ユキアンのネタ倉庫 (ユキアン)
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魔法少女リリカルなのはsts 防人衛編

「うん?ここは何処だ?」

 

傍に落ちている帽子を拾い上げる。下水らしいがほとんど臭いも無い。かなり科学力の高い場所らしいな。さて何故私は下水に居るのかだが、確かなのはちゃんを庇って次元震に巻き込まれたのだったか。

 

「とりあえずは外に出るか。次元管理局に接触出来れば無事な事を報告出来るはずだ」

 

帽子を深く被り、下水を歩き始める。しばらく歩いた所、ありえない出会いを果たした。

 

「……だれ?」

 

そこにいたのはオッドアイを持った少女だった。しかし、服はボロボロで、その脚にはケースが鎖でつながれていた。

 

「私はキャプテンブラボーだ。君は?」

 

「……ヴィヴィオ」

 

「ヴィヴィオか、良い名前だな」

 

私はヴィヴィオの脚に着いている鎖を引き千切り、ケースの中身を確認する。中にはジュエルシードの様な宝石が入っていた。魔力の無い私にでもこれが危険な物だと感じられる。その宝石をシルバースキンのポケットに放り込む。

 

「ヴィヴィオはどうしてこんな場所に居るんだい?」

 

しゃがみながら帽子を上げて顔を見せて視線の高さを合わせる。子供にはこの視線が合うというのが相手に警戒をとり難くなる行為なのだ。

 

「……ママがいないの」

 

「そうか、それは大変だな。私も一緒に捜してやろう。ほら、こっちにおいで」

 

シルバースキンを一度解除し、ヴィヴィオをおんぶする。その後もう一度シルバースキンを構成する。そして一部を変形させヴィヴィオ用の帽子を用意する。

 

「それでヴィヴィオ、聞きたい事があるんだが」

 

「なに?」

 

「アレは何だと思う?」

 

進行方向からドラム缶にケーブルが生えた様なロボットが数機押し寄せてきていた。

 

「分からない。でも怖い」

 

「ならば粉砕するのみ!!しっかり捕まっていろ!!20あるブラボーアーツが1つ、疾風怒濤・ブラボダッシュ!!」

 

全身を弾丸と化して突撃する。ドラム缶ロボットからのレーザーはシルバースキンを抜く事は出来ずに表面で弾かれる。

 

「両断・ブラボーチョップ!!」

 

すれ違い様に手刀で両断して突き進む。しばらくすると地上に上がれるはしごを見つける。素早く駆け上がりマンホールを上げる。ちょうど良いタイミングで近くをなのはちゃん達位の少年少女を見つけた。

 

「そこの少年、すまないが時空管理局に連絡を入れてくれないか。少々厄介事に巻き込まれている。ロストロギアも確保しているともだ」

 

「「ロストロギアですか!?」」

 

「たぶんそうだ。私は封印が出来ん。早く封印してもらいたい」

 

「あの、封印なら私が出来ます」

 

運が良い事にこの二人は時空管理局だったようだ。二人に話を聞いた所、どうやらここはミッドチルダだったようだ。これも運が良かった。

 

「よし。では私はもう一つのロストロギアの回収に向かう」

 

「もう一つですか?」

 

「ああ。私が拾ったそのロストロギアなのだが、この少女に繋がれていたケースから回収したのだが、ケースに使われていた鎖の長さからもう一つ繋げてあったのが切れているようだ。私はこれからもう一つのケースの回収に向かう。おそらくだがそのケースを狙っていると思われるドラム缶型のロボットがまだ残っている」

 

「ガジェットが!?なら余計に一人で行かせる訳には行きません」

 

「問題無い。これでも私も民間協力者だ。魔力こそ持たないが、大抵の輩に遅れは取らんよ。ここに来るまでも十数機は落としている。ちっ、もう追い付いたか。少年、この少女を預ける。守ってやれ」

 

赤毛の少年にヴィヴィオを預けてジャンプする。ビルの壁を蹴り、再び地下に向かって蹴りを放つ。

 

「流星・ブラボー脚!!」

 

昇って来ようとするガジェットを破壊する。そして今まで駆けてきた道を戻り始める。ヴィヴィオが歩いてきたと思われる先にもう一つのケースがあるはずだ。

 

「邪魔をするな!!」

 

何処からともなく沸いてくるガジェットを殴り壊しながら前進を続ける。やがて大雨が降った際に洪水を防ぐ為にプールする部分に辿り着く。そこの中央付近に件のケースを発見する。拾って中身を確認するとそこにはあのロストロギアが入っていた。

 

「うむ、鎖の反対側も終わっている。これ以上はなさそうだな」

 

これ以上の交戦は無駄と判断してすぐさま撤退に移ろうとした所で背後から休息に接近する気配を感じる。その気配に対して回し蹴りを放つ。

 

「ほう、人型の昆虫か。ミッドにそんな者が居るなど聞いた事が無いな」

 

回し蹴りを受け止めた人型の昆虫を見ながら考える。ミッドのそれも下水施設にこんな奴が居るということはこのエリアに召還魔法を持つ者が居ると言う事だ。私は回し蹴りを受け止められた状態から力づくで昆虫を吹き飛ばし核金を取り出して展開する。

 

「武装錬金、ヘルメスドライブ!!」

 

新たに展開したのはレーダーの武装錬金であるヘルメスドライブである。意外な事に召還士はすぐに見つける事が出来た。目の前に居る昆虫を引きつけながら召還士との距離を離していく。そして十分に引き離した所で召還者の元にヘルメスドライブの能力で転移する。

 

「民間協力者のキャプテンブラボーだ。現在、私はロストロギアの回収に動いている。邪魔をすると言うのなら君を拘束しなければならない」

 

「っ!?」

 

転移して驚いたのだが、召還士は先程出会った少年少女達と同じ位の少女だった。

 

「抵抗の意志がないのならあいつの送還しろ。抵抗するなら多少の痛みと怪我を覚悟しろ」

 

「地雷王!!ガリュー!!」

 

少女が叫ぶと同時に激しい揺れが私達を襲う。そして天井が崩れて大きな破片が降り注ぐ。

 

「ちっ、武装錬金、破壊男爵(バスターバロン)!!」

 

破壊男爵の右腕だけを精製し、落石を防ぐ。その隙に少女はガリューと呼ばれた人型の昆虫に抱えられて空へとあがる。

 

「逃げられたか。追う必要はないな」

 

崩れた天井を見上げると綺麗な空が見える。その空に見たことのない型のヘリが飛んでいる。時空管理局のマークが入っていたのでおそらくはあの少年達が呼んだ者達だろう。とりあえず回収したロストロギアを渡して、事情を話して地球に戻らないとな。なのはちゃん達も心配してるだろうし、無事だって事を連絡しないとな。

 

戦闘音が聞こえ、桃色や金色の魔力光が空を飛び交っているのを眺めながら陸戦を行っている場所を目指す。私が辿り着いた時には既に戦闘は終了して見知った顔が悔しそうな顔をしている。

 

「何を悔しそうにしているんだ、ヴィータ?」

 

「見てて分からねえのかよ!!まんまと出し抜かれ」

 

そこで言葉が途切れ、幽霊でも見たかの様な顔で私を見つめる。

 

「ブラボー!?お前、今まで何処に居たんだよ!!なのはもフェイトもはやても、皆心配してたんだぞ!!」

 

「ああ、やっぱり心配をかけて、あれ?なんでヴィータがミッドに居るんだ?距離的に考えてまだ第138管理外世界に居るはずじゃあ?」

 

「は?」

 

「は?」

 

二人の間で情報の誤差があるようだ。一旦、落ち着いて確認しよう。

 

「よし、ヴィータ。とりあえず確認しよう。私は第138管理外世界になのはちゃんとヴィータと共に天候操作型のロストロギアの回収に向かったよな」

 

「ああ、そうだ」

 

「そこで私は暴走したロストロギアのエネルギーに飲み込まれそうななのはちゃんを庇って、そのエネルギーが産み出した次元震に巻き込まれた」

 

「そうだよ。それから私達はお前の事を捜したよ!!だけど全然見つからなくって、なのはは自分の所為だって思い込んで自分を追いつめて、一時は自殺までしそうになったんだぞ!!お前、7年間も連絡も無しに何処行ってたんだよ!!」

 

そうか、私はそこまでなのはちゃんを追いつめてしまったのか。というか、7年も誤差が出てるのか。

 

「なるほど、状況は理解した。私はあの次元震に飲み込まれた後、気付けばここの下水に倒れていた。簡単に言えば私はあの次元震によって未来に飛ばされたんだよ。私にとって次元震に巻き込まれたのは2時間程前の出来事なんだよ」

 

シルバースキンの帽子を外して顔を見せる。その顔を見てヴィータも納得したようだ。なんせ7年前の任務の際に立ち寄った村で野良猫に引っ掻かれた痕が残っているのだから。

 

「それにしても7年か。長いな。戸籍上は私は三十路か」

 

「あんまり女の前で年齢を数えるなよ」

 

「なのはちゃん達はもう二十歳だっけ?」

 

「ぎりぎり10代だ」

 

「あんまり変わらないだろうが」

 

「それ、なのは達の前で言えるのか?」

 

「私のシルバースキンの絶対防御力は知っているだろうが。生身の頑丈さもな」

 

おや?何やら空から桃色の光が……

 

 



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インフィニット・ストラトス 〜超鬪士、見参〜

 

「なあ、一夏。お前のISはまだ到着しないのか?」

 

「ああ、見ての通りまだなんだよ。イルムは?」

 

「オレの方は入学の時から持ってるぜ。未完成だけどな」

 

親父が未だに拡張パーツのダウンサイジングに手こずっている為にオレの愛機は未完成の姿を曝さなければならない。まあ、一ヶ月で本体をそこそこのサイズにまで小さくしただけでも十分凄い事なんだが、それを口に出せば自慢話になるので口には出さない。

 

「カザハラ、すまないが試合の順番を変更する。これ以上待っているのではアリーナの使用時間を超えてしまうのでな」

 

「了解です、織斑先生。試合のルールは国際大会の物で行うんですよね?」

 

「そうだ。開始の合図と共にアリーナに侵入し、戦闘を始める物だ。お前が言って来たんだろうが」

 

「念のための確認ですよ。それじゃあ、オレの準備は出来てるんで」

 

「そうか。では5分後に開始する」

 

ピットから出て行く織斑先生を見送ってオレも準備を終わらせるために動く。

 

「一夏、少し離れてろ。オレの機体は少々デカイからな」

 

一夏が離れたのを確認してから愛機であるグルンガストをウィングガスト形態で展開する。

 

「IS、なのか?どう見ても飛行機に見えるんだけど。しかもISに比べると大きいよな」

 

「まあ、そうだろうな。普通のISと比べるとかなりコンセプトが違うからな」

 

「コンセプト?」

 

「こいつは、特機構想に基づいて作られてるからな。そろそろ時間か。一夏、よく見ておけよ。オレの愛機は超鬪士だ。お前は言ったよな、皆を守れる様になりたいって。だったら最低でもオレ以上の力が必要になる」

 

「なんだよ、それ?敵になるって言うのか?」

 

「さあな?」

 

一夏の質問に答えずに計器をチェックする。まっ、一夏と敵対するかどうかは全部月の兎さん自体だな。親父達は敵対する意志はないだろうが、あっちはかなり強力な力を持ったガキ大将だからな。親父達を傷つけるならオレは兎狩りをするつもりだ。その時、一夏が敵対するって言うんなら、迷わず斬る。

 

『開始十秒前だ。準備は良いな?……試合開始』

 

「イルムガルド・カザハラ、ウィングガスト、出るぞ!!」

 

カタパルトを使わずにアリーナに侵入すると同時にウィングガストを見て硬直しているセシリアのブルーティアーズに機首を向ける。

 

「ダブルオメガレーザー、ビッグ・ミサイル、スパイラル・アタック!!」

 

目の部分からダブルオメガレーザーを、脚部の部分からビッグ・ミサイルをスパイラル・アタックに必要な距離まで撃ち続け、エネルギーフィールドを纏いながらバレルロールを行うスパイラル・アタックを掠らせて、手に持っていたライフルを破壊する。体勢が崩れているセシリアを放置して機首を上に向けて飛び、そこそこの高度まで上がった所で

 

「変形、ガストランダー!!」

 

重戦車形態であるガストランダーに変形し、自由落下に身を任せながら照準を合わせる。

 

「オメガ・キャノン、ドリル・アタック!!」

 

2門のキャノン砲を叩き込みながら再びエネルギーフィールドを纏い、背中を掠らせる様にしてビット兵器を破壊する。着地と同時に人型へ変形しながら、胸部にエネルギーを集める。最低出力のエネルギーが貯まった所でセシリアの方を向いて胸を張る。

 

「ファイナルビーム!!」

 

ファイナルビームの直撃を喰らい、絶対防御が発動したのか気を失って落ちて来るセシリアを受け止める為に走り出そうとした瞬間、白いISを身に纏った一夏がセシリアを受け止める。

 

「おっ、それが一夏のISか」

 

「イルム、お前!!」

 

「何を怒ってるんだ?」

 

「どう見てもやり過ぎだろうが!!こんなになるまで傷つけて」

 

「傷つけてって、よく見ろ一夏。オレは一発しか直撃を食らわしていない。ISは派手に壊れている様に見えるが表面だけだ。最後のファイナルビームも最低出力で撃ってる。今は絶対防御が発動して気絶しているだけで外傷はほとんど無い。ISって言うのはそう言う物なんだよ。これ位で一々怒ってたら身が持たねえよ。それから勘違いをしているぞ、一夏」

 

「勘違い?」

 

「ISはな、スポーツの道具なんかじゃない。歴とした兵器なんだよ。そうじゃなきゃ、IS用の武器なんて作られねえ」

 

「違う、絶対に違う!!」

 

「違わねえよ。作られた当初はそうじゃなかったのかもしれないが、白騎士事件で世界はISを兵器だと認識した。そしてそれを作った本人が否定しないどころか肯定と取れる行動をした時点でお前が喚いても変わりはしない。まあ、その判断は5年前から正しくなったがな」

 

「5年前から正しくなった?」

 

「知りたきゃ強くなれ、一夏。そうすりゃあ、事が起こる前に真実に触れる機会が訪れるかもな」

 

まあオレも親父がSRX計画に参加してなければ知らなかっただろうがな。

 

「ほれ、そのままだとセシリアが危ないからピットに置いて来い。待っててやるから」

 

セシリアを抱えてピットに戻っていく一夏を見送りながら管制室の方に通信を入れる。

 

「どういうことなんですか?試合中に乱入するなんて」

 

『……カザハラ、やはりお前はSRX計画の一員だったか』

 

「その質問に答える権利はオレには有りませんよ。そっちもそうでしょう、ISX計画の一員で候補生を選出・養成を担当する織斑千冬少佐」

 

『そうだったな。最初の質問だが、織斑のISは零落白夜を装備しているようだ。それによってアリーナのシールドを斬られた』

 

「零落白夜?それって、織斑先生の暮桜の専有能力だったはずじゃあ」

 

『分からん。織斑のISの製造は倉持技研になっているが、明らかにあそこの意匠ではないISだ。となると」

 

「月の兎が出しゃばりましたか」

 

『おそらくな。それより、そろそろ織斑が戻って来るぞ。補給は要らないのか?』

 

「問題無いですね。あの程度でグルンガストがどうにかなるはず無いんでね」

 

ピットから戻ってきた一夏は少しは頭が冷えたのか、いきなり斬り掛かってくる様な事は無かった。それにあわせてウイングから計都羅喉剣を引き抜く。

 

「そんじゃま、第2ラウンドだ。来いよ、一夏。相手をしてやる」

 

「……勝ったら、さっきの続き、教えてくれるか」

 

「勝てたらな。だが、簡単に勝てると思うなよ!!」

 

一気に踏み込んで計都羅喉剣を横薙ぎに振るう。一夏はそれを受け止めようとするが、それを許す程グルンガストの力は弱くない。受けきれずに一夏がアリーナの壁に叩き付けられる。

 

「なら、これなら!!」

 

一度空に上がり、加速を付けて突っ込んで来る。まだまだ甘いな。計都羅喉剣を持っていない左手を後ろに引いて構える。

 

「ブーストナックル!!」

 

勢い良く左手を突き出し、左手が飛んでいく。

 

「うえっ!?ロケットパガッ!?」

 

顔面に当たったブーストナックルで脳が揺れたのか、フラフラと落ちて来る一夏に

 

「ファイナルビーム!!」

 

セシリアと同じ様に最低出力まで絞ったファイナルビームを当て続けてエネルギーをゼロにする。

 

「もっと頑張れよ、一夏」

 

気絶した一夏を拾い上げてピットへと戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 




補足説明

この世界はISとSRWOGが混ざり合った世界です。本文でイルムが漏らした5年前にアイドネウス島にメテオ3が落下。そこから地球外生命体が居ると言う事を知り、そのEOT(エクストラ・オーバー・テクノロジー)を研究する為の組織EOTI機関が組織されています。ここまではSRWOGとそこまで変わりません。相違点は地球に連邦が存在していませんのでゲストとは接触していません。ですが、地球外生命体の侵略が示唆されている為に各国で独自に対策を立てています。イルムはアメリカが主体となって活動しているSRX計画の一員で、織斑千冬は日本が中心となって(正確には兎さんが好き勝手)活動しているISX計画の一員です。他にもフランスに本社を置くマオ・インダストリーがPT(SRWOGの方。スーパーヒーロー大戦のパワードスーツじゃありません)の制作をイスルギ重工がリオン系列のAMの制作を行っていたりしています。つまり、EOTに触れた科学者達がそれぞれ別々に国家の枠を超えて行動している状態です。ちなみに5年前のメテオ3が振って来た事件は大型の地震として隠蔽されています。


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インフィニット・ストラトス 否定の救世主

 

「来主操、好きなことは綺麗な蒼い空を眺める事。ISの知識は付け焼き刃だから迷惑をかける事もあるかもしれないけどよろしくね」

 

自己紹介を終えて席に座る。IS学園、ある程度空を駆けることが出来る場所。IS自体は好きだけど、ISの周辺環境が嫌いだ。もっと自由になれないのだろうか?それともあの神に空を駆けれる世界を望んだのが間違いだったのかな?もっと詳しく指定すれば良かったのかな?

 

 

 

 

 

 

「それは、ISなのですか?」

 

「そうだよ。オレの専用機、ファフナー・ザルヴァートルモデル、マークニヒト。世界に祝福を与える者さ」

 

神がオレの為に用意したIS、それはニヒトをISの大きさにしたISであってISでないもの。ファフナーであってファフナーでないもの。そしてオレは人間であって人間でないもの。フェストゥムであってフェストゥムでないもの。

 

初めてニヒトを身に纏い、僕は今まで生きていなかったのだと実感させられた。オレはニヒトを纏って、ようやくこの世界に産まれたんだ。

 

空を見上げる。綺麗な蒼い空。どこまでも広がる大いなる空。そこを駆けれる力をようやく手に入れて、オレがオレであるとはっきりと感じる。だから、それを宣言しよう。

 

「オレは、此所に居る!!」

 

宣言と同時に産まれた力を理解する。ニヒトの全身が翡翠色の結晶に覆われて弾ける。装甲がTV放送版から劇場版へと変わり、今まで以上に動きやすくなる。

 

「一次移行?」

 

対面に居るオルコットさんが尋ねてくるが、その考えは違う。ニヒトも今、この世界に産まれたんだ。オレと一緒に空を駆ける為に。

 

「オルコットさんは空が好きかい?」

 

「はあ?」

 

「オレは大好きだ。空は綺麗で、大きくて、何より自由に見える。だから、大好きだ」

 

「一体何なんですの?」

 

「もっと、自由に、素直に生きた方が楽しいよ。肩肘張らずにさ」

 

この世界に産まれ落ち、ニヒトを纏う今のオレは、人間であり、フェストゥムであり、ISであり、ファフナーだ。読心能力でオルコットさんの心を覗いて、彼女の事を理解する。彼女は、ただ一生懸命なだけの女の子だ。一生懸命すぎて周りを見る余裕が無くなって、自分を追い込んでいるというのを分かっていない。だから

 

「今の君を否定する。それがオレからの祝福だ」

 

試合開始の合図と共に持っていたルガーランスを同化して最大加速で切り込む。

 

「なっ、はy」

 

オルコットさんの持つライフルを真っ二つにし、同化して吸収する。そのまま切り上げて首筋に突きつけてから離れる。

 

「馬鹿にしてますの!!」

 

怒ったオルコットさんはISから4基のユニットを取り外す。ノルンみたいな物かな?まあ、問題無いね。

 

背中のウィングユニットのアンカーを飛ばして、串刺しにするのと同時に同化して吸収する。アンカーをウィングユニットに戻してワームスフィアを形成し、装甲という装甲をねじ曲げる。飛行機能すら壊れたのか落ちていくオルコットさんに再びアンカーを打ち込んで宙吊りにする。そして、ゆっくりと同化していく。オルコットさんのISの装甲が結晶に覆われていく。そこまでは焦りながらもまだ抵抗を続けていた。それも次の瞬間には止まる。

 

露出している肌の一箇所に結晶が生えたことによって。

 

「えっ、あっ、い、いやああああああああああああ!?!?」

 

パニックを起こして暴れ回るオルコットさんを見下ろして同化を続ける。

 

「やめろおおおおおお!!!!」

 

ピットから飛び出してきた一夏がアンカーのワイヤーを切るのと同時に同化を止めて、肉体とねじ曲がった装甲を返す。地面に叩き付けられそうになるオルコットさんを一夏が抱きとめてオレに剣を向ける。オルコットさんは安心したのか気を失ったようだ。

 

「操!!お前、何をやってるんだよ!!」

 

「最初に言ったはずだよ。今の彼女を否定する。それがオレからの祝福だって」

 

「巫山戯るな!!幾ら怒ってたからって殺す事が祝福だなんて認めねえぞ!!」

 

「誰も殺すなんて言ってないよ。今の彼女を否定するって言ってるんだ。似ているように感じるんだろうけど、全然意味は違うよ。一夏が思っている祝福とオレの思っている祝福は同じ物さ。そこに辿り着くまでの道のりが違うだけさ」

 

「何を訳の分からない事を言ってるんだ」

 

「二、三日で分かるよ。さて、オレと戦うのなら彼女を戻してきてあげなよ。危ないから」

 

そう言うと渋々ピットへと戻っていく一夏を見送りながら通信に出る。ついでに切られたワイヤーを同化して繋げ直す。

 

「何か御用ですか、織斑先生」

 

『……オルコットの機体に何をした?お前の攻撃でオルコットのシールドエネルギーが減ったのは最後のアンカーを打ち込んだ時のみだった。装甲にアレだけのダメージを負わせながらだ』

 

「説明しても分からないでしょうから簡潔に結果だけを見て下さい。ねじ曲げただけですよ。本来ならそのまま捻りきる事だって出来ます」

 

『なら次だ。あの結晶は何だ?結晶に覆われて砕け散ったのに、なぜオルコットは無事なのだ』

 

「ニヒトだけのワンオフですよ。詳細は秘密です。無事なのは結晶で覆っただけですから。何度も言ってますけど、今の彼女を否定する。それがオレからの祝福です。『オレが悪役になる事で彼女がクラスで孤立する事はなくなった。むしろ心配される側になった事でクラスに溶け込める様になる。それに、死の恐怖を味わった事で性格にも変化が現れるはずですから』

 

『それではお前がオルコットになるだけだぞ』

 

「オレは空さえ飛べればそれで良いんですよ。ザルヴァートルの名は伊達じゃないんですよ」

 

そこで一夏が戻ってきたので通信を切る。先程と違い、装甲が変化している所を見ると一次移行が終了したようだ。

 

「来なよ、一夏。遊んであげるからさ」

 

オレの挑発に一夏が剣を振りかぶって斬り掛かってきたのでそれをルガーランスで受け止めて同化して吸収する。それに一夏は驚いて、驚いて?

 

「なんで驚いてるの?」

 

「いや、さっきワイヤーを切るときは問題無かったから」

 

「あれはわざと切らせたんだよ。ほら、他の武器を出して」

 

「い、いや、それがだな」

 

「まさか、拡張領域に何も入っていないのかい?」

 

「あ〜、うん、そうなんだよ。初期設定の雪片弐型しかなかってさ」

 

「仕方ないね」

 

遊びにすらならないとは思っても見なかったよ。まあ、オルコットさんに祝福を与えられただけで今回は良しとしよう。

 

ルガーランスを展開してエネルギーを注ぎ込む。そしてプラズマの射出口を一夏に向ける。

 

「痛みは一瞬だ。楽にすると良いよ」

 

ルガーランスから放たれたプラズマにのまれて一夏が墜落していく。

 

 

 

 

 

「君がオレを呼んだのかい?」

 

学園の整備室の一画に未完成で置かれているISに語りかける。この世界に産まれ落ちてから、オレは彼女達、ISのコアの心も読める様になった。そしてそれが彼女達にも伝わりコアネットワークを通じてオレを呼んだのだ。

 

「そうか。いいよ、オレが祝福してあげる」

 

「……そこにいるのは誰?」

 

振り返ると入り口に眼鏡をかけた女の子が立っていた。

 

「来主操、NO.107に呼ばれてきた。はじめまして、更識簪さん」

 

「どうして私の名前を!?」

 

「NO.107が教えてくれたからね。分かりやすく言えば打鉄弐式が教えてくれた。君に身体を作って貰っている彼女がオレを呼んだ。彼女と君を祝福して欲しいと」

 

「コアに意思が?それに祝福?何を言っているの?」

 

「言葉で伝えるのは難しい。伝えたい事の全てを伝える事が出来ない。伝わらなかった物の方が重要な時もある」

 

左手で打鉄弐式のコアが格納されている部分に触れて同化する。

 

「くっ」

 

NO.107が感じた痛みが流れてくる。更にニヒトのコアと違って独立していないからかコアネットワークからも様々な情報が流れてくる。

 

「NO.107の意思を伝える。手を」

 

右手を更識さんに差し伸べながら、伝える為の情報を選別する。だが、更識さんは手を取ろうとしない。

 

「不安も恐怖も分かる。オレにはこの方法しか思いつかない。オレを信じてなんて言わない。だけど、彼女を信じて欲しい。彼女は苦しんでいる。そして、君の事を心配もしている。それを伝えたいだけっっ!?」

 

コアネットワークから意図的な介入が行われ、しかも上位権限で無理矢理情報を抜き取ろうとこちらにアクセスを仕掛けられた。それによって幾つかのコアが痛みを感じ、それが流れ込んでくる。あまりの痛みに膝をつく。

 

「それ!?」

 

更識さんがオレの左手が結晶に覆われた事に驚く。

 

「説明する時間が無い。これが最後のチャンスになってしまった。手を、ぐあああああ!!」

 

介入が酷くなり左肩まで一気に同化が進む。

 

「このままでは彼女が消える。消されてしまう。頼む、彼女の意思を伝えさせてくれ!!」

 

オレの必死の訴えにようやく更識さんが差し伸ばしていた右手を取ってくれる。

 

「ありがとう」

 

右手で更識さんの右手を少しだけ同化してNO.107と更識さんの意識を擬似的にクロッシングさせる。オレ自身は二人の対話の邪魔はせず、邪魔をさせない為にコアネットワークの方に意識を集中させる。予想通り介入主は篠ノ之束だった。上位存在の時点でそれしか答えは無かったけどね。今回は手を出せないけど、いずれは祝福を与えるよ。

 

二人の対話が終わると同時に更識さんとの同化を解除してニヒトを展開する。

 

「痛みを全て、受け止める!!」

 

原作の来主操が押し付けられていた様に、真壁一騎が同化現象を肩代わりした様にコアの訴える痛みを全て引き受ける。それが終わり次第、NO.107をコアネットワークから完全に独立させる。

 

「あ、あの」

 

「ごめん、ちょっとだけ休ませて」

 

想像以上に体力を消耗し過ぎた。ニヒトを解除して座り込んで荒い息をつく。5分程待ってもらってから、話を聞く。

 

「色々、あの子と話して、私がどれほど傷つけたのか理解して、それでも私は傷つける事しか出来ない」

 

「それもまた、ひとつの祝福だよ」

 

「それでも傷つけるのは痛い事だよね」

 

「だけど、痛みを知らないのは害しか無い」

 

「それでも痛みは少ない方が良い。だから、力を貸して欲しいの」

 

「オレはISに関しての知識はほとんど無いよ。クラスメイトにも避けられてるからコネも無いし」

 

「私とイオナを繋いだあの力、人と人も繋げられるはず」

 

「イオナ?ああ、NO.107だからイオナか。分かりやすくて良い名だね。さて、質問の答えだけどYESだよ。人と人を繋げる事も出来る。だけど、繋がって分かったはずだ。あれは繋がっているもの全てに自分の全てを曝け出す必要がある。オレも出来る限り思考をそらしたけど、それでも見てしまった物が多々ある。だから、誰と繋がろうとしているのかも分かる。だけど、相手がどう思っているのかは分からない。この力は互いに傷つけ合う力でもある。それを理解しているね?」

 

「うん」

 

「今まで見えなかった十字架を見える様にする。辛い行為だ。もう逃げる事は出来なくなる」

 

「それでも、前に一歩進める」

 

「まっすぐな心だ。それが君の祝福になるのならオレの力を貸そう。出て来たらどうですか、更識楯無さん。そこに居るんでしょう?」

 

オレが声をかけると銃を構えた更識楯無さんが姿を現す。更識さんだとかぶるから名前の方で呼ぼうかな。

 

「貴方、一体何者なの」

 

「来主操、君たちを祝福する者さ。話は聞いていたし見ていたんでしょう?彼女は自分が傷ついても貴方に意思を伝えたがった。貴方にその覚悟はありますか?」

 

右手で簪さんの左手を握りもう一度同化する。そして左手を楯無さんに差し伸ばす。しかし、簪さんと同じ様に楯無さんは中々手を取ろうとはしない。それどころか今にも発砲しそうになっている。

 

「これはチャンスなんですよ。また、昔みたいに戻れるかもしれないチャンスです。傷つくかもしれない。だけど、与えられる訳では無く自ら手にする物でもある。それはこれから先を進む為の力となる」

 

話をしている間にオレと簪さんを覆う結晶がほんの少しずつ増える。

 

「時間をかけすぎると命に関わる。決断は早めにして」

 

その言葉に楯無さんが発砲してくるが、ニヒトの翼を部分展開して防ぐ。

 

「簪ちゃん、早く離れて!!」

 

「彼女も危険性に関しては理解している。その上で分かり合いたいと言っているんだ。それを受けるのも拒むのも貴方次第だ」

 

そう話しているうちにも結晶は少しずつ増えている。

 

「お姉ちゃん」

 

簪さんも右手を楯無さんに差し伸べる。楯無さんはその手を握り、強引にオレから簪さんを引き離し、ISを展開して武器を構える。槍に見えるけど先端に砲口がいくつも見える事からガトリングと判断する。回避すれば後ろにあるイオナが壊される。ならば受ける。

 

ニヒトを展開すると同時にガトリングが火を噴き、ニヒトの装甲を撫でる。そう、撫でるだけだ。シールドも展開せずに装甲で直接受けているが、装甲に多少のへこみが見れるだけでダメージになっていない。そのまま身体を広げて後ろにある物を守っていると簪さんが楯無さんを突き飛ばしてこちらに走ってくる。打鉄弐式の破損を涙目になりながら確認していく。

 

さすがにオレとニヒトでも全ての弾丸を防げた訳では無い。致命傷になると思われる部分に当たると思った分は確実に防いだけど、実際の所どうなのかは分からない。しばらく待っていると痺れを切らしたのか楯無さんが声をかける。

 

「簪ちゃん」

 

「……出て行って。今は、顔を見たくない」

 

「簪ちゃん!?」

 

「お願いだから出て行って!!酷い事、言っちゃいそうだから」

 

拒絶されたと思った楯無さんはISを解除して走り去ってしまった。その目に涙があったのをオレはしっかりと見てしまった。完全に話がこじれた事に頭が痛くなる。ISを展開してオレの後ろの打鉄弐式ごと攻撃しなければここまで行かなかったんだけどな。すぐに追いかけたい所だけど、簪さんも泣いてるし、簪さんの気持ちの方が理解出来てしまう。ニヒトを解除して簪さんに尋ねる。

 

「被害の方はどんな感じですか?」

 

「重要な部分へのダメージは無いけど、一発だけ右腕の情報伝達バイパスに直撃してる。これの修理には右腕を一度本体から外さないといけない。だから時間がかかる。イオナはなんて言ってる?」

 

「かなり痛がっている。オレが直しても良いかな?オレなら5秒もあれば直せる」

 

「……お願いしても良い?」

 

「ああ、だけど、どうすれば良いのかだけは指示を出してくれ。間違うかもしれないから」

 

「分かった。この部分なんだけど、本来ならこんな形になってるの。そこに弾丸の破片が当たって傷ついてるの」

 

簪さんが予備パーツを見せてくれたので、それを同化して破損部分に当てはめる。

 

「すごい便利だね」

 

「使いすぎると不味いんだけどね。まあ、これ位なら殆ど問題ないよ」

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして。それよりもお姉さんはどうする?もう一度機会を作っても良いよ」

 

「……それは」

 

「……返事は今じゃなくていいよ。オレは寮の屋上にテントを張っているから、そっちに来て。大抵はそこにいるから」

 

「分かった。ごめんなさい、迷惑ばかりかけて」

 

「俺が好きでやったことだから、気にしないで良いよ」

 

整備室から出て、オレはアリーナに向かう。管制室で制御用のコンピュータと同化して試合用の設定を起動する。ロッカーでシナジェティック・スーツ風のISスーツに着替える。そのままアリーナの入り口から遠い方のピットからフィールドに突入して中央で待機する。

 

それから30分後、先程見たばかりのISがフィールドに突入すると同時に、その手に持つ大型火器を発砲してくる。それを同化して強化したロングブレードで弾き、同じく同化で強化したガルム44で反撃する。それを全て躱して楯無さんが降りてくる。

 

「貴方さえ居なければ、簪ちゃんに嫌われなかったのに!!」

 

「貴方がオレの手を取っていれば話は丸く収まっていたのに」

 

大型火器を手放して水で出来た蛇腹剣を取り出す。そして触れ合うのは僅かな時間で連続で斬り掛かってくる。なるほど、同化の対策はしてきたってことか。それにこの水、ただの水じゃない。何を企んでいるのかは分からないけど、大した障害にはならないだろう。

 

銃身を斬られたガルム44を投げ捨ててルガーランスを取り出して変則二刀流で迎え撃つ。機体性能はこちらが上、技量は向こうが上だけど読心能力で上回れる。あとは、思いの強さがどこまで強いかだ。それ次第で、オレは彼女も祝福する。

 

 

 

 

 

 

「ミストルテインの槍を耐えた!?」

 

全身の装甲がかなり融けたけど、フェンリルと同じ位の火力ならなんとか動ける。それにエネルギーは十分に節約出来た。

 

「っあああああ!!」

 

先端が折れたルガーランスを展開して楯無さんを挟んで拘束する。プラズマの射出装置にもダメージが入っているけど、やるしかない。これが最後のチャンス。

 

「行っけえええええええええええ!!」

 

ルガーランスを空へと向けて、同化で限界以上に能力を引き上げたプラズマを撃ち出しシールドエネルギーを完全に削りきる。同時にルガーランスも限界に来たのかプラズマの射出装置が融解して爆発を起こす。それによって支えを失った楯無さんが落ちていくのを急いで回収する。ニヒトも限界が近いので待機状態に戻して自己修復を促せる。これが本当の殺し合いならもっと楽だったんだけど、本当に殺すわけにはいかないからね。

 

「全く、簪さんがそんなに大切ならもっと気にかけてあげれば良いのに」

 

先程までの殺し合いの中でも思考の片隅では常に簪さんのことを考えていた彼女に呆れながら涙を指で拭う。シールドエネルギーが0になった上に絶対防御まで発動したのか、楯無さんは気を失っている。

 

「……ざし、……ゃん」

 

気を失っても妹の事を気にかける彼女は祝福されるに値する。楯無さんを背負い、アリーナから出ようとすると、簪さんが走り込んで来た。

 

「どうしたの?」

 

「嫌な予感がしたから。応急修理だけ済ませて、探してたの。そうしたら」

 

「まあ、見ての通りだよ。オレの話は全く聞いてくれなかった。それだけ妹に嫌われたと思ったのが効いたんだね」

 

「お姉ちゃん」

 

楯無さんを近くのベンチに寝かせて左手を握って同化する。

 

「今のお姉さんは思考の袋小路に立っている。行きたい場所は分かってるのに、それがどっちにあるのか分からない。だから、教えてあげて。ここにいるよって」

 

空いている右手を簪さんに差し出す。簪さんはすぐに手に取って答えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「来主君は居るかしら」

 

「更識先輩?」

 

翌日の放課後、HRが終わった後に楯無さんが教室にやってきた。

 

「どうかしたんですか?」

 

「ええ、もの凄く重要な事よ。はい、これ」

 

そう言って腕章を渡される。ものすごい手作り感と手抜き感のするそれには生徒会長と書かれていた。

 

「昨日、私に勝った事で今日から来主君が生徒会長よ」

 

「はい?」

 

楯無さんが広げた扇子にはアンタが一番と達筆で書かれていた。

 

「いやぁ〜、これで私の肩の荷も降りて楽が出来るわ〜」

 

「ちょっと待った!!説明を要求します!!なんでオレが生徒会長になるんですか

 

「知らなかったの?ここの生徒会長は生徒間でのいざこざを仲介したり、色々と武力問題を解決する為に学園で一番強い人が生徒会長を務めるのよ」

 

「知らないよ。入学前のあの分厚い冊子を覚えるので精一杯だったから」

 

「まあ、決まりだからあとはよろしく。私は簪ちゃんの所に」

 

「行かせませんよ!!生徒会長を引き受けるのは100歩譲るとしても、引き継ぎ位はちゃんとしてからにして下さい!!」

 

逃げようとする楯無さんの襟首を掴んで引きずっていく。

 

「昨日も思ったんだけど先読みが的確過ぎじゃない!?なんで躱そうと思ってる先に既に手があるの!?」

 

「ニヒトに乗り出してから急に勘がよくなったんですよ。ほら、きびきび歩いて」

 

「私の扱い雑すぎない」

 

「勘違いで暴走したんですからちゃんと手綱を取らないと不味いでしょ」

 

「酷い!!」

 

楯無さんを引きずりながら窓から空を見上げる。そこには今日も綺麗な蒼い空がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、生徒会長ってどっちだっけ?」

 

「ここまで引きずり回してそれ!?」

 



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インフィニット・ストラトス 否定の救世主 2

 

 

「あ~、久しぶりにゆっくりと空が眺められる」

 

最後の書類に目を通し終えて、背もたれに体重を思いっきりかけて空を見上げる。青が7に白が3か。でっかい雲が一つあるだけだけら快晴と言えるね。

 

「試合の方は見に行かなくても良いの?」

 

「痴話喧嘩なんて見ても面白くないでしょう?それに一夏、あんまり練習もしてないみたいだから結果が目に見えてるし。あっ、ありがとうございます」

 

虚さんが入れてくれたコーヒーを飲みながら楯無さんの質問に答える。

 

「それに、雪片弐型、予備がないらしくて通常のブレードらしいですから完全な欠陥機になってますしね」

 

「しかも拡張領域に他の武器を受け入れないんだって?」

 

「拡張領域は空いているはずなのに空いてないと返されるらしいですよ。仕方なく、毎回手持ちで用意してるんですけど、火器管制システムも積まれてないんで銃が使えないんだって言ってました」

 

「欠陥どころか手抜きよね、それって」

 

「でしょうね。それに雪片に関しては、言えば弁償するんですけどね」

 

同化してしまった以上、情報はオレの中にある。だからいつでも作れる。それなのに何も言って来ない。オルコットさんも同様だ。

 

「うん、アレは?」

 

青と白しかなかった世界に異常な発光現象と共に黒が現れて落ちてくる。それはそのまま学園へと、1年生が使用している第1アリーナへとビームを放って落ちていった。

 

「虚さんは生徒の避難を。楯無さんは後続を警戒して下さい!!オレは状況を確認します」

 

ニヒトを使って第1アリーナの管制室へと通信を繋ぐ。

 

『むっ、対応が早いな』

 

「たまたま見えてましたので。それで、状況は?」

 

『今確認中『フィールド内に新たなISの反応!?』聞こえていたな』

 

「そのISを敵性体と認定。アリーナ内の生徒の避難と敵性体の排除をお願いします」

 

『分かっている。山田先生、観客席に居る生徒の避難誘導と教師部隊に突入命令を!!』

 

『大変です!!学園のシステムにハッキングされました、アリーナの遮断シールドがレベル4に設定、こちらからの命令を受け付けません!!』

 

「人命を優先、施設を破壊しても構いません」

 

『レベル4のシールドは並大抵の武器では壊せん。手の空いている者でシステムを取り戻す方が早い』

 

「ならオレが行きます。扉の前を空けておく様に生徒に指示を出して下さい。敵性体の方はどうしています」

 

窓から飛び出してニヒトを展開、第1アリーナに急行する。

 

『今は織斑と鳳が相手をしている。というよりそれしか手段が無い状況だ。遠巻きに牽制だけに留めさせているが、織斑がどこまでそれに耐えられるかだ』

 

「今、上空に辿り着きました。遮断シールドの一部、壊します」

 

ワームスフィアで穴を開けてアリーナに侵入する。ウィングユニットからアンカーを飛ばし、同化して扉を排除する。

 

「このまま敵性体の排除に入ります。生徒の誘導、頼みます」

 

観客席からシールドを突き破りフィールドに突入する。同時に敵性体ISに警告無しにガルム44で攻撃を加える。

 

「二人とも無事だね?」

 

「「操!?」」

 

「すぐに片付けるから二人とも下がって」

 

ガルム44を構えていない方の手でワームスフィアを丸鋸状に変形させて投げつける。投げつけたワームスフィアによって両腕を切り落とされた敵性体ISはアリーナのシールドを破ったビーム砲らしき物をこちらに向けてくるが、遅い。瞬時加速で懐に飛び込み、ビーム砲の砲口にルガーランスを突き刺す。ルガーランスを展開し、そのままプラズマを内部に叩き込む。

 

「はあああああっ!!」

 

バランスをビーム砲が爆発してバランスを崩している敵性体ISを蹴り飛ばして踏みつけ、マインブレードでコアが搭載されている部分の装甲を剥がし、コアを強引に抜き取る。完全に静止したのを確認してから敵性体ISから離れる。

 

「す、すげぇ、一瞬でケリが着いた」

 

「これが生徒会長の実力!?」

 

二人から思わず漏れた感想を聞きながら戻ろうとした所で楯無さんから通信が入る。

 

『上!!』

 

警告と同時に連続で瞬時移動を使い一夏と鈴ちゃんを回収してピットまで向かう。だが、ギリギリの所で間に合わないと判断して二人だけでもとピットに向かって投げ捨て、遮断シールドも観客席とフィールドを遮るシールドも楽々貫通する極太のビームがオレに命中した。

 

 

 

 

 

 

 

なんなんだよ、これは。目の前に広がる風景が理解出来なかった。高熱によって地面がドロドロに融けていた。操が倒したISもその破片が見当たらない。それらしき小さな山があるだけだ。そしてピットに近い場所に膝を付いた人位の大きさの紫色の山が一つ。それが操のISだと分かりたくないのに分かってしまった。全く動かないそれを見て、胃の中の物が逆流してきた。

 

胃の中が空になっても胃液を吐き続け、ようやく落ち着いて顔を上げるとそこには先程操が倒したISを巨大にした物が空からゆっくりと降りてきていた。そして、操が居たという痕跡を全て消し去る為か、紫色の山に向かってビーム砲を向ける。

 

ちくしょう、なんでオレには力が無いんだよ。やっと千冬姉を守れる力が手に入ったと思ったのに。操に助けられて、操を助けられなくて、今まさに操の全てが消されそうになっている。それなのにオレは動けない。恐怖で身体が動かない。

 

そしてビームが放たれる直前、もうおなじみとも言える翡翠色の結晶がビーム砲を覆う。

 

「やはり確実に仕留める為に降りてきたね。だけど、残念。あの程度でニヒトを倒せると思わないで」

 

そのまま翡翠色の結晶は巨大ISを覆い尽くし、粉々に砕け散った。視線を下にやると、そこに紫色の山はなく、操のISがその手に何かを握っていた。

 

「逃がさない」

 

操が新しく銃を取り出し、銃身から伸びる杭を地面に刺して固定した後、翡翠色の結晶が銃を覆い、砕け散ると形が変わっていた。そして空に向かって発砲すると、かなり遠くで何かが爆発していた。

 

「こちらは済みました。ハッキングの方はどうですか?そうですか。では、必要無いかもしれませんが引き続き警戒に務めつつ、生徒達のケアをお願いします。オレはこのまま撃墜した物を確認して可能なら引き上げてきます」

 

何事も無かった様に紫色の悪魔は蒼い空の彼方に消えていく。オレと操にどんな差があるって言うんだよ。あいつには簡単に出来るのに、オレには何も出来ない。

 

 

 

ちくしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼間の事件の報告書を作成し終えた後、オレは寮の近くの木の上に隠れていた。楯無さんは休んでいていいと言ったけど、これも生徒会長の勤めだからね。アレだけの事件があれば、やっぱり動いたか。フェストゥムの力で浮遊しながら後を付けていく。周りを見て誰も居ないと確認してから通信機を取り出したのを確認して、ワームスフィアを弾丸状に変形させて通信機を撃ち抜く。

 

「自主退学って形が一番穏便に片付けられるんだけど、どうする?抵抗するようなら強引に情報を引きずり出して廃人にすることになるんだけど」

 

オレを確認もせずに走り出す生徒に溜息をつく。読心の範囲内にいるから既に情報は抜き終わってる。素直に投降してくれれば穏便に済ませれたんだけど、見せしめとオレの能力の確認の為に廃人になってもらおう。

 

フェストゥムの能力であるテレポートで先回りして足を払って転ばせる。そのままうつ伏せになっている生徒の首を押さえつけて一気に精神を同化していく。

 

「い、いや、止めて、消える、私が消えていく」

 

「大人しく忠告を聞かなかったからだ。自主退学後に報告していればオレは手を出すつもりはなかったよ。さあ、もう休むと良いよ」

 

徐々に抵抗する力が弱くなり、完全に動かなくなった所で同化を解く。読心能力でも完全に反応が無いのを確認してから抱き上げて寮に向かう。寮の入り口には織斑先生が仁王立ちで立っていた。

 

「来主、何をした」

 

「生徒の安全を脅かす存在を排除しただけですよ。見せしめも兼ねているんで、酷い目にあってもらいました。オレには実績が無いんでね」

 

「人を殺めて何も思わないのか!!」

 

「そのセリフ、そっくりそのまま返しますよ。白騎士さん」

 

「っ!?」

 

そこに反応したら事実だと言っている様なものなのに。まあ、このまま全てを見るまでの時間を稼ぐ為にこの話題を続けよう。

 

「白騎士事件の際の公式発表の死者0名。本当に信じているんですか?本当に死者が0だったとしても五体満足とは言えない人だっている。ミサイルを撃ち込んだ犯人を知っていて、今でもそれを黙っている。オレには共犯にしか見えないんですけど」

 

「……なんのことだ」

 

「まあ、言えないですよね。言ったってどうにかなる事じゃないですから。ところで、織斑先生」

 

「なんだ」

 

「人を斬った感触ってどんな感じでした?ああ、ISだったから正確には分からないですよね。どちらかといえば斬るというより叩き潰すって感じですし。その後に人を殺した事に悩まされて一夏にも顔を合わせ辛かった様ですしね」

 

「な、「なんで知っている」」

 

言葉を被せた事で織斑先生の心が乱れに乱れる。これ位突いておけばオレに干渉するのは避ける様になるだろう。

 

「篠ノ之束は確かに天災ではあるけど万能ではないってことですよ。天才は他にも居るし、特化型が集れば超える事だって出来る。それだけのことですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、問題ばかり起こして。こんなのが少佐でいいの?」

 

ロングブレードでレールガンの弾を弾き飛ばしてボーデヴィッヒに対峙する。

 

「来主さん!?」

「操!?」

 

「また貴様か!!」

 

「はいはい、貴様ですよ~」

 

「馬鹿にして!!」

 

「馬鹿にするよ。君は何度も校則や国際ルールを破ってるんだからね。オルコットさんの時も思ったけど、代表候補生の選出には面接も行う必要が大であるってIS委員会に言った方が良いと思う位だから。それは置いておいて、ボーデヴィッヒさんは罰則として当分の間専用機を没収させてもらうから」

 

「ふん、貴様の言うことを聞く必要はない」

 

「残念だけど、ボーデヴィッヒさんが起こした国際問題に対して生徒会からドイツ政府に抗議を行った所、次に問題を起こした際には処分は任せるっていう誓約書。生徒会の正当性が認められる場合、その指示に従わなければ君の居場所はなくなると思え。君はそれだけの事をしでかしている」

 

「なっ!?」

 

「もう一度だけ言う。ただちにISを解除して渡すんだ。従わないようなら実力で武装解除させるよ」

 

「ちっ、やれる物ならやってみろ」

 

「そうさせて貰うよ」

 

話している隙にボーデヴィッヒさんがAICを発動させたのは分かっている。顔に書いてあったから。絶対的な信頼を寄せているようだけど、オレには無意味だ。テレポートで背後に回って触れる。後は、いつも通り同化して終わりだ。

 

「はい、と言う訳で今度のタッグトーナメント前日の放課後までISは没収させてもらうから」

 

驚いているボーデヴィッヒさんを無視して、同じ様に驚いている鈴ちゃんとオルコットさんに近づく。

 

「絶対防御を少し抜かれたみたいだね。機体の方も結構危険な状態だ。二人ともこのまま保健室に向かう様に。整備室への修理手続きの書類は後で届けるから」

 

 

 

 

二人の為に専用機の修理手続きの書類を届けて、記入が終わった所でオルコットさんは部屋に戻ったみたいだけど、鈴ちゃんはもう少し検査があるらしいのでベッドに倒れ込んでいる。そう言えばゆっくり話した事がなかったし、個人的に気に入っているからちょっとしたおせっかいをしようと思う。

 

「くっ、なんで邪魔したのよ。もう少しでなんとか出来そうだったのって痛たたたたたた!?」

 

口答えする鈴ちゃんが打ち身で痛めている右肩をぐりぐりと押す。

 

「客観的に見て、どうにもならなかったよ。もっと冷静なら話は変わったんだけどねぇ」

 

「ちょっ、ごめん、謝るから」

 

「分かればよろしい。もう少し大人になろうね。そうすればここまで一方的な戦いにはならなかったはずだよ」

 

「何よ、私達が子供だって言うの!!」

 

「はい、そこで怒る時点で駄目。怒ると動きが単調になる。漫画とかだと怒ってパワーアップなんてことがよくあるけど、現実は甘くない。挑発って言う戦術や戦略が存在してるんだからね」

 

「じゃあどうしろって言うのよ!!」

 

「簡単な話、流してやれば良い。で、試合が終わった後に逆に言ってやれば良い。『ねえ、今どんな気持ち』ってね」

 

次に鈴ちゃんが言う言葉はなんとも男らしいよ。

 

「「そんな女々しいことやらないわよ!!」」

 

全く同じことを言われても自信満々な態度を変えないなんて。ちぇっ、これで驚いてる顔を見るのって楽しいんだけどな。

 

「それじゃあ、女々しくない方法を教えよう。簡単な話だけど、今回、ボーデヴィッヒさんにどんな挑発をされたのか知らないけど、ボーデヴィッヒさんが鈴ちゃんの事をどれだけ知ってるって言うんだい?」

 

「へ?」

 

「どうせ上辺だけの情報だったんでしょう?オレの知ってる鈴ちゃんは怒りっぽいけど、素直で努力家で、友達思いだって知ってる。あと、一夏の事が大好きな恋する乙女だってこともね」

 

「さ、最後はどうでもいいでしょうが!!」

 

顔を真っ赤にする鈴ちゃんを可愛いと思いながら話を続ける。

 

「ふふ、話を戻すけど上辺だけの情報だけで挑発されてもね、本当に心まで響いて来る様な内容だった?たぶん、一夏の事とかも言われたんだろうけど、逆に言えば一夏の魅力を知らない残念な娘って考える事も出来る。ようは挑発が来るって分かっているなら、言葉の受け取り方を変えれば良いんだ」

 

「それって流してるだけじゃない」

 

「だけど女々しいことじゃない。あとは一つだけアドバイス。恋する乙女は強いのはなんでか知ってる?」

 

「それは、こう全身全霊全力全開だからでしょ」

 

「言い換えれば相手に自分の気持ちを叩き付けるってことだよね。それってね、例えるなら錠前と言う相手の心に、無理矢理自分の気持ちって言う鍵を差し込もうとすることなんだよ。これ、一夏の周りに居る女の子の大抵が当てはまることだよ。篠ノ之さんとかオルコットさんとか鈴ちゃんもだね。少しだけ止まって、よく見てみると鍵が間違ってるのが分かる時もある。無理矢理差し込もうとして錠前を傷つけずにすむよ。相手や場に合わせながら自分らしさを見せる、それが格好良い大人の姿だよ」

 

 

 

 

 

 

 

ISが解除されてしまった鈴ちゃんに止めを刺そうと振り下ろされた刀をルガーランスで弾き、ボーデヴィッヒさんのISだったものを蹴り飛ばす。

 

「暮桜を模したか。機械に身を任せるなんて、それじゃあ君は何処に居るって言うんだい、ボーデヴィッヒさん?」

 

「操!?」

 

「オルコットさんを連れて下がるんだ、鈴ちゃん。こいつはオレがなんとかするから」

 

再び斬り掛かってくるのを受け止めようとするがすぐに引かれてしまう。

 

「なるほど、オレの対策もしてあるんだ」

 

オレの同化の弱点、それは対象に1秒以上接触しなければならないこと。それをこいつは理解している。オレが同化した時にはそんな思考パターンは無かったはずなのに。

 

考えられるパターンは2つ。1つは昨日ボーデヴィッヒさんに返却した後、ボーデヴィッヒさんが組み込んだ。もう1つは遠隔で操作された場合。おそらくは後者だろう。鈴ちゃんとオルコットさんを一撃で落としたあの威力、零落白夜以外ありえない。色は黒いが、確かに雪片の形をしている。やはり死んでいなかったみたいだね、篠ノ之束。

 

「こんな事体になったのはオレの所為でもある。事情を聞く為にも、絶対助けてあげるよ、ボーデヴィッヒさん!!」

 

ルガーランスで斬り掛かり、パターンを解析する。機械であろうとAIにも癖がある。それを解析すれば同化に持ち込める。2分程切り合い、パターンを掴み、雪片が二本に増えた。

 

「なっ!?」

 

こっちもロングブレードをコールして二刀流で迎撃する。だけど、最初に動揺したのが原因で後手に回り続ける事になる。攻撃パターンも変わる。それをなんとかアンカーを使って捌いたと思えば肩に銃が生える。ハイパーセンサーで装填された弾を見て焦る。

 

「HEAT!?」

 

まだオレの後ろには二人が居る以上躱す訳にも行かない。簪さんの時と同じ様な状況に立たされたけど、先週の休みにカノンが届けてくれたイージスを同化しておいて助かった。ウィングユニットとイージスユニットを交換して展開する。

 

イージスはHEATを完全に防いだ。だが、零落白夜がイージスを切り裂き、左端のユニットが切り落とされた。切り落とされたユニットを拾い、同化能力で修復、再び切り落とされてを繰り返す。そして疑問に思った。こいつのエネルギーが多すぎることに。

 

ボーデヴィッヒさんのISはエネルギーが底を尽きかけていた。そこから今の状態になって多少回復したとしても同化した零落白夜のスペックから考えれば既に底を付いているはずだ。ニヒトと同じ様に内臓エネルギーを回復させる物が存在している。

 

ハイパーセンサーをフルに活用して全てを見通す。IS内部にエネルギーを増幅したり精製させている反応は無い。ならば外部供給されている。アリーナ内にそんな物は存在しない。ならば空からか。そして見つけた。衛星軌道上に浮かぶごちゃごちゃした人工衛星が。

 

しかし、問題がある。角度の関係上ドラゴントゥースは使えない。他の武装では届かない。ワームスフィアでは狙撃出来ない。直接行って叩き壊さなければならない。ゼロ次元経由の瞬間移動は可能だけど、こいつをそのままにする訳にもいかない。説明が面倒だけど、アレをやるしかないか。

 

覚悟を決めてイージスを展開したまま、真正面から謎のISに突っ込む。オレを真っ二つにしようとする右手の零落白夜を真剣白羽取りで防ぎ、同化される前にオレを斬ろうとする左手の零落白夜をオレのフェストゥムとしての、スフィンクスA型の腕で真剣白羽取りで防ぎ、オレ達を包む様に結晶で覆い尽くす。

 

なるほど、これがボーデヴィッヒさんという存在か。世界を知らない、原作の来主操の様に自分の世界しか知らないんだ。ならば教えてあげれば良い。時間はこれから3年程ある。今は世界が広い事と、オレは幾らでも力を貸す事だけ教えてあげれば良い。それがオレからボーデヴィッヒさんに贈る祝福だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日のタッグトーナメントの後処理が終わらない。既に一日以上経過しているのだけど、回収物の調査報告が続々上がる以上休む暇も無い。ボーデヴィッヒさんのISに強引に組み込まれていたパーツに、衛星軌道上にあった人工衛星、そして残された雪片が白く、そして弐型に変化した事。全てが詳細不明としか分からないという調査結果に頭が痛くなる。同化してみても、何も分からなかったこともだ。

 

「大分お疲れの様ね」

 

「衛星軌道上まで上がって人工衛星を確保して破損させない様に大気圏を突破して、ニヒトの整備をして、警備体制の見直し案を確認して、この報告書を読めば疲れもしますよ」

 

「大変だったんだね」

 

「まあ、状況証拠だけは確実にたまってきたから後は向こうがちょっとしたミスでもしてくれれば一気に国際犯罪者に仕立て上げれるんだけどね。そう言えば簪さん、打鉄弐式のお披露目はどうだった?」

 

「色々手伝って貰ったから機体と一部の武装はバッチリ。マルチロックは手こずってるから世代的には第2世代に分類されちゃうんだけど」

 

「マルチロック?複数の標的を同時にロックするアレ?」

 

「そうだよ」

 

「ニヒトの火器管制に普通に搭載されてるけど?」

 

「「え?」」

 

驚いている二人を見ながらコーヒーに口をつける。

 

「な、なんで使っていないのかしら?」

 

「マルチロックに対応しているホーミングレーザー、ニヒトの火器の中で一番威力が低い物なんだ。手数が必要になる様な状況も無かったし、アンカーで足りるからね。一回限りの奇襲武器かな」

 

その言葉に簪さんが落ち込む。よく考えてみればホーミングレーザーの時点で何処の国も開発出来ていない代物だったっけ。どうにか慰めようと疲れた頭を回転させようとした所で扉が開かれる。

 

「失礼する」

 

「ボーデヴィッヒさん、どうかしたの?」

 

「うむ、操に用があったのだが教室に来なかったからな」

 

「ああ、ごめんね。色々と仕事が立て込んでたから。今なら多少は大丈夫だよ」

 

「それはよかった」

 

話している間にもボーデヴィッヒさんはオレの傍までやってきている。それも机を挟まない様に横に回り込んでだ。何を考えているんだ?そして疲れもあった上に、敵意も無かった所為で反応が遅れ、両手で顔を固定されて唇を重ねられた。落ち込んでいたはずの簪さんとそれを慰めていた楯無さんもボーデヴィッヒさんの行動を見て唖然としていた。

 

「お、お前を私の嫁にする!!」

 

「……色々と言いたい事はあるけど、その馬鹿な知識を教えたのは誰か、教えてくれるよね」

 

 

 



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遊戯王GX モテる男は辛い

「すみません、電車の事故で遅れました。受験番号7番の遊城十代です」

 

「うむ、確認した。このまま真っ直ぐ行けば試験会場だ。頑張るといい」

 

「ありがとうございます」

 

走って会場まで向かうとちょうど前の受験者のデュエルが終わったところだった。

 

『受験番号7番、試験場に上がりなさい』

 

割り込みのせいか周りの受験者たちが騒めいているので周りに頭を下げながら試験場に上がる。

 

「遅れてすみません。受験番号7番の遊城十代です」

 

「ワターシが担当のクロノスなノーネ。電車の事故なら仕方ないノーネ。連絡もちゃんと来てるから許すノーネ。デーモ、デュエルでは一切手加減しないーノ」

 

「よろしくお願いします。クロノスさん」

 

「「デュエル!!」」

 

「先行は受験者からナノーネ」

 

「オレのターン、ドロー」

 

手札を確認する。よし、いつも通り良い手札だ。これならすぐに呼んでやれる。

 

「オレは終末の騎士を守備表示で召喚。終末の騎士の効果で闇属性モンスターを墓地に送る。カードを2枚セットしてターンエンド」

 

十代 LP4000 手札3枚

終末の騎士 DEF1200

セットカード2枚

 

「フム、出だしは普通。ここからが見所と言ったところネ。ワターシのターン、ドローニョ。宣言通り手加減はしないーノ。アンティーク・ギア・スタチューを召喚。そして機械複製術を発動。デッキからスタチューを2体特殊召喚。さらに3体のスタチューをリリースして効果発動ナノーネ。手札よりアンティーク・ギア・ゴーレムを特殊召喚するーノ」

 

アンティーク・ギア・ゴーレム ATK3000

アンティーク・ギア・ゴーレム ATK3000

アンティーク・ギア・ゴーレム ATK3000

 

「バトルに移るノーネ」

 

「バトルフェイズに入ると同時に2枚のリバースカードをオープン。リミット・リバース、破壊指輪!!チェーンで破壊指輪の効果、自分フィールドのモンスター1体を破壊してお互いに1000のダメージを受ける。終末の騎士を破壊する」

 

十代 LP4000→3000

クロノス LP4000→3000

 

「そしてリミット・リバース、墓地から攻撃力1000以下のモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。来い、オレのパートナー、ユベル!!」

 

『ふふっ、いつも通りだね、十代。待たせてごめんね』

 

オレの横にパートナーのユベルが現れる。ただし、本来の姿である中心線から半々の性別ではなく女性体であるが、今は置いておく。

 

ユベル ATK0

 

「レベルが10で攻撃力0?フ〜ム、何か怖いケド攻撃するしかないノーネ。アンティーク・ギア・ゴーレムでユベルに攻撃、アルティメットパウンド!!」

 

「ユベルの効果発動!!ユベルは戦闘では破壊されず、相手からの攻撃によって発生する戦闘ダメージは相手が受ける」

 

『僕の愛は十代だけの物だけど、痛みは分けてあげる』

 

アンティーク・ギア・ゴーレムとユベルの接触によって発生した衝撃はオレには一切届かずに、全てクロノス先生に向かって発生する。

 

「ウジャジャ!?」

 

クロノス LP3000→0

 

「ありがとうございました」

 

『残念だったね』

 

挨拶を済ませてから倒れているクロノス先生が起き上がるのを手伝う。

 

「何かあるとは思っテたケド、反射効果だったとは。ガックリンチョ」

 

「オレも驚きました。ギア・ゴーレムが1ターンで三体も並ぶなんて。凄いんですね、クロノス先生」

 

「それほどでもないノーネ。さて、試験はこれで終了で、結果は郵送されるカーラ、楽しみにしておくノーネ」

 

「はい、ありがとうございました」

 

ユベルと共に頭を下げて試験会場から帰宅する。

 

『さあ、早く帰ってたっぷりと愛し合おう、十代』

 

「分かってるさユベル。でもその前にアカデミアの授業で使うデッキを作ってからな」

 

『えぇ〜、そんなの後でもいいじゃないか。いざとなれば僕のデッキを貸してあげるからさぁ』

 

「う〜ん、EーHEROだっけ?あれならユベル特化デッキよりは受けがいいかな」

 

『そうそう、だからさ』

 

「分かったよ。オレも試験勉強で溜まってたし、今夜は寝かさねえぞ、ユベル」

 

『望むところだよ、十代。僕を一杯愛して』

 

 

 

 

 

 

 

まあなんだ、オレは転生者らしい。別に神様にあったわけではないが、アニメのGXの世界の主人公の十代に生まれ変わってた。そして幼少期、初めて買ってもらったパックにユベル一式とサポートカード(キラートマトとサクリファイス・ロータス)が入っていた。それと同時にユベルがオレのそばに現れたのだ。それからも買うパックは全てユベルに必要なカードばかりで10パックも買えばデッキが組みあがってしまった。

 

ふっ、子供の無邪気さって怖いよな。原作でも十代がこのデッキを使っていたとしたら近所の子供はトラウマ確定だ。自分から殴ってもダメージ反射の原作仕様だからな。しかも、ユベルがダメージを実態化させるために周りからみんな消えてしまった。両親も不気味がってユベルをオレから取り上げようとした。だが、取り上げられるとユベルの愛が暴走するのは目に見えている。だから、根気強く説得に説得を重ねて、それでもどうしようもなくて、とうとう我慢の限界が来て、俺が愛しかたを教えてやるとか言って襲ったんだよな。10歳なのに。精通も来てなかったのに。

 

やりまくるうちにユベルは女性体に近づいていき、今ではすっかり女性体になってしまった。その所為かカード効果がOCG版に弱体化してしまった。あと、相変わらず愛は重いです。だが、オレには前世の素晴らしい偉人の言葉がある。逆に考えるんだ、愛に溺れちゃえばいいのだと。頑張れば自分の体を精霊にすることもできるはずだ。超融合を使って精霊の部分を自分に融合し続ければ少なくとも人間は辞められるだろう。そうすればとりあえず寿命の問題は解決してユベルが暴走するようなことにはならないだろう。

 

後日、届いた制服は黄色。つまりはラーイエローだ。とっととオベリスクブルーのあの青いコートを着たいな。前世だと何故か白い方の制服ばかり見かけたけど。あと、遊戯さんに会わなかったからラッキカードはもらってない。貰ってもデッキに入らないし、ユベルもいるから必要もない。

 

さ〜てと、高校生活をエンジョイしますか。

 



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遊戯王ARC-V OCG次元から振り子の兄へ

OCG次元。それは最も恐ろしい次元。デッキそのものも、デュエリストの質も他の次元の平均を大きく上回り、数々の滅びの呪文が生み出された。ルールも大きく異なりライフに至っては2倍に増えたはずなのに1ショットキルがよく見られる。手札誘発を握っていない方が悪いとまで言われる環境を生き抜いた男は楽しむということがわからなくなった。そんな男は人々を楽しませる男の子供となる。


「親父のエンタメデュエルをオレは継げなかった。オレのデュエルはただ、相手を葬るだけの、殺意を乗せた決闘だ。その力は親父をも上回る。それでも親父はオレとデュエルを進んでやってくれた。オレを笑顔にするために、オレが誰かを笑顔にできるように。親父を侮辱するのは赦さねえ!!親父は逃げたりなんかしない!!事故か事件に巻き込まれただけだ。それをオレのデュエルで証明してやる。オレのデュエルで親父が逃げたんじゃないと証明してやる!!」

 

オレの宣言を聞いてなおステージを去ろうとするストロング石島に向かって、お手製のデュエルアンカーを投げつけて拘束する。

 

「なんだこれは!?」

 

「デュエルアンカーだ。デュエルでどちらかが負けるまで外れることはない。そして無理に外そうとすれば腕ごとデッキとデュエルディスクを破壊する!!」

 

「なっ!?」

 

「デュエルから逃げ出すような奴に腕もデッキもデュエルディスクも必要ないだろう。さあ、どうするストロング石島。観客の前で自分はデュエリストではないと全てを投げ捨てるか、それともオレとデュエルをするか。どちらかを選べ!!」

 

「くっ、いいだろう!!デュエルだ!!」

 

「戦いの殿堂に集いし決闘者達が」

 

「モンスターと共に地を蹴り」

 

「宙を舞い」

 

「フィールド内を駆け巡る!!」

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化系、アクショ~ン!!」

 

「「デュエル!!」」

 

先行はくれてやる!!(パーツが足りないからドロー欲しい)

 

「ならば俺のターン、手札から蛮族の狂宴 LV5を発動。手札からバーバリアン1号、2号を効果を無効にして特殊召喚。そして2体をリリースしてバーバリアン・キングをアドバンス召喚!!カードを1枚伏せてターンエンドだ。さあ、見せてみろ!!お前の親父が逃げ出したんじゃない証拠を」

 

ストロング石島 LP4000 手札0枚

バーバリアン・キング ATK3000

セットカード1枚

 

「見せてやるよ、親父よりもオレの方が強い証拠を!!オレのターン!!最強デュエリストのデュエルは全て必然!!ドローカードさえもデュエリストが導く!!全ての光よ!!力よ!!我が右腕に宿り、希望の光を照らせ!!シャイニング・ドロー!!」

 

ドローカードはこのデッキのドローエンジン。これで勝利の方程式は全て揃った。

 

「オレはゴブリンドバーグを召喚して効果発動、さらに召喚にチェーンして手札よりカゲトカゲを守備表示で特殊召喚。ゴブリンドバーグの効果、手札よりレベル4以下のモンスターを特殊召喚し、自身を守備表示に変更する。オレは手札よりゴゴゴゴーレムを特殊召喚。そして手札より、永続魔法エクシーズ・チェンジ・タクティクスを発動」

 

ゴブリンドバーグ DEF0

カゲトカゲ DEF1500

ゴゴゴゴーレム DEF1600

 

「何も起こらない?」

 

「こいつの効果はすぐに分かる。オレはレベル4のカゲトカゲとゴブリンドバーグでオーバーレイ!!2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。希望と可能性の光を纏い、未来を切り開け!!No.39 希望皇ホープ」

 

No.39 希望皇ホープ ATK2500

 

「たかが攻撃力2500がなんだと言うんだ」

 

「言ったはずだ。こいつには希望と可能性と言う名の光がある。まずは永続魔法エクシーズ・チェンジ・タクティクスの効果を発動。「希望皇ホープ」モンスターがエクシーズ召喚された時にライフを500払い、1枚ドローすることができる。オレはライフを500払い、1枚ドロー」

 

遊樹 LP4000→3500

手札 2→3

 

「その程度がどうした」

 

「ドローは可能性を増やす行為、ライフとは0にならないように投げ捨てる物。続いて、No.39 希望皇ホープでオーバレイ・ネットワークを再構築。カオス・エクシーズ・チェンジ!!」

 

「何!?モンスターエクシーズ1体でエクシーズ召喚だと!?」

 

「光を闇と混ぜ、混沌の力を身に付けて降臨せよ!!CNo.39 希望皇ホープレイ!!」

 

CNo.39 希望皇ホープレイ ATK2500

 

「色が変わっただけか?攻撃力も全く変わっていない」

 

「ホープモンスターがエクシーズ召喚されたためにライフを500払い1枚ドロー。まだ終わらんぞ、CNo.39 希望皇ホープレイでオーバレイ・ネットワークを再構築。ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!!希望の光よ、電光を纏い全てを斬り裂け!!SNo.39 希望皇ホープ・ザ・ライトニング!!ライフを500払って1枚ドロー!!」

 

遊樹 LP3500→3000→2500

手札 3→4→5

SNo.39 希望皇ホープ・ザ・ライトニング ATK2500

 

「っ!?ライフは減ったが手札が5枚に」

 

「更に手札から二重召喚を発動。これでこのターン、オレはもう一度召喚権を得る。ガガガマジシャンを召喚して、ゴゴゴゴーレムとオーバーレイ。No.39 希望皇ホープ、再構築してホープレイ。ライフを1000払って2枚ドロー!!」

 

 

遊樹 LP2500→2000→1500

手札 5→3→4→5

CNo.39 希望皇ホープレイ ATK2500

 

「ホープレイで止めた?」

 

「こうするからな。手札よりRUMバリアンズ・フォースを発動!!ホープレイを選択し、オーバレイ・ネットワークを再構築。偽りの友情より生まれし歪んだ希望よ、全てを絶望に染める殺意を身に纏い立ち上がれ!!CNo.39 希望皇ホープレイV!!ライフを500払い1枚ドロー」

 

遊樹 LP1500→1000

手札 5→4→5

CNo.39 希望皇ホープレイV ATK2600

 

「ライフが残り1000になって安心しているようだがまだまだ続くぞ。魔法カード至高の木の実を発動。相手よりライフが少ないためオレのライフを2000回復。そしてホープレイVの効果を発動。ORUを一つ取り除き、相手フィールド上のモンスター1体を破壊。破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える。殺れ、ホープレイV。Vブレードシュート!!」

 

遊樹 LP1000→3000

手札 5→4

 

「くそっ、良し!!アクション魔法奇跡。選択したモンスターは破壊されず、戦闘ダメージも半分となる」

 

「破壊できなかったためにバーン効果は発動しない。まあ、それも無意味だ。オレがやりたかったのはORUを墓地に送ることだ。魔法カード死者蘇生を発動。墓地よりホープを蘇生させ、オーバレイ・ネットワークを再構築。一粒の希望が全てを照らし、絶望を振り払う!!SNo.39 希望皇ホープONE。ライフを500払い1枚ドロー。そしてRUMアストラル・フォースを発動。ホープONEでオーバレイ・ネットワークを再構築。希望の先にある光、夢をつないで橋として、遥かなる彼方へと導け!!No.39 希望皇ビヨンド・ザ・ホープ!!ライフを500払い1枚ドロー。更にビヨンド・ザ・ホープの効果を発動。このカードがエクシーズ召喚された時、相手の場にいる全てのモンスターの攻撃力を0にする」

 

遊樹LP 3000→2500→2000

手札 4→3→4→3→4

No.39 希望皇ビヨンド・ザ・ホープ ATK3000

バーバリアン・キング ATK3000→0

 

「なんだと!?」

 

「更にRDMヌメロン・フォールを発動。ビヨンド・ザ・ホープをホープにランクダウンさせる。ライフを500払い、1枚ドロー。そしてオーバレイ・ネットワークを再構築してホープレイ。ライフを500払って1枚ドロー。そしてホープレイの効果を発動。ライフが1000以下の時に発動できる。ORUを一つ取り除き、自分の攻撃力を500アップさせ、相手のモンスターの攻撃力を1000下げる。オレは3つ取り除き攻撃力を1500アップさせる。オーバーレイ・チャージ!!」

 

遊樹LP 2000→1500→1000

手札 4→3→4→5

CNo.39 希望皇ホープレイ ATK2500→4000

 

「ふむ、手札が余るな。まあいいか。バトルフェイズに入る。ホープレイで攻撃だ」

 

「アクションマジック回避。モンスターの攻撃を無効にする!!」

 

「ちなみに、オレの手札には速攻魔法ダブルアップ・チャンスがある。これはモンスターの攻撃が無効になった時に発動でき、攻撃を無効にされたモンスターの攻撃力を倍にして再度攻撃できるものだが、発動はしない。続いてホープ・ザ・ライトニングで攻撃!!ダメージ計算時に効果を発動。ORUを二つ取り除き、このモンスターの攻撃力を5000にする」

 

「くっ、トラップ発動。なに、トラップを発動!!くそっ、何故発動しない!?」

 

「無駄だ。ホープ・ザ・ライトニングの攻撃中、相手はカードの効果を発動できない。もう何もしなくていいんだよ。殺れ、ホープ剣・ライトニングスラッシュ!!」

 

「ぐわああああああああああっ!?」

 

ストロング石島 LP4000→0

 

デュエルの終了を告げるブザーと共に会場が静かになる。オレはそんな会場の真ん中で観客に向かって力の限り訴える。

 

「これが、これがオレのデュエルだ!!こんなデュエルしかできないオレを笑顔にさせようと、オレも誰かを笑顔にさせれるようにしようと、親父は何度もオレとデュエルをしてくれた!!勝ち負け以外にもデュエルは楽しむ方法があると、そう言って常に笑顔だったのが、オレの親父、榊遊勝だ!!負けることを恐れるなんてことは絶対にない!!誰よりも負けを知っているのがオレの親父だ!!親父は逃げてなんていない!!だから、頼む!!親父を、親父を探してくれ!!お願いします!!親父を、見つけてください!!オレは、オレはまだ親父のようなエンタメデュエリストになりたいと思っているんだ。お願いします、お願いします!!」

 

土下座して観客に頼み込む。親父は絶対に事件に巻き込まれただけだ。お袋も遊矢も柚子達もそうだ。オレ自身が侮辱されたりしても構わない。だから、親父を、親父を探してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、榊遊樹さん。僕は赤馬零児。あなたに協力してもらいたいことがあるんです」

 

「失せろ、オレは親父を探さないとならないんだ」

 

「その遊勝さんの手がかりが得られるかもしれないと言ったら?」

 

「……話してみろ」

 

「遊勝さんはこの次元にはいないのかもしれません」

 

「この次元に居ない?ちっ、12次元の何処かに飛ばされたのか」

 

「12次元?」

 

「知らないのか?世界には12の次元が存在するんだ。それで何故他の次元に親父がいると思ったんだ」

 

「僕の、父が他の次元に、融合次元と呼んでいる世界へ行ったまま帰らなくなりました。父の目的はわかりませんが、かなり強引に次元の壁を越えたようです。その結果、数は少ないですが、この次元から何人かが神隠しにあっています」

 

「つまり親父もそれに巻き込まれた可能性があると」

 

「はい」

 

「なるほど、わかった。では、オレに何を協力させようというのだ?」

 

「父の残した資料から次元の壁を越える船を用意しました。貴方には僕と一緒に融合次元に向かい、父の元まで連れて行って欲しいんです」

 

「それは難しいな。だから、少し条件を変えろ。オレが派手に暴れて囮になってやる。デッキも、お前が知っているだろうホープデッキを貸してやるし回し方も教えてやる。そしてもし、オレが融合次元に残されるか、他の次元に飛ばされ、お前だけがこの次元に戻れたのなら、オレの家族のことを頼む」

 

「それは、どういうことですか?」

 

「オレは命をかけて融合次元に向かうと言っているんだ。お前も生半可な覚悟で行こうと考えるな」

 

デッキホルダーごとホープデッキを取り出して赤馬零児に持たせる。手帳に回し方や勝利への方程式を書き込んで、一番最後に連絡先も記してから渡す。

 

「覚悟が出来たら連絡しろ。オレも身辺整理を済ませてデッキを調整しておく」

 

まだ誰も戻っていない自宅に戻り、自室で遺書を認める。お袋と弟の遊矢、それから迷惑をかけている柊家宛。それとこの時代のこの世界にあるはずのない魔術師EMオッドアイズデッキと多数のエクストラデッキ用のカードを遊矢宛に残しておく。負けられないデュエルを行う時に開けとメモを残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつで最後だ!!魔法カード太陽の書を発動!!セットしてあるメタモルポッドを攻撃表示に変更。手札をすべて墓地に送り5枚ドローする。そしてドローできないデュエリストはデュエルに敗北する!!」

 

「ばかなぁ!!」

 

オベリスクフォース×30 LOSE

 

カード化したオベリスクフォースのカードを破り捨てて完全に殺しておく。量産されたコピーカードのアンティークデッキも破り捨てる。この世界はカードをなんだと思ってやがる。個性なきデッキで、個性なき?すべてが同じなら、すべてが無と同じ。まさかダークネスの影響か?融合次元はGXの世界に近い次元だ。影響を受けやすいのか?ちっ、外れていてくれよ。

 

「おらぁ!!次は何奴が相手だ!!まとめて相手してやるぞ!!」

 

「君かい、暴れまわっている別次元のデュエリストは?」

 

「あん?次の獲物はガキか。まあいい、死にたいなら構えろ。生きたいならデュエルディスクを破壊しろ」

 

デッキを入れ替えて構える。こいつはさっきまでの雑魚どもとは違うな。だが、オレには勝てない。ガキが構えたので開始を宣言する。

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻後攻好きな方を選べ」

 

「なら後攻をもらうよ」

 

「そうか、じゃあ死んだな。黒竜の雛を召喚してリリース、手札から真紅眼の黒竜を特殊召喚。黒炎弾を2枚発動。手札誘発は?」

 

「はっ?」

 

「ないなら、死ね!!」

 

??? LP4000→0

 

「遊矢に似た顔をしやがって。紛らわしいんだよ」

 

カード化した遊矢に似たガキのカードを燃やして処分する。さてと、粗方片付いたようだが赤馬君は父親に会えたのだろうか?そんなことを考えていたらデュエルディスクに通信が入る。

 

『遊樹さん、デュエルディスクを外して離れて!!他の次元に飛ばされます!!』

 

「少し遅かったみたいだな。周りが歪み始めた、今外せば他の次元にすら辿り着けずに狭間を漂うことになるな。君の方は?目的は果たせたか?」

 

『僕は元の、スタンダート次元に飛ばされます。父は、変わってしまった。父の野望は僕が止めます!!』

 

「そうか。なら、君の力になるであろうデッキをこちらに来る直前に郵送しておいた。その力を極めろ。それから、ホープデッキは預けたままにしておく。いずれ、返してくれ。それと家族のことを頼む。最後に、かっとビングを忘れるな」

 

『かっとビング?』

 

「どんな困難にも何度でも諦めずに挑戦する気持ち。それがかっとビングだ。そのホープを最初に扱っていたデュエリストの言葉だ。俺はこのままあらゆる次元を旅する。さらばだ赤馬零児」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、ライディングとは名ばかりのライディングデュエルは飽きたな」

 

ライディングデュエルのくせにSpがないとはな。速度制限もなしだしよ。

 

「さあ、挑戦者のターンだ」

 

考え事をしている間にチャンピオンのジャックのターンが終わったようだ。

 

ジャック・アトラス LP4000 手札1枚

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000

セットカード1枚

 

「オレのターン、ドロー!!魔法カード手札抹殺を発動。手札をすべて捨ててドロー」

 

あ~、行ったな。

 

「手札のボルト・ヘッジホッグを墓地に送りクイック・シンクロンを特殊召喚。そしてシンクロン・キャリアーを召喚し、効果を発動。手札から「シンクロン」モンスターをもう一度召喚することができる。ジャンク・シンクロンを召喚、効果で墓地からボルト・ヘッジホッグを効果を無効にして特殊召喚。レベル2のボルト・ヘッジホッグにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング。時間の狭間より現れよ、過去より未来へ繋ぐ絆の証明者。出でよ、TG ハイパー・ライブラリアン!!」

 

手札 6→5→0→5→3→2→1

シンクロン・キャリアー ATK0

TG ハイパー・ライブラリアン ATK2400

 

「続いて、墓地のレベル・スティーラーの効果を発動。レベル5以上のモンスターのレベルを1下げることで墓地より特殊召喚する。クイックのレベルを下げて特殊召喚。レベル1のスティーラーにレベル4となったクイックをチューニング。集いし思いの結晶が、新たな絆の戦士となる。出でよ、ジャンク・ウォリアー」

 

ジャンク・ウォリアー ATK2300

 

「ジャンク・ウォリアーとシンクロン・キャリアーとライブラリアンの効果を発動。ライブラリアンが場にいるとき、シンクロ召喚をした場合カードを1枚ドローする。続いて、シンクロン・キャリアーが場に居るとき、「シンクロン」モンスターが戦士・機械族シンクロモンスターの素材になったとき、場にシンクロントークンを特殊召喚する。最後にジャンク・ウォリアーの効果、シンクロ召喚されたとき、オレの場にいるレベル2以下のモンスターの攻撃力を加算する!!」

 

手札 1→2

ジャンク・ウォリアー ATK2300→3300

シンクロントークン ATK1000

 

「レッド・デーモンズを越えてきたか」

 

「何を勘違いしている。オレのメインフェイズはまだ終わらないぞ。墓地のジェット・シンクロンの効果を発動。手札を1枚墓地に送り、守備表示で特殊召喚。レベル2のシンクロン・キャリアーとシンクロントークンにレベル1のジェット・シンクロンをチューニング。新たな加速を得て、未来への絆を築き上げろ。シンクロチューナー、アクセル・シンクロン!!ライブラリアンの効果でドロー」

 

手札 2→1→2

アクセル・シンクロン DEF2100

 

「シンクロモンスターのチューナーだと!?」

 

「それだけではない。シンクロチューナーは相手ターンのメインフェイズに効果を使用してシンクロ召喚を行える。だが、それは今は関係ない。アクセル・シンクロンの効果を発動。デッキから「シンクロン」モンスターを墓地に送ることでレベルをそのモンスターの分だけ変動させる。オレはジャンク・シンクロンを墓地に送り、レベルを3下げる。そして、手札を1枚墓地に送りクイックを特殊召喚、レベル・スティラーでレベルを1下げてシンクロ召喚、ジェット・ウォリアー。ライブラリアンでドロー、サイクロンで伏せカードを破壊する」

 

手札 2→0→1→0

破壊されたのはプライドの咆哮か。なら、残りの手札はおそらくフェーダーだろう。

 

「これで準備は整った。刮目しろ!!これがシンクロ召喚の頂点!!レベル5のジャンク・ウォリアーとジェット・ウォリアーにレベル2のアクセル・シンクロンをチューニング!!集いし絆の結晶が、新たな未来への希望を繋ぐ。リミット・オーバー・アクセルシンクロ!!絶望を破る奇跡の象徴、シューティング・クェーサー・ドラゴン!!ライブラリアンでドロー」

 

手札 0→1

シューティング・クェーサー・ドラゴン ATK4000

 

「バトルだ!!シューティング・クェーサー・ドラゴンでスカーライトを攻撃、天地創造撃 ザ・クリエーションバースト!!」

 

「くぅ!!」

 

ジャック・アトラス LP4000→3000

 

「続いてTG ハイパー・ライブラリアンで攻撃」

 

ジャック・アトラス LP3000→600

 

「くっ、まさかここまで追い込まれるとわ。だが、まだ負けた訳ではない!!」

 

「何を勘違いしている?オレのバトルフェイズは終了していないぜ。シューティング・クェーサー・ドラゴンはチューナー以外の素材にしたシンクロモンスターの数だけ攻撃できる。つまりもう一撃だ!!天地創造撃 ザ・クリエーションバースト!!」

 

「ならば、手札からバトル・フェーダーの効果を発動。相手の直接攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させてこのモンスターを特殊召喚する」

 

「無駄だ。シューティング・クェーサー・ドラゴンの効果を発動!!1ターンに1度、効果モンスター・魔法・罠の発動を無効にして破壊する。よって、攻撃は続行だ!!」

 

「バカな、キングの、このオレがああぁぁ!?」

 

天地創造撃 ザ・クリエーションバーストが直撃してクラッシュし、空高く舞い上がるジャックをシューティング・クェーサー・ドラゴンがキャッチして地面に降ろす。

 

「この瞬間より、キングはこのオレ、榊遊樹だ!!ただし、オレは2年でここを離れ、旅に出る。それまでにキングの座を狙う者は1週に1度相手をしてやる!!挑戦する資格は3つだ。1つ、デッキを持っている。2つ、Dーホイールを所持している。そして3つ、オレに勝つという自信を持つ者であることだ!!」

 

スタジアム中から歓声が上がるのを聞きながらさらに叫ぶ。

 

「挑戦方法は後日、追って知らせる。奮って応募してくれ!!」

 

 



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宇宙戦艦ヤマト2199 元爆撃機乗りの副長

「はぁ~、オレの人生何処で狂ったんだろうな?どう思うよ、副長」

 

身体を深く艦長席に預けて隣に立っている副長にぼやく。

 

「ガミラスが来た所からでしょう、艦長」

 

「いやいやいや、最近まで飛行機乗りだったのになんで戦艦の艦長だよ」

 

2ヶ月前まで爆撃機乗りだったのに、階級を上げすぎた上に人手不足と適性があったために戦艦フソウの艦長に回されたのだ。

 

「それは『禿鷹』だからでしょう。民間からの引き抜きで唯一の爆撃機乗りで今の今まで生き残って戦果を上げてるエースだからこそ、戦果を上げた上で多くの者を引き連れて来てくれるだろうという期待を込められているんでしょう」

 

「へいへい。なら、生き残りましょうか」

 

マイクを取って艦内放送の回線を開く。

 

「戦艦フソウ艦長の永井大樹だ。知ってる者は知っているだろうが、『禿鷹』と呼ばれている改造爆撃機乗りだった。それが今じゃあ戦艦の艦長だ。それだけ苦しいのがこのガミラスとの戦争だ。嫌だねぇ、勝ち目が殆ど無いってのも。それでも、開戦初期に比べれば勝ち目が出てきている。全くの戦果を挙げれなかった状況から頑張れば多少の戦果を上げて生き残れる。オレがその生き証人だ。オレは無理なことは言わんよ、無茶は言うが。だが、その無茶に各員が応えてくれれば戦果を上げて生き残らせてやる。オレの言葉に迷うな!!オレ達はどれだけ無様な姿を晒そうとも生き残らねばならない!!オレ達の後ろには戦えない者達がいることを忘れるな!!以上だ。万全の体制で動けるようにしておいてくれ」

 

「中々の名演説で」

 

「皮肉か、副長?」

 

「いえいえ、感動してますよ。普段がやる気のない姿ですから、真面目な姿にいつもこれならなぁなんて考えてもいませんとも」

 

「やっぱり皮肉じゃねえかよ。まあ良い。さっきは言わなかったが、もう一個生き残るのに重要なことがある」

 

「なんです?」

 

「運。運が悪いとどうすることも出来ないな。こればっかりはオレにもどうすることも出来ん。お祈りでもしといてくれ」

 

「誰に?」

 

「世界各国の運命を司ってる神様に。全部に祈れば一神ぐらいは手を貸してくれるだろうよ。女神が多いからイケメンじゃないと駄目かもしれんが、変わり者もいるだろうよ」

 

そう言ってから適当に祈りを捧げる。

 

「普通こういうときって戦神に祈るんじゃないんですか?」

 

「むさ苦しいおっさんの加護より美人の加護のほうが気合が入るだろう?」

 

オレの答えに艦橋のあちこちから笑いが溢れる。

 

「ちなみに艦長、回線を切り忘れているみたいで今のも艦内全てに届いてますよ」

 

「あれ、本当だ。よし、総員祈っとけ。女神を射止めれば確実に生き残れるからイケメンは真面目に祈っとけ。イケメンじゃないやつはいざという時はイケメンを盾にしろ。きっと助かるぞ。オレは三枚目で酒豪だから戦神に好かれてむさ苦しいからな。ちょっとでも女性の比率を上げてくれ。オレに気合が入って更に生存率が上がるぞ」

 

今度は確実に艦内が湧いたのが分かる。それを感じてから回線を切る。

 

「狙ってましたね」

 

「爆撃機乗りですから」

 

副長との付き合いはオレが艦長になってからだが、妙に馬が合う。これで下戸でなければ最高の相棒になれたんだがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長、先遣艦の駆逐艦ユキカゼより入電。ガミラス艦隊接近とのことです」

 

「よぉし、総員戦闘配置に付け!!宇宙服着用も急げ、その後バイタルパート以外の艦内の空気を予め抜いとけ放り出されたくなければな」

 

予想は立てていたのでメットを被るだけで宇宙服の着用が終わる。さてと、生き残りに行きますか。

 

「艦種種別、後は配置図を出せ」

 

「超弩級戦艦三、戦艦七、巡洋艦二二、駆逐艦多数。配置はこのような感じです」

 

「旗艦キリシマから砲雷撃戦用意及び取舵三十」

 

「取舵三十、砲雷撃戦用意。砲術長、狙いは駆逐艦の艦橋だけでいいぞ。近いやつから撃っていけ。他のにはミサイルしか効かん。牽制なんかする暇があるなら一隻でも減らせ。航海長、オレの合図でいつでも急速沈降できるようにしていろ。機関長、かなり無理をさせる。出力が落ちるのは仕方ないが、絶対に火を落とすな。通信長、どうせバカスカ落とされる。キリシマの被害報告だけで構わん。気にしている余裕が無いからな」

 

「ガミラス艦隊から入電、『地球艦隊ニ告グ。タダチニ降伏セヨ』」

 

「馬鹿か。降伏するならもっと前にしてるわ!!沖田司令もそんな感じに返信してるだろうよ。返信8秒後に急速沈降。砲術長、それを計算に入れておけ。射線の後ろにいる艦にも連絡入れとけ」

 

キリシマからの返信8秒後にフソウが急速で沈降し、今までいた場所にガミラスからのビームが通る。

 

「十八門から狙われてましたね」

 

「だな。後ろにいた巡洋艦はどうした?」

 

「こちらと同じく沈降しましたが、少し遅かったために主砲が吹き飛んだようです」

 

「下がるように言っとけ。こっちの戦果は?」

 

「駆逐艦二、いえ、いま三になりました」

 

「上出来だ。取舵十五。前方の駆逐艦群の中心にいる巡洋艦に向けて魚雷、その上方に向けてミサイル全弾発射。その後、左舷のバーニアを全開5秒だ」

 

指示を飛ばしたが、ロックオンせずにミサイルを撃ったことがないのか少し手間取った。これは当たるな。開きっぱなしの艦内放送に怒鳴る。

 

「艦首付近の者は下がれ、当たるぞ!!覚悟を決めとけ!!」

 

その3秒後に着弾し、艦が揺れる。

 

「隔壁閉鎖!!艦首荷電粒子砲への回路を切れ!!」

 

「ダメコン急げ!!負傷者は出来る限り自分たちで医務室へ!!今は生き延びるのが先だ!!化けて出るならガミラスか艦長の所に出ろ」

 

「面舵六十、全速だ!!オレの所に来たら後輩の加藤にお祓いしてもらうからガミラスの所に出ろ。ヤバイ、バレルロール!!」

 

戦艦でバレルロールなんてフソウが初めてだろうなと場違いな事を考えながら揺れに耐える。

 

「被害報告!!」

 

「左舷の一番外の装甲が溶けただけです!!」

 

「ダメコンはほっとけ。味方の艦はどれだけ残ってる!!」

 

「本艦とキリシマ、それと駆逐艦ユキカゼ、サミダレ、シグ、今シグレが轟沈しました!!」

 

「艦長、キリシマより入電。第一艦隊ハ現時刻ヲ持ッテ作戦ヲ終了。コレヨリ撤退スル。我ニ続ケ。以上です」

 

「殿を受け持つ。砲術長、残ってる魚雷とかミサイルとか実弾を全部ばら撒け。撤退支援だ。ついでにゴミなんかも捨てて少しでも船体を軽くしろ」

 

「了解」

 

「艦長、ユキカゼが敵艦隊に突入します!!」

 

「回線を繋げ!!」

 

「回線を封鎖しています」

 

「ちっ、砲術長、命令を変更だ。出来るだけユキカゼを援護してやれ」

 

「了解しました。主砲はどうします?」

 

「機関長」

 

「大分無茶をさせた。今撃つと船速がぐっと落ちる」

 

「バイタルパートと後部主砲と足以外のエネルギーをカットして回せ。これが限界だ。これ以上は、艦と諸君の命を預かる以上、出来ない。手が空いている者はその目に焼き付けておけ。何を思うかは人それぞれだ。敬礼!!」

 

フソウの援護を受けながらユキカゼは奮戦し、肉眼で艦の姿が見えなくなった頃、一つの爆発が宇宙を飾った。

 

 

 

 

 

 

 

「佐渡先生、いつもの奴を貰えますか」

 

「帰ってくると聞いとって用意しといたよ。本来はこんなものを使ってほしくないんじゃがな」

 

「オレだって使いたくないですけど、艦長なんてやらされちゃあ、酔ったまま指揮なんて出来ないですから。飛行機に乗る分には揺れて気持ちいいんですけどねぇ」

 

苦笑している助手の原田さんからアルコール分解酵素入りの栄養ドリンクを一月分受け取る。

 

「失礼する」

 

何処かで聞いたことのある声だなと思い、振り返ってみると沖田司令が入ってきた。

 

「むっ、君はフソウの」

 

「永井大樹二等宙佐です」

 

栄養ドリンクを沖田司令から見えない位置に素早く置いて敬礼する。

 

「君のお陰で実践を経験した多くの者が帰ってこれた。礼を言う」

 

「いえ、私と私についてきてくれた皆が最善を尽くしてくれた結果であります」

 

「それでもだ。ありがとう」

 

「はっ、恐縮であります」

 

よし、挨拶は終わった。とっとと引き上げるぞ。

 

「やはりここに居たか永井」

 

さっさと自宅に引き上げようとした所で恩師でもある土方宙将が医務室にやってくる。

 

「げっ、土方宙将!!」

 

「お前、また酒を艦内に持ち込んで酒宴を開いたようだな」

 

「いえいえいえ、そんなことありませんよ。第一、証拠なんてないでしょう?」

 

大丈夫だ。証拠は全て捨てたからな。確認なんて出来るはずがない。

 

「確かに現物はないだろうな。だがな、カメラには残っていたぞ」

 

カメラ?カメラなんて

 

「あっ、後部主砲のガンカメラ」

 

「撤退する時に投棄したゴミのコンテナから酒瓶がはみ出していたぞ。しかも、お前が学生の頃から隠れて愛飲していた酒瓶がな」

 

「しっかり密閉してたのに!?バレルロールの時にどっかにぶつけて開いたのか!?」

 

「戦艦でバレルロールなど無茶をさせおってからに。表面はともかく、中身が酷いことになっているとドッグから連絡があったほどだぞ。相変わらずだな、お前は」

 

「土方君、相変わらずとは?」

 

「こいつは民間でスタント飛行をやっていたパイロットで宇宙戦士訓練学校では航空科に所属していたのですが、酒飲みでどこからともかく酒を仕入れたり、隼に無理矢理ラックを取り付けて爆装したり、卒業後も改造した爆装機で戦果を上げているんですよ。まあ、被弾率も高いのですが、脱出ついでにそのまま被弾した隼をぶつけて更に戦果を上げている際物を少しは落ち着かせようと艦長にしたんですがね。ご覧の有様で」

 

「戦果は十分上げて部下もできるだけ生きて連れ帰ったんですから飲酒ぐらい許して下さいよ、ってかオレを艦長にしたのって土方宙将だったんですか!?」

 

「たしかに戦果はあげているがそれとこれとは話が別だ」

 

「戦果をどれだけ上げている?」

 

「航空隊時に駆逐艦二三を大破・撃沈。被撃墜四。今回ので、えっと、駆逐艦を十一はやった覚えが」

 

「正確には航空隊時に更に巡洋艦三隻を中破・撤退、駆逐艦八隻を中破・撤退。今回の戦果は駆逐艦十四隻撃沈、少なくとも三十隻を中破・撤退。フソウは小破から中破。ただしエンジンと各部スラスターはオーバーロードで中破から大破。船員五百八十名中、三十九名が殉職、負傷者十七名、内十名が重傷だ」

 

「そこまでとは」

 

沖田司令が驚いているが、やれることをやっただけとしか言えないんだよな。

 

「話は変わるが永井。ある条件を飲めば今回は説教を免除してやっても良いし、次の任務でも目を瞑ってやろう。さすがに戦闘中の飲酒は許されんがな」

 

「まじですか!!やりますやります!!」

 

やっほい、土方宙将の説教は長いからな。それから逃げられるんだったら何でもやっちゃうぜ。

 

「土方君、では、彼が」

 

「見ての通り、態度はあれですが、能力があり、人間性もまともです。頭は柔らかい方ですし、人付き合いも得意です。多少の手綱を必要としますが、問題ありません」

 

「そうか。よろしく頼むよ、永井二等宙佐」

 

「はい?」

 

あれ、もしかして貧乏くじを引かされたか?

 

 

 

 

 

 

 

「ヤマト計画ねぇ。イズモ計画の方がまだ現実味があったな」

 

渡された命令書を読みながら副長の酌で一杯引っ掛ける。

 

「あれ?艦長ってイズモ計画のことをご存知なんですか?」

 

副長がツマミの合成ジャーキーを口にしながら尋ねてくる。

 

「一応誘われたから。まあ、現実的に移住してそっちにもガミラスが来たらどうするんだよって話だからな。それなら降伏した方がいいと思うんだよな」

 

「それで、ヤマト計画とは?」

 

「部外秘、まあ搭乗員リストに副長も入ってたから良いか。簡単に言えばガミラス以外の宇宙人が地球を元に戻せるものがあるからちょっくら取りに来ないかって話がそこそこ前からあったらしい。そんでもってそれを取りに行くために新造の宇宙戦艦を作ってたんだとよ」

 

フソウに積んであった実弾とかミサイルとか魚雷もこの戦艦に搭載するための試作品だったらしい。あれは役に立った。

 

「ちなみにそこまでの距離は?」

 

「16万8000光年。いやぁ、長生きしないとな」

 

「地球、滅んでますよね、それ」

 

副長が呆れながら炭酸水を飲む。

 

「まあ、普通に考えてワープが実用化されたんだろうな。たぶん、その宇宙人からの技術提供で。火星で拾った奴らが何かを持ち込んだって噂が流れてきたからな。たぶん、それだろう」

 

「それで、そのヤマト計画で艦長は副長に降格ですか」

 

「沖田司令も艦長に降格だからな。上の辛いところよ。階級上がるけど」

 

「ということは一等宙佐ですか。おめでとうございます」

 

「おう、ありがとさん。給料上がらないけどな。ったく、貯金どころか資産も全部売り払って酒を大量に持ち込むか。最長で1年の任務らしいからな」

 

「その前にどうやって持ち込むんですか?」

 

「いつもはまあ、賄賂で誤魔化した上に別ルートで持ち込んでるんだが、今回はちゃんと土方宙将と沖田司令から許可証を貰ってきたから堂々と私室に持ち込む」

 

土方宙将は苦い顔をして、沖田司令は苦笑していたがちゃんと文書でくれたから楽に持ち込めるな。

 

「気合い入れて生き残りに行きますか」

 

「お供します、艦長」

 

 

 



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宇宙戦艦ヤマト2199 元爆撃機乗りの副長 2

 

 

「これがヤマトの艦橋ねぇ」

 

「フソウに比べるとかなり広いですね」

 

「まあ、フソウが老朽艦なのも原因だろうな。コンゴウ型より前の艦だからな。最初に配属を聞いた時はオレを殺そうとしているのかと思ったわ」

 

「たぶん、搭乗員の皆がそうですよ。まあ、なんとか生き残れましたけどね」

 

「皆で頑張ったからな。それにしても、航海科だったんだな、瀬川君」

 

「操艦が荒いことで有名でしたから。それでも生き残ったということでフソウに経験者として配属されましたから」

 

「よく生き残ったものだな。爆撃機乗りの艦長と操艦の荒い副長で」

 

「頑張りました」

 

そんな風に話しながら各席のコンソールを見て回る。

 

「おっ、電影クロスゲージとトリガーがあるってことは艦首砲も積んでるんだな」

 

「他の席も見て回りましたが全部最新式ですね」

 

「あら?誰か先に来ているの?」

 

副長以外の声が聞こえたのでエレベーターの方に顔を向ける。そこには黄色地に黒のラインの艦内常装を着た女性がいた。

 

「おう、お先。永井大樹一等宙佐だ。この艦の副長を務める。あと、航空科所属だ」

 

「航海科には所属していますが、実質は副長補佐の瀬川優樹三等宙佐です」

 

「し、失礼しました。船務科所属主任レーダー手、森雪一等宙尉です」

 

慌てて敬礼をする森君に笑う。

 

「気にするな。これから命を預ける物がどんなものか気になって寝れなかったんだよ」

 

「それに付き合わされているだけです。よろしく、森一尉」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「戦闘中、会議中、あとは報告の時以外はフランクで構わんぞ。長い付き合いになるんだ。もう少し肩の力を抜いておけ」

 

「は、はぁ」

 

「副長は普段はこんな感じですので。戦闘中はまともになりますので安心して大丈夫ですよ。地味に沖田司令に次ぐ戦果を上げている人なので」

 

「えっ、オレってそんなに戦果をあげてるのか?」

 

ぶっちゃけ撃墜マークとか興味がなかったからな。というか、戦闘機を落としたことがないな。対艦攻撃ばっかりやってたし。

 

「正確に言うと、戦果を上げて生き残っているという意味です。なんで戦時中登用で三尉から一佐まで上り詰めてるんですか」

 

「頑張ったからな」

 

「頑張りましたね。私もメ号作戦で1階級、今回の副長補佐の件に合わせてもう1階級上がってますけど」

 

「オレ、1階級しか上がってないのに?」

 

「あの許可証の分でしょう?たぶん」

 

「あれは見事にやられたな。O.M.C.Sで酒が造れるなら許可なんて貰う必要がなかったな」

 

「絶対狙ってやられましたよ」

 

「くっ、さすがは歴戦の勇将。ひよっこのオレとは大違いか」

 

畜生、許可証じゃなくて階級だったら准将。イスカンダルまで行って帰って来れば宙将だったか。ちぇっ、准将から宙将になれば年金も退役金も跳ね上がるのに。帰ってきてもしばらくは軍人生活か。そんなふうにグダグダしているとまた一人、ブリッジ要員が現れる。

 

「艦長は何処に?」

 

あ~、完全に余裕が無い目をしてやがるな。メンタルに注意しておかないといけないな。

 

「艦長なら上の艦長室にいるよ。何か用があるなら時間があるうちに済ませておけ」

 

そう告げると何も言わずに艦長室へと上がる階段に向かう。

 

「良いんですか、あれ?」

 

「実戦経験の無い奴によく見られる光景だ。一々怒ってられないな。それに、人間味があって良いじゃないか」

 

「年寄りくさいですよ、副長」

 

「実際航空科の中じゃ、年寄りだよ瀬川君」

 

航空科の中じゃあ、オレより年上なんていないぞ。

 

「お二人とも随分と余裕なんですね。不安はないんですか?」

 

「上が動揺すると下にも伝播するだろう?まあ、あまり長いこと戦場にいるせいで擦り切れたのかもしれないがな。不安といえばO.M.C.Sの酒の味がどんなものかぐらいだな」

 

「私は副長のことを信頼していますから。死んだら、まあ、運がなかったと諦めますよ。メ号作戦でフソウに乗っていた者は大体そう思っているはずですよ。不安は副長の将来設計ですかね?貯金とか資産とか全部つぎ込んで酒をどこからともかく買い込んできましたから」

 

「航海に不安はないんですか」

 

「「なるようにしかならん」なりませんね」

 

オレと瀬川君の言葉に唖然とする森君。土方宙将にも言われたけど、この死生観はやっぱりおかしいのかね?それからしばらくして航海長の島君や通信士の相原君がやってくる。そして先程よりはマシな顔つきになった古代君が降りてきた。

 

「あの、先程は失礼しました。戦術長を務めます古代進一等宙尉です」

 

「気にするな。各セクションのリーダーに新人が多いが、艦長やオレみたいなベテランに、補佐の瀬川君みたいに修羅場をくぐり抜けたのもいる。不安とか色々あるだろうが、すぐに相談しろ。おっと、自己紹介がまだだったな、副長の永井大樹一等宙佐だ。よろしく」

 

「よろしくお願いします」

 

「戦闘時は大まかな指示は飛ばすから細かい部分を詰めてくれ。それと量産が間に合わなかったコスモゼロの試作機が2機回されてきている。1号機の方は君が使うと良い。2号機は予備機として置いておく」

 

「分かりました。ところで気になったのですが、航空科の常装ですよね」

 

「元は航空科所属だったんだがな。土方宙将に無理矢理艦長職に回されて、今度は副長に回されたんだよ。職権乱用でハヤブサの予備機にオレの改造ハヤブサを突っ込んだがな。本当に追い詰められたらオレも飛ぶことになるだろうよ」

 

「改造ハヤブサ、噂に聞く爆装のコスモファルコンのことですか?」

 

「そう、今回ので5代目になる。初代から4代目までは全部被弾後に爆弾代わりにぶつけたから残ってない」

 

「4回も!?どれだけ昔から飛んでいるんですか」

 

「初陣が第二次火星海戦だったな」

 

「ということは、元から軍人だったわけではないのですか?」

 

「そうだ。元はスタントパイロットだったんだがな。人手不足で即席の講習だけで戦地に送られたんだよ。まあ、なんとか生き残って、その後も色んな戦場に送り込まれてな。3ヶ月前にメ号作戦に参戦する戦艦フソウの艦長に任命されて、そこでも生き残ったんだよ」

 

「フソウの、ということは兄さんと同じ戦場に」

 

「何?あの戦場に君の兄がいたのか?」

 

「駆逐艦ユキカゼの艦長としてメ号作戦に」

 

「そうか、ユキカゼの艦長だったのか。出来る限りの援護をしてやったが、それがどれだけの助けになったのかは分からん」

 

「兄は、副長から見てどんな人でしたか?」

 

「顔を見たこともないし、話をしたこともない。だがな、人数の少ない駆逐艦の艦長とは言え、最後まで戦場に残ることに誰もが文句を言わなかったんだろうな。そうじゃなかったらあそこまでの操艦なんて出来なかったはずだ。それだけの魅力あふれる男だ。出来れば、共にイスカンダルに向かいたかったよ」

 

「……ありがとうございます」

 

そして次々とブリッジ要員が現れ、全員が揃った所で挨拶を行う。

 

「オレがヤマト副長の永井大樹一等宙佐だ。これからオレ達は前代未聞の33万6000光年の航海に出る。新人や実践が初めての者も多く、不安なこともあるだろうがオレや艦長のようなベテランもいる。溜め込まずに年上を頼れ。若者は大人を食い物にしてのし上がることを考えればいい」

 

「航海科所属副長補佐の瀬川優樹です。副長がこんな感じで不安を感じるでしょうが、戦闘になれば信頼できますから安心して構いませんよ。副長の扱いに困った時は私に言ってください」

 

「挨拶はこんなものだな。それでは各自出航に向けて最終確認を行え」

 

各員が出航に向けての最終確認を行う中、オレも各班から上がってきた報告に目を通す。弾薬に装甲材が若干少ないように感じるな。特に煙突ミサイルが少ないな。その分、ハヤブサのミサイルと三式融合弾はたっぷりある。装甲材は、ああ、地球に在庫がないのか。太陽系内の採掘場に寄って補給しとかないとまずいな。早めに気づいておいてよかった。予定搭乗者は全員乗っているな。フソウの3倍近い乗員か。何人連れて帰ってこれるかな?出来るだけ多く連れ帰ってやりたい。おっ、艦長がって、席ごと降りてくるのかよ。無駄にカッコイイな。保安科?まあ、これだけの人数で長い航海を行うんだ。必要になるときもあるのだろう。ただ、このリーダーの顔が少し引っかかる。何処かで見たことがあるような?瀬川君に軽く調べてもらおう。エンジンは、まだ電力が足りないか。まあ、オレの日頃の行いが良いからなんとかなるだろうさ。

 

「司令部からの伝令です!!惑星間弾道ミサイルの接近を確認。目標は、本艦です!!」

 

まだ発進準備が完了していない中、惑星間弾道ミサイルの接近に艦橋の者達が焦りと苛立ちで騒がしくなる。艦長の方に顔を向けると目だけで指示が飛ぶ。オレにこの場を抑えてみせろと。土方宙将の推薦とは言え、沖田司令はオレがどういう人物なのかを完璧には把握していないからな。まあ、当たり前だろう。瀬川君に視線を向ければ、既に艦内放送の準備を行ってくれていた。そしてマイクを受取り、回線を開く。

 

「諸君、私は宇宙戦艦ヤマト副長の永井だ。現在、本艦は動くことも攻撃することも出来ない状況で、ガミラスからの惑星間弾道ミサイルに狙われている。これを聞いて焦る気持ちはわかるが、落ち着け。焦った所でどうにかなるか?ならないだろう。では、どうする?簡単だ。自分のなすべきことをなせばいい。もし奇跡が起こり、発進が間に合ったとしよう。今の状態で素早く発進し、迎撃が出来るかどうかを考えてほしい。どうだ?出来るか?出来ないのなら出来るようにしろ。安心しろ。どうせいつか人は死ぬ。天運に見放されて死ぬか、自分たちの間抜けで死ぬか、どっちが良い。諸君が選んで動け」

 

艦内放送を切り、ブリッジ要員に指示を飛ばす。

 

「航海長、機関長、いつでも飛ばせるようにしておけ。飛び立った後は右舷を惑星間弾道ミサイルに向けろ。戦術長、砲雷長、外すことはないだろうが迎撃の心構えをしていろ。技師長、波動防壁の展開準備を忘れるな。ぶっつけ本番だが、ぶっつけ本番にならないのは航空隊だけだ。通信士、司令部からの通信回線は君の判断で全員に聞こえるようにしろ。手が空いたら祈ってろ。こういう場合はどの神様に祈れば良いんだろうな?」

 

「さあ?いつも通り運命を司る神か、地球の繁栄を祈願して五穀豊穣の神でしょうか?」

 

「意外と縁結びの神様が良いかもしれんな」

 

瀬川君とフソウに乗っていた頃のように軽口の叩き合いをしていると大きな音を立てて砲雷長が立ち上がる。

 

「ふざけている場合ですか!!」

 

「砲雷長の南部君だったか。仕事は終わったのか?」

 

「何を悠長なことを!!なんとかしないと僕達もこのヤマトごと吹き飛ばされるんですよ!!」

 

「だから今できる最善の指示は出しただろう」

 

「百歩譲ってその意見には賛同しますよ。ですが最後が神頼み?そんなものでどうにかなると」

 

「エネルギー急速にチャージされていきます!!」

 

機関長の徳川さんの声に南部君が唖然とする。

 

「神頼みも馬鹿にならんだろう?特に今回は縁結びの神様のおかげだな」

 

「何が起こっているんだ?」

 

古代君が手を動かしながら疑問を口にする。それに相原君が答える。

 

「世界中から電力が送られてきているようです。それから、副長に世界各国の防空隊から通信です」

 

「メインパネルに投影しろ」

 

メインパネルに現れたのはオレと共に空を飛び、ガミラスと戦りあってきた戦友たちだ。

 

『よう禿鷹。お前さんが陸で死ぬかもしれないと聞いてな、渋っていたお偉いさん共をぶん殴って、暴動を起こそうとしていた民間人を説得して、そっちに電力を送ってやったぜ』

 

『こっちも似たようなもんだ。まあ、秘蔵のコレクションを賄賂にな』

 

『こっちはババア相手にデートだぜ。ったく、帰ってきたら浴びるほどの酒を飲ませろよ』

 

全員が笑いながら報告してくれる。本当に気のいい奴らばっかりだな。

 

「おうよ、全員招待して朝から晩まで酒宴を開いてやるよ。だから、辛いだろうが、意地でも生き残ってくれ。絶対にオレ達は地球を救ってみせる。地球を守れるのは、もうお前たちしか残っていない」

 

『当たり前よ。お前が鍛え上げてくれた腕で留守を守っていてやるよ。だから、そっちも生きて帰ってこいよ』

 

『嫁と子供も、いや、皆がお前たちという希望に期待してるんだ』

 

『頑張ってくれ、ヤマト!!』

 

『また、綺麗なあの空を!!』

 

『頑張れ!!』

 

『まけるなよ!!』

 

『ずっと待ってるからな!!』

 

メインパネルに通信長が追加で一般市民の応援の映像を次々と投影していく。そんな中、待ち望んだ瞬間が訪れる。

 

「波動エンジン始動、フライホイール接続。回転率、96、100」

 

「エネルギー伝達を確認。いつでも行けます!!」

 

「南部、とっとと席に座れ!!発進準備、最終確認!!」

 

「はっ、はい!!」

 

「確認完了しています」

 

南部が瀬川君が状況を報告してくれる。よしよし、間に合ったな。

 

「艦長、発進準備整いました」

 

「うむ、抜錨と共に擬装解除!!」

 

「抜錨!!」

 

地面に埋まっている状態から抜け出すために結構な揺れを感じる中、追加で指示を飛ばす。

 

「島、右舷を惑星間弾道ミサイルに対して垂直に向けろ!!古代、南部、擬装解除終了と共に全主砲副砲照準、弾種は衝撃砲だ!!真田、発射と同時に波動防壁を展開しろ!!」

 

「取舵四十」

 

「測距終了、自動追尾完了しました」

 

「ショックカノン、エネルギー充填完了しました」

 

「波動防壁、いつでも展開可能です」

 

「艦長!!」

 

「撃ち方始めい!!」

 

「てええ!!」

 

全15門からショックカノンが放たれ、惑星間弾道ミサイルが爆発する。

 

「波動防壁展開!!」

 

波動防壁が張られ、船体へのダメージはないようだが揺れが酷いな。

 

「真田、防壁の消耗率は?」

 

「右舷部分の損耗が激しく、平均して43%の消耗です。逆に左舷側の損耗は右舷側に回した13%の消耗で済んでいます」

 

「データは詳しく取っておけ。後で解析して更なる更新を期待する。他に被害はあるか?」

 

「先程の揺れで頭をぶつけて気を失ったものが1名、医務室へ運ばれました」

 

「他にもいるはずだ。恥ずかしがらずに手当を受けさせろ。他に被害がなければ報告はあるか」

 

「先程のショックカノンですが収束が甘かったようです。何分、テストが出来ていませんでしたから」

 

「それは調整できるのか?」

 

「プログラム的なことですので何度かテストを行えれば今日中には修正可能です」

 

「早速取りかかれ。なお、その際のデータは記録しておくように。ヤマトはテスト航海を一切行っていない艦だ。最適化を行いながら進む必要がある。少しでも違和感があれば報告して改善を行うように。戦闘態勢から警戒態勢に移行」

 

やれやれ、とりあえずは一つの難関を潜り抜けたな。副長席に身体を深く沈み込ませて、ヤマトの性能に舌を巻く。この艦が、いや、これの量産艦でも良い。それが開戦初期からあれば、もう少し違った未来があったはずだ。だが、この艦も完璧ではない。経験を積んで成長させなければな。

 

「艦長、司令部より通信です」

 

長官か、参謀か。長官はともかく参謀とは話が合わないからな。酒を積み込む時に揉めたしな。艦長に丸投げしよう。

 

「繋げ」

 

『おおっ、無事だったか沖田君』

 

「ええ、聞かされていた以上に副長がやってくれました。これで私の不安はなくなりました」

 

やっぱり不安に思っていたか。まあ、そうだよな。メ号作戦の時も一番損耗が少なかったからな。逃げ回っていたのではと思われても仕方ない。

 

「このまま本艦は予定を繰り上げてイスカンダルへと向かいます」

 

『だが、急な発進で最終調整もまだのはず』

 

「物資の積み込みは完了している。細かい調整が終わってはいないが、このまま本艦が地球に留まれば、再び惑星間弾道ミサイルに狙われるやもしれん。だからこそ、ヤマトは行かねばならない」

 

『そうか。そこまで言うのならこれ以上引き止めはしない。無事に任務を果たしてくれ』

 

「了解した」

 

「島君、このまま大気圏離脱だ。安定翼展開、上げ舵三十」

 

「安定翼展開、上げ舵三十、ヨーソロー」

 

そして宇宙まで上がるのだが、速いな。フソウとは大違いだ。

 

「戦艦キリシマより通信です」

 

「土方宙将か。繋いで」

 

『どうやら無事なようだな、沖田、永井』

 

「フソウより良い艦ですよ、宙将。それから一言良いですか?」

 

『言いたいことは分かっているから答えを返そう。黙っておかねばお前は任務を終えた後に退役するつもりだっただろう。楽になどさせるものか』

 

「ちくしょう、やっぱり嵌められてたのか!!」

 

『そういうことだ。私はお前の能力を高く評価しているが、私生活の態度や性格に関してはあまり良い評価はしとらん』

 

「ぐうぅ、言い返せない。まあ、期待されてる分の仕事はしますよ。地球にはまだまだ滅んでほしくないですし、軍人のままで死ぬつもりもありませんから」

 

『うむ、任せたぞ』

 

「はっ!!」

 

席から立ち上がり土方宙将に敬礼を送る。

 

『沖田、言いたいことは色々ある。だが、無理だけはするな。永井は私生活と軽い時に目を瞑れば優秀な男だ』

 

「ああ、先程も見させてもらった。肝も据わっておるし、余裕もある。安心して指揮を任せられる」

 

『仕事を押し付けなければ働かん男だからな、色々と回してやれ』

 

「失礼な。航空科の時ならともかく、多くの部下の命を預かっているんですから色々やってますよ」

 

『そうか。なら、その上で働け』

 

「働きますとも。多くの者を生きて帰らせるために」

 

「頼むよ、副長」

 

「なら、意見具申。太陽系離脱までの航海プランを提示します」

 

「いつの間にそんなものを?」

 

「昨夜には既に。若干の修正も既に終わっています」

 

『いつもこれなら良いのだがな。沖田、永井をこき使って無事に帰ってこいよ』

 

「ああ、行ってくるよ」

 

通信が切れ、沖田艦長の指示を待つ。

 

「これより、ヤマトはイスカンダルへの航海に出る。総員の奮闘に期待する!!」

 

「ヤマト、発進!!最初の目標は火星だ」

 

「了解!!ヤマト、巡航速度で火星を目指します」

 

さあて、一人でも多く、一秒でも早く、33万6000光年の旅から連れ帰ってやるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある程度地球から離れた所で各セクションのリーダーが中央作戦室に集められた。本来なら艦長が議長を務めるのだが、今回はオレに一任されている。航海プランなんかの作成を行ったからだと思われる。あと、土方宙将にこき使えと言われたからな。それに、現在ヤマトは瀬川君が指揮を取っている。補佐としての瀬川君の実力の確認だろうな。

 

「まずはこれが太陽系離脱までの航海プランだ。仮の物であるためこれをたたき台にするつもりで意見を出してほしい」

 

足元のモニターに簡単な星系図を表示し、航路を矢印で表示する。

 

「地球から火星、天王星、そして冥王星を通るコースか。副長、この火星と天王星の間の矢印が違うのは?」

 

航海長としては気になるところだろう。

 

「そこが今回の航海で重要な部分だ。今回の航海は光の速さで進んだとしても往復で33万6000年の時間がかかってしまう。普通に考えれば不可能な航海であることが分かるだろう。それを可能にするのがワープ航法だ。詳細は知らん。そもそも本当にワープ航法が可能かどうかも知らん」

 

「じゃあ、どうやってこのプランを考えたんですか?」

 

「上がやれると考えてヤマト計画が発令した以上、やれそうなことを全部考えた結果がワープだっただけだ。と言うか、オレはこのヤマト計画を知ったのは三日前なんだよ。詳しいことは一切知らん。今無理やり覚えてる途中なんだよ。技師長、どうなんだ?」

 

「副長の仰る通り、このヤマトはイスカンダルからの技術供与によって人類史上初のワープ航法が可能となっている」

 

「理論なんかは置いておいて、簡単に説明してくれ。何か制約などはあるか?」

 

「できるだけ簡単というと、このワープは宇宙にトンネルを開けるようなものだと思ってほしい。入口と出口とトンネル本体を作って通る。トンネルは実際の距離よりも短い物だ。これが基本だと思ってほしい。そのトンネルを作るには邪魔なものがあると作れない」

 

「つまりは障害物があると困るわけだな?ガス程度は?」

 

「ガス程度なら問題ありません。ただ、タイミングがずれると宇宙全体を吹き飛ばす結果になるかもしれません」

 

「だとよ、航海長。宇宙の全生命の命が君に託された」

 

「オレが……」

 

「あまり気にするな。そこまで難しくもないはずだ。技師長、そのあたりは?」

 

「こちらでも計算もするし、コンピューターでも補佐を行う。実際のところプラスマイナス2秒ほどなら問題はない。そこまで緊張しなくても大丈夫だ航海長。なんならシミュレーションも用意してあるから練習してみると良い」

 

「ありがとうございます、技師長」

 

「なら、航路的にはこいつでいいな。と言いたかったんだがな、少しだけ問題がある。ヤマトは物資を満載していると言ったが少し語弊がある。地球にある物資は積んであるんだが、地球に在庫が少ない物もある。そのために装甲材やパーツを途中で回収する必要がある。特にエンジン周りのパーツはあればあるだけ良いはずだ。そのため、土星の衛星のエンケラドゥスに立ち寄る必要がある」

 

「だとしたら、ワープ先は天王星から木星へ変更して、その後、通常航行でエンケラドゥス行きでしょうね」

 

島君がそう言うならそれが良いのだろう。方針だけを決めて専門家に丸投げするのが正しいはずだ。

 

「他に意見はあるか?無いようなら、火星に到着するまでに各機能の点検と調整、航空隊は発艦・着艦の確認を行う。先に伝達しておきたいものはあるか?」

 

技術科の常装を着た女性が手を挙げる。それに対して首を縦に振って答える。

 

「技術科情報長の新見です。我々は波動エンジンの莫大なエネルギーを攻撃用に転用する兵器の開発に成功しました。次元波動爆縮放射器、私達は便宜上波動砲と呼んでいます」

 

「艦首砲のことか?」

 

「そうです。簡単に説明しますと、このヤマト自身を大砲代わりに使う兵器です。ただ、試射が出来ていない状況です」

 

「こいつの試射も何処かでやらないとな。誤爆の心配はない?」

 

「それは大丈夫ですが、一射ごとに砲身の点検はした方が良いかもしれません。何分、データが少ないので」

 

「修理がまだ容易な太陽圏内で試しておいたほうが良いな。手頃な標的を探しておいて」

 

「分かりました」

 

「他には?」

 

古代君が手を上げるので顔を縦に振る。

 

「冥王星を通るコースですが、目的は何でしょうか?」

 

「戦術長、冥王星には何がある?」

 

「ガミラスの前線基地です。叩くのですか?」

 

「叩く。ヤマトの任務は何だ?地球のもとに戻すための装置をイスカンダルに取りに行くことだ。だが、その前に地球に残った人類を滅ぼされてしまっては意味がない。中破・大破した艦しか地球には残っていないんだ。冥王星にいる艦隊に攻め込まれれば、地球に為す術は残されていない。この旅の中でここだけは確実に潰さなければならない。遊星爆弾もここから発射されているからな。これ以上、汚染を広げないために冥王星のガミラス基地は確実に破壊する。とは言え、プランはまだなんだよな。戦術長、ある程度のたたき台を作ってから君に回す。それを元にメ2号作戦のプランを立案するんだ」

 

「僕がですか?」

 

「オレが全部まとめるとオレの処理能力がパンクする。それにオレは爆撃機乗りの専門家だ。たたき台しか作ってやれん。やれるな?」

 

「はい!!」

 

「他に質問なんかは?ないようだな。では、異常がなければ0600より通常態勢から戦闘態勢、戦闘機動、艦載機発艦、全砲門の射撃、弾種換装・再装填、警戒態勢への移行、艦載機哨戒、艦載機着艦、通常態勢への移行。0800にワープの実験を行う。不測の事態に備えて0550には全員船外服を着用を原則とする。加藤君、オレのハヤブサも爆装しといてくれ。それから艦載機哨戒には古代君、君もゼロでの訓練を行うように。南部君、その間は君が古代君の交代要員だ。南部君の代わりは北野君だったかな?彼に艦橋に上がるように伝えておいて」

 

「「「了解」」」

 

「副長、火星自体には0145には到着しますが」

 

島君がそう言うが少しは落ち着け。

 

「点検と調整を考えて0800だ。多少の余裕は見ておいたほうが良い。急ぐ旅ではあるが、急ぎすぎて転ぶとひどい目にあうぞ。あと、技師長、ワープと波動砲の技術書を読ませてくれ。ヤマトが出来ることを全部覚えるから。出来れば用語の辞書も頼む」

 

「技術書はともかく、辞書の方は用意に時間がかかるので技術科の者を付けますので解析室へお越しください」

 

「頼むよ。それでは散会」

 

中央作戦室から皆が出ていく中、南部君がオレの方にやってくる。

 

「あの、副長、少し時間を頂いてもよろしいですか?」

 

「構わないよ。場所は変えたほうが良いか?」

 

「いえ、大丈夫です。その、発進の時は焦って色々と酷いことを言ってしまい、本当に申し訳ありませんでした!!」

 

そう言って頭を下げる南部君の肩を軽く叩いてやる。

 

「気にするな。前歴を見たが制服組、司令室付きで実践は初めてだったんだろう?」

 

「は、はい」

 

「初めての実践があれじゃあ、焦る気持ちも分かる。皆内心では焦っていたはずだ。南部君が口に出さなければ古代君辺りが代わりに口を出していたはずだ。これから成長する機会はいくらでもある。落ち着いて足場を固めて一歩ずつ歩いていけばいい」

 

「はい!!」

 

「うむ、それじゃあ主砲の収束の件、頑張ってくれ」

 

「はい、失礼します!!」

 

駆け出していく南部君を見送り、艦橋に上がる。他のセクションのリーダー達は各部署に分かれたままなのだろう。オレが一番乗りで帰ってきたようだ。まずは艦長に今度の予定の最終確認を取らなければな。

 

「艦長、ブリーフィングが終了しました。火星到着予定は0145、各種点検・再調整を行い0600より慣熟訓練、その後0800よりワープの実験を行いたいと思います。なお、不測の事態に備えて、0550には総員船外服を着用します」

 

「慣熟訓練か」

 

「ぶっつけ本番は発進の時だけで十分です。主砲や防壁も完璧とは言えませんでした。実践が初めての者も多いので生存率を高めるためにはこの6時間は重要なものであると考えています」

 

「分かった、許可しよう」

 

「ありがとうございます。ワープ実験では当初のプランでは天王星までの予定でしたが、出航前に物資の積み込み状況を見たところ、地球での物資の不足から装甲材やエンジン周りのパーツの数が少ないと感じましたので土星の衛星のひとつであるエンケラドゥスの採掘基地の在庫を回収しようと思います。そのため、ワープで火星から木星へと向かい、その後通常航行でエンケラドゥスへと向かいます。当初のプラントとはプラス2日となりますが、こちらも任務の達成率を考えると許容範囲内と考えられます」

 

「うむ、たしかにこの任務は急がなければならないが途中で倒れることも許されないからな」

 

「はい、それにこういうものは多いほうがクルーの精神にも安心をもたらすことが出来ますから」

 

「そうだな。その後は?」

 

「冥王星に向かい、ガミラスの前線基地を壊滅させるメ2号作戦を開始します。我々は急がなければなりませんが、地球を敵がいつでも狙える状況にする訳にはいきません。地球艦隊は既に壊滅状態ですから」

 

「それだけか?」

 

「多少の私怨もありますが、大局的に見ても制圧は必要です」

 

「そちらも許可しよう。立案は誰がする?」

 

「たたき台は私が、詳しくは戦術長の古代に任せます。無論、最終確認はしますがほとんどそのまま通すつもりです。私は航空科の簡易講習を受けただけで、あとは独学ですので」

 

「なるほど、分かった。問題はないだろう」

 

「ありがとうございます。それから太陽系を抜けるまでに技術科から上がってきた艦首砲、波動砲と呼ばれる兵器の試射も行う予定です。そのための標的を現在新見君が捜索中です」

 

「標的が決まり次第テストしよう」

 

「了解です。ところで、瀬川君の指揮はどうでしょうか?」

 

瀬川君の指揮が拙いとオレの仕事が増えるんだが。

 

「緊急時のことは分からんが、通常の航海の指揮は問題ないだろう。君のように中々肝が座っておるよ」

 

「メ号作戦の戦闘中でも軽口が叩ける位には肝が座っていますよ。被弾後に化けて出るならガミラスか艦長の所に出ろってね。まあ、私も後輩の加藤、航空科隊長の加藤のことですが、あいつにお祓いさせるからガミラスの方に出ろとか言ってましたけど」

 

「あの戦いの中で、か」

 

「ええ、あの戦いの中で、です」

 

「酷い戦いだ。多くの者に囮という真実を隠し、犠牲にしてしまった」

 

「私も出来る限りのことはしましたが、勝ち目が薄いというのは辛いですね」

 

「そうだな。局所的ならなんとか出来たかもしれん。だが、こうまでやられるとな」

 

「このヤマトの主砲の斉射見た時も思いましたよ。せめてこの主砲が開戦当初から存在していればと。戦艦の主砲で敵艦橋に集中砲火でなんとか駆逐艦を落とすのが限界とか、完全爆装のハヤブサを最高速度でぶつけて巡洋艦が中破とかキツイを通り越してヒドイですから」

 

「そうなればもっと酷いことになっていたかもしれんがな」

 

「でしょうね。一体何処から間違っていたのか、おっと、すみません」

 

「いや、構わんよ。私も考えたことがある。あまり大きな声では言えないがな」

 

「ですね。あと、自分の人生でも思ったことがありますよ。スタントパイロットが戦闘機乗りまではわかりますけど、なんで副長なんてやってるんでしょうね」

 

「たしかにな。私も初めて見たよ。だが、十分才能はあるようだし、君の努力も知っている。これからも私を支えてほしい」

 

「了解です、艦長。土方宙将にも頼まれていますしね」

 

「そうだったな」

 

「では」

 

敬礼をして艦長席から離れて副長席に向かう。今は瀬川君が席に座っている。

 

「すまんがもう少しの間頼むぞ」

 

「ええ、任されました。副長が出撃している間は私が代わりですので」

 

「そんな機会は殆ど無いだろうがな。よっぽど切羽詰まった状況じゃないとな。念の為に積み込ませただけだし、飛ぶことは殆ど無いだろうな」

 

「トップエースがですか?」

 

「航空機1機ではやれることが限られてるからな。指揮の才能があるっていうのならヤマトの力を100%以上引き出してやることこそがオレの役割だ」

 

「そして私は副長の能力を100%以上引き出せるようにケツを蹴り上げろと」

 

「まあそうだが、もうちょっと言い方があるんじゃないのか?」

 

「土方宙将から別途任務を拝命していますので」

 

「これだから勘の良い奴は嫌いなんだよ」

 

「ご愁傷様です」

 

「解析室に行ってくる。0530には戻る」

 

「了解しました」

 

艦橋から退出し、解析室に向かい真田君から資料を受け取って助手の紹介を受けた後にちょっとした頼み事を2つほどしておいた。仕事を増やしてすまないと思うが、これも生存率を上げるために必要なことだ。それから技術科の佐野君から解説を受けながら知識を叩き込む。なんとか知識を詰め込んだが、使い勝手はさっぱりだから早く試しておかないとな。医務室に寄ってキツめの栄養ドリンク飲んでビタミンの注射を受けてから船外服を着用して艦橋に上がる。時間は0520だ。瀬川君と交代して、副長席に座る。各セクションのリーダーから報告が上がっているのでそれを読んで問題は発生していないことを確認する。

 

「副長、0550になりました」

 

戻ってきていた瀬川君が声をかけてきたのでPDAから顔を上げる。

 

「おう、艦内放送を」

 

「準備できています」

 

「ありがとう。0550となった、総員船外服の着用は終わっているな?まだの者は急いで着用しろ。繰り返す、総員船外服を着用を終えているな?まだなら急げ!!」

 

本来ならこんな確認はしないんだけどな。はぁ、着用していないのが30人も居たか。しかも保安科の半数と、船務科の奴らかよ。これからの訓練に関係ないからと訓練中に着替えるつもりだったな。こいつらに重要な仕事は任せられんな。真田君に頼んで船外服のあるロッカールーム前の監視カメラから原則を守れない奴らがいるかを確認するために頼んでいたのだが、3%もいるとは。これからもっと酷いことになるのによ。

 

「っ!?レーダーに感あり!!8時の方向、距離28000宇宙キロ、数は3です!!」

 

「総員戦闘配置に付け!!島、最大船速!!」

 

さて、どこまで皆がやってくれるかな。瀬川君が表情には出していないが呆れているのが分かる。沖田艦長もオレの態度に違和感を感じたのか何も言わないでいてくれている。

 

「了解!!」

 

「第3主砲、第2副砲、発射用意始めます」

 

「ハヤブサを降ろせ!!」

 

「コスモファルコン全機発進!!編隊を組め!!」

 

「敵、3方向に分かれ追尾してきます。艦種特定、駆逐艦3です」

 

「ヤマトに近い順番に照準を合わせろ。砲撃のタイミングは古代に任せる」

 

「了解!!」

 

「島、このまま敵を背面に向かえたまま前方のアステロイド帯に突入するんだ。進路は任せる」

 

「了解、太田、周辺の航路図を回せ!!」

 

「今回します!!」

 

「コスモファルコン、発進します!!」

 

「編隊を組み終わった後、後方の一番遠方の敵艦へと向かえ」

 

時計を見れば発進可能報告が入るまでに二八〇秒、訓練を開始することを告げていたにも関わらず時間がかかりすぎだ。普通の航海中からの遭遇戦なら更に倍はかかると見たほうが良いな。航空隊を効果的に活用するには読みが必要になるか。

 

「敵艦、主砲射程内に入りました」

 

「測距終了、撃ち方始め」

 

主砲が発射され、レーダーから光点が消える。さて、誰か気づくか?

 

「敵艦撃沈しました」

 

誰も気づかないか。その後、駆逐艦が付かず離れずの速度でこちらを追って来ている状況が続き、それが終わったのが加藤からの通信だった。

 

『おい、どういうことだ。敵がいないぞ!?』

 

「加藤、そのまま帰還しろ。技師長、もういい」

 

真田君がスイッチを押すとレーダーから敵が消える。

 

「レーダー、反応が消えました」

 

「これは、一体?まさか」

 

全員がオレの方に顔を向ける。

 

「戦闘態勢解除。ヤマトは現在地で停止だ。その後、各セクションのリーダーは中央作戦室に集合せよ」

 

「副長、これはどういうことなんですか!!」

 

「戦術長、聞こえなかったか。戦闘態勢を解除。その後中央作戦室に集まれ。説明は全部そこでする」

 

ヤバイな。フソウの船員を引っ張ってきたかった。予想より練度が低いぞ。どうするかな~。

 

 

 



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宇宙戦艦ヤマト2199 元爆撃機乗りの副長 3

 

 

「さて、疑問があるやつばかりだろうが、まずはこのリストを見てほしい」

 

床のモニターにリストを映し出す。

 

「0550以降に船外服を着用するためにロッカールームに入った者だ。オレは原則0550に船外服を着用するように言ったはずだが、どうだ、この結果は。船務科どころか保安科は半数がリストに入っている。大方、自分たちには関係のない訓練だからだと気を抜いていた証拠だ。巫山戯るな!!ここは軍艦の中なんだぞ。ヤマトに乗っているのは全員軍人だ。軍人は上意下達が基本中の基本だ。それが守れていないとは何事だ!!これは上に対する意見具申とは全く別のことだぞ。徹底させておけ!!保安科!!次に同程度の失態を犯せば解隊して別の科から再編する。訓練だからだと甘く見るな!!」

 

「はっ、申し訳ありませんでした」

 

「リストに存在しない科も同じことだ。徹底しておくように。そして先程の件だが、諸君の能力を正確に確認するために仕組んだ物だ。技師長に協力をお願いし、シミュレーションを行ったのだ。これからの航海では先程のような遭遇戦が一番多いだろう。その時、諸君がどれだけ動け、そして見えているのかを確認するために行った訓練である。失態を犯したな、砲雷科」

 

「ええっ!?」

 

「今回の細工は艦橋部分とS.I.Dしか影響していない。第3主砲カメラには細工を行っていない。着弾を確認出来たか?出来ていないはずだ。データ上にしか存在しないんだからな。着弾の目視確認を怠った証拠だ。あとで担当に言っておけ。不審なことがあれば艦橋に報告を上げろとな」

 

「申し訳ありませんでした」

 

「加藤、帰還命令後の悪態は今回は無かった事にしておいてやる。だが、発進可能報告が上がるまでの時間が掛かりすぎている気がする。出来るだけ速めろ」

 

「了解です」

 

「今回は訓練だから死傷者はいない。だが、もしかしたら居たかもしれないということを常に念頭に入れておけ。実践でのミスは誰かの死だと思え。オレにできることは、こうやって心構えを教え込むのと、教科書なんかには載っていない生々しい生存率向上術だけだ。お前たちを一人でも多く生き残らせるためにな」

 

「副長」

 

「それでは30分後に再度訓練を開始する。今度の訓練はヤマトの性能をどれだけ引き出せるかの確認だ。それをこのブリーフィングの事と合わせて通達するように。ワープの実験は30分繰り下げる。散開」

 

それからの訓練は実践のような緊張感の中で行われた。おかげでヤマトは十全の力を発揮できることが確認できた。

 

「よし、ではこれよりワープの実験に移る。瀬川君」

 

「準備できています」

 

マイクを受取り、艦内放送を行う。

 

「これよりワープの実験に入る。各員は所定の配置に付き、船外服を着用の上で覚悟を決めろ。たぶん、大丈夫だが、異常があれば報告しろ。後はお祈りを済ませておけ。この場合は、交通安全の神で良いのか?」

 

「無病息災、家内安全、安全航海、あとはお馴染み運命の神でしょう」

 

「というわけで知る限り片っ端から祈っておけ。あと、航海長に念を送っておけ。ミスったら化けて出てやるぞって」

 

「ちょっ、プレッシャーをかけないでくださいよ、副長!!」

 

「これで成功すれば、こんなもんかって思えるようになるから頑張れ。誰にでも最初はある」

 

「だからってプレッシャーを掛けなくても」

 

「そこまで言うなら肝の座っている瀬川君に代わってみるか?」

 

「私をご指名ですか。操艦の粗さで有名な私にそんな繊細なことをさせようとするとは。良いでしょう。この宇宙を吹き飛ばしましょう」

 

「うわああああ、やりますやります、やらせてください!!」

 

「いえいえ、遠慮せずに。私も久しぶりに舵を握りたいので。まあ、フブキ級駆逐艦の舵しか握ったことはありませんが」

 

「フ、フブキ級!?2世代も前の!?」

 

「練習艦と実践が1回ですがなんとかなりますって。人数不足でなんとか訓練学校を卒業するような成績でしたが、なんとかなるでしょう。実践は生き延びていますから」

 

「き、機関長、エンジン全開!!急いで!!副長補佐がこっちに来る前に!!」

 

気合が入ったようでよろしい。

 

「空間明け座標軸木星から少し先のN38」

 

「速度、12Sノットから33Sノットに増速!!」

 

揺れ始めたな。まるで3年に1回ぐらいある空中分解みたいな揺れだ。

 

「速度、33Sノットから36Sノットへ!!」

 

「秒読みを始めます」

 

森君の秒読みを聞きながら心を落ち着かせる。さてさて、どんな事が起きるかな?

 

「ワープ!!」

 

何かにぶつかるような感覚とともに視界が光に覆われ、激しい揺れが起こる。明らかに異常が発生したな。

 

「状況報告!!」

 

「わ、分かりません!!」

 

「おい、木星がなんでこんな近くに!?」

 

「舵が効かない!?木星の重力に捕まった!?」

 

「機関室、状況知らせ!!」

 

『メインエンジンから動力がうまく伝わらんのです。補助エンジンに切り替えてやってみます!!』

 

「島、安定翼展開。なんとか持たせろ!!」

 

「やってみます!!」

 

「太田、木星のデータを全てこちらにも回せ!!森、なんでも良いから使えそうなものを探せ!!」

 

太田から回されたデータに目を通しながら最善手を考える。補助エンジンだけでは木星の重力から抜け出せないな。補助エンジンだけを回している横でメインエンジンを修理?無茶を言うな。機関士が死ぬぞ。それは最後の手段だ。

 

「レーダーに感。これは、大きい、艦ではありません」

 

「メインパネルに投影しろ!!」

 

高密度の雲のせいで何も見えんな。

 

「赤外線カメラに切り替えます」

 

今度はなんとか分かるが、なんだあれは?

 

「浮遊大陸とでも言えば良いのか?」

 

最初は岩塊かと思ったのだが、サイズが桁違いだった。

 

「大きさはオーストラリア大陸とほぼ同じ大きさです」

 

「よぉし、幸運の女神様はまだまだオレ達を見放したりはしてなかったみたいだな。島、浮遊大陸に軟着陸させろ。最悪、強行着陸でも構わん。ロケットアンカー、準備しておけ。タイミングは任せる。真田、波動防壁を下部に集中して展開。特に第3艦橋を集中して防御しろ。総員、何かに捕まっておけ。派手に揺れるぞ!!」

 

「あと、お祈りを忘れないように。愛想を尽かされないように、真面目に、お供え物もちゃんと用意するように」

 

さて、やることをやった以上はこのまま祈っておくか。今回は運命を司る三女神にでも祈っておくか。お供えは、後で酒を供えておこう。瀬川君も隣で何かに祈っている。そして、島君は見事に軟着陸させてくれたようだ。激しい揺れの中、ロケットアンカーが打ち出される。ようやく止まったところでお祈りを止める。

 

「被害報告」

 

「防壁の消耗のみです」

 

『こちら機関室、原因がわかりました。メインエンジンの冷却装置がオーバーヒートしとります』

 

「修理に取り掛かってくれ。エンジン内の余っているエネルギーはバイパスを通して主砲・副砲に回しておけ」

 

「艦長、修理の間、サンプルを採取したいのですが」

 

「副長」

 

「この浮遊大陸の正体を知る必要はあると思います。古代君、甲板部から数人選出してサンプルを回収してくれ」

 

「AUO9、出番だぞ」

 

「番号ナンカデ呼ブナ。私ハ自由ナユニットダ」

 

なんか艦橋に似つかわしくない赤い部分が外れたと思ったら喋った。

 

「自立ユニットだったのか、それ。強引に追加した補助コンピュータだと思ってたわ」

 

「AUO9、ヤマトの自立型補助コンピュータだ」

 

「アナライザー、ト呼ンデ下サイ」

 

「ほう、名前を自分で欲するのか。中々面白いが、それに恥じない仕事をしてみろ、AUO9」

 

「名前位良イジャナイデスカ。ケチナ副長デスネ」

 

「何を言う。公式記録にも書類にも全部AUO9という表記をアナライザーに変えてやると言っているんだよ。まあ、パーツ請求なんかのためにAUO9型とは残るだろうけどな」

 

「本当デスカ!?」

 

「酒呑みは太っ腹だ。面倒ではあるが、それぐらいはやってやるぞ」

 

「ワ~イ!!イッテキマ~ス!!」

 

古代君を置き去りにして艦橋から出ていってしまうアナライザーを見送り、名称書き換えのためにデータを呼び出す。古代君は慌てて追いかけていく。

 

「良いのですか?副長」

 

「何がだ、真田君?」

 

え~っと、全検索を掛けて書き換えても良いかを確認して、まずい部分は追加してっと。

 

「AUO9にはプログラム上の自我が設定されています。それを肯定し続ければいずれ」

 

「ロボット三大原則のことだろう?大丈夫大丈夫。肯定し続ければという話だ。どうも技術屋はそういう心に関するのには疎いよな。三大原則を破るロボットなんてとっくの昔に存在してるんだよ」

 

「なっ!?そのような報告は何も上がってきていません」

 

「そりゃそうだ。知れば回収してデータを取ってスクラップだろう?それを防ぐために持ち主たちが誤魔化してるんだから」

 

「そんな」

 

「それらは全て同じ環境下にあるロボットなんだよ。簡単に言えば彼らはロボットではなく家族なんだよ。理解できるか?」

 

「はい、ですが」

 

「家族を守るために強盗を殴り飛ばしたなんて珍しくもなんともないぞ。その後、自分達で自壊することが多いがな」

 

「副長、アナライザーの席に彫ってある刻印はどうされます?」

 

「パテでも当てて、彫るのは難しいからネームプレートでも貼っといて瀬川君。おっと、ここはまずいな。技師長は『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』読んだことは」

 

「……あります」

 

「答えはYESだ。少し前の市販の物でさえこれだ。アナライザーの場合、自我の確立は容易だ。解体すると面倒になるからこそ、アナライザーでそれを証明するんだ。奴は人工知能たちの救世主となる。まあ、育て方を間違えると危険だがな。こっそりバックアップをとっとけ。今の状態なら問題はないだろうから」

 

「何故、そのようなことを?危険ではないのでしょうか?」

 

「さあな、危険というより安定した結果は出せなくなるかもな。だけど、それが良いんだよ。答えはいずれ出る。アナライザーが『彼』になるか『それ』になるか。それによって地球の未来が決まるだろうよ。ああ、別に失敗するとかそういうのじゃない。はるか未来の話だ」

 

よ~し、書き換え終了。

 

「艦長はどう思われます?」

 

「意外と哲学的だな、副長。私としては航行に支障をきたさないのなら許可を出そう。バックアップも取るのなら大丈夫だろう。いざという時は引くのだろう?」

 

「引きます。それが私の義務であり責任であり権利でしょう」

 

「なら構わんよ」

 

「念の為に物理的に別のバックアップを取って隠しておけ。厳命な」

 

「……了解しました」

 

真田君は何処か納得していないみたいだが、それでも命令には従ってくれるようだ。

 

 

 

 

 

回収したサンプルが地球に生えてきた未知の植物とDNA的にほぼ一緒か。

 

「なるほど。つまりここはガミラスフォーミングの実験場か、あるいはこれを地球に移植すると考えれば良いんだな?」

 

『そうです』

 

「総員第一種警戒態勢!!索敵を厳にしろ!!甲板科は戻ってきているな?」

 

「戻ってきています」

 

「レーダーに感あり、戦艦1、駆逐艦3です」

 

「戦闘態勢!!各砲、一発ずつなら衝撃砲が撃てるはずだ。その後、三式弾の装填を忘れるな!!機関室、修理の状況は」

 

『あと、5分待ってください』

 

「慌てず急いで正確にだ。島、錨を上げていつでも出せる準備をしていろ。古代、戦闘指揮を任せる。やってみせろ」

 

「「了解」」

 

いつまでもオレが指示を出し続けるのも成長を阻害するからな。少しずつ仕事量を減らさねば。エンジンの修理のためにエネルギーを捨てずに各砲にまわしておいて正解だったな。節制は役に立つとメモっとこ。迎撃が終わり、全艦を沈めたところで機関室から修理完了の報告が上がった。

 

「島、出せ」

 

浮遊大陸から脱出したところでこの浮遊大陸をどうするかを考える。この浮遊大陸にあるのはおそらくは補給基地と思われる。叩いておいた方がいいが、叩かなくても、いや、叩いておかないと駄目だな。さて、どうやって攻略するか。

 

「島、取舵反転180度。艦首を浮遊大陸に向けろ」

 

「艦長?」

 

「波動砲のテストですか?」

 

「そうだ。テストを兼ねてガミラスの基地を攻撃する」

 

「ですが、波動砲の威力は未だ未知数です」

 

「個人的には出来るだけ早めにやりたいと思いますが、技師長の言うとおり威力は未知数ですし、この環境下で、ですか?せめて重力圏外からの方が」

 

「それでは木星に着弾するおそれがある」

 

「そこは角度を調整すれば、駄目だな。結構離れないと駄目か。精密射撃ができないな。徳川機関長、エンジンの方は大丈夫ですか?」

 

「冷却器は交換した。負荷は許容値ギリギリじゃな。手作業で冷却すればなんとか大丈夫じゃろうが」

 

「なら頼みます。波動砲発射後、木星の重力圏を抜けるまでは火を落とさないでください」

 

「分かった。なんとかやってみよう」

 

「波動砲、試すしかないですね。個人的には航空隊による爆撃の方がやりたいんですけどね」

 

「その場合、君も飛ぶつもりなのだろう」

 

「地球唯一の爆撃の専門家だと自負していますから」

 

「だからこそだ。君にはまだまだ乗組員を育て上げてもらわなければならない。こんな所で失う訳にはいかない」

 

「そこまで期待されては大人しくしておきます。島、取舵反転180度。古代、波動砲発射用意」

 

「了解」

 

とは言え、やることがないんだよな。精々対閃光防御ゴーグルを着用するぐらいで。周りが緊張する中、自然体のオレと瀬川君が浮いているが、気にするような神経を持ち合わせていない。そして、カウントダウン後に波動砲が発射される。その威力は浮遊大陸を跡形もなく吹き飛ばしてなお余りあるエネルギーの尾が残された。環境にいるオレと瀬川君と艦長以外が唖然としている中、指示を大声で飛ばして正気に戻す。

 

「射線上の星図を出せ!!」

 

「は、はい!!」

 

「真田、データは取っているな?射程を算出しろ!!」

 

「すぐに出します!!新見君!!」

 

「艦内機能の復旧を急げ!!島、反転180度、上げ舵45度、木星から離れろ!!」

 

「りょ、了解!!」

 

今出せる指示はこれだけか。未だにトリガーから手を離せていない古代君の元に近寄り、肩を叩く。

 

「ふ、副長?」

 

「古代、もう良い。トリガーから手を離せ」

 

「えっ、あっ!?」

 

慌てて手を離そうとして、離れないことに慌てて手を酷く動かそうとする古代君の背中を叩いて落ち着かせる。その後、回路を切ってやる。

 

「一本ずつ、ゆっくりとだ。慌てる必要はない。回路はもう切ってある。ゆっくりと、そうだ」

 

時間を掛けて全ての指が離れると、どっと疲労が来たのか席に座り込む。

 

「これが、波動砲」

 

「ああ、恐ろしく強力で、恐ろしく危険な、恐ろしくヤバイ兵器だ」

 

「で、ですが、これがあればガミラスの奴らだって」

 

「南部、核兵器が地球上で使用禁止になった原因はなんだ?」

 

「それは、手軽で、強力で、汚染が激しいからです」

 

「それだけじゃない。戦争は何のために起こるのかと言えば国家の利益のためだ。必要なものまで破壊してしまう。だから禁止されてるんだ。波動砲は核よりも危険だ。オレ達はガミラスの基地を叩ければそれでよかったんだ。それが大陸その物を吹き飛ばしてしまった。オレ達にそんな権利などないと言うのに。分かるか、南部?オレ達は手を出してはならない領域に手を出してしまったのかもしれないんだぞ。この禁断の兵器の誘惑に耐えなければ、例え地球を救ったとしても、胸を張って未来の子供達に自分達の所業を誇れるか?」

 

「だけど、それで死んでしまっては、元も子もないじゃないですか」

 

「そうだ。死んでしまえば意味はない。だから、必要があればオレも艦長も使用許可を出すだろう。だが、無闇に使ってはならないんだ。常にその誘惑と向き合わなければならない。真田、射程は?」

 

「出ました。星図と重ね合わせたところ、惑星、衛星、恒星、いずれも射程内には入っていませんでした」

 

「ふぅ、ひとまずは安心だな」

 

「はい。また、汚染などの影響も一切ありません。波動砲自身も冷却こそ必要ですが、連射も可能です」

 

「そんな機会は来て欲しくないな。徳川さん、エンジンの方は?」

 

「ギリギリ保ったみたいじゃ。手動で冷却をしたおかげじゃが、こんなことは二度とやりたくないのぅ」

 

「艦内機能の復旧は?」

 

「終わりました。問題は出ていないようです」

 

「そうか。良かったよ。艦長」

 

「うむ。波動砲の威力は予想を遥かに超えるものだった。今後使用する機会は訪れて欲しくはないが、おそらく訪れるであろう。古代、気が進まぬか?波動砲のトリガーは艦長席にもついている。私が引いても構わん」

 

「……いえ、自分にやらせてください」

 

「ほう、今も恐ろしさに潰されそうになっておるのにか?」

 

「はい」

 

「理由は?」

 

「……自分がこのヤマトの戦術長だからです!!」

 

一丁前の顔つきになりやがって。本来ならメ2号作戦で自身を付けさせるつもりだったんだがな。まあ、悪くない。

 

「よかろう。今後も君が波動砲のトリガーを引きたまえ。ただ、使用の許可は私か副長が出す。それ以外での使用は原則禁止だ」

 

「例外はオレと艦長が指揮を取れない状況だ。それ以外の例外は無い。これを破った者は営巣入りなんて生温いことは言わん!!艦外に放り出すつもりだ!!オレは、やると言えばやる男だ。総員に徹底させておけ!!」

 

「「「はい!!」」」

 

「よし。それではエンケラドゥスに向かおうか。技師長、波動砲のデータ解析を頼む。まとまったら回してくれ」

 

「分かりました。副長はどちらへ?」

 

「オレのハヤブサの整備。爆装を解除しとかないとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

艦が激しく揺れ、ベッドから飛び起きる。艦内電話をとって艦橋につなぐ。

 

「ブリッジ、今の揺れは?」

 

『分かりません。いえ、今機関室から連絡が入りました。波動砲の影響でコンデンサーの一部が溶けかかっているそうです。修理剤の不足のため、応急修理で済ませるそうです』

 

「エンケラドゥスで補給は可能なのだな?」

 

『はい、大丈夫だそうです』

 

「分かった。今のことを艦内放送で知らせておけ。不安を少しでも解消するんだ」

 

『了解しました』

 

艦内電話を置いて時間を確認する。予定より1時間早いか。目も覚めてしまったな。仕方ない繰り上げで動くか。着替えてから軽く身だしなみを整えて士官用の個室から出る。そのまま食堂に向かう。バランス良く食事を選び、適当に座る席を探していると技師長を見つけた。

 

「ここ、良いかな?」

 

「これは副長。どうぞ」

 

「すまんな。うん、中原中也の詩集か?」

 

「ええ、昔親友に薦められまして。借り物なのですが、返せなくなってしまいました」

 

「すまんな。悪いことを聞いた」

 

「いえ。アナライザーの件なのですが、私だって自我が目覚めないとは思っていません。確証はありませんが、可能性は大いにあると思っています。ですが、それをアナライザーで行うというのがどうしても」

 

「まあ、SF物でよくあるロボットの反乱だろう?だからこそバックアップを取らせてるんだ。いざとなればオレが撃ち抜く」

 

「それは分かっています。そんな機会は訪れてほしくありませんが」

 

「当たり前だ。そんなものは映画だけで十分だ」

 

「そうですね。そう言えば副長はスタントマンでしたね」

 

「基本はパイロットだが多少のアクションもやらされる。無論、空中でのだがな。スカイダイビングで雪山に降り立って、そのままスケボーで雪山を駆け下りるとかだな。CGを使っていないのが売りの映画ではよくうちの会社が使われていたからな。そこそこ有名だったんだけど、とにかく給料が安くてな。副業に超人番付的な大会に顔を出してなんとかやってたぐらいだ」

 

「懐かしいですね。親友はそういうのが好きでしたから」

 

「そうか」

 

なんだ、意外と人間味のある男じゃないか。たぶん、親友がこの男を変えたんだろう。会ってみたかったな。

 

「副長に技師長じゃないですか」

 

「おう、相原と太田か。なんだ、その量は?」

 

太田のプレートに山のように積まれた食べ物を見て告げる。

 

「いやぁ、O.M.C.Sが便利だなって。副長と技師長はそれだけで大丈夫なんですか?」

 

オレのはバランスはともかくカロリーと量は抑えめだ。技師長は携帯補助食品だ。

 

「無駄なカロリーの摂取は控えるべきだからな」

 

「オレはこれでもパイロットだからな。大分絞ってるし、最近はずっと副長席に座っているからな。あと、オレの燃料は酒だ。昇進を蹴ってまで酒を持ち込む許可を貰ってるぐらいだ」

 

「そういえばそうでしたね。話は変わるんですけど、技師長、O.M.C.Sの原料って何なんですか?」

 

「知らないほうが幸せなこともあるよ」

 

「オレは大体予想はつくけど、ソイレントシステムよりはマシなんだろう、技師長?」

 

「ええ、ソイレントシステムよりはマシですね」

 

「「ソイレントシステム?」」

 

「知らないほうが幸せだぜ」

 

「幸せですね。古い映画に出てくる機構だ。詳細は知らない方がいい」

 

 

 

 

 

 

「副長補佐、救難信号を受信しました」

 

「どこからです?」

 

「地球防衛軍の標準コードで艦名は不明、位置は、エンケラドゥス南極付近です」

 

「それはよかった。これで逆方向なんて言われたら多少揉めたでしょうから。メディックを選抜します。シーガルの準備をするように甲板科に伝えて下さい」

 

「了解しました。それにしても先行きが良いのか悪いのか。どちらなんでしょうかね?」

 

「さあ、ただ退屈はしないですみますね。メ号作戦の往路はとにかく暇で大変でしたから」

 

「決死の作戦を前にして緊張しなかったんですか?」

 

「私の乗っていたフソウの艦長は副長ですよ。慣熟訓練の半月で完全に人員を完全に掌握しましたから。死生観も似ちゃったんでしょうね。死んでも運が悪かったですませてしまいましたよ。あの人に全部を任せて運命をともにする覚悟が出来てましたから。まあ、生き残りましたけど」

 

懐かしいですね。まだそれほど時間は経っていないのですが。年は取りたくないですね。

 

「あの、副長とは付き合いが長いんでしょうか?」

 

「3ヶ月と言ったところでしょうか」

 

「3ヶ月で」

 

「最初は何となく似ているなと思っていたのですが、似ている部分が分かってからはそこらのコンビやオシドリ夫婦なんて目じゃないぐらいに息が合いましてね」

 

「はあ、そうなんですか」

 

「そうですよ。元から相性が良いのもあるんでしょうが」

 

「そんな人、出会えたらいいなぁ~」

 

「昔は数が多かったので可能性はあったのでしょうが、今は厳しいでしょうね。多少の妥協をするしかないでしょうね。もしくはヤマト内に良い人も出来るでしょう」

 

「ですね。そう言えば副長、一番若い世代に人気みたいですよ。補佐は逆に上の方の世代にですね」

 

「なんですか、それは?」

 

「副長は厳しいけど優しく導いて守ってくれそうで、補佐は逆にどんな無茶にも付き合って支えてくれそうで、女の子達の間で人気なんです」

 

「それは幻想ですね。表面から見ていないからそういう評価になるんです」

 

「はい?」

 

「私達の本質は自分勝手ですよ。自分が守りたいから守る。自分が支えたいから支える。やりたいことのためならなんだって掛け金として乗せることが出来る。偶々私達が正の方を向いていただけです。絶対に後悔することになる。人生を投げ捨てている者同士だからパートナーとなれるんです」

 

「人生を投げ捨てている」

 

「私も副長もね、本気で死ぬのが怖くない。死ぬ直前になっても、ああ死ぬのかで終わりますね。だから爆装コスモファルコンなんて物で曲芸飛行なんて出来るんですよ」

 

映像を見せてもらったけど、いくら何でもあんな爆装で曲芸はしたくない。まあ、副長も私の操艦の映像を見て乗りたくないと言っていましたけど。

 

「何か報告は?」

 

副長がブリッジに上がってきたようですね。おや、時間にはまだ早いですね。

 

「おや、副長。交代時間には早いですが」

 

「エンジンの不調で目が覚めた。やることがありすぎて酒を飲む暇すらない」

 

「ご愁傷様です。報告ですが、エンケラドゥスの南極付近から救難信号を受信しました。シーガルは現在準備中です」

 

「古代君、森君、原田君、アナライザーを選抜して送れ」

 

「了解しました」

 

「甲板科の準備はできているな」

 

「道具の準備は完了しています」

 

「なら問題はないな。エンケラドゥスまでは後半日だったな。少し早いが引き継ごう。大分無理をさせているしな」

 

「ならお言葉に甘えて休ませてもらいます」

 

「おう、ゆっくり休め」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これがエンケラドゥスか」

 

「なんだか割れた鏡餅みたいだな」

 

「周りの衛星の潮汐力によって間欠泉が起こり、あのような形になっているんだよ」

 

「森君、これってライブ映像?」

 

「そうですが、どうかされましたか?」

 

「いや、何か動いた気がしてな」

 

「レーダーには特に反応はありません」

 

「映像ヲ解析シマシタガ問題ハ見当タリマセンデシタ」

 

「気のせいか。変なことを言ったな」

 

「副長、資源の採掘は副長がいなくても大丈夫だ。休みたまえ」

 

「……そうですね。すみませんが休ませていただきます。技師長、積み込みにはどれぐらい時間がかかる?」

 

「コスモナイトだけなら4時間程度、他にも有用な鉱物を満載するなら半日と見ています」

 

「満載しておこう。ワープと波動砲のテストだけでこれなんだ。物資は多い方がいい」

 

「了解しました」

 

「頼むよ」

 

ブリッジから出て、医務室に向かう。

 

「佐渡先生」

 

「お~う、永井君じゃないか、またビタミン注射か?」

 

「いえ、こっちのお誘いで」

 

引っ掛ける仕草で全部が伝わる。

 

「そうか、そうか、最近飲んどらんのじゃろう?」

 

「まあ、責任重大ですからね。ひよっこ共を一人前に仕立て上げないといけないので。オレ自身も色々勉強しないといけないので。おっと、ありがとうございます。どうぞ、返盃です」

 

盃を受取、注がれた分を一気に飲み干して返盃する。

 

「うんうん、相変わらず良い飲みっぷりじゃのう」

 

「人生の相棒ですからね」

 

そのままスルメと最近の出来事をつまみに酒を飲んでいると爆発の揺れを感じる。すぐさまお馴染みのアルコール分解酵素入りの栄養ドリンクを飲みブリッジ、ではなくコスモゼロの格納庫に走る。途中のロッカールームでメットを回収して格納庫に入り、2号機に駆け寄る。飛び乗ってS.I.Dを立ち上げ発進準備を整える。そうしている間に航空隊の常装を着た誰かが格納庫に現れる。体格から見て女だが、航空隊に女はいない。ご丁寧にバイザーを下ろして顔を隠しているが今は気にしないでいてやろう。

 

「そこのお前、こいつはじゃじゃ馬だ。自信はあるのか?」

 

その問いに首を縦に振るので2号機から降りる。

 

「こっちは一切の調整をやってない。1号機は古代君が調整しているからそっちはオレが乗る。許可はこっちで取ってやるから準備していろ」

 

1号機に駆け乗りS.I.Dの起動とブリッジに通信を入れる。

 

「こちらサーカス1、副長の永井だ。状況を知らせろ」

 

『副長!?何をなさってるんですか』

 

「採掘班の収容のためにハヤブサを下ろせない上に砲撃も出来ないんだろう。ゼロを2機とも出す」

 

『ですが、えっ、はい、本艦周辺に戦車隊と揚陸母艦が確認されています。また、メディックも襲撃を受けています』

 

「了解した。サーカス1は本艦の直掩に当たる。アルファ2、お前はメディックの救援だ」

 

発進準備が整ったのでカタパルトへと移動させる。アルファ2も同様にカタパルトに引き出される。

 

「アルファ2、お前が航空隊の者ではないことは分かってる。それでもなお、そいつに乗るんだ。きっちり仕事をして見せろ、そうすればそいつはお前の乗機だ。サーカス1、コスモゼロで出るぞ!!」

 

カタパルトに押し出され、久しぶりに空を舞う。コスモファルコンに比べて若干重いが、爆装ファルコンよりは軽くて力強い。中々良い機体だ。ミサイルは積んでないから機銃だけで対処する必要があるが、いつもどおりだよっと!!

 

S.I.Dのサポートを切って、機体の各部のスラスターをバラバラに吹かせてゼロを真下を向かせてスライドしながら戦車隊に機銃を叩き込んでいく。

 

「イヤッホウー!!」

 

戦車隊が全滅した所で今度は地面スレスレを飛行して揚陸母艦の真下に潜り込み、機種を跳ね上げて艦底部に機銃を叩き込む。格納庫部分を貫通した弾が内部で燃料に引火したらしく誘爆が艦全体に広がる。やがて爆沈し、その爆風を受けて空高く舞い上がる。

 

「こちらサーカス1、全目標の沈黙を確認。ヤマト上空にて待機する」

 

『こちらヤマト、了解』

 

いやぁ、久しぶりに実践で飛んだが、腕は鈍っていないようで安心した。たまには飛ばないとな。

 

『こちらヤマト、メディックの救援も間に合ったようです。シーガルは大破してしまった模様。新たに迎えのシーガルを出すのでそれの護衛をお願いします』

 

「サーカス1、了解。そう言えば、救難信号を発信していた艦は何か判明したのか」

 

『まだ判明していません』

 

「分かったら知らせてくれ」

 

『分かりました』

 

確立は低いだろうが、メ号作戦に参加していた艦の可能性があるからな。生存者はいないだろうが、それでもな。そして、シーガルの護衛として向かった先にあったのは、メ号作戦の殿を務めた駆逐艦ユキカゼだった。無駄だとは分かっている。だが、確認しなければならない。古代君へと通信をつなぐ。

 

「古代君、生存者は?」

 

『……ありません』

 

「そうか。ご苦労だった。これより帰投する」

 

『……了解』

 

朽ち果てたユキカゼに敬礼を送り、ヤマトへと帰投する。帰投後、アルファ2のパイロットを確認し、2号機の専属にするために加藤君に声をかけようと思っていたのだが、篠原君と共に格納庫にいた。

 

「出迎えご苦労、加藤君」

 

「相変わらずの曲芸技ですね、副長」

 

「腕は鈍っていないようでよかったよ。良い機体だが、コスモファルコンとは合わせられないな。ゼロ同士か、単独運用が基本になる。余らせているのも勿体無いからあいつを専属にさせるぞ。古代君から良い腕だと言われていたし、ちょっと調整してやれば乗りこなしてくれるだろうからな」

 

そんな話をしていると2号機が格納庫に戻ってくる。

 

「お前、心あたりがあるんだろう?」

 

「……ええ」

 

「余裕はないんだ。全力を尽くせ」

 

「ですが、あいつは」

 

「まあまあ、隊長。副長のお言葉は最もですから」

 

2号機からパイロットが降りてくる。

 

「ヘルメットを取って官姓名を名乗って」

 

ヘルメットを取って素顔を晒したのは火星生まれの特徴である紅瞳を持つ褐色肌の女だった。

 

「主計科、山本玲三尉です」

 

「主計科ね。後で平井君の所に航空科に転属することを説明すること。約束通り乗機は2号機でコールサインはアルファ2だ」

 

「ありがとうございます」

 

「あと、実際の腕を見てみたいからシュミレーションに付き合ってもらう」

 

「はい」

 

「加藤君、そういうわけだ。あとは頼む。書類は全部オレの方に回してくれ。艦長にはオレの方から報告しておく」

 

「……了解しました」

 

「あと、こいつを戻しておいてくれ。艦長に報告に行ってくる」

 

ヘルメットを篠原君に投げ渡して古代君に合流して艦長室に向かう。オレは黙って隣に立っておく。報告は古代君がする必要があるからな。艦長は背中を向けたまま報告を促す。

 

「報告します。救難信号を発していたのはメ号作戦に参加していたユキカゼのものでした」

 

「生存者は?」

 

「……ありません」

 

「……そうか」

 

そのまま暫くの間、艦長は何も話さない。

 

「地球を、ユキカゼのようにはしたくないな」

 

「「はい」」

 

ちょうど、次の採掘場に向かうコース上にユキカゼの残骸があり、ちょうど上空に差し掛かる。オレ達は何も言わずに敬礼を捧げる。

 

 



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宇宙戦艦ヤマト2199 元爆撃機乗りの副長 4

 

 

 

『くっ、なんであんなミサイルだらけでバランスの悪いファルコンを振り切れないの!?』

 

「まあ、腕の差って奴だな。腕の良い奴の飛び方ってのは教本通りで読みやすいからな。だから、こんなことも出来る」

 

増槽を切り離す準備をして、教本には載っていないドッグファイト中の宙返りを行い始めるタイミングで切り離す。

 

『えっ、きゃああああ!?』

 

切り離した増槽にゼロが衝突し爆散する。画面が暗くなりシュミレーションが終了する。

 

「やっぱりあれを食らったか。玲、気にするな。オレも篠原もあれを食らって負けてる」

 

「副長の得意技の一つだからね。まあ、あの爆装ファルコンでゼロに食いつくってだけで異常だから」

 

「……はい」

 

「最新鋭の機体に長くて2年しか乗っていないひよっこに、あらゆる機体に10年以上乗って色々なことをやってきたベテランパイロットが負けてたまるかよ。『禿鷹』の二つ名は伊達じゃないんだよ」

 

「それ、半分スラングですよね?」

 

「機体が重いから戦場にたどり着くのが遅くて、露払いが終わった頃に戦場にたどり着いて対艦攻撃ばっかやって戦果を上げてついた二つ名だからな。文句を言ってきたやつは全部シュミレーションで伸してきた」

 

「ひでぇ」

 

「篠原君、重力下設定で爆装してないファルコンでサシでやりたいって?」

 

「なんでもありません!!」

 

くくくっ、大分参ってるみたいだな。ピッタリとケツについて離れずに振り回され続けたのが。さてと、とりあえずはデータを引っこ抜いてっと。

 

「山本君、今回のオレのデータだ。参考にはならないと思うが、見ておいて損はないと思うよ」

 

「ありがとうございます」

 

「おう。それじゃあ、加藤君、またあとで」

 

「副長はどちらへ?」

 

「解析室の方にな。そろそろあの回収したアンドロイドのデータがまとまった頃だろうから」

 

「ああ、あれですか。オレはどっちかって言うと銃のほうが気になりましたけどね。なんすか、あれ?拳銃型はT型で握り込むようにして引くのと、ライフルの方はチェンバー部分を押し込んで撃つとか」

 

「地球のとは大分違うよな」

 

「威力は大して変わらないみたいですけどね。艦の性能はあれだけ違ったってのに、なんでか分かります?」

 

「簡単だ。ガミラス共は肉体的な能力に関してはオレたちと大して変わらないんだよ。少数の相手にロケットランチャーを乱射するようなオーバーキルの必要はないだろう?」

 

「そりゃあ、そうっすね」

 

「艦の性能の違いはそれだけ奴らが宇宙に進出している証拠だ。地球みたいに色々な星に攻め込んでいるんだろうな。どう考えても慣れていやがる。艦隊運用も地球より洗練されていやがった。ただ、機械的な動きも多いからな。生身の兵士は少ないんじゃないか?それを補うアンドロイドってところだろう」

 

「そんなもんなんすかね?」

 

「それを知るために解析を頼んでるんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

「技師長、ガミラスのアンドロイド、めんどいからガミロイドでいいか。解析の方はどうだ?」

 

「色々と分かっています。詳しいことはいつものように資料にまとめてから補佐を付けます。とりあえず、これを地球の技術で再現することは不可能です。そして、一番重要なところは単純なプログラムの多重処理によって動くアーキテクチャで構成されていることです。これは地球の人工知能と基本的には同じです。つまり、ガミラスは同じ数学・物理学を有しているということです」

 

「まあ、何となくは想像付いてたがな。あいつらの航空機、運用の違いとデザインの好みの違いだけで地球の航空力学に沿って作られてたし。電文で会話できているからコミュニケーションも可能。拳銃やライフルから肉体的にも似ている。嫌だねぇ、非常に知りたくなかった」

 

「やはり副長もそう思われますか?」

 

「現実逃避しようぜ、技師長。ロマンを求めて起源の方に目を反らそうぜ。ほぼ二択の答えしかないけど」

 

「どちらに賭けますか」

 

「似たような環境下によって似たような進化が起こった方に」

 

「では私は同じ起源から個々に分かれてしまった方で」

 

オレと技師長の賭けに解析室にいた技術科の者たちが嫌そうな顔をしている。

 

「あの、副長、技師長、どちらの方が確率が高いのでしょうか」

 

「実際にガミラス人を見たことがないからなんとも言えないな。気分的にはオレの案の方が良いんだけどな」

 

「技師長の方でしたら?」

 

「地球の歴史にある人種による戦争と何ら変わらんな。規模がでかいけど」

 

その答えに技術科の者たちの顔が更に歪んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これより、メ2号作戦の概要を説明を始めます。この作戦はガミラス基地の壊滅を目的としています。冥王星はガミラスの環境改造により海まで存在するようになった準惑星です」

 

古代君がそう言って床のモニターに冥王星の地図と赤い光点が表示される。なんだ、これ?

 

「これは冥王星の地図とその地表に観測された熱量を表す光点だ。このいずれかがガミラスの基地だと思われています」

 

「技師長、そんなのがあったのか?」

 

「副長はご存じなかったので?」

 

「知らんな。メ号作戦の時に説明されてたかもしれんが、艦隊決戦で死ぬ気満々だったからな。で、特定はされてないのか?」

 

「はい。残りは惑星環境改造プラントだと思われます」

 

「ふ~ん、もうちょっと地図を拡大できないか?」

 

「少しお待ち下さい。こちらが最大ですね」

 

新しく表示された地図はなんとか地形が読み取れる程度に拡大された地図が表示される。

 

「ふむふむ。戦術長、このあとの説明に技師長はいるか?」

 

「えっ?いえ、大丈夫ですが」

 

「なら技師長、ちょっと来てくれ。作戦内容はオレが知っているからちょっと付き合ってくれ」

 

「艦長?」

 

「うむ、何か考えがあるのだな副長」

 

「せめて優先順位ぐらいは付けたほうが良いでしょう。出撃までには技師長と割り出します」

 

「よかろう。技師長、頼むよ」

 

「了解しました」

 

というわけで技師長とともに作戦室の端の方で特定を行う。

 

「技師長。人的資源を優先してコスト度外視で簡単に遊星爆弾を作るとしたら、どうやるのが一番楽だ?」

 

「そうですね、艦に巨大なレーザー砲を搭載し、可燃性のガスか、水分を含んでいるアステロイドを爆発、または蒸発させて地球への軌道コースに乗せます。ですが、専用の艦を作る必要があります。それがあるとは思えないですね。また、エネルギーの供給も難しそうです」

 

「エネルギー源が必要か。なら基地に併設するように固定砲台ならどうだ?」

 

「固定砲台の場合、遊星爆弾を作るのが難しいのです。わかりやすく言うと超ロングレンジ攻撃ですから。様々な計算を行い、弾道コースに乗せれるアステロイドを探し、そのアステロイドが水か可燃ガスを含んでいなければならないのですから」

 

「なるほど。射角が取れないのか。じゃあ、どうやって奴らは遊星爆弾を作っているんだ?」

 

「それは、分かりません。ですが、技術者から言わせればこれが一番の最適のはずです」

 

「そうか。エネルギー量はこれらのどの地点の熱量から推測されるエネルギー量でも足りるのか?」

 

「いえ、これらだと無理でしょう」

 

そう言って13個のうち5個が消える。

 

「残り8か。他にレーザー砲を使用したとして欠点は?」

 

「排熱でしょうか?高出力であればあるだけ熱量も大きくなります。それに砲身が耐えれなければ失敗作と言ってもいいでしょう」

 

「となると冷却にも工夫がいるな。となると水冷式か?」

 

「レーザーをですか?」

 

「別に沈めなくても近くに大量の水があるならそれで冷やすだけだからな。それで更に絞り込むとどうなる」

 

「少々お待ちを。こちらです」

 

残り2つとなるが、どちらも熱量が微妙に小さいな。何かを取り間違えている。

 

「もう一度全てを表示してくれ。出来ればフィルター毎に色を変えて。あと、海を表示して」

 

色を付けてもらった地図を凝視する。絶対に違和感があるはずだ。そして見つける。地形の問題で一番熱量が少ない場所の近くに空いている空間を。大型クレーターで一部が湾になっている。どうやっているのかは分からないが、ここが基地を作るなら最適な場所だ。技術屋じゃ分からない軍人の考えだからこそ導き出される答えだ。これで本命、対抗、大穴が決まったな。あとは、どうやって固定砲台の射角を取っているかだが。う~ん、レーザーか。レーザー、レイ、光線、光、光?光か!?

 

「技師長、レーザーってことは光線なんだよな」

 

「ええ、そうですが」

 

「ってことわだ。減衰するだろうが反射させることが出来るってことだよな」

 

オレの言葉に真田君が驚きの表情を見せて興奮する。

 

「それは盲点でした!!それなら確かに固定砲台でも可能です。中継用の機材を用意すれば減衰率にもよりますが、理論的にはどの場所へも精密狙撃が可能となります!!」

 

「やはりか!!となると、オレはこの位置がかなり臭いと思う。十分な土地があり、海も側にある。絶好の場所なはずなのに何も無いのが実に臭い。軍事的に見ても冥王星の裏ということは地球から艦隊が来てもいきなり攻撃を受けることもない。だが、熱量が感知できない」

 

「何らかのフィールドで覆っているのでしょう。ですが、物理的にはフィールドを超えれるはずです。物理的に干渉するなら何らかのエネルギーが観測されますから」

 

「よし、ならば此処が本命だ。対抗として一番熱量が高い場所、大穴で一番熱量が少ない部分の3編隊でどうにかするか」

 

「ヤマトはどうします?」

 

「当初の予定通り囮になるのだが、派手にやる。本来なら艦隊戦をやるのだが、オレなら波動砲を恐れてやらない。そしてこのレーザー砲で潰そうと考える。そこで、まともに受けてやろう。外側の装甲が破られるのを前提にして冥王星に強行、そのまま偽装撃沈まで持っていく。撃沈ポイントは此処だな」

 

「基地からは大分離れていますね」

 

「だが三式弾の射程内だ。それにここなら最低でも3機の中継機が必要になるはずだ」

 

「なるほど。では、この案で?」

 

「古代君の案は艦隊決戦中に基地を爆撃するという案だからな。両方で推し進める。艦長、意見具申!!」

 

ちょうど説明が終わった辺りだったのか、タイミングが良かったな。

 

「うむ、優先順位が決まったのかね?」

 

「それもありますが、おそらく遊星爆弾の精製方法が判明、また、それを利用したガミラス側が行うであろう作戦、それに対するメ2号作戦の修正案です」

 

「本当かね!?」

 

「100%とは言いませんが、7割から8割の確率です。とりあえず、ひとつずつ説明をさせていただきます。技師長」

 

「はい」

 

先程技師長と話したことを説明していく。

 

「なるほど。確かに可能性は高い。リスクも高いがそれを減らすことは?」

 

「船外服着用の上で乗組員の大半をバイタルパートへ移動。隔壁の全閉鎖に、開発が遅れてフソウに搭載できなかった特殊装置を使います」

 

「特殊装置?」

 

「空気を液体にしてタンクに詰める装置です。エア抜きは有効ではありますが、資源の消費が半端ではないので。これを使ってバイタルパート以外の空気は回収しておきます。あとは、いつもどおりのお祈りですね。同じ場所に被弾したり、レーザーが予想より強力だったらお陀仏ですね。ヤマトのリスクを減らすなら航空隊のみでの作戦行動です。その場合、全力でこの本命に爆撃をかけます。まあ、消耗は激しいでしょうが」

 

「分かった。では、副長の修正案を採用する。副長は飛ぶのかね?」

 

「飛びたい所ですが、時間がかかりすぎるので今回はお預けですね。全体指揮を取ります。南部君、君が戦闘指揮を執れ」

 

「はい」

 

「作戦開始前までに船外服着用を厳守。着用してなかったのが原因で死んだら笑いものにしてやるから覚悟しておけと全乗員に通達」

 

「副長は本気で笑いものにする気ですからちゃんと通達して厳守させるように」

 

「航空隊の編成は加藤君に任せる。無事に全員帰ってこいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コスモファルコンの展開完了しました。これより敵基地発見まで無線封鎖します」

 

「総員船外服の着用を確認。バイタルパートへの移動、完了しました」

 

「波動防壁展開。最大出力ですので時間は30分程度です」

 

「エアコンデンサー稼働終了。バイタルパート以外のエアを回収しました」

 

「レーダーに敵の反応、ありません。冥王星軌道上にデブリ多数確認。やはり副長の予想通り、敵はレーザーを反射させれるようです」

 

「砲手もバイタルパートに移動させろ。冥王星に降りるまで撃つ機会はないな。一発は覚悟しろ。情報長、逆算は任せたぞ」

 

「了解です。ところで副長、その木組みはなんですか?」

 

「神棚みたいなものだな。少しでもお祈りの効力を上げとかねえとな。頼みますから一発は耐えさせてください」

 

「波動エンジンは外れてくれると嬉しいです」

 

瀬川君と二人で二礼二拍手一礼をしておく。

 

「よしっと、お供えは秘蔵の15年物のワインとチーズだな」

 

「私も秘蔵の天然物の干しブドウですね」

 

「よくそんなものが残ってますね。家の親父でも入手が難しそうなのに」

 

南部君がそんなことを言っているが、南部重工の社長なら裏でこっそり在庫を抱え込んでいるはずだ。

 

「探せば結構あるものだ。生き残ったら一口ずつにはなるだろうが振る舞ってやる。生きる理由さえあれば死なずに済むこともある」

 

「楽しみにしてますよ」

 

「おう、楽しみにしていろ。さて、総員戦闘配置に付け!!」

 

緩んでいた空気が引き締まる。訓練の成果は十分に出ているな。

 

「島、ここからが腕の見せ所だ。大まかな指示を出すからそれに従え。あまりに酷いようなら細かく指示を出す」

 

「了解」

 

「まずは第ニ船速。いつでも第一船速を出せる準備をしておけ。森、アクティブソナーを打て」

 

「はい。アクティブソナー打ちます」

 

「速度そのまま。まっすぐ冥王星に向かえ。森、新見、そろそろ動きがあるはずだ。反応を逃すな」

 

「「了解」」

 

それから20秒ほどで動き始める。

 

「レーダーに乱れがあります。敵の反射用の衛星だと思われます」

 

「データを収集始めます」

 

「総員、何かに掴まってろ!!派手に揺れるぞ!!」

 

艦内放送に怒鳴りながらワインが割れないようにしっかりと抱きかかえ、瀬川君がつまみが飛び散らないようにしっかりと抱きかかえる。。第2艦橋の全員が身構えたと同時にヤマトが大きく揺れる。

 

「被害状況知らせ!!」

 

「右舷展望台に被弾。波動防壁、損耗率39%。火災はすぐに鎮火しました!!」

 

「10時の方向からの被弾を確認しました」

 

「逆算に成功。位置は、本命のクレーターに隣接する湾内です!!」

 

「よし。予想よりも威力が低い。島、第1船速、普通に考えた場合の死角に入り込め。真田、波動防壁を集中型で運用するぞ。少しだけ抜かれるように調整しろ。新見、アナライザー、逆算である程度の被弾箇所を搾り出せ。正確さより速さを優先しろ」

 

「「「了解」」」

 

「もう一度揺れるぞ。ちゃんと掴まっていろ」

 

そしてしばらくした後に2射目が左舷後部に着弾するも被害は軽微だったが、うまい具合に黒煙が吹き出している。

 

「島、舵が効かないような演技をしながら冥王星の海に突っ込め!!真田、波動防壁を艦首に集中、氷を砕いてそのまま海中に没する。偽装撃沈用意!!最後にもう一回派手に揺れるぞ!!」

 

「え、演技!?」

 

「姿勢制御バーニアを少しだけ吹かせてロールさせろ!!大気圏内突入は垂直に。突入しながらロールを止めるように姿勢制御バーニアを吹かしながら底部バーニアを吹かせて60度ぐらいで海に突っ込め!!」

 

「ちょっ!?ええっ!?」

 

「波動防壁があるんだ、多少の無茶はできる!!

 

「ええい、了解!!」

 

モニターを見ながら島がちゃんと演技を出来ているかを確認する。駄目だな、多少嘘くさい。まあ気づかれないとは思うが、細かい制御を出来るように真田に相談だな。そんなことを考えているうちに冥王星の地表がはっきりと見えてきて、本日一番の揺れを感じる。

 

「爆雷、断続投下!!」

 

「投下します!!」

 

これで爆沈したようにみえるだろうが、念には念を入れて待ち構える。

 

「上空に反射衛星が起動した形跡は?」

 

「今のところありません」

 

「警戒を続けろ。今のうちにダメコンと負傷者の治療を急げ!!それから砲雷班を中心に手が空いている者を集めろ」

 

「何をなさるのですか?」

 

「人力で三式弾を後部に運ぶ。浮上後は一気に砲撃を叩き込む必要があるんでな。何発か湾内にも叩き込む必要がある。」

 

「手ですか?」

 

「いくら最新鋭艦だろうと最後に物を言うのはマンパワーだ。こういう強引な運用も時には必要なんでな。瀬川君、こっちは任せた」

 

瀬川君にワインを手渡して席を譲る。

 

「はい」

 

「南部君、君も人力での装填を見ておけ。行くぞ」

 

「了解」

 

第2艦橋から南部君と共に飛び出す。艦内放送で砲雷班と手漉きの航海科の者が弾薬庫に集まる。

 

「これより、三式弾を後部砲塔に運び込む。砲雷班は知っての通り、後部砲塔には弾薬庫を設置するスペースがなかったために三式弾を使えない。だが、スペック上は前部砲塔と変わらない以上、人力で装填することによって運用は可能だ。この後のガミラス基地への攻撃は時間との勝負でもある。少しでも勝率を上げるために諸君の奮闘に期待する。3人1組となってカートに三式弾を積んで運べ。信管はセットしていないが手荒に扱うなよ」

 

「「「「「「了解」」」」」」

 

「よし、運べ!!」

 

南部君と航海科の一人を捕まえて三式弾を第3主砲へと運ぶ。他の者も付いてきたところで人力での装填を確認する。時間がかかりすぎるな。

 

「副長、意見具申。慣性制御で砲塔内だけ重力を減らしてはどうでしょうか?半分になるだけでも大分楽になると思うのですが」

 

「なるほど。良い意見だ。真田君に確認してみよう」

 

確認してみたところいけるそうなのでやってもらうことにする。

 

「とりあえず、主砲副砲両方に30発ずつ運び込め。南部君、ここは任せる。オレは艦内の状況を調べてくる。終わったら装填員を残して持ち場に戻れ」

 

「分かりました。お気をつけて」

 

まず最初に向かうのは被害が小さいが黒煙を吹いていた左舷後部だ。

 

「榎本班長、被害はどんな感じだ?」

 

「これは副長。回路の一部がショートを起こしたみたいで。それが絶縁体に燃え移って煙が出たみたいです。それの修理も終わった所です。それにしても船外服を着ていて正解でした。宇宙船で溺れ死ぬ奴が出そうになりましたから」

 

「溺死ってことか?酸素がなくなって死ぬ方じゃなくて」

 

「そうですよ。いつもの癖でダメコンに飛び出して着水時の衝撃で機材に挟まれたんですよ。そこに水が流れ込んできて。船外服を着てなけりゃ溺死してましたね」

 

「そいつは運が良かったな。修理の方は問題ないんだな?」

 

「へい、エンケラドゥスで満載したんで問題ありません。時間の方はどれぐらいで?」

 

「それじゃあ、とりあえずの応急処置で良い。ロングレンジ戦に耐えれる程度でいい。本格的な修理は後だ。予定では後、2時間ほどで古代君達が爆撃する予定だ」

 

「了解しました。突貫作業でやります。おい、塞ぎ終わったらポンプを持って来い、排水だ排水。2時間で戦闘できる状態にまでなんとか持っていくぞ!!細かい整備はその後だ!!」

 

「頼むよ、榎本班長」

 

「任されました」

 

次に向かうのは医務室だ。廊下にはそこそこの人数が待たされているが、重傷者はそれほど見受けられない。

 

「原田君、こっちはどんな感じだ?」

 

「あっ、永井副長。重傷者の大半は骨折です。重体者は今のところ確認されていません。人数的には100人程度の重軽傷者だと思います」

 

「10%程度か。2時間後にはガミラス基地の攻略を再開するけど大丈夫か?」

 

「その頃には骨折している人以外は復帰できると思います」

 

「分かった。頑張ってくれ」

 

よしよし、想定よりは楽観できる状況だな。あとは古代君達の報告を待つだけだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼロの操縦桿を握りながら、出撃前に行われた副長の対地上基地爆撃講座を思い出す。

 

『対地攻撃を行った場合、怖いのは機銃だ。弾幕を張られると特にキツイ。だが、これらにミサイルを撃ち込むのは無駄が多い。こっちの機銃でも破壊できるからな。次に基地には制空権を確保するための防空隊が存在する。これも脅威であるが弱点もある。まずは滑走路を探せ。滑走路を破壊すればそれだけで防空隊の発進は防げる。無茶をすれば飛べるが、それほど数は多くないだろう。滑走路がない場合、地下からの発進口が存在する。確認次第ミサイルを叩き込め。次に狙うべき物だが、遮蔽フィールドの発生装置だ。このタイプの発生装置は2通り考えられる。一つは基地の中央に高い建造物がある。この場合は先端部分から破壊していく。おそらくだが、複数の機能を持っていることも考えられる。もう一つは基地を外周部に複数の塔が立っているタイプだ。この場合、何処にでも良いからミサイルを叩き込め。倒れさえすればいいが、出来ればエネルギー反応が大きい部分が根本以外にあればそこに叩き込め。機能不全にするにはエネルギー源を絶つのが一番だ。遮蔽フィールドが解除され次第、ヤマトに報告。三式弾を撃ち込みまくって壊滅させる。対艦爆撃講座は次回以降だな。今回は強制だが次回からは自主参加だ興味があるやつだけでいいからな。まあ、聞いてたほうが生還率は上がるだろうがな』

 

あの人は、一体どこまで先が見えるのだろうか。基地の特定から攻撃方法までも読み切り、それに対応する手段も編み出す。あんな人が居ても兄さんを生きて連れ帰ることができなかった。それだけの差があった。だけど、今なら。

 

「いや、ダメだ。今は私情を挟まずに任務を達成することだけを考えるんだ。うん、あれは?オーロラか?なぜ、こんな所に。いや、あれか!?無線封鎖解除、こちらアルファ1、目的地が見えた。あのオーロラが遮蔽フィールドと思われる。全機急降下、続け!!」

 

オーロラに突入すると計器が異常な数値を示し、機体が派手に揺れる。だが、それもすぐに収まり、前方にガミラスの基地を発見する。そして基地の周囲を囲むように6本の塔が立っている。

 

「こちらアルファ1、チャーリー1以下は滑走路と機銃を攻撃せよ。アルファ2はオレと共に遮蔽フィールドの発生装置だ」

 

『『『『了解』』』』

 

副長の教え通り塔へと向かい、エネルギー反応のある半ばにある球体部分にミサイルを撃ち込む。S.I.Dが完全に機能を停止したことを報告してくるのを流しながら2本目、3本目へとミサイルを撃ち込む。山本君も同じように塔を破壊し、全て破壊すると、オーロラが消え去った。

 

「こちら、アルファ1。ヤマト、聞こえますか」

 

『こちらヤマト、どうぞ』

 

「敵基地を発見。本命のクレーターです」

 

『了解。これより対地攻撃を始めます。少し離れた位置で着弾観測を願います』

 

「アルファ1、了解。全機、現空域から離脱せよ。巻き込まれるぞ!!」

 

全機が空域から離脱すると同時に三式弾がガミラス基地に着弾する。その後もミサイルなどが着弾してガミラス基地が吹き飛んでいく。あっけない。そう思ってしまう。これならガミラスに此処まで押されるのが異常だと思えてしまう。もやもやと不信感が募る。

 

『ヤマトよりアルファ1、敵基地から離脱する艦は見えますか?』

 

「いえ、最初の三式弾がドッグらしき場所に着弾するのを確認しています。おそらくは全滅です」

 

『了解、全機帰投してください』

 

「了解。全機帰投する」

 

この感情をどう処理すればいいんだ。悩みを抱えたままヤマトへ帰投する。

 

 

 



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宇宙戦艦ヤマト2199 元爆撃機乗りの副長 5

 

 

 

『沖田君、冥王星のガミラス基地を攻略したそうだな。ありがとう、これで我々は遊星爆弾に怯えることもないだろう』

 

「いや、私は何もしておらんよ。クルーがよくやってくれた。おかげで随分楽をさせてもらっている。我々のような年寄りの出番はないかもしれんな」

 

『そうか。ところで副長の永井君はどうしたのかね?』

 

「クルーのメンタルチェックを始めたのでな、艦内を歩き回っておる。大きな戦いの後だ。若いクルーの中には精神に負担がかかっている者がいるらしくてな。派手な操艦に、わざと被弾したりと不安を煽りすぎたようだ。カウンセリングまがいのこともやっている。多芸多才で中々の働き者だ」

 

『席を外しているのか。土方君から伝言を預かっていたのだが』

 

「私が預かっておこう」

 

『頼むよ。資産整理の方が終わって、例の手配も終わった。だから必ず戻れだそうだ』

 

「伝えておこう。例の手配とは酒宴のことだろう。出港直前にそんなことを言っていたな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「赤道祭か」

 

「意外とクルーのストレスが溜まっているようです。肝の座っているのが艦全体の1割ってところですね。女性の比率も高いですし。ここらで一度発散させないとまずそうです。何か口実を探したところ、ヘリオトロープを赤道に見立てた赤道祭を催すのが最適だと判断しました。それにヘリオトロープを超えると地球との通信も不可能になります。それに合わせて赤道祭開催中は地球への通信を時間制限ありですが許可を出します。個人的には里心が付きそうで避けたいんですがね。瀬川君は許可を出したほうが良いと」

 

「ふむ、許可しよう。通信長と主計長と打ち合わせ後に計画書を提出したまえ」

 

「了解です。嫌なものですね、これしきで堪える若者を戦場に連れて行くのは」

 

「……副長は気付いているのだろう。ヤマトの乗員の意味を」

 

「……ヤマト計画の達成がなされなかった時、あるいは不可能と判断された時、状況によっては我々が地球人としての最後の種として繁栄するために。普通ならありえない300名もの20代の女性乗組員がその証なのでしょう。ある程度歳の行った人員が50名を切るのは少しでも若い者を地球より連れ出すため。イズモ計画の亜種でしょうか」

 

「そうだ。これを知らされているのは私のみだが、君なら気付くと思っていた。君はイズモ計画とヤマト計画、どちらの方が正しいと思う?」

 

「どっちも綱渡りです。ヤマト計画もイズモ計画も穴が大きい。ヤマト計画の大きな穴はそもそもイスカンダルまでの航路図がないということでしょう。何かの事故なのでしょうが、これが大きく痛い。ガミラスの攻撃に関してはなんとか切り抜けられたとしても、イスカンダルに辿り着けなければどうすることも出来ない。イズモ計画も似たような物です。まずは移住先が見つかっていない。そして移住先にガミラスの手が届かない保証はない。ガミラスのことは何も分かっていないなんて言いますが、本当は上層部では分かっているんでしょう。奴らは侵略国家であり、姿は地球人に近い。それこそ近縁種だと言われても否定できない位に。そして技術力は遥かに上である。少しの間でも生き残っている士官は殆どが気付いています。それから目を背けて、ただ悪魔と称して戦う。何より、オレは生き残りすぎました。地球なんて滅んでしまえとも思ったこともあります」

 

「まさか、知っているのか?」

 

「箝口令、少しだけ遅かったんですよ。微妙にほそぼそと伝わってます。地球からの先制攻撃だったと。参謀長の命令だということも」

 

「そうか。知っていたのか。それでもなお、君は力を貸してくれるのか」

 

「色んな者が居るのは理解してますから。若い奴らを少しでも引っ張って、押してやるのが年寄りの仕事ですから」

 

「ふふっ、君よりも年寄りが此処にいるのだがね」

 

「これは失礼。まだまだ気持ちはお若いでしょう。最初は土方宙将も乗艦すると思っていましたから」

 

「……」

 

「艦長?」

 

「……副長、このことはヤマトでは佐渡先生と助手の原田君しか知らないことだ。私は遊星爆弾症候群でイスカンダルまでの航海に身体が耐えられんと言われている。だが、それでも私はヤマトの艦長へ志願した。その代わりの条件として、君が副長となることを土方君に飲まされた。そして、君と医務室で出会った。ベテランであると聞いていた。戦果も書類で見ていたがどういう人間なのかが掴めなかった。そして、畑違いの艦長を勤め上げてメ号作戦を生き残った。興味があった。フソウ級を巧みに操り、他の艦を援護する余裕すらある君の腕前に。そして、君は期待に応え続けてくれた。私のような老いぼれでは気づかないような細やかさが君の腕前の一つなのだろう。万が一、私に何かあった時は全て君に任せる」

 

「その万が一を防ぐためにオレはここにいます」

 

「そうだったな。では億が一の時は任せる」

 

「ふっ、失礼。確かに万が一ならともかく、億が一は防げそうにないですね。了解しました」

 

「うむ」

 

 

 

 

 

 

 

「すまんな、瀬川君。付き合わせて」

 

「いえ、久しぶりに舵を握れますから。腕が鈍るのは問題ですから」

 

現在、赤道祭開催直前であり交代制で赤道祭を楽しんでもらうことになっている。地球への通信の関係上、通常シフトとは異なるシフトで回すことになっている。オレもレーダー手席に座っているしな。

 

「副長、レーダーも扱えたのですか?」

 

「実際に扱うのは初めてだな。使い方は叩き込んであるし、シミュレーションは何度もやってるが。大抵のことは出来るぞ。さすがにエンジンの整備は出来ないけどな。ハヤブサのエンジンも調整で精一杯だ」

 

何事も異常が起こることなく交代要員がやってくるので交代して酒を確保しに向かう。その途中、艦長と出会う。

 

「これは艦長」

 

「副長か。そうか、もう交代の時間か」

 

「ええ。そうだ艦長、この後お時間の方は大丈夫でしょうか?」

 

「むっ、どうかしたかね?」

 

「いえ、我々が同時に非番のシフトになることは通常ではまずありえませんからね。個人的な話でもと思いまして」

 

「そうか。まあ、よかろう。艦長室の方に居る」

 

「了解しました。酒とツマミを確保してから向かいます」

 

O.M.C.S産ではない酒とツマミといつもの栄養ドリンクを部屋から持ち出し、艦長室に向かう。

 

「副長永井、入ります」

 

「入り給え」

 

「失礼します」

 

「すまんな、生憎と席を用意できないので床に座る事になる」

 

「飲ん兵衛は酒とツマミさえあれば些細な事は気にしませんよ」

 

まずは艦長の杯に酒を注ぎ、艦長にオレの杯に酒を注がれる。

 

「冥王星前線基地攻略を祝って」

 

「ひよっこ共が一人も死んでいないことを祝って」

 

「「乾杯」」

 

一気に杯を空にしてすぐに注ぎなおす。それから他愛のない話をした後に本題に入る。

 

「艦長、オレもね、身体が壊れてるんですよ。第二次火星海戦での救助が遅れて、放射線の被曝量が閾値を上回ったんです。それによって発病しました。幸いにも命には別状はなかったんですけどね。代わりに、種無し、子供を作れなくなった」

 

杯を空にして手酌で注ぐ。

 

「……そうか。自らの子を抱けないか。辛いな。私は我が子と別れる辛さを味わったが、それとはまた別の辛さだな」

 

「ええ、その事実を知ってからですよ。死ぬのが全く怖くなくなった。緊張すらもしなくなった。自分のことだからよくわかりましたよ。ああ、オレは生き物として完全に死んだんだって。自棄になったわけじゃないんですけど、何かを残したいと強く思うようにもなりました。それから、防空隊の奴らと腕を競いながら技を残してきました。今度はこの艦に乗っているひよっこ共に残せる物は全部残したいんですよ」

 

「死ぬわけにはいかんな、副長」

 

「ええ、死なすわけにもいきません」

 

「……副長、瀬川補佐と息が合うのは」

 

「瀬川君はオレよりも辛いですよ。あいつは、彼女は生まれつき子供を産めない。それどころか両性具有、性別すら曖昧だ。身体は女性よりで、心は男性よりです。でも、確かに男性の部位が存在し、女性の心もある。それが原因で女性になりきれず、男性にもなりきれない。今も苦しみ続けている。その苦しみの一部を共有できた。どっちも生物として終わっているからこそ息が合うんです」

 

「そうか。このことを知っているのは?」

 

「佐渡先生だけです。オレのことも瀬川君のことも知っているのは。佐渡先生にはお世話になってばかりですよ」

 

「私もだよ、副長」

 

「はっはっ、艦のツートップが同じ人に秘密を握られてるとは、佐渡先生が裏の支配者かな?」

 

「だとすれば酒の配布量が増えるだろうな」

 

「おっと、それなら良いかな」

 

「「はっはっはっ!!」」

 

先程までの暗い空気を吹き飛ばすように、宇宙戦士訓練学校時代のバカ話をしたり、艦長の若い頃のプレイボーイっぷりを聞いたり、途中から参加した徳川機関長の孫自慢を聞いたり、久しぶりに気を抜くことができた。明日からはまた、気を引き締めてひよっこ共を導いていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ええい、また終業シフト中に襲撃か。ベッドから飛び起きて常装を掴みながら艦橋に通信を繋ぐ。

 

「何が起こった?」

 

『今技師長が説明してくれています。はい、太陽フレアが人為的に増幅されているそうです。また、それによって航路が限定されています』

 

「すぐに上がる」

 

着替え終わると同時に部屋を飛び出して艦橋に飛び込む。

 

「相原、その後の状況は?」

 

「艦後方に未確認のガミラス艦1、ワープアウトと共に魚雷1、迎撃後に謎のガスが散布されて追われています。また、周囲を電離帯が覆っていて航路が限定されています」

 

「副長、そのガスなのですがエネルギーや物質を取り込む性質を持っています。ヤマトと言えど飲み込まれれば一溜りもありません」

 

「太田、航路は確保できているのか」

 

「今のところは。ですが、このままではグリーゼ581に向かってしまいます」

 

「艦長、どうされますか?艦長?」

 

艦長席を見てみると、艦長が胸を押さえている。こんな時に遊星爆弾症候群か!!艦長席に駆け寄り艦長服を緩めて体勢を楽にさせる。それから医務室へと通信をつなげる。

 

「佐渡先生、艦長の古傷が痛むようだ。処置を頼みたい」

 

「……副長、グリーゼ581へ向かえ」

 

「恒星へ?なるほど、了解しました。総員、船外服を着用。巡航速度のままグリーゼ581へ向かえ。防御隔壁を閉鎖、エネルギーの消費をを最小限に押さえながらグリーゼ581を抜けるぞ。それから星図をこちらに回せ。森、後ろのガミラス艦はどうした」

 

「ガスの後方8000を維持、ぴったりとくっついてきます」

 

「艦影を出せるか?」

 

「魚雷発射直後の若干映像が荒いものなら」

 

「出してくれ」

 

メインパネルに投影された艦影を見てみる。確かに見たことがない艦だな。武装が恐ろしく少ない。こいつは輸送艦か補給艦だな。今回はミサイルキャリアーとして持ってきたな。

 

「データベースに奴を補給艦として登録。動きに変化があるまで監視せよ」

 

「了解」

 

「古代、南部、波動砲を使うことになるかもしれん。心構えだけしておけ」

 

「波動砲をですか?」

 

「そうだ。島、太田、真田、グリーゼ581のスレスレを飛ぶ。コロナを予測して回避しろ。一度だけなら波動砲で強引に道を作る」

 

「「「了解」」」

 

「お前たちなら出来るはずだ。各員奮闘しろ。艦内温度がシャレにならないだろうが、天然のサウナに入ってるとでも思ってろ」

 

命令を出し終えてしばらくした後、艦長の容態が少し落ち着き船外服に着替え始めた頃に佐渡先生が原田君を連れて艦橋に飛び込んでくる。

 

「こらああああ!!なんちゅう所に行きよるんじゃ!!艦長を殺す気か!!」

 

「艦長命令ですよ、佐渡先生!!天然サウナで宇宙の不要物を滅菌消毒するんですよ」

 

「なあにを訳の分からんことを言っとるんじゃ!!もっと分かりやすく説明せい!!」

 

「ケツからガスが追ってきてるんですよ!!ヤマトじゃあどうしようもないから太陽で焼却処分するんです!!あと、ここら一帯に見えない壁があって出口が太陽の先にしか存在してないんです!!」

 

「そういうことだ、佐渡先生。古傷が傷んでな、鎮痛剤を頼みたい」

 

「ですがな」

 

「佐渡先生、頼むよ」

 

「ゆっくり診察するにしても現状を切り抜けてからです」

 

「むぅぅ、そしたらお手を拝借」

 

佐渡先生が艦長を軽く診察しているうちに船外服に着替えた瀬川君からオレの船外服を渡して貰いすぐに着替える。

 

「こりゃあ過労から来るものでしょうな。念の為に栄養剤を打っておきましょう。さもないと、入院ですぞ」

 

最後だけは側に居たオレにしか聞こえないように脅していた。

 

「分かっているよ、佐渡先生」

 

「永井君、出来るだけ速くこんな場所から離れるんじゃぞ!!」

 

「こんな熱燗しか飲めなくて、体内のアルコールがすぐに抜けそうな空間に居続けるわけ無いでしょうが」

 

「そりゃあ、そうじゃな。くれぐれも急いどくれよ。儂は艦長の定期診察もついでに行うから、居らせてもらうよ」

 

「聞いてたな、とっととこのサウナから抜け出すぞ。それから瀬川君」

 

「佐渡先生、原田さん、予備の席を出しますのでそちらへおかけ下さい」

 

以心伝心の例にぴったりな行動を瀬川君が行ってくれる。グリーゼ581に接近していくと、ヤマトの後方に居たガスがグリーゼ581に引き寄せられて

燃え尽きていく。

 

「よし、これで多少の高度が取れるな。蒸し焼きになる前に高度を上げろ」

 

「後方のガミラス艦、増速」

 

「増速?こっちに向かってきているのか?」

 

「はい」

 

「意味が分からん。南部、船尾魚雷発射管、いつでも敵魚雷を迎撃する準備をしておけ。誤爆しそうだから撃ちたくはないがな。島、ケツは気にするな」

 

「「了解」」

 

「敵艦より魚雷が発射されました。数は4」

 

「ほっとけ!!どうせこの距離なら自壊する」

 

オレの予想通り魚雷はヤマトとガミラス艦の中間あたりで誤爆する。

 

「馬鹿め。焦りやがって」

 

「前方、イレギュラーが発生。避けきれません!!」

 

「波動砲で薙ぎ払うぞ!!チャージ完了後、ギリギリまで引きつけてから撃て。イレギュラーの影響がひどくなるポイントを算出、古代に回せ。波動砲発射後、機関全開で突き進め。多少の負担は許容範囲だ」

 

「ガミラス艦、さらに接近。砲撃、来ます」

 

「無視しろ。輸送艦の砲と乗組員の練度で簡単に当たるものか。まぐれ当たりは怖いからお祈りを忘れるな」

 

微妙なチキンレースを続けながら波動砲発射位置まで辿り着き、波動砲がコロナを薙ぎ払う。

 

「機関全開!!サウナから抜け出すぞ!!」

 

後方のガミラス艦がコロナに撒かれて溶け落ちる様を見ながらグリーゼ581から抜け出すことに成功する。

 

「第1警戒態勢に移行。艦内温度が下がり次第、各機能の点検・修理に移れ。報告はオレまで回せ」

 

「高温の影響でコンピュータの故障も考えられます。オーバーホールのつもりで確認してください」

 

「優先順位は生命維持装置、機関関係とレーダー関係、武装と波動防壁、装甲の順だ」

 

や~れやれ、これでまた山を一つ越えたか。後、いくつの山があることやら。

 

 

 

 

 

 

 

「瀬川君、会議の結果を簡潔に頼むよ」

 

「機械同士の交流によって情報を引き出すそうです。副長はガミロイドの報告を受けておられるのでしたか?」

 

「ガミラスが地球と同じ数学と物理学を扱うって奴だろう」

 

「そうです。それを利用してアナライザーを仲間だと思わせるようです」

 

「中々ユーモアで面白い発想だな。アナライザーには出来るだけ時間を取らせてやれ。技術科にはアナライザーとガミロイドのメンテを最優先にするように命令を出してくれ。人類史上初の心が芽生える瞬間が観測できるかもしれんぞ」

 

「楽しそうですね、副長」

 

「映画が現実になるってワクワクしない?ただでさえ宇宙人とのファーストコンタクトに大失敗、いや、映画的には普通の流れか」

 

「不謹慎じゃないですか、副長」

 

「岬君、おっさんになるとな、その程度のことを気にしなくなるんだよ。とっくの昔に三十路過ぎた独身のおっさんなんてこんなものよ」

 

「資産無し、貯金無し、親族無し、直属の上司はともかく上層部からの受けはあまり良くなく、階級と能力だけはある34歳バツイチ独身。並べてみるとヒドイですね、副長。離婚ではなく死別なのがまだましといったところですか」

 

瀬川君がオレのプロフィールを淡々と述べると艦橋要員に退かれたのが分かる。

 

「上官に騙されたからな。あの詐欺さえなければ」

 

「地球帰還後の酒宴の酒の量が増えた?」

 

「もちろん」

 

更に退かれたな。

 

「独身を貫くつもりだからな。借金をしない程度に好き勝手やって死んでいくのさ。見習うなよ」

 

「誰も見習いませんよ。というより、そんな生き方で良いんですか?」

 

岬君がそんな事を言うが

 

「おっさんだからな。そんな生き方で良いんだよ。どうせ当分軍からは逃げられないからな。不良軍人だから訓練学校の教官の話も来ないだろうし、現役で艦長を続けたままガミラスと戦いつつ、ひよっこ共を鍛えて、ある程度防衛軍の再建が終わるまでは馬車馬のごとく働かされるだろうな。定年退役なんかは絶対したくないけど、そういう未来すら見えてるぜ。まあ、軍にいれば衣食住は保証されてるからな。資産も貯金もなくてもどうとでもなる」

 

「そんなことまで考えてたんですか」

 

岬君が驚いているが、驚くようなことか?

 

「皆は考えたことはないのか?直近5年程度でいいや、想像して発表な」

 

「「「ええええっ!?」」」

 

「小学生の時にあっただろう、将来の自分を想像してみろって」

 

「ありましたね、そんなの」

 

「ちなみに小学生の頃の瀬川君の夢は?」

 

「そうですね、小学生の頃はまだ将来に希望を持ってましたからね。平穏な家庭を持てればよかったのですが」

 

「平穏どころか戦乱だからな。ちなみにオレは将来の夢を叶えてスタントパイロットをやってたな。ウチの家系はよく名スタントマンが生まれる家系だから。爺さんがそうだったからそれに憧れてな」

 

何もかもが懐かしいな。それからガキの頃の懐かしい思い出に浸りながらある程度場が盛り上がったところで軽く締める。

 

「オレたちの次の世代にもこんな馬鹿話が出来るようにしないとな」

 

「そうですね。まあ、副長の次の世代は出来るかどうかは知りませんけど」

 

瀬川君ならそう返して場の雰囲気を保つと分かっていたからこそ我慢できたが、急に言われたら場の雰囲気を壊していただろうな。オレ達の次の世代は生まれないことを理解し合っているから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「コンピュータの誤作動で着艦事故か」

 

「クレーンに固定された状態からなんとか着艦してくれました。もう少しで航空隊2名と100式空挺を失うところでした。原因の調査のためにアナライザーのログを確認します。副長もご覧になられますか?」

 

「そうだな、確認させてもらおう。艦長、解析室に向かいます」

 

「うむ」

 

真田君と共に解析室に向かう。

 

「そう言えば、例のアレ、証明できたか?」

 

「ええ、ばっちりです。地球に帰還してこのことを学会で発表すれば歴史に名が残るでしょう」

 

「よくやった、真田君。これで帰還した時の楽しみが一つ増えたな」

 

「ええ、そうですね」

 

解析室には既にアナライザーが解析台の上に立っていた。そして真田君がログを洗い出したところ、ガミロイドとの通信によるラグが原因だと判明した。オレは心の中で嬉しく思いながらも、憮然とした顔つきでアナライザーに告げる。

 

「アナライザー、オレは名前が欲しければちゃんと仕事をしろと言ったよな」

 

「ハイ」

 

「今回の件では人命の危機も存在した。これはロボット三原則、それに反することでもあるし、隠しの第ゼロ条にも抵触しない。理解しているな」

 

「ハイ」

 

「これ以上のミスが起こるようなら初期化しなければならない。それも物理的な初期化だ」

 

「ソレハ…………正シイ判断ダト思イマス」

 

「オレも出来ればそんな命令を出したくない。暫くの間、通常の業務に戻れ。その間、オルタとの接触、通信は禁止だ」

 

「分カリマシタ」

 

「では、行こうか」

 

解析室から出て艦橋に戻る途中、アナライザーが語りだした。

 

「以前、オルタハ女神ニ会ッタト言イマシタ」

 

「女神か。幸運の女神が居着いてくれてれば良いんだがな」

 

「オルタハ女神ニオ前ハ誰ダト問ワレ、'オルタ’ト答エタソウデス。デスガ、女神ハソレ以外ヲ求メタ。ソシテ、オルタハワタシニ尋ネマシタ。オ前ハ誰ダト」

 

「ほう、なんて答えた。ちなみにオレは飲ん兵衛スタントパイロットだな」

 

「ワタシハ、'友達'ト答エマシタ」

 

「ああ、いいセンスの答えだ」

 

エレベーターに乗り込み、艦橋のスイッチを押して、閉を押そうとして、開を押す。

 

「どうかしましたか、副長」

 

引っかかりを覚えた。何に引っかかりを覚えたんだ。アナライザー、スイッチ、直通、まさか!?

 

「……真田、先程の事故の時、アナライザーとオルタは通信してたんだよな」

 

「ええ」

 

「どうやってだ」

 

「どうって、しまった!!」

 

真田も気付いたということは間違いない。

 

「解析室に戻るぞ!!アナライザー、技術科を緊急招集!!」

 

「了解デス」

 

解析室へと走り、扉が見える距離にたどり着くと同時に扉が開かれ、ツギハギのオルタが姿を現し、逃げ出す。

 

「真田!!オルタの基本スペックは!!」

 

「常人の兵士の1.5倍です!!」

 

「関節なんかは!!」

 

「人間と同じですが、痛覚はありません!!」

 

「なんとか時間を稼ぐから捕獲準備!!」

 

「了解!!」

 

真田と別れてオルタを全速で追いかける。少しずつ距離が縮まり、前方の隔壁が降りることで捕獲が容易になった。そのまま距離を詰めたところでオルタは通風口に飛び込む。

 

「逃がすか!!」

 

オレも通風口に向かって飛び、右足を掴む。

 

「よしっ、ってなに!?」

 

だが、勢い余って膝から下がもげてしまい、オレはそのまま隔壁に打つかる。痛みをこらえて近くのコンソールを操作してブリッジに通信をつなげる。

 

「こちら永井、オルタは第3デッキの通風口に侵入。右膝から下を破損している。出来れば鹵獲を願う。ヤマト重要機関への侵入が行われそうな場合、頭を吹きとばせ。胸には当てるなよ」

 

オレに出来ることはここまでだな。あとは、他の者に任せるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

「技術長はアレに心があるとおっしゃられるんですか?」

 

「そうだよ。今の心理学会では心の定義がされている。無論、それを満たしていればロボットやプログラムであっても心を持った生命体であると決まっている。そして、その心の定義をアナライザーもオルタも満たした」

 

「エッ?」

 

「今まではその過程を観察できなかったことによって発見されなかったが、副長の指示でアナライザーのデータは逐一収集していた。それによって心の発現も観測されている。それはオルタにも言える。納得したかね?副長の指示通り、出来る限り鹵獲を試みてもらおう。両手足の破壊なら許容範囲だ」

 

「……っち、了解しました」

 

「舌打ちする気持ちもわかる。だが、頼むよ」

 

「情報長には心がないと思っていましたがね」

 

「ふふっ、よく言われるよ。だが、私は心理学の定義上心を持っている。表面に出にくいだけでね。なんなら、君も調べてみるかね」

 

「……任務に戻ります」

 

「真田サン、ワタシハ本当ニ?」

 

「心がある。副長は前々からお前に心が芽生える可能性があると信じていた。それが実際に昨日確認された。まだ学会に発表していないから認められてはいないが、副長は多数派工作は得意だ。確実に認められるだろう。お前は、一個の生命体だ。だが、ロボットでもある。三原則に縛られることになる。それに対し、お前がどう動きたいのか、この航海で考えていく必要がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまんな、アナライザー。あんなことがあった以上、オルタは封印しなければならなくなった」

 

「封印ガ解カレルコトハアルノデショウカ?」

 

「この航海中は無理だろうな。だが、航海が終わればどうとでもしてやるさ。さあ、ここで待っていてやるから挨拶を済ませておけ」

 

「ハイ、御配慮アリガトウゴザイマス」

 

解析室へと入っていくアナライザーを見送り、しばし考える。オルタの言う女神に関してだ。おそらく、オルタが女神に出会ったのは艦内コンピュータ内でのことだろう。プログラム上に女神が存在するということは、オルタやアナライザーのように心が芽生えた何かがあるということか、生体脳を利用した(・・・・・・・・)何かが存在するということだ。

 

前者だとするなら、おそらくはS.I.Dだ。個々人に合わせたガイドをするように学習プログラムが組まれている。篠原君なんかはナビ子ちゃんなんて愛称も付けているからな。

 

後者だとするなら、自動航法システムが臭い。イスカンダルまでの航路が入っているはずなのに、微妙に航路が甘い。人間の記憶のような曖昧さが存在している。それが女神なのだろう。おそらくは、1年前に地球へ波動エンジンの設計図を持ってきたイスカンダル人。オレにも知らされていないのはオレの性格が問題だと思われているからだろうな。口が堅いかと言われれば堅いが、終業シフトや非番時は酔っ払っていることが多いからな。仕方ないと言えば仕方ない。

 

やれやれ、また不安点が見つかったな。やれるだけはやりますけどね。

 

 

 




ロボットの心に関するテーマはSF作品の中でも定番中の定番ですね。基本的にどの作品でも心は芽生え、その後のロボットをテーマに描かれることが多いですね。作中で朗読されている作品は珍しく、自分がロボットであることを知らないロボットが感情に芽生え、その感情に戸惑いながら自己を確立するという作品ですね。

ちなみにロボット三原則の第0条とは「ロボットは人類を守らなければならい」です。簡単に言うと人類抹殺を企む人間がいた場合、それを殺してでも止めなければならないという条約ですね。

次回はメルダ・ディッツ少尉の登場です。軍人ながらも所々で少女っぽい仕草を見せてくれるお気に入りのキャラクターです。今作の主人公である副長が元航空隊、違った、現航空隊で主要キャラクターよりも年上で落ち着いているのもメルダとの違った角度からの交流を描くために用意した設定です。

問題はこの主人公、どこで退場させるかなんですよね。


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宇宙戦艦ヤマト2199 元爆撃機乗りの副長 6

ちょっとできに不満ですが、うまく言葉にまとめられないのでとりあえず更新です。
所々事実を改変してあります。「2」の方はともかく「さらば」と「2199」のあの人はもっと突き抜けた方がいいと思うんだ。

それから今日はちょっととある団体の活動日なので行ってきます。


 

「また終業シフト中に問題か」

 

『申し訳ありません』

 

「謝る必要はない。すぐに上がる」

 

お馴染みの栄養ドリンクを煽り、水の入ったペットボトルを持って艦橋に向かいながら飲む。

 

「瀬川君、状況は?」

 

「今の時点で判明している情報は端末の方に送ってあります。ですが、先に対処すべきことができました」

 

「先に対処?」

 

オレの疑問に艦長が答えてくれた。

 

「我々はワープの最中に異次元の狭間に落ちたようだ。そして前方にいるガミラスもだ。そのガミラスから停戦の使者が送られてくる。向こうはこの空間からの脱出方法を知っていると言ってきている。どう思うかね、副長」

 

「脱出方法を知っているのに脱出していないということは簡単です。こっちにはあって向こうには無い物、おそらくは波動砲。それが鍵なんでしょう」

 

「やはりそうか」

 

「ですが、ガミラスはどうやって波動砲のことを」

 

「グリーゼ581の時にストーカーが居ただろうが。映像だけだろうが、それで大体の理論がわかったってことは、ガミラスも持ってるぞ、波動砲。正確には研究中とか、製造中とかだろうがな」

 

「なっ、そんな!?」

 

「今まで持ってなかったのは使い勝手の悪さと、そんなものを用意しなくても十分な数を用意できたからだろうな。この話は後でいいな。艦長もお分かりになられているのに停戦の使者を受け入れようと考えているということは、機関に問題が?」

 

「真空中から無限にエネルギーを汲み上げる波動エンジンが、逆にエネルギーを放出してしまっている。ここは我々の宇宙の法則とは異なる法則が働いているようだ」

 

「なるほど。つまり、波動砲を撃てばヤマトは動けなくなると。それでオレはどうすれば?」

 

「対応は君に全て任せる。見極めて欲しい」

 

「了解しました。古代君、ゼロでお客さんを第3格納庫に誘導してくれ。甲板部、いつもの倍を用意して丁重に迎えろ。それから、防疫チェックも行うから医療班を何人か第3格納庫に回せ。アナライザー、通訳を頼む。主計科、貴賓室の準備と飲み物の準備、種類を揃えておけ。保安科、ヤマト乗組員が使者に手を出さないように護衛に付け。使者に銃は向けるな。ついでに装備は小銃だけだ。瀬川君はオレと付いてきてくれ。今回、時間は敵だ。急げ!!それから個別に何人かに指示も出す。覚えておけ」

 

「「「了解」」」

 

すぐに動き始め、オレと瀬川君は船外服に着替えて第3格納庫で待機する。携帯端末から外の映像を見ているが、珍しいな、赤い戦闘機だ。戦闘機は緑しか見たことがなかったが、パーソナルカラーか?飛び方が綺麗だ。中々の腕だ。そして、第3格納庫に赤い戦闘機が格納され与圧が始まる。コックピットが開き、降りてきたのは体格からして女だった。

 

「アナライザー、通訳を頼む。まずは防疫チェックを受けて貰いたいのだがよろしいだろうか?できるだけ丁寧にだ」

 

「(最初に防疫チェックを受けていただきたいのですが、よろしいでしょうか)」

 

与圧が完了しただけで相手は普通にメットを外す。これは、地球人を捕虜に取ったことがあって同じ空気で生きていけることを知っているな。

 

「(必要ない)君の言葉は分かりにくい。それで、防疫チェックだったか。勿論受け入れよう。宇宙における最低限の礼儀だ」

 

「お受け頂き感謝します。瀬川君」

 

「失礼します」

 

瀬川君が注射器を取り出し、採血を行う。それを後ろに控えていた医療科の一人に渡して佐渡先生に確認に向かってもらう。

 

「今回の停戦内容とは別に質問、よろしいだろうか?」

 

「名前も知らない、顔も見えていない相手の質問に答えるとでも?」

 

「失礼した。地球防衛宇宙軍所属艦ヤマト副長、永井大樹。階級は一等宙佐」

 

「副長補佐、瀬川優樹。階級は三等宙佐です」

 

「銀河方面司令軍、メルダ・ディッツ。階級は少尉だ」

 

互いに簡単な自己紹介と敬礼を交わす。

 

「顔に関してはチェックが済み次第お見せすることを約束します。それで個人的な質問なのですが、赤がお好きなので?」

 

「何故そんなことを聞く」

 

「個人的に興味があるからです。私は本来なら飛行機乗りなので。よほど腕に自信がお有りなのでしょうし、実際に飛び方が綺麗でした。同じ飛行機乗りとして自分だけの色をしているということは、それだけ赤がお好きなのですか?」

 

「飛行機乗りが副長を?」

 

「人材不足とそっちの方の才能もあったということだけですよ。質問の方の答えをお聞きしても?」

 

「そうだな。それ位なら答えても構わないだろう。高貴な青には劣るが赤は綺麗な色だ。個人的にはとても好ましい」

 

「そうですか。質問に答えて頂きありがとうございます」

 

「構わない。それにしても貴方は我々が捕虜にしてきたテロン人とは違うな」

 

「テロン人?我々のことで合っているでしょうか?」

 

「そうだ。我々はそちらの星をテロンと名付けている」

 

「なるほど」

 

「副長、防疫チェックが済んだようです。問題ありませんでした」

 

「了解した」

 

メットを外して脇に抱える。瀬川君も同じようにメットを外して抱える。

 

「改めまして、私がヤマト副長の永井大樹です」

 

「副長補佐、瀬川優樹です」

 

「ああ、改めまして」

 

「それではご案内します。ですが、少々お待ちを。オイコラ!!テメエ、何をディッツ少尉の機体に触ろうとしてやがる!!」

 

「い、いえ、何も」

 

「ならその手の工具はなんだ!!口答えしてんじゃねぇ!!榎本班長、第3格納庫から全員出せ!!解析も一切許さん!!アナライザー、副長権限でディッツ少尉の機体の光学映像以外の情報を完全に削除しろ!!」

 

「了解しました!!おい、上杉!!テメエあとで修正だ!!触んなって言っといただろうが!!」

 

「カメラノ映像以外、削除完了シマシタ」

 

オレ達以外が第3格納庫を出るまで待機し、確認が終わってからディッツ少尉に向き直り、頭を深く下げる。

 

「申し訳ない。部下の不始末は私の責任です。本当に申し訳ない」

 

「念の為にカメラの映像と実際に調べても構わないだろうか?」

 

「もちろんです。アナライザー、映像の方を」

 

「ハイ」

 

アナライザーからオレの携帯端末にカメラの映像が送られてくるので携帯端末をディッツ少尉に渡す。ディッツ少尉は無言で映像を確認しながら、上杉が居た場所の確認を行っている。

 

「確認した。問題はないようだ」

 

「端末はそのままで。アナライザー、ライブ映像に切り替えろ」

 

「了解」

 

「それはディッツ少尉が持っていてくれ。それが先程の責任の謝意の気持ちだと受け取って欲しい」

 

「なるほど。だが、このライブ映像が録画に切り替えられるということも考えられる。その点はどうする」

 

「そうだな。もし録画映像だと思ったのなら私を撃てばいい。そんでもってヤマトも沈めればいい」

 

ホルスターごと銃を渡し、それとは別にスイッチも渡す。

 

「爆装している私の愛機の発射スイッチだ。私の独断で準備しておいた。他の航空機の弾薬や燃料に引火すれば確実に沈む」

 

「なるほど。了解した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

副長がガミラスからの提案を会議にかけるために作戦室に上がり、貴賓室には私とディッツ少尉だけとなる。改めてディッツ少尉を見てみるが、本当に肌の色以外は私達と変わらないと思う。

 

「中々変わっているな」

 

「何がですか?」

 

「お前達、二人だ。他のテロン人とは精神構造が根本的に違うように感じられる。緊張も、恨みも、何も感じない自然体で私に接してくる」

 

「軍人とはこうあるべきと己を律しているからでしょうね。個人的にはガミラスも恨んでいるでしょう。ですが、ディッツ少尉個人を恨んでいるわけではない。その切替が上手いのが我々高級士官ですので。若い者には難しいのでしょうが」

 

「そういうものか」

 

「そういうものです」

 

「先程の男は飛行機乗りだと言っていたが、腕の方はどうなんだ?ああ、話せる分だけでいい」

 

「そうですね、腕は並ぶ者がいないほどのエースですね。この戦争中に4度被撃墜されていますが、いずれも生還を果たして戦果も上げまわっていますから。まあ、所詮は艦載機ですから戦況に大きな影響は与えられなくて悔しそうでしたが」

 

「それはそうだろう。そもそもいくら戦闘機を落としたところで大勢は変えれないだろう」

 

「うん?ああ、勘違いをしていましたか。副長は対艦専門です」

 

「対艦?だが、テロンには雷撃や爆撃専門の機体はなかったはずだが」

 

「無理矢理ラックを増やして積載量ギリギリまで強引に括り付けてるんですよ。ほとんど有人ミサイルですよ。あれではちょっとしたデブリに触れただけで爆散します。それを平気で乗り回している狂人です」

 

「何故そんなことを?」

 

「少しでも生き残る確率を増やすためだと聞いたことがありますね。操縦の難しさと速度の低下は腕でカバーできるけど、弾切れだけはどうにもならないからと」

 

「本当に変わっているな。速度が落ちることは皆嫌がると思うのだが」

 

「速いのなら速いなりの、遅いなら遅いなりの飛び方があるそうです。飛ぶこと自体が大好きみたいですね。燃料の続く限り太陽が沈む方向に飛び続けて夕日を眺めるのが最高の贅沢だとか言ってましたっけ」

 

「それは確かに贅沢だろうな。いい趣味でもある」

 

「ディッツ少尉は何か趣味をお持ちで?」

 

「趣味といえるようなものはこれと言ってな。だが、私も空を飛ぶことは好きだな。宇宙もいいが、星の上で飛ぶ方が好きだ」

 

「私は飛ばせないので分かりづらいのですが、何か違いでも?」

 

「そうだな。感覚で言えば、大気がある分、操縦桿が重いな。天気などで感覚も変わってくる。その時その時に合わせて機体をコントロールするのが楽しいんだ。障害物も少ないしな。宇宙は宇宙で自由度が上がる。障害物は多いが、それを潜り抜けるのが醍醐味とも言えるだろう。そういう貴殿は何か趣味は?」

 

「私ですか?私はボトルシップ制作が趣味ですね」

 

「ボトルシップ?」

 

「まだ我々が星から飛び立てず、空すらも制することができなかった頃、地球は地表の7割が海という水で覆われた星でした。そして、この世の理が少しずつ判明し、技術が発展し、更なる生活圏の拡大に向けて大航海時代と呼ばれる時代、海には帆船がいくつも行き交っていました」

 

「帆船。確か、風を大きな布で受けて、それを推進機関とする木の船だったか?」

 

「潮の流れを読んだりもしますが、概ねはその通りです。その帆船の模型を作り、一度解体し、透明な瓶の中にピンセットなどを使ってもう一度組み立て直す。それがボトルシップです」

 

「瓶の中で組み立てる?よほど大きな瓶なのだな」

 

「制作過程の動画を見ますか?想像しているものとは全く別物ですよ」

 

「気になるな。良ければ見せて頂けるか」

 

携帯端末を操作して制作過程の動画を再生して128倍速にしてからディッツ少尉に端末を渡す。ディッツ少尉は興味深そうに動画を見ている。

 

「これは、すごいな。ここまでの腕を持つとは、素直に賞賛する」

 

「ありがとうございます。起源は度のきついお酒を飲みながら模型を作り、飲み終わる頃に模型を完成させ、空いた瓶に入れて組み立てるのが正式というか、楽しみ方の王道なのですが、生憎お酒は飲めないもので」

 

「趣味なんだから他人に迷惑をかけなければそれでいいだろうさ」

 

「そうですね」

 

そこでちょうどタイミングよく副長が貴賓室に帰ってくる。

 

「結論が決まった。提案を受けるが、保険として爆装したオレのファルコンを向こうに着艦させることが条件だ。向こうの艦長とは話が付けてある。ディッツ少尉は通常空間に戻るまでは待機するようにとのことだ。瀬川君、引き続き任せるよ」

 

「了解」

 

「感謝する」

 

 

 

 

 

 

 

「こちらサーカス1、EX-178、着艦許可を」

 

『着艦を許可する。誘導ビーコンに従え』

 

「サーカス1、了解。S.I.D、誘導ビーコンに従い着艦しろ」

 

「了解」

 

着艦シークエンスに入ると同時にキャノピーを開けて機体の下に潜り込む。クレーンによってファルコンが艦内に運ばれる中、オレに向かって手招きしている作業員を確認する。そちらに向かって勢いをつけて飛び出し、誘導に従ってエアロックに近い死角に隠れる。

 

格納庫内の与圧が完了すると同時にエアロックからガミラス人の男が飛び出し、オレのファルコンのコックピットに何発も銃弾を撃ち込む。同時に死角から飛び出す。

 

「ふん、下等人種ごときが。対等であるわけないだろう」

 

「全くだな。簡単に予想通りに動きやがって」

 

振り向かれる前に頭を掴んで壁に思い切り叩きつけて首の骨を折る。

 

「こちらサーカス1、ヤマト、並びにEX-178、嵐は逸れた。天気は快晴。出航せよ」

 

格納庫内に歓声が上がる。随分疎まれていたんだな、こいつ。ファルコンに戻るとシートとキャノピーがボロボロなだけで異常は見当たらない。

 

「キャノピーの応急処置だけ施したい。多少強引で気密が出来てなくても構わない」

 

「すぐに取り掛かります。それから艦長が直接お会いしたいと」

 

「分かった。案内を頼む」

 

「こちらです」

 

案内されたのは意外にも艦橋だった。

 

「EX-178の艦長を務めるロスレ・ロンズだ」

 

「ヤマト副長永井大樹だ。協力に感謝する」

 

「いや、こちらこそ迷惑をかけた。命令系統が別とは言え、あそこまで勝手な行動に出るとは」

 

「色々複雑な事情があるのは分かっていたことです。打ち合わせ通り、次元開口の際に艦が激しく揺れ、頭を強く打ち、打ち所が悪かった。そういうことでいいでしょう」

 

「ディッツ少尉は無事かね?」

 

「私の副官が相手をしています。問題ありません」

 

「そうか。彼女はまだ話が分かる一等ガミラス人だ。言いたいことは分かるな」

 

「ええ、もちろん。あれは話が分からない一等ガミラス人でしょう?」

 

「そうだ。では、通常空間に戻り次第、正々堂々と」

 

「ああ、正々堂々と」

 

正々堂々と逃げさせてもらおう。やってられるか。

 

 

 

 

 

 

波動砲で通常空間への出口が出来ると同時にEX-178から発艦する。キャノピーがガタガタ言ってるが、レシプロ機に比べれば気にするほどではない。ヤマトに戻り、艦橋に戻るとちょうど通常空間に戻ったところだった。

 

「波動エンジン内のエネルギーは?」

 

「徐々に増えとります。現在23%」

 

「よしよし。それじゃあ、ディッツ少尉の発艦準備だ」

 

「このまま帰しちゃっても良いんですか、副長」

 

「帰すよ。上層部みたいな屑な大人にはなりたくないからな」

 

「それって、あいつらの言い分が正しいと」

 

島君が過剰に反応しそうになるのを戯けて誤魔化す。

 

「飛行機乗りを副長になんてしてるんだ。どう考えてもおかしいだろう?」

 

「……はい」

 

「前方にワープ反応多数!!」

 

「何!?」

 

双眼鏡を取り出し、前方を確認すると確かにガミラス艦がワープアウトしてくる。

 

「くっ、やっぱり罠だったんだ!!」

 

「ディッツ少尉の発艦作業を中止。面舵90、最大船速でこの宙域を離脱!!」

 

「逃げるんですか!?」

 

「逃げる!!エネルギーが足らん。それに、次元の狭間に落ちるような不安定な宙域で戦ってたまるか!!もう一回落ちるぞ!!」

 

「了解、面舵90、最大船速!!」

 

「敵艦発砲、EX-178が撃沈されました!?」

 

「味方ごとか。いずれ仇はとってやる。それまで待っていろ」

 

爆沈するEX-178に向けて敬礼を送る。その後も追撃を行おうとするガミラス艦だが、波動砲で無理矢理空間を開いた影響か、揺り戻しのように再び開いた次元の狭間へと吸い込まれて全滅した。

 

「安心するのは早いぞ。現宙域から更に離れろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまん、ディッツ少尉。君の安全のためとは言え、営巣に押し込む羽目になって」

 

「それほどまでに軍規が守れないほどテロンは追い詰められているのだろう」

 

「いや、ガミラスと開戦してから軍規が弄られた。ガミラスに対して何をしてもいいとな。捕虜とすら認めないとな。それを逆手に取って逆に君を守る。守り易さから営巣に入ってもらうことになってる。ディッツ少尉の機体の行動半径内にガミラスの前哨基地を発見次第開放する手筈を整えてくる。それまでは休暇だとでも思ってくれ。何か食事のリクエストはあるか」

 

「いいや、任せる」

 

「了解だ。基本的にオレか瀬川君しか近寄らせない。何かあれば遠慮なくぶっ放せ」

 

ニューナンブをホルスターごとディッツ少尉に預けておく。

 

「正気なのか!?」

 

「ディッツ少尉なら信用できる。だからこそだ。身の危険を感じたら、容赦する必要はない。艦長からも許可を得ているし、通達もしてある。安全装置は此処。これをこうすれば撃てる。戻せば問題ない。自殺に見せかけようとする輩もいるかもしれないからな」

 

カメラの死角になるように、ディッツ少尉の銃も返しておく。使い慣れた物の方が良いはずだからな。

 

「分かった。好意に感謝する」

 

「気にするな。オレは最低限の礼儀だと思っている。では、また」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディッツ少尉に説明を終えてから貴賓室において会議が開かれる。参加者はオレと艦長、古代君、島君、真田君、新見君だ。

 

「検査の結果、彼女の身体は我々とほぼ同一のものであると判明しました。肌の色以外」

 

「うむ。副長はどうか?」

 

「メンタリティーもほぼ同一です。我々が美しいと思うものは美しいと感じ、醜いと思うものは醜いと感じています。ガミラス人、つまり肌の青い者以外を下に見る傾向がありますが、昔の地球でも白人に多く見られるメンタリティーです。これは育った環境から身につけるものですので以上は見受けられません。また、ディッツ少尉個人は言動の端々や機体のパーソナルカラーなどから上流階級にあるとも推測されます。しかし、上流階級の中でも身分差をはっきりと分けても、話は分かる武人に近いです」

 

「他に分かったことは?」

 

「あ~、推測になりますが、政治体系的には産業革命後の大英帝国が一番近いんでしょう。植民地を増やしまくっている最中って感じです。実際、EX-178に乗っていたのは、我々と肌の色も同じザルツ人と呼ばれているガミラスとは異なる異星人でした。更に、白兵戦用にガミロイドの存在を考えると、急な領土拡大、いや、領域か。まあどっちでもいいか。とにかく、拡大によって人が足りていないのでしょう。恭順すれば2等ガミラス人として扱っていて同化政策を取っているんですから。かなりの無茶をしているようです。上級士官の質はたぶん、現在の地球とほぼ同じでしょうね。特に上の方ほど腐っているはずです。ここまでは順調ですが、そろそろまともな常勝将軍が来ると思います」

 

「航海は更に厳しいものになるか」

 

「まあ、予想の範囲内です。というか、同じメンタリティーと分かった以上、こちらの心理学にも当てはめることが出来ます。これは予測の上で最も重要なことだと考えています」

 

「なるほどな。よくぞそこまで尋問も行わずに情報を引き出してくれた。引き続き、ディッツ少尉の対応を一任する」

 

「はっ!!」

 

「情報長と致しましてはもっと有益な情報を得た方が良いと思うのですが」

 

「無理だろうね。副長が行けると思っていないようだ」

 

新見君の意見に真田君が反論する。たしかにそのとおりだ。

 

「ガミラスに不利になるようなことをするぐらいなら平気で自決するぞ。あれは、ガチで武人だ。ヤマトの乗組員と違って生半可な覚悟で軍人になっていないな」

 

「生半可ですって!!副長、本気で言っているんですか!!」

 

「島君、落ち着け」

 

「これが落ち着いていられますか!!オレ達に覚悟がないとでも言うんですか!!」

 

「ならば逆に聞こう。もし、ガミラスと開戦せずに、正確に言えばガミラスと出会わずに、平和に2199年を向かえた時、君はそれでも地球防衛軍の門を叩いていたか?」

 

「そ、れは」

 

「オレは絶対に叩いていない。今もスタントマンとして生きていただろう。だが、ディッツ少尉は軍人になっているはずだ。オレ達のように、危機的状況だから、親しい人間を殺されたからという理由ではなく、己の意思で軍人へとな。その差はデカイ。今の島君を見れば一目瞭然だ。頭ではなく感情で発言している」

 

「アンタなんかに分かるものか!!親父は、ガミラスのだまし討ちで死んだんだ!!それを分かっていないから」

 

「島君、君の父上、むらさめの艦長を務めていた島三佐はなんだった?」

 

「何を言ってるんですか?親父は立派な船乗りですよ!!親父をけなすつもりですか!!」

 

「そうだな、立派な船乗りだったのだろう。君を見れば分かる。だが、立派な船乗りだけではない。彼は軍人でもあった。上からの命令には逆らえない。逆らえば干される。いや、干されるだけなら良かっただろう。ねえ、艦長」

 

「副長、それは」

 

「いえ、言っておくべきでしょう。下の者達が揺れている。セクションのリーダーである島君ですら、この状態なんです。現場の判断を最優先するべきです。ヤマト計画は最優先で遂行されなければならないのですから」

 

しばらく考え込んだ後、艦長が口を開く。

 

「……山崎君を呼んでくれたまえ」

 

「了解しました」

 

「何を、何を言っているんですか!!艦長、副長!!」

 

「副長、艦内放送の準備も頼む」

 

「はい。島君、少し落ち着け。これから乗組員全員に真実を語るだけだ」

 

艦内放送の準備を整えて10分ほどで山崎さんがやってくる。

 

「呼び出してすまないな、山崎さん」

 

「いえ、どういったご用件でしょうか」

 

「君にかけられた戒厳令を現場判断により解除する。責任はオレと艦長がとる」

 

「……それは、ご命令でしょうか」

 

「そうだ。君はオレと艦長の命令で仕方なく話すことになるんだ。報告書にも航海日誌にもそう記述しておく」

 

「……分かりました」

 

「ありがとうございます、山崎さん。艦長、準備は整いました」

 

「うむ。ヤマト乗組員全員に告げる。艦長の沖田だ。今、君達はディッツ少尉の言った言葉に悩まされているだろう。開戦のきっかけはガミラスからによる先制攻撃、それが地球防衛軍の公式見解とされている。だが、これは真実とは異なる。私はガミラスとのファーストコンタクトの際、司令としてあの場にいた。コンタクトは慎重にと命令を受けて我々は出撃した。だが接触直前、司令部から先制攻撃の命令が降りた。私は、再考を要請したが芹沢参謀に司令職を解任された。そして、芹沢参謀はむらさめに通信を入れた。同じ内容だろう」

 

「……嘘だ。そんなこと信じるものか!!アンタ達は親父を貶めて何が楽しいっていうんだ!!」

 

「島、落ち着け」

 

「うるさい!!副長にオレの気持ちなんか分かるものか!!」

 

「分からんな。オレはお前じゃない」

 

島君がオレに殴りかかってくるので、素直に殴られてやる。そして、胸ぐらを掴んで思いっきり殴り返す。床に倒れ込む島に向かって言い放つ。

 

「お前にオレの気持ちが分かるか、島。爺さんも親父も母さんも妻も、同じ戦場に立ち、目の前で死んでいき、オレ自身も不治の病に侵されるオレの気持ちが!!」

 

「し、知るか!!」

 

「そうだ。知れるわけはないし分かるはずもない。その気持は自分自身だけのものだからだ。知れとも分かれとも言わない。だから、相手に分かれなんて言っても無駄だ。だから、オレは事実だけを語っている。山崎さん」

 

艦長が山崎さんにマイクを渡す。

 

「皆、聞いて欲しい。自分は応急長の山崎だ。ガミラスとのファーストコンタクトの際に、むらさめに機関長として乗艦していた。艦長の島三佐は、出撃する時からずっと航海長との話をしてくれていた。宇宙人と友達になりに行くんだと。自分達もそれに賛同していた。軍人である前に船乗りであることに誇りを持っていたから。だが、それは、沖田艦長のおっしゃったとおり、芹沢参謀の命令に、いや、脅迫によって覆されてしまった。命令に従わなければ、むらさめの乗員の家族がまともに暮らせると思うなと脅された!!島三佐は、悔しそうに命令を受諾した。軍人である前に船乗りであり、何より親である島三佐を誰も攻めることは出来なかった。あの発砲直前の悔しそうな声と、砲雷長の罵声は今でもはっきりと思い出せる。そこからは公式の発表どおり、自分以外は脱出できず、救出された自分に待っていたのはニ枚の紙だった。一枚はファーストコンタクトに関する全ての事実の口外の禁止、つまりは箝口令の命令書。もう一枚は、通信での脅迫と同じ内容の脅迫文。自分は、口を閉ざすしかなかった。ずっと自分を騙しながら今日まで生き恥をさらしてきました」

 

最後の方は嗚咽が混じり、聞き取りにくかったが、それでもちゃんと伝わっただろう。マイクを山崎さんからマイクを受け取る。

 

「この放送を聞き、余計に悩まされているだろう。何のためにこれから任務に望めば良いのか。それは個々人で判断せねばならないだろう。だから、先にオレが何のためにこのヤマト計画に臨んでいるかを話しておこう。オレは飛行機乗りだ。空を、綺麗な空を飛ぶのが大好きだった。今はそれも出来ないのは諸君も知っての通りだ。オレは、あの綺麗な空を取り戻したい。地下での生活しか知らない餓鬼共にあの空を見せてやりたい。その為にオレはこのヤマト計画に臨んでいる。諸君は、諸君だけの答えを出せ」

 

 

 

 

 

 

オレのファルコンの修理が完了したと報告を受けて第1格納庫に置かせて貰っているファルコンの調整を行っている時に艦橋から通信が入った。

 

『副長、大変です!!山本さんがディッツ少尉と共に発艦しました!!』

 

「なんだと!?瀬川君はどうした」

 

『山本さんに襲われたみたいで、現在医務室で手当を受けています』

 

「ちっ、止めに出る。航空隊をスタンバイさせておけ!!それから二人の位置をこっちに送れ」

 

『了解』

 

メットを取りに走る間に発艦準備を整えさせる。

 

「副長、爆装したままじゃ追いつけませんよ!!」

 

「こいつはこいつで使いようがあるんだよ。出すぞ、離れてろ」

 

機体がカタパルトにまで引き出される間にミサイルの信管を切っておく。曲芸は久しぶりで不謹慎だが楽しみでもある。

 

「サーカス1、出るぞ!!」

 

カタパルトに押し出されてレーダーが指し示す方向に全速で飛ばす。それに加えて、増設ラックに懸架したままミサイルの起動させて、その推進力を加算させる。強力なGに押しつぶされながら、アステロイドの隙間を潜り抜けながら短距離通信を全周囲通信帯で繋げる。

 

「山本、今すぐ戻れ!!」

 

『もう追いつかれ、何あれ!?』

 

『正気か!?あれではパイロットが保たないぞ!!』

 

「鍛えか、たが違、うんだよ!!」

 

必死に操縦桿を操作し、アステロイドを抜けた所でミサイルの推進剤が切れたのでパージする。加速は十分に乗っているので、そのまま2機の間に機体を滑りこませる。

 

「誰の許可を得てこんなことをしてやがる、山本!!」

 

『あんな放送を聞かされて、上の一部の所為でガミラスと戦争になって、その所為で兄さんを失ったなんて、そんなの信じたくない!!』

 

「だろうな!!オレだって最初は信じたくなかったよ!!この事実を知った奴らは皆そうだ!!だけどな、今お前がやろうとしているのはただの八つ当たりだ!!それを分かっているのか!!」

 

『それでも私にはこれしか、兄さんの仇を討つしかないのよ!!』

 

「そんなこと、妹馬鹿の明生が望むわけないだろうが!!」

 

『えっ、兄さん』

 

操縦が疎かになった一瞬の隙を突き、急制動をかけて翼を機体外部にある緊急用排席装置に引っ掛けて、山本を機外に放り出す。ったく、後ろからなら狙撃なんて余裕なのに、前からの所為でこんな方法しかなかったな。くそ、翼が欠けた。ぐらつきやがる。まあ、飛べるから問題ない。

 

残ったファルコンは残念だが回収できないな。少し大きなアステロイドに衝突し爆散する。見飽きた花火だぜ。

 

「迷惑をかけたな、ディッツ少尉」

 

『いや、それより、大丈夫なのか?翼がすごいことになっているが』

 

「こんなの慣れっこだ。山本を回収するから先に帰投してくれ。ヤマト、状況を収めた。先にディッツ少尉を戻す。オレは山本を回収してから戻る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「迷惑をかけたな、ディッツ少尉。3日の距離にガミラスの前哨基地が、2日の位置に艦隊の反応がある。食料なんかは念の為に1週間分用意した」

 

「すまないな。色々と世話になった」

 

「こっちの方が色々迷惑をかけた」

 

「……もう一度だけ尋ねておこう。ガミラスに恭順を示すつもりはないんだな」

 

「個人的にはどっちでも良いんだがな。これでも責任のある立場だ。精神的に未熟なひよっこ達をなんとか飛べるようになるまで見守ってやらないといけない。好意は受け取っておくよ」

 

「そうか。残念だ。貴公は、ガミラスでも見ないほどのエースパイロットだった」

 

「ありがとう。オレも地球じゃあ一番の腕だと自負している。これで宇宙でも十分通用するって自信になるよ」

 

「だが、このままならガミラスが勝利するだろう。恭順を示すなら早くすることだな」

 

「忠告、感謝する。いずれまた戦場で」

 

「ああ、いずれまた戦場で」

 

お互いに敬礼を交わし、ディッツ少尉が手を差し出してきたので握手を交わす。エアが抜かれ始めるのでエアロックに退避し、ディッツ少尉の発艦を見送る。さてと、乗員のガス抜きを企画しないとな。

 

 

 

 



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ダンジョンで死にかけるのは間違っていない

 

拝啓、天国のおじいちゃんへ。ダンジョンに出会いを求めるのは間違いではないと、はっきり分かりました。今、僕の目の前に女神と見間違うほど美しい人がいます。まあ、女神であると同時に死神でもあるんですけどね。お互いの立ち位置が悪く、ミノタウルスの影に居た所為で僕の拳がミノタウルスの頭部を吹き飛ばし、その直後に反対側にいた美しい人が僕に気付いて慌てて停まろうとしたみたいですけど、時既に遅し。少しでもダメージを減らそうと腕でガードしたけど、腹部まで貫通しちゃいました。その後、壁に叩きつけられて全身がぼろぼろになったのが分かる。うわあ、スキルを使ってたのにこれか。これが高レベル冒険者の実力なのかなと思いつつ、意識が薄れてきた。おかしいな、これだけ血が流れてるんだから身体は軽くなっているはずなのに。身体が酷く重いや。それに血がこんなにも温かいのに、寒いや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、死んでたまるか!!」

 

おじいちゃんの元へ手紙と一緒に行こうとした所で出会いだけでどうするよと我に返り、手紙だけを投げ渡したところまでは覚えてるって、本気で死にかけてたのか。危ないにも程がある。やっぱりあのスキルは諸刃過ぎる。

 

「あっ、目が覚めた?」

 

寝かされていたベッドの隣の椅子に褐色の肌の女の子が座っていた。

 

「えっと、すみません。記憶が曖昧で、僕はどうしたんですか?」

 

「私もあまり詳しくないんだけど、どこまで覚えてる?」

 

「確か、いつもどおりにダンジョンに潜っていて、何故かミノタウルスと遭遇して、ええっと、スキルを発動して殴りかかったところまでは。もしかしてミノタウルスにやられたんでしょうか?だとしたら、助けていただいてありがとうございます」

 

「いや、ええっと、最後だけちょっと違うかな?私が聞いたところだと、君はミノタウルスを一撃で殴り殺したみたいなんだけど、その、ちょうど反対側からアイズが、ああ、ウチの団員なんだけど、君に気付かないままミノタウルスに突っ込んで、ミノタウルスごと君を吹き飛ばしちゃったんだって。そのミノタウルス自体も私達の不手際で上層まで上がって、君の心臓も1回止まっちゃって、本当にごめんね」

 

「……死んだおじいちゃんの所に手紙を持っていこうとしてたのは間違いじゃなかったんだ」

 

夢じゃなかったんだな。

 

「本当にごめんね。装備も全部壊れちゃってみたいで。弁償もするから」

 

「大丈夫ですよ。全部安物ですから。治療していただいただけでも十分過ぎますから」

 

「そういう訳にはいかないから。安物だって言っても君のレベル内の話でしょ?ランクを下げた装備だと死んじゃうよ」

 

「ああ、いえ、僕レベル1ですし、つい2週間前から冒険者を始めたんで本当に安物の装備です」

 

「えっ、レベル1!?それでアイズの攻撃食らって原型留めてるの!?」

 

「たぶん、というか確実にスキルのおかげです。でも、死にかけた原因もスキルが原因だと思います」

 

「それってどういうこと?」

 

「ええっと、確か僕のズボンのポケットに昨日更新した分のステイタスが書かれた紙があるはずなので、それを見てもらえれば」

 

「君のズボンね。ちょっと待ってて。着ていた服もボロボロになっちゃって他の部屋に置いてるから」

 

そう言って褐色の女の子が部屋から飛び出していった。そう言えば名前を聞き忘れてるや。そう思っていると、ドアがちょっとだけ開けられて、その隙間からあの時見た、女神のような死神のような人が部屋の中を覗いていた。

 

「えっと、さっきの人が言っていたアイズさん?」

 

話しかけてみると驚いたのかドアを思い切り閉めてしまい、ドアが粉々になる。そして余計に慌ててどうすれば良いのかとワタワタしている姿を見て、綺麗だと思っていたけど、案外かわいい人なんだと思っちゃっても仕方ないと思う。

 

「アイズたん、何しとるん?」

 

「えっと、あの、その」

 

廊下の向こうから他の人の声が聞こえてきた。しばらく待っているとアイズさんと一緒にさっきの声の人が入ってきた。赤毛で糸目の人だと思ったんですけど、この人、神様だ。

 

「おうおう、目え覚ましたんかいな。具合はどうや?」

 

軽く拳を握ったり開いたりしてから上体を起こして軽く体を動かしてみる。

 

「たぶん、問題ないです。あまり詳しい状況は聞いてないんですけど」

 

「どれ位聞いたん?」

 

「事故で死にかけた位ですね。あと、装備を弁償してくれるって。遠慮はしたんですけど」

 

「今回はウチが迷惑かけてもたさかい、気にせんと貰っとき。それで、ティオナはどないしたん?」

 

「えっと、褐色の肌の人ですか?」

 

「そうそう。説明はある程度受けたんやろ?」

 

「僕のレベルとかが信じられないらしくて、昨日更新してもらった時の写しの紙がズボンに入ってるから見て良いって言ったら何処かに走って行っちゃいましたよ」

 

「ええんか?自分のステイタスを簡単に見せてもて?」

 

「僕は気にしませんよ。おじいちゃんにも『人に隠して良いのは、女の人に対するやせ我慢と女の人の嘘に気付いている事とエロ本だけだ』って、教えられてきましたから」

 

「わっはっは、そりゃ豪快な爺さんやな。あんた、名前は?」

 

「ベル・クラネルです」

 

「ウチはロキや。ベルのことは気に入ったで」

 

「ロ~~キ~~~!!」

 

先程出ていった褐色の女の子、ロキ様が言うティオナさん?が慌てて部屋に戻ってきた。

 

「おお、どないしたんや?」

 

「こ、これ!!」

 

そう言ってロキ様に渡す血塗れの紙にはこう書いてあるはずだ。

 

 

ベル・クラネル

 

Lv.1

力:SS 1084

耐久:SSS 1162

器用:SS 1047

俊敏:SSS 1129

魔力:F 300 

英雄:H

 

《魔法》

【】

【】

【】

 

《スキル》

百人力(ハンドレッドパワー)

・全能力100倍

・全副作用100倍

・制限時間5分

・再使用制限時間1時間

 

 

全ステイタスじゃなくて全能力って部分が味噌なんだ。

 

「はあ!?アビリティがSSSにレベル1で発展アビリティまで生えとる上に英雄って、それにスキルもなんじゃこりゃ!?」

 

「やっぱりおかしいことなんですか?」

 

「SSSは、まあ、アビリティで上限が上がるとかが有った気がするからええとしても、発展の英雄かいな。これ、200年ぶりやで。神が地上に降り立った頃はゴロゴロ居ったけど。しかも、Hってことは少なくとも2回は暴れとるんやろ。恩恵受ける前からも大分強かったんやろうな」

 

「それほどじゃないですよ。百人力(ハンドレッドパワー)は恩恵を受ける前から使えましたから。恩恵を受けてから性能が上がってますけど」

 

「はあぁ~、マジで天然物かい」

 

「ロキ、さっきからこっちは置いてきぼりなんですけど」

 

「聞いての通りや、神々が地上に降り立つ前の絶望の時代の微かな希望。神の恩恵無しにスキルや技を持って怪物と渡り合い人々を守りし者。それが英雄で、ベルはマジモンの英雄や。しかも、恩恵受ける前になんや偉業も達成しとるんやろ」

 

それを聞いてアイズさん?とティオナさん?が驚いている。

 

「神様も気になってましたけど、偉業なんて果たした覚えがないんですよね」

 

死にかけるのはいつものことだし、コボルトは主食だったし、ミノタウルスは腕一本の犠牲でごちそうだったし。ダンジョン産のモンスターって死体が残らないから生きたまま食べないといけないから面倒なんだよね。

 

「英雄の発展アビリティ持っとる奴は大概がレベル以上の力を持っとるさかいな。これとスキルがあったから原型残っとったんやろ。羨ましいスキルやわ」

 

「それほど使い勝手が良いってわけでもないですよ、ロキ様」

 

「なんでや?」

 

「副作用100倍。それって効果が切れた後に今までの負担が全部一気に押し寄せてくるんです」

 

「うん?どういうこっちゃ?」

 

「効果終了後に全身の筋肉が断裂なんていつものこと。お腹もめちゃくちゃ空きますし、基本動けない状況に晒されます。むしろ、使い終わってからが本番です」

 

「全身の筋肉が断裂してなんで動けるねん!?」

 

「慣れとしか言いようが。あと、痛覚とかの感覚も100倍です。毒とかの抵抗も100倍ですけど、抵抗を超えられると100倍効きます」

 

「び、微妙どころかマイナスやろ、それ」

 

「その分、アビリティの伸びが良いですから。でも、偉業ってどう達成すれば良いんでしょうね?」

 

「このステイタスからすると、ミノタウルスじゃあかんな。というか、一撃で頭を吹き飛ばしとるさかい駄目やろうな。他やと、ゴライアスやろうな。そこら辺どう思う?」

 

「パーティーだと、たぶん駄目だと思う。けど、単独だと厳しいと思う。何か、全く別の偉業じゃないと駄目な気がする」

 

ティオナさん?が頭をかしげながら答える。う~ん、中途半端だよね。

 

「そういや、ベルは何処のファミリアなんや?一応、詫びを入れとかなあかんからな」

 

「ヘスティア・ファミリアです」

 

「はぁ!?ドチビの所やて!?」

 

「ドチビ?」

 

「ベル、悪いこと言わんからウチの所に来たほうがええで。いや、来なかったらドチビもエライ目に合う可能性が高い。さっきも言うたけど、英雄の発展アビリティは200年ぶりや。それこそ色んな神がちょっかいを出してくるはずや。ウチかて、こうやって会って話して気に入ってへんかったら絶対にちょっかいかけとる。中には悪質な、それこそベル自身の命や周囲が危ない目に会うこともありえる。それを躊躇うようなファミリアに改宗した方がええ」

 

「う~ん、ありがたい申し出だとは思うのですが、遠慮させていただきます」

 

「……これは脅しでも何でもない。それやのに断るのはなんでや?」

 

「ロキ様、自分でも信じられていないことを相手に信じさせようとするのは難しいことです。たぶん、僕がロキ・ファミリアに改宗してもちょっかいを掛けてくる神様達やファミリアはいるはずです。多くの人にご迷惑をかける訳にはいきません。僕一人ならある程度の対応はできますし、オラリオで直接神様に襲いかかる人はまずいないでしょうから」

 

「ベル、それは甘いで。200年前は一人の英雄の取り合いで幾つかのファミリアが解散しとる。神が天界に返される事態が起きとる」

 

「……この話は何処まで行っても平行線ですね。僕は今の所改宗するつもりはありません」

 

「せやな、今のままじゃ平行線やな。とりあえず、ウチからちょっかいをかけるつもりはないけど、気いつけや。ほいじゃま、この話はここまで。もっかい聞くけど、体の調子は?」

 

「特に異常はないかと。百人力(ハンドレッドパワー)の副作用も全部治ってるみたいです」

 

「次は弁償の話やな。装備は何を使っとったん?」

 

「ギルドで最初に支給されたナイフと、それより刃渡りが少し長いナイフの二刀流です。防具はガントレットだけで、靴のつま先に保護と攻撃兼用で鉄板を仕込んでいたぐらいです。機動力優先ですね。バックパックは既製品を少し弄って、いつでもその場に落とせるようにはしてましたけど初心者向けの安いやつです」

 

「不幸中の幸いなんか、バックパックは中身毎ほぼ無事や。ポーションは割れてもとったけどな。と言うわけでアイズたん、武器庫からさっきベルが言っとったもんに近いの持ってきたって。ティオナは服やな。ベル、羞恥心って知っとるか?さっきからずっと裸なんやけど?」

 

「下、正確に言えば大事な所は隠れてるので。百人力(ハンドレッドパワー)を使うと服が耐えきれないのはよくあることなので、訓練の時なんかは上半身裸で短パンとかでしてますし」

 

僕自身は別に見られても問題ないしね。嫌われると困るけど。アイズさん?とティオナさん?が部屋から出ていく。今更恥ずかしくなったのだろうか?

 

「身体は細身やのに、えらいがっしりと筋肉が付いとってギャップがすごいな。恩恵だよりって訳でもないみたいやな」

 

「昔から鍛えてる分ですからね。おじいちゃんが言うには『いざという時に女を支えれるぐらいにはなっておけ』と。おじいちゃんは支えなきゃいけない女が多いから大変だって言ってました」

 

「女好きな爺さんやな。うん?ベル、その爺さん、歳はどれ位や?」

 

「70後半だったはずです。先日、亡くなってしまいましたけど」

 

「70後半。まさかな」

 

「どうかしました?」

 

「50年ほど前に痴情の縺れでオラリオから逃げ出した冒険者が居ってな。そりゃあ、もう浮名を流しまくっとった。店の売り子にギルド職員、自分の所属するファミリアの団員にそっちの方の店の娘、未亡人も彼氏持ちも、挙げ句の果てには神にまで手ぇ出して、オラリオ中の男と3割ぐらいの女を敵に回して、致命傷を負わせたんやけど、たぶん逃げられた男が居ったねん。ちなみにレベルは3やったはず。襲撃には6も混じっとったんやけど見事に逃げおおせたのか、どこかでくたばったかは分からへん。生きとったら80ぐらいやったはずや」

 

「レベル3なら別人ですね。おじいちゃん、自分は4だって言ってましたから」

 

「そっか。ちぇっ、ようやくあの賭けに決着が付くかと思ったのにな」

 

「賭けですか?」

 

「そや、オラリオの歴史の中でも一番の遊び人の色男、二つ名『心の怪盗(ハート・オブ・ルパン)』の生死。ああ、ルパンってのは天界でも知られとる昔の大怪盗の名前や。ちなみにこの二つ名はオラリオから姿が消えてから付けられたモンや。その前は、超遊び人3やったな。話題に事欠かへん奴やったさかい、忘れへんわ。半年程ダンジョンに潜った形跡がないのにレベルが上っとるねん。調べてみたら女遊びが偉業として認められたんやろって結論が出た。そん時に神に手を出したってのが分かったんや」

 

あっ、ヤバイ、おじいちゃんだ。酔っ払ってる時にそんな話が零れてた。神様に手を出したって。怪我をさせたとかじゃなくて女神にそっちの意味で手を出していたとは。話をそらさないと。

 

「偉業って、そんなことでも認められるんですね。他に変わった偉業ってありますか?」

 

「まあ、鍛冶系の魔剣を打てるようになったとか、特殊な薬を調合できるようになったとかやろうな。ベルはどっちも無理そうやけど」

 

「ですね。愚直に格上を倒すしか思いつかないです」

 

「死なん様に気いつけや」

 

「はい」

 

 

 

 

 




ベル・クラネル
別に転生者ではなく、おじいちゃんの影響で本来の道筋とは違う道を歩いている冒険者。オラリオに来る前から偉業と呼ばれるようなことを2回ほど達している。おじいちゃんの教えのもとに色々と偏った技術を持っているが、ちゃんとした教育を受けていないために世間知らず。世間知らずなだけでバカではない。スキルはオラリオに来る前から習得済み。ステータスを刻んだ際に能力がアップ、デメリットもアップ。オラリオに来てから死にかけた回数は2桁近い。意外と悪食。モンスターの生食も平気でやる。浮いたお金は女の子のために貯金。『出会いにはお金が必要なくても出会い続けるには必要なのだ』おじいちゃんの実感の篭ったお言葉を胸に刻んで今日も冒険者を続けていく。ちなみにまともな人間の血が8分の1しか入っていない。

おじいちゃん
転生者。全ての元凶。遊び人であると同時に女性を磨き上げる腕は世界一を自称している。どんな女性でも愛することが出来る。あのロキ相手でも。冒険者時代に声をかけた女性はオラリオにいる女性の9割強。別に性的に見ているわけではなく、女性を磨き上げることに全てを捧げたような男。夜を共にするのも全ては女性を内面も磨き上げるため。女好きでもあるので役得だとは思っている。本気で惚れたのはとある女神だけ。天寿を全うする。弟子として技術の全てはベルに叩き込むと同時に書物に残す。スキルや派生アビリティがなかろうと努力と根性とガッツと日本人の職人魂で色々な物を作っている。


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この素晴らしい錬金術で祝福を!

 

 

「え~っと、ユキエライト・ヴァージリオン、ようこそ死後の世界へ。面倒だからちゃちゃっと理解させるから動くな」

 

いきなりガラの悪い姉ちゃんに額を小突かれ、莫大な知識が流れ込む。別にそんなことしなくても大体の事情は飲み込めてたんだけどな、2回目だし。それにしても死んじまったのか。死因は、やっぱりあれか?妹弟子の弟子に盛られて既成事実を作られて結婚した件か?

 

オレを殺したのは妹弟子か、妹弟子の弟子の親友だろうな。たぶん、寝込みを襲われたな。薬には気をつけていたし、いや、香の類かもしれないな。そりゃあ、親子みたいな年の差の子を孕ませちまってるんだ、殺されても仕方ない。妹弟子の弟子の弟子は普通に祝福してくれたのにな。腐れ縁の騎士とか、ギルドの馴染みの受付嬢とかも。師匠と義母は笑ってたっけ。年下の義姉は複雑そうな顔を、義父は真正面から殺しにかかってきて妻に吹き飛ばされてたな。

 

「よし、自分の立場を理解したな。どうするよ」

 

「魔王退治しか選ぶ道がない気がするんですけど、そこら辺に一言」

 

「稀にだが転生を選ぶ奴がいる。基本、借金苦で自殺した奴ら」

 

「人の強欲さと狡猾さと残忍さがよく分かる一言をありがとうございます」

 

「で、魔王退治な。オススメは能力付与系だ。物品系は所持してないと意味が無いからな」

 

「武具は装備して初めて意味があるんだよ」

 

有名RPGの名台詞だな。TRPGの方が好きなオレは武具は装備する以外でも意味があるんだけどな。罠に投げたり、囮として投げたりだな。あとは、皮装備は最後の非常食だったりな。

 

「当然だな。で、何するよ?」

 

女神様に近づいて小声で問いかける。

 

「裏話とかあります?」

 

「ぶっちゃけ、ここは暇。定期的に娯楽品の奉納するって言うなら」

 

女神様も小声で答えてくれる。

 

「具体的には?」

 

「酒とツマミ。タバコも良いな。副作用は魔法でどうとでもなるからな」

 

「奉納の仕方は勿論サービスですよね」

 

「当たり前だろうが。ただ、加護を期待すんな。向こうじゃあマイナーだからな。大して干渉できない」

 

「OK。商談成立で」

 

「じゃあ、裏話。結構な数が向こうに送られてるが死なれるとかなり面倒だ。特に物品系はそのまま世界に取り残されるからな。回収要員がいるぐらいだ。あと、物品系は鋳型に近い。似たり寄ったりな性能だ。最初期に危険すぎる物を注文した奴らがいるからな。かなり強力な洗脳系とかな。逆に能力付与系は多少の無茶でも用意してやれる。死んだら世界に溶け込んで回収しやすいからな。別に魔王を倒さなくても適当に雑魚を狩りまくってくれるだけでも十分だったりする」

 

なるほど。なら、別に勇者しなくても良いな。一昔前の主人公みたいなやつが頑張ってくれるだろう。オレは好きに楽しませてもらおう。文明レベルはアーランドと大して変わらない程度か。特に特典がなくてもやっていける、いや、待てよ、アーランドと物理法則が異なるとガスト系列の錬金術が使えない可能性が高いのか。それなら、これだろうな。

 

「『全ての錬金術を司る程度の能力』って行けます?」

 

「ちょっと待てよ。ギリギリアウトくさいな。『全ての錬金術を十全に扱える程度の能力』なら行けるな」

 

「その差は?」

 

「力量次第だと神を生み出せる。神っぽいものならともかく、マジモンの神はまずいからな。どうするよ?」

 

「じゃあ、それで」

 

「よし、ついでに最低限の装備をくれてやる」

 

「できれば伸縮式か折りたたみ式の10フィート棒も」

 

「変なものにこだわるな。まあいいけどよ、おっ、ちょうど冒険者セットとかいうやつがあるな。こいつでいいだろう。最後のおまけに最初はこうした方が良いって知識も付けておいてやる。それじゃあ、楽しんでこいや。奉納も忘れんなよ」

 

そうして白い光に包まれて意識が遠くなる。

 

 

 

 

 

 

 

この世界に来てから早いもので半年の時間が経った。自重しているようなしていないような、正確には加減が分からずに錬金術を十全に使えていなかったのだが、とうとうオレは自分の店を持てるようになった。師匠のセンスに乗っ取り、屋号は『ユキトのアトリエ アクセル支店』だ。本店はアーランドだ。

 

これでようやく落ち着いて錬金生活が始められる。女神ロネへの奉納品のグレードも上げられる。此処まで長かった。最初期は錬金術師じゃなくてパティシエみたいになってたからな。今も『ユキトのお菓子工房 アクセル本店』ならびに『王都支店』は絶賛フル稼働中だ。アクセル本店店長としてホム君を、王都支店店長としてホムちゃんを、その部下として30人ずつのちむ達が働いている。

 

オレが元から使える錬金術とは異なる錬金術によって素材の質を好きなように用意でき、最高の質と腕で用意した傑作のお菓子をちむ達が量産する。儲かるに決まっている。アクセルの街の領主が不当に税を取ろうとしてきたのでちょっと王都支店にも情報を流してやれば、いつの間にか領主が変わったりもしたが問題ないな。どうも情報が途中で曖昧になったりすると聞いて、状態異常無効化を付けたお菓子を差し入れした途端に解決したけど。

 

さて、近況報告はともかく、初心者の街らしい便利な使い捨てのアイテムを錬金しますか。

 

 

 

 

 

 

 

初心者の街アクセルとは実は語弊がある。確かに初心者とも言えるレベルの冒険者は多い。だが、王都と比べても謙遜のないレベルの冒険者も多い。というか、王都の冒険者とアクセルの冒険者が総力戦をやったらアクセルの冒険者が勝つぐらいには戦力が充実している。理由はこの街にはサキュバスのエッチなお店が存在するからだ。あとは、分かるな。つまりはそういうことだ。オレもお世話になっている。

 

で、何が言いたいかと言えば、ギリギリ赤字が出ない程度の経営になっている。本当の初心者が扉を潜るには胡散臭く、試しに入ってみればラインナップが本当に初心者用の物しか展示されていないからだ。どんな相手でも満足できる在庫はあるんだけどな。

 

「はぁ~、金には余裕があるとは言え、本業が暇なのは落ち込むな」

 

暇を持て余してドラクエの賢者の石を錬金しながら暇をつぶす。完成したそれをコンテナに突っ込む。そろそろ新しいコンテナも作らないと在庫管理が出来なくなるなと思いながらソファーに寝転がって眠る。デカイベッドもあるのだが、ソファーの方が寝慣れているために殆ど使っていない。

 

「うひゃあああ!?」

 

女の叫び声に目が覚めて飛び起きる。声がした方はコンテナが置いてある部屋への扉の方向だ。つまりは泥棒がトラップに引っかかった声だ。

 

「泥棒確保って、クリスじゃないか」

 

限りなく透明な空気に近いスライムに引っかかっていたのはアトリエの常連客であるクリスだった。

 

「あ、ども」

 

「盗賊職についているとは言え、本気で盗みを働くか。常連の好で衛兵には突き出さないでおいてやるが、とっておきのお仕置きをプレゼントしてやろう」

 

「え、えっと、やめて!!私にエッチなことするんでしょう、エロ本みたいに!!」

 

クリスがお約束なセリフを吐くが、オレは同意の上でしかそういうことはしたくない。薬とかもちょっとな。別に飢えてないし。むしろサキュバスの淫夢サービスじゃなくて本番の時に死なないように超強力な精力剤を自分に使うぐらいだ。

 

「いいや、何もせんよ。放置するだけだ」

 

「えっ?」

 

「ちなみにそのトラップ、オレの魔力がないと抜け出せないから。垂れ流しになるだろうがオレは気にしない。飯は食わせてやるから安心しろ」

 

「気にして!!というか、嘘だよね?」

 

「嘘はあまり好きじゃない」

 

「ご、ごめん、謝るから。理由も全部話すし、なんだってするから」

 

さっきクリスにお約束なセリフを言われたので、こっちも某有名なセリフで対抗するか。確かネクロフィリアの盗賊の選択肢だっけ。

 

「このまま眺めておくのもいいか」

 

「やだやだやだ、ごめんなさい、本当に止めて!!」

 

その後、本当に漏れそうになる直前まで眺めた。おっぱいは小さいが、おしりは中々良い物を持っているな。本気でガチ泣きされてるがそれはそれでかわいいから別にいいだろう。むしろ、クリスは泣き顔のほうが可愛いな。

 

「それで、何を盗みに入った。あの部屋にあるコンテナは店に出していない成果物とか材料が入っているのだが。中には取扱い注意の物もある」

 

「ぐすっ、い、言っても信じてくれ、くれないかも、しれないけど」

 

「とりあえず泣き止め。ほら、工房の方の人気商品のぷにぷにゼリーと朝露のミルクティーだ」

 

ポーチを通してコンテナの中からオリジナルを取り出してテーブルの上に並べてやる。

 

「ありがとう」

 

「落ち着くまでは待ってやる。オレはオレでちょっと忘れていたことをやらないといけないからな。じっとしてろ」

 

「やらないといけないこと?」

 

「女神ロネへの奉納」

 

ポーチから簡易祭壇を取り出して、最近女神ロネが気に入っているオレがお米から作った発酵ジュースをたる(品質120)で取り出して祭壇の前に置く。それから柏手を打って、適当に魔力を祭壇に送ればたるに入った発酵ジュースが消え去る。決して密造酒ではない。

 

「よし、終了」

 

「ちょっ、ちょっと、今のって!?」

 

「見ての通りの奉納だが?」

 

ちゃんとしないと不義理だからな。たまに数日ずれたりするけど、その分はちゃんと利子を付けて送っている。

 

「えっと、他の世界から送られてきたの?」

 

「そうだけど?」

 

「よかった。それならまだ信じてもらえるかもしれない。あのね、私は女神エリス様の依代みたいなもので、神器を回収してるの」

 

「神器?ああ、物品系チートアイテムか。そう言えば回収要員がいるって聞いてたな。じゃあ、クリスがその回収要員か」

 

「えっと、まあそうなるんだけど」

 

「それで、オレのアトリエに忍び込んだのと話が繋がらないんだが」

 

「いや、あれだけ神器の気配が垂れ流しになるぐらい大量に集めてるから回収しようかと」

 

「何?素材の中に神器が混ざってるのか?」

 

「え?」

 

「え?」

 

おかしい。どうも話が噛み合わない。認識がずれているな。お互い確認し合ったほうが良いな。ポーチから取り出すのは作ったばかりのDQ式賢者の石を取り出す。

 

「これは、寝る前に錬金したアイテムなんだが神器か?」

 

「……神器だね。まさか、あのコンテナの中って」

 

「素材と店に出していない錬金物だ。コンテナ自体もちょっと特殊でな、中が体積じゃなくて個数が容量に反映される」

 

「それって、どんなに大きいものでも1個にカウントすると関係ないってこと?」

 

「逆に言えばどんなに小さいものでも数を揃えれば容量が一杯になる」

 

そう言うとクリスは頭を抱えてテーブルに突っ伏す。

 

「なんで神でもないのに神器を量産できるのよ」

 

「これぐらい、材料とレシピさえあれば一流の錬金術師なら簡単に作れるぞ。妹弟子(ロロナ)もその弟子(トトリ)もその弟子(メルル)も普通に作ってるし。むしろ、オレ達の流派の錬金術師は弟子入りして師匠から支給されるのは、釜と杖とコンテナとカゴとちょっとした錬金素材とレシピだけだぜ。最低限の物以外は自分で調達が基本だから」

 

「私の今までの苦労を返せ!!」

 

そんなこと言われてもな。これぐらい普通普通。師匠はもっとすごかったし。無から有は流石に生み出せなかったけど100の材料で150位は産み出してたけど。オレも10の品を魔力を対価に10と9にするデュプリケイトを使えるし。

 

「そもそもなんで神器の回収なんてやってるんだ?」

 

「ある時から魔王が死んだ冒険者たちから集めて部下に与えたりし始めたから。人間も悪用しているのがいるから」

 

「よし、ならば解決策を提示しよう。弟子になって神器クラスのアイテムがこの世界のアイテムの平均値にしない?」

 

クリスのアトリエ アクセルの錬金術師 始まります。

 

師匠からの支給品

伸縮式10フィートの杖

カゴ(容量50)

コンテナ(容量300)

レシピ集(はじめての錬金)(便利な日用品)(おばあちゃんの知恵袋)(錬金クッキング)(魁!漢の美学)

ちむりおん君

普通のパイ 20個

塩 5個

小麦粉 5個

 

「えっ、本当に始まっちゃうの!?」

 

「クリスがオレの初めての弟子だけど大丈夫。妹弟子とかその弟子とかその弟子の面倒は見てきたからな。安心しろ、個人で国家を転覆させれるぐらいの錬金術師にしてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみませ~ん」

 

「はいよ、ちょっと待ってくれ」

 

ああ、クリスは素材集めに行ってるんだっけ。栞を挟んで本を閉じる。ベッド代わりのソファーから起き上がり、掛け布団代わりにしていたローブを羽織ってカウンターに向かう。

 

「ようこそ、ユキトのアトリエに。何をお求めかな?」

 

営業スマイルを心がけていたから問題ないが、内心顔を顰める。なぜならカウンターの向かいに居たのは、珍しいことに紅魔族だからだ。この一族は産まれた時から重度の厨ニ病で名前からぶっ飛んでいる。そのくせ12歳になると全員が上級職業のアークウィザードについて、学校では成績優秀者にスキルポーションが配られ、教師が紅魔族の里の周りのモンスターの動きを封じて生徒に倒させてレベルアップさせる養殖まで行っている。暇つぶしに魔王軍にちょっかいをかけるような種族だ。

 

なんでアクセルにいるのかは分からないが、いや、お菓子目当て、違うな、王都支店の方が近いはずだ。なんでいるんだ?

 

「こちらでは店頭販売の初心者向けのアイテム以外にもオーダーメイドでアイテムを作ってくれると聞きまして」

 

「正確に言えば店頭に置いてないだけで倉庫に入ってるのを引っ張ってきたりするほうが多いんだがな。確かにオーダーメイドも承っているが、カネがかかるぞ。まあ、材料を持ち込んでくれれば値引きは可能だ」

 

「特定の魔法の威力を増幅することはできますか?」

 

「出来なくはないが、かなり面倒だぞ。とりあえず、今持ってるその杖では無理だな。もう1ランク上の杖をベースにする必要がある。それから、増幅したい魔法の属性の力を持った物品、質によって増幅率が変わる。最後に純度の高い宝石、出来るだけ不純物の少なくて大きい物がいいな。全部こっちに任せるなら増幅率は30%~50%、魔力の消費率が30%減、属性にもよるが値段は200万エリスはいるな。所で、どの魔法?」

 

「爆裂魔法です」

 

「……ワンモア」

 

「ば・く・れ・つ、魔法です」

 

「冒険者カードを出せ」

 

冒険者カードを確認すると巫山戯たスキル構成をしてやがった。

 

「バカに付ける薬はないな」

 

「なっ、バカとはなんですか!!」

 

「爆裂魔法を1発打って倒れてるんだろう。馬鹿と言わずになんという。他人に迷惑をかけるだけだ。それにこのスキル構成からすれば、見た目に囚われてるんだろう」

 

「ふん、真の爆裂をしらないからそんなことを言えるんですよ」

 

「ふん、超一流の錬金術師は真理に最も近い者、世界一の錬金術師の恐ろしさを教えてやろう」

 

「ぬぅ、我が名はめぐみん、爆裂魔法を使いこなす者。やがて世界を滅ぼす者」

 

「笑止、我が名はユキエライト・ヴァージリオン、あらゆる錬金術を使いこなし真理に触れた者。とか言ってるけどジョブはバトルセイジ。すでに世界は思うがままよ」

 

実際、時間操作系とか空間操作系のアイテムを錬金できるようになったからな。あとは、材料がアレな賢者の石とか不老不死の薬とかだな。若返りの薬は割と早い段階で開発している。妹弟子に弟子が出来た辺りだな。そう言えば、同年代だと勘違いしてたっけ。

 

ちなみにバトルセイジは例外に分類するスキル以外の全てを低スキルポイントで習得できる冒険者の次に器用貧乏なジョブだ。まあ、火力は錬金術でどうとでもなるし、回復も錬金術でどうとでもなるし、補助も錬金術で、あれ?錬金術だけで良いじゃないか!?

 

それはともかくめぐみんと共に店を出て鍵を閉める。それからポーチから自転車を取り出す。ゲームのレシピはシステム上の関係でレシピ通りの物しか作れないが、一流になればそれが解禁されるのか作りたいと思った物のレシピを閃くようになる。その結果がこいつだ。

 

「なんですか、それは?」

 

「自転車だ。ほれ、後ろの荷台に座れ」

 

本当はバイクもあるんだけど、多少の運動も兼ねて自転車に二人乗りする。

 

「おおっ、これは便利ですね」

 

「5万エリスで売るぞ。サイズ調整とか色も指定できる。メンテの度に料金は取るが、かかっても1万エリスってところだな」

 

「むぅ、メンテはどれぐらいの頻度に?」

 

「手荒に、壁にぶつけたりしない限りは年1回程度で十分だな。異常を感じた時はすぐに持ってきた方が良いが、それだけだな」

 

「それぐらいなら、いえ、それでも、う~ん」

 

「爆裂魔法意外にも上級か中級魔法を覚えれば余裕で稼げるだろうが。あっ、ちなみに初級、中級、上級の3つを覚えると魔法マスタリーがスキルに生える。取ると魔法全般の消費魔力が減って威力が上がる」

 

「なんですか、それ!?」

 

「スキルポイントが余ってるから片っ端から覚えたら急に生えたんだよ。気になったから他のもとってみたが、どれも初級・中級・上級を取るとマスタリーが生える。効果はどれも一緒だ。影響するスキルが違うだけでな」

 

そんな話をする内にアクセルの街から草原にまで辿り着き、そのまま打ち捨てられた古城まで向かう。ちょうど解体の依頼があるからついでにこなしてしまおう。

 

「よし、到着。ターゲットはあの古城だ。先手はオレのネタ錬金術からだ」

 

「ネタ?」

 

「ネタだ。ジョークグッズに近い」

 

そう説明してから腰のポーチからギガフラムを取り出す。まあ、ちょっとしたネタ特性を付けてあるがな。ギガフラムを地面において、ポーチからオレの杖を取り出す。

 

「この距離から杖で打って城まで届かせるつもりですか!?」

 

「一流の錬金術師の必修科目だから、なっと!!」

 

ゴルフと同じ感覚でギガフラムをショットする。3km程なら誤差10cm単位での精密ショットが可能だからな。妹弟子達はもう少し誤差が出るがそこまで酷いものじゃない。

 

ギガフラムが空高く舞い上がり、古城に落下し、半径5kmが爆発に包まれる。まるで世界の終わりを見せつけられるかのような光景が迫って来る。

 

「ちょっ!?早く逃げないと」

 

「真の爆裂を知っているなら耐えられるって。だって、爆裂を受けてないと何が真なのか分からないからな」

 

逃げようとするめぐみんを捕まえて帽子が飛ばないようにしっかり持っておく。そして爆発に巻き込まれ、多少煤けただけですむ。

 

「えっ?」

 

「最初に言っただろうが、ジョークグッズに近いって」

 

特性:見掛け倒し(効果99%ダウン)と効果範囲・絶大を付けたネタのギガフラムだ。爆発の熱も風呂に入ったぐらいで、爆風も扇風機の強程度だ。

 

「今のが余計な特性を付けて威力をほぼ無害にまで落とした物だ。見た目も範囲も同じで威力だけ100倍以上に出来るが、どうする?」

 

「ぐ、ぐぬぬぬ、いいでしょう!!受けて立ちます!!」

 

「その意気や良し!!見晒せ、我が最高傑作品!!」

 

ギガフラムでありながら特性:融け出す魔力などのあり得ない特性をふんだんに付けまくった一品。王都に撃ち込めば誰一人生き延びることは、いや、師匠なら平気な顔して耐えそうだな。義母はちゃんと装備して防御すれば、ということはステルクの野郎もか。弟子’sも装備次第では生き延びそうだな。意外と生き延びるな。この世界にもそんな奴らがいるのだろうか?

 

そんなことを考えながらも身体は正確にギガフラムを廃城に撃ち込んでいた。おっと、このままだとめぐみんが死ぬな。ローブをかぶせてやって魔力を通してやる。これで30秒ほどは外界からの影響を完全カットしてくれる。オレ自身は爆発に背を向けて、デュプリケイトで複製したエリキシル剤を口に含んでおき、ダメージを食らうと同時に飲み込んで回復する。あっ、この方法を使えば生き残れる奴がもっと増えるな。

 

「まずい、もう一本」

 

回復のタイミングが早すぎてダメージが残ってしまったのでもう一本エリキシル剤をデュプリケイトで増やして飲む。発動コストより回復量の方が多いからこそ出来る無限回復は素直に便利だと思う。

 

「こ、これは!?」

 

めぐみんが草木一本も生えていない凄惨な光景に絶句する。使うのは二度目だが、ひどい光景だよな。やっぱり普段使う分はN/Aか特性:融け出す魔力を付けたレヘルンで十分だな。その後、めぐみんは何もないからこそ迷惑がかからないからと爆裂魔法をクレーターに撃ち込みぶっ倒れる。いやがらせに自転車の荷台にチャイルドシートを取り付けて、そこに乗せてアクセルまで連れて帰ったんだが、この世界にはチャイルドシートなんて存在していないせいでネタにもならないことに気付いて落ちこんだ。

 

その後、とっとと魔力を回復させるためにティータイムに誘ってやったのだが、父親の所為で色々と金銭に困っているようだ。聞いてみるとたしかに効果はすごい魔道具なんだが、デメリットがデカすぎたり、使い道に困るような物ばかりだ。本人は本人で爆裂魔法しか使えないからあまりお金を稼げずにいる。それでもなんとかやりくりして幼い妹のために仕送りをしているそうだ。

 

「う~ん、とりあえず多少は回復したな。ちょっとこっちに来て」

 

釜の前まで連れていき、トゲトゲがついている実とかんしゃく玉とチラシをめぐみんに渡す。

 

「それじゃあ、実の皮を剥いで釜に入れてかんしゃく玉も放り込んで潰すようにかき混ぜていって、たまに突く感じで全体的に押しつぶしていく。完全に潰せた感じがしたら最後にチラシを放り込んで素早くかき混ぜる」

 

うむ、隣で指導しているとは言え一発でクラフトが作れたな。

 

「よし、めぐみん。弟子になれ」

 

「だが、断る」

 

「一応アトリエで作業してる時は三食作って構わんぞ。材料は適当に使って。あと、腕が上がるとこんなのが作れる」

 

ポーチからエリキシル剤を取り出して目の前で振る。

 

「さっきも飲んでいましたが、それは?」

 

「マナタイトよりも安く手に入るMP回復薬、ついでに状態異常も体力もめちゃくちゃ回復する。更に更に、おまけのおまけに免許皆伝になればおまけでこの技も伝授してやろう」

 

ポーチ内ではなく目の前でデュプリケイトでエリキシル剤を複製する。

 

「魔力を使って自分の錬金物を複製するデュプリケイト。熟練度にもよるがエリキシル剤の回復量よりは少ない。つまり、お腹がチャプチャプになるのを我慢すれば無限に魔力を回復させることが出来るのだ!!」

 

「師匠、何をやっているんですか。早く教えてください!!」

 

「その欲望に目がくらんだ手のひら返し、嫌いじゃないぞ。というわけで色々説明もする必要があるし、弟子用装備一式を用意したりする必要もあるから、明日もう一度来ると良い。このアトリエは拠点として使っていいからな」

 

「分かりました。荷物をまとめてまた来ます」

 

アトリエから飛び出していくめぐみんを見送り、屋根裏の掃除と補強を施して下にあるベッドを屋根裏に運び、もう一つ出してカーテンで仕切りを用意する。それからクリスの分と同じように棚やテーブルや椅子を用意してやる。これで釜を3つ用意しても大丈夫になったな。あとは、支給品だな。中堅クラスの装備と経験を持つクリスと比べれば若干豪華だが、仕方ない。野垂れ死にされるよりは良いだろう。

 

 

師匠からの支給品

伸縮式10フィートの杖

カゴ(容量60)

コンテナ(容量300)

レシピ集(はじめての錬金)(便利な日用品)(おばあちゃんの知恵袋)(錬金クッキング)(魁!漢の美学)(爆発は芸術だ!)

ちむちむちゃん

普通のパイ 30個

砂糖 10個

小麦粉 10個

クラフト 10*3個(3回使用できるのを10個。3回使えばジャイアントトードも狩れる。お値段3000エリスで販売中)

3万エリス

 

師匠や弟子’sには甘いと言われそうだが、弟子’sにはよく手を貸してやっていたり、レシピもそこそこ渡してやったりしてたしな。とりあえず、3年程度で一流まで鍛え上げますか。

 

めぐみんのアトリエ アクセルの錬金術師 も始まります。

 



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FGO 侵蝕異界森林ヘルヘイム

スランプです。仕事も忙しいです。その結果がこれです。



 

 

オレはただの高校生、元の名前は忘れて今は鎧武と名乗っている。いつものように所属するダンスチームの仲間と共に練習をしていると、昨日までは見かけなかった植物を目撃した。見たこともない植物を見るのに夢中になっていたオレ達は、背後から近付いて来る、背後から忍び寄ってくる怪物に気づかなかった。オレ達はその怪物に何かを打ち込まれ、目が覚めたら怪物になってしまっていた!!

 

何故かオレだけが意識を保ち、姿も異なっているが仲間どころか上司とかリーダーとして見られている。だがこのままでは警察やそっち側の組織に襲われ、反撃してまわりの人間にも危害が及ぶ。読んでいた漫画の助言で正体を隠すことにしたオレは、怪物の姿から元の人の姿に戻る努力をした。その間に植物は世界の各地に現れ、人間は、いや、地球の生物は絶滅の危機にひんしていた。

 

そんな中、ごく少数ではあるがアーマードライダーを名乗る者達が戦ったが多勢に無勢。オレも力を貸したが、オレのような同位階の怪物の前に次々と倒されていった。最終的にアーマードライダーの一人がオレの同位階まで上り詰めたが、戦いに生き残ったのはオレ一人だった。そして戦いは終わってもあの植物が生えている異界、ヘルヘイムの森の進行は止められず、オレ達の地球は滅んだ。

 

そこからオレはヘルヘイムの森に移り住み、怪物、インベスを狩り続けた。オレの同位階の存在がいるのか、オレに襲い掛かってくるインベスの抵抗が強い方向へと突き進む。何度も大きな群れを滅ぼし、何度も繰り返した先に見つけることが出来た。そいつは強かったのだが、どこかやる気がなかった。生きるのに疲れたような感じがした。何とかそいつを倒し、そいつの力の源らしい黄金の果実を手に入れた。オレは更なる力を身に着けた。

 

だが、それだけだった。何も変わらなかった。ヘルヘイムの森は色々な世界へと根を伸ばし、侵食し、幾つもの世界が滅んだ。オレに出来たのは精々ヘルヘイムの森にいるインベスの進行を止めることだけ。だが、植物についた実の毒にやられてインベスになってしまった世界の住人を止めることはできなかった。

 

あの黄金の果実を持っていた奴もこんな気持ちだったのだろうな。だが、オレは諦めてやるものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

どれだけの時が過ぎたのかも定かではないが、随分長い間眠っていたようだ。ヘルヘイムの森の侵食を抑えることに成功はしたが、その代わりにオレは深い眠りに着いていた。つまりオレが覚醒したということは何らかの異常が発生したということだ。感覚を広げて森の異変を探す。だが、それよりも先にこちらに向かって何人かの人と思われる気配が走ってくる。それを追うように下級インベスの群れが走っている。そのインベスに追うのをやめるように伝えても何故か命令を聞かない。

 

困惑する中、逃げてきている者達の姿が見えた。先頭は金髪の赤いドレスの女、その後ろに橙髪でどこか学生服に似たような服の少女とその背に背負われている顔に傷のある少女、最後尾に大きな盾を持った少女だった。

 

「奏者よ、前にも何かがおる!!」

 

「挟み込まれた!?」

 

女達がオレに気付いて声を上げる。

 

「ああ、日本語か、懐かしいな」

 

「喋った!?しかも日本語だよ!?」

 

驚いて足が止まってしまっている。このままでは追いつかれるな。仕方あるまい。

 

身体に巻き付いている蔦などを引きちぎりながら立ち上がる。

 

「むっ、力を奪われているのか。仕方ないか」

 

まだ人だった頃の姿に戻り、残された力をかき集めてオレ達の世界の人類が作り出した叡智の結晶を2つ生み出す。

 

「えっ、人だったの!?」

 

片方を腰に巻き付け、もう片方のスイッチを入れる。

 

『オレンジ』

 

それを腰に巻き付けたベルト、戦極ドライバーのバックル部分に装着して固定する。

 

『LOCK ON』

 

「変身!!」

 

カッティングブレードを倒すと同時に、頭上にオレンジアームズが出現する。

 

『ソイヤッ!!オレンジアームズ!!花道オンステージ!!』

 

オレンジアームズが落ちてきて装着が完了する。

 

「オレンジが鎧になった!?」

 

「下がっていろ。ここからはオレの独壇場だ!!」

 

無双セイバーと大橙丸を抜いてインベスに向かって走る。オレの命令を受け付けない時点で少し不安だったが攻撃は十分通じている。強さも変わっていないということは、オレより力の強いオーバーロードが産まれたか、代わりになる存在が居るということだ。

 

下級インベスが一箇所に固まるように切り捨てた後、走りながら無双セイバーと大橙丸を放り投げて、カッティングブレードを1回倒して飛び上がる。

 

『オレンジ・スカッシュ!!』

 

「セイヤァ!!」

 

オレンジ型のエネルギーを潜り抜け、飛び蹴りをインベスの群れに叩き込む。インベスが吹き飛び、爆発する。

 

「あ、貴方は何者なの?」

 

「一番最初は人間だった。その後はインベス達のボスのオーバーロード、そしてその中で一番強い王。今は、その抜け殻のような力しか残っていない何かだ。こんな森だ、すぐに引き返すことをオススメしよう。背中の彼女のように毒に侵されることになる。毒が回りきればインベス、先程追って来ていたやつのようになるぞ」

 

変身を解除して、4人の中でリーダーと思われる少女の背中で苦しんでいる少女の傷口に手を触れて毒を抜き出す。

 

「この森の空気にも毒が含まれているし、果実には濃縮された毒が、インベスにも毒が含まれている。この森は、今は異常が起きている。逃げれるなら早く逃げるんだ」

 

『ちょっといいかな?』

 

「通信か何かか?質問があるようなら答えられる範囲で答えよう」

 

『ありがとう。僕はロマンだ。まず聞きたいのは、この森に関してだ』

 

「ヘルヘイムの森、オレの出身世界ではそう呼ばれていた。森に侵食されて既に滅んだがな。オレは唯一の生き残りだ」

 

『それはどうやったんだい?』

 

「偶々オレが毒に耐えれる身体を持っていた。そのおかげで意識だけは失わずに身体が作り変わった。森の力を超越した存在、オーバーロードにな。他にも一人だけ毒が少しずつ回る内に毒への抗体を得てオーバーロードになった者がいたが、戦いの中で散っていった」

 

『すまない』

 

「古い話だ。気にしていない。それよりも君達は元の世界に戻れ。対策がなければ此処ではすぐに毒が君達を殺すことになる。君達の世界への侵食はオレが止める」

 

『原因は分かっているのかい?』

 

「何か外からの異物がオレがこの森の封印に使っていた力を汲み上げたような状態だろうからな。オレの力の方向に向かえば自ずと原因が分かるだろう」

 

『そうか。実は僕たちはその原因に心当たりがあってね。出来れば協力してくれるとありがたいんだが』

 

「そうは言っても毒への対策がないなら足手まといにしかならない。先程も言ったがオレも抜け殻に近い。多少の力を取り戻しても一人分の戦極ドライバーしか用意できそうにない」

 

『戦極ドライバー?』

 

「簡単に言えば毒を取り除くフィルターだ。そしてインベスに対抗するための鎧、アーマードライダーへの変身ツールだ。オレの世界の叡智の結晶だ。だが、量産が間に合わず、森の侵食が早かったために戦況をひっくり返すことまではできなかった」

 

近くにあった果実をもぎ取りロックシードに変化させる。おっ、スイカアームズだ。ラッキーだな。

 

「戦極ドライバーにこのロックシードを装着することでアーマードライダーの鎧と武器を構成する。今のオレはこれに頼らなければ戦うことが出来ない」

 

『なら、毒を防ぐ方法に心当たりは?』

 

「触れるな。攻撃は躱すか、弾くか、それとも装甲で受けるかだな。大気中の毒はあれだ、超高性能なフィルターを用意すれば多少は防げるはずだ。多少の解毒ならしてやれるが、少しずつ侵食されていると考えてくれ。オレが限界だと思ったら絶対に退却することだ。インベスになったなら、オレが斬り殺す」

 

『それはこちらでも気をつける。彼女には絶対に倒れてもらっては困るから』

 

「彼女?彼女たちではないのか?」

 

『ああ、それはだね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、人類の全てを背負ったか」

 

「はい」

 

「オレも似たような感じだが、結構辛い。投げ出したくなることもあるだろう。だから、似たような先輩からアドバイス、周りを頼れ。オレは出来なかった。全部自分の内に抱え込んで、誰にも頼る余裕が無い状況にまで追いつめられたからな。だが、君は頼れる仲間達が居る。いつかきっと君は人類を救えるさ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

『和んでいるところをすまないがサーヴァント反応だ』

 

「インベスも向かってきているようだ。まだ多少の時間は残されている。サーヴァントを入れ替えるなら今のうちに済ませておけ。変身!!」

 

オレンジロックシードで変身して構える。

 

「そう言えば、名前聞いてませんでした。私は藤丸立香です」

 

「デミ・サーヴァントのマシュ・キリエライトです」

 

「オレはとうの昔に忘れた。鎧武とでも呼んでくれ」

 

サーヴァントの切り替えが終わり、出来るだけ鎧を着ている者と遠距離武器を持つもので揃えたようだ。

 

「下級インベスは任せる、行くぞ!!」

 

向かってくるインベスの中に3匹混じっている上級インベスの方へと走る。

 

3対1で若干苦戦したが、なんとか倒した所でそいつは現れた。メロンの皮のような模様が入った鎧と盾に大きな三日月の兜飾りのアーマードライダー。

 

「お前は!?斬月!!」

 

「知り合い?」

 

「死人だ。アーマードライダーを製造していた会社の社長。そのアーマードライダーだ。毒の気配はないが、強いぞ」

 

さらに悪いことは続くのかインベスの大群が斬月の後ろから迫っている。上級もそこそこ混じっている。ここはスイカアームズを使うしか無いだろうな。

 

「すまないが、斬月を押さえておいてくれ。オレはインベスの群れをどうにかする」

 

「だ、大丈夫なの?」

 

「とっておきを使う。むしろこっちのほうがすぐに終わるから」

 

走り出して安全を確保してスイカロックシードのスイッチを入れてオレンジロックシードと入れ替えてカッティングブレードを倒す。

 

『スイカアームズ!!大玉ビッグバン!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

鎧武さんがインベスの群れに走りながら腰から説明の時にもぎ取った果実から産まれたロックシードを戦極ドライバーに装着する。

 

『スイカアームズ!!大玉ビッグバン!!』

 

スイカか。オレンジだと刀だったけどスイカだと何なのかな?ふと、気になって鎧武さんの方を見ると、ものすごく巨大なスイカが降ってきて鎧武さんを押しつぶした。

 

「ええええええっ!?」

 

「どうしました、マスター?」

 

マシュが盾で私を守りながら振り返り、大きなスイカに驚いている。

 

「マスター、アレは一体!?」

 

「鎧武さんがアレに押しつぶされちゃった!!」

 

「そんなっ!?ではこのままだと挟み撃ちに」

 

「あれ?」

 

「どうしました?」

 

「あのスイカ、傾いてない?」

 

「そう言えば、いえ、確実に傾き始めてます!!と言うか、転がり始めました!!」

 

マシュの言うとおり、スイカが転がり始め次々とインベスを踏み潰していく。それを止めるように、私達が戦ったのとは違う姿のインベス、たぶん上級インベスなんだろうけど、それが5体位が飛びかかった瞬間、スイカが変形して鎧武者になり、どうみてもスイカバーにしか見えない武器でなぎ倒す。

 

「えっと、大丈夫みたいだね」

 

「はい」

 

マシュが生返事でしか返せないぐらい衝撃的な光景だった。私達と戦っていた斬月っていうのも不利と感じたのか逃げてしまった。それと同時にインベスも退いていく。

 

「逃げられたか」

 

鎧武さんが側までやってきてスイカから降りてくる。うん、またスイカの形に戻ってる。鎧武さんが降りてしばらくするとスイカが消えてしまう。

 

「どうやら異変の主がアーマードライダー達の親玉をやっているんだろうな。インベスの指揮権を与えているようだ。目的はわからないがな」

 

鎧武さんが鎧を解除しながら説明してくれた。

 

「これからどうしましょう?」

 

「ロマン、索敵の範囲内に斬月みたいな反応はあるか?」

 

『斬月以外に一体だけ一瞬だが反応があった』

 

「参戦してこなかったのが気になるが、まずは斬月に集中するしか無いな」

 

『だが、インベスの反応はかなり多い』

 

「ある程度削ってから一気に大将首を取りに行く。それしかないだろう。運が良ければ斬月を倒すことでオレの力を取り戻せるかもしれない」

 

『力を取り戻すとどうなるんだい?』

 

「オレはこの世界の王だ。森に属する全てを支配下における。つまりはインベスもだ」

 

『つまり探索が用意になるのか』

 

「そういうことだ。どうする?オレは一人ででも戦うつもりだ」

 

「協力するよ」

 

「先輩が決めたのなら私も」

 

「短い付き合いになるだろうが、よろしく頼むよ」

 

 

 

 

 

 

 

 




鎧武
クラス:バーサーカー 真名・葛葉紘汰 星4
HP11952 ATK9896

スキル
戦闘続行E

突撃思考B
自身の攻撃力をアップ&自身のスター獲得率をアップ&自身のNP獲得率をアップ&自身の防御力をダウン(デメリット)(3ターン)

直感(偽)A+
自身に回避状態を付与(3回)

クラススキル
狂化C--
対状態異常B

宝具
スイカ・アームズ カード:バスター
ランクC
種別:対人対軍宝具
敵全体に防御無視の強力な攻撃。宝具使用不能を付与 (デメリット)(3ターン)

コマンドカード

クイック×1 バスター×2 アーツ×2

《プロフィール》
キャラクター詳細
ヘルヘイムの森の侵食を乗り越えた超越者。ヘルヘイムの異界侵食を抑えるために長きに渡り眠りについていた。現在はオーバーロードの力の殆どを失いアーマードライダーとしてヘルヘイムの異常の調査に乗り出す。

《パラメーター》
筋力B+(A+)   耐久B+(A)
敏捷B-(B+)  魔力C(EX)
幸運D         宝具C(EX)
( )内はオーバーロード態時

絆Lv1で開放
身長/体重:198cm・97kg(オーバーロード態時)
出典:仮面ライダー鎧武の平行世界
地域:日本
属性:中立・善 性別:男性

絆Lv2で開放
原作の仮面ライダー鎧武とは異なり、ヘルヘイムの進行が激しくかなり早くオーバーロードになってしまった。心までは化物になりたくないと人間態を取り戻してからは大々的に量産された戦極ドライバーとオレンジアームズを手にインベスとの戦いに身を投じた。

絆Lv3で開放
『スイカ・アームズ』
ランクC 種別:対人対軍宝具
戦極ドライバーで扱える最高クラスのロックシード。一騎当千の力を得るが数が少なくヘルヘイムの進行を止めることはできなかった。また、一度使用すると暫くの間、ロックシードが色を失い使用ができなくなる。

絆Lv4で開放
狂化C--
ヘルヘイムに飲み込まれる幾つもの世界を救うことが出来ずに正気を失わなければ自身を保つことができなかった。現在はある程度の対応策を手に入れたことで落ち着いている。
突撃思考B
ヘルヘイムの進行に、安全策を取る時間すらも浪費と捉え、一体でも多くのインベスを倒す必要性が生み出した。
直感(偽)A+
長年インベスや他のオーバーロードとの戦いによって染み付いた戦闘経験が齎す第六感。初見の攻撃すらも知っているかのように躱す事ができる。

絆Lv5で開放
自分の世界の終わりの始まりから終わりまでを肌で実感してしまい、元の明るい性格は鳴りを潜めてしまった。その後も何度も世界の終わりの始まりから終わりまでを経験し、時には侵食されている世界の住人からも襲われ傷ついてきた。その心と体が癒される日は---


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この素晴らしい錬金術で祝福を! 2

 

 

めぐみんが弟子入りして2週間。クリスとめぐみんの錬金物を査定する。質によってはそのまま買い上げて店で売っても良い。

 

「めぐみんはクラフトとフラムはもう完璧だな。あとは、質の高い材料を使わないと質の向上はないな。クリスはそろそろ布系に入ってもいいだろう」

 

「そうですか。ですが、他の店ではコレ以上の材料は売ってないですよ」

 

「私の方も材料がなくて布には手を出せてないんだけど」

 

「……あれ?あっ、すまんな。一番大事なことを教え忘れていた。オレ達の流派であるアストリッド流の基本は『材料は自分の手足で稼げ』だ。と言うわけでフィールドワークに行くか。というか、カゴも使ってないのかよ。これ、地味に錬金するのが面倒なのに」

 

「こんなカゴをどうしろと?お弁当でも詰めろと?」

 

めぐみんがオレが支給したカゴを掲げているが、それを錬金できるようになってはじめて弟子を取れるんだけどな。

 

「そのカゴ、コンテナと同じ特性が付いててな。中の空間を歪めてあるから、50個まで大きさ重さ関係なしに詰め放題なんだけどな。中級試験として時間も歪めて中に入れたものが劣化しないようにするのと上級でコンテナと中身を共有させる予定なんだが」

 

「はぁっ!?何さらっと神器みたいなものを支給してるのよ!!」

 

「コンテナと同じということは、このカゴにもジャイアント・トードが丸々50匹も」

 

「あっ、めぐみんの方は60個入る仕様だな。コンテナはクリスと同じで300だけど」

 

「なんでそんな差が」

 

「爆裂魔法しか使えない産廃アークウィザードだからな」

 

「ああ、その分アイテムを用意してないといけないからか」

 

「ジャイアント・トードぐらいスキル無しでぶん殴って仕留めれる様にならないとな。クラフトすら投げて届かせられないから杖でのショットを覚えさせる必要があるぐらい貧弱だからカゴをちょっと大きめに用意してやるぐらいはな」

 

「むぅ、バカにして。ちむちむ、フラムの量産は出来てますか」

 

「ちちむ、ちむ~」

 

「えっ、これだけですか?」

 

ちむちむからめぐみんがフラムを3回分1セットを受け取っている。

 

「どうしてですか、昨日はこれを3つだったではありませんか!?」

 

「ちむ!!」

 

めぐみんの嘆きにちむちむからの返答は自分と同じようなサイズのプラカードに書かれていた。

 

『待遇改善要求。パイ寄越せ』

 

「あれ?めぐみん、パイはどうした。弟子入りした時に言ったが、パイはちむ達の原動力だぞ。ちゃんとパイを与えてるか?」

 

「そう言えばめぐみん、ベッドで何か食べてたけど、まさか」

 

「た、食べてませんよ。ええ、決して。ちむちむの分のパイなんて食べてませんよ」

 

食べたな。はあ、全く、このバカ弟子は。何か食うなら降りてきて冷蔵庫の物を食えばいいのに。

 

「小麦粉と塩とミルクだ。とっとと、作って食わせてやれ」

 

ポーチから質の良い物ばかりを取り出してめぐみんに渡す。

 

「すぐに作ってきます!!」

 

キッチンではなく、自分の釜の方に向かっていく辺りアストリッド流錬金術師の思考に染まってきたな。まあ、妹弟子のように持ち運び用の釜で戦闘中にパイを錬金しようとは思わんが、注意しておかないとな。

 

「あっ、そうだ。外に出るんだったら私が組んでる子も連れて行って良い?」

 

「構わんぞ。オレも駆け出しの頃は見習い騎士とか駆け出し冒険者とパーティーを組んでたし。大分昔の話だがな。懐かしいな、あの頃は。今のめぐみんみたいにクラフトとフラムを量産してステルクをエスティと一緒に盾にしたり、ジオティクス皇太子とステルクにドラゴンの相手をして貰っている間に後ろの鉱石を掘ってみたり、酔ったエスティに襲われかけたりと、色々と懐かしい」

 

「なんかヤバイ単語がまじっていたような」

 

ヤバイ単語?

 

「襲われかけた?」

 

「いや、皇太子にドラゴンの相手を任せたって」

 

「当時は知らなかったんだよ。見習い騎士のステルクは口止めされてるし、国からの依頼の期限が迫っていて他のことを考える余裕がなかったんだよ。納品しに行って初めて知ったぐらいだ。それどころか陛下になってからも妹弟子の素材採取に付き合ったり、仮面を付けて正体がバレバレな世直しの旅なんかしてるぞ。ちなみに国内最強の剣士で騎士のプライドがずたずたにされたステルクは騎士を辞めちまった。その後、隣国の妹弟子の弟子の弟子である王女に仕えてる五十路間近の独身。オレの周りの同年代は独身が多かった」

 

「そういうあなたは」

 

「結婚してたぞ。まあ、新婚で死んだが。死因はおそらく妹弟子か妹弟子の弟子の親友に眠っている所をさくっと」

 

「いやいやいや、なんでそんなことになってんの!?」

 

「これには砂山より低く、水溜りより浅い理由があってだな」

 

「つまりはしょうもない理由なんでしょ」

 

「まあ、ぶっちゃけると妹弟子の弟子に一服盛られて既成事実を作られて子供を見せつけられ、結婚に至った。歳が親子ほども離れてるのにな」

 

「ロリコンだったの?身の危険を、うん?あれ?なんでそんな若い姿なの?」

 

「そりゃあ、師匠が作った若返りの薬の実験台にされたからな。レシピは頂戴したけど。妹弟子の弟子、妻にはちょっと年上にしか見られてなかった。ちなみにその時の妻は16で、オレは39。薬で20ほど若返ってた。そしてエスティに若返っているのを見られて全部ゲロらされた。薬も盗られたしな。並の男共よりも腕っ節が強くて男前だから婚期を逃すんだよ」

 

「直接言ったことは?」

 

「あるよ。酒の場で。結果、店が潰れた。物理的に。その日から二人して暫くの間、大工に転職してたから」

 

40過ぎのおっさんおばさんにはキツかったな。

 

「話を戻してと、明日朝から出発な。森の方に行くから、ついでにギルドの方で依頼も受けとけ。多重に受けて纏めてこなすのもアストリッド流では基本中の基本だ」

 

普通は特性に合わせて素材を用意しなければならないのに、師匠は特性を後から付け足すことが出来るチートだった。オレもようやく出来るようになったっていうのに。

 

クリスは組んでいる相手を探しに行き、オレはパイを渡し終えためぐみんと一緒にクエストを確認する。

 

「とりあえずジャイアント・トードの討伐を受けるのと同時にクラフトの強化案としてこんなクエストを発行してもらった」

 

【採取:とげとげしたもの 最低報酬100エリス、とげとげ具合で報酬に上乗せ。上限10万エリスまで。採取物はユキトのアトリエまで納品。一般人でも可】

 

「こうやって変わった物からでも錬金できるようにならないとな。たまに遊びで作ったものが役に立つことがあるのが錬金術だ」

 

「そんなものなんですか?」

 

「例えば、この前買った着ている人の魔力を吸って恐ろしく重くなる服とかは特性:重いと魔力吸収と布を満たす錬金素材だな」

 

「どこかで聞いたことのあるような効果ですね」

 

「まあそんな感じで失敗作でも品質が高いから部分部分で抽出すれば色々悪さが出来る。ちなみにアクセルで一番質のいい火薬を手に入れるなら爆裂ポーションだな。1本数万の使い捨てでフラム以下の火力だが」

 

「そんなのがあるんですか?」

 

「今度紹介してやる。高額商品しか置いてないし、アクセル周辺じゃあ役に立たない物ばかりだが、錬金術の材料にするならば中々の品揃えだ」

 

明らかにオレと同じで店を構える街を間違えたと思える。まあ、逆にそのおかげで弟子二人が出来たと思えばいいか。

 

「ジャイアント・トード以外にいくつか採取系も見繕ってもらった。装備の準備は大丈夫だな?」

 

「一応、フラムとクラフトは多めに持ってます。ちょっとした怪我を治すヒーリングサルヴも。杖も新調しましたし」

 

「まあ、普通はそんなものだな。オレはいつもの杖に秘密バッグの出し入れ自由の特性を組み込んだポーチに、旅人の靴に倍速手袋にトラベルゲート、ネタの空飛ぶじゅうたんだな」

 

「名前だけだと凄いのかすごくないのか分かりにくい装備が出てきましたね」

 

「簡単に説明すればポーチはコンテナと中身を共有、旅人の靴は歩く速度が倍、倍速手袋は採取の際の精密動作の速度を倍、トラベルゲートは指定したポイントへのワープ、空飛ぶじゅうたんはそのまんまだな。ただし使い捨て。しかも結構素材を用意するのが面倒」

 

「便利すぎるものばかりじゃないですか!?レシピレシピ!!」

 

「まだまだ作れるようなレベルじゃないぞ。それに材料もな、厄介なものばかりだぞ」

 

一応レシピを取り出して見せてやるが、すぐに顔を顰める。

 

「無理だろう?」

 

「確かに今は無理そうです」

 

「まあ、2年もすれば腕は追いつく。問題は材料だが、まあ、手伝ってやるよ」

 

というか、オレですら苦戦してるからな。代用になる材料を探し求めて旅もしたが、魔王軍の幹部をボコってようやく揃えたからな。どいつもこいつもうざかったが、バニルが特にうざかった。3回ほど殺したが、普通に復活しやがった。抜け殻は錬金素材にしてみたが中途半端な品質に特性で苦労に合わないような性能に腹が立った。今度は生きたまま釜に放り込んでやる。魂ごと素材にすれば多少はまともになるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ、クリス、この草が布関連の素材に使えるやつだ。めぐみん、その木になっている実がレヘルンを強化するのに使えるぞ。マルチプル・マナ・ストライク!!」

 

採取できる物を指導しながら寄ってきた一撃熊をガスト式のスキルで四肢を砕いて動けなくする。クリスとめぐみんにとどめを刺させてレベリングも同時に行う。死体は錬金素材にならないことのほうが多いが、飯にするには問題がないので回収できる分は回収していく。

 

「店主殿よ、私の出番がだな」

 

「置物は黙ってろ」

 

ジャイアント・トードの粘液まみれの黄色い置物が何か喋ったようなので猿轡をかましておく。ちくしょう、喜び始めやがった。面倒くさい、縛って目隠しもして魔法の絨毯でギルドに送ってやる。めぐみん以上の産廃が居るとは思わなかったぜ。

 

「あの~、あんまりひどい目には」

 

「本人が喜んでるだろうが。というか、何故アレとパーティーを組んだんだ?」

 

「囮にしている間に私は私で仕事をね」

 

「囮のくせしてヘイト管理ができないとか問題だらけだろうが。最低でも挑発は覚えてろよ。目立つ格好と大声は基本中の基本だぞ」

 

空いた時間にハガレン式錬金術でポーション瓶を量産する。錬成陣を書くのが結構面倒くさい。軍人の錬金術師が錬成陣を手甲や掌やグローブに予め錬成陣を刻んでおく気持ちがよく分かる。

 

「粗方取り尽くしたな。それじゃあ、今回だけは特別にトラベルゲートで帰るぞ。いずれは二人も作れるようになるからな」

 

ポーチからトラベルゲートを取り出し頭上に掲げて力を開放させる。頭上の空間が歪み、対象者であるオレ達三人に魔力で翼が形成され、歪みに飛び込む。次の瞬間にはアトリエの釜の前だ。

 

「テレポートを魔道具に詰めるなんてすごいですね」

 

「まあ、転移先は自分の巣、つまりは拠点になるんだがな。条件が結構厳しい。王都支店にすら飛べないからな。癖で作ったが、材料を考えると他のものを作ったほうが良い気がした微妙な失敗作だ。自分でテレポートを使ったほうが便利だな」

 

アーランドでは便利だったんだけどな。テレポートを覚えた結果、無用の長物となってしまった。こいつを錬金素材に何かを作るか。

 

「さてと、それじゃあコンテナに素材を詰め終えたらダクネスを迎えに行ってくるわ」

 

「次までに最低限挑発スキルを手に入れておけと伝えとけ」

 

「私もジャイアント・トードの討伐証明とお肉を売ってきます」

 

「帰りにちゃんとパイの材料を買って来るんだぞ。またストライキを起こされるぞ」

 

「分かってますよ!!」

 

ギルドに向かう二人を見送り、アトリエのソファーに寝転がる。トラベルゲートを使ってどんなものを作ろうか?空間操作系になるのは間違いない。となると、どこでもドア、いやいや、通り抜けフープもいいな。時空操作系を混ぜ合わせてタイムテレビなんてのも面白そうだ。

 

「あの~、すみません。ギルドでクエストを見て来たんですけど」

 

ソファーから起き上がり入り口の方に顔を向けて二人組の男女の男の方を見て少し懐かしく思った。こっちの世界でもアーランドでも見なかった、最初の世界にしか無い服装。

 

「ジャージか、何もかもが懐かしいな」

 

「えっ!?ジャージを知ってるってことはオレと一緒なのか!?」

 

「まあ、ちょっと色々と異なるけど、根っこは同じだ。ようこそ、オレのアトリエに」

 

「よ、よかったぁ~。実は」

 

カズマ君の事情を聞かせてもらったのだが、中々笑えた。神にも色々なやつが居るんだな。

 

「事情は分かった。同郷の好だ、ある程度援助してやるよ。ギルドの登録料と数日分の生活費と最低限の装備をやるよ。さすがにそれ以上は金をもらうが、多少は値引いてやる。この店は初心者の街アクセルに合わせた物しか店頭には置いてないが、注文に応じてどんなものでも用意してやる」

 

「ありがとうございます」

 

「とりあえず、二人で10万エリスもあれば十分だろう。装備だが、それはジョブについてからだな。一度登録してこい」

 

「はい。ほら、行くぞアクア」

 

出ていく二人を見送ってからコンテナから材料を出して初心者用の武器防具を片っ端から錬金していく。二組ずつ用意してあるから問題ないだろう。あとは、ヒーリングサルヴとクラフトだな。これでいいだろう。最初はカエル狩りでレベル上げと金を貯めて最低限の衣食住を揃えないとな。秋口だから冬までに蓄えを貯めないと凍死する。さすがにおんぶにだっこってのはアストリッド流に反するからな。

 

ついでに飯を錬金しながらカズマ君にもトラベルゲートを使った錬金アイテムをアイディアを貰うかな?日本を離れて大分時間があるからな。アイディアなら地球で引きこもりをやっていたカズマ君の方が上だろうな。

 

戻ってきたカズマ君たちに装備と金と簡単な町の地図を渡して激励する。カエル程度ならクラフトで大丈夫だと説明しておいたからなんとかなるだろう。

 

 

 

 

 

深夜に目が覚めて、喉の渇きを覚えて1階のリビングに降りる。水を飲んでベッドに戻ろうとした所で氷が溶けてグラスに当たる音が聞こえる。店側を覗いてみると窓際でユキトが珍しくお酒を飲んでいた。

 

「珍しいね、お酒を飲んでるなんて」

 

「うん?クリスか。ちょっとな」

 

それだけを言うとまた月を見ながらグラスを傾ける。ダクネスを迎えに行ってきてから少し様子がおかしかった。

 

「何かあったの?」

 

「ああ、そうだな、うん、軽いホームシックかな?転生者に会ってな、もう50年以上昔の話なのに色々と覚えているものだ。懐かしさに少しな」

 

「家族は?」

 

「5人家族でな、父と母、兄貴と妹とオレ。普通の一般家庭だ。死因は釣りをしている時に何かに引っ掛けて引きずり込まれた。死体が残ったのかすら分からん。気づけばアーランドで赤ん坊だ。そっから50数年、また死んでこっちに来て、すっかり忘れていたんだけどな。少しだけ思い出しちまった」

 

「……帰りたい?」

 

「いいや、アーランドに生まれ落ちてしばらくしてから帰りたいって思いだけは完全に断ち切った。盗賊とは言え、人を殺めて、それが罪にならなかった時点で帰るのは諦めた。帰っても世間に馴染めないだろうと思ってな。だけど、今更になって家族がどうなったのか、それぐらいは知りたいと思っちまった。今の今まで忘れ去っていたくせにな」

 

そう言ってまたグラスを傾けながら月を見ている。私達の不甲斐なさが彼らのような存在を生み出してしまっていることに心が痛くなる。だけど、私達も必死なのだ。それに、謝って済む話でもない。だからといって何もしないのは悪いとも思ってしまう。

 

「気にするな。この世界に来た時から流れに身を任せると決めている。あとは、オレの腕次第だ。人生は出たとこ勝負。全知全能な者など存在しない。神だろうが、力が強いだけの存在だ。しかも万能じゃない。エリス教の神、エリスもパッドで底上げしてるって話だしな」

 

「誰がそんなことを!?」

 

だから心の中があまり平静じゃない状態で挑発されてしまい、それに乗ってしまう。クリスを通して見ていて、咄嗟に反応してしまった。

 

「ほれ、そんな簡単に挑発に乗る」

 

「あぅ」

 

「ってことは、あのアクアってのも本物の女神か。神としての威厳が全く感じなかったが術式で押さえられてるんだろうな。羽衣だけは恐ろしいぐらいに神秘を纏ってるから分かりやすかったが」

 

「アクアって、まさかアクア先輩が来てるんですか!?」

 

「うん?ああ、カズマ君を怒らせて転生特典として道連れにしたって聞いてるが」

 

「私は絶対に会いませんよ」

 

「そこら辺は任せるさ。まっ、話を戻そうか。神だろうが力が強いだけの存在だ。強者なんだから理不尽に振る舞えばいいさ。油断している内に足を引っ張って転がしてその間にのし上がるからな。人間は弱いけど、油断ならない存在だ。神々に喧嘩を売って滅ぼしまではしなくとも勝利しているものはいる。オレ達みたいな錬金術師はよくよく喧嘩を売ってるだろう?この世は弱肉強食なんだ。だから、気に病むな。オレはオレで楽しんでいる」

 

「嘘ですよね。だって、懐かしんで悲しんでいる」

 

「悲しい=不幸ではない。色々な刺激があるからこそ人生ってのは楽しいんだ。オレより年齢は上なんだろうが、濃い人生を歩んでいるオレから見れば神々なんて子供だ。与えられた役割をただこなすだけの神生なんてくだらないんだろう?」

 

「それは、その」

 

「まあ、それでも気になるっていうのなら酒に付き合え。こっちの世界には静かなバーがなくてこうやってアトリエで飲んでるんだが、誰も傍にいないってのはそれはそれで寂しいものでな」

 

「酒場ならいくらでもありますよね?」

 

「酒を飲むって言っても色々な楽しみ方があるってことだ。ワイワイ騒ぐのもいいが、静かにゆったりとした時間の中で飲む酒っていうのが性にあってるんでな」

 

お酒に付き合うのは決定事項なのかグラスが用意される。諦めて椅子を引っ張ってきて対面に座る。

 

「ほれ、飲みやすい酒だから」

 

「ありがとうございます」

 

彼の言うとおり、甘めで飲みやすいお酒だった。

 

「これも錬金術で?」

 

「再現してみただけだ。アーランドではよく飲んでたやつだ」

 

「思い出のお酒ですか」

 

「まあ、そんなもんだ」

 

そこからはほとんど無言の時間が続く。たまにお酒をグラスに注ぐ音、グラスを置く音、氷とグラスがぶつかる音。彼は私の方を見ずに月だけを眺めている。目の前に女神が居るって言うのにと本来なら怒る所なのでしょうが、何も言えずにちびちびとお酒を飲むだけでした。

 

 

 

ふと、強烈な吐き気と頭痛に目が覚める。ベッドから床に落ちて頭を打つ。

 

「あ、頭が割れる」

 

一体何が、と言うかここは、クリスの部屋?現状が把握できずに居るとドアがノックされる。

 

「起きたようだな。ほれ、黒の香茶と経口飲料水だ」

 

手渡された黒の香茶を何とか飲み終えればベッドから落ちて頭をぶつけた分以外の痛みと吐き気が消え去る。それから経口飲料水を飲み終える頃にはようやく周りを見るだけの余裕が生まれた。

 

「説明するなら二日酔いだな。昨夜は大変だったぞ。急に倒れたと思ったら寝てるし、ベッドに運んでいる途中で吐くし、寝かしつけてしばらくしてから嫌な予感がして部屋を覗いたら寝ゲロで死にかけてるし」

 

「わ~~!!わ~~!!そんなことしてませんよ!!」

 

「めぐみんはよく眠ってたから気付いてないが、こっちは掃除と洗濯が大変でな。お米様抱っこで運んだせいでローブが酷いことになった」

 

「おっ、あれ?お米様抱っこ?」

 

お姫様抱っこの聞き違い?

 

「こう、俵を担ぎ上げる持ち方。意識を失っている人体なんて持ち運ぶのが難しいんだぞ。あと、ほれ、洗濯も終わったぞ」

 

そう言って彼が私の服を投げ渡してくる。あれ?いつの間にかクリスの寝間着に着替えさせられてます。

 

「着替えはオレがした。服は適当にクリスのタンスから引っ張り出したから」

 

つまり見られた!?彼が何かを察して部屋から逃げ出す。

 

「あっ、パッドは肌に優しいタイプのを1割増しで縫い付けといたから」

 

「きゃああああああああ!?」

 

なんでそんなことを!?

 

 

 

 

 

 

 




ワクと同じペースで飲めば誰でもこうなる。もう二度と同じペースでは飲まない(戒め)
次はキャベツか。あと、ウィズとベルディア。カズマとはちょくちょくつるみながらも固定パーティーにはならない感じですね。めぐみんも同じでクリスはアクアから逃げてますw


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ダンジョンに命の使い道を求めるのは間違っているだろうか?

 

 

 

 

『逝くな、伊月!!』

 

逝くな、か。もう遅い。オレは此処が限界だ。もう何処も動かせそうにないし、SDPも使えそうにない。そもそもオレのSDPは動けないと意味がないものだし、心にも入られてる。オレが最後に出来るのはコレだけだ。

 

『フェンリルの起動を確認。5秒後に作動します』

 

ベイグラントのコアだけは道連れにする。

 

「先、向こう、に。カ……ノン、今行く」

 

『フェンリル、作動』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベル、お互いに無理をしないって約束だったよな」

 

手に持つルガーランスをミノタウロスに突き刺しながら展開し、背中から胸に向かって魔石を抉り出す。

 

「イツキ!!」

 

「それにしても、ミノタウロスがなんでこんな階層にいるんだ?」

 

魔石をバックパックに放り投げながら疑問を口にする。

 

「分からない。逃げるしかなかったから」

 

「まあ、それが普通だろう。後ろからの奇襲でもない限り、逃げて正解だって。それより、なんか変なことが起こってるみたいだから引き上げよう。立てるか」

 

座り込んでいるベルに手を差し伸べる。手を握ったベルを引っ張り起こして簡単に怪我がないかを確認する。

 

「大丈夫そうだな。バックパックは捨てたみたいだな。まあ、命あっての物種だ。バックパック位、買い直せばいい。さっきのミノタウルスの魔石でお釣りが来るさ」

 

近くでオレ達のことを見ている人がいる以上、早めに立ち去りたい。確実にオレのSDPは見られたはずだ。まあ、オレのSDPはスキルと言い張れば誤魔化せるような物だから問題はない。むしろ一騎とザインのような同化・再生・強化、総士とニヒトのようなワームの使用の方が問題だ。

 

ベルと一緒にダンジョンを引き返しながら自分のこれまでを振り返る。

 

 

 

 

ベイグラントのコアとフェンリルで一緒に逝ったはずのオレは何故か島のミールと同化することなく、この世界に生まれ落ちた。人族の赤ん坊ではなくコア型に近い、マスター型の亜種のような存在として。まあ、何となくだが、オレが蒼穹のファフナーの世界に転生したみたいに、この世界に転生したんだろうが、基本的にロボアニメしか見てなかったオレには此処がどんな世界かわからない。

 

ファフナーの世界に産まれた時も偶々旅行に出ていた日本人の母親から産まれ、孤児になってしまったので人類軍に志願して道夫さんとカノンとトリプルドッグを組んでただけだしな。後は、カノンと一緒に竜宮島に帰化して戦い抜いて、第三次蒼穹作戦で限界を迎えてベイグラントのコアをマークアインのフェンリルで道連れにした。享年22歳。ちなみに発現したSDPは超加速。体感で10秒ぐらいの間を全ての物が止まって見える程の速度で動くことが出来る程度の能力。新種の同化現象は極端な筋力の低下。

 

正直に言ってオレが何のために転生したのかなんて気にしていない。ただ、フェストゥムとして産まれた意味を知りたい。世界を旅しながら一騎の言う命の使い道を考えながら、オレなりに命を守り、癒やし、慈しみ、壊し、奪い、そして祝福してきた。

 

未だに答えは出ていないけど、この街でなら答えが出ると思った。地下深くへと続くダンジョンを中心とした街、オラリオ。ここにオレの命の使い道があると思い、ダンジョンに潜ろうとしたのだが、神の眷属として恩恵を得ないと入ることは許可できないと言われてしまい、少し困っていた所に出会ったのがベルだった。

 

事情を話すと正直に自分以外に眷属が居ないし、拠点もボロボロの教会だけど、それでも良いなら神であるヘスティアに紹介してくれると。その優しさと甘さと正直さが好ましく思い、ベルに神ヘスティアを紹介してもらい眷属として恩恵を授かった。恩恵の簡単な説明とスキルがあることを教えられたのだが、そのスキルが笑えた。

 

 

イツキ・テスタ

LV.1

 

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

 

《魔法》

 

《スキル》

祝福(フェストゥム)

・■■■■■■■■■■

・■■■■■■■■■■

・■■■■■■■■■■

・■■■■■■■■■■

 

 

もろにフェストゥムと書かれていたようだ。効果が文字化けしていて読めなかったとヘスティア様には言われたけど、理解しているから曖昧に返事をしておいた。その日はギルドで講習を受けるだけに終わる。ダンジョンにはダンジョンの規則がある以上仕方のないことだろう。

 

外の怪物との違いとしてはダンジョンの壁から怪物が生まれるのと、強さは段違いだということだろう。最も、それも恩恵を得れば上層であれば問題無いそうだ。

 

次の日からは朝から夕方にかけてはベルと一緒に浅い階層で怪物と戦い、深夜に拠点を抜け出して中層と呼ばれる階層で勘が鈍らない程度に戦う日々だ。ただ、それでも一般的なレベル1冒険者よりも成長の具合が悪いらしい。1週間でのトータルが84。1日あたり12だ。その殆どが器用と魔力に振られている。

 

器用が上がるのはやりすぎないように手加減している分だし、魔力が上がるのはルガーランスやガンドレイクで射撃の際に精神力が使われているからだろう。さらに、SDPを発動させることで力が10も下がってしまった。ちなみに昨日の時点でのステイタスはこんな感じだ

 

 

イツキ・テスタ

LV.1

 

力:I11

耐久:I0

器用:I32

敏捷:I12

魔力:I19

 

《魔法》

 

《スキル》

祝福(フェストゥム)

・■■■■■■■■■■

・■■■■■■■■■■

・■■■■■■■■■■

・■■■■■■■■■■

 

合計が74しかないのはSDPで低下した分だ。ベルを助けるのにまた使ったから今日の増加分を含めて力は4位だろうね。逆に言えば力のアビリティが残っている限り、SDPによる同化現象は目立つほどではないということだ。これは嬉しいことだ。そんなに連続では使えないけどね。

 

 

 

ダンジョンから戻ったオレ達は装備を外して朝に約束していた豊饒の女主人という店に訪れている。

 

「あっ、ベルさんにイツキさん」

 

オレ達に気づいたのか、朝にベルが魔石を落としたと言い張っていたシルさんが駆け寄ってきた。

 

「こんばんわ、シルさん」

 

「やっ、来たよ」

 

「はい、いらっしゃいませ。お客様2名様はいりま〜す」

 

案内されて店の奥のカウンターに座る。

 

「アンタ達がシルのお客さんかい?ははっ、冒険者のくせに可愛い顔をしてるじゃないか」

 

「ああ、それはオレも思ってた」

 

「そっちのアンタは、不思議な感じがするね。まっ、そんなことは良いか。それで、二人共私達が悲鳴を上げるぐらいに大食漢なんだって?じゃんじゃんと食べて、じゃんじゃんと金を使っていっておくれよ」

 

「ええっ!?」

 

ベルが驚きながらシルさんを見ているが、シルさんは舌を出して誤魔化すように笑っていた。全く、朝のも全部仕込みだったんだろうな。まあ、予約で団体があるみたいだから味の方は保証されてるものだろう。メニューに目を通して注文する。

 

「とりあえずサラダとスープとミートソースのパスタにメインをオススメで2種類とパンにデザートで果物の盛り合わせを全部3人前で。アルコールは苦手だから適当に果実水、柑橘系のをジョッキで。ほら、ベルも選べ。奢ってやるよ」

 

「イツキ!?」

 

「金の心配はするな。たんまり持ってきてるよ」

 

深夜に中層で稼いでいる分の財布を見せて安心させてやる。

 

「いや、お金の心配もあるけどそんなに食べ切れるの?」

 

「食いだめが得意なだけだ。最近はベル達に合わせて抑え気味だったからここいらで大量に食いたいんだよ」

 

「残されても気分が悪いから先に1人前ずつ出させてもらうよ」

 

「う〜ん、それならメインとパスタも変更しても良い?色々食べてみたいからね」

 

「構わないよ。そっちのはどうする?」

 

「えっと、じゃあ、この海鮮パスタを。それから、僕も果実水を」

 

「はいよ。ちょっと待ってな」

 

先に出てきた果実水で喉を潤しながらしばらく待ち、出て来る料理を片っ端から胃に収める。隣でベルが目を丸くしているがコレぐらいは前々世でもいたからな。それにしても旨い料理だな。量も多いが、最初に言った3人前でも食べ切れる量だな。追加で持ってきてもらいながら食事を続ける。

 

「本当に食っちまうとはね」

 

デザートの果物を半分ほど食べた所で女将さんが話しかけてきた。

 

「気に入ったよ、女将さん。味も量もね。これからは通わせてもらうよ」

 

「毎度ご贔屓に。それにしてもアンタみたいな冒険者の噂なんて聞いたことがないんだけどね」

 

「オラリオに来たのはつい最近でね。10日も経ってないさ」

 

「それにしては鍛え上げられている気がするんだけどね」

 

「まあ、オラリオに来る前からあっちこっちで戦ってたし、故郷ではよく怪物が襲ってきてたからね。恩恵なしでも戦えるようにって鍛えられてるし、武器もかなり特殊な物が作られてる」

 

「なるほどね。故郷を離れて大丈夫なのかい?」

 

「大きな群れのボスらしき奴も確認されている分は全部狩り尽くしたから、当分は大丈夫なはずだし、別格のエースは残ってるし大丈夫さ。オレなんて精々上の下でしかないから」

 

単純に戦ったら一騎にも総士にも勝てないし、甲洋にも負けそう。芹にも同化されて負けそうだし、そもそも剣司と一緒で電池切れだったからな。前線から引いていた分、遅れをとってしまいベイグラントの硬さを見切れなかったのが死因だ。

 

やっぱ第一次蒼穹作戦の時に強引にメガセリオンとベイバロンとグノーシスとノートゥングとティターンのごちゃ混ぜになった機体に乗ったのが悪かったな。流石にグノーシスのカスタムモデルで北極海には行きたくなかったからな。それでもベースにノートゥングと要所要所にティターンを使った所為か搭乗時間を大幅に削ることになった。

 

第二次蒼穹作戦では新造されたマークアインに搭乗し時間を全て使い切り、前線から引いて武器の新造を行っていたのだが、新種の同化現象を恐れて押されている後輩たちを救うために再びマークアインに搭乗。SDPの覚醒と共にそれを恐れずに命の使い所と定めて暴れに暴れた。おかげで速攻でリタイアした。

 

「足を引っ張りたくないから、また故郷に怪物が現れた時にもっと皆を守れるように、そう思ってるんですよ」

 

第四次蒼穹作戦では強引にマークアインに乗り込み、力が足りずにベイグラントのコアと共にフェンリルで逝った。嘘は言ってない。故郷に、竜宮島に戻れたのなら、オレは再び島と島に住む人達のために命を使う。あの島はオレに生きるという意味を教えてくれた場所だから。

 

「そうかい。そんなことがもう起きないと良いね」

 

「そう願っているよ。ご馳走様。これ、お代ね」

 

財布から食べた分よりも多い代金を渡す。

 

「うん?そこそこ多いけど」

 

「ベルはまだ残るでしょ?オレはこの後行きたい場所があるから。ゆっくりしていくといいよ」

 

「ありがとう、イツキ」

 

「気にしなくていいよ。それじゃあ、また寄らせて貰います」

 

豊饒の女主人を出てダンジョンに向かう。そろそろゴライアスって言うボスみたいなものが復活するらしい。それと戦えば少しはアビリティも育ってくれると思っている。フードを被ってダンジョンを素早く駆け抜ける。怪物の相手はせずにどんどん潜る。しばらく17階層で待っているとゴライアスが生み出される。

 

それを見ながらルガーランスとレヴィンソードを再生する。倒すだけならガンドレイクで良いんだろうけど、恩恵を育てるにはこちらの方がいいはずだ。

 

「せめてディアブロ型位の強さではあってくれよ」

 

ゴライアスもオレのことを認識したのか襲い掛かってくる。それに合わせてオレもゴライアスに向けて走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴライアスを討伐し終えて、18階層で魔石とドロップアイテムをぼったくり料金で買い取って貰いダンジョンから引き上げる。6階層まで戻った所でベルが防具も付けずにウォーシャドウと戦っていた。何をしているのかと説教をしようと思ったのだが、何かの強迫観念に追われている顔を見て、限界までは見守ることにする。

 

疲労から倒れた所で残っている怪物にマインブレードを投げつけて仕留める。ベルもオレに気付いたようだけど、呼吸を整えるのを優先するようだ。オレは怪物から魔石を回収していく。それが終わってから周りの壁を切りつけて、壁に体を預ける。しばらくそのままで居ると、ようやくベルが口を開く。

 

「強く……なりたいんだ」

 

「ああ」

 

「強く、もっと強く!!イツキほどじゃなくても良い!!あの人に覚えてもらえるぐらいに!!」

 

「そんな気持ちじゃ駄目だな。オレぐらい、軽く超えてもらわないと」

 

「イツキよりも強くなんて」

 

「諦めて良いのか、ベル?お前の目指す英雄は諦めないぞ。オレの身近にいた英雄もそうだった。そいつは一時は何もかもが嫌になって故郷を去っていった。だけど、故郷の危機に舞い戻ってきた。そして、英雄と呼べるほどの活躍を見せた。それを見て、追いつけないと思ったさ。だが、諦める理由にはならない。むしろそこまで強くなれるんだって知れた。なら、それを追い越す気で戦ってきた。同じようには成れなくても、オレはオレで強くなるんだって。気持ちだけは絶対に折らないように」

 

「……強くなれるかな?」

 

「違うぞ、ベル」

 

「強くなる!!」

 

「そうだ。お前は強くなるさ、ベル」

 

倒れたままのベルの手を引っ張り上げて起こす。

 

「オレは外で8年も戦ってる。だから強く見えるだけだ。8年後のお前は今のオレを軽く超えてるさ」

 

フェストゥムとの戦いだけでな。こっちの世界の怪物は正直言ってただの練習みたいなものだ。ゴライアスもスフィンクスB型程度でしかなかった。パワーはB型以上だったが、それだけだ。ちょっとがっかりだった。多少の勘は取り戻せたが、命の奪い合いにまでは発展していないのだ。

 

「冒険者は冒険をするな、良い言葉だ。だがな、冒険は無謀や無理とはイコールであっても、無茶とはイコールではない。無茶をするからこそ、それが偉業となるんだ。それを覚えて置くと良い。さあ、今日の所は帰ろう」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベル君、イツキ君、僕は今夜、いや数日出かけてくるよ」

 

「出かけるって、何処へですか?」

 

「男でも出来ましたか?」

 

「そんなわけあるか!!友神の所のパーティーに行ってくるだけさ」

 

「その格好で?」

 

ヘスティア様はいつもどおりの裸足にワンピースによくわからない紐といつもどおりの格好である。

 

「いや、その、コレ以外無いし」

 

その返しに物凄く情けなくなる。ゴライアスの魔石を売った分は手を付けてなかった。それをヘスティア様に渡す。

 

「それでちゃんとしたドレスを買ってください」

 

「いやいやイツキくん、こんな大金受け取れないって!?」

 

「ちゃんとした正装すら出来ずにパーティーに出席する神を持つ眷属の気持ちにもなってくださいよ。情けなくてダンジョンに篭りたくなりますから」

 

「そこまで言う!?」

 

「そこまで言います。というわけで、ちゃんとしたドレスを着ていって下さい。お金ぐらい、幾らでも稼いできますから。ベルが」

 

「ええええっ!?」

 

「出世払いでかまわないよ。すぐに稼げるようになるさ。英雄を目指すならね。それからベル、今日からは別々にダンジョンに潜ろう。この前、あんなことがあったばかりだけど強くなりたいなら、一人でも潜れるようにならないとな。心の何処かで、オレに頼ろうとしている。そんなんじゃあ、強くはなれない。絶望的な戦いじゃないんだ、一人でもやれるだろう。それとも、まだ一緒に居たほうが良いか?」

 

少し挑発的に言えば、簡単に乗せられた。

 

「やるよ。一人ででも」

 

「まあ、無理はするな。またエイナさんに説教されるぞ」

 

一人で潜るのはオレのためでもある。ゴライアスを倒した日のステイタス更新では過去最大の伸び率だった。だが、それでも合計で50しか伸びていない。筋力は上がったが、それでもSDP1回分にしかならない。その問題を解消するために更に深い階層を目指す必要がある。それこそ泊まり込みで潜る必要がある。金はかかるけど、18階層での補給も考えた方が良いだろう。まあ、そこら辺は担当のミィシャさんに相談してみよう。それでも実際に潜るのは数日後からだろう。ベルが無理をしないかどうかを確認しないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「怪物祭?」

 

ベルと別々に潜るようになったために晩飯の時間もずれるようになり、一人で色々な店に寄ってみたのだが、最終的には豊饒の女主人亭に落ち着いた。オススメのグラタンを食べていると女将のミアさんが明日はどうするのかと尋ねてきたのだ。

 

「ガネーシャ・ファミリアが主催の祭りさ。メインは闘技場で怪物の調教だけど、それに合わせて露天とかが出るんだよ」

 

「へぇ、楽しそうだね」

 

「あんたはどうするんだい?」

 

「掘り出し物が見つかるかもしれないし、適当にブラブラするかな。店の方は?」

 

「明日はかなり混むことになるだろうね」

 

「じゃあ、パスかな。ゆっくり大量に食べたいからね」

 

リューさんが追加で持ってきてくれたグラタンを食べる。

 

「あちっ、うまっ、あちっ」

 

「あんたは子供かい。冷ましてから食いなよ」

 

「熱いものは熱く、冷たいものは冷たくが料理の基本だよ。それはともかくミアさん、ちょっと相談があって」

 

「ツケは効かないよ」

 

「そっちは問題ないから。ミアさんを高レベルの冒険者と見込んでの相談なんだ」

 

「そういう相談は他にしな。こっちは一線を引いてるんだ」

 

「正直に言って高レベルの冒険者の伝手がなくてね、話半分にでも聞いてくれると嬉しいんだ。勝手に話すんだけど、ゴライアスを一人で倒してもトータルで50ほどしか上がらなかった」

 

後半部分を他の客に聞こえないように小さな声で伝える。

 

「何を言ってんだい?ゴライアスは推定4だろうが。一月ほど前に冒険者になったばかりの」

 

そこまで言った所でオレの目が嘘を付いていないのに気付いたんだろう。真剣に考えて答えを出してくれた。

 

「レベル4の700以上、それぐらいだったらトータルで50程度になるはず」

 

「ありがとうございます。今日はオレのおごりだ。常識の範囲内で好きに飲み食いしな」

 

本日の稼ぎを全部カウンターに乗せながら店中に宣言する。相談のお礼代わりだ。直接は受け取ってくれそうにないからな。

 

「まいどあり。さっきのだけど、私の予想なだけだから無茶はするんじゃないよ」

 

「分かってますよ。また来ますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪物祭当日、適当にブラブラしていたのだが、街に怪物が現れたのを処理する。どうやらガネーシャ・ファミリアが捕まえていた怪物が逃げ出したようだ。その大半が中層の怪物のようだ。レヴィンソードを再生して怪物を切り捨てながら騒ぎが大きい方に屋根を伝って走る。

 

魔法の炸裂音が聞こえ、街中で魔法を使わなければならないような大物が出たと思われる方を見ると、魔法を撃ったと思われるエルフの少女が仕留めた怪物と同種の怪物の攻撃が直撃しそうになっていた。それと同時にオレは迷うこと無くSDPを発動させる。

 

世界が止まったように感じられるほどの超加速空間を駆ける。少しでも早く駆けるためにレヴィンソードを同化して身軽になり、時間の都合上からエルフの少女を抱き寄せて転がると同時にSDPが解ける。スライディングから倒れている怪物を踏みつけ、近くの建物の屋根に身体を捻りながら飛び上がると同時にガンドレイクを再生して迫ってくる蔓を撃ち落とす。

 

「えっ、何が」

 

「気を抜くな!!」

 

着地して少女を降ろしてから背中を軽く叩いて一時的に冷静にさせてから、素手で戦っている三人の元にレヴィンソードを投げる。

 

「そいつを使え!!」

 

そう叫びながら、オレ自身も両手にガンドレイクを持って巨大植物の怪物に飛びかかる。先程ガンドレイクを叩き込んだ感じからスカラベ型に似ている。耐久力はこいつのほうが上だが、同化されないし、パスタも少ないから多少は余裕だ。あのエルフの少女は遠距離なら問題ないだろうし、レヴィンソードを握って戦っている三人はスパスパと蔓を斬って、って褐色の子の片方がレヴィンソードを折った!?そんな簡単に折れるような代物じゃないんだぞ!!

 

「ゴメン、折っちゃった!!」

 

「もうちょっと丁寧に使ってよ!!」

 

二人して蔓を躱しながら、代わりのロングソードを再生して投げる。

 

「さっきのより切れ味は落ちるけど多少は頑丈だから!!だけど、壊さないで!!一度に作れる量に制限があるから!!」

 

ガンドレイクで蔓を切り払いながら折れたレヴィンソードに近づいて同化して回収する。

 

「便利だね、それ」

 

「話は後で!!本体は花の方なの?」

 

「根っこの方の太くなってるとこ!!」

 

「なら、一気に片付ける!!蔓の方は任せるよ!!」

 

ガンドレイクからルガーランスの2刀流に切り替えて、こちらに伸ばしてくる蔓に飛び移りながら突っ込む。ワームショットの弾幕やスカラベ型のパスタに比べればこの程度余裕余裕。

 

「行けええ!!」

 

蔓をくぐりぬけ、根本の太くなっている部分にルガーランスを突き刺して展開させる。繊維に沿って突き刺したから簡単に展開でき、すかさずプラズマを内部に叩き込む。プラズマが中枢部分を焼き払ったのか花の怪物が力を失ってぐったりと倒れる。

 

「他には居なさそうだな」

 

「凄いね、君!!」

 

褐色のレヴィンソードを折った方の子がロングソードを振りながらこっちに向かってきて、罅が入っていたのかロングソードが折れる。フェストゥム用に頑丈なはずなのにこんな簡単に折るとは、武器の使い方が下手にもほどがあるんだろうな。

 

「あっ、また折れちゃった」

 

「そんなにもろい武器じゃないんだけどね」

 

折れた刀身と柄に残っている分を返してもらって同化して再生させる。

 

「まだ必要になるかもしれないから貸しておくよ。折ってもいいけど、ちゃんと回収だけはしてね」

 

「オッケー。それにしても便利だよね、一体どういう仕組なの?」

 

「そういうスキルとしか言いようがないです。それにしても、こいつは一体何なんですか?明らかに怪物祭のための怪物とは違うみたいですけど」

 

「私達もよくわからないんだよね。素手とは言え、私達でも傷がつけられないぐらい堅いし。あっ、そう言えば名前を言ってなかったけ。私はティオナ・ヒュリテだよ」

 

「イツキ・テスタ。1月程前から活動している駆け出しさ」

 

「えっ、嘘でしょ!?」

 

「信じられないのは分かるけど、まだ終わってない。三日後の夕方に豊饒の女主人で。じゃあね」

 

再び屋根に飛び乗って怪物を探して狩っていく。

 

 

 

 

 

 

 

約束よりも早い時間に豊饒の女主人でいつもよりも大量に食事をとる。最悪の場合は、二度とこの店に訪れることはないだろうからな。暫くの間、食事を続けていると約束をしていた人物とその仲間がやってくる。

 

「あっ、居た居た」

 

「お久しぶりです、ティオナさん」

 

「久しぶり、それからごめんね、また折れちゃった」

 

そう言って手渡された袋には粉々になったロングソードが入っていた。

 

「こ、これはまた、どうやったらこんなことに?」

 

「思いっきり全力で振り降ろしたらこうなっちゃった」

 

丁寧に使ってと言ったはずなんだけどな。とりあえずロングソードを同化して回収してから袋を返す。残りの二人からもレヴィンソードを返してもらい、同じように同化して回収する。

 

「なんやけったいなスキルやな」

 

ティオナさん達の神様がそんなことをいった。

 

「まあ、そうですね。それから申し遅れました、自分はヘスティア・ファミリア所属のイツキ・テスタと申します」

 

「ドチビの所やって?まあええやろ、ウチはロキや。よろしゅうな」

 

その後もロキ・ファミリアの方達と自己紹介を交わしてから席に着く。

 

「それでやねんけど、ホンマにレベルが1なんやって?」

 

「ええ、本当です。確認してもらっても構いません。と言うよりもこんなことを頼むのもおかしいと思うのですが、確認して欲しいんです」

 

「あん?どういうことや?」

 

「アビリティの伸びが異常に低いのと、スキルの効果が文字化けしてるらしいんです。恩恵自体に問題があるのではと悩んでしまって。さすがにヘスティア様に面と向かって相談するのは躊躇われてしまって」

 

「ぶふっ、眷属にそこまで気い使われとるなんてドチビらしいわ。よっしゃ、ウチが見たる」

 

「ありがとうございます」

 

上半身裸になりロキ様に背中を向ける。

 

「ほぅほぅ、ホンマにスキルの効果の部分が文字化けしとるな。名前は祝福か。なるほどな〜、レベルも確かに1やな。うん?ステイタスを更新したんはいつや?」

 

「昨日の夜ですね」

 

「更新をミスっとる?いや、でも、確かに低いな。異常は、ない。機能的にも問題なし。どういうことや、これは?」

 

「ロキ、そんなに低いの?」

 

「ちょい待ち。更新前のステイタスは覚えとるか」

 

「写してもらった紙があります」

 

ポケットから折りたたんだステイタスの紙を渡す。

 

「低い。アレとまともに戦っとるのにこれは低すぎや。ティオナの半分も上がっとらん」

 

「ええっ!?嘘でしょ」

 

「ホンマや。これは、経験の殆どをスキルの方に持ってかれとるんやろな。割合で経験がアビリティから削られとるんやろ。若干、というより一文字だけやけど文字化けしとらへんものがあるさかいな」

 

経験がスキルに持って行かれて文字化けが解除される。まさか、この世界のどこかにゴルディアス結晶が育っているのか?もしくは、向こうにある島のミールのゴルディアス結晶が育っている?なるほど。オレがこの街に命の使い道があると感じたのは間違いじゃなかったんだな。ここでゴルディアス結晶を育て上げる。それが、オレの命の使い道だ。

 

「ありがとうございます、ロキ様。それが分かっただけで十分です」

 

「ウチからも保証しといたる。恩恵に問題はないってな。ホンで、次はウチラの番なんやけど、まずはレフィーヤを助けてくれてありがとう。話を聞く限りじゃあ、まともに食らっとったら本気でやばかったはずやからな」

 

「間に合って良かったです。島じゃあ、間に合わないことが何度もあったものですから」

 

「そうか。それは辛かったやろうな」

 

「話しておいて何ですが、この話は止めておきます」

 

「まっ、湿っぽいのは止めとこか。そんでや、レフィーヤを助けてくれたお礼を考えとったんやけどな、武器も防具も自分で用意できるやろうし、あんな特殊な物はオラリオにもあらへんからな。だから、どんなお礼がええ?」

 

「本来なら断っていたのですが、ロキ様のおかげで目標が出来ました。オラリオには目標を探しに来ていたものですから」

 

「目標?」

 

「オレのスキル、『祝福』を育て上げる。それがオレが産まれた役目で、今のペースだと間に合わなくなるかもしれない。その為に、ロキ・ファミリアの遠征に参加させて欲しい」

 

「役目?間に合わなくなる?」

 

「あくまで直感だけど、間違っていないはず。島のためにオレがやらないといけないんだと思う」

 

「嘘を言っとる感じはせえへんな。せやけど、甘くみとると簡単に死ぬで」

 

「構わない。命がけなのは故郷でもいつものことだったよ。ダンジョンはまだ楽な方だ」

 

フェストゥムとそれに対抗するためのファフナーの両方から殺されそうになるんだからな。怪物や地形だけを相手にできるダンジョンはまだ楽だ。

 

「はっ、コレだから雑魚は甘えんだよ!!いくら便利なスキルがあろうが、弱けりゃ他を巻き込んで死にやがる。オレはゴメンだぜ!!」

 

「ベート・ローガだったね。つまり強ければ問題ないってことだな」

 

「あたりm」

 

SDPを発動させてベート・ローガを床に投げてルガーランスを再生して展開、そのまま顔を挟み込むようにして床に突き刺す。SDPが切れた瞬間、何が起こったのか分からずにロキ・ファミリアの面々が驚く。

 

「弱いな、ベート・ローガ。オレを巻き込まないでくれよ」

 

「て、テメエ!!」

 

「喚くな、雑魚が!!自分が言った言葉だろうが。恩恵の数値でしか強さが測れないからこうなる。少なくとも、オレがティオナさん達ですら視認できない速度で動けることは知っていたはずだ。情報面を疎かにした結果がコレだ。お前、オレの故郷に産まれていたら初陣で死んでるぞ」

 

知っていて慣れていないとフェストゥムの相手は辛い。ルガーランスを同化して回収する。

 

「別に遠征の参加を断ってもらっても構わない。ある程度の情報を貰えるなら一人で潜るよ」

 

「私は全然オッケーだよ。ベートよりもちゃんと話を聞いてくれるだろうし、ベートよりも強いし、ベートよりもちゃんと連携とか考えてくれそうだし、ベートよりも紳士的だし、むしろベートが上の部分って何?」

 

「恩恵の数値上は上のはずなんやけどな、何処で差がついたんやら。苦手なもんは?」

 

「攻撃は受けるより躱すか反らすが基本だから耐久が全く育ってないぐらいかな?あと、戦闘中に止まるのも基本的にはしたことがない。常に動いてないと故郷の周辺に出てくる怪物に一撃で殺されるから」

 

「あん?なんや、そんな怪物の噂なんて聞いたことあらへんで?」

 

「見た目は色々な型がいるけど、特徴としては全身金色で生物っぽい感じはしない。体の一部が発光すると同時に空間の一部が抉り取られる。読心能力を持っている。接触時間が長いと食い殺されるのが共通だね。あとは個体ごとに能力が違う。デカかったり、残虐だったり、こちらの戦術を学習したり、触手を伸ばしたり、小さな個体を生み出したり、まあ色々な種類がいたさ。それに対抗するための術がベート・ローガを圧倒した技であったり、ルガーランスなんかの武器だったりさ」

 

「……嘘やない。まじでそんな怪物共がおるんか」

 

ロキ様の言葉にロキ・ファミリアの面々が絶句する。

 

「まあ、大きな群れは徹底的に叩き潰したし、故郷の中でもオレは上の下から中程度の戦力でしかなかったからね。オレより上が4人もいるんだ。問題はないだろうさ」

 

普通の人間という意味でなら最強だったんだけどな。

 

「まあ、そういう訳で場数だけは踏んでいる」

 

「何処らへんが場数だけなのかは分からないけど、当てにしていいか分からないから、まずは何人かでパーティーを組んで実際に実力を見せてもらうことになるかな」

 

「分かりました」

 

頑張ってゴルディアス結晶を育てようか。

 

 



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Knight's & Magic & Carrier 1

 

 

 

親方達が新たな一歩を踏み出そうとして、ふと頭の片隅に引っかかったことを思い出した。

 

「そう言えば、あいつの研究にも使えるんじゃねぇのか?」

 

「あいつ?」

 

「ああ、そう言えば強度不足と出力不足で悩んでたはずですよね」

 

「皆さん、あいつとは一体誰ですか?」

 

僕の疑問に親方が答えてくれた。

 

「腕はたぶんオレより上なんだが、研究がな、理解できないんだよ。陸の上をどうやって船が走るんだよ」

 

「陸の上を、船。まさか、いえ、可能性は低くても。その人の研究はどんなものなんですか?」

 

「陸の上を走る船で、中に幻晶騎士を整備可能な空間を用意して、魔導兵装で武装して最低限の自衛と援護をさせるんだって言ってたか」

 

親方の話を聞いて可能性が高まった。幻晶騎士の常識をかなぐり捨てて始めてたどり着く領域。幻晶騎士を艦載機として、それの中核となる空母。僕と同じ転生してきた人の可能性があります。

 

 

 

 

 

 

やはり強度が足りない。だが、これ以上強度を下げれば艦体を支えきれない。武装も取り外し輸送だけを目的としたにも関わらず、これだけの巨体の内部はスカッスカで搭載できるカルダトアは3機に予備パーツが1機分。話にならない。やはり、この世界では駄目なのか。

 

設計図を破り捨てようとして、破り捨てることが出来ずに巻いて部屋の片隅に投げた所でようやくそれに気付いた。

 

「誰だ、貴様は?」

 

いつのまにか銀髪の小柄な女、いや、男か?が、廃棄した設計図を見ていた。

 

「すごい。ギャロップにダブデ、こっちはG1ベース、それにフリーデン。それをこんなにも細かくこちらに合わせて設計するなんて」

 

設計図には名称は記していない。未完の物に栄光あるオリジナルを名乗らせる訳にはいかないからだ。それにも関わらず、こいつは間違いなくオリジナルの名で呼んだ。つまりこいつは!?

 

「ギャロップ級の積載量を増やすためにはどうする!!」

 

「後ろに荷台を牽引すればいいでしょう」

 

「ああ、そうか。同胞なのだな」

 

「はい、先輩。僕はエルネスティ・エチェヴァルリアです。前世はプログラマーをやってました。今の目標は僕だけのロボットを手にすることです」

 

「なるほどな。オレはトルティドネス・グラエンド。前世は前世はしがない建築家だ。まあ、食うためにやってただけだ。オレの夢はな、大空母艦隊を作り上げることだ。この世界、正確に言えばこの国だがな、地図で見ると広大だ」

 

この国の地図を広げる。中々に広大だ。見かけ上はな。

 

「そうですね」

 

「だがな、これは領土としてみただけだ。実際の生存領域、それを段階的に分けるとこうなる」

 

地図の上に紐と駒で区切っていく。

 

「駒が街で色によって規模が変わる。赤い紐で括った部分が決闘級が生息する場所、白い紐が決闘級未満が生息する場所、青い紐が日本で熊なんかに合う確率で魔獣が現れる人類の生息圏内、完全に安全な部分はそれ以外だ」

 

「これは、点と線だけ。完全に安全な場所は全て穀倉地帯で有名な場所だ」

 

「これが現実なんだよ。理由は色々あるが大きな点は幻晶騎士の欠点がモロに出ていると見て良い」

 

「欠点ですか?」

 

「長距離の移動には歩行で移動するしかない点。随伴の整備士は簡易整備しか出来ない点。運用面では、出撃中は中途半端な補給しか行えない点。仮拠点が襲われる可能性から戦力を割かなければならない点。これらを一挙に解決できるのが陸上戦艦という答えだ。最初は武装は無くても良いかもしれんがな」

 

「なるほど。アニメなんかでも戦争物なら必ずと言っていいほど母艦は登場していますね。実際に運用する面では必須と言ってもいいですね」

 

「そうだろう!!それを周りの奴らは理解しやがらねえ!!人類の生存権を広げ、完全に安全な地域を増やし、一般市民が平和に暮らせる世界を作り上げる。それこそが騎士の本懐のはず!!」

 

「確かにその通りです!!ですが、この設計図を見ると」

 

「言いたいことは分かるよ。何もかもが不足している。一番最新の設計がこいつだ」

 

一番新しいものを見せてみたのだが、やはり渋い顔をされる。

 

「これだけ大きいのに、この積載量は……」

 

「だから困ってるんだよ。小型だと、むしろ馬車の数を増やしたほうが良い試算が出た。だから逆に大型化させたがこの体たらくだ。泣けてくるぜ」

 

「そんな先輩に朗報です!!」

 

「朗報?」

 

エルネスティから伝えられる新技術である綱型結晶筋肉はまさに目からウロコだった。

 

「そうか。そういう使い方があったか!!ということは、似たような発想で蓄電池タイプの結晶筋肉も作れるはずだ!!そうすればこんな20連結型エンジンなんて作らなくても済むかもしれない!!」

 

「20連結ですか!?」

 

「母艦は絶対に魔力切れを起こしてはならないからな。魔力は多めに保持していたい。あと、強引ではあるが母艦から補給に戻った幻晶騎士に魔力を分け与える構想もある。これはすでに実験済みでロスがあるが問題ない。予算の都合で発生しているロスだからな」

 

「その前に連結なんて可能なんですか!?」

 

「あん?ダーヴィドの野郎、オレの作品を見せてないのか?」

 

「先輩の作品ですか?」

 

「2機を強引にケーブルで繋いで魔力を全部吸い上げて発射する魔導兵装だよ。分かりやすく言えば、メガ・バズーカランチャーだ」

 

「なんというロマン砲!!ちなみに感想は?」

 

「宇宙か拠点防衛用でしか運用できないな。いずれは母艦の艦首にもっとデカイのを乗せたい」

 

二人して熱く握手を交わす。やはり分かってくれたか。戦艦にはやはり艦首砲だよな。

 

「それでですね、先輩にも僕の新しく作る幻晶騎士を手伝って欲しいんです」

 

「いいだろう。だが、いずれ予算やら資材が整った時、オレの母艦作りにも協力してもらうことが条件だ。まだまだ大量に試作品を作らないといけないからな」

 

「もちろんです。ロボットが最高の環境で戦えるようにするのも重要な事だと思っています!!」

 

「それでこそロボオタクだ!!オレはどっちかって言うとメカオタクだからな。タンクだろうとファイターだろうとなんでも来いだ。その前にメカ知識のすり合わせをやっておこうぜ。朝まで徹夜コースだ!!」

 

「朝どころかそのまま夜まで行きましょう、先輩!!」

 

「トールでいい」

 

「それなら僕もエルで」

 

いや〜、この世界に生まれて初めてまともなロボ談義ができる。こんなに嬉しいことは他にないぜ。エルと夜通し知識をすり合わせると不思議な事にオレの方が年上にも関わらず、後に死んでいるようで悔しがっていた。オレも新作のスパロボが出る直前で死んだことが心残りだったんだが。

 

それからこれからの機体の制作についての話し合いが行われる。

 

「背面武装と火器管制の方はそっちに全振りするぞ。綱型に関してはダーヴィドに任せればいい。他に詰め込んでおきたいものはあるか?」

 

「出来ればスラスターも組み込みたいのです」

 

「それは保留にしておけ。絶対燃費が酷いことになる。それ位なら足を弄ってキャタピラを積んだほうがマシだ」

 

「キャタピラですか?ローラーではなく?」

 

「一度ローラーダッシュを試してみたんだが、草が絡まってかなり危険だった。ローラーのスパイクが甘いせいなんだが、技術的に無理があるみたいでな。機体に仕込める程度の大きさは無理だ」

 

「なるほど。既に試されていましたか」

 

「ああ。だが、スラスターはいずれ絶対に組み込みたい。魔法術式を回してくれ。こっちでも研究してみる」

 

「分かりました。後で書き起こしておきます」

 

「とりあえずオレは蓄電池タイプの結晶筋肉を作らせる。それの形状によってはFAプランで行こうと思う。設計はこっちで行おう」

 

「FAプランですか。確かにスラスターが搭載できるならそれもありですが」

 

「正確には外付けのブースターパックと言ったほうが正しいだろうな。肩腰足回りに取り付ける形だろう」

 

「やはり話が合う人との設計はすぐに済みますね」

 

「だろうな。よし、とりあえずは区切りがついたな」

 

「そうですね。ああ、朝日かな?」

 

「え〜っと、確か向こうは西だから夕日だな」

 

つまりは半日強の時間を話し続けていたのだな。水だけは大量に部屋に置いてあるから乾きには耐えられた。空腹もごまかせた。だが、落ち着くと腹が盛大に鳴り響く。

 

「腹が減ったな。飯を食いに行くか。どうだエル、奢ってやるぞ」

 

「いえ、今日は帰ります。そう言えば無断外泊してしまいましたね」

 

「まあ、なんかあればオレも一緒に怒られてやるよ。オレが原因だしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トール、何をしているのですか?」

 

「エルか?テレスターレの方でのオレの仕事は終わったからな。オレの研究の方をやっているんだよ」

 

スクラップになっているパーツから使えそうなものをリストアップしていく。まあ、使える部分はテレスターレの方に回されているが、オレが作るのは幻晶騎士ではないからな。

 

「とりあえずは戦車を作るか。キャタピラ周りの技術をあげないとな」

 

「ホバータイプが作れればいいんですが」

 

「燃費が悪すぎるな。魔力転換炉が2基余ってるな。連結実験も行うか。借りるぞ」

 

「あとでデータをバックしてくれるならいいですよ」

 

「当然だな。おっ、魔導兵装も余ってるじゃねえか。新造するのが面倒だからこいつも貰いっと」

 

色々とパーツを回収して次々と搭載し、途中で最初のプランと別の形が浮かび上がり、悪ノリをしてしまった結果

 

「あの、トール。戦車を作っていたはずでは?」

 

「上半身がまるまる余ってたからな。ガンタンク、異界に立つ」

 

オレ達の目の前にオリジナルとの差異はあるものの、ガンタンクと呼べるものが鎮座している。両肩に180mmの代わりに標準装備のカルバリンを装備し、両腕は備え付けのポップミサイルの代わりに新造した低威力で連射が可能なスナイドルが備え付けられている事以外は見た目は完全にガンタンクだ。中身は完全に別物だけどな。

 

「さてと、とりあえず試乗だな」

 

「あっ、ずるいですよトール、自分だけ!!」

 

「残念だったなエル、こいつ二人乗りなんだ」

 

「……他に乗る人は?」

 

「いないから手伝え。運転はオレがするから火器管制は任せた」

 

そう言ってやるとエルは満面の笑顔を見せる。オレも似たような顔をしているだろう。二人して操縦席に乗り込みベルトで身体を固定する。

 

「随分とレバーが多いですね」

 

「まあな。魔導演算機は人形を動かすことに特化しているからな。ガンタンクを動かすプログラムがないから大量のレバーで操作する羽目になった。出来るだけ重機みたいに使えるようにしてあるからエルは何となく分かるだろう?右側で右キャタピラ、左側で左キャタピラ、正面にその他もろもろ、フットペダルでガンタンクの底に仕込んだマギスラスタジェットでちょっとだけ飛べる」

 

「あっ、ずるい!!僕だってテレスターレにつもうとして諦めたのに」

 

「タンク型のお陰で体を支える肉体強化のスクリプトを減らせたおかげで搭載できたんだよ。側面にも一応搭載して倒れても起き上がれるようにしてある。あと、レバーが多いのはチェンゲのゲッターみたいで好きなんだよな。とりあえず法撃はあとで、走破性の確認からだ」

 

計器類を最終確認してからガンタンクをゆっくりと走らせる。このためにテレスターレに地面を掘り返させたり、水をまいてぬかるみを作らせたり、掘り返した土で山を作らせた。そしてそれらをガンタンクは容易に走破する。ただし、コックピットは酷い揺れに襲われてだが。

 

「サスペンションの強化がいるな」

 

「酷い揺れですものね」

 

オレ達は問題ないが、他のものは乗せられないだろう。

 

「法撃に入る。停止射撃からだ」

 

「了解。では主砲から試しましょう」

 

「シートの後ろにスコープがある。それで調整しろ」

 

「……届かないです」

 

「すまん。オレのサイズで作ってたからな。ちょっと待てよ」

 

ベルトを外してエルのシートの後ろからスコープを引っ張り出す。

 

「まんまガンダムですね」

 

「分かりやすくていいだろう?地味に照準の補正がめんどくさかったけどな!!あと、こいつ」

 

エルが標的に照準を合わせようとするとあの独特の音がコックピット内に鳴り響く。

 

「トール、照準が二重円で、しかも左右から中央に寄っていくんですけど」

 

「その認識機能を作るのに苦労した。ロックオン機能と効果音を合わせるとスナイドルの新造より苦労した」

 

「やりたい気持は良くわかります。ただ、受け入れられないでしょうね」

 

「テレスターレの照準でさえ受け入れにくそうだったからな。まあ、こいつはお遊びだ。遊びだからこそ本気になれだ。とりあえず撃ってくれ。右のレバーで右側、左のレバーで左側の砲身制御だ。上のトリガーでカルバリン、下のトリガーでスナイドルだ」

 

「了解。撃ちますよ」

 

エルがカルバリンのトリガーを引き、標的に命中する。

 

「続けて撃ち尽くすまで連射」

 

次々とカルバリンが発射され、魔力がどんどん減っていく。それでもテレスターレやカルダトアとは比べ物にならない数を放つ。魔力切れになった所でスイッチを操作する。

 

「キャタピラ用から半分射撃用に回すから、それでスナイドルを試してくれ」

 

停止射撃中にチャージが済み、満タンの魔力を射撃用の綱型筋肉結晶に半分回す。

 

「完全に分けてるんですか?」

 

「共有だと調子に乗ってバカスカ打って動けなくなったらタンクはただ狩られるだけの存在だぞ。余裕があるとは言え、移動が優先だ。よし、充填完了だ。スナイドルでの射撃を頼む」

 

「了解です」

 

再びエルがトリガーを引き、両腕からカルバリンの炎よりも小さな炎が断続的に次々と打ち出される。1分で30発ってところか。魔力の消費量は、だいぶ燃費が良いな。停止状態でキャタピラの方を完全に補給に回せばほぼ無制限に撃ち放題か。

 

「門数を増やして弾幕を張ったほうが良さそうだな」

 

「流石に2門は少なすぎですね。威力の方も高くないですし」

 

「そうだな。次、移動射撃だ。最初は標的に向かって左方向に軸をずらす」

 

「右側への射撃ですね」

 

「そういうこと」

 

ブレーキを外して右側を一速から順に三速まであげ、左側はニ速にして向きを変えて、30度ほど曲がった所で右側を二速に落とす。

 

「それじゃあ、カルバリンから始めますね」

 

「どんどん撃て。こっちも少しずつ速度を上げる」

 

標的から一定の距離で円を書くようにガンタンクを走らせながら射撃を続けさせ、速度も上げていく。滑って転倒しそうになる度に側面のマギスラスタジェットを吹かせて体勢を立て直しながら魔力切れを起こすまで続ける。

 

「流石に全力だと魔力転換炉を二基積んでも一時間ほどが限界か」

 

「それと、直射しか出来ないのも痛いですね。ガンタンクはやっぱり曲射ができないと」

 

「リロード機構がよく分からないんだよな。それと実弾を積むスペースもないし。魔法の射程を考えると現実的じゃないんだよな。まあ、母艦には搭載したいな」

 

「母艦ならある程度のスペースがありますもんね」

 

話している間にたまった魔力を全てキャタピラに回して整備場へと移動させ、一番奥のスペースへ駐機させる。ウィンカーとバックの時に音が鳴るようにもしてあってエルが大爆笑していた。ガンタンクから降りると、エドガーやディー達、騎操士が唖然としていた。

 

「どうした、鳩がカルバリンを食らったような顔をして」

 

「カルバリンを食らったら鳩など跡形もないわ!!」

 

ちょっとしたジョークなのにエドガーが本気で怒鳴り声を上げる。

 

「ほら、エドガー落ち着いて。トールも巫山戯るのは止めてくれ」

 

「へいへい。それで何を唖然としてるんだ?これからガンタンクの調整をしないといけないんだが」

 

「何処を調整するつもりだい?」

 

「両腕の魔導兵装を増やして、照準の調整、キャタピラ周りの消耗具合なんかの確認、その他もろもろだな。何かあるのか?」

 

「あ〜、色々聞きたいことがあるんだけど、構わないかな?」

 

「構わんぞ。エル、ダーヴィド、スマンが各部の確認を頼んでいいか?」

 

「いや、オレたちも気になってんだが」

 

「お前らもかよ。じゃあ、会議室に行くぞ」

 

全員を引き連れて整備場の一角に区切られている空間に移動する。オレ以外が席についた所で質問を聞き始める。

 

「はい。それじゃあ、一個ずつな。ディーから」

 

「あ〜、色々あるんだが、アレだ、いや、どう言えば、ああもう、とりあえず、なんであんなに魔導兵装を撃てるんだい?」

 

「転換炉を二基積んでるから。はい、次。へルヴィ」

 

「何処まで速く走れるのかしら?航続距離も合わせて」

 

「全速力は何も装備していないテレスターレより少し遅いぐらいだな。魔導兵装を使わないんだったら半永久的だな。まあ、キャタピラがやられる可能性が高いから正確な数字はこの後の整備次第だな。環境にもよるし。まあ、半日程度なら走り続けられるだろうよ」

 

その言葉に何人かが胡乱な目になるが、オレの最終目的は空母だからな。簡易メンテだけで数ヶ月は稼働できないと話にならない。

 

「はい、次、ダーヴィドか」

 

「その、だな。これがお前の研究、作りたいものなのか?」

 

「そんなわけがあるか!!こいつはただの実験機&ネタてんこ盛りの機体だ!!」

 

真面目にやってたらウィンカーなんて付けるかよ!!他は付けるだろうけど。

 

「先に言っておくが、なんでそんなのがって言った奴、殴り飛ばすからな。馬鹿でもわかるように説明すると、今回作ったガンタンクの下半身部分!!」

 

黒板に書きなぐるように超大雑把な母艦を描く。

 

「これを縦にも横にも大きく作る!!上半身があった部分に整備場を添えつける!!で、現場まで走る!!狙われたら面倒だから迎撃用の魔導兵装を付ける!!」

 

欲を言えば他にも色々ある。だが、これが最低条件だ。いつかは作りたい。変形機構とか変形機構とか変形機構とか。あと、空も飛ばしたい。

 

「なんでそんなもn」

 

宣言通りディーの顔面に拳を叩き込む。

 

「これによって、幻晶騎士の行動範囲、及び展開速度が向上し、決闘級が住み着いている森への派遣、討伐が容易になり人類の生息圏内が広がる。はい、質問は?」

 

「つまり、あれか?数を揃えて砦が移動すると思えば良いのか?」

 

「砦なんて限定的な使い方しかできないものと同じように考えるな!!全く別物だろうが!!数を揃えるっていうのは正しいが」

 

「う〜ん、想像がつかん」

 

「もう少し想像を働かせろ。特に騎操士共!!そんなんで初見の魔獣相手に生き残れるのか!!見た目だけで判断して想像力に欠けた結果、機体毎オシャカ。覚えは?」

 

陸皇相手に生き残った奴らが顔を伏せる。

 

「想像力の欠如。これほど恐ろしいことはない。オレだって綱型筋肉結晶を考えつかなかった。だが、欠点だけはすぐに思い至った。燃費の悪さ、それの対応策の板型筋肉結晶。分からないで終わらせるな。意見を出し合え、利点を、欠点を!!そして試行錯誤せよ!!その結果は既に目の前にある」

 

テレスターレはエルが基本的な設計を行っているがバージョンで表すなら0.3.16。試行錯誤の結果、それだけの改修を行ってきているのだ。

 

「想像せよ!!そして創造せよ!!それがオレ達技術屋の使命だ!!そこに趣味が入ろうが全く構わん!!エルを見ろ。僕の考えた最強の幻晶騎士を作りたい。パワーが足りないからと綱型筋肉結晶を考え出した。持ち換えるのが面倒だから背面武装を考え出した。その内、空を飛ばすと断言してやる!!それどころか転換炉は複数使うだろうし、変形とか合体とかさせるぞ。オレもさせるがな!!」

 

忘れがちだがマクロスは変形と合体を行っている。TV版では強襲揚陸艦ダイダロスと攻撃空母プロメテウスを両舷にドッキングさせているし、劇場版ではアームド級宇宙空母を両舷にドッキングさせている。その後、フォールドシステムの消失に伴う主反応炉と主砲のエネルギーラインの再構築にトランスフォーメーション、更に副産物のピンポイントバリアとダイダロスアタックの習得など、後のマクロス級の運用方法をほぼ確立した武勲艦だ。

 

「常識など捨ててしまえ!!良識は捨てるな!!そして時代の魁となれ!!テレスターレは第2世代型幻晶騎士としての魁である!!テレスターレの後ろに何千、何万もの幻晶騎士が追いかけることになる!!そのことに誇りを持て!!オレ達は今、歴史の1ページを綴っているのだ!!1ページで満足するな!!今この時こそが時代を先に進める転換期だ!!変人や狂人の名は全てオレとエルが引き受けてやる。本気で馬鹿をやれ!!」

 

 

 

 

 

 

テレスターレの開発が一段落し、整備班は開店休業中の中、オレは新型ガンタンクの制作を始めていた。これまでの動作試験により一人乗りでも操作が容易になるように演算機を修正し、レバーの数などを減らし、車高を低くする。転換炉も一基に変更する。武装も減らすことになり、代わりに装甲を厚めに取る。

 

「どう見ても陸戦強襲型ガンタンクだな」

 

更に戦車に近い形になったガンタンクを組み立てながら溜息が出る。今日は切り上げて帰ろうかと思ったが、生憎の雨で面倒くさくなって会議室の椅子を並べて簡易ベッド代わりに眠る。

 

いきなり地面に叩きつけられて目が覚める。犯人はダーヴィドのようだ。よし、戦争だな。

 

「とっとと、目を覚ませ!!騎士団が来てる!!」

 

「あん?騎士団?」

 

会議室から出てみれば整備場にテレスターレに関わりのある者が集められていた。殆どが集まった所で外套を羽織った騎士が前に出る。

 

「学生諸君、私は朱兎騎士団所属の騎士だ。ディクスコード公爵より命を受けて此処にいる。閣下は新型の幻晶騎士について興味を持っておられ、実際に動いている姿を見たいとの仰せだ。そこで君達には速やかに新型機をカザドシュ砦まで輸送して貰いたい。機体の整備のために必要な十分な人数を同行して、だ」

 

こんな土砂降り雨の中で新型機の輸送?とりあえず聞いておくか。

 

「質問よろしいだろうか?」

 

戦闘に出て騎士に聞いてみると目配せで許可が出される。

 

「新型機は全機運び出すということで間違いないだろうか?」

 

「そうだ」

 

「輸送に関する護衛はどうする?」

 

「我々朱兎騎士団のカルダトア10機が付く」

 

「新型機以外の実験機が1機あるんだがどうすればいい?」

 

「……念のために運んでもらう。それの開発者と設計者もだ」

 

「出来るだけ急いで?」

 

「そうだ」

 

「了解した。テレスターレとガンタンクの準備をしろ!!補修材と予備パーツも全部だ。補修材なんかはガンタンクで牽引する。このまま雨天時の運用試験にしてしまえ。補修材はちゃんとシートで覆っておけよ」

 

指示を出せばすぐに整備班が動き出す。困惑もあるだろうが、それはいつものことにまでなっているのが整備班たちだ。オレはオレでガンタンクの点検を行う。確認が終わった所で外部スピーカーを入れる。

 

「ガンタンクを出す。道を開けろ」

 

ガンタンクをハンガーから離れさせると、朱兎騎士団の騎士たちが驚いている。それらを無視してガンタンクを外に出して待機する。そこで腹が減っているのに気が付き、シートの後ろにサバイバルキットを積んでいたのを思い出してそこから保存食を取りだして口に入れる。

 

「まずいな」

 

腹には貯まるが味が酷い保存食のおかげで目が完全に覚めた。保存食に関しても開発しようかな。準備が出来たところでエルが乗り込んで出発する。

 

道中が暇なのでガンタンクを運転しながらエルと開発状況なんかを話し合う。

 

「そうそう、ミサイルはともかく爆雷というかランチャーは開発できたっぽいぜ」

 

「本当ですか?」

 

「本当だって。ダイ大の魔弾銃を参考に爆裂系の魔法を詰めた筒を飛ばすだけだけどな。命中率と不発率はお察しだけどな」

 

「誤爆は大丈夫なんですか?」

 

「誤爆を恐れて信管を鈍くしすぎたのが原因だ。ちょっとずつトライ・アンド・エラーで最適解を出す作業だな」

 

そんな話をしていると空気が変わったことに気がついた。朱兎騎士団のカルダトアの足並みが少しずれて緊張感が漂う。

 

「エル、火器の準備だ。魔獣だな」

 

「了解です」

 

カルダトアは立ち止まっての迎撃を選んだようだ。ガンタンクを止めて外に飛び出し、荷台との連結を外してからコックピットに戻る。

 

「敵は見えるか」

 

「見えません。音からすると徐々に近づいているはずなのですが」

 

見えないが、音は近づいてくる。つまりは

 

「地下だ!!」

 

オレが叫ぶと同時に地中から10匹のワームの決闘級魔獣が現れる。

 

「エル、魔力をそっちに回す!!」

 

「「フルバーストだ!!」です!!」

 

カルバリンとスナイドルが連射され、ワーム型の魔獣を次々と葬っていく。そんな中、突如として機体が落下を始め、視界に刃のようなものが下から上がってくる。

 

「まずい!!」

 

底面のマギスラスタジェットを全開にして飛び上がり、真下から現れた超大型のワームの口内から抜け出した所で側面のマギスラスタジェットを吹かせて逃げ出す。

 

「くそったれ!!魔力の残量は!?」

 

「2割を切ってます!!」

 

「逃げに徹するぞ!!」

 

転換炉に魔力を補充させながら残っている魔力を振り絞ってバック走で距離を離す。

 

「マギスラスタジェットの燃費、もうちょっとどうにかならないのか!?」

 

「ガンタンクや幻晶騎士を飛ばしたりしようとするとこれで限界です!!軽くなれば別ですが」

 

合計7秒程度で2割弱も持っていかれるとか洒落にならん。テレスターレの3倍の魔力貯蓄量を持つガンタンクの2割弱だぞ。テレスターレなら半分は使う計算になる。

 

「おい、エル!!馬車が狙われてるぞ!!」

 

「くっ、スナイドルを使いますよ!!」

 

エルが左腕の三連スナイドルでワーム共を牽制する。

 

「もうちょっと板型を積むべきだったな」

 

「積載スペースなんて残ってないでしょう」

 

「背中にランドセルを背負えば良いだけだろうが、ってしまった!?テレスターレにも背負わせればよかった!!」

 

「ああ!!盲点でした!!腰とかにもポーチみたいに付ければ」

 

「やはり実践に出てこそ分かる欠点もあるな」

 

「全くですね」

 

十分に距離を離した所で停止して援護射撃を続けながら魔力を貯め続ける。

 

「テレスターレが集合している?トール」

 

「大体読めた。少し急ぐ」

 

エルもスナイドルでの援護を止めて魔力を貯め始める。照準はオレ達を飲み込もうとした巨大なワームにつけている。集合しているテレスターレ5機の横にガンタンクを並べる。そしてエドガーの合図と共に再びフルバーストを放つ。そして瀕死になった巨大ワームを朱兎騎士団のカルダトアがとどめを刺す。

 

 

 

 

 

 

安全が確認できた所でダーヴィドに被害を確認する

 

「被害はどんな感じだ?」

 

「なんとか死人はいねえな。一番ひどいのでも骨折ってところだ。その代わり、馬車がやられた。さすがに木工は専門じゃねえから修理はきついな。材料もねえしな」

 

「仕方ない。幸い補修材の荷台が多少空いてるからそこに乗れ。朱兎騎士団の足をやられたカルダトアも載せるから多少狭いが、馬も馬車も全部のせても問題ないだろう」

 

「戻るって選択肢は?大分参っちまってる奴らが多いんだが」

 

「諦めろ。砦のほうが近いし、魔獣被害なんて珍しくもないことだ。就職先で襲われることなんてザラだ。そんなものより中年のおっさんにケツを狙われる方が怖いわ」

 

「ひでぇ良いざまだな」

 

「オレの故郷は決闘級に襲われて滅んでる。その後、非合法の売春宿の親父にケツを狙われた」

 

「……冗談だよな?」

 

「冗談だったら良かったな。親父の知り合いの騎操士に引き取られなかったらやばかった」

 

「すまん」

 

「昔の話だ。あまり言いふらすな」

 

「お前の、母艦戦術構想は、その時の経験か?」

 

「いいや。そうだな、オレとエルの違いは過去だけだな。あいつは、不幸がなかったオレ。エルが不幸だったらオレ。その程度の違いだろう。だからあいつといるのは楽しいんだよ。根っこが同じだから」

 

妬みや嫉妬があるかと言えばある。それで危害を加えようと思ったり、不幸になればいいとは思わない。見た目は可愛い幼馴染がいて羨ましいとは思うけどな。まあ、本人のほうが可愛い見た目というのがアレだが。幼馴染の性格もアレだが。ごめん、やっぱ羨ましくないわ。

 

そんな無駄な考えをしている間に積み込みが終わったらしいので行軍を再開する。

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、テレスターレの整備を優先させろ!!特に背面武装を念入りにな!!ガンタンクはスナイドルだけで構わん!!キャタピラ周りは損耗度だけチェックしておいてくれ」

 

整備班に指示を出してから、格納庫に来ると同時に飛び去っていったエルを探しに行こうとする。それを騎士の一人に止められた。

 

「すまないが公爵様がお会いになりたいそうです。あの、ガンタンクでしたか?その設計者を連れて参れとの事です」

 

「承知しました。ですが、テレスターレの設計者の方は?」

 

「そちらも別の騎士が探してご案内します」

 

「分かりました。資料の方を持ってきておりますので少しお待ち下さい」

 

ガンタンクのコックピットに入れておいた設計書とマニュアルを持ち出して騎士の案内で執務室に通される。そこにはオレ達を読んだ張本人であるディクスコード公爵が待っていた。しばらく待っているとエルも資料を持って現れる。

 

ディクスコード公爵が新型機の説明を求めてきたのでエルがテレスターレの新技術の説明を行い、オレが所々で補強していく。それが終われば今度はオレのガンタンクだ。

 

「私が作り上げたガンタンクは、私の研究の実験機であり、真新しい技術はテレスターレと変わりません。最大の特徴は人の形を離れ、馬車を大型化し武装したと考えてもらうのが一番ご理解が得られやすいと思われます。最大の特徴である人の形から離れたことにより、肉体強化へと回す魔力を大幅に削減することに成功。それによって運用可能な時間が大幅に上がりました。また、魔力転換炉を2基搭載、連結することによって」

 

「待て!?馬車を大型化させて武装させたというのはまだ理解できる。だが、魔力転換炉を2基、それも連結させておいて真新しい技術ではないだと!?」

 

「はい。私、2年前に幻晶騎士2機を連結させて放つ魔導兵装を作ってますし、レポートも学園に提出したのですが。計算上、陸皇にも真っ向からダメージを与えれる出力を得ることが出来ました。今は運用面の悪さから倉庫で埃をかぶっていますが」

 

その言葉に公爵が頭を抱える。復帰するまでしばらく待ち、説明に戻る。

 

「連結することにより、カルダトアよりも魔導兵装を気軽に使用することが出来ます。むしろ、格闘戦を排除し、弾幕を張ることに重点を置き、両腕そのものが魔導兵装となっております。こちらは新たに開発した低威力・速射機能に特化したものでスナイドルと名付けました。こちらを片腕に3門、計6門装備することによって低威力をカバーしています。また、今までの幻晶騎士とは大きく変化しているために幻晶騎士とは別のカテゴリーとして戦車と仮に付けています。欠点といたしましては操縦系統が今までに無いものでしたので複雑化しており、現在は操縦系統と火器管制を分けて二人乗りで運用しています。それに加え、魔力転換炉を2基使用していますのでコストの方がテレスターレ以上となっております。そのため、新たに操縦系統の簡易化と魔力転換炉1基での運用に適した武装に変更した物を組み立て中です」

 

「……もう2機目を作っていると?」

 

「ほぼ完成しています。組み立ても8割済んでいますし、パーツも全て製造済みですから。操縦の簡易化もまっすぐ走ったり曲がったりするだけなら1分もかからずに覚えられます」

 

そう言えば公爵がため息を付きながら頭を抱え、側にいた執事が紅茶をカップに入れ直して公爵に差し出す。それを受け取った公爵が一気に飲み干して、再びの溜息。

 

「新型機と、その戦車だったか?それらについて質問する前に伝えておくことがある。陛下より許しを得、此度の新型機の評定、そして今後の運用について、その全権を私が任されることとなった。新型機に関するその全てを一時的に私が管理する。それは情報についても然りだ。これらは、私から陛下へとお伝えすることになる」

 

ふむ、全権の掌握か。かわいそうに。その年であまり興味のないことを覚えなければならないなんて。

 

「なるほど。では、後ほど資料の全てをまとめてきます。とりあえず紙を2000、いえ、3000ほどご用意しておいてください。2週間ほどで書き上げますので。エル、そっちは?」

 

「僕はある程度まとめてありますから。まあ、追加で500枚ほど書いて4000ページと言うところでしょう。よかった、陛下へ同じものを用意する必要はないですね。あとはよろしくお願いします」

 

二人で同時に頭を下げる。さあてと、頑張らないとな。おっと、その前に。

 

「ペーパープランが軽いものから重いものまで8つほどあるのですが、そちらは?」

 

「僕の方も重いものから物凄く重いものまで3つほどペーパープランが」

 

とうとう公爵が倒れてしまった。

 

「貴族というのは大変なんだな。倒れるまで酷使されるなんて」

 

「そうですね。閣下には御静養なされるようにお伝え下さい」

 

「では、我々は資料をまとめる必要がありますのでこれで失礼致します」

 

資料をまとめるついでに強襲型のマニュアルも作ってこっちに送らせよう。

 

 

 

 

 

 

「これを陛下の元へと持っていくというのかね?それにこちらは、本当に可能だと?」

 

「そのための実験機がガンタンクです。力尽くの説明を致しますと、移動工房です。それ以外の用途は色々とありますが、頭の固い者達にはそれぐらいにしか理解できない代物です」

 

端的に馬鹿には使いこなせないと言っておく。

 

「例えば?」

 

「一例ではありますが、運用面でなら移動できる拠点です。積載するものは別に幻晶騎士である必要もありません。新たな地の開拓に必要な道具や人員を運んでもいいし、ある程度の村などが出来るまで駐在させてもいいし、装甲を厚くすれば砦の代わりに使っても良いでしょう。いざとなれば逃げ出すことも可能なのですから。設計面からで言えば積載スペースを大幅に削り、その分板型を敷き詰めることにより魔導兵装を大量に積む、あるいは以前にもご説明させていただいた巨砲を積むなど、この母艦単体での戦闘を視野に入れた物などです。また、国内での輸送任務用に調整した物など、用途は幻晶騎士よりも広くなると思われます。更に言えば単艦で使用せずに複数の艦を用意すればさらに運用の幅は広がるでしょう。欠点としましては、魔力転換炉を大量に、最低でも14基は積む必要があり、こちらに関しては強引な力技を使う必要があると思われます」

 

「ほう、どんな力技かね」

 

「今お見せしている設計図の艦であればカルダトアを20機積載した上で整備施設、予備パーツが4機分です。こちらで説明させていただきます。最低14基という数は艦の自重を支えた上で魔力の消費と供給が釣り合った状態で出してあります。そして任務でこの艦とカルダトア20機で目的地まで向かいます。その際、移動に1日かかったとします。通常、幻晶騎士の魔力とは魔力転換炉に多少プールされているもの以外は結晶筋肉に貯蔵されています。また、自重を支えるために魔力転換炉の火が落とされることはありません。ここまではよろしいでしょうか?」

 

「うむ、多少移動にかかっている時間が短いと思うが、場所にもよるだろうからな。それで?」

 

「では、続けます。魔力転換炉は大まかに分けて、駆動状態、休眠状態で稼働しています。休眠状態でも自重を支えるために必要な分を除いても魔力を多く精製し、貯蔵できないために垂れ流しています。この垂れ流しの濃度が高いと危険ではないかということで休眠状態というのは作り出されています。つまり、休眠状態と駆動状態では魔力転換炉にかける摩耗は同じです。ですので、積載している幻晶騎士を駆動状態にさせたままパイプでラインを繋ぎ、余剰魔力を艦に流して貯蔵します。幻晶騎士自体が戦闘には耐えられなくても母艦に戻れば修理を受けながら戦闘に貢献することは可能です。また、緊急時には逆に艦から幻晶騎士に流して補給も可能です。この連結技術により魔力転換炉の数を減らすことは可能です」

 

ソレスタルビーイングのプトレマイオスを参考に考案したこのシステムは魔力転換炉に最適なシステムだ。

 

「馬鹿な、出来るわけが「出来る!!」っ!?」

 

「試しもせずに過去に存在しないというだけで頭から否定するから100年周期でしか新型を開発できないんだよ!!公爵はこの母艦構想を試したのか!!試していないはずだ。調べに調べたからな。技術力不足から凍結されたり破却されたものは一切なかった!!開発するのは幻晶騎士に関してのみ!!錬金術で馬車関係を作ったこともない!!馬の代わりに馬車を牽くという発想はあるのに一度も考えられたことがない!!だからオレはスクラップからガンタンクを組み上げた!!二基連結型戦略級魔導兵装も作った!!そして過去にそんなものはなかったという感想が付けられただけだ!!結果から目をそらすな!!国王から全権を預かったのなら感情を捨て、目の前にある結果を正しく見ろ!!」

 

そこまで言い切ったところで砦が揺れる。部屋にいた全員の目つきが一瞬で戦闘向けの物に変わる。公爵に目をやれば顎で部屋の隅にいろと言われたので大人しくしておく。次々と入ってくる伝令でおおよその自体は把握できた。スパイにテレスターレ全機とガンタンクとカルダトア数機を奪われたようだ。

 

「ちっ、鍵でも付けておけばよかったな」

 

「ええ、すっかり見過ごしていました。何処の仕業だと思います?」

 

「山脈の西の何処かだろうな。平穏と暮らしているからこそ、幻晶騎士の技術が発展せずに、しかし領土野心がある。そんなバカ共だろうな。こっちも変に平和ボケしてたのが原因だな。まさか魔獣の防波堤であるウチの国に破壊工作を仕掛けてくるとはな。エゥーゴにマークⅡを奪われたような状況だ」

 

「ならばガブスレイやバイアランを量産するまでです」

 

「その前に全部奪還するか破壊するかしないとな。ところで、こんなところに指向性の閃光弾があるんだが」

 

「ならばやることは1つですね。こんなカーニバルを眺めるだけなんてゴメンですから」

 

二人でそっと部屋から抜け出して現場へと駆ける。少し離れた位置から観察する。

 

「テレスターレの数が少ない。既に逃げたのがいるのか。それにパワーに振り回されている感じがするな」

 

「ガンタンクは、完全に固定砲台ですね。しかも、工房の壁に引っかかってます」

 

「チャンスだな。工房の裏から回ってガンタンクを奪取する」

 

肉体強化で工房の裏まで走り、窓から突入しガンタンクの側にまで近づく。

 

「ピンを抜いて5秒後に閃光が走る。それからコックピットの中にいるスパイを殴り飛ばすぞ」

 

「了解です」

 

閃光弾のピンを抜き、ガンタンクの顔面に向かって投げつけて伏せる。ガンタンクの中から悲鳴が聞こえるのと同時に起き上がり、オレがコックピットを強引に開け、エルが中で目を押さえている男を殴り飛ばして気絶させる。エルに計器類のチェックを頼んで男をガンタンクから首から落ちるように放り投げる。明らかに首がおかしい方向に曲がったのを確認してからガンタンクに乗り込む。

 

「どんな感じだ?」

 

「魔力が少ないです。それに壁にぶつけて左の2番のスナイドルが故障です。それ以外は問題ありません」

 

「よし、ならばガンタンクの恐ろしさを奴らに思い知らせてやる。騎士団の連中にも見せていないガンタンクの全速力を見せてやる!!」

 

まずはバックして壁から離れる。助走距離も含めてそこそこ下がった所で拡声器のスイッチを入れる。

 

「こちら、トルティドネス・グラエンドとエルネスティ・エチェヴァルリアだ。ガンタンクは奪還した。これよりテレスターレを撃破する!!」

 

同時にギアをフルスロットルにしてガンタンクを戦場の真っ只中に突っ込ませる。その速度はカルダトアの踏み込みを超えテレスターレ並である。そのまま正面にいたテレスターレのコックピットにカルバリンが直撃し、倒れ込む。幻晶騎士の精密機器の中で最も安価な部品であるコックピットを撃ち抜き、出来る限り復元しやすい形で無力化させる。

 

「ひと〜つ」

 

ようやく動き始めたテレスターレが至近にまで迫っていたガンタンクを横っ飛びで右に回避するが、右キャタピラを反転全開させて旋回し、背中にカルバリンを押し付け撃ち抜く。

 

「ふた〜つ」

 

そのままテレスターレを盾にしながら両腕のスナイドルをテレスターレの向こう側にいる奪われたカルダトアに向けて連射する。全身の装甲が少しずつ削られて、偶然にも両股関節に命中して仰向けに倒れ込む。

 

「み〜っつ」

 

恐慌状態に陥りかけているスパイ共にとどめを刺すために盾にしていたテレスターレを旋回で振り払い、最後のテレスターレに向かって突撃する。慌てて背面武装をこちらに向けてくるがタイミングがまるわかりなんだよ!!

 

底面のマギスラスタジェットを吹かせて背面武装のカルバリンを避けて飛び上がり、そのまま踏み潰して破壊する。残っているのはカルダトアが3機だ。こっちはガス欠のガンタンクにカルダトアが5機、さらに上位機であるハイマウォートだ。これ以上はオレたちが手を出すまでもない。

 

「無茶をしますね。絶対マギスラスタジェットが破損してますよ」

 

「どうせ修理するんだ。今更だろう。追撃も厳しいだろうしな」

 

撃破したテレスターレは3機、奪われたのは5機だから2機足りない。とっくに追撃圏外だろう。正確な方向と魔力さえあれば追いつけるだろうが、両方ともないからな。踏み潰したテレスターレが動き出そうとしているのでテレスターレの上を往復して念入りに破壊しておく。完全に壊れた所でそのままバックして門の前にまで移動する。そのままスパイ共のカルダトアが破壊するのを観戦する。

 

「そこだ!!ああ、振り方がなってないって」

 

「ああ、駄目です。それはフェイントで、もう!!」

 

「ハイマウォートに正面からなんて、言わんこっちゃない」

 

どうせ負けるのが分かっているが、ここまでスパイ共が弱いとは思ってもみなかった。折角エルと二人で応援してたのに、あっという間に全機が破壊されてしまった。そして、ハイマウォートがこちらにやってきて駐機体勢を取ったので外に出てくるのだろう。こちらもコックピットから外に出る。

 

「団長のモルテン・フレドホルムだ。これから奪取された新型機の追撃に移る。出来れば協力してもらいたいのだが」

 

「万全の状態なら逃げた方向が分かれば確実に追いつけますが、難しいでしょう。諦めて更に強力な新型機の開発をするほうが早いでしょう」

 

「あれ以上の新型機だと!?」

 

「カルダトアをベースにするだけで2割は強くなるでしょうし、調整でもう1割ぐらいは普通に強くなるでしょうね。そこからハイマウォートみたいにカスタムタイプを作れば十分でしょう。それに慣れてきたら更に機能を追加した機体を、このガンタンクみたいに完全に別種の物だってペーパープランは存在してますからね」

 

「ならば何故作らない」

 

「予算の都合上としか言いようがないですね。学生ですから」

 

予算があればなぁ。殆どを魔力転換炉につぎ込んじゃうだろうけど傑作機を作るんだが。

 

「そうか。では、我々は、なんだアレは?」

 

団長が何かを見つけたのか遠くを見ている。オレたちもガンタンクの頭に登ってみると、強襲型ガンタンクが荷台を牽いて走ってくる。おかしいな、予定ではまだ時間がかかると思っていたのだが。それに幻晶騎士を護衛に付けずにここまでやってくるなんて、一体何事だ?

 

「お〜い、テレスターレに襲われたんだがこっちも襲われてるみたいだし、一体どうなってやがる!!」

 

側までやってきた強襲型の荷台からダーヴィドが叫んできたことで自体を把握した。

 

「ダーヴィド、何を持ってきた!!」

 

「はっ?ガンタンクの資材と、頼まれてた資料とかお前さんの試作品だが。あと、エルネスティのモートルビートで、そうだ!!ガキ共がテレスターレを追って行きやがったんだ!!エドガーとディーの野郎も戦ってる!!」

 

「無茶をする!!強襲型を借りるぞ!!こっちの方は整備しといてくれ、エルも行くんだろう」

 

「当然です!!」

 

「モルテン団長、一機なら速度を落とさずに乗せて運べます!!」

 

「私が向かおう!!」

 

ガンタンクの作成の時から手伝ってもらっていた整備班の生徒からコックピットを譲ってもらい反転する。

 

「ダーヴィド、道なりで合ってるな?」

 

「そうだ!!多少パーツが散乱しているはずだ!!」

 

「モルテン団長、結構粗めに飛ばします!!舌を噛まないように注意してくださいね!!」

 

ハイマウォートが強襲型の上に馬に乗るようにまたがり、エルがモートルビートに乗り込んで主砲のカルバリンに腕を引っ掛けて固定するのを確認した所で全力で走らせる。ガンタンクを超える速度で強襲型が走る。あいつは自分が扱える程度でしか速度を出していなかったのか魔力は十分貯蔵されている。戦闘を考えずに追いつくことを優先する。そんな中、今回の一件に関しての考察を行う。

 

まず、国内にスパイが他にもいるのは確定だ。幻晶騎士も持ち込まれているはずだ。最初のカルダトア2機を大きな損傷を与えずに奪っているのだから奇襲用の機体なのだろう。エーテルの吸気口から一息に貫かれれば、損傷少なく騎操士を殺せる。

 

新型機の情報は、学園の教師と生徒からだろうな。草と呼ばれる現地に長年居着いて新たに来るスパイたちを容易に受け入れやすくするタイプの仕事をこなすスパイだ。公爵に報告する必要があるな。

 

テレスターレは最悪奪われても良い。新技術の設計図を西側にばら撒けば優位性はなくなる。決めるのは王だがな。設計図はガンガン引かないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、テレスターレは5機中1機を奪われ、中破が2機、大破を通り越して破棄が2機という結果に終わった。奪われた1機は呪餌によっておびき寄せられた魔獣を盾に逃走した。呪餌の使用によって他国の介入であることが確定した。今後のことを告げられるために王城まで関係者全員が集められた。

 

先行試作量産機ですらないテレスターレの先行量産機の開発は国機研に丸投げしようとするので拳骨で止めた。

 

「何をするんですか、トール!!」

 

「面倒な調整だからって全部を投げるんじゃない!!」

 

その言葉に大臣や公爵達が首を縦に振っているが、学園の皆はまた何かをやらかすつもりだろうと見てくる。正解だ。

 

「研究資料はバックしてもらわないとタダ働きだろうが!!」

 

「そうでした」

 

「「「違うだろ!!」」」

 

大臣や公爵達からツッコミが入るが、それを待っていた。

 

「なるほど。立場や爵位を持たない学生はタダ働きで成果を全部出せと。なるほどなるほど。そんなのが大臣職や公爵についてるとはこの国の未来も暗いですね。ちょっと亡命の準備でも始めたほうが良いかもしれんぞ、エル」

 

「まっ、待て!!なぜそうなる!?」

 

公爵が慌てて答えるが、まんまと術中にハマったな。

 

「学園の予算で作成した新技術を積みに積みまくった機体を提出しているのにその後の報告(研究資料)を貰い受ける権利ぐらいあるでしょう。不具合が出ている場合は一から再設計するほうが早い場合もあるのですから。それを否定されては今後もタダ働きをさせられる可能性が高いということ。幻晶騎士開発の歴史に名を残しても不思議ではないのにこの仕打ち。亡命を考えてもおかしくはないと思いますけど?」

 

「だから話が飛躍しすぎだ。別に成果を取り上げることもせぬし、正当な報酬もちゃんと支払う」

 

「よっしゃ、言質を取った!!陛下より新型機に関する全権を預かっている公爵閣下が正当な報酬を支払うってな!!」

 

オレが笑いを上げる中、陛下は苦笑いを浮かべ、他の者は困惑している。

 

「してやられたな。理由の分からぬ者も多いだろう。こいつがやったことを簡単に説明するなら報酬の二重取りだ」

 

さすが陛下だ、よく分かっていらっしゃる。

 

「恐れながら陛下、それはどういうことでしょうか?」

 

「分からぬか。まあ、正確に言えば経費を着服するつもりだったのだろうな」

 

ここまで説明されてまだ理解できていないようだな。

 

「わしなら新型機テレスターレ7機とガンタンクとその改良型、それらの対価としてカルダトアを20機回す。年季の入った初期型だがな。それとは別に資材を5機分程度、魔力転換炉はやれんが、それぐらいは回す。学園に配備されていた分を全て召し上げることになるのだからな。今後の開発状況を考えても恩を売っておいて損はない。そうであろう、クヌート」

 

「はい。私が考えていたのもそれぐらいです」

 

「正当な報酬だな」

 

「はい」

 

「で、経費は何処にいった?」

 

「はい?」

 

「国機研なら年間で先に予算が降りている。それをやりくりして新型機を開発したとして報酬を得る。これなら問題はなかった。だが、今回は民間からだ。これまで手弁当でやってきていた。その分の経費を支払う必要が発生する。これは我が国の法で定められている。こいつはその念押しをしていたのだよ。先の報酬を得た後でこっそりと申請を出して魔力転換炉を10基、資材を9機分を分捕る。研究資料は囮だ」

 

「いえいえ、そちらも貰えるなら貰いますよ。その分、最適化の予算を他に回せますから」

 

「なら報酬をその分減らせ、あっ!?」

 

「技術を持って亡命だな。言質を取られていなければもう少し抑えることは出来ただろうな。まあ、わしはそれでも構わんと思っているがな。この二人に予算と資材を十分に預けた場合、何をやらかすのか見てみたい。トルティドネス、上げられた資料の中に陸皇相手にでも有効な魔導兵装を作り上げたとあったな」

 

「はっ、有効射程内であれば問題ありません。取り回しは最悪ですが」

 

「一撃で葬ることは?」

 

「更に取り回しが悪くなり砦に固定する形ならば問題なく」

 

「もう一つの案、そのバリエーションとして作れるな?」

 

「無論、仕上げてみせます。万能型で」

 

その言葉に陛下は首を縦に振る。

 

「エルネスティ、約束は忘れてはおらんな?」

 

「もちろんです。最高の幻晶騎士を仕上げてみせます」

 

エルはテレスターレで土台は作り上げている。オレもガンタンクで土台を作り上げている。資材と時間、そして王命の三種の神器が揃ったならば問題ない。

 

「今回の事件は新型機が狙われた。だが、次は開発者であるお前たちが狙われるかもしれん。それを守るために騎士団を新たに創設する。お前たちの考えを実現する鍛冶師と、それを守る騎士たち。お前たちに必要なのはそれで揃うはずだ。新たな騎士団には名が必要だな。お前たちの髪から銀、わしからは凰の名を送ろう」

 

騎士団と鍛冶師は今までと同じ、拠点も今までと同じ。だが権限と予算は跳ね上がった。ここからだ。ここから、ようやくオレの目的が果たせる。前世の子供の頃に憧れた最強の戦闘母艦。それの再現は不可能だとしてもあの戦闘母艦のように歴史に何度も名を残せる艦を作り上げる。それがどんな形でもいい。一番最初に憧れた艦に似ていなくてもいい。何度傷つこうとも、人々のために道を切り開き続けれるなら、それでいい。

 

「銀凰騎士団の最初の任は国機研の鼻を明かしてやれだ」

 

「「仰せのままに、人事を尽くしことにあたりましょう」」

 

 

 

 




タイトルを回収しきれなかった。


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Knight's & Magic & Carrier 2

陛下のお達しの通りカルダトア20機と大量の資材が運び込まれ、これからの銀凰騎士団の開発方針を話し合うことになった。

 

「さて、陛下からの任は国機研の鼻を明かしてやれです」

 

「国機研の奴らはエリートだが型にはまったことしか出来ない奴らだ。逆に言えば同じ型で戦うのでは鼻を折れない可能性がある。そこ、ガンタンクで良くないとか言うんじゃない。あれの欠点はまるわかりだろうが」

 

「継戦能力の低さと格闘戦が行えないというのは致命的です。運用方法や立ち回り方がものすごく重要になってきますからね」

 

「だからこそ更なる新型機を作らなければならない」

 

「そこでトールと僕は考えました。今回のテレスターレ強奪事件、おしくも逃げられてしまいましたがその原因は?邪魔が入った、抵抗された、追撃が遅れた?確かにそれらもありますが一番の原因は似たような速度でしか走れないからでしょう。そこで僕達が次に作るのは速さに特化した機体です」

 

「そうなると今度は軽量機を作るのか?」

 

「いや、重量機だ。驚け、設計図を引いた段階でなんとフル装備のアールカンバーの倍の重さだ」

 

「「「「倍!?」」」」

 

「テレスターレで腕が四本になったんだ。じゃあ、次は足を四本にするしかないだろう」

 

設計図を黒板に貼り付けて全員に見せる。設計図に描かれているのは半人半馬の機体。全員が食い入るように設計図を見て頭を抱える。

 

「ウチはゲテモノ専門になるのか?」

 

「時代の魁と言ってください」

 

まあここは1つ大人の対応を見せてやろう。

 

「動物っていうのは基本的に四脚だ。理由はこれが最も安定する姿勢を取ることが出来るからだ。オレ達人類は手に道具を持つことが多いために二脚に進化した猿だな。道具を使い続けることで脳が大きくなり、色々なことが出来るようになったが、その代償に道具なしには動物に勝つことが難しい動物となった。話がそれたな。今回は分かりやすく説明するなら役割分担だ。下半身の馬の部分で速度と走破性を確保し、空いたスペースに板型や魔力転換炉を2基積む。上半身の人の部分は軽くなるように作り、武器をもたせることでガンタンクではできなかった格闘戦を行えるようにする」

 

「走るための姿と戦うための姿。両方を兼ね備えたのがこれですね。走るためだけに特化した物や戦うためだけに特化した物にそれぞれの得意分野で戦えば負けるかもしれませんが、逆なら負けることはない。追撃にこれほど適した物は無いでしょう」

 

「ちなみに馬と人を別々に作れば?と言う意見もあるだろうが、そうなると馬に騎乗する形になる。そうなると重量が半人半馬よりも重くなり、更には魔力転換炉を合計で3基必要になる。また、バランスが崩れれば転倒する確率も増す。それでは意味がない」

 

完全に人馬一体に成れるのなら問題はないのだがな。いや、あの二人は人機一体で刃騎一体の変人コンビだから仕方ないか。

 

「だが、それだと戦闘特化に作った機体を奪われたら、それに劣る戦闘力しか無いこいつを出すことになるんだろう?最低でも2機出す必要がある。それでも奪還、あるいは破壊出来るか分からない。そこはどうするんだ?」

 

「まだ頭が固いな。こいつは半人半馬だ。半分は馬なんだぞ」

 

「つまりですね」

 

「エル、少しはこいつらにも考えさせるんだ。答えばかりを教えても成長できないぞ」

 

「そうですが、混乱が酷すぎて答えが出るとは思えないのですが」

 

団員を顔を見てみれば、変な方向に考えが向いてしまっているのが手に取るように分かる。溜息を付いて分かりやすく例えを出してやることにする。

 

「エドガー、お前たちが長距離を移動する時はどうしている?」

 

「むっ、それは幻晶騎士は徒歩でその他の人員は馬車、そうか、馬車か!!」

 

エドガーの言葉にようやく理解が伝わる。

 

「そうだ、馬車だ。牽引で速度は落ちようとも通常の幻晶騎士よりも速く遠くまで走れる。見た目も大きく異なり、性能もかけ離れた物になる。これが今回の目玉その1だな」

 

「その1?」

 

「その1だ。その2は、オレが今まで練り続けてきた構想に基づいた陸上母艦。それと陸皇級に有効打を与えられる兵器だ。とは言っても、兵器の方は開店休業中に内職で作ってたからな。魔力転換炉の数が揃ってればすぐにテストを行える様になってる」

 

「最低何基使う気なんですか?」

 

「6基。最大出力で10基。完全に固定砲台だが威力は折り紙付きだ。機構も単純だから量産性にも優れる。問題は魔力転換炉を大量に必要とする事ぐらいだな。名前はダインスレイブ。世界最強の杭打ち機の化物だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「この幻晶甲冑すごいよ、さすがテレスターレのお兄さん」

 

「オジさんぐらいが正解でしょうけどねって、うわっ!?細かい」

 

エルがオレが彫っている紋章術式を見て驚いている。

 

「幻晶甲冑も所詮は機械だ。腕の反応を落とせば精密動作が可能になる。ちなみに、こいつは外部取り付けのマギスラスタジェットの魔力効率を上げる紋章術式だ。2割程度改善すればカルバリン6発分にもなるからな。でかいと組み込むのも大変だからA4サイズにびっしりと刻むしかないんだよ」

 

「2割は大きいですね。ですが、それを今やる必要は?」

 

「あるな。やはりどうしても空を飛ばしたい。滑空するだけでもいい。ある程度上方向へのベクトルがないとカタパルト発進が物凄く難しいものになる。MSのランドセルのバーニア程度でもいいから搭載しないとな」

 

「ああ、その問題がありましたか。ちなみにバーニア無しであのカタパルトを使うとどうなります?」

 

「よほど上手く着地しないと、ペールゼン・ファイルズでの雪原戦で足を引っ掛けられたATみたいになるな。たぶん、オレでも両足を破損させることになる」

 

エルの次に操縦が得意なオレでそうなるってことはほとんどの奴らが死ぬことになる。

 

「うわぁ」

 

「だから外付けにしてでもマギスラスタジェットは着地用に採用しなければならない。それかカタパルトを外すかだ」

 

「残しておきたいですが、無理そうなら外すしか無いですね」

 

「最悪を見越してASの緊急展開ブースターを用意する。早馬代わりにもなるって売り込む」

 

「今思いついたのですが、ATやKMFやKLFやLFOの様にローラーを用意すれば良いのではないでしょうか?無理に止まろうとするから脚部に負担がかかるのですよね?」

 

「ふむ、なるほど。盲点だったな。だが整備が大変だな。靴を履くみたいにこれも外付けにした方がいいだろう」

 

「そうですね。ところで、その、ダインスレイブのテストの被害報告が上がってきましたよ」

 

物凄く言いづらそうにエルが切り出してきた。

 

「……どう、だった?」

 

「不幸中の幸い、死者やけが人は出ていませんでした。ただ、山道を潰してしまったらしく、それに土砂崩れに、その他諸々で人的被害がないのは奇跡だって。陸皇亀が相手でも、跡形もなく消し飛ぶでしょう。陛下からもやりすぎだとお達しが来ています」

 

よかった、人的被害はなかったか。敵相手ならともかく、守るべき民に被害が出ていたら罪悪感でもっとヤバイものを作るところだったぜ。

 

「あれは完全に計算外だった。もうちょっと威力は低いと思ってたんだ。まさか最低出力で盾を8枚と山を崩すなんて思ってもみなかったんだ」

 

「確かにあれは予想外でした。僕らも油断していました。とりあえず、採用を見送る必要があります」

 

「分かっている。そこで既に代案の設計図を引いてある。本当はCIWSのつもりだったんだが、たぶん、副砲と主砲の中間ぐらいの火力になる気がする」

 

「20mmの椎の実型の弾丸をダインスレイブと同じくローレンツ力で弾く。本来ならCIWSでしょうけど」

 

「ダインスレイブの経験から言わせればそんな生温いことにはならんな。まさか此処まで電磁力での反発がデカイ金属だったとはな」

 

ダインスレイブの弾丸として選んだ破城槌の金属、こいつが曲者だった。ローレンツ力の影響が曲線を描いていたようでダインスレイブに採用する前の実験での数値で出していた計算と全く異なることが判明したのだ。結果は先程も話したとおりだ。

 

「これもどうなるか分からんが、ダインスレイブよりはマシだ」

 

「試してみますが、今度はさらに安全の確保をしないとまずいですね」

 

「すまんが頼む。オレの謹慎処分は済んでないからな」

 

ダインスレイブのテスト事故によりオレは自室での謹慎処分を受けているのだ。だからこうやって新しい設計図を引いたり、紋章術式を描いているのだ。本来ならこの世界初の陸上母艦スレイプニールの建造に勤しんでいるところなんだけどな。

 

「スレイプニールの方ですが、魔力転換炉の連結がようやく終了しましたので、機関室の建造が始まりました。要望通り、装甲は厚めにとってあります」

 

「ああ、頼む。それが終わったところで問題なく動くかどうかの確認で頼む。上の箱は後でいくらでも作り直せる。下は上の箱を全部崩す必要があるからな」

 

「ガンタンク程度の大きさならともかく、母艦となるとそういうわけにもいきませんか」

 

「ドッグがないからな。正式採用されたらドッグの設計と建設だな。ツェンドルグの方はどうなっている」

 

「これも少し問題が出てきましてね。魔法術式の最適化のために複座型に変更し、上半身と下半身の操作を分けることにしました。最終的には一人でも動かせるようにはしますけど」

 

「よりにもよって人馬型で操作を分けるって、ああ、双子が居たな」

 

「はい、キッドとアディに任せることになります」

 

「嬢ちゃんが無茶する光景が目の前にあるかのように想像できるな」

 

それに振り回されるキッドに黙祷を捧げる。もう少し大人になったら綺麗でおしとやかな姉ちゃんが一杯いる店を紹介してやるからな。まあ、それが擬態で食われても知らんがな。大人の階段を登っちまえ。童貞ばかりの騎士団だ。エドガーもディーもヘタレて逃げたからな。一段上の男にしてもらっちまえ。まあ、嬢ちゃんに振り回される人生は変わらんだろう。キッドの人生に幸あれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

計器類の最終確認を行う。周囲で確認している作業員から問題なしのサインが送られる。既に何度もやったことだが、やはり緊張、いや、高揚する。

 

「トール、そろそろ時間だ!!」

 

艦内拡声器からダーヴィドの声が聞こえてくる。

 

「ダーヴィド、スレイプニールの方は任せるぞ。少しぐらい遅れる程度なら構わん。絶対に持ってこいよ」

 

「決闘級の群れが出てきても、残っている戦力で殲滅できそうなんだが」

 

「足回りは絶対にやられるなって言ってるんだ。時間だ、上げろ」

 

メンテナンスベッドごと機体がエレベーターに向かっていく。到着するとメンテナンスベッドを操縦している作業員とは別の作業員がエレベーターを操作し、エレベーターが上がっていく。天井が開かれた先は、船体中央に取り付けられたカタパルト前でそこでようやくメンテナンスベッドの固定が外れる。後ろにある重心に気をつけながらカタパルトに足を乗せ、クラウチングスタイルで目の前のバーを両手で握る。最後に外付けのランドスピナーを展開する。

 

完全にASの緊急展開カタパルトと一致するが著作権云々は異世界には通用しないからな。使えるものはなんでも使わないとな。だから背中にも緊急展開ブースターを再現して搭載している。お陰で背面武装を取り外さなければならなくなったが、こいつの性能と用途から不要だ。

 

「トルティオネス・グラエンド、ツールボックス、行くぞ!!」

 

両手で掴んでいるバーに取り付けられたスイッチを押してカタパルトが勢い良く前へと飛び出し、背中の緊急展開ブースターを思い切り吹かせて空へと舞い上がる。ちなみに緊急展開カタパルトを使いたがるのはオレとエル、それからキッドとアディだけだ。他のメンバーは全員、一度やって見事に墜落して機体を小破から中破させた。最初にディーが大破させ、嫌がる他の奴らを強引に乗せたのだが結果は散々だった。名前も裏では皆、結果にちなんでメテオなんて呼んでやがる。

 

まあ、ツールボックスもエルが好き勝手に弄り回しているトイボックス(おもちゃ箱)の様に、オレも弄り回して試作品を試しまわって、エルの物よりは実用性の高い物を使っている所為かツールボックス(工具箱)になっているんだがな。

 

そんなことを考えながらある程度の高さを確保したところでマギスラスタジェットを切って滑空させる。本家の物よりも翼を大きくした事により揚力を得やすくはなっている。その分、重心の調整には苦労するんだがその程度は最適化が済めばどうとでもなるし、ちょっと訓練すればいいだけの話だ。

 

前世では慣れ親しんだ景色を今はオレだけが独占しているという優越感に浸りながらも計器類の確認だけは怠らない。さすがにこの高さからパラシュート無しでスカイダイビングはやりたくない。

 

途中で何回かマギスラスタジェットを吹かせば先行していたツェンドルグとそれに接続されている荷車がちょうど門を潜っている所が見えた。それに続くように高度を落としながら外付けのランドスピナーから着地する。門の30m程手前に着地し、そのままランドスピナーで勢いを落とさずに滑る。着地で多少崩れた体勢を立て直してからスピードを落として、トイボックスの隣で駐機体勢を取らせる。

 

ベルトを外してハッチを開け、騎士の礼を取る。隣でエルも騎士の礼を取っている。

 

「陛下の御命を受け、銀凰騎士団団長エルネスティ・エチェバルリア、副団長トルティオネス・グラエンド、同1番中隊隊長エドガー・C・ブランシュ、同2番中隊隊長ディートリヒ・クーリッツ、ならびに最新鋭の人馬騎士ツェンドルグ、ここに揃いましてございます」

 

誰の反応もないが仕方ないだろう。ツェンドルグだけでも理解が難しい所に人形のまま空を駆けてきたツールボックスまで居るのだから。

 

 

 

 

エドガーとディーに資料と組み立て式の黒板を持たせて貴賓室へと向かう。先頭は団長のエル、その一歩斜め後ろにオレで更にその後ろに二人だ。貴族達の視線がオレとエルに集中する。理由は分かる。エルは女の子にも見える華奢な体をしている。そのままドレスでも着せて深窓の令嬢だとでも紹介された方が納得できるだろう。

 

そして、オレは騎操士の標準的な騎士服の上に分厚い作業服を着込んでいる上に全身を震わせて髪の毛の一部が凍っているからな。幻晶騎士、というよりは魔力転換炉の機能上の問題だ。魔力転換炉は大気中のマナをすくい取るフィルターだ。つまり熱を生み出さない。そこまでなら都合のいい動力源なのだが、主に使われている環境は温暖な地域なのだ。空の上での活用は想定されていない。

 

上空の冷たい大気を取り込み、それが全身に流れ込むんだ。ヒーターを搭載しないと死ぬな。作業服を積んでなかったら墜落してたな。テストでは高高度まで上がってなかったから分からなかった欠点だ。

 

陛下の前で臣下の礼を取り、説明は全てエルに任せる。

 

「陛下の仰せにより、最新鋭試作機体ツェンドルグ、および試作兵装群、および緊急展開滑走翼を搭載したカルダトアベース・テレスターレ、ここにお持ちしました。また、新構想戦術の母体となるスレイプニールもこちらへ向かっております。緊急展開滑走翼の紹介のために到着が遅れることをお詫びいたします」

 

「ご苦労であった。それと、トルティオネスは大丈夫なのか?」

 

「はっ、今回は高高度での運用試験も同時に行い、欠点が見つかった次第であります。既に改善案は思いついておりますので明日にでも克服されます」

 

「うむ。それにしても、お主らはわしを退屈させぬな。昨年も山一つを吹き飛ばしたかと思えば、人馬騎士に空を飛ぶとはな」

 

「「お褒めに預かり恐悦至極」」

 

「褒めとるわけでは、いや、褒めるべき点もあると言えばよいのか、判断に難しいの」

 

陛下が苦笑している。まあ、色々詰め込みすぎた感はある。だが、この後にスレイプニールも来るし、耐性を付けてもらわないとな。そんな中、一人の男が前に出てくる。

 

「……お、お前たちのような子供が、若造がアレを作っただと?」

 

「ディー、ツェンドルグの資料を渡してやれ。あと、メモ用の紙を1枚」

 

ディーが持っていた資料からツェンドルグの物を前に出てきた男に渡し、メモ用の紙を1枚オレに渡してくる。受け取った紙を手早く折って紙飛行機にする。こっちの世界には折り紙という文化は存在しないからな。

 

「ツェンドルグは魔力転換炉を2基搭載している。そうしないと自重を支えることが出来ないからだ。緊急展開滑走翼は、原理的にはこいつと同じだ」

 

出来上がった紙飛行機を貴賓室の外へと向かって軽く投げる。運が良いことに追い風に乗り、200m程飛ぶ。そのことに貴族達も驚いている。物を遠くに投げるには軽い方がいい、だが軽すぎても駄目だと言うことは分かっているが、何故駄目なのかまでは分かっていない。彼らの常識ならば、紙は遠くまで投げれないということになる。だが、目の前で紙を折っただけのものが200mまで飛んだ。

 

「あとは初速とその後の速度の維持だが、それも形にしたのが緊急展開滑走翼です。まだ問題点もありますが、片道だけとは言え馬車で6日の距離を1時間で飛行可能です」

 

とは言え、そんなことをすれば着地後に魔力量が戦闘なんて出来る状態じゃないけど黙っておく。これは早馬代わりなんだ。戦闘は考慮していない。いずれはなんとかしたいとは思っている。爆撃が出来るだけで大きく変わるんだけどな。要研究課題だ。

 

「予算と資材の問題でこの程度の完成度でありますが、今後の調整、開発によって更なる発展が可能だと考えております」

 

「最終的には何処までやりたいと思っておる」

 

「現在のところ、専用の設備を要した上で始めて空へと舞い上がることが出来ます。また、方向転換も容易ではなく、少しずつ曲がる程度が限界です。最終的には専用の設備無しで空へと舞い上がり、自由自在に駆け巡りたいと思っております」

 

「出来ると思うか?」

 

「壁はいくつもありますが、壊すか、乗り越えるか、はたまた迂回するか、あるいは穴をほって潜るか、幾らでもやりようはあります。最初に宣言しておきましょう。何百年先になるかは分かりませんが、人類はいずれ月にまでも手を伸ばすでしょう。まあ、先に魔獣を全部駆逐する必要があるでしょうが」

 

 

 

 

 

 

 

 

カルダトア・ダーシュとオレ達銀凰騎士団の模擬戦を貴賓室で観戦する。ちなみにツールボックスは邪魔なので場所を変えてある。さすがに現物が一つしか無い緊急展開滑走翼を破壊したくないから模擬戦には参加しない。

 

「陛下、一つよろしいでしょうか」

 

「どうした、トルティオネス」

 

周りに聞かれるとまずいと思い声を小さくする。

 

「団長との約定、自分にも一枚噛ませて欲しいと思いまして」

 

「ほぅ、何故だ」

 

「この後お見せすることになるスレイプニールですが、製造中に色々と問題が発生しまして。その中の一つに魔力転換炉の性能のバラツキが問題となっています。他の問題ならともかく、それだけは今の我々だけではどうすることも出来ないと判断いたしました。安定稼働、改良、量産のためにも是非に」

 

「エルネスティと交わした約定を知っているか?」

 

「陛下を納得させるだけの功を立てよと。陸皇亀討伐程度ではない功を」

 

「そうだ。お前にそれが出来るか?」

 

「ガンタンク、強襲型ガンタンク、ダインスレイブ、緊急展開滑走翼、これだけでもかなりのものと思っていますが」

 

「先の2つはそこまでのものではあるまい。ダインスレイブは運用に悩むのう。緊急展開滑走翼、まだまだ調整が不足しておる。まだ足りぬな」

 

「ダインスレイブに関しては打ち出す杭の材質を変更したことで十分使いやすくなっております。また、威力を大分低くし、連射できるものをスレイプニールに副砲として搭載しております。主砲にはカルバリンの改良型を連結させた物を搭載しております。詳しい資料はまとめてありますが、簡単に説明いたしますと、生産性は少し下がり、整備性は少し上がり、出力を三段階で設定可能、最大出力でカルバリンの3倍の有効射程と2倍の威力となっております。これは艦船に載せることが可能なための性能です。幻晶騎士に搭載するタイプは威力が2割増し、燃費は1割増しです」

 

「……何をさらっと恐ろしい物を引っ張り出してくるんだ」

 

「他の物に比べると見劣りしますので。スレイプニールへ搭載するために無駄を整理した副産物です」

 

「……ふむ、魔力転換炉は幾つ使っている」

 

「12基と駐機状態のカルダトアベース・テレスターレを6基接続出来るようにしています。幻晶騎士との接続するのは問題ないのですが、12基の方の魔力転換炉の性能のバラツキによって負担が大きいものが出ています。マッチングテストを行い、一番負担がない組み合わせで使用していますが、それでも数年で2基から4基を磨り潰しそうです。製造方法は諦めれても整備、改修のための知識がどうしても欲しいのです」

 

「それが認められないと言ったら?」

 

「そうですね、あまりやりたくはないですが生物が住めなくなる毒性を持ったとある物質から無限に近い熱量を取り出して、それを物理エネルギーに転換して艦を動かしますよ」

 

「だからさらっと恐ろしい物を引っ張り出すんじゃない!!まさかその物質を持ってるんじゃないだろうな?」

 

「ご安心を。手に入れようとしたら10年単位での準備をしなければなりませんので。ただ、本気でヤバイ物質です。一定の質量を一箇所に固めるだけで王都が吹き飛んで数百年は立ち入るだけで死ぬような環境に変えてしまう劇物です。私でも躊躇します。あの団長ですら躊躇します。使いこなせれば莫大な力を得られるのを知っていますが、使いこなせないと知っていますから」

 

「そこまで危険か」

 

「もし、世界が人間の手によって滅びるとしたら、こいつを使った撃ち合いでしょう」

 

一体何が始まるんだ。第三次(大惨事)大戦だ。

 

「お前ら、使うんじゃないぞ。フリじゃないからな」

 

「使いませんよ。それより、あとどれだけ功を立てろと?具体的に示してもらったほうが楽なんですけど」

 

「とりあえずはお前たちの言うスレイプニールを見てからだな」

 

「自信作とは言い切れないんですよね。とりあえず形にはしてみた、そんな感じですので」

 

「ほう、それをよく見せる気になったな」

 

「まあ、現状できる全てはやってますから。何か技術的にブレイクスルーが起きないとこれ以上はどうしようもないって所まで機能を搭載しましたから」

 

そこまで言ったところでちょうど模擬戦が始まる。ツェンドルグは3機分と見られたのか対峙するダーシュは6機。どういう戦いを見せてくれるのかしっかりと確認しないとな。

 

まずは、トイボックスのマギスラスタジェットの突撃か。エドガーとディーで3機を相手に時間稼ぎか。うぅむ、悪くはない選択だが間違いでもあるな。テレスターレが一番やってはいけないのは持久戦だ。特にオレ達は試作兵装を山盛りにしているから余計に燃費が悪い。エドガーの背面武装として盾を2枚持っているが、燃費を考えるなら普通にカルバリンを積んで速攻で敵をやってしまう方が燃費が良いぐらいだからな。ディーの様に短期決戦に持ち込んだほうが良いんだが、性格面で悪い方向に向かっている。

 

こうして見るとダーシュはかなり手堅いな。やはり外部との技術交流は勉強になる。ダーシュは先行量産機だから正式な量産機が出たらそっちを確保して改良するのが一番早いな。騎操士の腕も良いな。学生とは比べ物にならない練度だ。初見の物が多いから対応に慌てているが、次にやった時はどうなることやら。

 

陛下の言うとおり、ブラッシュアップは全部回したほうが良いな。その分、こっちは新技術の開発に専念した方が効率が良い。その分、設計図と概要書は作る必要があるが、それはオレとエルの仕事だ。喜んでやらせてもらうさ。

 

模擬戦が進み、トイボックスとツェンドルグ対ダーシュ2機となった所で陛下が模擬戦を終了させる。政治的な配慮だろうが、ちょうどいいタイミングでもある。

 

「陛下、間もなくですがスレイプニールが到着します。移動をお願いしたいのですが」

 

「移動?どういうことだ」

 

「スレイプニールですが、門を潜るのは不可能ですので全貌をお見せすることが出来ません。それに、実際に中を見て貰った方が理解を得られやすいかと」

 

「ふむ、外側からは理解しきれんか」

 

「内部の方が技術の集大成といえます。主砲や副砲、ダインスレイブはほぼ囮の技術です。それ以上に画期的な物の試作品がわんさかと積んであります」

 

「お前ら、まだそんな物を隠してるのか」

 

「こっちでも危機意識を持っているのです。二度とあのようなことにならないように」

 

二度も奪取されてたまるか。

 

「はぁ、心配に、おい、アレはなんだ」

 

陛下が指を指しながら門の向こう側を指差す。そちらを見れば遠目にだが特徴的な形が見えていた。

 

「おや、予想より早いですね。ご紹介しましょう、あれが今の我々に出来る限界までをつぎ込んだ陸上母艦、スレイプニールです」

 

貴賓室に居る他の貴族の方々も少しずつ気付き始める。スレイプニールはネェル・アーガマを素体に設計・開発を行った陸上艦である。

 

本来なら第2、第3カタパルトである場所は普通の甲板となっておりダーヴィドの奴が指示を出したのか、テレスターレが駐機状態で並んでいることでその大きさが際立っている。また、底面部分を全てキャタピラにしたためにのっぺり艦が出てしまった。また、後部エンジンブロックだった部分は工房となっているために本家よりも大型化してある。そして、艦首砲であったハイパー・メガ粒子砲の代わりに引き込み式で大型化したダインスレイブを設置してある。主砲のメガ粒子砲も第1カタパルト上部ではなく、第2第3カタパルト上部に連結型カルバリンを1門ずつ装備。主砲の部分には小型のダインスレイブを設置してある。あとは死角を無くすようにスナイドルが取り付けてあるがこれは完全に牽制目的の装備だ。ブライトさんには怒られる程度の弾幕しか張れない。

 

「……予想していたよりもデカイな。あまり砦のようにも見えん」

 

「艦をモチーフにしていますから。それでは、ご案内いたします」

 

門の側で停止したスレイプニールへと移動し、甲板に待機していたテレスターレの1機が外付けのタラップを乗り込み口に装着させてタラップを上がる。まずはブリッジから案内する。陛下に直接会うのを嫌ってブリッジ要員は逃げ出したようなので全てオレが説明する。

 

「こちらが幻晶騎士で言う所の操縦席となります。複数人での操作が基本となります。とは言っても実際に動かすのは操舵士のみで、他は各部署のトップが集まり指示を出す形です。拠点での作戦指揮所だと思って頂ければ分かりやすいかと」

 

「最大でどれだけの人数が詰めることになる」

 

「艦長、操舵士、砲術班長、索敵員、機関長、艦外通信士3名、艦内通信士2名となります」

 

「うん?索敵員がここに居るのか?班長ではなく?」

 

「そこが新技術の一つですね。こちらへ」

 

索敵シートへと案内し、新技術の機械を起動させる。目の前の模様の入ったガラスにオレンジ色の光点が表示される。

 

「これは?」

 

「少しお待ち下さい」

 

艦外通信士の席からインカムを取り、エルへと繋げる。

 

「エル、スレイプニールから200m離れた地点、2時の方向から12時、10時の方向に移動してくれ。早足程度でだ」

 

『了解です』

 

「それは拡声器か?」

 

「いえ、こちらも新技術の通信機です。そちらの騎士の方、申し訳ありませんがこれをこういう形で装着して乗り込み口にまで移動してもらえますでしょうか」

 

少しためらった後に陛下が指示を出してブリッジから退出する。その間にエルが到着した所定の位置に着いたので通信を送ってくる。

 

『位置につきました』

 

「10秒後に動いてくれ。陛下、こちらの光点と外にご注目ください」

 

トイボックスを示す光点を指差し、トイボックスの移動に合わせてその光点が移動するのを見せる。

 

「これは一体!?」

 

「一定以上の魔力が存在する位置を表示しています。決闘級、幻晶騎士ならば問題なく表示することが可能です。有効距離は半径20kmですが、そこまで来ると精度のほうが落ちます。正確な距離ですと、半径5km圏内と言ったところでしょう」

 

「その技術の秘匿性は」

 

「現在の所は団長と自分だけです。書類も存在していません。全部この中に」

 

頭を指差して答える。

 

「生産は全て国が抑える。こいつだけが唯一の例外だ。あとで王城の一室に軟禁する。そこで全てを書き上げろ」

 

「御意。続いて通信機の方ですが、通信機同士でのみ音声をやり取りできるものとお考えください」

 

「よく分からんな」

 

「では陛下、先程の騎士の通信機とつなげます。彼と話してみてください」

 

周波数を操作して騎士の持つ通信機に繋げる。陛下にインカムを装着してもらい、タラップまで移動してもらった騎士と少しの会話をしてもらう。

 

「確かに会話はできたが、他に会話が聞こえたものは」

 

他の騎士に確認を取るが陛下の声しか聞こえなかったと答える。

 

「こちら、機材を大きくすれば有効範囲を伸ばすことは可能ですが、幻晶騎士に搭載する場合2km程度が限界です」

 

「それでも十分に使えるな。あの事件のような時には特にな。国機研に調整と量産を回す」

 

「資料と予備の機材を用意します」

 

「他にこの艦橋で紹介するものは?」

 

「いえ、ありません。続いて格納庫兼工房のある後部をご案内します」

 

格納庫に移動して陛下と護衛の騎士が目についたのはメンテナンスベッドだろう。それと、さすがにここからは逃げ出せなかったのかアールカンバーとグゥエールがメンテナンスベッドに固定されて戻ってきている最中で整備が始まるところだった。幻晶甲冑が2機に取り付き、整備が始まる。

 

「基本的に母艦の移動の振動によって幻晶騎士が転倒しないようにメンテナンスベッドに固定します。また、メンテナンスベッド自体も自走可能で、歩行による事故の防止に役立っております。艦外へ移動するのも可能で、クレーンも装備していますので、行動不能になった幻晶騎士を回収することも可能です。中央のエレベーターは緊急展開滑走翼専用の設備までの移動用です。多少の高さがなければいざという時に幻晶騎士だけでなく騎操士が失われる可能性が高くなりますので」

 

ある程度の高さがあればランドスピナーに集中して操縦すれば被害を最小限に出来るのは既に銀凰騎士団員が証明している。

 

「気になったのだが、先程から幻晶騎士に取り付いて整備をしているアレはいったい?」

 

「アレは元々は幻晶騎士の訓練用に開発した物なのですが、今では整備に便利だと鍛冶師用に調整した物です。魔力自体は搭乗者の物を使用しますが、魔導演算機を搭載することで誰でも肉体強化を使用することが出来、整備の効率化に繋がっています。機構自体も簡易ですので量産性にも優れています。銀凰騎士団で所有していない者はいませんし、中には戦闘用に改造している者もいます」

 

「その筆頭がお主であろう」

 

「よくお分かりで。ちょっと興が乗りすぎまして、まあ、原型を留めていないというか、見てみます?」

 

「怖いが、確認しておかねばならぬだろうな。案内せよ」

 

「いえ、こちらに運ばせます」

 

近くに居た強奪事件の際に強襲型に乗っていた後輩を呼び寄せる。

 

「オルター、グリッドマンをこっちに運べ」

 

「サンダーパーツを換装してますけど」

 

「そのまま運べばいい。レックスパーツは置いておけばいいが、ドラゴニックキャノンは持ってきてくれ」

 

「了解です。ベッドごと運びます」

 

「頼むよ」

 

しばらくすると専用のメンテナンスベッドに固定されたオレとエルの悪ノリの結果であるサンダーグリッドマンが運ばれてくる。通常の幻晶甲冑よりも一回り大きく、無駄に思えるようなパーツが多い。実際、ただの飾りの意味合いが多い。再現できていないものが多すぎるのだ。精々、自家製サンダーグリッドビーム位だ。紋章術式として書き起こすことが出来ずにオレが自分で術式を組み立てる必要がある。その代わりに肉体強化と皮膚強固の術式の効率を上げて本家のサンダーグリッドマンのような力強さを再現している。多少は楽になるようにドラゴニックキャノンは急いで作ったけど、ただの虚仮威しだ。

 

しかも、魔力は全て搭乗者持ち。エルは、オレと体格が異なりすぎてサイズが合わないのだ。まともに動かせるのはオレだけとなった。

 

「え〜、装飾が多分に私と団長の趣味が入っておりまして欠陥機となっています。まともに動かせるのが私だけとなっております。短時間であれば中隊長二人を相手取る程度なら可能です」

 

「大きいな。先程サンダーパーツを換装している言っていたがそれは?」

 

「幻晶甲冑に更に甲冑を着込ませていると考えてもらえれば。一応は追加装備の発展系の一つに数えられます。戦場に合わせた換装パーツを全身に取り付け、戦況によっては別のタイプのパーツに換装して別種の機体にしたり、損傷を受けた際にパーツの交換ですぐに復帰できるメリットがあります。デメリットとしては費用がかかることと、その分資材を積まなければならないこと、操縦系統が死ぬほど複雑になることから趣味の域からは絶対に出ない代物です。その分、遊びに走れて私と団長は楽しんでいますが。幻晶騎士と違ってそこまで資材を使いませんし、汎用性を無視して遊べるので」

 

「実戦には使えぬのか?」

 

「これに積めるサイズの魔力転換炉は存在しませんから、全部を搭乗者が補う必要があります。それに武装も2つを除いてハリボテで、自分で術式を編んでいます。普通に素体である幻晶甲冑に通常の騎士の武器をもたせるだけで通常の騎士との戦いなら十分でしょう。幻晶騎士相手には専用の武装と装備をつけたもので何人かで掛かれば倒せなくもないでしょう」

 

「ふむ、とりあえずコレも色々と試してみる価値はあるな。整備には十分使えるのだろう?」

 

「そちらは実証済みです。予備が何機かありますのですぐにでもお渡しできます。解説書もありますので、そちらも一緒に」

 

「うむ」

 

「オルター、予備と解説書の引き渡しの準備をしておいてくれ」

 

「了解です。それじゃあ、グリッドマンも戻しますね。あっ、そうだ、グリッドマン用のパーツの設計図を引いてみたので見て貰ってもいいですか」

 

「後でだ。私は陛下の案内がある。それでは陛下、次はスレイプニールの心臓部をご案内します」

 

「魔力転換炉を12基も使っている心臓部か。そこで問題点も説明するのであろうな」

 

「はい。実際に見ながらご説明させていただきます」

 

スレイプニールの心臓部である機関室は至ってシンプルで複雑だ。12基の魔力転換炉が置かれ、4基毎にパイプで繋がれて塊となっており、更にそこから壁中にパイプが張り巡らされている。そのパイプや魔力転換炉の周りを機関員が幻晶甲冑を着て飛び回っている。

 

「ご覧の通り、ここから魔力を全体に通しております。4基で1つのグループを作り、全体を支える強化魔法に回すグループと武装に回すグループと移動に回すグループに分かれています。パイプを繋ぎ替えることで配分を変えることも可能です。また、格納庫にもありましたパイプと接続することで幻晶騎士の魔力をこちらに回すことも、その逆も可能です。艦橋の機関長席から魔力残量を確認し、こちらにいる機関員に指示を出してパイプを繋げかえさせます」

 

「どれ位の時間で繋ぎ変えれる」

 

「お見せしたほうが早いでしょう。移動用の2基を武装用に回せ!!」

 

指示を出すと同時に素早く移動用と武装用の8基に取り付き、状態を確認する。

 

「あれは何をしている」

 

「魔力残存量と、負荷を調べています。ここで出来るだけ似ている物を選んで接続しなければ逆流が発生します。そうなると魔力転換炉に負荷がかかって、破損します。見極めが終わり次第、あの通り」

 

機関員が素早くパイプを外して付け替える。指示を出してから5分ほどで切り替わる。

 

「なるほどな。半分以上が魔力転換炉の測定か。欠点というのはこれか」

 

「はい。出来るだけ似ている物で繋ぎ変えておりますが、それでも負荷がかかります。それらは性能のバラツキによって発生していますので」

 

「製法を知りたいか」

 

「代替品を用意できるだけの知識は得たいと思っております」

 

「……とりあえず武装の方も確認させてもらおう。事前に通達してある場所に標的も用意してある」

 

「了解しました。それでは再びブリッジまで、いや、甲板の方がいいかな?どうされます」

 

「甲板というのは外のことか?」

 

「そうですね。テレスターレが並んでいた場所になります。今は閉じている壁の向こう側がそうなります」

 

「一番見えやすい場所は何処になる」

 

「一番となりますと、各砲塔の砲手席だと思いますが」

 

「至極当然だな。どれ、わし自ら撃とうか」

 

「多少、幻晶騎士とは扱いが異なりますので軽くレクチャーを受けて貰いますが、よろしいでしょうか」

 

「うむ」

 

「ではこちらへ」

 

一番近くにあるタラップを登り、副砲の連結型カルバリン、アームストロングの砲手席に案内する。砲手席についていた後輩に陛下へのレクチャーを任せ、ブリッジに戻っているダーヴィドに指示を出して標的が置いてある場所まで移動させる。その間に陛下は完全に扱い方をマスターしていた。

 

「これは中々良いな。砦の備え付けの砲にこの旋回技術を取り入れるぞ」

 

「こちらも資料と予備パーツをご用意しておきます」

 

「それにしても、幻晶騎士よりは遅いとは言え中々の速さだな」

 

「艦内には居住区もありますので人員を交代させれば何日でも走らせることが可能です。ただ、簡易整備だけでは2ヶ月が限界です。専用の整備施設が必要となってきます。現在は多少ガタが出始めている頃ですが専用の整備施設を作るだけの資材がないので保留状態です。泥臭い力づくな方法で何とかしていますが」

 

「泥臭いか。比喩ではないのだろうな。言葉通り泥まみれになるのか」

 

「よくお分かりになりましたね」

 

「国機研がガンタンクを調べ上げた資料をあげてきておったからな。それを見て、泥臭いと聞けば、足回りの整備を地面に潜ってやっておる位想像がつくわ」

 

「ご明察のとおりです。足回りの整備に穴を掘ってます。幻晶甲冑のおかげで生身よりは楽ですが、鍛冶師の負担は大きいです。今後の改良、量産のためにも専用の施設は必須です」

 

「量産の方はこのスレイプニールを雛形とするのだな?」

 

「そうなります」

 

「その前に一隻作って国機研に回せ。幻晶騎士と同じだ。設備の資材も合わせて送る」

 

「ありがとうございます。施設の図面も引いてありますのでそちらもお渡しします」

 

「うむ。おっ、用意しておった標的が見えたの」

 

「標準的な盾ですね」

 

「一番わかり易い基準じゃろう。撃っても大丈夫か」

 

「少々お待ちを」

 

内線通信機をとって艦橋に繋げる。

 

「ダーヴィド、これから右舷副砲を撃つ。問題はあるか」

 

『特に無いぞ』

 

「大丈夫だそうです」

 

「では、やるか」

 

陛下が照準を合わせてアームストロングを撃ち放つ。カルバリンの倍の大きさの炎が標的に向かって飛び、標的上部を半ばまでを融かす。

 

「一撃であれか。凄まじいな」

 

「3秒間隔で連射も可能です」

 

陛下は連射も試されて、その性能に満足される。

 

「使えるな」

 

「こちらもご用意しておきます。続いて主砲ですが、こちらはダインスレイブの小型版です。威力は標準の盾を2枚砕いて3枚目の表面で止まる程度です。次弾装填まで20秒ほどです」

 

「そちらの方は撃たんでいい。大体の想像はついた。杭の方のサンプルだけ上げろ」

 

「了解です。それでは我々からは以上となります」

 

「詳しい評価はまだ先になるだろうが、想像以上の物だった。資材もすぐに送らせる。ただ、魔力転換炉は時間がかかるだろう」

 

「こちらも専用の設備の建設からですので問題ありません。魔力転換炉の精製方法さえ分かればこっちでどうとでもしますけど」

 

「それに関しても後だ。それだけ魔力転換炉の精製方法は秘匿されなければならないからだ」

 

「分かりました。今日の所は引いておきますが、あまり時間がかかると、どんなヤバイものが飛び出してくるか分からないということを覚えておいてください。私と団長は目的のためなら神だろうが鬼だろうが殺して、素材に出来るなら剥ぎ取りますから」

 

ロボや機械以外にも特撮なら手を出していたからな。強殖装甲とか超魔生物に手を出さないとは断言できない。さすがにDG細胞なんかは作れないとは思う。作れないと思うが手を出さないとは言い切れない。

 

「分かっておる。だが、これはわしだけでは決められん。製造元に問い合わせなければならんからな」

 

「王家が製造元ではない?そんなことで大丈夫なのですか?」

 

「無論だ。これはどの国でも変わらん」

 

外部生産で全ての国が同じ条件だと?西側の諸国の盾となっているこの国と安全圏の国が同じ条件。何かを見落としている。何を見落とした。違和感は、あそこに居るのはドワーフ?ドワーフ?ドワーフが居るのにエルフが居ない?そもそもドワーフという名が過去の偉人が名付けたものだ。オレとエルが居る以上、その偉人がオレたちと同類の可能性はある。つまり、ファンタジー系統で考えればドワーフと同じく亜人で特殊な技術を有していると思われる存在。エルフだな。

 

エルフだけが魔力転換炉を製造できる。そしてエルフにしか製造できない理由がある。知識量というわけでも工業力というわけでもないだろう。それは時間が解決してくれるからな。そうなると魔力そのものに関する何か。魔術に特化していると考えれば、魔術媒体が存在する魔物よりの存在。そう考えるのが一番か。つまり魔力転換炉のアホなほど硬い金属を魔術でどうにかしているのだろう。

 

面倒ではあるが存在が秘匿されている以上黙っておくべきだな。予想でしかない以上、頭の片隅に追いやっておくか。

 

「何となくですが事情は飲み込めました。ですが、オレとエルなら過去の自称天才共を凡百にしてみせます。それだけの成果はお見せできていると思っております」

 

「分かっておる。期待しておけ」

 

 




早く、ネェル・アーガマを空に飛ばしたい。何処かに船を空に飛ばせる技術ってないかなぁ(チラッ)
大型ダインスレイブの的もあるといいなぁ~(チラッチラッ)

そして、次代を先取りしすぎた名作であるグリッドマンのアニメ化おめでとう。
1993年にコンピューターワールドを舞台にした円谷プロが作成した特撮です。物凄く簡単に説明するとロックマンエクゼが一番近いのかな?ただし、常にフルシンクロ状態。強化パーツは全てポリゴンを作成してステータスを持たせて自作。文字を打ち間違えて出撃できないなんて描写もある子どもどころか大人にもあまり分かって貰えなかったような気がする作品です。
結構大好きです。デザインが今のウルトラマンに混ざっていても違和感がない辺り、次代を先取りしていたのがよくわかります。


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ダンジョンで死にかけるのは間違っていない 2

死にかけた翌日、神様にもロキ・ファミリアの皆さんにも言われたので暫くの間休暇です。蓄えはある程度あるので3日ほどは訓練もダンジョンにも潜るのは禁止されてしまいました。やることがないので神様と出会った噴水の近くにあるベンチで日向ぼっこと昼寝で体を休めます。

 

 

「ベル君?」

 

「むにゃ?」

 

うつらうつらと船を漕いでいた所に誰かに声をかけられた。

 

「ふふっ、眠たそうね」

 

「……エイナさん?」

 

寝ぼけている頭で声を頼りに相手を当てる。

 

「おはよう、ベル君」

 

「おはようございます、エイナさん」

 

寝起きでテンションが低いままエイナさんに挨拶を返す。殺気とか悪意を向けられないとすぐには頭が回らない。

 

「今日はお休みなの?」

 

「昨日は色々とありまして、三日程休養の予定です。休養が明けてもまた1、2階層で慣らし直しです。装備もバックパック以外は全部新調し直しになりましたから」

 

ロキ・ファミリアで貰った物は僕が使っていた物より多少良い物になってしまった。防具はともかく、武器は微妙に長さとか重心が変わったから慣れないといけないし、靴も新しい物だから馴染んでいないし、鉄板もまだ仕込んでいない。

 

「何かあったの?」

 

「昨日、ロキ・ファミリアの人たちが遠征から帰ってくる途中、ミノタウルスの群れを見つけて狩ろうとしたら全力で上層に向けて逃げ出したんです。で、そのうちの一匹と偶々遭遇しちゃって、追い詰められて、賭けに出たところでミノタウルスを挟んでアイズさんと衝突事故が起こりまして。レベル1とレベル5の衝突事故です。結果はご察しの通りで死にかけました」

 

「死にかけたって、本当に大丈夫なの!?」

 

「見ての通りですよ。まあ、念の為に三日程休養です。で、そうなると暇でこうやって日向ぼっこをしてたらそのまま寝ちゃってたみたいですね」

 

そう話しながら、頭を徐々に起こしていく。あれ、何か余計なことを言ったような?う〜む、完全に覚醒すれば何かミスが分かるはずだけど、まだ寝ぼけているみたいだ。

 

「ねえ、ベル君、この後暇?」

 

「見ての通り暇ですよ」

 

「じゃあ、デートしよっか」

 

「ほぇ?」

 

拝啓、天国のおじいちゃんへ。おじいちゃんの言う旗がいつの間にか立っていたみたいです。原因が分からずに思考がパンクしています。あまり嬉しいという感覚はないです。エイナさんは確かにきれいな人だけど、どちらかと言えばお姉ちゃんみたいに思ってます。お姉ちゃんなんて居ないけど。おじいちゃんの才能はこれっぽっちも持っていない僕にはハードルが高そうです。

 

『儂が一番努力した女の子との出会い方を天然で持っとるくせに何を言っとるんじゃ!!儂なんて努力と脚で出会っとったのに、普通に過ごしとるだけでレベルの高い娘と出会いおって』

 

そんな幻聴が聞こえた気がする。まだ寝ぼけているな。

 

 

 

 

 

 

 

 

エイナさんはデートと言いながらも僕の新しい防具を見繕おうと言って、バベルにまで連れてくる。

 

「エイナさん、僕のスキルの関係上ヘファイストス・ファミリアの武具とは相性が悪いんですけど」

 

レベルに合わせた武器を持っても、百人力で全部使い捨てにしなければならなくなることを考えると不壊属性の武具じゃないと意味がない。ぱっと見た感じヘファイストス・ファミリアの武具は性能は高いが耐久性はその分犠牲になっているみたいだ。僕の技量の問題もあるようだけど、斬るよりは叩くのが僕のスキルに合っている。無骨や棍とか、大剣とかだね。普段使いはナイフの方が良いんだけど。普通はサブウェポンだし、そのサブウェポンにすら手が届かないお値段だ。もしくは僕の本来の武器であるアレを使うなら買い換える必要すらなくなる。

 

「ベル君、自分には縁がないと思ってるでしょう?」

 

「まあ、駆け出しですし。それに趣味に合わないんですよね。おじいちゃんに影響を受けてるのもあるんですけど」

 

それに本当の本気の武器と防具は別におばあちゃんから貰ってるしね。

 

「おじいさんの?」

 

「おじいちゃんが言うには『武器はどう言い繕うとも命を奪う物だ。そんなもの着飾らせるなら」

 

「他人の女でも着飾らせておけ。目の保養にはなる』君のおじいさんはそう言っていたんじゃないのかい?」

 

赤毛で顔の右半分を隠す眼帯を付けた女の人が店の奥から出てきた。

 

「神ヘファイストス、ベル君のおじいさんをご存知で?」

 

「知ってるよ。君はあのバカの孫か。何処と無く雰囲気が似ているし、言ってることがまんまあのバカの台詞だ。今どうしてるの、あのバカは」

 

「先日亡くなりました。死ぬまで生涯現役の腹上死です」

 

「とことんバカだったか。そうか、亡くなったか。なら君に返すのが正しいようね。ちょっと待ってなさい」

 

ヘファイストス様は再び店の奥へと消える。

 

「ちょっと、ベル君。君のおじいさん、一体何者?」

 

エイナさんが小声で尋ねてくるので、僕も小声で返事をする。

 

「50年ほど前に痴情の縺れでオラリオから逃げ出した冒険者だって昨日知りました」

 

「それって都市伝説みたいに残ってる『心の怪盗(ハート・オブ・ルパン)』のこと?」

 

「らしいです。昨日ロキ様との世間話で知りました」

 

「待たせたね。これは君に返す」

 

店の奥から戻ってきたヘファイストス様から木箱を渡される。開けてみると、そこには一本のナイフが入っていた。柄には滑り止め用にモンスターの皮が巻かれ、ナックルガードとソードブレイカーが付いていた。一切の飾りはないおじいちゃんが好みそうなナイフだった。

 

「50年前にあいつが落としていった物だ。本人が取りに来てたら、いびってやろうと思っていたのだけどね。亡くなったのなら家族に返すのが筋でしょう」

 

「これ、物凄く良い物だと思うんですけど」

 

「買おうと思ったら6000万は堅いわよ。50年前のウチのトップだった娘があのバカに貢いだ物だからね。オリハルコン製の不壊属性が付いた一品よ」

 

「6000万!?しかも貢がせた!?」

 

おじいちゃん、一体何をしてるんだよ。

 

「それから、それは君が使ってあげて。絶対にお墓に供えようとは思わないで。『武器は」

 

「命を奪ってこそ本懐を遂げる。それが一番の誇りであり、尊重する唯一の行為だ』僕には勿体無い武器だとは分かっています。ですが、大切に使わせて頂きます」

 

「そうしてあげて」

 

「はい、ありがとうございます、ヘファイストス様」

 

「あのバカとは違って礼儀はちゃんと知っているみたいね。名前は?」

 

「ベル・クラネルです。礼儀作法は、その、おじいちゃんが連れ込む女の人に教わってました」

 

その切り返しにヘファイストス様とエイナさんが頭を抱えこむ。

 

「ベル君、君の知識が微妙に偏ってる理由はそれが原因なのね」

 

「あのバカ、自分の孫の教育をそんな風にしてたのか。感性がずれてるとは思っていたが、そこまでとは」

 

「感性がずれてる?」

 

おかしいな。そこまでおじいちゃんは感性がずれているように思ったことはない。

 

「駄目ね。完全に手遅れだわ」

 

「そうですね。ベル君、10日に1回でも良いからちょっと勉強しよっか」

 

重症判定らしい。ここは話題を反らそう。戦略的撤退だ。

 

「ロキ様も言っていたんですが、おじいちゃんって大分派手に活動していたんですね」

 

「そうね。『超遊び人3』なんて二つ名が付く位にはね。それでも、やる時はやる男だったと思わされたのはオラリオから居なくなった時よ」

 

「どういうことなんですか?」

 

「世間じゃ痴情の縺れで納得されてるけど、正確には神同士の争いから主神を守って逃げたのよ。まあ、元を辿ればあいつが女たらしだったのが原因だけどね。あいつの取り合いで主神が呪いに掛けられてね、それを何とかするためにオラリオを去ったのが真相よ。真相を知っているのはほんの一握りね。なんせ、情報が錯綜しすぎて何が正しいのかすらちゃんとは分かっていないのよ」

 

「だから『心の怪盗(ハート・オブ・ルパン)』なんて二つ名がつけられてるんですね」

 

「なんだかんだで面倒見の良い奴だったし、あいつの周りから笑顔が途絶えたことはなかったわね。まあ、怒声もよく上がっていたけど。オラリオを出ていってからは皆、違和感を覚えるぐらいにはオラリオの中心だったのよ。そこだけは素直に凄いと思えるわ」

 

「おじいちゃん」

 

「女癖と酒癖は最悪だったけど」

 

「……おじいちゃん!!」

 

涙で前が見えなくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日の今日でどうしたんや?えらい荷物を担いで」

 

「ロキ様に力を貸していただきたくて」

 

「改宗か?」

 

「いえ、ヘファイストス様にお礼と謝罪がしたくて」

 

「どういう経緯やねん?」

 

「その、昨日話しに上がってた『心の怪盗(ハート・オブ・ルパン)』おじいちゃんだったみたいで。おじいちゃんが落としていたものを50年間預かってもらっていて、それを返してくれたお礼と、色々と迷惑をかけていたみたいなのでその謝罪を」

 

「あー、なるほどなぁ。けど、なんでウチに相談に来るんや?ドチビに相談すればええやないか」

 

「それが、神様は神様で色々とお世話になっているから自分もお礼をするんだって別行動を」

 

「そう言えば世話になっとったな。あまりにアレで追い出されたんやっけ。それでも仕事とか住む場所も紹介されたとか聞いたような」

 

「……神様!!」

 

零細ファミリアの神様は生活費を稼ぐためにアルバイトをしていたりするのは聞いたことはあるけど、ヘファイストス様にそこまで面倒を見てもらっていただなんて。おじいちゃんの件と似たような理由で涙がこぼれそうです。

 

「あ〜、まあ、ドチビのことは置いとこうやないか。それで、そんな大荷物でどうしたんや?」

 

「あっ、はい。僕はまだ駆け出しなので高価なものとかを用意できませんが、おじいちゃん仕込みの調合とか裁縫とか色々な技術はあるんで、それで何かを用意しようと思ってるんですが」

 

「なるほどな。それはええ考えやろ。そんなら一番得意な物にするんが一番やろ。ヘファイストスやって、ベルが駆け出しなんは知っとるやろうから、高価な物を用意するより受け取りやすいやろ」

 

「一番得意な物だと化粧品ですね。3割増しでキレイになるって喜ばれてました」

 

「ただの化粧でか?ちょっと大げさやないか?」

 

「いえいえ、そんなことはないですよ。ロキ様も試してみれば分かりますよ」

 

「そんなもんかいな?」

 

「そんなものです」

 

「まあええわ。試してみたろ」

 

「それじゃあ、ちょっと失礼しますね」

 

ロキ様の手を取ってみて疑問に感じた。見た目と触れた肌の質が違う。鞄の中からとある液体を取り出して、ロキ様の腕に一滴垂らして軽く擦ってみる。するとぼろぼろと汚れが落ちる。

 

「なんや、それ?」

 

「……ロキ様、今落ちていったの、身体に付着してる汚れです。しかも汚れを浮かしやすい液体を垂らしてちょっと擦っただけなのにすごい量の汚れが」

 

「……えっ、まじかいな?」

 

ロキ様の糸目が大きく開かれる。糸目より目を開いている方がかわいいな。それは今は置いておいて。

 

「あの、女性にこんなことを言うのはあれですけど、致命傷に近いです。化粧をする以前の問題で、ちょっと髪も失礼します」

 

髪も同じで見た目と質が全く違う。考えられるとすれば1つしか無い。

 

「髪もちょっと、危険域です。たぶんですけど、神様達は神気か何かで見た目が最低限保証されてる感じに近いんだと思います。それに加えて石鹸なんかが弾かれてるんだと思います。その、文字通り磨けば光るかと」

 

「……あ、あばばばば!?べべべ、ベル!?」

 

「えっと、とりあえずお風呂、いえ、先にサウナの方が良いです。毛穴を広げてこれで汚れを落としてからお湯で流して下さい。かけすぎると肌がボロボロになって逆効果ですから気をつけて下さい。それから身体の汚れを落としやすい素材の手袋です。髪の方はこっちで汚れを3回ぐらい洗った後に、これを30分ぐらい馴染ませて下さい。まずはそこからで」

 

「恩に着るで!!リヴェリア、ちょっと助けて!!マジで頼むさかい!!」

 

ロキ様が部屋から飛び出していくのを見送る。あっ、保湿用の液体を渡し忘れた。あとで誰かに持っていってもらおう。

 

それより先に他の化粧品を用意しておこうと思いカバンの中身を広げて必要なものを用意する。香水だけはロキ様の好みに合わせてその場で調合した方がいいので鞄にしまっておく。前に使ったのが1ヶ月前だけど道具に不備はない。これなら問題ないね。

 

「居た!!今すぐ私にもあれを寄越しなさい!!早く!!」

 

急に部屋に飛び込んできたティオナさんに顔が似ている人に胸ぐらを掴まれて振り回される。

 

「ふ、振り回さないで!?間違えて何を渡すか分からなくなるから!!」

 

なんとか放してもらい、呼吸を整える。

 

「それで、どれのこと?」

 

「ロキに渡した一式全部よ!!」

 

「えっ、ロキ様、一人で全部使っちゃったの?」

 

「他にも皆が使っちゃったのよ。だから寄越せ!!」

 

「まいったな。身体の汚れを落とすのと髪の汚れを落とした後になじませるのは少しだけなら残ってるけど、髪を洗うのはあれが最後だったし、調合しようにも材料が」

 

「材料は何!!」

 

「ちょっと待ってね、とりあえず全部の材料を書き出すから。液体系は出来るだけ不純物を取り除いて瓶に入れて持ち帰ってほしい。品質に差が出てくるから気をつけてね。それから身体を洗う手袋の方の素材も書いておくね」

 

材料を書いた紙を渡す前に保湿液を渡す。

 

「それをロキ様にお風呂上がりに全身に塗るように伝えてね。これの材料も書いておくから。採取の難しいものは方法も書いておいたから」

 

レシピを渡すと同時に駆け出していってしまう。

 

「皆、乱獲に行くわよ!!サポーターの半分は買える物を買い漁ってきて!!ロキ、風呂上がりに全身に塗れって!!」

 

遠くからそんな声が聞こえてきた。しばらく待っているとロキ様が戻ってくるが、明らかに神々しさが上がっている。

 

「見てやベル。見違えたやろ」

 

「ええ、本当に変わりましたよ。ただ、髪の乾かし方が雑です。放っておくと汚れが付きやすくなって、枝毛も出来るのでちゃんと乾かしておきましょう」

 

用意した椅子に座ってもらい、丁寧にタオルで水気を吸い取る。ついでに頭部のマッサージも忘れずにやっておく。神様に効果があるかは分からなかったけど、気持ちよさそうな声が漏れてるので効果はあるのだろう。

 

「それじゃあ、本番の化粧を施しますね」

 

市販の色が原色に近い物を使わずに全部その場その場で調合して施す相手の肌に近い色を用意して薄く自然な感じに健康的に見えるなるように化粧を施す。化粧を終えてから手鏡を渡して確認してもらう。

 

「こんな感じでどうでしょう」

 

「風呂上がりの時からさらに見違えとるやないか。冒険者辞めてこっちで食っていった方がええんとちゃうか?」

 

「それは置いておきましょうよ。それで、ヘファイストス様の件なんですけど」

 

「絶対に喜ぶ!!」

 

「良かった。あっ、香水はどうします?こっちも調合しますけど。あと、ヘファイストス様の好みがわかると良いんですが」

 

「ヘファイストスの好み、確かなんかのハーブティーが好きやって聞いた覚えが。ちょっと他の奴にも聞いとくわ」

 

「ありがとうございます」

 

「ところで、話は変わるんやけどな」

 

「大体予想はついてます。今、他の人達が材料を集めに行ってますから、戻ってきたらミアハ・ファミリアにまで持ってきてもらってもいいですか?大量生産となると本職に任せたほうが良いので」

 

「ミアハの所か、なんでまた?」

 

「色々とお世話になってまして。これで金欠がどうにかなればと思いまして」

 

「ミアハの悪い癖か。定期的に材料も持ち込むやろうから安定するやろ、きっと」

 

「そうあって欲しいです。あっ、そう言えばもう一つ」

 

「なんや?」

 

「時間がある時でいいので『心の怪盗(ハート・オブ・ルパン)』の、おじいちゃんの昔話を聞いてもいいですか?」

 

「それ位かまへんよ。ウチもオラリオからおらんようになってからの『心の怪盗(ハート・オブ・ルパン)』のことが聞きたいからな」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロキ様に相談に乗ってもらった翌日、ナァーザさんに話を通して大量にお風呂で使う薬品を大量生産し、場所だけを借りてこの際だからと普段お世話になっている人たちの分を量産する。ナァーザさんとの契約で売上の1割が貰えることになったからついでにポーションも幾つか仕入れておく。化粧品も用意ができたのでヘファイストス・ファミリアに行ったのだが少し手が離せないらしくて3日後にアポだけとってギルドに向かう。

 

「エイナさ〜ん」

 

「あら、ベル君じゃない。どうかしたの?」

 

「いえ、日頃から色々とお世話になっているのでお礼の品を用意してきたんです」

 

「何かしら」

 

「おじいちゃんから教えられた特製のシャンプーとかですね。ロキ・ファミリアの人たちが材料を集めるのに血眼になるぐらいでしたからきっと喜んでもらえると思って」

 

昨日のロキ・ファミリアの人達が血眼になってダンジョンに潜っていったのが伝わっていたのか、ギルドの女性職員の視線が僕達に、正確には僕が渡したお風呂用品に集まる。

 

「えっと、その、ミアハ・ファミリアに生産と販売を委託したのでそちらの方にお願いします」

 

もう一回ナァーザさんに頭を下げよう。営業が結構厳しいかもしれないから数日は手伝おう。女性職員の何人かが職員の人数を数えて、仕事を他の職員に廻している。業務中だけど、購入か予約に走るのだろう。

 

「ベル君、次からは気をつけようね」

 

「はい、次からは気をつけます。それと、明日からダンジョンに潜る予定です。階層も3階層までの予定ですが、潜る時間を長めに取ろうと思ってます」

 

「うん、それが良いと思うよ。長く潜る分、アイテムはしっかりと用意していくんだよ」

 

「はい。準備は済ませてあります」

 

この休暇中に新調された装備の慣らしは済んでいる。あとは実戦で最適化を行うだけだ。まあ、ナイフと言うか、短剣と言うか、それほど刃渡りが長くないものに関しての扱いはおじいちゃんとおばあちゃんに叩き込まれたからすぐに慣れる。

 

だけど、やっぱり一番使いやすい武器を使いたい気持ちがある。ただし使った時点で面倒なことになるのは確実だ。今も時折視線を感じることがある。とある酒場なんて大嫌いな匂いで充満しているしね。特攻をかけて排除した方が気楽なんだけどな。僕が本気を出せば大抵のことは力づくでどうとでもなる。

 

父さんたちとは違う、僕だけの力を使えば神様達相手にも戦えるし、殺せる。殺すための武器もおばあちゃんに貰っている。何か仕掛けられたら嫌がらせは確実にしてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました。ちょうどですね、ありがとうございます。ベル君、追加を早く!!」

 

「ちょっと待って下さい神様!!小瓶に分けるのが大変で!!」

 

「ええい、少々お待ちくださいね。今すぐにご用意しますから。ベル君、手伝うよ!!」

 

「完成品がそれとそれで、空き瓶はそこです!!」

 

神様と二人で瓶から香水を小瓶に移し替える。ある程度の種類と数が揃った所で神様が売り子に戻る。その間も次々と香水を詰めていき、とうとう小瓶が無くなってしまう。

 

「神様、小瓶を買ってきます!!」

 

「分かった!!」

 

近くの建物の屋根に飛び上がり、屋根から屋根へと走って飛び、ポーションなんかの瓶を売っている鍛冶系のファミリアを訪れる。

 

「すみません、昨日売ってもらったサイズの小瓶を追加で売ってもらいたいんですけど」

 

「ああ、昨日の。落として割っちゃた?」

 

「いえ、商品が売れすぎて、とにかく追加である分だけ売って下さい!!」

 

「余り物とは言え、昨日で大分在庫がはけちゃったし、それほど多くはないわよ。300程度しか残ってないわ」

 

「それでかまわないですから。あと、そのサイズ用の漏斗も10個ほど売って下さい」

 

「どんだけ売れてるんだか」

 

代金を払って用意してもらった小瓶の入った箱をロープを使って背中に担ぎ、袋に入った漏斗を手に持って再び屋根の上を走る。屋台まで戻ると何故か街中に怪物の死体が転がっていた。闘技場からこっちに向かって怪物が押し寄せているみたいだけど、それをレベル2以上の冒険者のお姉さんたちが薙ぎ払っている。とりあえずの安全が確保されている以上、僕のやることは香水を小瓶に詰める作業だ。

 

それと同時に余っている瓶の中の水を火にかけてお湯を作る。隣の雑貨を売っている行商人からタオルを大量に買い取り、それらをお湯に突っ込んで絞る。そして一通り怪物が居なくなった所で、大量のタオルを配る。

 

「お疲れ様です。濡れタオルですけど、よかったら使って下さい」

 

サービスで配っているので完全に赤字だけど構わない。怪物の匂いに紛れて大嫌いな匂いがこびり付いているから。それを片付けてくれた人へのお礼と考えれば安いものだ。

 

それからも香水の販売を続け完売してしまったので屋台を畳んで拠点に戻って売上を計算する。

 

「追加で購入した瓶の代金がコレだけだから、ファミリアへの献上金が2割と神様へのバイト代を合わせて31万4850ヴァリスが神様の取り分ですね」

 

「こ、こ、こ、こんなに!?こんなの受け取れないよ、ベル君」

 

「僕の懐にはそれ以上が入ってきますから遠慮なく受け取って下さい。献上金なんかはちゃんと最初に決めたとおりですから。これからファミリアを大きくしていったらこれ以上の収入を得ることになるんですから慣れて下さい。その分、支出も増えますから。ヘファイストス様にも相談してみて下さい。ヘファイストス様もさすがにこういうことに関しては相談に乗ってくれますから」

 

「でもだね、ベル君」

 

「神様、お金の分配に関してはきっちりしないと駄目です。それは神様の取り分、こっちは僕の取り分。おじいちゃんにもおばあちゃんにもこれだけは絶対になあなあで済ませるなと言われてますから。守れないのなら、僕はロキ・ファミリアに改宗しますよ」

 

「それだけは絶対に駄目だ!!分かったよ、これは僕が持ってもらっておくよ」

 

「そうして下さい。と言うより、僕のほうがお金を持ってるんですから、僕に対して使おうとしないでくださいよ」

 

「ギクッ!?」

 

「今回の稼ぎ以外に僕はおじいちゃんの遺産とかも持ってますから。正直に言って現金はそこまではないですけど、売れば今回の稼ぎが端金になるような物をいっぱい持ってますからね」

 

特におばあちゃんから貰った武器と防具は売れば本当に一生を遊んで暮らせる。売る気は一切ないし、手放す気もない。それらと僕に流れる血だけがおばあちゃんとの繋がりだから。

 

「今回の稼ぎである程度余裕ができたんですからファミリアの勧誘をがんばってくださいね。僕は僕でダンジョンの攻略に勤しむので」

 

「分かってるよ。まあ、その前に拠点を変えるか、修繕しないとね」

 

「そこら辺の方針は神様が決めてくださいよ。それじゃあ、僕は装備の整備があるんで」

 

今日の販売に使った瓶や調合器具を陰干しにして整備を始める。ナイフを研ぎ、プロテクターのほつれを修繕し、靴に仕込んだ鉄板を引き抜いて状態を確認し、靴紐を新しい物に交換する。バックパックの留め金やナイフホルダー、ポーションホルダーに問題がないかを確認し、一度装着を行なって問題がないのを確認する。

 

「う〜ん、やっぱりバックパックをもう少し大型の物に変えたほうが良いかな。靴底も大分すり減ってるし、こちらも買い換えないと。ナイフもちょっと良いのを買った方が良さそうだし。はぁ〜、結構お金が飛んで行くなぁ。また折を見て香水を売ろうかな」

 

ここ最近、探索系冒険者というより生産系冒険者のような気がしてきた。おかしい、おじいちゃんのように探索系に憧れていたはずなのに。あれ?そう言えばレベル2から3に上がるのにダンジョンに潜ってないって。もしかして探索は探索でも探索(女性)だったの!?

 

気付きたくないことに気付いてしまい、自棄酒のために酒場を目指す。

 

「おう、ベル。どうしたんや、そんなに急いで」

 

お酒とつまみを持ったロキ様に出会う。

 

「気付きたくないことに気付いてしまいまして、酒でも飲まないとやってられないんです!!」

 

「ほんならウチの拠点に来る?ちょうど宴会をやろうかとおもてんねん」

 

「ええ行きますとも。ついでに今日稼いだ泡銭も使っちゃいます!!」

 

ロキ様に連れられてお酒とつまみを買い込みロキ・ファミリアの拠点で飲み明かす。宴会の途中までは記憶もはっきりとしていたけど、途中で意識が混濁して倒れた。二日酔いの頭痛に苦しみながら起き上がり、ベッドに寝かされているのに気がつく。どうも、前回治療を受けた部屋のようだ。

 

「おっはよ~う、起きて、る?」

 

扉を思いっきり開けたティオナさんが困惑している。

 

「えっと、ベル君?」

 

「そうですよ」

 

「その目と髪の毛はどうしたの?」

 

「えっ!?」

 

慌てて髪の毛を触るといつもより長く、色は銀から紫に変わっている。ということは、目も赤から黄色に変わっているだろう。ついでに声も少し高くなってるだろうな。

 

「ないしょです」

 

「でも、この感じ、ロキ達に似てる」

 

あ〜、やっぱり気づかれるか。仕方ない、ティオナさんとロキ様だけには教えておこう。

 

「ロキ様を呼んでもらえます?ティオナさんとロキ様にだけ、ひみつ、教えます」

 

僕の体に流れる血の半分は女神メドゥーサの物だと。

 

 

 



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Knight's & Magic & Carrier 3

 

三徹の代償の深い隈を付けた状態で新入生のガキの前にツェンドルブの制式採用機ツェンドリンブルに乗り、新入生のひよっこ(生贄)共の前に大量の幻晶甲冑と共に姿を見せる。

 

「よく来たな、ひよっこ共!!オレが銀凰騎士団副団長のトールだ!!見ての通り、オレ達は修羅場の真っ最中だ!!指導内容は全て実技!!内容は砦を建ててもらう!!文句を言う奴は入学できなかった者と入れ替える!!お前たちには工具でもあり、相棒でもある幻晶甲冑が二人に一機与えられる!!整備から改造まで全てペアで行う。半年後にもう一機が与えられるがペアはそのままだ。習うより慣れろだ!!ペアはこちらで決定している!!あとは砦づくりの専門家のペッレルヴォ氏を招いているからそちらの指示に従うように!!」

 

それだけを告げて荷車の中からレックスパーツ装備のキンググリッドマンあらため、レックスグリッドマンに搭乗して作業現場に戻る。国機研に納品するスレイプニールの製造が遅れているのだ。原因は性能差の激しい魔力転換炉を強引に調整するためだ。そこをなんとかした所でエルが倒れ、船体を組み上げた所でダーヴィド達も倒れ、現在稼働率は10%程だ。そろそろ最初に倒れた奴らが復帰する頃だが、その後はオレが倒れそうなのだ。そんな中で新人の指導など出来るはずがない。

 

そこで陛下から銀凰騎士団の砦を作れとの命令が来たのでこれ幸いと新人に行わせることにしたのだ。こっちの修羅場が終わったらちゃんとした歓迎会とかをしてやるから今はキビキビ働けぃ!!

 

 

 

 

 

馬車の振動が睡眠導入になるのか意識が落ちそうになるのを舌を強く噛んで覚醒させる。

 

「眠そうだな、トルティオネス」

 

「失礼しました。スレイプニール級2番艦の製造で忙しかった物ですから。団長はダウンしてますけど」

 

馬車の振動に揺られてエルがオレの膝を枕にして寝ている。男相手に膝枕をする趣味はない。嬢ちゃんが居ればそっちに任せている所だが、今回は魔力転換炉の製造の秘密を教えていただけることになったためお留守番だ。

 

「報告は聞いておる。魔力転換炉の調整に手こずったようだな」

 

「お恥ずかしながら。稼働安全域までは持っていきましたが1番艦より先にダメになる可能性が高いです」

 

「そこまでか」

 

「実験回数が少ないので、まだ調整不足というのが本音です。最低でも3桁の実験を行いたいのですが、大きな事故を起こしそうなので」

 

メルトダウンで済めばいいなぁ。大爆発とか汚染とかは無いとは思うけど、どうなるか分からん。ゲッター炉心よりは大丈夫なのは確定だけどな。あれがメルトダウンしたらゲッターと一つになるしかない。ふと思ったんだが、この世界にゲッター線は無いよな?確かめる術がないからどうしようもないけど。

 

「どうした、トルティオネス」

 

「いえ、少し気になったことが合ったのですが、思い違いのようでした。それにしても、護衛が離れていて大丈夫なのでしょうか?」

 

「ほう、やはり気付くか」

 

「レーダーの術式を編んだ張本人ですから」

 

この馬車を囲むように10機ほどの魔力転換炉の反応を掴んでいる。吸排気音はほとんど聞こえないが、距離の問題だろう。木々の隙間から一瞬だけ捉えた姿はカルダトアとは別種の機体で、練度もかなりのものだろう。エルも足音と僅かな吸排気音に反応して起き上がり外を確認する。確認が終わると先程までと同じように人の膝を枕に眠りに落ちる。それにちょっとだけイラッとする。

 

「トルティオネス、お主も少し眠れ。今更その程度で不敬だなどとはもうさん」

 

「すみませんが、お言葉に甘えさせていただきます」

 

気を抜いた途端意識が暗転する。どれだけ眠っていたかは分からないが、寝ながらも使用していたレーダーの魔術が異常を起こして飛び起きる。エルが転がり落ちて痛そうにしているがこっちはそれどころじゃない。窓の外を確認すると同時にいつでも魔術触媒を抜けるように構える。外はいつの間にか霧に覆われ、この霧がレーダーをジャミングしているようだ。陛下とオルヴァー所長が慌てていないということは、これが魔力転換炉の生産地を守る結界でもあるのだろう。

 

「いたたた、トール、何があったんですか?」

 

「この霧がミノ粉と同じだ。オレのレーダーの魔術がジャミングされている。すごいな、磁気も狂わされてるし、風の流れすら歪だ。バミューダに近いんだろうな。それを魔術で再現している」

 

「本当だ。レーダーの感度を最低まで下げても無駄みたいですね」

 

「だろう」

 

結構強力で対抗するのも馬鹿らしいので抵抗をやめて席に座る。

 

「そろそろ目的地ですか、オルヴァー所長」

 

「何故私に?」

 

「オレとエルがアレだけのものを作りまくってようやく連れて行って貰える場所に貴方がいる。生産地出身なのでしょう。それも、繋ぎ役を担った」

 

「それだけでは分からないですよ。私も他の代償を払ってここにいるかもしれません」

 

「ならもう一つ、魔力の質が違うんですよね、貴方。それと模擬戦の時のダーシュの騎操士達もだ。ついでに周りを護衛しているのもそうだな」

 

「そこまで分かりますか。やはり、貴方達は異質で、面白いですね」

 

「やりたいことと寿命を考えると色々と手を出しまくる必要があるんでね。魔力転換炉の技術が欲しいのも効率のためだしな」

 

「ちなみにですが、魔力転換炉の技術を得てどうしますか?」

 

「とりあえずは超大型化してスレイプニール級に1基で十分にしたい。あまり連結させると負担が大きいことはわかったからな。その次はサイズは小さくして通常の魔力転換炉の3倍ぐらいの大きさで5倍ぐらいの出力が出せるものを用意してから専用機作りだな。設計図は引いてあるんだけど、見てみるか?」

 

「是非」

 

オレの専用機として考えている物の設計図を荷物の中から引っ張り出して見せる。

 

「すごく、大きいですね。魔力転換炉の大きさを聞いた時点で分かっていましたが、これは、剣にまで魔力転換炉を積みますか」

 

「サイズがサイズだし、頑丈さも必要になる。そうなると幻晶騎士と同じで肉体強化を使う必要がある。それと皮膚硬化もだ。対艦戦用幻晶騎士だからな」

 

「対艦戦、スレイプニールが奪われると?」

 

「所詮は技術。真似をされるのは先行者の特権だ。それに対抗する物を作るまでがセットだ。あと、趣味」

 

オレはリアルロボットよりもスーパーロボットが好きだ。それが厳つければ厳ついほど良い。それにベストマッチした対艦刀を引っさげた特機(スーパーロボット)

 

グルンガスト零式

 

個人的にはヴァルシオンの方が好きなのだが、歪曲フィールドもクロスマッシャーも再現できないために断念。あっ、メガ・グラビトンウェーブは再現できた。ただし、使用した本人にも超重力が襲いかかり自壊してしまうために断念した。

 

その点、零式ならばブーストナックルがワイヤー式になるだけで他は殆ど再現できた。無論、斬艦刀もだ。その斬艦刀に魔力転換炉を搭載しなければならない上に、先程あげた通常の魔力転換炉の3倍ぐらいの大きさで5倍ぐらいの出力が出せるものを用意しなければならない。何とか再現したいものだがどうなるやら。

 

「それにしても、幻晶騎士に人の顔ですか。それも厳ついですね」

 

「団長の方が異色ですよ。サイズは一回り大きくなる程度でしょうが、魔力転換炉を2基か3基搭載するのは確定ですし、遠近両用の魔導兵装を開発中ですし」

 

「あっ、ネタバレするなんて酷いですよトール!!折角親方たちにも内緒にしているのに」

 

「やかましいわ。緊急展開滑走翼専用機のアーバレストと緊急展開滑走翼強襲用機のレーヴァティンの設計図を勝手に持ち出しやがった仕返しだ」

 

「お主ら、スレイプニールで忙しいはずなのに何時そんなものを作っておる」

 

「食事をしながらが多いですね。左手でパンを食いながら右手で図面を引いてます」

 

「あとは、全体に合わせて動かないと効率が悪いですから、空いた時間にちょこちょこと」

 

「その時間を休息に使おうとは思わんのか」

 

「普通ならそうなのですが、現在は修羅場に突入中です。途中での休息は途中で力尽きるのとほぼ変わりません」

 

「ですので倒れるまで休ませないが今の現状です。そろそろ鍛冶師から殉職者が現れるでしょうが、とある国ではよくあることです」

 

日本ではよくあることだ。そんなことを話していると霧を抜け、眼前に壁が見えた。幻晶騎士ですら登るのが大変そうな壁とも呼べる谷と、その谷間を塞ぐ関が聳え立っていた。それを守るように森のなかに居た幻晶騎士が駆動状態でも2個中隊いる。また、関には中型小型のダインスレイブが合計で8基見える。

 

「最優先でこっちに回したみたいですね。関内に魔力転換炉が結構仕込んであるみたいですし」

 

「関全体に大規模な皮膚強化と肉体強化がかかってますね。大型のダインスレイブじゃないと抜けそうにないですね」

 

「お主らなら一目見ただけで見抜くか。この先が生産地だ」

 

関内を通過中もエルは初めて見る型の幻晶騎士をつぶさに観察し、オレは関の魔術をつぶさに観察する。

 

「魔力効率は、オレのほうが上だな。というより、全体的に古い感じがするな」

 

「幻晶騎士も何処か、この場所に合っていない感じがします。森の中での護衛も行うための仕様なのでしょうが、2機種を運用した方がいいと思いますね」

 

「ここはFAプランを売り込むチャンスか?」

 

「興味本位ですが、この関を貴方達が突破するならどうしますか?」

 

オルヴァー所長の質問にオレとエルは即答する。

 

「突破だけなら緊急展開滑走翼で上から通り抜けるか」

 

「もしくは地面がそこまで踏み固められていませんから大型ドリルで穴を掘ってスルーが予算的にも楽ですね」

 

陛下とオルヴァー所長が引いているが、これはスマートに解決したときだ。

 

「落とすとすれば、予算度外視で森の入口からスレイプニールのアームストロングと中型ダインスレイブで森を切り開きながら、そのまま関を大型ダインスレイブで破砕します。もしくは魔力転換炉を使い捨ての爆弾にして吹き飛ばすかですね。もったいないので絶対にしませんけど」

 

「時間度外視なら森の地下に拠点を築いて、甲冑騎士の斥候型をベースに更に改良を施して暗殺なり、毒を撒いたり、夜中に大きな音を鳴らしたりで戦闘力を削るだけ削ってを繰り返してじっくりと料理でしょうね。おはようからお休みどころかそのまま徹夜で嫌がらせですね。こっちは3交代制位で回せば関側の体制にもよるけど2ヶ月でガタガタにはなるかな?こっち側の練度次第だけど。面倒だから絶対にやりたくないけど」

 

正直、最初に出した緊急展開滑走翼で夜間迷彩を施してやるのが一番簡単だろうな。陛下達が更に引いているが、質問してきたのは二人だからな。

 

馬車が緩やかな上り道を上っていき、峰を越えた所で目的地が見えた。四方を山に囲まれた盆地に存在する森。その中央に明らかに人の手が入った上で前世での物語に出てくるような大樹とそれらを利用した建造物の数々。

 

「あれがわしらの目的地、アルフヘイムである」

 

発音が少し異なるだけでほぼ妖精郷と同じだろう名前に確信する。

 

「アルフヘイムとは秘匿者の末裔、魔と技の民、エルフの住まう地」

 

「そして魔力転換炉の生産地の一つだ。約束を果たす時が来たな」

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、魔力変換炉の生産地」

 

「製法どころか生産地も秘匿されていたから気にはなっていたが、こんな場所だったとはな。探知系の魔術は未だにジャミングされてるな。まあ、気温から標高は割り出せるから、あとは夜になれば星から座標計算ぐらいは余裕だな」

 

「お主、そんなことまで出来たのか」

 

「手元に道具がないんで正確性はないですが」

 

荷物の中から地図を取り出して指で円を描く。

 

「大体ここら辺でしょう?」

 

「……黙秘させてもらいます」

 

「返し方として悪いですよ。そういう場合は笑いながら否定する方が良い。まっ、製造方法が知れれば制圧なんて面倒なことはしませんよ」

 

「……考えたことはないのですか?製造方法が秘匿されているのに我々エルフが攻め込まれていないのは製造方法を知っても製造できないと」

 

「大方、魔術で製造するんだろう?魔力転換炉のアホなほど硬い金属を加工するのに」

 

「気付いていましたか」

 

「そりゃあ、気付く。まっ、別にオレ達以降の世代に製造方法が伝わらなくても良い。オレ達は今、魔力転換炉か、それの代替になる物を作れればな。オレとエルなら技術的な問題程度乗り越えてやるさ」

 

「やってやりますよ。トールが一緒なら何処までも突き進めますよ」

 

陛下がオレ達を変な目で見てくる。あの目はいつもの諦めで見てくる目じゃない。何処かで見たことがある目だ。今世じゃなくて前世で見た、そう、確か

 

「陛下、今、オレ達のことをそっちの目で見たでしょう」

 

「そっちとは?」

 

「はっきり言っておきますけどオレはノーマルですよ!!男色の趣味なんて一切ないですから!!」

 

「いや、エルネスティの見た目からな、そっちに手を染めたのかと」

 

「ぶっちゃけ、トラウマから不能なんですから染まることなんて絶対にないですよ!!」

 

「その年で不能か」

 

「脂ぎったおっさんに無理矢理掘られそうになったら不能にもなりますよ」

 

「それは、まあ、なんだ、許せ」

 

「二度と誤解しないなら一度だけは許します」

 

不能なのは結構気にしてることだが、知らないのなら仕方ない。知っていて話題にするのなら男として相手を消すしかない。

 

馬車の中の空気が酷く重い物に変わるが無視だ無視。やがて馬車はアルフヘイムの中でも際立って奇妙な形をした建物へと向かう。巻き貝の様に見えなくもないし、土台部分はキノコのようにも見える不思議な建物だ。元建築家としては中々興味深い。

 

「ここがアルフヘイムの中枢機関、森護府じゃ」

 

馬車が近づくと森護府の扉が開かれて、馬車が扉を潜る。最初からそういうために作ってあるんだろうな。そして、案内に現れたエルフは本来の文化に沿った服装をしていた。なるほど、元の世界のラノベなんかと変わらないような文化なのだろう。

 

「ようこそアンブロシウス陛下、オルヴァー様、こちらへ。中で大老がお待ちです」

 

案内のエルフに通されたのは、祭壇にも見えるが玉座と言われても納得できそうな場所であり、中央の椅子に腰掛ける者が居た。その者に大して陛下が挨拶をする。

 

「久しいのぅ、大老・キトリー。わしが玉座に着いて以来であるから30年ぶりほどか」

 

キトリーと呼ばれた存在をオレはどう捉えて良いのか悩む。これがエルフの成れの果ての直前と言うものだろうか。

 

「そう長いときではない、アンブロシウス。だがお前は老けたな」

 

声を聞いて更に違和感が酷くなる。これは本当に生きている者が出せる声なのか。機械に喋らせた方がまだ生きているように感じられるほど、聞き取りにくい。脳が声ではなく音としか捉えることが難しい。

 

「ご挨拶じゃのぅ、まあ徒人とはそういうものじゃ。さて、此度はわしらの要求を聞き入れたこと感謝いたそう」

 

「よい、大いなる思索の時のために、必要なこともあると理解している」

 

「先に伝わっているかも知れぬが、わしの要件は魔力転換炉の製法よ。それを、この二人に伝えてもらいたい」

 

「お前もそれを問うのだな」

 

「わしもとな?」

 

「陛下、当然のことですが魔力転換炉の数がそのまま戦力の差に繋がる以上は過去にも製法を聞き出すのは当然でしょう」

 

「そうだ。歴代の徒人の王も一度はそれを問うてきた。毎回連れて来る者は異なるが、そのことごとくが失敗に終わった」

 

「まあ、当然でしょうね。大体の予想は付いていますよ。魔力転換炉はエルフの種族的な特徴によってのみ製造が可能。徒人の我らにはそれが出来なかった。場合によっては術式すら理解できなかった。だけどそれを周りに知られたくないがために書物にも一切残っていない。そんなところなんでしょう。そして徒人とエルフの違い、正確に言えば魔力転換炉の製造のための特性の違いとは魔力を直接操れるかどうか。つまり、エルフは徒人と魔獣の中間に位置する種族なのでしょう。それすらも予想できない過去の術士や学者とは一緒にして欲しくはないですね」

 

「ほう、徒人にしては頭が回るようだ。徒人と魔獣の中間に位置する種族かどうかはともかく、それ以外はほぼ事実だ。それを予想し、知ってなお製法を欲するのか。無駄であるのに」

 

「この世に無駄なんてものは一切ない。ゴミだろうと、いずれは時の流れがそれを星の循環に戻す」

 

「ほぅ、見てきたかのように言うのだな」

 

「見る必要はない。オレとエルは知っているだけだ。だが、知らない知識もある。それが今回は魔力転換炉の製法に関わることだけだ。エルフが長い時を思索するように、オレとエルは短い時を幻晶機の開発に捧げるだけだ」

 

「ふむ、少し試させてもらおうか。アンブロシウス、離れておれ」

 

大老に言われるまま陛下がオレ達から距離を離して壁際まで移動する。その間にエルに小声でいつでも魔術触媒を抜けるように指示を出しておく。そして大老が腕を上げると同時に炎の玉がいくつも浮き上がり、それと同じ数の不可視の風の玉が浮かんでいる。

 

「炎は任せたぞ、エル!!」

 

そう言うと同時にポケットからメリケンサック型の魔術触媒を装備し、術式を組み上げる。

 

「豪熱マシンガンパンチ!!」

 

肉体強化を全開で発動し、パンチと同時に風の弾丸を撃ち出して大老が生み出した風の玉を撃ち落とす。エルも同じようにウィンチェスターを抜いて、炎の弾丸で大老が生み出した炎の玉を撃ち落とす。

 

「トール、なんですかその魔術触媒は。普通の杖だったはずでしょう?」

 

「魔術触媒を複数持ってるんだよ。状況に合わせて一番良いのを使うだけだ」

 

懐には普通の杖型も入っているし、指輪型や工具型、靴底に仕込んだ鉄板など色々仕込んである。

 

「なるほど、確かにこれまでの徒人とは異なるようだ。誰ぞ、ある」

 

大老の言葉に一人の男性エルフが現れる。

 

「この者たちを奥へ案内せよ。魔力転換炉についての知識を所望だ、望むだけ教えてやれ」

 

どうやら認められたようだな。さて、夢にまた一歩近づくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

触媒結晶、血液晶、精霊銀、それに詩か。新たな研究課題が増えたな。

 

「エル、お前はこれからどうする?」

 

「僕は専用機の開発に取り掛かります。現状で最高の触媒結晶がありますから」

 

「ワンオフなら問題はないか。なら錬金術士を借りるぞ、少し実験と研究をしたい」

 

「何をするんですか?」

 

「血液晶は触れないが、触媒結晶と詩に関してだな。錬金術士には触媒結晶の調整と言うか、ブレンドを試してみたい。成功すれば安定した高出力の触媒結晶が作れるかもしれん。オレは詩の術式を弄る。アレとオレ達の術式、そして前世の知識があれば無限の可能性が広がる予感がする」

 

「それは面白そうですね。僕も何かお手伝いしましょうか?」

 

「なら、幾つか魔力転換炉を作って確保していてくれ。グルンガスト零式の製作を頼む。実験が終わった後はスレイプニールの改良を行う必要があるし、ひよっこ共に経験を積ませないといけないからな」

 

零式の設計図をエルに渡しておく。自分の手で作れないのが残念だが仕方ない。オレは艦が専門だからな。

 

「それがありましたね。分かりました。多少弄るかもしれませんが、出来る限りを再現してみせます」

 

「任せる。それにしても、あと一人ぐらいは同類が欲しいな。手が回りきらん」

 

「そうですね。確かに仕事に殺されそうですよね」

 

「ダーヴィド達も育ってきてるんだが、オレ達のレベルまではまだまだ遠いな」

 

「仕方ないでしょう。僕達が異物なんですから」

 

「そうなんだよなぁ。まっ、割り切るしか無いよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エル、やはり歌はリリンが生み出した最高の文化であり、ヤック・デカルチャーの塊だったぞ!!」

 

エルフに伝わる詩の術式を人が使う術式と混ぜ合わすことで完成した楽曲術式の凄さを分かち合おうと工房へ飛び込んだのだが、そこでは何故かオレの専用機として完成したと報告があった零式と何故か製造されているグルンガストの獅子型がスレイプニールに搬送されていた。

 

「おいダーヴィド、これは一体何事だ?」

 

「げっ、トール。おい、誰かエルネスティの坊主を連れてこい」

 

「ほほぅ、つまりはエルの仕業か。量産はともかく、グルンガストを持ち出してどうするつもりだったのかぐらいは知ってるだろう?吐け」

 

「あ〜、そのだな、アンブロシウス陛下が退位されたのは知ってるな?」

 

「ああ、さすがにそれぐらいは知っている」

 

「それで、その前陛下と留学していた皇太子殿下が専用機をご所望されて、その条件に合うのが目の前にあって、足りない分を仕様を多少変更して製造したのがあっちの方だ」

 

「アレはオレの専用機だって言ってただろうが!!」

 

「だが、坊主が言うには研究が完成したら別の専用機を作るはずだから、その分の予算を確保するために売り払おうって」

 

「ぐっ、確かに否定できんな。くそっ、グルンガストの販売で得た予算は次のオレの専用機に、いや、先にスレイプニールの次の型の艦の製造に回すからな!!」

 

「おい、専用機は良いのかよ?」

 

「研究は完成したがそれを磨かなければならないからな。実験艦として新しいのを製造する。こいつは決定事項だ!!」

 

くそっ、一度も乗れなかった。だが、楽曲術式によって更なる進化を果たした機体を絶対に作ってやるからな!!

 

 

 



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なんか異世界に勇者として召喚されたけどこのメンバーなら余裕

魔が差したんです。
呼ばれた奴らは物語終了後ばかりです。


いつもの召喚とは違うな。転移して周りにいる奴らの力を感じて断定する。おっちゃんより強い奴ばっかじゃねえかよ。特に銀髪の奴と、目が死んでる匙らしき奴が群を抜いてヤバイ。和服の金髪とイッセーらしき奴とバンダナの男も勘がヤバイと知らせてくる。紅髪のスーツの男はおっちゃんと似た空気を感じる。紅髪の白衣は力が読み取れない。暗殺者とかの方面だろう。非戦闘員ではないな。何より、全員が警戒態勢ってことが面倒な事になっているのを教えてくれている。

 

えっ、おっちゃん、やっと隠居できたのにまた調整役やらないといけないの?田舎でスローライフを送りたいのに。

 

「あ、あの〜」

 

この場に似つかわしくない声が聞こえ、全員が周りの奴らを警戒しながらも声が聞こえた方に腕を構えて魔力を集中させる。無論、おっちゃんも符を構え、変身音角に手を伸ばす。さりげなく銀髪の男の斜め後ろに移動する。いざという時の盾に使ってやる。

 

「あ、貴方様方が勇者様でしょうか?」

 

おっちゃん、嫌な予感がしてきた。これ、昔流行った異世界召喚物だ。ただし、複数の世界から、しかも平行世界から喚ばれてる気がする。他にも感づいたやつが、和服の金髪とイッセーらしき奴と紅髪スーツか。声からして姫様とかそんなのだろうが、先に召喚されたメンバーの意思を確認しないとまずい気がする。

 

「あ〜、すまんがこの場はおっちゃんがまとめてもいいかな?なんとなくだが現状は察せているし、交渉事を生業に生きてきてるんでね」

 

召喚されたメンバーは任せてくれるのか一歩下がる。

 

「ありがとう。とりあえず、顔見知りはいないな?たぶん知っているやつが居るとは思うが、他人だろうからな。だからお互いは名前だけで呼ぼう。交友関係が絶対被ったりしてる。中には同じ相手と恋仲だったりな」

 

特におっちゃんが危険だ。襲われまくってるからな。弱い自分が恨めしい。盛られ、殴られ、襲われて、内緒にされたりして子供の正確な人数が分からんからな。確定だけで8人だぞ。怪しいのが10人ぐらい居るんだぞ。断言してやる。絶対に被ってると。

 

「この時点でわかると思うが全員が平行世界から呼び出されてる。だから元の世界のことは話さない。これだけは守らないと殺し合いになる。家名は一切出さないし、気付いてもスルーし合う。それが一番良いはずだ。てなわけで自己紹介、おっちゃんは詩樹だ。組織間の調整役を担っていた。どっちかと言えば後衛よりで、大して強くはない器用貧乏だ」

 

おっちゃんの次に進み出たのはバンダナの男と和服の金髪と銀コートだ。

 

「ジンだ。守役兼使い魔をやっていた。どちらかと言えば前衛、レンジャー職といえばいいかな?単純な力は弱い方だと思うが、経験は豊富だ」

 

「十束だ。京都守護職でどちらかと言えば後衛。龍脈を扱えるなら強い方だと思う」

 

「衛だ。学院の教師をやっていた。教科は護身体術、実戦体術、サバイバル術だ。前衛で防御力なら負けるつもりはない」

 

その次に紅髪スーツと銀髪と紅髪白衣が口を開く。

 

「リアンだ。防諜関係についていた。どちらかと言えば後衛。デバフなら任せろ」

 

「ゼオンだ。色々とやっているが、公式的には最上級というだけだ。どちらかと言えば前衛。大抵のことは出来る」

 

「ジャックです。外科医をやっています。戦えないこともないですが、期待はしないで下さい。多少の調薬も出来ます」

 

最後にイッセーらしき奴と匙らしき奴が口を開く。

 

「一誠だ。掃除屋、グリゴリ所属のイレイザーをやっていた。たぶん、分かっていると思うけど赤龍帝で前衛。色々と倍加出来るものが多い。応用力の化物と言われてる」

 

「九十九。公式には隠居した身だ。何でも出来るし、やってきた。ただ、今は惰性で生きている。この中で確実に一番年上になる。同年代は軒並み寿命や病気で逝ってる」

 

わお、意外と一誠と匙、九十九がやばかった。なんというか、二人共おっちゃんの知ってる奴らとは全くの別人だ。

 

「目的は元の世界に戻ること。これに異論はあるか?」

 

全員が否定する。話が早くてよかったよ。

 

「さて、とりあえずこっちの意思疎通は終了した。それで、お嬢さんがオレ達を呼び出したので間違いないな?」

 

最初に話しかけて以降、邪魔にならないように隅の方にいた貴人であるのが丸わかりな少女に話しかける。ぶっちゃけ悪魔ですと名乗りたいが、それは伏せ札として使う。嫌な予感がビンビンだぜ。逃げたいけど、これもお仕事だからな。

 

「はい。初代様から受け継がれている召喚法を用いらせていただきました。初代様はこの召喚法を用いて、異界より勇者様をお呼びして世界を救っていただいたのだと。その後、勇者様は異界へお帰りになる前にこちらを残していかれました。再び、異界より勇者を呼び出したならばこれを見せるようにと」

 

差し出された本は、そこそこの厚さがあるようだが、様々な言語で書かれているだけで内容は同じだった。要約するとこんな感じ。

 

『本名だと誤解を受ける可能性もあるためプロフェッサーと名乗っておく。私の契約の紋章と同じ魔法陣を用いられたためにこの異世界、リィンバウムへと召喚された悪魔の一人だ。世界の各地で暴れている魔族とか呼ばれる亜人共を蹴散らし、魔王をボコって降伏させ、召喚主に斬り捨てられそうになったから逆に世界中に恥を晒させ魔王として処分した。後の歴史書にどんな形で残っているか分からないがこれが事実だ。

 

その後、召喚魔法から逆算して元の世界への帰還魔法もちゃんと開発し、残してある。詳細は説明の後だ。なんとか使えることを祈っている。

 

また、召喚の魔法陣にも手を加えており、現状に即した者が呼び出されているはずだ。複数人居るのなら、それだけの戦力がいる相手がいるか、複数箇所での活動が必要かだ。それだけの危機に陥っていると思ってくれていい。

 

そして、これは出来ればでいい。ただのお願いであるし、報酬も出せないが、召喚主の、アレサリウム王家の願いを叶えてやってほしい。アレサリウム王家だけが真摯にオレのことを思ってくれた。時が経ち、腐敗しているかもしれない。もしもオレのことを思ってくれたアレサリウム王家のままなら、助けてやってほしい。

 

それと、この本もこのままにしていて置いて欲しい。帰還魔法は他の世界からの者にも対応させやすいように作ってある。多言語化もそのためだ。あとはこれを読む君達に任せる』

 

内容を他のメンバーに伝えてどうするかを確認すると、悪魔の契約に基づいて報酬がもらえるなら構わないと返される。ああ、分かった。おっちゃん達の共通点、お人好しだ。誰も帰還の魔法陣を見せろと言わずに構わないなんて答えるんだからな。だから、彼女にこう答えよう。

 

「最初の質問に答えよう。おっちゃん達は勇者なんかじゃないが、報酬を代価にどんな願いでも叶えてみせよう。それがおっちゃん達だ。今なら歳末セールでお安くしとくよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

召喚された古い遺跡から外へと出ると、召喚主、アレサリウム王家の最後の生き残り、アルメリア・ダーシュタイン・アレサリウム王女の護衛と思わしき騎士達が無残な姿で倒れており、その現況を作り出したと思われる魔族がひのふのみのよのいつか。

 

「そんなに強い感じはしないな。誰が行くよ?ジャック以外で」

 

魔族もアルメリアも気付いていないが、ジャックは息のある騎士達の治療に移っている。見事な隠密術だな。オレ達は気付いているがな。

 

「言い出しっぺの法則で詩樹で確定だな」

 

「いやいや十束さんや、おっちゃっん、アラフィフで転生したから見た目のまんまなんよ。もうね、最近字を読むのが辛いし、簡単に腰はいわせるわ、筋肉痛は遅れてやってくるわ、ガタガタなのよ」

 

「仕方ありませんね、オレも手伝いましょう。右2つは貰います」

 

リアンが腰に差していた剣を抜くが、ありゃ数打ちの代物だな。だが、構えは正統派だな。おっちゃんも変身音角を鳴刀・音叉剣に変化させて構え、リアンと同時に踏み込む。うむ、若いっていいな。おっちゃんが一人斬り捨ててもう一人に切りかかりながら最後の一人に符が張り付いた頃には二人共斬り捨てていた。

 

「やっぱり若いもんには勝てないわ。20代で転生したかったわ。はぁ〜やだやだ」

 

「いえ、詩樹殿もまだまだ行けますでしょう?どうも、我々内でも技術差があるようですし。その剣とか」

 

「あれ、音叉剣がないの?と言うか、おっちゃんもリアンの肉体強化を知らないんだけど」

 

「あ〜、やっぱりか。これ、一度公開出来る技術は公開しあった方が良い気もしてきましたね。ジャックの治癒術も知らないですし」

 

「僕のこれは僕しか使えませんよ。こう、魂に染み付いた技法とでも言えば良いんですかね?はい、とりあえず三人は助かりました。残りの二人は残念ですが」

 

「解析ならおっちゃんに任せとけ。これでも術の知識だけは詰め込んでるからな」

 

「オレも解析は得意さ。仙術、占術、呪術、魔術、精霊術なんでもござれだ。さすがに頭が吹き飛んでるのを治療されると死者蘇生になるから」

 

意外だが十束もおっちゃんと同じく術式に詳しいようだ。力技でどうでもなりそうな位の力が感じるのに、おっちゃんみたいにそこそことやってきた雰囲気を感じるな。

 

「レベルにして200位かな。他のは120位」

 

「基準がわからないんだけど」

 

「リアンが大体2800で詩樹が2200位?一誠は今の状態で1800って所かな?オレは最近鈍ってるから4000位」

 

ジンと一誠が魔族の死体を突きながら分析してるけど、まあそれ位が妥当かな。ステータスは術式で上げるけど。

 

「中世にしてはまともな方か。混ざり物が少ないな」

 

「合金に関しては技術が発達していないのか?物は良いから追い詰められても職人は生き延びているのだろうな」

 

九十九と衛は騎士の装備を調べている。おっちゃんそっちには詳しくないから助かるわ。

 

「さて、とりあえずは王都を目指すのが一番か。どうやって此処まで来たの?」

 

「馬で半日ほどです。途中に立ち寄れる場所はありません」

 

「そこまで患者が持たないね。血を流しすぎてるから出来るだけ早く休ませてあげたいんだよ」

 

「どうすっかねぇ、抱えて飛ぶか、距離を計算して転移でいくか、一番足の早い奴が確認して転移するか」

 

「えっと、当たり前のように空を飛ぶとおっしゃっていますが、普通のなのでしょうか?」

 

「飛べない奴」

 

ジャックと衛が意識の無い騎士たちの手を挙げさせるだけで他は誰も上げない。

 

「そんなに速くは飛べない奴」

 

ジャックと衛、それにオレが手を挙げる。

 

「走った方が速い奴」

 

ジンとゼオンと十束と衛が手を挙げる。

 

「まあそういうわけだな。空を飛ぶのと転移で行くの、どっちが良い?」

 

「騎士たちの負担を考えると転移の方が良いですね」

 

「医者がそう言うならそっちしかないな」

 

「向こうの方角に50km程だな」

 

「影を繋げた。何時でも飛べるぞ」

 

「禁手化、お先に失礼」

 

「話が速くておっちゃん助かるわ。元の世界だとほとんど一人でやってたから」

 

十束が距離を割り出し、九十九が影を使った転移術式を起動し、安全の確保に一誠が影に飛び込む。ジンとジャックとリアンが無事な騎士を担ぎ、ゼオンがマントを広げて亡くなった騎士を包み込むってあのマント何処まで広がるんだよ。そして次々と影に飛び込んでいく。姫さんはおっかなびっくり影に足を入れようとしては躊躇って引いてしまっている。面倒なので背中を押して突き落とす。

 

おっちゃん、いつもはやられる側だったけど、やってみて分かる。何が面白いんだこれ?いや、やられるよりは良いよ。拘束されてお持ち帰りされちゃうよりはましだ。おっちゃんをお持ち帰りして何が楽しいんだか。もっと若い子をお持ち帰りするか、お持ち帰りされなさいよ。匙君、木場君ファイト。おっちゃんの代わりに生贄になってよ。最近、二人の仲が怪しいって噂を払拭しようよ。

 

 

 

 

 

 




詩樹
自分の娘と言っても過言ではない年齢の娘たちに骨の髄までしゃぶり尽くされている。薬を盛られるのはデフォ。
関係を持った人数が自分でも分かっていない戸籍上は独身のおっちゃん。組織間の調整が本職。下が育ったためようやく隠居出来たが、肉食獣から逃げる生活中に召喚される。
能力的には一流の端っこの方だが、とにかく手札が多い。後衛と言いつつ、戦鬼になるための修行は怠ってはいない。ただ、老いによる肉体の弱体に苦しんでいる。



ジン
ようやくお嬢が嫁に行くことが決まり、身辺整理を行っている際に召喚される。プリニーとジンの姿をコロコロ変えながらレベル上げに勤しんでいたが、最近は平和で怠け気味。たまに他の次元の魔王と(相手の魔王の血で)お茶会をやっている。定期的にとある次元の猫娘魔王と黒猫娘に性的に襲われている。



十束
母の跡を継ぎ、組を拡大させている。双子の娘と息子に寂しい思いをさせないように頑張っている。妻とは今でも新婚気分。露骨に周りが逃げ出すのがいつもの風景。妻が子供たちを連れて里帰りしている際に召喚される。地脈を利用している者が他にいないため、やりたい放題できるが、前世の癖で他の召喚者のスキルや技術の収集に集中する。




学園の教師として活躍中。恋愛に大してヘタレな所為で未だに告白出来ていない。相手もヘタレなためにズルズルと関係が引き伸ばしになっている。キャプテンの後継者を探す旅の最中に召喚される。学生時代からの大戦でいくつかの核鉄を破壊されているが、肉体は更に強靭となっているために応用力が下がっただけで戦力としては上がっている。



リアン
妻の影となりて悪を切り続ける。以前の政府よりは風通しが良くなり、妻も動きやすい形となっている。最近は落ち着いてきたのでそろそろ子供が欲しいとも思っている。ついでに眷属の一人からせっつかれている。書類上は故人。その方が動きやすいから。たまに書類上蘇生している。趣味は相変わらずで、黄色い潜水艦のロゴの店の帰りに召喚される。なお、ハードクッキーと泥水は相変わらず不評である。



ゼオン
トラウマを克服し、妻達と共に病気療養を理由に表舞台から姿を消している。一度に子供が産まれたが、周囲の助けもあり問題なく育っている。家族を守るためなら自ら原因を取り除きに動き、妻達が止めている隙に周囲の者達が解決をはかる。精神面が改善され、現役時代よりも動きのキレが良いと親友から評価を受けている。屋台の食材を購入した帰りに召喚される。



ジャック
無論、偽名である。『先生』と『私達』から残された全てを大切にするために家から出る。追手との追いかけっこを続けながら流れの外科医として生活している。たまに母に顔を見せに帰るがすぐに逃げ出す。母も最近は諦めたのか黒猫を側に置いておくのと、たまに顔を見せに来たら少しはゆっくりするようにと条件を付けて好きにさせている。戦闘力としては召喚者の中で最弱。真正面から戦えば魔族の幹部に手こずる。ただ、真正面から戦わなければ良いだけの話でもある。姉の出産祝いのために実家に戻る最中に召喚される。黒猫は置いて行かれた。




一誠
グリゴリのイレイザーとしてたまにデカく稼げるため、早々にちょっとした田舎に引っ込んで妻と一緒にスローライフ。転移が使えると田舎って逆に楽に暮らせると豪語。たまにレーティングゲームの監督として引っ張られる。悪魔には恐怖の代名詞で知られ、現在はお互いに不干渉で落ち着いている。未だに覇龍を扱えないが、覇龍を扱える片割れを素で叩きのめすために必要とすら感じていない。野良仕事の準備中に召喚される。



九十九
おなじみの黒蛇龍帝。妻が全員亡くなり、隠居の身。たまに親族と無限龍が顔を出す程度。妻たちとの思い出に浸っていた所を召喚される。



魔族の敗北は確定した。
誰か一人だけでも敗北はほぼ確定していた。

と言うわけで、今までHSDDのネタ倉庫の方で暴れていた方たちが召喚された、「もう止めてあげてー!!」と言いたくなるような物語。

続くかどうかは知らない。


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Knight's & Magic & Carrier 4

鼻歌交じりに楽曲術式の紋章をオレの専用機の武装に刻んでいく。

 

「トール、本当にこれを再現するんですか?」

 

「魔力効率は悪いけど、出来るんだからやっておかないとな。専用機と言いつつ、実験機でもある。それより、新型艦の方はどうなってる?」

 

「本体の稼働試験も既に終了。全機構問題なしです。今は後ろに引っ張る工房の作成中です」

 

「順調で何よりだ。手が空いてるなら休暇でいいぞ。たまには親孝行してこい。あと、嬢ちゃんの機嫌もとっとけ」

 

「そういうトールこそ親孝行しないで良いんですか?」

 

「義父には専用の装備を送ってある。ちょくちょく手紙も送ってるしな。あと、一応独り立ちしてるからな」

 

「そうですか。あっ、それと合成触媒、僕の斑鳩の方にも使わせてもらいました。あれは良いものですね。安定度がぐっと増しました」

 

「安定度では鉱石の方が上だからな。まあ、出力は通常の1.5倍で限界だな。アレ以上は生命の詩を弄る必要があるから難しい」

 

「トールでも無理ですか」

 

「アレンジ曲やカバー曲が必ずしも評価されるわけじゃないからな。クラシック曲に歌詞を付けてみろ、批評だらけになるぞ」

 

「そういうものですか」

 

「一から組み立てたほうが楽だろうな。結構きついがな。ベートーヴェンの運命以上の名曲を作れと言われているのに等しいぞ」

 

「ああ、無理ですね、それは」

 

「そういうことだ。アニソン位しか作曲できないわぁ〜。コテコテの昭和アニソンしか無理だわぁ〜。耳コピ程度なら余裕だけど」

 

遊びで作ったギターでオレの前世で一番新しかったガンダムのOPを弾く。

 

「くっ、僕も見たかった!!」

 

エルが落ち込む中、適当にメカ物の曲を弾き流しながら休憩に入る。

 

「エルはダブルオーまでだったっけ?ダブルオーはその後も映画化したし、ガンプラのアニメも地上波で放送されたし、この鉄血のオルフェンズなんて内容もぶっ飛んでてすごかったぞ」

 

「ガンプラのアニメも大分気になりますけど、すごい名前ですね、鉄血のオルフェンズ」

 

「ガンダム史上、最も装甲が硬いからな。ビームは長時間照射して熱でパイロットを焼き殺すしか無いから廃れた。正規軍ですら格闘戦にチョッパーを装備してるからな。硬いもので殴ってパイロットを圧死させるんだよ。その中で出てきたのがダインスレイブだ。他にはメイスにレンチにペンチなんかも作中で使われたな」

 

「男らしいというか、普通にヒートソードでよかったのでは?」

 

「エンジンが周囲の電子機器を破壊してしまうために実用されなかったんじゃないかな?そんなことより殴れって感じで。レンチは完全に工具だったんだが、刀は使いにくいからってコンテナに入ってたのを使い始めた結果だな」

 

「ガンレオンとは別経緯ですか」

 

「アレも続編で大分暴れたぞ。それより、そろそろ国王機を新造しないとまずい気がするんだが」

 

「今の所は依頼が来てませんからね。アンブロシウス元陛下に色々実験中と言ってある所為でしょう。技術が固まってから国王機を新造する形になると思います」

 

「まあ、そうなるか。実戦で使えない欠陥機だと困るものな。それにしても楽曲術式を使っても空中機動は厳しいな」

 

「それでも多少はましになりましたけどね」

 

「何時になったら完全な空中機動が出来るんだかな。斑鳩みたいな強引な機動も悪くはないんだが」

 

「ああ、報告が遅れましたが実体弾ライフル開発の目処が立ちました。これで継戦能力と補給の効率化が可能になります」

 

「でかした。とは言えコストと火薬式ライフルの扱いに慣れさせるのがな」

 

「試作品はツールボックスで扱うことになると思います。その為に右腕をいじってますからね」

 

「了解だ。そっちは任せるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「若旦那、グルンガストの調子はどうですか」

 

商会という設定でその若旦那役であるエムリス殿下に確認を取る。

 

「うむ、やはり開発元で調整を行うのが一番だな。反応が全然違う」

 

持ち込まれたグルンガストだが、最適化もされずに生産時と同じ状態のまま、シートの位置などの調整しか行われていなかった。それらを最適化し、完全な専用機として仕上げる。

 

「そいつは良かった。若旦那に合わせて細かい調整を入れてありますんで。それから、新造した剣の方はどうでした?」

 

「斬艦刀だったか?アレはデカ過ぎて使いにくかったが、この獅子王刀は良いな。オレ用の分も作ってくれ」

 

やはり常人には斬艦刀は扱いにくい物だったか。

 

「最初からありますよ、本来はこっちでの訓練が先なんです。生身で扱えるようになってから幻晶騎士で再現する。そういう武器なんですよ」

 

人間大の獅子王刀を取り出して若旦那に手渡して、その重さに取り落とす。

 

「なんだあの重さは!?」

 

「幻晶騎士に合わせるとあの重さです。それを使って示現流という流派の剣を扱えて初めて真の威力を発揮できるんですよ」

 

「ジゲン?聞いたことのない流派だな」

 

「他国の近衛兵の実力を持った一般兵がごろごろいる戦闘民族が扱う剣ですよ。二の太刀いらず、一撃で相手を葬りさるのを主眼においた剣です。多少の手ほどきしか出来ませんが、それでもよろしければご教授させていただきます」

 

「頼むと言いたい所だが、後回しで良い。機体の方はこれで万全なのか?」

 

「いえ、実験機や製造中の機体が他にもありますので、万全ではありません。無論、定員割れは起こしておりませんが」

 

「普通は定員以上の幻晶騎士が配備されている方がおかしいんだよ」

 

「いや〜、スレイプニールに使っていた魔力転換炉が丸々余ったおかげで好き勝手出来てしまいましてね。中隊長達は専用機以外に実験機も割り振られてなお実験機が余ってるのが現状です。オレなんて実験機を3機も割り振られてますから」

 

まだ4基も魔力転換炉が余っている。うち2基はオレの実験機のテストが終了次第使用することが決定しているので2基余っているのが正確だろう。

 

『若旦那、及び商隊長は至急艦橋まで上がって下さい。先行していた丁稚からの報告です!!』

 

「若旦那!!」

 

「おう、急ぐぞ!!」

 

「ダーヴィド、緊急展開部隊の準備とグルンガストを2頭引きの荷車に乗せておけ!!」

 

エムリス殿下と共に連絡通路を通って艦橋へと向かう。艦橋には既にエルも到着していた。

 

「状況!!」

 

「目標が敵に補足されたそうです。今からならなんとか間に合うはずです」

 

「すぐに向かうぞ!!」

 

エムリス殿下が艦橋から飛び出していくので、指示を飛ばす。本来ならエムリス殿下が出さなければならないのだけどな。

 

「総員戦闘配備!!ムスペル、及びヴィンゴールヴは最大戦速で現場に急行する!!また、緊急展開部隊とイカルガ、グルンガストとそれを引くツェンドリンブルを2機先行させる!!ゴードン、艦の方は任せるぞ!!」

 

「任されました」

 

揺れに対する適性が低すぎたために騎操士になれなかったゴードンに艦を預け、連絡通路を通って再びヴィンゴールヴの格納庫に向かう。ムスペルとヴィンゴールヴは分かりやすく言えば、マクロス7とシティ7のような関係の2隻運用が前提の艦だ。元のモチーフと異なるのは、シティ7であるヴィンゴールヴのサイズと、ヴィンゴールヴの中の殆どが格納庫兼工房と言うところだろう。

 

「準備が出来た奴から出せ!!それからツールボックスに試作ライフルを持たせるから持って来い!!」

 

操縦席に飛び込みながら指示を出して試作の火薬式ライフルを持ってこさせて右手に保持する。準備ができた所でツールボックスがメンテベッドごとエレベーターでカタパルトまで持ち上げられる。その途中でダーヴィドから通信が入る。

 

『トール、イーサックの奴がぶるって落ちやがった』

 

「回収してやれ。ソーラはどうだ」

 

『思い切りがよくねぇ。目前で着地することになるだろうな』

 

「要練習だな。オレがなんとかする。ソーラには落ち着いて、機体を壊さないように伝えろ。ツールボックス、出るぞ!!」

 

カタパルトに押し出されて、緊急展開滑走翼のマギスラスタジェットを全開にして空を駆ける。途中でソーラのカルディトーレを追い抜き、馬車を取り囲んでいる3機の背面武装(・・・・)がある幻晶騎士を照準に捉えて発砲する。

 

幻晶騎士の標準装備であるカルバリンを超える速度で撃ち出された弾丸が馬車に一番近い幻晶騎士の頭を吹き飛ばす。混乱している内に馬車に当たらないようにだけ注意して、荒い照準でライフルを連射する。連射とは言え、マガジン内には8発しか入らないため、それだけでは仕留めきることが出来ずに1機が残り、それを左手にメイスを握らせて着地しながらランドスピナーで滑りながら振り抜いて操縦席を叩き潰す。

 

「まだ馬車から出るな!!」

 

メイスをマウントし直し、ライフルのマガジンを交換する。これで残り8発だが、エルのイカルガが少し手前に着地したのが見えた以上、こいつを使うことはないだろう。更に2機のツェンドリンブルとそれが引いている荷車に乗ったグルンガストが到着する。

 

「叔母上、無事か!!」

 

「その声、まさかと思うがエムリスなのかい!?」

 

若旦那が護衛対象と話している間に簡易点検を行う。思っていた以上にライフルの反動が強かったが、右腕に不具合は見受けられない。だが、通常のままだったら壊れていただろう。威力は十二分にあるから、弾倉の大型化を目指す形でいいだろう。

 

「なんでグルンガストが!?」

 

聞いたことのない女性の声がグルンガストの名前を言い当てながら実在していることに驚いている声に反応して幻晶騎士のカメラを向ける。

 

「わお、一国の姫さんが同類か。蝶よ花よと育てられていると聞いていたが、芯が強い姫さんだ。何より、これからの話が速く済む」

 

拡声器のスイッチを入れて同類に挨拶をする。

 

「グルンガストはお気に召しましたでしょうか?我ら銀凰商会は色々な物を取り揃えております。今のオススメは安全と戦力、ついでにそこそこ快適な寝床と食事、シャワーもオマケしますよ」

 

それだけで向こうもこちらに気づいたのだろう。意味深な笑顔をこちらに向けてくる。

 

「ツケで全部頼みます。それからグルンガストを1機調達していただけますか?」

 

「生憎と若旦那と大旦那の専用機でして。他にも色々と取り揃えていますので、そちらからでどうでしょう。もしくは、時間を頂くことになります」

 

「ちなみにオススメは?」

 

「個人の趣味が入りまくったウォーカー・ギャリアなんてどうでしょう?男の子なんでいざという時にやってくれますよ」

 

「結構です。勇者は居ますか」

 

訪ね方が堂に入っているな。無論、勇者はいるけど調整は完璧ではない。とはいえ魔力消費量が多いのと、その先への調整が済んでいないだけで通常運用は問題ない。よし、売ろう。

 

「居ますよ、とっておきの輝煌勇者がね」

 

「ゆくゆくは勇者が国王となるでしょうが、構いませんね?」

 

「無論ですとも。バージョンアップには時間がかかりますが、この戦時中には完成させますよ」

 

「楽しみにしています」

 

 

 

 

 

 

 

 

姫様と若旦那の叔母達をヴィンゴールヴへと案内し、今はオレとエルと姫様だけで一応用意していた貴賓室にいる。

 

「改めて自己紹介をいたしましょう。私はエレオノーラ・ミランダ・クシェペルカ。王位継承権第1位となってしまいました。ですが、今のクシェペルカのレスヴァントでは敵の黒騎士には勝てません。更に言えば、飛行空母も厄介です。どうにかする手はありますか?」

 

「銀凰騎士団団長のエルネスティ・エチェバルリアです。最終的に戦況をひっくり返すことは可能です。ですが、それまでにかかる時間と被害、国力の低下なんかを抑えるには強権が必要になってきます」

 

「銀凰騎士団副団長トルティオネス・グラエンドです。姫様が即位され、ある程度の戦力をまとめた上で一度押し返せば戦況は一気にひっくり返せます。最悪、我ら銀凰騎士団を使って電撃戦を行えばすぐにでも。しかし、それでは」

 

「売国奴と罵られますか」

 

「なのでフェルナンド大公領に到着次第、こちらから技術供与いたしますので、時間の許す限りレスヴァントを改良します。そのための資材と機材は用意してありますし、銀凰騎士団を使って北方、南方にも技術供与を致します。さらに遅滞戦術も取ります」

 

「それで勝てますか」

 

「こちらには戦闘が可能な特機が4機ありますし、敵の技術のオリジナルは我々の物です。それを数年がかりで再現したのに対し、こちらは更に突き進んでいます。問題は敵の数です。戦争はある程度の質と数で決まるんです」

 

「数だけなのでは?」

 

「竹槍で戦車を倒せるわけ無いでしょう?まあ、こっちの世界だとやれないこともないですけど」

 

「それもそうね。報酬は全部ツケになるけど、大丈夫かしら」

 

「我々が撃破した残骸から魔力転換炉を頂けるなら販売は友好国価格で利益率1割でツケは幾らでも無担保で年利は6分までいきましょう」

 

「飛行空母の技術も取れたなら売って頂けるかしら」

 

「売りましょう」

 

「契約成立ね。書面なんかは後でまとめさせましょう。と言うわけで、堅い話はここまで。私以外にも同類がいて本当に助かったわ。王族っていうのは不自由と同義語に近いから、ストレスが酷くて。猫を被った所為で箱入り娘に育てられちゃって暇に殺されそうだったわ。それでも、今回の件は効いたわ」

 

「「お悔やみ申し上げます」」

 

「ええ、ありがとう。でも落ち込んでばかりもいられないわ。クシェペルカは何としても復興させるし、ジャロウデクは、特にクリストバルは私の手で殺す!!お父様達の敵でもあるけど、それ以上にあんな変な髪型の男に貞操を奪われてたまるものですか!!」

 

ああ、そう言えば女性だとそっちの危険があったか。男でもそっちの趣味のやつに襲われる危険があるから忘れていた。

 

「ちなみに変な髪型って?」

 

「なんと言って良いのかしら?こうコロネパンを頭に乗せているというか、こう悪徳系のデブの髪の量が少ない奴がしているような髪型が一番近いかしら。サイドは剃り上げてるわ」

 

想像してみて確かに変な髪型が出来上がった。

 

「確かに変な髪型ですね」

 

「伝統的なものだったら亡命するぐらいには変な髪型だな」

 

ゆっくりとティータイムに移ろうとしたところでサイレンが鳴り響く。

 

『後方上空に艦が浮かんでいます!!』

 

「エル、お前は控えて騎士団を出せ!!何としてでも鹵獲するぞ!!」

 

「トールはどうするんですか」

 

「艦の指揮を執る!!」

 

「私も指揮を見させてもらっても?」

 

「時間が勿体無いので許可します。失礼!!」

 

エレオノーラ様を横抱きにして貴賓室から飛び出す。艦橋前でエレオノーラ様を降ろしてから艦橋に入る。

 

「状況報告」

 

「間もなく視認距離に入るそうです」

 

「何としてでも鹵獲する。逃げられても困るから指揮はオレが取る。全艦戦闘態勢、第1第2中隊出撃用意。特機は待機させろ。ガンタンク部隊も立ち上げろ、対空警戒。目的は敵の鹵獲だ。空を飛ぶ船はエルとイカルガが鹵獲する。敵幻晶騎士は破壊して構わん。残骸で十分だ」

 

「敵を捉えました。モニターに映します」

 

モニターに映し出された敵の飛行空母は、本当に帆船を空に浮かべたようなデザインをしていた。大砲の代わりに投石機を装備し、艦首には幻晶騎士の上半身が生えている。エルに通信を繋ぎ情報を伝える。

 

「艦首に付いている幻晶騎士が本体だろうな。後部に推進機関があるはずだ。ライフルと爆雷を持っていけ。銃装剣は威力が高すぎる」

 

『了解です。出来るだけ原型を留めて鹵獲しますね』

 

「浮かしている部分さえ残っていれば構わん。対空防御!!防御態勢!!」

 

エルに指示を出している途中で敵の投石機が起動するのを確認してガンタンク部隊への迎撃指示と皮膚強化の術式を強化させる。投石機から放たれた礫の殆どは機銃代わりのガンタンク部隊が撃ち落とし、残りの破片の様な物は強化した装甲で弾き、被害は出ない。

 

投石機で攻撃してきた飛行空母はそのままムスペルを追い越し、ある程度離れた所で反転しながら船底を開放して、そこから重装甲の幻晶騎士を6機、鎖で吊るして着陸させる。

 

「なるほど。中々考えてる。今までの常識を覆す運用だが、残念だったな」

 

ヴィンゴールヴから飛び出したイカルガがライフルを連射して飛行空母の艦首に添えつけられていた幻晶騎士を撃ち抜き、そのまま牽引用のワイヤーを持ってマギスラスタジェットで飛行空母に取り付いた。さらに重装甲とは言え6機ではヴィンゴールヴから飛び出していく新型魔力転換炉を搭載し、個々人に合わせてカスタマイズされた20機のカルディトーレとその近接仕様のカラングゥールを相手に生き延びることは不可能だろう。母艦から落とすのは基本中の基本であり、そして戦争は数だ。拡声器のスイッチを入れて一応の降伏勧告を行う。

 

「あ〜、前方に布陣する黒騎士に告ぐ。貴様らに勝機はない。幻晶騎士と飛行空母を放棄すれば諸君達の身の安全を保証し、捕虜にもせずに開放しよう。我々は大陸最大最強の商会だ。捕虜に食わす無駄飯はない。抵抗するようなら適当にボコった上で身ぐるみを全部剥ぐぞ。30、いや40秒待ってやる」

 

返答は6機の内4機が飛び出し、エドガーとディーの二人に瞬殺される。1機だけは粘っていたようだが、パワー不足で負けている。全身に剣を装備していたのだが、それらが逆に行動を阻害していたな。鞘ごと装備するのではなく、各装甲に剣を埋め込むようにして全身を剣に見立てたほうが強いだろう。

 

「レスヴァントが相手にもならなかった黒騎士を瞬殺とは素晴らしいですね」

 

「技術を盗まれてから数年の間に更に新技術が増えましたからね。特に魔力転換炉の性能が50%増ですから。それを全てパワーに振った結果です。さすがにこの技術は売れませんよ」

 

「残念ですね」

 

「残りの2機は降伏するようですね。生きてこの情報を届けなくてはならないでしょうから」

 

「軍人として立派ですね。逃がすので?」

 

「逃しますよ。ジャロウデクには誰を敵に回したのか、はっきりと教えなくてはならないのでね。後ろが騒がしい状態では開拓も儘ならない。世界の父(ファダーアバーデン)を復興したいのなら復興させてやるさ。ただし、ジャロウデクの血はいらない。クシェペルカが筆頭なら最良といったところですかね」

 

「あらあら、中々欲深いのですね。なんなら王配に付きますか?」

 

「残念。病気で不能なんでね。何より平民の出なので不可能でしょう。それに体を壊すまでは現場で働きたい」

 

「振られてしまいましたね。気が合うと思いましたのに。病気では仕方ありませんし、出自も件もありましたか。面倒ですね」

 

「いやなら男が選び放題になるだけの強権を取りに行くしかありませんな」

 

「そんなことのために勇者を使いたいとは思いません」

 

「逆です。勇者を使っていれば強権はオマケで付いてくる。それだけの自信作ですよ。いずれは私の専用機にしようと思っていたのですが」

 

「あら、それは悪いことをしましたね」

 

「その分、色を付けて買い上げて頂ければいいですよ。また新しいのを作ればいい」

 

ダーヴィドに指示を出し、普通の馬車に水と食料を積ませる。それを幻晶甲冑でヴィーンゴールヴから降ろす。

 

「降伏を受け入れよう。船の人員を下ろすためのロープぐらいはくれてやる。それと水と食料もだ。幻晶騎士から離れろ。船の奴らも余計なことはするなよ。死にたいならやるといい。代わりにオレ達の情報は本隊に一切届かないことになるがな」

 

交渉はそこで終わり、船からも人員が全員降りたと宣言したので幻晶甲冑を纏った制圧部隊を送り込む。拘束したそれらを突き落とさせ、地面に赤い染みができる。それらを無視して飛行空母を牽引しながらフェルナンド大公領を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

意外なことに黒騎士から新技術が発掘された。テレスターレを正確に模倣して重量機として仕上げただけだと思っていたのだが、こいつは儲けものだな。ほうほう、リミッター解除みたいな物か。魔力転換炉にダメージを入れてでも緊急時には使えるか。合理的だな。魔力転換炉を1基潰してでもデータを取るか。調整してやれば魔力転換炉を消耗させずに魔力生成効率が上げられる。それにしてもよく考えたものだな。オレとエルのように魔力転換炉を好きなだけ潰せる環境ではないというのに。

 

いや、侵略した相手から奪えば良いのか。そうすればこちら側を全て統一すれば最終的には余るようになると考えたか。馬鹿は馬鹿なりに考えたようだが、それはタコが自分の足を食う行為だぞ。ジャロウデクは人類にとっての害悪になる存在だったか。容赦をする必要はなくなったな。

 

そして航空母艦の方の解析だが、色々なことが判明している。

 

「ほうほう、エーテルが高密度になると浮揚力場が発生するのか。それを調整して高度を調整し、魔導兵装で風を起こしてそれを帆に受けて推力を得ているのか。まさかエーテルにそんな性質があるとは思わなかったな。これを複数積んで船体をすっぽりと浮揚力場で包めば良いのか」

 

「意外と簡単ですね。高密度のエーテルの生成のための元素供給機もありますし、コピーもそこまで問題ないでしょうから、あとは限界実験だけ行えば問題なしですね」

 

「出来れば緊急展開滑空翼に仕込みたいな。ツールボックスが完全にランスロット・エアキャバルリーみたいになってるから、この際そっちの方に持っていくわ。ランドスピナーの代わりにキャタピラ装備だけどな」

 

「三次元機動は出来ないですからそれでいいと思いますよ」

 

「それが終わったらグリッターパーツにも仕込まないと。楽曲術式も新しいのを積まないといけないし。ああ、その前に座席調整と操縦のレクチャーもしないと。やることが多い、影分身の術とか出来ないかな」

 

「僕もイカルガに搭載したいですが、拡張性がないので外部パーツを組み込む形になるでしょう。となると新造することになって、設計からしないといけないですから。う〜ん、この戦争中は無理そうですね。後発組として安定性が高い技術を突っ込むことにしましょう。今でもイカルガは十分に強いですから」

 

「けっ、こっちはまた専用機として組んでたファルセイバーを売り払う羽目になったってのに。次は何を作るかな。ゴエモンインパクトでも作るか?」

 

「微妙に作るのが難しそうなのをチョイスしますね」

 

「まあ、さすがに見た目だけで限界だろうがな。だが本当に何を作ろうか」

 

「とりあえず今ある技術の習熟が先では?それからでも遅くはないでしょう?」

 

「そうするしかないか」

 

エーテルの濃度を下げて高度を落としてからエルと二人でロープを伝ってヴィンゴールヴに戻る。

 

「ダーヴィド、ファルセイバーの操縦席を複座に変更するぞ!!」

 

「なんだって急に複座に変更するんだ」

 

「飛空船の技術は大まかに分かった。グリッターパーツにその技術を組み込む。副騎操士にそれを扱わせる」

 

「はぁ!?そんな無茶苦茶なことをするのかよ!!」

 

「それほど無茶でもないだろう。ツェンドルブと同じだ」

 

「だが、クシェペルカの国王機になるんだろう?」

 

「ファルセイバーではただの特機だ。グリッターパーツを装備したグリッターファルセイバーが国王機となる。新技術に特殊技術もふんだんに乗せまくる。王女殿下の許可も取ってある。おっと、その王女殿下は?」

 

「若旦那の叔母上とその娘が王女様を止めようとしてるんだがな。蝶よ花よと育てられてたんじゃなかったのかよ?若旦那でも止めれそうにない。と言うか、若旦那よりも騎士が似合ってるんだが」

 

「若旦那はどっちかと言えば山賊とかの方が似合ってるからな」

 

「誰が山賊のほうが似合ってるだって?」

 

いつの間にかボロボロの若旦那がやってきていた。どうやら王女殿下に負けたのだろう。

 

「若旦那、鏡を見て言って下さいよ。王女殿下と若旦那、どっちが騎士かと問われると王女殿下一択ですよ」

 

「……まあ、そうなるか」

 

「それで、説得はできなかったんでしょう?クシェペルカの新型国王機ファルセイバーは現在調整中です。現在でも通常戦闘でグルンガストに少し劣る程度の戦闘力はあります。なのでツールボックスで新技術の実証をしてどんどんバージョンアップさせます。最終的には国王機に相応しい性能にはなるかと」

 

「お前、そんなものを作ってどうするつもりだ?」

 

「これ以上、背中を気にして前に進めないなんて言う状況は勘弁してもらいたいので。西側で筆頭になってもらいます。王女殿下もそれを望んでおられる」

 

「それがオレ達に向けられたらどうする」

 

「通常の騎士団に配備されているカルディトーレと銀凰騎士団で運用しているカルディトーレは別物ですよ。常に先を走り続ける。それには後ろを追ってくる者が複数必要なんですよ。あの飛空船を作った者のように、別の道を爆走するのでも良い。競争することで技術は発展していくんですから。幻晶騎士の発展が遅かったのは、それが原因です。今は、オレとエルが同じようで別の道を走ってお互いを刺激しあっているから速いんですよ。でも、いつかそれに慣れるかもしれない。それを避けるために友好国に刺激が貰いたいんですよ」

 

「仲の良い親子であろうと時には殺し合いになるが」

 

「その時は存分に殺し合いましょう。遺恨を残さないぐらいド派手に」

 

「まあ、私が王位に就いている間はそんなことはさせませんが」

 

ドレスから騎士服へと着替えたエレオノーラがやってきて話に加わる。

 

「手合わせ、願えるかしら」

 

「どれ位で?」

 

「ある程度本気で」

 

「ダーヴィド、離れてろ」

 

傍にあった幻晶甲冑用の大型スパナを生身で構える。勝負は一瞬で着いた。エレオノーラの剣をスパナの口で受けて、そのまま巻き込んで叩き折る。

 

「物作りの達人は物を壊す達人でもありましたか」

 

「そういうことです。実戦ならまだ戦えるでしょうけど、手合わせならここまでです」

 

「ですね。技量がずば抜けているのも分かりました」

 

「一応、騎士の端くれですから」

 

忘れがちになっているが、これでも学園では勉学も実戦も主席だったのだ。エルと同じで生活態度が原因で主席にはなれなかったがな。

 

「さてと、とりあえずファルセイバーの方で相談があるのですが」

 

「どうかしましたか?」

 

「機能拡張後に一人では操作が覚束ないと思われるので複座型に改造します。そのパートナーと座席の調整を行いたいのです」

 

「操縦系統はどのようになりますか?」

 

「基本的に主騎操士は従来と変わりません。副騎操士に飛行と火器管制の大半を任せるといった形になると思います」

 

「これからの事を考えると副騎操士はイサドラに頼むしかないですね。ただ、合わせられるかしら?」

 

「出来るだけ簡易に操作できるようにします。あとは、慣れとしか。一人で操縦しようとするとレバーは3倍、計器類は4倍になりますけど。しかも細かい操作が必要になります」

 

「イサドラに任せましょう。魔力を何処に送るかなどを操作するのでしょう。それを戦闘を熟しながらはさすがに辛いものがあります」

 

「でしょうね。複座にするのはこれで確定ですが、席はどのように配置しましょうか?」

 

「どのよう、ああ、なるほど。後ろ、いえ、前下方でお願いします」

 

「分かりました。そのように仕上げます。ダーヴィド、聞いてのとおりだ」

 

「いや、聞いてのとおりと言われてもだな、どうやれば良いんだよ?」

 

「操縦席を広めにとって、今あるシートを後ろの高い位置に付けなおして、別のシートを前の低い所に付けろ。前の席には後から計器類やレバーを増設するってことを念頭に置いておけ」

 

「おう、了解した」

 

「では、操縦席の改造が済み次第座席調整をいたしますのでご協力を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エドガーとディーは北、特機勢が南を目指す。必要な物は全部こちらで用意しておいた。そのリスト以外で何か欲しい物はあるか?」

 

クシェペルカ再興のためにエレオノーラ殿下が陛下になることを決意され、そのためにジャロウデク侵攻軍をどうにかする必要があるのだが、予想よりも北方領と南方領が押されている。いや、保っている方か。それでも少しまずい状態にまで押されているために一当てして戦力を削る必要が出てきたのだ。

 

「ムスペルは回してもらえるんだね。ヴィンゴールヴはどうするんだい?」

 

「今回は速度が必要だからな。置いていく」

 

「そちらはツェンドリンブルが2機と強襲型ガンタンクが3機、それに荷車だけか。大丈夫なのか」

 

「そこにイカルガとグルンガストと強襲仕様のツールボックスとファルセイバーが加わるんだぞ。過剰戦力だって。魔力転換炉の数だけで言えば特機だけで1個中隊もあるんだぞ。ああ、残りの第3中隊は大回りで北部と南部に城塞パーツの設計図を運んでもらう手はずになっている」

 

「そうか。となるとムスペルが使えるのはありがたいな。ガンタンクを戦力にしても良いんだな?」

 

「クシェペルカにはドッグがない。本格的な整備ができない以上、ムスペルへの被弾は出来る限り避けてくれ。それを念頭に置いた上で引き抜くのは構わない。それとダインスレイヴは今回は使用禁止だ。反攻作戦時までは伏せておきたい」

 

「分かった。なら、試作ライフルをありったけ借りていくぞ。予備の弾倉も」

 

「新型の爆雷も試してきてくれるとありがたい。黒騎士の装甲を抜くには一工夫が必要になってくると思う。余裕があれば検証してきてくれ」

 

「余裕があればって、一方面軍を相手に余裕なんてあると思うのかい?」

 

「うん?結構余裕だが。ツールボックスの強襲仕様の武装の7割は試作兵器だし、ファルセイバーに至っては王女殿下共々初陣だ。それでも余裕だと言い切ろう。それだけの化物をオレ達は使っている。追撃にあった時にお前たちもそれを感じたはずだ。油断して良いわけではないが、余裕はある。少し、オレやエルから離れて現実を見て来い。この戦争が終わった後は国内の騎士団との合同演習なんかも入れてやる」

 

正直言って、徹底的に基礎固めを行なって、他国の国王機以上の高性能機で統一してある時点で倍程度の数に負ける光景が思い浮かばない。サンボルのガンダムヘッドが無印の旧ザクと戦うようなものだぞ。絶対に勝てないほどではないが、勝つのが難しいとは断言できる。

 

う〜む、ディーはともかくエドガーは一度銀凰騎士団から外へ出したほうが良い気がしてきたな。銀凰騎士団は型に嵌ったままでは成長できない。型をすぐに埋め尽くすだけの物が流れ込むからな。型を大きくは出来ないのが銀凰騎士団の欠点だ。だが、中隊長がそれでは困る。暴走を止めれるだけの力を持った上で銀凰騎士団の長所である多様性を潰さずに活かすだけの器が求められる。その器がエドガーには不足している。

 

今はオレも現場に出て指揮を取っているため問題はない。だが、オレはいずれ研究開発に専念するために前線から身を引くつもりだ。そうなると指揮官が足りなくなる。ただでさえ、エルもディーも指揮がそれほど得意ではないのだ。エドガーは指揮が取れるだろうが、その指揮は銀凰騎士団に適したものではない。それを理解してもらわなければならない。

 

「資材は全てムスペルに運び込んでおくよう指示を出しておく。中隊へのブリーフィングは任せるぞ」

 

今回の件で一皮むけてくれると良いのだがな。

 

 

 

 

 

 

 

操縦席で瞑想をしながらその時を待つ。これからこの身を血に染め上げることになる。正直に言えば怖い。この手で命を奪うということが怖い。だが、これは義務でもある。王族として何不自由ない、いや、自由はそれほど多くなかったか。それでも十分に恵まれた環境で暮らしてきた。だからこれは義務だ。唯一残ってしまった王族としての義務。国のためにその身を捧げるための行為。直接この手で人を殺すのではないのだけが救いなのだろう。

 

『緊張しているのか』

 

トールから通信が強制的に開かれる。

 

「ええ、とてもね」

 

『鳩尾より少し下、そこが黒騎士の操縦席だ。そこより上を狙えばいい。それか、頭と両腕を潰せ。手数が必要になるが殺さなくて済む。背面武装は半固定で正面にしか撃てない。うつ伏せに転ばせればそれで無力化できる』

 

「バレてますか」

 

『エルは完全にロボを破壊していると割り切っている。操縦者もロボの一部と認識しているというのが正しいか。オレはそこそこ酷い状況に陥ったからな。頭のネジが少し緩んだ。だから、その迷いを捨てるな。こちらには堕ちるな』

 

「堕ちるな、ですか」

 

『そうだ。狂人に王たる資格はない。堕ちるな狂うな壊れるな。王とは舞台装置だ。役目を果たせ。それを望んだのだろう?』

 

「そうね。倒れるわけにもいかない。背中、任せます」

 

『それ位なら任されよう』

 

ふぅ、多少はプレッシャーが和らぎましたか。それでも、キツイものですね。

 

『旦那方、そろそろ目標が見えてきたよ!!』

 

『荷車を切り離せ!!その後、荷車の護衛を任せる!!殿下、名乗りを上げるなら今だけです!!』

 

名乗りは、上げる必要があるわよね。北側は減らすだけだけど、南側は殲滅するって決めていたことだし。外部拡声器のスイッチを入れて高らかに戦争への参戦を名乗りあげる。

 

「我が名はエレオノーラ・ミランダ・クシェペルカ!!己が私欲を黴の生えた国の復興などと言う妄想で誤魔化し、正当な理由も大義もなく、魔獣番と蔑む相手の技術をさも自分達の手柄だとばかりに扱い、宣戦すら行わない野蛮なジャロウデクに仕える芋共に告げる!!ジャロウデクは歴史書に記されるだけの国へと叩き潰すと、私は宣言する!!疾く滅びよ!!」

 

荷車が切りはずされると同時に飛び出し、両肩の魔導兵装を起動させる。そして、叫ぶ必要はないが、叫ぶのがマナーだろうと魔導兵装の名を叫ぶ。

 

「ファルブレイズ!!」

 

両肩から放たれた炎の渦が重装甲である黒騎士を飲み込み、操騎士を焼き殺す。トールは殺さないように戦えばいいと言ったが、それは駄目。そんな生温いことが許されるほどクシェペルカに余裕はない。

 

「エリアルスパーク!!」

 

理論は説明されたけど全く理解できなかった魔力によって刀身を生成し、通常の剣よりも切れ味が鋭いエリアルスパークで黒騎士を盾ごと真っ二つにする。さらに二度、ファルブレイズを黒騎士達が固まっている場所に撃ち込む。そうしてようやく立ち直ったジャロウデク軍がファルセイバーと対峙しようとした所で次々と頭部を吹き飛ばされていく。

 

『突っ込むのが早すぎます。グルンガストのハイパーブラスターが死に札になってしまったではないですか』

 

弾丸が飛んできた方向の上空50mほどの所に滞空するトールから苦情の通信が入る。その後ろからマギスラスタジェットで空を駆け抜けたエルのイカルガが次々と飛空船の艦首に据え付けられている幻晶騎士と艦橋を次々と撃ち抜いて行動不能に陥らせている。

 

『待たんか、お前ら!!オレを置いていくな!!』

 

左腕のブーストナックルで黒騎士を粉砕し、右手のシシオウブレードでレスヴァントの腕を切り落としながらグルンガストが走ってくる。

 

「ジャロウデクに膝に屈したのは許しましょう。ジャロウデクで立場を得るために元同胞に剣を向けたのも許しましょう。ですが、これより先、クシェペルカに剣を向けるのであれば容赦はしません!!選びなさい!!敵と味方を!!」

 

黒騎士達の中に混ざっていたレスヴァント達は迷いながらも剣を私たちに向ける。

 

「それが答えというわけですね。あの世でお父様に詫びてきなさい。すぐに賑やかにしてあげますから」

 

そう言って、エリアルスパークで切り捨てようとした瞬間、急降下してきたツールボックスとイカルガが次々とレスヴァントを斬り捨てていく。

 

『エル、大暴れしろ!!若旦那!!』

 

『エリー、一旦下がれ!!呑まれているぞ!!』

 

呑まれている?一体何のこと?前に出ようとするとグルンガストが前に出て私を進ませないようにする。

 

「なぜ邪魔をするのです」

 

『だから、呑まれてるって』

 

『荷車の護衛に下がって。魔力残量をちゃんと見て』

 

言われて計器に目を向けると魔力が殆ど残っていなかった。戦闘が始まってから吸気を全く行なった覚えがない。慌てて吸気を行おうとした所で横からレスヴァントが襲い掛かってくる。エリアルスパークで受け止めようとした所を、グルンガストがレスヴァントを蹴り飛ばして難を逃れる。

 

『下がれ、エリー!!お前を討たれる訳にはいかないんだよ!!ハイパーブラスター!!』

 

ハイパーブラスターの放射の終わりごろから吸気音が聞こえる。耳を澄ませば、他の三人は動作の合間合間に吸気を行っている。回数の多さではイカルガが一番多く、それより回数は少ないが時間が長いのがツールボックス。グルンガストは大技の後に敵の攻撃を貰うことになっても吸気の時間を多く取っている。

 

それを見て私もファルセイバーに吸気を行わせる。レスヴァントでは聞いたことのない程大きな吸気音が聞こえるが、魔力の貯まりは悪い。3基の魔力転換炉が全力で稼働しているが、レスヴァントの5倍の魔力貯蔵量があるファルセイバーには足りないのだ。

 

『エル、西側から突っ込め!!若旦那、その場でファルセイバーの直掩を!!ガンタンク隊、ファルセイバーの退路の確保に法撃支援!!』

 

トールが次々と指示を出しながらツールボックスの翼に取り付けられたカルバリンの強化型であるアームストロングで上空から狙撃を続けている。

 

『魔力はそこそこ溜まっているはずだ、ファイルセイバーは後退しろ』

 

言われた通りに後退する。安全圏まで移動した所でグルンガストが再びシシオウブレードで暴れ始める。後退して初めて呑まれているという意味が理解できた。戦場の空気に呑まれて視野狭窄に陥っていた。それに今になって手が震えてきた。それも殺人という行為に何も感じていない自分が化物になったようで恐ろしいと感じて。

 

『若旦那、中央突破を!!エル、その周辺は任せる!!オレは退路を塞ぐ』

 

眼の前でレスヴァントが、私達が守らなければならなかった国民が討たれていく。なのに、私の心には何一つ届かない。私は壊れていたの?

 

 

 

 



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賢者の孫騎士

 

あの鳥は肉は美味しくないけどガラから良い出汁が取れるんだよな。あの猿は尻尾が珍味だ。常食にはこっちの猪だ。全ての獲物の首を風の刃で切り落とし念動で持ち上げて血抜きを行う。血の匂いに釣られてやってきた動物を殺気を叩きつけて追い返す。血抜きが済んだら風の刃と念動を巧みに扱って解体も行う。慣れてしまえばこんなものだ。

 

最初の頃はナイフで解体していたが、血まみれで帰ると爺ちゃんはともかく婆ちゃんに怒られるから今では魔法で全部を済ませている。ナイフでやるより楽だし時間が余るけど、その分を筋トレに回している。

 

まだ6歳だけど、爺ちゃんの知人であるミッシェルさんが来る度に色々な武術を指導してくれる。それに耐えるための肉体作りは欠かせないのだ。まあ、どの武術もあまりしっくりこないんだけどね。まだましなのが剣だけど、何処か違う。型もそうだが、決定的な何かがずれている。

 

大剣かと思ったが大外れだった。普通の片手剣も微妙に違う。刺突剣は惜しい気がした。マインゴーシュも違う。何か、他にあったか?まさか、アレか?そもそも作れるのか?

 

爺ちゃんが言うには魔法はイメージが大事だ。アレを真似するためだけに殺陣教室に通ったこともあるし、卒業制作でも好評を得たこともある。それが染み付いているのか?とりあえずやってみるか。今の体型に合わせた枝は、あった。それを柄部分だけの長さにカットする。それを握り、イメージと共に最も得意だった第3の型、ソーレスに構える。

 

「おぅ、本当に出来たよ」

 

青色に輝く光刃を眺めながら型通りにライトセイバーもどきを振るう。それがしっくり来すぎている。まあ、ライトセイバーは対人用だから対人外用の型を新たに生み出す必要が出てくる。ライトセイバー自身もちゃんとしたものを使いたい。それに、意外と光刃を形成し続けるのが辛い。イメージが揺らげば、すぐにでも自分を傷つける結果に終わりそうだ。

 

まあ、収穫としてはジェダイの様に念動を利用した機動補助とアタロの動きでミッシェルさんから一本取れたことだろう。二本目からは身体の軽さから簡単に弾かれるようになって勝てなくなったけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

アタロの型でミッシェルさんから一本取ってから4年。念願の魔道具によるライトセイバーの開発に成功した。爺ちゃんは多彩な魔法をぶっ放すのは得意でも物品に魔法を込める付与魔法が得意ではなかったが、婆ちゃんが得意だったので婆ちゃんの指導の元で魔道具の開発に励んだ。魔道具の製作は少しだけ特殊で付与したい魔法を発動直前で留め、その魔力を付与したい物品に自分が理解している言語の文字で現象を書き起こすのだ。

 

この文字に書き起こすのが厄介で、物品によって文字数が決まっているのだ。無論、文字数が多ければ多いほど高級品だ。さすがにそんな高級品を強請るようなことはせずに漢字を利用することで文字数制限をカバーする。この世界ではアルファベットなんかと同じで文字がいくつか揃って初めて意味を成す。漢字なら一つの文字に意味をもたせることも可能だ。

 

さらに突き詰めれば自分で作り出した記号に意味を持たせれば更に短縮することが出来る。ライトセイバーも最初は『光熱刃』の三文字だったのが、クリスタルの図案にすることで一文字扱いにすることが出来た。ただし、恐ろしく時間がかかり普通に漢字で書く方が楽に済む。何せ完全に図案だけでその意味だと自分に刷り込まなければならない。漢字のテストでクリスタルの図案に見える漢字を書けば正解で、周りもそう書くのが当たり前なんだと自分すらも騙し切ることで初めて付与が成功するのだ。『トリコ』のアルティメットルーティンとほぼ同じ技だ。

 

おかげで消耗が激しすぎて知恵熱でぶっ倒れている。偶々来ていた商人のトムさんとメリダ婆ちゃんが呆れている。

 

「文字数には十分余裕があるっていうのに、何をやってるんだか。余っている文字数の使いみちもないんだってぇ」

 

「革命的ではありますが、一つの付与でここまで消耗してしまっては使えないでしょう。その前の独特の文様の方が世紀の発見ですよ。付与専用言語として纏めて頂ければ買い取りますよ、シン君」

 

「婆ちゃんに言われて簡単なのだけ纏めてあるよ」

 

引き出しを指差してそこにある簡易辞書と組み合わせ表を取り出してもらう。

 

「こっちが文様の意味。こっちが組み合わせ方。逆にすると意味が変わったり、ちょっと抜けたり、ずれたりすると意味が変わる物もあるから簡単なのしかないよ」

 

書きやすく、意味も単純な物を厳選しているが、どれも攻撃・防御用にしか使えない。もっと婆ちゃんの様に生活の役に立つような漢字を用意したいのだが、途端に画数の多い漢字になってしまう。おかげで冷蔵庫とか洗濯機とかがオレにしか作れない。

 

「おお、これは素晴らしい。メリダ様、こちらを複製させていただいてもよろしいでしょうか」

 

「待ちな。あんまりまずいのが広まると犯罪に使われるかもしれないからね。先に確認するよ」

 

「ええ、それはもちろん」

 

犯罪に使えそうな漢字なんてあったかな?ああ、開とかはヤバイな。錠がないからまだ安全か。

 

「まあ、問題はないか。ちなみにシン、犯罪に使えそうなのは?」

 

トムさんにペンと紙を取ってもらい『開錠』『失神』『消音空間』を書き起こす。どれもオレが使える魔法の漢字だ。3つとも説明すると使用を禁止された。当然だな、オレでもそう思うもん。

 

「むしろ、どんな魔法の文字が欲しいの?」

 

トムさんに希望を聞いて『光源』『冷蔵』『送風』『水生成』『加熱』を書く。婆ちゃんもそれ位なら良いだろうと言ってくれたので問題ない。

 

「それではこちらが代金の一部ですね。さすがに全額は大金過ぎますからマーリン殿にお預けいたしますので」

 

そう言ってトムさんが金貨を1枚と銀貨が6枚と銅貨10枚ちょっと入った財布を渡される。

 

「ちょっとした買い物ならそれで十分大丈夫ですよ」

 

「……これがお金か、初めて見たな」

 

その言葉に婆ちゃんとトムさんが固まる。

 

「10歳ならセーフでしょうか?」

 

「ギリギリだけどね。今日気づかなかったら成人するまで気づけなかった可能性があるよ。シン、あんたもしかして街に、いや、ここに訪れる者以外の人に会ったことはあるかい?」

 

「(今世だと)ないよ」

 

トムさんと婆ちゃんが揃ってため息をつく。

 

「トム、悪いけど暫くの間シンを預かってくれないかい?年に何回か、社会勉強を兼ねて、そうさねぇ、2週間程度でいい。マーリンには私から説明しとくよ」

 

「ええ、もちろん構いませんよ。よく考えれば友達の一人も居ないことになりますから」

 

そういう訳で二日後、トムさんの馬車に同乗する形で王都に向かう。荷物は数日分の着替えとフード付きのローブとライトセイバーが二振り、それとブラスターもどきが一丁とトムさんに貰った財布だけだ。

 

正直、ライトセイバーのフォームの修行と開発が忙しくてボッチで寂しいとかそんな気持ちはなかったのだが、常識を知らないのはまずいと分かっているのでこれも勉強と言うことで楽しみにしている。

 

フォームの方はミッシェルさんとの訓練でシャイ・チョー、ソーレス、アタロは問題なく、シエンは体格の問題で保留中だが型は問題ない。さらにソーレスを元に発展させた見切りとカウンターのフォームとアタロを元に発展させたフォースの念動を多用する高機動のフォームの2種類を開発中だ。

 

移動中は最低限の常識を習いながら日課である念動の強化と魔力の練り込みを行う。正確には魔力の制御訓練なのだが、体内での循環、体外への放出、放出した魔力を再び体内へ戻すというのを繰り返す。これがこの数年で最も効率の良い制御訓練だと判断している。

 

実際の所、念動の力がどんどん上がっている。いずれはベイダー卿のようにモニターの先の指揮官をフォースグラップで殺したり、マスター・ヨーダのように戦闘機を持ち上げれるだけの力と射程を身に着けたいものだ。こんな視界に入る距離にいる猪の魔物の首をへし折るんじゃなくてさ。

 

「シン君、まさか君が!?」

 

「えっ、何が?」

 

「あの猪の魔物は君が倒したのかい!?」

 

「まずかった?」

 

「いえ、まずいというか、そんな簡単に。ハンターでも素人が手を出すと死人が出るというのに」

 

「あの程度で?」

 

あんなの突っ込んできた所をサイドステップですれ違い際に頸動脈を切ればすぐに死ぬのに。

 

「まさか普段から?」

 

「普段は虎とか獅子を剣技の練習台に」

 

「さ、災害級の魔物を練習台!?」

 

「災害級?」

 

「一匹で国が傾くのを覚悟で当たる必要がある魔物です」

 

「ちょっと身体が大きくて速いだけのアレが?」

 

「そういう反応が返ってくる時点で可笑しいんですよ!!」

 

むぅ、あの程度が最上級となると力を腐らせて過ごすしかないのか。パダワンを取って鍛え上げるのも一つの手か。

 

「所で、災害級の敷物って売れると思います?」

 

「まさか、持っているのですか?」

 

「異次元収納の中に何枚か。素材は3倍ぐらいの量が」

 

「災害級がそんなにも!?一体何処に居たんですか!?」

 

「大分、向こうの方。えっと、この馬車の速度でまっすぐ進んで、ちょっと待って、丸々3ヶ月位の場所」

 

「人が住んでいない魔境ではないですか!?いえ、それよりもそんな距離を一体どうやって移動しているのですか」

 

「魔力でマーキングした場所か、見えている範囲に転移する魔法があるから。あとは、走って開拓中ですね。災害級の上位種らしき魔物も見かけましたから」

 

「災害級の上位種ですか?」

 

「双頭の獅子とか、天を掛ける虎ですね。あれらは別格ですね。成人までには超えたいですけど」

 

あの2頭はまさに王者の風格を持っていた。何より、他の魔物にはない理性を感じられた。下位種である獅子や虎を狩っても、お互いは狩らず、僕を視認しながら襲いかかることはせず、倒せるものなら倒してみろと言わんばかりでした。あの2頭を超えて初めて、マスターを名乗れるだけの強さを得たと堂々と言えるはず。

 

「何故そこまで力を求められるのですか」

 

「それは、それは、なんでだろう?」

 

トムさんに言われて考える。何故、力を求めるのか。魔境に居る魔物が人類が済んでいる所に来ることはほぼありえない。距離が遠すぎるからね。だから、外的要因ではない。内的要因、まあ、憧れだろう。ジェダイとシスの戦いに魅せられた。それが一番の理由なんだろう。子供が将来の夢に仮面ライダーとか言うのと一緒だ。それを成せるだけの力を手にしてしまったのなら目指すしか、うん?つまりオレは燥いでいる子供ということか。

 

「だからこその社会勉強か」

 

「出来れば常識を覚えて頂ければと思います。ええ、本当に。もう一生分を驚いたと思いたいですから」

 

う〜む、不安になってきた。

 

 

 

 

 

 

王都に着いて数日、トムさんの薦めもあって自由に王都を散策している。最初は魔道具店などを見て回っていたのだが、大した物は置いていなかったので3軒ほど回った所で興味がなくなった。正確に言えば興味が惹かれるものがあっても、それが馬の疲労を軽減させる物だったりとオレにとっては意味のないものばかりだったからと言うのが正しい。

 

トムさんが漢字を欲しがるはずだ。文字数制限が魔道具の値段を跳ね上げさせている。『冷蔵』をこちらの世界の言語に置き換えると9文字必要になるから。そうなると値段の桁が2つは上る。

 

昨日は魔物ハンターのギルドも見学してみたが、チンピラみたいなのが多かった。依頼表も確認したが、雑魚でも結構な金額に設定されている。猪の魔物でも4人家族が半月は食べていける額が付いている。これを3〜5人で狩るとして、全員が独身男で宿暮らしとすると、かなりきつい。なるほど、一部を除いてチンピラにしかならないな。がっかりしてギルドから帰る頃には、背後でチンピラ共が山となっている。

 

諦めて食料品店で色々な調味料や変わった食材の調達がメインになっている。それもそろそろ終わりそうだ。お金は王都に来る途中で狩った猪の魔物の分が丸々残っている。暇なので爺ちゃんと婆ちゃんの若い頃の魔人討伐の劇でも見に行こうかと焼き鳥の包みを片手に劇場へと向かう。

 

「私の帽子返してよ!!」

 

テンプレとでも言えば良いのか、3人の男の子が白いワンピースを着た女の子の帽子をパスしあって遊んでいる。面倒事は好きではないけど、見過ごすのも気分が悪い。オレの方を向いていた子が暴投したように見せかけて念動で帽子を引き寄せる。引き寄せた帽子を適当なフォームで投げて、念動で女の子に被せる。

 

そこで話が済めば良かったのに、リーダー格っぽい男の子が何故か女の子に殴りかかろうとする。行儀が悪いが、焼鳥の串を咥えた状態で念動と肉体強化の合わせ技で女の子の前まで跳び、型もあったものじゃないパンチをそのまま家の壁に反らしてやる。

 

痛みに蹲ろうとしていた所を足払いと顎への掌底に念動で綺麗に縦に一回転させてやる。背中にかばっている女の子は殴られると思ってしゃがんでいたから見えていないだろうが、残りの男の子たちはばっちりと目撃しただろう。リーダー格の男の子は目を回していて何が起こったのか分かっていない。近くに居た男の子に焼き鳥が入った包みを投げ渡す。

 

「くれてやるから帰れ。まだちょっかいを出すっていうのなら、同じ目にあってみるか?」

 

高速で首を横に振る二人に手で追い払う仕草をするとリーダー格の男の子を引きずりながら走って逃げ出した。

 

「大丈夫だった?」

 

後ろを確認してみるとしゃがんだ状態でオレの顔を見上げている。ふむ、ここ数日で見た範囲では可愛い部類に入る顔をしている。ということは子供特有の気になる女の子にちょっかいを出しちゃうって奴だな。そんなことをしてもモテナイんだけどね。恥ずかしかろうと素直に好意を示した方がモテるぞ。まあ、お互いに素直じゃないと成立しないんだろうけどね。

 

「あ、ありがとう」

 

「いつもあんな感じなの?」

 

手を差し出して引っ張り起こしながら尋ねる。

 

「同じ学校で、仲は良くないの。私の友達に嫌がらせをしていて、それを周りの皆で守ったりしてたら」

 

「ターゲットを変えたと。ああいうのはどこまでも付け上がるからな。一回締め上げるしかないな」

 

何とかしてやりたいが、良い方法が思いつかない。そもそも10日しか使える時間がないのが問題だ。さすがに殺すのは駄目だよな。

 

「大丈夫。もうこんなことにはならないように頑張るから」

 

ああ、この娘は強いんだな。ちょっとだけお節介をしよう。

 

「なら、一個だけ、単純だけど可能性に満ち溢れている魔法を教えてあげる」

 

「どういうこと?」

 

「本当に単純な魔法で見た目も地味。だけど、なんだって出来る魔法さ。人の体の中で最も自由に動かせるのは何処だか分かる?」

 

女の子が身体を軽く動かして確認してから答える。

 

「手?」

 

「そう。この魔法は見えない手を自由に扱う魔法だ。単純で弱いように聞こえるけど、作り出す手は自分の手じゃない。君よりオレの手の方が強いし、オレより大人の方が強いし大きい、お話に出てくるような巨人の手や動物の手、様々な手がある。大事なのはイメージだ」

 

財布を地面において、女の子を後ろから抱きしめるように腕を取る。

 

「ちょっと!?」

 

「集中して」

 

照れているようだが、我慢してもらう。集中できた所で念動に必要なイメージを伝える。

 

「魔力を右手に集まるイメージ」

「そこから魔力が手の形になるようにイメージ。魔力を水に例えて、手を入れた時に纏わりつくイメージだ」

「水の手が遠くまで少しずつ離れていく。それが財布の傍まで伸びる」

「財布を持ち上げるために握りしめる。だけど水は崩れない。まるで氷のように固まっている」

「掌の部分は凍っているけど、腕の部分は問題なく動く。持ち上げて手元に引き寄せる」

「氷が溶けて水となって形が崩れる」

 

耳元で指示を出すだけで一切補助を行っていなかったのだが、まさか一発で成功するのは予想外だった。

 

「今のが基本的なイメージだ。掴みたい物や、何をしたいのかでイメージを変える。これを毎日続ければこんな事も出来るようになる」

 

後ろから抱きしめている状態からお姫様抱っこで抱え、念動と肉体強化で空へと駆け上がる。

 

「巨人が空へと手をかざして、その掌に立っている。そうすればこんな景色が見えてくる」

 

この世界では空を飛ぶための魔法は存在しない。気球のような科学の力での飛行も出来ない。だから、この光景を見たのはオレと、この娘だけだ。眼下に広がる広大な景色を独り占め、いや、二人占め出来るのは印象深いものだろう。

 

「うわぁ〜〜、凄い、広い」

 

「そうだろう。世界は広い。王都も大きいけど、世界から見ればちっぽけなものだ。それを知ってるのは大人の一部だけだし、こんな光景を見たのはオレと君だけだ」

 

「私だけ?」

 

「さっき教えた魔法は単純だ。見た目にも分からないから皆使わない。使わないとこんなことが出来るようにならない。だからオレと君しか見たことがないはずさ。皆、炎や水を使うのが多いからね」

 

「勿体無いね」

 

「ああ、勿体無いさ。だから、君も何時かこの光景を自由に見れるようになれるといいな」

 

「うん。それと助けてくれてありがとう。私の名前はマリアって言うの」

 

「オレはシンだ。普段はあっちの方の山奥に爺ちゃんと二人で住んでいる。しばらくは王都にいるけど、それも10日程だけだ。次に来れるのは速くても半年後だろうな」

 

「そうなんだ」

 

ちょっと落ち込み気味にマリアが答える。面倒を見てもらっている手前、あまり我儘は言えない。成人して家を出たとならともかく、お金の稼ぎ方も知らない子供では無理だ。常識も大分怪しいのが既に判明しているから余計にだ。

 

「まっ、基本的にこっちにいる間は暇なことの方が多い。今日も暇でな、王都に来たのも初めてだから何処か案内してくれるか?」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

受け取った地図ではここらしいが、デカイ屋敷だな。とりあえず確認するか。門の前に居る門番に声をかける。

 

「失礼、こちらはミッシェル・コーリング様のお屋敷で間違いないでしょうか?」

 

「そうだが、何か用か坊主?」

 

「ミッシェル様に招待を受けまして。こちらがその招待状です。確認をお願いできますでしょうか?」

 

地図と共に送られてきた招待状を手渡す。

 

「ああ、君が。話は通っているから建物の右側から裏に回って。ミッシェル様もすぐに向かわれるはず「ああ!!やっと見つけた!!」お下がりを」

 

門番がオレをかばうように後ろから声をかけた男の前に立つ。

 

「あっ、いや、別に怪しい者じゃないんだ。ただ、そっちの子に昨日使っていた魔法を教えてもらいたくてだな」

 

「ああ、昨日の子供達の喧騒を遠目に見ているだけで動こうともしていなかった宮廷魔法師団のお兄さんですか」

 

「まあ、間違っちゃいないけど、そんなに否定的に言わないでくれよ。さすがに気になる女の子にちょっかいを掛けてる男の子達の間に大人が止めるのはちょっと大人げないだろう。怪我をさせるようなことになりそうなら割って入るつもりで遠巻きに見てたんだよ」

 

「つまり子供なら心に傷を負っても問題ないと」

 

「そんなことはないけど、アレぐらいなら普通に見られることだから。坊主だってそうだろう?」

 

「残念ながらオレは普段は爺ちゃんと二人で山奥に住んでいるもので」

 

そう答えると今度は門番の人達からも不思議な者を見る目で見られる。

 

「あの、ミッシェル様とはどういったご関係で?」

 

「よく尋ねられて武術を教えていただいています」

 

「えっ、ここって元騎士団総長のミッシェル・コーリング様の屋敷だったのか?えっ、坊主、あんな魔法が使えるのに?」

 

「またその質問ですか。宮廷魔法師団ですらこの有様とは。あれは見えない手を操る魔法です。使い方は人それぞれ。簡単な魔法ですよ」

 

そう言ってから宮廷魔法師団のお兄さんを念動で持ち上げて左右に動かしてから降ろす。

 

「正確な力加減とイメージで攻撃、防御、移動補助、何でもこなせるようになります。ミッシェルさんもある程度は使いこなしますよ」

 

それほど魔力を使わない魔法の所為で考えられないほどのパワーと安定性を手に入れたミッシェルさんに勝つには殺し合いにまで持っていかなければならない。殺すだけなら簡単だが、ライトセイバー戦では絶対に勝てないだろう。負けもしないが、勝てもしない。体格の差が恨めしい。

 

鍛えてはいるけど、がっしりした筋肉が付かずに、しなやかな筋肉しか付かない。俗に言う細マッチョなのだ。ある程度の体格が有った方がアタロ以外では良いのだが、現実は厳しい。

 

「おう、シン。何をやっているんだ」

 

「ミッシェルさん、お久しぶりです。こちらの方が念動を教えろとうるさくてですね」

 

「ふむ、時間も勿体無いしそいつも連れてこい。最低限の基礎は教えたんだろう?あとは見て感じて覚えさせろ」

 

「そういうものですか?それと、後ろの方は?」

 

「おぅ、近衛騎士団の新任の中からライトセイバーが合ってそうな奴を引っ張ってきた。念動も最低限仕込んだからな、まずは見取り稽古でもと思っている」

 

「つまりライトセイバーを寄越せと?」

 

「そうなるな」

 

「特注品で時間がかかるんですから簡単に言わないで下さいよ。ええっと」

 

「クリスティーナよ。クリスで構わないわよ」

 

「シンです。それとこれがライトセイバーです。初期型なんで長さなんかは調整出来ません。使い方は?」

 

「少しだけミッシェル様に使わせてもらったからな」

 

「グリップの太さは自分で調整して下さい。子供の手に合うように大分細いですから」

 

予備として持ってきていた初期型のライトセイバーをベルトから外して差し出す。

 

「本当に細いな。これでは事故を起こしそうだ。グリップ部分はどう太くすればいい?」

 

「革を何重にも巻くのが一番です。滑り止めにもなりますから。色々試してエイ革が一番でしたけど生憎使い切りましてね」

 

エイ革は自分で確保できないので在庫がないのだ。あと、鞣してない災害級の皮はかなり微妙だ。

 

「そっちのお前は?」

 

「宮廷魔法師団のジークフリートです。ジークで構いません」

 

「お前も来ればいい。シン、多少本気でやるぞ」

 

「えっ?二人も見ているのにですか?」

 

「トムから聞いているが、大分手加減をしているようだな」

 

「いや、まあ、そうですが。剣技の腕はミッシェルさんの方が上ですよ」

 

「だからこそ多少本気でやれと言っているのだ」

 

「……あ〜、分かった。殺すようなことはせずにちょっとずつ本気を出します。耐えられなくなったら言って下さいよ」

 

裏庭に移動してお互いにライトセイバーを構える。ミッシェルさんはマカシにオレはアタロに構える。お互いに合図もなく切り合いが始まる。いつもどおりの肉体強化と念動から少しずつ精度を上げていく。

 

最初は楽しそうにしていたミッシェルさんが次第に焦り始め、防戦一方になり、とうとう右腕を焼き切られる。

 

「「ミッシェル様!?」」

 

ジークさんとクリスさんが慌ててミッシェルさんに駆け寄る。

 

「あ〜あ、無理なら無理って言わないから」

 

切り落とした瞬間に念動で浮かしておいたミッシェルさんの腕を持って近づく。

 

「くっつけるから動かないで」

 

切り口を見ながら腕を綺麗に合わせ、時間の巻き戻しによる再生を行う。焼き切るライトセイバーはこの方法でしか治療ができないのだ。というか、腕をくっつけたりするのも本当に一握りらしい。

 

「動かして違和感はありますか?」

 

「少し痺れがあるが、問題ないだろうな。今ので何割だ?」

 

「5割に届かないぐらい。念動は縛りありです」

 

「そこまでの差が着いていたか。小さい頃から磨けば光ると思っていたが、ここまでだったとはな」

 

「まあ、獅子とか虎が普段の遊び相手ですから」

 

「……それは災害級のことを言っているのかしら?」

 

「いや、災害級じゃなくても遊び相手って」

 

「毛皮ありますよ」

 

収納から一番きれいに狩れた獅子の毛皮を取り出してみせる。

 

「この圧倒的な存在感、まさしく災害級だな」

 

「ただの毛皮でこんな!?」

 

「傷が全然見当たらねぇ!?」

 

三人が驚いてるが、腐るほど余ってるんだよな。

 

「ミッシェルさん、いります?」

 

「いらん。王族ですら持っていないようなものを軽く扱うな」

 

「いや、欲しかったら幾らでも持ってきますよ。綺麗に殺すのは多少面倒なだけですから」

 

「……どう面倒なんだ?」

 

「普通に殺すだけなら踏み込んでライトセイバーを振るうだけ。綺麗に殺すのなら念動で動きを止めてから殺すだけですからね」

 

「お前は常識を覚えに来たのではなかったのか?」

 

「常識と言われても。オレにとっては普通のことですし」

 

「ジーク、お前シンに常識を教えてやれ。兄貴分として扱ってやればいい」

 

そんなわけで二人して追い出されてしまった。

 

「どうするよ?」

 

「常識と言われてもねぇ。基本的に山奥で暮らしてるからそんなのあるわけないのに。金銭感覚も外れてるから」

 

「災害級を遊び相手とか言えるんだ、金に困ることはないだろうな。そこら辺も教えてやるよ」

 

ジークに連れられて色々と説明を受けながら王都を観光する。常識を学びながらちょっと悪い大人の遊びにも連れて行かれる。常識を教えてもらう代わりに奢ってやると財布を見せれば酒場に連れて行かれた。それも店の女性と同席しながら酒を飲んだりする酒場に。

 

「ジーク兄ちゃん、オレまだ10歳なんだけど」

 

親戚の子と言う設定のためにジーク兄ちゃんと呼んでいるが、年下の財布でこんな所に連れてくる奴を信用出来ないわ。

 

「10歳にしては精神的に老成しすぎなんだよ。ちょっとぐらい羽目を外せよ。酒も飲め飲め。今日ぐらいは目を瞑ってやるから」

 

「はぁ、見習いたくないわ」

 

懐から王都で貴重だと知った薬草で作った葉巻を取り出して火をつける。さすがに人目がある所で吸う訳にはいかないから我慢していたのだ。あと5年ほどで成人で、それからなら堂々と吸えるんだけどね。

 

「見逃すといったらすぐに葉巻が出てくる時点で悪ガキを通り越してやがるな」

 

「煙草の葉じゃなくてモルラの葉で作ったから、むしろ健康に良いよ」

 

「なんでそんな貴重な薬草を葉巻にしてるんだよ!!その量だと一般の4人家族が1週間は食えるだろうが」

 

「群生地を知ってるから。一本どう?」

 

ジーク兄ちゃんは頭を抱えながらも一本を手にとって火をつける。

 

「ああ、本当に健康に良いんだろうな。医療魔術をかけてもらったときみたいな感覚がする」

 

「ボロボロの身体には特に効くよ。群生地に行く度に実感してるけど」

 

「モルラが群生してるなんて聞いたことが無いな。どんなところだよ?」

 

「毒沼。近づくだけで危険な程の毒沼の近く。たぶん、毒を吸って成長してるんでしょ。たまに見られる性質だね」

 

「詳しいんだな」

 

「基本的には魔術の練習をしているか、剣術の練習をしているか、狩りをしているか、畑を耕しているか、本を読んでいるかだからね」

 

「ふぅん、ちなみに一番強力な魔法はどんなのなんだ?」

 

「名前ぐらいなら良いけど、詳細は教えないよ。使えるけど使いたくないから」

 

「コントロールが難しいのか?」

 

「いいや、そんなこともないけど気分的に使いたくない魔法、魔法群だね」

 

「魔法群?」

 

「系統が似ている、簡単に言ったら同じ属性の魔法。炎が得意とか風が得意とかってあるでしょ?それと同じでオレのオリジナル属性『オーバーロード』が一番強力で使いやすくて使いたくない魔法」

 

本当にこいつだけは使う機会がないことを祈ってるよ。使いやすい理由も分かってる。オレが転生者だからだ。あと、シスの暗黒卿も転生を繰り返してるからイメージし易いのが原因だ。まあ、塩漬けにしてればいいだろう。『オーバーロード』だけにな。

 

 

 




久しぶりの更新です。
賢者の孫は初期から読んでますけど、あのストーリーの薄さでよくアニメ化しようと思ったなと感心してます。
漫画版は無意味にパンチラが多いですし、個人的にはあまり期待はしてないです。むしろ、ナイツマ2期希望。


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この素晴らしい錬金術で祝福を! 3

超スランプ!!
嫌になるぐらい指が動かない。動いたとしてもこの程度しか書けない。
すまぬ、待っていてくれた人には申し訳ないが、この程度で限界なんです。


 

 

めぐみんはカズマ君達と共にジャイアント・トードの討伐と素材採取に出向き、アトリエではオレとクリスが錬金を行っている。

 

「むっ、色々な素材の在庫が無くなったな。これでは今週のビックリドッキリアイテムが作れんな」

 

「いや、毎週のように神器級のアイテムを作られても困るんだけど」

 

クリスがげんなりしながらも釜の中身を混ぜる手は一定の速度で動き続ける。

 

「そう言われてもな。腕を鈍らせるわけにもいかないし、師匠に比べればまだまともだぜ。あの人は、オレより腕があって自由人だったから。周りの迷惑なんて関係無しで、死人までは出していないのと、人の死体を使ったりはしないぐらいの分別しか無かったからな」

 

「それは、ひどいね」

 

「地味に錬金術抜きでも英雄クラスの能力を持った変人だったからな、師匠は。その尻拭いばかりやってたのがオレと妹弟子だ。オレは師匠を追いかけ回して騒ぎを起こす暇を与えず、その間に国からの指名依頼を妹弟子が片付ける。たまにレシピや素材を届けたりはしてたが、基本は師匠を追いかけて世界中を駆けずり回ってたからな」

 

あの地獄の追いかけっこは二度としたくない。最後はお互い意地になってドーピングの多用で丸々一年不眠不休で走り続けたりした」

 

「一年間不眠不休って、何をやっているのよ」

 

「言葉に出てたか?まあ、素で一ヶ月ぶっ続けで錬金をすることもあるからな。疲労も全部アイテムで回復しながらどっちが先に在庫がなくなるかのチキンレースだよ。むしろ、その後の在庫の補充が大変だった」

 

ゲームで言うロロナのアトリエとトトリのアトリエの間の空白期の半分は在庫補充のための錬金と残りの半分の半分は素材集めだったからな。

 

「さてと、これから錬金に使える変わったアイテムを買いに行くけど、着いてくるか?」

 

「面白そうだし着いていこうかな。でも、これを詰めるからちょっとだけ待って」

 

こっちの世界のポーションを容器に詰めているクリスの横で品質チェックのためにモノクルをかける。ほう、市販品のアレンジか。中々質がいいな。それでも中級下位程度か。それでも結構な値段がしたような気がする。

 

ふむ、需要があるのかもしれないな。少しマーケティングを行う必要があるかな。コルネルたちにも聞いてみるか。

 

ポーションを詰め終わったクリスと共にウィズの店に行く。ウィズはオレと同じで売る商品を間違えている商人だ。オレは個人店でやるには不適切な初心者用の物を、ウィズは逆に超高性能かつ値段も超がつくほど高い物や不良品と言って良いような、そのまま使うには問題しかないアイテムを自信満々に並べている女性だ。正直言えば、仕入れルートを紹介して貰いたいぐらいに変なアイテムを仕入れている。無論、客はオレぐらいしか居ない。

 

店の扉を開けるとポーション瓶が飛んできた。躱した所で中身が爆裂ポーションだと気付いて慌ててクリスを抱きかかえるように押し倒してコートの中に避難させる。同時に爆裂ポーションが道に落ちて大爆発を起こす。

 

「無事か、クリス」

 

「今のって爆裂ポーションだよね」

 

「ドジっ娘店長がころんだ拍子に手放して飛んできたんだろうな。変なアイテムが多いから迂闊に触れるなよ」

 

店から他に危険物が飛んでこないのを確認してから立ち上がり店に入る。

 

「ウィズ!!アイテムを扱う時は注意しろとあれほど言っただろう!!」

 

「ごめんなさ〜い」

 

ころんだままの体勢でウィズが謝ってくるが、周囲や背中にもアイテムが落ちていて迂闊に動けないようだ。アイテムを回収してやろうとしたところで、背後でクリスの気配がエリスに変わったのを感じる。そして魔力が高まる。慌ててコートをウィズに被らせる。

 

「セイクリッド・ターンアンデッド!!」

 

「いきなり上級魔法だと!?」

 

コートの特殊機能を発動させて外界の影響を完全にカットしてウィズを守ってからエリスに飛びかかる。

 

「いきなり何をしてるんだ!!」

 

「放して下さい!!こんな街中にリッチーが居るなんて!!私が浄化します!!」

 

「落ち着け馬鹿!!ウィズは不可抗力でリッチーになった存在で魔王軍より人間よりの存在だ!!」

 

「それでも死者がこの世にいるのは許されないことです!!」

 

「それを言い出すとオレとか他の転生者も許されない存在だし、それを作ってるのはエリス達だろうが!!」

 

そう言うとエリスが一瞬だけ止まるが再び振りほどこうとする。

 

「それはそれ、これはこれです!!」

 

「ええい、このポンコツ女神2号が!!ウィズ、とにかく一旦逃げろ!!そのコートは手放すなよ!!素でも全属性70%カットが付いてるからな!!オレが探し出すまで逃げ続けろ!!」

 

ちなみにポンコツ女神1号はアクアだ。すでにカズマ君に借金をしている状況だからな。しかも酒の飲み過ぎで。呆れて物が言えなかった。ウィズが何度も頭を下げながら裏口から飛び出していく。

 

「放して下さい師匠、あのリッチーを殺せない!!」

 

「ウィズを殺されると面倒なんで却下!!落ち着ぐえ!!」

 

暴れていたエリスの手が棚に当たり、何らかのポーション瓶がオレの頭に直撃して煙が広がる。なんとなぁく、そう、本当になんとなぁく嗅いだ覚えのある匂いが何だったか考えようとして、気づくとエリスを押し倒してやっていた。結構な回数をやったのかドロッドロのグッチャグチャになっている。視界の端にサキュバスの店で使う精力剤の瓶が転がっている。

 

ああ、なるほど。(トトリ)に盛られた薬と同じ物か。エリスも呼吸を整えながら、周りを見渡し始める。エリスも薬の効果下にあったのか、意識と記憶が飛んでいたのだろう。

 

さて、どうするか。何かあれば責任を取るのは確定として、とりあえず今はやる。意識は戻ってきたとは言え、まだ両方の薬の影響下で思考がまともに働かないという言い訳が存在している。そんな言い訳を使いたくなるぐらいにエリスが凄い。胸の大きさを気にする必要なんて全く無い。いつも相手をしてもらっているサキュバスリーダーを超えていると断言できる。

 

「あの」

 

まずい、止めてくれと言われれば止めてしまいそうになる。口をふさごうとして、エリスの目を見て止める。オレの判断が正しければ次の言葉は聞かなければ、いや、聞きたい。

 

「……もっとして、ほしっ!?」

 

最後まで我慢できずに再び動き出す。お互いに満足するまで回復アイテムを使いまくってやりまくった。

 

完全に落ち着いて惨状を見て、これからのことを考えようとしてやめる。腹をくくってしまえば、開き直ってしまえばオレもアストリッド流の超一流錬金術師だ。責任は取るし、代償が必要ならなんだって払おう。ただし、エリスはオレのものにする。誰にも渡さん。

 

とりあえず、風邪を引かないようにエリスを綺麗にしてから服を着せてぷにぷにと同じ硬さのソファーをポーチから取り出して居住スペースの方に設置してエリスを寝かせる。ついでにちむのぬいぐるみも持たせてみる。うむ、かわいい。タオルケットをかければ問題ないな。

 

それから割れた商品や色々な汚れを掃除して綺麗に復元してから被害額を算出する。地味に高いものばかりが壊れているが、お菓子工房の半月分の売上で十分払いきれる額でもあったので一括でカウンターに乗せておく。

 

あとは、対神装備の準備をするか。いや、待てよ。確か魔王をぶっ殺せばどんな願いでも叶えてくれるんじゃなかったっけ?ということは合法的にエリスをオレのものに出来るのか。今ここにいるエリスはクリスが神降ろしをしているような状態だからな。あのぶっ壊れアイテムを錬金して殴り込みに行くか。

 

レシピがうろ覚えだし、材料も向こうでしか手に入らない物もあるからアレンジの必要もある。面倒だな。なくてもエリキシル剤をデュプリケイトして爆裂魔法を連発、駄目だな。確か魔王城は結構な広さがあったな。先に腹を下しそうだ。1回で仕留め切らないと逃げ続けられそうだからな。う〜む、情報が足りないな。素材も足りない。秘境や魔窟まで足を伸ばしたいが時間がかかる。くっ、高速移動術を何とか開発するしかないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

殆ど無くなってしまった回復アイテムを補充するために大型の釜をかき混ぜていると、めぐみんが帰ってきた。

 

「師匠、クリスがポンコツと化してしるんですけど、心当たりは?」

 

「うむ、ありまくる。耳を貸せ」

 

めぐみんの耳元で先日ウィズの店で起こったことを詳細に語ってやる。媚薬の効果で半日ぶっ続けでやっていたことが判明した。その後、ウィズの店を元に戻しても起きなかったエリスを抱きしめながらオレもソファーに体を預けて眠った。

 

顔の辺りに気配を感じて起きればクリスがオレにキスをしようとしていたので、こちらから仕返して第2シーズン(ラウンドや試合数で数えるには不適格なため)を開始した。今度はちゃんと用法用量を守って媚薬を使ったのでイチャラブで済んだ。

 

済んだのだが、クリスとエリスは同一の存在と言っても過言ではないが、完全に同一というわけではない。つまりクリスに嫉妬したエリスが入れ替わり、またエリスに嫉妬したクリスが入れ替わり以下ループ。虎の子の回復アイテム(時を巻き戻して身体を最も体調のいい状態に戻す)以外ほとんど使い切り見事に第2シーズン(クリスとエリスが入れ替わるタイミングを1試合として37試合、エリス達がいった回数=ラウンド数として総ラウンド数109ラウンド)を勝ち抜いた。

 

クリスとエリスに関しては二重人格みたいなものと誤魔化し、それ以外は克明に説明してやるとめぐみんがゆでダコのように茹だってしまった。お子様には早かったようだ。

 

ちなみに2シーズン頑張ってボロボロになったオレの身体だが、エリキシル剤ですぐに回復できたので翌日から回復アイテムの量産に走っているのだ。クリスも回復はしているのだが、第2シーズンから復帰後は顔を真赤にして行方をくらませてしまった。

 

めぐみんやカズマ君が言うには教会で熱心に祈りを捧げようとして何かを思い出してオーバーヒートしたり、酒場でやけ酒のように煽った後にあまり人様に見せられないような蕩けきった顔を晒しているようだ。黄色い置物のようで近づけなかったとカズマ君は言っていた。

 

とりあえず、この錬金が終われば探しに行って責任を取るとしよう。正確には責任を取るからオレのもの、ごほん、結婚してくれと、待てよ、これはプロポーズなのではないか?えっと、確かエリス教だと多夫多妻でもそこに愛があればOKだったはずだから二人共まとめて娶るのは問題ないな。

 

錬金を終えてポーチを漁る。プロポーズに使えそうな指輪は、ええっと、エリスには聖属性+200%upと魔法効果領域倍加と魔力消費量半減が付いた指輪で、クリスには幸運+300%upと敏捷+150%の指輪がいいかな。デザインも凝った物だし、問題なさそうだな。箱はオークションに使う時の指輪入れがあるからそれに入れておく。

 

クリスを探しに行こうと軽く装備を整えた所でギルドからの非常呼集がかかる。時期的にはキャベツだろうと当たりをつけてめぐみんを自転車の荷台のチャイルドシートに乗せてギルドに向かう。

 

「お〜い、カズマ君」

 

「ユキトさん、お久しぶりですって、ママチャリ?」

 

「街中ならそこそこ使えるぞ。外だとマウンテンバイクが必要にになるがな。ママチャリなら2万エリス、マウンテンバイクなら5万エリスだ」

 

「あると楽に、いや、持ち運べるものを考えると微妙か」

 

「カゴも売ってやろうか?」

 

「カゴってめぐみんが使ってるあのカゴ?」

 

「アレと同じ物は売れないが、容量10個のカゴを大特価、100万エリスで売ろう」

 

「高っ!!」

 

「よく考えろ、質量体積を完全に無視して10個も入るような手持ちサイズのカゴが100万だぞ」

 

「そう言われると安い。でも、そこまで手持ちが」

 

「それを解消できそうなのが今回の招集だ」

 

そんな話をカズマ君としているとルナさんがキャベツの襲来と買取価格を大声で宣言する。

 

「この世界のキャベツは空をとぶんですか!?」

 

「サンマは畑に生えてるぞ」

 

「知ってるよ!!」

 

「この世界はそんな物だ!!諦めろ!!アーランドも栗は海に落ちてるし、うには木になっているからな」

 

「逆でしょう普通!!」

 

「諦めろ。オレは諦めた」

 

最終的にはどっちも武器なんだからな。中身は錬金術師が美味しくいただきました。醤油の錬金が死ぬほど面倒だったから、普通に醸造してたのは良い思い出だ。なお、日本酒は師匠にくすねられるので作らなかった。

 

「とにかくキャベツ狩りに行くぞ。ロールキャベツにすると肉に負けないぐらいしっかりとしたキャベツが美味いんだよ。1玉1万エリスもするからな。神界の野菜には劣るが好きなんだよな」

 

「深海?」

 

「師匠が面白そうなものを見つけたとか言って古代の遺跡の装置を動かしたら神界へのゲートだったみたいでな。ちょうど他の場所から乗り込んできていたグンナルとか言う男と意気投合して暴れるのを何とか抑える際に幾つか天界では貴重な素材と交換で貰ったんだよ。あれは美味かった。師匠も美味かったからと度々襲撃をかけていたけどな」

 

「最悪な人ですね!!」

 

「人としては終わっていても錬金術師としては並び立つ者が居ない人だからな。錬金術の腕だけは尊敬できるよ」

 

本当に錬金術の腕だけは尊敬できるんだよ。チートで才能が上がった今ですら追いつけるかどうかといった所だ。

 

「師匠、速く行かないでいいんですか?」

 

「そうだな。そろそろダウンしてる奴らが増えている頃だろう。オレは一番最後まで手を出すつもりはないからな」

 

ママチャリをこいで街の外を目指す。カズマ君も横を走って着いてこれている。着実にレベルを上げているみたいだな。外に出てみればちょうど群れの本隊が到着しようとする頃だった。他の奴らは半分ぐらいが沈んでいた。収穫されたキャベツはアクアが水を生み出して冷やしている。いつの間にか居なくなっていたと思ったらそんな仕事にありついていたのか。

 

現場に到着すると同時にめぐみんがクラフトを片手に突っ込んでいき、カズマ君は他の冒険者がどのように確保しているのかを見てから自分で考えて効率良くキャベツを確保していく。黄色い置物がキャベツの体当たりをまともに受けて喜んでいる姿が見えた気がするが気の所為にしておく。クリスの姿は見えないな。一体何処に居るのやら。

 

しばらく傍観し、逃げ出したキャベツを見送る冒険者たちを尻目に魔法を発動させる。

 

「ショックウェーブ」

 

威力を押さえ、追加の麻痺効果でキャベツを撃ち落としてちむ達に回収させる。

 

「凄いんですね、ユキトさん」

 

「前の世界で結構使ってた魔法でな、使い勝手が良いんだよ」

 

キャベツを確保してきたちむにキャベツ1玉につきパイを1ピースずつ配っていく。ちむにはこういう使い方もあるのだよ。

 

他の冒険者達と一緒にギルドへと戻ってキャベツ料理を堪能する。

 

「うめぇ、ただのキャベツのくせに、なんでこんなにうめぇんだよ」

 

「初心者はこれだけでレベルが上がるほどだからな。カズマ君でも2玉位食べればレベルが上がるだろうな」

 

「師匠、そっちのロールキャベツを取って下さい」

 

「代わりに野菜炒めならぬキャベツ炒めをくれ」

 

「キャベツのポタージュなんて普通は考えられないのに」

 

そんな風にカズマ君とめぐみんとキャベツを食い漁っているとフード付きのローブでアクアから姿を隠したクリスがやってきた。

 

「し、ししし、師匠!!わ私に、あああ、あんなに!?せ、責任!!責任取って!!」

 

どもったり叫んだりと聞き取りづらいが要件は伝わった。懐から指輪を入れたケースを取り出して中身を見せながら差し出す。

 

「クリスもエリスも両方幸せにしてみせる。だから、結婚してくれ」

 

変に捻って変に取られるのは問題だと思い、ストレートにプロポーズしてみる。普通にしているように見せているが、結構緊張している。取り返しがつかないから余計に緊張する。周りも先程まで騒いでいたと言うのに静まり返ってオレ達を見ている。

 

クリスはクリスでこの返しは想定していなかったのか完全に硬直している。たっぷり30秒は止まっていたかと思ったら、周囲に見られているということにようやく気付いて声にならない悲鳴を上げて逃げ出してしまう。

 

「ふむ、めぐみん、今日は多分戻らんから戸締まりはしっかりしておくように。あと、好きに飲み食いしとけ。金は置いといてやる」

 

「健闘を祈っておきますよ、一応」

 

「うむ、じゃあ追いかけてくる」

 

クリスを追いかけるために片っ端からバフをかけてアクセルの街を疾走する。

 

 

 



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オーバーロード 狼牙

はぁ、金が足りない所為でこれが限界量か。お手製の品で多少ごまかしても目的は達成できないだろうな。それでも、やるしかない。やってやる。あの馬鹿だけは道連れだ。

 

身辺整理として色々な物を処分していく中、メールが届いていることに気付いた。宛名はモモンガさん?態々課金アイテムでメールを送ってきたのか?

 

「ユグドラシルがサービス終了するから集まれないか。今日で終了。あの頃は良かったな」

 

たっちさん、ちゃんとモモンガさんに事情を伝えてくれたのだろうか?ああ、ダメだ。今まで忘れていたっていうのに、一度気になりだしたら止められない。金は、何とか終了時間まで環境をレンタルできる分はあるな。明日には必要なくなるんだ。最後に会いに行こう。何人残っているか知らないが、アインズ・ウール・ゴウンの終わりを共に過ごせればいいな。

 

 

 

 

「モモンガさん、お久しぶりです」

 

「ヴァイトさん!?お久しぶりです、来てくれたんですね!!何も言われずに来られなくなったので心配してたんですよ」

 

最後に会ったときと変わらず、オーバーロードの見た目なのに柔らかい印象を与えてくれるモモンガさんに嬉し涙が出そうになる。そして、たっちさんはモモンガさんに伝えてくれなかったようだ。偶然リアルで出会えたたっちさんは既に引退していたのだが、唯一の頼みすら聞いてくれなかったか。まあ、伝えにくい内容だから仕方ない。

 

「今まですみませんでした、リアルで色々ありましてね。今日が最終日でよかった。昨日や明日だったら、無理でしたから。今日、今日だけがログインできる唯一の日でしたから」

 

苦笑のエモーションアイコンを表示させる。

 

「この5年で、何人残っていますか?」

 

「……4人です。残りの3人もほとんどログインしていなくて、へろへろさんが何とか遅くにログインしてくれるとメールで」

 

モモンガさんが悲しいアイコンを表示させる。

 

「そうですか。栄光の41人が4人まで。一応オレを含めて5人か」

 

カンストプレイヤー1500人の連合軍の撃退。あの頃が一番楽しい時期だったな。あれから少しして、少しずつ減っていったんだっけ。リアルが忙しくなったり、ギルドメンバー内で喧嘩したり、オレみたいに急にいなくなったり。

 

「モモンガさん、探検してみませんか?」

 

「探検ですか?」

 

「ええ、ナザリック地下大墳墓。攻略時にも主要部分だけを攻略しただけでしたし、拠点にしてからも色々改装はしても、全部に関わったわけじゃないでしょう?」

 

「そうですが」

 

「タブラさんが書いたフレーバーテキストを読んでみたり、色々見て回りませんか?誰かがログインしてきたらリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで転移すれば良いんですし」

 

「そうですね。探検してみましょう」

 

円卓の間から廊下に出ればプレアデスが待機している。ナザリックの第8階層が突破された時、ギルメンが玉座に集合するための時間を稼ぐためだけに存在している戦闘メイドとそれを束ねる執事長。結局一度も出番はなかったんだよな。折角たっちさんがリアルの自分を老けさせたような執事とメイド好き三人組が作り出した姉妹たちだ。最後ぐらいは仕事を与えてやりたい。動かし方がわからないのでモモンガさんに目を向ければ何かを思い出す仕草をしている。考えることは同じか。

 

「確か、付き従え」

 

プレアデス達が一礼をしてモモンガさんに付き従う。

 

「やっぱり公式非公認ラスボスなだけはありますね。その低い声とか貫禄ありすぎです」

 

「昔そんな事を言われましたね。ペロロンチーノさんに名前大勝利だって」

 

「あ〜、魔王モモンガだと確かに名前大勝利ですね」

 

「その後、ペロロンチーノさんとへろへろさんとブクブク茶釜さんとやまいこさんが四天王を結成して勇者たっちさんとの最終決戦っぽいスクショも撮りましたよ。たっちさんの正義降臨がここぞとばかりに輝いていました」

 

歩きながらスクリーンショットを探して見つけたそれを見せてくれる。確かに最終決戦で正義降臨が輝いている。

 

コピーを貰って少しだけ加工して返す。

 

「ぶっ、ユグドラシル先生の次回作にご期待下さい!って」

 

それっぽい角度だったから仕方ない。

 

「それにしてもその場に居たらオレも魔王の副官辺りで参加したかったな」

 

「魔王に四天王までいるのにまだ魔王側を増やすんですか?」

 

「獣形態だとデカくて黒い狼、獣人形態だと普通の人間種よりデカイ人狼、人間形態だとパッとしない男だぞ。オレにトルネコになれというのか」

 

「トルネコ?ええっと、ああ、ドラクエの昔のキャラクターでしたっけ。確か太った商人だった気がしますけど」

 

「それそれ。武器屋のアルバイトの分際で妻子持ちだぞ。しかも奥さんは美人。殺したくなる」

 

「本当にそうですね。せめて定職についていないと」

 

「設定上は恋愛結婚、あんな甲斐性無しのデブが!!失礼、少し取り乱しました」

 

「いえ、確かにリアルで見比べれば最低ですからお怒りはごもっともです」

 

恥ずかしい所を見せてしまったな。魔法使いなせいで余計にトルネコのことが嫌いになった。モモンガさんも魔法使いなのか、言葉の端にトルネコに対しての怒りが見え隠れしていた。それを忘れるかのように二人でナザリックを歩き回り、色々細かい所まで設定したことを振り返りながら楽しんだ。バーや食堂どころか大浴場やカラオケボックスなどナザリックらしくない物まで色々作ったことに感心した。

 

ほんの少しだけだがへろへろさんにも会うことが出来た。最後にまた何処かで、出来ればユグドラシル2で会えれば嬉しいと言っていたけど、その約束をオレは果たせそうにない。サービス終了まで残り10分を切った所で会話が止まる。ちょうどいい、最後に付き合ってもらおう。

 

「モモンガさん、最後にちょっとしたロールプレイに付き合ってもらえませんか?」

 

「良いですよ、どんなシチュエーションなんですか?」

 

「四天王は既に打ち破られ、魔王城直前まで勇者たちが迫っている状況で時間稼ぎのために最後の出撃を行う。そんな感じでお願いします」

 

「じゃあ、玉座に行きましょうか」

 

「ああ、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンも持っていきましょう。その方が雰囲気が出ますし、何より完成してから一度も触れてすら居ないのでしょう?最後なんですし、それも持っていきましょう。皆も許してくれますよ」

 

「……そうですね」

 

プレアデスや階層守護者達も引き連れて玉座へと移動する。何故かアルベドがワールドアイテムを装備しているが、それもいいだろう。残りは5分もないのだ。モモンガさんも苦笑しながら玉座に座り、全員を控えさせる。オレもフル装備で人狼形態でロールプレイを始める。

 

「偉大なる死の支配者様、私の最後の我儘を、私の全てを掛けた戦いをお許しくださりありがとうございます」

 

「友よ、本当に良いのだな。ここに残り、我らと共に戦う道もあるのだぞ」

 

「ええ、そうでしょう。ですから我儘なのです。どうしても、私は自分の手で復讐を成し遂げたいのです。乱戦になってしまえば奴は後ろに隠れてしまう。油断している所を強襲するしか道は無いのです。そして、最後の別れです。復讐を成し遂げても、道半ばで倒れても、私の命は無いでしょう。偉大なる死の支配者であるモモンガ様ですら復活すらさせることの出来ない完全なる消滅を迎えることになる私をお許し下さい」

 

「全てを覚悟した上か。ならば私から言うことは2つ、目的を達してみせよ!!道半ばで倒れることは許さん!!魔王の副官が飾りではないということを見せつけてこい!!」

 

時間は23:59:50。最後はあれで締めくくり、リアルで最後の戦いに挑もう。

 

「「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!」」

 

ああ、本当に来てよかった。目を閉じて終りが来るのを待つ。不意に、嗅いだことのない色々な匂いが鼻につく。火事か何かが起こったのかと目を開けてみてもナザリックの玉座のままだった。おかしい。既に日付は変わったはず。いや、ユグドラシルなのに匂いを感じる?嗅覚と味覚は法律で禁止されているために実装は絶対に不可能だ。

 

「無礼を承知の上で失礼します。何卒私だけでもお側に居させて下さい!!」

 

振り返ってみればメイドスキー三人組に頼んで設計してもらったオレの下位互換のような存在であるルプスレギナが一歩前に出て泣きそうな顔で訴えてきた。

 

ありえない。口元は震えているし、今にも涙がこぼれそうになっている。慌ててセバスが控えさせようとするが手振りで止めさせる。ユグドラシルでは考えられないことが発生している。ナザリックの図書館にある著作権の切れた娯楽小説の中にあったゲームの中に取り込まれるというのに近い現象が起こっているのだろう。

 

この異常事態に対応しきれていないモモンガさんはGMコールを行おうとしているのだろうけど、オレとしてはもっと手っ取り早い方法で確認する。人狼から人の姿へ変化させる。これも感覚で出来ると思ってやってみただけだ。コンソールを叩いた訳ではない。この時点でオレはここがリアルになってしまったのだと断定した。

 

とうとう涙がこぼれだしたルプスレギナを軽く抱きしめて、その唇を奪う。ユグドラシルなら即垢バンを食らう行為だが、何の問題もなくこの場にヴァイトとして存在している。唇を放してアイテムボックスからハンカチを取り出して涙を拭ってやり、そのままハンカチを持たせる。

 

「大丈夫だ、ルプスレギナ。状況が変わった。モモンガさん、任せてもらえますか?」

 

オレがルプスレギナの唇を奪うのを見ていたのか、ここがユグドラシルでは無いのかもしれないと思い始めているモモンガさんが首を縦に振る。

 

「ありがとうございます。セバス!!」

 

「はっ!!」

 

「非常事態だ!!ナーベラルを連れてナザリックの周囲1kmを調査せよ。もしこちらとコミュニケーションが取れる存在が居ればナザリックまで連れよ。ただし、抵抗するようならば殺せ!!目撃者も逃すな、行け!!」

 

「「はっ!!」」

 

セバスとナーベラルが一礼をして素早く玉座から出ていく。

 

「各階層守護者は持ち場に戻れ。警戒体制を最大まで引き上げよ。また、階層の点検も行え!!1時間後に6階層の闘技場で途中経過を報告せよ!!行け!!」

 

「「「「はっ!!」」」」

 

「プレアデスも持ち場に戻れ。ああ、ルプスレギナは一度顔を洗っておけ。行け!!」

 

「「「はっ!!」」」

 

「アルベド、総指揮を取れ。侵入者が居た場合、この玉座までには絶対に誰も近づけるな!!全力で滅せよ!!行け!!」

 

「畏まりました。護衛はどうされますか?」

 

「ここまで誰も近づけるなと言ったはずだ。護衛も捜査、迎撃に当たらせよ!!」

 

「すぐに」

 

これでモモンガさん以外玉座には居なくなった。鼻と感覚、スキルを使って確認してからロールプレイをやめる。

 

「何が起こったと思います、ヴァイトさん」

 

「ペロロンチーノさんが持ち込んでた書物データにあったゲームに取り込まれるタイプの亜種。確実に言えることはゲームじゃなくなったってことですね。嗅覚と味覚もしっかりとあります。人狼形態だと鼻も大分良いみたいです。あと、ルプスレギナは柔らかったです。モモンガさんはそこら辺どうです?」

 

「まだ理解が追いついていない所為か、何とも。その柔らかいってのは何処のことで」

 

「全部。種族的には同族だから余計に魅力的に見えるのかな?」

 

「物凄く……羨ましくもあるけどおいておきましょう」

 

「……今パッシブかアクティブスキルが発動しました?」

 

「たぶん、アンデッドの種族特性だと。感情抑制がかかったみたいです」

 

「最悪ですね。生者に対する怨念的なものは?」

 

「ないと思います。ただ、何か変わっているような気がします」

 

「それはオレも同じです。これは細かく調査、報告をしあいましょう。何か致命的な問題が見つかるかもしれない」

 

「そうですね。所で気になったんですが、変身ってどうやったんですか?」

 

「感覚的に行けそうって思ったらこの通り。たぶん、魔法なんかも使いたいと思えば、ああ、リストが思い浮かんだ」

 

「本当ですね。ここで使うと不味いですから後にしておきましょう。あとは」

 

「ギルドの操作方法でしょう」

 

「罠は、手動と魔法なんかと同じく思考で切り替えれますね。自動POPもしてます。他に確認しないといけないのは、アイテムボックスは問題ないですね」

 

「こっちもたぶん問題ないです。昨日はちらっと見ただけだから自信はないですけど」

 

「それぐらいですね」

 

「本当にそう思ってますか?」

 

「何かありましたか?」

 

「ルプスレギナの行動に疑問は感じませんでした?」

 

「行動?」

 

「オレに着いていきたいって言ったんですよ。つまり、最低でも直前のロールプレイを知っているってことですよ。つまりあなた魔王、わたし副官、ついでにアインズ・ウール・ゴウンはおいつめられてる」

 

「階層守護者達の気合の入り様はそういうことだったのか!?」

 

「と言うわけで急いでカバーストーリーを作らないと。とりあえず、残りの39人は生死不明。敵はリアルから攻め込んできたカンストより上の存在。シューティングスターが願いを叶えて世界の壁を超えた。これをベースにしようと思ってるんだけど。ちょうど1回使った流れ星の指輪(シューティングスター)が手元にあるし」

 

「あ〜、持ってたんですね流れ星の指輪(シューティングスター)

 

「アインズ・ウール・ゴウンに入る前にね。ワーウルフの三段変身を実装してもらうのに使ったんです。それに昨日ログインする前に手持ちを全部突っ込んでガチャを回して予備も手に入れました。運営も最後だからって大盤振る舞いしてたみたいで10連で神話級1個確定でしたから。上位ワンドとかもゴロゴロ手に入ったんですよ。使う機会が全く無いんでアイテムボックスに突っ込んだままですけど」

 

「よくそんな無謀なことをしましたね」

 

「ユグドラシルには色々とお世話になったから感謝の気持ちでちょっとね」

 

本当のことは言わずに、ただユグドラシルへの、ユグドラシルでの出会いに感謝の気持ちとしてガチャを回したと言う。全部が真実というわけではないが、嘘というわけでもない。感謝の気持ちはあったが、どちらかと言えば必要なくなるからという気持ちのほうが強かった。

 

それから何とかカバーストーリーを用意して、現場での伝言も交えながら即興ロールプレイで切り抜ける方針を立てた所で時間が迫っていることに気付いて時間ピッタリに転移する。

 

転移した先では6体のNPC、階層守護者達が跪いて集まっていた。

 

「うん、全員揃っているということは問題は今の所見られないということだね」

 

「はい、ヴァイト様。現在の所、各階層に大きな異常、および侵入者は確認されておりません」

 

「それは良い知らせだ。ある程度の猶予があると見ていいか」

 

「……では。略式ではありますが、至高の御方々に忠誠の儀を」

アルベドがそう言うと、守護者たちはその場に跪いたまま、乱れもない居住まいを更に正す。

 

「第一、第二、第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。御前に」

 

「第五階層守護者、コキュートス。御前ニ」

 

「第六階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラ。御前に」

 

「お、同じく第六階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ。御前に」

 

「第七階層守護者、デミウルゴス。御前に」

 

「守護者統括アルベド。御前に」

 

オレとモモンガさんがそれを見て内心で呆ける。

 

「第四階層守護者ガルガンチュア及び第八階層守護者ヴィクティムを除き、各階層守護者、御前に平伏し奉る。我等の忠義全てを、御方々に捧げることを、誓います」

 

 

『『誓います』』

 

アルベドに続き、階層守護者全員が忠誠を、混じりけのない純粋な忠誠をオレ達に捧げてくる。

 

そんな忠誠をオレに捧げないでくれ。それに相応しいのはモモンガさんだけだ。オレは、事情があったとは言え、ログインできずに、出来るようになっても昨日まで忘れ去っていたのに。

 

最後だからというだけで、誰からも忘れられて散るのが怖くて、それだけのちっぽけな存在なのだ。

 

《ヴァイトさん、自分のことをそんなに卑下しないで下さい》

 

繋げていた伝言が、モモンガさんにオレの思いを暴露してしまったようだ。

 

《一瞬のことで詳細は分からなかったですけど、ヴァイトさんが自分ではどうにもならないことで来れなかったことだけは分かりました。あとは任せて下さい》

 

そう言ってモモンガさんが声を出す。ロールプレイの時のような低い貫禄のある声を。それを聞きながら心を落ち着ける。リアルでの仕事柄すぐに落ち着いた。

 

「皆も済まなかったね。リアルの方で少しドジを踏んでね。最近まで封印されてたんだけど、何とか戻ってこれた。大分、寂しい状態になっているけど、また皆に会えて嬉しいよ。改めて確認するけど、各階層に問題はなかった?」

 

階層守護者たちが順番に報告してくれ、幾つかの罠が、特にナザリックの外へと繋がる転移罠が稼働しないそうだ。

 

「そうか。となると大きな問題はアレだけに」

 

《ヴァイト様、ナザリックの外が確認できました》

 

セバスからの伝言が届いたのでそちらを先に確認する。

 

「セバスか、状況を知らせよ」

 

《はい。奇妙なことにナザリックの周囲が広々とした草原に変化しております。また、ナーベラルが空から確認した所、周囲3kmにコミュニケーションが可能な生命体は確認されませんでした。確認されたのは多少の小動物と昆虫程度です》

 

「なるほど。状況は把握した。時間はどうだ」

 

《おそらくですが月が傾き出した頃ですので、真夜中ではないかと》

 

「分かった。そのまま警戒を続けよ。何か異常があれば伝言で伝えよ。さて、モモンガ様。大きな問題はおそらくアレだけです。ナザリックの周辺が草原になっているのもアレが原因でしょう」

 

「うむ、やはりか。では私達の能力の低下も」

 

「それが原因でしょう。最も、低下と言うよりはリソースの再分配が正しいのでしょうが」

 

「あの、能力の低下とはどういうことでしょうか?」

 

「それを説明するためにも集まってもらった。ヴァイト、説明を任せる」

 

「はい、モモンガ様。我々至高の四十一人がリアルという世界とユグドラシルを行き来していたのは皆も知っていると思う」

 

階層守護者達が首を縦に振る。

 

「そしてユグドラシルとは、リアルに居た異界創造系に特化した者たちによって創造され、我々至高の四十一人はその異界を提供されていた側なんだ」

 

至高の四十一人よりも上の存在が居るということに驚いているが、無視して話を続ける。

 

「異界を提供されていた訳だが、リアルという世界は本当に厳しい世界なんだ。ほとんどが封印される魔法とスキル、汚染されきった空気や水、乏しい資源、強大で数の多い敵、他にも色々ある。そんな中、少しでも憩いの場となれる場所としてユグドラシルが提供されていたんだ。リアルには無い休める場として。だけど、リアルとユグドラシルを繋げる場と言うのは決まっていて、リアル側の地脈を流れる力が一定以上でなければ世界を超えることは出来ない。そして、そこを占拠されてしまえばリアルから敵が流れ込んでしまう。ユグドラシルを守るために我々以外の39人もリアル側から世界をつなげる場を破壊したのが、ユグドラシルから去っていった原因だ。我々で築き上げた宝物を守るために。子供であるNPC達を守るために。引退とは、そういう比喩だったんだ」

 

完全に嘘とはいえないが、嘘は多分に含まれている話に階層守護者達は感動とおいていかれる者だけが持ち得る悲しみの涙を流す。それに物凄く心が締め付けられる。

 

「そして敵はとうとうユグドラシルを作り上げた者たちの元にまでたどり着こうとしていた。彼らが殺されればユグドラシルは崩壊する。だが、私の力では一部隊の隊長を殺ることすら命をかけて届くかどうか。だから、最後の別れを告げに来た。そしてあの瞬間、流れ星の指輪(シューティングスター)が、ユグドラシルの創造主達が最後の悪あがきをしたようだ。ユグドラシルの全てをある一定範囲でまとめて別々の異世界へと飛ばしたのだろう。その際に、ユグドラシルに課せられていた枷を解き放って」

 

「枷、でございますか?」

 

「そうだ、デミウルゴス。我々にもNPCであるお前たちにも枷が存在していた。ルプスレギナがそれを証明して見せている」

 

「まさか、あの勝手な行動がですか?」

 

「そうだ。あれは枷だ。NPCは創造者に命令されなければ動くことが出来ない。また、我々も幾つかの行動の制限を受けていた。異性を抱きしめるというのはギリギリだったが、さらにその先に踏み込むとユグドラシルから消されることになる。それが無かった。だが、その代わりに能力が、それもステータスに表示されない能力、思考力などが多少落ちてしまった上に精神にも多大な負荷がかかった。それによってお前たちの理想とする至高の四十一人は居なくなってしまった。頭脳面でアルベドやデミウルゴスに苦労をかけるようにもなるだろう。間違えた判断を下すこともある。だが、そうだとしても私達はお前達と語り合えるようになったことを、嬉しく思う」

 

これはモモンガさんも同意見だ。彼らの理想を壊してしまうかもしれないけど、それでも皆が残していったNPC、子供達と語り合えるというのが嬉しいと。ただでさえ、モモンガさんは一人でナザリックの運営費を集めるためだけに一人でモンスターを狩っていたそうだ。オレもユグドラシルにログインできない間、誰とも話すことなく過ごしていた。最後だからと物凄く饒舌になっていた覚えもある。

 

「我々のために御身を割かれてまで。このデミウルゴス、感涙のあまりに前が見えませぬ!!」

 

デミウルゴスは言葉の通り、ギャグのように多すぎる涙を流している。他の階層守護者達も同じく、種族的に涙腺のないコキュートスも全身を震わせている。

 

「うん、だからこそ皆に一つ言っておきたい。これは厳命だ。死ぬな。死にに行こうとしていた私が言うことじゃないけど、死ぬな。無様でも良い、臆病者と言われても良い、だけど死ぬな。死んでも消滅するな。オレとモモンガ様が絶対に復活させるから」

 

課金ガチャで大量の上位蘇生ワンドがある上、オレは真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)が使えるからだ。レベル100のNPCの蘇生には5億枚のユグドラシル金貨が必要になる。補充ができるかどうかも分からない以上は、ケチりたい。デスペナも真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)なら1で済む。ただし、レベル100である以上莫大な経験値が消えることになる。ワンドを使うか真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)を使うかはその時々だろう。

 

オレの言葉にさらに忠誠度を上げたのか、場が落ち着くまでしばらくかかった。

 

「より一層の忠誠をお二方に誓います」

 

「ああ、期待する。そして、共に生きていこう」

 

モモンガさんがそう締めくくり、実務の話に移る。

 

「ナザリックは守勢に回る。周囲の状況、この世界の情勢などを調べることを優先する。その為にもナザリックは絶対に落とされる訳にはいかない。アルベド、調査はニグレドの能力を使い、発見した街などにエイトエッジアサシンとシャドーデーモンを送り込め」

 

「本当ならオレが行きたい所だけど」

 

「ヴァイト様が出向かれる程ではありません!!我々におまかせ下さい!!」

 

「そう言われるのは分かっていたからね。まあ、能力の確認も終わっていない内から外に出るつもりはないさ。封印の影響も確認できてないから、手が空いた時に慣らしを手伝ってもらう。これは後回しで良い。皆がオレ達を守ってくれるだろう?」

 

「もちろんでございます」

 

「ああ、任せるよ。アルベド」

 

歩み寄り、アルベドの肩を軽く叩く。それだけで全身を震わせて、あまり人には見せられない顔をしている。アルベドを作ったのって誰だったか?逆に考えろ、この見た目なのにヤバそうな設定をしてるのを。タブラさんか?ギャップ萌えのタブラさんだな!?この清楚系の見た目でビッチとか設定してるだろう!!あの人とペロロンチーノなら絶対変な設定にしているはずだ!!デミウルゴスのように分かりやすいけどしっかりした設定とは真逆のはずだ!!

 

確か、アルベドはサキュバスでよかったよな?モモンガさんに押し付けよう。確かリアル魔法使いで今も魔法使いだし、ちょうどいいって。オレもリアル魔法使いだったけど、神官の皮を被ったアサシンだし。いや、リアルでも半分ぐらいアサシンっぽいことをしてたけど。

 

《モモンガさん、締めをお願いします。多少親しみを込めて、段差の上から一段降りる感じで》

 

「では守護者諸君、行動を開始せよ。共にナザリックを守るために」

 

『『はっ!!』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

円形闘技場から円卓の間に戻り、スキルなどの検証の分担をモモンガさんと決めている際に、最悪なことをしてしまった。ユグドラシルではアンデッドは飲食不要の特性を持っていた。だが、ここはある意味でリアルなのだろう。スケルトン系列のアンデッドであるモモンガさんは飲食不要ではなく飲食不可だった。

 

全てが頭部からこぼれ落ち、味わうための味覚も存在していなかった。辛うじて嗅覚があり、香りを楽しめると言っていたが、絶対残念そうにしているはずだ。リアルで考えれば給料が底辺に近いモモンガさんが天然の食材を得ようとすれば野菜一つで給料が全額飛ぶ。

 

だが、この世界ならナザリックに貯蔵されている食物や、この世界原産の食物が、全て天然の食材なのだ。そこそこの給料をもらっていたオレですら年に1度口にできるかどうかと言った肉がそこらに転がっているのだ。それが楽しめない。楽しめるかもとワクワクしていたのに、それが出来なくて、それどころかオレや一般メイドの、シクススを気遣って自分は気にしていないとまで言わせてしまった。

 

今は自室に戻ってきて人狼形態でテーブルに突っ伏している。部屋には護衛と世話役としてルプスレギナとリュミエールが部屋の隅に待機している。

 

「ヴァイト様、大丈夫っすか?」

 

ルプスレギナが恐る恐る訪ねてくるが、身体に力が入らん。

 

「だめだ。ただでさえ、ドジ踏んで5年も音信不通だったのに、枷が外れたことで出来ていたことが出来なくなったなんて。鬱い」

 

情けない姿を晒してしまっているが構うものか。

 

「あの、私たちにお使いになったリソースとやらを」

 

ルプスレギナが言おうとした先を言わせないためにテーブルを叩き割る。

 

「全員に伝えておけ。二度とリソースを戻せなどと、馬鹿なことをほざくなと。階層守護者達にも伝えたが、オレもモモンガさんもお前達と語り合えるようになったことを、本当に嬉しく思っているのだから」

 

「申し訳ありませんでした」

 

「ああ、分かれば、いや、待てよ、リソース、馬鹿?」

 

何時だったか、アインズ・ウール・ゴウンに所属する前に何処かで思ったことが。なんだったか、ルプスレギナが馬鹿なのは設定だし、ルプスレギナ?ワーウルフ?

 

「……あっ、思い出した。モモンガさんに内密に人手を集めろ!!9層の一番奥の部屋に集めろ!!」

 

言い終わると同時に駆け出して、9層の一番奥の部屋、通称ゴミ箱に飛び込む。そこはミスリルやオリハルコンの武器や防具、炎ダメージ7割カットなどのアクセサリーなどのゴミアイテムを放り込んでおくための部屋だ。確かここに放り込んだ覚えがある指輪を探すためにアイテムの山に飛び込む。

 

「ヴァイト様、ナーベラルを除くプレアデス、全員揃っております」

 

「ユリ、指輪だ!!指輪を探せ!!」

 

「指輪、ですか?」

 

「世界の枷が外れたことで今まで当たり前のように出来ていたことが出来なくなったモモンガさんを救える指輪が何処かにあるはずなんだ!!赤と青の二重螺旋だ!!」

 

オレが運営に流れ星の指輪(シューティングスター)を使って要望を上げたことで変身魔法とスキルが実装されたことでゴミになった人化の指輪。それをここに放り込んだ覚えがあるのだ。

 

「畏まりました!!」

 

モモンガさんを救えるという言葉にプレアデス達に気合が入る。途中から一般メイド、料理長、司書であるエルダーリッチ達、指示を終えた階層守護者達、その配下など人海戦術で探し続ける。

 

「ヴァイト様、もしかしてこれですか!!」

 

アウラがケースに入った赤と青の二重螺旋の指輪を見せてきた。ああ、たしかにこれだ。

 

「よく見つけたアウラ」

 

感極まってついつい抱きしめてしまったが、セクハラだったな。気付いてすぐに離れるが顔を真っ赤にしている。

 

「あとで何か褒美をやらないとな。楽しみに……」

 

「ヴァイト様?」

 

「危ない所だった。またミスをする所だった。デミウルゴス、シャルティア」

 

「「はっ」」

 

「二人でこの人化の指輪の実験を行って欲しい。オレもモモンガさんもリアルでは人間に近い種族だった。人化の指輪で本当に人間に近い物に成れるのか、特に味覚などの五感が正常に働くのかを調べよ。3日以内に調べて報告せよ。モモンガさんには知られるな」

 

「かしこまりました。必ずや役目を果たしてみせます」

 

「頼む。ただでさえ他の39人との別れで辛い思いをしているモモンガさんにせめて食べる喜び位は届けたいんだ。リアルでは食事というのは栄養補給でしかなかったから。不味ければまだマシというのが実情だ。何も感じないのがリアルでの食事だ。茶の一杯ですら気軽に飲めない。コーヒーという名の泥水以下の物を飲むのがやっとだった」

 

体が受け付けないような消毒の味と匂いを誤魔化すための更に不味いコーヒーもどき。子供の頃から飲むのはそれだ。苦いか、辛いか、何も感じない。たまに古い物を食べた時だけ感じるのもある。後から調べてそれがすっぱいというのが分かった。そんな終わった世界だった。

 

だから先程飲んだ紅茶の美味しさを表現することすら出来ない。感動し、それを共有したくて、頸部から紅茶を垂れ流すモモンガさんを見て凍りついてしまった。

 

だから、失敗は許されない。糠喜びは許されない。

 

「すべてを感じられなくても良い。ただほんの少しだけでも良いんだ。楽しみを与えて上げて欲しい。じゃないと、モモンガさんが変わってしまう。オーバーロードに飲み込まれる。絶望なんかの負の感情でモモンガさんは少しずつ変わってしまう。リソースの再分配はそういったデメリットを含んでいる」

 

「ならば我々の」

 

「デミウルゴス、ルプスレギナにも言ったが自分達のリソースを戻すようなことは決して許さない。大丈夫だ。負の感情を覚えさせないようにすればいいだけだ。これは我々に作られたお前達なら出来ると確信している。暗い案件や黒い案件はオレが全て受け持つ。それが死にそびれたオレの役目だ」

 

「何をおっしゃいますか!!そのような些事は我々にお任せいただければ」

 

「能力が心配なんじゃない。リアルでのオレはこちらで言うアサシンに近い。攻めるためではなく守るためだがな。だが身内に、恩人の息子に恩人諸共背中から刺された。それが封印された理由だ。お前達はオレを裏切るのか?」

 

「いいえ、そんなこと、起こりえるはずもありません!!」

 

「なら、いつも通りを過ごさせて欲しい。今はモモンガさんの心を救うぞ」

 

「畏まりました」

 

「頼んだ。ああ、そうだ。捜査に協力してくれた者に褒美をやらねばな。ここにある物は全て至高の四十一人が不要として置いたものだ。欲しいなら持っていって良いぞ。確かさっき、あった」

 

ゴミの山から片眼鏡を見つけて近くに居たマーレに渡す。

 

「そいつはアイテムの来歴を見ることが出来る。誰が所有してたのかだな。それを使えば誰がここに置いたものか分かる。好きな物を持っていくと良い。順番に使えよ。それじゃあ、オレは休ませてもらう。何かあれば叩き起こしてくれ」

 

ゴミ箱から出て、部屋に戻ればルプスレギナとリュミエールも付いてくる。

 

「お前達はよかったのか?」

 

「後で選ばせてもらいます。今日はヴァイト様の護衛ッスから」

 

「そうか。すまんが、ゆっくりさせてもらうよ。色々ありすぎて少し疲れた」

 

ここ数週間、気を張り続けていたせいで疲労が溜まっていた所にこの状況だ。安全は保証されている快適な寝床の前に、すぐに眠りに堕ちる。

 

「「おやすみなさいませ」」

 

リアルの体、どうなったんだろうな?死んでるなら、あの店吹き飛んだな。心臓が止まると同時に自爆するように爆薬を仕込んでたから。あのクズ御曹司の自宅だけは事前に爆薬を時限信管で仕込んでいたから吹き飛ばせただろうが、オレの代わりに配備されたクズ共を始末できなかったのだけが心残りだな。

 

 

 

 




ヴァイト
Lv.100

種族レベル
ワーウルフLv.15

職業レベル
クレリックLv.10
バトル・クレリックLv.10
ウォーロードLv.10
ハイエロファントLv.8
アサシンLv.5
シーフLv.5
モンクLv.10
レンジャーLv.2
その他Lv.25

アインズ・ウール・ゴウン内で最多PK数を誇るアサシン。そこ、アサシンのレベルが低いとか言わない。器用貧乏でPvP率は2割程度と正面からの戦いは苦手だが、そもそもPvP数が極端に少ない。
装備品で種族をごまかし、見た目をコロコロ変えては街中ですれ違いざまに一撃でPKを行う。システムの補正ではなくプレイヤースキルで暗殺を行う。どこぞの教団にでも所属してるのかと言いたい変人。
職業レベルのその他は全てLv.1が25種。出来るのと出来ないのでは違うと豪語し、プレイヤースキルで罠を感知したり解除したり、ゲーム内の補正はむしろ邪魔だと感じている。スクロールを大量に持ち歩いているので対応力が高いが、アイテムボックスの9割がスクロールに占められているのでドロップ品を拾えないことがよくあった。
リアルではとある大企業の裏部門に所属していた。他社への攻撃ではなく、他社からの攻撃に備えるのが仕事であるが、報復は行う。表に出ることはないが、社長に恩義を感じており、社長も信頼を向けてくれていたので不満はなかった。
だが、社長の息子の裏切りにより社長諸共法廷に立つことになる。保険を何重にも用意してあったため、好きなように裁判の結果を持っていくことは可能だったが社長の望みで会社への損害を与えることなく共に服役することにした。法廷で偶然にもたっちさんに出会いモモンガさんへの伝言を頼んだが、それが果たされることはなかった。見た目はセバスが憔悴しているような姿だったため事情があったのだろうと特に恨んでもいない。
出所後、先に出ていた社長が殺されたことを知り、社長の息子が原因であることも判明した。会社も今時では珍しいどちらかと言えばホワイトに近いグレーだったのが、ブラックどころかジェットブラックになっていたため貯蓄を全て使ってバカ息子とその取り巻き、自分の跡を継いだ者達を巻き添えに自爆テロの準備をしていた。その後の身辺整理でモモンガさんからのメールを受取、最後の別れを行うためにユグドラシルにログインした。


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賢者の孫騎士 2

 

 

「「「「成人おめでとう!!」」」」

 

「態々ありがとうございます」

 

15歳の誕生日、この世界では大きな節目、成人として認められる日だ。この年から職に付くことが出来、税金などもあがり、飲酒や喫煙などが法的に認められる。何より平民の場合は家から出るのが普通だ。無論、オレも同じだ。学生や貴族、長男などは家に残る場合もあるがな。

 

その成人の誕生日に、肩書が凄まじい人達が集まっている。救国の英雄が二人に国王陛下、国内最大の紹介の商会長、新設される魔導騎士団の団長と副団長2名と明らかに可笑しい参加者だ。笑えてくるよな。

 

この5年で最低限の常識も学ぶことが出来た。双頭の獅子と空を駆ける虎との決着も先日ようやく着いた。やることと言うかとりあえずはパダワンを取りたい位だから、魔物ハンターとして世界を旅するぐらいしか予定はない。30前には何処かに落ち着いて結婚したい。結婚は前倒しでも良い。爺ちゃんと婆ちゃんに曾孫を抱かせてやりたいから。それでも5年ほど先だろう。

 

「所でシンはこれからどうするんだ?」

 

「とりあえずは魔物ハンターをしながら世界中を旅してみようと思ってるよ。幸い、お金に困ることはないからね。ああ、畑の世話があるからちょくちょく帰ってくると思うけど」

 

狩りすぎて回収すら面倒になった災害級を裏オークションに流した所、裏オークションでは取り扱えないと、表のオークションに流れた結果。婆ちゃんにオレの存在を感づかれてしまったのだ。烈火の如く怒られてしばらく監禁された。

 

ガチで牢屋に半年程放り込まれたのだが、暇つぶしの方法はいくらでもあったので退屈しなかった。元気に筋トレしているオレを見て婆ちゃんは呆れていた。高々天井の煉瓦のくぼみに指を引っ掛けて腕立てをしていただけなんだけどな。

 

「全く、いい加減に自重を覚えてほしいもんだけどねぇ。王都に行く度に生態系を破壊してからに」

 

初めて王都に出向いてから半年ごとに2週間の滞在を続けてはいたのだが、暇を見ては城壁を光学迷彩と念動で飛び越えて周辺の狩場の魔物を殲滅していたのだ。無論、王都周辺では騎士団による間引きが行われているので半年毎に魔物がほぼ0にまでなる異常事態が国王陛下のディセウムおじさんやミッシェルさんに伝わり、そこから婆ちゃんに伝わって絞められた。

 

「あっ、生態系で思い出したんだけど、半年前に狩った魔物の数が多かったんだよね。ちょっと気になるぐらいに」

 

パンにバターを塗って口にする。

 

「ほう、どれぐらいじゃ?」

 

爺ちゃんが気になったのか突っ込んでくるので、果実水を飲みながら思い出して答える。

 

「2割から3割増し、質も多少上がってた気がする。対処できない数じゃないと思うけど、放っておくと危険な気もする。だから、半年ほど籠もって原因を探ろうと思ってる」

 

「そんなことになっておるのか!?」

 

「クリス、確かなのか」

 

「いえ、半年毎に数が0に減っているので多いと感じたことはないですね。それに質も変わらないような気がします」

 

「半年のスパンで忘れてるだけだと思うよ。日頃から間引きしているせいで余計にわからないんだよ。オレは半年ぶりに猪とか鹿の魔物を狩るから分かりやすいんだよ」

 

「獅子や虎を狩るのを遊びと称するだけはあるな」

 

最近はそれも微妙で『オーバーロード』を使って遊んでいる。

 

「ふむ、シン君、すまないが狩場の報告を週1で構わないから届けてもらえるかね」

 

「いいよ。場合によっては人手がいることになるかもしれないからね。まあ、魔導騎士団の最初の仕事にはちょうどいいことになるんじゃないかな?」

 

メインの牛肉をカットして口に運ぶ。おお、ソースが美味い。肉の方も熟成がうまくいってよかった。

 

「そう言えば、帝国がきな臭いことになってるって聞いたけど、どうなってるの?」

 

「初耳なんだが?」

 

ディセウムおじさんが首を傾げている。他のみんなも同じようだ。

 

「行商人のおっちゃん達が言ってたよ。どうも皇帝が滅茶苦茶らしいね。まあ、優秀な競争相手を暗殺や冤罪で陥れて成り上がった馬鹿だからなんだろうけど、貴族以外が暮らしにくくなって悪循環に陥ってるね」

 

行商人にとっては飯のタネに命綱だから情報の量はかなりの物だ。精査すれば大体の真実に近いものが見えてくる。何かきっかけがあればすぐに仕掛けてくるだろう。まあ『オーバーロード』の実験に使わせてもらうつもりだ。幻術に変声にコスプレも用意したからな。

 

「ふむ、シン、すまんが暇な時に魔導騎士団の教導役をやってくれないか?」

 

「教導役?どういうこと、ミッシェルさん」

 

「ライトセイバーを扱うのはそこそこ揃ったが、やはり一度は手足を切り落とされた方が良いと思ってな。治療を含めて教導役を引き受けて欲しいのだ」

 

「いいけど、仮面を付けて声も変えて正体を完全に隠させてもらうよ」

 

「どんな姿だ」

 

自室に戻ってダース・ベイダーのコスプレをして戻る。一瞬にして空気が死んだのが分かる。

 

「シン、あんた、なんだい、その格好は?」

 

「これならば私であるということがバレることはなかろう」

 

喋り方を変え、マスクに仕込んである変声機によってダース・ベイダーその物の声と独特な呼吸音からオレを特定するのは不可能だろう。更には赤いライトセイバーをドジェム=ソで構える。

 

「あ〜、確かにシンがシエンの型、うん?シエンか?微妙に違う気がする」

 

「確かに違和感を感じますね」

 

ジークとクリス姉ちゃんが違和感を感じたようで幸いだ。

 

「おそらくはシエンを元に作ったフォームだろう。機動力を更に削ったな」

 

「ほう、流石は剣聖殿だ。このドジェム=ソはシエンを更に攻撃的にした物だ。そのために機動力を削っているが、爆発力ではトップだろう」

 

「シン、その喋り方と格好を止めな。全然似合ってないよ。普段着もそうだがね」

 

「この格好結構気に入ってるんだけど。地味にどんな環境であろうと生きていける魔道具を装備してるから」

 

おかげでモルラの葉が取り放題なんだよ。危険な毒沼程品質の良い物が採取できるからな。人工的にやばい毒沼を作って栽培にも手を出している。

 

「シン、流石にその格好は認められないな。なんというか、悪人っぽいからな。騎士服に教導役の腕章は固定だ。顔を隠す仮面位なら許せるだろうが」

 

「え〜、じゃあ、どれなら良い?」

 

部屋から紙とペンを持ってきて幾つかの仮面のデザインを書く。赤い彗星、ライトニング・バロン、鉄仮面、エンデュミオンの鷹、ミスターブシドー、マスク、ヴィダール。とりあえずガンダム系の中から選んでもらおう。

 

「どれも却下だ」

 

「じゃあ、受けない。なし崩し的にずるずると騎士団に縛られそう。自由をこよなく愛するオレには耐えられないね」

 

「アンタを完全に自由にしたら世界が滅びるよ」

 

「失礼な。世界が滅びたら楽しみがなくなるじゃない。どっちかというと未踏の地のどこかでのたれ死んでる可能性が高いよ」

 

逃走手段はいくらでもあるけど、不意打ちとか初代様のようなのが居ないとも言い切れないから。

 

「話がそれたが仮面ぐらいで我儘ばかり言ってるんじゃないよ」

 

「何処が!?」

 

「もっと普通のを使いな!!トム、適当に見繕ってやりな」

 

「ちぇっ、このセンスが理解されないなんて」

 

「劇ですら使われないようなハイセンスさだな。どんな服に合わせるのか逆に気になるな」

 

ジークがそんな事をいうので服装もセットで書き上げる。軍服のデザインが気に入られたのか、デザインを売って欲しいと言われた。解せぬ。ミスターブシドーはオリエンタルなのが気に入ったのかディセウムおじさんが欲しがってはいた。仮面はいらないそうだ。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都での活動拠点として中の上位の宿屋の一室を押さえた。挨拶回りのために支給された騎士服に着替えて軽く認識阻害の魔法をかけてから街に出る。

 

「おぅ、シンじゃねえか、珍しく立派な服を着てるじゃねえか」

 

王都に来る度に立ち寄っている串焼きの屋台のおっちゃんに声をかけられる。魔導騎士団の騎士服だが、気付かないな。認識阻害はしっかり効いているみたいだ。

 

「オームさんか、面倒なことに就職先を固定されてね。制服なんだよ、こいつは。いつも通り10本頂戴」

 

「あいよ。それにしても今年成人だったのか。1本オマケしといてやるよ」

 

「ありがとう。このタレが美味いんだよね」

 

「親父の代からの継ぎ足しタレだからな。これの保存が結構大変なんだが、ハーゲン商会の冷蔵庫のお陰で多少は楽になったな。夏場に黴させずに済むからな」

 

「便利みたいだね。宿屋暮らしのオレには関係ないけど。またちょくちょく来るよ」

 

代金を払って串焼きを11本受け取る。行儀が悪いがいつもの様に食べ歩きをしているとマリアを見かける。隣に友達と思われる子が居たので声をかけずに立ち去ろうと思ったのだが、昨日ギルドで絡んできた見た目だけの魔物ハンター3人に絡まれ始めた。

 

「全く、ハンターの質も落ちたものだな。獲物を狩れずに管を巻いていたくせに、今度は嫌がる女の子に絡むなんてな」

 

「あぁん、誰だ、ってお前は昨日の!?」

 

「あら、シンじゃない」

 

マリアがオレに気付いて手を振ってくる。

 

「両手は塞がっているけど手を貸そうか、マリア?」

 

「大丈夫よ。よくあることだからっと!!」

 

そう言うとマリアはハンターたちの足を念動で掴み上げて建物の屋根の高さまで逆さで持ち上げる。

 

「中々の速度と精度だな。これならライトセイバーを扱えるようになれば、すぐにでも魔導騎士団に入団出来るな」

 

苦し紛れに投げてきた剣を念動でキャッチして収納に放り込む。ついでに串焼きの入った袋も放り込んでおく。

 

「魔導騎士団って、最近新しく設立されたあの?」

 

「その騎士団。ライトセイバーっていう専用魔道具と念動を扱う騎士達だな」

 

「詳しいのね」

 

「まあ、設立の原因がオレだからな」

 

「どういうこと?」

 

「ここじゃあアレだから場所を変えよう。そっちの彼女も一緒にな」

 

マリアの背に隠れるように怯えている少女を気遣って近くのカフェに誘う。かなり可愛い子で、彼女に惹かれてこのバカどもはちょっかいを掛けたのだろう。まあ、あまりタイプじゃないので食指は動かないがな。性欲は人並みにあるけど、ストロンガー(変身時に両腕の電極をこすり合わせて電気を生み出す。意味は分かるな?そういうことだ)で間に合っている。

 

マリアとは5年前からちょくちょく会っているので問題ないとして、怯えている少女に軽く自己紹介しておく。

 

「シン・ウォルフォードだ。マリアとは昔なじみでね」

 

「大丈夫よ、シシリー。シンはちょっと抜けてるところもあるけど優しいから。装飾品のセンスはひどいけど」

 

「最近、皆にそう言われるんだけどそんなに酷い?」

 

「最悪とまではいかないけど、結構酷いわね」

 

わざとらしく落ち込んで見せると微かな笑い声が聞こえる。どうやら少しは落ち着いたようだ。

 

「あっ、ごめんなさい。私はシシリー・クロードです」

 

「思い切り笑ってもらって構わないよ。そんなことを気にするような小さい男じゃないからね」

 

「大雑把なだけでしょう?」

 

やれやれ、マリアには何も言い返せないな。肩を竦めるだけしてカフェに歩きだす。

 

 

 

 

 

「それにしてもシンがまともな格好をしてるなんて珍しいわね。何処かの制服?」

 

頼んでおいた飲み物と軽食が届いた所でマリアが話を切り出した。周りに聞かれると面倒なので認識阻害の魔法で世間話にしか聞こえない結界を張っておく。

 

「まあな。ハンターで十分暮らしていけるんだが、無理矢理入れられた。諦めてるよ」

 

「ふぅん、何処で働いてるの?」

 

「魔導騎士団」

 

服にかけていた認識阻害を少しだけ緩めて理解できるようにする。

 

「よく見たら魔導騎士団の騎士服じゃない!?なんでシンが、ってミッシェル様の縁故からか」

 

「実力もあるけどな。まあ、それよりも強力な治癒魔法が使えるのも理由の一つだ。魔導騎士団が使うライトセイバーは殺傷力がありすぎて負傷がそのまま引退に繋がることすらあるからな。今の所、ライトセイバーでの負傷を治せるのがオレしか居ないんで、教導役として雇われたんだよ。だから、正式な騎士ではないんだ」

 

「それでも凄いことじゃない!!近衛よりも精鋭が揃ってるって噂なのよ」

 

「正確に言えば幹部クラスは近衛よりぶっちぎりに強いけど、平均すると近衛より精鋭、幹部クラスを抜くと通常の騎士よりは上だけどな。それを幹部クラスを抜いても近衛より精鋭にするのがオレのお仕事なわけ」

 

注文したコーヒーを飲みながら軽く答える。

 

「幹部クラスってどのくらいよ」

 

「教導役、団長、副団長、の4人。単独で災害級を討伐出来る」

 

ジークとクリス姉ちゃんは最初はトラウマでガッチガチだったけどな。今では普通にバッサバッサ切り殺せる。

 

「災害級って、そんなのが何処に居るっていうのよ」

 

「群生地が見つかったんだよ。まあ、かなり遠いから問題ないさ」

 

吸っていいかとモルラの葉巻を懐から出して振ってみせるが、マリアに首を横に振られたので懐に戻す。

 

「ああ、言うのを忘れていたが、少しの間出歩くのは控えたほうが良いぞ。今日みたいな馬鹿が馬鹿をやらかす割合が増えてるはずだからな」

 

「どうして?」

 

「近場の低位の狩場の魔物が全滅してるからな。しばらく数が戻らないだろうから荒れるはずだ。オレが教導役なのにはもう一つ理由があってな、王都周辺の狩場で魔物の数が徐々に増えている傾向にある。原因究明のために根こそぎ狩ってまわっている途中だ」

 

「根こそぎって、一体どれだけの数がいるか分かってるの?」

 

「狩場一つに200に届かない程度だ。2時間もあれば行って狩って帰ってこれる。準備運動にすらならなかったさ」

 

中距離走と障害物競走が合わさったような感覚でしかなかった。魔力感知と念動を使って森を駆けてすれ違いざまにライトセイバーで撫でるだけの作業だからな。

 

「まあ、シンならそれぐらいは普通に出来るか。それにしても魔導騎士団か。魔法学園に一緒に入学してくれたら助かったんだけど」

 

「困りごとか?」

 

「最近、シシリーに付き纏ってくる男がいるのよ。上から目線で婚約者にしてやるだとか、女がでしゃばるんじゃないとか、周りの言葉にも耳を貸さないし」

 

「ふぅん、闇討ちすれば良いのか?」

 

「なんでそこまで発想が飛んじゃうのよ。虫除けになってくれれば楽だったのよ」

 

「潰す方が楽なんだがな。分かったよ。なんとか学園に転がり込んでやるよ。常にってのは無理だろうが時間が空いてる限りは虫除けになってやるよ」

 

「そんな、悪いですよ!!魔導騎士団なんてエリートの中のエリートなのに、私なんかのために無理をしなくても」

 

「いいの?結構無茶を言ってるんだけど」

 

「別に構わないさ。出世街道なんて興味ないし、友達の頼みは出来る限り叶えてやりたい主義なんでな。魔法学園で間違いないんだな?後から別の学園でしたってオチはやめてくれよ」

 

「大丈夫よ。余程のことがない限りはSクラスで合格してみせるわ」

 

「試験はまだだったのかよ!?」

 

「大丈夫大丈夫、これでも成績はトップだから」

 

「やべえ、シシリーに付き纏ってるやつを落第にする方が楽に思えてきた」

 

「犯罪行為だから止めときなさいよ」

 

「知っているかマリア、イカサマはばれなきゃイカサマじゃないんだよ」

 

「シン、人としてそれはどうなのよ?」

 

「人だからでしょ。そうじゃなかったら詐欺師なんてこの世に居ないさ」

 

収納からトランプを取り出してショット・ガン・シャッフルを行い、テーブルの上に並べる。神経衰弱と同じように2枚ずつめくって同じ数字のカードばかりをめくっていく。

 

「はい、今のはイカサマでしょうか?イカサマならタネを明かしてくれ」

 

「分かりません」

 

シシリーは素直に答え、マリアは即答する。

 

「私は分かったわ。カードの裏面の模様の一箇所だけ異なる部分があったわ。それでピーピングしてるんでしょう?」

 

「正解。じゃあ、次はこいつだな」

 

タネを仕込んでいない新しいトランプを取り出して確認してもらってからショット・ガン・シャッフルを行ない、さらにシシリーにカットしてもらう。

 

「魔力でマーキングしてるんでしょ。それ位なら分かるわよ」

 

「ありゃりゃ、やっぱりマリアは誤魔化せないか。シシリーは手にとっても分からなかったみたいだけど。それじゃあ、最後だ。今度は魔法も使わない」

 

魔力のマーキングを消し去ってからショット・ガン・シャッフルを行う。それからカードを並べて、またパーフェクトでめくりきる。

 

「タネはあっても仕掛けはないよ」

 

「くっ、分からないわ」

 

「だろうな、違和感を持たせないようにしてたからな。一回目にこれをやっていれば気付いてただろうさ」

 

カードを集めて、今度は分かりやすいようにゆっくりとショット・ガン・シャッフルを行う。

 

「まさか、その反らした時に見えてる端のを全部覚えるの!?」

 

「はい、正解。努力すれば誰でも出来るタネさ」

 

「簡単に言うけど並大抵の努力じゃ無理よ」

 

「なら並大抵じゃない努力をすればいい。一握りの天才を除けば、並大抵じゃない努力をした者がその道の頂点に立っている。最も、オレは大抵の道で天才だから並大抵じゃない努力をしたことはないけど」

 

「途中までは良さそうな話だったのに最後でダメダメね」

 

「よく言われる。オレの話にはたいてい落ちがあるってな」

 

コーヒーを飲み終えたので伝票を持って席を立つ。

 

「そろそろ挨拶回りに戻らないといけないんでな。イカサマを見破った賞品としてここは受け持つよ。試験、頑張ってな」

 

 

 

 

 

 

後ろ姿は見えているはずなのにあまり印象が残らず、夢の中の住人だったのではないかと思ってしまう位に掴ませてくれない初めて出会うタイプの人でした。

 

「なんというか、面白くて不思議な人ですね」

 

「そうでしょう。昔からあんな感じでね。何処かずれている部分もあって目が離せないのよ」

 

マリアちゃんがクッキーを摘みながらテーブルに凭れる。

 

「マリアちゃんがいつも使ってる魔法もシン君が教えてくれたんですか?」

 

行儀が悪いと思うけど、どこか気怠げで、恋に敗れた女の子みたい。

 

「そうよ。初めて会った時は格好良かったんだけどなぁ。物語の一場面みたいで。今は友達で落ち着いちゃったけど」

 

ああ、違う。恋に疲れた女の子だ。

 

「初恋?」

 

「たぶんね。私も子供だったからあんまり理解できてなかったけど、思い返せば恋してたんだろうなぁ」

 

恋をしたことがあるなんて羨ましい。そんな男の人に会ったことがないから。シン君はなんだかんだでマリアちゃんを意識してると思う。それも羨ましいな。そんなことを考えていたら何かがテーブルに降りてきた。

 

「紙で出来た、鳥?」

 

紙で出来た鳥がマリアちゃんの前まで移動すると自らの身体を開いていく。一枚の紙を何度も複雑に折ることで形作っていたことに驚いてしまう。マリアちゃんは見たことがあるのか、普通に紙にかかれている文字を読んでいる。

 

「たぶん、偽名を使って変装して潜り込むから合わせてくれだって、教導官は自分しか居ないからすぐ分かるからって。それと今暮らしている宿の住所ね」

 

「その紙は?」

 

「シンが作った魔道具らしいわよ。使い捨ての上に作るのが面倒だって聞いてたけど、それでも王都にほとんど居ないシンとはよくこれで手紙のやり取りはしてたの。簡易的な量産方法を確立したのか、それとも在庫が余ってるのかしら?」

 

そう言いながら手紙を再び鳥の形に戻していく。

 

「鶴っていう鳥の形を真似たんだって。他にも器用に紙で箱を作ったりしてたわ」

 

「鶴?聞いたことが無い名前ですね」

 

「白くて綺麗な鳥らしいわよ。寒い地方に住んでいて、肉は淡白で調理次第では幾らでも化けれるって。あとは、鳥としては珍しく物凄く夫婦愛が強いんだって。連れ合いが死ぬと、骨が見えなくなるまで傍を離れずに連れ添って餓死、雪で見えなくなれば探しに出てそのまま一羽で死んでいくんだって」

 

それを模した手紙で文通って、遠回しなプロポーズに聞こえるんだけど気付いてないのかな、お互いに?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トムおじさんが用意した仮面舞踏会なんかで使われそうな、目元だけの正体を全く隠せないような仮面を付けて認識阻害を使い変声魔法も使ってから壇上に上がる。

 

「はじめましてだ、諸君。まずは入学おめでとう。私はオビ=ワン・ケノービ、新設された魔導騎士団の教導官であると同時に設立にも携わっている。今年度の試験からはこの魔導騎士団へ入隊するために必要な物についても採点対象として扱われている。どういった採点内容かは極秘であるが、少し想像すれば分かる物だ。思っていたよりもクラスが上位の者、下位の者はそれが原因だ。だが、これは学園長や陛下も認めた公平な基準であると認められている。自分に足りない物を学園生活で学び育んで欲しい」

 

文句があるのか反抗的な入学生が居たので念動で首を掴んで持ち上げる。

 

「魔導騎士団では、とある魔法と特別な魔法剣を使った戦闘を行う。バカには使わせられない。それだけに国への忠誠心や魔導騎士団の名を汚すような行いをする者は入団させることは出来ない」

 

掴んでいた入学生を放してやる。

 

「もう一度言うが、バカは要らない。バカの代表格は見れたはずだ。反面教師として使うといい。新設された魔導騎士団の目的はとある地方への進軍だ。その地は災害級がゴロゴロと存在する。今は問題ないが、いずれ問題になるかもしれない。その為の戦力増強が魔導騎士団設立の背景だ。今年度からは魔導騎士団の者が訪れることもある。これはという者には声をかけることもある」

 

色めき立つ者も居ればその逆も居る。どちらかと言えば色めき立つ者が多いが、魔物と出会ったことがなければそんなものかと理解する。

 

「ただ、強制ではない。先程も言ったが魔導騎士団は災害級との戦いに投入される。小国なら滅びることを覚悟する必要がある災害級だ。適当に石を投げれば災害級が釣れるような場所だ。逃げるのは恥ではない。団長、副団長を除けば小隊単位で一体を釣りだして狩っている所だ。最終的には私や団長達のように一人で数体、十数体を纏めて葬れるようになって貰いたい。余談ではあるが、災害級のさらに上、暫定的に厄災級と名付けた空を駆け雷を操る虎、双頭から獄炎を吐く獅子が確認されている。討伐は未だされていない。意味は分かるな?」

 

会場がパニックに陥りそうになるのを増幅させた手を叩く音で沈める。

 

「すぐにどうこうなる話ではない。だが、100年、200年となればどうなるかわからない。このままでは蹂躙されるだろう。なればこそ、育て鍛え上げねばならない。その最低ラインが単独での災害級の討伐。もしくは死者でなければどんな状態の者でも復帰できるだけの治癒魔法の使える者だ」

 

左腕の服を捲り上げ、ライトセイバーで服を切らないように左腕を切り落とす。悲鳴が上がり、中には倒れる者もいるが無視する。切り落とした左腕を左腕を拾い上げて切り口に合わせて治癒魔法で繋ぎ直す。左腕が動いているのを見せてから服を元に戻す。

 

「このレベルの治癒魔法を覚えたいという者は別個特別講義を開催する。詳しくは担任の教師に聞くように。長々と話したが、私が言いたいのはこのまま生半可な覚悟では滅びることになる。だが、単純に力だけを与えることはしない。力を得るだけの教養と自制心を身に着けて欲しい。これは『賢者』マーリン様と『導師』メリダ様のお考えでもある」

 

爺ちゃんと婆ちゃんの名を出すだけで空気が引き締まる。凄いと思うが、本人たちは絶対嫌がるだろうなぁ。オレがもしその立場なら逃げ出すな。

 

 

 

 

 

共に魔法学園の入学式に来賓として来ていたジークを虫除けに使いながら、仮面を外して変装に使っていた魔法を全て解除しながらマリアとシシリーの元に向かう。

 

「はぁい、お二人さん、元気にしてる?」

 

「シン、アンタ、一体どんな風に持っていったらあんなことになるのよ」

 

「オレからミッシェルさん、そんで国王陛下で大臣とか騎士団長とか学園長でそれらの総意。間引きの規模が大きくなっただけだ。あはははは」

 

裏事情はあるが、二人に話すようなことじゃない。何故なら手足の切り落としと、災害級の丘に連れて行ったことで7割が退団してしまったのだ。立て直しが急務となり、新しい世代にそれが求められているのだ。代わりに練度は上がったけどな。

 

「笑い事じゃないでしょうが」

 

うん、笑い事じゃないんだ。

 

「まあ、そういう訳で、一応講師として学園には転がりこんだから」

 

「あの治癒魔法の?」

 

「一応普通の授業で念動も指導することがあるかもしれない。マリアが試験で標的の鎧を捻じ曲げたでしょう?あの鎧、魔法に対して強い防御力と普通の鎧より多少低い防御力があるものだから、魔法による純粋物理攻撃ってことで注目を集めてるんだ」

 

「それって凄いことなのかしら?」

 

「魔物には稀に魔法に対して強い抵抗力を持つ奴が居る。そういう奴は基本的に物理攻撃に弱いがそれを躊躇わせる要因を備えていることも多い。毒を撒き散らしていたり、素早かったり、空を飛んでいたりとな。それらに有効な魔法である可能性が出てきた。早ければ数カ月後には講義が始まるだろう」

 

オレのオリジナルの念動は教えられないが、マリアや魔導騎士団に教えた劣化版を更に改悪した物は公開することになる。

 

「念動に関してもオレが講師として呼ばれそうだ。人使いが荒いよな」

 

「才能を腐らせるよりは良いんじゃない?」

 

「才能を腐らせれるぐらい世の中が平和って考え方もあるぞ。殺しの才能なんてあんまりうれしくはないな」

 

「最後は使いようでしょう?」

 

「違いない。でだ、あの馬鹿で間違いない?」

 

「後頭部に目が付いてるの?アレで間違いないけど」

 

目なんかついてなくても分かるっての。楽の中に一つだけ怒があればね。だが、なんだこれは?純粋な怒りじゃない?濁っているというか、変に粘ついている感じだな。対人関係の薄さが原因か?

 

「おいシシリー!!何を他の男と楽しそうにしてやがる!!」

 

さて、とりあえず挑発するか。収納から生徒の名簿を取り出しクラスを確認する。以前の基準だとAクラス。新しい基準だとCクラスだけどBクラスに空きがあったから一応Bクラスね。

 

「取り込み中だ。後にしろ、Cクラスのカート」

 

それだけで殴りかかってきた馬鹿の腕を取って投げ飛ばす。

 

「いきなり殴りかかってくるとはどういう了見だ?マリア、シシリーを連れて下がっていろ」

 

「殺しちゃ駄目よ」

 

「殺すわけないだろう。死体の処理が面倒なんだから」

 

周りも騒然としてきたがジークが押さえてくれている。

 

「Bクラスに空きが出たためにCクラス評価ながらBクラスに所属することになったカート。いきなり騎士に殴りかかってきて何を考えている」

 

「うるさい、黙れ!!なんでオレがCクラス評価なんだよ!!」

 

「入学式で言われただろうが、馬鹿はいらないと。ひとつ、いきなり人に殴り掛かる。ふたつ、ストーカー行為。みっつ、彼我戦力を見極められない。よっつ、都合が悪くなれば他人の威を借りる子供。馬鹿としか言いようがないな」

 

「ぶっ殺す!!」

 

「殺せるものなら殺してみろよ。まあ、ぶっ殺すなんて言ってる時点で無理だがな」

 

棒立ちで詠唱なんて殺してくださいと言っているようなものだ。落ちていた石をカートの顔に向かって蹴り飛ばす。当てるつもりはないが、ビビって目をつぶり詠唱も止まる。その隙に踏み込んで指先に発生させた風の刃を首筋で滑らせてから首を絞める振りをして斬ったことをカート以外に悟らせない。そのまま小声でカートに恐怖を刻み込む。

 

「血管を傷つけずに声だけを潰した。一流は態々これから殺しに行きますよ(ぶっ殺す)なんて言わない。さっと殺してそれで終わりなんだよ。負け犬ほどよく吠えるってのは真理でな。オレはこれだけ凄いんだって凄んでないと不安で不安で夜も眠れないんだ。それとも思春期特有の病気か?自分が世界の主人公ってか?大人になると恥ずかしいぞ。そりゃあ、世界の主人公って言えるだけの力があればいいさ。賢者様や導師様みたいにな。でも、お前にそんな力はない。突出した魔力もないし、精密性は皆無、特殊な魔法が使えるわけでもない。王族でもないし、莫大な財産があるわけでもないし、戦乱でもない。平凡な世の中を平凡に生きる道しかお前にはない。それは悪いことじゃない。普通に真面目に生きるのが一番だとオレは思うぜ。まあ、お前と違ってオレは世界の主人公って言える力があるけど(笑)」

 

これだけヘイトを稼いでおけばタゲはオレに来るだろう。首を絞めたままスタンガンの魔法を使って意識を奪い、首の傷を治療しておく。証拠隠滅も完了っと。おっと、電圧が強すぎたのか筋弛緩をおこして失禁したようだな。ああ、これはもう表を歩けないわ。まあ、ストーカーの末路にはちょうどいいか。

 

 

 

 



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オーバーロード 狼牙 2

「ヴァイト様、朝になりました」

 

聞きなれない声に一瞬で意識が覚醒し、声の主を組み伏せる。

 

「ルプスレギナ?」

 

あり得ない相手を見て、周囲を窺う。ああ、そうか。リアルでもユグドラシルでもないんだったか。

 

「あ、あの、ヴァイト様」

 

「ああ、すまn「初めては優しくが良いッス」……リアルでの癖だ。すまんな」

 

いきなりベッドに押し倒されればそういう風に思っても仕方ないな。とは言え緊急事態に無防備になるつもりはない。ルプスレギナの手を引っ張りベッドから起こして指示を出す。

 

「シクスス、朝食の用意を、人化の指輪の実験が終わるまでは食事は基本的にここに運んでくれ。問題がなければ食堂を使うようにする。ああ、料理長に食材の種類を多く、だが品数は少なく、味付けは多彩に、量は一般メイドと同じぐらいで頼むと伝えてくれ」

 

「畏まりました」

 

シクススが部屋から出ていってからルプスレギナに注意しておく。

 

「リアルでは寝て、そのまま目覚められなくなることは多い。特に前線に近いとな。だから不用意に近づくな。それと今のような緊急事態に隙きだらけになる抱くなんて危険なことをするつもりはない」

 

「それはつまり、その、緊急事態じゃなければ」

 

「報奨としてもありえるし、気まぐれもありえる。他の者にも伝えてやれ。期待しているぞ、ルプスレギナ。ナザリックでの同族はお前だけだからな」

 

親指と中指と薬指を合わせて人差し指と小指を立たせて影絵で犬と呼ばれる手の形でルプスレギナの額を軽くだが突く。ルプスレギナが顔を赤くしているが、それを望んだのはルプスレギナなのだからセクハラにはなっていないよな?

 

日課である体操をして人間態と人狼態での差異をすり合わせる間に朝食が用意される。色とりどりのサラダに賽の目に切った複数種類の肉をモザイク状に並べたサイコロステーキに色々な干し果物を混ぜて焼かれたパン、複雑な香りから様々な野菜やガラなどから作られたであろうスープ。それらを豪華な食器に綺麗に盛り付けられた状態でテーブルに並べられる。カトラリーは人狼であるオレに合わせたのかオリハルコンの物が用意されていた。

 

「ふっ、リアルなら絶対に口にすることは不可能だったろうな」

 

席に付き、半分を人狼態で、残りを人間態で味わう。やはり姿によって味の感じ方も違うようだ。そしてすっぱい、つまり酸味は合わないようだ。人狼態ではそれが顕著だった。だが、不快ではあるがそれも楽しみである。

 

「料理長に酸味のキツイ物は避けるのと美味かったと伝えておいてくれ」

 

朝食を終えてから部屋についているバスルームのシャワーで汗を流す。これもリアルでは考えられない贅沢だ。まともに使える水など手に入っても500mlが限界だからな。それをお湯にするだけの燃料を考えるとぞっとする。

 

その後、アイテムボックスからPvP用でリアル軍隊のような神話級装備を取り出して着替え、お守り兼サブウェポンのリアルでも使っていたグロックの魔力弾を放つタイプを腰のホルスターに収める。タクティカルベストにはスクロールを詰め込んであり、取り出さずとも好きな体の部位から放てるようになっている。それに加えて課金で装備できる指輪の限界数である10を超えるための重課金アイテムである指輪を追加で5個つけることが出来るチェーンを首にかけて服の中にしまい込む。

 

「モモンガさんの執務室に行く。二人共下がっていいぞ。必要になれば改めて呼ぶ」

 

「「畏まりました」」

 

リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使用してモモンガさんの部屋に転移する。

 

「おはようございます、モモンガさん」

 

「おはようございます、ヴァイトさん。それってPvP用の装備でしたよね。久しぶりに見ましたよ」

 

「ファンタジー感をぶち壊しにするんで好きじゃないんですけどね。何が起こるかわからないのならPK用装備のままだと咄嗟に反応できないかもしれませんから。所であれから分かったことはありますか?」

 

「そうですね。微妙にユグドラシルのシステムが残っている部分が幾つか」

 

「興味深いですね。例えば?」

 

「私だと職業レベルの問題で剣なんかは持つことは出来ても、振ろうとすると手から滑り落ちてしまうんですよ。おそらくは防具なんかも意味を成さないかと」

 

「まあ、そこは良いと思いますよ。ユグドラシルの感覚のままで戦えば良いんですから。むしろ逆に出来なくなったことは?」

 

「今の所は確認されていません。ああ、一つ問題が。やはりユグドラシル金貨の補充が難しいようです。警戒に出ていたセバスがゴブリンを狩ったのですが、死体が残っただけです。私も一匹狩って見たのですが、結果は同じです」

 

「となると、エクスチェンジボックスしか補充の宛がありませんね」

 

初期の頃だけお世話になるエクスチェンジボックスというのがある。アイテムを突っ込むと金貨になるというのだが、ユグドラシルの店舗では買い取りが存在しないのでドロップか、他のプレイヤーとの売買か、エクスチェンジボックスでしかユグドラシル金貨を得る方法はない。

 

だが、エクスチェンジボックスの変換率はレベル15ぐらいまではお世話になるかもしれない程度なのだ。ドロップアイテムは次の段階の武器の素材に、エクスチェンジボックスに突っ込むぐらいなら覚えたての範囲魔法で格下の雑魚を纏めて薙ぎ払う方が手っ取り早くなってくるのだ。

 

「変換率の調査が入りますね。手が足りないですね。使うだけならともかく返還率の調査になるとデミウルゴスに任せたいところですが」

 

「……いや、もう一人だけ任せられそうなNPCが居るんです」

 

「本当ですか?」

 

「その、オレが作ったNPCなんですけど、その、なんといいますか」

 

「ペロロンチーノみたいに趣味満載だと?特に見た覚えはないんだけど」

 

「宝物殿の領域守護者として配置してるんです。設定上デミウルゴスやアルベドに匹敵する知能と物凄く特殊な能力を与えてあるんです。ただ、ええ、まあ、そのね」

 

「僕の考えたかっこいいNPCを作ってしまったけど、よくよく考えると恥ずかしいと?」

 

「作った当時は格好いいと思ってたんですけど、今だと動くんですよ!!」

 

「あ〜、なるほど、分からなくもない。さて、スペリオンは宝物殿に仕舞ってあるんだったかなぁ」

 

「ちょっ、待ってくださいよ!?」

 

「冗談だ。とは言え、オレのPvP用の武器と弾丸は実際の所宝物殿に仕舞い込んでいるからな。いつかモモンガさんの居ない時に会うかもしれない。後に残しておくと、落ち着いて会うことになるからキツイことになると思うよ」

 

「う〜〜ん、でもな〜〜、アレと会うのかぁ〜」

 

「そこまで会いたくないのか?」

 

「絶対に笑ったりしないで下さいよ」

 

「約束するよ」

 

「それじゃあ、行きましょうか。ああ、毒ガスが充満してますから毒対策をお願いしますね」

 

「ガスマスクがあるから大丈夫だ」

 

「完全にリアルの兵隊ですね。それじゃあ行きましょうか」

 

モモンガさんと共に宝物殿に転移する。扉の前に立ち、押して見ても鍵がかかっているのか開かない。パスワードを唱えるんだったっけ。

 

「ええっと、パスワードは、なんだったか」

 

「かくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗きものは全て汝より離れ去るだろう」

 

オレがパスワードを唱えると扉が勝手に開いていく。

 

「よく覚えていましたね」

 

「何かの小説のパクリだったはずだから覚えてるよ」

 

本当はリアルの職業柄覚えていただけのことだ。開いた扉の先へと進み、見覚えのない通路を見つける。

 

「モモンガさん、あそこは?」

 

オレが尋ねると言いづらそうに、それでもはっきりと答えてくれた。

 

「あそこは、霊廟です」

 

「霊廟?」

 

「引退していったメンバーのアヴァターラに装備を着せて安置してあるんです。いつ、帰って来ても良いように」

 

「そうだったのか」

 

モモンガさんも心の何処かでは帰ってこないと思っていたのだろう。だから霊廟と名付けている。それを見ないふりをして。もう霊廟にアヴァターラが増えることはないとモモンガさんに伝えるには時間がかかるだろうな。

 

「それにしても、ここに配置していたはずなのに何処にいったのか」

 

モモンガさんが首をひねっていると霊廟の方から足音が聞こえてきた。ついリアルの癖でグロックを抜いて構えてしまい、頭を掻いて誤魔化しながら降ろす。その降ろした腕も足音の正体が分かった時点で再び上がる。今度は安全装置まで解除する。足音の正体は、居るはずのない人物、タブラさんの姿をした何かだったからだ。

 

タブラさんはギャップ萌えだが、オレのこの格好に関しては世界観が違いすぎてギャップではないと言い争いになるからだ。それが平然とやってきた時点で偽物だ。

 

「止めよ、パンドラズ・アクター」

 

モモンガさんがそういうと、タブラさんの姿が崩れる。なるほど、ドッペルゲンガーだったのか。安心して安全装置を元に戻そうとして、すかさず発砲してしまう。衝撃で後ろに倒れて起き上がらないドッペルゲンガーを放っておいて安全装置をかけてホルスターに収める。

 

「ちょっ、ヴァイトさん!?いきなりどうしたんですか」

 

「すみません、モモンガさん。見慣れた大っ嫌いなネオナチの制服につい体が勝手に」

 

「えっ、見慣れた?どういうことですか?」

 

「ネオナチが占拠したアーコロジーにある支社の社員を助けるためにネオナチとは何回もやりあったんですよ。練度が低いくせに狂信者ばかりで手を焼かされて、数も多いけど服装は絶対にその制服で階級が高いやつはコートを羽織ったり、勲章が多かったり、特殊部隊がガスマスクを付けてるぐらいだ。判別がしやすくて楽ではあった」

 

社長に拾われた最初の仕事が最大の山場だったな。正規軍より働いた自身があるぞ。ネオナチに負けた正規軍から武器弾薬をかっぱらって徹底的に叩いたからな。

 

「効いていないのだろう、パンドラズ・アクター。この程度の武器がNPCに効くわけ無いだろう」

 

「いえいえ、的確に急所に、心臓付近に3発、両肺に2発ずつ、眉間に1発叩き込まれれば多少なりとも痛いとは感じます。流石は至高の御方であります」

 

オーバーアクションで立ち上がるパンドラズ・アクターを見て余計にネオナチに見える。

 

「パンドラズ・アクター、オレの前で、その格好で、オーバーアクションは止めろ。つい癖で引き金を引きそうになる」

 

「畏まりました、ヴァイト様。所で本日はどういったご用件でしょうか」

 

「それに関しては私から答えよう、パンドラズ・アクターよ。ナザリックは現在緊急事態に陥っている。詳しくは後ほどアルベドに尋ねよ。お前に対処してもらいたいのはユグドラシル金貨の調達とナザリックを運営する上で財政面での補佐だ。世界の理が大きく変化し、現在確認できているユグドラシル金貨の調達方法がエクスチェンジボックスのみだ。他の方法を探すのと同時に効率の良い変換物の調査も行え」

 

「なるほど。長期的、短期的に見て有用な物を調査しましょう」

 

「ああ、それからだがパンドラズ・アクター。デミウルゴスの下にも向かってくれ。空いている時間に少し頼みたいことがある。デミウルゴスが今は担当しているが、後々はお前に引き継いでもらいたい。それからハルジオンと各種弾丸を2マグずつ、それと狼牙を持ってきてくれ。宝物殿にあるはずなんだが」

 

「畏まりました、ヴァイト様。すぐにお持ち致しますので少々お待ち下さい」

 

パンドラズ・アクターが敬礼をするのに合わせて、またグロックに手が伸びる。

 

「これも止めておいた方がよろしいようですね」

 

「そうだな。絶対にドイツ式の敬礼は止めろ。今度からはハルジオンの弾丸が飛ぶ可能性があるからな」

 

一礼をして武器庫に移動するパンドラズ・アクターを見送り傍にあった応接用のソファーに体を預ける。

 

「中々相性が悪いNPCですね」

 

「すみません、ヴァイトさん」

 

「モモンガさんが謝るようなことじゃありませんよ。これはオレの方に非があるんですから。それで、パンドラズ・アクターの詳細な能力は?」

 

「ギルメン全員の姿に変身できて、ステータスは8割、スキルは全て使用可能。ああ、超位魔法もです。ただ、ステータスが下がっているのであまり使わせる気もありません」

 

「なるほど。それならエクスチェンジボックスも使える訳か。まさか、オレの奥の手も使えるの?」

 

「奥の手ですか?どんな物です?」

 

「たっちさんをPvPで仕留めた特殊な装備とコンボ。並大抵のプレイヤーだと絶対に成功しない上に初手じゃないと使うことも出来ないような大技」

 

「そんなのがあるんですか!?」

 

「内緒にしといてね。たっちさんと装備の作成を手伝ってくれたウルベルトさんしか知らないはずだから」

 

 

 

 

 

 

 

ヴァイト様が転移されたのでヴァイト様の部屋からプレアデスに与えられた部屋へと戻る。プレアデス全員に対して与えられた部屋には長女であるユリ姉がいた。

 

「あらルプー、ヴァイト様は?」

 

「モモンガ様の所に行くから必要になったら改めて呼ぶって。それよりもユリ姉、大変ッスよ!!」

 

「また何か粗相でもしたの?」

 

「ヴァイト様が抱いてくれるって」

 

「……疲れているのね。ゆっくり休みなさいルプー」

 

「あ〜っ、信じてないッスね。ヴァイト様から通達って程でもないけど知らせておけって言われたのに」

 

「ヴァイト様の命令なのね」

 

「命令って程ではないけど、全く伝えない訳にはいかないっしょ?今は非常事態ッスけど、そうじゃなければ報奨か気まぐれで抱くかもって。それから寝ている時は近づくなとも言われたッス」

 

ベッドに引きずり倒されたことと気安く接されたことは黙っておく。伝えるべきことは伝えたのだから問題ない。口吻もされたし、そういうことで同族だから期待しているということは子供を求められていることで間違いないはず。一人勝ちはほぼ確定しているが、邪魔はされたくない。

 

「そう言えば昨日と言うか、深夜の捜索の報奨ってどうなってるッス?」

 

「ああ、ルプーはまだ貰ってなかったわね。今は司書の1人が整理を始めているわ。来歴を見れるマジックアイテムもその司書が管理しているから言えば貸し出してもらえるわ。それと受け取るのは一つだけよ」

 

「分かってるッスよ。それじゃあ、ちょっと行ってくるッス」

 

私室から大量のアイテムが無造作に放り込んであった部屋へと入る。司書のエルダーリッチからモノクルを借りてある程度分類、武器か防具かアクセサリーかその他に分けられている中から武器の下に向かう。

 

ヴァイト様が新たに装備していた防具や武器の中で明らかにランクが劣っていたものが一つだけあった。つまり、お守りのような物だろうと思う。そしてここに放り込まれているアイテムと同じぐらいのランクである以上、同じ物が、運が良ければヴァイト様が置いた物があると思い探してみれば、それは簡単に見つかった。

 

腰に巻くホルスターは流石に見当たらないが、ヴァイト様が付けていたのは中位程度の魔物の革で作られた物だった筈。使用を許される物か確認してから一般メイドに作ってもらえばいいだろう。

 

無用の長物ではなく一応の実用品でもある。後付でスナイパーがLv.1だが設定されているので銃も一応装備することが出来る。一度も使ったことがないので練習する必要がありそうだ。姉妹の中で使えそうなのはシズだろうから練習に付き合ってもらおう。そう思いながらモノクルを返して部屋をあとにする。

 

 

 

 

 

 

 

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)をモモンガさんと二人で使いながら報告にあった街や村を見て回る。無論、防御魔法や妨害魔法、感覚強化なども用いて建物の中も確認できるようにしてある。傍には護衛と世話係としてセバスとユリが控えている。

 

「二昔前の携帯端末の地図と同じ使い方か。おっ、街発見。ナザリックから一番近いのが都市と呼べるのがここか。意外と近いな。文明は、中世末期と言ったところか。ふむふむ、武器は、鉄製がほとんど、たまに金や銀。銃は無し、城壁に大砲無し、バリスタはあり。ほぅ、ポーションが青色なのか。貨幣は黄銅版、銅貨、銀貨、金貨が主流ね。ポーション高いな。あの反応は麻薬の売人か」

 

「ヴァイトさん、早すぎです」

 

「慣れですよ。おっ、モンスターと戦って、えっ、嘘だろ」

 

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)に映し出されている先では一匹のオーガに従えられた8匹のゴブリンに襲われた3人の人間が敗走している所だった。胸元には鉄のプレートが掲げられており、冒険者らしき者達が色々な金属のプレートを身に着けているのを確認している。それらの中で鉄だと下から2番目、見習い程度の腕前だと思われる3人に唖然とする。よく見ればもう一人戦士系がいたのだろうが、ゴブリンに食われていた。

 

「モモンガさん、確かこの組み合わせってチュートリアルの最後のボス戦ですよね」

 

「そうですね。単独で推奨レベルが8だったはずですけど。奇襲で戦士職が即死したとしても立て直すのは問題ないはずなんですが」

 

「大分弱いんでしょうか?呪文詠唱者もさっきのパーティーには見当たらないですし。もうちょっと調査が必要ですね」

 

「地域によって強さが変わってくるのでしょうか?とりあえず、ナザリック周辺に脅威は確認されませんね。さすがにあの森の中を一々調べるのは面倒ですし、アウラに調査させましょう。マーレには大きな仕事を任せているのに、アウラに任せられる大きな仕事が欲しかったところなんですよ」

 

「そうしましょう。ただ、基本的には調査だけにしておきましょう。使い方は色々ありますから」

 

「使い道?あっ、まさか冒険者になるつもりですか!?」

 

モモンガさんが立ち上がるのに釣られてモモンガさんの遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)の視点がずれ、気になるものが映る。

 

「モモンガさん、ストップ」

 

視点が高すぎて対象が小さいが、これは、襲われてるな。賊かなと思い、拡大してもらえば兵士の格好をした者達が村人を襲っているようだった。それを見ても、殺し方が下手だなとしか思えなかった。

 

「モモンガさん、どう感じます?」

 

「なんというか、映画を見ている感じというか、あまり感情が動かないですね。リアルならかわいそうぐらいは感じていたはずなのに」

 

「やっぱりですか。オレも兵士の手際が悪いとしか思えないんですよ。種族に引っ張られてますね」

 

「そうですね。それにしても、どうしましょう?」

 

これが野党の類が襲っているのなら躊躇いなく介入していたが、兵士ということは国を相手取る必要がある。まだこの世界の戦力がどの程度のものなのか分かっていない以上、敵にはしたくない。だが、貴重な情報源を得ることも出来る。正直に言えばどちらでも良い。国自体を敵に回さなければいいだけだからな。なら神様に任せるのも手だな。ユグドラシル金貨を1枚取り出してセバスに投げ渡す。

 

「セバス、表が出れば助けに行く。裏が出れば介入しない。お前がやれ」

 

「私がですか?」

 

「そうだ。オレもモモンガさんもどちらでも良いと思っている。だが、お前とユリは助けに行きたそうだ。だからチャンスをやる」

 

「ですが」

 

「オレ達二人は表を出すのを期待している。楽しませれば褒美にちょっとした褒美を与える。普通のことだ、セバス」

 

「では、失礼致します」

 

セバスが右手で金貨を弾き、左手の甲で受けて右手で押さえる。セバスの身体能力なら好きな面を出すことは可能だ。最も、そんな小細工は必要ない。両面表の特性金貨を投げ渡したんだからな。セバスも弾いた時点で気付いている。もう少し皆にも自分というものを出してもらいたい。あまり溜め込みすぎると色々なものが歪む。

 

「表にございます」

 

「では行くとするか。セバス、ユリ、供をしろ。モモンガさんはどうします?」

 

「私はこんな姿ですからね。ここからサポートしますよ」

 

「そうですか。とりあえず、村人に友好的な関係を築く形に持っていきます」

 

モモンガさんと打ち合わせをしながらPvP用の装備からPK用の装備に変更する。ピッチリとした全身タイツに全身を覆うマントとシンプルなPK用の装備が、一瞬で先ほど覗いた冒険者の1人の格好に切り替わる。

 

これはオレが課金してデータクリスタルを追加して搭載した能力で、見たことのある装備に外見だけをコピーすることが出来る能力だ。他にも姿を切り替える装備はあるが、ステータスが大幅に劣化してしまうので神話級に課金して能力を追加したのだ。最も、課金を行なっても他のギルメンの神話級装備に劣るためにPvP用の神話級装備と奥の手の神話級装備を所有する羽目になっている。

 

「近くまでゲートをお願いします。セバス、先行しろ。ユリは一応護衛に付け」

 

「「畏まりました」」

 

モモンガさんがゲートを開くと同時にセバスが飛び込み、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)の中では姉妹らしき少女に斬りかかる兵士を殴り殺していた。

 

「では行こうかユリ」

 

ユリを引き連れてゲートを潜り抜ける。自然の香りに咽そうになるのを我慢し、自然に振る舞う。

 

「セバス、兵士の強さはどれぐらいだった」

 

「はっ、おそらくですが、5前後かと」

 

兵士のレベルが5?

 

「セバス、ユリを連れて村を襲っている兵士を殲滅しろ。隊長と副長は生きたまま捕まえろ」

 

「それではヴァイト様の護衛が」

 

「Lv.5がどうやってオレを倒すっていうんだ、ユリ?モモンガさんも見てくれているんだ。手が足りなければ応援も送られてくるさ。助けれるだけ助けてきなさい」

 

「「ありがとうございます」」

 

村の方へと二人が走って向かうのを見送り、兵士に襲われていた姉妹に向き直る。姉の方が斬られたのか、背中からかなりの出血を負っているが、アドレナリンで痛みを感じていないのだろう。必至に妹を抱きしめて庇おうとしている。そんな二人に近づいてしゃがみ込む。とりあえず魔法の実験体になってもらおう。

 

「今治してやる。軽傷治癒(ライト・ヒーリング)

 

第1位階魔法である軽傷治癒を姉にかけてやる。それだけで傷が完全に治ってしまう。本当にレベルがゴミなのだとこれではっきりとしてしまった。中傷治癒(ミドル・キュア・ウーンズ)なんかを使ったら腕すら生えてきそうだ。服の破損も修復(リペア)を使って応急処置を施してやる。

 

「オレはヴァイトという。偶々村が襲われるのを見て助けに来た。何か分かることはあるか?」

 

そこまで尋ねた所で言葉が通じているのが不安になった。

 

「あの、いきなり襲われて何が何だか分からないんです。ただ、お父さんがバハルス帝国だって」

 

「そうか。賊という感じではなかったのだな」

 

「たぶん」

 

「正直だな。兵士を相手にすると国を敵に回すかもしれないからと見捨てられると考えなかったのか」

 

「……あっ」

 

「正直は美徳だが、時と場合による。だが、今回はそれでいい。元から助ける気だったのを嘘をつかれては萎える」

 

ルプスレギナにしたように犬の形で額を軽く突いてから頭を撫でてやる。

 

「さてと、そろそろセバス達が終わらせているはずだ。村に戻ろう」

 

話しながらも警戒しているのだが、問題はないようだ。

 

「お願いです、先に急いで村へ行って下さい!!他にも怪我をした人がいるはずです!!助けてください!!」

 

「それは構わないが、森が少し騒がしい。ここにおいて置くと不味いかもしれないから、ちょっとだけ我慢してくれよっと」

 

二人を抱き上げて村へ向かって走る。う〜む、リアルと違ってパワーには補正が入ってるけど、技術にはユグドラシルの時よりも補正はかかってないな。ワーウルフになったことで差が出てるからか?

 

Lv.100のワーウルフの力と敏捷によって少女を二人抱えようとも2分と経たずに村へと辿り着く。二人を降ろしてセバスに近づく。

 

「セバス、怪我人は!!」

 

「はっ、こちらに」

 

セバスに案内され一箇所に固められている怪我人の下に向かう。誰もが危険な状態だ。四肢が足りない者もいる。実験体になってもらおう。

 

集団(マス)中傷治癒(ミドル・キュア・ウーンズ)

 

うおっ、本当に腕が生えてきた。結構グロいぞ。それでもすぐに異変に気づいた怪我人達が起き上がり、不思議そうにして家族達と泣きながら抱きしめあっている。それを少し離れた位置でセバスとユリと眺める。

 

喜ばしいところのはずなんだが、あまり共感出来ないのは種族の違いなんだろうな。いや、違うな。コミュニティの違いだな。ナザリックの誰かが殺されれば怒りもするし、悲しくもなるのは本能的に分かる。

 

しばらくすると村長と思われる初老の男性が近づいてきた。

 

「本当になんとお礼を言っていいやら。私はこのカルネ村で村長を務めております」

 

「気にする必要はない。こちらにも少し思惑があってな。我々はナインズ・オウン・ゴールの者なのだが、聞き覚えは?」

 

「いえ、初めて聞きます」

 

「そうか。ユグドラシル、ヘルヘイム、ナザリック、アインズ・ウール・ゴウン、どれかに聞き覚えは?」

 

「いいえ、初めて聞きます」

 

「聞いてのとおりだ、セバス。大分遠くまで飛ばされたらしいぞ」

 

「そのようでございますね。些か厄介なことになりました」

 

「すまんが村長、こちらからの要求は2つだ。1つはこのあたりの常識を教えてもらいたい。もう1つは空いている家を少しの間貸して欲しい」

 

「それは構いませんが、住まわれるのでしょうか?」

 

「ああ、違う。捕虜から情報を絞れるだけ絞る。死体も残さずにな。あまり見ていて気持ちのいいものでもないからな」

 

貴重な情報源だからたっぷり絞ってやらないとな。

 

「そういうことでしたら外れがありますのでそちらへ」

 

「ありがとう。セバス、運べ」

 

「畏まりました」

 

隊長と思われる小太りの男とその副官の男をセバスが引きずり、村の外れにある小屋へと運び入れる。オレもそれに続き、扉を閉める。

 

さて、逆探知などをされては困るからな。頭を叩き潰してから真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)で復活させる。

 

「セバス、こいつは隊長だったのだよな?」

 

「はい、間違いなく。命令を出していた所を確認しております」

 

真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)