大嫌いな貴女へ (赤い箱)
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無印:前世のない少年
嫉妬


 

 ――何故お前だけが。

 

 彼は己の目の前にいる少女を見る。

  

 ――何故俺だけが。

 

 彼の瞳は憎悪と嫌悪に塗りつぶされていた。

 彼の全身を纏う黒い影は彼の心の中を表すような漆黒の闇そのものだった。

 

 彼の足元にはおびただしい量の血か流れている。

 しかしその血だまりは彼の血ではなく、地面に突っ伏して倒れている少女の物だった。

 

「高町なのは……」

 

 少女の名前を呟く、その声から発せられる感情は殺意とも虚無とも。

 

 渇望とも取れた。

 

「死ね、お前など死んでしまえ」

 

 彼は心からそう思った。

 

 

 

 

 黒神冷都は天才である。

 だが彼の人生には苦戦や敗北はいくつもあった、だがそれは彼の性格を変える程の出来事ではない。

 彼は傲慢であった。傲慢で不遜で人を見下さずにはいられない、自分を認めない自分を見下す人間を

彼は極度に嫌っていた。

 

 だが彼のそんな性格を知る物は誰も居ない、何故なら。

 

「よう! 冷都、もうすぐサッカーの試合があるんだ。見に来てくれよ!」

 

 活発そうな少年が冷都に声をかける、だが冷都は無表情に。

 

「断る、妹に買い物を頼まれてるんだ」

 

 と返した。

 

「そっか……、じゃあ仕方ねぇな! また今度さそうから!」

 

(私はお前の誘いに乗った事なんてないだろう)

 

 彼はヒーローだったからだ。

 ヒーローと言っても学内での話、彼の冷たい言動を彼らは何故か誤解し。

いい奴だと勘違いされ続けた結果、冷都はいつの間にか学校のヒーローになっていた。

 

 だが彼もそんな風に持ち上げられ、評価されることには気分を良くしていた。

 クラスでもトップの成績を維持し運動神経抜群。おまけに顔もイケメン。

 

 当然彼を嫉妬する人物も現れる、だが冷都はそんな者たちにも天然な言動で解決し。

今では唯一無二の親友と言われるほどの仲となった。

 もっとも冷都本人は、彼らの事を有象無象の一人としか認識してはいないが。

 

「兄貴、居るか?」

 

 冷都よりも少しだけ身長の低い少年が扉を開けて入って来る。

 少年が冷都を見ると、手を振ってくる。 

 

「ああ、帰ろう。光」

 

 その少年は彼の弟だった、冷都は教科書を鞄にいれ背負うと一緒に教室から出て行った。

 

 学校の外に出ると、冷都は一人の少女を見た。

 茶色い髪のツインテールの少女だ、その少女は二人の友達と談笑している。

 

 特に気にする事でもない、彼ほどの男が関心を示すほど興味のある話をしていたわけでもない。

 だが冷都は彼女をただただ無表情で見ていた。

 

「兄貴? どうかしたのか?」

「いや、帰ろう」

 

 光の声で我に返ると、冷都と光は家に帰った。

 

 




私はなのはちゃんの事を嫌いなわけではありません。


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 窓から出る日差しが彼の部屋に入る、冷都はベットから出るとカーテンを開ける。

 いつも通りの朝だ。

 

(妙な夢を見た)

 

 彼の名前は黒神冷都、私立聖祥大学付属小学校に通う小学4年生。

 黒神家においては三人兄弟の長男。

 

「……」

 

 リビングには誰も居ない、当たり前だ。日が既に登っているとはいえまだ5時半。

 よっぽどの早起きでも無いと、こんな時間に子供は起きていないだろう。

 

「仕方がない」

 

 冷都はエプロンを付けると台所に立つ。

 料理をし始めるとその匂いに誘われたのか長身の男性がリビングに入って来る。

 

「おおー、いい匂いだな。何作るんだ?」

「ベーコンエッグとサラダだ、皿を用意してくれ盛り付けたい」

 

 この男が冷都の父、黒神浩二。

 警察官を職業としている、一家の大黒柱。

 

「父さん、早く風呂に入って来て。あと光と木葉も起こしてきてくれ」

「俺が起こさなくても、もうすぐ起きて来ると思うぞ?。ほら」

 

 浩二が人差し指を立て二階を指差すとドタドタと騒がしい音がなる。

 それを苦笑いしながら浩二は冷蔵庫から出したコーヒーをカップにいれて一気飲みする。

 

「じゃあ風呂入ってくるか」

 

 そう言ってリビングを出て行くと同時に庭の窓が開く。

 窓から入ってきたのは光だった。

 黒神光、冷都と同じ学校に通う小学三年生。

 父親から教えを受け剣術を習っており、庭にある道場で暇があれば修行をしている。

 

「おはよう、兄貴。いい匂いだな!」 

「おはよう! 兄さん!お兄ちゃん」

 

 騒がしい音を鳴らす原因の少女がリビングに入ってくる。

 黒神木葉、こちらも同じ学校に通う小学一年生。

 元気だけが取り柄と自称する、黒神家一番の元気っ子。

 

「お前らも早く風呂に入ってサッパリしてこい、朝食が冷めるぞ?」

 

 

 

 朝食を済ませ、冷都達は少し早いが学校へ向かう。

 途中見覚えのある白い髪の少女に話しかけた。

「青葉、おはよう!」

「冷都、おはよう。それと光と木葉もおはよう」

 

 白い長髪の少女、白井青葉。

 小学三年生で光のクラスメイト、華奢な見た目だが運動神経抜群の天才児。

 

「みんな早いわね、学校まだ開いてないんじゃないかしら?」

「ならお前も来てくれ、話し相手は多い方が良い」

 

 冷都の提案に青葉は苦笑いする。

 光と木葉は顔を見合わせて、もしかしてという表情をする。 

 

「兄貴と青葉ってほんっと仲いいよな~、もしかしてそういう事ですか~?」

「兄さん、青葉さんみたいな人が好みなの? まあでも確かに青葉さんすっごく美人だからな~」

 

 二人はニヤニヤした表情を浮かべながら、怪しむ。

 二人の勘違いに、冷都は呆れたような顔をする。

 

「青葉はただの友人だ、それ以上でもそれ以下でもない。馬鹿な勘繰りは止めろ」

「まあだろうな、兄貴が恋とか想像つかねーし」

「そうかな~、意外と好きな人には一途になるタイプかもしれないよ?」

 

 二人の失礼な発言にも怒る事は無く、二人を無視して冷都は青葉に早く準備して来い急かす。

 学校に着いた頃には校門は開いており、まだ人は少ないが生徒が登校して来ている。

 

「なんだ、意外と来てるじゃないか」

 

 冷都達は別れて自分達の教室に向かった。

 

 




まだいい子に見える主人公。


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もしかしたら

勘違い系の本領発揮!


 

「なあ兄貴、将来の夢とかあるか?」

「なんだ藪から棒に」

 

 昼休み、黒神家三兄弟は一緒に食事を取っていた。 

 光の脈絡のない話に冷都は困惑する。

 

「ふむ、お前は何になりたいんだ?」

(どうでもいいな)

 

 興味がないのか、逆に光に問い返した。

 将来の夢などこの男にとっては無価値でしかなく。

考える気すら起きないほどどうでもいい内容なのだ。

 だが光は兄がそんな事を考えていることなど夢にも思わず

真面目に何になりたいかを考えていた。

 

「うーん……、ごめん。やっぱり何も浮かばねぇや!」

 

 苦笑いして頭をかく、木葉もそんな光に苦笑するが。

 冷都だけは無表情だった。

 もっとも彼はほぼ四六時中無表情だが。

 

「別にいいだろう」

 

 冷都はそんな光の言葉を肯定する。

 

「お前も私もまだ子供だ、焦る必要はない。いつか

決めねばならない日が必ず来るだろうが。今はそれでいい」

 

 良い事を言っているように聞こえるが、実際には

 

(は? 私よりも先に未来の事を考えるなど傲慢不遜も甚だしい。身の程を弁えろ)

 

 と言いたいが、心の中にとどめておく事にした。

 どちらにせよ、この男。良く見えるのは外面だけである。 

 

 

 放課後。

 鞄を背負った光と木葉が冷都の居る教室に来た。 

 

「兄貴ー! 一緒に帰ろうぜ!」

「構わないが、木葉も一緒か。友人と帰らないのか?」

「兄さん、私今日は塾があるって忘れたの?」

 

 木葉は小学一年生ながらも塾通いである。

 光と冷都は頭が良く、天才と言われるほどの知能を有するが。

妹の木葉は特別頭が良い訳ではない。運動神経は光を超えているが知能の差は大きく。

良く冷都から勉強を見てもらっている。

 兄と同じ学校に通いたいのと、兄弟に恥じない成績を維持するためである。

 

「そういえば、そうだったな」

「もう、あ! そうだなのはさん達も一緒なんだけど」

 

 木葉からその名前を出された瞬間、冷都は腸が煮えくり返るほどの憎悪と嫌悪に襲われた。

「……」

「兄さん? どうかしたの? 何処か具合が悪いの?」

 

 急に固まった兄を心配して、冷都に呼びかけた。

 

「いや、大丈夫だ。気にするな」

 

 幸運にも表情には出なかった、四六時中無表情なのが幸いして。

自分の本性を妹に知られる事はなかった。

 

「保健室行く?」

「ああ、そうだな。お前達は先に行っていいぞ」

「俺が一緒に行こうか?」

 

 光も冷都を心配して着いて来ようとする。

 

「安心しろ、まだ明るいとはいえ女だけで歩くのは危険だ。

お前が途中までついて行ってやれ」

「兄貴ー、こんな時にまで紳士発言しなくても……」

 

 光は他人まで気にする兄の気遣いに不満な様子を表す。

 

「もう少し俺等を頼ったって良いんだぜ?」

 

 兄の冷都は他人を気遣うだけで自分の心配なんてほとんどしない。

 自分たちが不甲斐ない所為であり、もっとしっかりしなければと思う一方。

もう少し自分達を頼って欲しいと思う。

 そうして光がどうしようかと悩んでいると。

 

「なら私が連れて行くわよ」

「え」

「青葉! そう言えばお前は塾には通ってなかったな」

「いや、一人にしてほしい……」

 

 青葉が教室に入って来て、自分が連れて行くと言う。

 冷都は一人にして欲しいんだけどと言う目をしているが。

悲しいかな、誰もそれに気づかなかった。

 それどころか。

 

「そんな風に見ないでよ、それに知ってるでしょ? 私結構喧嘩は強いのよ?

暴漢ぐらい返り討ちにしてやるわ!」

「おおー!」

 

 青葉の漢らしい発言に、木葉は手を叩く。

 

「漢らしいですね!」

「せめて、カッコいいって言ってくれない?」

 

 木葉の純粋な言葉にちょっと傷つく青葉、それを皮切りに。

 

「じゃあ俺も! 何時も冷都には世話になってるからな!」

「私も行くー!」

「こらこら、そんな大勢だと冷都君が迷惑でしょう。代表して僕が行きます」

「てめーも心配って言え、この意地っ張り!」

 

 教室に残っている同級生全員が手を挙げて冷都を連れて行くと言い出した。

 冷都はこめかみを抑え、青筋を隠す。

 

「兄貴って人気者だなー!」

「ねー!」

「……」

 

(一人になりてーんだよ……)

 

 この教室に、冷都の心の中を読める者はいなかった。

 




はやくアクションに入りたいけど、なかなか入れない。



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他人から見たヒーロー

モブ視点から見た冷都君の印象です。


 人はみんな平等じゃない、生まれや才能。家柄や親。

性格から顔にいたるまで。みんながバラバラだ。

 

 俺は世界中の人間の中のただの一人、アニメや漫画のモブ同然の男だ。

 最初の頃は俺もいつかテレビのスポーツ選手やメジャーリーガーみたいな

人間になるんだと勝手な将来を夢見たものだ。

 彼奴に出会うまでは。

 

「すげぇ! また冷都が一点入れたぞ!」

「やっぱり天才だよお前は!」

 

 黒神冷都、本物の天才というのは彼奴の事を言うのだろう。

 頭脳成績運動神経、その全てで上回る男。

 多分だけど、クラスメイト全員を集めても彼奴に勝てる奴はいないと思う。

 

 俺はサッカーが好きだった、何か特別な理由があった訳じゃない。

 親や友達勧められて、なんとなく始めて好きになった。

 その程度だ、でも俺はサッカーが好きだった。友人や親とボールを蹴るのが好きだった。

 それを続けていたら、俺はいつのまにかチームのキャプテンに選ばれていた。

 

 その時の俺は、慢心と呼ぶのだろう。

 自分がこの学校で一番凄い人間だと驕り高ぶっていた。

当然だ、俺にサッカーで勝てる奴はいない。俺には幸運にも才能があったんだ。

 だがそれが不幸でもあった。

 

 ある日の事だ、チームのメンバーの一人が別のクラスの奴を誘ってきた。

 同じ学年の冷都と名乗る男だ。俺はサッカーにしか興味がなかったから。

噂程度にしか聞いたことがないが、学年で入試試験で全て満点を取ったとか。

 俺は最初、ただのガリ勉野郎としか思ってなかった。

 

 俺は何となく其奴が気に入らなかった、だから少しだけいじめてやろうと。

一試合だけやらないかと言ってやった、相手のチームは素人同然。

 ずっと試合してきた俺たちに敵う訳ないのに、其奴は簡単にいいぞと言った。

 なめられてる、バカにされたと思った俺は徹底的に叩きのめしてやろうと思った。

 俺の浅はかな考えはすぐに破られた。

 

「10対0で俺たちの勝ちだ、本気でやると聞いたんだが?」

 

 10対10の試合、俺たちはただの一人の素人に負けた。

 負けた経験なんて腐る程ある、だがズブの素人に負けたことはなかった。

 俺のチームメンバーは凄い凄いと冷都を褒めちぎった。

 

 そして俺も、純粋に凄いと思った。

 

 負けた事は悔しかった、悔しくて悔しくて死ぬほど恥ずかしかった。

 俺はその後、冷都に直接聞いてみた。

 何をしたのかと、どうやったらお前みたいになれるのかと。

 

 そしたら其奴はこう言った。

 

「お前は俺の様にはなれない」

 

 それが俺の初めての挫折だった。

 人は生まれながらに平等じゃない、それを始めて教えられた日だった。

 そして俺は冷都に向かって思いの丈をぶちまけた、

お前みたいな凄い奴が嫌いだとウザいんだよと。

 自分がくだらない理由でサッカーを始めたのだと。

 今にして思えば、彼奴にとっては訳の分からない事だっただろう。

 彼奴からしてみれば自分勝手な因縁をつけられて迷惑だっただろう。

 

 だが泣き崩れて項垂れる俺に冷都は続けてこう言った。

 

「お前はサッカーが好きだから始めたんだろ? なんで誰かより上手くならなきゃならないんだ?

それに親や友達に誘われて好きになったって何処がくだらないんだ?」

 

 俺は心が洗われる様な気持ちになった。

 

「お前はサッカーが好き、それでいいだろう」

 

 其奴は太陽みたいな奴だった。

 

 

 

 




冷都くんの本音
「お前才能ないし凡人だから無理だろ」めっちゃ見下してます。

「サッカーなんてただの球技だし、遊べれば良くね?」小並感。


この事件の所為でこのモブ少年は冷都君の信者となりましたマル



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二人の兄

タグにもある通り、今回クロスオーバー要素があります


 全集中の呼吸、多量の酸素を血中に取り込むことで身体能力の向上を行う呼吸法がある。

 この世界にはない、全く異世界の技術である。

 

 本来ならこの技術は誰にも知られる事はなく、そもそも作られることも無かっただろう。

 彼が現れるまでは。

 

「スゥーーーーー、っけほ!?」

 

 山奥、木刀を持った青年。

 高町恭也、17歳。彼はそこに居た、彼は世間一般には知られていない特殊な剣術を使う。

 御神流というその剣術を極めるべく、彼は日夜厳しい修練に励んでいた。

 

 そこに一人の少年が訪れる。

 

「よくもまぁ飽きないものだ、そこまで行くと褒めたくなるよ」

 

 この物語の主人公、黒神冷都だ。

 

「お前が教えてくれたんだろ?」

 

 何故彼等が出会う事になったのか、それは二年前にまで遡る。

 

 

 二年前、冬。

 雪が降り積もる、寒い季節の事。

 

「ふ! はあ!」

「くっ!」

 

 現代と同じ場所、しかしそこは一面に雪に覆われた大地。

 恭也と恭也の妹、高町美由希は木刀を持ち。

 戦っていた。喧嘩ではない、修行である。しかし二人の戦いは

アクション映画と見紛うほど洗練され、見るものが見ればその美しい剣技に芸術すら感じるだろう。

 

 小太刀二刀御神流、極めた者は至近距離の銃弾すら回避し、100人の武術家とも渡り合えるという。

 

 だがその戦いは永遠には続かなかった。

 

「あら!?」

「隙ありだ、美由希」

 

 恭也は美由希の木刀を弾き飛ばし、頭を軽く木刀で叩く。

 

「うーん、敗けちゃったか~」

「そろそろ帰るか、母さんが夕食を作って待ってる」

「うん! わかった」

 

 美由希は木刀を竹刀入れに仕舞い背負うと、恭也も背後にある竹刀入れに木刀を入れる。

 

「そうだ、美由希。今日父さんに……美由希?」

 

 何かの用事を思い出したのか恭也が振り返っても美由希の姿が見えない。

 美由希が突然彼の前から姿を消したのだ。

 

「美由希! 何処にいるんだ!」

 

 妹を探す為に、気配を探て雪山を捜索するが影も形も見当たらない。

 

(どうなってる? あんな一瞬で俺の前から姿を消すなんて)

 

 一瞬恭也は神速を使ったのか? と疑問を持ったが直ぐに違うと判断した。

神速とは御神流にある特殊な歩法であり、超高速移動を可能にする技である。

だが恭也の動体視力を舐めてはいけない、神速を極めようと少なくとも

視覚で視認できないほど速い訳ではない。それに物音一つなく気配を消して

恭也の目を欺くなど並みの事ではない。

 その異常性に、彼は早くも気付いた。

 

「父さんに連絡を入れるか、美由希の携帯は……繋がらないか……」

 

 淡い期待を抱くも、無駄な事を即座に判断し。

 恭也は父の士郎に連絡を入れた。

 

 30分後、士郎は恭也の知らせを聞き雪山で美由希を捜索するも見つからない。

 

「父さん、はぁはぁ。そっちは?」

「駄目だ、足跡一つ見つからん。何処に行ったんだ?」

 

 二人は途方に暮れていた。 

 そんな時。

 

「こんな所に人とは珍しい、そんな薄着で寒くないか? 随分と慌てているようだが」

 

 士郎と恭也は声の方向に振り向く、そこには冷都が立っていた。 

 赤い気立ての良いコートを着た冷都は寒そうな二人を見て、小首を傾げる。

 士郎は何故こんな所に子供が一人と考えたが、美由希の事を優先した。

 

「君! この辺りに中学生くらいの女の子を見かけなかったかい?」

「三つ編みの女の子なんだが」

 

 二人の焦りを尻目に冷都は空を見上げる。

 

「実は俺も妹を探してるんだ、一緒に遊んでいたら急にいなくなってな」

「そうなのか?」

 

 恭也は意外な共通点を持った事に驚いた、だがそれよりも突然現れた少年も

目を離した隙にいなくなった事に驚く。

 

「君のお父さんかお母さんは?」

「仕事でいない、大丈夫か? 顔色が悪いぞ」

「ああ……大丈夫だ」

 

 恭也は美由希との手合わせや雪山を数時間歩いた所為なのか

疲弊が隠せずにいた。

 冷都は恭也に近づき足を触る。

 それを心配していると思ったのか、頭を撫でて大丈夫と言う。

 自分も妹が消えて不安だと言うのに、他人を心配する冷都を見て

優しい子だなと思う。

 

「大丈夫だ、一緒に妹を探そう。俺が探してい女の子も妹なんだ」

「そうなのか、偶然だな」

 

 それを淡々とした表情で聞く。

 

(気丈に振舞っているのだろう、不安そうな顔をしているのに)

 

 士郎は冷都の表情を読み取り、妹が心配でたまらないのだろうと考え。

すぐに探してやらないとと奮起した。

 だが士郎は大きな勘違いをしている、冷都は妹の木葉のことなど欠片も心配してはいない。

 

(雪山、ズボンは濡れるし。虫も多い。気持ち悪いな)

 実際には服や体が汚れることをだけを心配しているのだ、木葉が急に消える雪山を捜索する

破目になるなんて思ってもおらず不機嫌なだけだった。最低である。

 

 その直後、冷都の背後の茂みが突然揺れだし。

 何かが飛び出してくる。

 それに気づいた士郎は冷都を抱き寄せ、その何かから守る。

 

「なんだ!?」

「ん?」

 

 士郎と恭也は野生の獣が襲ってきたのかと思った、だがそれは獣ではなく。

 その何かは人間でもなかった、異形。

 そう呼ぶのが正しいのだろう。

 

 その姿は人のような形をしているが、決して人と呼べるものではなかった。

 

 人間の手にあたる部位は爬虫類の鉤爪のごとく鋭く。

 その体は子供の様に小柄ではあったが。

 顔にあたる部分は目も鼻も口もあるものの、人間とは呼べないほど醜く。

 その顔は敵意と残虐性にあふれていた。

 

「恭也!」

 

 士郎が声を上げるより先に、恭也は竹刀入れから木刀を取り出し。

 その異形に向けて振り下ろした、恐らく子の化け物が美由希とこの少年を攫ったのだろうと。

 無防備な少年を先に襲ったのだ、少なくとも敵には違いない。

 その考えの元、恭也は迷いなく木刀を振るった。

 しかし。

 

「なに!?」

 

 異形は木刀の攻撃を受け、叩き飛ばされるものの。

 すぐに立ち上がった、だが恭也が驚いたのはそこではない。

 木刀を異形に当てた瞬間、木刀がバキと音を立てて折れてしまったのだ。

 

 それも当然のこと、長年使って来たことによる消耗や経年劣化

などの要因が重なった結果だ。

 

 もしも木刀が新品同然のものであれば、この異形を倒すこともできただろう。

 だが悲しいかな、現実は彼に厳しかった。

 

「ギャアアアア!」

(まずい!)

 

 足が重くて思い通りに動かない、疲労と武器の損失。

 状況は絶望的だった。

 

「恭也!」

 

 士郎が叫ぶ、だが異形の攻撃の方が早い。

 

(すまない、美由希、父さん母さん。なのは……)

 

 後悔と悔しさを滲ませ、これから来るであろう衝撃と痛みを覚悟する。

 だが、恭也に鉤爪が振り下ろされることはなく。

 

 逆に異形の腕が切り飛ばされた。

 

「腹が立つ、貴様の所為で私のコートが汚れた。殺してやる」

 

 冷都の腕から、真っ黒な触手が伸びていた。

 

 

 




黒い触手はオリジナル能力です。


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マイナス

やっとアクションシーンが書けました。

あと主人公の能力のお披露目です。


 

「は?」

 

 恭也と士郎は突然の出来事に動揺を隠せずにいた、少年の腕から黒い触手が生える異常事態に誰が冷静でいられよう。

 その黒い触手は先端が鋭い刃物となっている、恐らくこれで異形の腕を斬り飛ばしたのだろう。

 

「君……、いったい……」

 

 士郎と恭也が少年の正体を探ろうとするが、直ぐに優先順位を改めた。

 

(いや、それよりも先に)

 

 あの異形の事だ、腕を切り離されたもまだ動いている。

 異形の腕は瞬く間に再生し、鋭利な爪をカチカチと鳴らして挑発する。

 

「再生した!」

「雑魚にしてはいい能力を持っている」

 

 冷都は黒い触手を剣に変え、構える。

 異形は信じられない速度で冷都に接近し飛び上がる。

 冷都は避けるそぶりも見せない、このままでは異形に切り殺されてしまうだろう。

 

「危ない!」

 

 恭也が叫んで、止めようとするが雪の所為で足が上手く動かない。

 

 ――影の呼吸

 

 壱ノ型 人影

 

「ギャッ!?」

 

 一瞬の時。

 異形の体は頭以外を、バラバラな肉の塊に変えられ呆気なく倒された。

 冷都は頭だけになった異形の額に剣を突き刺して目線を合わせる。

 

「言葉は理解できるか? 私の怒りがわかるか?」

 

 低い声で異形に語り掛けるその少年の目は、怒りに満ちていた。

 その理解したのかしていないのか、異形は自分の首を切り落とした少年に恐怖を覚え。

体があればガタガタと震えていたことだろう。

 

「腕は再生できても、体は再生できないようだな。再生には限度があるようだ」

 

 冷静に異形の特性を観察し、額に突き刺した剣は形状を変え。

その異形の頭を飲み込み。咀嚼するような動作をする。

 冷都は黒い剣を消滅させ、驚く恭也と士郎を尻目に何処かに歩きだした。

 

「……って、待て!」

「なんだ?」

 

 歩き出す冷都を止める恭也、まだ動揺しているものの。

 呼び止める冷静さは取り戻したようである。

 

「何処に行くんだ? それとさっきの黒いのはなんなんだ?」

「そんな質問は後にしろ、今は二人を探すのが優先だ」

 

 冷都がなまじ正論であるため恭也は反論できずに黙り込む。

 

(すっごい気になる……)

 

「二人が何処にいるのかわかるのかい?」

 

 士郎も冷都の力が気になりはしたが、家族を探すのが先決と思い

後回しにした。

 

「ああ、さっきの妖怪の記憶を見た。こっちで合っている」

「記憶を見る? いやそうだな。もういい、なんだか疲れた」

 

 恭也は考えるのを止めた。

 

 

 冷都の案内で2時間ほど歩いた場所には洞穴があり、その中には美由希と木葉が

透明な何かに閉じ込められていた。

 

「美由希!」

「恭ちゃん! お父さん!」

「兄さん!」

 

 感動の再会とは言えない、何故ならその前には先程の異形よりも2メートルはあるだろう巨体を

もった化け物が門番のように立ちはだかっていた。

 

「なあ、さっきみたいな剣って複数作れるか?」

「可能だ」

「二本くれ、できれば小太刀を」

 

 黒い小太刀を二本作りだして、恭也に渡す。

 

「ありがとう、父さんは下がっていてくれ」

「……済まない」

 

 恭也に頭を下げて士郎は大人しく後ろに下がった、冷都は士郎の体を見て所々に怪我が存在する事に気づいた。

先程自分に向かってくる異形相手に守ろうとした恭也とは違い、疲弊していなかった士郎が戦わなかった理由

がそれだ。

 

「随分と傷だらけな父親だ、まるで爆発でもあったような傷跡だな」

「透視能力もあるのか? それよりも先に此奴の相手だ!」

「ガアアアアアア!」

 

 雄叫びを上げ、威嚇する異形。

 オーガとでも名付けるそれは、真っ直ぐに二人の戦士に向かって行く。

 恭也はそれに対し、黒い小太刀を向ける。

 

「御神不破流の前に立った事を、不幸と思え」

 

 真っ直ぐに向かってくるオーガ、相手に体格差で負ける相手に対し真正面から受け止める気は恭也にはなく。

素早く背後に周り込んだ。

 だがオーガの狙いは恭也ではなく、一番弱そうな冷都から狙いを付け。その鋭い爪を振り下ろした。

 

「危ない! 避けて!」

 

 美由希が冷都に叫ぶが、冷都は動かない。

 恐怖で動けないわけではない、動く必要が無いのだ。

 

「ガア!?」

「……」

 

 振り下ろした巨大な爪を冷都の体から出た黒い盾が受け止めた、触手の形を変え

剣から盾の形に変えたのだ。

 オーガは隙だらけ、黒い触手を伸ばし先端を丸い盾にしたままオーガの脇腹を殴り飛ばす。

 

「!?!?!?」

 

 わけのわからない現象に、声にならない悲鳴を上げたオーガはそのまま吹き飛ばされ。

 背後からは恭也が迫りくる、その隙だらけな体を切り刻まんと。

 オーガがそれに気づいた時にはもう遅く、対処しようにも体が痛みで動かない。

 その正面から冷都も剣を構え、既に目前まで来ていた。

 

 正面と背後、挟み撃ちだ。

 

 ――御神流

 

 ――影の呼吸 壱ノ型

 

「―――!」

 オーガにはもうなすすべは無かった。

 

 ――虎乱

 

 ――人影

 

 二人の戦士『長男』には、誰も勝てはしない。

 

 




怖い、長男マジ怖い。


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長男

 

(綺麗だ……)

 

 恭也が冷都の動きを見た時、そんな感想が出た。

 まったく無駄のない動き、流れるような剣筋。異能と剣術の合わせ技。

 恭也はあまり人を素直に褒める事が無い、だがその時は。

 

「綺麗だった」

「は?」

 

 純粋な賞賛の言葉を贈った。

 

 

 オーガを倒した直後、死んだオーガは灰となって消滅した。

 

「本当に妖怪の類だったのか? まあこんな生き物居るわけないが……」

 

 冷都はこの異形達の正体は何だったのか、考えるも木葉達をあの透明なバリアか

結界と呼ぶべきか。

 そこから出す方が先決と思い、置いておくことにした。

 

「兄さん……」

「下がっていろ、破壊する」

 

 冷都は剣を構え、結界に向かって横一閃斬撃を食らわせる。

 すると結界はガラスが割れるようにバラバラに砕け散った。

 

「兄さーん!」

「怪我はないか?」

 

 木葉は冷都に抱き着き、涙を流す。

 彼女はまだ10歳ににも満たない、幼女だ。

とても心細かったのだろう。

 だが木葉は冷都の姿を見て、悲しそうな表情をする。

 

「兄さん……ボロボロ」

 

 そう、木葉を探すために2時間以上も歩いたために衣服には所々に泥が付き

傷が付いている。冷都自身には傷一つないが、それでも木葉は心配した。

 

「……木葉、泣くな。お前は強い子だ」

「え?」

 

 涙を流す木葉の頭を撫で、優しい声をかける。

 ポケットから御守りを木葉の手に握らせた。

 

「この御守りを持っていろ、必ずお前を守ってくれるはずだ」

 

 冷都は木葉の両手を掴み、目を合わせる。

 

「いいか? だからもう泣くな。お前は凄い奴なんだから」

「……っ、うん!」

 

 涙を拭い、笑う。

 その光景を剣士三人は微笑ましく見守っていた。

士郎と恭也にはもう冷都に対する警戒心は全くなかった。

化け物を相手に圧倒的な力を見せた超人の姿は無く。

三人の目の前には家族を心配する、ただの兄と妹しかいなかった。

 

「さて、お前は誰だ?」

 

 冷都が洞窟の奥に目を向ける、それに反応して恭也も警戒する。

 洞窟の奥からは人が歩いてきた、それは小さな子供だった。

 年は冷都と同じくらいだろう。

 

「あ~あ、見つかっちゃった」

「本当に誰だ?」

 

 その少年が本当に見覚えのない風貌に困惑し、首を傾げる。

 

「お前が美由希と木葉ちゃんを誘拐したのか?」

「うん! そうだよ?」

 

 あっさりと自らの犯行を認める、しかしその態度には罪悪感も

反省の色も無かった。

 

「しかしやっぱり転生者は強いね、僕のペット達がほとんど瞬殺だよ」

「何故こんな事を!」

 

 恭也が少年に向かって怒声を放つ、当たり前だ。

 大事な家族である美由希をさらい、果ては自分よりも他者を心配する

心優しい兄妹の片割れを奪い取ろうとした。

 それは善良な心を持つ恭也であっても、否。

恭也だからこそ許せることではなかった。

 だがそんな感情を煽るように、少年は面倒くさそうにしながら

耳を塞ぐ。

 

「あー! もう五月蠅いなー。別にいいじゃん、僕が誰を殺そうが貰おうが」

「なんだと?」

「あのね、君だって人の事言えないでしょ? その剣で人を何人も殺してきたんでしょ?

むしろ君の方がいっぱい殺してるよね? さっきも一方的に僕のペットを殺したじゃないか!」

「……うんざりだ」 

 

 まるで自分の被害者だと言いたげな態度に冷都も辟易していた。

 少年の言葉は事実ではない、恭也の剣は守る為の剣である、望んで人殺しに使った事など一度もない。

そもそもの話、恭也はちょっとした小競り合いや喧嘩はしたことはあれど、人を殺したこともない。

 少年の言葉は酷く的外れであった。

 

「俺は人を殺したことはない」

「うっそだー! ……え? うそ、本当にないの?」

「もういいか?」

 

 少年は恭也の発言に意外そうな顔をするも、苛立っている冷都が言葉を遮る。

 

「お前の言葉など聞きたくもない、目の前から消えて二度と現れるな。

そうすれば命だけは助けてやる」

「……君、誰に向かって命令してるの?」

 

 少年は冷都の言葉に不愉快そうな顔をする。

 

「黙っててよ、殺すよ?」



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魔法使い

 最初に動いたのは冷都だった。

 

 ――影の呼吸 弐ノ型

 

「! プロテク!」

 

 ――日影

 

 少年は手を前に出し、バリアを発生させ冷都の攻撃を防いだ。

 だが完全には防げず、バリアは砕け。その衝撃で吹き飛ばされるも。

壁まで飛ばされることはなく空中で静止した。

 

「浮いている……。空を飛べるのか」

「結構早いね」

 

 反撃に転じようと少年が冷都に手をかざすが。

 

 ――御神流 

 

 ――神速

 

「くっ!」

 

 少年が冷都に集中している隙を突き、高速で接近した美由希に気付かなかった。

 

「はあああ!」

「があ!?」

 

 そのまま首筋に木刀の攻撃を食らい、地面に叩きつけられる。

 

「この糞あ」

 

 美由希は無防備になっている背中に向けて、もう一撃食らわせるも。

少年の体を覆う、バリアに阻まれてしまう。

 少年は体から謎のエネルギー波を発生させ、美由希を弾き飛ばした。

 

「よっと!」

 

 それに吹き飛ばされるも空中で一回転して着地し、木刀を構える。

 少年は美由希、恭也、冷都を見て。多対一に分が悪いと思ったのか。

空を飛んで逃げようとする。

 しかし。

 

「お前には失望した」

 

 冷都の黒い触手が、少年の足を鷲掴みにし。

逃げようとする少年の逃亡を阻止した。

 

「私はお前が強いと思っていた、だが勘違いだった。

お前は臆病なだけだった、将来性はなさそうだ」

 

 黒い触手はそのまま少年の足を握り潰した。

苦悶の声を上げ、地面に落ちる少年を冷たい目で見つめる。

 少年にとどめを刺さんと冷都は倒れ、痛みで悲鳴を上げる少年に近づいていく。

 

「う、うわあああああ!?」

 

 それに対して死の恐怖を覚えた少年の周りに複数の円状の陣が展開される。

それはファンタジーの魔法陣のようで、その中心からは先ほどの異形達が現れた。

 

「なるほど、召喚か。面白い能力だ」

「言ってる場合か! どうする?」

 

 恭也は士郎と木葉の前に守るように立ち、士郎は木葉を抱っこしている。

 美由希も冷都と一塊になって背中合わせになる。

 

「ふははははは! 殺せ! そいつら全員殺せ!」

「さっきまで人殺しと罵っていた男の台詞とは思えないな」

 

 向かってくる異形達に黒い触手を周りに展開し針状に尖らせ。

洞窟内にいる異形たちの頭に突き刺した。

 湧いて出てくる異形達の頭を切り落としながら、恭也達に合流する。

 

「無駄無駄! 何体殺しても無駄だぞ!」

 

 冷都は両手で剣を握ると、先端を少年に向ける。

 

 ――影の呼吸 拾ノ型

 

 剣先を向けたまま、踏み込むと地面が陥没し。

冷都は少年に向かって異形達を背から出す触手で切り倒しながら突進する。

 

「ひぃ!?」

 

 剣を両手持ちしたまま剣先をそらさず、真っ直ぐに少年へ向かう。

少年は冷都から逃げようと再び空を飛ぼうとするが、もう遅い。

 

 ――月影

 

 少年の心臓に一突きし、勢いよく壁に叩きつけた。

 

「……」

 

 少年が倒れ動かなくなると、魔法陣は消滅し。

異形達は姿を消した。

 終わりと覚ったのか恭也が冷都に近づいて頭を撫でる。

 悲しそうな表情をし、子供に人殺しをさせてしまった事を

悔やんでいるのだ、だがそんな心配は無用だ。なぜなら。

 

「ぐ、ううう」

「! 生きてるのか」

「当たり前だ」

 

 少年が生きている事に驚く、よく見れば冷都が握り潰した足以外は

血が出ていない。心臓からも出血してはいない。

 

「突く瞬間、先端を丸めた。此奴の様に血で汚れたくはない」

「……そうだな、その方がいい」

 

 士郎も冷都の言葉に同意して、冷都の頭を撫でる。

冷都は何度も頭を撫でられ困惑するも、特に抵抗しない。

 

「止血はしておこう、人間は脆いからな」

 

 少年の足に衣服を千切って止血する、自分を殺そうとした相手ではあるが。

恭也達も子供が死ぬのは夢見が悪く治療を手伝い。みんなで下山した。

 

「此奴はどうする」

「俺に任せてくれ、こういった案件に詳しい知り合いがいる。

まさか自分が関わるとは思ってなかったが」

 

 士郎が気絶した少年を受け取ると冷都に視線を向ける。

正確には冷都の衣服に。

 

「ボロボロだな、恭也家まで送って行ってくれないか。

この子は俺に任せてくれ。君たちの事情も知りたい」

「それはいいが、できれば着替えたい」

「だったら恭ちゃんの服があるよ? まだ小さいの残ってたよね?」

「あと、風呂も貸せ」

「はいはい」

 

 冷都の遠慮のない態度に美由希は手のかかる弟を相手にする様な態度で接する。

彼女には妹は居ても弟はおらず、あまり手のかからない子供な為。

冷都のような反応は新鮮なのだろう。

 

「兄さん、私まだこの人たちの名前知らない。美由希さんは知っているけど」

 

 木葉が冷都の服を引っ張る、そういえばまだ自己紹介もしていなかったと

その場の全員が思い出す。

 

「俺の名前は高町恭也だ、高町家の長男で御神流って言う剣術師範代だ」

「私は高町美由希、恭ちゃんの妹で弟子。ああ! 恭ちゃんて言うのは

恭也お兄ちゃんの事」

「俺の名前は高町士郎、二人の父親だ。本当はもう一人娘がいるんだがな」

 

 三人が自己紹介をはじめたので冷都と木葉もそれにならい返す。

 

「黒神冷都、まあ超能力者のようなものと思え。こっちは」

「妹の黒神木葉です! 今後ともよろしくお願いします!」

 

 



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幼き英雄

 

 お互い自己紹介をした後、冷都達は高町家に来ていた。

来ていたと言うより、連れてこられたといった方が正確だが。

 

「日本家屋か、珍しいな」

「庭には道場もあるんだよ」

「へー、私のお家にも道場があるんですよ!」

「そうなんだ! 何を教えてるの?」

「えーっと、なんだったっけ? たしか気とかなんとか」

 

 閉じ込められている間に仲良くなったのか美由希と木葉が話に花を咲かせていたの

を尻目に恭也が家の扉を開ける。

 

「木葉、コートを脱げ。お前も少し汚れている」

「あ、うん。おじゃましまーす!」

 

 玄関の向こうには茶色く長い髪を束ねた妙齢の女性が待っていた。

恭也達の母親の高町桃子だ。

 

「お帰りなさい恭也、美由希。あら本当にボロボロね」

「母さん、ただいま。実は」

 

 恭也が冷都達を紹介しようと型を掴んで桃子の前に出すが。

 

「貴方達が冷都君と木葉ちゃんね!」

 

 恭也が紹介する前に、なぜか桃子は二人の名前を知っていた。

 

「かーさん、どうして二人の名前を?」

「さっき電話で士郎さんから連絡が来てね、大体のことは聞いたわ。

怪我がなくて本当に良かった」

 

 桃子が心底安心したという表情をして胸をなでおろす。

それを見て二人は気恥ずかしいような嬉しそうな顔をする。

 

「いつまで玄関にいる気だ?」

「ああ! ごめんね!」

「風呂場はこっちだ、母さんこの二人を風呂に入れてくる。

俺の子供の頃の服、まだ残ってたよな」

「ええ、持っていくわ」

 

 その後、風呂に入り。

 泥で汚れた木葉と冷都の体を綺麗にし、冷都と木葉は恭也の服をもらい

リビングに集まった。

 数十分後に士郎も帰り、何があったのかの話をするため。

詳しく桃子に何があったのか説明した。途中冷都が信憑性を上げるために

黒い触手、マイナスエネルギーと名付けたそれを見せ、桃子が笑顔で凄いわねぇ

と言って逆に恭也と美由希を驚かせたがそれは割愛する。

 

「それで、君は一体何者なんだ?」

「何者と言われても、何も答えられん。私は私だ、

生まれた時からこの力を持っていたが。体に影響はなく、

むしろ日常生活では非常に便利だ」

 

 淡々とした口調で事実だけを話す、別に隠すものでもない

父親からも別に隠して生きろと言われたことはなく。

冷都自身も異常とは思っているが、それ以外に思うことなどなく。

彼らに自分の分かっていることを全て話した。

 

「君のその力に、俺は少し心当たりがあるんだ」

「そうか」

 

 興味なさげに出された茶をすする冷都、それに対して困惑する士郎。

 

「そうかって、自分のその力の出自とか知りたくないのか?」

「どうでもいい、そんなこと」

 

 悲しみも喜びもなく、只管当然と言ったように喋る。

冷都自身にとって、それは特別な事ではあっても。

根底まで知りたいことでもないのだ、知って意味などない。

 

「この力は私の物で、数ある才能の一つでしかない」

 

 ただただ全てに冷淡に接する、特別な私が

特別な力を持っている事の何が変なのか?。

 傲慢、彼を表現するならばこの二つの言葉が正しいのだろう。

 が彼らは。

 

「そうか、そうだな」

「ああ、そうだ」

「その力も含めて、君は君だ」

「ん?」

 

 数ある才能の一つでしかない、確かにその通りだ。

 冷都は自分に対してそういった、だが彼らはそれをとんでもなくずれた解釈をした。

 

「その能力も、世にいる人間の数ある才能の一つでしかない」

「ああ、確かにその通りだ。体から黒い靄を出す人間も。

化け物を召喚するのも、才能の一つだと思えば何もおかしいことじゃないな」

「そうよ、私から見れば。士郎さん達の御神流も最初は超能力か

と思ったもの」

 

 特別な事じゃない。

 そういって高町家の人間は尊敬するような目で冷都を見始めた。

 木葉も御守りを握って冷都をキラキラした目で見る。 

 

(そういう意味じゃない、私は特別な人間だ)

 

 そんな事を言える空気ではなく、誤解を解く気にもなれなかった。

 

「そうだ! あの子は?」

「あの子?」

 

 士郎が誰かを探すように周囲を見る。

 

「ああ、さっき言ったもう一人の娘だよ。名前は」

「兄さん大変!」

 

 士郎がその少女の名前を言う前に、木葉が何かを思い出し。

慌てたように冷都の服を引っ張る。

 

「なんだ?」

「もう5時過ぎてるよ! 早くお家に帰らないと

お父さんに怒られちゃう!」

 

 木葉が時計を指差してどうしようと頭を抱える。

それを見た士郎と桃子が苦笑いして目配せしあう。

 

「確かにもうこんな時間だな、家まで送るよ。

道を知ってるかい?」

「それは憶えているが、ふむそうだな。送ってくれると助かる」

「じゃあね木葉ちゃん、今度駅前の翠屋って所に来て。

冷都君も、お礼もちゃんとできてないし」

「みどりや?」

 

 桃子は二人に喫茶翠屋のチラシをあげると、外にある駐車場まで

全員で見送りした。

 

「じゃあね冷都君、今日は本当に助かったよ!」

「また暇があるときに、来てくれ」

「……ああ、考えておく」

 

 士郎は二人を車に乗せ、冷都の案内で家まで送っていった。

 走っていく車が見えなくなるまで、見ていると。

 

「お兄ちゃん達? 外で何してるの?」

 

 茶色い髪の少女が恭也達の後ろに立っていた。

 

「ああ、なのはお帰り! 随分遅かったな」

「なかなか帰ってこないお兄ちゃん達を迎えに行ってたの!

無駄足だったようだけど……」

「あ、あー。ごめんねー、こっちにも事情があってー」

「それより外で何してたの?」

 

 なのはは恭也達の見ていた場所を見つめる。

 運命はまだ交差しない。



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全集中の呼吸

やっと主要キャラを出せた、でも活躍しない。


「そして案の定、私達は父さんに怒られた。

士郎がいなかったら拳骨まで降ってたかもしれんな」

「あはは……ご愁傷様」

 

 あの日以来、冷都と恭也達はよく顔を合わせていた。

 家には寄らず、恭也と士郎と初めて会った場所を訪れては美由希と恭也の

特訓をよく見に来ていた。

 ある日の事、恭也は気まぐれに冷都に一勝負しないかと誘った事がある。

恭也自身もあの異形達を相手に全く寄せ付けず、美しい剣舞と力を見せた冷都の実力が

純粋に気になったのだ。

 その誘いに暇つぶしか、興が乗ったか言葉通り一勝負行った。

 

 結果は恭也の完全敗北、冷都は木刀で恭也相手に瞬時に三発叩きこみ。

失神させた。美由希と士郎も冷都が強い事は知っていたが。その圧倒的

過ぎる戦闘能力には驚愕を隠せなかった。

 子供ながらに常軌を逸した腕力と技術、恭也達はどうしてもその秘密を知りたく。

冷都にどうやったのかと聞いた、だが返ってきた言葉は。

 

「私の様にはなれない、だが強くなる方法は教えてやる」

 

 そう言って冷都は三人に全集中の呼吸という、この世界にはない技術を

教えた。別に彼はそれを最初から知っていた訳ではない。

 冷都はその技術を天然で編み出したのだ。

 

 だが冷都の教える影の呼吸に適応できる人間はいなかった。

そもそもの話、冷都の影の呼吸は異能と組み合わせて使うもの。

 技術も何も違う御神流との相性は悪く、そこから冷都は御神流に合った

呼吸を考え、冷都はそれを御『おん』の呼吸と名付けた。

 

「そういえば、彼奴はどうなった? あの妖怪達を操るあの子供は」

「士郎と父さんが、そういった事件や案件に詳しいスペシャリストにあずけた。

特に父さんは異能者や妖怪と言った事件を担当にしているプロだ。何も心配いらない」

 

 冷都の父、黒神浩二はの家系は代々、異能を使う犯罪者や異常現象を解決する一族の一人であり。

黒神家の人間は特別な能力や才能を生まれつき持っている事が多い。

 浩二自身も異能の無効化という能力を持っており、黒神三兄弟もそれぞれ異能の力を保持している。

 

「そういえば美由希はどうした? 士郎は仕事で居ないのは分かるが」

「美由希は翠屋の手伝い、それよりも母さんが最近お前が来ないこと愚痴ってたぞ?」

「木葉はよく行っているだろ」

「お前を待ってるんだよ、お礼だってまだ全然返せてないって」

「桃子はお礼と称して、私に構おうとするからいい」

 

 冷都は恭也が切断した切り株の椅子から立ち上がると、恭也に背を向けた。

 

「帰るのか? また家に遊びに来いよ」

「……考えておく」

 

 このやり取りも毎回の恒例であり、いつも通りの答えを返す冷都に恭也は苦笑いする。

 

「冷都ー!」

「青葉……、下で待ってるって言わなかったか?」

 

 冷都が下山しようとした時、下から青葉が走ってきた。

 実は冷都は放課後の帰りに寄り道をして此処に来たのだ、青葉はその付き添い。

 

「アンタがなかなか帰って来ないから心配して来たのよ、あれ? その人は」

「私の友達だ」

「友好関係広いわねー、大人とも仲いいの?」

 

 恭也に手を振って、冷都と青葉は二人で一緒に山を下りて行った。

 

「彼奴、あんな可愛いガールフレンドが居たのか」

 

 ちょっとした誤解を招いて。

 

 

 黒神宅、冷都の住む家は一家族が住むには少しばかり広い洋風の豪邸であり。

プールや道場もある。つまり何が言いたいかと言うと。

 

「アンタって坊ちゃんって事よね」

「そうだが? 何故今更そんな事を?」

 

 とは言え、家が広く豪邸なだけであり。

 何処かの月なんちゃら家の様な吸血鬼の屋敷やバニなんちゃら家のようにメイドや執事を雇っている

訳ではない。

 部屋の掃除や手入れなどは冷都が片手間に行い、暇がある時には光や木葉が手伝っているが。

ほとんどの掃除を冷都がこなしており、もしも冷都がこの家から出た場合。

 酷い事になるだろうというのが、黒神家の父、黒神浩二の見解である。

 

「まあ住んでいる人間は私を含めて四人だけだからな、ただ広いだけの家なのだが。

向こうの方角には日本庭園や別邸もあるぞ。何に使うのかまるで分からんが」

「腹が立つわ」

 

 青葉は別に金持ちに嫉妬するほどのお金が好きなわけではないが、

此処まで格差を見せつけられると嫉妬するのも仕方がない事だろう。

 

「送ってくれて礼を言う、別に頼んでないが」

「いいのよ、私の自己満足みたいなものだし。それじゃあ」

「ああ、気を付けて」

 

 しばらくしてから塾から木葉が帰り、晩御飯の用意をしていると。

 

「ねぇねぇ、お兄ちゃん。あのあれなんて名前だっけ? フレイム?」

「フェレットだろ? どう間違えたんだ……」

 

 光の言った動物の名前が気になったのか、冷都が首を傾げ。持ってきたサラダの盛り付けを机に置いて座る。

 

「フェレットがどうかしたのか」

「今日塾に行く途中でね!」

 

 木葉の話を聞きながら食事を進める、塾で何をしたのか。

今日は告白されたのだ。内心では興味がないながらも話を聞いてあげながら皆で晩御飯を食べた。

 

 その夜、冷都が就寝しようと思ったその直後。

 

「!?」

 

 冷都の頭の中から声が聞こえてくる、若い少年のような声。

 

【……!…………】

 

 しばらくすると声は聞こえなくなった。

 

(何だったんだ今のは、本当に疲れているのかもしれんな)

 

 疲れが原因と思ったのか、早々に寝てしまおうとベットの中に入ろうとしたその直後。

 外から衝撃音が響き渡る、庭のからだ。

 冷都は急いで着替え、外に出ると。

 

「なんだお前らは?」

「!……」

「む?」

 

 金髪の黒い杖を持った少女と白い髪の少年が空中で対峙していた。

 意味不明な現場を目撃し、冷都は困惑を通り越して逆に冷静になった。

空を飛んでいるなんて普通の事ではない、恐らく異能者なのだろう。

 

「一般人? こんな時に……君。危ないから下がってて」

 

 金髪の少女が冷都に向かって呼びかけるが、白い髪の少年は不機嫌そうな顔をする。

 

「おいおい! 俺を無視すんじゃねぇよ!」

 

 白髪の少年は少女に向かって突進し、少女は手をかざして金色のバリアを張る。

 その少女の足元からは、2年前に妹を誘拐した少年が使っていた円状の陣と酷似した

魔法陣を展開した事に冷都は驚く。

 

(あれは……)

 

 もしかすると彼女はあの異形使いの少年の知り合いなのかもしれない。

 そう考えた冷都の行動は決まった。

 

「なんだこの黒いは?」

 

 黒い盾を少女と少年の間に挟むように入れ、少年の攻撃から少女を守った。

 白髪の少年は赤い目で盾を出して邪魔をする冷都を睨みつける。

 

「お前は邪魔だ、早々に始末させてもらう」



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同類にして対照

 

 白髪の少年は冷都の言葉を聞き、目を丸くして呆け。

しばらくすると何が可笑しいのか大爆笑した。

 

「ははははは! 始末? 俺を? お前みたいな雑魚がぁ?」

 

 白髪の少年は顔を下げて震え、地面に落ちる小石を冷都に向かって蹴った。

その小石は下手をすれば音速を超えているのではと思えるほどの速度で冷都に迫る。

 ただの人間が直撃すれば木端微塵になってしまうだろう、ただの人間であれば。

 

「この程度か、所で聞きたいんだが。お前の名前は?」

 

 音速で飛来する小石を当然のように盾で防いだ冷都は、金髪の少女に質問する。

 

「え? 私?」

「手を貸してやる、名前だけでも聞かせろ」

「フェ、フェイト。フェイト・テスタロッサ」

 

 少女、フェイトは一般人だと思っていた少年が自分を守った事に驚き。

見た事もない力を使っている現状に混乱していた。

 

「そうか、私の名前は黒神冷都だ」

「なに俺を無視してんだ!?」

 

 攻撃を防がれ、自分を無視して会話する二人に苛立ち。

 白髪の少年はその小柄な体からは想像できないほどの脚力で地面を陥没させ。

冷都に向かって跳躍するように接近し、冷都に触れようとした。だが。

 

「汚い手で触るな」

「ぶべ!?」

 

 少年は冷都に殴られ、その体は日本庭園の白い壁の向こう側まで飛ばされた。

その現象にフェイトだけでなく、冷都自身も困惑した。

 

(妙だな、そこまで強く殴ってはいない。精々が壁まで吹き飛ぶ程度)

「フェイト、彼奴の能力は何だ? どんな方法で攻撃してくる?」

 

 先程まで戦っていたフェイトに少年の能力を聞くと、唖然とした表情で答える。

 

「あの子には、攻撃が効かなかった。多分、攻撃を反射する能力だと思う。

貴方が反射されなかったのはどうして?」

「さてな……」

 

 冷都は自分の手を見て、庭園まで吹き飛ばされた少年を見る。

 殴られた顔を押さえた少年が壁の向こうから、苛立ちながら歩いて来る。

その目は冷都に対する殺意で溢れていたが、先程のように無計画に突っ込んでくる事は無かった。

 

「てめぇ、俺の反射を通り抜けるなんて。まさか幻想殺し『イマジンブレイカー』か!?」

「は?」

 

 少年の言葉の意味が分からず、冷都は眉をひそめる。

 そして二年前の異形使いの少年も訳のわからない事を言っていた事を思い出す。

 

(確か、転生者とか言ってたな)

「イマジンブレイカー? とは何だ? 能力の名前か? 名前からしてお前の天敵のような能力名だが」

「自覚してねぇのか? いやあの能力だとすれば黒いのを使えるはずねぇ。

また別の無効化能力か」

 

 少年は一人で自己完結し、そうだそうだと首を縦に振って勝手に納得する。

 その姿を見た冷都は変質者を見るような目で少年を見た、元々フェイトも合わせて言えば。

彼らは不法侵入者と変な格好をした変質者なのでその評価は間違っていないが。

 

「そうと分かれば話ははえぇ! 遠くからてめぇをぶち殺してやる!」

「さっき防がれていなかったか?」

「うるせぇ! 流石のてめぇでも此奴は防げねぇさ!」

 

 少年が両手を上げると、周りの空気が変わり。

周囲の大気が少年の周りに集まり、少年が両手に巨大な電撃を発生させた。

 

「圧縮圧縮!」

「大きい……!」

 

 触れたものの向きを操る、その能力を使い風を操り空気を圧縮。

プラズマを発生させた。フェイトから攻撃を反射する能力と聞き。

更には壁を破壊した現象から冷都は少年の能力が物の向き操作だと理解した。

 

「素晴らしい、まさに超能力だ」

「お褒めにあずかりどうもぉ! それじゃあ死ネヤァ!」

 

 少年がプラズマを使おうとした直後、プラズマは獣の口の様な形に変わった黒い触手。

マイナスエネルギーに食べられてしまった、少年の両腕ごと。

 

「はあ? あ、あれ?」

 

 少年は自分の腕が無くなっている事に気づくのに、しばらくの時間がかかった。

そしてそれを理解すると。

 

「あ、あ。ああああああああ!?」

「……」

 

 フェイトは絶句し、冷都はそれを笑う。

 そして直ぐに無表情に変わると、獣は少年を丸呑みにした。

 

「や、やめ!?」

「ま、まって!」

 

 フェイトが止めようとするがもう遅い、少年は獣の口の中に入り。

冷都は獣を消した。

 少年はどうなったのか、殺す事は無かったのではないのか。あの獣は何だったのか。

言いたいことありすぎて、ファイトは言葉に詰まってしまう。

 

「お前は甘い」

「え?」

「彼奴はお前を殺したぞ。というかあの電撃を食らえば家も吹き飛んでた。

お前も死んでいた」

 

 そうなる前に私が殺した、だから私は悪くない。確かにその通りだ。

 少年の使った最後の技はフェイト諸共殺害するための攻撃だった、直撃すれば死んでいただろう。

 

「……」

「今日の事は忘れろ、お前は何も見ていない。良いな?」

(流石に目の前で人を殺したのは不味かった、せめて気絶させて後で殺すべきだったな)

 

 冷都の内心を読み取れば、それが良心の呵責などない悪意ある殺しであると理解できただろう。

 だがこの善良で甘い少女はとんでもない誤解をした。

 

(私の為に、この人は人殺しをしてしまった……)

「あの、その……ごめ」

「いい、それ以上言うな。お前は何も見ていないのだから」

(命の恩人である私に礼を言いたいのは分かるが、今日の事を黙ってもらわねば困る)

「お前はもう帰れ、それではな」

 

 冷都は家の中に戻り、今度こそ眠ろうとした。

 明日も学校があるのだ、早起きして弟と妹の弁当を作らなければならないのだからと。

人を殺した後とは思えないほど、呑気な事を考えていた。

 フェイトは。

 

(彼は私の命の恩人でその手を血で汚してしまった。母さん。ジュエルシードを全部集めて、それでまた元の生活に戻れたら。

きっと必ず、その借りは返そう)

「……この恩は必ず返す、忘れない」

(いや、忘れて欲しいんだけど)

 

 フェイトよ、違うのだ。

 この悪魔はそんな優しい人間ではないのだと、それを教えてくれる人間はおらず。

冷都の正体を知る者もいない、フェイトは甚だ見当違いな恩を感じていた。

 そして冷都は止める間もなく何処かへ飛んで行ってしまうフェイトを見て。

 

「え、なんでそうなるの?」

 

 と呟いた。

 



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異能者

 

(そうえいばあの女に異形使いについて聞くのを忘れていた。まあ恐らく無関係だろうが)

 

 数日後、フェイトから白髪の少年を守り。

 とでもない勘違いされてしまった日以来、光と木葉。それと父親の浩二までも忙しく

家に居ない日が続いていた。

 

(父さんは兎も角、光と木葉は友人との約束があると言って最近家にいる時間が少ない)

「……偶には翠屋に顔を出すか」

 

 簡単に言えば暇だったのだ、いつもは光や木葉と一緒に遊んだりと家の掃除や勉強を

したりなどで暇を潰していたが。二人が居ない時間が続き、内心寂しがっていた。

 

「……」

 

 冷都が外に出て日本庭園を見ると数日前の破壊痕、壁や土が修復していた。

 あの後、父と弟達にどう説明するか悩んだのだが。

気が付くと壁も土も荒らされる前の状態に戻っていた、フェイトが直したのだろうと考える一方。

 あれだけ騒いでも起きて来なかった光と木葉に疑問符を浮かべたが異能者に常識を

問うても無駄と考えてその事は忘れた。

 

 駅前、翠屋。

 暇つぶしにと訪れたその場所、周りを見れば若い女性。

 ほとんどは学校帰りの高校生などがお茶をして談笑していた。

内心柄じゃないと思いながらも店の扉を開ける。

 

「いらっしゃいませー! 何名様ですか?」

「一人だ」

「こちらのお席へどうぞー!」

 

 定員に席を案内され、座ると見覚えのある三つ編みの女性が近づいて来た。

 

「いらっしゃませー、冷都君」

「……? ああ美由希か」

 

 エプロンを付けた美由希が机の上に水を置く、冷都は一瞬たが警戒したが

美由希と分かり直ぐに警戒心を解いた。

 

「珍しいわね、木葉ちゃんと光君は?」

「私一人だ、あいつ等は最近忙しいと言って家にいない」

「もしかして寂しいの?」

 

 内心を読んだ美由希が微笑んで冷都の頭を撫でる。

 大人びてるようで何処か子供っぽい冷都を美由希は気に入っているのだ。

 妹のなのはは子供っぽいようで何処か大人びているのとは逆に大人っぽいふりをして可愛いと

美由希は恭也によく語っていた。

 

「うるさい、あっち行け」

「なんだとー?」

(此処に人目が無ければ直ぐにでも殺してやったと言うのに……)

 

 実際は内心で凄まじく激怒しているにもかかわらず、恥ずかしがっているだけだと勘違いをする美由希。

すると店の奥から桃子が顔を出し、冷都を見た瞬間。

 

「あらー! 冷都君! やっと来てくれたのねー中々来ないから寂しかったのよ?」

「あー! かーさんずるい! 私が抱きしめてたのに!」

「……帰る」

 

 桃子に抱きしめられて周りの視線を集めるのも気にならないのか、美由希と桃子が冷都を奪い合う。

 これが世に言うハーレムなら羨ましいのだろうが、彼は今は女性に興味がなく。

そもそも一人は人妻、一人は友人の妹であり。自分に構う彼女たちに疑問しかでない。

 それを苦笑いして見る士郎を見つけた冷都は暴れて二人から逃げ、士郎の後ろに隠れる。

 

「士郎! 士郎ー! 助けろ! お前の女と娘だろうが!」

「二人共楽しそうだけどね」

「うるさい! 俺は楽しくないの!」

 

 二人の圧に焦ったのか一人称までぶれる始末。

 体からマイナスエネルギーの靄を出して警戒態勢に入る。

 

「早く止めないとお前事此奴らをバラバラにするぞ!」

「ははははは! 分かったよ、母さん美由希。そろそろ仕事に戻って。

冷都君とは後でじゃれ合えば良いさ」

「「はーい!」」

 

 冷都としては割と本気で殺すつもりだったのだが、士郎からは恥ずかしがっているだけ

としか思われなかった。つくづく本心とは真逆の行動と結果だす男である。

 その後、桃子が作ったと思われるケーキを食べ。特に何の感想もなく二人が再び自分に構いだす前に店から出た。

店から出る直前、他の店員には微笑ましいような同情するような目で見られた事に腹が立ち。

精神的に疲れ、来ない方が良かったと心の中で思った。

 

「あ」

「ん? 光か」

 

 帰り道の道中、光が目の前に現れた。

 精神的に疲れているので、この際光でもいいかと思い愚痴に付き合ってもらおうかと思った瞬間。

 

「伏せろ兄貴!」

 

 光が冷都を突き飛ばし、冷都の目の前を何かが駆け抜けた。

 その何かは壁を破壊して、否。壁どころか家を貫通してさらにその向こうまで

消えていった。

 突然の出来事に固まっていると、地面から鋭利な黒い影が冷都に向かって伸びてくる。

それは文字通り影であり、冷都はそれを黒い盾で防御する。

 その攻撃方法や能力を見て、冷都は似ているなと思った。

 

「ほう……私の影を防ぎますか……」

 

 影は不定形で赤い目や牙が生えている以外はマイナスエネルギーとほぼ同じ姿である。

 黒い影は目を細めて冷都の作り出した盾を観察する。

 

「私の能力と似ていますね、先ほどそちらの彼が兄と呼んでいましたが。

ふむ……あまり似ていませんね」

「お前は私の能力によく似ているがな、光。伸びてないで早く起きろ」

 

 目の前を通ったそれにぶつかり、気絶している光を足で蹴って起こす。

 

「う、くっそー! 兄貴大丈夫か?」

「お前の所為で服が汚れた、弁償しろ」

「わりぃけど、俺今金持ってねぇ!」

 

 お互いに軽口を叩きながら目の前にいる影を睨み付ける。

 光は冷都の傍まで近寄ると、小声で話し始めた。

 

「簡潔に言うとあいつは敵、本体はさっき壁と家に穴開けて通った奴だ」

「高速移動と、影の実体化による攻撃か」

「それ以外にも硬質化とか超動体視力もある、と思う。あと再生能力持ち」

 

 よくよく光の姿を見れば所々に擦り傷があり、目立つ怪我はないがかなりの疲労が見える。

 光が敵の情報に詳しいことから先ほどまで戦闘していたのだろうと予想した。

 

「安心しろ、こっちは治療能力持ちだ」

 

 冷都が光の肩に触れると黒い液体を全身にかける。

 影がそれを訝しんで見ていると、液体が消滅。光の体は傷一つ無くなった。

 

「サンキュー兄貴! ――――投影(トレース)、開始(オン)」

 

 光が呪文を唱えると彼の手に二つの剣が握られていた。

 剣の複製、それが黒神光の能力。無限の剣製である。

 

「ふむ、此処は引くとしますか」

「逃がすか!」

 

 光は逃げようとする影を追いかける。

 

「来ないでくれませんか」

「断る、てめぇ! よくもやってくれたな!」

 

 光は二階建ての屋根の上まで跳躍し、本体を見つけたのかまた跳躍して

影よりも先に移動した。

 

「相変わらず身軽な少年ですね」

 

 跳躍して何処かへ飛んでいく光を見る影、その隙を突いた冷都が

黒い獣を出して影に噛みついたが、またすぐに元の形に戻った。

 

(実体はあり触れられるが、攻撃しても元に戻るか。再生能力とは本当に厄介だな)

 

「貴方の相手はまた今度にします、それでは……」

 

 影はそう言うと、塵になって消滅した。

 冷都は直感だが、体を切り捨てたのだろうと予想した。

 

 光を追おうか考えていると。

 

「貴方……冷都?」

「フェイト、誰だ此奴?」

 

 つい数日前会ったばかりの少女と再会した。



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主人公設定

主人公の現段階での設定です。
ネタバレ注意です。


名前、黒神冷都

年齢、10歳

能力、マイナスエネルギー、超身体能力。

 

性格、

真面目な短気、上から目線の傲慢な男。ただしそれなりに強い者や偉業を成した者には敬意を払う。

あまり他人に興味を示さないが、面倒見が良いので結構な苦労人気質。

他人に馬鹿にされたり、見下されたりすると露骨に機嫌が悪くなり最悪殺しに行く。

家族はそれなりに大切にしているが、死んだ場合は弱かったからと納得して悲しまない。

ただし母親がいないので母子を見ると複雑な気持ちになる程度には思っている。

人助けや善行を普通の事だと勘違いしている天然さんの側面もある。

自分に好意を持つ者は好きだが理由が分からないと気味が悪くなる、

嫉妬深く他人より劣ると内心で凄まじく荒れる。

つまりめんどうな人である。

 

好きなもの、有能な者、自分の事が好きな者。

 

嫌いなもの、自分より有能な者、無能、高町なのは。

 

能力、

マイナスエネルギー、生物の負の感情をエネルギーとして吸収する異能。

作中で度々出る黒い何かがこれ、鋭い剣や硬い盾にも変えられる万能能力。

触手に変形させて金属を紙のように引き裂き、トラックを持ち上げられる力持ち。

捕食能力もあり、食べる事で一部の記憶を覗き見れるが本人はあまり使いたがらない。

攻撃力防御力共に作中で最強クラスの能力。

他に色々な特性がある。

 

超身体能力、文字通り常軌を逸した身体能力。

 

技能

全集中の呼吸、影の呼吸。

仁王立ちから振るわれる剣術、その為移動技が少ない。

異能と呼吸を組み合わせた天性の才能による剣技。

壱から拾の型が存在する。

 

壱ノ型 人影、剣を振った場所から真っ直ぐに黒い斬撃を飛ばす

 

弐ノ型 日影、突きを放ち放射状に黒い影が伸びる。

 

参ノ型 雲影、切り上げと同時に黒い刃を上空に伸ばす。

 

肆ノ型 火ノ神、飛び道具などの遠距離攻撃を剣で弾く技、ただし洗練され過ぎて爆弾までで弾いてしまう。

 

伍ノ型 薄明光線、剣を十字に振った所から真っ直ぐに黒い影の斬撃の伸ばす。

 

陸ノ型 月夜見、回転切りを一瞬で10回以上放ち、黒い斬撃を辺り一面に放つ。

 

漆ノ型 下弦、無数の高速突きを放つ、突きを放ったと同時に真っ直ぐ斬撃を飛ばす。

 

捌ノ型 上弦、人体の急所目掛けて、薙ぎ払いと共に斬撃を飛ばす。

 

玖ノ型 赤月、敵の周りを移動しながら円状に斬撃を飛ばす、各個撃破技であり数少ない移動技の一つ。

 

拾ノ型 月影、地面を蹴った勢いで突きを放ち相手の急所に打ち込む、全力の突き。影の呼吸の数少ない移動技。

 

拾壱ノ型 御神影閃、御神流の閃と呼吸法を利用した純粋なまでの剣技の極み。

 

 

 

透き通る世界、生物の体が透き通り血管や内臓などの人体の中身を見る事のできる特殊な視覚。

他者の次の動きを事前に知覚でき、回避や先制攻撃がしやすくなる。

 

超直感、人の第六感、未来予知のように嫌な事が事前に知れる。

ただし内容までは分からない。

 

戦闘能力、

異能、技能の両方を駆使して敵を屠る容赦ない戦闘スタイル。

敵の殺傷に躊躇はないが観察力、洞察力が高く相手が強者だと先制攻撃を許す事が多い。

機嫌が悪い、気分、嫌な予感があれば行動は速い。

そして逃げる速度も速い。

 

余談、

他人に慕われ尊敬される完璧超人、逆に言えば誰からも本心を知られていない、友情も愛も理解できない。

ある意味では哀れで可哀想な寂しい人である。ただ本人も人間関係に積極的ではないので自業自得とも言えるかも。

 

元ネタは鬼滅の刃の鬼達からだが、高町なのはの対照的存在でもある。

 

なのは→冷都

女→男

末っ子 →長男

運動音痴→運動神経抜群

父親が事後に→母親が事故に

父親生存→母親死亡(後遺症で)

白→黒

遠距離戦闘→近距離戦闘

科学→異能

家では疎外感を感じる→家では中心人物

自称平凡な小学生→自称完璧な人間

精神的に大人だが考えが子供っぽい→子供そのものだが考えが合理的

最後まで諦めずに挑戦→必要なら諦めて別の方法を探す

善人→悪人

 



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家族愛

 意外と早かった再会に驚くフェイト、フェイトの姿は傷だらけで先の光以上に

切り傷が多く痛々しい姿であり。

 彼女に肩を貸す犬耳をつけたオレンジ色の髪色の少女にも同様の傷が付いていた。

 

「久しぶり、でもないかな」

「フェイトの知り合いなの?」

「うん、ちょっと……ね」

 

 暗く思いつめたような表情をする、一方の冷都は彼女の姿よりも

光を追うか決めかねていた。

 冷都にとってはフェイトはただの他人であり、偶然命を助けた相手

であっただけで。それ以上でもそれ以下でもない。

 傷だらけの少女を見ても特に何も思わなかった、のだが。

 

(そういえば、この女空を飛べたよな)

「おい、前に見せたように飛行はできないのか?」

「……魔力がなくて無理、う!」

「フェイト! 無茶しちゃだめだよ!」

「でも……行かないと……」

 

 何を急いでいるのか冷都には分からないが、フェイト達に近寄る。

 

「その魔力は自然治癒で元に戻るのか?」

「え、う……うん」

「なら良かった」

 

 冷都は黒い液体をフェイトと犬耳の少女にかける、少女はいきなりの事に警戒するが。

黒い液体が纏わりついて上手く動けない。

 

「な、なにこれ!? 気持ち悪い!」

「失礼な奴だ、治してやっていると言うのに」

「はあ!? って傷が……」

 

 フェイトと少女が自分の体を確認すると、傷一つなくなり。

魔力も全快している事に気づいた。

 

「凄い、こんな事もできるの?」

「私の事はいい、それよりも急いでいるのだろ? 早く行け」

「ありがとう、行こうアルフ!」

「うん! ありがとね! えっと」

「冷都だ」

「ありがとう冷都!」

 

 フェイトとアルフという少女は閃光の如く飛んで消えた。

 その後ろから桃色の光を放つ白い少女が追いかけて行った、顔は見えなかったが。

フェイトを追っているのだろう。

 

「最近の異能者は飛行能力持ちが多いな」

 

 異能者自体は見慣れいるが、同じ能力を複数人が所持している事は珍しいのだ。

 

「本当に魔法使いなのか?」

 

 一瞬頭に浮かんだ考えを口にするが、どうでもいいかと思い

直ぐに忘れた。

 それが正解だと知らずに。

 光を追うにも、もう間に合わないだろうと考え。

 

(位置も特定できん、帰って来た時に聞けばいいか。死んだら、死んだだ)

 

 到底実の弟に対する態度ではない、弟の傷を治したとはいえ。

探そうとする素振りさえない冷徹な人間性と無関心さは白髪の少年と

異形使いの少年の異常性と狂気を超えていた。

 その事には誰にも気づかない。

 

 

 図書館、暇を潰すにはちょうどいい場所だろうと入ったが。

特に読みたい本などなく、そもそも知識欲などない彼に図書館で暇を潰せと言う方が無理な話だ。

 漫画や小説を読むような性格でも無い為、冷都は酷く退屈な場所だと思い帰ろうとした時。

 

「もしかして、光君のお兄さんですか?」

「ん?」

 

 帰ろうとした冷都に話しかけたのは光の同級生の月村すずかだった。

 冷都は彼女のことを光から運動神経がいいと聞いた事がある程度であり。

学校で数回見かけたことがある程度で、お互い会話した事はない。

 

「……ドッジボール最強の女か」

「えええ!? どうしてそれを……」

 

 すずかは恥ずかしそうに顔を赤くする、同じクラスの生徒が噂をしているのを

聞いた事もあり。思い出したように口に出してしまった、もっとも冷都は

ドッジボールでも強すぎるのでいつも外野に回された思い出があるためあまり好きではない。

 というかボール遊び全般があまり好きではない。

 

「……何か用事でも?」

「ああいえ、黒神先輩ってあまり此処に来るイメージがなかったので……」

「……」

 

 確かに冷都はあまり図書館に来る事はない、自宅には書斎もあり

態々図書館に来る必要もないのである。

 彼が本を読むときは勉強か本当に暇になった時だけだ。

 とは言え、自宅に世界中の本があるわけでもない。

 未知を知りたいという願いはないが、気まぐれに面白い本はないかと探す

子供の様な感性ぐらいは存在するのだ。まあ先ほど帰ろうとしたのだが。

 

「私は本にはあまり興味はない、調べ物か暇つぶしに読む程度だ。

何かいい暇つぶしはないかと此処へ来たんだが」

「あ、それじゃあ私がいくつかお探ししましょうか?」

「いいのか?」

「はい、私が面白いなって思った物ばかりですけど」

 

 冷都は特に用事もなく、家に戻っても暇な為。

すずかにいくつか本を教えてもらい、夕方まで図書館で一緒に過ごした。

 

 

「結局25冊も読んでしまった」

「凄い集中力と分析力ですね、次の巻の内容も全部言い当てちゃいましたし」

(特に面白くもなかった、暇つぶしにはなったが二度と来るつもりはない)

 

 本に対して一切関心を示さないが、その集中力は驚愕に値する。

 事実、冷都は読んだ25冊の本の内容を全て記憶し。次に読む本の

内容を予想し当てるという遊びを行う。未来予知のような事までやってのけた。

 一字一句正確に、当てすずかを驚かせた。

 

「すずかちゃん、そろそろお帰りの時間ですよ?」

「あ、ファリン」

 

 コートを着た女性がすずかに話しかけた。

 

「黒神先輩、それじゃあ私はこれで」

「ああ、さよならすずか」

 

 冷都が名前を呼んだ途端、すずかが驚いて目を見張る。

 

「年の近い男の人に名前を言われたのは初めてです……」

「光がいるだろう、友人だと聞いたが?」

「光君は名字でしか呼んでくれないんです」

(何故?)

 

 光の意外な一面を聞き、我が弟ながら変な奴だなと思った。

 すずかは何故かもじもじとして、何か言いたげな顔をする。

 

「なんだ、まだ何か用か?」

「あ、あの。私も先輩の事。名前で呼んでいいですか?」

「? 好きにしろ」

 

 何故そんなことで恥ずかしがるのか理解できない冷都は

そんなすずかの事も変な奴だなと思った、名前で呼ぶことに何を

此奴らはこだわるのだろうかと。

 

「私も帰るか」

 

 考える気が起きない為、冷都は夕焼け空を眺めながら家に帰った。




今回彼の異常性の一部が書けたと思いますが、
皆さんどう思いましたか? 実の弟を力があるとはいえ見捨てます?。

あとすずかちゃんはヒロインにはなりません。
男友達ができて嬉しいだけです。


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今はまだ幼き運命

フェイト視点


 彼を最初に見た時、私は綺麗な人だなと思った。

男の人に付ける評価ではないのだろうけど、純粋にそう思ったから。

 次に思った事は、可哀想な人だと思った。

彼が私を守るために、突然襲ってきた少年を殺してしまった時。

自分の為に誰かが手を汚した事に、胸が痛んだ。

 

 彼はその事を忘れろと言ったけど、私はその事を忘れちゃいけないと思った。

絶対に忘れちゃいけない、でも誰にも話しちゃいけない。

 この事は秘密にしなきゃいけない、誰に言っても意味はない。

 白髪の少年の体は既にこの世にない、証拠も存在しない。

 

 それに、この世界の治安維持組織に話しても。

 なかなか信じてはくれないだろうし、相手にもされないだろう。

 

 何より彼は私を助けてくれた、その恩人を売るような真似はできない。

もしも彼が人を何人も殺したり、人を何とも思わない極悪人であれば話は違ったかもしれないけど。

 彼はそんな人じゃない、見ず知らずの他人を助けてくれて私の大切な家族。

 アルフの傷も治してくれた優しい人だ。

 

「ねえファイト、あの冷都って子はだれなんだい?」

「うーん、命の恩人?」

「え!?」

 

 いや、今は彼の事は置いておこう。

 問題はジュエルシードを集める事だ、私がジュエルシードの思念体を倒した直後。

 金髪の男の人が、ジュエルシードを持って行ってしまった。

 取り返そうと戦ったけど、桁違いの戦闘力にアルフも私も深手を負って逃げられて

しまった。その後すぐに追いかけたけど、魔力も消耗して今にも倒れそうだった時。

 偶然通りがかった場所に冷都が居た、彼のレアスキルで治療してもらって。

直ぐにジュエルシードの魔力を追って彼を追った。

 

「? フェイト! ジュエルシードの魔力だけじゃない! 別の魔法使いもいる!」

 

 アルフがジュエルシードの魔力を探している、別の魔法使い? まさかあの子?。

 

「それって、あの女の子?」

「わからない、こっち!」

 

 アルフの後についていくと、底には金髪の男の人と。

あの白い女の子の傍にいた少年が戦っていた。

 その戦いはまさに次元の違う戦いだった、少年の攻撃は

金髪の人が全て防ぎ、金髪の人の攻撃は全て少年が避ける。

 イタチごっこだ、でも私にこの戦いに介入できるだろうか?。

 諦めるのは論外、母さんの為にも私には絶対ジュエルシードが必要だから。

 どうやって彼らからジュエルシードを取り返すか。

 

「ねえ! そこの貴女!」

 

 超人たちの戦いに何もできずどうしようか迷っていると、

背後から聞き覚えのある声で話しかけてくる。

 振り返るとそこには、白いバリアジャケットを着た女の子が居た。

 

「なのは! 光の戦いの援護を!」

「うん、えーっと貴女!」

「え?」

 

 その女の子は私の方を向いて金髪の彼に杖を向けた、私にじゃなくて。

 

「貴女達の名前は?」

 

 まるで冷都の様に私に名前を聞いてくる少女。

 

「フェイト……テスタロッサ」

「ア、アルフだけど……

「フェイトちゃん! 私の名前は高町なのは! あの人を止めるのを手伝って!」

 

 高町なのはと名乗るその女の子の提案に少し悩んだあと、私は首を縦に振る。

 あの少年と協力できればこっちが有利になる。

 

「わかった、でもあの人からジュエルシードを取り返すまでだから」

「うん、それでいいよ! お話は、その後でするから!」

 

 バルディッシュを起動させ魔法を使う。

 

「フォトンランサー!」

「ディバインシューター!」

「ファイア!」

「シュート!」

 

 私と彼女が同時に魔法を放つ、私の放った魔弾は彼の足元に向けて撃つが

跳躍して避けられる。

 彼女の射撃魔法は追尾して金髪に人を追いかける。誘導制御型の魔法なのか。

 この子、つい最近は魔力が高いだけの素人だったのに。

 

 私も負けてられない、彼女と少年、二人の攻撃から全力で回避に集中している今がチャンス。

 

「ブリッツアクション」

「何!?」

 

 私は金髪の人の背後に回り込んでジュエルシードを奪い取った。

 振り返って取り返そうとしてくるけど、そう来るのは分かってる。

 

「隙だらけだよ!」

「ち!」

 

 上空に待機していたアルフが金髪の人にパンチするけど、回避された。

かなり目がいいのか、アルフの攻撃を完全に見切って躱した。

 私とアルフ、少年の彼女が挟み撃ちにする。

 

「いいでしょう、今回は引くことします」

「逃がすと思ってんのか」

「いいんですか?、私が本気を出せば。何人か道連れにできるでしょうし」

「この糞野郎が」

「それでは」

 

 そういってまた魔法も使わない原理不明の高速移動で逃げてしまった。

 正直助かった、あのまま戦っても彼の言う通り道連れに殺られていたかもしれない。

 

「さて、じゃあ。どうするんだ?」

「ど、どうするって?」

「いや、戦うのか? これ?」

 

 どうする、少年は彼と互角に戦っていた。

戦って勝てるかどうか、彼との戦闘で疲弊している様子もない。

 直情的な所もあるアルフも警戒して私の前に立って動かない。

 

「あー、そんな警戒すんなってまず先に。さっきはありがとう」

「いい、ただ敵が同じだっただけ」

 

 相手が何をしてくるかそれが、いつ襲ってくるかわからない私は敵意をむき出しにして

冷たい言葉を放つ。

 

「あー困ったなぁ、まずは自己紹介からだな。俺の名前は黒神光だ! よろしく!」

「え」

 

 黒神、黒神冷都。黒神光……、もしかして。

 

「……貴方、兄弟っている?」

「フェイト?」

 

 私が脈絡のない事を言った所為なのかアルフが困惑する、ごめんねでももしかしたら。

 光と名乗った少年はそれを聞いてとても驚いた顔をした。

 

「ああ、兄貴と妹がいるけど……」

「そのお兄さんの名前って、冷都って言わない?」

 

 どうか違ってお願いします!。

 

「おうそうだぞ? 兄貴の事知ってんのか?」

「光君のお兄さんと知り合いなの?」

 

 私は地面に向けて魔法を放ち土煙を作ってアルフの手を引っ張って逃げた。

 

「ちょ!? フェイト!?」

「フェイトちゃん!?」

 

 ジュエルシードを奪っておいてよかった、母さんに怒られずにすむけど。

まさかよりにもよってあの子の家族と敵対しちゃうなんて、……どうしよう。

 

「ちょっとフェイト!? 本当にどうしたんだよ!?」

 

 私はアルフにどう説明しようか悩み、頭が痛くなった。

 




冷都君が悪い人に見えないって感想で書かれてそれもそうだと思います。

違うんです! 彼は悪人なんです! 信じてください!。


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名前を呼ばれた

 

 私の名前は月村すずか、月村家の次女でちょっとお金持ちなお家に住んでいる。

 最近、なのはちゃんと光君が忙しくて一緒にいる時間が少ないの。

青葉ちゃんはお家の事情があるから、遊ぶ時間が少ないのは分かるけど。

 アリサちゃんもそれを訝しんで、付き合ってるんじゃないかと疑い始めた。

 でも多分そういう雰囲気じゃないと思う、上手くは言えないけど。

とても大事な事をしているというのは分かった、だから私は二人に何も聞かない。

 私にも秘密があるから。

 

 でも寂しい事は本当です、真面目に勉強した後の癒しがお家で飼っているペットと

スイーツくらいしかありません。

 

「すずかちゃん? どうかしましたか?」

「なんでもないよファリン」

 

 私のため息が聞こえたのか、隣で本を読むファリンが心配そうな表情をする。

 いけないいけない、私は読み終わった本を本棚に戻しに行くと。

 珍しい人を見かけた、私の通う学校の人気者。光君のお兄さんで名前は黒神冷都先輩。

 私も遠くから見かけたり、数回すれ違った事があるだけで会話した事は無い。

 自分で言うのもあれだけど、私はあまり社交的な方じゃないから。人気者の先輩の近くに

行く勇気が無い。

 

 でもどうしてこんな所にいるんだろう?、私の中では黒神先輩はあまり図書館を訪れるイメージが無い。

 光君曰く先輩は調べ物は自分の家にある書斎を使うと聞いた事があるし。

 

 ……ちょっと気になる

 

「もしかして、光君のお兄さんですか?」

「ん?」

 

 私が話しかけると意外にも緊張せずに話す事ができた、正直男の人は苦手だけど

この人と話していると、なんだか心が落ち着く。

 でも私をその名前で呼ばないでくれませんか先輩!? その二つ名みたいなの

あんまり気に入ってないんです!。

 

 しばらく話していると、暇つぶしに図書館に訪れたようなので。

私が何冊か面白い本を紹介した、先輩は凄く速読で次の巻の内容を予測して

言い当てる未来予知みたいな事をした。

 25冊目を読み終えると、ファリンがもう帰る時間だと言われて先輩にさよならを言いました。

 

「黒神先輩、それじゃあ私はこれで」

「ああ、さよならすずか」

 

 先輩に名前を呼ばれて私はつい驚いてしまう、

 

「年の近い男の人に名前を言われたのは初めてです……」

「光がいるだろう、友人だと聞いたが?」

「光君は名字でしか呼んでくれないんです」

 

 何故か光君は私達の名前を言わずずっと名字で呼んできます、

でも冷都先輩は私の名前を何の躊躇もなく呼んでくれました。

 私が先輩の顔を見ていると、無表情で首を傾げます。

 

「なんだ、まだ何か用か?」

「あ、あの。私も先輩の事。名前で呼んでいいですか?」

「? 好きにしろ」

 

 何を当たり前の事をと言うような表情と声を聞いて私は内心で喜びます。

学校の人気者とお友達になれた事に何だか嬉しくなり、早速名前を呼ぼうとした直後。

 

「あれ? 冷都先輩は?」

「もう帰っちゃいましたよ?」

「そ、そんな~」

 

 私は家に帰る途中、人気者と仲良くなれただけでも自慢できる事だと自分で納得させ。

お姉ちゃんに早速自慢しました、その日は恭也さんが家へ遊びに来ていました。

 私が冷都先輩の話題を出すと、何故か恭也さんはお茶を吹き出し咳き込んだりしました。

どうしてだろう?。

 

「恭也? どうしたの?」

「大丈夫ですか?」

「あーいや、その冷都って子。もしかしてずっと無表情で一人称が私じゃないか?」

 

 なんと恭也さんと冷都先輩は友人だといいました。

 恭也さんが苦笑いしながら冷都先輩と出会った時の事を話します。

 

 一時間ほどそのお話を聞いていたお姉ちゃんと私は驚きました。

 まさか異能の力を持って、恭也さん以上に強いなんて。

 

「黒神、黒神家って言えば。代々異能者が生まれる家系で対超常現象の専門一家よね」

「お姉ちゃん知ってるの?」

「今思い出したの、それでその一族なんだけど。本当に本物?。

正直眉唾物のおとぎ話レベルの一族よ?」

 

 お姉ちゃんは恭也さんの言葉であっても中々信じられないらしいです。

 私も多分そんな事を急に言われたら、信じられないと思います。

 

「じゃあ今度来てもらうか? 本人を見たらきっと信じるだろう」

「そうしたいけど、その代わりに私達の事も話さないといけないじゃない」

 

 お姉ちゃんの言葉を聞いて、私は少し胸が痛みます。

 もしも拒絶されてしまったらと思うと、怖くてたまりませんでした。

 でも恭也さんは大丈夫と言って微笑みます。

 

「あの子は優しい子だ、忍やすずかちゃんの体の事なんて才能の一つ程度としか思わないだろう」

「……ふふ。分かったわ。恭也の言う事だもの信じるわ、すずかはどうする?」

「私は……まだ少し怖い。だから相談してみる」

「相談って、誰に?」

 

 私は不安半分、期待半分で先輩の事を思い浮かべます。 

 

「先輩本人にです」

 



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協力者

「フェイトを助けてくれ!」

 

 そう言って冷都の目も前で土下座をするアルフ、それを無表情ではあるが。

 内心では困惑しっぱなしの冷都。

 どうしてこうなったのかは、つい数時間前にまで遡る。

 

 それはある天気のいい日の事、つい最近。壁や家が倒壊するような出来事が目の前で多発しているにもかかわらず。

世間はそんな噂話一つ出てこない、強いて言うならお化け屋敷が存在するなど。

若い少年少女が深夜に外出するなど、別に珍しくもない事を聞く程度だ。

 そんな中一人で町を歩いていると。

 

「おら、早く金出せよ」

「そんな、僕持ってないんです」

「ああ!?」

 

 高校生ぐらいの不良達がカツアゲをしている、治安の良いこの辺りには珍しい光景だと思った。

 周りに人は歩いておらず、警官や他に誰かが助けに来ることは無いだろう。

 当然彼もカツアゲをされている青年を助ける事はしない、冷都が不良たちを見ていると

彼らも冷都の視線に気づく。

 

「ああ? 何見てんだガキ。あっち行け!」

 

 冷都は大人しく何処かに立ち去ろうとした、別にそこまで面白い訳でもなく。

こっちに来られても対応が面倒な為である。

 

「彼奴からは金取んなくていいのか?」

「バーカ! あんな”弱っちそうなガキ”から取れるかよ!」

「そうそう、”殺しちまう”かもしれねぇしな! ははははは!」

 

 不良達がその言葉を言った瞬間、冷都は先程までの冷静な思考回路は消滅し。

その手を不良の一人に向け、黒い獣に食わせる。

 

「は?」

 

 いきなりの事に唖然とした表情で立っている二人の片方を、巨大な黒い手が叩き潰し。

その返り血をもう一人が受ける、ようやく異常を理解した不良の最後の一人は。

 黒い巨大な手が壁まで叩き付け固定する。

 

「ひぃい!」

「おい、私は弱そうか?」

 

 怯える不良の目に剣を突き付けて殺意と悪意の混じった感情をぶつけた。

 

「殺せそうか? 死にそうか? お前ら程度に? ふざけるな」

 

 不良の頭を獣が食いちぎると、辺りの血を回収し証拠を隠滅して。

冷都は何事も無かったように散歩に戻った。青年は気絶していたので幸運にも冷都に消されずに済んだ。

 

「む?」

 

 冷都は上着の袖に血が付いている事に気づき、直ぐにその上着を脱いで

マイナスエネルギーで代わりの上着を作って着る、血の付いた上着は食べて消した。

 

「新しいの買うか、また彼奴に頼んで服をもらうか」

 

 冷都が独り言を呟いていると、オレンジ色の髪色をしたフェイトの使い魔であるアルフが

空から現れ冷都の肩を掴んで涙目になって叫ぶ。

 

「フェイトを助けて!」

「お前はフェイトの連れの女か」

「アルフだよ! お前治療能力があるんだろ! フェイトを助けてくれ!」

 

 突然現れ混乱する冷都をよそにアルフは経緯を簡潔にだが教えてくれる。

 

「さっきまでフェイトが戦ってたんだけど、全然休まないで連戦して

体力がもう無い状態でも戦って、今にも死にそうなんだよ!」

 

 そう泣き叫びながらアルフは土下座して冷都に頼み込んだ。

 冷都は少し考える素振りを見せ、頭を下げるアルフの肩を叩く。

 

「何処にいる?」

「!……こっちに!」

 

 冷都がフェイトの居場所を聞くと心底救われたと言った顔をして、道案内する。

 アルフの案内で連れてこられた場所には包帯だらけで血塗れの状態になって半死半生の状態で

死にかけているフェイトがベットの上で苦しそうに眠っていた。

 

「この包帯はお前が?」

「うん、回復魔法をかけたんだけど全然効果なくって……」

 

 涙目で無力感に打ちひしがれるアルフ。

 

「だがお前のおかげでフェイトは助かる、応急処置を施した後に俺を見つけたのは幸運だったな」

 

 黒い液体はフェイトの全身を飲み込み、フェイトの体は完全に治癒し。

その顔には先程までの苦しみの表情はなくなり、アルフは安心したのか尻もちを着いて胸をなでおろした。

 

「……う、ここは?」

「フェイトー!」

 

 意識を取り戻したフェイトに、感極まって抱き着くアルフ。

事情に気づいたフェイトもアルフを抱きしめごめんねと言った、そして冷都の存在に気づき目を見開く。

 

「冷都……」

「魔導師と呼ぶんだよな、お前らの事」

 

 冷都が彼女達の総称を呼ぶと、フェイトが首を縦に振って肯定する。

 光が家に帰ってきた際に、ある程度事情を聞き。魔導師の事や今海鳴市で起きている隠れた事件

の解決を行っているという。

 それに対して黒神浩二が何で相談しなかったと聞くと、魔法技術のない世界で魔法の事を話すのは問題らしい。

 だが事情が事情であり魔法とは全く関係なく追い詰められ始めた、その為。

光が連れてきたユーノと名乗る喋るフェレットから詳しい事情を聞いて浩二は協力すると言った。

 その際に、魔力が冷都にもあるという話を聞き。

 光からテスタロッサと知り合いなのかと問い詰められ、つい最近家に来ていたことを言うと浩二も光も頭を抱えた。

 などの驚愕の事実や途中冷都が凄まじく不機嫌になるも黒神家はユーノに協力する事となった。

 

「ある程度の事は光から聞いた」

「そうなんだ……弟さんから、それじゃあ私からジュエルシードを奪いに?」

 

 フェイトがベットの上で顔を俯き、アルフがそれに対して沈痛な面持ちをするが。

冷都は首を横に振り、否定する。

 

「何故? 私はお前を助けただけだ」

 

 そう言うとフェイトはしばらく冷都の顔を見つめて、少し笑った。

 

「ありがとう、貴方は優しいね」

「お前達は何故こんな所に?」

 

 アルフが冷都を連れてきた場所はあるマンションの一室、と言っても魔法で結界を張って

勝手に居座っているだけなのだ。

 フェイトとアルフがばつが悪そうに目を逸らす。

 

「私の家に来るか?」

「え? でもいいの?」

 

 冷都の提案にフェイトがいいのかと問う。

 

「その代わり、暇がある時に私に魔法を教えてくれ。私にもあるのだろう? そのリンカ―コアという

器官が」

「あ、あるけど。本当にいいの?」

「安心しろ弟には秘密にしてやる、家は豪邸でな洋風の別邸と和風の別邸の二つが

あるんだ、どっちがいい?」

「じゃあ和風がいい、日本家屋ってやつでしょ!」

「ちょ、ちょっとアルフ!」

 

 フェイトがおろおろと慌てるが、そうと決まれば早速行こうとアルフが荷物を

まとめる為に部屋を出て行く。

 

「じゃあ、しばらくお世話になります……」

「ああ、よろしく」

(私も空を飛べるのか)

 

 冷都は意外にも子供っぽい願いを抱いていた。

 運命が交わり始める。




つい先ほど人を殺したとは思えないほど落差が激しい。

自分に跪く人間にはとても優しい冷都君でした。


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ゲームスタート

「名前はホムンクルス、実名不明、年齢不明、国籍不明。容姿は金髪長身の外国人男性。

慇懃無礼な態度、それで合ってるか?」

「名前は知らなかった、でもその容姿の人だった。慇懃無礼だったかはあんまり話してないからわからない」

 

 フェイト達が黒神邸、別邸の日本家屋に住みだした翌日。

 情報交換の為にある程度の質疑応答を繰り返していた。

 

 ジュエルシードという宝石がこの世界の何処か、正確には海鳴市周辺地域に落っこちているらしく。

一つで町を吹き飛ばすエネルギーが存在するという、流石にそんな危険物は見過ごせないのか。

フェイトにジュエルシードを見つけたら真っ先に連絡するという利害関係の一致で協力した。

 ついでに魔法も教えてもらっているが。

 

「その男の固有能力、お前の言うレアスキルは最低でも八つ」

「八個もレアスキルがあるのかい!?」

 

 アルフが驚きの声を上げる、フェイトもあまり表情はかわらないものの少し目を見開いる。

 

「弟が言うには、手の刃物化、捕食能力、硬化能力、変身能力、超動体視力、高速移動能力、影の実体化、

再生能力の八つ。いくつかはお前達も見たと思うが」

「そこまでの能力を持ってるなんて、規格外過ぎる」

 

 考え込むように手を顎に当てるフェイト、アルフはまだ驚きが残っているのかまだ呆けている。

 話が終わったのか冷都が立ち上がった、段ボール箱を持って来る。

 

 フェイトも気になったのか、首を傾げて何だろうと思う。

 

「それは?」

「お前達の着替えだ、無いと困るだろう」

「……そこまでしなくてもいいよ?」

 

 何から何まで世話になっている事に罪悪感があるフェイトも遠慮するが、

もう取り寄せてしまったと言われて黙り込む。

 

「これ、和服?」

「着物だな、付け方を教えてやる」

 

 

 冷都がフェイトに着物を上げた後、三人はジュエルシードを探す為に町を歩ていた。

 フェイトも魔法を使い、ジュエルシードを探しているが。町にある小さな石ころをあてもなく探すのは無謀

でしかなく、どうやって見つけるつもりなのかと聞くが。

 足でと答えられ、内心でため息を吐いた。

 

「これは?」

「廃ビルだ、もう何年も放置された状態で残ってる。取り壊して駐車場になると聞いた事が」

 

 フェイトが立ち止まって、廃ビルを指差すと冷都が解説する。

 

「見つけた」

 

 ジュエルシードを見つけたフェイトがアルフに言うと、結界が張られる。

 冷都も度々この結界内に入っていたのだが、言われなければ気が付かないかった。

 

「バルディッシュ、セットアップ」

 

 フェイトがデバイスを起動し変身すると、着物は消滅。

 バリアジャケットという戦闘服に変わった。

 

「貴方にも戦闘を期待していいの?」

「私の強さは知っているだろう、安心しろヤバくなったら治してやる」

 

 フェイトがアルフと冷都に視線を送り、首を縦に振ると廃ビル内に入った。

 瞬間、フェイトの視界が暗転。

 

「なにこれ?」

 

 気が付くとそこは、ゲームの世界だった。

 

 

 アリサバニングス、アメリカ人の両親を持つ日本生まれのお嬢様。

 黒神冷都や光と同じ学校に通う小学三年生の一般人である。

 

(その私が……)

「どうなってんのよこれはー!」

 

 彼女が気が付くと、ファンタジーの世界に来ていた。

 特に何かしたわけでもない、彼女は家で勉強の休憩時間で

気分転換にテレビゲームをプレイしている最中、視界が暗転。

 そして現在に至る、まるで意味が分からない。

 

「なんなのこれ? 私頭がおかしくなったの? ちゃんと休憩時間とったでしょ?

そうか夢ね、夢よこれは!」

 

 なんか混乱しすぎて普段の冷静さを失っている気がするアリサ。

 念の為に自分の頬をつねる、アリサは痛いと思った。

 

(夢じゃないいいいい!?)

 

 膝をついて項垂れる、しばらくパニックに陥っていると落ち着いたのか。

辺りを見回してみる。

 

(一面草原の大地、遠くの方になんかめちゃめちゃ大きいドラゴンとか飛んでるし……。

なんなのかしら?)

 

 その道に詳しい人物であれば異世界転移と言って喜んだかもしれないが、

彼女はアニメや漫画をそこまで見るタイプではなく、ファンタジー系の娯楽作品は

日曜の朝にやっている少女アニメ程度の知識しかない。

 しかしそんな彼女でもドラゴンなどの有名な怪物は知っていた。

 

(携帯は家にあるから、連絡できない。そもそも異世界に電波なんてあるかしら?)

 

 どうしようか考えていると、後ろからズドンと何かの地響きを感じた。

 すぐ近く、アリサの背後辺りに感じる。

 

「……」

 

 冷や汗ををかいて、恐る恐る後ろを振り返ると。

 巨大な怪物、ドラゴンが彼女を見ていた。

 

「ギャアアアアア!」

 

 恐ろしさのあまり、先ほどまでの冷静さは完全に消失、アリサはドラゴンから逃げたした。

 だがあちらは翼の生えた怪物、走って逃げるアリサを空を飛んで追いかける。

 

「卑怯! 卑怯よ空飛ぶなんてー!」

 

 恐怖のあまり言葉の通じるかもわからない相手に叫ぶもドラゴンは口を開いて

火炎を吐き出した。

 その炎は彼女の小さな体を完全に飲み込み、アリサの目の前には赤い炎だけが映り。

最期に彼女が見た光景は、GAMEOVERという文字だった。

 

「はあ!?」

 

 気が付くとアリサは元の草原の上に立っていた、アリサはドラゴンの炎で焼かれて

丸焼きになった。だがアリサの体には火傷も何もなく、衣服には汚れ一つない。

 そして彼女はあることに気づいた、彼女の最後に見たGAMEOVERという文字から察するに。

 

「負けたから、リトライしたって事?」

 

 アリサは自分がゲームの世界に来てしまったのではという発想に至った。

 だがあの熱さも痛みも本物そのもので、自分が一度死んだという事を思い出した

事に吐き気を催した。

 

「う、うぇえ。おえ……」

 

 ズドンという足音が彼女の背後から聞こえた、アリサは今度は振り向くこともせずに

駆け出した。

 死にたくないという一心で。

 

(いやだ、やだ! 助けて!)

「だ、誰か助けて!」

 

 だが誰も助けには来ない、死へと誘う紅蓮の炎は無情にも彼女の体を灰に変えた。

 

「……」

 

 リスタート、アリサは草原の上に立っていた。



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ぼくのかんがえたさいきょうのアリサバニングス

アリサは活躍しません(今回は)


 

 何度も死に、何度も生き返るループを繰り返しているとある事気づいた。

 

「私、足早くなってる?」

 

 此処はゲームの世界、人が死んでも生き返る事など常軌を逸している。

その世界にいるアリサにも何らかの変化が起きていた。

 死んで生き返るを繰り返し気づく、自分が死ぬ度に強くなっているのだと。

 

「なんて嫌な能力……」

 

 だがそのおかげでドラゴンから逃げ切り、安全な場所にまで逃げ切る事ができた。

 しばらく歩いていると遠くの方に町が見え、急いでその町まで走った。

 そこで異常な事に彼女は気づく、町が異様なまでに静かなのだ。

人は歩いている、犬や猫などの小動物も歩いていた。

 だが生気がないのだ、話しかけても同じ言葉しか繰り返さない。

 

「ようこそ! 此処は始まりの町です!」

「もう少し名前捻りなさいよ」

 

 やっと見つけた人が誰も話の通じない状態だったためか、投げやりな態度になるアリサ。

ため息を吐いて、これからどうしようか考える。

 

(この世界はゲーム、クリアすれば出られるのかしら)

 

 散々な目にあった所為でここから早く出たいと思ったアリサは

逃げるように始まりの町から出ていこうとすると、ぶつかって尻もちをつく。

 

「いたたたた……ごめんなさ。ってえ!?」

「なんだお前は」

 

 顔を上げてぶつかった相手を見ると驚愕した。

 そのぶつかった相手はアリサを無表情で見下ろす。その相手は

この物語の主人公、黒神冷都だった。

 

「な、なんで貴方が……」

 

 アリサはあまりにも意外な人物が目の前に現れ、動揺して上手く言葉がでない。

 冷都は首を傾げて困惑するが、彼女の顔をよく見ると思い出した。

 

「名前はアリサで合っているか?」

「え、あ。はい」

 

 冷都の発する圧についアリサは敬語で返事をする、まあ年上の先輩なので当然なのだが。

彼の中にも疑問が渦巻いていた、冷都も廃ビルに入った途端にこの世界に来ていたのだ。

しかし冷都は自分以外の人間を此処では一人も見なかった、フェイトとアルフも消え

何処かにはぐれてしまい数時間ほど歩き回り、アリサを発見したのだ。

 

「お前はどうやってこの世界に?」

「えっと、ゲームをしていたら突然……」

(廃ビルに入った訳じゃないのか)

 

 冷都が手を貸してアリサを立ち上がれる。

その後此処は異世界ではなくゲームの世界であるという事をアリサから聞き。

 冷都から他に自我のある人間は見たか、金髪の少女か犬耳の少女を見なかったか

と聞かれるも首を横に振り見ていないと否定する。

 

「う、うう」

 

 アリサは人に会えた安心感から泣き出してしまう。それを慰めるでもなく

ただ見つめる冷都。無言でハンカチを渡すとアリサは礼を言って受け取る。

 

「早く此処を出るぞ、出口に心当たりは?」

「ごめんなさい、わからないわ」

 

 泣き止んだアリサと出る方法を模索し、アリサは自分が考えていた方法は

どうだろうかと提案する。

 

「ゲームクリアか、それまでリセットとリトライを繰り返すのか。悪趣味なゲームだ」

「でもクリアする条件がわからないわ」

「見たところアクションゲームだろう、ボスを倒せばいいのだろう。

戦闘は私が行うお前は後ろで隠れていろ。私が守ってやる」

 

 早速移動しようとする冷都の手をアリサは握る、

冷都がそれに困惑するがアリサは肩を震わせぼそりと小さな声で呟いた。

 

「……戦うわ」

「声が小さい」

「私も戦うわ!」

 

 覚悟の目で冷都にそう告げるアリサは怯えた少女の目ではなく、戦士の目をして燃えていた。

 

「私はねぇ、苛立っているのよ。誰が犯人か知らないけど……よくも私を殺してくれたわねー!

ってそいつに言ってやるのよ!」

「――――――良い」

 

 アリサの言葉に驚きと称賛の言葉を贈った。

 ただの一言ではあるものの、内心では人を見下し上から目線で

接している冷都も素直に心の底から称賛した。

 

「だがやる気だけでは戦えはしない、手本を見せてやる。

一緒に来い」

「え、ええ」

 

 町の外に出てアリサに戦い方を教えようとする、外に出て10分ほど歩くと。

 空から彼女を焼き殺したと思われるドラゴンが地面に降り立ち、二人を睨み付ける。

 それに対して少し後ずさるも、負けてたまるかと睨み返す。

 

「まずは見ていろ」

 

 アリサの前に立ち、黒い剣を作り出す。

どこからともなく出てきた剣に驚く彼女を余所にドラゴンの前で構え。

 

 ――影の呼吸 伍ノ型

 

 ――薄明光線

 

 冷都の振るった剣から複数の黒い刃が伸びドラゴンを解体した。

その光景を口を開けて唖然として棒立ちになるアリサ。

 

「お前にはこれをやってもらう」

「……できるか!」

 

 冷都の言葉にアリサは正論で返した。

 今のは何、何者なのと興奮気味に言うアリサを宥めて。落ち着かせた後

何をしたのか説明し自身の正体を明かす。

 

「それで、私もその呼吸法を覚えれば強くなれるの?」

「できるが、お前には無理だ」

「なんでよ?」

 

 冷都から即答して無理だと言われたアリサが不満げに口をとがらせる。

 

「全集中の呼吸は長い年月をかけ肺や体を鍛え抜いた上でできる強化法だ。

だがお前は特別体が強いわけでも才能があるわけでもない」

 

 ただの一般人だ。そう言われて反論できないアリサ。

ならどうやって戦えばいいのか。

 

「だからお前を強い人間にしてやる」

 

 そう言うと冷都が作り出した黒いスライムはアリサの体を飲み込んだ。

いきなりの事に驚いて暴れだすアリサを余所に椅子を作り座って彼女を観察する。

 

「個人の力で習得するのが全集中の呼吸、

マイナスエネルギーによる強化はその真逆。外的要因による強化だ」

 

 暴れて話を聞いているのかも分からない彼女に対して一方的に話をする。

しばらくすると液体は彼女の体と一体化するように消え、不機嫌そうな顔をするアリサが

冷都を睨み付ける。

 

「どうかしたか?」

「合図をくれない!?」

 

 あーだこーだ叫んで煩いアリサを黙らせると、早速力を使ってみろと命令する。

 だがどう使えばいいのか分からないアリサは適当にその辺に落ちている石ころを拾い上げ

思い切り投げてみると。

 投げられた石は9歳の少女が投げたとは思えないほどの速度で

木々を貫通し、破壊音を鳴らしながら地面に着弾した。

 それをぎょっとして見るアリサと、まあこの程度かと思う冷都。

 我に返ったアリサが、声を震わせて投げた方向をわなわなと指差す。

 

「おめでとう、これでお前も立派な超人だ」

 

 冷都は無感情にそう言った。

 

 



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友情と無情

 

 超人となったアリサを連れて、ゲームクリアを目指すが

肝心のボスやイベントが何一つわからない。

 途中アリサに何度か戦闘をさせるついでに、始まりの町に戻り情報収集をしても

欠片もそれらしい情報はなかった。

 

「まるで作りかけのゲームだ、登場人物もイベントもボスさえいない」

「敵キャラはドラゴンだけで、スライムもコウモリもでてこない。

雑魚キャラがいないRPGなんて初めて見るわ」

 

 手詰まり、二人は途方に暮れていた。

 このゲーム世界に入ってから約5時間、何度か敵と遭遇するも全てドラゴン。

重要そうな洞窟や神殿の中に入っても何もなく、ただ時間だけが過ぎていった。

 

「どうするか」

「どうしましょう……他に行くところなんて……ん?」

 

 そこで彼女は思い出す、彼女が最初に見た巨大なドラゴン。

雑魚敵の様に現れるドラゴンではなく、その何十倍の身体を持った龍の姿を。

 

「あああああああ!」

 

 急に大声を出して立ち上がるアリサ、冷たい目を向ける冷都。

 

「最初に私が居た場所! めちゃめちゃ大きいドラゴンが空を飛んでたわ!」

 

 それを聞いた冷都も直ぐに立ち上がり、アリサの案内でその場所に向かう。

 その場所に到着すると、巨大竜が空の上を飛んでいるのが見える。

 

「なるほど、あれか。なぜ忘れていたんだ? あんな派手な怪物を」

「う、うるさいわねぇ……いいから彼奴を。彼奴をー……どうしましょう」

 

 遠目で見ても巨大なドラゴンにどう戦おうかと悩むアリサだが。

冷都は問題ないと言って剣を作り出す。

 

「覚えたばかりだが、ちょうど良い」

「え?」

 

 飛行魔法を使用した冷都はアリサを触手で掴んでドラゴンに向かっていく。

 

「あんた空も飛べたの!?」

「最近覚えた」

 

 アリサを抱えながら空を飛ぶと、大空の下から世界を眺めてみた

 

(心底気味が悪い)

 

 常人ならば美しいその光景に息を吞む事だろう、現にアリサもその美しい空と大地を

目を見開いて感嘆の吐息を洩らす。

 

「綺麗……」

 

 だがそんな感想を言っている暇などはなく、彼等の接近に気づいたドラゴンが

二人を墜とそうと敵意を持って極大の火炎を放つ。

 しかし恐れることなかれ、あの恐るべき竜は百階建ての高層ビル

を超えるほどの体積を持っているだろう、あの口から放たれた炎は

マグマの熱をも超えているだろう。

 だがそれがどうした、黒神に敗走の文字はない。

 飛来する炎を盾を球体状に展開し炎の熱を防ぐと、竜の首を切り落とそうと

巨大な大剣を創造、飛んでいる巨竜の首目掛けて振り下ろした。

 首を切断された竜はそのまま地面に落ちていき、衝撃音を響かせて動かなくなった。

 

「結局私の出番はなかったわね……」

「見ろ、周りの景色が変わったぞ」

 

 出番の無かったアリサの文句を聞き流し、周りに目を向ける冷都。

すると再び視界が暗転、目覚めるとそこは廃ビルの入口、戻ってきたのだ。

 

(アリサが何処にもいない、恐らく家に戻ったのだろう)

「フェイト、アルフ。どこだ」

 

 廃ビル内を歩きながらフェイト達を探すが何処にも見当たらず。

探索していると青い宝石を見つける、フェイトに実物を見せてもらった事があるので。

それがジュエルシードだと直ぐにわかった。

 ジュエルシードを回収すると、下の階層からアルフの声が聞こえてくる。

降りて合流しようと思った時、冷都はユーノというフェレットの話を思い出した。

 

「ジュエルシードは所持した人の願いを無差別に限定的にですが叶えます、魔力がなくても

使い方さえわかれば、だれにでも……」 

(この石を使って私達を閉じ込めたのは誰だ?)

 

 冷都がふと近くにある扉に目を向ける、この廃ビルは元は人が住んでいたらしく。

もう何年も前から取り壊されずに残っている。

 どこぞのホームレスが住み着いているのかもしれないと思い扉を開けると。

 

「……っ、ああぁ……」

 

 茶色に近い金髪の少女が冷都に背を向け泣いていた、少女の体は透けて半透明であり。

他には誰もいない、冷都は恐らく彼女がジュエルシードを使ったのだろうと予想した。

 

 冷都に気づいていないのか、少女は泣き続ける。

 

『何故泣いている?』

 

 冷都が声をかけると、嘆きの幽霊は嗚咽を止める。

 

「……寂しい……寂しい……」

 

 幽霊の空気が変わり、虚無感を感じさせる声音と丸まった背中は

より一層の悲壮感を感じさせるが、冷都が悲しみを共感することはなかった。

 

『何故寂しいのだ?』

 

 再び冷都が問い掛けると、壁を見つめたまま黙りこくってしまう。

 聞こえなかったのかと思った冷都が彼女に近寄りもう一度問い掛けた。

 

『何故寂しいのだ? 私が聞いてやる話してみろ』

「……」

 

 年月が経ち荒れた畳の上に座り、幽霊の背中を見つめる。

するとぽつりぽつりと話し始めた。

 

「私は生前……孤児だったの」

 

 少女は己の過去をゆっくりとだが話し始めた。

彼女はその昔、冷都達と同じ学校に通う小学生だった。

両親は死亡、生まれつきの容姿と才能、そして孤児という経歴が邪魔をし

彼女に友人ができることはなかった。ある日の事、彼女は誘拐され、

玩具の様に弄ばれ、最期には殺されてしまったという。

 

「……」

 

 全てを話し終えた幽霊はまた泣き始める。

それを聞いていた冷都は酷くつまらなそうにしていた。

幽霊の過去は哀しく悲劇的なものだっただろう、

そんな目に合えば確かに地縛霊にでもなってしまうかもしれない。

だが既に死んだのだ、此処にいる意味はないだろうと思った。

 冷たく、配慮のない無神経な感情で幽霊に言った。

 

『復讐をすればいい、そいつらに。徹底的に』

「もう……したわ……」

 

 なんと幽霊は既に復讐を終えていたにもかかわらず

地縛霊としてこの世に残っているのだ。ならばもう成仏すればいいだろう

一体何に不満があるのだろうか。

 

「私は……友達が欲しかった」

『ならば友達になってやる』

「え?」

 

 顔を上げ驚きの声をあげる幽霊、それとは逆に淡々とした声で

しゃべる冷都。

 そんな簡単な事なのなら早く言えばいいのに、そう内心で思う冷都は言葉を続ける。

 

「ただしお前が男の友人を許容するのであればだが、それでも良いと言うのなら」

 

 幽霊の少女は振り向き、冷都の顔を見る。

 

「お前が成仏するまで、一緒に居てやろう」

 

 幽霊、アリサローウェルは始めて救われた。

 





余談

 今回ジュエルシードを使ったのは彼女です。
何年も一人ボッチだった為、怨霊になりかけていた所に冷都が
来て救われた形になりました。

ジュエルシードは彼女が意図的に使ったわけではなく、彼女の願いだけを
受け取り発動した形です、ですが死んでいる彼女に効果が無いので。
彼女と容姿と性格がそっくりなアリサが召喚されたわけです。

 願いの内容はやり直したいと夢ならいいのにと言う願いが歪んで叶った
結果です。


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もしもはない

「ねえねえ、あれは何? ウサギ? 呪い兎? 可愛いわね!」

「お前は静かにできないのか?」

 

 廃ビルの地縛霊を成仏させる為に友人となった結果。

なんと彼女は冷都に取り憑いてしまった、正確には冷都の家、黒神邸にである。

 彼女の名前はアリサ・ローウェル、冷都は容姿だけでなく名前まで同じだった事に驚いた。

 現在彼女は冷都達が生活する本邸であちらこちらに飛んで行っては冷都に質問してくる。

何年間も外に出ていなかった所為だろう、好奇心を抑えられないのか家を飛び回り冷都をイラつかせる。

 

「兄貴―、友人多いの知ってたけど。まさか幽霊まで連れて来るとは……しかもあれ、アリサだよな?」

「安心しろ別人だ、容姿と名前が同じ名だけで」

「逆にそれ凄くないか?」

 

 冷都に連絡を受けて帰ってきた光達がアリサを見て驚く、彼らも仕事柄幽霊などは

よく見るので怖がりはしなかったものの、特に光は知り合いと酷似した容姿の幽霊を見て複雑そうな顔をする。

 

「兄さんが良いなら、別に取り憑かれても問題ないけど。ご飯っているの?」

「幽霊だし要らないだろ」

「生命力を貰うらしい」

「やべーじゃねえか!?」

 

 そんな風に黒神家で一悶着あったが、無事アリサを認めてもらう事ができた。

 

 それから一ヶ月後。

 別邸、日本家屋では。

 

「これが最後のジュエルシードだ、受け取れ」

「ありがとう、結局貴方に頼りっぱなしだね私。本当にダメダメだね私」

「だ、大丈夫だよフェイト……今回は相性が悪かっただけだし」

「私、何かしたの?」

「気にしなくていい、早く封印しろ。此処で暴走されたらかなわん」

 

 フェイトがジュエルシードを封印すると、冷都に頭を下げる。

 

「ありがとう、こんなに早く“18個も”集められるなんて思わなかった。

このお礼は絶対にするから」

「礼は良い、それより後何個だ?」

「あと三つだけ、多分だけど。あの子達……貴方の弟さん達が持ってると思う」

「そうか、それは自分で何とかしろ。お前の役目だ」

 

 そう言うとフェイトはアルフを連れて、何処かへ去っていった。

短い期間でジュエルシードを手に入れたから、母親の下に戻っていったのだ。

 

「行っちゃったわね、貴方のガールフレンド」

「彼奴はただの居候だ、……もう少し魔法を教えてもらいたとは思う」

 

 冷都とアリサは二人を見送ると、家の中に戻っていった。

 

 

 数日後、白い少女とフェイトは最初で最後の本気の勝負を行った後の話。

 

「……」

「フェイトぉ」

 

 フェイトテスタロッサと言う人間は存在しなかった、最初から人間でもなかった。

彼女は母親が娘の遺伝子を利用してできたクローン人間、だがその真実を知らずに生きていたフェイトは

母プレシアからの最期の言葉を聞いて精神崩壊寸前だった。

 

「……アルフ」

「フェイト!?」

 

 本来の未来であればの話である、この少女の心はまだ生きていた。

 

「冷都の話、憶えてる?」

「え、何の話だい?」

 

 アルフはフェイトの言葉の意味が分からず、何の話と尋ねる。

 それにフェイトは微笑んで話し始めた。

 

 それはまだ彼女が冷都の屋敷で居候していた頃。

 

「え? それじゃあ冷都にはお母さんがいないの」

「ああ、私が五歳の頃に事故の後遺症で亡くなった」

 

 フェイトが休憩中に冷都に家族の思い出を語っていた。

だが冷都は母親を直ぐに亡くし、フェイトも父親の記憶が無いのだという話をしていた。

 

「寂しくない?」

「ああ、母親は優しい人だった。髪の色は銀色で肌は雪の様に白い、他人から見ても美人だと聞いた」

「よく覚えてるんだね」

「私は母と過ごした日を今でも思い出せる、だがその日常に戻りたいとは思わない」

「どうして? お母さんが嫌いなの?」

「違う、既に終わったからだ。母は死んだ、だが母からは皆を頼むと言われた。

あの日の事がなければ今の私は無いだろう、だから私は戻りたいとは思わない。

IFなどないのだ、夢を見ても意味など無いのだ。……お前はどう思う?」

「……私は平穏な生活に戻れたら、戻りたいって思う」

「それが偽物だったとしても?」

「……わからない」

「人は安心を求める生き物だ」

「え?」

「光が言っていた言葉だ、多分誰かの引用だろうが……その言葉を聞いた時、

私は確かにそうだと、妙な共感を抱いたよ。お前も安心を求めている」

「……」

「だがフェイト、憶えていろ。盲信と信愛は違うのだ。母親の言う事を聞いてばかりじゃなく

お前も母親を否定する権利がある、言いたいことがあるなら言えば良い」

「……私は母さんの事を信じてるよ」

「それは愛ではない、ただの思考停止だ。フェイト考える事を止めるな、

お前のやりたい事をしろ。好きなように生きろ」

 

「あの時は答えが出せなかったけど、今なら答えられる」

 

 フェイトがベットから出るとバルディッシュを起動する。

 

「行くのかいフェイト」

「うん、ごめんねアルフ。心配かけて」

 

 アルフは腰に手を当てて頭を掻くとフェイトの頭を撫でる。

 

「ほんっとに仕方ないんだから、……行こうフェイト。あの子は先に行ってる」

「うん、……またお世話になっちゃったね」

 

 フェイトは此処にはいない冷都の事を思い出して苦笑いする。

 

「バルディッシュ……ありがとう」

 

 彼女にはもう迷いはなく、彼女達は戦場に向かった。

 

「本当の自分を始める為に」

 

 




今回会話だけで動かしてみたけど、大丈夫でしょうか。


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七つの大罪

 時の庭園、魔導師プレシアの傀儡兵が管理局員となのは達を迎え撃ち、直ぐにフェイト達が合流。

劣勢だった戦況が優勢に変わり、5人はプレシアの居る玉座の間へ。 

 

 だがそこには異物が混じっていた、金髪のホムンクルスがプレシアの首を掴んでいた。

 

「お前は!?」

「ああ、やっと来ましたか。遅かったですね」

 

 ホムンクルスの周りには21個全てのジュエルシードが取り囲んでいた。

 フェイトは母であるプレシアを助けようと、ホムンクルスの腕に向かって攻撃を放った。

 

「母さんを放せ! バルディッシュ!」

『サイズスラッシュ』

 

 ホムンクルスの腕は容易に切断され、解放されたプレシアを連れて

距離を取ると。彼女を守るようにバルディッシュを構える。

 切断された腕は灰になって消滅し、ホムンクルスの腕は再生する。

 

「何しに来たの。消えなさい。もう貴方に用はないわ……」

 

 プレシアは困惑交じりに自分を守るフェイトを見た。

 

「あなたに言いたいことがあってきました」

 

 ホムンクルスからは目を逸らさず、だがプレシアの言葉を無視する事なく。

答えを言うためにフェイトは言った。

 

「私は、アリシアテスタロッサではありません。あなたの作ったただの人形なのかも知れません。

だけど、私は、フェイトテスタロッサは、あなたに生み出してもらって……育ててもらったあなたの娘です」

「だから何?今更あなたを娘だと思えと言うの?」

 

 バルディッシュを強く握り締め、ホムンクルスを睨みつける。

 

「あなたがそれを望むなら、私は世界中の誰からも、

どんな出来事からもあなたを守る。私があなたの娘だからじゃない。あなたが私の母さんだから」

 

 バルディッシュをサイズフォームに変形、ホムンクルスはパチパチと手を叩く。

 

「素晴らしい茶番をありがとう、人形にしてはよくできた芝居です」

「お前が何故こんな所に!」

 

 光が剣を突きつけて叫ぶ、その疑問に答えるかのように彼の周りを金色の魔法陣が展開される。

 

「やはり魔法が使えたか……」

「当然でしょう、我々も君もほとんどの転生者は魔法の行使が可能です。例外も偶に居ますが」

 

 ホムンクルスの転生者という言葉に、なのはは首を傾げる。

それはクロノ達管理局員側も同じだった、だが犯罪者の戯言と思い直ぐにクロノもデバイスを向ける。

 

「大人しく投降しジュエルシードを渡すんだ」

「そんな事、本当にすると思っているんですか? この状況で?」

 

 時の庭園全体が揺れ、彼女達の足場が崩れていく。

 崩壊が始まったのだ。

 

「く! 不味い!」

「余所見をしていいんですか?」

 

 影の斬撃はクロノに向かって伸びるが、光が盾を投影して防御する。

その隙を突いたなのはが砲撃を放ち牽制する。

 

「大丈夫か!」

「済まない、油断した!」

「アルフ!」

 

 フェイトが叫ぶ、それに反応したアルフはフェイトの方を向くと。

嫌そうな顔をする。

 

「母さんをお願い!」

「私が鬼ババアを!?」

「……」

 

 アルフはしょうがないなと言ってプレシアを抱えると、ホムンクルスの隙を見て脱出した。

 フェイトも4人の戦いに参加し、ホムンクルスを攻撃する。

 

「サンダースマッシャー!」

 

 砲撃魔法を使いホムンクルスを吹き飛ばすが、両腕を硬化させ防御する。

しかし勢いまでは逃し切れずに仰け反って膝を付く。

 光は膝を付いて動かないホムンクルスに矢を放ち、その矢は頭を貫通するも

何事も無かったようにそれを抜いて捨てる。

 

「あの再生能力を如何にかしない限りジリ貧だな……」

「それよりも頭を狙っちゃ駄目だからね!」

「効かないと思ったから撃ったんだよ、それにあの程度の攻撃なら硬化か影を使って防げた筈だ」

 

 効かないと思ったから避けなかったと推測した光の答えに正解と言うようにホムンクルスが

二ヤリと笑う、その馬鹿にしたような態度に光は苛立つ。

 

「ッち! イライラする!」

「落ち着け光、攻撃が無駄なら拘束か封印をする。君達は援護を!」

「「了解!」」

「任せて」

 

 クロノの作戦に三人が同調し、散開する。

ホムンクルスは溜息を吐いて、影を出す。

 それを見た光がなのはにアイコンタクトを送り、受け取ったなのはは

魔法を放った、ただし攻撃魔法ではない。

 それはただの単純な、光だ。

 

「!」

「やった! 光君の言った通り、影の性質はそのままのようだね」

「やはり情報と言うのは厄介ですね」

 

 なのはは魔法を使い、単純な光。閃光弾を放って。

影を消滅させた、しかし。

 

「ですがこの状態では君達も見えないのでは?」

「問題ねえ!」

 

 黒神光は的確にホムンクルスの居場所を当て、攻撃する。

それにホムンクルスは追撃するが、その全ての攻撃を避けられる。

 更にはバインドをかけられ、ホムンクルスは追い詰められる。

 

(見えている? いや視覚ではない。魔力を探っているのか……)

 

 なのは達は視覚ではなく、魔力を探知して攻撃しているのだ。

光が対ホムンクルス用にと教えた魔力探知戦術は功を成す、だが。

 

「君達が私を探れるように、私にも策はあるんですよ」

 

 ホムンクルスの腹部が膨張、その中から肋骨が伸び飛び出し。

その中心部からは目が見える。

 それを見た光はゾッとした顔をする。

 

「それでは、いただきます」

 

 ホムンクルスは光を放つなのはの方を向く。

 

「高町! 逃げろ!」

「え?」

 

 ホムンクルスの向いた方向にある空間が消え、なのはの放つ光は消滅した。

 

「ふむ、ですが本人は呑めなかったようですね」

 

 フェイトがなのはを抱えて、クロノの傍まで移動していた。

ホムンクルスの使う能力に直感で反応したフェイトがなのはを移動させたのだ。

 

「ありがとう」

「あれが捕食能力、空間ごと削り取ったの?」

「正解です、よくわかりましたね」

 

 冷都から捕食能力がある事を教えられていたフェイトは幸運だった。

ホムンクルス初戦時、一部の能力は見ていたものの捕食能力は見た事が無いと気付いたフェイトが

本能的にそれに気づき動いた結果だった。

 

「嫌な予感がしたから動いただけ、貴方の能力で唯一見た事がない捕食能力というものを

知っていて良かった、実物を見たのは初めてだけど……」

「何故私の能力を貴方が? ……」

 

 ホムンクルスはフェイトがつい最近までなのは達と敵対していたことを知っているが

自分の能力の情報交換をするような時間が在っただろうかと疑問を覚える。

 

「……まさか兄貴か?」

「そう……知らなかったの?」

「ああ」

「まだ教えてなかったんだ……」

 

 フェイトが冷都の律義さにクスリと笑う、なのはとクロノはどういう事か意味が分からないのか

困惑して目を合わせる。

 

「……まあいい、これで光は通じません。次はどのような策を?」

「封印の隙が無くなった、他に作戦あるやつ!」

 

 状況は劣勢だった。



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神を目指す男

 

 ジリ貧、光がそう言ったようにホムンクルスへの攻撃は全て無意味だった。

 攻撃は全て避けられ、当たっても直ぐに再生し、攻撃力は容易くこちらの防御を切り裂いて来る。

 

「ハラオウン! 増援はまだか!」

「無理だ! 傀儡兵が多すぎてこちらに来れない!」

「クソっ!」

 

 あまりの劣勢に悪態をつく光は影の斬撃を弾きながら、後方待機のなのはを守る。

 

「いいよ光君! ディバインバスター!」

 

 チャージした砲撃をなのはが繰り出しが、その攻撃は簡単に受け止められる。

 

「どうしたんですか? さっきまでの勢いがありませんよ?」

 

 馬鹿にした態度でなのはの攻撃をあざ笑うホムンクルスの背後からフェイトが攻撃するが。

黒い影に阻まれ、逆に殴り飛ばされる。

 

「ぐう!」

 

 咄嗟にバルデッシュで受け止めたが、その威力は常人のものではなく。

装甲の薄いフェイトが受けていれば、即死していただろう。

 息つく暇もない攻撃が四人に降り注ぐ、クロノもここまで追いつめられる事になるとは

思わず、撤退を考えたその時。

 ホムンクルスに向かって壁が投げつけられ、吹き飛ばされる。

 

「よう! まだ生きてたか」

「父さん!」

 

 黒神浩二参戦、浩二はユーノに協力して警察に協力を要請。

そういった荒事や異能の解決に詳しい異能課は管理局と協力していたのだ。

 その件の責任を担ったのは浩二であり、光は協力者としての参加。

本来は此処にいる必要は全く無いのだが、光個人となのはがどうしても協力させてほしいという

お願いにより承諾、現在に至る。

 

 突然の登場に驚きを隠せないフェイトを余所に浩二は瓦礫を退かして埃を払う

ホムンクルスを見る。

 

「あれか?」

「正直強すぎて決定打がない、ちょっと手伝ってくれ父さん」

「親子で私と戦いますか、しかし一人増えた程度では」

 

 影を伸ばして攻撃するホムンクルス、それを生身で受けてしまう浩二。

 

「浩二さん!」

 

 なのはが心配の声を上げるが、問題ない。何故なら彼も黒神なのだから。 

 攻撃を受けたはずの浩二は無傷、浩二に触れていた影は逆に消滅した。

それに驚きを隠せないホムンクルス、何かの間違いだと思いもう一度影を伸ばすが。

 浩二が影を踏んだ瞬間、またもや影は消滅。その時ホムンクルスは彼の能力に気づいた。

 

「無効化能力!」

「正解!」

 

 瞬間移動のような速度でホムンクルスを蹴り飛ばす浩二、それを目を見開いて驚くなのはに

光は苦笑いする。

 

「すげえだろ! 家の親父は!」

「うん……お父さん見たい……」

 

 クロノはなのはの発言にドン引きした。

 

(君達の父親はどうなっているんだ?)

 

 しかし。

 

「厄介ですが、たかが影が使えなくなっただけです。面倒ですが倒せないことは無い」

「それはどうかな化け物、人間様をなめんなよ!」

 

 不良の様に荒い言葉でホムンクルスに激怒する浩二。

 

「よくも俺の可愛い息子をいじめてくれたな! 覚悟しやがれ!」

 

 戦闘は続行、フェイトの射撃魔法を背中から受けたホムンクルスはその勢いを利用して浩二に突っ込む。

指を刃物に変え、浩二の首を引き裂こうとするもそれを軽々と避け。

 逆に腕を弾き、ホムンクルスの顔面に回し蹴りを食らわせ首をへし折った。

しかし直ぐに再生し、反撃に転じる。

 クロノはその隙に封印魔法の詠唱を行い、その間、なのは、フェイト、光、浩二は。

時間稼ぎを行い、ホムンクルスの拘束を狙う。

 

(奴を確実に捕らえ、封印する! それまで父さんの援護とクロノの護衛をしなくては!)

「二人共! クロノの準備が終わるまでに拘束するぞ!」

「「了解!」」

 

 二人は光の言葉を聞き、魔法を放つ。

 

「ディバインバスター!」

「サンダーレイジ!」

 

 ホムンクルスは笑いながら6人を嘲笑う。

 

「滑稽ですよ、とんだ茶番だ! 人形と人間と転生者が共闘して共通の敵と戦う。

やはり主人公ですね高町なのは!」

「え?」

 

 突然自分を呼んだホムンクルスに驚くなのは、なんの脈絡なく自分を主人公と呼ぶ

ホムンクルスに困惑する。

 

「……私は主人公じゃないよ、そんな器じゃない」

「いいえ器ですよ! 貴女は主人公ですよ! 日常を平和に暮らしながら突然非日常に

巻き込まれる王道なストーリー。そして今貴女は最後の敵である私を倒さんと

敵だったフェイトテスタロッサと共闘している、これが主人公でないならなんと言う!」

 

 まるで意味が分からない、なのははそんな事を言われても理解できなかった。

当たり前だ、自分が物語の主人公であるという思考回路どう持てばいいのか。

 だがホムンクルスは知っている、彼女がこの世界の主人公だと。

 

「でも、そんな物語は詰まらないですよね。そんな王道なストーリー、陳腐で下らない。

だから私はこう考えました、主人公を最後に殺したラスボスが主人公に成り代わる。

新しいでしょう!」

「そんな事の為に母さんを!」

 

 ジュエルシードで何かを叶えるつもりはない。

彼女の立場を奪う、ただそれだけの醜悪な悪意を振り撒く男に

なのはだけではない、その場に居た者達がアースラの職員全員が異能課の全員が激怒した。

 

《ふざけるな!》

 

 その場に居たホムンクルス以外の全員が、その声と気持ちが同じになった瞬間。

 ニヤリと笑うホムンクルスが影を伸ばし、クロノの腹部を突いた。

 

「クロノ!」

 

 出血して倒れるクロノ。

 浩二がしまったという表情をしてホムンクルスに隙を晒してしまう。

 ホムンクルスは腕を巨大化させ浩二を叩き飛ばした、飛ばされた浩二は

壁を破壊し瓦礫の山に埋もれる。

 光はホムンクルスを相手に双剣を出して戦うも、全身を硬化させたホムンクルスを相手に

追い詰められ、高速移動を繰り出されそれにもろに衝突して動かなくなる。

 

「浩二さん! 光君!」

「不味い! 下がって!」 

 

 なのはが光を助けようと手を伸ばすが、伸ばした手が消え。

腕から出血する、ホムンクルスの腹部からはあの肋骨と目が出ていた。

 なのははその出血から失神し、フェイトはなのはを助けようと駆け寄ろうとするが。

 

「があ!?」

 

 崩壊の影響か、落ちてきた落石を頭部に受け気絶した。

 

(なんで……)

 

 最悪の状況、絶望はすぐそこに。

 

「これで私が主人公になれる」

 

 男は神『主人公』を目指す。



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希望はあるか

『フェイ……フェイト……フェイトさん!』

 

 フェイトは母親の声が聞こえたような気がして彼女は意識を取り戻した、

彼女が気絶してから10分も経っていない、念話相手は残念ながら愛する母ではなく

リンディ提督であった。

 

『聞こえますか! 今そちらに増援を……』

 

 次元振が起きた所為なのか魔法を解除する虚数空間の所為か念話が聞こえなくなり、

彼女の目の前に誰かが立っている。仲間ではない、あの憎きホムンクルスだ。

 

「ぐ……が!」

「君は下です」

 

 起き上がろうとするが頭を踏まれて押さえつけられる。

ホムンクルスは心底嬉しそうに笑いながら彼女の頭を何度も踏みつける。

 

「はははははは!」

「……っ」

 

 馬鹿にするように嘲笑うように、見下し憐れみ軽蔑した。

抵抗できずに踏まれ続けて頭から血が出るフェイトを余所に、己を自画自賛し続ける。

 

「あー! 最高にいい日ですよ! 褒めてくれませんか! 私が主人公を倒したんです!」

「う……」

 

 フェイトは目だけを動かして血塗れになり突っ伏して動かないなのはを悔しそうに見る。

 

(執務官のあの子も、此処からじゃ見えないけど刺された。あの子は手を……)

 

 悔しさに目に涙を浮かべる、もう何をしても無駄だなのだと理解し絶望した。

 

(何もできなかった母さんの望みも、自分を始めることも)

「君は本当に無意味な命でしたね」

 

 足を振り上げてフェイトにとどめを刺そうとする、彼女は起き上がらない。

全てを諦めバルディッシュから手を放そうとしたその時、偶然、視線の先で

白い女の子が立っているのが見えた、そんな筈はない幻覚だと思った。

 

(違う、幻覚じゃない!)

 

 少女は、高町なのはは手首から血を流しながら、杖を震わせながら言った。

 

「ディバインシューター……フルパワー!」

 

 ホムンクルスは既に死に体の少女から背中を攻撃され驚く。

 

(なぜ生きている! 何故起き上がれる!?)

 

 驚くホムンクルスを余所にフェイトは別の感情で彼女を見ていた。

尊敬、憧れ、驚愕、称賛、あるいはその全て。それでも言い表しきれないかもしれない。

 

(まだ諦めちゃだめだ)

 

 ホムンクルスの視線がなのはに集中している今がチャンス。

フェイトは己の全魔力を身体強化に注ぎ込む。

 

(あの硬い体に攻撃を通すのは並みの攻撃じゃだめだ、もっと強く……速く!)

『全集中の呼吸?』

 

 フェイトはつい数日前の冷都との出来事を思い出す、つい最近の事なのに昔の様だと

内心苦笑いする。

 思い出とも言えない楽しいわけでも苦いわけでもないのに、

ある知識を教えてもらった時の事を唐突に思い出した。

 

『そうだ、身体中の血のめぐりとを心臓を早く動かす。

その作用で体温が上昇し人間のまま常識外の力を手に入れられる』

『凄い魔法だね、貴方はそれが使えるの』

『毎日使ってる、というか私にとっては普通に息をするようなものだ。

肺を大きく血中に空気を多量に取り込む事、それで使える。お前は体が強いが、

まだ普通の人間の域をでない、使えるようになるのはあと数年が必要……』

 

 フェイトは筋力だけでなく、肺と心臓も強化し空気を一気に吸った。

 そして、バルディッシュを使って全力で殴った。

 

「ぐごああああ!?」

 

 ホムンクルスは思い切り吹き飛び、硬化した皮膚がひび割れる。

生まれて間もなく体を鍛えた事、魔法による体全体の身体強化、そして冷都

との記憶を偶々思い出した数々の意図と偶然が重なりフェイトは怪物を相手に手が届いたのだ。

 天賦の才、多くの偶然があったにせよ彼女は齢9歳で全集中の呼吸を一瞬程度ではあるが

使用することができたのである、だが……。

 

「この……クソガキがあああ!」

 

 フェイトの一撃をまともに受けたホムンクルス、皮膚が罅割れたとはいえ

ただそれだけ、彼の能力を持ってすれば簡単に再生されるだろう。

 ホムンクルスは起き上がり、フェイトに向かって指を刃物化しその命を奪い取ろうとする。

だがその攻撃は届くことは無かった。

 

「傀儡兵……なんで……」

 

 フェイトを守ったのは時の庭園の騎士達であった。

 驚きに目を見開くと頭の中に懐かしく厳しくそれでいて優しい声が響いてくる。

 

『私の可愛い娘を、よくもいじめてくれたわね』

「ばかな……」

 

 傀儡兵の大群がホムンクルスに襲い掛かり、その内の一騎がフェイトを抱きかかえる。

 

「人形風情が!」

 

 既に冷静さも紳士的な言葉遣いもなくなり、粗暴な本性がむき出しになりながら

傀儡兵と戦う、単純な動きしかせずこの程度の物量差などものともしない勢いで

騎士達を解体していくが。

 

「チェーンバインド!」

「なにぃ!?」

「ユー……ノ君……」

 

 傀儡兵の対処を管理局員と異能課の者達と行っていたユーノが玉座の間に

入ってくる、その魔法でホムンクルスを拘束した。

 影を使い鎖を切り裂こうとするが。

 

「影は光で消える! 光を出せ!」

「食らえ化け物!」

 

 管理局員と異能課達も到着し、魔導師たちは光を放ち。

その他の人間は重傷を負ったなのはをタンカーに乗せて運び出した。

 

「ついでに食らえや!」

「ギャアアアアア!?」

 

 光が意識を取り戻し、矢をホムンクルスの両目に穿つ。

その痛みで叫びだすが最期の足掻きとばかりに魔法を使おうとする。

 

「残念使わせねぇ!」

「な!」

 

 同じく意識を取り戻した浩二はホムンクルスの腹部に拳を打ち込む。

しかし痛みを感じない、チャンスと捉えたホムンクルスが魔法を使おうとするが。

 

(魔法が使えない!? 能力も!)

「てめえの体の中にある気を弄ったんだよ、しばらくはまともに動けねぇぞ!」

 

 浩二はホムンクルスの中にある気という生命力を操り、魔法や能力さえ

無効化した、なぜ最初からそれを使わなかったのか。

 それは他人の気を操る事が高等技術であり、浩二自身が準備に時間がかかったから。

 浩二は能力を無効化する以外はただの人間であり、その身体一つで戦う以外の方法が

できないのだ、彼が気という呼吸とは別の身体強化術を身に着けていたのだ。

彼があそこまでの身体能力を持っているのはそれが理由である。

 

「待たせて悪かった……詠唱が終わったぞ……」

「執務官! ご無事ですか!」

 

 腹部を刺されたクロノはバインドを腹部に巻くという方法で止血した。

それをホムンクルスは青ざめた顔で見る。

 

「待たせた礼だ……覚悟しろ!」

「や、やめ!」

「エターナルコフィン!」

 

 それはクロノの使用する魔法でもっとも強力で魔力を消費する最強の技。

魔力変換・氷結を使用した封印魔法を受けたホムンクルスは主人公に

成り代わることはなく。ただの悪役として敗北した。

 



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親と子

 ホムンクルスを封印し、ジュエルシードを回収した管理局員達と異能課は

崩壊する庭園から脱出しアースラに戻っていた。

 プレシアとフェイトとアルフは牢獄の中に、ではなく民間協力者の

なのは達と共に医療室で治療を受けていた。

 特にクロノとなのはは重傷、フェイトは頭部と呼吸器官を損傷、

しばらくは医務室で監視を受けながらの生活になった。

 プレシアと同室で。

 

「母さん……」

「……」

 

 フェイトとプレシアの二人を見る監視員は胃が痛そうな顔をしていた。

 アルフは無傷でいたので牢獄に入れられている。

 

「病気、大丈夫ですか? 痛い所はありませんか?」

「……」

 

 何も反応しないプレシア、フェイトは心配そうな顔をする。

 

「貴女が心配する必要はないわ……」

「……」

 

 冷たく低い声でそう返されるが、どこか前よりも優しい声な気がした。

 

「そうですか……」

「……」

 

 

 アースラ、食堂。

 なのは達は集まり彼女達テスタロッサ親子の心配をしていた。

 

「大丈夫かなぁフェイトちゃん」

「なにいってんだ、お前の方が大丈夫か高町。回復魔法で止血したとはいえ

まだ痛いだろ」

「そうなんだけど……」

 

 なのはは自分の左手を見る、正確には左手首を。

 彼女の手はホムンクルスに呑まれてしまい、もう二度と戻る事のできない怪我を負った。

 

「……お父さん達にどう説明しよう……」

「そっちかよ……少しは自分の心配を、いや人のこと言えねぇな」

 

 光はなのはの自己犠牲的な所が自分と似ているので何も言えなくなる。

 

「まあ安心しろ、手はあっちに戻ったら治せる奴を紹介するから」

「え?」

 

 その後、次元震が収まるまでの数日間。彼らはアースラの中で過ごし治療を受け。

 民間協力者としてなのは達は表彰状を受けた後。

 

「その後は? どうなったんだ?」

 

 その話を聞いていた冷都が、光に急かす。

異世界の事など冷都にとっても珍しい事なのか、ご機嫌な様子で

光の話を聞く。

 

「その後、フェイトは100年以上の刑罰を受けるかもしれなかったんだが、

クロノが母親の言うことをただ聞いていただけの娘を裁くほど、

冷徹な集団じゃないって言ってな。だがプレシアの方は……」

 

 光の顔が暗くなっていく、プレシアのした事は重罪だ

冷都は次元震を起こすことやロストロギアの行使などがどれ程罪なのか。

異世界のこと故理解できなかったが、少なくともフェイトほどの弁明はできないだろう

と予想した。

 光の携帯がなり耳に当てると、光が立ち上がって何処かに走っていった。

 

「なんなんだ?」

 

 後日、冷都が光の話を聞くとプレシアがその技術の腕を見込まれ

罪の軽減を条件として管理局に勤める事になったという。

 その時プレシアは。

 

「短い命ではあるけど、あと少しだけ……家族と生きてみるわ」

 

 と、どこかスッキリとした顔で言ったそうな。

 またフェイトと一緒に暮らせるそうだと光は喜んでいた。

 なのはの手の事だが、意外な事に治したのはプレシアだった。

フェイトを生み出す過程で偶然クローン技術を利用した医療技術を

見つけたという、しかし自分に使うには負担が大きく、症状も進行していた為に

使用は避けたらしい。

 

 色々な事が起き、全ては終わった。

 そして……。

 

「……ホムンクルス、人造人間という意味だったな」

(フェイトと同じ、フラスコか培養液か程度の違いしかないが……)

 

 とある考えを抱いて、冷都は首を横に振った。

 冷都は病院の一室をノックする、中から声が聞こえたので扉を開けると。

 

「父さん、なんでプレシアという女に治してもらわなかったんだ?」

「仕方ねぇだろ、あの女がリンカーコアと欠損限定って言ったんだから」

 

 帰って来てもまだ傷が塞がらない浩二が病室で包帯グルグルまきでベットに

横になっていた、彼の能力は無効かそれは異能に対してのみ使用されるが。

 なんと異世界科学である魔法まで無効かしてしまったのだ、ちなみに他の

異能課の戦闘員も何人かの重傷者は回復魔法の使い手が少ない所為で入院している。

 

「木葉が心配していた、早く治せ」

「はいはい、まったくお兄ちゃんは心配性だなー」

 

 見上げ物の花や果物を机に置き、言いたいことだけ言った後、直ぐに出ていった。

 家に帰ろうとする冷都の後姿を見て、同じくお見舞いに来たなのはが声をかけた。

 

「あのー!」

「!?」

 

 その声を聴いた瞬間、冷都は瞬時に後ろを振り向きなのはの顔を見た。

なのはの腕には黄色い花束が抱かれており、恐らく浩二のお見舞いに来たのだろう。

 しかし冷都は彼女に対してそんな感想や予想を抱くことは無く、

狂気と憎悪のこもった目で見つめた。

 

「光君のお兄さんの冷都さんですよね! 私高町なのはです」

「……知っている、ずっと前から。ずっと昔から……」

 

 冷都の声が小さくなり、なんと言ったのか聞こえなくなったなのは。

首を傾げてもう一度なんと言ったのか聞こうとするが。

 

「なのはー! 病院は走っちゃだめよー!」

「あ! 青葉ちゃん!」

 

 白井青葉がなのはの後ろから歩いてくる、友人と殺したいほど憎い相手が同時に現れ

内心のパニックになるが。直ぐに落ち着き、帰ろうとする。

 

「私は用事がある、先に失礼する」

「あ、ちょっと待ってください」

 

 帰ろうとする冷都を手を掴んで止めるなのは、

何の様かと振り返ると花を一輪渡される。

 

「これは?」

「お礼です、色々お世話になったみたいですから」

 

 菜の花を渡したなのはは手を振った後、浩二の病室に入っていく。

その後を青葉も追い、冷都は一人残される。

 その花を冷都は持って帰った。

 

 一枚も散らさないよう、大事に大事に持って帰った。



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空白期:少年の日常
憧れの貴女の下へ


 

 菜の花を家の花瓶に入れ飾ると冷都が携帯で電話をかける、

電話は数コール鳴ると相手が電話に出たのかぷちっという音が聞こえた。

 

『おはようございます冷都様、今日も海鳴市はいい天気ですね! 貴方様はお元気でしたか?』

 

 美しい声音を発するその相手は、声からして少女である事がわかる。

少女の機嫌の良さそうな声が携帯から聞こえるも冷都は無表情で要件を話す。

 

「緑、腐敗や劣化を止める異能者はそっちにいるか?」

『物の劣化を止める能力者ですか、居りますよ』

「私の家に来いと言え」

『かしこまりました、明日には到着することでしょう。ところで冷都様!

実は最近美味しいお茶とお菓子が手に入ったのですが』

 

 相手が話している最中にもかかわらず容赦なく電話を切る、冷都は携帯を黒い液体で

包んで消すと、隣で見ていたアリサに視線を送る。

 

「まだ話してたのに切っちゃって良かったの?」

「彼奴の事は気にしなくていい、それより人形の調子はどうだ?」

「まだちょっと慣れないけど、動かせるようになってきたわ」

 

 アリサの体は半透明ではなく、実体のあるものに変わっていた。

生き返った訳ではない、冷都が魔法で人形遊びをしていると興味を示したアリサが

面白がり、彼女の動きと同じ様に動かしてふとアリサの体を魔法で動かせないかと

考えた結果。

 アリサが人形に乗り移り、結果人間の様に動かせたのである。

その後、冷都は彼女が生身とは言えないものの体を持つ人形を何体か与え現在に至る。

 アリサは知らない事だが、何日間も冷都達異能者の生命エネルギーを

吸収し続けた所為なのか、彼女は知らず知らずのうちに通常の霊を超えるほどの

力を手に入れてしまい、人形を依り代とした憑依術という霊能力を使ったのである。

 

「感覚がない熱さも寒さも感じない、人形ってこんな感じなのね」

「人形の気持ちが理解できる人間はこの世でお前ひとりだけだよ。

お前はもう死んでるが」

(本当はアリサの体などを用意するつもりはなく操りたかっただけなのだが)

 

 魔法で幽霊を操るという方法を試そうとしただけと思う冷都。

もしもアリサがこれをしれば激怒するかもしれないと黙っているが、その方がいいだろう。

 

「そういえば、前に私と同じ顔と名前の女の子が居るって聞いた事があるんだけど……

なんだか迷惑をかけちゃったみたいだし」

「あれの事は気にしなくていい、目覚めた時にはその事は忘れていた」

 

 アリサバニングスはジュエルシードの力で異世界に飛ばされてしまった時がある、

その時は冷都が手助けしたのだが。何故か彼女自身はその時の記憶が無いようだった。

冷都は彼女の瞳の中に燃えるような強い感情を感じたのだが、それは消え去り。

少しもったいない気持ちになった。

 

「その体は好きにしていいが気をつけろ。その体はそこまで頑丈じゃない。

只の人形だ、少しの衝撃で壊れるから気をつけろ」

 

 それだけ言うと、冷都は日本家屋の方に向かった。

アリサは身体は手に入れたものの、特にやりたい事も見つからなかった為。

冷都の後を追った。

 

「……」

 

 屋敷を数刻ほど歩き回り、庭に目を向ける。川の流れる音と枯山水の渦巻き模様に

足跡、アルフとフェイトの居た痕跡だ。

 

「これも消さないとな」

 

 屋敷に残っている二人の痕跡を完全に消し終えると、段ボールに

綺麗にたたまれた状態の着物が入っていた。

 

「寂しいの?」

「いいや」

 

 アリサが段ボールから着物を一着取る。

 

「これ着て良い?」

「好きにしろ、もう誰も着ない。いや木葉が大きくなったら着るかもな」

 

 衣服を脱ごうとするが冷都を見て部屋から出ていった。

それを彼女が扉をしめるまで見届けると、冷都は縁側に座る。

 センチな気分、感傷的。他人から冷都を見るとそんな風に感じるだろう。

 だが内心では。

 

(あの幽霊を人形に憑依させ、上手く動かせば死んでも動く兵士になれるだろう。

いやまだ不明点が多いな、もう少し様子見しよう)

 

 死者となった人間を冒涜するような行為を一切躊躇なく考え付く、考えるだけならばよし。

彼はそれを実行できれば確実にやるだろう、神をも恐れぬその蛮行。

倫理観の欠如した狂人にしか理解できぬ感性と価値観。

 

「見て見て! 似合うかしら?」

「ああ、似合ってるよ。顔はお前だからな」

 

 アリサの操る人形を見る、着物姿をした子供の等身大人形。

顔は彼女本人と同じに作った、表情が動かない以外は普通の人間なので

気が付かつかれないだろう、冷都には丸分かりだが。

 

「そ、そう? ありがとう」

 

 照れたのか表情がないので分かりずらいが声からして喜んだ様子。

アリサが此処に来た当初は好奇心に任せて屋敷中を昼も夜も飛び回り、冷都を内心苛つかせたものだが。

慣れたのか飽きたのか、そういった態度は落ち着き。

 冷都が家に居る際は基本的にずっと傍に居る。

 

「……」

「どうかしたの?」

「しばらくはゆっくりできそうだと思ってな」

「この一ヶ月間貴方フェイトに構いっぱなしだったからね、あの子今どうしてるのかしら」

 

 アリサは最後まで自分が見えなかった少女の事を思い出す、母親の為にあそこまで献身的に接するなんて

自分にはとても出来ない。アリサはフェイトと話す事はできなかったが、もう一度会えたら

今度はゆっくり話をしてみたいと思った。

 

「でも未だに貴方達以外と会話できないのよね……」

「私達の家系は皆人外と関わってきた、その事も関係しているのだろう。

一般人から見れば人形が勝手に出歩き、独り言を話す狂人に見える事だろう」

 

 冷都は立ち上がって本邸に戻る。アリサは女中の様にその後ろをついて行く。

本邸の扉を開けると家の固定電話が鳴っている、冷都はそれが聞こえたから本邸に戻ったのだとアリサは悟った。

 

(此処から本邸って結構距離離れてるわよね)

 

 どうして聞こえたのかと疑問を覚えるアリサを余所に、冷都が受話器を取る。

 

「はい、黒神です」

『もしもし桃子です、冷都君ですか?」

「……そうだ」

 

 電話の相手は高町桃子だった、何の用なのかわからないがなんとなく嫌な予感がした。

 

『浩二さんが入院したって聞いて、その間の面倒を見てくれないって言われたのだけ……』

「断る、お前と美由希が鬱陶しいからだ。他にも理由はあるが」

『でも、貴方達三人だけだと不安だし、代理の保護者は必要じゃないかしら?』

 

 桃子の言う事も正論だが、彼女の提案に乗れば高町なのはも一緒に居ると言う事になる。

そうなれば冷都は確実に自分を偽る事ができずに、彼女を殺してしまうかもしれない。

 

「弟達だけで行かせる、私は嫌だ」

「えー! 兄さんが行かないなら私も嫌だよ!」

「兄貴が居ねえと寂しいぜ」

 

 いつの間にか帰ってきた光と木葉が駄々をこねる。

 

『って聞こえたけど?』

「………………士郎!」

『残念、士郎さんは今仕事中……』

「お前は何をしている?」

『休憩中よ、さあ後で士郎さんと一緒に迎えに行くから準備しているのよ?』

 

 プツンと電話の切れる音が無情にも冷都に聞こえた、まるで先程の誰かがやった様に。

 後ろで嬉々として荷物を纏めようとする二人を見てこめかみに青筋が立つ。

 

「まあ、しばらくはゆっくりできそうなんでしょ? お泊り楽しんで。でも偶にでいいから

帰って来てね」

「なに言ってる、お前も来るんだ」

「え」

 

 冷都は無表情でアリサを見つめる。

 

「今のお前の実力は並みの悪霊を圧倒する、地縛霊という縛りを抜けその人形に入っている限りは

外に出られるはずだ」

「……マジで?」

 

 冷都の衝撃の発言にアリサはキャラを忘れた。

 



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常中

 

「それでお話をしたかったの」

「そうそう、俺もずっと前から気になってたんだよ。でも聞くタイミングが無くてな」

「……何のだ」

 

 なのはと光が冷都達の寝る部屋に集まり冷都に詰め寄る。

 

「フェイトと何処で出会ったんだ?」

 

 黒神三兄弟は高町家に居候し始めた、父親が長期入院した所為だが。

 父の怪我は全治数か月の重傷だ、冷都なら簡単に治せるのだが一般人に怪しまれない為にも

それは止めた。

 そしてこの状況だが、冷都とフェイトが何らかの繋がりがあったと怪しまれている。

というより何で共通点のない二人が知り合っているのかという疑問が大きいだろう。

 

「それを父さんや管理局に言わなかったのか?」

「必要か? 兄貴がなんでフェイトと知り合いになってんのかわかんねーし。

別に悪い事をしたわけじゃねぇんだろ?」

「うんうん」

 

 なのはと光が何故というような表情をして誰にも言って居ないことを伝える。

 

「……フェイトテスタロッサと知り合いと言うのは認める。だがどんな関係かは秘密だ」

「どうして?」

「あの女との約束だ……だから言えない」

「そっか、ならいいや」

 

 光の言葉になのはは驚く。

 

「聞かなくていいの?」

「約束は破るわけにはいかない、俺らの好奇心程度で兄貴に迷惑はかけらんねぇよ」

「……」

 

 善意と信頼を持っているが故の言葉、光はもうこれ以上聞く気はないと答え。

なのはにもそうしろと言う。

 

「お前だって家族に隠してるだろ」

「それを言われると……」

 

 魔導師であることを秘密にしている為、苦笑いして肯定するなのは。

冷都は目を瞑ってそれ以上話す事は無く、二人を置いて部屋を出た。

 

「アリサ」

「なあに?」

 

 身長50センチのロボット人形が冷都の隣を歩く、等身大の人形を連れてくる事は流石に憚られ

黒神邸の物置に置いてある古い玩具を取り出して彼女に憑依させた。

 その所為か動き辛そうではあるものの家の外に連れ出す事が可能となった。

 ロボットアリサを持ち上げて一階に移動するとリビングには桃子と士郎が

晩御飯の準備をしていた。

 

「あら、カッコイイロボットね」

「可愛いと言ってやれ」

「え」

 

 冷都は椅子に座るとロボットを机の上に乗せる。

 

「名前はアリサだ」

「え」

「え」

 

 桃子と士郎が冷都の言葉に動揺する、しかも娘の友人と同じ名前。

 彼らが動揺しないはずが無かった。

 

「ねえ二人共貴方の事凄い目で見てるわよ?」

「可愛い名前だろ、女の子なんだ。仲良くしてやってくれ」

「う、うん」

「わ、わかった?」

 

 二人は考えるのを止め、晩御飯の準備をした。

 冷都はそれまで暇なのかテレビを付けるとロボットにも見えるように位置をずらした。

 

「大嫌いだ」

 

 冷都は誰かにそう言った。

 

 

 次の日。

 

 ――影の呼吸 弐ノ型

 

 ――日影

 

 冷都が高町家の庭で模擬刀を恭也から借り、全集中の呼吸を光に教えていた。

放った斬撃は標的の人形をバラバラに解体した。それに手を見ていた桃子となのはと木葉が拍手し。

 それ以外の見物人が冷都の動きを観察していた。

 

「これが全集中の呼吸だ」

「父さんの使う気とは何が違うんだ?」

「あれは全身の生命力、言わばやる気や気合いと言う意味の気だ。

呼吸は全身の血の巡りを早くして強化する。ある意味気の一つとも言えるな」

 

 光が早速呼吸を使ってみるが、強くなった気がしない。

 

「違う、そうじゃない」

「フェイトはできたのになー」

 

 光はフェイトが時の庭園でホムンクルスを相手に呼吸を一度使ったのをつい最近知った。

頭の怪我だけでなく呼吸器にまで異常が出ている事に医療班が疑問を零していた事を思い出し。

 冷都との出会いから推測して、この呼吸法をフェイトも使ったと確信した。

 

「あの女は才能があったのだ、だが肉体に無理な負担をかけた所為で怪我を負うとは軟弱な事だ」

「女の子なんだから仕方ねぇだろ」

「関係ない、武器を持った者は皆戦士だ。甘えは許されん」

 

 何故こんな修行をしているのかと言うと光が冷都に対して修行をつけてくれと

お願いしたからだ。

 

「俺はこれからもっと強くなる必要がある、今回の件で理解できた。俺はまだまだ弱い」

 

 実の弟の願い故か、暇つぶしにか。

光に呼吸法を教えるとなのはや木葉も興味があったのか高町家全員が見に来る。

 

「なんか見世物みたいだな」

「無視しろ、最初は私が実践するから。見ていろ」

 

 そして現在に至る。

 

「お前は気の強化もしているだろう」

「え、ああうん」

「それを常日頃から続けられるか?」

「え!? いやそりゃ無理だ。気の身体強化はすげぇ疲れるし。

5回も使うと倒れちまう」

「そうか」

 

 冷都は縁側に座り、剣を素振りする光を見る。

なのはは気になる事があったのか手を上げて冷都の方を見る。

 

「……なんだ」

 

 必死に無表情を装いながら、手を上げるなのはを見る。

 

「あの! 冷都君はその呼吸法を毎日できるの?」

「可能だ、今もしている」

「はあ!?」

 

 光だけでなく、その場にいた桃子と木葉以外の全員が驚いて冷都を見る。

 

「全集中・常中、この方法はまだお前らには早い」

「……兄貴ってやっぱり凄いな、父さんより強いんじゃねぇの?」

 

 光の指摘に冷都は目を瞑って黙秘した。

 



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吸血鬼

 

 小学校、一日を平和に過ごせるようになった光達と一日中殺意を抑えるのに苦労する冷都

の対照的な生活が始まり、教室では黒神家を中心とした話が広がっていた。

 

「冷都? お父さん大丈夫か?」

「寂しくない?」

「問題ない、生きているのだ」

 

 それを面倒くさいと思いながらも一人一人相手をしていく、別に無視しても良いが

高町なのはの事を一秒でも忘れたい為、話しかけられた相手には基本的に無視しなかった。

 昼休憩、桃子の作った弁当を食べ終えると青葉が話しかけて来る。

 

「冷都、ちょっと良い?」

「何か用か?」

「私じゃなくて、私の友達……」

 

 冷都が青葉の背後を見ると、月村すずかは頭を下げた。

 

「ちょっと、相談に乗ってくれませんか?」

 

 学校の校舎裏。

 すずかは自分と同類と思う少年の事を思う、恋心というほど熱い感情ではない。

だが友情とも少し違う、それが何なのかすずかにはわからなかった。

 

「それで、こんな人気のない所に何の用だ」

「……先輩は超能力者なんですよね」

「そうだが?」

 

 あっさりと肯定した冷都にすずかは逆に混乱する、え、そんなあっさり認めちゃうの? と。

 

「それがどうした?」

「え、あの……周りと違う自分に何とも思わないですか?」

「思わない、私は私だ」

「……」

 

 あまりにも堂々とした態度にオロオロと慌てるすずか、彼女の中の冷都は自分が思っていた

何倍も達観し大人だった。

 自分とは違う、自分よりも先に進んでいる。立ち止まってはいない。

その事実を聞いて彼女は途端に恥ずかしくなってくる。

 

(私は弱いな……)

「私の妹の木葉は力が強い」

「え?」

「光は武器を作る能力を持っている、父はその力を無効化できる」

「あの?」

 

 いきなり何を言い出すのか家族の能力をすずかに明かし、すずかは混乱する。

 

「お前の能力は?」

「私は……」

 

 怖がりながらも、おずおずと話そうとする、が。

 

「人の血を吸う、吸血鬼の体か」

「!?」

 

 すずかは何故それをと言う表情をして冷都を見る、透き通る世界。

人体や動物の体が生まれつき透き通って見える冷都はすずかが昔から普通の人間でないことに

最初から気づいていた、だからといって興味があったわけでもないので放置していたが。

 

「ど、どうしてそれを……恭也さんが?」

「何故恭也の名前がそこで? ああお前とあの女は友人だったからその関係で……」

「こ、答えてください! 知っていたなら、どうして……」

(黙っていてくれたの?)

 

 すずかは何故自分の正体を知っているのか、誰に聞いたのか気になった。

知っていたのならどうして黙っていたのか、冷都は無表情で冷淡に答えた。

 

「興味が無いからな」

「……」

「お前も、そこにいる奴も。犬も猫も、何も変わらない。

お前程度の存在は飽きる程見た、お前の事は初めて見た時から知っていた。」

 

 自分の正体に最初から気づいていた上で、彼が自分に接していたことに初めて気づいた。

何も変わらない、恭也の言う通り。誰に対しても同じように接し決して偏見の目を持たない。

 

(優しい人……良かった)

「もういいか?」

「はい、ありがとうございました。そうだ、今度良かったら家に遊びに来てください」

 

 すずかは冷都が自分の正体に言うまでもなく気づいていた事に驚き、姉にも紹介した方が良いだろうと思った 

両親の事もある、夜の一族と言う系統の種族である自分達の正体を明かしたのだ、

契約を込みで冷都が自分を認めてくれるのなら、友人や家族として生涯を共にする関係になりたいと思っていた。

 

「大事な話もありますから」

「そうか……お前の友人には話したのか?」

「……いいえ」

「なら何故私に? 光か木葉ではなく」

「恭也さんが、話すなら、最初は貴方にって」

 

 冷都はそれから黙って教室に戻っていった、すずかとこれ以上話す事は無いと判断して。

途中、木影に隠れる人影を見たが無視する事にした。

 冷都が戻っていく背中を見届けるとすずかは木影に隠れる人影を呼んだ。

 

「ノエル、もういいよ」

「気付かれてましたね」

 

 月村家のメイド、ノエルが木影から出て来る。

もしも冷都が彼女を拒絶した際に彼を止めて記憶を消させるのが彼女の役目だった。

どちらにせよ無理な話だったが。

 

「あの人ならきっと受け入れてくれる」

「成程、お嬢様にもそれを伝えておきます。……恭也様の言った通りでしたね」

「うん、あの人は優しくて強い。誰とでも……!」

 

 そこで彼女は自分の気持ちに気づく、この感情はきっと恋や友情ではない。

 憧れと尊敬、すずかはこの世で最も美しい人に出会ったのだと思った。

 

 

(下らない、何がありがとうだ。馴れ馴れしい)

 

 教室に戻る最中、冷都は欠片たりともすずかの感情を理解しなかった。

家族の力を教えたのは自分達の方が上だと教える為、お前達程度と同じに捕らえるなと言う意味。

 

(血を吸うという行為をしなければ活動できない雑魚)

 

 思いっきりブーメランである、すずかの気持ちも不安も無関心に接し。どうでもいいものと思い続けた。

 その後日。

 

「寒くなってきましたね冷都さん! 温かいお飲み物は要りませんか?」

「……いい……」

 

 すずかの学校での態度が激変、何故か冷都に甲斐甲斐しく接しまるで従者の様に

働き始めるというなのは達も冷都自身にも意味不明な現象が起き。

 青葉は見た事があるのか、苦笑いする。

 

「皆が冷都さんを見ている、やっぱり凄い人ですね!」

「お前を見てるんじゃないか?」

 

 冷都はすずかの態度に凄まじい既視感を覚えた。

 



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修行

 

「……」

「……」

 

 アリサバニングスは緊張していた、自分の目の前に座る人間の所為だ。

 

(何でこんな事に……)

 

 目の前にいる人物は黒髪黒目の一般的な日本人の特徴を持ち、綺麗な顔をした人。

そう冷都だ、ちなみに周りの席にはなのはや光達がいるが静かにして二人を見ていた。

 黒神邸の広いリビング、アリサは自分の住んでいる豪邸とは違う作りに興味を持ったが

そこに緊張したわけではない、アリサは後ろで着物を着ている自分そっくりの人形を見た。

 

「あの……なんですかあれ?」

「アリサだが」

 

 つい敬語で冷都に質問するアリサに、名前を言って返して茶をすする冷都。

 限界に来たアリサの心は初対面の人間だからといってもう我慢できる物ではなかった。

 

「なんで私の人形があるのよー!」

「ア、アリサちゃん落ち着いて……」

「あれはお前じゃない、アリサだ」

「名前言ってるでしょうが!」

 

 すずかは人形の正体に気づいているのかチラチラと見ながらアリサをなだめようとする。

なのはもそれに加勢するが、火に油を注ぐ行為だった。

 

「大丈夫だよアリサちゃん! よく見たら髪の色とかちょっと違うし」

「それ以外そっくりなんですけど!?」

 

 混乱するアリサが頭を抱えだした時に、光が木葉に言って人形を奥の部屋に持って行った。

 冷都は我関せずを貫きお茶を飲む、なのははこの状況に一言思った。

 

(カオスだ……)

 

 しばらくしてアリサが正気に戻ると、光が手を叩いて仕切り直した。

光はなのはとすずかが冷都と友人になったのだからアリサも紹介した方が良いと思い。

家が空いている黒神邸でアリサと冷都を引き合わせた、その時偶然出しっぱなしだったアリサの憑依人形が

放置された状態にあった事が原因で先の騒ぎが起こった。

 

「アリサ、悪い、アリサを放置しっぱなしで出て行っちまった」

「アリサちゃんは悪くないよ! アリサちゃんの所為だよ」

「これ以上混乱させる事を言うな」

 

 光と木葉が面白がってアリサをいじり、そのこめかみに青筋を立てようとする。

アリサは深呼吸すると、落ち着いて話を始めた。

 

「すみません、取り乱して」

「いや、良い。確かに人形を放置したこちらにも責任がある、自分とそっくりの人形が

置いてあれば大体の人間が混乱するだろう」

 

 まだ少し声を震わせているが、冷静になったアリサが謝罪する。

まあ冷都が言った通り彼女は本当に悪くないのだが、自分と同じ顔の人形がいれば驚くのは当然である。

 

「あの人形はアリサを基に設計して作った物だ、アリサを基に作ったわけじゃない」

「兄貴も言ってるじゃん」

 

 木葉が人形を奥にしまって戻って来てから話を再開した。

 

「バニングス家の跡継ぎを何故家に?」

「兄貴すずかとなのはとも友人になっただろ? だったらアリサも紹介すべきかなって」

「……」

 

 友人になったと思った事は無いと考える冷都だったが、どうせ形程度の物と思いそれを口に出す

事は避けた。なのはを一瞬見た後アリサと握手する。

 

「黒神冷都だ」

「アリサバニングスです」

 

 二人が握手する所を見て、全員がしばらく談笑して話をした。

三十分程経つと光が冷都に修行を見てくれと言いだし冷都が少しだけ渋ったが、

アリサとすずかが興味を持ち、なのはと木葉もいいよと言ったので、道場で手合わせする事になった。

 

「修行と称して女だらけの空間を出たかっただけじゃないか?」

「そ、そんなこたぁねぇよ!」

 

 図星を突かれた光が動揺して言い訳する、それを見たなのは達も苦笑いするが。

二人が構えだすとその威圧感に圧倒され笑顔が消える。

 

「行くぞ兄貴!」

「一本勝負だ、女に見せるには過激だろう」

「おう!」

 

 お互いに木刀を一本づつ持ち、先行は光が取った。

光は真っ直ぐに冷都に駆け、横一線に薙ぎ払う、回転の威力と彼自身の子供らしからぬ腕力を合わせれば

大人でも叩き飛ばされる事だろう、しかし相手はあの最強の男である冷都。

 光の斬撃を片手に持った木刀で受け止め、逆に弾き飛ばす、木刀から手は離さなかったが。

反撃が来ると予想、するも冷都はその場から動かず剣先を光に向ける程度。

 

「……」

 

 光は前のめりになって飛び込み、突きを放つが横に回避した冷都。

脇腹に打ち込もうとするが一歩退いて回避する冷都、光の攻撃は着ている服にすら掠りもしない。

 それに内心舌打ちしながらも、やっぱり兄貴は凄いと称賛する。

 

「お前は気が短いのが弱点だ」

「?」

「怒るのは良い、怒りは力の源だ。だがそれで技や動きにぶれが出る、

怒りながら自分を制御しろ」

「無茶言うぜ……」

 

 自分の内心の苛つきを言い当てられた光は冷都の言葉に苦笑いするが納得もする。

ホムンクルス戦の時も内心の苛つきが技や動きを鈍らせた事にも起因しているのだろう、

素直にその忠告を受け止めた。

 

「はあ!」

 

 切り上げと回転切りの高速二連撃を涼しい顔で避ける冷都、反撃しないのは

修行を付けてくれと言った所為なのだろう、光の動きを観察するのみで冷都から攻撃はなかった。

 その光景を唖然と見つめる三人を見て木葉は面白がった。

 

「ねえ木葉ちゃん、あの二人いつもあんな感じなの?」

「うん、手合わせの時は大体。でもいつもはお父さんが見てるかな」

 

 木葉の言葉を聞いた三人は黒神家の男は皆こうなのかと驚く、なのはも恭也と美由希の手合わせを

何度か見た事があるが、二人はここまでの動きをしなかった。

 光は魔法と気による身体強化を行いながら冷都と戦い、冷都は呼吸も魔法も使わずに

戦っていた。まさに圧倒的、それからニ十分程度の激しい戦闘を行い。

光は疲労困憊で倒れたところで終わった。

 

「ぜぁあ! はぁはぁ……ちくしょー!、一本も当たらなかったー!」

 

 息切れして仰向けの状態になって倒れる光とは対照的に冷都は汗どころか呼吸一つ乱さずに

光を見下ろしていた、三人が光に近づいて心配そうな表情をする。

 

「安心しろ、直ぐに回復する」

「いつもこんな厳しい修行を?」

 

 なのはが興奮した様子で冷都に詰め寄る。

 

「ああ、父さんはもっと限界までやらせるが」

「あの!」

 

 なのはが自分に指を指して言った。

 

「私にも修行を付けてください!」

「……」

 

 その後しつこく冷都に修行を付けてくれるようにお願いしたが

アリサとすずかが全力で止めた事で渋々その場では諦めた。

 

 その場では。



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転生者

 

 なのはが修行を付けてくれと言うお願いを拒否した日から数日後。

冷都は海鳴市を一人で散歩しているとふと神社が目に入った、別段神事に興味があるわけでも

信仰している神が居るわけでもない。本当に偶然目に入ったのだ、その場に足を踏み入れると

人気のない場所だなと思った、誰かが参拝に来るわけでも巫女が掃除している事もない。

 だがそこには一つの異物が存在していた、異物と言うより狐だが。

 

「……」

 

 動物好きと言うわけでもない彼は倒れて血だらけの狐を無視して、神社の賽銭箱に近づく。

それに一万円札を入れると金をめちゃめちゃに鳴らす。

お礼参りも手を合わせる動作さえせず、道の真ん中を通って帰ろうとすると血塗れ狐が冷都を見ていた。

 

「……」

(なんだ此奴は?)

 

 ただの狐ではない事は一目で気付いたが、興味が無くなったのか冷都は狐を無視して

帰る事にした、次の瞬間冷都に向かって炎が降り注ぎ。それを黒い盾で防御した、降ってきた方向を

見ると鳥居の上に赤い刀を持った銀髪の男が冷都を見下ろしていた。

 

「斗流血法・カグツチ・刃身ノ壱・焔丸」

「だから?」

 

 男が居合の体勢で踏み込み、冷都に向かって一直線に斬りかかる。

その攻撃速度に目を見開いて驚き黒い剣を作り出して受け止める。

 

「ほう、素晴らしい速度と力だ。お前のそれは血液で作ったのか?」

「ごちゃごちゃうるせえ、刃身ノ弐・空斬糸!」

 

 男は血の剣を糸の様に変えて冷都を拘束しようと襲い来るが、隙間を縫うように回避した

冷都は男の背後に移動して背中を切り裂いた。

 

「っち!」

「……身体能力は中々だ、それに痛みに耐える気力も十分」

 

 男は斬られた背中の傷を血液操作で止血する。

 

「簡単な医療行為も可能と」

「斗流血法・シナトベ・刃身の伍・突龍槍、アババババ!?」

 

 男が血の槍を作り出して冷都に向けた瞬間、男の上から電撃が降ってきた。

その攻撃を受けた男は気絶して倒れる、男に電撃を放ったのは所々流血した狐耳を付けた巫女服の少女だった。

 

「……なんだお前は」

「!」

 

 冷都が話しかけると少女は何処かへ逃げて行った、それに対して特に興味もなく見送った冷都は

男を獣の口の中に放り込んで高町家に帰った。

 

 帰り道の最中、冷都は結界魔法の中に入った事に気づいた。

 

(今度は何だ)

「死ねぇえええ!」

 

 冷都の正面から手に電撃を纏わせた少年が走って来る、少年は電撃の手を冷都に向けるが腕を切断され止めた。

そのまま首と胴体を切り落とされ完全に死亡した。

 まだ周りに気配を感じる冷都は結界中に黒い刃と獣を展開し周りにいる自分の敵を皆殺しにした。

 

「キャアアアア!?」

「何だよこれ!」

「た、たすけ」

 

 阿鼻叫喚の声をしばらく聞いていると静かになり、結界が解除される。

三十人は居た彼らの遺体は全て捕食されたので誰の目にも止まる事は無いだろう。

 しかし冷都は何故これほどの人間が自分を襲うのかまるで理解できなかった、疑問を抱いていると

目の前に黒いローブを着た謎の人物が立っていた。

 

「またか、今度は誰だ?」

「やあ! 大変だったようだね!」

 

 ローブで顔を隠した謎の、声からして男は冷都に軽々しく話しかけた。

会話するつもりがあると理解した冷都は黒い剣を一応持ちながらも剣を下ろして向ける事はしなかった。

 

「お前の知り合いか?」

「いいや? 彼らはただ雇われただけさ、まあ単純に君への恨みも有っただろうが」

「悪いが心当たりがない、私は彼らに恨まれる事など一度もしたことは無い。無関係だ」

「そうかい? 僕は君に恨みがあるけどね」

 

 ローブの男は被っているフードを取り顔を露にすると目を赤く変化させた。

その瞳には三つの勾玉模様が浮かび上がり、男はニヤリと笑う。

 

「終わりだね」

「なにがだ?」

 

 赤目の男は驚いて目を見開く。

 

「なるほど、無効化か」

「何だか既視感のある答えだ」

 

 男が両手を使って妙な手の動きをして、忍者のように人差し指と中指を両手で合わせる。

 

「火遁・豪火球の術!」

「忍者か面白い」

 

 迫りくる火の玉を盾で防ぎ、黒い刃を伸ばして赤目の男を刺突するが。

赤目の男の目の模様が変わると、刺突しようとした刃は赤目の男の体をすり抜けていく。

透過した状態のまま赤目の男は冷都に向かい走って来る、冷都は刃を複数本伸ばして攻撃するも

全てすり抜けてしまう。

 男が冷都の目と鼻の先まで来ると赤い札を衣服に貼り付けた。

意味の分からない男の行動に懐疑な顔をするも、突如札が爆発し爆風に飲み込まれた。

 

「起爆札、どんなに強くてもただの人間。能力に慢心して逃げなかった貴方の敗北だよ」

「そうだな、逃げなかったお前の負けだ」

「え!?」

 

 男の体を黒い刃が突き刺し壁に張り付けにする。

 

「ぐう! なぜ?」

「お前の所為で服が黒焦げだ」

 

 男は黒焦げた布切れを持つ冷都を見て納得した。

 

(爆発する前に衣服を引き千切り自分を防御した、なんて判断速度だ)

「一つ聞きたい、何故私を狙う?」

「貴方の行動が、僕達の御主人様の機嫌を損ねただけだよ。僕自身はそうだね……

転生者が原作に介入するのが気に入らなかったから……かな?」

「は?」

 

 冷都は男の言葉の意味が何一つ理解できなかった、しかし一つ聞き覚えのある言葉を聞いた。

 

「その転生者というのは何だ」

「は?」

 

 男は呆気に取られ、意味を理解したのかくつくつと笑いだす。

 

「ああ、成程。最初から此処は偽物の世界だったって事だね」

「なにを言っている?」

「いいよ、敗けたんだ。教えてあげるよ」

 

 男は、転生者とは何かを答え始めた。

 

「転生者とは、生前の死を迎え。一度死亡した者が生前の記憶を持って新たに誕生する事。

その際に我々は神様に出会うんだ、神様は一つだけどんな願いでも叶えると言って。

一つの力を受け取り僕はこの世界に生れ落ちた、多分他の転生者もそんな感じじゃないかな?」

「……」

 

 冷都は異形使いの少年と白髪の少年、ホムンクルスの事を思い出した。

 

(あれも転生者だったのか)

「ならば聞く、神は何の為にお前達を生き返らせた?」

「さあ? 誤って殺したから、詫びで生き返らせてくれたんじゃない?」

「……」

 

 男の話は聞くに堪えないと言った表情で冷都は殺意を抱く、男は全部話したと言うと冷都は獣を使って

男を食い殺した。

 

(神が人に謝るか、そんな物は神ではない)

 

 冷都は今度こそ誰にも邪魔されずに家に帰った。



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A's:闇と負
白羽緑


 

 黒神邸、冷都はリビングに置いてある菜の花を生けた花瓶の水を取り替える。

その後ろで平伏する少女を背にして花を見る。

 

「お久しぶりですね冷都様、ご壮健で何よりです」

「前置きは良い、お前が遣わせると言った異能者は何処にいる。もう何日も経つぞ」

 

 青筋を立てながら少女の言葉を遮る、彼女は数日前冷都と電話した少女だ。

 

「お前は私に嘘を吐いたのか? 何故来ない、言ってみろ」

「はい、彼は死にました」

 

 表情を変えず笑顔で死んだと伝える、そこで初めて冷都は少女の方を向く。

少女は表を上げてニコリと笑う。冷都は逆に首を傾げて困惑する。

 

「何だと?」

「数日前から連絡が無く、配下が発見した際には全身がバラバラにされ

焼き殺されていたそうです」

「犯人は?」

「銀髪の赤い刀の男だと」

 

 冷都は数ヶ月前の事を思い出した。

 

「それは私が既に殺した、他の者を寄越せ。緑」

「かしこまりました、冷都様」

 

 冷都が何処かへ行くと、少女、白羽緑の背後にいるメイドが彼女を車椅子に乗せると冷都の後を追う。

 

「ふふ、凄い威圧感でしたね。殺されるかと思いました」

「……」

 

 緑の言葉にメイドは一言も言葉を発する事は無く車椅子を押す。

 

「それと、お前は転生者という者達を知っているか?」

「はて? それは何でございましょう、私は存じ上げません」

 

 冷都は緑の言葉を聞いてそうかと返した後、別邸の洋館の方に向かった。

 

「緑、お前はコンピューターの類が詳しかったな」

「ええ、ハッキングでもクラッキングでもお任せください。それとも兵器開発の方がよろしいでしょうか?」

「好きにしろ、そんな事より転生者という者達を調べろ」

「どういった組織かお聞きしても?」

 

 冷都はローブの男の最期の言葉を聞いて転生者という存在を知り、情報収集に長けた緑に

命令した、彼女はそういった冷都の補佐をする事が多く。ジュエルシードを見つけたのは冷都ではなく

彼女の情報収集能力のおかげ。

 白羽緑は白羽家の御令嬢兼当主であり、大企業の社長という天才小学生だ。

内面の性格だけを除けば完璧超人な冷都の部下であり、彼女も冷都と同じく異能者である。

 

「この屋敷の設備はお前が好きにしていい、ただし弟達に見つかるな。お前が来ると

彼奴らが彼女だと誤解して面倒臭い」

「相も変わらずお元気な御兄弟ですね」

 

 緑のお世辞を無視して屋敷に入ると、冷都は魔力の反応を感知する。

 

「?」

 

 その直後、緑とメイドの姿が消える。結界の中に入ったのだ。

 

(また転生者か? 私の家が見つかったのは面倒だな)

 

 屋敷の玄関が吹き飛び土煙が舞い上がる、吹き飛ばした犯人は剣を持ち

桃色の髪を後ろに束ねた鎧姿の騎士だった。

 

「……汚い、土煙が舞った。服が汚れる、お前は嫌いだ」

「そうか、許せ」

 

 騎士は剣先を冷都に向ける。

 

「大人しくしていろ、命までは取らない」

「ふざけるな、傲慢ここに極まるその言動。甚だ図々しい、身の程を弁えろ」

 

 冷都は黒い剣を騎士に向け、技を放つ。

瞬間、騎士は嫌な予感を覚え魔法陣を展開して後ろに下がる。

 

 ――影の呼吸 伍ノ型

 

 ――薄明光線

 

 剣を十字に振り振ったその場所から黒い刃を伸ばし騎士を襲うが。

 

「レヴァンティン!」

「シュトゥルムヴィンデ」

 

 騎士の持つ剣から薬莢の様な物を落とし炎を纏い、黒い刃を炎の衝撃波を繰り出し撃ち落とした。

撃ち漏らした一部が騎士の背後にある木々を薙ぎ倒し、騎士の頬を刃が掠めた。

 

「それはデバイスか? フェイトとは違うな」

「デバイスを知っているのか、ならば話は早い。お前のリンカ―コアを渡せ」

「断る」

 

 ――影の呼吸 参ノ型 雲影

 

「紫電一閃!」

 

 冷都が切り上げを放ち、騎士は炎を纏った剣で居合を放つ。

その衝撃波を受け、周りの地面を抉ると騎士が後退りする。

 

(手が痺れた、子供だと思って加減をすれば命は無いな)

「レヴァンティン!」

 

 子供とは思えぬほどの腕力を持った冷都を警戒する騎士はデバイスで魔法を発動。

だが発動する隙を与えるほど冷都は優しくはない。黒い触手を伸ばして騎士の足を掴み、

木々に叩き付ける。

 

「かは!」

 

 騎士は意識を失いかけるが、触手は蒼き狼に切断された。

そのまま投げ出された騎士は助けてくれた狼を見る。

 

「済まない、助かったザフィーラ」

「お前がそこまで苦戦するとはなシグナム」

 

 蒼き狼ザフィーラに礼を言うと騎士シグナムは剣を杖にして立ち上がる。

それを観察するように見る冷都はザフィーラの容姿に既視感を感じた。

 

「お前は使い魔か」

「守護獣だ、と言ってもわからんか」

 

 何の違いがあるのか分からない冷都は適当に聞き流し、剣を二人に向ける。

 

「何の用だザフィーラとやら、私はそこのシグナムという婦女子と戯れている。

男は引っ込んでいるがいい」

「残念だが私は騎士だ、女子供と一緒にされては困る。だが一対一を所望するなら喜んで答えよう」

「シグナム」

「安心しろ、今度は油断せん」

 

 ザフィーラは後ろに下がり、シグナムは剣を構え直す。

冷都も剣を構える、先制はシグナムだった。

 

「シュランゲフォルム」

 

 シグナムの剣はいくつかの節に分かれ、蛇腹剣の様に伸びる。

目測で10メートル以上の長さはあるだろうそれをシグナムは操り。

冷都も黒い刃を伸ばし防御する、お互いが変幻自在の武器を使用し。

攻撃が届いたのは冷都だった、黒い刃がシグナムの鎧や皮膚を掠める。

 シグナムの武器は一本だが、冷都は複数の刃を扱い物量でシグナムを押す。

 

「シュベルトフォルム」

 

 剣を基に戻したシグナムは飛行魔法を使い、刃から逃れる。

冷都も飛行して彼女を追いかける、しかし。

 

「てやあああああ!」

 

 ハンマーを持った少女の突然の攻撃を盾で防御するが衝撃を逃し切れずに吹き飛ばされる。

 

「大丈夫かよシグナム」

「ヴィータか」

 

 赤い騎士が現れ、冷都は楽しそうに笑う。

 

「集団戦か、良いだろう」

 



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守護騎士ヴォルケンリッター

 

 冷都やなのはよりも幼い容姿をしたその騎士は不機嫌そうな目をして冷都を見る。

衣服に付いた埃を払うと飛び上がって彼女達と目線を合わせる。

 

「これで三人目、他にもまだ仲間が居るのか? いるようだな」

「うるせぇ! シグナム! 一対一にこだわって敗けたら世話ねえぞ」

「ふ、言ってくれるなヴィータ」

 

 魔法陣を展開するヴィータとシグナム、冷都の背後をザフィーラが。

冷都を取り囲むようにして、構える三人を余所に、冷都はヴィータの赤い魔法陣を観察する。

 

(フェイトの言っていたミッドチルダ式とは違うな、頂点に円の正三角形。

それにあの女の使う技だ、炎を纏うのは魔力変換資質だから無視していい。問題は威力だ。

私ならば防御できるがパワーも技術もフェイト以上だ。戦闘特化の魔法として考えるべきか)

 

 冷都はシグナムの使う魔法を一部見ただけでその特性や特徴を理解した、そしてシグナムの

力量と能力がフェイトを超えている事も、魔法陣の形が違うのは彼らの特殊技能だろうと予測した。

 

「素晴らしい、お前達の体は良く鍛え上げられている」

「そりゃあどうも! アイゼン!」

「シュワルベフリーゲン」

 

 ヴィータの鉄球を利用した魔法弾は真紅の光を放ち、ハンマーで撃ちだした。

その攻撃をするりと避けるが、魔法実弾とでも呼ぶそれは追尾弾の様に冷都を追いかけた。

 

「消えろ」

 

 魔法実弾を獣を使って捕食する、その背後を人間に変身したザフィーラが襲い掛かる。

特殊な魔法は発動せず徒手空拳で冷都を殴ったが、黒い盾に阻まれる。黒い盾から刃を放つも。

 

「縛れ、鋼の軛!」

 

 ザフィーラが拘束魔法を使用して黒い刃を縛り襲い来る刃の軌道をずらした。

そのまま一回転、ザフィーラは盾の側面へ移動し肘で冷都の頭部を攻撃するが、今度は魔法障壁を

使う冷都に防御され弾かれる。

 

「く!」

 

 ザフィーラの体勢が崩れるもシグナムが空から剣を振り下ろし、地面に叩き落そうとするが剣を構える。

三人は冷都から謎の音が発せられたのを感じ、今まで生きてきた実戦経験と生存本能に従い全力で冷都から離れた。

 

 ――影の呼吸 陸ノ型

 

 間に合わないと直感したザフィーラは二人の前に出ると防御魔法を展開する。

 

 ――月夜見

 

 黒い剣を持ちながら回転切りを放ったと同時に黒い斬撃が辺り一面に飛ぶ。

斬撃は地上の木々や屋敷まで巻き込み、防御魔法を展開したザフィーラの胸から血が出る。

魔法障壁はその攻撃回数に耐えられず切り裂かれた。

 

「ザフィーラ!」

「俺の事は良い! 胸を少し切っただけだ……」

 

 ヴィータが心配の声を上げるが、ザフィーラの言葉を聞き冷都を睨みつける。

 

(一瞬過ぎてよく見えなかったけど、回転切りを十回以上連続でやったんだろうな。

あの黒い剣から斬撃が飛んできやがったのか? ザフィーラの為にも早く決着付けねぇと)

 

「シグナム!」

「ああ、わかってい!」

 

 ヴィータの呼びかけに答えようとしたシグナムがヴィータの首筋を掴み、回避行動を取る。

何をと言う表情をするヴィータは自分の居た場所に斬撃が飛ぶのを見て止めた。

 

「お前達二人を始末すれば、後の二人は楽に済みそうだ」

 

 冷都は戦っている三人ではなくその奥に居る緑色の衣服を着た金髪の女に目を向けた。

その事に三人は驚きを隠せない。

 

(馬鹿な!? ここからは数キロ以上あるんだぞ! 何故見える、補助魔法か!?)

 

 シグナムはもう一人の仲間がばれた事に驚きながらも魔法を使ったと予想するが、

ザフィーラの攻撃を防御した事と飛行魔法以外は使った様子が無く、混乱した。

 

「舐めんじゃねぇ! グラーフアイゼ」

 

 ――影の呼吸 壱ノ型 人影

 

「ちっ!」

 

 先制攻撃を先に取られたヴィータは飛んでくる斬撃を回避して、攻撃をしようとするが。

 

 ――影の呼吸 伍ノ型 薄明光線

 

「レヴァンティ」

 

 ――影の呼吸 参ノ型 雲影

 ――影の呼吸 弐ノ型 日影

 ――影の呼吸 陸ノ型 月夜見

 

 冷都の連続攻撃に三人は攻勢に転じれず回避に精一杯だった、ヴィータはこの状況が何か可笑しい事に気づいた。

魔法を発動して攻撃しようと“考えた”瞬間に攻撃される。

 

(ちくしょー! 心でも読まれてんのか!? 違う、未来予知? ああクソ! わかんねぇ!)

 

 ヴィータは迫りくる攻撃を避けながら、冷都の先制攻撃の正体を探るがまるで理解できずに苛つく。

その隙を冷都は逃さなかった。

 

「ヴィータ!?」

「え?」

(なんだよシグナム……あれ?)

 

 武器は何処だろう、彼女は自分の相棒グラーフアイゼンが消えている事に気づいた。

まさか落したのかと思ったが直ぐに違うと気付く、そう、無くなったのはアイゼンだけではない。

ヴィータは右腕の付け根ごと無くなっていた。

 

「があああああああ!?」

「まず一人だ」

「く! ザフィーラ! ヴィータを!」

 

 ――影の呼吸 伍ノ型 薄明光線

 

(助けに行く隙が無い!)

 

 ヴィータの救出も攻撃もできない、状況にシグナムが焦りだす。

 

「なんとかヴィータを連れてシャマルの下へ!」

「分かっている! だが!」

 

 ――影の呼吸 漆ノ型 下弦

 

 冷都は高速の突きを連続で放つと、突きの斬撃が先程の回転切り以上の速さでシグナムを襲う。

 

(これは不味い!)

 

 シグナムの全身を黒い刃が襲い掛かり、地上に撃ち落とされた。

ヴィータも出血多量により失神して同様に落ちていく。

 残ったザフィーラも二人に視線を送った事が原因で、冷都に懐まで入り込まれた。

 

「待って!」

「……」

「ん? お前はもう一人の仲間か」

 

 緑色の衣服の女性の言葉を聞いて冷都はザフィーラの首筋に剣を突きつけた状態で静止する。

彼女は目に涙を浮かべて冷都に言った。

 

「降参します、これ以上仲間を斬らないでください!」

 

 そう言って彼女は冷都に頭を下げた。




呼吸法で此処まで圧倒できる主人公が可笑しいのです。
守護騎士は誰も弱くありません! フェイトが呼吸法を使えても
彼女達を圧倒出来る程強くなることはありませんので!。


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ベルカ式

 

 冷都を襲った仲間の内の一人、シャマルが降参を告げてから直ぐの事。

 

「さて、先ずは傷の回復だな」

「何をするつもりだ」

「治すのだ、まずは見ていろ」

 

 ザフィーラが仲間を斬られた所為もあるがシグナム達に近づく冷都に懐疑そうな顔をする。

冷都はまずヴィータの腕に触れると、黒い液体が彼女を包み込み腕を再生させた。

 

「次はシグナムだ」

 

 シグナムにも黒い液体が包み込むと、傷は最初から無かったかの様に消えた。

 

「これは……」

「う、ううう。此処は?」

「シグナムー!」

 

 起き上がったシグナムに感極まって抱きしめるシャマル。

何が何だか分からずシャマルの頭を撫でて慰めるが、冷都が居る事に気づいて顔を青くする。

 

「!」

「ああ! シグナムもういいの!」

「戦いは我々の敗北だ」

「……そうか、結局我らは……」

 

 暗い顔をして落ち込む三人、ヴィータはまだ意識が戻らないのか気絶している。

シグナムが顔を上げて冷都に土下座する。

 

「頼む、私の命をやる代わりに。皆の命だけは助けてくれ」

「シグナム!?」

「よせ! よいのだ!」

 

 二人が一人だけ犠牲になろうとするシグナムを止める、それを無表情で見つめる。

 

「お前の魔法は戦闘特化の魔法か?」

「そうだ、我々の使う魔法は古代ベルカ式と言って直接魔力を叩き込む戦術。

個人の戦闘能力を近接戦に特化させた物だ」

「それは私にも使えるものか?」

「魔法の才があれば、可能性はある」

「……いいだろう、助けてやる。明日此処にもう一度来い。

それを教えろ」

「いいのか、我々が逃げるかもしれんぞ」

 

 冷都は逃げるかもしれない言う彼らを見る。

 

「お前達は逃げない、必ず戻って来る」

「何故そんな事がわかる?」

「理由が必要か? ならばそこでまだ気絶したフリをしている女の帽子を見ろ」

 

 三人が倒れているヴィータを見ると、顔は見えないがギクリと動いたような気がした。

 

「その女の付けている帽子の人形はのろいうさぎというこの世界の人形だ。

お前達はこの世界に住んでいるのだろう?」

 

 冷都の言葉にヴィータが体を起こして驚いた顔をする。

 

「ではな、早く結界を解け。弟が帰って来るだろう」

 

 それだけ言うと、四人の騎士ヴォルケンリッターは帰っていった。

 

「さて、緑。戻ったぞ」

 

 

 八神宅、リビングでは彼女達の主八神はやてが夕食の準備をしていた。

 

「あ! 皆お帰り! 早速鍋パーティーしよか!」

「ええ、はい」

 

 シグナム達ははやてと約束していた鍋を食べた後、彼女を寝かしつけて。

リビングに集まっていた。

 

「彼奴一体何者だったんだ? あんな魔法、否レアスキルか……見た事ねぇ」

「恐らくはこの世界特有のレアスキルなのだろう、まあ魔法が一般的ではないこの世界でも

珍しい人間だと思うが……」

「しかし良いのかシグナム」

 

 ザフィーラが口調は平静ではあるが心配の声を上げる。

 

「あの男の下にもう一度向かうのだろう、今度こそ殺されるかもしれん」

「そうだよ、それにはやての事もある」

「だとしても、行かねばならない。あの子供は我々がこの世界を拠点にしている事を知っている。

もし見つかれば、主にも危険が及ぶかもしれん。それに」

「それに、なに? シグナム」

 

 シグナムの含みのある言葉に困惑する三人。

それに彼女は口を歪ませて笑う。

 

「あれ程の強者は見た事が無い、我々が束になってかかっても勝てなかった。

美しく流麗な剣技であった、もっと見てみたいと思う」

「うえ、やっぱりそれかよ……」

 

 ヴィータは呆れたような顔をしてシグナムを見る。

シャマルはまったくよと言い同じく呆れ、ザフィーラは相変わらずだなと内心苦笑いした。

 

「それに私は負けたのだ、騎士に二言は無い」

「分かってるよ、闇の書の収集は私達で如何にかする」

 

 

 後日、。冷都はその場所から離れた廃ビルに居た。

アリサローウェルと初めて会った場所だ、そこで冷都はシグナムと待ち合わせしていた。

 

「本当にこんな所でやるのか? 私は構わないが」

「弟には一応私の魔法は秘密にしている、まあもうバレていると思うがな」

 

 光も魔術と言う異能を使えるが、魔法とは違うのか冷都には使えなかった。

まあ似たような技は使えるので、別にそれほど関心は無いのだが。

 バレていると言うより、隠す気が無いのだろう。

先日結界が家で発動したことを光に問い詰められた時には、不審者が居たが逃げたと

嘘を吐いて彼女達の存在は隠した、バレたくなさそうだと思ったからの行動であり尚且つ自分が

ベルカ式を教えられる時間が延びる事を惜しんだためであり、決して善意からではない事を留意して欲しい。

 

「そう言えばお前達は管理局は知っているか?」

「ああ、恐らく我々は指名手配されているだろう。前に一度現地の魔導師のリンカ―コアを貰った」

「ふーん、そうか。そいつは大丈夫か?」

「ああ、死んではいない。良い目をした魔導師だった」

 

 シグナムは懐かしいと言う表情をして戦いを繰り広げた少女たちを思い出す。

 

「ヴィータももう一方の魔導師と戦っていた、その魔導師はリンカ―コアを奪われたかかっているという

状況の中で砲撃魔法を使い結界を破壊したのだ」

「砲撃魔法を?」

「ただの一撃で結界を破壊した、強力な一撃だった。まともに食らえば唯では済まないだろう」

「それは素晴らしい人物だ、きっと才能に愛されているのだろう。私もその一撃を一目見てみたいものだ。

まあそんな事より早くベルカ式という魔法を教えてくれ」

 

 そうして冷都は、シグナムに魔法の技術を習った。

古代ベルカ式にはカートリッジシステムという魔力を込めた薬莢のような物をデバイスに仕込んで

爆発的な威力を得る事ができる技術があるのだと言うアームドデバイスと言う特殊なデバイスが無ければ

意味がないと聞かされ、一瞬で冷都は興味を失ったが。

 

 そうしてベルカの歴史を途中に挟まれながら魔法を教えられた冷都は古代ベルカ式の魔法と

ミッドチルダ式を合わせたオリジナル魔法を作り出し、シグナムを驚かせる等の事がありながら一日を過ごした。

 



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再会と運命の再来

 守護騎士達が冷都と戦ってから数日、黒神家は浩二の退院と共に家に戻り勉強と修行の日々と

心休まる毎日に感謝していたその頃。冷都は光からフェイトが地球に戻ってきた事を聞いた。

 

「久しぶりだね冷都!」

「元気してたかい?」

 

 フェイトとアルフは黒神邸の玄関先で冷都と再会した、しかし冷都はそれ以上に

隣にいる黒髪の女性に目を向けた、それに気づいたフェイトが紹介する。

 

「この人は私の母さん、プレシアテスタロッサお母さんだよ」

「始めまして、フェイトがお世話になったようね……」

 

 病弱そうな顔色で挨拶するプレシア、それを心配そうな顔で見るフェイト。

 

「あのね、実はお願いがあって……ずっと前からお世話になってろくなお礼もできてないんだけど。

母さんの病気を治してくれませんか?」

「……」

「できるかい? 冷都」

 

 その後ろを不安そうな目で見る光達、特に光と浩二は彼女達と知り合いであり。

家族は母親を幼くして失っている。その共感は冷都にはできなかったが、プレシアの顔を見る。

 

「お前は娘を愛しているのか?」

 

 冷都がプレシアにそう言うと、強い瞳をして返す。

 

「ええ、愛してるわ」

 

 そう言った瞬間、黒い液体がプレシアを包む。

 黒い液体が消滅すると、プレシアの顔色は良く体中から活力が漲るのを感じた。

 

「治ったぞ」

「母さん!」

「フェイト……」

 

 母娘がお互い抱きしめ合い涙を流す、それを冷都は複雑そうな顔をして見ていた。

 

「良かったねぇフェイト、本当に良かったねぇ」

「ああ、親子はやっぱりこうでなきゃな……」

「……二人きりにした方が良いだろう」

(此処にはあまり居たくない、何だか気分も悪い)

 

 冷都は意味の分からない気持ち悪さを感じて、家に戻ろうとしたのだがフェイトが手を握って止める。

 

「待ってよ冷都」

「……なんだ……母親は……治したぞ……」

「なんでそんなに間をあけて喋るの? それよりお礼!」

「要らん、感謝だけで良い」

「そう言えば俺も、兄貴に怪我を治して貰った時のお礼してねぇ」

「私も色々助けてもらったからねぇ」

「じゃあ私もお礼する!」

「じゃあついでに俺も」

「私もさせてもらうわ、冷都君」

 

 その場にいた全員が冷都に感謝してお礼をしようとする、気味が悪いと感じた冷都は逃げ出した。

 

「え! 何で逃げるの!? 待ってよ冷都ー!」

(気持ち悪い)

 

 

 数時間後、ハラオウン宅にて。

 

「それで逃げられちゃったの?」

「はい……」

 

 冷都に逃げ切られ落ち込んだフェイトをリンディが励ます。

 

「また今度誘えばいいじゃないか、それよりも問題は」

 

 リンディの息子クロノハラオウンが空中に守護騎士達の顔が映る。

彼らはつい数日前になのはとフェイトを襲った守護騎士達の後を追っていた。

 

「母さん、僕は少し外に出る」

「出かけるの?」

 

 クロノがコートを着て出かけようとする。

 

「うん、ちょっと外の空気を吸って来ようかなって」

「そう、気を付けてね」

 

 クロノは日の暮れた夜の道を歩く、彼は内心の不安と緊張を解消しようと外に出たのだ。

数十分程公園のベンチに座り、そろそろ戻ろうかと思った矢先。

 その目の前に人影が通った、普段なら別に気にする事もない光景。

 しかし今は深夜、クロノはこんな時間に何処に行くのだろうかと気になり。

その人影の顔を見た、その顔は窶れて体は痩せこけた女性だ。

クロノはその後を追った、何かの見間違いであれば笑い話で済む話だが。

女性が今にも倒れそうなほどの姿を見て、クロノは見過ごす事ができずに後を追った。

 

(何処に行くんだ?)

 

 その女性は段々と人気のない山奥に入っていき、その後をばれないように追う。

話しかけても良かったが、いきなり知らない人間話しかけても混乱するだろう。

女性が進んだその先にはボロボロで今にも崩れそうな廃洋館が在った。

 

(こんな所に廃墟なんて在ったのか、不味い! 彼女が入っていく!

あんな危険な所、早く出さないと!)

 

 相当に年月が経った洋館に入った女性を心配してクロノは走ってその中に入った。

その瞬間、クロノの意識は暗転した。そして。

 

「……ロノ、……クロノ……」

(誰だ? 僕を呼ぶこの声……何処かで……聞いたような)

 

 クロノの耳に懐かしく、そしてあり得ない声が。

 

「クロノ」

「父さん?」

「やっと起きたか、随分とぐっすり眠ってたようだな」

「ここは……」

「まだ寝ぼけてるのか? 家だよ、母さんが朝食を作ってる。早く来なさい」

「う、うん!」

 

 クロノは父親のクライドハラオウンに呼ばれて、リビングに向かった。

 そこで彼の母親リンディが朝食を作って待っていた。

 

「おはようクロノ、クライド」

 

 クロノはこの光景に違和感を覚えた、それが何だか分からないが。

何かをしなければならないのだと、思った。

 

「そうだ! クロノ今日は俺は休みだから、外に出かけようか」

「いいの父さん!」

「ああ、今日は疲れるまで楽しもう、母さんも一緒に」

(まあ、後で良いか。そんな事)

 

 クロノは違和感の正体を探るのを止め、思考を放棄した。

 

 

「くくくくく、アハハハハハ!」

 

 廃洋館の主が倒れたクロノを見て笑う、彼は今夢を見ていた。

優しくて甘くて、そして悲しい夢を。

 

「現実よりも優しい夢を、嫌な未来より楽しい過去を!」

 

 夢魔は邪悪に笑う。

 

「それの何が楽しい、私は……人の笑う顔など興味は無い」

 

 廃洋館の窓の外から、冷都は夢魔の首を切り落とした。

 




少なくとも親子が笑い合う事に複雑な感情を抱く程度には
人間性がある冷都君10歳。


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くだらない夢

 

 フェイトから逃げ切った後、冷都は森の中で身を隠していると。

数ヶ月前に血だらけで倒れていた狐を見つけた。

 

「くー!」

「消えろ狐、邪魔だ」

 

 すげなく無視する冷都だが、狐は人間の姿を取り冷都に言った。

 

「何処に行くの?」

「人気のない場所だ」

「なら良い所があるから、ついて来て」

 

 狐の妖怪、久遠は冷都を連れて山奥にまで入っていった。

懐疑な顔をする冷都であるが、久遠が前に助けられた事があるからと言ってまた礼かと呆れ果てる。

 

(私は確かに善良で優しいが、助けた記憶がない)

 

 数ヶ月前、冷都は転生者の一人、銀髪の血剣使いと戦った数十分前に久遠は彼と出会い殺されかけたところ。

神社に居た(冷都は知らなかったが)人間を守る為に戦ってくれた冷都にお礼がしたかったらしい。

それを言われた冷都は、謙遜するでもなく流石私と内心で自画自賛した。

 山の中を数時間ほど歩くと、そこには美しい滝と動物に囲まれた一人の女性が居た。

 

「あ、その子が前に来てくれた人?」

「うん」

(巫女服、肉体は相応に感情だが小さい古傷がいくつかある。主に膝に)

「お前は?」

「私の名前は神咲那美、この前は助けてくれてありがとう、貴方の名前は?」

「黒神冷都」

 

 女性はどうやら退魔師という霊を成仏させる職業をしており、破魔真道剣術・神咲一灯流と言う。

時に魔を倒す事も行う流派であるらしいが、剣術の才能はないと冷都は見抜いた。

ついでに霊力もあまりないと言う、ならばどうやって成仏させるのかというと対話するという

冷都にとっては欠伸が出る程つまらない方法だった。

 

「……」

「……」

「くうん」

 

 お互いが喋らなくなる、冷都が那美に興味を失い。

那美は子供とはいえ初対面の冷都に緊張していたからだ、そして久遠は鳴く。

 それから更に時間が経つと日が暮れだす、冷都がそろそろ帰ろうとした時。

 

「?」

 

 直感的に山奥の方向に目を向ける、特に理由があったわけではない。

本当になんとなく目を向けた、ただそれだけ。その直後那美の持つ携帯電話が鳴り始める。

 

「はい那美です、はい、はい。わかりました」

「くうん」

 

 電話に出た那美は立ち上がって真剣な面持ちで久遠を見る。

冷都は微かにだが、電話の声が聞こえる。

 

『最近、深夜に若者が外出する事が多いのですが、それが妖怪の仕業とわかりました。

久遠殿を向かわせてほしい』

「わかりました、久遠!」

「くうん!」

 

 それが核心に変わったのは那美が電話を切ってからだった、冷都に仕事で行かなくては

ならない事を言おうとするが目を向けた頃には、冷都の姿は消えていた。

 

「あれ?」

「冷都ならあっちに走ってったよ?」

「あっちって、ああ! そっちには!」

 

 那美が急いで冷都を追いかけるが、その足の速さにどんどん距離を離されてしまう。

那美と久遠を振り切るほどの速度で走り、その場所に到着すると、そこには古い廃洋館が

あり、それを見た瞬間気味の悪い直感が全身を走る。

 

(あの入口から入ると事態を悪化させるような気がする、二階の窓から入るか)

 

 二階に飛び上がるとそこには人間の姿をした顔中目玉の化け物が居た、口も目も耳も全て目に置き換わっている異形。

その笑う姿と倒れた人物達を見た後、冷都は剣を生成して技はなった。

 

「それの何が楽しい、私は……人の笑う顔など興味は無い」

 

 ――影の呼吸 壱ノ型 人影

 

「なに!?」

 

 その首を刎ねた、しかし。

その首は新しく再生され、眼球が全て冷都を見る。

 

「……楽しい余興を邪魔するなんて酷い奴」

「人の笑顔が好きなのか? なら死んでくれ、死んで私を笑わせろ」

 

 冷都は倒れて幸せそうに眠る少年少女達を見て、酷く不愉快な気分になった。

 

(他人の笑顔など、何が楽しいのか)

 

 ――影の呼吸 弐ノ型 日影

 

 技を放ち、今度は眼球を全て潰すが。

瞬時に再生し、洋館に張った木の根が冷都に襲い掛かる。

 

 ――影の呼吸 肆ノ型 火ノ神

 

 木の根を全て弾き斬って解体すると、夢魔は不機嫌そうに唸り声をあげる。

 

「君さぁ、早く死んでよ」

「お前が死ね」

 

 ――五ノ型 薄明光線。

 

 斬り突き潰し、繰り返し攻撃をするも全て再生される。

いたちごっこ、水掛け論、千日手、拉致の明かない戦闘に冷都は考える。

 

(奴の再生速度はかなりのものだ、アリサの様に相当に生命エネルギーを吸っているのだろう)

 

 冷都は夢魔の強さと回復力がアリサのものと同様と見抜く。

 

(此処に居る全ての人間を殺せば、あの再生速度は止まるか?)

 

 最悪な方法を考える、確かにその方法に光はあるかもしれない。

しかし確証もなく必ずしも夢魔がアリサと同様の原理で強くなっているという保証もない。

可能性の問題であり、普通の人間なら考えついても直ぐには実行しないだろう。

 

(よし、殺すか)

 

 だが冷都は普通ではない善良でもない、悪党だった。

例え違ったとしても自分に被害は無い、私は彼らを怪物から救った英雄だとのたまう事もない。

偽善も罪悪感も感じない、本物の外道。それを実行しようとしたその時。

 

「久遠!」

「はあああ!」

 

 電撃を纏い人型になった久遠が夢魔に蹴りを放ち、夢魔は床を破壊して一階に落ちていく。

 

「大丈夫? 冷都!」

「ああ」

 

 床に大穴を開けて落下した夢魔の姿は酷く苦しそうに悶えていた。

 

「お前の攻撃は効果があるようだな」

「多分、物理攻撃は効かないよ。特殊な武器じゃないと霊剣を使わないと」

 

 一階から足音が聞こえて来る、那美が慌てたように冷都に向かって何かを投げつけた。

 

「受け取って!」

「!」

 

 冷都が受け止めたそれは刀だった、鞘から刃を出すと刀身は薄く青く輝いている。

 

「これは?」

「霊力を込めた刀! それならあの夢魔にも効果があるから!」

 

 那美の言葉を聞き、大穴の下に久遠と共に降りると冷都の視界は一変した。

 



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心を燃やせ

 夢魔の体から肉の塊が屋敷中の壁や天井に広がる、脈動するように動くそれに

冷都は体の中に入った様な感覚を覚えた。

 夢魔の体は眼球と肉片だけで構成され、人型を保ってはいるが不定形な状態で冷都達を見る。

 

「これは?」

「もううんざりだよ、君達にはさぁ」

 

 肉片から肉の触手が眠る者達を引きずって一階に集める。

人質のつもりなのだろう、那美も急いで一階に降りて来る。

 

「うごくなよ! 此奴らがどうなってもいいのか!」

「卑怯者!」

 

 那美が夢魔を罵るが夢魔はそれに大笑いする。

 

「ハハハハハ! 立派な戦術だよ! さあ、動くなよぉ、じっくりと嬲り殺しにして」

「ブレイズキャノン!」

 

 機械的な音声が冷都の耳に聞こえ、炎の魔力波が二人の間を通り抜け夢魔を攻撃した。

 

「そうは、させるか!」

 

 夢魔の頭は吹き飛ばされ、再生していくが。その隙をついて冷都は人質を黒い触手で掴み救出した。

冷都が眠っていた一人であるクロノハラオウンを見る。

 

「魔導師か、丁度いい。此奴らを守れ」

「状況は理解できないが、手は貸す」

「さっきの衝撃で起きたのか!」

 

 夢魔が忌々しそうにクロノを睨みつける、だが直ぐに嫌らしい顔をして笑う。

 

「でもいいのぉ? 随分と素敵な夢だったのにぃ」

「!」

 

 クロノを挑発するように惜しむように言う夢魔は、見下したような目で見る。

それに対して持っているデバイスを震わせて、激怒の表情を浮かべた。

 

「ふざけるな! 人の思い出を弄んで!」

「でもお父さんに合えたんじゃないの? 君は心底嬉しそうだったじゃないか」

 

 怒りを超えて殺意すら出ていそうなクロノの視線に夢魔はまるで気にした様子が無い。

夢魔に霊刀を向けて無表情で見る冷都、視線は合わせないがクロノに呼びかけた。

 

「魔導師、落ち着け。あれの相手は私がする」

「君は……」

 

 クロノが冷都を見て困惑する、その特徴をよく見てフェイトが

世話になった現地の人の容姿と態度と似ていると思った。

 

(黒目黒髪、私と言う一人称、さっきの黒い何か。まさか彼か?)

 

 冷都が刀を構えて夢魔の視界を黒い刃で潰す、視界を失った夢魔は触手を適当に動かして

攻撃するが全てを必要最小限の動きで回避する、久遠はその後ろから電撃を放ち冷都を援護した。

 

「このクソガキ!」

 

 電撃を食らい痺れた夢魔の目を霊刀で切り裂いた。

 

「やった!」

 

 那美の喜ぶ声が聞こえる、するとクロノと久遠の背後に居た少女の一人が目を覚ます。

 

「ここは?……」

「目を覚ましたか、良かった」

 

 クロノが少女が目を覚ましたことに喜び、久遠も元の姿に戻ろうとする、しかし。

 

「バーカ!」

 

 夢魔は目玉を切断されたにも拘わらず再生して攻撃した。

その攻撃をクロノは倒れた人達を守る為に防御魔法を展開、冷都は黒い盾を作った。

 

「那美! 効かないぞ!」

「そんな、霊刀なら確実に……」

 

 夢魔を切り裂いたはず、だか現実にまだ夢魔は動き。

彼らを食らおうと襲い掛かって来る、何故まだ動くのか那美に襲い掛かる触手を久遠が防御しながら考える。

 

(そうか!)

「急所は一つだけじゃない!」

 

 長年の経験か妖怪として生きてきた名残なのか、久遠は夢魔の不死性の秘密に気づいた。

 

「全部の目を潰さないと! それも同時に斬らないと倒れない!」

「目、鼻、口、耳、全部で六つの急所を同時にか、いや再生する間に全て切り裂けばいいのか?」

「うん!」

「六つの弱点を同時にだと? く!」

 

 肉の触手を防御しながらクロノは歯噛みして悔しがる、派手な砲撃魔法ならこの屋敷ごと

吹き飛ばし、倒せるかもしれないが。一般人が近くにいる状況で撃つのは逆に危険。

 それもクロノは知らない事だが、夢魔の体は特殊な武器、霊刀でしか倒す事ができない。

どちらにせよクロノは夢魔に対する対抗手段を持ってはいない。

 

「問題ない、私が切り落とす」

 

 冷都が刀を鞘にしまうと、居合の構えになって夢魔の目を見る。

だが、それを止める者が居た。

 

「待って!」

「ん?」

 

 倒れて眠いっていた少女だ、少女は冷都に声を掛け焦った様に叫ぶ。

 

「彼を殺さないで!」

「はあ?」

「なに言ってるんだ!?」

 

 少女の言葉の意味が分からず、冷都達は困惑する。

それに対し、夢魔は嫌らしい笑みを浮かべ嫌な笑い声を発する。

 

「あひゃひゃひゃ! やっぱり人間だねぇ! 君達見たいに強い人間だけじゃないって事だよ!」

「どういう意味だ!」

「まだわからないの? 嫌な現実よりも優しい夢の方が良いに決まってるでしょ?」

 

 夢魔の言葉に心底嫌悪するクロノは夢魔を睨みつける。

 

「君はそれでいいのか!」

「……わ、私はもう一度……」

 

 少女が頭を抱えて涙する、それに冷都は近づいて行く。

 

「私はもう一度二人に会いたいの! 死んだパパとママと一緒に! 幸せに暮らす夢を!」

「!?」

 

 少女の叫びにクロノは動揺する、彼も闇の書という異世界のロストロギアの

発動に巻き込まれ父親を幼くして失っている。それ故に少女の叫びに共感した。

 咽び泣く少女の頬を冷都は殴った、グーで。

 

「お前の両親は死んだ」

「……え?」

 

 殴られた少女は涙目で冷都を見る、それを冷たい目をして無表情で見下す冷都。

 

「もう一度言う、お前の両親は死んだ」

「し、死んでない。まだ生きて……」

「それはお前の夢だ、現実を見ろ。お前の両親の墓があるはずだ」

「……」

 

 黙り込む少女を見下し、冷都は言葉を続ける。

 

「どうしてよ、いいじゃない。夢の中でくらい幸せになっても……」

「それでもそれはただの夢だ、現実ではない」

 

 少女は頭を上げて項垂れる、無防備な彼らを肉の触手が襲うが全て黒い刃に切り裂かれる。

冷都は目を細めて少女に刀を向ける。

 

「私は五歳の頃、母親が事故の後遺症で死んだ」

 

 少女が目を見開いて冷都を見る、クロノは静かに防御魔法を展開しながら聞いていた。

 

「体が良くてな、あまり一緒に遊んだ記憶は無い。……だが誰かが犠牲になるなら自分がと自己犠牲の心を持った人だった。

お前の親の死んだ時期も理由も知らんが、お前の親はお前に幸せな夢だけを見て死ねと思っているのか?

 せめてお前だけは幸せになってくれと思っているだろう」

「何も知らない癖に……」

「知らん、お前の過去など。だがお前の言葉から優しい両親だとは分かった」

「!」

 

 冷都は少女に背を向けて居合の構えを取る、少女はその背中を見ていた。

 

(私よりも背が低い、私よりも幼いのに……)

「胸を張って生きろ」

 

 廃洋館の天井が壊れ、天井の大穴から月の光が入って来る。

月の光は冷都の姿をはっきりと照らし、その美しい容姿と気迫に那美は思わず息を呑む。

 

「自分がどれだけ情けなくても、心を燃やせ、前を向け。お前が無駄にした時間は元に戻らない。

お前と共に悲しむことは無い」

 

 少女は涙を流して冷都はっきりと見て言った。

 

「彼奴を倒して!」

 

 ――影の呼吸 拾壱ノ型

 

 冷都は向かい来る肉の触手を床ごと切断する。

 

(あの動きだ、良い技が在った。あの技を繰り出せ、恭也が見せたあの動きを)

 

 高町恭也に呼吸法を教える際に、彼からを教えてもらった御神流の技の極み、その奥義を。

正面の夢魔の目を潰し、那美と久遠の横を通り抜け。奥の扉を破壊して屋敷中を無差別に走り回る。

その速度は音速を超えていただろう。

 その技の名は――

 

 ――御神影閃

 

 屋敷中に点在した夢魔の六つ目は、この世から消滅した。

 




拾壱ノ型

御神流最強の奥義 閃 を影の呼吸に取り入れた物。
純粋な剣技による技。


それにしても煉獄さんの台詞はやっぱりかっこいいです。
そして名言が言う人が変わるだけで内容がガラリと変わる事を知りました。


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夢の目覚め

 

 彼女達は皆昔、嫌な事や悲しい事件に巻き込まれそのトラウマを突かれて夢魔に取り憑かれていたと言う。

屋敷の肉の塊は夢魔が倒されると同時に、灰となって消滅した。

 先に起きた少女の一人と一緒に屋敷内の人間を全員外に出た後、那美は病院と警察に連絡すると言った。

クロノは流石に一般人に魔法の事を知られるのは不味いのか、自分の事を話さないでくれと言ってその場を後にしようとした。

 冷都も同様に父親に見つかると面倒なのか刀を那美に返し先に家に帰ろうとした直後、少女が呼びかけて二人を止めた。

 

「あの」

「何だ?」

 

 さっさと逃げたいのか、冷都が早くしろと言う表情をする。

クロノは少女が気になったのか足を止めて二人を見る。

 

「ありがとうございました、また。前を向いて生きてみます」

「ああ、そうしろ。ではな」

「ちょっと待って! お、お名前を。貴方の名前を教えてください」

 

 まるでフィクションの中のやり取りに少女は内心苦笑いする、だが冷都は複雑そうな顔をして返す。

 

「お前と会う気は二度とない、お前もあの化け物事は忘れろ」

「どうして……」

「お前みたいな人間には、関わりのない話だからだ」

 

 冷都は少女に背を向けて暗い森の中に消えて行った、クロノも少女に頭を下げてその後を追った。

少女は二人が見えなくなるまで頭を下げ続けた。

 

「ありがとう、ございました」

 

 

 数時間ほど歩き、クロノはやつれた女性を見た公園にまで戻ってきた。

その隣を冷都は歩いている、クロノは笑みを浮かべて冷都を見ていた。

その眼差しは何処か眩しい物を見るようであった。

 視線に気づいた冷都がクロノを見る。

 

「お前、管理局員か?」

「そういう君は、フェイトの友達かな?」

「成程、口の軽い奴だ」

「いや、フェイトは君の名前は最後まで言わなかったよ。

こちらもそこまで捜査に関係するものじゃ無かったから、追及はしなかったけどね」

「それ以外は全部言ったようだな」

「まあ、君の容姿と能力を少し。それよりも名前を教えてくれないか?」

 

 クロノは初対面にも関わらずすらすらと話せる自分に少し驚いていた。

自分自身をあまり対人能力に優れている訳ではないと思っていたが、少女に対する叱咤激励の言葉を聞きクロノの

冷都に対する疑い等は完全に無くなっていた。

 それ以外にも冷都と話していると、異様なまでに心が落ち着く事も起因しているだろう。

 

「僕の名前はクロノハラオウン、時空管理局執務官って言っても分からないか。

まあ少し偉い立場って事だよ」

「黒神冷都だ」

「よろしく冷都」

 

 クロノが手を出した、冷都もその手を握りお互い握手した。

 

「そうだ! 今日はもう遅い、家が近いんだ。

泊って行ってくれフェイトとアルフも一緒に居る」

「え、やだ」

「そう言わないでくれ、フェイトも君に対して恩返しがしたいと言ってたんだ。

ああ母さん、実は……」

 

 クロノは母親のリンディに連絡を入れると、笑顔で電話を切った。

 

「君が止まっても良いってさ、君の保護者へは母さんが言ってくれるよ」

「お前、少し強引な奴だな」

 

 クロノの案内で冷都はハラオウン家が住むマンションに来た、それを笑顔で出迎えるリンディに

連れられて、フェイトと数時間ぶりの再会を行い。

 どうして逃げたのと言われるが、適当に受け答えしていると何故か直ぐに謎の納得をしたフェイトに

困惑するという事がありながらも冷都はソファに座って落ち着く。

 

「はあ、疲れる」

「それでクロノ? 随分と遅かったようだけど、どうしたの?」

 

 リンディが首を傾げてクロノに問うが、クロノは冷都の方を向いて先程の出来事を話した。

 

「実は……」

 

 三十分ほどクロノが話をして、途中に冷都を美化するような話を入れられたが。

それ以外は全て事実を話した。

 それを驚いた顔で見るリンディ、フェイト、アルフ、エイミィ、プレシア。

リンディは自分の息子がこのような嘘を言わない事を知っているが、到底信じきれないような事だった。

妖怪、人に幸せな夢を見せる化け物。夢魔。

 クロノは五人を見て、自分もこの目で見なければ疑り深い自分も信じなかっただろうと思った。

 

「お前はどんな夢を?」

 

 冷都が好奇心を示してクロノに問うと、無表情だが何処か暗い顔で答えた。

 

「父さんが生きていた夢を……」

「クロノ……」

 

 暗い空気になりかけるがプレシアが手を叩いて、皆の視線を集める。

 

「そこまでにしなさい、失った人の事を思い出すのは。それよりも晩御飯にしましょう。

冷都君が来てくれたんだし」

「うん、そうだね」

 

 皆が顔を見合わせて笑うと、晩御飯の準備をしだした。

 

「そうだ冷都、全集中の呼吸についてなんだけど」

「ああ、使ったんだってな。見せてみろ」

 

 ここで初めて冷都はフェイトに対して関心を示した、光からそれを聞かされた時は驚き。

才能の開花を見てみたいと思った。

 しかしフェイトはバツが悪そうにしながら目を逸らす。

 

「じ、実はね」

「フェイトちゃん、その呼吸? を使うの禁止されてるの」

「はあ?」

 

 歯切れの悪いフェイトに代わりエイミィが言った。

 

「なんでも呼吸器官を損傷するような行為は魔導師としても問題だからって」

「全集中の呼吸は肉体の強化だけでなく新陳代謝の向上による治癒力の強化もできる、

使いこなせれば、眠っていても使用可能だ」

「すっごい疲れるんだよね……あれ」

「あー、フェイトに言われて私も試してみたけど、全然できないんだよねー」

 

 鍛えているとはいえ、まだ幼いフェイトには全集中の呼吸を使いには厳しく。

体を強化した状態での発動で、直ぐに回復魔法をかけられる状態を維持する事でようやく使用許可が貰え。

実質、模擬戦や訓練の時にしか使えない技になってしまったと言う。

 

「ああ、僕もフェイトと前に模擬戦をしたんだけど。いきなり動きが早くなったからびっくりしたよ」

「結局敗けちゃったけどね」

「それでも、聞いただけで一発で成功させるのは才能と言えるだろう。私が治してやるから

使って見せろ」

「わ、わかった。冷都が言うなら!」

「もうすぐ晩御飯だから駄目です!」

 

 冷都にお願いされ、やる気を見せるフェイトだったが。リンディの言葉にガッカリして

今度見せる事にした。

その後、今度冷都と同じ学校に通う事になったという話をして。

リビング(フェイトに部屋を使っていいと言われたが拒否して)で眠った。

 



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闇の書

「げえ!?」

「どうしたんヴィータ?」

「あ、あははは」

「……」

 

 闇の書の主と負の王《マイナス》が思わぬ会遇をした。

フェイトとすずかに甲斐甲斐しく世話を焼かれては鬱陶しいと感じる日々、

その彼が唯一心穏やかでいられる休み。天気も良く明るい空を眺めながら歩いていると、

車椅子の少女と守護騎士ヴィータとシャマルに再会した。

 ヴィータはギョッとした目をして、シャマルは苦笑いする。

それを見たはやては二人の知り合いかと首を傾げる、冷都はまた暇つぶしに戦おうかと思ったが。

はやてを見て言うのを止めた。

 

「えーっと、ヴィータとシャマルの知り合いですか?」

「ああ、殴り合いの喧嘩をして友情を深め合った仲だ」

(何処がだ! ほぼ一方的だったろうが!)

 

 ヴィータは冷都の言葉に内心で悪態を吐くがはやてはヴィータに友達ができた事を喜んだ。

その手前冷都に対し引き攣った笑顔で挨拶する。

 

「よ、よう冷都!」

「ああ、こんにちはヴィータ」

「こんにちは、私八神はやてって言います」

「あ」

「?」

 

 ヴィータとシャマルが冷や汗を出す、黒神冷都に八神はやての事がばれた。

その事実に不味いと思う二人だが。

 

「ああ知っている、四人の主なんだろ?」

「え! じゃあもしかして、魔導師さんなんですか?」

「そうだ、私は黒神冷都だ。よろしくはやて」

「こちらこそどうも」

 

 そう言って二人は握手する、シャマルは家にいるシャマルとザフィーラに念話を飛ばす。

 

(二人共大変! はやてちゃんの事があの黒い子にバレちゃった!)

(なんだと!?)

(落ち着けシャマル、あの男は敵対者にしか容赦がない。穏和な主はやてが殺される事は無いだろう)

 

 慌てるシャマルとシグナムにザフィーラが冷静に接する、彼らは闇の書の収集とは別に

四人が別々の日に冷都にベルカ式の魔法を教えていた事で、ある程度冷都の人格に触れる機会があったのか。

それもそうだと二人も納得する、しかし自分達を上回る強さを持ち、更には

主の事まで発覚した事はシャマルは口には出さないが不安ではあった。

 

「確か闇の書というデバイスを持っているのだったな」

「うん、これや!」

「ほう! 見せてくれないか?」

「いいよ! 冷都君の頼みやし」

「なあなあ冷都! のろいうさぎ、本当に貰っていいのか?」

「問題ない、クジ引きで手に入れたストラップだし、私はそういうのは付けない」

(なんだかいつの間にか凄く仲良くなってるわ!)

 

 シャマルが念話に集中していると、いつの間にか名前呼びするまでに仲良くなる二人に驚く。

ヴィータはその隣で何故か笑っている、シャマルは冷都のコミュニケーション能力の高さに戦慄した。

 

「ふむ? ふむふむ、中身は見ないのか?」

「見ても何も書いてないからなぁ」

「ああ、そうだな」

(幻惑魔法か、私には効かんが。はやての目を誤魔化せる程度には優秀だな)

 

 幻惑魔法をかけて闇の書が収集されていない状態に錯覚させているのだろう、本の中身は

何も書かれていないように見えるが、実際には数百ページ文字が埋まっている。

それに手で少し撫でると、はやてに返した。

 

「随分と強力な魔導書だ、お前を呪い殺しかける程」

「え」

「ちょっと!」

 

 はやては冷都の突然の言葉に驚く、それをシャマルが止めようとするが容赦なく冷都は続ける。

 

「お前の足の障害は生まれつきか」

「う、うん。そうやけど……」

「生まれつき原因不明の足の麻痺、突然現れた四人の騎士達に少しも疑問を抱かないのか?」

「……」

 

 はやては冷都の言葉に手を顎に当てて考える、ヴィータは突然の冷都のカミングアウトに驚き

睨みつけるが、はやては顔を上げて冷都を見る。

 

「此処じゃああれやし、家に来てくれへん?」

「……良いだろう」

 

 はやて達は冷都を連れて家に戻る、それを不安そうに見つめるヴィータとシャマル。

 

「はやてちゃん……」

「はやて……」

「二人共、知ってたんやな……足の原因。ほな、シグナム達も知ってるんかな」

「わ、私達……」

「いいよ、分かってる。皆私の為や思うてくれたんやろ?」

 

 ヴィータとシャマルはその帰り道、泣きながら歩きはやてはそれを慰め続けた。

家に着くと、シグナムが出て。

 はやて達の表情を見て、直ぐに状況を理解した。

 

「申し訳ございません、主」

「良いよ、気にせんとって。約束破られたんは悲しいけど、私の為にやってくれたんやろ?」

「ですが……」

 

 シグナム達は暗い顔をしてはやてを見ると、ヴィータがふと顔を上げる。

 

「そうだ、冷都! お前なら!」

「ん?」

 

 ヴィータが黒い液体を使ってはやてを治せないかと考えた。

 

「病気や怪我なら治してやれるが、お前みたいなのは初めてだからな。

どうなるかわからんぞ?」

「良いよ、お願い。どうせもう長くないと思うし」

「はやてちゃん……」

「なんとなく気づいてた、もうすぐ死んじゃうやなって。それ嫌やと思ってたけど、

どうあがいても無理やって諦めてた。でも目の前に治せる方法があるなら私は試したい!」

 

 

 藁にも縋る思いと言うのだろう、はやての目は活力に溢れ。

もっと生きたいという願いがあった、その言葉を聞いて冷都は最後にはやてに聞いた。

 

「家族は愛してるか?」

「大好きや!」

 

 そう言った瞬間、はやての体を黒い液体が包みしばらくすると。

 

「はやてちゃん……」

「……」

 

 守護騎士達がはやてが治る事を祈る、そして液体が消滅するとはやてが出てきた。

はやては体を見て、立ち上がろうとするが。

 

「駄目か……」

「っ」

 

 はやてが立ち上がれないのを見た守護騎士達が悔しそうに顔を歪める。

 

「麻痺が取れただけだ、しばらくすれば歩けるようになる」

「本当か!」

 

 守護騎士達とはやてが笑い手をつないで笑う。

 

「しかしその本事態の異常は取り除けはしない、ただの先延ばし。時間稼ぎ程度だ

歩けるようになる頃には、また麻痺が始まるだろう」

「そんな……」

 

 はやてが冷都の言葉に顔を下にして落ち込む。

 

「問題ない、主はやてが本当の力を。

闇の書の真の主になればきっと、大丈夫です。あと少し、あと数ページ集めれば」

「そうだ、闇の書は完成させる」

 

 八神はやては突如現れた男に捕まり、結界を発動した冷都と同時に。

八神家を吹き飛ばした。

 



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雲の騎士

守護騎士達視点


 

 今までどれ程の時を戦いに費やしただろうか、100年以上の時が経った。

主の敵を打ち倒し、その望みを叶える事を繰り返してからあの時ほど命の危機を感じたことは無い。

黒神冷都、あの男だ。あの子供の剣技は私の人生の全てをひっくり返した。

守護騎士全員が相手をしても焦り一つ見せないその戦闘力、久方振りに感じた高揚感。

我々で無理ならば、あれならばどうだろうか。奴ならば可能性はあるだろう。

 

「ないものねだりか」

 

 廃墟の中でベルカ式の魔法を扱う黒神を見て思わず口に出してしまう。

 

「なにがだ」

 

 背を向けて魔法の練習をする黒神が聞いてくる、私の声が聞こえたのだろう。

 

「お前に対抗できるかもしれん者の事を考えていた」

 

 黒神は手を下ろして魔法陣を三つ展開した、私の教えたベルカ式魔法をもう自分のもの

にし始めた。剣技だけでなく魔法の才まで授かっているこの少年は美しいその容姿を私に

見せた。

 

「シグナム、私を倒したいならお前がやれ。何時でも相手をしてやる」

「ああ、いずれリベンジさせてもらう」

 

 そう黒神に誓うと再び背を向け、次の魔法を発動する。

 

「シグナム、次はどうするんだ?」

 

 

 

――――――

 

 

 

 初対面の印象はまさに優男って感じだった。

だけどとんでもない化け物だった、シグナムが苦戦するから強敵だろうと

思ってたけど、予想以上の怪物だった。ベルカの騎士は一対一で負けない。

そんな自信を完璧にぶっ壊され、あたしは腕を斬られて敗けた。

 

「ヴィータ、それはデバイスか」

「おう、アームドデバイスだ」

「普通のデバイスとなにが違う」

「これはな……」

 

 無表情であたしのアイゼンを観察する姿に敵意を欠片も感じれない。

あたしは腕を斬られて殺されそうになったってのに怒りが湧いてこない。

妙な感覚だった、それだけに困惑もしたけど。悪い気分じゃなかった。

 

「お前は何のために戦うんだ?」

 

 あたしは戦いが好きじゃねぇ、でもこいつが戦う理由はちょっと気になった。

 

「決まっている、守る為だ」

 

 

――――――

 

 

 

 冷都君は私達の魔法にとても関心を示した、ミッドチルダ式とベルカ式の魔法を組み合わせた

オリジナル魔法を考えていると言って、少し私に見せてくれた。

彼の才能ははっきり言って以上だったわ、一目見た魔法は全て再現して更に昇華した

魔法を発動する、私が教えた回復魔法は直ぐに覚えてもっと効率的な魔法に変える。

レアスキル並みの才能と暴力的なまでの魔力量、彼を収集すれば全てにページが埋まるのかも

と思うほどに。そんな事をすれば今度は確実に首を斬られるでしょうけど。

 

「貴方は何がしたいの?」

「お前は何がしたい?」

 

 彼は私の目を見て、問い返した。

 

「……主の為に闇の書を」

「お前の事を聞いたのだ」

 

 私は何も返せなかった、はやてちゃんの為に皆が頑張ってる。

私もその一人、でも私個人が何がしたいのか分からなかった。

 

「分からないわ」

 

 正直にそう答えた、何も見つからなかったから。

でも冷都君は無表情だけど、何処か嬉しそうな声でこう言った。

 

「夢が見つかるといいな」

 

 結局何がしたいかは聞けなかった。

 

 

 

――――――

 

 

 

 襲い来る剣戟を籠手で防ぎ、胴体に蹴りを放つが片手で足を掴まれ投げ飛ばされる。

空中で回転して着地した時、既に背後に居た冷都に首筋に刃を突きつけられる。

 

「俺の敗けだ、降参する」

「これで25回目、今度は良く持った方だ」

 

 剣を下ろして離れていく後ろ姿を見ながら、顔の汗を拭う。

今回も見えなかった、構え動作気配の全てを知覚できなかった。

まるで植物を相手にするような感覚、自然と一体化したような男。

剣を受けられたのはただの直感だ、反応できたわけではない。

音速で動く物体でも目の端で捉える事はできる。

この男は異質だった、常識の埒外の権化。最強。

今まで見てきた者達の中でも戦士としてずば抜けた男だ。

 

「ザフィーラ、疲れたか」

 

 あの男は呼吸を乱さず、汗もなく俺を見下ろした。

 

「いや。まだだ、次も頼む」

 

 冷都は剣を構えた。

 

 



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闇の書の意思

 結界を展開して、現実での被害を防いだ冷都は八神はやてを連れ去った男を飛行して追う。

守護騎士達の事も気になるが、八神はやての闇の書の真の力を解き放たれるとどうなるかは分からないが

嫌な予感だけはするので冷都は逃げる男の後姿を追い続ける。

 冷都は守護騎士達からはやての情報は聞き出さなかったが、闇の書の能力や歴史だけは聞いている。

 

(あの男が八神はやてを連れ去って何をするのか、何故闇の書を完成させるのか? 

そんな事はどうでもいい。あの男は転生者だ、間違いない。あの男は八神家を吹き飛ばす直前私を見た)

 

 赤目の男が言っていた御主人様なのだろうと直感で理解した。

 

(しかし何処へ逃げるのだ? 結界の中に入れたと言う事は魔法を使えるのだろうが。

飛行しないのは何故だ?)

 

 冷都は魔法の使い方を知らないからだと仮定したが、厳密には違う。

誰もが冷都の様に才能があるわけではない、はやてを連れ去った男には魔法の才能が無いのだと。

そんな発想する事も無かった。

 

「!」

 

 ――影の呼吸 拾ノ型 月影

 

 冷都はビルの屋上に着地し地面を蹴って男との距離を詰める。

その勢いを利用して男の背中、心臓に向けて掌底を撃つ。

 

「ぐあ!?」

 

 冷都は男からはやてを取り返し、男に手を向け魔法を放つ。

 

「バインド」

 

 男は冷都から逃れようとするが、魔法を同時使用しバインドで拘束する。

冷都の手から桃色の光が収束していく様に集まる。それは高町なのはが必殺技として使う魔法とよく似ていた。

 

「それはまさか……」

 

 男が驚愕の顔で冷都を見る。

 

「堕ちろ、虫の様に」

 

 ――テラブレイカー

 

 男の体を桃色の光が呑み込んだ。光が収まると巨大なクレーターが出来上がり、その中心に

さっきの男が気絶して倒れていた。

 

「う、ううん」

 

 はやてを地面に下ろして闇の書を取り返そうと地上に降りるが、闇の書を仮面の男が奪い取った。

仮面の男がはやての前に立つと、仮面の男とそっくりの姿をしたもう一人の仲間がバインドで

守護騎士達を縛っていた。

 

「シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ!」

「闇の書、収集」

「止めて! 止めて―!」

 

 地上から上を眺めていた冷都は急いではやてのもとに向かうが、その場にはやては居らず。

銀髪と黒い羽根を生やした女が居た、冷都が辺りを見回しはやてを探すが何処にも見当たらない。

 

「お前は、八神はやてを何処へやった?」

「優しい、夢の世界に」

 

 そう言った銀髪の女を鼻で笑うと、銀髪の女。闇の書の意思が冷都の目を見た。

 

「お前も、眠れ」

「私は眠らなくていい、夢に興味は無い」

 

 そう言うと闇の書の意思は冷都に指を指し砲撃魔法を発動する。

冷都は黒い盾を球体上にして全身を包んで防御した。

 

「全てが夢であればいい、貴方の願いを叶えましょう」

「つまらない……」

 

 冷都は黒い剣作り出して構えようとするが、広域魔法を発動して冷都に攻撃した。

そこから次々と魔法を冷都に放っていく、冷都は黒い球体の中に入ったまま飛行して闇の書の意思に突撃する。

 

「盾」

 

 防御魔法で球体を防ぎ、球体から出た冷都が頭上に移動して首を斬り落とそうと剣を振る。

斬撃を仰け反って回避し地面に斬撃がぶつかり、闇の書の意思ごとビルを破壊して落下する。

 

「……」

「刃以て、血に染めよ。穿て、ブラッディダガー」

 

 ――影の呼吸 肆ノ型 火ノ神

 

 着地したと同時にお互い技を放つ、闇の書の意思攻撃を全て弾き。懐に入り込み。

顎に向け、爪先を黒い刃で纏い蹴りを放つが後退して回避される、刃を足元から飛び出させ闇の書の意思に

向かうが、飛び上がって逃走する。

 それを追いながら黒い刀剣を何本も作り出して射出する。

 

「……」

(全て見切っている、素晴らしい動体視力と回避能力。動きにもキレがある。

相当に研鑽と鍛錬を積まねばあの動きはできんな)

 

 闇の書の意思の戦闘を行い冷都は喜びを露にする、戦闘力の高い者達を見て気分の高揚を抑えられないのか。

弧を描く唇を剣を持っていない片手で塞ぐ、闇の書の意思が魔法弾を放つがそれを剣を持った片手で切り裂く。

 

「さて次は何を見せてくれる?」

「……」

 

 闇の書の意思が冷都とは対照的に無表情になって棒立ちになる、首を傾げるが剣を構えて技を放とうとする。

 

 ――影の呼吸

 

「兄貴―!」

 

 闇の書の意思を無視して背後を見ると冷都の弟、光となのは達魔導師等の管理局員が集まってきた。

異能課の面々は居ないものの浩二が地上から車で走るのが見えた。

 

「闇の書の意思がにたった一人で戦うとは、無茶をする……」

 

 クロノが冷都の前に出て闇の書の意思と対面する、その他の面々も同じように

彼女を包囲する。空を飛ぶ管理局員が冷都の傍に来る。

 

「おい、そいつの首は私が斬る。邪魔をするな」

「違うんだよ兄貴、はやては助けられる!」

 

 何故かはやての名前を知っている光に内心驚き、どういう事かと困惑する。

 

「後は私達に任せて、冷都は休んでて」

「ふざけるな、それに何故はやての名前を」

 

 冷都は強大な魔力を感じて、その方向を見ると高町なのはが魔法を放とうとしてる所を見た。

見てしまった。

 

「なのは! 今だよ!」

「エクセリオンバスター、フォースバースト!」

 

 それを見た冷都は殺意と嫉妬に塗りつぶされた。

 



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闇の書の闇

「なんだあれは?」

「自動防衛プログラム。・闇の書の闇」

「は?」

 

 高町なのはが闇の書の闇を撃ち落とした直後、謎の巨大なドーム状の何かが出現した。

そこから八神はやてと守護騎士達が復活し、クロノに説明を求めるも、

意味の分からない言葉にか帰って来なかった為もっと困惑した。

見かねた人型ユーノが冷都に補足説明する。

 

「つまり、全ての元凶です!」

「わかりやすい説明だ、所でお前は誰だ? 何処かで聞いた声だ」

「あ、あははは……」

「兄貴、その話はあとにしてくれ。今は彼奴を如何にかする方が先だ」

 

 ユーノは以前黒神家に協力を頼んだフェレットなのだが、動物状態しか見ていない冷都は

彼の事が分からず首を傾げた。

 

「兄貴、こうなった以上。疲れてるだろうけど少し手伝ってくれ」

「疲れてない、折角楽しんでいたのに」

「じゃあ大丈夫だな、よし皆作戦会議だ!」

 

 そう光が手を叩いて、皆を集める。何故か冷都の周りを少し開けて。

その理由は彼が先程まで闇の書の意思と互角以上に戦っていたという事、到着するまでの間。

映像やサーチャーという遠隔探知魔法で見ていた彼らは冷都の戦闘力に戦慄していたから。

しかし冷都はそんな事に興味はなく、早く進めろと言いたげな視線で光を見る。

 

「よし、じゃああとクロノ頼む」

「結局僕任せか、時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。時間がないので簡潔に説明する。

あそこの黒い淀み、闇の書の防衛プログラムが後数分で暴走を開始する。

僕らはそれを何らかの方法で止めないといけない。停止のプランは二つある」

 

 クロノが全員に向かって話をすると、カード型のデバイスを取り出す。

 

「一つ、極めて強力な氷結魔法で停止させる、二つ、軌道上に待機している艦船アースラの魔導砲。

アルカンシェルで消滅させる。これ以外に他に良い手は無いか? 闇の書の主とその守護騎士の皆に聞きたい」

 

 クロノがその場の全員、主に八神陣営にもっと安全で確実な方法を聞くが、シャマルが不安そうな顔で手を挙げる。

 

「えーっと、最初のは多分難しいと思います、主の無い防衛プログラムは魔力の塊みたいな物ですから」

「凍結させても、コアがある限り再生機能は止まらん」

「アルカンシェルも絶対ダメ! こんな所でアルカンシェル撃ったらはやての家までぶっ飛んじゃうじゃんか!」

 

 ヴィータが手をバツにして駄目だと意思表示する、それに対して他の面々も難色を示す。

地球出身者達は特にである。

 

「どの程度の威力かわからんが、民間人の避難もできていない状況でその魔導砲とやらを撃っても良いのか?」

「当然駄目だ、もっといい方法を探すぞ」

 

 光もアルカンシェルの地上への攻撃を拒絶する、彼らの家もここから遠くは無い、冷都は兎も角。

地球出身者達には家族や友人も住んでいる町だ。

 

「僕も艦長も使いたくないよ、でもあれの暴走が本格的に始まったら被害はそれより遥かに大きくなる」

 

 クロノが苦い顔をして苦悩する、なのは達はどうしようかと悩む。

エイミィの声が聞こえ、暴走まであと少しで始まると言われる。

守護騎士達も役立てずに謝罪する、彼等も暴走に立ち会った経験は殆どないのだと言う。

 

「クロノ、一つ聞きたい」

「なんだ冷都、何か良い方が?」

 

 冷都が言葉を発すると期待した目で皆が見る。

 

(冷都ならもしかすると)

「その魔導砲アルカンシェルと言ったか、それはあれを一撃で消し飛ばす威力はあるのか?」

「可能だ、だが此処では……」

 

 冷都がフェイトの方向を見る、それを見て他の面々もフェイトに視線を送る。

 

「え? 私?」

「フェイト、確か転移魔法と言うのが使えたな」

「あ、そうか!」

 

 なのはが何かに気づいたようにひらめき、はやてやフェイトもそれを理解する。

他の者たちは何が何だか分からないっと言った顔で首を傾げる、光だけは首を小さく縦に振った。

 

「クロノ君! アルカンシェルって何処でも撃てるの?」

「何処でもって、例えば?」

 

 クロノの返しにフェイトが補足する。

 

「今、アースラの居る場所」

「軌道上、宇宙空間で!」

 

 はやてが上を向いてアースラの居る空に視線を送る。

 

「管理局のテクノロジー、舐めてもらっちゃ困りますなぁ。撃てますよ! 宇宙だろうが何処だろうが!」

「おい!? ちょっと待て君ら、ま、まさか!」

 

 クロノの驚きに、三人は頷いて返答した。

 

「クロノ君! こっちの準備はOK! 暴走臨界点まであと10分!」

「実に個人の能力だよりで、ギャンブル性の高いプランだが、まあやってみる価値はある」

「防衛プログラムのバリアは魔力と物理の複合四層式、まずはそれを破る」

「バリアを抜いたら本体に向けて私達の一斉砲撃でコアを露出」

「そしたらユーノ君達の強制転移魔法でアースラの前に転送!」

「……ユーノだと?」

 

 冷都がユーノを見て辺りを見回す、それを苦笑いで見つめるなのは。

各々が周りに散らばり、作戦の準備を進めているとはやてが冷都を見る。

 

「冷都君、シャマル!」

「ん?」

「はい、冷都君の治療ですね」

 

 シャマルが指輪型のデバイス、クラールヴィントを起動して冷都に回復魔法をかけた。

 

「湖の騎士シャマルと風のリングクラールヴィント、癒しと補助が本領です」

「私は最初から無傷だが、魔力は回復した」

「相変わらず兄貴は可笑しい、なんであんな戦闘して無傷なの?」

 

 守護騎士達が冷都の実力を知っている為に苦笑いして、内心でそれに渡り合った闇の書の意思、

改めてリインフォースに流石だと思った。

 

「そうだ、あの女! 何処に消えた?」

「私の事か、負の王よ」

 

 はやての肩にリインフォースが半透明で小さくなっていた。

 

「ごめんな冷都君、リインフォースの話は後でしよか」

「それが名前か、良いだろう。後で服の請求書を送ってやる」

「手厳しいなぁ」

 

 割と本気で請求するつもりの冷都にはやては軽口だと思って返す。

冷都は光に触れると宙に浮かせる。

 

「お前も飛行しろ、私と来い」

 

 それと同時に闇の書の闇が出現、魔導師たちが次々と魔法を放っていく。

 

「チェーンバインド!」

「ストラグルバインド!」

「縛れ、鋼の軛!」

 

 冷都は光に視線を送り、とある質問をした。

 

「光、お前は転生者か」

 

 光の目が見開かれる、冷都は無表情でそんな彼を見た。



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奇跡を叶える者

 

「な、んで? 兄貴は……それを?」

 

 動揺に目を揺らして冷都を見る、冷都は魔導師達の攻撃や闇の書の闇の状態から

まだ出番は後になると思い、意を決して光と二人きりになれる状況を作った。

 

「あの日、声が聞こえた。夢であの男は何処かで見た事がある。

その次の日は声が聞こえた。思えばあの夜にあの女は魔法使いになったのだろう」

 

 高町なのはの事だ、光は冷都の言いたいことが分からないのか困惑して冷都を見る。

 

「同じ日の夜、私はフェイトに出会った。魔力があれば入れる結界の中に、同じく魔力の

あるお前が居ないのは何故だったんだ?」

 

 フェイトと初めて会った際、激しい戦闘音に導かれて冷都は白髪の少年と戦闘を行った。

にも関わらず光はその騒音の原因にやって来なかった、そしてさっきの頷き。

なのは達が防衛プログラムに対する対策を思いついた時、何故か光は驚くでもひらめくでもなく。

そうだと答えを言うように頷いた事、そこで冷都は確信した。

 

「お前は転生者なのだろう、お前はあの日。高町なのはがユーノスクライアに出会う事を知っていた」

「……なんで転生の事知ってんのか色々気になるけど、そうだな俺は転生者だよ」

 

 光は肯定して頷いた、冷都は防衛プログラムに視線を送ると黒い触手を展開する。

 

「光、一つだけ答えろ」

「なんだよ?」

 

 光は冷都を見て、目を見開く。冷都が微笑んでいたのだ。

 

「お前は今でも私の弟か?」

「……ふ」

 

 間を置いて、光も弓を出して答えた。

 

「当たり前だろうが!」

 

 ――カラドボルグ

 

 光の矢が音速を超えて防衛プログラムのシールドを破る。

 

「全力全開! スターライトー」

「雷光一閃! プラズマザンバー」

「ごめんな、おやすみな。響け終焉の笛、ラグナロク!」

 

 なのは、フェイト、はやてが砲撃魔法を放つためのチャージを行う。

強大なエネルギーが彼女達の杖に収束され防衛プログラムに放った。

 

「「「ブレイカーーー!」」」

 

 その放った砲撃、トリプルブレイカーは再生機能を発動させないほどの威力を出し、

その装甲を破壊してコアを露出させた。

 

「長距離転送!」

「目標軌道上!」

 

 ユーノ、アルフ、シャマルが転送魔法を発動し、防衛プログラムを軌道上に転送した。

それでも転送されながら再生していく、防衛プログラムに向かって冷都が異能を発動。

 

「マイナス」

 

 その一言と共に防衛プログラムの再生機能が遅れる。

 

「余り長くは持たない、はやく撃て」

 

 しばらく、皆が空を祈るように眺めていると。

大きな光と共に、花火の様な閃光を放って防衛プログラムは完全消滅した。

それからエイミィの声が聞こえ戦闘が終わった事を皆に知らせる。喜ぶ者

一息つく者、まだ警戒する者に分かれ。冷都達はアースラに戻って一休みするように言われた。

戦いは終わったのだ、だが。

 

「はやて!」

 

 問題はまだ残っていた。

 

 

 艦船アースラ内部、冷都は此処に来たのが初めてだった為に珍しそうに艦内を見る。

なのは達は椅子に座って深刻な表情をして話をしていた。光は冷都を見て質問した。

 

「兄貴、リインフォースを助けられないか?」

「何の話だ」

 

 話を聞いていなかった冷都は光の言葉に首を傾げ、クロノが簡潔に説明をする。

 

「闇の書と否、夜天の書とリインフォースを破壊しなければ、またはやてが危険に晒される」

「夜天の書と彼女を切り離す事は出来るか?」

「無理だな」

 

 浩二が夜天の書だけを破壊できないかと聞くが、冷都は即答で返す。

それにプレシアとフェイトが反応する。

 

「私の病気は治せたわよね、彼女は無理なのかしら」

「生き物なら100万だろうが200万だろうが一瞬で治して見せる。だがあれはプログラム、

つまりは機械、私の門外漢だ」

「……くそ」

 

 光が悔しそうに顔を歪め、拳を握る手に血が流れる。

しかし冷都は彼らの前でポケットから宝石を取り出して言った。

 

「だが、可能性が一つだけあるとしたら、どうする?」

 

 冷都は空のデバイスを取り出して、無表情で彼らを見た。

 

 

 30分程の時間が経ち、守護騎士達が訓練施設の中に入って来る。

 

「リインフォースが助かるって本当か!?」

 

 ヴィータがなのは達に叫んだ、それを不安そうな目をして冷都に視線を送るとヴィータも

冷都を見た。冷都が魔法陣を展開してリインフォースを中心に来るように言う。

 

「なのはと同じ魔力光……」

「本当にやる気か、負の王よ」

「無理でもお前が死ぬ、成功すれば生き残れる。どっちも変わらんだろう」

 

 その場の全員が冷都を見て祈る、どうか彼女を助けて欲しいと。

 

「可哀想に、私が救ってあげよう」

 

 魔法陣の光がリインフォースを包み込むと、巨大な黒い何かがデバイスとリインフォースを繋いだ。

冷都の狙いは単純、リインフォースのプログラムを別のデバイスに移し、新しい体を与える事だった。

データも記憶もそのまま別の機械に移し替える事ができるその方法を彼女は難色を示したが。

 

「リインフォースという名前の意味は強化するだ、お前にピッタリだな」

 

 と冷都が何気なく言った言葉にリインフォースの覚悟が決まり、その方法を

守護騎士達もクロノから聞き。黙ってその成り行きを見守っていた。

そして、5分が経った頃。光が消えると、夜天の書は消滅し。

リインフォースは生き残った。

 



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今後の話

 それからの事、冷都は時空管理局から賞状を渡すと言われても拒否し。

八神家やハラオウン家からのお礼も拒否して、家に帰った。それを見ていた者達は名誉も欲望の無い聖人

の様に見えただろう。

 

 アースラから転移魔法で地球に戻ると、雪が降っていた。

暗い空を眺めて、吐き出した白い吐息を見てクリスマスだと思い出した。

 

「……木葉にプレゼントでも買っていくか」

 

 冷都は適当な玩具屋を探した、ケーキとプレゼントを買った冷都は家に帰っていった。

それから数日後、八神家、ハラオウン家、テスタロッサ家、高町家の面々が黒神邸の屋敷に集まっていた。

朝からそれを見た冷都は、絶句した。

 

「え、なにこれ」

「珍しい、兄貴が驚いてる」

「あははー! ほんとだー!」

 

 光と木葉が珍しそうに冷都の驚く顔を見ている、それを扉を閉めて見なかった事に

しようとする。それを皆に止められ渋々席に座る、まだ日が明けてから時間が経っていない。

早朝の時間帯に何故集まっているのか疑問を抱く冷都。

 

「何の用かって顔だな?」

 

 浩二が珍しく冷都の心の内を見抜き、それを肯定するように浩二に視線を送ると。

リンディハラオウンが立ち上がって、冷都に頭を下げた。

 

「冷都君、私達は貴方に礼の一つも送ってないわ、義理も感謝もある。どうか感謝だけでも

言わせてほしいの」

「…………何を言っている?」

 

 ハラオウン家だけでなく、冷都以外の全ての人間がありがとうと言い。

それを意味不明な顔で見る。

 

「お前達に何かした覚えなどない、私は私のやりたい事をやっただけ」

「だがお前は私を救ってくれただろう」

 

 はやての隣に立つリインフォースが笑う、冷都の顔は無表情を通り越して虚無になる。

彼女を別のデバイスに移す際に言った言葉だ、実際に本当に可哀想だと思ったわけではない。

ただ彼女の消える姿がとある人物に似ていたから、つい口走っただけだ。

 

「……本心じゃない」

「そうか」

 

 そう言われても表情を変えずに笑うリインフォースに複雑な気持ちになる、木葉はその空気が耐えられなかったのか

それともむず痒くなったのか冷都に言った。

 

「兄さん! パーティの準備があるんだよ、お話はちゃんと聞いて早く準備しようね!」

「クリスマスなら昨日で終わった」

「兄さんと二人きりでね、お父さんもお兄ちゃんも

結局管理局との事後処理で帰ってこなかったんだから」

 

 バツの悪そうな顔をする二人、それを苦笑いで見つめるリンディ達を気にして

木葉はこの会話を止めた。

 

「それに皆さんが、連日忙しくてバタバタしてたから。祝い事も出来てないからって」

 

 そう言って木葉はリビングを出ていった、それから冷都達は色々な事を話した。

魔法の事、異能の事。今後のはやて達の事。此処には居ないがいずれはアリサやすずかにも話そうと思っていると

なのはは言った。

 

「私達も保護観察として時空管理局に所属する事になったんや。色々迷惑かけてもうたし」

「何故だ」

 

 冷都ははやての言葉に疑問を漏らし、首を傾げる。

 

「お前は今回の事件で何をしたのだ?」

「え、いや私。皆の主やし」

「それはお前の騎士達の所為であってお前の責任ではない、守護騎士達が悪いのだ。

お前が具体的に悪事に手を染めた事実はない」

 

 はやてはそう言われると涙を流した、冷都は意味が分からず内心混乱する。

それを周りの者達に慰められ、はやては冷都にありがとうと言った。

 

(事実を言っただけなのに、礼を言われた。何故?)

 

 事実をそのまま言ったはずにも拘わらず泣いて礼を言われる事に困惑と気味の悪さを感じて、

冷都も木葉の手伝いに行き、パーティの手伝いをした。

それを謙虚や照れ隠しと取った彼女たちもパーティの手伝いをした、それから1時間程

経つとなのはがアリサ達も夕方に手伝いに来ると言われ席や食器が足らなくなる可能性を

考慮して、冷都と高町家、リインフォースと一緒に買い物に出かけた。

 

「いやお前が何故来る」

「主はやてに手伝いにと言われてな、それに個人的に聞きたいこともある」

 

 車の中でリインフォースは冷都に聞いた、それを面倒くさいと思いながらも

結構面倒見の良い性格な為、話してみろと言った。

 

「あのデバイスはどうやって作った」

「……」

 

 冷都がリインフォースを助けるために使った、宝石型のデバイスの事を言っているのだろう。

あのデバイスは今はやてが所持しており、一応管理局の検査を通り所持を認められている。

 

「局員達が言っていた、オーバーテクノロジーだと。アームドデバイスとストレージデバイス

を融合させたような、なのは達の使うデバイスによく似ていた。中身は別物だったが……」

「そうか、それでどう思った」

 

 リインフォースは何もと言って首を横に振った。

 

「だが、つい最近まで魔法を知らなかった人間が。専門家に理解できない物を創り出した事を

異常だと思うプログラム、……感性は持っているつもりだ。答えたくないなら答えなくていい」

 

 喜劇も悲劇も引き起こした彼女に淡々とした感情しか抱けない冷都は、彼女に

何も言うことは無かった、リインフォースも追及する気はなく目を瞑って口を閉じた。

 

(空気が重い……)

 

 美由紀が胃を抑えながら、重くなった空気に苦しそうな顔をする。

別に険悪な空気になった訳でもなく、さりとて楽しい空気になった訳でもない。

よくわからない静けさに苦しみだしただけだ、彼女は静かなのは嫌いなわけではないが。

こんな状況で楽しく買い物できるはずもなかった、勇気を振り絞って何か話題を変えようとした

その直後。

 

「お前私の服を弁償しろ」

「……あ!」

 

 冷都が突然リインフォースに言った言葉に彼女は思い出したように驚く。

 

「……本当に請求するつもりだったのか」

「当たり前だ」

「いくらだ」

「10万3000円だ」

「高!?」

 

 美由希が後ろの席にいる冷都に振り向いて驚く、予想以上の価格にリインフォースも

冷や汗をかく、彼女も闇の書の中で多少地球の常識、通貨の類も知っているので。

内心焦り倒していた。

 

「し、しばらく待っていてくれ。主はやてに相談する」

「具体的にどの程度の猶予を? お前はどのような役に立てる?」

 

 冷都の目が見開いてリインフォースの瞳を見つめる、その威圧感に戦闘時の事を

思い起こすほどの覇気を感じて目をそらす。

 

 さっきの重い空気は変わった、その代わり八神家の財布がダメージを受けた。



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空白期:空洞と嫉妬
傲慢と偏見


そろそろタグを追加した方が良いよねと思い
鬼滅タグを追加しました。


 夜、黒神邸。

 

「それじゃあ皆、かんぱーい!」

『乾杯!』

 

 木葉の乾杯の言葉と共に、皆がコップを持って返しパーティが始まった。

その姿をつまらなそうに冷都は見つめていた。

 

(早く終わってほしい)

 

 家で祝勝会を始めると言ったのは家族の内の誰かなのだろう、光か浩二か。

はたまた事情を教えられたのだろう木葉が言ったのかもしれない。

それほど興味のある事ではない、言うなれば柄じゃないのだ。

彼は性格上群れるタイプの人間ではない、しかし勘違いに次ぐ勘違いにより

友好関係が広がり続け誕生日や祝い事によく呼ばれるようになり、

最終的に前準備、後始末のやり方、二次会の予約等、大人がやるような

事を早い内に天然で覚えるというような経験を得る、その結果。

 

「こらアルフ、肉だけを食べるな。フェイトお前はもっと食え、肉を付けろ痩せすぎだ。

恭也、光、勝手に道場へ向かうな。パーティをして会話しろ、

はやてお前は木葉の胸から手を放せ」

 

 パーティのリーダーを自然にこなしてしまう事となってしまった。

興味がないなら参加するなよと言いたいが、本人の面倒見の良さが成した結果だった。

彼が人気者になるのも頷けると後日すずかは用事で此処に居ない友人の青葉に話した。

 

「兄貴は長男だから面倒見が良いのは仕方ねぇよ。俺と木葉がどんなけ兄貴に

甘えてるかわかるか? 自分でも如何にかしようって思ってるけど、最終的に全部

兄貴が如何にかしちまって俺等の出番がねぇんだよ」

「兄さんマジ天使」

「木葉を見ろ、この有様だ」

「いや、ちょっとは頑張った方が良いと思うの」

 

 皆に世話を焼く冷都の姿を見ながら説明する光になのはは真顔で返した。

なのはも冷都を手伝いに行こうと、料理を運ぶのを変わろうとする。

流石に一人で働かせるのは彼女も心が痛んだのだろう、それに彼は今日の主役のようなものだ。

 

「冷都君、手伝うよ」

「……」

 

 それを目を細めて見る冷都になのははたじたじになる。

深い谷底のような真っ暗な目、激情を必死で耐えるような顔をしてなのはを見る。

最初に出会った頃のフェイトの悲しい目でも、ヴィータの焦ったような態度でもない。

およそ彼女が向けられる視線としては似つかわしくない感情、憎悪と嫌悪の視線。

冷都はなのはに話しかける事無く、通り過ぎてテーブルに料理を置いた。

 

(今の……、見間違い。じゃないよね)

 

 冷都の後姿を見て話をしようかと思ったが、皆の楽しい時間を壊してしまう予感が

した為に、此処で聞くのは止めることにした。

 

(でも、私、冷都君に何をしたのかな?)

 

 その視線の意味が理解できずに、彼女は困惑して悩むが。

最期まで答えがる出る事はなかった。それがどういう感情の目なのか分かることは無かった。

しかし一つだけ理解できた。

 

(私の事、嫌そうな目で見てた)

 

 

 士郎が酔い覚ましに窓の外を眺めていると庭で立っている冷都を見た。

その姿は月明かりに照らされ、容姿の美しさをより一層引き立てた。

それに男ながら見惚れていると、冷都が士郎を見た、正確には士郎の傷ついた体を。

 

「治してやろうか?」

 

 そう言う冷都に士郎は暫くの間考えた、この怪我を負った時。

二度と剣を握れないと絶望した、治せるものなら治したいと思っていた。

 

「お前ほどの男がその才能と強さを捨てたまま死んでいくのは、余りに惜しい」

 

 研鑽の日々、更なる高みへの道も閉ざされた。

御神最強と呼ばれた自分は死んだのだと、そう思った。だが手を伸ばせばまた戻れる。

そう思って冷都に返答しようとした直後。

 

「父さん、此処で何してるんだ?」

「……いや、なんでもない」

 

 士郎は恭也を見て、今度こそ本当に御神を諦めた。もう自分は要らない。

御神流は変わる、黒神冷都のおかげで恭也も強くなった。

過去の自分等直ぐに超えていくだろう。

冷都に視線を送ると、背中を向けて月を見上げていた。断られる事を予想していたのだろう。

しかし士郎は遠くにいる冷都に聞こえる様に大きい声で。

 

「ありがとう!」

 

 と言った。

恭也が首を傾げて困惑するが、特に何も言わずに士郎と中に戻っていった。

 だが冷都は。

 

(やかましい、私の治療を拒否して最後に礼を言うなど。ふざけているのか?)

 

 士郎の気持ちを欠片も感じなかった冷都は不快感で苛立っていた。

嫌悪感と気分の悪さで外に出ていた時、士郎の体を治してやろうと言ったが

拒絶して挙句の果てに愚弄までしたとしか認識せず、それ以上に極限にまで極められた

肉体と技術の保存をせず、高みへの道を放棄する。

 

「軟弱千万」

 

 余りにも傲慢で自分勝手な思想と言い分、子供の癇癪の様に冷都は

周囲を剣で薙ぎ払った、その斬撃が空気を裂き。衝撃で土煙が舞い上がる。

 

(愚かな、期待外れの剣士だ。気にする必要はない、目をかけてやったというのに。

その程度のプライドだっただけの事だ、私の様に完璧な人間ではないから諦めたのだ。

それもまた良し、限界がそれだっただけの事)

 

 他者を見下し己こそが至上の者だと納得して、自己完結する。

そして冷静になったところで屋敷に戻ろうとすると携帯の着信音が鳴る。

緑からのメールだ、内容を見ると転生者の事でわかった事があるという内容だった。

 

『貴方様を、若しくは貴方様の敵になる転生者の居場所を発見。

顔写真と能力を載せておきます』

 

 数日前の転生者のボス的存在を捕らえ、緑に尋問させていた冷都。

メールを見ても無表情ではあるが、何処かやっとかと言う安堵の気持ちになる。

この数日間、どこか気を張り詰めていたような気がすると内心で悪態をつく。

 

(なぜ私がこんな気分を、腹立たしい)

「だがそれも今日で終わる、転生者は今夜潰す。私がこれから皆殺しにする」

 

 そう告げる化け物の周りには誰もいなかった、誰も。



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幽霊の友達

やっと出せました。


 私は物心ついた頃から一人だった、友人も家族もいない。

仲良くなった人たちはもう私の事を忘れていると思う。

生きている頃に楽しかった思い出は少ない、知識を深める事は好きだったけど。

将来の夢にするほど考えたことは無かった、夢の無い私は夢のある幼児にも劣る人間だった。

 

「……」

 

 もう十年になるだろう、地縛霊になって十年以上の時をたった一人で過ごすこの時間は

悪夢よりも酷い拷問だった、最初の頃は此処から出てやろうと頑張ったけど。

2年になる頃には諦めた。それから私は何故自分がこんな所で幽霊になっているのか。

心残りがあって現世にしがみつく幽霊を地縛霊と聞いた事がある。

私は過去の事を、名前以外の全てを忘れていた私になんの後悔と悔恨があるのか分からなかった。

そして5年以上の年月が経った頃、私は久しぶりに呟いた。

 

「さみしい……」

 

 そこで私は全ての過去を思い出した、私は心残りを思い出した。

そしてそれが永遠に手に入らない事を理解した。

泣いた、泣き続けた果てに何があるわけでもないのに。

何年も泣いた、ある日の事。私の後ろに誰かが立っていた。

誰かは分からない、振り向く事も億劫だった。

 

 そいつは私に話しかけて、何故泣いているのかと聞いてきた。

私は心を空にして、自分の事を話した。誰でも良かった、同情してほしかった、

私の為に泣いてほしかった。友達が欲しかったと。

 

「一緒に居てやろう」

「――――」

 

 私はその時、初めて救われた。

 

 

「アリサ、地縛霊であるお前を。此処から出すのは容易だ、此処に思い入れがあるなら」

「無いわ」

 

 私がそう言うと冷都が私の躯を箱に詰めて、彼の住む家に進む。

私が移動できなかった原因が私の遺体が原因だった事は気が付いてた。

幽霊だから物は触れないのは当然だけど、力の強い幽霊はポルターガイストと言う

現象を起こして物を動かせると、成長した私に教えてくれた。

 

 私の躯を地面の庭に入れると、豪邸の中を見せてくれた

家族を紹介してくれた、黒神家の皆は驚いてたけど最後には笑って受け入れてくれた。

 

「アリサ、何か欲しいものはあるか?」

「私と、お話ししましょう」

 

 私がそうお願いすると、夜が明けるまで話をした。

冷都は自分が今まで見てきた事や知ったこと、異能者や怪異や超常現象とか

普通の人が知らないような冒険譚を教えてくれたの。

こんなに楽しい会話は生まれて、いや。死んで初めてだった。

 

「いいなぁ」

「……」

 

 充実した人生、羨ましい。

そう思った私に冷都は言った。

 

「お前もいつか私と外を見よう」

「――――」

 

 天にも昇る気持ちと言うのはこういう気持ちの事なのだろう。

 

 しばらく黒神邸で過ごしてわかった事がある。

冷都は感情表現が苦手だ、喜怒哀楽は有ってもそれを出すのが苦手。

多少感情を表に出す事はあるけど、直ぐに表情が無くなる。

人は感情をずっとは出さない、楽しい事があってもずっとは笑わない。

時間が経てば笑わなくなる、冷都はそれが凄く早いんだと気づいたのはそれを知ってから

直ぐだった。

 

「どうした、アリサ」

「なんでもない」

 

 友達の性格が少しわかって、ちょっと嬉しかった。

 

「冷都それなに?」

「魔法だ」

 

 日本家屋で人形を操っている冷都が居た、フェイトって言う金髪の女の子が

冷都に教えてくれたのだと言った。彼女は私が見えないけど。

私の動きと同じ様に動かして彼が遊んでいると、何かを思いついた様に立ち上がった。

 

「アリサ、体が欲しくないか?」

 

 彼はぬいぐるみを差し出し私にその中に入るように言った、言う通りにして

私は人形の中に入った、するとどうだろう。私は生前の様に身体を動かすことができた。

それから数日後、彼は私を模した等身大の人形を用意してくれた。

嬉しかった、友人から始めてもらった贈り物。彼の気遣いには感謝しかない。

 

 何かお礼がしたい、なんでもいいから彼の役に立ちたかった。

私はその日から彼の後を追うようになった。彼が何時でも私を頼ってくれるように。

だけど冷都は非の打ち所がない人格者で何をやらせても完璧にこなす。

私の出る幕は無かった。

 

「兄さーん!」

「木葉、廊下は走るな」

 

 ああやっている姿を見るだけで嬉しくなる、恩人であり友人。

本物の天才とは、私のような紛い物とは違って誰とでも仲良くなれる。

信頼され信用される、頭が良いだけの私とは違う。

 

「アリサ」

 

 冷都が私を呼ぶ、彼は微笑んで私に手を差し出した。

 

「お前も遊ぼう」

「――ありがとう」

 

 大丈夫、まだ時間はある。

ゆっくりと返していけばいい。

 

 私は手を握った。



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主人公と天才

 

 なのははあれから冷都の事が気になっていた、自分を深く恨めしそうに見る少年。

初めての感覚、嫌いで嫌いで仕方がないという目を向ける。

だがあの日からそんな目では見られてはいない、後日学校で話しかけようとも前と

同じ様に会話してくれる、本当に自分の見間違いだったのではと

錯覚するほどにいつも通りだった。だが現実自分はあの顔を見た、見てしまった。

ならば何故と問うしかないだろう、彼女に辞書には正面突破という文字しかなかった。

 

(良し! 思い切って聞いてみよう!)

 

 思い至った彼女の行動は早かった、貴重品だけを持って黒神邸へ向かった。

嫌われている要因は何なのか、何故そんな目で見るのか話をしたかった。

前々から彼女は冷都と話がしてみたかった、人を笑顔のまま救う姿に尊敬の念を覚えた。

他者を救済することに狂気的なまでの執着を持った少女の憧れと理想の姿。

 

「すみませーん!」

 

 黒神邸のインターホンを鳴らし少しすると木葉が玄関を開けて出てくる。

彼女よりも二歳年下の少女は元気よくなのはに挨拶した。

 

「おはようございます! おはぎ食べますか!」

「お、おはよう木葉ちゃん。おはぎは遠慮するよ」

 

 木葉の圧に押されてどもる、相変わらず元気だなと苦笑いするなのはに対して。

木葉はなら何の様だろうかと首を傾げる、そして思い至った顔の如く家の中に戻っていき。

すぐさまなのはの前に戻ってきて、それを渡した。

 

「え、え?」

「お饅頭です! どうぞ!」

 

 えっへんと言って腰に手を当てる姿に、遠慮できずにお礼を言って受け取った。

しかし直ぐに我に返ってそうじゃないと頭を振った。

 

「お兄さん居ますか? 冷都君の方」

「兄さんなら趣味の散歩です、今日は遊園地に向かうと言っていました。

お煎餅も食べますか?」

「結構です、ありがとうね」

 

 木葉のお煎餅を遠慮して、なのはは遊園地へ向かった。

行動力があって押しの強い彼女にしては珍しく押され気味だったが。

冷都の居場所を探して走り回った。

 

「一番近い遊園地に来たけど、やっぱりもう移動してるよね?」

 

 流石に用もなくずっと同じ場所で立ち止まる事はないだろうと思い、当たり周辺を

捜索するが見つからない。そもそも明日学校で聞けば良いという事を言ってくれる者は

不幸にも此処には居ない。なのはが冷都を探して歩いていると目の前に小さな可愛い子狐

を見つけた。

 

「かわいい!」

「くうん!?」

 

 突然声を上げてしまった為に、その狐は逃げてしまいなのはは少し落ち込んだ。

別に撫でたり触ったりしようとは思ってはいなかったが、こうも警戒して逃げられると

流石の彼女も傷ついた。

 

「久遠! くおーん!」

 

 遠くから巫女服を着た女性が誰かを探しているように周りをきょろきょろと見回しながら

誰かを呼ぶ。それに気づいたなのはが声をかけた。

 

「どうかしたんですか?」

「あ、実はね。これくらいの小さな狐さんを探してるの、何処かで見なかった?」

「それなら……あそこに居ますよ」

 

 なのはが指差した方向を巫女服の女性が見ると、顔を綻ばせて安心したように笑う。

 

「良かったー、探したのよ久遠」

「くうん!」

 

 飼い主が見つかって良かったと思ったなのはは直ぐに自分の用事を思い出して

巫女服の女性に質問した。

 

「あの、この辺りでお洒落な服を着た美人な男の子を見ませんでした?」

「美人な男の子……それなら、あっちに」

「ありがとうございます! それじゃあ!」

 

 巫女服の女性に手を振って女性の指差した方向に向かう、その背中をぼーっと見つめる

女性は首を傾げてもしかしてと勘繰る。

 

「冷都君の彼女さんかな?」

「くうん?」

 

 途中可愛い狐と巫女さんに冷都らしき人物の居場所を聞いてそこへ向かうが、

その場所には誰もおらず、冷都どころか人っ子一人いなかった。

此処には居ないと思ったなのはは別の場所を探そうとして振り返ると、白髪の車椅子の

少女がなのはを見て微笑んでいた。

音もなく其処に居た少女に多少驚くも、冷都の居場所を知らないかと質問しようとする。

だが少女はなのはが先に言うでもなく。

 

「貴女のお探しの少年ならば、そちらの道を真っ直ぐに行けば居りますよ」

「え?」

 

 なのはが何を言うでもなく、少女は心を読んだかのように冷都の居場所を言って

指差した、その方向をなのはが見て、どうして冷都の事を知っているのかと車椅子の少女に

振り向くが、その少女は影も形も消えてなくなり。

辺りを見回しても何処にもいない、それに疑問を抱くが冷都を追う方が重要だと思い。

先に進んだ。

 

「はぁ……見つからない」

 

 白髪の車椅子の少女に話を聞いて冷都を追ったが見つけられずに、夕方になって

しまった。もう日も暮れるだろう、なのはは今日は諦めて学校で話を聞こうと思った矢先。

 

「え?」

 

 目の前の景色が一変する、正確には歪んだと言った方が正しいだろう。

建物も地面も空も歪み、ねじれてしまう。なのはは自分のデバイスを取り出した。

 

「レイジングハート!」

「マスター!、結界ではありません」

 

 レイジングハートの言葉を聞いて驚き、光の言葉を思い出す。

超常現象、異能者、具体的にどんな物かと聞いた事はある。

タイムスリップ、神隠し、ドッペルゲンガー等の現象は超常現象に当て嵌めると言った。

彼女はそれに出会ったのだと確信した、どうしようか迷っていると目の前に人が

立っている事に気づく、それに話しかけようとした瞬間。高町なのはは死亡した。

 

「ツマラナイ」



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そして第一話へ

「あの女が私を探していると?」

『はい、先程彼女が黒神邸の前で妹様に貴方の居場所をお聞きしていました』

 

 携帯で緑と会話する冷都は酷く不愉快な気分で聞きたくもない事を聞いていた。

名前も聞きたくない視界にも入れたくない、言葉を聞くだけで虫唾が走る。

それほどにまで嫌悪している対象が自分を探している、気味が悪い殺してやりたい。

そう思う毎日だったが、すんでのところで桃子や恭也の顔を思い出して止める。

彼らの存在を知らなければ今にも殺しに行っていただろう。友情か情でも出来たか、

それとも御神流の技が消える事を危惧してか。その手を出すことは無かった。

 

「女を此処へ来させるな、私は話すことは何もない」

 

 勘違いで人気者になっている冷都だが、それに対しては悪い気もしていない。

だがなのはを嫌悪している理由を周りが知れば、皆が自分から離れていくだろうという事は

理解できる。だがそれ以上になのはと関わり合いになりたくなかった、

例え社会的に殺されたとしても、二度と人と関われなくなっても関係ないほどに。

それほどまでに高町なのはの事は嫌いだった。

 

(思い出すだけで吐き気がする、お前の在り方には反吐が出る! なんでお前みたいな奴が!)

 

 いっそ偏執的なまでの憎悪と嫉妬心に憤怒と殺意が混じり合う。

目を泳がせて携帯を強く握り、携帯を粉々に破壊してしまう。

その音に我に返った冷都は、携帯を捨てると趣味の散歩を続けた。

 

 日も暮れて街灯の電気が付き道を照らす、空はすっかり暗く雲の色が灰色に見えた。

 

「……」

 

 何気なく、近くを通った公園を見た。

真っ直ぐ進めば直に家に帰れる距離だが、なんとなく今日は遠回りして帰ろうと思い。

公園の暗い道を迷わず進み、道の横に生える木々は蕾がついていた。

 

(もう少しで春だ、桜の花は見飽きた)

 

 暗闇の道を進むと、血の匂いがする。

地面を見ると此処まで流れてきたのか、血が足元を流れる。

流れてきた所に視線を送ると、高町なのはが死亡していた。

 

「……な」

 

 驚愕と混乱が冷都の頭を支配する、喜びの感情は無かった。

そこにあったのは虚無だった、如何にかして殺したかった相手が既に死亡している。

それに対して冷都はどう思うこともできなかった。その死に顔を見ようと倒れるなのはに

近寄ると、微かに呼吸音が聞こえた。本当に微かに、今にも死ぬだろうそれは瀕死の状態で

生き長らえていた。

 

(なぜ)

「そこの貴方、私のマスターを助けてください」

 

 機械音が聞こえ、それに目をやるとなのはのレイジングハートが

起動状態で近くに落ちていた、それを拾い上げると冷都は魔力の流れを感知した。

 

(高町なのはのリンカーコアを強制的に操り、傷口をバインドで止血。

心臓を無理やり動かしている、だがこれでも長くは持たないだろう)

「マスターはもう少しで、死んでしまいます。助けてください」

 

 目を見開いてなのはを見る冷都、血が逆流して吐き気がする。

眩暈を感じて持っているレイジングハートをへし折ってしまいそうなほどの怒りが

冷都の頭の中を支配した。

 

(こいつを? 私が? 俺が?)

 

 怒りのあまり顔が赤くなる、青筋は立ち。血管全てが浮き出ているのではと

錯覚するほどの憤りをかつてないほど感じた。

そしてある考えに思い至った。

 

「今ならば……殺せるな」

 

 誰も周りにいない、気配も人影も無い。

レイジングハート単体で念話も通信もできない、殺すなら今だと冷都は思った。

 

「止めてください! マスターに何の恨みが」

「お前に何がわかる」

 

 虚無を感じさせる声でレイジングハートを黙らせた、冷都の脳裏に高町桃子が過った。

高町士郎が高町美由希が高町恭也が、冷都は思い出す彼等との修行と楽しかった日々を。

 

(この女が死ねば、あれらはどうなるだろうか……)

 

 その顔は無感動になった、だが怨嗟の声が止まる事は無い。

 

「死ね、お前など死んでしまえ」

 

 冷都は高町なのはを抱きかかえ、マイナスエネルギーで生命力を強化する。

そして黒い液体をかけて傷口を治癒させると、跳躍して高町家に高速で移動した。

魔法障壁を張る、高町なのはが移動する風圧で粉微塵にならないように。

そこから10秒もかからなかっただろう、数キロ以上離れた公園から高町家へ移動した冷都は

インターホンも鳴らす事は無く扉を開ける。

 

「冷都、なのは!?」

 

 高町家の面々は冷都の突然の来訪に驚く間もなく、血だらけで抱きかかえられているなのはに気づいた。

そこで冷都は血走った目で士郎を見て、答えを聞くつもりのない一方的な宣言をした。

 

「俺の言う事を聞け、絶対に聞け。私はこの女を助ける、絶対に何も聞くな何も言うな。

俺が高町なのはを助けた事を絶対に教えるな」

「あ……ああ……」

 

 高町家の面々は冷都の凄まじい気迫と殺気に驚き、冷静になった。

なのはの衣服を桃子が部屋で取り換えている最中に、三人に何があったのか説明した。

 

「何故公園で倒れていたのかは知らん、だがこのままではあの女は一生目覚めないだろう」

「治療はしたんだろ? なぜ起きないんだ?」

 

 恭也がなのはの意識が戻らない事に疑問に思う、体の傷は完全に治っている。

戻らないのはそれ以外が原因だ。

 

「もしかして、心とか?」

「正解だ、正しくは違うが」

 

 美由希の答えに肯定して返答する、正しくは違うとはどういう意味は分からず全員が首を傾げる。

 

「中身が無いのだ、臓器や血液ではなく。魂が」

「魂、なんとなく分かるが、無いとどうなる」

「まず一生目覚めない、魂を抜いた奴を探し出して。元の体に戻せばいい」

 

 恭也が腕を組んで真剣な面持ちで冷都に聞く。

 

「どうやって犯人を捜す」

「捜す方法は色々あるが、今回は私が直接捜索する」

「どうするんだ? そんな能力を持ってるのか?」

 

 冷都は恭也達にレイジングハートを見せた。

 

「此奴が犯人の姿を撮影した、顔が分かれば私の探知能力で十分捜せる」

 

 レイジングハートが映し出した姿は高町なのはにそっくりの少女だった。

 



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もう一人のなのは

 

 レイジングハートが高町なのはを襲った者、偽なのはを映し出してから行動は早かった。

冷都は黒い触手を複数に分裂、分離させて街中に解き放った。行動は早い方が良いという判断からだ。

恭也、美由希も刀を所持して外を捜索する冷都について行く。

 

 士郎と桃子はなのはの体を見ている必要がある為、良い医者を知っていると良い連絡を任せた。

士郎の言い方からして異能関係者なのだろうと冷都は予想したが、関係ない事を思い偽なのはの捜索に集中した。

 

「緑、命令だ。高町なのはに似た女を捜せ。容姿は黒髪赤目、アクセサリや耳飾りは付けていない。

黒スーツの女だ」

『かしこまりました、私も向かう必要はございますか?』

「発見次第、直に現地へ合流しろ」

『は』

「……誰? 今の」

 

 冷都が美由希に振り返る、走りながら聞いて来たが。まだまだ本調子のようで疲れてはいないようだ。

これならば使えるだろうと思い、彼女達に緑の事を簡潔にだが説明した。

 

「私の仲間だ、情報収集が得意でな。街中の監視カメラにハッキングしてそいつを捜す。

念の為だ、魔法も使用する」

 

 冷都は走りながら探索魔法を発動して、小さな光る球体が空に飛び散っていく。

黒い液体を遠隔操作して地上を捜索、探知魔法で空を捜索、そして緑による監視カメラのハッキング。

 

「うぇ、何だか今更ながら凄い事してるような……」

「言うな美由希、冷都だからと思って無視しろ」

「おい」

 

 恭也の余りにもあれな励まし方に冷都が少し怒る、しかし彼らの言い分も尤もだ。

冷都は彼らと初めて会った際から異常な事を何度も行い、呼吸法を教え剣術を交えてその力を家族以外では

一番近くで見て来ただろう人物達。しかしそれ故に、彼らは奇妙な安心感を持っていた。

なのはが倒れた事には動揺したが、それでもなんとかなると。何故なら。

 

(冷都が居れば心強い、大丈夫だ)

 

 黒神冷都への純粋な信頼故だった。それから外に出て1時間程の経過した頃、冷都が突然立ち止まる。

 

「居たぞ」

 

 恭也達に振り返らず言うと、二人の息を呑む声が聞こえる。

妹を襲った相手への怒りと疑問が渦巻く。冷都が携帯でメールを打つと。

 

「来るか」

「当然だ」

「止めても行くからね」

 

 そう二人の返答を聞くと、冷都は迷わず駆け出しその場所へ向かった。

 

(……)

 

 その憎悪を見せないように、必死で冷静さを保ちながら冷都は一つの疑問が浮かんだ。

あれ程までに憎い女を何故態々苦労してまで助けようとするのか、答えは既に彼の中にあり。

決して認める事の出来ない物でもあった。

 

「冷都! 何処に向かってるんだ?」

「……港湾だ」

 

 そうして走っていると海が見えて来る、船とコンテナが幾つもの数あり。

鉄柵を破壊して先に進むと、コンテナの上に人影が見えた。

 

「恭ちゃん」

「ああ、居るな」

 

 二人が立ち止まると刀を抜く、冷都は構わず走っていくと。

その人影が現れる、それはゴスロリ姿の少女だった。年齢は高校生ぐらいだろう。

 

「あ、あははっは!」

 

 狂気を笑いと顔で二人を見る、恭也と美由希は構えた。

 

「話は通じなさそうだね」

「ならば、押し通る!」

 

 戦闘が始まった。

 

 

 恭也と美由希を無視して偽なのはの居る位置にまで到着すると複数の倒れている者達と緑の姿があった。

彼女が冷都を見ると、立ち上がって冷都に近づいて行く。

 

「雑魚の処理はこちらにお任せください」

「ああ」

「貴方様は彼女と?」

 

 緑と冷都が海を見てこちらを振り向きもしない偽なのはを見る。

するとコンテナの影から黒スーツ姿の男達が銃火器で武装して現れる、その目は狂気と絶望に満ち溢れていた。

それを見た緑の体が薄い緑色の光を放つ、空に巨大な剣のオブジェクトが現れる。

 

「それではごゆっくり」

 

 緑は電撃を纏い地面を削りながら男達を薙ぎ倒していく、それを見た者達は冷都に目を向けずに緑を狙って攻撃した。

その間を冷都は歩いて行く、偽なのはが冷都を感情を感じさせない虚ろな目で見る。

 

「しつこい」

 

 偽なのはに向かって冷都は唐突に言った、だが彼女は欠片も反応した様子はない。

それを知ってか知らずか言葉を続ける。

 

「ここまで不愉快な気分になったのは久しぶりだ」

「……」

 

 偽なのはは黙って動くことなく冷都の話を聞く。

 

「あんな女に振り回され、お前達の事情に付き合わされて。うんざりする」

「私は転生者ではありません」

「ほう?」

 

 偽なのはの言葉に少し興味を持つ、転生者は何故か海鳴市を狙う。

この法則に従って冷都は偽なのはを転生者だと仮定したのだが予想と違い少し驚く。

 

「正確には転生者の作った作品です」

「結局同じだろう、お前が此処を狙う。気味が悪い」

「彼らは目的なんてありません、有名人か近くに居たら捜しに行く。その程度の感情です」

「有名人とは誰だ」

「高町なのは、フェイトテスタロッサ、八神はやて。その他大勢です」

 

 意味が分からなかった、冷都には理解不能だった。その程度の人間に何故興味を持つのか。

八神はやては闇の書関連をこじつけても、彼女を明確に狙ったのはただの一人、フェイトテスタロッサを

襲った白髪の少年、ホムンクルスなどはそもそも襲い来る理由がまるで分らない。

 

「彼らの殆どは彼女達に興味を持っては居ません、どちらかと言えば願いを叶える石事態に興味がありました」

「ああ、ジュエルシードか」

「ですが貴方がそれを邪魔してしまった、組織の最高戦力の一人を瞬殺して。彼ですよ白髪の少年です」

「ああ、成程」

 

 向きの操作を行う能力は確かに脅威だろう、冷都以外ではあんな簡単に倒せる者は少ないだろう。

冷都も片手で数えられる程度の数しかいない。

 

「私は貴方が破壊した組織の生き残りの転生者が作り出した、高町なのはのクローンです」

「そうか、それで本物は何処だ」

「私です」

 

 偽なのはに大して興味がない冷都はさっさと終わらせようとなのはの魂を何処にやったか聞くと。

自分を指差して此処に居ると言う。

 

「高町なのはの魂は私と一体化しました、私を殺せば……高町なのはは蘇ります」

「そうか、早く言え」

 

 黒い腕を肥大化させて偽なのはを叩き潰す、しかし背後に飛んで避けられる。

 

「高町なのはのスペックをベースに、更に強化した肉体。だそうです」

(どうでもいい、つまらん)

 

 偽なのはと冷都の戦いが始まった。



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痣者

 

(戦闘開始から10分、あの巨大な剣が出てからこっちが押されだした)

 

 恭也と美由希はゴスロリの女と激しい戦闘を繰り広げていた、冷都から教わった呼吸法を使い

次々と来る攻撃を回避する為に。

 

「あはははははー!」

「くっ!」

 

 女は恭也の身長を超える巨大な剣を片手で振り回し、美由希を追い詰める。

それにナイフを投げつけるが、巨大な剣を持ちながら俊敏に移動して回避する。

 

 ――神速

 

 恭也は神速、御神流の移動法を使用して女との距離を詰めて刀を振るが。

剣を地面に突き刺して盾の様に防御される、その背後を美由希が狙う。

 

 ――虎切

 

 抜刀術で女の背中を斬りかかるが、剣を掴んだまま跳躍して突き刺さった剣を抜いて笑う。

女の跳躍した地面は陥没して砕けていた。

常軌を逸した身体能力と戦闘能力に二人は戦慄した、彼らは女が偽なのはの仲間なのだろうと予想して

戦闘を無言の合図で任されたのだが。

 

「強い、折角教えてもらった呼吸法が回避にしか使えないなんて……」

「……」

 

 全集中の呼吸を使い修行を始めて1年以上が経つが、彼らが人に向けてそれを使った事は無い。

殺してしまうからだ、一撃で。彼らはまだ人殺しをした事は無い。

 

 常人を凌駕した腕力で振られる刀の威力は御神の技を驚くほど強くした。

恭也達は強くなったのだ、だがそれでもまだ足りない。目の前の女にはあと一歩届かない。

御神流最強の奥義を使って倒せるだろうか、自分達は届くのだろうか。

 

(俺と美由希、どちらかの閃が防がれた時。俺達は終わる)

 

 それはある意味で賭けにもなる、閃で倒し切れば勝ち。回避される耐えられればこちらが敗ける。

二対一でようやく互角に持ち込んだのだ、彼らの内一人でも崩れればあっさりと殺されるだろう。

 

(……冷都が言った方法なら、もしかすれば……)

「恭ちゃん!」

「! なんだ、美由希」

 

 美由希の呼ぶ声に恭也は我に返る、なんだという気持ちで美由希を見ると覚悟をした目で恭也を見た。

 

「恭ちゃん、やろう」

「……本気か?」

「なのはが死んじゃう」

「!」

 

 悲しい目をする美由希を見て、愛する妹の事を思い出す。

恭也は思った、自分は勝たなければならない。何が何でも守る為に、それならば後先考える暇はないだろう。

 

「わかった、俺もやる。一緒に助けるぞ」

「うん!」

「あははははは!」

 

 二人は大きく息を吸い、心臓の鼓動を早くし体温を上げた。

二人の腕に、恭也は右肩に、美由希は左手に縛るような痣が浮かび上がる。

 

「あはははっあ?」

 

 二人の体の変化に女は違和感を覚えた、狂気を帯びながら少なからず残った理性が彼等二人を危険だと訴えた。

その瞬間、女の右腕が切断され宙を舞う。

 

「?????」

 

 切断された痛みよりも、それ以上に恭也の動きが見えなかった事に驚く。

刀を振り上げた状態で目の前に居る男の早すぎる動きを捉えられなかった、それにより女は棒立ちで立ち尽くす。

その隙を見せた瞬間、美由希が女の頭に目掛けて刀で殴った。

 

 ――御の呼吸 貫

 

「ああ……」

 

 殴られた女は気絶して倒れる、二人は女の腕を止血して放置した後。休む事無く冷都の援護に向かった。

痣者、体温が三十九度以上、心拍数200を超えた時に人の体に浮かび上がる痣。

それを二人は発現させた、デメリットを無視して。

 

 

 港、船の甲板で緑は電撃を纏いながら男達の銃撃を回避し攻撃する。

 

「ぐあああああ!?」

(ふむ、もう10分ですか。彼らは一体何人いるのでしょうか?)

 

 彼女が倒した敵は100人以上は居るだろう、しかしそれでもまだ全滅する様子が無い。

そこで彼女は奇妙な違和感を感じた、彼らの動きと構えだ。

 

(素人同然、多少聞きかじった程度の連携。彼らの狂気の顔、成程洗脳ですか)

 

 彼女がそれに憤りを感じる事は無い、異様なまでの人数差の理由が分かりスッキリしたのか。

再び戦闘を開始する、電撃を全体に放ち落雷を落とした。

男達はそれにより全滅したが、全員を倒す事は出来なかったようである。

 

「おや、貴方は?」

「……」

 

 黒い衣服の少年が立ち、ナイフを構える。

その少年の放つ空気は洗脳された者達とは違う理性と強者の気迫。

 

「貴方は洗脳されては居ないみたいですね、お名前は?」

「しっ!」

 

 緑が名を問うが構わず少年がナイフを振るい、それを人差し指で受け止める。

少年は連続で彼女に攻撃するが全て片手、指で防御されると。一旦後方に飛び上がって爆弾を投げつける。

しかし爆発を余裕の顔で防ぐと、少年は地面に潜った。

 

(地面に潜る能力、いや影ですね。影の中に入る能力)

 

 少年の能力を一目で看破し、何処に逃げたのか捜す。

緑は両腕に電撃を纏い、地面を破壊した。

 

「影を壊せば出て来ると思いましたが、当てが外れましたね」

「……」

 

 少年の撃った銃弾を摘み取った緑は、高速で少年に近づいて頭に手刀を放つ。その威力は確実に相手を仕留めるものだった。

だが少年は影の中に潜り、緑の攻撃は空振り土煙を舞い上げるだけだった。

また不意打ちを狙っているのかと警戒するが、いつまで経っても攻撃してくることはなかった。

 

(逃げた? 自分の命を優先するタイプでしたか……)

 

 遠くから巨大な破壊音と黒い剣が見える、緑は笑顔のままその場を立ち去った。

 



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ツマラナイ

 

 ――影の呼吸 弐ノ型 日影

 

「プロテクション」

 

 冷都の突きを防ぎ、ピンク色の障壁の中から魔法弾を放った偽なのはの攻撃を黒い刃で切り裂く。

防御を黒い刃に任せて、冷都は偽なのはの首目掛けて剣を振るった。

 

「バインド」

 

 ――影の呼吸 五ノ型 薄明光線

 

 剣にバインドをかけて動きを止めるが、剣から黒い刃を伸ばしてバインドを破壊するついでに偽なのはに攻撃する。

しかしそれを最小限の動きで回避し魔法を発動する。

 

「ディバインシューター」

 

 誘導弾を冷都に撃つが刃に防がれる、剣を振るっても回避する事に全ての力を使う偽なのは。

冷都も偽なのはもお互いに無傷、範囲攻撃も空を飛ばれて回避され。彼女の砲撃をまともに受けても

防御できる頑丈さを持つ盾を作れる冷都。

 

「ツマラナイ」

「……」

(そうだな)

 

 偽なのはの言葉に心の中で同意する冷都、お互いに攻撃が届かない事は分かっているのだ。

冷都は透き通る世界で次の行動を先読みできる、偽なのはは超分析力で冷都を観察して行動を予想できる。

次の手が二人は手に取るように分かり、それが行動を潰していた。

あの手この手で冷都が攻撃するが、全て回避されると思っての攻撃。疲労を狙っているが、

魔力で強化した肉体はしばらく疲れないだろう。

 

「どうしましょうか」

 

 偽なのはの言葉に冷都は動きを止める、偽なのはも棒立ちで冷都を見る。

意味が無い、全ての行動が無駄。お互いが未来予知レベルの知覚能力を持っている為に起こった現象。

偽なのはが分析で行動しても、それを先読みする冷都。そらにそれを予測して行動するもそれを上回る速度で

動いて、更に先読みされる。

 

「確かにな、高町なのはの体をベースにしているとは思えないほどだ」

「私はクローンですが、この世の全ての才能を持って生まれてきました。私に対抗できる人は

貴方ぐらいなものです」

 

 無感動で感情一つ見せない偽なのはが冷都に賞賛の言葉を贈る、それに対して冷都は吐き気がするほどの不快感と

気分の悪さを感じた、こめかみがきしむ。

 

(その声で私を褒めるな)

「なぜ怒るんですか」

「黙れ、その声でこれ以上喋るな。虫唾が走る」

 

 レイジングハートをポケットから取り出す、偽なのははそれを何もせずに無感動に見ていた。

 

「レイジングハート」

「スタンバイレディ、セットアップ」

 

 冷都の着る衣服が派手な白いスーツに変わる。

 

「お前を殺してやる」

「お好きにどうぞ」

 

 冷都はレイジングハートを偽なのはに向け、魔法を発動した。

 

「今回だけだ、全力の力を出せ」

「!」

 

 杖を向けた方法、冷都の視界に入る範囲全てにバインドを発動した。

偽なのはは数百の数を超えるバインドに絡めとられて動けなくなる、続けてレイジングハートをチャージする。

 

「スターライトブレイカー」

 

 その言葉と共に偽なのはは巨大な魔力の中に消えて行った。

砲撃魔法を撃った冷都は砲撃による熱でドロドロに溶けた地面を背にして杖を待機状態に戻す。

 

「……」

「どうかしましたか」

 

 レイジングハートが黙っている冷都に呼びかけるが、何も言葉を発しなかった。

すると遠くの方から恭也達が走って来るのが見える。

 

「おーい! 今の光は何だ!?」

「大丈夫ー!」

 

 冷都は予備の携帯を取り出して士郎に連絡する。

恭也と美由希が冷都の背後を見て絶句しているのを無視する。

 

「士郎、なのはは起きたか?」

『いや、まだ起きてない……終わったのか?』

 

 冷都は振り向いて砲撃を撃った方向を見る、嫌な予感がした冷都は恭也達を置いて

高町家に飛行した、空気を切り裂いて移動する。高町家の前の人影がなのはの部屋に

窓を破壊して入ると、それを見た冷都がその後ろから斬りかかった。

 

「きゃあ!?」

(なんて速度で)

 

 偽なのはがギリギリで斬撃を回避すると、士郎が連絡した女医だろう人物の前に立ち

なのはを抱えて、片腕で剣先を向ける。

 

「転移魔法か」

 

 偽なのはが移動しただろう方法を口走り、冷都は銀髪の女医になのはを渡す。

女医はまだ突然の事に驚いている。

 

「あ、貴方は!?」

「そいつを持っていろ」

 

 偽なのはをよく見るとボロボロの状態で、衣服の所々が焼け焦げている。

破れた衣服から痛々しい火傷の痕が見える。

 

「貴方は何故彼女を庇うのですか?」

「……」

 

 偽なのはの問いに答えない冷都は、黒い刃を彼女に突き刺して動きを止める。

何故か避ける動作をしない事に疑問が浮かんだが、痛みで動けないと予想した。

 

「……死ぬ前に聞かせてくれ」

「なんでしょうか」

「何故私より先に、なのはを襲った?」

 

 逆に冷都は偽なのはに問うと、無表情でなのはを見ながら言った。

 

「本物になってみたいと思っただけですよ」

 

 そう言うと、魔法で砲撃を撃つ動作を見せた偽なのはの胸を殴り。

身体を貫通して心臓を破壊した。

 

「……貴方の敵は全滅しました、良かったですね」

 

 そう言って倒れると、灰となって消滅した。

女医の抱きかかえるなのはを見て、レイジングハートを彼女の首にかけると。

冷都は高町家に消えるように出ていった。

 



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医者

 その後、冷都は父親の浩二を呼び。

戦闘で破壊した建造物の処理を頼み、異能者の起こした事件の情報操作駆り出される

父親の背中を、木葉は憐れみながら見るなどの事がありながら一晩の事件は終わりを告げた。

襲われたなのはは病院で目を覚まし、昨日の出来事を忘れていた。

なのはを診た女医はちょっとした記憶喪失と言い、日常生活に影響することはなかったが。

念の為に入院をするように言われ、なのはは混乱した。

 

「お見舞いに来ました!」

「ありがとう!」

 

 黒神家はなのはのお見舞いに来て、異能者の犯罪者に襲われたのだと説明した。

その一週間後。

 

「冷都、済まない。あれだけ言われていたのに……」

 

 高町家で恭也と美由希が申し訳なさそうに冷都に謝る、痣を発動させた二人

体温が常時上がっている体になってしまった。痣者、痣を発現させた者は

身体能力が飛躍的に向上し、回復力も更に上がる。

しかしそれには大きなデメリットも存在する、冷都から聞かされていた二人は

納得して使ったが。内容は寿命が25歳を超える前に死ぬという悲惨なものであった。

 

「寿命の前借りでしかない、強くなったが。恭也お前は後5、6年で死ぬ」

「……」

「美由希は後8年と言ったところだ」

 

 二人が暗い顔で俯く、それを見た冷都が黒い液体を二人にかける。

それに呑み込まれた二人は驚き、体を見ると。

 

「痣が消えてる?」

 

 恭也は痣が消えた事に驚き、冷都を見る。

 

「身体を少し弄って、前の肉体に戻っただけだ」

「ありがとーー!」

「触るな、抱き着くな」

 

 美由希に感極まって抱きしめられる冷都は慣れたのか鬱陶しそうにして離れようとするが

冷静な態度は崩さない。すると桃子が電話を耳に当てながら冷都を呼ぶ。

 

「冷都くーん! ちょっといいかしら?」

「ああ、放せ」

 

 美由希を投げ飛ばして桃子のいる場所に向かうと、電話を渡される。

 

「なのはを診てくれた女医さん」

「なんだ女医」

『なんだって、貴方! 病院に来るように言われてるでしょう!』

 

 電話の向こうから怒った声が冷都の耳に聞こえる、冷都は怪我など無く

医者は必要ないのだと言っても、納得しない女医を面倒に思う冷都。

 

『それに貴方、異能者でしょう! 身体検査が必要なんですから

今日と言う今日は来てもらいますよ! 弟さんも妹さんも5歳の頃から来てるんですからね』

「高町なのはが退院したら考えてやる」

「いや、そこは行きなさいよ」

 

 後ろで冷都を呆れながら見るアリサを無視して話を続ける。

 

「異能の力は私の家系では珍しい事じゃない、検査して何が分かるわけでもない」

『検査しないと分からない事もあるんですよ、いい加減にしないと。

浩二さんに言いつけますからね!』

 

 と言って電話を切られる、それを苦笑いで見るアリサ人形を振り回した後。

桃子が話しかけてくる。

 

「一緒に行きましょうか? 私もなのはにお見舞いに行くから」

「……仕方ない、あの女医は面倒だからな」

 

 そうして冷都は女医の病院へ向かった、桃子が途中でお見舞いの品を買って冷都も

お菓子を貰ったのだが、食べずに人形の綿に突っ込みアリサにポカポカ殴られた。

 

 病院、冷都はなのはを診て病院に来るように言ってきた女医と対面していた。

 

「ところでお前の名前はなんだ?」

「知らないんですか!? フィリスですよ! フィリス矢沢!」

「何故、英名と和姓を? 何の意味がある」

「これは両親が私を養子に」

「女には今は銀髪なのが流行ってるのか?」

「地毛です!」

 

 冷都は遠慮も何もなく女医フィリスに質問をぶつけていた、別に嫌がらせではなく。

暇つぶしに彼女の話が聞きたかっただけである。

フィリスは冷都の怒涛の質問に涙目になりながら手順通りに検査を進めた。

そうして検査を終えると、フィリスは脱力した状態で机の上に項垂れた。

 

「お、終わりましたよ……」

「そうか、どうだったフィリス」

「先生って呼んでください、貴方の体には何処にも異常はありませんでしたよ。

肺が尋常じゃないぐらい大きい以外は」

 

 フィリスが怪しみながら冷都を見る、恐らく全集中の呼吸による副作用だろう。

冷都はフィリスを無視して理由は答えない。

 

「そうか、それで?」

「貴方はHGS患者ではありませんでした、貴方のご家族も全員」

「だろうな」

 

 HGS患者の超能力はフィンと呼ばれる特殊な翼が生えると聞くが、冷都は家族の誰も

そんなものが出現した所を見たことは無い。別物なのだろう。

 

「でも貴方は違います、異能者ではありません」

 

 フィリスの言葉に困惑する冷都、どういう事かと首を傾げる。 

 

「異能者には異能者独自の特徴があります、例えば光君は魔術回路と呼ばれる器官が

存在しますし、木葉ちゃんは筋肉量が異常なまでに圧縮された状態だったり」

「何が言いたい」

「冷都君の異能、マイナスエネルギーを収納するような器官は何処にもないの」

「そうか」

 

 冷都はフィリスの話に欠片も興味を示さず、無表情で対応した。

 

「そうかって、何か気にならないの?」

「別に、何が変わる訳でもない。そもそも異能なんてそんなものだろう、

人の考える領域の外側。考えるだけ無駄な事なのだから。

私達は何も変わらない、弟も妹も同じだ」

「……」

(異能の原理など考えても意味はないだろう)

 

 フィリスが唖然とした顔で冷都を見て、直に複雑そうな顔をした。

 

「貴方が、もしも命令されて兄弟や家族と殺し合いをすることになったら。どうする?」

「決まっている、命令した奴を殺せばいい。それが無理なら逃げればいい」

 

 その答えに絶句する、冷都はフィリスが落ち込んだような顔をして考え込んだ

事に困惑と同時にキレる。

 

「仕事をしろ、お前にしかできないのだから」

「!」

 

 冷都が低い声でフィリスに言うと顔を上げ、驚いて冷都を見る。

やる気が出たように笑って拳を握る。

 

「よし! やるぞー!」

「早くしろ」

 

 いきなり落ち込んだり機嫌が良くなったりするフィリスに奇異の目で見た

冷都は早々に検査を終わらせて家に帰った。

 




内心複雑な気持ちで見るフィリスさん。
冷都君は待ち時間の間、ある歌姫の番組を見てました。


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白井青葉

 

 例えば、剣を持った人が目の前に居るとする。

そういう状況に立った時、貴方ならどう思うか。驚く? 怖がる? かっこいいと憧れる?。

昔の彼女はこう答えた、警察に通報するわ。今の彼女はこう答えた、無視する。

 

 白井青葉の過去は悲惨そのものだった、父親の経営している会社が倒産し。

借金まみれになった。だが問題はその金の額と借りた人間だ。

ヤクザ、極道。言い方はどうあれ闇側の人間と関わった父親の最期は借金返済の

労働による過労死。父親は白井家の妻と二人の娘を残して永遠に眠った。

 

 だが彼女達の悲しむ時間もなかった、ヤクザは今日も扉を叩いて借金の返済をと。

母に無茶を言いつける、無理ならば彼女の妹を連れていくと言った。

彼女も必死で抵抗したが、大人の力には敵わない。そんな時だった。

 

「命というのは尊いものだ 大切にしなければ」

 

 黒神冷都が白井青葉の前に現れたのは。

冷都はそのヤクザを消した後、彼女に青葉に名前はなんだと問う。

 

「青葉です、白井青葉。こっちは妹の紅葉」

「あおばともみじ、葉っぱか。名前は気に入った」

 

 そうして冷都は彼女達へ向けてこう言った。

 

「助けてやろう」

 

 これは彼女がまだ己の力に気づいていなかった時の話だ。

 

 

 青葉は母親の傷を瞬く間に治したことに驚き、冷都に何者なのかと問うが。

帰ってきた答えは。

 

「今度話してやる」

「そう……」

 

 だけだった、青葉自身も素直に聞けるとは思わなかった為。

そこまで深く追及する事はなかった。家の様子と白井家の様子を見て冷都は

食事を取ろうと言った。

 

「どこに行くの?」

 

 紅葉がお店はそっちじゃないと言う。

 

「風呂と服屋と」

 

 衣服と血の汚れを気にしたのだろう冷都が三人を見て言う、それに少し恥ずかしがる青葉だが

言葉を続ける冷都に慌てだす。

 

「宝石店、アクセサリーもいる。化粧品も用意しなくては。あとは何かいるか?」

「いやいや、そこまでお世話になれないから!」

「そ、そうよ。……そんなに持ってるの?」

 

 食事の話からどんどんエスカレートしていく冷都を何とか止めた青葉は、

予想以上に冷都がお坊ちゃまな事を知る。

 

(この子、結構持ってるのね)

 

 その場は何とか風呂と衣服と食事代を借りて済ませた、途中アクセサリー

と無用なまでに高い靴と時計を買おうとする冷都を止める事もして。

 

 いつ予約したのか分からないレストランで高そうな

お嬢様が着るようなドレスを着て、肩身の狭い思いをする。

怒涛の展開に混乱する白井家を余所に冷都は指パッチンすると、白いスーツの女性が

現れ、巨大なケースを置いていくと出ていった。

青葉は今のが誰なのか、これは何なのかという問いを言う前に冷都にケースを片手で渡される。

 

「これは10億円入っている。受け取れ」

「は?」

 

 青葉は意味が理解できずについ受け取ってしまう。

彼女の母は展開に追いつけず、正気を失っている。

 

(今なんて言ったのこいつ? じゅうおく? 10億円って言った?)

「お前の所に来たヤクザの組織は今頃焼け野原になっているだろう、良かったな」

(良かったわね、じゃないわよ!? 何言ってんのこいつ!?)

 

 彼女がケースを置いて中身を見ると大量の諭吉が入っていた。

隣で覗き込んでいた紅葉がその衝撃で気絶する。

 

(もみじぃー!?)

「しっかりしなさい! 傷は深いの!?」

「おかねがいっぱい、ゆめなのですね」

 

 もはや正気だったのは青葉だけだった。

 

「金は用意した、少しお願いがある」

「……お願い?」

 

 青葉は冷都の言葉に警戒する、当たり前だ。無償で10億円を渡す

訳がない、お願いとは名ばかりの命令も同然。青葉は死ぬ以外は如何にかして

回避しようと思ったその時、彼のお願いの内容に呆ける。

 

「引っ越して海鳴市に来い、そして私と友になれ」

「へ?」

 

 彼出会ってから青葉は驚きっぱなしだ、どうするのかと聞いてくる冷都に

首を縦に振って了承すると。笑顔で手を上げて喜びを表現する。

数秒後に無表情になって青葉を黙ってみる。

 

(なんなのこいつ、どういう気持ちの顔これ)

 

 青葉が友人になった男は、救世主にして訳の分からない奴だった。

 

 彼女達が引越しの準備を進める中、青葉は風の噂で自分が借りていた

ヤクザ組織が火事になって滅びたという話を聞いた。

焼け野原になっているという言葉が比喩ではなくそのままの意味だった事に

背筋が寒くなる。

 

 それから彼女達は海鳴市に引越しした、拒否する事は考えなかった。

彼女達には後など無く、母の仕事だけでは生活すらままならない状況では判断する余裕すらない。

 

「ようこそ海鳴市へ、なんなら仕事も紹介してやろう」

 

 冷都は彼女達の引越し先まで紹介してあげた、新築一戸建てか

日本家屋か西洋屋敷を選ばされ、一番最初と叫んだ母親の罪悪感に満ちた涙目の顔を

青葉と紅葉はしばらく忘れる事は無かった。

 

「どうしてそこまでしてくれるのよ? 私は何の価値もない女よ」

 

 青葉が冷都に聞く、自分なんて有象無象の一人でもっと良い友人がいるだろうと。

 

「偶々お前が目に入った、それだけだが。理由があるとすれば……美しいからではダメか?」

 

 無表情で答えた、気障なセリフだと思った青葉だが。

本気で言っているのだと目を見て分かった、それに少し恥ずかしくなる。

 

「醜いなら要らん、だがお前は偶々美しかった。だから友人にした。これでいいか」

「ええ、良いわよ」

 

 彼女は自分を助けてくれたヒーローを見た。彼女は冷都の言う事を建前だと思った。

 



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白い剣

 青葉が冷都に救われてから数年の時が経つ、彼女は今森林の中で怪獣と対峙にしていた。

怪獣の体格は青葉の体を優に2メートルは超える四足獣で、全身から金色の体毛を生やしている。

 

「ガアア!」

「……はあ!」

 

 怪獣の胴を白い大剣で切り裂いて真っ二つにする、怪獣は灰となって消滅した。

怪獣の消滅を確認した青葉の手から白い剣は消え、森林を立ち去った。

携帯電話を取り出してメールを打つ。

 

「今日の仕事終わりね。ああ、紅葉に買い物頼まれてたんだわ」

 

 ポケットからメモを取り出してスーパーに向かうように言われた事を思い出す。

 

「その前に、朝のランニングを終わらせましょう」

 

 だが今の時刻は朝の5時、子供が起きるには早い時間だ。コンビニしか開いてないだろう。

暇つぶしと日課の為に、青葉は靴を鳴らして走り出した、町内を。

それから2時間程は知っていると、目の前に同年代ぐらいの女の子が走っているのが見える。

 

(私みたいなのが他にも居るのね、いや運動好きと考えればまあいるか)

「……てかなのはじゃない!」

 

 走っている少女の姿を見て青葉は驚く、なのはは声に反応して振り向くと笑って声をかけた。

 

「青葉ちゃん!」

「意外ね、朝に走るタイプだったかしら」

「にゃはは……」

 

 青葉はなのはに手を振って通り過ぎる、足の速さに驚き。

それからなのはが30分程走っていると、背後から青葉が走ってくる。

 

「あれ? さっき前に行かなかった!?」

「ええ、それじゃあね」

 

 それからまた30分後。

 

「久しぶりね!」

「……、凄い早いね……」

 

 なのはは公園のベンチに座ると、余裕の表情で立っている青葉を見上げる。

青葉は3時間以上走り続けて、多少息が乱れた程度の疲労しか見せなかった。

 

「まあ、毎日走ってるから。貴女は大丈夫? 怪我で入院してたんじゃないの?」

「もうすぐ退院、今は日課の朝練中」

「朝練? 部活とかやってたっけ?」

「そうじゃなくて!、あー趣味みたいなもの?」

「ふーん」

 

 なのはは何処か焦った様子で両手を振る、青葉はそれに疑問を抱くものの

深く追及する事なかった。

 

「それじゃあ私、買い物あるから!」

「うん、それじゃあね!」

 

 青葉はなのはと別れた後、スーパーに向かった。

 

「油と醤油、後は?」

「人間の血肉は栄養価が高い、特に負の感情を貯めこんだ極悪人は最高だ」

「……人肉は健康に悪いから食べちゃだめよ。こんな早い時間に何の用?」

 

 青葉の背後からメモを覗き見る冷都に呆れた表情で返す。不穏な事を言って

怖がらせる冷都にズレた返しをする青葉は用件を聞きながら買い物を済ませようとする。

 

「お前が今日狩った奴は灰になったか」

「ええ、いつも通りね」

 

 買い物かごに肉を入れて青葉は冷都に振り返る。

 

「それより貴方、最近忙しそうだけど大丈夫?」

「ああ、友人の武雄に剣術大会に代理として出て欲しいと頼まれてな。その朝練帰りだ」

「代理ねぇ、貴方手加減できるの?」

「弟の趣味の付き合いで出来る、弟レベルに合わせるから大丈夫だ」

「彼奴レベルでも十分危険でしょうが」

 

 青葉は長い付き合いで光とも友人である、というか同年代のクラスメイトだ。

その剣技も見せてもらった事もあり、彼女自身も一度手合わせした。

 

「ちゃんと手加減するのよ、あと今度応援に行くから場所教えて」

「分かっている、応援には来ないでいい」

 

 念の為に冷都に釘を刺した青葉は買い物袋を持って家に帰る、まだ朝靄がかかる

道を迷わず先に進む。長い年月経てば最低限の視界でも移動できるものだとひとりごちた。

 

 帰り道を歩いていると女の子が倒れていた、無視する事は出来なかった青葉が

少女に話しかける。

 

「そこの貴女、大丈夫?」

「……ぐおおお、私は。生きてます、転んだだけです。死んでないです」

「いやそこまで心配してないけど……」

 

 転んだ少女を起き上がらせると、その少女の容姿を見た。

 

(結構可愛い子ね、年は私とそんなに変わらないかしら)

「怪我はないかしら?」

「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

 

 少女の様子を見て大丈夫だと判断した青葉は手を振って別れる。

帰ろうとした直後、何かの鈍い音が聞こえて。青葉がまさかと思い振り向くと。

少女がまた転んで倒れていた。少女の足元を見ると、地面の陥没した所があり。

あれに足を引っ掛けたのだろうと思い、転んだ少女に近寄る。

 

「……大丈夫?」

「うう……運が悪い、何故こんな所に足を引っ掛けたのでしょう……」

(それは私にもわからん)

 

 少女を憐れみながら手を引っ張って起こす。

 

「もしよかったら、一緒についていきましょうか?」

「え、でも悪いですし。帰るだけですよ?」

(帰るだけで二回も倒れたの?)

 

 少女を見ていられなかった青葉は家まで送ってあげる事になり。

また転ぶのではと不安に思った青葉は手を繋いであげた後、彼女を家まで送り届けた。

 




53話目にしてようやくヒロイン登場。
しかし名前は出ない。


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黒神家

 小学校、年が変わり4年生のクラスに移ったなのはと光が話していた。

 

「退魔師? 光君の家系が!?」

「そう、俺も兄貴も木葉も親父も。つか前に言わなかったか?」

「聞いてないよ……」

 

 黒神の家系は異能者を生み出す事で有名で、その道のプロは良く知っている事だ。

異能者の逮捕や超常現象の解決、だが黒神家はもっと昔から妖怪と戦ってきたプロフェッショナルだ。

 

「そうだんだー」

「ああ、昔の超常現象とかって皆妖怪の仕業って言われてたからな。

それに警察の協力とかしたり、事後処理とか後始末とか。父さんの仕事だ。

俺等はそれに協力してるだけ」

「大丈夫なのそれ?」

「まあ、危険もあるけど一般人を守る為だしな。兄貴は好きにしろって言ってたけど」

 

 そう言って光はカバンを背負う、もう放課後なのだ。

 

「それじゃあな」

「うん、ばいばい!」

 

 そして後日。

 

「何でこうなるんだ」

「……」

「噂をすればなんとやらだよ、お兄ちゃん」

「行きたくねぇ……」

 

 車の後部座席で呆れる顔をする光と、それを冷めた目で見る冷都。

何かを悟っている木葉に憂鬱そうな顔をする浩二という、カオスな事になっていた。

 

「おじいちゃんに会うの久しぶりだなー」

「二年ぶりぐらいか?」

 

 木葉は外の景色を眺めなて、祖父の黒神風斗の事を思い出す。

退魔師の家系であり、その跡継ぎとして教育を受けていた浩二は祖父を思い出して

肩を震わせる、対照的な二人と違い。光と冷都は特になんとも思っていない。

 

「だが本当なのか? おじいさまが仕事の手伝いをしてくれと言ったのは」

「ああ、あのジジイが他人の手を借りる程厄介な案件なんてロクな事ねぇと思うけど……」

 

 仕事の手伝いで祖父に呼ばれた四人は、祖父の風斗が住む東京にまで来ていた。

 

「隠居したジジイがなんで俺を呼ぶのか、お前なら分かるか?」

「……大方弟子達の手伝いかその後始末、若しくは本当に手に負えない案件か」

「うぇ、どっちにしろ行きたくねぇ……」

 

 黒神家は代々退魔師の一族、その一方で技の継承や人手不足を補う為に優秀な弟子達を

受け入れる道場としての顔もある。

気、と呼ばれる浩二の使う技術がそれだ。黒神家に代々伝わる気による身体強化法と妖怪払いの呪術

を教えている。当然一般には知られていない道場だが。

 

「父さんは黒神家の当主だ、警察機関に入って海鳴市で妖怪退治こそ行ってるが。

本当ならあの場所は分家、おじいさまの居る場所が本家だ。おじいさまが隠居した老人を酷使する

この親不孝と愚痴を言っていたぞ」

「仕方ねぇだろ? 俺は呪術方面には才能無いし、それに人に教えるとか無理だし」

「呪術使えないの私達もだよ?」

 

 言い訳の様に冷都に言うが浩二は気の操作は得意だが、呪術という妖怪や悪霊に効果がある

技を使うのが苦手なのだ、長男として産まれた故に浩二は当時は肩身の狭い思いをしたと苦笑いして冷都に言う。

 

「俺より優秀な弟はいくらでも居たから余計に出来損ないに見えただろうぜ」

「お父さん結構大雑把で器用じゃないしね」

「正論だがお前に言われたくない」

 

 冷都達は浩二と同じで呪術方面の才能がなく、妖怪退治や幽霊払いを行うが

特殊な道具を使用して払うことが多い。その為呪術の知識は少なく、多少霊感が人より

ある程度で、アリサを目撃できたのもその為。

 

 それから車で数時間走っていると目的地の前に着いて停車する。

冷都達の前には武家屋敷の様に大きい邸宅があった。

 

「俺等の屋敷も立派だけど、やっぱり此処は一段と、なんか空気が違うな」

「昔はお偉いさんに重宝されてたからな、今もだけどよ」

 

 インターホンを鳴らすと扉から道着姿の男が出てくる、その男は浩二達を見ると頭を下げる。

 

「ようこそお帰りなさいませ、浩二様、ご子息方。ささ、中へお入りください」

「おう、邪魔するぜ」

 

 男の案内で屋敷に入った浩二達は稽古をする黒神家の弟子達を見つける、

弟子達も彼らに気づくと全員が頭を下げる。

 

『お帰りなさいませ! 浩二様! ご子息方!』

「相変わらず、元気良いな」

「ただいまー!」

 

 木葉は弟子や師範代に手を振って挨拶する、其処に一人の老人が訪れた。

浩二がその老人を見ると青ざめた顔をして男の背に隠れる。光は可哀想な目でそれを見た。

 

「あ、おじいちゃん!」

「おおー! よく来たな木葉、元気にしておったか?」

 

 老人が厳しい顔を綻ばせて近づく木葉を抱き上げる。彼が冷都達の祖父の黒神風斗である。

木葉を下ろし、浩二を見ると再び厳しい顔に戻り浩二に指差す。

 

「これ浩二! 一体何時まで流の背中に隠れているつもりじゃ!」

「孫と子との対応が違いすぎだろうがジジイ!」

 

 流と言われた男の背中から出て浩二も風斗のその豹変ぶりを指摘するが。

無視して冷都と光を見ると腕を広げて二人に近づく。冷都は光を投げ飛ばした。

 

「ぎゃあ!?」

「光も元気だったか!」

「元気だけど一々抱き上げなくていいから! てか兄貴なにすんだ!」

 

 それを抱き止めて頬をすり寄せる風斗を鬱陶しがりながら光が冷都に抗議するが、

当の冷都はどこ吹く風でその後ろに居る女性に目を向けた。

 

「今日はどの様なご用件があって我々を此処にお呼びしたのですか、おばあさま」

「冷都、お前は話が早くていい。風斗様と浩二は緊張感がなさすぎる」

「か、母さん……」

 

 風斗の時よりも青い顔で女性を見る、祖母の黒神早紀が二人を睨み付ける。

威圧感で体を強張らせる二人を余所に木葉と光が早紀を見て笑う。

 

「いつも通りだね」

「ああ、変わんねーな」

「……」

(……くだらない)

 

 黒神家の客間に入った6人は顔を合わせて、先に口を開いたのは風斗だった。

 

「お前も久しぶりだな冷都、元気にしていたか」

「おじいさまにおかれましてもご壮健そうで何よりです、

益々のご多幸を切にお祈り申し上げます」

「相変わらず真面目じゃの、元の口調でもよいぞ」

「そうか」

 

 目上の者に傅くような口調で風斗に挨拶する冷都、普段ならばこの様な態度は

死んでもしないが、風斗と早紀という二人に対しては

ある程度の敬意を持っているが故の対応である。

 

 二人は孫故にその様な態度は取らなくていいと言われ、冷都は素の口調に戻った。

 

「なんで現当主の俺には敬語使わねーの?」

「父さんは、おじいさまに敬語を使うのか」

 

 浩二の睨むような視線を無視して正論で返すと、浩二は言葉に詰まる。

 

「お前達には仕事で呼んだ、弟子達だけでは不安でな。お前達の力を借りたい」

「怪物退治が我々の本業だが。此度の敵は厄介な相手でな」

 

 早紀が写真を取り出して冷都と浩二に見せる、その写真には一人の男が写っていた。

 

「人か」

「異能者か、こいつの逮捕と妖怪退治の二つか?」

 

 早紀が顎を引いて肯定する。

 




今回は黒神家の秘密に迫りました。

鬼殺隊みたいになってきました。

違和感あるかもしれませんけど。
教養が良いお坊っちゃまなのでおじいさまとおばあさまには敬語を使う。


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退魔師

お気に入りが400を突破、私は嬉しい。
ありがとうございます。

しかし感想が少ない事に疑問を抱く今日この頃。
もう少し質問とかしてくれてもいいんですよ?。


「こやつは多くの妖怪を操る能力を持っている、実力もそこそこ。

お前達にはこの者を捜して欲しい、異能者の相手は退魔師では難しいからな」

 

 写真を手にして早紀は悔しそうに顔を歪ませる。

退魔師は妖怪や悪霊には強いが、通常の人間にはあまり効果がない。

早紀は元々神職の巫女として生まれ、退魔の技を仕込まれているが対人経験が少ない。

その他の退魔師も同じように呪術による戦闘を行う為、対人戦闘を重視していないが。

黒神家は異能と気の力を使って、唯一力尽くで妖怪を倒す珍しい退魔師と言える。

 

「家は妖怪だけじゃなくて異能者も相手にするから体も鍛えるんだよね」

「気の操作を創り出した初代様マジで感謝だな」

 

 対超常現象専門一家と呼ばれる黒神家を創った初代様に両手を合わせて感謝する光

は思い出したように冷都を見て聞く。

 

「兄貴も呼吸法を生み出したよな」

「おお、儂も聞いたぞ。全集中の呼吸と呼ぶらしいな」

「目的の人物は私が捜す、父さんは警察と退魔師と協力して街を。光はそれを手伝え。

木葉は私と一緒に待機しろ」

 

 二人を無視して命令する冷都に、風斗が自分を指差す。

 

「おじいさまは当主代理として此処に居ろ」

「本物の当主は其処におるぞ」

「父さんは現場指揮官を、おじいさまは父さんが倒れた時の代理だ」

「……」

 

 黒い液体は形を変え、黒いカブトムシに変わると空を飛んで街に散らばっていく。

 

「私も手伝うよ?」

「お前の出番は異能者を見つけた後だ。おじいさま、見つかるまで客室を借りるぞ」

「此処はお前の家だ、好きにしろ」

 

 冷都は客間を出ていくと、他の者達も各々の仕事に取り掛かった。

 

「ねえねえ、さっき飛ばした黒いのなんなの?」

 

 客室に向かう冷都に付いて来る木葉は、先程冷都が飛ばした黒いカブトムシ

に興味を示して聞いてくる。

 

「あれは私の能力の応用、一体一体と視界を共有していて何かを捜索するのに使う」

「凄いね!、全部見てるの?」」

「全員とずっと視界を共有している訳じゃない、片目だけ視界を切り替えている。

テレビを複数同時に見るようなものだ」

 

 客室の扉を開けて冷都がベットの上に座る、その隣に木葉も座ると持って来た

カバンを広げ中から本を出して読む。本の内容が犯罪者の心理だった事に複雑な気持ちになりながら

街中を黒い虫を操作して探索しばがら見ている。

 

「冷都様、風斗様がお呼びです」

 

 しばらくすると扉の外から女中の呼ぶ声を聞き、祖父が呼んでいると

伝えられ木葉を客室に置いて、祖父の居る大広間へ向かった。

 

(何故自室ではなく大広間に?)

 

 祖父の自室ではなく大広間に来るように言われたことに疑問を抱いたものの、

どうでもいいと思い大広間の襖を開けると、十数人ほどの男女が集まって座っている。

 

「おお、来たか。さあこっちに座れ」

 

 大広間の上座に座る風斗と早紀が、冷都を手招きして近くの座布団に座らせる。

状況が理解できない冷都は困惑するも、集まっている男女が誰かは理解した。

 

「退魔の一族、それも当主と次期当主か。私に何の用だ」

 

 退魔師の家系は複数存在し、黒神家は退魔師の一族の中でも最も古く全ての

退魔の始祖とも言われている。その為ある一部の訳ありを除いて他の退魔師一族は

家来と大名の様な関係。

 

 集まった退魔師の男女が三人に平伏して頭を下げる。

その内の一番前に居た男が顔を上げて冷都に言った。

 

「此度は黒神家当主様にご協力を承り、此処に二十四名と一人の退魔師が召集された

次第です。何なりとお申し付けください、黒神家次期当主様」

 

 そう言って再び頭を下げる。

二十四名の男女が、一人一人名乗りだす。

 

「天喰魔道槍術当主、天喰天之介です」

「次期当主、天喰外郭です」

「天王獅子浄流代理、烏丸猛です」

「破魔真道剣術神咲一刀流当主、神咲薫です」

「そ、その補佐の神咲那美です……」

「久遠……です!」

 

 冷都は次々と流派と名前を名乗る退魔師達の名前と容姿を記憶していく。

そして最後に最初に喋った細身の男が顔を上げて名乗る。

 

「彼らの統括役を務めます。鋼天真流当主、鋼護でございます」

「黒神家次期当主、黒神冷都だ。当主黒神浩二に代わり私がお前達の指揮を取る。

異存のある者は居るか」

 

 冷都の言葉に誰も反論する事は無い、それを見た風斗が立ち上がり宣言する。

 

「これより我が孫、冷都と協力し妖怪を操る異能者を捕らえる。

当主浩二の命により、あらゆる手段と権力を使う事を許す」

 

 そう風斗が宣言すると三人は大広間から出て、風斗の自室に入る。

その直後冷都が疑問符を浮かべて二人に聞く。

 

「なんとなく事情は分かった、だが父さんの言葉でよくあれだけ集めたな。

しかもかなりの実力者達が……」

(知り合いもいたな……)

「お前は本当に物分かりが良くて助かる、

あそこまで集めたのは奴の人徳と偶然もある」

「偶然ね……」

「先の神咲一刀流は雇われたのじゃ、まあ家系の繋がりもあったが」

「ふーん……」

 

 海鳴市に居た那美と久遠が何故此処に居るのかを思いながら、冷都は携帯電話の着信音

が室内に鳴り響く。

 

「先に部屋に戻る、それと父さんに事前に言えと伝えろ」

「ああ、分かった」

 

 電話をかけてくる相手はなのはからだ、依然高町家に泊まった際に交換したが。

舌打ちを我慢しながら、下らない事なら直に切ろうと思いながら電話に出ると。

 

『ああ! やっと繋がった!』

(フェイト? 何故なのはの電話に?)

 

 電話の主はなのはではなくフェイトテスタロッサだった。友人関係なので連絡先は交換済みな彼女から

態々なのはの携帯を借りたのは何故だろうと冷都は思うが、彼女は衝撃の発言をした。

 

『なのはもユーノもクロノ達も皆敗けちゃった! もう私しか残ってない!』

「……落ち着け、敵か?」

 

 フェイトの焦った声を宥める、相当に緊迫した事態なのだろう。

彼女は泣くような声で続けた。

 

『……敵は、なのはも皆攫って。自分の事を神だって言って』

「……ほう」

 

 フェイトの言葉に冷都は思わず顔がにやけた、無論なのはが消えた事ではない。

神と名乗る者が現れた事に対してだ。

 




相変わらずなのはちゃんだけは嫌いな冷都君。

ツンデレなんだよ……。

ツンデレ じゃなかった本音でしたわ。


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異能者と神と妖怪と

(さてどうしようか、私には異能者捜索の仕事がある。

だが神と名乗る者が本当なら転生者をこれ以上作らせないよう殺しに行くのも手だ)

 

 異能者か神を捜索するか迷う冷都、世間的な脅威度は勿論妖怪を操る異能者だ。

しかしその原因は神という存在、本物であれば迷わず行くが確証がなくフェイトを疑うわけではないが、

その神が異能者を転生させた本人かも不明、最悪ただの狂人の可能性もあり。

冷都が今の仕事を投げ出してまで行く必要は低い。

 

 どうしようか迷っていると、フェイトの不安そうな声が聞こえる。

 

『もしかして今忙しいの?』

「……異能者捜索の仕事があってな、そっちに行くかどうか悩んでいる」

『……そっか、貴方にも大事な仕事があるからね。でもどうすれば……』

「フェイト、事情を知っている人間はお前だけか?」

 

 泣き止んで冷静になったフェイトは冷都が頼れないかもしれない不安を抑え込んで、

別の方法を考えようとするが冷都に呼び止められる。

 

『えーっと、リンディ提督とエイミィさんは残って本局に連絡してる。でも時空管理局との

連絡が繋がらないって言って。私が頼れる人はもう貴方しかいなくて……』

「それはプレシアとはやて達もか?」

『うん、母さんもはやてもあの男に攫われて消えちゃった……』

(あの女が勝手に死んでくれるなら幸いだが、彼奴等が悲しむからな。

それに魔導師と出来た繋がりを切るのは勿体ない。何より守護騎士達のような強者が消えるのは惜しい)

 

 なのはの生存には欠片も興味が無いが、異世界との連絡手段を失い魔法の使い手と強い戦士が

消える事は許容できない。そう思い冷都は黒い液体を変形させ人型にする。

 

「フェイト、詳しい状況は分からんがその場で殺されなかったのなら生きている可能性が高いだろう。

落ち着いて行動しろ、もう戦える人間はお前だけだ。勿論私も協力するが」

『! ありがとう! 分かったけど、どうすればいい? 私は何をすれば』

「攫われた者達が何処に消えたのか、どのように攫われたのかお前にしか分からん。

お前が考えろ、用事が終われば直に向かう』

 

 そう言って通話を切ると、黒いカブトムシの一つが目的の人物を見つける。

 

「木葉、見つけたぞ。出番だ」

「はーい!」

 

 黒神兄妹は二十五名の退魔師を連れて、異能者の男の居る博物館に向かう。

その道中光に連絡を入れなのは達が危険に晒されている事を言うと大慌てで騒ぐが、

直に仕事を終わらせて帰ると言って黙らせる。

 

「失礼」

 

 車に乗り鋼護という男が冷都の隣に座る。

鋼天真流なる退魔の一族がどんなものか分からない冷都だが、統括役。

つまりリーダーに選ばれる程の人材なら相当に優秀だと言う事は理解できた。

 

「護だったか?」

「はい、次期当主様」

「私を護衛の様に守らなくていい、お前達の仕事は異能者の操る妖怪を相手取る事。

異能者そのものは我々黒神が相手をする、家族の誰かが倒れても手を出すな」

「かしこまりました」

 

 博物館は既に閉館しており誰も居ない、警察が連絡して周辺の施設営業販売全て

休ませた所為だ。その為木葉はお土産屋さんが閉まっていると残念がる事がありながら。

冷都は全員が博物館を取り囲むように配置させる。

 

「博物館周辺に退魔師の配置を完了致しました、何時でも突入できます」

「よし、木葉」

 

 警察官と話している木葉を呼ぶと手を振り、博物館扉前に近づく。

その扉から数百体の妖怪、百鬼夜行の軍勢が木葉に襲い掛かる。

 

「手加減、手加減! 虫を相手にするように!」

 

 木葉が拳を握り殴ると、その拳に触れた妖怪達は粉々に消し飛んだ。

そしてその衝撃波により強風が発生し、周りの警察官は驚愕で目を見開く。

 

「あー、ごめんなさい。扉壊しちゃった……」

 

 落ち込む木葉の頭を撫でて冷都が博物館に入っていく、それに護もついて行く。

木葉はその後ろでいってらっしゃいと言ってまた手を振った。

 

「流石は黒神家の一族、凄まじいパワーですな」

「低級ではあるが、一撃で霊力関係なしに妖怪を消滅させるとは……」

 

 護とその側近だろう人物が木葉の実力に驚きを隠せない。

冷都は昔から知っている為に冷静だが、もし初見ならば同様に驚いただろう。

規格外、黒神家を知る者は皆そう言う。他の異能者とは比べ物にならない異能の力、身体能力、発想。

戦慄する退魔師達を余所に冷都は件の異能者を探す。

 

「ようこそ、黒神冷都様。私の名前は……」

「光撃て」

 

 男が名乗る前に冷都が通信機を持って光に命令する。

その瞬間、二百を超える閃光が異能者の体を突き壁に貼り付けにする。

 

「ぐああああああ!?」

 

 悶絶する男の周りに配置された妖怪を護と側近が瞬殺する。

数百の妖怪の群れを流麗な動きで払い殲滅していく、それを訳の分からないという顔で見る男。

張り付けにされた男に近づいて、腹部に一撃拳を入れると男は気絶した。

 

「残りは頼んだ」

「任されました」

「御意」

 

 貼り付けの男を拘束して黒い触手で持ち上げ、博物館から出て行く。

男を警察官に渡し背後を見ると、退魔師達の戦闘音と地響きが鳴る。

 

「木葉、父さんに仕事は終わったから帰ると言っておいてくれ」

「オッケーイ! 先に帰るの?」

「ああ、海鳴市に一旦帰る。用事が終われば直に戻る」

 

 そう言い残して冷都は警察官達の目の前から消えるように移動した、木葉は

冷都の向かった方向にバイバイと手を振る。それを唖然と見た警官達後から冷都の事を聞かれて

浩二は溜息を吐いたとかなんとか。

 

 海鳴市に移動しながら冷都は携帯を取り出してフェイトに電話を掛けた。

 

「フェイト、仕事は終わったぞ。直に向かう」




三兄弟が強すぎて本来めちゃくちゃ強いはずの敵が瞬殺される……。

今度の敵は、今度の敵は頑張ってくれるはずです!。(勝てるとは言ってない)

呪術を使えない冷都君ですが、呪術に興味を持ってないので荒れてはいません。


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生命の樹

修行篇突入と本格的異常な行動開始。


 生命の樹というものが存在する、実在するわけではない伝説の木の事だ。

エデンの園に植えられた命の木、その木から実った果実を一口食らえば永遠の命を得られるのだという。

人類は過去に知恵の実を食べた、欲望の尽きない人類が目の前にそれが現れた時どうするか。

 

「なに……これ……」

 

 フェイトは己の見る物が現実か夢か分からなかった、目の前に広がる光景に目を疑う。

巨大な大樹が雲にかかるほど高く、海鳴市を飲み込む程の巨大樹。

 

「どうしたらこんな事に……」

 

 数日前の事、彼女達は管理局の嘱託魔導師として時空管理局に協力し

管理世界で、危険生物の保護と調査を行っている時の事だった。

危険な植物型魔獣を回収して、管理局の職員に渡し地球に帰った所までは良かった。

 

 しかしその数日後、異変は訪れた。

 

「貴方は、誰?」

「我は、神なり」

 

 突然現れた男は神を名乗り、管理局員、守護騎士達、なのは達を瞬く間に全滅させ。

フェイトはアルフの強制転移魔法により離脱、意識を取り戻した直後に冷都に連絡した。

 

「成程、その男はどんな容姿だった?」

「上半身裸で、耳たぶの長い人だった。貴方の様にレアスキルを持っていて体が雷になって攻撃が当たらないんだ」

 

 ハラオウン宅でリンディとフェイトが冷都に事の顛末を話す。

 

「貴方に迷惑を掛け続けて悪いとは思うけど……」

「構わない、むしろ神と名乗る相手には会ってみたい。もしかすれば探し人かもしれんからな」

 

 彼らの最期の戦闘データを見ながらフェイトが冷都に頼み込む。

 

「冷都、お願いがあるの!」

「なんだ」

「全集中の呼吸をもっと詳しく教えて欲しいの!」

 

 真剣な面持ちで冷都に顔を寄せるフェイト、その目をじっと見て己の無力感に打ちひしがれ。

諦めずに立ち上がろうとする未来の強者。向上心の高さを見た冷都は悩む。

 

「……構わないが、神の捜索はどうする」

「それは私達がやるよ、時空管理局との連絡がやっと着いたんだ」

 

 部屋から出てきたエイミィがソファに倒れる、リンディがそれに微笑み直に真剣な顔に戻る。

 

「フェイトさん、冷都君。なのはさん達の捜索は私達管理局が行います。

貴方達は発見次第の保護と彼の逮捕をお願いします」

「了解!」

「良いだろう、リンディ。フェイトの修行は家でする、構わないか?」

「はい、フェイトさん。頑張ってね」

 

 フェイトが頷くと冷都がハラオウン宅から出て家に向かう、その後ろをフェイトが着いて行く。

 

「お前の体は既に基礎が出来ている、全集中の呼吸の更に先の技術を教えよう」

「はい!」

 

 家に着いて広い庭の中心でフェイトがバリアジャケットに着替えて冷都の前で正座する。

冷都は何処か楽しそうにして彼女に修行の方法を教えた。

 

「しばらく連休だからその間の全てを修行につぎ込む、勿論なのは達が見つかり次第打ち切るが」

「はい!」

「お前に教えるのは、全集中の呼吸・常中だ」

 

 フェイトが冷都の説明を聞くが顔が段々と汗が出て青くなってくる。

 

「え、ずっと。あれを? 本当にです?」

「本当にです」

 

 口を開けて冷や汗を流すフェイトを励まして、修行を開始させた。

特別な事をやらせるわけではなく、魔法を使用しないまま全集中の呼吸をさせる。

ただひたすら努力させるだけの簡単な事を言って、半日ほどすると倒れて動かなくなり。

マイナスで体力を回復させると、また修行を再開させた。

 

「アリサ、フェイトを見てろ」

 

 人形に憑依したアリサに命令してフェイトを任せた冷都はコートを着て出かける準備をする

 

「貴方は何処かに行くの?」

「なのは達が消えたんだ、士郎達にはリンディが連絡したが。彼奴らの友人にはまだ話していない」

 

 そう言って出て行くと、すずかに電話をかける。

 

『はいもしもし、すずかです』

「すずか、アリサバニングスをお前の家に呼べ。なのは達の秘密を教えてやる』

 

 そうして数十分後、冷都は月村家に来た。

 

「で、秘密って何ですか?」

「先にこれを見ろ」

「は?」

「ごふ!」

 冷都はアリサの前で黒い剣を作り出して見せる。

それに驚いてアリサは手に持ったカップを落とし、忍はお茶を吹き。すずかは思考停止した。

 

「な、アンタそれ……」

 

 あまりの動揺に敬語が消えるアリサだが、致し方無い事である。

彼女は冷都と会った記憶が喪失し、その能力も何もかもを忘れている。

 

「超能力だ」

「冷都君?」

 

 何を考えているのという顔で冷都を見る忍、それを無視してアリサに魔法を見せる。

小さな魔力弾を生成して彼女達は目を白黒させる。冷都が何をしたいのかさっぱり理解できない

忍は動揺を隠せずにいた。すずかもそれは同じだが、冷都を信じて黙っていた。

 

「アリサ、お前は魔法使いをどう思う?」

「どうって……何が?」

 

 質問の意図が分からないアリサが冷都に聞き返す。

 

「高町なのはが魔法使いだと言われたら、信じるか?」

「!?」

「……」

 

 忍は衝撃の発言に驚愕した、アリサは深く考えるような仕草をする。そして。

 

「それ、私にも使える?」

「お前には無理だ」

「……残念ね」

 

 そう言って心底残念がるアリサにすずかは困惑する、何とも思わないのかと。

 

「アリサちゃん、魔法使いに何とも思わないの?」

「別に? 目の前に本物の超能力者が居たら。そりゃあ魔法使いだっているでしょう。

まあそれが友人だったのは驚きだけど」

「……」

 

 すずかは絶句した後、泣きそうになるのを必死に我慢する。

それに気づかないアリサは前のめりになって冷都を見る。

 

「なんでそんな事を私達に教えるの? なのは本人じゃなくて」

「高町なのはは帰って来ない、しばらくの間は」

 

 今までの困惑も何もかもを投げ捨て、アリサは立ち上がって冷都に詰め寄る。

 

「どういう意味!?」

「高町なのは、八神はやて、その他諸々が正体不明の男に攫われた。

現在行方不明だ」

 



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アリサの決意

「そ、そんな……」

 

 残酷な現実を告げられたアリサは椅子に座って項垂れる。

 

「警察は?」

「お前にはまだ分からないと思うが、異世界の事だからな。日本専門の警察には到底無理な話だ」

 

 実際にはもっと複雑な話なのだが、アリサに分かりやすく説明する為にわざと省いた。

 

「何故私達になのはちゃん達の事を?」

「友人であるお前達にはちゃんと話すべきだと思ってな、なのは達は何時か話すと言っていたが。

先伸ばしてタイミングが無くなる前に私から言った、それに奴らも今は居ないしな」

 

 本心ではそんな気遣いをする為に話したわけではなく、アリサとすずかになのは達に関する情報を持っていないか

可能性が薄いと思いながらも話しただけである。案の定無かったわけであるが。

 

(私の秘密も話してしまったが、デメリットになる事もないだろう)

「何か質問はあるか?」

「……なのは達はどうなるの?」

「助ける、今協力者が捜しているのだ」

 

 不安な表情をするアリサに冷都がはっきりと答えると、笑って立ち上がる。

 

「全く、貴方には敵わないわ。昔から」

「お前と戦った事などない」

「そういう意味じゃない、……それで。私に何か出来る事はある?」

「私も手伝います!」

 

 友人の危機に不安を抱くが冷都の顔を見て安心したアリサは協力すると言う。

すずかもそれに同意するように手を挙げると、忍とノエルは苦笑いする。

 

「そうだな、特に聞きたい事は無い。お前達から得られる情報ない」

「直球よね……」

「冷都さんの悪い所が出た……」

 

 アリサとすずかが露骨に凹むと忍が冷都に聞く。

 

「そうだ、恭也に聞いたのだけど。そのなんとか呼吸法を教えてあげれば?」

「全集中の呼吸か、時間が無い。この二人では最低でも半年はかかる」

(私が無理矢理二人に回復と修行の繰り返しをさせれば半年、それ以外だと3年は掛る)

 

 二人を強くして戦わせるという選択肢は始めから無い、忍もそういう意味で言ったわけではなく。

ただ単に言ってみただけである。

 

「それならなのは達を助けられるの?」

「多分無理だ、今度の敵は物理攻撃が効かないらしい」

「なにそのチート……」

 

 結局二人は何の役にも立てない事に落胆する事になった、が。

 

「そう言うな、それ以外の才能ならばある」

「え? 本当に?」

 

 冷都は顔を上げる二人に顔を近づけてアリサの顔を掴む。

 

「え、ちょっと!?」

「お前はもう、強い」

 

 その体が炎上する、アリサは手足をバタバタと払って火を消そうとするが熱くない事に気づく。

 

「あれ? 熱くない、燃え広がりもしない。何なのこれ?」

「お前の発現した異能の力だ」

 

 アリサは己の体を凝視して驚く。

 

(もはやキャパオーバーなのよ!?)

 

 思考の中は混乱と困惑と驚愕で一杯だった。アリサは気絶した。

 

 一時間ほどするとアリサが目を覚ます、夢だったかと思ったが

目の前で冷都が黒い剣を持ってすずかに見せているので、現実だと気付いた。

すずかはアリサが目を覚ましたことに気づき、安心した表情をする。

 

「良かったーアリサちゃん心配したよ」

「冷都の所為よ」

「何故だ?」

 

 アリサは自分の手を見つめて念じる、すると手からまた赤い炎が出る。

少し驚くものの、さっきの様に気絶する事は無かった。

 

「お前は慣れるのが早いな」

「まあね、コツは分かったわ。でもこれで何ができるの?」

「知らん」

「おい」

 

 冷都の言葉にアリサは突っ込む、無表情のまま冷都はアリサの手を見つめる。

 

「私は何でも知っているわけではない、どんなものかは自分で調べろ」

 

 と素気無く伝えられたアリサは渋々納得する。

 

「そうなの……分かったわ」

 

 それを見届けたすずかが冷都に近寄る。

 

「冷都さん! 私は?」

 

 キラキラした目で期待したように見つめて来るが。

 

「お前には別に教える物がある、だが今回はお預けだ」

 

 と言われて四つん這いで項垂れた。

 

(人に物を教えるという感覚は悪くない、しかし今は時間が無い)

 

 なのは達の救出という用事が無ければ何時でも修行を付けたが、

今の状況を見ると彼女達を今から鍛えて得られる戦力は無に等しい。

 

「お前達の修行はなのは達を助けてからだ」

「それじゃあ本末転倒じゃない、強くなる意味が無いわ!」

「次に助ければいい」

「……」

 

 アリサが冷都の言葉に反論するが速攻で答えた冷都に黙る。

 

「今の無力さが人を強くする、安心しろ。必ず助けて見せる」

「……約束してね」

 

 泣きそうな顔になりながら、冷都を強い目で見つめるその眼差しは

過去の彼女を彷彿させた。

 

 冷都はゆっくりと頷き、電話で人形アリサからフェイトが気絶した事を伝えられ速攻で家に帰った。



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全集中の呼吸・常中

 

「フェイト、お前は全集中の呼吸を毎日やってもらう。食事も眠っている間もだ」

「え」

 

 そう言われたフェイトの顔は青かった。

 

「それが何日前の話だっけ?」

「昨日の事だな」

 

 瞳孔が開いて両腕を震わせ、腕立て伏せを行っている。

バルディッシュは機械の思考の中で思った。

 

(記憶喪失……)

「もっと早く腕立てしろ、呼吸も止めるな。お前はまだ頑張れる、出来ないなら治してやる」

「やります! やらせてください!?」

 

 恐怖と脅迫と激励を受けたながらフェイトはこの二日間、修行を続けていた。

全力疾走腕立て腹筋、あと手合わせ(瞬殺)を繰り返し彼女は早くも常中の基礎が出来てきた。

 

「良いぞ、二日で常中とはやはり才能がある」

「ありがとうございます!」

 

 褒められてもその顔は恐怖に引き攣り、笑顔は悲惨さすら感じる。

フェイトは確かに天才だ、この二日で常中の入口に立っている。その結果冷都は完全に

手加減を投げ捨てた。最早なのは達の事は忘れ、フェイトが何処まで耐えられるのかの

耐久テストすらしている始末。

 

 そんな彼女の思考の中は。

 

(アリシアアリシアアリシアアリシアアリシアアリシアアリシアあああああああ!?)

 

 会った事の無い自分の姉の名前を心の中で必死に叫ぶ。

怪我や体力の消耗は直に治され、心が折れかけるとなのは達を思い出す。

 

「うおおおおおお!?」

「良いぞ、頑張れフェイト」

 

 無限地獄だった。

 

(何この地獄絵図)

 

 アリサは汗をかかないはずの体から汗が出たような気がした。

異常な光景を見ては発狂する探索者の様な気持ちになったという。

心配そうな顔をしてフェイトを見るが、その鬼気迫る顔に何も言えなくなった。

 

「……精神の方は大丈夫なの?」

 

 冷都に顔を向けて心の心配をする、それを問題ないと首を縦に振る。

 

「その気になれば精神も治せる、それに友人を助けたいと言ったのはフェイトだ。

私はそれに手を貸しただけ」

(フェイトが壊れようが、なのは達救出まで動けばそれでいい)

 

 修行の方法は合理的ではあるがフェイト本人の人格にはまるで配慮していない冷都は、

このまま自分の都合の良い人形になればもっと良いと考えた。しかしその方法は最悪人間関係の破綻するので止めた。

 

「よし! フェイト、もういいぞ」

「え? まだ逝けるよ?」

 

 フェイトは霞んだ瞳で冷都を見るが、首を横に振りバルディッシュを持たせる。

 

「今度は呼吸しながらの技の訓練だ、私と戦って慣れてもらう」

「わ、わかったバルディッシュ、セットアップ」

 

 フェイトが杖を起動状態にして、冷都から離れて構える。

 

「準備良いよ!」

「よし」

 

 剣を作りフェイトに剣先を向ける、フェイトは深呼吸をして普通の状態から全集中の呼吸に切り替える。

 

 ――常中・発動!

 

 前方に踏み込み、強く地面を蹴り魔法を発動する。

 

「!?」

 

 自身の動きが予想以上に速かった事に驚き、冷都を通り過ぎ体勢を崩して転ぶが直ぐに起き上がって構える。

魔法と呼吸の同時使用による速度の向上は素晴らしい結果を出した。

 

(やはり呼吸と魔法の相性は良かったな)

 

 フェイトの動きを見た冷都が内心で歓喜する、修行の成果が出ての喜びと魔法との組み合わせもできる呼吸法の

更なる発展を見た事による興奮。冷都の無表情だった口がニヤリと笑う。

 

「ソニックムーブ」

 

 高速移動魔法と呼吸を使用して冷都に接近する、今度は慣れたのか体勢を崩す事は無く。

バルディッシュを振り下ろす。

 

「はあああ!」

「ハーケンスラッシュ」

 

 振り下ろした雷の刃をギリギリで回避して、フェイトの脇腹に斬りつける。

地面に突き刺さった刃を筋力の力で抉り地面をひっくり返した。

 

「ああああ!」

 

 ひっくり返した土の壁を冷都にぶつけようとするが、後方に跳躍した冷都に回避される。

跳躍した瞬間を狙い、高速移動魔法を使用した。

 

「今度は当てます!」

 

 冷都が地面に着地した瞬間に、射撃魔法を発動。

 

「ハーケンセイバー」

 

 フェイトの射出した回転する刃の攻撃を受け止め弾く、しかし弾いた刃は冷都に返って来る。

追尾性能を持ち合わせた刃を観察していると、フェイトが魔法の発動する。

 

「シャアアアアア」

 

 呼吸により一層強化された魔法の速度は冷都に脅威的と思わせる程のものだった。

魔法を使用したフェイトがバルディッシュに呼びかける。

 

「バルディッシュ!」

「ザンバーフォーム」

 

 魔力刃を生成した杖、その形状は杖と言うよりも大剣と言う方が正しいだろう。

威力、範囲、速度を向上させたフェイトが確実に冷都を倒す為に発動したそれを見た冷都は目を見開く。

 

「おお……」

「疾風・迅雷。スプライトザンバー!」

 

 迫りくる刃と巨大な剣を見て冷都は思った。

 

(しかし、今だ我が身へは届かない)

 

 フェイトの渾身の一撃は冷都の一振りの斬撃で消し飛んだ。

 



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完璧な人間

 

 一振りの斬撃が周囲を切り裂き、木々が薙ぎ倒されフェイトの魔力刃も破壊される。

その衝撃波に吹き飛ばされて尻もちをつくフェイトの首に剣を突きつけた。

 

「お前はまだ使いこなせていない、後一月欲しかったが。そうも言ってられないようだな」

「? それはどういう」

 

 冷都が剣を消して後ろを振り向き、フェイトも視線の先を見るとリンディハラオウンがアリサと一緒に立っていた。

フェイトを回復させリンディをリビングにまで案内して話をする。

 

「なのはさん達を連れ去った男の拠点が見つかりました」

「本当ですか!」

 

 ソファに疲労で倒れながらリンディの言葉で起き上がる、それを首を縦に振って肯定する。

 

「しかし、付近の世界で謎の次元震が発生してしまい時空管理局への連絡手段は回復しましたが、増援は送れません。

貴方方と私の三人でなのはさん達を救出します」

「わかりました、冷都?」

「わかった、その拠点とやらは何処にある?」

(ついでに光と父さんも呼びたかったが、後始末で忙しい。木葉も味方を巻き込みかねない力を持ってる。

やはり私だけで行くしかないか)

 

 地球側の戦力を期待できない事に残念がるが、致し方ない事だと納得する。

光からは連絡が来たが仕事で忙しい、木葉からも連絡が来たが信じているというメールだけが送られてきた。

 

 リンディは何かの機械、おそらくデバイスか何かを取り出して空中に映像を映し出す。

 

「なのはさん達の魔力反応を追って見つけた場所です、男の拠点かどうかは確証が持てませんが。

なのはさん達が居る事は確かです」

「此処は……」

 

 見覚えのない地形と空間が歪んでいる場所が映し出される。

不自然な穴が空中に浮いているその周りには人気のない雪山のような場所だった。

 

「雪国?」

「地球で言う南極です、明日の朝、転移魔法で向かいます。いいですねフェイトさん冷都君」

「わかりました!」

 

 リンディの言葉にフェイトが敬礼する。明日の朝南極救出決行。

その後、彼女達で作戦会議を行いエイミィが通信サポート。リンディが後衛。

フェイトと冷都が前衛の簡単な打ち合わせを行った。

 

「それでフェイトさんの調子はどうでしょうか」

「まだ不安だ、後最低でも一週間は欲しかったな」

「ご、ごめんなさい……まだ起きている間しか出来なくて」

 

 常中の訓練は順調に行われたが時間が無く、明日の朝出発となるとフェイトのコンディションを考えて

今日の訓練はこれで打ち切りになった。回復を多用しても良かったが精神回復は慣れると効果が出にくくなる為である。

 

「いや、お前の成長速度は凄いぞ。後は自分の戦闘技術に組み合わせるだけだな」

「はい! わかりました!」

 

 フェイトの顔と目が再び恐怖を合わせた笑顔になり、リンディがドン引きする。

修行内容を聞くともっと引かれるなどの事があり、フェイトが正気に戻る頃には夕方になっていた。

 

 夜になり、フェイトが庭に出てバルディッシュを素振りする。

不安を振り払うように。

 

「此処で初めて会ったんだよね、貴方と」

「ああ、そうだったな」

 

 白髪の少年との戦い、その時フェイトを助けたのが関係の始まりだった。

冷都は椅子を作り腰かけて素振りするフェイトを見る。

 

「……彼の体は、何処に行ったの?」

「知らなくていい、忘れろ」

 

 顔を見せずにフェイトが冷都に聞くが、冷都は答えなかった。

暗い顔になり胸が締め付けられるような罪悪感が彼女の胸を突いた。

 

「フェイト、別に珍しい事じゃない。人はいつか死ぬのだ、私も何人も死体を見てきた。

母の死、友人の死、他人の死。それは何時か来る結末だ」

 

 フェイトは冷徹に冷淡にただ事実を語るその姿に何も言葉が出てこなかった。

だがそれでも彼女は思う、あの時もっと良い方法があったのではないかと。

 

「結末は変わらない、もはやあれは過去だ。だからこそ考えるだけ無駄なのだ」

「過去も大事だよ……」

「重要なのは未来だ、お前は死に物狂いで友人を助ける事だけ考えろ」

「冷都……」

 

 他人の命より友人の命、優先順位を履き違えてはならない。

彼女はなのは達を助ける事だけ、それだけを頭に入れておく。

 

「人の死が見たくないのなら、お前自身が強くならなくては駄目だ。お前がやるんだ」

 

 他人を助けたいのなら自分自身がもっと強くなればいい、単純な話だ。

 

「なら、助けるよ。皆の事も貴方の事も」

「私の何を助ける」

 

 後ろを振り向いて家に戻ろうとする冷都に宣言する。

これは彼女の決意と覚悟の表明、冷都に対する報いだ。

 

「貴方は今、とても悲しい目をしている。なのはが前に私が言ったような目を。

貴方もしていると思う」

「……」

「自分では気づいてないと思うけど……何時か私が貴方を助けて見せる!」

 

 冷都は何も言わず、彼女の言葉を聞いて部屋に戻った。

 

(何を言っている何を知っている? お前如きが私を助ける?

お前程度の人間に救われる? 何をだ、何を助けるつもりだ。

私は何も悲しくない、私は誰よりも強く完璧な人間だ。完成された生物だ)

 

 フェイトの言う事を頭から否定する、何も悲しくない何よりも強いと。

 

(私はこの世の誰よりも満たされている、何の助けもいらんのだ)

 

 その時冷都の足元に何かの紙切れが落ちる、それは家族写真だ。

古くなった写真立てから落ちたのだろう、その写真には家族五人が写っていた。

 

「……」

 

 冷都はそれをバラバラに引き千切るとゴミ箱に捨てて眠りに付いた。

銀髪の女性の写った部分を特に派手に引き裂いて。

 

「満たされている」

 



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異界

 

 翌日の朝、南極雪山。

冷都、フェイト、リンディが転移魔法でその場所に到着した。

 エイミィの通信が彼女達の耳に入る。

 

『その空間からなのはちゃん達の魔力反応があるよ!』

「改めて見ると、空間に穴が空いているというのは不思議なものだな」

「だね、ブラックホールみたい」

 

 フェイトが地球に来てから知った知識で例える、確かに空間の歪みは

渦を巻いたような形になっている。

 

「入るぞ」

「うん!」

「はい!」

 

 冷都が歪みに手を入れて中に入ると、その向こうがはには雪国ではなく。

巨大な大樹と白い雲の下だった、冷都達は空から自由落下していく。

直に飛行魔法を発動して空中に静止するが、フェイトとリンディはその美しい光景と大樹に魅了されていた。

 

「リンディ、反応は何処だ」

「あ、はい! こっちよ」

 

 魔力反応を追って攫われた者達の捜索を行う、リンディについて行くと段々と巨大な大樹に近づいて行く。

冷都はなんとなく目的地がそこな気がした。直感に従ってリンディを追い越して先に進み、

大樹の根張りに近づき手に触れると、木の中に人が囚われている。

 

(魔力を吸収している?)

「冷都! 当然どうしたの?」

 

 フェイトは分からないのか、疑問符を浮かべて冷都を見る。

囚われた人物は分からないが、冷都は二人を無視して木を素手で引き千切る。

その中から出てきた人物に驚いて目を見開く二人に渡す。

 

「これは!?」

「なのはさん達と一緒に攫われた地球の局員です!」

 

 リンディはまさかと思い大樹に目を向ける。

 

「その感は当たっていると思うぞ、リンディ」

「え? どういう事?」

 

 理解が追い付かないのかフェイトが冷都に聞く。

 

『フェイトちゃん、この大樹は魔力を吸収して成長してるんだと思う……』

「魔力を?」

 

 フェイトも大樹に目をやる、そして冷都が木の中に手を突っ込み何かを取り出した。

 

「魔力を吸収する理由は知らんが、生かすつもりは無いようだ」

 

 二人にそれを見せる、取り出した物は生前の人の遺体だった。

体は既に白骨化し、着ていたであろう衣服はボロボロになっている。

 

「……この大樹、一体何人取り込んで……」

「成長速度は知らんが、十人二十人程度では此処まで成長はしないだろうな」

「……」

 

 リンディは激昂しそうになるのを抑え込んで頭を冷やす、フェイトは己の友人と今まで吸収してきた者達の事を考えた。

 

「許せない!」

 

 フェイトは拳を握り杖を震わせる、激情に駆られて樹を破壊しそうになるのを何とか我慢する。

二人を余所に冷都は男が居ないかと周りの気配を探る。

 

「できるだけ助けるぞ、魔力が吸収されて戦う事は無理かもしれんが」

 

 冷都はそう言うと、マイナスエネルギーを放出する。

黒いエネルギーが大樹と世界に広がる。

 

「何をしたの?」

「敵の探索と彼奴らの居場所を捜した」

 

 マイナスエネルギーをソナーの様に使い、生きている人間の生命エネルギーを探知した。

 

「触れて確認するなんて面倒だからな」

 

 冷都の指示で二人は囚われた人々を救出していく、しかし出て来る者達は管理局員だけで

フェイトは知り合いが出てこない事に焦りだす。三十人の魔導師を救出するとフェイトが次は何処かと冷都に目をやるが。。

 

「これで全員だ」

 

 そう言って膝を付くフェイト、疲労感もあるのだろうがなのは達が居なかった事がショックなのだ。

しかし直に立ち上がる。

 

「シャアアアァ、……この大樹にはもう誰も居ないの?」

「大樹の表面には誰も、だが中に空洞がある。その中に居るだろう」

 

 そう言うとフェイトがバルディッシュを構えて大樹へ向けて魔法を放とうとする。

 

「なら早く中に入ろう!」

「それはいいが、大樹を無理に攻撃して中に居る彼奴らを巻き込んでも良いのか?」

「う」

 

 冷都に言われて気付いたのかバルディッシュを下ろすフェイト、リンディが管理局員に回復魔法をかけている。

しかし魔導師達は目覚める気配はない。

 

「リンディ、彼らの回復を続けろ。もし一人でも起きたらそいつに情報を何でもいいから聞け。

敵の目的が分かるかもしれん、転移魔法で私の家まで送ってからでいい」

「分かりました、お二人共御武運を!」

 

 転移魔法で魔導師を連れて消えたリンディを見送り冷都が大樹に触れる。

 

「手作業で行くか」

 

 黒い触手を手の形に変えて樹の壁を削り取っていく、そのまま中に進んでいくと

確かに空洞が存在した。空洞の中は迷路の様にいくつもの通り道がある。

フェイトが魔法で灯りを作り暗闇の空洞を明るく照らす。

 

「冷都、この中に皆が?」

「今から捜す」

 

 再びマイナスエネルギーを放出すると、迷路の奥から誰かが歩いて来る足音が二人の耳に入る。

あの男かとフェイトが構えるが、出てきた人影は赤髪の少年であり男ではなかった。

 

「侵入者発見、って転生殺しもいるじゃん……」

「は? ああ……ふん」

 

 転生殺し、恐らくは転生者を皆殺しにした事からその名前が付けられたのだろう。

それを知っていると言う事は彼も転生者と言う事になる。

 

「大人しく投降してください、連れ去った人達も解放してください!」

「僕にじゃないくて神様に言ってよ、まあ上に行けば会えるけど」

「やはり上か」

 

 上を向いて冷都は樹を削ろうとするが、それを赤髪の少年は砂を二人の周りに集めて止める。

 

「止めた方が良い、もしも樹を破壊したら神様が何するか分からないしね。だから僕達側から提案」

「何のですか」

 

 フェイトが警戒して少年を見る、少年は狂気の笑顔で二人に答えた。

 

「皆が死ぬ前に、僕達全員殺してみろよ!」

 

 砂の波が二人を襲った。

 



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規格外の者達

 

 砂の波を高速移動で避けたフェイトは射撃魔法で赤髪の少年に攻撃する。

 

「プラズマランサー、ファイア!」

 

 直線で赤髪の少年に向かって行く、それを砂の盾で防ぐが簡単に破壊される。

少年は足場の砂を操り空中に飛んだ。

 

「ターン!」

 

 魔法弾はフェイトの言葉と共に方向転換して少年に向かって行く、少年は魔法弾に手を向けるが。

冷都が高速で背後を取り、首に手刀の一撃を入れると少年は気絶した。

 

「呆気なかったね」

「雑魚だったのだろう、此奴の言葉通りなら他にも仲間が居るはずだ。

恐らく上に行けば行くほど強い敵が待っているはずだ、行くぞ」

「はい」

 

 探知能力を使って迷路を進んでいくと先程の通路よりも広い場所に出る。

奥には一つだけ道が存在して、その前に一人の男性が仁王立ちで立ち塞がっている。

 

「よく来たな勇者よ! 俺の名前はスパーダ! 此処を通りたいなら俺を倒してから行け!」

 

 スパーダ、イタリア語で剣を意味するその名前の通り彼は一本の剣を所持している。

フェイトが構えて男を見据えるが冷都が前に出て剣を作る。

 

「剣士か」

「ふ! さあ来るがいい! 俺は下に居た者よりも……!?」

 

 瞬間、冷都の姿が男の視線から消え剣諸共体を斬り刻まれた。

男は何事かも理解する事もなく、気絶した。

 

「速い……」

(想像以上に速い、そして強い! 彼の強さは知っていたけど、此処まで圧倒的だなんて)

 

 フェイトは己の目の前に居る本物の強者に戦慄した。

そしてそれ以上に安心があった、彼とならば皆を助けられると。

 

「そうは問屋が卸さないよ、全く……一人で突っ走ってどういうつもりだ?」

 

 奥から十五人の男女が歩いて来る、彼らは二人を取り囲むように周りに散らばる。

 

「全員異能者か? いや、何人か魔導師が居るな。随分と慕われているようじゃないか神様は」

 

 フェイトと冷都は背中合わせで構える、十五人は武器や拳を構えて二人に襲い掛かろうとするが。

天井から魔法弾の嵐が異能者達に降りかかる。

 

「刃以、血に染めよ。穿、ブラッディダガー!」

 

 赤い魔力弾を撃ち込んだ相手の姿を見てフェイトは驚く。

 

「はやて! リインフォース!」

「久しぶり! フェイトちゃん冷都君!」

「リインフォース?」

 

 現れた相手は八神はやて、その髪は銀髪に瞳の色は青くなっている。

 

「ユニゾンだったか、久しぶりに見たな」

「済まない、また迷惑を掛けた」

 

 はやてとリインフォースが融合した姿で現れ驚くが、異能者達の攻撃がやって来る。

それを冷都が黒い盾を広げて防御する。

 

「なんでセフィロトから出てるんだ!?」

 

 異能者の一人がはやて達を見て困惑する。

セフィロト、生命の樹の名前を口にした男に冷都が目を向けた。

 

「何人か、一人で良いか……捕らえて口を割らせよう」

「はい」

「うん、こっちも説明せなあかん事あるしな!」

 

 三人は武器を構えると戦闘が始まった。

 

 

 巨大樹生命の樹、セフィロトと呼ばれたその頂上にその男は居た。

 

「ふむ、どの程度持つだろうか。それとも私の居る最上階まで来るか……楽しみだな」

 

 男は目を瞑ったままの状態で三人の動向を見ていた。

魔法ではない、その技術はどちらかと言えば気に近いだろう。

男は邪悪な笑みを浮かべ、手に持った果実を食した。

 

「どちらにせよ、我が身へは届かない。ヤハハハハ!」

 

 心底愉快そうに高笑いをする男は、金色の杖で地面を叩いた。

 

 

 その五分後、十四人の男女は呆気なく倒れ残った一人に冷都は剣を向ける。

所々が焼けた後や氷の山が出来ているが、三人は無傷で立っていた。

 

「さて、話をしようか」

 

 剣を突きつけられた男は大人しく従った。

はやてとフェイトは離れてお互いの情報交換を行っている。その間に冷都は男を尋問する。

 

「攫われた者達は」

「知らない、本当だ! この大樹の何処かってだけで分からないんだ!」

 

 男の血管や肺の動きを見て嘘を吐いてはいない事を確認すると次の質問をした。

 

「お前らの目的は」

「この木を守る事、神トーノの命令だ」

 

 トーノ、それはフェイト達を襲った雷使いの男の名前だ。

トーノは多くの異能者を仲間にしてこの樹を守るように命じているらしい。

 

「何故守る? この樹は何のためにある」

「力を溜める為だ、この樹の名はセフィロト。この樹が育って実った果実を食らえば

永遠の命が得られる。だからトーノはこの樹を育ててるんだ」

 

 トーノの目的に冷都は少し興味があった、永遠の命。

不老不死を手に入れる事は多くの人類が考える夢であり、現実では決して手に入らない代物だ。

聞きたい事を終えて冷都は男を気絶させるとフェイト達が近づいて来る。

 

「聞き出せた?」

「ああ、奴の目的は……」

 

 冷都が三人に男の情報を説明すると、二人は困惑を露にする。

 

「永遠の命、本当にそんなんがあるんか?」

「知らん、私も不老長寿の仙人になら会った事はあるが……」

「あるんだ……」

 

 完全な不老不死を実現させた者は冷都でさえ心当たりがない、それは神話や伝説のお話だからだ。

しかし男の話が事実であり、本当に永遠の命が手に入るのなら。

 

(それを私が貰ってやろう)

 

 冷都が邪悪に考えた。



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仲間

 

「はやて、何故お前は起きている? 今までどうしていた」

 

 他の者達は気絶した状態で樹の中に囚われていたが、はやては何故無事だったのか。

疑問に答えたのはリインフォースだった。

 

「私は主はやてが気絶した瞬間まで融合状態で留まっていたからだ、

男が消えた瞬間この木々が主を飲み込もうとした。

私は実体化して主はやてを救出し、この二日間お前達が来るまで隠れていた」

 

 リインフォースは淡々と起きた出来事を語り、はやては真剣な面持ちで二人を見た。

 

「私の騎士達もこの中のどっかに居るねん、私も一緒に皆を捜すで」

「わかった、この先にも異能者が居るだろう」

 

 三人は警戒しながら奥へと進んでいく、道中に待ち構えていた異能者を次々と相手にしながら。

 

「あーもう、どんなけ居んねん!」

 

 はやてが余りの敵の多さに悪態を吐く、奥へ進む度に敵は強くなってきているが。

二人の戦闘力とはやての広範囲攻撃で如何にかなっている、それでも連戦は彼女には厳しいだろう。

 

「はやて、足は?」

 

 フェイトは異能者の魔力弾を切り裂き、魔法を唱えるはやてを庇う。

 

「もう歩けるよ、流石に走れへんけど」

 

 魔法を放ち二十人以上の敵を氷漬けにする、残った敵を冷都が倒す。

戦闘の衝撃で近くの壁が崩れた、樹木の強度は普通のものよりも強固だが。

それでも魔法の力には耐えられなかったのだろう、その壁の中も空洞になっておりその中には。

 

「シグナム! ヴィータ!」

「アルフ達も居る、良かった……」

「此処が心臓だったようだな、お前の母親も居るぞ」

 

 捕らえられた者達を木の枝から解放する、しかしフェイトがある事に気づいた。

 

「なのはは何処?」

 

 初めての親友、なのはの姿が見当たらない事に気づいたフェイトはアルフを起こそうとする。

 

「冷都君……もしかして」

「リインフォースの様に逃げたか、どうやって逃げた?」

 

 その瞬間、地響きがする。

フェイトとはやては上を見上げる。

 

「上だ!」

「もう戦ってるみたいやな」

「……う、ううん?」

 

 その音の所為なのか気絶していた者達が起き上がり始める。

 

「フェイト?」

「アルフ! 良かった気が付いて!」

 

 なのは以外の全員が無事を確認する、しかし異能者の増援が彼らの前に現れた。

 

「居たぞ! もう起きてる!」

「しつこいなー、感動の再会って言うのに!」

「理由は分かりませんが、主はやてに害をある敵は我らが!」

 

 守護騎士達が起き上がり異能者と戦い始める、他の魔導師達も加勢し。

異能者を圧倒していく。

 

「テスタロッサ、お前また速くなったか?」

「はい、修行しましたから!」

 

 全集中の呼吸をしながらフェイトは異能者を薙ぎ倒していく、それを負けていられないとシグナムも

魔法を発動して倒していく。規格外の存在には相手にならない彼等も、その他大勢の力を持っているだけの

素人では相手にならない。

 

「クソ!? 何でこんな!」

 

 ――影の呼吸 

 

「む?」

「うお!? やべえ! 皆伏せろ!」

 

 ヴィータとザフィーラが冷都の空気が変わったのを感じ、皆に危険を伝える。

 

 ――陸ノ型

 

 仲間である事から素直にそれに従い魔導師達が伏せるが、異能者達には理解できない。

その一瞬で決着は着いた。

 

 ――月夜見

 

 周囲に黒い斬撃を飛ばし、異能者達は斬り飛ばされる。

辺りに散らばる敵は倒れて動かないが、死亡した者は居らずフェイトは胸をなでおろした。

 

「おい! せめて一言事前に言えよ!」

「当てる気は無い」

 

 敵を殲滅し終えると皆が一堂に会する、そこでフェイトと通信サポートのエイミィが皆に

事情を説明する。それを静かに聞いている中ではやてが通路の奥を見つめる冷都に近寄る。

 

「何してるんや?」

「なのはは恐らく最上階に居るだろう、さっきの地響きもあの女」

 

 冷都は全員を無視して先に進もうとするが、はやてに肩を掴まれる。

 

「……何処に行くんや?」

「あの女の所に、トーノを倒しに」

「僕達も行く」

 

 冷都が後ろを振り返るとクロノ達が困った様な目で冷都を見る。

 

「一人で行こうとするな、仲間だろ?」

「……仲間だと?」

「お前は何時も一人で戦っている、それに件の敵は我らの敵も同然」

「一緒に戦うのが筋ってもんだろーが、それにこれ以上恩人に迷惑はかけらんねー」

「必要ない」

 

 魔導師達、騎士達が冷都を見る。一緒に行こうと言ってるのだと冷都は理解するのに時間がかかった。

 

「冷都、また悲しい目をしてるよ?」

 

 フェイトの言葉に昨日の夜の事を思い出す、リインフォースが膝を曲げて視線を合わせる。

 

「冷都、頼む。我らも一緒に戦わせてくれ」

「――――」

 

 誰かを想起させるその顔を見た冷都は、彼らに背を向けた。

不安そうな顔をするフェイト達、だが。

 

「役に立て」

『勿論!』

 

 皆が冷都に笑いかける、仲間と言われた時。

冷都は何かが満たされるような気がした。

 



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嫌悪感

 

「チェーンバインド!」

 

 ユーノの拘束魔法で縛られた敵を斬る、その敵を掴んで遠くに投げ飛ばし

別の敵にぶつける。異能者との戦いから三十分は経っただろう。

しかし魔導師側に倒れた者は居ない、異能者達は劣勢だった。

 

「紫電一閃!」

「ハーケンセイバー!」

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!」

 

 シグナム、フェイトなどの前衛が敵を攪乱、可能ならば撃退し。

ユーノ、クロノなどの後衛が殲滅する。それを繰り返して先に進む。

 

「やり方が稚拙すぎる、増援の逐次投入など……」

「最初から倒すつもりは無いのだろう、連中の誰も連携をしないのが良い証拠だ。

味方同士とは言っても素人の集まりでしかない」

 

 敵の余りにもお粗末な戦術に疑問すら浮かぶクロノ、

彼らの行動も戦術も素人に毛が生えた程度の物ばかり。

 

「珍しいレアスキルを持ってる子達だけど、ほとんど使いこなせてないわ」

 

 プレシアが広範囲魔法で異能者達を仕留める、次々とやられていく仲間達に不利を悟ったのか

異能者達が逃げ出し始める。しかしそれを拘束魔法で捕らえられ、空を飛ぶ者は叩き落される。

 

「地響きが近くなって来た」

「もうすぐ最上階だよ!」

 

 魔導師達が最上階に辿り着いた、其処にはボロボロになって倒れたなのはと

それを見下ろす男、トーノが踏みつけていた。

 

「む? やっと来たか」

「なのはから足を退けろ!」

 

 ユーノがチェーンバインドでトーノに攻撃するが、体をすり抜けて当たらない。

悔しそうに駄目かと小さな声で呟くユーノ、男はなのはを彼らの方に蹴飛ばした。

 

「なのは!」

 

 フェイトが蹴飛ばされたなのはを受け止め、トーノを睨みつける。

しかしトーノは欠片も悪気がなさそうに両腕を広げて彼らに言った。

 

「どうした? 早く跪け、貴様らの目の前に居るのは神だぞ」

「誰が!」

 

 射撃魔法を発動してトーノを攻撃するが、その攻撃は全てすり抜け。

トーノの体は放電して光だし、彼女の至近距離に高速移動した。

 

「2000万Ⅴヴァーリー!」

 

 雷速で移動したトーノの攻撃をまともに食らったフェイトは電流の攻撃を受けて倒れる。

その両脇からシグナムが剣で斬りつけるが空しく通過するだけでダメージは無かった。

 

「く!」

「エルトール!」

 

 トーノは四方八方に電流が飛び散り、魔導師達は吹き飛ばされる。

唯一電気耐性のあるフェイトは立ち上がって魔法弾を放つが無駄に終わる。

 

「はぁ……はぁ」

「何度やっても無駄だ小娘、我は神なり……む?」

 

 トーノがフェイトを無視して背後を見ると、冷都がシグナムをマイナスエネルギーで治しているのが見えた。

電流の攻撃を冷都も食らっていたはずにも関わらず、ダメージを受けた様子が無い事に疑問を抱くが。

上手く避けたのだろうと納得し、攻撃しようとする。

 

「冷都逃げて!」

「サンゴ!」

 

 トーノは腕を電気に変化させて冷都に攻撃するが。

 

「ゴロゴロと五月蠅い」

 

 剣で薙ぎ払うと電撃が消し飛んだ、それを目を見開いて驚くフェイト。

トーノは驚愕を隠せず動揺する。

 

「貴様何故!? ゴムでもないのに!」

「知らん、疾く失せよ。私を誰と心得ている?」

 

 冷都はトーノを見下すように空に浮かぶと、巨大な黒い手を作りトーノを殴りつけた。

 

「ぐはあ!?」

「触った!?」

 

 フェイトはトーノの体を触れられた事に驚き、トーノの体が大樹の外まで殴り飛ばされた。

そして彼女は冷都と初めて会った時の事を思い出す。白髪の少年への攻撃を全て反射された自分に対して

冷都は反射されずに触れられた事。その時少年の言っていた言葉。

 

「無効化……」

 

 唖然と冷都に殴り飛ばされたトーノを見つめる魔導師達、守護騎士達は呆れたような顔で苦笑いする。

そんな中、なのはが意識を取り戻す。

 

「う、痛い……」

「なのは! 大丈夫?」

 

 ユーノがなのはに回復魔法をかけて、なのはは起き上がる。

 

「大丈夫、皆起きたんだね……」

 

 ボロボロのなのはは皆を見て安心した顔をする、その後空に浮かぶ冷都を見る。 

 

「冷都君?」

「……」

 

 ユーノに支えられながらなのはは冷都を見上げた。

それを心底忌々しいという顔で見るが、今は戦闘中と言う事で無視した。

 

「相変わらずだな……」

「規格外過ぎるだろ……」

 

 冷都は大樹の外に出てトーノを捜す、トーノは大樹の壁に張り付いて立っている。

壁に足をめり込ませて立っている。冷都はそれを狙い撃ちにした。

 

「くう!」

 

 黒い刃の雨を雷速で回避すると、空中に静止する冷都に電流を放って来る。

 

「5000万Ⅴヴァ―リ!」

「……」

 

 冷都は雷を回避すると、トーノの背後に取る。

気配を感じて振り向くが、それは致命的なまでに隙だらけだった。

 

「堕ちろ、雷」

「がは!?」

 

 踵落としを頭に食らったトーノはそのまま地面に叩き落された。

常人ならば即死、しかし彼は肉体を電化して落下のダメージを無効化した。

 

(物理攻撃は無効、私とマイナスエネルギーの攻撃は有効か)

「私を見下すな、人間!」

「貴様も人間だ」

 

 黒い刃を数千本まで分裂させ、トールに向かって攻撃した。

 



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雷VS負

 

 トーノは電化して黒い刃の雨を何とか回避しようとするが、その攻撃速度と密度の力技で

その足を串刺しにして引きずる、地面に何度も何度も叩き付けた後。空の彼方へ投げ飛ばした。

 

「ぐあああああ!」

 

 電化の絶対回避も意味をなさず追い詰められ続けたトーノは雷を空に向かって撃ち放った。

それは打ち上げ花火の様に空に弾ける、意味の分からない行動に冷都が首を傾げる。

 

 その直後、冷都は背後から来るそれを頭を下げて回避した。

 

「っち!」

 

 舌打ちが耳に入り、自分を攻撃したであろう人物に目を向ける。

その姿を視野に入れて、首を斬り落とそうとするが地上から来る電撃を回避する為に攻撃を中断した。

 

「とりゃあ!」

 

 その人物をよく見ると、金髪の女だった。

冷都は二対一に心躍らせるが、女を打ち倒そうと剣を握り直すが。

女はフェイトの放った射撃魔法で吹き飛ばされる。

 

「ああああー!?」

 

 間抜けな声を上げて吹き飛ばされていく女を無視してフェイトに目を向けた。

 

「あの女の人の相手は私達に任せて! 冷都は触れるから彼の相手を!」

「良いだろう」

 

 それだけ言うとフェイトは振り向く事無く女に向かって行き、クロノ達もその後を追う。

なのははシャマルの治療を受けているようで彼女達はまだ大樹の中に居た。

 

「さて」

 

 地上に降りてトーノに剣先を向ける、それを酷く不愉快と言う顔をする。

 

「神に向かってその不敬、万死に値する」

「お前は神ではない、ただの人間だ。……本当にガッカリだ」

 

 心の底からそう思った冷都が失望した目でトーノを見る、それを挑発と受け取ったのか

手加減なしの雷を冷都に向けて放った。

 

「カリ!」

 

 強烈な閃光と熱と共に放電するトーノのエネルギー波を剣で切り裂く。

放電して攻撃を放つが簡単に避けられ、近接戦に持ち込まれる。

振るわれる斬撃を躱して、トーノも金色の棒を振るうが剣で斬り落とされる。

 

「なに!?」

 

 切断された棒に驚き雷速で、首を狙う一撃を回避する。

 

「グローム・パドリング」

 

 金の棒を電熱で溶かし形状を変化させた。

先端の鋭い槍に変わったそれを構えるが、剣を構える冷都に威圧される。

 

(なんだ!? この圧迫感は! 恐怖しているというのか!? この私が)

 

 その威圧感に押されて、トーノの足が後退する。

冷都はそれを見て、鼻で笑った。

 

「!? 貴様ぁ!」

 

 プライドを傷つけられたトーノは激昂して、最大出力の電撃を放った。

 

「2億Vアマル!」

 

 巨大な雷神の様な姿に変身したトーノは高圧電流をその身に流し冷都を攻撃する。

そのエネルギーは周囲を焼き焦がして灰に変えていく、しかし冷都は。

 

「ほう」

 

 周囲を焼き、灼熱の地獄すら灰塵と化すその力に直撃してもなおダメージは無かった。

 

「馬鹿な!?」

「お前の電撃、素晴らしい一撃だった。しかし所詮はその程度、貴様の限界なのだ」

 

 雷を打ち消し放電が止まる、完全にトーノの攻撃は防がれた。

 

「一体、何をした。直撃したはずだぞ!?」

 

 発狂したように叫ぶトーノは自らの前に居る者に恐怖した。

物理的な攻撃を無効化する自分に触れ、雷以上の速度で動き、電撃を無効化した。

 

「簡単な話だ、お前が弱かった。それだけだ」

「なぁ!?」

 

 理屈も道理も通らない、常識を全て破壊された男は最早其処に居たのは神ではなく。

化け物に恐怖するただの人間だった。

 

「うわあああああ!?」

 

 恐怖に呑まれたただの人間は情けなく、恥も外聞もなく逃げ出した。

命を奪われるかもしれない、生命の危機、己が久方ぶりに感じた圧倒的な力。

 

(逃げないと逃げないと逃げ、にげー!)

「逃げるのか、情けないとは思わないのか? 恥を知れ」

 

 その後ろ姿を心底残念がりながら黒い刃を伸ばして攻撃する、足を負傷した人間は

上手く走る事が出来ず引きずって逃げていた。

 

「貴様らは慣れているだろう、死ぬのは……」

「嫌だいやだいやだー!」

 

 子供の様に泣き叫ぶ人間を、醜く情けなく生きようとする人間を冷都は心底哀れんだ。

 

「強き者は此処にはもういない……居るのは哀れで醜いただの人間……可哀想に」

 

 冷都が止めを刺そうと近づいて剣を振り上げ、振り下ろそうとした瞬間、

冷都の体を誰かが体当たりした。

 

「駄目だよ! 冷都!」

「フェイト? 邪魔をするな」

 

 体当たりした者の正体はフェイトだった。

組み付いて離れないフェイトを引き離そうとするが、後ろから肩を掴んで誰かが止めた。

 

「もういい、止めるんだ冷都。もう終わった」

「――――」

 

 銀色の髪をなびかせたリインフォースに止められ、冷都はゆっくりと剣を下ろした。

 

 



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長い一日

 

 その後、多くの次元犯罪者を捕らえる事になった管理局側は対処に頭を抱えていた。

子供から大人まで数百人近い人数を捕らえる収容施設は地球にはなく、かつ対処が面倒だったのだが。

その異界を利用して、その中に彼らを収容する事にした。

生命の樹セフィロトは膨大な魔力を吸収して異常なまでに巨大だったが、それでもまだ若木の分類だったという。

転生者達からそれを聞かされた冷都は少しガッカリした。

 

 その他の魔導師や騎士達は黒神邸に転移して治療を受けていた。

総勢数十人規模でもあまる庭の広さに改めて大金持ちなんだなとはやては思ったという。

 そして冷都はトーノを殺そうとした事をリンディに怒られていた、が。

 

「黙れ、私は正しい」

 

 という態度を貫き通し、リンディを呆れさせた。

 

「あの男は一体何人の罪のない人間の命を奪って来た? 何人の子供達が利用された?

あの男には罰が必要なのだ、今までやって来たツケを払う時が。因果応報、当然の報いだろう」

「それでも、貴方が殺す必要はない」

 

 フェイト達の説得を聞いて一先ず冷都は剣を収めた。

その後リンディはミッドチルダにも死刑制度があり、彼はいずれにしても裁かれると言われ納得した。

次元震の影響で次元航行艦船の移動が出来なかったが、数日すると元に戻り

管理局の移動が可能になった。

 

「黒神冷都さん、此度の貴方の活躍により……」

 

 艦船アースラ内部、冷都は次元犯罪者逮捕に尽力し管理局員数十名を救出した功績として賞状が贈られていた。

それをとても詰まらなそうな顔で聞いている冷都にリンディ達は苦笑いした。

賞状式が終わると、冷都はアースラの食堂で質問攻めにされていた。

 

「冷都! あの無効化能力について教えて欲しいのだが!」

「呼吸法の修行をまたつけて欲しい」

「魔法を使わずによくあんな動きが出来たな」

「助けてくれてありがとう!」

 

 質問責めと言うより、ただ人気者になっているだけかもしれない。

冷都は全員を無視して皿のスープを啜る。

 

「凄いスルーしてる……怒ってないかな?」

「兄貴のあれ天然だよ」

 

 周りに真面目で厳しくも他人の為に動くことが出来る人間と言う評価を下され、

ほとんど合っているけど、他人の為には違うと言う事が出来ずに何も返さなかった事などが祟り。

ストイックでクールな男の子と女性局員に言われ、自分にも他人にも厳しい責任感の強い男と男性局員に慕われる。

 

(人から好かれるのは嫌いじゃないが、流石に鬱陶しい……)

 

 その風景を苦笑いして眺めるクロノ、それに気づいた冷都が詰め寄って来る者達の間を通り抜けて。

 

 

「消えた!?」

 

 周りに居た人間にはいきなり瞬間移動したようにしか見えないだろう、突然目の前に現れた冷都にクロノが

驚くが。その対応にもう慣れたのか、クロノを連れて食堂から出る。

 

「来い」

「ああ、ちょっと!」

 

 食堂から出て行った二人にユーノとなのはの二人も着いて行く。

歩きながら冷都はクロノに質問した。

 

「何故私までそのミッドチルダに行く必要がある、説明しろ」

「君は今回、凶悪な次元犯罪者を捕まえた功績がある。そして闇の書事件で闇の書を破壊した功績、

到底隠し通せる物じゃない。君には色々な事情聴取と上からのお話がある、それで少し……」

「は? 嫌だよ」

 

 クロノがミッドチルダに行く理由を語るが、冷都は欠片も同意しない。

これには後ろから着いて来る二人も目を丸くする。

 

「い、いやこれは大事な事でだな」

「何故私がお前達の事情に付き合わされなくてはならない? 帰らせろ」

 

 焦ったクロノが何とか引き留めようとするが、冷都は興味が無く。

付き合う気もないとして帰ろうとする。

 

「待って待って!」

 

 それをユーノが止める、何とかフォローして止めてくれとクロノに視線で合図された所為だ。

 

「なんだ」

「いいですか、ミッドチルダというより時空管理局の本局に向かうんです」

「だから?」

「本局では貴方の力を危険視する者も居て、リインフォースと互角に戦い、

高ランク魔導師が相手にならなかった次元犯罪者を一人で捕まえた貴方を是非管理局に入れたい人達も居るんです!」

「そうか」

「その他にも、デバイスの事とか貴方のレアスキルの事とかも!」

「成程理解した」

「分かっていただけましたか!」

 

 ユーノとクロノは安心して胸を撫で下ろした、そしてなのははまだオロオロとしている。

だがしかし、相手はあの冷都である。

 

「理解した、大事な事なのだと。しかし私には関係が無い、私にとっては大事ではない」

「なあ!?」

 

 無関心で無情な言葉で突き放した冷都は二人を無視して操縦室に向かう。

それを追いかける三人、操縦室に入るとエイミィがパンを口に銜えて冷都を見た。

 

「此処でこの船を操縦しているのか?」

「ほうらよ?(そうだよ?)」

 

 冷都はエイミィの銜えたパンを斬り落として剣を突きつける。

 

「戻せ」

「ファ!?」

「おいぃ!? 何してるんだ!?」

 

 突然の凶行に驚愕を露にする四人と操縦室にいる職員全員を余所に冷都はエイミィを脅す。

 

「今すぐ戻れ、拒否すれば殺す」

「……はい」

 

 淡々と静かに語る冷都にエイミィは肩を震わせながら船を地球に戻した。

その後地球に戻っている事に気づいた他の魔導師を全て撃退して地球に到着するとすぐさま家に戻っていった。

 

「どうしよう……」

 

 クロノは項垂れて頭を抱えた、それをなのはと光が慰める。

 

「兄貴はこうと決めたら意地でもやるから……」

「なのはみたいだ」

「私流石にあそこまでしないよ!?」

 

 リンディ達はドタバタと長い一日を過ごし、管理局は冷都の行動に頭を抱え。

その戦闘力により下手に手出しが出来なかった為、冷都の事を例外的に黙認する事となったが、それはまた別のお話。

 



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空洞の心

主人公光堕ちフラグ


 商店街を散歩する冷都の後ろをフェイトが着いて来る。

 

「私に着いて来るな」

「どうして?」

 

 日課の散歩をしている冷都を偶々見つけたフェイトが興味を示して後をついて行く。 

最近平和な海鳴市に暇つぶしも兼ねた散歩をする冷都、別にフェイトも邪魔をする訳でもなく。

話しかけて来る事もない、本当にただ着いて来るだけなので暫くすると興味が無くなり気にならなくなった。

 

「……」

「……」

 

 お互い無言で町を歩き続ける、一言も言葉を交わす事なく。

 

「何してるのよ……」

 

 偶々通りがかった青葉が二人を見て言う、青葉でなくても知り合いなら何かしら突っ込んだだろうが。

 

「青葉か仕事帰りか?」

「まあ今日の日課は終わったわね、それで何してんの?」

 

 再び冷都に聞くが、何と答えれば良いのか分からない冷都は素直に。

 

「散歩だ」

 

 と言って、答えられた青葉はますます困惑する。

しかしこの男は昔からこうだったと思い出し、欠片も理解できなかったが分かった様なフリをして頷いた。

 

「そう、フェイトとデートじゃないのね」

「違うよ?」

 

 からかうつもりでフェイトに話を振ったのだが、真顔で否定され青葉は何でこの二人一緒に居るの? と思った。

 

「冷都が寂しくないように私が一緒に居ようかなって思って」

「そう、優しいわね」

 

 とても純粋な理由だった事に驚き、自分の心が傷ついた様な気がした青葉であった。

 

「それじゃあ私も着いて行っていい?」

「うん、良いよ!」

「……」

 

 それとなく冷都に視線を送る青葉だったが、冷都は無視して歩き出した。

そして無言になる三人、青葉は冷や汗を流す。

 

(ずっとこうなの?)

「フェイト……冷都とは話さないの?」

「うん、冷都はお話しする気分じゃないらしいから」

 

 そう言ってフェイトは黙った、青葉も暫くすると思考停止して黙った。

冷都はそもそも誰とも喋る気が無かった。

 

 三人は見晴らしのいい公園に来た、遠くの町並みが見えて海鳴市の絶景スポットの一つでもある。

冷都はそこから海を見つめている、そんな姿を青葉は見て思った。

 

「アンタ、何か嫌な事でもあったの?」

「……」

 

 青葉の質問に冷都は何も答えない、青葉も返って来るとは思ってなかったのか言葉を続ける事は無かった。

 

「青葉、お前は母と髪色が似ている」

「……そう」

 

 冷都はそれだけ言うとまた黙り込む、空を見上げる。

青い空と白い雲がある、それだけだ。美しいと感じた事など無い、空は空だ。

次に冷都は海を見る、太陽が反射した海はキラキラと輝いている。

光が反射しているだけ、あんな物はただの塩水でしかない。

 

(リインフォースの言葉を聞いた時、誰か別の声が聞こえた気がした……)

 

 冷都はこの世の何にも感動した事は無い、全てが物質と事象の結果だと思っている。

美しいと言われる光景に目を向けて詰まらないと思う自分は何が違うのだろう。

 

(いや、何も違わない。私は何にも影響されない)

 

 いつも通りに下らない人間を殺そうとした、自分を失望させ堕落したゴミを処分しようとした。

それを止められた時の事が、彼は未だに忘れられない。

 

(母の死を今更悲しんでいると? 違う、それはない。あの女に対する悲しみの感情はない、だったらなんだ?)

 

 母親の死について欠片も悲しみを感じない、しかし彼の中の何かの感情は日に日に大きくなっていく。

 

「……」

 

 理解できない感情、桃子を見た時も。フェイトとプレシアが抱き合っている時も

同じ感情になった事がある。上手く表現ができない自分の心に苛つく。

 

(満たされない)

 

 理由の分からない虚無感に苛まれる。

常人以上に達観し、自己の生き方のみを優先する現実主義者。

現代日本人が持つ倫理観を全て無視し、命を奪う事に感慨を抱けない。

度が過ぎた自己愛は病気と呼べる程にまで彼を蝕んでいた。

 

「……」

 

 自己愛、それは誰しもが少なからず持つ心。

だが度が過ぎればそれは逆に自らを傷つけるものでしかない。

愛されたい認められたいと願う承認欲求の塊、自らよりも優秀な存在を許せない。

自分が持っていない物を、持っている者を許せない。

 

「……」

 

 しかし望んでも手に入る事は無い、それは既にこの世を去っている。

 

「冷都」

 

 ずっと黙っていたフェイトが冷都に話しかけた。

振り向いて目を合わせる、フェイトは笑った。

 

「帰ろう」

「――――」

 

 少女は手を差し出す、手を繋ぎたいのだろう。

友人の様に手を繋ごうとしている。冷都が手を伸ばして少女は冷都の手を握った。

 

「青葉も」

「ええ」

 

 フェイトに言われて青葉も手を握る。

帰り道も誰も何も言葉を発する事は無かった。

 




冷都は幽霊の少女の気持ちが少しだけ分かったかもしれない。

それを自覚できたかは不明ですが。

そんな事よりフェイトちゃんマジ天使。
(ヒロインじゃないのに……)


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新章:正と負
プラスエネルギー


 夏休み、セミの鳴き声に耳を塞ぎたくなる感覚も時間が経てば慣れる物。

真っ昼間、光は今日捕らえた異能者を警察に引き渡した帰り道の事だった。

 

「あっちー……夏は嫌いなんだよ……いや寒いのも嫌いだけど」 

 

 気温の高さに独り言で愚痴を吐くが、そんな事を言っても涼しくはならない。

コンビニでアイスでも買いに寄ろうかと考えた次の瞬間、彼は殺気を感じて後ろに跳躍する。

草木の茂みから現れたそれは、全身が真っ黒な獣の様で。光に敵意を向ける。

 

「何だ妖怪か? こんな昼間に珍しいな」

 

 妖怪は基本的に夜に多く出没する、昼間に出ないわけではないが。

襲って来た獣に剣を投影して構える。無限の剣製、一度見た武器や防具を複製する事の出来る能力。

 

「ふ!」

 

 獣の動くタイミングに合わせて光も走る、獣は飛び上がって鋭い爪で光を引き裂こうとするが。

左手に持った剣で防ぎ、右手の剣を振るい脇腹を切り裂いた。

しかし斬られた獣は苦しむ事も出血する事もなく地面に着地して光を睨みつける。

痛みを感じていないのか獣は再び姿勢を低くして飛び上がって攻撃して来ようとするが。

 

「そこの人! 退いて!」

「あ? うぉ!?」

 

 光に話かけた桃色の髪の少女が腕から出したレーザーで獣を吹き飛ばした。

獣が出てきた茂みから現れた少女に光は警戒するが、少女が光を見ることはなく。

光に襲って来た獣を注視していた。

 

「味方ならいいか」

 

 光は少女への警戒を解き獣に剣を投げた、突き刺さった剣に怯むことなく一直線に突っ込んでくる。

少女は体から金色の閃光を放出して透明な盾を作り出し、獣の攻撃を受け止める。

 

「何だか分からないけど、異能者なら手伝って!」

「はいはい!」

 

 動きを止めた獣の首を剣を投影して斬り落とす、すると黒い獣は灰になって消滅した。

光は桃色髪の少女に顔を向ける、異能者の少女は頭を下げる。

 

「ありがとう! そんでもってごめんなさい!」

「え! おいいきなりなんだ!?」

 

 突然の感謝と謝罪の言葉に光は困惑する。

 

「いや、いきなり襲われて大変だったでしょ? 私がもっと早く来ていれば怖い思いをせずに済んだし」

「大丈夫だよ、慣れてるから。それよりお前退魔師か?」

 

 光の言葉に顔を上げて困惑の表情で首を傾げる。

 

「退魔師? 私は超能力者だよ、人工的なだけど」

「ああー、色々説明してもらっていいか? お前の事とか、あの黒い奴の事とか」

「うん、分かった」

 

 それから光は、異能者の少女、星波桜とお互いに自己紹介をして。

詳しい説明をする為に彼女の自宅へ来てくれと言われた、父親の方が説明できると言われて。

 

「お父さんが私の力を作ったんだよ?」

「力を作る? 異能の力を?」

 

 彼女の父は人工的に異能者を作り出す研究をしているらしく、昔研究の事故に遭い

桜は異能の力を身に着けることになったと光は聞かされた。

後天的に異能の力を身に着ける事は珍しくなく、光もそこまで驚くことは無かった。

 

 桜が家まで道案内する間、桜は光の事を聞いて驚いていた。

異能者の家族が居る事に、そして結構な大金持ちだと自慢していた。

 

「私のお家だって結構いいお家なんだよ! ……お父さんの所為でお金ないけど。

此処が私のお家で、父さんの研究所」

「本当に家は立派だな」

 

 彼女の自宅は三階建ての一軒家で、流石に黒神邸程広くはないが。

それでも一般家庭に比べれば十分大きいと言えるかもしれない。

 

「お父さん! ただいま!」

「お帰り桜、そっちの子は?」

「実は……」

 

 桜が父に事情を説明して、父親は家に上がるように言い。

二人は椅子に座る。桜はお盆を持って光にお茶を出した。

 

「おかまいなく」

「それで黒神君、君の見た物について知りたいんだったね」

「はい、俺も異能者として色々な物を見てきましたけど。

彼女の言葉から、妖怪や悪魔の類じゃないってのは分かりました。

あれが何なのか説明してもらえませんか? 貴方の事についても」

 

 そして桜の父、星波誠司は過去を語りだした。

 

「あれは10年前の事だった。私は研究で異能者の力を新たなエネルギー資源に出来ないかと考えた。

異能者は物理法則を超越し、時には無から物質を創り出す事のできる者も居た。

私はチームを作り仲間と一緒に新エネルギー研究に勤しんだ、その中には私の妻も居た」

 

 誠司は棚にある家族写真を見て微笑む。

しかし直に厳しい顔になり顔を暗くして俯く。

 

「だがある日、エネルギーの試作品が暴走を起こして研究所を吹き飛ばした。

桜も妻も巻き込まれ、桜は生き残ったが……妻は……」

 

 光は誠司の顔を見て、その気持ちを理解する。

光自身も事故で母を失っている、桜と誠司の感情には共感できた。

 

「娘はその新エネルギーを一番近くで受けた所為なのか。

異能の力に目覚めた、生き物の正の感情、喜びや楽しいという気持ちをエネルギーに変換できる力。

私はそれをプラスエネルギーと名付けた」

 

 プラスエネルギーと聞いた瞬間、光は咄嗟に冷都を思い浮かべた。

 

「だがエネルギーはもう一つあった、マイナスエネルギーという人の負の感情をエネルギーに変換する力。

それが盗まれてしまったのだ」

「盗まれた?」

 

 誠司は首を縦に振る。

 

「暴走事故は人為的に引き起こされた物だ、しかし私の言葉を信じる者は居らず。

私は研究機関にクビを言い渡された、だがもしもあの力が悪用されれば無尽蔵に近い生物の感情を

エネルギーに変えたら、大変な事になる」

「待ってください! 何故盗まれたと思うんです? その暴走で消えたとは思わないんですか?」

「あの時、研究所で暴走したプラスエネルギーの入ったカプセルは粉々になっていたが破片は残っていた。

もしもマイナスエネルギーのカプセルも同じように破壊されればその破片が残っているはず。

しかしカプセルは何処にもなく、盗まれた可能性が高いと思った。確信したのはつい最近だ」

 

 光はそこで思い至り、まさかと思い立ち上がる。

 

「あの黒い獣がマイナス?」

「その通りだ、桜の力を借りて検査をしてみた所。反応がマイナスエネルギーの物だった。

誰かがあの力を悪用して人を襲わせているんだ」

 

 一体誰がそんな事をしているのか、光には微塵も心当たりが無かった。

マイナスエネルギーという能力名は冷都の物と同じであると光は知らない。

 

「その犯人を捕まえてどうするんですか」

「捕まえて能力を消滅させる、私にはその方法がある」

 

 それを聞いて光はよしと言って両手を叩いた。

 

「それ、俺も手伝います!」

「え、良いの?」

 

 桜が嬉しそうに光を見る、光は頭を掻いてしょうがないという顔をする。

 

「確かに協力して欲しいとは思ってたけど……」

「町の平和を守る為だ、えっと……星波」

「ありがとう! 黒神君」

 

 二人が握手した、今日この日二人の正義の異能者が手を組んだ。

 



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マイナスエネルギー

 

 人気のない森の中、冷都と恭也はお互いに剣を持ち構えていた。

 

「行くぞ」

「……」

 

 先に動いた恭也が踏み込み刀を振り下ろす、振り下ろされた一撃を後ろに飛び回避する。

背後に飛んた冷都に追い打ちをかけるように突きを放つが、剣で弾かれる。

 

「ちっ!」

「……」

 

 弾かれた刀を逆手に持ち替えて振り下ろす、しかし冷都は胴体に体当たりして体勢を崩されて馬乗りになる。

 

「うぉ!」

「終わりだ」

 

 恭也の頭の横に剣を突き刺して冷都は言った、パチパチと手を叩く音を見る。

アリサとすずかが唖然とした表情で拍手していた。

 

「凄いわね……実際に見ると」

「うん、冷都さんもそうだけど。それについて行く恭也さんも……」

 

 二人は冷都に修行をつけてもらう約束をした、本当にやる気があるのか試しに

恭也と冷都の戦いを見学していたのだ。

 

「お前達は家族には言ったのか?」

「ええ、身を守る為にも家族を守る為にもってね。あとパパとママが貴方に会いたいって言ってたわ」

「何故だ」

「知らないわよ、後で会いに来るから。その時に聞いて」

 

 アリサの両親の事に興味がない冷都はどうでもいいかと、直に気を取り直してアリサに聞いた。

 

「あの後、能力を使ったか」

「ええ、出したり引っ込めたりは出来るようになったわ。

けどどんな効果なのか分からないのよね、燃えないし……」

 

 アリサは異能の力に目覚めたが、どんな能力なのかはまだ把握できていなかった。

炎は体からしか出ず、燃え移らない、燃えない。熱くない。

 

「能力がどんな物かは人それぞれだ、中には意味のない力だってある」

「アンタ私にもう強いって言わなかった?」

「お前の心は強いさ、それは知っている」

「……屁理屈って言うのよそれは」

 

 ジト目で冷都を見るアリサの視線を無視してすずかに目を向けた。

 

「お前は体が強い、ドッチボール最強の女は伊達ではないな」

「それ言わないで下さい!?」

 

 すずかの皮膚の下を見る、身体能力は既に大人を超えているかもしれない。

しかし戦士としては未熟で戦い方をまるで知らない素人の体だ。

 

「お前達には呼吸法と気という力を身に着けてもらう」

『気?』

 

 気、黒神家が生み出した退魔の技術。身体能力を向上させ治癒能力、耐久力の強化ができる。

生命力を操作する事で使用可能になる。肉体操作の技術は呼吸よりもこちらの方が上だろう。

 

「全集中の呼吸は習得するのに肉体そのものを鍛え上げる必要がある、だが気は

それより短時間で習得が出来る、勿論死ぬほど鍛える必要はあるが」

「どう使うの?」

 

 冷都が二人に気の操作法を教える、しばらくすると二人も段々とコツが分かって来たのか。

気の操作を物にしていった、流石に身体強化は出来ず気を操作して体の調子が良くなった程度だが。

 

「なんとなく分かって来たわ!」

「うん! なんだか体の調子が何時もより良い!」

 

 人に教える才能を使い、アリサとすずかを短期間で基本的な事程度ではあるが教えた冷都。

黒神家の技術を教える事に不満は無く、むしろ黒神家以外でも気の操作は教えている。

あくまでも創り出したのが黒神家であり、その技術自体は何処の流派でもあるものだった。

一般には認知されていないが。

 

「気の操作は肉体を鍛え上げる事で更に向上させる事が出来る。

気の操作と呼吸法を同時に覚えてもらう、覚悟しろ」

『はい!』

 

 二時間後、最初は好調だったアリサだったが段々と体力の消耗していきへたり込んでしまう。

すずかもそれから三十分後に同じように崩れる。息が荒い二人に水をあげる美由希。

 

「大丈夫二人共?」

「つ、疲れました……」

「はぁ、こんなにキツイとは思わなかった」

「だから言っただろう、厳しいと」

 

 しかし二人は諦めずに立ち上がって、また気の練習を始める。

倒れて休み、立ち上がるを繰り返してからしばらくすると足音が聞こえて来る。

誰の足音かと振り返ると、それはアリサと同じ髪色の男が歩いて来る。

 

「パパ!」

「アリサ、頑張ってるか?」

 

 その人物はアリサの父親だった。冷都はそれを理解すると直に興味を無くす。

しかしその父親は冷都に近づいてきて手を差し出す。

 

「デビットバニングスだ、久しぶりだね。冷都君だったかな?」

「?」

 

 デビットの言葉に困惑する冷都、その顔をよく見る。

しかし何も思い出せない、デビットの表情は間違いないと思っている。

 

(記憶にない、人違いではない。忘れた)

「誰だお前は、お前の様な男には会った事がない」

「ああー……やっぱり忘れちゃったかー」

 

 頭を掻いて困った様な顔をする、冷都も思い出そうと記憶を探っているが何も出てこなかった。

 

「パパ、冷都知り合いだったの?」

「三年くらい前の話だよ、あれは私が夜、会社に残って仕事をしていた時の事だ」

 

 デビットは冷都と出会った時の事を振り返りながら話した。



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デビットの過去

 

 三年前、バニングス社。デビットは仕事をしている最中の事だった。

彼がデスクで書類の整理をしていると、廊下に物音が聞こえて来る。

 

「ん?」

(部下がまだ残ってるのか?)

 

 扉を開けて廊下に出るが其処には誰もおらず、気のせいだと思い戻ろうとしたその時。

自分の後ろから水音がして、振り向くと。

 

「水たまり?」

 

 廊下に水たまりが出来ている事に疑問符を浮かべる、上から水が落ち。

天井を見上げると。

 

「シャアアアア!」

「なぁっ!?」

 

 巨大な蜘蛛がデビットを見つめていた。

驚愕を露にして尻もちをつく、蜘蛛は体の全身から糸を出してデビットを拘束する。

逃げようと藻掻くが糸は信じられないほど頑強に出来ており、抜け出す事が出来ない。

 

「あ……ああ」

 

 蜘蛛がデビットに近づいて来る。食われる。

そんな確信があった。蜘蛛が大口を開けデビットは目を瞑る。そして。

 

 ――影の呼吸 壱ノ型 人影

 

 ザシュッ、という音が聞こえて彼が目を開けると、デビットを縛る糸が切れ。

巨大な蜘蛛の首がコトリと落ち、体が灰となって消滅した。

 

「……」

「!」

 

 それを唖然と見つめていると、デビットは隣に立っている剣を持った少年に気づいた。

少年はデビットに目もくれず、廊下の奥に歩いて行く。

 

「ま、まっ。!?」

 

 少年を引き留めようと声を掛けようとするが、少年の進む方向にまた巨大な蜘蛛が居た。

一匹ではない、五匹は居るそれはさっきの大蜘蛛よりも一回り大きく。

その姿を見たデビットは恐怖で声が出なかった。

 

(殺される!)

 

 死への恐怖は彼の動きすら止めた、逃げ出そうと立ち上がる事もできなかった。

少年が殺される、デビットは己が情けなかった。逃げる事も少年を庇う事もできない自分を酷く攻めた。

しかしその考えは直に消えた、何故なら。

 

 ――影の呼吸 弐ノ型 日影

 

 少年の持つ剣から複数の黒い刃が伸び、枝分かれするように増えていく。

その伸びる刃は蜘蛛達の眉間を正確に貫き、体を貫通した。

 

「シィイイイイ」

 

 少年の吐息と共に黒い刃は消え、蜘蛛達の体も消えていく。

デビットは呼吸をするのも忘れて少年を見ていた。

窓から月明かりが入り、影でうっすらとしか見えなかった少年の姿が目に入る。

 

(美しい……)

 

 男だというのにその美しさをデビットは黒曜石に例えた。

黒髪黒目の少年、剣を持った姿はさながら物語の英雄の様。

 

「おい、お前」

 

 少年がデビットに声を掛けた、少年とは思えないほど低い声に驚く。

 

「部屋に居るか、帰る事だ。私は後始末がある」

 

 それだけ言うと少年は立ち去ろうとする、デビットは慌てて立ち上がり止める為に声を掛けた。

 

「待ってくれ!」

 

 少年の足が止まりデビットに振り向く、その目を見た瞬間。

両肩に岩でも乗せられたかのような感覚がデビットを襲った、しかし勇気を振り絞り。

 

「君は何者なんだ」

「……」

 

 少年は黙ってこちらを見つめて、何かを考える素振りをする。

 

「冷都だ」

 

 そう言って冷都は今度こそそこから立ち去って行く。

暗闇に消えた後ろ姿をボーっとして見ていると、何かを斬る音と獣の叫び声の様な物が聞こえて来る。

 

「!? 部屋に!」

 

 少年の忠告を思い出し、部屋に入って鍵を掛けた。

それから数十分間、デビットは部屋の中に居た。しばらくして物音が聞こえなくなると。

誰かの足音が部屋の外から聞こえて来る、少年かと一瞬思ったがその足音は複数だった。

 

「開けてもらえますか?」

 

 ノックの音と男の声が聞こえて来る、少し悩んだ物の扉を開けると。

武装した複数人の男女と冷都、そしてスーツの男が其処に居た。

 

「デビットバニングスさんですね」

「え、ええ。貴方達は?」

「我々はこういうものです」

 

 そう言って男はデビットに警察手帳を見せる。

デビットは驚いて男を見る。

 

「警察?」

「貴方の見た物についてご説明したく思います、少しお時間を取らせますがよろしいですか?」

 

 そう言うと男は笑う、デビットはおずおずと首を縦に振り。

男からの説明を聞いた、とても非現実的な話だと思ったが。

実物を見たデビットは信じるしかなく、自分を助けた少年が目の前に居る事が何よりの証拠だった。

 

「貴方には弐つの選択肢があります。一つ目、記憶を消して元の生活に戻る事。

二つ目は記憶を消さずに、我々の仕事の手伝いをお願いしたい」

「手伝い? それは具体的にどんな?」

「妖怪退治の武器を作る為の資源と資金援助、当然貴方にはメリットが無い。

断ってくれても構いません」

 

 男は巧みな交渉術でデビットを説得する、確かにデビットにはメリットはほとんどない。

あるとすれば、彼等異能者の戦力を借りることが出来る程度だ。

デメリットしかなく、断るのが普通だろう。だがデビットは。

 

「いいでしょう、貴方方秘密組織の資金援助は任せてください。しかし資源の方は物によります」

「ありがとうございます、これが契約書です」

 

 デビットが彼らの交渉に応じた理由は、己の会社を守る為。

万が一にもまた妖怪達が会社に入り込み、最悪部下を襲う事になれば経営は破綻するだろう。

妻や娘にも迷惑を掛ける事になる、しかし一番の理由はそこではない。

デビットは扉の目に立つ冷都を見た。

 

(彼の事を忘れたく無かったから、なんて言えないな)

 



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黒い獣

 デビットが全て語り終えると、アリサ達は驚きと尊敬の眼差しを冷都に贈った。

冷都は自分を心から賞賛する男に気味が悪くなっていた。

 

「そんな年から戦ってたなんて……やっぱり冷都さんは凄いなぁ」

「ていうかパパ、そんな事してたの?」

「すまん、家族にも言うなって言われてな。まあ事情を知った今ならいいだろう」

 

 軽く言うが此処に恭也と美由希が居る事を忘れている、もっとも彼等も異能者や妖怪の事は知っているので大丈夫だが。

 

「驚き、まさかパパと知り合いだったなんて」

「憶えてない」

「三年前の事だし仕方ないよ、それでアリサの事なんだけど」

 

 冷都はようやく本題に入れると、デビットの方を向く。

断られる事を懸念したが、そんな心配はいらなかった。

 

「本気でやってあげてくれ、アリサを頼んだよ先生」

「……普通は止めると思ったが」

「私が? いやいや。娘のやる気を削ぐ様な事はしないよ。

友人を助けたいと思い気持ちを汲んだのさ」

 

 それだけ言い終えるとデビットは山を降りて行く、最後に手を振って今度バニングス邸でお茶でもと

言われた冷都だったが、興味が無いので無視した。

 

「続けるぞ」

「う、うん」

 

 何しに来たのか分からなかったデビットに困惑しながら、アリサ達の修行を再開した。

アリサ達が気の操作をしている、携帯電話の着信音を聞いて冷都が電話に出る。

 

「何だ緑」

『はい、最近は熱くなってきましたね。おっと本題に入らなければ怒られてしまいます』

 

 天然なのか態となのか、冷都を腹立たせる言動をする緑に青筋を立てる。

 

『貴方様はマイナス生物を使いましたか?』

「……使っている、物探しには便利だからな」

『いえいえ! そういう意味ではなく! 人を襲わせるなどをしましたか?」

「いいえだ、それが?」

 

 マイナス生物、それは冷都の使うマイナスエネルギーによって生み出される生き物の名前。

獣や虫、鳥などを作り出して探索や戦闘もできる冷都も重宝する能力だ。

というよりマイナスエネルギー自体が万能性の高い能力だが。

 

『実は最近ですね、貴方のマイナス生物と似た物が海鳴市に現れているという情報がありましてね』

「戦闘には使った事はしばらくない、探索や捜索がほとんどだ」

『それならば良かった! 貴方様の考えが読めずにこれ以上部下が犠牲になる必要が無くて良かったです!』

「……なんだと?」

 

 まるで部下を失ったような言い方をする緑に冷都は問い返した。

 

『非戦闘員が二名やられました。怪我人は五名です。無差別に襲っているようで』

「今後、私のマイナス生物を見かけても直に離れるように伝えろ。それとそのマイナス生物だがな」

 

 恭也が刀を取り出して茂みの奥に居る者に構える動作をする、その茂みから黒い獣。

マイナス生物が現れ恭也達に襲い掛かった。

 

「今確認した」

 

 ピッと携帯を切ると、アリサ達を守るように前に出る。

アリサもすずかも突然の事に頭が回らず混乱する。恭也は神速を使いマイナス生物の体をあっさりと二つに切り裂く。

敵がそこまで強くない事を理解すると、冷都は二人から離れる。

 

「これは何だ?」

「知らん、私の力に似ているが」

 

 消えていく獣の体を見ながら恭也が質問するが、冷都は同じ黒い獣を出す。

 

「同系統の能力者かもしれん」

「そんなのが居るの?」

「異能者の能力は千差万別ではない、時には能力が被る事もある。

電撃使いや炎使いなどが多いと聞く」

「へー」

 

 異能者の能力が必ずしもその人オリジナル、と言うわけではない事を知った二人は感心した様に首を縦に振る。

アリサは思いついたような顔をして冷都に質問する。

 

「なら! 私の能力と同じ人も居るかもしれないって事?」

「そうだな」

「その人に能力を聞けば!」

「異能の力は一般人には秘密だ、一般に知れ渡ればパニックになる事もある。

妖怪と同じだ、差別の対象にもなる」

 

 そうっと言って残念そうにするアリサ、それを余所にすずかが手を挙げて不安そうにする。

 

「でも、なんで襲って来たんですか?」

「知らん、私と同じなら意図的に襲うよう指示した筈だ」

「なら早く止めないと!」

 

 正義感を露にするすずかが焦った様に言う、人を襲うような事が許せないのだろう。

その目には犯人への怒りがあった。

 

「具体的どうやって? どのように敵を見つける」

「……」

 

 冷都の問いに答えられないすずか、それを恭也と美由希も一緒になって考えるが。

立ち直ったアリサがすずかの肩を叩く。

 

「大丈夫よ、見つけられるわ」

「何故そう思う」

「? だってそうじゃない、今は分からないけど。この獣を相手にしていけばいずれは犯人に辿り着けるわ。

とりあえず勝って勝って勝ちまくって行くのよ」

(この女、脳筋だな)

 

 アリサのとんでも無く飛躍した理論に冷都は引く、しかし現状では何も分からない事は確か故に

冷都は何も言う事は無かった。恭也も美由希も苦笑いするが何も言わなかった。

 

「アリサちゃん、……飛躍し過ぎじゃないかな?」

「すずかも言うようになったわね……」

 

 ショックを受けるアリサに大笑いする三人、冷都はまだ見ぬ敵に興味を示していた。

 

(私と同じ、強いだろうか……)

 

 戦士は狩人の様に嗤う、黒い靄が冷都から噴き出した。



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オリジナル主人公

最近クロスオーバー要素が無いような気がしてならない、折角異世界っていうおいしい設定があるんだから活用するっきゃないでしょと思ったが。

 いざそう思うと、なにとクロスオーバーさせるかが問題だ。

先ずリリカルなのはの世界観を根本から破壊してしまうような設定を持つのは駄目。
破壊するなら必ずオリジナル設定がいいだろう。

 魔法少女、負の感情、異能、これらの要素は必要だ。

私「ん? これは?」

 YouTubeを見ると。


 光と桜は警察署に来ていた、浩二が桜の父、誠司から話を聞くと。

直に異能課の面々が調査に動き出した。

 

「相手の狙いは分かりますか、誠司さん」

「恐らくですが実験かと思われます、能力の使い方や性能のテスト。

その証拠に獣の目撃情報はごくわずかです」

 

 獣が人を襲う事は噂程度に海鳴市に広まっていた、桜が人を襲う前に先回りでマイナス生物を撃退してきたおかげで

まだそこまでの騒ぎにはなっていない。浩二は何故獣を先回りできたのか疑問に思った。

 

「マイナス生物を探知する装置です、材料が無くてこれだけしか作れませんでしたが」

 

 そう言って誠司は懐中時計の様な形の探知機を見せた、それを光と浩二が見る。

 

「この装置に反応を追う事で、マイナス生物を発見できます。しかし何分精度が低く、

マイナス生物しか発見できない、マイナス能力を持つ犯人は発見できませんでした」

「構いません、十分なです。光、と桜ちゃんだったかな、君達はどうする?」

「手伝います!」

「良いだろう、む?」

 

 そう桜が元気よく返事をすると、懐中時計に早速反応が出る。

 

「反応が出た、全員出動!」

 

 そうして浩二達戦闘員はマイナス生物の撃退の為に、反応地点に向かう。

パトカーに乗り、光と桜も向かう途中。パトカーに車が突っ込んできた。

 

「え?」

 

 突然の事に桜が呆然とする、車は横転して何事かと光がぶつかって来た車を見る。

その車を動かしていた運転手の女は、刀を取り出して振り上げる。

 

「不味い!」

 

 光が慌てて桜と運転手を外に投げ飛ばす。

女が振り下ろした刀から斬撃が飛び車を両断した、両断された車が爆発する。

 

「黒神君!」

 

 桜が光を心配するが、空から光が吹っ飛んでくる。

衣服を焦がしてはいるが無事な様子で、桜は刀の女を睨みつける。

 

「貴女は誰ですか! 人に刃物を向けちゃいけないですよ!」

「星波、突っ込むとこそこじゃねぇ」

 

 女は刀を鞘に仕舞い、居合の体勢で構える。

光も双剣、白黒の中華剣を投影して構える。無表情の冷たい目の女は無言。

シュッという何かを斬る音が光と桜の耳に聞こえると高速道路がバラバラに解体された。

 

「なに!?」

 

 地面や壁を切り裂き、道路が陥没した。

光達は何とか切り裂かれずに済んだが、陥没した地面に落下していく。

 

「大丈夫!」

 

 桜が空を飛んで光と運転手を両手で掴み取り、安全な場所にまで運ぶ。

飛行能力まで持っている桜に驚きつつ、女を睨みつける光。

 

「……」

 

 光は陥没していない場所に着地すると、冷や汗をかく。

女の動きが全く見えなかった事に、焦りだす。

 

(尋常じゃねぇスピードと殺傷力だ、父さんと木葉なら反応できたかもな。

兄貴は余裕で避けるだろうし……)

 

 光が内心で女の対処法を考える、戦闘能力の高さを一瞬で見抜いたのだ。

 

(俺じゃあ勝てない、俺は黒神の中じゃあ圧倒的に格下だ。

転生者だってのに、二次創作のオリ主みたいには成れねぇ。俺は弱い、この世界じゃあ)

 

 小説の中の通りに上手くいかない光は、自嘲気味に笑う。

転生者として神の力によって生まれ変わり、チート能力を手に入れたとはしゃいでいた時も彼には有った。

しかしそんな考えは早々に打ち砕かれた。

 

 六年前、黒神光三歳。

黒神邸、雪の積もる庭の外で光は能力の実験をしていた時の事だった。

 

「――トレース、オン」

 

 剣を投影してその手に包丁を握り締めた。 

光はそれを興奮した様子で、もっと能力を使い始めた。

 

(よし、次はセイバーのエクスカリバーを投影してみよう!)

 

 神によって授けられた能力、無限の剣製。

一度見た武器防具を複製して、使いこなす事が出来る力。

彼は言えば、調子に乗っていた。能力を手にした万能感に浸っていたのだ。

 

「光」

「ん?」

 

 能力の実験をしていた彼に話しかけたのは、当時四歳の黒神冷都。

 

「何だよ兄貴」

(良い所だったのに……空気読まねぇなこのガキ)

「父さんが買い物に行こうと言ってる、お前も来てくれ」

「……」

 

 断っても良かったが光は精神年齢的に見れば大人、冷都は子供だ。

実年齢は年下でも、彼から見れば子供の頼みを断るわけにはいかない。

何より冷都は兄弟だ、仲良くするのは当然だろう。

 

「しょうがねぇな、分かったよ兄貴」

 

 そう言って雪を払うと、家族三人で買い物に出かけた。

車でスーパーに向かっている最中、光は自分の能力を冷都に見せて自慢していた。

 

「どうだどうだ! これ! カッコイイだろう!」

「そうか」

「……」

 

 ノリの悪い冷都に光はやる気を無くす。

 

(ッち、ノリの悪いガキだぜ本当。こんな事なら家でもっと能力を使って)

「伏せろ! 二人共!」

「へ?」

 

 そんな時、彼らの目の前に妖怪が現れた。

 





   マギアレコード。


 採用。


 とりあえずジャブで救済の魔女でもだそうかな。


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応援に応えよう

「な、なんだよあれ……」

 

 一つ目の妖怪が光達の前に現れる、浩二は外に出る。

 

「冷都、光を守るんだ」

「分かった」

「……」

(は、何言ってんだ。何処に行くんだよ!)

 

 光は二人を見てパニックになる、まるで状況が理解できない。

しかし光は妖怪たちを見て思った。

 

(そうだ! そうだよ。ここが俺の腕の見せ所じゃねぇか! 

あの化け物を倒してカッコよく二人を助ける展開って奴だ!)

 

 そう思い至り、光が剣を投影して戦おうとする。

しかし何故か体が動かない、恐怖で動けないのではない、光が自分の手に目をやると。

その手が石化していた。

 

「な、なんだよこれ!?」

「石化の魔眼か、あの一つ目の仕業だな」

 

 冷静に光の手を見て分析する冷都、このままでは二人共殺される。

奴等に勝てるのは自分だけなのだと勘違いする光は本当に焦りだし、泣き出した。

 

「どうするんだよ! どうするんだよ! 殺されちゃうよ!?」

(そんなのねぇよ! 死んで生き返ったのに! チート貰ったんだぞ! 俺は主人公のはずなのに!?)

 

 子供の様に泣き叫ぶ光に冷都は声を掛けた。

 

「光、安心しろ。原因はやっつけた」

「はあ?」

 

 冷都が指差す方向に光が視線を見やると、浩二が一つ目の化け物を殴り飛ばしていた。

唖然とそれを見つめて、泣き止む光は自分の手が元に戻っている事に驚く。

戦いが終わったと思った光が車の外に出る。

 

「待て光!」

 

 光は浩二の下に走り出すと振り向いた浩二が声を荒げて叫ぶ。

光が視線を横に向けると、化け物の一人が光の近くに居た。

 

(だ、大丈夫だ! ローアイアスを!。ローアイアスローアイアスを!?)

 

 混乱と恐怖で声が出ない、体が動かない。

光を殺そうと化け物が腕を振り上げる、目を瞑ってもう駄目だと思ったその時。

 

「大丈夫だ光、兄貴が守ってやる」

「あ……ああ」

 

 冷都は体から黒い触手を出して化け物を拘束する、そしてそのまま化け物を捕食した。

今度こそ戦いが終わる、尻もちをついて光はため息を吐く。

 

「よくやったぞ冷都! 光、大丈夫か? 怖かっただろう」

「父さん、一度帰ろう。光を家に戻らせるんだ」

 

 そう言うと、浩二は呆然とする光を抱えて車に乗せると。

反転して車で家に戻る。その最中、光は一言も喋らなかった。

 

 その数日後、光は部屋の片づけをしている時の事だった。

 

「うわ、これ重!」

 

 重い荷物で体の幼い自分では持ち上げられないと判断した光は浩二を呼ぼうとして、

荷物に近づく木葉を見つけた。木葉は当時一歳、荷物を光の様に持ち上げようとした。

 

「ああ、木葉お前じゃ無理……」

 

 だが木葉は光が持ち上げることが出来なかった荷物を難なく持ち上げた。

超パワーの能力を持った木葉を冷都も目撃した。

 

「木葉、それを一階のリビングにまで頼む」

「あい!」

 

 そう言って階段を使わずにジャンプで一回に降りた木葉を唖然と見る。

 

「どうした、光。木葉がそんなにおかしいか?」

「だって……」

「お前だって剣を作れるだろう、特別な事じゃない」

 

 冷都の言葉に光は心が折れた、挫折。

自分が主人公じゃないとはっきりと指摘されたような感覚に陥った。

無限の剣製、確かにそれは凄い能力だ。fateのエミヤ、

衛宮士郎という二人の登場人物が使うそれは確かにこの世界でも規格外の能力だっただろう。

 

(でも俺はエミヤでも士郎でもない)

 

 しかし彼は主役ではない、エミヤでもなければ衛宮士郎でもない。

崇高な正義感も偽善もない、悲しい過去があるわけでも悲壮感に満ちた過去もない。

彼は過去に偶然交通事故に遭っただけだ。それで死んだ、引かれそうになった女の子を救ったわけでも

子犬や子猫を守ったわけでもない、信号無視したトラックに引き殺された。

 

「俺は……主人公じゃねぇのか……」

「知らん」

 

 項垂れて顔を俯く彼に冷都はそう返した。

 

「何に落ち込んだのか知らないが、これを見ろ」

「?」

 

 光は冷都に視線を送る、冷都が黒い靄を出して人形を宙に浮かせていた。

 

「……それがなんだよ」

「練習した」

「はあ? 何言って……」

「お前は何か努力したか?」

「!」

 

 光は言葉が詰まり、何も言えなくなった。

今日まで生きてきて、能力を使ったのがつい最近だ。

何かを努力したと言われても何もとしか返せない、光は黙った。

 

「今からでも頑張るといい、それで主人公とやらになれ」

「……」

 

 光の心は晴れなかった、しかし何か天啓の様な物を感じた。

 

「頑張るって何を?」

「知らん、お前は主人公になりたいのだろう」

(……違う、俺に夢なんかねぇ)

 

 今生でも前世でも、夢もなくただ生きてきた彼ははっきりとした未来など見た事がない。

 

「成れると良いな、頑張れよ」

「――――」

 

 ただ、始めて応援してくれた人の期待には応えたかった。

黒神光は初めて応援された。

 



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出来損ないの主役

 

「うおおおお!」

 

 光が走り出すと同時に女が刀を横一閃に振り斬撃を飛ばす、光は盾を投影して防御した。

 

「桜! その人と避難しろ! 父さんに連絡入れてくれ!」

「で、でも!」

「早く!」

 

 悩む桜を一喝して避難させる、桜は運転手を運ぶと見えなくなるくらい遠くに飛んで行った。

周りの一般人も何時の間にか避難しており、周りを気にする心配もない。

 

「くう!」

 

 女の刀を双剣で受け止める、女は片手で対する光は両手に持つ双剣でようやく

防御できている状況。女はそれを鼻で笑うと、光の剣を弾き胴体を蹴り飛ばした。

 

「が!?」

 

 格上の敵を目の前にしながら、光は思い出す。自分の原点を。

 

(兄貴、やっぱり俺は出来損ないだ。努力しても主人公には成れそうにねぇ)

 

 高町なのは、この世界の主人公。

光は彼女が魔法少女として覚醒する夜、同じ場所へ向かった。

正義感もあった、ただ一番の目的は主人公という者を見たかったから。

そしてジュエルシードを追っていくうちに、段々と現実が見えてきた。

 

(心構えも、勇気も違いすぎる。ごめんな兄貴、ごめんな。

せっかく応援してくれたのに、期待外れでごめんな)

 

 壁にぶつかり背中を打ち付ける光、立ち上がって光は女に剣先を向ける。

息が荒くなり、全身から血の気が引く。

 

(殺される)

 

 恐怖で竦むなんてことはなかった、何度も戦いを経験して格上との戦いを何度も繰り返してきた。

体に震えは無い、死ぬ事は怖いが戦いを止める気にはならなかった。

 

(もしも俺が逃げたら、あの女は桜を追うかもしれねぇ)

 

 つい最近会ったばかりの少女、星波桜も強い女だった。

 

(誰とも知らない人の為に、ずっと戦って来たんだ。主人公じゃねぇか、クッソ腹立つ。

羨ましいぜ、その精神性)

 

 見ず知らずの他人の為に命を賭けて戦う者達、光はそれがとても美しく思えた。

自分もそうなりたいと本気で心の底からそう思えてきた。

 

 自分の為の都合の良い世界じゃなく、誰かの為に戦える主人公になりたかった。

 

「もう終わりか?」

「喋れたのかよ……口きけないかと思ったぜ」

 

 女は見下すように光を見て言う。光は剣を消した。

 

「ああ、終わりだぜ」

「……そうか」

 

 女の周りに青い剣が出現する。

 

(俺みたいな事も出来るのかよ……)

「最後に言い残す事は?」

 

 女の言葉に光は俯く。

 

(ごめんな兄貴、俺みたいな奴に期待してくれて。ごめんな父さん、俺に修行つけてくれたのに。

ごめんな木葉、もっとお前と遊んでやればよかったな。ごめんな母さん、今から俺もそっちに行くよ)

 

 光は手を前に出してこう言った。

 

「体は剣で出来ている!」

 

 女は光に剣を飛ばしてくるが、ローアイアスを展開して防御する。

 

「血潮は鉄で心は硝子」

 

 七枚の花弁の障壁が一枚二枚と壊れていく、それでも光の言葉は止まらない。

 

「幾たびの戦場を越えて不敗」

 

 これ以上盾を壊されない為に向かってくる青い剣を追撃する剣を大量に投影して迎え撃った。

 

「ただ一度の生涯は無に帰した、だが二度の人生を手に入れた!」

 

 女が刀を抜いて走り出す、光はその姿を決して目を逸らさずに見た。

死が近づいて来る、今の盾では女の攻撃を防御できないだろう。

 

「贋作は傲慢にも、剣の丘で光を見た」

 

 女に振り下ろす刀をギリギリで避けた光は爆弾を投影して女に投げつけた。

爆発して吹き飛ばされる光は盾を投影して衝撃を和らげる。当然女は無傷だ。光も効果があるとは思っていない。

 

「だが、我が生涯に意味は無く」

 

 女は今度こそ光を殺さんと刀を構えた。

 

「それでも俺は」

 

 光は数百を超える剣を投影して女に発射する。

 

「剣に成ろうと決めたんだ!」

 

 瞬間、二人の周りを炎が包み込んだ。

 

「……」

 

 女の見た物は灼熱の剣の大地、目の前には黒神光が立っていた。

剣の丘、無限の剣製の本質にして黒神光のたった一つの能力。

 

 天に昇る太陽と雲一つない青空、草原の大地に乱立する無数の剣。

固有結界、黒神光の心象風景の具現化その正体。

 

「これが俺のチート能力だ、反則技。貰い物の力。紛い物の紛い物。

偽物の偽物なんてもう笑っちまうよな」

 

 そう言って光は大地から一本の剣を抜き取った。

その剣先を女に向ける、時間は少ない。固有結界を展開できる時間は彼の魔力では三十分が限度だ。

 

「行くぞ、出来損ないの主役の力を見せてやる」

「下らん」

 

 所詮は偽物の集まり、どれだけ挑んでもこの女には勝てないだろう。

 

「俺は黒神だ」

 

 それでも出来損ないの主役は、手の届かない物に手を伸ばした。



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無限の剣製

 

 剣を操作して女に投擲するが、女の斬撃は光が目視する事も出来ないほど速く。

発射され行く剣を次々と撃ち落としていく。斧や槍も関係なく飛ばし、土煙をあげながら光は思った。

 

(俺じゃあ彼奴には勝てねぇ、だけど少しでも体力を削る!)

 

 女が光を殺した後、到着するであろう増援の負担を少しでも減らす為に。

命懸けでこの女を此処に留める、何故この女が攻撃してきたのか。

マイナスエネルギーの事を何か知っているのかどうか、それは浩二達が調べてくれる。

 

「きっかり三十分、相手してもらうぜ!」

「クズが」

 

 鬱陶しい攻撃をされて苛つく女は、腕を何本にも見える程動かして剣を落としていく。

 

「カラドボルグ!」

 

 光も矢を放ち攻撃を続ける、女は瞬間移動の如き速度で光に詰め寄る。

その体を切り裂こうと刀を横に振るうが剣を投影して防御する。

 

「くううううぅ、ちっ! おおおおおお!」

「!」

 

 気の操作による身体強化で、女の刀を押し返していく。

踏み込む地面が陥没する、だが女は更に力を入れる。

 

「■■■■!」

 

 発狂したような声を出して耐える、肉体を気で強化してもまだあと一歩足りない。

 

(どうする!? どうする!? まだ何が残ってる! 俺の手札はもうないのか!)

『光、呼吸を整えろ』

 

 ハッとした光は後ろに飛んで女から離れる、女が追撃しようとするが剣を操作して邪魔する。

一瞬だけ光は冷都の声が聞こえたような気がした。

 

「はあ、はあ。フウウウウゥゥ」

 

 以前、高町家に泊まった時に冷都に教えられた時の事を思い出す。

全集中の呼吸、酸素を一気に取り込む。気と似ていると言ったが、やり方は全く別物。

光はあの時は出来なかったが、あれからずっと修行をしてきた。

呼吸法を覚える為に、練習と実践を繰り返し。そしてようやく。

 

「フウウウウウ」

 

 光は一本の剣を投影する、黒曜石の様に黒いその剣は。

冷都が使う剣だ、マイナスの剣を光は投影した。光の切り札

 

(剣の憑依経験を読み取れ、兄貴の動きを模倣するんだ)

 

 黒い剣を両手で握り、気と呼吸の二つを同時に使う。

光の空気が変わったのを感じたのか、女の光を見る目が変わる。

 

(兄貴の黒いあれは真似できねぇ、あれは異能の力だ。だが剣は違う。

あの動きと剣だけなら真似できる!)

 

 黒神冷都の動きは達人のそれを遥かに凌駕した技術だ、それに無理矢理ついて行く。

最悪命を落とすかもしれない危険な行為だ。それでも。

 

「死んでも時間稼ぎしてやる」

 

 命を燃やしてその選択を取った。

 

「おおおおおおお!」

 

 女が光を見て構える。光は踏み込む力に全身全霊を込めた。

 

「全力全開だあああああ!」

 

 ――剣の呼吸 壱ノ型

 

 気と呼吸、そして魔力の三つの力を乗せ、手には届かない物に手を伸ばした。

 

 ――気剣

 

 光の目から血が流れる、彼が今届く限界点。更にその先へと。

 

「見事だ」

 

 女は初めて光を認めた。

 

 

 固有結界の外、黒神木葉は陥没した道路に来ていた。

 

「何ですこれ……」

 

 人気のない高速道路、地面や壁が切断された後に木葉が疑問符を浮かべる。

夏休みの自由研究の為に、出かけていた木葉は車の衝突音と爆発音を聞いて駆けつけたのだが。

固有結界を発動した光により、その犯人も消え。一般人は避難してしまっており事情を知る人間が居ない。

 

「……?」

 

 煙を出した車と荒れ果てた道路に困惑する、何があったかを説明してくれる人間が居ない。

木葉は携帯を使って父親、浩二に連絡を入れることにした。

 

「よし! お父さんに連絡しよう!」

「それは遠慮してもらいましょう、お嬢さん」

 

 木葉は聞こえてきた声の正体を捜す、上に視線を向けると街灯を足場にしている

紳士姿の立派な口髭を生やした初老の男が、彼女を見下ろしていた。

木葉はハッとして初老の男に声を掛けた。

 

「あの! それは公共物ですので! 其処には立っちゃ駄目ですよ!」

 

 ツッコミどころを間違えている彼女を突っ込む一般人は残念ながら此処に居なかった。

男は目を丸くして笑い、街灯から降りる。

 

「ハハハハハ! それは済みませんお嬢さん。私は目立ちたがり屋でして」

「良いんですよ! 分かってくれれば」

 

 そう言ってお互い笑顔で自己紹介をしだす。

 

「私、黒神木葉って言います! 木葉と呼んでください紳士さん!」

「これはどうもご丁寧に、私の名前は金森哲也と申します」

 

 木葉と哲也が握手すると、木葉がさっきの質問の意味を問いだす。

 

「あの哲也さん! 何でお父さんに連絡しちゃ駄目なんですか?」

 

 木葉の問いに哲也は笑顔で腕を振り上げる。

 

「それはですね、木葉さん」

 

 哲也は邪悪な目を木葉に向けて嗤った。

 

「人が来ると面倒だからですよ!」

 

 振り下ろした手は真っ直ぐに木葉に当たった。

振り下ろされた腕に当たった木葉は、勢いよく地面に叩き付けられた。

 



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最強の女

 

 勢いよく地面に叩き付けられた木葉は立ち上がって服に付いた埃を払う。

 

「いきなり何するんですか! もうぉ」

「……」

 

 哲也は怪我一つない木葉に目を見開く、そして自分の手を見る。

 

(殴った腕が痺れている、まるで鋼を殴った様な感覚だ。

この少女、硬化能力を持っているのか? 厄介だな……)

 

 木葉の能力を考察する哲也は後ろに跳躍して、木葉から距離を取る。

哲也は体から不定形な透明な何かを発する。

 

「硬!」

 

 哲也は手から靄を出す、その動作に木葉が首を傾げる。

踏み込んで一瞬で木葉の至近距離に移動した哲也は、その靄を発した拳で殴りつけた。

しかしその拳を木葉は片手で掴み取ると、軽く振るように哲也を投げ飛ばした。

 

「馬鹿な!?」

 

 哲也は信じられない物を見る目で木葉を見た。

念能力、オーラと言う人間の生命エネルギーを操作して肉体の強化を行う技法。

気の亜種ともいえる力。その力で殴られれば肉体の破壊は勿論、

岩や金属さえ砕くこともできる。だが木葉の体には傷一つなく、ダメージを食らった様子もない。

 

「貴方は悪い人だったんですね!」

「そうです、よ!」

 

 今度は蹴りを放つが、木葉は哲也の動体視力を持ってしても捉えられない速度で彼の背後を取った。

哲也の衣服を掴み、木葉はお返しとばかりに地面に叩き付けた。

 

「全くもう……」

 

 哲也は地面にめり込んで気絶した。

今度こそ浩二に連絡しようとした時、遠くからパトカーのサイレン音が聞こえて来る。

車を視認すると中に浩二が見えるのを確認し、電話するのは止めた。

 

「お父さん!」

「木葉か、光は何処だ?」

「お兄ちゃん?」

 

 木葉は周りを見渡すが、光は見当たらない。

 

「異能者の事件を追ってな協力者が光がピンチと言われて来たんだが、そいつが敵か」

「うーん? どうなんだろう」

 

 木葉は地面から哲也を引き抜き、異能課の回収班に渡す。

バラバラに解体された道路を封鎖する警察達の邪魔をする訳にはいかないので、木葉はその場を立ち去ろうとしたのだが。

 

「クソッ、だが時間は稼いだか……」

「死ね」

 

 刀を持った女が光に止めを刺そうとしている所を見た、木葉は高速移動で女を蹴飛ばした。

 

「グア!?」

 

 蹴飛ばされた女は吹き飛ばされ壁にクレーターを作った。

木葉は直に光を抱き起して救急班に渡す。

 

「お兄ちゃん! しっかり!」

「こ、木葉は。助かった……今度パフェ奢るわ」

 

 軽口を叩くと光は気絶した、それを心配するが。

救急班が光をタンカーに乗せて救急車に入れる。

 

「お願いします」

「はい、木葉ちゃんも来ますか」

「私はあのいじめっ子に用がありますから」

 

 救急班の一人が木葉に言うが、木葉は蹴飛ばした女を睨みつける。

救急車がサイレン音を鳴らして発車するのを浩二が確認すると、木葉に近寄る。

 

「木葉、怒る気持ちは分かるが冷静にな」

「うん、作戦はどうする」

「俺達は援護だ、光をあそこまで圧倒した相手だ。油断するなよ」

「オウケイだよ!」

 

 木葉が前屈みの姿勢になって立ち上がろうとする女に突っ込む。

そのまま壁を破壊して空高くまで跳躍した。浩二はそれを見て呆れる。

 

「援護って言っただろうが……」

「いやー俺達の援護、あの子にいります?」

「そうそう」

 

 その他の異能課戦闘員も苦笑いして雲の上まで飛んで行った木葉を見る。

木葉と一緒に飛んだ女は体当たりされた衝撃で口から吐血するが、刀で木葉の背中を突き刺す。しかし。

 

「!?」

 

 木葉の背中に思い切り刀をねじ込もうとしても、傷一つ付かない体に目を見開く女。

 

「よくもお兄ちゃんをいじめたなー!」

 

 それを木葉は欠片も気にした様子もなく、もしかしたら攻撃された事にすら気づいていないかもしれない。

そのまま女を掴んだまま、重力に従って落ちていく。

 

「放せ!」

「嫌です!」

 

 木葉は藻掻く女の腕を掴み、落下しながら空中で回転する。

地面に着地すると同時に女を地面に叩き付け。公園の地面をえぐり水の柱ならぬ土の柱を作り出した。

 

「ふううう! もう悪い事しちゃダメですよ!」

「……」

 

 女は耐久力もあったのか死ぬ事は無かったが、白目を剥いてぴくぴくと痙攣する。

木葉はハッとして我に返り、頭を抱えだした。

 

「やりすぎた……」

 

 それから数十分後、異能課のパトカーが車で頭を抱えていた木葉だった。

力、速度、耐久力。全てを人間の範囲から逸脱した女。世界最強の女、黒神木葉は兄と父に怒られる事だけが心配だった。

 

「ご、ごめんなさーい!」



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眷属

 

 海鳴大学病院、病室

 

「それで、こうなったわけか」

「そうだ」

 

 中で光はベットの上で包帯だらけで寝かされていた、冷都は無表情でそれを見る。

木葉が暴れた日から丸一日が経過し、関係者の冷都は光と面会していた。

 

「しかし呼吸法を咄嗟に思い出して使うとは、やるじゃないか光」

「いやぁ、結局敗けちまったしなぁ」

 

 冷都が光を褒め、謙遜するように言う光だが照れて顔がにやけている。

扉からノック音が聞こえて、光の病室に浩二と木葉が入って来る。

 

「おー、元気そうだな」

「元気じゃねよ、まあ死は覚悟したけどよ」

「大丈夫お兄ちゃん?」

 

 心配そうに光を見る木葉の頭を光が笑って撫でる。

 

「大丈夫だよ、怪我は骨折と疲労と出血多量と。

肺の損傷と血管の破裂とか色々だ」

「重症だよ!?」

 

 重症な体を軽く言う光に木葉が突っ込む、それに呆れた顔をする浩二が椅子に座る。

お見上げの花を冷都が受け取って花瓶に入れる。

 

「光、敵はどんな感じだった」

「彼奴らマジやべぇ、父さんでも一対一はキツイかもな」

「私は私は?」

「お前と兄貴なら瞬殺だろうよ」

 

 冗談交じりに光が言うが本音である、彼の全身全霊の攻撃を全ていなした女は

浩二が相手でも苦戦しただろうと光は予想している。ただし兄妹二人に関しては心配していないが。

 

「先に失礼する、電話だ」

 

 冷都は携帯の着信音が鳴り、先に病室に出て行った。

それを見送ると浩二が真剣な面持ちで光を見る、それを見て光も真剣な表情する。

 

「昨日、目を覚ました二人から尋問して聞いた。彼奴らは眷属だと」

「眷属?」

「マイナス能力の持ち主。異能者の部下を集めた組織を作っているらしい、

彼奴らはその中でも幹部クラスだったようだ、それでもあと五人残ってる」

「あの化け物みたいな奴等があと五人もかよ……」

 

 最悪と呟く光に、木葉が心配そうな顔をする。

 

「だ、大丈夫だよお兄ちゃん! 私が全部ぶっ飛ばしてあげる!」

「やめろ、絶対にやりすぎるから。やめろ、やめてくれ」

 

 真顔で拒否する光に、木葉はショックを受ける。

 

「とりあえず桜ちゃんと俺達で捜索を続ける、お前は療養しろ」

「え、いや兄貴に治してもらうよ!」

「兄さんなら、出てったよ?」

「早く連れ戻してきてくれ!」

 

 光が絶叫するように二人に言い、浩二がやれやれという顔で立ち上がって冷都を呼びに行く。

 

「ああ、欠員の二人に関してはお前に任せる。ああ、ああ」

「冷都、光を治してくれ」

「分かった、切るぞ」

 

 扉の目に居た冷都が携帯を切り、病室に戻る。

黒い液体を光にかける。そういえばというと言って冷都は光に質問した。

 

「クロノ達管理局員に協力は要請しないのか」

「いやあれ別の世界の住人だし、言うなりゃ別の国の人だしさ。魔法がらみでもないし無理だよ」

「ならばなのは達は?」

「あれも十分あっち側だしなぁ。それに俺達みたいに異能と関わる義務も義理もねぇし。

それに彼奴らに言ったら確実に協力すると思うけど、できればあんまり友達に関わって欲しくねぇんだよな」

「難儀な事だ、私なら戦力があるなら手伝って欲しいと思うが。勿論断れば別だがな」

 

 黒い液体が消滅して光は包帯を取ると、体を伸ばしてストレッチする。

 

「いやー痛かったぜ、サンキュー兄貴」

「パフェ奢ってね」

「憶えてやがったか……」

 

 パフェの約束を憶えていた木葉に呆れた顔をする光、事情を知らない冷都は困惑する。

光が浩二が持って来た袋から私服を取り出して着替える。

 

「私は先に帰る」

「ああ、お前にも後で何があったか教える」

 

 そう言って病室から出て行く冷都。

 

「私はどうする?」

「お前は最終兵器だ、最後の切り札。お前は強すぎるからな」

 

 その後、桜がやって来て病室で驚き看護婦に怒られるなどの事がありながらも。

黒神光は復活、冷都は別行動、木葉は待機、浩二は捜索を続けることとなった。

 

 

 バニングス家、トレーニング施設。

 

「冷都、それでどうするの?」

 

 アリサは腕を組んで、冷都を見た。

 

「お前には剣術の才能が少なからずある、使ってみろ」

 

 そう言って冷都は刀を手渡す、アリサはそれを軽く振ったりしながら感触を確かめる。

 

「すずかにも憶えてもらうつもりだが、剣技は私も使う。

槍や斧よりも教えやすいだろう、嫌なら別にいが」

「いいえ、刀にするわ。気に入った」

 

 真剣の重さに少し振り回されるが、アリサは気に入ったと言う。

気の修行から一日、成果が出るにはまだ時間がかかるだろう。

 冷都は隣のすずかにも刀を渡す。

 

「本当だ、結構重い」

「重さを知っておけ、いずれは使ってもらう」

 

 修行を場を山奥からアリサの家に変えた理由は、獣に襲われた際に危険だから。

そして人目に付く可能性を考慮した結果、デビットの家を使う事にした。

彼も協力して施設を用意してくれた。

 

「早速始めよう、まずは剣術の基礎からだ」

 

 二人か刀を抜いた。



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異能の剣技

 

 刀を振るアリサ達を横でアドバイスする、偶に剣技を見せてどこがダメなのかを教える。

 

「私は影の呼吸と呼ぶ剣技を使う、異能を組み合わせた剣技だ」

「おおー、なんかファンタジーね」

「だから私の剣技は真似できない、お前達独自の型を作る必要がある」

 

 呼吸の型、冷都の使う影の呼吸、御神流の御の呼吸などを使う技。

二人はそのどちらも使えない、全集中の呼吸は身体能力を上げるだけのもので技術自体は自分の手で鍛え上げるほかない。

刀を振り、効率的な動きを追求していく。

 

「私の型を教える、お前達がそれを自分で改良するかを考えろ」

 

 二人には影の呼吸の型を壱から拾壱まで全て見せた、今の二人には動きすら到底真似できない物もあった。

冷都はとりあえず全部見せたが、二人は悩むような顔をする。

 

「すずか、真似できる?」

「う~ん、難しいかも……」

 

 その動きを再現しようと、刀を振ってみる。

 

「腕の動きに集中し過ぎている、上半身も一緒に動かす様にだ。そうだそれでいい」

 

 次第に二人に気を使いながらの剣技を真似させ、動きを流麗にさせて行く。

しかし冷都に比べれば素人目に見ても技量の違いが分かる、影の呼吸の型は彼女達には合わないのだろう。

そこで二人に合った動きを冷都が思いついてやって見せる、アリサには攻撃主体の動きを。すずかには防御主体の動き。

 

「はあ! やあ!」

「ふ! せい!」

 

 剣技の精度は影の呼吸の型よりも上がり、体が思うように動くと二人は感じた。

 

「これなら出来る気がするわ!」

 

 スムーズに気の操作を剣技に上乗せ出来た事に喜ぶ二人だが、数時間もすると。

ばたりと倒れる。

 

「ああー、はああああ……」

「うううう、手足がもう動かない……」

 

 汗だくで半死半生の様な状態の二人に黒い液体で治療、体力の回復を行う。

疲労感が無くなった事に驚く。

 

「よし、治ったな。じゃあまた再開……」

「これならまた動けるわね!」

「うん! まだ試したい動きがあったんだ!」

「……」

 

 冷都が二人に休む暇も与えないつもりで何か言おうとしたが、自主的に二人が修行を再開して黙り込む。

 

(そういえばこの女共、なのはとフェイトの友人だったな)

 

 複雑な気持ちで二人を見ながら、冷都は後ろに控えていた鮫島という執事の茶を啜った。

 

「……苦い」

 

 茶の感想を述べ、しばらくの間二人の修行を見るだけにした冷都だった。

 

 

 それから一週間後、アリサは何かに気づいたように修行を打ち切り冷都に頼み込んだ。

 

「お願いがあるんだけど!」

「なんだ」

 

 アリサは刀を構えて、実験用のマネキン人形に刀を向けた。

目を瞑って精神を集中させる、目を見開きアリサは踏み込んだ。

 

「ほう」

 

 気の強化、アリサはこの一週間と一日で気の操作による身体強化を覚えたのだ。

アリサはマネキンに急接近し一回転して遠心力を乗せる、腕力と気の強化と遠心力のエネルギーを乗せた一撃。

それを食らったマネキンは胴体が切断され、ゴトリと地面に倒れた。

 

「どうどう! 今の!」

「凄いよアリサちゃん!」

「えへへぇ」

 

 すずかに褒められて顔がにやけるアリサ、マネキンは綺麗な断面が出来ている。

 

「合格だ、素晴らしい成長速度だ」

「あ、ありがとう」

 

 頬を指でかいて顔を赤くする、マネキンを掃除した後アリサの体を見る。

 

(未熟、だが才能はあるな。これならば気の常時強化も、……気が早いか)

「今の回転を応用した一撃は良かった、身体能力はまだまだだが技量だけならすずかよりも上だ」

「ありがとうございます!」

 

 アリサの成長速度はかなり異常と言える、才能だけならば冷都は光以上なのではとさえ思った。

ただし気の操作に関してだけであり、剣技の才能は光には遠く及ばない。

 

「すずか、身体能力はお前の方が上だ。しかし剣技の才能はない」

「ぐふ!?」

 

 ハッキリと才能が無いと断じられたすずかはショックを受ける、夜の一族という特殊な家系に生まれ。

その身体能力は同年代どころか大人さえ上回る可能性もあるが、それは一般人から見ればという話。

冷都達異能者や、超常現象と日夜戦っている異能課の人間から見ればまだまだ雑魚の部類だ。

 

「生命力はお前の方が上だ、自前の身体能力を気の強化で上乗せすれば。アリサ以上に動けるはずだ」

「はい! 分かりました!」

 

 意気込むすずかにアリサも一緒になってコツをすずかに覚えさせる。

 

「考え方としては、血管から流れる血を体の一部に集める感じ。本当に集めてる訳じゃないけど」

 

 遠くでアリサ達を観察する視線に気づいた冷都がそれに近づく。

デビットは椅子に座って茶を飲んでいた。

 

「調子はどうかな」

「実戦には使えない、あともう少し時間が必要だ」

 

 アリサの様子が親として気になるのだろう、表情は平静を保っているが。

不安な感情になっている事に冷都は気づいたが、あえて何も言う事は無かった。

 

「能力の詳細が分かれば良いのだが、……あれを使うわけにもいかん」

「あれ?」

「気にするな、こちらの話だ」

 

 冷都は木刀を手にして二人に言った。

 

「そろそろ、実戦稽古に移るぞ。木刀に持ち替えろ」

『はい!』

 

 二人はやる気一杯で返事をした。

 



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星波桜は悲しまない

 

 一週間前、異能課、町内に存在するとあるビル内。

浩二と光、そして桜と誠司、その他の異能課の面々が会議室で今後の話をしていた。

 

「今後の活動に関してだが、こっちも慎重に動かないと。敵さんが思いの外強敵だってのも分かった」

「兄貴はどうしたんだ? 兄貴のサーチャーも使えば」

「彼奴は別行動すると、彼奴も獣を見つけたらしくてな、その為の弟子の育成とか計画を立ててるんだと」

「兄貴マジで行動が早いな……」

 

 光は既に冷都が事情を知り、既に対策を練っている事に戦慄していた。

行動の早い事は浩二も見習いたいと思っているが、あまり無茶して欲しくないのか複雑な心境ではあったが。

 

「黒神だからって無茶は止めて欲しいもんだ……」

「そりゃ無理だよ、父さんの子だぜ」

 

 頭が痛くなるのを抑えて浩二は報告書を読んだ。

 

「逮捕した二人の証言では、マイナス能力者は三十代後半の男性、サラリーマン風の黒髪黒目。

中肉中背と何処にでも居そうな一般的な容姿だと」

「これじゃあ分からなくないですか?」

「そうだ、誰かわからん。テレパシー能力者を使って頭の中を覗いているが、強力な妨害能力で記憶が読み取れない」

 

 桜の疑問に浩二が項垂れて答える、結論を言えば敵の情報が人数以外何も分からない。

光を圧倒する程の実力者が最低でもあと五人、ボスを含めれば六人存在する。

彼らは幹部を眷属と呼んで異能者の仲間を集めているらしい。

 

「組織の名前はマイナス。能力名をそのまま取ったのだとさ」

「それ以外はまだ、何も分からないか……しかしなんで俺を襲って来たんだ?」

「それだ、奴等は命令されて動いただけで。何故敵のボスはお前を狙ったのかは知らない、

お前に何か心当たりとかないか?」

「と言われてもなぁ」

 

 全く心当たりが無い、黒神家は異能者組織などの秘密組織の解体にも関わっている。

恨みを持った人間は腐るほど居るだろう。

 

「俺と言うより、黒神だから狙ったとか?」

「かもな、恨みか、それとも力を恐れて先手を打ったか」

 

 桜がおずおずと挙手する。

 

「あのーそれなら、私達が動かなくてもまた襲ってくるんじゃ?」

「だろうな、もしかしたらもう既に来てるかもな! ハハハハ!」

 

 浩二が冗談交じりで笑った直後、大きな振動音と共にビルの中の景色が一変した。

 

「……どこだろう、ここ……」

 

 桜はコンクリートの部屋が煉瓦の部屋に変わった事に驚く、彼女以外の人間は消え。

部屋に一人だけ取り残される事になった。とりあえず桜はこの部屋から出ることにした。

木製の扉を開けると、喧騒が聞こえる。金属のぶつかる音と爆発音、怒声を含んだ声の方向に行くと。

 

「これは!」

 

 古代ローマには見世物として戦士同士を戦わせる剣闘士というものがあった。

桜が出た場所はまさにそこ、円形闘技場と呼ばれる煉瓦と砂の大地で剣を持った光が倒れていた。

 

「黒神君!」

 

 桜が倒れている光に近づく、その奥には手を叩く男が一人。

煌びやかで高そうな衣服と宝石を付けた男が彼女を見ていた。

桜は光の前に立ち、しゃがんで倒れている光の背に触れる。

 

「良かった、生きてる」

「ああ、殺してないからな!」

 

 両腕を腰に当てて桜を見下す様に見る、桜も立ち上がって体を光らせる。

プラスエネルギーを発動する、彼女の背からエネルギー状の翼が出現する。

 

「一つだけ聞きます、貴方はマイナスの眷属ですか」

「そうだ、この俺があの御方の忠実なる僕……」

 

 桜は男が急に黙った事に首を傾げる。しかし目の前に居るのは確実に敵、彼女は警戒態勢に入った。

 

「大人しく捕まってください」

「断る、俺に指図していいのはこの世で一人だけだ」

「……」

 

 翼から数百のレーザを男に向かって射出する、しかし男は目の前から突然消え。

彼女の隣に立っていた。男が蹴りを放つが直前でバリアを展開して防御する。

 

(反応速度はかなり良いな)

 

 男が桜を観察する、桜はエネルギーを手から放出、ブレード状に変えて男に突進する。

しかしまた目の前から消え、背中から衝撃を受けた。

 

「く!」

(瞬間移動?)

 

 蹴飛ばされたのだろう、男が足を上げた状態で桜を見ていた。

桜は振り向き腕を振ってレーザーを射出する、視界内へ横一線、壁にレーザーが当たり煉瓦を削る。

男に当たる事は無かった。

 

「……」

 

 桜も予想していたのか、驚くことは無かった。

桜は男の足元の砂場を見る。

 

(土煙は上がってない、高速移動じゃない瞬間移動だ。でも何かがおかしい、何か違う気がする)

 

 桜は己の感が、瞬間移動能力ではない事を告げる。

ならば男の力の正体は何なのか、それを考える時間を男は与えてはくれない。

また彼女の視線から男の姿が消える、桜は咄嗟にバリアを展開するが肩を叩かれ振り向くと男が笑っていた。

 

「!」

 

 桜は腕を振るって攻撃するが、男の姿が消えたと同時に脇腹に謎の衝撃を受ける。

 

「……」

 

 そのままバリアが解除され、吹き飛ばされる。

自分の脇腹を見て何かの攻撃を受けた事は確認したが、何の攻撃か理解できなかった。

 

(何の攻撃? 何をしたのかな?)

 

 感触は人間の拳の様だったが、男は殴っていない。

その証拠にポケットに手を突っ込んだ状態で仁王立ちしている

 

「無駄無駄、貴様では私には勝てん」

「まだ戦いは始まったばかりだよ!」

「貴様の攻撃は当たらん、無駄な事は止めて大人しく死ぬがいい」

「嫌だ! 無駄かどうかは私が決める! 私に指図しないで!」

 

 桜は嘲る男に指を指して黙らせる、男はそれが面白くないのか目を細めて鼻で笑う。

桜は翼を広げて拳を握ると、笑顔で男を見た。

 



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正の感情

 

 星波桜、五歳。彼女の感情は酷く歪だった。

 

「桜ちゃんは何時も笑顔だね」

「そうですか?」

 

 彼女はその言葉に困っていた、何時も笑顔で元気が良い。

彼女は自分が嫌いだった、大切な命を失っても直に立ち直って明日を迎えようとする自分が酷く醜く見えた。

不幸にも彼女の歪なそれを誰も指摘しない、誰もが素敵な事だという。

 

(何が良いの? お母さんが死んで、ペットが死んで。それを悲しまなくなる事の何が素敵なの?)

 

 誰も気づかない、誰も彼女が異常な事を知らない。

彼女も答えなかった、自分はおかしいのだと言わなかった。

 

「桜ちゃんは元気が良いね」

「ありがとう!」

 

 質問されて返答する、ありきたりな事をありきたりな普通の事を言って返すを繰り返し。

何時の間にか彼女は学校のヒロインになっていた、正義の味方、ただ正しい事だけを行う。

彼女には沢山の友人がいたが、誰も彼女の内面に気づかなかった。

 

(本当の私は、こんなにも冷たい人だって知ったら。皆離れていくんだろうな……)

 

 例え皆が居なくなっても、彼女が世界中でただ一人になっても。

彼女は直に慣れるだろう、希望の光を胸に明日も明後日も生きるだろう。

 

「……」

 

 人の正の感情を強制的に吸収してしまい、エネルギーに変換する過程で彼女は。

周りの幸福感を一心に受けることになった、生きているだけで素晴らしい、世界は美しく。

善性を、正の感情を持った。

 

「私と反対の人はどうなのかな……」

 

 桜は自分と同じエネルギーを受けた人の事を考える、この世の悪性と負の感情を吸収して正気でいられるのだろうか。

少なくとも桜にはできなかった、彼女は今もプラスと言う地獄を味わっている。

 

(もしもマイナス能力がその通りに動いたら)

 

 この世の地獄そのものだ、人の幸福を満足に味わう事も出来ない。

常にあらゆる負の感情に苛まれて、最悪自殺するかこの世に復讐さえしかねないだろう。

 

(可哀想に……)

 

 彼女は目から涙を流した、しかし直に泣き止んだ。

 

「何を泣いてる?」

「……ああ……、何でもないんです」

 

 フードを被った同年代くらいの少年が桜に話しかけた、泣いてる自分を心配したのだと

思った桜は大丈夫と言って涙を拭いた。しかし少年は立ち去らずにまだ桜を見ていた。

困惑する桜を余所に、少年は桜をじっと見る。

 

(影でよく顔が見えない……)

「……」

 

 少年は何も言わずに立ち去って行った、何だったのだろうかと桜は困惑したが。

 

(また気にならなくなった)

 

 何時の間にか悲しい事は消えたと理解して、慣れた自分に自己嫌悪する、それが何回目なのかは忘れた。

嫌いという感情はあった、嫌いなものは無くならなかった。慣れはしても、本当に嫌いな物は消えないと彼女は少し安心した。

 

 ある夜の事、彼女がベットで眠っている時の事。

外から何かが這いずるような音が聞こえた、桜はされが何となく気になって窓の外からそれを眺めた。

それはマイナス生物、黒い獣だった。当時の彼女はそれの正体を知らない。

普通の子供なら怯える、好奇心を示す、隠れるだっただろう。だが彼女はそれに態々近づいた。

 

「言葉が分かるかな?」

 

 現代よりも若い彼女でもそれが普通の生き物でない事は分かった。

黒い獣は彼女を見ると鋭い爪を伸ばして襲い掛かって来る。桜はそれを持前の反射神経で回避した。

 

「どうして襲ってくるの?」

 

 手を伸ばして獣と触れ合おうとするが、横から銃の様な物を構えた誠司が黒い獣をレーザーを撃って消滅させた。

 

「大丈夫か!」

 

 心配そうな顔で桜の顔を覗き込む、桜は獣が死んだことを心から悲しんだが。

何時の間にかそんな感情も消えた。

 

「あの子は何だったの?」

「私にも詳しい事は分からない、もしかすると……」

 

 それから彼女は誠司からマイナスエネルギー能力者の事を聞いた、桜は予想していた事に心が痛んだ。

きっとこれからもその誰かは世界を脅かし続ける、人を襲わせるだろう。

 

「桜、お前の力を貸してくれ。お前なら出来るはずだ」

「……うん、いいよ」

 

 恐怖も怒りも無かった、彼女に有ったのは使命感と正義の心。

罪のない人たちの為に戦う事だった、彼女の恐怖は塗りつぶされた。

 

(下らない話だよね)

 

 桜は男と対峙しながら走馬灯の様にそんな事を思い出した。

彼女の攻撃を全て避けた男はまた謎の攻撃で桜を吹き飛ばした、今度は確実に腹部に入った。

強烈な一撃、普通の人間ならば胴体を貫通しているだろう。

 

(この闘技場、学校のグラウンドくらいはある。あの人の異能か、もう一人仲間が居るのかな)

 

 痛みで苦しんだ様子もない桜に男は首を傾げる。

 

(妙だ、さっきの攻撃も確実に殺す為の一撃だった……あのバリアを直前で体に纏ったか?)

 

 立ち上がって桜は空を飛んだ、上空から男を狙い撃ちにする。

しかし目の前に瞬間移動した男から顔面に攻撃を受け地面に叩き落された。

 

(また見えない攻撃……何をしたのか見えない、?)

 

 彼女は殴り飛ばされて地面にクレーターを作った、起き上がって地面に着地した男に注目するが。

桜は先程、男が居た場所に視線を向けた。男が立っていた場所に奇妙な凹みがあったのだ。

 

(あの人がジャンプした時の? いやそれなら音が聞こえてるし瞬間移動にジャンプなんか必要ない)

 

 桜は闘技場内全てに張り巡らす様に光る縄を創り出した、男をそれに拘束して雁字搦めにする。

 

「間抜けが! これで俺を倒したつもりか!」

(いいや、実験だよ)

 

 男は瞬間移動でまた桜に近づき謎の攻撃で殴り飛ばした、殴り飛ばされる最中、男の背後に視線を向けると。

光る縄は引き千切られていた、拘束用の縄は消滅する。

 

「時間停止」

「!」

 

 桜が唐突にそう呟くと、男に目が見開き、桜の考えは確信に変わる。

土で汚れた衣服をはたいて落とす、桜はバリアを展開する。

 

「貴方の今の態度で分かった、それで正解だよね」

「ふ、正解だ。時間停止、それが俺の能力! だが分かったからなんだと? 貴様が死ぬ運命は何一つ変わってはいない」

「死なない、私は……死なないから!」

 

 諦めることなく両手に光を集める、戦意は無限。抵抗する意思は変わらない。

桜は死ぬまで諦めないだろう、男がそれに気が付かない限り。

 

 男が勝利する事はない。



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