、それを手伝い始めた。

 絹香は泣き続けている。

 しかし、その股間からどんどん愛液が増えてくるのをしっかりと真夫は気がついていた。

 

「じゃあ、いよいよだよ」

 

 真夫は下半身を脱いで股間を露出させると、さっきのゼリーを男根に塗りたくる。

 そして、テーブルにあがり、たったいままで指でほぐし続けていた絹香のアナルに、怒張の先端をそっと触れさせる。

 

「や、やああっ、そ、そこはいくらなんでも」

 

 絹香が真夫の意図に気がついて、腰を動かして抵抗する。

 

「絹香は肉奴隷なんでしょう? それにこっちにも精を注がないと痒みはとれないよ」

 

 真夫はしっかりと、両側から掴んで絹香の腰を固定した。

 一方で、かおりちゃんとあさひ姉ちゃんと梓に、絹香の上半身を責めるように命令する。

 すぐに、かおりちゃんとあさひ姉ちゃんが乳房を両側から舐め、口の中と首や耳を梓が舐め始めた。

 絹香が拘束された身体を激しく悶えさせ始める。

 

「いくよ──。息を吐いて──。抵抗すると苦しいだけだ」

 

「そうよ、絹香さん、真夫ちゃんは上手だから、すべてを任せて」

 

 あさひ姉ちゃんが一度口を離して、絹香に言った。

 絹香が必死の表情で、梓にぺろぺろと舐められている口から息を吐く。

 真夫の怒張が数センチほど絹香のお尻の中に侵入し、そこで一度とめた。

 

「んふうっ、ふうっ、ふうっ」

 

 絹香は一生懸命に鼻と口から息を吐いている。

 真夫は指で肉芽をゆっくりと揉んでやった。

 

「んふううっ、ふううう」

 

 絹香が激しく悶えた。

 真夫はさらに数センチ、肉棒を押し込む。

 

「むんん」

 

 強い力で絹香のお尻の内側が真夫の一物を固く締めあげていく。

 だが、浣腸と愛撫でかなり柔らかくなっているし、潤滑油もたっぷりと使っているので、それ程の抵抗はない。

 真夫はゆっくりとだが、さらに先に進んでいった。

 やがて、しっかりと最深部まで絹香のお尻は真夫のものを飲み込んだ。

 

「入ったよ……。よくやった」

 

 真夫は声をかけた。

 

「は、はい」

 

 絹香はもう目も虚ろだ。

 だが、生まれて初めてのアナルセックスに、すっかりと淫情している。

 その証拠に、絹香のお尻の穴は、与えられる快楽をむさぼるように収縮しているとともに、口から迸らせる声が、ますます甘く甲高いものに変化した。

 なによりも、絹香の心がこの行為を心の底から愉しんでいる。それが真夫にはわかるのだ。

 

 真夫は、操心術の同調を深めた。

 絹香の快感の度合いが、さらにはっきりと感じるようになった。

 すでに、絶頂寸前だ。

 真夫にはわかった。

 

「力を抜いて……。そうすれば、気持ちいい……。さあ、気持ちいいと口に出して、言ってごらん。そうすると、もっと気持ちよくなる……」

 

 真夫はゆっくりと律動を開始した。

 それにしても、とにかく、締めつけが強い。

 ちょっとでも気を抜けば、暴発してしまいそうだ。

 梓が口を責めていた舌を脇の下付近に移動させて、絹香の口を解放する。

 絹香が喘ぎ声をあげていた口を改めてを開ける。

 

「……き、きもち……い……い……」

 

 絹香が操られているように言った。

 

「もっと繰り返して……。お尻が気持ちいいって」

 

「お尻が……気持ちいい……。お、お尻が……気持ち……いい……。お尻が……」

 

 絹香が言われるまま、卑猥な言葉を繰り返す。

 それとともに、絹香の身体の震えと、股間の愛液がどんどんと増える。

 もっとも、これは操心術ではない。

 しかし、言葉が絹香の心に暗示を作り、それが身体を変化させているのだ。

 絹香はもう痛みを感じていないようだ。

 

「あ、ああ、あああっ」

 

 絹香の快感がますます高まったのが操心術を通じて感じる。

 真夫は指先で股間をいたぶる刺激を強くした。

 一方で三人の少女たちが、絹香の上半身を責め続けている。

 

「んふうううっ」

 

 絹香ががくがくと痙攣をして絶頂をした。

 最初のアナルセックスで達してしまうとは、かなりの淫乱さと感じやすさだ。

 真夫は嬉しくなった。

 だが、すごい締めつけだ。

 真夫は絹香のお尻に精を放った。

 

「……ふう……」

 

 真夫が絹香のお尻から男根を抜く。

 あさひ姉ちゃんに目をやる。

 すると、こっちに来た。

 真夫は一度テーブルから下りる。

 

「……続けてで、大丈夫?」

 

 あさひ姉ちゃんがおしぼりを持ってきた。

 

「うん」

 

 真夫が頷くと、その手拭いでまだ勃起状態の真夫の一物を包んで、一度潤滑油を拭き取った。

 そして、特殊な油剤を手でまぶして洗浄し、それを何度か繰り返してから、さっと口に咥えた。

 あさひ姉ちゃんが使った油剤はアナルセックスによって付着したかもしれない不衛生な菌を瞬時に殺すものだ。もちろん、身体に害はない。

 それできれいにしてから、改めて口に咥えたのだ。

 

「ありがとう、あさひ姉ちゃん……」

 

 声をかけると、にっこりと微笑んだあさひ姉ちゃんが絹香を責める態勢に戻る。

 このあいだも、ずっとかおりちゃんと梓に責められっぱなしだった絹香は、アナルセックスの絶頂で余韻に浸ることも、休むことも許されずに、ずっと悶え続けている。

 真夫は、再びテーブルにあがった。

 

 さっきと同じ体勢で、今度は前を犯していく。

 もう完全に濡れているので、そのまま怒張を埋めていく。

 

「うっ、うううっ、い、痛いっ」

 

 すると、絹香が激しく身体を跳ねあげた。

 真夫も違和感があった。

 お尻の穴を犯したときと同じくらいの抵抗があったからだ。

 首をひねりながら、そのまま挿入する。

 絹香の悲鳴がさらに大きくなった。

 律動を始める。

 すると、男根とともに流れ出る体液に、赤い物が混じっているのがわかった。

 

 処女……?

 

 意外だった。

 絹香は短い期間とはいえ、秀也の愛人だったはずだ。

 いま犯している絹香の無毛の股間が、しっかりと秀也の調教を絹香が受けていたということを物語っている。

 玲子さんの調査でも、絹香がSS研において、秀也と性的関係にあったことは間違いないということだった。

 だからこそ、遠慮なく、今夜のプレイをやったというところもある。

 

 しかし、少なくとも秀也とは、前では肉体関係はなかったのか……。かといって、後ろも未経験のようだったが……。

 真夫は絹香を犯しながら思った。

 とにかく、だったら最初は負担にならないくらいに、早く終ってあげた方がいいだろう。

 真夫は早々に精を放った。

 

「これで、絹香も俺の女だよ」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんから、金属の輪を受け取ると、絹香の首に近づけた。

 

「……は、はい……」

 

 荒い息をしながら絹香が頷いた。

 その絹香の首に、真夫は奴婢の象徴である首輪を嵌める。

 

 そのときだった。

 上衣は着たままだったので、胸に入れていたスマホがぶるりと振動したのがわかった。

 確かめると、玲子さんからのメールだった。どうやら、教場の前までやって来たようだ。

 ちょうどいいタイミングだ。

 真夫はそのまま、教場にやって来るように返信する。

 

「脚だけは解いてあげて」

 

 真夫は言った。

 あさひ姉ちゃんたちが、頭側に拘束されていた絹香の足首の拘束を外す。

 絹香は窮屈な体勢から解放されて、ミィーティングテーブルに、脱力して裸体を伸ばした。

 

「梓はこっちだ」

 

 絹香が拘束されているテーブルに両手をつかせて、お尻を突き出すようにさせた。

 スカートをまくる。

 絹香を裸で連れまわすプレイをさせたとき、梓が興奮して下着を脱いでしまったのは、監視カメラの映像で確認していた。

 

「あ、あんっ」

 

 後ろから秘部に指を入れると、その股間は絹香に負けないくらいにびっしょりだった。

 この一連の行為で、梓もまた激しい興奮状態に陥っていたことはそれでわかる。

 操心術によって読むことのできる梓の感情からも、それは明らかだ。

 

「いくぞ」

 

 たったいま絹香から抜いたばかりの怒張を今度は梓の中に挿入する。

 

「あ、ああっ」

 

 絹香が背中を弓なりにして、欲情の甲高い声をあげた。

 そして、人がふたり、こっちにやってくるのが操心術でわかった。

 本当に、ちょうどいいタイミングだ。

 

 がらがらと教場の扉が開く。

 

「わっ」

「あっ」

 

 梓の膣がぎゅっと、真夫の男根を締めつけた。

 また、絹香も悲鳴をあげた。

 入ってきたのは、玲子さんだ。

 もうひとりの絹香の従者生徒である渚もいる。

 

「えっ、えええっ──」

 

 渚は悲鳴をあげて立ち竦んでいる。

 また、玲子さんは柔和に微笑んで、「終わったのね」とそれだけを言った。

 

「ち、違うんです──。理事長代理──。こ、これは……そ、そのプレイで……。け、決して、わたしも、梓も真夫君にレイプされているわけでは……。こ、こっちからお願いしたことで……」

 

 すると、懸命に絹香がまくしたて始めた。

 そういえば、まだ絹香は玲子さんが、真夫の女であることを知らないのだ。

 だから、真夫を庇おうとして、そんなことを口にしたのだろう。

 

「……き、絹香……、この人も……真夫さんの女よ……」

 

 梓が真夫の怒張を膣に受け入れたまま言った。

 真夫は、梓を犯す律動を一時的に中断したようになっていた。

 

「そういうことだ」

 

 真夫は言った。

 そして、梓を犯す動作を再開する。

 梓が欲情の嬌声を発し出した。

 

「ど、どういうことなのですか……?」

 

 入口のところに立っている渚が途方に暮れた表情になっている。

 

「こういうことよ」

 

 玲子さんがぴしゃりと扉を閉めるとともに、手筈に従って、渚の腕を掴むと、さっと渚の両手首に後ろ手に手錠をかけた。

 

「えっ?」

 

 いきなりことに、とっさに反応することができなかった渚が、拘束されてしまったことに気がついて、目を丸くした。

 真夫はそれを確認し、梓を犯す律動を激しくした。



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 第75話  もうひとりの選択

 真夫は、制服姿の(あずさ)にミーティングテーブルを両手で掴ませ、スカートを捲って背後から股間を犯している。

 

「あ、ああっ、あっ、あんっ」

 

 梓が感極まった声を出し始めるまで、いくらもかからなかった。真夫は濡れほぞっている亀裂に挿入している怒張の律動をさらにを速める。

 

 この部屋には、梓と真夫のほかに、目の前のテーブルに縛られている絹香、そして、あさひ姉ちゃん、かおりちゃん、玲子さん、さらに、玲子さんによって後手に手錠をかけられた(なぎさ)がいる。

 梓は、その五人に見られながら真夫に犯されることで、あっという間にかなりの興奮状態に達した。

 操心術で感情を読むことのできる真夫にはそれがわかる。

 

 自分は、“エス”だという梓だが、真夫から見れば、梓は十分に“エム”の気質を持っている。それは梓を最初に犯したときに、すぐにわかった。だから、あのとき、玲子さんをさがらせずに、目の前で犯したのだ。

 案の定、梓は他人の前で真夫に犯されるということに羞恥を覚えつつも、異常なほどの興奮状態に陥った。

 その証拠に、そのとき、梓はあっという間に絶頂して果てた。梓はどうして、あんなにも呆気なく快感を極めてしまったのが、わけもわからなかった様子だった。

 とにかく、梓は、エスであり、エム──。

 真夫は確信している。

 

 それにしても、もしかしたら、エスとエムというのは、相対する性癖ではなく、表裏一体の気質なのかもしれない。

 今夜は、絹香を「鬼畜ゲーム」として、徹底的な羞恥責めをしたが、あさひ姉ちゃんもかおりちゃんも、いつものM性ではなく、かなりのS性を発揮してのりのりだった。そのくせ、ふたりとも、しっかりと欲情もして、股間を濡らしていたようだった。

 

 いずれにしても、操心術というのは思ったよりも便利なものだ。

 こうやって、犯している相手が、どのくらいの性的興奮状態にあるのか、すぐにわかる。

 真夫は、梓がいまにも昇りつめようとしているのを感じると、すっと律動を中断した。

 

「あ、ああ……」

 

 真夫は切なそうに身体をくねらせた梓をぐっとテーブルに押し出し、上半身を完全に台に倒すようにさせた。そのため、テーブルに仰向けに拘束されている絹香のちょうど股間の部分に、梓の顔が被さるかたちになる。

 

「あっ」

 

 破瓜の鈍痛と性交の余韻で脱力していた絹香が、身体をくねらせた。

 

「梓、奴婢の世話をするのも、女主人の役目だ。絹香の蜜と俺の精、そして血を舌で掃除しろ。命令だ」

 

「は、はい」

 

 梓は逆らわなかった。

 絹香を平素から調教することを認めてやった梓だが、こうやって、本当は誰が「主人」なのかを教え込む必要がある。梓も絹香も真夫の「奴婢」だ。その範囲内での上下関係だ。

 もっとも、梓は頭のいい子だ。

 そんなことは十分にわかっているようだ。

 唯々諾々と命令に従っている。

 

「あ、ああ、だ、だめえ……」

 

 すぐに、絹香が悶え始める。

 真夫は梓への律動を再開した。

 絹香の喘ぎ声に、梓の甘い声が重なる。

 あっという間に、梓は再び絶頂に向かって、ひた昇っていく。

 しかし、操心術でしっかりと、それを図っている真夫は、またもや寸前で律動を中断した。

 梓がぐったりと脱力する。

 だが、すぐにまた始める。

 しかし、絶頂寸前でまたやめる。

 それを繰り返した。

 

「い、意地悪しないでください、真夫さん。お願いっ」

 

 梓がついに引きつった声で叫んだ。

 

「だったら、舌で絹香を絶頂させるんだ。そうしたら、いかせてあげるよ」

 

 真夫はゆっくりとした律動を続けながら言った。

 

「あ、ああ……。は、はい」

 

 梓は躊躇うことなく、絹香の股間を責める舌の動きを速くした。

 真夫は梓だけでなく、絹香の快感度についても、操心術で読む。

 何度も達している絹香は、性感を昇りつめさせるのも速かった。あっという間に絶頂に向かって快感を飛翔させた。

 

「ああっ、あ、梓、梓、いくう、いくうっ」

 

 絹香が縛られている身体を弓なりにして果てた。

 真夫も一気に抽送をあげて、梓もまた絶頂まで押しあげてやる。

 そして、最後に精を放った。

 

「んんっ、んんんっ」

 

 梓も身体を仰け反らせて、痙攣のように身体を震わせると、がっくりと脱力した。

 真夫は梓の中から男根を抜き、下半身が裸体のまま、そばの椅子に腰をおろした。

 

「あさひ姉ちゃん、かおりちゃん、もういいよ。絹香を解いて、テーブルからおろしてあげて」

 

 真夫はそう言うと、まずはテーブルの下に崩れ落ちてしまった梓を引き寄せて、自分の股間の前の顔を寄せさせた。

 

「きれいにするんだ……。そこまでが奴婢の役目だよ。梓が俺の奴婢でいる限り、絹香の躾をさせてあげる。だけど、本来は、梓もまた絹香と同列の俺の奴婢であることには変わらない。それを忘れないようにね」

 

「は、はい……」

 

 絶頂したばかりで、まだその余韻の中にいる梓が精を放ったばかりの真夫の一物を口に咥える。

 

「ま、真夫……さん……」

 

 拘束を解かれた絹香がよろよろとこっちに歩み寄ってきた。

 真夫は手で招き、大きく股を開いて、真夫の股間の顔を向けるように梓の隣に跪かせる。梓は、絹香のための身体をちょっと寄せたが、口で奉仕する行為は一心不乱に続けている。

 

「頑張ったね、絹香……。今夜はもう終わりだよ。でも、絹香は俺の奴婢になったんだ。だから、明日もある。明後日も……。その次も……。信じられないくらいに恥ずかしいことをいっぱいしてあげる。それと、この梓を絹香の躾係に指名する。俺がいないときには、俺の命令だと思って、梓に従うんだ。いいね」

 

「は、はい」

 

「ご主人様だ。教場などでは、いままでどおりでいい。だけど、調教のときは、“ご主人様”と呼ぶんだ」

 

「はい、ご主人様」

 

 絹香は心の底から嬉しそうに微笑んだ。

 そして、命令したわけでもないのに、梓と同じように真夫の股間を舌で舐め始める。梓が譲るように口から真夫の男根を離す。すると、すぐさま絹香が真夫の股間を口に咥えた。

 ふたりの少女に奉仕されて、真夫の股間は再びすっかりと勃起を取り戻していた。

 

「それと、梓は絹香のことを、いままで通りに“絹香様”か“お嬢様”と呼ぶんだ。絹香も梓を呼び捨てだ。これは変えさせない。だけど、絹香は従者の梓に躾られるんだ。そっちの方が気分が出ると思うよ」

 

 ふたりがしっかりと応諾の返事をした。

 裏庭で梓が絹香を責めていたとき、梓は絹香に自分のことを“ご主人様”と呼べという意味のことを言っていたと思うが、却下だ。

 

「ど、どうして……。どういうことなんですか……?」

 

 そのとき、耐えられなくなったように、渚が声をあげた。

 彼女は双子の姉妹の梓が真夫の犯されるのを呆然と眺め、絹香が梓の舌でいき、いま、そのふたりがかりで真夫に奉仕するのをじっと見させられていた。

 一方で真夫は、そのあいだ、ずっと操心術で渚の感情を追いかけていた。

 そして、わかった。

 

 彼女は、真夫が思っていたような感じではなかったのだ。

 

 性癖に普通だとか、普通でないとかあるのであれば、渚は間違いなく、「普通」だ。

 絹香に調教され、姉妹である梓にも性的悪戯を受けていると言っていたので、真夫は渚はかなりのドMと思っていた。

 しかし、操心術で観察する限り、渚の反応にはまったく性的な興奮のようなものがなかった。

 おそらく、もともと、そういう資質ではないのだと思う。

 同じ顔をしていても、かなりのアブノーマルな性癖を持っている梓とはかなり異なる。

 もっとも、絹香と梓への愛情は十分に感じる。

 このふたりへの純粋な愛情から、渚はふたりが要求する淫乱な行為に応じていたのだと思う。

 

 だが、間違いない──。

 渚の性癖は「ノーマル」だ。

 

「玲子さん、もうわかりました。渚ちゃんの手錠を外してください」

 

 真夫が指示すると、玲子さんは、ちょっと意外そうな表情をしながらも渚の手錠を外す。

 玲子さんが当惑した理由は明白だ。

 事前の打ち合わせでは、渚はここで真夫が犯して、そのまま奴婢にする手筈だった。だから、玲子さんは、絹香に渚を呼び出させたとき、寮から出てきた渚を理由をつけて、強引にここまで送り、渚がちょうどいいタイミングでこの教場に入って来るように仕向けたのだ。

 真夫と玲子さんは、ずっと連携をしていた。

 だが、真夫は、ここで渚に触れることで気が変わった。

 渚は、真夫が思っていたような少女ではなかったのだ。性癖に関してはどこまでの普通の子だ。絹香や渚に、そう仕向けられていただけだ。

 

「い、一体全体……」

 

 渚は目の前の光景が信じられないというように、まだ呆然としている。

 無理もない……。

 「女主人」の絹香と、やはり、渚に被虐的な百合を強要していた姉妹の梓が、憑かれたようにふたりで真夫の股間を奉仕しているのだ。

 正常な思考を保てないのも当然だ。

 

「見ての通りだよ。今日から、このふたりは俺の奴婢にする。君がこのふたりから、いままでどういう扱いを受けていたかは知っている。だけど、今日で解放する……。玲子さん、渚ちゃんの従者生徒の登録を解除してください。それと、彼女をA級生徒として登録を……。できますか?」

 

「わかりました、真夫様。問題ありません」

 

 玲子さんが頭をさげた。

 

「えっ、真夫様って……?」

 

 渚は、理事長代理であり、この学園を事実上仕切っている玲子さんが、真夫に従う言葉を使ったことに驚いているようだ。

 そして、気がついたように、はっとした表情に変わる。

 

「そ、そうだ。待ってください。わたしがA級生徒だなんて……」

 

「問題ありませんよ。登録が変わるだけです。学園への授業料などについては、いままで支払っているものと同額で結構です。金銭的なものは、これまで通りに絹香に面倒を看させますが、不足するものは、こっちで肩代わりします」

 

 真夫は言い足した。

 生徒でしかない真夫によるとんでもない要求だが、玲子さんならどんな我儘を言っても実現させてくれる。

 その確信が真夫にはある。

 

「すべて、真夫様の指示どおりにします。A級寮には、明日から入れるように処置します」

 

 玲子さんだ。

 

「ま、待ってください──。しょ、承知できません。わたしは……」

 

「黙って──」

 

 真夫は強い口調で渚の言葉を遮った。

 そして、操心術をかける。

 絹香と梓に対する強い感情をちょっとだけ緩めようとした。

 それで、彼女のこだわりはなくなり、おそらく、A級生徒への移行を承知するだろう。

 

「えっ?」

 

 だが、意外なことが起きた。

 真夫の操心術が跳ね返されたのだ。

 おそろしく強い力によって、ふたりから距離を置かせようとした真夫の力が遮られた。

 

「わ、わたしはA級生徒には移りません──。このまま、絹香お嬢様の従者生徒でいます」

 

 渚ははっきりと言った。

 真夫の操心術は完全に断ち切られていた。

 もっと強い操作もやろうと思えば可能だが、そうすると、彼女の心にかなりのダメージを与えそうだった。それくらいに、強い心の力だ。

 

「だけど、このふたりは俺の奴婢になったんです。脅迫して、逆らえない条件を突きつけて、奴婢になることを強要したんだ。だけど、君については自由にしてあげるつもりだ……。奴婢に奴婢はいらない」

 

 真夫はふたりの頭をぽんぽんと叩いて、真夫への奉仕をやめさせた。

 ふたりが口を離して、渚の方に顔を向ける。

 

「渚、聞いた通りよ。わたしは、この真夫さんの奴婢になったわ……。あなたへの愛情は変わりないけど、もう、解放する……。いままで、悪かったわ……」

 

 絹香だ。

 梓はなにも言わなかった。

 ただ、じっと渚の決断を待っているかのように視線を向けている。

 

「ど、どうして、絹香様と梓は奴婢にするのに、わたしにはそうしないのですか?」

 

 渚は真夫に訴えるような物言いをした。

 真夫は首をひねった。

 渚の感情が大きく変化し始めたからだ。

 これまで、ずっと絹香と梓に対して向けられていた思慕の感情が、真夫に対しても拡大されだしたのだ。

 それは不可思議な変化だった。

 渚には、真夫に愛情を向けるなんの理由もないはずだ。その証拠に、渚がいままで真夫に向けていたのは、嫉妬心や反感のような感情だ。

 それなのに、なにかに急に心を変えられたかのように、真夫にも恋慕の感情を拡げてきた。

 

「な、ならば……、わ、わたしも、あなたの奴婢にしてください……」

 

 そして、渚は言った。

 その決断が、しっかりとした強い意思に基づくものであることは、心を覗いている真夫にはわかる。

 だが、どうしても、渚が急にそんな風に心を変化させたのか、真夫にはよくわからなかった。

 つまりは、それほどまでに、絹香と梓への感情が強いということなのだろうか……。

 離されるくらいなら、何者ともわからない真夫の奴婢になることを選択するくらいに……。

 

「俺はマゾしか奴婢にしないんですよ……。渚ちゃんはそうじゃない……。俺にはわかる。俺が選んだここにいる女性たちは、全員、マゾです。一番、エスっ気の強い梓含めてね。そうでない女に、鬼畜な遊びを強要するつもりはないんだ」

 

「だったら、マゾになります。梓にだって、絹香様に対してだって、そうしました。わたしにはできます」

 

「そうだろうね……。でも、君は本当はそうじゃない……。もっと、普通に恋愛をして……」

 

「マゾです。わたしはマゾです──」

 

 渚は、真夫の言葉を遮って、きっぱりと言った。

 真夫は溜息をついた。

 だが、彼女の決意はわかった。

 

「わかったよ……。じゃあ、試してあげよう……。まずは、服を脱ぐんだ。なにもかもね。はっきりと俺に見せながら」

 

 真夫の言葉に、梓はびくりと身体を反応させたが、すぐに決心したように服を脱ぎ始める。

 横の玲子さんが渚が脱いだものを受け取っていく。

 寮の部屋から急いでやって来た渚は軽装だ。短いスカートとTシャツを脱ぐと、もう下着だけになる。ブラジャーを外す。ちょっと小ぶりの乳房だ。

 そこまで脱いで、耐えきれなくなったように、さっと胸を両手で隠して、真夫に背を向けた。

 

「隠すなと言ったよ。それに、もう一枚残っている……」

 

「で、でも……」

 

 渚は震えていた。

 一方で、もう絹香も梓もなにも口をきかない。

 渚の行為を真夫の脚のあいだに跪いたまま、じっと見守っているだけだ。

 しかし、渚はなかなか動かなかった。

 真夫は玲子さんに、渚の服を返すように言った。

 

「ま、待って……。脱ぎますから……」

 

 渚が下着に手をかける。

 素早く脱いで足首から抜くと、玲子さんに渡しつつ、さっと股間を手で隠した。

 

「身体をこっちに向けて、両手は後ろだ。見えないロープで縛られていると思って……。それをやめれば、奴婢にはしない。諦めてもらう」

 

 真夫は言った。

 渚は乳房と股間を隠していた手をゆっくりと後ろに回した。

 黒々とした陰毛が露わになる。

 絹香も梓も、ここには手を付けなかったのだと思った。そういえば、梓も陰毛もしっかりとある。本当は、ドMの絹香は、ふたりを調教しても、股間の毛を剃るいうことはしなかったのだと思った。

 

「かおりちゃん、準備していた洗面器を……」

 

 絹香のための準備していたものだ。

 利尿剤を飲ませて、万が一、最後まで耐えきったら、これにさせるつもりだった。まあ、絶対に我慢できるわけがないと思ってはいたが……。

 

「はい」

 

 かおりちゃんが床の上に洗面器を置く。

 

「これにおしっこをしてごらん。それができたら、奴婢にしよう。一生、絹香とも梓とも離さない」

 

「そ、そんな」

 

 渚が顔を蒼くした。

 そして、渚から絶対的な強い嫌悪の感情が迸った。

 

「む、無理です──。できません」

 

 渚はきっぱりと言った。

 すると、ずっと黙っていた梓が突然に口を開いた。

 

「できるわ……。初めてじゃないでしょう……。三人だけのときは、やっていたことじゃない、渚」

 

 そして、梓は真夫に許可を求めるように、真夫を見た。

 よくわからないが、真夫は頷いた。

 すると、梓は身につけている制服を脱ぎ始めた。

 あっという間に、渚と同じように生まれたままの恰好になる。

 

「真夫さん、おしっこをさせてください」

 

 梓が言った。

 真夫には梓の意図がわかった。

 どうなるかわからないけど、彼女に任せることにした。

 

「許可する」

 

「はい」

 

 梓は渚に背を向け、真夫に見えるように洗面器にしゃがんだ。

 渚は目を丸くしている。

 梓は、緊張のせいか、しばらく放尿を始めなかったが、やがて静かに尿を股間から迸らせだした。

 

「わ、わたしも……。さ、さっきしたから、そんなに出ないと思うけど……」

 

 梓が終わると、すぐに絹香も立ちあがった。

 絹香もまた、梓と交代して洗面器にしゃがむ。

 量は少ないが、ちょろちょろと少量の尿をそこに放出する。

 

「渚、するのよ──。あんたも、こっち側にいらっしゃい。あんたの性癖がノーマルでもアブノーマルでもどっちでもいい──。だけど、あんたはこっち側よ。あたしと絹香様のいる側が、あんたのいる場所よ」

 

 梓が強い口調で言った。

 その瞬間、渚の感情から拒絶心が消滅した。

 

「し、します……」

 

 渚が洗面器を跨いだ。

 羞恥と緊張でぶるぶると渚の身体が震える。

 しかし、しばらくすると、一流の奔流が股間から洗面器に向かって流れだした。

 そして、渚の放尿が終わった。

 

「よくやったわ」

「渚、よかった」

 

 絹香と梓が心からほっとした声をあげる。

 

「わかった」

 

 真夫は床に渚を押し倒した。

 渚は命じられている両手は背中から離さない。

 真夫は絹香と梓に命じて、渚を愛撫させた。

 梓は股間を、絹香は胸を、それぞれに両手に加えて舌も使って責め始める。

 真夫については、ふたりの責めを補助するように、渚の全身のいたるところを舌で責めた。

 

「あ、ああっ、ゆ、許して……ああっ」

 

 やがて、渚の表情がうっとりと陶酔のようなものを垣間見せだす。

 

「まずは一度達しさせよう」

 

 真夫は絹香と梓に指示するような物言いをした。ふたりの舌と指が激しく動き出す。

 

「んん、んんんっ」

 

 しばらくすると、真っ赤に紅潮した渚の身体がぶるぶると震えた。

 真夫は絹香と梓をさがらせる。

 そして、渚の両脚を掴むと、ぱっくりと開いた亀裂に怒張を当てて、一気に体重を預けた。

 

「んぎいいいいっ」

 

 まるで切り裂かれでもしたように渚は凄惨な悲鳴をあげた。

 歯を食い縛った顔を激しく横に振る。

 

「い、いたいいい」

 

 絶叫した。

 

「しっかり」

「大丈夫よ」

 

 絹香と梓が渚の肩を両側から掴む。

 真夫は律動を開始した。

 渚の悲痛な呻き声は続いている。

 ややあって、真夫はおもむろに精を放った。

 

「う、ううう……」

 

 真夫が一物を抜いても、梓は苦しそうな声をまだ出している。でも、その声はすぐに落ち着いたものになり、ただの荒い息遣いに変った。

 

「血が乾かないうちに、始末しなくっちゃ……」

 

 あさひ姉ちゃんがこっち近づこうとするのを真夫は制した。

 

「それは奴婢になった女の子の役目だよ」

 

 真夫は言った

 絹香と梓が真夫の意図を察して、渚から離れる。

 渚はおずおずと身体を起こすと、膝立ちで寄ってきて、真夫の股間に顔を埋めさせた。

 

「わ、わたしは……マ、マゾです……。だ、だから……」

 

「わかった。すまなかったよ。引き離そうとして……」

 

 真夫は渚の頭を優しく撫ぜた。

 渚がさっき絹香たちがやっていたように、真夫の性器を舌で舐め始める。

 それでもまだ、両手は背中から離していない。

 これについては、真夫も感心した。

 

「玲子さん、首輪と腕輪を……」

 

 真夫は渚に両手を離していいと告げるとともに、玲子さんに促した。

 玲子さんが一組の金属の輪を真夫の手に渡す。

 

「君が六人目の奴婢だ、渚」

 

 真夫はそう言うと、渚の両手首と首に、ひとつずつ奴婢の象徴である金属の輪を嵌めていった。



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第13章 日常【絹香、かおり】
 第76話  SS研の展示物


「おはようございます、絹香(きぬか)様」

 

 (あずさ)はカーテンを開けた。朝の気持ちのいい光が寝室に射し込む。

 絹香が虚ろな目を開いた。

 梓は絹香の身体に掛かっていた賭け布団を引き剥がした。

 

「あ……、梓……」

 

 絹香が喘ぐように梓を見る。

 その絹香は四肢を寝台の四隅に伸ばして、大の字に拘束されている。

 全裸だ。

 ただし、股間には革の貞操帯がしっかりと股間に喰い込んでいる。

 

 真夫(まお)から渡された調教用の無音式の貞操帯なので、外からは音は聞こえないが、絹香の股間とお尻では貞操帯の内側にあるディルドがうねうねと淫らにうねっているはずだ。

 この状態で放置されているのだから、絹香はかなり朦朧となっている感じである。

 もっとも、拘束は昨夜からこのままだが、バイブ責めは、まだ二時間程度だ。

 だから、眠れなかったということはない。

 

 貞操帯の張形を動かし始めたのは、朝の四時を過ぎてからなのだ。だから、まだ六時前なので二時間も経っていない。

 絹香はずっと操作されたまま放置されていたくらいに思っているかもしれないけど、実際には、寝る前の二時間と朝の二時間だけの作動時間である。

 

 本当は夜通し放置してやろうかと思ったのだ。

 しかし、授業に支障があるような責めについては、真夫から禁止された。

 そして、夜中に二度ほど確認にきた。絹香は死んだように熟睡していた。

 調教する側は、「奴隷」をとことん追い詰めながらも、そういった配慮は重要らしい。特に放置責めのときには注意しなければならないと、真夫にも厳しく指導を受けている。

 

「梓、お願いよ……」

 

「なにがお願いなのです? 朝の挨拶もなしに、いきなりおねだり?」

 

 梓は手に持っていた貞操帯の操作具で二個の淫具の振動を一気にあげる。

 

「うふううっ」

 

 絹香が吠えるような声をあげて、弾かれるように身体を弓なりに反らせた。

 だが、すぐに微かな振動だけのモードに戻す。

 絹香ががっくりと脱力した。

 

「あ、ああ……そ、そんな……」

 

 絹香が歯噛みするように呻き声を洩らす。

 絹香に与えていたのは、貞操帯のバイブによる焦らし責めだ。絶対にいくことができないような微弱な振動とうねりをこうやってずっと与えていたのだ。

 もう、すでに息も絶え絶えのようだ。

 

「そんな、じゃないわ。朝の挨拶はどうしたのですか?」

 

 梓は寝台の横に掛けている乗馬鞭を手に取ると、びしりと絹香のお腹に一閃した。

 もっとも、そんなに強い力ではない。

 ちゃんと痕が残らないように加減している。

 

「ひぎいっ──。お、おはようございます──」

 

 絹香が裸体を振って絶叫した。

 それでもかなり痛いはずだ。

 もう涙目になっている。

 梓はぞくぞくした。

 

 憐れみを乞うようなこの瞳……。

 

 これが梓をどうしようもなく欲情させる。

 愛する絹香をこうやっていたぶっているのだと思うと、子宮の奥がじんと充実する気持ちになるのだ。

 

 しかも、こんな表情をするくせに、この絹香はどうしようもなくマゾなのだ。いまでも、朝から「調教」されて、しっかりと股間を濡らしているに決まっている。

 

(なぎさ)はもう真夫様の部屋に行っています。お嬢様も身体を洗って支度をしてください。三十分以内ですよ」

 

 梓は、貞操帯のバイブの充電コードを抜いてから、絹香の四肢の拘束を外した。

 絹香がよろよろと上体を起こして、大きな乳房を両手で抱くようにして立ちあがる。

 その股間ではいまでも張形が蠕動運動を続けているのだ。それでどうしても動きがぎこちない。

 

 渚が真夫の部屋に行っているのは、朝食の支度のためだ。

 一週間前に絹香とともに梓と渚が真夫の奴婢( ぬひ)になって以来、基本的には、朝食と夕食は真夫の部屋でみんなで食べることになっている。食事の支度をしてくれるのは、真夫の奴婢であり恋人でもある恵だ。

 

 全寮制の学園なので、本来は食事はすべて学生寮に隣接されている食堂で食べれるのだが、S級寮は一般学生の寮とは離れているので、食事については、配達でも、自炊でも、あるいは、学園内にあるレストランに食べにいくことでも、自由にできることになっている。もちろん、ほかの学生と同じように、普通寮の食堂で食べることもできる。そのための移動手段も申請すれば確保できる。

 真夫たちは、学園の生徒ではない恵がいるので、生徒用の食堂ではなく、自分たちで自炊することを選択している。

 準備するのはほとんど恵だ。

 そして、どうせ作るのだからと、梓たち三人も一緒に食べることになった。

 渚は、一方的に支度してもらうのは悪いからと、自発的に手伝いに行っている。

 

「待って」

 

 絹香が立ちあがったところで、梓は引き留めた。

 寝台に手を突いて上体を倒させ、お尻をこっちに突き出させる。

 なにをされるかわかっている絹香は、ぐっと唇を噛んで顔をしかめた。

 

 脚を拡げさせる。

 貞操帯のディルドの底側がこっちに向く。

 確かに振動を続けている。

 梓はアナルに喰い込んでいるディルドに、準備していた浣腸液の入った袋のチューブを繋いだ。貞操帯のディルドの部分にチューブの先端の差し込み口があり、こうやって外から液剤を体内に送り込めるのだ。ヴァギナのバイブにも同じものがついている。貞操帯を装着させたまま、痒み液でも媚薬液でも自在に送り込める。

 実に素晴らしい。

 

「入れますよ」

 

 浣腸液の入っている袋の栓を解放した。

 袋の栓の部分に注入装置がついているので、液体がチューブから一気に流れ送られる。

 

「あっ、うう……」

 

 絹香が声をあげた。

 毎日やっているのだが、何度やっても、こうやってバイブで振動を受けながら、薬剤を注がれるのは気持ち悪いらしい。

 

「シャワー室に入れば、自動的に貞操帯のロックが外れますから、ちゃんと洗ってください。それから、今日着ていくものは、脱衣所に準備しました……。ちゃんと貞操帯を付け直してから着てください」

 

 もっとも、貞操帯は外れるが二本のバイブは特殊な溶剤が付着していて、抜くことはできない。ただ貞操帯の内側から離れるだけだ。これを抜くためには、さっきの浣腸液と同じ要領で剥がし液を入れるのだ。すると嘘のようにすっぽりと抜ける。

 つまりは絹香は、バイブに責められながら、シャワーを使わなければならないということだ。

 

「はい……」

 

 絹香がシャワー室に向かっていく、

 なんだか、ふらふらしている感じだ。

 

 それにしても、昨夜は久しぶりの調教だった。

 この四日間については、中間試験期間だということで、真夫から朝以外は、全面的に絹香への調教を禁止されていたのだ。

 毎朝のこの日課を除けば、絹香には手を出してない。

 しかし、昨日の夜から解禁になった。

 放課後のSS研への集合もかかっている。

 

 また、今日の午前中は三学年は、自由研究時間ということで、各人の計画で進めている総合学習をする時間ということになっているらしい。

 真夫からは、その間の遠隔調教の許可も受けた。

 

 だから、絹香に装着させている貞操帯のバイブを動かしたり、停止したりするのを繰り返して、思う存分遊んであげようと思う。

 もっとも、真夫は、あのかおりにも絹香の貞操帯に連動する貞操帯を装着させると思うから、梓が操作すると、かおりもまた、悶え苦しむことになるらしい。

 まあ、別にいいだろう。

 実のところ、梓は絹香だけじゃなく、あの気の強そうなかおりを苛めるのもちょっと興味がある。

 今度、SS研のときに、梓にも、かおりを調教させてくれと頼んでみようかとも思っている。

 いずれにしても、このところ、毎日、梓はわくわくしている。

 

 シャワー室から絹香が身体を洗う音が聞こえてきた。

 梓は、絹香の今日の授業の準備を開始した。

 主人生徒の授業の準備は従者生徒の役目なのだ。調教をしていても、梓の役割に変化はない。

 それは十分にわきまえている。

 

 


 

 

「ああ、西園寺さん、おはよう」

 

 梓たちのいる絹香の部屋から、真夫の部屋に向かうために、共有ロビーに出たところで、金城(きんじょう)光太郎(こうたろう)とばったりと出くわした。

 このS級寮には五部屋しかなく、絹香に割り当てられている部屋が二号室で、真夫の部屋が五号室なのだが、金城光太郎の部屋はそのあいだにある。

 通学の支度をしており、丁度部屋を出てきたところのようだ。

 金城光太郎は、もうひとりのS級生徒の加賀(かが)(ゆたか)とともに、この学園の双璧と称される存在のひとりである。

 梓は従者生徒らしく、静かに無言でお辞儀をして、少し離れて立った。

 

「あっ、お、おはよう」

 

 絹香がびくりと緊張したように、ぎこちなく挨拶を返す。

 当然だ。

 S級生徒の紺のブレザーを着こなしている絹香だが、そのスカートの下ではいまでも貞操帯の中の二本のバイブが静かな運動を続けている。しかも、起き抜けに注入してやった浣腸液がしっかりと効き目を発揮していて、かなりの猛威を振るっているはずだ。

 その排泄感に襲われているアナルをバイブで責められてもいるのである。

 かなりの苦しみに違いない。

 絹香のスカートから出ている脚が小刻みに震えていることからも、それがわかる。

 だが、一度ロビーに出て、三つ先の部屋に入るだけだ。

 こんなところで、足止めをされるとは思わなかったと思う。

 

「光太郎様……」

 

 光太郎の後ろには、彼の従者である年配の女性が立っているが、その女性が光太郎を促した。ふと見ると、寮の外にはすでに車が待っている。

 まだ、登校には早すぎる時間なので、朝食をどこかでとり、そのまま教場棟に行くのかもしれない。

 

「待ってよ。ちょっと話をしてから」

 

 光太郎が従者女性に言った。

 彼女が静かに頭をさげる。

 梓は、その女性がどういう人かは知らない。名もわからない。

 ただ、光太郎の実家の金城家が光太郎につけている従者ということであり、光太郎とともに寝起きをしている。

 

 考えてみれば、この光太郎も謎の多い生徒のように思う。

 もうひとりの双璧で、いつも取り巻きに囲まれている加賀豊に比べれば、この光太郎が誰かと一緒にいるのをほとんど見たことがない。

 いつも、あの従者女性が一緒であり、彼女がまるで見張っているかのように、人を寄せ付けない感じなのだ。

 絹香がS級生徒になったのは、三学年になってからの話だが、この金城光太郎については、一学年からこのS級寮だという。

 それだけの莫大な寄付を学園に支払っているらしいが、そのせいか、あまり仲のいい生徒がいないように思う。

 A級やB級生徒は普通寮で集団生活なので、それで仲良くなるようだ。梓のクラスの一年生にも、そうやって、親友のように親しくなった者たちはたくさんいる。

 それに比べれば、このS級生徒の生活は、ほとんど個人での生活になる。だからかもしれない。

 梓と渚も、授業以外はこっちなので、同学年の生徒に、いまでもそんなに親しい者はいない。

 

 ただ、この光太郎は、特に女子生徒に絶大な人気がある。

 まるで、女のように甘いマスクをしていて、肌もきれいだ。とにかく、とてもハンサムなのだ。気品もある。

 また、恐ろしく無口でもある。

 噂では、男にしては高い声に劣等感があり、それで喋りたがらないという話だ。確かに、ちょっと声が高い。

 とにかく、この学園に来て、そろそろ一箇月半になるが、光太郎から話しかけてくるというのは、初めてではないだろうか。

 

「えっ、話?」

 

 絹香は戸惑っている。

 おそらく、早く真夫の部屋に入りたいのだろう。

 限界に達している排便は、真夫の前でないとさせてもらえない。

 こんなところで、立ち話をしたくはないはずだ。

 梓は密かにポケットに手を入れて、お尻に入っている張形の振動をちょっとあげてやった。

 

「うっ、ぐっ」

 

 絹香ががくりと腰を沈めかけた。

 

「どうかした?」

 

 光太郎が驚いたように声をかけた。

 

「な、なんでも……」

 

 絹香がさっと振り返って、微かに首を横に振った。

 ここでは、やめてくれという合図だろう。

 梓は返事の代わりに、前側のバイブも少し振動をあげてやる。

 

「くっ」

 

 絹香が両手を股間に置いて、ぐっと歯を噛みしめる仕草をした。

 光太郎は怪訝な表情をして、首をかすかに傾げた。

 

「ご、こめん……。な、なに?」

 

 絹香は必死の様子で取り繕った。

 なぜか光太郎は、そんな絹香のことを少しじっと見て、やがて、おもむろに口を開いた。

 

「……このところ、君もスカートが短いよね……。いいよねえ……。女子生徒って、そうやって、いろいろと気分によって、おしゃれできてさ」

 

 光太郎はぎこちない笑みを浮かべている。

 絹香のスカートについては、真夫がわざと短くさせているかおりと同じくらいに、一週間にから、かなり短く切りつめている。

 梓がやったのだ。

 だが、女子生徒のスカートを面と向かって、「短いね」なんて、エッチな発言をあからさまに口にする男子生徒は、行儀のいい者の多いこの学園では、あまりいない。

 ましてや、この光太郎がそんなことを口にしたということが、梓には意外だった。

 

「えっ?」

 

 絹香もちょっとびっくりした声をあげている。

 

「あっ、ごめん、変なこと言って……。ところで、君たちが所属しているSS研だけど……。今月末の文化部発表会で『拷問の歴史展』をするって本当? あの絵画すごいよね」

 

「えっ、ええ……。まあ……」

 

 絹香がぎこちなく応じた。

 真夫の愛人クラブであり、真夫が“Secret・SM(秘密SM)研究部”の略だとうそぶいているSS研だが、ほかの生徒たちには、“Social・Science(社会科学)研究部”ということになっており、学園の文化部発表会においては、それなりの発表をしなければならない。

 

 絹香に代わって、正式にSS研の部長になった真夫は、その文化部発表会で「拷問の歴史展」をすると言っている。

 世界で行われてきた拷問や羞恥刑について調査し、それを展示説明するというのだ。

 真夫らしいと思うが、玲子もその指示を受けて、展示に使う拷問具のレプリカや、中世ヨーロッパの魔女狩りを描く図画、拷問と羞恥をテーマにした絵画を集めては、部室に届けるということしている。

 

 すでに、集まっているものは部室ではなく、文化部棟の廊下に掲示しているのだが、それがなかなかに扇情的なものなのだ。

 例えば、「ポンペイ遺跡の赤の壁画の模写絵」、「フェリシアン・ロップス作『ポルノグラフィ』」、「同じく『聖アントワークの誘惑』、「ブグロー作『春の再来』」、「ジェローム作『ローマの奴隷市場』」、「コリアー作『ゴダイヴァ夫人』」などいった有名な絵画の複製が、続々と届いて展示されている。

 

 ポンペイの絵は「鞭打ち」だ。

 赤い色の壁画絵であり、うずくまっている女の尻を羽根のある別の女が鞭打っている様子が描かれている。ポンペイ遺跡に残っているものだそうで、模写絵はその一部を写したものらしい。

 

 フェリシアン・ロップスの二枚は、一枚は目隠しをしている女が全裸で犬と散歩している構図、もう一枚は全裸で十字架に磔られている構図の絵だ。先日の絹香がやらされたような「全裸歩き」を思わせるものであり、絹香と見に行ったときには、絹香は顔を真っ赤にして反応した。

 

 ブグローの『春の再来』は、まるでくすぐり責めを思わせる絵だ。裸の女がたくさんの天使に群がられて、切なそうな表情をしているものである。

 

 ジェローム作の『ローマの奴隷市場』は、大勢の男たちの前で若い女が服をはがされて、裸体を晒されている絵。

 そして、『ゴダイヴァー夫人』は裸で馬に乗って街を進む女性が恥ずかしそうに身体を隠す構図である。やはり、これらも羞恥がテーマの絵だ。

 

 たった一週間で、模写絵とはいえ、これだけ集めてきた玲子もすごいが、まだまだ集まるらしい。

 ほかにも、中世の魔女狩りの拷問そのものの図画もどんどんと届けられている。

 それが誰でも見れるように、SS研の前の廊下に掲示されているのだ。

 すでに、かなり評判になっているのを梓も知っている。

 光太郎はそのことを言っているようだ。

 

 そのとき、がちゃりと扉が開いて、真夫が現われた。

 もしかしたら、中でロビーの様子を見て、出てきたのかもしれない。真夫の部屋には、このロビーだけでなく、学園全体を監視できるモニターが見れるノートパソコンがある。

 

「あっ、真夫さん……、おはよう」

 

 絹香がほっとしたように、真夫に視線を向けた。

 

「おはよう、坂本君……。ちょうど、君たちの展示の話をしてたんだ。拷問の歴史展……。ちょっとすごいタイトルだけど、面白そうだね。愉しみにしてるよ」

 

 光太郎が目を輝かせながら言った。

 本当に興味を持っているのだと、梓は思った。

 

「おはよう、ふたりとも……」

 

 真夫が微笑んだ。

 しかし、梓は、その真夫が右手に持っているスマホをさっと指で操作したことに気がついた。

 

「んんっ」

 

 絹香が真っ赤な顔をして、全身を伸びあがらせた。

 梓は自分が持っている操作具をちらりと見た。それは、貞操帯の状況のモニターも表示されているのだ。

 クリトリスに当たっている部分を強く振動されていた。

 本当に真夫は容赦がない。

 

「あれっ、どうかした、絹香? しゃっくり? とにかく、朝食ができているよ。さあ、入って。みんな待っている。梓ちゃんも、どうぞ」

 

 真夫が絹香の肩に手を回して、自分の部屋に招くような仕草をした。

 だが、絹香の激しい震えは続いている。おそらく、貞操帯の責めは続けられたままなのだろう。絹香は膝をがくがくと震わせている。

 

「朝食?」

 

 光太郎がきょとんとしている。

 

「同じSS研の仲間だしね。朝食は一緒にとろうということなっているんだ。俺のところには、料理の得意な従者の女性がいるし……」

 

 真夫が料理の得意な女性と称したのは朝比奈(あさひな)(めぐみ)のことだろう。

 少なくとも、白岡(しらおか)かおりの方は料理はあまりやらないはずだ。

 

「あ、ああ……。なるほど……。仲いいんだね……」

 

 光太郎が戸惑ったように応じた。

 絹香の様子が不自然なのを訝しんでいる表情ではある。

 だが、まさか、絹香が朝から浣腸とバイブで責められているとは思いもしないだろう。

 梓もにやにやしてしまった。

 

「そうそう、SS研の展示のことだよね……。よければ、SS研に遊びに来てよ。金城君なら大歓迎だよ。気に入ったら、入部してもらってもいい」

 

 真夫が言った。

 梓はびっくりした。

 真夫以外の男をSS研に──?

 

「本当に? 社交辞令だろう? 本気にするよ」

 

「本気だよ。まあ、気が向いたら教えてよ、光太郎君」

 

 真夫が光太郎を下の名で呼び、そして、にっこりと微笑んだ。



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 第77話  老女のお仕置き

「まあ、落ち着けよ……。このところ、構ってやらなかったから、ちょっと血が昇ってんだろう、正人(まさと)。久しぶりに、遊んでやるぜ」

 

 秀也は、正人を跪かせると、拘束棒を使って、足首と足首、膝と膝をそれぞれに棒の両端に装着されている枷に繋ぎとめた。そのうえで、背中側で手錠をかけさせて、手首と手首を繋ぐ鎖に、別の鎖をかけて、足首の拘束棒の中心の金具に繋げる。

 さらに首輪も嵌めて、天井から吊っている鎖に繋げる。

 拘束棒は床の金具にもそれぞれに固定させた。

 これで正人は、脚を拡げて跪いた状態から完全に動けなくなった。

 

「ああ、秀也さん」

 

 早くも興奮状態になった様子の正人が甲高い声をあげる。

 正人は、一年前、玲子を強引な手段で豊藤グループに引き入れたのと同じ時期に、秀也の個人的な付き人として雇った男だ。

 気に入ったのは、その端正な顔立ちと、それに見合わない武芸だ。

 どこで習ったかは知らないが、武器も扱えて機転も利くので用心棒としてちょうどいいと思ったのだ。連れてきたのは龍蔵(りゅうぞう)であり、これからは操心術だけでは身を守ることができないかもしれないので、用心棒を置けと言ってきたのだ。

 

 身元は龍蔵が保証した。

 よくは知らないが、独自の伝手で信頼する筋から雇ったらしい。

 それで、そばに置くことになった。

 実のところ、秀也はこの数年、だんだんと身体が衰えるということが続いていた。身体だけでなく、操心術そのものもだ。

 これまでは、操心術そのものが、秀也を誰にも危害を加えることができない「アンタッチャブル」にしていたが、確かに操心術が衰えれば、あるいは敵意のある存在の接近を見つけるのが遅れるかもしれない。

 とにかく、正人には、操心術で秀也の命を最優先で守るように刻み込み、そのうえで身の回りの世話や小間仕事をさせる付き人として便利に使っている。

 

 だが、なによりも気に入っているのは、この男が重度のマゾであることだ。しかも、女ではなく、男に責められるのを好むのだ。

 普段は凛として、凄みさえ感じるこの正人が、秀也の調教となると、途端に女のようによがるのが愉快で、ずっと気に入ってそばにいさせている。

 正人のような存在は、秀也にはずっといたが、長くても半年しか使用せず、その後は操心術で一切の記憶を消失させ、大金を与えて追い払ってきた。

 用心のためだ。

 同じ人間をずっと使うと、その存在が拉致をされて、工作の道具として使われる危険が発生するからだ。

 しかし、正人をずっと一年以上も使い続けているのは、このマゾの性癖が面白いからだ。 

 

「どら、身体を見せてみな」

 

 そして、秀也は、次いでナイフを取り出して、上衣のシャツを一気に左右に切り割いて左右にはだけさせる。

 ところどころには筋肉はあるが、全体的には色が白くて細い。身体の線も丸くて女のような身体だ。

 体毛も一本もない。

 なによりも、小さいが乳房がある。

 秀也は手を伸ばして、乳首を弾くように弄った。

 

「ああっ」

 

 正人は傷ついたかのように、呻き声をあげて大きくうなじを仰け反らせた。

 顔はすでに火照り、切なそうに左右に激しく動かす。

 

「お前、また女性ホルモンを増やしたか? ますます、女みたいな身体になったな。いっそのこと、玉も切り取るか?」

 

 秀也は正人をからかいながら、正人のはいていた細いズボンをどんどんと切り刻んでいく。あっという間に膝から上が布片になって周囲に散らばった。

 正人のビキニのような下着に包まれた一物は、はち切れんばかりに膨らんでいる。

 

「もう、逞しくしてんのかよ。どれ」

 

 ナイフの刃を差し入れ、さっと切断する。

 正人の一物は、正人自身が趣味で投与している様々なホルモンの影響でまるで小学生のように小さい。だが、完全に勃起している。しかも、一本の陰毛もない。

 陰毛については、秀也が手配して、二度と生えないように永久脱毛させてやったのだ。

 秀也は、正人の陰茎の根元に金属のリングを嵌めて、ぐっと絞った。

 

「あううっ──。しゅ、秀也さん、ああっ……。そ、それはお許しを……」

 

 正人がよがった。

 こいつは、こうやって射精管理の調教をすると、いつも泣きそうな顔になって哀願する。だが、秀也は実は正人がこうやって、股間をいたぶられるのをなによりも好むということを知っている。

 

「お前の好きな油剤を塗ってやるぜ、正人──。今日はちょっとした趣向を準備しているからな。勃起が収まらないようにするための処置だ」

 

 さらに秀也は、正人の小さな怒張に、強力な媚薬を塗り始める。

 秀也の手に包まれると、正人はまさに女のような声を出して身体を淫らに悶えさせる。先端からは早くもねらねらと興奮の樹液が漏れ出てくるが、出てくるのはそこまでだ。本格的な射精は、陰茎の根元の射精止めがしっかりと阻んでしまっている。

 

 ここは、龍蔵の屋敷ということになっている学園に隣接した建物の地下だ。

 龍蔵や秀也、そして、時子が暮らしているこの場所は、地面に出ている部分は単なるカモフラージュであり、実際には、そこから地下に潜って、さらに横に移動した秘密の場所に存在をする。

 いまこの瞬間に、学園に核爆弾が落ちたところで、秀也たちを殺すことは不可能だ。

 ここはそれくらい厳重にされた深い地下に存在しているのだ。

 

 こうやって、今日、昼間から正人と調教することになったのは、ほかでもない。

 正人から連絡が入り、重要案件を報告したいと伝えてきたのだ。

 それで、いつもはこの屋敷の外でしか会わないのだが、手配をして正人がこの屋敷内に来るのを許可した。

 

 そして、なんの報告かと思えば、真夫(まお)のことだった。

 正人によれば、真夫が六人目の愛人、すなわち、奴婢を手に入れたということだった。秀也は別のルートから、既にそれを知っていたが、正人は血相を変えている様子だった。

 

 正人は、龍蔵が真夫を後継者とする条件として、半年以内に十人の奴婢を作れと示したことを承知していて、それから、十日しか経っていないのに、もう六人になったことに危機感を抱いているのだ。

 それで、このままではまずいので、許可を受ければ、阻止するための行動をとると言ってきた。

 秀也の返事は、正人に対する調教の開始であり、少し上がり切った血を覚ませと、こうやっていたぶっているというわけだ。

 

「どら、今度は別の媚薬だ。痒み剤だ。泣き狂うくらいのな。それを尻の穴に塗ってやるぞ」

 

 秀也はゴム手袋を右手に嵌めると、調教具の中からひとつのチューブを取り出して、指の上に載せる。それを正人の尻穴に挿入して、たっぷりと塗っていく。

 

「ああ、それだけはお許しを……。あああっ」

 

 正人が拘束された身体をがちゃがちゃと揺らして泣き喚く。

 だが、構わず、容赦なく正人の女のようなきれいな尻に薬剤を塗っていく。正人は甘い声をあげて、腰を淫らに動かした。

 

 そのとき、部屋に訪問者がやって来たことを告げる呼び鈴が鳴った。

 

「えっ?」

 

 すると、正人がたったいままでの陶酔のような表情が嘘のように、はっとして顔を蒼くした。

 実は、この正人は、いままで秀也とふたりきりのときにしか調教をしてやったことがない。

 マゾの癖に妙にプライドも高くて、自分のよがり姿を第三者に見られるのを嫌がるのだ。

 正人が、自分のよがり姿を他人に見られることを心の底から嫌がっているというのは、秀也は操心術を遣うことで知っている。

 だが、今日はいい機会だから、その殻を破らせてやろうと思っている。

 

「おう、入れ」

 

 秀也は正人の尻穴から指を抜いて、座椅子まで戻ると、肘掛けにある操作具を押した。

 自動扉が左右に開いて、時子が現われた。

 

 右手に乗馬鞭を持ち、左手に首輪に繋いだ鎖を手にしている。鎖に繋がっている首輪を嵌められているのは、龍蔵の新しい愛人のナスターシャだ。

 秀也が手を回して、龍蔵の調教用の奴婢としてあてがってやったフランス女だ。

 豊藤グループの龍蔵に仕える秘書として、国外の企業から推薦があった人材だ。試しに会うと、確かに若くて有能だが、怖ろしく気が強くて、しかも、心の底では東洋人を小馬鹿にしているということがすぐにわかった。

 だから、秘書ではなく、龍蔵の玩具として連れてきた。

 龍蔵は大喜びであり、いまでは、このナスターシャをいたぶって泣かすことに、寝食を忘れるほどに夢中になっている。

 

「そ、そんな秀也さん──。ちょ、ちょっと待ってください」

 

 正人が狼狽して声をあげた。

 だが、完全に拘束が終わっていて、正人には勃起した股間を隠す手段はない。しかも、尻穴には猛烈に痒みを発する媚薬を塗られてしまっている。

 もうどうしようもない。

 

「時子か……。伯父貴はどうした? そいつは?」

 

 秀也は声をかけた。

 時子がここに来ることはあらかじめの事前の打ち合わせの通りだが、ナスターシャを連れてくるということは、事前の話にはなかった。

 最近では、龍蔵は常に自分にナスターシャを侍らせており、それを離すというのは珍しいことなのだ。

 

「龍蔵殿は外出です。どうしても、会わなければならない人がいるということでね。そのあいだ、この雌犬の調教を任されたわ」

 

 時子は言った。

 秀也は驚いた。

 

「おいおい、伯父貴を外出させたのか? 危険だろう」

 

 豊藤グループの総帥といえば、常に国際組織に狙われている暗殺や誘拐の対象だ。だから、ほとんどの時間を、この隠れ処のような屋敷に閉じこもって過ごし、絶対に必要な場合を除いて、部外とは接触せず、ほとんどを映像などで対応している。

 あるいは、この一年そうだったように、玲子のような存在を通じて、指示や報告を交換するかだ。

 

「それなりの処置もしました。傀儡も三人使って欺騙しています。ちょっとわからないように変装もさせました。護衛の手配もしているわ。きっちりと十二時間後には、ここに戻ります」

 

 時子は言った。

 秀也は肩を竦めた。

 まあ、時子が大丈夫というのであれば、大丈夫なのだろう。豊藤グループの総帥の秘書のような仕事を何十年もしてきた女だ。

 その辺に抜かりがあるわけがない。

 

「それにしても、その女は、なんだこりゃあ。いつの間にこんな変態的な奇形にしたんだ?」

 

 秀也は時子が連れてきたナスターシャの姿を見て、呆れて言った。

 ナスターシャは両手を両足を降り曲げられ、四肢のそれぞれをまとめられて、革帯を装着されている。折り曲げた部分に、蹄のようなものがあり、それでないと歩けないという仕組みだ。だから、ナスターシャは、首輪を引っ張られて、四つん這いで歩くしかないということだ。

 また、口には革製の口枷を装着されていて、それが口の中で動いている感じだ。目に涙を浮かべて苦しそうにえずいたりしているので、おそらく、口に中に入っているのは、強制的にフェラチオをさせる玩具だと思う。

 

 それはいいのだが、奇形はふたつの乳房だ。

 まるで乳牛のように、かなりの巨乳になっている。そして、乳首に細い鎖の繋がったピアスが付けてあり、そこにぶら下がった金具が床に当たりながら歩いているのだ。

 しかも、それによって乳首が刺激されるたびに、異常なほどに反応もしている。

 

「ふふふ、驚いたでしょう、秀也さん。先日、龍蔵殿がこのナスターシャの豊乳手術をしたんですよ……。龍蔵殿は、この女の乳首をクリトリス並みに敏感な場所にもしたということよ。かなりの高等の技術が加わっているわ。人工神経もたくさん繋がっています。さらに、こんな仕掛けも……」

 

 時子はナスターシャの横にしゃがんで、無造作に乳首ごと乳房を揉み始める。

 

「んぐうううっ」

 

 ナスターシャが四つん這いの身体を弓なりにして吠えた。

 しばらくすると、時子が揉む乳房から、男が射精をしたように、白濁液がぴゅっと飛び出した。ナスターシャは昇りつめたような仕草で、がくがくと身体を震わせ、そして、脱力した。

 

「へえ、乳で射精をするようにしたのか……。まったく、変態だなあ、あの(じじ)い」

 

 秀也は心の底から呆れて言った。

 正直に言えば、秀也は女でも男でも、いたぶって泣かせるのは好きだが、このナスターシャに施したように、外観を損なう奇形にしてしまうような行為は好きではない。

 まあ、かなりの巨乳に変わったが、まだぎりぎり許容範囲ではあろうが……。

 その時子がナスターシャを引っ張って、正人の前にやって来た。

 

「それにしても、正人、久しぶりねえ。いい恰好にしてもらっているじゃないの。今日は、ちょっと悪いけど、あんたの子種をもらうわよ。龍蔵殿に、このナスターシャを孕ませるようにと命じられているのよね……。ちょっと、このナスターシャとまぐ合いしてもらうわ」

 

 時子が酷薄に笑った。

 正人だけでなく、犬のよう連れられているナスターシャも顔色を変えた。

 

「な、なにを言ってるんだ──。しゅ、秀也さん、そんなことはしないでください。お、俺は……」

 

 正人が顔を真っ蒼にして叫んだ。

 

「無駄よ。秀也さんの許可も貰ってるわ。それに、ちょうど、このナスターシャは今日は危険日なのよ。しかも、豊藤グループの開発した妊娠しやすくする薬剤を大量に投与しているわ。今日、子宮に精を注がれれば、確実に妊娠すると思う。まあ、ちょっと協力してね」

 

「そ、そんな、や、やめてくれ。い、いやだ。や、やめろう」

 

 正人が金切り声で叫んだ。

 女に興味のない正人にとっては、女とまぐ合いをするだけで拷問だろう。

 そのくせ、媚薬を塗られた股間はしっかりと勃起したままだ。そろそろ、尻穴の痒みも猛烈に効いてくる頃だ。

 あの一物を無理矢理、ナスターシャの秘部に突っ込ませ、尻穴を弄れば、正人は狂ったように射精を繰り返すと思う。

 

 それにしても、時子め……。

 正人には、ナスターシャを妊娠させるための処置に、正人を使うことについて、秀也も同意しているというような物言いをしたが、そもそも、秀也はここにナスターシャが来ることすら知らなかったのだ。ただ、今日は、正人の調教を時子がやるということを承知しただけだ。

 まあいい……。

 秀也が正人を裏切ったという図式にしたのも、秀也による真夫への最初の仕打ちについてのお仕置きだろう。

 秀也は苦笑した。

 仕方ない……。話を合わせるか……。

 

「まあ、正人には悪いが、伯父貴の悪趣味を恨め。別にいいだろう。子種のちょっとくらい──。伯父貴はこの毛唐(けとう)を孕ませたいんだとよ」

 

 秀也は笑い声をあげた。

 あまりに、正人の狼狽えぶりが愉快だったからだ。

 

「んふうっ、んふうっ、んん」

 

 一方でナスターシャが激しく首を振った。

 その形相には、心の底からの恐怖が映っている。

 妊娠をさせるなどという仕打ちを受けるのは、たったいま初めて耳にした感じだ。

 

「うるさいわねえ……。静かにしなさい、ふたりとも──。正人、お前もよ──。秀也さんの近くに侍っているせいで、このところ、ちょっと増長しているのは知っているのよ。今日は、お前もただの奴婢にすぎないということを思い知らせてやるわ」

 

 時子が乗馬鞭をナスターシャに数発振るって大人しくさせてから、今度は正人の股間を下からひと打ちした。

 

「うがあああ」

 

 正人が吼えるような悲鳴をあげた。

 あれは痛い……。

 容赦のない時子のやり方に、秀也も思わず顔をしかめた。

 いずれにしても、時子はこの正人が、なにかと真夫にちょっかいを出していたのを知っている。ある程度は、秀也が指示したものがあるが、それ以上に、この正人は強引な手段で真夫の周囲に手を出していた。

 例の朝比奈恵を竜崎という粗暴な男子生徒に襲わせたときもそうだったし、ほかにも、まだ実行には移していないものの、秀也に無断で、いろいろと裏工作を始めようと動いていたのもわかっている。

 

 真夫贔屓(びいき)の時子は、すでに終わった恵のことはともかく、さらになにかを無断でやろうとしているのを知って怒り狂い、今日のことになった。

 あの恵に手を出させたことについては、秀也もまた時子の怒りの対象だったが、今日、正人を差し出すことで許してくれることにもなった。

 まさか、ナスターシャを妊娠させるために、強制的にセックスをさせるとは思わなかったが……。

 

 まあ、悪く思わないでくれよ、正人──。

 秀也は心の中で詫びた。

 

「ほら、口を開きなさい。もう一発、睾丸を打つわよ」

 

 時子は二十センチほどの勃起した男根の張形を正人の口の中に入れようとしている。それはうねうねと振動と蠕動運動をしており、革ベルトで頭の後ろで留めるようになっている。

 おそらく、あれはナスターシャがしているものと同じものだろう。

 

「んぐうう、んぐう」

 

 結局、正人は時子によって、口の中に大きな男根のディルドを挿入されてしまった。

 張形の先端は、正人の喉まで届いているのだろう。

 正人は涙をぼろぼろと流しながら苦しそうに、何度も吐くような仕草をしている。

 

 次に時子は、部屋の隅にあった椅子型の器具を持って来て、四肢を畳まれて拘束されているナスターシャをそこに座らせた。産婦人科の検査椅子のような形に似ている。

 時子がナスターシャの全身を数十本の革ベルトで縛って椅子から離れられなくする。

 腰の中心部の下はなにもなく、左右に尻たぶだけに座椅子があり、両脚は大きく上に拡げて、ハンドルで操作して自在に開くようになっていた。

 椅子全体の高さも角度も自由にできる。

 時子は、膝立ちで拘束されている正人のペニスにぴったりと秘部の位置が来るように、ナスターシャの股間の高さと角度を調整した。

 

「さあ、よろしく頼むわね」

 

 時子が正人の方向にナスターシャを椅子ごと運ぶ。

 椅子には車輪がついていて、簡単に押せるようになっていた。

 

「んんんん」

「んんんぐう」

 

 ふたりが悲痛な顔でそれぞれに首を横に振る。

 しかし、簡単にふたりの股間は完全にぴったりと密着した。

 正人には勃起が収まらないように、特別な媚薬を塗っているが、ナスターシャも同じような薬剤を塗布されていたのかもしれない。

 時子がふたりの腰を革ベルトで縛って離れないようにする。

 

 一方で秀也は、信号を送って正人の一物の根元の射精止めのリングを外した。

 金属音がして、リングが外れて床に落ちる。

 時子はさらに、正人の尻穴に金属の棒を挿し入れて抜けないように固定した。

 棒は背後の機械にコードで繋がっていて、正人を強引に射精させる電流が流されるようになっている。しかも、その電流を腰の筋肉に流し、直接に腰に電気刺激を送って律動運動を無理矢理にさせさえする。

 時子が機械のスイッチを入れると、さっそく正人が吼えるような悲鳴をあげた。

 

「さて、こんなものかしら……。とにかく、真夫坊には、もう手は出させないわよ。あなたにもね──」

 

 隣に腰かけてきた時子が秀也をぎろりと睨んだ。

 

「怖いねえ」

 

 秀也は笑いながら、わざとらしく怯えた仕草をしてみせた。

 

「ところで、秀也さん、真夫坊が面白いことを始めたのを知っていますか? 来月の学園の発表会のときに、例のSS研で発表展示をするそうですよ。あの愛人クラブが初めて、文化部らしいことをするみたいね」

 

 時子が言った。

 

「ああ、聞いている。拷問の歴史だろう。こっちにも、請求書がきているぜ。玲子のやつ、真夫の命令だと必死だな。金に糸目をつけずに、どんどんと言われたものを買い漁っている。あるいは、手を回して、町工場に製造させたりしているみたいだな……。まあ、いくらでも使っていいとは、伯父貴の指示として伝えてはいるが……」

 

 真夫は、SS研の展示として、拷問や羞恥をテーマとして絵画や拷問の図画、あるいは、拷問具のレプリカを展示するつもりらしい。

 なかなか面白いことを考えるものだと思った。

 秀也としても、個人的に見てみたい気もする。

 

「あれは、ただの展示じゃありません。真夫坊が次の奴婢を捕まえるための撒き餌なんですよ。本当に、あの子って愉快な思いつきをするのね」

 

 時子は笑った。

 

「撒き餌?」

 

 秀也は首をひねった。

 そのとき、正人の吠えるような声が聞こえた。

 さっそく、一発目の射精をしたのだろう。

 だが、精を放っても、尻穴に入れた金属棒からの電流ですぐに強引に勃起するはずだ。

 時子のことだ。

 最低十発は出させると思う。まだまだ正人の受難は続くことだろう。

 

「文化部棟の廊下に掲示している絵画に反応する女子生徒を見極めているのよ。つまり、マゾ生徒を探しているのです。あの絵に大きな興味を抱く者には、なにかしらのそういう願望が心の底にあるということだとしてね」 

 

 時子は、正人やナスターシャなど、まったく気にしていない風で言った。

 それにしても、文化部棟の廊下に、拷問や羞恥がテーマの有名な絵画の模写絵を飾らせているのは知っていたが、そんな目的のためにしてるとは知らなかった。

 いずれにしても、真夫は本気で十人の奴婢を集める気になっているということだ。

 

「だが、西園寺(さいおんじ)絹香(きぬか)に次ぐターゲットは、前田(まえだ)明日香(あすか)だろう? わざわざ、そんなことをする必要があるのか。あの女はマゾだ。だから、俺も絹香同様に、SS研に所属させたんだ」

 

 秀也の時代のSS研に所属していた女生徒は二名。

 ひとりが、西園寺絹香であり、もうひとりが前田明日香である。

 この二名を奴婢にするのは、真夫の既定路線のはずだ。

 もっとも、秀也は絹香については、ある程度手を出したものの、前田明日香については、ほぼ手付かずだった。

 明日香は、絹香と仲の良い「レズ友人」であり、そのうちに一緒にいたぶってやろうと思っていたものの、それを処置する余裕もなく、真夫の存在が明らかになり、それどころでなくなってしまったのだ。

 

「前田明日香については、もうそろそろ動きそうね……。なかなかに、ユニークな罠を考えているみたいですよ。それで、絹香の調教を進めているみたい……。それはともかく、あなたの見込みとは違いますわ。真夫坊は女の調教については甘くない。徹底的です」

 

「いや、甘ちゃんだよ。結局のところ、女に気を遣いすぎだ」

 

 秀也はわざと不満そうに鼻を鳴らした。

 だが、一方で、真夫の女に対するやり方が独特ということを認めざるを得ない。

 正直にいえば、秀也は女を手に入れるのに、操心術に頼り切っていた気もする。そうでないのは、この時子だけだ。

 しかし、結局のところ、秀也には誰もいないし、いま存在するのは、時子くらいのものだ。しかしながら、操心術に頼らなかった時子については、いまでも秀也を離れていかない。

 真夫のやっていることが正しいのではないかということは、本音でいえば、認める気になっている。だが、どうしてもそれを口にするのは癪に障る。

 

 だが、そのとき、時子がくすりと笑った。

 この老女は、操心術も遣えないくせに、秀也の心を読んだかのようだ。

 秀也は横を向いた。

 

「……熱心に何度も真夫坊の仕込んだあの絵画に足を運んで眺めている人物がふたりいます。真夫坊もそのふたりに接近を開始している。わたしの勘では、そのふたりが、八人目と九人目ですね。もちろん、七人目は、前田明日香でしょう」

 

「まあ、とにかく、小僧は本気のようだな。十人の奴婢を集める気か……。やれやれ、このあいだは、伯父貴の前で堂々と、俺に跡目を譲ると言っていたのにな」

 

 秀也は、また肩を竦めた。

 

「そうね、本気ね。あなたも覚悟を決めることですね」

 

 時子が笑った。

 秀也は、「そうだな」と軽く応じた。

 それにしても、「覚悟」か……。

 

 まあ、真夫が本気になったのだとしたら、秀也としても、そろそろ準備していることを進めなければならないだろう。

 どっちにしろ、真夫は操心術を遣える。

 その気になれば、十人の奴婢くらい簡単に集められる。

 真夫は甘ちゃんなので、無理矢理に奴婢にするのをよしとせずに、それでマゾの女子生徒を見つけるために、あんな絵画を飾っているらしいが、操心術は心を操る技だ。

 報告を受けている限り、真夫の操心術は急激に成長しているようだ。

 真夫がマゾ十人を見つけることが難しければ、方針を変えて操心術で心を捻じ曲げて、十人の女を集めることもできる。

 

「じゃあ、俺も、そろそろ動くか……」

 

 秀也は言った。

 このままでは、早晩、真夫は十人の奴婢を確保しそうな勢いだ。

 やるべきことをやらないと、間に合わなくなる。

 

「そうね……。わたしも動きます……」

 

 時子が静かに頷いた。

 秀也も頷き返す。

 もっとも、秀也がやろうとしていることについては、そのすべては時子には話してない。無論、そっちも動く。

 時子には悪いが、秀也も、簡単に真夫に次期総帥の座を与えるつもりはない。

 

 すると、またもや正人が泣くような声で呻いて、腰をぶるぶると動かした。

 二発目ということだ。

 また、ナスターシャも今度は精を注がれたのがわかったのだろう。

 こっちは、本当に号泣して、ぼろぼろと涙を流し始めた。



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 第78話  奴婢候補

「“拷問の歴史”でいいじゃないのよ。それになんの不満があるのよ」

 

 かおりが面倒くさそうに、目の前の白紙の紙を中央に向かって中央に弾く。

 真夫は苦笑した。

 

「そういうわけにはいかないさ。拷問の歴史が展示のテーマなのは確かだけど、パンフレットに載せるインパクトのあるキャッチフレーズで人目を引きたいのさ。興味を持てば、集客もある。できるだけ、見に来る者を増やしたい。それが目的なんだから」

 

「そうよ。そもそも、どんなものでもいいから、ひとり二個ずつのアイデアを出そうと決めたのに、なにも出さないなんて、なによ、かおり――」

 

 絹香も不満そうに言った。

 学園の図書館内に設置されている会合用のテーブルが集まっている研修ルームだ。

 十人程の生徒が囲めるテーブルが二十個ほどある、かなり広い部屋である。

 その一番奥の隅にある一画に、真夫とかおりと絹香が集まっていた。

 今日の午前中は、三学年の全員が総合学習時間ということになっていて、秋に発表する自学研鑽研究の論文発表に向けた自習をすることになっている。

 

 もっとも、半月ほどに迫っている「文化発表会」のことがあるので、文化部に所属する生徒は、この時間を活用して、その準備をするために集団も多い。

 真夫たちもそうだ。

 

 三人で集まっているのも、「SS研」としての展示準備を進めるために、この時間を利用しているというわけだ。

 まあ、総合学習として位置づけられている個人研究は、どんなテーマでもよく、真夫たちの部も、表向きには「Social・Science(社会科学)研究部」ということになっていて、文化部活動の内容を、個人論文の発表に繋げられないこともない。

 だから、全く別のことをやって、さぼっているというわけでもないだろう。

 

 ところで、秀也の愛人クラブから、真夫の愛人クラブという体裁になった「SS研」だが、いまの構成部員は、真夫のほかに、両横にいる「白岡かおり」、「西園寺絹香」のふたりに、絹香の侍女である双子の「松野(あずさ)」と「(なぎさ)」のふたりを加えて、五人だ。

 もうひとり、秀也時代に部員だったという「前田明日香」もいるが、彼女については、いまのところ、真夫は手は出していない。

 

 いずれにしても、真夫の父であることがわかった豊藤財閥の総帥の豊藤龍蔵(りゅうぞう)から、真夫に出された条件は、このSS研に入れて、十人の女を性奴隷にすることだ。

 期限は半年であり、その間に条件を満たせなければ、玲子さんをとりあげるという。

 その条件の十人に、学園の生徒ではない、あさひ姉ちゃんこと「朝比奈恵」と、玲子さん、つまり「工藤玲子」を含めていいのか訊きそびれてしまったが、とにかく、あと六人ほどの女を集めないとならないのだ。

 さもないと、玲子さんを龍蔵に奪われてしまう。

 それに反抗する力は、真夫にはない。

 

 しかし、玲子さんは、すでに真夫の女だ──。

 何者であろうとも、余人に渡すつもりはない。

 真夫はすでに、十人の奴婢を集めることを決心している。

 

「だけど、いくら案を集めても、選ぶのはひとつでしょう? 真夫も絹香も考えたんだから、そっから選べばいいじゃない。わたしのは却下よ。幻の案だけどね」

 

 かおりが悪びれることなく笑った。

 

「もう──」

 

 絹香が怒ったように頬を膨らませる。

 真夫はその自然体の表情がなんとも嬉しくなり、思わず笑みを向けた。

 すると、真夫の視線に気がついたのか、ぱっと絹香が顔を赤くした。

 

 いずれにしても、学園では生徒会長であり、学園の模範的な優等生ということになっている絹香が、これまで他人に見せることなどなかった表情だろう。

 しかし、目の前にいる、およそ欠点がないと誰もが思っている絹香は、実は重度のマゾだ。

 その性癖をあからさまにしてやり、真夫に奴婢にしてやったことで、絹香はまるで憑き物が落ちたかのように、普段でも感情を剥き出しにした顔を見せるようになった。

 いい傾向だ。

 

「いいじゃない。じゃあ、さっさと選びま……。ううっ」

 

「あはあっ」

 

 絹香とかおりが同時にがくりと身体を震わせて、股間に両手で押さえた。

 ふたりの股間に嵌まっているディルドが振動を開始したのだろう。

 実のところ、ふたりの股にはディルド付きの貞操帯を装着させていて、それはいつでも遠隔で振動をさせることができるようになっている。

 しかも、ふたりの股間に嵌まっている淫具は同じ信号で動き、ここにはいない(あずさ)が教場から送っている電波で、まったく同じようにふたりの股間を責めるのだ。

 それで、いまも、突然に襲われた淫らな振動に身体が反応してしまったというわけだ。

 

 だが、大きな空間の研究ルームの隅とはいえ、衝立で視界を隠されているだけの人目のある場所だ。

 最も近いグループは、誰もいないテーブルをひとつ挟んだ向こうだ。

 ふたりが必死に、声を噛み殺して、身体を真っ直ぐにしようとしている。

 

 しかも、この「遊び」をするのがわかっていたので、真夫は今朝はふたりを愛撫して責めるだけで、最後まで達しさせることはしなかった。

 真夫に悪戯されて、あっという間に絶頂するのが日常になっていたふたりには、その「お預け」はつらかったみたいだ。

 そして、そこに来て、ここにはいない相手からの遠隔のバイブ責めだ。

 ふたりは、たじたじになっている。

 

「くっ」

「ふうっ」

 

 ふたりが脱力した。

 振動が静止したのだろう。

 だが、安堵の表情とは別に、ふたりはちょっと切なそうに、スカートの中で太腿を腰り合わせるような仕草をしている。

 さっきから繰り返されている振動の時間は、決して長時間ではなく、ふたりを焦らす程度の短い時間しかない。それでいて、それを繰り返されるものだから、堪ったものじゃないだろう。

 

「うう、もう許してよ……。ねえ、もう、これ外させて……」

 

 かおりが机に上体を突っ伏させて言った。

 真夫はほくそ笑んでしまった。

 

「そんなこと言っても、操作具を持っているのは、梓だ。一年生は普通に授業中だし、接触ができるのは、早くて昼休みだね。今日に限っては、ふたりの貞操帯の鍵もあいつに渡している。昼休みになれば、部室に集まることになっているんだから、それまで待つんだね」

 

 真夫はうそぶいた。

 しかし、それは嘘だ。

 貞操帯を外す鍵は、真夫が持っている。

 また、その気になれば、梓に渡している遠隔の操作具を無効にできる信号を、貞操帯に組み込まれている基盤に送ることもできる。

 もちろん、それはするつもりはなく、授業のない今日の午前中については、こうやって愉しませてもらうつもりだ。

 

「そ、そもそも、あいつは、こいつの調教係でしょう。なんで、わたしまで、ああっ」

 

「んひっ」

 

 またもや、振動に襲われたのだろう。

 ふたりが再び、身体を反応させた。

 

「ああ、こ、ここも、う、動くの……、んぐうっ」

「うくっ、くくくっ」

 

 しかし、様子がおかしい。

 さっきまでは、まだ多少は余裕があった感じだったのに、ふたりとも事前に取り決めていたみたいに、口を手で押さえて、声を我慢している。

 だが、それでも苦悶の声が漏れ出ている。

 それほどにディルドの刺激のために駆け巡る感覚が鋭くて、甘美な刺激なのだろうと思うが、どうしたのだろう?

 

「あ、あいつ……」

 

 かおりがぶるぶると身体を震わせながら、懸命に歯を噛みしめながら悪態をつくのが聞こえた。

 真夫たちは、壁を背にして、三人で真央を中心にして並ぶように座っている。

 絹香も我慢はしているが、かなり激しい反応になっている。

 

「どうしたんだ?」

 

 真夫は思わず言った。

 

「ク、クリトリスが……、んぐうっ」 

「はうっ」

 

 絹香がそれだけを呟き、突然に脱力した。

 かおりも同時だ。

 一方で、真夫はまたもや、苦笑してしまった。

 遠隔操作具は手渡したものの、責めのやり方は、ここにはいない梓に任せっきりにしていたので、どういう風に責めてくるのかは、真夫にもわからなかった。

 だが、どうやら、股間のどの部位も自在に振動させられるようになっている貞操帯なのだが、ずっとクリトリスだけは避けていたみたいだ。

 それを慣れた頃に責めてくるのは、なかなかにえげつない。

 さっきから、深い刺激を与えずに、中途半端な刺激だけを連発してくるやり方についても、なかなかに堂に入った責めだ。

 

 ずっと絹香の「ペット」として絹香の責めを受けてきただけの梓であり、本来は“(エス)”であり、真夫によって絹香との立場を逆転させられたとはいえ、責めに回るのは、ほとんど経験がないはずである。

 それにもかかわらず、ああやって、じわじわと追い詰めるやり方ができるのは、責め手として天性の才能があるのかもしれない。

 

「……ふうう……、ほ、本当にもうやめさせてよ、真夫……。こ、こんなの、も、もたない……」

 

 かおりが泣きごとを口にした。

 一方で、絹香はもうとろんと呆けた表情になっている。

 マゾっ毛の強い絹香だ。

 完全に、できあがりかけている。

 

「そう言うなよ、かおり。それよりも、梓が一度責めさせて欲しいと言っていたぞ。特別に一対一でね。かおりと遊びたいってね。許可してもいいか?」

 

「じょ、冗談じゃないわよ──。あんただけでなく、なんでほかの奴婢に……、んひいいっ」

「んぐううっ」

 

 またもや、ふたりが突っ伏した。

 どこをどんな風に振動させられたか知らないが、これじゃあ、なんの話し合いにもならないな。

 真夫は、今日、なにかの結論を出すのは諦めた。

 

 そのときだった。

 目の前に影が落ち、気がつくと、ひとりの女子生徒が真夫たちの前に立っていた。

 

「うわっ」

 

「えっ、明日香──」

 

 真夫も驚いたが、ずっと淫具で責められ続けているかおりと絹香からすれば、驚愕よりも、恐怖がまさっている。

 いま、この瞬間も、淫具は動き続けていると思う。そのタイミングで彼女がやって来たのだ。

 しかも、とりあえず、耐えたとしても、やはりいつ淫具が動き出すかわからない。

 この状況で話しかけられたくないだろう。

 ふたりの顔が引きつっている。

 

 一方で、真夫は目の前の女生徒の顔を知っていた。

 一応は、SS研の部員ということになっている前田明日香だ。

 絹香の友人であり、女子サッカー部の主将であって、文化部活動は掛け持ちだ。

 まあ、秀也のSS研も、彼の愛人クラブというのは耳にしているので、本気で文化部活動をしていたわけじゃないだろうが……。

 だいたい、秀也の愛人というのも、絹香を引き込んだときのことで、よくわからなくなった。

 秀也に調教を受けていたはずの絹香だが、真夫が抱いたときには処女だった。

 だったら、目の前の明日香についても、手を出していないということも考えられる。

 本当に、秀也という男はわからない。

 

 ……とはいえ、この明日香だ。

 随分と怒った顔をしているが、どうしたのだろう?

 そして、やっと振動が終わったらしいふたりが脱力して、目に見えてほっとしている。

 

「ねえ、絹香、話があるの──。来てくれる」

 

 明日香が真夫たちを無視して言った。

 

「なによ、あんた? あたしたちには、挨拶もなし?」

 

 すると、かおりが横から口を挟んだ。

 それにしても、このかおりも、ついこの間までは、大会社の社長令嬢ということで、それなりに猫を被っていたはずだが、真夫に対する冤罪事件を学園に報告され、処罰として、A級生徒の地位を取りあげられ、真夫の従者としてのC級生徒に落とされてからは、開き直ったかのように、素の自分を出している。

 このぞんざいな人扱いは、飾りのないかおりそのものだ。

 

「ねえ、絹香、最近、ちょっと付き合い悪いよね。いいから来てよ」 

 

 明日香は、完全無視だ。

 しかし、真夫はこの明日香が真夫のことを無視するどころか、ほとんどの意識を真夫に向けているということがわかった。

 操心術を使うことで、真夫は、その気になれば、他人の感情や本音をに触れることができる。

 それどころか、感情を増幅したり、鎮めたりすることで、操作することさえできる。

 なぜか、突然にできるようになった真夫の能力であり、これこそが、あの巨大な豊藤財閥の総帥の血を引く後継者の証なのだそうだ。

 

 いずれにしても、この明日香は真夫を無視することで、思い切り、真夫に強い感情を向けている。

 つまりは、嫉妬だ。

 どうやら、明日香は、真夫に対して強い悋気を抱いている。

 これは面白いことになったかもしれない。

 それにしても、嫉妬だって?

 ふうん。

 

「ふうっ」

「くっ」

 

 そのとき、タイミングよく、絹香とかおりの股間の淫具が動き出した。

 ふたりが胸を喘がせ、ぐっと歯を噛みしめる動作をする。

 

「絹香は取り込み中だ。SS研の文化部発表があるから、キャッチフレーズを考えさせていてね。いまは無理だ。どうしても、話をしたければ、夕方に部室にでも来てよ。君も、一応はSS研に籍を置いているよね、前田明日香さん?」

 

 真夫は明日香の意識をこっちに向けるために声をかけた。

 すると、明日香が怒りの表情を真夫に向ける。

 

「あんたねえ、ちょっと生意気なんじゃない? 絹香は生徒会長だから、気を使って孤児のあんたの世話をしているのよ──。それをいいことに、連れまわすなんて、身の程を知ったら──? 絹香の家は名家よ──。本来であれば、あんたみたいな孤児が声をかけていい相手じゃないのよ──」

 

 明日香が真夫を睨みつけたまま怒鳴った。

 

「な、なにを……はうっ」

 

 明日香の物言いに、絹香がびっくりして口を挟んだ。

 しかし、そのせいで、気を抜いてしまったのか、明日香の目の前で甘い声をあげた。

 おかげで、明日香はやっと、絹香の状態が不自然なことに気がついたみたいだ。

 

「き、絹香?」

 

 明日香はなにがなんだかわからずに、眼を白黒している。

 

「見た通りに、絹香は調教中だ。言っておくけど、絹香にこういうことを強要しているわけじゃないぞ。こいつはこういうことが好きなんだ。わかったら、外してくれ。さっきも言ったけど、放課後なら時間を作らせる」

 

「ちょ、調教って、馬鹿なことを──。しかも、呼び捨てって、西園寺家がどういう家なのか知らないの──?」

 

 明日香が喚いた。

 一方で、やっと振動がとまったみたいだ。

 ふたりの身体の硬直が終わる。

 

「あ、明日香、あ、あとで話す……。話すから……」

 

 絹香が立ちあがり、真夫に詰め寄らんばかりにしている明日香のあいだに割り込むように立った。

 

「身の程を知るのはあんたよ。あんたのこと思い出したわ。女子サッカー部の前田明日香じゃないの──。だったら、平民の家よね。身分がどうのこうのというならなら、あんたも、わたしや絹香には、口もきいちゃいけないんじゃないの?」

 

 かおりが小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。 

 そうか……。

 前田明日香は、普通の家なのか……。

 

「あ、あたしと絹香は──」

 

 明日香がかおりを睨む。

 

「んくっ」

「あうっ」

 

 だが、間髪入れずに、またもや梓による遠隔責めだ。

 本当に容赦ない。

 ふたりが反応する。

 立っていた絹香など、刺激に耐えられずに、股間を手でおさえるようにして腰を落としかけた。

 

「おっと」

 

 真夫は立ちあがって、絹香の身体を支える。

 

「口を開け。命令だ、絹香」

 

 真夫は見せつけるように、明日香の目の前で絹香に口づけをする。

 衝立があるので、目の前の明日香以外には、こっちのことは直接には見えない。

 だが、明日香が絡むように声をあげたので、何事だろうかと聞き耳くらいはしているかもしれない。

 

「ええっ、んふうっ、は、はい……あああ、んああっ」

 

 絹香が躊躇ったのは一瞬だけだ。

 真夫が口づけをすると、絹香はスイッチが入ったみたいに、雌の顔になった。

 目の前に明日香がいるというのに、真夫にされるまま貪るような深いキスをする。

 

 真夫は横目で、明日香を見る。

 操心術で心を読むまでもなく、かなり動揺している。

 なによりも、絹香が抵抗することなく、真夫と舌を絡ませていることに、ショックを受けている。

 やがて、口づけをしながら抱き締めていた絹香から力が抜ける。

 振動が終わったのだ。

 真夫は絹香から口を離した。

 

「ほ、本当に、あいつったら……」

 

 かおりは、ここにはいない梓に小さな声で悪態をついている。

 一方で、絹香は目を潤ませて真夫を見たままだ。

 身体をぐったりと預けて、ここがどこで、周りに誰がいるのかも、頭から飛んでしまった感じだ。

 

 男に支配されることを望み、依存する女……。

 まさに、これほどに完全に真夫に没頭してしまうのは、マゾ女の絹香の真骨頂だ。

 

「わかってくれたか、明日香さん? じゃあ、夕方に……。さっきも言ったけど、明日香さんもSS研の部員だからね。部長としては、文化部発表会の準備もあるし、せめて、十分だけでも顔を出して欲しいね。掛け持ちで忙しいのはわかるけど……」

 

「ぶ、部長? あんたが?」

 

 明日香がたじろいでいる。

 そういえば、知らないのか。

 すると、絹香がやっと呆けから回復して、明日香に顔を向ける。

 

「い、いまは、ちょ、ちょっと都合が悪いの……。ごめん──」

 

 絹香は言った。

 だが、まだ真夫に抱かれたままだ。

 そして、逃げようともしない。

 

「わ、わかったわよ……」

 

 明日香は、まだ心残りがありそうだったが、さすがに圧倒されたのか、動揺を隠せないまま立ち去っていった。

 ほっとした様子の絹香を座らせて、真夫も座り直す。

 すると、かおりが口を開いた。

 

「あ、あいつが七人目……?」

 

 七人目というのは真夫の「奴婢」のことだ。

 つまりは、恋人であり、あすか姉ちゃん、玲子さん、かおり、絹香、梓と渚の双子に次ぐ七人目ということだ。

 玲子さんを奪われないために、学園内で十人の奴婢集めを強要されているという事情は、すでに女たちの全員が承知している。

 

「七人目になるのかな? それとも八人目、あるいは九人目だろうか? とにかく、俺は素質のない女性を無理矢理に奴婢にしたりしない。俺がSS研に入れるのは、心の底でそれを望んでいる女性をだけだよ」

 

 真夫は言った。

 その気になれば、覚醒した真夫の操心術を使い、どんな女であろうとも、真夫の奴婢にすることを望むように暗示をかけて、あっという間に十人でも、二十人でも、龍蔵の示す「奴婢」というものを集められるのかもしれない。

 おそらく、龍蔵が望んでいる総帥候補としての素質はそれであり、目的のために、問答無用に人を支配してしまう冷酷さを望まれているのだろ思う。

 

 だが、真夫はそれはしたくない。

 ひとりの男に支配され、大勢の女のひとりとしてかしずくなど普通の女が受け入れるわけがない。

 だからこそ、真夫は心の底で、そういうことを受け入れる素地のある女性を探し、手を伸ばして、奴婢として集めようと思っている。

 

 SS研でやっている「拷問展」はそのための試金石だ。

 あそこには、文化部活動の名を借り、女が羞恥責めになったり、嗜虐されたりすることを連想するような絵画やレプリカの拷問具を集めている。

 そんな展示に、興味を持つような女……。

 被虐の快楽に弱く、そして、心の底に男に支配されたいという願望が隠れている女たち……。

 真夫が捜しているのは、そういう女だ。

 

「それで、あいつは、あんたの眼鏡にかなったの?」

 

 かおりが言った。

 

「どうかな? ただ、いまのところの候補者はこのふたりかな。さっきの明日香については保留だろうね」

 

 真夫は内ポケットから、二枚の写真を取りだして、テーブルに置いた。

 玲子さんに準備してもらったものであり、真夫が「獲物」として狙っている女だ。

 すでにSS研の展示物は絵画を中心に、文化部棟の廊下に展示しており、それに興味深く通ってくる者たちだ。

 それがふたりいる。

 

 少なくとも、そのふたりは、SS研の前の廊下の責め絵に、性的欲望を刺激されている。

 こっそりと観察している真夫には、それがわかっている。

 つまり、奴婢候補というわけだ。

 

「ええ──?」

「えっ?」

 

 かおりと絹香が写真を見て、声をあげた。

 なにしろ、写真の一枚目は「相場まり江」──。

 

 彼女は学園でも有名だ。

 学園でもトップクラスの美少女である証である「四菩薩」に数えられ、芸能プロダクションにも所属するプロの女子高生モデルだ。

 日本人離れした西洋人を思わせる体型と美貌で、世間でもかなりの有名人である。

 真夫も、存在は知っていたが、ついこの間までは、彼女を自分の愛人にしようなどとは夢にも思わなかった。

 だが、彼女はSS研の展示絵画に興味を持ち、ほとんど毎日通ってきている。

 

 しかも、しっかりと欲情している。

 真夫以外の誰も気がついていないが……。

 

「ええっ、だって、この方も? どういうこと? 奴婢候補って?」

 

 だが、ふたりが驚いているのは、その相場まり江もそうだが、もう一枚の写真に対してだろう。

 もう一枚の写真には、ひとりの男子生徒が写っている。

 

 「金城光太郎」──。

 

 真夫と同じS級生徒であり、今朝も寮で会話をした。

 だが、男子生徒であり、奴婢候補だと告げられたふたりが驚くのは無理もない。

 

「あ、あんたって両刀?」

 

 なぜか、かおりがたじろいだようになり、もともと赤かった顔をさらに真っ赤にしている。

 

「それはいいさ……。それよりも、絹香とあの明日香さんの関係を教えもらおうかな。嘘も隠し事もなしだ」

 

 真夫は、絹香に操心術を注ぎ込みながら、ささやくように言った。

 

「は、はい……」

 

 すると、絹香の目がすっと虚ろになった。



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 第79話  昼休みのひと時

「あ、あああ」

「ああ、あああっ」

 

 窓のない隠し部屋の中で、ふたりの女生徒の嬌声が響きわたっている。

 いま真夫たちがいるのは、学園内で文化部が集まっている棟の一角であり、ここは真夫たちが所属している「SS研」の部室である。

 ある梅雨空の日の昼休みのひと時だ。

 

 あられもない悲鳴の正体は、西園寺(さいおんじ)絹香(きぬか)白岡(しらおか)かおりであり、ふたりとも、真夫が奴婢にした財閥の令嬢だ。

 ただ、ふたりのこの学園における立場は、かなり異なる。

 

 絹香は、真夫と同じ特別待遇生徒であり、全寮制であるこの学園内でかなりの特権を持っている、いわゆる、「S級生徒」だ。

 しかも、女生徒会長としてかなりの人望もあり、さらに「四菩薩」のひとりとして、男子生徒たちからは、学園を代表する美少女と、かなりの人気があるらしい。

 だが、真夫は、絹香の心に宿るマゾ性を見抜いて、強引な手段で、密かに奴婢にした。

 まだ支配に陥らせたばかりだが、すでに真夫から離れられないくらいに心を縛っている。

 

 また、絹香の隣で同じように嬌声に喘いでいるのが、真夫の従者生徒のひとりになった白岡かおりだ。

 もともとは、S級生徒に次ぐ、特権階級であるA級生徒だったが、真夫を痴漢の冤罪に仕立てた罰として、この学園の新しい理事長代理となった工藤(くどう)玲子(れいこ)によって、真夫の従者奴隷として、底辺のC級生徒に格下げとなり、真夫の命令に絶対服従の立場になった。

 紆余曲折あったが、かおりもまた、真夫に服従する奴婢だ。

 

 真夫や絹香のような特別待遇生徒には、全寮制である学園に従者を連れ込むことが許可されている。この学園に来るまでは、孤児として身寄りのなかった真夫に仕える奴婢として、財閥令嬢であるかおりちゃんが真夫に仕えることになったということだ。

 すでに、かおりちゃんの「罪」と処分理由は学園内に公開されていて、令嬢としての社会的立場は地に落ちている。

 玲子さんの仕掛けもあるが、実家からも見放されており、ほとんど勘当同然の状況のようだ。

 真夫が面倒を看なければ、令嬢として甘やかされてきたかおりちゃんは、生きていくことさえも難しいかもしれない。

 

 それはともかく、そのふたりが隠微な仕掛けにより昼休みに責められ、それを真夫から調教役を指示された松野(まつの)(あずさ)がふたりを苛めているというのが、いまの状況だ。

 

「お姉様たち、ちょっとは慎んでくれませんか? そんなことで、文化部展示館のときに我慢できるんですか? そんなにいやらしく喘いでいたら、スカートの中でなにをされているかモロバレじゃないですか。これは訓練なんですからね。もうちょっと回転を速めますよ」

 

 ふたりの横で意地悪く話しかけたのが、本来は絹香の従者「奴隷」だった梓だ。

 絹香のもうひとりの従者生徒である(なぎさ)とともに双子であり、西園寺家に建て替えてもらった借金のために、ずっと長く絹香の倒錯した性癖の相手をさせられていたが、絹香を真夫が支配したことによって、梓と絹香の立場は一変してしまった。

 

 絹香を奴婢として支配するにあたり、真夫は絹香の被虐癖と梓の「女王様」の性格を見抜き、絹香の性癖を満足させる「調教役」に梓を指名したのだ。

 思ったとおりに、なかなかの嗜虐ぶりであり、自分が仕える主人の絹香をこうやって冷酷に責めたてる。

 まだ数日でしかないが、真夫は、この梓を真夫の助手の責め役として、重宝に感じるようになってきていた。

 いまも、さすがな鬼畜ぶりだ。

 まだ、十五歳の一年生とは思えない。

 なお、真夫もそうだが、絹香もかおりちゃんも、この学園では最高学年である三年生である。

 

 さて、この「SS研」は、表向きには、“Social・Science(社会科学)研究部”ということになっているが、実際には、真夫の愛人クラブである“Secret・SM(秘密SM)部”である。

 これも色々あって、真夫が部長として引き継ぐことになった。

 

 現在の部員は、真夫のほかに、白岡かおり、西園寺絹香、松野梓、そして、梓の妹の(なぎさ)ということになっている。

 これに、学園の理事長代理であり、国際的な大財閥である豊藤グループの顧問弁護士のひとりでもある工藤玲子と、真夫の恋人である朝比奈(あざひな)(めぐみ)を加えた六人が、現在、真夫が支配している「奴婢」だ。

 

 真夫は、父親だと教えられた豊藤グループの総帥の豊藤(とよふじ)龍蔵(りゅうぞう)から、半年以内に十人の「女奴婢」を支配するように命じられている。

 それが、玲子さんを奪わない条件であり、総帥の座に興味はなかったが、玲子さんを失いたくない真夫は、龍蔵の示した条件を達成するために、真夫が覚醒した能力を使うことを決心した。

 真夫の能力というのは、「操心術」だ。

 

 豊藤家の嫡子のみに遺伝するといわれる特殊能力であり、他人の心を支配する超能力だ。

 また、龍蔵は、特殊な帝王学の持ち主であり、多くの奴婢を支配することで、他人を支配することを覚えさせるのだという。

 つまりは、真夫がこのSS研という場所を利用して、十人の奴婢を集めるのは、龍蔵の教育の一環ということだ。

 そして、玲子さんを失わないためには、真夫の力を示して、残りの奴婢を集めるしかないということだ。

 

 それはさておき、いまはたまたま、部員たちと集まった昼休みの部室であり、さらにここは、廊下に接する通常の部室から隠し通路で入る奥側だ。

 来月の上旬に学園の「文化部発表会」があり、真夫はSS研の展示研究として、「拷問の世界史」の研究展示を発表することにしている。

 そのため、部室には真夫の依頼によって玲子さんが集めまくった絵画の模写絵や拷問具のレプリカがたくさん置いてある。

 そして、集まった「部員」の中で真夫が指名し、その拷問具のレプリカのひとつに体験として座らせられているのが、絹香とかおりちゃんということだ。

 

 試しとして選んだ拷問具は「三角木馬」だ。

 真夫は、当日は、ただ展示するだけでなく、時間を決めて、奴婢たちに、集めてもらった拷問具の体験展示を交代でやってもらおうと思っている。

 さすがに、堂々と破廉恥なことはできないので、制服を身につけさせたままの予定だが、美少女たちが拷問具に実際に拘束させられる展示は、きっと学園中の話題になることは間違いない。

 もっとも、ただの見せかけであり、本当に拷問を受けてもらうわけではない。

 

 絹香とかおりちゃんが座っている「三角木馬」だって、本来は尖っている頂点部分は両端のみであり、ふたりが座っている部分は尖った部分が平らな革椅子になっていて、痛さは感じないような仕掛けになっている。

 しかし、彼女たちが座ればスカートで平らな座椅子の場所が隠れるので、見学者には、彼女たちが尖った三角木馬に座らされているように見えるということだ。

 

 だが、それだけでは面白くない。

 真夫は、玲子さんに、さらに仕掛けを作ってもらった。

 ふたりが座る平らな部分に穴をつけてもらい、そこに直径が十センチほどのプラスチック製の球体を三連とりつけてもらったのだ。

 さらに、球体には刷毛がついていて、その刷毛に液状の媚薬が染み込み、それが回転して股間を刺激し続けるという仕掛けにしたのだ。

 スカートで頂点部分が隠れる代わりに、スカート内の隠れている股間が媚薬付きの刷毛責めになるということだ。

 まあ、これも立派な拷問だろうが……。

 

 とにかく、ふたりにさせているのは、そのテスト体験だ。

 木馬にまたがっているふたりの両脚は、足首から脚の付け根まで片脚につき、七箇所をベルトで固定されており、腰をあげることはおろか、前後にも左右にも、ずらすことができないようになっている。

 その状態で、さっきから、ふたりはこの木馬の仕掛けの餌食になっているというわけだ。

 

「な、なに言ってんのよ。こ、こんなの我慢できるわけが……ああああああっ」

 

「ああっ、あ、梓、もう許して──。ま、真夫さん、無理です。こんな体験展示なんて、ぜ、絶対無理です、あっ、あああっ」

 

 梓がリモコンのスイッチを操作することにより、「木馬」の背中部分にある羽根つきの球体の回転が速まったのだろう。

 木馬に乗せられているかおりちゃんと絹香の悶えと悲鳴が大きくなった。

 

「無理は困るなあ。じゃあ、本番のときには、さるぐつわでもする? 顔を隠す仮面はさせるつもりだから、その下で緘口具を装着するのはできると思うよ。だけど、一応は真面目な拷問歴史展示だからね。そんな風にあからさまに悶えられると困るんだよね」

 

 真夫はふたりの正面に設置している机で昼食の弁当を食べながら言った。

 この学園で、真夫の従者として同居することになった恋人の朝比奈(あざひな)(めぐみ)、すなわち、“あさひ姉ちゃん”が作ってくれた弁当であり、材料は質素だが、とても美味しい。

 特別待遇生徒として、学園から給付金も受けている真夫は、この学園内の食堂で高級料理を配達させることもできるのだが、どうにも、豪華すぎるメニューは、まだ受け付けず、真夫は食事のほとんどは、あさひ姉ちゃんの作った料理ですませている。

 

「無理いいい、おろしてええ」

 

 かおりちゃんが身体をがくがくと震わせながら叫んだ。

 その隣の絹香は必死に歯を喰いしばっているが、かなり苦しそうだ。

 まあ、無理もないだろう。

 

 とにかく、「木馬」に座っているふたりの股間部分で、催淫剤をたっぷりと塗っている刷毛がずっとふたりの股間を苛んでいる。

 外観は、制服姿のまま縄で後手縛りにはされているものの、しっかりと木馬部分はスカートの下に隠れているが、その内側は下着を外させられ、剥き出しの股間を容赦なく責めたてられて、ふたりとも嬌声を我慢することができなくなっているというわけだ。

 もっとも、これでも最初の五分くらいは、ふたりとも、必死に声を押し殺して我慢していた。

 しかし、それを過ぎると、媚薬が浸透してしまって、いまのように派手に喘ぎ声をあげるようになってしまった。

 

「まあ、昼休みが終わるまでには、拘束を開放するよ。だけど、確かに、これじゃあ、一般生徒の前で展示はできないか……。梓、速度を最弱にしてやって」

 

 真夫は声をかけた。

 梓はにやりと微笑むと、真夫の指示に従い球体の回転を遅くした。

 絹香とかおりの身体ががくりと震える。

 もっとも、遅くしたらなったで、これもまた苦しいのを真夫はわかっている。

 

 午前中は、この梓に任せた遠隔調教によって、さんざんにディルド付きの貞操帯の振動でいたぶられた。

 そして、昼休みになったところで、やっと貞操帯を外してもらったものの、こうやって、真夫の注文によって玲子さんが手配した「調教木馬」の試しをやらされることになり、すっかりとふたりとも息も絶え絶えに追い詰められたのだ。

 回転が遅くなれば、全身を襲っている妖しい痺れから開放されず、生殺しの状態に陥ることだろう。

 

「ああ、いやああ……」

「だ、だめええ……」

 

 ふたりとも制服を汗びっしょりにしながら、全身で悶え始める。

 

「真夫様、このお姉様たちに、利尿剤入りの水を飲ませていいですか? そして、木馬からおろすときに、貞操帯を装着させ直します。おしっこは五時限目の後にしましょう。あたしの教室から、お姉様方を迎えに来ますので」

 

 すると、梓が笑いながら言った。

 

「ば、馬鹿じゃないの──。そ、そんなこといやよお、ああああっ」

 

 かおりちゃんが激昂した様子で声をあげた。

 絹香も顔色を変えて、必死に首を横に振っている。

 

「面白そうだけど、それをするとしたら、かおりちゃんだけだな。俺が支配する奴婢だけど、絹香にはしっかりと勉強をしてもらって、最高学府に入ってもらい高級官僚として、俺を支える役目を担ってもらう予定だ。だから、絹香の調教は、勉強を妨げない範囲内だ。だけど、かおりちゃんは、どうでもいいぞ。財閥の力で大学は、玲子さんが責任を持って準備するそうだ。受験勉強はしなくても問題ないらしい」

 

「なんでよおお」

 

 かおりちゃんが絶叫した。

 

「許可がでたわ。じゃあ、渚。利尿剤入りの水差し持ってきて」

 

「じ、冗談じゃないわよおお、ばかあああっ」

 

 かおりちゃんが悪態をついた。

 一方で、名を呼ばれた渚は、おろおろするばかりだ。

 同じ顔だが、梓とは異なり、平凡的な性癖しかない渚は、大人しい性格もあり、真夫たちの「遊び」にはまだ慣れない。

 それでも、「受け」のときには気分に浸るが、梓のように責め役など無理だ。

 

「えっ、えっ、えっ?」

 

 いまも、ただ水差しを運ぶだけなのに、おろおろしている。

 そのとき、この隠し部屋に誰かがやってくる信号が灯った。

 すぐに、ただの壁だった場所が左右に開いて、アタッシュケースを抱えている女性が入ってきた。

 玲子さんだ。

 

「やっていますね」

 

 玲子さんが絹香たちを一瞥すると、微笑みながら真夫に声をかけた。



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 第80話  奴婢たちの名札

「玲子さん」

 

 真夫はSS研の隠し部屋に入ってきた玲子さんを確認するとともに、壁の時計を見た。

 昼休みは残り二十分弱というところだ。

 (あずさ)に視線を向ける。

 

「ふたりをおろしてやってくれ。ただし、股間は貞操帯で封印だ。ディルドはなしでいい」

 

「わかりました」

 

 梓が手に持っていたリモコンを操作する。

 絹香とかおりちゃんの股間を苛んでいた木馬の球体の回転がとまったのだろう。ふたりが木馬の上でがくりと身体を脱力させた。

 梓と渚のふたりが、絹香とかおりちゃんの(いまし)めを解いていく。

 やっと、淫らな木馬からおろされたふたりだが、動作はぎこちない。

 ふたりとも、両手で制服の上から胸と股間を押えるようにするとともに、完全な内股で太腿をすり合わせるようにしている。

 

 無理もないだろう。

 真夫には、その理由もわかる。

 股間に当たる部分を刷毛で刺激し続ける木馬に座っていたのは、十五分くらいのことだと思うけど、そのあいだに、すっかりとふたりとも身体の快感の疼きを燃えあがらせられてしまったのだ。

 しかも、刺激されっぱなしで、絶頂はしていない。

 くねくねと切なそうに身体を動かしている。

 

「いいモニターがとれたよ。ありがとう。やっぱり、木馬展示は無理そうだ。どうにも、エッチすぎるしね。文化祭展示では、三角木馬の実演展示はやめにするよ」

 

 真夫はうそぶいた。

 拷問具や刑具のいくつかを公開展示する予定はあったが、もともと、木馬責めのような過激なものを使う予定はなかった。

 そう言って、無理矢理にやらせたのは、ただの口実だ。

 怒るだろうか?

 すると、かおりちゃんが急に顔をあげた。

 

「……そ、そんなのどうでもいい……。それよりも、や、やってよ……」

 

「んっ?」

 

 挑むように真夫を睨みつけるかおりちゃんは、真夫の惚けるような返事に、口惜しそうに歯を噛みしめる仕草をした。

 

「わ、わかっているんでしょう──。あ、あと少し時間があるわ──。ここで、みんなの前でいい。わたしを犯してったら──。こ、こんなんでやめたら頭がおかしくなる──」

 

 かおりちゃんが声をあげる。

 

「あ、あっ、わ、わたしも……」

 

 慌てたように絹香が声をあげた。

 真夫はふたりの可愛い姿に、思わずにんまりしてしまった。

 

「申し訳ないけど、玲子さんの話を聞かないとならなくてね。その代わり、今夜の相手はふたりにしてもらうよ。それまでお預けだ」

 

 少し前までは、あさひ姉ちゃんと玲子さん、そして、かおりちゃんの三人だけだったが、いまは、絹香とその侍女の梓と渚の三人が真夫の相手として増えている。

 さずがに、毎晩全員を相手にするわけにはいかないので、夜の遊びは数名ずつにしてもらっている。

 その順番も一応は決めてもらっているが、真夫の気まぐれでどんどん変更になる。

 かおりちゃんと絹香には、今夜の相手を命じることで、いまは我慢してもらおう。

 

 こうやって甘えてもらえると、真夫も思わず、受け入れてあげたくなるが、しかし、今日の放課後は大切な「仕事」があるのだ。

 その前に精力を使いたくない。

 それに、こうやって追い詰められているふたりの姿に接すると、身体の中の嗜虐欲がどんどんと刺激されて、もっと苦しめてしまいたくなってしまうのだ。

 もうちょっと焦らし責めの相手をしてもらおうと思った。

 

「そ、そんなあ……」

 

「ああ……」

 

 かおりちゃんと絹香ががっかりと肩を落とした。

 すると、にこにこと微笑んでいる梓がふたりに寄っていく。手に革の貞操帯を持っていて、渚も一緒だ。双子たちは、それぞれにひとつずつ貞操帯を持っていた。

 木馬に乗せられる直前まで、ふたりが装着されていたものであり、嵌めると外からの一切の刺激を遮断するTバック式の電子ロックタイプである。

 さっきの真夫の指示のとおり、内側のディルドは外されている。

 ただ、クリトリスや局部、さらにアナルの部分には、大小の瘤が内側についていて、ディルドほどではないが、身に着けている限り、ずっと淫らな刺激を受け続けることになる。

 はっきりとした快感を与えてもらえない分、むしろ、ディルドがなくなったことは、ふたりをさらに苦しめるかもしれない。

 まあ、これも調教だ。

 

「はい、お姉様方、スカートをめくってくださいね。嵌めますよ」

 

 梓が声をかける。

 かおりちゃんも絹香ももう、文句は言わない。

 諦めたように、股間をやや開いて、スカートを自分でめくり上げている

 

「利尿剤は許すけど、でも、いずれにしても、おしっこはいまはお預けかな。装着が終わったら食事をしてくれ」

 

 真夫は声をかけた。

 奴婢たちの排泄は、原則として真夫の目の前でさせると決めている。

 本音をいえば、プレイのとき以外には、自由にさせてもいいと思うが、操心術が自在になるにつれて、真夫には女たちの感情がだんだんと読めるようになってきている。

 それによれば、絹香もかおりちゃんも、そして、目の前の玲子さん、さらにあさひ姉ちゃんは、真夫の許可なくトイレに行けないという命令が、とにかく嬉しいようだ。

 むしろ、自由にしていいと告げると、失望するような感情が出現する。

 そのため、意図的に本人のしたいときには排泄の許可を与えず、真夫の都合だけで排泄時間を決めている。

 六人にいる今の奴婢たちの中のこの四人は、それが実は嬉しいみたいだ。

 だから、そうしているのだ。

 

 また、利尿剤のことを口にしたのは、ふたりへの調教を仕切っている梓が、さっきそんなことを口にしていたからだ。

 しかし、さすがに利尿剤を飲ませてしまえば、まずは排尿を我慢することが不可能になる。

 それでは、むしろ面白くない。

 ぎりぎりのところを見極めて耐えさせる。

 それがいいのだ。

 

「うう、はい……」

 

「わかりました……」

 

 かおりちゃんと絹香がかすかに項垂れたのがわかった。

 今日の午前中は、ディルド付きの貞操帯で遠隔調教を受け、昼休みはずっとさっきの木馬で寸止め責めのような責めを受け、再び貞操帯だ。

 朝に一度してから一度も排泄はさせていない。

 そろそろ、おしっこがしたい頃なので、真夫の命令にがっかりしたのだと思う。

 まあ、病気にでもなったら困るが、それについては、定期的な検診をしっかりと玲子さんを通じてお願いしているので、問題になる前に処置できるから、好きなようにしていいと玲子さんにも言われている。

 

「さて、お待たせしました、玲子さん……。ところで、玲子さんはおしっこは、いいですか?」

 

 アタッシュケースを抱えたままスーツ姿で真夫の横に立っている玲子さんに声をかけた。

 玲子さんにもまた、ディルド付きの貞操帯を常時装着させている。

 こっちについては、電子ロックを解除する信号の操作具を玲子さん自身が持っているので、必要により外すことはできるが、玲子さんは一度も勝手に外したことはない。

 排泄も同様だ。

 

「ま、まだ問題ありません。で、でもできれば、わたしも後で可愛がっていただければ……」

 

 玲子さんが顔を赤くした。

 

「……帰宅前に時間を作ります……。理事長室で待っていてください」

 

 真夫がささやくと、玲子さんが微笑んだ。

 頭がよくて実力もある隙の無い玲子さんだが、真夫以外には絶対に見せない飾りのない笑顔だ。

 真夫も思わずもらい笑みをしてしまう。

 

「あ、ありがとうございます……。ところで、龍蔵様からのお言葉をお伝えましす。十人の奴婢に、生徒でなければならないという制限はないそうです。生徒でも、生徒でなくても……。ただ……」

 

 玲子さんが言って、持っていたアタッシュケースを真夫の前の机に置く。

 すでに食事の終わっていた弁当箱を真夫は鞄に片づけた。

 玲子さんに確認を頼んでいたのは、龍蔵が玲子さんを取りあげない条件としてあげた十人の奴婢の条件のことだ。

 龍蔵は、真夫を龍蔵の後継者と指名する条件として、半年以内に十名の女奴婢を作ることを命じている。

 その奴婢をこの「SS研」に入れて支配しろということだったが、真夫は十人の中に、すでに奴婢にしているあさひ姉ちゃんや玲子さんを加えていいかどうかを確認してもらっていたのだ。

 

 当初真夫は、龍蔵の支配する豊藤グループの総帥の座など興味はなかったが、後継者になることを放棄するのであれば、玲子さんを取りあげると言われて、いまは覚悟を決めて、総帥になる決心をしている。

 少なくとも、それを目指す。

 常識外れのではあるが、十人の奴婢を支配することが、真夫を後継者にする条件というのであれば、それが道義に反することでも、真夫はするつもりだ。

 「家族」になった玲子さんを真夫は手放す意思はない。

 いずれにしても、玲子さんには午前中に、前回の面談のときに確認を忘れていた奴婢にする相手の資格を確認してもらっていたのだ。

 

「だから、もちろん、十人の奴婢は、わたしでも問題ないそうです……。ただ、問題が……」

 

 玲子さんが複雑そうな表情になって言った。

 とりあえず、自分も真夫の奴婢の許可を受けたということであり、それは嬉しそうな感じなのだが、なんだか不満そうな表情にもなっている。

 果たして、問題とはなんだろう?

 真夫は首を傾げた。

 

「問題ですか?」

 

「新たな条件を示されたんです」

 

「条件?」

 

「とにかく、試してみていただけますか? 確かめさせてください。それから説明を……」

 

 玲子さんがアタッシュケースを開く。

 中には、銀色の金属の板が複数枚入っている。

 手のひらほどの長さの細長い薄い金属板であり、名前が横書きで刻んであった。

 一枚だけ、ほかの金属板の倍くらいの大きさがある。

 視線をやると、それには “坂本 真夫” と名が刻まれていた。

 

「これは?」

 

 真夫はそれを手に取りながら首を傾げた。

 

「秀也さんを通じて、龍蔵様から渡されました。真夫様が奴婢にされる女たちが増えるごとに、名札は逐次に追加してお渡しすると言っておりました」

 

「秀也を通じて? それに、これは、名札ですか……」

 

 ほかの札を手に取る。

 

 “工藤 玲子”……。

 

 “朝比奈 恵”……。

 

 “白岡 かおり”……。

 

 “西園寺 絹香”……。

 

 “松野 梓”……。

 

 “松野 渚”……。

 

 すでに、真夫のところに集まっている女性たちの名前だ。

 また、片面には黒文字で名が刻まれていて、反対側の面には、同じ名が赤文字で刻まれている。

 ただし、真夫の名札に対して、女たちの名はひと回り以上は小さい。

 

「秀也さんによれば、正規の部室側の壁の一角に、電子磁石で貼れるようになっているそうです。ただし、奴婢として認めた者でなければ、黒文字側を表にして、壁に貼りつかないそうです。でも、黒文字で密着しないときには、赤文字側が表であれば、壁に密着できる仕掛けということです」

 

「つまりは、黒文字を表にしている女性が十枚になれば、俺のことを龍蔵さんが認めるということですか?」

 

 とりあえず、真夫とあさひ姉ちゃんの名札だけでを手に取って立ちあがる。

 まだぐったりとしている絹香たちや、その世話をしている梓たちに声をかけてから、隠し通路を戻って正規の部室に戻る。

 

 そして、玲子さんが示した壁に寄る。

 なるほど、気がつかなかったが壁紙と同系色の金属面になっている。

 最初からそうだったのか、数日前くらいの時期に差し替えたのかはわからないが……。

 龍蔵は、十人の奴婢を集めて性支配することが、真夫が後継者となるための帝王学の教育の一環のように口にするが、やはり、こんな遊びは、彼の倒錯した性的な愉しみのひとつだろう。

 とりあえず、試しに、自分の名札を適当な場所に密着させる。

 小さな電子音がして、名札が壁に接着したのがわかった。

 

「なるほど……」

 

 次いで、“朝比奈 恵”と書いている名札を壁にくっつけた。

 真夫の横だ。

 ただし、赤文字を表にした。

 しかし、名札はくっつかない。

 逆にして、黒文字を表にする。

 今度は密着した。

 

「ふうん……」

 

 あさひ姉ちゃんの名札を剥がしてみた。

 いとも簡単に壁から離れる。

 

「秀也さんを通じての言葉ですけど、龍蔵さんが認めた支配を施したとみなした者のみが黒文字で密着するということだそうです。逆にいえば、黒文字で密着しない限り人、人数には認めないと……。申し訳ありません。わたしでは龍蔵様に直接に面会は叶いませんでした。秀也さんの言葉を龍蔵様の言葉を受け入れるしか……」

 

 アタッシュケースを開いたままの状態で盆のようにして持ってきている玲子さんが頭をさげた。

 

「別に謝ってもらうことでは……」

 

 どうして、こんな仕掛けにするのか……?

 真夫の行動をしっかりと管理するということだろうか?

 そして、あの操心術で完全支配をすることを求めている……?

 手加減などすれば認めないと告げるとともに、裏切ることのないくらいに、完全に人を支配せよということ……?

 まあいい……。

 腹は括ったのだ。

 もちろん、玲子さんを取りあげられないように、龍蔵の命令を実現してみせる。

 

「そうではないんです。そのう……、秀也さんの言葉の通りに告げますが、豊藤グループの総裁の後継者として相応しい女しか十人のうちに認めないというんです。そこら辺の有象無象は人数に数えないと……。これは、あのときに示された条件とは違います。龍蔵様はそんなことは口にしていませんでした。奴婢にする女に、新たに条件を示すなど……」

 

「えっ?」

 

 真夫は玲子さんの言葉に、ちょっとびっくりした。

 つまりは、どんな女でもいいから、十人を奴婢にしろということではなく、どんな女を奴婢にするかも管理するということか?

 確かに、それはあのときに示された条件とは異なる。

 

「今更、そんな新しい条件を示すとはひどいです。しかも、秀也さんを通してとか……。だから、直接に確認したかったのですけど、会えなくて……」

 

 玲子さんは残念そうに言った。

 そういえば、あのとき、龍蔵は、今後は玲子さんとは直接には会わずに、すべてを秀也を通じて指示をするとか口にしていた。

 だから、面談は突っ張られたのだと思うが、そもそも、秀也にすれば、真夫があっさりと十人を集めてしまえば、都合が悪いだろう。

 あるいは、真夫が十人を集めても、こんな女は認めないと秀也が言えば、数には入らないようにした?

 

「どりあえず、名札を貸してください」

 

 真夫は玲子さんの持っているアタッシュケースから次の名札を取りだす。

 “工藤 玲子”──。

 玲子さんの名札だ。

 ちょっと考えて、あさひ姉ちゃんの名札の横に置く。

 黒文字を上にして、貼りつけることができた、

 

 “白岡 めぐみ”──。

 “西園寺 絹香”──。

 

 このふたりの名札も黒文字で貼りついた。

 位置は、玲子さんの名の下にした。

 

「あれっ?」

 

 しかし、次いでくっつけようとした“松野 梓”と“松野 渚”の名札は、いずれも、黒文字では密着しない。

 

「そ、そんな」

 

 玲子さんがかすかに震えた声で呟いた。

 ふたりは、絹香の侍女生徒であり、人数には認めないということか……?

 侍女だから?

 でも、真夫と同じ孤児院出身のあさひ姉ちゃんは、黒文字で密着したけど……。

 今度は、双子の名札を赤文字を表にして、壁に貼ってみる。

 しっかりと、密着した。

 

「やはり、これは秀也さんの嫌がらせとしか……」

 

 玲子さんは口惜しそうにしている。

 確かにそうかもしれない……。

 真夫は思った。

 でも、そんなことを言っても仕方がない。

 真夫としては、半年以内に龍蔵が示した十人の女を支配するしかない。

 双子を認めないということであれば、残り四人の予定が、六人になるだけだ。

 だけど、困ったのは、どんな女なら、条件に合致した者として認めるかだ。

 真夫には、奴婢として認められたかおりちゃんや絹香と、認められなかった梓たちの違いがわからない。

 あるいは、真夫が後継者として認められることを阻止するために、どんな女でも認めないと弾いてしまうか?

 

「どんな相手だといいんだろう?」

 

 真夫はぼそりと口にした。

 すると、玲子さんが小さく「あっ」と呟いた。

 

「どうしました?」

 

 玲子さんを見た。

 

「そういえば、秀也さんと話をしていたときに、真夫様が次のターゲットを誰にするかということを話題になったんです。わたしが口にしたわけでなく、秀也さんは、相場まり江ちゃんの名を知っていて……」

 

 真夫は、文化部発表会で、SS研で展示を予定している羞恥絵や拷問絵を通じて、心の中に被虐癖を隠している女生徒を探していた。

 奴婢にするのに適している女性を見つけようとしているのだ。

 それで、真夫の覚醒した能力で心に触れ、さらに調査をし、奴婢にして問題ないと考えた女性を取り込もうとしている。

 真夫に支配されれば、おそらく、残りの一生を多くの女性たちとともに、真夫に従うことになる。

 そういことに嫉妬心を抱き難く、さらに、真夫の性癖である嗜虐欲を受け入れてくれるような相手を見極めようと考えているのだ。

 操心術で支配するというのは、身勝手な考えで、自由な心を奪ってしまうということだ。

 卑怯かもしれないが、考え抜いた末に相手を選んだということであれば、真夫の心も多少は慰められる。

 そして、次のターゲットとして考えているのは、とりあえず、ふたり……。

 確かに、そのうちのひとりが“相場まり江”だ。

 熱心にSS研が廊下に掲示しているあの絵画をかなり頻繁に見学にくる女生徒であり、芸能モデルに所属する美少女である。

 真夫は、その相場まり江を奴婢にすることを考えていた。

 

「まあ、知っていても不思議はないですね。時子婆ちゃんに、それらしいことを言ったし……。時子婆ちゃんから龍蔵さんに伝わったのかも……」

 

 真夫は言った。

 

「その話題のときに、そういえば、秀也さんが口にしていました。相場まり江のような“四菩薩”だったら、とりあえず、真夫様にも相応しいなとか……」

 

「四菩薩?」

 

 四菩薩という存在は、真夫も最近になって教えてもらっていた。

 この学園の生徒たちが勝手に作ったものだそうで、この学園の美女四人を総称する尊称とのことだ。

 

 ひとりが、生徒会長の“西園寺 絹香”──。すでに、奴婢にした。

 

 絹香の親友で、女子サッカー部の主将であり、実は、このSS研に名前だけの所属をしているらしい“前田 明日香”──。

 今日の午前中、かおりちゃんと絹香と三人でいるときに、不意に現れてつっかかってきた。

 少しびっくりしたが、絹香から彼女との関係を教えてもらったので、いまは納得だ。

 そのときには深くは考えていなかったが、いまは間違いなく、彼女も奴婢候補と考えている。

 

 そして、“相場 まり江”──。

 

 もうひとりは、女体育教師の“伊達京子”だ。

 直接の担任でないので面識はないが、しっかりと身体をきたえていることがわかる気の強そうな若い大人の女性だった。

 つまりは、伊達先生以外は、すでに奴婢にしているか、奴婢候補として考えているということになる。

 そのための下調査も、玲子さんに進めてもらっていた。

 それはともかく、その菩薩とやらに、玲子さんが含まれないのは、玲子さんが理事長代理として、学園に常駐するようになったのが、ごく最近だからだ。

 もしも、玲子さんが以前から学園に出入りしていたとしたら、間違いなく、玲子さんは、四菩薩とやらに入っているだろう。

 あさひ姉ちゃんやかおりちゃんも美人だけど、玲子さんは誰もが認める抜きんでる美貌を持っているし、とても優秀で、なんでもできるスーパーウーマンのような女性だ。

 

「誰でもいいというわけでもないけど、四菩薩という人たちであれば認めるということですかね」

 

「認めなければ、今度こそ抗議できます。直接に龍蔵様にお会いできなくても、なんとかします……」

 

 玲子さんがきっぱりと言った。

 真夫は頷いた。

 とにかく、伊達先生のことは知らないが、狙いにしている相場まり江と前田明日香については確定か……。

 ふたりを含めても、残りは四人……。

 誰でもいいというわけではなく、秀也が文句を挟めない相手を見つけないとならないのか……。

 ハードルをあげられてしまったのかもしれない……。

 

「いずれにしても、玲子さんについては絶対に守ります。どんな手を使っても……。卑怯者になっても、卑劣漢になっても……。玲子さんは、俺とあさひ姉ちゃんの家族ですから……」

 

「あ、ありがとうございます……。う、嬉しいです……」

 

 真夫の言葉に、玲子さんが真っ赤になった顔を俯かせた。

 しかし、すぐにはっとしたように、顔をあげる。

 

「そ、そうです……。忘れるところでした……。とりあえずの調査書です。まだ、一日だけのことなので、詳細なものではないですが……」

 

 玲子さんが名札が入っていたアタッシュケースの中から、ファイル綴りを取りだした。

 受け取って表紙を見る。

 

 “金城 光太郎”──。

 

 そこにはそう書いてある。

 

「どうでした?」

 

 真夫は訊ねた。

 玲子さんが小さく首を横に振る。

 

「……半信半疑でした。だけど、真夫様の勘が正しいように思います……。この学園の入学調査は厳格です。それを出し抜けるとは思いませんでした。二年前の入園前調査に粗があったのは確実です。しかも、その後、二年間もわからなかったとは……」

 

 玲子さんは、書類の入っている透明ファイルをめくって、一枚の写真が入っているページを示した。

 シャワーを浴びている光太郎の裸身だ。

 おそらく、寮だろう。

 この学園には、生徒を隠し撮りするあらゆる仕掛けが無数に施されている。

 S級生徒である金城幸太郎は、真夫と同様に、S級生徒寮にいるが、そのシャワー室に隠しカメラを仕掛けたのだろう。

 

「この学園の女生徒は、あらゆる方法で見張っていて、隠し映像も集められているけど、光太郎君は男ですしね。調査の粗になってしまったんですね」

 

 真夫は言った。

 玲子さんの教えてもらったことだが、創立者の龍蔵の趣味なのか、この学園に集められた女生徒や女教師たちについては、精緻な調査がなされているだけでなく、寮生活であることを利用して、ひそかに媚薬を口にさせられ、寝室やトイレで自慰に耽る痴態を撮影されたりしている。

 玲子さんは、学園に最初に真夫を連れて来きたときに、それを使えば、いくらでも真夫の望む女生徒を脅迫して、ものにできると言ったのだ。

 真夫も呆気にとられたものだったが……。

 しかし、確かめたが、その撮影記録には、金城幸太郎のものはなかった。

 彼に限らず、龍蔵が興味がなかったのか、男子生徒のものは、まったく記録を集められていない。

 

「とにかく、調査が甘かったことは申し訳ありません……」

 

 玲子さんが再び頭をさげたが、別に、玲子さんが謝罪することではないだろう。

 真夫は頭をあげさせた。

 

「放課後、このSS研に、この金城幸太郎を呼び出しています。ただ、相場まり江さんと明日香さんがやって来るかもしれません。そのときには、玲子さんに、ふたりの対応をお願いしたいと思います。絹香たちとともに……。とりあえず、次の獲物は彼ですから……」

 

 真夫は開かれている金城光太郎の写真を示しながら言った。

 隠し撮りにしては、画像も美しく、よく撮れている。

 上下左右のあらゆる方法から撮影されており、いったい幾つ隠しカメラを仕掛けたのだろうかと笑ってしまいそうだ。

 

 そして、もちろん、その写真の股間には、少し……いや、かなり小さめだが、真夫が持っているものと同じような男性器のようなものが……。

 しかし、その胸は、これもまた大きくはないが、男性ではありえないかたちの膨らみも……。 

 なによりも、金城光太郎の身体つきは、どう見ても、男性のものではない。

 胸の膨らみを見ても、股間にある性器を除けば、彼女が女性だとして疑わないと思う。

 

 真夫は、改めて金城光太郎の外観を頭に呼び起こした。

 中性的な身体つきの細身の身体をしているかなりの美男子だ。そういえば、そろそろ暑い時期なのに、シャツの上に身に着けるジャケットを脱いだことがない気もする。

 声だって低くない。

 そういえば、金城光太郎には、彼を守るように、いつも寮でも同居している老婦が一緒にいる。

 彼女はほとんど光太郎から離れることはない。

 S級生徒のひとりである“加賀 豊”とともに、多くの生徒から人気のあって、加賀豊とともに、学園の“双璧”という存在でもあるようだが、周りに人を集める加賀豊とは異なり、金城光太郎は、あの老婆以外を周囲に寄せつけることもない。

 考えてみれば、不思議な存在だ……。

 

 真夫は、ファイルを最初からめくっていった。

 戸籍調査の記録……。

 家族構成……。

 幼少時からいままでに至るまでの簡単な履歴……。

 

「へえ、許嫁(いいなずけ)のような女性もいるんですね?」

 

 真夫は一枚の資料を見て言った。

 彼女の写真もある。

 着物姿の美少女だ。

 

「さる財閥のご令嬢です……。幼いころに決められた婚約者だとか……。彼ほどの家柄であれば、珍しいことではありません。この学園の生徒で許嫁を持つ生徒は多いです」

 

「そうですか……」

 

 真夫は言った。

 しかし、金城光太郎の素性がわかってくると、許嫁という存在は不思議なような気がした。

 

 そのときだった。

 賑やかな声とともに、まだ隠し部屋にいた絹香たち四人がやって来た。

 絹香とかおりちゃんに貞操帯を装着し直すように、梓と渚の双子に指示をしていたが、終わったのだろう。

 かおりちゃんも絹香も、それぞれに、C級生徒とS級生徒の制服を着ている。

 ただし、かなり短めだ。

 特に、かおりちゃんのスカート丈は、調教の一環としての真夫の命令もあり、少し動けば下着が見えるくらいの、かなりのきわどい丈だ。

 もっとも、かおりちゃんもそうだが、絹香とともに、スカートの下は下着ではなく、内側にいぼのついている貞操帯なのだが……。

 

「ま、真夫君、い、いいかげんにやめさせてよ──。こ、こいつ、あんたがいないことをいいことに、な、何度も嫌がらせを……」

 

 かおりちゃんが真っ先に口を開いて訴えてきた。

 そのかおりちゃんの顔は真っ赤だし、かなり腰がふらついている。

 それは絹香も同じであるが、一方で、ふたりの後ろから歩いてくる梓は、にやにやと意地の悪い表情をしている。

 また、手に小さなリモコンを持っている。

 どうやら、そのリモコンで悪戯をやっていたみたいだ。

 一方で、もうひとりの双子である渚は、さっきと同じで困惑顔だ。

 “S”っ気の強い梓とは異なり、どうしても、責め側に回るのは苦手みたいだ。

 

「あら……、あたしは、真夫様にお姉様方の調教係を認めてもらっているんですよ。あたしに逆らうとこうですよ」

 

 梓がリモコンを押したのがわかった。

 

「ひゃああ」

「あっ、あああっ」

 

 かおりちゃんと絹香が同時に、股間を押えて、その場にしゃがみ込んだ。

 ディルドこそ抜いたが、あの貞操帯に内側には、クリトリスや局部を苛むたくさんの突起が存在していて、遠隔操作でいくらでもそれを動かすことができるようになっている。

 それどころか、電撃でさえも流せるのだ。

 ふたりの仕草からおそらく、いきなりクリトリスに触れる場所を強く刺激されたのだと思う。

 真夫は笑って、梓からリモコンを取りあげてスイッチを切る。

 絹香とかおりちゃんのふたりが脱力する。

 

「梓、今日はもうこれで終わりだ。さっきも言ったけど、午後からは真面目な授業だ。それはちゃんと受けさせる……。その代わりにやってもらいたいことがある。うまく仕事をしてくれれば、改めて、このふたりの調教をやらせてやる。そのときには、なにをしてもいい」

 

「じょ、冗談じゃない──。あ、あんた以外に調教なんて、されたくないのよ──」

 

 かおりちゃんが真夫の言葉に反応して怒鳴った。

 ただ、すでに日常の寮生活から、梓の調教を受けることになっている絹香は、諦めたように溜息をついた。

 

「なにをするんですか?」

 

 一方で、梓がにっこりと微笑んで、舌でぺろりと唇を舐めた。



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第14章 狩猟【金城 光太郎】
 第81話  (さい )を投げる


「うああっ」

 

 上半身を机にうつ伏せに倒しているかおりがぶるぶると身体を震わせながら大きな声をあげた。

 真夫は、かおりの乳房を背後から揉みながら、時折、思い出したように、後ろから股間を愛撫するということを続けている。

 すでにかおりの制服も下着もすっかりと脱がせていて、そばのソファの上に放り投げていた。

 

 ただし、下着といっても、真夫が時子婆ちゃんに注文して作ってもらった調教用の貞操帯だ。

 細い革製のTバッグの下着のようなかたちをしていて、内側には女の感じる場所をしつこく刺激する先端が丸い刺激物が触手が生えるようにびっしりとついている。それが身に着けているだけで、じわじわと動きまくるというものだ。

 そんなものを朝から装着させていたかおりの股間は、放課後になって開くと、真っ赤に熟れて匂い立つような女の匂いを噴き出さており、大変なことになっていた。

 

 もっとも、まあ、ただ貞操帯を装着させていただけでなく、午前中はアタッチメントのディルドを埋め込ませて、双子の片割れの(あずさ)に遠隔操作で振動させて、それに苦悩する表情を眺めて愉しんだし、昼休みはこのSS研の奥側の隠し部室で、股間に刺激を与え続ける三角木馬に座らせて焦らし責めにかけた。

 それを発散させることなく、放課後まで過ごさせたのだから、かおりの身体がすっかりと真夫を待ち受ける状態になっていたのは当然というものだ。

 

 また、かおりの両手は、真夫の女の全員に装着させている金属のチョーカーと腕輪で首の後ろから離れないようにしてある。

 特殊な仕掛けになっていて、真夫の持っているスマホから発する電子信号で、電磁石が発生して金属と金属を密着させて外れないようにすることができるのだ。

 真夫はそうやって、全裸にしたかおりの両手を拘束すると、机に押し倒すようなかたちで後ろから犯しているということだ。

 

 SS研には、ほかには誰もいない。

 部員である西園寺絹香と従者の双子については、真夫の指示で、もうひとりの名前だけの部員である前田明日香に罠をかけにいかせている。

 今日は金曜日であり、真夫が合流するのは明日以降の予定だ。

 あさひ姉ちゃんは、まだ大学だ。

 玲子さんは理事長室であり、学園の見張りを頼んでいて、ここには来ていない。

 

 そして、すでに狩りは始まっている。

 国際的な財閥の総裁であり、真夫の父親であるらしい豊藤龍蔵が、真夫に半年以内に命じたのは、十人以上の女を「奴婢」として支配することだ。

 女を奴婢として支配するのは、龍蔵独特の帝王学とのことだ。

 だが、それができなければ、玲子さんをはじめとして、真夫のところに集まっている女たちは取りあげられる。

 それは、真夫を後継者としての教育に本気で取り組ませるための脅迫であるのはわかっているが、龍蔵は真夫がそれができなければ、実際に玲子さんを真夫から取りあげるだろう。

 真夫はその言葉で、龍蔵の指示に従うことに決めた。

 

 龍蔵はかおり姉ちゃんを助けてくれて、玲子さんを真夫に与えてくれた。

 父親としての愛情は湧かないが、豊藤の力には恩もあるし、義理もある。

 豊藤グループの後継者の地位が心から欲しいわけではないが、真夫を望むというのであれば、それに応じたいという気にはなってはいる。

 なによりも、それをしなければ、玲子さんは確実に、真夫と別れることになるのだ。

 

 龍蔵が満足する“奴婢”を十人……。

 現在認められているのは、あさひ姉ちゃん、玲子さん、かおり、絹香の四人……。双子はだめらしい。

 

 残り六人……。

 絹香たちを前田明日香のところに送ったのは、その狩猟の一環だ。

 また、考えている「獲物」はほかに、学園の四菩薩に数えられている“相場まり江”──。彼女は女子高生モデルであり、学園に所属しながら芸能活動をしている日本人離れした身体をもつ美少女だ。

 

 そして、もうひとり……。

 玲子さんを通じて、すでに監視態勢に入っている“金城光太郎”……。

 学園の女子の人気を二分する金城財閥の子息である「男子」生徒だ。

 「彼」には、今日の放課後に部室に遊びに来るように誘っている。

 おそらく、来るだろう。

 真夫はそれを待っているのだ。

 かおりとこうやって遊びながら……。

 

「あああ、もう来て──。じ、焦らさないで犯してよ──。い、いえ、犯してください──あああああっ」

 

 ついにかおりが泣くような声で訴えてきた。

 真夫は素裸にしたかおりを机に押し倒した格好で、かなりの時間をかけて後ろから愛撫を続けていた。

 胸を中心に揉みながら、唇と舌で首筋、背中、耳元、脇腹と刺激を与えまくった。

 股間には、ほとんど触れてないが、開いているかおりの脚の付け根からはまるでおしっこでも洩らしているかのように、大量の愛液が滴り流れてもいる。

 

「じゃあ、かおりちゃんの中に入れるよ」

 

 真夫は制服のズボンを下着ごと素早く足首まで下げると、すでに勃起している怒張をかおりのお尻の下から滑り込ませるように、濡れきったかおりの股間に怒張を打ち込んでいく。

 

「はううっ、いいいいっ」

 

 かおりの全身が歓喜に染め抜かれるのがわかる。

 操心術に覚醒をし始めている真夫には、その気になればかおりの感情の線に触れることができるのだが、操心術を遣うまでもなく、かおりがもう官能だけに支配されているのがわかる。

 そもそも、まだ先端が入っただけだ。

 それにもかかわらず、かおりの愉悦と激情がかなり激しい。

 

「うう、う、動いてええ、も、もっと激しく──。めちゃくちゃにしてよおお」

 

 かおりがおねだりするように腰をぶるぶると動かす。

 真夫は苦笑した。

 

「淫乱なお嬢様だね」

 

 真夫はぐいと腰をかおりのお尻に押しつけて、怒張の先端を深くまで押し入れた。

 先っぽがかおりの子宮の入口まで達するのがわかった。

 

「いぐうううう」

 

 一日かけて焦らしまくられていたかおりは、それだけで大きな絶頂をしてしまったみたいだ。

 上半身を弓なりにして、かおりがさっそく果てた。

 かおりが感じている激しい嘉悦が真夫の心に襲い掛かった。

 操心術がかおりの大きな感情を拾ってしまったのだ。

 真夫は後ろから抽送を続けながら、そのまま操心術でかおりの心との接触を継続した。

 

「ああ、ああっ、あ、あんた、すごい──。や、やっぱり、すごい──。びりびりする──。びりびりするよおお──。あああああっ」

 

 かおりがさらに激しく腰をくねらせ始める。

 “びりびり”というのはよくわからない。ただ、真夫の女たちは、真夫に愛撫されると、びりびりと痺れるような感覚に襲われるという。しかし、気持ちいいのだそうだ。

 とにかく、かおりの快感の感情は、大きなうねりになって、彼女の全身に襲っている。

 心の快楽の線がものすごい勢いで暴れまくっているのもわかる。

 真夫が一打一打と抽送するたびに、かおりの中で嘉悦の大波が上に上にと重なっていっている。

 それを感じるのだ。

 

「す、すごい……」

 

 真夫は思わず呟いた。

 これが操心術……。

 セックスをしながら操心術を遣ったことは初めてだが、これはすごい……。

 かおりの感じている快感をはっきりと知覚できる……。

 どこをどうすれば、その心の波が拡大されるのかもわかるので、さらに大きな快感をかおりに与えることもできる。

 大したことはしていないが、なんとなく操心術で読み取れる快感が拡大するような刺激を怒張で繰り返し送っているだけだ。

 だが、かおりの荒れようは、いつにないものだ。

 

「ひいいいっ、す、すごいいいい」

 

 かおりが二度目の絶頂をしそうになっている。

 そんなことも、操心術でわかる。

 真夫はほんの気まぐれで、操心術で触れることのできる快感の線に接触した。

 

「また、いくのおおお」

 

 かおりが絶叫した。

 学園内とはいえ、この隠れ部室は完全防音になっている。

 それを知っているので、かおりも遠慮はない。

 真夫は手を伸ばしてクリトリスを刺激した。

 激しい抽送は継続している。

 

「あああ、あああああ」

 

 かおりの二度目の絶頂だ。

 操心術で繋がっている彼女の快感の大波に飲み込まれる……。

 快感の心の線が膨れあがり爆発する感覚が伝わってくる。

 真夫はそれをコーティングするようにその先端を固めた。もちろん、イメージのことだけであり、そんなことをするような気持ちでかおりの快感を操心術で制御したのだ。

 つまりは、快感を発散の直前のぎりぎりで操心術的に寸止めした。

 

「な、なに? なに? これなに? いやああ、ひやあああ、だめええ、だめええ、こんなのだめええええ、ひいいいいい」

 

 かおりの狼狽は真夫がたじろぐほどだった。

 真夫の気まぐれは、どうやらかおりの絶頂を、その爆発寸前の状態で本当に静止してしまったみたいだ。

 本来であれば、あっという間に駆け抜けるエクスタシーの暴発を突然の最ももどかしい状態でとめたのだ。

 絶頂直前の状態を保持されてしまったかおりは、狂ったようにもがきだした。

 

「いやああ、ああああ、なにこれえええ、ひいいいいい」

 

 かおりが大きな悲鳴をあげ続ける。

 彼女の身体の痙攣がとまらない。

 真夫は抽送により、さらに快感を注ぎ込む。

 一気にラストスパートだ。

 だが、かおりはそれをとめられている。

 とめられているが、どんどんと膨れてもいる。

 固定されている快感線に代わって、新しい線が膨らみ、それが爆発しそうになる。

 それもとめる。

 すると、またほかの線は出現した。

 またしても、暴発寸前で固定してしまう。

 

「んひいいいいい」

 

 かおりが奇声をあげた。

 真夫はかおりの子宮に精を注ぎ込んだ。

 同時に、静止していたかおりの快感のすべてを開放した。

 

「はぎゃああああ」

 

 まるで獣のような絶叫をして、かおりは失禁とともに果てた。

 かおりの身体から完全に力が抜けるのがわかった。

 

 


 

 

 どれくらい経ったのか……。

 それほど長い時間ではなかったと思うが、気がつくと、かおりは真夫の抱っこされて、ソファに横たわっていた。

 相変わらず、両腕は首輪の後ろに繋がっていて拘束されている。

 また、全裸である。

 ただ、薄い毛布を身体に巻きつけてもらっていた。

 

「わ、わたし……気絶した?」

 

 かおりは自分を抱いている真夫に訊ねた。

 多分そうなのだろう。

 真夫にここで抱かれて、すごく気持ちよかったのを覚えている。しかも、絶頂の途中で快感が固定したみたいになって、訳がわからなくなって……・

 

「ごめん、悪乗りした……。怒っている?」

 

 真夫が苦笑している。

 その真夫の顔は、かおりの顔のすぐそばだ。

 かおりは自分の顔が赤らむのを感じた。

 

「な、なんで怒るのよ……。き、気持ちはよかったけど……」

 

 かおりは上体を起こそうとして、真夫に抱きしめられてとめられた。

 真夫の唇が顔に近づく。

 かおりは口を小さく開いて、真夫の唇と舌を受け入れる。

 

「んんっ、んんんっ」

 

 舌が唾液とともに、口の中に入ってきて、あちこちを舐められる。

 相変わらずすごい。

 口の中にびりびりという愉悦が次々に沸き起こる。

 しばらくのあいだ、かおりは真夫との口づけを愉しんだ。

 真夫が口を離す。

 腰が抜けそうだ。

 いや、すでに抜けているかも……。

 身体に力が入らない。

 しかも、性感が一段と強くなっている。

 すると、真夫は毛布越しに、ぎゅっとかおりの乳房を揉んだ。

 

「はんっ」

 

 かおりは全身を跳ねさせた。

 さざ波のような疼きが全身に戻る。

 

「ちょ、ちょっと、もう……」

 

 かおりはさすがに真夫に抗議した。

 これ以上は無理だ。

 別にかおりとしてはどうでもいいけど、こいつとは、これからここで、あの金城光太郎という男子生徒の「狩り」をすることになっている。

 それを手伝えと命じられているのだ。

 だが、それを待っているあいだの「遊戯」でこんなにも打ちのめされてしまったら、かおりはしばらくこのソファーで倒れていることしかできない。

 そう言ったら、真夫がやっと身体を開放してくれた。

 上体だけを起こす。

 ただ、まだこいつに横抱きにされたままではある。

 

「それは困るな。かおりちゃんは、大事な撒き餌だしね」

 

「撒き餌?」

 

 わけのわからないことを言い出したと思った。

 まあいいけど……。

 

「光太郎君……いや、ひかりちゃんがいいかな。彼を罠にかかるための餌ということさ」

 

 真夫が笑った。

 かおりは肩をすくめた。

 

「ひかりちゃんって……。まあ、餌にでもなんでもなるけど……。わたしはあんたの奴婢なんだから……。その代わり、一生面倒みてよね、豊藤の御曹司様」

 

 かおりはお道化(どけ)て言った。

 だが、この好色男がかおりを奴婢にしてくれたのは、本当に幸運だと思っている。

 豊藤といえば、日本経済どころか、世界経済を陰で操るという声まであるくらいの大財団だ。

 しかし、謎に包まれていて、その実態も総帥についてもまるで不明だった。

 その総帥の御曹司が、このあいだまで孤児だったこいつだったなんて……。

 あのときには、本当に悪いことをしたが、こいつが好色のお人好しで本当によかった。

 さもなければ、かおりなど、家族ごと消滅させられていただろう。

 豊藤というのは、それだけの力を持っている。

 信用する証拠などないが、まあ、本当なのだろう。

 かおりは、それは疑っていない。

 

 そして、ふと気がついた。

 さっきまで抱かれていたテーブルの下に、濡れたような痕がある。

 はっとした。

 そういえば、真夫に抱かれて激しい絶頂をして気を失う寸前に、失禁したような……。

 顔がかっと熱くなる。

 

「あっ、さっきのおしっこ……。ふ、拭くから、これ外して」

 

 かおりは首に密着させられている腕を動かして言った。

 

「一応は拭いたよ。そして、外すのはこれをしてからね」

 

 真夫が手を伸ばして、なにかを持ってきた。

 あの貞操帯だ。

 しかも、今度はまた内側にディルドのアタッチメントを取り付けている。前後の穴に入れるものだが、両方とも同じ形と大きさである。

 真夫の勃起したあれにかたちを合致させているのである。

 だが、同じ大きさだと、前はまだ耐えられるが、後ろは結構つらい。

 かおりはたじろいだ。

 

「またあ? もう勘弁してもらうとかは……?」

 

 無駄だと思うが一応頼んでみる。

 

「だめだめ。調教だしね。それに、かおりちゃんがこれでたっぷりと感じてくれれば、あのひかりちゃんが自ら罠にかかってくると思う。撒き餌の役目を果たしてよね」

 

「なにが撒き餌よ……。まあ、ご主人様の命令には逆らいませんけど……」

 

 かおりは毛布を外して立ちあがった。

 いや、立ちあがろうとした。

 

「ひあっ」

 

 だが、本当に腰が抜けていた。

 がくんと膝が落ちる。

 

「おっと」

 

 真夫がかおりの腰を両側から支えてくれた。

 

「あ、ありがとう……」

 

 がちゃんと手首が首輪から外れた。解除信号を送ってくれたのだろう。真夫がかおりを片手で支えながら、ソファに置いているスマホを操作している。

 かおりは、自由になった手でソファに摑まった。

 

「じゃあ、いくよ、かおりちゃん……」

 

 真夫が貞操帯のディルドをかおりの股間に埋めていく。

 

「あはあっ」

 

 すでにローションは塗られていて、特に抵抗なくディルドはかおりの膣に入っていく。

 もともと、まだまだたっぷりと濡れていたみたいだ。

 

「今度は後ろだ。そのまま……」

 

 お尻の穴にディルドの先端があてがわれる。

 

「くうっ」

 

 思わず呻き声が迸る。

 股間に入っているディルドもそうだが、挿入してくるディルドはかたちだけでなく、固さや感触まで真夫の一物に近似している。

 だから、こいつに犯されたことを思い起こさせて、気持ちよさしか感じない。

 

「そら、入った」

 

 真夫が前後左右にディルドを動かして馴染ませ、ベルトを腰の後ろでフックさせた。

 キンという金属音がして、電子ロックがかかったのがわかった。

 

「じゃあ、制服を着て待ってて。そろそろ、ひかりちゃんが来ると思うから、俺は上に行くよ」

 

 上というのは、正規のSS研の部室のことだ。

 こちら側の隠し部屋へは、特殊な操作で出現させる壁にある隠し扉からではないと、出入りできないようになっていて、いわゆる地下室になる「調教部屋」だ。

 それに対して、上側の通常の廊下に面する側は表向きの部室であり、SS研としての外向きの活動の場所になっている。

 まあ、この地下側には、いまは文化展示館の準備で、こいつと玲子が集めまくった扇情的な絵画や歴史的な拷問具のレプリカが並んでいるが……。

 また、拷問具のレプリカは、向こうだけでは収まらないので、こっちにもたくさんある。

 

「また、ひかりって……。だけど、本当に彼って、あんたや玲子が言うような存在なの? 本当に女?」

 

 かおりは制服に手を伸ばしながら真夫に訊ねた。

 しかし、腰に力が入らないので、脱力して座り込むかたちになった。

 すると、股間に異物感が襲い掛かって、思わず両手で股間を押えた。

 だが、まったく外からでは内側に刺激が伝わらない。どういう仕掛けになっているかわからないが、貞操帯の内側にかおりが刺激を自分で送ることはできないのだ。

 

「完全な女ということじゃないよ……。男の性器はあったしね……。写真は見たろう?」

 

 真夫がにんまりと微笑んだ。

 昼休みの終わりに、玲子が持ってきた金城光太郎の全裸の隠し撮りは見せてもらった。

 確かに男の性器はあった。ちょっと小さかったが……。

 だけど、それだけでなく……。

 

「ひかりちゃんが男なのか、それとも、女なのかはどうでもいい……。だけど、彼、あるいは彼女は、俺の奴婢になる素養を持っている。俺の勘だけどね……」

 

「勘ねえ……。だけど、もしも勘が外れていたら?」

 

「そのときには、無理矢理に俺の勘を正しくしてしまう。調教してね……」

 

 真夫が言った。

 かおりは嘆息した。

 

「随分と悪ぶった顔になったわね。最初に会ったときとは別人みたい」

 

「すでに賽は投げたんだ。非道だとわかっていても、突き進むしかない。とっくに腹は括ったし」

 

「やっぱり、あんたは豊藤の御曹司の血なんだわ。とにかく、約束を守ってよ」

 

 かおりは言った。

 やっと制服のブラウスを身に着けた。スカートに手を伸ばす。

 

「約束?」

 

「わたしを一生、奴婢として面倒みるということよ」

 

「もちろんさ」

 

 その瞬間、突然に股間を貫くディルドがバイブレータとなって動き出した。

 さらに貞操帯の内側の刺激物がクリトリスを揉むようにうごめきだす。

 

「うんっ」

 

 かおりはがくんと身体を折って、貞操帯の前を押さえていた。

 すると、部屋に設置してあるスピーカーから声が放たれる。

 

「真夫様、金城君が来ました。部室に近づています」

 

 玲子の声だ。

 監視好きの玲子は、真夫の命令で金城光太郎を見張っているのだろう。

 それを知らせたのだ。

 

「わかった、行くよ」

 

 真夫が天井に向かって言った。

 そして、立ちあがる。

 ディルドの振動はとまった。

 だけど、クリトリスを刺激する振動は静かな刺激を継続したままだ。

 

「ね、ねえ、ちょっと、これも……」

 

 かおりは真夫に顔を向けた。

 だが、真夫は首を横に振った。

 

「撒き餌の役目には、かおりちゃんが感じていることが必要なんだ。だけど、あんまりあからさまにはならないようにね。それと、こっちにひかりちゃんと戻るまでに服は着終わっているんだよ」

 

 真夫は軽く片手を振って隠し扉から、正規の部室側に出ていく。

 かおりはひとり残された。

 じわじわとかおりを追い詰める股間の振動とともに……。



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 第82話  奇妙な転校生

「すごいだろう?」

 

 声をかけてきたのは坂本君だった。

 SS研の部室の前だ。

 金城光太郎は、金城は見入っていた「展示物」から目を離して、彼に視線を向けた。

 

 坂本真夫というのは、最近になって、突然にS級生徒として転校していきた男子生徒だ。そして、不思議な人物である。

 噂によると孤児だという話だが、そもそもそれが不自然だ。

 この学園は、桁違いに豪華な設備が整えられている代わりに、財産家の子弟しか通うことができないと言われるほどに授業料や定額以上の納入を求められる寄付金が高額だ。

 だから、そもそも、この学園で学ぶ者は、かなりの財産家の出身であることが前提なのだ。

 しかも、学園に支払っている金額によって利用できる設備が異なってくるので、S級生徒ともなると、信じられないほどの額を実家が支払わなければならない。

 だから、本当は孤児であるはずもなく、おそらく、なんらかの事情で家柄を隠さなければならないのだと思う。

 この学園に通う女生徒が彼に冤罪を仕掛けたことに対する学園側の謝罪措置だという説明もあったが、まったく信じるに値しない戯れ言だ。

 だが、それだけの「嘘」を学園が準備するほどの人物ではあろうのだろう。

 それが、彼に抱いた最初の好奇心だ。

 

 そして、好奇心を刺激する出来事はさらに続いた。

 坂本という男子生徒の周りに、奇妙なくらいに綺麗な女生徒や女たちが集まるのだ。

 まずは、その坂本君に冤罪をかけた罪とやらで、従者生徒に落とされた「白岡かおり」──。

 白岡グループの令嬢であり、そんな彼女がこの学園の最下層の地位であるC級生徒にされたのだから、さぞかし不貞腐れているのだろうと予想したが、意外にも坂本君との関係は良好だ。

 しかも、あれは男女の仲だろう。

 そんなものは一発でわかる。

 

 第一、従者生徒というのは、寮にあてがわれている個室に一緒に住むのだ。

 この年代の生徒が一緒に生活をして、なにもないと考えるほど、自分も初心(うぶ)ではないつもりだ。

 男と女の色事というのは、金城光太郎のような立場であれば、当たり前に受ける帝王学のひとつであり、一応は知識としてはわかっているつもりだ。

 そして、時折、寮の共用スペースで、教場棟に向かうふたりとすれ違うが、こっちがどきりとするような淫靡な匂いを漂わせて、白岡かおりが真夫にくっついている姿をよく見かける。

 それだけでなく、不自然に赤い顔と切なげな吐息……。

 自分のような観察力の鋭い者でなければ気がつかないとは思うが、突然にびくびくと痙攣のような身体の震え……。

 気がついてしまったこっちが恥ずかしくなる。

 あれは、絶対……。

 坂本君という男子生徒は、意外にも好色な男のようだ……。

 

 一方で、そんな風に坂本君と一緒にいるときの白岡は、明らかに恋をしている女の顔になっており、坂本君が性的な過度の悪戯をしている気配なのに、まるで抵抗の雰囲気はない。

 まあ、白岡かおりは、懲罰的な措置で従者生徒に落とされたとはいうものの、れっきとした令嬢だ。

 そんな彼女を乱れた性の捌け口として使うなど、感心はしないのだが、なぜか、坂本君に対する嫌悪感は抱けなかった。

 そもそも、どう見ても、あれは白岡かおりの方がそういうことを望んでいる。

 だから、こっちがどうこう口を出すことでもないだろう。

 ただ、ああいう戯れ合いに接すると、異常なほどにどきどきするのだ。

 どうにも、自分は勘がよすぎるのだと思う。

 

 それだけじゃない。

 坂本君と一緒にやって来た侍女という名目の「朝比奈めぐみ」──。

 従者だというが、彼女が坂本君の恋人であるのは明らかだ。学園から通える教育大学に毎日通っているらしく、彼女が侍女のような仕事をやっている気配はない。

 つまりは、恋人連れで入寮してきたというのが正しいのだろう。

 

 また、白岡かおりとともに、ふたりとも美人だし、どちらも坂本君を心の底から大切に考えているというのがわかる。

 そして、彼女もまた、あの淫らな匂いを漂わせて部屋を出てくるときがあるのだ。

 つまりは、そういうことなのだ……。

 坂本君も大人しそうな外見なのに、意外だなとは思ったりした。

 

 複数の女……。

 しかし、やはり、嫌悪感はない。

 それが不思議だ。

 いや、嫌悪感があるどころか、あの匂いに接するたびに、自分は落ち着かない感情に襲われるのだ。

 どんなときでも冷静さを保てるように躾けられている自分が、異常なほどに動じてしまう。

 なぜ、自分は坂本君や彼に集まる女に接すると、自制心が保てなくなるのだろう……?

 

 さらに、坂本君の周囲には、怪しいと思っている女がもうひとり……。

 最近になって理事長代理として、事実上の学園の理事長として活動を始めることになったらしい「工藤玲子」だ。

 もともと理事のひとりだったが、理事長代理になったことで、日中に学園で見かけるようになった。

 だが、その玲子が坂本君を見る視線……。

 あれは、絶対に普通じゃない。

 女が男を見る視線だ。

 間違いない。

 昔から人の感情を読むことに長けていて、人間関係に関する勘が外れたことなどない。

 金城グループの後継者として育てられている自分の武器のひとつだ。

 なによりの証拠は、彼女から漂うかすかではあるが、淫靡な匂い……。

 

 そして、感じる違和感は、彼に集まる女たち同士の関係もそうだ。

 坂本君を慕っている女性たちが奇妙なくらいに仲がいいのだ。

 複数の女と付き合うという男は珍しくない。

 だが、ひとりの男に複数の女がつき合うという関係は、大なり小なり嫉妬という感情がつきまとう。

 同じS級生徒の加賀豊がそうだ。

 

 人嫌いといっていい程に他人と深く関わるのが苦手な自分とは異なり、加賀豊は常に誰かしらの人間を周囲に侍らせている。

 当然に女関係も激しい。

 聞きたくもないし、知りたくもないが、加賀がとっかえひっかえしている女たちが、加賀に言い寄る裏で醜い主導権争いをしているということも頻繁に耳にしたりする。

 そうでなくても、加賀の女たちの顔を見ただけで、加賀の周りにある自分以外の女の存在を疎ましく思っているのがわかる。

 昔から勘がよく、そういうことは外れたことはない。

 

 それに比べれば、坂本君の周りにいる女たちは、みんな幸せそうだ。

 なぜなのかとは、漠然と思っていた。

 そして、坂本君に集まる女がまた増えた。

 S級生徒として同じ寮にいる「西園寺絹香」とその従者生徒の双子だ。

 一週間ほど前から、寮から教場棟への移動に、彼女たちも加わるようになったのだ。しかも、生徒会長で気丈な性質だと思っていた絹香は、まるで別人のように、坂本君だけには従順で大人しい姿で接している。

 さらに、今朝は、その絹香からも、あの淫らな匂いがしていることに気がついていた。

 偶然に共用スペースで接し、挨拶を交わしていると真夫が現れ、絹香が急に乱れだした。

 こっちとしても、平静を装おうとしたが、あれは絶対に真夫がおかしな悪戯をやっていたと思う。

 

 いいな……。

 

 そのとき、不意にそんな感情が頭に沸き起こった。

 そして、次の瞬間に愕然ともなった。

 なにを羨ましく思った……?

 慌てて、可愛らしい制服が羨ましいという別の言葉に変えたが、一体全体、自分はどうしてしまったのだろう?

 

 とにかく、あの坂本君は危険であり、不思議な人物だ。

 怖ろしいくらいに人を引き付ける。

 いつも、白岡かおりのような女や最近では絹香のような女生徒をそばに置いているので、無遠慮に近づきはしないが、かなりの女生徒が彼のことを遠巻きに見ていることに気がついている。

 しかも、彼に媚びたいような視線を向けて……。

 なぜが、奇妙なくらいに人を惹きつける……。さらに、観察する限り、生徒の中でも優秀だと思う者ほど、坂本君に熱い視線を向けている気がする……。

 それはとても不思議なことだ。

 

 あの加賀豊からしてそうだ。

 最初に会ったとき、階級意識の強いはずの彼が、孤児だと自己紹介した坂本君をすぐに受け入れるような態度をとった。

 そのとき、自分も一緒に話をしたが、実はそれは本来はあり得ないことなのだ。

 だが、加賀は最初の出会いから、理由なく坂本君を受け入れた。

 男であろうと、女であろうと、一流であるほど、彼に魅了されるということだろうか……。

 不可解だ。

 

 なによりも、金城光太郎である自分……。

 こうやって、坂本君のことが気になって気になって仕方がない。

 冷静を保っているふりはするが、実は坂本君と一緒にいると、とても冷静ではいられない。

 なぜなのだろう……?

 

 彼が新部長になったのだというSS研という社会研究会は、今度の文化発表会に向けて、拷問展示という研究発表を予定しているらしいが、その一環として、一週間ほど前から、SS研の部室のある廊下には、そのテーマを連想させる絵画が並べられている。

 有名な絵画の模写絵ではあるのだが、見方を変えれば、女を辱められたり、いたぶられたりされていると受け取れる構図の絵だ。

 最初に見たとき、異常なほどに自分は興奮してしまった。

 理由はわからないが、とにかく、心臓がどきどきして、自分が自分でなくなるような気持ちになった。

 それでいて、それを心地よいと思ってしまう。

 不思議だ……。

 

 それから、どうしても、SS研の展示物に目を離せずに毎日のように通っている。

 なにが自分を惹きつけるのか……。

 

 そして、いま……。

 今日は放課後にSS研に遊びに来ないかと、あの坂本君に誘われた。

 冷静に対応したつもりだったが、内心では壊れるのではないかと思うほどに激しく心臓が鼓動した。歓喜に身体が震えそうになった……。

 どうして、そんなに嬉しかったのか、自分でも理解できないが、坂本君に声をかけられたとき、ぎゅっと拳を握っている自分に気がついた。

 他人と接するのが本当に好きではなく、いまも実家の手配している警護役の男子生徒がついているが、いつも離れてガードするように申し渡していて、ちょっと離れた位置に彼らは立っている。

 また、自分と一緒にいたがる生徒は多いのだが、どうにも鬱陶しくて、それを許可したことはない。

 他人が近くにいるだけで、落ち着かないからだ。

 まあ、他人といたくない理由は、誰にも明かせない自分の身体の異常さにもあると思うのだが……。

 

 しかし、この坂本君だけは別だ。

 こうやって、話しかけられたことで、とても喜んでいる自分がいる。

 やはり、不思議な男だ。

 

「この馬の首の仮面や、酒樽も拷問具なのかい?」

 

 光太郎は横にやって来た坂本君に言った。

 いま、見ていたのは、解放されている部室の中に置いてある幾つかの仮面や展示絵だ。

 展示絵によれば、仮面については、それを頭に被らせて、見世物のように晒すというもののようだ。

 しかし、恥ずかしい恰好ではあるが、どうにも拷問具には見えなかったのだ。

 

「まあ、拷問というよりは刑罰かな。社会的な名誉を失なわせるというのは、地域集団からの追放も意味するから、中世社会においては当たり前の生活を送れなくなることでもあったみたいだ。そういう意味では拷問かもしれないね。もっとも、真の意味での追放刑とは違うけど」

 

 坂本君が言った。

 

「この樽もかい?」

 

「飲んだくれへの罰だそうだ。これを身に着けて町中を歩く」

 

 坂本君が笑った、

 大きな酒樽であり、外国語で侮蔑的な言葉が書いてある。首と手を出す穴もあり、確かに、頭から被れそうな感じだ。

 

「ふうん……。しかし、これも羞恥刑?」

 

 光太郎が指を差したのは、一台の手押し車だ。ただ、車体部分に鎖が繋がっていて、首輪のようなものがその先にある。さらに、手押し車の横には男女の農夫の服装も飾ってある……。

 

「農作業を真面目にやらない夫婦への見せしめだね。だけど、男の農夫の服は女が着るんだ。女の服装は男が着る。そして、男の首に首輪を嵌めて、女が手押し車を押して町を歩くんだ。違う異性の異性の服を身に着けるというのは、それだけでも、当時の人には耐えられない羞恥ということらしい」

 

 違う異性の服……。

 光太郎はどきりとしてしまった。

 

「よければ、もっと奥に行かないか? 体験展示として準備しているものがあるんだ。時間はある?」

 

 坂本君がさりげない口調で言った。



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 第83話  不自然な説得力

「よければ、もっと奥に行かないか? 体験展示として準備しているものがあるんだ。時間はある?」

 

 坂本君が何気ない口調で言った。だが、平静を装っているが坂本君はちょっと興奮気味であり、しかも、人を罠に誘うような表情になっている気がした。

 光太郎は、相手のほんの小さな口調の変化や表情の違いから、ある程度の感情を読みことができる。

 それこそが、光太郎をして金城財閥の後継者として選ばれている理由だ。

 おそらく、なにかを企んでいる。

 光太郎は確信した。

 

 だからこそ、思った……。

 見たいと──。

 

 もちろん、光太郎は拷問と刑罰展というものに興味がある。そもそも、そのために部室を訪問したのだ。

 しかし、坂本君が光太郎になにかを企んでいるということに気がつき、だからこそ、あえて、それに応じてみたいと思った……。

 なぜか、彼の罠に嵌まってみたい。

 不可思議だが、そう考えてしまったのだ。

 

 どきどきする。

 やっぱり、不思議な男だ……。 

 どうしようもなく惹かれる。

 罠だとわかっているのに、自ら飛び込みたくなるくらいに……。

 不思議だ……。

 光太郎は返事をするために口を開いた。

 

「とんでもありません。時間などありませんよ──。さあ、坊ちゃま、お時間です。そろそろ、戻りましょう」

 

 だが、光太郎が開いた言葉が紡がれる前に、後ろから声がした。

 父親がつけている侍女の花江(はなえ)だ。

 

 この学園では侍女ということになっているが、光太郎が幼児の頃からそばに侍っている乳母であり、祖父によって光太郎につけられている見張りでもある。

 文字通り、光太郎の一挙手一投足を監視して、祖父である金城財閥の会長に報告するのが役割だ。

 光太郎が誰と接し、どういう話をしたかということまで報告があがる。そして、将来の総帥として相応しい行動かということが精査されるのだ。

 さらに、祖父の名代として、花江には絶対服従をすることも命じられており、まあ、光太郎のお目付け役というということだ。

 むかしは抵抗もあったが、いまではすっかりと諦めている。

 

 また、部下は作っても、友人は作るなというのが祖父の絶対の教えであり、花江はその信望者で、その監視もしている。

 光太郎の周りに常に人がいないのも、もともと、光太郎自身がそれを望まないというのもあるが、この花江の存在が理由でもある。

 この十日ほど、光太郎が必要以上の興味を坂本君に抱いているのを知っていて、これ以上近づくなと厳しく忠告されていた。

 しかし、今日はどうしても、坂本君の誘いに応じたかったし、拷問展示というものに激しく興味があったので、強引にやって来た。

 だが、これが限界だろう。

 おそらく、報告もあがっているだろうし、週末に戻れば、祖父から呼び出しがあり、坂本君との接触を制限されると思う。

 坂本君の正体が本当はなに者であろうとも、表向きには、彼は施設あがりの孤児でしかない。そんな彼との付き合いを祖父が許すはずもないのだ。

 

「婆や、どうしてもだめかい?」

 

 光太郎は振り返って訊ねた。

 しかし、いつの間にか、護衛学生であるふたりの男子生徒もそこにいる。財閥から雇われている少年たちであり、特別な訓練を受けている。光太郎と会話をすることもないが、離れることもない。つかず離れずの対応で、絶対に光太郎から目を離さない。

 なによりも、光太郎ではなく、花江への服従を指示されていて、光太郎を強引に連行することもある。

 ふたりを寄せたのは、逆らえば強引に離すぞという花江の意思表示だろう。

 光太郎は溜め息をついた。

 お愉しみはここまでか……。

 

「坂本君、せっかくの誘いだけど……」

 

 光太郎は坂本君に向き直った。

 だが、すっと坂本君が前に出て、花江たちの前に立った。

 

「なにか……?」

 

 花江の顔が不快そうに歪むのがわかった。

 

「改めて自己紹介します。坂本真夫と申します。ご存知のとおり、彼とは同じ寮のS級生徒です。この週末を彼と一緒に過ごす許可を頂けませんか? 俺は彼と友情を深めることを望んでいるです」

 

 すると、いきなり、坂本君が言った。

 光太郎はびっくりした。

 

「な、なにを……」

 

 週末を彼とすごす?

 嬉しいが、そんなことを花江が許すわけもない。いや、花江が許さなくても、祖父が許可しないだろう。

 あり得ない……。

 

「な、なにを言っているのです、お前──。そんなことが許可できるわけが……」

 

 案の定、花江が真っ赤な顔になって怒った。

 だが、次の瞬間だった。

 その花江の表情が突然に緩んだのだ。いや、花江だけでなく、無言で立っていたふたりの護衛生徒たちもだ。

 しかも、花江は怒鳴りかけていた言葉を急に打ち切った。

 なにがあった……?

 光太郎が困惑した。

 

「お願いします。彼の実家には、玲子さんから連絡してもらいます。彼女はとても説得力がありますから、きっと週末に帰宅しないことの許可は、会長様から得られると思います。どうか……」

 

 坂本君が頭をさげる。

 すると、花江の表情もすっと柔らかくなったのがわかった。

 

「ふう……。仕方ありませんね……。わかりました。でも、坊ちゃまのご意思は……?」

 

 花江が光太郎に視線を向けた。

 今度こそ、びっくりした。

 許可をする?

 自由を許すのか?

 光太郎は驚愕してしまった。

 

「嫌かい、光太郎?」

 

 呼び捨て?

 坂本君に呼び捨てにされたのは初めてだし、しかも、名前呼びだ。

 そんな風に他人から接されたことはない。

 だが、悪い気持ちではなかった。

 むしろ、心地いいかも……。

 知らず、口元が綻んでいた。

 

「嫌ではないけど……」

 

 気がつくと、そう口にしていた。

 しかし、自分が坂本君たちと週末を過ごすことに応じてしまったと悟ったのは、言葉を口にしてからだ。

 他人の部屋で外泊──?

 まずい……。

 我に返ったときには、坂本君は花江に向き直っていた。

 

「では、そういうことでよろしいですよね。花江さんは、学園のゲストルームに宿泊してください。なにかあったら、そちらにお知らせします。この瞬間から金城君の部屋は月曜日の朝まで電子ロックをかけてもらいます。だから、誰にも出入りできなくします。ご安心ください」

 

 坂本君が言った。

 光太郎は唖然とした。

 部屋を封鎖?

 この瞬間?

 

 どういうこと──?

 困る──。

 

 慌てて阻止しようとしたが、胸の内側に入れているスマホから電子音がした。しかも、祖父からの緊急の連絡として区分している音だ。

 滅多にかかってこない向こうからの連絡だ。

 どうして?

 とにかく、光太郎はスマホを取りだした。

 祖父からの連絡など、なにを置いても最優先である。

 

「えっ、まさか……」

 

 思わず呟いた。

 メールの中身は、この週末、光太郎が学園に残ることを許可するという内容だった。

 わけがわからない……。

 どうして?

 

「……では、よろしくお願いします」

 

 花江の声がしたので顔をあげる。

 そのときには、花江が護衛生徒を率いて立ち去って行っているときだった。

 およそ物心ついてから、花江が光太郎から離れるなど初めてだろう。

 彼女は、光太郎の秘密が他人に漏れないための、絶対のお目付けでもあったのだから……。

 

「悪いけど、玲子さんに頼んで、俺の部屋への週末宿泊を許可してもらうように頼んだんだ。見せたいものもあるしね。それで、よければ、SS研の活動に、光太郎にも参加して欲しい」

 

 坂本君が光太郎を振り返って笑みを浮かべた。

 なぜか、どきりとした。

 だが、さっきは読めたと思った感情が、不思議にも読めない。

 光太郎は当惑してしまった。

 

「ま、待ってくれよ。僕は君のところに泊まるのかい? 君の……恋人たちも一緒に?」

 

 最初に訊ねるのがそれなのかと、自分でも呆れたが、とにかく、動顛してしまって頭が回らない。

 こんなに追い詰められた気持ちになるのは、生まれて初めてかもしれない。

 なにが起きているのか理解できてないのだ。

 

「かおりちゃんやあさひ姉ちゃんは、そこしか泊まる場所がないからね。ああ、絹香たちはいないよ。彼女たちには別の仕事を頼んでいるから」

 

 坂本君がにっこりと微笑んだ。

 

「別の仕事……? い、いや、そんなことはいい……。だけど、どうして……。婆やが僕から離れるなんて……。しかも、さっきの祖父からのメールって……」

 

 光太郎は坂本君に言った。

 あり得ない……。

 絶対にあり得ないのだ。

 

「だって、今日の放課後はSS研の展示物を見てもらうって約束したじゃないか。だから、玲子さんに頼んだんだ。君が俺たちを週末をすごすことについて、許可を取って欲しいいってね。玲子さんはとても説得力もあるんだ。多分、君のお祖父さんを説得してくれたんだと思うよ」

 

 坂本君はあっけらかんと言った。

 祖父を説得?

 それこそ、あり得ないことだ。

 金城財閥の会長であり、総帥の祖父を簡単に動かせる者などいるわけがない。しかも、事前に光太郎に確認もなかったということは、祖父にはその「説得」とやらに逆らう気持ちもなかったということになる。

 それを一介の学園の理事長代理が……?

 

「とにかく、つまりは、君が手配したということかい? 僕は君の部屋に泊まるなど言ってないと思うけど……」

 

 なにを訊ねていいかもわからない。

 しかし、本当に得体の知れない罠にかかりかけている気がする……。

 なんとなく、そう思った。 

 

「そうだね……。だけど、すでに玲子さんに、君の部屋の電子ロックはかけてもらっている。こうなったら、俺の部屋に泊まるしかないよね。ああ、大丈夫だよ、着替えとかもこっちで準備するから……」

 

「そ、そういう問題じゃ……。あっ、そうだ。さっきはどうやって、婆やを帰したんだ? 彼女が僕から離れることなどあり得ないことなのに……」

 

「真摯にお願いしたからかな。俺だって、玲子さんに負けないくらいに説得力があるみたいだ」

 

「説得力って……」

 

 絶対にそんなものじゃない。

 坂本君が花江に面と向かった瞬間に、花江は意思を無くしたように、突然に豹変した。

 まるで魔法にでもかかったように……。

 

 魔法……?

 いや、操り?

 ふと、そのことが頭に過った。

 

「ねえ……」

 

 そのとき、声を掛けられた。

 だが、坂本君の顔が目の前だ。

 異常なくらいに距離が近い。

 いつの間に──。

 

「わっ」

 

 光太郎は思わず後ずさった。

 しかし、その手首をがっしりと坂本君が掴む。

 さらに、引き寄せるように抱き込まれる。

 

「ちょ、ちょっと──」

 

 光太郎は坂本君の腕を振り解こうと思った。

 だが、本物の「男」の力は強い。

 強く抱きしめられるようにされて、光太郎は坂本君に密着されられる。

 

「わっ、わっ、わっ」

 

 光太郎は大いに混乱した。

 すると、耳元に坂本君の口がすっと寄ってきた。

 

「……だから、三日かけて説得させてもらうよ……。君も俺のSS研に入るんだ……」

 

 ささやかれた。

 息が耳にかかって、身体がぞわぞわした。

 それだけでなく、息をかけられた耳に得体の知れないびりびりという感触が襲う。抱きしめられている背中にも……。

 

「さあ、こっちだよ。奥まで案内しよう」

 

 坂本君がやっと光太郎の身体を離した。

 咄嗟に距離をとろうと思ったが、右手首を掴まれたままで離れられない。

 そのまま、部室の中に連れていかれる。

 

「ま、待ってよ。とにかく、手を……」

 

 腕を引かれて、ついていかれながら、光太郎は困惑して言った。

 だが、ぐいぐいと坂本君は光太郎を引っ張る。

 そして、壁にある本棚まで進むと、幾つかの本を引っ張ったり、押し込んだりした。

 すると、突然に本棚が左右に開いて、空間が出現した。

 

「エレベーター?」

 

 そこにあったのはエレベーターに違いなかった。だがかなり広い。

 また、操作盤のようなものはない。

 光太郎を中に連れ込むと、坂本君は右手をなにもない壁に触れされた。相変わらずに、光太郎の手首を片手で掴んだままでもある。やはり、びりびりという感覚が続いている。

 なぜか、下腹部がかっと熱くなる。

 エレベーターの扉が閉じて、下降をしていく。

 

「展示物が地下にあるからね。それを運搬するために、広めに作ってあるそうなんだ」

 

「ひ、広めって……。それはともかく、文化部の部室にはこんな仕掛けが?」

 

 光太郎は言った。

 結構時間が長い。かなり下がっているんじゃないだろうか?

 

「ほかの文化部は知らないね。多分、SS研だけだと思うよ。さあ、到着だ」

 

 やっと下降が終わり、扉が開く。

 

「うわあ」

 

 光太郎は思わず声をあげた。

 出現したのはかなりの広さの部屋だ。

 しかも、得体の知れない道具が所狭しと並んでいる。

 

 中身に鉄杭がたくさんある女性の形をした大きな入れ物──。

 天井からぶらさがっている人の形をした籠──。

 拘束具がついた梯子──。

 たくさんの釘の先がでている鉄の椅子──。

 これは拷問具だ。

 それが二十個以上ある。

 

 ほとんど使い方はわからなかったが、光太郎が知っているものでは、三角木馬というものもあった。

 しかし、座る部分にはなぜか穴が開いていて、そこからは回転する刷毛のようなものが出ていた。

 端っこには、ミニチュアのようなものもあり、そこには人形があって、実際の拷問の光景が再現されたりもしている。

 

「ああ、本当に来たのね」

 

 女生徒の声がした。

 部屋の中心部に幾つかのソファがあり、そこに、従者生徒用の制服姿の白岡かおりが飲み物を口にして腰かけていた。

 だが、かなり顔が赤い。

 しかも、短いスカートから出ている脚はせわしなく、両腿を擦りあわせたりしている。

 光太郎の視線から見ても、かなり艶っぽい。

 思わず、どきりとする。

 

「さっき、連絡したけど、準備はできてる?」

 

 坂本君が光太郎を部屋の中に招きながら、白岡さんに訊ねた。

 すると、背中で機械音がした。振り返ると、エレベーターの出入り口だった場所がなんのへんてつもない壁になっている。

 もしかして、坂本君がいなければ、上には戻れない?

 光太郎は、困惑してきた。

 

「で、できてるわよ──。晒し台よね。それよ。だ、だけど、いい加減にとめてよ──。も、もういいでしょう」

 

 白岡さんが叫んだ。

 とめて……?

 それで、はっとした。

 

 匂い……。

 白岡さんから漂ってっくる淫靡な香り……。

 これは……。

 

 まさか……。

 だけど、切なそうにスカートの上から股間を押えている白岡さんを見ると、もしかしたらと思う……。

 でも……。

 

「とめないよ。我慢できるくらいの動きにしてるだろう? それに、これも調教だよ」

 

 坂本君が笑って言った。

 調教?

 いま、調教って言った?

 光太郎は耳を疑った。

 

「さあ、こっちだよ、光太郎。今度の文化部展示では、単純な展示だけじゃなく、体験展示というのもやろうとしているんだ。実際に刑罰を体験してもらうのさ。だけど、危ないのはもちろんだめだから、体験展示の対象はこれだけどね」

 

 坂本君が光太郎を導いたのは、白岡さんが座っているソファの向こう側だった。

 そこには、床に置かれた木製の柱に挟まれた木枠があった。木枠には三個の穴があり、枠が上下二つに分かれて、密着することで穴に挟めるようになっている。

 

「かおりちゃんがさっき口にした晒し台というものだ。ここに受刑者の首と両手首を挟んで拘束し、数時間、時には数日間、人の往来の激しい場所に放っておかれるのさ。板に刑罰の内容を書いた紙を貼ってね」

 

「さ、晒し台?」

 

 光太郎は言った。

 なぜか、とても喉が渇く。

 追い詰められている……。

 そんな気持ちになる。

 でも、どうして……。

 

「もっとも、中世は識字率が低いからね。文字ではなく、罪の内容がわかる格好をさせて晒すということも行われたんだ」

 

「罪のわかる恰好って……」

 

 駄目だ……。

 なんだか、頭が馬鹿になったみたいに動かない。

 さっきから、坂本君に圧倒されている。

 そして、とても落ち着かない。

 

「さっそく、体験してみようか、光太郎……。かおりちゃん、手伝ってよ。ちょっとこっちに」

 

 真夫がやっと手を離して、光太郎を木製の晒し台に押しやった。一方で白岡さんを呼ぶ。

 やっぱり、白岡さんは動きがぎこちない。

 ちょっと息も険しいし、ふと見ると、短いスカートの裾から膝に向かって、つっと滴っている体液も……。

 気がついてしまった光太郎は、自分の心臓が激しく動悸するのがわかった。

 

「ねえ、とめてったら……」

 

 やって来た白岡さんが坂本君を睨んだ。

 ぷんと漂う女の淫靡な香り……。

 だめだ……。

 

 本当に頭がおかしくなりそうだ。

 光太郎は、首を横に振った。

 

「わかったよ」

 

 坂本君が上着の内側からスマホを取りだした。

 そして、操作する。

 

「んふうううっ」

 

 途端に白岡さんが絶叫して、その場にしゃがみ込んだ。

 光太郎はびっくりした。

 

「間違えたよ。強くしちゃった」

 

 坂本君が笑い声をあげた。

 しかし、スマホの操作をやり直す気配はない。

 白岡さんは、股間を両手で強く押えて、身体をくの字に曲げて震えている。

 

「あほおおおおっ、とめてええええ」

 

 白岡さんが声をあげた。

 光太郎は何かに呑まれたようになり、自分から思考力が消失していくのがわかった。動けないし、言葉も出せない。

 ただただ、目の前の淫美な光景に圧倒されていた。

 

「それよりも、光太郎。体験展示だ。ほら、そこに首と両手首を置いてごらん」

 

 坂本君から腰を抱かれて、晒し台の前に押しやられる。

 なにも考えられない。

 

 光太郎は、まるで操られるように、開いている板にある三個の穴に首と手首を乗せた。

 すると、上側の木枠が置かれて、光太郎は首と両手首を板に完全に挟まれてしまった。



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 第84話  第一生徒の秘密

 がちゃんと、首と両手首に木枠が嵌まるのがわかった。

 さらに、いつの間にか、身体の下にも大きな板が準備されていて、坂本君が光太郎の足首にも、それを嵌めてしまっている。

 気がつくと、手も足も首も、完全に板に固定されてしまっていた。

 首を前に出して動けず、足も肩幅に拡げたまま固定されてしまった。足枷には、床にある金具にさえ繋げている。まったく動かせない。

 とにかく、呆気にとられるしかない。

 

「な、な、なんで?」

 

 やっと我に返って、声をあげた。

 

「ほら、晒し刑を受ける囚人になった気分はどうだい、光太郎?」

 

 光太郎の足元で、足首を固定する作業としていた坂本君が前側に回ってきた。

 しかし、なにがなんだか、さっぱりと理解できない。

 まったく強要されたわけでもないのに、いつのまにか、光太郎は自らこうやって拘束を受け入れてしまったのである。

 光太郎としては考えられないことだ。

 

「あらあら、本当に拘束されちゃったの? 知らないわよ。こいつって、とっても好色よ。しかも、陰湿だしね。まあ、諦めるのね。これは、あんたを嵌めるための罠なんだから……。だけど、どうして、晒し台に首なんて置いたの?」

 

 淫靡な仕掛けをされているのは間違いない白岡さんが、尻もちをつくように腰を床におろしたまま、両手を股間で押さえるような恰好で、光太郎に視線を向けて笑っている。

 その顔には、苦笑のような表情が浮かんでいた。

 

 だが、罠?

 しかし、確かに、これは危険な状態だ。

 いつもいる護衛とも離されているし、ここが学園の地下にあたることも考えれば、光太郎が悲鳴をあげたところで、救援が来ることが考えられない。

 ぞっとした。

 考えると、背に冷たいものを感じた。

 

「ま、待ってくれ、坂本君。もう、わかった。だから、これを外してくれ。体験はもういいよ」

 

 光太郎は焦って言った。

 どうして、こんなことを受け入れたのか、自分にも理解できないが、これは危険な状況だ。

 坂本君がおかしなことをするとは思えないが、とにかく、光太郎には絶対に知られてならない秘密があるのだ。

 

「いやいや、まだだよ。折角だから、晒し刑の本質を理解してもらおうか。まだいまは、ただ自由を奪われただけだ。だけど、中世における晒し刑の本質は、自由を奪って屈辱を与えることじゃない。名誉を奪うことなんだ」

 

「名誉?」

 

 思わず、問い返したが、そんなことはどうでもいいと思った。

 とにかく、これを外してもらわないと……。

 

「人前で謝らせたり、珍妙な服を着せたり、時には、性的にいたぶったり……。とにかく、晒し刑の基本は、恥をかかせて笑いものにして、刑罰を受ける者から名誉を奪うことにあるんだ。それは耳や腕を斬り落とすのと、同じような意味がある」

 

「腕を切り落とすのと、この晒し台に拘束されるのが同じ? だったら、わたしは晒し台でいいわ。ちょっと我慢すればいいだけじゃない」

 

 坂本君の言葉に反応したのは、白岡さんだ。

 立ちあがって、光太郎の後ろ側に回ってきた。一方で、坂本君は晒し台で立たされている光太郎の前側でにこにこと微笑んでいる。

 

「中世においては未熟な国家体勢でしかない。だから、当時は身の安全を保つには、共同体の集団に入って、生命や財産の安全を守っていくしかなかった。従って、晒し刑で恥をかかせることは、共同体という集団の外に出すということを意味する。一度、共同体から排除された者は、誰になにをされても、身を守ってもらえない。集団から外れている者を守るような法律なんて存在しない時代だしね」

 

「ふうん、そういうもの?」

 

 白岡さんが言った。

 その白岡さんの手が光太郎が身に着けている制服にかかった。

 上からボタンを外していく。

 光太郎は驚愕した。

 

「わっ、わっ、なにをする──。やめないか──」

 

 光太郎は怒鳴った。

 しかし、白岡さんの手はとまらない。

 それどころか、いつの間にか大きな鋏を取り出して、制服を肩から腕にかけて切断し始めた。

 光太郎は恐怖した。

 

「や、やめてくれ──。な、なにをするんだ──。やめろおお」

 

 大声を出した。

 しかし、白岡さんが手をとめる気配はない。

 あっという間に制服の上衣がバラバラに切断されて床に落とされた。

 上着の下は、ワイシャツだが、今度はボタンも外すことなく、じょきじょきと肩の後ろから縦に切断していっていく。

 

「なにをするんだ──。やめてくれえ──」

 

 光太郎は絶叫した.

 必死に枷から脱出しようとするが、ピクリとも動かない。

 

「言っておくけど、わたしはやらされてるんだからね。文句があるなら、目の前のこいつに言ってよね。言いつけを守らないと、わたしが罰を与えられるのは、いま見てたでしょう? 股間にディルドを挿入されて外せないようにされてるの──。逆らったら、激しく振動されるの──。とにかく、命じているのはそいつだから」

 

 白岡さんの不貞腐れたような口調の返事が戻ってきた。

 そのあいだも、はさみは動き続ける。

 ズボンからワイシャツの裾が出される。

 あっという間に切断されて、シャツも上半身から取り去られた。

 ついに、上半身の肌が露出してしまった。

 

「えっ? 本当だったの?」

 

 すると、白岡さんの驚いたような声がして、彼女の手がとまった。

 見られた……。

 光太郎に絶望が襲う。

 

「ブラ……? あんた、やっぱり、女? こいつが言ったとおり?」

 

 白岡さんの声……。

 シャツの下にあるのは、光太郎の膨らんでいる胸を隠すスポーツブラの形状をした下着だ。

 小さいが男の身体とはいえない二つの膨らみ……。

 それこそが、光太郎がずっと隠し続け、しかも、金城家が絶対的に秘密にしている極秘事項だったのだ。

 光太郎の上半身には、れっきした乳房がある。

 そんなには膨らんではないが、これを見た者は、それを男の身体とは思わないだろう。だから、ゆったりとした服を身に着け、誰にも見せないようにしてきた。

 侍女としての乳母が光太郎から絶対に離れないのも、この秘密を守るためだ。

 しかし、呆気なくそれが暴露してしまったことに、光太郎は愕然としていた。

 

「女でもない……。男でもない……。光太郎はそのどちらでもないさ。光太郎は、ただ光太郎さ。だけど、君はどういう存在でいたい?」

 

 前にいる坂本君の手が首枷に嵌まっている光太郎の顎に下から触れる。

 坂本君の顔が近づく。

 目を見開いた。

 坂本君の唇が唇に重なる。

 

「ん、んんっ」

 

 拒否しようと思ったが、強引に舌を口の中に入れられた。

 坂本君の舌が口の中を這いまわる。

 気持ち悪いと思ったのは一瞬だ。

 むしろ、気持ちいいかも……。

 不思議な愉悦が口中から全身に拡がっていく。

 身体が脱力する。

 

 ただのキスじゃない……。

 光太郎は、坂本君に口づけされて、呆然とするほどの恍惚感に襲われていた。力が抜ける……。

 思考が切断される。

 不思議な快感が身体を覆う……。

 

「んはっ、な、なにを……」

 

 坂本君が口を離すと、光太郎は坂本君を上目遣いで睨んだ。

 しかし、どうしても、彼に圧倒される気持ちから逃れられない。

 金城家の嫡男として育てられた自分が、こんな仕打ちをされている相手に怒りも感じなければ、憎悪も沸かない。

 ただただ、圧倒される。

 光太郎はわけがわからなかった。

 

「はい、これも外しましょうね」

 

 白岡さんが上半身の下着を切断した。

 布切れになった下着が落ちて、胸を覆うものはなにもなくなる。

 

「ほら、よろしく」

 

 坂本君がなにかを白岡さんに放った。

 背中で何かごそごそと動く音がして、白岡さんの手が背後から胸の前に伸びてきた。

 光太郎はぎょっとした。

 

「うわっ、なに? やめてくれっ」

 

 叫んだ。

 だが、白岡さんの手が胸に当たる。

 その指には、なにかの油剤がたっぷりと塗ってあり、それが光太郎の胸全体に塗られていく。

 

「これは小さいけど、完全に乳房ねえ。乳首も女……。いえ、身体は完全に女よ……。びっくりね……。いまでも信じられない。こいつがそう指摘したときには、半信半疑だったけど」

 

 白岡さんの指が光太郎の乳首に得体の知れないクリームを拡げながら呟いている。

 それはともかく、坂本君が指摘していた?

 そのことに、驚いた。

 

「さ、坂本君……。君は……」

 

 顔をあげる。

 しかし、坂本君は応じることなく、光太郎の後ろ側に行ってしまった。

 身体を動かせない光太郎には、それを視線で追えない。

 しかし、なにをされるのか予想がついて、全身に恐怖が走る。

 

「もう君の秘密は知っている……。だから、卑怯なことを言えば、それを暴露されたくなければ、このままSS研に入るしかない。そうすれば、秘密は守られる」

 

 坂本君がそう言いながら、光太郎のズボンのベルトに手をかけた。

 ベルトが緩み、ホックが外れ、ファスナーも下げられていく。

 

「いやあああ、やめてくれええっ」

 

 今度こそ、泣き叫んだ。

 だが、坂本君は容赦なくズボンを足首に向かっておろした。しかも一緒に下着を持っていることにも気がついた。

 下着ごとズボンが足首までずりさげられる。

 

「ああ……」

 

 絶望に染まる。

 外気が下半身に当たる。

 

「うわあ……」

 

 白岡さんの呆気にとられる声がする。

 恥ずかしい……。

 羞恥と屈辱が襲い掛かる。

 

「光太郎……。いや、ひかりちゃんと呼ぼうかな……。これが晒し刑の神髄だよ。決定的な恥をかかせて、社会からの抹殺をするんだ。そうすることによって、共同体からの追放を余儀なくさせる。中世社会では、共同体から外れれば、もう殺されるしかない。守ってくれる法なんてないからね」

 

 坂本君が言った。

 白岡さんが身体を屈めて、光太郎の下半身に顔を寄せたのがわかった。

 

「不思議な身体……。男? 女……? どう見ても、女の子の身体だわ……。とてもきれい……。でも、これはペニスよねえ……。あんたのものよりも全然小さいけど……。でも睾丸はないのね……」

 

 白岡さんの声……。

 すると、坂本君の指だと思う手が、光太郎の股間に伸びてきたことに気がついた。

 白岡さんの言葉のとおり、光太郎の股間には小さいが男のペニスもある。これもまた、光太郎が秘密にしていたことである。

 

「ひんっ、いやっ」

 

 そして、思わず声をあげていた。

 光太郎の股間にぶら下がっているものに、坂本君の手が触れたのだ。

 しかも、さっき白岡さんが指に塗っていたものを指に塗っていると思う。それを光太郎のペニス全体に塗り拡げている。

 たちまちに、股間が勃起するのがわかった。

 

「ああ、もうやめてくれ」

 

 光太郎は哀願した。

 だが、坂本君は卑猥な指の刺激をやめない。

 しかも、股間が熱い。

 光太郎はぎょっとした。

 もしかして、ただのクリームじゃない?

 光太郎の小さなペニスには、先っぽに放尿をするための割れもあるが、そこにクリームを塗られると、そこが異常なほどにむず痒くなった。

 信じられないくらいに股間が硬く勃起するのがわかった。

 すると、坂本君の手が光太郎のペニスをすっと持ちあげた。

 

「えっ、亀裂? 女の性器もあるの?」

 

 白岡さんが驚いた声を出したのが聞こえる。

 

「両性具有……。男でも女でもなく、そういう存在ということだよ……。五人組生徒の筆頭。学園の第一生徒ともいえる金城光太郎の秘密は、彼が男でもなく、女でもない身体だということさ」

 

「本当に、両性?」

 

 白岡さんが呆気にとられている。

 

「まあね……。だけど、ひかりちゃん……。悪いけど、もう君を逃がすつもりはない。SS研に入るんだ」

 

 坂本君が言った。“ひかり”というのは、光太郎に対する呼び掛けのようだ。

 

「ひ、ひかり? じょ、冗談じゃない――。と、とにかく、こんなのは終わりだ。拘束を解け――。そうすれば、金城家として報復はしないと約束しよう。だが、ここまでた」

 

 光太郎は言葉にできるだけ、凄みを込めようとした。

 しかし、あまりにも、心が動揺している。自分でも迫力がなさすぎると思った。

 

「わかった。じゃあ、話し合いを続けよう。もっとも、こっちは拒否できない条件をつけるけどね」

 

 すると、今度は、坂本君は、光太郎の“女”である部分に、さっきの薬剤を塗り込み始めた。

 

「さ、さっきから、なにをやっている──。いい加減にやめないか──」

 

 光太郎は怒鳴った。

 しかし、だんだんと身体の異常な火照りが拡がる。

 さらに、最初にクリームを塗られた場所が……。

 

「あ、ああっ、なに──? なに? 胸が痒い──。い、いや、股も……。な、なにをした──? ぼくに何をしたんだ──?」 

 

 胸が痒い──。

 いや、ペニスの先も……。

 いま、薬剤を塗られている女の亀裂も……。

 

「SS研に入ると約束したくなる薬を塗っただけだ、ひかりちゃん……。さあて、あとは、待つだけかな」

 

 坂本君がやっと光太郎の股間から手を離した。

 だが、そのときには、異常なほどの痒みが胸と股間に襲い掛かっていた。



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 第85話  卑劣な悪役

「……ああ、あ、熱い……、ああ……」

 

 首枷と足枷に拘束されている身体を強張らせて、光太郎は全身を揺すった。

 しかし、当然ながらびくともしない。

 首と両手を前に出し、足さえも閉じることさえできない状態から全く動くことができない。

 

 なによりも屈辱なのは、足首までズボンと下着をさげられて、完全に露出させられている股間だ。

 そして、上半身は完全に制服や下着を取り去られ、小さな乳房のある裸体を晒されてしまった。

 光太郎は、金城財閥の後継者とされ、学園でも一目もニ目も置かれている自分が、まさかこんなに屈辱的な目に遭っているということが、いまでも信じられない。

 

 しかも、どう考えても、光太郎は自分から罠にかかったようなものだ。

 この隠し部屋のような学園の地下に、なんの備えもなくのこのことひとりで同行し、善良だと思い込んでいたとはいえ、それほど親しくもない坂本君の言葉に誘導されるかのように、首枷に首と両手を拘束させることを許したのだ。

 その結果がこれだ。

 

「……それにしても、見れば見るほど、不思議な身体ねえ。身体は女よねえ……。だけど、男の性器だけがあるのね……。ふたなりって言うんだっけ? 本当にいるのねえ」

 

 足元には、坂本君の奴婢生徒の白岡さんがしゃがみ込んでいて、隠すことのできない光太郎の股間をしげしげと見つめている。

 恥ずかしい……。

 光太郎は、この恥辱に歯噛みした。

 そもそも、次期金城グループの総帥と見込まれている光太郎が、実は男性と女性の両方の性を持つ両性具有であることは、金城家の秘中の秘だった。

 これを、こんなにも呆気なく暴露されてしまうとは……。

 

「や、やめてくれ……。み、見るな――。この身体を見るな――」

 

 光太郎は声をあげた。

 ずっと隠していたのだ。

 こんなにも恥ずかしい光太郎の身体を……。

 

 自分が他人とは違う身体だと思ったときには、あまりものショックに死んでしまいたいとさえ考えたくらいだった。

 女であるのに、男でもあり、男として育てられたのに、男性の性器以外は、まったくの女で……。

 それなのに、男にはなれず、かといって女でもなく……。

 おぞましい……。

 常識ではありえない両性の特性を持つ自分の身体……。

 どれだけ、この身体に悩み、苦しんだものか……。

 

 だから、誰にも知られないように……。

 学園の二大巨頭と称されながらも、もうひとりの加賀豊のように徒党など作らず、ずっと孤高を甘んじた。

 それは、偏にこの秘密を守りたいためだった。

 この恥ずかしい秘密を知っているのは、両親と祖父、財閥の主治医、乳母の花江と……そして、婚約者だけであり……。

 

「別に恥ずかしいことはないよ、ひかりちゃん……。美しい身体だよ。とても可愛いしね……。すべて、受け入れようよ。恥ずかしいことも……。気持ちいいことも……。悩む必要もないということも……」

 

 すると、坂本君が不意に、光太郎の心を読んだようなことを言った。

 そして、光太郎の首枷のある前側にやってきて、いきなり、坂本君が身につけているものを脱ぎ出す。

 

「な、なにっ?」

 

 思わず声をあげた。

 だが、一方で、すでにじんじんと痛むような疼きと痒みが乳首と股間に襲い掛かっている。

 光太郎は愕然としてしまった。

 自分の乳首と股間が光太郎の意思とは離れて、刺激と求めようとしているのがわかったのだ。

 痒みと疼きを癒されたい。

 目の前の坂本君という不思議な少年に滅茶苦茶に触って欲しい……。

 そう思った。

 

 そのことに驚いた。

 この恐ろしいような疼きと痒みは、さっき坂本君たちに塗られた得体の知れない塗り薬の影響に違いなかった。

 しかし、坂本君に靡き、媚びたくなる感情の理由はなにか……?

 わからない……。

 また、そのあいだにも、その坂本君は服をどんどん脱いで、裸になっていく。

 

「なにしてんのよ、あんた?」

 

 後ろにいる白岡さんの声だ。

 

「ひかりちゃんだけ裸だと恥ずかしいだろう? だから、俺たちも全裸になろう。かおりちゃんもね」

 

「わたしも――? なんでよ──」

 

 白岡さんは不満そうな口調で文句を言ったが、逆らう態度は見せずに、すぐに立ちあがった。

 首枷で固定されているので、枷の後ろ側になる真横の白岡さんの姿は見えないが、彼女もまた、自分で服を脱いでいる気配だ。

 また、顔側では、坂本君が最後の下着を腰から取り去った。

 その股間には、隆々としている男根がそそり勃っている。

 

「うわっ」

 

 まともな男の勃起など初めて見てしまった光太郎は、思わず声をあげた。

 

「男の勃起が珍しいかい、ひかりちゃん? SS研に入れば、これを受け入れてもらうことになる。俺の調教もね」

 

 坂本君が微笑んだ。

 光太郎は自分の全身が真っ赤になるのを感じた。

 どうでもいいが、これほどの卑劣なことをしている坂本君に対して、いまだに憎悪の感情が浮かばない。

 圧倒されるような忌避感はあるものの、不思議にも坂本君を嫌悪する気持ちがなぜか湧かない。

 光太郎は自分の心が信じられないでいた。

 

「ぼ、ぼくは、き、君の調教なんて……絶対に……」

 

 とにかく言った。

 さっきから、SS研に入れとか、調教とか、おかしなことしか坂本君ばかりを口にする。

 光太郎は全力で拒否した。

 

 いや、拒否しようとした。

 しかし、不思議にも自分の言葉が途中で消えてしまう。

 それどころか、心の端に坂本君になら、心を許してもいいかもしれないとちょっと思った。

 一瞬後に、そのことに愕然とした。

 

「そうかな……。じゃあ、ゆっくりとやるさ。時間はいくらでもある。今日だけじゃない。明日もある。明後日もね。週末は学園に残ると、ひかりちゃんの侍女の花江(はなえ)さんに伝えたのを忘れたかい?」

 

 坂本君がくすくすと笑った。

 そういえば、そんなことになったのだった。

 

 だが、考えてみれば、そのことも不自然だ。

 あの花江は、光太郎のことを知っており、ほかの生徒と週末を一緒に過ごすことを許すなど、絶対に許可などしない。

 それこそ、花江自身の力だけでは無理でも、金城家の全能力を使ってでも阻止するだろう。それだけ、光太郎の秘密を守ることが大切なのだ。

 金城家の嫡男がこんな身体であることをライバルグループに知られれば、どんな醜聞に使われるかわからない。

 だから、婚約者まで準備して、光太郎が普通の少年であることを装い続けたのだ。

 その花江が、目の前の坂本君が光太郎と週末を過ごすことに協力するというのは、絶対にあり得ないことだった。

 護衛生徒のふたりだって、光太郎の意思とは関わらず、絶対に光太郎と離れないことを光太郎の祖父と契約しているのだ。

 しかし、実際には花江も護衛生徒も、坂本君の言葉ひとつに従って、光太郎を置いていき、光太郎自身もあのとき、それを不自然とは思わなかった。

 それどころか、その祖父さえも、坂本君との外泊を許すとは……。

 だが、はっとした。

 

「ま、待て、もしかしたら、祖父からのメールというのは、君たちの作った偽物では?」

 

 祖父からのアドレスであり、いつも祖父が光太郎に伝言をするときの書式だったので疑いはしなかったが、あのメールそのものが偽物の可能性もある。

 

「ばれたか……。あれは、玲子さんに準備してもらったフェイクだね。まあ、だけど、どっちみち同じことだよ。救援がここまでやって来ることはない。いまはまだ接触してないけど、玲子さんが金城家に本当に手を回せば、絶対に金城家は、俺を受け入れる」

 

 びっくりした。

 あれは嘘だったのだ。

 しかし、考えてみれば当然だ。

 祖父が光太郎が得体の知れない生徒たちとの残留を許可するわけがないのだ。

 だが、光太郎としたことが、うっかりと信じてしまった。

 そのことには、驚きだ。

 普段の光太郎ならあり得ないことだ。

 ともかく、全身に起こっている異常な状況を少しでも和らげようと、懸命に身体を揺する。

 しかし、なにも変わらない。

 どんどんと、光太郎は追い詰められているのを自覚した。

 

「そ、そんなことはない……。い、いまからでも、お、遅くない……。ぼ、ぼくにこんなことをしたことがわかったら……そ、祖父は……き、君たちを殺す……。多分、間違いない……。そ、祖父にはそれだけの力があるんだ……」

 

 必死で言った。

 だが、それはともかく、乳首と股間の感触が我慢できない。

 だんだんと疼きが強くなり、男の性器も、女の性器も、かっと燃えあがるように熱い。

 そして、その熱からぞわぞわと無数の虫がうごめくような異様な感覚が沸き起こっている。

 痒いとは感じていたが、そんな生易しいものじゃない、狂うような痒みだ。

 恥も外聞もなく、全身を指で掻き毟りたくような、それほどの激しい痒みだ。

 

「あがあああっ、か、痒いいい、あああああっ」

 

 ついに、光太郎は絶叫した。

 そして、木枠の嵌まっている枠を必死に揺すった。

 相変わらず、びくともしないが……。

 

「始まったね。さあ、ひかりちゃん、屈服するんだ……。SS研に入って、俺の調教を受け入れるとね……。恥ずかしくないよ。全員が仲間だ……。そのかおりちゃんも、あさひ姉ちゃんも、玲子さんも……、絹香も……。楓と渚も……。みんな仲間だ……。そして、君も……」

 

 坂本君が枷の後ろ側に回ってくる。

 なにをされるかわからない恐怖に身体が竦むのがわかった。

 そして、なによりも痒い──。

 とにかく、痒い──。

 

「まったく……。最初に会ったときには、善良そうで、とっぽい世間知らずの男子だと思ってたのに、いつの間にか、すっかりと悪役が似合う卑劣漢になったわよねえ」

 

 白岡さんがそう言うのが聞こえた。

 そのとき、すっと光太郎の男側の性器である男根に手が触れた。

 下から上に向かって幹の部分が撫でられる。

 

「ひいいい」

 

 絶叫していた。

 それは微細な刺激にすぎなかったが、怪しい薬剤を塗られた光太郎の小さな男根は、これ以上ないというほどに膨らみ切っていたのだ。そして、刺激を求めて狂っていた。

 そこを指で撫でられた感触は、なにものにも代えがたいような気持ちよさに感じてしまった。

 しかし、あっという間に手は離れて、いまはなにもない。

 光太郎は腰を揺すって泣き声をあげた。

 

「うわあっ、や、やめてくれ──。苛めるのは……ああっ」

 

 光太郎は叫んだが、自分でもなにを口走っているのはわからない。

 だが、本当はもっと刺激を自分が受けたがっているのはわかっている。しかし、そんなことをされれば、自分が自分でいられなくなるということもわかっている。

 怖い──。

 

「じゃあ、なにもしないでいいのかい、ひかりちゃん。なら、しばらく放っておくか。触って欲しくなったら声をかけてね」

 

 坂本君が言った。

 光太郎は歯を喰いしばった。

 だが、すぐに我慢の限界はやってきた。

 腰を必死で動かして、ちょっとでも痒みを癒そうとする。

 しかし、そんなもので痒みが消えるわけもない。

 光太郎は絶望に襲われた。

 

「本当に可哀想に……。まあ、だけど、全員が一度は受ける関門よねえ。こいつは、自分の女がこういう痒みで苦しむのが大好きな変態だしね……。まあ、あんたに恨みはないけど、屈服した方がいいわよ。どうせ、逃げられないんだし。だったら、さっさと受け入れた方が楽よ。こいつ、こんな卑劣漢みたいなことするけど、結構優しいしね」

 

 白岡さんが言った。

 光太郎は全身を身悶えさせながら、再び口を開く。

 

「た、頼む、助けてくれ、白岡さん──。こ、拘束を解いてくれ──。頼む、あああああっ」

 

 光太郎は絶叫した。

 手足の自由を奪われて、痒み責めで苦しめられるなど、光太郎にとっては信じられない仕打ちだ。

 なんとか脱出を……。

 

「わたしはなにもできないって言ってんでしょう? これを見なさいよ。こいつにこんな破廉恥な貞操帯を嵌められてんのよ。逆らえば、こいつは、人前でも股間のディルド動かすんだから。わたしは、ここにいる豊藤グループの後継者の奴隷なの──」

 

 白岡さんが枷の前に現れて言った。

 彼女は素裸だったが、黒い革のTバッグみたいな帯が腰に巻かれて、やはり股間に細い革帯が喰い込んでいる。

 これが貞操帯か……。

 

 それはともかく、いま、白岡さんは、坂本君のことを豊藤グループの後継者だと言ったか?

 あの謎の大財閥の?

 光太郎は呆気にとられた。

 

「……あれ、その顔は知らなかったの? こいつはまだ教えてなかったのね……。そうよ、こいつはあの豊藤の後継者よ。あんたがいくら金城家とはいっても、豊藤に比べれば大人と子供でしょう。だから、屈服しなさい。どんなに抵抗したって、こいつはあんたを手に入れるわ。あんたは、こいつに目をつけられたんだから」

 

 白岡さんが言った。

 光太郎はびっくりした。

 すると、坂本君が後ろでくすくすと笑うのが聞こえた。

 

「まだ、後継者候補だけどね……。だけど、かおりちゃん言葉は、その通りだよ。ひかりちゃんはもう逃げられない……、だから、屈服するんだ……。さあ、SS研に入ると承知するんだ……。どうする?」

 

 坂本君が言った。

 光太郎は狂おしい痒みに気が狂いそうだったが、辛うじて残っている理性で懸命に首を横に振る。

 

「い、いやだ──」

 

 必死に叫んだ。

 すると、坂本君が枷の後ろ側でまたもや笑った。

 

「くくく……、だったら、もっと屈服したくなるようにしてあげようかな」

 

 坂本君がそう言って、またもや、光太郎の男根を握って刺激を加えてきた。

 今度は強く握られて前後に擦られる。

 激しい。

 あっという間に、なにかが込みあがる。

 

「ひいいっ、やめてええっ」

 

 光太郎は悲鳴をあげた。

 

「ほんっとに、あんたって、悪人役が似合ってきたわねえ」

 

 顔の前にいる白岡さんが呆れたような口調で言った。



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 第86話  男でもなく、女でもなく

 こちらも再開したいと思います。やっと、読み終わりました。こんな話だったんですね(笑)。

 *




「あ、あああっ、ああああっ」

 

 光太郎は股間の「男」の部分を強く刺激されて、切羽詰まった声をあげてしまった。

 あっという間に射精感が込みあがり、男の部分の先端から精が飛び出しそうになったのだ。

 身体全体はほとんど女なのだが、そこだけは男の性を持っている。

 光太郎もこの年齢なので、どうしても性欲が沸き……。いや、もしかしたら、人よりも性欲が強いのかもしれないけど、とにかく、オナニーの経験はある。だが、女の方でしか自慰はしたことがない。

 

 そんな恥ずかしいことをひそかにしているなどというのは、光太郎の絶対の秘密だが、初めて、男の部分に与えられる他人からの刺激は、とてつもなく気持ちがよかった。

 あっという間に射精感が込みあがる。

 

「出そうになったかい、ひかりちゃん?」

 

 坂本君が光太郎の男根を激しくしごきながら言った。

 

「で、出る──」

 

 光太郎は頭が白くなりかけ、わけがわからなくなり叫んだ。

 しかし、坂本君がくすくすと笑って、ぴたりと手をとめる。しかし、ぐっと強く握られたままであり、それでも、射精感は続く。

 

 ああ、出るよ──。

 

「うあっ」

 

 光太郎は身体を突っ張らせた。

 

「そうはいかないよ、ひかりちゃん……。ここから先は、SS研に入ることを納得してからだ」

 

 しかし、坂本君が射精寸前の光太郎の怒張の付け根を握っていた手をぱっと離す。

 刺激がなくなり、飛びだしかけていた射精がそこで強引に中断されてしまう

 

「ああっ」

 

 射精しかけてきた精の上昇がとめられてしまった。

 激しいもどかしさが襲ってくる。

 光太郎は情けない声をあげてしまった。

 

「お預けだよ」

 

 坂本君が前にまわってきて、台に固定されている光太郎の顎を上にあげさせた。

 

「ああ、いやだあ……」

 

 ぎりぎりのところで強引に快感を制御されてしまって、光太郎は、切なさに身体を震わせていた。

 

「まったく……。あんたって、鬼畜ねえ……」

 

 すると、まだ磔台のこちら側にいる白岡さんが呆れたような声をあげた。

 

「そうかもね……。ねえ、ひかりちゃん、SS研に入って、俺の愛人になる気になった?」

 

「あ、愛人て……。俺は男だし……」

 

「いや、この光太郎の身体を見て、男だと思う者はいないと思うけどね……。どこからどう見ても可愛い女性だよ。ちょっと特別な場所はあるけど」

 

「まあ、確かにね……。それに、男だとしてもいいんじゃないの? 男と男というのも、最近は珍しくはないわよ。それだけ女らしい身体なら、まあ、ありね」

 

 白岡さんが同意するように応じる。

 

「と、とにかく、ぼくは男だ──」

 

 激情が光太郎を襲った。

 光太郎は絶叫した。

 

「そうかな?」

 

 すると、坂本君が再び男根を刺激し始めた。

 光太郎は悲鳴をあげた。

 

 


 

 

 

 自分が人と異なるとわかったのは、十一のときだ。

 

 もちろん、光太郎が「それ」であることは、両親は知っていたし、財閥の総帥である祖父もわかってはいたのだろう。

 大財閥の金城家の宗家ともなれば、主治医もいる。幼い頃から定期的な検診は受けているし、気がつかないわけがない。

 だが、少なくとも光太郎には教えられなかった。

 自分は男だと思っていたし、ちゃんと男の子の性器もあるから、それを疑ったこともなかった。

 

 それに、いまでは自分が男である必要があったことは、明確に理解している。

 納得いくかといえばわからないが、とにかく必要なことなのだ。

 

 金城家は江戸時代から続く名家であり、財閥解体を乗り越えて存続しているこの国でも有数のグループ企業体である。

 財閥の総帥には、代々の宗家の男が継ぎ、それは一度として途切れたことはない。

 一度もないのである。

 おそらく、江戸時代から続く名家がいくらもあるが、男系の血がずっと続いている家は、金城家を除けば、皇室くらいだと言われている。

 宗家に生まれた男子が代々当主を継いでいるというのは、金城家の誇りであり、大きな自慢なのだ。

 

 光太郎は、そんな金城家の宗家の嫡男として生まれた。

 父親は光太郎が母親の胎内にいるときに事故死をしたらしいが、光太郎が無事に生まれ、さらに男の子であったことは、一族を大いに安堵させるとともに、また、不安にもさせた。

 

 なにしろ、若くして亡くなってしまった光太郎の父親は、その世代で残っている唯一の金城家の宗家の血を引く男子であり、ほかに男系の血を継ぐ者はなかったのだ。

 そんな金城家の宗家に誕生した光太郎は、唯一の男子であり、生まれながらにして、金城家の総帥を継ぐ者として定められただけでなく、光太郎になにかがあって、命を失うことがあれば、その時点で金城家の血は途切れてしまうのである。

 また、光太郎が総帥に相応しくない者だったりしても、その代替はもういないのだ。金城家の血を引いていた父は死んでいて、母親が再婚して子を作ったとしても、その子は金城家の血が流れておらず、総帥になることはない。

 総帥になれるのは、光太郎ただひとりだ、

 一族の将来と歴史が、光太郎ただひとりの肩に乗るということなのだ。

 

 幸いにも、光太郎は大病にもなることなく、すくすくと成長した。

 考えられる限りの過保護にもされたが、金城家ほどの家ともなれば、そんなものかとも思ったし、別段、光太郎も自分を守る者たちを無視して、あえて危険に近づこうと考えたこともなかった。

 また、金城財閥を継ぐ者として、光太郎は努力を惜しまなかった。

 幸いにも、才能にも恵まれたらしく、周囲の者たちを満足させる結果は出し続けている。

 

 そんな光太郎だったが、唯一悩みとして抱いているのが、自分の身体のことだ。

 幼い頃には気がつかなかった。

 その時代では、そもそも、男も女も変わりはないし、男女の違いの知識もない。

 光太郎の中では、自分は間違いなく男だった。

 

 だが、小学校に入り、さらに高学年になると、だんだんと自分はほかの男の子と差異があることに気がついてきた。

 しかし、あえて気がつかない素振りをしていた。

 気がつくのが怖かったのだ。

 

 そして、中学校生になった。

 決定的なことがあった。

 その日は朝から身体が重く、気分が悪かった。

 だが、授業を休みたいとは思わず、家人には言わずに、いつもの通りに送迎車に乗って学校に向かった。

 その車内で、光太郎は失禁したのである。いや、失禁だと思った……。

 

 そして、温かいものが大量に股間を濡らすのを感じた。

 それがズボンの内腿を伝い濡れてくる。

 そして、光太郎は失禁だと思っていた「下り物」に血が混ざってることに気がついた。

 動顛して、運転手に命令して屋敷に戻らせた。

 

 屋敷内で診断を受け、人払いをされてから、幼い頃から光太郎についている侍女で老女の花江と主治医に告げられたのは、それが「初潮」だということだった。

 愕然とした。

 初潮があるということは、光太郎は女であるということだ。

 しかも、子を成せる可能性もあるということだ。

 

 だが、光太郎には、男の性器もある。

 それくらいの性知識もあり、これはなんだと訊ねると、そういう身体の者もまれに存在するのだそうだ。

 「両性具有」というらしい。

 男と女の両方の性器を持つ者だという。

 

 光太郎は、まさにそれであり、これまでの検査の結果から、むしろ「女」に近いという。女の身体に男の性器がついているというのが、もっとも現状を正確に表現する言葉であって、存在する男性器以外は、ほとんど女性だという。

 しかも、光太郎にある男性器は、本当の男のものに比べれば、かなり小さいらしい。

 さらに、男というのは、おしっこをするときは、その男根の先から尿を出すらしい。

 光太郎は違う。

 尿道は女性器側にあり、そこからおしっこは出る。

 男根から出るのは、そのときにはまだだったが、精液のようなものだけだ。しかし、それは実際には子宮から出るものが繋がっていて、それが出ているのだそうだ。

 それもまた、光太郎が本来女性であることの証拠だと言われた。

 

 それから、まる一週間以上、光太郎は部屋に閉じこもって誰にも会わなかった。

 花江も遠ざけた。

 

 自分は男ではない──。

 女だった──。だけど、女でもなく……。

 男ではなく、女である──。

 

 同じことを繰り返しながら、ベッドの中で身悶えをして、突然に起きて泣いた。

 最初の三日は食事もしなかった。

 水だけを飲んでいた。

 不浄の始末はひとりでやった。

 布に汚れる血は、光太郎が女であることを否が応でも知らしめた。

 

 だが、一週間もすれば疲れた。

 拒んでいた診断も受け、花江も部屋に入れた。

 身体に問題はなく、今度も案じることはないだろうと言われた。

 

 その報告を聞いたのか、祖父が突然に訊ねてきた。

 会話というよりは、一方的な命令だった。

 

 光太郎は、今後とも男として過ごすように命令された。

 金城家には、ほかに血を継ぐ男子はいない。

 だから、光太郎には、このまま嫡男として生き、総帥となり、金城家の宗家を引き継ぐように言われた。

 だが、多分、光太郎には、男として子を作る能力はないだろう。

 光太郎が男として宗家を継いで、女性と結婚したところで、男系の子は作れない。

 

 それを口にすると、すでに婚約者を準備したことを告げられた。

 ある家から因果を含めさせた娘を将来の妻としてあてがうのだそうだ。だが、当然ながら、本当の夫婦関係は結べず、仮初の関係として生涯を生きることになる。

 そのあいだに、光太郎にはひそかに体外受精により子を成してもらい、その子を夫婦の子として届けるという。

 光太郎は唖然としてしまった。

 拒絶の機会は与えられなかった。

 祖父は、命令のみを告げると、そのまま部屋を立ち去ってしまった。

 気がつくと、光太郎が初潮をしたときに運転をしていた家人、ズボンの血を唯一見ている家事手伝いの女性、さらに主治医の姿が消え、全員、別の者と入れ替わっていた。あとで調べたが、彼らがどこに行ったのかまったくわからなかった。少なくとも、それぞれの家族のもとに戻ったわけではないことだけが確認できた。

 光太郎は呆然となった。

 

 中学校を卒業して、高校生になると、いよいよ光太郎は変わってきた。

 肌は滑らかに艶を増やし、髪の毛の量は増えた。腰回りから太腿にかけての肉付は女性そのものだったし、大きくはなかったが胸も膨らんできた。

 そんなひとつひとつを光太郎は呪った。

 本物の男ではないので、名前だけの許嫁を与えられ、将来は、姿もわからない男の精で子を作り、女であることを隠して生きることになるのだ。

 しかし、光太郎の身体はどんどんと女性らしくなっていった。

 声は太くならず、いつまでも甲高い。だから、できるだけ他人とは喋らないようにふるまった。

 手足も細く、髭はまったく生えない。せめて髭だけでも思って、剃れば濃くなると耳にして、毎日剃ってみたが無意味だった。

 男らしさの欠片もない女性らしい顔があるだけだ。

 

 そして、なによりもショックだったのは、光太郎が女性ではなく、男性に惹かれることに気がついたことだ。

 好ましく思うのは男の子ばかり……。

 

 最近、特に気になるのは、目の前の坂本君で……。

 

 彼を見ると、どきどきするし……。

 

 恋などできない身体なのに、性欲は強かった。

 悶々として眠れないこともある。

 それは、他人とは異なり、ふたつある性器のせいかもしれない。

 だけど、そんなときに弄るのも、女の側の性器だけだ。

 男の側の性器で自慰はしたことはない……。

 

 でも、気持ちいい……。

 

「また、射精しそうかい?」

 

 坂本君が根元から先端に向かって、光太郎の男根の部分をこする。

 再び、どんどんと射精感が込みあがって……。

 なによりも、これが坂本君の手であることが興奮して……。

 やっぱり、不思議な男の子だ……。

 なぜか、惹かれる……。

 こんなことをされているのに、どうしても怒れないし、憎しみも沸かない。

 それよりも、気持ちよくて……。

 

「あ、ああっ、出る……」

 

 光太郎は声をあげた。

 

 


 

 

「だめだ」

 

 そのとき、突然に、男性器の部分の根元になにかを嵌められた。またもや、射精がぎりぎりで中断される。

 しかも、びりびりという電気が流れるような小さな痛みがそこに走る。

 それでいて、根元を強く圧迫されてもいた。

 

「ひああっ」

 

 光太郎は甲高い声をあげてしまった。

 

 なに──?

 なに──?

 なに──?

 

「な、なにをしたんだ──?」

 

 びっくりして言った。

 

 なんだこれ──?

 なに──?

 

 気持ちの悪い感触……。

 無理矢理に勃起を引き起こされるような気持ち悪さだ。

 光太郎は苦しいのか、気持ちいいのかわからずに、完全に狼狽えてしまった。

 

「特殊な電気信号を流して、勃起状態が鎮まらないようにしたひかりちゃん用の淫具だよ。作らせたんだ。それでいて、根元を搾られるから射精もできない。射精寸前の状態でそれを嵌められたら、結構効くだろう?」

 

 坂本君が再び前に回ってきた。

 

「そ、そんなあ……、ああっ」

 

 光太郎はぐっと歯噛みした。

 自分が追い詰められているのはわかる。

 光太郎の男の部分に嵌められた淫具のことだけじゃない。

 下手に刺激をされて身体の官能が燃えあがったこともあるのだろうが、気が狂わんばかりの痒みがどんどんと強くなっていっている。

 総身がますます熱さを呼び、乳首も股間に刺激を求めて痛いくらいにじんじんとしている。

 とんでもない掻痒感だ。

 必死に身体の火照りを押さえようとも思うが、なにひとつとして抑え込めない。

 

 熱い──。

 痒い──。

 

「我慢できるものじゃないだろう、ひかりちゃん? 口づけを自分からしてごらん。枷を外してあげるよ」

 

「ほ、本当か──」

 

「ああ」

 

 固定されている枷の前に立つ坂本君がにっこりと微笑んだ。

 しかし、すぐに我に返った光太郎は、歯を喰いしばる。

 絶対に嘘だ。

 光太郎は固定されている首を左右に振る。

 

 それにしても、さっきから〝ひかりちゃん〞、〝ひかりちゃん〞って……。

 女を呼ぶような口調で……。

 

 恥辱のはずなのだが、なぜか、それが光太郎の不安を除くような感覚もして……。

 なんかおかしい……。

 光太郎は首を横に振る。

 しかし、とにかく痒い……。

 

 血がにじむほどに、枷で固定されている手を握る。足枷の嵌まっている足の指を動かす。

 全身を突っ張らせる。

 奥歯を噛みしめる。

 

「ああああっ」

 

 今度は叫んだ。

 一生懸命に気を散らそうと試みる。

 だが、痒みは全く小さくならない。

 

「ほら、枷を外してもらいたくないの、ひかりちゃん。口づけだ……」

 

 坂本君が光太郎の唇に唇を重ねてくる。

 意思を総動員して、顔を横に避ける。

 しかし、とんでもない薬剤だ。

 時間とともに、どんどんと痒みが拡大する。

 

「いいのかい、ひかりちゃん」

 

 まるで操るような坂本君の声……。

 再び、坂本君の唇が迫る。

 今度は拒否できなかった。

 唇と唇が重なる。

 わけがわからなくなって、口の中に入ってきた坂本君の舌に自分の舌を絡ませる。

 光太郎のファーストキスだ。

 

 坂本君の舌が口の中を這いまわる。

 気持ち悪いという感覚はない。

 むしろ、ぞくりとした甘い快感に見舞われた。

 はっとして、それから逃れようと舌を引っ込めようとするが、ゆっくりと坂本君に口の中を舐められていくと、ぞわぞわと痺れるような得体の知れない感覚が込みあがる。

 

 そして、思考力が消えていく……。

 苦しい……。

 いや、気持ちいい……。

 

「あはあっ」

 

 坂本君の舌が一瞬離れ、それとともに、自分の口から昂ぶった声が迸った。

 いまの甘い悲鳴が自分?

 信じられなくて、わずかに残る理性で愕然とする。

 

「ほら、被虐の快感を認めるんだ……。気持ちいだろう、ひかりちゃん……」

 

 坂本君が再び唇を重ねる。

 被虐の快感……?

 

 なんだ、それ……?

 

 坂本君の舌がまたもや口の中を這う。

 

 気持ちいい……。

 気持ちがいい──。

 

「んあっ、んんっ」

 

 光太郎は荒い息を洩らして、気がつくと自分も舌を舌に巻き付けていた。

 驚くような快感が口から脳天に駆けあげってくる。

 芳烈な官能のうねりが、脳の中で満ち溢れていく感じだ。

 

「はい、よくできました。約束だ。枷は外してあげるよ」

 

 坂本君の口が離れた。

 天井から金属の輪がついたの二本の鎖がおりてきて、枷に固定されている両手の手首に金属環が嵌まった。

 坂本君が枷を外して、やっと首を自由にした。

 しかし、同時に二本の手首が鎖で引きあげられて、光太郎は万歳をする格好になってしまった。

 

「ひ、卑怯だよ」

 

 やっと気がついて抗議した。

 しかし、坂本君は素知らぬ顔だ。

 晒し台には台車でもついていたのか、坂本君が横に押すと簡単に、光太郎の前から横に移動してどけられる。

 

「卑怯に決まってんでしょう。まあ、さっきも言ったけど、さっさと屈服すれば? 金城家でも、豊藤財閥にはかなわないでしょう。あんたが屈服するということは、金城家が豊藤の傘下に入るってことにもなるから、案外悪いことじゃないかもよ」 

 

 晒し台が横に移動したことで、やっと白岡さんの姿が視界に入る。

 白岡さんは、光太郎が足首を固定されている足枷の横に胡坐で座り込んでいた。裸体に革の貞操帯だけをしている扇情的な姿だ。

 

「かおりちゃん、ひかりちゃんの股間を舐めてあげてよ。ただし、先っぽだけだ。幹の部分には触れないでね。先っぽだけじゃあ、男は絶対にいけないから、凄く苦しいんだ」

 

「えっ、本当なの? だったら、今度、あんたで確かめさせてよ。わたしたちばっかり苛めるんじゃなくて、あんたもこういう苦しさをちょっとでもいいから味わってよ」

 

「まあいいけど……。その代わり、ひかりちゃんに屈服してもらうのを手伝ってね」

 

「約束よ」

 

 白岡さんが光太郎の股間の前に移動してきて、男の部分を舌で刺激してくる。

 たちまちに快感があがる。

 しかし、根元は絞られているし、気持ちいけど切なさの方が大きくて苦しい。

 光太郎は快感の苦悶に首を左右に振った。

 

「お尻も気持ちいいよね。前立腺の刺激というのをやってあげよう。ここでいいのかな?」

 

 潤滑油でも塗っているのか、坂本君の指がお尻の中に簡単に侵入してきた。

 ぐいとお腹側を押される。

 いきなり強い射精感がやってきた。

 

「ああ、ああああっ」

 

 光太郎はがくがくと身体を震わせた。

 だが、男の側の性器の根元にある輪っかが射精を阻止する。

 光太郎は射精できない苦悶に身体を震わせた。

 それにしても、自分の身体がこんなに敏感なのか信じられない。

 しかも、さっきから口から出る声は、とても男の声とは思えない完全に欲情した女の声だ。

 やっぱり、どんなに頑張っても……虚勢を張っても、自分は女か……。

 光太郎は思い知った。

 

「自分が女として苛められて、欲情しているのがわかるよね? 実はひかりちゃんは、こうやって苛められると快感を覚える性質なんだよ……。だから、責め絵を見て、とても興味を引かれた。実は自分があんな風に苛められることを想像して欲情してたんだ……」

 

 坂本君が耳元でささやきながら、白岡さんが奉仕を続けている光太郎の股間に手を伸ばした。

 そして、光太郎の秘所に指をあてる。

 女の部分だ。

 

「くあああっ」

 

 ちょっと触っただけなのに、腰の芯まで焼け落ちるような甘美感が光太郎を襲った。

 さらに、坂本君の指が刺激を続ける。

 

「んあああっ、おおおおっ」

 

 光太郎は全身を突っ張らせるようにして、身体を激しく反り返らせてしまった。

 

「うわっ」

 

 そして、あまりにも光太郎が激しく動いたので、白岡さんの顔を光太郎が腰で弾くようにしてしまった。

 白岡さんがびっくりした声を出した。

 

「ははは、かおりちゃん、やめたら、だめだろう。罰だね」

 

 坂本君がいつの間にか持って来ていた横の台からリモコンみたいなものを手にとった。

 

「んふううっ、そんなのないじゃない、ああああっ」

 

 途端に白岡さんがその場で絶叫した。

 両手を股間に当てて、がくがくと腰を震わせだす。

 貞操帯の淫具を動かされたのだろう。

 しばらくのあいだ、白岡さんはその場でのたうつような仕草をしていたが、やがて、絶息するような息を吐いて、全身を突っ張らせた。

 達したみたいだ。

 股間に両手を当てたままがっくりと脱力する。

 

「休む暇はないよ、かおりちゃん。続けるんだ。今度失敗したら、今度はお尻だよ」

 

「こ、この鬼畜ううう──」

 

 白岡さんが険しい顔で坂本君を睨み、再び光太郎の男の部分の性器の先に口をつけてくる またまた、切なくて苦悶の快感がせりあがってくる。

 

「うああっ」

 

 光太郎は声をあげた。

 

「それよりも、これを見てごらん、ひかりちゃん。ひかりちゃんの女の部分だ。君の本性だよ」

 

 坂本君は光太郎の股間の中の女の亀裂の部分からすくった愛液を光太郎の顔の前に示した。

 いやらしい匂いが拡がる。

 

「くっ」

 

 光太郎は歯噛みした。

 苦しいのだ。

 得体の知れない薬剤を塗られた乳首と股間の掻痒感が、淫靡な匂いと、なによりも男の部分に刺激を受け続けていることによって、どんどんと増幅されていく。

 光太郎は身悶えた。

 

「SS研に入ると口にするんだ。触って欲しいと哀願するんだ……。そうすれば楽になる……」

 

 坂本君が再び耳元でささやく。

 

「ああ、わ、わかった……。は、入る……。SS研に入るから、もう許して──」

 

 光太郎は泣き声をあげた。

 もう限界だ。

 

「よく言った。ようこそ、SS研に」

 

 坂本君がお道化たように言った。

 屈辱よりも屈服感が大きい。

 しかし、不思議に悪い気持じゃない。

 坂本君に屈服した瞬間、不思議な安堵感が光太郎に襲い掛かってきてもいた。

 

「さて、じゃあ、今度はひかりちゃんがSS研に入ることを申し出たご褒美だ。かおりちゃんも、もういいよ。次は、ひかりちゃんに目隠しをしてあげてよ」

 

「本当にあんたって、意地悪よねえ。まだ苛めるの」

 

「当たり前だよ。まだ、はじまってもいない」

 

「ふうん」

 

 白岡さんが立ちあがって、どこかに向かう。

 しかし、すぐに戻ってきた。そして、光太郎の顔に目隠しをして視界を塞いでしまった。

 

「ああっ」

 

 光太郎は恐怖で声をあげてしまった。

 

「さあ、じゃあ、次は嗜虐の快感をその身体に植えつけてあげるね」

 

 坂本君が言った。

 なにをされるのかわからず、光太郎は身をすくませた。

 

「よりにもよって、それ? あんたって、意外にえげつないのね」

 

「俺がえげつないことを知らなかった?」

 

「知ってたわよ」

 

 呆れたような白岡さんの声──。

 

 えっ、なにをされる?

 

 えげつないものって、なに?

 

 次の瞬間、すっと乳首を柔らかいもので撫でられた。

 

「ひいっ、あひいいい、くうっ」

 

 光太郎はすさまじい刺激に、身体をびくびくと躍らせて、激しく裸身を揺すりたてた。

 

 なんだ、いまの──?

 いまの、なに──?

 

「痒い場所をくすぐられるのは効くでしょう。ここなんてのも、どうかな?」

 

 もしかして、筆──?

 

 坂本君が愉しそうな口調でそう言って、光太郎に再び近づく気配がした。

 

「ひっ、いやっ」

 

 なにをされるのかわからず、光太郎は知らず声をあげていた。

 すると、右の脇の下を筆ですっとくすぐられた。

 

「はううううっ、いやあああ」

 

 光太郎は必死に身体を捩じってそれを避けようとした。

 

「逃げられないよ」

 

 すると、坂本君の操る筆が脇の下を追いかけてきた。



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 第87話  被虐の快感

「ひあっ、ああっ……だめっ、ああ……。お願いだから……」

 

 猛烈な痒みに襲われている身体を執拗にくすぐられて、光太郎はいつの間にか哀願の声を繰り返していた。

 口から漏れ出るのは、女そのものの甘い声だ。

 否が応でも、自分がやっぱり「女」であることを自覚させられる。

 

「ふふふ、まるで女の子ね。本当に不思議。学園の巨頭双璧のひとりが実は女だったなんて……。金城派の女性生徒たちは、それを知ればひっくり返るわね」

 

 白岡かおりさんだ

 A級生徒だったが、学園の命令でこの坂本真夫君の従者生徒になったと聞いている。いつの間にか、彼の愛人のようになっていて、今日は罠に嵌ってしまった光太郎を一緒になって追い詰める片割れの役目を果たしている。

 ずっと、光太郎の男の性器を舐め続けていたが、いまは横で傍観している感じだ。

 もっとも、光太郎は目隠しをされているので、彼女を見ることはできない。

 

「なにをお願いするの、ひかりちゃん?」

 

 真夫君が操っていた筆を遠ざけた。

 

「うううっ……」

 

 しかし、刺激が消滅したことで、光太郎は思わず呻いてしまった。

 こんな刺激でも、この恐ろしい痒みの前には、ありがたいものだったのだと、なくなって思い知った。

 筆が離されて、狂うような痒みの苦悶が襲い掛かってきたのである。

 また、その筆は、痒みに襲われている光太郎にとっては、悪魔のような責め具だが、離れてしまうと、次にどこをくすぐられるかわからなくて怖い。

 そうかといって、筆でもどかしい感覚を与えられ続けるのも嫌だ。

 もう気が狂いそうだ。

 いっそのこと、ひと思いに襲って欲しい──。

 光太郎は心の底からそう思ってきた。

 

「も、もう解放して……。SS研には入るって言ったよ……。だから……。あと、目隠しを外して……」

 

「なぜ?」

 

 筆が無防備な光太郎の股間をすっと撫でた。

 女の部分だ。

 鋭い衝撃が光太郎の身体を貫く。足枷を嵌められているので開脚したまま、脚を閉じることができないのだ。

 手で払うことも、股を閉じて刺激から逃げることもできない。

 ただただ、くすぐりを受けるだけだ。

 股間を繰り返し筆でくすぐられて、光太郎は全身を突っ張らせた。

 

「ひああっ、や、やめて──」

 

 天上から二本の鎖で両手を吊り上げられている裸身を激しく揺すって、光太郎は悲痛な声をあげてしまった。

 

「み、見えないと……、とてもつらいんだ……。頼む。もう屈服したから……。だから、これ以上苛めないでくれ……」

 

「ふうん、じゃあ、これはどうしたのかな?

 

 今度は乳首の先をゆっくりと下から上に筆先で跳ねあげるように動かされた。

 しかも、左右を両方同時にだ。

 

「ひあああっ」

 

 光太郎は全身を弓なりにしてのけぞらせた。

 

「乳首が尖っている。辛そうじゃないなあ。むしろ、淫らに感じているだろう?」

 

「……そ、そんなことない……。だ、だけど……痒くて……」

 

「そうか。感じるはずなんだけどねえ。股間はすごいことになっているよ。だったら、犯されたくて堪らなくなるまで、もう少し待つよ。塗ったのは、そういう媚薬なんだ」

 

 真夫君が冷ややかそうな口調で告げ、光太郎から離れている気配がした。

 

「ちょ、ちょっと」

 

 すると、白岡かおりさんの焦ったような声がして、ふたりが抱き合うような気配が伝わってきた。

 もしかして、遊び始めた?

 

「ふああっ」

 

 その直後、突然に白岡さんが甲高い声をあげた。

 なにをしているのだ──。

 だが、焦った。

 本当に放置される。

 しかし、もう痒みで気が狂いそうなのだ。これ以上、放っておかれたら、本当におかしくなる。

 

「やだ──。これ以上は待てない──。もう犯して──。犯してくれ──。心の底から屈服するから──」

 

 光太郎は声をあげていた。

 この痒みが癒えるなら、なにもかも、もうどうなってもいいと思った。

 それほどの痒みなのだ──。

 

「わかった。もう焦らさないよ。ひかりちゃんを俺の女にする」

 

 真夫君が再び正面に戻ってきたのがわかった。

 いきなり、舌先で光太郎の小さな乳房の裾の部分から尖っているらしい乳首の先までを唾液を擦りつけるように舐められた。

 

「ひいっ、あああっ」

 

 見えない視界で受ける責めに、光太郎は裸身を揺すって悲鳴をあげた。

 すぐに、再び舌先が乳首を刺激してくる。

 さらに、真夫君の手が光太郎の股間に伸びて、小さな男根の下側の女の部分も愛撫してきた。

 

「ひああっ、いやあっ、あっ、ああ……」

 

 痒みに襲われている乳首や股間への刺激は堪らなく気持ちいい。

 すると、しばらくしてから、すっとした舌も指も離れる。

 しかし、愛撫が離れていくときの焦燥感が凄まじい。

 もうだめだ……。

 もっと、続けて欲しい……。

 

「や、やめないで……」

 

 ほとんど無意識のうちに光太郎は言っていた。

 

「拘束されている……。目隠しをされている……。なにをするにも相手任せ……。快感を受けるのも、拒否することも自分ではできない……。これが支配される快感だよ……。そして、ひかりちゃんはこれが病みつきになる」

 

 そして、またもや乳首への舌責め。

 

「うあああっ、ああ……」

 

 痺れるような快美な感覚に、光太郎は声を震わせた。

 

「堪らなそうだね……。被虐の快感だ──。この味を覚えてしまったら、ひかりちゃんは、もうほかのセックスじゃあ、物足りなくなる。愛撫だけじゃない。口づけもだよ……。舌を出して……」

 

 真夫君の手が光太郎の顎に触れた。

 軽く上を向かされる。

 光太郎は舌を出した。

 なぜか、この真夫君の声には不思議な力がある。

 金城財閥の次期総帥として育てられている光太郎が、一切の抗う感情を持つことができないのだ。

 支配者としての確信と威厳に満ちた真夫君の言葉に、光太郎はまったくためらわずに舌を出した。

 その舌が柔らかいもので包まれた。

 真夫君の口だ。びりびりと痺れるような不思議な感触……。

 唾液を帯びた真夫君の舌が光太郎の舌に絡みつき、強く弱く吸われる。

 

「ふああ……」

 

 気持ちいい……。

 頭の中にはそれだけしかない。

 口づけがこんなに気持ちいいものだとは夢にも思わなかった。

 身体の力が抜ける……。

 もしも、天井から両手を吊られていなければ、その場に崩れ落ちていたかもしれない。

 

「ふああ……。ああ……。ま、真夫君……」

 

 長い口づけから解放されると、光太郎は喘ぎながら彼の名を呼んでしまっていた。

 

「いい顔だよ……。女の顔だね」

 

 真夫君が笑った気がした。

 

「ぼ、ぼくは……女……? こんな身体なのに……?」

 

「女だよ……。そして、今日からは俺の女──。それを身に染みて教えてあげる」

 

 真夫君が光太郎の足元にしゃがんだ気配を感じた。

 次の瞬間、顔の顔が下から股間に当たり、舌がお尻の下側から女の股間にかけて、舌全体でゆっくりと舐めあがってきた。

 さらに、勃起している男の部分の先端を口で吸われる。

 

「ひいいいっ」

 

 光太郎は絶叫した。

 凄まじい男の性器における射精感も襲ったが、それはいまだに根元に喰い込んでいる金属のリングによって阻まれる。

 射精したくても射精できない狂おしさに身体を震わせてしまう。

 

「まだ痒いよね……」

 

 真夫君の舌が光太郎の女の部分に戻る。舌だけでなく指による愛撫を加わる。

 裸にされ、拘束されて、視界さえ封じられて、感じやすい女の部分に与えられる愛撫に、どんどんと光太郎の快感はせりあがらされる。

 

「ああっ、いくっ、いくうっ」

 

 自慰の経験はあるので、絶頂の感覚は知っている。

 込みあがったものが、それであることは光太郎にはわかった。

 全身を突っ張らせて、思わず声をあげる。

 

「だめだよ。ぎりぎりまで我慢しないと」

 

 だが、まさに絶頂寸前で真夫が光太郎の股間から口を離して言った。

 

「あっ、はいっ」

 

 なにも考えない。

 ただ、命令に従わなければと思った。

 力いっぱいにきつく唇を噛む。

 必死に絶頂感を我慢する。

 だが、再び舌と指による愛撫が再開される。

 

「んあああっ、む、無理です──」

 

 光太郎は必死に歯を噛みしめる。

 腰の芯がじんと痺れて、大きな疼きが熱とともに全身に拡がっていく。

 なによりも、痒みが消えていく快感が凄まじい。

 肌から汗が噴き出て、息が苦しくなる。

 

「まだだ──」

 

 真夫君が強く怒鳴った。

 

「ひんっ」

 

 光太郎は懸命に我慢する。

 そのとき、真夫君の指がいままで一度も刺激を受けなかったお尻の穴に挿入された。

 奥深く挿し込まれて、痒みの強い場所を中で刺激される。

 

「ひああああっ、だめえええ──」

 

 さすがに無理だった。

 身体ががくがくと震え、全身が突っ張る。

 

「まだだ」

 

 しかし、ぎりぎりで刺激が失われてしまった。

 真夫君が舌責めと指による愛撫を急に中断したのである。アナルからも指が抜かれてしまった。

 ふつふつと切ない疼きが光太郎に襲い掛かる。

 しかも、刺激が失われた途端に、再び猛烈な掻痒感が復活する。

 光太郎は泣きそうになった。

 

「ああ、また──」

 

 もどかしさが苦しくて首を激しく左右に振る。

 

「心配ない。もう痒みでひかりちゃんを苦しめるつもりはないよ。ただ、痒みに襲われてる方が破瓜の痛みもましになると思ってね」

 

 真夫君が言った。

 

「どうだか……。あんたが痒みに苦しむ女に意地悪するのが好きなだけでしょう」

 

 ぼそりと、白岡さんが口ずさむのが聞こえた。

 

「そうかもな」

 

 真夫君が笑う。

 そして、今度はすっかりと濡れそぼつ光太郎の女の部分の花芯に指を二本入れてきた。

 そこに、奥深くまで異物を入れるのは初めてだが、痛みよりも痒みが癒える快感が大きい。

 

「ひああっ、ああ、あああっ」

 

 たちまちに襲ってきた快美感に光太郎は顔をのけぞらすようにして声をあげた。

 

「熱い……。絡みつく……。ねっとりと蜜でいっぱいだよ」

 

 真夫君が膣の中を解すように指を回す。

 甘美な快感が背骨を貫き、頭の先から抜けていく。

 さらに刺激は続く。

 

 真夫君はかなり上手だった。

 光太郎がいきそうになると愛撫を緩め、絶頂感が逃げていけば激しくされる。

 送り込まれる刺激に淫らに悶えながら、光太郎は真夫君が口にした「被虐の快感」の意味を改めて思い知った。

 こうやって自由を封じられていては、自分で快感を増幅することも、逃がすこともできない。

 ただ、与えられるものに翻弄されるのみである。

 

 一切を受け入れるだけ……。

 絶頂させるも、耐えさせるも、全てが真夫君の意思のままだ。

 光太郎は、ただただ哀願と嬌声を繰り返して、真夫君になぶられ悶え狂うことしかできない。

 

「いくうう──」

 

 真夫君の指が膣の部分の入口の上側を執拗に刺激してきて、一気に快感がせりあがった。

 今度は真夫君は刺激をやめなかった。

 それどころか、なにをどうしたのかはわからないが、ずっと男根の部分の根元に嵌められていた金属の環が外れたのがわかった。

 絶頂感とともに、止められていた射精感が堰を切ったように噴出する。

 

「んはあああっ」

 

 光太郎の小さな男根の先からまとまったものが噴き出るのがわかった。それとともに、女の部分でも灼けるような快感が暴発して、背筋を駆け抜けて全身に一気に広がる。

 光太郎は喉を前に突き出すようにして、びくびくと愉悦の痙攣をした。

 

「なかなかのいきっぷりかな」

 

 真夫君が笑っている。

 そして、衣擦れの音がして、彼が服を脱いでいるのがわかった。

 

「ほんと……。ふたなりっていうんでしょう? そんな風になるのね……。こいつの射精みたいだったわ……」

 

 白岡さんの声だ。

 はあはあと息を乱しながら、ふたりの前で醜態を晒したことに、改めて羞恥が込みあがる。

 

「勝手にいっちゃだめだと言ったのに、結局達したね。次は我慢するんだよ」

 

 すると、再び指が二本、女の性器に挿入された。

 指先でさっき最後に愛撫された膣の上側をコリコリと刺激される。

 一気に甘美感が膨れあがる。

 

「あひっ、ま、またなの──?」

 

「当然だろう。ひかりちゃんは、今日から、俺の前では女になるんだ。しかも、俺の女にね。俺の女になった限り、一度で許されるなんて考えないことだね」

 

 真夫君の指が男の部分の先端を刺激しながら、女の部分の内側への刺激を続ける。

 自由を奪われている身体は容赦なく加えられる刺激から逃げることはできなかった。

 腰の芯が痺れ、溶けていくような快感の大波に、またしても光太郎は抵抗することができずに、一気に絶頂に押しあげられる。

 そして、またしても、びりびりとした不思議な感触──。

 だめ、我慢なんか不可能……。

 

「あひいっ──。また、いぐううう──」

 

 光太郎はまたしても絶頂をしまった。

 そして、昇天と同時に、またしても男の部分から、精液に似たものが迸るのがわかった。

 

「わっ、それって、でも精液なの?」

 

 白岡さんの声だ。

 すぐそばから聞こえるので、ずっと見られているということだろう。

 

「精液ではなくて、女の蜜がどこかで繋がって噴き出ている感じかな。いわゆる潮吹きってやつさ」

 

「潮吹き?」

 

 白岡さんは怪訝そうな声を出した。

 しかし、思念はそこまでだ。

 

「もう一度だ」

 

 真夫君が再び股間に愛撫を加えてきたのだ。

 絶頂の余韻も覚めないうちに、股間を刺激してくる。

 

「ああっ、も、もうだめっ……。む、無理──。無理だよ──」

 

 光太郎は声を震わせて哀願した。

 だが、すぐに激しい愛撫によって、淫らな声に変えられてしまう。

 しかも、今度はいままでの中で一番激しい。

 だが、その激しさが溜まらない。

 またしても、絶頂に向かって無理矢理に押しあげられてしまう。

 

「あああっ、駄目だよお──。我慢できない──。また、いくよお──」

 

 抗えない大波がまたやってきた。

 

「堪え性がないねえ……。我慢しろって、命令したはずだけどね。君はもう俺の女だ。勝手に達する自由もないんだ」

 

 真夫君はちょっと面白がっている声だ。

 

「そ、そんなこと言ったって……」

 

 光太郎は懸命に絶頂を耐えようとする。

 しかし、その官能に異変が襲った。

 突然に強い尿意が込みあがったのだ。

 

 どうして……?

 

 狼狽した。

 だが、込みあがる尿意を押さえようとしても、快感に襲われている光太郎には、痺れる腰に力を入れることができない。

 

「ま、待って、待って──。お、おしっこが……」

 

 光太郎は焦って言った。

 

「おしっこ? 面白いね。じゃあ、一度出してみてよ。俺の前でね」

 

 真夫君は責め手を緩めない。

 それどころか、むしろ愉しそうに愛撫に激しさを加えてくる。

 

「……ほんと、鬼畜……」

 

 白岡さんがぼそりと呟くのが聞こえた。

 

「ああ、だめえっ、むりいいい──。お願いだよ──。あああっ」

 

 だが、光太郎はそれどころではない。

 無情にも加速する真夫君の指によって、大きな快美感が襲い掛かったのだ。

 

「ひいいっ、あっふうう──」

 

 絶頂感とともに、おしっこが股間から噴きこぼれた。

 

「あああ……」

 

 じょろじょろと放尿が股間のあいだから迸り続ける。

 一度出たおしっこは自分でもどうすることできずに、終わるのを待つしかない。

 情けなさに泣きたくなる。

 

「へえ……。そこから出るんだ。意外……」

 

 光太郎には、男の性器側ではなく、女性器の上に光太郎の尿道口がある。

 そこから床に向かってじょりじょろとおしっこが流れ続けている。一度始まった放尿は自分でもどうにもならない。

 終わるのを待つしかない。

 気が遠くなるような羞恥だ。

 だが、同時に陶酔するような快感も光太郎は味わっていた。

 これもまた、被虐の快感というものなのだろうか……?

 

 すると、いまだに放尿が続く光太郎の両腕を吊っている鎖が緩んだ。

 真夫君が背中を押して、上体を横にして後ろに向かって腰を突き出すような恰好にさせられた。

 そして、その真夫君が光太郎の後ろにまわる。

 やっと、放尿が終わった。

 気が遠くなるような羞恥の時間だった。

 

「随分と派手にやったね。まあ、大丈夫さ。かおりちゃんが後で掃除するから」

 

「わかっているわよ──」

 

 すると、白岡さんが不貞腐れるように怒鳴った。

 

「あっ、いや、ぼくが……」

 

 そんな恥ずかしいことを他人にはさせられない。

 光太郎は自分が掃除をすると拒絶しようとした。

 だが、一瞬にして思考が消し飛ぶ。

 しかし、後ろに突き出しているお尻の下から、真夫君の性器だと思うものが挿し込まれてきたのだ。

 

「あっ」

 

 光太郎は声をあげた。

 

「ひかりちゃんを俺の女にする……。SS研にようこそ……」

 

 真夫君がちょっとお道化たような言葉とともに、膣の中にゆくっりと怒張を挿入してくる。

 ずぶずぶと光太郎の女の部分の中に、固くて大きなものが没していくのを感じる。

 

「あ、あああっ」

 

 光太郎は艶めいた声を出して喘いだ。

 もう幾度も絶頂したうえに、もともと媚薬でどろどろに蕩かせられていたこともあり、痛みよりも遥かに快感が上回った。

 いや、むしろ、気持ちいい──。

 

「ああ、あああっ」

 

 光太郎は声をあげた。

 一気に深くまで貫かれた。

 中を引き裂かれるような激痛が走ったが、一瞬のことだ。

 激痛の後には、もう快感しかない。

 

「あひいっ、ま、真夫君──。ぼ、ぼくは君の女になるよ──」

 

「ああ、君を俺の女にする……」

 

 真夫君が律動を始めた。

 だが、律動の回数はそんなに多くはなかった。

 かすかに唸った真夫君が光太郎の中で精を解き放つ。

 

「あうううっ」

 

 巨大なびりびり感が光太郎を襲う。

 気がつくと、光太郎はまたしても絶頂していた。

 その光太郎の女の中に真夫君の精を注がれながら、改めて女になったということを感じだ。

 絶頂の波に二度三度と襲われる。

 そして、呻き声とともに脱力する。

 

 とにかく、終わった……。

 

 身体がばらばらになるような脱量感とともに思ったのはそれだけだ。

 股間から真夫君の性器が抜かれる。

 すると、目隠しが外された。

 足枷もだ。

 

「手首の枷を外したら、両手は背中に回すんだ。今度は寝台に行くよ。かおりちゃんも一緒にね」

 

 すると、真夫君が事も無げに言った。

 光太郎は耳を疑った。

 

「あ、あんた、まだするの──?」

 

 白岡さんが声をあげた。

 彼女はすぐそばで体育座りで腰をおろしていた。その股間には、相変わらずの革の細い貞操帯が喰い込んでいる。

 

「当然だよ。それに、ひかりちゃんも、たったこれだけで満足なんかするものか」

 

「い、いや──。も、もう十分だよ──。これ以上は死んでしまう──。お、お願いだから──」

 

 手首の革枷から天井の鎖が外されて、さすがにこれ以上は無理なので、光太郎は逃げようとした。

 だが、何度も絶頂させられている光太郎には、ほとんど力が入らない。あっという間に両腕を背中に回させられて、がちゃりと反対側の手首を嵌め直されてしまった。

 

「お愉しみはこれからだよ、今度はかおりちゃんも一緒だ」

 

「うう……。でも、金城家の次期総帥とセックスするのは興味あるかもね。ちょっと、愉しみかも……」

 

 すると、白岡さんがくすくすと笑った。

 光太郎の受難は、まだまだ続くようだ。

 

 被虐の快感も……。



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第15章 蠢動(しゅんどう)【ひかり】
 第88話  新部員の洗礼予行


「こ、怖いよ、真夫君……。こんなの……」

 

 光太郎は、文化部棟から外に出て、学園内の売店エリアに向かう通りを歩いていた。

 すでに陽は落ちて、すでに夕暮れから夜になっているが、学園内の通りは照明塔が充実しているので暗くはない。

 ショッピングモールに入っている店が閉じる時間までにはまだ十分に時間があるし、二十四時間営業の売店もあるから、まだ営業もしているということで、光太郎は真夫とかおりに連れられて、その校内のショッピングモール内にある喫茶店で食事をしようということになった。

 S級生徒ということで、光太郎も真夫も、また、従者生徒のかおりも、通常は学園内の食堂で食べるのだが、週末については、寮を出て実家に一時帰宅する生徒が多いため、金曜日の夕食分から日曜日にかけては通常の食堂が閉鎖されているのである。

 

 従って、週末を学園内で過ごす生徒は、ショッピングモールに複数入っているレストランか喫茶店で食事をとることになるのだが、光太郎たちもそこに向かっているというわけだ。

 光太郎も、祖父から命じられない限り、実家には戻らないので、週末になれば、そこで食事をとることも多いが、今日はかつて味わったこともないような緊張感に包まれていた。

 

 SS研で真夫君たちの罠にかかり、徹底的に弄ばれ、早々に屈服した光太郎だったが、最後には散々に真夫に犯され、「女」としての悦びを繰り返し味わわされたことで、いまや、真夫に抗うという感情はすっかりと消滅してしまっていた。

 もう、どうにでもしてくれという気分だ。

 

 なによりも、なんだかんだで、真夫から受けた「プレイ」は大きな充実感があった。

 自分の身体が他人とは異なることから、光太郎はずっとそのことに劣等感を抱いていたが、真夫から受けたあの嗜虐的な性愛は、その心の苦悶をなぜか完全に吹っ切らせてくれた気がする。

 

 男であるか、女であるかなど関係ない──。

 光太郎は光太郎だ。

 

 そして、真夫の愛人になったという意味では、「女」だろう。

 女になることにした。

 

 もうそれでいい……。

 

 光太郎は、真夫に犯され、幾度も女としての絶頂を繰り返して、自分がもう、この真夫なしでは、生きてはいけなくなっているようだということを感じてしまっている。

 その証として装着されたのが、首と両手首についている金属製の銀色の細いチョーカーとブレスレッドだ。

 これは、外れないようになっているそうであり、ずっと着けたままでいるようにと言われた。真夫の「女」のひとりになった印だそうだ。

 光太郎は、それを受け入れた。

 

 それはともかく、いま、夜の学園内の通りを歩いている光太郎の緊張は、真夫たちに強要された「女装」の格好によるものだった。

 男子生徒ということになっている光太郎は、学園内ではもちろん、屋敷内の自室であっても、女の子の格好はしたことはない。

 金城家の宗家の嫡男として役所には届けられており、光太郎はあくまでも「男」なのだ。

 十一歳になって初潮になることで、実は女の身体が混合していることを知るまでは、自分が男であることを疑ったことはなかったし、女の子のように振る舞おうなど夢にも思わなかった。

 しかし、初潮を迎えて、だんだんと身体付きが女性っぽくなるにつれて、光太郎の心も、女性の方に傾いてきた。

 可愛い格好をしてみたいと思ったし、スカートだってはいてみたかった。

 異性は女性ではなく、男性に惹かれたし、性欲を抱いたときには、女として自慰をした。

 

 だが、男としての跡取りを強要している現当主の祖父からが、光太郎の心も身体もだんだんと「女」に傾きかけていることを知れば、烈火のごとく激怒し、その事実をなかったことにするのは間違いない。

 金城家として、光太郎が「男」であることは、絶対に必要なことであり、祖父にとっては、光太郎が「女」であることは、到底許すことのできないことなのだ。

 だから、女の格好をすることは、一度でいいからやってみたかった夢ではあったが、実際にそうすることは諦めていた。

 しかし、真夫は、SS研の部室を出る前に、その光太郎に女の服装をすることを求めたのだ。

 

 与えられたものは、可愛らしい私服とはいかなかったものの、学園の支給する女生徒用の制服だ。

 かおりと同じ従者生徒用の灰色のC級生徒用の制服だったが、生まれて初めてのミニスカートに、光太郎はちょっと興奮してしまった。

 また、女性でいえば、ベリーショートで耳の出ている髪型の光太郎のために準備してあったのは、胸の後ろまで髪が届くセミロングのウィッグだ。

 かおりが軽い化粧も施してくれ、これが自分だろうかと、鏡を見て唖然となるほどに、可愛らしい女生徒の姿に変身した。

 光太郎は有頂天になったほどだ。

 

 しかし、真夫は、それだけで終わらせてはくれなかった。

 真夫は、光太郎が女の下着を身に着ける前に、黒い革の下着を身につけさせたのだ。

 しかも、ラバー部分の内側には、二本のディルドがにょっきりと生えていた。

 それにローションを塗って、股間とお尻に挿入して装着されたのである。

 さらに、それだけではなく、光太郎にある小さなペニスに似た器官についても、革袋のようなものを被されて、革の下着の内側に密着させられてしまった。強引に勃起させられ、根元にあの金属の環を嵌められて、勃起状態の強制保持の処置をされてからだ。

 また、丁度のそのペニスの突起が当たる下着の内側にはくぼみがあり、ぴったりの大きさで嵌るようにもなっていた。

 最後にベルトを腰の位置でフックさせると、かちゃりと音がして金具が内側で施錠したのがわかった。

 真夫によれば、真夫の持っている操作具で信号を送らない限り、これを外すことはできないそうだ。

 そして、その上に白い下着をはいて、光太郎は真夫とかおりととも、ショッピングモールに向かって歩くことになったということだ。

 

 学園内は、無料のシャトルバスが巡回移動しているので、こうやって徒歩で移動する者は少ない。

 光太郎たち三人のほかには、こうやって通りを歩いている者はまだ見かけてないものの、そんな淫具を挿入して学園内とはいえ外に出るなど、光太郎は緊張で死んでしまいそうになっている。

 

「怖いだけ、ひかりちゃん?」

 

 光太郎に左腕を貸している真夫がくすくすと笑う。

 真夫は、光太郎のことを“ひかりちゃん”と呼ぶ。それも受け入れた。

 そして、通りを進む光太郎は、両手で真夫の左腕に掴まるようにして歩いていた。

 掴むものがなければ、とてもじゃないが、股間とアナルの異物感が気になって、身体を真っ直ぐにすることさえできそうになったのだ。

 

「……あ、熱い……。な、なんか疼くというか……。あのディルドに塗ったローションって、ただのオイルかい?」

 

 ディルドが挿入してある股間とお尻が異常なほどに熱く疼いている。すでに、股間からはおびただしいほどの蜜が流れ出ていて、びっしりと喰い込んでいる革帯の隙間から内腿に伝い出ているほどだ。

 多分、あれは、ただのローションではないと思った。

 

「大丈夫だよ。最初に塗った痒みをもたらすような効果はないから。ただ、ひかりちゃんの性器をとても敏感にして疼かせるだけだよ。ペニス袋の内側にも塗ってあるよ。だから、勃起が収まらないでしょう?」

 

「や、やっぱり……。ひ、酷いよ……」

 

「そういう酷いことをするのが調教だよ。ところで、もう少し速く歩こうか。こんなにゆっくりと歩ていたら、喫茶店も閉まってしまいそうだ」

 

「ぼ、ぼくが速く歩けないのは知っているくせに……」

 

 光太郎は真夫の腕に掴まったまま、顔をあげて真夫を睨んだ。

 

「ははは、それを無理矢理に歩かせるのが、調教というものだよ」

 

 すると、いきなり真夫が倍くらいの速度で歩き出した。

 真夫の腕に掴まっている光太郎は、当然に一緒に進むことになる。

 

「あっ、いやっ、やめてよ──。あ、ああっ」

 

 ディルドが光太郎の股間とアナルの中で上下左右に激しく揺れる。

 光太郎は悲鳴をあげてしまった。

 そして、ついに耐えきれずに、手を離してその場にしゃがみ込んでしまう。

 

「ふふふ、自分がやられるのは嫌だけど、こうやって他の女が真夫に苛められるのを眺めるのは新鮮でいいわね。いっつも、わたしだけ一緒に苛められるんだもの」

 

 後ろから声を掛けてきたのは、真夫の従者生徒のかおりだ。

 いまの光太郎と同様の灰色ベースのC級生徒用の女生徒の制服を身に着けている。

 

「これくらいの刺激に参ってたら、店の中ではもたないよ、ひかりちゃん。こういうものもあるからね」

 

 その瞬間、ペニスを包んでいる革袋が突然に蠕動運動を開始した。

 いかも、かなり激しい。

 

「ひんっ」

 

 なにが起きたのか理解もできずに、光太郎はしゃがみ込んだまま股間をスカートの上から両手で押えた。

 

「こんなのもある」

 

 さらに、股間を貫いているディルドが振動を開始した。

 

「な、なんだよ、これ──。ひあああっ」

 

 まさかリモコンで動くなど想像もしなかった。

 光太郎は、がくがくと膝を揺らしながら、しゃがんだまま顔をのけぞらせた。

 初めて味わう刺激だったが、その衝撃はすごかった。

 ディルドの振動が鋭い快感になって、脳天に向かって突き抜ける。

 

「と、とめて──。とめてよ──。お願いだから──」

 

 光太郎は声をあげた。

 

「でも、ひかりちゃんは、これを装着したまま、しばらくは授業にも出るんだから、少しでも慣れないと」

 

「じゅ、授業? 冗談じゃないよ──」

 

 光太郎は耳を疑った。

 

「あれ、じゃあ、月曜日まで外してあげないよ。絹香も、かおりちゃんも全員がその洗礼を受けているんだから、ひかりちゃんだけ例外はないよ。わかったね?」

 

 さらに振動が強くなる。

 

「ひあああっ、わ、わかったああ──。わかったからああ──」

 

 光太郎は両脚を擦り合わせながら叫んだ。

 やっとペニス袋と二本のディルドの振動が停止した。

 

「じゃあ、行こうか」

 

 真夫が笑いながら、光太郎の腕を掴んで強引に立たせる。

 そして、恋人同士のように、腰に腕を回して歩くことを促す。

 

「こ、この鬼畜──」

 

 光太郎は言った。

 

「ありがとう。誉め言葉だと思っておくよ」

 

「鬼畜のどこか、誉め言葉なのよ──」

 

 すると、後ろを着いてくるかおりが呆れた声をあげた。

 

 


 

 

 ショッピングモールに近づくと、生徒の人影も多くなる。

 この一帯は、店や食事場所だけではなく、小さなボーリング場やゲームセンターなどの遊戯施設やカラオケなどもあるのだ。

 それを目的に生徒が集まっているのである。

 学園内でいる限り、代金を直接支払うことはなく、すべて特別な支払装置による指紋認証システムで支払いをする。

 そして、後日、代金が保護者に請求されるというシステムだ。

 

 それはともかく、やっとここまで辿り着いたときには、光太郎もすっかりと真夫の悪戯にたじたじになってしまっていた。

 なんだかんだで、真夫は「慣れる」ためという理由で、幾度もディルドやペニス袋を振動させてきたし、そうでなくても、二本のディルドが前後の穴を深々と貫いていることには変わりなく、それは光太郎に淫らな刺激を送り続けているのだ。

 

「も、もう十分に慣れたから……、そろそろ悪戯は許してくれないか……」

 

 光太郎はささやくような声で真夫に哀願した。

 すでに、モールエリアに集まっている生徒たちと、頻繁にすれ違うようになっている。

 光太郎の緊張感は、否応なしに増幅されている。

 

「そうかなあ。だけど、もう少し訓練した方がいいと思うよ。授業中に変な声を出してしまって恥ずかしい思いをするのは、ひかりちゃんだしね」

 

 真夫が微笑む。

 優しそうで柔和な笑みなのに、喋っていることは鬼畜そのものだ。

 光太郎は自分の顔が引きつるのがわかった。

 

「それにしても、あんたも容赦ないはねえ。金城家の御曹司よ。だけど、関係なく羞恥調教?」

 

 かおりだ。

 

「当然だよ。この洗礼は、あさひ姉ちゃんも、玲子さんも、絹香もかおりちゃんも例外なく受けたんだ。早速、週明けには、ひかりちゃんも、このSS研の新規部員としての洗礼を受けてもらう。まあ、予定では週明けまでに、もうひとり増える予定だけどね」

 

 すると、真夫が立ちどまって、後ろのかおりに向かって振り返った。

 丁度、ショッピングモールの入り口前であり、光太郎たちはその前に立ち止まる感じになった。

 周りには、ベンチやテーブルなどもあり、それなりに生徒でいっぱいになっている。

 

「もうひとり? 誰のこと?」

 

 かおりが首を傾げた。

 

「絹香たち三人が仕込みをしている。多分、日曜日の夕方までには決着がつくと思うから、そのときに受け取りに行くよ」

 

「受け取りって……。それで、次のターゲットは誰なのよ? この金じょ……いえ、ひかりと一緒に、やたらにSS研の展示絵を見に来ていたあの子?」

 

「いや、そっちは、玲子さんの調査でちょっと複雑な事情を抱えていることがわかって保留中かな。でも、それも二週間のうちには……。いま、絹香たちが動いているのは、SS研の幽霊部員の方」

 

「ああ、あの突然に怒鳴ってきたあいつね……。ふふ、それは愉しみだわ。そいつを最初に落とすときには絶対に参加させてよね。あんたのこと孤児だって馬鹿にしたんだもの。絶対に謝らせたいわ」

 

「孤児だって馬鹿にしてたのは、かおりちゃんも同じじゃなかったか?」

 

 真夫が苦笑するような表情になる。

 

「だから、存分にわたしのこと苛めていいのよ……。その代わりに、一生、妾として面倒見てくれればね」

 

「奴婢としてだろ。一生なのは変わりないけど」

 

 真夫が笑った。

 ふたりの会話の意味はほとんど理解できなかったが、光太郎はいまの二人の話でちょっと気になったことがあったので訊ねることにした。

 

「妾って……。妾扱いなのかい? 白岡家の令嬢が?」

 

 従者生徒になったとはいえ、このかおりはれっきとした白岡家の令嬢だ。しかも、兄のない長女だったはずだ。

 金城家ほどの名家ではないが、それなりの家であり、やがては婿どりをして、白岡家を支えないとならないのではないかと思ったのだ。

 

「残念ながら、すでにわたしの親は豊藤にわたしを売り渡したわ。もう、こいつに飼ってもらわないと、生きていけない立場なのよ。まあ、それで十分勝ち組だと思っているけど」

 

「えっ、売り渡した?」

 

 光太郎はびっくりした。

 また、豊藤というのは、あの幻の巨大財閥の豊藤グループだ。いまだに、この真夫がその後継者候補というのは信じられないが、多分、本当なのだろう。

 それを確信するような不思議な魅力と威圧のようなものも、この真夫にはあるし……。

 

「そんなことはないよ。ただ、ちょっと玲子さんが説得しただけだ。そのうちに、折り合いはつけてやるから」

 

 真夫だ。

 

「へえ、折り合いってなによ。もしかして、正妻にでもしてくれる? もちろんかたちだけでいいわ。多分、恵も、正妻の地位にはこだわらないと思うし……。ああ、でもこいつが正妻でもいいかもね。金城家の跡継ぎだし」

 

 かおりが光太郎の顔の見てきた。

 

「せ、正妻──?」

 

 光太郎はどきりとした。

 

「うーん、でも、確か戸籍上は嫡男で届けてあるんじゃないのかなあ?」

 

「そんなのは、あの玲子はなんでもするわよ。あいつだったら、白いものでも黒にしてしまうわ。あんたの命令なら」

 

「確かにね」

 

 真夫は冗談っぽく笑った。

 しかし、光太郎はたとえ冗談だとしても、この真夫の正妻と言われて、顔が熱くなる感じになってしまった。

 それにしても、さっきから名前が出ている玲子というのは、やっぱり理事長代理として最近やって来た工藤玲子のことだろう。

 

 理事長代理、工藤玲子──。

 生徒会長にして、西園寺家の西園寺絹香──。

 そして、資産家である白岡家の令嬢の目の前の白岡かおり──。

 

 この真夫のところに集まっている女たちは、考えてみればなかなかのメンバーだ。

 光太郎は、少し前から真夫の周りにいる複数の女性たちとの濃厚な関係には気がついているが、ほかにもいる。

 侍女として一緒に学園にやって来た朝比奈恵という女子大生もかなりの美女である。

 

「ところで、ひかり、あんた、立ち方に気をつけなさい。いまは女の格好してるんだから、立つときに股を開いているとみっともないわよ、そもそも、股から太腿まで蜜が垂れているのが見えてるし……」

 

 そのとき、かおりが光太郎の耳元に口を近づけてささやいてきた。

 はっとして、足元を見る。

 ずっと男として振る舞っているので、仕草も男っぽくなっていたらしい。

 慌てて脚をぴったりと揃える。

 

「ふふふ、まあ、これから色々と教えてあげるわね。同じ男の愛人になったよしみでね。お化粧の仕方とかも……」

 

 かおりが笑った。

 

「あ、ありがとう……」

 

 光太郎は頭をさげた。

 そして、ふと見ると、真夫がにこにこと微笑んでいた。

 でも、嬉しい……。

 これからも、こうやって女の子の格好をすることができるのだろうか……。いや、きっとさせてくれるのだろう。

 そう思うとわくわくする。

 光太郎はちょっと得体の知れない恥ずかしさを感じて、顔を俯むかせてしまった。

 

 そのときだった。

 

「おい、坂本──」

 

 男子生徒の声がした。

 声の方向に視線をやると、男女七人ほどの取り巻き生徒を連れた加賀豊だ──。

 光太郎や真夫と同じS級生徒で、寮部屋も隣室の男子生徒である。

 金城家の嫡男の光太郎とは、学園の双璧と称されている立場でもあった。

 

 光太郎は、慌てて、もう一度顔を俯かせ直した。



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 第89話  サロンへの招待

「おう、坂本──」

 

 突然に声を掛けてきたのは、あの加賀豊だ。

 しかも、通り一本隔てて向こう側だが、どうやらこっちにやって来る気配だ。

 光太郎は慌てて顔を俯かせる。

 同じS級生徒として、何度も顔を合わせているし、光太郎はこの加賀とともに、学園の双璧と呼ばれている立場である。

 この状況で身バレするのはまずいと思った。

 しかも、いつものように、この加賀はぞろぞろと取り巻きを七人ほど連れている。光太郎は自分の身体つきや声がほとんど女性に近いことを自覚しているから、できるだけほかの生徒と必要以上に接しないようにしているが、彼は逆に大勢いつも一緒にいるのが常だ。

 

「ま、まずい……。真夫君、さすがに顔でばれるよ」

 

 光太郎は俯いたまま、真夫にささやいた。

 加賀が気づけば、当然に取り巻き伝わる。

 そうなれば、週明けには、あっという間に光太郎が「女装」をしていたという醜聞は、学園中に広まるだろう。

 光太郎個人はともかく、金城家全体に迷惑がかかる。

 まあ、本当は女装ではなく、光太郎としてはこっちが素に近いのだが、どっちにしても大変な騒ぎになるのは間違いない。

 すると、真夫が光太郎の腰に手を回して、ぐっと引き寄せる。

 

「あっ」

 

 しかも、光太郎の耳元に口を近づけてきた。

 顔が密着してしまい、かっと顔が熱くなる。

 もっと奥手で大人しいのかと思っていたが、まるで正反対だ。圧倒されてしまう。

 強姦同然……いや、強姦そのものだったとはいえ、なんだかんだで、光太郎を女にしてくれた男なのだ。

 どうしても、男性として意識してしまう。

 とにかく、いまの表情を見られたくなくて、さらに顔を伏せる。

 

「……心配ないよ。怖がらなくていい……。それよりも、自分が女であることを片時も忘れられないようにしてあげるね」

 

「えっ?」

 

 嫌な予感がして顔をあげると、なにかを企んだような微笑みを浮かべている真夫がそっとズボンのポケットに手を入れたのが横目にちらりと見えた。

 

「ひあっ、あっ」

 

 光太郎の身体がびくりと震え、悲鳴が吹きこぼれそうになった。

 歩きながら悪戯をされたときほど激しい振動ではなかったが、前側のディルドとペニスを包んでいる革袋を動かされたのである。

 しかも、ペニスについては、これまでのようにただ振動されたのではなく、根元から先端にかけて押しあげる波のような動きをされた。

 これだけ感じてしまうのは、単に振動だけのことじゃなく、ディルドに塗られた媚薬入りの怪しげなローションのせいもあるのだろう。

 

「ああっ、だ、だめだ……。とめて」

 

 腰の力が抜けるような快感に、光太郎は制服のスカートの上から手を押さえて、その場にしゃがみ込みかけた。

 しかし、光太郎の腕ががっしりと掴まれて、強引に真っ直ぐに立たされる。

 

「……いまは我慢しなさい」

 

 鋭く叱咤の声を掛けたのはかおりだった。

 腕を掴んだのも彼女だ。

 一方で、真夫は光太郎とかおりの前に立つ位置に移動していた。

 

「こんばんわ、加賀君。君たちも食事?」

 

 加賀がすぐ前にやってきて、真夫がその加賀に声を掛けた。

 

「ああ、終わったところだ。お前らは?」

 

「これからかな……」

 

 ふたりは、それぞれ連れている者を背にして、向かい合って立ち話をする態勢だ。

 だが、加賀とのあいだには真夫が立っているものの、これだけの近距離だ。さすがにばれるかと思って、懸命に顔を伏せ続ける。

 それにしても、本当に真夫は意地悪だ。

 ここで、股間に悪戯をするなど……。

 

「んふっ」

 

 そして、光太郎は噴き出しそうになった悲鳴に、慌てて口を押さえた。

 よりにもよって、真夫がさらに新しい振動を加えてきたのだ。

 今度はお尻に埋まっているディルドだ。

 それがゆっくりと蠕動運動を開始する。

 かおりが握っていくれている腕に力が入る。

 光太郎がまたしても腰を崩しかけたからだろう。

 

「新しい従者生徒か? 見かけない顔だ。それと、白岡──。お前もすっかりとC級が様になってきたな」

 

 加賀が真夫の身体越しに光太郎たちを覗き込むような動きをしたのがわかった。

 はっとしたが、真夫がすっと動いて、それを阻止する。

 

「おっ、お前……」

 

 加賀が不機嫌そうな声をあげたのが聞こえた。

 同時に加賀の取り巻きたちもざわりとなる。

 この加賀はプライドの高い男だ。しかも、かなり面倒な部類だ。友達ひとり作らない光太郎とは異なり、彼に協力するものも多い。

 生徒どころか、多くの教員も彼を特別視している。

 加賀にそんな態度をとる者などいないから、ちょっとむっとしたようだ。

 そのとき、股間の中の淫具の振動が一斉に停止した。

 ほっとして、それでまた、力が抜けそうになる。

 

「……しっかり……」

 

 光太郎の腕を持っているかおりが耳元でささやく。

 

「俺の侍女だからね。用事があるときには、俺を通してね。それがルールだと聞いたよ」

 

 真夫だ。

 

「お前、加賀さんに向かって……」

 

「そもそも、ポケットから手を出せよ」

 

 声をあげたのは、加賀の取り巻きだ。

 だが、加賀が手をすっとあげて、彼らを黙らせた。

 

「最初に挨拶してきたときには、借りてきた猫みたいに大人しかったのに、随分と態度が大きくなったな」

 

 加賀が言った。

 光太郎はそろそろと顔をあげた。加賀の表情は笑っているが、かなりむっとしているようだ。ちょっとまずいかなと感じた。

 

「猫に見えても、虎だったってことじゃないの」

 

 喋ったのは、光太郎の腕を持って支えてくれているかおりだ。

 光太郎はちょっと驚いた。

 ここで、彼女が口を挟むとは思わなかったのだ。

 

「虎? こいつがか? おっと、直接に会話をしちゃいけないんだっけな」

 

 加賀だ。

 笑っているが、やっぱり、かなり苛ついている。

 光太郎は確信した。

 面倒になる前に、離れさせないと……。

 

「虎じゃなければ、龍かもね」

 

 しかし、さらにかおりがあおるような物言いをした。

 光太郎は、加賀が反応をする前に口を開いて、あいだに入る。

 

「真夫く……、いや、真夫様、そろそろ、行きませんか……」

 

 いまは従者生徒の設定だ。それらしい言葉使いをする。

 まあ、そんな話し合いはしてないが、光太郎が身につけているのが従者生徒のC級生徒の制服なので、そう思わせるのがいいだろう。

 

「ああ、そうだね……。じゃあ、加賀君」

 

 真夫が加賀に向かって手をあげて、こっちに振り返る。

 光太郎はほっとした。

 

「待て、坂本──。話がある」

 

 しかし、加賀が引き留めた。

 

「なに?」

 

 真夫がもう一度、加賀に身体を向け直す。

 

「だから、話があるから声をかけた。最近、お前の話をよく耳にするぞ」

 

「俺の話?」

 

 表情は見えないが、いつものように惚けた表情をしているのかもしれないな。光太郎はちょっとおかしくなった。

 

「女にもてる。俺のサロンに集まる女たちも、最近はお前の話がよく出る」

 

「へえ……」

 

「それに、実際、お前の周りには美人が多い。四菩薩の一角の西園寺が、最近、お前の部屋をよく出入りしているのは知っているぜ」

 

 加賀が意味ありげに微笑んだ。

 四菩薩というのは、学園の美人番付のようなものであり、生徒で勝手に作っているだけだが、現在の四菩薩は、三年生で生徒会長の「西園寺絹香」、同じく三年生で女子サッカー部の主将の「前田明日香」、学生でありながらモデルとして活躍している二年生の「加賀まり江」、そして、体育教師の「伊達京子」だ。

 加賀が言う、一角というのは。西園寺絹香のことだろう。

 光太郎も、最近の西園寺が妙に真夫と距離が近いのには気がついている。

 

「まあ、仲良くしているよ。同じSS研だしね」

 

「まさか、男女の関係というわけじゃねえよなあ? あの堅物女がよりにもよって、お前程度に堕とされたというなら面白い話だが、それはないんだろう。これは忠告だが、仲良くなったしても、憧れる程度にしておけ。あれは資産家で旧華族の西園寺家のひとり娘だ。お前の素性で手を出したりすれば大変なことになるぜ」

 

「忠告はどうも」

 

 真夫は素っ気ない。

 だが、光太郎は加賀の言葉に逆に首を傾げた。

 加賀は、西園寺絹香と真夫が男女の関係になるはずがないという前提で会話をしているが、光太郎の勘では、西園寺絹香と真夫は男女の関係だと思う。しかも、西園寺の方が真夫にのめり込んでいると思う。

 ただの勘だが、その勘が外れているとは思っていない。

 

「それだけじゃなく、そっちの白岡も、なんだかんだで、新四菩薩の候補にあがるくらいの美人だしな。まあ外見だけだが……。俺に言わせりゃあ、A級のときには見向きもされなかったのに、C級に落ちてからの方が人気が出るというのは不思議だけどな」

 

 加賀が声をあげて笑う。

 新四菩薩──。

 これは、工藤玲子という新しい理事長代理が学園を頻繁に出入りするようになったことを切っ掛けに、広まっているものらしく、「四菩薩」に新たに「美人番付」を追加しようという動きらしい。

 新四菩薩はまだ決まっていないが、候補者は、さっきの工藤玲子を始め、様々な女生徒や女性教師の名があがっているそうだ。

 そういえば、その候補の中には、竜崎事件で有名になった真夫の恋人の朝比奈恵もいたはずだ。

 また、加賀が口にしたように、横の白岡かおりも新四菩薩候補だそうだ。彼女が真夫の従者生徒になってから、光太郎の目にもぐっと色香が増したと思う。

 「四菩薩」とは異なり、「新四菩薩」は家柄などではなく、純粋な美人番付の傾向があり、それで従者でありながら、白岡かおりや、真夫の恋人が入ってきたりするみたいだ。

 

「放っておいてよ」

 

 かおりが文句を言った。

 加賀が嘲笑するように、さらに声をあげて笑う。

 

「そういえば、そっちの従者生徒も、そこそこの美人だなあ。顔は見たことがある気がするが、お前がそれを連れているのは初めて見る。新四菩薩の候補には間違いなくあがるだろうな。誰だ──?」

 

 ぎくりとした。

 絶対にばれる──。

 光太郎は、背中にどっと冷たいものを感じた。

 

「彼女は、ひかりちゃんだ」

 

 真夫が事も無げに言った。

 

「ひかりちゃんだと?」

 

小椋(おぐら)ひかり。俺の新しい従者生徒さ。そこのかおりちゃんほどじゃないけど、俺と一緒にいることは多くなると思うからよろしくね」

 

「よろしくって……。お前の従者ということは、そいつもS級寮でお前の部屋に一緒に住むということか?」

 

「まあ、そういうことになるね。学園の許可はもうもらっているから」

 

 小椋(おぐら)ひかり……。

 学園の許可はともかく、どうやら、真夫は光太郎が女の格好をしたときの姿を“小椋ひかり”という女生徒として、周りに触れ込むつもりみたいだ。

 逆にいえば、真夫がこう言った以上、光太郎はこれからは、真夫の従者生徒としてのひかりの姿も、時折周囲に見せないとならないということだろうか。

 だけど、それを光太郎を見張っている花江は許さないに違いない。

 そもそも、今日に限って、あの花江が光太郎の見張りを放棄したことが異常なのだ。彼女は光太郎ではなく、祖父に従っている。

 それはともかく、どうやら、光太郎であることはばれなかったみたいだ。

 ほっとしたが、そんなにわからないものなのだろうか。

 加賀の取り巻きにも、いまのところ、不審な視線を向ける者はいない。

 

「どっちにしても、お前がかなりの女たらしだというのはわかった。しばらく様子を見るつもりだったが、合格だ──」

 

「合格?」

 

「ああ、だから、お前を俺のサロンへの参加を許してやろうと思ってな──。次は月曜日の放課後だ。月、木でやっている。出席しろ」

 

 サロン──?

 加賀が真夫を自分のサロンに──?

 サロンというのは単純な加賀派の生徒の集まりなのだが、それに呼ばれるということは特別な意味を持つ……。

 光太郎は口を挟むべきか迷った。

 

「サロン?」

 

 一方で、こちらから背中が見えている真夫は首を傾げている。

 

「お前を紹介して欲しいという女たちがいる。ちょっと顔を出せよ。まあ悪いようにはしないぜ。その代わり、西園寺を連れてきて俺に紹介してもらう。お前が説得しろ。そっちのC級のふたりも時別に連れてきていい」

 

 光太郎は加賀の表情を観察した。

 特に、なにかを企んでいるという雰囲気ではない。どうやら、最近、この真夫が妙に不思議な人気があるので、興味本位をいうところだろうか。

 現段階で悪意のようなものは感じない。

 ただ、サロンというのは特別な意味があって、サロンに“招待”ではなく、毎回参加ということになれば、真夫が加賀の傘下に入ったという意味になるのだ。

 加賀のような学園の権力者に取り込まれるのは本来は悪い意味ではないのだが、真夫が実は豊藤の後継者候補ということであれば、迂闊に加賀の下についたとみなされるのは、後々都合が悪いかもしれない。

 やはり、教えるべきだ。

 光太郎は口を開こうとした。

 

「いや、申し訳ないけど忙しくてね。文化発表会の準備で手が離せないんだ」

 

 だが、それよりも前に真夫が断った。

 光太郎はほっとした。

 ただ、加賀は明らかにむっとなっている。

 まさか、断られるとは思っていなかったのだろう。

 

「お前、加賀さんの誘いを断るのか──?」

 

「わざわざ、お前に声を掛けてくださったんだぞ」

 

 声を荒げたのは、後ろにいる加賀の取り巻きたちだ。

 しかし、またしても、加賀がそれを手で制した。

 

「例の拷問の歴史展か。うちの女たちの中にも興味を持っている者のが何人かいたな。だったら、それに関する話をしてくれればいい。俺のサロンに集まる者だから、それなりの歴史通だ。あいつらの意見も、展示の企画を練るのに参考になると思うぜ」

 

「誘ってくれたことには感謝するよ。だけど、返事は同じだ。忙しいんだ。悪いね」

 

 真夫は、またしてもあっさりと断った。

 

「てめえ──」

 

「調子に乗るなよ──」

 

 すると、またしても加賀の取り巻きが激昂した。

 しかし、加賀が大きく嘆息したので、すぐに彼らは口を閉ざした。

 

「わかった。じゃあ、はっきり言おう。お前を俺の傘下に入れてやろう。竜崎のことといい、お前に集まる女たちの質といい、ずっとお前を観察してきたが、十分に見込みがある。学園の温情でS級扱いといえども、所詮は孤児で後ろ盾のないお前だが、俺が一目置いているということになれば、周りの見る目も全く変わるだろう。お前には損のない話だ。警戒する必要はない」

 

「しつこいわねえ。こいつは嫌だって言ってるでしょう──。まあ、真夫に目をつけたのは、さすがの加賀財閥の宗家の息子で、人を見る目を持っているとは思うけど、諦めなさい。こいつは誰かの下につくような男じゃないの」

 

 口を挟んだのはかおりだ。

 光太郎はちょっと唖然となった。

 

「C級に落ちぶれた元A級が一人前に喋るんじゃないぜ。坂本、従者生徒の躾も上に立つ者の責務だ」

 

「わきまえているよ。じゃあ、話がそれだけなら、これで……」

 

 真夫が今度こそ本気で立ち去る感じでこっちを向く。

 しかし、加賀がその真夫の肩に向かって乱暴に手を伸ばしたのがわかった。

 

「ちょっと──」

 

 光太郎は咄嗟にそれを手で払いのけた。

 咄嗟だったので、かなり強く払ってしまった。

 加賀が叩かれた手を押さえて、真っ赤になっている。

 しまった……。

 

「加賀さん、大丈夫ですか──?」

 

「なにするんだ、お前──」

 

「こいつ──?」

 

 加賀もむっとなった感じだったが、それ以上にさっきから真夫の態度に苛ついている感じだった取り巻きたちが一斉に光太郎に寄ってきた。

 まずい──と思ったが、もう遅い──。

 せめて、顔を隠そうと片手で目元を覆う。

 しかし、その光太郎の前に、真夫がすっと立って、彼らから守る感じになった。

 その真夫に、加賀が詰め寄った。

 

「どう落とし前をつけるんだ、坂本──?」

 

 加賀が真夫を睨んでいる。

 一方で、光太郎は、激しい後悔に陥った。

 思わず……。

 失敗した……。

 取り巻きたちも騒然となっている。

 

「落とし前?」

 

 だが、真夫はひるんだ様子もなく、暢気そうに笑った。





 *

【作者より】

 長いので切りましたが、後半部分は、明日(11日)0時に予約投稿してます。


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 第90話  不可思議な和解

 10日の夕方に、89話を投稿しております。ご注意ください。

 *



「落とし前──? 大袈裟だなあ。ちょっと手を払っただけだろう。そもそも、君が俺に乱暴に触れようとしたせいじゃないかなあ。ひかりちゃんは、俺を守ろうとしたんだと思うよ」

 

 真夫は暢気そうに笑った。

 

「いや、こいつは、俺に暴力を振るった。それをしっかりとさせないとな──。連れていくぜ──。おい──」

 

 加賀が取り巻きたちに声を掛ける。

 取り巻き生徒が光太郎に手を伸ばす。

 加賀の考えは読めている。

 事を大きくして、頑なな態度を崩さない真夫から、後日でも優位な交渉をする材料にするつもりだと思う。

 そういうやり方は上手な男だ。

 それはともかく、加賀の取り巻きたちの手が一斉に光太郎に向かってきた。

 

「ひっ」

 

 光太郎は身体を竦めた。

 かおりが光太郎を守るように抱きしめた。

 

「俺の女に触らないでくれるかい」

 

 真夫が言った。

 すると、いまにも光太郎に飛びかかってくるのかと思った取り巻きの男子生徒たちが動きを直前で制止させた。

 意外だったので、かおりに身体を抱かれながら、彼らを見たが表情が能面のようになっている。

 訝しんだが、今度は当惑したような顔になった。

 ただ、光太郎に手を伸ばそうとはしない。

 光太郎には、その態度の劇的な変化に戸惑った。

 

「おい、捕まえろと言っただろう──」

 

 加賀が怒鳴る。

 

「その指示は取り消す──。俺の女に触るな──」

 

 動きかけた男子生徒が、またしても真夫の声でぴたりと止まった。

 これには、光太郎も唖然とした。

 だが、俺の女……?

 

「どういうことだ? なにかしたのか?」

 

 加賀が怪訝そうに真夫を見た。

 

「なにもしないさ。それよりも、さっきも言ったけど、暴力を振るわれたって、大袈裟だろう。彼女は俺を守ろうとしただけさ」

 

「なら、言い方をかえてやる。俺はその従者に恥をかかされた。従者生徒ごときに、手を叩かれたんだ。恥をかかされたら、それは絶対にそそがなけりゃならない。俺は俺という個人の問題にとどまらない。加賀という家のプライドの話だ。孤児のお前に説明しても、俺たち華族の矜恃は理解できまいがな──」

 

「理解できないね。そもそも、暴力なんて事実はない。ひかりちゃんの引き渡しなんて冗談じゃない」

 

「ほう、いいのか……? それは、この俺を……。この俺の持っている力を敵にするということになるぞ」

 

「もしかして、脅迫しているつもり?」

 

「どうかな。だが、もしも、このまま引き渡さなければ、お前だけじゃない。お前の周りにいる者の全部が、俺の敵となるかもな。俺はなにも言わないけど、忖度する者たちが、あらゆることでお前の女にちょっかいを出すかもなあ。生徒会長とかも困るだろうなあ。全生徒から協力を得られなければ、きっと苦労するかもしれないな」

 

「へえ、結構、ゲスなこと言うんだね、加賀君も」

 

「これが権力というものだ。わかったら……」

 

 真夫と加賀がいよいよ険悪な雰囲気になった。

 

「ちょっと、待って──」

 

 さすがに、光太郎は口を挟んだ。

 これ以上、事を大きくさせるわけにはいかない。

 どうやら、加賀も頭に血が昇っているようだが、あとで冷静になれば、こんな馬鹿馬鹿しいことで、息のかかっている生徒たちをけしかけて動かすようなことはしないだろう。

 そんなことをすれば、逆に加賀の資質が疑われる。

 頭を鎮めるためなら、光太郎が前に出ればいい。加賀も金城家がついている光太郎にはなにも言わない。

 光太郎はウイッグを外そうとした。

 

「ひんっ」

 

 そのとき、股間のディルドが一斉に激しい振動を開始した。

 ちょっと間合いを置かれていただけに、その刺激は強烈だった。

 

「はっ、うっ」

 

 立っていられなくて、かおりにしがみつく。

 かおりは、くすくすと笑って、光太郎を抱き支えた。

 

「んっ、どうしたんだ?」

 

 加賀が光太郎を覗き込むような仕草をする。

 

「加賀君──」

 

 その加賀に真夫が声をかけた。

 次の瞬間、加賀がふと能面に近い表情になる。

 そして、一瞬の間のあと、きょとんとした顔になった。

 さっきと一緒だ──。

 光太郎ははっとした。

 

「お互いに大人げないことはやめようよ、加賀君。ほら、握手──。文化部発表会のときには、是非、SS研を見に来てよ。結構、エロチックな展示もあるし、多分、愉しめると思うよ」

 

 そして、真夫が不自然なくらいににこやかに加賀に話しかけた。

 加賀のことだから、逆に馬鹿にされていると怒るだろうと思った。

 しかし、意外にも、真夫の言葉に加賀がにっこりと微笑む。

 一方で、股間の振動がとまった。

 光太郎は脱力した。

 

「へえ、エロチックか……。やっぱり面白いな、お前は。そんなものを堂々と学園で展示するとはなあ……。まあ、どの程度のエロさなのは知らんけど」

 

「ちゃんと許可は受けてる。期待しててよ」

 

「わかった。じゃあ、何人が連れて遊びにいくぜ。ほかの者にも宣伝はしておいてやるよ」

 

 さっきまでの険悪さが嘘のように、加賀が真夫の差し出した手をしっかりと握って握手を交わす。

 唖然とするほどの変わり様だ。

 周りを見る。

 それは、加賀本人たちだけでなく、周りの取り巻きもそうだ。

 たったいままでの喧噪がなかったかのように笑っている。

 そして、加賀たちは何事もなかったかのように立ち去っていった。

 

「えっ? えっ? えっ いまのなんなのよ? あんた、なにかしたの?」

 

 かおりだ。

 光太郎も同じ疑念を持っている。

 絶対に、いまのはおかしい──。

 

「なにもしてないよ。ただ、俺は人よりも説得力があるんだ。いまみたいにね」

 

「説得力ってもんじゃないでしょう──。なんなのよ──?」

 

「まあまあ、いいから、いいから……」

 

「まったく、説明する気はないのね……。まあ、いいけど……」

 

 かおりが光太郎を離して、肩を竦める仕草をした。

 そして、ふと、そういえば、加賀を始め誰ひとりとして、目の前にいるのが光太郎だと気がつく者もいなかったかとも思った。

 そんなものなのかもしれないが、もしかして、なにかの記憶操作をされているということはないだろうか?

 それくらいの不可思議さだったのだが……。

 いや、まさかねえ……。

 光太郎は、自分の考えに苦笑してしまった。

 

「じゃあ、そういうことだから、ひかりちゃんは続きだ。ここから先はひかりちゃんがひとりで、テイクアウトの弁当を三個買ってくる。それでゲームは終わりだ。指紋認証のときには、左の人差し指を使ってね。それで玲子さんには、俺の従者生徒の小椋ひかりで登録してもらっているから。間違えないでね。右の指だと金城家に請求がいっちゃう」

 

 三人だけになると真夫が言った。

 ゲームというのが意味がわからなかったが、それよりも、いま言われたことが気になった。

 

「ま、待って──、待って。いまのはどういう意味なの、真夫君? 小椋ひかりで登録してあるっていうのは……?」

 

 光太郎は訊ねた。

 

「そのままの意味だよ。ひかりちゃんは、SS研に入ってもらった以上、女生徒のひかりちゃんとして扱うけど、でも、男子生徒の金城光太郎としての存在がまるっきりいなくなっても困るよねえ。だから、小椋ひかりという架空の女生徒を作ってもらったんだ。生徒登録だけだけどね。だから、小椋ひかりという女生徒を作ってもらったということさ。男の光太郎でも、女の子のひかりちゃんでも、この学園においては、まったく問題ないということだね」

 

 真夫が微笑む。

 光太郎は耳を疑った。

 架空の生徒登録──?

 そんなことができるのか──?

 いや、やろうと思えば、やれるのだろうが……。

 

「はああ? あんた、あの玲子にそんなことさせてたの? すでに──? 事前に?」

 

 かおりだ。

 

「そういうことになるねえ」

 

 真夫が微笑む。

 

「あ、あのう、玲子って……?」

 

 光太郎は口を挟んだ。

 

「工藤玲子よ──。この学園に最近やってきた理事長代理のあの女よ。すぐに顔を合わせるだろうから教えとくけど、そいつも、真夫の奴婢よ。こいつのためなら、殺人でもやりかねない気狂い女よ」

 

 かおりが言った。

 工藤玲子って、新四菩薩筆頭で、理事長代理の──?

 

「ええええ──?」

 

 かおりの言葉に、光太郎は声をあげてしまった。

 

「びっくりするのは、まだまだ早いわよ。あいつに接するようになれば、本当にとんでもないというのがだんだんとわかってくるから……。だいだい、あんたがしている貞操帯だって、寸法がぴったりでしょう。ディルドだけじゃなくて、勃起しているペニスに合わせてペニス袋を作って、それに合う窪みを貞操帯側に作って、しかも、最高技術のセンサーとかを使って、快感を制御しているのよ。多分、事前に、あんたの部屋に潜入とかして、寸法まで計測したりしてるのよ」

 

 かおりが言った。

 

「ぼ、ぼくの部屋に侵入? 嘘だよねえ?」

 

 光太郎は真夫の顔に振り返ったが、真夫の表情はかおりの言葉を否定していなかった。

 まさか……。

 光太郎は唖然とした。

 

「わかった? こいつらはこういう連中なのよ。多分、その淫具だって、億単位の金がかかっているかもしれないわよ」

 

「そこまではかかってはないんじゃないかな……。もっとも、時子婆ちゃんにアイデアを出してお願いしている新しい淫具は、それくらいかかるかもって言ってたかもしれない」

 

 真夫が笑う。

 時子婆ちゃんというのがわからないが、淫具に億単位──?

 さすがに、光太郎も鼻白んだ。

 

「……まあいいわ……。それはともかく、そういえば、こいつの偽名の“ひかり”はわかるんだけど、“小椋(おぐら)”って、どこから持ってきたのよ? 適当?」

 

 かおりが真夫に訊ねた。

 

「適当といえば適当だけど、俺の名字って、坂本竜馬から来てるんだ。俺の名前をつけるとき、市長さんが坂本竜馬のファンだということで……」

 

 そうなのだと思った。

 だが、豊藤の後継者ということではなかったのだろうか?

 孤児だというのは、身元を隠すための嘘なのかと思っていたが、いまの言葉だと孤児だったというのも事実なのかと思った。

 なんとなく、複雑な事情がありそうだ。

 

「それで?」

 

 かおりだ。

 

「それで、玲子さんとひかりちゃんの偽名を決めるときに、坂本竜馬の奥さんで、確か、“おりょう”だねって、いうことになって……」

 

「“おりょう”……? ああ、だからなの? “小椋(おぐら)”って、“おりょう”とも読めるから。くっだらない──」

 

 かおりがけらけらと笑った。

 

「まあ、そんなものだよ、偽名なんて。俺の坂本真夫という名前だって、適当なものさ」

 

「そうかなあ。まあ、結構いい名前だと思うけどね」

 

 かおりが笑い続けながら言った。

 かなり仲がいいのだなあと、光太郎は思った。

 すると、真夫が光太郎に改めて視線を向けた。

 

「じゃあ、さっき言ったとおりだよ、ひかりちゃん。ゲームの開始だ。ひとりで買い物ができるかなゲームだ。終われば、ゲームを終了して、ベンチで食事をして寮に帰ろう」

 

 次の瞬間、またもや、股間のディルドが激しく動き出した。

 

「ひああっ、あっ、いやっ」

 

 今度は支えてくれるかおりもいない。

 光太郎はしゃがみ込みかけた。

 

「もう、ゲームオーバーかな? もっとも、このゲームに途中棄権はないけどね」

 

「……あ、ああっ、お、お願いだよ……。こ、こんなんじゃあ、歩けない……。まさか、このまま買い物って……」

 

「そんな弱音は受け付けない。それがSS研に入るということさ。とりあえず、そこのテーブルベンチまで頑張ろうか」

 

 真夫がかおりを伴って、三十メートルほど離れている木製のテーブルとベンチがある場所に行って腰掛けた。

 ショッピングモールのあるこの厚生エリアの野外には、たくさんのテーブルやベンチがあり、自由に座ったりすることができるようになっている。

 光太郎は、スカートを手で押さえながら、必死に足を前に進ませ、少しずつ真夫たちのいるテーブルに向かった。

 

 幸いなのは、すでに夜であることと、週末ということであまり人影がないことだ。

 それでも、離れたところには、歩いたりテーブルに座ったりしている生徒たちが結構いる。

 光太郎は、不自然にならないように、できるだけ背筋を真っ直ぐにして進んだ。

 やっとのこと、真夫とかおりのいるテーブルに着く。

 すると、振動が停止した。

 光太郎はほっと一息ついた。

 

「よし、じゃあ、次はショッピングモールの入口まで行こう」

 

 真夫が座ったまま、さらに二十メートルくらいの距離があるモールの入口を指さした。

 弁当をテイクアウトできる店は、そこからさらに中だ。

 

「ね、ねえ……。本当に……。ひんっ」

 

 すぐに振動が股間に襲いかかった。

 光太郎は声をあげ、その場にしゃがんでしまった。

 とにかく、耐えられないような性感に突き抜ける快感だった。

 すると、振動がとまる。

 

 光太郎はよろよろとふらつきながら、なんとか立ちあがった。

 すると、また、振動が開始する。

 

「はああっ」

 

 光太郎はまたもや跪いてしまった。

 そして、振動が止まる。

 

「この調子じゃあ、ひとりで買い物はまだ無理か。仕方ない。着いていこう。その代わりに頑張るんだ。頑張ればご褒美をあげるから」

 

 真夫が立ちあがった。

 

「やっぱり、あんたは鬼畜ねえ……。本当は女だったとしても、こいつが金城家の跡取りなのは変わりないのよ」

 

 かおりだ。

 さっきのように、片側から腕を抱えて立ちあがらせてくれる。しかも、そのまま腕を支えてくれるようだ。

 ちょっとほっとする。

 これから、なんとか多少は歩けるかも……。

 

「とりあえず、ここまで歩いたご褒美だ」

 

 すると、真夫が光太郎の顔を覗き込むようにして口づけをしてきた。

 繰り返しの翻弄に、すでに光太郎の頭は朦朧となりかけていたが、真夫との口づけは気持ちよかった。

 舌を吸いあげられると、身体の芯が蕩けていくような甘美な心地に包まれた。

 

「次のご褒美は、あの入口だよ」

 

 真夫が先に歩いて行く。

 

「ほら、行くわよ。あいつはこういうことでは手は抜かないし、抜けさせてももらえないわ。やると言ったらやるし、諦めて従うしかないわね……。さあ……」

 

 かおりが腕を持って引く。

 光太郎は足を前に出した。

 すぐに、ディルドとペニスを包む袋が淫らに動きだす。

 口づけで身体が蕩けていて、一瞬で力が抜ける。

 

「ひんっ、いやあっ」

 

「声を我慢することも覚えなさいって──。これから店の中にも行くのよ──」

 

 光太郎がしゃがみ込むことを腕を持って阻止したかおりが半分呆れた口調で叱咤した。

 とにかく、必死に腰に力を入れようと踏ん張る。

 

「う、うん……。くっ、ううっ……」

 

 だが、やっぱり厳しい──。

 腰が抜ける……。

 かおりが腕を持って支えてくれる。

 光太郎は、香りの腕にしがみつきつつ、動き続ける振動に耐えて、なんとか必死に足を進めさせた。



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 第91話  交渉・お手出し無用

 金城家の屋敷の中を案内をしたのは、若くて屈強そうな黒スーツの若者ふたりだった。

 スーツ姿の玲子の身体を舐めるように見てくるのが不快だったが、さすがに手を出してくるようなことはなかった。

 ただ、待つように指示された狭い部屋に入ると、お茶の一杯も出されることなく、玲子はなにも知らされずに放置された。一方で、案内をしてきた若者のひとりが扉の前に立ち、じっと玲子を見張る態勢をとった。

 そのまま会話することもない、時間だけが過ぎていく。

 面談の約束の時刻から一時間が経過したところで、玲子はトイレを貸してもらおうと思って立ちあがった。

 

御前(ごぜん)は、いつお見えになるかわからない。座っていろ」

 

 しかし、若者は扉の前から移動することなく、立ちはだかったままだ。

 また、“御前”というのは、玲子が今日ここで面会をお願いしている金城光太郎の祖父の金城辰次郎のことである。

 母親は生存しているが、父親の死去している光太郎の保護者として、金城辰次郎が届けられており、今日は学園の代表として、光太郎の保護者の辰次郎へ面談をお願いしたのである。

 

 いずれにしても、どうやら、玲子が学園の理事長代理として金城家当主に面会を申し出ていることで、玲子を軽んじられているようだ。

 おそらく、豊藤の名前を使えば、待たされることもなかったし、押し込められた部屋から出ることを許さないというような、まるで咎人であるかのような扱いを受けることもなかったに違いない。

 しかし、学園を経営する「学校法人聖マグダレナ学園」が豊藤グループの総帥である豊藤龍蔵の道楽で建設され、理事長が龍蔵その人であることは、ほんの限られた者しか知らないことだ。

 届けてある理事長も、ダミィの人間を使っていて、豊藤系列の末端であるということでさえも、わからないようになっている。

 

 なにしろ、豊藤財閥の総帥の豊藤龍蔵には敵が多い。

 代々の総帥が操心術をもって周囲を支配することは、政経済界にはかなり知られてることらしく、それを阻止すべく世界中の諜報機関や暗殺者が龍蔵の生命を狙っているのである。

 だから、面談のアポ程度のことで、簡単に龍蔵の名前を出すわけにはいかなかったのだ。

 

 いずれにしても、待たされすぎて腹がたってきた。

 玲子は揶揄ってやりたくなった。

 

「でも、もう一時間も待たされておりますので、漏れてしまいますわ」

 

「じゃあ、いいものがあるぜ」

 

 すると、若者はにんまりと笑って、部屋の隅にある観葉植物を指差した。

 

「後ろを向いててやるから、これにしな。遠慮しないでいいぜ。ちょうどいい水やりだ」

 

 けらけらと笑った。

 揶揄おうとして、逆に揶揄われてしまったようだ。

 玲子は自分の顔が赤くなるのを感じた。

 

「結構です。我慢します」

 

「そうしてくれ」

 

 若者がひとしきり声をあげて笑ったあと、再び無表情になる。

 結局、最初に案内をしてきたもうひとりの若者が現れて、準備ができたと伝えたのはさらに、一時間が過ぎてからだった。

 そこから屋敷内を移動して、かなり広い応接室のような部屋に案内された。

 十数人は座れるようなソファがあり、玲子は立ったまま待った。

 すぐに、四人の男を連れた老人が入ってきた。

 金城辰次郎だ。

 玲子は頭をさげた。

 

「待たせたな。わしと会いたいという面談希望者は多い。たった二日前に連絡をしてきて、時間を作れというのは難しい話だ。それでも、孫についての大事な話だというので時間を割いたが手短に終わらせよ。それで要件はなんだ? まさか、寄付金の陳情ではないだろうな」

 

 辰次郎がソファに腰をおろす。

 玲子には座れとは言わなかったので、とりあえず立ったまま玲子は口を開いた。

 

「まさか、そのような些事で、御前のお時間は頂きません。ところで、お人払いをお願いできませんか」

 

 玲子は言った。

 この部屋には、玲子と金城辰次郎のほかに、玲子を案内してきたふたりと、辰次郎が伴った四人の合わせて六人の金城家の家人がいる。

 さすがに多い。

 

「外聞をはばかる内容か?」

 

「場合によっては。お孫様である金城光太郎君……いえ、光太郎さんのことについてになります。学園としても、些か驚きましたので、まずは事情をお伺いしたいと……」

 

 玲子は、わざと、光太郎を“君”を訂正して、“さん”を付けて呼んだ。

 それで、辰次郎は悟ったのだろう。

 

(さかき)以外はさがれ」

 

 周りの者に命じた。

 一番年配の男を除き、他の者はいなくなる。榊というのは残った男のことなのだろう。

 身長は二メートルを超えているだろう大男である。身体の幅もすごい。筋肉質で腕の太さは、玲子のウエストよりも大きそうだ。

 

「あの男は気にするな。言いたいことを喋っていい。とりあえず、座れ」

 

 辰次郎が言った。

 玲子は腰をおろした。

 

「それで?」

 

「光太郎殿は女性です」

 

 玲子は単刀直入に言った。

 すると、辰次郎の眼がぎらりと光った気がした。

 大した眼光だ。

 豊藤龍蔵のもとで働くようになって以来、数限りない修羅場もくぐった玲子にとってはどうということもないが、並みの者なら、この老人のひと睨みだけで、身体に震えが走るのではないかと思った。

 それくらいの凄みだ。

 

「下手なことを喋らない方がいい。長生きをしたければな。なにを知って、なにを調べたかは知らんが、事実無根のことを口にはせんことだ」

 

「事実無根ではありません。本人からも確認済みです」

 

「確認済み?」

 

「光太郎さんには、小さなペニスはありますが身体に精巣機能はありません。逆に、子宮があり、安定的な月経もあるようですね。精密検査まではしておりませんので断言はできませんが、女性としての妊娠も可能なのでしょう。そのような者の性別は女性です。面倒なやりとりはやめませんか? わたしは、彼女が女性であることを知って、ここに来ております」

 

 玲子は一気に早口で喋った。

 

「貴様──」

 

 すると、辰次郎の顔から血の色が消えうせ、明瞭な怒気が相貌に浮かんだ。

 辰次郎が榊と呼んだ男が懐に手を入れたのが見えた。

 

「事情を知りたいと先程申しましたが、おそらく検討はついております。金城家としては宗家の血筋を持つ唯一の子が男子でなければならなかったのでしょうね。光太郎君にはペニスもありましたし、そのように届けることも可能だったのかもしれません……。しかし、彼女は成長するとともに、女性としての性別を明瞭にしてしまった。身体だけでなく心も……。はっきりと言って、男性としてこれからの人生を貫き通すには無理がございましょう。彼女は女性です」

 

「……榊、殺せ……。そして、この女が当家に来た痕跡をすべて消しておけ」

 

 辰次郎は言った。

 榊と呼ばれた男がすっと近づく。

 取り出したのは、紐とビニル袋だ。

 玲子に向かってやってくる。

 一方で、辰次郎については、立ちあがって扉に向かって歩いていく。

 

「わたしをここで殺しても秘密は守れませんよ。無駄です……」

 

「それはお前が心配することではない。なんのためにやって来たのか見当もつかんが、金城家を甘く見ないことだ。秘密を知る者が百人いれば、百人──。千人いれば、千人を消す。それがわしのやり方だ」

 

 辰次郎はすでに部屋の外に出ていこうとしている。

 玲子は、玲子に手を伸ばした榊という屈強そうな男に向かって立ちあがり、一瞬にして腕をとって身体をソファにねじ伏せた。

 背中に片膝を乗せて押さえつける。

 そして、首に拳を思い切り叩きつけた。

 

「あぐっ」

 

 大男が意識を失って脱力する。

 その間、瞬きするほどの時間だ。

 最後に、男の両手首を背中に回して紐で縛った。

 

「なに?」

 

 辰次郎は、玲子の身体の倍ほどもあるような大男がか細い玲子にねじ伏せられたのが信じられないようであり、扉の所で目を丸くしている。

 だが、すぐに我に返って、扉のそばにあった壁のボタンを押そうとしていた。

 玲子は、榊という男の懐にあった拳銃を奪って、辰次郎に向ける。

 榊の上着の膨らみから、内側の胸部分に銃を隠していることには気がついていた。室内で発砲するわけにはいかないから、玲子を紐とビニル袋で窒息死させるつもりだったと思うが、いずれにしても、辰次郎は玲子を場合によっては殺すように、事前に指示をしていたのだろう。

 

「手を動かしませんように。あなたがボタンを押して、誰かが駆けつけるよりも、この銃の弾丸が御前の頭に当たる方がずっと早いと思いますわ」

 

 玲子は微笑んだ。

 辰次郎は眼を見開いたまま絶句している。

 

「……ここで撃てば、家人が殺到するぞ」

 

「そうでしょうね。でも、御前はその前に死にます」

 

「人を殺したことがあるのか? その銃を撃てるか?」

 

「ノーコメントです。でも、この距離で外すことなど、あり得ないとだけお伝えしておきます」

 

「何者だ……? ただの学園の理事ではないのか?」

 

 辰次郎が大きく嘆息した。

 

「どうでしょうか。色々とやっておりますわ。いまは学園経営のお手伝いもしておりますが、不動産業なども命じられてやったりします。数日前、ある山を丸ごと買いました……」

 

 玲子は一日前に強引に契約を終わらせたある山の名を口にした。

 辰次郎はぴんとこなかったみたいだ。

 首を傾げている。

 

「……そこに、人の手が入ったような森がありまして、人を使って掘り返させました。もっとも、掘ったのは契約前ですが……。わたしも、こんな仕事をしておりますので、綺麗ごとだけでは財閥経営をできないことは承知しておりますが、人を処分したあとの死骸は、安易に土に埋めない方がよろしいですわ。お薦めは海です。土には骨が残りますからね」

 

 玲子の言葉に辰次郎ははっとした表情になる。

 そして、ボタンから手をおろした。

 玲子も拳銃を失神している男の懐に戻す。ただ、弾倉は抜いて、床を滑らせて遠くにやった。

 

「わしは知らんぞ。誰かを殺せと命じたことなどない。たったいまが初めてだ。失敗したがな」

 

 辰次郎は苦笑する。

 

「そうでしょうね。あなたの息のかかった何者かがが忖度をして、手をかけてしまったのかもしれません。わたしどもがその殺された者を埋めた場所の土地を買い取ってしまったのは、多分、偶然のことなのでしょう。お互いに黙っていれば、なにもありませんわ」

 

「黙っているのか?」

 

「お話を聞いていただければ」

 

「わかった」

 

 辰次郎が戻ってきて座り直した。

 さっきの榊はいまだにソファーのひとつにひっくり返したままだ。玲子は反対側のソファに腰をおろす。

 

「まずは、これを……」

 

 玲子は名刺を出して、辰次郎の前に置く。

 そこには、玲子の肩書が「学園理事長代理」ではなく、「豊藤龍蔵秘書」とある。

 実際には、すでに秘書ではないのだが、こういう交渉では役に立つので、遠慮なく、まだ使わせてもらっている。

 

「豊藤?」

 

 辰次郎は怪訝な表情になった。

 

「聖マグダレナ学園……。届けてある理事長は別の名前ですが、あれは、豊藤財閥の総帥豊藤龍蔵が道楽で作らせた学園です。そして、龍蔵はその事実上の理事長です」

 

「豊藤龍蔵──? 増応院(まおう)か」

 

 辰次郎が唖然としている。

 表に出ることの少ない豊藤の名だが、金城辰次郎ともあろうものが、歴史を支配し、今現在でも世界経済を完全に牛耳っているともされている豊藤の名を知らないはずがない。

 だが、常に豊藤は影から他を支配する。

 従って、組織全体の実態は、あまり知られてないのだ。

 ましてや、総帥の名を出すことは滅多にない。

 

「金城家が不利益になることはありません。ただ、金城光太郎さんのことは、豊藤にお預け願えませんか? 実はまだ名は出せませんが、光太郎さんは、いま豊藤の名を持つ少年と男女の関係にあります。それを黙認していただきたいのです」

 

「男女の関係──? な、なんだそれは?」

 

 辰次郎はびっくりしている。 

 まあ、当然だとは思うが。

 さすがに、まだ情報は握ってないだろう。

 真夫は光太郎を堕として、奴婢となることを承諾させたのは昨日のことだ。

 しかし、この辰次郎は孫であり、金城家次期総帥ということなっていて、男として届けている光太郎が、実際には女性であることが発覚しないように、徹底的な見張りと秘密漏洩防止の手立てを施している。

 真夫が光太郎を女として堕としたことが、辰次郎の耳に入るのは、時間の問題だ。

 だから、こうやって先手を打ちに来たのだ。

 

「豊藤の次期後継者となる少年が、妾のひとりとして、光太郎さんを気に入ったのです。おそらく、生涯手放さないでしょう。どうか、お認めください」

 

「め、妾に? 金城家の当主になる者だぞ──」

 

「男としての彼についてはですよね。でも、妾として求められているのは、女性としての光太郎さんです。光太郎さんの相手になる少年は、現在の豊藤龍蔵からすべてを引き継ぐ者です。金城家にとって悪い話どころか、得にしかならない話です。光太郎さんによれば、いずれ有象無象の子種で血を受け継ぐ者を産ませる予定とお聞きしましたが、金城家に豊藤の血が混じり、豊藤の血を持つ者が光太郎さんの次の世代の総裁になるのです。豊藤が金城家の後ろ盾になりましょう」

 

「ううむ……。豊藤か……。だが、俄かには信じられん」

 

 辰次郎は唸った。

 

「いずれ報告はもたらされましょう。わたしがお願いするのは、ただ黙認をしていただくだけです。それで、大きな利益が金城家に……」

 

「妾とはいえ、金城家には得難い提案であることは確かじゃな……。だが、光太郎は男として育てた者だ……。いまさら、女として生きよとは……」

 

「それもまた、光太郎さんが見つけた者をご信頼ください。光太郎さんの選択も……。なによりも、光太郎さんは女性としての幸せをお望みです。かといって、金城家の血を受け継ぐ誇りと矜持も忘れはしないようです。とにかく、彼らを見守ってあげてください」

 

「見守るか……。話はわかった。見当はしよう。だが、応じるとは約束はできん。そもそも、お前が本当に豊藤の者なのかということも信頼はできん。まずは裏を取る」

 

「もちろんです。またご挨拶に伺います」

 

 玲子は言った。

 これで十分だ。

 玲子が持ってきた話が出任せではないということがわかってくれば、この辰次郎は、光太郎の恋人としての真夫の存在を認めるだろう。

 金城家としては、得しかない話だ。

 光太郎の秘密も守られるのだ。

 

「だが、ひとつだけ厄介ごとがある。光太郎には許嫁がいる。男としての光太郎にな。妾とはいえ、豊藤の者とそういう関係になるということであれば、それは筋を通さねばならん。まずは婚約を解消してからにさせる。光太郎に不実をさせるつもりはない」

 

 辰次郎が言った。

 だが、玲子は首を横に振った。

 

「それについても問題はありません。実は、九条あゆみさんとも午前中に話をしました。ある提案をされましたが、彼女は光太郎さんとの婚約を続けることを望んでます。そのまま婚姻を結ぶことも……。そして、光太郎さんが女性としての幸福を得ることも喜んでおられます」

 

「もう九条家と接触もしておるのか……。わかった。とにかく、時間をもらおう。わしがこれについてなんらかの決心をするまでは、黙って傍観すると誓おう」

 

「感謝いたします……。ところで、もうひとつだけ、お願いがあるのですが?」

 

 玲子は頭を深々とさげながら言った。

 

「もうひとつ?」

 

「おトイレを貸してください。我慢させられたので漏れそうです」

 

 かなり切羽詰まっているのだが、辰次郎はなぜか大笑いをしてしまった。



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 第92話  喰わせ者たち

 秀也がいつもの地下屋敷に入ると、入口で時子が待っていた。

 だが、秀也がひとりでやって来たことに気がついて、眉をひそめる。

 

「秀也さん、外を出歩くときには必ず護衛を連れてもらわないと困りますね」

 

 時子が言った。

 秀也はくすりと笑った。

 

「誰かさんが俺の専属護衛を腑抜けにしたからな。あれはしばらく使い物にならん」

 

 秀也の護衛というのは、正人(まさと)のことである。

 豊藤財閥の総裁の跡目を秀也と争うかたちとなった真夫を敵対視し、竜崎という生徒を真夫の恋人の朝日奈恵にけしかけるなどの暗躍をしていた正人であったが、真夫が大好きな時子の逆鱗に触れ、薬物で強制勃起させられて、ナスターシャに孕ませセックスを強要させられたのは、まだ数日前のことだ。

 それから、さらに時子は、ナスターシャを人工授精させるための精液を正人から搾取してから解放したが、あれから、いまだに正人は部屋から出てこない。

 正人は同性愛者だ。

 それにもかかわらず、女と無理矢理にまぐわいをさせられたのは、相当にショックだったのかもしれない。

 あんなに打たれ弱いとは知らなかったが、まあこれで、正人も時子の恐ろしさを理解しただろう。

 さすがの秀也も、時子には弱いのだ。

 

「それでもですよ。ひとりでは出歩かないでください。適当な護衛はあたしが手配しましょう。目立たないように、学生の格好をさせておきます」

 

「必要ねえよ。一介の学生を狙う者などいねえさ。俺が豊藤の関係者などとは、誰も知りもしねえさ。そもそも、重要人物といえば、真夫の方がそうだろう。だが、あれは、勝手にひとりで動いてるぜ。玲子だって、常についているわけじゃねえ」

 

「護衛をつけてますよ。ただ、気がつかないようにさせているだけです。あたしがそんな抜かりをするわけないでしょう」

 

 時子は言った。

 すでに、真夫に護衛を配置していたとは知らなかったから、秀也はちょっと驚いた。

 だが、考えてみれば当然か。

 時子にしてみれば、真夫は豊藤の大切な後継者だ。また、龍蔵の子であるということは、時子からすれば、血は繋がっていなくても孫のようなものだ。可愛くて仕方がないのかもしれない。

 

 そのときだった。

 内ポケットに入れていたスマホに着信があった。

 画面を見ると、正人からだった。

 秀也はその場で電話に出た。 

 

「もしもし、おう、正人か……」

 

 電話の内容は、寝込んでいたことに対して謝罪するとともに、すぐに秀也のところに向かうというものだった。

 声を聞く限り、いつもと変わらない感じはする。

 

「無理しなくてもいいぜ。こっちは問題ない」

 

 秀也は告げた。

 だが、正人はすでに学園内に来ており、すぐに秀也のところに向かいたいと応じてきた。

 

「わかったが、俺がいまいるのは、伯父貴のところだ。しかし、お前の大嫌いな時子も隣りにいるぜ」

 

 秀也は笑った。

 だが、もう立ち直っており、全て問題はないと繰り返した。

 秀也はわかったと言って、通話を終える。

 

「聞いた通りだ。腑抜けていた護衛が戻るとよ」

 

 秀也は声をあげて笑った。

 

「じゃあ、丁度いいから、ナスターシャの調教を手伝ってもらおうかしら。龍蔵さんが張り切っていてね。追い込みに入っているんだけど、手が足りないから助手を寄越せと言われているのよね。でも、ここにはおいそれと、余人を入れるわけにはいかないし……」

 

「じゃあ、正人にさせろ。どっちにしても、俺はしばらくここからは出ねえ」

 

「いいことね。ここよりも安心な場所はないわ」

 

 時子ととともに、さらに地下に降りて、調教室が並んでいるフロアに行く。

 その一室から鞭の音とフランス語による女の悲鳴が聞こえてきた。

 秀也がその部屋に入ると、むっとするような汗と女の匂いがした。

 

「もっと、脚をあげて淫らに歩かんか──。だらだらと歩くのではなくて、一歩ごとにメリハリをつけて雰囲気を出すのだ。それが雌犬の作法ぞ」

 

 部屋には、四肢をそれぞれに折り曲げられた状態で革帯を巻かれ、四つん這いでしか歩けない状態にされているナスターシャが「龍蔵」に追い立てられて、部屋の中を歩きまわされていた。

 折り曲げた四肢の膝と肘の折り曲げている部分に、革で作った動物の肢先のようなものがついていて、まるで犬そのものに見えるようになっている。

 股間には細い革帯の下着を身に着けているが、それ以外は素っ裸だ。

 そして、ナスターシャの首に装着された首輪には、天井から伸びる鎖が繋がっていて、その鎖は天井の丸いレールに嵌っている滑車にさらに繋いであり、ぐるぐると部屋を回り動けるようにしてあるのだ。

 そんな状態のナスターシャを背後から鞭で追い回しているのが、太った腹を曝け出している下着だけの龍蔵だ。

 かなり長い時間をああやって歩かされているのだろう。

 ナスターシャは汗びっしょりで、白い肌にはたくさんの鞭の蚯蚓腫れがある。

 

 なによりも圧巻なのは、ナスターシャの巨大な乳房だ。

 この龍蔵は、もともとは美しくかたちがよかったナスターシャの乳房を豊乳手術をして、大きなスイカのような巨大な奇形にしてしまったのである。四つん這いになると下に垂れている乳房の先端の乳首が床に着くほどだ。

 しかし、なにか仕掛けがあるようだ。

 ナスターシャの乳首には、金属の札のようなものをぶら下げられているが、彼女は泣きながら必死で胸を上にあげて、それが床に着かないように歩いているみたいだ。

 だが、乳首はぎりぎり床に当たるくらいの位置になるので、ぶら下げられている金属の札が床に着かないためには、かなり不自然な歩き方をしなければならない。

 

「もっと早く歩かんと、赤い光が追い付くぞ」

 

 龍蔵がナスターシャの内腿にぴしゃりと一本鞭を打ち付ける。

 

「あぎいいっ──」

 

 ナスターシャが奇声をあげて前に進む。

 前と言っても、部屋をぐるぐると回るのだが、秀也はそういえば、そのナスターシャを追うように、床を赤い光がゆっくりと追いかけていることに気がついた。

 それだけではなく、ナスターシャが歩く床の部分は、幅一メートルの細長い切れ込みが丸く繋がっていて、その部分の床は周囲とは違って金属の材質になっているみたいだ。ナスターシャはその上を歩かされているのだ。

 

「あれは電極道か?」

 

 秀也は時子とともに、部屋のひとつの壁に背をつけてある横長のソファに腰掛けながら訊ねた。

 多分そうだと思ったのだ。

 察するに、あの赤い光が追いついたら、ナスターシャが乳首からぶら下げている金属の板に電撃が流れる仕掛けだろう。

 

「ご明察です。龍蔵さんの求めで作りました。乳首に電撃が流れるだけじゃありませんよ。あの女にはかせている革の下着のクリトリスのところに電極があって、乳首から流れた電流は、クリトリスに向かって突き抜ける仕掛けにもなってます」

 

「ほう」

 

 そういえば、ナスターシャは革の下着をはかせられている。

 下着といっても、Tバッグであり、こっちから見ると尻たぶが完全に露出している。

 あれが電極付きの下着というわけか。

 

「おう、秀也か」

 

 龍蔵が鞭を床に捨てて、こっちにやってきた。

 秀也は、ソファに腰をおろしたまま応じる。

 

「相変わらず、ナスターシャで遊んでいるのだな。伯父貴への贈り物だったが、気に入ってくれてなによりだ。まあ、その乳房の奇形は、俺の趣味じゃないけどね」

 

 秀也は笑った。

 

「美しいものをわざと醜く崩すのだよ。その愉しさをお前が学ぶのは、まだまだ先か?」

 

「先でも後でもわかるものかよ。まあ、伯父貴に譲ったものだから、好きにしてもらっていいけどな」

 

「当然だ。好きにさせてもらう。あれで、あのフランス女は、まだ堕ち切っておらんのだ。泣くじゃくって悲鳴をあげても、時間が経てば、またわしを軽蔑しきった目で見てくる。多分、心の底から人種差別意識が強いのだろうな。こうやって、日本人に調教されるなど、あれには我慢できないことなのだろう」

 

「そりゃあ、よかった。じゃあ、ぶっ毀れるまで苛めてやりな。毀れれば、また次の玩具を探してきてやるぜ」

 

「さすがは秀也だ」

 

 龍蔵が相好を崩した。

 そのとき、ナスターシャの絶叫が部屋に轟いた。

 赤い光がいつの間にか、ナスターシャの胸の位置に追いついている。

 のたうち回っているところを見ると、いまは電撃がナスターシャの身体を流れまくっている状態なのだろう。

 ただ、赤い光は移動することなく、そのままとどまっている。

 つまりは、そのあいだ、ずっと電撃が流れ続けているということに違いない。

 

『ナスターシャ──。そこで転がってたって、いつまで経っても電撃は終わらないよ。お前が四つん這いで移動しないと、赤い光は動かない。そして、また追いかけてくる。さっさと起きて、お歩き──』

 

 時子が大きな声で怒鳴りつけた。

 しかも、フランス語だ。

 ナスターシャの母国語である。

 ここで、フランス語ができないのは龍蔵だけだ。

 見ると、やっとナスターシャが姿勢を戻して歩き出した。すでに泣きじゃくっている。

 また、しばらくすると、再び床の赤い光が彼女を追いかけだした。

 

「どれ、次はあたしが見てやろうかねえ」

 

 入れ替わるように時子が立ちあがる。

 たったいま、時子が座っていた場所に、龍蔵が腰かける。ふたりで並んで座るかたちになる。

 

「しばらくだったな」

 

「ああ」

 

 特に話すことなどなく、ふたりで時子がナスターシャを責めるのを眺めていた。

 時子はなぜか、ナスターシャの母国の国旗の手旗をひとつ持ってきて、丸い経路のぎりぎり外側の一箇所に台座を使って立てた。

 そして、赤い光の動きがとまった。

 ナスターシャがその場に崩れ落ちるように蹲った。

 

「ナスターシャ、今度はさっきの逆だよ。赤い光が当たるから、その中にいれば、電撃は流れない。しかし、そこから身体がずれれば、また電撃だ。そして、旗があるだろう。そこに辿り着くと、一旦光の動きもとまるから、脚をあげて小便をかけるんだ。一度に全部出すと、次に出なくなるから、ちょっとずつ出すように気をつけるんだよ。もしも、旗を小便で三秒以内に濡らせなければ、一分間の電撃だ。理解できたかい? じゃあ、はじめ──」

 

 赤い光がナスターシャがいる場所に当たる。

 再びゆっくりと動き出した。

 ナスターシャが悲鳴をあげ、泣きながら赤い光から外に出ないように、再び四つん這いで歩き出す。

 すぐに旗の位置に着く。

 母国の旗に小便を掛けるのは屈辱なのか、ナスターシャの顔は悔しそうに歪んでいる。

 そのナスターシャが、片脚を大きく上げて、ほんのちょっとだけおしっこを飛ばした。

 だが、すぐに脚を戻し、光の動きに合わせて進みだす。

 やがてひと回りして、再び旗に位置に戻った。再びさっきと同じように片脚上げ小便をする。

 最初のときのときにはよくわからなかったが、ナスターシャが身につけさせられている革のTバッグは、彼女の尿道の部分に丸い穴があるようだ。

 それで、おしっこをそこから出せるみたいだ。

 

「ほう、器用だな」

 

 秀也は感心した。

 

「調教したからな。いまのナスターシャは、小便を溜めておいて、ああやってちょっとずつ小出しに出すということもできる。まるで本物の犬みたいであろう」

 

 龍蔵は言った。

 

「まあな。だが、いくら小出しにしても、すぐに小便も尽きんじゃねえか、伯父貴?」

 

「だから、必死で小出しにしないとならないということだ。出なくなれば、一周に一度の電撃責めが待っている」

 

「なるほどなあ」

 

 秀也は笑った。

 

「ところで丁度いい。別室に行くぞ。久しぶりに、秀也の身体を点検してやろう。このところ、なにかと理由をつけて、わしを避けるしな」

 

 龍蔵が秀也に視線を向ける。

 

「忙しいんだよ。それよりも、点検するってなんだ? また、俺と遊びたいのか? 男色もいける俺だが、また伯父貴の尻を犯してやってもいいぜ。昔みたいにな」

 

 秀也は揶揄った。

 だが、龍蔵が爛々と目を輝かせた。

 

「わしの相手をしてくれるのか? 本当か? 久しぶりだ──」

 

 思いのほか喜んでいる。

 秀也は肩を竦めた。

 本気で相手をするつもりは皆無だったが、まあいいか……。

 

「伯父貴も慎みがねえなあ……。じゃあ、俺が伯父貴の尻を犯してやろう。その代わり、豊藤の後継者のことは、今後とも俺の言ったとおりに動いてもらうぜ」

 

「もとよりお前に任せている。この前も、十人の奴婢という条件だったのを、わしが認めた十人の奴婢という条件に変更してふたり分を削った。だから、あと四人だったのが、あと六人になった。それでいいのだろう?」

 

「あと五人だ。金城家の嫡男を真夫は奴婢にした。これで西園寺家の双子侍女を抜いても奴婢は五人だ。いや、あの孤児の娘も、適当に理由をつけて数から抜くか? 豊藤の後継者の妾には相応しくないってな──。いずれにしても、十人と言ったが、認めなければいくら頑張っても十人を満たすことはできねえ。期限は半年だしな」

 

「恵ちゃんは、数に入れるわよ。あの娘は真夫の大切な女性よ。それを含ませないなんて言わせないわよ。真夫ちゃんがいじけるわ」

 

 だが、時子が戻ってきて口を挟んできた。

 ナスターシャは、いまだに一周ごとの小便かけを続けている。

 そもそも、下に垂らすのではなく、器用に尿道から外側に小便を飛ばしているのだ。

 大したものだと思った。

 

「お前はぶれねえなあ」

 

 それはともかく、あくまでも真夫が一番の時子の言葉に、秀也は声をあげて笑った。

 

「ところで、あの真夫の五人目の奴婢が金城家の嫡男と言ったか? 知らなかったが、真夫も両刀使いか?」

 

「真夫のことは俺に任せて、伯父貴はあの毛唐で遊んでてくれ」

 

「おう、じゃあ、そうさせてもらおう」

 

 龍蔵が相好を崩した。

 

「……まあ、いずれにしても、真夫が十人を揃えるのは時間の問題か……。そろそろ、俺も動かねえとな……」

 

 秀也は呟くように言った。

 

「六人目は、あの生徒会長の親友の娘ね。スポーツ特待生で入っている女子サッカー部の主将をしている娘よ。SS研に秀也さんが入れた子ね」

 

 時子が言った。

 

「ああ、明日香か……。まあ、あれは、俺がSS研に入れたというよりは、絹香の付録だしな。絹香を引っ張ったら勝手についてきた。俺は手を出したことはねえぞ」

 

「多分、週明けまでには片付くのでしょう。それで六人……。双子を除いてもね」

 

「七人目は、真夫が餌として撒いてたSS研の展示物に興味を抱いていた女子高生モデルをしているあれか? そっちも真夫は準備中か?」

 

「さあ……。ただ、ちょっと、所属している芸能事務所と契約でもめていることがわかって、玲子が調べてるわ。場合によっては様子見にするんじゃないかしら。いずれにしても、最終的には真夫ちゃんは手を伸ばすと思うけど……。ほかには、九条家の娘とかかしら……」

 

「九条家の娘? なんだそれは? 学園にそんなのがいたか? 九条家というのは、あの九条家だろう?」

 

「その九条家ね。金城家繋がりよ。あの金城家の嫡男の許嫁ね。玲子はある取引を申し込まれたみたいだわ」

 

 時子が笑った。

 

「おいおい、随分と具体的なことになっておるのだな。ならば、真夫が十人を集めるのは時間の問題ではないのか? 多少の妨害はするだけ無駄という感じもするのう。なかなか頼もしい女たらしではないか。豊藤の跡継ぎに相応しい」

 

 龍蔵が大笑いした。

 そのときだった。

 時子が屋敷の制御器に繋がっているスマホを取り出して、屋敷の出入口のセンサーに、正人が到着したという反応があったことを告げた。

 

「なら、秀也、行こうか……。そして、時子はここを頼む」

 

「わかりましたわ。徹底的に躾けておきます、龍蔵さん」

 

 時子が頷いた。

 一方で、龍蔵が秀也の手を取って、秀也を立ちあがらせる。

 その顔には、秀也に対する情欲がはっきりと浮かんでいた。

 秀也は苦笑した。





 *

 次章は前田明日香の章になる予定です。


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第16章 百合【前田 明日香】
 第93話  スポーツ特待生徒の困惑


 夜闇を貫けとばかりに、力いっぱいに蹴ったシュートは、ゴールポストの枠にも当たることなく、わずかに枠を外れて、ポストの上側を通り過ぎていった。

 

「ちっ」

 

 明日香は舌打ちした。

 行儀は悪いが、グラウンドに立っているのは、明日香ひとりであり、聞く者もいないので問題はない。

 学園内の女子サッカー部用の第一グラウンドである。

 

 放課後の練習はすでに終了していて、グラウンドにいるのは明日香ひとりだ。全体練習の後は、こうやってひとりで練習するのを自らに課していて、夜の個人練習は明日香の日課のひとつだ。

 グラウンドを灯すライトも消灯させてあるが、女子サッカー部にあてがわれている球技用グラウンドは、学園内の大きな通りに面しているので、通りを灯すための照明がわずかな灯りをくれている。

 学園には、こういう球技グラウンドが五個あるが、学舎や寮や厚生センターエリアなどが集まっている利便性の高い第一グラウンドを割り当てられているのは、女子サッカー部である。

 

 この学園は、すべてが身分や功績に応じた格差を歴然とさせて、それで競争意識を育てるというところがあり、女子サッカー部が優遇されているのは、学園内の運動部の中で唯一全国大会の出場の功績をあげたからだ。

 もっとも、それは明日香が入部してからのことであり、全国大会出場は明日香が二年生のときだ。

 すると、それまで一番環境のいい第一グラウンドは、女子サッカー部の専用とされ、それまで使用としていた男子運動部は第二以下に出された。

 口惜しがっていたが、結果がすべてだ。

 優遇されて、それを妬まれるのは悪い気持ちではない。

 むしろ、努力への評価だと思っている。

 

 二年生の後期になって、三年生が引退すると、明日香は当たり前のように主将となり、冬の大会でも、チームを全国出場に導いた。一回戦で敗退したものの、学園は明日香を高く評価してくれ、明日香の生徒格をB級からA級にあげてくれたのだ。

 

 学園の生徒等級は、保護者の支払う学納金によって区分されるので、明日香のような一般家庭の生徒がA級に昇進するのは破格の待遇といっていい。

 なにしろ、別格のS級はともかくして、上流階級や資産家の子弟が属するA級生徒と、一般生徒と称されてるB級生徒とは、学園内の扱いはまったく違うのだ。ただし、A級とB級では、学園に収める学納金の桁が変わってくる。

 

 A級生徒しか使用できない学園施設はたくさんあり、共有設備においてもA級は優遇されていて、学園の備品もA級生徒とB級生徒とでは、まったく質が違っている。

 そもそも制服から違う。

 A級については茶系統のブレザー、B級生徒は黒地に白の模様のある制服であり、ひと目で区分できるようになっている。

 いってみれば、「貴族」と「庶民」というところだ。

 この学園は、上流階級の子供が多い。そうやって、学生時代から格差意識を持たせるということなのだ。

 

 「持てる者がそれに応じる支出をする代わりに、優遇を受ける権利を持つ」ということらしい。

 明日香は、中学校の時代の運動部の功績で、「スポーツ特別奨学金生徒」、すなわち、「スポーツ特待生」として入学し、授業料を含めて学納金は全額免除されていたが、生徒格は当然にB級だった。

 しかし、明日香が入ったことで、全国出場の常連になったことを評価され、まさかのA級生徒昇格が認められたのだ。

 しかも、学納金の免除はそのままで……。

 だからこそ、明日香は努力を怠らない。

 調子が悪くても、いや、調子が乗らないときだからこそ、自らに課している自主練習をするのだ。

 

 しかし、今日の調子は最悪だ。

 足元も見えるし、ゴールポストもくっきりと照らしてくれているので、シュートの失敗は、明るさのせいではない。

 午後から、なぜかずっと調子の悪い身体のせいだ。

 それとも、集中を乱す明日香の悩みのためか……。

 明日香は、散ったボールを集めるために、車輪のついたボールの大籠を押してゴールポストに向かって歩いた。

 

「ふう……」

 

 散らばったボールを集めて、今度はゴールエリアのやや左側の外側に行く。練習用の壁用のダミー人形をボールの位置とゴールポストのあいだに置いて準備をする。

 ずっとやってたのは、フリーキックを想定したシュート練習だ。

 だが、いつもなら、練習であれば八割は入るのに、今日に限って、成功率は五割を切っている。

 

 どうして……。

 

 午後から急に始まった異常なほどの身体の火照り……。

 着替えのときに布が擦れても腰が震えるほどに、身体が敏感になっているのだ。生理が始まった直後は、いまのように肌が感じやすくなることもあるが、今日は違うし、そもそも、そんな生易しい疼きではない。

 よくわからずに、午後の最初の授業を休んで医務室に行ったが、特に異常はないということで帰された。常駐医には、休む必要はないと断言をされた。

 ただ、そのときに、ビタミン剤だと言って飲まされた丸薬を服用してしばらくすると、余計に身体が熱くなってきた気がした。

 とにかく、今日はその身体の火照りが収まらず、放課後の全体練習も散々だった。

 

 明日香は大きく深呼吸した。

 フリーキックは、冷静さを保つことが大切だ。心の中で繰り返し自分自身を落ち着かせる。

 ボールを置く。

 視線をゴールに向ける。

 ダミーの壁は完全にシュートコースを塞いでいるので、左側の外を抜けて、大きくシュートさせてゴールポストの左上に入れる……。

 頭の中でボールの軌道を決める。

 後は蹴るだけ……。

 深呼吸を繰り返していると、さっきまで高鳴っていた心臓の鼓動が不思議に静かになる気がした。

 

「はっ」

 

 助走とともにボールに向かい左足を振り抜いた。

 ボールは頭に描いていた軌道のままに、ゴールポストの左上の隅に突き刺さった。

 

「よし──」

 

 明日香は右の握り拳を胸に掲げてガッツポーズをした。

 その瞬間、腕が胸に当たって乳房を揺らした。すると、スポーツブラの中で勃起していた乳首が布に擦れて、鋭い快感が身体を走った。

 

「あっ」

 

 がくりと脚から力が抜ける。

 ずっと襲っていた不可思議な身体の疼きだ。

 明日香は思わず、両手で胸を抱いて膝を折る。

 

 だめだ……。

 さすがに、これは異常だ……。

 しかし、どうして……。

 

 なにかおかしなものを口にした覚えはない……。

 普通に学園から支給されている食事をとり、練習中の水分だって、女子サッカー部用に支給されるペットボトルの飲み物だ。

 いつもと違うのは、医務室で飲んだビタミン剤だが、まさか、あれが体質に合わなかったとか……?

 でも、身体の不調はその前からだったし……。

 我慢できなくて、手で覆っている乳房をユニホームの上からぎゅっと強く握る。

 

「あんっ」

 

 途端に身体に甘い痺れが駆け抜け、明日香は思わず声をあげてしまった。

 慌てて手を離そうとしたが、手は離れなかった。さらにぎゅっと手に力を入れていく。

 快感が全身を走る……。

 

「見事なシュートね。さすがは、明日香だわ」

 

 そのとき、突然に拍手が聞こえた。

 飛び跳ねそうになるほどに驚いて、手を胸から離して振り返る。

 

 西園寺絹香が彼女のふたりの侍女とともにそこにいた──。

 生徒会長である彼女は、それを理由にS級格をもらっており、S級生徒を示す紺と紫と白を基調とした制服を身にまとっている。

 また、絹香の後ろには、いつものように、従者生徒のC級用の灰色の制服を身に着けた梓と渚の双子が大人しく控えていた、

 とにかく、明日香は仰天した。

 しかし、すぐに平静を装う。

 

 西園寺絹香は、明日香の親友であり、恋人で……。

 いや、恋人だと思っていた……。

 

 女同士ではあるが、明日香は本気だったし、絹香もそれに応えてくれていると思い込んでいた。

 愛し合っていると思っていた……。

 お互いに身体を慰め合ったのは、十や二十ではきかない……。

 

 絹香の全てを支配し……、絹香もまた明日香を支配した。

 裸体を触れ合わせて愛し合い……。

 欲情をぶつけ合い……。

 

 そういう関係だったのだ……。

 もちろん、人に言える関係ではないが、明日香は本気だった。彼女となら人生を一緒に過ごせると……。

 だが、突然に破局はやって来た。

 

 絹香の男の恋人ができたのだ……。

 いや、恋人なのかどうかもわからない。

 

 坂本真夫……。

 

 一か月ほど前に学園に、三年生として入ってきた編入生だ。彼はなにかと話題を集める生徒だった。

 女子大生の美人の恋人を堂々と侍女として連れてきたところから始まり、また、孤児だという噂がたったにも拘わらず、待遇は特別待遇生徒のS級生徒になったのだ。それは、入ってくる前から話題だった。

 それだけでも注目された人物だったが、彼がS級になることで、それまでのS級からA級に降格になったあの竜崎に逆恨みされ、恋人を拉致されてレイプされそうになると、その現場に乗り込んで竜崎を再起不能にしたのである。

 しかも、どういうやり取りがあったのかはわからないが、学園も竜崎家も、まったく坂本真夫を咎めることはなかった。

 

 そして、彼には女性に人気がある。

 恋人だという女子大生だけでなく、A級生徒でありながら侍女生徒のC級になって、彼を世話をすることになった白岡かおりなども、彼の世話をかいがいしくやっている。

 白岡かおりが坂本真夫と男女の関係があるのは明らかであり、淫情に呆けたような色っぽい表情を隠すことなく見せたりもしている。

 しかも、孤児だという出生にもかかわらず、意外にも女生徒には、彼に魅了される者が少なくないのだ。

 女子サッカー部の中でも、最近は彼の話題が結構頻繁に出るようになってきた。

 もっとも、それだけなら、不思議な存在ではあるものの、坂本真夫という男子生徒など、明日香とは無関係のはずだった。

 

 ところが、その彼の取り巻きに、西園寺絹香が加わったのだ。

 明日香はショックだった。

 しかも、それから絹香は、あれほど頻繁にしていたSNSをなかなか返してくれなくなり、放課後や休み時間に明日香と付き合ってくれることもなくなった。

 

 身体の異常な火照りのこともあり、苛立って、今日など坂本真夫と図書館でぴったりとくっついている絹香のところに乗り込みさえした。

 

 ところが、絹香は明確に真夫を庇い……。

 明日香の目の前で口づけをされて、怒るどころかうっとりと坂本真夫を見つめ……。

 まるで、明日香などいないかのように……。

 そもそも、彼は、事もあろうに絹香を命令して従わせ──。

 それなのに、絹香はそれを否定もせず……。

 

 明日香はショックだった。

 絹香が坂本真夫の愛人になるのであれば、じゃあ、これまでの明日香との関係はどうなるのか──?

 このまま、なにもなく清算されるのか……?

 まったく、存在しなかった日々のように扱われるのか──。

 

 それから、ずっと明日香の腹は煮えたぎっている。

 今日調子が悪いもうひとつの要因が、身体の不調とともに、絹香に裏切られたという激しい苛つきだ。

 

「な、なによ……。いつから、いたのよ、絹香?」

 

 胸を自分で揉むというような自慰の真似事を見られはしなかっただろうかという動揺を隠して、明日香は言った。

 だから、かなりぶっきらぼうな物言いになってしまった。

 

「ついさっきね。練習をしているあなたが見えたから、ちょっと寄ってみたのよ。再来週から地区のリーグ戦よね。頑張ってね」

 

 絹香が言った。

 

「なによ。ご主人様のお相手はいいの? あたしの相手なんか、どうでもよくなるくらいに、ご主人様に可愛がってもらっているんじゃないの?」

 

 明日香は言った。

 だが、言葉を口に出した瞬間、自分の発言を後悔した。

 いや、こんな嫌味など言うつもりはなかったのだ。

 急に絹香が連絡を寄越さなくなって、こうやって会話をするのも久しぶりだ。

 

 嬉しい──。

 だって、絹香が自分から来てくれたのだ。

 本当は嬉しい……。

 でも、どうしても怒りが収まらない……。

 

「ふふ、可愛いわね、明日香……。ちょっと相手をしなかったから拗ねているの?」

 

「す、拗ねてなんかないわ──。き、絹香こそ、なんの気紛れよ──。あたしの相手なんてしたくなくなったんでしょう──。もう、どっか行ってよ──」

 

 違う──。

 こんなこというつもりはない──。

 本当は一緒にいて欲しい……。

 どこにもいかないで、明日香のそばにいて欲しいのだ──。

 

「まあまあ……。でも、このところちょっと冷たくなっていたのは謝るわ。わたしも、それどころじゃなかったのよ……。昼間のことで、もうわかっていると思うけど、わたしは彼の奴婢になったの。性奴隷ね。彼の調教を受けていたのよ。だから、あなたの相手ができなかったのよ」

 

 絹香があっけらかんと言った。

 

「奴婢? 調教──?」

 

 明日香は唖然とした。

 だが、そういえば、図書館で明日香が怒鳴り込んだとき、そんなことを真夫は口にしてた。

 なにかの言葉の綾だと思っていたが……。

 

「ね、ねえ、もしかして、あなた、まさか、彼に脅されてないわよねえ……?」

 

 急に心配になり訊ねた。

 しかし、考えてみれば、そもそも孤児出身の真夫という男子生徒が、西園寺家の令嬢である絹香を言いなりにするということが不自然なのだ。

 もしも、そうなら……。

 

「それは否定しないわね。そもそも、脅迫だったかしら、突然にわたしの映像がメールで送られたわ。ちょっと他人には見せられない映像……。もしも、これを公開されたくなかったら、命令に従えってね」

 

 絹香が笑った。

 なんで、そんなに明るく笑えるのかわからないが、その言葉には衝撃を受けた。

 絹香は脅されていたのか──?

 

「そ、それなら……。い、いえ、どうして早く言ってくれなかったのよ──。そんなこと許せない──。絶対に──。と、とにかく、学園に訴えて……」

 

 明日香は絹香の肩を掴んだ。

 許せない──。

 明日香は思った。

 しかし、肩を掴んでいた絹香は、明日香の手にそっと触れて、自分の身体から離す。

 

「それはいいのよ……。それに無理──」

 

「いや、無理ってなによ。意味がわからないんだけど……」

 

「離れるつもりはないってこと」

 

「えっ、なんでよ。だって……」

 

「いいの──。もう終わったことで、わたしは満足してるの……。それよりも、今日来たのは、あなたを誘いに来たのよ……」

 

 絹香が言った。

 

「誘い?」

 

「SS研に入って……。いえ、正確にはもう部員なんだから、わたしたちの活動に参加しなさい。真夫さんの奴婢……つまり、性奴隷になってくれない。わたしと一緒に……」

 

「はあ?」

 

「また、わたしとまた、百合遊びをしましょうよ」

 

「百合遊び?」

 

「そうよ。もう忘れたわけじゃないんでしょう? わたしのことを……」

 

 絹香は誘うように口角をあげる。

 この女は……。

 むっとした。

 忘れたかですって……?

 それはこっちのセリフだ──。

 だったら……。

 

「いいわよ」

 

 明日香は言った。

 

「本当に?」

 

 絹香は眼を丸くした。

 明日香があっさりと応じるとは思わなかったのかもしれない。

 

「ええ──。その代わりに、彼と別れて」

 

 明日香はきっぱりと言った。

 答えはわかっているが、どう絹香が答えるか……。

 でも、それによっては、二度と仲良くなんてしてやるものか──。

 絹香なんて、大嫌いだ──。

 

「いいわ」

 

 絹香は言った。

 

「えっ?」

 

 今度は明日香が驚く番だった。

 

「でも、条件があるわ」

 

 しかし、絹香はすぐに言葉を続けた。

 

「条件?」

 

「わたしと、賭け勝負をしましょう」

 

 絹香が微笑んだ。



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 第94話  賭けゲームのハンデ

「勝負って?」

 

 明日香は訝しんだ。

 勝負とはどういう意味だろう?

 

「そうねえ……。サッカーのPK対決なんてどうかしら。もちろん、わたしたちは、シュートなんてできないから守るだけよ。あなたが三球蹴って、一発でも外せば、わたしの勝ち。全部シュートが決まれば、あなたの勝ち。こんな感じでどう? そして、勝った方は負けた方の言うことをなんでもきくのよ」

 

 絹香が言った。

 明日香には、絹香の魂胆が想像できてしまった。

 そして、自分の背筋が冷たくなるのを感じた。

 十中八九、これは、その坂本真夫の命令だろう。どういうわけか知らないが、絹香は、その真夫のどんな命令にも逆らえないほどに心酔してしまって、いまは、その真夫の命令で、明日香に接触しにきたということだ。

 絹香だけでなく、明日香まで真夫の性奴隷とやらにしようと思って……。

 

「でも、もちろん、ハンデはつけてもらうわ。だって、明日香は全国出場を果たすほどの女子サッカー部の主将でストライカーで、わたしたちはまったくの素人だもの。ハンデなしで、明日香が勝つのは当たり前だわ」

 

 どんなハンデか知らないが、ハンデがないと明日香が勝つのが当たり前だけじゃなく、ハンデがあったところで明日香が勝つのは当たり前だと思った。

 ペナルティキックというのは、ゴール前の十メートルそこらの距離から、一対一で蹴るのだ。実際、ほとんど外すことなどない。キーパーを絹香がするつもりなのだろうが、そもそも、西園寺家の令嬢である絹香の運動神経は普通だ。

 絶対に、明日香が勝つ──。

 

「へえ……。それで、あたしがその賭け勝負に勝てば、絹香はその坂本真夫を別れるということでいいのね?」

 

 明日香が勝つのが当たり前の勝負を提案してきて、なにを企んでいるかわからない。

 だが、それで絹香が真夫と距離を置くということであれば、勝負をする価値はある。

 脅迫をして性奴隷にされたというようなことをあっけらかんと明るく言う絹香はおかしいのだ。なにかの洗脳でもされたのではないかと怪訝に感じるほどだ。

 

 まあ、もっとも、外面では真面目で固い生徒会長で知られている絹香だが、実はド淫乱で双子の侍女たちを性的嗜虐をして愉しむ悪癖があるのは、当事者の侍女たちを除けば、明日香しか知らない秘密だろう。

 もしかしたら、真夫はそんな絹香の性癖に付け込んだのかもしれない。

 だが、冷静になって頭を冷やす時間を稼ぐことができさえすれば……。

 

「その代わり、明日香が負ければ、わたしの言うことをきいてもらうわよ」

 

「わかったわ。やろう──」

 

 明日香はボールの入っているボールカゴを押して、ゴール前のPKの位置に移動した。

 絹香たちもついていくる。

 ボールを所定の位置に置く。

 

「勝負と決まった以上、手を抜くことはないわよ。絹香の顔面だけは狙わないようにはするけどね」

 

「わたしは守らないわよ。さすがにできないもの。キーパーは渚がやるわ。(なぎさ)、位置に付きなさい」

 

 絹香は言った。

 

「はい、お嬢様」

 

 双子のうちのひとりが制服のままゴールポストの前に向かう。

 実のところ、明日香は絹香の侍女の双子とはほとんど喋ったことはない。名前もよく覚えてなかった。

 そういえば、渚という名前だったか……。

 もうひとりは、誰だっけ……。(あずさ)……?

 

「大丈夫なの? もちろん、誰がキーパーでもいいけど」

 

「渚も梓も、わたしよりは遙かに運動神経はましよ。わたしの護衛も兼ねてるから古武道をたしなんでるわ。甘くみないことね」

 

 絹香が白い歯を見せた。

 

「甘くみることもないけどね……。じゃあ、もういいわね?」

 

 明日香はキックの態勢をとった。

 

「ちょっと待ってよ。まだハンデを言ってないわ」

 

 明日香は顔を絹香に向けた。

 そういえば、ハンデをつけると言っていたか……。

 

「そうだったわね。それで、ハンデってなに?」

 

「まずは、これで親指を重ねて縛らせてもらうわ。背中側でね。指縛りよ。覚えているでしょう?」

 

 絹香が一本の細い紐を取り出した。

 明日香はどきりとした。

 

 指縛り……。

 

 なんてことのない悪戯だと思って、以前に絹香に言われるままに、両方の親指を重ねて背中側で根元を縛ることを許したことがある。

 思いもしなかったが、たったそれだけで、完全に両手の自由を奪われてしまうのだ。

 それからあとは、絹香の気が済むまで、徹底的に明日香は絹香の玩具にされた。

 あの痴態を思い出して、明日香はかっと身体が熱くなるのを感じた。

 

「な、なんで、そんなことをする必要があるのよ──」

 

「そりゃあ、もちろん、明日香の動揺を狙うためだわ。それに腕が動かなければ、普段のような蹴りもできないでしょう。素人と対決するんだから、そのくらいのことはさせてもらわないと」

 

 絹香は言った。

 明日香は躊躇った。そもそも、後ろ手に拘束されたままシュートができるかどうか不安だったのだ。

 そんなことは一度もしたことないし……。

 

「わかったわ。でも、一度練習させて」

 

「だめよ。練習はなし……。どうするの? 勝負はやめる?」

 

 絹香が挑むように言った。

 明日香は迷った。

 そして、絹香を見る。

 

「……約束は守るわね……。あたしが勝てば、坂本真夫と絹香は別れる。本当ね?」

 

「守るわ。その代わりに、負ければ明日香は、わたしの玩具よ。なにをされても、文句はなし。そうねえ……。なにしようかしら……。少なくとも、明日の朝までは離さないわ。もしかしたら、明日の一日だって……」

 

「好きにするといいわ。サッカーであたしが負けるなんてあり得ないし……」

 

「じゃあ、親指を背中側で重ねて」

 

 明日香は絹香に背を向けて、両親指を背中で重ねた。

 その親指の根元を紐で縛りあげられる。

 

「これでいいわ。じゃあ、二つ目のハンデね」

 

「二つ目──。そんなの聞いてないわよ──」

 

 びっくりして明日香は声をあげた。

 

「心配しなくても、ハンデはそれで終わりよ。さあ、梓──。渚も来なさい──」

 

 両手を封じられた明日香を絹香が後ろから羽交い締めにした。

 

「あっ──なにするのよ、絹香──。離して──」

 

「じたばたしないのよ。ちゃんと約束は守ってあげるから……。もしも、あなたが勝てばね」

 

 とにかく、絹香を振りほどこうともがいたが、前から絹香の侍女の梓が明日香の腰を掴んで動きを封じる。

 しかも、いつの間にか、キーパーの位置にいたもうひとりの双子の渚も戻ってきて、明日香に抱きついた。

 さすがに三人がかりでしがみつかれれば、抵抗などできない。すでに両手を背中で拘束されているのだ。

 すると、腰を掴んでいた梓が明日香がはいていたサッカー用の半ズボンのパンツを膝まで押し下げた。

 

「きゃああ、なにするのよ──」

 

 明日香は悲鳴をあげた。

 

「大きな声を出さない方がいいんじゃないの。金曜日で生徒は外出して少ないといっても、厚生棟に近いこのグラウンドだと、何事かと思って覗きに来る男子生徒がいないとも限らないわよ」

 

 後ろから明日香にしがみついている絹香が耳元でささやく。

 羞恥が襲いかかる。

 確かにそうだ──。

 明日香は口を閉じた。

 

 すると、梓がプレイのときに身につける明日香のボクサータイプの下着の上から、いつの間にか手にしていた革ベルトのようなものを腰に巻きつけた。

 そして、その革ベルトには、真ん中に股間を割る帯ベルトもついていて、それを股間にぐいと下着の上から喰い込まされる。

 

「ひんっ、なにこれ──」

 

 装着される前にはわからなかったが、股間に喰い込まされた革帯の内側には幾つかのの丸い突起がついていたようだ。

 それがクリトリスや局部などに当たって、明日香に刺激を与えてきたのだ。

 ずっとおかしな情感で疼いていたこともあり、それに締めつけられた瞬間に、鋭い刺激が明日香の股間から脳天に向かって突き抜ける。

 

「ああっ、やっ──」

 

 明日香は一気に脱力して膝を崩してしまった。

 そのときには、後ろで金属音がして、その股間の革帯にロックがかかったのがわかった。

 

「じゃあ、準備は終わりよ。勝負を始めましょうか、明日香」

 

 絹香たちが膝におろしていたパンツを元に戻して明日香を解放した。

 しかし、明日香は膝を地面につけたまま立てなかった。動くと異物によって股間を苛む革帯が身体を刺激するのだ。

 

「な、なによ、これ? こんなのつけて、蹴れるわけないでしょう──」

 

 明日香は身体を震わせながら、絹香を睨んだ。

 

「賭け勝負の放棄は問答無用で負けよ」

 

 しかし、絹香は明日香を見下ろしながら、容赦のない口調で言い放った。

 

「ひ、卑怯よ──」

 

「これがハンデよ。それとも、明日香が勝つとわかっている勝負で、わたしを彼と別れさせようと思ったの?」

 

 絹香が制服のポケットから小さなカードのようなものを取り出した。

 次の瞬間、突然に股間の秘裂を圧迫している革帯の球体が動き出したのだ。布越しだが、悶絶するのかと思う程の快感が股間から全身に貫く。

 

「うんっ」

 

 なにが起きたかわからないまま、明日香はしゃがんだまま内腿を摺り寄せた。

 強烈な刺激が身体の内側を襲ってきた。

 午後からずっと疼いて熱くなっている股間への突然の刺激は強烈だった。

 

「な、なによ、これ──。や、やめてっ」

 

「勝負をするわね?」

 

 股間の球体の振動がだんだんと強くなる、

 

「や、やめてえっ」

 

 明日香は身体をがくがくと両脚を擦り合わせながら絹香を睨んだ。

 

「勝負をすると誓いなさい──」

 

「ふくうっ──」

 

 明日香は身体を硬直させて眼を閉じた。

 今度はクリトリスだ──。

 そこにも、球体が当たっていたが、それがローターのように動き出した。

 身体が反り返るような、甘い感覚が駆け抜ける──。

 

「勝負するわね?」

 

「するうっ──。するから、とめて──」

 

 明日香は叫んだ。

 やっと股間の内側の球体の振動が停止した。

 

「じゃあ、勝負よ」

 

 絹香が言った。

 

 


 

 

 おぼつかない足取りで、明日香がPKを蹴るための位置につく。

 ゴールポスト側でキーパーをするのは渚だ。両手と両脚を拡げて、ボールを弾き返す体勢をとった。

 それに対して、明日香はボールの置いてある位置にそのものに立った。

 

 ただし、後ろ手に指縛りで拘束されているし、さっき股間に装着させた革帯の内側の球体で悪戯を繰り返した結果、サッカーの半ズボンの前部分が染みで丸く変色している。

 今日の昼食以降、あの玲子さんの工作によって、明日香が口にするものにはかなり強い媚薬を混ぜさせたらしい。しかも、体調の異変を覚えた明日香が医務室を訪れたので、さらに強い媚薬をビタミン剤だと騙して服用させる徹底ぶりだ。

 そして、その玲子さんによれば、午後だけで明日香は、二度トイレに駆け込み、ひそかに自慰をしたらしい。

 その隠し撮りの映像データも、少し前にスマホに送られてきたからびっくりした。まあ、映像で脅しても明日香には無意味なので使うつもりはないが、改めて玲子さんには驚きだ。

 いずれにしても、そんな事前工作で明日香の身体は信じられないくらいの発情状態にあるはずだ。

 そのうえで、股間を刺激する淫具の帯まで仕掛けたのだ。

 ここから見るだけでも、明日香の足腰がふらついているのがわかる。

 あれで、まともにボールが蹴れるわけがない。

 

「そこでいいの? 助走はしないの?」

 

 ボールのすぐ近くで体勢をとった明日香に絹香は訊ねた。

 絹香と梓はゴールエリアの外側にいて、明日香とは距離を置いた位置にいる。

 

「好き勝手に股間を動かされて、足元をもつれさせられたら、たまらないわ──。それよりも、ここまで受け入れたんだから、約束は守るのよ、絹香──。あたしが勝負に勝ったら、あの坂本真夫とは別れてもらうからね」

 

「あなたこそ、一本でもしくじれば、あなたは、わたしたちになにをされても文句は言わない……。誓うわね?」

 

「ち、誓うわよ──」

 

 明日香は怒ったように吐き捨てると、ボールを蹴る体勢になる。

 まあ、絹香は明日香が蹴る直前に、遠隔操作で股間に当たっている突起を動かしてシュートを邪魔するつもりなので、助走してくれた方が好都合なのだが、それは明日香も読んでいたようだ。

 だが、いまにも蹴る体勢だった明日香が、思い出したように身体から力を抜き、こっちに視線をやった。

 

「そういえば、あたしのシュートのタイミングはどうするの? 警笛とかないけど、あたしの都合でいいのかしら?」

 

 絹香に視線を向けたまま訊ねてきた。

 

「タイミング? もちろん、明日香のタイミングでいいわ……」

 

 絹香がそう応じると、その言葉が完全に終わる直前に、明日香はこっちを見たまま左脚を振り抜いた。

 キーパー役の渚などまったく反応できずに、ボールはゴールの左上の枠内に突き刺さる。

 

「くっ……。ま、まずは一本ね……」

 

 明日香が膝を半分折る。

 顔は真っ赤だし、かなり息も荒い。

 だが、あんな状態で決まってしまった。

 絹香は呆気にとられた。

 

「あっ、ず、狡いわよ──」

 

「なにが狡いのよ。こんなものを装着させて、PK勝負をさせる絹香の方がずるいわよ──」

 

 明日香は後手で指縛りをしている手で、背中側で器用にカゴからボールをとると地面に転がして、PKの位置に足で配置した。

 

「ま、待って──。撃つタイミングはこっちで指示する──。わたしが声を掛けてから──」

 

「わ、わかったわ。じゃあ、声を掛けて……」

 

 明日香はそれだけ言うと、集中モードに入った。

 

「……だ、大丈夫よね……。勝つわよね……」

 

 絹香は隣にいる梓にささやく。

 

「当たり前です。次はタイミングを逃さないでくださいね……。ずっと動かしている慣れる可能性もありますけど、突然、動かされれば絶対に対処できません。必ず失敗します……。まともに蹴れもしないはずです」

 

 梓だ。

 

「……でも、さっきは決まったわ」

 

「そうですね。さすがは明日香さんですね。サッカーともなると、淫具を装着されていても、シュートにぶれはありませんでした。それこそ、何千回、何万ものシュート練習の結果、身体が覚えてるのでしょう」

 

「呑気なこと言わないでよ。万が一、三球とも決められたらどうするのよ……。真夫さんと別れなきゃいけなくなるじゃない」

 

「馬鹿ですか、お嬢様は」

 

 すると、梓が遠慮のない言葉を放った。

 

「ば、馬鹿って……」

 

「すでに、勝負なんて詰んでるんです。両手は指縛りで拘束して、大量の媚薬で発情状態。そのうえで、股間に淫具まで嵌めたんです。負けたところで、今度は次の勝負を挑ませればいいだけじゃないですか。明日香さんが最終的に勝つことはあり得ません」

 

「結構狡いことを考えているのねえ……。でも、それじゃあだめよ。明日香を納得させるためには、賭け勝負に負けたという結果がないと……」

 

「わかってます。最悪でも、明日香さんが逃げられるわけがないということを言いたかったのです」

 

「まったく、あなたは……」

 

 絹香は嘆息した。

 わざわざ勝負事の状況を作ったのは、梓の考えだ。いまも、絹香が主導して明日香を追い詰めているように見えるが、絹香は梓の命令通りに動いているだけであり、梓の指示に従っているだけだ。

 

「いずれにしても、勝負に応じた時点で明日香さんに勝ち目などないんです……。でも屈服させるには納得できる負けがあった方がいいのはわかってます。だから、今度はタイミングを間違わないでくださいね。失敗すれば、絹香お嬢様には罰を与えますからね……」

 

「ば、罰って……」

 

「そうですね……。週明けにでも、おむつをして授業に出てもらいましょうか。もちろん、一日トイレに行くのは禁止で……。出掛けに浣腸もさせてもらいます」

 

「うう……。わ、わかったわ……」

 

 すっかりと、絹香の調教係として下剋上を果たしている梓が冷徹に言った。

 やると言ったらやるのだろう……。

 もはや、絹香の全てを管理しているのは、真夫であり、この梓だ。トイレに行くなと言われれば行くことはできないし、おむつをつけろと言われれば、それを拒む手段は絹香にはない。浣腸であろうと逃れられない。

 失敗しないようにしないと……。

 

 絹香はポケットの中でリモコンのスイッチを握りしめるとともに、明日香に合図をした。

 明日香は大きく脚を後ろに引く。

 シュートの体勢に入った──。

 絹香は振動のスイッチを押した。

 

「くあっ」

 

 だが、明日香は蹴る素振りだけで振り抜くことなく、蹴り足を宙でとめた。

 膝を折り掛けたものの、シュートそのものはしてない。

 

「くあっ」

 

 そして、蹴り抜いた。

 かなり激しい振動が続いているはずだが、シュートそのものは崩れることなく見事であり、ボールもネットに突き刺さった。

 今度も、渚は動くことはできなかった。

 それくらい強烈なシュートだった。

 

「うーん、さすがの集中力ですねえ……。途中で股間を刺激されるよりは、タイミングをずらして、刺激されたまま蹴ることを選んだみたいですね。すごいです」

 

「感心している場合じゃないでしょう。もうあと一発よ」

 

 絹香は梓に訴えた。



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 第95話  勝負の決着と怒りの女

「はあ、はあ、はあ……」

 

 明日香は、二回目のシュートを蹴り終わったら、その場にしゃがみ込んでしまった。

 だが、すぐによろよろと立ちあがった。

 いまだに股間の淫具は淫らに動いて、明日香の股間を苛んでいるはずだが、大した自制力だと思った。

 

 その明日香が三個目のボールをカゴから取って地面に転がす。

 後手に拘束されている状態では、随分とやりにくいだろうが、身体を倒してボールを後ろ手で取ってカゴの外に出し、シュートをする位置にそのボールを足で移動させたのだ。

 だが、ずっと振動が続いているので、真っ直ぐに立つのも苦しいのか、膝を密着させて腰を中腰に曲げた状態で脚を震わせている。

 だが、それなのに、いざシュート態勢になると、淫具に苛まれていたとしても、急に真っ直ぐになるのだ。

 すごい集中力だと思った。

 

「すごいわね、明日香。素晴らしいわ。あとひとつね……」

 

 とりあえず、絹香は明日香の股間に嵌めている淫具の振動を止めた。

 明日香が微かに脱力して気を抜いた感じになる。

 媚薬で発情されている身体に受ける刺激は、やはり、平静を保つにはかなりの気力を有するのだと思う。

 しかし、振動を止めると、極限までに張られていた気が少し緩んだみたいだ。

 絹香は、それを確認すると、間髪入れずに、すぐに振動を再開した。

 

「ひあああっ、ああっ」

 

 明日香が悲鳴をあげてしゃがみ込む。

 リモコンで操作できる明日香に嵌めさせている帯帯の内側についている半球体の突起は、全部を一斉に振動させることもできるし、一部分のみだけ振動させることもできる。

 自由自在なのだ。

 いまは、それまで動かさなかったアナル近くの球体を初めて激しく動かしたのである。

 

 真夫から受け取ったものであるが、かなりの高性能なものであり、絹香も実験として嵌められたが、あれから受ける快感を我慢するなど普通は無理だ。

 それなのに、明日香はあの状態でシュートを決めてみせるのだから、本当にすごいとは思う。

 でも、どうしても、明日香には屈服してもらわないとならないのだ。

 

「絹香様、時間を稼ぎなさい……。明日香さんの気を逸らせて……」

 

 梓が耳元でささやうた。

 絹香は小さく頷く。

 

「キーパーを交代します、明日香さん──」

 

 そして、梓は、明日香に声を掛けてから、渚のいるゴールポストに向かってゆっくり歩いていく。

 それに合わせるように。絹香は明日香に寄っていった。

 明日香は蹲ったまま、身体を俯かせて身体を震わせ、必死に口をつぐんでいる。多分、口を開くと声が出そうなのだろう。

 絹香もそうだった。

 

 リモコンの振動を止める。

 蹲ったままの明日香の前に立った。

 

「ねえ、明日香……。一緒に真夫さんの女になろう……。彼に支配されるのよ……。同意して……。彼は……わたしたちの心を解放してくれるわ……」

 

 絹香は言った。

 

「やっと言ったわね……。でも、馬鹿みたいね。男の子に支配されたいの……? それで、あたしもって? ご主人様から、あたしも連れて来いって命令されたんでしょう? それでずっと無視してたのに、突然に接触してきたのよね……」

 

「彼は、わたしたちにとって、必要な人なのは確かよ」

 

「あなたにとってはね……。でも、あたしを巻き込む必要はないでしょう……」

 

「お願いよ。一緒に堕ちて……。悪いようには絶対にならないから……」

 

「あ、あたしも、彼に犯されろってこと? それが親友に告げる言葉?」

 

「だからこそよ……。だって、恋人だと思っているもの……。そうじゃないの……? だったら、一緒でいいじゃないの……。同じ男に支配されて……。でも、わたしたちは恋人で……」

 

 そのとき、梓と交代してこっちにやって来た渚が、すでに配置されているボールの前にきて、急にしゃがみ込んだ。

 明日香は背を向けているから気がついていない。

 

 絹香は、とりあえず、それから気を逸らさせるために、誘うように明日香に手を伸ばした。

 それはともかく、目の前の明日香に、百合愛を教え、そして、女同士で情欲を交わし合うことを教えたのは絹香だ。

 その絹香が突然に、男にのめり込んで関わらなくなったら、怒るのは当然だ。

 しかし、明日香のことを忘れたわけじゃない。いまも前も、明日香に対する気持ちに変化はない。

 ただ、別のものが混じっただけだ。

 でも、明日香が大切な人であることはなにも変わりないのだ……。

 

「絹香の恋人は、あの坂本真夫なんでしょう──?」

 

 明日香は拗ねたように言った。

 それでも、絹香に伸ばした手をとった。

 絹香はくすりと笑う。

 可愛らしい嫉妬だ。

 

「明日香も、彼の女になって──」

 

 絹香は後ろ手に拘束している明日香を抱きしめた。

 明日香は抵抗しない。絹香が抱き締めるがままになる。

 

「お断りよ」

 

 しかし、首を横に振った。

 本当に強情……。

 絹香は苦笑してしまう。

 

「それが答えということ?」

 

「そうよ──」

 

 明日香が腕の中で絹香を睨む。

 

「じゃあ、わたしの奴隷になりなさい」

 

 絹香は言った。

 明日香は眉をひそめた。

 

「はあ? 絹香は彼の愛人になったんじゃないの?」

 

「そうよ。だから、明日香は、真夫さんの奴隷になった私の奴隷なるの──。もちろん、わたしは真夫さんの奴隷なんだから、明日香も真夫さんの奴隷よ」

 

「嫌だって言ってるでしょう──」

 

 明日香が怒鳴った。

 

「だったら、仕方がないわね……。明日香にひとつだけ教えてあげるわ」

 

「教える?」

 

「同意がなくても支配できるってことよ」

 

 絹香はポケットのリモコンに触れると、全ての球体を一斉に最大限で振動させた。

 

「ひゃあああ、あああっ──」

 

 明日香がまたもや、その場に崩れ落ちる。

 しかし、これまではなんだかんだで、制御をしていた。だが、今度は一切の手加減なしの最大刺激だ。おそらく、明日香の中の芯になるような支えが砕けてしまうほどの衝撃のはずだ。

 絹香もそうだった。

 

「ううあっ、あっ、あっ、止めて、これはだめ、止めてええ──。は、早くよ──」

 

 膝だけでなく、頭まで地面につけるようにして、搾りだすように明日香が呻く。

 

「一緒に堕ちてよ、明日香──」

 

「う、うううっ、と、止めってからあ──」

 

「誓いなさい──」

 

「んぐうう──」

 

 明日香が必死の様子で首を横に振る。

 なんて強情なんだろう──。

 絹香は呆れてしまった。

 明日香の腕を強引に掴んで立ちあがらせる。

 まだ、振動はそのままだ。

 明日香の胸を服の上から揉みあげ、お尻をぐいと絹香の腰に押しつける。明日香の乳首は完全に勃起していた。

 これだけ欲情させられているのに、いまだに強情を張るのだと思った。

 

「あっ、あん」

 

 明日香が甘い声を出して悶える。

 絹香の手を払いのけようとはしない。それどころか、もっと刺激して欲しいかのように、絹香の手に胸を押しつけてきさえする。

 

「明日香、わたしと一緒に──」

 

 絹香はそれだけ言って、明日香の唇に唇を重ねる。

 すぐに、明日香は舌を差し入れてきた。

 しばらくのあいだ、唾液と舌を絡め合う。

 絹香は、口づけを交わしながら、明日香の股間に手を当てて、ぐっと持ちあげる感じにした。

 すごい振動だ──。

 当てている絹香の手に激しい振動が伝わってくる。

 

「んんんんっ──」

 

 絹香の腕の中の明日香が全身を突っ張らせて、がくがくと痙攣する。

 そして、絹香から口を離して、身体を大きく反り返らせた。

 

「んぐうう──」

 

 達したのだ。

 絹香は明日香を離してから、全ての振動を止めた。

 明日香が再び崩れ落ちる。

 

「……あなたの答えを待つわ。わたしと一緒に堕ちるなら、三本目のシュートは入れないで……。でも、もしも、あなたが勝てば、二度とわたしはあなたと関わらないわ」

 

 絹香は言った。

 

「えっ、どういうこと……?」

 

 明日香は驚いたような表情を見せた。

 達したばかりの明日香の顔は、唾液に濡れた唇をしどけなく開き、顔はまだ恍惚とした感じだ。

 しかし、絹香の言葉にちょっと驚いた感じだ。

 

「……だって、あなたの要求は、明日香が勝てば、真夫さんと別れること……。だったら、そのときには、二度と明日香にはかかわらない。だって、住む世界が違うということだもの」

 

「ちょ、ちょっと意味が……。つまり別れないってこと……? それじゃあ、約束が……」

 

「でも、確かなことは、明日香が負ければ、確実に明日香はわたしと一緒ということよ──。だって、わたしの奴隷になるんだもの」

 

 絹香は明日香を遮って、はっきりと言った。

 ちょっと明日香の顔に動揺が走るのがわかった。

 

「よく考えて、三本目に臨んで……。じゃあ、始めましょう……」

 

 絹香は明日香から離れた。

 かなり迷っている雰囲気になった明日香がしばらくしてから立ちあがる。

 達したばかりでまだ腰はふらついているし、息も荒い。

 それでも、明日香は腰を少し屈めて、シュートを打つ態勢になって、ゴールに視線を向けた。

 絹香は明日香の股間の振動を開始する。

 

「ひんっ」

 

 明日香ががくんと膝を折った。

 しばらく、そのまま足を震わせている。

 さっきは、それでも間髪打入れずにシュートをしたのに、今度は動くことができない様子だ。

 

「早くしなさい──。そして、外しなさい──。わたしと別れたくないなら、シュートを外しなさい──」

 

 絹香は怒鳴った。

 明日香の返事はない──。

 なんとか、身体を真っ直ぐにした明日香の左脚が後ろに引きあげられる。

 そのとき、ボールがゆっくりと右に転がるのがわかった。さっき渚がボールに向かってしゃがみ、なにかの操作をしている気配だったが、これがそうなのだろう。

 遠隔でボールを動かすための、なにかをしたのだと思う。

 明日香がボールに向かって左脚を振り抜いた。

 

「あっ」

 

 明日香が声をあげた。

 ボールが動いたことで、ボールは明日香の足にまともに当たらず、ゴールポストから遥かに離れた斜めに転がっていったのだ。

 明日香は、ショックを受けた感じだったが、すぐに諦めたような表情になり、その場に跪いた。

 シュートの瞬間にボールが少し動いたことについては、気がついた様子はない。

 

 いずれにしても、これで決着だ。

 

「じゃあ、行くわよ、明日香」

 

 絹香は、明日香のもとに向かい、グラウンドに蹲ったままの絹香の腕をとった。

 

「……い、行くって、どこに……?」

 

 明日香の表情は虚ろだ。

 すっかりと気力を失ったようになっている。まるで、張っていた心の糸が切れてしまった感じだ。

 

「質問はなしよ。奴隷は黙って従うのよ。着替えも荷物のそのままでいいわ。グラウンドの片付けも……。それはこっちでやっておくから、気にしないで」

 

 明日香を立たせる。

 梓と渚に頷く。

 ふたりがボールの片付けと、多分部室に置きっぱなしの明日香の着替えなどを取りに行くのを手分けして行うために動き出した。

 絹香はグラウンドの外に向かって、後ろ手に拘束したままの明日香を引っ張っていく。

 

「ま、待ってよ、絹香。どこに行くのよ?」

 

 明日香が腕を引かれながら絹香を見た。

 

「だから、質問はなしって、言ったでしょう。そこに車があるでしょう。まずは、それに乗るのよ」

 

 グラウンドの横には、勝負のあいだに移動してきていた一台の自動車が待っていた。

 恵さんの運転をする車だ。

 そこに、車があることに気がつかなかったらしく、明日香ははっとしている。

 

「ま、待ってよ。指を解いて──。あそこにいるのは誰よ──?」

 

 車の横には恵さんが立っている。

 初対面の明日香には、恵さんのことはわからないだろう。彼女がそこにいたことにも気がつかなかったと思う。

 かなり動顛した感じだ。

 

「学園に戻ってくるのは、日曜日の夜になると思うから、そのつもりでね……。外出届けは処置してもらっているから心配しないで」

 

 絹香は言った。

 

「な、なに言ってんのよ──。日曜日の夜って……。あたしは、明日も、明後日も練習が……」

 

「それは諦めるしかないわね──。部員とは問題ないように処置してくれるわ。明日香については、二日ほど練習しないくらいで、リーグ戦に影響があるわけでもないでしょう。さあ、そこよ」

 

 グラウンドから通り側に出る通用門のところまで来た。

 門を開いて、明日香を外に出す。

 すると、恵さんが寄ってきて、明日香の腕の反対側を掴んだ。

 

「どうだったの、絹香ちゃん? 勝負の結果は?」

 

 恵さんだ。

 

「明日香の負けです。三本目は入りませんでした」

 

 絹香は言った。

 恵さんは今回の工作のことは知っている。作戦というほどではないが、明日香を真夫の奴隷になることを承知させるための今回のやり取りは、恵さんを含めての処置だ。

 恵さんの役割は、このグラウンドにおける勝負が終わったら、自動車で明日香や絹香を連れ出すことである。

 

「そうなの? よかったわ。じゃあ、彼女も真夫ちゃんの奴婢ね」

 

 恵さんがにっこりと微笑んだ。

 そして、自動車の後部座席の扉を開く。

 まずは、絹香が乗り、その後に明日香を押し込む。

 

「ちょ、ちょっと、この人誰なのよ──? ねえ、絹香?」

 

 明日香はやっと我に返った感じになり、抵抗の素振りを示しだす。

 すると、恵さんが外から手を伸ばして、明日香の身体を座席シートに押し倒すように強く押す。

 その勢いが激しかったので、明日香だけでなく、絹香も驚いた。

 

「あたしは朝日奈恵よ。この前、この学園の編入してきた坂本真夫ちゃんの侍女……。あなたが、前田明日香ちゃんなら、ひとつだけ聞きたいことがあるんだけど、答えてくれる?」

 

 恵さんの口元は微笑んでいるが、眼は笑っていなかった。

 真夫の横でいつも笑っている恵さんしか見たことがなかったので、絹香はちょっと驚いた。

 もしかして、明日香に対して、なにか腹を立てている?

 

「真夫の……あっ、いえ、真夫君の侍女って……。ああ、あの……。でも、なんですか……?」

 

 後手に指縛りされたままの明日香は、ちょっと不安そうな感じだ。

 

「今日の昼間の学園の図書館のこと……。あなたが真夫ちゃんのことを孤児って馬鹿にしたって本当ね?」

 

 恵さんが言った。

 そういえば、そんなことがあったと絹香も思い出した。

 あれは、かおりと絹香が真夫と一緒に、SS研の展示につける題名を考えていたときだろう。

 この明日香が、突然に乗り込んできて、真夫に因縁を吹っ掛けたのだ。

 だが、どうして、そのことを知っているのか……?

 

「あ、ああ……、あれ……。それは、確かに……」

 

 明日香も思い出したみたいだ。

 また、絹香はどうして、恵さんが明日香に腹を立てたような態度なのか見当がついた。

 誰から聞いたかわからないが、恵さんは明日香が真夫の悪口を言ったと耳にしたのだろう。だから少し腹をたてているのかもしれない。

 

「絹香ちゃん、リモコン貸して」

 

 すると、恵さんが絹香に手を伸ばす。

 リモコンというのは、明日香に装着させている淫具の操作具のことだろう。

 絹香が恵に手渡す。

 

「ああっ、やっ」

 

 明日香ががくんと身体を折った。

 淫具が動き出したのだろう。

 恵さんが操作したに違いない。

 

「……だったら、まずは、お仕置きしないとね……。真夫ちゃんのこと、舐めんじゃないわよ──。真夫ちゃんが優しいからって、つけあがるんじゃない──。そこで、しばらく悶えてな──。到着したら、まずは折檻よ。覚悟しな──」

 

 恵さんが明日香の襟首をつかんで、強引に身体を起こさせて、明日香の顔に詰め寄って怒鳴った。

 どうでもいいが、恵さんって、こんな人だったのか?

 とにかく、初めて見た恵さんの啖呵に絹香は驚くとともに、その迫力にぞっとしてしまった。

 

 でも、真夫が優しい……?

 ただひとつ、恵さんのその物言いには疑念がある。

 

「な、なによ……。ああっ、ああっ」

 

 一方で、明日香は恵さんに怒鳴られて顔を引きつらせるとともに、股間に刺激に身体を震わせだした。

 

 やがて、双子もやってきた。

 梓が絹香と明日香の座っている後部座席に乗り込み、渚は助手席に座った。

 恵が運転手側に座り、自動車はすぐに学園の外に出る門に向かって動き出した。



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 第96話  スケバン奴婢

 学園は街を見下ろす小高い丘の上にあり、学園の外門から丘の麓に向かう車道も、実は学園の敷地内である。つまりは、街と学園を繋げる道路の学園の管理する私道ということだ。

 道路灯もあり、大型バスが離合できるくらいに整備された道路なのだが、学園に出入りする業者か学園関係者かしか、ほとんど使用しない。

 従って、いまは時間も時間だし、絹香たちが乗っているこの車以外には走っている車もない。

 恵さんは、自動扉になっている外門を通り抜けたあと、しばらく走ってから車を路側帯に寄せて停めた。

 運転席から出て、車の後ろに回ってバックドアを開く。

 

「真夫ちゃんは優しいから、なにも言わずに受け入れるかもしれないけど、奴婢になりたいなら、真夫ちゃんのことを孤児だって馬鹿にしたことに対する躾はしないとね」

 

 そして、リアスペースからスポーツバッグを取り出して、それを明日香を挟んで座っている絹香たちに手渡す。

 それにしても、やっぱり勘違いをしていると思う。

 決して、真夫は優しくはない。

 絹香を脅迫し、強引に奴婢にして毎日破廉恥で恥ずかしい調教を課してくる真夫に、一番似つかわしくないのが“優しい”という表現だろう。

 

「こいつに装着して。それと、その鋏で着ているものを剥ぎ取ってくれる。切れ端は鞄の中に突っ込んでおけばいいから」

 

 恵さんが言った。

 言われるままバッグを開けると、中に入っていたのは、ボールギャグと鋏だ。革枷もいくつか入っている。

 さらに、バッグの中に入ってたものとは別に、恵さんがリアスペースにあったものを外で組み立てて渡してきた。

 五十センチほどのアルミ棒の両端に革ベルトが付いている膝枷だ。

 

「な、なによ、あんた──? さ、さっきから……。い、いい加減に止めなさいよ──。くっ、ああっ、あっ」

 

 振動する股間ベルトに苛まれている明日香が真っ赤な顔で、後部ドアから顔を覗かせた恵さんを睨む。

 

「こんなことで音をあげてたら、真夫ちゃんの奴婢は務まらないわよ。真夫ちゃんの責めはきついから」

 

「つ、務まらなければなんなのよ──。止めてったら──。あ、あたしは、坂本真夫なんかに、好んで抱かれるつもりはないから──。ましてや、奴婢ってなによ──」

 

 すると、恵さんが突然に右手を明日香の脇腹に押し当てた。

 

「ほごおっ」

 

 明日香の身体が大きく跳ね、眼が大きく剥く。

 驚いたが、恵さんは手にペン型のスタンガンを握っていたのだ。

 それを発動させたのだとわかった。

 

「さっさと拘束具を付け直して──。こいつを運ぶわよ──。それにしても、あたしの大事な真夫ちゃんを“こいつ”呼ばわりしたわね──。絶対に許さないわ──」

 

 恵さんがすごい剣幕で怒鳴る。

 とにかく、その迫力がすごいので、さっき渡された膝枷やボールギャグを慌てて明日香に装着する。

 横を見ると、最近すっかりと傍若無人になっていた梓も、ちょっと顔を蒼くしていた。

 それは絹香も同じだ。

 いつも優しくみんなに接し、特に真夫の前ではにこにこと微笑んでばかりいる恵さんの豹変には呆気に取られている。

 一方で、明日香はいまだにぐったりとなっている。気を失ったようだ。

 かなり強力なスタンガンなのだろうか。

 

「それにしても、さっきのグラウンドでこいつに、真夫ちゃんの奴婢になることを納得させたんじゃなかったの?」

 

 恵さんが絹香に訊ねてきた。

 一方で、手は動かしていて、さっきのスポーツバッグの中から鋏を取り出して、じょきじょきと明日香の襟もとから鋏を入れて、ユニフォームを切り裂いている。 

 

「それが……。わたしの奴隷になるのは承知させたんですけど、真夫さんの奴隷になるのを承知させるのはまだで……」

 

「ふうん……。まあいいわ。だったら、徹底的に追い詰めて、真夫ちゃんが合流するまでに承知させるだけだし……」

 

 恵さんは、さらに短パンにも切り込みを入れて、あっという間に明日香の腰から取り去ってしまった。

 そのあいだに、絹香と梓は、明日香の膝を拘束して手首に革枷を装着し直し、ボールギャグを嵌めた。

 

 そして、恵さんがリモコンを取り出して操作した。

 がちゃんという金属音がして、下着の上から装着させていた淫具が外れた。それも明日香の股間から外す。

 

「濡れ濡れね」

 

 明日香のボクサータイプの下着の股間は大きな丸い染みができている。

 恵さんは、その下着も切断して取り去った。

 明日香の股間が露わになり、陰毛に覆われている股間は、溢れた樹液でねっとりとぬめ光っていた。

 まだ、少し上半身に布片が残ってはいるが、いまだに失神したままの明日香がほぼ裸になり、ボールギャグと膝枷が装着される。膝には金属の棒が挟まって、脚を拡げたまま閉じることができないようになった。

 

「続きはお願い。あたしは仕上げをするわ」

 

 恵さんが梓に鋏を渡した。

 残りの布を取り去れということだろう。

 梓が上衣やスポーツブラを切り取っていく。

 

 一方で、恵さんは自分の上着のポケットから平たい丸型の缶を出した。

 はっとした。

 その缶の中身がなんであるかは、絹香にもわかったのだ。

 塗り薬タイプの強い媚薬であり、局部などに塗られると、もの凄くそこが疼くとともに、耐えられないくらいの痒みが襲っているやつだ。

 よく真夫や梓が絹香に使うので、その効果は絹香も十分にわかっている。

 それを恵さんは明日香の股間に塗りだした。

 

「ふふふ……。施設のときには、あたしの許可なく真夫ちゃんに近づく女の子に、こうやって折檻したものよ……。そのときに使ったのは山芋だったけどね。女の子のお仕置き用に、よく何人か連れて山芋を探しに山に入ったものよ」

 

 恵さんはいまだに意識を戻さない明日香の股に、その掻痒剤を執拗に塗っている。

 

「折檻って、恵さんがですか……?」

 

 絹香は訊ねた。

 

「昔の話よ。だって、そうでもしないと、真夫ちゃんに近づきたがる女の子がいっぱいて制御できなかったんだもの。だから、あたしの許可なく真夫ちゃんにちょっかい出さないように命令してたのよ」

 

 恵さんがあっけらかんと言った。

 

「えっ、恵さん、昔はスケバンだったんですか?」

 

 梓が口を挟んできた。

 

「スケバンって古い言葉ねえ……。でも、あたしはスケバンなんかじゃなかったわよ。でも、あたしたちのような施設の子供はよく苛められるし、街中で絡まれることが多いしね。だから、お互いに守り合うようにチームは作ってたわ。あたしは、そのチームのリーダーはしてたわね……。あっ、でも、真夫ちゃんには言わないでね。恥ずかしいから」

 

 恵が笑った。

 それをスケバンというのではないかと思ったが、絹香はそれ以上は黙っていた。

 

 そのとき、やっと明日香が身じろぎしだした。

 そして、眼を開く。

 すぐには、自分がどういう状況にあるのかわからなかったみたいだが、すぐに車の中で素っ裸にされ、改めて拘束され直している自分に気がつき、目を丸くした。

 

「んんんっ」

 

 そして、暴れ出す気配を示した明日香を絹香は梓とともに左右から押さえつける。

 すると、恵さんが明日香の顎をぐいと掴んで自分に向かって顔を向けさせた。

 

「さあ、覚悟しなさい。真夫ちゃんのことを馬鹿にした罰を受けてもらうからね。そして、二度と真夫ちゃんのことを馬鹿にできないように、たっぷりと調教してあげるわ」

 

 恵さんが明日香を睨む。

 やっぱり、すごい迫力だ。

 絹香は、改めて、恵さんが本当は怖い人なのだということを悟った。

 恵さんが明日香から手を離して、再び運転席に向かう。

 すぐに、再び車が走り出す。

 

「んんっ、んあっ、んああっ」

 

 そのとき、ボールギャグを嵌めている明日香のボールギャグから、急に悲鳴のようなものが迸った。

 さらに、拘束されている裸体を狂ったようにのたうたせる。

 いよいよ、掻痒剤の効果が本領を発揮しはじめたのだろう。

 明日香の全身が真っ赤になり、もの凄い量の汗が肌から噴き出し始めた。





 *

 短いですが、今日はここまでです。


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 第97話  百合四人責め

「ああ、痒いいいっ」

 

 明日香は、ホテルの天井から吊られている両脚を引き千切らんばかりに暴れさせた。

 だが、左右の脚をそれぞれに天井に向けて引っ張っている鎖は、がちゃがちゃと根元で音をたてるだけだ。

 

「両手を解いて──。お願い──。もう許してよお──。絹香──。梓──。渚──。お願い──。これを外して──」

 

 とにかく、大きな寝台の上で仰向けに拘束されている明日香の周りに集まっている絹香たちに哀願した。

 

「そんなこと言われてもねえ……」

 

「ふふふ、そんなに痒いのですね」

 

「許してください、明日香さん」

 

 それぞれに腰の下着一枚だけの絹香、梓、渚がちょっと困ったような顔になる。

 だが、顎をぐいと掴まれて、顔を恵に向けさせられた。

 

「この子たちじゃなくて、言いたいことがあるから、あたしに言いなさい。さっきから、あたしがお前を調教しているのはわかってるんでしょう。絹香たちはただ指示に従っているだけだわ」

 

 やはり、下着一枚だけで乳房も露出している恵が上から明日香を睨む。

 明日香は涙目で恵を見あげた。

 

「もう許してください……。謝ります……。真夫さんの悪口を言ってごめんなさい……」

 

 明日香はとにかく謝った。

 もう、何度同じことを口にしたかわからない。

 しかし、この恵はどうしても許してくれないのだ。

 だから、まだ、絹香たちなら可能性があるかと思って、哀願をしたのである。

 

「わかった。じゃあ、また、これで刺激してあげるわね」

 

 恵が取り出したのは、またもや、耳かきだ。

 しかも、白い綿毛がついている部分を使って、痒みが襲いかかっている局部を触れるか触れないかくらいの刺激でくすぐるのだ。

 

「いやあああっ、やめてえええ。もうだめです──。ひと思いに──」

 

「ひと思いになあに、明日香? それは真夫ちゃんに頼んでね」

 

 恵がくすくすと笑いながら、耳かきの綿毛を操り続ける。

 

「もういやあああ──」

 

 明日香は絶叫した。

 街中にあるどこかのホテルの一室である。

 絹香と双子の従者との賭けゲームで、破廉恥な勝負させられた明日香は、相手が絹香だったこともあり、ひと晩を絹香の奴隷として過ごすことを応諾した。

 なんだかんだと言っても、明日香の身体は絹香との百合愛を求めていた。どっちが責めで、どっちが受けであるかは関係なかった。

 拗ねた態度をとったものの、明日香は絹香を求めていたのだ。

 

 しかし、その絹香が明日香を拘束したまま連れていったのは、グラウンドに横付けされていた車であり、そこにいたのは、あの真夫の恋人の女子大生の朝比奈恵だったのだ。

 恵とは全く面識はないが、絹香たちは真夫を通してなのか、とても親しそうにしていた。

 ところが、恵は今日の昼間に、明日香が真夫に対して、「孤児のくせに」と罵倒したことをなぜか知っていて、それについて激怒する態度を向けてきたのである。

 そして、恵は絹香たちに指示して、明日香を車の中で全裸に剥き拘束具を装着すると、股間に得体の知れないクリームを塗ったのだ。

 

 それから、明日香の地獄が始まった。

 すぐに狂うような疼きと痒身が襲いかかり、明日香は苦悶した。

 しかし、ずっと放置され、余りの痒みに気が狂いそうになったとき、やっと車がどこかの建物の地下と思われる場所に停止したのだ。

 そこがどこだかわからなかったが、明日香は拘束された裸身に、コートだけを羽織らされて、エレベータで地下からこの部屋のあるフロアに連れてこられたのだ。

 車の中で装着されていた膝枷は外されたが、両手は背中で拘束されているし、コートは被っているだけなので、剥がされれば全裸だ。

 さすがに、逃げるわけにもいかず、ここまで連れてこられた。

 部屋に入るまで、従業員にも、ホテルの客にも誰に会うことがなかったことだけはほっとした。

 

 連れてこられたのは、複数の部屋からなる豪華なスイートルームだったが、みんなを案内する恵は、部屋を素通りして、奥の本棚を操作して、その向こうにあった隠し部屋に全員を導いた。

 そこがここだ。

 まさに、「SMルーム」という場所であり、さっと見ただけで様々なSM用具が責め具、拘束具が揃っていた。もっと奥には大きな浴室もあるみたいだ。

 そして、恵は明日香を寝台にあげると、後手拘束のまま仰向けに寝かせ、左右の足首に足枷を嵌めて、それぞれの金具を天井から伸びる鎖に嵌めて、両脚を開脚させた格好で引きあげたのである。

 それだけでなく、改めて再び股間に得体の知れない媚薬を塗って、しばらくそこに放置したのだ。

 誰もいなくなって部屋で明日香はひたすら悲鳴をあげてのたうち回った。

 

 おそらく、戻ってきたのは、小一時間位してからだと思う。

 どうやら、ルームサービスで食事をした気配であり、絹香の双子の侍女が明日香の分と思われる飲み物と食事を持ってきた。

 飲み物はすぐに飲んだが、その瞬間に身体がまたかっと燃えるように熱くなった。

 媚薬が含まれていたのは明らかだ。

 さらに食事を食べさせられた。

 拘束をされたままなど嫌だと拒絶したが、すると四人がかりのくすぐり責めを受けた。

 あまりに苦しさに、食べると答えると、恵を含めた絹香と双子の侍女が四人で代わる代わる口移しで食事を明日香の口に運んできた。

 唾液混じりの咀嚼混じりの食事だったが、気持ち悪いとか屈辱だとか感じる余裕はなかった。

 四人はただ食べ物を明日香の口に入れるだけでなく、明日香の口の中のあちこちを舐めまくってきたのだ。繰り返される熱い口づけに、明日香はあっという間にぼっとなってしまった。

 しかも、ほかの三人は明日香の乳首や内腿も舌で刺激もしてきたのである。

 明日香は四人がかりの刺激に狂いながらも、必死に口に入れられたものを喉に押し込んだ。ちょっとでも拒む態度をすると、またもやくすぐり責めに移行されるからだ。

 そうやって、おそらく一時間以上はかかって明日香は食事をさせられたと思う。

 

 さらに始まったのがこれだ。

 掻痒剤がそろそろ汗と愛液で薄まっただろうと、恵が明日香の股間に塗り直したのである。

 寝台の真ん中で四人に囲まれて腕を後手に拘束されて仰向けにされ、両脚を天井に吊られているという相変わらずの格好のままでだ。

 痛いほどの痒みの威力を発揮している掻痒剤の効果にひたすら泣き叫ぶしかなかった。

 

「き、き、気が狂う──。もう許して──。痒みをなんとかしてえ──」

 

 ついに明日香は号泣してしまった。

 恥も外聞も、プライドさえない。

 もう、この痒みさえ癒やしてくれるなら、どんなことでもしようと思った。

 

「じゃあ、真夫ちゃんの奴婢になると誓いなさい。真夫ちゃんにも謝るのよ。今度、孤児だからって馬鹿にしたら、もっと酷い目に遭わせるわよ。いいわね──」

 

 恵が明日香の顔に詰め寄ってきた。

 明日香は必死で頷く。

 考えるのは、この痒みから逃れたいという一心だけだ。

 

「わ、わかりました……」

 

「そう……。じゃあ、これからは、優しくする時間……。みんなで構ってあげましょう」

 

 恵が明日香の太腿を撫でさすってきて、指でゆっくりと明日香の薄い茂みの上側をとんとんと叩いたりしてくる。

 

「じゃあ、わたしも加わりますね……。ねえ、恵さん……。明日香は普段は気は強いけど、実は、苛められるのが好きなんですよ」

 

 絹香だ。

 そして、恵に倣うように、恵の指に合わせてクリトリスの周辺をくすぐってくる。

 だが、ふたりとも、一番痒い場所にはぎりぎり触れてこない。

 

「あたしたちも参加しよう、渚」

 

「う、うん……」

 

 梓と渚は左右から明日香の乳首をぺろぺろと再び舐め始める。

 

「いやああっ──。もっと激しくしてよお──。焦らさないで──」

 

 明日香はまたもや、この四人がかりの、まるでネズミをいたぶるような淫靡な責めに激しく身悶えた。

 

「大丈夫よ、明日香ちゃん……。うんと苛めてあげるから……。久しぶりだけど、むかしはよく女同士で愛し合ったりしてたから、思い出しながら責めてあげるわ。ちゃんと、レズ愛をしてあげる。何度も、何度も気をやって失神するまで……。いえ、気絶してもやめないかな。それが女同士の愛し方だし」

 

 恵が指先ですっと痒みに狂っている股間にやっと触れた。いまのいままで、そのすぐ近くまで触っても、絶対にまともには愛撫をしてくれなかったのだ。

 だが、すぐにそこから動いて、もう少し下のアナルの部分をさりげなくまさぐりだしてきた。

 

「いやああ、許してくれるって言ったじゃないのよ──」

 

 明日香はお尻をがくがくと震わせた。

 

「もう許してあげてるわ。いままでは意地悪の責め……。これからは、歓迎の意地悪よ……」

 

 恵はすっかりと濡れている明日香の愛液を利用して、指をアナルの中に挿入してきた。

 絹香は絹香で明日香のクリトリスをくすぐるような責めを続けている。

 双子は執拗に左右に乳首を舐め続けている。

 しかも、その四人がかりの責めを大きく脚を開脚して吊られるという恥ずかしい格好で受けなければならないのだ。

 堪らない感覚に明日香は、汗まみれの全身をうねらせた。

 一気に全身が溶けだすような鋭い被虐の快感が沸き起こってくるのを知覚した。

 

「ああっ、あっ、ああっ、だめよお……」

 

 明日香はすすり泣くような甘い声を出した。

 だが、まだ足りない。

 怖ろしいほどの痒みに襲われている股間は、もっと激しい愛撫を求めているのだ。

 

「い、意地悪しないで──。もっと強く愛撫してよお──」

 

 明日香はついに我を忘れたように、吊られている両脚をがちゃがちゃと蹴るよう鎖を動かして絶叫してしまった。

 

「慌てないのよ……。夜はまだ長いんだから……。さあ、ちょっと待ちましょう。休憩よ」

 

 恵の合図で四人の責めが離れる。

 だが、愛撫の中断はいまの明日香には、むしろ残酷な責めだ。

 その瞬間に、長時間の妖しい媚薬で痒みにただれている明日香の身体に、凄まじいほどの焦燥感が襲いかかってきた。

 

「意地悪しないでって、言っているじゃないのよ──」

 

 明日香は逆上してしまった。

 

「だめよ……。たっぷりと意地悪するわ。今夜ひと晩で、身も心も真夫ちゃんの奴婢になるように、みっちりとしごいてあげるつもりだもの」

 

 恵が意地悪く笑う。

 明日香が全身を貫く痒みの苦悶に激しく身体を揺らした。

 

「でも、やっぱり、恵さんって、スケバンだったんですか。子分たちには、こんな折檻を? 随分と慣れた感じですけど」

 

 梓の声だと思う。

 

「スケバンなんかじゃないったら。まあ、慣れているのは否定はしなけどね。だって、あたし、けっこうエッチだったもの。真夫ちゃんもそうだったけど」

 

「真夫さんは、むかしはどんな感じだったんですか?」

 

「すっごくエッチだった。でも、頼もしくて……」

 

 恵と梓がそんな会話を続ける。

 そのあいだ、ずっと明日香は放置されたままだ。

 ひたすら悶え苦しんだ。

 そして、しばらくして、やっと恵が再開の指示をほかの三人に出す。

 

「次は道具を使いましょうか」

 

 恵が寝台の横につけていたトレイから今度は小型バイブを取り出すのが見えた。

 それを振動させて、明日香の秘唇に静かに触れさせた。

 

「ひあああ──」

 

 背骨まで突き通するような鋭い快感に、明日香は拘束されている身体を大きく弓なりにする。

 さらに、バイブは股間の秘裂をゆっくりとおりて、さっきと同じようにアナルのくすぐるように当たり、しばらくアナルの入口を刺激してから、再びじわじわと肉の裂け目に沿ってあがり進む。

 

「いやああっ、はあああ──」

 

 そして、ついにクリトリスに当たり、激しく振動する先端でクリトリスに押し潰すようにされる。

 

「んふうううっ、ああ、あああ──」

 

 明日香は首を左右に激しく振り、ついに絶頂に向かって快感を飛翔させていった。

 

「まだだめよ。お預け。気はやらさせないわ」

 

 だが、恵の操るバイブは、絶頂寸前ですっと離れてしまった。

 

「いやあっ」

 

 明日香は泣き叫ぶしかなかった。

 

「さあ、順番に責めましょう。でも、ぎりぎりまでよ。間違って気をさせたら、罰ゲームね。次は絹香ちゃんがいこうか」

 

 恵がバイブレータを絹香に手渡したのがわかった。

 

「へえ、罰ゲームですか?」

 

 絹香がすっと、明日香の宙吊りの内腿にバイブを当てる。

 

「ひんっ」

 

 明日香はびくんと身体を弾かせる。

 

「どんな罰ゲームはいい、みんな?」

 

 恵だ。

 

「本当に別ゲームですか?」

 

 当惑した声は渚だと思う。

 

「じゃあ、みんなのお尻を舐めるというのは?」

 

 笑いながら提案したのは梓のようだ。

 

「それじゃあ、舐められる方が罰よ。お前、わたしのときはねちっこく舐めるでしょう」

 

「そうかもしれませんね、絹香お嬢様。それよりも、思いついたんですけど、明日香さんのことが終わったら、絹香お嬢様のお尻の本格的な調教に入りますからね。覚悟してくださいね」

 

「な、なによ、お尻って──」

 

 梓と絹香のそんな会話が聞こえた。

 侍女の梓が明日香を調教?

 なんか、そんな風に聞こえたが……。

 それはともかく、明日香はバイブを内腿に当ててから、全く動かさない。

 すると、痒みが復活して、焦燥感で狂いそうになる。

 

「き、絹香、やめないでよ──。続けて──。お願い──」

 

 明日香は叫んだ。

 

「あら、だったら、こんなのはどう?」

 

 すると、絹香がバイブを明日香の股間に押し当て、ぐいと最奥まで一気に貫いてきた。

 

「ああああっ、いいいいっ」

 

 明日香はがくがく額を身体を震わせた。

 しかし、あっさりと絹香はバイブを抜いてしまう。

 

「ああっ」

 

 明日香はがくりと身体を脱力させた。

 そうやって、双子からも同じように責められた。

 梓は、絹香以上に責めがうまく、明日香の焦燥感が頂天になるのを狙うかのように、少しだけ責め、責めては中断して、明日香が狂いそうになるとバイブを強く当てるということを繰り返した。

 明日香はひたすら翻弄された。

 

 渚の番になると、四人の中で一番手馴れてないのはわかった。

 すると、恵が指示して、クリトリスを刺激して一気に責めたり、それでいて、急に離したり、あるいは、アナルに向けたりしてきた。

 恵は女同士の性愛に一番手馴れている感じがあり、言語に絶するような切なさと官能の痺れに襲わさせられた。

 

 同じような焦らし責めが二周りして、三周り目になったとき、明日香は「やめないでくれ」と号泣して哀願した。

 

「焦らされすぎて、いよいよ頭にきたみたいね。じゃあ、もう焦らすのはやめてもいいわ。その代わりに、あたしたち四人の責めをひとりで朝まで受けるのよ。できる?」

 

 恵が明日香の顔を覗き込みながら言った。

 

「もうなんでもしてください……。その代わりにもう焦らさないでください」

 

「いいわ。その代わりに音をあげてもやめないわよ」

 

 恵が自分の唇を舌で舐めて濡らしながら妖艶に微笑んだ。



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 第98話  そして、朝まで……

「ああ、明日香……」

 

「き、絹香……」

 

 お互いに汗まみれの裸身を明日香と絹香はこすり合っていた。

 ただし、明日香には背中に両腕が回されて革ベルトが嵌められており、両手の自由は奪われている。

 開脚両足吊りの恥ずかしい格好からは解放されたが、その代わりに明日香は、四人がかりの百合責めの相手をひとりですることになったのだ。

 いまは、絹香と愛し合い始めたところであり、ほかの恵、梓、渚はその周りで明日香たちの痴態を見守っているかたちだ。

 

「明日香、好きよ……。ありがとう……。一緒に真夫さんの奴婢になる決心をしてくれて……」

 

 絹香の唇が明日香の唇に重なる。

 すぐに舌と唾液が明日香の口に中に入ってきた。

 明日香は、劣情のまま絹香の舌をむさぼった。

 また、絹香の乳首を明日香の乳首に擦り合わせてきた。お互いに固く尖った四つの乳首が重なって弾き合う。

 

「ああっ」

 

「あんっ」

 

 明日香は甘い声をあげて身震いしたが、それは絹香も同じだった。

 ずっと一方的に責められるばかりだったので、絹香も同じように感じてくれていると思うと嬉しい。

 明日香からも自ら求めるように、胸をせり出して絹香の乳首に乳首を擦り付ける。

 

「ひああっ」

 

「あん、だめえっ」

 

 明日香とともに、絹香も全身を打ち震えさせた。

 だが、だんだんと股間の切なさと焦燥感が限界になってきている。

 掻痒剤の影響は、いまだに消えてないのだ。乳首に与えられた快感で、少しだけ気がまぎれたが、いまは逆に胸の刺激が股間の疼きの苦悶を増長させてきた。

 

「ああ、もう触って、絹香──。お股が疼いて我慢できない──」

 

 明日香は腰を震わせて訴えた。

 

「ふふふ、じゃあ、自分で股を開きなさい。そうしないと触ってあげないわよ」

 

 絹香がくすくすと笑う。

 今夜は、とことん意地悪モードでいくようだ。

 

「お願い、来てよ、絹香──」

 

 明日香は膝を曲げて大きく脚を左右に開いた。

 絹香が明日香の股間にいきなり指を二本差す。激しく動かされる。さらに、別の指でクリトリスも愛撫される。

 

「あああ、そこ、そこをもっと触ってええ──」

 

 明日香は、やっと与えられた強い刺激に身悶えした。

 股間への刺激のあいだも、乳首責めは継続している。

 やがて、大きく身体が反り返り、内腿が波を打って痙攣をはじめた。

 それが全身に拡がる。

 

「ああ、いぐううっ」

 

 明日香は全身を突っ張らせた。

 しかし、絹香はすっと明日香の身体の上から離れてしまった。

 

「ああ、もう焦らさないでよ──」

 

 執拗な四人がかりの焦らし責めで狂うような焦燥感を膨れあがらせられたばかりだ。

 またもや、寸止め責めが続くのかと思って、明日香は泣き叫んでしまった。

 

「かなり限界みたいね、明日香ちゃん……。大丈夫よ。絹香ちゃんは準備しているだけだから。でも、続きをして欲しいなら、さっき教えた誓いを口にしなさい」

 

 はっとした。

 声を掛けてきたのは恵だ。

 だが、それに驚いたのではなく、ブーンという振動音が明日香の股間側で聞こえたからだ。

 さっきまで絹香がいた明日香の脚のあいだに、下着一枚の恵がいた。

 そして、手に電気マッサージ器を握っている。

 モーター音がそれだったのだ。

 クリトリスに押し当てられる。

 

「はああ、あっ、あああっ」

 

 明日香は後手拘束の身体を蛇のようにくねらせて、一気に絶頂に向かって快感を飛翔させた。

 しかし、すぐに電気マッサージ器は離れてしまう。

 

「ああ、もういやあ──」

 

 またしても、直前で絶頂を取りあげられた明日香は、狂いそうな切なさに泣いてしまった。

 

「大丈夫よ。準備ができたら、絹香ちゃんがいかせてくれるから。ところで、おねだりはなんと言うのかしら」

 

 恵が電気マッサージ器の先端を今度は乳首に当てる。

 

「ひいいっ、ああっ、言います──。言います──。誓います──。あたしは真夫さんの奴婢になります──。ああ、ああっ」

 

 明日香は拘束された身体を激しく震わせながら、大きな声をあげた。

 だが、またしても、電気マッサージ器はすぐに離れる。

 

「ああ、またああ──、ひどいです──」

 

「ごめんね。でも、準備ができたみたいよ。お強請りも言えたし、最初は仲良しの絹香ちゃんにいかせてもらうといいわ」

 

 恵が身体をどける。

 現れたのは、絹香だ。

 下着は脱いで、ペニス・バンド──通称、「ぺ二バン」と呼ばれるものを付けている。

 明日香は絹香と幾度もレズプレイをしたことはあるが、ペニバンは初めてだ。ペニバンとは、T字型のバンドを腰に装着して、ちょうど男のペニスのある位置に張形を装着するものだ。

 本格的なレズプレイでは、よく使用するものだということだけは耳にしたことがあった。

 絹香の男根姿に、明日香はちょっとうっとりとなってしまった。

 これから、絹香に犯されるのだと思うと、ぞくぞくとしてきた。

 

「いくね、明日香……」

 

「うん……」

 

 絹香が明日香に跨る。

 張形の亀頭が明日香の膣の入口にあてがわれる。

 絹香が張形を一気に打ち込んできた。

 

「あああっ、あはああっ」

 

 明日香は絶叫した。

 まさか、たったの一撃でここまで追い込まれるとは予想外だ。

 焦らし抜かれた身体は、明日香の想像以上に追い込まれていたみたいだ。

 絹香が明日香を抱きしめてくる。

 また乳房が重なり合い、乳首が乳首で擦られる。唇も吸われた。

 一方で、貫かれたペニバンは、明日香の股間に挿さったまま、前後に律動されている。

 

「い、いぐううっ」

 

 一瞬で明日香の目の前は真っ白になり、なにもかもわからなくなった。

 

「あらあら、そんなに簡単にいっちゃったら、あとが大変よ……。じゃあ、次は梓ちゃんね……」

 

 そんな恵の声が遠くなる意識の中に入ってきた。

 

 


 

 

「あっ、あっ、ああっ、もう許して──」

 

 死にそうな掠れ声で明日香は哀願した。

 もう、レズ責めが始まって何時間経ったのか見当もつかない。

 だが、ここから見える壁の時計が六時をすぎている。つまり、もう朝になっているのだ。

 しかし、明日香に対する四人がかりの責めは、いまだに続いている。

 ホテルに連れてこられたのが、夜の七時くらいだったと思うので、それから、掻痒剤を塗られての放置……、責められながらの口移しの食事……、両脚を天井から開脚吊りされてのくすぐり責め……、そして、四人がかりのペニバンプレイと続き、いまが六時だとしても、十時間以上は責められ続けているということだ。

 明日香は、すでに限界を遥かに越えていた。

 

 女同士のプレイは、明日香も絹香と何度もしているので、かなりの時間をかけるものだという認識はあった。

 男とセックスはしたことはないものの、多分、なんだかんだで男は射精をして終わりだろう。

 しかし、女同士の場合は射精はない。

 望み合う限り、半日だって続くこともある。

 明日香だって、絹香とそういう愛し方もしたことがある。

 だが、さすがに、一対一ではなく、一対四など初めてだし、明日香だけ拘束をされて責めることを許されず、一方的に受けだけを延々と続けさせられるというのは、明日香の想像を越えた快楽地獄だった。

 もう、何十回達したのか見当もつかない。

 

 とにかく、四人がかりなのだ。

 いくのも明日香ばかりであり、四人のうちのひとりが明日香を犯してペニバンで数回絶頂させ、次に交代する。

 その相手が終われば、また次だ。

 これが繰り返すのである。

 向こうは四人交替なので、ほかの三人のうちの誰かがしているあいだは休めるが、明日香は寝ることも許されずに、ひたすらペニバンで絶頂をするのを繰り返すのみである。

 さすがに、意識を保てなくなると、恵が明日香の股間に、掻痒剤を塗りたくり、痒みで眠らせなくする。

 そして、四人で明日香の全身を愛撫して身体を起こす。

 すると、再び、ペニバンで交替で犯されるということだ。

 これをもう十時間以上も続けられている……。

 

 確かなのは、明日香はこれまでにオナニーや、絹香とのレズ遊びで達した回数をひと晩で遥かに超えただろうということだ。

 達するごとに敏感になる身体が、もう全身がクリトリスになったかのように、どこをどう触られても、絶頂に向かう快感に替わってしまう。

 頭も朦朧としてなにも考えられない。

 

「だ、だめええ──」

 

 明日香は身体を震わせて絶頂した。

 いま上に乗っているのは、梓だと思う。

 その梓が明日香の股間からペニバンを抜いた。

 

「じゃあ、渚、交替……」

 

 梓が場所を双子の渚に交代する。

 明日香は、その隙を見て、転がって寝台から身体を床に落とした。

 いや、本当は普通におりて逃げようとしたのだが、腰に力が入らずに立てなかったのだ。

 だから、寝台から転がり落ちることになってしまった。

 

「あら、どこに行くの、明日香ちゃん」

 

 恵が寝台から降りて追いかけてくる。

 でも、もういやだ──。

 明日香は必死に脚を動かして床を這い進んだ。

 

「ふふふ、恵さん、明日香さんは寝台よりも、床で責められたいじゃないですか?

 

 揶揄うような物言いは梓みたいだ。

 明日香は必死で首を横に振る。

 

「無理──、無理──、もう無理です──。もう許してください──」

 

「だめよ。まだまだよ」

 

 恵がうつ伏せになっている明日香の腰を持って強引に引きあげた。

 お尻だけが高くあがっているかたちだ。

 そのお尻に恵がしているペニバンの先端が当たった。

 ゆっくりと明日香のアナルにめり込んでくる。

 ひと晩のあいだに、前だけじゃなく、後ろの穴も犯されていた。ペニバンには改めて潤滑油を塗っているのか、抵抗なくお尻の中に挿入されていく。

 

「んぐううう、んんんんっ」

 

 ぶるぶると身体を震わせて絶頂した。

 それでも、アナルへの律動は続く。

 続く絶頂はあっという間だった。

 その次の絶頂も──。

 明日香は、またしても意識を失った。

 

 


 

 

「ほら、起きてください、明日香さん──」

 

 乳首に激痛が走り、明日香は覚醒した。

 うつ伏せから仰向けになっていた。

 明日香の横にしゃがみ込んだ梓が明日香の乳首をぎゅっと握りつぶすようにしていた。

 

「あひいいっ」

 

 しかし、その痛みさえも、いまの明日香には快感だ。

 また身体が痙攣して達しそうになる。

 

「まだまだ、お愉しみはこれからよ」

 

 恵だ。

 朦朧とした意識の中で明日香は首を横に振る。

 

「む、無理です……。許して……。もう無理です……」

 

 明日香はぼろぼろと涙をこぼした。

 

「そう……。じゃあ、代わりに犬になりなさい。四つん這いで這うのよ。ここにいるみんなの犬になると誓うなら、もう許してあげてもいいわ」

 

 恵が言った。

 明日香はすぐに頷いた。

 犬にでもなんでもなる──。

 この百合愛の地獄から解放されるなら……。

 

「誓うのね……?」

 

「はい……」

 

「いいわ」

 

 恵が合図をして、絹香たち三人夕べからずっと拘束していた明日香の腕を自由にした。

 お尻を叩かれて四つん這いになる。

 すると、恵がまたもや、淫具を持ってきた。

 さっきまでのペニバンと似ているが、今度は内側に二本のディルドがついているT字の革ベルトだ。

 二本のディルを四つん這いのまま、股間とアナルに挿入される。

 ベルトが締めつけられ、後ろ側で電子錠の音がした。

 次の瞬間、二本のディルドだけでなく、クリトリスの部分も含めて同時に三箇所が革ベルトの内側で激しく動き出した。

 

「あひいいっ」

 

 明日香は四つん這いの姿勢から身体を突っ伏させた。

 

「ひいっ、ひいっ、ひいいいっ、もういきたくないいいい──」

 

 振動は続く。

 明日香はあっという間に、またもや絶頂した。

 振動が止まる。

 だが、まだ身体は痙攣を続けている。

 その明日香の首に、リード付きの首輪が嵌められた。

 

「立ちなさい。四つん這いでね。起きないと、またスイッチを押すわよ──。それと、さっきは膝を床につけてたけど、そんな犬はいないわ。膝をちゃんとあげるのよ」

 

 恵がリードをぐいと引っ張った。

 明日香はのろのろと身体を起こした。膝もあげる。

 四つん這いで歩けと命令されたからそうしているというよりも、いまは腰の力が萎えてしまって、ほかの手段では歩けそうにない。

 

「さあ、行きましょう」

 

 恵が明日香の首に繋がっているリードを引っ張り、ほかの三人が周りを囲んでいる。

 そして気がついたが、全員のペニバンはもう外していた。恵も含めて、四人とも股間の付け根までの丈のネグリジェになっていた。

 いつの間に着替えたのだろう。

 また、四人ともネグリジェ以外には身に着けておらず、下着も脱いでいるようにも見えた。

 とにかく、リードを引かれるまま歩かされた。

 目の前には、大きな絵画の飾ってある壁だ。

 すると、その壁がゆっくりと左右に開く。

 向こう側の部屋が現れた。

 ほんやりとしている頭に、最初にこのホテルの部屋に入ったときの部屋だと思い出した。

 そこから、本棚の隠し扉を開いて、奥側のプレイルームのようなところにずっといたのだが、どうやら戻ってきたようだ。

 

「愉しんだか、みんな?」

 

 ソファーに座っている誰かが声を掛けてきた。

 はっとした。

 

 坂本真夫──。

 

 学園の制服を身に着けている。

 彼がそこにいたのだ。横長のソファーの真ん中に腰掛けている。

 だがほかにもいる。

 真夫の横には、真夫の従者生徒の白岡かおり──。

 また、真夫の股のあいだには、男子生徒が跪いて、真夫の股間に顔を向けていた。

 S級生徒の制服に見えた……。

 誰──?

 こっちに向けている後頭部が小刻みに揺れている感じはするのだが……。

 

「まあ、いい格好ねえ、明日香──。昨日ぶりだわ。その感じだと、すっかりと躾けられたみたいね」

 

 かおりが揶揄ってきた。

 かっと羞恥が込みあがる。

 

「真夫ちゃんに渡すわ。ちゃんと調教しておいたわ」

 

 恵が真夫に平たいものを渡したのがわかった。

 また、リードも手渡す。

 

「そうか、ご苦労さんだよ、あさひ姉ちゃん……。もちろん、みんなもね」

 

 次の瞬間、腰のバイブが一斉に動き出した。

 

「ああああっ」

 

 頭が真っ白になり、腰が抜けて、その場に身体が崩れそうになってしまった。



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第17章 洗礼【明日香、ひかり】
 第99話  制限時間は15分


「もういやああっ」

 

 股間のバイブとクリトリスに当たっている突起が一斉に動き出し、明日香は四つん這いの身体を崩しそうになった。

 だが、振動は一瞬でとまった。

 明日香は最後の力を振り絞って、腕を伸ばして倒れそうだった身体を必死で支える。

 

「俺のことを覚えているね、明日香ちゃん?」

 

 坂本真夫が顔に微笑みを浮かべて明日香を見た。

 その瞬間、突然に巨大な手のひらに、全身を鷲づかみされるような衝撃が全身を走った。

 

「えっ?」

 

 震えるような威圧感だ──。

 圧倒的ななにかが思考力を縛り、身体を震えさせた。その感情の正体がわからなかったが、すぐに「恐怖」だと悟った。

 目の前の真夫に、自分は恐怖を怯えているのか?

 散々に、恵たちから追い詰められたことが、そんな感情を明日香の中に作っているのか?

 いや、そんなものではない。

 昨日、図書館で会ったときには、平凡な男の子だとしか思えなかった。しかし、いまは、ただ見られるだけで明日香は怯え、畏怖している。

 これが本当の真夫……?

 

「お、覚えて……ます……。申し訳ありませんでした……。こ、孤児だと馬鹿にして……。申し訳ありません。許してください……」

 

 まったく抵抗なく、謝罪の言葉が口から出てきた。

 恵にひと晩かけて脅されたからではない。

 真夫から感じる巨大な圧迫感が自然と明日香に謝罪させたのだ。

 そして、頭をさげようとした。

 だが、身体が金縛りになったように動かないことを発見した。

 真夫から眼を離すことすらできない。

 

「気にしなくていいよ。俺たちが孤児なのは本当だしね。もっとも、両親がいることは少し前にわかったんだ。父親がいるみたいでね……」

 

「そ、そうなのですか……」

 

 とりあえず言った。

 それよりも、強い力に頭の中が縛られている。

 真夫の言葉は明確に理解をしている。しかし、それについて思考する力を奪われている。

 そんな気がした。

 だが、怖いという感覚はない。

 むしろ、快感だ。

 思考せずに、真夫の言葉を聞くことがとてつもなく気持ちいいのだ……。

 なんだろう、これ……?

 頭が朦朧とするような……。

 でも、身体が熱くて……。心が温かくて……。

 

「昨日、口にしたことをもう一度言うよ……。SS研に入るんだ……。俺の奴婢になるんだ……」

 

「入ります。あたしは真夫さんの奴婢です……」

 

 考えることなく答えていた。

 すると、すっと心が軽くなった。

 頭もすっきりとする。

 信じられないような幸福感が全身に沸き起こる。

 

「えっ、えっ、ええ?」

 

 戸惑いが身体を包み、明日香は狼狽えた。

 しかし、すぐにそれは歓喜に変わった。

 不可思議な力が心に拡がり、明日香はなぜか真夫を見つめながら涙をこぼしていた。

 

「悪いけど、ある程度の心を縛らせてもらった。俺たちの秘密を他人に口にできないようにね。その代わりに、少し明日香ちゃんの運動機能を調整してあげたから……。脳や脊髄に繋がっている神経線を敏感にして、興奮機能も活性化するように自己暗示の操心をかけたから……。多分、身体も体力も技術も、これまでの五割増し以上になると思うけどね。ただし、副作用で少しばかり身体の感度もあがったかも。五割増しでね……。なにせ、神経が過敏なくらいに鋭敏になっているからね」

 

 真夫がくすくすと笑った。

 言っていることの意味がまったくわからない。

 ただ、言葉を耳にするのは心地いい……。

 

「……さて……。じゃあ、もう一度、俺を見て……。俺の言葉に耳を貸してご覧……。虚飾を捨てるんだ……。躊躇いなく官能にのめり込むといい……。脳髄も解けるような快感はその向こうにあるよ……。支配されて……、服従する快感をね……。命令だ──。明日香、俺の奴婢になれ──」

 

 相変わらず、真夫の言葉は聞こえるのに、頭で理解することができない。

 だが、身体には沁みとおっている。

 目の前の真夫に……支配され……服従する……。

 

 明日香は震えた。

 なぜかわからないが、明日香は心からの感動に包まれていた。

 

 主に……ご主人様に命令される……。

 それがこれほどの悦びを与えてくれるとは知らなかった……。

 

 真夫は、明日香のご主人様だ──。主だ──。

 得体の知れない力は、いま、まさに明日香の中の巨大な核となった。

 

「従います……。心から……。ああ……」

 

「来るんだ」

 

 真夫が明日香の首輪に繋がっているリードをくいと引く。

 まだ、身体はだるいが、明日香はなんとか四つん這いで真夫の足元に這い進む。

 そこには、すでにS級生徒の男子制服を身に着けた人物が真夫の股間に顔を向けて跪いているのだが、その人物が真夫に引っ張られて、明日香を受け入れるように右端に避けた。

 真夫がさらに大きく脚を開き、左半分に明日香が身体を入れる場所が生まれ、明日香はそこに顔を入れて、隣の人物と同じように正座をする。

 

 それにしても、このS級生徒は誰……?

 S級生徒は学園で五人のみであり、いまは全員が三年生で、男子生徒は、目の前の坂本真夫のほかに、加賀豊……、木下秀也……、そして……。

 

「ええっ?」

 

 明日香は、ふと右横の生徒を見て、思わず声をあげてしまった。

 そこにいたのは、金城光太郎……。学園トップの双璧のひとりで、あの金城財閥の御曹司……。

 

 それだけでなく、その光太郎は一心不乱に真夫の男根を口で舐めて奉仕をしていたのである。

 唖然としたが、さらに驚愕することがあった。

 後ろからではわからなかったが、光太郎の制服の前は完全に左右にはだけられていて、胸が露出していたのである。

 そして、そこにあったのは、大きくはないが紛れもなく、女の乳房だった。

 

 金城光太郎は女性……?

 

 明日香は大混乱した。

 

「明日香ちゃんには俺たちのことを色々と教えるよ……。俺の父親が誰で、その後継者になるためにしていることも……。このひかりちゃんの秘密も……」

 

「ひ、ひかりちゃん……?」

 

 どういうこと……?

 また、よく見れば、横の光太郎の首にも首輪があり、その首輪から伸びたリードを真夫が手に持っている。

 ただし、その首輪は銀色の金属だ。

 そして、さらに見ると、光太郎の手首には首にある銀色の首輪と小さくしたような腕輪があり、それが足首につけられている枷と繋がっている。反対側はわからないが、おそらく同じように拘束を受けているのではないだろうか……?

 金城光太郎が実は女なのかどうかはわからいが、そうだとしても、真夫が光太郎をそんな風に扱うのか──?

 

「……だけど、さっきも言ったけど、それを俺たち以外に口にすることができない縛りはさせてもらった。操心をかけたことを悪く思わないでね……。両手を出して」

 

 明日香は正座のまま両絵を前に出した。

 真夫が横から一組の銀の腕輪を出した。

 それを明日香の手首に嵌める。

 

「……両手を背中に回して、いまの腕輪をくっつけるんだ」

 

 言われた通りにする。

 金属音がして、ぴったりと密着して離れなくなった。

 

「えっ、あれ?」

 

「それはと特殊な電磁石で制御されていて、俺も持っている解除装置でしか制御できない。さて、じゃあ、これもつけてあげるね。俺の奴婢の証だ」

 

 真夫が今度は同じような銀の金属環を取り出した。

 それを明日香の首に嵌っている首輪の上に装着しようとしてくる。

 

「あっ、それって……」

 

 いま気がついたが、その銀の金属のチョーカーは、横の光太郎だけではなく、ここにいる女たちの全身がしていた。

 気にしていなかったが、そういえば、恵たちは銀の首輪だけでなく、腕輪も嵌めている。

 それと全く同じだ。

 

「見てごらん」

 

 すると、真夫が明日香の首に装着する直前に、明日香の顔の前に、チョーカーの表面をかざした。

 金属の表面になにかが刻んである。

 外国語だ。

 

 

 “Ego sum servus Mao.”

 

 

 そう書いてある。

 

「俺の奴隷という意味だよ。一度つければ、二度と外すことはできない……」

 

 そのチョーカーが装着された。

 真夫の奴隷……。その言葉が明日香の心に改めて刻まれる。

 そして、満たされる……。

 

「じゃあ、ひかりちゃんと同じことをしてもらうか。俺の精を飲み干すんだ。それまで解放しないよ……。ひかりちゃんは、もう三十分も経つのに、まだ成功しないねえ。罰を与えようかなあ……。まあ、とにかく、これから先は、新しく来た明日香ちゃんと協力するんだ」

 

 真夫が笑う。

 とんとんと、光太郎の肩を叩いて、とりあえず、頬張っている真夫の怒張から口を離させる。

 

「はあ、はあ、はあ……。だ、だって、こんなこと……し、したことないし……。それに、股の刺激が邪魔で集中できなくて……。せ、せめて、バイブを止めてよ」

 

 光太郎が淫情に耽った表情で訴えた。

 バイブ──?

 びっくりして、光太郎のズボンに視線を送る。

 確かに、かすかに股間の部分が震えているように見える。

 もしかして、明日香と同じようにバイブ付の下着でも装着されているのか?

 

「集中できないか……。わかった。じゃあ、集中できるように制限時間を作ろう。いまから十五分以内だ──。二人で協力して、俺のちんぽから精液を出して、ふたりで飲む。飲み干せれば合格だ。だけど、一秒でも遅れれば浣腸だ。拘束を外さないまま排便してもらうよ……。あすか姉ちゃん、かおりちゃん、準備してくれる? 量は任せるよ」

 

「はーい」

 

「すぐに準備するわ。だけど、自分以外が責められるっていいわね」

 

 恵、ついで、白岡かおりが動き出す。

 だが、浣腸──?

 明日香は絶句してしまった。

 

「か、浣腸って、じょ、冗談だよね?」

 

 光太郎も顔を蒼くしている。

 

「ふたりがかりでするんだから、ひとりでするよりも楽だろう? 交替でするなり、話し合って分担するなり、好きなようにしな。ただし、結果は連帯責任だ。容赦なく、浣腸を注ぐよ──。じゃあ、はじめ──」

 

 真夫が服のポケットからスマホを出して操作をしてから画面をこっちに出す。

 画面にはカウントダウンが表示され、すでに“14:58”とあり、どんどん数字が減っている。

 

「ひんっ」

 

 次の瞬間、明日香の股間に淫具が再び一斉に動き出した。

 明日香は身体を硬直させてしまう。

 

「ああっ、そ、そんなあ──」

 

 明日香は身体を震わせてしまった。

 

「ほらほら、時間が勿体ないよ。ひかりちゃんは奉仕の挨拶から教えてあげてね。ひかりちゃんは一日早いんだから、教えたことを明日香ちゃんに伝えるんだ」

 

「うわあっ──。そ、そんな……。わ、わかったけど……。ま、前田君だよね──。きょ、協力しよう──。ま、まずは、奉仕をすることを告げて、真夫君にお礼を口にする。次に先端に口づけだ。それをやって、初めて奉仕をしていい。ぼ、ぼくがやるから、真似して……」

 

 光太郎が早口で明日香に声を掛け、そして、真夫の顔をじっと見た。

 

「ま、真夫君、奉仕をさせてもらいます。あ、ありがとうございます」

 

 光太郎は歯を喰いしばる感じになりながらも、そう言って頭をさげた。

 声が震えて、態度がぎこちないのは、多分、股間に受けている淫具の振動が辛いのだろう。

 そんな感じだ。

 

「さ、さあ、前田君……」

 

 光太郎が促す。

 明日香は光太郎がやった通りの口上を述べて、真夫の股間にそそり勃っている怒張の先端に口づけをした。

 

「ぼ、ぼくが真夫君の玉を舐めるから、前田君はペニスの方をお願いするよ。できるだけ唾液を多くして舐めた方がいいそうだ。真夫君は、やると言ったら、絶対にすると思う。が、頑張ろう」

 

 光太郎が真夫の睾丸にしゃぶりつくように動く。

 それに呆気にとられてしまって、明日香はすぐには動けなかった。

 

「明日香ちゃんも早く始めた方がいいんじゃないか? 時間は限られているよ。浣腸をふたりで受けたいなら別だけどね」

 

 真夫が口にする。

 明日香も慌てて、真夫の怒張を口に含んだ。

 どうやっていいのかわからないが、とにかく必死に舌を這わせる。

 

「あと十三分だ」

 

 すると、真夫の声が部屋に響いた。



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 第100話 浣腸ゲーム

「あと、三分だね」

 

 真夫は、ひかりと明日香のふたりがかりの奉仕を受けながら、できるだけ冷淡な口調で聞こえるように告げた。

 それを耳にして、ひかりたちはさらに必死に真夫の怒張を舐めあげだす。

 だが、ろくに教えてもいなフェラチオで、このまま真夫に精を出させるのは困難だろう。

 残り三分どころか、三十分かけても、射精には至らない自信はある。

 

 真夫の周りの女も、それなりの人数になってきた。

 一度に複数を相手にすることも日常茶飯事だし、始めれば必ず最終的には女を満足させて終わると決めており、手前勝手な射精はしないので、射精の制御も上手になってきている。

 だから、真夫自身がかなり自分の射精を自在に操れるようになってきたと思う。

 セックスにも手慣れたし、経験を積んだ分だけ、絶倫もなったし、自制もできる。

 出そうと思えば出せるし、出さずに意地悪をすることも自由自在だ。

 だから、はっきり言って、フェラチオを受けて射精するもしないも、実は真夫の自由自在なのである。

 

 そして、今回は最初だから、かおりちゃんと明日香ちゃんには、ちょっと意地悪の洗礼をすると決めていた。

 まあ、それでもちゃんと制限時間内で精を出すことに成功できれば浣腸はしないつもりだが、やはり、彼女たちの技巧では無理だ。

 一生懸命にやっているものの、罰ゲームは必至のようだ。

 真夫は微笑んだ。

 

 それにしても、玲子さんを取りあげない条件として、龍蔵が示した奴婢十人を集めることに対して、これで六人──。

 ただ、十人集めるだけでなく、豊藤グループの総帥候補を支える女として相応しい者を十人ということだったが、学園の四菩薩は当然に数に入るという事前の話だったから、まず明日香ちゃんは問題ない。

 また、ひかりちゃんは、金城財閥という国内だけではなく国際的に有数の財閥の跡取りだそうだ。これもまた、文句はないだろう。

 

 これで六人……。

 残り四人……。

 

 同じ養護施設で育った幼馴染のお姉ちゃんで、とてもエッチな「あさひ姉ちゃん」……。

 

 豊藤財閥の総帥の元専属秘書で、なんでもできるスーパーレディの「玲子さん」……。

 

 白岡家という超一流企業の社長令嬢の「かおりちゃん」……。

 

 学園四菩薩のひとりで、女生徒会長の「絹香」……。

 

 絹香の侍女の双子で、真夫と同じ嗜虐癖で陽気な「(あずさ)」と、ちょっと大人しいマゾ寄りの「(なぎさ)」。ただし、このふたりは認められなかった。多分、絹香とセットだという龍蔵の判断なのだろう。

 

 そして、目の前で、真夫に対するふたりがかりの奉仕を強要されている「ひかりちゃん」と、絹香同様に学園四菩薩のひとりの「明日香ちゃん」……。

 

「んん、んっ……。ぼ、ぼく、根元のところをするよ……」

 

「んあっ、んんっ……。は、はい……。じゃあ、あたしは先っぽを……」

 

 ひかりちゃんと明日香ちゃんは、いまや、やっと話し合いを積極的に交わしながら、なんとか精を出させようと必死のフェラを続けている。

 ふたりにしていたディルド付きのT字帯の淫具は、浣腸の準備だと告げて、残り五分を過ぎたところで外してやった。

 ふたりとも、溢れた樹液でねっとりと革帯の内側とディルドが濡れていた。

 集中を削ぐ淫具の悪戯がなくなったことで奉仕がしやすくなるとともに、アナルを露出させられたことで、ふたりとも否が応でも、浣腸への恐怖心が高まっている。

 

 また、明日香ちゃんはもともと全裸であり、ひかりちゃんも、いまは下半身にはなにも身に着けておらず、上半身は左右にはだけている制服のシャツと上衣のみというかなり破廉恥な恰好だ。

 そのあられもない格好の美少女たちが、必死に真夫の男根に奉仕をする姿は、真夫の嗜虐癖を大いに刺激してくれる。

 だから、なおさら、さらに意地悪をしたくなる。

 

 それにしても、ひかりちゃんの股間にある可愛いペニスは、すでにしっかりと勃起している。本物のペニスではないが、男の性器同様に、性的興奮になると、これが勃起するみたいだ。

 つまりは、ひかりちゃんはなんだかんだで、いますっかりと興奮しているということだ。

 真夫は左手でひかりちゃんのペニスを軽く擦ってやった。

 

「ひんっ──。ま、真夫君、い、悪戯は……」

 

 ひかりちゃんがびくんと身体を跳ねさせた。

 真夫はくすくすと笑った。

 

「ひかりちゃんは、もう俺の奴婢だよ。つまりは、ひかりちゃんの身体をなにをどうしようと、俺の勝手のはずだけどねえ……。触っちゃだめなのかな?」

 

 ひかりちゃんの股間の小さなペニスを刺激しながら言った。

 

「あっ、ああっ……。だ、だめじゃないけど……。で、できれば……。ああっ」

 

 擦るたびにひかりちゃんが切なそうな顔になって、ぴくんぴくんと身体を震わせる。

 あまり悪戯をしたら可哀想だから、適当なとこでやめてあげる。

 ふたりが見えるように示しているスマホの画面にある残り時間を確認した。

 いつの間にか、残り時間は一分になっていた。

 

「さあ、頑張って。もう時間がないよ」

 

 真夫は声を掛けた。

 

「ふふ、浣腸の準備は万端よ、明日香──」

 

「ひかりちゃんも頑張って」

 

 ふたりの視界に入るように、真夫の背中側に来ているかおりちゃんとあさひ姉ちゃんがガラス管のポンプ式浣腸器を構えて見せつけている。

 ふたりとも、結構のりのりだ。

 真夫はほくそ笑んだ。

 

 すると、ソファの上のスマホから電子音が鳴りだした。

 アプリによるカウントダウンの音が始ったのだ。

 

「……あと、十秒だね」

 

 真夫は告げた。

 

「あ、ああ、お、お願いだよ、真夫君──。んんあっ、んあっ……」

 

「ああ、浣腸なんて……」

 

 ひかりちゃんと明日香ちゃんが懸命に舌を這わせる。

 なんとも淫靡な光景だ。

 

「……二、一……。残念時間切れだ」

 

 真夫はふたりの顔をそれぞれのリードを引いて離させた。

 そして、首輪を掴んで頭を固定する。

 

「ま、真夫君、本気じゃないよね。浣腸なんて」

 

「浣腸なんて、いやよ──」

 

 ふたりとも唇を涎でいっぱいにして、さすがに逃げようともがく。

 しかし、ひかりちゃんは足首に手首を繋げ、明日香ちゃんは背中で拘束している。

 さらに、真夫の合図で見守っていたあさひ姉ちゃん、かおりちゃん、絹香、そして、双子侍女が一斉に集まってふたりの身体を掴む。

 浣腸液はすでに準備されており、ひかりちゃんにはかおりちゃんが、明日香ちゃんにはあさひ姉ちゃんが、お尻を突き出させる姿勢に固定した二人のアナルに浣腸液を注いでいく。

 

「ああ、い、痛いっ──。痛い──」

 

「あっ、いやっ、ああっ……」

 

 ふたりとも多分、生まれて初めての浣腸だろう。

 生温かい液体が腸内を逆流する感触に、悲鳴をあげて顔を引きつらせている。

 さすがに抵抗が強いようだ。

 四人がかりで押えているが、腰を引いて浣腸器から逃れようとしている。

 真夫は、彼女たちの中にある忌避の感情の線をほんの少し鈍くし、服従しようという感情を活性化して太くした。

 なぜ、そんなことができるのかは、自分でもよくわからない。

 だが、できるのだ──。

 

 また、ひかりちゃんと明日香ちゃんのみならず、真夫の周りに集まっている女の子たちは、もともと服従しようという感情線が大きくて太いのだ。動かしやすい性欲の感情線に絡み合っているので、服従の感情は簡単に活性化できる。

 ふたりから、抵抗の態度がすっと消滅して、諦めた感じになる。

 真夫は、操心術によるふたりの心への接触をやめる。

 

「大丈夫よ。こいつの前で、ウンチをさせられたのは、あんたたちだけじゃないんだから……。、そのうち病みつきになるわよ。真夫の前で排便するのがね……。なんだかんだで、こいつ面倒見いいから」

 

「真夫ちゃんは、意地悪だけど優しいのよ」

 

 かおりちゃんとあさひ姉ちゃんが浣腸液をポンプ式の浣腸器で注ぎながら言った。

 

「あ、ああっ……。き、気持ち悪いよ……。入ってくる……。お腹に……」

 

「わけがわかんないことを……」

 

 ひかりちゃんと明日香ちゃんが顔を歪めている。

 そして、やっとそれぞれの浣腸器が空になった。

 ふたりのお尻から浣腸器の嘴管(しかん)が抜かれた。

 

「うう、お腹が……」

 

「くっ、うう……」

 

 ふたりが顔を俯かせて呻いている。

 おそらく、浣腸液は二百㏄を超えていたと思う。

 最初の浣腸としてはかなりの量だと思う。あさひ姉ちゃんとかおりちゃんも、なかなかに容赦がないようだ。

 真夫は苦笑した。

 

「じゃあ、ふたりとも二回戦だ。今度は時間制限はない。ただし、俺から精を出させれば、トイレに行ける。間に合わななければ、そこで垂れ流しだな」

 

 真夫は言った。

 

「えっ?」

 

「ええ──」

 

 ふたりとも目を大きく上げて絶句している。

 また、ここで、排便を許される条件を新たに出されるとは思わなかったのだろう。

 

「今度の制限時間は、君たち自身かな……。すでに、お腹が痛くなってきたんじゃないの? 始めなくていいのかな?」

 

 真夫は意地悪く言った。

 ふたりの腰が早くも小さく震え出している。やはり、二百㏄の浣腸はかなりに効き目のようだ。

 すでに、ふたりとも顔が蒼ざめている。

 

「前田君、やろう……」

 

「は、はい……」

 

 ふたりが再び真夫の男根に舌を絡めさせ始めた。

 真夫はふたりがフェラチオを再開したのを確認して、双子に声を掛ける。

 

「はい」

 

「あっ、はい」

 

 ふたりが真夫に目の前にやって来た。

 どうして呼ばれたのかわからずに、怪訝な表情になっている。このふたりを含めて、あさひ姉ちゃんもかおりちゃんも、ショーツに丈の短いネグリジェだけという恰好だ。

 

「お尻をこっちに突き出すんだ。じっとしてるんだぞ」

 

 双子に対し、真夫にお尻を向けるように指示し、ネグリジェの裾と下着をずらして、ひとりに一個ずつイチヂク浣腸を注ぎ込んだ。

 

「きゃん」

 

「ひゃっ」

 

 ふたりがびっくりして腰をあげたが、その時には、すでに浣腸液はふたりのお腹の中に注ぎ終わっている。

 さらにふたりには、両手を身体の前で重ねるように命令をした。

 奴婢たちの腕輪や首環を操作するソフトを利用して、両手を密着させる。

 

「さて、じゃあ、ひとりずつ、ひかりちゃんと明日香ちゃんのどちらかのお尻の下に顔を入れるんだ。仰向けでね」

 

 双子に命令する。

 さすがに、ちょっと抵抗の色を示したが、操心術で服従心の感情を刺激すると、とりあえず、大人しくなり双子は真夫の指示に従った。

 まあ、もともと、このふたりが真夫の命令に逆らうことはなかっただろうが……。

 

 ひかりちゃんも、明日香ちゃんも正座の体勢から腰をあげた格好でフェラをしているので、ふたりがお尻の下に顔を入れることは、そのままの状況でできた。

 双子だけでなく、真夫にフェラをしているふたりも、お尻の下に顔を入れられて、どうしていいかわからないかのように、居心地悪そうにしている。

 

 真夫は、あさひ姉ちゃんに指示して、双子の手に細目のバイブレータを手渡させる。

 四人とも、完全に困惑した表情になる。

 

 もっとも、ひかりちゃんと明日香ちゃんについては、浣腸を受けているので、漏らす前にトイレの許可をもらおうと、双子の状況が気になってはいるのだろうが、とにかく目の前の奉仕に全力を注ごうと一生懸命にはなっている。

 

「梓と渚については、いま顔の上にあるひかりちゃんと明日香ちゃんの状況は理解できるよね。その体勢から、顔の上にいる相手を渡した淫具で責めるんだ。相手を絶頂させたら、顔をどけることを許可してあげる。だけど、早くしないと、顔の上になにが降ってくるかわかるよね」

 

 真夫は言った。

 

「えっ?」

 

「ええ?」

 

「そんな──」

 

「う、嘘でしょう──」

 

 双子だけでなく、ひかりちゃんと明日香ちゃんも、奉仕を中断して、顔色を変えて引きつらせた。

 

「浣腸ゲームだ──。ひかりちゃんと明日香ちゃんは、俺から精を出させて飲み干せばトイレに連れて行ってあげる。梓と渚については、顔の上の相手が排泄をしてしまう前に、絶頂をさせることができれば、トイレを許可するということだね。じゃあ、かおりちゃんとあさひ姉ちゃんは、梓と渚がそれまで顔をどけられないように、ふたりの身体の上に馬乗りになってよ」

 

 真夫は言った。

 

「わたしは梓に上に乗るわ──。こいつ、今日の午前中はさんざんにリモコンでわたしたちを苛めたしね──。いい気味よ──」

 

 かおりちゃんが嬉々として、梓のお腹に馬乗りになった。

 

「ごめんね、真夫ちゃんの命令だから」

 

 あさひ姉ちゃんは、渚の上に馬乗りになる。

 また、梓の上がひかりちゃんで、渚の上が明日香ちゃんだ。

 当の四人は顔に恐怖を浮かべている。

 

「ほら、始めなくていいのか? 梓と渚自身もタイムリミットがあるだろう。ぼやぼやしていると、うんちを被るかもしれないし、自分で漏らすかもしれないぞ」

 

 真夫は意地悪く言った。

 

「うう……。前田君、とにかく、ぼくたちは続きを……」

 

「わ、わかりました……」

 

 ひかりちゃんと明日香ちゃんはフェラチオの続きを再開する。

 一方で、かおりちゃんとあさひ姉ちゃんも、双子の方向に移動していく。しかし、双子については、まだ呆然となっている。

 

「そうね。じゃあ、お腹の上にのってあげるわね、梓」

 

 かおりちゃんが馬乗りの場所をずらして、ちょっとお腹側に乗った。

 

「ぐえっ──。ちょ、ちょっと、かおりさん──」

 

「なによ。始めなくていいの? うんちが顔にかかるわよ」

 

「うう……。ひ、ひかり様……。も、漏らさないでくださいね……」

 

 梓が持たされたバイブをひかりちゃんの股間に当てる。

 

「明日香さん……。ごめんなさい……」

 

 渚もそれに倣うように、バイブを明日香ちゃんの股間に押し当てた。

 

「ひゃああっ、だめええ」

 

「ひいい──」

 

 その瞬間、ひかりちゃんと明日香ちゃんのふたりが真夫へのフェラチオを中断して、身体を突っ張らせてそれぞれに奇声をあげた。

 

 さてさて、結果はどうなるのだろうか……?

 ちょっとした気紛れの遊びだったが、真夫は苦闘を始めた四人の姿ににんまりと微笑んでしまった。



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 第101話 浣腸ゲームⅡ・愛撫

 明日香は、汗だくになりながら目の前の真夫の怒張を一心不乱にしゃぶり続けていた。

 右側からは、金城家の御曹司であるはずの金城光太郎が、明らかに女の身体と顔になって、明日香に合わせるように、やはり真夫の股間への奉仕を続けている。とにかく、この状況が明日香には理解できなくて混乱していた。

 ただ、察するに、男子生徒ということで学園内で通していた光太郎は、実際には女性だったのだろう。

 普通の女性にはない小さなペニスはあるが、それ以外はどこをどう見ても、可愛らしい女生徒そのものだ。

 

 そういえば、明日香の記憶する限り、光太郎は学園生活の二年と二か月余りの期間の中で、真夏であろうと、一度もブレザーの上着を脱いだことがないはずだということを考えていた。

 また、寮生活は一学年のときからS級寮でひとり部屋だし、一年生の宿泊学習や国際研修旅行、二年生時の米国短期ホームスティも理由をつけて不参加だったということも思い出した。

 考えてみれば、それらは、この光太郎が極力、本当は女生徒だと発覚することを防ぐためのものであったのかもしれない。

 そして、なんらかの方法で真夫たちは、光太郎が本当は女生徒であることを知り、それをもって脅迫している?

 一瞬、そう思ったものの、横で見る限り、真夫に奉仕する光太郎の態度には、それほどの悲痛なものはないし、むしろ真夫に対して積極的に尽くしているようにさえ見える。

 どういうことなのだろう……?

 

 いや、それは、明日香も同じか……。

 

 この真夫という男のことは、正直なにも知らない……。知っているのは、ほんの十日前に突然に絹香の前に現れ、その絹香と終始いつも一緒にいるようになったという事実だけだ。

 しかも、男など愛さないはずの絹香は、それ以来わかりやすいくらいに、女の顔になった。

 だから、明日香から絹香を遠ざける原因となった真夫など、むかつく男のはずなのに……。

 

 なぜか、こうやって対面していると嫌いになれないのだ。

 むしろ、男根を舐めて精を出させろという理不尽で下劣な命令に素直に従う程には、気に入っているかもしれない。

 ろくに話したこともないような相手に、そんな感情を抱くということが不思議でならないのだが……。

 

 だが、そんな思念を吹き飛ばすような言葉を真夫が少し前に口にした。

 浣腸を受けて排泄に苦しんでいる明日香たちをそのままにして、真夫はすぐ横に絹香の双子侍女を呼んで、いきなりイチヂク浣腸を施し、明日香たちのお尻の下に顔がくるように仰向けになって、明日香たちを淫具で責めて昇天させるように命令したのである。

 

 耳を疑った──。

 だが、本気であるらしく、真夫の命令の通りに明日香たちのお尻の下に腹ばいになった双子が避けられないように、かおりと恵が双子の腹の上に乗りさえしたのである。

 

「ほら、始めなくていいのか? 梓と渚自身もタイムリミットがあるだろう。ぼやぼやしていると、うんちを被るかもしれないし、自分で漏らすかもしれないぞ」

 

 ちょっと呆然としてしまった双子を含めた明日香たち四人に、真夫は冷たく告げる。

 

「うう……。前田君、とにかく、ぼくたちは続きを……」

 

 先に我に返った光太郎が、はっとしたように明日香に顔を向ける。

 

「わ、わかりました……」

 

 明日香も頷く。

 いずれにしても、生まれて初めて受けた浣腸の猛威に、すでに追い詰められている。

 それまでがただの予兆でしかなかったことを明日香に気づかせるかのように、大きな便意がうねりとなって、押し寄せ始めたのだ。

 この状況で、股間を刺激されるなど冗談じゃない。

 

 絶対に漏れる──。

 明日香は恐怖した。

 

「うう……。き、金城様……。も、漏らさないでくださいね……」

 

「明日香さん……。ごめんなさい……」

 

 しかし、双子は双子で、真夫に浣腸までされて、明日香たちを淫具で責めるようにけしかけられている。

 ブーンという不気味な機械音がお尻の下で鳴り、それが明日香の股間にも下から押しつけられた。

 

「ひゃああっ、だめええ」

 

「ひいい──」

 

 明日香も光太郎も、その瞬間に絶叫していた。

 あまりにも凄まじい衝撃だった。

 とにかく、全ての苦悶を一瞬にして忘れた感じになり、明日香は全身をのけぞらせた。

 淫具が当たった場所は、明日香のクリトリスだ。それが遠慮気味にそっと触れたのだ。

 肉が蕩けだすかと思う程の気持ちよさに、頭が白くなりかける。

 だが、慌ててアナルに込める力を最大限に強めもした。

 

「だ、だめだよ──。ま、真夫君──。は、早く出して──」

 

 光太郎も必死に口調で叫んでいる。

 

「なら、一生懸命に焦らなきゃ」

 

 にこにこしている真夫がすっと光太郎の股間に向かって、左手を動かしたように感じた。

 

「ひいんっ」

 

 横の光太郎が真夫の股間から口を離して、光太郎の股間に手をやったのが横目で見えた。

 視線を向ける。

 真夫が光太郎の股間にある小さなペニスをいやらしくさすっている。

 そこが、光太郎の性感帯であることは、すでに明日香も知っている。真夫はそれがわかっていて、股間に淫具を当てられている光太郎のペニスをさらに刺激しているのである。

 その意地悪さに目を疑う。

 しかし、光太郎は苦悶の表情の下に、明白な愉悦の恍惚感を浮かべていた。

 光太郎は、真夫の意地悪に興奮にしているのだ──。

 

「だ、だめええ──」

 

 光太郎がびくびくと身体を痙攣させる。

 

「ひゃああ──。我慢して──。出さないで──。我慢してください──」

 

 光太郎のお尻の下にいる双子のうちのひとりの梓が悲鳴をあげた。

 

「いまにも、ひかりちゃんも、明日香も我慢できなくって出すかもね。ふたりとも、ちょっと責めればすぐに達すると思うよ。うんちを浴びる前に絶頂させた方がいいと思うけどねえ」

 

 真夫が光太郎の股間への悪戯をやめた、

 だが、光太郎はもう少しも動けないかのように、全身を硬直させたままだ。

 明日香は、ずっと横から真夫の股間を舐めるような感じで奉仕していたが、思い切って正面から口に咥えた。

 思い切って奥までのみ込み、できるだけ力を入れて吸うようにしながら、激しく上下に振る。

 とにかく、少しでも早く出さないと、もう長くはもたない。

 あっという間に、かなり切迫してきた便意が明日香を追い詰めもしている。

 

「おっ、いい感じだよ。気持ちいいよ。明日香ちゃん」

 

 真夫が声をかけてきた。

 

「ごめんなさい──」

 

 そのときだった。

 渚が操るバイブレーターが明日香の股間に軽く挿入されてきた。しかも、無意識だとは思うが、振動を膣の中のアナル側の肉癖に強く当てられる。

 アナルから一瞬に足りとも気を逸らすことのできない状況で、間接的とはいえ、肛門側に刺激される快感は衝撃だった。

 しかも、排泄を我慢しているので、込みあがる愉悦に無防備にならざるを得ず、そのまま昇りつめそうになってしまった。

 

「ひああっ、だめえ──」

 

 明日香は、ついに真夫の男根から口を離してしまった。

 

「もう無理かな……。じゃあ、これで許してあげるよ。その代わり、もう少し我慢だ」

 

 真夫が明日香の後頭部を掴んで、強引に明日香の口に男根を入れ直した。

 

「梓も渚も、ふたりともバイブを最奥まで挿入しろ──。命令だ──」

 

 真夫が怒鳴る。

 先端が入っていただけだったバイブが一気に奥まで突っ込まれた。

 子宮が激しく揺らされる。

 

「ああっ、ああああ──」

 

 一瞬にして絶頂感が襲い掛った。

 

「ああ、だめええ──」

 

 光太郎も悲鳴をあげている。

 

「締めろ──。出すな──」

 

 真夫が大声をあげる。

 なにも考えない。

 真夫の言葉だけが頭に響き渡り、アナルの筋肉を反射的に力いっぱいに締めつける。

 ただただ、真夫の命令に従う──。

 すると、それ以外のすべてが完全に無防備になった。

 

「んふううっ」

 

 泣くような声が明日香の口から迸っていた。

 気がつくと、明日香は真夫に男根を口に咥えさせられたまま絶頂していた。

 信じられないくらいの快感の奔流だ。

 

「あさひ姉ちゃん、渚を解放していい」

 

「はい、真夫ちゃん。よかったわね、渚ちゃん」

 

 お尻の下にいた渚が、素早く身体を引っ張られていなくなるのがわかった。

 すると、口の中に突然に、真夫の精が放出された。

 口の中に生臭い香りが拡がる。

 だが、不思議にも嫌なものではないと感じる自分に気がつく。

 それよりも、嬉しい。

 やっと精を口にすることができたことに、安堵と悦びで心が満たされる。

 

「さすがは、スポーツ特待生だ。絶頂してもお尻を締め続けるなんてすごいね……。さあ、ひかりちゃんも、明日香ちゃんに分けてもらうんだ。口にすれば許してあげるよ」

 

 真夫だ。

 

「あ、ああっ、ま、前田君、ぼ、ぼくにも──」

 

 必死の口調で、光太郎が明日香に顔を向けてくる。

 明日香は口を開いて、まだ舌に乗っていた真夫の精液を光太郎に差し出すように舌を出す。

 一緒に苦闘した仲だ。

 すでに連帯感のようなものがある。

 もちろん、一緒に真夫の精を分かち合わないとと思った。

 この精は、明日香だけのものではなく、光太郎との共同の成果なのだ。

 

「ま、待って──。あたしも許して──。身体をどかさせてください──」

 

 そのとき、いまだに光太郎のお尻の下に顔を入れたままにされているらしい梓が悲痛な声をあげた。

 

「あんた、まだひかりを絶頂させてないでしょう。諦めて、うんちを浴びなさい」

 

 かおりの意地の悪い言葉が聞こえた。

 

「ああ、やだああ、早く達してください、金城様──」

 

 梓が叫ぶ。

 

「んおおおっ、だめええ、出るうう──」

 

 明日香の舌を懸命に舐めて、真夫の精を自分の口に入れていた光太郎が身体を突っ張らせる。

 

「ほら、梓──。アナル栓だ。栓をしてやれ──。絹香も出番だぞ。明日香ちゃんにも、栓をしてあげるんだ」

 

 真夫がそれぞれになにかを投げたのがわかったが、よく聞こえたなかった。

 

「はい、真夫さん──。明日香、もう少しだから、頑張って──」

 

 それを受け取った絹香が明日香のお尻側に駆け寄るのがわかった。

 次の瞬間、アナルになにかがねじ込まれた。

 潤滑油を塗ってあったのか、ほとんど抵抗なく硬くて大きなものが突然に中に入り込む。

 内側でその大きなものが拡がるような感覚が襲う。

 

「ううう、なによ、これ──?」

 

 明日香は呻いた。

 苦しいだけじゃない。

 アナルに挿入されたものが、内側で微振動をしているのだ。

 

「アナル栓よ。苦しいだろうけど、漏らさないでは済むわ」

 

 アナル栓──?

 お尻を塞いでとりあえず、排泄の危機からは解放したということか?

 

 絹香が明日香を心配するかのように、蹲っている明日香を後ろから抱き締めてきた。

 だが、それに反応する余裕はない。

 浣腸によって噴火しそうな便意の苦しさは変わらない。

 汗が全身から噴き出し、身体は悪寒に見舞われたように震え続ける。

 

「んぐうっ」

 

 一方で光太郎もまた、アナル栓をされたのか、横で苦悶の声をあげた。

 

「梓は、まだひかりちゃんから絶頂をさせてないからね。アナル栓をしたから、ひかりちゃんが漏らしてしまうことはなくなった。だから、今度は舌でかおりちゃんを射精させるんだ。ペニスを舐めてね。それ以外の刺激は認めない。ひかるちゃんがペニスから精を出せば、梓もトイレに行っていい……。渚はもういいぞ。トイレは奥の隠し部屋にあるから、行っておいで」

 

 真夫が言った。

 渚が真夫に感謝の言葉を口にして、奥に駆けていく。隠し部屋というのは、昨夜ひと晩、恵たちに苛められた、本棚の後ろのSMルームのことのようだ。

 

「ああ、金城様、お願いします──。そろそろ、あたしもお腹が苦しいです──」

 

「うわっ」

 

 真夫の言葉で光太郎のお尻の下から出ることを許された梓が、起きあがって光太郎の身体を押し倒した。

 その股間に梓が顔を密着させ、その光太郎が苦悶の声をあげる。

 

「さて、じゃあ、明日香ちゃんは、トイレに向かう前に儀式だ──。俺の奴婢になるね──」

 

 真夫が明日香の前ですかに胡坐で座り直す。

 いつの間にかズボンも下着も脱いでいて、下半身にはなにも身に着けていない。 

 次いで、立膝の明日香の身体を抱き寄せて、真夫の腰の上に明日香の腰を引きあげた。

 腰を掴んで抱きあげるような感じで、天井を向いている真夫の怒張の上に腰をおろされる。

 

「ひあっ、ああっ、ああああ──」

 

 すると、明日香の果唇が真夫の怒張の先端に当たり、次いで、ずぶずぶと真夫の股間に打ち沈められていった。



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 第102話 奴婢の洗礼

「ひあっ、あああっ」

 

 真夫は直立した男根を明日香ちゃんの股間にあてがい、ゆっくりと沈めた。

 アナル栓を施したとはいえ、便意の限界に襲われている明日香ちゃんの膣は、自然とぎゅうぎゅうと真夫の怒張を力強く締めつけてくる。

 しかも、運動をしているので、足腰が鍛えられていて股の力も強い。

 これなら、もう少し追い詰めても大丈夫だと判断した。

 

 なにしろ、嫉妬心から強い口調で真夫を糾弾した明日香ちゃんの内面に、高い被虐性があることは最初からわかっている。

 そもそも、絹香とは少し前からかなり本格的な百合の関係であることは教えてもらっていたが、どちらかというと、明日香ちゃんが受けで、絹香が責めになることが多かったそうだ。

 しかも、拘束を交えるようなアブノーマルな性愛も珍しくなかったらしい。

 もともと、この明日香ちゃんはかなりのマゾなのだ。

 だったら、遠慮はいらないだろう。

 

「大丈夫そうだね。じゃあ、頑張れ」

 

 真夫は、挿入したばかりのアナル栓をあっさりと抜いてしまった。

 安心させておいて、突き落とす。

 これもまた、プレイだ。

 

「ひあああっ、だめええっ」

 

 明日香ちゃんが絶叫し、ものすごい力で股間が締めあがる。

 

「絶対に緩めるなよ」

 

 真夫は明日香ちゃんの腰を下から持ち上げれるようなかたちで律動を開始する。

 

「ひいっ、ひんっ、だめえっ、も、漏れちゃう──。だめえ──。せ、栓をして──。栓をしてください──」

 

 明日香ちゃんは後手拘束のまま、崩壊寸前の便意に襲われている身体を上下に犯され、涙目でアナル栓を訴える。

 だが、大丈夫そうだ。

 どこまで頑張れるかの見極めは、かなり上手になったつもりだ。

 まあ、最悪、失敗しても明日香ちゃんと一緒に汚物まみれになるだけのことだし……。

 

「ぎりぎりまで頑張れ──。その苦悶の向こうに快感がある」

 

 真夫はそううぞぶいて、無視して律動を続ける。

 

「ひんっ、はあっ、ああっ──。ど、どうして……。こんなに……感じるの……、ああ──」

 

「我を忘れるなよ。しっかりと尻の穴に力を入れ続けろ──」

 

「は、はいっ──。あっ、ああああ──」

 

 明日香ちゃんは脂汗まみれの顔を右に左にと揺すって、必死に歯を噛み合わせようとする。

 だが、愉悦の深さも鋭さも突き抜けた感じなのだろう。悲鳴のような快感の声をあげ続ける。

 

 明日香ちゃんが達したのは、結局、あっという間だった。

 対面で真夫に抱かれたまま、全身をがくがくと震わせて、身体を硬直させた。

 

「んぐううっ」

 

 明日香ちゃんが昇りつめるのに合わせて、真夫は精を放った。

 排便に襲われている身体を犯されて絶頂にまで達したことで余程に感極まったのか、明日香ちゃんは絶頂しながら泣きじゃくった。

 最後には、自ら腰を使って快感をむさぼってもいた。

 それでいて、結局、漏らさなかったのだから大したものだ。

 

「よく頑張ったな」

 

 真夫は明日香ちゃんを引き寄せて、荒い息を続けている明日香ちゃんに口づけをする。

 すでに余裕がないのか、ほとんどなずがままだ。

 だが、朦朧とした表情のまま、舌は自ら絡めてくる。これまでの女性たちにはない反応なので面白いと思った。

 真夫は、明日香ちゃんのお尻に手を伸ばして、さっき抜いたアナル栓を装着しなおした。

 

「ひいいっ」

 

 このアナル栓は、時子婆ちゃんにお願いしたものであり、お尻で締めつければ微弱な振動を自動的に開始する仕様になっている。

 明日香ちゃんは、さっそく悶絶するような声をあげた。

 

「じゃあ、ひかりちゃんの番だな」

 

 真夫は、ひかりちゃんと梓の方を見た。

 こっちも佳境に入っていて、ペニスを(あずさ)に咥えられてちょうど絶頂に至ったところのようだ。

 

「んふううっ」

 

 左右の手首と足首をそれぞれに拘束されている状態のひかりちゃんは、ぶるぶると身体を震わせて達したようだ。

 

「さあ、梓、ちゃんと精を出させることに成功したか?」

 

 梓に申し渡してたのは、梓がひかりちゃんの小さなペニスだけを刺激して、精を出させることだ。

 もっとも、ひかりちゃんのペニスは、疑似ペニスであり、実際には男根とは違う。絶頂をしてそこから精液を出すのではなく、女として激しく絶頂したときに、普通の女がいわゆる「潮噴き」をするような激しく絶頂するときだけ、そこから潮を噴くのである。

 だから、簡単には出ない。

 とことん、追い詰めてからではないと、そこまで感極まらないだろう。

 

「あっ、いえ、まだ……」

 

 梓がひかりちゃんの股間から口を離して、苦しそうに顔を歪めながら言った。

 さっきのイチヂク浣腸がもうかなり効果を発揮しているに違いない。

 かなりの汗をかいているし、顔も蒼白い。

 

「そうか。じゃあ、梓は罰として、かおりちゃんと絹香に責められるんだ。今日は一日、ふたりの言葉に一切逆らっちゃだめなことにしよう。かおりちゃんと絹香は面倒みてやるんだ」

 

 真夫は言った。

 

「ええ──?」

 

 このところ、ずっと責め役を専門にやっていた梓は、真夫の言葉に顔をひきつらせている。

 それはそうだろう。

 昨日の日中だって、リモコンバイブ付きの貞操帯を装着された絹香とかおりちゃんは、この梓からさんざんに遠隔で悪戯をされていたし、昼休みに部室に集まったときにも、真夫と一緒になって梓は、ふたりを容赦なく責めたてていた。

 立場が逆転すれば、絶対に手酷く仕返しをされるに決まっているのだ。

 しかし、それがまた愉しいのだ。

 

「やっほう──。だから、あんたは好きよ。じゃあ、梓、覚悟しなさい。簡単にうんちができるとは思わないことね。外に行くわよ。制服を持ってきてあげるから、すぐにそれを着なさい」

 

 張り切って返事をしたのは、かおりちゃんだ。

 すぐに、備え付けのクローゼット室に向かっていく。

 

「そ、外って、なんですか──。いやです。なにをしようと言うんですか。どこにも行きませんよ」

 

 梓はびっくりしている。

 

「あら、じゃあ、服を着るのが嫌なら裸でいいのかしら。かおりさん──。梓は服はいらないそうよ──」

 

 絹香がクローゼット室に向かったかおりちゃんに叫ぶ。

 

「そ、そんなこと言ってません──」

 

 梓が大声をあげた。

 真夫はくすくすと笑ってしまった。

 まあ、このところ、責められ役ばかりをさせられているかおりちゃんも絹香も、鬱憤が溜まっているのかもしれない。

 ここは、ふたりに任せておくか。

 

「さあ、ひかりちゃん、おいで……」

 

 真夫はひかりちゃんを引き寄せる。

 仰向けに倒し、上から重なって怒張を膣に挿入する。

 すでに、なかはぬるぬるだ。 

 さっそく律動を開始する。

 

「はあんっ、あっ、ああっ、真夫君──。真夫君──。だめえ、気持ちいい──。で、でも、漏れる──。ああ、お願い──」

 

 すぐに泣き出しそうな顔で喘ぎだす。

 明日香とは異なり、ひかりちゃんは、アナル栓を抜けば、すぐに排泄を開始しそうな感じだ。

 真夫は、アナル栓を装着させたまま、ひかりちゃんを犯す。

 ぶるぶるというアナル栓の振動が肉壁越しに、真夫の男根にも伝わってくる。

 

 真夫は、ひかりちゃんの女性らしい姿を愉しみながら、ひかりちゃんが絶頂しそうになると律動を緩め、快感の波が引くと再び激しくするということを繰り返した。

 三度同じことをすると、ひかりちゃんは明らかに常軌を逸したような反応になった。

 意地悪をしないでと哀願してきたひかりちゃんを四度目に、やっと絶頂を許した。

 怒張を挿入している膣だけでなく、小さなペニスからも精液のような愛液を噴き出しつつ、ひかりちゃんは達した。

 真夫はひかりちゃんにも精を放った。

 

 一方で、かおりちゃんと絹香だが、あっという間に服を着ると、梓の服を抱えたまま、ネグリジェを強引に剥がして、下着一枚だけになした梓をそのまま部屋から連れ出していた。

 梓も抵抗としようとしたが、さすがにふたりには逆らえず、廊下に連れ出されてしまった。

 かおりちゃんも絹香も、多分、容赦なく梓を責めるのだろうなと思った。

 なら、明日には、再び、三人の立場を逆転させて、梓にかおりちゃんと絹香を責めさせるのが面白いかもしれない。

 真夫はほくそ笑んでしまった。

 それはさておき、明日香とひかりちゃんだ。

 

「さて、待たせたね。じゃあ、ふたりもトイレに行こうか。随分と我慢してもらったしね」

 

 真夫は明日香ちゃんとひかりちゃんの拘束を一度外し、今度は二人の両手首を首環の後ろ側に密着させたかたちで拘束しなおした。

 リードも嵌めなおす。

 

「さて、じゃあ、俺たちも行こうか。あさひ姉ちゃん、準備はいい?」

 

 真夫は、まだ部屋に残っているあさひ姉ちゃんに声を掛ける。

 

「準備できてるわ、真夫ちゃん。ホテルも大丈夫。ちゃんと、玲子さんが手配してくれたとおりになっていたわ」

 

 あさひ姉ちゃんは、すでに部屋の外に出られるように服を身につけ終わっていて、真夫が服を整えるのを手伝ってくれた。

 玲子さんの手配というのは、これから始める真夫たちのプレイのために、玲子さんがここのホテルに、ある処置を頼んでくれたのだ。

 

 ただ、玲子さん自身は、今日は真夫たちには合流できない。

 今日は、ひかりちゃんのことについて、金城家と話をつけるために、ひかりちゃんの実家に行き、ひかりちゃんの祖父と面談をしてくれる予定になっている。

 どういう話し合いをするつもりなのかわからないが、玲子さんに任せておけば問題はないのだろう。

 必ず、玲子さんは、ひかりちゃんが真夫の女のひとりになることについて、金城財閥の総裁であるひかりちゃんの祖父と話をつけてくれるはずだ。

 

「じゃあ、行こう──」

 

 真夫は、ひかりちゃんと明日香ちゃんの首環に繋がっているリードを握って、ホテルの廊下に出る方向に引っ張る。

 ふたりが驚愕した。

 

「ま、待ってよ、真夫君──。どこに連れて行くつもりなんだい──?」

 

「トイレって、隠し部屋にあるんじゃないんですか──? さっき、渚ちゃんが向かった……?」

 

 さすがにひかりちゃんも、明日香ちゃんも、全裸のままホテルの廊下に連れ出されることについては尻込みをした。

 だが、すぐに操心術で、ふたりの心を操作する。

 

 もっとも、大した操作はほとんど必要なかった。

 すでに、ふたりとも、いつの間にか真夫に対する服従心のような心ができあがっていたし、恥ずかしいことや屈辱的なことを受け入れ、さらにそれに期待するような感情が大きくなっている。

 真夫は、それをほんのちょっと刺激しただけだ。

 ふたりは、これからさせられようとしていることに、羞恥で真っ赤になるとともに、心の底から怯えながらも、無理にリードに逆らうこともなく、真夫の導くままドアに向かって歩みを進める。

 

「奥は、すでに奴婢になった者たち用のトイレだよ。新しくSS研の部員になったふたりのトイレが別に準備しているよ。新部員の洗礼と思ってくれればいい」

 

 真夫は強引に、ふたりを廊下に引っ張り出した。

 

「ああ……」

 

「あっ」

 

 ひかりちゃんも明日香ちゃんも完全に竦みあがった。

 なにしろ、ふたりとも全裸であり、頭の後ろに両手を拘束されて、紐で首輪を引っ張られながら歩くという格好なのだ。

 だが、実は今日については、この最上階には客はいないし、ホテルの従業員も午前中には来ない。

 そういう指示を玲子さんがホテルに与えているのだ。

 この階だけでなく、これから向かう場所もそうだ。

 しかし、そうやって人払いがされていることを知らないふたりは、完全に怯えきってしまっている。

 もっとも、怯えだけではないことは、真夫は見抜いている。

 ふたりの股間からは、かなりの愛液が内腿から膝にかけて、垂れ続けている。

 

 この最上階にも廊下にトイレはある。

 しかし、真夫はそれは通り過ぎた。

 

「新入りの奴婢のトイレは、ほかの場所に準備しているよ」

 

 そう言って、フロアの端まで進ませ、階段をあがらせる。

 この上は屋上だ。

 真夫は屋上に向かう途中の踊り場で一度止まった。

 

「さあ、トイレに行く準備だよ」

 

 真夫はふたりの後ろに行くと、アナル栓を外した。

 

「うあああ」

 

「だめええ──」

 

 ふたりが(うずくま)る。

 真夫は、ひかりちゃんだけ、両手首を首輪から解放して、両手を自由にする。

 

「ひかりちゃんは、手で押さえるなり、なにをしてもいいから、とにかく屋上にあがるんだ。そこでうんちをしたければ、それでもいいけどね……。明日香ちゃんは、まだ我慢できるよね。お尻の筋肉にしっかりと力を入れてついておいで」

 

 真夫はリードをぐいと引っ張る。

 ふたりは数歩進んだものの、脚をがくがくと震わせて、再びしゃがみ込んでしまう。

 かおりちゃんは、泣きそうな顔で手でお尻を押さえるという随分と格好悪い姿だ。

 

「む、無理だよ、真夫君……」

 

「そ、そうです──。で、出ちゃいます──」

 

 ふたりが涙目で訴える。

 

「ふふふ、進んだ方がいいわよ。止まると、これよ」

 

 後ろからついてきていたあさひ姉ちゃんだ。

 長い柄のついた鳥の羽根のようなものを持っている。それで、ふたりのお尻をするすると撫ぜた。

 

「ひゃん」

 

「だめええ──」

 

 ふたりが悶絶するような声を出す。

 

「ほらほら、真夫ちゃんの命令に逆らうとこうよ」

 

 さらにくすぐる。

 

「あ、歩くよ──」

 

「歩くから──」

 

 ひかりちゃんと明日香ちゃんが這うように再び進み出す。

 階段の一番上に着いた。

 立入禁止の張り紙のある鉄の扉を開く。

 屋上には誰もいない。

 このホテルよりも高いビルは、この周辺にはないので、誰にも見られることはないはずだ。

 真夫は、ふたりを屋上に連れ出した。

 

「ひっ」

 

「うっ」

 

 ふたりが汗まみれの身体に感じる外気に身震いした。

 

「さあ、あれはふたりに準備したトイレだ」

 

 真夫は屋上の真ん中にぽつんと置いたふたつのバケツを指さして、ふたりの首環からリードを外す。

 ふたりが唖然としている。

 

「そ、そんな……普通のトイレに……」

 

「お、お願いです……」

 

 ひかりちゃんも明日香ちゃんも、真っ青な顔で哀願してきた。

 真夫はにっこりと微笑む。

 

「もう、そんな暇はないんじゃないの?」

 

「うう……」

 

「くうう……」

 

 ふたりは項垂れた。

 だが、すぐにバケツに向かって歩き出す。

 

 一歩……一歩と、ゆっくりと……。

 

「あっ……、も、もう無理……」

 

 だが、半分ほどの距離で、ひかりちゃんが不意に止まった。

 もう無理かな……。

 

「あっ、光太郎さん……。も、もう少しですから、頑張って……」

 

 明日香ちゃんも、それに気がついて止まって、ひかりちゃんに声を掛ける。

 すぐ後ろからついてきている真夫は、あさひ姉ちゃんに指示して、ここまでバケツを持ってきてもらった。

 

「よく頑張ったね、ひかりちゃん……。明日香ちゃんもここでいい。さあ、していいよ」

 

 バケツが到着したところで、ふたりの脚のあいだにそれぞれにバケツを差し込む。

 ふたりがバケツの上にしゃがみ込んだのはすぐだ。

 瞬時に、ふたり同時に崩壊が開始した。

 凄まじい勢いで、汚物がバケツに降り注ぐ。

 

「ご褒美だ……。SS研にようこそ……」

 

 真夫は彼女たちの前に回り込むと、ふたりの股間にそれぞれに手を伸ばして、股間を愛撫する。

 

「ああっ、いやあ」

 

「そんなあ──、あっ、ああ、あああ──」

 

 ひかりちゃんと明日香ちゃんがあっという間に絶頂してしまった。

 ふたりが排泄を続けながら、たちまちのうちに激しいオルガニズムに達する姿に接しながら、真夫はふたりに最後の仕上げする。

 この羞恥と屈辱心を最大限の快感に感じように、彼女たちの感情の線を操作していく。

 これでふたりとも、完璧なマゾ性に覚醒するはずだ。

 

 だが、やろうとすると、操心術の操作はほとんど必要はなかった。

 すでに、そうなっていたのだ。

 ひかりちゃんと明日香ちゃんは、真夫の愛撫でさらに絶頂しながら、しばらくのあいだ、恍惚とした表情でバケツの中に汚物を吐き出し続けた。



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第18章 茶会
 第103話 掲示板の前で


【前期中間試験(第3学年)】

 

 第一位 一組 西園寺絹香(S)

 第二位 二組 金城光太郎(S)

 第三位 一組 坂本 真夫(S)

 第四位 五組 加賀 豊 (S)

 第五位    ……   (A)

 

【前期中間試験(第2学年)】

 

 ……

 

【前期中間試験(第1学年)】

 

 第一位 四組 立花 柚子(A)

 ……     ……   (A)   

 第三位 十組 松野 梓 (C)

 ……     ……   (B)

 第五位 十組 松野 渚 (C)

 

 


 

 

 教場棟の玄関に表示された掲示板に生徒の人だかりができている。

 午前中の授業が終わった昼休みだ。

 真夫は、従者生徒ということになっているかおりちゃんとともに、昼食を食べるために、食堂のある厚生棟に向かおうとしたのだが、たまたまそれを見つけたのだ。

 多分、百人くらいは掲示板の前に集まっている感じだが、掲示板そのものは高い場所にあるので後ろからでも支障はない。

 

「中間試験の順位?」

 

 中間試験があったのは先週のことであり、ほとんどの課目について、採点の終わったテスト用紙が戻ってきていたから、そこそこの成績だとは予想はしていたが、まさか学年で三位に入っているとは思わなかった。

 真夫もちょっと驚きだ。

 

「うわっ、あんた、三位に入っているじゃないのよ。編入前は工業高校だったのよねえ。こんなこと言ったら、お仕置きされるかもしれないけど、施設出身だから勉強はできないと思ってたわ。三位って、どういうことよ。あんたの取柄って、女扱いだけじゃないのね」

 

 かおりちゃんが感嘆半分、揶揄い半分の口調で言った。もっとも、声はちゃんと抑えていて、周囲には聞こえないよう配慮している。

 真夫は苦笑した。

 

「頭は悪くはなかったよ。昔から記憶力はよかったしね。覚えるのに苦労したことはなかったね」

 

 真夫は言った。

 前の高校でも成績は当然のように一番だった。養護施設出身だといっても、特別視せずに親しくしてくれる者ばかりだった。だからこそ、痴漢をしたことになって、手のひらを返したように、施設出身だから犯罪を犯すのだと蔑まれたのはつらかった。

 いまとなっては、もうどうでもいいことではあるが……。

 

「くうう──。羨ましいわねえ。だけど、三傑の一角を喰っての三位なんて凄いじゃないのよ。もちろん大学に行くのよねえ? だけど、前の学校って、就職組が半分以上の学校よねえ。どうして、最初から進学校にしなかったの?」

 

 この学園に入る前のことはあまり話さないので、真夫の女たちの中で知っているのは、玲子さんとあさひ姉ちゃんくらいなのだが、どうやら、かおりちゃんは知っていたみたいだ。

 

「うーん、なぜって言われてもねえ。まあ、一番の理由は、寮があったことかな。それにとりあえず就職するつもりだったんだ。いずれ、大学に行くことは考えていたけど、二、三年は働いてお金を貯めてからというのが現実的かなあと思ってたね。まあ、だけど、そのときは、実際には目の前のことをこなすのが精一杯で、最終的には大学は行かなかったかもしれないな」

 

「ふーん、だったら、わたしのしたことも、ちょっとは価値があったかもしれないわね。あんたがこの学園に来れたのも、わたしのちょっとした失敗が切っ掛けだったんだし」

 

「ちょっとした失敗ねえ……」

 

 真夫は笑った。

 このかおりちゃんが真夫に痴漢の冤罪かけたのは、約二か月前のことだ。それが切っ掛けで、真夫はその工業高校を退学になり、寮を追い出されて住む場所を失った。

 だが、偶然に再会したあさひ姉ちゃんのアパートに行くことになり、さらに玲子さんと会って、この学園で生活することになり、いまでは、真夫が国際的な大財閥の総裁である魔王こと豊藤龍蔵の息子であることがわかって、後継者となるための試しを受けることになるまでになった。

 凄まじいほどの人生の変化だが、確かに、かおりちゃんが切っ掛けといえないこともない。

 まあ、あのときは、手酷く復讐してやろうと思っていたが、なぜか、男女の仲になり、こうやって軽口を交わす仲にまでなった。

 これもまた、面白いものだ。

 もっとも、それはかおりちゃんの性格によるものなのだろうが……。

 

「だけど、あの加賀は口惜しがっているでしょうね。この前はあんたに絡んできたけど、あいつ三傑から外れたことなんてなかったのよ。でも、これで序列変更ね。いい気味だわ。そして、やったわね。本当にすごいわよ」

 

 かおりちゃんは満面の笑みを浮かべて、本当に嬉しそうだ。

 こんなに喜んでくれるのは、かおりちゃんがいまや、真夫のことを心の底から身内のように思ってくれているからだということはわかる。

 真夫は、本当にありがたいと思う。

 

「でも、そういえば、そういうかおりちゃんの成績って、どのくらいなの? 五傑に入ってないみたいだけど」

 

 一学年から三学年の中で掲示板に名前が出るのは五位までだ。

 六位よりも下なのはわかっているけど、そういえば、勉強はできるのだろうか?

 

「それは、多分……。いや、そんなのいいじゃないのよ」

 

「そうか?」

 

 真夫はかおりちゃんを自分の前に立たせると、何食わぬ顔をして、かおりちゃんのスカートをまくって、お尻を撫でる。

 今日は、ノーパンの日だ。

 SS研の女部員の全員に、下着を禁止している。

 真夫は、スカートの中のかおりちゃんの生尻を撫でまわしてから、アナルに指で触れる。

 

「くっ、だ、だめ……。み、見られる……」

 

 かおりちゃんが顔を俯かせて、短いスカートの中の内腿をぎゅっと閉じる。

 構わずに、真夫は後ろから指を伸ばして股間から出ていた蜜をすくいとって指先にまぶさせる。

 このかおりちゃんを奴婢にしてから、そろそろ一か月半がすぎる。そのあいだ、毎日のように掻痒剤入りの媚薬を塗り、淫具や怒張で甘美な責めを与え続けている。

 もともと、淫乱の素質もあったのだと思うが、いまや、なにをしなくても、いつでも、かおりちゃんは股間を濡らしているくらいの淫女になった。だから、かおりちゃんの股間はいつでも蜜がいっぱいなのである。今日など、下着なしでは、蜜がスカートの裾から外に垂れ出ないようにするのが大変だったに違いない。

 とにかく、それを潤滑油にして、おちょぼ口のような肉穴に人差し指をこじ入れる。

 

「んんっ」

 

 かおりちゃんが慌てたように、手で口を押さえる。

 最初に会って以来、定期的にアナル調教を続けていて、いまや、アナルはかおりちゃんの大きな性感帯のひとつだ。

 いや、もしかしたら、いまは一番の性感帯かもしれない。

 真夫はかおりちゃんのお尻の中の感じる場所を指の腹で執拗に刺激してあげる、

 かおりちゃんの顔が真っ赤になる、短めのC級生徒の制服のスカートから出ている太腿が小刻みに震えだした。

 制服用の革靴を履いている足ももじもじと動き出す。

 

「……お、お願いよ……。ここでは……」

 

 かおりちゃんが後ろを向いて必死に哀願の視線を送ってくる。

 

「さあ、どうしようかな。ここで達してもらおうかな。声を我慢するんだよ」

 

「む、無理よ……。あ、あんたの指は気持ちよすぎるのよ……」

 

「じゃあ、練習だ」

 

 真夫は、アナルだけでなく、スカートの前からも手を入れて、クリトリスをこすってやった。

 ここまでしても、周りにばれないのは、操心術を周囲に飛ばしているからだ。集団に対する操心というのも最近は慣れてきた。

 面白いものであり、人間の心というのはひとりひとりは、ばらばらなはずなのに、集団でなにかをしているときには、共通の感情や心理が勝手に同調するのである。

 たとえば、いまはほとんどの生徒が周囲の生徒ではなく、掲示板の中間試験の上位五人の名前に注目している。

 それを周りの生徒だけの心に接触して、目の前の関心事を掲示板に向けてやる。それを十人ほどにすると、あとは勝手にそれがさらにほかの生徒の心にも増幅して侵食していくのである。

 いまはそういう状況だ。

 特に真夫たちに注視しない限り、周囲の視線はこっちには向かない。

 だが、それを知らないかおりちゃんは、スカートを前から片手で隠して、もう一方の手で懸命に口を押さえて声を我慢している。

 

「んんんんっ」

 

 そして、身体を小さく震わせて達してしまった。

 身体がよろけて倒れそうになるのを、すでにスカートから抜いている両手で支えてやる。

 

「案外ばれないものだろ?」

 

 真夫は耳元でささやいた。

 

「はあ、はあ、はあ……。ば、ばか……」

 

 かおりちゃんがまだ真っ赤な顔で、恨めしそうに真夫を睨んできた。

 そのとき、真夫たちのところに近づく人影に気がついた。

 

「真夫さん、三傑入りおめでとうございます」

 

「おめでとうございます」

 

「……おめでとうございます」

 

 現れたのは、絹香と双子侍女の(あずさ)(なぎさ)だ。

 

「おめでとうって……。絹香の方が上じゃないか。それと、梓と渚もすごいな。全学年の中で、C級で上位五人に入っているのはふたりだけじゃないか。さすがだね」

 

 真夫は言った。

 

「たまたま、運がよかったんです」

 

「……は、はい、たまたまです」

 

 梓と渚がはにかんだように応じる。

 

「いえ、誇りなさい。さすがは西園寺家の侍女です。そして、謙遜よりも自信を持ちなさい。それが当たり前だと思うのです。そうすれば、自然とそれに相応しい力が自分に定着するのです」

 

 絹香が横から口を出す。

 

「そうだな。だけど、俺のことはともかく、ふたりは従者生徒として仕事をしながらの五傑だしな。なにかご褒美をあげたいな。まあ、俺のできることの範囲にはなるけど」

 

 真夫は言った。

 

「ご褒美ですか?」

 

「ええ?」

 

 梓も渚も戸惑っている。

 

「仕事をしながらってなによ……。渚はともかく、梓なんて、従者といっても、このところ調子に乗って、わたしや絹香にちょっかいを出してばかりじゃないのよ。そんなもの不要よ」

 

 かおりちゃんだ。

 いつの間にか回復したようだ。ただ、股間から垂れた蜜が内腿を伝って、足首まで達している。

 それに気がついた真夫はほくそ笑んだ。

 

「へえ、そんなこと言うんですね、かおりさん……。じゃあ、覚悟しておいてくださいね。とても愉しい調教を考えておきますから。絹香お嬢様と一緒にうんと恥ずかしいことをしてもらいますね」

 

 梓だ。

 真夫は苦笑した。

 女たちの中で、マゾ気よりも嗜虐癖が強いのが梓なので、真夫は時折、この梓に仲間になった女の子を責めさせたりするのだ。

 だから、なんとなく、最近では、この梓がSM遊びのときの真夫の助手のような立場になっているのだ。

 

「な、なんで、あんたに、そんなこと言われないといけないのよ──」

 

 かおりちゃんが真っ赤になる、

 横で絹香も顔をひきつらせた。

 

「真夫様がお命じになるからです。そうだ、真夫様、ご褒美はこのかおりさんと絹香お嬢様を一日自由にする権利が欲しいです。渚とふたりで」

 

「あ、あたしはいいです」

 

 渚は激しく首を横に振っている。

 

「なんで、あんたなのよ──。わたしが奴婢になったのは、こいつであって、あんたじゃないのよ。そもそも、あんたも奴婢でしょう──」

 

「か、かおりさん、声が大きい……」

 

 絹香が慌てて、かおりちゃんをたしなめた。

 

「わかった。いいだろう。次の休みにでもな。だけど、対象はかおりちゃんだけだ。たっぷりと悪戯するといい」

 

 真夫は笑って言った。

 

「な、なんでよ──?」

 

 かおりちゃんが声をあげる。

 

「仕方ないだろう。どうやら、ここにいる者の中で、掲示板に名前が掲載されなかったのはかおりちゃんだけだ。その代わりに次の試験で順位が上がれば、かおりちゃんの望みもきいてやる。梓に仕返しをすればいい」

 

 真夫は言った。

 

「な、なに言ってんのよ──。あっ、だったら、明日香にしなさいよ。わたしはこれでも、序列は三分の一以上には入っているわ。明日香こそ、下から数えた方が早いくらいのはずよ──」

 

「明日香さんはスポーツ特待生じゃないですか。連続全国大会出場の期待のエースですよ。しっかりと結果を残されてます。なにも結果がないのは、確かにかおりさんだけです」

 

「くうう……。言い返せない──」

 

 かおりちゃんが口惜しそうな顔になった。

 みんなで思わず一斉に笑ってしまった。

 

「じゃあ、そういうことだね……。ところで、さすがは絹香だね。一位というのはすごいじゃないか……。だけど、順位には点数は出てないけど、一位というのはどのくらいの点数なんだ? 次は俺も絹香を目標にしようかな」

 

 真夫は笑った。

 半分以上は冗談のつもりだったが、絹香が引き締まった表情になる。

 また、掲示板には、順位はあるけど点数はないのだ。だから、何気なく訊ねてみた。

 

「真夫さんに勉強まで負けてしまっては、わたしの立つ瀬がありません。真夫さんにすべてが劣ってしまっては、将来お支えはできませんし……。それと、文系、理系などのクラスごとに課目が異なるので、順位を決めるのは総合得点ではなく、得点率だと聞いています。ちなみに、わたしはいまのところ返却してもらった課目はすべて満点です」

 

「満点? あんた、いつも一番だったけど、そんなに頭よかったの?」

 

 かおりちゃんが唖然としている。

 

「ええ。でも、わたしの目標は玲子さんですから。まだまだです」

 

「玲子? だけど、あいつって、司法試験を大学時代に合格したような化け物よ。ほかにも、たくさん資格持っている感じだし」

 

「だからこそ、もっと努力します。もちろん、真夫さんのお相手もさせていただきます。よろしくお願いします」

 

 絹香が真夫に向かって頭をさげた。

 

「それこそ、こちらこそだね」

 

 真夫は頭を掻いた。

 

「集まってるね……。前田君はいないけど、それ以外は勢揃いか」

 

 やって来たのは、ひかりちゃんだ。

 もちろん、いまは男子学生として、男の制服を身に着けている。

 そして、このひかりちゃんは、金城光太郎として、この学園では、同じS級生徒の加賀豊とともに、二大人気を誇る学園の双璧でもある。

 だから、ひかりちゃんが来たことで、さっき真夫が掛けた操心術の効果が薄まり、ここに注目が集まりだしている。

 集団操心術の効果など、その程度のものだ。

 そのひかりちゃんが親しそうに声を掛けた真夫にも、注目が集まっている。

 それもまた、操心術の能力で周囲の感情に触れることができるようになった真夫にはわかるのだ。

 

 また、先週までずっとこのひかりちゃんについていた金城家の老女侍女はいない。やはり金城家がつけていた見張りの護衛生徒もだ。

 玲子さんが金城家の総帥であるひかりちゃんの祖父と話をつけてくれ、ひかりちゃんが真夫の愛人になることを祖父が認めてくれて、玲子さんの申し出に従い、それらの一切の排除を指示したらしいのだ。

 おかげで、最近はこのひかりちゃんは、ずっとひとりで動いている。

 それについても、ひかりちゃんは喜んでいるみたいだ。

 

「明日香は、試験結果になんか興味ないのよ。多分、素通りして食堂に行ったと思うわ」

 

 絹香が笑いながら言った。

 

「そうなの? それにしても、真夫君、みんなが君のことを噂しているよ。編入早々、三傑に喰い込んだことにびっくりしているよ」

 

 ひかりちゃんが真夫に向かって相好を崩した。

 

「ひかりちゃ……いや、光太郎には負けたけどね」

 

「いや、ぼくなんか、幼い頃から家庭教師をずっとつけられて教育を受けてきたからね。それなりの成績を修めるれるのは当然だよ。君の方がすごいさ」

 

「当然ではないとは思うけど、まあいいや……。ありがとう、光太郎」

 

 真夫は応じるとともに、ひかりちゃんのそばに寄る。

 すると、周囲がざわめいたのがわかった。

 このひかりちゃんに真夫のSS研に入ることを「説得」したのは、先週の土曜日であり、あれから一週間近くが経って、ひかりちゃんは、毎日のようにSS研に顔を出すようになったのだが、真夫と光太郎としてのひかりちゃんの関係を知らない者も多い。

 だがら、親密に見える関係が意外なのだろう。

 

「うん……。ところで、今日の放課後はサロンの日なんだ。部室に顔を出すのは、少し遅くなるね」

 

 ひかりちゃんが言った。

 サロンというのは、このひかりちゃんが金城光太郎として、放課後に定期的に開くことにした集まりのことだ。

 いわゆる「お茶会」なのだが、もうひとりの双璧の加賀とは違い、金城光太郎として、これまでひかりちゃんは、その手の集まりを主催したことはなかった。

 双璧といっても、金城家がそれだけ大きな家だからであって、個人としてのひかりちゃんは、ほとんど他生徒とは関わってはこなかったのだ。

 

 それが、今週に入って、毎週、水曜日と金曜日にサロンを開くと宣言して、金曜日の今日で二回目になる。

 SS研のみならず、この学園の文化部は、今月末に「文化部発表会」というイベントがあるので、大わらわだ。

 真夫たちも、いつもの「SMごっこ」にばかりにかまけてはおられず、展示予定の『拷問の歴史』展示準備に忙しくしている。

 それで、部に顔を出すのが遅くなると伝えにきたようだ。

 

 また、これまで、サロンなど一度もやらなかったひかりちゃんが、突然にサロンを開くようになったのは、実は真夫のためだ。

 奴婢になったことで、真夫が豊藤グループの後継者となる試しとして、十人の奴婢を集めなければならないことは、ひかりちゃんにも教えた。

 しかも、ただ集めるだけではなく、豊藤の後継者候補に相応しい女を集めろと命令されていることもだ。

 すると、ひかりちゃんは、自分もサロンを開いて、そこで数名ずつの女生徒を招き、見込みのある女生徒がいないか噂話だけでも集めてみようと言ってくれたのだ。

 それでサロンなのだ。

 

「ああ、今日は金曜日だったわね……。でも、顔は出すんでしょう。逃げないでよね。明日香も、なんだかんだで、サッカー部の練習を口実にあまり顔出さないし、あんたが来ないと、結局、あたしと絹香ばっかり、展示物のテストをさせられるんだから」

 

 かおりちゃんだ。

 

「わ、わかっているよ。ちゃんと来るってば……。それに、真夫君に命令されているし……。行かないと辛いし……」

 

 ひかりちゃんが顔を真っ赤にする。

 

「ああ、プラグね」

 

「く、口に出さないでよ、白岡さん──」

 

 ひかりちゃんが慌てたようにかおりちゃんの言葉を遮る。

 真夫は横で笑ってしまった。

 プラグというのは、「アナルプラグ」のことであり、新たに真夫の奴婢になったこのひかりちゃんについては、今週の月曜日からずっとアナル調教を続けているのである。

 

 現段階で、アナルで真夫の男根を受け入れられるのは、あさひ姉ちゃんに玲子さん、かおりちゃんと明日香ちゃんだ。

 絹香も双子従者も、このひかりちゃんもまだまだ難しい。

 いや、挿入自体はできるだろうが、快感を覚えるには調教が足りないということだ。

 ただ、ちょっと面白いと思ったのは、百合仲間だった絹香と明日香ちゃんだが、絹香は股間に淫具を入れたこともなく、ましてやアナルにものを挿入した経験もなかったことに対して、明日香ちゃんについては、淫具によって破瓜済みであり、アナルの経験もあったことだ。

 これだけで、絹香と明日香ちゃんが対等の百合の関係ではなく、かなり一方的な関係だったことがわかるというものだ。

 

 それはともかく、このひかりちゃんはアナル調教中だ。

 毎朝、通学前に真夫の部屋で浣腸をして排便をさせ、アナルを媚薬で解して柔らかくしてから、アナルプラグを挿入して授業に参加してもらっている。

 だんだんと大きなフラグにしていく予定であり、いまは二段階目のプラグを装着させている。

 見たところ、かなり慣れてきていて、ぎこちなさもなくなってきたみたいのなので、そろそろ三段階目のもっと太いプラグに移行してもいいかもしれない。

 真夫は、ひかりちゃんのズボンの上からプラグを挿入しているお尻を強く揺らした。

 

「ひゃっ」

 

 ひかりちゃんがその場にしゃがみ込みそうになる。

 周囲からは驚きの声があがったが、まあ、この程度なら男同士のじゃれ合いに見えるはずだ。

 問題ない。

 

「ま、真夫君……、い、悪戯は……」

 

「ごめん、ごめん」

 

 真夫は男の子同士のふざけ合いを装って、かおりちゃんの肩を抱いて、かおりちゃんの耳元に口を近づける。

 

「……じゃあ、夕方はさらに太いプラグに変えるね。それと、週末はロータも挿入してもらう。覚悟しておいてね……」

 

 小さくささやく。

 

「あっ……、は、はい……」

 

 ひかりちゃんが真っ赤な顔になって、かすかに首を縦に動かした。

 

「ところで、あんたのサロンで、なにかいい情報は入った? なんだかんだで、こいつに十人の奴婢を集めてもらわないとならないんだから。わたしたちはこいつに一蓮托生──。残り四人。しかも、こいつに相応しい女限定よ。なにかいい話はあったの?」

 

 かおりちゃんだ。

 もちろん、真夫たち以外には聞き取れないくらいの小さな声だ。

 すると、ひかりちゃんが頷いた。

 

「ああ、それなんだけど、もしかしたらと思う女生徒の名は聞いたよ。今日はその子もサロンに呼んでるんだ。あるいは、夕方にはいい話を持ってこれるかもしれない」

 

「えっ、誰なんです?」

 

 絹香が口を挟む。

 

「美術部の部員だよ。知っていると思うけど、二年生の世良(せら)七生(ななお)さん。学生絵画コンテストの大賞の常連で、先日は大人も参加する美術展で入賞もしている。多分、芸術家として大成するんじゃないかな。真夫君に相応しい女性と言えると思う。そして、彼女は真夫君に興味を抱くかもしれないんだ」

 

「ええ、あの変人ビッチ女?」

 

 すると、かおりちゃんが嫌な顔をした。



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 第104話 お茶会の前に

 サロンの会場として借りているのは、学園内にあるパーティ用の庭園付きハウスのひとつだ。

 整備された美しい庭園のテラス付きの応接室とそれに付属する数個の部屋とキッチンなどで構成される独立した平屋の木造建築物であり、ここだけまるで英国式の庭園を切り取ったような感じがする。

 多くの資産家や上流階級の子弟が多く所属するこの学園では、学生だけでなく、学園関係者が必要により利用できるように、こういう庭園付きのパーティハウスがあちこちに数箇所準備されてある。

 

 もっとも、ひかりは、これまでただ一度も、私的な集まりなど主催してなかったので、これまでは一度もそういう場所に踏み入れたことはなかった。

 だが、あの玲子さんに頼むと、数箇所あるハウスのひとつを金城家用に年度末まで貸切にしてくれたのである。

 従って、ここは、ひかりがこの学園に所属する三月までは、金城家専用のパーティハウスということになる。

 すでに金城家からアフタヌーンティのために必要な食器や食材、その他各種の必要なものをすべて運び込んでいる。やると決めたからには、金城家主催に相応しい一流のものを揃えるように指示したが、彼らは十分にひかりの期待に応えてくれた。

 

 ひかりは、自分が主催するこの定期サロンを堅苦しいものにするつもりはないが、一方で、品の悪い集まりにもするつもりはない。

 だから、全てを一流のもので囲ませた。品物だけでなく、接待をする執事役や侍女役もだ。彼女たちについても、しばらくのあいだ、定期サロンに応じて、学園に通ってもらっている。

 サロンの真の目的は、あの真夫が十人の奴婢を集めるにあたり、それに相応しい人材に関する情報を集めることである。従って、サロンに招待するのは、家柄などには関係なく、一般家庭の子女も対象にする予定だ。そういう者たちにも、いわゆる一流のものというのを気軽に愉しんでもえらればと考えている。

 

「お疲れさまでした、光太郎様。本日は天気がいいので、テラスに場所を準備しております。茶葉は前回と同じものを三種類。本日のティフードは……」

 

 執事役の男性は金城家の家人ではないが、金城家主催のパーティなどではいつもお願いしているサービス会社から派遣してもらっている者である。とりあえずは、三か月契約でこのサロンに専属だ。

 これもまた、金城家もちである。

 

 専用の個室として使っている小部屋に入ったひかりは、サロンの準備状況の報告を受けながら、問題なく支度されていることを確認して逐次に頷く。

 

「今日の招待客は五人の女生徒だ。そもそも、正式のマナーにも不慣れな者がほとんどだと思う。彼女たちが気後れしないように、侍女役の女性たちには言い聞かせておいてくれ」

 

 ひかりは釘を刺した。

 前回にも申し渡したことだが、集めている接待役の執事や侍女たちは、この手の会合に慣れている。

 すると、マナー知らずのふるまいに対し、露骨に蔑んだり、そうでなくても柔らかくたしなめたりする態度を取ろうとするものが少なくないのだ。

 ひかりは、それを一切禁止した。

 マナー教室ではないのだ。気持ちよく会話をするのが目的である。あまりにひどい場合のみ集まってもらった者たちが気を悪くしない程度の誘導はするが、基本的にはマナーなど関係なしに気楽に過ごしてくれればいいと思う。

 

「かしこまりました」

 

「それと、次の水曜日のサロンの招待は、今回の試験で五傑に入った一学年の五人だ。招待状はこれからだけど、そのつもりで頼む。全員が一般家庭だ」

 

 一年生の試験の五傑を次の招待にしようと決めたのは、たまたま一年生の上位五人が女子生徒だったからだ。

 このサロンに男子生徒を呼ぶつもりはない。

 これまで、ほかの生徒とほとんど交流をしようとしなかったひかりが、突然にサロンを定期開催し、しかも、女生徒だけを呼ぶことについては、早くもいろいろと取り沙汰されている気配だが、なにも気にするつもりはない。

 真夫の奴婢にするのに相応しいような女生徒の情報を男子生徒から集められる気はしないし、不用意に男子生徒に近づくのも、真夫が嫌がりそうだ。

 どっちにしても、ひかりが開くこのサロンは、すでに一回目でかなりの評判だそうだ。是非招待して欲しいという言葉はたくさん聞いた。

 次の五人もおそらく、応じてくれるだろう。

 五人の中には、奴婢仲間のあの双子従者もいることだし、ひかりはちょっと愉しみでもある。

 

「わかりました。では、人数がお決まりになりましたら、またご連絡をお願いします、光太郎様」

 

 執事役の男が頭をさげて退出する。

 ひかりは接待役なのでひと足先に来たが、この場所は学園の敷地内でも、ほかのどの場所とも離れているので、ゲストの女子生徒は、学園内専用の無人シャトルバスでやってくる。

 これもまた、玲子さんが手配してくれたものであり、参加予定の女子生徒が都合のいい場所に立ち寄り、ここまで直接に送り迎えしをしてくれるのだ。

 

 彼女たちを乗せたシャトルバスが到着するまでに、十五分ほどあるはずだ。

 ひかりは、気怠い身体をリクライニングチェアにもたれさせた。

 

「……光太郎様……か……」

 

 ここでは、金城の苗字ではなく、下の名前で呼ぶように指示しているので、彼らが“光太郎”と呼ぶのは当然であり、彼らに限らず学園のどの生徒や教員も、ひかりのことを“金城光太郎”として接する。

 

 だが、真夫の「奴婢」となって今日で一週間……。

 すでに、光太郎としての意識よりも、“ひかり”としての意識が強くなっている。

 

 つまり、女である“金城ひかり”としての意識だ。

 やっぱり、自分は女だった……。

 

 それをこの一週間で徹底的に心に焼き付けられた。

 

 男である金城光太郎として生きるつもりだったひかりは、女であるひかりとして生きることを決めた。

 それで最初に思ったのは、婚約者のことだ。

 男としての光太郎の婚約者だった九条あゆみという婚約者がいた。

 祖父があてがった婚約者だったが、彼女には本当に申し訳ないと思った。

 

 月曜日に祖父と連絡をとったとき、祖父からは、嫡男である後継者としての役割も演じてもらわないとならないので、九条家とも相談して婚約者としての建前は継続すると伝えられた。

 だが、ひかりが男として生きるとか、女として生きるとかに関わりなく、すでにほかの男に心を奪われているひかりが、彼女の婚約を続け、いずれ形式だけの結婚をするというのは、さすがに不実極まりないと思った。

 だから、ひかりは、個人的に婚約者の九条あゆみに連絡をとった。

 しかし、彼女からの返事も、婚約の続行を希望するということだった。そして、ひかりの葛藤にはずっと以前から気がついていて、相手の男性とは婚姻としてのかたちにはならないが、ひかりが女性としての幸せを追求できそうなことに喜んでくれた。

 ほとんど関与してこなかった彼女が、そんな風に思ってくれていたのは意外だったし、また、逆に彼女がひかりに向けるほどの熱量をひかりが彼女に向けてこなかったことを恥ずかしく感じてしまった。

 

 いずれにしても、ひかりは真夫の女になった。

 だが、真夫の愛し方は独特だ。

 彼は当たり前には愛さない。

 女を支配するのだ。

 心も身体も……。

 

 真夫にSS研に呼ばれて、罠に嵌って犯されたのが先週の金曜日──。

 ギロチン台に繋がれて凌辱され、そのあと少なくとも五回は女の性器に精を注がれた。

 さらに日が暮れると、バイブレータのついた下着を装着させられて、ほかの生徒のいる学園内で辱められた。

 そして、S級寮の真夫たちの部屋でまた犯され、翌朝に校外の駅前一等地のホテルに連れ出されて、そこの最上階で、やはり、新しく奴婢になったという前田明日香とともに、強烈な体験をさせられた。

 

 あれから一週間……。

 とにかく、全てが変わった。

 

 まず、ひかりを見張るために、祖父が学園内に同居させていた侍女役の花江がいなくなった。

 もともと、祖父の若い頃からの愛人だという花江は、侍女だといってもひかりの見張りが本来の役割であり、成長するにつれて、男ではなく完全に女性の身体になっていくひかりのことを隠すため、とにかく、他生徒との接触を可能な限りしないように、徹底的にひかりを束縛した。

 それを鬱陶しく思っていたひかりだったが、祖父の指示は絶対だ。

 ひかりは逆らえなかったし、逆らおうとも思わなかった。

 その花江が祖父の指示でいなくなったのだ。

 

 あの玲子さんと祖父がどんな交渉をしたかはわからない。しかし、玲子さんは祖父を説得して、ひかりが真夫の将来にわたって愛人になることを条件に、真夫との関わりを許した。

 いや、むしろ、関われと命令された。

 新しい侍女を送ると言われたが、ひかりはそれは断った。

 これについても、玲子さんと祖父とのあいだで、なんらかの取引のようなものがあった気配だ。祖父と玲子さんは、土、日、月と三日連続で会い、いろいろと話し合ったようだ。

 とにかく、その結果、ずっと見張っていた祖父の手の者がいなくなり、ひかりは生まれて初めて、祖父の監視のない生活をすることになったのである。

 

 そして、変わったといえば、なによりもS級寮での生活がそうだ。

 先週の土日、ひかりは、真夫たちともに、豊藤の系列らしい駅前の一流ホテルのスイートルームに全員で宿泊した。

 普通のスイートルームではなく、SMルームが隠し部屋として繋がっている部屋であり、そこでひかりは、特に明日香とともに、SS研の洗礼というものを週末ずっと受けたのだ。

 そして、日曜日の夜に真夫たちと戻ると、ひかりの個室と真夫の個室が中で繋がっていたのである。

 これには唖然とした。

 ひかりは、金城光太郎として、S級寮の四号室をあてがわれている。真夫たちは五号室だ。それが壁の一部が壊されて、ひと繋がりの大きな部屋になっていたのだ。

 ひかりたちが外に宿泊したわずか一日でやったはずだが、当たり前のようにつながっている部屋を見て、さすがに度肝を抜かれてしまった。

 

 とにかく、生活空間こそ別だが、実際には一緒に暮らすという寮生活が始まった。衣食住に必要なことは、真夫の恋人の朝日奈恵がすべてしてくれる。あるいは、真夫もしてくれるし、玲子さんが手配するハウスキーパーもだ。

 つまりは、ひかりの面倒を真夫たち側で全て看てくれるということだ。

 月曜日の夜に連絡をとったとき、祖父はこの状況になることを承知していた気配だった。だから、新しい侍女を送るかという祖父の言葉にひかりが断っても、固執しなかったのだと思う。

 

 そして、真夫たちとの事実上の共同生活は、同時に真夫によるひかりに対する調教の生活が始まったということにもなった。

 真夫の部屋では、いまのところ、ひかりはほとんど着衣は許されていない。

 着衣は、授業のために寮を出る直前に許される。

 そのとき、授業のための学園の教場棟に向かう前に、必ずアナルにプラグを入れるということも強要されている。

 

 お尻にたっぷりの媚薬を塗られて解され、真夫によってプラグを挿入されるのだ。そして、抜けないように革の下着を装着されてロックされる。尿道口の部分には穴が開いているので放尿はできるが、当然に排便は不可能だ。

 排便は、毎朝、真夫から浣腸されて、彼の目の前で排泄させられる。

 股間を愛撫されながらである。

 

 一日が終われば、やっと寮に戻ってプラグを抜いてもらえる。

 だが、それは夜の調教が開始するのと引き換えだ。

 夜になにをするかは、その日によって異なる。

 たとえば、昨夜であれば、効き目が弱めの掻痒剤をたっぷりと股間に塗られて、小型のバイブレータを挿入されて、緩やかな蠕動をされながら、夕食や入浴、夜の自習などをさせられた。

 そして、最後に、ほかの女性たちと一緒に、真夫に死ぬほどに繰り返し犯されたのである。

 

 趣向はその日によって違うが、終わりがないような甘美な責めを受け続けるということには変わりない。

 自分でも日増しに、淫乱な身体に作り替えられているのがわかる。

 一度もしたことがなかった自慰というものを、ついに授業を受ける日中にトイレでしたのは二日前だ。尿道口のところに穴があるので、そこから指を入れれば、なんとか自慰ができるのである。

 

 しかし、そんなものは、火照りきった身体を慰めるための一時しのぎでしかなかった。

 いや、むしろ、中途半端な満足は、かえって淫欲への苦悶を助長することになった。

 真夫に女として犯されたい──。

 夜になるのを待ち遠しにしている自分がいる。

 真夫に与えられるのは、身体の快感だけではない。もっと心の奥底が甘く痺れ切り、恍惚となるような肉の悦びに酔うような感情の愉悦だ。

 耐えがたい屈辱であるはずなのに、ひかりはそれを猛烈に欲している。

 いまでも、身体に妖しげな戦慄が激しく駆け巡り続けている。

 

 ちょっとだけ……。

 

 女子生徒たちがやってくるまで、あと十分くらいか……?

 だったら、五分だけでも……。

 

 あまりにも時間がないので、服を乱すようなことはできない。

 ズボンの前を緩めて手を差し込むとともに、制服のシャツを開いて乳房に手を添える。

 今日は、真夫の決めた「下着なしの日」だ。

 ひかりを含めて、奴婢の全員が上も下も下着をつけてない。プラグを押さえるためのひかりの革のTバッグは別ではあるが……。

 まあ、男子生徒ということになっているひかりとしては、乳房でばれないが不安だったが、ひかりの胸は大きくないので、ブラジャーや晒しで押えなくても、上着を身に着けていれば、目立つことはないようだ。

 とにかく、下着のない制服の下なので、すぐに肌に手が届く。

 

「くうっ」

 

 手が秘部や乳首に触れた瞬間、思わず声を漏らしてしまうような甘美感が五体を席捲した。

 その快感に強要されるように、さらに胸を乱暴に揉み、指を革の下着の中に突っ込んで快感の場所をまさぐる

 すぐに峻烈な喜悦が襲い掛かった。

 

「んんんっ」

 

 どうしても声が出る。

 慌てて内ポケットからハンカチを出して口で噛む。

 一気に絶頂に向かって快感が駆けあがった──。

 

 いくうっ──。

 ひかりは全身を突っ張らせた。

 

 そのとき、ノックの音がした。

 

「光太郎様、シャトルバスが見えました。すぐに皆さまが、お着きになられると思います」

 

 ノックの音に続いて、さっきの執事の声がした。

 

「す、すぐに行きます。入口で出迎えを……」

 

 ひかりは扉越しに、執事に指示を送りながら、慌てて服装を整える。

 そして、時間もないのに、寸間を惜しんで自慰に耽ろうとした自分の淫らさと慎みのなさに、激しい後悔を抱いてしまった。



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 第105話 芸術とエロス

 シャトルバスから降りたってきたのは、五人の女子生徒だ。授業終わりを待って、そのままこのハウスに来てもらっているので全員が制服である。

 女が三人寄れば姦しという言葉もあるが、明るく元気そうに挨拶をしてくれる彼女たちによって、いっぺんに周りが華やいだ気がする。

 

「お招きありがとうございます、金城様」

 

「ご招待ありがとうございます」

 

「とても愉しみにしてました。金城様、ありがとうございます」

 

「お茶会なんて初めてです。すっごく緊張します」

 

 さて、この中に、真夫の奴婢として推薦するに相応しい女子生徒はいるだろうか。

 ハウスの入口で出迎えをしたひかりは、シャトルバスから降車してくる彼女たちひとりひとりと言葉を交わしながら、彼女たちを観察する。

 一応は事前に選んでいるので、全員がそれなりの美少女だ。見た目であれば、十分に真夫の奴婢としては合格とは思う。

 そういう女の子を選んでいる。

 あとは、真夫が気に入るかどうかと、真夫の保護者であるという「魔王」こと、豊藤龍蔵氏が認めるかどうかだが、そのどちらも基準がわからないので、ひかりとしては単純に、自分が奴婢仲間となって欲しいかどうかの視点で選び、その後は真夫に任せようと思っている。

 

「お邪魔します……。ええっと……。君の招きを受けて嬉しい」

 

 最後にシャトルバスから降りてきたのは、今回の五人の中では本命だと思っている二年生の世良(せら)七生(ななお)だ。

 腰まである真っ黒なロングヘアが特徴の眼鏡のよく似合う美少女である。

 ほかの四人が一斉にひかりのそばに群がってきたことに対して、七生は距離を保ったまま近寄ろうとはしなかった。

 

 それにしても、“君”か……。

 ひかりは苦笑した。

 

 サロンの実施にあたり、招待する生徒のことは、それなりに調べている。

 この七生は、贔屓目に表現しても“変人”だ。

 絵画の腕については、学生コンテストを総なめするくらいの技量があり、美しく、そして、ひと目で誰もが心を奪われるような素晴らしい絵を描く。ひかりなど彼女の絵にひと目で魅了された。

 理屈ではない。

 心が奪われる。

 そして、とてもいたたまれない気持ちにさせる。

 そんな絵を描くのだ。

 彼女が十二歳のときから連作で描いている「少女」シリーズは、すでに芸術を好む好事家の中ではかなり有名なほどだ。

 

 しかし、半面、彼女のような一芸に秀でる人物によくあるように、彼女は性格が普通ではないのだ。

 なによりも、彼女は自分の描く絵以外のものに、ほとんと興味を抱かない。

 それは周りの人間に対してもそうであり、彼女は周りの人に声を掛けるときに“君”とよく呼び掛けるそうだ。

 周囲の者の中には、芸術家気取りの七生が偉ぶって名を呼ぶことを避けているのだと悪口を言う者も多いようだが、いや、単純に興味のない人物の名を記憶しないだけだと評価する者もいるようだ。

 ひかりの観察したところ、おそらく、後者が正解だろう。

 

 たったいまも、七生はひかりの名を呼ぼうと思ったと思う。しかし、思い出せなくて、“君”と呼んだのだと思う。

 いずれにしても、金城家の次期総帥ということになっているひかりのことを、名前も思い出せないというのは愉快に感じる。

 それゆえに、彼女があっさりとひかりの招待状に応じてくれたのは、正直以外だった。

 前回のサロンで名前があがった彼女と会ってみたいとは思ったものの、絵を描くこと以外に興味の薄そうな彼女が、わざわざサロンの参加に応じるとは予想していなかったのだ。

 

「金城様のことを、“君”って……」

 

「ちょっと金城様に失礼ではないですか?」

 

 ほかの少女たちが顔をしかめた。

 

「失礼って? なにが?」

 

 七生がすぐに言った。

 心の底から金城家に興味がないのだな……。

 ひかりは思わず吹き出しそうになったが、外面用の柔和な微笑みに留める。

 

「いや、失礼なんてことはないよ。今日はマナーなんて気にせずに、愉しくやろう。短い時間だけど色々と話を愉しみたいんだ。ぼくのことは、光太郎と呼んで欲しい。ぼくも君たちを名前で呼んでいいかな?」

 

 ひかりが優しく声を掛けると、七生を除いた四人の少女たちから黄色い歓声があがった。

 彼女たちもか……。

 ひかりは、心の中でちょっと失望した。

 

 前回のときもそうだったが、真夫に相応しい者という意味で招待する女生徒を選び、前回のサロンでは、名家の子女の中で事前調査で婚約者も恋人もいない女生徒を五人選んで招待した。

 ところが、彼女たちは、男子学生ということになっているひかりに媚びを売り、気に入られようと愛想を振りまき、やたらに身体に触れようとしてきた。

 これには閉口した。

 考えてみれば当然であり、金城家の跡取りで嫡男の「金城光太郎」には、それだけ婚姻相手としての価値があるのだ。

 婚約者もいるのだが、金城光太郎がパーティなどでも婚約者の九条あゆみとは、まったく付き合いがないのは、社交界でも知られていることであり、疎遠だと認識されている。

 だからこそ、急にサロンなどを開いて、見た目のいい女子生徒を集めたものだから、そういう趣旨の集まりだと認識されてしまったのかもしれない。

 いずれにしても、前回の五人については、真夫に相応しいとは思わなかった。

 

 ただ、まったく収穫がなかったのかといえば、そうでもない。

 五人との会話を巧みに誘導して、魅力的な女性、能力の高い女生徒に関する話題にし、その中で出たのが、ひとりは女子高生モデルとして有名な「相場まり江」、そして、もうひとりが絵画コンテストの常連だという「世良七生」だったのだ。

 ふたりのうち、相場まり江については、すでに玲子さんの調査が入っているという話だったので、ひかりは、もうひとりの世良七生に着目した。

 それで、今日の招待状を送ったのだ。

 

 しかし、そのときのサロンでも、世良七生は変わり者だという女生徒たちの評価だった。

 あまり周りと口をきかず、話し掛けてもほとんど返事はしないし、語っても芸術論しか口にしない変人だという。

 そして、誰にでも股を開くビッチだとも言われた。

 ひかりは、逆に興味を抱いた。

 人と関わりたくないのに、男子とはセックスをするというのが奇妙なことに思ったのだ。

 

 もしかして、そういう噂をされているだけの潔白かとも思ったが、彼女がこの学園において複数の男子生徒と性的関係にあったのは事実だった。

 調べてくれたのは玲子さんであり、驚いたことに、この学園にはあちこちに隠しカメラがあり、生徒のプライバシーのほとんどを秘密裏に撮影をしていたのである。

 

 七生のセックス記録も存在した。

 全部で五人であり、すべて違う男子生徒であって、一度切りの関係だった。その五人の中には、あの加賀豊も含まれていて、彼女は彼のサロンに参加して処女を失っている。

 ところが面白いのは、彼女はどんなに誘われても、同じ男子生徒と二度の関係をもったことがないことだ。加賀についても同様だ。加賀は、七生との性交が気に入ったらしく、セフレのようにしようとしたが、七生は冷たく断っている。

 そんなことまで、玲子さんの調査によって判明した。

 

 どんな女生徒なのだろう?

 ひかりは大いに興味を抱いた。

 

 そして、もしかしたら、真夫は興味を抱くかもしれないと思った。

 根拠はない。

 勘だ。

 

 真夫のところに集まっている奴婢を見れば、真夫が女性の処女性にこだわっていないことは明白だ。

 それに、男子生徒とのセックスを繰り返すのだから、性愛には興味があるのだろう。才能を持つ彼女であれば、真夫の奴婢の資格としては十分な気がするし、引き合わせてもいいのではないかと考えている。

 

 彼女たちを案内して、執事や侍女が準備してくれたテラスの茶会席に向かう。

 準備したのは、丸テーブルに準備した六人の席だが、ひかりがホスト席に座ると、女生徒たちがまるで椅子取りゲームのように隣に来ようとひと悶着をした。

 前回は名家の子女だったので、自然と階級的なものがあって序列通りに座ったが、今回は文化部で功績をあげている子女や委員会の部長などから選んで、全員が上流以外の出身だ。

 生徒ランクも、幾つかの絵画コンテストの結果の報償として、Aランク生徒になっている七生を除いて、ほかはBランクだ。

 いずれにしても、結局、ひかりが座る席側にほかの四人が距離を縮めて座り、ひとり椅子取りに参加をしなかった七生がひかりの真正面の反対側に座るかたちになった。

 

「まあ、とにかく気楽にね……。ティ・フードは真ん中から自由にとってね。茶葉は三種類準備しているから、メニューを見て好きなのを選んでくれ。特に好みがなかったら、ぼくがお薦めのお茶を準備させる」

 

 ひかりは言った。

 七生を除く四人は、是非、お薦めを飲みたいを口にした。七生はなにも言わなかった。しかし、なぜか食い入るように、ひかりにじっと視線を向けてくる。

 その視線の強さに圧倒されるほどだ。

 ひかりは、侍女たち合図をして、お茶を配らせた。

 

 お茶会が始まると、最初こそぎこちない品定めのような雰囲気があったものの、ひかりが意識的に自由な会話をしてもらうように尽力したことで、あっという間に賑やかなお茶会になった。

 お互いの近況だとか、文化部や委員会の活動の内容などの話題から始まり、だんだんと打ち解けた感じになった。

 そして、いわゆる「恋バナ」の話になって、一気に盛り上がった感じになる。

 誰それと誰が恋人だとか、誰が誰を好きだとか、そんな会話だ。

 すると、右隣の席にいる女子生徒が急に、ひかりに話を向けてきた。

 

「ところで、こんなことをお聞きしたら叱られるかもしれませんが、光太郎様は、あのサッカー部の前田明日香さんとお付き合いをされているのですか? そんな噂があるのですけど……」

 

「前田君と?」

 

 意外な名前に、ひかりは面食らってしまった。

 そんな風な噂があるとは思いもよらなかったのだ。

 とりあえず、ひかりは首を横に振った。

 

「……彼女とは友人だね。それだけだよ」

 

「でも、最近、親しそうに話をされているのをよく見るという話ですよ。もしかして、お付き合いをされているのではないかと、皆さんがおしゃってます」

 

「それとも、いまは、お友達ということでしょうか?」

 

 ひかりが気安い雰囲気を作っているせいだろう。随分と打ち解けた物言いで話し掛けてくる。

 それはともかく、これまでまったく接触のなかったひかりと明日香が突然に会話をするようになったとすれば、そんな風に思う者もいるかもしれない。

 ただ、ひかりと明日香の親しさは、同じ時期に真夫の奴婢となり、同程度の調教を受けるようになった者同士としての連帯意識のようなものだ。

 

 それに、最近になって急に親しくなった関係といえば、誰よりも真夫のはずだ。

 だが、真夫とは噂にはならないのか……。

 まあ、男同士ということになっているし、そんなものか……。

 しかし、いまひかりが最も親しくしている相手は、間違いなく真夫のはずなのだがな……。

 ひかりは、いまもしっかりとお尻で存在を主張しているアナルプラグの感触を味わいながら、ちょっと相好を崩してしまった。

 

「SS研に入ったからね。前田君とも、それで一緒にいることが多いかもしれない」

 

 ひかりは言った。

 SS研に入部したことについては隠すつもりがない。表向きはあそこは、社会科学研究部ということになっている。真夫の愛人倶楽部のようなSMクラブだというのは、誰にも知られてない。

 

「まあ、SS研ですか? 入部されたというのは存じませんでしたわ」

 

「ええっと、社会科学についてはわたしも興味があるのです。是非、見学させてもらえませんか?」

 

「わたしも経済学や法学などをちょっと勉強してみようかと……」

 

 すると女子生徒たちが一斉に口を開く。

 

「いやあ、どうだろうねえ……。ぼくは部長ではないし、新入部員については募集してないんじゃないかなあ……」

 

 ひかりはとりあえず、お茶を濁した。

 入部希望があっても、誰も彼もとはいかないのだ。そのために、情報を集めているのである。

 

「SS研でいま廊下に展示している絵画群は、実に興味深い。実に面白いコンセプトだ。あのSS研のテーマはエロス……。しかも、囚われの女……。たとえば、ジェロームの絵の絵に描かれているのは、美しい女が見世物のように服を奪われて裸にされる羞恥が実にエロチックだ」

 

 すると、いままで全く喋らなかった七生が、突然に雄弁に口を挟んできた。

 ひかりは、七生に視線を向けた。

 

「ああ、あの奴隷市の絵だね。ほかにも色々と展示予定でね。興味があるかい?」

 

「エロスがテーマだということで興味がある。非常に猥褻で官能的な印象だ。ユニークな展示だと思う」

 

「まあ、猥褻とは失礼ですよ、世良さん……。SS研の展示テーマは、拷問と刑罰の歴史がテーマだと記憶しておりますわ。確かに、裸の絵が混ざっていることは間違いないですが、それをもって猥褻だと批判をされるのは失礼ではありませんか?」

 

 たしなめるように口を挟んだのは、ひかりの右側の女子生徒だ。

 喋りながらちらりとひかりの方を見たので、ひかりに気を使うための発言だろう。

 

「いや、勘違いして欲しくはないが、猥褻だというのは、非常に芸術的だということだ。芸術というのは突き詰めれば、エロティシズムに辿り着く。わたしには経験が少なくて、いまだにエロティシズムが理解できないのだが、SS研の展示には惹かれるものがある。集めている絵画にはなにか魅せられる。つまりは、エロいということだ」

 

「まあ、エロいだなどと、本当に失礼な……」

 

 別の女子生徒が非難する。

 だが、七生はまったく気にする様子はない。

 

「あそこに並べられている絵を見て、いままでわからなかったことがわかる気がするのだ。五人ほどセックスをしてみたが、残念ながら、わたしにはエロスが理解できなかった。だから、いき詰っていたけど、なにかわかるような気分になったんだ。エロスというものがね」

 

 七生はまったく表情を変えないまま淡々とそう語った。

 

「セ、セックス?」

 

 女生徒たちは唖然している。

 

「あなたの絵はヌード画が多かったと思ったけど、それは七生さんの持っている芸術論から来るものかい?」

 

 たが、ひかりはあえて水を向けた。

 七生がコンテストに出すのは、決まって少女の裸絵ばかりなのだ。それらは「少女」シリーズだと言われて、早くも顧客がついているほどだ。

 

「人間というのは裸に羞恥を感じる唯一の動物だ。そして、裸はエロスであり、愛であり、心だ。でも、わたしには、まだそのエロスがわからない」

 

「わからないとは?」

 

「エロスとはなんなのだろうね? セックスをすればわかるかと思ったけど、結局、無駄な時間だった。セックスとはエロスとは異なるようだ。セックスとは究極のところ、子を作る作業であって、エロスとは関係ないようだ。気持ちのいいものだと耳にしていたが、そうでもなかったし。実につまらなかった」

 

 突然の七生の赤裸々な言葉に、ほかの女生徒たちはすでに絶句している。

 

「つまらない……って」

 

 これには、ひかりも言葉に詰まった。

 ひかりにとって、セックスは真夫とだけだが、つまらないどころではない。

 あれは、いつもすごい……。

 

「ねえ、ところで、あなたは、金城……だったか? わたしに君の裸を描かせないか。やっぱり君はとてもエロいよ。だから、今日の招待はとても愉しみにしてたんだ」

 

 そして、さらに、七生がとんでもないことを言い出した。



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 第106話 ヌードモデルの交渉

「ありがとうございました」

 

「愉しかったです、金城様」

 

「是非、また声を掛けてください」

 

 四人の女子生徒たちがシャトルバスに乗っていく。

 全員の手の中にあるのは、お土産として手渡した高級ブランドのサブレの入った箱だ。ひかりが全員ひとりひとりに準備したものである。

 

「こちらこそ愉しかったよ……。それじゃあ」

 

 シャトルバスが走り去っていく。

 ひかりは、シャトルバスが見えなくなるのを待ち、ハウスの玄関前からハウス内の私室として使っている小部屋に移動した。

 

「待たせたね」

 

 室内には世良(せら)七生(ななお)が待っていた。

 モデルの件でゆっくりと話したいと言って、残ってもらっていたのだ。

 SS研に顔を出すことが遅れることについては、スマホを使ったメッセージで真夫にすでに連絡をしている。

 

 七生はすでに座っていて、彼女の前には湯気の出ている紅茶とスコーンが置かれている。手が付けられた形跡はない。

 ひかりが部屋に戻ってくると、瞬きもしないくらいに凝視してくる。

 思わず苦笑してしまった。

 ひかりは、七生と向かい合うソファに腰をおろした。

 

「話を聞きたいと言ってくれたということは、ヌードモデルになってくれることを了承したということでいいよね……。あっ、言葉を改めた方がいいかな。よく叱られるんだ。やろうと思えば、敬語は使える……。いや、使えると思います」

 

 七生はすぐに口を開いた。

 ひかりはくすりと笑ってしまった。

 

「言葉はそのままでいい。いや、そのままにしてよ……。そして、話を聞きたいというのは、それ以上でもそれ以下でもないね。言葉の通りだ。最初に言っておくけど、ぼくはヌードモデルになるつもりはない」

 

 ひかりははっきりと言った。

 すると、七生の顔に失望の色が浮かぶ。

 

「どうして? 君はわたしの創作意欲を刺激する。ついこの間まで、まったく興味もなかったが、偶然に君を見つけて、稲妻のような創作意欲が突然に沸いたんだ。いまはただ描きたい。だから、招待状をもらったときには喜んだ。わたしは、いま行き詰っている。だけど、君を見つけて、なにかを感じた。絶対にいい作品になる……。いや、そんなのはどうでもいい。ただただ、君を描きたい──。どうか描かせて欲しい」

 

「そう言われてもねえ……」

 

 まさか、男ということになっているひかりの裸体を描かせるわけにはいかないだろう。

 だけど、彼女の絵に対する情熱はすでに十分に認識できた。

 いずれにしても、彼女の唱える芸術とはエロスであるという主張は、多分、芸術論としては異端ではないのだろう。

 

 たとえば、身体を使った芸術の代表的なものはバレイだ。

 ひかりは、金城光太郎として、幾度も超一流のバレイダンスに接したことがあるが、共通して言及できるのは、バレイの演出にはエロチックさを感じさせるものが実に多いということだ。

 絵画の表現には画家によってかなりの多様性があるので、必ずしも全てがエロスに繋がるとは思わないが、芸術性をとことん突き詰めようと彼女が考えた末に、エロスに辿り着いたのは、ひかりが知っている芸術史からして決して不自然ではない。

 ただ、彼女のような美少女が突然にセックスの話をし、また、エロスを理解するために、適当な複数の男子生徒とセックスをするというのは、常人から変人扱いをされるのは仕方がないかもしれない。

 

「モデル料は言い値で払う。わたしの絵を買いたいという相手がいるんだ。金には興味がなかったので、ほとんど売ってはいないけど、これまでの作品をすべて処分すれば、一億は下ることはないはずだ。わたしは君を描きたい──。いくら払えばいいか言って欲しい」

 

 七生が強い視線を向けてくる。

 ひかりは微笑を浮かべたまま首を横に振った。

 

「お金の問題じゃなくてね。これでも金城家の跡取りだから、お金には不自由してない」

 

「金城家の跡取り……? そうなの?」

 

 七生はきょとんとしている。

 さすがに呆れてしまった。

 このサロンがなにで、ただのお茶会にどうして、これほどに贅を尽くせるるのだろうと思っているのだろう。

 そもそも、もしかしたら、ひかりの名前をいまだに記憶していない可能性だってある。

 

 そのときだった。

 突然に、お尻の中に埋まっているアナルプラグが振動したのだ。この一週間、ずっとプラグを入れられているが、振動を受けたのは初めてだし、そもそも遠隔で振動できるようになっているとは、まったく認識してなかった。

 

「うくうっ」

 

 ひかりは意表を突かれてしまって、座ったまま、その場でくの字に身体を折り曲げた。

 

「どうかしたの?」

 

「な、なんでもない──」

 

 声を必死で噛み殺したものの、ひかりの脚はぶるぶると震え続けている。

 そして、やっと振動が止まった。

 

「し、失礼……」

 

 ひかりは制服の内ポケットからスマホを取り出して、画面を確認する。

 真夫から、さっき送ったメッセージへの返事が届いていた。

 

 

 

“了解だよ。ただし、遅れているあいだは、いつ振動があるかわからないからね。三段階目のプラグを準備して待っているよ”

 

 

 

 真夫からのメッセージには、さらにハートマークまである。

 

「……真夫君め……」

 

 ひかりは、メッセージの画面を見ながら嘆息してしまった。ただ、顔はににやけていたと思う。

 そして、一瞬だけ目の前に七生がいることを忘れていた。

 はっとして、顔をあげる。

 

「エ、エロい……。いま、君がすごくエロくなった……。やっぱり、描かせて欲しい。なにが必要? お金でなければ、なに──? 言って──。どんなものでも支払う──。でも、わたしは君のエロスを描きたい──」

 

 エロスって……。

 ひかりは困ってしまった。

 

「そ、それよりも、世良君の少女シリーズは、もともとあなた自身の自画像がコンセプトじゃないの? あなたの大きな作品テーマは自画像の裸婦画だったと思うけど、本当はモデルなんかじゃなくて、少女シリーズとして描きたいんじゃないの?」

 

 話を逸らしたいこともあり、ひかりは話題をずらした。

 少女シリーズというのは、まだ学生でしかない彼女の評判をかなりのものとしている彼女の作品群であり、彼女は十二歳から自分自身をモデルにした裸婦画を連作でずっと描き続けているのである。

 絵のタッチも構図も異なるので、彼女の少女画が繋がっているものだという印象は持たれにくい。

 しかし、繋げて見ていくと、十二歳の少女が十五歳になるまでの成長の過程や子供から少女になるに至る感情や葛藤などが生々しい印象となって襲ってくる作品群だ。

 ひかりは、彼女のことを調べるにあたって、少女シリーズに触れ、あっという間に彼女の作品のファンになってしまったほどだ。

 

「……いや、わたしではだめだ……。駄目だったんだ。わたしにはエロスは理解できない。わからない……。それについては諦めるしかない。

 

 七生が唇を噛みしめるような仕草とともに俯いた。

 決まりだ……。

 ひかりは、あとは真夫に委ねることにした。

 

「……もしも、あなたに本物のエロスを教えてくれる男がいるとしたらどうかな? つまり、世良君の人生を変えるような新しい出遭いを与えられるかもしれないとしたら……? 多分、これまで感じたこともないような生きているという実感、そして、女としての悦びを与えてくれる……。それだけじゃない。七生君をもっと美しくしてくれるかもしれない……。そんな出遭いが……」

 

 ひかりは言った。

 

「それは、君……あっ、いや……なんだったかな……。あっ、金城君……金城様がわたしとセックスをするということか?」

 

 七生がひかりを見つめてくる。

 

「違う……。ぼくじゃない。ぼくではない誰かだよ」

 

「よくわからないが、その男なら、わたしにエロスを教えることができるということ? でも、すでに試したんだ。あの加賀という男に相手をしてもらっても、わたしは快感というものを感じなかったんだ。彼ほどの男にだよ……。それから、四回試した。全部、しっくりとこなかった。まったくエロくなかった。多分、わたしという人間は、女としてなにかが欠けているのだと思う」

 

「それは、ただ世良君が人生を変えてくれる男にまだ逢ってなかっただけだよ。彼は、必ず世良君を変えてくれると思う」

 

「人生を変えてくれると? もちろん、わたしにエロスを教えてくれるのであれば師事したい。わたしはなんでもするよ」

 

 七生はきっぱりと言った。

 

「いいの? 罠かもしれないよ」

 

「まったく問題ない」

 

「いいね。じゃあ、連絡先を交換しよう」

 

 ひかりはスマホを取り出した。

 その瞬間、またもやアナルプラグが動き出した。

 

「んんっ」

 

 ひかりは腰を震わせて目を閉じた。

 身体が反り返るような鋭い感覚がアナルから全身に駆け抜けていく。

 必死に歯を喰いしばって、脚を締めつけて耐える。

 

「なんか、またエロくなった。やっぱり、金城様をモデルにしたい──」

 

 七生が身体を乗り出すようにして、こっちに身体を近づける。

 

「ち、近寄っちゃだめ──。わ、わかったから──。その男になんでも言って──。だから、離れて──」

 

 ひかりは必死に言った。



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 第107話 父親からのお祝い

 真夫は、文化部棟の二階の男子トイレで小用をしながら、ひかりちゃんのアナルプラグを遠隔で振動させるスイッチを入れた。

 これで二回目になる。

 

 サロンでお茶会を開くというひかりちゃんがどういう状況にあるかというのは、SS研の隠し部屋にもあるモニターで確認している。どうやら、お茶会そのものは終わり、世良(せら)七生(ななお)という女生徒と話をしているようだ。

 だから問題ないと判断し、遠慮なく悪戯を仕掛けた。

 その世良七生については、ひかりちゃんが推薦するというなら、強引にでも奴婢に引き込むと決めている。

 従って、最終的にその七生も仲間にするのだから、最悪、なにかを感づかれてもひかりちゃんの評判を落とすということはないのだ。

 

 しかし、ほんのちょっとの作動時間だけで、すぐにスイッチを切ってしまう。

 あとは、なにもせず、いつ振動させられるのかという不安に晒しておくつもりだ。その方が幾度も繰り返し責められるよりも、ずっとひかりちゃんを追い詰めることができる。

 いつ仕掛けられるかわからないという不安に苛まれ続けると、人というのは、逆に苛められることに安堵する気持ちになっていくのだ。

 責められているあいだは、いつ襲われるのかという不安が発生しないからである。

 そうやって、マゾに仕上げていくというわけだ。

 真夫はトイレの外に出た。

 

「よう」

 

 すると、トイレの前の廊下で秀也が待っていた。

 ただし、制服姿ではない。カジュアルなジャケットを身に着けている。

 そして、秀也の横には、見知らぬスーツ姿の女性がいた。

 

 誰だろう……?

 いかにも秘書という感じだ。秀也と並んでいて、ビジネスバッグのようなものを肩から提げている。

 

「秀也君……」

 

 木下秀也……。

 真夫が現れるまでは、豊藤財閥の後継者として決まっていたという少年だ。玲子さんの元の調教係であり、真夫とは後継者争いをしている間柄である。

 少なくとも、そう教えられている。

 その秀也と会うのは久しぶりだ。

 前回は、真夫が龍蔵のところに会いに行って、龍蔵から豊藤の総帥の座を引き継ぎたいのであれば、十人の奴婢を支配に入れろと命じられたときである。そのときに、秀也が立会していたのだ。

 そろそろ、一か月くらい前になる。

 

「物騒だな。ひとりか? 豊藤の後継者候補ともなれば、絶対にひとりになるな。時子が周辺を護衛で囲ませているとはいえ、豊藤の総帥は常に世界中の暗殺者から命を狙われていると思え。奴婢でいい。襲撃を受けたときには、まず奴婢を盾にしろ。そのあいだに護衛が来る……。もっとも、この学園内で滅多なことは起きねえとは思うが……」

 

 秀也は壁を背にして立っていて、真夫に対して不機嫌そうに言った。

 

「えっ、護衛?」

 

 護衛が周りを囲んでいるというのはどういうことだろう?

 時子婆ちゃんが手配──?

 周りを見回すが、そんな存在を見つけることはできない。でも、見えないように、いまでも、そういう連中が真夫を見張っているということか?

 

「気にするな。空気と一緒だよ。だけど、離れて見張っているんで、急な奇襲には対応できないかもしれない。だから、いつも奴婢を連れておけということだ。女が死ぬあいだに、周囲の護衛が襲撃に対応できる……。まあ、できれば、護衛能力のある奴婢をそばに置くのが一番だけどな」

 

「そういうもの? ええっと、ところで、正人(まさと)さんは一緒じゃないんだね?」

 

 真夫はちらりと秀也の横の女性を見る。

 だが、真夫には無反応だ。

 この女性が誰だか知らないが、真夫が豊藤の後継者候補だということをべらべらと喋っていいのだろうか?

 

「正人は、龍蔵のところで、毛唐(けとう)の調教にかかりっきりにさせられているよ。それで、俺の護衛ができねえのさ。まったく、あの伯父貴にも困ったものさ」

 

 秀也が乾いた声で笑った。

 

「それで、その人は?」

 

「正人がいないあいだの護衛だ。時子がうるせえんでな。気にしなくていいぞ。お前の姿も、俺たちの会話も、こいつには知覚できねえ。だから、遠慮なく喋っていいぜ」

 

 操心術か……。

 もう一度、その女性を見る。

 確かに、秀也の目の前にいる女性は、真夫を認識している気配はない。だから、秀也は、豊藤のことを普通に会話にしたのだろう。

 

「まあいい……。ところで、これだ」

 

 すると秀也が、懐から真っ黒いカードを取り出した。アルファベットの記号がある。

 真夫に手渡してきた。

 

「伯父貴からの贈り物だ。プリペイドカードというものらしいぞ。クレジット決済ができるところならどこでも使えるそうだ。二億円入っている。お前の小遣いだとよ」

 

「二億──?」

 

 真夫はびっくりしてしまった。

 すると、秀也が大笑いした。

 

「二億程度でビビんじゃねえよ。お前がどこの総帥になろうとしているのか理解してねえのかい。それと、なんに使ってもいいが金は使えよ。金持ちが小金を貯め込んだって、経済は回らねえんだ。派手に使ってやるのも、世間への奉仕ってやつだ」

 

「で、でも、二億って……。そもそも、なんでいきなり?」

 

「ああ、あれらしいぜ……。ご褒美だ。伯父貴はそう言っていた」

 

「ご褒美?」

 

「学年で三位だったんだろう? 中間試験とやらでな。豊藤の後継者に必要なのは、本人の脳みそじゃなくて、能力のある者を道具として操る支配力だが、頭がいいことに越したことはねえ。伯父貴からのお祝いだ……」

 

「お祝いって……」

 

 真夫は呆気に取られている。

 成績三位のお祝いが二億というのは途方もないことだが、そもそも、この前、真夫の実の父だという龍蔵に会ったときのことを真夫は忘れてない。

 操心術に目覚めた真夫は、そのとき、しっかりと龍蔵の感情を読んでいた。

 真夫に対する肉親の情のようなものは皆無だった。

 その龍蔵が成績くらいのことで、わざわざお祝いを……?

 真夫は、プレペイドカードとやらを持ったまま、唖然とした。

 

「じゃあな。とにかく、渡したぜ。なんで、俺がこんなものを運ばなけれりゃならないかわからねえが、まあ秘書だから仕方ねえ……。女たちと仲良くな。それと、常に奴婢を連れて歩くことを忘れるな。必ず、操心術で支配した者を横に置け」

 

 秀也は真夫に背を向けた。

 だが、すぐになにかを思い出したように振り返った。

 

「忘れてたぜ。成績三位のお祝いは、時子もしたいそうだ。なにか欲しい物はないかってよ。して欲しいことでもいいって言ってたぜ」

 

「えっ、時子婆ちゃんが?」

 

 時子婆ちゃんとは、真夫の実の父親である豊藤龍蔵の愛人にして、内縁の妻のような女性だ。もうすっかりと老女だが、まだまだ元気であり、玲子さんなどは、時子婆ちゃんのことをものすごく怖がっている。

 だけど、真夫に対しては、「真夫坊、真夫坊」と可愛がってくれる優しいお婆ちゃんだ。

 

「まあ、子供のいねえあいつにとっては、お前は子供も同じだしな。いや、孫かな」

 

 秀也がけらけらと笑った。

 真夫は思わず相好を崩した。

 

「時子婆ちゃんには、淫具作りでおねだりしてばかりだから、いつもいっぱいもらってるよ」

 

 時子婆ちゃんには本当にお世話になっている。女たちを責めるための責め具について、こんなのがあったらいいなあとか、こういうアイデアはどうかなあとか話すと、しばらくすると試作品が送られてくるのだ。

 どうやら、時子婆ちゃんは、そういうことをさせる工場や研究所を幾つか抑えていて、そんな真夫の思いつきを最優先で作らせるみたいだ。

 今日も面白いものがやってきたので、絶賛試験中である。

 

「それがあの(ばばあ)の道楽だ。遠慮なく我が儘言ってやりな。あれは、それが嬉しいんだ」

 

「だったら、日曜日の夕方に寮の部屋に来て欲しいって伝えてくれるかい。新しく奴婢が増えるから身内だけで小さなパーティをするんだ。それに参加して欲しいってね」

 

「お前の乱交パーティに、あの婆を参加させろってか?」

 

 秀也が眉をさげた。

 

「乱交パーティじゃないよ。集まって、食事して、飲み物を飲んで、ゲームとかして……。それだけだよ」

 

「なんのゲーム知らねえが、わかった。伝えとくよ。多分、喜ぶぜ。ところで、新しい奴婢っていうのは、あの女子サッカー部の主将の三年生と金城家の御曹司のことか?」

 

「いや、もうひとり増える予定……」

 

「もうひとりだあ? 誰だ──? あっ、いや、やっぱ、誰でもいいや。じゃあ、残り三人か。まあ、どんな女を集めるかで、お前の器量を試されると思いな。あんまり時間がねえんだ。さっさと十人集めろや」

 

「時間がない? 龍蔵さんに示された期限は半年だよ。まだ五か月以上ある」

 

「そうだったな……。だが、そんなに簡単にいくかな? せいぜい、俺から足元をすくわれねえよにな。お前が総帥になれなけりゃあ、俺が頭になる。そのときには、お前が集めた女は全部、俺の後宮に入れようかな。なにしろ、俺は他人に惚れている女を自分の女として躾けるのが大好物でな」

 

 秀也が笑った。

 

「渡さないよ。誰ひとりも……」

 

「だったら、お前が総帥になるんだな。じゃあな──」

 

 秀也は再び真夫に背を向け、そのまま立ち去っていった。

 真夫はしばらくのあいだ、困惑する感情を抑えられずにその場に立っていたが、やがて、部室に向かって戻っていった。

 

 文化部発表会があと十日余りに迫っているということもあって、文化部の集まるこの階は週末というのに賑やかだ。

 真夫たちのいるSS研も、廊下には玲子さんに集めてもらって責め絵や羞恥絵を連想させる絵画などの模写が並んでいる。

 部室には、歴史上有名な拷問具や刑罰具が時代や国ごとに解説版とともに展示されてる状態だ。

 まだ、完成ではないが、一応は見せられる状態に近い状況である。

 部屋の中心には、目玉となる体験展示だ。

 結局のところ、首と両手首を板に挟んで晒す「晒し台」というものを置くことにした。

 ひかりちゃんを堕としたときに使ったものだ。

 中世ヨーロッパでは広く使われていた侮辱刑の刑罰具であり、これに拘束された犯罪者を広場に晒し置くのだという解説版と当時の絵を横に置いている。

 

 ただ、ここには、部員たちは誰もいない。

 そのまま奥の隠し口から地下に向かうエレベータ室に向かい、そこからさらに下に降りた。

 地下には、この学園における真夫たちの「SMルーム」があり、エレベータの扉が開いた途端、のたうち回る絹香とかおりちゃんの呻き声が聞こえてきた。

 

「んんんっ、んんぐううっ」

 

「んんっ、んんっ、んんんっ」

 

 真夫の姿を認めると、床で丸くなっていたふたりが哀願の顔を同時に向けてきた。

 ふたりの口には穴あきのボールギャグを嵌めている。

 あんまり悲鳴が凄まじかったのでさせたのだ。

 ふたりとも、涎と涙と鼻水と汗で顔がぐしょぐしょであり、この責め具がいかに辛いものかということを物語ってくれる。

 

「あ、あのう、真夫様……。絹香様と、かおり様がもう大変で……」

 

 控えめな心配の言葉を伝えてきたのは、絹香の双子侍女のうちの(なぎさ)だ。

 もうひとりの侍女の(あずさ)が活発で嗜虐癖なのに対して、渚はちょっと大人しい感じである。

 

「そうなのか?」

 

 真夫は梓に視線を送る。

 双子には、絹香とかおりちゃんには手を触れるなと伝えており、ふたりとも部屋にある長椅子に並んで座っている。

 ただし、渚がおろおろするような表情に対して、梓はにこにこと愉しそうだ。

 

「絹香様は、真夫様のいないあいだに、一度失禁しました。もう掃除しましたけど」

 

 梓だ。

 視線を送ると、確かに絹香の股間は確かに失禁をしたような痕がある。ただ、ふたりとも、そもそも汗でシャツとショーツがびしょびしょで、床も濡れているので失禁をしたといわれば、ああそうなのかと思う程度だ。

 

「ひかりちゃんは、もう少し遅くなるって連絡が入ったよ。ひかりちゃんが来たら、責め具の体験を交替させてあげるから、それまで我慢だ」

 

 真夫はふたりが転がっている床の真ん中くらいに胡座で腰をおろした。

 ふたりとも、後手縛りにしていて、足首も縛っている。ふたりが着ているのは真っ白いアンダーシャツと下着だ。

 だが、これが責め具なのだ。

 時子婆ちゃんから渡された「責め着」というものである。名前は仮なので、いい名前をつけてくれと伝えられていた。

 

 それはともかく、一見なんでもないシルクのシャツとショーツに見えるのだが、実は内側に細かい繊毛が無数についていて、それを着せられたら最後、全身を死ぬほどにその繊毛にまさぐられるという仕掛けらしい。

 時子婆ちゃんに言わせれば、SM具というよりは拷問具に近いものなので、着せたまま放っておけば、ひとときも休ませてくれない繊毛のくすぐりに、眠ることもできずに、最後には発狂するかもしれないと言っていた。

 もちろん、そこまではすりつもりはないので、ふたりに与えたのは、ひかりちゃんが来るまで、これをテスト体験してくれということであり、まだニ十分くらいのものだ。

 

「んふううっ」

 

「んぐううっ」

 

 ふたりが訴えるような視線を向けてくるが、真夫は素知らぬ顔をする。

 そして、手を伸ばして、すっとふたりの下腹部に手を添える。

 ただ着ているだけでも、繊毛が獲物の肌を激しくまさぐるのだけど、こうやって手を添えると、さらにその部分の繊毛が集中的に動くらしい。

 

「んっふうう──」

 

「んんんっ」

 

 ふたりが激しく首を横に振りながら身体を突っ張らせた。

 そして、ぶるぶると身体を震わせる。

 しかし、この責め着を装着させられているときに、身体を震わせる反応は命取りかもしれない。

 おそらく、それに反応して、一斉に繊毛が肌をまさぐるはずだ。

 

「んっぐうう」

 

「ほごおお」

 

 ふたりの身体が突っ張る。

 もしかしたら、この刺激で一気に絶頂したかもしれない。

 そして、かおりちゃんの股間の下にみるみると水たまりが拡がる。

 かおりちゃんも失禁したみたいだ。

 

「本当にすごいねえ。もう少しだから我慢だよ」

 

 真夫は意地悪く、ふたりのお尻をショーツの上から撫でる。

 ふたりとも、水の中にいたかのように、全身を濡らしていた。

 真夫はふたりのお尻の穴を探して、布の上から指で押し抉った。

 

「んっふうう」

 

「んんんっ」

 

 ふたりが涙目で首を振って、なにかを真夫に訴えてきた。そして、まずはひくひくとかおりちゃんが小刻みな震えをして、またもや昇天したような仕草をした。



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 第108話 潜入者たちⅡ─裏人格

「ひいっ、雌奴隷のナスターシャは、ご主人様に可愛がってもらってます……。ひっ──。め、雌奴隷のナスターシャは、ご主人様に乗馬鞭でお豆を苛められて、マゾ女の悦びを感じています」

 

 ナスターシャが大声で龍蔵に向かって、自分が受けている責めを叫ばされている。

 正人は壁にもたれて立ったまま、朝からずっと続いている龍蔵とナスターシャのそんな姿を静かに眺めていた。

 このナスターシャの調教の手伝いというのが、このところ与えられている正人の役割だ。

 ずっと、秀也の付人を兼ねた護衛をしていた正人だったが、正人が真夫に手を出したことが、龍蔵の愛人頭の時子の逆鱗に触れたようであり、どうやら、正人が秀也の付人として学園に戻ることを阻止している気配だ。

 

 たかが愛人あがりの老女とはいえ、時子はずっと龍蔵のそばで豊藤の権力の一端を担ってきた女だ。

 龍蔵の内縁の妻ともいえる関係であり、龍蔵に意見が言えるのは、おそらく時子くらいだろう。だから、龍蔵も時子の言葉にはなかなか逆らわない。

 その時子が正人を学園内に戻すことをまだ許さないので、正人はこうやって、龍蔵が雌奴隷を調教するのを手伝うことをやらされているということである。

 

 まあ、龍蔵が調教の手伝いを求めたというのもある。この隠れ家には余人を入れたくないので、目の前の毛唐を責めるのに誰かを助手にするとすれば、正人しかいなかったということだ。

 どうして、正人がそんなことをしなきゃならないのだとは思うが、なんだかんだで正人を雇っているのは総帥の龍蔵だ。

 しばらく、学園内からは離れて、こっちを手伝えというのであれば、そうするしかない。

 生徒たちがいる場所とはかなり離れており、実際には学園の外ともいっていい場所だとはいえ、ここもまた、学園の敷地内ではあるのだ。

 正人が本来仕える秀也も、今日はたまたま学園側に赴いているが、このところ、ほとんどの時間をこの別宅で過ごしている。

 

「ひゃあ、ひゃああっ──。そ、そんな風にクリトリスをくすぐられると、ナスターシャはおかしくなりそうです。あああっ」

 

 ナスターシャはいま四肢を別々に枷を嵌められて、仰向けの状態で大股開きで天井から吊られている状態だ。

 たぬき吊り──、あるいは、けもの吊りという格好に近いが、四肢を別々に吊っているのが本来のたぬき吊りとは異なるところだろう。

 龍蔵は、朝からその恰好のナスターシャを乗馬鞭でいたぶりながら、さまざまな屈辱なことを命じては、ナスターシャの尊厳をなぶっているというわけである。

 いまは、全身に媚薬を塗って放置気味に責めているところだ。

 

「ははは、すっかりと大きくしよって。ここを鞭で思い切り打たれたいのではないか?」

 

 下着一枚の龍蔵がナスターシャの股の前に立ち、乗馬鞭の先でクリトリスをかすかに揺り動かす。

 ナスターシャの乳房は豊乳手術により奇妙なほどに大きくなっているが、クリトリスもまた、龍蔵の連日の調教によりかなり成長している。いまや、大人の男の親指の先ほどもある。

 クリトリスの皮はとっくの昔に切断処置を受けており、そこを鞭先でいじくられ、ナスターシャは泣きじゃくっている。

 そこには、渡航したばかりの頃の日本人への差別意識も垣間見られた気の強さの片鱗も感じることはできない。

 

「ああ、ご主人様、お許しを……。心から服従しております。もうお許してください。お慈悲を──。お慈悲をお願いします──。ああ、だけど、鞭先でなぶってください。どうかしごいてください」

 

 ナスターシャが泣きながら腰をもじつかせる。

 

「叩かれたいのではないのか? さっきから責めて欲しいのか、放っておいて欲しいのかさっぱりとわからんぞ」

 

 龍蔵が鞭先で股間をくすぐるようにこすりながら笑う。

 

「う、打つんじゃなくて、激しく動かして欲しいのです。強くこすって……。そうでなければ、ご主人様のおちんぽ様で犯してください──」

 

 四肢を吊られて仰向けの状態で宙に浮いているナスターシャが腰を揺らす。

 無理もないだろう。

 ナスターシャの股間とクリトリス、そして、アナルには、少し前に、たっぷりと掻痒剤を塗っている。

 かなり強い媚薬なので、ナスターシャは狂うような痒みの苦悶を味わっているはずだ。

 それもあり、目の前のフランス女は苦悶の泣き声をあげているというわけだ。

 

「ふはは、そう簡単には、わしの男根はくれてはやれんぞ。痒みを消したければ、鞭を強請れ。それとも、そのまま気が狂うまで腰を振るかだ。好きにせよ」

 

「ああ、そんな……。痒いいい──。では、ラビナを……。左右のラビナを……。ああっ、でもクレバスも……。クリトリスも痒いいい──。やっぱりお叩きください──。お願いでございます──」

 

「ラビナとか、クレバスとか言われてもわからんのう。おまんこで説明せんか──。わしは外国語はわからん」

 

 龍蔵がげらげらと笑う。

 

「おまんこを打ってください──。その周りの襞の部分を……。割れ目そのものも──」

 

 ナスターシャが悲鳴混じりに言った。

 多分、もう痒みでわけがわからなくなってきたのだろう。

 

「ケツの穴はいいのか? ケツの穴も痒いのではないか?」

 

「ああ、ナスターシャのケツの穴もお叩きください──」

 

「クリトリスは?」

 

「クリトリスにも鞭をお願いします──」

 

 ナスターシャが叫んだ。

 次の瞬間、龍蔵の乗馬鞭がナスターシャの股間に炸裂した。

 

「ひぎゃああ──」

 

 ナスターシャが吊られている四本の鎖を引き千切らんばかりに暴れさせて悲鳴をあげる。

 そのナスターシャの股に、龍蔵が容赦なく鞭を叩きつけ続けた。

 

「ぎゃあああ──。お許しをおお──。お慈悲をおおお──」

 

 股を叩かれ続けるナスターシャが号泣を続ける。

 しかし、その股間は愛液でぐしょぐしょだ。乗馬鞭が当たるたびに、蜜のしぶきが周りに飛び散るほどだ。

 そういうマゾの身体に、ナスターシャは調教されてしまっているのである。

 やがて、あまり反応をしなくなったところで、龍蔵が乗馬鞭を投げ捨てた。

 

「正人、少しさげろ──」

 

 龍蔵が下着を脱ぎながら言った。

 正人は壁のスイッチを操作して、ナスターシャの腰の位置を龍蔵の股間までさげた。

 すでに龍蔵の股間は勃起している。

 その男根を龍蔵はナスターシャの股間に押し入れた。

 

「ほおおおっ」

 

 ナスターシャの身体が反り返る。

 龍蔵がナスターシャを激しく犯す。

 やがて、精を放ったのか、満足したように、龍蔵がナスターシャから離れた。

 

「正人、見張っておけ。湯を浴びて、軽く食事をしてくる……。だが、この雌奴隷には、そのあいだはなにもするな。まだまだ痒みの苦悶はなくならんだろうしな。わしが戻ってきてから続きをする。そのあいだは苦しめておく」

 

「わかりました」

 

 正人は頭をさげた。

 龍蔵は精を放ったばかりの性器を露出したまま上機嫌に、部屋を立ち去っていった。

 

 やれやれ……。

 

 ナスターシャとふたりきりになる。

 すると、宙吊りの彼女が、口の中でなにかを呟き続けていることに気がついた。

 なにかの呪文のようだな……。

 ちょっとした好奇心で、正人はナスターシャの顔側に近づいた。

 

「……“赤ずきんは白い谷の上で狼とコニャックを愉しむ。つまみはクラッカーとチーズ”……」

 

 ナスターシャが呟いていたのはロシア語だった。だが、まったく意味をなさない言葉の羅列だ。

 しかし、それを聞いた瞬間、正人は急に激しい嘔吐と頭痛に襲われて、その場で頭を抱えた。

 

「……起きろ……。覚醒しろ……」

 

 さらに呟かれる。

 すると、急に身体が楽になった。

 正人の中に封印されている人格が表に出た。

 

「スカーレット……」

 

 目の前にいたのは、ナスターシャではない。

 スカーレットだ──。

 豊藤の壊滅をもくろむ組織が送り込んだ刺客……。操心術の影響を避けるために、操られるための人格であるナスターシャの人格の裏に、刺客者としての人格を隠したスカーレットだ。

 そして、そのスカーレットに洗脳支配を受けているのが正人……。

 普段は封印されているそれらの記憶が呼び起こされる。

 

(唇を見ろ……)

 

 仰向けに宙吊りになっているスカーレットが唇の動きだけで、正人に言葉を伝えてくる。

 今度はフランス語だ。

 もちろん、正人は理解できる。

 

(はい……。見ている……)

 

 正人もまた、フランス語で唇だけで言葉を返す。

 

(龍蔵の後継者候補の少年には、無事に罠をつけたか?)

 

 罠というのは、前回のスカーレットの覚醒のときに、彼女から指示を受けたことだ。

 正人は頷く。

 

(奴婢のひとりとしてつけることに成功している。いまのところ、気がつかれてない)

 

(わかった。では、そのままにしておけ。豊藤の中にいる操心術者は全部同時に殺さねばならない。ひとりでも残っていれば、操心術で反撃される。絶対に気づかせるな。気がついたかもしれないと判断したら、すぐに罠は殺せ。発覚される前に……)

 

(了解……)

 

(それと武器の準備を……。罠に武器を渡しておけ……。いつ実行となるかわからん。始めれば一気にやる)

 

(了解……)

 

(それと龍蔵を調べろ……。調べ直せ。もしかしたら、あれは龍蔵ではないかもしれない)

 

(龍蔵ではないというのは……?)

 

 正人は面食らった。

 スカーレットの発言の意味が理解できなかったのだ。

 

(あれには操心術はない……。豊藤の総帥の特徴は類まれな操心術……。それが世界の有識者を恐怖させているのだ……。だから、どんな組織も、日本人の豊藤に逆らえない……。だが、あいつは、いま現在、ナスターシャに一度も操心術を使ってない)

 

(一度も?)

 

 正人は驚いた。

 龍蔵といえば操心術ですべてを操り、世界を支配してしまう超人だ。だが、女癖の悪さも群を抜いていて、若い頃から操心術で多くの女を支配して、自分の身の回りを囲ませているというのは有名な話だ。

 最近では、このナスターシャのみが相手だが、そのナスターシャの調教に、操心術を使ってないだと?

 

(操心術を掛けられていることに、気がついてないだけでは?)

 

 正人はスカーレットに訊ねた。

 龍蔵の操心術の怖さは、まさに操られていることさえ相手に気がつかせないことだ。

 だが、スカーレットは宙吊りの首を小さく横に振る。

 

(それはない……。ナスターシャの人格は、わたしが常に見張っている。ナスターシャへの操心は絶対に、わたしには影響しない。完全な別人格だ。あの龍蔵に操心術は感じない。だから調べよ。あるいは、本物の総帥がどこかに隠されているかもしれない。それがわからないと、暗殺は実行できない)

 

(わかった……)

 

(頼むぞ。もう少し時間はかけていい。あれは、まだナスターシャで遊ぶことに夢中だ。当分は、まだこの身体は処分されないだろう……。ところで鞭で打ってくれ。ナスターシャがやられたのと同じように、わたしも打ってくれ)

 

「はい?」

 

 正人は唇で伝えるのを忘れて、思わず声をあげてしまった。

 すると、スカーレットの顔が真っ赤になった。

 正人は唖然とした。

 

(人格は別だが、身体は同じだ。だから、マゾにされた身体が苦しいのだ。ナスターシャが責められても、スカーレットのわたしには、悶々としたマゾの欲情が消えない。だから、スカーレットのわたしを責めてくれ。わたしを満足させてくれ)

 

 スカーレットが顔を真っ赤にしたままそう伝えた。

 半分呆れたが、スカーレットの命令には、どんなことでも逆らってはならないという暗示が心の奥底に刻み込まれている。

 正人は頷いた。

 

(龍蔵がいつ戻るかわからない。数発しかできないぞ。それと、放置してろという命令だから、声は出すな)

 

(それでいい。感謝する。性器……アナルも……。クリトリスも打ってくれ。頼む……。だけど、声を出すなと言うのは、お前も鬼畜だな)

 

 スカーレットがくすくすと笑った。

 

(なにが愉しい?)

 

 正人は、龍蔵が投げ捨てた乗馬鞭を拾う。

 そして、スカーレットの股側にまわり、力の限り彼女の股間に乗馬鞭を打ち据えた。

 スカーレットが無言のまま、大量の汗とともに、蜜の飛沫を股間から吹き出した。



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第19章 愛欲【世良 七生】
 第109話 エロスの手解き


 金城光太郎──。

 ちゃんと覚えた。

 久しぶりに、他人のフルネームをちゃんと記憶した。

 

 それだけ、七生(ななお)自身が彼のことを気に入ったということだ。自画像以外に誰かを描きたいと思うことはあまりないが、興味を抱けば、必ず覚える。

 まあ、多分だが……。

 

 いずれにせよ、彼は美しい──。

 そして、不思議なエロさがある。

 十二歳から描き続けている自画像シリーズは、七生がエロスを理解できない不完全な女だったために頓挫してしまったが、彼であれば描ける。

 七生は、もう一度、絵画の情熱を思い出すことができる。

 絶対に描きたい。

 いや、描かなければならない──。

 七生には彼が必要なのだ──。

 

 その光太郎から指定されたのは、土曜日の午前中に美術部の部室で待てということだ。それがその金城光太郎が絵のモデルになってくれることの条件だった。

 あるいは、七生に、エロスについて教えくれるかだ。

 光太郎が言ったのは、土曜日の午前中に美術部の部室を訪ねる男子生徒に指示に従えということだった。

 それが誰であるのか、結局、金城は最後まで口にしなかったが、彼がとても信頼している人物だという雰囲気はあった。

 そして、その男が七生に、エロスを教えてくれるそうだ。

 だが、無理だと思う。

 

 七生は、エロスを理解するために、男子生徒に抱かれてみたし、その中には学園でもっとも人気のある男子生徒である加賀豊も含んでいる。

 どの女子生徒も、その加賀のことを好んでいると口にしていたし、彼は男として非常に優秀なのだそうだ。

 だから、七生がエロスを学ぶのであれば、彼ほど適任はいないと思ったのだ。

 しかし、なにも心に感じなかった。

 

 破瓜は痛かったが、それだけであり、悦びとか愛おしみとか、愛情のようなものはひと欠片も抱くことはできなかった。

 もしかしたら、相性がよくないだけかと思って、男子生徒とも試してみた。

 結果は同じである。

 セックスというのは、口づけをして、胸を触られ、股間を愛撫され、性器に男根を突っ込まれて、男の射精を受ける。結局はそれだけのことだった。

 よく言わている快感のようなものは、ほとんど感じなかった。

 ただ、生々しいものが膣の中で放出されて、気持ち悪いなと思っただけだ。

 

 五人の男子生徒とのセックスで得るものはなかった。

 唯一よかったのは、最初のセックスが加賀豊だったのだが、その後、これからも相手をしてやろうとしつこく迫られていていたものの、立て続けに五人の男子生徒と関係を持ったことで、“ビッチのマグロ女”と彼に罵倒され、その後言い寄られなくなったことだ。

 意味のないセックスなど、面倒だし、時間の無駄なので、興味を失ってもらったのはよかった。

 ただ、ビッチという言葉の意味は最近やっとわかったが、マグロ女の方については、まだ意味がわからない。

 まあ、どうでもいいけど……。

 

 とにかく、多分、自分は女として、なにかが欠けているのだろう。

 五人の男子生徒との性交を試して、七生が出した結論がそれだった。

 自分にはエロスは理解できない──。

 だから、七生はエロスの先にある美しさというのが描けないのだ。

 

 失望した──。

 途方に暮れた。

 しかし、途方に暮れていたときに見つけたのが、金城光太郎だ。

 

 彼は美しかった──。

 エロスを感じた。

 心が震えた。

 

 彼を描きたい──。

 どうしてもだ、

 

 そして、説得に説得を重ねて、光太郎はついに応じてくれた。

 ただし条件があり、まず最初に、光太郎が紹介する男子生徒に、七生は身を委ねろということだった。

 光太郎が主張することによれば、その男子生徒に完全に身を委ねれば、七生はエロスを知ることができるらしい。

 だが、無理だと思う。

 七生が女として欠けているのは、すでにわかっているのだ。

 だが、その男子生徒とセックスをして、七生が結局エロスが理解できず、さらに、その男子生徒が光太郎に命じれば、そのときには光太郎はヌードモデルになろうと約束をしてくれた。

 光太郎は七生の絵を知っていて、どんな結果になっても、七生が芸術を追求するのを手伝いたいとも、最終的には口にした。

 

 ならばいい。

 最終的に、あの不思議な魅力を持つ光太郎という人間を描かせてくれるのであれば、七生をしては満足だ。

 言質はとった。

 光太郎は、その男が命じればという条件を口にしたが、それは必ず言わせてみせる。

 

 そして、七生はこうやって、土曜日の午前中の美術部室で待っているというわけだ。

 ほかに部員はいない。

 光太郎は、七生とその男子生徒が会うにあたり、誰もやってこない場所を求め、七生が美術部を提示した。

 もともと、週末の土日に美術部としての活動はなく、休日に訪れる部員は七生くらいなのだが、美術部には使用できる部屋が三部屋あり、その中のひとつを七生の専用のアトリエとしてもらっているのである。

 そこなら、ほかの者が来るはずはないと説明した。

 文化部の集まる文化部棟とは異なる移動教場の集まる建物であり、授業のない休日は、七生を除き、建物自体が無人になる。

 そう説明すると光太郎は了承した。

 

 部屋には暗幕がしてある。

 その男子生徒というのがいつ現れるのかわからないが、それまで暇にするのももったいないので、七生は準備したキャンパスにクロッキーで王太郎を描いている。

 昨日の茶会で接した彼の不思議なエロスを思い出しながら……。

 

 すると、部室の前に人の気配がしたので、七生は鉛筆を置いた。

 話し声がする。

 「玲子さん」、「監視している」、「連絡」……。そんな単語が聞こえた。そして、複数あった人の気配がひとりに減り、廊下を遠ざかっていく足音がした。

 開き戸の扉が外から叩かれ、七生が返事をする前に扉が開いて、ひとりの男子生徒が入ってきた。

 

 七生は眼を見張った。

 その男子生徒のことを知っていたからだ。

 

「坂本真夫……。もしかして、光太郎様が身を委ねろと告げたのは、あなたなのか?」

 

 七生は言った。

 すると、向こうも驚いたような表情になった。

 

「ひかりちゃんから、あなたはほとんど他人の名前を憶えてないと言っていたけどね。俺の名前を知っていたのはびっくりした。逆に、俺はあなたのことを知らなかったから」

 

「あなたは目立つからな。それに、わたしだって、興味を抱いた対象の名は覚えている。あなたの名はなんとなく覚えていた。ところで、ひかりちゃんというのは誰だ?」

 

「七生さんを……いや、七生を俺に紹介した相手だよ。金城光太郎……。俺たちはひかりちゃんと呼んでるんだ」

 

 真夫が扉を閉め、さらに内側から鍵を掛けた。

 そして、近くまでやってくる。

 七生は、やってくる何者かのために、七生がキャンバスに向かっている正面に、折り畳み椅子を一脚準備していたが、真夫はそれには座らずに、七生のそばに立った。

 

「俺たちとは?」

 

「仲間だね」

 

「仲間か。ふうん……」

 

 どういう仲間なのだろうと思ったが、すぐに、どうでもいいことだと思って訊ねるのはやめた。

 だが、光太郎が七生に紹介しようとしたのが、この真夫だというのは意外だ。

 金城光太郎以外にも、七生が創作意欲を沸かせた相手が幾人かいる。そのひとりが目の前の真夫だったのだ。

 すぐにモデルにしたいと思ったという点では、光太郎に対するほどのものはなかったが、エロスを感じる生徒として、なぜか七生の記憶に残っていた。

 

「ねえ、真夫と呼んでもいいだろうか? それとも、ちゃんと敬語を使った方がいいか? あまり畏まった物言いはしたことがないので面倒なのだけれど、やろうと思えば敬語も使うことができる」

 

「言葉はどうでもいい。好きなように喋ればいいよ」

 

「それはありがたい……。ところで、最初に言っておくが、わたしは会話が苦手だ。だから、他人からすると、ちょっと唐突な物言いに感じることがあるようだ。それを踏まえて、聞いて欲しいけど、真夫にヌードモデルになってもらえないだろうか」

 

 七生は言った。

 真夫が面食らった顔になる。

 

「ひかりちゃんには、七生がモデルにしたいのは、ひかりちゃんだと教えられたけど?」

 

「そうだけど、君でもいい。いや、君もいい──。君には不思議なエロスを感じる。金城様……、わたしも、ひかりちゃんと呼んでもいいかな……。もちろん、ひかりちゃんも描きたい。しかし、いま、君も描きたくなった。君にはエロスを感じる」

 

「エロスねえ……」

 

 真夫は笑ったような顔になった。

 なんとなくだが、機嫌がいい気がする。

 もしかしたら、了承してくれそうだ。

 

「まあいいか。ただし、ひかりちゃんには、君にエロスを教えてやってくれと言われている。俺に七生を愛させてくれたら、モデルにでもなんでもなってやろう」

 

「ああ、それは無理だ」

 

「無理?」

 

「無理だ。すまない。わたしは誰かを愛したり、愛おしむというような感情に欠けているようなのだ。実際、五人試した。わたしには、どうしても愛というのがわからなかったよ」

 

「だから、駄目だと?」

 

「そういうことだな」

 

「なら、仕方ない。同意がなくても、無理矢理に愛することできるしね。どちらかいというと、正直、そっちの方が趣味かもしれない。俺は支配して抱く。縛って拘束し、苛めながら愛でる。それが俺の好きな愛し方でね」

 

 気がつかなかったが、真夫はスポーツバッグを持ってきていたようだ。

 いまは床に置かれていたが、彼がそのバッグの中から、どす黒く変色したたくさんの縄束を取り出す。

 

 縄──?

 真夫は、取り出した縄束のうちのひとつを手に取ると、残りを無造作に床に置いた。

 七生は面食らった。

 

「縄でなにをするのだ? あっ、いや、多分、わたしを縛るのだということは、なんとなくわかるのだけど、意味がわからなくて……。君に従うというのは、ひかりちゃんと約束したので、逆らうつもりはないが、できれば納得させて欲しい」

 

「さっき言ったとおりだよ。縛って支配する……。支配して、無理矢理に愛する……。サディストという言葉を耳にしたことは?」

 

「サディスト……? ない──。ただ、ちょっとわかってきたけど、もしかしたら、真夫は愛するという言葉をセックスの意味で使っているか?」

 

 七生は訊ねた。

 すると、ちょっと儀式めいたように威圧的な態度を振るまっていた真夫は、一瞬きょとんとなった。

 そして、噴き出した。

 

「確かに……。なるほど、ちょっとちぐはぐな感じだったのは、そういうわけか……。なら、言い方を変えないとね。縛ってセックスをする。それが俺の愛し方……。いや、セックスのやり方だ」

 

「そういうことなら、縛らなくてもいい。セックスは問題ない。だけど、さっきも言ったが、わたしは、セックスに快感を覚える方ではないらしいので、君に申し訳ないと思うだけだ……。とにかく、セックスだったな。服を脱ごう」

 

 七生は制服のスカートのホックに手をかけた。

 だが、真夫の手がそれを阻んだ。

 

「どうかしたか? セックスではないのか?」

 

 七生は、手首をつかんだ真夫に視線を向ける。

 真夫は、縄束を掴んだままだ。

 すると、そのまま手首を力任せに背中に持っていかれた。

 

「わっ」

 

 体勢を崩してしまい、七生はその場に跪いてしまった。

 すると、真夫の両脚で腰の両側を挟むように押えられ、反対の手の手首も掴まれて背中に回される。

 あっという間に、両手首が背中でひとまとめに縛りあげられた。

 

「な、なんで……? 別に縛らなくても、セックスは応じるのに……」

 

「だけど、七生はセックスの先にあるエロスを知りたいのだろう? そういえば、ひかりちゃんによれば、七生は、裸とは芸術であり、エロスであると言ったらしいね」

 

 真夫が言った。

 そのあいだにも、どんどんと上半身に縄がかかっていく。手首を縛りあげた縄が前にまわって、制服のシャツの上から胸の膨らみを二重三重と縄で締めあげられる。季節的にジャケットは着ていない。シャツの下はブラジャーだけだが、乳房を絞り出すように縄が掛けられていく。

 二の腕にも縄がかかった。

 七生は完全に両腕を縄で胴体に密着させられてしまった。

 肌を圧迫され、身体を締めつけられる感触に、不思議な緊張感が走った気がした。

 なぜ、縛られただけで、こんなに落ち着かない気持ちになってくるのか、七生は自分のことながら、ちょっと不思議に思ってしまった。

 

「七生、聞いているか?」

 

 真夫が七生の耳元で問いかけてきた。

 はっとした。

 一瞬、ぼうっとしていたみたいだ。

 

「な、なんだい、真夫? すまない。もう一度訊ねてくれないか」

 

「裸とは芸術であり、エロスであると言ったのかと訊ねたよ」

 

 真夫が笑った。

 そして、七生は跪いていた身体を引き起こされて立たされた。

 真夫が縄を掴んで、部屋の真ん中くらいに引っ張っていく。

 とりあえず、七生は、真夫に移動させられながら頷いた。

 

「言った。だけど、わたしにはエロスがわからない……。残念ながら、わからなかった」

 

「なら、教えてあげるよ。エロスをね……。まずは、縄の味を覚えてもらう……。ところで、縛られて不安を感じているみたいだね……。どうやら、感じやすい身体をしているみたいだ」

 

 真夫はまた、くすくすと笑った。

 

「い、いや、わたしは感じない性質らしくて……。その男子生徒にも、それで呆れられて……」

 

「それは、ただ、彼らが七生の快感をうまく引き出さなかっただけだよ……。君は拘束され、縛られて犯されることで感じるようだ……。そういう性癖を持っている……。だから、普通に抱かれて感じなかったんだ。まあ、ざっくばらんに言えば、そいつらが下手だったからと言い換えられるかも」

 

「下手って……。あ、あのう……。つまりは、もしかして、真夫はわたしにセックスの快感を教えてくれることができるのか? セックスの向こうにあるエロスを……」

 

 七生は後ろ側にいる真夫に顔を向けた。

 もしもそうであれば、いままで行き詰っていたものが解決できるかもしれない。

 諦めていたエロスを知ることができる……。

 七生は、もっと一段階上の高みに進むことができるかもしれない……。

 

 そもそも、真夫がさっき口にしたことは、七生には思い当たるものがある。

 縄で縛られて、いまなぜかすごく不安な気持ちになっていた。

 ひどく喉が渇く気分だし、身体が熱い気もするのだ。

 でも、それがなにかわからない……。

 

「セックスはエロスだ。それは間違いない……。でも、エロスはそれだけじゃない……。縄で縛られる……。それだけでエロスを感じるはずだ……。それを教えてあげるよ……」

 

 真夫が解いた別の縄束を持っていて、それを解いて天井に向かって投げた。

 この美術室には、天井側に梁の横材があり、それに縄を掛けたのだ。しかも、いつの間にか、後手に縛った縄に梁に投げた縄の縄尻が繋げてあり、真夫が梁を通しておりてきた縄を思い切り引っ張ると、七生の身体がぐいと持ちあげられた。

 さらに引っ張られて、靴が爪先立ちになる。

 その状態で固定された。

 

「な、なにを……」

 

 もう七生はほとんど動けない。

 身体を揺することはできるが、前後にも左右にも足を踏み出すことは不可能になった。

 さらに不安感が大きくなる。

 

「どんな気分になった、七生?」

 

 真夫は七生の前に立った。

 また、別の縄束を持っている。

 それを解いていく。

 

「わ、わからない……。とても、不安だ」

 

「その不安が快感に変わっていく……」

 

 真夫の手が制服の腰のホックにかかった。

 あっという間に外されて、スカートが足元におちる。

 スカートの下には下着以外には身に着けてない。

 真夫が解いたばかりの縄を二重にして、七生の腰の括れに巻きつけ、身体の前側で結んだ。

 その縄尻を持って屈み込む。

 いつの間にか、二重にした縄に三個の縄瘤が作ってあった。

 

「か、変わるって……?」

 

 七生は自分の声が震えていることに気がついた。

 こんなことは初めてだ。

 そもそも、いったいなにをされるのか……。

 

 真夫が七生の股間に腰から落とした縄を通す。

 すると、後ろに回った真夫がその縦縄を思い切り引き絞った。

 

「あっ──」

 

 襲ってきた感触で、七生は無意識に両脚を捩り合わせていた。

 だが、すでに縄が股間に強く喰い込んでいる。

 しかも、さっき見えた縄瘤だ。

 それが七生の気持ちのいい場所を強く圧迫して、不可思議な感覚を生み出した。

 

「な、なに、これは──? なに──?」

 

 七生は、襲ってきた痛みとも痺れともつかない感覚に、腰の力が一瞬にして抜けてしまった。

 だが、その途端に股間に襲う疼きが一気に拡大する。

 慌てて、爪先に力を入れて腰を上にあげる。

 

「股縄を味わって、まずは女であることを思い知ってもらう……。エロスを教えるのはそれからだ」

 

 真夫が再び前に回ってきた。

 持ってきたスポーツバッグを引き寄せる。

 取り出したのは、黒いアイマスクとヘッドフォンだ。

 

「まずは、目隠し……」

 

 真夫がまず、七生から眼鏡を外して横の台に置き、アイマスクをさせる。

 視界が消滅する。

 

「あっ」

 

 一気に不安感が拡大する。

 

「……次に、このヘッドフォンをつける……。すると、一切の音が完全に遮断される。視覚と聴覚を奪われると、人間は極度に触感が敏感になる。股縄をゆっくりと味わうといい……。まずは、君が本当は、とても感じやすい女であることを認識するんだ」

 

 真夫が七生の耳にそのヘッドフォンを嵌める。

 その途端に、七生から一切の音が消滅した。



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 第110話 マゾのエロス

「……ま、真夫──?」

 

 不安に耐えられなくなり、七生(ななお)は声をあげた。

 しかし、それはまるで自分の声ではないかのような遠い音のようにしか感じなかった。

 外音は真夫が七生の耳を塞いだヘッドフォンによって遮断されており、七生に届いたのは骨伝導による声なのだろう。

 いずれにしても、真夫の返事はないし、反応もない。

 すぐに触れてきて、すぐにセックスをするのかと思ったが、それもない。そう思ったのは、これまでに経験した男子生徒たちがそうだったからだ。

 拘束をされてセックスをするのは初めてだったが、別段、そうでなくても、七生がなにかをするわけではないから問題はない。

 七生が知っているセックスは、ふたりきりになれる場所に赴き、七生は服を脱ぐ。すると、男子生徒が七生を愛撫して女性器に男性器を突っ込んで律動して射精する。

 つまるところ、セックスとはそういうことだ。

 

 しかし、真夫が七生に施したものは、まったく違う行為だった。

 縄で拘束をし、七生を抵抗できない格好にすると、そのまま放置したのだ。

 ただただ、放置されている。

 それだけの時間が延々と過ぎている。

 

 真夫はそばにいるのだろうか?

 それにしては、まったく気配を感じない。

 あのまま部屋に残っているのだろうと思うのだが、それにしても、これだけ長い時間、なにもせずに放っておかれているというのは、もしかしたら、真夫はどこかに行ってしまったのではないかという気がする。

 そもそも、こうやって自由を奪われて爪先立ちにされてから、どのくらい経ったのだろう?

 かなり長い時間が過ぎたという感覚があるが、あるいは、それほどの時間は過ぎていないのかもしれない。

 とにかく、視界を奪われ、外音を切り離され、風さえ感じることができず、七生はこれまでに味わったことがないような大きな不安感と緊張感に包まれている。

 

 これも、エロスというもの……?

 

 真夫が口にしたのは、七生が知ることができなかったエロスを教えるということだ。

 そして、こうやって七生を縄で縛り、視覚と聴覚を奪って放置した。

 つまりは、この不安で押し潰されそうなが気持ちがエロスなのだろうか。

 

 自由を奪われ、なにをされても抵抗できないような状態で放置される──。抗う気持ちが最初からなかったが、だが抗う手段を一切奪われるというのは、これほどに怖さを生むというのは知らなかった。

 そして、こうやって、時間が過ぎていくと、その恐怖心が諦めのような感情に変わっていく気がする。

 いずれにしても、いま七生が味わっているのは、これまでの人生において、経験のなかった負の感情であることは確かだ。

 

 そして、こうやって放置される時間がすぎることで、七生を襲っているのは心理的な変調ばかりではない。

 肉体的な苦悶もじわじわと七生を追い詰めている。

 肌を締めあげる縄の圧迫感と爪先立ちの姿勢をずっと強いられている苦痛が七生の服の下にかなりの汗をにじませている。

 なによりも、七生の女の部分に喰い込み、締めつけていくる股縄が……。

 

 股間に喰い込まされる前に垣間見た縄瘤は、しっかりとクリトリスと膣とアナルに当たっていて、疼痛のような感覚を強く産み出している。

 真夫が、女であることを思い知れ──と言っていたのは、まさにこのことに違いない。

 ずっと襲っている股間の刺激は、ほんの少しも逃げることができない。

 

「あ、ああ……」

 

 爪先立ちの姿勢を保とうと身じろぎするたびに、股縄の縄瘤は、七生の花芯とクリトリスを抉りあげる。

 いや、なにも動かなくても、疼きのようなものが七生を圧迫する。

 動いても、動かなくても、七生はなにかに追い詰められる……。

 もう、七生を苛んでいる股間のことしか考えられない。

 これが、女であることを知るということか……。

 

「ま、真夫……。い、いるんだろう? い、いつまで……」

 

 七生は再び声をあげた。

 今度はさっきよりも、余程に自分の声が弱々しいと感じた。

 いつまでこうしていなければならないのだろう……。

 局部を締めあげる緊縛感とひたすらに対峙しながら七生は思った。

 

「……そ、そろそろ許して……くれ……。わ、わたしと……セックスを……」

 

 これほどの緊張感に襲われ続けるなら、もう真夫に襲って欲しい……。

 七生は思った。

 だが、返事はない。

 いるのか、いないのかも感じられない。

 

 鼻の横や顎の下に自分の汗を感じる。

 もうかなりの汗にまみれているに違いない。

 はあ、はあという自分の吐息が身体の内側を通じて伝わってくる。

 

 時間がひたすらに過ぎていく。

 もう、真っ直ぐに立っていられない。

 上下の感覚がわからなくなってきた。

 

「ううっ、くっ」

 

 重心がずれるたびに、どちらかの足を踏ん張るのだが、すると身体が揺れて、縄瘤が股間に強く喰い込む。

 

「ひああっ、ああっ──」

 

 突然のことだった──。

 背後から抱きすくめられて、縄が上下に喰い込んでいる乳房が手の平に包みこまれ、指が乳首を探すように押し揉んできた。

 

「ああ、あああっ、いやあ──」

 

 自分が大きな声を出しているのがわかる。

 七生はなにも考えられずに、唯一自由な顔を左右に振りたてた。

 だが、どうして愛撫を拒絶するような言葉を吐いたのかわからなかった。七生はこのまま放置され続けるくらいなら、むしろ真夫に犯して欲しいと思ったのではなかったのか……。

 

 真夫の手が離れる。

 七生はすぐに犯されることを予想した。

 しかし、その予想に反して、七生は再び放置された。

 相変わらず、股間の縄瘤は大きな存在感をもって七生を追いつめ続けるし、疼痛はますます拡大する。

 だが、一度刺激されたということが、さらに七生の心を圧迫する。

 

 次は、いつ触れてくるのか──?

 いまなのか──?

 それとも、まだ焦らされるのか……?

 

 七生は、もう真夫のことしか考えられなくなってきている。

 追い詰められすぎて、頭がおかしくなりそうだ。

 

「ま、真夫──。お願いだ──。もう苦しい──」

 

 七生が声をあげた。

 すると、不意にヘッドフォンが外された。

 

「ま、真夫──」

 

 七生は真夫の名を口にしていた。

 久しぶりに聞いたいつもの自分の声だった。これまでは身体の内側を通した声しか聞いてなかったので、自分の声が自分ではないみたいだったのだ。

 目隠しはそのままなので、真夫の姿は見えない。だが、ヘッドフォンを外された感覚から考えて、真夫の位置は後ろ側のような気もするが、よくわからない。

 

「約一時間だ。充実した一時間だったか?」

 

 真夫がくすくすと笑った。

 どうやら、前にいるようだ。

 

「わ、わからない……。だが、怖ろしく不安で……怖かった……。と、とにかく、この股間の……縄のことしか考えられなくて……。あ、あとは真夫のことばかり……」

 

 七生は心に浮かんだことを素直に口にした。

 もっと長かった気がしたが、たった一時間だったのか……。

 確かに、滅多に味わえない充実した時間だったかもしれない。

 

「さすがが芸術家様だ。詩人のような言葉を使う……」

 

 真夫が笑う。

 次の瞬間、その真夫の手が内腿の内側にそっと触れた。

 

「ひゃん──」

 

 七生が身体を跳ねさせた。

 縄瘤がぐんと股間に喰い込んで刺激を拡大する。

 

「んくうっ、あんっ」

 

 これまでに一度も出したことがないような甲高い鼻声が七生の口から迸った。

 自分がそんな声を出すことがあるということにびっくりした。

 そして、真夫が七生にさらに近づくのがわかった。

 

 しかも、抱きしめられた。

 身体がかっと熱くなる。

 しかも、下腹部に腰を押しつけられた。

 ズボンの生地越しではあるが、勃起している男根の感触が腹の下に感じた。 

 

「あっ……」

 

 吐息混じりの声が出た。

 いよいよ、犯されるのだなと思った。

 

「エロスを知りたいと言っていたね」

 

 抱きすくめられている耳元でささやかれる。

 七生が小さく頷いた。

 

「……言った……」

 

「だけど、エロスというのは、そんなに簡単に知ることができるものじゃないと思うね。多分、色々なエロスがある……。俺が七生に教えることができるのは、七生が俺に支配されるというエロスだ……。いままで君は自由だった。自由に男を選び、セックスを体験した。でも、俺にエロスを教わりたいなら、俺の女になると誓い、隷属すると約束し、自分の自由を俺に差し出さないとならない……」

 

「自由を……差し出すのか……?」

 

「それが支配されるということだよ……。どうする……?」

 

 自由を失う……。

 それがどういうことなのか、よくわからない。

 たた、予感はある。

 もしも、この真夫に従えば、七生は七生でなくなるような気がした。

 根拠はないが、勘だ──。

 

 ここで承諾すれば、七生は全く別の存在になる──。

 この真夫には、そんな力がある気がする……。

 

「なんか怖いな……」

 

「別の物言いをしようか。俺の女になれば、ひかりちゃんのヌードを描かせてやろう。俺でもいい。好きなようにさせてやるよ」

 

 真夫が言った。

 いままでちょっと威圧的な雰囲気を出していたが、急に七生を包み込むような優しい口調になった。

 七生は不思議な安堵感に包まれた。

 ここで、そんな優しい物言いか……。

 この男は狡いな……。

 そのことを完全に理解した。

 自分の頬が綻ぶのがわかった……。

 

「……わかった。わたしを真夫の女にしてくれ。わたしを支配して欲しい……」

 

 もう不安は消えていた。

 真夫に抱いて欲しい。

 心から思った。

 

 セックスによってエロスの真髄に近づこうとした七生だったが、純粋に男に抱いて欲しいと思ったのは、この真夫が初めてだ。

 股縄の疼きはどうしようもないものになっている。

 もう七生の肉体の欲望がそれを求めている。

 

「いいのか? 一度隷属を誓えば、もう一切の拒絶はできなくなるよ。どんなに理不尽な命令でも、七生には“はい”の返事しか許されなくなる。それがどういう意味かはわかるよね?」

 

「問題ない。わたしは自分で求めて決めた。真夫の女になる。わたしを支配してくれ……。ところで、そろそろ目隠しも外して欲しい……」

 

 すると、真夫がくすくすと笑い声をあげた。

 

「な、なぜ笑う?」

 

「七生がわかってないからだ。支配されるというのは、拒絶が許されなくなるなると言った本質を理解してないようだと思っただけだよ」

 

「本質?」

 

「拒絶できないというのは、一切を受け入れなければならないということだよ。それがマゾのエロスだ……。ようこそ、俺たちの仲間に……。それとSS研にも……」

 

 真夫が七生から身体を離してしゃがみこんだのがわかった。

 股縄が外される。

 

「あんっ」

 

 縄瘤から解放される緊張感の消滅により、またもや口から甲高い声が迸ってしまった。

 しかし、それ以上のことは考えられなかった。

 真夫が七生から腰の下着をあっという間に足首までさげ、いきなり七生の股間に口づけをしてきたのだ。

 

「わっ、ひんっ、ああっ」

 

 真夫の舌が七生の股間への蹂躙を開始する。

 混乱し、動転した。圧倒的な衝撃が股間から全身を貫いた。

 七生は緊縛されて吊られている身体を大きく震わせてしまった。



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 第111話 愛欲談義

「ひあっ、ああっ」

 

 七生(ななお)は、たったいままで股縄できつく締めあげられていた秘部を優しく舌で愛撫されて、その切ないような感覚に、思わず喘ぎ声をあげた。

 真夫は舌を七生の股間に這わせ続ける。

 クリトリスに舌が絡みつき、包皮を剥くようにねっとりと舐められる。舌が動くたびに、七生の身体はびくんびくんと震えて、短い鼻声が口から迸る。

 

「あっ、ああっ、か、感じる……」

 

 真夫の舌の愛撫は続く。

 七生の喘ぎ声はだんだんと大きくなっていった。

 

「あ、あああっ──」

 

 どうして、こんなに感じるのか……?

 これまでのセックスの経験では、一度も味わったことのない官能の愉悦に七生は戸惑った。

 セックスでこんなに気持ちよくなったことなどない──。

 七生がこれまでに経験をしたセックスとは、ちょっとくすぐったいくらいのものであり、こんなに頭が真っ白になるような強烈なものではなかった。

 それなのに、真夫のほんの少し股間を舌で舐められただけで、七生は早くも巨大な激情に包まれている。

 

 これがセックス──?

 だとしたら、いままでのはなんだったのか──?

 

「感じるか? 七生は自分がエロスを理解できず、セックスの快感がわからないと口にしていたけど、実際はどうだ? 感じているんじゃないか?」

 

 真夫が七生の股間から顔を離して立ちあがった気配を感じた。

 

「わ、わからない……。こ、これが感じるということなら、わたしはとても感じている……と思う……。激しい。とにかくすごい……」

 

「エロスがわかりそう?」

 

 真夫がくすくすと笑いながら、七生の制服のブラウスのブタンを外して、縄の下で左右に開く。

 さらに、ブラジャーが上にあげられて、乳房を剥き出しにされる。

 そして、今度は舌先で乳首の先を絡めるように舐めあげる。

 

「ひんっ、ああっ──」

 

 乳首への刺激はたまらなかった。

 七生は身体をびくびくと震わせて、甲高い声をあげた。

 

「縛られると感じるだろう? しかも、目隠しをしていると、どこを責められるか、ぎりぎりまでわからない……。感じたくなくても感じさせられるんだ。それがマゾのエロスだよ」

 

 七生の胸から顔を起こした真夫が今度は指で股間に触れる。

 クリトリスを指で挟んで軽く動かされた。

 一気に股間から脳天に突き刺さるような官能の刃が全身を貫く。

 

「ひんっ──」

 

 七生は身体を突っ張らせた。

 だが、その指もすぐに離れる。

 

「七生はマゾだ。だから、普通のセックスではそんなに快感を覚えなかったんだ。エロスに向かないわけじゃない。自信を持て」

 

「じ、自信と言っても……。はうっ」

 

 言葉に応じている途中で、真夫に再び乳首を口に含まれて抽送するように吸いあげられる。

 七生は痺れるような快感を覚えて、またもや声をあげた。

 胸を舐められるのも、股間を愛撫されるのも経験はあるのに、こんなにも感じてしまうのは自分でも信じられない。

 

「七生は、縛られると、なにをされても感じて感じるいやらしい身体をしている。……というよりも、もう縛られないと物足りなくなるぞ……。キスをしたことは?」

 

「あ、ある……」

 

「なら、縛られて受ける口づけを教えてあげるよ。違いを味わうといい。舌を出して……」

 

 再び七生の胸から顔を離した真夫が言った。

 真夫の顔がお互いの息を感じるほどに接近をしたのがわかる。

 七生の左右の頬に真夫の両手が添えられた。

 びくりとしてしまったが、すぐに七生は舌を口から出した。

 

「もっとだよ……」

 

「あっ、はい……」

 

 さらに舌を出す。

 その七生の舌を真夫の口が柔らかく包む。ねっとりと舌と舌が絡みつき、ゆっくりと揉み動かされる。

 

「んあっ、あえ……」

 

 自然に七生の口から甘い声が放たれていた。

 なにこれ……?

 身体が痺れる……。

 まるで、溶けていくような感覚だ。

 局部がかっと熱くなり、大きな疼きがやってくる。

 爪先立ちの足で身体を支えてられなくなり、一瞬身体が浮く。

 慌てて、身体を支え直す。

 

「口づけが気に入ったか?」

 

 長い口づけから解放された。

 それとともにかなりの涎が口からこぼれてしまったと思う。

 でも、七生にはそれを拭う手段はない。

 どんなにみっともない顔になったのだろうと考えると、ちょっと羞恥が襲う。

 

「わ、わからない……。だ、だけど……もっと……。エロスがわかりそうだ……。それを知ることができれば……わたしはもっと近づける……。愛の真理に近づける……。エロスに……」

 

 七生は、喘ぎながら言った。

 この快感の向こうにあるもの……。

 それが七生に知りたいものである確信がする。

 

「エロスか……。芸術のことはわからないけど、エロスについて、俺の意見を言わせてもらえれば、エロスとは愛欲だと思う……。快感に対する剥き出しの欲望かな……」

 

「む、剥き出しの愛欲……?」

 

「そうだな。例えば、俺はいま、七生を泣かせたい。翻弄させて、凌辱したい……。それがいまの俺の剥き出しの欲望だよ」

 

 真夫の指が七生の股間に触れた。

 次の瞬間、真夫の指が亀裂を抉って挿入されてきた。

 

「あっ、ああっ」

 

 七生は喘いだ。

 真夫の指が上下に律動する。

 ねちゃねちゃと大きな水音がした。

 どれだけ、自分は蜜を股間に溢れさせているのだろうと思った。

 

「聞こえるね? これが愛欲だ。まだ、本格的な愛撫もしてない。それなのに、こんなに股間を濡らしているのが七生の持っている愛欲の本質だよ。君は十分に淫らだ……。縛られれば感じる……。それが七生のマゾの本質だ」

 

 真夫の指が律動を続けながら、別の指がクリトリスに触れた。

 一緒に愛撫される。

 

「ひああっ、ああっ」

 

 七生は身体を硬直させた。

 

「俺に支配されるということは、自由を失うことだと言ったのは覚えている?」

 

 真夫が指で股間を犯しながら言った。

 七生は顔を上下に振る。

 

「……お、覚えている……。ああっ、ひあっ、ひああっ」

 

「だったら命令だ。許可なくいくことを禁止する。声もなるべく我慢するんだ。俺の命令なしに絶頂をするな。声も出すな──。限界まで我慢しろ──」

 

「ああっ、わ、わかった……。くあっ、あっ」

 

 七生は頷いたが、股間の愛撫に加えて、乳首にも舌舐めを受けた。

 たちまちに喘ぎ声が迸る。

 

「声を我慢しろと言ったぞ──」

 

 真夫が口を離して笑う。

 そして、すぐに乳首を舐め始める。

 

「んくっ──。わ、わかってる──。で、でも……ううううっ」

 

 七生は必死に歯を喰いしばった。

 なんとか快感に耐えようと、身体を強張らせる。

 だが、どうしてこんなに感じるのだと思う程に、真夫に翻弄される。

 

「んんんっ、んんんん──」

 

 懸命に声を我慢する。

 だが、声を出さないようにしても、どんどんと快感が蓄積される。

 それが身体の中で膨れあがる。

 

「ああ、あああっ」

 

 ついに声を出してしまった。

 すると、真夫が股間を愛撫している側とは反対の手を七生のお尻に触れさせる。後ろから七生の股間に触れ、指に蜜をまとわせると、すっと指をアナルに挿入してきた。

 

「ひいいっ──」

 

 七生が身体をのけぞらせた。

 

「声を出すな──。我慢するんだ──」

 

 強い口調で真夫が七生を叱咤する。

 

「う、うううっ……。だ、だめだ──。無理いいい──。もう許して──」

 

 股間と胸とアナルへの三箇所責めに七生は哀願した。

 大きなものがやってくる──。

 七生は予感した。

 

「だめだ。七生は俺の奴婢だ──。許可なく達する自由を与えない──。もっと我慢しろ──」

 

 真夫が強く言った。

 一方で愛撫はさらに激しくなる。

 膣に入っている指が股間の中のある一点を腹の方向に押しあげた。また、アナルの中の指が曲がり、押し動かされる。

 その瞬間、強烈な衝撃が一気に七生に襲い掛かった。

 

「ひあああっ、ひいいっ、んっふううう──」

 

 我慢しようと思ったが無理だった。

 腰で強烈な快感が爆発し、快感が背骨を駆け抜けて衝撃が身体を貫く。

 七生は緊縛された身体をがくがくと痙攣させて快楽を昇天させてしまった。

 真夫が指を抜く。

 七生ががくりと身体を脱力させた。

 

「許可なく達したな?」

 

 真夫が項垂れている七生の顎を持ちあげる。

 七生は荒い息をしながら、小さく頷く。

 

「こ、これが達する……絶頂するということか……。す、すごいな……。そして、申し訳ない……。わ、わたしは真夫の命令に従えなかった……」

 

「我慢しようとしたのに、無理矢理にいかされてしまう……。これもマゾの快感だ」

 

「マ、マゾの快感?」

 

「そうだ。七生はマゾだ。被虐されて感じる淫乱だ」

 

「わ、わたしは……マゾで……い、淫乱なのか……」

 

「そうだ。そして、淫乱になりきること……。究極のところ、それがエロスだ。剥き出しの愛欲だ」

 

「そ、そうか……。愛欲か……」

 

「いくのを我慢しようとするのに、他人の手で強引に絶頂する──。身体も心も自由がない。それもマゾの快感だ。次もぎりぎりまで我慢しろ……。ただし、達するときには、いくと口にするんだ」

 

 真夫が再び七生のクリトリスを愛撫し始めた。

 

「ひゃん──。ま、まだするのか──」

 

「当たり前だろう。今度はぎりぎりまで頑張れば達してもいい。だが、いく前に口にしろ──。さあ、練習だ」

 

 股間の中に指を挿入される。

 さらに、アナルにも再び指が入ってきた。

 律動が始まる。

 

「ひんっ、んんんんっ、んんんんっ、あああっ」

 

 我慢しようとするが、さっき呆気なく達した膣の中の場所を再び抉られる。

 艶めかしい喘ぎ声が迸り、再び一気に快感が襲い掛かった。

 

「あああっ、そ、そこは刺激しないで──。怖い──。ひいいいい」

 

 愉悦の大波があっという間に襲ってきた。

 前後の穴に挿入されている指二本だ──。

 それがある一点をそれぞれに触れると、瞬時に快感が極限まで昂るのだ──。

 怖い……。

 だが、真夫は七生の哀願を無視し、むしろ執拗にそこを刺激してくる。

 

「あひいっ、い、いくいっ、真夫、いぐうう──。許して──。いぐうう──」

 

 七生は顔を激しくのけぞらすと、絶頂の悲鳴を迸らせた。

 真夫の命令だから、もっと我慢するつもりだったが、むしろ、あっという間に達した。

 そして、二度目の絶頂は、愛撫が開始されてから達するまでの時間が一度目よりもずっと短かかったが、確実に一度目よりも快感は深かった。

 七生ががくりと身体を脱力させる。

 

「まあいい……。いく前に口にできたのは誉めてやろう。だが、堪え性が不足だね。随分といきやすい身体だ。あんまり簡単に達し続けると、身体がそれを覚えてしまって、ちょっとした刺激で絶頂する玩具のような身体になってしまうぞ」

 

 真夫が再び膣の中とお尻の中を刺激し始める。

 七生は狼狽した。

 

「ま、まだ、するのか──?」

 

「剥き出しの愛欲を知りたいんだろう? エロスの本質を……。だったら、とことん極めないとね……。どんなものでも、本質というのは極めた先でしか理解できないものだ」

 

 アナルを刺激され、クリトリスを揺らされながら、膣の中に入っている真夫の指が膨れている肉のしこりを押し揉むようにこすりあげた。

 

「そこだめええ──。あああっ……あああっ」

 

 またもや同じ場所を責められて、まるで力を吸い取るような甘美感が駆け抜けた。

 これまでも激しかったが、さらに激しくそこを刺激される。

 一気に快感が昂る。

 与えられる快感から逃げることができない。

 

「ふぐううっ、いぎますうう──。んんぐううっ」

 

 またもや七生は呆気なく達した。

 身体をがくがくと揺すって、二度三度と身体を跳ねさせる。

 とにかく、信じられない。

 セックスにおけるオーガズムは知っていた。だが五回のセックスでは、経験しなかったし、自分はそういう体質なのだろうと思っていた。

 ましてや、真夫が口にしたようなイキやすい体質などとは、夢にも思わなかった。

 だが、実際には、真夫の指だけで七生は繰り返し絶頂し続けている。

 それが本当に信じられない。

 しかし、一方で真夫のの口にする剥き出しの愛欲というのもわかったと思う。

 確かに、これは壮絶な快感だ。

 これがエロスなのだ──。

 

「三回連続で絶頂して信じられないという顔になったな。だが、まだこれだけでなにかを悟った気になるのは早いぞ。七生はまだ俺に犯されてもいない」

 

 真夫がくすくすと笑い声をあげる。

 そういえば、真夫は七生の身体を執拗に愛撫はするが、いまだに犯してはない。どうして、犯さないのだろう?

 だが、それ以上は考えられなくなった。

 真夫が、またもや膣の中の膨らみを押し揉んできたのだ。

 

「ああ、もういやだああ──」

 

 七生は悶え啼いた。

 自分の身体の中に、こんなにも感じやすい場所があるなんて知らなかった。

 またもや、高みに押しあげられる。

 腰骨まで蕩けそうな快感に、七生は縛られている身体を揺すりたてた。

 

 だが、その快感の底から小さな異変が沸き起こった。すると、あっという間に極限状態の異変になり、七生は大きく焦った。

 激しい尿意を覚えたのだ。

 

「あ、ああっ、ちょ、ちょっと待って──。待ってくれ──」

 

 慌てて七生は叫んだ。

 だが、考えてみれば、トイレで小尿を済ませたのは、朝起きてすぐであり、それからトイレには行っていない。

 下着一枚でずっと立たされていたことを考えると、尿意が沸き起こってもおかしくはないのだ。

 しかし、愛撫されたままでは、尿意を押さえるために股間に力を入れることができなのだ。

 

「た、頼む。待ってくれ──。な、縄を解いて──。あ、ああっ、触るのを待ってくれ──」

 

「どうしたんだ?」

 

 真夫が愛撫を緩めずに訊ね返す。

 

「そ、その……、お、おしっこが……。も、漏れそうで……」

 

「ああ、そうか。わかった」

 

 真夫が指を股間とアナルから抜く。

 七生はほっとした。

 しかし、真夫は七生から離れただけで、縄を解く気配がない。

 それどころか、見えないものの、新しい縄をしごく音がする。

 

「ま。真夫?」

 

 七生は訝しんだが、返事はない。

 一方で、天井側に梁に縄がかかって、上から戻ってきた縄尻に背中が触れた。

 

「な、なにをするのだ……? お願いだ。おしっこが……」

 

「無理矢理に感じさせられるマゾの快感も少しはわかったようだから、丁度いいから、次のマゾのエロスのレッスンだ。恥ずかしいことを無理矢理にさせられる……。それを体感してもらおう」

 

 すると、新しい縄が左膝にかかった。

 ぐいと引きあがり、左腿が水平よりも高く上がってしまった。

 

「あっ、なんだ──? そんなあ──」

 

 縄を解いてもらうどころか、七生が尿意の迫った身体を片脚立ちにさせられてしまったのだ。

 さすがに愕然とした。

 目隠しが外された。

 明るい光で一瞬眼が眩む。

 だが、すぐに慣れ、目の前にいる真夫の姿がうつる。

 真夫は、まだ制服すら脱いでいなかった。

 それに比べて、自分だけが恥ずかしい姿を晒していることに、急に羞恥を覚えてしまう。

 

「ま、真夫……。縄を……」

 

 とにかく緊縛を解いてもらわなければ……。

 七生は、一瞬ごとに増大する切迫する尿意に、もう一度訴えた。

 すると、真夫が背中に隠していたものを七生の顔の前に見せた。

 大小の数本の絵筆だった。

 この部屋に置いていたものを持ってきたようだ。

 嫌な予感がした。

 

「じゃあ、エロスを知りたい七生に羞恥の極みを味わってもらおうか。目隠しを外したのは、その七生の羞恥の姿をちゃんと見るためだ。しっかりと自分の醜態を目に焼き付けるんだよ」

 

 真夫がにやりと笑うと、七生の前にしゃがみ込んだ。

 小筆がクリトリスをくすぐり始める。

 

「ひあああっ」

 

 七生は腰を引いて、必死に小筆から逃れようとした。



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 第112話 繰り返し果てる

「ひあああっ」

 

 七生は必死に腰を引いて、真夫の操る小筆を避けようとした。

 だが、爪先立ちになっている片脚立ちの状態では、後ろにも前にも、左右にもほとんど動くことはできない。

 左脚をあげさせられているので、脚で遮るとも不可能だ。

 股間もアナルも無防備に曝けだしているのである。

 真夫の絵筆が容赦なく、尿意が切迫している七生のクリトリスを襲う。

 とにかく、必死に腰を引いて絵筆を避ける。

 

「逃げられるかな?」

 

 しかも、真夫は左手にも別の絵筆を持っていて、前からクリトリスをくすぐりつつ、後ろからお尻の割れ目を絵筆で襲い、アナルそのものを絵筆で刺激してきた。

 後ろ側は大きな刷毛のような絵筆であり、多少逃げようとも絵筆がアナルを襲う。

 

「ひゃあ、いやっ」

 

 反射的に前に腰を出す。

 すると、クリトリスを狙う絵筆が待ち構えている。

 

「ひんっ──。真夫、も、漏れる──。ト、トイレに──」

 

 腰を振って避けたくても、片脚の爪先立ちでは、もともとほとんど動けないのだ。

 ただただ、理不尽な絵筆の愛撫をアナルと股間に受け続けるしかない。

 

「ほ、本当に漏れる──。真夫──」

 

「遠慮なくおしっこをするといい。この床全部が奴婢のトイレだ、このくらいの羞恥は序の口だぞ。俺の奴婢は全員、もっと恥ずかしいことを毎日やらされている」

 

 七生は片脚立ちの身体をうねり舞わせた。

 だが、絵筆が敏感な部分を撫ぜさすると、全身を脱力させる大きな疼きが襲い、腰骨まで痺れさせる。

 それが前後から責められるのである。

 こんなものを我慢するなど不可能だった。

 あっという間に、尿意が堰を切る。

 

「ああっ、やだあっ──」

 

 身体が砕けるような絵筆の戦慄に、七生は身体をのけぞらせた。

 弾けるような激しさで、片足立ちの股間から放水が飛び出した。

 七生の股間から放物線を描いて放尿が床に降り注ぐ。

 だが、驚いたことに、真夫はまだ絵筆を操るのをやめない。

 七生は、クリトリスとアナルを絵筆で刺激されながら、おしっこを続けた。

 絶頂感が襲い、七生は放尿をしながら身体を反り返らせ、がくがくと身体を痙攣させて絶頂してしまった。

 やがて、やっと恥辱の極みが終わる。

 七生は吊られている縄に身体を委ね、ぐったりと項垂れて、息を荒げたまま喘ぎ続けた。

 

「マゾの顔になったね。放尿しながらの絶頂はどうだった?」

 

 髪の毛を掴まれて顔をあげさせられる。

 七生は虚ろな視界で、微笑を向ける真夫を見あげた。

 

「はあ、はあ、はあ……、お、お前は鬼畜だ……」

 

 ぞくぞくした。

 同時になぜか身体に大きな痺れのようなものが襲った。すぐに痺れは消えたが、目の前の真夫が心に張り付いたようになって、視線を逸らすことができない。

 

「だが、快感もあっただろう?」

 

「そ、そうだな……。恥ずかしかったが……。気が遠くなるくらいに……。だが、激しい快感でもあった……。わ、わたしは、真夫の言う通りに、マゾの淫乱だったみたいだ……。もっと恥ずかしいことをされてもいい……。いや、されたいと思ってしまった……。わたしは……エロかっただろうか……? エロくなれたか……?」

 

 自分でもなにを喋っているかわからない。

 しかし、なぜかそんなことを七生の口は勝手に口走っていた。

 すると、真夫が満面の笑みを浮かべた。

 

「エロいよ……。七生にとってのエロスがわかったのか?」

 

「いや……。まだ真髄には達しない……。だけど、片鱗は味わえた気がする……。わたしは……いまのわたしを描きたい……。多分、とてもいやらしい顔をしているのじゃないだろうか……。それを描きたい」

 

「そうか……。だが、後でね……。その前に七生を俺の女にするよ」

 

 真夫が七生を天井から吊っていた梁から落ちている縄から外した。

 さっき放尿をした場所を避けて、七生は後手縛りのまま床に仰向けに横たわされる。

 そして、真夫が制服を脱ぎ捨てていく。

 やがて、下着も脱いで、生まれたままの姿になった。

 勃起した男根が露わになる。

 

「お、大きいな……」

 

 蕩けた眼でそれを眺めながら思わず言った。

 

「いや、普通だぞ」

 

 真夫が噴き出した。

 

「そう言われるとそうかもしれない……。よく考えれば、ペニスの大きさなんて記憶にないかも……。ちゃんと見るのは真夫のが初めてだ」

 

 真夫の怒張はてらてらと先走りの蜜で先っぽが光っていて、随分と男らしく感じた。

 一瞬、大きいと思ったのは、その圧倒的な存在感のためだろう。

 多分、これで犯されれば、二度と離れられなくなる。

 七生の中の本能がそれを告げていた。

 

 真夫が七生に近づく。

 はっとした。

 

「ま、待ってくれ。抱くのは、向こうの鏡の前で……」

 

 思い出して言った。

 この部屋は、美術部の中でも七生が専用に使っているアトリエのような場所だ。

 「少女」シリーズと称されている自画像をずっと描き続けている七生のアトリエには、自宅でもここでも、大きな鏡が置いてある。

 それを使って、自分をモデルにして絵を描くのである。

 

「あれだな」

 

 真夫が七生を抱きかかえて、部屋の隅にある大鏡の前に連れていく。

 改めて床に横たわさせられる。

 

「膝を立てて脚を拡げるんだ」

 

「うん……」

 

 七生は言われた通りの格好をする。

 やはり恥ずかしい。

 真夫が七生の脚のあいだに膝をつく。

 七生は横を見て鏡に視線を向けた。

 そこにうつった七生の顔はとても淫らな表情をしていた。

 とてもエロいを思った。

 

「いくぞ」

 

 真夫がしとどに濡れている七生の股間の亀裂を男根の先で擦った。

 

「ああっ、か、感謝する、真夫──」

 

「なにが?」

 

「わたしを淫乱なマゾにしてくれたことだ。おかげで、わたしはまた絵が描ける。行き詰っていたところから脱せそうな気がする」

 

「その礼はまだ早いな……。七生はもっとエロくなる。まだまだね──」

 

 真夫がゆっくりと腰を沈めてきた。

 固い肉の塊が七生の花芯の入口を拡げ、ずぶずぶと女の中に没していく。

 

「あっ、ああっ」

 

 七生は喉を晒して、艶めいた声をあげた。

 すでに幾度も達している。

 そこを図太い怒張で荒々しく犯されるのは堪らなかった。

 視線を横に向けると鏡がある。

 犯される七生は、愉悦に染まりきったような淫情な顔をしていた。自分にこんな表情があるとは全く知らなかった。

 

「んふうっ、ああっ」

 

 最奥まで突かれる。

 そこを揺するように動かされると、一気に快感が飛翔した。

 真夫の男根が引き戻される。

 そして、入口近くまで引いてから、怒張の先で膣の上側を突くように突き刺される。

 ゆっくりとだ。

 まるで真夫の性器の形を覚えさせられているかのようだと思った。

 

「エロスを知りたいと言った七生だ……。だ、だから、ゆっくりと味わってもらっているよ……。さっきと一緒だよ。できるだけ我慢してごらん。そうすれば、達したときの快感がより大きくなる。七生の知らないものを知れるかもしれない……」

 

 真夫が深くまで貫いたあと、男根の根元で七生のクリトリスを押す揉むようにしてきた。

 快感がまたもや飛翔し、淫らな声がこぼれそうになる。

 

「んんんっ、んんんっ──」

 

 必死に口を噤んで声を我慢する。

 律動が続く。

 奥まで貫かれ子宮をの入口を揺さぶるように動かされ、クリトリスを腰で揉まれ、ぐっと戻されて、膣の入口の上側の膨らみを押しながら貫かれ、また子宮を揺さぶられる──。

 それが幾度も幾度も繰り返される。

 

 速度が遅くても堪らなかった。

 快感がどんとんど込みあがる。追加される。でも発散はできない。結果的に七生の中で蓄積されて膨れあがっていく。

 

「んんんっ」

 

 快楽の苦悶に七生は犯されながら知らず首を横に振っていた。

 そして、気がついた。

 もっと激しいものを七生の股間が要求している。

 七生の中の愛欲が強く望んでいる──。

 

「あ、あああっ」

 

 七生は律動を受けながら、自由な腰を知らず自ら前後に動かしていた。

 すると、与えられる快感が強くなり、甘美な痺れが全身に迸る。

 

「あああっ、あああ──」

 

 我慢することを忘れて声が迸った。

 

「我慢しろと命じたけどね。悪い子だ」

 

 真夫が腰を淡々と動かしながら、上半身を倒して、七生の口を唇で塞いできた。

 舌が入ってくる。

 七生も夢中でその舌に自分の舌を絡みつけた。

 震えるような衝撃が身体を駆け巡る。

 

「んんっ、んんんっ」

 

 気持ちいい……。

 犯されながらの口づけがこれほどに気持ちいいとは知らなかった。

 これがセックスなのだと思った。

 つまりは、いままでの経験はセックスではなかった──。

 これこそがセックスなのだ。

 

 すごい──。

 とにかく、すごい──。

 なんと甘美で──、圧倒的で──、凄まじいのだろう──。

 

 七生は横の鏡で自分の淫らな姿を頭に焼きつける。

 これを描かなければ──。

 これこそ、七生が描かなければならないものだ──。

 

「声を我慢できないなら、我慢できるようにしてあげよう」

 

 真夫が口から顔を離して、舌を乳首に向けてきた。だが、律動をほとんど静止させてしまう。

 焦らすような疼きが全身を包む。

 

「あ、ああ……。そんな……」

 

 中断されてしまった腰からの快感に、七生はもどかしくて声を震わせた。

 

「い、意地悪をしないでくれ……。もっと激しく……」

 

「もっと激しくなに?」

 

 真夫が顔をあげる。

 七生の腰を両手で持ち、股間を貫かせたままゆっくりと揺り動かす。

 焦らされるような動きに、七生は耐えらなくなる。

 

「ひんっ、も、もっと──。激しく犯して──」

 

「どこを?

 

「お、おまんこ──。ああ、意地悪しないでくれ──」

 

 七生は泣きそうな声をあげた。

 肉体が求めている──。

 激しい愛欲を望んで頭が狂いそうだ。

 

「わかったよ。じゃあ、もう我慢しなくていい……。好きなだけ、いくんだ」

 

 いきなり真夫が叩きつけるような激しい腰使いで律動を再開した。

 

「あああっ。す、すごいっ、あん、あん、あん、あああっ、くる──。きてしまう──。くるうう──」

 

 快感が四肢を駆け抜ける。

 駆け抜けては、次の波が襲い、その波が抜けきれないうちに、新しい大波が股間から全身に迸る。

 七生は一気に絶頂に昇りつめてしまった。

 

 しかし、律動は終わらない。

 さらに続く。

 七生は絶頂の余韻に浸ることを許されずに、再び次の絶頂に向かって快感を飛翔させられた。

 

「ひんんっ、だ、だめええ──。またああ──。ああっ、いぐうう──」

 

 七生がわななくような声をあげて、またもや絶頂を極めた。

 それでも激しい律動が続く。

 際限のない愉悦に、七生は気が狂いそうになる。

 

「死ぬうう──。許してええ──。あひいっ、あひっ、あひいっ、お、お願い、真夫……。ひいいっ、ひんっ」

 

 七生は声を引きつらせてひたすらに哀願を繰り返した。

 だが、真夫はやめてくれない。

 快感が飛翔していく──。

 

「ああ、許して──。ああ。死ぬ──。く、苦しい──。き、気持ちいけど、苦しいい──、ああっ、ああああっ」

 

「これが快感の極みだよ。次に行くときに精を出してあげる。だけど、先に達したら、幾度でもやり直しだ」

 

 真夫が律動しながら言った。

 七生は必死に絶頂を耐える。真夫とタイミングを合わせるため……。

 でも、耐えられない──。

 

「あああっ、ああっ、いくう──。また、いくっ──」

 

 七生は愉悦の声をあげた。

 ちゃんと真夫の射精に絶頂を合わせれば終わる──。

 思考にあったのはそれだけだ──。

 

「よし、いけ──」

 

 真夫がここぞとばかりに激しく怒張で七生の股間を抉り抜いた。

 七生は瞬時に自分の快感を解放した。

 

「んんっ」

 

 真夫も低く唸って精を解き放ったのがわかった。

 ぎゅっと七生の膣が締まる。

 精の迸りが子宮に注ぎ込まれるのを感じた。

 

 しばらくのあいだ、真夫が七生の股間に男根を埋めたままにしていたが、やがて、抜かれた。

 真夫が七生の後手縛りの縄を握る。

 強引に引き起こされた。

 正座の姿勢で脚を開いて立ちあがっている真夫の股間と顔を対面させられる。

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

 七生は気怠さに耐えて、肩で息をしながら、正座の姿勢を保った。

 

「口で咥えて綺麗にするんだ。それが奴婢の仕事だよ」

 

 真夫にまだ半勃ちの股間で顔を突かれる。

 

「は、はい……」

 

 頭はまだ朦朧としている。

 なにも考えられずに、七生は口を開いて口の中に真夫の男根を受け入れた。

 精の匂いが口の中に拡がる。

 とにかくぺろぺろと舐めていく。

 すると、力を失いかけていた真夫のペニスが再び七生の口の中で勃起していく。

 七生は戸惑った。

 

「すぐに口の奉仕も覚えてもらう……。だけど、今日はいいよ。今度はうつ伏せだ。肩と床につけて、お尻を俺に向けるんだ」

 

 まだするのか──と思ったが、もう逆らう気持ちにはならなかった。

 だが、顔は引きつる。

 七生は言われた通りの格好になる。

 ちょうど大鏡に向かって七生の顔を向ける形となった。

 

 お尻の下に真夫の怒張が滑り込んできる。

 男根が再び挿入された。

 

「ひああっ、ああっ」

 

 律動が始まると、すぐに悲鳴に近い嬌声が口から迸った。

 

 刻まれる──。

 

 この真夫の支配が完全に心に刻まれていく──。

 そして、すぐに絶頂感が襲ってきた。

 

「いぐう──。もう、いくうう──」

 

「ああ、いくらでもいけ──。だが、一度性を出しているからね。二度目は長いかもな。それまで何度達してもいいけど、俺が精を出すまで終わらないから、簡単に達すると、どんどんと辛くなるよ」

 

 真夫が激しく七生の腰を後ろから突きながら言った。

 

「だ、だって──。あああっ」

 

 七生は込みあがった絶頂感に襲われて身体をがくがくと痙攣させる。

 肉欲の愉悦に染まった声が部屋に響き渡った。



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 第113話 SS研の写生会

「まずは、真夫の性器の先っぽに口づけよ。チョンと終わるんじゃないのよ。ちゃんと一秒以上キスしなさい。一応、それは儀式のようなものよ。奴婢の挨拶だと思ってね」

 

「キス? そんなところに?」

 

「そんなところじゃないわよ。おちんぽの先どころか、お尻の穴だって、こいつに命令されれば舐めるのよ。あんた、サッカー部の練習ばかりで、あまりこいつの調教に参加しないけど、奴婢の自覚が足りないんじゃないの」

 

「そ、そんなことないよ。ちゃんとするし……」

 

 肌を接して並ぶように絨毯の上に座り込んでいるかおりちゃんと明日香ちゃんの愉快な会話に、真夫は微笑みながら耳を傾けていた。

 また、真夫はカウンターチェアと呼ばれる脚の高い椅子に腰を浅くおろして、全裸で脚を開いて座っている。

 その真夫の横にいるのは、あさひ姉ちゃんとひかりちゃんだ。彼女たちも全裸である。

 三人で絵のヌードモデルをしているのだ。

 

 そして、その真夫たちに向かって、一心不乱にキャンバスに下絵を描いているのが新たに奴婢となった美術部に所属している二年生の世良七生(ななお)だ。

 モデルの真夫たちは当然として、かおりちゃんと明日香ちゃん、七生も完全な全裸である。

 

 ここは、いつものSS研の部屋だ。

 ただし、隠し部屋になっている地下側になる。

 そして、土曜日の夜だ。

 真夫がこの七生を奴婢にしたのが今日の午前中であり、その日の夜ということになる。

 

 文化部発表会も近いので、文化部の集まっているこの文化部棟は、まだまだ賑やかなのだが、この地下側の部屋には関係ない。気兼ねなくみんなで集まれる場所だ。

 だから、午前中に新たに奴婢仲間になった七生に来てもらい、顔合わせのために集まれる女たちに来てもらったということだ。

 集まっているのは、真夫とあさひ姉ちゃん、かおりちゃん、ひかりちゃん、明日香ちゃん。そして、七生だ。

 

 絹香と侍女の二人はいない。

 今週末はどうしても実家に戻らないとならないということで、双子の侍女を伴なって戻っている。学園に三人が戻るのは、明日の夜だろう。

 また、玲子さんも、まだ来ていない。

 顔は出すとは言っていたが、真夫のために玲子さんはいつも忙しく動いてくれていて、今日も、誰かと会合があり、それが終わってから、すぐに来るとは、真夫に伝えてきていた。

 

 顔合わせの場所はS級生徒寮の地下の隠し部屋でもよかったが、SS研の紹介がてら、こっち側に集まってもらったところ、七生がどうしても、真夫たちをモデルにして絵を描きたいと懇願したのだ。

 真夫も七生が奴婢になる条件として、真夫たちがモデルになることついては快諾していたこともあり、こうやって、急遽、七生のための写生会が始まったということだ。

 

「ふふふ、先輩方は仲良しだな……。だが、口でするセックスもあるのだな。エロスというのは奥深いものだ……。でも、本当なら、わたしも教わらないとならないのだろうが、いまはどうしても絵を描きたい。できれば今度教えて欲しい」

 

 七生である。

 彼女が面しているキャンバスは七生が自分の美術室から運んできたものだ。

 どんな絵が描かれようとしているのかは、まだわからない。

 だが、満面の悦びを顔に浮かべて、一心不乱にキャンバスに向かって絵筆を動かしている七生の愉しそうな姿を眺めていると、多分傑作ができるような気がする。

 真夫には確信がある。

 

 その七生も全裸なのだが、ただの全裸ではない。

 顔も赤く、肌全体が上気し脂汗がにじんでいる。

 なにしろ、股間に股縄をしているのだ。

 さらに、両手首を前手で縛ってもいる。

 絵を描くのには不自由そうだが、拘束されている方が性的に興奮して、自分の世界にのめり込めるのだそうだ。

 股縄をしたのは真夫の方だが、手首も縛ってくれと申し出たのは七生からである。

 よくわからないが、縛られると「境地」に入れるのだそうだ。

 境地というのは彼女が口にした言葉であり、つまりは一種の軽いトランス状態らしく、その気分になったときに初めて、彼女は本物の「絵」を描けるのだという。

 これまでは、その「境地」に入るまで、かなりの時間を費やしていたが、真夫に縛られれば、あっという間にその状態になることがわかったので、絵を描くのに邪魔にならない程度に緊縛をして欲しいと言ってきた。

 だから、そうしてやったということだ。

 

 いまも、緊縛の感覚に包まれてながら絵を描いている彼女は、かなり性的に興奮しているのだろう。

 キャンバスに全裸で向かっている彼女の股間から、股縄で押さえきれなかった蜜が椅子の座席部分まで垂れているのが見える。 

 

「七生ちゃんは、真夫ちゃんに絵を描くように言われたのでしょう。だったら、それを頑張るといいわ。でも、大丈夫。真夫ちゃんは優しいから、ちゃんと後で、ご褒美に、おちんぽを舐めさせてくれるわよ」

 

 真夫と一緒にポーズをとっているあさひ姉ちゃんだ。

 あさひ姉ちゃんは、カウンターチェアに浅く座ってる真夫の右脚に、床に跪いた脚を崩してもたれかかるような姿勢をとっている。

 真夫にフェラチオするのは、ご褒美というよりは、罰だと思うのだが、エッチなあさひ姉ちゃんからすれば、ご褒美の範疇みたいだ。

 真夫はちょっとおかしくなった。

 

 また、真夫の反対側には、ひかりちゃんだ。

 ひかりちゃんは、片足で跪き、横向きで真夫の内腿に手を添えるようか恰好をしていた。

 脚を曲げているのは奥側なので、彼女の小さなペニスはキャンパス側に晒している。

 また、その小さなペニスは、いまは萎えかけているが、ずっと勃起状態を保っている。

 それは、ひかりちゃんに真夫が施した仕掛けに理由があるのだ。

 

「ふふふ、真夫ちゃん、ひかりさんのペニスがちょっと力がなくなってきた感じよ」

 

 すると、あさひ姉ちゃんがくすくすと笑いながら言った。

 真夫も横を向き、確かにさっきまで勃起状態だったペニスが半勃起状態なのを確認した。

 

「あっ、大丈夫……。ちゃんと大きくするから」

 

 ひかりちゃんが焦ったように言った。

 

「いやそれは無理だろう。なにもせずに勃起させるなんて、俺でもできないぞ」

 

 だが、真夫は背中側に置いている操作具を手にとると、スイッチを押した。

 ひかりちゃんの股間とお尻の穴には、それぞれ楕円形のリモコン式のローターを挿入している。

 それを振動させたのだ。

 ひかりちゃんの小ペニスが勃起状態にあるのは、萎えるたびに真夫がローターでひかりちゃんに刺激を与えているからである。

 

「ひんっ、ああっ、んんんっ」

 

 ひかりちゃんがびくびくと震えだす。

 ポーズをとりだしてから、かなり時間が経っていて、ずっと同じようなことを繰り返しているので、すっかりとひかりちゃんも性的に追い詰められている状態だ。

 真夫の位置からはひかりちゃんの股間に見えるのだが、すでに内腿はひかりちゃんの愛液でびしょ濡れである。

 

「うわっ、だめ……。じっとしていれなくなる……。ああっ、あっ」

 

 前後の穴をロータで責められるひかりちゃんが身体を震わせ続ける。

 

「おお、ひかり先輩、すごくエロい。すごくいい──」

 

 すると、七生が興奮したような声をあげた。

 三人で絵のモデルをすることにしたが、女の身体に男のようなペニスのあるひかりちゃんの裸を見たとき、ずっと大人しかった七生が興奮状態になってしまった。

 やっぱり、ひかりちゃんを描きたいと思った自分の感性は間違ってなかったのだと、よくわからないが、ひとりで狂喜乱舞していた。

 真夫は適当なところで、ローターのスイッチをオフにした。

 ひかりちゃんがポーズをとったままがっくりと脱力する。

 

「……じゃあ、説明はこんなものかな。次は実践よ。まずはこの筒具で練習よ」

 

 一方で、明日香ちゃんとかおりちゃんだ。

 かおりちゃんと明日香ちゃんのふたりがしているのは、フェラチオの練習なのだが、これは真夫がさせているのではない。

 真夫が命令したのは、ヌードモデルをすることにした真夫たちだけではなく、部屋にいる者全員が全裸になることだけだ。

 すると、かおりちゃんが、練習終わりにやってきた明日香ちゃんに、サッカー部の練習を口実になかなかやってこないのだから、今夜はモデルが終わるのを待つあいだ、かおりちゃんが指導役になり、口で奉仕するやり方を教えると言い出したのだ。

 その真っ最中というわけだ。

 

「筒具かあ……。すっごく、いやらしいかたちねえ……」

 

 そして、ふたりが手にしてたのは、「筒具」と時子婆ちゃんが呼んでいた淫具だ。

 いわゆるディルドなのだが、勃起した男根の形状をしているだけでなく、根元に睾丸を模した柔らかい合成樹脂の袋もふたつ付いていて、勃起した睾丸を含めた怒張を完全再現しているのである。

 しかも、かたちだけでなく、触感も限りなく人間の男の性器に近いものにしてあるということであり、ペニスの部分は固く、睾丸の部分は柔らかく作ってあるそうだ。

 なによりも、それは、勃起した真夫の性器を再現しているらしい。そんなものを作るのは、時子婆ちゃんらしい戯れとは思うが、真夫自身から見ても、その筒具は真夫の一物にそっくりだ。

 

 その「筒具」をかおりちゃんが手に持って明日香ちゃんの顔に向かって差し出し、明日香ちゃんがその筒具の先に触れるくらいに口づけをした。

 あまりにリアルな男根に、明日香ちゃんも気後れているらしく、ちょっとぎこちない。

 数秒の時間が過ぎたところで、明日香ちゃんが筒具の先端から口を離す。

 

「はい……。じゃあ、次は舌を出して、この先端から柔らかく舐めなさい。先っぽを舐めるときには、できるだけ唾液を出して、その唾で先を包み込むようにしたらいいわ」

 

「唾液ね」

 

 明日香ちゃんが口をもごもごと動かしだした。

 

「なにしてんのよ。さっさと口にするのよ。待たせないの──。普段から水を多めにとるようにして、一日三回舌の運動しなさい。自然に唾液がたくさん出るようになるから。それなら、サッカーの練習の合間にもできるでしょう?」

 

「わ、わかったわよ……。厳しいわね、かおり先生は……」

 

 明日香ちゃんが軽口を言った。

 

「そうよ。ビシバシと行くわよ」

 

「はーい、先生」

 

 微笑ましいのか、淫靡なのかわからないその光景に、真夫も愉しくて横でくすくすと笑ってしまった。

 その明日香ちゃんが舌先で筒具を舌でさすりだす。

 

「そうね……。そうよ……、じゃあ次は大きく舌を出して、下の袋をさすりあげなさい」

 

「んん、んっ……」

 

 明日香ちゃんはかおりちゃんが差し出している筒具に顔を持っていき、お尻をあげるようにして、鼻先を擦り付けて唇でさする。

 

「ふふふ、なかなか上手よ、明日香……。でも、眼を閉じないのよ。真夫ちゃんをしっかりと見てご奉仕するの。気持ちよさそうな顔をしたら、そこを集中したり、ときどきは、わざと焦らしたり、頃合いを見て激しくしたりして、真夫ちゃんを愉しませるのよ」

 

 あさひ姉ちゃんだ。

 

「は、はい」

 

 明日香ちゃんが一度口を離し、大きく頷く。

 そして、再び筒具に口を向かわせる。

 詳しくは知らないのだが、最初に明日香ちゃんを捕まえて奴婢にしたとき、あさひ姉ちゃんが明日香ちゃんを叱咤したらしく、それ以来、明日香ちゃんはあさひ姉ちゃんが苦手みたいだ。

 あさひ姉ちゃんに声を掛けられたびに、いまのそうだが、びくんと身体を震わせる。

 あんなに優しいあさひ姉ちゃんを怖がるのは不思議だ。

 接していて、ちょっと面白い。

 

 そのときだった。

 上からエレベータが降下してくるという壁の表示が点灯した。

 玲子さんだろう。

 

「七生、休憩だ。玲子さんが来たみたいだ」

 

 真夫は声を掛けてから姿勢を崩した。

 あさひ姉ちゃんとひかりちゃんも楽な体勢をとった。特に、ひかりちゃんはロータ―責めが効いているのか、切なそうな吐息とともに、ぺたんをお尻を床につけてしまった。

 

「ああ、ごめん……。夢中になってた……。休憩してて……。ところで、玲子さんって、言った?」

 

 七生が言った。

 ただし、顔もこっちに向けないし、キャンパスに下絵をする手も休めない。

 真夫は苦笑した。

 

 すると、エレベータが止まって、中からスーツ姿の玲子さんが現れた。

 真夫は、玲子さんに七生を紹介し、七生に玲子さんを紹介する。

 七生もさすがに手を止めたが、ここに理事長代理が現れたことに驚いている。

 玲子さんという美人の理事長代理は、もう学園におけるかなりの有名人なので、さすがに七生も顔を知っているようだ。

 

「玲子さんって……、理事長代理のこと?」

 

「そうね。あなたが世良七生さんね……。真夫様の奴婢の工藤玲子よ。これからよろしくね」

 

「あっ、はい……」

 

 七生が小さくお辞儀をした。

 すると、玲子さんが持っていた鞄から、二個の錠剤を出して七生に渡した。

 

「……さっそくだけど、アフターピルよ。あなた、飲んでないわよね。まずはこの一錠をすぐ飲んでくれるかしら。そして、明日の朝にこっちの一錠を。それで妊娠の心配はなくなるから」

 

「あっ、避妊……。ありがとうございます」

 

 七生が錠剤を手に取った。

 しかし、真夫は驚いてしまった。

 だが、玲子さんが到着早々に避妊のことを口にしたのは、事前調査で七生がピルなどを飲んでないことに加えて、真夫が生出しをしたことを何らかの手段で確認したためだろう。

 

「七生は避妊処置をしてなかったのか?」

 

 真夫は言った。

 最近では女たちとのセックスで、まったく真夫側が避妊をしてなかったので、気にしてなかったし、七生もなにも言わなかったので、遠慮なく生で射精したが、これは真夫の迂闊だった。

 

「ああ、してない……。ゴムを使ってもらうように言わなければならなかったか。忘れていた。気持ちよくて……」

 

「それは悪かった」

 

 真夫は謝った。

 

「いいえ──。真夫様が気にする必要はありません。奴婢側がすることです……。それと、七生さん、基本的に真夫様は避妊はなさりません。女の側が避妊するになります。後日、定期的に服用するピルも渡しますね。飲み始めるのは次の生理後だから、服用の仕方はその時に教えます」

 

 玲子さんが淡々と言った。

 やはり、玲子さんは頼りになる。

 七生は頷いている。

 

「……ところで、いつまで服を着ているのよ、玲子。真夫の命令よ。この場では全員が全裸だそうよ。さっさと脱ぎなさい」

 

 かおりちゃんだ。

 玲子さんははっとしたような顔になる。

 

「あっ、すぐに……。申し訳ありません、真夫様」

 

 玲子さんが自分のスーツに手をかける。

 しかし、真夫はそれを押しとどめた。



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 第114話 『魔王と十二人の恋人たち』

「待って、玲子さん」

 

 かおりちゃんに指摘されて、慌てて服を脱ごうとした玲子さんの腕を真夫は掴んだ

 真夫は脚の高いカウンターチェアにもたれるようにしていたのだが、その腕の中にスート姿の玲子さんを迎え入れる。

 全裸の真夫に抱き締められると、玲子さんは、顔が真っ赤になり、とても落ち着かない感じになった。

 なんでもできるスーパーレディの玲子さんだが、真夫の前だけは可愛い女性に変わる。それがいい。

 

 真夫は玲子さんを真夫の腕の中で反転させ、みんなに身体の正面が向くようにする。

 そして、玲子さんのスカートの前側の裾を持って、ゆっくりとたくしあげていく。

 玲子さんのスカートは膝よりも上にスカートの裾があるミニスカートだ。それをまくっていく。

 

「きゃっ」

 

 反射的なものだろう。

 玲子さんは驚いたように、スカートの裾を手で押さえた。

 しかし、すぐにはっとしたように、その手をどける。

 

「申し訳ありません、真夫様」

 

「そうだね。とりあえず手は身体の横にするんだ」

 

「は、はい……」

 

 玲子さんが言われた通りにする。

 真夫はスカートを腰まであげた。

 完全に玲子さんの小さな白い下着が露出した。

 

「スカートを手で持ってくれる、玲子さん。次の命令があるまで、そのままだ」

 

「わ、わかりました」

 

 玲子さんの声は震えている。

 恥ずかしがり屋の玲子さんだから、身内のようなみんなの前だけだとしても、恥ずかしいのだろう。

 下着を露出されて、片側の膝をほんの少し曲げるようにしている。

 真夫を含めて全員が全裸なのだが、服を着ている玲子さんの方が恥ずかしそうな素振りになるのは不自然そうだが、そういうものらしい。

 完全に全裸になると、人はむしろ羞恥が薄れるというのは耳にしたことがある。

 中途半端なのが一番羞恥を誘うのである。

 

「だんだんと奴婢が増えてきて、身内だけのルールのようなものを作ろうということがあってね。七生も仲間になったことだし、折角なので披露しとくよ。俺の奴婢のルールだ」

 

 真夫は言った。

 奴婢のルールとは言ったが、突き詰めれば戯言の範疇だ。

 ただ、少し前に玲子さんやあさひ姉ちゃんと雑談していたときに、養護施設時代に、あさひ姉ちゃんの置き土産で、たくさんの女生徒と真夫がセックスの関係になったとき、そのときも女の子たちの冗談半分だったのだが、実はそんなものがあったと口にしたところ、是非、作ろうという話になったのだ。

 

「ああ、このあいだに言っていた、あれ?」

 

 かおりちゃんが視線を向ける。

 

「ルール?」

 

 ひかりちゃんだ。

 

「えっ、なに?」

 

「奴婢のルールか?」

 

 明日香ちゃんや七生も集まってきた。

 もともと横にいたあさひ姉ちゃんも含めて全員が集まったかたちになる。

 

「そのとおり──。まず、奴婢の下着は白系統の色の薄いものを着用すること。柄は禁止とする。着脱のしにくいものも禁止だ。ただし、これは原則だね」

 

 真夫は玲子さんの下着の上に、すっと指を這わせた。

 玲子さんの下着は白のTバックだ。

 絹の薄い生地のものであり、さすがは玲子さんだ。

 ただ、生地が薄いだけあり、真夫が見ているあいだに、丸い分泌液の染みが生まれてきた。

 そこを撫でる。

 

「はんっ」

 

 玲子さんがびくんと身体を震わせて身体を倒しかけ、慌てたように身体を真っ直ぐにする。

 可愛いものだ。

 

「原則ってなによ」

 

 かおりちゃんが訊ねた。

 

「俺が指定することもあるからね。革の下着とか」

 

 真夫はにやりと笑った。

 革の下着と言えば、真夫は、奴婢になりたてのときには全員にその洗礼を受けさせている。外からの刺激を受け付けないディルド付きの自分では着脱不能の貞操帯機能のあるものだ。

 七生も明後日の月曜日から数日間は、それをはいてもらうことになるだろう。

 

「ああ、あれか……」

 

 ひかりちゃんが顔を真っ赤にする。

 いまはモデルをすることになったので一時的に外したが、実はひかりちゃんは、この一週間はずっと真夫の命令で、革の下着を身に着けさせていた。

 ディルド付きではないが、アナルプラグを挿入して、それが外せないようにするためである。

 今日はもう嵌めないが、明日もアナルプラグを挿入したあとに、それで外れないようにするつもりだ。

 

「それと、ブラジャーはストラップのないものだけとするよ。さらにできるだけ小さいものにすること。色や柄はショーツに準じるものとする」

 

「ストラップレスのハーフカップね。真夫ちゃんはそれが好きだものね」

 

 あさひ姉ちゃんがにこにこと微笑む。

 

「あっ、スポーツをするときや、ほかにも、必要なときには自由にしていいよ。これはあくまでも、私服のときね。明日香ちゃんも、そんな下着じゃあ、サッカーはできないだろう?」

 

「ありがとう……。よかった」

 

 明日香ちゃんがほっとした表情になる。

 

「やらせればいいじゃない。ノーブラでサッカーとか、淫具つけてとかね。真夫はそんなのが好きでしょう」

 

 かおりちゃんだ。

 

「ほう……。確かに、それは面白そうだな。練習のときくらいはいいか」

 

 真夫は応じた。

 

「えっ?」

 

 明日香ちゃんがちょっと顔を引きつらせる。

 その表情を見て、絶対にやろうと思った。

 大事な試合のときや、その前は避けるが、機会を見つけて是非させてみたい。

 淫具をつけたハンデ戦など愉快そうだ。

 だけど、あさひ姉ちゃんが、明日香ちゃんに淫具を装着させても、サッカーだけはまともにこなしたと言っていたから、まったくハンデにはならないのかもしれないが……。

 まあいいか……。

 

「……話を戻すけどストッキングは禁止だ。当然にショーツの上にはくスパッツとかのオーバーパンツもね。とりあえず、思いついたのはこれだけかな。ほかにも、思いついたら付け足していくよ……。じゃあ、玲子さん、服を脱ぐんだ。そして、フェラチオだ。明日香ちゃんが練習をしているんだ。その見本になってやって」

 

「は、はい、すぐに」

 

 玲子さんが真夫から離れて、スーツを脱いでいく。

 真夫は七生を呼んだ。

 

「なんだ?」

 

「新しく奴婢になる儀式だよ」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんに指示して、奴婢の全員に装着させている銀のチョーカーと両手首の腕輪を持ってきてもらった。

 七生の首と両手首に嵌めていく。

 両手首にするときには、前手の縄の拘束を外した。

 その代わりに、電磁ロックを使って、両手首が離れないようにする。

 

「ああ、これはみんながしているやつだな。ちょっと気になっていたんだ。わたしももらえるのだな」

 

 七生が接合した両手首で首のチョーカーに触りながら言った。

 拘束具なのだが、なぜか嬉しそうに見えるのは、真夫の気のせいではないのだろう。 

 

「一度嵌めれば、一生外れない枷だ。覚悟するんだね」

 

「ありがとう」

 

 なぜか七生は、お礼を口にした。

 

「あのう、真夫様、さっきの奴婢のルールに関連して、皆さまにわたしから伝えることがあるのですが、よろしいですか?」

 

 玲子さんだ。

 すでに全裸になり終わっていて、手で胸と股間を隠すようにしている。

 

「もしかして、この前に相談があった内容のこと? ありがたいけど、俺のお金じゃないのが申し訳なくてね」

 

 玲子さんがなにを説明しようとしているのかを真夫は悟った。

 ある提案だ。いや、提案というよりは、決定事項という感じだったが、玲子さんから提示されたときに、真夫が困惑する内容だった。

 拒否する理由もないので、応諾はしたが……。

 

「いえ、真夫様のお金です。龍蔵様より、真夫様の私産として預けられたものです。一時的にわたしが管理をしておりますが、すべて真夫様のものです」

 

「なによ、玲子? もしかして、わたしたちに、お小遣いでもくれるの?」

 

 かおりちゃんが茶々を入れるような物言いをした。

 

「その通りです。ですが名目は小遣いではありません。真夫様の奴婢として自分を磨くためのお金です。皆様のひとりひとり全員に口座を開きました。とりあえず、一千万ずつ入れました。カードは後程、お渡しします」

 

「一千万──?」

 

 あさひ姉ちゃんが驚きで裏返ったような声を出す。

 

「使い方に制限はかけません。ただ、このお金は真夫様の奴婢として、女を、あるいは、人間を磨くためのお金です。その範疇であれば、どういう使い方をしても構いません。使えば補填しますし、常に一千万はあると思ってください。不足すれば、真夫様と相談のうえ、さらに追加します」」

 

「なによ、それ? 自分を磨くためのお金ってなによ?」

 

 かおりちゃんが怪訝そうな顔になった。

 ほかの女たちは困惑した感じだ。

 

「なんでもです。さっきの下着にしても、全部を買い直す必要のある方もいるでしょう。白岡家も、金城家も資産家ですが、それらは真夫様の奴婢としてのお金ですので、こっちを使ってください。エステ、ヘアサロン、ジム、マッサージなんでもです。習い事、書籍代、音楽鑑賞、映画鑑賞、芸術鑑賞など真夫様に相応しい女性になる努力のためにも、これを使っていただきます」

 

「まあ、そういうことらしい。出所は俺じゃなくて、豊藤財閥だ。でも、自由に使えるお金があるのは悪いことじゃないと思うから、そういうことにするね」

 

 真夫は付け足した。

 

「さっきも申しましたが、真夫様の個人財産です」

 

 玲子さんが言った。

 

「あのう、豊藤って?」

 

 七生だ。

 

「こいつは、あの豊藤財閥の総帥の後継者なのよ。跡取りなの」

 

 かおりちゃんが言った。

 

「それは、すごいことなのか?」

 

 七生はますます怪訝そうな顔になる。

 

「後で説明するわよ──。あんた、豊藤財閥を知らないの?」

 

「興味のないことには疎いんだ。申し訳ない、先輩」

 

 近現代史でも出てくる財閥名なので、真夫ですら名称くらいは知っていたが、七生は知らないみたいだ。

 

「ともかく、お金がすべてではありませんが、お金は大抵のことを解決できます。例えば、七生さん──。あなたの作品は、おそらく、国内よりも海外を舞台にした方が早々に評価されると思います。真に実力があれば、むしろ海外の方が適正な評価を受けやすいのです。そのためには基盤となる経費が必要ですが、それは解決します」

 

 玲子さんが七生に向かって言った。

 

「わたしの作品のことか?」

 

「そうです……。だから、しばらくは、海外のコンクールを舞台にしましょう。そして、海外で有名画家として名をあげ、それにより国内の評価を獲得するというのが妥当だと思います。お金はそのために使ってください。さっきも申しましたが、使った分はすぐに補填します」

 

「わたしはわたしのために描いているだけだ。他人の評価というものはあまりこだわってない。コンテストで賞をもらうことも多いが、それは、好きで描いた作品に見合う条件のコンテストに応募するだけで、賞を狙っているわけではない」

 

「いえ、狙ってもらいます。あなたが超一流の画家になることが、真夫様の力にもなります。真夫様は将来、大きな立場になります。わたしたちは全員でそれを支えるのです。そのための投資資金なのです」

 

「へえ、つまりは、金はいくら使ってもいいから、こいつを支えることのできるだけの一流の能力を身につけろということ?」

 

 かおりちゃんが言った。

 ふと見ると、その顔は苦笑気味だ。

 

「一流の女というのは喩えです。でも、真夫様を癒して差しあげるためには、女として外見を保つのにも、努力しなければならないでしょう。自分にストレスがあれば美しさも保てません。でも、お金があれば、解決できます。ほとんどのことはですが」

 

「参ったな……。じゃあ、俺も頑張らないとね……。さて、この話はここまでにしようか……。玲子さん、さっき言ったとおり、奉仕してもらおうかな。玲子さんに慰めて欲しいんだ」

 

 真夫は自分の股間を玲子さんに向ける。

 さっきまでの毅然とした雰囲気から一変して、玲子さんが情熱的な表情になり、真夫の前に跪くと、うっとりとした目で真夫の男根の先に口づけをした。

 

「おっ、奴婢の大先輩の見本よ。明日香、ちゃんと見てなさい」

 

 かおりちゃんが明日香ちゃんに言った。

 

「う、うん……」

 

 明日香ちゃんが食い入るように真夫の腰に顔を近づけてくる。

 真夫は、玲子さんの奉仕を受けながら、なんだか見世物のようになった気持ちになり、ちょっと笑ってしまった。

 

「いいね──。すごくエロいよ。そのままでいい──。だから、下絵を描かせてくれ」

 

 一方で、七生は創作意欲に火がついたらしく、股縄の喰い込んだ腰を少し引き気味にして、嬉々とした表情でキャンバスの前に戻っていった。

 

 


 

 

【10年後……】

 

〈雑誌『アート・ノートブック』インタヴュー記事より〉

 

 

天才表現家「世良七生」

 

 

 高校在学中に「欧州国際美術コンクール」において、史上最年少で大賞を受賞し、翌年に「ロンドン・インターナショナル・アート・コンペティション」に入賞するなど、十代にして世界的なコレクターの注目する画家となった世良七生。

 その後、海外を主体とした数々の美術コンクールで受賞して油絵と水彩の両方のジャンルにおいて画家としての名声を確固なものにしたが、美大時代に「日本水墨画協会展」で大賞を受賞して、彼女の多彩な才能で世間を驚かせた。

 現在では、世界各国で絵画作品を中心とした個展を開くとともに、ゲームキャラクターのデザインや各種媒体に対するイラストレーターなどにも活動を拡げている天才表現家である。

 二十七歳となった今年においても、彼女の活躍は留まるところを知らず、今年度の「日本芸術展」で彼女の『魔王と十二人の恋人』が洋画部門の内閣総理大臣賞を受賞するなど、まだまだ彼女は飛躍を続けている。

 日芸展における受賞を受けた今回のインタヴューにおいては、彼女の描く作品テーマや芸術性についてだけではなく、これまで謎に包まれていた私生活の一端まで触れてもらっている。

 

 

──まずは、「日芸展」の内閣総理大臣賞、おめでとうございます。

 

世良「ありがとうございます」

 

 

──受賞作品である『魔王と十二人の恋人』についてですが、先生のこれまでの作品は、少女の裸画が中心でした。多彩な表現者として知られておられる先生ですが、一方で、テーマとするのは少女という印象があったのですが、本作では初めて男性が中心として描かれています。それについては、なにか変化のようなものがあったのでしょうか?

 

世良「これまでも別段、表現を少女と限定したつもりはなかったよ。ただ、わたしは注文を受けて描くのではなく、そのときに最も描きたいものを作品として残すという活動をしてきたため、いつもわたし自身をテーマとして描いていた。結果として、作品になった構図内には女性が中心にいることが多かった。それだけのことだ」

 

 

──先生がライフワークとして描かれ続けている「少女シリーズ」は、自画像を描き続けているものとして有名ですからね。言い換えれば、先生はこれまで女性というよりは、自分自身をずっと描いてこられてきた。しかし、今回は初めて男性が描かれておられますね。これは表現者としての先生の変化と受けとめてしてよろしいでしょうか?

 

世良「わたしは特に表現方法にこだわったことはないよ。さっきも言ったけど、テーマについても描きたいものを描いただけのことだ。ただ、今回の作品は、わたしの人生の転機ともなった出遭いを描いている。ずっと描きたいと思っていたが、やっと満足のできる表現に辿り着いた。だから、公募に応じたんだ。この作品だけは特別なんだ」

 

 

──特別と言いますと?

 

世良「わたしの一部だ。ああ、そういう意味では、わたしが描くものは常に同じかもしれない。わたしはずっとわたしを描いているのだな。少女シリーズとか呼ばれると、くすぐったい気もするが。もう二十七歳だし」

 

 

──先生はまだ十分に若くて美しいですよ。少女といってもおかしくはありません。では、本作品に登場している中心の男性の魔王とその周りの女神たちもまた、先生自身ということでしょうか?

 

世良「この作品そのものには、わたしは登場してない。だが、わたしという人間そのものに同じ一心同体の人たちだ。特別な人たちだ。家族以上のね。だから、自画像と一緒だということだ」

 

 

──では、作品に登場しているひとりの男性と十一人の女性は、実際に存在する方をモデルにしているのですか?

 

世良「その通りだね。大切な人たちだ。わたしを含めて、十三人の家族だ。いまは少し増えたけどね(笑)」

 

 

──後で伺うつもりだったのですが、作品名は『魔王と十二人の恋人』とありますが、描かれているのは十一人の女神です。もしかして、足りないひとりが先生自身ということですか?

 

世良「それもその通りだね。わたしはあの絵を描いているわたし自身になる。だから、わたしは描かれずに、十一人の女しか描いてないが、作品には十二人の女がいるのだ。ひとりの男性を中心にしてね。(愉しそうに笑う)」

 

 

──なるほど。では、そのご家族について質問してよろしいですか。差支えがあれば質問は撤回いたしますが。

 

世良「問題はないよ。答えられないことが多いかもしれないけどね」

 

 

──ありがとうございます。では、率直にお伺いしますが、この作品に登場している魔王の男性は、先生のお腹の中のお子様と関係がある方ですが?

(世良先生は、独身女性であるが妊娠中である。インタヴュー当時は妊娠五か月ということだった。ただし、父親となる男性については、一切世間には知られていない。プライベート事項ではあるが、特に隠すことでもないと先生自身の許可があったので付記する。)

 

世良「そうだね。この子の父親だよ。わたしの番になったからね。だから、この絵が間に合ってよかった。この子にも見せたいしね」

 

 

──あのう……。わたしの番とは?

 

世良「そのままの意味だよ。一度に子を作れば子育ても大変だ。みんなで協力できるとはいえ、一度にはふたり程度が適当だろう。話し合いの結果だ」

 

 

──申し訳ありません。みんなで子育てを協力というのは……。

 

世良「十二人で一緒に育てる。わたしが産むが母親は十二人だ。いや、もしかして、喋りすぎたかもしれない。いつもそれで叱られる。この話はこれで終わりにしよう」

 

 

──わかりました。申し訳ありませんでした。では話を変えますが、先生にとってアートとはなんでしょう?

 

世良「美しさ……。美しさの向こうにある剥き出しの欲望だ」

 

 

──先生の作品群は女性の美を追求していると言われますね。そして、非常に官能的とも評価されてます。

 

世良「剥き出しの欲望を突き詰めればエロスだ。美を追求すれば、そこに辿りつく。少なくともわたしにとってはね」

 

 

──エロスですか? もう少し詳しく教えていただけませんか。

 

世良「わたしは言葉による表現はしない。だから、詳しくと言われると、作品を見てくれとしか言えない」

 

 

──わかりました。では、次の質問です。先生にとって……。

 

(以下略)



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第20章 翻弄【絹香】
 第115話 二人だけの放課後


「坂本君、さようなら」

 

「じゃあ、また明日ね」

 

「坂本君は今日もSS研の活動?」

 

「あのう……、よかったら文化部発表会のときには、あたしたちの部にも遊びに来てね……。じゃあね」

 

 ホームルームが終わって、クラスメートたちが帰り支度を始めだす。

 真夫がこの学園に来てから、そろそろ一箇月半になろうとしているが、クラスメートたちとも普通に会話をするくらいは打ち解けたと思う。

 三年生の五月という時季外れの編入で、しかも、孤児だという噂が立っていたせいか、最初はなんとなく真夫に対してはぎこちない雰囲気があったが、いまは至って穏やかな関係になってきた気がする。

 いまのように、真夫が返り支度をしていると、声を掛けてくれるクラスメートも多くなってきた。

 

 多分、真従者生徒ということになっているかおりちゃんだけでなく、生徒会長の絹香、学園双璧のひとりの金城光太郎ことひかりちゃん、女子サッカー部エースの明日香ちゃんなど、学園でも影響力のある者たちが、真夫と親しく接するようになったことも関係するのだろう。

 もっとも、なぜか声を掛けてくれるのは、女性生徒が多い気がする。

 彼女たちに特段になにかをしているわけではないが、最近はかなり頻繁に色々な女生徒から声を掛けられる。

 

「真夫、お待たせ。鞄を預かるわ」

 

「真夫さん、行きましょうか」

 

 クラスメイトであるかおりちゃんと絹香が支度を終えたふたりが真夫のところにやってきた。

 なお、真夫が所属するのは一組なのだが、もともと一組だったのは絹香だ。かおりちゃんについては、真夫が編入する前はほかの組だったそうだ。しかし、真夫の奴婢になるということで、玲子さんが強引に同じクラスにしたらしい。

 

 ただし、本来は従者生徒が必ずしも同じクラスになるという決まりはないようだ。

 いや、むしろ、従者生徒については、まとめて同じクラスに配置するのが通常とのことだ。

 絹香の従者生徒の双子についても、一年生の従者生徒の集まるクラスに所属している。

 だから、従者であるということで、わざわざ同じクラスにかおりちゃんが移動してきたことについて、ほかの生徒も、それほどの配慮を学園がするのはなんでだろうと訝しんでも不自然ではないと思うが、真夫にもかおりちゃんにも、みんな自然に接してくれる。

 ありがたいことだ。

 

「ああ、かおりちゃん、頼むよ。じゃあ、気をつけてね」

 

 真夫は鞄をかおりちゃんに渡した。

 最初は女子生徒のかおりちゃんに鞄を持たせて、自分が手ぶらであるということには忌避感があったが、いつの間にか慣れてしまった。

 かおりちゃんも、従者生徒なのに「主人」である真夫に荷物を持たせたら、むしろ周りが変な目で見るのだと言う。それで、いつも強引に荷物を預かっていく。

 だから、いまでは、抵抗することなく渡している。

 

「今日はわたしの代わりに絹香がつくわ。ひとりにならないようにね。じゃあ、わたし、恵が待っているから──」

 

「頑張ってね、かおりさん」

 

 絹香も声を掛け、かおりちゃんが教室を後にする。

 先日、玲子さんが真夫の女たちに高額の入った口座のカードを渡し、自分磨きを示唆するということがあったが、それを受けて、かおりちゃんは早速、放課後を利用して語学教室に通うことに決めたのだ。

 週三回であり、今日が初日になる。

 学園外なので、移動についてはあさひ姉ちゃんが学園から借りている自動車で送り迎えをするそうだ。

 

 みんな頑張りだした。

 真夫も、なにかしなければならないと思うのだが、とりあえずは、龍蔵が示した後継者としての条件である十人の奴婢を見つけることが先だろう。

 

 また、かおりちゃんの代わりに絹香がつくというのは、真夫を絶対にひとりにしないための処置らしい。

 そこまでしなくてもいい気もするが、豊藤の後継者というのは、世界中の暗殺者から命を狙われるような存在らしい。真夫が豊藤グループの総帥の豊藤龍蔵の血の繋がった息子であることは秘密にしているが、どこから情報が漏れるかもわからず、ひとりにならないようにと、先日秀也に言われ、その後、時子婆ちゃんにも諭された。

 だから、いつもそばにいるかおりちゃんの代わりに、今日は絹香が真夫と一緒にいるということなのだ。

 絹香は絹香で、本来は生徒会の仕事もあるのだが、今日はかおりがいないということで調整をしてくれたらしい。

 

「じゃあ、俺たちも行くか──。ところで、そういえば、絹香の従者の双子は?」

 

 真夫と絹香のふたりになったところで、一緒に教室を出ようとして気がついた。

 真夫もそうだが、絹香もS級生徒であり、従者がいるのだ。梓と渚だ。

 いつもは、一年生の授業が終わるとすぐに、絹香と合流しにくるのだが、今日はまだ来ていない。

 

「今日はひかりさんのところに……」

 

「ああ、今日は水曜日だったか」

 

 真夫は思い出した。

 毎週水曜日と金曜日はひかりちゃんの開くサロンの日であり、今日は水曜日だ。ひかりちゃんは、この学園内で真夫の奴婢に相応しい生徒などの情報を集めようと、先週くらいから週二回のサロンを開くようにしてくれたのだが、今日は先日の中間試験の上位成績者発表で、上位五人に入った一年生の女子生徒を招待すると言っていた。

 梓と渚は驚いたことに、一年生の上位五人の中に入っているのである。

 

「……ということは、正真正銘、今日の放課後は、ひかりちゃんたちが来るまで、俺たちふたりか」

 

 真夫は言った。

 かおりちゃんは、あさひ姉ちゃんと外出──。

 ひかりちゃんと梓、渚の三人はサロン──。

 明日香ちゃんは、全国出場を決める地区大会の真っ最中であることからサッカー部の練習を最優先しているし、七生も学園内の自分のアトリエに閉じこもっている。

 

「そうですね……。じゃあ、行きましょうか、真夫さん」

 

 従者の双子がいないので、絹香は自ら鞄を持つ。

 だが、真夫はちょっと悪戯心が沸いてしまった。

 真夫は、教室を出ようとする絹香の腕を掴んで、耳元に口を寄せる。

 

「……両手首を背中に回して」

 

 まだクラスの隅には残っているクラスメートが数名いる。

 だから、ほんの聞こえるか、聞こえないかの声でささやいた。

 

「えっ?」

 

 絹香が驚いたように、真夫に振りむいて眼を大きくする。

 しかし、真夫がなにも言わずに、じっと絹香を見つめると、だんだんと顔が赤くなり、かすかに身じろぎを始めた。

 また、本人は無意識かもしれないが、スカートの中の太腿はかすかに擦り合わせるような仕草もする。

 淫靡な悪戯をされるのだということは悟っただろう。

 だから、絹香の中のマゾの火が灯ったのだ。

 

「それとも、拒否するか? どうしても嫌ならしないよ」

 

 真夫は言った。

 絹香は小さく首を横に振る。

 

「……い、いえ……。ご命令に従います……」

 

 絹香が鞄を手に取ったまま、両手を背中に回す。

 真夫は、操作具になっているスマホを取り出した。信号を送って、絹香の両手首に嵌っている腕輪を電磁ロックで密着させる。

 これで、信号が解除されない限り、絹香の両手は背中から動かせない。

 

「行くよ。自然にしておけば、不自然には見えないさ」

 

 真夫は絹香を促して教室の外に向かわせた。

 その後ろからついていく。

 

「あっ、会長、さようなら──。坂本君も──」

 

「西園寺様は、今日はSS研の方ですか?」

 

 クラスの隅に残っていた女子生徒数名が真夫たちが出ていくことに気がついて声を掛けてきた。

 真夫と絹香がSS研に所属しているのは、みんな知っている。文化部発表会も近いので、その発表準備に忙しいことも承知している。

 だが、声を掛けられて絹香は、目に見えて動揺した。

 びくりと身体を震わせ、慌てたように身体を振り返らせて、拘束されている両手のある背中を彼女たちから隠す。

 

「いや、いまから図書館にね。発表準備のための調べものがあってね」

 

 一方で、真夫は絹香に先んじて口を挟んだ。

 

「そ、そうなのよ……。じゃあ、また明日」

 

 絹香は当惑した感じだったが、すぐに話し合わせて頷いた。

 絹香が彼女たちに会釈をして、小走りで教室を出ていく。

 真夫は小さく笑いながら、ついていく。

 

「自然にしろというのに」

 

 追いついた真夫は、絹香に後ろから声を掛ける。

 

「そ、そんなこと言われても……」

 

 絹香は後手拘束がばれないかと気になるのだろう。

 緊張した感じで歩き進む。

 そして、すぐにはっとしたように立ちどまった。

 

「そうだ。いま、図書館に向かうと言いましたか?」

 

 真夫に振り返って言った。

 

「言ったね……。たまには、SS研でないところで調教しようか。図書館なら人は少ない。奥に資料室があったはずだ。そこに行くよ」

 

 真夫は手を伸ばして、絹香の制服のブラウスのボタンを上からふたつまで外した。たまたま、廊下には近くに誰もいなかったのだ。

 絹香の胸元が露わになり、乳房の谷間とともにブラジャーの上側が露出する。

 

「あっ、やっ」

 

 絹香が身体を捻って、真夫の手から身体を避けさせた。

 しかし、すでにボタンは外れている。後手に拘束されている絹香には直す手段はない。

 

「ま、真夫さん、これは許して──。こんな格好じゃ、図書館までは、とても行けません」

 

 絹香が顔を真っ赤にして哀願してきた。

 

「逆らうなら、もっと恥ずかしい格好にするよ」

 

 真夫は今度は絹香の制服のスカートの中に手を入れて、下着の後ろ側をお尻が全部出るまでさげた。

 

「あんっ」

 

 絹香が腰を捩らせる。

 

「歩きながら下着が落ちないように支えるんだね。それとも、今度はスカートのホックも外すか?」

 

 真夫は手を伸ばした。

 

「あ、歩きます。歩きますから」

 

 絹香は泣くような声で小さくささやいた。



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 第116話 生徒会長・露出遊戯

「ま、真夫さん、恥ずかしいです……。ね、ねえ……」

 

 絹香は図書館に向かって歩き出したものの、前からほかの生徒がやって来ると、すぐに尻込みして立ちどまってしまい、羞恥に顔を染めて俯き、壁に寄って少しでも目立つまいとするような恰好になった。

 だが、むしろ目立つだろう。

 真夫は、前からやってくる男子生徒たちを身体で隠すようにして、絹香の横に立ち、今度は本当にスカートのホックを外してしまった。

 

「あっ」

 

 ずり落ちるスカートを後ろ手のまま、絹香が慌てて背中側で掴む。だが、それだけだと前側は垂れ下がってしまう。

 だから、絹香は必死に後ろ側にウエストの部分の布を集めて引っ張り、前がさがらないようにもがきだした。

 真夫は、その慌てぶりを意地悪く、そばで見守った。

 なかなかに大変そうだ。

 

 なにしろ、後手に拘束された手で鞄を持ちながら、さらにスカートを引っ張って押さえていないとならないのだ。

 しかも、スカートの中では真夫がお尻が出るくらいに下着をずりさげてしまっているので、それについても、スカート越しに支えないと下着がずり落ちてしまう危険もある。

 しかし、手伝わない。

 

 まあ、いざとなったら、操心術で気にしないようにすることもできる。

 記憶を操作するようなことはやったことはないが、以前に玲子さんをホテルのレストランで羞恥責めにしたとき、ホテルの従業員や周囲の客に集団で操心術をかけて、気にしないようにすることはできた。

 あまりに数が多いと、さすがに手に余るかもしれないが、通り過ぎる生徒ひとりひとりに、操心術で細工をするくらいは問題ない。

 やがて、やっと絹香は、前からやってくる生徒たちが来る前に、なんとかスカートがさがらないように後ろ手で固定できたみたいだ。

 

「あっ、会長、お疲れ様です」

 

「ごくろうさまです」

 

 横を通り過ぎたのは、二年生の男子生徒たちだった。

 生徒会長の絹香に挨拶をして、真夫にも会釈をして通り過ぎる。

 絹香は真っ赤な顔で会釈だけを返していた。

 ふたりが遠ざかると、真夫はもう一度絹香に寄っていく。

 

「早く図書館に行くんだよ。さもないと、もっと恥ずかしいことをするよ」

 

「で、でも、見られます……」

 

「だったら早く進むんだね。それともっと胸を張って──。後ろに腕を組んで、前屈みじゃあ、いかにも連行される囚人だよ。胸を張ってないと、不自然だ」

 

「でも、胸が見えてしまいます……」

 

 絹香が涙目で真夫を見る。

 真夫の悪戯で制服のブラウスは上ふたつまで外している。

 ブラジャーの上側が露出するまで開いているので、絹香はどうしても前屈みになってしまうようだ。

 

「……それとも、やめる? だけど、やめたら、もうこんなことはしてあげないよ。マゾの絹香が実はかなり興奮していることは知っているんだけどね」

 

 真夫は絹香の前に立ち、スカートの裾を持った。

 ゆっくりと上にあげていき、太腿を露出させていく。

 

「ひっ、や、やります。歩きますから……」

 

 近くに生徒たちがいないだけで、無人の廊下ではない。

 そこでスカートをまくられていき、絹香もさすがに狼狽している。

 だが、面白いのは、やめてもいいと真夫が口にしても、じゃあやめるとは言わないことだ。

 絹香の心情の奥底には、「いい子」だと言われ続けた反動による一種の破滅願望のようなものがある。人のいるところで辱められたいというのも、実は絹香の隠れた心からの性癖なのだ。

 いや、隠れてないか……。

 ともかく、真夫としては、絹香の中にある刹那的な欲望をこうやって発散させてあげているくらいのつもりだ。

 その証拠に、なんだかんだで、絹香は嫌だとは口にしない。

 

「じゃあ、行こうか。前を進むんだ」

 

「はい……」

 

 どうしても顔をあげられないのか、絹香が俯いたまま歩きだす。

 真夫はすぐ後ろからついていく。

 生徒会長である絹香は学園内ではかなり目立つ。挨拶をする生徒も多いし、進んでいるあいだにも、かなり声を掛けられていた。

 しかし、こんなに恥ずかしい格好で歩かされているときに、声を掛けられるのは晒し者になっているような気分だろう。

 

 一方で真夫は、操心術ですれ違う生徒たち全員に、絹香の破廉恥な恰好が気にならないように心に細工をし続けている。

 真夫としても、羞恥プレイで絹香の立場を悪くするつもりはまったくない。

 だが、そんなことは絹香にはわからない。

 恥ずかしい目に遭えば逢うほど、マゾの血が滾る絹香は、いつもの凛とした表情は消え失せ、顔を淫らに蕩けさせ、スカートの中の太腿をこすりわせるように歩いていった。

 

 階段をおりて、授業のあった教場棟から外に出る。

 図書館は三棟の教場棟に隣接しており、公園のようになっている中庭を挟んで向こうにあり、真夫たちはそこまで歩き進んだ。

 

 図書館棟は、五階建ての立派な建物だ。

 一階はロビーに加えて、美術品や工芸品を展示する美術館のような様相になっており、図書館は受付を含めて二階から上だ。

 とりあえず、真夫たちは入口から一階の中央ホールに入った。

 そのときだった。

 

「ま、真夫さん……。だ、駄目……。た、助けて……」

 

 絹香が急に歩くをやめて、その場に膝を折って中腰になってしまった。

 ちょうど。図書館の玄関を入ったばかりのところだったが、図書館棟の一階ロビーにはそれなりに人はいる。ロビーにあるソファーで会話をしている生徒たちもいるし、教師らしき者も見える。また、清掃作業員も動いていた。

 ただ、こっちに注目する者まではいない。

 

 真夫は、急にどうしたのだろうかを絹香に視線をやって、にんまりとしてしまった。

 スカートの裾から絹香の下着が覗いている。

 どうやら、最初に真夫がスカートの中で絹香が身に着けている下着をお尻を全部出るほどにずりさげていたため、だんだんと歩いているうちに下がってきて、ついに腰から落ちてしまったようだ。

 それで膝を曲げて、落下しないように腰をさげたようだ。

 

「そこまで下がったら、脱ぐしかないんじゃないか」

 

 下着はずり落ちて膝に引っ掛かってとまっている。スカート丈は膝よりも完全に上なので、膝に引っ掛かっている下着は完全に見えている状態だ。

 真夫は絹香の腕をとって、真っ直ぐに立たせる。

 

「あっ」

 

 絹香はちょっと迷ったような素振りをしたが、周囲をさっと見回し、誰にも見られていないこと悟ると、すぐに脚をばたつかせるようにして、一気に下着を足首まで落としてしまった。

 そして、さっと足首から抜く。

 そこまで落ちてしまったら、もう脱ぐしかないという判断なのだろう。

 

「危なかったね」

 

 真夫は笑って、その下着を拾って、手の中に隠した。

 だが、あることに気がつき、にんまりとしてしまう。

 

「奥の階段だ」

 

 真夫は、ほとんどの生徒たちが使う正面玄関に面する中央階段ではなく、裏口に近い階段を使って二階に向かうように絹香に指示した。

 操心術で人の気配を探り、そっち側に誰もいないことを認識したからだ。

 

「脚を開くんだ」

 

 踊り場まで来ると、真夫は絹香を壁に寄せて命令した。

 絹香が真っ赤な顔で俯いて、脚を開く。

 真夫は、さっき拾った絹香の下着を見せつける。

 

「あっ、いやっ」

 

 絹香は小さな悲鳴をあげたが、後手に拘束されているためになにもできない。

 真夫は、絹香の下着を拡げて、股間の部分を絹香の顔の前に持っていく。

 そこには、大量の絹香の愛液がべっとりとついていた。

 

「びしょ濡れだね。そんなに興奮した、絹香?」

 

 真夫は微笑みながら訊ねた。

 

「う、うう……。し、しました……」

 

 絹香は耳たぶまで紅潮させて顔をそむける。

 

「正直だね……。ご褒美だ」

 

 真夫はポケットからハンカチを取り出すと、絹香に咥えさせた。

 制服のスカートの中に手を入れ、亀裂に指を侵入させる。

 ただ、指を入れただけじゃない。

 実はズボンの中に掻痒剤のチューブを隠して持っていて、それを気がつかれないように、たっぷり指先につけた。

 水分に反応して強烈な痒みを呼び起こす媚薬なので、これだけ濡れていればかなり激しい痒みがすぐに襲い掛かってくるはずだ。

 

「んんっ」

 

 絹香ががくりと膝を崩しかける。

 真夫は踊り場の壁に絹香の背中を押しつけるようにして真っ直ぐにさせた。

 絹香の股間は信じられないくらいに濡れている。もっと濡らすための愛撫も必要ない。

 真夫は、一度指を抜き、ズボンのポケットの中の油剤を指につけ足してからさらに奥に指を侵入させた。

 

「んんんっ」

 

 絹香が身を捩る。

 指で絹香の膣の中を掻き回す。

 淫らな水音が奏でだす。

 

「淫乱な生徒会長様だ」

 

 真夫は右手で絹香の股間を愛撫しながら、左手を絹香の制服のシャツの中に差し入れた。

 ブラジャーごと揉みあげる

 

「んぐうっ、んんっ」

 

 絹香の乱れ方が激しくなる。

 すでに鼻息も荒い。

 上体が小さく震え出し、乱れた呼吸とともにしっかりとハンカチを咥えている口から声が漏れ出してくる。

 

「……絹香は露出狂だ……。こういう場所でなぶられるのが好きなんだ……。感じるだろう……」

 

 耳元でささやていてから、突き上げるようにしている喉の横の首筋に舌を這わせた。

 股間と乳房への愛撫を続けながらだ。

 また、操心術で絹香の感情に触れる。

 激しく反応している線を刺激して、さらに太くしてやる。

 おそらく、これが刹那的な露出で快楽を感じている線だろう。

 同時に小さくなったり大きくなったり、やたらに激しく変化をしている線もあった。こっちはこんな場所で性愛をしている罪悪感と羞恥の心情に違いない。それをちょっとなだめてやる。

 さっきの快楽線が一気に膨れあがった。

 その状態で神経を固定してしまう。

 すると、こんな場所にもかかわらず、快楽に負けて享楽に応じる淫女の完成だ。

 

「んんんんっ」

 

 絹香の震えが大きくなる。

 真夫は指を抽送に変え、胸を揉む指先で乳首を撫でまわしてやった。

 唇を絹香の唇に重ねる。

 舌を唾液とともに挿入して、絹香の舌を絡めとるように舐めまわす。

 

「んんっ、ふううっ」

 

 絹香の身体が思い切りのけぞって突っ張る。

 大きな音がして、絹香が後ろ手に持っていた鞄が床に落ちたのがわかった。それだけでなく、ばさりと制服のスカートが床に落下した。

 ずっと支え持っていたのを瞬間的に話してしまったようだ。

 

「んあっ、ああっ」

 

 さすがに我に返った絹香が真夫から口を離して狼狽した。

 咥えていたハンカチも床に落ちた。

 真夫は苦笑して絹香の身体から手を離す。

 まだ、ぎりぎり達してなかったはずだが、絹香はスカートが脱げてしまったことで、動顛して蹲っている。

 

「ああっ、どうしよう」

 

 絹香は一生懸命にスカートをあげようともがいている。

 しかし、すでに足首まで落ちているものをうまく拾えないみたいだ。

 真夫はまだ床にある絹香のスカートを拾い奪った。

 

「あっ、どうして」

 

 絹香がしゃがみ込んだまま真夫に声を掛ける。

 だが、構わずに真夫は階段をあがっていった。

 絹香のスカートと鞄と拾いあげたまま……。

 

「先に行くよ」

 

「ま、待ってください」

 

 絹香は慌てて立ちあがり、後を追ってきた。

 しかし、上側の階段から数名の人影が階段をおりてこっちに向かってくる気配があることに気がついた。

 真夫たちは一階から二階にあがる階段の途中だが、三階から降りてくる人の気配はすぐそばだ。

 

「あっ」

 

 絹香は小さく悲鳴をあげると、再びその場にしゃがみ込んだ。

 なにしろ、下半身はスカートも下着も身に着けてない完全な裸体なのだ。

 

 真夫はどうなることかと、先に二階にあがって三階を見上げた。

 意外なことに、降りてくるのは、あの加賀豊だった。

 四人ほど引きつれていて、ふたりの男子生徒とふたりの女子生徒だ。

 二階にいる真夫と眼が合った。

 

「あれっ、お前か……」

 

 加賀が真夫の存在に気がついた。

 そして、真夫が女生徒用のスカートを腕に持っていることにも気がついて、怪訝そうな表情になる。

 階段の途中で小さく蹲っている絹香と加賀たちのあいだには、なにも遮るものはない。

 

「おやっ?」

 

 そして、加賀が必死に蹲って小さくなっている絹香に視線を向けるのがわかった。

 真夫は、さらに絹香を辱める方法を思いついてほくそ笑んでしまった。



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 第117話 催眠術で犬もどき

「おやっ?」

 

 加賀豊が下半身を露出して階段の途中でうずくまっている絹香に視線を向けたのがわかった。

 

「ひあっ」

 

「うわっ」

 

「なんだ?」

 

 取り巻きの四人もまた同時に悲鳴のような声をあげた。

 一方で、絹香は羞恥で震えながら必死に顔を俯かせている。

 だが、そのときには、真夫は加賀を含めた五人の精神に接触することに成功していた。

 操心術を使って、暗示を受けやすい状態にしてやった。

 

「犬が迷い込んだみたいだね──。首輪がしているから野良犬じゃなさそうだけど」

 

 真夫は声に操心術を込めた。

 加賀たちの表情がかすかにぼんやりとなり、すぐに元に戻ったのがわかった。

 これで、加賀たちは絹香を「犬」だと認識したはずだ。

 

「犬……?」

 

「犬か?」

 

「犬だな」

 

 訝しんでいる様子はない。

 ただ、犬だと暗示をかけただけなので、どんな犬かがわからずに戸惑っているだけだ。

 真夫はさらに口を開いた。

 

「かなり大きなコリー犬だね。綺麗な茶色の毛並みだ」

 

「コリー犬か……」

 

 真夫の言葉に加賀たちが頷く。

 

「……だが、なんでこんなところに……?」

 

 加賀の取り巻きのひとりが言った。

 当然だろう。

 下半身を露出した女性生徒にしろ、大型のコリー犬にしろ、こんなところにいるのはおかしいのだ。

 

「問題ないよ。俺が連絡をして引き取ってもらうから……。そもそも、ここに犬がいても不自然じゃないしね」

 

 真夫はそう言って、絹香のいる場所までおりていく。

 自然と加賀たちもついてきた。

 また、真夫がここに犬がいても問題ないと発言したことにより、加賀たちの顔から不審そうな表情は消え去っている。実際、不自然極まりないのだが、操心術で操っているために、おかしいと思うことができないのだ。

 

「ひっ」

 

 だが、真夫だけでなく、加賀たち五人にも囲まれる形になった絹香は顔を引きつらせた。

 そして、剥き出しの脚をぎゅっと縮めて、さらに身体を小さくする。

 真夫は絹香の横に屈むと、絹香の生尻を手でさすった。

 

「んっ」

 

 絹香は必死に声を殺して身体を捩る。

 真夫は、さらに制服のブラウスの中に手を入れ、ブラジャーに手を差し入れて乳房を揉んだ。

 絹香の身体がびくんと跳ねる。

 

「……声を立てない限り、犬だと暗示されている。だけど、声を出すと加賀たちは我に返るよ……」

 

 絹香の腰と胸を加賀たちの目の前で愛撫しながら、真夫は絹香だけしか聞こえないくらいの声でささやいた。

 真夫が操心術を使えるということを知っているのは、玲子さんくらいだ。だから、そんな風に言われてもなんのことかわからないだろうが、絹香も加賀たちが絹香の破廉恥な姿を知覚している気配がないのはわかっているだろう。

 納得したのかしないのかはわからないが、真夫の言葉に従うように、絹香がぐっと歯を喰い縛るのがわかった。

 

「じゃあ、コリー犬の背中とお腹にマッサージだ──」

 

 真夫は、暗示を込めた言葉を口にしてから、加賀たちの目の前で堂々と絹香の身体を愛撫する。

 

「うっ、くっ……」

 

 絹香が必死に声が出るのを我慢しながら、後手拘束の身体を捩る。

 真夫はお尻側からさらに指を進ませ、股間側の方に愛撫の場所を移動していく。

 

「んはっ」

 

 絹香の口から声が漏れる。

 露出狂の気もある絹香の身体も、しっかりと反応しているようだ。

 真夫が触れたことで新しい粘液がどっと股間の外にあふれ出てきたのだ。

 絹香は身体を小刻みに震わせながら懸命に耐えている。

 心の底では嫌がっていない。

 真夫は確信して、愛撫を継続することにした。

 絹香は一生懸命に声を我慢している。

 

 もっとも、声を出すなとは言ったが、実際にはその程度では真夫の操心術が解けることはない。

 だが、絹香としては、声を出すとばれると信じているので必死に声を耐えているのである。

 

「まあ、大人しくて可愛いわねえ。ぴくぴくして気持ちよさそう。あたしも撫でていい?」

 

 そのとき、取り巻きのうちの女子生徒が手を伸ばしてきた。

 絹香がはっとしたように恐怖の身体を竦ませる。

 

「いや、危ないよ──。噛みつくかもしれない。俺には慣れているけどね」

 

 真夫は咄嗟に声をかけた。

 

「きゃっ、噛みつかれるわ──」

 

 真夫の言葉で噛みつかれるかもしれないという暗示のかかかったその女生徒が慌てて手を引っ込めた。

 絹香がほっとしたのがわかった。

 真夫は、胸を揉んでいた手を下腹部に移動させて、クリトリスに這わせる。

 絹香は下腹部の前からと後ろからの両方から責められるかたちになった。

 

「んんんっ」

 

 絹香が全身を小刻みに震わせながら全身を硬直させる。

 だが、真夫は愛撫の手を緩めない。

 まずは、股間で動いていた指を亀裂の中に挿入した。

 さらに、今度は後ろからの指も戻して、絹香のお尻の中に挿入していく。たっぷりと絹香の愛液がまぶしてあるので、潤滑油としては十分だ。

 膣に挿入した指とともに、アナルにも指を入れて、交互にゆっくりと抽送する。

 

「はっ、あっ」

 

 絹香の呼吸が激しく乱れて、がくがくと身体が震えだす。

 膣とともに、アナルに入っている指がすごい力で締めつけられた。

 

「んん──」

 

「まあ、坂本君には慣れているのねえ」

 

 さっきとは別の女生徒が明るく声をあげた。

 彼女たちには、目の前に絹香がコリー犬にしか見えないのである。そして、真夫がそのコリー犬のお腹や背を撫でているように知覚しているのだ。

 絹香の全身が突っ張る。

 絶頂しそうなのだろう。

 真夫は、床に落ちていたハンカチを絹香に咥えさせた。

 再び前後の穴に指を挿入して激しく律動させる。

 

「んぐっ、んんっ、んんん……」

 

 絹香の身体の悶えがさらに激しくなる。

 

「んんんっ──」

 

 そして、ついに絹香が全身を大きく震わせて絶頂した。

 しばらくのあいだ、身体が反り返るようにして突っ張っていたが、やがて、絹香ががっくりと脱力した。

 真夫は愛撫をやめて、それぞれの指を抜く。

 

「ところで、坂本……。お前、このあいだの話だが、考え直す気はねえか?」

 

 すると、加賀が不意に言った。

 

「このあいだの話?」

 

 真夫は顔をあげて加賀を見る。

 

「サロンだよ──。俺のサロンに招待してやる。だから、顔を出せ──」

 

 加賀はなんとなく苛立っているようだ。

 だが、これに関する真夫の返事は決まっている。

 

「悪いけどその気はないよ。誘ってくれたのは嬉しいけどね」

 

「ちっ、行くぞ──」

 

 すると、加賀が舌打ちして立ち去っていった。

 取り巻きたちも去り、再び真夫と絹香だけになる。

 真夫は、まだ足腰がふらついている絹香をその場に立たせて、横に置いていたスカートをはかせてやった。

 ブラウスのボタンも戻してやり、服装の乱れを整えてやる。

 ただし、後手拘束についてはそのままだ。

 絹香は息を整えながら、腕を掴んでいる真夫の手に支えられるようにして、なんとか立ちあがっている。

 

「どうだった。彼らの前で絶頂した気分は……?」

 

 真夫は意地悪く言った。まだ咥えさせたままだったハンカチを取る。

 絹香は涙目で真夫を睨んだ。

 

「ひ、ひどいです……。あ、あんなこと……。でも、どうして、彼らは……?」

 

「俺は催眠術が使えるんだ。知らなかったろう?」

 

「催眠術?」

 

 絹香はきょとんとしている。

 実際には操心術と催眠術は異なるものだと思うし、催眠術はあんなに簡単に術に陥ったりはしない。

 だが、絹香からすれば、目の前で起きたことなのだから、信じるしかないだろう。

 

「ああ、催眠術だ……。それはいいだろう。どころで、加賀は随分と機嫌が悪かったな。やっぱり、サロンを断り続けているのが気に喰わないんだろうね」

 

 真夫は言った。

 さっきの最後の加賀の態度を思い出したのだ。

 絹香が頷いた。

 

「そ、それはそうだと思います。いままで、なんかんだで、この学園でもっとも人気のあって影響力があるのは加賀君ひとりでした。双璧と言われていたひかりさんはサロンなど開かなかったし、学生に求心力を発揮できる存在は加賀君の独壇場だったんです」

 

「それがどうかしたの? ひかりちゃんがサロンを開くようになって、そっちにも人が集まるようになってのは面白くないってこと?」

 

 加賀の苛立ちがどこにあるのか、まだわからない。

 ほかのところにも、人気が集まるようになったのがなんだというのか。

 それはともかく、どうでもいいけど、実は絹香は真夫に責められて、マゾモードに入っているときには、真夫に敬語になる。

 さっきから、ずっと敬語モードだ。

 

「学園の勢力図という意味では、求心が三個になったことで、自分の求心力が低下している気分になっているんじゃないでしょうか。実際にはそうでもないと思いますけど……」

 

「勢力図ねえ……。つまり、一番でなくなりそうで嫌だってこと?」

 

 真夫は言った。

 この学園で一番の存在になったからなんだというのは理解できないが、これまでずっと目立つことはしなかったひかりちゃんがサロン活動をすることになったことで、自分の人気の保持に危機感を抱いているということか……。

 だが、真夫は、少し前の絹香の言葉に違和感をやっと覚えた。

 

「いま、三個の求心と言った? 加賀とひかりちゃんの二個じゃなく?」

 

 真夫は訊ねた。

 すると、絹香がくすりと笑った。

 

「三個目の勢力は、真夫さんです。最近は真夫さんに近づきたいという生徒がすごく多いんです。真夫さんのサロンにどうやったら入れるのだろうって、結構、学園内でも話題みたいですよ」

 

「俺のサロン? そんなものないぞ」

 

 真夫は驚いた。

 

「SS研ですよ……。最近は人が増えて、明日香に、ひかりさん、七生さんも出入りするようになりましたしね。自分も入りたいっている生徒……。特に女生徒が多いみたいです。特に、ひかりさんの存在が大きいですね。ひかりさんそのものが、真夫さんの派閥の一員のようになってますので、加賀君が独占していた地位を脅かす勢いです……。少なくとも彼はそう思っているのも……」

 

「派閥? そもそも、SS研はサロンじゃない。俺の調教部屋だ」

 

「そんなことは一般学生は知りません……。加賀君からすれば、真夫さんが加賀君のサロンに来れば、真夫さんもひかりさんも、自分の派閥に属してるのだとも喧伝できますし……。と、ところで、さっきから痒いんですけど……。真夫さん、もしかして、なにか塗りましたか?」

 

 絹香はいつの間にか、スカートの中で太腿を擦り合わせ、階段の上で小さな足踏みを繰り返すような仕草を始めている。

 いよいよ、掻痒剤が本領を発揮し始めた違いない。

 

「塗ったな。これだ」

 

 真夫はズボンのポケットから掻痒剤のチューブを出して見せながら、白い歯を出す。

 

「ああ、やっぱり……。そんな……。痒いんです……。なんとかしてください……」

 

「ははは、じゃあ、予定通りに図書館の資料館に向かうか。絹香の股間の痒みを解決するのは、絹香が俺の精液を飲み干してからだ。痒みを消して欲しければ、頑張って、誰もない場所を探すんだね。そして、少しでも早く、俺の精液を飲み干すことだ。そしたら、精を注いであげるよ」

 

 真夫は笑った。

 今回使った掻痒剤は、時子婆ちゃんが合成してくれた特別性であり、真夫の精液の成分に反応して、痒みがなくなるようになっている。

 そうでなければ、痒みは一日続く。

 ほかに痒みを消す方法はない。洗っても擦っても、痒みは消えることはない。

 絹香もそれはわかっている。

 

「うう……。い、意地悪……」

 

「それが調教だよ」

 

 真夫はそうそぶいた。

 そして、図書館の二階を司書のいるカウンターに向かって歩き進む。

 やっと図書館の受付のあるカウンターに辿りつく。

 一階のロビーはそれなりに人が多かったが、架設図書のある二階は生徒が数名いる程度だ。

 カウンター越しに、年配の女性司書と向かい合う。

 

「あ、あのう……資料室で生徒会の調べものをしたんですけど。彼も一緒に……。資料室に入らせてもらっていいでしょうか」

 

 絹香が平静を装い、司書に告げている。

 だんだんと股間の痒みが切羽詰まったものになってきたのか、カウンターの下の両脚がせわしなく動いているが、表情は必死に繕っている。また、資料室の利用そのものは慣れた感じだ。

 だが、顔は脂汗まみれだし、真っ赤だ。

 

「ああ、いつも大変ねえ……。でも、そちらは初めて見るかしら? 生徒会の人? あっ、S級なのね。これは失礼しました。どうぞ、奥になってます」

 

 司書の女性は当初は訝しむ雰囲気だったが、真夫がS級であることに気がついて、急に態度を改めた。

 S級生徒というのは、この学園の特権階級だ。

 およそ利用できない施設はないと玲子さんから聞いていたが、その通りみたいだ。

 

 とにかく許可を受けて、カウンターの横にある資料室に入る。

 中には誰もないようだ。

 

「こ、ここなら……多分、誰も来ないと……。ね、ねえ、真夫さん……。もう我慢できません──。痒いんです──」

 

 資料室に入って、真夫が後ろ手に扉を閉めると、激しく腿を擦り合わせながら絹香が泣くような顔で訴えてきた。

 真夫は、その絹香のスカートのホックを再び外して、下半身を丸出しにしてしまう。

 絹香の股間は可哀想なくらいにおびただしい蜜であふれていた。

 膝どころか足首まで愛液が伝って落ちている。

 

 真夫はスカートだけでなく、絹香のブラウスのボタンを全部外して、ブラジャーも剥ぎ取ってやった。

 真夫の奴婢たちは、全員がストラップレスのブラなので簡単に外せる。

 

「奥まで行くんだ。さっきも言ったけど、痒みをなんとかしたければ、少しでも早く俺から精液を絞り出すんだね。絹香を犯すのはその後だ」

 

 真夫は絹香から取り上げたスカートなどを持つと、半裸の絹香を一番奥の書架の奥に追いたてた。

 

「ああ、お願いします──。痒くて──」

 

 突き当りの壁まで辿り着くと、再び絹香が訴えた。

 真夫はその場に絹香をしゃがませる。

 後手拘束はそのままなので、絹香は両手を後ろに回した状態で、真夫の前に跪く格好になる。

 

「だったら、頑張るんだね。口で俺の性器を引っ張り出すところからやってもらおうかな」

 

 真夫は意地悪く、まだファスナーの閉まったままのズボンの下腹部を絹香の顔の前に押しつけた。



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 第118話 資料室での痴態

 時間がなかったので短いです。

 *



「うう……、はあ、はあ……」

 

 床に跪いている絹香は、眼に涙を浮かべて、苦悶と哀願の表情で、股間の痒みを少しでも癒やそうともはや開脚のブラウス一枚だけの半裸の身体をくねらせている。

 息も荒い。

 かなり強力な掻痒剤なので、意識してしまえば、もう痒みは耐えがたいものになっていることだろう。

 

「痒いか?」

 

「は、はい、痒いです……」

 

「だったら、早く俺の精液を飲むんだね」

 

 真夫は、後手に拘束されている絹香の顔にズボンの前を押しつけるようにしながら、意地悪く言った。

 

「うう、失礼します……」

 

 絹香は口を開き、前歯で真夫のズボンのファスナーを噛む。

 じいっ、と器用にチャックを下までさげた。

 ズボンの中で真夫の股間は、すでに大きく膨らんでいる。だが、手伝わない。

 一方で、正座をしている絹香の太腿はせわしなく擦り合わされている。痒いのだろう。

 絹香が真夫のトランクスの上側を噛む。

 

「上手になったね」

 

 ただフェラチオさせるだけじゃなく、こうやって口で性器を露出させる事を命令するのは、真夫の女たちに時々やらせる。

 特に、この絹香などは、マゾ性が強いので、こういう屈辱的なことをやらせると、それだけで興奮してしまったりする。

 その証拠に、ボタンを外した制服のブラウスから出ている絹香の乳首は、ぴんと硬く充血して勃起している。

 真夫は、その乳首をすっと指で擦った。

 

「はんっ」

 

 それだけで絹香は切なげに胸を喘がせて身をよじる。

 そして、思わず口から下着を離してしまったようだ。

 

「声を出さない方がいいんじゃないか? さっきの司書さんが何事かと覗きに来るよ」

 

「す、すみません……」

 

 絹香ははっとしたように、慌てて口をつぐむ。

 そして、再び真夫の下着を口に咥えた。

 真夫は、またしても、それを邪魔するように乳首を刺激してやった。

 

「んんっ」

 

 がくんと絹香の身体が跳ね、口を離してしまう。

 

「い、意地悪しないで──」

 

 絹香が口を尖らせて真夫を睨む。

 

「ははは、悪かったな。じゃあ、頑張れ」

 

 真夫は笑って絹香の乳房から手を離した。

 今度は邪魔をしなかったので、絹香は真夫の下着をさげて、怒張を外に出すことに成功した。

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

 絹香の唇が真夫の怒張の先端に口づけられる。

 次いで、絹香の小さな口が精一杯に開き、真夫の怒張が呑み込まれた。

 

「んあっ、んああっ」

 

 絹香の本格的なフェラチオが始まる。

 真夫が奴婢にする前は、双子や明日香ちゃんを相手に倒錯的な百合愛の責め側をしていたらしい絹香だが、いまやすっかりと真夫の雌奴隷だ。

 真面目であり、努力をすることができる絹香は、教えればフェラチオの技術だって一生懸命に身につけようと健気に頑張る。

 まだ、真夫の奴婢になってからそれほどの期間が経ってもいないのに、奉仕の技はなかなかの絶品だ。

 口全体を使って真夫の性器を刺激し、黒髪を振りたてながら、口をすぼめて性器で律動するように、真夫の怒張を口だけで揉みしごいていくる。

 舌先も効果的に真夫の気持ちのいいところを探るように刺激してくる。

 おそらく、フェラの技では、真夫の奴婢の中では玲子さんに次ぐ、上手さかもしれない。

 

「ああ……いい気持ちだよ……。ご褒美だ」

 

 本当に気持ちがいいので、真夫は絹香の奉仕を受けながら、絹香の胸を揉み、さらに靴を履いたままの足の甲を絹香の足のあいだに差し込みに、股間の下につける。

 

「んんんっ」

 

 すると、絹香は痒みに犯されている股間を真夫の靴に擦りつけるように腰を動かしだす。

 余程に痒いのだろう。我慢していただろうが、痒みを癒やす手段を与えられたことで、我を忘れたように、自ら真夫の靴に股間を激しく擦り付けだした。

 

「あああっ──」

 

 しかも、悲鳴のような声をあげた。

 真夫は笑って足を引っ込める。

 

「そ、そんな、真夫さん──」

 

 絹香が恨めし気に真夫を哀願の目を向ける。

 

「そんなじゃないぞ。ここがどこだか忘れたのか? そもそも、奉仕はどうしたんだ。やっぱりお預けだ」

 

 絹香は腰振りに夢中になるあまり、思わず真夫の性器から口を離していたのである。

 

「……それに、こんなに汚れたよ。どうしてくれるの?」

 

 真夫が絹香の股間につけた制服用の革靴は、絹香の股間の愛汁でべっとりだ。

 絹香ははっとしたように、目を見開いている。

 

「も、申しわけありません。掃除します」

 

 絹香が真夫の靴に顔をつけて蹲った。

 舌で掃除を始める。

 だが、やはり痒いのか、腰は苦しそうに左右にもじもじと動き続ける。

 

「すっかりと、絹香も俺の性奴隷だね」

 

 真夫は恥辱的なはずの靴舐めを、嬉々としてやっているようにも見える絹香を見下ろしながら言った。

 

「はい、絹香はもう真夫さんの奴婢です……。一生、離れられません」

 

 絹香が顔をあげる。

 真夫は頷いた。

 

「わかった。その健気さに免じて、フェラチオはすぐに終わらせてやろう。汚れたままでいいから、口を開けるんだ」

 

 真夫はもう一度、絹香の口に怒張を咥えさせると、今度は絹香の髪の毛を後頭部側で握り、荒々しく絹香の顔を前後に動かした。

 

「んぐっ、んんっ、んぐぐ……」

 

 絹香は激しいイラマチオに苦しそうに顔を歪めるが、口はしっかりと真夫が前後させる顔の動きに合わせて、口全体で刺激をしてくる。

 

「だ、出すぞ……」

 

 真夫はおもむろに、絹香の口の中に精を放出した。

 絹香は一滴残らず飲み干し、さらに真夫の男根の中に残っているものを吸い出すようにしてきた。

 完璧なフェラだ。

 

「偉いぞ。さすがは学年トップの生徒会長様だ。物覚えがいい……。じゃあ、書庫に手をつけてお尻をこっちに突き出すんだ」

 

 真夫は、玲子さんからもらっている淫具操作用のスマホ型の電子器具を出して、絹香の腕輪を接合させている電磁ロックを解除した。

 絹香の背中で密着していた腕輪が外れる。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 絹香はふらついている感じの身体を起こすと、資料室の最奥の書庫に手を置いて上半身を倒し、脚を大きく開いて腰をぐっと、真夫に向かって突き出すようにする。

 かなりの興奮状態であることを示す証拠は、絹香の股間が真っ赤に充血するとともに、ぼたぼたと絹香の愛液が股間から床に滴り落ち続けていることだ。

 真夫は絹香のブラウスをまくりあげると、白い双臀を丸出しにし、前側からか腹部を撫でた。

 

「んふっ」

 

 すでにまるでおしっこでも漏らしたかのように絹香の股間はびしょびしょだ。

 真夫は片手で絹香の内腿を撫でながら、反対の手でクリトリスの周辺をゆっくりを愛撫する。

 

「んああっ、ああっ」

 

 絹香が興奮するように全身を悶えさせた。

 それにしても、ちょっと声が大きい気もするなと、真夫は苦笑した。

 

 そのときだった。

 資料室の扉が開いた気配がした。

 しかも、こつこつとハイヒールの音とともに、本を運ぶワゴンを押す音も聞こえてきた。

 それが次第にこっちに近づいてくる。

 

「……」

 

 絹香がびくんと身体を反応させた。

 真夫は絹香の身体を倒して、絹香の耳元に口を近づける。

 

「……声を出さないように、自分の手で口を押さえてろ……」

 

 真夫は言った。

 

「そ、そんな、待って……」

 

「待たないよ……」

 

 そして、動揺している絹香の腰を両手で押さえると、片手で自分のズボンをさげ、後ろから怒張を絹香のびしょびしょの花芯にめり込ませた。

 

「んんんっ」

 

 絹香が片手で自分の口を押さえ、もう一方の手で踏ん張らせつつ、身体をのけぞらす。

 司書が近づく音はどんどんと大きくなってきた。

 真夫は構わず、腰を容赦なく前後させる。

 

「んんっ」

 

 絹香の膣がすごい力で律動する真夫の怒張を締めつけてきた。



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 第119話 古いアルバムの中に

「んっ、あっ、んっ」

 

 お尻を真夫に向かって差しだしている絹香の股間に、真夫は容赦なく怒張を貫き律動を開始した。

 一方で、司書の足音はコツコツとだんだん近づいてきている。

 絹香はそれに怯えるように、必死に自分の口を手で押さえて声が漏れないようにしている。

 真夫はわざとずんずんと激しく怒張を撃ち込んでいく。

 

「んんっ、んっ」

 

 絹香は必死に耐えようとしているが、掻痒剤によってただれるような痒みに襲われている股間を刺激されるのは、身体の底から弾けるほどの快感なのだろう。身体は激しく悶え、どうしても声が漏れ出てしまうみたいだ。

 

 やがて、司書の押すワゴンがふたつ手前の書庫のレーンに入ってくるのがわかった。

 真夫たちがいる最奥のレーンとは、ひとつ挟んで向こうだ。

 さすがに、一度律動をやめた。

 

 だが、真夫の一物は絹香の股間に深々と入ったままだ。

 絹香は片手で口を押さえたまま、怯えた様子で身体を震わせている。

 真夫は、手を伸ばして絹香の乳房の片側を掴み、ゆっくりと揉み始めた。

 もう一方の手は、連結したままの絹香の股間に添えた。

 クリトリスをじわじわといじってやる。

 

「んふうっ──」

 

 絹香が必死で首を横に振る。

 だが、真夫は乳房を揉む手に力を込め、一転して、クリトリスを指で挟んでいる指を素早く動かしてやる。

 

「ふくっ──」

 

 絹香の口から大きな悶え声が迸った。

 真夫は焦っている絹香の焦ったような反応が面白かったので、声を殺して笑った。

 しかし、さすがにこれ以上は我慢できないだろう。

 クリトリスへの刺激はやめてあげた。

 

 だが、胸への刺激は続けたままだ。

 しかも、クリトリスをいじっていた手の胸に伸ばして、両方の乳房を揉みながら、軽く乳首をこねってやる。

 絹香は身体をびくっびくっと小刻みにわななかせて、噴きあがっているらしい喜悦と欲情を示す。

 また、貫かせたままで動かない股間がもどかしくなってきたのかもしれない。

 だんだんと、刺激と求めて自ら腰を動かしだしてもきた。

 真夫は、それに応じるかのように、一度だけ怒張を大きく引き、ずんと思い切り強く押し貫いた。

 

「むふうっ」

 

 手で押さえられなかった絹香の声が漏れ出るとともに、絹香の身体が大きくのけぞり返る。

 

「どうしたの──? 大丈夫、西園寺さん──?」

 

 女性司書がレーン越しに声を掛けてきた。

 真夫は絹香の胸から手を離す。

 

「あっ、な、なんでも、あ、ありません。高いところにあった本を取ろうとして……」

 

 絹香は乱れている声を懸命に整えて声を返した。

 一方で、司書は運んできた書籍をレーン内を移動しながら、書棚に戻す作業をしているみたいだ。小移動をしながら書籍を棚にをしまう音が聞こえている。

 

「あら、そう? こっちに梯子があるわよ。持って行きましょうね」

 

「あっ、大丈夫です──。真夫さん……、いえ、坂本君が取ってくれましたから──」

 

 絹香が慌てて声をあげた。

 真夫は小さくくすくすと笑った。

 

「ええ、問題ありません」

 

 真夫も声をあげた。

 一方で、音が出ないように注意しながら、ゆっくりと律動を再開する。

 

「はんっ」

 

 司書と喋っていたため、口を手で押さえてなかった絹香が大きな声をあげた。

 慌てて絹香はもう一度手で押さえた。

 

「えっ、なに──?」

 

 司書が怪訝そうな声をあげた。

 

「心配入りません。古いアルバムが落ちてきたんです」

 

 真夫は、腰を動かすのをやめて、たまたまあった創設当時の卒業アルバムを手に取って棚から出して、本を横の台に置く音をさせた。

 最奥のこのレーンには、資料を確認するための机があり、たまたま手に届くところにあったのだ。

 

「あら、そう? ちょっと待ってね。そっちに行くわ」

 

 司書がこっちにやってくる気配がした。

 真夫はここで初めて、司書の精神を「制御」することにした。司書の抱いた好奇心と責任感を抑えてやる。

 

「いや、大丈夫ですよ」

 

 さらに声に暗示を込めた。

 司書が立ち止まったのがわかった。

 

「あっ、そう……。じゃあ、なにかあったら声を掛けてね」

 

 彼女はやっと立ち去っていった。

 再び、資料室の扉が閉じられる音を聞いて、真夫は口を開いた。

 

「よかったな、絹香。なんとか、気づかれずに行ってくれたぞ」

 

「ああ、酷いわ、真夫さん……。と、とにかく、酷いわよ──」

 

「だけど、興奮しただろう? 絹香はマゾだからね」

 

「ううう……。そ、それはしましたけど……」

 

「そうだろう? 絹香はこんなところで犯されることに興奮する変態だ。屈辱的な事に燃え狂う淫女なんだ」

 

 真夫は今度こそ、本格的な律動を再開した。

 

「あっ、あうっ、ああっ」

 

 絹香は手を壁について踏ん張りながら、身体をのけぞらした。

 手で押さえて声を我慢しようとしているが、真夫がちょっと激しく怒張を動かすと、どうしても愉悦の呻きがこぼれてしまうみたいだ。

 真夫は容赦なく、絹香の膣の最奥を亀頭で突きたてて、子宮を揺らしてやる。

 

「んんん──、んんんっ」

 

 もともとぎゅうぎゅうに締めつけられていた絹香の肉穴がさらに締まった。

 絹香が手を壁につけたまま、顔を前に突き出す。

 

「ああっ」

 

 ついに耐えきれずに絹香が声を放った。

 真夫は怒張を突きあげながら、顔を前に出す。

 絹香が口を押さえていた手を離して、上体を捻って真夫の首にその手を掛ける。

 そして、真夫の唇にぴったりと唇を重ね合わせてきた。

 真夫は片手で壁を押さえ、もう一方で絹香の上体を抱き寄せながら、さらに激しく律動をした。

 一気にスパートする。

 

「んんんっ」

 

 絹香が真夫と口づけを交わしたまま、ぶるぶると身体を震わせて絶頂する。

 真夫もまた、滑らかな粘膜の中で怒張が溶けていくような気持ちよさを味わいつつ、絹香の中で精を放つ。

 

「ふううっ」

 

 絹香は興奮した様子で、上半身を反転した体勢で真夫の身体を抱きしめ、さらに真夫の怒張を締めあげながら、全身を歓喜にわななかせた。

 真夫は、絹香とふたりでしばらくのあいだ、エクスタシーの余韻を味わってから怒張を抜いた。

 注いだばかりの精液の一部が床にこぼれ落ちていく。

 

「さあ、休んでいる暇はないよ。掃除だ。雌犬の絹香は舌で全部するんだよ」

 

 真夫はさっきアルバムを載せたテーブルに、散乱している絹香の制服のブラウスとスカートを集めて置いてやる。

 ただし、ブラジャーは真夫の制服のポケットの中に、さっきしまった下着と一緒に小さく丸めて片付ける。

 

 一方で、絹香は荒い息を整えながら、精を放ったばかりで湯気のあがっている真夫の性器を口に咥えて汚れを舐めとっていく。

 真夫は、絹香の掃除フェラを受けながら、床に置いていた絹香の鞄を手に取った。

 鞄を開けて、目当てのものを探す。

 すぐに見つかった。

 教科書などの下に隠すように、そのスミレの花模様のある袋を手に取る。

 その中に入っているのは淫具だ。

 

 真夫は、真夫の女たちの全員に、真夫が自分を責めるための淫具を必ず二個以上持ち運びするように命じていた。

 ただし、どんな淫具を入れるかはそれぞれの自由にしている。だから、女たちは自分で選んで、そのときの気分に応じる責め具を隠し運ぶというわけだ。

 

 中を見て、真夫は噴き出した。

 袋の中にあったのは、小さめのアナルプラグひとつ、そして、小さなボールが数珠状に繋がっているアナルビーズだったのだ。

 実のところ、この絹香には、まだ本格的なアナル調教は未実施だ。

 真夫のいまの奴婢の中で、真夫にアナルを犯されて快感を覚えるほどに開発が進んでいるのは、玲子さんとあさひ姉ちゃんと明日香ちゃん、そして、新たにひかりちゃんが加わるというところだろう。

 新しく入ったひかりちゃんのアナル調教もかなり進んでいて、数日前からアナルで真夫の怒張を受け入れ、快感によがるほどになっていた。

 どうやら、絹香もそれに接して、対抗意識を抱いたのかもしれない。自由に選ぶことのできる携行淫具に、アナル開発の器具を入れているのは、その気持ちの表れだろう。

 

「絹香もアナルを開発して欲しいのか?」

 

 真夫は掃除フェラを続けている絹香の頭を軽く二度叩いた。

 終わっていいという合図である。

 

「は、はい……」

 

 絹香が真っ赤な顔になって恥ずかしそうに俯く。

 そして、すぐに床に顔をつけて、自分が汚した床を舐め始める。さっき真夫が舌で掃除をしろと口にした命令に従っているのだろう。

 

「いいだろう。今日から絹香も、アナル用の奴婢の仲間入りだ」

 

 真夫は、自分の服装を整えると、アナルビーズを袋から出して、さっき使った掻痒剤のクリームを潤滑油代わりに、たっぷりとビーズの表面に塗っていった。

 そして、跪いて床を舐めている絹香のお尻の後ろに回って、ビーズの球をアナルに押し込み始める。

 

「うっ、んんっ」

 

 絹香が身体を突っ張らせる。

 

「力を抜け。球が押し込まれるに合わせて息を吐くんだ」

 

 ビーズの球は全部で八個だ。真夫は次の一個を押し込みながら言った。

 絹香が言われるままに、息を吐く動作を続ける。

 

 やがて、全部のビーズが入った。

 結構、楽に全部入ったのは、もしかしたら絹香なりに「予習」をしていたのかもしれない。

 何事も努力家の絹香らしいと思った。

 アナルビーズの根元には、丸形の引き具がついている。

 真夫は、それを引っ張って、一個分だけ球体を外に出した。

 

「はううっ」

 

 絹香が吠えるような嬌声をあげた。

 

「声を抑えないか」

 

 真夫は苦笑した。

 

「スカートとブラウスを着ていい。そろそろ、ひかりちゃんのサロンも終わると思うから、SS研に戻ろう。ただし、歩いて戻るよ。ビーズを落とさないようにね」

 

 真夫は言った。

 この学園は広い。だから、生徒のために移動用の無人シャトルバスが巡回移動しているのだが、図書館棟からSS研のある文化部棟まで歩くとなれば、三十分ほどかかるだろう。

 それまでビーズを落とさすに歩くとなれば、絹香はずっとお尻を締めつけながら進まなければならないということだ。

 しかも、掻痒剤付きである。

 

「は、はい……。あ、あのう……」

 

 絹香が真夫が置いた制服を見て、戸惑ったように真夫を見た。

 気にしている内容はわかっている。

 真夫が渡したのは、ブラウスとスカートだけで下着の類いはない。スカートはともかく、ブラジャーがなければ、乳首が透けて見えることを気にしていると思う。歩いて汗をかけば確実に透ける。

 

「早くしろ。行くよ」

 

 真夫は微笑みながら言った。

 

「はい……」

 

 絹香が諦めたように、まずはブラウスを素肌の上に身につけ始めた。

 

「ああ……」

 

 しかし、お尻の中の球体が気になるのか、動作がぎこちない。

 真夫はほくそ笑むと、なんとなくまだ机にあったアルバムを開いた。

 学園の創設は十年前だったはずだ。

 このアルバムの発行年度は七年前である。つまりは、最初の卒業生ということになるのだろう。

 

「あれ?」

 

 だが、ページをはぐっていって、あるクラスの集合写真で真夫は思わず声をあげてしまった。

 そこに知っている人物がいたからだ。

 

 秀也だ──。

 

 集合写真のクラスの中央付近に、あの木下秀也が写っていたのだ。

 しかし、そんなはずはない。

 いま、三年生の秀也が七年前の卒業アルバムに、卒業生のひとりとして写っている事はあり得ないと思う。

 他人のそら似かな?

 ちょっと思ったが、見れば見るほど、秀也本人に間違いない。

 真夫は首を傾げた。

 そのクラスは、三年三組とある。

 真夫はページをめくって、三組の生徒ひとりひとりが写っているページを探した。

 すぐに見つかったが、今度は秀也はいない。

 名前が違うのではない。集合写真にあった男子生徒が個人写真では記載がないのである。

 もう一度、集合写真のページに戻る。

 確かに写っているが……。

 

「ま、真夫さん、終わりました……。あの、でも……」

 

 そのとき、絹香が声をかけてきた。

 まだセックスの余韻が残っているせいもあるし、アナルに挿入しているビーズの違和感のこともあるのだろう。

 絹香の乳首はしっかりと勃起し、ブラウスにかたちが浮き出ている。

 真夫はにんまりとしてしまった。

 

「じゃあ、さっきも言ったとおり、落とさないようにね……。両手を後ろだ」

 

 真夫は古いアルバムを書棚に戻して、内ポケットから操作具を出す。

 絹香が両手を背中に回すのを待ち、電磁信号を送って、手首の腕輪を再び接合してしまう。

 きんと金属音がして、腕輪が外れなくなったのがわかった。

 

「さあ、行こうね」

 

 絹香の腕を取って、前に進ませる。

 同時にブラウスに浮き出ている乳首をちょんと指で突いた。

 

「あんっ──。い、悪戯は……」

 

「感じている絹香が悪いんだろう。恥ずかしかったら、せめて乳首の勃起を収めるんだ。ノーブラにされているのがばれるよ」

 

「そ、そんなこと言われても……。真夫さんは意地悪です……」

 

「そうだね。意地悪だ。じゃあ、行こうか」

 

 真夫は絹香に後ろ手に鞄を持ち直させて言った。

 それきり、しばらく、アルバムのことを思い起こすことはなかった。



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第21章 遊戯
 第120話 文オタの少女


「それって、夏目漱石のことですよね。知ってますよ。“アイ・ラブ・ユー”を日本人なら、“月がとても綺麗ですね”とでも訳すべきだと語ったんですよね」

 

「ああ、確か、それをネタにした小説を読んだことがあります──」

 

「どんな小説よ?」

 

「ライトノベルです。ええっと、ねえ……」

 

 女生徒たちの賑やかな会話が続いている。

 ひかりは、それに耳を傾けていた。

 先週から始めて、毎週水曜日と金曜日に開くことにしたサロンという名のお茶会だ。

 

 表向きの目的は、社交の練習という名目でひかりが選んだ五、六人の生徒を招待して、この学園内のハウスでお茶会をするというものなのだが、真の目的は十人の奴婢を集めなければならない真夫のために、有益な女生徒の情報を手に入れることである。

 

 今日集めたのは、全員が一年生の女子であり、先週の中間試験の発表で上位五人だった者たちだ。

 たまたま五人の全員が女生徒だったので、今回はこの五人を招待したのだが、金城光太郎として、金城財閥の後継者である御曹司ということになっているひかりのサロンの招待は、かなり貴重な場であるらしく、今回も五人の全員が招待に応じてくれた。

 

 もっとも、その五人のうちのふたりが、絹香の双子侍女の(あずさ)(なぎさ)だ。真夫の奴婢仲間であり、驚いたことにこのふたりは、侍女でありながら上位五人に入るほどの成績だったのである。

 まあ、さすがは絹香の侍女だと思った。

 

 そして、いつものように、ひかりは緊張気味の女生徒の緊張がほぐれるような雰囲気を作ると、あとはなるべく自由に彼女たちが会話をするように場を促した。

 最初は大人しかった彼女たちだが、ひかりも金城家の御曹司として、会話術のようなものには熟達している。

 こういうお茶会で、自分が聞き手になり、相手に積極的に話をさせるようにさせるのは簡単だ。

 特に、今日集まった一年生の女生徒たちは、大人しかったのは最初だけで、一度会話に花が咲けば、あとは勝手に盛りあがってくれて本当に楽だ。

 そのときだった。

 

「くっ」

 

 ひかりは思わずソファーから腰を落としそうになった。

 またもや、突然に、股間とアナルに挿入しているディルドがバイブレータとして動き出したのだ。

 脳天にまで突き抜けるかと思ったような衝撃だった。

 ひかりは、手摺りをぎゅっと握りしめて刺激に耐えながら梓を睨んだ。

 

 今日のサロンを開始してから、これで五回目くらいになるだろうか。仕掛けているのは梓である。

 淫具を装着させたのは真夫であり、その淫具の操作具を梓に渡したのも真夫だ。梓はそれを使って、このサロンが始まってから、ずっとこんな悪戯を繰り返しているのである。

 すると、その梓がほかの四人と、アイ・ラブ・ユーがなんとかだとか会話をしながら、ひかりだけに見えるように、操作具をちらりと見せた。

 そして、強弱のメモリのひとつをすっとあげるのがわかった。

 ひかりは、はっとして歯を喰いしばった。

 

「んふっ」

 

 アナルに挿入されているディルドが凄まじい振動になる。

 ひかりは、顔を紅潮させて、梓をまじまじと見る。

 すると、梓は、何食わぬ顔をして、スイッチを切った。

 ひかりは、がくりと脱力した。

 そして、女生徒たちに目をやる。

 ひかりの不自然な態度に気がついた女生徒は、梓以外にはいなさそうだ。

 崩れた姿勢を取り直す。

 その瞬間、再び二本のディルドがいきなり動き出した。しかも、ひかりの小ペニスを包んでいるペニス袋まで収縮を開始する。

 

「うむむっ」

 

 眉をひそめて、ひかりは膝を震わせた。

 いったん終わったと安心していたところの快感の直撃に、眼がくらむかと思うほどの衝撃を受けたのだ。

 はしたない声が出そうになったが、振動はすぐに止められたので、恥ずかしい目に合うことは免れた。

 再び、梓を睨むが、彼女は素知らぬ顔をしている。

 そして、操作具をスカートのポケットにそっと隠したのが見えた。

 ひかりは歯噛みした。

 

 実のところ、今日に限らず、ひかりは真夫の奴婢になって以来、ずっと股間かアナル、あるいはその両方にディルドもしくは、アナルプラグを挿入して生活をするということを続けさせられていた。

 もう十日間にもなるだろうか。

 

 もっとも、ずっとではない。

 真夫の奴婢になった当初は、全員がディルドを挿入して授業を受けるという試練を必ず数日間受けることになっているらしく、ひかりもそれを数日間やらされた。

 いつ遠隔操作で動くのかわからない淫具を挿入して、何食わぬ顔で授業を受けるというのは、恥辱的であり、また破滅的な快感であった。

 それで、すっかりとひかりも、真夫の雌奴隷に染まらされたのである。

 

 そして、その洗礼も一応は終わったのだが、今日は放課後にサロンのある日ということで、昼休みに真夫にSS研に呼び出されて、男子制服の下にブラジャー代わりに五センチ幅の白色の革ベルトを乳首の上に巻きつけられて、電磁ロックをかけられてしまったのだ。

 革ベルトには、上下にワイヤーが入っていて、ひかりが自分で指で触れることができない仕掛けになっている。

 しかも、真夫は、それを装着する前に、むず痒さを発生させるローションを乳首に塗ったのである。

 

 さらに、真夫はズボンの下にも鍵のかかるワイヤー入りの革下着をはかせたのだ。

 内側に大小の二本のディルドがあり、それそれが花芯とアナルを打ち抜いているのである。そして、そのディルドにも真夫がローションを塗ったのだった。

 小ペニスにもやはり遠隔で振動ができる革袋で包まされた。

 制服を身につけていればわからないとはいえ、淫具を挿入されている違和感と屈辱は堪らない。

 しかも、妙な痒みまであるのである。

 

 ひかりは、午後の授業のあいだの小休憩に、トイレに駆け込んで、革ベルトの上から胸を揉みあげ、ズボンの中の革の下着を越しに淫具をいじくってしまった。

 

 とにかく、真夫からは、サロンが終わって、SS研に到着したら外してやるから、それまでは外すなと厳命されていた。

 もっとも、外そうと思っても、どうやっても外せないのは、これまでの経験でよく知っている。

 耐えるしかないのだ。

 

 サロンの始まる放課後になる頃には、ひかりは頭が朦朧となるほどだった。

 加えて、下手にディルドをいじったために、性感が刺激されて、股間の中は熱い蜜があふれ出てきた。

 それでも、なんでもない態度を装って、サロンを仕切っていると、いきなり淫具が動いたのだ。

 驚いたが、訝しむ声をかけてくる女生徒たちに交じって、梓がディルドの操作具をひかりにこっそりと見せてきた。

 それで、ひかりは、悪戯をしたのが梓であることを知ったということだ。

 

 真夫には、玲子さん、恵さん、かおり、絹香、梓と渚、ひかり、明日香、そして、七生という九人の奴婢がいるが、その中で梓の立場はちょっと、ほかの女とは異なる。

 梓が真夫に嗜虐される性奴隷であることは変わらないのだが、真夫はほかの女を責める役割を、その梓にもさせるのである。

 どうやら、今日も、ひかりに仕掛けた淫具の操作具をサロンに参加する梓に渡していたようだということがわかった。

 

「だけど、その夏目漱石がアイ・ラブ・ユーを、“私はあなたを愛します”などとは、日本人は言わないので、そんなときには、“今夜は月が綺麗ですね”とでも訳しておきなさいと授業で言ったというのは、実際には根拠のない都市伝説にすぎないというのが定説なのですよ」

 

 さんざんに梓に翻弄されて、女生徒たちの会話から意識を話していたひかりの耳に明るい声が入ってきた。

 今日集まった女生徒たちの中で、一番元気な立花(たちばな)柚子(ゆずこ)という少女だ。

 童顔であり、背も低く、多分身長は百四十センチ台だと思う。高校一年生のはずなのだが、とても可愛いくて幼い顔をしているので、小学生高学年だと言われても信じてしまいそうだ。

 この柚子が一年生の成績トップであり、実のところ、真夫の奴婢候補として、ひかりは考えていたのだ。

 両親も資産家というほどではないが、A級生徒になる程度の財産持ちである。金城財閥系列の大企業の役員のひとりであり、ひかりの立場でどうにかなるというのもあったのだ。

 

 しかし、こうやって面と向かってみて、その気持ちが小さくなっていた。

 思った以上に、見た目が幼いという印象だからだ。体型もまだ未成熟の印象である。

 なんとなくだが、セックスができるような雰囲気ではない。

 

「えっ、そうなの?」

 

 柚子の言葉に問い返しをしたのは梓だ。

 この柚子はどうやら、かなりの小説好きのようだ。さっきから、文学に関するをうんちくを時々披露したりしている。

 

「そうなのです。夏目漱石がアイ・ラブ・ユーを月が綺麗ですねと訳せと言ったという文献はないのです。漱石が英語教師をしていたのは本当ですけど、その逸話を裏付ける記録はないのです」

 

「へえ……、そうなのですか?」

 

 渚だ。

 梓と同じ顔をしているのだが、性格は全く違う。どちらかというと渚は大人しく慎ましやかだ。

 梓のように、二年上級生で上流階級に属する絹香やひかりを容赦なく、嗜虐責めするようなことはしない。

 奴婢の中では一番大人しいと思う。

 そういう意味では、本来の役割である絹香の侍女っぽい。

 

「そうなんです。その話が世間に紹介されたのは、昭和五十年代のことで、某翻訳家が聞いたことがある逸話として紹介しているのが、おそらく、最初だと言われているみたいです。その翻訳家も、ある作家からから教えてもらったと書いているだけで、間違いのない逸話として書いているわけじゃないんです」

 

「ふうん。さすがが文オタの柚子ちゃんね」

 

 笑ったのは、柚子でも双子でもない女生徒だ。

 

「文オタ?」

 

 ひかりは口を挟んだ。

 

「文学オタクです。柚子ちゃんは、文学の話になれば、話が止まらなくなるんです。だから、文学オタクの柚子ちゃんなんです」

 

 その娘が笑った。

 しかし、柚子はけらけらと笑い返してきた。

 

「オタクっていい言葉ですよね。好きなことを極めているという勲章のような気がします。もっとも、あたしはそこまで本を極めてはないですけど、そうなるように頑張りたいです」

 

 柚子は明るく言った。

 

「へえ、読書好きなんだ。たとえば、最近はどんなジャンの本を読むの?」

 

 ひかりは何気なく訊ねた。

 

「……ううん……。最近ですか……。そうですねえ……。ポーリーヌ・レアージュ著の『O嬢の物語』とか、ジャン・ド・ベルグ著の『イマージュ』とかかなあ……。ところで、『イマージュ』の作者名のジャン・ド・ベルグは、作品内の男性の主人公の名前で、本当の作者は、カトリーヌ・ロブ=グリエという女優さんなんです。『O嬢の物語』のポーリーヌ・レアージュという作者名も、ドミニク・オーリーという女性作家で、彼女は女性作家は官能小説は書けないという恋人に反論する意味を込めて、その作品を書いたと言われていて……」

 

 柚子はあっけらかんと答えた。

 

「ちょっと待って──。いま、官能小説って言った?」

 

 柚子を文オタと呼んださっきの一年生が柚子に訊ねたが、ひかりもちょっとびっくりした。

 柚子があげた書物は、いずれもフランス文学小説ではあるが、確かに官能小説なのだ。

 しかも、いずれもSMがテーマの本なのである。ふたつとも、マゾヒズムの女性が作品の中心人物だ。

 興味を持ったとしても、こっそりとするもので、少なくとも、女子高生が自分が好きな本として、あっけらかんと挙げる書籍ではない気がする。

 

「それって、エッチな内容の本ってこと?」

 

 さらに、もう一人の下級生が口を挟む。

 

「うん、最近そういうのに興味があって──。あたし、嵌まってるかもしれない……。団鬼六という人が書いた『花と蛇』って小説も、ほんっとに興奮しちゃった。よくわからないんだけど、なんか変な気持ちになるの。あっ、ところで、この作品の愉快なところは、十巻で何年もの物語の印象があるのに、時系列で並べるとわずか二週間ちょっとのほどの物語になってしまうことで、そして……」

 

 愉しそうに堂々と猥談のような発言を始めた柚子に、ひかりを含めた全員がちょっと絶句してしまった。

 

「うぐうっ」

 

 そのとき、またもや突然に股間の前後のディルドが動き出した。

 梓だ──。

 ひかりは、必死に声を押し殺しながら、眉をひそめて梓を睨みつけた。



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 第121話 男装女子の鬱憤

 トイレに立つ素振りをして、ひかりは(あずさ)に目で合図をして、追いかけてくるように促した。

 果たして、お茶会をしていた部屋の外の廊下で待っていると、すぐに梓が部屋から出てきた。

 

「ふうん……。なにか用事ですか?」

 

 梓がにやついた顔でひかりを見てきた。

 ちょっとむっとした。

 用事があるもなにもない──。

 すぐに文句を言おうと思ったが、次いで執事も出てきたので口をつぐんだ。

 このお茶会のために雇っている執事だが、彼については、ひかりが突然に部屋を出たので、なにかあるのだろうかと気を使って追いかけてきたのだろう。

 

「ちょっと彼女と話があるから場を外すよ。それまで接待を頼む……。すぐに戻るから」

 

 ひかりは、その執事に声を掛けてから、このハウスの中でひかりの私室として使っている小部屋に、梓だけを連れ込んだ。

 だが、こうやって動くだけでもつらく感じる。

 意識して不自然にならない程度に脚は閉じているが、するとどうしても、股間とアナルに挿入されているディルドを締めあげる恰好になるのである。

 かといって、男子生徒の格好をしているといっても、がに股で歩くわけにはいかない。だから、我慢するしかないが、それ加えて、こうも遠隔操作で悪戯を繰り返されては堪らない──。

 

「い、いい加減にしてくれ、梓君」

 

「いい加減にしろって、なんのことですか、金城様?」

 

 部屋に入ってすぐのところで、ひかりは梓と向かい合って立つかたちになる。

 さっきから、いくらなんでも悪戯が過ぎる。

 これ以上やられると、まともに喋ることもできなくなる。お茶会を仕切ることができなくなりそうだ。

 

「しらばっくれるんじゃない──」

 

「もしかして、これのことですか?」

 

 だが、詰め寄ろうとしたらいきなりディルドの振動のスイッチを入れられた

 

「うくうっ」

 

 ひかりはズボンの前に両手を当てて、その場で膝を折ってしまった。

 ずっと渦巻いている猛烈なむず痒さが、この振動によって一瞬にして癒されていく。この快感がいたたまれなくて、ひかりは振動を受けるたびに、頭が真っ白になってしまうのだ。

 

「……や、や、やめ……ないか……」

 

 ひかりは股間を両手で抑えるような恰好になりながら、顔をあげて梓を睨んだ。

 だが、梓はにやにやと微笑むだけだ。

 しかも、なかなかスイッチを切ろうとはしない。

 股間とアナルでディルドが振動を続ける。

 

「マゾのひかりは、そんな風におまんことアナルを苛められてよがる姿がぴったりよ……。それに、これは真夫様の命令よ──」

 

 言葉つきも変わった。

 しかも呼び捨て……。

 だが、もしかしたら、それも真夫の命令……?

 

「ま、真夫君が……なんて……?」

 

「たっぷりと焦らし抜いてから、SS研に戻せってっね……」

 

「だ、だから、こ、これも真夫君の指示……?」

 

「ええ、そうよ──。それに、真夫様に掻痒剤のローションを塗られたんだよね? だったら、感謝して欲しいくらいですよ。こうやって振動を受けないと、痒みで狂っちゃうんじゃないですか。だから、真夫様はあたしに操作具を渡したんですから……」

 

「と、とにかく、いまはスイッチを止めてくれ……」

 

 ついに、ひかりは哀願した。

 午後からずっと痒みに襲われている股間とアナルをディルドでかきまわされるのだ。四肢につんと鋭い愉悦が響き渡り、全身に快感のうねりが襲い掛かる。

 もう立っていられない……。

 しかし、梓はスイッチを止めない。

 それどころか、操作具を出して、両方のディルドを最大振動に変えてしまった。

 

「ひゃん──」

 

 腰が砕けてしまい、ひかりはその場にしゃがみ込んでしまった。

 ひかりは、股間を手で押さえたまま、お尻をあげるような恰好でぶるぶると身体を震わせる。

 すると、突然に振動が止められた。

 

「ふふふ、可愛いですね……。ひかり様のご主人様は真夫様ですけど、この場では、あたしがご主人様です。真夫様に指名されたひかり様の調教係なんです。次にくだらない不満を口にしたら、みんなの前で大恥をかかせますよ。わかりましたか──?」

 

 梓が上からひかりに声を掛けてくる。

 ひかりは歯噛みした。

 

「くあっ、ああっ」

 

 すると、再び、振動を与えられる。

 しかも、今度は前後のディルドに加えて、ペニスを包んでいる革袋までも収縮を開始してきた。

 根元から先端に向かって押し揉むような刺激を繰り返し加えられる。

 

「くうっ──、ああっ──」

 

 ひかりは身体をのけぞらせた。

 衝撃が快感となって、爪先と脳天に向かって突き抜けていく。

 

「返事よ──、ひかり──」

 

「わ、わかったから……」

 

「忘れたんですか。いまは、あたしがご主人様って言ったはずですけどね」

 

「わ、わかりました──。もう止めてええ──」

 

 ひかりは声をあげた。

 やっと全部の淫具の振動が停止する。

 

「じゃあ、先に行きますよ。四人には光太郎さんは、どこかから電話があって、それに対応しているって伝えておきますね。でも、なるはやで戻ってくださいね。そして、侍女ごときに躾られる屈辱を愉しんでください」

 

 梓が手をひらひらさせながら部屋を出ていった。

 ひかりは、口惜しさを呑み込んでその場に立ちあがる。

 だが、身体の奥がドロドロになっているのを感じた。

 あふれ返った恥ずかしい女の蜜は、革帯の隙間からにじんで、まるでおしっこを漏らしたかのようになっている。

 ひかりは、ズボンを脱いで、タオルで股間を拭いてから、この部屋に置いてある着替えのズボンにはき替えることにした。

 しかし、すでにひかりは苦悶に襲われている。

 ディルドの振動による刺激が強烈であればあるほど、それが止まったときの焦燥感と飢餓感が大きいのだ。

 

 痒い……。

 

 真夫ではない梓に責められるのは屈辱であるのに、すでにひかりは、その梓がまたディルドを動かしてくれるのを待ち望む気分になっている。

 とにかく、早くSS研に行きたい……。

 

 だが、ひかりが新しいズボンをはこうとした瞬間に、またもやディルドのスイッチを入れられた、

 遠隔操作の信号はかなり強いので、梓が部屋の壁越しに梓が気まぐれで操作したのだろう。

 

「うあっ」

 

 ひかりは声をあげて、ズボンを片脚だけ突っ込んだまま転んでしまった。

 それほどに響き渡る愉悦は峻烈だった。

 すぐに振動は止められたが、ひかりの身体には股間から突きあげる疼きがふつふつと切なく沸き起こり、身体が異常な昂ぶったままになっている。

 

 あいつめ──。

 絶対に、いつか仕返しをしてやろうと決心した。

 ひかりは、改めて服装を整えると、お茶会の会場に戻るために廊下に出た。

 

「あれ?」

 

 すると、お茶会の会場である部屋の前の廊下で、立花(たちばな)柚子(ゆずこ)が待っていた。

 ほかには誰もいない。

 雇っている執事や侍女たちも、部屋の中なのだろう。

 ひかりを見て、柚子が姿勢をただしてから会釈をしてきた。

 

「あのう、お電話は終わられたのですか?」

 

 柚子が言った。

 そういえば、そういう設定になったのだということをひかりは思い出した。

 軽く頷く。

 

「まあね。どうしてここに……? 中に戻ろうか。それとも、いまからお手洗いかい?」

 

 ひかりは柚子に手を振った。

 だが、柚子がすっとひかりの前に進み出て距離を縮めてきた。

 しかし、その距離があまりにも近いので、ひかりはちょっと戸惑ってしまった。

 

「どうかした、立花君?」

 

「……金城様、あたし、SS研に入りたいんです」

 

 柚子がひかりを見上げて小さな声でささやく。

 

「SS研に?」

 

 ひかりはちょっと驚いた。

 もともと、この柚子については、真夫に紹介する奴婢候補として目をつけていた。

 だが、当初は柚子の見た目が幼いことと、セックスにはほど遠い童女体形であることを見て、見合わせようかとも思ったのだ。

 だが、彼女が最近興味のある本として、官能小説の題名を堂々と口にしたことで再び迷いを生じている。

 彼女がその気なのであれば、そして、真夫が気に入ったなら、別に拒む理由はない。

 

 しかし、いま、柚子がSS研に入りたいと申し出てきたのは、ひかりが考えていることとは異なるだろう。

 実のところ、このサロンを開くようになってから、SS研に入りたいと申し出てくる女生徒は多い。それは、ひかりがいるからである。

 

 男子生徒ということになっているひかりは、金城家の御曹司の金城光太郎として知られていて、恋人として……、そうでなくても、縁を結んで関係を強める対象として、自分がかなりの好物件であることを、ひかり自身も認識している。

 だから、金城光太郎としてのひかりに接近しようと、ひかりが所属することになったSS研に入ろうと申し出る者が後を絶たないのだ。

 女子生徒どころか、男子生徒にもいるほどだ。

 それほど、金城家との関係というのは得難いものらしい。

 だが、SS研は実際には、真夫が奴婢の女たちとの性愛を愉しむ調教室だ。

 当然のことながら、真夫が選んだ者しか入れないので、ひかりはそれらの申し出は片端から拒絶している。

 

 しかし、この柚子についてはどうしたものか……。

 さっき、有名なSM官能小説について話題に出したときも、あっけらかんとしていた。そもそも、倒錯した性行為を卑猥なものとして受け止めた感じはなく、柚子から受けたの彼女の内心にあるものの印象は、純粋な知的好奇心である。

 つまり、中身も幼いのではないかと思う。

 読書好きで、その手の本を読み漁っていて、おかしな性知識だけはあるみたいだが、まだ卑猥さのようなものを抱いていないので、逆に面白そうな性風習くらいに感じているのではないだろうか。

 だとしたら、まだ早い?

 

「金城様がSS研への入部の申し出を全て断っているのは承知してます。でも、実際にはSS研の部長は、坂本先輩ですよね。言付けだけでもお願いできないでしょうか。あとは、あたしが直接にお願いします」

 

 ひかりの沈黙を拒絶と判断したのか、柚子がさらに言った。

 

「真夫さん……、いや、坂本君に?」

 

 ひかりは言った。

 すると、柚子がにんまりと微笑んだ。

 

「坂本先輩のことを“真夫さん”とお呼びされるんですね」

 

「あっ、いや……」

 

 誤魔化すべきか、気楽に認めるべきか迷った。

 

「これ、あたしの連絡先です。中身を読んでください。そして、ご連絡をお待ちしてます……」

 

 すると、柚子がスカートのポケットから小さな封筒を出して、ひかりに押しつけてきた。

 

 ラブレター ──?

 ……かと思ったが、そんな感じではない。

 封書は女の子らしい四角いピンクの可愛らしい封筒だ。ただ封はしてない。

 ラブレタ―は送られ慣れているが、直接に持ってくればその場で断るし、そうでないものも基本的には返事はしないことにしている。

 だが、ひかりはこれについては受け取った。

 

「よろしくお願いします……。ところで……」

 

 柚子が視線をひかりの制服のズボンに向けて、急に意味ありげに微笑んだ。

 ひかりはどきりとした。

 

「……ふふふ、電話がかかってきて応じてるって、梓ちゃんが言ってましたけど、口実ですか? 本当はズボンをはき替えに?」

 

 柚子が言った。

 ひかりはびっくりしてしまった。

 

「びっくりしてますか? ふふふ、あたしって、結構目敏いんです。金城様のズボンがときどき揺れていたこと、実は気がついてたんですよ……。なんか、丸い染みのようなものがちょっとずつ大きくなっていたことも……。でも、そのズボンはその染みがなくなってますものね……」

 

 柚子の言葉に、ひかりは絶句してしまった。

 そして、かっと羞恥で自分の顔が赤くなるのも感じた。

 まさか、気づかれてた──?

 

「封筒の中を読んでくださいね……。それと、よく勘違いされるんですけど、あたし、見た目ほど幼くないですから」

 

 柚子が立ち去って、お茶会の会場に戻っていく。

 ひかりはしばらく呆然としていたが、我に返って、さっき柚子に渡された封筒を開いた。

 中身は紙一枚だ。

 柚子のスマホへの連絡先が手書きで書いてある。

 そして、一言、文字が添えてあった。

 

 

  『私は金城様たちの秘密を知っています。』

 

 

 そこにはそう書いてあった。



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 第122話 生徒会長・アナル始め

 第119話の続きです。実は絹香の放課後の羞恥調教は第119話で終わるつもりでしたが、作者の私が気になったので、続きを描くことにしました(笑)。

 *



「ああ……」

 

 図書館棟から文化部棟に向かう学園内の道路に出てすぐに、絹香はこのまま徒歩で三十分ほど歩いて、SS研の部室に向かうということが、かなり苛酷なことであることがわかってしまった。

 アナルに押し込まれたアナルビーズの数珠が早くも、絹香に強烈な存在感を主張してきたのである。

 

 もしも真夫がアナル調教をしてくれるのであればと、絹香が準備したアナルビーズという淫具についている数珠玉は八個だった。その八個が絹香のお尻の中の粘膜に不規則に触れ合い、ぶつかり、揺れ合って、言いようのない違和感を絹香に与えてくるのである。

 

 しかも、真夫が潤滑油として使ったのは、あの掻痒剤だ。

 痒みもだんだんと大きくなってきているのだが、それもまた、数珠玉が絹香のお尻の中を掻き回す刺激で甘い疼きに変わっていく。

 すでに絹香は泣きそうなくらいの快感を覚えてしまっていた。

 

「ところで、歩くのが遅れているよ。速度をあげようか」

 

 少し前を進む真夫が意地悪く告げる。

 真夫の物言いは優しい。

 命令口調であっても、決して強い口調ではない。

 しかし、内容は厳しい。

 それに、調教を受けようと思ったのは絹香の意思だ。弱音を口にすることも、真夫の言葉に逆らうことも許されないことだと思っている。

 

「あっ、はい……」

 

 絹香は後ろ手に拘束されている恰好のまま、懸命に脚を速めた。

 すると、しばらく、進んだところで、真夫から一旦止まるように指示された。

 

「大丈夫そうだね。じゃあ、今度は両手は身体の前にしようか」

 

 背中側で密着していた両手首の金属環が外れた。そして、真夫に言われるまま前手で自然に交差されるように密着させると、今度は身体の前で手首が接合される。

 なにが「大丈夫」なのかわからなかったが、とりあえず、後手拘束で歩かされるよりも、遥かに不自然な体勢にはならないことにはほっとした。

 

「行こう」

 

 再びふたりで歩きだす。

 しかし、絹香は、どうして両手を前にさせられたかが、すぐにわかってしまった。

 歩いていると、だんだんとアナルから玉が顔を出してしまいそうなるのだ。

 真夫によって、一個だけすでに外に玉が出されている。それが重みとなって、全体が下に下にと引っ張られていくみたいだった。

 それでも、後手のときには手や鞄でスカートの上からそっと押さえたりできたのだが、前拘束に変えられたことで、純粋にお尻の力だけで、玉を押さえなければならなくなったということだ。

 とにかく、必死に絹香はお尻を締めつけた。

 図書館から出るにあたって、絹香は真夫からショーツを与えられていない。つまりは、玉が落ちようとしても、遮るものはなにもないということなのだ。

 

 とにかく、進む。

 真夫に送れないように一生懸命に……。

 アナルを必死に締めつけながら……。

 

 それでも、学園内の移動はシャトルバスを使う生徒がほとんどなので、こうやって歩いている生徒はほとんどいない。

 だから、行き合う生徒がいないことだけは、絹香を安堵させていた。

 

 しかし、絹香は途中ではっとした。

 真夫に従って、その背中を追いかけることしか頭になかったが、だんだんとほかの生徒の姿を見るようになってきたのだ。

 そして、いつの間にか、文化部棟に真っ直ぐは向かっておらず、放課後に生徒多く集まるショッピング・モールのある厚生棟に近づいていることに気がついてしまった。

 

「あ、あのう……、真夫様、どっちに……?」

 

「せっかくだからね。お茶菓子でも買っていこう。ついておいで」

 

 ふり返った真夫がにんまりと笑う。

 拒否するという選択肢はない。

 絹香はついていくしかない。

 いまにも外に出ていきそうなアナルビーズの玉がスカートの外に出てしまいそうな恐怖とともに……。

 

 恥ずかしさと怯えが絹香を襲う。

 そもそも、身体の前で両手を拘束されていることはばれないだろうか?

 平然としていれば、そんなにはばれることはないとは思っても、簡単に開き直ることは難しい。

 やがて、厚生棟に辿り着くと、それなりの人混みに絹香は真夫とともに混ざることになった。

 

「さあ、入ろう。真っ直ぐに進むんだ。俺は後ろからついていくから」

 

 しかも、真夫はショッピング・モールに入る自動扉を抜けると、絹香の後ろに位置を変えてしまった。

 絹香は上気していた顔を強張らせてしまった。

 真夫が後ろに行ったことは、まるでここでひとりで歩かされるような恐怖だ。そうでないことはわかっているが、怖いものは怖い。

 それに、いよいよとアナルの痒みが耐え難いものになってきた。

 潤滑油としてビーズに塗られたローションがいよいよ本領を発揮しだしたのである。

 

 痒みがどんどんと拡大しきた。

 それに耐えるためには、とにかく強くアナルを締めるしかない。しかも、多分、ローションは絹香のお尻の中の体温でだんだんと溶けていっていると思う。ローションがすでに粘膜に沁み込んで痒みが定着しているのは間違いないが、粘性感よりも水分による滑りやすさを感じてきて、いよいよ絹香はアナルを締めなければならなくなっている。

 すると、当然ながら受けなければならない快感も増幅してしまう。

 それが拡大していく。

 

「んん……」

 

 玉が出そうになっている。全部出てしまえば入れ戻すのは不可能だが、途中であれば頑張れば戻せる。

 絹香は一度立ちどまり、頭が出そうになっている玉をお尻の穴を引き締めることによって、内側に押し返す。

 

「あんっ」

 

 その瞬間、つるんと玉が内側に入っていき、それとともに広がった甘い感覚に思わず声をあげてしまった。

 同時に膝から力が抜けそうになり、腰が少し落ちる。

 下着を身に着けていない股間から蜜がつっと内腿に垂れるのがわかった。

 

 絹香はびっくりしてしまった。

 こんなにも早く、自分がお尻で快感を覚えるようになるとは思わなかったのだ。アナル調教を受けたいことについて、恵や明日香に相談したとき、ふたりとも、お尻に淫具を挿入することについて、最初は違和感でしかなく、快感を覚えるのはしばらく経ってからだと教えてくれた。ただ、真夫はすごく丁寧なので、数日かけてしっかりとお尻を気持ちよくなれる場所に変えてくれるよとふたりとも言ったのだ。

 だが、最初のアナル調教でこんなにも快感を覚えるとは……。

 

「止まったらだめだろう、絹香」

 

 はっとした。

 立ちどまってしまった絹香のすぐ後ろに、真夫がいたのだ。

 それだけでなく、スカートの裾をゆっくりと後ろ側から捲りあげられている。

 だが、周りには、買い物や休憩に応じる生徒たちがたくさんいるのだ。

 

「きゃっ」

 

 慌てて前に出る。

 真夫から距離をとることで、スカートは元に戻る。

 

「……ははは、勝手に止まると、なにをするかわからないぞ」

 

 真夫の声が後ろから追いかけてくる。

 絹香は足を進める。

 ショッピング・モールの通路は回廊状になっていて、そこに様々な店やテイクアウトの食べ物やが幾つか点々と並んでいる。

 真夫からは、しばらくそのまま歩き続けろと告げられた。

 回廊部分には、生徒が休憩するためのベンチなどもあり、結構賑わっている。また、絹香が生徒会長ということで、やはり、挨拶や言葉をかけてくる生徒も少なくない。

 無視するわけにもいかず、絹香はそれらにも対応しながら歩みを続ける。

 だが、歩けばどうしても球体が落ちてきそうになってしまう。

 止まればなにを悪戯されるかわからないので、今度は歩きながらお尻を引き締めて球体を戻す。

 すると、球体の表面がお尻の粘膜をこすり、じんとする疼きも襲いかかる。

 いや、そもそも、歩くだけで球体が勝手に動いて、脚を前に出すたびに快感が繰り返して襲う。

 絹香は愕然となってしまった。

 

「二階にあるコンビニに行こうか」

 

 一階の回廊を一周半ほどしたところで、真夫が二階にあがる階段に誘った。

 吹き抜けの中央部分にエスカレータもあるのだが、真夫が選んだのは、その横の階段だ。

 

「うくっ」

 

 そして、階段に足を踏み出した絹香は、その瞬間に小さな呻き声をあげてしまった。

 それまでとは違う動きだったことと、階段をあがるために足を高くあげなければならなかったために、お尻の穴が開いたのだ。

 一生懸命に繰り返し引っ込めていた球体が一気に半分以上飛び出てしまったのである。

 

「んんんっ」

 

 渾身の力で引っ込める。

 

「そんなに皆にノーパンのお尻を見られたいか?」

 

 だが、止まってしまったことで、真夫の手がスカートに伸びる。

 はっとした。

 慌てて、次の足をあげて階段をあがる、

 球体はなんとかお尻の穴に戻せた。

 ずんという痺れるような感覚がまたもや襲いかかる。

 いや、衝撃はだんだんと大きくなっていっている気がする。

 

「んふっ」

 

 脚がぶるぶると震えて力が抜けそうになった。

 それでも、足を止めることは許されないし、お尻の穴から力を抜くこともできない。

 泣くような鋭い快感が続けざまにお尻で繰り返す。

 やっと、二階にあがった。

 すでに、絹香の息はかなり荒くなっている。

 

「……アナルの素質があるようだ。だったらもっと早くアナルを調教してやればよかったかな……。そこだ」

 

 学園の二階は広いフード・コートのようになっていて、食事ができるテーブルと食べ物屋が並んでいる。

 その一角にコンビニがあり、真夫はそこに絹香を導いた。

 真夫はそこで、袋菓子と飲み物を購入して、再び階段に絹香を導いた。

 今度は真夫が前を進んだ。絹香は懸命にそれを追いかけて階段をおりていく。

 

「ううっ」

 

 我慢しようと思うのだが、階段に足を進めると、どうしても強く球体が動き、絹香は痺れるような感覚に襲われ声が出てしまう。

 ぶるりとスカートの中の太腿が震える。

 だが、強くアナルを締めるのをやめるわけにはいかない。

 

「んんっ、あっ、ああ……」

 

 玉は相変わらず外に外にと出そうになる。

 そのたびに絹香は一生懸命に引き戻した。

 だが、押し戻すことはできるが、そこから受ける快感を逃がすことはできない。

 アナルから受ける快感の速度と大きさが拡大する。

 

 やっと、一階に着く。

 すると、振り返った真夫がくすくすと笑った。

 

「階段を見てみな、絹香」

 

 真夫に言われて、たったいまおりてきた階段に視線をやる。

 そして、真っ赤になってしまった。

 たったいま、絹香が降りた階段には、点々と絹香の股間から落ちたらしい愛液の雫が落ちていたのだ。

 慌てて自分の状態を見下ろす。

 股間から滴った愛液が内腿にべっとりついて、膝下まで続いていていた。

 鞄を持って隠れているものの、スカートの前部分の一部に大きな染みができるほどだ。

 絹香は恥ずかしさで真っ赤になった。

 

「ああ、真夫様、お化粧室に行かせてください」

 

 とりあえず、濡れた脚を拭こうと思ったのだ。

 

「必要ない。それならいいものをあげるよ」

 

 真夫が絹香を階段下の陰に導いた。

 そこには、使わない椅子やテーブルが重ねて置いてあり、ちょっとした物置状態になっていた。

 絹香はそこに連れ込まれた。

 すると、真夫がさっき購入した食べ物が入っている袋から直径が二センチほどで長さが二十センチほどの魚肉ソーセージを取り出してきた。

 袋を外して中を出す。

 

「手を避けるんだ」

 

 驚くことに、真夫がそれを絹香のスカートの中に入れてきた。

 

「あっ、いやっ」

 

 絹香は反射的に腰を捻った。

 真夫の持つソーセージの先が絹香の股間に当てられたのだ。

 

「いやじゃない。これを挿入しておけば、愛液を垂らさないで済むだろう? これはお情けだぞ──。いいから、動くな──」

 

 だが、一喝され絹香は抵抗をやめた。仕方なく、股間の前で手首を接続されている両手を少しあげて、真夫がやりやすいようにさせる。

 ぬるぬるの股間に、あっという間にソーセージの先端が奥に当たった。

 

「あんっ」

 

 絹香が思わず腰を崩した。

 真夫は、外に出ている部分を千切って、自分の口に放り込む。

 

「あっ」

 

 絹香は自分の顔が真っ赤になるのがわかった。

 

「淫乱な絹香の味がするよ……。さて、このソーセージだと、マゾで淫女の絹香には細いかもしれないけどね。わかっていると思うけど落とすなよ。しっかりと締めつけるんだ」

 

 真夫に引っ張り出されて、再び絹香は人混みの中に連れ出された。

 

「さて──。じゃあ、ここで待っているから、このままショッピング・モールを三周してくるんだ。一周約百メートルくらいだから二分やろう。走れとは言わないが、結構、速足で進まないと間に合わないと思うぞ。もちろん、遅れれば、SS研でたっぷりと罰を受けてもらう」

 

 真夫が絹香から鞄をとりあげる。

 すると、ずっと前に固定されていた両手首の腕輪が外れた。

 真夫が操作具を出していたので、ロック解除の信号を送られたのだとわかった。

 

「えっ? えっ?」

 

 だが、この状態で三周?

 しかも、二分以内──?

 

 絹香は戸惑った。

 しかし、真夫がスマホのアプリを起動させて、時間を測り始めたのを見て、慌てて絹香は足を進めた。

 

「あんっ、うくっ」

 

 だが、途端にアナルの球体だけでなく、股間のソーセージが滑り落ちるような感覚に襲われ、慌てて股間を引き締めた。



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 第123話 見学者と理不尽な命令

 やっと文化部棟に辿り着いたときには、絹香はすでに朦朧となっていた。

 いまだに、絹香のアナルにはアナルビーズが挿入されているし、股間には魚肉ソーセージを入れられているのだ。

 ノーパンなので、股間からは抜け落ちたら遮るものはなく、絹香は懸命に前後の穴を締めつけ続けなければならない。

 それは、絹香にずんずんと絶えることのない快感を与え続けていた。

 すでに、体力も気力も限界を感じている。

 

 だが、一方で絹香は異様なほどの感情の昂ぶりも感じていた。

 股間とアナルに淫具や異物を挿入されて、学園の中を歩かされるのは、耐えられないような羞恥と屈辱だ。

 それに変わりはない。

 

 だが、それと隣り合わせで、絹香は奇妙な充実感に包まれてもいた。

 真夫に躾けられて理不尽な辱める受けさせられる……。

 自由を奪われて、人のいる場所で無理矢理に快感を昂らされる……。

 股間に掻痒剤入りの媚薬を塗られて、性感を破壊され、お尻の穴を快楽の場所として無理矢理に開発される……。まあ、今日のアナル調教については、半ば絹香からお願いしたのだが……。

 

 それはともかく、これらは忌避すべきことであるはずなのに、それを悦ぶ絹香が存在している。

 まるで、恥辱感が快感となって、真夫に服従することを嬉しがる別の人格に作りあげられていくようであり、それは間違いなく生まれ変わるような解放感に違いなかった。

 

 未知の自分になる──。

 真夫によって、心を作り替えられる──。

 理不尽な辱めを与えられ、とてもじゃないが受け入れることのできないことをするように要求される。そして、それを無理矢理にやらされるのだ。

 その快感……。

 絹香は酔うような淫欲の中にいた。

 

 いずれにしても、絹香はもうふらふらだ。

 胸の鼓動は激しく、股間からは絶え間のない果蜜を溢れさせている。股間に挿入されているソーセージは蜜の噴出を助長することはさせても、垂れ流れる愛液を堰き止める役にはあまり立っていないきがする。

 

「頑張ったな。だが、罰は罰だぞ」

 

 文化部棟に辿り着くと、汗びっしょりになり、呼吸を荒くしている絹香に真夫が言った。

 

「は、はい……」

 

 絹香は小さく頷いた。

 罰というのは、ショッピング・モールで与えられた三周を二分以内で回るという真夫から与えられた課題のことだ。

 結局のところ、とてもじゃないが二分では回れなかった。倍以上の時間がかかり、絹香は真夫からは、SS研に到着したあとで罰を与えることを宣言されてしまっていたのだ。

 

「罰はきついぞ。かなり厳しくする。覚悟しろ。その代わりに、全部が終わったら優しくしてやろう。だから頑張るんだ」

 

「わ、わかってます……。どうか、絹香に存分に罰をください」

 

 絹香は言った。

 すると、なぜか心に不思議な震えが走った気がした。

 真夫に罰を与えられて苦しめられる……。

 どうして、絹香はそれに悦びを覚えているのか……。

 

 SS研の部室は、文化部棟の二階にある。

 文化部発表会が来週に控えていることもあり、文化部の集まっているこの棟はかなり賑わっていた。その人混みを抜けて、絹香たちは二階にあがっていく。

 SS研では、真夫の発案で『拷問と刑罰の歴史展』の企画展示を予定しており、その準備が進められているが、すでにほとんどの準備は終わっていて、あとは最終的な仕上げをするくらいだ。

 すると、展示準備をしているそのSS研の前の廊下に、ひとりの女生徒が立っていることに気がついた。

 

「おっ?」

 

「あれ?」

 

 そこにいたのは、二年生の相場(あいば)まり江だった。

 相変わらず日本人離れの美しい体形をした美少女だと思った。マスコミにもネットにも、よく取りあげられる有名な女子高生モデルである。多くの雑誌に載り、写真集も出していたはずだ。

 母親が英国人のハーフである。だから、髪は綺麗な黒髪なのだが顔は異国風の端正な顔立ちである。

 もっとも、両親は離婚しており、彼女の母親はもう日本には住んでいない。確か、そんな生い立ちだったと思う。

 

 彼女が見ているのは、SS研の企画展示のために廊下に掲示している幾つかの絵画だ。

 SS研の『拷問と刑罰の歴史』展示では、室内でこそ、さまざまな刑罰・拷問器具が展示してあるが、廊下には羞恥責めを連想させるような絵画のレプリカ画をわざと飾ってあるのである。

 たとえば、まり江がいま見入っているのは、壁に鎖で繋がれた全裸の女性の絵だ。その隣には、奴隷市場がテーマのジェロームの絵である。

 彼女がよく、この廊下に絵を眺めために訪れることは知っていた。

 もちろん、真夫が彼女に奴婢候補として興味を抱いていることも……。

 

 ただし、世間でも名前と顔が売れているまり江は、当然ながらこの学園でも有名人である。

 だから、彼女はじっと絵の前でたたずむことはなく、短い時間やってきて、目だないようにすぐに帰ってしまう。

 とはいっても、毎日のようにやってくるので、SS研の者たちからすれば、まり江が真夫が並べさせたテーマの絵に興味を抱いていることは明白ではある。

 もっとも、あまりにもすぐにいなくなってしまうので、その現場にぶつかるのは、絹香も今日が初めてだ。

 

「そこにある絵に興味を持ったみたいだね」

 

 真夫が声を掛けた。

 

「あっ、坂本さん、会長さんも……」

 

 まり江がはっとしたように視線を向ける。

 

「ここにある絵に興味を抱く女子は、多分、特別な感情を持つ者だよ。そういう女生徒を探すために、ここに並べてるんだ。罠に掛かったのは三人目……、いや、四人目かな。七生も興奮を隠さななかったからね」

 

「興味ってわけでも……。ちょっと、なぜか見入ってしまいたくなって……。でも、いま、罠って言いました? あっ、わたしは、二年の相場まり江です」

 

「知っているよ。有名人だしね……。中にどうぞ」

 

 真夫が部室に入る扉の電子ロックを解除する。学園内のすべての部屋は、学園のシステムによって指紋登録された者がそれぞれの部屋の電子ロックを解除できる仕組みだ。

 例えば、絹香は寮の自室のほか、生徒会室及び生徒会倉庫については指紋で解除できる。最近になって、この部室も登録されたので、絹香も開けることはできる。

 

「あっ、でも、わたし、あまり時間がなくて……」

 

「大丈夫だよ。すぐに終わる。大事な話がある。そして、いいものを見せてあげるよ。ほんの五分だ。君がその場所に立つはずだった時間の範囲で終わる。絹香次第だけど、多分ね……」

 

 真夫は中に入っていく。

 まり江が断るとは思っていない感じだ。

 だが、絹香次第──?

 どういう意味だろう。

 中に並んでいるのは、今度の文化部発表会で展示予定の刑罰具と拷問具のレプリカだ。

 中心には晒し刑用の実物大のギロチン台があり、あとは国別、時代別にレプリカや説明版などが飾ってある。

 

「さあ、相場さん」

 

 よくわからないが、絹香はまり江を室内に促した。

 真夫は、この場でまり江を監禁してしまうつもりだろうか?

 とにかく、まり江を入れてしまわないとと思った。

 

「あっ、でも……」

 

 いきなりのことでまり江にはかなり躊躇いがあるようだ。

 しかし、絹香は半ば強引にまり江を部屋に誘う。

 

「多分、大丈夫よ……。わたしを信用して……」

 

 絹香はまり江を安心させるように微笑んだ。

 そして、心の中でまり江に謝る。

 まり江はまだ迷っている感じのまま、それでも、部室に入っていく。絹香はその後ろから進む。

 

「扉を閉めてくれ、絹香」

 

 真夫は入ったすぐのところでこっちを向いて待っていた。

 絹香は扉を閉めてから、指紋によって鍵をかける。

 それにしても、こうやって動くたびにソーセージとアナルビーズによって性感が刺激されてしまう。

 またもや、外に出ようとしている玉をお尻で引き戻す。

 いまや、かなり鋭い感覚になっている込みあがる疼きをまり江にばれないように、懸命に表情を隠した。

 

「わあ、中はこんな風になっているんですね」

 

 室内に展示してあるものを一瞥して、まり江が声をあげた。

 廊下には絵画を飾ってあるものの、文化部発表会以外には部室は解放しないので、頻繁に通っているまり江も、室内展示を見るのは初めてなのだ。

 

「飾り物を解説してももいいけど、時間がないというから、それは別の機会にね……。ところで、外にある絵だけど、どういう絵を集めて並べているかわかる?」

 

 真夫がまり江に顔を向けて訊ねた。

 まり江と絹香は入口を背にして立つかたちであり、真夫は部室の奥側でこっちに身体を向けている。なお、絹香たちがいまいるのは廊下側であるが、奥側には隠し扉があり、そこに入るとエレベータールームになる。

 そのエレベータで繋がってる地下が真夫が使う「調教室」だ。

 

「え、え? 歴史画……ですか……? サビニの略奪の絵とかあったし……。あっ、でも違うものも……」

 

 急に質問されたまり江が戸惑った様子で応じる。

 すると、真夫が白い歯を見せた。

 

「あそこに並んでいるのは、全部、囚われた女、あるいは、辱められる女だ──。理不尽にも拘束され、身に着けていたものを奪われて、尊厳を辱められ、それとも、侮辱されて恥ずかしい姿を晒されることになって女性たちだ。それに興味を持つということは、まり江さんもそんな風に扱って欲しいということだろう?」

 

 真夫が言った。

 

「えっ、なにを言って……。もちろん違います──」

 

 まり江は後ろから見ている絹香から見ても、かなり動揺していた。

 その声はとてもか細い。

 絹香は真夫の言葉がまり江の心の核心を突いたということを悟った。

 そして、絹香もまた確信した。

 このまり江は、こちら側の人間だと──。

 

「そうかな……。まあいい。今日はたまたま偶然に会ったから、まり江さんを迎え入れる場が整ってない。だから、誘い言葉だけ告げることにするね……。最初に言っておくけど、これは罠だから」

 

 真夫は微笑みを浮かべたままだ。

 

「先ほども、そう言われましたね」

 

 まり江が応じる。

 

「そうだね。なにしろ、俺の誘いを受ければ、まり江さんの人生は確実に変わる。だから、罠だということさ」

 

「……あのう、どういう……」

 

「俺の女のひとりになれ、相場まり江──」

 

 真夫はまり江の顔をじっと見つめるようにしながら言った。

 

「えっ、告白……ですか……?」

 

 まり江はびっくりしたようだ。

 だが、はっと気がついたように、絹香に振り向く。

 告白かと思ったことで、ここにいる絹香の立場を訝しんだのだろう。

 

「いいから、真夫さんの話を……」

 

 絹香はまり江を促す。

 

「いや、そのまま、絹香を見ながらでいい。俺の話に耳を傾けるだけでいいよ。いま、返事は求めてないから。ただ、その気になったら、いまから送る俺のスマホのアドレスに返信してくれればいい。別に、返事じゃなくてもいい。困ったことがあれば、それがなんであっても解決してあげる」

 

 真夫が内ポケットからスマホを出して操作をした。

 まり江がびくりとして、慌てたようにスマホを出した。

 そして、画面に視線を落として唖然となった。

 

「なんで、わたしの連絡先を……?」

 

「なんで知っているかはどうでもいいよ。とにかく、大事なのは、それが俺への連絡先だということさ。まり江が俺の女になりたくなったときに必要になる」

 

「もっと優しい人かと思ってました。でも、随分と自信家なんですね……。あっ、返事はいまします。無理です──。ご承知かと思いますが、モデルをしてるんです。芸能事務所にも所属してます。恋愛は契約で禁止されてるんです。ごめんなさい」

 

 まり江が真夫に向かって頭をさげた。

 だが、真夫は笑って首を横に振り、まり江の頭をあげさせる。

 

「契約なんてどうにでもなるよ。それよりも、自分の心に正直になることだね。正直になったら連絡をくれればいい」

 

「いえ、連絡はしません」

 

「どうかな?」

 

 真夫は自信があるようだ。

 

「しません──。交際はできません。事務所との契約に外れます。それに、会ってまだ五分です……。あっ、もう五分経ちましたね。確か、約束は五分でした。失礼します」

 

 まり江が絹香を押しのけて扉を開こうとした。

 だが、さっき絹香が電子ロックで施錠をしているので開けない。

 

「開けてください、会長──」

 

 まり江が絹香を見る。

 

「俺の話が終わるまで出られない。まだ、罠の話をしてない。まり江が俺に返信して、俺の女になる決心をしたら、どんな扱いを受けるか教えておく」

 

「いえ、必要ありません──。返事はしませんし──」

 

 まり江はかなり苛立ってきたようだ。

 絹香は黙って見守る。

 しかし、実のところ、こうやって黙って立っているだけで辛いのだ。絹香はアナルと股間の疼きを歯噛みして耐える。

 

「外に飾ってあった絵の女たちと同じだ。理不尽に拘束され、身に着けているものを奪われ、尊厳を辱められる。そうやって、俺に支配される」

 

「ええっ──?」

 

 まり江がびっくりしている。

 真夫がまり江の横を通過して、絹香の隣に立つ。

 廊下に出ていく扉は絹香と真夫の背中側だ。

 

「支配されて、辱められたくなったとき、連絡をするんだ……。まり江はそうなりたいはずだ……。外にある絵に魅入られる女……。それは、そういう欲望を心の奥底に隠しているんだよ」

 

「勝手に決めないで──。外に出して──」

 

 まり江が大きな声をあげた。

 

「わかった。だが、もうひとつ……。実際に、囚われの女を見てもらおう……。絹香、スカートをめくれ。命令だ──」

 

 真夫が突然に言った。

 絹香は耳を疑った。

 

「えっ?」

 

 絹香は思わず真夫を見た。

 すると、真夫が絹香に鋭い視線を向けてきた。

 

「早くしろ──。命令だ──」

 

 強く怒鳴られる。

 

「は、はい」

 

 絹香は慌てて両手でスカートの裾を握った。

 

「な、なに言ってるのですか──。やめてください──」

 

 まり江の顔が真っ赤になり、下を向いて眼をそむける。

 

「視線を外すな。見るんだよ……」

 

 真夫が諭すようにまり江に告げた。

 その瞬間、まり江の身体が硬直したようになり、彼女の顔が真っ直ぐに絹香に向く。

 眼も見開くように大きくなった。

 

 これは、もしかして、図書館のときと同じように催眠術……?

 まり江の顔はまっすぐに絹香を向いているが、それが彼女の自分の意思とは思えない。

 まるで無理矢理に見させられている感じだ。

 

「さあ、絹香、いつまでそうしている。早くめくるんだよ」

 

 真夫が言った。

 

「はい……」

 

 絹香は頷いたが、さすがに実行はできなかった。

 スカートの中には下着もはいてない。ノーパンだ。

 ただのノーパンじゃない──。

 股間に異物が入れられ、お尻にはアナルビーズが挿入されていて、そのうちの一個がしっぽのようにお尻の外に出ているような状態だ。

 これを見せる──?

 いや、そうでなくても、人前でスカートをめくって股間を露出するなどできるわけがない──。

 

「やるんだ。命令だ」

 

 真夫がさらに言った。

 

「は、はい、真夫さん……」

 

 絹香は震える手でゆっくりとスカートの裾をぐっと握る。

 

 だが……。

 できない……。

 

 首を横に振った。

 さすがに絹香は、真夫に哀願の顔を向けた。



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 第124話 今日はハードに

「……ゆ、許してください……」

 

 絹香は、両手で制服のスカートの裾を握ったまま、真夫に哀願した。

 どうしても、自らスカートをまくって、異物を入れられて辱められている股間を露出させることなどできなかったのだ。

 

「やるんだよ、命令だ」

 

 真夫が感情のこもらない口調で言った。

 びくりとなった。

 もしかして、真夫は怒っている?

 そして、そのことに恐怖を感じた。

 この瞬間に、命令に背くという選択肢は絹香の心から完全に消滅した。

 でも……。

 

「……せ、せめて、真夫さんがしてくれませんか……」

 

 絹香は言った。

 だが、真夫は首を横に振る。

 

「やるんだ──。絶対にしたくないことを無理矢理にやらされる……。それが調教だよ」

 

 絹香は諦めた。

 真夫の言葉に妥協の余地は感じられなかった。

 羞恥で震える手でスカートをたくし上げていく。

 正面で絹香の姿を凝視している相場まり江が息を呑むのがわかった。

 だが、マリエはなにも言わない。

 拒絶するわけでもなく、怒るでもなく、ただただ絹香が破廉恥に自ら股間を晒す姿を凝視している、

 絹香は完全に太腿が露出するまでスカートを引きあげた。股間はかすかに露出しているくらいになる。

 そして、そこで絹香の手は止まってしまった。

 どうしても、恥ずかしくて身体が動かなくなったのだ。

 

「もっとだ──。完全に股が露出するまであげるんだよ」

 

 真夫が小さく笑った。

 びくりと身体が跳ねた。

 絹香はさらにまくって、臍のところまでスカートの裾をあげた。身体は限界を越える緊張と羞恥でぶるぶると震えている。

 まり江がどういう反応をしているのかはわからない。

 絹香は完全に顔を俯かせている。

 

「しっかり股を濡らしているね……?」

 

 真夫が距離を縮めてすぐ横に来たのがわかる。

 すると、真夫の片手が絹香の腰を抱き、もう一方の指がつっと、絹香の蜜が垂れ伝っている内腿を股間の付け根に向かって撫であげてきた。

 

「ひゃんんっ、いやっ」

 

 絹香はスカートを握ったまま、身体を突っ張らせながら悲鳴を噴きこぼした。

 

「動くな──。命令だ──」

 

 真夫の言葉に身体が竦んだように硬直する。

 

「は、はい──」

 

 絹香は理不尽な愛撫に備えて、ぐっと口をつぐむ。

 だが、真夫の指は股間のぎりぎりのところでとまって、すっと離れていく。

 

「まり江ちゃん、これが調教されるということだ。やりたくないことを無理矢理にやらされて辱められる……。だけど、感じさせられてしまう。絹香の股間は濡れているし、乳首もつんと勃っているよね。彼女は淫らに欲情してるんだ……。絹香、もういい。ありがとう」

 

 真夫が絹香の身体を離す。

 すぐにスカートをおろす。

 同時に、腰が抜けたみたいになって、その場に座り込んでしまった。

 その瞬間、つるりとアナルに入っていた球体が外に一個こぼれ出そうになってしまった。

 あまりにも追い詰められてしまって、一瞬、アナルビーズのことが頭から抜け落ちてしまっていたのだ。

 慌てて、お尻を引き締めたが、半分以上外にはみ出していた球体は、むしろ締めあげることで、アナルから押し出されてしまって、ぬるりと跳び出してしまったのだ。

 

「あんっ」

 

 絹香がしゃがんだ姿勢のまま、身体をのけぞらせた。

 そして、真夫の命令に従えなかったことに気がついて愕然となってしまった。

 それ以上は落ちないようにと、アナルを必死に締める。

 

「うう……く……」

 

 しかし、アナルを締めれば快感も沸き起こるし、股間も締めることになるので、異物による刺激が拡がり、身体が反応してしまう。

 しかも、二個目が出たことで、もう三個目が外に顔を出しかけている。

 とにかく、やることはひとつしかない。絹香はアナルを引き締めた。

 

「ああ、いやっ」

 

 そのとき、まり江の悲鳴が部屋に響き渡った。

 顔をあげる。

 驚いたことに、真夫が展示用の革枷を使って、まり江を後手に拘束していた。そして、そのまま腕の中に包み込んでいる。

 まり江は胸を掴まれ、さらにスカートの中に手を入れられている。

 真夫の手はまり江のスカートの中をあがっていく。

 

「ああ、触らないで……。いや……」

 

 まり江が声をあげた。しかし、その声は小さくてか細い。まるで、本当は助かることを望んでいないのではないかと感じるほどだ。

 それはともかく、真夫はまり江をここで犯すのだろうか?

 しかし、真夫はすぐにまり江を解放してしまった。

 まり江はその場にしゃがみ込んでしまう

 すると、そのまり江の顔に真夫が指を近づける。

 

「な、なあに……?」

 

 まり江が慌てて顔を逸らす。

 しかし、そのまり江の顎を容赦なく掴んで、真夫は真夫を自分の手に向けさせた。

 

「まり江の股間に触れた俺の指を見るんだ。君は目の前で辱められる絹香を見て、なにも喋れなくなるくらいに圧倒され、金縛りになったかのように動けなくなった──。後手に手枷をされても大して抵抗できないくらいに見入ってしまった──。そして、なにもされてないのに、ただ見ただけで、こんなに股間を濡らしてしまった……」

 

 はっとした。

 真夫がまり江に向けた指は、確かにねっとりとした粘性物で濡れていた。

 さっき、真夫がまり江のスカートの中に手を入れたときか?

 

「ち、違います──」

 

 まり江の顔が真っ赤になり、スカートの中の脚にぎゅっと力を入れるのがわかった。

 

「自分に言い訳はしないことだね。君が絹香を見て欲情してしまったことは確かだ。同じことをされる自分を想像してしまったんだろう?」

 

「違うと言っているのよ──」

 

「自分に素直になることだね……。心を偽らない自分の心に……」

 

 真夫の手がしゃがんでいるまり江のスカートを握る。

 そして、ゆっくりとたくし上げていく。

 

「いやああっ」

 

 まり江が身体を竦ませる。

 だが、後手に拘束されたまり江はなにもできない。

 まり江のスカートは完全にたくしあげらた。

 白い下着が露出して、絹香の眼に入った。

 明らかに欲情した証拠の染みがある。

 むしろ、異常なほどの愛汁の量だ。

 

「ここで犯そうと思えば、それも簡単だ……。だけど、しない」

 

 真夫が一度まり江から離れて、手枷の鍵を持ってきた。

 枷を外して、まり江を自由にする。

 

「やん」

 

 まり江がスカートを戻した。

 

「俺に服従するつもりになったら連絡をするんだ……。今日は戻っていいよ」

 

 真夫が指紋錠で部室の扉のロックを解除する。

 まり江は立ちあがって、脱兎のごとく逃げていった。

 再びふたりきりになる。

 

「だ、大丈夫なんですか……?」

 

 絹香はおずおずと訊ねた。

 相場まり江は、二年生の後輩とはいえ、芸能プロダクションにも所属している現役の女子高生モデルだ。

 その彼女にあんなことをして訴えられたりしたら……。

 確かに、この場の真夫に圧倒されている雰囲気はあったが、あのまま逃がしてしまえば、我に返って訴えられるかもしれないと思った。

 

「大丈夫とは?」

 

「逃がしたことです……。あのまま逃がさずに、真夫さんから離れられないようにした方がよかったんじゃ……」

 

「そのまま犯すべきだったってこと?」

 

「はい」

 

 ちょっとお道化た口調の真夫に、絹香は真剣に頷く。

 真夫は声をあげて笑った。

 

「絹香がそんなことを言うとは思わなかった。むしろ、あんなことをしたから、叱られるかもとは思ったけど」

 

「わ、わたしが真夫さんを叱るなんてことはありません──」

 

 絹香はびっくりして言った。

 真夫はなぜか、さらに愉しそうに笑い声をあげた。

 

「……まあとにかく、彼女が誰かに訴えることはない。彼女の心は、ああいうことをされることを望んでいた……。理由は言わないけど、俺には彼女が隠している奥底の感情がわかるんだ。だから、そうしただけさ。脅したわけじゃない」

 

「しっかりと脅してました。さっきの真夫さんはちょっと怖かったです」

 

「だけど、彼女は戻ってくると思うよ……。絹香がここで破廉恥なことをしたことが表に出ることはない」

 

「わたしのことはいいんです──」

 

 絹香がきっぱりと言った。

 

「そうか……。まあいい。じゃあ、調教の続きだ……。立つんだ──。それと、ここで服を全部脱ぐんだ」

 

 絹香はすぐに身につけているものを全部脱いだ。靴下と靴も含めて、全部脱いで部室の隅に固めて置いた。

 

「ついておいで」

 

 真夫が奥に向かっていく。

 絹香は両手で身体を隠しながらついていく。

 歩くと、どうしてもアナルから球体が外に出そうになる。絹香は必死にお尻に力を入れて元に戻す。

 絹香はそれだけで息が苦しくなってしまった。

 それは、ずっと力を入れ続けているアナルに込めている筋力のせいでもあったし、すっかりと効果を発揮しているお尻の中の痒みのせいでもある。

 服を脱いだことで気がついたが、絹香の身体はかなりの汗でまみれていた。

 しかも、粘っこい汗だ。

 

 部室の隠し扉を抜けて、地下の調教室に向かうエレベーター室に入る。

 すると、真夫が制服の内ポケットからスマホを取り出した。

 画面を確認して、絹香に顔を向ける。

 

「ひかりちゃんからだ、少し到着が遅れるようだ。あと一時間くらいらしい。それまでふたりだけだ。さっきの罰調教といくこか。でも、いい機会だ──。ちょっときつめの調教にするよ。だけど、徹底的にハードなのと、ちょっとだけハードなのとどっちがいい?」

 

 そして、突然に訊ねられた。

 戸惑ったが、絹香はすぐに口を開いた。

 

「ま、真夫さんのお好きなようにしてください。わたしは真夫さんの奴婢です」

 

「いい答えだね。じゃあ、徹底的にハードといこう」

 

 真夫が微笑む。

 ちょうどエレベータが開いた。

 真夫が乗り込んだので、絹香も後ろから乗る。

 すると、振り返った真夫に、いきなり頬を平手打ちされた。

 

「ひゃん、きゃっ」

 

 両方の頬をビンタされて、絹香が痛さのことより、叩かれたことに動顛してしまった。

 

「偉そうに二本脚で歩くな──。今日の絹香は俺の雌畜だ──。雌畜は許可なく二本の脚で歩くな──」

 

 さらに叩かれた。

 

「も、申しわけありません──」

 

 絹香は慌てて四つん這いになる。

 

「今回に限らず、今度も一緒だ。この調教室に向かうときには、絹香はいつも四本脚──。ほかのみんながいてもだ──。いいな──」

 

「は、はい──」

 

 人が変わったような真夫の剣幕に、絹香はぞっとしてしまった。

 

「そして、今日の絹香はただの奴婢じゃない。痰唾奴婢だ。わかるか?」

 

「い、いえ……」

 

「顔を上に向けて、口を大きく開け」

 

「は、はい」

 

 真夫に言われるまま、真夫に向かって四つん這い姿勢で顔だけ向けて、大きく口を開く。

 その絹香の口の中に真夫がいきなり唾を飛ばした。

 

「ひゃっ」

 

 心の衝撃で絹香は、声をあげてしまった。

 

「それが、痰唾奴婢だ。しっかりと咀嚼してから呑み込め」

 

 口の中に唾を吐かれる……。

 あまりもの屈辱に頭が真っ白になる。

 

 そして……。

 

 その恥辱が自分でも驚くくらいの黒い快感になるのがわかった。



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 第125話 ある一年女生徒に関する情報

 学園に戻る山道に差し掛かった自動車の中で、玲子は、メールの受信を伝えるスマホの振動に接した。

 ハンドルを動かしながら、ハンズフリーボタンを操作して、フロントガラスにメール送信者を投影して確認する。

 正確にはフロントガラスではなく、その手前の宙に運転者の視界を遮らないように特殊な技術で文字だけを投影しているのだが、送り主は松野(あずさ)となっていた。

 玲子の個人用アドレスにはいくつかあるが、このアドレスは真夫と真夫の奴婢仲間だけにしか知らせてない。だから、大切なメールだ。ただ、絹香の双子侍女のひとりである梓からの連絡は初めてだと思う。

 

 確か、この時間は、梓を含む双子の侍女は、ひかりの主催するサロンに参加している最中だったはずだ。予定としてはそろそろ終わる時間だろう。

 もしかして、そのサロンでなにかあったのだろうか。

 新たに真夫の奴婢になったあのひかりが、真夫の奴婢に相応しい女生徒に関する情報を集めるために、先週から定期サロンを開催していることはもちろん知っている。

 標題には、『要電話』とある。

 そのサロンでなにかあったのだろうか。

 

 ハンドルの端についている操作ボタンを動かして、さらにメールの内容を投影するために操作する。

 メールの中身は、標題以上の内容はなく、できれば急いで連絡が欲しいということだった。

 ちょうど、学園に入る三個の関門の一番麓側のゲートに着いたところだったので、ゲートが開くのを待つ間、玲子はフロントのタッチパネルを操作して、梓にハンズフリー機能を利用した電話を掛けた。

 果たして、ワンコール目で梓が出た。

 

『あっ、もしもし……。申し訳ありません、玲子さん。梓です』

 

「いいのよ。いま運転中だけど、もうすぐ学園に戻るわ。用件は?」

 

 玲子はハンドルを握ったまま、梓との会話を始める。

 一方で、ゲートが横に開いていく。

 玲子は、アクセルを踏んだ。

 

『じゃあ手短に。ひかりさんからの伝言です。できれば、わかる範囲でいいので、立花柚子(ゆずこ)という一年生の女子に関する情報がすぐに欲しいとのことです』

 

「立花柚子?」

 

 記憶を思い起こすと、いま、ひかりが実施しているはずのサロンにおける招待者のひとりだったはずだ。

 やはり、サロン絡みのようだ。

 

『できれば、すぐに……。とりあえず、サロンが終わり次第に、その娘とひかりさんが話をすることになってるんです。その前に可能な限りの情報が欲しいそうです。できれば弱みとか』

 

 電話の向こうの梓は、くすくすと笑っている。

 深刻そうな感じはではない。

 

「あと十分……、いえ、六分半で理事長室に戻れるわ。大した情報ではないけど、検索できるものは、ひかりちゃんのスマホに送る……。三十分以内になにかを送るわね」

 

『三十分ですね。伝えます……。ふふ、あれ、使おう……。あいつ、悪戯が嫌で、あたしに連絡係を指示したんだから……』

 

 よくわからないが、なにかを面白がるような口調の梓の言葉が返ってきた。

 

「なにかあったの?」

 

『あたしたち、彼女に脅されてるんです』

 

 すると、梓の笑い声がした。

 

「脅す?」

 

 物騒な内容だ。

 だが、電話の向こうの梓が面白がっていることは確かだ。

 また、会話を続けているうちに、第二ゲートに着く。ここから第一ゲートまでの距離はほとんどなく、第一ゲートを抜ければ学園の敷地内だ。

 玲子はゲートの前で一時停車する。

 車体からの登録信号を確認したゲートは開門の態勢になった。

 

『あたしたちの秘密を知っているらしいです……。じゃあ、あたしはひかりさんに、連絡がついたと伝えないとならないんで……。多分、玲子さんからの情報が届くまでサロンの終了を引き延ばすはずですから。詳しいことは後で報告します。じゃあ、お願いします』

 

「あっ、ちょっと……」

 

 もう少し詳細を確認したかったが、電話は切れてしまった。

 まあいいか。

 玲子は第二ゲートが開くのを待ち、車を奥に滑らせる。

 

 立花柚子か……。

 

 玲子は運転を続けながら思念する。

 真夫の奴婢の候補には、まだあがってなかった女生徒であることは間違いない。だから、玲子の調査ターゲットにはまだ入っていない。

 しかし、学園内の女生徒と女性教師については、理事長であり、豊藤グループの総帥である龍蔵の個人的道楽として、それこそ、身長、体重、スリーサイズなどの基本データから始まり、性経験の数や相手、生理周期、自慰の頻度などの情報がひそかに集められている。

 

 健康診断や入浴中などの状況を活用した全裸写真もあり、さらに、完全個室の寮生活であることを利用して、彼女たちの飲食物に強い媚薬を服用させることによって強制的に収集した自慰の隠し撮り映像まである。

 それらのデータは、学園にあるホストコンピュータに集めてあり、龍蔵がいつでも接することができるようになっていた。

 もともと、このマグダレナ学園は龍蔵が晩年の道楽のために建設した学園なのだ。

 ただ、現在については、そのデータ管理と使用は、玲子にすべて任されてあり、いまは、玲子は真夫にもアクセス権を渡している。

 

 もっとも、さすがに玲子も、立花柚子に関してどんなデータがあるかと訊ねられても、すぐには答えられない。

 集められる映像データも、全データをチェックはできないので、AIを利用してデータを抽出して整理させているのだ。

 

 理事長室や職員室のある本部棟に着いた。

 運転してきた自動車を専用駐車場に停め、本部棟に入っていく。

 事務室には、外出からの帰還だけを伝え、すぐに理事長室に入る。

 玲子は理事長ではなく、正式には理事長代理ではあるのだが、龍蔵の許可を受けて、理事長室を執務室として使うようになっていた。

 データの端末があるのは、その理事長の奥にある隠し部屋だ。

 そのまま、隠し部屋に入って端末の前に座る。

 

 立花柚子──。

 

 一年四組。Aランク生徒。

 身長146センチ、体重36キロ。

 バスト72センチ、ウエスト……。

 そして……。

 とりあえず、基本的な情報をひかりの持っている端末に送る準備を進める。

 

 次に家族構成……。

 

 長女……。兄弟はなし。

 父親は一流企業の重役で役員……。金城グループか……。ひかりのところの系列企業ということだ……。

 両親の資産も多い。役員としての収入だけでなく、遺産による不動産収入や有価証券収入もあるようだ。

 かなりの資産家といえる。

 この辺りは、ここよりも、ひかりの方が詳しいかもしれない。

 

 顔と体系の映像データを出した。

 童顔で小柄──。お世辞にも、女性らしい体形とは言えないが、可愛らしい外見だとは思った。

 梓によれば、脅迫されたということだったが、あの口調からは深刻そうな雰囲気はなく、玲子にすぐに情報を求めたということから、真夫の奴婢候補にすることを見込んでのことなのかもしれない。

 

 でも、この幼そうな少女を……?

 真夫がロリコンも守備範囲なのかはわからないけど、まるで小学生にも見える彼女の写真に、玲子はほんのちょっとだけ、真夫が気に入るかどうか不安になった。

 まあ、美少女ではあるのは確かなのだが……。

 記録にアクセスして、試しに母親の写真を出してみた。

 こっちはなかなかの美人だ。年齢は四十五歳とあるが、娘同様に童顔であり、二十台後半にしか見えない。

 むしろ、母親の方が真夫の好みじゃないだろうか。

 ならば、母親ごと引き抜いて、いわゆる“母娘丼”とかはどうだろう……? 真夫はそれなら興味を抱くだろうか……。

 そんなことを思念する。

 

 それで、ふと、玲子の頭にあることがよぎった。

 父親の名前と企業名を確認する……。

 

 立花源一郎……。

 

 確か、有名なプレイボーイだ。

 幾人もの愛人がいるというこの道では知らぬ者のない男である。

 企業向けのパーティで、数回玲子も接触したことがあった。

 玲子もそのときに誘われていたことを思い出した。まあ、かなりのハンサムな男だったのは確かだが、女は自分に堕ちて当然という雰囲気が気持ち悪かったのを覚えている。

 叩けばいくらでも埃が出そうだと思った。

 女を脅迫して無理矢理に手籠めにしているという噂もあったはずだ。

 関係ないから放っておいたが、その男の娘か……。

 とりあえず、不確かな情報という但し書きで、ひかりに送る情報に、父親のことも入れる。すぐに調査に入るということを付け加えて……。  

 

 とりあえず、ここにあるものの中で、なにか本人の弱みになるものを探す……。

 AIで自動記録されている自慰の映像になにかあるだろうか。

 とりあえず、アクセスする。

 まあ、高校一年生くらいであれば、自慰の映像だけでも十分な脅迫材料になるはずだけど……。

 でも、あの小学生のような外見のこの娘が自慰とかするのだろうか……。

 自慰映像は、寮の各部屋に寝室に取り付けてある隠しカメラから、自動的にトリミングの末に保存されて、時間と回数の文字データとともに記録される。もしも、自慰データがなければ、定期的にそれが玲子に知らされて、飲食物への媚薬混入の指示を出したりするので、それに関して立花柚子に処置した記憶がないということは、普通にAIが記録した彼女の自慰データがあるということだが……。

 

「あれ?」

 

 玲子は思わず声を出してしまった。

 彼女に関する映像データがないのだ。いや、存在した形成はあるが消去されている。

 

「どういうこと……?」

 

 思わず呟く。

 すぐにログを出した。

 そして、眼を見張った。

 

「……不正アクセス?」

 

 現時点では断定できない。

 だが、外部からの侵入の形跡があった。

 それまでの巧みに書き換えられているが、表記に不自然なところがあるのだ。

 しかし、この学園の端末に不正アクセス──?

 あり得ない──。

 

 玲子は、アクセスしていたホストコンピュータから、普段は使わないバックアップのデータバンク用の端末に移動して起動させる。

 こっちは、一箇月に一度、ホストコンピュータからデータに記録データを送るときだけに使っているものであり、平素はラインを物理的に遮断している。

 繋がるのは、ホストコンピュータから、バックアップデータバンクにアクセスするときだけだ。

 だから、こっちには侵入は不可能だ。

 ホスト側に不正アクセスしたとしても、そっちにまでは余程の偶然がない限り、侵入されることはないはずだ。

 

 立花柚子を検索する……。

 映像記録……。

 

「あったわ……」

 

 ほっとした。

 こっちまではアクセスされてない。

 

 自慰の記録……。

 平均する一週間ごとの自慰の平均回数は、AIで自動記録された回数からだと、週に五回……。

 女生徒にしては、かなり多い方だろう。

 あの幼い外見からは意外だ。

 

 映像記録を出す……。

 残っている……。

 

 ほっとしたが、つまりは、これで何者かが学園内の秘密のデータに潜入して、データを触ったということが明白になった。

 そして、少なくとも立花柚子に関する情報に接して、映像データに触って、そこだけ消去した……。

 現時点で言えるのはそれだけだ。

 

 誰が……?

 とにかく、不正潜入されているということに、玲子は背中に冷たいものを感じてしまった。

 こっちもすぐに調査をしないと……。

 

 もっとも、玲子の感覚としては、不正アクセスがあったとしても、随分とわかりやすく痕跡を残している気がする。まさか豊藤のデータバンクに潜入できるハッカーがいるとは思えなかったが、その技術があったとするには、潜入の痕跡を残しすぎだ。

 玲子はデータへの潜入者のイメージがわからず、ちょっと困惑した。

 でも、本当にどうやって……?

 かなりの固いセキュリティなのだ。

 ただ、言えるのは、考えられるのは学園内からの侵入だ。セキュリティの大部分は外部侵入者が学園のホストコンピューターに入ることなので、同じ学園内からの端末からだと、かなり侵入も容易にはなる。

 まずは、そっちの線から調査するか……。

 

 いずれにしても、最重要案件だ……。

 

 玲子はとりあえず、ホストコンピュータからの外部アクセスの遮断処置をした。

 そして、バックアップデータから、記録されている柚子の最新の自慰の映像データに触れる。

 

 二日前の深夜一時……。

 随分と遅い時間だ。

 場所は……。

 

「えっ?」

 

 AIが記録している撮影ログを見て、玲子はちょっとだけ驚いて、思わず声をあげた。

 当然ながら、自慰の記録映像なので、柚子の寮の個室内だと思ったのだ。

 しかし、AIで自動記録されていたのは、そのAランク生徒用の寮内の室内ではなく、寮の廊下にある共用トイレ内なのだ。

 玲子は映像を覗いた。時間が限られているので、三倍速で視聴する。

 

 そこには、幾つかの端末映像を組み合わせたものとして記録されていて、最初の映像は寮の部屋から出る柚子だ。

 薄いネグリジェだけの姿──。映像から判断するに、おそらく下着は身に着けてない。ネグリジェの丈は、股下数センチだろう。

 しかも、両手に手錠をしている。

 そして、素足だ。

 

 自縛をして、破廉恥な姿で廊下に出た──?

 状況からしてそうだ。

 

 AIで自動記録をした映像は、寮内の廊下の映像に切り替わっている。

 周りを見回しながら、興奮した様子で共用トイレに進んでいく柚子……。

 トイレに入った。

 映像が切り替わる。

 トイレの個室における天井からの映像だ。

 廊下とは異なり、常夜灯もないので、随分と暗いが、個室の便座に座った柚子はそこで手錠をした両手で自慰を始めた。

 

 外見とは違って、随分とおませさんのようだ。

 玲子は微笑んだ。

 

 とりあえず、それまでに打ち込んだデータ情報とともに、その映像をひかりの端末に送信した。詳細は伏せたが、不正アクセスの可能性についても言及した。

 時間を確認する。

 最初に梓から連絡を受けてから二十五分──。

 

 果たして、すぐに向こうからの受信記録が返ってきた。

 とりあえずは、これでいいか……。

 

 しかし、大きな問題は誰が学園内のコンピュータに潜入したかだ。

 そして、立花柚子以外の誰の情報に接したか……。あるいは、ほかのデータにアクセスされているかどうかだ。

 場合によっては、龍蔵にも報告が必要になる緊急案件であるのは間違いない。

 まあ、時子さんを通じてにはなるだろうが……。

 

 当然ながら、時子さんには叱られるだろう。

 考えるだけで、いまから憂鬱だ。

 

「今夜は徹夜ね……」

 

 独り言を呟く。

 豊藤のデータに不用意に余人を絡ませるわけにはいかない。最終的にシステムをいじるとなれば、全データを消去してどこかに移してからになるだろうが、当座の調査は玲子自身がしなければならない。

 

 真夫にも連絡をしておくか……。

 玲子は、自分のスマホを取り出した。

 

 そのとき、机上の操作盤が理事長室への訪問者があったことを表示した。

 玲子は身じろぎした。

 そういえば、面会者との約束を予定に入れていたことを忘れていたのだ。

 

 忙しいのに……。

 舌打ちしたいのを我慢して、正規の理事長室に戻る。

 机の上の操作盤から扉を開く信号を出す。

 そして、玲子は、その面会の相手を思い出していた。

 

 伊達(だて)京子──。

 

 いわゆる、生徒たちが勝手に作った“四菩薩”のひとりであり、体育を受け持つの美人教師である。

 面会希望は向こうからだ。

 要件はわからない。

 

 普段であれば、一教師の面会希望など、言いたいことがあれば職員会議を通じてあげろと突っぱねるところだ。だが、今回、面会を受け入れることにしたのは、四菩薩のひとりである彼女が真夫の奴婢候補だからだ。

 龍蔵は、真夫の奴婢として相応しい女十人を支配に収めることを、真夫の正式の後継者として指名することの条件にしているが、四菩薩については最初から、奴婢として相応しい女の中に含めている。

 だから、彼女を真夫に支配させることは、真夫が後継者に正式指名されるためのとりあえずの早道になる。

 だから、いい機会なので、どんな女性なのかを知るためにも、玲子は応じたのだ。

 

「どうぞ──」

 

 玲子が扉の向こうに声をかけると、上下ジャージ姿の伊達京子が神妙な顔で理事長室に入ってきた。



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 第126話 女体育教師の訴え

「お時間を取っていただき感謝します、理事長代理」

 

 運動部出身らしいきびきびした動作で、上下ジャージ姿の伊達京子が玲子の座る机の前までやってきて深くお辞儀をした。

 体育教師である彼女は、確か大学時代の所属は陸上部であり、中距離選手だったはずだ。現在も陸上部顧問のひとりだ。

 胸が大きめな事を除けば、アスリートらしいいい身体をしている。

 

「名前でいいわ。玲子でいいわよ。わたしも京子さんと呼んでいいかしら」

 

 油断を誘う親しみを込めるために、玲子はにっこりと微笑む。

 京子は面食らった感じになった。

 

「あっ、はい、もちろんです。あたしのことはもちろん、なんとでも呼んでください。でも、あたしは、できれば理事長代理と……。名前呼びなど、恐れ多いですし……」

 

「いいのよ。年齢も近いんだし、ふたりきりのときには、少しお互いに砕けましょうよ。わたしも理事長代理といっても雇われだしね。本来は、本学校法人の専属契約の顧問弁護士よ」

 

 実際には、龍蔵から事実上の新理事長として指名されている玲子であるが、対外的には、そういうことになっている。

 なお、学園の専属契約の弁護士というのは、少し前の玲子の本来の肩書だ。

 少なくとも、真夫を編入させる直前は、学園とはそういう肩書で関係していた。

 

「もっと恐れ多いです……。あっ、でも、じゃあ、玲子さんと呼ばせていただきます」

 

「嬉しいわ、京子さん……。それで、どういう話なのかしら。秘密を要することと伝えてきてたけど」

 

 玲子は京子を室内にあるソファに促した。

 一方で、自分は奥の茶器準備のための設備がある衝立の奥に向かう。

 

「コーヒーでいい、京子さん。砂糖とミルクは?」

 

 準備をしながら声をかける。

 

「あっ、いえ、とんでもないです。なんでもいいです……。あっ、でも、あたしがします……」

 

 ソファー側から恐縮している京子の焦り声が聞こえた。

 

「いいから座ってなさい。それで、砂糖とミルクは?」

 

 そこには、ボタンを押せば幾つかの飲み物が抽出できる機器が置いてある。それを使ってコーヒーをカップに注ぐ。

 

「いりません──。ありがとうございます」

 

 衝立の向こうから京子の声が戻る。

 玲子は、コーヒーの入ったカップふたつを準備して、盆に載せて運ぶ。やって来た玲子に接して、慌てて立ちあがろうとする京子を制し、彼女の前にコーヒーを置くと、玲子は京子から見て、斜め向かいになるように腰掛けた。

 

「それで、要件は?」

 

 玲子は訊ねた。

 すると、それまで恐縮していたような表情だった京子の顔が急に険しくなった。

 

「……突然の話で申し訳ありません……。理事長代理……、あっ、いえ、玲子さんは、SS研という生徒の文化部についてご存じですか? 正式の文化部ではなく、生徒間の生徒会で認められた同好会なんですけど……」

 

 この学園における部活動は、大きく二つの区分に分けられ、学園として公認し顧問もいる正式の部活動と、生徒間で作る生徒会が認めた同好会活動になる。同好会はサークルともいい、必ずしも、顧問が必要ではない。 

 SS研は、“Social(社会) Sciences(科学) 研究会”として届けていて、この区分によれば、同好会活動となる。顧問はいない。

 それはともかく、体育教師であり、陸上部顧問のひとりの彼女から、全く関係のないSS研の話が出てきたことにはちょっとびっくりした。

 

「ごめんなさい。その同好会名のことしか知らないわ。来週の文化部発表会における活動発表のリストにあったから記憶はしているわ……。確か、“拷問と刑罰の歴史の企画展示”だったかしら……」

 

 玲子は不自然ではない程度にしらばっくれた。

 そもそも、この伊達京子がなにをどこまで知っていて、SS研について玲子に言及してきたか……。

 しかも、彼女は職員会議ではなく、理事長代理の玲子に直接に話を持ってきたのである。

 

「言いにくいのですが、そのSS研という同好会活動を通じて、複数の女生徒が破廉恥な行為を強要されているという噂があるんです」

 

 京子は神妙そうに言った。

 真夫のことだと思った。

 ひそかに溜息をつく。

 まさか、SS研と玲子の関係までは知らないとは思うが、真夫も最近では結構好き勝手に奴婢になった女生徒たちと愉しくやっている。

 なにかが切っ掛けとなり、それが知られて、一部で噂になったとしても不自然ではない。

 

 まあいい……。

 それを揉み消すのは、玲子の仕事か……。

 

 実のところ、SS研で行われていることが学園内で噂になるのは、これが最初ではないのだ。

 以前の秀也時代には、もっと派手にやっていて、SS研が表向きのままの活動実態ではないことは、公然の秘密のようになっていた時期もあったようだ。

 しかし、秀也はそれを自分の操心術で強引に立ち消えさせ、さらに学園の職員会議などでSS研が話題になろうとしても事前に処置してしまい、さらにそれを議題にしようとした教師は、その口を封じる処置をしたうえに、学園から放逐するということをしていた。

 だから、秀也時代からSS研について教師が触れるのは、ご法度のように扱われているのだ。

 

 京子は、なにかによって、SS研の活動について知ったが、周りに相談しても、古参の教師や職員ほど、無視するように忠告するだけで取り合わなかっただろう。

 だから、思い切って、理事長代理の玲子に直訴しに来たのではないかと思った。

 

「破廉恥な行為とは……? つまり、淫行ということ?」

 

「弱みを握られて、繰り返し犯されているとか……。この学園は良家の子女も多いですし、万が一のことがあればと……。でも、周りに相談しても、なぜか相談に乗ってくれない先生たちがほとんどで……。だけど、万が一事実だとすれば、これは大変なことです。あたしは、一教師として許せなくて……。しかも、ほかの先生方のこれに対する態度も不自然で……。だから、同じ女性である理事長代理……玲子さんであれば、事態の深刻さもわかってもらえるのではないかと……」

 

 京子が言葉を選ぶように、玲子に訴えてくる。

 その表情は真剣だ。

 そして、純粋だ。

 おそらく、彼女は、そういう噂に接し、彼女の中の正義感を動機として動いているのだろうと思う。

 玲子からなにかを探ろうと思って接してきたのではなさそうだ。

 

「ああ、なるほど……。わかったわ。それで、具体的には? もしかして、調査のようなことをしてしまったかしら?」

 

「いえ、まだ。事が事だけに、動いていいかも迷ってしまって……。真実ならすぐに動く必要もあるでしょうが、そこまでの証拠もなくて……。さっきも言いましたが、この学園は良家の子弟も多いので、事実無根だとしても、学園側が動いたことが逆に信憑性を持たせることになるのではないかと……。まあ、実は数名の先生に相談したときに、そう言われて、確認のために動くのを止められたんです。でも、理事長代理の耳にだけは入れておくべきかと……」

 

「わかりました。よく聞かせてくれました。あなたの言う通りに、このことは慎重にする必要があります。わたしが直接に動きます。京子先生は何もしないでください。よろしく願します」

 

 玲子は頭をさげた。

 京子は明らかにほっとした顔になった。

 

「申し訳ありません。こんな信憑性の低い生徒同士の噂などを持ってきてしまって……。具体的な証拠もないのに……。だけど、ほかの先生方が妙に、あの同好会に触れたがらないのも気になってしまって……」

 

「いいのよ……。ありがとう。あとはこっちに任せて頂戴。必ず対処します。先生は念のために、このことは他言無用にしておいてください」

 

「わかりました。よろしくお願いします……。それと、あたしにできることがあれば、なんでもしますので……。でも、ほかの先生方に訊ねるのは慎重になさってください。なにかおかしいんです」

 

「わかりました……。ところで、この噂について、具体的に出ている生徒の名前はあるの? あっ、もちろん、SS研の所属生徒はすぐに調べればわかるんだけど……」

 

 玲子は言った。

 

「女生徒を脅迫して破廉恥なことをしていると噂がある男子生徒の名は、木下秀也という生徒です。でも、彼がどんな生徒なのかということは、なぜか記録にほとんどなくて……。そもそも、何組なのかもわからないんです」

 

「木下秀也──?」

 

 意外な名前に玲子は驚いてしまった。

 

「ほかに出ている名前は? 例えば、脅迫されている女生徒は?」

 

「それはないんです。もしも、名前があがっていれば、その女生徒に直接に訊ねるということも考えられたんですけど……。あっ、そうだ。現在のSS研の部長……同行会長ですね。その生徒の名は坂本真夫という三年生の生徒です。それだけはわかりました」

 

「坂本真夫……。編入生ね」

 

「ご存じだったのですね。ただ、ちょっと前には、生徒会長の西園寺絹香が同行会長になってました。最近になって交替したみたいです」

 

「彼らにも怪しい噂があるの?」

 

 玲子はかまをかけた。

 しかし、京子は首を横に振る。

 

「いえ、それについては別に……。もっとも、その坂本という男子生徒は随分と女子生徒に人気があるみたいで……。まあ、彼については別に……。ただ、SS研については、いい噂はありません。怪しいとしか……」

 

「そうなのね」

 

 どうやら、真夫についてまで、噂の的ではないみたいだ。

 だが、不思議な話だ。

 玲子と交代するように龍蔵の専属秘書となった秀也は、最近では学園における生徒としての活動はほとんどしてないはずだ。

 手続きはしてないが、ほぼ休学扱いだ。

 だから、所属クラスが名簿にないのだ。

 

 その秀也が今更、噂の対象になる?

 なんで──?

 真夫ではなく──?

 玲子は首を傾げたくなった。

 

 それから、玲子は京子といくらかの話をした。

 だが、それ以上の内容は彼女の口からは出てこなかった。

 玲子は、もう一度、この一件は玲子に預け、絶対に京子自身が動かないように念を押してから彼女を帰した。

 

 そして、すぐにもう一度理事長室の隠し部屋に戻る。

 まずは、学園内に潜入させている豊藤の手の者のひとりに連絡をする。

 

「わたしよ……。玲子です。体育教師の伊達京子……。しばらくのあいだ、A級監視対象よ。接触した相手、内容、時間と場所、すべて報告をあげてちょうだい……。うん、うん……。そうよ……。もちろん、SNSもメールもよ。完全に傍受しなさい。報告は一日ごとでいいけど、部外者との接触する動きがあれば、その都度連絡しなさい……。うん、うん、そうね……。じゃあ、よろしく頼むわ」

 

 電話での指示が終わると、玲子は次いで、京子に関する情報をホストコンピュータで検索する。

 学園の教師についても、女生徒同様にひそかに集められたデータファイルがある。

 伊達京子に関するデータを開く。

 

 大卒後二年目の女性体育教師……。

 身長165センチ、体重51キロ……。

 胸は結構大きく90センチ……

 

「へえ……」

 

 思わず声をあげた。

 学園の調査によれば、彼女は処女のようだ。敬虔なクリスチャンでもあるらしい。

 映像データを検索する。

 自慰の記録などを確認する。

 そっちはそれなりというところだ。だが、頻度は少ない。月に数回程度というところか……。

 

 性経験もない──。オナニーの頻度も乏しい──。さっきの感じだと、正義感の強い性格のようだ。性についてはかなりの潔癖性があるという気もする。

 玲子は、これから数日間、京子の飲食物に強い媚薬を混入させるよう指示のメールを送った。

 

「あとは、真夫様次第ね」

 

 玲子は小さく呟いた。



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 第127話 生徒会長・ハード志願

 絹香は四つん這いになって、地下の調教部屋を進む。

 真夫が女生徒たちを責めるための器具が壁際に並んでおり、壁の一角にはさまざまな責め具が置かれている棚もある。

 さらに、奥は身体を洗うための入浴設備なども完備されていた。それだけではなく、浴室には浣腸プレイもできるように排泄物を洗い流す設備までついている。ここはそういう場所なのだ。

 さらに、この地下ルームからは、どこかに繋がる地下通路とも連接してあり、移動のためのシャトルまであるみたいだ。そんな地下通路が学園の地下にあるとは知らなかった。

 それはともかく、真夫が絹香に示したのは、大きな調教ルームの真ん中だ。

 天井のフックに繋がる鎖が垂れている。

 すると、真夫がその鎖に先端に革製の手枷を繋げた。

 

「今日はハードなお仕置きでも文句はないと口にしたね?」

 

「あっ、はい……。お願いします……」

 

 真夫の問い掛けに、絹香は四つん這いのまま頷く。

 

「もう一度、訊ねるけど覚悟はいいね?」

 

「もちろんです。存分に苛めてください……。もう絹香は真夫さんのものです」

 

 絹香に依存はない。

 それに、正直にいえば、なにをされるのだろうという怖さとともに、期待のようなものもある。

 辱めて欲しい……。

 苛めて欲しい……。

 絹香の心の奥底には、淫らで陰湿な責めに対するぞくぞくするな欲望がうごめいている。

 

「よし──。なら、徹底的に調教してやろう。ハードにね。自分が口にしたことを後悔するなよ──。立て──」

 

 絹香は手枷付きの鎖の下で立ちあがる。

 真夫が両手を挙げさせた絹香の両手に手枷を嵌めた。

 そして、リモコンが操作されて、モーター音とともに両手の鎖が天井に巻きあげられていく。

 

「うくっ」

 

 両手が真っ直ぐに伸び切っても、鎖の巻き上げが止まる気配がなかった。

 体重が手首と肩に一気にかかる。

 絹香は天井を仰ぐようにして、反射的に枷の嵌っている両手で鎖を握りしめた。

 それでも、さらに頭上に吊りあげられていった。

 絹香のアナルにはアナルビーズ、股間には魚肉ソーセージを挿入されたままである。

 

「ああっ──」

 

 絹香は悲鳴をあげた。

 鎖はさらに上昇していく。

 

 爪先立ちになった身体がさらに浮き、ついに足先が完全に床から離れた。

 二本の腕に重圧がのしかかってくる。

 

 絹香は体力のある方じゃない。

 腕と肩が痛い──。

 引きつるような痛みが身体に走った。

 

 足先を床に伸ばそうと、両脚をもがかせたが、それにより背筋に激痛が加わり、すぐにもがくのをやめた。

 鎖は、十センチほど床からはなれたところで静止する。

 

「う、うう……、痛い……」

 

 絹香は思わず呻いた。

 その瞬間、ぱんと平手が絹香の乳房を横殴りに炸裂した。

 

「きゃん──」

 

 強い力じゃないが、叩かれたことに衝撃を受けてしまう。

 同時に、なぜか不思議な酔いのようなものが身体を包む。

 

「勝手に喋るな──。調教中だ──。それよりも、外に出ているアナルビーズの玉が二個になっているな。最初はひとつしか出てなかったはずだ。どうして、勝手に外に出してるんだ?」

 

「あ、ああ、申し訳ありません……。出てしまいました……」

 

 絹香は謝罪の言葉を口にした。

 

「悪いと思っているか?」

 

「お、思っています」

 

「わかった。じゃあ、罰を与える」

 

 真夫は棚から黒いクリップを取り出してきた。

 それをつんと上を向いていると乳房の先端で開く。

 はっとした。

 開いた口の中に乳首が挟まれる。まだ口は閉じてないが、乳首の付け根までクリップが完全に挟まれた。

 

「覚悟はいいね、絹香」

 

「は、はい……」

 

 真夫が指を離して、三センチほどのクリップに乳首が押し潰された。

 

「んぐうっ──」

 

 激痛が走る。

 強く噛んだ歯の隙間から声が漏れる。

 

「もうひとつだよ」

 

 反対側にもクリップが装着される。

 

「あぐうっ」

 

 痛みでどっと全身から新たに脂汗が流れ出す。

 

「おまけだ」

 

 さらに真夫は十センチほどの細い鎖のついたゴルフボールほどの金属の球を持ってきて、それぞれのクリップに繋げてぶら下げる。

 

「あああ──」

 

 乳首が重みで下を向く。

 絹香は呻いた。

 

「これは、さっき厚生棟で二分以内に三周するという課題を果たせなかった罰だ。そして、アナルビーズを一個外に出してしまった罰は、この宙吊りだ。一個につき十分だな。十分間、そのままだ」

 

「は、はい……」

 

 絹香は宙吊りと乳首の痛みに耐えて頷く。

 すると、真夫が絹香の背後に回った。

 眼の上になにかを巻かれ、視界が消滅してしまう。

 

「あっ」

 

 思わず声をあげた。

 目隠しをされたようだ。

 頭の後ろで留め具のようなもので締めつけられた感覚があった。

 そして、真夫が離れる。

 あとは、なにもされずに、そのまま宙吊りのまま放置された。

 

 時間が流れ出す。

 真夫もそばにいるのだと思うが、その気配が完全になくなる。絹香は、まるでたったひとりでここに取り残されているような気分になった。

 刻々と時間だけが進んでいく。

 だんだんと恐怖のようなものを感じてきた。

 

「ま、真夫さん……?」

 

 そして、名前を呼んでしまった。

 だが、返事はない。

 にわかに不安が拡がっていく。

 

「あっ、真夫さん……。お、おられますよね……?」

 

 再び言った。

 さっき勝手に口を開いたことで、頬をはたかれたが、放っておかれるよりも罰を受けたかった。

 なにもされないというのが、だんだんと絹香の恐怖を拡大していく。

 

「う、うう……」

 

 時間だけが過ぎていく。

 そのあいだに、革枷を嵌められている手首と、両腕に全体重がのしかかり、容赦なく体力と気力を奪い続けていく。

 

 汗は全身から流れている。

 かなりの汗だというのはわかる。

 顔や耳の横、顎から乳房、そして、脇から横腹へ……。さらに内腿から……。

 全身のあちこちから玉の汗が滴り落ちていくのを感じる。

 

 やがて、ぽたっ、ぽたっと足の指の先から床に向かって汗が落ちる音が聞こえだす。

 そして、なによりも、アナルからアナルビーズの球が外に出そうだった。

 必死に力を入れる。

 だが、足が宙に浮いていると、あまり力が入らないのだ。

 脚を踏ん張れなくて、どうしてもアナルが緩みそうになる。

 

 なによりも、痒い……。

 

 ぶるぶると腰を動かす。

 すると、じわじわと球体がアナルの外に出ていく気配を感じた。

 急いでお尻を今まで以上の力で締めつける。

 

「あう……、うう……」

 

 必死にお尻に力を入れ続けている。

 身体が痙攣のような震えを始めた。

 

「はあ、はあ、はあ……。だ、だめ……」

 

 いよいよ、絹香の息が荒くなり、その息の音が大きく響きだす。

 

「ま、真夫様──」

 

 耐えられなくて、今度は絹香は大きな声をあげた。

 不意に、左右の脇の下を同時に撫でられた。

 汗びっしょりの脇から身体の側面に向かって真夫の手が滑り落ちていく。

 

「ひゃああん──」

 

 絹香は奇声をあげて身体を悶えさせてしまった。

 途端に身体への重圧が増す。

 

「あくっ」

 

 今度はまたもや呻き声をあげてしまう。

 

「勝手に何度も喋ったな。罰として十分追加だよ」

 

「うう……」

 

 いまどのくらいの時間が経過して、残りがどのくらいなのかはわからない。しかし、少なくとも、十分追加ということは、これまで吊られていた時間以上をさらにこうやって過ごさないとならないということだろう。

 とても耐えられるとは思わなかった。

 

「さて……。ところで、ソーセージはどうなっている?」

 

 真夫の声が前から聞こえた。

 そして、指が絹香の股間の中に押し入ってきた。

 

「んんんっ」

 

 絹香はその刺激に宙吊りの身体をそりあげる。

 挿入された指が絹香の気持ちのいい場所をまさぐる。それでわかったが、絹香の股間は信じられないくらいに濡れていた。

 

「あっ、ああ……」

 

 力が抜けそうになり、必死にアナルを踏ん張る。

 そして、真夫は挿入した指を無造作にくるくると回してから、すっと挿入されていたソーセージを外に抜いていった。

 

「ふわあああっ」

 

 絹香は甘い声をあげた。

 

「ほら、おやつだ」

 

 すると、べっとりと絹香自身の体液のついたソーセージが口の中に押し込まれた。

 

「んぐうっ」

 

 さすがに思わず吐き出しそうになる。

 

「……もしも、吐きだしたら、明日の朝まで宙吊りだぞ」

 

 さらにソーセージを押し込まれながら、真夫が冷たい声で言った。

 その瞬間に、絹香から抵抗の気持ちが消滅する。

 

「う、うう……」

 

 絹香は気持ち悪さを我慢して、必死にソーセージを喉の奥に呑み込む。

 やっと全部食べ終わる。

 

「じゃあ、今度はご褒美だ」

 

 目隠しをしている頭の後ろに手を置かれて、少し下を向かされる。

 真夫の唇がぴったりと唇に当てられて、少しずつ液体が口の中に注がれてきた。

 ウーロン茶だ。

 絹香はそれを飲みくだす。

 

 続いて、真夫の舌が絹香の口の中を蹂躙した。

 かっと身体が熱くなり、頭の芯が灼けるような感覚に陥る。

 なにがどうなっているかも、一瞬、頭の中から消える。

 ただただ、真夫の舌にふるいつく。

 口の中の粘膜が舌で愛撫される。

 頭が真っ白になるような快感だ。

 お尻から力が抜けそうになっていることに気がついて、慌てて絹香はアナルを急いで締めつけた。

 

「キスが好きか? こんな風に苦痛に喘いでいるはずなのに、絹香の股間からははしたない蜜が垂れ続けているぞ」

 

 口づけをやめた真夫が揶揄うように笑う。

 

「き、気持ちよかったです……。ありがとう……ございます……」

 

 なにも考えられずに、絹香は本心からそう言った。

 

「そうか。じゃあ、しばらくそうしてても耐えられるね」

 

 いつの間にか、真夫は再び背後に立っていた。

 後ろから乳房を両手で包んで、揉みしだき始めたことから、それがわかった。

 

「んはあっ、んぐうっ──。ああっ、いやあ──」

 

 揉まれると快感も走るが、クリップと重りによる激痛も絹香の身体を貫く。

 気持ちいいのか、痛いのかわからなくなり、絹香は拒絶の言葉を口にしていた。

 

「おや? 俺は絹香のご主人様だぞ。俺のすることに文句があるのか?」

 

 すると、真夫が胸を乱暴に揉みながらちょっと不機嫌そうに言った。

 

「あっ、いえ……、も、申し訳ありません……き、。絹香の身体は……全部……、真夫さんのものです……。ぞ、存分になさってください」

 

「そうだろう?」

 

 今度はお尻を掴まれて揉まれる。

 

「ひんっ、くうっ」

 

 全力でアナルを締めつけている力が緩みそうになり、必死に力を入れた。

 

「んふううっ」

 

 お尻から手が離れたかと思ったら、次いで、花芯に指を挿入された。

 快感が一気に拡大する。

 

「あああっ」

 

 すると、さらにクリトリスが優しく刺激される。

 快感の槍が絹香の全身を貫く。

 一方で、真夫が空いている手で乳首の重りを持ちあげてから、宙で離した。

 

「あううう──」

 

 乳首に走った激痛に、絹香は高い声を放って、身体を捻らせた。

 そのあいだも、真夫の指は膣をいじり、クリトリスを揺らしている

 痛みと疼きが混ぜこぜになって、身体の芯を焼く。

 

「ああっ、いやああっ、だめえ──」

 

 絶叫した。

 アナルから新たな球体が滑り出てしまったのだ。

 背をのけぞらせてお尻を締めたが、もう遅かった。

 完全に数珠玉が一個外に出たと思う。

 

「また、勝手に外に出したね。十分追加だ」

 

「そ、そんな……。もうお許しを……」

 

「逆らうなら、十五分延長だ──」

 

「ああ、そんな……」

 

「嫌なら、二十分だね──」

 

「い、嫌じゃありません──。十五分でお願いします──」

 

「ははは、じゃあ、そうしよう。その代わりに、また玉が出たら時間追加だぞ」

 

「う、うう……。わかりました、真夫さん……」

 

 絹香は絶望に陥りながら、アナルの筋肉を締めつけた。

 だが、一方で宙吊りの身体のあちこちに激痛が走る。

 どんどんと体力が抜けていき、力が入らなくなる。

 絹香は、アナルに込める筋力がもはや限界に近付いていることを予感していた。

 いや、そもそも、巨大な苦悶に意識まで遠くなりそうだ。

 

「くっ、うう……」

 

 絶望感とともに、手枷を嵌められている両手で天井から伸びる鎖を握る。

 だが、もうほとんど指にも力が入らない。

 

「耐えろ──。苦痛の向こうに快感が見えるまでな……」

 

 真夫は絹香の汗びっしょりの全身に愛撫を続けている。

 胸を揉んで重りを揺らして乳首に耐えられない激痛を与え、股間に指を挿入しては律動させ、クリトリスを撫でていじくり悶えるほどの快感を注ぎ込む。

 快楽に混ぜられた苦痛は、強い快感に置き換わる。

 しかも、それはどんどんと大きくなる。

 痛みや辛さがおかしな感覚に変化していく。

 一方で、絹香は必死にお尻を詰めつけている。ほぼ感覚が消えていく中で、ここだけは意識を集中させていた。

 

「ああっ」

 

 また、次の球体が外に出そうだった。

 絹香は何度も繰り返しているアナルの引き締めをやる。

 だが、真夫はそれを狙うように、鼠径部から太腿の付け根をくすぐって、絹香から力を抜かせさせるような愛撫を加えてくる。

 天井から脱力させている身体をぶら下げられながらも、刺激を受けるたびに身体を反応させてしまう。

 しかし、その動きさえも、絹香から最後の力を抜き取っていく。

 

「うう、ああああっ──」

 

 絹香は吠えるような大声をあげた。

 限界が近いことを悟ったのだ。

 ちょっとでも、力を加え直そうとして吠えたのだ。

 

 そのときだった。

 なにかがアナルの入口を撫でた。

 

「ひゃっ」

 

 指ではない──。

 もっと、繊細なものだ──。

 

「ひゃん──」

 

 悲鳴をあげた。

 まただ──。

 しかも、離れていかない──。

 執拗にアナルビーズの存在のために大きく開いているアナルの周りをくすぐられる。

 はっとした。

 

 筆だ──。

 

 真夫はどうやら、小筆のようなもので絹香のアナルをくすぐっているのである。

 渾身の力を込めているお尻の筋肉が一気に抜けていく……。

 

「うあああっ、やめてください──」

 

 ちょっとでも筆のくすぐりから逃げようと、絹香は腰を突き出すようにして叫んでいた。



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 第128話 女会長、エンドレス調教

 筆だ──。

 

 絹香は宙吊りになっている自分の身体を小筆が這いまわり始めたことに気がついた。

 しかも、全ての意識を集中させているアナルに対してである。

 

「ああっ、だめえっ、だめええ──。いやああ──」

 

 絶叫した。

 

「なんだ、文句があるのか? 絹香の全存在は俺のものなんだろう? 俺のものを俺がなにをしようが勝手だと思うが、絹香はそれを否定するのか?」

 

 真夫がくすくすと笑う。

 そして、小筆が離れた。

 

「あっ、いえ……、申し訳ありません……」

 

「じゃあ、くすぐっていいんだな?」

 

「……は、はい……」

 

「ならば、口に出すんだ。アナルをくすぐってくれってね」

 

「ああ……、絹香のお尻をくすぐってください……」

 

「わかった」

 

 再び、真夫の操る筆が絹香の尻たぶを這いまわりだす。

 

「ひいっ、ひんっ、ひいいい」

 

 みるみると絹香のお尻の緊縮力が低下していく。

 

「あっ、あああ……」

 

 次の玉が外に出ようとしているのがわかる。

 背中をそらせながら、絹香はアナルに筋力を注ぎ直す。

 

「ほらほら、頑張らないと、球が外に出るぞ」

 

 だが、お尻の表面を動き回る真夫の動かす小筆がそれを邪魔する。

 懸命にお尻を閉じて、球を押し戻していく。

 

 だが、絹香は気がついた。

 アナルビーズを挿入するときに使って、絹香を苛む痒みの原因になっているローションがいまは溶けて出して、潤滑油となって球体に滑りをよくしている。

 だから、球体を襲い戻すためには、最初に比べて、数倍の力が必要とするようだ。

 

「また、次の球体が外に出てきたな……。出れば、十分間追加だ。そもそも絹香は俺の命令に逆らうのか?」

 

「い、いえ──」

 

 真夫から叱りの言葉をかけられて、慌ててすべての余力をアナルに注ぐ。

 じわじわと球体がお尻の中に戻っていく。

 すると、真夫が飽きてくれたのか、やっと小筆が離れた。

 それもあり、なんとか完全にお尻の中に押し戻せた。

 絹香の中にやり遂げたという安堵の感情が拡がる。

 

 すると、いきなり無防備な脇の下にお筆が襲い掛かった。

 しかも、左右同時にだ──。 

 

「いやああ、んふうう、やめてええ──」

 

 絹香が身体を捻り足をばたつかせてしまった。

 つるんと球体がアナルの外に出てしまった。

 

「また出たね」

 

「ああ……」

 

 絹香は吊られたままの裸身を揺すり、歯を喰いしばって最後の力をお尻に注ぐ。

 だが、もう力が入らない……。

 

「ひあああっ」

 

 また、アナルの入口を小筆でくすぐられた。

 左右から二本でだ──。

 呆気なく、次の球体が外に出てしまう。

 

「また出たな。さっきのと合わせて、二十分延長だ。いいね──」

 

「は、はい……、真夫様……」

 

 絹香は朦朧しながら言った。

 しかし、ついに、全身の力は抜け切り、絹香はがくりと首を垂らしてしまった。

 意識が急速になくなっていくのを感じた。

 

 


 

 

 はっとして、絹香は顔を持ちあげる。

 

 どうやら、意識が飛んでしまっていたようだ。

 どのくらいの時間なのかはわからない。

 だが、そこにあるのは苛酷な現実であることには変わりない。

 いまだに身体は両腕で宙吊りにされており、痺れきって一切の力は入らない。目隠しもされているので、真夫の存在もわからない。

 

「ま、真夫さん……?」

 

 声をあげた。

 すると、モーター音がして身体がさがりだした。

 足の裏が床に着く。

 

「あんっ」

 

 しかし、支えられなくて、身体を崩してしまう。

 鎖はゆっくりと降下し、やがて、絹香の両膝が床に着いた状態でとまった。

 とてもじゃないが、絹香の身体は両手を吊られている状態でなければ、身体を支えられなくなっていたのだ。

 さらに鎖は下がって、上半身が横に近い格好になったときにやっと再び静止した。

 身体は疲れ切っている。

 絹香は膝をついて身体を前に倒し、吊る挙げられている両手に体重を預けるようにして身体を支えている恰好だ。

 

「気絶するまでよく頑張ったな」

 

 真夫の声がお尻側から聞こえた。

 すると、いきなりアナルビーズが真下に向かって、一気に引っ張られた。

 

「はあああっ」

 

 絹香は目隠しをされている顔を上にあげて、悲鳴のような嬌声をあげてしまった。

 身体の内側を抉られるような、それでいて、あまりにも鮮やかすぎる快感だった。

 しかも、その快感が消えていかない。

 学園の図書館でアナルビーズを挿入されて以来、ずっと存在し続いていた快楽の疼きがずっとそのままで居残っている。

 淫具がなくなったはずのアナルだったが、まるでまだ苛まれているように燃えるような強烈な疼きのうねりはそのままだった。

 

「やはり、絹香はアナル奴隷に決まりだな。アナルの感度が抜群だ。だから、ついつい苛めたくなる」

 

 尻たぶに真夫の両手がかかり、左右に押し広げられる。

 そして、真夫の怒張が絹香のアナルにあてがわれたを感じた。

 

「あっ、いやっ」

 

「じっとしてろ──。ゆっくりと息を吐け──」

 

「は、はい──」

 

 慌てて、言われた通りに息を吐いていく。

 すると、ゆっくりとアナルの中に真夫の男根が侵入してきた。

 潤滑油のようなものを改めて塗っているのだろう。

 それを利用して、ずずずと滑るように入ってくる。

 さっきまで異物の入っていた絹香のアナルは、しっかりとそれを受け入れている。

 

「ああっ、あぐっ、ああああ……」

 

 絹香は声をあげていた。

 激痛の苦痛はある。

 しかし、それと同時に、なんとも言えないむず痒いような感覚も襲ってくる。

 ぐいぐいと腸が押し広げられて、途轍もない圧迫感を感じる。

 ついに、真夫の肉棒を根元まで受け入れたと思った。

 すると、抉られた肛門を逆に抜かれていく。

 それが繰り返す。

 

「あっ、ああっ、ああ……」

 

 律動が繰り返される。

 痛みはだんだんとなくなり、快感の方が強くなっていく。

 怒張が侵入してくると、腸の粘膜が強く擦られて圧迫感の苦悶が訪れる。抜かれるときには明らかに気持ちいい。

 排便のときの解放感に似ている。

 

「あんっ、あっ、くう……」

 

 苦痛と快感が交互に繰り返し、絹香は錯乱してきた。

 

「気持ちのいい場所がわかってきたぞ。ここだね」

 

 すると、真夫の怒張に侵入の角度が変わった。

 膣に近い一点が強く亀頭で擦られたのがわかった。

 

「ひあああっ」

 

 すると、背骨が砕けたのかと思うほどの衝撃が駆け抜け、絹香は全身をがくがくと震わせて背中をのけ反らせてしまった。

 

「ひあああっ、ひああっ、あああ──」

 

 なにも考えられない。

 激しい痺れのような衝撃が続く。

 想像もできなかった感覚に、絹香は悶え狂った。

 そして、奥まで挿し込まれる。

 すぐに、さっきの快感の場所を擦られながら、怒張が引き抜かれていく。

 全身が砕けるほどの気持ちよさが襲い、思考が奪われる。

 

「ああっ、あっ、ああっ、おおっ、んああっ、ああっ」

 

 なにも考えられなくなり、絹香は沸きあがる快感に身を任せて悶える。

 

「はじめてのアナルセックスでそれだけ感じることができればすごいぞ。し、締めつけも凄いな……」

 

 律動を続けている真夫もまた、吐息のような息をしながら愉しそうに言った。

 気持ちよさそうな声だ。

 それだけで、絹香も嬉しくなる。

 

 そして、律動が繰り返す。

 沸きあがる痺れのまま快感をむさぼる。

 気がつくと、絹香からお尻を突き出して、腰をうねらせ、真夫の男根を必死に締めあげていた。

 

「あああ、だめええ──」

 

 津波のような官能の大波が襲い掛かる。

 衝撃が込みあがり、一気に脳天と足先に抜けていく。

 

「ああああ、いぐうう──」

 

 絹香はついにがくがくと身体を痙攣させながら絶頂した。

 

「だ、出すぞ……」

 

 真夫もまた精を放ったのがわかった。

 

「あっ、ああ……」

 

 熱い柄精がアナルの奥底に注がれるのを感じながら、再び意識が消えていくのを感じた。

 

「最初のアナルセックスで気絶するほどの快感に浸るなんて、できすぎだろう……」

 

 真夫が揶揄うような声を聞きながら、絹香は完全に無意識の中に引き込まれてしまった。

 

 


 

 

 気怠さとともに、意識を戻した。

 しかし、怠さだけではなく、同時に快感の余韻のようなものにも浸っている。

 薄っすらと視界がはっきりする。

 どうやら、目隠しはないようだ。

 乳首の激痛は消滅していた。

 まだひりひりとした鈍痛は残っているものの、あのクリップは外されていた。それについてはほっとした。

 

 

「やっと目を覚ましたか? アナルセックスで絶頂して気絶するとは、本当に絹香はアナル奴婢の才能があるな」

 

 真夫だ。

 それでわかったが、絹香はどうやら、真夫に横抱きにされているようだ。

 

「ま、真夫さん……。あれ?」

 

 身体を動かそうとして、絹香はいつの間にか、今度は縄掛けをされていることに気がついた。

 上半身を後手縛りにしっかりと緊縛されている。

 また、真夫は下着だけを身に着けた半裸だ。絹香はその真夫の膝に横抱きにされているのである。

 

「よく頑張ったな。俺の精を注がれたから、もう痒みはないだろう?」

 

「は、はい……。でも、まだ違和感は……」

 

 アナルを犯された疼きはまだ残っていた。

 官能は、まるでとろ火にかけられているように、いまだに絹香の身体の芯でくすぶっている。

 絹香は、ふつふつと沸く妖しい痺れに包まれたままだ。

 

「真面目な優等生で知られている生徒会長様も、アナルでよがる淫乱マゾ奴隷だな」

 

「は、はい……、絹香は真夫さんのマゾ奴隷です……」

 

 屈辱も羞恥も、そして、アナルで快感を覚えることも、結局のところ絹香にとっては我を忘れるような欲情に繋がった気がする。

 だんだんと淫らで、恥ずかしいことや屈辱的なこと、そして、痛みさえも快感を覚える女に変えられていく……。

 そんな感じがする。

 そして、それは、絹香にとって、好ましいと思うような変化には違いなかった。

 

「さて、休んだな。じゃあ、第二限目だ──。まだまだ休めないぞ。ひかりちゃんたちは、もう少し遅れるらしいから、またたっぷりと頑張ってもらおうか」

 

 真夫が絹香を膝の上からおろして立たせた。

 絹香は愕然とした。

 

「えっ、そんな……」

 

「そんなじゃないだろう。本来は三十分以上の宙吊りが残ってたんだ。それを勘弁してやったんだから、それに代わる罰は受けないとな。いずれにしても、体力作りだ」

 

 真夫は棚から枯れた草を丸めたようなものを編んでゴルフボールくらいの球体にしたものを一個持ってきた。

 それを絹香の股間にあてがうと、無理矢理に押し込んでくる。

 さらに、その上から真っ赤なふんどしをされて、股間を締めあげられる。

 

「ああっ、あんっ」

 

 ふんどしの布の喰い込みで、思わず恥ずかしい声をあげてしまった。

 しかも、ふんどしが喰い込んだ股間は、さっそく妖しい疼くを発生させ、ぞわぞれとした甘い痺れのようなものを絹香に与えてくる。

 

「こっちのエアロバイクが次の調教の課題だ」

 

 真夫は部屋の一角にある自転車漕ぎのトレーニングマシーンに絹香を座らせる。

 勝手におりることができないように、脚や腿に革ベルトをかけられる。

 そして、横にトレイに乗せた機械を運んでくると、まずはエアロバイクにコードを繋ぎ、さらに機械からそ伸びた電極のようなものを絹香の両乳首に繋げてしまった。

 

「えっ、えっ……?」

 

 いきなりのことでなにがなんだかわからない。

 

「つまりは、電撃付き自転車漕ぎだ。速度が十キロ以下になると、自動的に乳首から電撃が流れるようにセットするぞ。十秒後に開始だ」

 

 真夫が笑って、トレーニング機器の横の機械になにかを入力してスイッチを押す。

 一瞬、呆然としていたが、すぐに言われたことの意味がわかり、絹香は悲鳴をあげて、慌てて自転車のペダルを全力で回し始める。

 すでに疲労困憊だが、絹香は電撃の恐怖をばねにして必死に脚を気力と体力を注ぎ込む。

 あっという間に、全身が真っ赤に染まり、滝のような汗が流れ出した。

 

 まだまだ、真夫の絹香へのマゾ調教は続くようだ……。



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 第129話 御曹司少女と天才下級生

 ひかりは、茶会の終わった後、ハウスの中にある客室のひとつに立花柚子(ゆずこ)を呼び出した。

 今日のサロンの招待者だったほかの四人の一年生は先にシャトルバスで帰ってもらうことにしている。(あずさ)(なきさ)もだ。

 大人しい渚はともかく、傍若無人の梓は残って柚子との話し合いに残ることを望んたが、この柚子がなにをどう情報を握っているのか判断がつかない。

 だったら、手の内は見せないに越したことはないとして説得した。

 

 いずれにしても、ひかりたちの秘密を知っているなどと、馬鹿げた脅迫をする愚か者を許すつもりはない。

 そんな者は、真夫の手を煩わすまでもない。

 金城家の力をちらつかせるだけで十分に対処できる。

 

 それにしても、痒い……。

 

 梓が苦笑しながらも、本当にひとりにしていいのかと念を押したのは、ひかりが真夫にによって施されている仕掛けがあるからだ。

 今日の昼休み以降、ひかりは、真夫によって淫具付きの革の下着を装着させられ、下着には勝手に脱げないように鍵がかけられていた。そして、その内側に装着されている大小のディルドによって花芯とアナルを貫かれているのだ。

 ひかりは、その刺激とずっと戦っている。

 しかも、そのディルドに掻痒感を与える媚薬をたっぷりと塗られていた。

 

 さらに、胸も革のベルトを乳首の上にきっちりと巻き付けられている。もちろん、乳首に掻痒剤のローションを塗布されている。

 ひかりは、猛烈なむず痒さと戦いながら、茶会を過ごし、さらに、柚子という小柄な一年女子と対決をしようとしているということだ。

 

 茶会のあいだは、梓の悪戯で幾度もディルドを振動される辱めを受けたが、こうやって、梓を先に返してしまうと、大丈夫かと苦笑した梓の心配が理解できてしまった。

 問題ないと思ったのだが、繰り返し甘美な刺激を受けてしまったひかりの身体は、ちょっと刺激から離れるだけで、どうにもならない焦燥感に見舞われ始めている。

 

 苦しい……。

 早く、真夫に痒みに襲われている胸と股間を凌辱して欲しい。

 とりあえず、持っている精神力の全てを利用して、目の前にいる柚子に追い詰められている内心がばれないようにしようと思った。

 

「改めまして、一年の立花柚子です。父がお世話になっています」

 

 柚子には、シャトルバスで戻る四人を見送るあいだ、茶会の席で待っていてもらい、その後にこの客室に案内をした。

 すると、まずは柚子がにこやかにひかりにお辞儀をした。

 

 柚子の顔には、連絡先を書いたメモとともに、脅迫文めいた一文を書いて寄越してきた後ろめたさのようなものも、ひかりを脅してなにかを強要しようというような悪辣さの陰もない。

 ひたすらに陽気でにこやかな笑顔があるだけだ。

 それだけに、一体全体、この娘はなにを考えているのだろうと困惑してしまう。

 

「君のお父さんがぼくの実家の系列の会社の役員ということは知ってるんだね?」

 

 ひかりは、小さなテーブルを挟んで向かい合うように、お互いにソファに腰掛けてから言った。

 

「ええもちろん。金城家の力は強いですから、あたしの父など、吹けば飛ぶような存在ですね」

 

「へえ、それなのに、これ? いい度胸しているね」

 

 ひかりは、さっきサロンの途中で受け取ったメモをテーブルの置く。

 そこには、柚子のアドレスとともに、ひかりを怒らせた一文が添えてある。

 

 

 

 〈私は金城様たちの秘密を知っています。〉

 

 

 

「金城様にお褒めいただいて恐縮です」

 

「別に誉めてはいないっ──」

 

 ひかりはむっとして、つい大声を出してしまった。

 

「それは申し訳ありません。でも、ふふ……」

 

 だが、目の前の柚子は少しも動じた様子もなく、にこやかな微笑みのままだ。

 ひかりは、柚子を睨みつけた。

 どうにも、この柚子という下級生に面すると調子が狂う。

 妙にひかりに対して、マウントを取ってくる雰囲気がある。

 とりあえず、なにを考えているのか聞き出さないければならない。

 そのためには、まずは、この柚子から主導権を確保しないと……。

 

「……まあいいよ……。とりあえず、これを見てくれ……」

 

 ひかりは、この部屋にあるテレビをつけて準備していた映像データを再生させた。

 さっき、玲子さんからひかりのスマホに送られたデータをテレビに内蔵のハードディスクに転送させたものだ。

 映像が流れ出す。

 テレビには、半裸の柚子の姿が映し出される。

 学園の隠しカメラで撮影された柚子の痴態だ。

 ひかりは、ほんの少し確認しただけなので、ちゃんと見るのはこれが最初だ。

 

 学園内の柚子の寮のようだ。

 記録用の映像でもあるから、時間が文字でされている。二日前の深夜一時過ぎとあった。

 廊下の常夜灯の薄明かりの中を柚子は薄いネグリジェだけの格好で素足で歩いている。

 乏しい灯りでも十分に映像が綺麗に撮影されており、柚子が肌が透けるネグリジェ以外のものを一切身につけずに歩いているのは明白だ。

 そして、映像が柚子の横顔にアップになる。

 唇を噛みしめ、痛みでも堪えているように見えた。

 だが、ひかりには、それが苦しみの表情でないのはすぐにわかった。

 悦んでいるのだ。

 顔は上気し、鼻穴が少し開き気味だ。

 

 次いで、再び全身の映像に切り替わる、

 すると、柚子はトイレの前で身につけていた一枚も脱いで、廊下に捨てるように置くと、全裸で共用トイレに入っていった。

 さらに、映像が切り替わる、

 真っ暗だが、天井からの映像だとわかる。

 さっきの柚子だと思われる女生徒が様式トイレに座ってオナニーをしている。その映像がしばらく流れ、やがて、達したらしく、身体を震わせながら突っ張らせる。

 

 映像は十五分くらいだろうか。

 再生のあいだ、柚子もひかりもひと言も発しなかった。

 もっとも、柚子は思ったよりも衝撃を受けた様子はない。顔色も変わらない。

 しかし、それはブラフだろう。

 こんな痴態の映像を見せられて、冷静でいられるわけなどないのだ。

 

「……随分と変わったことするんだね。面白い映像だよね」

 

 ひかりは言った。

 だが、柚子は微笑んだまま、視線をひかりに向けてきた。

 

「……へえ、この映像がまだあったんですね……。ちゃんと消したと思ったのに……。まあ、多分、バックアップデータですか? 頑張ればそこまで入ることもできたかもしれないけど、そこまでする必要も感じなかったですしねえ」

 

 そして、柚子がくすくすと笑った。

 ひかりは、どうしてこんな映像を見せられて、平然としているのかが不思議だった。

 柚子にはまったく動じた様子もない。

 また、いま、おかしなも口にした気がする。

 データを消した?

 

 そして、思い出した。

 そういえば、玲子さんからのメールに、学園で隠し撮りしていたこの柚子のデータに不正アクセスがあったと書いてあった気がした……。

 ほかのことに気をとられていたから、ちょっと忘れていたが……。

 もしかして、この柚子が……?

 いや、この柚子ができる感じはない。

 だとすれば、彼女に手を貸した誰かいるとか……?

 

「金城様、これを見てください」

 

 すると、柚子が横に置いていた鞄からなにかを出して、テーブルに拡げた。

 十枚ほどの写真だった。

 それがテーブルに拡げられる。

 ひかりは、目を丸くした。

 

 そこに写っていたのは、絹香と双子の侍女たちだ。

 だが、ただの写真ではない。

 例えば、後手に拘束された絹香の双子のどちらかが、下半身を貞操帯らしき革帯ひとつだけの姿で後手に拘束されて、S級寮のロビーを這いつくばっている写真があった。

 また、次の写真は、双子が両方写っている。多分、絹香の部屋だろう。そこで、ひとりは両手を天井から吊られて立たされていて、もうひとりは跪いて高尻姿で蹲っている。その写真では絹香が操作具らしきものを手に持っているので、もしかして、そのリモコンで双子を淫具で苛んでいるのではないかと感じた。

 ほかも同じような写真であり、絹香が双子を性的に嗜虐して遊んでいる光景に思えた。

 

「なにこれ……?」

 

 ひかりは愕然としていた。

 こんなものがあるとは思わなかったのだ。

 なにしろ、ひかりの知る限り、絹香はマゾで被虐癖で、仲間内では双子の片割れの梓にも調教をされるような立場だ。

 そのおかげで、ひかりもとばっちりで、さっきまで梓に苛められていたのだ。

 しかし、この写真によれば、立場が逆──?

 

「映像もありますよ。この写真は、そこから落としたものです」

 

「映像?」

 

 ひかりは顔をあげた。

 だったら、見たい──。

 あの梓が惨めに苛められている映像だったら、是非みたい──。

 一瞬、そう思ったが、すぐにそんな状況ではないことを思い出して我に返る。

 

「い、いや、どういうこと?」

 

「つまり、この写真の元になるデータをあたしが持っているということです。わかりますか?」

 

 柚子はいまだに微笑を浮かべたままだった。

 ひかりは薄気味わるくなってきた。

 

「もしかして、君、本当にぼくたちを脅すつもり? それがどういうことなのか、わかっている? ぼくが何者かわかってるよね? これくらいの映像で、まさかぼくや西園寺家が動じると思ってる?」

 

 ひかりは柚子に対して唖然となった。

 

「もちろん、そんなこと思ってません……。ただ、あたしの希望は、あのときに口にしたとおりです。SS研には入りたいんです……。部長様に話を通していただけますか? それとも、絹香お姉さまに」

 

「絹香お姉さま?」

 

「ふふふ、だから、あたしは全て知っているって言ってるじゃないですか……。ところで、金城様って、エムですか? 調教されてるんですか? 射精管理ですか?」

 

「射精管理?」

 

 なんだ、それ?

 ひかりは内心で首を傾げた。

 

「だって、絹香さんに調教されてるんですよね。あたしはなんでも知ってるんです。多分、部長に坂本さんがついたのも、絹香お姉さまがやっていることを隠すためですか?」

 

 柚子がまたくすくすと笑った。

 射精管理って……。

 なんとなくだが、猥褻な意味……?

 言葉の響きからすればそうなのだろうが……。

 また、いまの物言いだと、もしかして、SS研で主導権を握っているのが絹香だと思っているのか?

 いや、それは絹香が双子をいたぶっている映像を見つけたためか……。

 それに、普通に考えれば、孤児だということが浸透している真夫が絹香やひかりを支配しているとは思わないか……。

 

「ところで、さっきの話ですけど、金城様って、ドエムなんですね。ちょっと意外でした」

 

 そして、すっと視線をひかりのズボンの股間に落としてきた。

 はっとした。

 いまこの瞬間も、ひかりに装着されている革の下着は、ひかりの秘所を締めあげ、小ペニスを圧迫するとともに、花芯とアナルに埋め込まれていたディルドで妖しい感触を与え続けている。その股間を見透かすような視線だ。

 慌てて、開いて座っていた脚を密着させて、両手で股間を隠すように置いた。

 すると、向かい側の柚子がくすくすと笑った。

 ひかりは自分の顔が真っ赤になるのがわかった。

 

「そ、そんなことはいいだろう──。それよりも、この映像をどうやって入手したんだ? 協力者がいるのか?」

 

 ひかりは言った。

 それが肝心な点だ。

 

「協力者? そんなものはいません。そんな人がいたら、絹香お姉さまに本当に迷惑がかかるじゃないですか。あたしの望みは、お姉さまに調教してもらうことですから?」

 

「絹香に調教?」

 

「そうです──。ところで、さっきの話ですけど、学園のデータバンクに侵入して、データを抜き取ったのはあたしです……。そんなものがあるなんて驚きましたけどね……。あたしは読書が趣味ですけど、本当に得意なのはハッカーです。趣味でよく、あちこちのネットワークに侵入したりするんですよ……」

 

「君が? まさか──」

 

「本当です。なにしろ、あたし、天才なんです」

 

「天才って……」

 

 自分で言い切るのもすごいが、柚子には一辺の照れた様子もない。

 相当に自信を持っている感じだ。

 

「……真実です。例えば、こんなこともできますよ……」

 

 柚子が鞄からまた鞄からなにかを出した。

 今度は、まるでテレビのリモコンのカバーを外して、中身を剥き出しにしたようなものだった。それに電卓のようなものが線で繋いである。

 そこにあるのは、基盤というやつだろう。

 ひかりは、そんなにコンピューターの知識はないが、自作の電子機器のように思えた。

 

「金城様のことはずっと見張ってました……。外部信号で操作のできる淫具をずっと装着させられてますよね……。これは、その信号を読み取って、解析して乗っ取ることができるようにしたものです。スキミングです」

 

「スキミング?」

 

 なにを言っているのかわからなかった。

 だが、柚子がその基盤を操作して、ひかりは衝撃を受けて、椅子から転げ落ちそうになった。

 突然に、股間の淫具が激しく振動を開始したのである。

 

「ひああっ、うわっ」

 

 痒みに苛まれている股間が刺激される瞬間の気持ちよさは言葉にならない。

 ひかりは、椅子の上でがくがくと身体を震わせてしまった。

 

「さあ、あたしをSS研に連れて行ってください。あとは、絹香お姉さまと坂本先輩に頼みます。金城様にして欲しいのは、あたしをお姉さまたちに紹介してもらうことだけです」

 

 柚子が振動を入れっぱなしにしながら、ひかりに言った。



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 第130話 飛んで火にいる虫二匹

「はあ、はあ、はあ……」

 

 汗びっしょりの裸身を真っ赤にして、絹香が必死にサイクルトレーナのペダルを漕ぎ続けている。

 疲労のために、すでに眼は虚ろであり、もしかしたら半分は意識がない状態かもしれない。無理もないだろう。

 放課後以降、まずは図書館棟までの羞恥歩行に続き、図書館棟の階段の踊り場における操心術を利用した公然での猥褻セックス──。さらに、アナルビーズを挿入しての学園敷地内の野外歩きに引き続いて、SS研の隠し調教室における長時間の宙吊りに続く、初めてのアナルセックスだ。

 そのうえで、苛酷な調教によって体力を根こそぎ奪ってからの運動責めである。

 絹香はもはや息も絶え絶えだ。

 

 体力のない絹香がすでに限界を越えていることはわかっている。

 しかし、今日を利用して、真夫はこの絹香のマゾ度をとことん極めさせることを決めた。

 苦痛や羞恥を快楽に変えてしまう被虐癖で心も身体も染まらせるのだ──。

 そのために、アナルセックスで快感を極めすぎて意識を失った絹香を起こし、容赦のない責めをさらに継続した。

 それがいまやらせているサイクルトレーナーを使った強制運動である。

 こんな普通のトレーニング器具であっても、使い方次第で立派なSM器具になる。それが面白いところだ。

 

 すなわち、まずは絹香が失神しているあいだに、両手を後手高手小手縛りに緊縛をした。次いで、絹香が意識を戻すのを待ち、ずいきの枯れ草をゴルフボール状にしたものを秘奥に押し込み、その上から股間を赤褌で締めあげてやったのである。

 上半身を縄で縛られ、下半身に褌を施された絹香は、当惑するとともに、身を竦めて恥ずかしがっていたが、その絹香を追い立てるようにして、サイクルトレーナに乗せたのである。

 勝手に降りられないことを示すために、足首や太腿を革ベルトで器具に固定した。

 そして、このプレイの醍醐味である電撃具だ。

 電流を流せる器材をサイクルトレーナの横に運び、トレーナの制御具に接続するとともに、電極を縄で乳房を引き出されている絹香の両手首に取り付けた。

 そして、自転車を漕ぐ速度が十キロ以下に落ちれば自動的に電流が流れることを教えて、電極装置を作動させたということだ。

 

 絹香が数瞬はきょとんとしていたが、すぐに状況を理解し、顔を蒼ざめると慌てて必死にペダルを漕ぎ始めた。

 まだ、初めて五分というところだが、寸前まで真夫の責めで気を失っていたほどの絹香だ。

 早くも漕ぐ速度が低下をしてきている。

 

 もっとも、真夫には速度表示盤が見えるが、絹香には自分が漕いでいるサイクルトレーナの速度はわからないようにしていた。

 それもまた、絹香の不安を誘うはずだ。

 なによりも、どこまで頑張れば電撃を回避できるのかわからないので、絹香は常に全力を出し続けるしかないということだ。

 だから、絹香は必死にペダルを漕ぎ続けている。

 しかし、それでも体力の限界を越えている絹香は、一生懸命に漕いでいるつもりでも、確実に速度が低下していっている。だが、だんだんと速度が落ちてきているのに気がついていないみたいだ。

 やがて、ついに速度が十キロを下回った。

 

「ひぎいいいっ──」

 

 絹香が絶叫して身体を跳ねさせた。

 設定速度を下回ったために、自動的に電流が乳首に流れたのである。 

 絹香の全身の肌が瞬時に粟立つのがわかった。

 電撃の衝撃をばねにして、絹香が我に返ったようにペダルを漕ぐ速度をあげる。

 速度が十キロ以上になったために、絹香の乳首に流れていた電流が一度止まる。

 

「次はさらに強い電流が流れるぞ。一度目よりも二度目。二度目よりも三度目とだんだんと電圧があがる。気をつけろよ」

 

 真夫は棚から長い棒に装着させた鳥の羽根を持ってきた。

 それを必死にペダルを漕ぐ絹香の内腿に当てる。

 懸命に脚を動かしている絹香は、それだけで羽根で腿をくすぐられてる状態になってしまう。

 

「ひゃああ、ま、真夫さん──。お、お許しを……。ひゃああ、ひゃん、ひゃあ──」

 

 絹香が悲鳴をあげて、腰から下を悶えさせる。

 だが、逃げようはない。

 くすぐりに気を取られて運動に手を抜けば、たちまちに乳首に電流が流れるのだ。

 

「速度が低下してるぞ。羽根を気にせずにペダルを漕がなければ、また電流だよ。今度はもっと強い衝撃がくるぞ」

 

 真夫は羽根の悪戯の場所を移動させつつ、速度計の数値を見て言った。

 

「ああっ、そ、そんな……。はあ、はあ、はあ……」

 

 絹香が慌ててペダルを漕ぐ脚に力を注いだのがわかった。

 

「ようし、坂道だ──」

 

 真夫はサイクルトレーナを操作して負荷をかける。

 

「ひんっ」

 

 絹香は必死にペダルを漕ぐが、さすがに一気に速度が低下していく。

 

「ひがあああっ、あがあああ──」

 

 二度目の電流だ。

 絹香は懸命に速度をあげて、やっとのこと速度を十キロ以上にした。

 だが、すぐに再び速度が十キロを下回って、三度目の電流の衝撃を喰らう。

 

「んぐうううっ、んぎゃあああ──」

 

 絹香が涙をぼろぼろとこぼしながら絶叫した。

 真夫は負荷を解除し、元の状態に戻す。

 それで、なんとか速度は十キロを上回る。

 

「手を抜くなよ」

 

 真夫は再び羽根で絹香の全身をゆっくりとまさぐっていく。

 

「ひいいっ、やああ、いやああ、お、お許しを──。許して──、ああっ、あああっ」

 

 絹香は真夫の操る羽根の翻弄されつつも、電撃の恐怖に怯え、限界の力を出し続けていく。

 拷問まがいの苛酷な責めに、絹香の顔には苦悶の色がありありと浮かんでいた。

 

 だが、しっかりと絹香を観察している真夫には、絹香の身体の中にあるのが、単なる苦痛だけでないことがわかっている。

 操心術で女の内心に入り込めることができる真夫にはそれができるのだ。

 真夫は羽根で絹香を苛めるのを一度やめて、絹香の身体を観察し直す。

 サドルに乗っている絹香の股間を包む褌の布は、明らかに股間部分が汗以外のもので丸い分泌液の痕を作っていた。

 絹香はこれほどの苦痛に苛まれながらも、実際には性的興奮をしてもいるのだ。

 これこそが、真夫が待っていた絹香の変化だ。

 

 すなわち、エンドルフィン現象である──。

 

 人間の脳というのは、耐えがたい肉体的苦痛や精神的な苦痛の状況を長く続けていくと、苦痛を忘れるために、エンドルフィンという快楽を伴なう脳内麻酔のようなものを発生させるのである。

 エンドルフィンは、強い陶酔と鎮痛作用の効果があるため、これにより、人は耐えがたい苦痛から逃れることができるということだ。

 それがなければ、人間は発狂してしまう。

 苦痛に伴うエンドルフィンの発生は、いわば、人の持つ防護機能ということだ。

 エンドルフィンのもたらす快楽は、セックスによるオルガズムを越えることもあるという。

 これがマゾの快感というものだ。

 肉体的な苦痛にしろ、精神的な苦痛にしろ、限界を越える責めを繰り返させると、だんだんとエンドルフィンの発生が早くなる。

 すると、少しの苦痛だけで、すぐに脳内麻薬で快感に染まる体質に変化してしまうというわけだ。

 「ドマゾ」の完成だ──。

 

 真夫は操心術によっても、いま与えている苦悶によるエンドルフィンの発生を助長しているので、耐えがたい苦痛で苦悶をしている絹香は、一方ですでに発情状態になっているということなのだ。

 

 まあ、とにかく、今日はこのあたりで許してやるかと思った。

 時間を確認する。

 約二十分というところか……。

 後手に縛られてバランスを取りながら、くすぐられながらペダルを漕ぐのも、本当の限界に違いない。

 これ以上やると、速度が十キロ以下の状況が続き、ずっと電撃を浴び続けることになると思う。

 真夫の狙いは、苦痛を与えて絹香を苛めることではなく、あくまでもエンドルフィンの発生を促すことだ。

 今度はサイクルトレーナーのトルクを操作して、負荷を小さくして楽にしてやった。

 

「じゃあ、下り坂だ。しばらく楽にしていいぞ。電撃の設定速度も半分にしてやろう」

 

「はあ、はあ、はあ……、あ、ありがとうございます……」

 

 絹香がほっとしたように、少し脚を緩める。

 だが、絹香が開放感に包まれた感じになっていたのは束の間にすぎない。

 

「はあ、はあ……、う、うう……。な、なに……? はあ、はあ……。な、なに……?」

 

 すぐに、落ち着かないようになり、股間をサドルに押しつけるような仕草を始めだす。

 これこそが、真夫が仕掛けた「罠」だ。

 

 事前に絹香の股間に押し込んだずいきの草球が効果を発揮し始めているのである。

 ずいきの草は湿り気を帯びると強烈な痒みを肌に発生させる性質がある。自転車をたっぷりと漕げば、当然に汗が出て、それが褌を通してどんどんと染み込む。それだけでなく、絹香は苦痛を快感に変えるエンドルフィンにより、かなりの蜜を股間から噴き出させてもいる。

 ずいきが湿り、耐えられない痒みが発生するようになるのも当たり前だ。

 

「ああ、か、痒い……。ま、また痒い……」

 

 絹香の動作がさらに落ちついのないものになった。

 股間をサドルに押しつけて動かすだけでなく、太腿にも力を入れ、電撃の恐怖から逃れたのに、結局、さらに勢いを増してペダルを漕ぎだしてきた。

 ずいきの痒みに襲われている股間は、ペダルを速く動かす方が気持ちいいのだ。

 今度は電撃の恐怖なしに、速度をあげた絹香の姿に、真夫は狙いが当たってほくそ笑んでしまった。

 

「効いてきたね、絹香?」

 

「……はあ、はあ、はあ……、な、なにが……で、すか……?」

 

「絹香が進んで速度をあげた理由だよ……。痒いんだろう? なにしろ、褌で締めつけた股間に挿入したのは、ずいきの草玉だ。濡れれば濡れるほど、痒みの汁が噴き出して股間が痒くなる。痒みをやわらげたければ、汗や蜜を股間に出さないことだね」

 

「ああ、そんなあ……」

 

 絹香が泣きそうな顔になる。

 いや、実際に涙を流して、苦悶の表情を浮かべている。

 それでいて、絹香の内心の快感による興奮度はあがってもいる。

 絹香はもうドマゾの域に到達しようとしているのである。

 

 いずれにしても、ここまでくれば、もう絹香は追い詰められるしかない。

 ずいき玉の痒みはすっかりと浸透し、ペダルを漕いで速度をあげなければ耐えられないのだ。そして、一生懸命漕げば漕ぐほどに、気持ちよくなる。

 だが、速度をあげれば、汗も褌を通じて膣の中に浸透するし、膣が噴き出す蜜も増えて、さらに痒みが増すというわけだ。

 もはや、悪循環なのだ。

 

「ああ、痒いい──」

 

 絹香が悲鳴をあげた。

 これもまた、悪循環のひとつだ。

 どんどんを速度をあげなければ耐えられないはずの絹香だが、そこまでの体力は残してない。

 当然に蓄積されていく疲労が一定の線を越えれば、もう足が動かなくなり、ペダルを漕ぐ脚の速度が一気に低下していく。

 そのとおり、いきなりペダルを漕ぐ脚が遅くなった。

 

「んぎいいい──」

 

 絹香の乳首に電撃が襲う。

 慌てて、速度をあげるが、すぐに低下する。

 

「あがあああ、いんぎいいい──」

 

 再三の電撃の連続に、絹香が絶叫をした。

 そして、脚がとまる。

 絹香は必死に漕ごうとしているが、動かないのだろう。

 速度があがらないので、電流は流れ続ける。

 絹香は絶叫したまま、身体を硬直させた。

 そして、そのままがくりと身体が崩れかけた。

 

 真夫は電圧器のスイッチを切断した。

 さらに乳首から電極を外す。

 脚を固定していた革紐も外して、緊縛したままの絹香の身体を床におろす。

 

 絹香は、もはや立つこともできなかった。

 真夫は、動くこともできずに横たわった姿勢のままの絹香から褌を外した。

 絹香の腹はふいごのように上下している。

 また、秘所はまるでおしっこを漏らしたかのようにぐしょぐしょだった。

 クリトリスも驚くほど膨張している。

 これだけの肉体的苦痛を与えられながら、絹香はしっかりと快感を味わったようだ。

 エンドルフィン効果だ。

 

 もっとも、操心術による助長があるとはいえ、一日にしてこれだけ調教が進むのは、絹香の本質が苦痛を快感に変えるマゾだからだろう。

 真夫は、自分も服を脱ぐと、横たわったまま動くことのできない絹香の股間に、いきなり怒張を貫かせた。

 

「んあああっ、あああっ」

 

 荒々しく抽送をする──。

 すると、真夫の怒張をぐいぐいと締めつけながら、絹香は激しい絶頂の悦びを示してみせた。

 あっという間だ。

 

「早いな」

 

 真夫は笑いながら、さらに律動を続ける。

 そして、腰を動かしながら乳首に手を伸ばすと、痛みを感じるようにぎゅっと抓った。

 

「ひゃあああ、ああああああっ」

 

 すると、今度はさらに激しく痙攣すると、おしっこを漏らしながら絶頂してしまった。

 いまの絹香には痛みもまた、快感をせりあげる材料だ。

 それにしても、失禁までするとは……。

 

「失禁か? せめて俺が離れるまで我慢できなかったか? また罰を与えないとね」

 

 真夫は苦笑しつつ、絹香の股間から噴き出す放尿でおしっこまみれになりながらも、さらに抽送を継続する。

 やっとおしっこが止まるのと同時に、絹香は三度目の絶頂をした。

 真夫はそれに合わせて精を放った。

 

「ああああ……、あああっ──」

 

 がくがと壊れたような痙攣をして、絹香が果てた。

 真夫は男根を抜いて、絹香の身体を跨いで立つ。

 そして、絹香を強引に起こして、正座の体勢にした。

 

「じゃあ、失禁の罰だ。舐めて掃除しろ。そのあとで小便をする。それを全部飲むんだ」

 

「は、はい……」

 

 とろんとした表情の絹香はこくりと頷いて口を大きく開けた。

 絹香が息を荒げながら必死になって真夫の男根を奉仕する。

 しばらく堪能したところで、真夫は絹香の口に放尿を開始した。

 勢いよく口の中に迸る真夫の尿を絹香は懸命に飲み込んでいく。

 

「一滴もこぼすなよ。ちょっとでも口から出したら、全部最初からやり直しだぞ」

 

 真夫は絹香の口に放尿を続けながらうそぶいた。

 虚ろだった絹香の眼が見開き、こぼさないようにと、顔を真夫の腰にぴったりと密着させてくる。

 

 やっと放尿が終わったところで、真夫は絹香の緊縛を解いた。

 だが、絹香はそのまま倒れて、死んだように動かない。

 精魂尽きたのだろう。

 真夫は、絹香の汗を流してやるために、ぐったりとなった絹香の身体を横抱きに抱える。

 女ひとりを抱えられるくらいには、真夫も身体は鍛えている。

 そのまま、調教ルームに隣接する浴室側に運んでいく。

 横抱きにしたまま、真夫は絹香とともに湯舟に入った。湯舟は常に適温の湯が貯えられてる。

 

「……ああ、真夫さん……」

 

 絹香がやっと口を開く。

 その眼は完全に真夫に屈服しきっている。

 

「頑張ったな。俺も興奮してついつい張り切ってしまうほどだった。ますます、絹香もいい女になる」

 

「う、嬉しいです……。なんでもします……。これからも……お好きなように……苛めてください……」

 

 絹香がうっとりと真夫を見上げる。

 すっかりとマゾ奴隷だな……。

 真夫は微笑んだ。

 

 そのときだった。

 調教ルーム側と浴室を繋ぐ自動扉が開いた。

 

 顔をあげる。

 入ってきたのは玲子さんだった。身体を拭くためのバスタオルを手にしている。

 スーツ姿の玲子さんは、真夫と絹香が入っている浴槽の前に来ると、浴槽の前の床に正座をして、真夫に向かう合うような態勢になった。

 持ってきたバスタオルは畳まれて膝の上だ。

 

「お愉しみでしたか?」

 

 玲子さんが微笑を浮かべる。

 

「ちょっと厳しめの調教を愉しみました。そのせいで、絹香はこんな感じです」

 

 まだ、湯の中で真夫に横抱きにされたたまま、半分気を失っている感じの絹香を少し抱きあげる。

 絹香が玲子さんに視線を向ける。

 

「ま、真夫さんに、調教していただきました……。も、申し訳ありません……。お、起きます……」

 

 絹香が真夫から離れる。

 だが、そのまま腰が抜けた感じになり、湯の中に涼みかける。

 

「おっと──」

 

 真夫は慌てて絹香の腰を掴んで支えた。

 

「ご、ごめんなさい──。わ、わたし、腰が抜けてます」

 

 絹香がびっくりしたように言った。そして、呆気にとられたように笑いだす。

 真夫と玲子さんも、ついつられて笑ってしまった。

 

「是非、次は、わたしも同じように躾けてくださいね」

 

 ひとしきり笑い声が収まると、玲子さんが媚びるような視線を真夫に向けてきた。

 真夫は微笑んだ。

 

「次と言わずに、いまからでもいいですよ」

 

「嬉しいのですが、報告する事項が……。そして、ご指示を仰ぎたいことも……」

 

「指示……ですか?」

 

 真夫は訝しんだ。

 実のところ、真夫のためになんでもしてくれる玲子さんだが、面と向かって、真夫の指示を受けたいと言ってくるのはそんなに多いことではない。

 玲子さんは、およそ、指示というものを必要しないタイプであり、真夫たちのために必要なことを先取りして、全てのことを整えてくれるのだ。

 だから、改めて真夫に指示を受けたいなどと口にするのは珍しいのである。

 

「虫がかかりました」

 

 玲子さんがにっこりと微笑んだ。

 

「虫?」

 

「SS研のことが漏洩しました……。怪しい活動をしている生徒のサークル活動だとして、告発をする動きを見せてます。調査をするべきだという申し出を理事長代理にわたしに持ってきました……。ターゲットの候補でもある例の女教師の伊達京子です……。いまのところ、しばらく静観するように指示をして監視させてますが、いっそのこと、これを機会に捕獲してしまってはいかがかと……」

 

 玲子さんが言った。

 

「詳しく教えてください」

 

 真夫は絹香の身体を浴槽の縁にうつ伏せにさせるようにして預けさせると、玲子さんに改めて視線を向け直した。

 

「はい……実は……」

 

 玲子さんが口を開く。

 だが、玲子さんが喋る前に、またしても浴室の扉が開いて、今度はひかりちゃんと、梓と渚の三人でやって来た。

 サロンに参加していた三人だ。

 それが終わってやってきたのだろうが、様子がおかしい。

 ひかりちゃんは、顔を真っ赤にしていて、よろけている脚を渚に支えられるように、肩を貸してもらって歩いている。

 その横を梓が愉快そうな表情でついてきていた。

 

「あっ、ちょっと待ってください、玲子さん……。そっちはどうかしたのか?」

 

 声を掛けた。

 ひかりちゃんには、昼休み以来、意地悪な仕打ちを施してやっていたから、多分、相当に追い詰められるだろうというのは予想していたが、どうも、ひかりちゃんの態度が不自然なのだ。

 真夫に対して恨めし気な態度を示すのではなく、悲痛な顔になっている。

 そのひかりちゃんが玲子さんが正座をしている横に、がくりと跪き、さらに両手をついて、四つん這いに近い格好になる。

 かなり息が荒い。

 ふと見ると、男子生徒用の制服のズボンの股間がべっとりと愛液で濡れている。

 

「も、申し訳ない、真夫君──」

 

 するとひかりちゃんがその場で土下座をした。

 

「えっ、どうしたの?」

 

 真夫はびっくりした。

 

「ふふ、一年生の女子にしてやられたのよ。真夫様がひかりさんに装着させた革下着の淫具を乗っ取られたみたいです。あたしが預かっているリモコンで制御できなくされてます。ずっと振動をされたまま、ここまでやって来たみたいですよ」

 

 梓が含み笑いした表情で横から口を出す。

 

「どういうこと?」

 

 真夫はびっくりした。

 

「ス、スキミング……らしくて……。遠隔で制御する信号を書き変えたと言ってた……。制御信号の波を変化させたから、真夫君が持っているものでも、制御できなくしたと……。もう外せもしないはずだと……」

 

「はあ──? スキミング? 制御を乗っ取ったって、どういうことですか?」

 

 玲子さんが声をあげた。

 真夫は、玲子さんに解除信号を送るように指示する。

 ひかりちゃんに装着させたディルド付きの下着は、キーロックをかけていて、真夫が持っている操作具から信号を送らないとロックが外れないようになっている。

 ただ、玲子さんも同じものを持っていて、それで外れるはずなのだ。

 

「はい」

 

 玲子さんが慌てたように内ポケットから操作具を出して、ひかりちゃんに向かって解除信号を送った。

 しかし、ズボンの中の革下着が外れた様子はない。

 それだけじゃなく、いまだに緩やかであるが、二本のディルドがひかりちゃんの股間とアナルで動き続けている気配だ。

 

「と、とめることもできなくなってます」

 

 玲子さんが操作用の器具を押しながら焦ったように言った。

 

「おっかしい──。まんまとしてやられたということね。あいつ、あたしたちと同じ一年生のくせに、実はとんでもない子だったのね」

 

 梓がけらけらと笑った、

 

「一年生?」

 

 真夫は首を傾げた。

 そして、渚に真夫が脱いだ制服のところにもあるスマホ型の制御具を持ってきてくれるように渚に頼んだ。

 玲子さんの持っているものをで制御できないのなら、真夫のでも無理のような気がするが、一応は試してみようと思ったのだ。

 それにしても、調教用の淫具の制御を乗っ取られるなんてことがあるとは……。

 

「ああ……、とにかく、助けてくれ、真夫君……」

 

 ひかりちゃんがズボンの上から股間を両手で抑えながら悲痛な声をあげた。

 

「とりあえず、こっちが優先かな。事情を話してくれ」

 

 真夫は浴槽から外に出た。

 

「そいつの申し出としては、そこの絹香お嬢様の性奴隷になることだそうですよ、真夫様……。つまりは、ひかりさんを解放して欲しければ、自分を性奴隷にしろっていう脅迫らしいです。奴隷になれじゃなくて、自分を奴隷にしろっていう要求もおっかしい──」

 

 すると、再び梓が横から口を出して笑い声をあげた。

 

「性奴隷になりたいってこと? それを脅迫──?」

 

 真夫は玲子さんから身体を拭かれながら、首を傾げてしまった。



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第22章 報復【立花 柚子】
 第131話 ロックオン


 その夜、立花(たちばな)柚子(ゆずこ)は、気持ちが昂ぶって激しい興奮状態の中にいた。

 

 ついに……。

 ついに、やってしまったのだ。

 だが、後悔はない。

 

 あの金城光太郎にやった行為が、柚子になにをもたらすのは、一切が不明だ。なにしろ、相手はあの金城財閥の御曹司である。

 それをあんな風に装着されていた淫具を勝手に動かして、解除できないように細工をしてから追い返したのだ。

 きっと、柚子に手酷く仕返しをするのだろう。

 

 学園の双璧の生徒の片割れである彼が、いかなる経緯により、何者かに性的調教を受けるような立場になったのかは知らない。

 この学園に管理しているデータバンクに、女生徒たちの破廉恥な映像を隠し撮りしていたということを知ったのも偶然のことだ。大きな組織が裏に潜んでいるというのは間違いないだろう。

 どんな背景があるにしろ、その者たちは、金城光太郎ほどの少年を、あんな風に支配できるのだ。

 それに敵対するような行為をしたのだ。

 当然に、柚子に報復があるのは間違いない。

 どんな目に遭わされるのだろう。

 考えるだけで怖い……。

 

 しかし、一方で、それを待ち望んでいる柚子もいる。

 少なくとも、明日からの日常は、これまでの退屈な日常とはまったく異なるものになるのは間違いない。

 それが破滅だとしても、柚子は心からの興奮と充実感を味わうことができるだろう。

 寮の自室のベッドに横になっている柚子は、胸のどきどきが収まらず、とてもじゃないが今日は眠れないような気がした。

 

 柚子は物心ついて以来、およそ、なにかに執着するという経験がほとんどなかった。

 なにかに興味を持つということもなかったし、興味を持ちたいともあまり思わなかった。

 

 勉強はできる──。

 ほかの子が苦労して試験勉強をしている傍ら、一切、学校以外の場所で宿題以外のことをしたこともない。

 覚えなければならないことは、一度教科書を読めば全部暗記できるし、試験を受けても、解き方がわからないという経験はない。

 もっと勉強をして、必要以上のことを覚えようという気もないし、試験で必要な成績をあげることはまったく苦労なしにできる。

 しかし、まったく苦労しないということは、実に退屈なことなのだ。

 

 おそらく、自分には欠陥があるのだろう。

 柚子は自分自身について、そう思っていた。

 だから、なにか心の底から熱中できることを探したいと思っていた。

 

 色々とやってみた。

 例えば、ハッカーだ。

 ネットを通じて、官公庁や企業のセキュリティを突破して、内部情報にアクセスする。

 最初はうまくいかなかったから、それに挑戦しているあいだは愉しかったが、すぐに柚子は、大抵のセキュリティを簡単に突破できるようになってしまい、ハッキングも柚子の退屈を解消してくれるものではなくなった。

 

 映画──。

 音楽──。

 小説──。

 もちろん、のめり込めるものを探して試した。

 

 その中で、小説は、その文章世界に入ることで、非日常を体験できるという点では、わりかし面白いとは感じた。

 柚子の性に合ったのが読書だ。

 従って、文学に触れるというのは、柚子が見つけた興味を持てるもののひとつである。

 一度読めば、その書物の内容を忘れることがない柚子だったが、新しい作品に触れればまた、その時には愉しめる。

 周りの者たちは、柚子のことを無類の読書好きだと評しているとは思うが、実際には、それくらいしか愉しいと思うものがないので、暇があれば読書をして文学に触れているだけのことだ。

 消去法の結果であり、少なくとも、柚子は特別に自分が読書好きとは思ってない。

 

 そんな退屈な日常の中で出会ったのが、「SM」という倒錯愛だ。

 あれは、『団鬼六』という作者の書いた官能小説だったが、柚子はそれがその手のジャンルだとはまったく思わずに読み始めたのだ。

 その結果、柚子はすっかりとのめり込んでしまった。

 

 興奮した──。

 こんな「行為」があるのかと思った。

 そして、柚子はその手の書物をとにかく大量に読み漁った。

 ますます、その淫蕩の沼に嵌った。

 

 やがて、実際にやってみるようになった。

 最初はささいなことからだ。

 

 下着を身につけずに、授業に出る──。

 

 自室で自分を拘束──。特殊な電子キーを作って、時間が経たないと解除しないようにセットし、全裸姿で自らを放置して過ごす──。

 さらに自縛行為を発展させ、誰もない放課後の教室で同じことをしたりした……。

 あれは興奮した。

 

 官能小説のヒロインになったつもりで、自分にイチヂク浣腸をしたりもしてみた。

 そして、トイレにはいかずに限界まで我慢するのだ。

 信じられなくらいにつらかったが、そんな辱めを受けているのだと想像したら、気がつくと股間はびっしょりになっていた……。

 

 柚子はますます、そんな「セルフSM」に没頭していった。

 どんなものにも執着することのできない柚子の退屈は日常は終わった……。

 柚子は、そんな自ら変態行為をすることのとりこになった。

 

 そんな秘密の倒錯行為を過ごす中で偶然に知ったのが、金城光太郎という三年生の男子生徒だ。

 その発見はまったくの偶然だった。

 ぎこちない歩みで暑くもないのに、妙な汗を掻いて学園の廊下を進む彼を見たのだ。

 周囲の生徒たちはまったく違和感を覚えなかったみたいだけど、柚子ははっとした。

 もしかして、柚子が読み漁っているSM小説のような内容をしているのではないかと思ったのだ。

 

 後をつけて、すぐに彼がSS研というサークルに所属していることを知った。そこには、多くの女生徒が属していて、男子生徒は彼のほかに、少し前に有名になった三年生の編入生の坂本真夫という男子のふたりがいることもわかった。

 それだけでなく、集まっているのは学園でも結構有名な生徒ばかりだ。

 女子サッカー部主将の前田明日香──。全国的なコンテストで幾度も優秀な評価を受けている美術部の世良七生なんかも、ごく最近に入部したりしている。

 柚子は羨ましいと思った。

 

 また、その金城光太郎を探ったことで、遠隔の電波が彼に繰り返し送られ、そのたびに、彼が姿勢を崩す様子も見た。

 柚子は光太郎が「調教」されているのだと確信した。

 いったい誰がやっているのだろうと探ろうとして、学園の生徒資料にアクセスしているうちに、学園内の破廉恥な映像データも見つけたりもした。

 生徒会長の西園寺絹香が双子の侍女を「プレイ」している映像も見た。

 その絹香もSS研だ。

 「ご主人様」役は、絹香だろうか……。

 

 だったら、柚子も同じような立場になりたい──。

 それは、強い願望になった。

 

 そして、すぐに機会は訪れた。

 その金城光太郎のサロンに招待をされたのだ。

 

 柚子は光太郎に接触した……。

 そして……。

 

 いまは、あのサロンが終わった日の夜である。

 寮の消灯時間は過ぎていて、部屋の明かりも豆球だ。

 あれだけのことをしたから、すぐに連絡があるかと思ったが、今夜については、なにも接触はなかった。

 だが、明日には向こうから来るだろう。

 柚子に仕返しをしないというのはありえない。

 

 いずれにしても、学園内でああいうことを愉しんでいる集団がいることを発見したのは幸運だった。

 おそらく、SS研そのものが、そういう倒錯する性愛行為の舞台になっていることは間違いない。

 少し前から、あのSS研が怪しい行為をしているのではないかという噂はちらほら出ていたのだ。

 

 だったら柚子も参加したい──。

 調教して欲しい──。

 興奮させて欲しい──。

 

 それにしても、あの光太郎を淫具で調教するなんてことをやっていた主導者は誰なのだろう?

 本命は、西園寺絹香だ。

 彼女が侍女に性的悪戯をしている映像があったからだ。

 あんな真面目な生徒会長が、裏で男子生徒にSMプレイを強要しているというのは意外でしかないが、あの映像が証拠だ。

 しかし、別の者だという可能性もある。

 たとえば、絹香を継いでSS研の部長になった坂本真夫とか……。

 

 まあ、誰でもいい……。

 柚子に淫らな命令を与えてくれるのであれば……。

 

「……ああ、ダメ……」

 

 とてもじゃないが寝れないことを悟って柚子は起きあがった。

 時間はそろそろ深夜と呼べる時間である。

 柚子がいるのは、A級生徒の女子寮であり、当然にひとり部屋だ。全室にシャワー室とトイレが完備されているが、柚子が向かおうとしているのは、廊下に面する共有トイレだ。

 今夜のように、どうしても身体が火照って休めないときには、部屋を出てその共有トイレの個室で自慰をするのが最近の柚子に日課だった。

 

 そういえば、その姿を隠し撮りされていたんだっけ……。

 あんな淫らでエッチなことをしていたのを誰かに見られて、撮影までされていた……。

 それを思い出すと、異常に神経が昂ってくる。

 

 いつものように裸になる。

 今夜はどんな格好で行こうか……。

 

 こんな時間に廊下を歩く者は皆無だ。個室にトイレがあるのに、わざわざ部屋を出て廊下のトイレに行く者がいるわけがない。

 だったら、このまま全裸で挑戦するのはどうだろう……?

 

 もしも、警備員にでも見つけられたら……。

 危険が少ないとはいえ、わざわざ自ら全裸になって、廊下を歩こうとしている自分が怖くなる。

 

 でも、身体が動いていた。

 

 廊下に出る……。

 

 音が鳴らないように扉を閉めた。

 

 自動で鍵がかかるが、指紋がキーになっていて、ロックは解除できる。なにも持たなくても戻って来れるのだ。

 廊下を全裸のまま歩く……。

 いつものように人の気配はない。

 静まり返っている廊下を進むのは心臓が爆発しそうだ。

 

 誰かに見つけられて、それをネタに脅迫される……。

 想像する……。

 すると、あっという間に柚子の股間がべとべとになるのがわかる。

 

 そうだ……。

 今日は、ここじゃなくて、一階上のトイレまで行こう……。

 柚子は階段に差し掛かった。

 

 そのときだった──。

 真っ暗だった廊下が突然に明るくなる。

 

「きゃっ」

 

 思わず声をあげてしまい、慌てて口をつぐむ。

 すぐに股間と胸を手で隠して、身体を縮める。

 だが、人の気配はない。

 すぐに、部屋に向かって戻る。

 廊下にも人はいない。

 指をロック解除のためのセンサーに置く。

 

「えっ?」

 

 だが開かない──。

 部屋番号を確かめる。

 自室に間違いない。

 

 もう一度、指をセンサ―に当てる。

 やはり、開かない。

 

「えっ、どうして……?」

 

 困惑した。

 どうしよう……。

 

 すると、足音が聞こえてきた。

 さっきの階段だ──。

 誰かがあがってくる……。

 

 周りを見回す。

 隠れる場所は、トイレくらいしかない。

 

 柚子は足音を立てないように、急いでトイレの中に逃げ込んだ。

 個室のひとつに身を隠す。

 あえて、鍵もかけないし、扉も閉めない。ただ隠れるだけだ。もしも、警備員がトイレに入ってくれば、こんな時間に個室に入っている生徒を見つけたときには、かなりの確率で確認する。

 それよりは、こうやってやり過ごしてくれる可能性を待つ方がいい。

 

 しかし、どうして、自室の扉が開かなかったのか……?

 まさか……。

 

 そのときだった。

 柚子は足元から、なにかの気体が噴出されていることに気がついた。エアが漏れるような音が聞こえたのだ。

 

 なに──?

 

 驚いて、どこからその音が聞こえるのか探ろうとした。

 だが、突然に身体の力が抜けた。

 

「あっ」

 

 トイレの床に尻もちをついてしまった。

 さらに身体が弛緩していく……。

 気がつくと、柚子は床に身体を預けて、微睡みの中に意識を吸い取られてしまった。



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 第132話 ロックオン2

 日付が改まる刻限の深夜、真夫は学園内にある教職員用の宿舎に来ていた。

 同行するのは、時子婆ちゃんとあすか姉ちゃんとかおりちゃんであり、合わせて四人だ。

 時間も時間なので、最初は真夫と時子婆ちゃんだけで仕掛けるつもりだったが、ひとりで行かせるわけにはいかないと、あさひ姉ちゃんとかおりちゃんが強引についてきたのである。

 目当ての部屋の前に到着すると、真夫は玲子さんから事前に預かっていたマスターキーのカードを扉のセンサーに当てた。

 音もなく、扉のロックが解除されるのがわかった。

 

 室内に入っていく。

 部屋は電気がついたままだった。

 女性教師の伊達(だて)京子は、リビングの椅子の背もたれに身体を預ける体勢で寝息を立てている。ジャージの上下姿だ。

 彼女の前にはテーブルに乗ったノートパソコンと、体育課目の教科書などが置いてあり、多分、授業の準備をしていたのだろうと思う。

 パソコンの横には、キャップを開けたままのペットボトルの入りのミネラルウォーターもある。

 

「相変わらず、スタイルのいい女ね。さすが体育教師。口惜しいけど、プロポーションじゃあ、かなわないわね」

 

 かおりちゃんが京子先生に近づいて言った。

 

「しっ──。静かにしないと起きちゃんわよ、かおりちゃん」

 

 あさひ姉ちゃんがたしなめる。

 すると、真夫の横にいる時子婆ちゃんが笑い声をあげた。

 

「心配せんでいい。玲子の仕事なんだろう? 部屋に睡眠ガスを流したうえに、このペットボトルにも睡眠薬を入れたはずだよ。朝まで、なにをやっても起きやせんよ。万が一、起きるようなことがあれば、玲子にはお仕置きをしないとねえ」

 

「時子婆ちゃん、玲子さんのお仕置きは俺の役目だよ。ほかの人にはさせないし」

 

 真夫は口を挟んだ。

 また、京子先生が完全に眠っていることは、隠しカメラで確認済みだ。眠ったのはもっと前だが、睡眠ガスが空調で抜けるのを待っていたから、この時間になったのだ。

 

「そうだったのう。すまんすまん」

 

 時子婆ちゃんがにこにこしながら、真夫に白い歯を見せる。

 

「さて、じゃあ、すぐに仕事にかかるかのう? それとも、折角だから、真夫坊が味見をするかい?」

 

「いや、いずれはそうするけど、今夜は仕掛けるするだけにするよ。眠っている先生を犯しても面白くはないしね。それにしても、時子婆ちゃんが、(はり)師ができるなんて知らなかったよ。こういうことができる人がいないかって、玲子さんに相談しただけなんだけどね」

 

 真夫は時子婆ちゃんに視線を向ける。

 

「少しでも龍蔵を助けることができればと、学んだ技さ。とはいっても、あの龍蔵だから、自分の身体の健康のことよりも、女を調教する闇鍼ばかりをさせられたけどねえ。おかげで、いつの間にか、表の鍼よりも、闇鍼ばかりに精通しちまったということさ」

 

「闇鍼って、なんですか?」

 

 かおりちゃんだ。

 

「鍼というのは、本来は治療であり、健康のためのものさ。およそ、数百あるツボを刺激し、免疫力を高めて、病気の予防をする……。だが、人の身体にあるツボには使ってはいけないツボもある……。例えば、お嬢ちゃんのここを鍼で刺せば、数秒で死んでしまう。まあ、そういう使ってならない隠されているツボを扱うのが闇鍼だね」

 

 時子婆ちゃんがかおりちゃんの首の横に手を伸ばして、とんと指で突く。

 

「ひゃん──。こ、怖いこと言わないでください──」

 

 かおりちゃんが顔を蒼くして、時子婆ちゃんから跳びのいた。

 時子婆ちゃんが声をあげて笑う。

 

「こらっ、かおりちゃん──。大きな声を出さないの──」

 

 あさひ姉ちゃんが叱咤した。

 

「い、いまのは、わたしのせいじゃないわよ。この時子さんのせいよ──」

 

 かおりちゃんが頬を膨らませた。

 

「まあまあ……。じゃあ、時子婆ちゃん、お願いしていい?」

 

 真夫は、椅子の手摺りに身体を預ける体勢の京子先生の体勢を背もたれに対して仰向けになるような形に変える。

 次いで、ジャージを下までおろす。

 Tシャツに包まれた胸の膨らみが露わになった。さらに、Tシャツをめくり、スポーツブラもずらして、乳房を露出させる。

 

「おうおう、しっかりと鍛えられている身体だのう。真夫坊の奴婢に相応しそうだし」

 

 時子婆ちゃんが京子先生の肩やお腹を撫でまわしながら言った。

 

「でも、大きい……。綺麗な人だし、エッチな真夫ちゃんの奴婢に相応しいね」

 

「確かに口惜しいけど、大きな乳ねえ……。乳首も小さいし……。あんた、こんなのが好き?」

 

 あさひ姉ちゃんとかおりちゃんだ。

 

「まあ、嫌いじゃないけど、どんなおっぱいも好きだよ。あさひ姉ちゃんとかおりちゃんのもね」

 

 真夫はふたりに近づいて、後ろから腰を抱く。

 

「へえ、じゃあ、いま玲子が捕獲の罠を仕掛けている、あのぺったんこのロリータも?」

 

 かおりちゃんが真夫を見上げるように視線を向けた。

 

「ロリータ?」

 

 テーブルの上に鍼を並べて準備していた時子婆ちゃんが顔を向ける。

 

「いま、こっちと並行的に玲子さんに捕獲を頼んでいる一年生のことだよ。学園の秘密のデータが不正アクセスされたことは玲子さんから聞いた?」

 

「ああ、調査中ということだったねえ……。詳細は後日、報告をあげると言っておったね」

 

「確定じゃないけど、その一年生の女子のやったことみたいなんだ……。立花柚子ちゃん──。随分と頭のいい子らしいよ。ハッカーみたいなこともできるようでね。ほかにも、密かにかなりの能力があるっぽい」

 

「ほう?」

 

「不正アクセスについては、いまのところ、玲子さんが調べた範囲では大きな問題はないみたい。その柚子ちゃんの単独犯みたいで……」

 

「そんな年端もいかない娘がかい? それが本当なら、大した人材じゃないかい。豊藤のセキュリティは、超一流の技術者が作ってるんだよ」

 

「奴婢としてじゃなくても、欲しい人材だよね。八人目の奴婢として十人資格があると思うんだけど。龍蔵さんは認めてくれるかな?」

 

「認めざるを得ないだろうねえ。そんな能力を持った娘ならね」

 

「だけど、変態よ……。自分を真夫の性奴隷にしろって、こっちを脅迫してきたんですから」

 

 かおりちゃんが横から口を挟んだ。

 

「自分から脅迫? そりゃまた、確かに変わってるねえ」

 

 時子婆ちゃんが目を丸くした。

 

「うん。だから、少なくとも明日一日は、そっちで遊ぼうと思って……。目の前の先生は、その後かな。ただ、仕込みまではやっておきたくて」

 

「なるほど……。じゃあ、始めようかねえ……」

 

 時子婆ちゃんが並べた鍼を手に取って、片側の乳房の乳輪あたりに鍼を突き刺した。

 さらに首と胸の真ん中あたりにも一箇所──。

 反対側の乳房の乳輪にも刺し、次々に胸を中心とした場所に、鍼を刺していく。

 全部で十数本は差し込まれた。

 

「次はこっちだね……。下半身のジャージをさげてくれるかい。膝まででいいから……」

 

 時子婆ちゃんの指示に従い、三人で眠っている京子さんの腰を持ってジャージをさげる。

 真っ白い無地の下着とともに、むっとするような女の匂いが嗅覚を刺激した。

 

「すっごい、びしょびしょ……」

 

「ほんと……」

 

 かおりちゃんとあさひ姉ちゃんが呟くように言った。

 真夫も同じように思った。

 京子先生の下着は、まるでおしっこを漏らしたかのように濡れて、股間部分に大きな分泌液の丸い染みを作っていた。

 京子先生の薄目の陰毛もはっきりと透けている。

 

「……そういえば、玲子が夕食にたっぷりと媚薬を混ぜたのに、自慰さえしないって驚いてたわねえ……」

 

「でも、夜の九時くらいに、学園内を走りに行ったそうだから、効いてないわけじゃなかったのね。運動で発散してたんだ」

 

 かおりちゃんとあさひ姉ちゃんだ。

 

「かなり我慢強いようだねえ。まあ、真夫坊なら簡単に堕とすだろうけどね」

 

 時子婆ちゃんが梁を内腿に刺していく。

 

「それにしても、この女も不幸ね。わざわざ、SS研の活動が怪しいって、よりにもよって、玲子のところに相談に行くなんて……。それこそ、雉も鳴かずば撃たれまいにってね……。ところで、あんた──」

 

 かおりちゃんが真夫を見る。

 

「んっ?」

 

「念のために訊ねるけど、のこのこと自分から飛び込んできたあのロリ一年生とは違って、こいつは無理矢理に奴婢にするのよね。良心の呵責なんてないでしょうねえ? あるんなら、いまのうちに言いなさい。そんなのどっかに捨ててしまえって、蹴とばしてやるから」

 

 かおりちゃんが言った。

 

「後悔も、後ろめたさもないよ。みんなを奴婢にした以上、俺はそれを守る責任があると思う。そのためなら、悪にでもなるさ」

 

「悪なんかじゃないよ、真夫ちゃん。最初は抵抗するかもしれないけど、この先生も、最終的には真夫ちゃんに性奴隷にされて悦ぶに決まってるんだから。大丈夫よ──」

 

 あさひ姉ちゃんが陽気な声をあげた。

 

「さて、じゃあ、終わったよ」

 

 時子婆ちゃんが突き立てていた鍼を抜いていく。

 全部の鍼が抜かれてから、真夫たちは京子先生の服装を整えて、ジャージもすべて元に戻す。

 

「ふふ、真夫坊の注文通りにやったよ……。これでこの子の乳房は陰部と同じ感覚になって、乳首はクリトリスと全く同じ感度になったさ。胸を刺激されれば、股間を刺激されたのと同じことになったということさ」

 

 時子婆ちゃんが抜いた鍼を収納袋に戻して言った。

 

「そんなことできるんですね?」

 

「まあ、実際にそうなるわけじゃないけど、脳がそう認識してしまうということさ。あたしが鍼を打ち直すまで、元に戻ることはないね」

 

 時子婆ちゃんが質問をしてきたかおりちゃんに応じた。

 

「可哀想ねえ」

 

 かおりちゃんがくすくすと笑う。

 

「問題ないわよ。多分、この先生は真夫ちゃんの責めが好きになるわ。だって、かなりエッチだと思うもの」

 

 すると、あさひ姉ちゃんが断言するような口調で口を挟んだ。

 

「エッチって、なんでよ。玲子に媚薬を飲まされたのに、オナニーもしないような女なのよ」

 

 かおりちゃんがあさひ姉ちゃんに向かって苦笑するような顔を向ける。

 

「あたしにはわかるわ。彼女は真夫ちゃんが好きになって、淫乱になってしまう。真夫ちゃんだもの。どんな女でも、真夫ちゃんにはかなわないのよ」

 

「あんたは、真夫を贔屓(ひいき)しすぎよ」

 

「贔屓じゃないわ。真実よ」

 

「それが贔屓っていうのよ──」

 

 かおりちゃんが呆れるような顔になった。

 

「さて、じゃあ、戻ろうか……。時子婆ちゃんもありがとう。送っていくよ」

 

 部屋を出ていきながら真夫は時子婆ちゃんに声を掛けた。

 だが、時子婆ちゃんが手を軽く振る。

 

「問題ないよ。無人車を呼ぶからね。真夫坊たちは、これから、さっき口にしていた子の仕込みがあるんだろう? そっちに行きな。そして、玲子によろしく伝えといておくれ。セキュリティが破られた件については、早めに資料を回せってね。どっちにしても、セキュリティが突破された事実には変わりないんだし」

 

「うん、わかった」

 

 真夫は頷いた。

 廊下に出る。

 自動的にロックがかかる。

 

「……ところで、真夫坊……。なにかあったら、必ず知らせておくれ。例えば、龍蔵におかしなちょっかいを掛けられたりね……。釘を刺しているから思うけど、あいつの女好きは病気だし……。真夫坊がなかなかの奴婢を集め出したから、もしかしたら、手を出す可能性もあるよ。そんな風になっても、あたしがいれば大丈夫だけど、変に遠慮はいいからね」

 

 廊下を進みながら、時子婆ちゃんが真夫に横に移動して小さな声で言った。あさひ姉ちゃんとかおりちゃんは少し前だが、そのふたりには届かないくらいに声量だ。

 

「ええ? 龍蔵さんが?」

 

 真夫は驚いた。

 あの龍蔵が真夫の女に手を出す?

 まさか……。

 

「万が一さ。奴婢は道具……。そんな思想に洗脳されているからね。しきたりのこともあるし……」

 

「しきたり?」

 

「あっ、いや、大丈夫だよ。いまさら、昔の慣習を持ち出さないことは説得してるから。だけど、あれはどうしようもない女好きだしねえ……。それだけは頭に置いといておくれ……。いや、余計なことを言ったよ。いまのはなしだ。真夫坊は一日でも早く、十人の奴婢を集めることさ。これはお願さ。時間も限られているしねえ」

 

「時間が限られている? 龍蔵さんに申し渡された期限には、まだ数か月あるよ」

 

「だから、お願いさ……。理由は言えないけど、時間がないんだ。一日でも早く、正式の後継者の儀式を済ませたい……。まあ、気には留めといておくれ」

 

 時子婆ちゃんが言った。

 首を傾げつつも、真夫はとりあえず頷いた。

 そして、思い出したことがあって、歩きながら時子婆ちゃんに顔を向ける。

 

「そういえば、このあいだの時子婆ちゃんに来てもらった内輪のパーティのときに伝えそこなったけど、学年三位の成績のお祝いに、龍蔵さんからご褒美をもらったよ。二億円のプレペイドカードだけど……。でも、どうしていいかわかんなくて……」

 

「二億円のカード? 龍蔵がかい? まさか。あれがそんな父親らしいことをするものかい。なにかの間違いだろう、真夫坊?」

 

 時子婆ちゃんは怪訝な表情になる。

 真夫は首を横に振る。

 

「いや、本当に……。秀也君を通じて渡してきて……」

 

「秀也さんから──? ああ、そういうことかい──。あれも、照れくさいんだろうさ」

 

 すると、突然に時子婆ちゃんが爆笑した。

 真夫はびっくりした。

 

「えっ、えっ? なにがおかしいの、時子婆ちゃん?」

 

「いやいや、なんでもないさ。まあ、あいつらしいとも思ってね……。息子に贈り物なんてしたことがないから、困って金にしたんだろうけど、二億かい……。まあ、好きに使ってあげな。気にすることない」

 

「でも、二億って、どうやって使うんだよ。この前、サイクルトレーナを買ってみたけど、まだほとんど余っているし……」

 

「いいから、いいから……。金を使うのも勉強と思いなさい。じゃあ、ここでいいよ」

 

 教職員宿舎の玄関に着いた。

 時子婆ちゃんが懐からスマホを取り出して、学園内を走行している無人カ―を呼び出すための操作を始めた。



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 第133話 お仕置き開始

【作者より】
 しばらく充電をしておりました。また、少しのあいだ、色々と多忙なので、少し間隔が開くかもしれません。しかし、時間ができたら投稿します。その旨、ご了承願います。




 カチカチカチ……。

 カチカチカチカチ……。

 

 小刻みなメトロノームのような音が耳に響いて、柚子(ゆずこ)は幾度か意識を戻しかけたが、そのたびに男の声にささやかれて、すぐに眠りに落とされた。

 その男性の声は、ずっと同じ言葉をささやき続けていたと思うのだが、どうしても、柚子はそれを記憶することができなかった。だが、よくわからないものが確かに、頭に強く刻まれた……。

 そんな気がするのだ……。

 

 一体全体、なにが起きたのか──?

 さらに、誰に、なにをささやかれたのか──?

 

 柚子はゆっくりと、意識を戻していった。

 ぼんやりとした視界に現れたのは、見慣れた教室の天井だった。学園の教場棟に並んでいるいつもの教室だと思った。ただ、見慣れないものもあった。天井のところどころが小さく開き、そこから小さな滑車が幾つか外に出ているのだ。教室の天井に、そんな仕掛けあるだなんて、まったく知らなかった……。

 よく見れば、滑車から鎖が四本、床に向かって落ちている……。

 その鎖は、柚子に向かっておりていて……。 

 

「えっ?」

 

 我に返って愕然とした。

 教室の天井から落ちている四本の鎖は、柚子の四肢の手首と足首に嵌まっている革枷に繋がっているのだ。

 そして、柚子はなにも身につけていない。

 全くの全裸だ。

 

 慌てて、身体を起こして両手で胸を抱くようにして裸身を隠す。

 それでわかったが、柚子がいるのは学園の教場の中でも、柚子が所属する一年四組の教室だ。

 真ん中付近の机が前後左右に避けられて、人が横たわれるような空間を作っていて、そこに横たわっていたのだ。

 そして、違和感を覚えて、首に触れた。

 首輪のようなものが嵌まっている。驚いて外そうと思ったが、手で触った感触によれは、どこにも継ぎ目のようなものがない感じだ。

 改めて、手首と足首の枷を見る。

 こっちも継ぎ目のようなものがない。試しに引っ張ってみたが、びくともしない。鍵穴のようなものも見当たらず、どうやったら外れるのか見当につかなかった。

 

 また、やっと、なにが起きたのかを思い出した。

 夕べは、興奮して眠れなかった身体を慰めようと、最近嵌まっていた「ひとり遊び」をしようとして、全裸で寮の居室から、廊下の共用トイレに行き、そこで自慰をして戻るということをしようとしていたのだ。

 興奮した理由は、ついに、あのSS研に喧嘩を売るような真似をして、柚子に報復の仕返しを仕向けるようにけしかけたからだ。それで、どんな仕返しがあるのだろうかと、色々と想像したら、欲情して眠れなくなったのだ。

 だから、いつものように「羞恥遊び」で、身体の火照りを癒やそうとしたのだが、巡察の気配を感じて、慌てて自室に戻ろうとしたのだった。

 しかし、なぜか部屋の扉が開かず、仕方なく共用トイレに駆け込んで……。

 でも、そこで空気の漏れる音が始まったと思ったら、突然に眠くなって……。

 

 もしかして、嵌められた──?

 そんな考えが脳裏をよぎったとき、不意に人の気配を感じた。

 

「やっと起きたのね。お寝坊さんね」

 

 くすくすと笑い声とともに、教場の後ろ側から聞こえたのは女性の声だった。

 顔を向けると、そこには、S級生徒の制服に身を包んだ生徒会長の西園寺絹香と、彼女の従者生徒の双子の女生徒がいた。

 双子は、クラスは違うが、柚子と同じ学年の松野姉妹である。

 

 そして、すぐに、柚子は状況を理解した。

 どうやら、柚子はあの夕べの時点で、SS研に捕らわれたらしい。

 理由は、光太郎の茶会で仕掛けた悪戯に対する報復だろう。

 

 当然だ。

 光太郎はSS研の新メンバーであり、彼がソフトSMを仕掛けられて昨日の茶会に臨んだのを柚子は見抜いていた。

 そして柚子は、光太郎が遠隔の電波で淫具でもてあそばれていたところをハッキングして、勝手に淫具の操作を乗っ取ることで、光太郎に悪戯をしていたSS研のメンバーに挑戦状を叩きつけたのだ。

 当たり前に、今度はSS研から接触があると思っていたが、夜のうちに仕掛けてきたみたいだ。

 まあ、あんな風に、女子寮のロック権限を操作したり、睡眠ガスのようなものを使ったり、さらに、いま柚子が拘束されているような設備を教室に備えていたりというのは意外過ぎるが……。

 

「ふふふ、あたしへのお仕置き……ですよね……? 絹香お姉さまとお呼びしてもいいですか?」

 

 柚子は絹香に微笑みを向けた。

 

「好きなようにしなさい……。(なぎさ)(あずさ)──」

 

 絹香が声をかけると、双子が動き出し、柚子の周りに三個の机を囲うように移動させた。その上に、双子が三人分の朝食を準備していく。双子たちがスポーツバックを持っていて、その中からまずはランチョンマットを出して、それぞれの机に置き、スープ皿と皿が出されて、ポットに入れた温かいスープやサンドイッチなどが置かれていく。飲み物はコーヒーだ。それもポットから注がれる。

 三人分の朝食が準備できたところで、最後に柚子の前にスープ皿が床に置かれた。

 すでに中身が入っていて、机の上にあるスープと同じ野菜と小さな肉が煮込んでいるスープである。それだけでなく、パンも千切って入れられていた。さらに固形物を砕いたようなものも混ざっているみたいだ。

 

「腕を頭の上にあげてください」

 

 柚子の後ろに立った双子とのひとり……多分、梓の方だと思うが、彼女が柚子の両手を首の後ろに持っていくように誘導する。

 抵抗するつもりはないので、されるがままにしていると、首の後ろで金属音がして、両手首が首の後ろから離れなくなった。

 どうやら、嵌められている首輪の後ろに金具があって、そこに短い鎖で繋がれたみたいだ。

 だが、さっき見たときには、枷に金具のようなものはなかったし、鎖を繋げる場所なんかなかった気がするのだが、どういう仕組みになっているのだろう。でも、実際、ほんの短い鎖ですでに手首を首輪が接続されているのである。

 

「さあ、じゃあ朝食にしようか。あんたも食べなさい、柚子」

 

 柚子の正面の机に絹香が腰かけ、左右に梓と渚が座る。

 三人がテーブルに準備されたものを口にし始める。

 柚子はきょとんとなってしまった。

 

「あ、あのう……。朝食って……?」

 

 教室の窓から見える空はすでに明るい。

 壁時計のデジタル時計を見ると、“6:12”となっていた。

 

「食べなければ、いつまでもそのままよ。朝のホームルームは八時半からだけど、その一時間前くらいには、早めに教室に入る生徒もいるかもね。わたしたちが付き合えるのは、せいぜい、それよりも前だわ。そのままクラスメートを出迎えたいなら、そのままでいればいいわ。だけど、拘束も解いてほしいだろうし、制服も着たいんじゃないの? だったら、ぼうっとする暇はないわね」

 

 絹香が机のものを口にしながら、淡々とした口調で言った。

 柚子はだんだんと頭が回りだして、目を見開いた。

 もしかして、絹香の言葉に従わないと、この格好のまま放置されてしまうということ──?

 唖然となった。

 

「栄養は問題ありませんよ。スープの中にパンを千切って入れてあります。ほかに、補助食品を砕いて入れてますので、朝食として十分な栄養は取れます。ペットの餌なんで、味は保証しませんけどね」

 

 揶揄するように横から口を挟んだのは、梓だ。

 だけど、その言葉の内容に驚いた。

 

「いま、ペットって、言った……?」

 

 梓の方に視線を向ける。

 

「ペットですよ。ひかりさんに、SS研に入りたいって言ったんですよね。遠隔調教具の操作信号をハッキングして横取りするなんて、みんな驚いたんですけど、面白いんで部員として認めようかってことになったみたいです。もっとも、ペット枠ですけどね」

 

 その梓だ。

 

「えっ、入れてもらえるんですか──?」

 

 柚子は思わず声をあげた。

 絹香を見る。

 彼女は苦笑のような表情を浮かべていた。

 怒ったような感じではない。どちらかというと、悪戯な妹分に呆れるような表情だろうか。

 柚子は、自分が認めてもらえたようだというのを悟った。

 絹香がほほ笑んだまま大きく嘆息をする。

 

「多分、自分から調教されたいって入ったのは、あんたが初めてね。しかも、どんなことをされるのかわかったうえでね……。みんな、なんかんだで、SS研の洗礼を受けて加わることになったのにねえ」

 

「だって、あたしマゾなんです、絹香お姉様」

 

 柚子はうっとりと正面の絹香を見上げながら言った。

 こうやって、理不尽にも服を取りあげられて、さらに拘束されて辱められる……。

 受け入れられない命令を与えられて、それを無理矢理に受け入れさせられるのだ……。

 どんな仕打ちを受けるのだろう。

 考えただけで、心臓の鼓動が痛いいくらいに鼓動を始めた。

 

「本当ですよね。絹香様のときも愉しかったですものね……。また鬼畜ゲームしましょうよ。相談しときますね」

 

 梓だ。

 なぜか、揶揄うような表情を絹香に向けている。

 絹香が顔を真っ赤にした。

 

「い、いやよ──。あんなのはもう……」

 

「ふふふ、でも、それを無理矢理にやらせるのが、調教ですけどね……。ふふ、いつ始めるのかは教えません。その日がいつやってくるのか、びくびくしながら過ごしてください」

 

 梓がくすくすと笑う。

 絹香がますます顔を真っ赤にして怒ったような表情になったが、それでてい、なぜか机の下でスカートの中の腿をこすり合わせるような仕草をしているのが見えた。

 柚子は床にしゃがんでいるので、机の下の足元が視界に入っているのだ。

 

 それはともかく、柚子は首を傾げてしまった。

 ふたりの雰囲気は、どちらかというと梓が主導権を握っていて、絹香がその梓に追従しているという感じなのだ。

 柚子は、秘密クラブのような行為をしているSS研について、おそらく、影で支配しているのは、目の前の絹香ではないかと睨んでいた。坂本真夫という養護施設出身の転入生を隠れ蓑にして、影で部員を調教して愉しんでいるのではないかと……。

 だって、柚子がハッキングで入った学園の秘密ファイルの中に、目の前の絹子が双子従者を相手に性的辱めをしている映像を見たのだ。しかも、日常的に実施している気配であり、西園寺家の令嬢とその侍女という関係から、間違いないと思った。

 だから、柚子もそれに加わって、好奇心を満足させたいと思っているのだが……。

 でも、影の支配者は、絹香ではないのか……。

 実際にはもっと複雑なようだ。

 あるいは、単純なのかもしれない、

 いずれにしても、だったら、やっぱり支配しているのは……。

 

「いまは、わ、わたしのことではないでしょう──。今日は彼女よ──。柚子、さっさと食べなさい。命令よ──」

 

 絹香が真っ赤な顔のまま怒鳴った。

 

「は、はい……。でも……」

 

 食事をしろと言われて困ってしまった。

 なにしろ、たったいま柚子は両手を頭の後ろに拘束されてしまったのだ。しかも、皿に盛った食事らしきものは目の前にあるが、それを食べるためのフォークや箸など何も与えられてない。

 

「なにまごまごしているんですか、柚子さん。ペットの食事は、口でするんですよ。ペットが手で餌を食べれると思っているんですか?」

 

 梓が笑った。

 愕然とした。

 口で犬のように食べさせる?

 なんという意地悪な仕打ちだろう──。

 柚子は興奮して、思わず身震いしてしまった。

 

「わ、わかりました……。食べます」

 

 柚子は、身体を折り曲げて、スープに口をつける。手が使えないので、口ですするか、舌で舐めるしかない。

 味は保証しないとは言っていたが、かなり美味しかった。

 しかし、こうやって目の前で普通に食事をしている相手の前で、柚子だけが這いつくばって口で食事をするのは、本当に卑しい雌犬にでもなった気がする。

 だから、欲情する。

 ねっとりと股間が濡れてくるのがわかった。

 

「全部、食べるのよ」

 

 しばらく食べていると、いつの間にか自分たちの食事が終わったのか、絹香たちが柚子の周りに集まってきていた。

 

「わ、わかってます……」

 

 柚子は懸命に口と舌を動かす。

 どうしても、食べるときに音が鳴ってしまうのがちょっと恥ずかしい。

 べちゃべちゃとみっともない音をさせながら、柚子は皿の中のものをお腹に入れていく。

 

「ふふ、本当にペットね。そう思うよね、渚?」

 

 梓が哄笑する。

 

「う、うん……。あっ、いえ……」

 

 渚は困ったように、言葉を躊躇うような物言いで返した。

 だが、やっぱり、この三人の中でエスなのは、梓なのだろう。だったら、絹香はエム? それともエムであり、エス?、

 でも、そのエスの梓も、SS研を支配して、そこに所属する者たちを支配しているわけではないみたいだ。

 さっきも、もっと上に誰かがいる気配である。

 

 ならば、それはおそらく、坂本真夫……。

 

 そっちの可能性も考えたが、そっちだったか……。

 あの坂本真夫の性奴隷に……。

 柚子はひたすらに、皿の中のものを空にするために口を動かしながら、こうやって辱めらる恥辱に、酔いのようなものを覚えた。

 

「……食べ終わったかしら。水よ。舐めなさい」

 

 皿は最後まで舐めとることを強要され、やっと空になると、今度は絹香が水筒の水を床にこぼした。

 

「ほら、舌ですくいあげなさい、雌犬ちゃん」

 

「ああ、鬼畜……」

 

 柚子は今度は床の水を舐めとっていく。

 

「今度はこっちよ」

 

 すると、全部飲み終わった頃を見計らって、絹香が新たな水を床にこぼした。それも舐めとらされる。

 

「絹香様、あたしにもやらせて」

 

 梓が水筒を受け取り、自分の足元に水をこぼして、それを制服の革靴で踏む。

 

「舐めとるのよ、雌犬。あたしの靴の下もよ」

 

 梓が笑いながら言った。

 やっぱり、この三人の中では間違いなく、梓がエス役なのだと思った。

 柚子は床を舐めとっていく。

 梓は意地悪く、床にこぼした水で靴の底を洗うような仕草をした。砂利が混ざった水を口の中に舐めとらされる。

 それを何度か繰り返し、彼女たちが持っていた水筒が空になるまで床を舐めさせられた。

 

「ふふふ、最後はここもね、犬ちゃん」

 

 梓が踵を起点に靴をあげて、靴底を柚子の顔に向ける。

 なんという底意地の悪さだろう。

 柚子は、ぞくぞくする甘い昂ぶりに襲われた。

 

「梓、いい加減に……」

 

 そのとき、もうひとりの双子従者である渚が梓を非難するような声をかけた。

 

「なあに、渚? だって、真夫様にも言われたでしょう。うんと、意地悪してやれって」

 

 梓が渚に向かって顔を向ける仕草を感じた。

 また、いま、梓は“真夫様”と口にした。

 やっぱり、そうなのだ。

 

 へえ……。

 ふうん……。

 

 目の前の西園寺家の令嬢の絹香や、金城家の御曹司の光太郎……。女子サッカー部の明日香や、一番新しい新入部員のはずの美術部の世良七生……。そうそうたるメンバーだが、本当にそれをあの養護施設出身の編入生が……。

 

「それはそうだけど……」

 

 一方で、渚は梓の強い口調に押し込められたような感じになっている。

 

「それに、こいつは本物の雌犬よ。こんなことをやらされて、感じてるんだから」

 

「あんっ」

 

 梓がそう言い終わると同時に、いきなり両手首に力が加わり、上に向かって引き上げられた。

 また、バチンと金属音が鳴って、首の後ろから手首が外れて、それぞれに繋いでいる二本の鎖で左右に引きあがっていく。

 抵抗など不可能であり、柚子はたたらを踏むようにして立ちあがらされる。

 両腕が真っ直ぐになったところで、やっと鎖の引き上げが終わった。

 しかし、それで終わりではなかった。

 今度は左右の足首の枷に繋がっている鎖が斜め上にあがっていく。

 そっちはすぐに止まったが、柚子は大きく両脚を拡げて、さらに爪先立ちで身体を支えるような体勢にされてしまった。

 

「ほら、見てごらん。べっとりよ。雌犬の匂いね」

 

 梓が柚子の股間のクリトリスを探り当てて、指の腹でぐいと押し込むようにこすりあげた。

 

「ひあっ、いいっ、ああっ」

 

 腰ががくんと沈み込み、柚子は喉を晒すようにして思わず声をあげる。

 一瞬、腰の力が抜けて吸い取られるような感覚に陥ったのだ。

 びっくりした。

 他人にそこを触れられるのは生まれて初めてだったが、こんなにも自慰とは異なるものだと思った。

 また、梓が指摘したとおりに、柚子は梓にいま触れられる以前から、教室で裸にされ、犬のように朝食を取らされたり、意地悪く床を舐めさせられたりされて、もの凄く興奮をしていた。

 我ながら、自分がマゾだと確信していたが、思ったよりもその傾向が強いのだと改めて感じていた。

 

「それにしても、まだ毛が生えていないのね。可愛いわ」

 

 絹香が柚子の股間を手のひらで撫でた。

 さすがに羞恥で顔が熱くなる。

 まだ無毛の股間とともに、ちっとも女性らしくない幼いままの柚子の身体付きは、柚木の大きなコンプレックスなのだ。

 それはともかく、はっとした。

 絹香の手にべっとりと、ローションのようなものが塗ってあったのだ。

 そのローションを引き延ばすように、股間に塗り拡げていく。さらに下腹部全体から胴体にも……。

 

「胸はかなり残念な感じね。まあ、真夫様にたっぷりと揉んでもらうといいわ」

 

 梓が柚子の後ろに回って、胸を揉みだす。

 

「ひゃん──」

 

 やはり、両手にローションが塗ってある。

 横を見ると、さっきまで食事をしていた机のひとつに、溶液のボトルがあるのがわかった。

 それを手にのせながら、ローションを柚子の身体に塗りたくっているようだ。

 

「さあ、渚も手伝うのよ。時間も限られているしね」」

 

 絹香が渚に声を掛けた。

 

「うん……」

 

 渚が慌てたように、柚子の身体にローションを塗る作業に参加する。

 

「はっ、あっ、あんっ」

 

 六本の手が柚子の裸体を這いまわる。

 梓にはしつこいくらいに、ちょっとだけ膨らんでいる乳房を揉みあげられ、絹香からは花芯やアナルなどにも指を挿入して掻き回される。

 

「でも、身体は淫乱ね。お前、感じ過ぎよ」

 

 梓から左右の乳首を弾くように指で同時に弾かれた。

 いつの間にか、痛いくらいに胸の先が尖っていた。

 

「いやあっ、ああっ──」

 

 想像以上の快感が走って、柚子は激しく身体を振りたてて、大きな声をあげる。

 おかしい──。

 怪しげなローションを塗られた場所が異常なほどに熱いのだ。特に、股間や乳房がこれまでに味わったこともないような疼きが走りだした。

 その身体を揉み抜かれて、柚子はいつの間にか、四肢を引っ張る四本の鎖を引き千切らんばかりに暴れてしまっていた。

 

「もういいんじゃない。次の段階に行こうか……。これじゃあ、彼女への罰じゃなくて、ご褒美だけになってしまうしね」

 

 絹香が声を掛けて、やっと全身へのローションの塗布が終わった。

 そのときには、柚子の身体のうち、伸ばしている腕の肘から脚の膝から上にかけて、すべてローションが塗られた状態になっていた。

 そして、身体が熱い……。

 まるで全身を無数の蟻に這いまわられているような疼きが身体を襲っている。

 

「ああ、な、なんですか、これ……? なにを塗ったんです……?」

 

 柚子は身体の火照りに狂いかけながら訊ねた。

 

「あなたの身体を傷つけないようにコーティングさせてもらったのよ。これを塗っておけば、鞭打ちされても、身体に傷が残らないのよ。その代わり、肌の感度があがるから、痛みは大きくなるかもしれないけどね」

 

「SS研への入部は許したけど、ひかりさんにやったことについては罰を受けないとね」

 

 絹香、さらに、梓だ。

 梓が鞄から乗馬鞭を取り出すのが見えた。

 そして、いきなり背後からお尻に向かって鞭を放ってきた。

 

「きゃうう──」

 

 思わぬ衝撃に、柚子は大の字に引っ張られている身体をのけぞらせた。

 生まれて初めて体感した鞭の衝撃は、想像を絶するほどに強烈だった。

 たった一打で身体全体が痺れる感じだった。

 

「へえ、本当に傷はないようね。思い切り打ったの、梓?」

 

 絹香だ。

 梓がたったいま乗馬鞭で打った柚子のお尻を覗き込むようにしている。

 

「もちろんです」

 

 今度は横腹を弾かれる。

 

「んぎいっ」

 

 柚子は悲鳴をあげた。

 

「痛い、柚子?」

 

 絹香が前に回ってきた。

 柚子は頷いた。

 

「い、痛いです……」

 

「まあ、それだけのことをしたものね。わたしたちに対する挑戦……。SS研に入ることを認められるとしても、お仕置きは覚悟してたでしょう? だったら、とりあえず罪は償わないとね」

 

 絹香が手に持っていたものを、すっと柚子の胸に近づけた。

 柚子は眼を見張った。

 

「な、なにを──?」

 

 絹香が持っていたのは、金属製のクリップだった。

 口を開いたクリップが、柚子の乳首に当てられる。

 

「ひああっ──。いやあああ──」

 

 びっくりして身体をよじって逃げようとした。

 だが、それを果たすことなく、乳輪にクリップを噛ませられてしまった。

 

「あぎゃあああ──」

 

 柚子は絶叫した。

 

「それがお前の罪よ」

 

 絹香が酷薄な口調で言った。

 さらに反対の乳首にもクリップが挟まれた。

 

「あああっ──」

 

 柚子はのけぞった。

 そのときだった。

 突然に身体に違和感を覚えた。

 そして、それがあっという間に大きくなる。

 

 尿意だ──。

 鞭とクリップの激痛の苦悶の中から、新しい苦悶が込みあがってきたのだ。それは紛れもなく尿意だった。

 

 な、なんで──?

 

 柚子は狼狽えた。

 だが、考えてみれば、尿意がない方が不自然だ。

 夕べ夜中に捕らわれてから、朝になったいままで、一度も放尿していない。尿意の高まりは当然すぎるほどの生理現象だ。

 しかし、あまりにも突然なのが意外ではあった。

 

「ああ、やっと効いてきたのね、利尿剤が?」

 

 すると、梓が背中側でくすくすと笑った。

 

「利尿剤──?」

 

 物騒な単語に、柚子は驚いた。

 

「さっきお前が口にした朝食よ。あれには利尿剤を入れておいたのよ。それはともかく、絹香様がもうひとつクリップを持っているのがわかる、新入部員の雌犬ちゃん?」

 

 あのスープと水に──?

 愕然としたが、そのときにはかなり尿意が切迫したものになってきていた。

 柚子は股間に力を入れる。

 

 また、目の前の絹香が持っていたのは三個目のクリップだ。

 しかも、ゆっくりとそれを柚子の股間に近づけていく。

 柚子は眼を見開いた。

 

「そ、それだけはやめてください──。お願いします──」

 

 さすがに、柚子は必死で言った。

 懸命に腰を引いて股間を絹香の手から遠ざける。

 しかし、四肢に繋がる鎖がそれを阻む。

 

「やっと、反省の顔になったわね……。じゃあ、あと三十分で朝のお仕置きを解放してあげるけど、そのときに渡す予定の制服を置いとくわね……。渚、お願い」

 

 梓が言った。

 

「は、はい……。ご、ごめんね、立花さん……」

 

 すると、大きく開いている柚子の股間の真下に、すっと畳まれたブラウスとスカートらしきもの、さらに靴下や革靴などがひと揃い差し置かれた。

 だが、これは……?

 そして、その意味がすぐにわかった。

 さすがに、自分の顔色が変わるのがわかる。

 

「わかったかしら? これから三十分間、死ぬ気でおしっこを我慢するのよ。さもないと、おしっこまみれの制服を着て、今日の一日過ごすことになるわよ」

 

「そういうことね。じゃあ、三個目よ」

 

 絹香がさらに口の開いたクリップを柚子の股間に接近させた。

 

「いやあああ──」

 

 柚子は悲鳴をあげた。

 

「そんな大声上げていいの? もしかしたら、早出の生徒がやってきて、この教室を覗くかもしれないわよ」

 

 梓が手をお尻に当てて、ぐいと前側に絹香に押すようにする。

 それだけじゃなくて、ローションを潤滑油にして、人差し指をすっと柚子のアナルの中に挿入してきた。

 

「ひんっ」

 

 甘美な痺れがアナルから四肢に散り拡がり、柚子は大きく悶えてしまった。



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 第134話 懲罰の鞭と催眠調教

 なかなかまとまった時間が取れず、投稿間隔が開いてしまいました。申し訳ありません。

 *





「お尻が感じるの? でも、そんなに腰を前に出していいのかしら? そんなにクリトリスにクリップを挟んで欲しいの? 随分と勃起させて挟みやすそうだし」

 

 絹香がくすくすと目の前で笑ったことで、柚子ははっとなった。

 口が開いた金属クリップが女体のもっとも敏感なクリトリスを狙って密着していたのだ。

 

「いやっ」

 

 一気に背中に冷たい汗が流れ、柚子は慌てて腰を限界まで引いた。

 だが、アナルには梓の指が入り込んでうごめいている。腰を引くことで、さらに指を深い場所まで潜り込ませてしまうことになった。

 

「んああっ」

 

 お尻の中の深い部分をゆるゆると揉み込まれる異常な感覚に、柚子は総毛だってしまい、お尻をぶるぶると震わせた。

 

「あら、逆らうのね。仕方ないわねえ。じゃあ、ここにクリップを挟む代わりに鞭打ちに変えてあげてもいいわよ。ひかるに手を出した懲罰として、何発打って欲しい?」

 

 絹香が金属クリップを引いてくれた。

 また、後ろでアナルをいじっていた梓の指も抜かれる

 とりあえず、ほっとした。

 

 だが、利尿剤の効果による切迫した尿意は、いよいよ柚子を追い詰めている。

 もうほんの少しの猶予もない。

 しかし、開脚させられている股間の真下には、柚子に渡されるはずの制服が置いてあるのだ。もしも、失禁すれば、本当に容赦なくおしっこまみれの制服を一日着させられる気がする。

 柚子は必死に股間に力を入れ続けていた。

 

「聞いているのかしら? ペットのお前の懲罰に何発の鞭がいいかと訊ねましたのよ? それとも、やっぱりクリトリスをクリップで挟む方がお好みなのかしら?」

 

 絹香が乗馬鞭の柄の先で柚子の顎をぐいと押しあげた。

 

「ふふふ、絹香お嬢様、金属クリップをクリトリスで挟んだうえに、そこに鞭打ちをしてあげればいいんじゃないですか? 多分、このマゾ犬は、両方とも受けたいから、選べないんだと思いますよ」

 

 梓が背中側から手を伸ばして、金属クリップで無残に喰い込んでいる左右の乳首を無造作に引っ張った。

 

「ひぎいいっ」

 

 柚子は激痛に悲鳴をあげてしまった。

 だが、それでおしっこがほんのちょっとだけ迸ってしまった。

 慌てて尿道を締めつけた。

 

「あらら、汚れちゃったわね。でも、途中で止めるなんて器用なことするのね。すごいわよ、柚子、じゃあ、クリトリスにクリップを挟まれても我慢するのよ」

 

 絹香が再び口を開いた金属クリップを柚子の股間に押しつけてきた。

 

「ああ、やめて──。それだけはやめてください──」

 

 柚子は懸命に腰を引く。

 

「だったら質問に答えなさい」

 

 梓が乳首を挟んでいる金属クリップ越しに胸を撫でまわす。

 

「うあっ」

 

 胸全体に拡がる痛みにたまらず柚子は身体をよじった。

 

「三つ数えるうちに、答えなさい。何発の鞭が罰として相応しいの? ひとつ……ふたつ……」

 

「じゅ、十発です──。十発、お願いします」

 

 柚子は慌てて答えた。

 

「まあ、十発ね。わかったわ」

 

 絹香がクリップを机の上に置いて、リモコンのようなものを新たに手に取った。

 すると、天井からモーター音がして、両手首の鎖が巻きあがり始める。

 あっという間に開脚している両脚が床から離れた。

 

「ああっ」

 

 新たな苦痛が柚子に襲い掛かり、柚子は歯を喰いしばって顔をのけぞらせた。

 全身の体重が手首と腕にかかり、引きつるような痛みが走ったのだ。

 

「ああっ、お、おろして……。い、痛い……」

 

「痛くても仕方ないわね。罰なんですもの。本当に反省しているなら、耐えられるはずよ」

 

「は、反省してます。金城様にも謝罪しますから……」

 

「当然ね。ひかりからの罰は改めて受けなさい。でも、まずはSS研に手を出した懲罰よ。脚からね」

 

 絹香が振り上げた乗馬鞭を柚子の右の太腿に叩きつけてきた。

 

「んぎいっ」

 

 肉を叩く鮮烈な音が教室に鳴り響く。

 たった一発だけど、それだけで右脚全体が痺れて脱力する感じだった。

 

「ちゃんと数を数えなさい──」

 

 今度は後ろ側から梓に操る乗馬鞭が襲い掛かった。

 太腿の後ろ側を打擲される。

 

「はぎいっ、に、にいい──」

 

「横着しないで──。数えられなかったもは、無効よ──」

 

 今度は再び前側から右太腿の上側を絹香によって打擲される。

 

「ひっ、ひっ、ひとつ──」

 

 声をあげながら、柚子は十発を口にしてしまったことを後悔した。

 数発で音をあげてしまう激痛だ。

 しかも、いよいよ尿意が余裕のないものになっている。尿意に耐えながら、十発の鞭打ちにも耐えるのは不可能な気がした。

 これまでに経験のないほどの激痛なのだ。

 そして、後ろから乗馬鞭が炸裂する。

 柚子は前後からの乗馬鞭の連打を右脚だけに打ち付けられ続けた。

 

「な、ななああ──、は、はちいいい──」

 

 絶望的な苦痛の声が柚子の口から洩れる。

 柚子はただただ失禁しないように股間に力を入れ続けた。

 そして、最後の二打がほぼ同時に前後から打ち込まれた。

 

「ああっ、くううっ、じゅうう──」

 

 言い終わるなり柚子はがくりと首を垂れた。

 しかし、気を抜くわけにはいかない。

 凄まじい尿意が柚子を追い詰め続けている。

 全身から噴き出した脂汗がぽたぽたと脚の下に滴り落ちていた。

 すると、すっと後ろ側から梓の指が股間に伸びてきて、股間の亀裂を前後に擦り始める。

 

「ひゃああっ、いやああっ」

 

 大きな疼きが全身を貫き、柚子は宙吊りの全身を弓なりにさせた。

 

「まあ、呆れた。股から汗を滴らせて制服を汚していると思ったら、落ちているのは汗だけじゃないのね、めちゃくちゃ感じてるじゃないのよ。なによ、このびっしょりの蜜は? このマゾ犬──」

 

 梓が呆れたような声をあげて、股間に触れていた指を柚子の鼻の穴に擦りつけた。

 ねっとりとした触感とともに、愛液独特の匂いが柚子の嗅覚を刺激した。

 柚子は、自分の身体が鞭打ちの苦痛によって、同時に欲情しているという事実を認識した。

 

「真夫様の言葉のとおりね。この雌犬はSS研に所属する女の中でも、一番の真性でしょうねえ」

 

 そして、梓は再び柚子の股間に手を伸ばして、容赦のない刺激を股間に与え続けてきた。

 柚子は限界の尿意にぶるぶると身体を震わせた。

 

「だ、だめえっ──。も、漏れます──。トイレに行かせてください──」

 

 柚子は悲鳴をあげた。

 

「梓、それまでよ。真夫様に言われているでしょう。簡単に失禁はさせないのよ」

 

 そのとき、絹香が声をかけた。

 

「はーい」

 

 梓が笑いながら指を引っ込める。

 しかし、許されたわけではない。

 切羽詰まった尿意はそのままだ。

 

 いっそのこと、放尿してしまおうか……。

 すっかりと追い詰められてしまった柚子は、これ以上の苦痛に耐えるよりは、放尿で汚れた制服を着て過ごすことを選んでもいいかと思ってきた。

 そもそも、どうせこれだけの尿意をこれ以上耐えられる気はしない。

 いまやっているのは、頑張ってもすぐに崩壊してしまう尿意をほんの少しの時間だけ引き延ばそうとしているようにしか思えなくなってきた。

 

 そのときだった。

 梓が柚子の片側の耳になにかを嵌めた。

 すぐにワイヤレスイヤホンだと悟ったが、そのイヤホンから、カチカチというメトロノームのような音が聞こえだした。

 柚子は、その音が昨夜からずっと何かの言葉とともに聞かせられ続けていた音だということをすぐに思い出した。

 そして、その音を聞いた瞬間に、なにかが柚子の頭の中を鷲づかみしたような不可思議な感覚に陥った。

 

「真夫様は、その音を聞くと、あたしたちの言葉に逆らえなくなる催眠をかけていると言っていたけど、本当かしらね。まあ、試してみるだけだけど……。柚子、許可なく放尿するのは禁止よ。尿道口が堅くなって開かなくなりなさい。命令よ──」

 

 梓がイヤホンのない耳側にささやいた。

 イヤホンから流れるメトロノームの音が拡大したと思った。

 すると、柚子の意思をは無関係に、突然に尿道の部分が硬直したようになった気がした。

 もしかして、さっきの暗示により、本当に尿道口が塞がった?

 柚子は唖然となってしまった。

 

「本当に……暗示にかかったの……ですか?」

 

 横で見守っているだけの様子の双子の片割れである(なぎさ)の声が聞こえた。

 だが、暗示って……。

 まさか……。

 そんなことが……?

 

「さあねえ……。まあ、試してみようか」

 

 梓が再び後ろから柚子のアナルに指を挿入してきた。

 それだけではなく、クリトリスを軽く押しつぶして、ゆっくりと動かし始める。

 それに合わせてアナルの中も刺激される。

 

「ああっ、いやあ、で、出るうう──」

 

 柚子は身体を突っ張らせて裸身をうねり舞わせた。

 あっという間に腰が痺れ切り、大きなものがアナルとクリトリスから飛翔して、衝撃が脳天を貫かせる。

 

「あああっ」

 

 次の瞬間、柚子は骨がばらばらになるような衝撃とともに絶頂してしまっていた。

 その瞬間、狂おしい尿意は、ついに堰を切ってしまっていた。

 

「あ、あああ──。あああっ、えっ、なに? なに?」

 

 柚子はがくがくと絶頂の痺れに身体を痙攣させていた。

 だが、てっきり崩壊したと思い込んだ巨大な尿意は、いまだに柚子に留まったままだったのだ。

 まだ尿道口で堰き止められている。

 柚子は絶頂のあとの脱力感に襲われながらも、今度は出したくても出すことのできない排泄に苦悶するしかなかった

 

「凄いわね、真夫様……。真夫様って、本当に催眠術が使えるのねえ」

 

 梓が感嘆の声を出す。

 

「本当……。わたしも自分で味わうまで、真夫様のそんな才能は知らなかったけど……。まあ、いずれにしても、これで鞭打ちの懲罰を安心して続けられるわね。制服を汚す心配も減ったし、鞭打ちを続けましょうか」

 

 絹香が正面で乗馬鞭を構え直した。

 

「そ、そんな……。十発じゃあ……」

 

「まだ右脚しか終わってないじゃない。次は左の脚に十発よ──。梓、始めるわよ」

 

「いつでも」

 

 背後でも梓が乗馬鞭を構えた気配がした。

 柚子は絶望に襲われた。

 最初から十発で終わらせるつもりはなかったのだ。

 だけど、これでは何十発の鞭を受ければいいのかもわからない。

 そして、左脚への打擲が開始された。

 

「んぎいいっ、い、いちいいい──」

 

 鞭打ちで貫いた激痛に耐えて、柚子は必死に数を口にする。

 

「にいいい──。さんんん──」

 

 柚子は懸命に鞭打ちの数を数え続けた。

 そして、左脚への十発が終わる。

 柚子は完全に肩で息をするようになっていた。

 

「次は乳房よ。二つあるから合わせて二十発ね。これで終わりにしてあげてもいいわ。もちろん、ちゃんと終わったらだけどね」

 

 そう声を掛けたのは梓の方だった。

 信じられない言葉に、脱力して俯かせていた顔をあげる。

 乳房……?

 柚子は耳を疑った。

 

「ま、待ってください──」

 

 柚子は愕然となるとともに、はっとなって哀願の言葉を口にした。

 だが、そのときには一発目の梓の鞭が右の乳房の真ん中に炸裂していた。

 鞭先が金属クリップに当たり、乳首を挟んでいたクリップが弾け飛ぶ。

 

「んぎいいいっ」

 

 柚子は全身を突っ張らせた。

 

「数を忘れたわね。罰として、二十発追加よ。胸の次には背中とお腹に十発ずつよ」

 

 絹香の鞭が跳び、反対側のクリップも弾け飛ばした。

 

「んぎいいいっ」

 

 数をかぞえようとしたが、あまりもの激痛に、柚子は今度も意味のある言葉を口にすることができなかった。

 

「また、数を忘れたわね、柚子──。さらに十発追加と言いたいけど、時間も迫ってきたし、電気マッサージ器で許してあげるわね」

 

 梓が乗馬鞭を置いて、スポーツバッグからヘッドの部分が振動して動くマッサージ器を持ち出してきた、

 コードのない充電式のようだ。スイッチを入れると、頭の部分が激しく振動を開始した。

 その異様な音を震えるヘッドに、柚子は絶句してしまう。

 背後に回った梓が、お尻側から電気マッサージ器が柚子の股間に伸ばしたのがわかった。

 

「ああっ、いやっ」

 

 股間に直接に振動するヘッドが押し当てられて、柚子は瞬時に悶絶しそうになって悲鳴をあげた。

 

「ああっ、ひああああっ、いっやあああ──」

 

 柚子は身体を弓なりにして震えた。

 

「マッサージ器に気を取られないのよ──」

 

 再び絹香が乗馬鞭を柚子の胸に炸裂させた。

 

「あがあああっ、んあああああっ」

 

 凄まじい衝撃に柚子は甘い声を迸らせて絶頂をしてしまっていた。

 だが、絶頂をしても、電気マッサージの刺激はそのままにされる。柚子はあまりもの強烈な体感に必死に腰を動かして電気マッサージ器のヘッドから股間を逃がそうとした。

 

 激痛と快感──。

 

 頭がおかしくなる──。

 

「数を忘れるなと言ったはずよ──」

 

 またもや絹香の乗馬鞭の炸裂──。

 

「ひいいっ、いちいい──」 

 

 柚子は涙を流しながら数を口にした。

 また、股間に当てられているマッサージ器の刺激は容赦のない快感を柚子に与えて追い詰める。

 しかし、快感に備えることもできない。

 鞭打ちの数を口にしないとならないのだ──。

 

 そして、鞭打ち──。

 

「ひぎいっ、にいいい──」

 

 叫んだ。

 もはや汗みどろになった身体を弾かせる。

 狂いそうな尿意もそのままだが、やはり放尿だけができない。

 

 電気マッサージ器による股間の快感──。

 鞭打ちの激痛──。

 宙吊りによる腕と手首の痛み──。

 最初に塗布された媚薬ローションによる身体の燃えるような疼き──。

 出したくても出せない尿意──。

 

 苛酷な五重苦に、柚子は鎖がきしむほどに身体を暴れさせた。



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 第135話 SS研の洗礼(その1)

 短いですが、とりあえずアップします。





「うああっ、よ、四十……よんじゅう……」

 

 絶叫の迸りに次いで口にしようとした鞭打ちの数は、数がわからなくなってしまって、喋ることができなかった。

 数を間違えれば最初からやり直し……。

 背中にどっと冷たい汗が流れたのがわかった。

 

「ま、待って、ください……。四十……に……、い、いえ、三……」

 

 柚子は懸命に数を言い直そうとしたが、もはや、どうしても数を思い出すことができない。

 また、吊られている鎖にしがみついているが、両脚は脱力して完全に腰は沈んでいる。

 もうまったく力が入らない。

 

「立ちなさい──。とりあえず、最初からね。じゃあ、また、左脚から始めましょうか、梓」

 

「そうですね。金属クリップも付け直しましょう。今度こそ、クリトリスにも……。そうすれば気合も入ると思いますね」

 

 前後に分かれて乗馬鞭で鞭打ちを続けている絹香と梓がくすくすと笑うのが聞こえた。

 柚子はぼろぼろと涙をこぼした。

 

「も、もう許してください──。謝ります──。もう、鞭はいやああ──」

 

 柚子は泣き叫んでしまった。

 もう狂いそうだ。

 全身の肌は灼けるように熱いし、身体はくたくただ。身体は芯から疲れ切っている。視界はうすぼんやりとしているし、頭も朦朧となっていた。

 なによりも、凄まじいほどの尿意が襲っているのに、失禁もできなくて痛みさえ感じる。

 絹香によれば、意識のない間に真夫が柚子に施した催眠術だというが、催眠術で尿道を封印することなどできるのだろうか。だが、現実にそうされている以上、真夫の催眠術とやらで身体まで操られているということを信じるしかない。

 

「ふふふ、ほら、気合入れるのよ。こんなものでは、SS研に喧嘩を打った報復は終わらないわよ」

 

 すると、いつのまにか乗馬鞭から電気マッサージ器に持ち替えていた背中側の梓がスイッチを入れたマッサージ器のヘッド部分を股間に押しつけていた。

 

「ひあああっ、それもいやああ──」

 

 激しく振動するヘッド部分を股間で受け留めさせられ、柚子は悲鳴をあげて身悶えする。

 鞭打ちとともに、時折加えられる強制絶頂だ。

 頭がおかしくなる。

 

「ああっ、だめえっ、それもいやですうう──」

 

 後ろからだがクリトリスを潰すようにヘッドに捉われ、刺すような快感の衝撃が全身を突き抜けていく──。

 

「あぐううっ、いやああ──」

 

 柚子は股間を前に突き出すようにして全身を痙攣させて果ててしまった。

 電気マッサージ器による強制絶頂はすでに五回を数える。

 敏感になりすぎた柚子の身体は、もはや簡単に絶頂をむさぼってしまう。

 

 出る──。

 

 絶頂を極めながら、柚子は緩んだ股間から失禁を覚悟した。

 だが、出ない──。

 

 猛烈な尿意はあるし、もはや我慢していない。

 それなのに、排泄だけがなぜか堰き止められているのである。

 その苦しさは言葉に尽くしがたい。

 

「ああっ、あぐうう──。もういやですうう──。許してください──。ゆるじでええ──」

 

 柚子は泣きながら絶頂して叫んだ。

 顔からは涙だけでなく、湯誰も鼻水も垂れ流れて、おそらく、とんでもなくみっともない顔になっていると思うが、いまの柚子にはそれを斟酌することもできなかった。

 

「許して欲しければ、自分が淫乱豚だと言いなさい。お前は豚よ」

 

 梓が電気マッサージ器を操りながらくすくすと笑う。

 やっと股間から離れてくれたが、身体からは離れずに、乳頭や乳房の周り、脇の下や脇腹、さらに膝裏などを次々に刺激してくる。

 

「ああん、ひああ、ぶ、豚です──。あ、あたしは豚です──、お許しを──」

 

「ふん──、豚なら、豚の声をあげながらいきなさい。そしらら、許してあげるわ」

 

 マッサージ器が再び股間に戻る。

 今度は潰すような刺激ではなく、クリトリスを触れるか触れないかの距離を保っている、背中を電流のようなものが駆け抜けていく。

 快感の槍が一気に身体を突き抜た。

 

「ああっ、いぐう、ぶううっ、ぶううっ、いぐうっ、ああっ、それ、だめええ、ぶうう──」

 

 もう恥も外聞もない。

 この苦悶から逃れられるためなら何でもすると思った、

 がくがくと身体がふるえながら、大きく反り返る。

 そして、それが全身に拡がり、必死に豚の鳴き真似をしながら、またもや絶頂を極めてた。

 

「まあ、傑作──。本当に豚の声を出しながら絶頂するなんて──」

 

 梓のけらけらという笑い声が響く。

 本当に心からの嗜虐癖な度だと思った。

 なんて、いやな女……。

 柚子は連続絶頂による息切れを懸命に整えながら歯噛みした。

 

 すると、急に梓が電気マッサージ器のスイッチを切断して、柚子の後ろから前に回って、絹香の横に移動した。

 横でおろおろと見守る感じだった双子の梓も絹香の横に立つ。

 柚子は訝しんで彼女たちを見た。

 だが、柚子は絹香たちが柚子ではなく、柚子の後ろに視線を向けていることに気がついた。

 

 誰か来たのか──?

 柚子は振り返ろうとした。

 だが、突然にがらがらと音がして、上に吊られていた両腕の鎖が緩んだ。

 身体の支えを失い、柚子はそのまま跪いてしまった。

 両腕の鎖はしゃがみ込んだ柚子の頭の少し上で留まる。

 すると、いきなり背後から尻たぶをわし掴みをされた。

 

「ひゃん」

 

 柚子は思わず悲鳴をあげてしまった。

 

「梓に苛められたか?」

 

 声は男の声だ。

 後ろから柚子のお尻を掴んだ彼が愉しそうな口調で柚子に声をかけた。

 

「えっ、あっ、いやあっ」

 

 柚子は狼狽した。

 その背後の男がさらに手を伸ばして、柚子の肛門に触れてきたのだ。

 しかも、指先で円を描くように、ゆっくりと揉み解してくる。

 

「や、やあっ、そ、そんなところ、いやあ──」

 

「嫌だと言ってもねえ……。その嫌なことをされるのがSS研だ……。逆らいたいのに、逆らうことを許されずに、嫌なことをされ、やらされる……。そうされたかったんだろう?」

 

 肛門を揉み解される。

 必死にすぼめようとするが、指になにかを塗っているらしく、指はその潤滑を利用して、だんだんと柚子の肛門の中に少しずつ潜ってくる。

 だが、それが気持ちいのだ。

 排泄の場所をいじられておぞましいはずなのに、逆に快感を覚える。

 柚子は狼狽した。

 

「真夫様、しっかりと躾けましたわ。まだまだですけど」

 

 梓だ。

 

「そうだね、だけど、時間切れだ。このクラスのほかの生徒もそろそろ登校するだろう。罰の続きは授業の後かな。とりあえず、SS研の洗礼を味わってもらおう」

 

 やってきたのは真夫だった。

 そして、目の前の三人は、完全にその真夫にかしずくような表情だ。

 柚子はいまこそ、やはり、この真夫がSS研の支配者であることを悟った。

 

「どら、柚子へのお仕置きはひかりちゃんからもあるだろうけど、とりあえずのお仕置きはこのアナルだ。指を入れるぞ」

 

 真夫が指先に力をいれ、じわじわと指を縫うように柚子の肛門を貫いてきた。

 柚子は悲鳴をあげた。



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 第136話 SS研の洗礼(その2)

「いやっ、あっ、ああ……」

 

 真夫の指が柚子のお尻の中をゆっくりとうごめいている。

 お尻の中に感じる真夫の指の感触に、柚子は思わず悲鳴をあげてしまった。

 かっと熱くなるような異様な感覚とともに、ねちゃねちゃという粘性質なものを思わせる音がお尻で鳴っている。

 柚子は跪いたまま、両手首の手枷に繋がっている鎖を強く握りしめた。

 

 とにかく、真夫の指がこんなに簡単に柚子のお尻に入ってしまうのは、やはり、潤滑油となるようなクリームを使っているのだろう。

 しかし、それだけではないと思う。

 真夫の指が触れた場所が瞬時に熱くなるだけでなく、びりびりとなるような得体の知れない疼きが吹きあがってくるのである。そして、力が抜ける。

 柚子は経験はないが、おそらく、これは媚薬というものではないのだろうか。真夫はさっきから柚子のお尻の中に媚薬を塗布している気配だ。

 柚子の肛門の中で肉層が押し広げられ、襞のひとつひとつに擦りつけるように、おぞましそうなクリームが塗りつけられていく。

 

「あっ、ああっ」

 

 我に返った柚子は、慌てて腰をよじって、真夫の指からお尻を逃れさせようとした。

 

「自分で露出遊戯をするような淫乱一年生だが、お尻で自慰をしたことはないみたいだね。まあ、俺たちに挑戦状を送るようなことをしたんだ。そのご褒美に、二度と忘れられないようなお仕置きをしてあげるよ」

 

 真夫が柚子の後ろでくすくすと笑う。

 そのあいだも、柚子のお尻の奥側で動く真夫の指は、新たなクリームを足しながら幾度も侵入しては、お尻の穴を拡げるように外側に向かって押し入ってくる。

 そして、やはり真夫が塗っているクリームは媚薬であることに間違いなかった。

 すでに、お尻の中はじわじわと快感を呼び起こしていて、息が苦しくなるような官能の炎を噴き出させている。

 

「即効性だ。すぐに我慢できなくなる。ただし、昼休みまでは我慢してもらう。午前中の授業が終わったら、SS研の部室に顔を出すことを許してやろう」

 

 真夫がやっと指を抜いてくれた。

 だが、即効性──?

 柚子は怪訝に思った。

 しかし、すぐにその理由はわかった。

 真夫が指を抜いてお尻の刺激がなくなると、急に猛烈な痒さが襲い掛かってきたのだ。

 

「ああっ、な、なんですか──。痒いです──」

 

 我慢できるような痒さではなかった。

 柚子はお尻を振り、また、顔を右に左にと振って、唇を噛みしめた。

 

「あらあら、効き始めたようね。さすがは、SS研名物の必殺の真夫様の掻痒剤ね。あるいは令嬢殺し……。ふふふ」

 

「令嬢殺しって、なによ、梓?」

 

「絹香お嬢様のようなご令嬢を調教するのに丁度いいものということですよ」

 

「なによそれ……」

 

 梓と絹香だ。

 暴れている柚子を前側から見守るように並んで立っている。

 だが、柚子はそれどころではない。

 とにかく、痒い──。

 歯を喰いしばり、身体を振ってもだめだ。

 経雄烈な痒みにより、噛みしめている歯がかちかちと鳴る。その口のあいだから喘ぎ声が漏れ出て、自然と腰がうねる。

 

「いずれにしても、今夜のお嬢様への調教も、この必殺のクリームを使いますからね。渚もよ。ふたりして、エッチに股をお擦り合いたくなるまで放置責めしてあげるわね」

 

「な、なに言ってんのよ、梓──」

 

「そ、そうよ──。そもそも、どうして、あたなが全部決めてしまうの──?」

 

「逆らってもいいですよ。逆らえないようにするだけですから」

 

 梓が不適に笑ったのが聞こえてくる。双子侍女のひとりの梓の言葉に対する絹香ともうひとりの侍女の渚が抗議の声もだ。

 顔をあげると、梓は満面の笑みを浮かべていて、絹香と渚は真っ赤な顔になっていた。ずっと大人しかった渚はともかく、雇い主側であり、さっきまで柚子を容赦なく鞭打った絹香は、やはりいじめられる側でもあるらしい。

 ちょっと不思議な感じだ。

 

 だが、それ以上の思念はできない。

 お尻の中が火になる。

 猛烈な痒みを伴なう快感の火が柚子に襲い掛かる。

 

「ああっ、痒いいい──。こ、これは無理です。お許しを──」

 

 柚子は絶叫した。

 

「こらっ、声が大きい。そろそろ、早い者はそろそろ教室に入ってくるぞ。そんな大声をあげてたら、何事かと見に来るかもしれない」

 

 真夫だ。

 はっとした。

 壁の時計を見る。

 すでに七時を回っている。

 確かに、そんな時間でもある。

 

「ああっ……。で、でも、こ、こんなの我慢できません──」

 

 柚子は必死に声を押し殺しながら、首を背後に回して真夫に訴えた。

 

「確かに、さすがに、このまま昼休みまで我慢するのは無理ではあるだろうね。だから、これを入れてあげるよ。抜くことはできないけど、揺するなり、締めつけるなりして、なんとか我慢するんだ」

 

 すると、再びアナルの中になにかが挿入されてきた。

 指ではない。

 なにか棒状のものだ。

 お尻の穴を深く串刺しされる感覚が襲う。

 だが、痛みはない。

 むしろ、気持ちいい。

 柚子は気がつくと歓喜の声をあげていた。

 

「痒みだけでなく、痛覚も感じにくくする媚薬だから快感が大きいのは当然だけど、かなり気持ちいいみたいだね。初めて淫具でアナルを貫かれるだろうから、せめてもの処置だったが、それだけよがるのだったら、アナルの素質があるのかもな。さっきも言ったけど、折角の淫具だ。午前中の授業いっぱい愉しむといい」

 

 真夫がさらに後ろ側から、柚子の股間に小さな革の下着を装着する。

 腰の後ろで金属音がして、電子ロックのようなものがかかったのがわかった。

 視線を腰に向ける。

 革の下着は完全に腰に密着していて、ワイヤーを思わせる固いもので縁が作られているようだ。

 一見する限り、指を入れる隙間もない。

 ただ、柚子の視界に入っている股間の前側は網状になっていて、指は入らないが液状のものは放出できる構造になっていた。

 ぴったりと股間に密着しているので、すでに柚子の股間からあふれている愛液が格子状の網に絡み始めている。

 

「網の目は細かいから指で触ることはできないけど、尿くらいは放出できるようになっている。どうしても我慢できないときには、そのままするといい」

 

 真夫の手が離れた。

 その瞬間、全ての拘束具が一度に外れた。

 柚子はずっと股の下にあった制服の上に崩れ落ちた。

 

「ああっ、いやあっ」

 

 柚子は蹲ったまま股間を両手で抑えた。

 猛烈な尿意がずっとそのままなのだ。

 しかし、やはり放尿できない。

 尿意はあるのに、それを外に出すことができないのだ。

 柚子はもがき悶えた。

 そのとき、カチカチカチというメトロノームの音が耳に入ってきた。

 すると、なぜか瞬時に身体が硬直してしまった。

 

「えっ」

 

 咄嗟に耳を押さえようとした。

 だが、身体は動かない。

 音は少し前に耳に入れられたワイヤレスのイヤホンから聞こえてきていた。その音が耳に流れた瞬間、柚子はなぜか身体が硬直してしまったのだ。

 

「その音を聞くと、抵抗できなくなる暗示をかけている。音とともにかけられた言葉に逆らえない暗示もね……。じゃあ、あとは、この教室で自由に過ごしてくれ。ただし、勝手に教室の外に出てはだめだ。許可するときには、そのイヤホンから暗示をかけ直す。だから、イヤホンは入れっぱなしにしておくんだ」

 

 真夫が頭の上から声をかけてきた。

 その言葉のあいだ、ずっと耳からカチカチという音が続いていた。

 そして、音が消える。

 金縛りのような硬直が消滅した。

 そのときには、真夫とともに絹香たちが教室の外に出ていくところだった。

 

「ま、待ってください──」

 

 慌てて追いかけようとした。

 お尻が狂いそうに痒いし、なぜか放尿が堰き止められているおかしな暗示を解いて欲しい。

 だが、数歩廊下に近づいたとき、外に複数の生徒の気配を感じた。

 まだ朝のホームルームの始まるまでに小一時間あるが、当番の生徒や、授業の予習や課題を早朝の教室ですませようとする生徒もいる。

 それらの生徒たちが教室に現れても不自然ではない時間になっていることに気がついた。

 

「ひあっ」

 

 慌てて床に置かれていた制服に飛びつく。

 

「灰色?」

 

 思わず呟く。

 そこにあったのは、灰色のブレザー制服だった。この学園では生徒ランクにより制服が異なっていて、灰色は最下級ランクの従者生徒用の制服だ。

 しかし、柚子はAランクだ。

 この色ではない。

 

 だが、迷っている余裕はない。

 とりあえず、身に着ける。

 汗を拭く布さえなく、あったのは上下の制服とブラウス。そして、靴だ。ほかにはなにもない。上下の下着はもちろん、靴下さえない。

 しかも、ずっと柚子の股間の下に置かれていたため、ところどころが柚子の体液で濡れている。

 尻もちをついた部分は汗でべっとりだ。

 それでも、全裸でいるわけにはいかないので、汗まみれの裸身にそのまま身に着ける。

 当然ながら、身に着け終わったときには、真夫たちの姿は完全にいなくなってしまっていた。

 また、ずっと柚子を拘束していた天井から伸びていた鎖も、なにもなかったかのように天井の中に消えてしまっていた。

 

「うう……」

 

 よろけながら扉に向かう。

 真夫たちは、意地悪にも完全に扉を解放したまま出ていったのだ。

 

「あれっ?」

 

 しかし、扉に到着したところで、柚子は思わず声をあげてしまった。

 扉から廊下に出ようとした瞬間に、身体が動かなくなってしまったのだ。

 そして、真夫が最後に、メトロノームの音を聞かせながら、教室の外から出れないという暗示をかけたのを思い出した。

 もしかして、もう一度、暗示をかけ直してもらわないと、教室の外にも出られないのか?

 愕然とした。

 

 その瞬間だった。

 またもや、片耳に入れているワイヤレスイヤホンからカチカチという音が流れ出した。

 そして、女の子の声……。

 さっきまで一緒だった梓の声だ。

 

『やっはう、ペットちゃん──。伝え忘れていたけど、あんた、きょうからひかりちゃんの従者生徒になったから──。それと、ひとつだけ暗示を解いておくわね。封印していた尿道口を解放するわ。いまから先は自力で我慢するのよ。じゃあねえ』

 

「ひいいいいっ──」

 

 柚子は股間を押さえてしゃがみ込んでしまった。

 堰き止められていた尿意が解放されて、それがまさに放出するのを感じたのだ。

 辛うじて失禁を耐えられたのは、奇跡のようなものだった。

 だが、崩壊寸前だ、

 

「わっ、どうしたの、ゆっちゃん──」

 

「うわっ、なに?」

 

 その直後、扉からクラスメートの女子生徒がふたり入ってきたのだ。

 扉の前でしゃがみ込んでいる柚子に接して、ふたりが驚いたような声をあげた。



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 第137話 教室での失禁と羞恥連行

 一時間目の授業が始まってしばらく経つと、柚子は異様なアナルの疼きと、なによりも破裂寸前の尿意にすっかりと追い詰められていた。

 絹香や真夫たちが立ち去ってから、これまでの時間をどうやって耐えてきたのかも朦朧としてよく覚えていない。

 

 とにかく、真夫にかけられたらしい「暗示」は本物だった。

 柚子がなんとかして、教室から逃亡としようとしても、柚子の意思に反して柚子の身体は。柚子が教室の外に出ることを許してくれなかった。

 逃げようと考えるだけで、身体が金縛りのようになり動かなくなるのだ。

 

 そうこうしているうちに、だんだんと教室に生徒が集まってきて、やがて、ホームルームが始まってしまった。

 それについてはなんとか懸命にやりすごしたのだが、いまは一時間目の授業が始まったところである。

 授業開始してからまだ十分間余りではあるが、柚子には途方もない長い時間のような感覚だった。

 そして、いつ終わることが許されるのかわからないこの苦行の残り時間のことを思うと、泣き出したくなる。

 柚子はもうどうしていいのか完全にわからなくなっていた。

 

 許されるのは、ただただ耐えることだけだ。

 怪しげな「暗示」により教室の外に出られなくなってしまった柚子は、激しい尿意と真夫に塗布された媚薬クリームの痒みに耐えて、自分の席で大人しくしている以外の方法を探すことはできなかった。

 明らかにおかしい柚子の様子に、さすがに、クラスメートの女生徒たちが何度も声をかけてくれたが、それにどう応じたかも覚えていない。

 特に、隣の席の田中麻美は、陸上部の朝練を終えて教室に入ってくると、柚子の異常な様子に幾度も心配そうに声をかけてくれた。

 しかし、柚子はその麻美の言葉にも、ろくに応じることもできなかった。

 とにかく、必死に時間が過ぎるのを待つことしかないのだ……。

 

 でも……。

 教室の前側で授業をしている男性教師がなにかを喋っている。

 しかし、なにひとつ頭に張らない……。

 

 痒い……。痒い──。もうだめ……。

 おしっこも漏れそうだけど、お尻が痒いいい──。

 

 真夫が最後にアナルに塗り去ったアナルへの媚薬についても、いよいよ抜き差しならないものになってきていた。

 ただ、いまはすでに授業中だ。

 スカートの中に手を入れて、喰い込まされている貞操帯を手で揺すって刺激を作るわけもいかず、柚子にできるのは、挿入されているアナルディルドを懸命に締めつけて少しでも痒みを癒すことと、椅子の上でお尻を座椅子に押しつけて腰を動かして揺することくらいだった。

 だが、そんなものでは痒みを癒す刺激にはほど遠く、柚子は俯いたままぼうっと視線を彷徨わせ、だんだんと息が荒がるのを防ぐことができなかった。

 

 そして、アナルの痒みに増して、尿意も柚子を追い詰めている。

 とてもじゃないが我慢できるとも思えなかった。

 アナルの痒みもそうなのだが、利尿剤を飲まされて激しい尿意を覚えてからかなりの時間が経っている。いまだに放尿をしないで済んでいるのが奇跡のようなものだ。それでも大勢のクラスメートのいる教室の中で失禁しないためには、歯を喰いしばって我慢するしかない。

 いつワイヤレスイヤホンを通じて、暗示を解いてくれるかわからないが、メトロノーム音とともに暗示を解く声を流してもらえることを必死に待つことしか、柚子には許されていないのだ。

 だが、ホームルームが終わり、一時間目の現国の授業が始まると、柚子はもはや尿意をこれ以上耐えることは不可能だということを悟るしかなかった。いよいよ、耐えられる限界を越えてしまっている。

 もうほんのちょっとも我慢できない。

 柚子は席に座って、スカートの上から両手で強く股間を押さえたまま、俯いた顔からおびただしい脂汗を机の上に垂らし続けている。

 だから、横の席にいる麻美が小さな声で柚子を呼び掛けていることに気づくことができなかった。

 

「どうした、立花?」

 

 柚子の様子がおかしいことに、柚子に声をかける隣席の麻美の声で気がついたみたいだ。

 教壇側から中年の男性教師が柚子に声を掛けてきた。

 柚子ははっとして顔をあげた。

 

「あっ、い、いえ……、な、なんでも……」

 

 どうすればいいのかわからなかった。

 柚子はとにかく、首を横に振って平静を装おうとした。

 しかし、そんな小さな仕草さえも、耐えに耐えている尿道の崩壊に通じそうだった。

 それに、柚子を追い詰めているのは尿意だけではない。

 ずきんずきんと抉るようなアナルの痒みもまた、柚子を追い詰めている。それを我慢するために、股間を押さえる両手の爪を立てて、スカート越しに太腿に喰い込ませているのであるが、男性教師の呼び掛けで教室全員の視線が集まったことで、羞恥でかっと身体を熱くさせてしまった。

 

 いずれにしても、いてもたってもいられない程のアナルの痒みである。

 柚子を追い詰める苦悶が尿意とともに複数であることは、ある意味痒みだけに意識を集中しないですむことに通じているかもしれないけれど、もはやこっちも耐えられる限界を突破している。

 もしも許されるなら、アナルに刺さったまま動かない細いディルドを貞操帯ごと激しく揺らして、痒みを癒したかった。

 授業中であることを忘れて、腰を揺らしてディルドがアナルの中で動く快感を味わいたい。

 その結果、柚子は成績優秀な優等生の立場を失うかもしれないけど、この痒みから救われるのであれば、それでもいいかとさえ思ってきている。

 

「……ねえ、ねえ……、柚子ちゃん、凄い汗よ。保健室に行こう……。先生、あたし、柚子ちゃんを連れて行きます──」

 

 隣の席の麻美が柚子の腕を抱えるように、両手で柚子の腕をとった。

 余程に柚子の様子が尋常ではなかったのだろう。

 麻美が身を乗り出すようにして、柚子の顔を覗き込んでいる。

 そして、ぐいと腕を引っ張られて、麻美に体重を預けるように腰をあげさせられた。

 

 そのときだった……。

 ずっとアナルの中で存在を主張していたアナルの中のディルドが突然に動きだしたのだ。

 

「ひあああ──」

 

 なにが起きたかわからないまま、柚子は麻美の腕を振りほどいて、その場にしゃがみ込んでいた。

 ディルドは細いが、柚子は痒さのあまり、それを力いっぱいにお尻の中で締めつけていた。その状態でディルドが振動をしたものだから、振動で激しく刺激を受けるかたちになってしまい、痒みにただれたようなアナルの中の粘膜を擦られる心地よさに、柚子は思わず腰が抜けてしまったのである。

 

「ああ、だめえ──」

 

 そして、柚子はお尻を床につけたまま泣き声をあげてしまった。

 一瞬、ディルドの振動に完全に気を取られてしまい、ついに必死に締めていた尿道口の力を抜いてしまったのだ。

 気がついたときには、柚子は床に尻もちをついたまま、その場で放尿をしていた。

 

「きゃあああ──」

 

「うわっ」

 

「ゆっちゃん──」

 

「えええっ──?」

 

 周りが騒然となった。

 だが、一度始まった放尿は途中でとめることもできない。

 耐え続けた分だけ、猛烈な勢いで柚子の股間は放尿をスカートの中で迸らせ続ける。あっという間にスカートの前部分がびしょびしょになり、腰の下の床にできたおしっこの水たまりがどんどんと拡大していく。

 それでもまだ終わらない……。

 

 気が遠くなるような羞恥に見舞われて、柚子はくらくらと眩暈さえ覚えた。

 同時に、迸り続ける失禁に身を委ねることで、全てを失ったような途方もない安堵感にも見舞われた。

 一方で、長々と続く柚子の教室の中での失禁に、教室内から次々に悲鳴が沸き起る。

 

 でも、気持ちいい……。

 

 なんという恍惚感……。

 

 クラスメートのいる教室の中で失禁をさせられる痴態と絶望感のなんという心地よさ……。

 

「あっ、ああっ、ああっ」

 

 そして、動き続けるアナルのディルドがき起こす大きな歓喜に、柚子は甘い声をあげて快感を駆けあがらせた。

 もうどうなってもいい……。

 柚子はぶるぶると身体を震わせている。

 

「なにをしていているの──?」

 

 そのとき、教室の外の廊下側から鋭い叱咤のような声がかかった。

 

「あっ、理事長代理──」

 

 男性教師の声が耳に入ってきた。

 柚子はほとんど無意識で顔を向けていた。

 廊下から入ってきたのは、膝上丈のスカートスーツ姿の美しい女性だった。直接に接するのは初めてだが、さすがに顔は知っている。

 最近になり、理事長代理として学園に常駐するようになった工藤玲子という美女だ。

 どうやら、たまたま各教室の廊下を歩いていて、この教室の騒ぎに接して入ってきたみたいだ。

 

 また、気がつくと、やっと放尿も終わり、貞操帯に包まれているアナルディルドの振動も止まっていた。

 しかし、振動がなくなれば、たちまちにアナルの痒みが蘇ってくる。

 一度癒される快感を覚えてしまっただけに、それが消滅したときの焦燥感はすさまじい。

 柚子は荒れ狂うような欲情に見舞われ、さっきまで耐えることができたことが信じられないくらいに、あっという間に追い詰められてしまった。

 

「なんの騒ぎかししら、先生?」

 

 その工藤玲子が柚子がしゃがんでいる前に立ち、慌てて寄ってきた教師に事情を確認するように視線を向ける。

 

「いえ、それが……。どうも、この立花さんの具合が悪かったみたいで、それで倒れてしまって……」

 

 男性教師が緊張した様子で説明をしている。

 ただ、しどろもどろだ。

 当然だろう。

 この教師にもよくわかってないのだ。

 

「……いいわ。わたしが彼女を保健室に連れて行きましょう。清掃員はすぐに寄越します。先生は授業を続けてください」

 

 理事長代理の彼女が柚子の腕をとって立ちあがらせる。

 スカートもびしょびしょだし、柚子の失禁の痕が床に大きく拡がっている。

 改めて、羞恥でかっと熱くなる。

 そして、酔いのような不思議な心地よさも……。

 

「さあ、いらっしゃい、立花さん」

 

 理事長代理の工藤玲子に腰を抱かれるようにして、廊下に向かう扉に押し促された。

 柚子ははっとした。

 いまだに柚子には、真夫の暗示がかかっている。

 それを解いてもらわないと、教室の外にでることができないのだ。

 

「あっ、あの……」

 

 扉に向かって歩かされながら、柚子は理事長代理の顔を見上げる。

 説明不可能であるが、なんと言って教室から出られないことを納得させればいいのか…。

 

 すると、突然に片耳にしているワイヤレスイヤホンから、カチカチというメトロノーム音が響きだす。

 

「……いいからいらっしゃい、柚子。今度はわたしの命令に従うのよ……。一緒に外に出なさい」

 

 そして、工藤理事長代理が反対の耳に顔を使づけてささやく。

 

「えっ?」

 

 柚子は唖然として、理事長代理の工藤玲子を見る。

 金縛りになることなく、柚子の身体はそのまま教室の外の廊下に導かれた。

 暗示が解かれた?

 柚子は訝しんだ。

 

 偶然?

 それとも、偶然ではない……?

 

「ついていらっしゃい」

 

 理事長代理が柚子から手を離す。

 そして、スマホを出して、どこかに指示をしながら歩き始める。

 柚子は考えることなしに、それを追っていた。

 メトロノーム音とともにささやかれた「今度はわたしの命令に従え」という言葉が暗示として、柚子の身体に刻まれたみたいだ。

 やはり、なにかの催眠術のようなものを掛けられている……。

 メトロノーム音とともにかけられた「言葉」に、なぜか逆らえなくされているようだ。

 でも、そんな催眠術が可能なのか……?

 

 そして、ふたつほどの一年生の教室を通り過ぎて、理事長代理が一階と三階に繋がる階段に向かう曲がり角に曲がった。

 この二階には一年生の一般教場が並んでいて、まだ一年生の教室は廊下沿いに続いているが、この階段から一階に降りたところに、保健室のひとつがある。

 また、学園内には診療所もあり、それは学園寮が並ぶ区域に建てられてはいる。

 ただ、柚子は別段、具合が悪くて倒れたわけではない。

 どうやって誤魔化すか……。

 

「あ、あのう、理事長代理様……。ありがとうございます。でも、もう大丈夫です……。ひとりで寮で休みたいと思います……。ですから……」

 

「黙りなさい。わたしのことは玲子でいいわ。真夫様がペットとして、あなたをSS研に入れるそうね」

 

 工藤理事長代理……、すなわち、玲子がぴしゃりと柚子の言葉を遮った。

 いまなんと?

 

「えっ、どういうこと……?」

 

 柚子は思わず呟いた。

 もちろん、この学園に怪しい秘密があることは、おかしな記録映像が学園のホームシステム内にあったことで気がついてる。

 理事長代理の工藤玲子も学園側の人間だ。

 彼女にも、もしかしたら秘密があるのではないかとは、薄っすらと怪しんではいた。

 だが、柚子が驚いたのは、理事長代理の彼女が、あの坂本真夫のことを“真夫様”と呼んだことだ。

 

「だったらペットとして扱うわ。ここからの移動は四つん這いで進みなさい。それと、その汚れたスカートはここで脱ぎなさい。真夫様のところまで連れて行きます」

 

 玲子がなんでもない口調で言った。

 しかし、柚子は耳を疑った。

 

 ここから四つん這い──?

 しかも、スカートを脱ぐ──?

 果たして、どこまで移動させられるのかもわからないが、いまは授業中だ。この教場棟では大勢の生徒が教室で授業を受けているのである。

 

「命令に従いなさい、ペットの柚子」

 

 玲子が手に持っているスマホを差し出して、柚子の顔に近づけた。

 すると、そのスマホからカチカチというメトロノーム音がが流れ出した。

 またしても、柚子は頭になにかの力が注がれるのがわかった。

 

 暗示だ──。

 

 そして、柚子の手は勝手にスカートのホックを外してしまう。

 スカートがその場に落ちた。

 

「きゃああ」

 

 柚子は貞操帯が喰い込んでいる股間を思わず両手で覆った。

 だが、柚子の身体は勝手に動いて、その場で四つん這いの姿勢になる。

 

「あっ、そんな……」

 

 柚子は狼狽した。

 

「ペットなんだから、膝は地面や床につけないのよ。ついてきて。まあ、ほかの生徒や先生の見つからないようにね」

 

 玲子が柚子が脱いだスカートを掴んで階段を下り始める。

 暗示のかかっている柚子の身体は、それを追いかけるように、階段をおり始める。柚子の意思とは関係なく……。

 

「ああ、ま、待って……。待ってください、玲子様。こ、こんなの……」

 

 柚子は焦った。

 授業中であるため、ほとんど廊下には人影がないとはいえ、スカート無しの貞操帯だけの下半身を露出して、四つん這いで学園内を歩くなど……。

 それに、痒い……。

 緊張感とともに、アナルの痒みが襲い掛かる。

 柚子はいつしかかなり激しく腰を振ってしまっていた。

 

「あらあら、みっともないわね。もっと腰を大人しくできないの?」

 

「で、でも我慢できなくて……」

 

 柚子は痒みの苦悶で泣き声のような声をあげてしまった。

 しかし、玲子の歩みはとまらない。

 そして、踊り場にあるごみ箱の中に、柚子のおしっこがまみれたスカートを無造作に捨てて、さらに進み続ける。

 

 柚子の身体もまた、進み続ける。

 四つん這いで痒みにただれている腰を振りながら……。

 下半身を露出している姿のままで……。

 柚子はあまりの羞恥に気が遠くなる心地さえした……。

 

 


 

 

「……理事長代理と柚子……?」

 

 麻美は白いお尻を振りながら、四つん這いで階段を下りていく柚子と、その前を平然として進む理事長代理の工藤玲子の姿に愕然としてしまった。

 目の前で起きたことが信じられない。

 

 授業していた男性教師の許可をもぎとり、具体が悪そうだった柚子を追ってきたのだが、そこで見たのは、理事長代理の工藤玲子女史が、柚子を破廉恥にいたぶり、淫らな恰好を強要している光景だった。

 麻美は、少し離れた場所から物陰に隠れて、それを見守りながら、それでも咄嗟に思い出して、証拠として自分のスマホにその映像を記録した。

 やがて、ふたりはそのまま階下に降りて見えなくなった。

 

 麻美は、それ以上追いかける気にはなれなかった。

 目の前で起きたことの異常さに、頭も身体もついていかず、どうしていいかわからなくなってしまったのだ。

 しかし、だんだんと冷静になるに従い、判断力も戻ってくる。

 

「どういうこと……?」

 

 麻美は呆然となったまま、ふつふつと怒りを覚えた。



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 第138話 アナル姦の条件

 柚子は恥じらいに真っ赤になった顔を俯かせて、貞操帯が喰い込んでいるだけの下半身を露出したまま、玲子の歩みを追いかけて四つん這いで進み続ける。

 授業を続けている教室の横の廊下をこんな破廉恥な姿で四つん這いで歩くなど、とてもじゃないが現実のものとは思えなかった。

 それでいて、夜中に自慰代わりにやっている露出歩きのひとり遊びでは味わえない興奮を柚子は感じてしまっている。

 

 なんという恥ずかしさ──。

 そして、なんという興奮……。

 柚子は震えるほどの快感を覚えながら、膝を立てて玲子の後ろを四つん這いで進む。

 

 とにかく、これが催眠術というものなのか、柚子の身体はなぜか、柚子の意思に切り離されて、勝手に動き続けている。

 いまは、二階の教場が並ぶ廊下を進み終え、一階にくだる階段をおりているところだ。

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

 柚子は剥き出しの腰を左右に振るようにしながら、だんだんと荒くなる息を切らせながら階段を這いおりている。

 玲子に「四つん這いで付いて来い」という命令を与えられていて、柚子の身体は勝手に玲子の後を余つん場で追いかけているのだ。

 とにかく、自分の身体が自分の意思と離されて勝手に動かされるなど、恐怖でしかない。

 

「あっ、ふくっ……。はあ、はあ……」

 

 また、貞操帯に包まれているアナルに塗りつけられている掻痒剤は、苛酷なまでの苦悶を柚子に与え続ている。

 とにかく、狂う程にお尻の中が痒かった。

 もしも、暗示の力で四つん這い歩きを強要されていなかったら、どんな脅しを掛けられていようと、柚子はこの場で貞操帯を掴んで荒々しく揺さぶり、少しでも刺激を得ようと必死にアナルに挿入されているディルドを動かし続けただろう。

 すっかりと、柚子は追い詰められていた。

 

「こら、少しは声を抑えなさい。まだ授業中なのよ」

 

 二階から一階に進み終わったところで、玲子が立ちどまって振り返った。

 その顔には苦笑が浮かんでいる。

 

「で、でも、か、痒いんです」

 

 柚子は訴えた。

 教場棟の一階は、学科別の教場が立ち並ぶ場所だ。少し離れた場所から音楽の授業をしている音が聞こえる以外は、二階に比べれば人気も感じない。

 ただし、階段から降りたところは、外に出入りする扉の前であり、その扉が解放されていたので、柚子は外から見えない陰に身体を隠れさせている。

 そして、羞恥も耐えがたいものがあるのだが、それを遥かに越えて、なによりもお尻の痒みが耐えがたかった。

 動いているあいだは、アナルに挿入されているディルドがずり動いて、ほんの少しは痒みを癒してくれたが、こうやって止まると、それもなくなり、一気に痒みが襲い掛かってくる。

 いまも数瞬ごとに、痒みが倍増する感じさえある。

 

「そうでしょうね」

 

 玲子は手に握っているスマホを画面を見ずに、片手で操作する。

 その直後、ディルドがアナルの中で激しく動き出した。

 

「ひんっ」

 

 柚子はその場で身体を四つん這いのまま背中をのけ反らせてしまった。

 また、慌てて片手で口を塞ぐ。

 淫らな声が口から迸りそうになったのだ。

 快感も一気に飛翔し、絶頂を極めそうになる。アナルへの刺激で達するなど信じられないことであるが、限界を越えたアナルの痒みがディルドの激しい振動によって一瞬にして癒えるのは、快感以外の何物でもなかった。

 

「んんんっ」

 

 柚子は口を押さえたまま、ぶるぶると身体を震わせた。

 脳天を貫くほどの気持ちよさが貫く。

 しかし、まさに絶頂の寸前でディルドはぴたりと振動をやめてしまった。

 すると、再びアナルの痒みがぶり返してくる。

 

「ああっ、もういやです──」

 

 柚子は泣き声をあげた。

 

「いらっしゃい」

 

 玲子が再び歩き出す、

 特別教場の横を突っ切るようにして、今度は一階の廊下を進んでいく。

 柚子は、翻弄されているアナル責めと恥ずかしい格好で露出歩きをさせられる羞恥に撃ち抜かれたような気持ちになりながら、ふらつく手足を進ませ続けた。

 

 やがて、教場棟から渡り廊下を通って、職員室や生徒会室などのある棟に進む。

 こっちの棟は、授業時程とは関係なく、普通に廊下に出てくる者が多い気がする。

 緊張感が一気に駆け上がる。

 

「あっ、玲子さん、だ、誰か来ます……」

 

 そして、柚子は廊下の先から人の歩く物音が聞こえだしたことに気がついた。

 まだ遠いが、確実にこっちに向かってくる。

 しかし、玲子は立ちどまらないし、身を隠すようなこともしない。玲子の行動に縛られている柚子の身体は、それに応じて、諾々と玲子の後ろを四つん這いで進み続ける。

 そして、遠目だった人影がはっきりと視認できる位置までやってきた。

 普段とは違う視界なので、腰から下までしか確認できなかったが、ひとりの女生徒だ。

 騒ぐ様子もなく、こっちに歩いてきて、玲子の前でとまる。

 

「どうしたんだ、これは?」

 

 その女生徒が玲子に向かって言った。

 

「真夫様の指示で新人の調教よ」

 

「ふうん」

 

 その女生徒はこともなさげだ。

 誰だ──?

 

 顔をあげて、柚子を覗き込むようにしてきた彼女を見上げる。

 はっとした。

 柚子は彼女を知っていた。

 

 世良七生(ななお)──。

 

 特待生待遇でA級ランク生徒に属する二年生の女生徒だ。変わり者で有名だが、高校生離れした美術の腕を持ち、全国的なコンクールの常連だ。

 会話をしたことはないが、柚子も顔くらいは知っている。

 いずれにしても、こんな格好を見られることで、柚子は完全に怯んでしまった。

 露出遊びは自らするが、だからといって、実際に破廉恥な姿を見られることがどうでもよくなるわけではない。

 

「身体は幼い感じだが……。うーん……。エロイな……。クピードみたいだ……。なかなかいい……。そのうち描かせてもらう……。あたしは世良七生だ。真夫の奴婢のひとりだ」

 

 七生が柚子に話しかけた。

 抑揚のない淡々とした口調だが、蔑んだり、小馬鹿にする感じではない。

 しかし、真夫の奴婢のひとり?

 柚子は驚いた。

 

「ところで、こんなところでなにをしているの? 授業中の時間じゃないの?」

 

 玲子が七生に声を掛けた。

 

「単位は足りている授業だ。早朝から作品を作ってたけど、途中で中断したくなくてな」

 

「仮にも、わたしは理事長代理よ、堂々と授業をさぼった申告するんじゃないわ」

 

 玲子だ。

 半分面白がっている口調だ。

 随分と気安い感じである。

 

「わかった。二時限目以降からはちゃんと出席する」

 

「まあいいわ。行きなさい」

 

「わかった……。じゃあな、新人」

 

 七生が立ち去り、玲子が再び進みだす。

 柚子はそれを追っていく。

 それからは誰にもすれ違うことなく、ひとつの部屋の前に到着した。

 

 『理事長室』──。

 

 そこにはそう書いてあった。

 

「入りなさい。わたしの命令はここまでよ」

 

 玲子が理事長室に入る扉を開け放った。

 どうやら、玲子自身は一緒にはやって来ない気配だ。

 柚子が四つん這いのままソファーの並ぶ大きな部屋に入ると、ばたんと扉が閉じられた。

 ひとりきりになったところで、柚子は身体の自由が戻った気配を感じて、二本足で立ちあがる。

 どうやら、さっきの玲子の言葉で暗示からは解放されたみたいだ。

 柚子は、とにかく片手でソファの背もたれで身体を支させて上体を倒すと、もう一方の手で貞操帯の上からアナルを押して、激しく押し揉むようにディルドを貞操帯ごと揺らす。

 

「あああっ」

 

 柚子は声をあげた。

 ずっと我慢していた掻痒感が少しだけ癒える。

 まだ十分とはいえないが、それでも気持ちいい──。

 ソファを持っていた手を離して、胸の膨らみを制服の上から掴む。

 ぎゅっと握りしめる。

 

「くうっ」

 

 アナルとともに胸を強く動かすとt、痛烈なまでの快美観が襲い掛かった。

 

「あくっ、ああっ」

 

 がくりと膝を折った柚子はまたもや声をあげた。

 むさぼるように貞操帯を動かし、胸を揉む。

 

 気持ちいい……。

 

 でも、足りない──。

 

 柚子は泣きそうになりながらも、今度は胸ではなく、貞操帯の前側に手を当てた。

 貞操帯の前後に触れている手を思い切り強く動かす。

 

「くうう……」

 

 だめだ──。

 これじゃあ足りないのだ──。

 

 まだまだ痒い──。

 股間が疼く──。

 

 性感はどんとんと拡大していくが、刺激すればするほどに、狂おしい焦燥感が激しくなる心地になる。

 この貞操帯が邪魔をしているのだ──。

 網状になっている股間からはどろどろの愛液が染み出ているが、それがカバーするようにして、股間に指が触れさせてもらえない。

 このままじゃあ、狂ってしまう──。

 お尻も痒みもどんどんと拡大する。

 

『ははは、柚子のオナニーを見物するのも愉しいけど、そのままじゃあ、埒も開かないだろう。そろそろ許してやるから、奥に来るんだ』

 

 そのとき、ずっと耳にしていたワイヤレスのイヤホンから突然に声がした。

 今度は男の声だ。

 柚子ははっとした。

 

「坂本先輩ですか──?」

 

 我に返って貞操帯から両手を離す。

 イヤホンから聞こえたのは、早朝の教場で最後に現れた坂本真夫の声だった。

 そして、柚子はこの理事長室の最奥に、隣室に繋がる扉があることに気がついた。しかも、開いている。

 柚子はそこに進み入った。

 人がひとり通れるくらいの狭い通路がある。

 その奥に扉があった。

 ドアノブに手を掛ける。

 鍵はかかってない。

 柚子は扉を開いた。

 

「あっ」

 

 思わず声をあげた。

 そこにいたのは真夫だった。

 ほかには誰もいない。

 だが、驚いたのは、その部屋の光景だ。

 窓のない隠し部屋のような場所だったが、そこには真夫が腰かけている椅子を包むように電子器具の様々な操作具が並んでいて、片側の面には数十個の小さなモニターがあった。

 

 どうやら、映っているのはこの学園のあちこちに仕掛けられている監視カメラの映像のようだ。

 授業中のものもあれば、誰もいない学園内の野外の映像もある。

 モニターのある壁に迫るテーブルには学園内の地図があり、数字と記号が地図上に表記されていた。見る限り、簡単な操作により、モニターに映る映像を切り替えられる気配だ。

 

 真夫はそのモニターに半身を向けるようにしていたが、柚子が入ってくると、椅子を回転させて真っ直ぐに柚子に身体を向けた。

 真夫の前には壁の小さめのモニター群とは別に、アームの繋がっているやや大きめのモニターがあった。真夫はその画面を柚子に見せるようにした。

 

「あっ、それ……」

 

 柚子は思わず声をあげた。

 そこには、さっきまで柚子が自慰もどきをしていた隣室の理事長室が映っている。また、よく見ると、小さなモニターには柚子が四つん這いで歩いてきた廊下を映しているものもあった。

 また、柚子の教室もあった。柚子が失禁をして汚した場所は空席になっていて、すでに授業が再開をしている。

 もしかして、ずっとここで柚子を監視していたのだろうか。

 

「昼休みまで我慢させるつもりだったけど、ちょっと可哀想になってきたから、チャンスをあげようと思ってね。その貞操帯を外して欲しいかい?」

 

 すると、真夫が微笑を浮かべて訊ねてきた。

 柚子ははっとした。

 

「ああ、外してください──。お、お尻が痒くて死にそうなんです──。お願いします」

 

 柚子は叫んで真夫に詰め寄った。

 

「そうだろうね。その掻痒剤は特別な成分でできていて、実のところ、俺の精液を注がれないと、いつまでも痒みはなくならないことになっているんだ。つまりは、俺にアナルを犯されないと、痒みが消えないということさ」

 

 真夫がにんまりと口角をあげた。

 もうどうでもいい。

 覚悟はできている。

 なによりも、この痒みが消えるなら、なにをされてもいい──。

 

「だ、だったら、犯してください──。もう死にそうなんです」

 

 柚子は訴えた。

 こうしているあいだも、狂うような痒みは続いているのだ。

 柚子はがちがちと歯を鳴らした。

 

「わかった。アナルを犯してやろう──。ただし、条件がある」

 

 すると真夫が言った。

 

「じょ、条件って……」

 

「この場で俺の一物を口で奉仕して、俺の精を出させるんだ。そして、その精を一滴残らず飲みきったら、ご褒美にアナルを犯してあげるよ。もっとも、次の授業からはちゃんと参加してもらう。チャンスはいまの一時間目が終わるまでだ。残り十五分というところかな」

 

 真夫が椅子に座ったまま大きく脚を開いた。

 柚子は絶句してしまった。



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 第139話 フェラチオ試練

「どうするんだ?」

 

 椅子に座って脚を開いている真夫がにっこりと微笑んだ。

 さすがに躊躇するものがあったが、いずれにしてもアナルの痒みを解消してもらうには、指示に従うしか選択肢はない。

 いまこの時点でもじっとしているのが苦しいほどのお尻の痒みなのだ。昼休みまで放置など受け入れられるわけがない。

 だが、柚子が真夫の指示に従って、真夫の股間を口で奉仕しなければ、真夫は許すことはないのだろうと思った。

 それは真夫の表情を見て感じた。

 

「や、やります……」

 

 柚子は真夫の脚のあいだに跪いた。

 

「そうか。じゃあ、任せようか」

 

 真夫が腕組みをする。

 

「えっ?」

 

 柚子は困惑した。

 

「どうしたんだ? 時間は限られているぞ。とりあえず、性器を外に出さないと、口に含むことさえできないぞ」

 

 真夫が微笑んだまま言った。

 柚子はちらりと壁の時計に視線をやる。一時間目が終わるまで、残り十五分を切っている。

 確かにまごまごする余裕はないのだ。

 

「は、はい……」

 

 柚子は真夫のズボンに両手を伸ばして、ベルトを緩めてホックを外してチャックをさげる。

 さらにトランクスをゆっくりと押し下げていく。

 すると、真夫が少しだけ腰を浮かしてくれ、ズボンと下着を膝まで下げることができた。

 

「うっ」

 

 目の前に跳び出てきた真夫の男根に接して、柚子は思わず息を詰まらせてしまった。

 自分がかなり性欲が強いことは自覚はしているものの、男性経験などはない。生まれて初めて見る勃起している男の股間に、さすがに本能的なおののきを覚えた。

 

「どうしたんだ? 始めないのか?」

 

 真夫だ。

 柚子は緊張で口にたまった唾を呑み込んだ。

 

「し、します」

 

 直立する真夫の男根をおそるおそる握ると、口をいっぱいに開いて男根の先を口の中に入れていく。

 これが男の性器……。

 頭の中で想像している以上に迫力があって太かった。

 柚子の小さな口では、精一杯に開かなければ、入らないような気さえした。

 

「んふっ」

 

 むっとするような精液の香りが口の中に拡がり、鼻の奥側に伝わってきた。

 もっと臭くて耐えられないものかと思ったが、そうでもない。

 いや、匂いは強烈なのだが、嫌悪するような匂いではなかった。むしろ、興奮する。

 やっぱり自分は淫乱の性質があるのだろう。

 真夫の男根の熱さと硬さといやらしさに、くらくらするような性感の昂ぶりを柚子は覚えてしまった。

 ただ口の中に男の性器を入れただけだ。

 それだけで、柚子は全身を柔らかい羽毛でねっとりとくすぐられたような快感に包まれた。

 

 もっと……。

 

 柚子はさらに深くまで男根を呑み込んだ。

 思わず、嗚咽が込みあがったが、その苦しさがぞくぞくするような甘美感の戦慄に変化した。

 舌先で先端を舐めていく。

 どうやるのが正しいのかという知識は皆無だ。

 遠慮がちに舌を真夫の性器に絡ませていく。

 すると、ちょっとだけ先端から汁のようなものがにじむ出たような気がした。これを続けていけばいいのだろうか。

 それにしても、さらに匂いが強くなる。

 頭がぼうっとなるような興奮に包まれる。

 

 しばらくのあいだ、柚子は先端をそうやってしゃぶり続けた。

 真夫の男根の先からは、ちょっとずつ染み出るように精液が出ている。真夫も感じてはくれているのだ。

 

 苦くて舌にまとわりつくような粘性……。

 口の中から快美観が全身に拡がる。

 多分、自分はこうやって真夫の性器を舐めるのが好きになると思った。

 いや、すでに好きになっている……。

 アナルの痒みのこともあり、柚子は真夫の股間を奉仕しながら、知らず腰をもじもじと動かし続けていた。

 

「そんな大人しいおしゃぶりだと、いつまで経っても射精させることはできないぞ。唾液をたくさん出して、激しく擦るんだ。音を立てるくらいにね。時間切れになるぞ」

 

 真夫が揶揄うような口調で声をかけてきた。

 唾液は十分なほどに出て気いる。

 柚子は慌てて、口の動きを速くした。

 顔を前後斜めに激しくスライドさせる。

 

「んほっ」

 

 たまらず声が出た。

 顔の小さい柚子にとって、真夫の性器は十分以上に大きくて迫力がある。

 苦しいがそれを遥かに快感が上回る。

 いや、苦しいからこそ、こんなにまで欲情するのかもしれない。

 まるで未知の性感を口に作られていく心地だ。

 

「速度が落ちた。時間切れになるぞ。そして、音も立てるんだよ。そうやって、俺を愉しませるのもコツだ」

 

 はっとした。

 いつの間にか、残り時間が五分を切っている。

 だが、疲労も覚えてきて、確かに勢いがなくなっている。

 とにかく、音が出るほどに強く男根をすすりあげる。

 

「……速さも大切だけど、もっと喉の奥までのみ込むんだ。口全体で包んでごらん」

 

 そう言われて、柚子は本当にぎりぎりまで喉の奥に真夫の性器の先端を押し込む。

 喉元にずんずんと性器の先が当たる。

 

「んごっ、ごっ」

 

 またもや、えずいてしまうが、同時にそんなところにも性感が潜んでいること知った。

 一気に快感が駆けあがる。

 だが、真夫は射精をしてくれない。

 ついに、時間切れになり、部屋にあるスピーカーから一時間目が終了したことを示すチャイムが鳴り響いた。

 

「時間切れだな。いつでも挑戦していいけど、さすがに授業の合間は無理だろう。次はやっぱり昼休みかな。それとも、二時間目と三時間目の休みは二十分で少し長いから、そのときに来るか?」

 

 真夫が柚子の口から男根を引き抜いた。

 

「ああ、そんな……。でも、お尻が痒いんです。せめて、革ベルトを外して、お尻の中のものを抜いてください──」

 

「そればできないな。ご褒美は俺を気持ちよくさせたときだと言ったはずだ。それに、まだ淫具が嵌っているから我慢できるんじゃないのか? それとも、全部外してもらって、授業中にアナルでオナニーをするつもりか?」

 

「そ、そんなことは……」

 

「とにかく、お預けだ。頭のいい柚子だから、どうやれば効果的にフェラができるか反省してみるんだ。まあ、せめてもの情けで次の中休みには、柚子のクラスの真下にあるLL教場で待っていてやるよ。ここまでくる移動時間は節約できる。さあ、教室に戻るんだ」

 

 真夫がズボンと下着を引きあげた。

 

「む、無理です。痒みが限界なんです──」

 

「そうか。じゃあ、次こそ頑張れ」

 

 真夫が柚子の腕を掴んで部屋から出ようとする。

 

「ま、待って──。次の授業も出なくていいです。ここで続きをさせてください。今度こそ、真夫さんを気持ちよくします──」

 

 柚子は真夫の腕を掴んで、部屋から出させまいと踏ん張った。

 その直後、突然にお尻の中の淫具が緩やかな蠕動運動を開始した。

 

「あおっ」

 

 柚子は思わずスカートの上から両手でお尻を押さえて、その場にうずくまってしまった。

 

「もしも、二時間目に授業に出てなかったら、昼休みどころか、明日の朝までそのままにするぞ。さあ、教室に戻れ」

 

 真夫が愉しそうな口調でそう言い、柚子の頭をなでると部屋を出て行ってしまった。

 すると淫具の振動がなくなり、刺激が消滅したことで、狂うようなお尻の痒みがまたもや襲い掛かってきた。

 

 


 

 

 二時間目の授業が終わると、すぐに柚子は教室を出た。

 授業中に失禁をするという失態を犯した柚子だったが、二時間目の授業が始まる直前に戻った柚子にクラスメートたちが話しかける時間はなかった。

 そして、その授業の内容も全く覚えてない。

 記憶しているのは、アナルに塗られている掻痒剤の痒みに耐えて、必死に腰を動かすのを我慢している自分の状態だ。

 そして、いまもそうだが、頭を占領しているのは、アナルに襲っている激しい痒みと疼きだけである。とにかく、授業のあいだ、柚子は椅子の板にお尻をつけ、擦りつけるように小刻みに動かしながら、必死にアナルの中の淫具を締めつけ続けた。

 

 しかし、クラスメートがいる教室の中なので、大きく動かすことができず。それで得られる刺激は微々たるもにすぎた。

 だが、それがあったからこそ、まだ我慢することができたのだ。

 真夫の言葉ではないが、もしも、アナルの中に淫具がなければと想像するだけでぞっとなった。

 一方で、これこそ、そうやってじわじわと柚子を追い詰めて、柚子を淫乱なマゾに調教しようとしている真夫の責めなのだということも悟った。

 とにかく、すっかりと柚子は追い詰められている。

 いまは、すでにアナルを犯されることに恐怖はない。

 この痒みが消えるのであれば、どんなことと引き換えにしてもいいと思っている。

 

 友人が心配そうに声を掛けてくるのを振り切って、柚子は指示をされたLL教室に入った。

 人気のない空教室に、真夫が待っていた。

 今度は、柚子が着せられている従者生徒用の灰色の制服を身に着けている女生徒と一緒だった。

 綺麗な人であり、面識はあまりないが、彼女のことは知っている。

 真夫の従者生徒の白岡かおりである。

 

「ふふふ、顔が真っ赤よ。かなりこいつに苛められているみたいね」

 

 そのかおりがくすくすと笑う。

 

「早いな。どんな気分だ? まあ、時間が惜しいだろうから、続きをしてもいいよ。ただ、俺たちも授業があるから制限時間は残り十分間かな」

 

 柚子は躊躇うことなく、真夫の前にしゃがみ込み、真夫のズボンのベルトを外し始める。

 さっきは二十分以上の時間があったけど、結局真夫の性器から精を出させることはできなかった。今度は十分しかない。

 そして、これに失敗すれば、次のチャンスは昼休みしかないだろう。

 急がなけければ……。

 一秒たりとも無駄にはできない。

 今度は真夫は仁王立ちしたままだ。

 柚子は膝立ちしたまま、下着をズボンをさげて真夫の性器を露出した。

 すでに隆々と勃起している真夫の怒張を目の当たりにして、柚子は自分がかなり限界に達していることがわかった。

 すぐに口を開いて、股間を咥えようとした。

 

「待ちなさい。性奴隷がご主人様のお道具をおしゃぶりするときには、まずは挨拶の口づけをするのよ。先っぽにね」

 

 すると、かおりが口を挟んできた。

 

「あっ、はい」

 

 言われた通りに真夫の性器の先端に口づけをする。

 本当に奴隷になった気がして、ぞくぞくとなった。

 

「それと、奉仕のときには両手は後ろよ。こいつは、どエスだから、そっちの方が興奮してもらえるわ」

 

「は、はい」

 

 両手を背中に回して、左手で右手首を掴む。

 それだけで不思議な快感が柚子に襲い掛かった。

 そして、改めて口を開いて真夫の怒張を口に含んでいく。

 

「んんっ、んっ」

 

 むっとするような精の香りが柚子の嗅覚を刺激する。

 同時にゆらりと視線が歪むほどの快感が柚子の中に拡がった。

 奴隷として支配されて躾けられる……。

 それがこれほどの欲情を呼ぶとは知らなかった。

 

 この人は柚子のご主人様……。

 

 とにかく、精を出してもらわないと……。

 柚子は一心不乱に舌と口を動かした。

 しかし、結局のところ、真夫から精を出せることはできなかった。

 見守っていたかおりが、時間切れを宣言する。

 

「残念だな。じゃあ、次は昼休みだ。今度はSS研の部室だ」

 

 真夫が腰を引いて、怒張をしまう。

 

「ま、待って──。も、もう少しだけさせてください。か、痒いんです──。お願いします」

 

 お尻の痒みは限界に達していた。

 昼休みまでこのまま放置など無理だ──。

 

「悪いけど、俺たちも授業があってね。昼休みだったら、十分に時間があるだろう。次こそ、成功するさ」

 

「じゃあね」

 

 だが、無常にも真夫とかおりは、またしても柚子を置き去りにして立ち去ってしまった。

 

 


 

 

 うう、痒い……。

 

 三時間目の授業が始まっている。

 数学の教師の言葉はまったく頭に入ってこない。

 とにかく、時間が過ぎてくれるのを願って、机に顔を伏せて、スカートの上から太腿に爪を喰い込ませる。

 そうでもしないと、痒みに追い詰められて、この場でお尻で自慰をしそうなのだ。

 

「……じゃあ、今日は二十二日だから、出席番号が二番、十二番、二十二番の人は前で問題を解いてください」

 

 そのとき、数学を教えていた男性教師がそういうのが聞こえた。

 柚子は二十二番だ。

 慌てて顔をあげる。

 すでにほかの二人の生徒は席を立って前に進みだしていた。

 ホワイトボードには問題が書いてあり、どうやら柚子は一番左の問題を解答しなければならないみたいだ。

 授業は聞いてはいなかったが、すぐに解き方は頭に浮かんできた。

 だが、この状態でとても前に進んで解答をすることができるとは思えなかった。

 

「どうしたんだ、立花さん? 気分が悪いのか?」

 

 中年の男性である数学教師が訝しむような視線を向ける。

 確かに顔を真っ赤にして、汗びっしょりとなって、虚ろな表情をしている柚子は、ちょっとまともには見えないのかもしれない。

 かっと羞恥に襲われる。

 とにかく、誤魔化さなければ……。

 考えたのはそれだけだ。

 

「だ、大丈夫です……」

 

 立ちあがって、前に向かう。

 ホワイトボードの前に立ち、ホワイトボードマーカーを握る。

 すると、貞操帯が喰い込んでいる股間の部分から愛液が漏れて、つっと太腿の内側を伝い落ちるのを感じた。

 柚子は慌てて、脚を閉じてそれを隠す。

 そのときだった。

 

 突然にアナルに埋まっている淫具が激しく振動を開始してきたのだ。

 

「んぐううっ」

 

 柚子はその場で膝を折りそうになってしまった。



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 第140話 先輩奴婢と後輩ペット(その1)

 いやっ、気持ちいい──。

 

 ただれるような痒みに襲われているアナルに襲った淫具の刺激は、柚子を戦慄させるほどの快感を与えた。

 だが、クラスメートの見守る授業中なのだ。

 柚子は必死に歯を食いしばって耐えた。

 しかし、その柚子の我慢を嘲笑うように、だんだんと振動が強くなる。

 柚子は、その場で凍りついたように硬直して、ついにマーカーを落としてしまう。

 

「ああっ」

 

 しかも、ついに声が出てしまった。

 まさか、性感を極めてしまっている声と思ってないのか、それとも気がつかれているのかわからないが、教室がざわめきだすのはわかった。

 だが、もう耐えられない。

 全身からの汗だけでなく、制服の短いスカートの下から貞操帯の前面の網部分から流れ落ちる愛液が太腿の内側を伝って、つっと膝下まで流れているのがわかった。

 膝もがくがくと震え始めた。

 

「くっ」

 

 柚子はがくんと膝を折った。

 

「君──」

 

 男性教師が慌てたような声を出すのが聞こえた。

 

「先生、ゆっちゃんは朝から具合が悪くて」

 

 友人の麻美の声──。

 でも、もうなにも考えられない。

 朦朧としている意識の中で全身にびりびりとした甘美感が迸る。

 自慰で絶頂した経験のある柚子には、このまま刺激を続けられれば、もうすぐ絶頂に達してしまうだろうということがわかった。

 

 いっちゃう──。

 いく──。

 もうとめて──。

 

 だけど、アナルバイブの振動は容赦なく動き続ける。

 柚子はついにその場にしゃがみ込んでしまった。

 せめて、声だけは防ごうと、柚子は奥歯を噛みしめて、唇を固く閉ざす。

 懸命に快感を制御しようとした。

 そのときだった。

 

『もういい。派手にいけ。思い切り絶頂しろ』

 

 耳の中に入りっぱなしだったワイヤレスイヤホンから真夫の声がした。カチカチという小さなメトロノーム音とともに……。

 なぜか、その存在も忘れていたが、ずっと片耳に挿入したままだったみたいだ。そして、その真夫の言葉が終わった瞬間に巨大な快感の大波が襲ってきた。

 とてもじゃないが我慢できるようなものじゃない。

 圧倒的で絶望的なほどの快楽の大波に一瞬にして、柚子はのみまれてしまった。

 

「んんんっ」

 

 柚子は、がくがくと身体を痙攣させて、その場で達してしまった。

 じゅんと体液が股間から迸るのがわかった。

 また、その瞬 、間頭が真っ白になり、その場に倒れ込む。

 柚子は完全に失神してしまった。

 

 


 

 

「ふふふ、大丈夫?」

 

 声を掛けられて、柚子は微睡(まどろ)みの中から覚醒した。

 聞こえたのは女性の声だった。

 なにかの台のようなものにうつ伏せになっている?

 静かに眼を開ける。

 

 ぼんやりとした視界がはっきりしてくると、目の前に灰色の制服を着た女生徒の身体が見えた。

 ここが教室ではないのはわかったが、どこにいるのかわからない。

 そして、朦朧としていた意識の中で一気に羞恥が込みあがってきて、全身がかっと熱くなるのを感じた。

 

 そうだ──。

 自分は授業中のクラスの中でアナルの淫具を振動されて、絶頂をしてしまって……。

 しかも、絶頂の直前にイヤホンから真夫の声が聞こえて、すると弾けるほどの快感が飛翔して意識がとぶほどの快感を極めてしまって……。

 でも、それからどうなったのかわからない。

 しかし、ぼんやりとした記憶の中に、大騒ぎになった教室からストレッチャーのようなもに載せられて運び出されたような……。

 

 とにかく、ここはどこだろう?

 少なくともどこかの教室ではない。しかし、医務室のような場所でもないだろう。

 柚子はうつ伏せの身体を起こそうとした。

 

「えっ?」

 

 だが、思わず声をあげてしまった。

 四肢がびくとも動かなかったのだ。

 そして、自分があん馬台を思わせる楕円形のマットのようなものにうつ伏せになっている自分を発見した。

 その台には四本の脚があり、柚子はその四本の脚に手足を垂らしていて、手足はそれぞれの台の脚に革ベルトで拘束されていた。

 特に、両脚は開かされていて、左右それぞれに数本ずつのベルトが巻かれているらしく、脚はびくとも動かない。

 制服は着ていた。

 だが、首を曲げることができないのではっきりとは認識できないが、身に着けているのは上半身だけで、下半身にはなにも身に着けていない気がした。

 腰や太腿に当たる直接の外気を感じるのだ。

 

「ああっ、痒い──」

 

 そして、身体が完全に覚醒してくると、狂うようなあの痒みが襲い掛かってきた。

 塗られてからかなりの時間が経つが、いまだに掻痒剤の効果が柚子のアナルに猛威を振るっているのだ。

 柚子はほとんど無意識に腰を振っていた。

 だが、両脚だけでなく、脚の付け根や腰の上部分にも革ベルトが巻いてあり、ほとんど揺することができない。

 また、ずっと挿入されていたアナルの淫具は取り出されているみたいだ。

 締めつけても異物の感覚がない。

 ただそれは、痒みを癒す手段が完全に失われたということであり、柚子は顔を左右に振って、悲鳴をあげた。

 

「あらあら、可哀想にね。教えてもらったと思うけど、あの掻痒剤のクリームは特殊な成分で合成されていて、あの真夫の精を注がれないと、軽く一日以上、痒みが続くのよね。いったん痒みが癒えても、真夫の精液による解毒がない限り、痒みが繰り返すのよ。まあ、もう少し頑張りなさい」

 

 目の前にいて視界を塞いだかたちになっているのは、かおりだった。

 そのかおりが前からどいて、柚子の後ろ側に回り込んできた。

 すると、少し離れた場所に立っている真夫が視界に入った。驚いたことに、その真夫の股間に、あの理事長代理の工藤玲子がしゃがんでいる。

 しかも、真っ赤な顔で淫らに口で奉仕をしてるのだ。

 いや、奉仕というよりは、逆に真夫が玲子の口を犯しているという感じだ。真夫が玲子の後ろの髪を持ち、乱暴に顔を前後させて自分の股間をしごいている。

 また、玲子の両脚はM字に開いており、真夫が靴のまま足で玲子の股間をこすって刺激している。

 ふたりがどういう状況なのかわからず、柚子は真を丸くした。

 ただ、それだけ乱暴な扱いをされているにも関わらず、玲子はうっとりとした表情であり、完全に牝の顔になっている。

 すると、玲子をいたぶりながら、真夫が視線をこっちに向けた。

 

「やっと、起きたか。本当なら、昼休みまで我慢させるところだったけど、クラスで気絶するほどに絶頂する恥ずかしい姿をさらしてくれたご褒美だ。まだ四時間目の途中だけど、SS研の調教室に連れてきてやった。しかも、俺から精を出させる課題も玲子さんが代わりにしてくれる。大先輩の奴婢様に感謝しろよ」

 

 真夫がにっこりと笑う。

 

「えっ、ええ?」

 

 状況がよく呑み込めない。

 とにかく三時限目の数学の授業中に淫具で責められて失神した柚子は、意識のないあいだに、ここまで運ばれたということか?

 そして、ここはSS研の調教室?

 そういえば、そんな感じだ。

 こうやって視界に映る部分だけでも、調教具らしきものが並んだ棚もあり、壁には責め具や拘束具なども掛けられている。

 また、どこかの地下室という感じて、どこにも窓はない。

 

 そのとき、後ろに回ったかおりが突然に柚子のアナルの中に指を挿入してきて、深々と埋めた。

 

「んああっ、ああっ」

 

 柚子は声をあげた。

 なにか潤滑油らしきものを塗っているのが、ほとんど抵抗なく、柚子のアナルはかおりの湯の指を受け入れてしまった。

 そのかおりがゆっくりと柚子のアナルを解しだす。

 指の刺激で痒みが癒えていく。

 柚子は気持ちがよくて、拘束されているうつ伏せの身体をのけぞらせた。

 

「ああっ、き、気持ちいいです──」

 

 柚子は甘い声をあげた。

 

「んんっ、んんっ、んあっ、んあっ、んん」

 

 一方で真夫に顔で男根を刺激させられている玲子が苦しそうに鼻息をしながらも、よがり声をあげている。

 そのあいだも、かおりの指は柚子のお尻の中をゆっくりとマッサージをしてくる。

 柚子と玲子の艶めかしい声が部屋に響き続ける。

 

「しっかりと柔らかくなったら、真夫が犯してくれるわ。まあ、もう少し拡げないと痛いかもしれないけどね」

 

 かおりがお尻を刺激しながら言った。

 ずんずんという重みのある快感が柚子にどんどんと浸透していく。

 揉まれるたびに、アナルの中が弛緩していく。

 お尻が次第に熱くなっていく。

 

「いい感じね。じゃあ、次は淫具よ」

 

 かおりの指が抜かれる。

 必死に首を後ろに回そうとした。

 だが、見えない。

 すると、かおりが柚子に見えるように、手にしたものを柚子の顔の前に持ってきた。

 丸いボールのようなものが十数個繋がっている棒状の淫具だ。だが、ずっと挿入されていたアナル棒よりもずっと太かった。

 それを挿入されるのだと思うと、ちょっと怖くなる。

 

「ま、待ってください。白岡先輩──。怖いです。待って──」

 

「かおりでいいわよ。入れるわね」

 

 かおりが再び柚子のお尻の後ろに立ち、棒を挿入してきた。

 

「ああっ、あくっ、くっ」

 

 お尻の中にアナル淫具の先端が挿入を開始してきた。

 柚子は襲ってくる不快感に動かない腰をくねらせる。

 

「ああっ、いやあっ、いたっ、あくっ」

 

 快感もあるが痛みもあった。

 異物の挿入が奥に奥にとなるにつれて、柚子も身体も知らず弓なりになる。

 

「んぐううっ、んんんんっ」

 

 そのとき、視界の先で真夫に責められていた玲子はM字でしゃがんだまま身体を突っ張らせた。

 その玲子ががくがくと震える。

 また、真夫もまたぶるぶると腰を震わせるような仕草をしたと思った。

 すると、ひと際大きな吠えるような声をあげたかと思うと、開いている玲子の股間からおしっこのようなまとまった体液がいきなり迸った。

 

「んあああっ、ご、ごめんなしゃい」

 

 玲子が真夫から口を離して泣くような声をあげた。

 見ると、真夫の脚は、玲子の股間が吐き出したものでびっしょりと濡れている。

 それはともかく、玲子の口には真夫が吐き出した精液が溜められたままみたいだ。

 吐き出すことなく、大事そうにそれを口に入れている。

  

「ははは、相変わらずですね、玲子さん。まあ、玲子さんへの罰はまた改めるとして、その口の中のものを柚子に渡してやってください。柚子はそれを飲むんだ。本来なら、柚子が自分で出させないとならなかったんだけど、まあ、それを飲むことで勘弁してやるよ」

 

 真夫が言った。

 すると、額に前髪を濡らして貼り付けている玲子が上気した顔でこっちにやってきた。

 そして、柚子の顔に顔を持ってきて、ぴったりと唇を重ねると、舌で押し込むように、柚子の口の中に精液を口移しで移動させる。

 

「んんっ、んっ、んあっ」

 

 柚子は必死にそれを口から喉の奥に押し込んだ。

 

「ほら、こっちも気を集中しなきゃだめよ、ペットちゃん」

 

 一方でかおりが今度は回転するように淫具を動かしてきた。

 

「ああっ、んあああっ」

 

 柚子は苦痛と快感に身体をのたうたせた。



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 第141話 先輩奴婢と後輩ペット(その2)

「んぐっ、あぐ、んんん……」

 

 柚子はうつ伏せの格好で台を抱くように拘束されている身体をよじらせた。

 背後からかおりによって、痒みにただれるアナルの中の粘膜を擦りあげられ、さらに、前からは玲子から舌で口の中を擦られ、これまでとは次元の違う快感が拡がり始めたのだ。

 口の中とアナルを同時に刺激され、鋭い痺れのような疼きが全身を駆け巡っていく。

 

「んはっ、はあっ、ああっ、んはあ……」

 

 次第に身体の震えがとまらなくなり、下腹部の奥がずんと熱くなる。

 そして、口付けをされ続けているので、息も苦しい。

 だが、その息苦しさもまた、心地いい。

 頭が朦朧として、全身が溶けていくみたいになる。

 

「ああっ、あくうっ、ああ、あああ……。な、なにこれ……。き、気持ちいいです……。ああっ、あっ」

 

 身体の身悶えがとまらない。

 柚子はあまりにも強い衝撃にただただ、背中をのけ反らせて喘いだ。

 

「いい感じだね。玲子さんも、かおりちゃんももういいよ……。お待ちかねのアナルセックスだ。それとも、許して欲しいかい?」

 

 真夫が玲子とかおりに声をかけて、ふたりを離れさせた。

 淫具がアナルから抜かれる。

 たちまちにお尻の痒みが復活して、柚子に襲い掛かってきた。

 

「……ああっ、痒いです。真夫先輩、痒い──」

 

「そうだろうね。でも、まだ罰の続きだから、簡単には犯してあげられないな。柚子ちゃんがひかりちゃんにやったことを真剣に謝ってもらわないと」

 

 かおりたちが柚子から離れ、入れ替わるように柚子の後ろに再び回ってきた。

 すると、すっと指をアナルに挿入してきた。

 かおりによって十分に解されたアナルは、まったく抵抗なく真夫の指を受け入れてしまった。

 ただ、それはともかく、ぬるりぬるりと粘膜を指がなぞる感触がアナルの中に拡がっていく。

 まさかとは思うが、クリームのようなものを改めて塗り足している?

 真夫の手つきはそんな感じなのだ。

 

「あっ、ああっ、な、なにをされてるんですか──。も、もうなにかを塗るのはお許しを……。ああっ……」

 

「心配しなくても、朝に塗ったのと同じ掻痒剤だよ。精液で中和される前に重ね塗りされれば、さらに痒くなる。それでいて、俺の指やちんぽが痒くなることはない。媚薬責めに適して開発してもらったものでね」

 

 真夫が指で潤滑油のようなものを柚子のアナルに入れ込む仕草をしながら笑った。

 愕然とした。

 やっぱりだ──。

 柚子は必死で腰を揺すって声を震わせた。

 

「も、もう許して──。謝ります──。後でどんなこともしますから、もうお許しを──。どうか、お尻を犯してください。助けて──」

 

「どんなことでもするんだね? ひかりちゃんに罰を受けるね?」

 

「は、はい、約束します──。で、ですので、どうか、柚子のお尻を犯してください、真夫先輩」

 

 柚子は必死で言った。

 

「わかった。その言葉を忘れないようにね。じゃあ、なぶってあげよう」

 

 すると、真夫の指が抜かれ、次いで、触れるか触れないかくらいの柔らかな刺激のものがアナルの入口をすっすっと撫ぜ始めた。

 

「ひゃあああっ、な、なになに? んひいいいっ」

 

 まるで電流でも流されたような衝撃に感じて、柚子は拘束されている身体を限界まで反り返らせた。

 これはおそらく筆だ──。

 真夫は、指を抜いたアナルを犯すのではなく、今度は筆責めを始めたのだと悟った。

 

「ああ、だめえっ、あああっ、あひいっ、そ、そんなんじゃなく──。お、お、犯してください──。犯して──。あひいいっ」

 

 柚子は唯一自由である首から上を振り乱して、全身から生汗を噴き出させた。

 朝から媚薬責め受けている身体には、筆の繊細な刺激などではとてもじゃないが癒しにはならず、焦燥感と渇望感をあおりたてる拷問でしかない。

 痒くて堪らないアナルを犯してもらうことで、やっと苦悶から解放できると思っていただけに、ここで改めて始まって焦らし責めに、柚子は声を上ずらせて哀訴を繰り返す。

 そして、かおりによる淫具責めで束の間紛れていたアナルの痒みが、真夫の筆責めにより、これまで以上の掻痒感として襲い掛かる。

 

「痒いいいっ、痒いいです──。も、もう犯して──。お尻の穴を犯してください──」

 

 狂うような痒みに柚子は絶叫した。

 そのあいだも真夫は繰り返し、柚子のアナルを筆で撫で繰り返す。

 

「まあ、そう言うな。筆だけでなく、こんなものも準備してるんだ……。玲子さん」

 

 真夫が筆を柚子の顔側にいる玲子に手渡した。

 代わりに、小さな棒のようなものが真夫に渡される。

 よく見えなかったが、もしかして、耳かき?

 はっとしたが、次いで、その耳かきの先でアナルの入口からちょっとだけ奥に入った場所をコリコリと刺激される。

 

「んひいいっ」

 

 柚子は声をあげてのたうった。

 しばらくのあいだ、今度は耳かきの先で刺激を繰り返された。

 

「相変わらず、えげつないわねえ」

 

 横で見ていたかおりが苦笑するような口調で呟くのが聞こえた。

 

「真夫様、存分になさって大丈夫です。すでに、この柚子は早退の手続きをしてますから」

 

 玲子だ。

 

「ありがとう、玲子さん。そうだ。ついでに、明日からクラス替えもしてもらおうかな。いまのクラスはちょっと悪戯しすぎて醜態をさせすぎたし、渚や梓のいる従者クラスがいいんじゃないかな。渚に伝えておけば、授業をモニターで見張ってなくても、効果的に調教ができるし」

 

「わかりました。そのように手配します」

 

「うわっ、あの渚と同じクラスに? 気の毒に……」

 

 柚子の上で交換された玲子と真夫の会話に、かおりが言葉とは異なり、少しも気の毒さのこもってない口調で口を挟む。

 それはともかく、会話の途中で真夫が耳かきの刺激も終わらせたことで、気が狂う程の痒みが柚子をまたもや襲う。

 掻かれれば掻かれるほど掻痒感が増すのだが、それでもそれがなくなれば、さらにお尻の痒みが激増する。

 

「痒いいいっ。お、お、おかしくなります──。もう、犯して──。なんでもしますから──」

 

 柚子は幾度も叫んだ言葉を繰り返すしかなかった。

 

「まあ、さすがにこれ以上は可哀想か」

 

 すると、真夫が柚子の尻たぶを左右の手で掴んだのがわかった。

 そして、男根がアナルに押し当てられる。

 

「ああっ、ああっ」

 

 ずぶずぶと真夫の怒張が柚子のアナルの粘膜を擦り拡げながら刺し貫いてくる。

 想像していた痛みなどない。

 あるのは快感だけだった。

 焦らしに焦らされ、狂うような痒みに苛まれているアナルを固い男根で抉られる。

 すでに身も心もそれを待ち望んでいた。

 それは柚子が想像もしなかったような破壊的な愉悦だった。

 

「ああっ、ぎ、ぎもじいいいい──」

 

 柚子は声を絞りあげていた。

 掻痒感が消滅していき、アナルが溶けるような快感の衝撃が駆け抜ける。

 快美観が脳天を突き抜け、視界が白くなる。

 

「あああああっ」

 

 柚子はそのまままで昇り詰めてしまった。

 

「なんだかんだで、優しいわねえ……。処女のままアナルを犯して、気をさせるほどによがらせるんだから。よく考えれば、とんだご褒美よねえ」

 

 かおりの声だが、すぐそばで話しているのに、どこか遠くの声に聞こえる。

 とにかく、柚子は拘束されている身体を限界までのけぞらせて、しばらくのあいだ身体を硬直させた。

 

「ああっ」

 

 そして、がっくりと身体の下の台に突っ伏した。

 

「まだ力を抜くのは早いぞ」

 

 真夫の男根が根元までアナルに突き挿さり、次いで今度は抜かれだす。

 さらなる快感が襲い掛かる。

 

「ああっ、いやああっ、もういったのお──。先輩、もういきましたあ──」

 

 柚子は狼狽えて叫んだ。

 絶頂感が抜けていき、そこに爆発するような喜悦が一瞬にして込みあがったのだ。

 そのあまりの凄まじさに、一瞬柚子は恐ろしささえ覚えてしまった。

 

「そうか。じゃあ、やめるか?」

 

 すると、真夫が突然にアナルの中で怒張を動かすのをやめた。

 途端に痒みが復活する。

 お尻の奥から火で炙られているような熱さが柚子を疼かせる。

 

「や、やっぱりだめえ──。痒いです──」

 

 これはおかしくなる──。

 意識してしまうと、痒みも疼きもどんどん増幅されてしまう。

 絶頂をして開放感を味わったのに、耐えがたい痒みがさらなる刺激を求めてしまう。

 柚子はもうどうしていいかわからなかった。

 

「これが時子婆ちゃんの開発した掻痒剤責めの味だよ。痒みのために、いってもいっても、いき足りなさが発生する。これが俺が射精するまで続く……。そうやって、俺の奴婢になっていく……」

 

「奴婢じゃなくて、こいつはペット枠じゃなかったの?」

 

 かおりだ。

 

「そうだったか」

 

 真夫の律動が再開される。

 快感の大津波が押し寄せる。

 

「んはあああっ、あああっ」

 

 激しい快感に柚子はなにも考えられなくなる。

 犯されているのはアナルだけど、疼きは股間や子宮にも襲っている。いや、むしろ、そっちの方がびりびりと熱く疼く──。

 

「もっと尻に力を入れるんだ。締めつけてみろ」

 

 真夫が柚子のアナルを律動しながら言った。

 

「は、はいいいっ」

 

 柚子は何も考えずに、懸命にお尻の穴に力を入れる。

 

「ああっ、気持ちいいよ」

 

 真夫がさらに腰を振りたてた。

 

「はああっ、あああっ、あああっ」

 

 柚子は顎を突きあげて再び絶頂した。

 がくんがくんと大きく身体を揺らす。

 

「じゃあ、これでSS研の入部を正式に認めてやろう」

 

 真夫が呻くような口調になって言った。

 次の瞬間、柚子のアナルの中で真夫が精を吐き出したのがわかった。

 

「ああっ、ひゃあああ──」

 

 柚子は悲鳴をあげた。

 真夫が精を放つとともに、あんなに激しかった掻痒感が一瞬にしてかき消えたのだ。

 それは気が遠くなるような快感だった。

 絶頂したばかりの柚子の快感に、掻痒感が消滅することで生み出された快感が重ねられる。

 

「ひいいいっ」

 

 柚子は唾液を噴き出させながら、身体をとび跳ねるように弾ませる。

 絶頂の痙攣が駆け抜ける。

 真夫がおもむろに男根を抜いていったのがわかった。

 

 ぐったりと脱力した柚子の拘束をかおりと玲子が解いていく。

 だが、床に突っ伏した柚子は、すぐに、真夫によって縄で後手縛りに両腕を緊縛されてしまった。それだけでなく、両脚をそれぞれに曲げた状態で縛られて、今度は床に仰向けにひっくり返された。

 柚子は真夫たちの見下ろす真ん中で、M字に開脚した状態で天井を向けるかたちになる。

 

「じゃあ、今度はいよいよ、破瓜といこうか。でも、その前にこっちにも媚薬責めといこうかな……。ところで、かおりちゃん、よろしく」

 

 真夫がまだ剥き出しのままの股間をかおりに向けた。

 すると、かおりが「はーい」と間延びした返事とともに、真夫の股間を口で含んで舐め始めた。

 それはともかく、いま、なんと言った?

 また、媚薬責め──?

 柚子は愕然とした。

 そのとき、どこかの扉が開いて誰かが入ってきたような気配がした。

 柚子ははっとして顔をそっちに向ける。

 

「やっと僕の出番だね……。さあ、お仕置きの時間だよ。昨日はよくもやってくれたね」

 

 新たに現れたのは男子制服姿のひかりだった。

 そのひかりは、手に歯磨き粉チューブのようなものを持っている。

 

「あ、あのう……き、金城様、き、昨日は申し訳ありませでした……。そ、その……」

 

「ああ、謝るのはいいよ。とりあえず、痒み責めといこうか。次はクリトリスとヴァギナに塗ってあげるよ。そして、放課後まで放置かな。謝罪はその後に受けるとするよ」

 

 柚子の横にしゃがみ込んだひかりがチューブから出した粘性物を柚子の股間に塗り始める。

 

「ひああああっ」

 

 柚子は悲鳴をあげた。

 まだまだ、お仕置きは終わらないみたいだ──。



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 第142話 先輩奴婢と後輩ペット(その3)

 カチカチカチカチ……。

 

「んぐうううっ、んぐううっ、んんん……」

 

 寝台に大の字で拘束をされている柚子(ゆずこ)は、狂うような痒みに襲われながら、激しく泣きじゃくり続けている。

 部屋に残されているのは、柚子ひとりだ。

 だが自由はない。

 調教部屋に隣接してある寝台のある部屋に押し込まれて、大の字に拘束され、今度は股間に掻痒剤を塗り込まれてずっと放置されているのである。

 そのまま、昼休みを過ぎても置き去りにされている。

 

 壮絶なアナルへの痒み責めの末に、アナルに押し込まれていた淫具責めによって、授業中に失神した挙句、このSS研の地下の隠し部屋に連れ込まれたのは、午前中最後の四時限目の授業の途中だった。

 そこで,SS研の支配者だった真夫にやっと許してもらえ、アナル姦を受けて痒み責めから解放されたのだが、それで柚子への「調教」が終わるというのは、やはり虫のいい話過ぎた。

 

 その直後に、あの金城ひかりが現れて、柚子の先日のハッキングによって、ひかりが装着されていた淫具に悪戯をしたことへのお仕置きということで、今度は股間に掻痒剤のクリームを塗布されて、こうやって放置されたというわけだ。

 真夫からアナルを犯されたのは、「調教部屋」とも称すべき大部屋だったが、さらに幾つもの部屋が隣接してあり、ここはその中のひとつの大きな寝台が真ん中にある部屋だ。

 そこに四肢を大きく拡げて仰向けに拘束されて、ひとりで残されたのである。

 

 抵抗するつもりはなかったが、天井に設置してあるスピーカーから、あのメトロノーム音が小さく流されると、柚子の身体は簡単な言葉だけで、自分の意思とは無関係に動かなくなってしまった。

 そうでなければ、革枷が装着されている手足を狂ったように動かし、皮膚も擦り剝けて酷いことになってしまったかもしれない。それほどの痒みなのだ。

 が、「動くな」という暗示をかけられたことで、身体はぴくぴくと辛うじて動かせるだけになってしまった。

 だからこそ、痛みなどの刺激で股間の痒みを逃がす方法がなく、柚子は発狂するような痒みから苦闘させられ続けているのだ。

 

「くあっ、んああっ、んがああ──」

 

 柚子はもう何百回目かもわからない叫びを穴開きのボールギャグを嵌められている口から迸らせた。

 装着されているのは、寝台の四隅と鎖で繋がっている四肢の革枷だけではない。

 口には穴あきのボールギャグを嵌められ、さらに目隠しもされている。

 だから、余計に時間の感覚もおかしくなり、この拷問の時間を残りどのくらい耐えなければならないかわからなくなって苦しいのだ。

 なによりも、視界を封じられていることで、身体の触感が敏感になり、さらに痒みの苦しさが激増している。

 

 とにかく、痒い──。

 

 それにしても、もうどのくらいの時間が経ったのか……?

 午後の授業の時間など、せいぜい二時間から三時間程度かと思ったが、すでにその数倍も放置されている気分だ。

 とにかく、今日一日で痒み責めの罰の苦しさは、骨の髄まで柚子の脳に刻み込まれてしまった。世の中に拷問はいくらでもあるが、痒みを我慢させられるよりも辛いことはないのではないかと思わされている。

 

 ああっ──。

 

 助けて──。このままでは狂ってしまう──。

 

 動かない身体を懸命にもがかせようとするけど、目隠しさえ外すことができない。

 壮絶な痒と疼きみは痛みにも近くなり、発狂するほどの痒みの津波が繰り返し襲う。気が遠くなり、すると、束の間その苦悶が緩むときがある。だが、すぐに巨大な痒みの波が襲う──。

 それが繰り返されて、多分、柚子は数回は失神したと思う。

 でも、痒みにより失神から覚醒させられ、またもや、絶望的な痒み地獄に苛まれることになるのである。

 

 そして、ついに頭は朦朧として、自分が意識を失っているのか、それとも覚醒しているのかさえ不明になった。

 すると、突然に部屋の扉が開いて、数名の男女が部屋に入ってくる気配があった。

 

 目隠しを外される。

 まず視界に入ったのは、寝台に拘束されている柚子を見下ろす真夫だ。

 ほかにもいる。

 幻覚かと思ったが、そこにいたのは、制服を身に着けた真夫と、その従者生徒の白岡かおり、そして、ひかりこと、金城光太郎の三人だ。真夫とかおりが制服姿であるのに対して、ひかりは身体全体を包むガウンで身体を覆っている。

 

「んんぐうう──」

 

 柚子は必死にボールギャグの下から哀願を叫んだ。

 

「あらあら、随分と汗びっしょりね。鼻水も涎も凄いことになってるわよ……」

 

 かおりだ。

 

「あと、ここもだな。だいぶん、気分を出してたようだね」

 

 すると、真夫が手を伸ばして、開脚させられている内腿をすっと撫でた。

 

「んんんんっ」

 

 柚子は拘束されている身体を跳ねあげた。

 いや、実際にはほとんど動かせなかったかもしれない。しかし、それくらいに凄まじい刺激だった。

 だが、触ってないのだ。

 内腿の付け根を優しく撫でられるだけで、真夫がぎりぎり痒い場所を避けて触れている。

 柚子は拘束されている身体を捻じ曲げ、股間をその手に当てようとするのだけど、真夫の手はそれを嘲笑うかのように微妙な場所しか触ってくれない。

 真夫が内腿から完全に手を離して、柚子の顔に手を伸ばした。

 ボールギャグが外されて、大量の涎とともに口の中から球体が外に出された。

 

「どうだ。反省したか、柚子ちゃん?」

 

 真夫が微笑む。

 

「ああ、反省しました。ごめんなさい──。謝罪します。なんでもしますから、どうか許してください。真夫先輩、金城先輩──」

 

 柚子は股間の痒みと疼きに襲われながら、ふたりに泣きながら訴えた。

 

「どこが痒いの、柚子?」

 

 かおりが意地悪く柚子の顔を覗き込んでくる。

 

「お、お股です──。お願い、どうにかしてください──」

 

 恥ずかしさなどない。

 この痒みから解放されるなら、なんでもする──。

 そんな気分だ。

 

「いいよ。じゃあ拘束をは鈴して自由にしてあげよう。自分でどうにかするといい。この部屋に入ったときに掛けられた暗示も解く」

 

 真夫が指示して、かおりが寝台の頭側のなにかの操作具に触れた。

 その瞬間、電子音とともに手首と足首の枷が音を立てて外れる。また、突然に身体の自由が戻った感覚が包んだ。

 なにも考えられない。

 柚子は寝台の上で身体を丸めて、自分の手で股間を掻こうとした。

 

「ただし、自分の股間に触れてはならない」

 

 だが、柚子の手がまさに股間に触ろうとした瞬間に、真夫の言葉がかけられた。

 すると、柚子の手は股間に接触する直前でとまり、それ以上股間に近づけることができなくなる。

 ずっと部屋に流され続けているメトロノームの音が頭の中でも響く。

 

「ああ、そんなあ──」

 

 柚子は髪を振り乱して、悲鳴をあげた。

 もはや、拘束はされてないのだ。

 それなのに、真夫の言葉だけで、再び手が動かなくなってしまった。

 

「さあ、ひかりちゃん。さっき命令したことをするんだ。拒否は許さないよ。これはプレイのひとつだと思ってくれ.SS研の副部長としての義務でもある」

 

 真夫がひかりに声を掛けたのが聞こえた。

 

「わ、わかっているよ。ぼ、ぼくも怒ってるんだ──。もちろん、やるよ──」

 

 すると、ひかりが身体にかけていたガウンを脱いだ。

 ガウンの下のひかりは完全な裸身だった。

 だが、ただの裸身ではない。

 股間に「ペニスバンド」と言われる樹脂製の擬似ペニスの淫具を革ベルトで装着をしているのだ。

 いや、これは男性器を包む「ペニスサック」というやつか?

 

 いずれも、見るのは初めてだけど、性具や淫具の知識だけは十二分に柚子は持っていた。

 「ひかりちゃん」と真夫たちが呼ぶが、光太郎は男子生徒だからレズプレイ用の淫具である「ペニスバンド」は男性器が邪魔になって装着できない。だが、一瞬、女性用のペニスバンドという淫具だと思ってしまったように、ひかりの裸身はどこから見ても女性そのものだったのだ。

 よく見れば、大きくはないが胸もしっかりと膨らんでいる。

 金城光太郎は本当に男子生徒──?

 いや、これは間違いなく女性の身体だ。

 柚子は驚くとともに混乱した。

 

「柚子、お、お尻をこっちに向けて自分で開け──。め、命令だ。ぼ、ぼくがお尻を犯してやる──」

 

 極度に緊張している様子だが、股間にそそり勃つ男性器の淫具を装着しているひかりが柚子に言葉をかける。

 すると、柚子の手は勝手に自分のお尻に向かい、尻タブを掴んで穴を開く動作をした。

 しかも、ひかりに向かって、尻を向けるような姿勢までとる。

 

「あっ、なんで──?」

 

 言葉で身体を操られる──。

 もはや、間違いない。

 このメトロノーム音だ。

 この音が鳴る限り、すべての言葉に逆らえなくるのだ。

 そうとしか思えない──。

 

「ふふふ、大丈夫なの、ひかり? まるで、あんたが責められている感じだけど? 身体が震えてるわよ」

 

 かおりが揶揄うような言葉をひかりにかける。

 

「だ、だまってろ──。い、いくぞ。これが罰だ──」

 

 ひかりが寝台にあがり、背後から柚子の腰に腰をくっつけるように覆い被さってくる。

 アナルにひかりの腰にある淫具が押し当てられて、ずぶずぶと潜り込んでくる。

 

「はああっ」

 

 潤滑油でも塗っているのか、抵抗することなくアナルが貫かれて淫具が潜ってきた。

 真夫に犯されたときもそうだったが、もはや、痛みよりも快感が大きい。

 柚子は駆け抜ける快感の鋭さに、腰が溶けるほどの気持ちよさを感じてしまった。

 

「はううっ、ああ、き、気持ちいです──」

 

 気が付くと、柚子は自ら腰を淫らに動かしていた。

 

「あっ、ああっ、そんなに動かないで──」

 

 すると、柚子に後ろから張り付いているひかりが悶え声をあげて身体を震わせるのがわかった。

 それはともかく、打ち沈められるアナルの快感が凄まじい。

 ずんという感覚が身体の中心から駆け巡る。

 あっという間に柚子は自制を失った。

 また、股間の痒みがちょっとだけ癒されもする。

 泣きたくなるような快感だ。

 もうなんでもいい──。

 この気持ちよさがあるなら、柚子はどんなことにも従う──。

 

「ああっ、も、もっと動かして──。ぎ、ぎもちいいい──」

 

 柚子は必死に腰を動かして、さらにアナルに入っている淫具を締めつけた。

 なにしろ、ひかりは深くまで貫いてから、あまり動かしてくれないのだ。

 もどかしさが大きくて、ちょっと物足りなささえ覚える。

 

「あん、だ、だめ──。ペ、ペニスに響くよおお──。あっ、あん、だ、だめえ」

 

 後ろでひかりが悲鳴をあげる。

 どうでもいいが、これは間違いなく女の反応だ。

 金城ひかりは実は女性──。

 柚子は今こそ確信した。

 だが、いまはそれもどうでもいい。

 アナルを犯されているという状況だが、柚子が動くと、ひかりが女の反応として淫らによがってくれる。

 逆に、柚子がひかりを苛んでいる感じだ。

 それが面白くて、さらに腰を前後左右に動かしてやる。

 

「ひあああっ、どうして、こんなに中に響くの──。だめええ、出るうう──」

 

 ひかりががくがくと身体を震わせて、腰を柚子のアナルに押しつけるようにしてきた。

 そして、ぐったりと柚子に体重を預けてくる

 かおりの大笑いが部屋に響いた。

 

「なにやってんのよ。あんた、この一年生への罰でアナル姦をしてんじゃなかったの? まるであんたが犯されみたいよ」

 

 かおりが笑いながら言った。

 

「そ、そんなこと言われても、こ、このペニスサック、う、内側に響いて……」

 

 ひかりが喘ぎ声とともに言った。

 

「ははは、それも時子ばあちゃんに頼んだひかりちゃん用の特別性でね。外側で受けた刺激を増幅して内側に伝えてくれるんだ。まあ、とにかく、副部長になったんだから、ひかりちゃんも時々は男役をしてもらうよ。なにしろ、男子部員は俺しかいないからね」

 

 真夫だ。

 言っていることの半分も意味がわからない。

 だが、それ以上考えることはできなかった。

 気が付くと、真夫が服を脱いで寝台にあがってきていたのだ。

 そして、ひかりを後ろから貫いている状態のたまま、柚子をひかりごと仰向けにひっくり返してきた。

 柚子は仰向けになっているひかりを下敷きに、上向きに寝かされた状態だ。

 次いで、真夫が怒張を柚子の股間に貫かせてくる。

 

「あおおおっ、あああっ」

 

 処女膜を破られた激痛は一瞬だ。

 それよりも痒みに襲われている場所に加えられる刺激の気持ちよさが遥かに上回る。

 真夫が律動を開始する。

 柚子ごと下にいるひかりも抱きかかえる感じだ。

 ひかりごと柚子の身体が揺すぶられる。

 前後を貫かれたまま。

 

「ひゃあああ、ああああっ」

 

 あっという間に達した柚子は、大きな喜悦に身体を震わせて声をあげた。

 なんと峻烈で、生々しい淫らな快感なのだろう。

 快感が五体を揉み抜いてくる。

 

「ああああっ、き、気持ちいいですう──。ああああっ」

 

「ぼ、ぼくも、いぐうう──。そ、そんなに締め付けないでええ──」

 

 さらに柚子が二度目の絶頂に貫かれると、柚子の下のひかりもまた、柚子のアナルに淫具を貫かせたまま、淫らな声を響かせて震える。

 真夫に犯されている柚子だが、同時にまるでひかりを犯しているような気分になるのが愉快だった。

 わざと快楽に溺れるまま、腰を振ってひかりに与える刺激を増幅する。

 

「ひいいいっ」

 

 柚子の下のひかりがまたもやぶるぶると身体を痙攣させるのがわかった。

 

 愉しい──。

 

「ほら、キスだ、柚子──。昼休み前も言ったけど、柚子ちゃんはSS研のペットだ。全員の命令には一切を服従。まあ、そういう暗示をかけているけどね。毎日毎日、恥ずかしいことや屈辱的なことをしてもらうことになる。もちろん、気持ちのいいこともね」

 

 真夫が腰を動かしながら言った。

 

「う、嬉しいです──」

 

 柚子は密着された真夫の口から入ってきた舌をむさぼるように舌を絡ませた。

 

 


 

 

 夜の自由時間──。

 寮の部屋にひとりでいるときに、ドアにノックの音がした。

 入ってきたのは、クラスメートで親友の麻美だった。それだけでなく、体育教師の伊達京子もいた。

 

「えっ?」

 

 意外な訪問者に、柚子は呆気にとられた。

 

「ど、どうしたの、麻美?」

 

 なによりも麻美の表情が暗く、そして、真剣だった。

 ちょっと圧倒されるものを感じて、柚子はまず麻美に声を掛けた。

 そもそも、一緒にきた伊達先生はどうしてやってきたのだろうか?

 担任というわけでもないし、特段に柚子と親しいだけでもない。

 いや、そういえば、陸上部の麻美の部活動の顧問が、この伊達先生か……。

 しかし、柚子は運動部でもないし、こんな時間の寮に、麻美と同行してきたとはいえ、伊達先生が柚子の部屋を訪問してきた理由がわからなかった。

 

「柚子、大丈夫よ。この京子先生は、あなたの味方だから」

 

 麻美が言った。

 ものすごく真剣な顔だ。

 

「味方?」

 

 わけがわからずに柚子は首を傾げてしまった。

 すると、部屋の扉をしっかりと閉めた伊達先生が柚子に近づいてきて、いきなり両手を握ってきた。

 

「立花さん、正直に言って──。絶対に秘密は守るし、あなたを守ってみせる。だから、打ち明けて欲しいの。あなた、あのSS研というクラブから脅迫されていない?」

 

 そして、伊達先生が柚子の手を握ったまま、真剣な表情で問いかけてきた。






 *

 新年あけましておめでとうございます。
 次話より、「女教師・伊達京子編」となります。


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第23章 疑念
 第143話 ある女生徒の訴え


「えっ?」

 

 京子が立花柚子(ゆずこ)に、もしかして、脅迫されているのではないかと彼女に訊ねると、柚子はあどけない童顔の顔を一瞬きょとんとさせたかと思うと、すぐにその表情が困惑したものになった。

 そして、さらに怯えるような様子に変化して、急に不安そうに身体を震わせるような仕草になる。

 

 京子は、その柚子の姿に接して、どうやら北条麻美の訴えが「事実」であることを確信した。

 また、それにより、かっと頭に血が急激に上昇するのを感じた。

 だが、懸命に冷静さを装う。

 いまは、事実関係を正確に把握することだ。

 ここで京子が逆上しても、目の前の可哀想な女生徒を助けることはできないのだ。

 

 それにしても、どこまで本当なのだろうか……?

 

 あの三年生に編入してきた坂本真夫という男子生徒が中心になって運営されている「Social Sciences 研究部」、通称「SS研」という課外文化部同好会が、実は生徒間で破廉恥行為を隠れて行う秘密クラブのような実態だということは、少し前から漠然と学園内で噂にはなっていた。

 京子もその噂に接して、まさかとは思ったが調査のようなことをしようとしたのである。

 しかし、ほかの教師たちに相談しても相手にはされず、それどころか、その「SS研」には手を出すなという忠告、場合によっては脅迫に近い対応しか受けられなかったのである。

 わけがわからなかった。

 唯一、話にのってくれたのが、最近になって理事長代理という肩書で学園に常駐するようになった顧問弁護士の工藤玲子であり、彼女はその一件については、自分が中心になって動くのでしばらく静観するように指示された。

 とりあえず、動いてくれそうだということで、京子は安心したものだ。

 

 だが、それから数日後になる今日になって、そのSS研について、京子に対して新たな話が訴えられた。

 訴えたのは、いま京子と一緒に、この立花柚子の寮の個室を訪問している彼女のクラスメートの北条麻美である。

 麻美とは、京子が顧問をしている陸上部の部員と指導顧問という関係であり、今日の練習のあと、京子は深刻そうな表情をした麻美に相談をしたいことがあると、突然に話を持ち掛けられたのである。

 それは、とんでもない話だった。

 

 目の前の立花柚子という一年生の女生徒が授業中に淫具によりいたぶられていたという常識では考えられないような内容だった……。

 ましてや、それを主動して行う者の中に、あの理事長代理の工藤玲子が含まれているということであり……。

 

 それを偶然に目撃をしたのが、横の一年生の陸上部部員の北条麻美なのだ。

 簡単には信じることなどできないような話に、京子は愕然となったものだ。

 だが、まだ数か月とはいえ、麻美が嘘をついたり、浅慮な勘違いを軽はずみに言いふらすような浅はかな女生徒でないという信頼はあった。

 その麻美が訴えるのであれば、おそらく、彼女が眼にしたのは事実なのかもしれない。

 でも、とても本当とは思えなかった。

 

 なにしろ、彼女の訴えは、目の前の立花柚子がおそらく、淫具のようなもので授業中に悪戯をされていたというものであり、さらに、彼女は授業中にほかのクラスメートの前で失禁をさせられ、騒然とした教室に突然に登場した理事長代理の工藤玲子に連れ出されたというものだったのだ。

 もちろん、それだけであれば、まだ京子の驚愕と動揺はこれほどではなかった。

 しかし、麻美が訴えたのは、授業中に連れ出された柚子が、その工藤玲子に廊下でスカートを脱がされ、まるで犬のように首輪をつけて四つん這いで歩かされていたということだった。

 しかも、間違いなく、柚子はその玲子に脅されていた気配だということだったのだ。

 京子に、SS研という文化部同好会の調査を約束した工藤玲子自身が……?

 あまりの話に愕然となってしまった。

 

 だが、工藤玲子という理事長代理の美女がどうやら食わせ者であるかもしれないというのは、事実かもしれないということを思い始めてきた。

 なにしろ、今日の放課後になり、突然に、その工藤玲子から職員に対して、最優秀生徒ということで、特別枠のAクラス生徒だった目の前の立花柚子がDクラス生徒となり、クラス替えになるので手続きをするように指示が与えられたのである。

 理由は、あの金城光太郎の従者生徒に、柚子が指名されたからというものだった。

 だが、学期途中のクラス替えなど異例だ。

 なにか裏があると思うしかない。

 

 それもあり、京子は放課後の自習時間になるのを待ち、ほかの教職員、特に理事長代理の工藤玲子が帰宅するのを待ち、柚子のクラスメート……いまは、元クラスメートということになるが……を連れて柚子に直接確認することにしたのだ。

 そして、結果として、京子は麻美の訴えがおそらく事実であることを確信したというわけだ。

 京子の言葉に対する柚子の怯えの様子は尋常ではない。

 

「立花さん、さっきも言ったけど、絶対に秘密は守るし、あなたを守ってみせるわ。だから、正直に教えて──。あなたは、あのSS研の部員、それと理事長代理からいじめのようなことを受けているの?」

 

 京子は柚子の両手に手を伸ばして握る。

 いま、京子たち三人は、柚子の寮の個室の床で向かい合うように腰をおろしていた。

 京子と麻美は陸上部の練習後であったこともありジャージ姿だ。一方で、柚子はまだ制服を身に着けている。

 ただし、柚子の制服は、Aクラス生徒用のものではなく、従者生徒であることを示す灰色のものだ。

 

「いじめって……」

 

 柚子は当惑している表情だ。

 京子はさらに膝を接するくらいに柚子に身体をにじり寄る。

 

「柚子、お願い、話して。この京子先生は必ず味方になってくれるから」

 

 麻美もまた横から口を挟む。

 それに対して、柚子は少しのあいだ、京子と麻美の顔を交互に見るようにして、ちょっと迷うような態度を示した。

 そして、首を静かに横に振る。

 

「……なんのことかわかりませんが、いじめなんてありえません。問題ありませんよ、伊達先生」

 

 柚子が京子の顔を見てにっこりと微笑む。

 だが、その笑顔がなんとなくぎこちないものであるかのような印象を京子は受けた。

 

「それよりも、麻美、せっかく来てくれたんだから、消灯までは時間があるし、シアタールームに行かない? 最近、クラシックに凝っているのようね。音楽でも聴きながら話しようよ。クラスが変わると、あまり話しできなくなるかもしれないし……」

 

 その柚子がこれで話は終わりとばかりに、京子から握られていた手を解いて、麻美に語り掛けた。

 ちょっと違和感のある話題の変え方だった。

 

「シアタールームって……?」

 

 突然の柚子の提案に、麻美は困惑した表情だ。

 シアタールームというのは、このA級生徒用の寮の一角に備え付けられている防音設備もある個室である。

 カラオケルームのような場所であり、ソファーがあり、ディスプレイがあり、そこで様々な映像データを視聴することができるのだ。

 シアタールームという名称だが、実際、カラオケ代わりに使用する生徒も少なくない。

 D級生徒になったとはいえ、寮についてはまだ移動指示はないので、まだこの柚子はA級生徒用の寮なのだ。

 まあ、金城光太郎の従者になるということであれば、数日中にはS級寮に移動するのではあろうが……。

 京子としては、男子生徒の部屋に従者生徒とはいえ、異性である女生徒が一緒に住むというのは問題があると思うのだが、これもまたこの学園の慣習だ。

 だが、考えてみれば、あの坂本真夫も、編入の際に同行してきた女子大生と、真夫の編入と同時に彼の従者生徒になった白岡かおりと同居している。

 これもまた、理事長代理の工藤玲子による特別処置だったか……。

 

「よかったら、先生も一緒にどうですか? よければですけど」

 

 柚子が京子に顔を向ける。

 そのとき、京子は柚子が何気ない仕草で本棚から英語の辞書を片手で開いたことに気が付いた。

 そして、開いた英語辞書に左手を置いた。

 はっとした。

 

 “monitor”──。

 

 柚子が辞書に置いた指先が伸びていたのは、その単語だった。

 “monitor”──。つまり、“監視”──。

 もしかして、監視されているということ?

 京子はびっくりした。

 

「いいでしょう、麻美──。先生も?」

 

 柚子が立ちあがる。

 まだ返事はしてないが、決定事項かのように京子たちを連れ出そうとし始めた。

 だが、この部屋は監視されている──?

 もしかして、柚子はそう言っているのか?

 だから、強引に場所を変えようとしているのか──?

 

「ちょ、ちょっと待ってよ、柚子……。まだ話は……」

 

 麻美は柚子を引き留めようとした。

 だが、その麻美を京子は止めた。

 

「いえ、たまにはいいわね。音楽ってなに? ポップスとか?」

 

 京子もまた勢いよく立ちあがる。

 柚子はおそらく、場所を変えて、京子になにかを訴えようとしている──。

 京子はそれに気がついた。

 

「あくっ……」

 

 そのとき、京子は胸から拡がった刺激に、小さな声をあげてしまった。

 立ちあがったときの反動で、乳房が揺れて。そこから甘い刺激が全身に駆け抜けてしまったのである。

 この数日、なぜか異様なほどに乳房が敏感になって、着替えのときに布かこすれたり、いまのように激しく動いたりすると乳房が揺れて、強い疼きが走るのである。

 急に始まったことであり、どうして突然にそんなことになったのかはわからない。

 しかし、乳首だけでなく、乳房全体がちょっとした動きだけで、まるでクリトリスを刺激されでもしたかのように、強い衝撃が走る。

 いままで、そんなことなかっただけに、京子は突然の体調の変化にわけがわからないでいた。

 気にしないようにはしているが、京子は他人よりもかなりの巨乳であるせいで、どうしても身体を動かすと、乳房が揺れるのである。

 その揺れのたびに、疼きが駆け巡り、当惑の日々が数日続いている。

 

「ちょっとシアタールームの使用手続きをします。先に廊下で待っていてくれますか?」

 

 一方で柚子が京子と麻美を部屋の外に促し、彼女については机の上のノートパソコンでキーボードを打ち出した。

 生徒用のページにアクセスして、シアタールームの利用手続きをするのだろう。

 京子たちが廊下に出ると、すぐに柚子が追ってきた。

 

「お待たせしました。予約は一時間にしました。夜の九時まで、三番ルームを利用可能です」

 

 柚子が麻美と京子の腕に触れて、移動を促す仕草をした。

 そのとき、素早く柚子が京子の手の中に、紙片を滑り込ませてきた。

 京子はそれを手に中にぎゅっと握る。

 すでに、柚子は麻美とともに、並ぶように京子の前を進みだす。

 京子は手で覆い隠すようにして、歩きながら、握らされた紙片を用心深く開いた。

 

 

“お願い。助けて”

 

 

 その紙片には、走り書きのような文字でそう書いてあった。



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 第144話 学園の秘密

「だれしもが~美しい子供たちのおお~時がそれをうつろいに変えてもおお~」

 

 柚子(ゆずこ)がマイクで熱唱している。

 京子は、彼女のクラスメートであり、京子が顧問をつとめる陸上部の部員でもある北条麻美と手拍子をしながら、なんとなくそれに耳を傾けている。

 三人でやって来たAランク生徒用の寮に備え付けられているミニシアタールームである。

 

 麻美の訴えで、目の前の立花柚子がなんらかの破廉恥な「いじめ」に遭っているのだと確信した京子は、彼女の求めに応じて、この防音設備の整っているこの場所にやって来たのだが、いつまで経っても、柚子は肝心の話を始めようとはしなかった。

 それどころか、視聴覚資料の中にあるカラオケ用の映像を利用して、三人でカラオケ大会を始めだしたのだ。

 

 当初は、柚子が場所を変えて相談を訴えてくれると思い込んでいたので、突然に歌を歌い出した柚子に対して、京子も呆気にとられてしまい、我に返って、柚子にSS研となにがあったのかを語らせようとしたのだが、その話題を持ち出そうとすると、柚子の顔から無邪気そうな笑みが消失して、なにかを訴えるように、かすかに首を横に振って、その話題を避けようとする態度を繰り返した。

 京子は、それでそれ以上の話をするのを躊躇うとともに、柚子になにかの考えがあるのではないかと思ったのだ。

 それで彼女の行動にとりあえず乗っかることにした。

 だから、ミニシアタールームにおける三人でのカラオケというわけである。

 

 柚子が最初に京子が自室にやってきたとき、「監視」という単語をひそかに伝えてきたことが記憶に留まっている。

 もしかして、迂闊に話をできないというなにかがあるのかもしれない。

 とにかく、京子はしばらく柚子に任せることにして、このシアタールームで始まったカラオケごっこに身を委ねてみることにしたというわけだ。

 SS研で隠れていやっている破廉恥行為に、本当にあの理事長代理の工藤玲子まで関わっているとすれば、京子の想像以上に大きなものが背景にあることになるかもない。

 もちろん、それで助けを求めている女生徒を見捨てるということは考えられないことではあるが……。

 だが、なにも知らない以上、企みがあるらしい柚子の行動にとりあえず従うことが正解なのだえろう。

 

 いずれにしても、なんとなくだが、柚子はなにかを待っているような気がしたのだ。

 彼女が京子の手に密かに握らせた紙片にあったように、彼女が助けを求めていることは事実だ。

 

「~お墓に──はいるううう──。終わりました──。いえいっ」

 

 柚子が歌っているのは、いま流行の洋楽を日本語訳したポップスだ。

 ソファーに座りながらマイクで熱唱していた柚子は、歌い終わってVサインをこっちに向けてきた。

 京子は拍手した。

 

「さあ、次は麻美ね……。あれっ、居眠り?」

 

 柚子がけらけらと笑い声をあげた。

 ふと見ると、京子の隣でソファに身体を沈めていた麻美がこっくりこっくりと舟をこいでいる。

 いつの間にか眠りかけているようだ。

 京子は麻美に手を伸ばして身体を起こさせた。

 それとともに、テーブルの上に置いたままの飲みかけのジュースを彼女の前から離す。頭が垂れて、コップに当たりそうだったからだ。

 飲み物は柚子が鞄に入れてペットボトルで持ってきたものであり、三人の前にそれぞれ紙コップに入ってジュースが置いてあった。

 だが、さっきまで元気だった麻美が急に眠りだすというのは、ちょっと違和感を覚えた。

 まだこのシアタールームにやってきて十五分くらいでしかない。

 一曲前には、この麻美の元気に歌をうたったのだ。

 そういえば、いま柚子の歌のあいだに、麻美が紙コップの飲み物に手を付けたのだが、その直後、急に彼女が眠り始めた気がするが……。

 

「もう、盛りあがっているのに──。先生、ちょっと待っていてください。一度、麻美を部屋に送ってきます。帰っちゃだめですよ。すぐに戻ってきますから。続きやりますからね──」

 

 柚子は京子の返事を待たずに、すでにうつらうつらしている麻美の肩を抱えるようにして出ていった。

 ちょっと呆気にとられたが、思い出して、京子は麻美が口にした紙コップの中のジュースの匂いを嗅いだ。

 かすかだが刺激臭のようなものがある気がした。

 

「……飲んじゃだめですよ、先生、軽い睡眠薬が入ってますから」

 

 ふり返ると、扉から戻ってきた柚子がそこにいた。

 手にノートパソコンを抱えている。

 柚子はテーブルにノートパソコンを置いて開いた。

 そして、ソファに座り直すちと、すぐに凄まじい勢いでキーボードを打ち出した。

 京子は圧倒されてしまった。

 

「二十分です。二十分のあいだ、さっきのカラオケ映像が監視映像に流れて、この部屋のモニターは遮断されてます。でも、それ以上は無理です」

 

 柚子が顔をあげた。

 その顔はさっきまでの無邪気そうな笑みはない。真剣そのものだ。

 京子はいつの間にか口に溜まっていた唾液を呑み込んだ。

 

「監視……? 部屋の中でもそんなことを示唆したけど、あなたは監視されている?」

 

 京子は言った。

 すると、柚子は小さく首を振った。

 

「あたしだけじゃありませんよ。先生も監視の対象です。ありとあらゆる場所に、監視カメラが隠されてます」

 

「まさか」

 

「本当です。それと、あたしについては二十四時間監視がついてます。だから、場所を変えたんです。でも、さっきも言いましたけど、このシアタールームについても、誤魔化せるのは二十分が限界です。それ以上になれば、警報が流れてしまいます」

 

「警報って、なにを言っているの?」

 

「この学園はそういう場所なんです。監視カメラは、もちろん、先生の教員寮にもあるみたいですよ」

 

「教員寮?」

 

「事実です。見ますか?」

 

「見る?」

 

 京子は首を傾げた。

 

「少しのあいだなら、学園内の隠しデータにアクセスできます。ハッキングです」

 

 柚子が再びノートパソコンを操作し始めた。

 画面にすごい勢いで記号を数字が表れて流れ始める。

 柚子のしていることの半分も理解できないが、もしかして、無線LANで学園のシステムに入って、不正アクセスをしようとしている?

 そういえば、さっきハッキングって……。

 

「ははは、ありましたよ。これって、先生ですよね。隠し映像です。そういう画像が学園の秘密データバンクにあるんです」

 

 柚子がキーボードから手を離すと、画面に映像データが流れ出した。

 京子は眼を見開いた。

 紛れもなく、そこに流れ始めたのが、京子自身の映像だったからだ。しかも、教員寮の自室の浴室だ。

 そこでシャワーを浴びている京子の裸身がそこにある。

 音声はなかったが、シャワーを浴びていた京子が大きく前に突き出ている乳房の頂点に水流を悶えるような仕草をしている。

 はっとした。

 このところ、異常なまでに乳房と乳首が敏感になり、水流の刺激さえ震えるような刺激を覚えてしまい、数日続けて自慰のような行為をするのが習慣になりかけてきたのだ。

 その映像が映っている。

 

「わっ、ちょっ、ちょっと待って──。消して──。消しなさい──」

 

 京子は画面を手で押さえるとともに思わず叫んだ。

 

「消すって言われても、これはあたしが撮影したものじゃないですよ。先生が隠し撮りされたものです。こういうデータがこの学園内にはたくさん隠されてるんです。あたしも、先生も……。ほかにも大勢の女生徒の」

 

 柚子が淡々と言った。

 そのあいだもノートパソコンの映像は流れ続けており、画面の中の京子はシャワーを浴びる湯気の中で両手を乳房にしっかりと当てている。

 そして、乳房をこねだし、身体をくの字に曲げて喘ぐような仕草を始めだしている。

 画面の隅に日付と時刻のデータがあるが、やはり昨夜の映像であることは間違いなかった。

 

「いいから、画像をとめて──」

 

 京子は声をあげた。

 紛れもなく昨夜の映像だ。

 そのあとのことも覚えている。

 結局、我慢できなくなった京子はシャワーを浴びながら達するまで胸を愛撫し、淫らに自慰をした。

 しかも、一度じゃ性欲が収まらずに、三度も続けて……。

 

「わかりました」

 

 柚子がノートパソコンに手を伸ばして画像が消える。

 だが、すぐに別の画像が現れた。

 今度は別の女体だ。

 画像が暗い。しかし、特殊なカメラで暗闇をしっかりとした映像として記録されていた。

 寝台で掛け布団をかぶったひとりの女生徒だ。

 顔を俯かせているので、誰なのかはわからない。

 しかし、布団の中で手が動いていて、彼女がオナニーをしている姿であるのは明白だ。

 

「な、な、なにこれ……」

 

 京子は画面を見て呆然となってしまった。

 

「別のも出しますね……」

 

 画面が変わる。

 昼間の教場棟の女子トイレだ。

 ひとりの女生徒であり、友人とおしゃべりをしながらひとりで個室に入った。その映像が天井からのカメラで撮影されていた。

 女生徒が便器に跨る。

 すると画面が変わり、便器内から撮影されたと思われる映像になり、アップになった女性器から放尿が迸りだした。

 

「うわっ」

 

 京子は声をあげた。

 柚子が映像を消す。

 

「……先生、これがこの学園の秘密です」

 

 柚子が顔をあげた。

 京子は愕然となってしまっている。

 

「ど、どういうこと……」

 

 まだ、頭の整理がつかない。

 しかし、いまの映像は……。

 

「もしかして、同様の映像がまだ……。というか、いまのは本当に……」

 

「アクセスするのは大変でしたけど、現段階ではまだあたしが学園のデータに侵入できることはばれてません。でも、いつ発覚するかもしれません……。先生、本当に助けてくれるんですか?」

 

 柚子が立ちあがった。

 そして、いきなり制服のスカートをまくりあげた。

 京子は柚子のスカートの中を見て驚愕してしまった。



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 第145話 鬼畜な所業

「ええ?」

 

 京子は唖然としてしまった。

 目の前の柚子(ゆずこ)が自ら制服のスカートの前をまくりあげたのだが、そこに存在したのは黒い革製のTバッグのようなベルトだったのだ。

 処女で性知識に乏しい京子ではあるが、まだ幼ささえ残る一年生の女生徒の股間に嵌められているのがただの下着でないのはすぐにわかった。

 

 もしかして、淫具?

 京子は頭の中に「貞操帯」という言葉を浮かべてしまった。

 

「そ、それは……?」

 

 京子は柚子の股間から眼を離せないまま訊ねた。

 

「……SS研に逆らった罰として装着されました。内側にディルドがあって、挿入させられてます。遠隔で動くようになっています」

 

 柚子が淡々と言った。

 京子は愕然とした。

 

「な、なんで、そんなものを──。すぐに外しなさい──」

 

 京子は柚子の革の下着に思わず手を伸ばした。

 だが、腰を巻いている横帯の部分に触れたとき、想像以上に固く食い込んでいることを悟った。革帯の縁に金属線のようなものの存在も感じるし、指一本挿入できる感じじゃない。

 それは股間を包む縦の部分も同じだ。

 しっかりと股間に喰い込んでいる。

 また、なによりも唖然としたのは、革帯の隙間から染み出て柚子の内腿をびっしょりと濡らしている大量の愛液の存在だ。

 こんなものを女生徒に装着させて、性的に虐待するなど──。

 京子は血が沸騰するような怒りを覚えた。

 

「ちょ、ちょっとどうなっているのよ──。どうやって外すの?」

 

 京子は強引に力を加えて引き剥そうと試みた。

 

「だ、だめええ──。む、無理に外そうとしたら……。ひがあああっ──」

 

 すると、突然に柚子が股間を両手で抑え、悶絶するような声をあげながら、その場に崩れ落ちた。

 そのまま、絶叫して身体をがくがくと痙攣のような仕草を続ける。

 京子はなにが起きたがわからず、蹲った柚子を抱き抱えたまま狼狽えてしまった。

 

「しっかり、立花さん──。どうしたの──? どうしたの──?」

 

 とにかく、声を掛け続けるしかできない。

 やっと、全身を突っ張らせてもがいていた柚子が脱力したのは、時間にして三十秒くらい経ってからのことだと思う。

 床に横倒しに倒れ掛かった柚子を京子は慌てて抱きかかえる。

 ものすごい汗だ。

 しかも、全身が上気して真っ赤になっている。

 異常なことが起きたというのは明らかだ。

 

「な、なにが起こったの──。なにか──?」

 

「はあ、はあ、はあ……。む、無理に外そうとすると……ディ、ディルドに電流が……。そ、それに、これは外れません……。電子ロックがかかっていて、SS研の先輩方の誰かに解除してもらわないと外れない仕掛けになってるんです……」

 

 やっと身体を起こした柚子が息も絶え絶えに言った。

 京子は絶句した。

 

 なんということを……。

 ここにはいないSS研の連中たちへの憤怒が全身を席捲する。

 

「……SS研……。あの坂本真夫ね……。待ってなさい。すぐに呼び出すから……」

 

 京子は全教師に与えられている連絡用の携帯電話を取り出す。

 坂本真夫はS級生徒だ。この時間であれば、すでにS級生徒の専用寮にいるだろう。寮監を通じて呼び出しを……。

 

「む、無駄です。呼び出しても応じるわけないです。それどころか、逆らった罰として、あたしの写真がネットに暴露されることになっていて……」

 

 柚子が慌てたように、京子が握った携帯電話に手を伸ばす。

 

「写真……?」

 

 京子は柚子を見る。

 

「映像もです。だから、誰も逆らえないんです……。SS研の女たちは……」

 

「まさか、そんな脅迫を坂本真夫が?」

 

 唖然とするような暴挙だ。

 そもそも、そんなに面識はないが、孤児院出身の坂本真夫をいう生徒は、編入生ながらもなかなかに成績もよく、人当たりもいいし、そこそこ女生徒たちからも人気もあって、そんなことをするような性格とは思いもしなかった。

 学園の双璧と呼ばれている加賀豊、金城光太郎も認めたという噂であり、急に存在感を示すようになっているということも知っている。なによりも、あの金城光太郎はつい最近になって、坂本真夫が部長をしているSS研に入部した程だ。

 そのSS研で、そんなことをしていたのだ──。

 京子は、自分の想像以上の行為がそのSS研で隠れて行われているということを悟った。

 

「わかったわ……。でも、任せて。でも、場合によっては、警察を入れないとならないかもしれない……。それは容認して」

 

「や、やめてください──。そんなことしたら、あたしたち、恥ずかしくて、外に出られなくなります。あたしたち、奴婢は坂本先輩や玲子さんに恥ずかしい写真や映像を握られてるんです。あれを暴露されたら生きていけません──」

 

 柚子は涙目で京子に縋りつく。

 京子は歯噛みした。

 

 なら、どうするか……。

 いっそのこと、強引にその坂本真夫を追い詰めるか……。

 

「……じゃあ、その坂本君を呼び出すことはできるかしら? 彼に会わせなさい。あとはなんとかするから」

 

 京子は意を決した。

 生徒である坂本真夫には悪いが、彼のしていることを考えると、それはすでに一介の高校生の分を越えた犯罪だ。

 場合によっては、力に訴えてでも誤りを正さないとならない。

 

 ぐっと拳を握る。

 いまは高校教諭として、保険体育教師と陸上部顧問を務める京子だが、幼い頃から空手を学んでいて、これでも黒帯だ。

 高校生くらいまでは、男子との喧嘩も日常茶飯事であり、男子生徒数名くらいであれば、負けるとも思えない。

 とりあえず会って話し合い、話し合いに応じなければ、暴力に訴えてでも、柚子に装着させている貞操帯を解除させ、隠し持っている女生徒たちの破廉恥映像のデータを消去させる──。

 話はそれからだ──。

 

 その後、警察や教育委員会に介入を求めるかは状況に応じてとしよう……。

 あの理事長代理の工藤玲子や、あるいは、学園そのものが、なんからのかたちで坂本真夫のやっていることに関与しているのだとすれば、直接に部外機関に訴えることも必要か……。

 京子は素早く頭を巡らせる。

 

「先生、言っておきますけど、その携帯電話だけでなく、この私物の携帯でも、この学園内からどこかに通信をすれば、電話でもメールでも防諜されてますから……。すぐに対処されてしまいます」

 

 柚子が真剣な表情で言った。

 学園の隠しデータバンクに入る込んで、不正にデータにアクセスするほどのハッカーだ。

 おそらく、柚子の忠告は正鵠を射ているのだろう。

 

「わかった。外に対して動くのであれば、学園の敷地外に出てからということね……。任せて。動くとしても、まずは彼の握っているあなたの映像を消去させるわ。その馬鹿げた淫具もね……。だから、任せなさい。あたしを信じて──。あなたを助ける」

 

 京子はしっかりと言った。

 

「先生を信じます……。お願い……。助けて……」

 

 柚子が眼に涙を浮かべたまま言った。

 京子は大きく頷いた。

 

「じゃあ、知っていることを話して。坂本真夫に従っているのは誰? 協力者は誰で、誰があなたのような被害者なの? わかる範囲でいいわ」

 

 京子は言った。

 

「あたしも、そんなに知っているわけじゃ……。でも、坂本先輩に無条件に従っているのは、理事長代理の工藤さんです。あとは、脅迫されて従わさせられているだけです。金城先輩……、西園寺先輩……、白岡先輩、前田明日香先輩……、世良七生先輩……。みんな脅迫されて従わされてるんです」

 

「西園寺さんだけでなく、前田さん? 女子サッカー部の? それに世良さんって、美術コンテストの入賞で有名な?」

 

 想像以上の犠牲者の拡がりだ。

 京子は思わず息をのんだ。

 

「はい……。先生、先輩たちを助けてあげてください」

 

 柚子が訴えた。

 

「任せなさい。じゃあ、呼び出しをしてみて……。あたしのことは、伏せておいてね。待ち合わせ場所には、先生だけで行くから、とりあえず、連絡をしたらあなたは自室にいなさい」

 

「なにをするんですか? もしかして、呼び出しで坂本先輩を捕えるとかしようとするなら、あたしもいかないと無理です。装着されている貞操帯には、居場所を向こうに知らせる発信具がついてるんです。呼び出しの場所にあたしがいなければ、坂本先輩は警戒すると思います。とにかく、坂本先輩には、あの工藤玲子さんがついてるんです」

 

「でも……」

 

「先生がなにをしようとしているかは、はっきりとはわかりませんが一緒に行きます。そうでなければ、坂本先輩は会ってくれないと思います。とても用心深いんです。そして、もしかして、強引な手段で助けてくれようとなさっているのであれば、あの工藤玲子さんはとても強いです。おそらく、先生でも歯が立たないかも」

 

「心配ないわ……。それに、先生も強いわ。とにかく、今夜中になんとかしてあげる。とりあえず、そんな馬鹿げた装着具は絶対に外させるから」

 

「わ、わかりました……。じゃあ、坂本先輩に連絡します」

 

 柚子が持ってきていた荷物の中からスマホを取り出し、さらにワイヤレスのイヤホンを片側だけ渡してきた。

 京子はイヤホンを片耳に挿入すると、柚子がスマホを操作しはじめる。

 イヤホンから電子音が流れ出す。

 

「あっ、あ、あたしです……。柚子です……。ペ、ペットの柚子です……」

 

 相手に通話が繋がると柚子が話し始める。

 ペット──?

 そんなことを強要しているのか……。

 改めて、彼らに対する怒りが込みあがる。

 

『ああ、どうした?』

 

 笑うような口調だ。

 男子生徒である。

 坂本真夫の声だろうか……。

 

「あ、あの……。や、やっぱり、朝まで我慢するのは無理で……。一度外して、おしっこをさせていただけないでしょうか……」

 

 おしっこ?

 京子は怪訝に思ったが、もしかして、あの貞操帯を装着されると放尿も満足にできないのか?

 そして、それを我慢させている?

 確かにあの股間への密着度であれば、どこかに放尿用の穴でもなければ、放尿も難しいのかもしれない。

 もちろん、大便は不可能だろう。

 そんなものを装着して外せないようにしているとは……。

 京子は、彼の鬼畜度にかっと頭に血が昇った。

 そういえば、目の前の柚子は、今日の午前中の授業中にほかの生徒の前で失禁するという醜態を晒している。

 それもまた、やはり、彼の仕業なのか……。

 

『我慢できないのか?』

 

「む、無理です。お願いします」

 

『まあ、仕方ないか。最初の晩だからな。特別に許可してやろう。いまから、SS研の部室に来るんだ。そこでさせてやる。ただし、朝まで我慢できなかったペナルティはあるぞ。いいな』

 

「は、はい……。ありがとうございます……。すぐに向かいます。でも、SS研ですか? 先輩はまだ、そこに?」

 

『ああ、そうだ。まだ奴婢の調教中でね……。じゃあ、待っているぞ。ただし、三十分以内だ。走って来い。間に合わなければ、また明日も今日のように授業中に恥ずかしい目に遭うことになる。逆らうことができると思うなよ。じゃあ、待っているぞ』

 

「あっ、待ってください。そこにどなたが? 工藤様とかおられますか?」

 

『玲子さんか? いや、いないね。かおりちゃんとひかりちゃんがいる。三人だ。柚子が来れば四人になる』

 

「わ、わかりました。すぐに行きます。ありがとうございます」

 

 電話が切れる。

 京子の耳のイヤホンから通話終了の音が流れる。

 

「立花さん、大丈夫ね。後は任せて」

 

 京子は声をかけた。

 

「は、はい……。坂本先輩は、まだSS研の部室だそうです。玲子さんはいなくて……。そして、やはり、あたしも行かないと。あそこは、部員でなければ入れない仕掛けがあるんです……。ひあああっ」

 

 柚子が突然に悲鳴をあげてまたその場に突っ伏した。

 

「どうしたの──?」

 

「こ、股間のディ、ディルドが動き出して──、あ、あああっ」

 

 柚子が股間を押さえて悶えだした。

 またもや、唖然とした。

 まさか、この状態で三十分以内に彼女にSS研のある文化部棟まで駆けて来いと命令したのか?

 

 なんということを──。

 

 京子は柚子を抱きかかえながら、坂本真夫という男子生徒の鬼畜な凌辱に呆然なってしまった。





 *

 執筆時間が確保できなくて、なかなか話が進展できない……。次話は真夫と京子の対決(?)の予定……


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 第146話 女教師捕獲

「んんんっ」

 

 柚子が制服のスカートから出ている脚を擦り合わせるようにして、身体を屈ませた。

 

「立花さん──」

 

 京子は握っていた柚子の腕をか抱え込むようにして、柚子を支える。

 それでなんとか、彼女が道路に倒れ込むのを防ぐことができた。

 さっきからずっと繰り返している行動だった。

 

「あっ、だ、大丈夫です……。あ、歩きます。で、でも、もうすぐ文化部棟に……」

 

「わかっているけど、このまま乗り込むわよ。今更よ。とにかく、あたしに任せなさい。その馬鹿げた淫具だけでも外させるから」

 

 京子は股間のバイブレーターが切られたことで、脱力するような仕草をしている柚子を再び支え歩きさせながら、煮えかえる腹をぐっと我慢する。

 こんなまだ幼ささえ残る一年生の下級生の女生徒になんということをするのだろう。

 紛れもなく、いじめの範疇を越えて、完全なる破廉恥犯罪だ

 京子はこれから会おうとしている坂本真夫という男子生徒に対する怒りをふつふつと沸きかえらせた。

 

 学園のA級生徒寮のある生活地域から、教場棟や文化部棟のある教育施設地域に向かう学園内の道路だ。

 夜の学園内道路上を照らす街路灯の下を京子と柚子は、遅々とした歩みで、SS研のある文化部棟に向かって進んでいた。

 どうしても歩く速度が遅れるのは、柚子に仕掛けられている股間の淫具のためである。

 彼女の股間には、あの坂本真夫という三年生の男子生徒が無理矢理に装着させたという革の下着があり、その内側には二本のディルドが股間とお尻の穴を貫いているのだという。

 そして、柚子が坂本真夫に面会を求めたところ、まだ寮ではなくSS研の部室にいるという彼は、柚子に徒歩で部室まで向かってくるように求めたのである。

 学園の敷地は広大であり、生徒寮のある居住地域と文化部棟のある学校地域とはかなり距離があり、本来であれば移動用の無人シャトルバスが使用できるのであるが、すでに夜の八時を過ぎていて、学園内の自動シャトルバスの運行は終わっている。

 

 従って、歩いて移動するしかないのだが、どうやら坂本真夫は、柚子が徒歩で移動してくることを見越して、遠隔で操作できるらしいディルドを繰り返し振動させて遊んでいるようなのだ。

 それで、柚子は振動意地悪く股間に振動を受けるたびに、脚をとられてたびたびに立ち止まったりしているということである。

 

 どうにかしてあげたいが、無理矢理に外そうとすれば電流が流れる仕掛けだという貞操帯を外せる方法は京子には思いつかない。

 携帯電話かなにかで連絡をとって、馬鹿なことはすぐに中止しなさいと怒鳴りつけてやろうとも考えたが、柚子が主張するには、坂本真夫は柚子を凌辱したときの映像データを保有していて、逆らえばそれをネットに公開すると脅迫しているらしい。

 

 なんという卑劣な少年なのだろう思ったが、下手なことはできない。

 本人に面しさえすれば、得意の京子の空手で屈服させ、貞操帯を外させて、映像データも取り上げることができると思うが、それには京子が坂本真夫と相対する状況を作る必要がある。

 柚子は、自分が直接にSS研の赴かないと、用心して坂本真夫は京子に会わないだろうと口にしたので、可哀想な柚子に、仕方なくこうやって歩いてもらっているということだ。

 明日になってから学校内で坂本真夫を捕まえるという手段もあるが、それだとこの柚子は明日の朝まで破廉恥な淫具を装着されたままということになる。

 とてもじゃないが、京子には許せることではなかった。

 

 とにかく、女生徒をこんな風に凌辱するような男子生徒はとっちめる──。

 京子はそれしか考えていない。

 生徒のすることとはいえ、許せない──。

 

「い、いま、何分ですか……?」

 

 柚子が歩みを進めながら、虚ろな表情を京子に向ける。

 股間の敏感な場所の三箇所を振動してはとまり、止まっては振動される仕掛けで、柚子はかなり朦朧としている感じだ。

 口は閉じられず、唇が震え、口の端からは涎のようなものも垂れている。

 また、全身が汗びっしょりだ。

 そして、スカートの下から出ている太腿はとまることのなくなって痙攣が続いていて、なによりも、密着している京子にははっきりと彼女から漂う愛液の香りが嗅覚を刺激している。

 本当に可哀想……。

 

「時間……? 九時十分前ね」

 

 京子は腕時計をちらりと見て言った。

 

「だめ……。さ、三十分過ぎてる……。は、走らなきゃ」

 

 柚子が泣きそうな声になり、本当に駆けだすような仕草になる。

 三十分というのは、あの坂本真夫との電話による会話で、彼が柚子に告げた制限時間だ。

 そんなことを気にする柚子に、京子はかっと腹がたつ。

 

「走れるわけないでしょう。いいから、このまま進むわよ」

 

「で、でも、命令に従わないと別が……」

 

「なに罰よ──。そんなこと必要ありません」

 

 京子は怒鳴った。

 

「だ、だけど……ひゃん──。ああっ、そこはだめええ──」

 

 すると、突然に柚子が京子の腕を振りほどいて股間を押さえて蹲ってしまった。

 

「立花さん──」

 

 これまでとは比べものにならないほどの大きな柚子の反応に、京子は狼狽えてしまった。

 

「どうしたのよ──。言いなさい──。また、電流──?」

 

 柚子に装着されている貞操帯がディルドの振動だけでなく、どうやら電流を流せる仕掛けもあることは悟っている。

 あまりにも激しい反応に、もしかして、淫具の振動だけじゃかく、電流でも流されたのかと思ったのだ。

 それくらいの派手な悶絶ぶりだった。

 

「ち、違います──。い、いままで……こ、ここは動かなかったのに……。ク、クリトリスが……。あっ、あああっ、んんあああっ」

 

 柚子が股間を押さえたままがくがくと身体を震わせる。

 クリトリス──?

 

「いやああ、そこはもう許してええ」

 

 すると、今度は蹲っていた身体をいきなり反り返らせた。

 片手をお尻にやっている。

 お尻も──?

 唖然とする京子の前で、柚子ががくがくと身体を大きく震わせた。

 

「いくううっ──」

 

 唖然とすることに、柚子はそのまま達してしまったようだ。

 京子は呆然となってしまった。

 

 


 

 

 やっと文化部棟に到着したときには、九時を少し過ぎていた。

 ただ、各文化部が中心となって、学園内に部外者を招いて行う「文化部発表会」まで一週間を切っているので、その準備に追われる文化部も多く、それなりの生徒がまだ残っていた。

 京子は柚子を伴なって、SS研のある二階に進んでいく。

 

「……いずれにしても、交渉はあたしに任せなさい。あなたは、坂本君も前まであたしを連れて行くだけでいいから」

 

 京子は柚子を支えながらささやく。

 

「で、でも……」

 

「いいから──」

 

 余程に怖い目に遭っているのか、坂本真夫に強硬手段をとることを仄めかす京子に、柚子はさっきから躊躇いがちだ。

 京子はそのたびに、任せろ、心配ないという言葉を繰り返す。

 

 そして、SS研の前に着いた。

 まだ廊下に明かりが灯っていて、SS研の展示物のひとつである絵画のレプリカが幾つか並んでいる。

 SS研の文化部発表会のテーマは、拷問と軽蔑の歴史ということであり、廊下にある絵画は、それに関連する絵画が並べられていた。

 学園内でかなり話題になっていて、京子も一度ならず覗きにきた。

 その中のひとつに自然に視線が向かう。

 京子は知らず、口の中に溜まった唾液を呑み込んだ。

 

 視線にうつったのは、大勢の男たちに見られる前で競りのようなものにかけられる美女が描かれている絵画だ。彼女は見世物のように公衆の前で服を剥されて全裸を晒させられている。

 『戦利品』という題名らしい。

 なぜか、その絵画を見ると、京子は心が魅入られたように動けなくなってしまう。

 いまも、ちょっとだけ意識を奪われたような気持ちになった。

 この絵画の中の女性は、男たちの前で裸に視線を浴び、どんな羞恥と屈辱を抱いているのだろう……。

 想像する……。

 すると、なぜか動けなくなるのだ。

 かっと股間に熱くなる気がする。

 どうして、ここにある絵にそんな感情を抱くのか……。

 京子は慌てて首を振って、邪念を振り払った。

 いまは、そんな場合ではない。

 

「開けます」

 

 柚子だ。

 各部室の出入り口は、指紋登録による施錠の仕掛けになっていて、あらかじめ入力している指紋の者でないと開錠はできないようになっている。

 金属音がして、入口の鍵が開いたのがわかった。

 扉を開けて部室内に入る。

 柚子が壁のスイッチで照明をつけた。

 室内は拷問や刑罰具のレプリカや絵図が説明版とともに並んでいる。なんに使うのかわからない拷問具も壁際にあり、中央には首と手首を板に挟んで固定するギロチン台のようなものもあった。

 

「誰もいないわね」

 

 京子は室内を見回しながら言った。

 

「こっちです」

 

 柚子が奥の壁際の本棚に向かう。

 そこで幾つかの本を出したり、戻したりすると、横の壁が開いてさらに置く進む隠し通路が出現した。

 

「なによ、この仕掛け──?」

 

 京子は驚いて声をあげた。

 

「隠し通路です。ここからエレベータで地下に向かいます」

 

 隠し通路に進むとエレベータがあり、柚子が操作してエレベータを開く。

 

「文化部棟にこんな仕掛けが?」

 

 エレベーター乗り込みながら、京子は呆気にとられた。

 まさか、こんなものが隠されているなど、全く知らなかったのだ。

 エレベータがさがって扉が開いた。

 扉の向こう側は大きな部屋になっていて、部屋の真ん中に椅子に腰かけているひとりの少年がいる。

 見たところ、ほかには誰もいない。

 

「困るなあ、柚子。勝手にここまで部外者を連れてきちゃ」

 

 部屋は薄暗かった。

 だが、室内には拷問具を思わせるものがたくさんあり、天井には滑車のようなものもある。また、奥に棚があり、そこに箱がたくさんあるだけでなく、鞭みたいなものも掛けてあった。

 なんだ、この部屋は……。

 京子は鼻白んだ。

 

「柚子、まだ教えたばかりなのに、もう忘れたのか? ペットは許可がなく二本足で立つことは許されないんじゃなかったか? それと奴婢の挨拶もあったな」

 

 少年は坂本真夫だろう。

 受け持ちの授業がないので、会話をするのは初めてだが顔はわかる。

 京子は柚子の前に行き、真夫を睨みつけた。

 

「立場さん、そんなことをする必要はありません──。坂本君、あなた、なんのつもりなの──。この立場さんに装着したものをすぐに外しなさい。これは教師として命令よ──」

 

 京子は怒鳴りつけた。

 

「命令ねえ……。先生と話のは初めてだけど、先生のことは知ってますよ。SS研は先生を歓迎します。奴婢として先生にもSS研に入ってもらいます」

 

 坂本真夫が言った。

 奴婢──?

 かっとなった。

 

「いい加減にしなさい──」

 

 京子は真夫に詰め寄ろうとした。

 坂本真夫は、いまだに椅子に座ったまま動こうともしていない。

 

「待って、先生──」

 

 すると、柚子が後ろから京子の腕を掴んでとめる。

 その直後、ずんという衝撃が全身に迸って脱力した。

 

「ああっ」

 

 悲鳴とともに仰向けに倒れ込んだ京子の視界に、手にスタンガンを握っている柚子が視界に入った。

 まさか、柚子が──?

 京子は目を見張った。

 

「駄目ですよ、先生。真夫先輩に逆らっちゃ……。ふふふ、大丈夫ですよ。真夫先輩は先生を生まれ変わらせてくれますから……。調教で……」

 

「ちょ、調教……?」

 

 身体が痺れて動かない。

 それにしても、まさか柚子が?

 もしかして、全部罠だった?

 

「ええ、調教です。真夫先輩はすごいですよ。先生もきっと恥ずかしいことやいやらしいことが大好きになります。問題ありません」

 

 微笑んでいる柚子がしゃがみ込んできて、さらにスタンガンを押しつけて電撃を流し込む。

 

「ほごおっ」

 

 身体が飛び跳ねる。

 さらにスタンガンによる電撃──。

 そのたびに、びくんびくんと京子の身体は飛び跳ねた。

 

 身動きできなくなった京子の首筋に、なにかがちくりと刺さった。

 柚子でも坂本真夫でもない誰かだ。

 

 おそらく注射だ。

 しかし、誰に注射をされたのかはわからなかった。

 

 京子の意識はそれによりかきとられ、そのまま気を失ってしまった。



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第24章 調教【伊達 京子】
 第147話 調教の開始


 しばらく、京子先生の調教シーンが続くかもしれません。ご了承ください……。
 作者が満足したら話を進めます(笑)。

 *





 微睡(まどろ)みから眼が覚めた。

 朦朧としていた意識が溶けだすように、だんだんと視界が戻ってくる。

 まず、視線の先に浮かびあがったのは、広い部屋の真ん中で椅子に座っているひとりの少年と、その脚元に蹲っている少女だ。

 一瞬、状況がわからなかったが、だんだんと記憶が繋がってきて愕然となる。

 

 そうだ──。

 確か、SS研の部長をしている坂本真夫という男子生徒から、犯罪まがいの理不尽な性的いじめを受けていた一年生の女生徒の立花柚子を救出しようとして、柚子を伴なってSS研に乗り込んだのだった。

 だが、交渉を始める暇もなく、その柚子からスタンガンを打たれ、さらに首になにかの薬剤を注射されてしまい、意識を失わせられてしまったのだった。

 

 そして、はっとした。

 少し離れた視界の先で椅子に座っているのは、その坂本真夫だった。制服姿であり、背もたれに身体を預けるようにして大きく脚を拡げて座っている。その足元に蹲っているのは、立花柚子だった。

 唖然とすることに、柚子は上半身しか制服を着ておらず、下半身についてはスカートを脱いでいる。彼女は京子に後ろを向けるようにしていて、突き上げている彼女の臀部には、Tバック状の革ベルトが喰い込んでいた。あのいやらしいディルド付きの貞操帯である。しかも、真夫の股間の前に蹲っている柚子は、驚いたことに真夫の股間の顔をつけて性器を口に含んで性奉仕をしている気配だ。

 背後からであるが、彼女の苦悶するような息遣いと喘ぎ声混じりの鼻声、そして、ぺちゃぺちゃという淫らな水音でそれがわかったのだ。

 さらによく見れば、柚子の首には、首輪がかかっていて、その首輪に繋がった鎖を真夫が片手に握っている。

 

 なんという仕打ちを強要しているのか──。

 

「な、なにをしているの──」

 

 かっとなった京子は、すぐにそれをやめさせようとふたりに詰め寄ろうとした。

 しかし、身体は動かず、四肢が引っ張られて、がちゃんという複数の鎖の音が鳴っただけだった。

 京子はそれで、自分が両手を拡げて、二本の鎖で左右の手首を天井から引っ張られて、脇を晒して吊り上げた状態にあることを知った。また、両脚もまた大きく脚を開いて革枷をそれぞれ左右の足首に嵌められており、しかも、革枷から伸びる短い鎖で床の留め具に繋げられていた。

 つまり、大の字の格好に部屋の真ん中に拘束されて立たされているということだ。

 

「うわっ、なんだ、これは──?」

 

 京子は、さらに自分の愕然とするような状況に気がつき、悲鳴のような声をあげてしまった。

 身に着けていた上下のジャージは脱がされていて、京子が身に着けているのは、ベージュのブラジャーとショーツだけだったのだ。

 脚も素足だ。

 脱がされたものは、真夫と柚子のさらに後ろ側の壁際にある籠に置かれている。柚子がはいていたスカートもそこにあるみたいだ。

 

「やっと気がつきましたね、先生……。ということは、残念ながら、先生が覚醒するまでに、俺から精を搾り取れという命令を達成できなかったということだね。柚子、罰だ。その恰好で全員分のジュースを買ってくるんだ。もう九時半を過ぎたから、ほとんど残留生徒もいなくなったけど、皆無じゃないらしい。見つかるなよ」

 

 真夫が柚子の頭を軽く叩いて、自分の股間から顔を離された。

 柚子の身体が横に少し動いて、真夫の股間が露わになる。ねっとりと唾液に濡れた勃起した男性器がそこにあった。

 京子は動揺して身体が熱くなるのを感じた。

 

「な、なんということを──。坂本君、いい加減にしなさい──。そんなことは許されることじゃありません。とにかく、すぐに立花さんを解放しなさい。これは教師としての命令です──」

 

 京子は怒鳴りあげた。

 

「なに言ってんのよ、先生。こいつは露出好きの変態よ。スカートをはかずに、部屋の外に行ってこいなんて命令は、この変態にとってはご褒美よ。なんせ、自分で全裸になって、深夜の学園を徘徊するようなド変態だものね」

 

 声は女生徒のものだった。

 しかも、京子の背後だ。

 首を捻って確かめる。

 京子のお尻側の壁際に横長のソファーがあり、そこにもうひと女生徒がいた。

 柚子と同様の灰色の従者生徒用の制服を身に着けている白岡かおりだ。真夫の従者生徒だ。もっとも、元々のA級生徒であり、あの白岡グループの社長令嬢である。

 一瞬、どうしてこんな場所にと思ったが、彼女は坂本真夫の従者生徒であるだけでなく、真夫に逆らえないように脅迫をされているのだということを柚子が話していたことを思い出した。

 

「し、白岡さん、お願い──。これを外して──。いえ、ここから逃げて、すぐに誰かに連絡を──。坂本君に脅迫されていることは知ってます。でも、あなたを守ることを約束します。あたしを信じて──。すぐに逃げるのです──」

 

 一見したところ、彼女は特段の拘束もされてないようだ。

 彼女がここから脱して、誰かに知らせてくれれば、坂本真夫という男子生徒が自分という女教師を理不尽に拘束して監禁したという現行犯だ。

 その場で彼を退学に追い込める。

 強引だが、それで彼女たちを救うことはできる。脅迫に使っているという彼女たちの破廉恥映像の隠し場所がネックだが、逆らえばすぐにネットに公開する仕掛けになっているということなどはったりに決まっている。

 SS研内か、彼の寮を探せば、彼が隠している脅迫用の女生徒の破廉恥映像も見つけられるに違いない。

 

「はあ? わたしが逃げる? なんのためによ? そもそも、今夜は真夫があんたを調教するっていうんで、喜んで助手に立候補したんだから、どこにも行きはしないわよ」

 

 すると白岡かおりが京子の後ろ側で眉をひそめるのが見えた。

 

「おう、なんか恨みこもっている感じだなあ」

 

 真夫が笑い声をあげた。

 視線を正面の真夫に戻す。

 すでに腰の下着とズボンを戻して服装を整えている。また、その横で柚子が上衣のシャツを手で引っ張って腰を隠すような恰好をして立っていた。そして、自分の首の首輪に繋がっている鎖を弛ませないように手で持ってもいる。

 さらに、カードのようなものを持たされている。

 この学園では、自販機でも売店でも現金は使用せず、使用記録だけをとり、翌月にまとめて保護者に請求する仕組みになっている。従者生徒になった柚子のカードは利用停止扱いになったはずなので、坂本真夫のカードかなにかを渡されたのかもしれない。

 

「ええ、そうよ。この先生には恨み持っているわ。前に、生理を理由に体育の授業の見学を希望したとき、それを拒否されて、しかも、罰でグラウンドを五周させられたんだから」

 

 白岡かおりだ。

 歩いて、前側に回ってきた。

 それはともかく、彼女が語ったことがなんのことかわからなかったが、彼女が二年生のときに、そんなことがあったことを思い出した。

 

「なにを言っているんです──。それはあなたが嘘の申告で体育をさぼろうとしたからでしょう。同じ月に三週続けて生理なんて通用するわけはありません。当然の罰でした」

 

「うるさい──。そういう融通の利かないところが気に入らないのよ。とにかく、真夫があんたを奴婢にするって聞いて、本当に嬉しかったわ。明日の金曜日は玲子があんたを休暇処置したらしいから、調教予定は週末を含めて四日だそうよ。愉しみね、先生」

 

 その白岡かおりが京子の前に寄ってきて、指でつっと胸の膨らみの谷間付近をくすぐった。

 

「はんっ」

 

 触られた部分に電撃のような疼きが走り、京子はびくんと身体を跳ねさせてしまった。

 なぜだからわからないが、このところ不自然なほどに乳房が敏感になり、まるで性器そのものになってしまったかのように胸で感じてしまうのだ。

 いまも、ほんのちょっとした指の刺激だけで、あられもない反応を示してしまった。

 女教師である自分が生徒の前で晒した醜態に、京子はかっと羞恥で身体を熱くしてしまう。

 

「あら、敏感……。随分と面白い身体にしてもらったものね、先生。まあ、この数日、毎晩、胸でオナニーするくらいに気に入ったのは知っているわ。この真夫に感謝することね」

 

 白岡かおりが今度は、両手を伸ばして。ブラジャー越しに両方の乳房を無造作に揉みだした。

 大きな衝撃が胸から全身に一気に迸る。

 

「ひいっ、いやああ──」

 

 快感が次々に駆け抜ける。

 自慰以外の性経験のない京子にとって、腰が砕けるほどの性感の刺激というのは生まれて初めての経験だ。

 しかも、胸だけでこんなに感じてしまう理由が検討もつかない。

 だが、ちょっと白岡かおりの物言いに引っ掛かるものがある。

 

 そんな身体になったことを感謝しろ──?

 まるで、前に立つ坂本真夫が裏でなにかを仕掛けたのだと言わんばかりだ。

 

「胸でオナニーって、隠し撮り記録の中にあった伊達先生の映像ですね。でも、真夫先輩に感謝ってどういう意味ですか? なにかしたんでしょうか?」

 

 柚子が口を挟んできた。

 京子と同じ疑念を柚子も抱いたようだ。

 

「まあね。この先生を罠に嵌めて捕獲したのはよくやったけど、実はしばらく前から、ターゲットになっていたのよね。それで、この真夫がひそかに、こいつの胸をクリトリス並みに敏感にする施術をしたということよ。お前が連れてこなくても、多分、数日中にはやっぱり調教のために連行したでしょうね。だから、今回のことはご褒美の対象じゃないわよ」

 

 かおりが京子の胸から手を離してから、柚子に顔を向ける。

 

「えええっ──。そんなのないですよ。SS研の危機をあたしの機転で救ったんですよ。絶対にご褒美の対象ですよ。頑張ったんですから。あのまま放っておけば、きっと伊達先生は、警察か教育委員会に通報かなんかしたに決まってます。あたしのお手柄です」

 

 柚子が不満そうに頬を膨らませた。

 京子は呆気にとられた。

 そもそも、京子が拘束されてしまったのは柚子のスタンガンによる攻撃のせいだが、いまのいままで、それもまた柚子が真夫たちに逆らえない脅迫をされているせいであり、彼女自身として不本意であったことに違いないと思っていた。

 しかし、いまの言葉の様子では、そんな感じでもない。

 

「だ、か、ら──。もともと、見張ってたんだから、あの玲子がそんな隙を見せるわけないでしょう。所詮、玲子や真夫の手の中で泳がせていただけよ。お前がわざわざ罠に嵌めなくても、もともと、罠に嵌っていた状態だったのよ──」

 

「そんなあ……。頑張ったのに……」

 

 柚子が唇を尖らせた。

 すると、立ち上がっていた真夫がふたりの会話を後ろで小さく笑う。

 

「いや、お手柄だよ、柚子ちゃん。だから、ご褒美の露出遊びだ。その恰好で自販機でジュースを買ってくるんだ。ほら、行ってこい──」

 

 そして、真夫が柚子の腕を掴んで背中に回させてがちゃんと、後ろ手に手錠をかけてしまった。

 

「あんっ、わ、わかりました……。でも、どうして手を?」

 

 柚子が真夫を振り返って顔を見上げる。

 その横顔を見ると、理不尽な羞恥行為の強要だが、満更でもないように柚子が顔を赤くして、欲情したように顔を少し蕩けさせているのがわかった。

 そういえば、かおりが柚子は露出好きの変態だと言ったか?

 もしかして、それもまた事実──?

 だいたい、さっきは罰として、スカート無しのその恰好で部室の外まで買い出しに行けと命令し、今度はご褒美として同じことを命令した。

 それを悦んでいるような柚子の反応に、京子は理解ができないでいた。

 

「カードを持って自販機の前まで行けば、手錠が外れる仕掛けだ。だから見つからないように頑張って行くんだ。スリルあるだろう?」

 

 真夫がズボンのポケットからなにかを出して、片手で操作する。

 

「ひあんっ、あんっ」

 

 いきなり柚子が後手拘束の膝を折った。

 そして、なにかを我慢するように歯を喰いしばるようにしている。

 また、股間の淫具を──?

 京子は眼を大きく開いてしまう。

 

「じゃあ、かおりちゃん、任せた。ちょっと遊んであげてくれ」

 

 真夫が手に持っていた操作具をかおりに渡す。

 

「ふーん。まあ、わかったわ。でも、愉しいところは残しておいてよ。さっきも言ったけど、わたしも、この女教師の調教に参加したいんだから」

 

「嘘をついて、ズルをしたのはかおりちゃんだろう。とにかく、行っておいで。柚子ちゃんもね。頑張って来い」

 

 真夫が笑う。

 

「は、はい……。あっ、あんっ……。で、でも、こんなの恥ずかしいです。そ、それに歩けないし」

 

 柚子は身体を屈めて身体を震わせたまま、数歩歩いただけで、また立ちどまってしまった。

 

「そんなこと言いながら、あんたが喜んでいるのはわかってんのよ。さっさと行くわよ、この変態下級生──」

 

 かおりが柚子が後ろ手で握ったままだった首輪の鎖をとりあげて、ぐいと引っ張って歩き出す。

 ふたりが京子の視界の外に移動する。

 

「ちょ、ちょっと、立花さん──、白岡さん──」

 

 本当にそのまま部室の外に出ていきそうなふたりに、京子は声をあげた。

 

「あっちは気にしなくていいよ、先生。それよりも、自分のことに集中してもらおうかな」

 

 坂本真夫だ。

 気がつくと、ほとんど密着するように京子の正面に立っている。

 そして、京子の背中に手を回して、ブラジャーのホックを外して、乳房からずらして乳房を完全に露出させてしまった。

 

「うわっ、や、やめなさい──。なにをするの──」

 

 京子は反射的に身体を捻った。

 だが、真夫が京子の腰の括れに手を回して抱きよせるようにしてきた。

 そして、顔を京子の乳房に寄せて、舌を乳首にすっと這わせる。

 

「ひああっ、や、やめて──。やめなさい──。馬鹿なことは──」

 

「馬鹿なこと? 馬鹿なことかもしれないけど、先生は最終的に俺に屈することになるんだ。そして、心から悦びとともに、俺の奴婢になることを誓うことになる……」

 

 一度口を離した真夫が再び乳首に舌を這わせる。

 乳輪をねっとりを舐めまわし、乳首をぴんと弾かれた。

 

「ひゃああっ」

 

 得体の知れない衝撃が身体に突き刺さり、一瞬だけ頭が白くなった。

 気がつくと、京子は身体をのけ反らせて、身体を小さく震わせてしまっていた。

 

「軽く達したのかな、先生? 拘束されて動けないのも感じるでしょう? きっとマゾの素質もあるんだろうね。とにかく、一生懸命に抵抗することだよ。さもないと、心の底から奴婢になってしまうからね。もっとも、それでも結局は屈服してしまうことになるんだけどね……。さあ、とにかく、調教の始まりだ」

 

 今度は反対側の乳首を真夫が口に含んできた。

 さらに、ショーツの上から股間を指でなぞられる。

 

「んふうううっ」

 

 京子は身体をがくがくと震わせて、再び大きく身体をのけ反らせてしまった。



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 第148話 解放の条件

「ああっ、や、やめて……。や、やめなさい──」

 

 あっという間に硬く尖りきってしまった乳首を弾くように舌先で転がされると、次々に鋭い快感が全身を駆け巡っていく。

 どうして、こんなに簡単に感じてしまうのか──?

 しかも、同時に下着の上から股間をくすぐるように刺激されて、上からの快感と下からの快感が激しくぶつかり、それが全身を席捲してしまう。

 

「や、やめるのよ──」

 

 京子は必死に身体をよじりたてて、乳房と股間から真夫の唇と指を振り払った。

 すると、真夫が顔をあげ、次いで、くすくすと笑い声をあげる。

 

「先生、抵抗は無意味ですよ。どんなに逆らおうとしても、無理矢理に感じさせられて、屈服するんです。それを愉しんでください」

 

 真夫が一度京子から離れて、部屋の隅にあった車輪付きのトレイに棚に準備していたらしい箱状の籠を乗せて戻ってきた。

 そこから鋏を取り出して、胸にまとわりついていたブラジャーの紐を切断して、取り去ってしまう。

 

「くっ──。あ、あなた、自分がなにをしているのかわかっているの──。あなたを見損ないました──。まさか、女の自由を奪って凌辱するような下劣な生徒だったなんて──」

 

 京子は目の前の真夫を睨みつける。

 しかし、はっとした。

 真夫の手にしている鋏がすっと京子の下着の横に差し入れられたのだ。

 下着を切断される──。

 全身にかっと羞恥が走り、そして、それ以上に、大きな恐怖が京子を包む。

 

「そうですね……。最近は俺もそれを自覚してきました。俺には鬼畜で冷酷で下劣な性質が隠れていたようです。やっぱり、血なんですかねえ……。でも、そういう先生にも隠れている性質があるはずです……。もしかしたら、こんな風に凌辱されて悦ぶ被虐の血が隠れているかもしれませんよ。確かめさせてもらいますね」

 

 ショーツの端が紙でも切るように簡単に切断された。

 反対側の縁も……。

 京子の足元に布切れとなった下着が落ちていく。

 股間を晒されてしまった。

 しかも、さっき胸で呆気なく達したばかりだ。

 恥ずかしい──。

 羞恥が京子を襲う。

 

「濡れてますね……。そして、随分と立派な陰毛です。とっても淫乱そうだ」

 

「いやっ」

 

 秘部が外気にさらされる感触に、京子は思わず悲鳴をあげた。

 その股間に再び、真夫の指がすっと伸びてくる。

 

「あっ、やめて──」

 

 京子は懸命に腰を振って、指から逃げようともがく。

 すると、真夫の反対の手が京子の乳房を横側からすっすっと撫でた。それだけで、鮮やかすぎる甘美感が身体を貫き、京子は身体をのけ反らせて全身を硬直させてしまった。

 

「ひあああっ」

 

 その隙を見逃さず、真夫の指が股間の左右の合わせ目からぐっと内側に入り込んでくる。

 しかも、二本も……。

 

「んああっ、やめてええ──」

 

 指が胎内に潜り込み、内側からとんとんと押すように刺激される。

 ぞわぞわと重い快感が拡がっていく。

 しかも、怖い──。

 そんなところには、自分の指さえも挿入したことなどない。

 もっとも秘している女の源泉に加えられるおぞましい指の侵入に、京子の声は震えてしまう。

 

「怖がらなくていいですよ……。痛みなど与えません……。痛覚を一時的に麻痺させましょう……。痛みと恐怖が小さくなれば、残るのは快感だけです。それを愉しむんです……。さあ、俺の眼を見て……」

 

 真夫が花芯に挿入している指をゆっくりと回し、さらに指の腹で肉襞を擦り押すようにまさぐってくる。

 

「あっ、いや……。や、やめて……」

 

 女の源泉を縦横無尽にまさぐられるのはおぞましいとともに、圧倒的な屈辱のはずだ。

 だが、なぜか怒りや屈辱は小さい。

 それよりも、甘い疼きがどんどんと拡大して、京子を支配する。

 

「眼を見るんです──」

 

 真夫が突然に大きな声をあげた。

 びくりとして、俯きぎみだった顔をあげた。

 視線が合う。

 なにか不思議な力が頭の中を襲った気がした。

 得体の知れないものを感じて、本能的に視線を逸らそうとした。

 しかし、なぜか顔を背けることができない。

 眼を閉じることもだ。

 視線が不可思議なものに縛りつけたかのように動かせない。

 

「……ああ、わかりますよ……。もう先生は、俺になにも隠すことはできません……。先生の不安、恐怖……、屈辱……。そういう感情がわかります……。ああ、でも思ったよりも怒りの感情は小さいですね。やっぱり、先生はマゾなのかもしれません……。快感が怒りを打ち消してしまってます」

 

「な、なにを言っているのよ」

 

「俺は先生の心に触れることができるということです……。快感も感情ですからね。先生が気持ちのいい場所も、感情に触れながら探せば、すぐにわかります……。ああ、まずはここですね」

 

 ゆっくりと動いていた真夫の指が秘奥の中である一点をぐいと押した。

 

「ひあっ、いやあ、ああっ」

 

 衝撃が走り、腰ががくんと沈む。

 一瞬、全身の力が吸い取られて、腰が砕けたようになったのだ。

 紛れもない圧倒的な快感だった。

 

「気持ちいいでしょう……? 屈服すれば、もっと気持ちよくなれますよ。さあ、誓ってください……。俺の奴婢になると」

 

 真夫が指でさっきと同じ場所をまたもや強く押す。

 衝撃が股間に走る。

 

「ひあああっ──。ゆ、指を抜いて──。指を抜くのよ──」

 

 京子は顎をのけぞらせながら叫んだ。

 

「どうしてですか? 先生の身体は嬉しそうですよ。どんどんと指に先生の恥ずかしい汁が絡んできます……。先生は多分、マゾです。いままでそれを知る機会がなかっただけです」

 

 真夫が指を一度抜いて、すぐに差し入れてくる。

 しかも、さっき触れられて衝撃が走った秘奥の内側の場所を擦るように刺激してきた。

 

「ひああっ、やめるのよ──」

 

 迸る快感に翻弄されて、京子は首を激しく横に振る。

 必死に口をつぐんで、慌てて声を噛み殺す。

 それにしても、おかしい──。

 こんなに簡単に感じてしまうのはどうしてなのか──?

 まるで、全身が性感帯になってしまったかのように、目の前の男子生徒の愛撫に翻弄されてしまう。

 すると、真夫が指を抜いてにっこりと微笑んだ。

 

「先生、勝負しませんか?」

 

 そして、京子の顔を覗き込むようにして微笑む。

 

「勝負?」

 

 京子は訝しんだ。

 すでに肩で息をするようになっていた。

 

「性の勝負です。俺はこれから、徹底的に先生をマゾ調教します。先生にはいまから三日間、それを受けてもらいます。最後まで自分を保って調教の快感に耐えられたら先生の勝ち。耐えられなかったら負けです。でも、最後まで屈服しなければ、先生を解放して自由にしてあげます。どうですか?」

 

「た、耐えられたらって……、どういうことよ……?」

 

「難しいことじゃありません。被虐の快楽に負けて奴婢になると誓ってしまえば、先生の負け。三日後の最後まで拒否し続けることができれば、先生の勝ちです」

 

「拒否し続ければいいということ?」

 

「その通りです。屈服して奴婢を誓うか、耐えて拒否するかです。拒否を続けることが解放の条件です。簡単でわかりやすいでしょう? その代わり、三日間は逃げられませんよ。ありとあらゆるマゾ調教を受けてもらいます」

 

 この少年はなにを言っているのか……。

 三日後だろうが、十日後だろうが、自ら奴婢を誓うなどあり得ないが、本気でその間、京子を監禁して凌辱するつもりなのか……。

 

「……三日間ね。三日のあいだにあたしがあなたに屈服したと言わなければ、それでいいのね? だったら誓いなさい──。そのときはあなたが無理矢理に脅迫している女生徒たちを全員解放しなさい。そして、あなたは学園を出ていきなさい。あなたのような卑劣漢はこの学園に相応しくありません──」

 

「誓いましょう。交渉成立です。じゃあ、調教の時間ですよ、先生」

 

 真夫がにっこりと微笑む。

 そして、横のトレイの上の箱からなにかをとりだした。

 

 鳥の羽根?

 

 柄の部分がプラスチックになっていて、操作ボタンのようなものがある。

 真夫が柄の部分を操作すると鳥の羽根が小刻みに動きだした。

 

「わっ、な、なに?」

 

 真夫がその鳥の羽根を京子の胸に近づける。

 ぎょっとして、京子は身体を限界まで引く。

 

「じゃあ、最初の調教だ。先生はこの羽根バイブのくすぐりを我慢してください。くすぐりの刺激に負けて、三回絶頂すれば罰として先生の処女をもらいます。それが嫌なら、耐え続けてください。感じさえしなければ、俺が先生を犯すことはありません」

 

 真夫が羽根の先を乳房に当てた。 

 

「ひいあああっ」

 

 沸き起こった激しい甘美感に、京子は全身を突っ張らせる。

 

「そうそう。もうひとつ条件です。三日間、決して“やめて”と口にしてはいけません。先生には勝負の条件として、調教を拒否する権限はないんですから。やめてと叫べば、勝負は敗けと見なします」

 

 真夫がいつの間にか反対の手にも持ってた羽根バイブとやらを京子の内腿にも当ててきた。

 そして、じわじわと股間に向かって移動させる。

 

「ああっ、いやあああ」

 

 上下からの刺激に、京子はがくがくと全身を痙攣させた。

 

「我慢するんだ──。耐えろ──」

 

 真夫が叱咤の声をかける。

 京子は歯を食い縛って、快感の大波に耐えた。



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 第149話 マゾ教師の兆し?

「ひいっ、ああっ、んんんっ……」

 

 真夫の操るふたつの鳥の羽根が先端についたバイブが全身を這いまわる。そして、そのたびにびくんびくんと腰が跳ねた。

 

「ほら、もっと我慢しないと……、先生。あっという間に連続で達して、俺に犯されることになりますよ」

 

「うぐうっ」

 

 漏らしそうになる甘い声を、京子は必死に顔を横に振ることで逸らし、懸命に唇を結んで声を噛み殺す。

 すると、真夫が持つふたつの羽根が同時に乳首を襲った。

 

「んあああっ、あああっ」

 

 衝撃が襲った。

 柔らかい羽根が高速で乳首を動いて、皮膚をかすめるようにくすぐっていく。

 その微妙な刺激が溜まらない・

 

「ひああっ、ああああっ」

 

 異常なまでに敏感になっている乳首を責められて、京子の快感は一気に飛翔する。

 全身の力が吸い取られて、胸だけでなく腰もがくがくと震えた。

 

「ああっ、ひ、卑怯よ──。こ、こんなこと卑怯よ──。いやあああっ、あああっ」

 

 京子は四肢の拘束を引き千切らんばかりによじりたてながら声をあげていた。

 灼けただれるほどの快感が膨れあがり、喜悦の大波が襲い掛かる。

 とてもじゃないが我慢できるようなものではない。

 京子はこれほどまでに簡単に快感に溺れてしまう自分の身体が信じられないでいた。

 とにかく、耐えなければ──。

 それだけを考えて、快感に逆らう。

 

「だめですよ、先生。拒絶の言葉は屈服とみなすと伝えたはずです。まあいいです。見逃しましょう。その代わり、これは罰です」

 

 真夫が乳首から羽根バイブを離して横のトレイの上に置く。

 いまにも頂点に達しかけていた快感のせり上がりがぎりぎりで留まる。ほっとするとともに、心を舐めつけるような焦燥感に包まれた。

 とにかく、荒れた呼吸を整えようと、俯いて肩で息を続ける。

 

「うわっ、今度はなに──?」

 

 京子ははっとして顔をあげた。

 突然に視界がなくなったのだ。

 そして、いつの間にか真夫が後ろに回っていた。

 真夫に顔に目隠しをされたということに気が付いたのは、頭の後ろで電子的な施錠音が鳴ったときだ。

 どんな目隠しをされたのかはわからないが、しっかりと眼の上を締めつけていて、おそらく施錠を解錠してもらわなければ絶対に外れないという感覚はある。

 

「先生が刺激に集中できるようにですよ。視界がなくなれば、ただでさえ感度をあげられている胸が十倍にも気持ちよくなれます。さあ、備えてください。胸を責めますからね」

 

 京子の正面側に戻った気配の真夫が耳元でささやいた。

 

「ひっ」

 

 だが、それだけで視界を失った京子には、耳の中に息を掛けられるだけでも身体を竦ませてしまうほどの強い刺激だ。

 ぞくぞくという妖しい刺激に裸身を竦めてしまう。

 

「耳の弱い女はマゾ度が高いと言いますね。そろそろ、わかってきたんじゃないですか? 先生はマゾです。それを認めることです。それで気持ちが楽になりますよ」

 

「な、なにを言って……」

 

「ふふ、そして、正直に言えば、俺が先生がマゾでほっとしてます。俺の罪悪感が小さくなりますからね」

 

「ば、ばかなことを──」

 

 かっとして、目隠しをされている顔をあげた。

 その途端に、またもやさわさわと羽根バイブの刺激で両脇腹をくすぐられた。

 

「ひゃん──」

 

 京子はあられもない声をあげて全身を跳ねさせた。

 すぐに羽根は離れたが、ぞっとした。

 視界を失わせられてのくすぐり責めの刺激は、確かに桁違いの衝撃だった。

 この状態でもっと敏感な場所を責められれば、絶対におかしくなる。

 京子は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

 

「ほら、いきますよ。もうすぐです。ほらほら」

 

 真夫が揶揄うように声をかけてきた。

 だが、真夫が操る羽根バイブは見た目の激しい動くとは裏腹に全く無音なのだ。

 最初にも思ったが、それだけでかなりの高性能のものだという感じはあった。

 すぐ前に、真夫がいるのはわかるのだが、羽根がどこに位置しているのか気配がわからない。

 とにかく、胸に意識を集中して、襲い掛かるはずの羽根責めに備える。

 

「ひあああっ、ひ、卑怯──」

 

 しかし、京子は腰を大きく跳ねあげて一気に悶絶しかけた。

 真夫の羽根バイブが襲ったのは、まったく無防備になっていた股間だったのだ。しかも、クリトリスを羽根で激しく刺激される。

 

「んぐううっ、あああああっ」

 

「そして、ここだ。いまの先生には、乳房は剥き出しのクリトリスと同じですから効くでしょう?」

 

 クリトリスとともに、剥く日にも羽根バイブが襲う。

 またもや、股間と乳房への二箇所責めだ。

 今度こそ、絶頂感を堰き止めることができずに、腰をがくがくと震わせて、そのまま達してしまった。

 いくのを我慢しようと思っていたつもりの踏ん張りは、呆気ないほどに崩れ落ちて、逆にすさまじいほどの絶頂感を味わってしまった。

 最初に乳房を遊びのように責められたときに加えて、二度目の絶頂だ。

 

「どうですか、先生? これがマゾの快感です。達したくないのに無理矢理に快感を極めさせられる……。しかも、拘束されて……。抵抗しても抵抗しても、無意味に恥辱を与えられるんです。無理矢理に……。自分の身体を他人に支配されるんです。先生に自由はありません。それが先生の快感を大きくしているんですよ」

 

 真夫が 真夫が羽根を京子から離して、くすくすと笑う。

 弓なりになっていた裸身は絶頂により硬直していたが、びくんびくんという愉悦の痙攣が去った後のふつふつとくすぶる快感の余韻はまだ京子から離れていかない。

 京子は深い吐息とともに、がくりと身体を脱力させた。

 

 だが、マゾの快感……?

 拘束されていることが悦びを大きくしている……?

 まさか、あり得ない……。

 でも、京子は異常なほどに欲情を露わにしていることは確かだ。

 自分がこんなに簡単に性的刺激に溺れてしまうことも信じられないし、確かに馬鹿みたいに身体が敏感になっていることは間違いない。

 本当に、自分はマゾなのか……?

 京子は愕然となりかけた。

 

「これで一回目ですが、胸を責めると口にして、クリトリスを責めたのでノーカウントにしましょう。残りはまだ三回です……。先生が処女を失うまでね。さあ、調教を続けましょう。屈服して犯されたくなったら言ってください。そのときには、カウントとは関係なく、犯して終わらせてあげます」

 

「い、いい加減にして……。あ、あなたに屈服するなんてありえない……。ましてや、あたしはマゾじゃない──」

 

「どうですかね……。おっ、お帰り」

 

 そのとき、背後側から横開きに出入口が開くとともに、人が入ってくる気配がした。

 はっとしたが、白岡かおりと立花柚子のふたりなのだろう。

 

「戻ったわよ。こいつ呆れるわ。戻ってくる途中でパソコン部の二年生に見られそうになったんだけど、そのとき、貞操帯したまま失禁して、おしっこを床にぶちまけたんだから。参ったわよ」

 

 かおりだ。

 耳を疑うような内容だが、口調は呆気らかんとした感じだ。

 真夫が彼女たちの方向に移動していきながら、笑い声をあげるのが聞こえた。

 

「なるほど、そんな感じだな。びしょびしょだなあ。じゃあ、貞操帯は外してやろう。身体を洗って来い……。じゃあ、そのジュースの入った袋を受け取ろう。それにしても、口に咥えて持ってこさせたのか、かおりちゃん」

 

 真夫が明るい口調で言っている。

 口に咥えて運んだ?

 

「はあはあはあ……。ご、ごめんなさい、かおり先輩……。で、でも、興奮して我慢できなくて……。それと、おしっこだけじゃないです。興奮しすぎて、ちょっといっちゃいました。すごいスリルでした」

 

「なによ、このド変態──。ねえ、真夫、もうこいつの相手は嫌よ。露出責めをされてるのに、口では嫌がりながらも、顔は完全にいっちゃってんだから。逆に怖いわよ」

 

 かおりは不満そうな口調だ。

 

「あんっ、そんなこと言わずに、これからも、よろしくお願いします」

 

 柚子が媚びるように言った。

 また、柚子の声は床に近い場所から聞こえるので、もしかして、四つん這いの姿勢のままなのだろうか。

 

「ははは……。まあ、かおりちゃんは、やっぱり責めるよりも、責められる方がいいんだろう。責め側は物足りなかったか?」

 

 真夫が揶揄うように笑った。

 

「そ、そんなこと……。ま、まあ、否定はしないけど……。でもまあ、責める快感もわかってきたかも……。だけど、言っておくけど、責められることについても、わたしがマゾなのは、あんたにだけよ──。ほんっとに、今更捨てないでよね。ちゃんと愛人として囲ってよ」

 

「奴婢としてだろう。かおりちゃんは、俺の永遠の奴婢だよ」

 

言質(げんち)とったからね──」

 

 かおりがきっぱりと言った。

 それはともかく、京子は怪訝に思った。

 いまの会話で感じるのは、かおりがこの坂本真夫に性的な支配を受けているというのは事実ではあるが、完全に強要されているわけではないということだ。

 それどころか、完全な合意のもとであることを示唆している。

 柚子が真夫に脅迫されているというのは、どうやら嘘だった感じもあるし、もしかして、真夫や女生徒たちの関係はまったくの合意のもとに成立している?

 そもそも、あの白岡グループの令嬢の白岡かおりが、孤児院出身のはずの坂本真夫の愛人に大満足している?

 でも、そんな感じなのだ。

 

「まあいい。それより、柚子だ。お前は身体を洗って来い。とりあえず、外してやろう」

 

 三人がいるのは、京子の背中側だ。

 気配だけしかわからないが、真夫がなにかを操作する物音がしたような気がした。

 キンという金属音がして、柚子が甘えるような嬌声をあげる。

 そして、ずぶずぶという水音とともに肉を擦るような音が耳に入ってきた。

 

「うわっ、お前、どれだけ、感じてるのよ──」

 

 かおりが驚いたような声を出す。

 

「あんっ──。ぬ、抜けるのも、気持ちいいです……。でも、身体を洗ってきたら、またそれを嵌めてください。性奴隷って感じがして、装着されているだけで、ぞくぞくと堪らないんですうう」

 

 柚子が甘えた声を出す。

 

「いいから、身体洗って来い、ド変態女──。その淫具も持っていって、洗ってくんのよ」

 

「はーい、かおり先輩」

 

 柚子がどこかに立ち去っていった。

 すると、今度は京子の周りに、残った真夫とかおりが戻る気配がした。

 そして、いきなり、背中の真ん中をつっと指が上から下になぞりおろされる。

 

「ひいいいいっ」

 

 京子は突然の刺激に、全身を引きつらせて悲鳴をあげてしまった。

 

「相変わらず、感度抜群の玩具ね……、真夫、前言撤回よ。責めるんなら、この伊達先生を責めさせてよ。先生を責めるって、なんか背徳感があって面白いかも。それに、この教師、真面目で有名だしね」

 

「真面目だけど、その分、隠れている内面は、責められればすぐに蕩けるマゾ先生だ。しかも、身体の感度は集まった女たちの中で一番かもね。乳房に細工したのを別にしても……」

 

「ふうん。ねえ、とにかく、わたしにも責めさせてよ」

 

「この部屋にある淫具をなんでも使っていい。だけど、痛いのはダメだ。この京子先生は快楽責めで堕とすと決めている」

 

「わかったわ。じゃあ、これを使おうっと」

 

 かおりが横のトレイの箱からなにかをごそごそと探る気配がした。

 

「な、なにを勝手なことを言っているのです。あなたたちのしていることは犯罪です──。白岡さん、それをわかってるんですか?」

 

「一度達したら元気になりましたね。じゃあ、責め手を交代しますね。でも、条件は同じです。三度達したら、先生は処女を失います」

 

 真夫が離れていく音がする。

 その代わりに、かおりが前に立つ気配がした。

 

「三度? あと、何回なの?」

 

「まるまる三回だ」

 

「わかったわ……。じゃあ、行くわね、先生。覚悟はいい?」

 

 かおりの言葉とともに、ぶーんという巨大なスズメバチの羽音のような唸りが耳に入ってきた。

 なに──?

 さっきは無音の羽根バイブだったが、今度は別の責め具の感じである。

 すると、なにか球面を感じるものが股の下側から押しつけられた。

 しかも、激しく振動している。

 強いバイブレーションがドリルのように花芯とクリトリスに襲い掛かる。

 

「あひいいいいっ」

 

 まるで電流でもながされたかのような衝撃だった。

 京子は顔をのけぞらせ、絶叫のような嬌声を迸らせてしまった。



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 第150話 減点ゲーム

「ひあああっ、な、なによおお──。なにを当ててるの──。ひああああっ」

 

 あまりもの快感に、京子は我慢しようという意識を持つことなく、がくがくと身体を痙攣させて悶えた。

 

「電気あんま器ですよ、先生。通称、“電マ”です。わたしも、最初にこれを当てられたときには悶絶しました。凄いですよねえ」

 

 股間から電気あんま器が離れ、すぐさま乳房に押しつけられた。

 京子の大きな乳房が激しく波打つのがわかる。

 一気に快感が飛翔する。

 

「あひいいっ、いやあああっ、ああああっ」

 

「先生、“いや”はまた減点だ。さっきのと合わせて、減点二十点です」

 

 ちょっと離れていたらしい真夫の声がする。

 

「ああっ、ああああっ、ひゃああ、ひゃあああ、だめええ、だめええ、いくううつ、いくうううっ」

 

 そして、京子はそのまま呆気なく達してしまった。

 

「ふふふ、面白いように感じてくれますね、先生……。ねえ、真夫、やっぱり、目隠しを外していい? どんな道具で責められるのか、ちゃんと認識してから引導を渡してあげたいのよ」

 

 かおりが京子の前でくすくすと笑う。

 一方で、京子はさっきから続く連続絶頂で、すでに息も絶え絶えになってしまっていた。

 

「任せるよ」

 

 頭の後ろでガチャンと音がする。

 目隠しが外れて、眩しい光で目に入ってきて眼が眩む。

 すぐに慣れたが、そのときにはゴーグルのようなものをかおりが横の台に置いているところだった。

 そのかおりは片手に電気あんま器を手にしている。電気コードがあり、それは足元の床から出てきているコンセントに繋がっていた。

 また、その先端の丸い球体部分には、べっとりと粘性物のようなもので濡れていた。

 表面の大量の粘性物は、京子の股間から出た愛液なのだろう。

 かっと羞恥で熱くなる。

 

「先生、このSS研の電マ責めの恐ろしさはこんなものじゃないんですよ。こいつ、えげつないアタッチメントをたくさん準備しているんですから……。わたしたちも洗礼を受けましたけど、例えば、シリコン製のこんなものです」

 

 かおりが先端の丸い球体を外して、奇怪な形をしたアタッチメントに交換して装着する。

 それは滑らかな薄い形状で、先が小さな靴ベラのようになっているものだ。全体は「く」の字に曲がっていて、付け根に近い部分は小さな楕円形の球体がある。

 また、よく見れば靴ベラ状の先っぽは、たくさんのイボ状の表面になっていた。

 

「ふふふ、これはかなり効きますよ。Gスポットとクリトリスを同時責めするためのウーマナイザー電マです。保健体育の先生なんすから、Gスポットは知ってますよね。そこをこれで電マ責めします。覚悟はいいですか?」

 

 かおりが先端を交換した電気あんま器を股間に近づけてくる。

 もちろん、知識としてはGスポットは知っている。だが、それがどんな衝撃なのかはわからない。

 ぞっとしてしまう。

 もしかして、最初に真夫に責められたのがGスポットだったか?

 

「ああ、かおりちゃん、先生のGスポットは俺が把握している。俺がしてあげよう」

 

 すると、真夫がやってきた。

 

「わかったわ。じゃあ、わたしはこれにしようかな。電マの責めと同時じゃあ、ほとんど効果も薄いかもしれないけど」

 

 かおりが真夫に電気あんま器を渡すとともに、トレイの箱から一本の小筆を取り出した。

 それを持って、京子の背後に回っていく。

 

「そんなことはないよ。ちょっとした催眠術で、お尻の感度もあげている。いまの先生には、おっぱいも、お尻も、なにもかも、全部クリトリスと同じ状態さ」

 

「わけのわからないことを……。催眠術って……。いつか、あんたの秘密を教えてよね」

 

 かおりが言った。

 そして、さっきと同じように背中の中心の筋を撫でおろされる。

 今度は指じゃなくて、小筆だ。

 

「んふううっ」

 

 京子は思い切り身体を前に押し出した。

 

「そんなに腰を前に出して、淫具責めを受けたいんですか?」

 

 真夫によって突き出した花芯に、電気あんま器の先端の「く」の字の挿入部が挿し入れられる。

 

「ひああっ」

 

 さすがに腰を引きそうになった。

 だが、かおりの操る小筆が背中から尻たぶに届き、肛門の表面をくすぐるってくる。

 ずんという強い疼きが全身を貫いた。

 

「いやああっ」

 

 たまらず前に腰を出す。

 だが、それは真夫の持つ淫具に自ら腰を押しつけるも同じことだった。

 ぶーんという音とともに振動が開始する。

 

「ひあああっ、ああああっ、ああああっ」

 

 意味のある言葉など出せない。

 さっきとは次元の違う凄まじいほどの快感に、京子は腰を捩じるように揺すってもがき揺する。

 しかし、どんなに動いても真夫の持つ淫具はぴたりと京子の股間に吸い付くようにに離れない。

 また、後ろからはかおりによって、アナルへのくすぐりだ。

 快感の逃げる場所がない。

 京子は身体を天井方向に突っ張るようにしてがくがくと痙攣をしつつ、絶頂してしまった。

 

「後二回ね」

 

 かおりが言った。

 しかし、小筆を離してくれない。真夫の淫具もだ。

 絶頂している最中に、新しい快感を足されて、京子はわけがわからなくなった。

 

「あああああっ、んぐうううっ」

 

 二度目の絶頂はすぐだった。

 腰をがくがくと震わせて、京子は全身を弓なりにした。

 真夫とかおりがそれぞれに責め具を離す。

 電気あんま器の振動音が消える。

 

「残り一回か。先生、もう少し頑張ってはいかが?」

 

 かおりが揶揄うように言った。

 京子は歯噛みした。

 

「覚悟はいいですか、先生?」

 

 真夫が再び電気あんま器のスイッチを入れる。

 ブーンという音がまたもや鳴り響く。

 

「ま、待って──。きゅ、休憩を……」

 

 京子はぞっとして哀願の言葉を口走った。

 だが、そのとき、京子は繰り返させられた絶頂の余韻の中に、痺れるような重い違和感が腰の芯に込みあがるのを感じた。

 意識すると、それはあっという間に切羽詰まったものになった。

 

 尿意だ──。

 紛れもない尿意が込みあがってきたのだ。

 

「ど、どうして……。こんなに……」

 

 思わず口にしていた。

 そういえば、最後におしっこをしたのは、陸上部の放課後の練習が始まる前だったので、それからかなりの時間が経っている。

 その時間を考えると、確かに尿意を覚えても不自然ではんあい。

 

「あれ、どうやら、もよおしてきましたか、先生?」

 

 京子の不自然な仕草に気が付いたのか、真夫が一度動かしていた電気あんま器のスイッチを切る。

 

「ち、違うわ──」

 

 京子は慌てて拒否した。

 

「もよおしたって、なに? もしかして、おしっこ? うわっ、それはやばいわね、先生。こいつ、鬼畜だから、絶対、目の前でさせるわよ。まあ、可哀想」

 

 かおりがけらけらと笑った。

 

「ち、違うって言っているでしょう──」

 

 京子は声をあげた。

 

「意味のない強がりはしないことです。そもそも、女性の尿道はクリトリスに接しているんです。だから、Gスポットやクリトリスを責められると、どうしても尿意が刺激されるんですよ。じゃあ、次は生理現象とも戦ってくださいね。三回目といきましょう」

 

 真夫が電気あんま器の先の淫具を京子の股間に挿入して、スイッチを入れる。

 電気あんま器が唸り声をあげて襲い掛かった。

 またもやドリルのような振動がGスポットとクリトリスに襲い掛かる。

 

「やっぱり、先生はこっちがいいんじゃない?」

 

 かおりの小筆が今度は乳首を襲撃した。

 しかも、いつの間にか両手に小筆を持っていて、背中側から左右の乳首を同時にだ。

 

「ひいあああっ、あああっ、いやあああっ」

 

 逃げられない快感に、京子は身体を揺すりたてて悶え啼いた。

 

「減点三十だ。五十点になったら、尿意だけでなく、便意とも戦ってもらおうかな?」

 

 真夫が言った。

 

「あああっ」

 

 だが、真夫の言葉が頭に入ってこない。

 それよりも、三度目の絶頂に昇り詰めていく恐怖と、失禁の恐怖のふたつが重なり、京子はただただ首を横に振って啼き悶えることしかできなかった。

 

「あっ、そう……。じゃあ、わたしは浣腸の準備をしておくわ」

 

 すると、かおりが陽気な口調で離れていく。

 浣腸──?

 京子は耳を疑った。

 しかし、駆けあがる快感が京子の思考力を剥ぎ取っていく。

 そして、絶頂感と尿意が京子に襲い掛かる。

 もうなにも考えられない。

 

「いやああ、もうやめてえええっ」

 

 京子は叫んでいた。

 すると、まさに絶頂寸前のところで、股間の振動が停止させられる。

 一気に京子は脱力した。

 

「これで減点四十点ですよ。こっちも、いよいよ後がなくなりましたね。じゃあ、先にアナルの準備だけはしておきますか」

 

 真夫が電気あんま器を抜いて、アタッチメント交換した。

 今度は丸い小さな球体が繋がっている棒状のものだ。さらにその球体の表面に別に取り出したクリーム状のものを京子の前で塗っていく。

 

「な、なに?」

 

 京子は懸命に息を整えながら言った。

 また、必死に尿意を抑え込む。

 

「真夫、準備できたわ。とりあえず、百㏄よ」

 

 かおりが戻ってきた。

 手に注射器を思わせるものを持っていた。中に液体が入っている。

 

「そこに置いておいてくれ。じゃあ、かおりちゃんは、さっきの小筆でクリトリスを責めてくれ。俺はアナルをほぐしておくよ」

 

「わかった」

 

 かおりが小筆を手にする。

 また、真夫が背後に回って、かおりのアナルに指を挿入してきた。

 指にもなにかを塗っているのか、簡単にお尻の奥側に指は侵入してくる。

 

「ひんっ」

 

 京子は身体を突っ張らせた。

 

「しばらくすると、痒みも襲うけど、そっちも我慢できなくなったら、浣腸を求めてくれ。今夜は、浣腸液で痒みが中和される薬剤を使ってるから」

 

 真夫が京子のお尻の中に指のクリームを塗り拡げる動きをしながら言った。

 

 痒み──?

 

 京子は混乱した。

 それにしても、お尻の中に指を入れられて、いまはかなり乱暴に動かされているが痛みはない。

 それよりも、快感が強い。

 京子ははしたない声を出しそうになり、懸命に声を抑える。

 

「また、痒み責め? あんたも好きねえ」

 

 かおりだ。

 

「女の尊厳を根こそぎ奪う悪魔の責めだね。陳腐だけど、これほど調教に向く責めはないね。効果抜群だから、多様されて陳腐になる」

 

「まあ、否定できないけど」

 

 かおりは苦笑している。

 そのあいだも、真夫が京子のお尻の中にクリームを足しては繰り返し抽送する。

 泣くような強い疼きがそのたびに襲い掛かり、京子は懸命に口をつぐんだ。

 いずれにしても、どんどんと追い詰められている……。

 それは自覚している。

 

「いいの、先生? やめてと言わないの? 死ぬような痒みがお尻を襲うわよ。でも、もしも後一回、やめてと言えば、そのときは、多分こいつは、浣腸液を先生に注入すると思うわ。そうするとどうなるか、先生にもわかりますよね?」

 

 前からかおりの小筆が股間に襲ってきた。

 

「ひあああっ」

 

 京子は我を忘れて、“やめて”と口走りそうになり、必死に声を押し殺した。



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 第151話 寸止めと尿意

「ひああっ、い、いい……」

 

 “いや”と口に仕掛けて、京子は慌てて口をつぐんだ。

 前後から責められて、羞恥と快感が同時に突き抜けていく。

 身体は異常なほどに火照りきっていて、すでに京子の裸身には大量の脂汗が噴き出ており、それがてらてらと身体を光らせているのがわかる。京子が暴れるたびに、全身の汗が周囲に飛び散ってもいる。

 後ろから真夫の指がアナルをまさぐり、前からはかおりの操る小筆がクリトリスを柔らかくすぐり続けているのだ。

 その甘美で妖しい感覚に、京子はすでに常軌を逸したような快感を受けていた。

 

「真夫、やっぱり物足りないわ。わたしも淫具で責めていい?」

 

 かおりが筆を引きあげて、真夫に声を掛けた。

 

「ああ、じゃあ、電マじゃないけど、Gスポットとクリトリスを同時に責めるバイブが入っている。ウーマナイザーという道具だそうだ。扱いやすいように、それに取っ手がついている。それを使うといいよ」

 

 真夫もまた、やっと指を抜き、横に置いていた電気あんま器にアタッチメントを装着した淫具を手に取る気配を示す。

 

「これね」

 

 かおりが横のトレイの箱からピンク色の「く」の字に曲がった取っ手のある道具を取り出した。さっき真夫から電気あんま器のアタッチメントとして装着して責められたものによく似ている。

 また、あれで責められるのか──?

 京子はぞっとした。

 しかし、“やめて”と口にすることもできない。

 あと一度、拒否の言葉を口にしたときには、浣腸をすると言われているのだ。

 

「い、いい加減にして──。こんなことを許されないのよ。すぐにあたしを解放しなさい──。すぐによ──」

 

 京子は金切り声をあげた。

 

「ふふふ、先生、ちょっと責めが中断したくらいで元気になったじゃないのよ。でも、最後にはこいつに屈服させられるんだから、さっさと受け入れた方が楽ですよ。言っておきますけど、こいつの奴婢になるということは、無条件に人生の勝ち組になるということですから」

 

「勝ち組?」

 

 なんのことだろう?

 この真夫は、ただの孤児ではないのか?

 

「先生が真夫に堕ちたら教えあげるわ」

 

「お、墜ちるって……。あ、あたしは教師なのよ──」

 

 京子は怒鳴りあげた。

 

「まあまあ、先生、落ち着いて……」

 

 すると、背後から真夫がすっと乳房に両手を伸ばして、京子の乳房を掴んで乳首を揺らすように動かす。

 

「ひゃああ、ああっ」

 

 瞬時にぐんと官能の大波が爆発する。

 京子は頭が真っ白になり、絶頂に向かって快感を駆けあがらせてしまう。

 やはり異常だ。

 かすかな刺激だけで、京子の双乳は驚くほどの官能の疼きを拾う。

 

「先生なら、もっと毅然とこいつの愛撫を拒絶したら? そんなに簡単に受け入れるだけじゃあ、まるで説得力ないですよ」

 

 かおりが新たな淫具を京子の濡れそぼつ花芯に挿入部を埋め込んできた。

 

「ひああっ、ああっ」

 

 すでに数回の絶頂を繰り返させられている京子の股間は、大量の愛液により全く抵抗なく、またもや淫具を内側に受け入れてしまった。

 責め具のひんやりとした感触は、おぞましいどころか、泣くほどの気持ちよさを京子にもたらしてしまう。

 自分の意思に反する身体の反応に、京子は狼狽えてしまう。

 

「ふふふ、もう雌の表情に戻りましたね。動かしますよ」

 

「待て、かおりちゃん。前後同時に行こう。合図するから、そのときにスイッチを入れてくれ」

 

 真夫だ。

 すると、さっきまで指が入っていた京子のアナルに、得体の知れない異物が入り込んできた。

 つるんつるんと連続して球体を思わせるものがアナルに侵入してくる。

 さっき塗られたクリームが潤滑油になっているのか、肛門の粘膜を無理矢理に拡げられている快感があるのに、まったく痛みを感じない。

 それどころか、灼けるような疼きがそこから全身に押し拡がっていく。

 催眠術で痛覚を遮断しているとか口にしていたが、そんなことが可能なのかわからないが本当に痛みはない。

 だからこそ、快感だけが京子を追い詰め、我を忘れさせそうになる。

 

「準備よし。三……、二……、一……、いま──」

 

 前後に侵入された淫具が同時に振動を開始した。

 

「ひゃああっ、ああああっ──」

 

 絶叫した。

 脳の芯が灼け焦げるような凄まじい甘美感に、京子は狂ったように身体をもがかせる。

 だが、四肢をしっかりと引っ張られている京子の身体はそれほどには動かない。振りほどくこともできずに、前後からの淫具の衝撃を受け留めさせられる。

 なにも考えられない。

 京子はしばらくのあいだ、甲高い声をあげて悶え踊った。

 そして、さらに快感以外のものも襲い掛かる

 強烈な刺激を股間やクリトリスに受けて、一気に尿意が込みあがったのだ。

 

 漏れる──。

 

 失禁の恐怖が走る。

 しかし、この前後からの淫具責めを受けている状態では、尿意を我慢するために股間に力を入れることもできない、

 

「も、もう許して──。ああっ、あああっ」

 

 京子は哀訴の言葉を叫んだ。

 

「我慢するんです、先生──。先生は奴婢です。失禁する自由もありません」

 

 真夫が背中側で笑った。

 すると、前後で同時に振動が突然に停止する。

 京子はがくりと脱力した。

 

「はあ、はあ。はあ……。もう、もう許して……。か、解放して……」

 

 振動はなくなったが、前後の淫具が侵入したままだ。

 京子は身体を鎖に預けるようにしたまま、俯いた状態で肩で息をする。

 とにかく、漏れそうな尿意を懸命に引き締めた。

 

「さあ、もう一度です、先生……。かおりちゃん、今度も俺の合図に合わせて」

 

「わかった」

 

 再び前後の淫具がうなりをあげて振動を開始する。

 

「ひあああっ、あひいいっ、ああああっ」

 

 京子は拘束されている身体を跳ねあげて、激しく悶え啼いた。

 抑え込んだはずの尿意も一気に膨れあがる。

 

「だ、だめええ──」

 

 絶頂を晒しそうな喜悦と失禁の恐怖で、京子は声を引きつらせて叫ぶ。

 身体は限界まで弓なりになり、全身ががくがくと痙攣をした。

 すると、いままさに絶頂しようとした寸前に、同時に前後の淫具がまたしても停止する。

 

「くふっ」

 

 京子は再び脱力した。

 

「駄目は五回目ね。浣腸は決定よ」

 

 かおりが笑う。

 

「五回口にしなくても、どうせ自分で頼むことになったと思うけど、じゃあ、おしっこを漏らした後に、今度は浣腸と行きましょう、先生」

 

 真夫がアナルから淫具を抜く。

 

「ひんっ」

 

 それだけで京子は快感に甘い声をあげてしまった。

 

「かおりちゃん、再開だ」

 

 真夫が声を掛けた。

 すると、クリトリスとGスポットへの責めが再開する。

 

「あああっ」

 

 京子は身体を突っ張らせた。

 快感が急上昇する。

 全身が痙攣し、京子は達しそうになった。

 

「やめ──」

 

 真夫だ。

 振動が止まる。

 

「うわあああっ」

 

 またもや絶頂寸前での責めの中断──。

 京子は泣き出してしまった。

 

「まだまだです。三日間の調教の約束です。終わらせるには先生が俺に屈するしかありません。それとも、三日間耐えるかです」

 

「あ、あたしは、応じてないわよ──」

 

「何度も言わせないください、先生の意思は関係ありません。先生は自由な意思を拒絶されて、無理矢理に俺の調教を受けさせられるんです」

 

 真夫がかおりから股間に挿入して当てられたままの淫具を受け取り、振動のスイッチを入れる。

 

「あああっ、いやああっ」

 

 京子は声をあげた。

 ひたすらに耐える。

 そして、またしても、ぎりぎりのところで寸止めさせる。

 京子は、慌てて尿道を締めながら、がくりと脱力する。

 

 同じ責めがしばらく繰り返された。

 責めなぶり、絶頂感と尿意をぎりぎりまで引きあげてから、ぴたりと責めを止める。そして、束の間の休息を与えてから、すぐに再開する──。

 この陰湿な責めを真夫はさらに繰り返し、寸止めの回数は十回近くになった。

 京子は狂乱するとともに、すでに尿意は抜き差しならないものになったことを自覚した。

 ぎりぎりまで耐えさせられて、ほんのちょっとの休憩のあいだに、なんとか尿意を抑え込み、すぐに責めの再開でそれを崩壊させられる──。

 こんなことをしても、尿意は収まるわけもなく、むしろ拡大していく。

 寸止めの苦しさも、これほどに心を追い詰めるものがあるのかと、京子は愕然となっていた。

 

「お、お願い……。許して……。坂本君……許して。許して……」

 

 もう怒りも屈辱を覚える感情も京子を包むものではなかった。

 それよりも、もうこの苦悶から解放されたい。

 考えるのはそれだけだった。

 

「ふふふ、先生、じゃあ、真夫にお願いするのね。みっともなく奴婢らしくね。そうすれば、真夫が慈悲をかけて、トイレに行かせてくれるかもしれないわ。その泣き顔で一生懸命に哀願すれば、真夫は結構優しいから、トイレに行かせてくれるかもしれないわよ」

 

 かおりが京子の顎を掴んで顔をあげさせて言った。

 

「くっ」

 

 京子はぎりりと歯を噛みしめた。

 口惜しい……。

 

 しかし、もう尿意は限界を超えている。

 目の前の真夫やかおりに屈するのは、最後に残っている京子のプライドが許さないが、もうどうしようもないことは確かだ。

 それに、トイレを許されるということは、少なくとも拘束は解かれる。

 これこそ千載一遇のチャンスではないだろうか……。

 真夫は三日間の調教だと口にしていたが、まだ一時間も経ってない。

 それなのに、すでに追い詰められている自分を感じる。

 この責め苦を三日も受けさせられたら、間違いなく、京子は彼に屈すると思う。

 なによりも、この被虐の快感とやらを受け入れてもいいかと考える京子が内心に生まれようとしてる気がするのだ。

 それほどまでに、与えられる甘美な拷問は京子を酔わせる。

 それこそ、恐怖だ。

 だから、そうなる前にとにかく脱出を……。

 京子の空手の腕なら、隙さえつかれなければ間違いなく、簡単に目の前のふたりくらい圧倒できる。

 そして、なんとしても脱出して警察に……。

 

「わ、わかったわ……。さ、坂本君……、もう、許してください。どうかトイレに行かせてください。お願いします──。この通りです」

 

 京子は拘束されたまま頭だけをさげた。

 

「わかりました。じゃあ、すぐにトイレを準備します」

 

 真夫が微笑む。

 京子はほっとした。

 

「戻りましたあ。いいお風呂でした。ありがとうございました」

 

 そのときだった。

 出入り口ではない奥側の別の扉から裸身にバスタオルを巻きつけた格好の柚子が現れた。

 身体から湯気がたっていて、まさに湯上りという感じだ。

 ここは文化部棟の地下だが、浴室のような場所が設置されているのだろうか。

 

「ああ、いいところに来たな。柚子ちゃん、こっちに来るんだ。先生の脚のあいだにしゃがんで、股間に向かって顔を見上げるようにするんだ」

 

「えっ、えっ、こ、こうですか?」

 

 柚子が戸惑いながらも、開脚している京子の股間のあいだに正座をして、腰を少し屈めるようにして、顔を京子の股間に密着させる。

 一方で真夫は、京子の股間に挿入していた淫具を抜いて、局部を剥き出しの状態にした。

 どうでもいいが、あまりにも股間の顔を密着させられ、京子は羞恥にかっと熱くなる。

 そもそも、もう尿意も限界だ。

 この状態では、柚子の顔にかかってしまう。

 

「じゃあ、先生、便器が来ました。思う存分に放尿してください……。柚子ちゃん、今日は先生の便器になって、おしっこを口に受けろ。一滴残らず飲みほすんだぞ」

 

 真夫が言った。

 

「えっ、えっ、えっ?」

 

 柚子は困惑した感じだ。

 一方で、京子は驚愕した。

 

「な、なにを言っているんです──。そんなことできません。馬鹿なことを言わないで、ちゃんとトイレに連れて行って──」

 

 京子は怒鳴り声をあげた。

 すると、真夫が軽く肩をすくめる動作をする。

 

「このうちのペットがトイレです」

 

「そ、そんな、約束が違う──」

 

「期待して裏切られる。それが調教です。なにひとつ自分の希望はかなわないとこを知ってください」

 

「じょ、冗談じゃないわよ──」

 

「もちろん、冗談なんか言いません。でも、被虐の快感については約束します。さあ、柚子ちゃん、先生のおしっこを受けとめろ」

 

「えっ? は、はい、真夫先輩」

 

 京子の股のあいだに正座をしている柚子が目を白黒させながら、顔を京子の股間に伸ばしてくる。

 しかも、あろうことか、口を大きくあけてぴたりと口を密着させてみた、

 

「ひっ、いやあ──」

 

 京子は腰を振って、柚子の口から局部を離そうとした。

 

「んんんっ」

 

 だが、柚子が慌てたように両手で京子の太腿にしがみつき、それを許さない。

 

「ほら、柚子、せっかくだから、舐め舐めもしてあげなさい。部員への奉仕もペットの勤めよ」

 

 かおりが口を挟む。

 すると、柚子が本当に京子の局部を舌で舐め始めた。

 クリトリスを舌で転がすように刺激され、尿意が襲いかかる。

 

「ひあああっ、いやああ、本当にだめええ──。立花さん──。正気になって──。だめ、漏れるっ、も、漏れてしまう。あっ、ああっ」

 

 官能に灼かれて、京子は自制することができなくなった。

 

「遠慮は要りませんよ、先生。おしっこをしながらの絶頂は、堪らない快感だそうです。うちの女たちはみんなそう言います」

 

 真夫がいつに間にか、アタッチメントを戻して、最初の球状の先端にした電気あんま器を京子の乳房に当ててきた。

 ふたつの電気あんま器を左右同時にだ。

 

「ひああっ」

 

 京子は懸命に身体を振って、柚子の舌と真夫の電気あんま器から逃げようとする。

 でも、両方ともしっかりと抑えられて外れない。

 どんとんと快感が飛翔する。

 寸止めを喰らい続けていたこともあり、あっという間に京子の臨界は突破してしまった。

 

「あああっ、お願い──。お願い──。お願いいい──」

 

 身体が灼けきるような快感に、京子は身体をのけぞらせて絶頂する。

 そして、その絶頂感がさらなる崩壊を呼ぶ。

 

「いやああっ」

 

 反り返って突き出している股間からしゅっと音を立てるように放尿が迸る。

 それは柚子の口の中に容赦なくしぶきを叩きつける。

 

「んぐっ、んぐっ、んぐうっ」

 

 柚子が京子の太腿を握る腕に力が入る。

 

 女生徒に放尿を飲まれる羞恥──。

 

 溜まりに溜まっていた尿意から解放される快感──。

 

 繰り返された寸止めの末に許された絶頂の開放感──。

 

 それらが混ざって拡散し、脳髄まで溶けるような忘我の局地に京子は陥った。

 なんという気持ちよさ──。

 もう、失禁を止めようとする気持ちがない。

 ただただ快楽に溺れるまま、京子は柚子の口の中に排尿を続けていった。

 そして、やっと放尿が終わる。

 

「けほ、けほっ、けほっ」

 

 全部のおしっこを呑み込んだ柚子が京子の股間から顔を離して、苦しそうに咳き込みだす。

 

「やるじゃない。ちょっとは失敗するかと思ったけど、最初の最初で飲尿に成功するなんて。あんた、すごいわよ」

 

 しゃがみ込んだかおりが、蹲って咳をする柚子の背をさする。

 すると、柚子が涙目で嬉しそうに微笑む。

 

「へ、へへ……。皆さんの立派なペットになれますか?」

 

「ああ、偉いぞ。じゃあ、ご褒美だ。柚子、来い」

 

 ズボンを下着ごと脱いで下半身を露出して胡座をかき、そこに柚子を導いて、バスタオルを剥がす。

 

「ひっ」

 

 京子は真夫の勃起した男根に接して、怯んだ声を出した。

 こんなに近くて男の性器に接したことない。

 だから、どうしてもたじろぐことを防げなかった。

 一方で、目の前のふたりは人前というのに堂々としたものだ。

 唖然とすることに、胡座にかいた自分の股間に柚子を対面で座らせるようにして、柚子の股間を真夫の怒張に導く。

 柚子も躊躇う気配さえない。

 

「ああっ、あん、お、おおっ、嬉しい──。嬉しいです。真夫先輩、あああっ」

 

 完全に真夫の男根を受け入れた気配の柚子が真夫の背にしがみつくようにして、大きく喘ぐ。

 京子は、柚子のまだ幼そうな身体が、ほとんど前戯なしに呆気なく真夫の怒張を股間で呑み込んだことにもびっくりした。

 ふたりが目の前で性交を開始する。

 京子は呆気にとられた。

 しかし、一方でさっきから少しずつ、新しい脅威が襲ってもきていた

 

 お尻の痒みだ──。

 

 お尻に塗られたクリームが異常なほどの痒みをお尻にもたらしだしたのである。

 意識すると、あっという間にそれは切羽詰まった苦悶として、京子に襲いかかる。

 

「ああっ、あっ、か、痒い、ああっ、か、痒い──」

 

 京子はお尻を激しく振り動かすことを止めることができなかった。

 

「あら、いよいよ、さっきのクリームが痒くなったんですね、先生。中和剤をお尻に入れてもらいたくなったら、すぐに言ってください。わたしが真夫の代わりに入れてあげます」

 

 かおりだ。

 筆を持っている。

 それをゆっくりと京子の尻たぶの表面を這わせ始めた。

 

「ひあああっ、いやああ」

 

 京子はもがいた。

 

「何度、嫌って言うんですか。もう浣腸二回分は叫んでますよ」

 

「そ、そんなこと言われても……。ひあああっ、ひああっ、だめ、痒い──。かゆいい──」

 

 京子は大の字に拘束されている裸身を激しく狂い踊らせ続けるしかなかった。

 

「あんっ、あっ、あっ、あっ、先輩、いく、いきます、いくううっ」

 

 一方で目の前では、心の底から嬉しそうに柚子が真夫に対面で犯されて、気持ちよさそうによがり狂っていた。

 

「かおりちゃん、もういい。引導を渡そう。浣腸をしてやってくれ。かおりちゃんの言うとおりに、もう二回分くらいは拒否の言葉を口にしたからね」

 

 すると、真夫が柚子を抱きながら、首だけこちらに向けて言った。

 

「ふふ、了解よ」

 

 それを受けて、かおりが筆を置いていた腸器に持ち返るのが横目で見えた。

 

「あっ、それだけはやめて──」

 

 京子は声をあげた。

 

「先生、何度、“やめて”って言うんですか。もう、諦めるんですね」

 

 お尻に嘴管(しかん)が押し込まれる。

 そして、生温かい薬液が腸に流入してくるのがわかった。

 しかし、それにより狂いそうな痒みが一気に消失していくのを感じた。

 なんという快感──。

 堪らず、京子はよがり声をあげてしまった。



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 第152話 女教師浣腸責め

「あん、ああ、あんっ、い、いきそう。いきそうです、真夫先輩」

 

「まだだめだ。俺が準備できるまで待つんだ。いい子で可愛いペットなら、しっかりと“待て”ができるはずぞ」

 

「そ、そんなこと言われても……。あっ、ああっ、真夫先輩、お、お尻に指を入れるなんて、ひ、卑怯──。そ、そんなことされたら、我慢できるわけ……」

 

「それを我慢するのが躾だ」

 

 視線の向こうでは、真夫と柚子が床に対面で座って愛し合っている。

 真夫が胡坐をかいた膝の上に柚子を乗せ、柚子の腰を持って上下左右に揺さぶるようにして翻弄させているのだ。

 そして、真夫が柚子の腰を動かしながら、片手を柚子のお尻に添えて、どうやら指をお尻の中に侵入させた気配である。

 

「らめええ──」

 

 柚子は真夫の背中にしがみついたまま、小さな身体を弓なりにして全身をがくがくと震わせている。

 どうやら達したようだ。

 しかし、真夫は構わず、柚子を淡々を犯し続ける。

 

「ひゃん、ひゃん、また、またいぐのおお──」

 

 絶頂の余韻に浸ることも許されず、柚子がまたもや甲高いよがり声をあげる。

 目の前で繰り広げられている光景だ。

 童顔でまだ幼さの残っている背の低い柚子なので、高校一年生というよりは、まるで小学校くらいにしか見えない。

 その柚子がしっかりと男子高校生の怒張を受け入れ、しかも、淫らによがり狂っている。なんという光景なのだろう。

 もはや、目の前のふたりを見る限り、真夫と柚子が合意のもとにある男女の関係にあることは間違いない。

 柚子を救出しようとして真夫に手を出そうとしたのは、京子の過ちだったと、改めて認識した。

 

「あああ……」

 

 もっとも、本来であれば、学園内で堂々と行われている生徒同士の性行為など、風紀を乱す行為として、教師のひとりである京子としては、止め立てしなければならないことであるのは間違いない。

 しかし、いまの京子にとっては、そんなことは些末である。

 そんなことよりも、身に迫っている苦境と必死に戦わなければならないのだ。

 

「ふふふ、先生、いよいよ、浣腸液が効いてきたじゃないですか? 顔が蒼くなってきましたよ。よければ、アナル栓をしまず? 少なくとも立ったまま漏らさずには済みますよ」

 

 京子のいまの苦境の元凶である白岡かおりは、横でにやにやと笑っている。

 このかおりが、京子の肛門に浣腸液を注ぎ終わったのは、真夫と柚子が愛し合い始めるのと同時だった。

 抗いたくても、四肢を拘束されて鎖で大の字に引っ張られている京子には、防ぐ方法もなく、簡単に浣腸器の嘴管をアナルに挿入され、薬液を注ぎこまれてしまった。

 おそましい薬液をなんとか拒もうと、懸命に肛門に力を入れるものの、冷たい嘴管を喰い締めることになるばかりで、どうすることもできなかった。

 そして、あっという間にかおりが準備した薬液を注ぎ込まれて、いまは五分ほど放置されている状態だ。

 

「け、結構よ……」

 

 便意は一気にやってきた。

 浣腸というものが便意を促すものだという知識はあるが、こんなにも早く、そして激しく便意が呼び起こされるものであるというのは知らなかった。

 京子は歯をぎりぎりと噛みしめ、唇を血の気がなくなるほどに引き結んで、下腹部に力を込め続けている。

 淫具責めで汗まみれだった裸身は、便意に耐える苦役により、さらに脂汗まみれになり、京子の顎に滴る汗がぼたぼたとしずくになって床に垂れ続けている。

 

「あ、ああ、く、苦しい……」

 

 知らず、京子は呻き声をあげていた。

 便意はどんどんと拡大する。

 このままでは、絶頂姿や放尿姿を晒したことなどとは、比べものにはならない最悪の醜態が訪れることは確かだ。

 京子は激しくなる便意をちょっとでも紛らわせようと首を横に振った。

 

「し、白岡さん……、お、お願い……。こ、拘束を解いて……」

 

 京子は幾度目になるのかわからない哀願を再び繰り返した。

 

「何度も言わせないでください。わたしは、あの真夫の奴婢なんです。奴隷なんです。先生を自由にする権利もなければ、手段も持ってません。ただ、あれの命令のとおりに行動してるだけなんです。文句も哀願も、その真夫にしてください」

 

「だ、だって、このままじゃあ……」

 

「だから、せめて、アナル栓をしてあげましょうかと言ってるじゃないですか。まあ、これもあいつの準備したものだから、いやらしい仕掛けがありますけど……」

 

 すると、かおりが例の淫具を集めているトレイの上の台から、フランジのあるゴム製の独楽(こま)のようなものを取り出した。

 そのかおりが独楽の部分を指で押すと、独楽全体がぶるぶると突然に震えだした。

 

「うわっ」

 

 京子はそれを見て、思わず声をあげてしまった。

 

「ふふふ、いやらしいでしょう。あの男が時子というお婆ちゃんと一緒に作ったもので、このアナル栓を挿入されて、お尻を締めつけると、振動をする仕掛けになってるんです。それだけでなく、内部に遠隔操作を受け付ける基盤も入っていて、自由自在に振動するだけでなく、電撃も流せるらしいです。わたしも一度、浣腸をしてからこれを装着して授業に出させられましたけど、ほんっとに地獄でした。でも、漏らすよりもいいでしょう?」

 

 かおりがあっけらかんと笑う。

 京子は顔が引きつるのを感じた。

 

「い、いやっ──。そんなものつけないで──」

 

 京子は悲鳴をあげた。

 冗談じゃない。

 

「あっ、そう……。じゃあ、つけたくなったら、言ってね、先生……。ところで、先生って、玲子が集めたこの学園の女生徒たちの隠し映像を見たんですよね?」

 

 すると、不意にかおりが話題を変えた。

 それは覚えていた。

 学園内のどこかににあるデータバンク内の隠しデータだと言っていたが、京子自身のもあり、それは京子が乳房を自分で揉みながら自慰に耽る破廉恥映像だった。

 ほかにも数名の女生徒たちの自慰映像があり、驚愕したものだ。

 そういえば、そうだった。

 でも、あれは理事長代理のあの立花玲子が?

 それを真夫が利用している?

 

「……この部屋にもあちこちに、高性能の隠しカメラがありますから……。先生を撮影してますよ。脚の間の床にもあります。先生がこのまま粗相をすれば、その衝撃映像がしっかりと顔とともに記録されることになりますよ」

 

 ぎょっとした。

 驚いて、真下の床を見る。

 

「うわっ」

 

 すると、ほんの米粒ほどの大きさが、小さなレンズのようなものが床に埋まっているのがわかった。

 まさか、隠しカメラ──?

 京子は背に冷たいものを感じた。

 そもそも、いまの撮影されているということは、京子の剥き出しの性器をずっととられ続けているということ?

 床からのカメラなら顔も同時に映っているだろう。

 かっと羞恥が込みあがるとともに、排便姿すら撮影されるかもしれないということに愕然となる。

 

「そういうわけで、漏らさないように頑張ってください。真夫が戻るまで、もう少し時間がかかりそうなので、気を紛らわせることをしてあげますね」

 

 すると、かおりがアナル栓をトレイの上に戻して、代わりに小筆を手に取る。

 そして、背後に回って、京子の尻たぶを筆先でくすぐりだした。

 

「ひあああっ、なにするのよおお──」

 

 京子は必死に腰を前に出して、筆から逃れようとする。

 しかし、かおりは執拗に筆を追いかけさせて、さらにお尻に亀裂に当てて、アナルそのものを刺激していた。

 

「ひあああっ、やめてええ──」

 

「ふふふ、先生、文句はあの真夫に言ってね。わたしは従っているだけですから」

 

 かおりは筆責めをやめてくれない。

 しばらくのあいだ、京子は排便の恐怖と戦いながら、かおりの操る筆とお尻との追いかけっこを続けた。

 

「あああ、またいぐううっ、いぐううっ」

 

 一方で真夫と柚子の性愛はいよいよ佳境となり、柚子が何度目かの絶頂の仕草をした。

 その柚子を真夫が強く引き寄せたのが見えた。

 

「よし、いけっ──。ほら、口づけだ」

 

 真夫が柚子の唇に舌を差し込むのが見えた。

 柚子はむさぼるように舌を絡ませている。

 そして、柚子の震えがさらに大きくなり、彼女の昇天とともに、真夫が小刻みに腰を上下に動かして、少しだけ鼻息を荒くした。

 真夫が柚子の中に射精をしたのだろう。

 

「あれ、やっと終わったようね」

 

 かおりが筆を引く。

 京子は脱力した。

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

 しかし、肛門だけは締めつけ続ける。

 もう、すでに便意は限界を超えている。

 京子は肩で息を続けた。

 

「お待たせしました、先生。随分とかおりに遊ばれていたみたいですね。じゃあ、そろそろ、俺の奴婢になる決心はつきましたか?」

 

 そして、柚子との性愛を終えた真夫が戻ってきた。

 身に着けているのは、ボタンを全部外して上半身の肌を露出しているYシャツだけだ。ズボンと下着は身に着けておらず、まだ勃起したままの男根を露出している。

 京子は慌てて目を逸らす。

 

「じゃあ、先生のお相手をあんたに戻すわね」

 

 かおりが場所を変わるように、真夫と入れ替わって引く。

 真夫がかおりに向かって頷いた。

 

「ああ、ありがとう。じゃあ、あらかじめの打ち合わせのとおりに頼む。そして、もう百㏄の浣腸を作ってくれるか? 薬液はさっきと同じものでいい」

 

「了解よ……。ほら、柚子──。いつまでも寝てないで手伝いなさい──。まだまだ、夜は長いのよ」

 

 かおりが京子たちと離れながら、真夫との性交で完全に脱力して横たわっている柚子に声を掛けた。

 

「ふぁあ、ふゃい、かおり……しぇんぱい……」

 

 しかし、柚子はまだ呂律が回ってない感じだ。

 だが、かおりに強引に連れていかれていく。

 それはともかく、追加の浣腸液──?

 まさかとは思うが、もしかして、さらに京子を苦しめるつもりなのか──?

 京子は愕然となりかけた。

 

「ま、待って、坂本君……。お、お願いよ。トイレに……。今度こそ、トイレに連れていって……。い、いえ、連れて行ってください」

 

 京子は哀願した。

 とにかく、便意はすでに抜き差しならないものになっている。

 このままでは、恥辱の極みをここで晒すことになってしまう。

 

「ああ、トイレですね。もちろん、トイレには行かせてあげたいと思ってます。でも、先生は覚えていますか? いまは、先生へのマゾ調教の最中だということを?」

 

「マ、マゾ……調教……。あ、あたしは……認めてない……」

 

 京子は小さく首を横に振る。

 

「認めるとか認めないとか関係ないんです。先生が拒否しても、無理矢理に調教を受け入れさせられるんです。それがマゾ調教です」

 

「い、いやよ……。く、工藤さんを呼んで……。彼女が一枚噛んでるんでしょう……? こ、こんなこと……許されない……」

 

「玲子さんは結構忙しいみたいです。多分、明日には顔を出すと思いますから、そのときに話したいことがあれば、機会も作りましょう。それよりも、いまのことです。先生、トレイに行きたいですか?」

 

「い、行きたいわ……。も、もう限界なの……。お、お願い……」

 

「わかりました……。でも、さっきも言いましたが、これは調教ですから、簡単には承諾できません。それを覚えてもらいます。奴婢が頼みごとをするときには、主人である俺の許しが必要です。でも、先生はまだ奴婢ではないので、許しは与えません。そのまま垂れ流してもらいます」

 

「そ、そんな──。む、無理です──」

 

 京子は血の気が引くのがわかった。

 抗議の意思を表したくて、大きく四肢の鎖を揺らして鳴らす。

 しかし、身体を激しく動かしたことで、便意がさらに込みあがる。

 狼狽えて、下腹部に力を入れ直して、肛門を引き締める。

 もうそれ以上の抗いの仕草はできなかった。

 すると、突然に両手を高く吊り上げていた天井からの鎖が緩み始めた。

 がらがらと音を立てて、両手が緩む。

 

 真夫が京子の首を軽く掴んで、その場に跪かせた。

 かなり長く吊り上げられていたことと、散々にいたぶられ続けたことで、京子の身体はすっかりと脱力した状態にあったのだ。

 簡単に腰を折ってしまう。

 両脚を床の留め具に繋げられたまま、大きく開脚した格好で京子は床に膝をついた。

 

「ああっ、だめえ」

 

 しかし、それでさらに脚を開いた格好になり、肛門が開いた。

 

「ひいっ」

 

 慌ててアナルに力を入れる。

 そして、手首の鎖の緩みが止まり、京子はやはり両手を大きくあげた格好になった。

 

「柚子ちゃんの中に入っていた俺の性器です。口で綺麗に掃除して、さらに俺をいい気持ちにしてください。奉仕が十分だと判断したら、トイレの準備をします」

 

 真夫が京子の顔の前に剥き出しの男根を寄せた。

 生まれて初めて間近での男の性器だ。

 しかも、勃起して、柚子との性愛でまとわりついた体液がべっとりとついている。

 

「ああっ、いやよ──」

 

 思わず顔をそむける。

 

「もちろん、まだ奴婢になることを承諾してないので、先生は本物の奴婢ではありません。拒否も自由です。でも、その場合は、先生が受け入れざるを得ない責めをさらに加えます」

 

 真夫が言った。

 そのとき、奥に行っていたかおりが柚子とともに戻ってきた。

 かおりは、さっきの浣腸器を手にしている。再び液剤を注入してきたのがわかった。

 

「ああ、ちょうどよかった。いま、先生に逆らえない条件を突きつけていたところだったよ」

 

 真夫がトレイから穴の開いたふたつの細いベルト付きの球体を取り出した。

 それを京子の口に押し込んで、ベルトで顔の後ろで固定する。

 

「んんんぐうっ」

 

 あっという間だった。

 京子はいきなり言葉を封じられてしまった。

 次いで、真夫がかおりから浣腸器を受け取る。

 

「じゃあ、後で、もう一度訊ねてあげます。但し、二度目の浣腸を受けてからです。次はいい返事がもらえるのを期待しますね」

 

 真夫が背後にまわる。

 浣腸液を追加──?

 信じられない言葉に、京子は愕然となった。

 

「んんぐううっ、んぐううっ」

 

 無理だ──。

 京子は必死に首を縦に振る。

 いまでのさえ、この苦しみなのに、さらに浣腸を足されたら、どうなってしまうのか恐怖しかない。

 

 奉仕する──。

 懸命にそれを伝えようよ思った。

 

「なにかを訴えたいみたいですけど、二回目の浣腸を受けてからです。でも、これで覚えてください。拒絶には罰があります。逆らうときには、その覚悟を持って、逆らうことですね」

 

「んぐううっ、んぐっ、んぐうじんっ」

 

 やる──。許して──。

 懸命に口の中の球体を通して叫んだ。

 

「次の服従の機会は、浣腸の後に与えます。ボールギャグを外してね」

 

 片手で京子の腰を押さえた真夫が浣腸器の嘴管をずびりとアナルに突き入れてきた。

 

「んんんんっ」

 

 京子は呻き声とともに、口の中の球体を砕かんばかりに噛みしめた。



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 第153話 変化の予兆

 二度目の浣腸液の注入が終わると、顔の後ろのベルトが外されて、口の中の球体が糸を引く唾液とともに外に出された。

 そして、一気に倍増した浣腸液による下腹部への異様な圧迫感は、圧倒的だった。

 京子は、息をするだけで漏れ出そうな便意を、唇を引き結んで必死に耐えるしかなかった。

 

「……ああっ……、ゆ、許して……。許して、坂本君……。し、従う……。命令に従うから……」

 

 懸命に便意を抑え込みながら、京子は開脚して膝を床につけている格好で、真夫を見上げる。

 

「そうです、先生。いまの先生にはなにもできません。いまの先生を支配しているのは俺で、先生は俺の慈悲がなければ、排便の自由もありません。そして。便意の苦痛を助けられるのも俺だけです。哀願する相手は俺です。それを覚えてください。これが調教です……。苦しいですか?」

 

 この苦悶を与える張本人がなにを言うのかと思うが、確かにそうなのだろう。

 支配しているのは目の前の真夫……。

 自分は支配される存在……。

 少なくともいまは……。

 京子は覚悟を決めた。

 口惜しさなど噛みしめている猶予は存在しないのだ。

 

「く、苦しいわ……。ト、トイレへ……」

 

「まだですよ、先生……。もっと苦しみましょう。さっきの条件を覚えてますか?」

 

「お、覚えている……。や、やります……。そ、その代わりトイレに……」

 

「俺を満足させたらですね。早くしないと、先生が床に排便を撒き散らすことになりますよ」

 

 真夫が再び、京子の顔の前に性器を誇示するように近づける。

 さすがに目の当たりにする本物の男の性器に、京子はたじろぎのようなものを感じた。

 しかし、いまこの瞬間にも、刻一刻と便意は限界に近づいている。

 京子は大きく口を開いた。

 真夫がそのの口の中に男根を挿し入れるようにしてきた。

 

「んふっ」

 

 生まれて初めて接する男の性器だ。

 それを口の中で受け入れるなど……。

 とにかく、かずかに震える唇で肉塊を包み込む。

 

「……んん……、うっ……」

 

 これが男の性器……。

 生温かい肉の感触とともに、腐臭のような匂いが口腔を満たした。

 だが、なぜか気持ち悪いという感覚は小さかった。

 それよりも、不思議な衝撃が京子の五体を駆け抜けていった気がした。

 屈辱感や忌避感ばかりではない。

 もっと心の根本に通じるような、意思とは無関係の衝動を覚えた。

 京子はこのまま真夫の性器をしゃぶることに、危機感を覚えた。

 もしかしたら、取り返しのつかないことになるかもしれない……。

 そんな予感だ。

 

「どうしたんですか、先生? 舌を動かさないと始まりませんよ」

 

 頭の上から真夫の揶揄うような言葉が降ってきた。

 京子は我に返って、慌てて舌を動かす。

 すでに便意は限界を越えて切迫しているのだ。

 とりあえず、必死になって舌を口の中の男根に絡ませていく。

 

「んんっ、んっ、んっ」

 

 だが、真夫に大きな反応はない。

 余裕のある雰囲気で腰を京子の顔に差し出すだけだ。

 次第に、京子は焦りを感じてきた。

 そのあいだにも、どんどんと便意は拡大して、京子を追い詰めていく。

 

「んっ、んあっ、んんっ」

 

 しばらく、真夫の性器への舌による奉仕を続けた。

 だが、やはり一向に真夫が精を出す様子もない。

 そもそも、生まれて初めての口吻だ。なにをどうしていいかもよくわからない。どうやら、しばらく舐めれば、勝手に男が射精をするというわけではないということも、やっとわかってきた。

 そして、いよいよ我慢の限界が襲ってきた。

 

「先生、色々やってみたら? 顔を動かして刺激するとか。それとも、口全体を使って刺激するとか。馬鹿みたいに、舐めるだけじゃあ、こいつは射精してくれないわよ」

 

 横で立っていたかおりが声をかけてきた。

 

「そうなんですか?」

 

 また、いつの間にか復活をしたらしい柚子もそばにやってきた。

 京子は女生徒ふたりの視線の中で、一生徒であるはずの真夫の男根を一心不乱に奉仕するという恥辱に、くらくらするような動揺を覚えた。

 しかし、なぜか、その恥辱感が戦慄のような疼きを京子にもたらしてもいる。

 自分の身体はどうしてしまったのか?

 京子は狼狽を覚えた。

 とにかく、助言に従い、顔を動かしてみる。

 

「おっ、少しはましになりましたね、先生。でも、まだまだですよ、頑張ってください」

 

 真夫が笑う、

 京子は懸命に真夫の性器をしゃぶりあげ続ける。

 しかし、その奉仕に集中すると、便意への備えがおろそかになる気がして、完全には集中できない。

 やがて、痛みのような性感の疼きとともに、便意の大波が一気に膨れあがった。

 

「ああ、無理──。もう無理よ──。お願い──。後でなんでもするから、トイレに行かせて──。出てしまうわ──」

 

 京子はついに、口から真夫の男根を離して叫んだ。

 もはや一刻の猶予もないところに追い詰められている。

 京子は総身を強張らせて、必死に肛門に力を入れて、便意を抑え込む。

 

「残念ですね。じゃあ、そのまま出してもらいましょう」

 

 真夫が手元の操作具のようなものを動かした。

 両手の鎖が再びあがっていき、膝を床から離される。

 

「ああ、だめなの──。トイレに行かせて──。お願い──。トイレに──」

 

 引きあがってく身体に、京子は恐怖を感じて絶叫した。

 しかし、容赦なく鎖はせりあがる。

 だが、完全に身体を真っ直ぐにする前に、両手の引き上げが胸辺りになったところで、鎖の上昇がとまった。

 真夫がなぜか、京子の背中側にまわっていく。

 

「ま、待って──。離して──。トイレに──」

 

「大丈夫ですよ、先生。ちゃんと、トイレは準備しています。残念ながら、口で精を搾り取るのに失敗したので、罰ゲーム用のトイレになりますけどね……。柚子ちゃん、頼む」

 

「はい」

 

 柚子が、いつの間かワゴンの下段にあった木桶を手に取った。

 京子は目を疑った。

 まさか、それに排便をさせようとしているのか?

 

「ま、まさか、本当にこの場で?」

 

 京子はぞっとした。

 顔の血の気が引き、蒼ざめていくのがわかる。

 

「まさかではないですよ。失敗には罰があります。でも、これはもしかしたら、マゾの先生にとっては罰ではないかもしれませんね。先生が生まれ変わる瞬間になるかもしれません」

 

「ば、馬鹿なことを言わないで、もう解放して──。このままするなんて、絶対にできません」

 

 京子は声を引きつらせた。

 

「できないといっても、先生は拘束されているし、便意は切迫している。ここでするしかないんですよ。調教ですしね。それとも、奴婢になることを承諾しますか? だったら、考え直してもいい」

 

「ひ、卑怯よ──。そんなの──」

 

「そうですか。じゃあ、その気になったら、言ってください。排便をさせてあげますね……。柚子ちゃん、合図をしたら、すぐにその木桶を先生のお尻の下に当てられるように準備をしておいて」

 

「はい」

 

 真夫の指示に、柚子が木桶を抱えたままそばに寄ってきて頷く。

 一方で、真夫は後ろから京子の腰を掴んで引き寄せ、真夫に向かって腰を後ろに突き出すような恰好にさせた。

 ほんのちょっとの動きでも、京子にとっては死活問題だ。

 京子は歯を喰いしばった。

 もはや、抵抗することもできない。

 すると、真夫がお尻越しに、男根の先を京子の花芯にあてがってきた。

 京子はびっくりした。

 

「ま、待って──。なにをしようとしているのよ──」

 

 京子は絶叫した。

 慌てて腰を振って、真夫から腰を離れさせようとする。

 だが、そのときには、真夫の怒張はずぶずぶと京子の股間に打ち沈めてきていた。

 

「ひあああっ」

 

 なにもすることはできない。

 アナルに力を集中したまま、なすがままに真夫に股間を連ねさせるしかなかった。

 

 生まれて初めての性交──。

 だが、それは限界を越えた便意に襲われている状況であり、四肢を拘束されている恰好で、しかも、立ったまま後ろからだ。

 京子は狂乱した。

 

「大丈夫ですよ、先生──。依然として痛覚は一時程に麻痺した状態にあります。破瓜の痛みで苦しませるようなことはしません。しっかりと快感を味わってください」

 

 真夫が一気に怒張を奥まで貫かせた。

 股間の中でなにかが裂けた感覚はあったが、確かに痛みはない。むしろ、快感でしかなかった。

 全身から噴き出た愉悦は、そのまま昇天するかのように峻烈だった。

 

「はああっ、ああっ、はあっ」

 

 京子は淫らな声を我慢することはできなかった。

 律動されているわけではない。

 ただ、奥まで挿入されただけだ。

 しかし、信じられないような欲情が四肢を駆け巡り、とめどもなく股間から蜜が噴きこぼれていくを感じる。

 

「やっぱり、先生はマゾですよ。こういう性交に感じるんです。いずれにしても、最初のセックスがこんな異常な状況なんです。きっと、普通の性交じゃあ、満足できなくなってしまうと思います。もう、先生は、俺たちを受け入れるしかありません」

 

 真夫がゆっくりと男根を出し入れしてきた。

 

「んああっ、ああっ、だめええ──。こんなのだめえ──。だめええ──。あああっ、ああっ」

 

 いくら歯を喰いしばっても、全身に響き渡る愉悦に身体が反応する──。

 強烈な便意に襲われている状況での刺激は、信じられないくらいに京子を感じさせてしまう。

 

 これほどの恥辱──。

 これほどの恐怖──。

 これほどの快楽──。

 

「先生はマゾです。それを自覚するんです──。さあ、いきますよ──」

 

 真夫がゆっくりと前後させながら、京子の双乳をわしづかみにし、乳首を指で挟んだまま揉みあげてくる。

 電撃のような痺れが腰の芯から迸り、快感が一瞬にして脳天を突き抜けていく。

 裸身が跳ねるように震え、快感が貫く。

 京子は身体を弓なりにして、がくがくと全身を痙攣させた。

 力が抜けて、懸命にすぼめている肛門からついに力が抜け、内側から凄まじい圧迫感が襲い掛かった。

 

「出しますよ、先生」

 

 一方で真夫が気楽そうな雰囲気で腰を振る。

 膣の中に熱いものが噴き出されるのを感じた。

 

「いやあああっ」

 

 京子は絶叫した。

 犯されて精を股間の中に出されたことで、感じたのは凄まじいほどの快楽だ。

 

 京子はマゾであり、奴婢──。

 

 快感で呆けていく頭に、その言葉だけが繰り返す。

 生徒である真夫は、おそらく京子を解放することはないだろう。そして、彼の言葉のとおりに、京子をマゾに仕立てて、奴婢という性奴隷にするのかもしれない。

 その証が、この便意と快感だ。

 彼に仕えて、こんな風に玩具のように毎日凌辱される──。

 そう考えると、京子の身体は、大きな黒い悦びに包まれてしまった。

 そして、ついに肛門が結界した。

 

「おっと」

 

 真夫が素早く怒張を引き抜いて、横に身体をずらした。

 お尻の下に、柚子が持った木桶が当てられる、

 

「わっ」

 

 柚子が京子のお尻に木桶を当てる。

 黄土色の噴流が木桶の底を叩く。

 

「ああああっ」

 

 京子は断末魔のような悲鳴をあげた。

 

「すごい出しっぷりですね、先生。でも、まだまだお愉しみはこれからですよ」

 

 泣きながら排便を続ける京子の股間に手を伸ばして、糞便で汚れるのも厭わずに、真夫が今度はクリトリスを刺激してきた。

 それだけでなく、舌で乳首を舐められて刺激される。

 

「あああっ、いやああっ、ああっ、ああああっ」

 

 京子は強制排便の恥辱を受けながら、同時に信じられないくらいの快感を覚え、続けざまのエクスタシーに、快感を飛翔させてしまった。

 そのあいだも、とまることなどないかのように、京子のアナルからは糞便が迸り続ける。

 

 排便をしながらの二度続けての絶頂──。

 ああ、なんという恥辱──。

 なんという恐怖──。

 そして、なんという快楽だ──。

 

 京子は不可思議な幸福感に身体を包ませていった。



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 第154話 女教師の極み

「あっ、あっ、ああ──」

 

 緊縛された裸身をびくびくと震わせた京子は、寝台の上で顔をのけぞらせて、あられもない声を漏らした。

 そんな京子の大きな動きが挿入されている花芯に伝わり、じゅくじゅくという水音とともに痺れるような快感が全身に迸っていく。

 さらに快感を昂らせた京子は、狼狽とともに顔を左右に振りたてて、身体を弓なりにした。

 

「んぐううっ」

 

「また、いきますか? もう先生の弱いところはわかりましたよ。ここですね?」

 

 すると、京子の裸身に覆いかぶさっている真夫が股間の中の気持ちのいい場所を男根の先で抉るように刺激してきた。

 

「ひいいいいっ」

 

 あっという間に絶頂に向かって、一気に快感が飛翔する。

 

「いくらでも、いってください」

 

 真夫が腰を大きく揺さぶる。

 

「だ、だめええ」

 

 すでに耐えようとする覚悟は消し飛んでいる。

 京子にできるのは、ただただ与えられる快感に身体を反応させ、悲鳴のような嬌声を噴きこぼし、快感に圧倒されることだけだった。

 

「ひあああああっ」

 

 京子は身体をがくがくと震わせて、またもや絶頂を極めてしまった。

 

 立ったまま真夫に犯されながら排便をさせられるという想像もできないような恥辱を与えられた後、京子はやっと立位の姿勢から解放されて、四肢の手首と足首に嵌っていた革枷から解放された。

 汚れた身体を真夫自らの手で洗浄してもらってからである。

 真夫の手管に抗しうる気力も喪失し、京子の身体はたがを失ったかのように、身体を手で現れながら、繰り返しよがり狂ってしまった。

 

 やっと枷が外されても、すでに反抗も逃亡もできず、ただその場に崩れ落ちたまま、身体を動かすこともできなかった。

 真夫は、そんな京子を縄で後手縛りにして、左右の脚も膝を曲げた状態でそれぞれに縄で固定して、京子は再び拘束をされてしまった。

 京子は、最初に責められた大きな部屋に隣接する寝室に一対一で連れて行かれ、そこにあった寝台にM字状態で横臥させらると、完全に全裸になった真夫に犯されだしたということだ。

 

 どうしてこんなに感じるのか──?

 

 京子が狼狽するほどに、真夫に犯されることは圧倒的な快感だった。

 これまでの人生で考えられないほどの愉悦が次々に引き起こされる。

 いまも、すでに三回目の性の極みを味わわされてしまっていた。

 なによりも恐ろしいのは、目の前の真夫がまだ十八歳の少年でしかないということだ。仮にも教師である京子が教え子である男子生徒に犯されて、完全に性で屈服させられている。

 そんなことなど許されないことだが、現実として起こっているのは、ひたすらに真夫に圧倒され、少女のように泣きじゃくる女教師の自分だ。

 いまも、真夫は絶頂を極めた京子を許すことなく、淡々と緊縛されている京子に律動を続ける。

 また、ほんの少し前に破瓜をしたばかりである京子の身体も、その真夫から快感を受け取って、蕩けるような雌の淫欲に京子を沈めて逃がしてくれない。

 京子はこれほどの淫乱さが自分の身体に潜んでいたということがいまでも信じられないでいた。

 

「そんなに気持ちいですか、先生? 俺に感謝してくださいね。本当は最初のセックスでここまで感じることはできません。でも痛覚を一時的に遮断している先生には、溜まらない快感ですよね? もっとも、もともと先生が淫乱の素質があるからだとは思いますけどね。先生の股間はすごい力で俺のちんぽを締めつけてきますよ」

 

 真夫がМ字に開脚している京子の花芯を律動させながら笑う。

 その刺激が堪らない──。

 京子はこらえようもなく真夫の男根の動きに合わせて動いてしまう自分の腰を自覚したまま声を震わせた。

 

「あ、あたしは──い、淫乱、な、なんかじゃないい──」

 

「そうですか? 乳首がいやらしいくらいにガチガチに勃起してますけどね。この乳首に訊ねてみましょうか?」

 

 にやりと笑った真夫が舌を出して、京子の尖りきっている乳首に近づけてきた。

 ぞっとした。

 なぜだかわからないが、数日前から京子の乳房や乳首は、信じられないくらいに敏感な性感帯の場所になっている。

 ただでさえ、挿入されている男根の刺激でよがっている京子に、これ以上の快感はもはや恐怖でしかない──。

 

「ひいっ、いやああ、さ、坂本君──、許して──。あっ、ああ──」

 

「自分が淫乱だと認識し、俺に征服されたことを認めるるまで続けます。それまで、どんなによがってもやめません──」

 

 真夫が身体を倒して、顔を京子の乳房に密着させ、乳首を舌先でかすめるように舐める。

 ほんのちょっとの刺激であるはずなのに、子宮を直撃するような強烈な快感が身体を貫いた、

 ぐっと花芯が収縮して、真夫の男根を喰い締める。

 

「ああっ、ああああ──」

 

 京子は耐えようもなく、またもや甘い声をあげてしまった。

 

「覚悟してください、先生──。先生は今日からの三日間で完全に別の女に作り替えます。いまやっているのは、そのほんの入口にしか過ぎないんですから」

 

 真夫の手が反対の乳房を掴んで、尖りきっている乳首をこねりながら乳房全体を揉みしだく。また、もう一方の胸も、真夫の舌責めが継続している。

 そして、力強い律動が股間で繰り返されていた。

 全身の力が吸い取られ、快感の衝撃が背骨から脳天にまたもや迸る。

 甘美な痺れが全身を包む──。

 

「ひあああ、いやああ、ああっ、あああっ、ああああ──」

 

 京子は、四度目の肉の頂点を極めた。

 最初に淫具で責められ、次いで排便をさせられながら極めたのを合わせると、今晩だけで、幾度京子は達してしまったのか。

 

 毀れてしまう──。

 京子は思った。

 

 “この三日で先生を完全に別の女に作り替えます──。”

 

 真夫の言葉が単なる虚言とは思えない現実がここにある。

 そして、いまでも真夫の責めは続いている。

 なによりも、おそらく、幾度も極めている京子に対して、排便を我慢させながら行った最初の射精を除いて、真夫は一度も京子に射精はしていないと思う。

 だからこそ、底なしの性の強さを真夫に感じ、京子は心の底から怖くなってしまった。

 

「も、もう許して──。い、いえ、せめて休ませて──。し、死んでしまう──。い、息が──」

 

 絶頂の余韻に浸ることを許されずに、与え続けられる肉の快感──。

 京子は悶え啼いた。

 腰の芯が灼けただれ、愉悦の雷撃が背骨を貫き、四肢を灼く。

 火花のような衝撃が連続で頭を襲う。

 股間と乳首を刺激され続け、思考はできず、意識が飛び、抵抗の思いも脳裏をかすめはしない。

 感じることができるのは、ただただ、気持ちいいということ……。

 狂おしい愉悦だけ──。

 一切の理性が消失していく。

 

「許しませんよ、先生。伝えたはずです。屈服しない限り、終わらないと……」

 

 真夫が股間を犯し続ける。

 京子は、あっという間に、またもや官能の高みに連れていかれた。

 もはや、際限がない──。

 

「もういやああ──。さ、坂本君──、許して、もうやめて──」

 

 絶頂の向こうのさらなる絶頂──。

 京子は首を振り、必死に身体を揺すって逃げようとした。

 しかし、緊縛されている身体は、京子を逃がしてくれない。ひたすらに、真夫に圧倒されることしか許してくれない。

 その真夫の男根が子宮近くを力強く抉り抜いた。

 

「あひいい──」

 

 腰をぐんと突きあげるようにのけ反り返すと、京子は喉をさらして、喜悦の悲鳴を迸らせる。

 股間になにかが流れる。

 それがなんであるのか京子にはわからなかった。

 意識が朦朧として、状況を知覚することができない。

 

「おしっこを漏らしたんですね? 困りましたね。まあいいでしょう。頑張ってくださいよ」

 

 おしっこを漏らした?

 そんな醜態を──?

 唖然となったが、力強い真夫の責めに、京子はもうなにも考えらなくなる。

 

「あああっ」

 

 京子は吠えるように声をあげた。

 真夫の怒張がさっきと同じ場所を容赦なく続けざまに抉り、間断もなく、またもや大きな快感の波が押し寄せてきたのだ。

 たちまちに、連続の絶頂に昇り詰めさせられる。

 

「ひいいいっ、いやああ──。そこはいやああ──」

 

 総身が焼き切れるような際限のない快感だ。

 京子は狂ったように、緊縛されている身体を暴れさせた。

 

「普通は、このボルチオで快感を極めるまでには、しばらくの調教が必要らしいですが、いまは俺の操心術を駆使してます。先生をひと晩で快楽を極め切った淫乱な身体に作り替えてみせます」

 

 真夫が緊縛されている京子を抱えあげ、身体を回転させて、後ろから貫くような体位に変化させた。

 下腹部が京子の双臀に叩きつけられる。

 

「また、そこおおお──」

 

 子宮の入口を揺さぶられて、京子は泣き声をあげた。

 それだけでなく、両方の乳房を真夫が両手で揉みしだいている。

 京子は絶頂を極めてしまった。

 

「ひあああっ、あがあああっ」

 

「まだまだですよ、先生──」

 

 それでも律動は終わらない。

 京子はひたすらによがり狂った。

 

 


 

 

 真夫との性愛が続いている。

 もう何度絶頂を極めさせられたのかわからない。

 絶頂しても、絶頂しても、際限もなく淫靡な愉悦は沸き起こり続けている。

 身体だけでなく、脳髄そものが蕩けきっている。

 快感は快感だが、それは果てしないほどの苦悶に違いなかった。

 

「ああ、もうだめよおお──」

 

 京子はまたしても絶頂していた。

 いや、どこまでが絶頂で、どこからが絶頂の始まりなのかもわからない。

 本当に狂う──。

 このまま絶頂し続けたらどうなってしまうのか、心の底からの恐怖でしかない。

 

「ああ、許して──。おかしくなる──。狂う──。あああっ、も、もう、助けて──。お願い──。終わりにして──。お願いよおお──」

 

 激しい絶頂への飛翔に襲われ、京子は哀訴の声を迸らせた。

 

「終わりにして欲しければ、なにをすればいいか、忘れましたか、先生?」

 

 真夫は淡々と律動を続けている。

 仰向けの状態で責められ、次いで後背位──。いまは胡坐に座る真夫と裸身を密着するような対面座位で犯されていた。

 胡坐になっている真夫の怒張に股間を貫かれ、舌で胸をなぶられている。

 絶頂したばかりの快感が強引に飛翔させられる、

 

「ああ、あああっ」

 

 京子は身体を弓なりにして震わせ、甲高い声を響かせた。

 

「言っておきますが、いまの先生は気絶することもできません。しっかりと、俺の操心術で繋がってますから。先生にできるのは、与えられる快感を受け入れ続けるだけです。先生がマゾで淫乱であって、俺の奴婢になることを承知しない限り、いるまでも続けます……。ほら、ここがいいんですよね? ここを刺激すれば簡単に絶頂するように仕掛けを作ってます。だから、快感から逃げられないんです」

 

 真夫が短い抽送でまたもや子宮の入口を怒張の先で抉り抜いてくる。

 操心術というのがなんかのかわからないが、京子は思考することはできない。

 一気に快感が飛翔する。

 

「ひあああっ、あひいいっ──。言ううう──。言うから──。言うからやめて──。さ、坂本──く、くんに──従う──。従うから──」

 

 あおられるように京子は屈服の言葉を口にしていた。

 

「俺の奴婢になる──。そうですね? ちゃんと口にするんです」

 

 真夫は律動を続けている。

 京子は身体をがくがくと震わせて、またもや達した。

 もうおかしくなる──。

 京子は、凄まじい快感を極めながら、ぼろぼろと涙をこぼした。

 

「あひいっ、わ、わかり、ま、ました──。さ、坂本──君の──奴婢に──なります──」

 

 京子は叫んだ。

 すると、突然にぴたりと真夫の怒張の動きが静止した。

 京子は完全に全身を脱力させて、真夫に身体を預ける。

 激しく肩で息をする。

 数時間ぶりに、まともに息を許された気がした。

 

「いいでしょう。先生を奴婢にします。じゃあ、口先だけでなく、心から屈した証拠として、俺の唾液をすすってください。言いというまで、いつまでも続けるんです」

 

「えっ?」

 

 言われたことがすぐに理解できずに、思わず問い返していた。

 際限のない連続絶頂責めで、すっかりと京子の思考力は奪われていたのである。

 

「できないんですか? じゃあ、調教を最初からやり直しましょう。さらに、二時間ほどよがってもらいますか」

 

 真夫が脅すように、京子を貫かせている腰を動かし始めた。

 

「あひいっ、ち、違う──。違うの──。やる──。やります──」

 

 痺れるような刺激で、京子は甘美な矯正混じりの悲鳴をあげながら、慌てて口を開ける。

 そして、真夫の唇に唇を重ね合わせ、舌を差し入れて真夫の口の中から唾液を吸い取る。

 

「んんあっ、んんん、んあっ、あっ」

 

 舌と舌を絡ませ合うと、京子の股間がぎゅうぎゅうと収縮して、埋め込まれている魔の男根をきつく喰い締める。

 肉が灼けるような快感が腰の芯から全身に拡がる。

 

「んんんんっ、んんっ」

 

 切なげな呻きが自分の喉から迸るのがわかった。

 股間を貫かれて、口づけをすることが、こんなに気持ちいいとは知らなかった。

 激しい律動による快感とは異なる、心が溶けていくような快感だと思った。

 

「いい顔ですよ、先生。雌の顔です。じゃあ、今度は口づけをしながら果ててください。それもまた、気持ちいいはずです」

 

 真夫が京子の腰を持ち、上下に動かし始める。

 一気に脳天に快感が貫く。

 

「ひああああっ、だめええ──。お、終わると言ったのにいい──」

 

 京子はよがりながら叫んだ。

 そして、甘美が刺激が全身を席捲して、京子は一気に快感を極めてしまった。

 

「いきやすくなったみたいですね、先生。じゃあ、本格的な調教といきましょう。とりあえず、俺を満足させてください」

 

 真夫が対面座位のまま律動を続けながら笑った。

 京子は乱れた息を噴きこぼしながら、顔を振って声を震わせた。

 

「だ、騙したの──?」

 

「騙してませんよ。屈服させるための律動は終わりです。でも、先生は俺の奴婢になったんだから、次は俺を射精させて満足させるために律動を受けてもらいます。いずれにしても、俺を満足させないまま終わるなんてありえませんよ。それが奴婢です」

 

「そんなあ──」

 

「だったら、満足させることです」

 

 真夫が京子の腰を自分の腰に叩きつけるようにして、子宮を抉り抜く。

 京子は口を閉じることでもできず、涎をまき散らしながら、がくがくと身体を震わせたあと、再び快感を極めながら。全身を突っ張らせた。



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第25章 堕天【京子】
 第155話 突撃、昼ご飯


柚子(ゆずこ)──」

 

 やっと見つけた立花柚子は、生徒用の食堂で食事を載せたトレイを厨房側から受け取って、それをどこかに運んでいこうとしているところだった。

 北条麻美は、彼女の行く手を阻むように彼女の前に回り込んで塞ぐ。

 すると、両手にトレイを抱えていた柚子がいぶかし気な麻美に視線を向けてきた。

 学園における金曜日の昼休みのことである。

 

 この学園には、生徒用に複数の食堂があるのだが、ここはA級生徒以上の生徒用の食堂である。席は五十席ほどあり、厨房に面するカウンターで求める食事を受け取り、それを自由に選んだ席で食べる形式だ。

 なにを選んでもいいし、余分な時間はかかるが特別なメニューを注文することもできる。代金は毎月まとめて、保護者に請求がいく仕組みである。

 

 ただし、学園に五人しかいないS級生徒については、別に設けられた特別室があり、そこで昼食をとることもできる。S級生徒には従者もしくは、従者生徒がつくので、自分で食事を運ぶことなく、従者がA級生徒と同じカウンターで食事を受け取って、席まで運んでいくことになっている。

 S級生徒用については並ぶこともない。

 どんなに混雑をしていても、最優先で食事が準備される。

 

 とにかく、今日から、学園双璧のひとりである金城光太郎の従者生徒になったという柚子なので、もしかしたら、彼女がここに現れるのではないかと思っていた。

 その結果、案の定、従者生徒用の灰色の制服に身を包んだ柚子が食事を受け取りに、厨房から食事を受け取ったのを麻美は見つけたのだ。

 それで慌てて、麻美は柚子を追いかけてきたというわけだ。

 

「あら、麻美、どうしたの?」

 

 その柚子がにっこりと微笑んだ。

 彼女のあっけらかんとした表情に、麻美は思わずかっとなる。

 

「どうしたも、こうしたもじゃないわよ──。あたし、朝からずっとあんたにメッセージを送ってたのに、まったく応答もなくて──」

 

 麻美は不平を口にした。

 この柚子が誰かに脅迫をされているのではないかと思って、麻美が所属する伊達京子先生を柚子の自室に連れて行ったのは、昨夜のことである。

 柚子は否定したが、授業中から柚子の様子が不自然なのは明らかだった。

 だから、絶対に、なにかを隠していると麻美は確信をしていた。

 しかし、いまにして思えば不思議なのだが、その会話の末に、なぜかA級生徒用の寮内にあるシアター室で三人でカラオケすることになり、その途中でどうやら、麻美は眠ってしまったようなのだ。

 だから、あれからどうなったのか、麻美は知らない。

 柚子自身は、麻美や京子先生に対して、いじめのようなものを受けていることを否定していたし、表情に深刻なものはなかった。だから、昨夜はあやふやなことになってしまったが、今朝になり改めて、昨夜の話がどうなったのか気になったのだ。

 

 ところが、陸上部の朝練には、顧問の伊達京子先生は現れず、身内に不幸があり、週末まで学園から不在になると伝言があったとキャプテンから伝達されたのだ。

 気になって、あれからどうなったのかを柚子に訊ねようとしたが、柚子は今日からクラス替えになり、従者生徒用のクラスに移ってしまっていて、午前中に会うことはできなかった。

 それで、スマホの連絡用アプリでメッセージを送ったが、既読すらつかない。

 京子先生にしても、個人的なスマホの連絡先を知っていたので、連絡をしようとしたが、そっちについても応答がない。やはり、既読はつかない。

 だから、絶対になにかあったと考えて、柚子を探しまくっていたのだ。もちろん、教室にも行ってみた。ところが、移籍したはずの従者生徒用のクラスに姿は見えず、いまやっと、ここなら現れるのでないかと思った昼休みのA級以上の生徒用食堂で見つけたということだ。

 

「メッセージ? ああ、ごめん。夕べから忙しくて……」

 

「忙しくてじゃないわよ──。あたし、心配してたんだから──。それで、あれから、どうなったの? あたしが眠ってしまってからも、伊達先生と一緒だったんでしょう? なにがあったの、教えて──」

 

 麻美は、柚子に詰め寄った。

 しかし、柚子は困惑した顔になる。

 

「教えてと言われても……。麻美が眠ったから、そのまま解散したよ。それで終わり……」

 

「嘘おっしゃい──。先生は、柚子のことで心配して会いに行ったんだから、よく考えれば、それから話をしたに違いないわ──。そして、朝から、その伊達先生がいないの──。きっとなにかあったんじゃないかとい思って……」

 

「ねえ、柚子、行かないと……」

 

 そのとき、麻美と柚子がいる通路に後ろから女生徒の声がかけられた。

 視線を向けると、やはり従者生徒の制服を身に着けてい女生徒がいた。柚子と同じように、食事を載せた大き目のトレイを持っている。

 ふたりいて、同じ顔をしている双子の女生徒だ。

 

 麻美は、ふたりを知っていた。

 生徒会長の西園寺絹香の従者生徒の一年生の前野(あずさ)(なぎさ)だ。

 それで気が付いたが、彼女たちがトレイに載せているのは、ひとり分だけでなく、それぞれ複数人数分の食事のようだ。

 柚子もまた同じだ。

 つまりは、三人で六人分……、いや皿の数をかぞえれば、全部で七人分の昼食を三人で運んでいるところのようだ。ほかに、弁当のような小さな包みもある。

 麻美は、それを運ぶのを塞いでしまったみたいだ。

 

「あっ、ごめん……。もしかして、金城様や西園寺お姉さまの?」

 

 麻美の言葉に柚子が頷く。

 確か、柚子は今日から三年生の金城光太郎の従者生徒になったのだ。その彼女が食事を運ぶとしたら、彼のために運ぶに違いない。

 また、双子従者の運ぶものは、当然に生徒会長の西園寺の分だろう。

 

「そういうことよ。邪魔なのよ、あんた」

 

 舌打ちとともに、強い口調でさらに声をかけたのは、もうひとりの双子だ。顔は同じだが、双子のうち、梓は気が強く、渚は大人しい性質だと聞いたことがある。

 だから、最初に声をかけたのが松野渚であり、いま声をかけたのは、松野梓だと思った。

 

「ああ、悪かったわね。でも、あたしは、この柚子に大切な用があって……」

 

「とにかく、どいて──。これを運ばないとならないの。運び終わって、ひかりが許可すれば、こいつと話せるわ。でも、いまは邪魔しないで」

 

 梓がさらに前に出て、肩で麻美を押し避けるかたちで通路を開けて歩き抜けていった。

 それはともかく、いま、従者生徒のひとりの梓が“ひかり”と呼んだのは、金城光太郎のことなのか?

 ちょっと、その物言いにびっくりした。

 しかし、彼女はそのまま歩き去っていく。

 

「ごめん、麻美……。というわけで、やらなきゃいけないことがあるから」

 

 柚子もそれを追っていった。もうひとりの従者の渚もだ。

 

「待ってったら──」

 

 麻美も慌てて、彼女たちの後を追いかける。

 柚子たち三人が向かったのは、A級生徒用の食堂に隣接されているS級生徒専用のテラス席だった。

 樹木の枝葉を屋根と囲いにしたふたつの丸テーブルに腰掛けていたのは、金城光太郎、西園寺絹香だ。そして、困惑したが、坂本真夫もそこにいた。

 あのSS研の人たちだ──。

 さらに、坂本真夫の従者の白岡かおりもいる。

 柚子たちが、三人の前に運んできた食事を並べていく。

 

 戸惑ったが、麻美は身を引き締めた。

 麻美が見た理事長代理の工藤玲子がこの柚子に行った学園内における破廉恥行為──。 

 不自然な欠勤をしている伊達先生のこと──。

 なによりも、最近になって、ささやかれ始めたSS研の黒い噂……。

 絶対に、この人たちがなにかを企てているのだ。

 

「なによ、あんた? ここは、S級生徒用のテラス席よ。A級の一年みたいだけど、S級生徒様の許可がなければ、敷地内に立ち入りできないわよ。間違って入ったなら、立ち去りなさい」

 

 最初に声をかけてきたのは、真夫の従者生徒の白岡かおりである。

 学園内で「四菩薩」とも、「新四菩薩」のひとりとも称されている三年生の美少女先輩なので、麻美も顔は知っている。

 なによりも、A級生徒なのに、いきなりの従者生徒への降格で、この真夫の従者になったということで、少し有名にもなった。

 ただ、面識はない。

 上流階級の清楚な令嬢というイメージだったが、いまは随分と当たりが強い口調だった。こういう人なのかと思った。

 

「い、いえ、間違ってやってきたたわけじゃありません。もともと、柚子に用事があったんですが、先輩方にも用事があります。単刀直入にお訊ねします。この柚子に、なにかをしてますよね──?」

 

 麻美はテーブル席に腰掛けている三人をはじめ、かおりを含む周りの従者生徒たちを睨んだ。

 彼らが呆気にとられた表情になる。

 また、食事の配膳をやりかけていた柚子たちも、途中で静止してしまっている。

 

「はあ? なに言ってんのよ、あんた? だいたい、誰よ?」

 

 かおりだ。

 面倒くさそうな口調である。

 

「ちょ、ちょっと、麻美」

 

 柚子が焦ったように声をかけた。

 しかし、麻美は覚悟している。

 今朝になって急に姿を消した伊達先生が本当に家庭に不幸があって休んだとは思ってない。あまりにも、昨日の今日でタイミングがよすぎる。

 おそらく、伊達先生は麻美が柚子について相談をしたことで、やはり、なんらかの動きをしたのだろう。

 その結果、囚われてしまったのではないだろうか?

 なにしろ、あのとき、柚子を破廉恥にいたぶっていた理事長代理の工藤玲子は、柚子にSS研に連れて行くというようなことを口走っていた。

 一連のおかしな騒動には、SS研や理事長代理が背景にあるに決まってる。

 

「麻美って名前なの? ねえ、柚子、あんたの連れということ? なに、これも、SS研に強制加入させるの?」

 

 かおりがくすくすと笑った。

 だが、その言葉に、麻美は引っ掛かった。

 

「これも、とはどいうことですか、白岡さん? これ“も”と言いましたよね。つまりは、ほかにも強制加入させたものがいるということですよね──。ねえ、今朝から伊達先生が姿を消したんです。もしかしたら、先輩たちは、それについて、なにかを知っているじゃないですか?」

 

 麻美は言った。

 すると、かおりが肩をすくめるような仕草をした。

 

「さあね。伊達京子先生だったら、身内に不幸があって週末まで学園外に出てるんじゃないの? そう耳にしたけど?」

 

 かおりだ。

 麻美はその言葉で確信した。

 

「へえ……。確かに、陸上部の朝練でキャプテンから、そんな伝言がありましたですね……。でも、白岡先輩がそれを知っているのはどうしてですか? 陸上部でもないし、伊達先生は、先輩たちの担任でもないですよね。いちいち、一教師の欠勤の理由なんて、白岡先輩に伝達があるんですか?」

 

 間違いない──。

 やっぱり、伊達先生の行方がわからなくなっているのは、このSS研の人たちに関係があるのだ。

 

「なっ」

 

 かおりが絶句した感じで口を閉じる。

 

「なにかを知っているなら、すぐに言ってください。さもないと警察に電話します。この学園の上層部が信用できないのは予想がついてます。すぐに、先生を解放してください」

 

 麻美は内ポケットからスマホを出してかざした。

 伊達先生がもしかして、監禁のようなことをされたのだとすれば、それは麻美にも責任がある。

 絶対に助けなければ……。

 

「落ち着きなさい、あなた……。北条麻美さんだったわね。陸上部に所属する一年生……。柚子と同じクラスの子ね……。あっ、いえ、同じクラスだったよね。柚子は今日からクラス替えがあったから」

 

 生徒会長の西園寺絹香だ。

 麻美は彼女を睨んだ。

 

「会長、もしも、おかしなことを裏でやっているなら、あたしは絶対に許すことはできません。伊達先生はどこにいるんですか?」

 

「どこって……。さあ、どうして、わたしたちが知っていると思うの?」

 

 絹香が小さく首を傾げた。

 

「伊達先生はどこですか──? 白状してください。本当に警察に言いますから──」

 

 麻美はスマホを操作する振りをした。

 もちろん、これでなにかが解決できるとは思ってない。もしも、本当に彼らが伊達先生を監禁しているのだとすれば、ここで麻美がなにを言ったところで、認めることもしないし、仄めかしもしないだろう。

 でも、もしかして、これでなんらかの反応を示して、麻美までも捕えようとする素振りでもすれば、そのときこそ、確信ができる。

 このSS研の者たちが、伊達先生をはじめとして、柚子さえも、なにかの脅迫のようなことをしているのだと──。

 

「警察に電話って、なにを言うつもり? もしかして、ぼくたちが、その伊達先生を監禁しているとでも? なにか証拠でもあるのかな? もしも、なんの確証もなく、言いがかりで冤罪を訴えるつもりなら、覚悟をすることだね。ぼくのことを知らないわけじゃないわよね? そのときは金城財閥が相手をするよ。それこそ、君の家族を叩き潰す」

 

 金城光太郎だ。

 麻美はさすがに躊躇うものを覚えた。

 

「西園寺家もです。さすがに、不当な言いがかりには、家として対処しなければなりませんから……」

 

 絹香も言った。

 麻美は背に冷たいものを感じた。

 勢いで迫ってしまったが、確かに確証なんてない。

 言われてみれば、いくら麻美が怪しいと思ったところで、金城家の御曹司、西園寺家の令嬢が絡み、学園の上層部がなにかの破廉恥工作のようなことを実施しているなどと訴えたところで、警察はすぐに動くだろうか。

 一笑されて終わりだということは容易に想像がつく。

 そのときだった。

 にこにこと、麻美のことを見守っていた感じだった坂本真夫が急に笑い声をあげた。

 

「みんな、落ち着きなよ。可哀想に顔を蒼くしているじゃないか。まあ、伊達先生は、この麻美ちゃんという子の所属する陸上部の顧問だったよね。よくわからないけど、多分、急に休みとか知らされて、戸惑ってしまったのかな?」

 

「えっ、は、はい……。あっ、いえ」

 

「まあ、それがどうして、俺たちが関与していると思ってしまったのかは不思議だけど、多分、大丈夫だよ……。月曜日には普通に出てくる。そのとき、なにかあったのか直接訊ねればいい」

 

 真夫が言った。

 

「月曜日って……」

 

 言い返そうとしたが、そのために、真夫の顔を睨もうとして視線が合い、不意にぶるぶると震えのようなものを全身に覚えて、麻美は戸惑ってしまった。

 そして、一瞬だけ、頭が白くなり、気がつくと不思議なさわやかさに包まれていた。

 さっきまで感じていた怒りのようなものが、突然に身体から喪失しているのを感じた。

 

「週明けだよ……。それからで遅くはない……。そのときに伊達先生がまだ姿を見せなければ、そのときには、それこそ俺たちも協力しよう。だから、いまは落ち着くといいよ。まだ、なにも問題は起こってないんだから」

 

 真夫がさらに言った。

 とても優しい口調だった。

 麻美の心に、その言葉が沁みとおるように入ってくる。

 確かに、まだ焦るようなことではないし、問題は起こってないのだ。どうして、さっきまで怒りを感じていたのか……。

 麻美は、急に恥ずかしくなった。

 

「そ、その……。申し訳ありません……。あ、あたしったら……」

 

「わかってるよ……。大切な先生だから、混乱したんだよね。でも、問題ない……。問題はないんだ。月曜日には先生も姿を見せるよ。そうしたら、安心するよね」

 

「は、はい……。そのときには安心すると思います……。そ、その、皆さん、申し訳ありませんでした……。柚子もごめん……」

 

 麻美はとにかく頭をさげた。

 そして、真夫に促され、慌てて、その場を後にした。

 

 


 

 

「なによ、急に行っちゃったわね……。また、あんた、なにかしたの?」

 

 不審そうに声をかけたのは、かおりちゃんだ。

 真夫は肩を竦めた。

 ともかく、嵐のようにやってきた突然の麻美という一年生の女性の襲撃はとりあえず終わった。

 すでに彼女は立ち去り、完全に姿を消している。

 

「さあね。真摯に説得しただけさ。知っているとおりに、俺には妙な説得力があるからね」

 

 真夫はうそぶいた。

 

「なにが説得力よ……。まあいいわ。でも、驚いたわね。まさか、金城家のひかりや、西園寺の絹香がいるのに、後先考えずに、乗り込んでくるだなんてねえ」

 

「そういう子なんです。真っ直ぐで、正義感が強くて……。でも、申し訳ありませんでした」

 

 かおりちゃんの言葉についで、柚子ちゃんが頭をさげる。

 

「まあ、これも柚子ちゃんを心配してのことなんだろうね。あの麻美という子が柚子ちゃんが苛めれていると勘繰って、京子先生に訴えたのはわかっているしね」

 

「はい……。でも悪気はないんです。だから、どうか……」

 

 柚子ちゃんが真夫に訴えるような感じで頭をさげた。

 真夫は、内ポケットからスマホを取り出して、柚子に装着させている貞操帯の内側のリモコンバイブを始動させる。

 

「ひやっ──。あだ、だめです、真夫先輩──」

 

 柚子ちゃんががくりと両膝を折った。

 だが、まだ配膳の途中でトレイを持ったままだったが、それについては、辛うじてひっくり返すことなく踏みとどまった。

だが膣奥を淫具で刺激され、切なそうに腰を震わせている。

 可愛らしい姿だ。

 

「だめじゃないわよ。いいから、働きなさい。とにかく、この真夫はそうやって、わたしたちがいたぶられながら、なにかをする姿を見るのが好きなんだから、こいつのために耐えなさい。でも、皿のものはこぼさないのよ」

 

「で、でも、おまんこが……き、気持ちよすぎて……。だ、だめです……」

 

 柚子だ。内腿を必死に寄せて、一生懸命に身体を真っ直ぐにしようとしている。

 まるでおしっこを我慢しているかのような柚子ちゃんの姿に、真夫はほくそ笑んでしまう。

 

「あら、だったら、もっと真夫様に愉しんでもらわないとね……。絹香、ひかり、あんたらも、余興に参加しなさい」

 

 悩ましい姿でごこちない柚子の一方で、黙々と配膳をしていた梓だ。

 一度トレイをテーブルに置き、スカートのポケットに手を入れて、素早く、操作具に触れたのがわかった。

 

「ひゃん──」

 

「うわっ、や、やめないか──」

 

 次の瞬間、ひかりちゃんと絹香が同時に身体を突っ張らせて、同じように椅子から腰を落としてしまうような仕草をする。

 絹香とひかりちゃんもまた、今日は午前中から淫具をつけさせていたのだ。

 絹香については、いわゆる「クリバイブ」というやつでありクリトリスに被せて、リモコンで振動させる刺激具である。

 また、ひかりちゃんのは、小ペニスの根元で外れないようにしている微弱な快感電流の流れる振動リングだ。

 いずれも、時子婆ちゃんが新しく改良したものとして持ってきてくれたものであり、特に、絹香のものは、ただ振動するだけでなく、内側に細かい繊毛があって、それがクリトリスの表面を柔らかくくすぐる仕掛けのものである。

 朝に実験台ということで、このふたりに装着させたのだ。

 ペニスがあるのはひかりちゃんだけなので、ひかりちゃんは強制だが、絹香が実験台を受け持つことになったのは、単純に(くじ)で選ばれたからだ。

 もっとも、その籤も、梓が準備したので、なにかの仕掛けがあった気もするのだが……。

 ともかく、それを操作するリモコンは、真夫が持っているほかには、梓に渡していた。

 それを操作したようだ。

 

「ひあっ、こ、これだめ……。あ、梓──。とめて──。とめなさい──」

 

「そ、そうだよ……。こ、これ……、し、刺激強い……。で、出てしまう──」

 

 絹香とひかりちゃんは股間を両手で押さえて、真っ赤な顔で悶えている。

 真夫はそのいやらしい姿に嬉しくなり微笑んでしまう。

 

「ねえ、いずれにしても、あの麻美という一年生は危険じゃないの? 玲子に言って、処置させたら? それとも、ひかりを使って、金城家を動かしてもいいと思うし、まあ、おかしなことをしないように手を打った方がいいんじゃない?」

 

 かおりちゃんが真夫に声を掛けてきた。

 だが、真夫は首を横に振る。

 

「問題ない。あの麻美ちゃんについては、放っておいても大丈夫だよ。絶対にね」

 

 すでに操心術で処置した。

 彼女がこの件で積極的に動くことはもうない。

 

「ふうん……。まあ、だけど、あの娘も、陸上部だけあって、いい身体してたじゃないの? いっそのこと、京子と一緒に奴婢にしてしまえば? それでもう危険はないんだから。そもそも、そうするかと思ったわ。あんたのことだから……」

 

 かおりちゃんが揶揄うように言った。

 真夫は首を横に振る。

 

「見境なく奴婢を増やしているように思うかもしれないけど、必要以上に心を縛るつもりはないんだ。全部で十人。四菩薩の京子先生はそれに含めるとして、必要な残りの奴婢はひとり。龍蔵さんに命じられているものはそれだけなんで、基本的にはそれ以上は増やすつもりはないよ」

 

「残りひとり? まあ、あいつも社長令嬢というわけでもないしねえ。この学園にいるんだから、そこそこの家であるのは確かなんだろうけど……。それで、残りのひと枠として狙っているのは誰よ? やっぱり、少女モデルの加賀まり江? 四菩薩のひとりだし、あいつなら、総帥様も文句は言わないでしょう」

 

 かおりちゃんだ。

 

「うーん、彼女が入ると十一人目になるかなあ……。でも、十人目はすでに契約が終わってるんだ。学園の生徒じゃないけどね」

 

 真夫は言った。

 

「契約って? それに、学園の生徒じゃないの? 誰のことよ?」

 

「さあね。まあ、お愉しにしておこうか。でも、十分に龍蔵さんは満足すると思うよ。なにせ、本物のお姫様だしね」

 

「お姫様?」

 

 かおりが訝しむ口調になる。

 

「まあいいじゃないか……。さて、ところで準備も終わったみたいだし、食事にしよう。京子先生も、SS研で待ってるしね。あんまり、置き去りにしたままじゃあ、可哀想だ」

 

 かおりちゃんと会話をしているうちに、柚子と双子がやっとのこと配膳を終えていたのだ。

 柚子ちゃん、ひかりちゃん、絹香はまだ淫具の責めでたじたじになっているが、それでも全員が食事をする態勢が整った。

 

「さて、じゃあ、食べよう。三人もよがってないで、しっかりと食事をするんだよ。さもないと罰だからね」

 

 真夫は食事の開始を宣言する。

 

「あああ……。で、でも、わたしはだめえ──。気持ちよすぎて、おかしくなっちゃいます──」

 

 椅子に座ったばかりの柚子ちゃんが上半身をテーブルに突っ伏してがくがくと震えた。

 軽く達したみたいだ。

 

「で、出るうう──。うっ、うう……」

 

「はあああん」

 

 ひかりちゃんと絹香もまた、股間に手をやって身体を震わせた。

 特に、ひかりちゃんの小ペニスに装着してもらった根元のリングは、微弱な電流で強制的に射精させる効果があるということだった。しかも振動しているはずなので、もしかしたら、早速、ズボンの中で射精をしてしまったのかもしれない。

 ひかりちゃんの席は隣だったので、真夫はひかりちゃんの手を掴んで、ズボンの上からどけてみた。

 

「あんっ、やっ」

 

 すると、やっぱりズボンの股間部分に丸い分泌液の染みができていた。

 真夫は笑った。

 

「ははは、ひかりちゃん、そのズボンは午後の授業で履き替えるのを禁止するからね。そのまま、教場に行くんだ」

 

 真夫とかおりちゃんは、午後からは研究課題のための時間という名の空き時間だが、ひかりちゃんも絹香も選択科目で普通に授業がある。

 そんな染みを作ってしまっては、ひかりちゃんもきっと恥ずかしいことだろう。だから、真夫はそう命令した。

 

「そ、そんなあ、真夫君……」

 

 ひかりちゃんが泣くような顔になる。

 

「やっぱり、会ったばかりの頃と比べて、あんたは随分と鬼畜になったわよ」

 

 すると、横のかおりちゃんがくすくすと笑い声をあげた。



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 第156話 二日目の調教開始・運動責め

「あ、ああっ……はっ、はあ……ああっ、ああ……」

 

 京子は、鉄格子に囲まれている(たたみ)一畳ほどの床の上を歩くよりも少し速いくらいの速度で走り続けていた。

 ジョギングよりも遅い程度であり、普段であれば、大したことでないのだが、いまの京子には苛酷な責め苦に違いなかった。

 それは、京子に施された肉体への淫具による仕掛けと、閉じ込められている場所の状況による。

 

 とにかく、朝からやらされていることであり、二十分走って、十分の休憩が与えられることになっているということであり、それを考えると、すでに九サイクルも同じことを繰り返しているので、四時間半の時間が経過したことになるのだろう。

 インターバル・トレーニングとしては、緩すぎる程度の運動量であるが、京子はもうたじたじになっている。

 すでに疲労困憊のうえに、ジョギングの最中だけでなく、休憩のときにも繰り返される性感への刺激のために、京子は身体も意識も朦朧とした状態になりかけていた。

 

 しかし、速度を緩めることも、走るのをやめることも許されない。

 なにしろ、京子が必死に走っている床は、ベルトコンベアのように一定の速度で後方に回転し続けていて、四周を完全に囲んでいる鉄格子には、電流が流されていて、もしも、触れたりすれば、凄まじい苦痛が京子を襲うことになっているのである。

 だから、駆け続けるしかない。

 いくら、学生時代から陸上部で鍛えた足腰をもってしても、これだけの長時間の駆け足となれば、すでにふらふらだ。

 しかも、身体には苛酷な責め具が装着されている。

 まるで頭から水を浴びたかのような大量の汗が全身を包み、動き続けている床に垂れ落ちている。また、時折飛び散った汗が鉄格子に当たり、電流の熱でじゅうという音を立てたりもする。

 その音が電流の恐怖を京子に感じさせ、京子は必死に脚を前に出し続けているのだ。

 

「また、後ろに下がってきたわよ。前に出なさい、京子」

 

 鉄格子の外側に設置した小さなテーブルで書類仕事のようなことをしていた工藤玲子が顔をあげて、声をかけてきた。

 

「か、勝手なことを言わないでよ──。い、いい加減に、この床をとめなさいよ──」

 

 京子は必死に脚を動かしながら、最後の気力を振り絞るようにして悪態をついた。

 ここがSS研の地下にあった得体の知れない「拷問室」であることは確かだ。

 SS研の生徒たちの罠に嵌って、昨夜、ここに監禁されて真夫に凌辱された京子だったが、たったのひと晩だけで数えきれない程の絶頂を繰り返し、最後には意識も保てなくなり、完全に気絶をしてしまったと思う。

 ひとりの生徒にすぎないで坂本真夫の前で晒してしまった醜態のことを思い出すと、京子はいまでも口惜しくもあり、また羞恥で死にたくなってしまう。

 京子は、あの真夫に完全に屈服してしまったのだ。

 淫らな姿を晒し、淫情に狂う様を見せ、必死になって情交を哀願するに至った。

 全部覚えている。

 生徒たちに対して、なんという無様な姿を示してしまったのだろう。

 いまでも、教師として恥ずかしい。

 

 それはともかく、気が付いた京子が目が覚めたのが、この鉄格子に囲まれた動く床の上だったのである。

 どうやら、同じSS研の地下の一室だとは思うが、最初に責められた大部屋とも、真夫に犯された寝台のある部屋とも異なる別の部屋という感じだ。

 もっとも、最初はまだ床は動いてはおらず、鉄格子に囲まれている檻のような場所だと思っただけだ。

 そして、そのときにはまだ部屋にいた檻の外の真夫に言われたのが、真夫が授業に出ている間、この玲子に監視のもとに汗を流せという「命令」だった。

 これが二日目の調教の始まりだと宣告もされた。

 

 いやも応もない。

 鉄格子はしっかりと床から天井を貫いているし、両手まで後手に拘束されていた京子には逃げる手段などない。それだけでなく、股間には二本のディルドが貫き、勝手に抜くことができないように電子ロック付きの革下着で封印もされていた。

 なにをされても逆らう手段など存在しなかった。

 

 食事は床に置かれた皿に顔をつけて、まだとまっていた床の上で、犬のように口だけで食べさせられた。

 拒否すれば、また浣腸をすると脅されれば、それもまた従うしかなかった。

 そして、排便は許可されることはなかった。

 革帯の貞操帯で封印されているので、それを外されない限り小尿もできないのだ。

 正直に言えば、少し尿意もあったが、それを口にすればまた辱めを受けるのではないかと考えると、真夫に訴えることはできなかった。

 そして、そのまま、真夫たちが教場棟に向かい、入れ替わるように入ってきて残ったこの理事長代理の玲子に監視されながら、この苛酷な運動が開始されたということだ。

 

「それは、できないわね。あんたも一緒に訊いていたでしょう。真夫様のご指示よ。彼の許可なく、あなたの調教をやめるわけにはいかないことは知っているでしょう。できないわ。とにかく、必死に走りなさい」

 

「はあ、はあ、はあ……。ふ、ふざけないで──。はあ、はあ……、な、なにが真夫様よ……。あ、あなた方の正体はなによ──。坂本君を隠れ蓑にして、この学園はなにをしようとしているの──?」

 

 京子は走りながら叫んだ。

 真夫の周りにいた女生徒も、この理事長代理の玲子にしても、口を揃えて言うのは、あの三年生の坂本真夫という一生徒がこの陰謀の首謀者だということだった。

 だが、そんなことはあり得ない。

 この地下設備ひとつにしても、女生徒や女教師を監禁して拷問するための、かなり大掛かりな設備である。学園中に張り巡らされているらしい隠しカメラや生徒や女教師たちの隠し撮りの卑猥映像のコレクションなどのことを考えると、それをひとりの生徒だけがやっているというのは信じることはできない。

 もっと大規模な犯罪組織集団が存在すると思った。

 昨夜の真夫の凌辱から少し休むことで冷静さを取り戻した京子は、そう考えている。

 

「正体もなにもないわ。そもそも、この学園そのものが、彼に捧げるためのものよ。わたし自身やあなたもね。わたしたちは、真夫様の貢物というわけよ」

 

「じょ、冗談、い、言わないで……」

 

「冗談は嫌いなのよ。それよりも、まだ元気がありそうね。さすがは陸上部の顧問だわ。じゃあ、もう少し速度をあげるわね」

 

 玲子が立ちあがり、壁に向かっていく。

 そこに床の回転をとめたり、速度を調整する操作盤があるのだ。

 京子は愕然となった。

 

「む、無理よ──。こ、これ以上は──」

 

「大丈夫よ。無理なほどは速度はあげないわ。ただ、余計なことを考える余裕がないくらいに疲れてもらうだけよ。真夫様にそう命じられているしね」

 

 床の回転速度が一気にあがったのがわかった。

 おそらく倍の速度にはなっただろう。

 ジョギングどころではない。

 かなりの駆け足だ。

 股間とアナル内のディルドの刺激と、乳房の揺れによって発生する疼きが一気に増大する。

 

「ひ、ひいいっ」

 

 京子は全身から汗をまき散らしながら、必死に脚を動かす速度をあげなければならなかった。

 

「む、無理いい──。だ、だめえ──。お、遅くして──。お願い──。ひあああっ」

 

 だが、簡単にペースをあげることなどできない。

 なにしろ、京子はただ電撃の鉄格子の中で動く床の上を走らされているわけではないのだ。

 まず、両手は背中で水平に束ねられて革帯で固定されている。

 だから、腕を使えないので、普段のとおり脚を動かすことは難しい。

 なによりも、京子の股間とアナルには二本のディルドが貫いていて、それを覆う革下着を装着されているのである。歩くだけでも、二本のディルドが京子の性感を刺激するのに、走るなどというのはとんでもない苦行だった。

 速度が上がったことで、どうしてもだんだんと京子の位置が後退していく。

 

「ああ、あっ、あああ……」

 

 それに、身に着けているのは、両腕を包む革帯とディルド付きの革下着のほかに、両乳首にぶら下げられたかなりの重みのある鈴もあった。

 走ることで無防備な乳房が、その鈴を重みとして乳首を揺らすのであるが、そのたびに稲妻のような衝撃が京子の背中に走るのである。

 締めつけていない京子の大きな胸は、走ることで上下左右に大きく弾むのであるが、ちりんちりんという音とともに貫く乳首の衝撃の繰り返しに、それだけで脚をとられて転倒しそうになる。

 それに耐えて、拘束された裸身で掛け続けて、もう半日だ。

 もっと前に出ろと言われたところで、それを実行する余力はもう京子には残ってない。

 しかも、限界だと考えていた状況で、さらに速度をあげられたのだ。

 

「あ、ああっ、ああっ、む、無理──。無理よ──。戻して──。せめて、元に戻して──」

 

 京子は駆けながら必死に哀願した。

 ちりんちりんどころではない。乳首からぶら下がる鈴の音もうるさいくらいに音をかき鳴らしている。

 

「もっと前に出るのよ──。指示が耳に入らないのかしら? また、気合を入れましょうか?」

 

 すると、玲子が黒い棒鞭のようなものを再び鉄格子の隙間から差し入れたのが横目で見えた。

 京子ははっとした。

 すでに、数回味わわされているので、これがなんなのかはわかっているのだ。

 棒鞭の先端は金属の球体を被せた形状になっていて、それが京子の片側の尻たぶに触れる。

 

「きゃああ、走る──。走るから、やめてえ──」

 

 京子は悲鳴をあげてペースを上げようとした。

 だが、その瞬間、棒の先から電撃が尻に流されたのだ。つまり、あれは電撃鞭なのである。

 これもまた、京子を家畜のような走り続けさせる忌まわしい調教具だった。

 しかし、激しく動いたことにより、ディルドの刺激が一気に増大し、乳房が揺れて、大きな疼きが乳首と乳房の揺れで沸きあがった。

 京子は身体が砕けそうになるのを懸命に我慢した。

 

 それにしても、ディルドはともかく、どうしてこんなに胸が……?

 京子は息も絶え絶えになりながらも、どちらかといえば、ディルドの刺激以上に大きい胸の揺れに伴う疼きに、呪うような気持ちになりながら、終わりのわからないゴールに向かって駆け続けるしかなかった。

 

「十分間の休憩ね」

 

 そして、それからしばらくして、やっと休憩が宣言された。

 床がとまり、京子は貞操帯姿の裸身を崩れ落ちさせた。

 

「じゃあ、休憩のあいだのメニューに入るわ。頑張ってね」

 

 すると、玲子が声をかけてきた。

 京子は歯を喰いしばった。

 これから、なにが始まるかもわかっている。

 この半日で、とことん京子を追い詰めたのは、淫具を装着した状態でやらされている苛酷な運動責めとともに、これから始まる休憩間の責め苦もである。

 いや、むしろ、心と気力を苛んでいるのは、これからの責めの方がむしろ大きいかもしれない。

 蹲っている京子に施されている股間の淫具、そして、ぶら下げられている大きな鈴が一斉に激しく振動を開始する。

 

「ひあああ、ああああっ」

 

 京子は身体をがくんと動かし、次いで腰と胸をがくがくと震わせた。

 股間とアナルのディルドが蠕動運動を開始し、クリトリス部分の革帯内の突起も震えだす。

 乳首にぶら下げられている重みのある鈴も振動して、乳首に繋がっている細い鎖を通じて刺激を胸に伝えてくる。

 

「ああ、あくうっ、いやああ」

 

 淫具を装着されたままの矯正ジョギングばかりでない。

 この休憩間の淫具責めで、京子は沸騰するほどに性感を昂らされている。

 開始した淫具の刺激により、一気に絶頂まで追い込まれる。

 

「ひんっ、ひんっ、ああああっ」

 

 いつの間にか蹲ったまま弓なりになっている京子の口からは、喘ぎ声しか漏れてこない。

 目覚めきっている肉体の快感は、京子の意思ではまったく抑えが効かなくなっている。

 快感が限界を突破しようとする。

 

「あああっ、くあっ、またああ──」

 

 だが、京子が絶頂をしようとする寸前に、突然にすべての淫具がぴたりと静止をしてしまった。

 これこそが休憩間の責め苦なのだ。

 京子の頭には、鉢巻きのような脳波センサー装置が巻かれていて、そこから無線で脳波のデータが玲子の操作するパソコン内に飛び、京子の性感の昂ぶりを計測しているのだという。

 そして、絶頂寸前で刺激を停止するようにプログラムされているらしく、何度繰り返しても、京子が達することができないように寸止め責めを繰り返すことになっているのである。

 

「ああ、もういやああ──。許してよおお──」

 

 刺激されては寸止めされ、寸止めされては刺激される──。

 それを十分間受け、ついに焦らし続けされたまま、再び運動責めに入るのだ。

 これを十回もサイクルされている。

 もう心はずたずただ。

 

「何度も言うようだけど、哀願は真夫様にしなさい。多分、昼休みには来てくれるから。でも、そうでなければ、放課後まで頑張るのね」

 

 玲子が冷たく言った。

 そして、少しだけ淫情の昂ぶりが引くのを待ち、またもや淫具で一斉に動きを再開する。

 

「もういやああ──。狂っちゃう──」

 

 京子は寸止め後の振動の再開に、泣くような悲鳴をあげた。



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 第157話 素直になるまで、寸止めを

「あくううっ、うあああっ」

 

 股間とアナル、そして、乳首にぶら下げられている大きな鈴が振動を再開して、欲情しきっている京子の肉体はあっという間に達しそうになる。

 もう十数回も同じことを続けられているので、絶頂に達するまでの時間が短い。

 身体の中には出口を求めて暴れまわっている巨大な官能の疼きがまさに暴発せんとして沸騰しているのだ。

 京子は一気に絶頂しかけた。

 拘束されている身体を弓なりにして、喘ぎ声をあげる。

 

「あっ、ああっ、ああっ、またあ……」

 

 しかし、頭に巻かれている計測具は、精密に京子の絶頂感覚を測定し続けていて、完璧な淫具の制御により、京子に絶頂を許さない。

 まさに昇天しそうだったその瞬間に、正確無比にすべての振動が停止して、またもやエクスタシーの波が引いていく。

 

 動く床の上で強要されている苛酷な淫具付きのジョギングとジョギングの合間にやらされている測定器具を用いた連続の寸止め責めだ。

 玲子の説明によれば、単純なコンピュータ制御ではなく、AIも駆使した超高性能の寸止め装置らしい。

 それだけに、幾度も寸止めの責め苦を繰り返されている京子は、すでに発狂しそうな焦燥感に陥っている。

 

「もういやよお──。許してよお」

 

 どうしようもない状況に追い詰められている京子は、もう恥も外聞も関係ないと思った。

 停止した淫具の刺激の代わりに自ら腰や胸を動かすことで、引き下がっている絶頂感を呼び戻そうと、必死になって、腰を動した。

 

「ひがああ──」

 

 だが、挿入されている淫具により股間に刺激が得られたと思ったのは束の間だった。すぐさま、股間のディルドに電流が流れて、その激痛で強引に絶頂感はキャンセルされた。

 すぐに電撃は止まったものの、京子は股間に流された電撃の衝撃で、床に背中からひっくり返ってしまった。

 

「勝手なことはしないのよ、京子。無理に器具に逆らおうとすると、それこそ電流を流してでも強引に絶頂感は取りあげられるわ。究極的な寸止め調教装置なの。はしたないことはしないで、大人しく寸止め責めを受け入れなさい」

 

 鉄格子の外にいるスーツ姿の工藤玲子が冷静な口調で言った。

 

「く、くっ……」

 

 屈辱でかっと身体が熱くなる。

 京子は歯噛みしながら、涙目で玲子を睨んだ。

 

「ところで、休憩は終わりよ。十二回目の運動に入りましょう」

 

 だが、玲子は、京子の憤慨など一切無視して、壁に向かっていき、鉄格子の中の床を動かす作動パネルに触れる。

 ぶんと音がして、床が動き始める。

 京子の身体は一気に後ろの鉄格子に密着しそうになるが、そこに電流が流れているのはわかっている。

 懸命に起きあがって、すぐに駆け足の態勢に戻る。

 なんとか背中を電流の流れている鉄格子に触れさせなくて済んだ。

 もう何も考えられない。

 京子はただただ、必死に脚を前に進ませるだけだ。

 

「ああ、あん、ああ、ああっ……」

 

 たちまちに股間とアナルのディルドが局部を刺激し、乳房が揺れ、鈴のぶら下がる乳首が上下左右に動いて、稲妻のような疼きが駆け巡りだす。

 たちまちに、京子は喘ぎ声をあげてしまった。

 寸止めを繰り返されている京子にとっては、それでもかなりの刺激なのだが、しかし、まったく動かない淫具だけでは疼きは走るが絶頂にまでは至らせてくれない。

 それでも、快楽だけは肉体に発生し続ける。

 半日を越える運動責めの強要による体力の限界もあり、あっという間に京子は追い詰められていく。

 しかし、走るのをやめることも、速度を緩めることも許されない。床の速度に負けて身体を鉄格子に触れさせてしまえば、凄まじい電撃の衝撃が待っているのだ。

 京子は汗みどろで疲労困憊の身体を必死に動かし続ける。

 淫具による官能の刺激を受けながら……。

 

 しかし、今回については、始まってそんなに時間が経っていないのに、突然に床の速度が緩んで、すぐに静止状態になった。

 一回のサイクルで決められている二十分間には程遠いはずだが、そんなのはどうでもいい。

 なにも考えられずに、京子は崩れ落ちるようにその場にしゃがみ込んだ。

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

 だが、休憩が開始するということは、またもや寸止め責めの性の拷問も始まるということだ。

 京子は背中で両手を束ねて拘束されている手の拳をぎゅっと握る。

 ところが、それも始まらない。

 顔をあげる。

 すると、鉄格子の向こうに、制服姿の真夫が訪れているのがわかった。従者生徒の白岡かおりを連れている。

 

「あらあら、汗びっしょりね。この玲子も冷酷で容赦ないから、大変だったでしょう? とにかく、真夫の登場よ。奴婢の挨拶をしなさいよ、先生」

 

 鉄格子の外から京子を覗き込んで声を掛けてきたのは、白岡かおりだ。

 京子はかおりを睨んだ。

 

「なにを言っているのよ──。あ、あたしは教師よ──。奴婢だなんて……。すぐにここから解放するんです。このままじゃあ、あなたたちは取り返しのつかないことになるのよ」

 

 京子は怒鳴った。

 すると、かおりがきょとんとしたような顔になる。

 

「えっ? なに言ってんのよ、先生。夕べは、あんなに赤裸々に、この真夫に服従を誓ってたじゃないのよ。忘れちゃったの?」

 

 かおりが言った。

 羞恥でかっと顔が赤くなるのがわかった。

 夕べ、この部屋とは違う寝台のある別室で、真夫に犯されて、確かに京子は屈服の言葉を口にした。

 でも、それは、真夫と一対一の状態だったので、まさか、かおりが知っているとは思わなかったのだ。

 

「まあまあ、かおりちゃん。先生も少し眠ったことで、多少は気力も戻って、奴婢になると誓ったことを後悔するような気分になってるんだろうね……。でも、先生、覚え込まされてしまった身体の悦びは忘れることはできませんよ」

 

 鉄格子の向こうで、真夫がかおりの横に立つ。

 

「ば、馬鹿なことを言わないで」

 

「なにが馬鹿なのかわかりませんが、先生はマゾです。マゾの血が俺の奴婢になることを求めるんです。まだ、二日あります。苦痛と快感……。これを何度でも繰り返してもらいます。先生は必ず、心からの悦びとともに、俺の奴婢に留まることを望みます」

 

「あ、ありえません。とにかく、解放しなさい……。く、工藤さん、どうして、生徒にこんなことをさせるんです。あなたは間違ってます。こんなことはすぐにやめるんです──」

 

 京子は大声をあげた。

 

「うわっ、本当に元気ねえ……。ねえ、玲子、こいつ、真夫の命令のとおりに、午前中、ずっと走らせてたんでしょう? それなのに、こんなに元気なの? もしかして、手を抜いた?」

 

 かおりだ。

 ふたりの後ろに立っている工藤玲子を振り返って、かおりが唖然としているような口調で声をかける。

 一方で、玲子はこれまで通りの無表情のままだ。

 それが忌々しい……。

 

「最後の空元気でしょうね。自分が追い詰められているのを自覚しているんでしょう。だから、余計に反撥してるのだと思うわ。それと、わたしが真夫様の命令に逆らうなどあり得ません。ご命令のとおりに、徹底的に体力と気力を削ぎ落すようにしましたよ」

 

 玲子が冷静な口調で応じる。

 

「うん、そうだね。十分に京子先生は追い詰められているよ。問題ない。調教の第一歩は、思考ができないくらいに体力を削ぎ落すことだけど、すでに十分だろう。次の段階に進んでもいい」

 

 真夫だ。

 

「次の段階って?」

 

 かおりが真夫を見た。

 

「体力の次は、心を追い詰める……。徹底的にね。調教の王道さ。まあ、観察する限り、それもかなり進んでいるみたいだけどね。さすがは、時子婆ちゃんの開発した最新鋭の寸止め装置だよ」

 

 真夫が笑う。

 

「か、勝手なことを……」

 

 京子は歯噛みした。

 しかし、玲子の言葉を完全に否定できない自分もいる。

 

 追い詰められている……。

 

 確かに、京子はそれを自覚しつつあった。

 すでに、なにもかも限界だと思う。

 これ以上、彼らの言う「調教」を継続されれば、本当に京子は、以前の京子でなくなってしまうかもしれない。

 いや、すでにそうなりつつあるのかも……。

 全身は立っていられないくらいにへとへとだし、本当はこうやって反論の言葉を口にするのも苦しい。

 繰り返されている寸止め責めは、沸騰するほどの官能への飢餓を京子にもたらしていて、確かに完全に京子を追い詰めている。

 

 口惜しい……。

 

「京子先生……、もう一度言います。先生はマゾです。先生は、俺の言いなりになって、性の嗜虐を受けることで悦びを感じる女性なんです。夕べはそれを自覚させられたはずですが、忘れてしまったのなら、何度でも先生にそれをすり込むだけです……。俺に犯されたいんじゃないですか? だったら、そう言ってください」

 

 真夫が京子に声を掛けた。

 

「あ、あなた、生徒が教師を犯すなど……」

 

 京子は絶句した。

 

「そうですか。でも、先生は無力です。誇りを奪われ、抵抗の手段も与えられずにいたぶられる存在です。そして、それに快感を覚えるマゾです」

 

「あ、あたしはマゾじゃありません──」

 

「いえ、マゾです。先生にマゾの悦びを教えてあげます。俺に心を委ねてください」

 

「い、いい加減にして──」

 

 京子はもう一度声をあげた。

 

「そうですか……。ところで、玲子さん、時子婆ちゃんに開発してもらった寸止め装置の具合はどう? 京子先生は試作品の試験者一号だから、時子婆ちゃんには結果も報告しないとならないんだけど」

 

 時子というのが誰のことかわからないが、彼らの協力者であることは確かなのだろう。

 この忌々しい寸止め装置とやらは、その老齢の女性の開発?

 

「データはとれてます。計測されている彼女の脳波信号は、幾度も完全なオーガニズム状態の寸前に昇っては、それを低下させるということを繰り返してます。そして、オーガニズム直前までに達する速度も、その波の高さも、最初の段階よりも後になるに従って急速で、興奮度も上昇させてます。繰り返されている寸止めで京子が快感に抵抗できなくなっているというのもありますが、やはり、AIが京子の快感度合いを精密に測定して、自律的に調整されているようです」

 

「へえ……。あの頭のベルトだけで、そんなにすごいことができるの?」

 

 かおりは唖然としている。

 

「一度は強引に電流を流して、制御装置は強引に絶頂を阻止するということまでしてます。しかしながら、数十回繰り返している中で一度も絶頂に到達してないのは明白ですね。それだけでなく、エンドルフィン反応も上昇し続けてます……。真夫様の言葉を裏付けてます」

 

「エンドルフィンって、なによ?」

 

「脳内麻薬ね。人は苦痛を耐えさせるために、耐えがたい苦痛から精神を守るために、それを麻痺させる脳内物質を発生させる仕組みになっているの。それがあるから、人は苦痛に耐えて生きていけるんだけど、この京子はかなりのエンドルフィンの放出反応が観察されるようになってきてます」

 

「そんなのがあるの?」

 

「マゾヒストの快感というやつだね。苦痛やストレスを繰り返し味わうことで脳内麻薬を発生しやすくする体質を作る。脳内麻薬は紛れもない快感だ。そうやって、人工的にエンドルフィンを発生させることを繰り返せば、やがて、苦痛やストレスをすぐに快感として感じるようになる。もちろん、実際の快感も併用してね。つまりは、苦痛と快感の区別が頭の中でつかなくなるんだ。それが科学的なマゾ調教の仕組みというわけさ」

 

 かおりの言葉に、真夫がお道化るように応じた。

 自分のことが揶揄されている……。

 そのことに、京子は腹が煮えるような苦痛を覚えた。

 

「科学的って……。そもそも、あんた、そんなに頭よかった?」

 

「学年三位だよ。忘れた?」

 

「そうだったわ」

 

 かおりがくすりと笑った。

 だが、京子の苛々も臨界点に達した。

 

「い、いい加減にして──。ここから出して──」

 

 京子はそれ以上、彼らの戯言を耳にしたくなくて絶叫した。

 

「わかりましたよ、先生。でも、もう少し、寸止めを味わってもらいましょう。そうですね。小一時間も続ければ、先生もかなり素直になれると思いますよ……。じゃあ、玲子さん、お願いします」

 

 真夫が玲子を振り返る。

 一時間──?

 京子は絶句してしまった。

 

「はん──、いやっ」

 

 だが、玲子はテーブルのパソコンに向かって操作すると、すぐに股間とアナルで淫具の振動が再開した。

 しかも、かなりの振動だ。

 京子は一気に快感を上昇させられる。

 

「ああ、ああっ、ああああ……」

 

 乳首にぶら下げられている鈴の振動も始まる。

 もうどうしようもない。

 腰ががくがくと震える。

 

「ああ、またああ──」

 

 しかし、またしても、ぎりぎりですべての刺激が静止してしまう。

 巨大な焦燥感だけが残り、京子はもどかしさに、髪を振り乱して鳴き声をあげた。

 これは、まさに拷問だ。

 女にとって、これほどの屈辱と淫靡を与える拷問はあるだろうか。

 京子はじりじりと身体を灼く焦れったさと、切なさに肩で息をしながら、貞操帯を装着されている裸身を悶えさせた。

 

「さて、先生はそのまま、少し素直になるまで、しばらく寸止め責めの調教を続けます……。ところで、玲子さんはご苦労様です。ご褒美ですよ。こっちを向いて、奴婢のポーズをしてください」

 

 真夫が玲子に言った。

 すると、寸止め責めの苦悶に潤む京子の視界に、ずっと冷徹な表情を続けていた玲子が、急に顔を赤らめて相好を崩すのが見えた。

 そして、その直後の玲子の姿に、京子は唖然としてしまった。



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 第158話 男子生徒の秘密

「えっ?」

 

 京子は、鉄格子の向こうで始まった真夫と玲子の姿に目を疑ってしまった。

 なにしろ、この半日、微笑ひとつなく淡々と苛酷な調教を京子に強要してきた玲子が、この少年の一言で一転して雌の顔になり、明らかな欲情に顔を歪めたのだ。

 

 その玲子が真夫の身体の前に跪く。

 しかも、両手で自分の身に着けているスーツのスカートの前を掴むと、おもむろにたくしあげ始めた。

 その玲子の姿に、京子は唖然としてしまった。

 

 それに対して、真夫は、表情こそこっちに背を向けているのでわからないが、まったく動揺する様子もなく、むしろ、鷹揚に感じる態度で玲子をじっと見定めるような雰囲気である。

 真夫の背中から感じるのは、玲子に対する冷酷無比の毅然さだ。

 京子から見ても、玲子はとんでもない美女であるし、この若さでこれだけの資本を投じられている巨大学園の理事長代理をするほどの優秀な人材だ。

 人里離れた全寮制の学園を舞台にした得体の知れない策謀を企てている悪女だとしても、彼女が非常に有能な女性であることは間違いない。

 その玲子が、真夫の言葉ひとつで雌の顔に変わるのを当然のように考えている……。

 これは、真夫と玲子にとっては、当たり前のことなのだ……。

 

 京子は悟った。

 このふたりに関して、本当にこの男子生徒が「主人」で、玲子はこの真夫の「奴婢」なのだと……。

 

 どうやら、このふたりの関係性について、まったく誤認していたようだ。

 目の前の婦たちの姿は演技ではない。

 玲子は心から真夫に心服しているのだ。

 奴婢として……。

 間違いない……。

 女の京子には、玲子の表情に嘘がないことはわかった。

 

 理事長代理の玲子だが、確かに、なにかにつけ、この学園で行われていることの黒幕は、目の前の坂本真夫という三年生の男子生徒だということは口にしていた。

 しかし、それはなにかのカモフラージュであり、実際のことを表していないと考えていた。

 なにしろ、これだけ大規模な女生徒や女教師の監視と監禁施設だ。

 背景にいるのは、少なくとも学園規模の組織に決まっている。

 そうであれば、それを牛耳っているのが、一介の男子高校生であるというのはあり得ない。

 おそらく、玲子はその得体の知れない組織の中で、なんらかの役割を持っている女であり、真夫もまた役割を与えられて動いている少年だと想像していた。

 しかも、その上下関係は、玲子が上で、真夫はその管理下なのだろうと……。

 ところが、少なくとも目の前の真夫に対して、玲子は完全に支配される女になっている。

 真夫が玲子に告げた「奴婢の挨拶」という言葉に、玲子は嬉々として反応している。

 

「え、ええっ?」

 

 そして、玲子のスカートの中が完全に露わになった。

 彼女は下着を身に着けていなかった。また、彼女の股間は童女のそれのように、まったくの無毛だった。

 それだけでなく、すでに濡れている……。

 たっぷりと……。

 

 驚いて玲子の顔を改めて見る。

 上気して赤くなり、瞳を蕩かし、小鼻を少し膨らませた完全に淫情に襲われている表情だ。

 唖然とするしかない。

 氷のような冷徹さが印象のあの玲子が、まるで少女のように、真夫に劣情を向けているのであるのだから……。

 玲子が真夫に恋情を抱いているのは明らかだ。

 京子はびっくりしてしまった。

 

 そのとき、ふと違和感を覚えた。

 上方に機械音を感じたのだ。

 顔をあげる。

 

「えっ? きゃああ──」

 

 はっとした。

 京子は畳一畳分ほどの四周を天井と床を貫く鉄格子で囲まれているのだが、さらに二重に京子を囲むように、身体ひとつ分ほどの円形になっている十数本の鉄格子が天井から下降していたのだ。

 しかも、ゆっくりとだが、先端がすでに立ったときの京子の胸付近の高さまで降りている。

 

「えっ、なに?」

 

 京子は驚いて声をあげた。

 

「ほら、真っ直ぐに立つのよ、先生。この鉄格子もびりびり来るわ。そんな風に蹲ったままだと身体に当たっちゃうわよ」

 

 白岡かおりだ。

 真夫と玲子がいる場所とは反対側で、壁の操作具を動かしている。

 電流の流れる鉄格子を自由自在に増やせるとは知らなかったが、すでにそのときには、横に身体をどける余裕を失っていた。

 それでも、咄嗟に横に転がって、小さな円形の鉄格子に囲まれるのだけは逃れようと思った。

 

「逃げちゃだめ──。そのまま真っ直ぐに立ちなさい。床全体に電撃を流すわよ──」

 

 かおりが怒鳴り、恐怖で動けなくなる。

 とにかく、おりてくる新たな鉄格子に触れないためには、この場で真っ直ぐに立ちあがるしかなく、鉄格子に触れないように緊張しながら、注意深く立ちあがったときには、先端が床に到達して、鉄格子の小さな円の中に完全に囲み直されてしまった。

 また、鉄格子の先端が当たる部分がいつの間にか金属面に変わっていて、鉄格子が床まで届くと、ぶんという機械音が周りから流れた。しかも、金属面が薄っすらと色づく。

 鉄格子に電流が流れ出したのだと思って、ぞっとしてしまった。

 なにしろ、これまでとは異なり、前後左右の鉄格子との間隙は拳二つ分ほどしかない。

 ちょっとでも動けば、どこかの鉄格子に肌が触れそうで、京子は直立不動の状態から身動きできなくなってしまった。

 

「ひゃんっ、ああっ」

 

 そのとき、体勢が整うのを狙いすましたように、またもや股間の革帯の内側のディルドが大きな振動を開始してきた。

 乳首にぶら下がっている重みのある鈴もだ。

 ちりんちりんと恥ずかしい鈴の音が鳴りだす。

 思わず、がくんと膝を落としそうになり、鉄格子の存在を思い出して、必死にそれを我慢する。

 

「ふふふ、ちゃんと真っ直ぐに立つんですよ、先生。少しでも身体を揺らしたり、動かしたりすると、電撃ですからね」

 

 横に回ってきたかおりが長い棒の先に付いた鳥の羽根を鉄格子の隙間から差し込んできた。

 ぎょっとした。

 いつの間に、そんなものを準備したのだ──?

 

 それがさわさわと脇腹をくすぐる。

 後手に拘束されている京子にはそれを跳ねのけることはできず、しかも、周囲の電流の流れる鉄格子の存在が身体を避けることさえ許さない。

 

「ひああっ、や、やめて──、やめなさい──」

 

 思わず身体を反対側に避けそうになり、慌てて身体を硬直させる。

 電流の流れている鉄格子があるから、できるのは必死に耐えて身体を動かさないことだけだ。

 身動きすることができない京子の無防備な肌の上に、かおりが鳥の羽根で這い回させる。

 

「ああ、あんっ、ああっ、あああ……、お、お願い──許して──。は、羽根はやめてえ──」

 

 京子は身体をくねらせながら悲鳴をあげるしかなかった。

 

「ほらほら、頑張って、先生……。それとも、さっさと屈服してね」

 

 羽根が脇腹から太腿の横を撫で、次いで再び上にあがってきた。

 しかも、ディルドは激しく動き続けている。

 淫具の刺激と、羽根のくすぐりが混ざり合い、もうわけがわからない。

 強要される快楽から逃げようがないのだ、

 ただただ、刺激を受け続けるしかない。

 

「ああ、ああ、あああ──」

 

 一気に快感がせりあがり、絶頂感がまたもや襲い掛かる。

 力が抜ける……。

 だめえ……。

 

「ひああっ、あああっ」

 

 京子はとにかく、脚と腰に力を入れることだけを考えて、全身を上方に突っ張らせた。

 だが、またしても、絶頂寸前で振動が停止する。

 

「うくうっ、あんっ」

 

 あと一歩というところで炎のような官能の昂ぶりが下降していく。

 京子は切なさに、小刻みに身悶えをした。

 かおりがすっと鳥の羽根を引く。

 だが、すぐに前に回ってきて、正面側の鉄格子の隙間から京子の内腿のあいだに向かって、鳥の羽根を差し入れようとしてきた。

 

「ちょ、ちょっと──」

 

 慌てて開き気味だった両脚をぴたりと密着させて侵入を防ぐ。

 

「あれ? ガードが早いですね」

 

 かおりがくすくすと笑いながら、閉ざした腿の表面をさわさわと羽根でくすぐる。

 

「ひんっ、や、やめて──」

 

 身体を動かすことのできない京子は、懸命に身体を硬直させて、歯を喰い縛る。

 

「股は避けましたけど、ここは無理よね。じゃあ、こっちをくすぐってもいいですか、先生?」

 

 かおりの持つ羽根が腿からすっと上昇して、鈴をぶら下げられている乳首方向に向かう。

 京子は愕然となった。

 胸が信じられないくらいに敏感になっているのはわかっている。

 耐えられないかもしれない。

 

「や、やめて──。お願いよ──。も、もう立っているのがやっとなのよ──」

 

 京子は直接不動のまま絶叫した。

 かおりの操る羽根が胸の直前で止まる。

 

「ふふ、すごい悲鳴ね。でも、こうやって苛められると感じるんでしょう。お股がすごいことになってますよ」

 

 かおりが笑いながら鳥の羽根を鉄格子から抜く。

 なんのことかと思ったが、自分の下半身を見下ろすと、締めつけられている革の下着でも防げない垂れ流れる愛液が内腿を伝って膝からくるぶしまで届いるのがわかった。

 そのことを指摘しているのだと悟った。

 羞恥で身体が熱くなる。

 

「ひあああっ、あああっ」

 

 しかし、思念もそこまでだ。

 またもや股間のディルドが動き始めた。

 

「ああ、いやああ」

 

 京子は首を横に振って泣き声をあげた。

 

「……ふふふ……、先生、玲子と真夫を見てよ……。玲子が嬉しそうでしょう? あれ、股間の中に淫具を埋められているのよ。それを動かされているの」

 

 かおりが身体を正面から移動させながら言った。

 跪いた格好で自らスカートを捲っていた玲子だったが、いまは恰好は同じなのだが、口に真夫の股間を含んで性奉仕をしていた。

 それだけでなく、確かにスカートを捲って露出している内腿は、なにかに耐えるようもじもじとに淫らに動いている。

 しかも、陰毛のない股間だからわかるのだが、まるで緩んでいる水道の蛇口から水が漏れるかのように、真っ赤になって収縮する花芯から愛液が垂れ流れていた。

 その量に、京子は驚いた。

 

「わかります? あれが雌に堕ちた奴婢の姿ですよ。玲子だけでなく、みんな、真夫に堕ちてます……。玲子のほかにも、あいつの侍女の女子大生の恵……。生徒会長の絹香……。絹香の侍女の双子……。絹香の親友の明日香……。金城家のひかり……。あの美術部の変人の七生……。そして、柚子……。なんだかんだで、全員、納得して奴婢になって、あいつに仕えることに決めたんです。もちろん、わたしもです。そして、先生も選ばれたんですよ。よかったですね。先生は勝ち組ですよ」

 

「勝ち組って……」

 

 京子は当惑して、かおりに視線を戻す。

 すると、さっと、かおりの持つ鳥の羽根が鉄格子に入ってきて、無造作に鈴を横に弾いた。

 

「ひあああっ」

 

 ちりんちりんという鈴の音とともに、稲妻のような衝撃が走り抜けて、京子は身体をぐんと突っ張らせた。

 だが、辛うじて膝は崩さない。

 鉄格子に触れることで与えられる電撃の苦痛は、身に染みている。

 かおりがすぐに羽根を引いたこともあり、今度もなんとか身体を崩さないで済んだ。

 ただ、股間とアナルの淫具の振動は、まだ動いたままだ。

 電流の恐怖と気力だけで、脚に力を入れて身体を伸ばし続ける。

 

「玲子から眼を離しちゃだめでしょう、先生。ほら、真夫が犯しますよ。気持ちよさそうによがっているじゃないですか。一緒に堕ちましょうよ。真夫はなんだかんだで、女には優しいです。鬼畜で、スケベで、意地悪だけど、本質的には女を満足させるのはかなり上手です。そもそも、どうせ堕ちるんですから、さっさと屈してください」

 

 かおりの操る鳥の羽根が、ゆっくりと乳房の表面を動く。

 その刺激が股間で跳ねまわるディルドバイブの刺激と合わさり、京子を追い詰める。

 

「ああ、いやああ、あああ……」

 

 京子にはひたすら悲鳴をあげることしかできない。

 一方で、玲子と真夫について、玲子による口奉仕はいつの間にか終わり、玲子は真夫に向かってお尻を向けて、脚を開いて自分の足首を掴む格好をさせられている。

 およそ、女としては耐えられない屈辱的な恰好だと思った。

 その玲子を真夫が後ろからスカートまくりあげて犯し始めた。

 

「あっ、ああっ、ま、真夫様……。真夫様、あああ──」

 

 あっという間に、玲子はあられもない声をあげてよがりだす。

 ただ、不自然な姿勢を強いられているので、それを保つのが必死そうだ。

 いずれにしても、玲子は必死に前屈の身体を支えながら、歓喜の声をあげて激しく腰を動かしている、

 

 気持ちよさそうだ……。

 羨ましい……。

 自分も欲しい……。

 

 心の中で呟いてはっとする。

 なんという浅ましいことを……。

 

 そのあいだも、羽根とディルドの刺激が快感をせりあげ、さらに高みに京子を連れていく。

 

「んぐうううっ」

 

 京子は絶頂感に全身を震わせた。

 だが、またしても、ぴたりと振動が静止する。同時にかおりの羽根も引いている。

 

「もういやああ」

 

 京子は狂ったように身体を揺さぶって首を横に振った。

 一方で、鉄格子の向こうでは、玲子が明らかな女の悦びの姿を身体を震わせながら表していた。

 

「ほら、玲子さん、もっと脚に力を入れてください。そうですね。三回絶頂してください。三回目に合わせて精を注ぎます」

 

 真夫が玲子の腰を片手で支えながら、すっと親指を玲子のアナルに挿入したのがわかった。

 驚いたが、もっとびっくりしたのは、それに対する玲子の反応だ。

 一気に快感を上昇させ、あっという間に二度目の絶頂を晒したのだ。

 

「ひあああ、い、いきましたあ──。あ、あああっ──」

 

 だが、真夫の腰の動きは少しも緩まない。

 それどころか、さらに激しくなる。

 アナルに挿入した親指もうねうねと動かしているのがわかる。

 

「ひあああっ、ああ、ま、真夫様──真夫様──ああああっ」

 

「クリリングも、もう一度作動させます。しっかりと膝に力を入れてください」

 

 真夫がちょっとだけ動きを止めて、手を上衣の内ポケットに入れてなにかを操作すると、再び律動を再開した。

 

「あああっ、ああっ、そ、それは……。あああっ」

 

 玲子ががくがくと身体を揺らした。

 そして、大きく背中を逸らす。

 

「ほらほら、先生……。三回目の絶頂ですよ。羨ましいですよね?」

 

 ふつふつととろ火のような焦燥感の熱に灼かれている京子に、かおりが揶揄うような言葉をかけてきた。

 京子は歯噛みした。

 

「ひぐっ、ああっ」

 

 その瞬間、またもや、ディルドと乳首の鈴の振動が再開する。

 一瞬にして、なにも考えられなくなる。

 一気に快感が上昇していく。

 

「いぐううっ、真夫様あああ──」

 

「あああ、あん、あああっ」

 

 京子は大きな玲子の嬌声と合わせるように声をあげていた。

 頭が白くなる。

 今度こそ、いきそうだ──。

 京子は快感の津波に身をゆだねる。

 

「あああ、またああ──」

 

 ところがやっぱり、振動が直前で静止する。

 がくりと身体を脱力させる。

 

「ひああああっ」

 

 一方で玲子は三回目の絶頂を極めながら、真夫の射精を受けとめていた。

 真夫の身体の動きで、玲子の中に精を注いだのがわかったのだ。

 玲子が完全に身体を崩して前屈の姿勢を崩して、膝をおとした。真夫の怒張がすっぽ抜ける。

 驚いたことに、玲子はそのままじょろじょろと失禁を始めてしまった。

 

「先生、見ましたか? 真夫に完全に屈服すれば、あの快感が待ってますよ。早く、堕ちましょうよ……」

 

 かおりが鉄格子の中にまたもや羽根を差し込んで京子の全身をゆっくりと刺激する。

 京子は身体を突っ張らせた。

 

「ああ、や、やめてえ──。ど、どうして、あなたまで、こんなことをするんです──。あ、あたしにどんな恨みがあるというんですか──」

 

 京子は逆上して叫んだ。

 すると、かおりが羽根の動きを中断して、くすくすと笑った。

 

「先生に恨みなんてあるわけないじゃないですか。これから同じ奴婢仲間になるんですから」

 

「奴婢仲間って……」

 

「仲間ですよ。真夫は先生に目をつけて、もう奴婢にすることを決めたんです。だったら、先生には無理矢理にでも、あいつの奴婢になってもらわないと困るんです。それが、あいつが豊藤財閥の次期総帥になるための条件なんですから」

 

「はああ? 豊藤財閥?」

 

 京子は驚いた。

 もちろん、豊藤財閥という言葉は知っている。

 国内どころか、世界経済を動かすとも言われる歴史的な大財閥だ。

 ただ、その実態は謎に包まれていて、総帥と称される財閥のトップの正体もわからないという。

 まあ、京子が知っているのは、その程度の知識だが、その豊藤財閥がどうしたというのだ──?

 

「あいつは、豊藤の後継者候補なんです。筆頭の……。そして、正式の後継者となる条件が十人の奴婢を集めることらしいです。いま、八人。先生は九人目です。考えてくださいよ、先生。奴婢だろうと、性奴隷だろうと、豊藤財閥の総帥となるあいつの女になれるんですよ。こんな勝ち組ないじゃないですか。だから、さっさと屈服してくださいよ。変に抵抗して、あいつが総帥になれなかったら、わたしが困るじゃないですか」

 

 かおりが再び羽根で京子の身体をくすぐりだす。

 そして、もう数十回も繰り返されている淫具による寸止め責めも再開した。

 

「ああっ、あああっ、はああっ」

 

 京子は眼を見開いて絶叫した。

 また、せり上がるエクスタシーの大波とともに、たったいまのかおりの言葉を頭の中で反芻する。

 

 この真夫が謎に満ちたあの豊藤財閥の次期後継者候補──?

 信じられないが、合点がいくこともある。

 確かに、一介の高校生にしては、この真夫には圧倒的な存在感がある。夕べも、セックスのうえだとはいえ、京子は真夫に屈する言葉を口にしたのは事実だ。

 高校生とは思えない圧倒的なカリスマ性……。なによりも、なんかんだで不思議な魅力を持っているのは確かだ。

 これだけのことをされながら、心の底から彼を憎む気持ちにはなれない。

 どうしてなのかとは考えていた。

 

 本当に、この真夫があの豊藤の後継者候補──?

 しかし、そうだとすれば、この学園のそのものが、真夫の支配に陥っているというのはあり得るのか?

 豊藤というのは、それくらいの力があるということは耳にしたことがある。

 

「あぐうっ」

 

 そして、またしても絶頂寸前で寸止めになる。

 京子は焦燥感で頭が狂いそうになっているのを自覚した。

 

「さあ、先生、まだ一時間には早いですが、先生の番ですよ。犯してあげましょう。お待ち同さまでした」

 

 そのとき、下半身を露出したままの真夫が京子に声を掛けてきた。

 はっとした。

 真夫が壁の操作部に手を触れているのだ。

 一番近い円形の鉄格子だけでなく、動く床の運動を強制されていたときから囲まれていた鉄格子も天井に消えていっている。

 京子を監禁していた檻が消滅したのだ。

 

「かおりちゃん、玲子さんとのセックスで汚れた性器を掃除してもらおうか」

 

 その真夫がかおりに声を掛ける。

 ふと見ると、剥き出しの真夫の性器はねっとりと濡れ、薄っすらと湯気のようなものまで出ている。

 

「ほかの女の汁で汚れた性器をわたしに舐めさせるの?」

 

 かおりが嫌な顔になった。

 

「命令に逆らうの?」

 

「ふふ、逆らわないわ。喜んで」

 

 かおりが真夫の前に寄っていき跪く。

 一方で失禁をしていた玲子が自分が作ったおしっこの水たまりの上で、途方に暮れたように悄然となっているのが見えた。

 

 いましかない──。

 咄嗟に、京子は床を蹴った。



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 第159話 罪と罰

 京子は、玲子に跳びかかった。

 両腕は拘束されているが、両脚は自由になっている。空手で鍛えた京子の蹴りなら、一発で気絶させられる。

 残りは、真夫とかおりだが、いまここにいる三人の中で別格に強いのは玲子だけだ。

 京子のように多少の武芸を極めれば、立ち振る舞いでわかるものがある。

 真夫もかおりも素人だ。

 股間に挿入されている淫具を動かされてしまえば終わりだが、その前に片付ける。

 

「うああああ──」

 

 京子は自分を鼓舞するように叫び声をあげて、自分が粗相をしたおしっこの上で途方に暮れた感じになっている玲子に向かって踏み込む。

 次いで、ありったけの力を込めて、右脚を軸にして裸身を回転させ左足で玲子の後頭部──、延髄を狙ってまわし蹴りを放った。

 

「うわっ」

 

 玲子は完全に意表を突かれたみたいだ。

 咄嗟に腕で防ごうとするかのような反応を示したが、もう遅い──。

 蹴りが届く方がは早い──。

 京子は勝ちを確信した。

 

 しかし、京子にも誤算があった。

 右脚を軸にして大きく脚を回転させたとき、股間とアナルに埋まっているディルドと、クリトリスに接触している革帯の内側の突起が股間を擦りあげ、痺れるような刺激が局部に走ったのである。

 ついで、大きな乳房が揺れて、乳首に吊っている鈴を引っ張り、電撃のような疼きが胸に突き刺さる。

 上下からの快感が一気に全身を席捲し、半日の焦らし責めを受けて焦燥感で暴発しそうになっていた身体に襲い掛かった。

 

「あくうっ」

 

 蹴りが首に届く寸前に京子は体勢を崩してしまい、京子の蹴りは首ではなく肩に叩き込まれてしまった。

 力も十分じゃない。

 玲子が横に吹っ飛ばされたものの、それほどのダメージ出ないのは明白だ

 

「玲子──」

 

 かおりが悲鳴のような声をあげたのが聞こえた。

 一方で京子は失態に舌打ちした。

 一発で玲子を気絶させられなければ、股間のディルドを動かされて、それで終わりになる。

 あとはもう抵抗できない。

 

 どうする──?

 こうなったら、真夫を人質にとるか──?

 しかし、そもそもどうやって……。

 京子は蹴りを飛ばせる体勢で三人に向かって身構える。

 

「くっ、油断したわ……。さすがは、元全日本大会の優勝者ね……」

 

 玲子が立ちあがって、真夫たちと京子のあいだに立つ。

 

「えっ、この京子、そんなに強いの? 学生時代は陸上部じゃないの」

 

 玲子の後ろにいる真夫のさらに後ろに隠れているかおりだ。

 

「陸上は趣味のようなものね。実家は道場で、祖父の師範から物心つく前から英才教育を受けてたらしいわ」

 

 玲子が身構えながら言った。

 よく知っている……。

 京子が空手の猛者であることは、この学園においてはもちろん、大学時代の友人にも語ってない。ただ、いまでも実家での修練は続けているので、腕は落ちたとは思ってない。

 

「残念ね。ちゃんとした状況でお相手してあげたかったわ。でも諦めなさい。逃亡なんてさせるわけないでしょう」

 

 玲子がじわりと半歩身体を前に出す。

 だが、その玲子も、たったいまの真夫との性交の余韻のせいか、脚がふらついている感じた。息も荒く、肩を上下させている。

 これなら、いけるかも……。

 もう一発──。

 

「あああっ」

 

 だが、京子は悲鳴をあげて、その場に崩れ落ちてしまった。

 花芯とアナルのディルドがバイブレータになって激しく動きだしたのである。

 脳天を貫くような感覚によって、京子は膝からその場に崩れ落ちてしまった。

 

「あっ、ああっ、あああっ」

 

 立ちあがろうとしたが、いままで受けた振動とは次元が違う。

 腰にまったく力が入らない。

 しかも、かっと股間が熱くなる。

 

「ああっ、おわっ、あああ……」

 

 言葉を口にしようと思うが、口を開くと出てくるのは甲高い呻き声だけだ。

 京子は完全に身体を崩してしまい、肩と頭を床につけて、腰を上にあげた格好で動けなくなってしまった。

 

「残念でしたね、先生。でも、ここで俺たちを倒したとしても、脱出するのは不可能だと思いますよ。地下室内のすべての部屋は、指紋登録によるロックがかかってます。開錠するには、SS研のメンバーの誰かの指が必要です」

 

 真夫だ。

 首だけ動かして、彼を見上げる。

 手にスマホのようなものを持っている。それで京子のディルドを動かしたのだろう。

 

「あ、ああ、や、やめ……あが……はああ……」

 

 喋ろうとするのだが、激しい刺激のため、口を開くと甘い声しか出てこず、言葉にならない。

 

「先生が逃げようとしたことは怒ってません。でも調教中のことですから、罪には罰が必要です。実はディルドの中には媚薬がたっぷりと入ってるんです。いま、振動とともにディルドの表面から、先生の股間の中に媚薬液をまき散らしてます。多分、股間が熱いですよね。それがしばらくすると強い痒みに変わります。それが先生への罰です」

 

 真夫が淡々と語る。

 媚薬──?

 だが、確かに股間がどんどんと熱くなる。

 いや、股間だけじゃない。

 全身が熱い──。

 

「あ、ああ、な、なにを……うあっ──」

 

 京子は目を見開いた。

 ほとんど唐突という感じで、身体の芯にずしんと響いてきたのだ。

 痛い──。

 いや、痛いほどむず痒い感覚が一気に広がった。

 バイブの刺激と重なって、急激に全身の淫情が沸騰する。

 

「うあああっ、あああっ、ら、らめええ──」

 

 京子は、腰を自ら振りながら絶叫していた。 

 自制などできない。

 凄まじい快感が全身を圧倒する。

 

「もう大丈夫でしょう。先生も抵抗できないはずです。俺にはわかります」

 

 真夫の声が聞こえた。

 しかし、いまの京子にはどこか遠くの場所から聞こえる気がした。

 それどころじゃないのだ。

 

「も、申し訳ありません、真夫様。油断しました……」

 

 玲子が真夫に向かって小さく頭をさげたのが辛うじて視界に入る。。

 

「いえ、思ったよりも、京子先生に体力があることに驚きました。そして、まだ抵抗の気力があることにも……。かおりちゃん、先生の両脚をこのまま固定してくれ。棚に拘束棒がある」

 

 真夫が言った。

 

「はーい。玲子、ちゃんと押さえておいてね。真夫とのセックスで呆けていたのかもしれないけど、もう失敗しないでね」

 

「わ、わかっているわよ」

 

 玲子がちょっとむっとした口調で京子に近づく。

 

「いや、失敗じゃない。わざと隙を作ってみせた。本当に逃亡を図るとは思わなかったけどね。まあ、これも調教の一環だよ」

 

 真夫だ。

 調教の一環──?

 わざと隙を示した?

 なにを言っているのかわからないが、もう思考することもできない。

 淫具の刺激が激しさを増す。

 いよいよ快感が極限を突き抜ける。

 

「あああ、いやああ、ああああ」

 

 身体ががくがくと震える。

 一方で、玲子が京子の身体を上から押さえたのを感じた。

 両方の足首の一点を握られた。

 なぜか、途端に脚の力が抜けた。

 今度こそ、拘束されれば終わりだ。

 京子はもがこうとするが、下肢からは力が抜けていている。

 そこに、全身を異様な戦慄が駆け抜け散っていく。

 アナル、局部、乳首、クリトリスの全ての性感帯が激しくバイブレーションにより刺激を受けているのだ。

 

「あああっ、ああっ、あっ、ああああ──」

 

 そして、絶頂感がやってきた。

 振動は続いている。

 京子は蹲ったまま、全身を震わせて背中をのけ反らせた。

 

「はがあああ──」

 

 だが、その瞬間、股間に電撃が流れて、頭が真っ白になる。

 そういえば、寸止め装置とやらの計測具が頭に巻きついたままだ。これは絶頂感覚を計測して直前に淫具の動きを止めるわけでなく、強制的に電撃を流して無理矢理に絶頂感をキャンセルもさせるのだと思い出した。

 一度、それで股間に電撃を流されて、悶絶しそうになったのを覚えている。

 それが作動したのだと思った。

 しかも、振動は続いている。

 そのためかわからないが、そのときには一瞬で終わった電撃が流れ続けている。

 

「ひがあああ──」

 

 続いている電撃のショックで身体がびくんびくんと跳ね、大きく仰向けにのけぞった。

 気が遠くなる──。

 

「あがああ、や、やめてええ──。ああああ、あがあああ──」

 

 京子は獣のような声をあげて全身を突っ張らせた。

 電撃は終わらず、振動も続く。

 途方もなく巨大なものが京子の身体を席捲した。

 

「んぐうううっ」

 

 凄まじいほどの絶頂感が京子の身体を突き抜けていった。

 同時に、そのまま京子は意識を失ってしまった。

 

「あら、この先生、おしっこ漏らしちゃったわ。貞操帯がべちょべちょ。おまけに電撃を股に流されたまま絶頂したみたい。器用ねえ……」

 

 呆れたようなかおりの声が耳に入ってきた。

 

「先生、逆らえば罰……。それを身体で覚えてください」

 

 意識を失う直前に聞こえたのは、真夫が妙に優し気な口調で語るその言葉だった……。

 

 


 

 

 闇の底から京子は目を覚ました。

 どのくらい気を失っていたのか……?

 ディルドから電撃を流されて、さらに絶頂の衝撃により、京子が気を失ってしまったのは辛うじて記憶している。

 ほんの一瞬前のことだった気がするのだが、失神していたのはほんのちょっとの時間だったのだろうか?

 

「んがあっ──」

 

 しかし、次の瞬間、強い痒みが腰から背骨にかけて込みあがり、すぐに全身を衝撃が貫いた。

 痒い──。

 股が──。

 京子はわけもわからずに、必死になって腰を振り動かした。

 

「んんっ、んぐっ、あがっ、がっ」

 

 だが、口の中には球体のようなものが押し込められていて、舌が動かず言葉を喋ることができない。おそらく、ボールギャグというものだろう。

 しかも、京子の首には首輪がかけられているだけでなく、その首輪が床に鎖で繋がっているらしく、顔を数センチ以上離すことができないでいた。

 身体はうつ伏せになっており、膝と足首のあいだに棒上のものが挟まれている感触がある。そして、その棒状の拘束具もまた、鎖のようなもので床に繋がれている。

 両腕は相変わらず背中で括られている。

 つまりは、京子は口にボールギャグを嵌められて、高尻の姿勢で床に下半身と首を繋がれているのだ。

 

 それはともかく、人の気配がない。

 襲い掛かる痒みに狂いながら、必死に床に繋がっている顔を巡らす。

 拘束されているのは、最後に暴れたあのSS研の地下の調教室だ。変わってない。

 ただ、真夫もかおりも玲子も、別の部屋にいるのか、どこにもいない。

 

 そして、部屋の隅に二本のディルドが突き出た革の下着と、玲子の乳首にぶら下げられていた鎖付きの鈴が二個、無造作に置かれているのが見えた。

 鈴はともかく、ディルド付きの下着は大量の体液でねっとりと汚れている。

 あれは、京子から外されたもの?

 そういえば、股間とアナルに挿入されていたディルドの感覚がない。

 だが、だからこそ、脚を開いて拘束されている京子には、ほんの少しも痒みを癒す手段がなく、京子は必死になって身体をもがかせた。

 

 そのとき、がちゃりと部屋のどこかの扉が開いて、後ろ側から誰かが入ってきたのがわかった。

 

「んがあああ──」

 

 京子は吠えるように絶叫した。

 

「どうですか、京子先生? 真夫から伝言ですよ。逃亡の罰として、しばらく放置だそうです。あいつがディルドからまき散らした分だけじゃなく、さらに掻痒剤を先生の股間に塗り足してたから痒いと思いますが、仕方がないので我慢してくださいね。真夫もそのうち来ると思います、でも、気紛れですからね。もしかしたら、明日の朝まで来ないかもしれません」

 

 京子の頭側にやって来たかおりが京子を見下ろして言った。

 冗談じゃない。

 このまま放置など本当に狂ってしまう。ましてや、朝までなど……。

 

「んぐううっ、んがあああ──」

 

 京子は懸命に無理だと訴えた。

 

「まあ、これに懲りたら、もう、あいつには逆らわないことですね。あいつって、人当たりは優しいですけど、結構、容赦ないですよ。しかも、なにかにつけ、受け入れることができない命令を与えて、それに逆らうことで罰を与えるんですから……。まあ、そのうち、先生もわかると思います。もしかしたら、罰を与えられることが病みつきになるかも……」

 

 かおりがくすくすと笑う。

 

「んんんんっ、ああああっ」

 

 痒みはずきんずきんと腰から全身に突き刺さる。

 京子は暴れながら、あまりの痒みにぼろぼろと涙をこぼした。

 

「じゃあ、伝言は終わりです。それと、これは助言ですけど、次に真夫がやってきたら、全力で媚びた方がいいですよ……。それと、もうひとつ言っておきますけど、多分、先生はあいつが罰を与える口実を作るために、隙を作られたんだと思いますね。次に同じとことをすれば、もっと重い罰が待っているだけです。先生は真夫の手のひらで踊らされているだけということを知った方がいいです……。じゃあ、先生、わたし、今日は語学教室の日なんで帰りますね」

 

 かおりがそう言い残して立ち去っていく。

 すぐに背後で扉が閉じる音がするとともに、部屋の照明が消えて、真っ暗闇になった。

 まさかと思ったが、本当に人の気配が完全になくなってしまった。

 

 痒い──。

 痒い──。

 痒い──。

 

 気が狂うような股間の痒み──。

 京子は口の中のボールギャグを砕かんばかりに噛みながら、力の限り腰を振りながら日吠えるような声で号泣した。



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 第160話 二日目夜・助手交替

 つんという刺激臭で京子は目を覚ました。

 はっとした。

 また、気絶していた──?

 

 朦朧としていた意識がだんだんとはっきりと覚醒してくると、一気に猛烈な痒みが股間から襲い掛かってきた。

 

「ああっ、痒い──」

 

 京子はなにも考えずに、股間を掻きこすろうと思った。

 発狂するほどの掻痒感が股間から全身に突きあがる。

 辛うじて記憶が蘇る。

 そういえば、京子はSS研の地下に監禁され、逃亡を図ろうとした罰として、床に高尻の姿勢で拘束されて、掻痒剤の媚薬を股間に塗られて放置されたのだった。

 そのままひとりにされ、地獄のような痒みで失神し、そして、股間の痒みで覚醒するということを幾度か繰り返したと思う。

 そして、いま、再び意識が呼び起こされたのだ。

 

「ああ、いやあっ」

 

 ところが、股間に持っていこうとした両手は頭の上にあったまま鎖で阻まれてしまった。

 それで気がついたが、直前に失神したときと態勢が変わっている。

 棒状の拘束具で膝と両足首を挟まれて両端の枷で開脚拘束されているのはそのままだが、後手に革帯で拘束されていた両腕は、いまはそれぞれに手首に革枷を嵌められて、二本の鎖で天井から吊り上げられていた。

 また、口に嵌っていたボールギャグはない。

 

 つまりは、京子は今度は脚を開いて床に跪いた格好で、両手を上にあげた状態にされているのだ。

 いま、咄嗟に股間に持っていこうとした腕は、天井から繋がる鎖で阻まれたというわけだ。

 

「気がつきましたか、京子先生。はじめましてですね。朝日奈(あさひな)(めぐみ)といいます。真夫ちゃんの奴婢のひとりです。よろしくお願いします。これから、真夫ちゃんに仕える仲間ですね。仲良く頑張りましょう」

 

 下着姿の女性がくすくすと笑いながら、京子の横に屈みこんでいる。

 初めて見る顔だ。

 可愛らしい顔をした若い女性である。

 朝日奈恵──?

 

 記憶が呼び起こされる。

 確か、編入とともに坂本真夫が連れてきた従者女性だ。学園への入寮早々、男子生徒に襲われる災難にあったが、それも落ち着き、学園から毎日のように近傍の教育大学に通っている女子大生のはずである。

 美人で可愛いだけでなく、スタイルもいい。

 しかも色っぽい。

 白い紐パンとストラップのない真っ白なブラジャーだけの姿だが、女の京子でも圧倒されるような妖艶さも感じる。

 この人が、生徒たちが「新四菩薩」とか言って噂にしている女性なのかと思った。

 

 だが、そんなことはどうでもいい──。

 いまは、この突き抜けるような股間の痒さだ──。

 

「ああ、痒い──。痒いの──。お願いします。拘束を解いて──。お願いします──」

 

 京子は腰を激しく動かしながら悲鳴をあげる。

 だが、脚を開いて跪かされて拘束されているので、股間をこすり合わせることさえできない。

 覚醒とともに大きくなる掻痒感は、切実に京子の神経を狂わせている。

 

「それは無理ですね、京子先生。これは罰ですから」

 

 部屋の隅から男の声がした。

 真夫だ。

 すぐに首を向ける。

 真夫が壁際に置いた椅子に腰掛けて、脚を拡げて座っていた。

 そして、その股のあいだには、ショートカットの女性が跪いていて、顔を真夫の股間に密着させている。

 どこかで見た気がするが、後ろ姿だけではわからない。

 だが、その女性、あるいは少女が真夫の股間を口で奉仕しているのは間違いなさそうだ。

 

「ああ、さ、坂本君──。か、痒いの──。もう許して──。お願いいよ──」

 

 京子は鎖を引き千切らんばかりに、拘束されている身体を暴れさせながら叫んだ。

 

「もう少し待ってください、先生。そこで、じっと待っていてください」

 

「む、無理よ──。もう我慢できないの──」

 

「でも我慢するしかないですね。ところで、どこが痒いんですか──?」

 

 惚けたような真夫の口調に、京子はかっと腹がたつ。

 眉をひそめながら声を絞り出す。

 

「こ、股間です──。わ、わかっているでしょう──」

 

「わかりませんね。あさひ姉ちゃん、股間が痒いそうだよ。掻いてあげて」

 

 真夫だ。

 横に立っている恵さんが「はい」と返事をして、京子の前に屈みこんできた。

 “あさひ姉ちゃん”というのは、この朝日奈恵さんのことのようだが、それはともかく、彼女の手がすっと京子の股間に伸びてきた。

 そして、すっと股間の付け根を手のひらで軽く撫でた。

 

「はあああっ」

 

 京子はもどかしさに腰をほとんど無意識に前に突き出す。

 なにしろ、恵さんの手は、本当に痒い女芯やクリトリスを避け、そのちょっとぎぎりぎりのところを軽く撫ぜただけだったのだ。

 むしろ、痒みが増大する。

 

「ああ、そんなあ──。も、もっと強く掻いてください──。それと、ちゃんと股を掻いて──」

 

 京子は腰を突きあげたまま泣き叫んだ。

 だが、股間を近づける京子の嘲笑するかのように、恵さんはそのまま手を遠くにやってしまう。

 

「ちゃんと股を掻きましたよ。ちゃんと掻いて欲しければ、その場所を正確に口にするんです。どのくらいの強さで、どこを掻いて欲しいのか。それを真夫ちゃんに伝えるんですよ……。こう言うんです……」

 

 恵さんがくすくすと笑いながら、耳元で言葉をささやく。

 京子はかっと身体が熱くなる。

 

「そ、そんなこと……」

 

「だったら、いつまでもそうやって、腰を振り続けるしかありませんね。あたしも真夫ちゃんも、先生の言葉のとおりにしかしてあげませんよ。言えないなら、ずっとそのままです」

 

 恵さんが言った。

 微笑んでいるが、その表情と雰囲気に、ぞっとするほどの酷薄さと怖さを感じてしまった。

 何者なの、この人──?

 京子は、なぜか、目の前の朝日奈恵という女性に圧倒されてしまう。

 

「先生、あさひ姉ちゃんの伝えた通りです。どこをどうして欲しいか、ちゃんと口にするんです。話はそれからですね。今度は先生が素直になれるように調教していきます」

 

 真夫だ。

 

「そ、そんな……」

 

 痒みに歯を喰い縛るようにしながら、京子は呻いた。

 そんな恥ずかしい言葉を生徒に口にするなど……。

 

「あら、素直にはなれませんか、先生? じゃあ、お股だけでなく、乳首にも塗り足しましょうね。痒みクリームはいくらでもありますから」

 

 すると、恵さんが銘柄のないチューブをとりだした。

 驚愕した。

 掻痒剤を乳首に塗り足すなど……。

 京子はぞっとなる。

 

「お、おまんこです──。おまんこが痒いんです──」

 

 慌てて叫ぶ。

 それが、さっき恵さんに耳元でささやかれた言葉なのだ。

 

「はい、よくできました、先生」

 

 恵さんが笑いながら、チューブを引っ込める。

 それだけは、ほっとした。

 

「ははは、だんだん素直になれましたね。じゃあ、待っていてください」

 

 真夫が自分の股間で頭を動かしている少女の頭を持った。

 そして、突然に荒々しく彼女の頭を前後に動かし、自分の腰をそれに合わせて前後に振る。

 

「んぐっ、んげっ、がっ」

 

 彼女が苦しそうに呻いた。

 その彼女の口の中に真夫が精を放ったのがわかった。

 

「全部、吞みなさい、明日香。一滴もこぼさないのよ」

 

 恵さんがその鋭く女性に声をかける。

 

「んはっ、はい──。んぐ、ぐっ」

 

 真夫の前に跪いている女性、多分、少女だと思うが、恵さんの言葉に急に緊張の態度を示して、跪いたまま背を伸ばして、懸命になにかを咀嚼する態度を始める。

 口に射精された真夫の精液を飲んでいるのだ……。

 それはともかく、明日香って……?

 

「……はあ、はあ、はあ……。ぜ、全部、吞みました、真夫さん、恵様」

 

 その女性が息を荒げながら言った。

 京子は訝しんだ。

 もしかして……。

 

「ご苦労さん、明日香ちゃん。じゃあ、先生に挨拶だ……。先生は知ってますよね、前田明日香ちゃん。今日も、明日も、地区の女子サッカーのリーグ戦だったんですが、初めての先生の調教ということで、ちょっとだけ応援に来てくれたんですよ」

 

 真夫が言った。

 そして、前田明日香と紹介された彼女が振り返る。

 

「えっ、や、やっぱり、あなたも?」

 

 京子は、振り返って京子に顔を示した女子サッカー部のエースの姿に愕然としてしまった。

 

「え、ええ、先生。あたしもSS研です……」

 

 明日香が俯き加減に言った。

 それよりも、京子は明日香の姿に絶句してしまった。

 下着姿の恵さんとは異なり、明日香は全裸だった。

 しかも、さっきまで真夫の股間で踞っていたのでわからなかったが、明日香の上半身には菱形に編まれた縄が絡みついていて、二の腕とともに縛られているのだ。

 

「じゃあ、明日香、先生はおまんこが痒いそうよ。これで掻いてあげなさい。綿毛の方でね」

 

 すると、恵さんが横のトレイからなにかを取り出して、明日香に歩み寄って渡す。

 二の腕までは縛られているが、肘から先は自由な明日香がそれを受け取り、やっと恵さんがなにを差し出したのかわかった。

 

 一本の耳掻きだ。

 

「ごめんなさいね、先生……。でも、多分、後悔はしないと思います」

 

 そして、明日香が寄ってきて、耳掻きの白い綿毛の方で京子の股間をくすぐりだした。

 

「ひいいいいっ」

 

 京子は全身をひきつらせた。



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 第161話 素直になるまで…プレイバック

「ひあああっ」

 

 京子の横に立つ恵さんの命令により、明日香が京子の股間の前に身体を屈める。

 そして、羽毛のように柔らかい耳かきの穂先で、ねっとりと濡れ開いている京子の肉襞を下から上、上から下にと繰り返し掃き始めた。

 

「ああっ、あっ、ああっ、いやあ──」

 

 触れるか触れないかという微かすぎる刺激だが、媚薬でただれるような痒みに襲われている京子には、とても耐えられるような刺激ではなかった。

 天井に吊り上げられている両手と、膝と足首のそれぞれを棒状の拘束具で開脚拘束されている裸身を、京子は狂ったように揺すった。

 だが、天井と鎖で繋がっている両手だけでなく、膝と足首のあいだの棒自体も湯かと留め具で接続してあるようだ。

 それほどは大きく動かない。

 

「敏感ですね、先生。真夫ちゃんは敏感な子が好きだから、きっと可愛がってくれますよ」

 

 恵さんが京子の背中側に回ったのがわかった。

 次の瞬間、すっと柔らかいものが背中の筋を撫で落ちていく。

 

「ひいいん」

 

 恵さんが持っていたのは筆のようだ。

 それが背中から這いおりて、お尻の亀裂を撫で擦る。

 

「ひあっ、そ、そこは、いやああっ」

 

 京子は拘束されている身体を弓なりにして、腰を前に突き出すようにして、お尻を動く筆を避けようとした。

 しかし、前からは、明日香が耳かきの綿毛で股間をくすぐっている。反射的に腰を引く。すると、アナルに恵さんの筆が襲い掛かり、お尻の穴の表面を繰り返し筆先で刺激してくる。

 

「ひああっ、ああっ、ああっ」

 

 京子は腰を退げることもできず、前に出すこともできず、前後から執拗に責められて、全身の毛穴からどっと汗を吐き出しながら、激しく裸身を揺すりたてた。

 

「あさひ姉ちゃん、先生はおっぱいが弱点だ。クリトリスと同じように感じるんだ。そこも責めてあげてよ」

 

 真夫は、京子の正面の位置する椅子に座ったままだ。ただ、いつの間にか下半身にバスタオルを巻いていて、手摺りに肘を置いて、ふたりの少女に責められる京子の痴態を微笑ながら観察している。

 かっと羞恥が込みあがる。

 

「そうだったわ。確かに、物欲しげに硬く膨れあがってますね」

 

 恵さんの筆が背後から右の胸に当てられ、筆の穂先で丸い円を描くように、尖りきっている京子の乳首をすっすと掃く。

 

「きゃん」

 

 京子は奇声をあげて、全身を筆の反対側に跳ねさせた。

 ところが、恵さんはもう一本筆を持っていたらしく、反対の乳首にももう一本の筆を襲い掛からせた。

 

「ひああっ、ひゃああ」

 

 両方の胸に二本の筆──。

 股間には柔らかな、耳かきの穂先──。

 京子は右に左に、上に下にと、狂ったように拘束されている身体を跳ねさせながら、身体から噴きあがる疼きのあまりの甘美さに、我を忘れそうにならざるを得なかった。

 

 どうしてこんなに感じてしまうのか──?

 昨日からこのSS研で拷問まがいの性の責めを受け続けながらずっと思っていたが、あまりにも自分の反応が敏感すぎる。

 そもそも、こんな風にあられもない声を大声で叫ぶなど、あり得ないのだ。

 だが、筆と耳かきによる微弱な刺激なのに、それが身体に当たるたびに、電撃のような快感の衝撃が全身に迸る。

 

 これは、京子の身体が引き起こしていることなのか──?

 それとも、媚薬のせいか──?

 とにかく、これほどの快感が世の中にあるとは思わなかった。

 

「感じてますね、先生……。素直になることです。それですべてが変わりますよ……。明日香ちゃん、耳かきはいい。あさひ姉ちゃんと同じように、筆で責めてやって。先生の真っ黒な陰毛を筆ですいてあげてよ」

 

「わかった」

 

 明日香が一度耳かきを横のトレイに置き、そこから新たに筆をとる。

 どうやら、そこに京子を責める道具がたくさん準備されている気配だ。

 すぐに、明日香による股間への筆責めが始まる。

 

「ああっ、いやあっ、もっと近くを──」

 

 ところが、明日香の筆責めは、局部そのものではなく、真夫の指示により、周囲の陰毛──つまりは、局部の周りに対するものに変化したのだ。

 これは堪らなかった。

 痒みに襲われている場所を避けて、その周りをくすぐられるというのが、こんなにも気が狂うほどの苦しみだというのは、やられてみて知覚した。

 

「近くとはどこですか、先生? いまの責めのテーマは素直になることです。素直に場所を明日香ちゃんに指示してください」

 

 真夫だ。

 そのあいだも、明日香の筆は陰部の周囲だけをくすぐり続ける。

 痒みと疼きはどんどんと膨れあがるばかりだ。

 

「ほら、先生、明日香に向かって、もっと腰を突き出してくださいね」

 

 恵さんが乳首責めをやめて、再びアナルの表面に筆先を集中させる。

 しかも、筆は一本に戻ったものの、空いた手で京子の尻たぶを掴んで横に開くようにして、剥き出しにたアナルを執拗に筆で刺激してくる。

 

「あひいっ」

 

 思わず、前に腰を突き出す。

 でも、どうしても、明日香は筆を局部から避けてしか刺激してくれない。

 焦らされる渇望感に、京子は髪を左右に振り乱して泣き声をあげてしまう。

 

「ああっ、あひいっ、あ、明日香さん──。そ、そこじゃなくて、お、おまんこを……。おまんこを擦って──。い、いえ、筆じゃなくて、もっと強い刺激を──」

 

 京子はついに叫んだ。

 教え子である女生徒に、そんな恥ずかしいことを哀願するなど教師として失格だと理性ではわかっているが、この股間の痒みはとてもじゃないが、理性や教師としての誇りなどではどうすることもできない。

 恥ずかしい言葉を使わないと、許してもらえないというのもわかってしまった。

 

「ははは、やっと言えましたね。なら、俺がしてあげましょう……。でも、その前に、明日香ちゃんについてはご苦労だったね……。ご褒美だ……。先生はちょっと待ってください」

 

 すると、ずっと見守る感じだった真夫が立ちあがって歩み寄ると、ぽんと明日香の肩を叩いた。

 明日香が心なしかほっとしたように立ちあがる。

 すると、真夫に向かって振り返った。すると、真夫がその明日香をいきなり抱きしめた。

 

「あっ、あんっ、ま、真夫──」

 

 途端に、明日香がびくりと身体を震わせて、真夫に身体を預けるようにしだれかかる。

 急に身体を崩したので、なにをどうされたのかわからなかったが、すぐに、明日香を抱きしめた真夫が片手を明日香のお尻に添えて、いきなり指でアナルをまさぐりだしたというのがわかった。

 それだけではなく、もう一方の手も前側から明日香の股間で動いているようだ。

 つまりは、明日香は、真夫に前後から股間とアナルを指で刺激されているのだ。

 

「あん、あっ、ああっ、か、感じる──。ま、真夫──、感じる──。感じます──。あ、ああっ」

 

 明日香の身悶えが大きくなる。

 しかし、それはともかく、溜まらないのは京子の方だ。

 掻痒感に苛まれていた花芯は、明日香に刺激を受けることで辛うじて、痒みの苦しみを耐えていたのである。

 それがやめられたことで、途端に痒みが数倍の勢いで増大する。

 あんな刺激でもなくなることが、こんなに苦しいとは思わなかった。

 しかも、恵さんもまた、筆責めを中断してしまったのだ。

 

「あん、いや、やめないで──。か、痒いの──。さ、坂本君──。いえ、恵さん──。お願い、やめないで──。お、おまんこです──。おまんこを触って──」

 

 京子は、四肢を拘束する鎖や棒枷を引き千切らんばかりの激しさで身悶えさせた。

 もはや、はしたない言葉を口にすることも躊躇は消えていた。

 

「ははは、ちょっと待ってください、先生。先生は明日香ちゃんを慰めた後ですよ……。明日と来週は大事なリーグ戦の大会なんです。だから、応援してあげないと……。それに、さっきは、同じように先生の前で玲子さんを責めたら、隙を見て逃亡を図ろうとしましたからね。こうやって待つのも、先生への罰ですよ。そのままお預けです」

 

 真夫が立ったまま明日香を抱え、両手で明日香を責めながら。ちらりと京子を見る。

 しかし、すぐに明日香に意識を戻してしまう。

 

「あああ、痒いい──。痒いいい──」

 

 京子はあまりもの股間の痒みに、全身を悶えさせた。

 もしも、拘束されてなければ、自ら股間を掻きむしっただろう。

 そんなことも頭にかすめるほどの激烈な痒みだ。

 

「ふふふ、真夫ちゃんにお預けを喰らったんなら、仕方がないですね。でも可哀想なので鎖を緩めてあげましょうか? 左手だけですけど……。でも、耳にしたんですけど、さっきは、それで暴れ出したんですよね。だったら、緩められないか」

 

 恵さんが横からささやいた。

 腕を緩める──?

 まさか、自分でこすれと──?

 それを頭によぎらせたのは確かだが、本当に自分でするなど……。

 でも、躊躇は束の間だった。

 我慢は限界だ。

 

「緩めてください──。お願いします──」

 

 京子は叫んだ。

 

「わかりました、先生」

 

 恵さんがトレイに手を伸ばした。

 天井で小さな機械音がして、上方に引っ張られていた左腕側の鎖が緩んだのがわかった。

 トレイの上に操作具があったようだ。

 すぐに、京子は左手を股間に持っていった。

 ところが、まさに股間に指先が届くと思った瞬間に、鎖が伸び切ってしまい、左手をさげるのを阻まれてしまった。

 鎖を緩めたとはいっても、ぎりぎり届かない長さの分しか緩めなかったのだとわかった。

 京子は口惜しさに歯噛みした。

 

「あああ、意地悪うう──。こ、こんなのないい──」

 

 京子は必死になって左手を引っ張りながら、腰を上に動かす。

 でも、届かない。

 京子の左手は、下腹部の手前で宙を掻くように動くだけだ。

 

「駄目ですよ、先生。先生のおまんこは、真夫ちゃんのものです。許可をするのは胸までです。胸を揉むといいですよ。少しは苦しさも紛れるかもしれません」

 

 恵さんだ。

 なんという意地悪──。

 でも、このままじゃあ狂ってしまう。

 京子は自分の手で、乳房をすくいあげて、ぎゅうぎゅう指を喰い込ませる。

 

「はうんっ」

 

 目も眩むほどの快感が沸き起こった。

 それが股間の痒みをほんの少しでも紛らすならと、京子は必死になって胸を揉む。

 これまでのひとりきりの自慰では味わえなかったほどの、峻烈な快感が全身を貫く。

 やっぱり、自分はマゾなのか──。

 だから、こんなに感じるのか──?

 そんな思いも、頭をよぎる。

 

 一方で、真夫と明日香は、目の前で堂々とセックスを始めてしまった。

 二の腕と上半身を亀甲縛りで括られている明日香が床に仰向けになり、M字に開脚した脚のあいだに、真夫が身体を入れて上から被さる。

 すぐに挿入し、明日香が身体をブリッジのように弓なりにして、嬌声をあげる。

 

「ああ、あん、ま、真夫──。か、感じる──。感じる──、あああっ」

 

 しばらく律動が続くと、明日香の反応が激しくなり、自ら腰も使い出した。

 京子はそれを視線の先に置きながら、自分の胸を揉んで悶え続ける。

 でも、痒みは小さくならない。

 むしろ、ほかの場所に刺激を受けることで、一層痒みが強くなる感じさえする。

 掻きたい──。

 股を掻きむしりたい──。

 京子は、誰も触れてくれない腰を狂ったように振った。

 

「いく、いく、いく──。真夫、いくう──」

 

 一方で、真夫に抱かれている明日香は、緊縛されている身体をがくがくと振って突っ張らせた。

 そして、彼女が極まって脱力するのに合わせて、真夫が明日香に精を放つのがわかった。

 

「あおお、おおっ、んおおおっ、おおおっ」

 

 そして、京子もまた自分の胸を愛撫しながら、右腕を完全に吊られたまま、やや身体をやや前に倒して、がくがくと震わせた。

 達したのだ。

 

「ふふ、満足ね、先生」

 

 すぐにがらがらと鎖が引きあがり、再び京子は両腕を上方に吊り上げる格好に戻された。

 胸で極めたとはいっても、股間の痒みが少しでも癒えたわけではない。

 股間は相変わらず、いや、それ以上の強さで掻痒感の苦悶を噴きあげ続けている。痒みの熱で股間そのものがただれていくようでもあった。

 

「ああ、まだ、まだよお──」

 

 京子は泣き叫んだ。

 

「明日香ちゃんはこれで終わりだ。もう少し苛めてあげたいけど、明日の試合に差しさわりがあるといけないからね。試合は午後からと聞いたから、この京子先生を連れて応援に行くよ」

 

「本当か──? わかった。頑張るよ」

 

 肩で息をする明日香は、上体を真夫に抱えあげられた。その明日香を縛っていた上半身の縄を真夫が解き始めた。

 それはともかく、京子を試合の応援に伴う──?

 ちょっと怪訝に思った。

 

「勝ったら、ご褒美に特別な責めをしてやるよ。掻痒剤を塗って三角木馬責めだ。でも、万が一負けたら、利尿剤を飲んでおしめをして、月曜日の授業に参加してもらう。授業中におしめにおしっこをしてもらうからね」

 

 真夫が笑う。

 なにそれ──?

 京子は痒みに苦しみながらも、ふたりの会話に首を傾げたくなった。

 

「な、なんだ、それ──。両方とも罰じゃないか。そんなのないですよ、真夫──」

 

 当然ながら明日香は、顔を真っ赤にして抗議の声をあげた。

 

「まあ、よかったわね、明日香。だったら、頑張らないと」

 

 恵さんも笑い声をあげた。

 

「い、いや、待ってください──。勝ったときのご褒美がひどいです」

 

 明日香が恵さんの言葉に、ちょっと顔色を変えたのがわかった。

 どうやら、明日香はこの恵さんが少し苦手みたいだ。

 

「そうか? 柚子は月曜日の小試験で満点だったら、木馬責めを体験したいと言ってきたよ。一緒にどうかと思ったんだけどねえ」

 

 真夫だ。

 

「あ、あんな変態と一緒にしないでください、真夫──。だったら、ご褒美は恵さんがいいです……。恵さんにふたりきりで責められたい……」

 

 すると、明日香が再び顔を真っ赤にして言った。

 えっ……?

 京子はちょっと唖然となった。

 

「まあ、あたし? 真夫ちゃんじゃなく?」

 

「め、恵さんがいいです。一度、お願いします……。真夫もいいけど、できれば、恵さんと……」

 

 明日香がちょっと小さな声で恥ずかしそうに言った。

 真夫と恵さんが一緒に声をあげて笑う。

 

「わかった。勝ったらね。あさひ姉ちゃん、頼むよ。うんといじめてやって。俺からもお願いするから」

 

 真夫が笑いながら言った。

 

「わかりました。真夫ちゃん一筋だけど、女の子の相手も得意よ。覚悟してね。もちろん、試合には勝ったらだけど」

 

「が、頑張ります──」

 

 明日香は真っ赤な顔で力強く応じている。

 そして、明日香が立ち去った。

 部屋は真夫と恵さんと京子の三人になった。

 

「……さあ、お待たせしました、先生」

 

 京子の正面に、真夫が仁王立ちになった。

 明日香との性交の直後なので、真夫は全裸のままだ。

 股間では、たったいま性交を終えたばかりの男根が明日香の体液をまとったままそそり勃っている。

 京子は思わず息を呑んだ。

 

「さて、先生の腰振りダンスを見物しているのも悪くないですが、痒みも限界でしょうし……。だから、やり直しです……。いま、先生は拘束されてます。その掻痒剤は効くでしょう? 昨日で認識したと思いますが、その痒みは俺の精を注がれることでしか解決しません。さあ、どうしますか? 先生の望みを口にしてください。その通りにしてあげましょう。ただし、拘束を解いてくれというのは、なしです」

 

 真夫が言った。

 京子自ら、自分を犯してくれと、口にしろということだろう……。

 潤んだ瞳で顔を見る。

 もうだめだ……。

 京子は、意を決した……。

 覚悟を決めて口を開く。

 

「ただし──」

 

 だが、それを真夫が制した。

 京子は、思わず口を閉じた。

 

「先生、最初に告げたことを覚えてますよね。これは調教ですと……。先生には、受け入れることのできない命令をして、それを受け入れさせますと……。そういう意味のことを言ったはずです。記憶にありますか?」

 

 真夫がにっこりと微笑んだと思った。

 

「お、覚えているわ……。で、でも、いまは痒くて……。痒いの──」

 

 京子は上体を右に左にとよじりたてて身悶えながら訴えた。

 いや、上体だけじゃない。

 床に固定された棒状の拘束具で動かないとはいえ、腰を上下左右に動かし、少しでも痒みを封じ込めようともがいている。

 

「だから、先生の望みをかなえる前に罰を受けてもらいます。簡単な罰です。先生は朝から一滴の水も飲んでませんよね。それなのにたっぷりと汗をかいてもらいました。おそらく、そろそろ喉の渇きも限界でしょう。だから、水分をとってもらいます。それが罰です」

 

 その通りだった。

 京子は朝から責められ続け、実はまったく食事どころか、水も飲ませてもらってなかった。

 いまは死ぬほどの喉の渇きに襲われている。

 慌てて、京子は首を縦に振る。

 

「飲むわ──。い、いえ、飲ませて──。喉が渇いて死にそうなの──」

 

 京子は叫んだ。

 

「そうでしょうね。じゃあ、飲んでください」

 

 真夫が勃起した股間を京子の口の前まで接近させた。

 まさか……。

 京子は絶句してしまった。



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 第162話 諦めの向こう側

「ま、まさか、おしっこを──。ひどいわ──」

 

 京子は、唖然として言った。

 午前中の床の上でのランニングに始まり、苛酷な責めの間、京子は一滴の水ももらえずにいたため、喉はからからだし、正直に焼けつくような乾きに襲われてはいる。

 しかし、他人の放尿を飲めなど……。

 京子は、自分の顔色が変わるのを感じた。

 

「ああ、おしっこですか。それは考えなかったけど、それも面白そうです。じゃあ、俺のおしっこを飲ませてあげます」

 

 真夫が京子の唇に、勃起した男根の先端を押しつけてきた。

 

「うわっ、きゃあ」

 

 京子は顔を横に向けて避ける。

 

「拒否しますか? 構いませんよ。でも、次に訊ねるのは明日の朝です。そのつもりでいてください、先生。俺の命令に従えないということは、先生の望みも受け入れることはできません」

 

 真夫が腰を引いて離れる素振りを示す。

 京子は、歯噛みした。

 脅しというのはわかっている。

 でも、いまの京子には従うしかない……。

 激しく追い詰められているのを感じる。

 

「先生、教師としてのプライドが痛むのかもしれません……。でも、そんなものは捨ててください。先生にも俺には逆らえないことがわかったはずでしょう……。先生がプライドを捨てたとき、本当の快感を得ることができます」

 

 真夫が言った。

 その口調は優しく、諭し堕とすかのような感じだ。

 でも、その内容は辛辣だ。

 躊躇っている京子に、真夫が嘆息して首を横に振る。

 

「じゃあ、あさひ姉ちゃん、戻ろうか……。先生、また、明日、同じことを質問します。そのときには、いい返事を聞きたいですね」

 

 真夫が恵さんに声を掛けた。

 

「はい、真夫ちゃん」

 

 恵さんも引きあげる動きをする。

 京子は恐怖した。

 もう痒みは限界を越している。

 あと数瞬だって耐えられない。

 観念して、口を開く。

 

「ま、待って……。い、いえ、待ってください……。の、飲みます──。おしっこを飲みます……」

 

 京子は、肩で息をしながら言った。

 朝まで放置など耐えられるわけがない。

 そして、放置された挙句、もう一度、同じことを訊ねられれば、京子は嬉々として、飲尿でもなんでも受け入れるに違いない。

 だったら、いま受け入れても同じだ……。

 

「いや、お願いするんですよ、先生……。それが先生への罰です」

 

 真夫が静かに言った。

 ああ、逆らえない……。

 この瞬間、京子はこの男子生徒には絶対に逆らえないのだというなにかを感じた。それは理屈ではない。

 本能に刻まれた感じだった。

 

「の、飲ましてください……。お願いします」

 

 もう躊躇いはない。

 口を大きく開く。

 そこに真夫がいまだに勃起している男根を突っ込んできた。

 

 だが、随分と長い勃起力だ……。

 京子は、この真夫以外と男性経験があるわけではないが、男というものは射精をすれば、一度落ち着くものではないのか?

 女とは違うはずだ。

 でも、真夫は明日香と愛し合ったあと、ずっと股間を固くしたままである。

 そうえいば、昨日も京子の中に幾度精を放っても、平気そうにしていたし、今日一日だけでも、玲子を嗜虐しながら、玲子、明日香と愛し合ったりしている。

 丸で、ハーレム王のように大勢の女を相手にしているようだが、それだけ絶倫でもあるということか?

 

「んあっ」

 

 口の中に生温かいゆばりが注がれてきた。

 

「んおっ、んごっ、んぐぐ──」

 

 たちまちに口の中に、真夫のおしっこが溢れかえる。

 慌てて飲み下していく。

 そして、乾きに乾いた身体に与えられた水分はたとえ、尿であってもおいしかった。

 京子は流れ込んでくるおしっこを、喉を鳴らして一心に嚥下していく。

 やがて、真夫の男根の先から出るおしっこがなくなる。

 でも、まだ飲み足りない──。

 京子は最後のひと雫までむさぼるように、真夫の男根の先を吸った。

 

「ははは、先生、なにか吹っ切れましたか? 申し訳ありませんが、おしっこはもう出ません……。あさひ姉ちゃん」

 

 真夫が腰を引いて、京子の口から性器を抜き、恵さんに言葉をかけた。

 

「先生、普通の飲み物です。薄めのスポーツ飲料ですよ。どうぞ……」

 

 恵さんが京子の口につけたのは、ペットボトルほどの大きさの水筒だった。

 あっという間に、水筒が空になる。

 すぐに、恵さんが次の水筒を出してきた。

 それを半分ほど飲んだところで、やっと喉の渇きがなくなった。

 

「はあ、はあ、はあ……。もう十分です……。ありがとうございます」

 

 京子は水筒から口を離して言った。

 

「そうです、先生。素直になることです。次はなにが欲しいですか?」

 

 真夫が男根を誇示するかのように、剥き出しの男根をかざしている。

 それにしても、さっきも思ったが、どうして、いまだに勃起しているのだ?

 なぜ……。

 

「ほら、先生、真夫ちゃんはエッチだから、先生が追い詰められて絶望感に浸る姿に興奮しているんですよ。おねだりするんです。きっと真夫ちゃんは、先生をいい気持ちにしてくれます」

 

 恵さんが京子の横に屈みこんできて、耳元でささやく。

 それとともに、すっと開脚している京子の内腿に手を這わせた。

 

「ひゃん──、ああっ」

 

 京子は激しく身体をのたうたせた。

 痒い──。

 本当に狂ってしまう──。

 この痒みを消すには、真夫たちの言う通りに、真夫に精を注いでもらうしかないのだろう。

 昨日のアナル責めでも、京子は発散しても発散しても、消滅せずに痒みを与える媚薬の効果にのたうち回ったのを覚えている。

 その発狂するほどの痒みが真夫に精を注がれた瞬間に消滅する、あの天にも昇るような快感も……。

 

「先生、これ以上、痒みを我慢すると、本当に気が狂ってしまいますよ」

 

 真夫が京子を前から抱きすくめた。

 そして、激しく息をする京子の唇に触れんばかりに、唇を近づける。

 

「くっ、ああ……」

 

 京子は最後の気力を振り絞って、真夫の口から顔を背ける。

 だが、痒い……。

 必死に開脚されている腰を前後左右に振る。しかし、そんなものは、痒みを癒すために、なんの役にも立たない。

 

「……プライドを捨てるんです、先生……」

 

「うう……、わかりました……。どうにでもしてください……」

 

 京子はがくりと項垂れる。

 

「それじゃあ、だめですね。さっきと同じです。して欲しいことをはっきりと口にするんです。さもないと、いつまでもそのままですよ」

 

「ああ……。犯して……。もう犯してください……。お、お願いです……」

 

 京子はついに言った。

 

「よくできました、先生……」

 

 真夫が口づけをして、舌を京子の口の中に差し入れてくる。

 もう抵抗の気持ちはない。

 京子はそれに応じるように、蹂躙してきた真夫の舌に自分の舌を絡ませる。

 

「んああっ、んんっ」

 

 気持ちいい……。

 わからない……。

 口づけがこんなにも感じる理由がわからなかった。

 しかし、京子がすべてを諦める気持ちになったとき、一気に快感が襲い掛かった気がした。

 しかし、身体が溶けていくような感覚に襲われ、京子はしばらくのあいだ、むさぼるように真夫との口づけを愉しんだ。

 その瞬間だけは、発狂しそうな掻痒感を束の間忘れることができた。

 

「……さあ、お尻を後ろに突き出して……」

 

 真夫が一度、京子の身体を離して、後ろに回っていく。

 それとともに、両手を吊り上げている鎖が緩んで、余裕ができた。

 京子は、真夫の言われるがまま、上体を倒してお尻を後ろの突き出すような恰好になる。

 

「あっ、ああっ」

 

 京子はぶるりと身体を震わせて喘いだ。

 真夫が京子のお尻の下側から男根を滑り込ませて、股間の中心に先端を押しあてたのだ。

 

「入れてというんです、先生」

 

 真夫が先端を押しあてたまま耳元でささやく。

 本来なら、拒絶しなければならない──。

 それはわかっている。

 夕べも犯されたが、それはあくまでも凌辱だった。

 だが、強要されたものだとはいえ、自ら求めて哀願するなど……。

 でも、京子は欲しかった。

 痒みに狂っているというのもあるが、なによりも、全身が期待と欲情の炎に炙られているかのようなのだ。

 身体を震わせるほどの疼きを癒すふどに凌辱して欲しい──。

 

「い、入れてください──」

 

「わかりました──」

 

 押し当てられている怒張の尖端に力が加わってきた。

 くる──。

 京子は目を閉じた。

 

「ああっ、ふあああっ」

 

 股間に真夫の男根がめり込んだ。

 京子は、それだけで戦慄するほどの快感を覚えて、京子はぶるりと身体を大きく痙攣させる。

 

「ひああっ」

 

 そして、真夫の手が京子の左右の乳房を掴む。

 無残なほどに、乳房が真夫によって揉みしだかれる。

 

「ひゃわんっ」

 

 激しい愉悦に京子は奇声を発してしまった。

 しかし、それもすぐに終わる。

 真夫は胸と抱いたまま、なぜかじっとしている。

 それに、怒張の挿入しただけだ。

 律動を開始してくれない。

 

「ああ、どうして──」

 

 ほとんど無意識に京子は、熱にうなされたような甘え声を発してしまった。

 すると、胸に置いていた真夫の手がすっと動く。

 

「くああっ、あんっ、ふああっ」

 

 身体に衝撃が走り、京子は上気して汗みどろの裸身を大きくくねらせた。

 だが、またしても、それで終わりだ。

 愛撫は終わり、挿入されたままの男根はぴくりとも動いてくれない。

 知らず、京子は膣でぎゅうぎゅうと真夫の男根を締めあげてしまう。

 

「ああっ、焦らさないでください──。坂本君、もう焦らしちゃいや──」

 

 京子は首を横に振って哀願した。

 

「欲しいですか、先生? 欲しいときにはどうするんでしたっけ?」

 

 真夫が怒張の尖端でぐりぐりと子宮を擦りあげる。

 その動きでただれたように痒い膣の中が強く擦られた。

 

「ひあああっ、あああっ」

 

 それだけで昇り詰めそうになる。

 だが、真夫の怒張はそれ以上動いてくれないので、たまらない焦燥感が襲い掛かってくる。

 もう我慢できない──。

 

「ああ、だめえっ、動いて──。動いてください──」

 

 ついに京子は自ら腰を前後に動かして、真夫の怒張で股間を擦った。

 ところが、真夫はすっと男根を引き、京子の股間から外に出そういう仕草を示した。

 

「ひあああっ、抜かないで──。抜いてはいけません──」

 

 京子は狂乱して叫んだ。



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 第163話 二日目終了と最高の快感

「ああ、抜かないで、抜いてはいけません──」

 

 京子は、思わず叫んでいた。

 しかし、瞬時に後悔した。

 なんというはしたない言葉を……。

 羞恥でかっと身体が熱くなる。

 

「なるほど、抜いてはいけないですか。わかりました、先生」

 

 一方で真夫は、お道化(どけ)るようにくすりと笑ってから、再びお尻側から京子の花芯を怒張で引き裂いていく。

 

「ああっ、あくうっ、んあああっ」

 

 気持ちのいい場所を擦られて、京子は一気に絶頂に達しそうになる。掻痒剤でただれるほどの痒みに襲われている局部を犯されることは、それほどまでに甘美だった。

 激しく噴きあげる全身の痺れに、京子は艶めかしい声をあげて、裸身をよじらせる。

 

「感じやすい身体ですね、先生。先生には淫乱の血が流れてるようです」

 

 真夫の男根の尖端が子宮近くを抉って、重たい疼きが子宮を突き抜けて、全身を駆け抜けた。

 腰がぶるぶると震える。

 

「ああっ、あっ、ち、違う──。あ、あたしは淫乱では……」

 

 しかし、それだけは否定しなければならないと思って、必死に首を横に振った。

 

「そうですか? こんなに快感に弱いのに? それに、こうやって、獣のように後ろから犯される方が感じるじゃないですか」

 

 真夫の両手が乳房をゆさゆさを揉む。

 一気に快感が上昇する。

 いまの体位は、後背位という体位だろう。

 性経験には乏しいから、これがほかの体位よりも感じるのかどうかは、京子には判断できないが、真夫にこうやって犯されることで、口惜しいが我を忘れるほどに快感に押し流されていることは確かだ。

 

「やあっ、いやあ、あん、ああっ、あはあっ」

 

 股間と乳房に与えられる愛撫が気持ちよくて、全身が溶けていきそうに気持ちがいい。

 本当に自分は淫乱なのだろうか?

 認めたくはないが、襲い掛かる快感の大きさに、京子の肉体は、心の奥底に辛うじて残る抵抗心を完全に裏切っている。

 

「なら、我慢するんです。達するのを我慢してください。そうしたら、先生が淫乱ではないと認めましょう」

 

「は、はい……」

 

 真夫の言葉に必死に歯を喰いしばって、教師としての矜持を保とうとするが、真夫に腰を振られ、胸を揉まれるとたちまちに反応してしまって、感じていることを隠すことができない。

 

「んんんっ、んん……。あっ、ああ……、んああ……」

 

 掻痒剤を塗られてしばらく放置されていた京子の身体は、真夫の男根によって消えていく痒みとともに加わる快感に、もうなにもかも忘れて、それをむさぼることしか考えられなくなる。

 女教師としてのプライドなど、あっという間に押し流される。

 

「ああっ、あっ、もう、い、いく……、ああっ、あああっ」

 

 真夫に犯されて、脳まで快感で痺れそうだ。

 京子はついに崩壊に向かって、一気に飛翔していく。

 

「んはああっ、あああっ」

 

 京子は激しく腰を動かしながら、背中を弓なりにする。

 だが、まさに絶頂を極めようとした瞬間、またしても、真夫が突然に腰の動きをとめてしまった。

 胸への刺激もだ──。

 京子は愕然とした。

 

「あああ、ひ、ひどい──。ま、また──」

 

 絶頂の波が引いていき、巨大な焦燥感が京子を包み始める。

 また、寸止め責めだ──。

 京子は歯噛みした。

 

「先生が素直になるまで、先生を絶頂させません。どうしても達したかったら、俺にお強請(ねだ)りをしてください」

 

「ああ、そんな……」

 

 京子は切なさと切なさに身悶えした。

 だが、真夫が律動を再開し、胸への刺激を復活すると、またもや快感が急上昇していく。

 

「あ、ああっ、あっくううう──」

 

 京子は全身を突っ張らせて、がくがくと身体を震わせる。

 ところが、またしてもぎりぎりで真夫は腰の動きをとめてしまう。

 

「いやああっ」

 

 京子は泣きながら首を左右に振る。

 大粒の汗が飛び散る。

 すっと、膨れあがった快感が引いていく。

 繰り返される寸止め責めに、京子は泣き声をあげてしまう。

 

「さあ、先生……、素直になるんです。自分からお願いしない限り、先生を絶頂させませんよ」

 

 少し間を置き、真夫が律動を再開する。

 だが昇り詰めようとしたら、また律動を中断される。

 

「ああ、あはあ、ああ……。もう……許して……」

 

 京子はむせび泣いた。

 寸止めを繰り返されるたびに、快感がどんどんを拡大する。

 でも、いけないのだ──。

 京子は首をのけ反らせて泣いた。

 

「まだまだです、先生」

 

 しばらくすると、真夫が律動を再開する。

 

「あ、ああっ、ひん、ひあああっ、んあああっ、あああっ」

 

 途端になにも考えられなくなる。

 真夫から与えられる津波のような快感に、ただただ身を任せるだけだ。

 もう、どうなってもいい──。

 この先の快感を極めることができるなら……。

 京子は、心から思った。

 怒涛の快感に押し流され、頭が真っ白になっていく。

 ところが、またしてもぎりぎりで真夫が律動を中断してしまう。

 

「もういやああ──」

 

 京子は、激しく悶えた。

 

 それからしばらく同じことを繰り返された。

 もう十回を超えているのではないだろうか。

 絶頂の大波が京子の脳を貫きだす。

 

「ああっ、とめないで──。もういやあ──。やめないで」

 

 しかし、真夫は、まるで京子の心を読んでいるかのように、完璧なほどに寸前で律動を中断してしまうのだ。

 八合目でも、九合目でもない。九合五分……。いや九合八分というとろこでやめられてしまうのだ。

 その苦しさは、まさに性の拷問だった。

 

「いきたいですか、先生……。じゃあ、口に出してください」

 

 律動を中断して挿入したまま、真夫が京子の身体の震えが収まるのを確認するようなタイミングで声をかけてきた。

 そして、ゆっくりと律動を再開して、胸をもんでいくる。

 

「だめえ、ああ、ああん、あああ──」

 

 京子は激しく悶え、全身から大量の脂汗が飛び散るのがわかる。

 腰は勝手にくねくねと動き出し、真夫の怒張をぎゅうぎゅうと締めつけ、口からは恥ずかしい声が迸ってしまう。

 

「ああ、あああっ、許して──。坂本君、許して──。ああっ、ああっ」

 

 真夫の怒張が膣内を掻き、快感が津波になって押し寄せる。

 もう、堪らない──。

 寸止めを繰り返されて、全身が沸騰するように敏感になっている。

 意識を保つのもやっとだ。

 

「ふふふ、先生……。さあ、ここまで頑張ったからいいじゃないですか……。真夫ちゃんとのセックスは気持ちがいいですよね……。真夫ちゃんに犯された女の子は、みんな真夫ちゃんが大好きになるんです。先生も、もう真夫ちゃんが大好きですよね? 認めましょうよ」

 

 恵さんだ、

 後ろから犯している真夫に対して、前側から京子の頬を両手で持って、口づけをしてきた。

 唇が重なり、舌が入ってきた。

 一気に快感が上昇する。

 でも、息が苦しい。

 さらに頭が白くなる……。

 

「んんんっ、んんんっ」

 

 一方で真夫のリズミカルな律動が繰り返す。

 いきたい──。

 京子は心の底から思った。

 

「んあああっ、あああっ」

 

 京子は首を激しく左右に振って、恵さんの口づけを強引に外すと、身体を大きく突っ張らせた。

 いく──。

 本当にいく──。

 寸止めのたびに上昇していく絶頂の高みではあるが、今度は極めつけだ。

 これまでに味わったことがないようなエクスタシーが襲い掛かってきた。

 

「あああ──。、ひあああ、ああああ──」

 

 京子は首を振って泣き叫んだ。

 これ以上焦らされたら、本当に気が狂う──。

 もうどうでもいい──。

 京子の精神力はもう限界を突破した。

 いきたい──。

 最後まで愛されたい──。

 真夫に毀されたい──。

 だが、またしても、真夫の律動が速度を落とし始める。

 京子は愕然となった。

 

「ああっ、いきたい──。このままいきたいんです──。いかせてください。いかせて──]

 

 京子はがくがくと身体を痙攣させながら、自分でも驚くほどの声を張りあげていた。

 

「わかりました、先生」

 

 真夫が納得してくれたような口調で応じ、次いで、一転して律動を激しくする。それだけじゃなくて、乳房と乳首を両手でぐしゃぐしゃに揉みしだきだす。

 乱暴だが、それがいい──。

 最高の快感が襲ってくるのがわかった。

 

「ああっ、いい、気持ちいいです──。坂本君、いくっ、いくっ、いっちゃいます──、あああっ」

 

 快感がせりあがる。

 引いていない快感の大波に、京子は全身を波打たせて悶え狂った。

 子宮が信じられないくらいに収縮するのがわかった。

 

「いくうっ、いぐううっ、いくううっ」

 

 すべてを忘れて絶頂感に身を任せた京子は、背中を大きく弓なりにして悲鳴をあげた。

 

「ああ、俺も気持ちがいいです──。先生、一緒に気持ちよくなりましょう──」

 

 真夫もまた、腰を振りながら感極まったような声になった。

 そして、京子がもっとも快感を飛翔した刹那に合わせて、精を放ってくれたのがわかった。

 

「あああっ、来たのね──。う、嬉しいい──。ああああっ」

 

 京子は真夫の精の発作を体内で感じながら、あまりにも高い快楽の極みに気が遠くなり、次いで、がくりと身体を脱力させてしまった。

 

 

 

 

 

「ほら、先生、眠ってはだめですよ。奴婢には最後の務めがあります。気持ちよくしてくれた真夫ちゃんの性器を掃除するんです」

 

 身体を揺り動かされた。

 どうやら、またもや意識を失ってしまったのだと思った。

 身体を起こす。

 四肢が鉛になったかのように身体が重い。

 ただ、それで気がついたが、天井から吊られてい鎖がなくなっている。脚に嵌っていた棒状の拘束具もだ。

 ただし、両腕は背中に回されて手錠を掛けられている。

 そのくらい意識を失っていたのかわからないが、一度拘束を解放されて、後手手錠をかけられたのだろう。

 

 このSS研の地下に監禁されてから、もっとも拘束が緩いが、いまの京子には逃亡や反抗の気力はない。

 ただただ休みたい……。

 それだけだ。

 

「ほら、起きてくださいね、先生」

 

 床に横たえていた身体を無理矢理に恵さんから起こされる。

 すると、京子の顔の前に、蜜が滴っている怒張が突き出された。

 真夫だ。

 

「真夫ちゃんのものを舐めるですよ、先生」

 

 床に座り込んで、上体だけを起こしている京子を支えながら恵さんが言った。

 

「はあ、はあ、はあ……。は、はい……」

 

 まだ絶頂の余地は続いている。

 なにも思考できない。

 京子は、それ以上の言葉を発することなく、朦朧となったまま口を開いた。

 そして、なすがままに怒張に舌を絡めて、真夫の肉棒を口の中に入れる。

 

「ご苦労様でした、先生。二日目の調教を終わりましょう……。あさひ姉ちゃんにシャワー室に案内してもらってから、準備してある檻に入ってください。そこに食事も準備してあります。明日の調教は朝からです。それまで身体を少しでも休ませておいてください。もっとも、休む前に股縄をしますから、どれだけ休めるかはわかりませんけどね」

 

 真夫が笑いながら言った。

 その言葉の半分も頭に入ってこない。

 とにかく、京子はひたすら一心不乱に、口の中にある真夫の男根に舌を這わせせ続けた。



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 第164話 別人格たちの会話

 夜の十時を過ぎた。

 

 ナスターシャは、今夜は両手を後ろ手に縛られ、両足首に革枷を嵌められて別々に吊りあげられている。

 つまりは、逆さ開脚吊りだ。

 

 毎晩やらされていることであり、「反省」の時間だ。

 その日の反省を龍蔵か時子、あるいは、その両方に対して口にするのだ。

 反省事項がないということは許されない。「牝豚」としての自覚がないということで、それこそ、死に瀕するような罰を与えられる。

 それよりは、どんなことでもいいから、罰を受けるべき自分の失態を見つけて申告し、それに見合う罰を受ける方がましなのだ。

 

 今日の反省事項としてナスターシャが口にしたのは、今日の昼の調教のときに、股間で生卵を出しながら、フランス語でにわとりの鳴き真似をするという芸をさせられたのだが、そのときに三回ほど口惜しいと思ってしまったということだ。

 実際には、もはや彼らの理不尽な命令に口惜しさなど覚えることはないのだが、今日はそれくらいしか思いつかなかった。

 これに対する罰として、龍蔵が示したのは、鞭打ち十発だ。

 

 全部で十発ではない。

 尻、右脚の腿、左脚、左の脇、右の脇、背中……というように、龍蔵が気儘に定めた部位ごとに十発ということだ。

 それが全部で何か所となるかはわからない。龍蔵が鞭打ちしながら決めるのだ。

 だから、結局は何十発の鞭打ちを受ければ終わるのか、まったくわからないということなのだ。

 

 いずれにしても、この「反省」というのは、一日の終わりだけでなく、日に何度もやらされれる。

 問われたときに、一個も反省事項が出てこないと、「牝豚」の自覚が十分でないとして、懲罰に移る。

 毎日毎日続く、自己否定に次ぐ、自己否定……。

 気力は削られ、もう心はずたずただ。

 ナスターシャは、自分自身が目の前の日本人たちにすっかりと屈服し、逆らう気力を完全に喪失させられてしまったという自覚がある。

 

 彼らが怖い……。

 恐ろしい……。

 そして、こんな風に理不尽な虐待を続ける彼らが憎い……。 

 だが、それ以上に、彼らから与えられる拷問や屈辱的な行為に欲情している自分がいる。

 いまも、龍蔵から鞭の洗礼を浴びながら、ナスターシャは被虐酔いによって身体を熱くし、愛撫を受けているわけでもないのに、股間から蜜が溢れかえり、アナルまで濡らしているのを感じている。

 

「あがああっ、ひぐうっ」

 

 すでに五十発を超えている鞭が股間近くに真上から炸裂して、ナスターシャは呻き声を鳴らした。

 尻から始まり、太腿の裏表、腿の内側を打たれ、背中と胸まで鞭打ちされた。

 叩き方も容赦ない。

 鞭打つのは龍蔵だが、かなりの高齢にわりには、しっかりとした力で振り下ろしてくる。

 一日中、人格を否定させられる無慈悲な調教を受けて疲労困憊しているナスターシャには、この一日の最後の鞭の嵐はかなり苛酷である。

 

「残り十発じゃ。声を出すなよ」

 

 龍蔵が連続で打っていた一本鞭を一度引きあげて、部屋の隅に侍っている正人に手を出した。

 以前は、正人は、龍蔵の甥の木下秀也の付人をしていたが、いまはそれをおろされて、龍蔵に侍るようになっているようだ。

 その経緯は知らない。

 

 いずれにしても、ナスターシャがずっと監禁されているこの学園の一角の地下構造物を訪問する者は滅多におらず、ナスターシャが見るのも、龍蔵と時子と正人、さらに、時折、秀也の姿をみるくらいである。

 まあ、豊藤財閥の総帥の豊藤龍蔵といえば、国際的にも多くの組織から暗殺者を送られるような存在だ。

 そもそも、ナスターシャもまた、日本の国際的な大財閥である豊藤について探ることを目的として贈られた諜報員でもあった。滅多に他人を寄せ付けないのも、そんな境遇による龍蔵の用心深さだと思う。

 正人が無言で龍蔵にタオルを渡す。

 龍蔵がそれで汗を拭き、タオルを床に捨てると、最後の十発と宣言された鞭打ちが再開となった。

 

「んふうっ」

 

 股間の上からまともに鞭が炸裂した。

 さすがに声を口から噴き出さざるを得ず、ナスターシャはほんの少し声を出してしまった。

 

「堪え性のない異国の牝豚だこと。ちょっとくらい声を我慢するくらいできないのかい。それとも、声を出すなというのが聞こえなかったのかい、ナスターシャ」

 

 見学している時子が呆れたように言った。

 

「所詮は、獣と変わらぬ山賊が文明人の土地を乗っ取って、猿真似をした蛮族が祖先の毛唐よ。文明人らしく十発は無理か。せめて、五発は耐えてみよ。十発耐えるのを待って、お前と朝まで付き合うつもりはないからのう」

 

 今度は龍蔵が横殴りに、乳房に鞭を炸裂させた。

 

「んぶふうっ」

 

 ナスターシャの乳房は、この地下施設に監禁されるようになってから、この龍蔵の気儘により、人の頭よりも大きく肥大化されたうえに、鋭敏な感覚器官として改良する施術を受けている。

 そこを叩かれて、脳天を貫くような激痛が走り、またしても、ナスターシャは悲鳴を迸らせた。

 

「この牝豚が──。お前はただの一度も、声を我慢できないのかい──。この馬鹿垂れがあ──」

 

 時子が激怒したような口調で怒鳴りあげた。

 

「ああ、ご、ごめんなさい──」

 

 その権幕に恐怖を覚え、ナスターシャは思わず謝罪の言葉を日本語で口にする。

 

「喋るなと命じておるだろうが──」

 

 もう一度乳房に鞭──。

 

「んんっ」

 

 息が漏れたが、今度は耐えた。

 すると間髪入れずに、再び股に上から鞭打ちされた。

 ここにおける調教のすえに、大人の男の親指大ほどに拡大しているクリトリスにまともに鞭先がぶつかる。

 

「ひおおおっ」

 

 ナスターシャは悲鳴をあげた。

 

「馬鹿垂れ──。あと五発からやり直しだよ」

 

 時子が怒鳴る。

 すぐに龍蔵が鞭打つ。

 今度は乳房に戻った。

 

「ふがああっ」

 

 衝撃で身体ががくがくと揺れ、左右の乳首から母乳が飛び出す。

 これもまた、特殊な施術を受けた結果であり、ナスターシャは妊娠しているわけでもないのに、肥大化させられている乳房から母乳を吐き出すのである。しかも、大きな快感を受けたときに、男が股間から射精をするように、乳首から母乳を吐き出すのである。

 鞭打ちで母乳を噴出してしまったのは、繰り返される鞭打ちは苦悶以外の何物でもないはずなのに、ナスターシャはそれを快感として受け取ってしまったということだ。

 恥ずべき身体にされてしまったということと、それを目の前の日本人たちに晒しているという恥辱に、かっと身体が熱くなる。

 

「また、乳汁を吐き出しおったわ」

 

 龍蔵が呆れたように笑った。

 

「切りがありませんよ、龍蔵様。残りはしっかりと、あたしが罰を与えておきます。龍蔵様はお休みください」

 

「そうじゃな……。まあ、わしの運動も十分か……。わかった。後は頼む、時子」

 

 龍蔵が床に鞭を投げ捨てた。

 それを慌てたように、正人が拾う。

 今度は時子が龍蔵の汗を拭くためのタオルを持って近づく。

 そのとき、ナスターシャは、時子が龍蔵の額の汗を拭きながら、龍蔵の耳元でなにかをささやいたことに気がついた。

 完全に脱力して、朦朧となっている素振りをしながら、ナスターシャは注意深く、時子の口元を注視する。

 

 その時子の唇の動きを読む。

 こいつらの誰も知らないと思うが、ナスターシャは日本語を読唇術で読み取る訓練も受けている。

 すっかりと、従順になっていると思い込んでいる時子や龍蔵は、ナスターシャの目の前で、最近はああやって、豊藤財閥の相談に関することを口にすることがある。

 もはや、彼らにとって、ナスターシャは、「人間」などではなく、「玩具」という「物」にすぎないのだ。

 

 「真夫」……、「奴婢十人」……、「もうすぐ」……、「地位の継承」……。そんな単語が読み取れた。

 真夫というのは、坂本真夫という龍蔵の後継者候補の少年のことか……。

 長く存在が不明だった龍蔵の血を引いた息子が発見されたというのは、耳にした。

 

 だが、地位の継承?

 おそらく、総帥の後継のこととは思うが、真夫という龍蔵の実の息子が発見されるまで、ずっと次期後継者としての立場にあったのは、木下秀也という少年だ。

 もともと、ナスターシャは、その秀也の秘書として豊藤に接触するために、来日したのである。

 つまりは、ついに、次期後継者は、坂本真夫に決まったということか?

 監禁されているために、情報のないナスターシャには、その背景となるものが不明で判断ができないが、そういうことなのだろう。

 

「さて、牝豚──。そろばん責めで根性を叩き直してやるよ」

 

 龍蔵がいなくなると、時子がナスターシャの前に仁王立ちになり、冷たく声を浴びさせかけてきた。

 そして、ナスターシャは、やっと逆さ吊りから解放されて、床に足をつけることを許された。

 だが、それは電気鞭で脅迫されて、上面が連なった三角状の突起面になっている二本の材の上に正座をさせられるまでのことだ。

 両腕の後手縛りは解かれることなく、正座になった太腿の上に重たい鉄の板が置かれた。

 さらに三枚、重量のある鉄板を時子に指示された正人が載せていく。

 

「うああっ、あがああっ」

 

 ナスターシャは眼を見開いて、苦悶の呻きを吐た。

 

「お前の脚に、自分が牝豚だということを覚え込ませてやるよ……。正人、この牝豚の股をいじくってやりな」

 

 時子だ。

 そばにで無言で立っていた正人がちょっと顔を歪めた。

 この男は、完全なホモであり、女が苦手なのだ。それを知っていて、時子はナスターシャに対する色責めを正人に強要したりする。

 なにがあったのかわからないが、これもまた、正人に対する時子によるなんらかの懲罰のようなものである気配だ。

 正人が背後にまわってしゃがみ込むと、お尻越しに無防備な花芯をまさぐってくる。

 ちょうど、その場所だけは、手を差し入れることができるようになっているのだ。

 

「ああっ、くああっ、ああ……」

 

 ナスターシャは、激しい甘美感の衝撃に貫かれて、上半身を反り返らせた。

 両脚には苛酷な責め苦を与えられているが、それに関係なく、正人の股間への愛撫により、一気に快感が全身を包んだのだ。

 

「さすがは牝豚だねえ。痛めつけられて、気持ちがいいかい?」

 

 時子がナスターシャの太腿の上に乗せられている鉄の板の上に尻を付けて座った。

 

「ああああっ」

 

 叫んだのは、重みのためでなく、正人の指による股間への愛撫の気持ちよさからだ。

 そして、正人が指を股間から引いたが、脚に与えられる苦痛が快感に変わってしまい、ナスターシャは、太腿と脛に苛酷な苦痛を与えられながら、長く尾を引くような嬌声をあげながら、そのまま昇天してしまった。

 

「こんな責め苦のときに感じるのは、お前が牝豚になった証拠だよ──。ほら、言ってみな。お前はなんだい?」

 

 時子がそのナスターシャの痴態を眺めながら、大きな声で嘲笑した。

 

「わ、わたしは……牝豚です……」

 

 ナスターシャは言った。

 

「わかってきたじゃないかい。じゃあ、牝豚の飾りをしてやるよ。暴れたら承知しないからね」

 

 時子が膝の上の鉄板から降り、今度はなにかを手にして戻ってきた。

 そして、ナスターシャの横に立ち、手をナスターシャの乳房に近づける。

 すぐには、なにをしようとしているのかわからなかったが、時子がマチ針を手にしていることに気が付き、目を丸くした。

 そのマチ針が乳首に近い乳房の中に吸い込まれる。

 

「いぎゃああ──」

 

 ナスターシャは悲鳴をあげた。

 だが、拘束されたうえに、鉄板の重しを脚の上に載せられている身体は動かない。

 二本、三本と針が刺さっていき、五本ほど刺してから、マチ針で乳首を横刺しにされる。

 

『うああっ、お願い──、いやあ、いやあ──』

 

 ナスターシャは母国語で叫んでいた。

 

「豚はせめて、豚の声で哀願しな。そうすれば、許してやるかもしれないよ」

 

 だが、構わず時子は反対側の乳房にもマチ針を刺し始める。

 そして、そっちの乳首にも針が横刺しにされる。

 

「うがあああっ──。ブ、ブウウウ──。ブグウウウ」

 

 ナスターシャは絶叫し、さっきの時子の言葉を思い出して、慌てて豚の鳴き真似で情けを得ようとした。

 いまのナスターシャにできるのはそれくらいなのだ。

 時子がさらに大笑いした。

 

 気がつくと、ゆばりが脛の下の材を濡らしていっていた。

 一度漏れ出した失禁はとめようもない。

 ナスターシャの嗚咽とともに、激流となったおしっこを噴き出し続ける。

 

「この豚が──。人前で何回も小便を垂れ流すんじゃないよ──。罰として、一時間、いや、二時間、そのままだ。正人、見張ってな──」

 

 時子がナスターシャの左右の頬を一発ずつ平手で張ると、正人を残して部屋を出ていく。

 乳房の針も、そろばん責めもそのままだ。

 ナスターシャは、あまりもの苦悶と恥辱によって、急に頭が真っ白になっていくのを感じた。

 

 


 

 

 正人は、童女のように号泣するナスターシャをうんざりとした気持ちで眺めていた。

 龍蔵や時子の残虐性は、いまに始まったことではないが、このフランス女の不幸は、もともとのふたりの「玩具的存在」だったあの玲子が真夫のところに行き、新しい「玩具」を探していた時期に、生意気な態度で龍蔵たちの前に現れたことだろう。

 龍蔵と時子は、嬉々として、その生意気な態度を愉しみ、容赦のない調教を加え始めた。

 

 それから二か月足らず。

 いまのナスターシャは哀れなものだ。

 乳房を極端に大きくされる奇形施術を受け、クリトリスも肥大化された。薬物などを使った超敏感な身体に変えられ、いま見ていたように、このフランス女は、あれほどの激痛を伴なう拷問をしっかりと性的快感に変えて受け止めていた。

 そうなるように、人為的にマゾにされたのだ。

 すっかりと心も潰されてしまい、もはや、当初の日本人を差別的に見下す傲慢な態度など、まったく影もない。

 

「ん?」

 

 そのときだった。

 泣いていたナスターシャが突然に泣き止み、正座の格好をして膝の上に重しを載せられた格好のまま、突然に顔をあげた。

 そして、正面にいる正人を睨むように顔を向けてきた。

 

「“赤ずきんは白い谷の上で狼とコニャックを愉しむ。つまみはクラッカーとチーズ”……」

 

 ほんの聞こえるかどうかのかすかな声だ。

 だが、正人の耳はしっかりと、その言葉を耳にした。

 その途端に、正人は無意識に飲み込まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

『……正人、私の顔を見よ……?』

 

 ロシア語だ。

 しかも、ほとんどただの呼吸音と変わらない。

 だが、それで十分に意思疎通はできる。

 別人格を覚醒させた正人は、しっかりとナスターシャを……、いや、覚醒したスカーレットの顔を見る。

 

 その唇が動く。

 この部屋には、当然ながら隠しカメラがある。

 それにばれないかたちで、スカーレットは唇だけで、正人に話し掛けようとしているのだ。

 ナスターシャの人格の中に隠れているスカーレットという別人格が出現するときには、必ず、そうしている。

 いまのところ、スカーレットの存在に、龍蔵や時子が気がつく気配はない。

 

『はい……』

 

 正人もまた、唇だけで応じる。

 龍蔵たちが隠しカメラの映像で別室から見ていたとしても、責め苦を受けるナスターシャの前に正人が立って、無言で向き合っているようにしか見えないだろう。

 

『さっきの時子と龍蔵の会話……。どうやら、豊藤の後継者は、坂本真夫に決まったようだ……。予定通りに、その少年は抹殺する。だが、時を待つ必要がある。その後継者を始末できても、龍蔵が残っては報復の対象になる。全ては一度に片付ける……』

 

 スカーレットが唇だけで告げる。

 このスカーレットは、豊藤という人知を超えた能力を持つ豊藤の総帥を暗殺するために外国から送り込まれた諜報員だ。

 正人は、スカーレットを送り込んだ国に一度囚われ、逆らえない暗示をかけられて、スカーレット同様に、多重人格化されて、彼らの「道具」とされている存在である。

 だが、その真の正人の人格は隠れており、彼らの工作を手伝ういまの人格が表に出ることは滅多にない。

 こんな風に特別なキーワードを聞かない限り、絶対に表に出ない仕掛けをされているのだ。

 それもまた、人の心を操ると言われている豊藤の総帥に対する防衛策である。

 

『暗殺者として工作した少女を奴婢として少年に送り込んだことに、気がつかれている気配はないな?』

 

 スカーレットだ。

 正人は頷いた。

 

『その兆候はありません。あの真夫は甘ちゃんです……。女を信用しすぎる。だから、折角の能力なのに、操心術で支配しようともしない。女を支配したがるくせに、操心の力を使うことは嫌がっているようです。疑うこともしてない』

 

『それでいい……。豊藤に隠れている操心術の遣い手は全員を始末する……。ターゲットは、龍蔵、木下秀也、そして、坂本真夫……。しかし、龍蔵が本当に豊藤の総帥である確信が欲しい。やはり、あの男はずっとナスターシャに対して、操心術を使ってない。あくまでも、調教で支配しようとしている……』

 

『そういう趣味なのでは?』

 

 正人は言った。

 あの龍蔵が本物の豊藤龍蔵ではなく、スカーレットのような暗殺者から身を守るための影武者の可能性があると言ったのは、このナスターシャの人格に隠れているスカーレットだ。

 もっとも、正人はそんなことは考えられないと思う。

 正人が秀也の付人として、豊藤の中枢に係るようになってから、龍蔵を隠れ蓑にしている別の存在など感じたことはない。

 そもそも、正人にはそんな性癖はないが、嗜虐癖を持っていて、他人を調教して支配したいと思う者は、その過程を愉しむために、安易に操心術のようなもので簡単に支配を完成してしまうのは愉しくないと思うものなのかもしれない。

 真夫がそんな感じだ。

 正人は、龍蔵がナスターシャに操心術を使わないのは、そんなことをしなくても、ナスターシャは完全に堕ちているからだと思っている。あの龍蔵が本物でないということなど、あり得ない──。

 

『……時を待て。ただし、いつでも実行できるように……。そして、言っておくが、秀也を殺すのはお前だ。失敗するな』

 

『わかってます……』

 

『それと、真夫につけている少女奴婢だが、一度も人を殺したことがなければ、暗示をかけて支配しているといっても、殺人に躊躇う可能性もある。適当な人間を数名殺させて、殺人に慣れさせておけ』

 

『近日中に手配します』

 

 正人は頷いた。

 

『じゃあ、今日の指示は終わりだ……。“イワンの王の名物は金で買えない肌色の豆。ウォッカは窓に立って、月の女神に乾杯”』

 

 スカーレットがそう唇だけで呟くと、表に出ていた正人の意識は、もうひとりの正人の人格の中に隠れていった。

 もうひとりの秀也に従順に忠誠を尽くし、秀也という少年を心から愛するようになった男人格の中に……。



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第26章 変心【京子】
 第165話 三日目の開始──打算の愛


「先生──」

 

 声をかけられて、与えられた寝台の上でうずくまるようにして眠っていた京子は、はっとして目を覚ました。

 鉄格子の壁の向こうには、制服姿の白岡かおりが立っていた。

 SS研の地下層の檻のひとつである。

 夕べは、京子はここで休むことを許されたのだ。

 

 檻とはいっても、ひとり用の寝台はあり、奥の壁に面した小さなテーブル台もあり、さらに洗面台もシャワー室まで完備されていて、小さなビジネスホテルの一室という感じだ。テーブルには最低限の化粧具などもある。

 二日目の夜に真夫に犯されて、失神するように眠ったのがこの部屋だ。

 床には柔らかい絨毯も敷き詰められていて、通路側の壁の全部が鉄格子になっているということ以外は、清潔で快適な部屋といえる。

 全裸である京子だったが、室温の調整されていて、快適な環境といえた。

 とても、女を監禁するための「檻」とは思えない。

 

 一応は、食事も水分も準備してあったのだが、京子はそれにほとんど手をつけることなく眠ってしまった。

 それほどに疲労困憊だったのだ。

 だが、十分に眠ることもできずに、夜中に何度も淫らな夢を見ては目を覚まし、また疲れて微睡(まど)むということを繰り返した。

 それは、京子の股に施された仕掛けのせいだ。

 

 真夫は、この部屋に京子を監禁する前に、「股縄」と称して、小さな銀色の金属の輪っかに、細い三本の鎖がついているものを取り出し、その銀色の輪を京子のクリトリスの根元に嵌めてしまったのである。

 急所をぐっと絞られる辛さと恥ずかしさで、下腹部から波のように疼きが拡がりだし、京子はたまらずに、どうか外して欲しいと真夫に哀願した。

 だが、真夫はそれを許さず、輪から伸びている三本の鎖で腰にしっかりと固定して、輪が外れないようにしてしまったのである。

 これにより、満足に眠れないまま朝になったということだ。

 

 身動きしただけで股間を苛む淫具を装着されては、深く眠ることもできなかったが、無理矢理に外そうとすれば、強い電流が流れるようになっていると脅されては、京子もこれを受け入れるしかなかった。

 朝だというのに、すでに疲労困憊の気分だ。

 京子は、鉄格子の向こうのかおりを認めて、身体にかけていた毛布から身を起こす。

 

「ああ、白岡さん……。あっ、ひんっ」

 

 しかし、身体を起こしたことで、股間を鋭い刺激が加わり、京子はがくんと身体を弾ませてしまった。

 身体を動かせば腰に締めつけている鎖が動いて、鎖が繋がっている輪も動くのである。しかも、どうやら、輪の内側には小さな突起がついているようであり、それが余計にクリトリスを刺激するのだ。

 股間からぬるりとした感触があったので、毛布を外した自分の股間を見る。

 全身が汗びっしょりであるだけでなく、黒々とした陰毛は京子の股間から垂れ流れ続けた愛液でべっとりと濡れ、股間周辺はまるで尿でも漏らしたかのような散々な状態になっていた。

 情けなさに、泣きそうな気持ちになる。

 京子は寝台からおりることをやめ、ベッドの上で身体を小さくした。

 

「あらあら、随分な感じね……。ところで、真夫からの伝言よ。調教は一時間後だそうよ。それまでに、食事をして身支度を終わらせろということよ。もっとも、支度といっても服もないし、洗面とシャワーを済ませて、トイレにいっておくくらいかしら。一時間後に迎えが来るわ」

 

 かおりが鉄格子にある扉に手を触れ、電子キーを解除させた。

 部屋の中に入ってきそうだったので、京子は慌てて一度めくった毛布で下半身を隠す。

 彼女は車輪付きのトレイを伴なっていたが、それを中に運び入れてくる。

 そのトレイの上には、手で食べれるサンドイッチと果物、さらに、ポットに入った飲み物と紙コップが載せてあった。

 かおりは、それを小テーブルに並べていき、代わりに、昨夜から置いてあったほとんど手を付けられていない食事の皿などをさげていく。

 

「さ、坂本君は?」

 

 京子は、すぐに部屋を出ていこうとしたかおりに声を掛けた。

 すると、かおりは車輪付きのトレイを通路に出してから、自分は部屋の残って、鉄格子の前で振り返る。

 鉄格子の扉は半分開いたままだ。

 

「用事で寮に戻ってますよ。でも、逃げようとしても無駄ですからね。どうせ、この部屋も玲子がしっかりと監視しているに決まってます。わたしを人質にしたところで、この地下から上にあがることもできませんよ」

 

「そんなことはしないわ……」

 

 京子は嘆息した。

 もはや、逃亡しようという気力は萎えきった。

 ただ、真夫がここに来ないことが気になっただけだ。

 そもそも、京子にこんな淫靡な悪戯をして、寝室に放り込んで放置したのは真夫なのだ。それにもかかわらず、朝になって、顔も見せずに伝言だけを渡すだけとは、ちょっと失礼な気がした。

 むっとしてしまったのだ。

 

「ふふふ、先生、いつの間にか女の顔になりましたね。あいつに絆されました? 色魔で嗜虐好きですけど、セックスは上手ですものね。あいつ、初体験は小学生のときみたいですよ。これまでに抱いたことがある女は、両手両足じゃ足りなさそうです。先生があっという間にあいつに絆されたのは仕方がないですって」

 

 かおりが白い歯を見せた。

 京子はかっと顔が赤くなるのを感じた。

 

「な、なにを言っているのよ。ほ、絆されるって……」

 

「いいから、いいから、先生……。それに、なんだか、急に色っぽくなったみたいですよ。そろそろ、真夫のことが気に入りました? 恵さんとかに言わせれば、あいつは女たらしみたいですから……。先生も、なんだかんだで、あいつを憎みきれないですよね。それが絆されたということです」

 

 かおりがくすくすと笑った。

 

「ば、馬鹿なことを言わないで──」

 

 かおりの物言いに動揺している自分を感じた。

 そもそも、真夫のことが気になるということなどない。

 いや、気にならないというわけではないが、それは真夫が京子を監禁している存在であり、生殺与奪を握られている相手だからだ。

 絆されているなどということは、まったくあり得ない。

 あり得ないはずだ……。

 

「ねえ、先生、わたしの言葉を覚えてます?」

 

 すると、かおりがすっと顔の笑みを消して、真面目な顔になる。

 

「あなたの言葉?」

 

「わたしたちが勝ち組だということですよ。あいつに選ばれたということは、あたしたちが勝ち組になったということです。なにしろ、豊藤の後継者ですよ。次期総帥。それの愛人だなんて、最高じゃないですか。よかったですよね」

 

「よかったって……」

 

 あの坂本真夫が、豊藤財閥の次期総帥ということは、俄かに信じられることではないが、おそらく事実なのだろう。

 これだけの学園設備を好きなように扱っているということもそうだし、玲子のような優秀な人材が唯々諾々と彼に従うのも、真夫がそういう存在であるからだと思う。

 目の前のかおりから、真夫の正体を最初に教えられたときにも思ったが、そもそも、真夫には一介の生徒とは思えない不思議なカリスマ性がある。

 絆されている……。

 かおりの言葉を心から否定できない京子の気持ちがあることが、それを物語っている。

 だが、そうだといって、教師である自分が生徒である彼の奴婢になるなど……。

 

「先生、運命を受け入れましょうよ」

 

 すると、かおりが言った。

 

「運命?」

 

「先生……。先生はこの二日間、あの真夫にあんなことをされて、どうでした? もちろん、苦しかったし、辛かったと思いますが、反面、心の底から充実した時間を味わったんじゃないですか? わたしもそうでしたし……」

 

「じゅ、充実って……。まさか、あたしがそれを愉しんだとでも?」

 

 さすがに京子はかっとなった。

 

「さあ、どうなんですか? いまもそうやって、股間に淫具を装着されて、身体を苛まれ続けている。どうしようもないですよね。自由を奪われて、好き勝手に扱われ、無理矢理に快楽を刻み込まれた気分はどうでした? 本当に嫌な気持ちだけでしたか? わたしは夜は学園の外の語学スクールに行ってますけど、そのあいだ、先生はあいつと抱き合って、とんでもなく乱れたと聞きましたよ」

 

「なっ──」

 

 さすがに絶句した。

 だが、ゆうべの京子が真夫の前に、最後にはよがり狂い、心からの悦びとともに絶頂して果てたのは事実だ。

 あのときだけのこととはいえ、征服され 支配される悦びを心から感じたのは間違いない。否定はしたいが、自分に嘘をついても仕方がない。

 でも、あれは卑怯な媚薬を使われたせいで……。

 

「ふふふ、わたしに言い訳のようなことを口にしなくてもいいですよ……。とにかく、わたしが言いたいのは、先生はあいつへの隷属を承諾すべきだということです。素直にならずに、否定を続ければ、損をするのは先生です……。先生は考えるべきです。否定を続ければ、それを失って、後悔するのは先生ですから」

 

「わ、わたしが彼の奴婢にならなかったら、後悔するとでも言うの?」

 

 京子はかおりを睨んだ。

 

「間違いなく」

 

 かおりはきっぱりと断言した。

 そして、急に再び相好を崩した。

 

「そもそも、あいつ、信じられないくらいに金を持ってますよ。わたしも、あいつの奴婢になったことで、一千万円の支度金を貰ってます。いくらでも使っていい一千万で、減ればすぐに補填される仕組みになってるんです。そのお金で、最近は外の語学スクールに通ってるんです」

 

「語学スクール?」

 

 この学園は全寮制なので、基本的には学園の外に出るのは許可制だ。平日外出はほとんど許可されることはないが、知らなかったが、このかおりは特別な許可を受けているのだろう。

 まあ、理事長代理の玲子がいるのだが、なんでも可能か……。

 

「ええ、もともと英会話はできたんですけど、フランス語とスペイン語を勉強してます。わたしって、語学の才能も少しはあったみたいで、まだ始めたばかりですけど、かなりの手ごたえも感じてます。そうやって、自分の力を拡げられたもの、あいつから与えられるお金があるからです。ついでも、エステにも行ってますけどね。最高級クラスのです。あれって、最高ですね」

 

 かおりが満面の笑みを浮かべた。

 

「エステも? ちょっと待ちなさい。語学スクールはともかく、エステに通うための平日外出だなんて……」

 

「硬いこと言わないでくださいよ、先生……。そもそも、もっと軽く考えたらいいじゃないですか。支度金に一千万どころか、一億とでも頼んだらどうですか? 多分、くれると思いますよ。先生の人生を彼に預けることに、それじゃあ、不足なんですか? 随分と先生の値段は高いんですね」

 

 かおりが揶揄うような物言いをした。

 

「まさか、白岡さんはお金をもらったから、彼の人生を渡すのだと……? 打算で愛を売るの」

 

「打算のなにがいけないんですか? もちろん、それも動機のひとつですよ。もっとも、そもそも、逆らいようもなかったですしね。考えてみれば、わたしのしたことって、豊藤グループに殺されても仕方がなかったことでしょうし」

 

「殺される?」

 

 物騒な言葉だ。

 真夫と彼女のあいだに、どんな因縁があったのかわからないが……。

 

「ねえ、先生の実家って、財産家? そうでもないですよね。そんな感じじゃないですし、一般家庭ですよね?」

 

 唐突にかおりが言った。

 ちょっと面食らったが、確かに、京子の実家はただの会社員であり、この学園に集まっているような金満家とは全く違う平凡な家庭である。

 だから、そうだと応じた。

 

「だったら、なにが不満なんですか? 先生のこれからの人生で、あいつ以上に先生に貢いでくれる相手が現れるとでも? あいつを子供だと思わない方がいいですよ。いいですか、先生──。あいつは、豊藤の次期後継者です。社長令嬢のわたしが、喜んで奴婢になることを納得するくらいの存在なんです。その真夫に望まれたんだから、これ以上の幸運なんて、ないんですから」

 

 かおりはきっぱりと言った。

 そして、手をひらひらとさせながら、今度こそ、鉄格子の向こう側に行き、そのまま立ち去っていく。

 出入口にロックがかかり、京子は再びひとり残された。

 

「……打算の愛か……」

 

 京子はぽつりと呟いた。

 別に他に好きな相手がいるわけでもない。

 そもそも、学生時代から言い寄られることは多かったが、誰か特定の男性と恋愛をしたいと思ったことなどなかった。

 自分は恋愛には向かず、もしかしたら、一生、結婚などしないかもしれないと思っていたくらいだ。

 それでもいいと考えていた……。

 確かに、真夫がそれだけの存在などだとすれば、京子がそれを忌避する理由はないのかもしれないが……。

 そもそも、なんだかんだで、真夫はずっと紳士的だった気もするし……。

 京子は、とりあえず、準備のために寝台から降りようとして、両脚を床におろした。

 

「ひんっ」

 

 その瞬間、クリトリスに嵌められている金属環が大きく揺れて、股間から衝撃が走り、脳天を貫いていった。

 

「くあっ」

 

 京子はそのまま膝を崩して、寝台からお尻を落として床にしゃがみ込んでしまった。

 

「あんっ、いやっ」

 

 そして、床に尻もちをついた衝撃で、またクリトリスに嵌っている環が大きく動いて、ずんと疼きが迸る。

 あまりも深い身体のその疼きに、京子はしばらく両手で胸を抱くようにして、身体を震わせてしまう。

 

 前言撤回だ──。

 あの真夫に紳士的な部分などない。

 

 意地の悪いエロガキに違いない──。

 

 京子は、局部のおぞましい淫具に言いようのない屈辱感を覚えながらも、じわじわと甘い被虐の快感が込みあがるのを意識しないわけにはいかなかった。



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 第166話 三日目の約束と身体の疼き

「へえ……」

 

 京子は、思わず感嘆の声をあげてしまった。

 真夫に連れられてやってきたSS研の地下層内の大浴場である。

 鉄格子のある牢部屋から、真夫の案内でふたりきりで連れてこられたのは、牢部屋と同じ地下層にある大浴場だった。

 とてもじゃないが、SS研の地下層に建造した隠し部屋内とは思えないような眼をみはるばかりの豪華な浴場である。

 昨夜、京子が真夫によって調教されているあいだに、あの柚子が浴室に向かう状況があったので、浴室が存在することだけはわかっていたが、これほどの大きなものとは思わなかったのだ。

 

「朝風呂といきましょうか、先生」

 

「え、ええ……」

 

 とりあえず、拘束はされておらず、裸身を覆うバスタオルを与えられて、それを身体に巻きつけている。

 ずっと装着されていた股間の淫具であるが、とりあえず鎖だけは外してもらうことができた。

 もっとも、クリトリスの根元に喰い込んでいる環はそのままであり、歩くたびに股間に強い疼きが走ることに変わりはない。

 だが、鎖だけはなくなったので、身じろぎするたびに三方向のいずれかの鎖が動いて、股間を苛み続ける仕掛けだけはなくなったことにはほっとした。

 これなら、違和感はあるものの、なんとか動けないことはない。

 疼きを少しだけ耐えさえすれば、この地下層から逃亡することも可能かもしれない。女ながら空手の猛者である京子なら、目の前の真夫くらいなら、あっという間に無力化することもできるだろう。

 彼を人質にして、強引に脱出するという手段もある。

 

 だが、もう、その気はない。

 

 あと一日……。

 

 残りの一日の調教を耐え抜けば……。

 いや……。

 そもそも、真夫は約束を守るのだろうか……?

 だが、京子を不当に監禁して、好き勝手に凌辱を続ける真夫なのだが、妙な信頼感のようなものは感じつつあった。

 根拠はない……。

 でも、真夫はおそらく、約束だけは守る……。

 そんな気もするのだ。

 だから、あと一日……。

 

 それはともかく、怖ろしく豪華な浴室だ。

 脱衣所と浴槽とは薄絹のカーテンで隔たれているようだが、いまは解放されていて、脱衣所側から、広々とした浴場を視認することができた。

 浴槽側は脱衣所側から一段さがっていて、大理石張りの床に大きな楕円形の浴槽が埋め込んである。そして、浴槽の縁には竜の首のオブジェがあり、その口からは滑らかそうな湯が香水の香りを漂わせながら、こんこんと湯漕に流れ落ちていた。

 一面がすべて鏡張りになっている壁もある。

 浴槽の周辺の洗い場のような場所も広い。寝椅子のようなものも幾つかあり、寝椅子の横には飲み物などを置くような小さな台もある。それだけを見れば、まるで高級ホテルの大浴場、あるいは、プール設備のようである。

 

 だが、浴槽の中央部や洗い場の数箇所に飾り柱が二本ずつあり、それぞれの柱のところどころには、飾り柱に不似合いな鉄の環がはめ込んであることにも気がついた。

 ほかにも、浴槽の両端にも女の人魚のオブジェがあり、そこにも何かを嵌めるような留め具がある。そして、天井にも滑車があって、そこから革枷がぶら下がった鎖が垂れている。

 さらに、寝椅子にもまた、女を拘束するときに使うような金具や革ベルトがあって、やはり、女を嗜虐するのに使う道具でもあるようだ

 やはり、ここも、ただの浴場ではなく、女を調教するための施設であるということが、それらのことからわかる。

 

「さあ、入りましょうか。実は、この浴場もできあがったばかりなんですよ。以前は、湯を流せるシャワーがあっただけの部屋だったんです。でも、玲子さんに頼んで大浴場にしたいと頼んだから、こんな立派なものを作ってくれたんですよ」

 

 真夫が京子に振り返って白い歯を見せる。

 

「は、はあ……」

 

 京子は生返事をする。

 ただ、本当にこの少年は豊藤の後継者候補なのだと思った。

 真夫の言葉のとおりなら、目の前の少年のただの気儘により、これだけの豪華な設備を作ったことになる。

 しかも、地下層だ。

 一体全体、いくらほどの金額がかかったのだろう?

 まあ、噂されているあの豊藤財閥の力なら、どうということもないことなのだろうが……。

 

「さっきも言いましたが、ここはもともと、もっと狭かったんです。幾つかある調教室のひとつだったそうです。特にどんなプレイをするための部屋だったかわかりますか、先生? ヒントは、元々あったのは、シャワーと鏡張りの壁です」

 

「いいえ、検討もつきません」

 

 どんな行為をする場所かなど、どうでもいいと思ったが、とりあえず首を横に振る。

 

「浣腸プレイを愉しむ部屋です。そのためのシャワー設備だったんですよ。汚物を洗い流すためのね」

 

「なっ」

 

 京子は最初に日に、この真夫に浣腸を受けて、目の前で排便させられたことをまざまざと思い出してまって絶句した。

 かっと顔が赤くなるのを感じた。

 

「もちろん、いまでも浣腸プレイはできますよ。さすがに大便を浴槽の中でというわけにはいかず、浴槽の外になりますが、放尿程度であれば、濾過装置があるので、すぐに綺麗にしてくれます。体験しますか、先生?」

 

 真夫が京子に意味ありげに微笑む。

 

「い、いえ、結構です──」

 

 京子は慌てて首を横に振る。

 すると、真夫は声をあげて笑った。

 揶揄(からか)っただけだったのか?

 京子は、ちょっとむっとした。

 だが、この少年については、揶揄うなどという言葉はないということを思い出した。“やる”と宣言したことは、どんなことであろうとやらされる……。

 そのことを、つくづく、京子はこの二日間で痛感した。

 

 いずれにしても、このSS研の地下層に監禁されて、今日で三日目……。

 最初の話のとおりであれば、真夫たちは京子を今日で解放するはずだ。

 ただし、その解放の条件というのは、京子は真夫による「調教」を大人しく受けるということである。

 大人しく調教を受けたつもりはなかったが、結果として、京子は強引に真夫たちによる性的嗜虐を強制されさせられた……。

 生徒である真夫に犯され、辱めの限りを尽くされただけでなく、歓喜に悶え啼き、激しく欲情に興奮する姿をさらけ出してまったのだ。

 その記憶は生々しく、京子の頭に峻烈に残っている。

 今日の三日目が終わって、約束通りに真夫が京子を解放したとして、なにもなかったように、明日から以前のように教師として過ごせるのか……?

 京子は大きな不安に苛まれ始めていた。

 

 とにかく、耐えがたいのは、その恥ずかしい姿を生徒である真夫たちの前で晒したこともあるが、もっと不安に思うことがある。

 股間が熱いのだ……。

 お尻の中心が妙にむずむずとする感じもする。

 どうして……?

 

 昨夜は、それもまた調教の一環として、クリトリスの根元に金属環を嵌められ、腰に細い鎖で固定されて、身じろぎしただけで、股間に電撃のような刺激が沸き起こる仕掛けをされて眠らされた。

 もちろん、満足に休めるわけもなく、京子はまんじりともできない夜を過ごすことになったのだが、やっとあの牢部屋に真夫が迎えにきて、とりあえず、鎖だけは外してもらった。

 ほっとした。

 しかし、安堵の反面、身体を辛く苛む刺激がかなり小さくなったことで、得体の知れない身体の疼きのようなものに包まれ始めている。

 身体の火照りが鎮まらない……。

 むしろ、鎖による刺激がなくなったことで、焦燥感がどんどんと膨れあがり、いまでも股間から樹液が漏れ続けている。

 

 まさかとは思うが、京子の肉体が真夫たちによって、淫らに変えられてしまった?

 まだ、たったの二日しか経ってないのに?

 そう思うと、京子は怖くて仕方がない気持ちになる。

 

「じゃあ、先に湯に入っていてください。俺は少し準備をしてきますので……」

 

 真夫に背中を軽く押されて、湯槽の方向に促された。

 なんの準備なのか……。

 不安に包まれるが、京子は仕方なく、バスタオルを身体の前で押さえたまま、湯槽の方向に歩み進もうとした。

 

「先生、まさか、バスタオルを巻いたまま、浴槽に入るつもりですか?」

 

 すると、いきなり真夫の手が後ろから京子が巻いていたバスタオルを掴んできた。

 

「あっ、ま、待って──」

 

 剥ぎ取られそうになり、京子は咄嗟にタオルを掴んで、阻止しようとした。

 ところが、その瞬間、股間のクリトリスの根元に食い込んでいる金属環が激しく動きだしたのだ。

 

「うわあっ」

 

 なにが起きたのか理解できないまま、京子は股間を押さえて、蹲っていた。

 遠隔で振動もできるとは思わなかったのだ。

 強烈な刺激が京子の全身を貫く。

 脱力してしゃがみ込んだ京子から、真夫があっという間にバスタオルを剥ぎ取ってしまった。

 振動が静止する。

 

「逆らわないことです。視線ひとつで、先生を無力化することができるんです。俺の眼を見てください」

 

 真夫が声をかけてきた。

 だが、突然のクリトリスへの刺激は強烈すぎて、すぐに立つことができなかった。とりあえず、息を整えようとして大きく呼吸をする。

 すると、再び股間の金属管が小刻みに振動を開始した。

 

「んああっ、ああっ──。と、とめて──。とめてちょうだい──」

 

 京子はがくがくと身体を震わせて、完全にその場に突っ伏した。

 

「素直に、俺の命令に従いますか? まだ調教期間中です。俺の命令には絶対服従。それを誓ってください」

 

「ぜ、絶対、ふ、服従……って、ああ……、あっ、ああっ」

 

「それとも、こんな機能もありますよ」

 

「おごおおっ」

 

 次の瞬間、金属環から、まるで叩かれたような大きな衝撃が走った。

 電流が流れたのだとわかったのは、不快な激痛がクリトリス襲い続け、その衝撃がしばらく続いてからだ。

 

「ぎゃあああっ、や、やめてええ──。いやああ──」

 

 京子は股間を両手で押さえて突っ伏したまま、悲鳴をあげ続けた。

 すると、やっと電流が停止する。

 今度こそ、京子は完全に息を荒げてしまった。

 まだ、お湯にも入ってないのに、全身は脂汗でびっしょりだ。

 

「どうですか、先生、電流の味は? いまのは、最小に近い電流です。もう少し強い電流も流せますよ」

 

 再び股間から凄まじいほどの電流の衝撃が貫いた。

 

「ぐああっ」

 

 自分でも驚くほどの大きな声で悲鳴を張りあげる。

 今度はすぐに電流は停止した。

 

「で、電流は……な、流さないで……」

 

 京子は息も絶え絶えに言った。

 

「もう流しませんよ。先生が約束を守ればですけど……。さあ、俺の命令は絶対服従です。少なくとも、残り一日はね……。さあ、立ちあがって、俺の眼を見るんです」

 

 京子は必死に身体を起こす。

 もう命令に逆らうという感情は、まったくなくなっている。

 それほどに、股間に電流を流される恐怖は途方もなかった。

 両手で胸と股間を隠しながら、真夫の方を向き、言われた通りに眼を覗く。

 真夫が、京子と顔とくっつけんばかりに接近させると、真夫の眼にコンタクトレンズが嵌っていることに気がついた。

 

「コンタクト?」

 

「ええ、別に近眼じゃないですよ。ネット接続のできるスマートコンタクトというやつです。開発中のものらしいですが、視線だけでネット接続することができるようになってます。いまの先生へのクリトリスの金属環の操作は、これを使ったということです」

 

 真夫が微笑む。

 視線でネット操作のできるコンタクト?

 驚くような技術だが、確かに、目の前の真夫は裸であり、なにも持ってない。それにも関わらず、京子に股間に嵌っている金属環を自由自在に振動させたり、電流を流したりできたのだから、真夫が言っていることは本当なのだろう。

 

「とにかく、俺の言いたいのは、先生が俺に逆らうことは無理だということです。なにしろ、視線ひとつで、先生に嵌めているクリトリス環を操作できるんですから。まあ、その小さな金属環に内蔵できる程度の電流だから、最大電圧でも感電で火傷する程でもないですが、あの程度でも強烈だったでしょう? まだ納得できないなら、もっと体験してもらってもいいですけどね」

 

「じゅ、十分よ。逆らわないわ」

 

 京子は急いで頷く。

 まだ、股間に電流を流された恐怖は残っている。

 あれをもう一度など、冗談じゃない。

 

「結構です。じゃあ、湯の中に行くんです……。あの真ん中の柱のところにいてください」

 

 京子は言われた通りに浴槽に入り、お湯の中を割って進む。

 お湯は立って歩く京子の膝の少し上くらいの高さだ。

 湯の真ん中の二本の飾り柱の前に着く。柱の上方や湯の中の下方部分に四肢の手首足首を拘束できるような金属環があった。

 京子は裸身を隠したまま、不安な気持ちとともに、柱の前に立つ。

 

 真夫がやってきた。

 湯に浮かべる小さなエアフロートを持ち、その上に箱を載せていた。箱の横には乗馬鞭もある。

 京子はどきりとした。

 

「じゃあ、先生、まずは柱のあいだに立って、両脚を柱の幅に拡げてください。両手は万歳をするように、両手を上に……」

 

 真夫はエアフロートに載せて持ってきた箱をそばに浮かべ、京子の腕を軽くとって、柱の間に促す。

 さすがに躊躇うものがある。

 この二本の柱に、京子を拘束しようという意図は明らかだ。

 一体全体、なにをされるのか……。

 ふと見ると、露出している真夫の股間は、隆々と勃起して、怒張が天井を向いている。真夫はこれから京子に与えようとしている行為を想像して、性的興奮にあるのだろう。

 それだけに、京子も怖さを覚える。

 

「……俺にさっきのスイッチを入れて欲しいですか? さっきも言いましたが、視線だけでクリトリスを責めることができるんですよ。二度目の電流よりも、ちょっと電圧をあげますか」

 

 真夫が微笑む。

 

「ひっ」

 

 京子はぞっとして、すぐに身体を隠していた両手を上にあげて、脚を拡げる。

 真夫があっという間に、四肢に柱にある金属環を嵌めていき、京子を拘束してしまう。

 京子は両手を上にあげて、脚を拡げた状態で固定されてしまった。

 

「さて、これで先生は、いよいよ、なにをされても拒否できない状態になりましたね。三日目の調教の開始ですよ」

 

 真夫が宣言するように言った。

 京子は口にいつの間にか溜まっていた大量の唾液を呑み込む。

 

「そ、それよりも約束してください──。今日で終わりだと。残り一日です。それが終わったら、あたしを解放すると、もう一度約束してください」

 

 京子は声をあげた。

 すると、真夫がにやりと微笑む。

 

「ええ、約束は守ります。でも、それは、先生もまた約束を守るというのが条件でしょう。この二日、先生が大人しく俺の調教を受けたという感覚はありませんけどね。なんだかんだで、結構抵抗した感じですが……」

 

「さ、逆らってないわよ──。あ、あなたは、あんなにあたしに好き勝手をしておいて……」

 

「でも、進んで調教を受けるのも、三日間の解放の条件だと伝えたはずですけどね……。まあいいでしょう。ちゃんと解放しますよ。改めて、先生が進んで調教を受けることを約束すればね」

 

「う、うう……。約束するわ」

 

 京子は言った。

 いずれにしても、逆らえないのだ。

 今日一日、耐えれば……。

 京子は大きく頷く。

 

「じゃあ、再約束の成立ですね。残り一日、先生が一切の命令に逆らわなければ、先生を自由にしましょう」

 

 真夫が言った。

 とりあえず、一日……。

 一日だけ……。

 京子はぐっと口を噛みしめる。

 

 そのとき、京子はいつの間にか、自分の前に極細の鎖が天井から、ゆっくりと垂れ落ちてくることに気がついた。

 先端には豆粒のような金属の円盤のようなものがついている。

 それがそのまま身体の中央を進んで、股間まで落ちた。

 

「特殊な電磁石式になってます。先生の股間に嵌っている金属環に密着させると、ぴたりとくっついて、あとは俺が磁気を信号で解除するまで離れることはありません。離れるくらいなら、先生のクリトリスを根元から引き千切るでしょうね」

 

「えっ、ええ?」

 

 物騒な物言いに、京子はぞっとする。

 だが、真夫はそれに構わず、垂れ落ちた鎖の尖端の極小の円盤をクリトリスの環に接続してしまう。

 今度はゆっくりと鎖が引きあがっていく。

 多分、眼に嵌めているスマートコンタクトとやらで操作しているのだろう。

 それはともかく、徐々に弛みのなくなる身体の前の鎖に、ぞっとする。

 このままでは……。

 

「ま、待って、坂本君──」

 

「待ちませんよ」

 

 すぐに鎖は完全に緊張してしまった。

 さらに鎖が引きあがる。

 クリトリスがそのまま天井に引っ張られていく。

 

「ひぎいいい──」

 

 京子はお湯の中の足を爪先立ちにして、身体を上にあげた。

 限界まで爪先立ちになったところで、やっと鎖の引き上げが止まる。

 

「さて、先生、選択をしてもらいます。いまからクリトリスに痒み剤を塗って、失神するまで筆責めを受けるのがいいか、あるいは、剃毛を願い出るかです。どちらにしますか? ふたつにひとつですよ」

 

「は、はああ?」

 

 京子は唖然となった。



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 第167話 痒みか、剃毛か

「な、なにを言っているのです──。そんなこと、できるわけありません──」

 

 京子は動顛して声をあげる。

 すると、目の前の真夫がけらけらと笑った。

 

「心配いりませんよ。なにかするのは俺です。先生は、なにもする必要はありません。そして、できるか、できないかと言われれば、確実にできますよ。痒み責めは一昨日も、昨日も経験済みですよね。剃毛も問題ありませんよ。俺の女たちの股は、大抵が俺が剃りあげてますから、上手なものです。それで、どっちを選択するんですか?」

 

「そ、そんなの選べるわけ……」

 

 冗談でじゃないと思った。

 陰毛を剃られる──?

 

 想像もしなかった辱めだ。そんなことは受け入れられるわけがない。、

 そもそも、京子は陸上部の顧問として、女生徒の部員たちととともに、生徒用の大浴場で身体を洗うことも多いのだ。

 困るに決まっている。

 かといって、痒み責めの絶筆に尽くしがたい苦しみは、嫌という程味わった。

 この坂本真夫という男子生徒は、気絶するまで苦しめると言えば、本当にそうするだろう。

 京子はぞっとした。

 

「選べなければ、両方にしましょう。まずは、痒み責めをしてから剃毛です」

 

「そ、そんなことは無理です──。いやよ」

 

 京子は激しく狼狽して、裸身を暴れさせようとした。

 

「あぐうっ」

 

 だが、細い鎖で吊りあげられてるクリトリスに、針でも刺されたかのように激痛が走り、それで動けなくなる。

 京子はしばらくのあいだ、痛みに歯を喰いしばった。

 すると、真夫がすっと京子のクリトリスの根元に食い込んでいる金属環と天井を繋げている鎖に手を触れる。

 京子はぞっとしてしまった。

 

「いやっ、やめて──」

 

 動かされはしなかったが、さっきの激痛が走るのではないかと思うと、思わず悲鳴をあげてしまう。

 すると、真夫がにっこりと微笑む。

 

「先生を従わせる手段なんていくらでもあります。この鎖をあと五センチ、いや、三センチ引きあげるだけで、先生もおそらく両方とも応じてしまうでしょう。それとも電流を流しましょうか? 先生が承諾するまで、数分というところではないでしょうか。それなのに、先生に選ばせてあげようとしてるんです。優しいものでしょう?」

 

「ひ、卑怯者──」

 

「これが最後のチャンスです。選ばないなら両方です」

 

「い、いやだったら──」

 

「それが答えですね。じゃあ、半分、半分といきましょうか。まずは半分剃ってから、痒みクリーム。それからは、じっくりと時間をかけて剃っていきます。それと、水もシャボンも使いませんので……。先生自身の愛液を石鹸水代わりにさせてもらいますね」

 

 真夫が京子の股間の前に膝をついた。

 そして、両手で京子の股間を押し広げるようにして、舌先を内側に沈み込ませてねっとりと舐め始める。

 舌が下から上に動き、金属環で吊り上げられているクリトリスを弾くように舌で擦る。

 間髪入れずに、今度は上から下に……。

 さらに、また下から……。

 

「んふううっ」

 

 京子は激しく声をあげながら、首を大きくのけぞらせた。

 だが、股間だけはほとんど動かすことができない。鎖でクリトリスを引きあげられているので、ちょっとでも腰を動かせば激痛が走るのだ。

 抵抗できない京子の股間に、容赦のない真夫の舌責めが加えられる。

 

「ああ、か、感じる──。感じちゃう──。き、気が変になる──」

 

「気が変になればいい。先生は調教されてるんです」

 

 真夫が一度股間から口を離して、すぐに舌責めに戻った。

 そして、片方の指先で金属環をそっと持ち、こりこりと微妙に揉みあげながら、舌でゆっくりと愛撫をしてきた。

 つんと大きな快感が股間から全身に迸る。

 

「ああ、あああっ」

 

 京子は首を横に振る。

 敏感な場所を鎖で引きあげられての局部責めに、京子はあっという間にのっぴきならない状態まで追い詰められた。

 いや、それだけじゃない。

 やっぱり、京子はここに監禁される前に比べて、途方もなく敏感な身体になっている。

 こんなに簡単に我を忘れるほどに感じるわけないのだ──。

 

「ああ、ああっ、あああ──」

 

 あまりに激しい快感に、どうしても腰を動かしてしまい、そのたびに鋭い激痛が襲う。でも、それさえも気持ちいい。

 痛いのか、気持ちいのか、それすらも、もうわからなくなる。

 

「先生、我慢するんですよ。簡単に達してはいけません」

 

 真夫がちょっとだけ口を離して、股間の前でささやく。

 その喋る息の風さえも、くすぐったくて京子を刺激する。

 痛烈な快感の痺れが背骨に貫き、さらに脳天に達する。

 我慢しようと思ったが、そんなのは無理だ。

 とてもじゃないが、耐えられない──。

 

「さ、坂本君──、無理です──。無理いい──」

 

 京子は完全に追い詰められてしまった。

 それなのに、どんどんと快感を真夫に追加される。

 とにかく、必死に奥歯を噛みしめて、真夫の命令に従い絶頂感を堰き止める。

 もうなにがなんだか、わからない。

 考えるのは、真夫の言葉に従うという一点だけだ。

 

「仕方ありませんね……。達してもいいですよ。その代わりに、先生、達するときには、“いく”と言うんです。命令です」

 

 真夫がそう告げてから、舌責めにまた戻る。

 しかも、突然に舌の動きが速くなる。

 

「いぐううっ、ああああっ」

 

 なにも考えなかった。

 昇天とともに、“いく”と言わないとならないと思っただけだ。

 快感で頭が真っ白くなり、京子は腰だけを動かさないようにしたまま、身体をのけぞらせてぶるぶると痙攣させた。

 そして、がっくりと頭を前に倒す。

 脚が脱力しそうなのを必死になって爪先立ちを保持する。

 

「じゃあ、剃毛といきましょう」

 

 真夫が剃刀を手にして、べっとりと愛液で濡れ裸京子の陰毛の上に刃物を滑らせた。

 まとまった縮れ毛が一気に剃られる。

 

「ああっ、やめて──。ばかなことはやめて──」

 

 京子ははっとして、我に返って叫んだ。

 さすがに、陰毛をすべて剃り落とされるなど躊躇する。

 それを許せば、正真正銘に、教師の京子がこの真夫の奴婢に成り下がったことを形にしてしまう気がしたのだ。

 

「動くと危ないですよ。刃物を使ってますからね」

 

 だが、真夫はそう言っただけだ。

 すぐに、剃刀で京子の陰毛を剃る作業に戻る。

 

「わ、わかったわ──。痒み責めを受けます──。その代わりに、そこだけは剃らないで──」

 

 京子は意を決して言った。

 痒み責めなど耐えられないのはわかっている。

 でも、昨日とは異なり、こうやって、陰核を吊り上げられている状況であれば、意図的に腰を動かすことで、吊りあげられているクリトリスの激痛で痒みを忘れられると思ったのだ。

 いや、そうでないとしても、股間の毛など剃られたくない──。

 それは、京子の最後の自尊心の象徴のような気がした。

 

「へえ、そうですか? 耐えられるわけないと思いますけどね?」

 

 真夫が顔をみあげて、きょとんとした表情を京子に向ける。

 

「い、いいから約束して──、あなたの言う通りにするから、あたしの股間の毛を剃るなんて、ばかなことはしないで──」

 

「いいでしょう。先生の言葉の通りにしましょう」

 

 真夫がにやりと微笑む。

 そして、一度立ちあがって、浮かんでいる箱を寄せて、手にしていた剃刀を置き、その代わりに筆と小瓶を取り出した。

 筆を持った右手で、真夫が小鬢の蓋を開く。つんとした刺激臭が京子の背中にどっと冷や汗をかかせる。

 

「一昨日や昨日使った掻痒剤とは、またひと味違ったものですが、気に入るといいですね。油剤というよりは、液剤になります。これを筆でたっぷりと塗りつけていきます。即効性なのですぐに効果が表れます、多分、先生はよがり泣くどころか、本当に気を失うかもしれません」

 

「くっ、そ、その代わりに、や、約束よ──」

 

「ええ、先生の言う通りにしますよ。約束します」

 

 真夫がいまだに絶頂の異音でひくひくとなっている京子の股間に、薬液を浸した筆先を這わせ始めた。

 

「あ、ああっ」

 

 京子はその刺激に切羽詰まった悲鳴をあげた。

 だが、腰を動かすことはできない。

 クリトリスを鎖で吊られているのだ。

 身動きできない股間に真夫の筆が襲い、その部分がいたぶられていく。

 京子はしばらくのあいだ、進退窮まった感じで、ひたすらに悲鳴をあげ続けた。

 

 そして、五分ほど経っただろうか。

 クリトリスを含む局部に少なくとも十回は塗り重ねられて、いよいよ怖ろしいほどの痒みが股間に襲い掛かってきた。 

 いや、痒みだけじゃない。

 ずどんという衝撃すら感じるほど、濃密な身体の疼きも襲い掛かってきた。

 

 なにこれ──?

 股間だけじゃなく、全身が燃えるように熱くなる。

 全身が性感帯になった感じであり、身体が溶け落ちていくようだ。

 

「ああ、な、なにこれ? ああっ、あああ……」

 

 股間が痒みというよりは熱い──。

 いや、痒みもある……。

 とにかく、苦しい……。

 眼が回り、全身が脱力していく。

 

「辛いですよね、先生? 股間の痒みも、性感の疼きも、放っておけば、どんどんと拡大していきます。それでいて、どこまでも、全身が敏感になるので気も失えません」

 

 真夫が言った。

 その瞬間、突然にクリトリスを引っ張っていた鎖がクリトリスの根元の金属環を離れてしまった。

 

「えあっ?」

 

 京子は呆気にとられた。

 爪先立ちからは解放されたので、それは助かったが、痛みで紛らすことができなくなった途端に、股間の痒みが数倍の迫力とともに京子に襲い掛かる。

 

「もしかして、クリトリスを吊られたままなら痒みを我慢できるかもしれないと思ってましたか? あり得ませんよ。そんなことをすれば、痒みと痛みの両方でわけがわならなくなって、あっという間に失神してしまうと思いますね……。でも、先生には失神も許しません。たっぷりと、痒みに苦しんでください。失神させるような失敗は、俺はしませんので……」

 

「ああ、なに、なによ……。ひ、卑怯……。く、苦しい……。ああっ、く、苦しいわ──。いえ、痒い──。ああ、痒い──。熱い──」

 

 京子はあっという間に限界まで追い詰められてしまった気がする。

 そして、痒み責めを受け入れようなどと口にしたことを後悔した。

 なによりも、股間の疼きが凄まじい。

 痒みも我慢できない。

 

「あああ、離して──。ひ、ひどいわ、こんなやり方って──」

 

 京子は、拘束された四肢を引き千切らんばかりに身体を暴れさせる。

 恥も外聞も忘れた。

 手足が自由なら、この場で間違いなくオナニーをしただろう。

 でも、その自由も京子にはない。

 

「先生が選んだことですよ。とにかく、約束ですから、先生が拒否する限りは、先生の陰毛を剃ることはしません。もっとも、先生が剃ってくれと言うなら、剃るしかないですけどね」

 

 真夫がすっと京子から距離をとる。

 京子は愕然とした。

 そして、この真夫がまったく約束を守るつもりがないことを悟った。

 このまま放っておかれてしまえば、京子はおそらく、いくらも経たないうちに、今度は剃毛を認めてしまうに違いない。

 

「ひ、卑怯ものおおお──」

 

 京子は狂ったように腰を動かしながら絶叫した。



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 第168話 そして、剃毛

「ああ……、ぬ、奴婢でいいです……。け、毛を剃ってください。か、構いません……。ああ……、あが……ああっ」

 

 一刻の早く、この痒み地獄から解放されたい。

 女の快感を極めたい。

 京子の頭にあるのはそれだけだった。

 もはや、ほかのことを考える気力は残ってない。

 

 剃毛と痒み責めの二者選択を迫られ、思わず痒み責めを選んだ京子だったが、明らかな失敗だったと悟るまでに、結局十分もかからなかったと思う。

 痒みを癒す手段を奪われてしまい、真夫はただただ、痒みに苦悶する京子を放置してひたすら見守るだけのことしかしなかった。

 その結果、気が狂うような痒みと股間の疼きの前に、京子の覚悟などあっという間に瓦解してしまい、ついに剃毛を受け入れる言葉を口にしてしまったというわけだ。

 

 京子は拘束されている身体を暴れさせながら、がくりと首を垂れた。

 一方で、全身からは脂汗が大量にしたたり、膝の位置にある浴槽の湯面にぽたぽたと落ち続けいる。その状態で京子は暴れ続けていた。目の前に真夫が京子の痴態を観察しているとわかっていても、腰を前後左右に振り続けるのをやめられないのだ。

 

「これで、何度目の奴婢の誓いでしたか? 本当に誓いますね、先生? それとも、まだ試しますか? 先生を屈服させる方法はいくらでもあるんですよ。試してみたいこともね」

 

「ああ、もう本当に……ち、誓います……。もう、逆らいません……。で、ですので……」

 

 京子は狂乱する一歩手前まで追い詰められて、歯を噛み合わせながら応じる。

 逆らえない……。

 今度こそ、それがわかった。

 それに、塗られた媚薬は、ただ痒みをもたらすだけではないのだ。頭がおかしくなるほどに、股間が疼くのだ。

 

「本当に約束しますね……? いや、今度こそ、本気のようですね……。その代わり、駄々を言った罰です。前に告げた通りに、石鹸なしで、先生の股からあふれ出る体液を使って逸らしてもらいます。いいですね」

 

「は、はい……」

 

 京子は大きく頷いた。

 一刻も早く、この痒みから解放されたい。

 性の疼きで狂う身体を満たして欲しい。

 他のことは考えられない。

 

「わかりました。でも、言っておきますが、これは先生のお願いだから剃るんですよ。俺は約束は守ってます。先生が拒否する限り、剃毛はしないと口にしましたしね」

 

「わ、わかってます──。と、とにかく、早く──。あ、あたしは──京子は心から屈服しました──。もう苛めないで──」

 

 京子は絶叫して叫んだ。

 拘束されている四肢を引き千切らんばかりに暴れさせる。

 

「……まあいいでしょう。でも、その状態じゃあ、危なくて剃刀を使うこともできそうにないですしね。痒みだけは消してあげましょう」

 

 真夫が二本の柱に拘束されている京子の背後にまわった。

 その直後、いきなり両手首を拘束している革枷が柱の下側にゆっくりと動き出した。

 驚いたが、そんな仕掛けもあったようだ。

 それはともかく、両手を万歳するような位置で柱に繋がれていた手首が強制的にさがることで、当然のように上半身が折れ曲がってさがっていく。

 やがて、手首は膝に近い高さまで下がり、京子は真夫にお尻を向けて前屈をする恰好にされてしまった。

 

「ああ、いやっ」

 

 強制的にとらされた羞恥の格好に、京子も思わず悲鳴のような声をあげてしまう。

 

「まるで洪水のようですよ。よく我慢できますね」

 

 真夫が京子の尻たぶを両手で掴んでわしづかみしてきた。

 そして、京子のお尻の下にすっと怒張をあてがって、前に滑らせるのを感じた。

 犯される──。

 それがわかった途端、京子の身体を包んだのは、心からの期待と歓喜だった。

 京子は羞恥と恥辱に襲われつつ、被虐の歓喜が身体を席捲するのを感じた。

 ところが、真夫の男根の尖端がクリトリスを押し、さらに花芯に押し込もうとする寸前に、突然にぴたりと停止してしまう。

 しかも、焦らすように熟れきっている淫口をくすぐるように動かされる。

 

「ああ、どうして──?」

 

 京子は直前にお預けを喰らったような気持ちになり、思わず泣き声をあげて腰を揺する。さらに真夫に向かって腰を動かす。

 だが、それを避けるように、真夫が腰を引いてしまう。

 

「あっ、やだ──。い、意地悪しないでください──」

 

「ははは、まだですよ。先生、お願いするんです。俺に犯して欲しいと言ってください」

 

「あ、ああっ──。犯してください。お願いです──。もう解放して──」

 

「わかりました」

 

 京子の腰を抱く真夫がぐっと前に腰を突き出す。

 熱い剛棒が一気に京子を貫く。

 腰が震え、全身の肌が歓喜で粟立つ。

 駆け巡る大きな愉悦に、京子は悶絶しかけた。

 

「あああっ、いいいいっ、き、気持ちいいい──」

 

 なにも思考することなどできない。

 もういいのだ──。

 京子は快楽に身を任せ、抉られる子宮の痺れがさせるがままに、声をあげ、身体をがくがくと振るわせた。

 真夫がすぐに律動を開始する。

 

「そうです。なにも考えないで、お互いに馬鹿になりましょう。そうすれば、もっと気持ちよくなります」

 

 真夫が腰を前後に動かしながら言った。

 身体を包んでいた激しい痒みが全て快感に変わっていく。

 激情が全身を駆け巡る。

 

「ああっ、いくう、いきますう──」

 

 京子は腰を振りながら叫んでいた。

 

「いくらでも達してください。その代わりに、俺が精を出したら、股間の毛を全部剃りますからね」

 

「は、はい──。わ、わかってます。ああっ、気持ちいいです──。さ、坂本君──。気持ちいい──。いくううっ」

 

 脳内ですさまじい衝撃が爆発し、身体がばらばらになる錯覚が迸る。

 激しいものが全身を貫き、京子は全身を突っ張らせた。

 次の瞬間、股間からなにかが弾け飛び、腰が砕ける感じで全身から力が抜ける。

 

「おっとっ」

 

 真夫が京子の腰を支え、股間に真夫の精が放出されるのを感じた。

 目の前の視界が完全に消え去り、白い光に包まれながら、京子はついに意識を手放してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、先生、しっかりして──」

 

 頬を軽く叩かれた。

 はっとした。

 もしかして失神していた?

 

 とにかく、気がつくと、京子は再び両手を高くあげた格好で柱に拘束されており、後ろから京子を犯していたはずの真夫は、京子の正面に位置している。

 そして、左手に濡れた手拭いのようなものを持ち、右手で剃刀を手にしていた。

 どうやら、手拭いを持っていた手で頬を叩いたようだ。

 京子はしっかりと眼を開く。

 

「さあ、約束です。もう痒みはないでしょう? じっとしてるんです」

 

 真夫が京子の股間の前にしゃがみ込む。

 

「くっ」

 

 顔を股間に近づけられ、反射的に腰をくねらせてしまったが、すぐに観念して股間を真っ直ぐに晒し直す。

 もはや、精魂尽きた心地だ。

 剃刀の刃が肌に触れるときには、じっとして剃刀の洗礼を受ける体勢をとる。

 

「こ、怖いです……」

 

「大丈夫です。俺に身を委ねて……。そうすれば、傷なんてつきませんから。結構、手先は器用なんです」

 

 真夫の手がゆっくりと股間を滑る。

 まとまった陰毛が京子が股間から垂らした大量の愛液とともに身体から離れるのがはっきりとわかった。





 *

 なかなか執筆時間が確保できなくて、少し短いですが……。


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 第169話 受け入れる女教師

「あ、ああっ、だ、だめえ──。そ、そんなに……、い、悪戯しないで──」

 

 京子は鼻を鳴らすようにして、またもや、拘束されている身体をよじらせてしまった。

 真夫が右手で持つ剃刀で京子の陰毛を剃っていく傍ら、左手で操る小筆がクリトリスを執拗にまさぐっているのだ。それだけではなく、指で皮をめくるような動作や、あるいは指を京子の秘奥の内側にゆっくりと侵入させては敏感な場所を揉み動かして刺激を加えてくる。

 そのたびに、痺れるような情感が噴き出し、京子は思わず腰を動かしてしまっていた。

 真夫が手を離して笑い声をあげる。

 

「仕方ないでしょう。先生の愛液を泡代わりにして剃ってるんですから。だから、どんどんと足していっているだけです。それよりも、そんなに動くと大事な場所が傷ついても知りませよ」

 

 そして、真夫が悪戯っぽく身を竦めるような仕草をする。

 大きな湯船の真ん中に立っている二本の柱のあいだである。そこに四肢を拘束されて立たされ、開脚されている股間の陰毛を真夫から剃られている真っ最中だ。

 剃毛が始まってしばらくの時間が過ぎていた。

 (かげ)りの多い方だった京子の股間は、すでにほとんど剃られてしまい、いまは最後の仕上げという感じになっている。

 それはともかく、真夫は右手で剃刀を操っては、そのひと動作ごとに、必ず股間を指や小筆で刺激を加えてくるのである。

 すると、身体が震えるほどの快感が迸ってしまい、京子はどうしていいかわからない状態になってしまうのだ。

 身体も快感の疼きで痺れきり、くたくただ。

 

「だ、だって、こんなの我慢できるわけありません。ひ、酷いです──」

 

 京子は思わず、股間の前の真夫に恨みの込めた声をかけた。

 

「そうですか? まあ、もう終わりです。最後の仕上げですので、もう少し剃りやすいように腰を突き出してください」

 

「こ、こうですか……」

 

 もはや、逆らう気持ちはない。

 言われたまま従順に、京子は腰を突き出すようにする。

 真夫の操る剃刀が小刻みに京子の股間を撫でる。

 くすぐったいのを必死に我慢してじっとする。

 

「結構です。もう終わりですよ、先生……」

 

 やっと終わったようだ。

 真夫が京子の股間から顔を離して、立ちあがる。

 京子の股間は完全に陰毛を失って、まるで童女のような無毛の股間になってしまっていた。

 情けなさが込みあがる。

 

「ああっ」

 

 まるで陰毛とともに、全ての自尊心を粉々に砕かれてしまった気持ちになり、京子はがっくりと項垂れてしまった。

 

「終わりです。さあ、綺麗になりましたよ。じゃあ、一度拘束を解きますけど、大人しくしてくださいね」

 

 真夫が京子が拘束されている二本の柱に背後にまわった。

 四肢の革枷が一斉に外れ、京子はそのまま膝を崩して、両手で乳房を覆いながら、腰から下を湯の中に沈めてしまう。

 そんな京子の前に、真夫が戻ってくる。

 目の前に真夫の股間だ。

 剃毛のあいだもずっとだが、真夫の男根はずっと勃起状態だ。

 思わず顔が赤らんでしまう。

 

 それにしても、男性の身体のことはよくわからないが、こんなにも勃起状態が継続するものだろうか。あるいは、やはり射精しないと収まらないのか……。

 しかし、剃毛の前に、真夫はしっかりと京子の股間に精を噴き出したはずだ。それだけでは十分でないということか?

 男性というのはどういうものかのだろうか?

 

「じゃあ、先生、両手を後ろに回してください」

 

 真夫の言葉で、京子は真夫が手に持つものを見て、はっとしてしまった。真夫は左手に縄束を持っていたのである。

 

「も、もう拘束しなくても逆らったりしないわ。縛る必要なんてありません」

 

「必要があるかどうかは、俺が決めることです。調教だと言ったはずですよ。先生は俺に逆らえないということがまだわかりせんか?」

 

 真夫が柔和に微笑んだ。

 

「ひゃん──」

 

 次の瞬間、クリトリスの根元に装着されている金属環が激しく振動を開始した。

 京子は両手を股間で押さえるとともに、がくがくと身体を震わせる。衝撃が鋭い快感になって、脳天に向かって突き抜けていく。

 そういえば、真夫が眼に嵌めているスマートコンタクトで、京子の股間に嵌めている淫具の操作ができると言っていたことを思い出した。

 

「と、とめてえ──」

 

「素直に従うんです。それとも、電流も流しましょうか?」

 

 真夫が告げる。

 口調は優しいが中身は辛辣だ。

 京子は股間の刺激に耐え、跪いた状態のまま、股間を押さえていた両腕を背中にまわした。

 淫具の振動がぴたりなくなり、京子は脱力してしまう。

 後ろに回った真夫が慣れた手つきで縄を京子の腕に巻きつけていく。

 

「先生、身体を洗う前に課題を出します。制限時間は一時間にしましょう。それまでに課題を終わらせられなかったら罰にします。たまには、先生側が生徒から課題をもらうのもいいでしょう?」

 

 真夫が京子の両手首を縛った縄を前に回し、京子の豊かな胸の上下を固く締めあげていく。

 なぜか、身体の芯が痺れるような心地になり、恥ずかしい声まで出そうな気がして、京子は必死に口をつぐむ。

 

「ほら、先生、自分のエムっ気がわかりますよね? こうやって縛られただけで、先生は縄酔いするほどの被虐癖があるんです」

 

「そ、そんなことはありません──」

 

 京子は慌てて顔をあげて首を横に振る。

 

「まだ認められないですか? こんなに乳首を勃起させているのに」

 

 真夫が両腕の縄をがっちりと胴体に縛りあげながら、片手でぴんと京子の片側の乳首を軽く弾く。

 稲妻のような快感の衝撃が身体に迸る。

 

「ああん、いやあっ」

 

 京子はがくんと身体を前に倒した。

 そのときには、真夫は最後の縄止めを終えていて、両腕は完全に縄で後手に拘束されてしまっていた。

 

「先生はマゾで淫乱です。それが頭に刻み込まれるまで、何度でも何度でも、繰り返し先生を調教しますよ。まだ、認めませんか?」

 

 真夫が両手で背後から乳房を掴む。

 そして、優しく揉みあげてくる。

 

「ああっ、いやああ」

 

 全身が脱力し、ざぶんという湯しぶきとともに、京子はお湯の中に上体を倒してしまった。

 

「あっ、あっ、ああっ……」

 

 そんな京子の身体を引きあげるようにしながら、真夫が京子の胸を揉み続ける。

 身体をよじらせて抵抗しようと思うが、真夫の手が乳房を揉むたびに、言葉も出ないような快感が身体に走り、それでなにもできなくなる。

 

「ほら、先生、もっと抵抗しないと、また俺にいかされてしまいますよ」

 

 真夫が背中から抱きつくようにして、片手を乳房に残したまま、右手を京子の股間に向かって滑らせてくる。

 乳房を持つ指が乳首を交互に弾き、股間に触れる指が淫具で締めつけられて鋭敏になっているクリトリスを弄ぶ。

 

「ああっ、さ、坂本君──。だ、だめ──、だめです──、だめええ──」

 

 身体の三箇所から凄まじいほどの快感が次々に突き抜ける。こんなの耐えられない。

 口から悲鳴のような嬌声が迸り、両膝が大きく痙攣する。それにより、乳房も大きく波打ち、衝撃がさらに拡大してしまう。

 

「ああああっ、あああっ」

 

 そして、痙攣が二度三度と繰り返し、ついに快感の頂点に達してしまった。

 次いで、身体からすべての力が抜けてしまう。

 

「まだ、自分が淫乱でマゾであることを認めませんか? さっきも言いましたけど、先生がそれを理解するまで繰り返しますよ」

 

 真夫の指は達したばかりの京子に容赦なく、さらに愛撫を継続してきた。

 

「わ、わかりました──。あ、あたしは、マゾで淫乱です──」

 

 慌てて叫ぶ。

 真夫が手を離し、やっと快感地獄から京子は解放された。

 

「くはっ──。はあ、はあ、はあ……」

 

 なにも喋れない。

 京子はただただ荒い息を繰り返す。

 すると、急に身体が引きあがりだした。

 無理矢理に後手縛りの腕が胴体ごと引っ張られて、身体が浮きあがる。

 

「えっ、えっ、なに? なに?」

 

 京子は狼狽えて声をあげた。

 どうやら、後手縛りになっている両腕に、いつの間にか天井から伸ばされた鎖が繋げられていて、その鎖が引き上げられたみたいだ。

 京子は再び、湯船の中で強引に立ちあがらされる。

 

「忘れたんですか? 課題ですよ、先生」

 

 真夫はさっきの縄束とは違う白っぽい縄を持っている。

 これもまた、そばに浮かべているエア・マットに載せている箱から取り出したのだろう。

 よくわからないが、なんとなくただの縄でない気がする。

 見た目は植物の繊維をそのまま捩じり合わせた感じだ。

 

「これは、ずいき縄というものです。これを締めつけられたままでいると、体液で痒み成分がにじみ出てくるという拷問道具のようなものですけど、さらに全部で三個の結び玉が作ってあるのがわかりますか? まずはこれを先生の股間に締めつけさせてもらいますね」

 

 真夫が京子の脚のあいだに、そのずいき縄とやらを通した。

 得体の知れない新たな責め具に、京子は自分の顔が引きつるのを感じた。

 

「坂本君──。あ、あたしはもう、逆らわないと約束したじゃないですか。あなたを受け入れているの──。もうそんなことしなくても大丈夫です──」

 

「これは罰ではありませんよ。課題の準備です。もっとも、課題に失敗すれば、罰になるかもしれませんけどね」

 

「ううう……」

 

 京子は思わず唸ってしまったが、それ以上はなにも言うのはやめた。

 逆らわずに、軽く足を開いて、真夫が京子の股間に縄を掛けるに任せる。

 一方で真夫は余程に手慣れているのか、あっという間に京子の腰の括れに縄を巻き終わり、次いで、股間に通した縄を背後からお尻の亀裂に喰いこませるようにたくし上げた。

 

「あくうっ」

 

 縄瘤がクリトリスと花芯、さらにアナルをこれでもかと抉った。

 真夫が、最後にさらに股縄を喰いこませてから、固く腰縄に繋ぎとめてしまう。

 

「どうです、先生? 股間の毛を剃ってよかったでしょう? さもないと、毛に縄が絡んでいたかったかもしれません。でも、いまはつるつるだから、気持ちがいいだけですよね」

 

 真夫が軽く、京子のお尻をぱんと叩く。

 京子は歯を喰いしばって耐えた。

 口惜しさではない。

 すでに、切なさを伴なったような熱い疼きが局部をじりじりと蕩かせ始めていたのである。

 少しでも身じろぎすれば、身体の芯まで抉るような疼きが迸るのはわかる。だから、動けなかったのだ。

 

「じゃあ、先生、いまから一時間休憩にします。でも、先生は腰を揺さぶって、全部で三回以上、自慰で達してください。もしも、一時間以内に三回達することができなければ、罰にします……。もっとも、一時間もそのずいき縄を股間にしていれば、先生は勝手に腰を振るようになると思いますけどね」

 

「くっ、こ、この鬼畜──」

 

「誉め言葉だと思っておきますよ。じゃあ、一時間です。あそこに時計がありますから」

 

 真夫が離れている浴室の壁を指差した。

 すると、真っ白だった壁が表面が溶けるように鏡張りになり、さらに数字が鏡面に浮かんで、“59:50”と表示されて、そこからカウントダウンが始まった。

 京子は、その数字のことよりも、自分の恥ずかしい痴態が鏡張りになった壁ではっきりと視認してしまい動揺した。

 なんという浅ましい顔をしているのだろう。

 顔は蕩け、全身は火照りきっていて赤く、縄瘤の喰いこんでいる股間はすでに色が変わるほどに濡れてしまっている。

 たったいま縄を締めつけられたばかりなのに、もうあんなに愛液を染み出させているのでは、確かに京子がマゾで淫乱だと言われても仕方がない気がしてしまった。

 

「じっとしていて、いいんですか? 罰は期待してください。多分、先生はまたもや、泣き叫ぶことになります」

 

「うう……、わ、わかったわ……」

 

 京子は歯を喰いしばったまま腰をゆっくりと左右に動かす。

 

「そうじゃないですよ。前後に押したり引いたりするんです。それと、しっかりと締めつけてね。とにかく、一番、自分が感じる方法で動かすんです。その大きなおっぱいを振ってもいいかもしれませんね。先生は胸も性感帯ですから」

 

 真夫がまたもや、ぴしゃりと京子のお尻を叩いた。

 

「は、はい……」

 

 京子は捨て鉢になって、真夫の命令のままに腰を前後に強めに動かす。

 

「あ、ああ……」

 

 縄瘤が局部を刺激し、たちまちに快感が迸って、京子は顎を大きく上げて喘ぎ声をあげてしまった。

 

「その調子です。じゃあ、頑張ってくださいね」

 

 真夫が笑い声をあげて、目の前から立ち去っていく。

 やがて、浴室から気配が消え、京子は大きな浴室にひとりで取り残されてしまった。

 

「あ、あああっ、ああっ」

 

 しかし、そんなことはもう気にならなかった。

 それよりも、股縄を施された腰を激しく揺さぶることで、あっという間に全身に鋭い電流のようなものが走って、早くも快感の頂点に追い上げられそうになっていたのである。

 また、腰を振れば当然に縄が上下に喰いこんでいる乳房も揺れて、そこからも大きな快感が拡がる。

 

「ああっ、いくうっ、いきます、坂本くん──、あああっ」

 

 眼が眩み、ついに大きなものが全身を包み込む。京子は剃毛されて一本の陰毛もなくなった股間を締めつけながら、太腿をぶるぶると震わせ、ついに絶頂を極めた。

 次いで、がくりと脱力する。

 縄掛けをされた身体を上下に動かしつつ、荒ぶる息を整える。

 顔をあげて鏡面を見ると、まだ五十五分にも達してない。

 京子は、わずか数分で最初の絶頂をしてしまったみたいだ。

 

 二回目をしなければ……。

 

 しばらく呆けていたが、すぐにまだ一回目が終わっただけなのを思い出す。

 京子は挑むようにして、二度目の絶頂を目指して、再び前後に腰を前後に揺さぶり始めた。



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 第170話 モニターの前の奴婢たち

「お疲れさま」

 

 浴室からモニター室に戻った真夫に最初に声を掛けてきたのは、かおりちゃんだ。

 ほかにも、狭い室内には、玲子さん、あさひ姉ちゃん、ひかりちゃん、そして、柚子がいる。

 むっとするほどの女の香りが部屋に充満していた。

 学園が休みである日曜日にここに集まっている理由は、京子先生をここに監禁しているのとは別に、午後から校外で行われる地区の高校女子サッカーリーグの応援をみんなでしようと思っているからだ。

 

 学園の女子サッカー部の主将にしてエースなのが前田明日香ちゃんであり、彼女によれば、今日の試合と来週の試合に連勝すれば、夏の全国大会に出場が決まる大事な試合らしい。

 玲子さんの手配で準備した車で、昼食後に出発して向かうことになっている。

 この学園で全国レベルの運動部の部活動は、その女子サッカー部くらいであり、強制ではないが多くの生徒に応援を呼び掛けていて、それなりの人数が集まると耳にしている。

 ちなみに、文化部の全国レベルといえば、美術部の世良七生(ななお)がそうであり、高校生クラスの美術コンテストは総なめという感じらしい。いまは、玲子さんのアドバイスで、国内ではなく、海外の若手芸術家のコンクールに照準を合わせているそうだ。

 その七生は、インスピレーションが沸いたとかで、このところ美術部にこもりきりで、あまり、SS研にはやってこない。

 まあ、好きにすればいいと思って放っている。

 

 また、真夫の奴婢になった女の中で、絹香たちがここにいないが、彼女たちはすでに試合会場に行っているはずだ。

 もともと、明日香ちゃんと絹香は、百合仲間という間柄であり、親友でもある。絹香は午前中の試合準備の段階から応援に向かうと言っていた。

 だから、向こうで合流する予定だ。

 

 SS研の地下調教室に設置されている監視室である。

 ここの監視室は、玲子さんの手配で大浴場とともに新たに設置されたらしい部屋であり、いま京子先生が残されている大浴場とは壁を隔てて隣側に位置している。

 本来は、部屋自体はそんなに狭いというわけではないのかもしれない。

 床面積は畳六畳ぐらいだ。

 しかし、その壁一面に十個以上のモニターがあり、それを制御する操作盤もあるので、人が座れるスペースは限られている。

 椅子も二個だけであり、そのひとつに座っているのは玲子さんであり、もうひとつの椅子には誰も座っておらず、ほかの者たちは立っている。

 別にここじゃなくても、休憩をする部屋はあるのだが、ずっとふたりきりだった真夫と京子先生を観察できるのがここだけなので、いつの間にかここに集まってしまったのかもしれない。

 

「さすがはあんたよ。やることがえげつないし、真綿で首を締めつけるように心を砕いていくところなんて、感心したわ。とにかく、あれはもう堕ちたわね」

 

 かおりちゃんは一番奥側で壁にもたれるようにして立っていた。そのかおりちゃんが真夫を見てにやにやと微笑む。

 

「堕ちたかな?」

 

 “あれ”というのは、もちろん京子先生のことだろう。

 ここからの制御盤で、学園内の無数にある監視カメラの映像を自由自在に、全部のモニターに投影できるのだが、いまは三個のモニターだけに映像が流れていて、ほかのモニターはなにも映っていない。

 その三個の全部に流れているのは、浴場で股縄自慰を強要されている京子先生の姿である。

 前からの映像、後ろからの映像、そして顔のアップであり、必死になって腰を振って股縄で絶頂に達しようと頑張っている京子先生の恥ずかしい姿がしっかりと流れている。

 

「堕ちたわね。あれは、もう教師の顔じゃないわ。雌犬の顔よ。間違いないわ」

 

 かおりちゃんが苦笑するような表情で断言する。

 真夫は首を竦めながら、玲子さんの隣の椅子に全裸のまま座る。

 ひとりだけ裸の真夫に対して、ほかの女たちはしっかりと服を着ていた。学園の生徒であるか絹香、ひかりちゃん、柚子は制服だ。もちろん、ひかりちゃんは男子生徒の制服である。

 ただし、かおりちゃんは、玲子さん、あさひ姉ちゃんとともに私服だ。

 あまり、彼女の私服姿は見ないが、上品なワンピースに身を包んで、今日は髪をポニーテールにしているかおりちゃんは、いかにも上流家庭の令嬢という感じである。

 

「真夫様、京子は二度目の絶頂に達しました。一時間で三度というのは、温情を与えてすぐではないですか。その倍でもよかったかもしれません」

 

 玲子さんが真夫に視線を向けて言った。その顔には笑みが浮かんでいる。

 また、手元のモニターの画面には、確かに、股縄自慰で二度目の絶頂に達した京子先生が汗びっしょりの姿で脱力している映像が映っていた。

 音声は流れていないが、二度目もかなり派手に達した気配だ。

 画面の横に表示されているモニターには、“45:07”となっている。

 制限時間は一時間だったので、まだ残り四十五分もあるということだ。

 まあ、確かに早いのだろう。

 

「まあ、いいでしょう。別に京子先生を追い詰めるつもりはありません。素直になったのを確かめたかっただけです。三度目が終われば、もう一度、浴室に戻ります。そして、先生の身体を洗ってあげてから、みんなで昼食といきましょう」

 

 真夫は言った。

 ふと見ると、京子先生はそれほど休むことなく、三度目の股縄自慰を目指して、腰を振り始めている。

 あの感じなら確かに、三度目もすぐかもしれない。

 

「ところで、真夫ちゃんは一度すっきりする? それとも、触っちゃダメ?」

 

 あさひ姉ちゃんが真夫の座る椅子の前にしゃがんできて、声を掛けてきた。

 浴槽からガウンもかけずに来たので、真夫は全裸だった。しかも、ずっと興奮状態だったので、股間は勃起している。

 真夫はその怒張に触れんばかりに、口を寄せてきたあさひ姉ちゃんの髪に手を置く。

 

「じゃあ、してもらおうかな」

 

 真夫がそう言うと、すぐにあさひ姉ちゃんが小さな口を精一杯に開いて、口の奥まで真夫の一物を呑み込んだ。

 

「んんっ、んふっ、んん」

 

 すぐにねっとりとしたあさひ姉ちゃんのフェラが始まる。

 孤児院で最初にセックスをしたとき以来、何十回とやってもらったあさひ姉ちゃんのフェラチオだ。

 真夫が一番気持ちのいいやり方で刺激をしてくれるので、あっという間に射精感が込みあがる。

 

「ああ、さすがはあさひ姉ちゃんだ。凄く気持ちい」

 

 真夫はあさひ姉ちゃんの髪を撫でた。

 すると、あさひ姉ちゃんは、奉仕をしながら、本当に嬉しそうな顔になる。

 

「こらっ、あんたら、なにさぼってんのよ。雌犬二匹が先輩に先を越されてどうするのよ。だったら、足の指でも舐めなさい。こらっ、奉仕の時間よ──」

 

 かおりちゃんだ。

 どうやら、柚子とひかりちゃんに言ったようだ。

 柚子はともかく、ひかりちゃんはむっとしている。

 

「め、雌犬とは、ぼくのことなのか。なんで、お前に命令されないとならないんだ──」

 

「あたしは、よろこんで……」

 

 一方で柚子はすぐにしゃがみ込んで、床に顔を密着させるようにして、真夫の右脚の指を舐め始める。舐めやすいように真夫が爪先を浮かせてやると、まずは足の親指を口に含んでちゅうちゅうと吸いながら、舌を足の指のあいだに這わせてくる。

 

「ほら、ひかりちゃん、片側は空いてるよ」

 

 真夫がわざと反対の足の爪先をあげる。

 

「わ、わかったよ……」

 

 真夫の言葉には逆らうつもりはないのだろう。

 ひかりちゃんが諦めたように、柚子同様に床に顔を貼りつかせるような体勢になる。

 真夫は、女たちの淫具を視線を動かすだけで操作できるようにしてもらったスマートコンタクトの機能を使って、柚子に挿入しているアナルバイブ、ひかりちゃんの小ペニスに施している振振動帯を作動させた。振動帯とはペニスの棹部分に巻きつけ、快感だけを発生させる微弱な電流を流しながら揉み動くようにして射精を促すという時子婆ちゃんからの贈り物であり、ひかりちゃん専用の淫具である。

 これから外に行くということで、あさひ姉ちゃんを除く全員に、なんらかの淫具を装着させたのだ。

 

「んああっ」

 

「うわっ、ま、真夫君、だ、だめえっ」

 

 柚子とひかりちゃんがびくんと身体を跳ねさせるような仕草をする。

 

「こらっ、さぼるんじゃない──」

 

 かおりちゃんがまるで監督官にでもなったかのように威張って声をあげる。

 

「あっ、はい」

 

「くっ」

 

 柚子とひかりちゃんは慌てたように、真夫の足舐めに戻った。

 三人掛かりの真夫への舌奉仕が始まる。

 

「ああ、いい気持ちだね。まるで王様になってるような気分だ」

 

 真夫が三人の奉仕を受けながら言った。

 だが、いくらなんでも、かおりちゃんがなにもしないのは不自然だ。

 真夫は、その場で立ちあがった。

 

「人に指図するだけで、暇そうにしているかおりちゃんには、お尻でも舐めてもらおうかな。お尻を空けたよ」

 

 真夫はかおりちゃんに笑いかけた。

 

「はい、はい……。お尻でもなんでも、喜んで舐めるわ。だって、あんたの奴婢だものね」

 

 かおりちゃんが真夫の後ろに回って跪き、顔を真夫のお尻につけ、アナルに舌を突っ込むかのようにして刺激してきた。

 しかも、どこでそんな技を覚えてきたのか、真夫のアナルに抽送するように、かおりちゃんがすぼめた舌を激しく出入りさせる。

 

「うわっ、こ、これは効く──」

 

 思ったよりも、一気に快感が込みあがって、真夫は歯を喰いしばった。

 あっという間に射精しそうになったのである。

 

「ああ、真夫ちゃん、いつでもいいのよ。さあ……」

 

 あさひ姉ちゃんが完全に欲情した顔で、一度口を離してそう言い、すぐに奉仕に戻る。

 一方で、かおりちゃんの尻舐めは激しい。

 本当にお尻の中に舌を思い切り入れてきて、ぐるぐると回すように動かしだした。

 

「くあっ、で、出る──」

 

 真夫はさらに込みあがった射精感を今度は自制できず、あさひ姉ちゃんの口の中に精を迸らせてしまった。

 あさひ姉ちゃんがうっとりとした表情でそれを受け留め、懸命に喉の奥に精を押し込んでいく。

 

「お取込み中のところ、申し訳ありません。京子が三度目の絶頂を果たしました」

 

 玲子さんが真夫に向かって、声を掛けてきた。

 モニターに眼をやる。

 確かに、安堵の表情で肩で息をする京子先生の姿がそこに映っている。白いずいき縄が喰いこんだ股間部分は、京子先生の体液をたっぷりと吸い込んで黒っぽくなっているほどだ。

 随分と激しく気をやったに違いない。

 

「なら、京子先生のところに向かおうかな……。みんな、ありがとう。三十分で先生と戻る。そのときはみんなで食事にしよう」

 

 真夫が声を掛ける。

 あさひ姉ちゃんを始め四人が真夫から顔を離す。

 真夫は、とりあえず、ひかりちゃんと柚子の淫具をとめてあげた。

 ふたりがほっと脱力して大きく息を吐くのがわかった。

 しかし、ふと見ると、ひかりちゃんのズボンの股間には、丸い分泌液の痕ができている。

 いつの間にか射精をしてしまったようだ。

 ひかりちゃんには下着をさせてないので、染みがそのままズボンについてしまったのだろう。

 

「あら、もう粗相したの? うちの雌犬一号はだらしないわねえ」

 

 かおりちゃんが揶揄うように言った。

 

「だ、誰が雌犬一号だ──。真夫君に言われるならともかく、君にそんなことを言われくない──」

 

 それに対して、ひかりちゃんは本当に怒ったように、かおりちゃんに向かって怒鳴り声をあげる。

 真夫は笑って、ひかりちゃんをなだめるように軽く抱き寄せる。

 それと同時に、すっと操心術で介入して、ひかりちゃんの心を静めてやる。もっとも、実際にはそれほど激昂していなかったようであり、そんなには心の線は荒れた感じではなかった。

 ひかりちゃんは落ち着いた感じになる。

 

「じゃあ、行ってくる。さっきも言ったけど、戻ったら食事だ」

 

 真夫はひかりちゃんたちから身体を離して、扉に向かう。

 

「それとも、あのまま放っていたら? まだ一時間には三十分以上あるんだし。あれって、この前、わたしにさせたずいき縄の股縄でしょう。あれだけ濡らせば、これから泣く程に痒くなるわ。それからでもいいんじゃない」

 

 そのとき、かおりちゃんが声を変えてきた。

 確かに、まだ経過時間は三十分にもならない。

 真夫は肩を竦めながら振り返る。

 

「もう先生を苛めるつもりはないよ。あとは優しくするモードだ。少なくともお風呂でわね」

 

「あら、残念。あいつが泣くのをもっと見たかったけど」

 

 かおりちゃんが真夫をまねて、お道化るように肩を竦めた。

 

「ず、ずいき縄の股縄って、なんですか──。あ、あたしにしてもらってもいいです──。あっ、よかったら、してください、真夫先輩──。週明けの授業はそれをして授業を受けます」

 

 柚子だ。

 

「あれが、どれだけ苦しいかわかってんの──? 自分からそんなこと言うのは、あんたくらいよ、この変態──」

 

「そうです。わたしは変態なんです、かおり先輩」

 

 変態とかおりちゃんに言われたのが、むしろ誉め言葉でもあったかのように、柚子は顔に満面の笑みを浮かべる。

 

「真夫様のお着替えは、脱衣所に準備しておきます。ところで、京子の着替えはどうしますか」

 

 今度は、玲子さんが声をかけた。

 真夫はちょっと考えてから口を開く。

 

「うーん、まだいいかな。食事のときには、ほかの全員は服を着て、先生だけは裸でさせるか。それで改めて、奴婢の立場を自覚してもらおう」

 

「かしこまりました」

 

 玲子さんが軽く会釈をした。



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 第171話 浴場で欲情

「先生、お待たせしました。ところで、ちゃんと三回の股縄自慰を終わらせたようですね。お疲れさまでした」

 

 モニター室から戻った真夫は、後手縛りの縄に繋げられている鎖に体重を預けるように脱力して身体を前屈みにしていた京子先生の正面に立って声を掛ける。

 真夫が戻ったことに気がついていなかったらしい京子先生は、はっとしたように顔をあげた。

 当初は、もしかしたら、股縄自慰の連続絶頂により軽い失神状態にあったのかもしれないと思ったが、お湯の中の足が忙しく足踏みをしているところを見ると、意識を失っていたわけではないと悟った。

 だが、ぼうっとしていたのは間違いないだろう。

 

 膝から下を浴槽のお湯につけた状態で後手縛りの両腕を天井からの鎖で吊られて立たされていた京子先生は、戻った真夫の姿にほっとしたような安堵の表情を見せた。

 ただ、立て続けの三回連続の絶頂は、やっぱりかなり効いたのだろう。

 まだ官能の余韻に浸っている感じであり、眼は潤み、端正な頬がぼっと赤らんでいる。お湯に足元を浸しているだけの理由ではない、全身の脂汗は京子先生の赤らむ裸身を光らせて、とても色っぽくさせているように思う。

 

「あっ、さ、坂本君……。ちゃんとしましたわ。な、なので早くこれを外して……」

 

 京子先生が股間に股縄が喰いこんでいる太腿をせわしなく擦り合わせるような仕草をしながら、真夫に哀願の顔を向ける。

 ずいきの縄を股間に締めてしばらくすれば、たっぷりの体液を吸収して、激しい痒みを生じさせるのだ。京子先生の股間に喰いこんでいる股縄は、自慰による愛液の放出により色が変わるほどに変色してしまっている。

 こんなにもなっていれば、すでにかなり痒いに違いない。

 

「もちろん、外しますよ。約束ですしね。さあ、身体を洗いましょう」

 

 真夫は後手縛りの縄に繋がっている天井からの鎖を外す。

 すると、京子先生はそのままお湯の中にしゃがみ込みそうになった。真夫は、京子先生の後手縛りの縄尻をしっかりとつかんで立たせる。

 

「さあ、浴槽の外に行きましょう。身体を洗ってあげますから」

 

 真夫は京子先生の背中を押す。

 

「あっ、くっ──。さ、先に縄を……」

 

 だが、一歩目で京子先生は膝を崩してしまい、腰を折ったまま涙目で真夫に振り返る。

 股間とアナルを深く抉り、金属環で根元を締めつけられて鋭敏になっているクリトリスを押し潰される縄瘤により、満足に歩けないほどの疼きを呼び起こしてしまったのだろう。

 真夫は素知らぬ顔をする。

 

「たったそこまでじゃないですか。しっかりと歩いてください」

 

 縄尻をとる真夫は、京子先生のへっぴり腰のお尻を押すようにして声を掛ける。

 

「ああ……、はい……」

 

 京子先生はそれ以上逆らわなかった。

 また、両手を封じられた上に、股縄を嵌められているとはいえ、空手の達人らしい京子先生なら、足蹴り一発だけで真夫をのばせるはずだが、もはや、彼女が真夫に暴力をふるう可能性はないと思う。

 淫魔術で感情に触れることができるのでわかるのだ。

 ほんのちょっとの洗い場までの距離にもかかわらず、京子先生は何度も躓きそうになりながら、京子先生はやっとのこと、浴槽の外にたどり着く。

 浴室内はシャワーのついた洗い場もあるのだが、真夫は浴槽のすぐそばに京子先生を導いた。

 そして、真夫自身は浴室の床に胡坐になり、京子先生を向かい合わせに膝立ちにさせて、股縄を外す。

 

「あんっ」

 

 京子先生は縄瘤が局部から離れるときに、かなりまとまった愛液を股間から放出するとともに、甘い声をあげて身体を震わせた。

 真夫はくすくすと笑ってしまった。

 

「従順になった先生にはご褒美です。浴室の中ではもう意地悪はしませんよ。さあ、座ってください」

 

 真夫は京子聖戦を胡坐座りの膝の上に抱きあげて座らせる。

 後手縛りに縄掛けをしたままなので、京子先生の縛られている両腕が真夫の胸に当たるかたちになる。

 浴槽の縁に準備していた湯桶で浴槽からお湯を汲んで、京子先生の身体を数回お湯をかけて汗を流した。

 次いで、やはり縁に置いていた泡付きのスポンジで、まずは京子先生の豊かな乳房を洗う。泡は最高級のボディソープによるものだ。

 

「はうっ」

 

 京子先生がその場で身体をくの字に曲げて、身体を跳ねさせる。

 かなり激しい反応だが、時子婆ちゃんの施術で乳房がクリトリス並みの敏感な性感帯になっている京子先生にとっては、クリトリスを直接に刺激されるも同じなのだ。

 身体が反応してしまって、仕方ないのだろう。

 さらにスポンジを胸に滑らせていくと、あっという間に京子先生は息を荒くして、身体を悶えさせ始めた。

 

「い、意地悪はなしだと、おっしゃったじゃないですか──」

 

 両方の胸を泡まみれにしながら、先生が必死に身体をよじって振り返り、真夫を睨んできた。

 真夫は噴き出した。

 

「意地悪なんてしてませんよ。ただ身体を洗っているだけです。それを勝手に感じているのは先生の方です。ほら、もう少ししゃんとしてください」

 

 真夫は大きくて丸い乳房を円を掻くようにスポンジで擦る。

 

「あはあっ」

 

 身体を大きくのけぞらせて、京子先生が大きな喘ぎ声をあげた。

 このまま責めたてればすぐに達すると思うが、それはしない。

 淫魔術で絶頂感まで見極めながら、ぎりぎりで刺激を中断して、スポンジを胸から離す。

 

「ふわっ」

 

 京子先生ががくんと全身を突っ張らせるとともに、焦燥感によって切なそうに大きく息を吐く。

 可愛いものだ。

 真夫はスポンジの泡を今度は手につけて、全身を撫で始める。

 

「あっ、ああっ」

 

 真夫の手が裸身を這う感触に、京子先生は明らかな狼狽の態度を示す。

 

「どこをどう触っても、感じそうですね。ここはどうですか?」

 

 真夫は指先で京子先生の背筋をつっと撫でて、お尻の亀裂近くまで動かす。

 

「あくうっ、あん──。どうして、こんなに──」

 

 京子先生が真夫の胡坐の上で踊るように、身体を大きく跳ねさせる。

 

「どうしてこんなに感じるかですか? 言ったじゃないですか。それは先生がマゾだからですよ。こうやって縛られて、意地悪されるのが感じるんです。まあ、これは意地悪ではないですけどね」

 

 真夫は泡を手につけ直して、股間全体に擦るように手のひらで洗う。

 金属環が喰いこんでいるクリトリスが指に当たって大きく弾けた。

 

「いやんっ、ああっ、だめよ──」

 

「駄目じゃありませんよ。ここも洗っておきますね。ずいきの汁が残らないように、しっかりと洗っておきます」

 

 指を花芯に挿入して丁寧に擦る。

 

「はああっ、あん、ああっ、ああっ、あああっ」

 

 激しく京子先生がよがりだす。

 あっという間に快感がせりあがっていったというのがわかる。

 しかし、真夫は京子先生が達しそうになると中断し、少し時間を置いて、洗浄を再開するということを繰り返して、しばらくのあいだ、先生を翻弄して遊ぶ。

 

「次はここですね」

 

 今度は、膝の上の京子先生のお尻の下に手を差し込んで、指をアナルに潜り込ませた。

 泡と京子先生自身の愛液の助けを借りて、真夫の指は簡単に京子先生のアナルに潜りこめてしまった。

 しかも二本も──。

 

「ひあああっ」

 

「ここもよく洗いましょう。ずいきの汁が沁み込んでいる可能性があります」

 

 二本の指を京子先生のアナルの中で交互に動かすようにして穴の中全体を擦っていく。

 

「んふうううっ」

 

 京子先生は大きく身体を弓なりにして、真夫の膝から落ちそうになる。

 真夫は空いている手で京子先生のお腹を抱いて支え、指によるアナルへのまさぐりを続ける。

 

「あっ、あああっ、ああああ──」

 

 京子先生ががくがくと身体を震わせだす。

 だが、またもや絶頂に達するぎりぎりで真夫は指を抜いてしまう。

 京子先生ががっくりと脱力する。

 

「もっとほかの場所も洗いましょう」

 

 真夫は京子先生を一度胡坐の上からおろして、今度は真夫に正面を向けるように膝立ちさせる。

 それを泡をたっぷりとつけた両手で洗っていく。

 京子先生は喘ぎ声をあげてよがり、身体をびくんびくんと震わせては官能の刺激に派手に悶え続けた。

 しかし、真夫も、それによって絶頂してしまわないように気を付けながら寸止めを繰り返す。

 京子先生は、ひたすら翻弄されるような反応を示し続けたが、やがて、感情を爆発させるように、髪を振り乱して、突然にヒステリックな悲鳴をあげた。

 

「ああ、酷いわ──。い、意地悪はしないと言ったじゃないのよ──。何度も、何度も、酷いわよ──」

 

 遊び半分で寸止めを繰り返していたのだが、確かに、その回数は軽く二十回は超えたと思う。この三日間の調教で京子先生の身体が信じられないくらいに敏感になっているのである。

 だから、あっという間に絶頂しそうになるので、寸止めも数は増えてしまう。

 しかし、二十回はやりすぎたかもしれない。

 それはともかく、さすがに逆上してしまったみたいだ。

 真夫は苦笑した。

 

「さっきも言いましたけど、俺は先生の身体を洗っているだけですよ。洗いながら何度も達してしまっては、むしろ、そっちの方が耐えられないでしょう。だから、達しないようにさせてるんです。意地悪でしているわけじゃないですからね」

 

 真夫はうそぶく。

 そして、すっと京子先生の太腿の内側に手を添わせる。

 もう何度も洗っているが、股間から漏れ続ける愛液がべっとりとなっている。

 

「あんっ」

 

 京子先生がまたもや大きく身体を前に曲げる。

 真夫の肩にもたれる感じになるのを支えて、真夫はクリトリスをしばらく刺激して快感を引きあげ、またもや絶頂寸前で指を引いてしまう。

 

「ああっ、だ、だめよ──。離れないで──」

 

 京子先生が逃げようとする真夫の手を太腿で挟んで押さえ、後手縛りの上半身を真夫に擦りつけるようにしてきた。

 我を忘れたような京子先生の醜態に真夫は笑ってしまった。

 

「どうしたんですか、先生? それとも、自分がマゾで淫乱だと認めますか? だったら、最後までしてあげましょう。身体の洗浄からセックスに切り替えです」

 

 真夫はかなりの興奮状態になっている気配の京子先生を抱き支えながら言った。

 すると、密着している京子先生が、真夫に向かって顔をあげる。

 

「み、認めます……。京子はマゾで淫乱です……。で、ですので……」

 

 真っ赤な顔をして涙目になっている京子先生が吐息とともに真夫に告げる。

 だが、まさか、真夫の揶揄い言葉を自ら認めるとは思わなかったので、ちょっとびっくりしてしまった。

 

「み、認めるんですか?」

 

「認めます──。もう我慢ならないんです──。坂本君、お願いですので、最後までしてください──」

 

 京子先生が訴えてきた。

 真夫はほくそ笑んでしまった。

 

「ははは、わかりました。じゃあ、これからはセックスの時間です。でも、折角ですから、京子先生にお願いをしてもらいましょう。一昨日からたくさんの体位で先生を抱きましたが、その中で一番興奮した体位になって、俺を求めてください。先生が正直になるなら、俺は力の限り先生を気持ちよくすることを約束しましょう」

 

「えっ?」

 

 真夫の言葉に京子先生は、ちょっときょとんとなった。

 だが、しばらくすると真夫から離れてもぞもぞと動き出し、浴室の床に仰向けになり始める。

 

 正常位かな……?

 

 それを見守っていた真夫はそう判断したが、京子先生は完全に仰向けになって寝そべる前に急に身体の動きを中断し、ちょっと迷い直す感じで静止していたかと思うと、今度は身体を起こして、湯船の縁に上体を預けるようにして、真夫にお尻を向ける体勢になった。

 

「う、後ろから犯されたのが一番興奮しました……。坂本君、どうか、後ろから犯してください」

 

 京子先生が恥ずかしそうに小さな声で言った。

 真夫は嬉しくて噴き出してしまう。

 どうやら、マゾで淫乱の京子先生は、後背位をお望みのようだ。

 

「最高ですね、先生。そのいやらしさこそ、俺の奴婢です」

 

 真夫は立ちあがると、京子先生の腰を左右から持ち、怒張をお尻の下から滑らせて一気に京子先生の股間を貫かせた。

 

「はうん──。ああっ、き、気持ちいいです──。あ、ああっ、お、お願いですから、このまま最後まで──」

 

 律動を始める。

 京子先生はあっという間に感極まった声でよがりだす。

 

「もちろんです、先生が満足するまで、何度でも気持ちよくしてみせます。覚悟してくださいね」

 

 真夫はピッチを速くした。

 

「ああっ、いぐううっ」

 

 すると、京子先生が早速一回目の絶頂に達し、汗と泡だらけの裸身をぴんと突っ張らせて身体を震わせた。



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 第172話 突然の解放

 大きな歓声が応援席に鳴り響いた。

 

 眼下のグラウンドで行われている女子サッカーの試合で、京子が体育教師を務めている聖マグダレナ学園の女子サッカーチームが相手のチームから四点目を奪ったのだ

 すでに後半に入っており、相手の得点がまだ無得点であることを考慮すると、ここでの四点目は、ほぼ試合を決めたと言っていい得点である。

 観客席には、ブラスバンド部を含めて、生徒たちがおよそ二百人くらいは集まっていると思うが、全員が立ちあがって拍手と歓声をあげている。

 

 一方で、グラウンド側では、ハットトリックを決めたキャプテンであり、三年生の前田明日香がグラウンドから観客席に応えるように、嬉しそうに大きく手を振っている。

 なんとなくだが、明日香は観客席全体ではなく、こっちに向かってだけ手を振っている気もする。

 いや、実際そうなのだろう。

 ここには、京子だけでなく、真夫もいる。

 十中八九、明日香の視線の先には真夫がいるのだと思う。

 多分、間違いない。

 

 京子は、陸上部の顧問であるので、直接は関係はないものの、全国大会の出場に手のかかっている女子サッカー部の活躍は当然に知っている。地区のリーグ戦を勝ち抜き、今日の試合と来週の試合に連勝すれば、全国出場が決まるはずだ。

 スポーツ特待生である三年生の前田明日香の活躍は、以前から華々しいものがあったが、今日の活躍は、京子の目から見ても、群を抜いているという印象だ。

 女子サッカー部の試合を直接に見るのは初めてではないが、あそこまでの印象は抱かなかった。

 しかし、彼女もまた、坂本真夫が集める女奴婢の集団のSS研の部員だという顔を持ち、昨日は真夫の命令であの明日香が京子に筆責めを行い、さらに、京子の目の前で真夫から明日香は犯されたりしていた。

 好選手として躍動するあの前田明日香とは、まったく異なる雌の顔を思い出して、京子はかっと羞恥で身体が熱くなるのを感じた。

 

 午前中まで、学園の文化部棟の地下にあるSS研の「地下調教室」に監禁されていた京子だが、午後にはこうやって学園の外に連れ出され、応援のために同じように集まっている生徒や教師たちに混ざって、グラウンドにやってきていた。

 連れてきたのは、もちろん真夫であり、地下の浴場で犯され、緊縛は解かれたものの、衣服を与えられないまま、着意をしている生徒たちの前で食事をするという辱めを与えられたあと、午後から郊外の運動競技場で行われる女子サッカー部の試合の応援に一緒に行くと申し渡されたのだ。

 

 否も応もない。

 真夫からの命令であれば、それは京子の意思とは無関係に、その通りに必ず実行されるということだ。

 これに、京子が逆らうことは不可能だ──。

 そのことをこの三日間で、京子は徹底的に心と身体に染み通されてしまった。

 

 ただ、意外だったのは、てっきり学園の外でも調教という名の辱めをされるのだと想像していたのに、現段階まで、まったくなにもされていないことだった。

 落ち着いた色合いの可愛らしいワンピースを渡され、さらに意外だったことに、ちゃんとした上下の下着も与えられたのだ。

 極端に短いスカート丈でもなければ、肌が透けて見えるような破廉恥さもない普通のものだった。

 

 いや、普通ではなかったか……。

 あまりにも着心地がいいので、改めてメーカーを確認したら、超一流の海外ブランドの高級品だったのだ。京子の給与では絶対に手が出ない品物に、別の意味で血の気が引いてしまった。

 

 とにかく、あの地下での食事後、突然に身支度をすることを求められ、京子は真夫たちとともに、学園から外出して、ここまでやってきたということだ。

 移動は十人乗りの大きな乗用車であり、運転は恵さんがして、助手席に玲子さん、後部座席の他の者は乗車するという態勢だ。

 ただし、後部座席とはいっても、普通の車とは異なり、横並びの座席ではなく、中心を囲むように革張りのソファがあり、そこに座ってきたのである。

 

 また、学園を出るときには、あの白岡かおりも一緒だったが、今日は外国語教室があるということで、学園のある山の麓の都市部で下車し、後部座席を囲んだのは、かおりの下車以降は、京子、真夫、金城光太郎、そして、柚子の四人だった。

 

 もっとも、柚子はなぜか座席に座ることを許されずに、ほかの者の足下で直接に床に座らされていた。

 SS研の「ペット」ということになっているらしく、外に出る時には外されたが、車内ではずっと鎖の付いた首輪を嵌められていた。

 一方で京子はなにも構われなかったのが、それが妙に落ち着かない気持ちになったことを覚えている。

 

 いずれにしても、クリトリスの根元に喰い込んでいる金属環こそ、そのままだったが、予想していたことに反して、京子は拘束もされることなく、ちゃんとした格好でここに連れ出されたということだ。

 いまのところ、応援以外のことをすることを要求されてもいない。

 なぜ、急になにもしなくなったのだろう……。

 いや、それとも、これもまた、真夫の「調教」の一環か……?

 もしかして、京子が完全に油断したときに、淫具を動かされる?

 それとも、応じることのできるはずのない、破廉恥な命令を密かに命令される?

 どうしても気になってしまい、京子はずっと完全には試合に集中することができないでいる。

 そして、いつくるのか……。

 一瞬後か?

 それとも、まだ焦らされるのだろうか?

 京子の緊張はずっと続いている。

 

「んんんっ」

 

 そのときだった。

 京子の隣で、ほかの大勢の生徒たちと同じように拍手をしていた立花柚子ががくんと両膝を折って、股間を手で押さえるようにして腰を落としたのだ。

 全員がグラウンドに注目しているので目立ってはないが、もう何度も繰り返されている光景であり、おそらく、柚子が股間に装着されている貞操帯のバイブがまたもや激しく動き出したのだと思う。

 C級用の女子制服姿の彼女だが、ここに向かう車の中で、真夫によって、ゼリーのようなクリームをバイブに塗られて、股間とアナルを塞ぐふたつのディルドで二穴に挿入されていた。

 真夫と京子たちは、応援の集団の一番後方の上段の隅の座席にいるが、最後部の最上列に、真夫、朝比奈恵、工藤玲子が位置し、その前の席に、西園寺絹香、立花柚子、京子、金城光太郎という並びで集まっている。

 SS研として集まっている者たちの中で、絹香はここで合流したのだが、彼女がいつも連れている双子の姉妹はいない。

 今日はふたりとも、急用ができたということで、朝から絹香とは別行動だそうだ。

 

 ともかく、京子や柚子の後ろにいる真夫が、歓声に紛れて、柚子のディルドに遠隔で悪戯をしたのだと思うが、真夫の破廉恥な責めから解放された京子の代わりとばかりに、一転して、柚子ばかりが一心に真夫の悪戯を受け続けている。

 遠隔で悪戯ができるのは、京子のクリトリスの根元をいまでも締めつけて、妖しい疼きを与え続けている金属環も同じなのだが、いまのところ、真夫は一切、京子にはなにもしてこない。

 安堵している一方で、責められ続けている柚子の姿に、妙な居心地の悪さと、腹と下腹部が燃えるような不可思議な熱さを京子は感じている。

 

「ふうっ」

 

 隣の柚子が緊張が解けた感じで、おずおずと身体を真っ直ぐにする。

 バイブの振動がオフになったのだろう。

 だが、その横顔にはうっとりとしたような欲情が浮かんでいて、口元からはだらしかく唾液がこぼれ出ている。

 でも、すぐに自分でも気がついたのだろう。

 慌てたように、舌で口元を舐めて拭う。

 中学生どころか小学校の高学年とも見紛うほどの童顔で小柄な柚子だが、その表情については妙な色気があった。

 京子は思わずどきりとしてしまう。

 

「おおっ」

 

 ところが次の瞬間、祖の柚子はお尻を両手で押さえて、天を仰ぐような仕草をした。

 今度はアナルのバイブを動かされたのだろう。

 だが、今度は得点直後の喧噪が落ち着き始めたときだったので、柚子の声はちょっと目立っていて、幾人かの関係のない生徒たちが異変に気がつき、柚子に視線を向けたりしていた。

 ところが、真夫は振動を終わらせないらしく、柚子は真っ赤な顔で必死に歯を喰い縛って声を押し殺していた。

 京子は自分でもびっくりするくらいにどきどきしてしまった。

 

 そして、試合が終わった。

 試合終了間際に一点とられたものの、学園の女子サッカー部は、四対一で勝利し、翌週の地区決勝戦に進むことが決定したようだ。

 結局のところ、京子はなにもされることなく終わってしまい、ふつふつと焦燥感のようなものが身体に残ったような心地になった。

 

 試合が終了した段階で、京子は真夫から応援席の外に呼び出された。玲子も一緒だ。

 そのまま、競技場の外にある駐車場に面する出入口まで連れてこられる。

 まだ、試合終了の余韻も残って選手たちが観客席に挨拶とかをしている段階なので、まだ応援の生徒たちがおりてくる気配はない。

 周りには誰もおらず、京子と真夫と玲子の三人だけになる。

 

「先生、約束のとおりに、三日間の調教はこれで終わりです。もう帰っていいですよ。先生をつなぎ止める条件はなにもありません。脅迫のようものもなしです。先生はもう自由です。解放します」

 

 真夫が笑みを浮かべて、京子の顔を覗き込んでくる。

 

「えっ?」

 

 意外な言葉に、京子は思わず絶句してしまった。

 帰っていい──?

 このまま──?

 自由って?

 

「ハイヤーを呼んであるわ。料金は支払い済みだから、どこに向かってもいいわ。学園に戻るなら、それでもいいし、さすがに、今日は戻りたくないというなら、グループ系列のホテルのスイートルームを確保しているわ。連泊したいならご自由にどうぞ。ルームサービスでもなんでも、一切お金を支払う必要はないから安心して。でも、明日、欠勤するなら、わたしに連絡だけはして。手続きをしておくから」

 

 玲子だ。

 ホテルの名前を書いたメモとともに、工藤玲子としか書かれてない名刺を渡される。それをホテルのフロントに出せばいいとも付け加えられる。

 また、百メートルほど離れた場所に、確かにハイヤーが一台止まっていることにも気がついた。

 もしかして、これで解放ということ……?

 本当に?

 

「自由……というのはどういうことです? 奴婢になるというのは……?」

 

 京子は真夫を見た。

 すると、真夫が破顔した。

 

「ああ、そう口にしてもらいましたね。でも、あんなのはプレイの中の戯れです。先生が本気でないなら、強要はしません。俺のところに集まっているのは、全員が彼女たちの自由意志によるものです。先生もその例外にするつもりはありませんから」

 

 真夫はあっけらかんと言った。

 京子は唖然となった。

 

「戯れ? プレイ?」

 

 どういう意味──?

 

「もっとも、俺が先生に口にしたことは本気ですよ。連絡をしてくれれば、いつでも、俺たちは先生をSS研に歓迎します。そして、そのときこそ、もう逃げれません。先生には俺の奴婢から離れられない処置をしてあげます。でも、そうでなければ、もうこっちから先生に接触はしません。ただの生徒と教師の関係です」

 

「つまり、どういうことなの? もしも、連絡をしなければ、あたしになにもしないということ?」

 

「そうですけど、俺は先生が連絡するのを待ってますよ。ただ、嫌なら、このまま永久に俺たちのことは忘れてくれればいいということです。どうするか、自分の心に訊ねてください」

 

「付け加えておくわね。言っていくけど、最初にやろうとしたようなマスコミや教育委員会、それとも、警察でもなんでも訴えてもいいけど、どこも相手にしないわ。それだけは覚えておいて」

 

 玲子だ。

 もはや、その気はないが、相手はあの豊藤財閥だ。

 どこに訴えても、無駄だというのは真実なのだろう。

 それだけの力があるのが、豊藤財閥という存在なのだ。

 

「先生からの連絡を待ってます。そして、それを愉しみにしてます」

 

「あんっ」

 

 そのときだった。

 股間に刺激を感じて、京子はその場に膝を折った。

 なにが起きたかわからなかったが、ずっと締めつけられていたクリトリスの金属環が下着の中で外れたのだと悟った。

 解放されたことで、逆に刺激を与えられた感じになってしまったみたいだ。

 もっとも、ここで下着の中に手を入れるわけにいかず、京子は下着の中で動く金属環を持て余してしまう。

 

「じゃあ、先生、よければ、それは記念にどうぞ。そして、連絡を待ってますよ」

 

 真夫が玲子とともに競技場内に戻っていく。

 京子はしばらくのあいだ、立ちすくんだままでいたが、やがて、意を決して、玲子が準備をしてくれたハイヤーに向かった。

 

「伊達様ですね。お待ちしておりました」

 

 待っていた運転手が運転席から慌てたようにおりてきて、扉を開いて京子を席に導く。

 運転席に戻った運転手に、京子は玲子から教えられたホテルの名を告げる。

 やはり、学園に戻る気にはなれずに、玲子の言葉に甘えて、そのホテルを利用させてもらうことにしたのだ。

 

「かしこまりました」

 

 車が走り出す。

 待っている間に、ラジオをつけていたのか、ラジオからニュースが流れていた。

 運転手が慌てて消そうとしたのを京子は、声を掛けてそのままにしてもらう。

 ニュースの中ですぐ近くで殺人事件があったと流れていたのだ。大学生の青年が拳銃で撃たれて死んだということだった。しかも、二名──。

 ニュースによれば、若い女と口論をしている声が聞こえたと目撃者の情報があるようだ。

 

「物騒なことですね。もっとも、犯人は警察に射殺されたみたいです。なんだったんでしょうか。ともかく、伊達様も。お気をつけくださいね。だけど、あんなところで、ヤクザの抗争でもあったんでしょうかねえ」

 

 運転手がうんざりした口調で言った。

 

「そうねえ……」

 

 京子は空返事をした。

 確かに、ホテルに近い場所かもしれない。現場はホテルの近くだ。そういえば、途中で外国語教室に行くと言っていた白岡かおりが向かうと口にしていた教室にも近いのかもしれない。

 まあ、犯人も死んだようなので、滅多なことは起きないと思うが、彼女は大丈夫だったろうか。

 そんなことをぼんやりと思った。

 

 そして、ホテルに到着した。

 ホテルというのは、駅前の一等地にある超一流ホテルだ。

 ボーイが車の扉を開けてくれ、京子は車からおり立つ。

 荷物をひとつも持ってないことに、ボーイも怪訝そうにしていたが、構わずに京子は黙ってフロントに向かう。

 フロントに着いた京子が名前とともに、玲子の名刺を渡すと、本当に最上階のスイートルームに案内された。

 気後れしてしまうほどの豪華な部屋に、さすがに京子もいたたまれない気持ちになる。

 

 いずれにしても、とりあえず、一度シャワーを浴びたいと思った。

 案内のホテルマンが去ると、京子はすぐにバスルームに向かった。

 熱いシャワーを浴びて、気分を落ち着かせよう……。

 考えるのはそれからだ……。

 

 脱衣所で裸になる。

 鏡に目をしてはっとする。

 乳房の上下、そして、腰にしっかりと縄痕があったのだ。

 股間には剃りあげられてしまったために、一本の毛も残ってない。

 ああ、なんという恥ずかしい姿なのだろう……。

 なんという……。

 

 気がつくと、京子は舌で自分の口の回りをぺろぺろと舐め続けていた。

 自分でも驚くような扇情的な表情で……。

 そして、その京子の股間は、信じられないくらいに真っ赤であり、たっぷりの愛液で濡れてしまっていた。

 京子は知らず、鏡にうつっている自分を見ながら、股間に手をやり自慰を始めていた……。



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 第173話 そして、四日後……。

 目が覚めたとき、京子は自分がどこにいるのか、すぐにはわからなかった。

 見たこともないような広くて綺麗な場所だなと感じ、やっと夕べは、一介の女教師である京子の収入では一生縁がないような、一流ホテルのスイートルームに泊まったのだと思い出した。

 SS研から解放された京子のために玲子が準備した場所であり、ここでなにを頼んでも、全て豊藤財閥が支払うという彼女の言葉を思い出し、やけくそのように、高級料理や高級ワインを注文したのを覚えている。

 そして、死んだように眠った……。

 

「えっ? いま、何時?」

 

 やっと、我に返った。

 金曜日の夕方から拘束されて、解放されたのが日曜日の午後であり、それから、その足で、このホテルにやってきて、ひと晩を明かしたのだ。

 つまりは、今日は月曜日ということになる。

 慌てて、京子は飛び起きた。

 授業があるのだ。

 飲み慣れない高級ワインをついつい痛飲したせいか、それとも、あの三日間のSS研における調教の疲労のせいか、ここでひとりで食事とともに、ワインを飲んでいた途中からのほとんど記憶がない。

 深酒をしても二日酔いにならないのは京子の体質なのだが、その代わりに、記憶が残らないことが多い。だから、覚えてないのは、京子にとっては珍しいことではないが、なんとなく寝過ぎたような感覚があったのだ。

 とにかく、寝台の枕元のデジタル時計に視線を向ける。

 

 “8:12”

 

「ええ──?」

 

 思わず、ひとりで声をあげていた。

 いまから、身支度をして学園のある山中までタクシーかなにかであがり、授業の準備をするには遅すぎる時刻だ。

 ちょっとばかり、ワインを多く飲んだからといって、寝坊するなど──。

 もしかして、目覚ましすら掛けなかったのだろうか。

 そして、記憶があまりないものの、唯一、覚えているのは、火照りきる身体を持て余して、ここで狂ったように自慰を重ねたことだ。

 あのSS研での三日間が京子の身体を完全に変えてしまったというのは間違いない。

 

 もともと、性欲の強い性質ではないので、自慰などほとんどやったことはなかったが、昨日は真夫から解放されて、すぐに身体にシャワーを浴びながら自慰を行い、それから、ルームサービスで食事とお酒を頼んだあとにも、また自慰をした。それでも収まらずに、寝台に潜り込んでからも、自慰をしたと思う。

 いくら自慰をしても、まったく性的満足が得られず、中途半端な焦燥感だけが残り続けるからだ。

 そんなことばかりやってきたので、寝坊をしてしまったのだろうか?

 寝坊するなど、滅多ないことなので、京子は蒼くなり、寝台から飛び降りた。

 

 ふと見ると、床に身につけていたガウンやブラジャーが置き捨ててある。そして、どうやら、京子はショーツ一枚で寝てたらしい。

 下着はこの部屋に備え付けてあったもので、腰の横で紐で結んで留める、いわゆる“紐パン”というやつだ。

 ただ、そんな小さな布切れでも、ひと目で高級品だとわかる素材で作られていた。また、驚いたことに、部屋にあるウォーキング・クローゼットには、京子の身体のサイズにあわせた衣類や靴がそれぞれ数種類準備されてもいたのだ。

 好きなように使っていいというメモも添えて──。

 

 宿泊代にしても、食事にしても、衣類の代金にしても、どうせ豊藤の支払いだ。どんなものでも、遠慮なく消費する権利がある──。京子は開き直って、利用させてもらうことにした。

 そもそも、よく考えれば、このホテルに入ったはいいが、真の意味で身体ひとつでやって来てしまったのだ。

 着替えもなにも、それらを使うしか、京子には手段がないのだ。

 

 床のガウンを拾いあげて、ガウンを身につけたときに、部屋の電話が鳴った。

 

『おはよう、京子。わたしよ』

 

 てっきりフロントかと思ったが、電話の主は工藤玲子だった。

 学園の理事長代理にして、豊藤の中枢近くで動く女であり、あの坂本真夫の奴婢だと自称する女性である。

 

「お、おはようございます」

 

 とりあえず、返事をする。

 すると、受話器の向こうからくすくすと笑う玲子の声がした。

 

『お寝坊さんね。とりあえず、今日は休暇の手続きをしたわ。受け持ちの授業も代行の処置済みよ。今日はゆっくりしていいわ』

 

「……ありがとうございます」

 

 確かに、昨日の今日だ。

 京子としても、心を落ち着ける時間は欲しい気がした。

 休暇をとるなど、教師になった三年間で初めてのような気がするが、ならば、遠慮なく休ませてもらおう。

 しかし、ふと、気がついた。

 授業はともかく、陸上部のことがあった。

 もっとも、顧問はひとりではなく、京子と同じように体育を受け持つ男子教師と二人態勢で面倒を看ているのだが、女子部員については京子が指導をしているのである。

 

『陸上部の方についても、問題はないわ。実家の都合で学園に戻るのが遅れたのだと説明してあるわよ。それよりも、明日はどうするのかしら? 明日も出勤してこないということなら、みんなへの説明も変えないといけないし……』

 

 玲子が京子の心を読んだかのように、先回りをして付け加える。

 とりあえず安堵した。

 

「明日は出ます。いえ、今日の夕方には戻りますから」

 

 また、京子はきっぱりと言った。

 明日には学園には戻る。

 そのことに迷いはない。

 

『よかったわ。思ったよりも元気そうで……。すっかりと心が折れて、もしかしたら、学園には戻らないかもしれないということも想定していたのよ。その感じなら、新しい体育教師を探す必要はなさそうね』

 

「あたしの心が折れるような仕打ちをしたという自覚はあるんですね?」

 

 京子はせめてもの腹癒せで、嫌味を込めて言葉を返す。

 なにを言っても、なにをしても、所詮は彼らの手の平の上なのだという自覚はある。

 あの三日間のことにしても、泣き寝入りする以外には許されないのだ。

 いや、そもそも、あの三日間で京子が示した痴態は、すべて映像記録として残されているに違いない。

 あれを脅迫の材料にされてしまえば、もう京子は逆らうことはできない。

 

 そうだ……。

 脅迫されれば仕方がない……。

 また、あの少年に玩具のように扱われて辱められる日々が始まるのだ……。

 

 あの真夫が言っていた……。

 今度、奴婢になれば、もう一生そのままだとも……。

 もしも、脅迫されるのであれば、逆らうことはできないのだ……。

 京子は、だんだんと自分の振動が早鐘のように鼓動を激しくなるのを自覚した。

 

『でも、心配はしてなかったわ。真夫様は確信があるそうよ。あなたは、ちゃんと戻るとね……。でも、昨日の今日だったし、身体も心の疲れているだろうから、わたしの方で、目覚ましは止めておいたのよ。だから、もっと遅くまで寝ているのかと思ったけど、思ったよりも早起きで、むしろ驚いたくらいよ』

 

 電話の向こうの玲子が小さく笑った。

 目覚ましを止めた……?

 玲子が勝手に?

 

 唖然としたが、よく考えれば、ここは玲子が手配した豊藤系列のホテルだ。そんなこともできるのだろう。

 また、いまの口ぶりでは、偶然に京子が目を覚ましたときに電話をしたのではなく、京子が起きるのを待って、電話をかけた?

 つまりは、この部屋は監視されている?

 そのことに気がついて、京子ははっとした。

 

「も、もしかして、この部屋を監視してるのですか?」

 

『真夫様が心配なさるからね。でも、いきなり肉料理に喰らいつくくらいだもの。全く問題はないわね。どんな災難があっても、食事ができるなら、心は折れないわ。安心したわ』

 

 やっぱり、監視をされていたのだ……。

 この部屋にも隠しカメラが……。

 そういえば、あの学園にも、あちこちに隠しカメラを設置して、女生徒や女教師の痴態を記録していた彼女たちだ。

 ホテルの部屋にも、当然に撮影されていると予想すべきだった。

 夕べのことを思い出して、京子は蒼くなる。

 

『どうしたの? もしかして、昨日、そこで狂ったように自慰をしていたことを見られていたことに愕然とした? まあ、そんなこともあるわ。大なり小なり、全員が自覚する道よ。もう、真夫様でないと満足できなくなっているのよ。そうだったでしょう?』

 

 玲子だ。

 だが、その物言いにちょっとむっとしてしまう。

 真夫たちから解放されるとき、あの少年は、京子は自ら望んで、真夫のところに戻ることについて、自身満々だった。

 あんなことをしておいて、京子が自ら彼に従いにやってくるなど、とんでもないことだし、そんな風に思っているのは信じられないことだ。

 無理矢理に、脅迫されるなら、ともかく……。

 

「……もしかして、その映像を使うつもり? 隠し撮りなんて卑怯だわ」

 

 京子は言った。

 どうせなら、言えばいいのだ。

 京子の破廉恥映像を公開されたくないなら、奴婢になれと……。

 もし、そうされれば、もう京子は、逆らうことはできない……。

 

『映像は使わないわ。というよりは消去したわ。真夫様のご指示でね』

 

「消去? 坂本君の指示? どういうことです?」

 

『さあ、どういうことかしら……。とにかく、用件を伝えるわ。リビングにそのまま移動して。テーブルの上に、預かっていた財布や身分証明書などの小物を返すわ。それと、新しい携帯電話も。財布の中身は返却の必要はないわ。当座の経費と思ってちょうだい。あるいは、迷惑料とでも』

 

「財布や携帯電話?」

 

 この寝室で会話をしていたのは、部屋に備え付けのコードレス電話だ。そのまま、リビングに移動する。

 確かに、京子自身の財布や持ち物が並べて置いてある。

 ただし、置いてあったスマホは、新品のものだ。

 とりあえず、財布をとりあげた。

 ぎっりしと札束が入っている気配なので、中身を見るとびっくりした。

 一万円札が百枚近く詰め込んである。

 ほかにも、カードのようなものも入っていた。

 

『カードはプリペイドカードよ。とりあえず、一千万円は入っているわ。現金とどっちが使いやすいかわからなかったから、両方準備したけど、現金がいいなら、届けさせるわ』

 

「……どういうことですか? あたしは、まだ彼の支配に入るとは口にしてませんけど」

 

 京子はむっとして言った。

 だが、電話の玲子は小さく笑っただけだ。

 

『真夫様のご指示よ。それは迷惑料ね。それを受け取ったからと言って、なにかの代償を要求するものではないわ。まあ、三日間のお手当とでも思ってちょうだい』

 

「一千万円で口止めということですか?」

 

『代償はなしと、言ったでしょう。誰に訴えるにしても、好きにしていいわ。どこにも相手にされないだけだけどね……。それに、もしも、あなたが真夫様の奴婢になることを決心したら、それはただの支度金にしかならないということよ。むしろ、その数倍の金額が定期的に渡されるわ。使うことを要求されるお金よ。真夫様のために、自分を磨く資金としてね』

 

 度肝を抜く話だ。

 あの真夫の奴婢になることで、いくら支払うつもりなのだろう。

 真夫の奴婢になることを“勝ち組”だと表現した白岡かおりのことを思い出した。

 なるほど、納得だ。

 

「このスマホも自由にしていいと? わたしの使っていたものはどうしたんですか?」

 

『返納はできないわね。でも、データは全て移動させてるから、不便はないはずよ。もっとも、念のために、教育委員会に所属する個人名や、マスコミとの連絡先とか、そういうものは削除しておいたけどね』

 

「はあ……」

 

 京子は溜息をついた。

 なにをしてもいいとは言いながら、結局はしっかりと管理下に置いているのだと悟った。

 

「……とにかく、明日には出勤します」

 

 それだけを言った。

 玲子から、それ以上の話はなく、京子は電話を切った。

 

 


 

 

 玲子に断言したとおり、翌日の火曜日には、京子は学園に戻った。

 実家に戻っていたという連絡を玲子がしてあったこともあり、珍しく休暇をとった京子のことを訝しむ気配さえなかった。

 欠勤したことを謝罪しにいった体育教師を束ねる主任教諭からは、代替えが効くように、この学園では余分に教師及び講師を集めているので、もっと定期的に休んでも大丈夫だと逆に諭されたくらいだ。

 休むなどこれまで及びもつかずに、ずっと出勤している京子は、真面目過ぎると思われていたみたいだ。

 とにかく、意表を突かれるくらいに、当たり前の日常が戻ってきた。

 

 この週は、週末に「文化部発表会」が金曜日と土曜日に行われることになっていて、どちらかというと、それに向けての慌ただしい雰囲気が学園に漂っていた。

 文化部発表会というだけあり、中心となるのは、各文化部ではあるが、それ以外の生徒も無関係ではない。

 文化部に所属していない生徒については、各クラスごとになにかを発表したりすることを求められており、他の学校における「文化祭」のような位置づけにあるのが、毎年、六月末に開かれるこの文化部発表会なのだ。

 

 陸上部にも文化部と掛け持ちの生徒は多く、発表会の前なので、文化部の方を優先する生徒も多い。

 陸上部の女子部も、いつもの半分という感じだった。

 その彼女たちも、発表会までに数日は、クラスとしての出し物の準備があるので、半々に出てくるようだ。

 まあ、毎年のことなので、京子にはなにもない。

 教師たちの中で、文化部の顧問になっている先生は忙しいが、京子のように運動部所属の顧問先生は、むしろ、この時期は余裕があり、それは申しわけないくらいである。

 

 そして、火曜日の朝練において、そもそもの切っ掛けとなった北条麻美と会った。

 京子のSS研での受難は、彼女はクラスメートである立花柚子が性的嗜虐を受けているのではないかという訴えから始まったのだが、週を跨いで話したときには、そんなことは全く忘れたように、あっけらかんとしていた。

 

 また、クラス担任ではないが、一年生の保健体育を担任している京子は、立花柚子を教える機会もあったが、あの週末がなにもなかったかのように、柚子が京子に特別な態度をとることもなかったし、むしろ、向こうから話しかけてくることすらなかった。

 

 それは、SS研にしてもそうであり、もしかして、週末のことをネタに、脅迫のようなことをされるのではないかと勘ぐっていたが、玲子の言葉のとおりに、それもなく、偶然に学園内で、坂本真夫やその従者生徒の白岡かおり、あるいは、金城光太郎という生徒とすれ違っても、向こうからは視線すら合わせてくることはなかった。

 むしろ、彼らも、文化部発表会の準備のために忙しそうであり、京子はまったく相手にされてないという感じであった。

 まるで、あの週末は存在すらしてなかった……。

 そんな錯覚を覚えるほどの、日常が数日過ぎていった。

 

 だが、唯一の変化があったといえば、なぜか、京子が実家で見合いをしたという噂が流れたことだ。

 実家に戻り、月曜日を休んで、学園に戻ったとき、京子の近い生徒や同僚たちは、京子は随分と美しくなったと印象を受けたらしい。

 元来、男っ気が皆無であり、堅物でも通っていた京子だけに、男性のお付き合いをするという印象はなく、昔ながらの見合いをするというのは、いかにも京子らしいと思わせたようだ。

 それに対して、京子は否定することができず、顔を赤らめるような反応をしたそうだ。

 まあ、週末に男と出会ったというのは、満更、嘘ではない。

 確かに、出会ったのだ。

 そして、忘れられなくなっている……。

 それが、たとえ、学園内の男子生徒のひとりだとしても……。

 

 


 

 

 三日耐えた……。

 

 そして、三日間が限界だった。

 あの週末に京子に受け付けられてしまった被虐性と淫乱さは、やはり、京子の心と身体を蝕み、忘れさせてはくれなかった。

 自慰もした。

 しかし、どうしても満足できない。

 自分ではだめだと悟ったとき、京子は負けたのだと悟った。

 

 翌日の金曜日が文化部発表会の初日だという前の夕方の木曜日──。

 月曜日から数えれば、四日目になる。

 その日は、どの運動部の活動もなく、陸上部もそうだった。

 京子は、空いた木曜日の放課後を利用して、SS研の部室にやって来てしまった。

 部室には、あのSS研に所属する女生徒たちや真夫が最後の準備に忙しくしていたが、京子の姿を認めると、真夫だけがやって来て、京子の手を掴んで、奥に連れていった。

 SS研の部室の奥にある隠し扉だ。

 そこから、地下のエレベータに向かう小部屋に入る。

 

「戻ってきましたね、先生」

 

 エレベータを待つあいだ、京子の手を握ったまま真夫が微笑む。

 

「はい……。戻ってきました……。あたしを奴婢にしてください」

 

 覚悟を決めて言った。

 

「わかりました。じゃあ、覚悟をしてください……。それと、ジャージを着てきたんですね。これからは禁止です。授業のときには仕方ありませんが、それ以外はちゃんと身なりを整えてください。それは、ここで脱いで」

 

 エレベータに乗り込むと、すぐに真夫が言った。

 いつも学園内ではジャージなので、当たり前のようにジャージを着ていたのだ。

 とにかく、慌てて、京子は上下のジャージを脱ぐ。

 しかし、あっという間にエレベータは地下に到着して、上をTシャツになり、下を膝までさげたところで、扉が開いてしまった。

 真夫にどんと背中を押される。

 

「きゃああ──」

 

 膝にジャージの下が絡んでいる京子は、そのまま地下側の床に倒れ込んでしまう。

 真夫がその京子の両手をとった。

 あっという間に後手に手錠を掛けられてしまう。

 京子は、ジャージを膝までおろし、下着姿で跪くという恥ずかしい格好になった。しかも、後手手錠だ。

 

「先生、これがわかりますか。俺の奴婢である印です。これは首輪用ですが、四肢にもつけます。一生外れません。俺の支配の象徴です」

 

 真夫が上半身をあげた京子に、銀色の金属環を示した。

 それは知っている。

 真夫の奴婢だという玲子を始め、全員の女が身につけている揃いの銀色の金属環だ。

 京子も、どうやらそれが、真夫の愛人にして性奴隷である奴婢の象徴らしいということくらいは気がついていた。

 

「は、はい……。どうかお願いします」

 

 真夫の奴婢になる……。

 そして、辱められる……。

 調教される……。

 

 それを考えただけで、すでに下着の中がねっとりと湿ってきたことを自覚した。

 

「じゃあ、このまま、その場でおしっこをしてください。ジャージで俺に会いに来た罰です。それが終わったら、これを嵌めてあげましょう。さあ、そのままするんです」

 

「えっ?」

 

 京子は耳を疑った。

 この場で──?

 下着をしたまま、ジャージを半脱ぎのままお漏らしをしろということ──?

 そんな恥ずかしいことを……。

 

「するんです──。それだけじゃないですよ。これから想像もできないような辱めをされると覚悟してください。それが俺の奴婢になるということです。目の前でお漏らしをする罰など、生やさしいものです。さあ、始めて──」

 

 真夫が京子を見る。

 口調も表情も柔和だが、なぜか、逆らうことを許さない迫力が真夫にはあった。

 京子は股間の力を抜いた。

 尿意はなかったが、まったく出せないわけではない。

 始めると、じょろじょろと下着の中が温かくなり、滴が奔流となって、膝に絡んだジャージを塗らし始める。

 生徒の目の前でお漏らし……。

 気の遠くなるような羞恥に、京子は激しい興奮を収めることができない。

 ああ、奴婢になったのだ……。

 京子は失禁を続けながら思った。

 

「みっともないですね、先生。でも、これから、先生は勝手に、おしっこも、排便もできません。常に、俺に見られながらしてもらいます。これから、死にたくなるような辱めを受け続けることになります。一生……。もう先生の許可はとりません。ただ、先生は無理矢理に、それらをやらされるだけです」

 

 真夫が京子の唇に唇を重ねてきた。

 突然のことだったが、拒もうとは思わなかった。

 舌を受け入れ、自らの舌も委ねる。

 排尿はすぐに終わったが、おしっこをしながら受けるキスは甘美だった。

 

「これまでに誰かとキスをしたことは?」

 

 口を離すと、真夫が微笑んだ。

 

「こ、これが初めてです」

 

「そうですか。おしっこをしながらのファーストキスですね。記念のキスです。じゃあ、来てください」

 

 首にがちゃんと金属音がした。

 さっきの金属環を首に嵌められたのだと悟った。

 それには細い首輪が繋がっていて、真夫がぐんと鎖を引っ張る。

 真夫が歩きだしたので、慌てて立ちあがり、ついていく。

 ジャージは膝から落ちて、足首に絡まったが、それを脱ぐ暇はない。京子は不自由な足下を必死に動かして、真夫を追う。

 連れて行かれた部屋は、あの週末に調教され続けた大部屋だ。

 だが、その部屋の真ん中に一本の縄が張ってあった。

 よく見れば、たくさんの縄瘤がついている。

 

「とりあえず、運動をしましょう。そのジャージは脱いで、あれを跨いでください。近くまで行けばわかりますが、たっぷりと掻痒剤のクリームを塗ってあります。十往復してください。その後、犯します」

 

 鎖で引っ張られて、縄のそばに連れて行かれる。

 でも、どうして、こんなものを準備していたのか……?

 京子が今日、ここに来るのを予想していた?

 とりあえず、足下のジャージを蹴るようにして足首から外す。

 

「ほら」

 

 真夫が京子の身につけていた下着を掴んだ。

 下着は、あのホテルから持ってきた紐パンだ。なぜか、それ以外は許されない気がして、京子はずっとこの数日、それだけを身につけている。

 真夫はあっという間に、それを外してしまう。

 ジャージは自分で蹴って脱いだので、京子はTシャツ一枚の姿だ。

 

「あっ、いやっ」

 

 股間を露出され、思わず身体を竦ませた。

 あのとき、剃られた陰毛はこの三日で、薄っらと産毛のようなものは生えている。むしろ、それが恥ずかしくて、咄嗟に片膝を折って隠そうとする。

 

「ほら、早く──」

 

 生尻をぴしゃりと叩かれた。

 

「あんっ」

 

 その瞬間、なにか強烈な衝撃のようなものを感じて、思わず甘い声をあげた。

 京子はかっと顔を赤くしてしまった。

 

「跨ぐんですよ」

 

 真夫に身体を支えられ、片脚を掴まれて、強引に縄を跨がらされた。

 縄は京子の腰の上くらいの高さで張ってあったが、それが京子の股間に思いきり喰い込む。

 

「ほら、歩いて──」

 

 また、お尻を叩かれる。

 

「あんっ、は、はい……」

 

 京子は仕方なく歩き出す。

 

「あっ、ああっ」

 

 すぐに、最初に縄瘤の位置に差し掛かり、京子は身体を突っ張らせて、甘い声をあげてしまった。






 *

 本話にて、『伊達京子篇』の終了です。次話より『九条ゆかり篇』予定です。


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第27章 破天【九条あゆみ】
 第174話 深窓の令嬢の正体


 煮ても焼いても喰えぬもの──。

 

 それが公家というものだと、玲子は思っている。

 民主主義の拡がりというこの国の歴史の流れの中で、確かに、表向きには公家も、華族も消えてしまったが、実際には厳然として存在を続けている。

 財閥といわれている存在もそうだ。

 これもまた、表向きには解体されたことになっているが、豊藤財閥は国際社会を操る巨大経済組織として存在しているし、ひかりの実家の金城家のように、はっきりと財閥を名乗る旧財閥もある。

 いずれにしても、公家というものは、従来権威だけはあるが、武力もなければ、富力もない。だが、気位の高さと情報操作を武器に、力を持っているものを操ったり、操られたりして、長い歴史を生き抜いてきた。

 それが公家だ。

 

 九条あゆみは、真夫や金城光太郎よりも二歳年上であるが、まだ二十歳にすぎない。

 それでも、彼女は、曲がりなりにも、そういう魑魅魍魎が当たり前の世界で育った女性には違いないのだろう。

 だから、ねじ曲がっている。

 それが、玲子のあゆみに対する印象だ。

 

 いずれにしても、いま、玲子がいるのは、その九条あゆみが指定した都市部にある平屋の建物の中である。

 九条家の本宅は京都になるので、こちら側には本宅はないのだが、便利なので家として、こういう家屋を数件構えているそうだ。まあ、都心部にある別荘という感じだろう。

 ちなみに、首都の大学に通うあゆみは、タワーマンションの一室を借りてひとり暮らしの住居としているようだ。

 名家とはいえ、いまの九条家には、都心部のタワーマンションを娘のために借りてやる財力などないのだが、それを工面しているのは、あゆみの個人的な私財によるものだ。

 経済学部の学生でもある彼女は、やり手のデイトレーダーでもあるらしく、玲子の調べたところ、彼女の個人資産はすでにかなりの額になっている。

 まあ、だからこそ、小うるさい実家から離れて、ああやって、ひとり暮らしをして独立するということができるのだろう。

 

「お待たせしたな、玲子殿」

 

 九条あゆみが現れた。

 以前に会ったときには和装をしていたが、今日は清楚な雰囲気の品のいいワンピース姿である。

 また、和装の三十代と思われる女性を侍女のように連れている。

 玲子が待っていたのは、畳の上に置かれた椅子とテーブルの部屋だ。立ちあがった玲子に座るように手で促し、あゆみについては当然のように上座側に腰掛ける。

 

「それほどでもありません」

 

 待たされたのは三十分くらいだろう。

 金城家でもそうだったが、貴人というものは、待たせることで自分たちの矜持を確保する。招いた場所に訪問してきた客ではあるものの、たった三十分しか待たせないというのは、十分な対応には違いない。

 ただ、この面談に先立ち、玲子は、ある映像を事前にあゆみに送りつけていた。

 それを見ているはずだが、平気で待たせるし、いまも少しも動じた気配はない。

 なかなかの女だとは思う。

 

「お送りした映像はご覧になりましたか?」

 

 玲子は単刀直入に言った。

 彼女と会うのは、これが三回目だ。最初の一回目は、金城光太郎との婚約についての話であり、彼女と会うというよりは、彼女を含めた九条家の代表者と話をするというかたちである。

 それで決まったのは、表向きには、九条家と金城家の婚約、つまりは、金城光太郎と九条あゆみの婚約を継続し、おそらく、ひかりが大学を卒業後になると思うが、婚姻の形式を踏むということだ。

 実際には、ほぼ女性であるひかりだが、戸籍では男性だ。

 かたちだけなら、婚姻に問題はない。

 だが、実際には、金城光太郎については、ひかりとして、真夫の愛人になる。

 ひかり自身は、婚約の解消を願い、金城家として償いをするつもりだったのだが、それを留めたのは、九条家側のあゆみ自身だ。

 彼女は、もともと、婚約者の光太郎が、幾人愛人を作ろうと構わなかったし、それが男性であっても、まったく問題とは感じないと断言した。

 だから、そのまま、婚約を継続するということを申し出たのである。

 彼女のその言葉により、そういう方向で落ち着かせることになった。

 これが最初の会合だ。

 

 無論、そのために、かなりの財を九条家にも、金城家にも流している。

 金城家はともかく、九条家は旧公家という高貴さがあるだけで、土地や建物はそれなりに保有しているが、財力はない。

 九条家としては、大いに満足してくれ、真夫の懸念になりそうな大きな問題は片付いた。 

 

 二度目の会合は、あゆみから求められたものだ。

 一回目の家を介する会合のすぐ直後であり、玲子はその会合の場で、ほとんど交流がなかったとはいえ、幼少時から婚約者だった光太郎が自分以外の存在と恋愛をすることを認める代わりに、あゆみ自身を真夫の愛人にすることを求められたのである。

 これには、玲子も驚いた。

 まあ、本人の言い分としては、表向きに、ひかりである金城光太郎と婚姻をするということは、あゆみ自身は、生涯を男性を知らずに生きるということになる。

 自分も、生まれたときから、家のために婚姻をすることを言い聞かされて育ったので、政略結婚というのはそういうものだとは認識しているが、処女のまま死ぬというのには納得できない。

 だから、光太郎が心の伴侶に選んだ坂本真夫という少年と、自分も身体の関係を結びたいと、まあ、そんな感じのことを申し出てきたのだ。

 

 困惑した令子は、真夫は複数の女性を伴侶とする男であり、すでに多くの愛人候補がいること。

 光太郎は、真夫の前ではひかりという女性として扱われており、あゆみが真夫の愛人になれば、夫婦でひとりの男性と深い関係になるということになるなどと、くどくどとを説明した。

 この頃までは、玲子はあゆみを公家出身の深層の令嬢のように思っていたので、ひかりと一緒に、真夫の愛人になるということについて理解していないのではないかと心配したのである。

 しかし、あゆみは笑って、なんに問題もないと応じた。

 それだけなく、どこで調べたのか、真夫の嗜虐癖のことも知っていて、ひかりと一緒に並んで愛されるのも悪くないと微笑んだ。

 玲子は唖然としたのを覚えている。

 

 とにかく、その話を持ち帰った玲子は、真夫にあゆみの申し出を伝え、真夫が二つ返事で承知したことから、あゆみが真夫の愛人となることについては決まった。

 もっとも、真夫は承知したが、ひかりにはまだ話してない。

 あゆみ自身も、それについて、ひかりに話した気配はなく、そもそも、ひかりとあゆみは、ほとんど話をすることもないみたいであり、一度、ひかりから連絡があり、そのときは婚約の継続についてだけ伝えたということのようだ。

 

 そして、今回は玲子が呼び出した。

 あゆみの身辺調査を継続する過程で、ある映像を入手したからだ。

 まったく、とんでもない女だと、ちょっと呆れてしまった。

 

「映像か。まあ、見たな。面白いものだった」

 

 あゆみが破顔する。

 映像の話をすれば、一緒に連れてきた侍女のような女は人払いするのかと思ったが、その気配はない。

 玲子は内心で舌打ちした。

 

「あのような場所には出入りされませんように。これは忠告ではありません。真夫様の愛人になる女性に対する命令です。よろしいですね──」

 

 玲子は強く言った。

 偶然に入手ししてしまったその映像は、若い女性が三人出てきて、その彼女たちが黒いガーターストッキングを身に着け、鞭で全裸の男たちに跨り、鞭を振るっている映像だ。内容は隠し撮りをされた感じだが、女性たちの顔ははっきりと映っている。

 そのひとりが、九条あゆみだったのだ。

 とにかく、玲子も呆れてしまった。

 

「そんなに怒るな、玲子殿」

 

 あゆみは声をあげて笑った。

 玲子はかっとなった。

 この女は、事の重大さがわかってないのだと思ったのだ。

 

「笑い事ではありませんよ。あれは、九条家のような立場の存在からすれば、とんでもない醜態となります。もしかしたら、脅迫の材料にでもされたかもしれません。すでに、処置はしましたが」

 

「怖いな、玲子殿は、まあ、問題ない。九条家をあのようなつまらない映像ひとつで脅せるものなら、脅してみればよい。そもそも、別に痛くも、痒くもない」

 

「なにを言っているのです──」

 

 玲子は声をあげた。

 ちらりと同行の女に視線をやる。

 いまの会話で、おおよそのことは検討もつくとは思うが、小さく諦めたように嘆息しただけで、大きく動じる様子もない。

 

「ほら見よ、小萩も、九条あゆみの悪癖は知っておるので、SMクラブに出入りしたことくらいでは驚きも、動じもせぬよ。また、九条家のお転婆が羽目を外したかと呆れるだけだ」

 

 玲子の視線の動きに気がついたのだろう。

 あゆみが笑いながら言った。

 小萩というのは、連れてきた女性のことのようだ。

 

「……小萩さんというのですか?」

 

 とりあえず、玲子は訊ねた。

 

「実家がつけているわたしのお目付け役だ。まあ、お目付けだけで、実害はないけどな」

 

「実害がないとは?」

 

 言っていることがわからず、玲子は訊ねた。

 

「小言くらいは言うが、わたしをどうこうすることはないということだ。あまりうるさく言えば、わたしが仕送りを止めることがわかっているしな。九条家とは言っても、実態は借金だらけの張りぼてにすぎん。最近ではわたしの稼ぐ仕送りが頼りなくらいの貧乏旧家だ。まあ、そなたがとりもってくれた豊藤からの見舞金については、本当にありがたがったようだがな」

 

 あゆみだ。

 玲子は呆れてしまった。

 ただ、だんだんと、この九条あゆみと実家との関係もわかってきた。

 彼女が大学生ながら、デイトレーダーでかなりの額を稼ぎ出しているのはわかっていたが、すでに実家を牛耳るほどの稼ぎもあるようだ。

 だから、好き勝手もしているのかもしれない。

 しかし、よりにもよって、SMクラブとは……。

 

「とにかく、もうああいう場所には出入りはされませんように。真夫様は、自分の愛人がそういうことをされることは嫌悪されると思います」

 

 玲子は嘆息しながら言った。

 だが、あゆみはにやりと微笑む。

 

「そうか? なかなかに趣味の深い少年のようではないか。むしろ、気が合うのかと思ったがな」

 

「あり得ません」

 

 玲子はぴしゃりと言った。

 すると、あゆみが苦笑する。

 

「わかった。もう行かぬ。というよりは、ああいう場所に言ったのは、あれが最初で最後だ。興味があったのでね。そんなにいらつくな。それと、少年には黙っておいてくれよ。少年の前では、光太郎様のときと同様に、猫を被るつもりだから」

 

「猫を被っても、すぐに見破られます。真夫様はひかりさんとは違いますよ……。それと、ちゃんと真夫様とお呼びください。よろしいですね」

 

「真夫様だな。わかった。ちゃんとする。これでも世間では、清楚で大人しい令嬢で通っておるのだ。その気になれば、ちゃんとした話し方もできる」

 

「はあ……」

 

 確かに、玲子と話すときには、最初から砕けた感じだったが、事前の調査では大人しいお嬢さんとなっていたので、その違いに驚いたものだった。

 もっとも、まさか、SMクラブに興味本位で出入りするほどの破天荒とは想像もしなかったが……。

 見た目も、いかにも深窓の令嬢という感じの美女なので、あの隠し映像を見たときには、開いた口が塞がらなくなった。

 だから、こうやって、急遽呼び出したのだ。

 

「心配しないでくれ。ちゃんと処女だ。操は守っておる。光太郎殿に捧げるつもりだったが、真夫様にちゃんと捧げる。あれは、本当に単純な好奇心だ。それだけのことだ」

 

「それだけのことの割には、あれが唯一ではないですよね。三回行ってますね。確かに身体の関係はしてないみたいですが」

 

「ほう、そんなことまでばれておるのか。これは参ったな」

 

 あゆみが笑う。

 玲子はあゆみを睨んだ。

 

「笑い事ではありません。勝手ながら、すでに退会の手続きはしましたので。次に行っても、あなたのことは門前払いをするように、申し伝えてます」

 

「ほう、手回しのよいことだな」

 

 あゆみは驚いた顔になる。

 

「とにかく、わたしからの話はこれで終わりです。二度と、SMクラブなど行かれませんように。いいですね──」

 

 玲子は立ちあがろうとした。

 だが、あゆみがそれを制した。

 玲子は座り直して、あゆみを見る。

 

「わかった。反省する。反省するから、わたしからの申し出を聞いてくれ。お願いがある」

 

 ずっと笑い顔だったあゆみがちょっとだけ真面目な顔になった。

 

「お願い……ですか?」

 

「少年……いや、真夫様に会わせて欲しい。奴婢になることを条件に、ひとつ、かなえて欲しいことがある。それを頼んでみたい」

 

「奴婢の意味がわかっていますか? 奴婢とは、なにもかも支配をされるということです。心の身体も、自分が持つもののすべてをです、その奴婢から条件を出すなど……」

 

「まあまあ、そう言うな。頼みというのは、奴婢になる代わりに、あの光太郎殿を苛めさせて欲しいということだ。できれば、貞操帯などを嵌めて、貞操管理とかいうものをやってみたい。駄目だろうか?」

 

「はああ?」

 

「実のところ、あのお坊ちゃんは、ずっとそうやって可愛がってやりたいと思っていたのだ。婚姻するまでは隠しておいて、婚姻さえしたら是非とも、一度調教というのをやってみたいとね。今回、事実上、破断のようにはなったが、真夫様が取り持ってくれれば、望みもかなうというものだ。それを真夫様に頼みたいのだ」

 

「なんてことを言うのです──。いい加減にしてください」

 

 玲子は思わず怒鳴ってしまった。



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 第175話 ご令嬢の悪巧み

 住まいにしているタワーマンションの部屋に帰宅したあゆみは、歩きながらリビングでワンピースやストッキングを脱ぎ捨てて下着姿になった。そのまま横長のソファーに寝そべり、足先を肘掛けから外に投げ出す。

 

「疲れた。小萩、足を(ぬぐ)ってちょうだい」

 

 床に放り出したものを慣れた手つきで回収していた小萩は、それらをあっという間に片付け、すぐにお湯を洗面器に汲んで布を持ってやってきてくれた。

 実家から離れて、このマンションの一室で一人暮らしをするようになってから、大抵のことはひとりでするようになっていたが、この足を拭いてもらうことだけは別だ。

 幼少の頃からあゆみの世話をしてくれる九条家の家人である小萩だが、足の指を拭かせると、指の股のあいだまで玉を磨くように綺麗にしてくれて、本当に気持ちいいのだ。

 だから、足だけは、いつも小萩に任せている。

 また、一人暮らしとは称しているが、完全にあゆみがひとりで生活をしているわけではない。炊事、洗濯、料理など、身の回りをする人間は必要だ。それが小萩である。従って、厳密に言えば、小萩との二人暮らしなのかもしれない。

 小萩の部屋も、このマンションの中にあてがっている。

 

「さっきの会合では、随分とお戯れでしたね」

 

 足の指を拭きながら、小萩が無表情のままで言った。

 

「玲子のことか?」

 

 豊藤からの使者である工藤玲子と会ったのは、今日で三回目になる。

 前二回は、金城家の嫡男の金城光太郎との婚約関係についての話し合いについてであり、それにより、表向きには、金城家の「嫡男」とあゆみの婚約を継続するということで話がついた。

 たが、今回は突然の玲子からの緊急の呼び出しであり、何の話かと思えば、あゆみが出入りしていたSMクラブ通いについての苦情だった。

 事前に隠し撮りされたらしい映像を送ってきていたので、その話だと認識していたが、歴史ある京都の公家の名家で知られている九条家の令嬢であるあゆみに、目と向かってお説教するとは思わなかった。

 いまや京都の実家も、あゆみが稼ぎ出した仕送りをすることによって、すっかりと小言は伝えなくなっていたので、まあ、叱られるのは久しぶりであり新鮮だった。

 

「だから、申しあげたではないですか。ああいういかがわしい場所に、お通いになるのはよくないと」

 

 小萩が呆れた口調で言う。

 そばのテーブルには、小皿に乗せているピーナッツが出しっぱなしになっていたが、それに手を伸ばして口に放り込む、

 

「まあ、そう言うな。ちゃんと一線は守っておったぞ。ただ、四つん這いになった男の上に跨がって、鞭打って啼かせていただけだ。それで悦ぶのだし、金ももらえる。わたしのストレス解消にもなる。よいアルバイトだったのにな」

 

 会員制のクラブであり、会員料を支払って、お互いにマッチングした相手とSMを愉しむのが、あのクラブのやり方だ。

 クラブに所属するプロを指名することもできるが、あゆみは専ら素人の客相手に女王様側で遊ぶということをしていた。

 現役の女子大生であり、美女でもあるあゆみであれば、別に性行為をしなくても、男側は十分に満足していたし、相手に苦労しなかった。

 場所もあのクラブでしかやらないので、監視もあるので安全も確保できる。

 大学に入ってすぐに、興味本位で行ってみたら、すぐにやみつきになってしまった。

 悪くない遊びだったのだが、まさか、勝手に会員を脱退させられるとは思わなかった。

 

「でも、あの工藤様の言うとおりですわ。隠して映像を撮られていたというのは迂闊でしたね。九条家の耳にに入れば、さすがにお咎めなしとはいきませんでしたよ。たちの悪い組織に渡っていれば、果たして幾らで買い取らされたものか」

 

「確かにのう」

 

 右足が終わったので、入れ替わりに左足を小萩に投げだす。

 玲子に対しては、あんなものはなんでもないと、威勢よく啖呵は切ったものの、内心は冷や汗ものだった。

 当初は度肝を抜かれたものだ。

 あれが、出回ればさすがにやばかった。

 どうやら、あの玲子という女が手を回してくれたようなので、ほっと安堵している。

 

 なんだかんだで、あゆみも、自分の「商品」としての価値はわかっている。

 千数百年を超える歴史を持つ名家である九条家とはいっても、いまは所領があるわけでもなし、金城家、豊藤家といった財閥あがりの一族たちのように桁外れの富力や権力があるわけではない。

 あるのは、公家という貴人の血だけだ。

 その宗家に生まれたあゆみは、いわば商品だ。

 財のある名家にできるだけ高く売り、その代わりに相応の富を九条家に入れてもらう……。

 そのために育てられたのである。

 

 つまりは、あゆみの価値は、九条家という旧公家の名門に育った深窓の令嬢ということにある。もちろん、もって生まれた美貌もそうである。

 たまたま、デイトレや投資の才能があったらしく、やってみればあっという間に巨額な利益を生み、周りからは「天才」とまで言われてはいるが、九条家として望むのは、そんな一時的な利益ではなく、財力のある家と縁を結び、あゆみやその子供を媒体として、二世代、三世代にまで及んで九条家に利益を送り続けることである。

 九条家のあゆみという娘が、実はSMクラブに出入りするようなあばずれだと世間にわかれば、無価値になるとはいわないが、かなりの価格落ちになったのは間違いない。

 だったら、そんなところに通うなと、玲子のみならず、目の前の小萩も説教はしていたが、そうはいかない。

 愉しいのだ。

 大の男が、あゆみのような小娘にかしずき、泣き叫び、哀願をする姿を見ていると、子宮が熱くなって、大きな性的興奮を覚えた。

 どうしても、やめられなかった。

 まあ、今回のことで、さすがに自重しようとは思ってはいるが……。

 

 そういう意味では、金城家の嫡男の金城光太郎という少年との婚約は、九条家としても、あゆみとしても、望みうる最高の買い手であるのは間違いない。

 彼が十三歳、あゆみが十五歳のときに婚約し、婚約期間は五年間と、それなりにあったものの、結局、両手で余るくらいの回数しか会うことはなかった。

 でも、彼がなにかの秘密を抱えているようだというのは、すぐにわかった。

 そして、婚約して以降、もともと中性的な見た目だった二歳年下の彼が、会うごとに、女性らしくなっていくことに不思議な想いも抱いていた。

 まあ、もしかして、女性を愛せない体質なのかとは思ったが、それでもいいと思っていた。

 彼の成長とともに、あゆみもまた大人に近づくにつれ、どうやら多淫の癖があり、男を侍らせて奉仕させるのを悦ぶ自分の性癖も認識をしてきたからだ。

 もしも、光太郎という少年が、女を愛せない性癖であれば、あゆみの性欲の発散にも口出ししないと思ったのである。

 これは、思った以上のいい「夫婦」関係を結べるのかと、ずっと悦んでいた。

 

 だから、突然の婚約破棄の申し出には、驚くとともに失望した。

 そして、まさか、金城家の嫡男である金城光太郎が、女性を愛せない性質どころか、女性そのものであるとは唖然としてしまった、

 しかも、戸籍上は男性なのだという。

 介入してきた豊藤を通して、大金の支払う代わりに、正式に婚約破棄が成立しかけたが、あゆみは慌てて、それを阻止した。

 光太郎が実際には、男性よりも女性に近い身体であるという秘密を知ったのも、そのときだ。

 あの決断は、いまにしても、最高のものだと自負している。

 おかげで、九条家と金城家は縁が離れることなく、望んだとおりに次世代まで縁を繋ぐことが叶った。

 しかも、あの豊藤の後継者と縁ができるというおまけまでついた。

 いや、おまけといういはおこがましい。

 神秘のベールに包まれた国際的な巨大財閥の豊藤との縁であれば、愛人でも妾でも、買い手としては十分だ。

 これ以上、望むべくものはないと思う。

 

「いずれにしても、工藤様の様子を見れば、まだ豊藤家に愛想を尽かされてないようで安堵いたしました。これを機に、もう羽目を外すのはおやめください。京都の主家も豊藤との縁を絶対に離すなという思し召しです」

 

 足の指を拭き終わった小萩が布を片付け出す。

 あゆみは、ソファの上に脚を戻して、下着姿のまま胡座をかく。

 

「みっともない。普段から気をつけてないと、殿方の前で出てしまいますよ」

 

 小萩が呆れたように言った。

 あゆみは顔を綻ばせた。

 

「もう無駄だ。光太郎殿のときには滅多に会わなかったから、猫も被り通せたが、今回は初っ端から、嵌め外しがばれてしまった。あの玲子を通じて、わたしのお転婆は話が漏れるだろう。いまさら、令嬢らしくふるまっても無駄だろう」

 

「そんなことをおっしゃって……。まだ一度もお会いしてないのに。見限られたらどうするのです」

 

「見限るものか。これだけの美人で、スタイルもいい。SMクラブに数回出入りしたが、ちゃんとした処女だ。性器を晒すような破廉恥もしてないぞ。あんなのは、ただのごっこ遊びだ」

 

「それが通用すればよいですけどね」

 

「通用させるのだ。豊藤には巨万の富がある。絶対に逃がしてやるものか。そもそも、なんだかんだ言っても、相手はまだ十八の高校生の少年だぞ。なんとしても惚れさせてみせる。このわたしの性の手管と駆け引きでな」

 

 あゆみは笑った。

 

「……十八の少年って……。そういうあゆみ様も、まだ二十歳の小娘ではありませんか。しかも、処女でしょう。性の手管なども、お持ちではないでしょうに」

 

「そういうお前も、歳こそ三十代だが、亡夫に操を立てて、知っている男はひとりだけだろう? 変わるものか。それになあ……。あのクラブ通いも満更無駄ではなかったぞ。知っているか? 男というものはなあ、なんだかんだいっても、みんなマゾなのだ。支配されたがっている。そういうものなのだぞ」

 

「なにをあほうなことを……。お嬢様って、頭はよいのに、やっぱり、あほうですか?」

 

 小萩が呆れたように嘆息する。

 

「このわたしに面と向かって、あほうというのはお前だけだな。だが、これは本当だぞ。確かに、男にはエスの面がある。でも、エムの部分もあるのだ。しかも、地位のある男や、普段威張っていたり、強がったりしている者こそ、実は隠れエムだ。だから、徹底的にそれをついてやれば、絶対に男は最終的にはひれ伏す」

 

「お嬢様がSMクラブにお通いしたのは、たったの三回でしょう。それでなにがわかるのです」

 

「一度も行っていない、お前よりはわかる──。とにかく、小萩、豊藤の少年との最初の逢瀬が勝負だ。調べによれば、好色であることにかけては、あの光太郎殿とは比ぶべくもない。光太郎殿は草食どころか、わたしに会うたびに、怯えるウサギのようだったが、真夫という少年はとんでもない肉食のようだ。色仕掛けで迫れば、絶対にわたしに手を出す。これだけの美女なのだ。賭けてもよい。わたしの情報調査に間違いない」

 

「お会いしてもないのに、わかるのですか?」

 

「わかる。その少年はウサギどころか、肉食も肉食──。龍だ。あの全寮制の学園に編入して、まだ二か月程にしかならないのに、女生徒を喰いまくって、十人も恋人がいるそうだぞ。さっきの玲子のそのひとりだし、光太郎殿も、真夫という少年の性奴隷だそうだ。なっ、龍だろう?」

 

「龍って……。まあ、そうかもしれませんが、だから、なんなのですか? だったら、大人しく食べられればよいではありませんか。それで京都の主家は満足します」

 

「それじゃあ、わたしがつまらんではないか。わたしは食べられたいわけじゃない、喰らうのはわたしだ。惚れるのではなく、惚れさせるのだ。あのSMクラブで得た手管で、その少年を初っ端から堕とす──。だから、手伝えと言っているのだ」

 

「手伝えって……。まさか、あほうなことをお考えではないでしょうねえ?」

 

 小萩が訝しむように睨む。

 

「なにがあほうなことなものか。これは勝負だ。豊藤の少年をわたしの虜にするな」

 

「虜になりますか? そもそも、なにをするつもりなのです?」

 

「今度の土曜日に、あの学園で文化部発表会とやらがある。そこで、その真夫という少年と初対面になる」

 

「知ってますよ。さっきの玲子さんとの話でそうなりましたもの。あたしも聞いておりましたよ。後ろにいたのですから。明後日ですね」

 

「うん、そのとき、わたしは、真夫という少年に抱かれるつもりだ。でも、学園の中ではだめだ。あそこはセキュリティが高い。だから、なんとか外に連れ出す。でも、あの玲子が真夫をひとりにはしないかもしれない。だから、玲子を出し抜くのに協力せよ。なんとしても、完全にふたりきりになりたいのだ。そうなってしまえば、あとはわたしのものだ」

 

「やっぱり、あほうなことをお考えですね。忠告しますがおやめになった方がいいですよ。ふたりきりになりたいなら、直接、その真夫様にお言いになればよいではないですか」

 

「それじゃあ、うまくいかんのだ。わたしが少年を手錠で拘束したり、鞭で叩いたりしたとき、玲子が近くにいたら、強引に阻止されそうではないか。玲子は、その少年の愛人でもあるのだぞ」

 

「本当にあほうなことをお考えですね。ごめん被ります。いやです──。そもそも、色々とお喋りになりましたが、それは、結局はお嬢様のご趣味だけのことでしょう。年下の少年をいたぶりたいだけですよね」

 

 小萩は呆れ顔だ。

 

「特別ボーナスを出すぞ、小萩」

 

 あゆみはにやりと微笑んだ。

 すると、小萩が目を細めて、ちょっと考える素振りになった。

 そして、しばらくしてから口を開いた。

 

「幾らです?」



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 第176話 文化部発表会の実演展示

 聖マグダレナ学園は全寮制の高等学校であり、駅や都市高速の乗り入れ口がある麓の都市部から車で二十分ほどの距離がある。

 この日は学園の文化祭にあたる「文化部発表会」の最終日となる二日目ということであり、土曜日の今日は、学園外からも来客を受け入れることになっていて、最寄駅からのシャトルバスも運行しているようだった。

 発表会の見学だけでなく、希望者には学園内のツアーも準備しているらしく、かなりの人手が学園外からやってくるようだ。裕福な家庭でしか入学は困難と言われている納付金が高額の学校だが、設備の充実度では全国的にも有名であり、見学だけでもしたいという者も多いようだ。

 

 あゆみは、シャトルバスで人混みに紛れながら学園を訪問するばど考えられず、小萩に私有車による乗り入れの許可をとってもらった

 それで、いま黒塗りのセダンのクラウンで学園に向かって進んでいるところである。

 運転をするのは小萩である。

 

 学園への道はすべて、学園の私道であるらしいが、街灯も路面も整備されたきれいな道だった。

 だが、今日は開放されているが厳重そうなゲートがあり、そのゲートに沿って、侵入防止のような高いフェンスが山の中に張り巡らされている。

 それが数箇所あり、いま最後のゲートである門を通過したところだ。

 ここから先が、学園の設備がある学園地区ということになる。

 

「大した厳重さね。まるで要塞だわ。ここって、高校でしょう?」

 

 後部座席に座っているあゆみは、呆れて言った。

 

「見えるだけのものだけではありません。噂によれば、ありとあらゆる防犯設備が整備されているらしいですわ、お嬢様。念のために申しておりますけど、ここから誰かをさらって、外に連れ出すなんて不可能ですからね。多分、そこらの刑務所よりも脱走は難しいと思いますわ」

 

「要塞ではなく、刑務所ということね。さしずめ、生徒は囚人かしら」

 

 あゆみは声をあげて笑った。

 来賓用の車の駐車場は、あちこちに準備されているようだが、あゆみたちのためには、主会場である文化部棟とそれに隣接する第二アリーナとやらに最も近い一角に準備されていた。

 もっとも、あゆみは来賓としてではなく、今日は一般客としてやってきている。

 駐車場に直接に乗り入れて、車を停める。

 すると、外から扉が静かに開かれた。

 

 工藤玲子だ。 

 すぐそばに、四人乗りのコンパクトカーが準備されている。

 特に知らせたわけではないが、なんらかの確認手段があるのだろう。

 

「あら、理事長代理様の直々のお出迎えとは恐れ入りますわ」

 

 あゆみは今日はあえて、和装でやってきていた。

 車からおり立ったあゆみは、玲子に向かって静かに頭をさげる。

 

「理事長代理としてではなく、真夫様の奴婢としてお迎えに来ております。真夫様のお客様ですから」

 

 玲子がにっこりと微笑んだ。

 

「相変わらず、忠誠心の高いこと」

 

 あゆみはくすりと笑った。

 スーツ姿の小萩もおりてくる。

 すると、玲子は小萩に一枚のカードを手渡した。

 

「小萩さん、この自動運転車のカードキーになります……。扉の前側に差し込み口があるので差し込んでください。また、全部のシートにナビがありますので、行先を口頭で言ってくれれば、あとは自動運転で目的地まで移動できます。学園の敷地は広いですので、ほかの会場に行くときなど、お好きなようにお使いください」

 

 玲子がカードを小萩に渡した後で、あゆみと小萩に伝えてきた。

 

「手回しのいいことだな。だが、別にこの車で勝手に動かせてもらってよかったのだが?」

 

 あゆみは言った。

 

「勝手に移動することは許可しておりません。立入禁止地区には、指示をしても、自動運転車は向かわないようになってます」

 

「ほう、行ってはならんところがあるのか。それは是非行ってみたいな。わたしは、昔から好奇心だけは強くてな」

 

「警備員がおりますので無理ですね。侵入防止のトラップもありますので、近寄らない方が無難かと」

 

 玲子が無表情で応じる。

 あゆみは肩を竦めた。

 

「わかった、わかった。勝手はせん。もともと、真夫殿と光太郎殿にご挨拶だけするつもりで、長居をするつもりはない。ただ、真夫殿にお願いがあってな。そのときには、玲子も同席してもらえるか?」

 

「真夫様に? なんですか?」

 

 玲子が怪訝な顔になる。

 

「取り決め書のことだ。まあ移動しながら話そうか。とりあえず、真夫殿と光太郎殿のいるところに……。ええっと、SS研だったかな。そこに頼む」

 

「……わかりました。歩いてもいい距離ですが、やはりこれで行きましょう」

 

 玲子が準備されているコンパクトカーの扉に手をかざす。

 手のひらが認証になっているのか、コンパクトカーの扉が横開きに開く。

 普通の車とは異なっていて、運転手席があるべき場所にはなにもなく、前側には助手席のみあり、それが横向きになっている。

 後ろ側は、最後部のシートが二人掛けで、真ん中は扉の反対側にひとり掛けの椅子があるという構造だ。

 あゆみは最後部のシートに腰掛け、真ん中に玲子、前列の助手席に小萩が座った。

 玲子が「文化部棟の正面入り口」とナビに告げると、扉が閉まり、ほとんど無音で滑るように進みだす。

 

「静かだな。電気自動車か?」

 

「はい……。ところで、取り決め書のことで真夫様にご希望することとは? 真夫様は、今回の契約のことについて、ほとんどご承知ありませんが?」

 

 玲子が眉をひそめて、あゆみに振り返る。

 あゆみは肩を竦めた。

 取り決め書というのは、今回、九条家のあゆみが、真夫という豊藤の少年の愛人になることにあたり、関係三家が交わした約束ごとを記した書面のことである。

 表に出せるようなものではないが、契約書のかたちをとっている。

 九条家側は、京都にいる九条家当主、すなわち、あゆみの父の署名があり、豊藤側は“増応院”の署名で「魔王」こと、豊藤龍蔵、さらに、金城家当主の光太郎の祖父の署名だ。

 もっとも、この三者が一同に会したことはなく、書類が移動し、それぞれ署名するということで結ばれたものだ。

 父の話によれば、豊藤家の当主の豊藤龍蔵が署名とはいえ、表に出ることは滅多にあることではなく、三家の合意書に龍蔵の名が使われたことに驚いていた感じだった。

 “増応院”というのは、豊藤龍蔵が出家して得た戒名ということだが、本当に出家しているのかどうかはわからない。まあ、彼は謎の男なのだ。

 それはともかく、取り決め書のことである。

 

 内容としては、今回のことで豊藤家から一定額の金品が定期的に九条家に支払われるということ──。

 かたちの上であゆみが嫁入りをして婚姻関係となる金城家から、九条家に対して結納金名目で大金が支払われること──などだ。

 九条家としては、これ以上、望むべくもないくらいに、あゆみが高く売れて、満足する結果だ。

 さらに、坂本真夫──書面には“豊藤真夫”を記載されていたが──、最低十年のあいだ、彼とあゆみが愛人関係になることなどが記載されている。

 ほかにも、幾らか三家の合意事項が記載されているが、あゆみは「十一項目目」と言及した。

 

「……お子様に関することですね」

 

 玲子が言った。

 あゆみは頷く。

 玲子は書類の内容を全てそらんじているようだが、十一項目目は、愛人関係となるあゆみと真夫とのあいだに、子ができた場合は第一子を九条家に迎えるという項目だ。

 あゆみは九条家の嫡女である。

 親類はいくらでもいるが、主家の当主の父の子はあゆみのみである。

 

 従って、あゆみには、男でも女でもいいが、次期当主となる子を作ることが求められていた。

 そういう意味では、今回のことで、実際上のあゆみの相手が光太郎から真夫という少年に変わったのは都合がよかった。

 金城家の光太郎とは、子をなすことが不可能ということはわかっていたし、そのときには、分家の男から子種をあゆみがもらうという取り決めになっていたのだ。

 あゆみとしては、それが豊藤家の次期後継者に変わったということで、九条家の喜びは実はひとしおなものだった。

 玲子は、その項目についてあゆみが触れたことで、不信そうな表情になっている。

 

「すでに、三家の合意を成された書面に、どうこう言うつもりはない。ただ、保障が欲しくてな」

 

 あゆみは言った。

 

「保障ですか?」

 

「確実にわたしを妊娠させてくれるという保障が欲しい。それがなければ、いかに三家の合意事項といえども、その前提が崩れることになる」

 

 あゆみの言葉に、玲子がさらに眉をひそめた。

 

 

 *

 

 

「無礼講という感じで愉しそうだ」

 

 玲子の案内で、あゆみは小萩を伴なって、文化部棟を歩いている。

 建物に入る外の部分にも、露店や展示物、生徒による演芸のようなものがあり、あゆみが通りがかったときには、男女ふたりによるパントマイムをやっていた。

 会場は幾つもあるが、文化部の集まるこの文化部棟と近くにあるアリーナが主会場であるらしく、周囲一帯は随分と賑わっている。

 だが、一階から二階にあがって、少し進むと、異様なほどの賑わいを見せている場所があった。

 展示物は室内のようなのだが、廊下にも見学者があふれている。廊下に展示画のようなものもあるが、ほとんどは室内に注目している気配である。

 集まっているのは生徒だけでなく、部外者も多い。まあ、なんとなくだか、特に男が多い気もする……。

 

「あそこがSS研の展示会場ですね」

 

「へえ、大変な賑わいだ……。それでなにを展示をしていのでしょうか?」

 

 SS研に到着したということで、あゆみは口調を改めた。

 光太郎や真夫がいるというのはわかってるので、余所行きの言葉使いをしようと思ったのだ。

 やろうと思えば、お嬢様言葉などいくらでも使える。

 背後からついてくる小萩が、なにが面白かったのか、ぷっと噴き出した。

 蹴りつけてやろうかと思ったが、着物姿でもあることだし、さすがに自重する。

 

「拷問と刑罰の歴史展示です……。ちょっと、お待ちください……」

 

 集まっている人混みの後ろに着いたとこで、玲子がスマホを出して操作する。

 すぐに室内側から人が割れて、男子制服姿の金城光太郎が現れた。

 相変わらず人気者らしく、彼が姿を見せたことで、周囲の女生徒たちから黄色い歓声のようなものが飛ぶ。

 あゆみは頬を綻ばせた。

 

「あ、あゆみさん、ようこそ……。その……久しぶりで……」

 

 いつもそうだが、光太郎はあゆみと会うと、いつも気後れしたような不安気な表情になる。

 多分、彼や金城家が隠していた光太郎の身体の秘密に理由があるのだろうが、そんなことは気にしなくていいのにと思う。

 まあ、これまでは知らないことになっていたので、あゆみからそう言うわけにはいかなかったが……。

 

「お久しぶりでございます。お会いできて、嬉しゅうございますわ、光太郎様」

 

 あゆみはにっこりと微笑んで光太郎の左手の肘にそっと手を伸ばす。

 エスコートの体勢だ。

 

「どうぞ……」

 

 光太郎があゆみを導く。

 人が左右に割れたままであり、中に入る。

 それなりに広く、通常の教室と同じくらいの広さはあるだろう。そこに、多分レプリカだと思うが、拷問具の展示や説明画、展示説明のパネルのようなものが並んでいる。

 興味深いと感じたが、とにかく人が多くて、よく見えない。

 やがて、さらに人だかりの多い一角に着き、光太郎が声を掛けてくれて、集まりの前に進むことができた。

 

「えっ?」

 

 そして、思わず、小さな声をあげてしまう。

 人だかりの中心にあったものに驚いたのだ。

 低いポールと鎖で囲みを作った中心に、ふたりの人間がいて、ひとりは磔板に首と両手首を挟まれて中腰で立たされており、もうひとりは天井から吊るした鳥かごのようなもので首から上を完全に覆われて立っているのだ。

 磔板の方は、もしかしたら女教師だろうか?

 スーツ姿の若い女性だ。

 ただ、スカートは結構短く、板が低いのでどうしても腰を屈めた感じになり、後ろから下着が見えるのではないかと思うほどだ。

 

 もうひとりの鳥かごのような金属枠に顔を包まれているのは、背が低く、制服らしき服装なので間違いなく女生徒だろう。そして、よく見えば金属の顔の枠の前部分の外側から金属のへらのようなものが突き出ていて、それが口の中に入っている。さらに両手は背中で金属の枷の手錠を嵌められているようだ。

 だから、口が閉じられなくて、かなりの涎が口から顎に垂れ、さらに制服の上衣を濡らしている。

 磔板の女性もかなりの美女だが、顔を金属枠で覆われている女生徒も、よく見れば可愛い顔立ちをしている。

 いずれにしても、拘束されている二人の姿は、かなりエロチックだ。

 だから、こんなに人だかりになっているのだと悟った。

 

「写真はだめよ。見学だけだからね。そして、あと一分で次のグループと交代するからね」

 

 柵の内側にいるひとりの女性が見物人たちに声をかけた。

 鳥かごの少女と同じ灰色の制服を身に着けている女生徒であり、あゆみは彼女を知っていた。

 白岡家の令嬢の白岡かおりだ。

 そういえば、真夫の奴婢のメンバーの中に彼女の名があったのを思い出した。

 

「やあ、ようこそ、九条あゆみさんですね。はじめまして。あなたの婚約者の光太郎君とは、大変仲良くさせてもらってます。SS研の部長の坂本真夫といいます」

 

 囲みの中にいたのは、磔台の女生徒と、顔のかごの女生徒、白岡かおりのほかに男子生徒がひとりいたが、彼が柔和な笑みを向けてきた。

 彼が坂本真夫か……。

 思ったよりも、普通だなと感じた。

 一見した感じの印象は、どこにでもいる普通の少年というところだ。

 しかし、笑みはいいなとも思った。

 なんとなく、人を惹きつけるような印象深さがある。

 一方で、その真夫があゆみのことを光太郎の婚約者と口にしたことで、そこにいた生徒たちが少し騒然となった。

 表向きの関係をあえて、周りに口にしたのだと思う。

 

 婚約者か……。

 あゆみは苦笑してしまいそうになった。

 それはともかく、見世物のようになっているふたりは、なんなのだろう?

 あゆみは、改めて二人に視線を向けた。

 よく見れば、ふたりとも、少し息が荒くかなりの汗をかいている気配である。確かに、おかしな拘束具は嵌められているが、基本的には立っているだけなのだが、かなり苦しそうな様子だ。

 そして、ふと二人の足元を見ると、ふたりともせわしなく小さな足踏みのようなものをしている。

 どうしたのだろう?

 

 ただの勘で、まさかとは思うが、もしかして尿意──?

 そんな感じなのだ。

 

「彼女たちは、実演展示を手伝ってくれているんです。中世の刑罰には、こういった晒し刑というのがありました。法というよりは秩序を犯した者に対して、見せしめとして町の中に晒すんです。これは羞恥刑というのもありますが、実情はもっと冷酷です。こういった晒し刑を受けた者は、多くの場合、市民としての枠から外れ、法秩序の範囲外という立ち場に置かれてしまうんです。そうなってしまえば、彼らはもう法の庇護は受けられません。殺されても、奪われても、犯されても、助ける者はありません。もっとも、羞恥刑の全部がそうやって人権の剥奪を伴なうというわけでもないのですけどね」

 

 真夫が説明をする。

 あゆみは、ちょっと躊躇ったが、真夫にすっと顔を寄せて耳元に口を近づける。

 

「……ところで、ふたりともちょっと辛そうに見えるんですが……」

 

 尿意を我慢しているのではないかとまでは口にしなかった。

 しかし、そんな風に思ってしまったら、どうしてもそう見えるのである。

 

「どうでしょうか? 一応、二時間交替で実演展示に協力にしてもらっているんですけどね。もしかして、始まる前に水でも飲み過ぎたんでしょうか」

 

 真夫が笑って、ふたりに視線を向ける。

 

「京子先生も、柚子も、あと十五分で交代だ。それまで頑張ってな」

 

 柔和な微笑みのまま真夫が言った。

 

 えっ──。放置?

 しかも、さっきの物言いでは、まさか、ふたりが尿意を我慢していることを知っている?

 あゆみは怪訝に思った。

 

「ところで、真夫様、ちょっとお話が……。九条様とともに、よろしければ奥に……」

 

 あゆみたちとともについてきた玲子が声を掛ける。

 一緒に小萩もいる。

 

「話? ああ、わかりました。じゃあ、九条さんはどうぞ奥に……」

 

 真夫が促す。

 この実演展示とやらの一角の後ろは衝立で囲んでいて、外から見えないようになっていた。

 その衝立に隙間をつくり、あゆみたちに入るように示す。

 

「じゃあ、いいね。ふたりとも。残り十五分だよ……」

 

 一方で、真夫がふたりに小さく声を掛けた。

 京子先生と呼ばれたミニスカートのスーツの女性と、制服姿の廸子という女生徒がかすかに首を縦に振る。

 それ以上は顔の拘束のために動かせないのだろう。

 ところが、次の瞬間だった。

 真夫がふたりをちょっと見ていたと思ったら、ふたりが同時にびくんと身体を動かした。

 

「ひっ」

 

「んあっ」

 

 同時に呻き声のような声を出す。

 それだけでなく、小さく足踏みをしていた脚が内股に動き、ふたりもと太腿を小刻みに動かしだした。

 

 まさか──。

 

 この真夫という少年が柔和な外見に似合わず、大勢の女を奴婢として集め、さらに嗜虐癖の傾向があるのは知っていた。

 それを承知で愛人契約に応じたのだが、まさかこの人だかりの中で──?

 

 あゆみは実は耳がいい。

 だから、周りの者は聞き取れない音を感じていた。

 さっき、ふたりがびくんと動いたとき、ふたりの股間あたりから、小さなモーター音が聞こえた気がした。

 それは今でも聞こえている。

 

 尿意を我慢しているふたりに、さらに淫具のいやがらせを──?

 もしかして、そんなことをしている?

 

 SМ……。

 羞恥責め──。

 リモコンローター──。

 

 そんな単語が次々に頭を席捲する。

 

 うわっ──。

 本物──?

 本当に?

 

 あゆみは、それに気がついて、顔が真っ赤に染まるのを感じるとともに、改めて決意を新たにした。

 

 なるほど──。

 やっぱり、そんな少年なんだ──。

 だったら、まったく遠慮はいらないことだろう。

 せいぜい、可愛がってやろうかしら──。

 ちょっと、愉しみかもしれない。

 

 ふふふ……。



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 第177話 令嬢からの要望

 公開展示とやらの後ろの衝立の中に入って、あゆみは唖然とした。

 そこには、長机がふたつくっついていて、その周りに折りたたみのパイプ椅子があって、座って休めるようになっているのだが、そこに四人の女生徒が疲労困憊の様子で机に突っ伏していたのである。

 

「こら、あんたら、しゃんとしなさいよ……」

 

 真夫とあゆみが衝立の内側に入ったところで、顔だけ覗かせた白岡かおりが呆れたように言った。

 一方で、四人の女生徒たちは、机に上半身を倒したままなので、真夫やあゆみの存在には気がついてないと思う。

 

「だ、だったら、あんたも、利尿剤を飲んでから、そこの公開展示に二時間放置されてみなさいよ……」

 

「そうね……。かおりさんだけ会場整理役で、あれをやらなくていいなんて、ずるいわね……」

 

 四人のうちのふたりが身体を倒したまま、恨めしそうに言った。

 だが、利尿剤──?

 やっぱり、外にいるふたりの様子は、なにか変だと思ったが、まさか、利尿剤を飲ませて、尿意を我慢させる意地悪をしているとは……。

 あゆみは、呆れてしまい、顔を振り返らせて真夫を見る。

 真夫は、隠す気はないのだろう。

 笑みを浮かべたまま、あゆみに微笑みを向け続ける。

 

「そういうことです。是非、あゆみさんも体験してください。磔台に立つ前に、あれを一本飲むのが決まりですけどね」

 

 そして、真夫が奥の棚を指さした。

 そこには、大きなペットボトルが五本ほど置いてある。中身は少し濁った透明色で、見た目はスポーツドリンクかなにかのようだが、あれが利尿剤入りの水分なのだろう。

 

「えっ?」

 

「あゆみさんって?」

 

「なに?」

 

 やっとあゆみという部外者の存在に気がついたのだろう。

 机に突っ伏していた女生徒たちが一斉に顔をあげる。

 そこにいたうちのひとりの顔はすぐにわかった。

 西園寺家のひとり娘で、この学園の生徒会長をしている西園寺絹香だ。

 それと、可愛らしい同じ顔をした双子の少女──。絹香の侍女が双子の少女なのは有名なので、絹香の侍女に間違いないだろう。

 さっきかおりに向かって、恨み言を喋ったのは、双子のひとりと絹香だ。

 もうひとりは知らない顔だ。

 特徴的な顔をした美しい少女である。

 いずれにしても、全員がこの真夫の奴婢たちなのだろう。それにしても、利尿剤を飲ませて、見学の生徒たちの前で立ちん坊をさせるとは、本当に真夫という少年は、いい趣味をしているようだ。

 

「うわっ」

 

「ひゃっ」

 

 絹香と双子たちが当惑した顔になっている。

 また、あゆみに続いて、さらに玲子と小萩、その後ろから光太郎まで衝立の内側にやってきた。

 狭いので、それだけ入ればかなり窮屈な感じだ。

 

「あっ、立ちます……。どうぞ」

 

「こちらもどうぞ……」

 

 四人のうちの双子が慌てて立ちあがる。

 だが、真夫が手でそれを制する。

 

「いや、(あずさ)(なぎさ)ちゃんも、そのままでいいよ。地下を使わせてもらうから。どうやら、話があるみたいでね……。ところで、衝立をしっかりと閉めてくれる、ひかりちゃん」

 

 真夫がさらに奥にあゆみたちを導く。

 先こにあるのは、ただの本棚だが、奥とはどういことだろう?

 それはともかく、光太郎のことを“ひかりちゃん”と呼んだ?

 しかし、すぐに合点がいく。

 ああ、男性名は“光太郎”だが、女性としての呼び方が“ひかり”か……。真夫は、光太郎を女性として扱っているのか……。

 あゆみも納得した。

 

「ところで、いい機会なので、先に紹介しておきます。ここにいる絹香、梓、渚、七生(ななお)……。さっきのかおりちゃんに、外の京子先生と柚子。そして、玲子さん……。今日は大学で受ける資格試験の関係でいませんが、あさひ姉ちゃんこと、俺の幼なじみのお姉さんの朝比奈恵……。やっぱり、地区のサッカー大会で不在しているけど、前田明日香……。彼女たちが俺の奴婢になることを誓ってくれた女性たちです……。みんな、朝に説明した九条あゆみさんだ。多分、十二人目になる」

 

 真夫が紹介した。

 あゆみは軽く頭だけさげた。

 そして、真夫を振り返る。

 

「……ところで、そんなことを堂々と喋っていいのかしら。衝立があるとはいえ、すぐそばに見学者がいっぱいいるみたいだけど……。まあ、あの様子なら、衝立のこっち側に聞き耳している者もいないかもしれないけど」

 

「ああ、その衝立は、あれでも高性能の防音材になっているそうだよ。この下の床の絨毯もね。それに、あゆみさんの言ったとおり、みんな京子先生と柚子……、特に、学園の四菩薩のひとりの京子先生が、SS研の実演展示に協力していることに驚いて、それどころじゃないんだよ。心配しなくてもいいよ」

 

「まあ、それならよいのですが……」

 

 あゆみは肩を竦めた。

 四菩薩というのが何のことなのか知らないが、とりあえず、気にしないことにする。

 そして、真夫が本棚の前に立つ。

 しかし、その真夫は本棚に触れようとして、思い出したように振り返って、さっき七生と呼んだ女生徒に視線を向けた。

 

「そういえば、七生ちゃんも、本格的なSS研の洗礼は初めてかな。実演展示はどうだった?」

 

 真夫が七生に微笑みかける。

 

「うん……。この九条家の令嬢とやらは、もう仲間ということで、なにを喋ってもいいのかな? だが、初めての洗礼というのは正しいのだろうか。あの掻痒剤を塗ったバイブを挿入したまま授業に出たのは洗礼には含まないのか……。まあ、それはともかく、利尿剤を飲んでの実演展示は苦しかった。だが、ぞくぞくとしたかもしれない。総じて、まだまだマゾのエロスというのは奥深いと思った。君はいつも、わたしをぞくぞくさせてくれるよ」

 

 七生という少女が破顔した。

 どきりとするほど、可愛いと思ってしまった。

 

「それはよかった。じゃあ、また趣向を凝らしたことを考えておくよ」

 

「うん、愉しみにしている。また、わたしにマゾのエロスを教えてくれ」

 

 七生が応じる。

 マゾのエロス──?

 喋っていることの半分も意味不明だ。

 一方で、真夫は本棚の本の何冊かを出したり入れ直したりした。

 すると、ゆっくりと本棚がふたつに分かれて開き、奥に向かう空間が出現する。

 

「ほう、隠し部屋なのですね」

 

 あゆみは感嘆した。

 そんな仕掛けもあるとは……。

 

「エレベータがあります。地下に行きましょう。そこがいいでしょう。込み入った会話も問題ありません……。じゃあ、玲子さんもお願いします……。あゆみさんの随行の方も」

 

 真夫が促す。

 すると、光太郎が本棚方向に寄ってくる。

 

「ぼくはいいのかな? よければ、同行しようか」

 

 光太郎だ。

 だが、これから話すことを光太郎に聞かせるのは、まだ躊躇うものがある。

 一緒にこの真夫の奴婢になるのだから、遠慮もなにもできなくなるのかもしれないが、正直にいえば、まだそのときではないという気分だ。

 

「いえ、とりあえず、真夫様だけがよろしいでしょう。必要があれば、わたしからお話することにします」

 

 玲子が口を挟む。

 真夫が頷く。

 

「うん、じゃあ、そういうことで……。ところで、次の実演展示の担任は、ひかりちゃんに頼むね。いいよね」

 

 真夫が光太郎に笑いかけた。

 光太郎は目をまん丸に見開く。

 

「ぼ、ぼくもやるのかい──?」

 

「当然でしょう。SS研だし……。それに、京子先生に続いて、学園の二大巨頭のひとりのひかりちゃんも実演展示をするとなれば、SS研の展示に大きな箔がつくよ」

 

「わ、わかったけど……。ぼくは、あの水はいいよね? できれば遠慮したいんだけど……」

 

「んな、わけないでしょう──。二本は飲んでもらうわよ──。絶対よ」

 

 声をあげたのは、双子のひとりだ。

 なんで、あんなに偉そうなのだろう?

 だが、光太郎はそれを拒絶することも、怒ることもなく、ただ困惑した感じになった。

 もしかして、さっきのあれを光太郎がやってくれるの?

 それは絶対に目に焼き付けようとあゆみは心に決めた。

 

 

 *

 

 

「精液検査──?」

 

 真夫が驚いたような声をあげた。

 案内をされてやってきた地下である。

 

 SS研と呼ばれる部室の下に、こんな隠れ処的な場所があるのは驚いたが、中は随分と広い。

 エレベーターでおりた先にあったのは、大きな部屋だったが、ほかにもたくさんの部屋がある気配だ。

 そして、あゆみたちは、その大部屋を横切るかたちで、隣接する一室にやって来た。

 ごく普通の応接室であり、部屋の奥には小さなキッチンも連接されているどこにでもあるような部屋だ。

 一方で、あゆみは、さっきの大部屋を横切ったとき、天井に鎖や縄掛けをするような滑車が金具がたくさんあることに気がついた。

 また、ひとつの壁一面には棚があり、さまざまなSM器具が並べられていた。

 つまりは、「調教室」というところか。

 正式にこの真夫の奴婢になった暁には、あゆみもああやった場所で洗礼とやらを受けることになるのだろうか。

 まあ、なるのだろう。

 それはそれで、覚悟はしてる。

 

 それはともかく、話し合いについてだ。

 あゆみ、小萩、真夫、玲子の四人で向かい合うソファに腰掛け、テーブルを挟んで座っている。

 お茶出しについては、あゆみが断った。

 さっそく、「契約」に関する話となり、最初に玲子が真夫に、九条家、金城家、そして、豊藤のあいだで結ばれた「約束事」について説明をしていた。

 本当に、この真夫は詳細なことについては報されてなかった感じである。

 

 その後、こちら側──実際に説明をしたのは小萩であるが、それで口にしたのが、この真夫に精液検査を受けてもらいたいという要求だ。

 すでに玲子の前で自分を出したので、深窓の令嬢の素振りはしなくてもいいかと思ったが、さすがに、あゆみの直接の口から、「精液検査」の言葉を出すのは自重した。

 真夫だけでなく、玲子も面食らった顔になる。

 

「ま、真夫様に精液検査ですって──?」

 

 玲子はちょっとむっとしている感じだ。

 だが、こういうときには、小萩のいつもの鉄仮面が役に立つ。

 小萩はまったく動じた気配もださずに、淡々と説明を続ける。

 

「ご理解いただきたいのです。すぐというわけではありませんが、このあゆみ様はいずれは、九条家の跡を継ぐ子孫を産んでもらわないとなりません。九条家は千年以上続く、歴史ある公家です。血を絶やすことはい絶対に許されないのです。真夫様に生殖能力があるということを保証して欲しいのです。そのための精液検査です」

 

「しかし、今更ではないですか。すでに三家の合意事項であるのに……」

 

「合意事項であるのは、あゆみ様と真夫様の子を、九条家の跡継ぎとして送るという条文です。でも、当然ながら万が一、真夫様に生殖能力がないということになれば、その前提が崩れます。もしも、生殖能力がないとなっても、それで三家の合意事項を解消するということではありませんが、子種はどうしても必要なのです。その場合は、別の方法を考えなければなりません」

 

「別の方法とは?」

 

 真夫が口を挟んだ。

 彼自身は、玲子のように当惑している様子も、困っている感じもない。上で自分の恋人たちに意地の悪いことを強要していたときと同様に、ちょっと面白がっている様子だ。

 あゆみは口を開いた。

 

「真夫様は豊藤家の唯一の男ではないですよね。もうひとり、秀也という少年もいたはずですわ」

 

 秀也というもうひとりの豊藤家候補の少年のことを知ったのは、最近のことだ。しかも偶然だ。

 九条家の情報能力を駆使しても、豊藤家の内々のことは、なかなか探ることは難しかった。そもそも、豊藤家が現在でも国際的な絶対の財閥となり得るのは、その家の当主に伝わる代々の特殊能力のためである。

 だからこそ、敵対勢力からは、常に生命を狙われる立場にあるのが、豊藤の当主だ。

 従って、豊藤家は滅多なことでは、家族のことを公にせず、絶対の秘密とする。

 あゆみが、ある筋から豊藤家のもうひとりの後継者候補がいることを知ったのは偶々のことでしかない。

 まあ、富こそないが、歴史だけはある九条家ならではの情報収集能力によるところはあるとは思う。

 

 もっとも、目の前の真夫とは違い、その秀也というのは現在の豊藤の総裁の龍蔵の血は引いておらず、龍蔵の甥だという。

 ただ、そもそも、龍蔵に弟がいることも、どこにも出ていない事実ではあったのだが……。

 

「しゅ、秀也様から子種を──? まさか、本気ではないですよね。あなたは、真夫様の奴婢になることを受けたのでしょう──?」

 

 玲子が真っ赤な顔で声を荒げる。

 あゆみは小さく肩を竦めた。

 

「それほどに、九条家の血を繋げるというのは重大事ということですわ。そもそも、真夫様にちゃんと子種があれば、問題などありません。わたしも貞操は守ります」

 

「ならば、もしかしたら、真夫様以外の男と……秀也様と情を結ぶことがあり得ると──?」

 

 玲子が激昂した感じで怒鳴った。

 すると、突然に真夫が笑いだした。

 

「まあまあ、玲子さん、そんなに怒らなくていいですよ。よく考えれば、俺もちゃんとした精液検査なんて受けたことはないし、一度受けておくのもいいでしょう。納得しました。了解です、あゆみさん」

 

 そして、真夫が言った。

 

「ありがとうございます。では、早速ですが、明日の日曜日にいかがでしょう。九条家の主治医のひとりがこっちにおります。その病院でお願いします。絶対の秘密が守られる場所です」

 

 あゆみは言った。

 

「いえ、ちょっと待ってください。それは豊藤側の病院で……」

 

 玲子が口を挟もうとした。

 しかし、真夫がそれを制する。

 

「待ってください。わかりました。準備してあるなら、その病院で受けましょう。でも、ただひとつだけ条件がありますよ。それに応じるならです」

 

「条件……ですか?」

 

 真夫が意味ありげにあゆみを見てきたので、あゆみは小首を傾げながら応じる。

 

「精液検査ということであれば、精液を容器に出すのでしょうね。それはあゆみさんにやってもらいます。それが条件です。それならば、精液検査に応じましょう」

 

 真夫が挑戦的な表情を向けてくる。

 もしかして、そんなことであゆみがたじろぐと思っているのだろうか?

 

「問題ありませんわ。なら、明日お願いします。真夫様の精液は、わたしが責任をもって、絞ってさしあげます

 

 あゆみはにっこりと微笑んだ。



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 第178話 過激な精液採取

「じゃあ、真夫様は部屋の中にどうぞ。玲子はここで待っててね」

 

 日曜日ということで、病院の待合室は無人だった。

 真夫が九条あゆみに連れられてやって来たのは、学園から車で一時間ほど走った場所にあるかなり遠い街の総合病院だ。

 五階建ての病院施設であり、広い地積にかなり大きな駐車場があったが、真夫たちを乗せた車両は、駐車場地区ではなく、病院関係者用だと思われる地下駐車場に誘導された。

 そこから、エレベーターで二階にあがり、各科の診療室や検査室が並んでいる端に到着し、そこに入ってきたのである。

 五脚程の長椅子があり、あゆみが先だって、真夫をさらに奥の診療室のような場所に誘導してくれた。

 同行の玲子さんと、あゆみの随行者の小萩さんは、ここで待機する感じらしい。

 これからここでやるのは、真夫の精液検査だ。

 

「いえ、その前に確認させていただきます。失礼──」

 

 だが、玲子さんは、あゆみを押しのけて、奥の診療室に入っていく。

 

「ちょ、ちょっと──」

 

 すると、あゆみが慌てたように追いかけていった。

 真夫と小萩さんも、それに続いて室内に入る。

 中はがらんとしていて、隅に寝台がひとつと、まだ折り畳まれたままのパイプ椅子二脚あるだけだ。

 

「ここで、検査を?」

 

 玲子さんが怪訝な顔になる。

 

「ここで検査はしないわ、玲子。真夫様の精液を採取するだけよ。検査機は別の場所になるわ。もともと、ここはなにも使ってない場所で、誰も近寄らないようにしているの。真夫様も恥ずかしいでしょうしね」

 

 あゆみだ。

 

「なるほど。では、ここであたなが真夫様の精液採取をするのですね?」

 

 真夫が大人しく精液検査を受ける条件は、あゆみ自らが真夫の精液採取をすることとしたのだ。

 どういう反応をするのかと思ったが、二つ返事であゆみは応諾し、今日の検査になったというわけである。

 

「そういうことよ。わかったら出て行って。真夫様とふたりきりにさせてよ。終われば声を掛けるわ」

 

 あゆみが言った。

 真夫も口を開く。

 

「玲子さん、俺からも、お願いします」

 

「わかりました。では、なにかあれば、お叫びください」

 

 玲子さんが頭をさげて出ていく。小萩さんも出ていき、あゆみとふたりきりになった。

 あゆみが追いかけていき、こちらから鍵をかけた。

 

「真夫様、こっちよ」

 

 すると、今度はもっと奥の部屋に向かう扉に真夫を誘導していく。

 真夫は肩を竦める。

 

「奥の部屋って……。ここでやるんじゃないんですね?」

 

「ひとつくらい隣りの部屋に移動したって、一緒でしょう。あんたも、声とか出たら、恥ずかしいでしょうし……。あっ、わたし、つい言葉使いが乱れちゃったわね。しまったわ……」

 

 あゆみが立ちどまってはっとした表情になる。

 真夫はくすりと笑った。

 昨日会ったときから、このあゆみが丁寧なお嬢様言葉を使ってるなあ思っていたら、時折、言葉が乱れることには気がついていた。

 おそらく、日常的には、この砕けた言葉がいつもなのだろう。

 また、ぞんざいな態度をとっているが、このあゆみが今現在、怖ろしく緊張をしていることには気がついている。

 おそらく、それを隠す意味もあり、つい被った猫が脱げてしまったというところかもしれない。

 

「いえ、できれば、その口調でお願いします。これからセックスをしようというのに、壁があるような言葉使いも不自然でしょう。どうぞ、楽な喋り方をしてください」

 

「セックス? 精液採取じゃなくて?」

 

 あゆみが振り返る。

 

「精液採取だけじゃなくて、セックスでしょう。俺はその気でしたけど、違うんですか? それとも、ちゃんと段階を踏んで、とりあえず、お友達から始めますか?」

 

 真夫はちょっとお道化た。

 

「お友達デートも素敵だけど、確かに、奴婢の愛人契約をしたのに、もったいぶっても仕方ないわね……。じゃあ、ありがとう。もともと、こんな話し方よ。もしも、九条家の令嬢らしい口調を期待していたらごめん。まあ、言ってくれれば、そんな口調でも会話できるわよ。令嬢っぽいのも得意技よ」

 

「じゃあ、ざっくばらんでいこう、あゆみさん」

 

「わお、いいわね、それ。別に呼び捨てでもいいけどね」

 

 あゆみが陽気な口調になり、奥に向かう部屋にいく扉を改めて開く。

 そこに入り、ちょっと驚いた。

 部屋は薄暗く、ピンクの照明になっていた。

 病院ぽくない大きな寝台があり、部屋の真ん中に椅子がある。ただの椅子じゃない。前に膝を掛ける足台がついていて、背もたれが寝椅子に近い状態になっている、いわゆる産婦人科の「分娩椅子」というやつだ。

 

「もしかして、あれに座れと?」

 

 真夫は笑ってしまった。

 

「そうよ。まずは裸になってね。先生のいうことには逆らわないのよ」

 

 あゆみがあらかじめ準備してあったらしい白衣を持ってきて、身に着けているワンピースの上に着る。また、空のかごを持ってきて、真夫に手渡した。

 

「先生って、あゆみさんのこと?」

 

「今日だけはね。ところで、さっきセックスしてくれるって、言ったけど、玲子は承知? わたし、彼女に真っ最中に途中で乗り込まれたくないわ。一応、処女なのよ。見られてする趣味はないの」

 

「これから、見られてセックスする機会も少なくないかもしれないよ……。まあ、一応、玲子さんには、精液検査のあとで遊ぶかもしれないとは言ってる。まあ、大丈夫かな」

 

「それは感謝ね。小細工をすることなかったかな?」

 

「小細工?」

 

「うん、ごめんね」

 

 あゆみがにこやかに真夫に近づき、首に抱きつくように手を回してきた。

 白衣を着たあゆみが、膨らみを真夫の胸に擦り付けるように密着する。

 

「ぐあっ」

 

 次の瞬間、首の後ろを突然に殴られたような感覚に陥ち、気がつくと真夫は床に倒れていた。

 首にスタンガンを当てられて、強い電撃を流されたのだとわかったのは、床に倒れたまま見上げたあゆみの手に、まだ電気の火花が飛んでいるスタンガンを見たときだ。

 生まれて初めて受けたスタンガンは強烈だった。

 いまだに身体が痺れて動かないし、舌も回らない。

 こんな感じなんだと思った。

 

「うーん、あとで仕返ししてもいいよ。でも、まずはわたしのターン……。あんたには、わたしの調教を受けてもらうわ……。だけど、あんたは、それでわたしに堕ちるの……。わたしはあなたの奴婢になるけど、あなたはわたしの性奴隷になるのよ……。愉しみね……」

 

 あゆみが微笑を浮かべたまま、真夫の前にしゃがみ込む。白衣とミニスカートのあいだから、白い下着が見えたのは愛嬌か……。

 真夫は自嘲気味に笑ってしまった。

 すると、あゆみがスタンガンを白衣のポケットに戻し、ペンのような道具を取り出してきた。

 それを真夫の首に当てる。

 

「くっ」

 

 針を刺されたような痛みが首に走り、真夫は急速に意識を失ってしまった。

 

 

 *

 

 

 微睡みから覚醒した。

 一瞬、どういう状況かわからなかった。

 真夫はなにかに腰掛けていて、誰かが真夫に覆いかぶさっていた。

 すぐに、覆いかぶさっていたものが人の身体だとわかった。

 それが離れる。

 白衣を着たあゆみの姿が視界に入った。

 

「気がついた? 着付け薬を打ったんだけど、大丈夫よね? 問題ないことは何度も確認したけど、頭が痛かったり、眩暈がするとかはない?」

 

 あゆみが心配そうな表情で、真夫の顔をの覗き込んでいる。

 それでわかったが、あゆみの手には、最後に首に打たれて意識を失ったときと似たようなペン型の注射器があった。

 だが、色が違うので、同じものではないのだろう。

 いまの物言いからすれば、最初に打たれたのが、意識を失わせる薬品が入っていて、今度は覚醒させる薬品なのかもしれない。

 

「……あ、頭は……痛くないないかな……。眩暈もない……。だけど、身体が熱いかも……」

 

 ぼんやりとしていたのは覚醒後の一瞬だけだ。

 だんだんと意識もはっきりとしてくる。

 だが、身体が燃えるように熱かった。

 それだけじゃなく、まるで無数の虫が身体を……特に股間からお尻にかけて這いまわっているような不快感がある。

 それがだんだんと強くなっていく……。

 

「えっ?」

 

 それで気がついた。

 真夫は裸だ──。まったく全裸であり、下着一枚身に着けてない。

 しかも、あの分娩椅子に座らせられており、両脚を上にあげて、大きく股を開かされている。

 また、全身を革ベルトで拘束もされていた。

 

「ええ──?」

 

 自分の状況に驚いて、さらに大声をあげる。

 すると、あゆみがけらけらと笑いだす。

 

「元気そうね。よかった。だったら、思う存分に調教できるわね。身体が熱いのは、あんたを元気にする媚薬のせいよ。結構強烈ならしいから、ちょっとやそっとじゃ、勃起が収まらないかもしれないわ。そして、疼くでしょう? とってもエッチな薬らしいし、だんだんと痒くもなると思うわ」

 

 あゆみの言葉のとおり、天井に向かって脚をあげさせられている真夫の股間では、隆々と男根が勃起をしていた。

 そして、痒い──。

 虫が這うような感覚は続いているが、それが痒みそのものになっていく。

 

「うわっ、痒い──」

 

 真夫は身体を跳ねさせる。

 だが、椅子はびくともしない。もしかしたら、この分娩椅子も床に固定されているのかもしれない。

 

「ふふふ、落ち着きなさい……。とりあえず、まずは射精ね。精液検査だけはやらないとならないしね」

 

 あゆみが真夫の横に回り、操作ボタンのようなものを手をやった。

 すると、脚がさらに開脚し腰全体が上昇していく。

 

「くあっ、痛い──。こ、これは冗談きついよ、あゆみさん──」

 

 股が裂けるような痛みに、真夫は顔をしかめた。

 やっと開脚がとまる。

 すると、今度は尻が乗っている座椅子が左右に割るようにふたつに離れていく。

 そして、完全に分離し、尻たぶをのせ、中心の部分はなにも載らない状態になって固定した。

 

「ここまでするのは初めてだけど、どの男も、このあゆみご主人様の責めには泣いて許しを乞いて、最後にはひれ伏して服従を誓ったのよ。あなたもそうなるわ」

 

 あゆみが真夫に回り、真夫の脚のあいだに入ってきた。

 そして、身体を屈め、真夫の怒張に顔を寄せながら、両手を真夫の下肢に当てて、くすぐるように指先で撫であげてくる。

 

「ううっ、な、なにを……」

 

「もちろん、精液採取よ……。そういう約束でしょう……?」

 

 あゆみの手がついに、真夫の肉塊に触れる。

 そして、両手でゆっくりと包み込むようにしごきだす。

 

「あっ、あっ」

 

 思わず声が出てしまう。

 炎で炙られるように痒かった股間が擦られて刺激を受けることで、快感に変わる……。

 真夫は思わず顔をあげて、全身を突っ張らせる。

 

「……こ、これが男の人の性器……。あのクラブではこんなことしなかったし……すごい……香り……。くらくらするかも……」

 

 一方であゆみの顔は真っ赤だ。

 また、うっとりと蕩けるような表情になり、さらに、興奮した感じでもある。

 すると、突然に大きく口を開けて、真夫の怒張の尖端を口に咥えてきた。

 

「うああっ」

 

 舌が這いまわる。

 それだけじゃなく、口全体を使って顔を動かして、激しく刺激してくる。

 吸いついてもくる。

 気持ちいい……。

 

 あっという間に射精しそうになり、真夫は思わず腰に力を入れて我慢した。

 そのとき、あゆみが真夫の怒張を咥えながらくすくすと笑ったと思った。

 

「んあああっ」

 

 真夫は、拘束されている身体をのけ反らせて大きく呻いた。

 あゆみの手がいつの間にか、お尻の後ろに回っていて、割れた座椅子の開いた部分から、指をアナルに這わせだしたのである。

 しかも、クリームのような潤滑油を塗っているのか、指を入れてくる。

 そして、中を揉み解すように動かしだしてきた。

 さらに、お尻の中で股間側の一点を揉み出す。

 突如として、一気に射精感が襲いかかった。

 

「うわあっ、ああっ」

 

 真夫はついに射精をしてしまった。

 二射、三射──とあゆみの口の中に精を放出する。

 あゆみはしばらく、それを受けとめ、やがて、準備していた紙コップのようなものに、口で受け止めた真夫の精を入れた。

 

「ほほほ、ありがとう。これは検査に回すわね。でも、まだまだ、お姉さまの調教は続くわよ。覚悟してね」

 

 あゆみがまだ紅潮した顔のまま立ちあがる。

 そして、検査場に持っていくのか、真夫たちが入ってきた扉ではない、さらに奥に向かう扉に向かっていく。

 真夫の視線の先で、あゆみがドアノブに手をかけて扉を開く。

 

「きゃああああ──」

 

 次の瞬間、あゆみが吹っ飛ばされたように、床に仰向けに倒れた。

 そこから女たちが入ってくる。

 最初に入ってきたのは、スタンガンを手にしている玲子さんだ。続いて、あさひ姉ちゃん、かおりちゃんも入ってきた。さらに小萩さんだ。

 

「大丈夫、真夫ちゃん──」

 

 あさひ姉ちゃんが駆けつけてきて、拘束ベルトを外しだす。

 

「うわっ、いい格好ねえ」

 

 かおりちゃんだ。真夫のみっともない格好に接して、愉しそうに破顔している。

 

「いい機会だから、たまにはみんなの気持ちをほんのちょっとでも味わおうと思ったんだけどね。責められるのも悪くないかもしれない」

 

 真夫は白い歯をみんなに見せる。

 

「京子、こいつをひん剥きなさい──。いくら、真夫様のご指示でも、もう限界──」

 

 玲子さんは怒っているようだ。

 

「はい──」

 

 京子先生がまだ倒れているあゆみに飛びかかる。

 

「ど、どうして……? それに、玲子は薬で眠らせとけって……」

 

 一方で、あゆみは目を白黒させている。

 

「どうも、こうもないですよ、お嬢様。こんな計画、すぐに破綻すると申しあげたじゃないですか。しかも、この玲子さんに一服盛るだなんて、いくらお嬢様のご命令でも無理です。あたし、死にたくないですし」

 

 すると、小萩さんが呆れたように、あゆみに声を掛けた。



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 第179話 捕らわれ、吊るされ、見せられる

「離しなさい──。だいだい、小萩、よくも裏切ったわね。覚悟しなさいよ──」

 

 あゆみは、京子という背が高くて、やたらに胸が大きい女に横倒しにされて組み伏せられてしまった。

 どういう状況なのか、いまだに完全には理解できないが、侍女の小萩が真夫の女たちをここに誘導したようだということだけはわかった。

 とにかく、あゆみは真夫を調教しようとしていたこの病室で、逆に真夫の女たちによって捕らわれてしまったのだ。

 あゆみは、京子に身体を押さえられたまま、玲子の後ろに立っている小萩を睨みつける。

 

「裏切りじゃないですよ。そもそも、お嬢様はこの真夫さんの奴婢になるご契約をしたのですから、これは順当というものです」

 

 小萩はまったく悪びれる様子もない。

 あゆみは歯噛みした。

 

「屁理屈、言うんじゃないわ──」

 

「いいえ、これもまたお嬢様のためです。あたしはちゃんと知っております。お嬢様の本当の性癖も。いい加減に、悪びれるのはおやめになることです」

 

「冗談じゃないわよ。解雇よ──。解雇──。お前なんて、解雇よ──」

 

「解雇してどうするのです。あたしほどお嬢様のことをご理解している女もいないというのに」

 

 小萩がわざとらしい笑みを浮かべて、深々とお辞儀をする。

 そのふざけた態度に腹が煮える。

 

「お、お前ねえ──」

 

「いいから、大人しくしなさい。真夫さんの指示よ。服を脱いでもらうわね」

 

 すると、あゆみの身体を横倒しに押さえつけていた京子が、まずはあゆみが被っていた白衣に手をかけた。

 そして、あっという間にその白衣を剥され、さらに身に着けているワンピースにまで手を掛られる。

 

「なにするのよ──」

 

 あゆみは身体を捩じりその京子という女の手に噛みついてやった。

 

「いたああっ──。こ、このおお──」

 

 噛みついた手を振りほどかれて、思い切り頬に平手打ちされる。

 

「ぐふっ」

 

 衝撃で一瞬頭がぐらつく。

 だが、掴まれていた腕は離れた。

 あゆみは身体を回転させながら、その京子の胸を蹴り飛ばそうとした。

 

「おっと」

 

 しかし、その脚を抱えられてしまう。

 そのままうつ伏せにされて、両脚を逆海老のかたちに引っ張られる。

 

「痛い、痛い、痛いいいっ」

 

 必死にもがく。

 だが、京子にさらに首にも手を回され、頭と両脚を背中方向に強引に反り返らされて固められる。腕も脚で踏まれて自由を奪われた。

 今度こそ完全に動けない……。

 首を固められて、だんだんと息が苦しくなる。

 

「あぐっ……。は、離して……」

 

 しかし、今度は完全に身体を固められて身動きできない。

 それでも、あゆみは、びくともしなくなった京子の組み伏せから必死に抵抗してもがく。

 

「公家の令嬢さんのくせに、なんてお転婆なのよ。いい加減にしなさいよ」

 

 玲子だ。

 しゃがみ込んできて、京子が腕を回しているあゆみの首になにかを当てる。

 

「京子、一度離れて──」

 

 玲子の言葉で京子が掴んでいたあゆみの首と手足を離す。

 逃げるチャンスだと思って、急いで身体を起こそうとするが、次の瞬間、激痛が首から全身に向かって走るとともに、一気に身体が脱力した。

 

「ぐあっ」

 

 スタンガンだ。

 全身が痺れて、あゆみは再び床に横倒しになってしまった。

 しかも、今度は身体に力が入らない……。

 

「思ったよりも、あゆみさんは元気な人だね……。わかった。予定を変更しよう……。玲子さん、そのまま気絶させてください。彼女へのお仕置きは、場所と態勢を整えてからすることにします」

 

 真夫だ。

 すでに、あゆみが拘束していた分娩椅子からも解放され、裸身に上着のようなものをかけてもらっていた。

 また、両脇を若い娘が身体を支えてもらっている。

 白岡かおりと、もうひとりは、真夫の年上の幼馴染の朝日奈恵だ。

 真夫は下半身にはまだなにも身に着けておらず、赤黒く変色した男根が逞しく、そそり勃っていた。

 かなり強い媚薬を使ったから、しばらくは勃起が収まらないだろう。

 

「……ねえ、あんた、ところで、それは大丈夫なの? 媚薬飲まされたんでしょう? いいの?」

 

「そうね。真夫ちゃん、まずは、鎮めないと……」

 

 その両側の娘たちが心配そうに声を掛けた。

 あゆみは内心で舌打ちしてしまう。

 その薬で勃起させた怒張を筆でくすぐったり、指で焦らし気味に愛撫したりして、徹底的にいたぶるつもりだった……。

 きっと、真夫は泣きべそをかいて、あゆみに墜ちたに違いないのに……。

 実に残念だ。

 本当に、本当に愉しみにしてたのに……。

 

「そうだね……。確かに身体が熱いし、疼きもとまらない……。先にみんなに相手をしてもらっていいかな?」

 

 真夫は笑っている。

 

「あんたも馬鹿ねえ……。あえて、こいつの罠にかかってみせるだなんて。まあ、わたしたちのいつもの苦悶をちょっとでも共有してくれようという気持ちは嬉しいけどね」

 

 かおりが嘆息する。

 

「それが真夫ちゃんの優しいところなのよ」

 

 恵だ。なぜか、にこにこと笑っている。

 いずれにしても、逃げないと──。

 あゆみは、スタンガンで痺れさせられている身体をなんとか置きあがらせようとする。

 

「わかりました」

 

 あゆみの首に玲子が手を伸ばす。

 

「ほごおっ」

 

 またもや、重い衝撃が首から全身に迸る。

 玲子に再びスタンガンを首に押し当てられたのだ。

 全身が完全に脱力する。

 

「んごおっ、んぎゃああっ」

 

 しかも、一度だけじゃなく、二度、三度と連続で電撃を押し当てられた。そのたびに、あゆみの身体はびくんびくんと跳ね踊る。

 次いで、首にちくりと痛みが走った。

 

「じゃあ、いい夢をね」

 

 玲子が今度は別のなにかを首に押し当ててきた。

 針?

 ちくりと痛みが走った。

 視界が突然に消滅し、あゆみはそのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

「んんんっ、んぐううっ」

 

あゆみは、もう何十回目かになる仕草で、口の中に押し込められている穴あきのボールギャグの表面の唾液をすすりあげた。

 すでに、かなり長い時間、口にボールギャグを押し込められたまま逆さ吊りの状態にされており、放っておくとボールギャグの穴から垂れ落ちた唾液が鼻の穴の中に入っていき、あゆみの息を制約するのである。

 

「ああっ、あんっ、ああっ、真夫ちゃん、素敵──。すごいいい、すごいいいっ」

 

 一方で、あゆみの視界の先には寝台があり、そこで真夫が代わる代わる周りの女たちと性交を繰り返している。

 いまは、多分、四人目らしい朝比奈恵を抱いているところだ。

 真夫と女たちの会話によれば、真夫は女を抱くときには、女を拘束して抱くと決めているのか、恵は自分の番なると、当たり前のように両腕を背中に回して、真夫の縄を受け入れた。

 そして、後手縛りになり、さらに両脚を胡座縛りにされ、その状態でうつ伏せにされて、お尻側から犯され始めた。

 もう十数分にはなるだろう。

 

 拘束の手段も、やり方も女によって異なるが、共通するのは女たちはああやって、拘束されて真夫に抱かれるのを気に入っているようだということと、真夫の絶倫具合だ。

 真夫が最後に女に射精するまでに、相手をする女たちは必ず複数回の絶頂に達しているが、それでも、真夫は最後に確実に精を放っていると思う。

 それでも、あゆみが意識を回復したときに抱いていた京子、次のかおり、そして、いまの恵と休憩なしに続き、まだまだ元気そうだし、おそらく、その前に玲子も抱き終わっている感じだ。

 それでも、衰える様子もなく、真夫は恵の股間に激しく律動を続けている。

 

「んぐうう、いぐううっ、真夫ちゃん──、いぐううう」

 

 恵が五回目くらいの絶頂の兆しを示した。

 縄掛けをされている彼女の脂汗まみれの身体が、胡座状態のまま限界まで反り返って震える。

 

「まだだよ、あさひ姉ちゃん──。次で終わるから、一緒にいこう。我慢して──」

 

 真夫が恵の腰に股間を叩きつけながら、平手でぱんと恵の横尻を叩く。

 小気味いい音が鳴るとともに、恵が泣くような声な悲鳴をあげる。

 だが、痛がっているような声じゃない。

 明らかに欲情している女の呻きだ。

 あゆみは、ぎりぎりと口の中のボールギャグを砕かんばかりに噛みしめる。

 

「あれっ、眼をつぶったんじゃない?」

 

「さあ……。まあ、そうじゃないとしても、逆さ吊りしていると気絶しやすいから、そろそろ気合いを足しておいてもいいわね。真夫様ももう少しかかりそうですし」

 

 かおりと玲子だ。

 二人を含めて、周りの女たちは裸身にガウンをまとった格好である。

 真夫との性交が終わって、ここに戻り、こうやってあゆみを見張っているのだ。

 また、目の前で真夫がほかの女を抱くのに慣れっこなのか、気にする様子もなく淡々とした感じである。

 

「んんんんっ」

 

 あゆみはその言葉を耳にして、すぐに首を横に振る。

 長時間の逆さ吊りはあゆみの体力を奪い続け、ともすると、意識を朦朧とさせていくのは確かだが、気絶するような楽をあゆみがすることは、女たちは許さない。

 あゆみの両脚の付け根に電極パッドが貼り付けられており、ちょっとでも目を閉じると、すぐに周りの女たちがパッドにコードで繋がっている電圧器にスイッチを入れて、あゆみの身体に電撃を送り込むのである。電圧器は、あゆみが逆さ吊りになっている横にある台に乗っている。

 もう、幾度も電撃を加えられて、苦悶にのたうち回らされた。

 

「京子、五秒ほどでいいわ。やって」

 

 玲子の無慈悲な指示が飛んだ。

 

「わかりました」

 

 京子が電圧器のスイッチを押す。

 

「んごおおっ」

 

 電極パッドから強い電流が迸った。

 あゆみは逆さ吊りの身体を揺れ踊らせる。

 そして、電流がとまる。

 あゆみはぐったりとなってしまった。

 

「目を開けなさい。もう一度いくわよ」

 

 かおりの叱咤が飛ぶ。

 あゆみは慌てて、眼を見開いた。

 

「いぐううっ、もう限界いよおおお、真夫ちゃん──」

 

 一方で寝台の恵は激しくよがり続けている。

 

「まだだよ。死ぬ気で我慢して、あさひ姉ちゃん」

 

「意地悪ううう──」

 

 恵が真っ赤な身体を痙攣させながら、必死に歯を喰いしばる仕草をする。

 真夫は愉しそうに、淡々と律動を繰り返す。

 

 とにかく、こういう状況が延々と続いていた。

 部屋はかなり広く、壁のひとつに普通のダブルベッドよりも大きな寝台がひとつあり、その上で真夫と恵が抱き合っているのであるが、そこから少し離れた場所で、あゆみは天井から繋げられた鎖付きの革枷で左右の足首を拘束され、脚を肩幅ほどに開いた格好で、頭を下にして天井からぶら下げられているのである。

 両腕は背中側で腕を水平にして束ねられ、やはり革帯で拘束されてしまっている。

 

 ここがどこなのかわからないし、あの病院で注射によって気絶させられた後、どうやってここまで運ばれたのかもわからない。

 意識を戻してみると、この部屋の床に横たえられており、そのときにはすでに両腕は背中で拘束されていたのである。

 そして、すぐに両足首をそれぞれに天井に引きあげられて、いまの逆さ開脚吊りの状態にされてしまったというわけだ。

 抗議の言葉を喚こうとしたら、ボールギャグを嵌められてしまった。

 それから、多分、一時間近く過ぎている思う。

 小萩は最初からいなかった。あゆみを真夫たちに引き渡して、どこかに行ったのだろう。

 あいつめ……。

 

 自分がどんなに惨めな格好であるかは、壁の四隅に大きな鏡があり、あゆみが顔を向けている正面の壁の鏡にも、あゆみの姿がうつっているのでわかる。

 ストッキングはここで覚醒したときにはなくなっていて、生脚がスカートから剥き出しのなのだが、逆さ吊りのため、スカートはまくれかえり、白い下着がすっかりと露わになっているのである。

 この格好でずっと放置だ。

 なんという屈辱的な格好なのだろう。

 あゆみは、ぎりぎりとボールギャグを噛みしめた。

 

「ふふふ、もしかして、あんた、真夫がわたしたちを抱くのを見続けて、欲情している? 下着にいつの間にか丸い染みができてるわよ」

 

 そのときだった。

 急に立ちあがったかおりがあゆみに近づき、揶揄うような言葉をかけてきたのだ。

 あゆみの下着の股部分は、立ちあがった彼女が見下ろす位置だ。

 

「んぐううっ」

 

 そんな馬鹿なことあるものか──。

 あゆみは首を振って否定する。

 

「あら、本当ね」

 

「まあ」

 

 すると、玲子と京子もやってきて、近くからしけしげとあゆみの下着を覗いてくる。

 

「んんんっ」

 

 あゆみは、羞恥がかっと込みあがった。



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 第180話 調教の王道

 やっと、あゆみの口からボールギャグが外されたのは、真夫が恵との性交を終え、恵とともに裸身にガウンをまとった格好で、逆さ吊りをされているあゆみのところにやってきたときだ。

 真夫自身の手ボールギャグが外される。

 

「はあ、はあ、はあ……。も、もう十分でしょう……。おろして……」

 

 あゆみは息も絶え絶えに言った。

 すでに全体重がかかっている両脚は痺れきって感覚がないし、ずっと頭が床を向いているので、血がうまく回らず意識も朦朧となっている。

 自分でも思考力が怖ろしく低下しているのがわかる。

 なにしろ、おそらく、もう一時間近くも逆さ吊りにされているのだ。

 それでも気を失うことができなかったのは、ちょっとでもその兆候が見つかれば、周囲の女たちが容赦なく、電極パッドを使ってあゆみの身体に電流を流すからである、

 

「十分かどうかは、俺たちが決めます。いまのあゆみさんにできるのは、哀願することだけすよ」

 

 真夫が電極パッドを取り去る。

 それにはほっとしたが、真夫は逆さ吊りのあゆみの正面に立っているので、スカートが垂れ下がって下着が露出しているあゆみの股間を見下ろす視線だ。

 かっと羞恥が沸き起こる。

 

 思い出したのは、さっきの女たちの意地悪な指摘だ。

 こうやって長時間の苛酷な逆さ吊りの苦痛に喘ぎながら、真夫が四人の女を代わる代わる抱いている光景を見せつけられているうちに、得体の知れないむず痒さが股間を中心に沸き起こっていたのだ。

 その股間を下着越しとはいえ、ここまでじっと観察されるのは恥ずかしすぎる。

 しかも、信じたくはないが、女たちはあゆみの下着の股部分に、分泌液による小さな丸い染みが少しずつ大きくなっていると騒ぎだしたのだ。

 なにもされてないのに、興奮して股間から愛液を滴らせている?

 そんなはずはないが、多少の自覚はある。

 しかし、そんなの、あまりにも変態すぎる──。

 それをじっと観察されていると思うと、羞恥で身体が震えてしまう。

 

「や、やめて──。見るなあ──」

 

 あゆみは無意識に脚で下着の付け根部分を隠すような仕草をしていた。

 だが、すでに身体は疲れ切っていて、ほとんど身体は動かず、ただぎしぎしと鎖がきしむ音を鳴らしただけだ。

 

「玲子さん、電気あんまを……」

 

 真夫が玲子に手を伸ばした。

 すぐに、こけしを思わせる形のコードレスの電気マッサージ器が真夫に手渡される、

 はっとした。

 

 まさか──。

 あゆみは咄嗟に身体を緊張させた。

 

「とりあえず、あゆみさんに、体力が完全になくなるまで、踊ってもらいましょうか」

 

 だが、すぐにぶーんと音がして、マッサージ器の頭部分があゆみの股間部分に押し当てられる。

 

「ああっ、ひいいっ」

 

 布越しとはいえ、薄い下着の布一枚だ。

 そこをマッサージ器の振動が襲い掛かる。

 

「ひあああっ、やめてええ──」

 

 とてつもない刺激が全身を駆け抜け、あゆみは身体を跳ねあがらせた。

 

「みんなも好きなところを責めてあげてよ。あゆみさんが素直になるまで続けよう」

 

 真夫が女たちに声を掛ける。 

 そのときには、いつの間にか、ほかの女たちも手にマッサージ器を持っていて、彼女たちはあゆみの周りに集まってきていた。

 持っているのは、両手に一本ずつの電気マッサージ器だ。

 真夫が一本、玲子、かおり、京子、恵が二本ずつで、合わせて七本の電気マッサージ器が全身に襲い掛かる。

 

「ひああっ、だめええ──。ひあああああっ──」

 

 乳房に当てられ、脇や内腿、真夫が責めている股間にも足されて、凄まじい快感が全身に沸き起こって、次々に走り抜ける。

 

「ああ、あぐうっ、それだめええ──。だめ、だめ、だめええ──」

 

 自分のどこにそんな力が残っていたのかを思う程の力で、あゆみは全身をよじらせて暴れた。

 だが、真夫はクリトリスを責めて放さないし、女たちがあちこちを責める敏感な場所へのくすぐるような刺激から逃げられない。

 大きな波が襲い掛かり、あゆみは全身を痙攣させながら、逆さ吊りの身体を反り返らせた。

 あっという間に絶頂感がやってきたのである。

 

「ほら、もっと逃げなさい……。ところで、京子先生、もっと柔らかく当てるのよ。がむしゃらに押さない方が堪えるんだから」

 

「こ、こう?」

 

 かおりと京子だ。

 

「玲子さんは、乳首をお願いします。あさひ姉ちゃんは両側からクリトリスを挟むようにしてあげて」

 

「はい」

 

「わかったわ、真夫ちゃん」

 

 真夫が股間からアナル側にマッサージ器の先端を移動させる。

 そこに恵の操る二本のマッサージ器が襲い掛かる。

 また、玲子はしゃがむようにして、服の上からぴったりと乳首に刺激の場所を固定した。

 かおりと京子の四本の責め具は、場所を固定せずに、頻繁に場所を変化させる。

 これだけの同時の責めには、さすがに備えるなど不可能で、ただただ翻弄されて、快感を爆発させることしかできない。

 

「だめええ、いぐううっ、あああ、ああああ──」

 

 ついにエクスタシーの大波があゆみを襲う。

 がくがくと身体が震えて、ついで、絶頂後の脱力感が襲い掛かった。

 だが、あゆみは、ずぐに愕然となった。

 絶頂をしても、真夫たちがマッサージ器を身体に当てるのをやめてくれなかったのだ。相変わらずに、七本のマッサージ器が刺激をあゆみに送り込んでくる。

 無理矢理に快感を再びせりあげられて、あゆみは悲鳴をあげた。

 

「ああ、だめええ、いったの──。いったのよ──。もういったったらあ──。ひあああっ」

 

「いったからなんなのよ。そんなことで、この鬼畜男が責めを緩めるわけないでしょう」

 

 多分、声を掛けたのはかおりだと思う。

 だが、すでに、あゆみはなにがなんだかわからない状態に陥っていた。

 そして、またもや、絶頂に押しあげられる。

 

「んっはあああ──。あああっ、いぐううっ」

 

 そして、昇り詰める。

 しかし、電気マッサージ器は離れない。

 あゆみは恐怖に襲われた。

 

「ああっ、謝るうう──。謝ります──。真夫さん、許してええ──。ああっ、いやああっ」

 

 本気で泣き叫んだ。

 三回目の連続絶頂は、あっという間で、しかも一番大きな波だった。

 あゆみはこれでもかと身体を揺らして、絶頂を極めた。

 だが、それでも電気マッサージ器は身体から離れない。

 

 四回目──。

 

 五回目──。

 

 続けざまに達する。

 

 そして、六回目──。

 これ以上絶頂したくなくて、必死に我慢する。

 

「んぐううっ、んぐうっ、いやああ──」

 

 だが、無理矢理に昇天させられる。

 しかも、耐えようとした分だけ、絶頂感も巨大だった。

 絶頂とともに、生温かいものが身体を伝って、顔におちてくる。

 どうやら、失禁したみたいだ。

 そして、目の前が白くなり、ついにあゆみは意識を手放した……。

 

「ほごおおっ」

 

 だが、衝撃を感じてあゆみは全身を飛び跳ねさせた。

 なにが起きたのかわからなかったが、正面にいたかおりが細い金属棒を持っているのが辛うじて視界に入った。

 いつの間にか、電気マッサージ器ではなくて、それに持ち変えたみたいだ。

 

「ほら、言ったでしょう。こいつは鬼畜なのよ。失禁したくらいじゃあ、失神なんて許してくれないわよ。しっかりと、意識を保つのよ」

 

 そのかおりが手に持っていた金属棒の先をかおりの剥き出しの太腿に向けてくる。

 もしかして、電撃棒──?

 さっきの衝撃は間違いない──。

 あゆみは恐怖に襲われた。

 

「前だけじゃないですよ、あゆみさん。四方向から囲んでますからね」

 

 後ろだ。

 恵の声──?

 

「はぎゃあああ──」

 

 背中にとんと何がが当てられて、電撃がそこから迸った。

 布越しとはいえ、あの連続絶頂責めで、全身はまるで水でも被ったように汗でびっしょりだ。濡れている服はそのままの衝撃をあゆみに伝えてきた。

 あゆみは身体を反り返られて、悲鳴をあげる。

 

「ほがあああっ」

 

 今度は横から──。

 しかも左右同時に──。

 

「こっちからもよ」

 

「んぎいいい──」

 

 次いで、前から──。

 

「はがあああっ、許してよおおお──」

 

 また、背後から──。

 電撃の苦しさは、電流を流される激痛と不快感だけではなく、逆さ吊りで動かない身体を無理矢理に反応させられることにもある。

 どんどんとあゆみから、余力を吸いあげていく。

 体力など残ってないのに、そこからさらに体力を奪われるのである。

 自分の中のなにかが徹底的に粉砕されていくのを感じた。

 

「よし。じゃあ、条件を出しましょう。許して欲しければ、自分で服を脱いでください。脱ぎ終わったら、脚をおろしてあげますよ」

 

 真夫が声を掛けて、代わる代わる押し当てられていた電撃棒が一斉に離れる。

 あゆみはかすみかけている視線を真夫に向ける。

 

「えっ、なに……?」

 

「手を自由にするので、自分で服を脱ぐんです」

 

「は、はあ?」

 

「二度は言いませんよ……」

 

 真夫が後ろに回って、背中側で両手を拘束していた革帯を外した。

 だが、あゆみは腕をあげることができずに、だらんと両手を床に落としてしまった。

 

「じゃあ、みんな、再開して」

 

 真夫が離れながら声を掛けた。

 両腕に電撃棒の先が伸びて、強い電撃を流される。

 

「はぎゃああ」

 

 あゆみは絶叫した。

 必死に手をばたつかせて、向かってくる電撃棒を払いのける。

 だが、後ろから別の電撃棒が伸びて、電撃を流される。

 

「んぎいいいっ」

 

 あゆみは身体を弓なりにして絶叫した。

 

「真夫の命令には従って方がいいわよ。わたしたちは、こいつに命令されているだけだからね」

 

 かおりだ。

 とんと股間に電撃棒の先が当たる。

 しかも、クリトリスの位置だ。

 恐怖で身体が引きつり、必死に身体をもがかせる。

 だが、ほかの誰かの電撃棒が太腿に当たって、電撃を注がれる。

 

「いやああっ、やめてよおお──。脱ぐから──。脱ぐからやめさえて、真夫さん──」

 

 四方から次々に電撃棒が襲う。

 あゆみは大声をあげた。

 

「脱ぐまでが条件です。それまでは、電撃棒が邪魔しますよ」

 

 しかし、真夫は容赦なかった。

 冷淡にそう告げられる。

 そして、四方からの電撃──。

 

 あゆみは泣き叫びながら、ジャケットを脱ぎ、ブラウスを床に落とし、スカートも取り去った。

 残っているのは、上下の下着だけだ。

 

「ぬ、脱いだわよおお──。もういいよねえ──」

 

 あゆみは訴訴えた。

 だが、返事は四方向からの電撃棒の攻撃だ。

 あゆみは電撃を浴びながら、重い腕を懸命にあげて、背中でブラのホックを外す。

 ブラジャーを床に捨てる。

 乳房が重力で垂れさがる。

 

「まあ、その状態じゃあ、下着は脱げないでしょうから、それで許しましょう。じゃあ、約束です」

 

 ゆっくりと身体が床にさがっていく。

 頭と手が床に着き、ついで、完全に身体が床に横たえられる。

 そのまま動くこともできなかったが、心の底からの安堵感があゆみを包む。

 許されたのだ……。

 

 だが、両足首の革枷が外される前に、玲子と恵があゆみの両腕に別の鎖を革枷で繋げてしまった。

 再び、その両腕の鎖が上昇する。

 やがて、爪先がすこしばかり床から浮いたところで、上昇が止まった。

 股間から下着が抜き取られて、下着とともに足首の枷が外される。

 あゆみは唖然とした。

 

「ひ、卑怯よ、真夫さん──。ずるいわよ──。こんなのないわよ──」

 

 あゆみは抗議した。

 

「これが調教の王道です。体力を徹底的に削ぎ、次いで、心を砕きます。でも、やっぱり、あゆみさんはマゾのようですね。こんなことをされても、身体は反応している。股間からたっぷりの蜜が出てますよ。これはさっきの電気あんま責めの余韻ではないですね。新しい愛液のようです」

 

 真夫がくすくすと笑って、あゆみの股間に手を伸ばす。

 

「ひゃんっ」

 

 思わず身体を跳ねさせる。

 だが、それ以上はなにもできない。

 もう、指一本も動かない感じだ。

 抵抗の心も残ってない……。

 

「ああ、ま、真夫さん、ご、ごめんなさい……。ゆ、許して……。も、もう、犯して──。それで終わりにして……。あ、ああ……」

 

 あゆみは必死に言った。

 そのあいだも、真夫の指はゆっくりとあゆみの股間を愛撫している。

 

 怖かった……。

 SMクラブのような場所に行って、男責めなどを体験してみたあゆみだったが、なんだかんだで、まだ生娘なのだ。

 犯されるのは怖い……。

 でも、もう犯されて終わりにしたい……。

 心の底からそう思った。

 

「いいでしょう。でも、その前に準備をします。破瓜の痛みよりも快感が上回るようにしてあげます。俺は優しいですから」

 

 真夫が今度はローションのようなものを持ってこさせて、それをあゆみの胸や股間に塗り始めた。

 

「う、うう……。な、なによ、真夫さん……。くうう……」

 

 得体の知れないローションを真夫があゆみに塗っていく。

 最初にあゆみの乳房がローションまみれにされ、乳首に繰り返し重ね塗りし、クリトリスにも塗られていく。

 クリトリスは皮を剥かれてローションをまぶされた。

 そして、股間の中にも……。

 

 指を挿入されたときには、初めて股間に受け入れる異物に、身体が硬直しかけたが、すぐにかっと熱いものが込みあがり、そんなに違和感はなくなった。

 それよりも、指の当たるところが異常に疼いてくる。

 もっと触って欲しいとさえ思うが、さすがにそんなことを口にはできない。

 

「ここにも塗りましょう」

 

 さらにローションをアナルの中にも塗りこめられる。

 ぬめぬめしたものが肛門の中に入ってくる。

 

「ひああっ」

 

 指をアナルの中に入れられて、異常な感覚が沸き起こり、あゆみは宙吊りの身体を跳ねあげてしまった。

 

「またそれ? あんた、好きよねえ。痒み責めが……」

 

 かおりがくすくすと笑う。

 

「責めとしては定番だけど、効果があるから多用されて、調教手段として王道になるのさ。かおりちゃん」

 

「ほんと、鬼畜」

 

 かおりがさらに笑い声をあげる。

 そのあいだも、真夫はどんどんとローションを手に足しては、ぬるぬるとする粘性物をあゆみの身体に足していく。

 

「……さて、ところで、お公家のお嬢様はどのくらい我慢できるかな? 即効性だけどね……」

 

 真夫の手がやっと離れた。

 しかし、そのときには、早くもさっきのローションが粘膜に染み込んだことによる異常な感覚が襲い掛かっていた。

 猛烈な掻痒感だ。

 意識すると、あっという間に凄まじい痒みがローションを塗られた場所に引き起こり、それが数瞬ごとに増長していく。

 

「ああ、痒いいいい──」

 

 もともと汗まみれだった裸身から、さらに汗が噴きあがる。

 歯を喰いしばっても、防ぐことができない痒みがあゆみを襲う。

 

「じゃあ、おろしてあげましょう。好きなようにしてください」

 

 真夫はあゆみが吊られている身体の下で床に胡坐をかいた。

 そして、ガウンをはだけて怒張を出す。

 見下ろす視界に、天井を向いている真夫の男根がうつった。

 そして、がらがらと鎖が降りていく。

 やがて、完全に鎖が緩み、あゆみは真夫の膝の上に完全に腰を落とす感じになった。

 

「あああ、痒いって──。痒いのよおお。なんとかしてええ──」

 

 あゆみはあまりの痒みに、身体をくねらせて泣いた。

 

「だから、自由にしていいと言っているでしょう、あゆみ女王様」

 

 すると、真夫があゆみを抱き寄せるようにして股間に跨らせて、あゆみを対面座位のかたちにした。

 

「あああああっ」

 

 あゆみは思わず股間を真夫の怒張の尖端に擦らせた。



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 第181話 お公家のお嬢様・屈服

「いやああっ」

 

 対面座位の体勢で床に胡座をかいている真夫の股間に跨がるように座らされ、あゆみは疲労困憊の身体を鞭打つような気持ちで、必死で腰を浮かせて、股間を真夫の腰から離そうとした。

 なにしろ、あゆみの女性器そのものに、真夫の男根の先がまともに擦ったのである。そんな場所に他人に身体が触れることなど初めてのことだし、ましてや、男性器そのものだ。

 あゆみが恐怖を抱いたのは、本能的なものだった。

 

「いやっ、いやっ、いやよお──。そんなものくっつけないでくださいまし──」

 

 手首に嵌まっている革枷に繋がる鎖を掴んで、とにかく腰を持ちあげる。

 すると、真夫があゆみの腰を左右から掴んで、そのあゆみの陰部をそそりたっている真夫の肉柱の真上に誘導する。

 犯されるのだ──。

 戦慄が走る。

 だが、それ以上はどうにもならない。

 

「どうしたんですか、あゆみさん? 俺を逆レイプで犯そうとしたあなたが、犯されるくらいで悲鳴をあげるなんて……。もう観念してもいいでしょう」

 

「レ、レイプなんてするつもりはなかったわよ──。ちょ、ちょっとばかり、調教して立場を強くしようとしただけよ。いやああっ」

 

 あゆみは取り乱してしまった。

 

「そうですか? なら、その気になるまで、待ってもいいですけどね」

 

 真夫がちょっとだけ身体をずらして、宙吊りになっているあゆみの女性器が真夫の怒張に届かない位置にした。

 これなら力を振り絞るように持ちあげている腰を落としても、そのまま挿入はしないだろう。ちょっとだけ安堵したが、ほっとしたのは一瞬だけだ。

 我慢できない掻痒感が襲いかかってきたのだ。

 

「ああ、だめええ、痒いいい──」

 

 気がつくと、今度は腰を前に出して、自ら股間を真夫の下半身で擦ろうとしてしまっていた。

 だが、両手を吊っている鎖に引っ張られて、ぎりぎり真夫の下腹部にあゆみの股間が届かない。

 

「ああ、痒いいい──」

 

 あゆみは腰を前後左右に動かしながら、顎を突き出すようにして悲鳴をあげる。、

 

「犯して欲しいんですか? それとも、犯して欲しくないんですか? 随分と矛盾してますよ」

 

 真夫が笑う。

 あゆみはかっと頭に血が昇った。

 

「お、犯すってなんですか──。せめて、手を自由にしてくださいませ──」

 

「手を自由にしたら、また、俺をレイプしようと襲うかもしれないじゃないですか。怖くて、怖くて」

 

「なにが怖くてですか──。襲うわけなどありません──。と、とにかく、こ、この痒みをどうにかしてくださいまし──」

 

 あゆみは身体を激しく悶えさせながら哀願する。

 とにかく、胸や股間に塗られたローションは狂ったような痒みをあゆみに襲いかからせている。こんなの我慢できない。

 

「へえ、あんたって、興奮すると言葉が丁寧になるのね。ちょっと面白いかも。丁寧言葉というよりは、なんか変な喋り方だし」

 

 横から声をかけて笑ったのは白岡かおりだ。

 はっとした。

 確かに、もともと、あゆみは京都で生活をしているときには、独特の公家言葉を使っていた。権力も富もないが、格式張ったしきたりや伝統様式にだけは煩いのが九条家のような旧公家たちなのだ。だが、それが時代に合わないおかしな言葉使いだと知ったときには、恥ずかしくて、一生懸命に言葉を直そうとしたものだ。それもあり、首都に越してきたのである。

 それはともかく、かおりの揶揄いによって、あゆみは周りにいるのが、正面にいる真夫だけじゃなく、かおりと恵、玲子や京子の四人の女もいることを思い出した。

 

「えっ?」

 

 そして、周りを見回して目を見張った。。

 いつの間にか、その四人の女の全員が大小の筆を持って、あゆみを囲んでいたのである。

 

「な、なにをするつもりよ?」

 

 あゆみは、はっとして身体を引きつらせた。

 

「また、言葉使いが乱れたわ。どうやら、こっちの方が作っている言葉使いかな? わざと品の悪さを装っているの? ねえ、真夫ちゃん、やっていい?」

 

「うん、あさひ姉ちゃん。じゃあ、あゆみさんが素直になるまで、責めてあげて。ほかのみんなもね」

 

 真夫があゆみの腰をがっしりと持って、真夫の膝に跨いでいるあゆみを強く押さえつける。

 すると、まずはかおりと恵の持つ筆が左右から、そそり勃つあゆみの乳首を胸のふくらみの裾のからすすっとなぞりあげてきた。

 

「んふうっ」

 

 まる電気でも帯びたような衝撃で、あゆみは胸を大きく弾ませた。

 

「ほら、京子も、わたしの真似をして……」

 

「は、はい」

 

 今度は玲子と京子がやはり左右から、真夫の膝に跨がされて大きく開いているあゆみの内腿を筆で撫であげる。

 

「ひあああっ、や、やめてください──」

 

 あゆみは全身を突っ張らせた。

 

「一斉にじゃなくて、順番に襲ってあげてよ。ちょっとでも感じる場所があったら、四人で集中攻撃ね」

 

「了解よ、真夫ちゃん。じゃあ、まずはこんなところはどうですか?」

 

 恵が片手であゆみの髪を力強く掴んだかと思ったら、顔を動けないようにしたまま髪から覗いた耳に筆先を這わせてきた。

 

「んふううっ」

 

 耳はあゆみが一番くすぐったい場所だ。

 さすがに、そこをくすぐられては、あゆみは身体を大きくよじらずにはいられなかった。

 しかし、髪の毛を引っ張られているので、顔が動かない。

 この朝比奈恵という、真夫の幼なじみの女子大生は、口調は優しげなのに、やることはかなり乱暴だ。

 

「あら、耳が敏感なのね、このお公家様は。じゃあ、多分、こっちも弱いのかな?」

 

 かおりが反対の耳を筆で責めてきた。

 しかも、執拗に繰り返して……。

 

「ひんんっ」

 

「じゃあ、みんなで耳を責めて。どうやら、耳は敏感らしいし」

 

 真夫があゆみの脚を押さえながら笑う。

 

「そ、そんなこと、ありませんわ──」

 

 あゆみは甲高い声を張りあげた。

 

「ふふふ、あんた、動揺しているのがわかりやすいのよ」

 

「ひゃああっ」

 

 だが、容赦なく、耳に筆が襲う。そして、しばらく耳責めを続けられた。

 やがて、今度はかおりだけが、筆を首筋から肩に──。肩から二の腕にと、筆先を這わせてくる。ちょっとでも反応をしてしまうと、そこをしばらく集中的に責められるのがわかったので、必死にはを喰いしばって我慢する。

 だが、腕など性感帯でもなんでもないはずなのに、こうやって拘束されて筆で優しく刺激されると、まるでそこも性感帯だったみたいに、ぞわぞわと強い疼きを発生させてくる。

 

「もしかして、我慢してます? ここなんてどうですか?」

 

 すると、かおりの筆が右脇にゆっくりと接近してきた。

 

「はああっ」

 

 思わず大きく喘いでしまった。

 ついに脇の下を筆先が動いたのだ。

 

「脇も弱点よ。じゃあ、また、左右の脇にしましょうか」

 

 かおりの合図で、再び左右から二本ずつの筆が伸びて、あゆみの左右の脇を同時に襲う。

 

「いやああ、やめてくださいましいい──」

 

「また、言葉が丁寧になったわよ」

 

 しばらくの間、また四人がかりで脇を徹底的に責められた。

 今度は玲子の筆、乳房を裾野から円を描くように這いあがり、先端の勃起している乳首を押すようにしてきた。

 

「あああっ」

 

 反応すまいと思っていたが、結局、大きく上体を波打たせて露わな声を放った。そもそも、妖しいローションを塗られて、痒みで疼いていた場所だ。我慢するなど不可能だった。

 

「ほら、乳首よ──」

 

 四本の筆が一斉に片側の乳首を襲う。

 あゆみは悲鳴をあげた。

 そうやって、全身を女たち四人から筆責めを受けた。そのあいだ、真夫は微笑みながら、ただ胡座の上で狂い踊るあゆみの痴態を眺めるだけである。

 そのことも、激しい羞恥を誘う。

 反対の乳首──。脇腹、そして、おへその周りと次々に責められる。

 やがて、四本の筆が前後二本ずつに分かれて、真夫の膝の上に乗っている股間とアナルに襲いかかってきた。

 

「はぐううっ」

 

 筆先が前後から下腹部に触れた瞬間、あゆみの性感は異常なほどに昂ぶらされた。

 あゆみはあられもない声をあげながら、自分が股間からどくどくと蜜をあふれさせているのを感じた。

 

「あれ、なんだか、ねとねとしてきましたよ」

 

 真夫が揶揄ってきた。

 もうだめだと思った。

 あゆみはついに覚悟を決めた。

 

「わ、わかりました……。犯してください、真夫さん……。申しわけありませんでした」

 

 あゆみは大きく息を喘がせながら言った。

 

「あら、もう屈服しちゃうの? もう少し頑張ったら?」

 

 かおりだ。

 さっきよりも弱い筆使いで、あゆみの股間に下から筆を差し入れて、擦り撫でる。

 

「んはあああっ」

 

 あゆみはがくがくと腰を揺すって、身体を弓なりにした。

 だが、筆はすっと離れる。

 すると、大きな焦燥感があゆみを襲った。

 

「が、頑張りませんわ──。もう、犯してください──」

 

 もう限界だった。

 あゆみは大きく腰を揺する。

 

「そんなに犯して欲しいですか、あゆみさん?」

 

 あゆみを膝に跨がらせて抱いている真夫が抱き寄せるようにながら、耳元でささやいてきた。

 

「は、はい……。もう、犯して……」

 

「奴婢になると誓ってください」

 

「ち、誓います」

 

「はっきりと──。なんになるんです?」

 

「奴婢です。奴婢になります──」

 

「誰のですか? ちゃんと口にするんです」

 

「ああ、あゆみは……九条あゆみは、坂本真夫さんの奴婢になります──。心から……。だから、もう犯して──。痒みを決してください──。あああっ」

 

 あゆみは必死に大声で哀願した。

 もうなにも考えられない。

 頭にあるのは、この狂ったような焦燥感と掻痒感だけだ。

 

「……じゃあ、口を開いて……」

 

 真夫があゆみの顔に顔を寄せる。

 口を開くと、真夫が唇に唇を重ねてきて、舌が口の中に入りこんできた。

 舌を吸われて、唇で挟むようにしゃぶられる。

 口づけがこんなに気持ちいいものとは知らなかった。

 舌を愛撫され、快感の波が次々に全身に拡がっていく。

 

「んああっ」

 

 真夫の口が糸を引いて離れていく。

 我慢できなくて、あゆみは追いかけるようにして、今度は自分から真夫の唇に唇を重ねた。

 

「んんっ」

 

 舌を舌に絡ませる。

 しばらくのあいだ、むさぼるようにお互いに舌をしゃぶり合った。

 

「そろそろ、俺とのセックスが好きになってきましたか?」

 

 真夫が顔をずらして、今度はあゆみの胸に顔を埋めて、片側に乳首を口に含んで、強く口の中で転がしだした。

 

「ふううっ」

 

 あゆみは全身を痙攣させて、身体をのけぞらせて悲鳴をあげた。

 さらに反対の乳首に真夫の手が伸びて、指で乳首を挟んで、全体を揉んでくる。

 衝撃が全身を襲う。

 

「んぐうううっ」

 

 頭が白くなる──。

 気がつくと、あゆみは絶頂してしまっていた。

 

「胸だけでいきましたか? やっぱり淫乱の素質ありですね。しかも、マゾの淫乱です」

 

 真夫が胸から口を離して、腰を前に出すようにして、あゆみの腰の真下に、改めて自分の腰を完全に入れる。

 そして、再び天井を向いている怒張の先をあゆみの花芯の入口にあてがった。

 

「あああっ、いいいっ」

 

 雁首がずぶりと股間に埋まる。

 痛みよりも、痒みがそれで小さくなる感覚が気持ちいい──。

 あゆみは我慢できず、自ら腰を落として、最後まで真夫の怒張を股間で受け入れた。

 

「あああああっ」

 

 激痛が走ったのは一瞬だ。

 一番深いところまで真夫の怒張の先端が届いたときには、痛いは小さなものになっていた。それよりも、じわじわと拡がっていく、妖しい感覚にあゆみは戸惑った。

 

「ローションも使ったし、掻痒感もあったから処女を失う痛みも最小限だったでしょう? それに、いまでもどんどんと汁が出てきますよ。もう痛くないんじゃないですか?」

 

 あゆみを対面で抱いている真夫が言った。

 小さく首を左右に振るだけでなにも言わなかった。

 また、真夫はそのまま律動をせずに、腰を掴んだまま、回すように腰を動かしだしてきた。

 

「あっ、ああっ、ああっ」

 

 快感が昇ってきた。

 

「あさひ姉ちゃん、かおりちゃん、もう一度胸を責めてあげて──。あゆみさんは、マゾだからね。ただ犯されるよりも、たくさんの手で陵辱されるのが好きなんだ」

 

「そ、そんなこと──。ひゃああ、あああっ」

 

 あまりな物言いに抗議しようとしたが、後ろから胸責めが追加されて、もうなにも言えなくなる。

 やがて、再びエクスタシーの波が襲いかかってきた。

 

「ああっ、ああっ、ま、真夫さん──。あああっ」

 

「いくときには、いくというんです。それが奴婢の決まりです」

 

 真夫が小刻みに腰を揺らして快感を送り込みながら言った。そして、これまでずっと放っておかれたお尻の穴に指を挿入してきた。

 

「ひあああっ、い、いぐうう──」

 

 左右の胸と貫かれている股間の刺激、さらにアナルの刺激が加わり、なにかが弾けるようにあゆみは一気に絶頂してしまった。

 すると、真夫もまた、欲情の白濁液をあゆみの中に迸らせてくれたのを感じた。

 

「ああああっ、ああああっ」

 

 あゆみはしばらくあいだ、真夫の膝の上で痙攣を続けた。

 そして、身体ががっくりと脱力する。

 すると、真夫があゆみの股間から男根を抜いた。

 

「さて、じゃあ、次からは寝台の上でやりましょう。あゆみさんは、どうやらお尻が弱いようですし、二回戦目からはそっちを集中的にみんなで責めますからね」

 

 真夫が立ちあがりながら言った。

 あゆみはびっくりした。

 

「ま、まだやるんですの──?」

 

「この好色で絶倫のエス男が簡単に許してくれないわよ。ほら、顔をあげて」

 

 左右から身体を掴まれてから、両手首の革枷から鎖が外れるとともに、かおりが新たに首輪を嵌める。そして、そのままだった手首の革枷についていた金具が首輪の後ろの金具に繋がれてしまった。

 

「来るんですよ、お公家のお嬢様」

 

 すると、恵がその首輪の前側に別の鎖を繋げて、身体を引っ張りあげた。

 

「んぐっ、あっ、た、立つから、待ってください──」

 

 あゆみは脱力している身体を無理矢理に立ちあがらるとともに、首輪の鎖に引かれるまま、真夫たちとともに寝台に向かって足を進めた。





 *

「気をつけよう 交通事故と コロナ菌」

 予防接種は受けていたのですが、ついに私もコロナに罹患してしまい、やっと体調が戻りました。皆さんは油断なきよう……。


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第28章 戯弄【あゆみ】
 第182話 継承の儀式の本質


 日野正人(まさと)は、龍蔵が書類を読みふけるのをじっと見守っていた。

 豊藤財閥の総帥にして、“魔王”の異名を持つ豊藤龍蔵の執務室だ。魔王の異名は、龍蔵が形式的な出家をしてもらった戒名である“増応院”から来ているということだ。

 そして、いまの龍蔵の居住場所は、この聖マグダレナ学園の敷地内の地下建造物の中にあり、執務室はその一角にある。

 龍蔵が目を通しているのは、坂本真夫に関するある報告書であり、正人が龍蔵に少し前に渡したものだ。

 

 豊藤の総帥である龍蔵がどこに居住を構えているのかということは、豊藤の中枢にいる者の中でも数えるほどしか知られてない。

 また、必要により知ったところで、立ち去るときには、すぐに記憶は抹消される。

 従って、誰であろうと、正確な居場所を覚えることはできないのだ。

 その例外が、秀也であり、正人であり、時子というわけだ。あの坂本真夫が現れるまで、龍蔵の秘書として渉外を受け持っていた玲子も例外のひとりだ。ほかにもいるのかもしれないが、少なくとも正人が接する範囲では、龍蔵の近くに侍ることができる者はそれだけである。

 

 そこまでの秘密主義を徹底するのは、豊藤を支えるものが、豊藤家の嫡男だけが一子相伝で受け継ぐ秘術であるらしい“操心術”であるからだ。

 豊藤の長は、財閥を自ら動かすことはしない。

 グループに富をもたらすのは、豊藤の総帥の操心術に支配された世界中の政治経済の中心にいるリーダーたちなのだ。だが、彼ら彼女たちが必ずしも、豊藤財閥に属するとは限らない。

 いや、むしろ、直接的に支配を受けるのは、グループの外の人間であることが多いようだ。敵対する組織の中にいたりもするという。

 だが、共通するのは、自分自身が操心術で隷属されていることをほとんどの者が知らないということだ。

 もっとも、会わない操り人形たちを龍蔵がどうやって支配を続けているのかということについては、正人にもわからない。

 

 いずれにしても、操心術の影響を受けている彼らは、まったく無意識のうちに、豊藤の利益になるように、自分たちが支配をしているものを動かすのだそうだ。

 そうやって、豊藤に利益が世界中から転がり続けるというわけだ。

 それが豊藤の秘密であるからこそ、総帥さえ殺せば、操心術を操る者がいなくなり、隷属がなくなる。

 それを知っている者は、なんとしても龍蔵を抹殺しようと、全勢力を傾けるのだ。

 ただ、いまだかついて、豊藤の総帥の暗殺に成功をした者はいないらしいが……。

 

 そうはいっても、正人が知っている豊藤財閥の総帥の秘密など、限られたものでしかないのだろう。

 いや、この記憶そのものが、もしかしたら、作られたものかもしれないとも考えるようになってきた。

 そう考えるようになったのは、このところ、記憶の欠如のようなものを自分の中に見つけるようになったからだ。

 なぜか、記憶から呼び起こせない時間帯があったり、記憶のない行動をした正人自身の痕跡を発見したりすることがあるからだ。

 まあ、それもいいだろう。

 豊藤財閥の中枢に属する機会を得たことの代償だ。

 正人は気にしてない。

 

 ともかく、いま龍蔵の目の前にいるのは、正人だけだ。

 本来であれば、龍蔵に直接に一対一で報告するのは、玲子に代わって龍蔵の直接の秘書となった秀也の役割だ。

 だが、詳しいことは教えてもらってないが、ここしばらく、秀也の体調がよくないらしく、報告書というかたちで、龍蔵に書類を渡す役目が正人になっていた。

 しかも、正人にそれを渡すのが、秀也の看病についているらしい時子だ。

 正人としては、ただ書類を運ぶだけなので、やれと言われれば、それを実行するだけなのだが、本来は秀也専属の付き人の立場である正人が、龍蔵の直属秘書のようなことをするのは変な感じではある。

 そして、秀也の体調が悪いのであれば、その世話をするのが正人の役割なのだが、臥せっている秀也がどこにいるのか、そもそも、体調がどう悪いのかも正人は把握してない。

 

 もしかしたら、秀也と正人が接触しないように、あの時子という老婆がなにかを画策しているのかもしれないと思ったりする。

 でも、真夫びいきで、正人が以前に真夫にちょっかいを出したことで正人を嫌っているあの老婆が、正人が学園をうろうろさせないようにして真夫に接する機会を極限するのはわかるが、正人を秀也に接触させない理由がわからない。それでいて、龍蔵と一緒にいるのは許すのだから、やっていることに一貫性がない感じがする。

 だいたい、あの老婆は、龍蔵の最初の愛人であり、最後の愛人なのだが、正人から見ると、龍蔵よりも秀也と仲がいいようにさえ感じるのだ。

 わけがわからない。

 

 ただ、龍蔵と一緒にいることが多くなったのは、このところ、正人がナスターシャの調教を手伝うことが多くなったからだ。

 そのナスターシャの調教を通して、個人的に龍蔵と接近をしているのも事実だ。

 豊藤の総帥といえば、得体の知れない魔物のように思っていた正人だったが、接してみれば、ただの嗜虐好きの好色(じじ)いである。

 ナスターシャの調教については、少々頭がおかしいだろうと思うこともあるが、まあ、欲望に忠実な姿は、人間として親しみは感じる。

 

 それはともかく、真夫に関する報告のことだ。

 龍蔵が読んでいるのは、龍蔵が真夫を後継者として指名する条件として与えた住人の奴婢のことだ。

 半年以内に十人の奴婢を集めなければ、真夫を後継者としないと宣言をした龍蔵の言葉だったが、あれから、まだ一か月半にも関わらず、あいつは十人を集めてしまったのだ。

 龍蔵が読んでいるのは、その十人の奴婢の記録である。

 

 

 

1.朝比奈恵 真夫の幼なじみにして初体験の相手。教育大に通う女子大生

 

2.工藤玲子 龍蔵の前秘書。顧問弁護士のひとり。学園の理事長代理

 

3.白岡かおり 学園の三年生。白岡電機の社長令嬢

 

4.西園寺絹香 三年生で生徒会長。西園寺家令嬢。学園の四菩薩のひとり

 

5.前田明日香 三年生で女子サッカー部の主将。学園の四菩薩のひとり

 

6.金城光太郎(ひかり) 金城財閥の嫡男。学園の双璧のひとり

 

7.世良七生 二年生。天才的な高校生画家

 

8.立花柚子 一年生。一年生の成績トップ

 

9.伊達京子 女体育教師。学園の四菩薩のひとり

 

10.九条あゆみ 光太郎の婚約者、女子大生、旧公家の九条家の令嬢

 

 

 

「思ったよりも早かったな。これで十人か。まあ、集めた女たちも、玲子のほかに、名家の令嬢たち、学園の生徒たちが四菩薩と呼んでいる美少女たち、一芸に秀でる才媛などか……。まあ、合格と言わねばならんだろうのう」

 

 龍蔵がテーブルの上に書類を置く。

 正人は密かに歯噛みした。

 龍蔵が真夫が集めた十人を認めるということは、龍蔵の後継者として、真夫を認めるということだ。

 そのときには、秀也はどうなるのだ──。

 

「……いえ、十人のうち、朝比奈恵は、父親に犯された過去がある孤児でしかありません。十人の中に認めるのは不適切かと……」

 

「だめだ。時子が煩い。その恵は十人の中に認めねばならん。さもないと、わしが頭の皮を剥がれる」

 

 龍蔵が笑った。

 

「し、しかし……」

 

「いや、本当だ。それに、ひとり認めないところで、すぐに新しい奴婢を追加してくるだけだろう。時子によれば、確か、相場まり江という生徒にも唾をつけているらしいぞ」

 

 龍蔵の顔に笑みが浮かぶ。

 知っている……。

 相場まり江……。

 

 学園の二年生の女生徒だ。日本人離れしたプロポーションですでに世間ではモデルとして有名な少女である。真夫が今週に開催された学園の文化部発表会の準備を通じて、そのまり江に接近していたのも確認していた。

 十人目がそのまり江でなく、金城光太郎の許嫁の九条あゆみになったのは、真夫が手を出す機会が遅いか、早いのかの違いだろう。

 四菩薩のひとりでもあるまり江なら、豊藤の総帥候補に相応しいと認めざるを得ないし、確かに、朝比奈恵を十人に含めることを認めるかどうかは意味はない。

 認めないとしても、まだ四か月以上もある。

 操心術も使えば、あっという間にまり江も奴婢入りするのは間違いない。

 

 くそう……。

 後継者は、あの真夫に決定か……。

 

「……それにしても、十人目は公家の令嬢か。驚いたことよのう。なあ、正人」

 

 龍蔵がにやにやしながら言った。

 

「はあ……」

 

 公家の出だから、なんだといのだろう。

 だが、龍蔵は書類をもう一度手に取り、九条あゆみの資料だけを抜き取って眺めだした。

 

「確かに、公家らしい顔をしておる。同じ女でも気品が違うな」

 

 書類には全員の女について、顔写真と全身の写真もある。

 だが、正人も書類には目を通していたが、九条あゆみが別段に、ほかの女に比べて品があるようにも見えなかった。

 女は女だとしか感じなかった。

 

「豊藤家も古いとは言っても、江戸時代の後期までしか遡れん。所詮は数百年の歴史でしかないのだ。それに比べて、九条家は千数百年の歴史だそうじゃのう。本物の貴人だ」

 

「そうなのですね」

 

 正人には、この龍蔵の関心がまったく理解できなかった。

 そもそも、公家の令嬢とはいうが、調べによれば、その娘はSMクラブに出入りもするようなあばずれだ。

 そんなことは書類には書いてないが、それを教えれば、その九条あゆみを妙にありがたがることもなくなるのではないかと思った。

 

「正人、わしは、この九条あゆみが欲しくなった」

 

 はっ?

 

 いま、なんと言った?

 

 正人は驚いた。

 九条あゆみは、真夫が奴婢にした娘だ。今日、手を出したばかりのはずだが、おそらく、すでに犯してはいるだろう。

 真夫が自分の奴婢の証しにしている銀製のチョーカーとブレスレッドも装着したはずだ。

 それを奪うのか?

 

「なにを驚いておる。それが豊藤の後を継ぐということよ。自分が集めた奴婢を父親に献上し、耳目口たちに道具のように抱かせる。それが継承の儀というものだ。わしも、最初に時子を奴婢として選んだとき、継承の義で奪われて、それから一年のあいだ、時子をわしの父親が抱くのを見させられた。そうやって、女に対する情を抜く。それで、やっと女を道具として扱えるようになるのだ」

 

「はああっ……? あっ、いえ、申しわけありません……」

 

 正人は思わず、変な声を出してしまって、慌てて口を閉ざした。

 だが、なんだ、その継承の儀は?

 耳目口というのがなんのことなのかはともかくとして、もしかして、わざわざ真夫に女を集めさせたのは、それを取りあげるためなのか?

 

「真夫から女を奪うわけじゃないぞ。ただ、しばらくのあいだ、わしを始め耳目口たちに抱かせる。それだけだ。それが継承なのだ。総帥になるために邪魔な情を抜く。その始まりが継承の儀じゃ」

 

 正人の心の中を読んだような言葉を龍蔵が口にする。

 もしかしたら、実際に読んだのかもしれないが……。

 

「まあ、そういうものですか……。わかりました。でも、あの坊やは怒るでしょうねえ」

 

「怒れば、豊藤の総帥になる資格を失うだけだ。それだけでなく、抹殺する。それだけのことよ」

 

 龍蔵が笑う。

 だが、抹殺とは本気か?

 真夫は龍蔵の血を引いている息子だ。しかも、操心術の能力開眼の兆しもある。それをここで処分する可能性もあると?

 

「早いほうがいいだろう。三日後の今度の水曜日の夜に、継承の儀をここでする。真夫に連絡せよ。奴婢全員とともに来いとな。玲子に伝えればいい。継承の儀とだけいえば、それだけで玲子は察する。もっとも、継承の儀が前回行われたのは、数十年前だから、その中身までは知らんだろうがのう。もちろん、儀式の本質まで伝えるなよ」

 

 龍蔵だ。

 

「わ、わかりました。秀也さんと時子さんにも連絡をします」

 

 なにを考えているのかわからないが、まあ言われたことをするだけだ。

 それにしても、随分と悪趣味な儀式でもある。

 

 あの真夫がなんだかんだで、集めた奴婢たちに愛情を持って接しているのはわかる。

 それを龍蔵をはじめ集まった中枢の者たちで目の前で取りあげて抱くということをするようだ。

 もっとも、考えてみれば、それで女を道具として扱えるようになるなら、理にはかなっているのかもしれない。

 豊藤の総帥に必要な帝王学は、人を支配する技量や知識ではない。

 操心術だけなのだ。

 技量や知識は皆無でもいい。それは操っている者が勝手にする。必要なのはただただ、そいつらを人形のように支配する操心術だけだ。

 確かに、情など無用かもしれない。

 

「ならん──」

 

 すると、突然に龍蔵が強い口調で怒鳴った。

 

「えっ?」

 

 なにが?

 

「秀也にも時子に伝える必要はない。真夫と十人の奴婢、そして、わしとわしが集める耳目口さえ揃えば、継承の儀の場は整う。余計なことをするな」

 

 龍蔵が言った。

 秀也にも時子にも知らせないのか?

 まあ、ふたりともここにはいないし、知らせまいとすれば伝わらないかもしれないが、時子は真夫が生活をしているS級寮の寮母でもある。

 真夫が玲子が伝えれば、知られてしまうんじゃないだろうか。

 

 まあいいか。

 正人は言われたことをするだけだ。

 

「承知しました。言われたことだけをします。玲子に継承の儀の期日が決まったことを伝えます」

 

「それでいい」

 

 龍蔵が大きく頷いた。



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 第183話 痴漢ごっこ─イチヂク浣腸責め

 準備されていたのは、ノースリープの薄手の白いワンピースだった。

 そのワンピースを身に着けて、あゆみは都心から少し郊外に向かうターミナル駅のホームに立っていた。

 

 日曜日と夕方いうことではあるが、ホームはかなり混雑している。だが、自分たちがかなり人目を引いているようだというのは、あゆみにもわかった。

 あゆみは、自分がスタイルもよく、女としてかなり美貌であることは自覚しているが、これだけの人目を集めるのは、あゆみだけのことではない。

 あゆみだけでなく、工藤玲子、伊達京子、白岡かおり、朝比奈恵の合わせて五人の美女、美少女が一箇所に集まっているのだ。

 目立って当たり前だろう。

 その女たちに混じっているのが坂本真夫なのだが、彼は美女揃いの女たちの中に埋没するように、気配を小さくしている感じである。

 とにかく、いたたまれない心地を、この人混みのある駅のホームであゆみは感じ続けていた。

 

 なにしろ、五人の女たちは、いずれもミニスカート姿なのだか、その中でもあゆみは群を抜いて短く、股下をほんの少ししか覆っていない超ミニなのだ。ノーストッキングの脚がほとんどスカートの外に露出している。

 それだけでなく、遠目ではわからないかもしれないが、あゆみの左右の手首にはそれぞれに手錠がかかっていて、反対の枷部分が京子とかおりに繋がれており、両手の自由を完全に奪われているのである。

 しかも、あゆみはワンピースを素肌に上に直接に身につけさせられていて、勃起した乳首がワンピースの布地を押し上げているがわかり、顔をあげられないくらいに恥ずかしい。

 だが、なによりも、あゆみに苦悶を与えているのは、露出の多い服装の恥ずかしさではなく、スカートの中に隠れている貞操帯の存在と貞操帯の装着時に施された処置だった。

 

 それはともかく、そのときにはわからなかったが、真夫に犯されたあの場所は、結局、都心の一等地にある一流ホテルのスイートルームを改造した部屋だった。

 あゆみはそれを、そこを出されるときに初めて知った。

 玲子の口ぶりでは、そういう場所を真夫のために、幾つも準備していて、いつでも好きなときに遊べるように確保しているということであった。

 とにかく、あゆみは、真夫から対面座位で処女を奪われ、次いで、ほかの女たちも混じって寝台の上で数回犯されて、ほとんど息も絶え絶えになってしまった。

 しかし、それで許されることはなく、これから真夫たちとともに、彼らが暮らす聖マグダレナ学園の敷地内の寮に一緒に戻るということになった。

 部外者であるあゆみだが、そんなことはどうにでもなるらしい。

 そして、今日は女子サッカー大会の地区の決勝とやらで別行動をしていて、勝利により全国大会出場を決めた奴婢仲間やその応援組を混じって、「性宴」の宴をするそうだ。

 あゆみの金城光太郎も、そのときに合流するそうなので、あゆみとしてどんな態度で彼──それとも彼女?──と接すればいいのか、わからない。

 

 そして、あゆみがそのホテルから連れ出されたとき、移動用の自動車があるにも関わらず、真夫の指示で全員が電車移動ということになった。

 その準備ということであゆみがさせられたのが、この格好に加えて、スカートの下の貞操帯いうわけだ。

 貞操帯の内側の股間部分には、あゆみの花芯を貫くディルドがある。

 しかも、貞操帯には小用の部分とアナルの部分に穴が空いていて、しようと思えば、そのまま排泄もできるようになっていたのだが、真夫たちはひとり一個ずつのイチヂク浣腸をあゆみのアナルに注入し、合計五個分のイチヂク浣腸液が注いでしまったのである。

 すでに便意は激しいものになっていて、あゆみはホームの上で必死に便意と戦っていた。

 もちろん、普段、電車移動などすることは滅多にない。

 こんな人混みにいることさえ、あゆみにはほとんど体験することのないことだ。それに加えて、あゆみは露出の多い服装とディルド付きの貞操帯と浣腸で辱められているということなのだ。

 真夫に言わせれば、これもまた、「洗礼」であり、「調教」らしい。

 

「ほら、来たわ」

 

 耳元で促したのは、あゆみの左手首を右手首と繋げているかおりだ。

 あゆみは、反対側を繋げている京子にはさまれるように電車に乗り込む。後ろに真夫と恵、前に玲子が位置し、左右を京子とかおりに囲まれる態勢である。

 車内に入ると、いよいよぎゅうぎゅうに人が密集する満員状態になった。

 幸いなのは、あゆみに接するのが真夫と彼の女たちだけだということだ。そうでなければ、人肌から伝わる熱気と湿気と匂いで、気持ち悪くなったかもしれない。

 だが、そんなことはどうでもいいと思うほどの、強い便意にいよいよあゆみは喘いでいた。

 

「……ねえ、トイレに行かせてよ」

 

 ここに到着するまでに、何度周りの者たちに哀願したかわからない。

 いまも、ついに我慢できそうになくなってきて、後ろから密着している真夫にささやくように言った。

 だが、ふっと噴き出す声が真夫の口から漏れる。

 

「……この満員電車の中でどうやって、トイレに行くんですか……。それよりも、気を紛らわせてあげますよ……」

 

 真夫が耳元で呟いた。

 はっとした。

 そして、わざわざ電車の乗せた真夫の意図がいまこそわかった。

 誰かが──いや、間違いなく真夫だ。その真夫が、あゆみのお尻をゆっくりと手の平で撫で始めたのである。

 

「んんっ」

 

 さすがに、あゆみは思わず上体を捻って、手を避けようとした。

 だが、両側のふたりが手錠のかかった腕を引っ張って、それを許してくれない。

 真夫の手は、意地悪な手つきでお尻全体を掴んで撫で、さらにスカートの下から手を差し込み、貞操帯に開いているアナル部分の小さな開口部から指を当ててきた。

 アナルの表面をいじられる。

 

「んくうっ」

 

 あゆみは全身を突っ張らせて、強張らせた顔をうつむけることしかできなかった。

 必死に口を閉じる。

 せめて、ほかの客には気づかれないように──。

 思ったのはそれだけだ。

 

 アナルの上を真夫の指が這っている。

 あゆみが貞操帯を装着されたとき、ただディルドを挿入されて、浣腸を注入されただけではない。

 あの痒みももたらす媚薬ローションを、ディルドにもアナルの中にもクリトリスにもしっかりと塗られていた。

 

「はあっ、ああ……」

 

 その妖しい掻痒感と発情で疼くアナルを刺激され、だんだんと息に甘い声が混じるようになっていく。

 

「しっかりと我慢してくださいね」

 

 真夫が意地悪な指先であゆみのアナルを玩弄しながら、耳元でささやく。

 はっとした。

 スカートが完全にまくられて、貞操帯が喰い込んでいる白いお尻を露出させられたのだ。

 あゆみは両方の拳をぎゅっと握って眼を伏せる。

 すると、別の手がスカートの中に入りこんできた。

 

 二本──。

 いや、三本──。

 

 位置から考えて、恵とかおり? そして、京子──?

 こいつら──。

 

 あゆみは必死に歯を喰いしばった。

 貞操帯は太いものではなく、Tバッグのような細いタイプのものだ。後ろの開口部からは真夫はアナルに触れ、前に開口部からも指が侵入して、そこを揉み動かす。

 左右から内腿を撫でられる。

 あゆみは懸命に声を押し殺していた。

 

「くあっ」

 

 そのとき、ついに大きな声が出てしまい、あゆみは慌てて口をつぐんだ。

 意地悪なことに、貞操帯のディルドが突然に蠕動運動を始めたのである。

 これも間違いなく、真夫だろう──。

 あゆみは必死に顔を後ろに向けて、涙目で首を左右に振る。

 すると、真夫が大胆にも、もう一方の手でワンピースの上から乳首を摘まんできた。

 

「んんっ」

 

 上体がびくんと跳ねる。

 股間のディルドの振動──。

 四本の手による前後からの股間とアナルへの愛撫──。

 さらに、乳首への刺激だ──。

 

 しかも、真夫は無遠慮に、上を向く乳首を無理矢理に下にしたり、指で挟んで転がすようにいじくいり、引っ張り、押し込んだりしてくる。左右交互にである。

 あゆみは目がくらみかけてきた。

 次第にエクスタシーに押し上げられていく。

 

 だが、激しい便意も続いている。

 こんなところで達すれば恥ずかしいだけでなく、大便も漏らしてしまいそうな気がする。

 

 とにかく、必死に耐える。

 それが邪魔をして、達することもできない。

 だが、我慢の限界がついにきた。

 

「んあああっ」

 

 あゆみは一瞬、天井を仰いだ。

 視覚も聴覚もぼんやりとぼやけている。

 もうだめだと思った。

 

「あんっ」

 

 だが、そのとき、ディルドが突然に静止するとともに、手も一斉に離れていった。

 ほっとした。

 これなら、もう申しだけ耐えられるかも……。

 しかし、安堵感は束の間だ。

 

 手やディルドの刺激が消えたことで、股間を襲う掻痒感が一気に爆発したのだ。下手に刺激を与えられたこともあるだろう。一度味わってしまうと、なくなったときの痒みは桁違いに大きい。

 

「くっ、ぐっ」

 

 じっとしてようと思う。

 だが、今度は痒みによる疼きが四肢にまで拡がり、じわじわとあゆみを追い詰めていく。

 気がつくと、満員電車の中であゆみは小さく足踏みをするような動きをしていた。

 

「……忙しいわねえ……。もう少しじっとなさいよ」

 

 かおりが揶揄うようにささやいてきた。

 

「だ、だったら、お前が味わってみなさいよ……。この苦しみを……」

 

「味わったわよ。後ろの変態が加わったばかりの奴婢には、必ずさせるんだから……。わたしなんて、半日、掻痒剤を塗って授業中それを我慢させられたわ。あれは死ぬかと思ったから……。ねえ、先生」

 

「う、うん……。あたしは授業中だけど、掻痒剤とディルドで生徒とグラウンドを走ったかあな……。先週だけど」

 

 かおり、そして、京子だ。

 密着しているし、ほんのささやくような声だから、ほかの周囲には聞こえない思うが、みんなもそんなことを──?

 あゆみは唖然とした。

 

「そういうことだね。だから、これは調教で、俺の奴婢の洗礼ということ……」

 

 真夫だ。

 次の瞬間、再び貞操帯の中で挿入されているディルドがまたもや動き出した。しかも、いままで一度も動かなかったクリトリスに当たっている貞操帯内の突起部分も振動を開始したのである。

 

「ふああっ」

 

 衝撃が走り、あゆみは膝を折ってがくがくと身体を痙攣させていた。

 また、必死にお尻に力を入れる。

 漏れる──。

 あゆみは絶望感に包まれた。

 だが、バイブレーターはまもなくとめられ、今度も排便は免れた。

 

 でも、もう少しももたない。

 あゆみは身体を少し折ったまま、それを真っ直ぐにすることさえできなかった。

 

「……はあ、はあ、はあ……、も、もうだめです……」

 

 あゆみは訴えた。

 すると、電車のスピードが緩んできたのがわかった。

 次の駅に着くようだ。

 

「ま、真夫さん……。ト、トイレに……」

 

「いや、特別快速ですけど、降りるのはまだ三駅先ですね」

 

「む、無理……」

 

「無理じゃありませんよ」

 

 さらに電車が減速していったが、なにか指よりも細くて、管のようなものがアナルに差し込まれた。

 

「えっ?」

 

 びっくりした。

 そして、朦朧としていたあゆみは、愕然として眼を見開いた。

 ちゅるちゅると液体がアナルの奥に向かって注入されたのだ。

 追加のイチヂク浣腸──?

 愕然とするあゆみから管が抜かれる。

 

「もう一駅我慢しましょうか。そうすれば、なんとかしてあげましょう。約束します」

 

 真夫が言った。

 そして、手の中に空になったイチヂク浣腸の容器を握らせれた。慌てて握り拳の中に隠すが、なんという悪戯を……。

 

「ああ……。あ、あんたって、鬼畜……」

 

 あゆみは歯を喰いしばりながら呻いた。

 一気に便意が拡大する。

 

「そうだって、わたしが言ったでしょう」

 

 すると、横でなぜかかおりがくすりと笑った。

 

 そして、電車が停まって若干の乗客が入れ替わる。

 やがて、再び走り出し、さっきと同じように囲んだ真夫たちによる愛撫が始まる。

 ときにはディルドで責められ、耐えられるぎりぎりを計るように、中断される。

 でも、中断されても地獄だ。

 気が狂うような掻痒感が襲いかかり、あゆみは苦悶を続けた。

 あゆみの全身は脂汗まみれになり、ワンピースの布地に肌色が透けるほどにもなった。

 

 そして、なによりも、便意──。

 今度こそ、漏れるという大波が幾度もあった。

 だが、必死に我慢して、なんとか次の駅まではもちこたえた。

 駅に近づいて減速しはじめると、真夫が耳元に口を寄せたのがわかった。

 

「……頑張りましたね、あゆみさん。じゃあ、約束通りに漏れないようにしてあげます」

 

 なにかを後ろで取り出す気配があった。

  

「えっ、次の駅でトイレでは?」

 

「そんなことは言ってませんよ。なんとかしてあげると約束しただけです」

 

 真夫が貞操帯のアナル部分の開口具から硬いものをぐいと押し込んだ。

 なに?

 淫具?

 潤滑油でも塗ってあったのか、簡単にアナルの中にそれが入りこんだ。そして、かちゃんと音がして、貞操帯の開口部と完全に結合した感じになる。

 

「んああっ、な、なに?」

 

 あゆみは、突然にアナルに挿入された異物の気色悪さに、思わずぶるぶると身体を震わせた。

 お尻の中になにかが埋まっている。だが、しっかりと貞操帯とも固定されてしまい、まるでお尻の穴にもディルドを挿入されたような感覚だ。

 ただ、ディルドよりは短いだろう。

 

「アナル栓です。これで漏れることはありません。じゃあ、残り二駅、しっかりと感じてください。今度は安心して絶頂できるかもしれませんね」

 

 真夫が小さな声で笑う。

 愕然とした。

 あゆみは、もうなにも喋ることもできなかった。

 

 電車がまた駅に着く。

 乗客が入れ替わり、あゆみたちは電車の奥側にまとまって押し込まれてしまった。

 そして、電車が走り出す。

 すると、待っていたかのように、真夫たちの手が一斉にスカートの中に潜り込んできた。

 

 ディルドの激しい振動とともに……。



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 第184話 公家令嬢の苦闘~夜歩き

 真夫たちととともに駅を降りたときには、完全に陽は沈んで周囲はすっかりと夜になっていた。

 聖マグダレナ学園の最寄り駅はこの大手私鉄線の大きな駅なのだが、駅前からはかなり距離があり、車でなければ辿り着けない山中にあるくらいは知っている。

 だが、あゆみはそちら側とは反対方向の街中に連れて行かれた。

 相変わらず、左右の手首のそれぞれを京子とかおりに手首に、手錠で繋がれていて、逃げることはできない。

 むあ、逃げるつもりはないが……。

 

「ちょ、ちょっとどこに行くのよ?」

 

 さすがにちょっと不安になった。

 学園に向かうなら、迎えの車を呼ぶか、あるいはタクシーでも捕まえるしかないだろう。しかし、そんな様子もない。

 真夫たちは、あゆみを街灯が照らす賑やかな街中に連れて行こうとするのだ。

 便意は、絶えることない繰り返しの波となって、あゆみに遅い続けている。

 

「言ったでしょう。歓迎会ですよ。特別な趣向であゆみさんの仲間入りを歓迎しますから。きっと喜ぶと思います」

 

 前を進む真夫が振り返って、白い歯を見せる。

 あゆみは歯噛みした。

 

「い、いい加減にしなさいよ。トイレに連れて行って」

 

 あゆみは荒い息をしながら言った。

 とにかく、下腹部では猛烈な便意が襲いかかってきている。

 それは、もしかしたら、この街中で大便を漏らしてしまうのではないかという恐怖でもあるのだ。

 

 早く、トイレに……。

 

 せめて、他人の眼のない場所に移動したい。

 もちろん、アナルストッパーを打ち込まれているのは承知している。

 だからといって、アナルから力を緩める気にはならない。

 あゆみは、必死に便意と戦いながら脚を進める。

 

「大丈夫ですよ、トイレは公園にもありますから」

 

「公園? じょ、冗談じゃないわ。あなた方の寮に連れていって。それとも、またホテルに……」

 

 どこに向かっているのか教えてもらえないでいたあゆみだったが、まさか公園に向かっているのは知らなかった。

 だが、もう限界だ。

 電車に乗っているあいだ、真夫や女たちから寄ってたかって受けた玩弄は、すでにとことん、あゆみを追い詰めている。

 脚はもうふらふらで、すぐに遅れがちになるのだが、手錠で手首を繋いでいる両側の京子とかおりが、そのたびに無理矢理に速度を元に戻す。

 そのたびに、あゆみは股間の玩具に翻弄されながらも、息も絶え絶えに、ただただ交互に脚を前に出す。

 ミニスカートの裾から、喰い込んでいる革帯の貞操帯でも堰止められない愛液を垂れ流しながら……。

 

「まあまあ、愉しい宴はこれからですよ」

 

「うあっ」

 

 まただ──。

 真夫がまたもや、股間のディルドの振動のスイッチをオンにしたのだ。今度は、クリトリスに当たっている突起部分も激しく振動される。

 電車の中でもずっと受けていた意地悪な悪戯だ。

 さすがに、がくんと膝が曲がり、立ち止まってしまいそうになる。

 

「ほら、頑張ってよ」

 

 でも、やはり両側から強引に進まされる。

 あゆみは喘ぎ声を我慢することができず、スカートから出ている太腿を痙攣させながら、必死に前に進み続けた。

 

「こ、この仕返しは……。い、いつかするから──」

 

 やっとバイブが停止する。

 あゆみは、前を進む真夫の背中に向かって悪態をつく。

 電車の中から、ずっとこの意地悪を続けているのは、この真夫なのだ。

 

「そうですか。だったら、もう動かしません。動かして欲しくなったら言ってください」

 

 真夫がうそぶいた。

 しばらく、街中を歩き続ける。

 あゆみには、この辺の土地勘がないので、公園とやらがどれくらい距離があるのかわからない。

 だが、なんとなくだが、わざと遠回りをしながら進んでいる感じさえする。

 いや、そうだ。

 ぐるぐると街中を歩いているうちに、あゆみは少し前に見た場所と同じ通りを進んでいることに気がついた。

 

「お、同じ道を歩いてるわよねえ──?」

 

 思わず怒鳴る。

 だが、その抗議の声が大きかったのだろう。

 すれ違っていた見知らぬ者が視線を向けたことに気がついた。

 あゆみは慌てて口をつぐむ。

 

「まだ、時間があるんですよ。だから、夜の街を散歩でもと思って」

 

 真夫が振り返って笑う。

 あゆみはかっとした。

 

「そ、そんなのいらないのよ」

 

「わかりました。じゃあ、公園に向かいましょう」

 

 真夫が笑った。

 だが、なかなか、その公園とやらにはつかない。

 そして、あゆみたちは賑やかな駅前から、緑の多い大きな公園の外壁に辿り着いた。

 

「入口はもう少し先です。行きましょう」

 

 さらに進む。

 あゆみは、さらに追い詰められていた。

 ずっと、バイブを振動されたり、愛撫を受けたりしていたので、しばらくなにも刺激のない時間をすごして、完全に刺激がなくなったいまの方がずっと苦悶が大きいということに気がついてきていた。

 振動をされたり、電車の中で痴漢の真似事のようなことをされているときは、ただ表情に出さないことだけを気にしていればよかった。

 だが、こうやって停止してしまうと、股間もクリトリスも切実なほどの焦燥感と、いまだに消えない掻痒感に見舞われ、股間の中のディルドを締めつけるくらいしかできない。

 

 つらい……。

 疼きが……。

 なによりも、痒みが……。

 

 そして、便意……。

 どんとんと強くなっている。

 脂汗が全身に垂れ流れ続ける。

 

「入口です。行きましょう」

 

 みんなで公園の中に入っていく、

 日曜日の夜であるが、まだ夜になったばかりの時間であり、幾つかのベンチには、見知らぬ男女たちふたりの姿もちらほらと見える。緑の多いかなり広い公園だ。

 やがて、あゆみは、公園を周回する遊歩道の一角に連れて行かれた。

 遊歩道に沿って、公園灯が点在しているが、その公園灯を背にするように立たされる。

 そして、あゆみの手首に手錠を残したまま、左右の京子とかおりが手錠を外し、それを公園灯のポールに巻きつけるようにして、あゆみの背中側で接続された。

 

「ちょ、ちょっと」

 

 あゆみはびっくりした。

 ポールを背にして、後ろ手に手錠で拘束されてしまったのである。

 

「じゃあ、ここでしばらく待っていてください。俺たちは準備をしてきますので」

 

 そして、真夫たちが立ち去る素振りを示す。

 あゆみはびっくりした。

 

「な、なに言ってんのよ、嘘でしょう。ここにひとりで残す気──?」

 

 慌てて追い掛けようとするが、ポールに繋がれている手錠がそれを許さない。

 

「大丈夫ですよ。サッカーの応援に行っていた組と駅で合流することになってるんです。集まることができれば、戻ってきますから。そのときには、股間とアナルのもの外してあげますよ、それまではひとりで愉しんでいてください。」

 

 真夫がポケットからスマホを出して、なにかの操作をした。

 次の瞬間、アナルに衝撃が走った。

 

「うあっ、やめてよ──」

 

 アナルに挿入され、切迫している便意を辛うじて堰き止めているアナルストッパーが突然に振動を開始したのだ。

 まさか、そこも動くとは思わなかっただけに、あゆみが受けたショックは大きかった。

 

「こっちもサービスです」

 

 そして、前も振動を開始する。

 

「ひいいっ」

 

 あゆみは太腿からふくらはぎまでの筋肉をぴんと張りきらせて、必死でしゃがみ込むことを耐えた。

 

「や、やめてくださいまし──。お願い──」

 

「頑張ってね、あゆみ」

 

「じゃあ」

 

「が、頑張ってくれ」

 

 かおり、玲子、京子が代わる代わる声をかける。だが、助けてくれそうにない。

 

「動かないで待っていてください。まあ、動けないでしょうけど」

 

「また、会いましょうね」

 

 真夫と恵も声をかけてくる。

 そして、五人がいなくなる。

 あゆみは、本当に夜の公園に置いてきぼりにされてしまった。

 

「くっ、くっ……」

 

 あゆみは手錠の嵌まった後ろ手の拳を痛いほど握りしめた。

 掻痒感と焦燥感に襲われている股間を襲う振動の快感と、そして、激しい便意に耐えなければならないのだ。

 

 だが、最初のショックが収まると、あゆみはだんだんと忘れていた性感がじわじわと炎のように昂ぶっていくのを感じ始めた。

 そこに巨大な便意が襲い続ける。

 そのアナルの内側をアナルディルドで激しく掻き回される……。

 

 地獄だ──。

 

 あゆみは朦朧とさえなる苦悶の中で思った。



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 第185話 公家令嬢の苦闘~私はマゾ

 いつまで経っても、真夫たちはなかなか姿を見せなかった。

 夜とはいっても、まだ早い時間である。

 公園の遊歩道も、まばらではあるが、それなりに人通りもある。

 犬の散歩だったり、ジョギングをしたり、あるいは公園を横切ってただ通り過ぎる経路として使う通行人とか、とにかくいろいろだ。

 

 あゆみが取り残されてしまった公園灯は、公園の外壁に近い奥まった樹木に囲まれた場所だったが、明るい灯の真下なので、どうしても目立ってしまう。

 だから、遊歩道側に背を向けるように立っていようと思ったが、ふたつの手錠を使って、灯のポールに両手を背中側で拘束されているので、そうすると手錠を見られてしまうことになる。

 仕方なく、あゆみは両手の手錠をポールの後ろに隠して、遊歩道側に身体を晒すように立っているのだ。

 

 そんなには多くはないが、通り過ぎていく者たちは当然にあゆみの姿に身性を向けてくる。

 なにしろ、異様なほどに短いワンピースから生脚を剥き出しにした女が汗びっしょりの姿で身体を震わせながら立っているのだ。

 便意だけでなく、前後で振動する淫具と戦うあゆみの姿は、他人からはさぞや滑稽に違いない。

 こんな目にあゆみを遭わせている真夫を恨めしく思った。

 

「くっ、ううっ、ゆ、許さないからね、あの変態少年……」

 

 あゆみは後ろ手の拳を力一杯に握りしめながら呟く。

 便意も、淫具の振動も、あゆみをとことん追い詰めていった。

 あゆみは、俯いて歯を喰いしばりながら、必死で真夫たちが戻るのを待ち続ける。

 

「おっ、こんなところで、なにしてんだ、あんた?」

 

 そのときだった。

 急に前から声を掛けられて、あゆみは驚いて顔をあげた。

 はっとした。

 三十前後の男たちふたりだ。

 酒が入っているのか、ふたりとも身体から酒の匂いがする。

 

「な、なによ、あんたたち? 放っておいてよ」

 

 あゆみはふたりを睨みつけた。

 

「随分と可愛いねえ。よければ、カラオケでもいかねえか?」

 

「奢るぜ。ちょっとばかりいいだろう」

 

「行かないわよ。人を待っているのよ。もうあっちに行って──」

 

 あゆみはきっぱりと言った。

 顔立ちがよく、スタイルもいいあゆみは、実家の京都では旧公家という権威に守られているが、こっちで大学や街に出れば、いまのように男たちから声を掛けられるのは日常茶飯事である。

 しつこい誘いを手っ取り早く追い払うには、強気に拒絶するのが一番だということは経験で知っていた。

 それはともかく、いまでもスカートの中では荒々しい便意が襲い続け、前後で淫具が振動をしている。口を開けば、声におかしな嬌声が混ざりそうで怖い。

 なによ、こいつら……。

 さっさとどっかに行け──。

 

「随分ときれいな脚だなあ。なあ、(ねえ)ちゃん、触っていいかい?」

 

 だが、この男たちは随分としつこかった。

 そして、唖然とすることに、ひとりがあゆみの前にしゃがみ込み、スカートを下から覗くような仕草をしてきた。

 あゆみは仰天した。

 

「ち、近寄るんじゃないわちよ──。警察、呼ぶわよ──」

 

 怒鳴りつける。

 

「へえ……。警察を呼ぶのかい? いいぜ、呼びな。だけど、そのときには、あんたも説明しないとならないな。そのポールに手錠で繋げられんだろう?」

 

 しゃがんでいた男が急に立ちあがって、いきなりあゆみの背中に手を伸ばしてきた。

 

「きゃあ、なによ──」

 

 逃げようとするが、手錠で繋げられているのでそれもできない。

 その男は、拘束されているあゆみの手錠を掴んで、後ろに引っ張った。あゆみは背中をポールに押しつけられたかたちになる。

 男の息が顔にかかるほどに接近した。

 さすがに全身に恐怖が走る。

 

「いやいや──。離して──」

 

「うわっ、なんだ、それ? なあ、あんた、なんでこんなことしてんの? 本当に手錠じゃねえかい。警察呼んでやるよ」

 

 もうひとりが大笑いした。

 そして、本気なのか、揶揄うだけなのかわからないが、内ポケットからスマホを出して、どこかに連絡をする素振りをする。

 

「ちょ、ちょっと放っておいてって、言ってるでしょう──。どこか行きなさいよ──」

 

「じゃあ、なんで手錠を掛けられてんだよ」

 

「う、うるさいったら──。こ、これはプレイよ──」

 

「プレイ?」

 

 ふたりがげらげらと笑う。

 あゆみは歯を喰いしばりながら、顔を俯かせる。

 

「プレイかい。じゃあ、なにをされてもいいんだよな? そういう遊びだろう?」

 

 背中側で手錠を掴んでいた男があゆみのスカートの裾の前側を握る。

 あゆみは驚愕した。

 

「おい、待て。ゆっくりとやってくれ……。SNSにあげようぜ」

 

 もうひとりがスマホを構える。

 録画だ──。

 撮影するの──?

 

「ふざけないで──。やめなさい」

 

 あゆみは必死でスカートから男の手を振りほどこうとするが、拘束されているのでできない。

 とにかく、スカートの中を隠そうと、片方の足を曲げてあげる。

 

「ほらほら、もっと抵抗しな。さもないと、スカートあげちまうぞ」

 

「抵抗しても、まくるけどな」

 

「やめなさい──。スカートに触らないで──」

 

 あゆみは悲鳴をあげた。

 

「そこまでだね」

 

 そのとき、やっと真夫が現れた。いつの間にか、あゆみの正面側の男ふたりの背中側に立っていた。

 ひとりだ。

 ほかの女たちはいない。

 よく見ると、息が荒いし、額にちょっと汗をかいている。もしかして、慌てて走ってきたのだろうか。

 また、前後で暴れ続けていた淫具の振動がとまる。

 それについてはほっとして、思わず脱力しかけた。

 

「ほんと、ごめんなさい。ちょっと調子に乗りすぎたかな……。最初に俺を襲ったお仕置きにちょっとばかり怖がらせようと思ったけど、ここまで危ない目に遭わせるつもりはなかったんだけよね」

 

 真夫が申し訳なさそうに言った。

 一方で、ふたりの男は突然の真夫の登場に驚いた顔をしたが、すぐに怒りで顔を真っ赤にあっせた。

 

「な、なんだ、小僧?」

 

「見た通り取り込み中だ。どっかに行きな」

 

 ふたりが真夫に向かって振り返る。

 さらに、興奮した状態のまま、真夫に掴みかかるような仕草を見せた。

 

「真夫さん──」

 

 あゆみは声をあげた。

 だが、真夫と視線を合わせた途端に、男ふたりは突然に気が抜けたみたいになって、なぜか棒立ちになってしまった。

 真夫の身体を掴もうとしていた腕も、いまは力なく体側にだらんとなっている。

 また、こっちからは半身になったひとりの男の横顔しか表情がわからないが、表情を失った能面のような顔だ。もうひとりはこっちに完全に背を向けているので、まったく顔は見えないが、ふたりとも突然に大人しくなり、ぼうっとなっている。

 

 えっ?

 なにかしたの?

 あゆみは当惑した。

 

「怖かったですか、あゆみさん。でもスリルはあったでしょう?」

 

 真夫がスマホを構えていた男からそれを取りあげる。

 だが、それについても、どちらの男も抗議もしなければ、抵抗もしない。ただ、真夫がスマホを操作するがままに任せている。

 これは異常だ。

 どうして?

 だが、真夫がスマホを返して、ぽんとふたりの肩を叩くと、まるで憑き物でも落ちた感じで、そのまま無群でふたりとも立ち去っていく。

 あゆみは呆気にとられた。

 

「いまのは、どういうことなの?」

 

 ふたりが完全にいなくなると、あゆみはやっと我に返って真夫に訊ねた。

 

「気にしないでください。大丈夫ですよ。いまのことは男たちの記憶にも残ってません。撮影もされてませんでした。まあ、柚子が向こうで改めて点検してくれると思いますけどね……」

 

「柚子?」

 

「あゆみさんの先輩奴婢ですね。歳は下ですけど。学園の一年生です」

 

「一年生って……。近くにいるの?」

 

「みんないますよ。頼んで遠巻きにしているだけです……。だけど、さっきは危険はないからって大見栄切って、ひとりでここにきて、あいつらに掴まれそうになってしまったから、あとでまた玲子さんやあさひ姉ちゃんに叱られるかな」

 

 真夫が頭を掻く。

 意味不明だ。

 どういうこと?

 

「それよりも、あゆみさん、そろそろ便意が限界なんじゃないですか?」

 

 真夫がポケットからふたつの鍵を出してあゆみに見せる。

 あゆみは、はっとした。

 

「早く、外して、トイレに──」

 

 すでに切羽詰まっている。

 あゆみは声をあげた。

 

「わかりました。じゃあ、準備をしましょう。まずは貞操帯を外しますか」

 

 真夫がミニスカートに手を伸ばしてきた。

 

「ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってよ」

 

 反射的に、あゆみは身体をよじる。

 いま便意を辛うじて我慢できるのは、アナルにアナルストッパ―を押し込まれているからだ。

 貞操帯を外されるということは、それも抜かれるということに違いない。

 そんなことをされれば、この場で大便を漏らしてしまうだろう──。

 

「どうしてですか? 外さないと出せないよ」

 

「い、いまは外さないで──。トイレで外して──」

 

 あゆみは悲鳴をあげた。

 

「いいや、外すのはここでだよ」

 

 貞操帯の電子ロックが解除されたのがわかった。

 がちゃんと音がして、貞操帯の締めつけが緩んだのだ。

 真夫が貞操帯を持って、ディルドとアナルストッパ―を引き抜いていく。

 排便の恐怖でどっと背中にが冷たくなる。

 まだ、両手は手錠で公園灯のポールに繋げられたままだ。

 抵抗はできない。

 

「くうっ」

 

 あゆみは歯を喰いしばる。

 やがて、完全に後ろのアナルストッパ―も引き抜かれた。

 懸命にお尻の筋肉を締めつける。

 

「これは置いていきましょう。もう必要ありませんし」

 

 真夫が少し離れた位置にある木製のベンチの上に、あゆみから引き抜いたばかりのディルド付きの貞操帯を放る。

 

「なに言ってんのよ。置いていくな、あほっ」

 

 自分が汚した淫具をあのまま置いていくなんて冗談じゃない。

 一方で、真夫がやっと、あゆみが公園灯のポールに巻かれて嵌めていた手錠を外した。二本の手錠で繋がっていたが、とりあえず、その接続を外したのだ。

 まだ手首に手錠は残っているが、あゆみは真夫の手を振りほどき、慌てて貞操帯をベンチの上から回収した。

 すると、がちゃんと音がして、左手首に残っていた手錠の反対側をベンチに繋げられてしまった。

 あゆみは唖然とした。

 

「なによ? どうして、また嵌めたのよ?」

 

 なんのことはない。

 やっと公園灯から離れられたのに、今度はベンチの背もたれと繋げられてしまったのだ。

 しっかりと、ベンチの背もたれの縦材に掛かったので、今度はベンチから離れられなくなってしまった。

 あゆみは、呆然と真夫を見た。

 

「トイレに行きたければ、ここで裸になってください。さもなければ、ここですることになります」

 

「ど、どうしてよ。なんで、トイレに行くのに、裸になるのよ」

 

「隠れていますけど、ちゃんと俺の女たちが周りを見張ってます。裸になっても、ほかの人に見られることなく、トイレには行けます。どうやって、人が近寄らないようにしているかは教えませんけどね」

 

「答えになってないわよ──.い、いやよ──。こんなところで、裸になんてなれない──。この公園のトイレって、どこにあるのよ」

 

 あゆみには、このあたりの土地勘はないので、当然に、ここの公園のことは知らない。

 裸になったとして、どれだけ移動しなければならないのか。

 人が来ないようにしているって、どういうことなのか──。

 いや、どっちにしたって、ここで全裸になって、公園を歩くなど不可能だ。真夜中でもない。まだかなりの人間がいる公園だ。真夜中でも無理だが……。

 

「む、無理よ」

 

「わかりました。それがあゆみさんの選択なら、それでいいでしょう」

 

 すると、真夫がぱちんと指を鳴らした。

 

 えっ?

 

 なぜか、突然に身体が硬直したように動かなくなる。

 

 どうして──?

 どういうこと──?

 

 まるで金縛りになったかのようだ。

 口も舌も動かないので、声さえ出せない。

 

 催眠術?

 いや、そんなものじゃない。

 まるで魔法にでもかけられたみたいに、突如として身体が動かなくなった。

 あゆみはどっと背中に冷たいものを感じた。

 

「じゃあ、限界まで頑張れるようにおまじないです」

 

 真夫がポケットから一個のイチヂク浣腸を取り出して、あゆみの顔の前に示した。

 あゆみ眼を見張る。

 まさか──。

 

 だが、そのまさかだった。

 真夫はあゆみの目の前でイチジク浣腸のキャップを外して準備を整え、なぜか身体が動かないあゆみの背後にまわって、お尻にイチジク浣腸の先端を差し入れた。

 じゅるじゅると薬液が注入される。

 ただでさえ限界に陥っているところに、追加の薬液だ。

 あゆみは全身の肌を粟立たせてしまった。

 

「トイレに行きたくなったら、服を脱いでください。それか、ここで排便するかです」

 

 真夫が再び指を鳴らす。

 金縛りがなくなり、身体が自由を取り戻したのがわかった。

 それはともかく、いまはこの便意だ。

 追加の薬液まで注がれてしまったあゆみは、もう体裁に構っている余裕はない。

 

「こ、この鬼──。あんた、どこまで鬼畜なのよ──。トイレよ。もう漏れるの──。トイレに行かせて──。お願いだから」

 

「だから、何度も同じことを言わせないでください。好きなようにしてください。ここでするか。それとも、裸になるかですよ」

 

 真夫がスカートの中に手を入れ、貞操帯がなくなってなにも遮るものがなくなくなった股間に触れてきた。

 

「ひいいいっ、やめええ」

 

 びっくりして、拘束されてない右手でそれを阻止しようとした。

 だが、簡単にその手首を掴まれてしまう。

 股間の亀裂をゆっくりと指で愛撫される。

 

「ひあああっ、だ、だめええ。漏れちゃうう」

 

「なんだ、あゆみさん、びしょびしょじゃないですか。これは媚薬のせいだけじゃないですよね。やっぱり、あゆみさんはマゾなんですよ。こういうことが好きなんです」

 

 真夫が愛撫をしながら笑う。

 あゆみは必死に腰を動かして淫らな指を避けようとするが、左手と右手を手錠と真夫の手で拘束され、切迫した便意のために大きな動きもできない。

 せめて、懸命に内腿に力を入れて、真夫の指の侵入を防ごうとした。

 

「わ、わかったから──。脱ぎます。脱ぐ──」

 

 これ以上の我慢は不可能だ。

 もう数分ももたないだろう。

 真夫が手を離す。

 あゆみは自由になった片手でワンピースから片腕を抜き、頭から全部を抜いた。手錠が掛かっている側に集まったワンピースを真夫がベンチから手錠を外して抜く。

 身体にはパンプスが残っているだけだ。

 

「ひんっ」

 

 全裸になったあゆみはその場にしゃがみ込んだ。

 すると、再び後ろに回った真夫がベンチから外した手錠の反対側をあゆみの右手首に背中側で嵌めてしまう。

 さらに、首に掛けられている銀製のチョーカーに細い鎖を繋いだ。

 銀製のチョーカーは真夫の奴婢になるとホテルで誓ったときに嵌められたものだ。ほかの奴婢たちにも同じものがあり、真夫という少年の性奴隷になった証らしい。

 

「立つんです。行きますよ」

 

 真夫が鎖を引っ張って、あゆみを立たせる。

 抵抗できない。

 抵抗する気もない。

 

 もうもたない。

 早くトイレへ……。

 もうそれしか考えられない……。

 

 あゆみは、鎖に引かれるまま、よろよろと脚を進める。

 便意が崩壊する予兆を感じる。

 だが、はっとした。

 真夫はあゆみから脱がせたワンピースをベンチに置いたままだ。ディルド付きの貞操帯もそのままである。

 

「ま、真夫さん、服を忘れてます」

 

 あゆみは鎖で引っ張らるまま、真夫にささやく。

 

「トイレに行きたいなら、大人しくついてくることです。これが調教です」

 

「くっ、こ、この変態──」

 

「これで興奮しているあゆみさんも同じですけどね。愛液が脚に垂れてますよ」

 

「嘘よっ」

 

 真夫は歩みをとめない。どんどんと遊歩道側から離れて、樹木のあいだを抜けて、中央広場らしき場所に向かう方向に進んでいく。

 

 悪夢だ。

 

 夜とはいえ、素っ裸で犬のように首輪に鎖を付けられて、野外の公園を歩かされているのだ。

 

 本当に見られることはないのか?

 本当に見られてないのか?

 もう神経が焼き切れそうだ。

 

 怖い──。

 怖いよ──。

 

 あゆみは歯を喰いしばっていた。

 全神経をお尻の一点に集中している。

 でも、こんなんで感じてる──?

 いや、ふと見れば、乳首は痛いほどの張りでそそり勃っているし、さっき真夫に指摘されたとおり、二本の太腿の内側は、自分でも否定できないほどの愛液でいびただしく濡れてもいた。

 

 感じている?

 いや、感じている。

 

 公園で無防備な全裸を晒させられ、便意に追い詰められながら犬のように首輪を引かれて歩く……。

 これほどの屈辱と羞恥を味わいながら、本当に自分は感じているのだ……。

 

 マゾ……。

 わたしはマゾ……。

 

「トイレまではもう少しです。でも、少し燃料給油と行きましょうか」

 

 真夫が横にあった樹木の幹にあゆみの首輪に繋がっている鎖を巻き付けた。

 

「はあっ?」

 

 巻きつけられた位置は、あゆみの腰から少し上くらいの高さである。そこに長さの余裕がない短さで鎖を巻かれて、あゆみは顔を樹木の幹に着けて、腰を引いて後ろに突き出した体勢に無理矢理に取らされてしまった。

 両腕は背中側で手錠をかけられている。

 その腰に回った真夫があゆみのお尻の両側に手を添える。

 

「な、なにやってんのよ、あんた──?」

 

 あゆみは驚愕して声をあげた。

 真夫が背後でズボンをおろす気配がしたのである。

 

「さすがに大声は出さない方がいいですよ、あゆみさん。見物人を集めたければ別ですけどね」

 

 真夫がお尻の下に怒張を滑らせて、股間に性器の先を迫らせてきたのがわかった。

 

「む、無理いい──。もう無理いい」

 

 便意も、多分最後のうねりに近いだろう。

 絶対に漏れる──。

 

「我慢しきったら、トイレに連れて行ってあげますよ」

 

 真夫の怒張が後ろから挿入され、すぐに律動が開始される。

 

「んんぐうっ」

 

 あゆみは必死に歯を喰いしばって、口から漏れ出そうな嬌声を呑み込む。

 容赦のない律動だ。

 余程に濡れていたのか、なんの前戯もないのに、あゆみの耳にはっきりと水音が聞こえるほどにあゆみの股間は濡れほぞっていたようだ。

 

「あっ、ああっ、んんっ、んんんんっ」

 

 凄まじい快感だ。

 あゆみはあっという間に、自分が昇り詰めていくのを感じた。



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