レインの為に頑張る (3さん)
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1話

 死。

 

 

 

 その感覚は突然やってきた。

 しかもそれが、事故や災害などで陥った物では無い。

 

 

 そう。

 俺の死の感覚は人から殺される、という物だった。

 

 人から殺される。それは世界から見ても安全な国、日本での学生に訪れた。そいつが特殊なヒットマンだとか、軍事関係にいるとかの設定も無い。平凡な高校生だった。平日学校に行き、休日は自落的な日を送る日々。何処からどう見ても、平凡な高校生。それが俺だった。

 

 

 だが、それは突然終わりを告げた。俺の平凡で退屈な日々は終わり、その日から終わらない地獄が始まった。

 

 

 

 

 

 きっかけは一つのアプリゲームだった。今の時代スマートフォンやパソコンの普及率が凄い。もう街中で、電子端末を使っていない物はいない。と、言える程には普及してる。現代を生きる10代の俺も当然、携帯電話として、スマホを所持している。そしてこれが便利な物で、一台で動画や音楽。ゲームなんかも出来たりする。

 そして、その殆どが無料でプレイ出来たりする気軽さもあり、ゲームアプリの人気は凄まじいものだった。

 その、気軽さもあってからか適当にダンロードする者もいる。俺もどちらと言えば、その部類だった。

 

 

 

 

 そんなある日、俺の寂しいスマホに一通のメールが届いていた。

 差し出し人は、よく分からないゲームアプリの運営からだった。メールを見た所、どこにでもある様な広告メールだった。まぁ、リンクから飛んで、ゲームをダンロード!と言った内容だった。この手は良くある事だ。如何わしいサイトを見てたら、変なメールが大量に届く……なんて経験は絶対した事がある筈だ。……多分。

 

 俺はそんな軽いノリでアプリをインストールしてしまった。面白くなければ、アンインストールしたらいい。そんな風に考えていた。

 

 

 

 

 ──────この時の選択を俺は後悔している。

 

 

 

 全て、此処から狂ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【ダーウィンズゲーム】

 

 通称Dゲーム。

 URLをクリックしたり、友人などからの招待メールなどで気軽にプレイ出来るソーシャルゲーム。ゲーム上での通貨を要して、ガチャなどアイテムを買ったりして強くなれる古典的なソーシャルネットゲームだ。

 

 

 それは表向きの話だったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はこのゲームを起動したところで、奇妙な事に遭遇した。

 

 

 突然、スマートフォンの画面から蛇が現れたのだ。最初は幻覚かと思った。だって、常識的に考えたらそんな事は絶対に起こらない。しかもその蛇は酷く現実的で、噛まれでもしたら本当に痛そうだった。俺は突然の出来事に驚き、スマホを床に落としそうになった所で、蛇に首を噛まれてしまった。

 

 

 

 

 少し、状況を理解するのに時間がかかった。なんだったんだ今のは?

 それだけが、頭の中に浮かんだ。

 

ゲームのムービーにしては、嫌なリアリティがありすぎる。それに、ムービーであそこまで蛇を再現出来るだろうか?今、俺は確実に首を噛まれていた。

 

 

 

たかが、ゲーム。なのに得体の知れない恐怖があった。

 

 

 

 

 

 驚いた拍子に、床に落としてしまったスマホを見ても、ディスプレイにはもう何も写っていなかった。当然、そこには蛇もいない。やはり俺の見間違いだったのだろうか?もし、そうだとしてもこのゲームは不気味すぎる。俺はそう思い、ゲームを消そうとした。だが、アンインストールの方法が分からなかった。普通なら直ぐにアンインストール出来る。けど、そのゲームにはそんな表示も一切無く、ネットにも情報は何も載っていなかった。ゲーム自体を起動した方が一番良いのだろう。だが、俺は得体の知れない恐怖もあり、ダーウィンズゲームを起動出来なかった。

 

 

 

その他にも色々方法を調べたが、その日は何故か強烈な眠気があり気付けば寝てしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

 

 当然、不気味なダーウィンズゲームが消去されてる筈もなく、アプリ欄には残っていた。不気味でとても気になるが、今日は平日、学校が当然あった。

 

 俺は一旦、ダーウィンズゲームの事は忘れて学校に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普通の学生らしく学校に通い、

 結局自分の時間が出来たのは放課後の事だった。

 

 

 昨日の深夜。不気味な出来事に襲われた。その元凶はまだ俺の携帯には残っている。怖気付いていては何も変わらない。それに、たかがゲームだ。昨日のも俺の見間違いだろう。

 

 

 俺はそう思い、意を決してダーウィンズゲームを起動した。今は、帰りの電車に揺られ暇だ。だから、時間はたっぷりある。きっと、アプリの消去法とかも分かるだろう。

 そして俺はスタート画面を押し、ゲームのホーム画面に移された。

 

 

 それから少し経って、ホーム画面、ショップ、ガチャ画面を見たがやはり普通のゲームだった。昨日のアレはやっぱり俺の見間違いだったのだろう。そう思うと、少し気分が晴れた。俺はもう用がないと思い、ダーウィンズゲームを辞めようと思った。

 

 

 

 だが、一つだけ確認していない所があった。バトル画面。

 このゲームにおいて一番大事な要素。きっと昨日の事は俺の見間違い。それに、せっかくインストールしたゲームだ。一回ぐらいは遊んだ方がいいだろう。

 

 

 俺はそんな、適当な考えでバトルというボタンを押してしまった。

 

 

 しかし、今ではこの事を酷く後悔してる。この後の事を知らないで。

 

 でもそれも、もう後の祭り。今更、過去には戻れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バトルというボタンを押して数十秒。

 

 対戦相手を探している間に、俺は一回ガチャを引いた。初期の所持ポイントが30ポイント。少ねぇ……と当時は思ったが、このポイントの大事さを後々理解した。その大事なポイントを俺はもう使ってしまった。どうでもいい事だが、俺は10連より単発派だ。

 

 

 

 ダーウィンズゲームのガチャは何か一つ武器が出るらしく、銃がレアで出現率は8%。初めてやるので、その確率がイマイチ分からない。だが、どのゲームもやはりレアリティが高い物が強い。俺も銃なんか出たらいいな、と思ってガチャを引いたら、拳銃が出た。うん。

 やはり10連より単発の方が最高だ。

 

 

 

 ガチャの結果が良くて喜んでいると、ずっと対戦相手検索中だった画面に動きがあった。対戦相手が決まったらしい。 画面には、俺の情報と相手の情報が載っていた。だか、少し不可解な事があった。

 

 俺はまだこのゲームに名前を入力していなかった。それなのに画面には俺の本名、俺の顔に似たアイコンキャラが掲載されていた。それに、相手の情報も少し可笑しい。

 

 

 俺の対戦相手の情報には、冴えない中年親父のアイコンが載っていた。それに名前の方も不自然だ。何処にでもいそうな名前。それこそ、リアルでも本名で通用するだろう。そんな名前をゲームに付けるだろうか?まぁ、人それぞれだとは思うが。何故だか嫌な予感がした。

 

 

 

そして、バトルまでのカウントダウンが終わった。

 

 

 

 画面には、何かヒットポイントや制限時間が表示されるだけだった。 何処かしらタッチしても、何も反応が無い。操作方法がまるで分からなかった。

 そこで俺は一旦ゲームを辞めようと、電源ボタンを押した。そろそろ、目的地の駅が着くはずだ。俺はそう思い、電車の椅子からたち上がった。そこで、俺は周りの異変にようやく気付いた。

 

 

 

 此処は平日の電車内。

 

 人がゴミのようにいる。なんて言えば大袈裟だろうが、何時も人は結構いる。それに、今は夕方だ。俺と一緒で下校している奴だっていた筈だろう。

 

 

 だが、今の電車内には静寂が充満されていた。

 

 

 それもそのはず。電車内には、俺を除いて1人しかいなかった。俺ともう1人、頭皮が寂しく小汚い中年親父が俺の方を見て突っ立ているだけ。俺はこの光景に珍しく思えたが、人が少ない時もあるだろうと思い。後、一駅で目的地に着くので電車を出ようとした。

 

 

 その時に俺の座っていた椅子の方に、小さな段ボールが落ちている事に気付いた。何故、電車の中に段ボールが?と思ったが俺はそれを拾い、電車の扉が開くを扉近くで待った。そして、俺は今拾った段ボールを少し見てみた。段ボールの小ささには割と重く、まだ開封もされていないようだった。きっと誰かの忘れ物だろう。駅員にでも渡せばいいか。俺はそんな事を考えながら扉が開くのを待った。

 

 

 そんな時。

 

 ノソノソと中年親父が俺の方に歩いてくるのが分かった。この人もこの駅で降りるのだろうか。

 

 それにしても少し不気味だ。さっきから、1人でずっとブツブツ何かを呟いている。それも俺の方を見て。きっと仕事で疲れているんだろう。その頭がそれを物語っている。俺はそんな失礼な事を考えていた。

けど、もう一つきになる事があった。

さっきからいるこの中年親父は、ゲームでの対戦相手と容姿が類似していた。

 

それによく見ると、男の手には包丁が握られていた。

 

しかもそれを持って俺の方に歩いてくる。

 

 

 

 

 

 やばい

 

 直感でそう感じた。

 

 こんな、密室で凶器を持った男と二人きり。体から汗が吹き出てきた。けれど暑いわけでは無い。その汗の一つ一つが冷たい。恐怖と寒さで凍えそうだ。17年生きてきてこんな感覚初めてだった。さっきから、体を動かそうとするが動かない。もう、男は目と鼻の先にまでいた。

 

 

 

そして、俺はなんの抵抗も無く脇腹を刺された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時の事は余り覚えていない。

 覚えているのは、人生の中で味わったことの無い痛みだった事。人生で一番苦しかった事。それだけが今も脳に焼き付いていた。

 刺された後、俺はどうしたのだろう。今も生きているのだから、あの時死ぬ気で逃げたのだろうか。

 

 

 

 

 あぁ、確かそうだった。

 

 俺はあの時死ぬ気で逃げて、あいつのお陰で助かったんだった。

 もう、大分前から俺は気付いていたのだろう。これが自分の命を賭けたデスゲームだという事に。電車の中で拾った、段ボールの中身が全てを教えてくれた。それを理解した時にはもう遅かった。

 

 

 

 腹を刺されて、もう死ぬかと思った。だから俺は誰でもいいから助けを求めた。スマホの画面をつけても、そこにはダーウィンズゲームのホーム画面だった。そこには何件かメーセッジが着ていた。俺はそのメーセッジ何故だか開いていた。理由なんてもんは分からない。多分、偶々開けただけだっただろう。けど、その判断が今では正しかったと言える。

 

 

 

 

 

『私の指示通り動いて下さい』

 

 

 

 

 レイン

 

 と書かれたプレイヤーだった。 俺はそれを短く返し、レインの指示通りに動いた。その後もレインの言われた通りに動き、最後のメーセッジにこう書かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴方のダメージ量では負けて死にます。だから相手を殺すしか手段が有りません』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はその後もレインの指示通り動き、対戦相手を殺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが俺のダーウィンズゲームの始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





深夜テンションで書いた為、展開が適当。(最後らへん)


レイン可愛い…可愛くない?


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2話

「面白いですねぇ」

 

 

 さっきから、モニターやらスマホなどで睨めっこしていた少女が突然、そう呟いてきた。

 

 

 

 それは独り言か。

 

 俺と会話がしたいというアピールだったか分からなかったが、様々な事を知っている少女だ。彼女がそんな事を言うのは意外だった。

 

 

 

 

 だから俺はその事に気になり彼女に問いかけてみた。

 

 

 

 

「何が面白いんだ?」

 

 

 

 

 

 帰って来たのは、沈黙。

 

 やはり、さっきのは、俺と喋りたいアピールでは無かったらしい。今現在も彼女は、カタカタ、とキーボードを打っているだけだった。

 

 

 もうその作業を半日はしているだろう。

 

 

 

 

 だが、その作業は彼女とって大事な仕事。いつも彼女がこうしてくれているから、助けてくれる場面が多い。

 

 

 戦いという物は、相手の理解も大事なのだ。癖、職業、年齢、背丈い。そんな物もピンチの時は役に立つ。

 

 

 まぁ、その分、貴重な情報を得るまでが面倒なのだが。

 

 

 

 

 

 

 何故そんな話を今しているかと言うと、今、パソコンと睨めっこ中の少女は皆から【解析屋】と呼ばれ、情報収集の天才だったりする。

 彼女は頭脳明晰で有り、様々な知識や情報を知っている。他の頭が良いのも有るが、彼女が持つ異能が、その要因だったりするのだろう。彼女はその力を生かし、ダーウィンズゲーム内では様々なプレイヤーと交渉したりしている。

 

 

 

 

 ……交渉人、と言ったら俺もその部類に入ったのか? だが、俺は彼女から情報を買った訳ではないし、俺が彼女に何かした訳では無い。

 

 

 

 いや、俺が彼女に交渉したのだった。

 

 

 交渉と言うより、俺の方からの頼みだったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ダーウィンズゲーム』

 

 

 その外見は何処にでも有る、ソーシャルネットゲームで有り、ゲーム内での通貨で、ガチャやショップでアイテムをゲットして強くなる。言わば、普通のゲームだ。

 

 

 だが、それは外側だけの事実。

 

 

 

 

 その実態は酷く、現実離れした世界がこのゲームにはあった。まず、このゲームは己の命を賭けて戦う。それだけで、かなり非現実だが、まだこれは序の口。

 

 

 このゲームにはこんな事が沢山有る。

 

 

 ゲーム内での通貨は、現実で換金する事が出来る。

 

 ポイントと呼ばれるのがゲーム内での通貨であり、1ポイントは10万円という計算になり、バトル……言わば、殺し合いで勝ったりしたら多く貰える。この、ポイントと呼ばれるものが0になったらゲームオーバー。簡単に言うと死ぬ。だから、このゲームで生き残るのは基本、戦わないといけない。こんな、いかれたゲームなんて物はやめたいが、それも出来ない。アンインストールも出来ないし、公で公表するのも禁止されているから。もし破ると、物理的に消される。鬼畜難易度も良いところだ。

 

 

 そして、このクソゲーは、小さいな事にでも人の命がかかっている。

 アレをしたら死ぬ。コレをしたら死ぬ。

 

 

 始めたら最後。

 

 残るのは地獄だけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話を戻そう。

 

 

 俺とレインの関係についてだ。

 

 

 

 

 

 あの日。

 

 

 

 初めて、ダーウィンズゲームでバトルした日の事だ。

 

 俺は中年親父に刺され、死に物狂いで逃げていた。

 

 

 

 

 

 

 誰か助けて欲しい。まだ、生きていたい。

 

 その思いで逃げていた事は覚えている。そんな時に、スマホから通知が来ていてそれは、ダーウィンズゲーでのチャットからだった。俺はそのプレイヤーに指示通り動けと言われた。

 

 

 正常時なら、俺はその言葉に信用しなかっただろう。だって、ダーウィンズゲームのプレイヤーだ。今、逃げている最中に、プレイヤーに殺されそうになっている。 だが、その時は本当に必死だった。誰でも良いから助けて欲しい。

 

 

 そう願っていた。

 

 

 

 

 

 

 だから、俺はチャットな送り主の言葉に従った。

 

 

 

 返信を送ったら、直ぐ指示が来た。隠れて下さいとか、この階は安全などの情報をくれた。それに、指示通り動くと、どんどん相手を撒けた。まるで、俺より一歩、二歩先を見ているような感覚だった。俺は、このまま逃げ切れると思ったが、非情にも最後のチャットが現実を教えてくれた。

 

 

 

 簡単に言うと、俺の方が重傷で有り、このままタイムアップすると死ぬ、との事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────結論から言うと俺は中年親父を殺した。

 

 

 

 

 

 

 躊躇いが無かった訳じゃない。だって、俺は普通の高校生だ。人なんて殺した事は無かったし、あの日が一番、血を見た日だった。でも、殺さなければ自分が死ぬ。

 

 

 戦わなければ勝てない。何処かの漫画で、見た台詞が再生された。死にたくなければ、戦わないといけない。その時そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 だから俺は、闘い相手を殺した。

 

 電車で見つけた、拳銃を使って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話は長くなったが、あの日、チャットをくれたプレイヤーはレインだった。それから俺は、彼女と連絡を取り、何度か会ったりして、その時にダーウィンズゲームの事など教えてもらったりした。その事のおかげで、初戦では命を拾ったし、今でも色々助けてもらっている。

 

 

 

 

 そう。彼女は俺の命の恩人なのだ。

 感謝しても仕切れない。

 

 

 

 だから、少し前に聞いてみた。

 

 何か俺に出来る事はないかと。

 

 

 

 

 その質問に、レインは

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、私の助手をして下さい」

 

 

 

 と、俺に言ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事もあってか、

 

 

 今の俺は、レインへの恩返しを含めた助手もどきをしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一人の新人さんがですよ」

 

 

 作業にひと段落ついたのか、だいぶ遅れた返答が帰ってきた。やはり、そこまで集中するのは何か理由があるのだろう。

 

 そして、レインは今、新人と言った。それは当然、ダーウィンズゲームでの新人。多分、その新人が何かしたのだろう。例えば、高ランクプレイヤーを倒したとか。

 

 

 いや、自分で言ったがそれは無いだろう。このゲームは、初心者に厳しい。だって、何の知識も無く殺し合いさせられる。それに加え、中級者、上級者は初心者狩りが多い。そりゃ、自分の命がかかっているのだ。誰だって、弱い奴と戦いたい。まぁ、中には俗に言う、戦闘狂と言う者もいるが。

 

 

 

 初心者狩り、戦闘狂。この辺の奴らは俺と馬が合わない。

 

 

 

 

 話を戻すと、武器や、戦闘経験も無い初心者は一瞬で殺される。そこに、救いが有るのは珍しい。誰だって、自分の命優先だ。だから一日に何人もの初心者が死んでいる。そして、俺も初め、一度死んだような者だ。ほんと、レインがいなかったらどうなっていたか、考えただけで、夢を見そうだ。レイン様様である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、簡潔にまとめると、

 

 

 ダーウィンズゲームは無理ゲー、クソゲーもいいところなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新人が、高ランクプレイヤーを倒したとかか?」

 

 

 さっきから聞きたかった、本題にようやく聞けた。俺は可能性が無いと思いながらも、レインに聞いてみた。

 

 

 

「そうです。それもビックネームを二人」

「マジ?」

 

 

 

 

「マジです」

 

 と言って、レインは俺をモニターの方へ手招きして来た。多分、そこに全てが載っているのだろう。

 

 俺はそう思う、レインの方へ寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【スドウ カナメ】

 

 

 モニターには、俺と同じ歳ぐらいな少年の顔写真が載っていた。

 

 

 プレイヤーネーム、年齢、異能(シギル)なども掲載されていた。

 

やはり、解析屋の異名は伊達じゃ無い。この情報だって、ここ最近で調べ上げたのだろう。レインまじ天才。俺のポイント全部上げてもいい程だ。まぁ、レインの方がポイント持ってそうだが。俺のスタイルでは、ポイントは多く貯まらない。むしろ、プラスよりマイナス寄りだろう。

けど、ポイントが0になれば即死。

 

 

いやーブラック過ぎて、マジ涙出そう。

 

 

 

 

 

 

 冗談はさて置き、

 

 スドウカナメと、掲載されているプレイヤーの情報に少し気になる所があった。

 

 

 

 

異能(シギル)不明……レインでも解らないのか?」

 

 

 

 そう。

 

 この、ゲームのプレイヤーにとって、大事なシギルが不明。確かに面白い存在だ。だが、他にも理由がありそうだ。シキルの事を聞いたら、他の事も聞こう。本当に、有名人を倒したのかもしれない。

 

 

 

「はい。最初は引き寄せ(アポーツ)かと思ったのですが、どうやら貴方と一緒で、新系統だと 」

「新系統……か」

 

 

 

 

 レインが言うには、俺の異能(シギル)も新系統らしい。俺のシギルは、デメリット方が多いと思うが。

 

 

 しかし、画面に映るスドウカナメのシキルも新系統。

 やはり、レインが興味を示す、なら強力なジキルなんだろう。

 

 

 シキルはランダムで決まる。それが、強力な者なら万々歳だ。だが、逆も然り。力が弱かったり、使い辛いシキルも当然ある。俺のジキルは後者だ。あると便利だが、使い辛さやデメリットもある。あと、使い所が難しかったりする。

 

 しかし、シギルは運営の運任せ。自分では選べない為、これで命が決まるといってもいい。当然、リセマラなんて物は出来ない。

 

 

 

 何回でも言おう。

 

 

 

 

 ダーウィンズゲーム辞めてぇ。

 

 

 

 

 

「シギルの事も興味深いですが、こちらの情報の方が面白いですよ 」

 

 

 

 

 レインが、モニターの一部を指差し、そう言ってくる。

 

 

 

 俺はそこを見た。

 

 

 

 

「嘘だろ」

 

 

 

 さっき、新人には地獄、と言っていた筈の俺はそれを見て驚愕した。

 

 

 

 

「無敗の女王と、新人狩り(ルーキーハンター)を倒したのか?」

「私が調べた限り、そうかと。本当だとしたら凄いですが」

 

 

 

 

 そう。

 

 この新人は、有名人2人を押し退けたのだ。

 

 新人狩りの方は兎も角、あの49戦、無敗の女王を倒したのは凄い。

 

 

 

 一度、レインの頼みで、情報収集を頼まれたが、怖すぎて辞めた。あれじゃ、命が何個あっても足りない。そう感じられる程に、無敗の女王は強い。そんな、存在をスドウカナメは倒したのだ。

 

 しかも、新人で。もし、俺が闘っていたら首が一瞬で飛んだだろう。

 

 

 

 まぁ俺は、首が飛んでも生きてそうだが

 

 

 

 

「でも、良かったですね。新人狩りをスドウカナメが倒してくれて 」

「そうだな。スドウカナメには感謝しないとな」

 

 

 

 

 レインは俺の顔を見て、そう言ってきた。やはり、彼女は気付いていたか。俺が新人狩りを狙ってた事に。まぁ、もうその必要は無いが。

 

 

 

 

 

 

 だが、新人と聞いていたスドウカナメ。

 

 

 普通の高校生みたいな外見とは裏腹に、相当な手練れらしい。多分、解析屋のレインから情報を買う奴は増えてくるだろう。現に俺も気になった。もし、闘う様な事があれば、絶対に闘いたくない。俺はレインと一緒で、逃げ専だ。少し前まで一般学生だったし、シギルも余り強力ではない。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。これで、この情報も高く売れます。ほくほくですよこれは」

 

 

 

 

 と、彼女は作業にひと段落ついたのか、ウキウキでうまい棒を食べ始めた。多分長時間、電子の海と戦っていたから、相当疲れている筈。

 

 後の事は、俺がしといた方がいいだろう。

 

 

 

 

 

 

「情報のバックアップとかするぞ。少し休んでもいいんじゃないか?」

「じゃあ、お言葉に甘えます。少しの間頼みます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 レインはそう言って、椅子から立ち上がった。多分、近くの床で数十分だけ眠るのだろう。本当は、布団でゆっくり寝て欲しいのだが、彼女は解析屋。彼女の情報を、買おうとする者はごまんといる。女子中学生を、ここまで働かせるブラック。マジで訴えるぞ、この野郎。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が、レインの座っていた席に座り、情報の整理をして数分。

 

 

 

 やはり、この類は難しい。俺は他の頭も悪く、こうゆう系は苦手だ。 こんな、古代文字を解明する様な事をレインはよく出来るなと感心していると、寝ていた筈のレインが後ろから歩いて来た。

 

 

 

 

 

 そして、当たり前の様に俺の膝に座って来た。

 

 

 

 

 

 

 

「子供は寝る時間だぞ。」

「7分は寝ました。それにまだ休憩しときますよ」

 

 

 

 

 

 7分って、もう寝ない方がよさそうな気がする。それに、よく寝ないと身長も止まる。体調も悪くなるし、お肌も荒れるぞ。これはいよいよ、ダーウィンズゲームの創設者を逮捕しないといけない。女子中学生にここまでするとか、鬼畜すぎるだろう。

 

 

 そんな、今のレインの状況は、俺の膝の上に座り、うまい棒を食べている。日頃から彼女が食しているのこれだけ。それか、炭酸飲料。病院の先生が聞いたら、キレそうな献立だ。よし、決めた。今度、俺が何か作ろう。偶には、そうゆうの良いだろう。だが、俺がそんな事を考えている間も、レインは美味そうにうまい棒を食べていた。そんな光景を日頃から見ていたせいか、俺はうまい棒が無性に食べたくなった。

 

 

 

 

「それ、一口食べていいか?」

 

「いいですよ。貴方もこの味の美味しさに気づけばいいです。」

 

 

 

 

 レインは目を輝かせながら、そう言って。

 

 うまい棒を俺にくれた。

 レインが、美味いと言っているのだからそうなのだろう。

 

 

 レインの言ってる事は、全て。

 

 

 

 はっきりわかんだね

 

 

 

 

 

 冗談ささて置き、俺はレインから手渡されたうまい棒を食べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これ、、何味?」

 

「納豆味です! 美味しいですよね!」

 

「あぁ、なんか、、独特な味で美味いな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬鹿野郎。

 そんな顔見たら、不味いなんて言えないだろう。

 

 

 俺の感想を聞いた彼女は今、ウキウキだ。

 

 

「今度、一杯買ってきます!」

 

 

 

 とか、言ってる。

 

 

 

 

 

 

 でも、まぁレインの笑顔見たら、なんか美味く感じる。気のせいだと思うが、多分、気のせいじゃないだろう。

 

 

 

 

 多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達の静かな話し声しか聞こえない部屋に突然、

 

 

 冷たい電子音が響いた。

 

 

 

 

 

 俺とレインの両方のスマホからだった。

 

 

 何故か、酷く嫌な予感がした。こうゆうのは意外と当たる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は自分の携帯端末を確認して、内容をすぐ理解出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♦︎ダーウィンズゲーム運営からのお知らせ♦︎

 

 

 

 

 『ポイント大量ゲットの大チャンス!』

 

 

 

 

 

 【特別イベント宝探しゲーム!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん。

 

 

 

 

 うまい棒はたこ焼き味が一番美味い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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3話

おらぁ!(適当)




 俺とレインのイチャイチャ時間は、

 

 

 

 

 ダーウィンズゲームからのメールで終わりを告げた。

 

 

 しかもそれが余計に気分が下がる内容だった。

 

 

 

 

 

 【宝探しゲーム】

 

 

 開催地はシブヤ。

 

 大勢のプレイヤーが参加し、大量ポイントゲットのチャンス。

 

 

 開始時間は多分、メールに記載されていたカントダウンだろう。

 

 

 24時間から開始したそれは、今はもう、23時間とちょっとまでになっていた。

 

 

 

 

 まったく、急すぎる展開だ。

 

 

 別に俺は多くのポイントを望んでいない。最低限のポイントで十分だ。だが、現実は非情で俺に招待メールが来た。選ばれた、と言えば聞こえは良いが、とんだくじ運だ。これはくじで言う所の、大凶に違いない。まぁ、大凶もレアな存在だが。

 

 

 

 

 

 そして、最悪な事に招待メールはレインにも来た。俺だけなら良かった。なんてカッコいい事は言えないが、レインには危ない目にはあって欲しくない。レインは俺の命の恩人だ。それに、ダーウィンズゲームの色々な事を教えてくれた。俺は彼女に足は向けられないだろう。

 

 

 ほんと、感謝しても仕切れない。

 

 

 

 だからそんな理由もあってか、最近は自分の命よりレインの命。

 

 

 

 レインが生きていたら、それでいい。

 

 

 

 俺の行動原理はそれだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、今回はそれが難しい。

 

 まず、このイベントは大勢のプレイヤーが参加する。しかも宝、つまりポイントの奪い合いなのだろう。交戦になる事は間違いないだろう。

 

 

正直言って、俺は余り強くない。シギルも正々堂々と戦える様な物ではないし、レインと一緒で、逃げる方が向いてる。それに、レインもサポート向けのシギルだ。

 

 

 まぁ彼女の場合、そのジキルと頭脳で戦局を覆す事が出来るが。

 

 

 

 

 だが、単純に俺達のパーティが弱いのは変わりない。そんな事もあってか、嫌な気掛かりが俺にはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「シブヤって言ったら、アイツらの縄張りだよな」

「えぇ。最近も色々やってますよ」

 

 

 

 

 

 

 そう言って、レインは俺にパソコンを見せてきた。

 

 

 

 

 そこには、色々な事件が載っていた。

 

 中でも物騒なのは、ヤクザの事務所を壊滅。建物は荒らされ、組員達はみな惨殺。そこにはそう記されていた。

 ……コイツらはほんと、物騒だな。善も悪も関係なく、自分達が楽しければそれでいい連中だ。

 

 

 

 

 者のついでにコイツらの話を少ししよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲームをした事があるなら分かると思うが、このダーウィンズゲームにもクランと言う物が存在する。

 

 

 クラン……簡単に言えば一つのグループだ。

 

 

 このデスゲームにも存在し、安全確保や戦力確保。武器交換、情報売買。クランの方向性は多種多様であり、その存在は結構多い。俺とレインもメリットが多い為、クランを組んでいる。寂しい事にメンバー2人だけだが。

 

 

 

 

 話をまとめるとイベントゲームの開催地、シブヤは厄介なクランの縄張りだったりする。

 

 

 

 

 そう。

 

 

 

 それが凄く厄介なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【エイス】

 

 

 それが奴らの名。

 

 

 コイツらは数も多い為、俺らは少数グループには嫌な存在だ。それに加え気性も荒く、戦闘狂、殺しに何の躊躇いも無い連中が多い。本当に気に食わなければ殺す。そんなイカレタ連中。

 

 これが、ダーウィンズゲームでは無かったら、町のチンピラ程度だっただろう。だが、これは命の掛かった殺し合い。やはり人間、理解できないイカレタが奴が一番怖い。

 

 

 

この中でもトップ、クランのリーダーが一番、狂っている。

 

 

 コイツはジキルも戦闘向けで強力。

 

 それに加え、倫理観も壊れており、その残虐性が凄い。また、ずる賢く。退き際はなどを理解出来ている所なども非常に厄介。そして、今回のステージはシブヤ。アドバンテージ云々は当然、奴らの方にある。

 

 

 

 

 だが、生き残る為には必ず奴らと闘う事になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほんと、考えるだけで頭が痛くなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中、俺が遺言を考えている間にも、レインは一人で黙々とパソコンをいじっていた。多分、宝探しゲームでの事だろう。彼女なら、この短時間でも何か良い情報を掴めるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、返ってきたのは

 

 

 

「すみません。余り良い情報がありませんでした」

「いや、仕方ないだろう。まだメール来て、1時間ぐらいしか経ってないぞ」

 

 

 

 俺は少し、彼女に期待し過ぎたみたいだ。レインだってまだ中学生。 それに、この短時間でよく調べ上げたと思う。現に俺は何も出来なかった。

 

 

 

 

「なぁ、少し情報交換しないか?」

 

 

 

 俺がそう言うと、レインはうまい棒を食べながら頷いた。

 

 

 

 粉が落ちる為、机で食べて欲しいが。

 

 

 

 

「まず、このイベントは私達の様な少数プレイヤーは不利です。それに加え、戦闘も不可避」

 

「そうだな。それに、下位のプレイヤーは何かしらペナルティがありそうだ」

 

「そして、やはり大規模なクランの存在は大きいですね」

 

「シブヤって、エイスのホームだしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話が一旦、落ち着き静かな空気が流れた。

 

 今、2人で言った事だが、このイベントはやはり厳しいものになる。 レインに聞く所【ダンジョウ健闘倶楽部】と言う、クランは比較的、穏健派だと言う。今も、そのメンバーに情報を売ったらしい。だが、ポジティブな話はそれぐらいで、俺達の先は暗そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が何か策を考えていると、

 

 画面を見ていたレインが振り返り、俺の顔を見ながらこう言ってきた。

 

 

 

 

「正直言って、イベントが始まらないと分からない所が多いと思います」

 

 

 

 けど、っと付け加えて

 

 

 

 

 

 

「今回も背中は任せます。お互い生きて帰って来ましょう」

 

 

 

 

 

 俺の目を見て、そう言ってきた。

 

 

 

 さっき、レインは只の中学生、と言ったが撤回しよう。こんなかっこいい中学生はレイン以外にいないだろう。さっきから、うじうじ、ダラダラ、と怖気ついていた自分が恥ずかしい。結局、俺みたいな平凡プレイヤーが何を言っても、現実は変わらない。

 

 

 

 

 

 ──────弱い者が死ぬ。

 

 それは、遥か昔からあるありふれたもの。そう。弱い奴は死ぬんだ。

 その現場を俺はこのゲームで散々見てきた。見て来ただけじゃなく、体感もした。何度も言うが俺は弱い。勿論、今直ぐにでもこのゲームを辞めたい。そして、イベントゲームなんていうものも参加したくない。

 

 

 

 こんな俺だ。

 一人ならもうとっくにのたれ死んでいただろう。

 

 

 

 けど、今の俺には背中を預けられる相棒がいる。そいつは今、俺の返答を待ってくれている。もし、俺が断ったらどうなんだろうか、分からない。いや、優しいこいつならきっと許してくれるだろう。

 

 

 だからもう、弱音なんて言ってられない。

 

 

 覚悟は決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ俺の背中も預けた。信頼してるぞ相棒」

 

 

 

 彼女の目を離さず、そう伝えた。

 

 

 

 俺の言葉に納得してくれたのか、レインは小さく笑ってくれた。

 

 

 

 

「預けるも何も、私達は逃げ専なので、そんなかっこいい事は言えないですけどね」

「……そうだな」

 

 

 

 

 その後、二人で大きく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな時間が経過して現在。

 

 

 俺達は明日の為に、情報収集していた。この時点でもうゲームは始まっているのだ。情報は俺達にとって、大事な武器。強者に抗う為の、最低限のアドバンテージだ。けど、そんな戦いも難儀なもんで、時間がかかったりする。しかも作業も単調。そんなものを長時間していたら眠気が来る。

 

 

 現在、俺とレインは重たい瞼を無理矢理開き、睡魔と戦っていた。もうレインは目が開いていない。半分、寝ているだろう。時刻は午前4時。流石にそろそろ寝ないと不味い。せっかく、集めた情報もこれでは無意味だ。

 

 

 

 

「レイン、もう4時だ。そろそろ辞めないか」

 

「そうですね。それに、何か支障も出てきそうです」

 

 

 

 レインが瞼を擦りながら、そう言った。日頃から睡眠時間が短い彼女だ。その蓄積もあるのだろう。実際、俺も眠い。そろそろ、本当にやめた方が良いだろう。

 

 

 

 

 

 

「だろ。だから、おやすみ」

 

 

 

 

 

 俺がそう言うも、返事は返って来なかった。まぁ、レインの静かな寝息を聞いて直ぐに理解出来たが。三代欲求にも有るように、睡眠は大事なのだ。

 

 

 もう、俺も寝よう。

 

 

 

 

 

 

 そう思った時に、今の現状を理解出来た。

 

 

 

 レインは寝ている。

 

 

 

 

 

 それだけ言ったら全然問題は無いが、その場所が悪かった。

 

 

 

 

 今、レインが安らかな寝顔を見せ寝ているのは俺の膝の上。文面で分かるように、俺は今、身動きが取れなかった。彼女が俺の膝を座ってもう、6時間近くは経過していた。そんな長時間いるもんだから、この状態に慣れてしまった。それに、レインの体重は軽く、俺の膝の負担は少なかった。むしろ座られていることに、かい、、、この辺で辞めておこう。俺はまだ捕まりたくは無い。

 

 

 

 まぉ、もう日本で重罪な殺人を犯してしまったが。

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、今はその話は置いておこう。

 

 

 

 

 話を戻すと、今の状態だ。

 構造は非常にシンプルで、レインが俺の膝の上で眠り、俺も寝たい。

そんな状況だ。これが赤の他人、家族だったら蹴飛ばしているところだが、相手はレイン。そんな無粋な事は出来ない。

 

 

 起こす、というのも有りだが、彼女の幸せそうな寝顔見て、そんな残酷な事が出来るだろうか。

 

 

 ……そんな事は決して出来ない。むしろ、出来る奴は鬼だろう。

そいつは血も涙も無いな違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうするか悩んでいるうちにも、時間は流れ、時刻は午前5時。もう、綺麗な朝日が見えてきそうだ。

 

 

 よし、もう俺も覚悟を決めよう。

 

 

 何。人、一人が膝で寝てるだけだ。

 

 重くないし、きっと寝れる筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 俺はそう思い、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 すると、あっという間に睡魔に負けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて事は無く、俺はその後、一睡も出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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4話

 一夜明けて……いや、数時間経って昼。

 

 

 

 

 数時間前は、真っ暗だった世界も今はピカピカだ。やはり、晴れは素晴らしい。こうゆう日にする昼寝は格別だ。

 

 

 

 うん。もう無理だ寝よう。

 

 こんな昼寝日和だ、寝なければ損だろう。別に俺が眠いわけじゃない。ちょっと寝なかっただけだ。別に死ぬわけじゃない。だって、ギネスには11日寝なかった高校生の記録もある。その中の1日。俺が寝てない時間はそれだけだ。

 

 

 

 いや、もう強がりは辞めよう。

 

 うん。

 

 

 今、死ぬ程眠い。さっき晴れは素晴らしい、と言ったが訂正しよう。

 

 

 日光うぜぇ。

 

 睡眠不足の眼球が焼かれる。そのせいか、さっきから涙が止まらない。まぁ、謎に出る欠伸もその原因だが。

 

 

 

 

 

 

 俺はレインの部屋から見える景色を見て、そんな悪態をついていた。

 

 

 

 

 もうイベント開始まで数時間。プレイヤー達は準備を終え、みな気合十分。そんな時間だ。

 

 

 当然、俺とレインは準備を終え、今は自由タイム。

 

 

 俺は心の中で愚痴を垂らし、レインは誰かと通話中。多分、通話相手はさっき言っていた、ダンジョウ拳とう……なんたらのメンバーだろう。さっきから若い男の声が聞こえる。

 

 

 

 

 そこまでは余り興味がなかったが、途中、スドウカナメ、という単語が聞こえた。

 

 

 

 

 

 スドウカナメ。

 

 初心者ながら有名プレイヤー2人を倒す。そのうち一人は色物だが、もう一人は疑う余地も無い強者。そして、シギルも不明。

 

 

 

 そんなプレイヤーに興味を抱かない奴はいないだろう。

 

 

 

 現にレインの通話相手もスドウカナメ目的だ。聞くところによると、そいつはスドウカナメと一戦交わりたいらしい。まぁ、俗に言う戦闘狂という奴だろう。

 

 

 その男はスドウカナメを強者としての興味を抱いたが、俺は違う。

 

 

 俺は闘いとか、そうゆうのでは無く、純粋の恐怖だ。

 

 

 もし、情報が正しければ、スドウカナメは間違い無く強い。当然、俺が相対したら殺されるだろう。この際、その件は置いておくとして問題はレインの方だ。レインのシギルは非常に強力で、逃走にも向いている。正直言って、俺が心配しなくてもいい程に彼女は凄い。

 

 

 だが、いくら逃走に向いているシギルでも、このイベントでの戦闘は不可避。必ず闘わなければいけないだろう。

 

 

 だから、俺の恐怖はそっちの方だ。

 

 

 当然、参加者に強者がいれば生存率は低くなる。弱い俺達にはそれが死活問題だ。だから、強者は一人でも少ない方がいい。

 

 

 

 

 

 

 

 俺がスドウカナメに興味を抱くのは、そんな理由があるからだ。

 

 

 

 

 

 

 そんな中で現在、スドウカナメとその男は交戦中との事。

 

 

 

 モニターにはその中継が映っていた。

 

 

 毎回思うのだが、レインはこの様な映像をどうやって入手しているのだろうか、分からない。まぁ、彼女が天才という事に変わりないが。

 

 

 

 

 俺は、モニター画面の前にいるレインの横に行き、その映像を見た。

 

 

 

 

 映像には、二人の男がいた。

 

 二人とも俺と年齢も変わらない、高校生ぐらいの外見をしていた。

ほんと、世も末だな。ダーウィンズゲームには何人の学生がいるだろうか、数は定かでは無い。そんな学生達はこのゲームで殺し合う。当然、俺もその中に含まれている。偶に同じぐらいの年齢の学生とマッチングするが、その時は罪悪感でいたたまれる。少しでも良いから、俺達、学生プレイヤーが減って欲しいものだ。

 

 

 

 

 

 俺はそんな事を願いながら、2人の戦闘映像を見ていた。

 

 

 

 スドウカナメ、と思われるプレイヤーが一方的にやられているところに、一人のプレイヤーが介入してきた。そのプレイヤーは女性で、外見も少し幼さを残した高校生ぐらいだった。容姿だけ見れば華麗な少女だが、その正体は違った。

 

 

 

 【49戦無敗の女王】

 

 

 それがその少女の正体だった。彼女は本当の強者であり、実力は折り紙付きだ。そんな彼女だが、親しいプレイヤーもおらずクランにも加入していない。それが、少し前までの情報だった。

 

 

 だが、その情報が今、修正された。

 

 

 

 彼女は防戦一方だったスドウカナメに加勢し、あまつさえ親しくしている。

 

 

 俺はそれが気になり、レインのに聞いてみた。

 

 

 

「なぁ、あの二人って協力関係だったりする? 」

「えぇ。クランも作成予定だとか」

「まじかよ……」

 

 

 

 

 

 

 一気にテンションが下がる情報だった。

 

 

 レインの通話相手が「誰かいんのか?」、と

 

 

 言っているがこの際、無視しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 あの二人が手を組むなんて、100×100みたいなもんだ。正直言って、このイベントの有力候補だろう。やはりこのイベントは簡単ではなさそうだ。ちなみに俺とレインの力関係はこんな感じだ。

 

 

 1000×1ぐらい。

 

 

 まぁ、0よりかはマシだろう。0に何かけても0なんだから。

 

 

 

 

 

 余談ついでに言うと、俺とレインの仲良し度は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がそんな事を考えていると、何故だかレインに足を踏まれた。

 

 

 

 理由は分からないが。

 

 

 

 

「そろそろですよ」

 

 

 

 足を踏まれながらレインにそう言われた。

 主語がない言動だったが、今の俺はそれをすぐ理解出来た。

 

 

 

 レインに言われて、俺はスマホを見た。

 

 

 

 

 そこには、イベント開始まで10分、と記されていた。

 

 確かにそろそろだ。

 

 

 

 画面の中にいる3人達もその話題をしていた。いつのまにか和解したらしい。

 

 

その様子を見るからに、3人は話がわからない奴ではなさそうだ。その事を知れただけで良い収穫だ。

 

 

 

 

 

 

 

 だが突然、スドウカナメが転送、という単語を口にした。

 

 

 どうやら転送が始まったらしい。その事に慌てて、女王に説明を受けていた。だが、慌てる気持ちは俺も理解出来る。だって、転送なんてした事ないよね。当然、俺もした事がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 てか、転送ってなに?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、レイン……転送ってなに?」

 

 

 

 俺は正常心を保ちつつ、レインにそう聞いた。

 

 

 

 

 

 俺の質問を聞いた、レインは俺の顔を見て説明してくれた。

 

 

「どうやら、このイベントはシブヤに転送されて開始のようです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 レインが一語一語ゆっくり、丁寧に説明してくれた。

 

 うん。こうゆう時もレインは頼りになる。

 

 

 

 

 つまり、俺とレインは別行動。

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん。俺、死んだわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっちに着いたら、急いで私にチャットを下さい。私も着いたら送るので」

 

 

 

 

 レインが急ぎ急ぎでそう言ってくれた。

 

 彼女が慌てるのは珍しい。

 

 それだけ俺の身を案じてくれているのかと思うと、凄く嬉しくなる。

 

 

 

 

 

 

 そして、俺はレインの体を見た。

 

 

 

 もう、互いに体の半分が透明になっていた。

 

 後、数秒であの地獄に行くだろう。

 

 

 あの世界に法や秩序なんて存在しない。

 

 

 

 

 ──────生きるか死ぬか

 

 

 それだけ。

 

 

 

 俺は毎回、こうゆう時は不安になる。

 

 

 

 死ぬ。

 

 心の中がそれに支配される。

 

 

 けど、それ以上に俺は怖いものがある。

 

 

 

 

 

 

 レインが死ぬ。

 

 

 それが俺は一番怖い。

 

 ダーウィンズゲーム中はこの言葉に俺は支配される。

 

 

 今だってそうだ。

 

 彼女を失うのが怖い。

 

 

 

 だから、俺は必ず戦う前に彼女にこの言葉をかける。

 

 これを聞いて彼女は良い顔をしないが

 

 

 

 

 

 それを今日も言おう。

 

 

 

 

 

「レインを絶対に死なせない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺がそう言うと時、彼女は必ず悲しそうな顔をする。

 

 それがいつもの儀式。

 

 

 

 それを今回も終えた。

 

 

 

 

 

 

 もう、不安な事はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 そう思って、数秒、俺達は世界を飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レインの部屋から視界が一気に飛んだ。

 

 

 

 これが転送か。

 

 なんとも言えない気分だ。

 

 

 そして俺はスマホを取り、レインにチャットを送った。

 

 

 直ぐに返信は返ってきた。

 

 

 

 幸いな事に俺達は今、同じ建物内にいるらしい。

 

 

 場所は高層ビル。

 

 

 俺がいる部屋はホテルの様な外装だ。

 

 

 このビルはシブヤのホテルの一つ、と言えるだろう。

 

 

 まだ、部屋の外は静か。

 

 多分、今のうちにルールなどを見ているのだろう。現にメールが更新されていた。

 

 

 

 

 簡単に言うと、今シブヤにリングがばら撒かれており、それ一つに高額なポイントが設定されており、それを奪い合う。

 

 

 

 とてもシンプルで簡単なルールだ。

 

 

 

 

 

 分かりやすく単純なルールだが、一つ気を付けなければいけない事がある。メールには、3つ以上リングを集めないとゲームオーバー、と記載されていた。

 

 

 運営は俺達を簡単には生かしてくれないらしい。

 

 

 

 しかも、イベントの開始までその情報を伏せていた。

 

 

 

 

 

 なんとも卑怯なやり方だ。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、方針は決まった。

 

 

 俺とレインのリング、合わせて6本以上。

 

 それを命がけで集める。

 

 

 

 

 

 そうと決まったら行動だ。

 

 

 リングの探し方については、勝手にダンロードされていた、異次元カメラというアプリを使うらしい。

 

 要らないところで配慮が効いている。

 

 

 

 運が良い事に、俺がいた部屋にリングが一つあった。

 

 幸先は良さそうだ。

 

 

 

 俺はそれを拾い、これからの方針をレインとチャットで相談した。

 

 

 

 

 まとまった結果、互いが落ち着いた時に連絡して、落ち合う事になった。俺としては早くレインと合流したいが、今の現状で細かい事は言ってられない。

 

 

 

 私利私欲は控えた方がいいだろう。

 

 

 

 

 俺達は互いの安全を願いながらチャットを辞めた。

 

 

 

 

 

 よし。

 

 

 そろそろ行こう。

 

 

 この部屋に篭っているのではらちが明かない。それに、リングの場所が動いているのが分かった。おそらくプレイヤー達が広い、かくじ動き出していると言う事だろう。そうしないと、俺もそろそろやばそうだ。

 場所を動いていないため、この部屋に誰かが入ってきてもおかしくない。

 

 

 

 

 

 俺は覚悟を決め、部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋を出て、通路を歩き気づいた事があった。

 

 

 

 死体が多すぎる。

 

 

 

 

 死亡者の形をした、モニュメントが大量にある。多分、開始して直ぐに大きな交戦が有ったのだろう。それも大人数の。

 

 

 これは部屋に篭ってて正解だったなぁ、と思いながら足を進めて行く。

 

 少し歩いた所で、エレベーターがある場所にたどり着いた。

 

 

 どうやら、普通に稼働してるらしい。

 

 

 

 今も25階から26階に上がってきそうな所だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、待て、この階は何階だ?

 

 部屋を出て、まだ少ししか歩いていない。

 

 

 俺はこの階が何階か知らなかった。

 

 

 

 だが、もしこの階が26階なら非常に不味い。

 

 エレベーターから出てきた、プレイヤーと鉢合わせしてしまう。

 

 

 

 

 

 俺は身の危険を感じ、その場から離れようとしたがもう遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 扉は開かれ、そこには一人の男が乗っていた。

 

 

 

 外見だけ見たら普通……なんて事は無かった。

 

 そいつは外見からしてやばかった。

 

 

 

 歪なマスクをし、軍用ゴーグル、ヘルメット、長いレインコートを見にまとっていた。

 

 

 見るからにしてやばい。

 

 

 だが、そいつが両手に持っている代物がシャレにならないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機関銃とか、嘘だろお前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんかコレジャナイ感すごい。


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5話


今更ながら、お気に入り評価ありがとうございます!

とても励みになります。
もう年明けてたよ(小声)






 

 さーて、目の前に変な男の人が現れたよ(涙目)

 

 

 どうしよう……

 

 

【コマンドを入力しよう!】

 

 

 1、戦う。

 

 2、仲間に誘う。

 

 3、逃げる。

 

 

 

 

 

「よう、気分はどうだい?」

 

 迷わず俺は2を選んだ。

 

 だって、そりゃ相手は同じ人間だ。

 コミュニケーションが取れない猿じゃない。問答無用で撃ち殺すサイコ野郎じゃないだろう。……多分

 

 

 

「……まぁ、ぼちぼちって感じだ」

 

 

 返事は返ってきた。話が通じそうな奴で少し安心した。だが、此処で気を緩めるのは早い。その事から奴は武器を構えたまんまだ。今、返ってきた言葉も気がむいたから返した、と見ていいだろう。奴の気まぐれが長く続けばいいが。

 

 

 

「そうか。通路に大量に転がっていた死体はアンタの仕業か?」

 

 

 さっき見た通り、通路にはブロック死体が多くあった。死因や傷。そんな細かな事はわからないが。

 

 目の前にいるガスマスクはそんな事が出来るだろう。機関銃乱射とか洒落にならない。

 

 

 

「……さて、どうだろうな。俺はまだ、そんな多くは殺ってない」

 

 

 奴の言葉は至ってシンプル。多くは殺ってはいないが、数人は殺した……とのこと。この、イベントゲームは無差別のバトルロワイヤルと言ってもいい。攻撃されたらやり返す。たから、大量に人が死ぬのも当然か。

 

 

多くの人が死んだ

 

────そう思うと虫唾が走る。

 

 

 

 

 

「だがな、もう数人は殺した。それを聞いたお前はどうする?」

 

 

 

 ガスマスクの男はそう言った途端、下げていた銃を俺に再び向けてきた。まぁ、普通はそうなるよな。

 

 

 

「必死に命乞い……かな?」

 

 

 少しでも良いので、時間が欲しい。奴の気を留めさせるための軽口は道理だ。それに質問には答えてくれているし、奴の本質はそこまで悪くはないのかも知れない。だが、綺麗事を並べても俺達は人殺し。そこは変わらない。どちらかが引き金を引けば、それで終わる。

 

 

 

「はっ、情けねぇな」

 

 

 

 、と奴は少し笑った。俺は内心こう思った。

 

 

 

 情けなくて上等。殺し合いに美談なんていらない。腰抜けでも、臆病者でも、なんとでも言えばいい。過程はどうであれ、──生き残った奴が勝ちだ。

 

 

 それにレインも言っていた。

 

 

 ────逃げて何が悪い 、と。

 

 

 

「情けねぇ奴、腰抜けで結構。だが、俺はまだ生きたい」

 

 

 俺は手に持っていたリングを投げた。それは奴の足下に転がっていった。その行動の意味を奴は直ぐに理解出来るだろう。それで見逃してくれと願うばかりだ。

 

 

「リングはやる。だから、見逃してくれないか?」

 

 

 奴は当然それを拾い、こう言ってきた。

 

 

 

「人間1人の命が数百万か。随分と安いなぁ」

「はっ、逆だよ逆。俺ごときの命がたった数百万だ。お買い得だろう?」

 

 

 平常心を保ちながら必死に考える。奴がNOと言えば俺は簡単に死ぬ。それこそ、抵抗なんて出来ないだろう。俺も拳銃一丁は所持しているが、奴の武器の火力には程遠い。それに弾速だって桁違い。

 

 決して下手な真似はできない。

 

 

 

 

 俺の言葉を聞いて、奴は少し静かになった。この時間が長く続けばいいが…

 

 

 しかし、それは

 

 

「まあ、恨むんじゃねえぞ」

 

 

 奴が開いた言葉で崩れ去った。

 

 

 

 

 マスク越しからでもわかる殺意。

 

 もう、冗談や軽口なんて通用しないだろう。ならば、戦う。……そんな事は絶対にしない。そんなのは結果がわかっている。奴の銃弾が必ず俺の頭を撃ち抜くだろう。だから、戦力は一目瞭然。1の選択肢、戦うなんて事は絶対にしない。ならば残された選択肢は3の逃げるだけだ。

 

 

 

「……じゃあ、遺言ぐらいは言わせてくれ」

 

 

 

 

 返ってきたのは沈黙。それが答えだろう。俺の要望を答えてくれている限り、奴はやっぱり、そこまで悪い奴ではないのかも知れない。だが、状況が状況。俺は今、出来たこの時間。───隙を見逃す訳にはいかない。

 

 

 

「……ありがとう」

 

 

 答える許可は得た、あとは最後の言葉を言うだけだ。もう、そんな言葉は決めている。これが最後になるかも知れないのだ。息を吸い込み、大きく叫ぼう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………レイン愛してるうぅぅぅぅ!!!」

 

 

 

 

 

 俺はそんなふざけた事を大きく叫んだ。うん。予想以上に大きな声が出てしまった。これじゃあ、同じ建物にいるレインに聞こえてるかもしれない。……恥ずかちぃ。でも、レインへの愛は深いから仕方ないね。それにこれは作戦でもある。現にガスマスクの男も「うるさ!?」と耳を塞いでいる。

 

 

 

 よし、作戦通り。

 

 

 

 あとは俺の────異能(シギル)を発動したらいいだけだ。

 

 

 

 俺は迷わず左手の小指を折った。

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 奴は痛みで言葉を漏らし、左手を抑えた。

 

 

 

 

 

 ───成功だ。

 

 俺の異能は上手く発動したようだ。

 

 

 

 

 

 これで隙は出来た。

 

 

 

 

 

 

 俺は急いでその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして今に至る。

 

 

 

 

 

 俺はあの後、男を巻けた…なんて事はなかった……

 

 

 

 

「おい、待て!」

 

 

 

 初めは良かった。その場から離れられた俺はこの階にいるのは危険だと感じ、上の階か下の階のどちらかに移動しようとした。当然、エレベーター前には例の男がいるので、使えない。だから、非常階段を使うしかなかった。

 

 

 だが、それは無理だった。

 

 

 階段使うだけなのに何言ってんだこいつ。と思うかも知れない。けど、使えない物は使えない。その理由は簡単。階段が封鎖されていた。 誰の仕業…とかはこの際わからないから置いておこう。状況が状況だ。普通に考えて、強引に突破しようとするだろう。ほら、壁は壊して進めとか言うし。だから当然、無理矢理にでも進もうとした。だが、さっきも言った通り無理だった。出来るとか以前に不可能と言ってもいい。

 

 

 

 人間ではコンクリートよりも硬い──植物を壊すのは不可能に近い。

 

 

 そこは巨大な植物で覆われていた。今いる26階より下の階に行こうと思ったが、下階は植物に覆われそこより先には行けなかった。ならば上階。と思ったが、そこも続いているのは30階までだった。下階同様、巨大な植物が通路に生い茂っていた。

 それは、まるで俺達を閉じ込めているようだった。聞いた事のある話だが、コンクリートをも突き破って咲く花とかもあるらしい。だから、自然に生えてきた植物……と考える程、俺は馬鹿じゃない。一連の仕業は誰かのシギルと見ていいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい! 待てって言ってるだろ!」

 

 

 …うん。発砲してる奴がそんな事言ったら駄目だろ。俺が馬鹿だった。非常階段が使えないから、危険も承知でエレベーター前に戻ったらこれだ。したくもない鬼ごっこを野郎としている。(命がけ)

 

 

 

「っツ! クソがぁ、野郎の尻追って楽しいかよ!」

 

 

 銃弾が肩に掠った。痛みで変な声が出てしまった。

 

 

 

「あぁ、楽しくないね!」

 

 

 

 なら辞めて欲しいですが。そんな俺の願い虚しく、機関銃の銃弾は止まらない。むしろ連写速度上がってませんかね?もうやだ帰りたい…

 

 

「どこまで持つんだろうな?」

「もう無理ぃ、休憩させて」

 

 

 

「はっ、まだまだ元気そうじゃねぇか」と、ふざけた事を言ってくる。

 

 もう足が限界だ。一般学生舐めんな。

 

 でも俺はまだ、辛うじて生きている。日頃の訓練、レインとのランニング。今それが効果に出ていた。積み重ねって大事だなぁ、と他人事の様に考え、必死に逃げる。

 

 

 直線と右折に左折。どれだけの道を走っただろう。もしかしたら同じ所を通ったりしたかもしれない。それでも奴は追ってくる。…実は男の気があるだろうか。何にせよめんどくさい相手である。

 

 

 荒い息が肺から漏れる。根性論でどうにかしようとするが体の疲労、傷はどんどん蓄積されていく。うえぇ、また腕に掠った。俺には銃弾を避けられる人外的な反射神経も無く、それを実行できる身体能力も無い。

 

 ほんと、武器は外して欲しい。まぁ、俺にもシギルという特殊な武器はあるが楽に使えた様なものじゃ無い。だからさっきも言った通り、俺には勝ち目がない。現状の様にただただ逃げ回るしかないのだ。

 

 

 

 曲がり角、曲がり角…のお陰で奴と少し距離ができた。乱射されて、扉にすら触らなかった客室に入れそうだ。幸いにもその部屋に鍵は掛かっておらず無事、室内には入れた。身体中にある擦り傷を見れば無事とは言えないが。まあ、そこは置いておこう。

 

 

 

 

 俺は室内にあるもので、雑な応急処置をした。腕や足、それらはベットのシーツだの、タオルなので簡単な事はできる。問題は脇腹や背中といった所だろう。処置しようにも傷が深いのかとか、どう止血したらいいかわからない。素人ではここが限界なんだろう。

 

 

 

 一通りの事を終え、今の状況を考える。

 

 ────敵との戦力は圧倒的。

 ────俺、タタカイタクナイ。

 ────レインに会いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 よし、レインと合流しよう。(名案)

 

 

 そろそろレイン成分が足りないし、レインも寂しがってる筈だ。いや、そうに違いない。

 

 

 

 ほら、レインからチャットが二通も届いてる。俺への愛がチャット二通で足りる筈がない。きっと会いたいとか、寂しいとかの類だろう。

 

 

 よし、届いたメッセージを読もう。

 

 

 

 

 

【合流しませんか?】

 

 

 …うん。

とっても簡潔! レインらしくていいね。それに、俺と早く会いたがっているのは見てとれた。寂しいならそう言えばいいのに。可愛い奴だなぁと思いながら次のメッセージを見た。

 

 

 

 

【今、スドウカナメといます】

 

 

 ……は?

 

 よし、今すぐでも合流しよう。スドウカナメ…突如現れた、超大物級の新人。俺個人の考えだが、新人狩りを倒してくれたのは感謝してる。 いつかは倒したいと思ってた相手だ。だが、それはそれだ。スドウカナメはレインと共にいる。それは駄目だ。もし仮に、スドウカナメが変態ロリコン野郎だったらどうする? レインは可愛い。スドウカナメの気が狂って、可笑しな事をするかも知れない。当然、俺は紳士だ。そんな事は絶対にしない。

 

 

 

 それにホテルで女子中学生と一緒とか事案だろう。警察呼ぶぞこの野郎。

 

 

 

 

 

 

「……待ってろロリコン野郎」

 

 

 

「何、言ってやがる」

 

 

 そんな野太い男の声が聞こえた。もうその声も聞き飽きたもんで、声だけで人物を特定できる。

 

 

「アンタもしつこいなぁ」

「そうかもな。扉開いてるぞ間抜け」

 

 

 開いた扉にその男は立っていた。五体満足で、左手にも何の支障もないようだった。当然、俺の小指も治っていた。

 

 

 

「扉を開けたのはわざと。……少し喋らないか?」

 

 

 帰ってきたのは沈黙。奴がNOと言えば、地獄の鬼ごっこに逆戻りだ。あれ、この流れさっきも見たぞ?

 

 

「……あぁ、いいぞ。俺もお前は聞きたいことがある」

「はっ、この際何でも答える。趣味か?恋人か?それと─」

 

 

「ここ最近、あるタイプのプレイヤーが多く倒されている」

 

 

 と、奴は左手の小指を口の前に立て、そう言ってきた。まったく性格が悪い奴だ。それに人の話は最後まで聞いて欲しい。

 

 

「まあ、そのタイプのプレイヤーは良く言えば効率が良い。悪く言えば弱者や初心者達を狙うクズプレイヤー」

 

 

 …俺の変わったシギルだ。バレるのも仕方ないか。

 

 

「そうゆうプレイヤーが最近、多く倒されている。お前に覚えはないか?」

「へー覚えはないな。それに俺は弱いだろ?そんな芸当はできない」

 

 

 

 俺はこの戦いにすでに負けている。それは口論でも。戦闘でも奴に主導権を握られ、話術の場も奴の掌。兎にも角にも俺は逃げるしか選択肢がないのだ。

 

 

 

「あぁ。最初は俺もそう思った。機転は聞くが、戦う気も無い腰抜けだと」

 

 

 あぁ。俺はそんな奴だ。だからこの話はこれでいいだらう。もう終わりにしたい。

 

 

「だが、お前の異能(シギル)を見て確信できた。曰く、そのプレイヤーの異能(シギル)は特殊で、知らぬ間に骨が折れていた、切り傷ができていた。なんてざらにあるらしい」

 

 

 俺の願い虚しく、奴の口は止まらない。

 

 

「……もう確信したんだろう?その話が俺だって」

「そうだな。現に俺の指。お前の指も治ってる」

 

 

 奴は左手をふりながら言ってきた。どんな表情、感情でこの話をしていたんだろうか。まぁ、純粋に俺への興味なんだろう。俺の異能は変わっている。……シギルに変わってるも何もないか。

 

 

「お前のシギル…それはどんな能力だ?」

「はぁ。まず、俺のシギルは自身の傷を相手に反映することができる」

 

 

 返事もない。このまま続けてもいいだろう。

 

 

「でも、それは自傷行為でしか発動しない。人につけられた傷では無理だ」

「自傷行為……それはどんなだ?」

 

 

 急に喋りだす奴だなぁ。

 

 

「悪いが俺もイマイチわからないんだ。でも、自分の意思で腕を切るとか明白な傷ほど発動しやすい」

「だから骨を折った…か」

 

 

 簡単に言ったがこれが難しい。当然、痛覚もあるし発動する相手もランダム。目の前に複数人いたら一人にしか発動しない。そして、自傷行為と言うものが死ぬ程辛い。痛くて痛くて堪らない。

 

 

「お前のシギルはわかった。だが、互いの傷が癒えたのはなんでだ?」

「あぁ。それもシギルの能力だ。発動した傷は自分も相手も治る」

 

 

 これが難しい事の一つだ。相手を倒したいと思っても、傷は癒える。 痛覚はあるが相手を行動不能にはできないし、絶命させることもできない。1の傷が直ぐに0に戻るのだ。

 

 そして傷の治癒能力はまちまちで、骨折ぐらいの怪我なら30秒から40秒くらいで治る。やった事はないが、俺は頸を切っても死ななそうだ。

 

 

 

 

「なんか中途半端なシギルだな。強力なのかよくわからねぇ」

「まったくだ。これのせいで家族には煙たがられたよ」

 

 

 

 俺はごく普通の家庭で育った一般学生だった。それこそ人を殴ったことも、殺したこともない。だが、────ダーウィンズゲームで全てが狂った。

 

 

 それもその筈。もし、台所で料理している息子が包丁で指を切った、その傷が数秒で治ったらどうする?それは気色が悪いに違いない。夜な夜な傷だらけで帰ってくる息子。それを見た家族はどう思う?さぞかし不気味だっただろう。

 

 俺はダーウィンズゲームのせいで家を出た。いづらかったのもあるし、家族を巻き込みたくなかった。だが、家族はその事を知らない。家を出て行こうとした日の家族の顔を今でも覚えている。

 

『うちの息子は何をしてる? 夜な夜な喧嘩に明け暮れる馬鹿息子じゃないか』

 

 

 いつか家で聞いた父親の言葉だった。

 

 

 

 

 

 俺は10代の内に天涯孤独になった。しかし金には困らなかった。殺し合い(ダーウィンズゲーム)で得た金で1日を生きる。得た金が1ポイントだったとしてもそれは重かった。人を殺したのにランクとポイントは上がる。人を殺したのに運営からの待遇は良くなる。意味がわからなかった。俺は寂しかった。他人の目が心に突き刺さった。

 

『何故、お前は生きている?』

 

 そう思うにはいられなかった。

 

 

 

 

 そんな時に

 ─────レインが現れてくれた。

 

 

 

 レインは俺と喋ってくれた。

 レインは俺と一緒にご飯を食べてくれた。

 レインは俺と一緒に戦ってくれた。

 

 

 

 ───────俺に守りたいと思える子ができた。

 

 

 

 

 だから、俺がレインの為に頑張るのはそれだけで十分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前がゲームで勝たないのは何故だ?」

 

 

 その事も知っていたか。俺はゲームでは勝たない。でも負けない。俗に言う引き分けばかりだ。ダーウィンズゲームはポイントの奪い合い。 ポイントが全損したらゲームオーバー。要はポイントが残っていればいいのだ。

 

 

 

「引き分け狙いだよ。それなら誰も死なない」

 

 

 

 

 

 俺は、バトルで互いのポイントが全損しない様に戦う。誰も死んで欲しくないからだ。その理屈で言えば俺のシギルは理にかなっている。自分が傷付けば相手にも傷。後はタイムオーバーまで逃げるだけ。バトル終了時には互いに擦り傷程度にしかならないから、そのダメージ量ならポイントは全損しない。バトル中で大きなダメージを負ったら当然、その分のポイントはなくなる。互いに生き残るのはこれしかないのだ。

 

 

 

 

「お人好し……いや、偽善者か」

「あぁ。そうだろうな。俺だって自分の命優先だ」

 

 

 奴の見えない目を見ながら俺は続ける。

 

 

「でも、できるなら誰にも死んで欲しくない。そう思うのは駄目なことか?」

「……甘いが、駄目じゃないだろうな。」

 

 

 奴の見えない顔が少し緩んだ気がした。

 

 

 

 

「それに、まぁ嫌いじゃない」

 

 

 

 

 

 

 そう言って、奴は俺に背を向けた。見逃してくれるのだろう。そして、奴は振りかえらず、最後にこんな言葉をくれた。

 

 

 

「悪い奴を懲らしめるのもいいが、【エイス】には気を付けろ」

 

 

 

 そう言って奴は歩き出した。

 

 やはり俺の目に狂いはなかった様だ。

 

 奴は悪い奴ではないと思えずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぁ、と知らぬ間にため息が出た。この数十分で体力を使い果たした様だ。俺はシギルは自傷行為の傷は癒えるが、体力や病気などには力がない。だから寿命とかも例外なんだろう。……多分。

 

 

 

 疲労のせいか、体が自然と下に落ちた。客室の壁を背にして少し座る。

 

 と、そんな時にスマホの通知音が響いた。予想は出来る。レインからのチャットだろう。俺はそれを見た。

 

 

【交戦中ですか?下の階から銃声がしますので】

【私達は今、28階にいます】

 

 

 あぁ。良かった。レイン達がいるのが30階より上じゃなくて。もし、30階より上だったら合流できない可能性だってある。その話で思い出したが、エレベーターはどういう状況なんだろう。階段を見る限り…普通に稼働しているとは考えづらい。何かしらある筈だ。ならば、使うのは30階までは安全な非常階段だろう。

 

 

 

【返信遅れたごめん。俺は今26階にいる】

【今からそっちに向かう】

 

 

 短い休憩を終え客室を出ようとした時に、レインからチャットが届いた。

 

 

【いえ、私達がそちらに向かいます】

【了解。多分、エレベーターは危ない。悪いけど階段から来て欲しい】

 

 

 

 そのやり取りを最後に俺は客室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 階段前について数分。

 

 レイン達はやって来た。二人を見る限り、怪我などはなさそうだった。意外と近くにいたんだなぁと思い、苦笑いが漏れる。まぁ、マスク野郎に遭遇したのが俺で良かったと思うばかりだ。

 

 

 

「レイン!! 無事だったか? スドウカナメに変な事されてないか?」

「……初対面なのに失礼な奴だな……」

 

 

 

 

 レインに抱き付きながらそう言う。嫌がっている素振りをしているが、内心喜んでいるに違いない。途中、スドウカナメが何か言っていたが気にしない。今はレイン成分を補充しなければ死んでしまう。

 

 

 

 でもレインに足を踏まれた。そしてゴミを見る様な目をされた。

 ……うん。これ以上は辞めておこう。まだ、俺は死にたくない。

 

 

 

 

 

「……私達は無事です。それより貴方の方は大丈夫でしたか?」

 

 

 

 俺から離れたレインがそう言ってきた。万全な二人から見て、満身創痍の俺は不思議に思うか。俺は今までの経緯を二人に説明した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタの状況はわかった。それで、これからどうする?」

 

 

 スドウカナメがもってもな事を言う。状況は悪い。俺達はリングを集めないと死ぬ。だが今は、狭いビルに閉じ込められている。これでは動こうにも動けない。いや、まだエレベーターが稼働しているか……なども調べていない。当分の目的は──

 

 

 

「今はこのビル内を探索するのが先決でしょう。それに非常階段の植物も気になります」

 

 

 

 レインの言葉で俺達の目的は決まった。ならば後は行動するだけだ。 俺達はエレベーター前まで移動することにした。

 

 

 

「なぁ、俺達初対面だよな。名前ぐらいは交換しないか?」

 

 

 

 スドウカナメが俺の顔見て言ってきた。その提案には賛成だ。そろそろフルネームで言うのも疲れてきたし、さっきは失礼な事を言った。謝罪の意を込めて、俺はその提案に乗った。

 

 

 

 

「あぁ。さっきは悪かった。俺の名前は木田詩織(きだしおり)。レインとクランを組んでる」

「わかった詩織。俺は須藤要(すどうかなめ)。改めてよろしく」

 

 

 

 スドウカナ……いや、須藤と呼ぼう。須藤は俺に右手を差し出してきた。苛烈な戦果は置いておくとして、目の前にいる須藤は普通そうだ。 それこそ殺し合いにも巻き込まれていない、一般学生に変わらない。そんな印象だ。須藤が善も悪も関係なさそうな奴ならば、自分から握手など求めてこないだろう。

 

 

 

「あぁ。よろしく」

 

 

 

 

 俺は須藤の右手を握った。そして大事で肝心な事を伝えた。

 

 

 

「レインに手に出したら、どうなるかわかってるよな?」

「………肝に命じとく」

 

 

 

 ならばよろしい。俺達は熱い握手を交わし、一時的な協力関係になれた。俺はレインの言うことに従うだけだ。当然、須藤とレインがピンチなら、レインを選ぶ。俺の行動原理はそれだ。

 

 

 

 

 

「何をしているんですか?早く行きますよ」

 

 

 

 レインの言葉で我に帰る。レインは俺達よりも先に歩いており、数歩程、前にいた。

 

 

 俺はレイン元へと急いだ。近くにいた須藤はもう見えなくなっていた。後ろで小言を呟いているが聞こえない。

 

 

 

 

 

 

 

「………詩織さんシギルを使いましたか?」

 

 

 レインの横に着いた時、そう言われた。心配してくれているのだろう。その顔を見てすぐ理解できた。性格は悪いが、そうゆう顔を見た時、俺はとても嬉しくなる。家族にも煙たがられた、俺を彼女は見てくれている。幸せだと感じられる。

 

 

 

「少しだけ。でも、もう傷は治った」

 

 

 少し大袈裟に肩を回しながらそう答える。本当は、まだ少し痛むなんて言えない。言ってしまえば、レインは必ず心配してくれる。だからこそ言えない。

 

 

 

 

「はぁ。出来る限りシギルを使わないでください。……私も頑張りますので」

 

 

 

レインがそう言ってきた。顔を合わせてくれないから多分、照れているだろう。顔は明後日の方向を向いている。

 

 

 

「あぁ。善処するよ」

 

 

 

 

 

 口ではそう言ったものの、それを約束する事は出来ないだろう。

 

 

 

 心の中でレインに謝罪し、俺達は目的地に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




引き分け判定はオリジナル設定です!(原作にはなかった……ですよね?)

引き分けは引き分けでも、ポイントは減るので、ポイントが足りないプレイヤーは普通に死にます。


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