Fate/4th・Espada (八つ橋)
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プロローグ

「女、俺が怖いか?」

 

 

そう言って胸に穴が開いた男は手を伸ばす。

 

 

「怖くないよ」

 

 

女性はそう言うと悲しそうな顔をしながら手を伸ばす。

二人の手が触れようとするがそれはかなわなかった。男の手は煙のように消えていきやがてそれは体全てが消えていくからだ。

 

「そうか…」

 

 

「この手の中にある物が…」

 

 

 

 

――心か

 

 

 

 

彼の名はウルキオラ·シファー

破面であり第四十刃だ。

黒崎一護との激戦を繰り広げ、完全虚化した黒崎ー護の前に圧倒され敗北した。

ウルキオラは心という物がわからなかった。それ故に興味が湧いたのかはわからないがその心という物を理解しようとした。

井上織姫との会話、黒崎一護との戦いを通してようやく心という物の一部を理解した。

世界から消えゆくウルキオラ。

 

 

(あれが心という物か…)

 

 

黒崎一護、井上織姫の二人によってようやく理解出来た。だが知ったのはほんの一部に過ぎない。

このまま消えなければこれからまだ心という物を深く知ることも出来ただろう。

だがそれも叶わない。自分はあの死神に負けて、塵となって消えていくからだ。

 

 

「面白い人間だったな…」

 

 

ウルキオラの世界の意識はここで途切れた

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

真っ白、真っ白な空間にウルキオラはいた。

ここが死後の世界なのかどうかはわからない。

だがウルキオラにとってはそんなことどうでもいいことだ。

 

(心……か……)

 

 

自身の手を見つめる、確かにあの時あの瞬間心という物がどういう物か理解出来た。

『それは何だ? その胸を引き裂けばその中に見えるのか?その頭蓋を砕けばその中に見えるのか?貴様ら人間は容易くそれを口にする…』

 

 

かつての自身の言葉を思い出す。

 

 

人間とは不思議な物だ、どれだけ絶望的な状況でも希望を棄てはしなかった。勝てないとわかっていながら向かってくるあの死神、きっと仲間は無事だと信じるあの女も。

興味があった。人間の心に。そしていつの間にか理解したいと思っていたのだろうか。もう消えるだけの自分にそんなことは意味は無い。

そして目を閉じ、完全に消えようと思ったところだった。

 

 

「私と契約してくれるサーヴァントよ!現れろ!」

 

 

――そんな声が聞こえた。

 

 

周りに気配はない。だが聞こえた。助けを呼ぶ声だろうか?この俺に?自分は虚だ、襲う側であって助ける側ではない。それは死神の役目だ。

声は次第に大きく聞こえてくる。やがてウルキオラの視界は徐々に霞んでいき何も見えなくなる。

 

 

(俺の力が必要なら貸してやる…どうせこのまま消えるだけの存在だ…藍染様程では無いだろうが俺を使って見せろ…)

 

 

フッと笑みを浮かべる。

普通なら無視をしていただろうが、ウルキオラはその呼び声に応じた。

それはきっとウルキオラ自身の心境の変化からだろう。黒崎一護、井上織姫。あの二人を通じて人間の心を知ったからこそなのだろう。

そしてウルキオラは光に包まれて見えなくなった―――



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炎上汚染都市冬木編
第1話 召喚


「やった!やったよマシュ!召喚成功!」

 

 

「はい!先輩!サーヴァントが召喚に応じてくれましたね!」

 

 

「最初は冗談で適当な詠唱したんだけど、まさか成功するとは思わなかったけどね!」

 

 

「私もまさかアレで応じるとは思いませんでした…」

 

 

歓喜の声が聞こえる。声の高さ的にどちらも女性だろう。

やがて煙が晴れていきその姿がウルキオラの目に映る。そこには黒崎一護ほどではないがオレンジ味のかかった髪色をした少女、身を隠す程の盾を持った少女だった。

 

 

「えーと、私は藤丸立香!あなたの力を借りたくて召喚しました!」

 

 

少女はニコッと笑みを浮かべてそう言った。

 

 

「お前は何者だ?そしてここはどこだ?」

 

 

当然のように質問する。それはそうだ、突然訳の分からない場所に呼ばれ、召喚などと口にする少女。分からないことだらけだからだ。

よくよく周りを見渡せばここは虚圏ではない。炎が周りを包み、辺りには瓦硬しかない。

 

 

「えっと…だから私は藤丸立香で…あなたのマスターなんだけど…」

 

 

「マスターとはなんだ?さっきお前は召喚とも言っていたな?お前は虚を呼び出し使役する力でもあるのか?」

 

 

虚という単話に首を傾げる少女。この女、虚を知らないのに虚を呼んだのか?

 

 

「あなたじゃ話が先に進まないわ、ここからは私が説明します」

 

 

横から現れた女性は立香とマシュの前に来る。

 

 

「私はオルガマリー、カルデアの所長をしているわ。あなたを呼んだのはあの子が言ったように力を貸してほしいからよ」

 

 

こうしてオルガマリーと名乗る女性から事の経緯を聞くことになる。

人理が消えそれを修復するために各特異点と呼ばれる時代ヘレイシフトしなければならないこと。

ウルキオラがサーヴァントという英霊として呼び出されたこと。そしてそのサーヴァントを使役するマスターが48名いたが、カルデアでの爆発事故で立香しか残っていないということ。

まさかあの時、自分を呼んだのはこの少女なのだろうか?サーヴァントという単語から恐らく当たっているだろう。しかしウルキオラは英霊などという存在ではない、虚であり破面だ。なによりもあの世界に英霊や魔術といった物は存在していない。

まあ魔術は死神でいう鬼道のようなものなのだろう。

 

 

「だいたい理解はした、つまり俺はこの女に従って戦えばいいわけだな?」

 

 

「ええ、そういうことよ」

 

 

藍染様に仕えるのではなく、この非力で弱そうな女に従わなくてはならない。だが先程聞いたところこいつは人類最後の希望。こいつが死ねばこの世界は終焉を迎えるというわけになる。あの死神なら違う世界の為でも協力して戦っていくのだろうが…

 

 

(俺が何故違う世界に呼ばれ、何故英霊として召喚されたのかはわからないが…これは心という物を深く知るためなのか?)

 

 

人間の心という物にウルキオラは興味がある。

ウルキオラが考えていると、立香が「あの一?」と困りながら聞いてくる。

 

 

「なんだ?」

 

 

「力を貸してはくれる…のかな?」

 

 

「…いいだろう」

 

 

あの時自分を呼んだのはこの少女で間違いない、この少女が自分をどう使い、戦い抜くのかは知らないがそれを見届けるのも面白いだろう。

その中で人間の心を知るいい機会にもなる。

 

「ほんとに!やったー!よろしくね!」

 

 

立香はニコッと笑うと両手を挙げて喜ぶ。そして思い出したように、あなたの名前は?と聞いてくる。

 

 

「俺はウルキオラ·シファー…第4十刃だ」

 

 

「ウルキオラだね、私は藤丸立香!改めてよろしくね!」

 

 

立香は手を差し出す、ウルキオラは何がしたいのかわからず質問した。

 

 

「それはなんだ?」

 

 

「なんだって…握手だよ?」

 

 

「握手?それになんの意味がある?」

 

 

「握手は握手だよこれから一緒に戦うんだから、よろしく!って意味かな?それとも一緒に頑張ろー!って事にもなるのかな?」

 

 

差し出された手をじっと見つめる。

 

 

(フッ……人間は面白いな……こんな何も意味を持たない事をやろうとする)

 

 

立香の手にウルキオラの白い手が重なると、立香はそのままウルキオラの手を握る。そしてニッコリと笑って「よろしくね、ウルキオラ」と言った。

 

 

(これも…心というやつなのか…)

 

 

こうしてウルキオラと立香によるグランドオーダーの一歩が始まった。

 




こんにちは、八つ橋です。
ウルキオラがかなり丸くなった印象があると思いますが、ウルキオラが人の心をさらに知ろうとしているからだと思ってくださると幸いです。
誤字脱字には気をつけていますが見つけ次第直しますのでご了承ください。
他の十刃も登場させれたらなーとは考えてますが、とりあえずはウルキオラをメインにしていくので誰を登場させるかは未定です。
個人的にはスタークとリリネットは出したい…


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第2話 初戦

「そういえばあなたのクラスは何かしら?」

 

 

オルガマリーがじっとウルキオラを見ながら聞いてくる。

 

 

「魔力?も結構なものを感じれるし…その物腰·…只物じゃないのはわかるのだけれど…」

 

 

「俺のクラスか?」

 

 

そう言われ思考すると脳裏にクラス名が思い浮かぶ。

 

 

「クラスはセイバーだ」

 

 

「セイバーだってマシュ、腰に刀があったしセイバーかなーって予想してたけど当たった!」

 

 

「はい、先輩。ウルキオラさんがセイバーなら安心して戦えますね」

 

 

セイバーという単語に喜ぶ二人。セイバーというクラスはそんなにいいのだろうか?

見たところ盾の少女もサーヴァントなのだろう。盾ということはマスターである立香を守り、セイバーである自分は敵を倒す。確かに役割としては合っている。

 

 

「あ、先輩ならウルキオラさんのステータスも見れるはずですよ」

 

 

「ほんとに?なら早速見てみよう」

 

 

立香はウルキオラを見るとじーと見つめ、目を細めたり開いたりしながらまじまじと見つめる。

こうして立香の視界に映ったのが

 

 

【真名】ウルキオラ·シファー

【クラス】セイバー

【属性】中立·悪

【筋力】A

【魔力】 C (霊圧A+)

【耐久】A

【敏捷】A

【幸運】C

【宝具】 B

 

スキル

超速再生A

脳と臓器以外のすべてを再生可能

 

鋼皮(イエロ)B+

破面の皮膚は非常に硬く、並大抵の攻撃では傷すら付けられない

 

響転(ソニード)A

高速移動術、一瞬で離れた場所に移動することや敵の背後や回避に使用できる

 

探査回路(ペスキス)A

霊圧の探知や、敵の実力を測るスキル。霊圧を探るため、この世界の魔力では正確には測りづらく敵の居場所などを主に知るスキル。

 

宝具

帰刃(レスレクシオン)黒翼大魔(ムルシエラゴ)】B

ウルキオラ本来の力を解放することにより、幸運以外のステータスを一段階

上昇させる。

 

刀剣解放第二階層(レスレクシオンセグンダエターパ)A+

全十刃中ウルキオラのみが解放可能な力。ステータスを爆発的に上昇させることが出来る。『雷霆の槍(ランサ・デル・レランパーゴ)』という技も使用可能になる。

 

 

立香はステータスをマシュやオルガマリーに伝えると二人とも目を見開き驚博していた。

 

 

「あなたどこの英霊なの…?こんなでたらめなステータスをもつ英霊なんて中々いないわよ…」

 

 

「俺は英霊じゃないがな」

 

 

「英霊じゃないって…ってことは本来呼ばれることのない反英霊…いや神霊という線も…」

 

 

ブツブツと喋るオルガマリーをよそに、呼び出した本人の立香はというと大喜び。

 

 

「私のサーヴァントってまさか最強…?マシュとウルキオラがいれば特異点も楽に修正が…?」

 

 

「先輩、そんなに簡単に特異点が修正出来たら苦労しませんよ…」

 

 

マシュが苦笑いでそう言うと、オルガマリーもそれに同意するように領く。

そんな談笑?も東の間、ウルキオラ達に近づく者がいた。

その気配に気づくウルキオラ、探査回路(ペスキス)を展開し敵の数を把握する。

 

 

「……誰か近づいて来ているな」

 

 

その言葉に立香達も顔つきが変わる。マシュは立香を守るように前に出て、立香とオルガマリーはその後ろへ下がる。

目の前に現れたのは骸骨の群れ、骸骨というだけで虚ではない。

数は目視出来るだけでも20はいるだろうか。

 

「マシュ、ウルキオラいける?」

 

 

「はい、私はいつでもいけます」

 

 

立香の言葉にマシュは盾を構えて臨戦態勢を取る。

しかしその前にウルキオラが歩いていく。

 

 

「この程度俺一人で十分だ」

 

 

そういって骸骨の群れへと歩いていく。

 

 

「マシュと言ったか、お前はマスターを守っていろ」

 

 

「は…はい!」

 

 

「立香、あなたが呼び出したサーヴァントの力を見るいい機会よ…よく見ておきなさい」

 

 

そしてウルキオラとスケルトンの群れの戦いが始まる。

片手を出すと指先に霊圧が込められる、翠に光り出すとウルキオラは

 

 

虚閃(セロ)

 

 

と言った。その瞬間、翠のレーザーのような衝撃が勢いよく放たれていく。虚閃はそのまま遠くの建物まで破壊していき一瞬のうちにスケルトンの群れを一掃した。

一瞬とはいえその霊圧に当てられた立香はその場に座り込み立てなくなるほどだ。

 

 

「まだ残っている奴がいたか」

 

 

虚閃が当たらなかったわずかなスケルトンが、弓を引き矢を飛ばしてくる。しかし矢はウルキオラに当たると鉄に当たったかのように弾かれるだけでウルキオラには傷一つ付かない。

 

 

「塵が」

 

 

再び指先に霊圧を込める、先程より素早い速度で弾丸のような衝撃が飛んでいき次々とスケルトンを粉砕していく。これは虚弾(バラ)という技だ。虚閃(セロ)よりは威力は劣るがスピードは虚閃(セロ)の20倍という物。

 

 

「片付いたか…」

 

 

ウルキオラにとっては肩慣らしにもならない敵。今のはそこら辺にいる虚にも劣る敵だろう。第4十刃の彼にとっては楽勝すぎる相手だ。

 

 

「す…すごいよウルキオラ!緑のビームでドカーンって!セイバーだって言うから腰の刀で戦うのかと思ったけど、そんなことも出来るんだ!」

 

 

座り込んでいた立香はいつの間にか立っており、大はしゃぎでウルキオラに近寄っていく。

 

 

「すごかったです、あれだけの数を一瞬に倒すなんて…」

 

 

「今の一撃は宝具…?なのかしら?でも立香は平然としているし…魔力消費もそんなにしていないのにあの威力だなんて…」

 

 

マシュも立香同様にびっくりしているようだった。オルガマリーは先程の虚閃(セロ)の威力から宝具かと思っていたがマスターである立香が平然としていることから魔力消費が少ない為、宝具ではないと結論付ける。

そんな時

 

 

『ああ、やっと繋がったよ!』

 

 

どこからともなくそんな声が聞こえてきた。

 



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第3話 魔力の元へ

「ロマニ!一体何していたのよ!急に通信が切れたから焦ったじゃない!」

 

 

『いやー君たちが召喚するってなった瞬間に急に通信が途切れてね…原因は今もわからないんだけど、とりあえず復旧したよ』

 

 

辺りに人の気配はなく、通信と言っていることから別の所にいるのだろう。

ロマニと呼ばれる男は通信画面越しにウルキオラを見る。

 

 

『あ、立香ちゃん召喚に成功したんだね!おめでとう!』

 

 

「そうだよドクター、しかもウルキオラはセイバーなんだ!それにすっごい強い!」

 

 

フンと鼻息が出るようなドヤ顔をする立香。

 

 

『うんうん、クラスやステータスはこちらでも確認取れたよ。それにしても高いステータスだなあ…それにウルキオラなんて英霊聞いたことないなー』

 

 

「だから俺は英霊ではない」

 

 

『それにしてもこの霊基…普通のサーヴァントとは少し違うね?魔力とはまた別のパターンが見られるけど…』

 

 

画面越しにうーんと悩む声が聞こえてくる。

 

 

「それは恐らく霊圧だろう」

 

 

「霊圧?」

 

 

頭上に?マークが出ているかのように立香は首を傾げて聞いてきた。

 

 

「さっきお前は体感しただろう、俺の霊圧に当てられて一時的に立てなくなっていたな?それが霊圧だ」

 

 

「あ…あのビーム出した時にぶわっと感じた圧力みたいなやつ…」

 

立香はあーと言いながら先程体感した力を思い出す。

本来ウルキオラの霊圧は相当な物で、並みの人間なら気を失ってしまう。前に空座町にヤミーと現れた時はヤミーの霊圧で人間が気を失いかけていた。霊力がほとんどない人間にウルキオラクラスの霊圧は意識を保つのも難しい。

だが全力ではないとはいえ立香を含む三人は気を失わずにいた。これは霊力や霊圧を持たないとはいえ魔力を持つためにある程度の耐性があるのだろう。

 

 

「それにそこのお前、さっきから見ているのはバレているぞ」

 

 

ウルキオラが視線を建物の影に向ける。

 

 

「おっとそんな警戒しないでくれよ、俺は敵じゃないぜ」

 

 

物陰から現れたのは青い髪の杖を持った男だった。

 

 

「いや一参るぜ?こっちは気配を消してたってのに気づかれるなんてょー」

 

 

「あ、クー・フーリン戻ってたんだ」

 

 

「おうよ、本当は結構前から戻ってたんだが、嬢ちゃんが召喚したサーヴァントってやつがどの程度のもんか気になってな、遠くから見物させてもらったぜ」

 

 

クー・フーリンと呼ばれる男から常人とはかけ離れたカを感じるウルキオラ。

皆が警戒しない辺りコイツは味方なのだろうと思う。探査回路を展開した時にあの塵とは違う力を察知してはいたが…

 

 

「お前がサーヴァントというやつか」

 

 

「お前がってあんたも同じだろ…それにしてもあんたかなり強いだろ?力を抑えているみたいだが俺にはわかるぜ?それに最初から俺の事に気づいてたろ?」

 

 

「そのつもりでお前のいたところに虚閃を撃ったんだがな」

 

 

「やっぱりかよ!?あれかわすの大変だったんだぜ」

 

 

苦笑いしながらクー・フーリンがウルキオラと話す。

虚閃が外れたのは気づいていた。もしも敵ならば追撃しようかと思ったが、敵意はなさそうなのでしなかっただけだ。

距離があったとはいえ虚閃を回避するそのみのこなし、この世界の英霊というのはそれなりにやるらしい。

 

 

「ランサーとして呼ばれていたら、あんたと一戦交えたかったんだがなー。今回はキャスターでね、楽しみはお預けってやつだ」

 

 

「今のお前はクラスが違うということか?」

 

 

「まあな、俺としてもランサーの方が本業でね、キャスターと言ってもルーン魔術を行使するくらいさ」

 

 

杖を槍のようにクルクルと回しながら話すクー・フーリン。

その滑らかな動きから、槍を得意とするのも納得がいく。

 

 

「さて嬢ちゃんも召喚に成功したところだし、騎士王の所に行くとするか」

 

 

キャスターは禍々しく真っ暗な空をしている場所を見つめる。

その騎士王という者はどうやらそこにいるらしい。

 



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第4話 黒い騎士

お気に入り登録して下さった皆さんありがとうございます…!
頑張って書いてきますので暖かく見守って下さい…!


騎士王がいるという場所に向かうウルキオラ達、徐々に強い力を感じていくのが肌を通してわかる。

 

 

「あんたの実力ならあの騎士王にも遅れは取らねえはずだ、俺は一緒にいけねえからな…嬢ちゃん達を頼むぜセイバー」

 

 

ウルキオラの肩を叩きながら話すクー・フーリン。

 

 

「クー・フーリンはいかないの?」

 

 

「俺は騎士王に引っ付いている奴とちょっと用事があってね、そいつを倒したら加勢するぜ」

 

 

不安そうな立香にキャスターは頭に手を乗せて安心させる。

 

 

「大丈夫だ嬢ちゃん、嬢ちゃんには二人も強い味方がいるだろ?」

 

 

「そうだね…マシュにウルキオラがいれば大丈夫だよね!」

 

 

頼れる後輩に先程庄倒的な力を見せてくれたウルキオラ。この二人なら大丈夫と自分を信じる立香。

 

 

「それじゃ俺は先に行くぜ、あんたらも気を付けて行けよ!」

 

 

クー・フーリンはそう言うと先に行ってしまった。ここから先、少し離れたところに大きな力を二つ感じる。一つはそこまで大きくはないが、こちらを常に見ているのか殺気の様なものを感じられる。クー・フーリンが言っていた奴は恐らくコイツだろう。片方のカはかなり大きく隊長格に匹敵する力だ。

 

 

「私たちも急ぎましょう、時間もあまりないわ。早く終わらせてカルデアに戻らないと…」

 

 

オルガマリーは早歩きで先に進み、その後ろをついていく。

余程そのカルデアというのが大事なのだろう。所長というのだから責任というのもあるのかもしれない。

暫く歩くと広い場所へと到着する。そこには禍々しい力が渦巻いており、空気が重くなる。

 

 

「こ、これが大聖杯?超抜級の魔術炉心じゃない…なんでこんな物が極東の島国にあるのよ…」

 

 

目を見開いて震えた口調のオルガマリー。この禍々しい力を生み出しているのはその大聖杯という物らしい。

 

 

『資料によると、作成はアインツベルンという錬金術の大家だそうです。魔術協会に属ない、ホムンクルスだけで構成された一族みたいだけど…』

 

 

「お喋りはそこまでだ、どうやら奴が気づいたようだな…」

 

 

そこにいたのは黒い鎧に身を包んだ少女。その手に持つのは漆黒の剣。ウルキオラはその剣を見て黒崎一護を思い出す。

 

 

「あれが本当にあのアーサー王なんですか…?」

 

 

『あの剣…真っ黒だけど聖剣エクスカリバーだねこちらの計測器が振り切る勢いの魔力だ』

 

 

「騎士王と言うから男だと思ったが女とはな」

 

 

目視出来るだけでも、騎士王というには随分小柄だ。鎧で隠れてはいるが所々から見える体付きから華奢なのもわかる。

あれが騎士王というのは信じるのも難しい。

 

 

「あの方は女性なのですか?」

 

 

『女性と思って油断しない方がいいよ立香ちゃん。あの魔力…恐らく一撃でも食らえばただじゃすまないよ』

 

 

ひしひしと伝わるその魔力から、ロマニが言っているのは本当らしい。

女性という点では同じ十刃のハリベルを思い出す。奴も華奢ではあったが霊圧や霊力という物で強力な攻撃が出来た。あの溢れる魔力で筋力なんかを底上げしているのだろう。

そしてこちらを見ているだけの鎧の少女。それがようやくロを開く。

 

 

「面白いサーヴァントだ、そこの娘。そして白いサーヴァント」

 

 

言葉の一つ一つに重さを感じさせるような圧力。

 

 

「俺の事を知っている風な口だな」

 

 

「知っているとも、貴様は死そのもの。本来我々英霊の座にはいないはずの存在だ。そんな異界の者が何故そこのマスターに協力している?」

 

 

「お前に教える気はないな…強いて言うなら、心だ」

 

 

「心…だと?」

 

 

騎士王はそうか…とつぶやく

 

 

「そこの娘の宝具にも興味はあるが……今は貴様だ。本来座にいるべき存在ではない貴様の力、見せてもらうぞ」

 

 

騎士王が剣を構えると、黒い魔力が放出される。霊圧に似た力をウルキオラが感じる。

対してウルキオラは両手をしまったまま、騎士王と対峙する形だ。

 

 

「マシュ、マスターを必ず守れ。あいつは一筋縄ではいかないようだ」

 

 

「わ、わかりました!」

 

 

(この世界の英霊とやらがどの程度の物なのか、見せてもらうか)

 

 

騎士王とウルキオラ、サーヴァントと破面の戦いの火蓋が切られた。



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第5話 英霊と虚

先に動いたのは騎士王、ジェットエンジンを積んでいるかのような速度でウルキオラに向かうと、そのまま両手を挙げて漆黒の剣を振り下ろす。

それを片腕で防ぐウルキオラ、剣ではなく腕で防がれた事に騎士主は驚きの表情を隠せずにいた。

 

 

「ほう、腕を切り落とすつもりで振り下ろしたんだがな」

 

 

ガチガチと音を立てながら腕と剣が拮抗している中、騎士王がそう言った。まずは小手調べというところだろうか。

 

 

「ぬるいな。俺の鋼皮(イエロ)はその程度では傷一つつけられん」

 

 

「我が一撃をぬるいとは…言ってくれるな白いサーヴァント!」

 

 

ぐわっと騎士王から魔力が放出される。その瞬間余裕の顔をしているウルキオラの目が僅かに開く。

腕を払い剣をどけると、一旦距離を取る。先ほどまで無傷だった腕には切り傷が出来ており僅かながら血が出ている。

この一瞬の戦いを見ている立香達は、何が何だかわからないでいた。

 

 

「ウルキオラ腕で防いだよね?剣…使わないのかな?」

 

 

『彼は霊圧と言っていたけど、恐らくそれである程度の攻撃を防いでいたんだろうね…』

 

 

ウルキオラは傷ついた腕を見る。鋼皮(イエロ)を超えた斬撃。自身の鋼皮は十刃最高硬度を持つノイトラには劣るがそれでも並大抵の攻撃は効かないだけの防御力を誇っている。前に仮面を付けた黒崎一護の月牙天衝を防いだが、それでも大した傷はなかった。だが今の一撃はそれを超えるだけの威力だ。となると素手での防御はやめたほうがいいだろう。

 

 

「ようやく剣を抜いたか」

 

 

「ああ…お前を破壊すべき対象として認めてやる」

 

 

ウルキオラは腰の刀をゆっくりと抜いていく。

 

 

「白のサーヴァント、名はなんという?」

 

 

第4十刃(クワトロエスパーダ)、ウルキオラ·シファーだ」

 

 

「ウルキオラか覚えたぞ、私はアルトリア·ペンドラゴンだ」

 

 

お互い名を名乗り、同時に向かう。剣と剣がぶつかり合い、金属音が辺りに響き渡る。

アルトリアの一撃一撃を無駄のない動きで防いでいく。

 

 

「なかなかやるな、これではどうだ?」

 

 

聖剣から黒い魔力が溢れ出し、その勢いで切りつけようとする。それを防いだ瞬間、ウルキオラはアルトリアの眼前から一瞬で消える。

突然の事に驚くアルトリアだが、背後からの気配を察知し瞬時に対応する。

 

 

響転(ソニード)の動きに着いてくるとはな」

 

 

「そんな芸当も出来るとは驚いたぞ」

 

 

大した反応速度だと感心するウルキオラ。存外この世界の英霊というのも結構な手練もいるらしい。

達人同士の高速戦闘。それを見ている立香達には目で追うのがやっとだ。

 

 

『あの騎士王とここまで互角に戦うなんて本当に彼はどこの英雄なんだ…?』

 

 

「頑張れ!ウルキオラ…!」

 

 

高速の戦いを見守る立香達。そこに一人の男がやってくる。

 

 

「強いとは思ってたが、あの騎士王とあそこまでやりあうなんてあのセイバーやるじゃねえか」

 

 

「クー・フーリンさん、来たんですね」

 

 

「おう、とりあえずこっちは片付いたからな。加勢しようと思ったがこれだけ激しいと加勢しようにもしにくいな」

 

 

クー・フーリンもどうやら無事に終わったようでこちらと合流したようだ。

 

 

「さっきウルキオラは腕で防いでたし…攻撃も押してるように見えるからこれなら勝てる…かな?」

 

 

「いや…あいつはまだ全力を出しちゃいねえ。今はセイバーが優位に見えるがすぐに逆転されるぜ」

 

 

クー・フーリンがそう言うと、徐々にだがウルキオラが押され始める。

一撃一撃を防ぎ、反撃しているようには見えるが傷ついているのはウルキオラだ。アルトリアは大聖杯からの魔力供給があるからなのか常に膨大な魔力をぶつけている。

実力は恐らく互角。だが地の利が悪すぎる。

 

 

「貴様の体は確かに硬く、剣も悪くない。だがその程度では私は倒せん」

 

 

アルトリアは距離を取ると、剣に魔力を込める。空気が震えるほどの魔力が収束していく。

 

 

「ほう…」

 

 

ウルキオラは剣を構えたまま様子を窺う。

 

 

「まずい!盾の嬢ちゃん、宝具を展開しろ!騎士王の奴、宝具を使うつもりだ!」

 

 

「はい、宝具展開します!――擬似宝具展開、ロード·カルデアス!」

 

 

騎士王の宝具を察知して、急いでマシュに指示をするクー・フーリン。

マシュは盾を地面に打ち付けると、立香達を守るために巨大な城壁を展開する。

 

 

「卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め!『約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)』」

 

 

漆黒の斬撃が放たれる。その一撃はかつて見た、黒い月牙のようだった。

全てを飲み込もうとする闇、それを虚閃(セロ)を放ち相殺しようと応戦する。だが虚閃(セロ)は次第に闇に飲まれていきかき消されてしまう。

刀で防ごうと押さえるが、足が地面に沈んでいくのが分かる。押し負けている、このままでは防ぎきることは出来ないと感じるウルキオラ。

 

 

「――これ程とはな」

 

 

漆黒の一撃はウルキオラを飲み込むと爆発した――



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第6話 宝具の解放

ルビの付け方がわかったので、少しづつ付け足して行きたいと思います…!


辺り一面に土煙が漂う。マシュの展開した宝具により立香達は無事だったが、その光景を見て驚きから目を開いていた。

 

「ウルキオラさんは大丈夫でしょうか…」

 

 

「あの一撃をまともに食らったからな…あのセイバーもただじゃ済まねえな…」

 

 

クー・フーリンの額に一筋の汗が流れる

 

 

「だ、大丈夫だよね?」

 

 

「わかりませんが…あの魔力量を考えると…」

 

 

マシュと立香はウルキオラがいた場所を見つめて震えるように話す。

無事でいて欲しい、ただそれだけを祈っていた。

 

 

「なるほどな…大した一撃だ…」

 

 

砂煙の中から声がウルキオラの聞こえる。

声が聞こえた事から無事だと分かり、立香達の表情からは焦りから安堵へと変わる。だがそれも一時の安心、姿をみせたウルキオラを見てそれはまた焦りへと変化する。

 

 

「黒い斬撃…黒崎一護を思い出す攻撃だ。あいつの一撃よりも重いとは予想外だったがな」

 

 

煙が晴れ、そこにいたのは上半身の服が所々破れ、片腕が無くなったウルキオラだった。

千切れた腕からは鮮血がこぼれ落ちていき、足元に赤い染みを作っていく。

 

 

「ウルキオラ…う、腕が!それにその首元の…穴は…」

 

 

立香はなくなった左腕の心配は勿論だが、それよりも首元に空いた穴に驚きを隠せない。

 

 

「この穴の事は心配するな…、これは俺達虚には必ず空いている物だ。それとこの程度の傷大したことはない」

 

 

焦りを浮かべることも無く平然と話すウルキオラ。彼が千切れた片腕を横に向けると、線のような物が飛び出す。そしてあっという間に腕を再生してしまった。

 

 

「虚が破面になると大半が超速再生能力を失う。だが俺は脳と臓器以外なら再生が可能な破面だ…お前がどれだけ強力な一撃を繰り出そうが無意味だ」

 

 

余裕からの挑発なのか、再生した腕を見ながら手を何度か開き腕の具合を確かめる。

 

 

「ほう?ならばその再生が追い付なければ意味がなかろう?」

 

 

アルトリアは再び剣に魔力を込めると先程の一撃を放とうとする。

再生するのであればそれを上回る速度で攻撃すればいい。至極簡単な理由だ、魔力にはかなり余裕のあるアルトリアにとって、宝具を連発するのは難しい話ではない。

 

 

『再生能力を持つサーヴァントだなんてでたらめな…』

 

 

「蘇生能力を持つ奴なら見たことあるが…瞬時に再生ってのは始めてみたぜ…」

 

 

「どこまでも不思議なサーヴァントね…って立香貴方大丈夫!?」

 

 

オルガマリーが見ると立香は頭を押さえて座り込んでいた。息遣いも荒く、目を細めている。

 

 

「ちょっとロマニ!どういうこと!?」

 

 

『立香ちゃんは初めての契約で恐らく魔術回路が開いたばかりなんだ…それにマシュの宝具発動に彼の再生…むしろ今までよく耐えていた方だよ、多分だけど脳に負担がかかってるじゃないかな…』

 

 

「大丈夫ですか先輩?」

 

 

「う、うん…大丈夫…私は大丈夫だけどウルキオラは…」

 

 

「あなた…サーヴァントの心配より自分の心配をしなさい!」

 

 

最後のマスターとしての責任感からなのか弱音は吐かない立香、マシュの手を借りながら立ち上がる。

その顔からは諦めない、という意思が伝わってくるような強い目をしている。

 

 

「ロマニ、なんとか出来ないの!?このままじゃ立香がもたないわ!」

 

 

『こっちもバックアップしようとしているんだけど、 彼との契約が余程特殊なのか上手くいかないんだ』

 

 

通信画面越しにガチャガチャと何やら慌ただしく操作する音が聞こえる、ロマニも焦っているのだろう。

 

 

「ああもう!なんでこんな時にレフがいないのよ!」

 

 

そのやり取りを横目でウルキオラは見て。

 

 

「マスター、魔力とやらを回せるか?」

 

 

「う、うん…大丈夫!回せるよ!」

 

 

ぐっと片腕で力こぶを作るようにして見せると、自分は大丈夫だから気にせず戦ってと言うような表現をしてみせた。

我慢しているのは目に見えてわかる、額から流れる汗や無理やり作っているその表情、相当辛いのだろう。

 

 

「俺の力を解放する、負担は更に大きいだろうが耐えてくれ」

 

 

そういうとウルキオラは剣を前に持っていく。

 

 

「宝具を使うつもり?この子の脳が焼き切れるわよ!?」

 

 

「この程度でくたばるようなら、俺のマスターはその程度の存在というだけだ」

 

 

「あなたねえ!この子のサーヴァントなら…!」

 

 

オルガマリーの静止を聞こうとはしない。今のままでは恐らく奴には勝てない。お互い同じ条件下でなら再生能力のある自身に分があるがそうではない。

魔力という制限がある以上長期戦ではダメだ。

 

 

「あーもう!もう勝手にしなさい!……立香、令呪を使いなさい令呪による魔力のバックアップをすれば貴方の負担も軽くなるはずよ」

 

 

そう言われると立香は自身の手の甲に刻まれた赤い文字を見る、それが令呪という物なのだろう。

 

 

「ウルキオラ、宝具の解放を許可する!だから勝って!」

 

 

赤い文字が光ると、文字の一部が掠れていく。そしてウルキオラに魔力が送り込まれていく。

魔力が送り込まれたと同時のタイミングでアルトリアは再び漆黒の一撃を放った。

先程よりも魔力は濃く、威力も上がっている。再生などさせまいという意味だろう。

闇が迫り来る中、ウルキオラは静かに口を開いた――

 

 

「鎖せ……」

 

 

―――黒翼大魔(ムルシエラゴ)―――

 

 



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第7話 帰刃

――黒翼大魔(ムルシエラゴ)――

 

 

ウルキオラのその言葉と重なるように闇は飲み込んだ。

そして爆発音が辺りに響きわたる。宝具の解放は間に合わなかったのだろうか?誰しもがそう感じてしまう状況。

 

 

――次の瞬間、辺りの空気が一層重くなった

 

 

まるで海の底にいるかのような暗く、重い圧力と息苦しさ。辺りには雨のような物が降り注いでいるようにも見える。

 

 

「こ…これがウルキオラさんの宝具なんでしょうか…?」

 

 

 

息苦しそうにマシュが話す。マシュだけではない、立香やオルガマリーも同様に息苦しそうな顔をしている。

 

 

「これが霊圧…?なの?今までとはまるで全然違う…まるで海の底にいるみたい」

 

 

これがウルキオラの宝具。本当の力。解放前のあれでも力を抑えていたというのだ、宝具である力の解放とは一体どれだけの物なのか予想もつかない。

 

 

「解放は出来たか……だがこれが魔力による制限か?少しばかり能力が下がっているな」

 

 

煙が無くなると同時にウルキオラがその姿を見せた。

その姿は背中からは大きな翼が生えており、仮面の形は変わり角のような形状に変わっている。

 

 

――怖い――

 

 

立香は直感的にそう感じた。自分が呼び出したのは一体何なのだろう?

あれは何だろう?英霊と言うにはほど遠い姿、どちらかと言えば悪魔の方が近いだろう。何よりこの圧力は何だろう?彼は霊圧と言っていた、だが最初に感じた物よりも随分と質が変わっている。

ブルッと足が震えるのがわかった。これが恐怖、人に備わっている本能的な機能の一つだ。

 

 

「マスター」

 

 

ウルキオラに呼ばれビクッとする立香。

 

 

「俺が怖いか?」

 

 

俺が怖いか?という意味がなんなのか一瞬わからなかった。

ウルキオラは心配をしてくれているのだろうか?でもそれは違うと感じた。

一体自分は何に怖がっていたのだろう、自身が呼びそれに応え来てくれたサーヴァントではないか、自分のサーヴァントを信じられないでどうするのだ。

そして立香の目は恐怖から一転、強い目に変わった。

 

 

「怖くないよ!めっちゃ強そう!!」

 

 

ニカっと笑みを作りながらそう答えると「そうか」とだけ帰ってきた。

 

 

「私の宝具を相殺するとはな…それが貴様の宝具か?」

 

 

「俺達破面は本来の姿を刀という形で封印している。それを解放することを『帰刃』と言う」

 

 

「変わったのは姿だけか?見たところ武器はなさそうだが?」

 

 

見た目からは刀は無くなり外見が変わったようにしか見えない。確かに圧力は先ほどより遙かに重く強いというのはわかる。

 

 

「油断はするな、俺が武器を持たないからと言って構えを崩すな、気を張り巡らせろ」

 

 

――――刹那、アルトリアの眼前には光の刃が迫っていた

 

 

剣でそれを防ぐ、だが一撃が重いのかはじき返せずにいた。上体を逸らし剣の向きを変えることで力を逃がし辛うじて回避することに成功した。

回避に成功後、素早く距離を取る。自身が反応出来ない以上距離を取るのが最善の判断だと感じたからだ。

 

 

「今のによく反応したな」

 

 

「驚いたぞ、私でも目で追えないとはな」

 

 

「だが距離を取ってどうする?」

 

 

「確かに貴様の速度は恐ろしく速い…なら間合いに入らなければいいだけのことだ」

 

 

わざわざ敵の得意な条件で戦う必要はない。かつてのアルトリアであるなら正々堂々と戦っているだろう。だが今の彼女はそれではない。勝つためなら自身が有利である場所で戦う。それだけだ。

 

 

「愚劣だな。間合いなど意味はない」

 

 

光の刃を手に作り出すと一瞬で距離を詰める。

 

 

「――くっ!」

 

 

なんとか防ぐと剣に魔力を込め応戦しようとする。

先ほどまでは有利だったはずの状況が一転。ただの宝具の解放でここまで戦局を左右されるとは思わなかった。だがそれでも有利だと感じられるのは絶対的なアドバンテージである魔力である。

ウルキオラはマスターである立香の魔力が枯渇してしまえば終わり、だがアルトリアはほぼ無限に魔力が供給され続けている。

戦力的差はあろうと長期戦になれば必ずアルトリアが勝つのは明白だ。

それはウルキオラ自身も理解しているのだろう。勝負を長引かせまいと猛攻を繰り出してくる。

 

 

「立香……貴方が呼んだのは本当にサーヴァント…?」

 

 

人間離れしたその姿、あの騎士王を圧倒する戦闘能力。恐怖しか湧かないその感情を隠しきれないオルガマリーは召還した本人に聞いていた。

 

 

「わかりません所長……でもウルキオラは私のサーヴァントです!彼がどんな姿をしていても英霊じゃなかったとしても私の思いに応えて来てくれました、だから私は信じます。自分のサーヴァントを」

 

 

強い目をしている立香。その顔はマスターとして相応しい顔をしていた。

 

「先輩……」

 

 

「あ!勿論マシュもだからね!何度も守ってくれたし、ほんっとに頼れる後輩!」

 

 

「は…はい!ありがとうございます先輩!」

 

 

マシュに向かって笑顔でそう言うと、マシュも笑顔で答えた。

そして戦いの場へと目を向ける。決着はまだ着いていない、黒い魔力があちらこちらで噴出し抵抗しているのがわかる。

するとブワっ!と魔力があふれ出す、どうやらアルトリアが宝具を使うようだ。

それを察知しマシュは宝具の用意をする、すると手が伸びてきてそれを止める。

 

 

「もう大丈夫だ盾の嬢ちゃん」

 

 

クー・フーリンの言葉を信じると宝具の使用は止めた。

 

 

「私の全力だ……心して受けるがいい!」

 

 

かなりの魔力量なのか空気が振動している。アルトリアの立つ足場に亀裂が入るほどの力の奔流。ウルキオラをそれだけの敵と認め全力で倒すつもりなのだろう。

 

 

「卑王鉄槌。極光は反転する、光を飲め…!――約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!」

 

地面を削りながら向かってくる力。それに向けてウルキオラは片腕を出す。

 

 

「大した力だな。ならば俺も見せてやろう、解放状態にしか見せられん黒い虚閃を」

 

 

指先に真っ黒な霊圧が収束されていく。そして言った

 

 

黒虚閃(セロ・オスキュラス)

 

 

漆黒の力がぶつかる。黒と黒、飲み込もうとしているのはウルキオラの方だ。

一瞬の間にアルトリアの宝具を消し飛ばし、そのまま向かっていくと辺り一面を吹き飛ばした。

辺りの地形を少しばかり変化させてしまう程の破壊力。

最初に見せた虚閃(セロ)とは格が違う。

 

 

――カンっ!

 

 

と音がする、そこには剣を杖にして立っているアルトリアがいた。

鎧は無く黒いドレスのような服装だ。鎧は魔力で作られていたのか、それを維持することが難しくなり今のような姿になったのだろう。肩で息をしており、剣を構えるのも難しそうだ。

 

 

「鎧に魔力を集中させて威力を殺したか…いい判断だ」

 

 

「まさかこれほどまで力の差があるとはな…」

 

 

そんなアルトリアに止めをさそうと近づくウルキオラ。

 

 

「ふっ……聖杯を守り通す気でいたが……ここまで魔力を解放しても敗北してしまったか……」

 

 

アルトリアの身体が光り出し、ウルキオラは歩みを止める。

 

 

「結局、どう運命が変わろうと、私一人では同じ末路を迎えるという事か…」

 

 

「あ?どういう意味だそりゃあ、テメェ何を知ってやがる?」

 

 

意味がありげなその言葉にたまらずクー・フーリンは質問した。

 

 

「いずれ貴様も知るだろう、アイルランドの光の御子よ」

 

 

徐々に光は強くなりアルトリアの身体は透けていく。

 

 

「グランドオーダー ――聖杯を巡る戦いはまだ始まったばかりという事をな」

 

 

「グランドオーダー…だと?」

 

 

「そうだ…そしてウルキオラ…貴様の戦いはいいものだったぞ。お前も知ることになるだろう自分の存在の異質さを…な」

 

 

そう言い残すと光となって消えていった。

消えていったアルトリアに納得がいかず、後方ではクー・フーリンが叫んでいる。

 

 

「チッ!俺もここで強制送還かよ!納得はいかねぇがしょうがねえ、お嬢ちゃんあとは任せたぜ!」

 

 

クー・フーリンの身体もアルトリアと同じように光り透けていっている。どうやら彼も消えてしまうようだ。

非常に納得いかないのか、悔しそうな顔をしている。

 

 

「次があるなら、そんときはランサーとして呼んでくれ!ああそれとあんた!機会があればあんたとは一度手合わせ願うぜ!」

 

 

まだ何か言いたげだったがそのまま消えてしまった。

アルトリア、クー・フーリンが消え、一瞬の沈黙が辺りを包み込んだ。

 



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第8話 レフという男

沢山のお気に入り、感想ありがとうございます。執筆の励みになります!
至らない点が多々ありますがこれからもよろしくお願いします…!


「セイバー、キャスター共に消滅を確認しました、私達の勝利なのでしょうか?」

 

 

『ああ、よくやってくれたねマシュ、立香ちゃん!所長もさぞ喜んでくれて……あれ、所長は?』

 

 

そう言うとオルガマリーは目を開いてワナワナと震えていた。

 

 

「……冠位指定……あのサーヴァントが何故あの呼称を…?」

 

 

何か気になることがあるのだろうか?アルトリアが最後に言っていたグランドオーダーという単語が余程引っかかるらしい。

 

 

「所長…どうしました?」

 

 

「え、ええ…よくやったわマシュ、立夏。それにウルキオラ…不明な点は多いけどこれでこのミッションは終了とします。まずあれを回収しましょう、あの騎士王が異常をきたしていた理由……冬木の街が特異点になっていた原因はどうやらアレのようだし…」

 

 

腑に落ちない事はあったがどうやら無事に終わったようだ。

 

 

「やったー!無事に勝てたんですね!マシュもウルキオラもお疲れ…さ……ま……」

 

 

両手をあげて喜びマシュとウルキオラにそう言おうとした矢先、立香はそのまま前のめりにフラッと倒れてしまいそうになる。

それを気づきマシュが「先輩!?」と言いながら支えようと駆け寄る。

そんなフラフラの立香を受け止めたのは白い腕だった。

 

 

「あ……ありがと……」

 

 

「気にするな」

 

 

そう言いながらウルキオラは腕で受け止めた立香を駆け寄るマシュに預ける。

 

 

「よく耐えたわ立香、宝具を解放させたのにも関わらずそれで済んだのは奇跡ね…」

 

 

「ありがとうございます所長……頑丈なのがとりえですから」

 

 

「エヘヘ」と言いながら答える立香。顔は赤く発汗もしている。

戦闘の最中では気づいていなかったがやはり宝具の解放に伴った魔力の消費は相当な物だったのだろう。それでもウルキオラとは違う形で立派に戦った。

 

 

「あ、ウルキオラさんも元に戻ってますね…」

 

 

「ああ、あの姿はどうやら魔力消費が激しいらしくてな。この姿に強制的に戻された感じだ」

 

 

これが魔力による制限なのだろうか?本来帰刃が強制的に戻されるなんて事はあり得ない。ウルキオラがサーヴァント化した事による制限のような物なのだろう。

 

 

『なんにせよ本当にお疲れさまだね立香ちゃん、早くあの水晶体を回収してカルデアに戻って休むといいよ』

 

 

「はい、先輩を早く休ませるためにも至急回収します」

 

 

アルトリアがいたところには、その水晶体と呼んでいる物が浮かんでいる。どうやらアレが今回の原因だ。

 

 

――いや、まさかここまで君たちがやるとはね

 

 

「!!」

 

 

――計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ

 

 

どこからともなく声が聞こえる。

 

 

「48人目のマスター適正者。全く見込みのない子供だからといって、善意で見逃した私の失態だよ」

 

 

そこに現れたのは緑の服、緑の帽子を被った男性。

 

 

「――レフ教授!?」

 

 

『レフ――?レフ教授だって!?彼がそこにいるのかい!?』

 

 

驚きを隠せないウルキオラを除く一同、彼は恐らくこの場にいない筈の人物なのだろうか?

 

 

「この声はロマニ君か、君も生き残ってしまったのか。すぐに管制室に来てほしいと言ったのに私の指示を聞かなかったのか――全く」

 

 

「どいつもこいつも統率が取れていないクズばかりで、吐き気が止まらないな、人間というのはどうしてこう定められた運命からズレたがるんだい?」

 

 

怪しい雰囲気を発するレフという男。この男ただ者ではないと感じられる。マシュは臨戦態勢で警戒を怠らず、ずっとレフという男をにらみつけている。

 

 

「あなたは私の知っているレフ教授ではありません!」

 

 

「君の知っている私とはなんだい?それは君が勝手に作り上げた幻想じゃないのか?」

 

 

「レフ…?」

 

 

緊迫した空気の中、オルガマリーが一歩一歩と足を進めていた。

 

 

 

「レフ?レフなのね?ああ、生きていたのねレフ…」

 

 

「いけません所長!その男は!」

 

 

マシュの制止も聞かず歩き出す。止めようにも立香を支えているため、身動きがとれない。

 

 

「よかった…貴方がいなくなったら私この先、どうやってカルデアを守ればいいかわかなかった!」

 

 

オルガマリーはその足でレフに駆け寄っていく。その顔からは安堵の様子がありどれだけそのレフという男に信頼を寄せていたのかが見て取れる。

 

 

「やあオルガ、元気そうで何よりだ。君も大変そうだね」

 

 

「ええ、ええそうなのよレフ!管制室は爆発するし、この街は廃墟そのもの、カルデアには帰れないし!予想外の事ばかりで頭がどうにかなりそうだったわ!でもあなたがいればなんとかなるわよね?」

 

 

「だっていままだってそうだもの!今回も私を助けてくれるのよね?」

 

 

「ああ勿論だとも、本当に予想外のことばかりで頭に来る」

 

 

余程不安だったのか、これまでの苦労をレフにマシンガンのように話していく。これまで何度も彼に窮地を救われてきたのがよくわかる。

そんなレフはニヤっと不敵な笑みを浮かべる

 

 

「その中でももっとも予想外なのは君だよ、オルガ。爆弾は君の足下に設置しておいたというのにまさか生きているなんてね」

 

 

「レフ……?それは……?」

 

 

「いや…生きているというのは違うな。君は死んでいる、肉体はとっくにね。トリスメギストスは

ご丁寧に君の残留思念をこの地に転移させたようだ。ほら?君はレイシフト適正がなかっただろう?肉体があったままでは転移出来ない」

 

 

レフの言葉を聞いていき、オルガマリーの顔からだんだん血の気が引いていく。

 

 

「わかるかな?君は死んだことにより初めてあれほど切望した適正を手に入れたんだ、だからカルデアにも戻れない、戻れば君の意識は消滅していまうのだからね」

 

 

「消滅……?え……ちょっとまって……カルデアに戻れない?」

 

 

「そうだとも、だがそれでは君があまりにも哀れだ。生涯をカルデアに捧げた君に今のカルデアがどうなっているか見せてあげよう」

 

 

そうして映し出されたのは真っ赤になった球体だ。

オルガマリーがカルデアスと言っている事から、あの球体がカルデアスという物だろう。

そんな中でもウルキオラはレフという男への警戒は怠らず、探査回路を展開し力量を測る。霊圧や霊力という力はやはり感じられないが強い魔力を感じ取れる。比較するならサーヴァントと同等、いやそれ以上だろうか。

 

 

「ふ、ふざけないで!私の責任じゃない!私は失敗していない!わたしは死んでなんかいない!」

 

 

手でレフを払うようにその言葉に反論していく。その様子から必死さがわかる。

 

 

「あんた、何処の誰なのよ!?私のカルデアスに何をしたっていうの!?」

 

 

「あれは、君のではない。全く最後まで鬱陶しい小娘だったなぁ君は」

 

 

 

「え?…なに?体が宙に引っ張られていく…!」

 

 

オルガマリーの体がだんだん宙に浮いていく。その様子をレフはただ笑みを浮かべながら見ているだけ。

 

 

「言っただろう?そこは今カルデアに繋がっていると。このまま君を殺すのは簡単だがそれでは芸がない、最後に君の望みを叶えてあげよう」

 

 

「――君の宝物に触れるといい。なに私からの慈悲だと思ってくれ」

 

 

「な、なにを言ってるの?宝物ってカルデアスのこと?」

 

 

だんだん体がカルデアスという物に近づいてくオルガマリー、その顔は絶望したような表情をしていた。

 

 

「やめて!カルデアスよ!?高密度の情報体よ、次元が異なる領域なのよ!?」

 

 

「ああ、例えるならブラックホールみたいな物だ。人間が触れたら分子レベルで分解される地獄の具現だよ。遠慮なく生きたまま無限の死を味わい賜え」

 

 

「いや!いや!!助けて!こんなところで死にたくない!!だって誰もまだ誉めてくれてない!誰も私を認めてくれてないじゃない!」

 

 

泣き叫ぶオルガマリー、なんとか逃れようともがくが体は動かずただただカルデアスに引き寄せられる。

そんな絶望的な状況をただ見ていることしか出来ない立香とマシュ。悔しそうな顔でその様子を眺めることしか出来なかった。

 

 

「――俺への警戒が薄れているぞ」

 

 

レフがとっさにその場から回避し攻撃を避ける。

 

 

「切り落とすつもりだったが浅かったか…いまの響転によく反応したな」

 

 

切っ先についた血を払うウルキオラ、レフの右腕からは流血しており左手で斬られた箇所を押さえてる。

 

 

「なんだ貴様……ただのサーヴァントではないな?」

 

 

「ああ……俺は破面だ。英霊ではない」

 

 

「破面……だと?」

 

 

にらみつけるレフを無視してそのままウルキオラは飛び上がり宙に浮かぶ。浮かぶというよりは立つというのが正しいだろう。

そしてそのままオルガマリーの元へと向かっていく。

 

 

「ふ…オルガを助けるつもりかサーヴァント?それは無駄だ、彼女は死んでいるのだからね。肉体も無いのにどうやって助けようっていうんだい?」

 

 

「俺も助け方は知らん。だが肉体が無くとも魂を生かすことは出来るはずだ」

 

 

「なに…?」というレフの言葉が聞こえてくる。ウルキオラはオルガマリーの元へと到着する。

 

 

「お願い…!!助けて!!私はまだやりたいことがあるのよ!こんなところで死にたくないの!」

 

 

涙を浮かべ必死の訴えをする。どうしても生きたい、そんな思いがその表情からは伝わってくる。焦ることもなくウルキオラは言った。

 

 

「藍染様から聞いた話だ。かつて黒崎一護が死神の斬魂刀を受け入れ死神化したと聞いたことがある……だが俺は虚だ。死神ではない、故にこの方法で貴様を助けられるかは知らんが今出来る方法はこれしかない」

 

 

「助かるならなんでもいいわ!!どうしたらいいの!」

 

 

その言葉にウルキオラは刀をオルガマリーに向ける。

 

 

「――刀を胸に突き刺せ。霊力を分けてやる…それで貴様が虚になるのか、または破面になるのかはわからんがな」

 

 

――刀を突き刺せ。衝撃的な一言だった。

これから死が待っているのにまだ苦しめというのかこのサーヴァントは?と言いたい顔をしている。だがその目からは嘘は感じられない…一か八か賭にでるしかないのだ。

 

 

「ウルキオラさん!それはあまりにも!」

 

 

「マシュ!」

 

 

マシュの静止を止める立香。

 

 

「私は信じるよ、ウルキオラを…私も所長を助けたい…今は彼にしかそれが出来ないんだら…!!」

 

 

「…はい先輩…ウルキオラさんを信じましょう…!」

 

 

「ははは!君は正気かい?そんなことをしたらカルデアスに到達する前に彼女を殺すだけじゃないか!」

 

 

大声で笑うレフをよそにウルキオラは刀の切っ先をオルガマリーに渡す。そして「どうするかは自分で決めろ」と言った。

 

 

「――やってやる……やってやるわよ!これで私を貫けばいいんでしょ?」

 

 

「そうだ、虚になる場合は俺が処理するがな」

 

 

「こうなったら虚だろうが破面だろうがなんにでもなってやるわよ…!私は絶対に生きてみせるんだから――」

 

 

切っ先を思いっきり引くと自身の胸に突き刺す。突き刺したところから飛び出る鮮血。そのタイミングに合わせウルキオラは霊力を送る。そして突き刺さった場から光が漏れ、辺りを包み込む。

 

 

「これは愉快だな!まさかサーヴァントに止めを刺されるとは!何が助けるだ?ただ死を早めただけじゃないか。オルガ、君が生きていた事は予想外で腹だたしかったが訂正しよう、とても愉快な芸を見せてもらったよ」

 

 

高らかに笑うレフ。光が消えそこにはウルキオラの姿のみだった。

 

 

「さっきも言ったはずだ…警戒を怠るなとな」

 

 

「なに…?」

 

 

レフの背後から翠の銃弾のような

物が飛んでくる。それを紙一重で回避するレフ。そしてその方向を見ると信じられない光景が映る。

 

 

「さっきはよくもやってくれたわね……レフ」

 

 

先ほどまで宙に捕らわれていたオルガマリーがそこにはいたのだ。

 



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第9話 脱出と修正

紙一重で避けたレフ。避けて体勢を崩したのか帽子が落ちていき地面に乾いた音を立てる。

 

 

(今のはガンド?いやそれにしてはおかしい…魔術にしては魔力を感じられなかった…それにあの速度はなんだ?この距離を移動したというのか?サーヴァントでもないただの小娘が?)

 

 

「驚いてるわねレフ…私も成功するなんて思って無かったわ…でも私は生きてる!私は貴方を絶対に許さない!」

 

 

未知の力に戸惑うレフに、先程とは態度が一転したオルガマリー。

彼女の胸元は刃で貫かれたであろう破れた服、そしてあちらこちらは砂埃なんかで汚れている程度だ。

ただ首元にウルキオラの仮面と同じ色をした白い歯のような物がぶら下がっていることを除いてはだが。

 

 

「驚いたな…あれは虚弾か?それに響転まで使うとは…」

 

 

一連の動きを上空で見ていたウルキオラは静かに分析していた。

間違いなく彼女は自分と近い存在になっているだろう、だが霊圧は死神の席官レベルだ。しかし妙な事に霊圧が少しばかり虚とは違う。魔術という才能を持っているためこちら側の虚とは異なるのだろうか。

 

 

「はあああ!!」

 

 

オルガマリーの手に霊圧が込められていくとそれを握りしめる。虚弾や虚閃とは違う技だ。

それを振りかぶり霊圧の塊を殴りつけようとする、だがその腕をウルキオラは止める。

 

 

「なんで…?なんで邪魔をするの?」

 

 

「馬鹿が、探査回路もまともに使えんくせに行こうとするからだ」

 

 

腕を離すとウルキオラの忠告を聞いたオルガマリーはその場に止まり警戒する。

 

 

「ほう?そこのサーヴァントは私が違う生き物だと気づいているようだな?」

 

 

「まあな…貴様からは魔力が人間にしては異常な量を感じた」

 

 

「ふん…大した索敵能力だな?今の一瞬でそこまでわかったか。破面、人の魂を食らう化け物が何故サーヴァントになったかは知らんが…ここはお前が存在していい世界ではないぞ?」

 

 

「どうやら貴様も俺を知っているようだな?」

 

 

「詳しくは知らんがね、本来ならば抑止力に排除されるべきなんだが……今はその抑止力も機能はしていない。まあレアケースといったところだろう」

 

 

抑止力という意味はわからないが、やはり自身の存在が異質だというのはわかった。そこは後でロマニにでも聞けば詳しく教えてくれるだろう。

 

 

「さて、お喋りが過ぎたな。改めて自己紹介をしようか?私はレフ・ライノール・フラロウス……君達人類を処理するために遣わされた2015年担当だ」

 

 

「カルデアはもう用済みだ、お前達人類はこの時点で滅びている」

 

 

横にいるオルガマリーから「滅びている…?」という驚きの声が聞こえてくる。

ウルキオラ自身も口頭で聞いただけでまだ事態を完全には把握していない。

 

 

『レフ教授…いえレフ・ライノール。それはどういう意味ですか?2017年が観測できないのと何か関係が?』

 

 

「関係ではない。もう終わってしまったという事実だ。未来が観測できなくなりお前達は未来が消失したと言っていたな?希望的観測だ。」

 

 

「未来は消失したのではない、焼却されたのだ。カルデアスが真紅に染まった時点でな……結末は確定した、貴様らの時代はもう存在しない」

 

 

時代を焼却などと言う事実、信じられるわけがない。だがこの男は嘘は言っていないだろう。

レイシフトという過去に飛ぶ代物まであるくらいだ、歴史の改編が出来てもおかしくはない。

 

 

「カルデアスの磁場でカルデアは守られているだろうが、それも時間の問題だ」

 

 

すると、ゴゴっと空気が振動を始める。

 

 

「この特異点も限界か…セイバーめ、大人しく従っておけば生き残らせてやったものを……聖杯を与えられながらこの時代を維持しようなどと、余計な手間をとらせてくれた」

 

 

振動は更に大きくなっていき、足場も安定しなくなる。これが特異点の消滅という物なのだろうか?

 

 

「ではさらばだ、ロマニ、マシュ、48人目のマスター藤丸立香君。そして……オルガマリー、異世界のサーヴァントよ」

 

 

レフはこちらを見ると舌打ちをする。余程ウルキオラの存在が気に入らないように見える。

 

 

「…白のサーヴァント、貴様だけは許さんぞ?私に手傷を負わせ、あまつさえ彼女の救出……私の想定外の事ばかりだからね。今も腸が煮えくり返りそうだよ」

 

 

「許される気は毛頭ないがな……」

 

 

「ふん……さて、私は忙しい身でね。そろそろ失礼させてもらうよ。君達はこのまま時空の歪みに飲み込まれるといい」

 

 

そう言い残すとレフは消えていった。空間移動か時空移動か。どちらかはわからないが今奴を追う手段はない。

揺れはさらに加速していく。このままでは数分ともたないだろう。

 

 

「このままだと崩れるわ……時空もそろそろ限界ね…!ロマニ!早くレイシフトしなさい!」

 

 

『わかってますよ所長!もう実行してます!でもそっちの崩壊の方が早いかもしれません!』

 

 

「なんですって!?」

 

 

「ダメです!間に合いません!せめて先輩だけでも…!」

 

 

立香を守るようにマシュが手を握る、ウルキオラや破面化?したオルガマリーはある程度大丈夫だろうが生身の人間である立香はやばいだろう。

 

 

「ウルキオラ!!所長!!」

 

 

立香がこちらを叫びながら呼ぶ。

 

 

「手を!!」

 

 

ウルキオラはオルガマリーを肩に担ぐと響転で移動し、立香の手を掴む。オルガマリーは「え?ちょっ!」と言っていたが無視していた。

そして時空は崩れ去り、目の前は真っ暗に沈んでいった――

 

 

 

 

 

 

―――特異点F―――

 

―――定礎復元―――

 




【破面大百科】


「どうも、僕は市丸ギンと言います。今回このコーナーを担当させてもらうことになりましたわ」


「さて、今回説明するのはウルキオラのサーヴァント化に伴う制限についてやね」


「サーヴァントになる前のウルキオラやったら、魔力による制限もないから普通はあんなもんちゃうよ?」


「まあマスターである立香ちゃんは新米マスターやからね、そこは仕方ないんやろうねー」


「さて本来ならマシュちゃん意外のサーヴァントはカルデアからの魔力で現界するって設定やったね?でも今回ウルキオラは立香ちゃんとの魔力でしか現界出来てないんや」


「いやーなんでやろうね?僕にもさっぱりやわー、藍染隊長やったら興味湧くやろうねー」


「これからカルデアにサーヴァントも増えていくやろうし、このコーナーに誰か来るかもしれへんね!いやー楽しみやわ、僕一人で喋るの大変なんよー?破面大百科改め、英霊大百科でもやろかな?」


「僕も原作では藍染隊長に殺されて死んでるからサーヴァントとして召喚されるんかもしれへんね、いやー楽しみやわあ」


「え?それはない?またまたー僕だって隊長やし強いんやでー?きっと役に立つと思うでーそれに面白そうやしね」


「じゃあほな、バイバーイ」



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特異点F終了 カルデアにて
第10話 人間の敵


 

 

「フォウー」

 

 

鳴き声が聞こえた。

モフモフの毛皮を身に纏うそれはイヌ?のような生き物。一般的な感覚で言えばこれは可愛いという生き物に分類されるのだろう。

 

 

「……」

 

 

殺風景な部屋、ベッドと机ぐらいしか置いていないシンプルな部屋。

そんな一室の椅子にウルキオラは静かに座っていた。

その様子に特別変なところはないが、普段と違うと言えば膝にはその生き物が座っている。

 

 

「何故お前は俺の部屋にいる…?」

 

 

「フォーウ、フォフォーウ」

 

 

何を言っているかわからない。

その生き物を邪険に扱うことも無く、そのまま放置する。

 

 

あの後、時空の歪みに巻き込まれる寸前でウルキオラ達は間一髪レイシフトに成功し、燃え盛る冬木の街から脱出することが出来た。

その奇跡の脱出劇から今は1日経過したというところだ。あの特異点は無事に修正され、聖杯と呼ばれる元凶を回収することが出来た。マスターである立香は疲労と魔術回路の酷使によって気を失ったためすぐさま別室へと運び込まれた。マシュはその付き添いでその場を離れ、オルガマリーはすぐに残ったスタッフとロマニに指示を出していた。

そして残ったウルキオラはというと、一先ず部屋に待機していて欲しいとの事で今こうして部屋にいるわけだ。この不思議な生き物はよくわからないが、部屋に入ったらそこに居たのだ。そして何故だか分からないが懐かれた。

 

 

「ウルキオラ、いるー?」

 

 

プシュっと扉がスライドすると、そう言いながら入ってきたのは立香だ。

顔色は……悪くない。大分回復したような様子がわかる。

 

 

「なんだ?」

 

 

「ダヴィンチちゃんがウルキオラに来て欲しいって呼んでるんだけど」

 

 

「そうか」

 

 

静かに立ち上がると膝にいた生き物はピョンと蹴り出し、床に着地した。

 

 

「あ、フォウ君こんなところにいたんだ、ウルキオラと仲良いの?」

 

 

「知らん。そいつが初めからこの部屋にいただけだ」

 

 

「フォウ!」

 

 

フォウ君と呼ばれた生き物は、立香の方へ歩いていく。立香はフォウを抱き抱えるとその毛並みを撫で始める。

 

 

「そうなんだー、でも膝に乗せてたしフォウ君も安心した顔してたけどなー」

 

 

立香はフォウを抱き抱えたまま、部屋を出るとダ・ヴィンチと言う者の元へと向かい出す。その後からウルキオラも着いていく。

このダ・ヴィンチと呼ばれる者。そいつもサーヴァントなのだ、立香に召喚されたわけではなくカルデアの魔力で現界しているらしい。

案内され着いたのは工房のような場所だった、あちらこちらによく分からない機材が置いてある。そこの中央に座っていたのはごつい義手?のような者をはめた女性。彼女がレオナルド・ダ・ヴィンチだ。

 

 

「ウルキオラを連れてきたよー」

 

 

「わざわざすまないね」

 

 

こちらに気がつくと見ていた資料を置き、振り向くダヴィンチ。

 

 

「君を呼んだのは少しばかり知恵を貸してほしいからだ」

 

 

そしてダヴィンチは机に散らばっている紙を1枚手に取ると立香に渡す。

 

 

「これは……所長のデータですか?」

 

 

「その通り。彼女の魂に関する資料さ。彼女の魂はウルキオラ君が霊力というのを渡すことにより魂の力が変化。そのおかげか肉体がなくとも霊体としての活動が可能になったわけだ」

 

 

渡された資料見ながらダヴィンチの言葉を聞く立香だが、いまいちピンと来ていない様子だ。

 

 

「わかりやすく例えれば私達サーヴァントに近い状態かな?ただ違うのは彼女自身が霊力という力を生成しているため、私達とは違って魔力による力を必要としていないんだ」

 

 

「ただ、一つ問題があってね。彼女の魂は非常に不安定な状態にあるんだ。今は何ともないけど何が起こるかわからない。最悪の場合消滅だって有り得る」

 

 

確かにいきなり十刃クラスの霊力を渡されたのだ、何も起きない方がおかしいというものだ。

彼女自身、それを受け入れいきなり虚弾や響転といった人間離れした力を使いこなしてはいたが。だが突然力が変質し、虚となり自我を失い暴走するかもしれない。それは余りにも危険だろう。

 

 

「そこで、君の知恵が必要なわけさ!」

 

 

「俺は科学者じゃない。力にはなれんぞ」

 

 

「君の世界には聞いたところ君達虚と敵対する死神という組織があるみたいじゃないか?その死神が霊体以外で活動しなくてはならない事があるだろう?その際に仮の肉体が必要になるわけだ……その肉体という物がどういう物か聞いてみたくてね」

 

 

このダヴィンチという女性、中々頭が回るらしい。そこまで詳細に話した覚えはないが、まさかそこまで予想するとは。

 

 

「以前ヤミーとの戦闘記録の中に、浦原喜助が義骸という入れ物を使ったと聞いている。その時点であの街を守っていた死神は全員義骸という物に入り生活をしていたという……」

 

 

「ほう…義骸ね?中々興味が湧く話だね、詳しく教えてくれるかな?」

 

 

「俺は死神の技術には詳しくはない。だがどういう物かは見た方が早いだろう」

 

 

そういうとウルキオラは手を目に持っていく。そしてあろう事か自身の眼球をくり抜く。

その光景を見ていた立香は突然の行動に驚きのアタフタとする。

 

 

「う、ウルキオラ!そんなことして大丈夫なの!?」

 

 

「問題ない。すぐに再生する」

 

 

「そ、そういう問題じゃないと思うんだけど…」

 

 

アタフタしている立香をスルーすると、その眼球を前に差し出し、指で砕く。

すると砕かれた破片が辺りに散らばっていき、映像のような物が全員の頭に浮かび上がって来た。

 

 

「共眼界……俺が見たものを共有させる力だ。俺達虚という物がどういう存在なのかもそれを見て知るといい」

 

 

映し出されたのは、破面と戦う死神達。そこにはウルキオラと同じように穴が空いた者が複数存在していた。

そして漆黒の剣を使いウルキオラと死闘を繰り広げる少年、彼の一撃を防ぎ胸に手刀で穴を開けたところで映像は終わった――

 

 

「ふむふむ……こんな世界があったんだね。義骸という物の情報は少なかったけど、それでもいい物を見れたよ!」

 

 

冷静を保っているダヴィンチ。それは彼女自身がサーヴァント故なのかはわからない。一方立香はというと呆然と立ち尽くしていた。

無理もないだろう。自分が呼び出し戦って来たサーヴァントがまさか人間の敵だったのだから。

 

 

「破面は……ウルキオラは……人間の敵だったんだね……」

 

 

「……俺の仕事は終わった。戻らせてもらうぞ」

 

 

「うん、貴重な時間をすまないね!あとは私がなんとか考えてみるから、君は自室に戻るといいよ」

 

 

立香には何も言葉はかけなかった。虚である自身が何を言うというのだ?今は違うと声をかければいいのだろうか?

そんな言葉に意味は無い。今見せた映像は全て事実。虚は人間の敵である事に変わりはない。それで立香が軽蔑し令呪による自害をさせようとするならそれでも構わない。元より自分はこの世界で異物であり孤独の存在だ。

 

 

 

―――――

 

 

 

「……」

 

 

ウルキオラが去り部屋に残されたのは沈黙。

 

 

「フォーウ?」

 

 

心配しているかのようにフォウが立香の顔を見てそう鳴いた。

 

 

「……何も言わなくてよかったのかな?」

 

 

「……信じたくないんだ、ウルキオラが人間の敵だったなんて」

 

 

今のウルキオラとあの映像のウルキオラ。今と違うように見えるがあれはウルキオラだ。

あれがかつての彼であり、破面という存在。

 

 

――怖かったあの目が

 

 

彼の目からは何も感情を感じられなかった。唯一感じたのは孤独。虚無。それだけだ。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

通路を歩いていると何人か慌しい様子のスタッフを見かけた。恐らく次の特異点とやらの準備をしているのだろう。彼らはウルキオラを見掛けるとそそくさと目を離し早歩きで離れていく。

サーヴァントという存在が怖いのか、それともウルキオラ自身に恐怖を感じているのか。これが正しい反応。人間と虚の正しい関係だ。

そんな事を考えていると、背後から走ってくる足音が聞こえる。

 

 

「フォウ!」

 

 

「……なんだ?またお前か?」

 

 

そこに居たのはフォウだった。

 

 

「早く去れ…」

 

 

そう言って冷たくあしらうと、すぐさま振り返り歩きだそうとする。

 

 

「ウルキオラ!」

 

 

また違う声が聞こえる。もう一度振り返ると立香が息を切らしながらそこにいた。

 

 

「なんだ?」

 

 

「あなたは過去に人間の敵だったかもしれないけど……でも今のウルキオラは違うった信じてるから」

 

 

「俺が落ち込んでいると思って心配のつもりか?心配なら不要だ、あれは事実だからな。それに俺はお前達人間の敵だ」

 

 

落ち込んでなどいない。あれは事実、真実を見せただけに過ぎない。落ち込む意味がわからない。

 

 

「心配したから来たわけじゃない。私もどうしたらいいかわからないけど……今は自分の気持ちを伝えようって思ったんだ」

 

 

「そんな事をする暇があるなら次の戦いの準備をしておけ。不要だ」

 

 

無視して歩きだそうとするウルキオラだが、立香は後ろ姿のウルキオラに向けて続けて話す。

 

 

「あの映像を見て少しだけど怖くなった。でも今のウルキオラは違うよ、こんなヘッポコマスターの召喚に応えてくれて、一緒に戦ってくれた、それに貴方は所長だって助けてくれた!」

 

 

「あれは奴が居なくなればカルデアの機能が低下すると思ったからだ。助けたいと思ったわけではない」

 

 

「それでもだよ。あの映像の中の貴方は何を考えてるか分からなかったし、人の心らしさも感じられなかった。でも今のウルキオラからは人の心が感じられるよ」

 

 

「心……か……マスター、心とはなんだ?」

 

 

「私は馬鹿だからよく分からないけど……多分ここだと思う」

 

 

そう言って立香は手の平を見せた。

 

 

「誰かと触れたりすると安心したり、暖かく感じるでしょ?私はそれだと思うな」

 

 

人間という生き物は容易く心という言葉を口にする。それが当たり前かのように。

 

 

「俺には人間の心というのはわからんがな」

 

 

「そっか……ならどうしよう……」

 

 

うーんと言いながら頭を傾げて悩む立香。こいつは心を教えようとでも言うのだろうか?

そして思いついたようで、表情が明るく変化する。

 

 

「なら友達になろう!」

 

 

「友だと?俺とお前はサーヴァントとマスターという関係だ、友達などという関係に意味は無い」

 

 

「私はそういうウルキオラやマシュを戦いの道具みたいな考えは嫌いなの。私にとって貴方も、マシュもドクターも皆大切な人なんだから!だから友達!」

 

 

サーヴァントは戦うための道具ではないのか?この女は一体何を言っている?ましてや破面である自分と友達になるとまで言っている。

 

 

「解せんな……」

 

 

「今は分からなくていいの、だから私はウルキオラの友達第一号ね!はい決定!」

 

 

勝手に友達第一号に決められた。どうやらこちらの意見は完全に無視している。

 

 

「それと名前!友達なんだからマスターなんて他人行儀じゃなくて立香って呼んで欲しいかなー」

 

 

「言いたいことは終わりか?では俺は行くぞ…」

 

 

そう言うとこんどこそ歩みを止めず歩き出す。後ろからはまだ何か声が聞こえるが振り向かない。

 

 

「次の戦いも近い、俺に構わず用意しておくんだな…立香」

 

 

「用意はマシュが……って……え、今私の名前……」

 

 

先程よりも更に明るくなる表情。余程嬉しいのか両目を閉じてプルプル震えている。

 

 

「ねえウルキオラ!名前!もう1回呼んで!」

 

 

「2度は言わん、消されたいか」

 

 

「お願いします!ワンモアプリーズ!」

 

 

横でギャーギャー騒ぐ立香を無視して歩く、まとわりつくのでかなり鬱陶しい。たかだか名前を呼んだだけで何故嬉しいのか。本当に人間という物は理解に苦しむ生き物だ。

だがウルキオラの口元が少しだが上がっていた。

自身の中に妙な物を感じる、これはあの時とはまた違うとわかる。

 

 

(友か……人間は不思議な奴らだ、俺を友にするなどと……だがこれも心というやつか……)

 

 

人の気持ちをまた一つ理解したウルキオラだった。



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第11話 サーヴァント召喚

沢山の感想、お気に入り本当にありがとうございます!ウルキオラの心が少しづつ変わっていく様子を書けていたら嬉しいです。


 

「ジャジャーン!これがダ・ヴィンチちゃん特製呼符だ!」

 

 

そう言ってドヤ顔で黄色いカードのような物を見せつけているのは作った本人のダ・ヴィンチ。

 

 

「流石ダ・ヴィンチちゃんです、これがあれば新しいサーヴァントを召喚できるんですね!」

 

 

「そうだともマシュ!私はすごいだろう?もっと褒めてもいいんだよ?」

 

 

そんなすごい代物を見せつけているこの状況。一体何故このような状況になったかと言うと、自室にて待機をしていたら立香とマシュがやって来て「召喚するから一緒に来てほしい」と言われて来たのだ。

なんでも現状の戦力ではこれからの戦いが厳しくなるであろうと判断した所長が、ダ・ヴィンチに召喚出来るように依頼、そして出来上がったのがこの呼符と呼ばれる物らしい。

 

 

「これからの特異点で戦闘はさらに激しくなりますからね、味方が増えるのはこちらとしても心強いですね!」

 

 

「そうだねマシュ!どんな子が来るのかなー?ワクワクして来たよ!」

 

 

「でも気をつけたまえ?サーヴァントは必ずしも私達に味方するとは限らないからね、ウルキオラ君やマシュのようなサーヴァントなら大丈夫だろうけど、召喚してすぐにマスターである立香ちゃんに危害を加える者もいるからね」

 

 

英霊とはそんな物騒な輩もいるのかと呆れるウルキオラ、最悪の事態にならない為にも立香を守れるようウルキオラとマシュが呼ばれたのだろう。

 

 

「もしも敵対するようならマシュは立香ちゃんを守ってくれよ?ウルキオラ君はその敵対サーヴァントと戦ってくれたまえ」

 

 

「お前もサーヴァントではないのか?」

 

 

「私は科学者だからね、戦闘は不向きなのさ。何より君の方が私より遥かに強いだろう?それに並のサーヴァントなら君に勝つことはまず不可能と見ているからね」

 

 

見たところダ・ヴィンチの武装は杖のみ、接近戦向けではないだろう。クラスはキャスターというやつか。

 

 

「さて!それでは早速コレを使って呼び出してみようか。本当は触媒があるといいんだが生憎そんな物はないからね」

 

 

「ダ!ヴィンチ先生質問!触媒ってなに?」

 

 

元気よく手を挙げて質問する立香。

 

 

「触媒とはそのサーヴァントに関係する聖遺物の事ですよ先輩」

 

 

「ほー流石マシュ、何でも知ってるね」

 

 

「ちなみに私の盾もそうですよ?」

 

 

「そうだね、マシュの盾も聖遺物の一つだ、アーサー王伝説に登場する円卓だね。だから円卓の騎士なんかは召喚に応じる可能性は極めて高いだろうね」

 

 

「触媒かーウルキオラは何か持ってたりする?」

 

 

「触媒……物でなくてもいいんだな?」

 

 

「構わないよー」と言うダ・ヴィンチ。

ウルキオラは手を顔に近付けるとその目をまたくり抜く。そんな様子を見たマシュは「え!?」と驚き声を上げた。立香とダ・ヴィンチは二度目なので声は上げはしなかったが軽く引いている。

そしてくり抜いた目を立香に向けると…

 

 

「触媒ならこれを使え」

 

 

「……え?」

 

 

「聞こえなかったのか?これを使えと言っている」

 

 

「いやいや!!何平然と眼球差し出してるの!?」

 

 

「なんだ?これでは不十分か?なら片腕を切り落として差し出せばいいか?」

 

 

「いやそんな事しないで!というか問題はそこじゃないよ!?」

 

 

そのまま無言で立香に目を渡す。受け取った立香は両手でフルフルと震えながらその目を本気でどうしようか迷っている。

ウルキオラなりの善意なのだろうが完全に空回りしている。彼自身は全く気づいていない。

 

 

「ウルキオラさん……大丈夫なんですか?」

 

 

「問題ない、すくに再生する」

 

 

「再生するから大丈夫という問題ではない気はしますけど……」

 

 

反応に困るマシュはただただ苦笑いをするしかない。

 

 

「ダ・ヴィンチちゃん……どうしよ?」

 

 

「……とりあえずそれは預かっておこうか。何かに使えるかもしれないし……何より彼の善意だからね」

 

 

ダ・ヴィンチは立香の手から目を受け取ると、どこからとも無く取り出したガラスの入れ物にそれを入れた。

立香も手から目が無くなりホッと一息つく。

 

 

「使わんのか?」

 

 

「う、うん!今回は止めとくよ!わざわざありがとうね!」

 

 

善意を無下に出来ないのか、顔が引き攣りながらもお礼を言う。

 

 

「さて、じゃあ気を取り直して召喚といこうか!用意できたのは3枚だ、大量には生産出来ない貴重な代物だからねー」

 

 

「よし!じゃあ行くよ!」

 

 

呼符を受け取ると立香はそれを部屋の中心に置く。

 

 

「詠唱は必要ないのでしょうか?」

 

 

「そこは大丈夫さ、全て必要な情報はあの紙に込められているからね。置くだけであら不思議!サーヴァントが召喚可能ってやつさ!ほら、もう召喚するために呼符が起動しただろう?」

 

 

呼符は光輝き出す。周りには光が高速で周りだし魔力が荒々しく動いている。

 

 

「一体どんなサーヴァントが来るのでしょう…?」

 

 

「仲良くできる人だと私は嬉しいなー」

 

 

仲良く出来るという意味のわからない基準。普通は戦闘能力が高いサーヴァントを求める物ではないだろうか?

本当に立香は何を考えてるかわからないとウルキオラは感じる。

部屋一面を光が覆い尽くす。そして呼符が置かれていた場所からは何やら気配を感じる。

 

 

「アサシン、ジャック・ザ・リッパー……貴方が私達を呼んだの?」

 

 

現れたのは白髪の子供。ボロボロの布を羽織り、腰からはナイフのような物の取っ手が見える。

見た目は幼い子供のように見えるが、感じ取れる魔力はやはりサーヴァント。かなりの魔力を感じられた。

その異様な雰囲気からウルキオラは腰の刀に手をかけようとする。

 

 

(餓鬼のように見えるがコイツ……なかなか出来るようだな隙が見当たらん)

 

 

雰囲気からは善なるものには見えない。ここで始末するのが適切だろうと思い、刀を抜き響転で背後に周り切り捨てようと考える。が、その警戒深い思考は邪魔される。

 

 

「か……か……!」

 

 

立香は震えながら一歩一歩と近づく。そして…

 

 

「可愛い!」

 

 

――ジャック・ザ・リッパーを抱きしめた

 

 

「何この子!サーヴァントなの?こんなに可愛いのに?」

 

 

抱きしめながら頭を撫でる立香。こんな得体の知れない空気を放つ奴を可愛いという。

 

 

「貴方が私のおかあさん?」

 

 

「うんうん!私がおかあさんだよ!」

 

 

「おかあさんよろしくね」

 

 

「うん!よろしくね!」

 

 

そのまま力強く抱きしめて、ひたすら頭を撫でる立香。そんな行動にたまらずジャックは「おかあさん苦しいよ」と言った。「あ、ごめんね」と言うとパッと腕を離し解放する。

解放されたジャックはウルキオラの方をじっと見る。

 

 

「貴方……今私を切ろうとした?」

 

 

「ああ、お前が敵のような空気がしたからな…」

 

 

「貴方は私達をいじめるの?」

 

 

ナイフを取り出し殺気を放つジャック。それに臆することなく冷静な顔でウルキオラも手に握る刀を離さない。

――緊迫した空気それを破ったのはまたもや立香

 

 

「え、ウルキオラ……ジャックを切ろうとしたの?」

 

 

「コイツが敵だと思ったからだ」

 

 

「こんなに可愛いのに?」

 

 

「外見で判断するな…コイツはサーヴァントだ。そしてその気配からは俺達虚と似たような物を感じられる」

 

 

「でも……可愛いよ?それに私のことおかあさんだって」

 

 

「くどいぞ。2度も言わせるな」

 

 

可愛いから大丈夫という意味のわからない基準。

人間というのは意味がわからない。

 

 

「おかあさん、コイツは敵?」

 

 

ナイフをこちらに向けながら立香の方を向く。こちらを見ていなくともその警戒は解かない。

 

 

「敵じゃないよ。ウルキオラは私達の仲間、貴方を敵だと勘違いしただけだよ」

 

 

「そうなの?」

 

 

ウルキオラの方を向くとその無垢な瞳でじーと見つめてくる。

 

 

「もう知らん……勝手にしろ」

 

 

「ほらね!敵じゃないでしょ?」

 

 

「おかあさんが言うならわかった。ウルキオラは仲間なんだね」

 

 

ジャックは警戒を解くとナイフをしまった。それと同時にウルキオラも呆れたように手を離すと袴の中に入れる。

 

 

「いやー!一時はどうなるかと思ったけど、一件落着だね!」

 

 

緊迫した空気がなくなりダ・ヴィンチがホッとした表情をしていた。

召喚して早々に戦闘など、たまったものではないからだ。仲を取り持った立香に感謝しかない。

 

 

「ほら、ウルキオラも謝って」

 

 

「何故謝罪する必要がある?」

 

 

「いいから!」

 

 

「解せんな……謝罪に意味があるとは思えん」

 

 

警戒をした結果、敵対する可能性があるから切り捨てようしただけだ。当然の行動をしただけなのにも関わらず何故謝罪を要求されるのか。理解に苦しむ。

 

 

「攻撃しようとしてごめんなさい」

 

 

何故か謝罪された。

 

 

「ジャックも謝ってるんだから!ほら、ウルキオラも謝って」

 

 

「……」

 

 

何故目の前の餓鬼は謝っている?コイツも理解不能だ。

 

 

「ウルキオラさん……とりあえず形だけでも謝罪を……」

 

 

マシュが小声でアドバイスをして来た。意味はわからないが、この面倒くさい状況を納めるのはそれが最善なのだろうか。

 

 

「……すまなかったな」

 

 

とりあえず謝罪しておいた。するとジャックはニコっと笑い「うん」と返事が返ってきた。ただの謝罪で何故笑顔になるのだろうと不思議に感じていた。

 

 

「さ、さて!ウルキオラさんも無事に謝りましたし、先輩次の召喚に移りませんか?」

 

 

無理やり空気を元に戻そうとするマシュ。ダ・ヴィンチは小声で「ナイスだよマシュ!」と言いながら親指を立てている。

 

 

「あ、そうだね!なら次行ってみよう!」

 

 

ジャックの手を引きながら中心から連れていき、傍に待機させる立香。ジャックは立香の服の端を掴みながら大人しくしている

 

 

「次は誰が来るかな…!」

 

 

ドキドキした様子で呼符を見つめる立香。すると思い出したようにウルキオラの方を向く。

 

 

「いきなり攻撃はダメだからね」

 

 

「……了解した」

 

 

そして呼符が再び光り輝くと部屋を光で包み込んだ――




【英霊大百科】



「どうも、今日はジャック・ザ・リッパーについてのお話や」


「クラスはアサシンなんやねー、まさに切り裂きジャックに相応しいクラスやね!」


「宝具は解体聖母てゆーて、「時間帯が夜」「対象が女性」「霧が出ている」の三つの条件を満たすと問答無用でバラバラーにしてまうすごい宝具なんや。いやー僕は男でよかったわ」


「さらに暗黒霧都っていう宝具もあるんやね。アサシンらしい気配遮断に加えて、さらにジャックちゃんを認識させずらくもさせるんやって!いやー敵には回したくない子やねえ」


「とある聖杯大戦ではこの子に苦戦しとったみたいやからね、今回は味方見たいやし心強そうやね」


「でもこんなに強そうやけど、見た目は小さい女の子なんやね?ほらほらー干し柿食べる?」


「わーい!食べる!」


「どうや?美味しいやろ?僕のお手製やでー」


「うん!甘くておいしい!」


「なんやサーヴァント、って言うてもこうして見ると可愛いもんやねー」


「おじさんは食べないの?」


「おじっ!?いやージャックちゃん?僕はおじさんやのうて、出来たらお兄さんとかの方がええかなあ。ほら僕まだ皺とか髭とかないやろ?」


「ふーん?じゃあお兄ちゃん?」


「なんや、イケナイ道に向かいそうだからやめとこうか」


「やっぱりおじさん?」


「うーん難しい子やねえ…」


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第12話 孤独の狼

「サーヴァント、アーチャー召還に応じ参上した」

 

 

光の中から現れたのは赤い外装を身に纏い白髪で褐色の男。

 

 

「君が私のマスターか?よろしく頼む」

 

 

「うん!よろしくね、アーチャー!ところで……貴方の名前は?」

 

 

「名か?そうだな……エミヤとでも呼んでくれ」

 

 

エミヤという男、ジャックの時とは違い雰囲気から悪な物を感じられない。しかし彼からはどこかで感じた妙な空気を感じ取れる。

視線を外さず彼を観察するウルキオラ。探査回路を展開しエミヤの魔力や霊圧等の情報収集も行う。

そんな気配を感じ取ったのかエミヤの視線がこちらに移動する。

 

 

「ふっ……どうも私は歓迎されていないかな?」

 

 

「え?そんなことないよ?エミヤが召還に応じてくれて私は嬉しいよ!」

 

 

「しかしそこの彼からはそういう風には感じられないがね?」

 

 

エミヤはこちらを向くと、ゆっくり歩み寄ってくる。

 

 

「君もサーヴァントだろう?私がマスターに何かしないか警戒しているのかな?」

 

 

「……あの時感じた視線は……そうかお前か」

 

 

「ほう?どうやら私を知っているのか?私は君と初対面のはずだと思うがね」

 

 

さっきから感じていたこの視線の正体。あの冬木の街でこちらを見ていた物と同じだ。

どうやら彼はこちらに気がついてはいないようだ。あの時の記憶は共有されていないのだろうか?この英霊召還というシステムには謎が多いと感じる。

 

 

「気にするな」

 

 

「そうかね?まあいい、同じサーヴァント同士よろしく頼むよ」

 

 

エミヤは特に追及することもなく会話を切り上げると、立香やマシュとしばらく会話した後、部屋を後にしていった。ずいぶんとサッパリしたサーヴァントという印象が持てる。

あの時数十秒に満たない時間での対面だったが、こちらを観察しているというよりは監視のような目、なにやら違和感を感じ取れた。

 

 

「エミヤさん、いい方そうですね」

 

 

「そうだねマシュ。それにアーチャーって言ってたし、後方支援とかしてもらえそう!」

 

 

まあ立香の言うとおり彼がアーチャーならば今後の戦闘では大いに役に立つだろう。後方からの支援があるのと無いのでは戦局は大きく変わってくる。

 

 

「そういえばエミヤさん食堂の場所を聞いていましたが……なにをするんでしょう?」

 

 

「お腹減ってたのかな?」

 

 

サーヴァントは本来魔力での活動をしているため、食事は必要としない。それなのに何故食堂に向かったのかは不明だが、何か目的があるのだろう。

 

 

「まさか料理が得意だったりして!」

 

 

「料理を好んでする英霊なんて聞いたこと無いですけど…」

 

 

「おかあさん、ご飯作るの?」

 

 

「私じゃなくてエミヤがね。ジャックはご飯好き?」

 

 

「うん!」

 

 

「そっか!なら今度エミヤに作ってもらおう!」

 

 

「うーんと……ならハンバーグ食べたい!」

 

 

後で頼みに行こうねーと言いながら頭を撫でている立香。エミヤが料理を作れるかどうかはまだ確定していないが、そんな約束をして大丈夫なのだろうか。

 

 

「なら彼に頼みに行く前に最後の召還をしてしまおうか?」

 

 

料理に話が脱線したためそれをダ・ヴィンチが元に戻す。

 

 

「あ、そうだね!ちゃちゃっと召還しちゃおう!」

 

 

そして最後の呼符を中央に置き離れる。果たして次はどんな英霊が喚ばれるのか。

同じように呼符が光輝き出す。しかし光が増すばかりで一向に召還は始まらない。

それだけではない、妙な力を感じられる。この力は間違いない

 

 

――霊圧だ。

 

 

――次の瞬間部屋中を光が包み込んだ。同時に霊圧が広がり空気を振動させていく。

 

 

「こ……これは?ウルキオラさんと同じ…?」

 

 

霊圧を感じ取れたのかマシュが顔を歪ませている。危険だと自身で判断し、立香の前に立ちふさがる。

ウルキオラも静かに刀に手を乗せ、探査回路の展開をすると召還されたであろう存在の霊圧を測る。

そして光が消える前に声が聞こえる。

 

 

「……サーヴァント、アーチャーだ。めんどくさかったが召還に応じ来たぜ」

 

 

霊圧を放つ者、それはウルキオラと同じような服装を身に纏っていた。見た目は人と遜色なく髪の毛は若干オールバックのように上げている、見た目はダンディな感じと言えば伝わるだろうか。

気怠げな声色で自身のクラス名を伝えるとハッと我に返ったような表情をする。

 

 

「なんだ?口が勝手に動いたが……アーチャー?サーヴァント?それに俺は……あの隊長さんに斬られたはずだが……」

 

 

どうやら混乱しているようで状況が掴めていない様子だ。

 

 

「まさかお前まで召還されるとはな……スターク」

 

 

「あんた……ウルキオラか?」

 

 

彼の名はコヨーテ・スターク。ウルキオラと同じく十刃の一員である人物。

スタークは同じ破面であるウルキオラを見て安心したのか落ち着きを取り戻す。

 

 

「こいつはどういう状況だ?ここは虚夜宮(ラスノーチェス)でも無いみたいだが……それになんで俺は生きてる?」

 

 

「ここは虚夜宮(ラスノーチェス)ではない。カルデアという施設だ」

 

 

「カルデア…?また藍染様が何か作ったのか?」

 

 

「ここには藍染様はいない。そもそもここはあそことは異なる世界だ」

 

 

「異なる世界?……はぁ…そりゃまためんどくさい状況だな」

 

 

心底めんどくさそうに深いため息をつくスターク。

そして視線をウルキオラから立香達に移動する、見られた立香達は肩が少しばかり上がりビクッと反応する。

 

 

「あんたが俺を召還?したってことでいいのか?」

 

 

「えーと……うん」

 

 

「そうかい」

 

 

特になにも聞かない。攻撃をしようとするわけでもない。気怠そうに欠伸をすると、彼の背後からゴンッと鈍い音が響きわたる。

 

 

「なにが、そうかい……だよ!もっと聞くことがあるだろスターク!!」

 

 

彼の後ろから出てきたのは子供。しかしその頭部には仮面があり胸には穴が空いている。この子供も破面なのだと一目でわかった。

 

 

「いってえなリリネット。別にいいだろ」

 

 

叩かれた頭を押さえながら返事をするスタークだが、それでも特に聞こうとはしない。

 

 

「こ……子供の破面?」

 

 

ついマシュが口からそうこぼしてしまった。するとリリネットはズンズンと前に進んでいきマシュをにらみつける。

 

 

「……子供だからなに?なめてんの?」

 

 

「え、いやそういうわけでは…!ただこんな小さな破面もいるんだなと…」

 

 

アタフタしながら喋るマシュ。小さいという単語にムカついたのか知らないが、リリネットがフルフル震えている。

 

 

「あの白髪じじいもそうだったけど……どいつもこいつも子供子供ってぇ!!」

 

 

「うるせぇぞリリネット」

 

 

「だってスターク!」

 

 

「いいから静かにしてろ」

 

 

そういうとリリネットはおとなしく黙り静かになる、スタークはリリネットを背後に追いやると立香達をじっと見ると、その場に座り込んだ。

 

 

「ちゃんと聞かねえとこいつがうるせえからな。あんた達……何者だ?なんでそいつもいる?めんどくせぇが話してもらうぜ」

 

 

さっきの怠そうな顔とは違って真面目な目つきをしている。敵意はなく一応聞いてくれるらしい。

最初は立香やマシュが説明していたが途中からダ・ヴィンチがすべて説明していた。興味が無いのかはわからないがたまに彼は欠伸をしていた。

 

 

「特異点に人理焼却ね……なるほどな、大体わかった。わざわざすまねぇな」

 

 

「いやいや、こちらも説明する義務はあるからね。気にしないでおくれ。たださっきも言ったように何故君達破面が英霊として召還出来たのかは不明だ」

 

 

「まあ俺としてはどちらでもいいんだけどな。召還って奴のおかげか知らねえがこいつも無事だ……」

 

 

横にいたリリネットの頭に手を乗せる。リリネットはその手を素早く払いのける。

 

 

「マスター?でいいのか?礼は言わせてもらう、こいつを生き返らせてくれてありがとな」

 

 

「え、いや私はなにも!あ、それよりも……貴方達は私達の力になってくれるのかな?」

 

 

フゥと静かに息を着くと、口を開いた。

 

 

「残念だが、それは無理だ。別にあんた達に危害を加えるつもりはねえさ、そんなめんどうな事したくねえしな」

 

 

「何故か理由を聞かせてもらってもいいかな?」

 

 

「簡単だ。俺達と一緒にいない方がいい、それだけだ」

 

 

「敵対するつもりはないんだろう?だったら力を貸してくれてもいんじゃないかな?それに君達はサーヴァントだ、魔力無しでは存在出来ないよ?」

 

 

「私達と一緒にいたらあんた達……死ぬよ?いままでもそうだった。私達に近づく奴はみんな死んでいった」

 

 

悲しそうな顔をしながらスタークの代わりに話してくれたリリネット。

いままでずっと二人だけで過ごしてきたのだろうか、二人からは強い孤独を感じられた。

 

 

「あんたにはリリネットを生き返らせてくれた恩を感じてる。それを出来たら返してやりてえさ。だが一緒にいることで恩を仇で返す形になっちまうからな」

 

 

「俺達はどこか適当な特異点とやらで大人しくしているつもりだ。力になれなくて悪い」

 

 

特異点で大人しく過ごし、その特異点が修正され時代が修正される波に巻き込まれ存在が消えるとわかってもこちらと一緒にはいないと言う。

彼なりの考えがあるのだろう。恩を感じているからこそ迷惑をかけたくないのだ。

 

 

「大丈夫……大丈夫だよ!私達は死なない、貴方達と一緒にいても絶対に死なないよ!」

 

 

「あんたなあ、そんな確証ねえだろ?」

 

 

「確証はないけど……きっと大丈夫だよ。私は弱いかもしれないけど、マシュやウルキオラ、ダ・ヴィンチちゃん、ジャック、エミヤ……強い人は沢山いるよ」

 

 

「立香ちゃんの言うと通りさ、君達が思っているほど我々は弱くないよ。それにサーヴァント化していることにより、生前より力は制限されるはずだ、それなら一緒にいても大丈夫じゃないのかな?」

 

 

「お願いします!スタークさんにリリネットちゃん、こんな私だけど力を貸してください」

 

 

頭を下げる立香。そんな様子を見てハァとため息をつくと頭を掻きながら答えた。

 

 

「俺達の力がどうしても必要なのか?」

 

 

「人理を元に戻すためには貴方達の力が必要なの」

 

 

「はぁ……わかったよ。あんた達に協力する」

 

 

「スターク!?いいの?虚が人間なんかに従って……私は納得が…」

 

 

反論しそうなリリネットの口を塞ぐと「いいんだよ」と言い静かにさせた。

納得行かない様子だが、スタークに言われ渋々言うことを聞くリリネット。

 

 

「あんた……変わった人間だな。ウルキオラから俺達がどういうもんか聞いているだろ?」

 

 

「虚で破面だよね。でもウルキオラもそうだけど貴方達とは仲良くなれると思ったから」

 

 

立香は両手を二人に差し出す。それを見てスタークは口角を少し上げて笑う。リリネットはそっぽを向いている。

 

 

「私は藤丸立香、よろしくね。スタークさんにリリネットちゃん」

 

 

「スタークでいいぜ。スターク・コヨーテだ、ほらお前も諦めろ」

 

 

「私はまだ納得してないからな…虚が人間に従うなんてさ…でも私を助けてくれたのは感謝してやるよ人間」

 

 

スタークは差し出された手を掴むと、リリネットの手を引っ張りもう片方の手と無理矢理掴ませた。

スタークは立香との握手を終えると、ウルキオラの方を向き近くまで歩いてくる。

 

 

「変わったな」

 

 

「なんのことだ?」

 

 

「雰囲気が、だよ。以前のあんたは石像みたいだったからな」

 

 

「くだらん。俺はなにも変わってなどいない」

 

 

「そうかい……だが今のあんたの方がよっぽどいいぜ、前より話しやすいからな」

 

 

そう言うと去っていくスターク。部屋を出る際に、ダ・ヴィンチに枕と布団が欲しいと頼んでいた。余程眠いのか欠伸をして部屋を後にした。

変わったのだろうか?一体なにが変わったのだろう?自分はなにも変わってはいないのに変なことを言う奴だ。

 

 

「あの人確か映像にいた人だよね?」

 

 

立香はウルキオラに見せられた共眼界の映像を思い出す。あの会議のような場に確かにスタークはいた。

 

 

「ああ。奴は第1十刃(プリメーラ・エスパーダ)、俺より序列は上だ」

 

 

「スタークさんはウルキオラさんよりも強いんですか…!?」

 

 

「さあな。実際に戦ったことはないから知らん。藍染様がお決めになったことだ」

 

 

「あわわわ……なんだかすごい方が味方になりましたね先輩」

 

 

「でもそんなに怖そうに見えなかったけどなー」

 

 

あの怠そうでやる気のない雰囲気を出されたら誰だって感じるだろう。

それでもウルキオラよりも序列は上。かなりの実力者なのは間違いない。斯くして色々とトラブルは起きたが、無事に召還は成功出来た。あとはロマニ達スタッフのみんなが次の特異点への準備を終えるのを待つだけになった。



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第13話 次の特異点へ

「全員集まったみたいね、ではこれよりブリーフィングを行います」

 

 

カルデアスの前に集められたウルキオラ達は特異点へと向かう前のブリーフィングを行っていた。

話しているのはオルガマリー、バインダーを片手に挟んである資料を見ながら説明を始めた。

 

 

「貴方達にやって欲しいことは二つあります、一つは特異点の調査及びその時代における人類の決定的なターニングポイントです。それがなくては私たちがここまで至れなかったという決定的な事変ということです。そして二つ目が聖杯の調査です。あの冬木の街では聖杯が特異点の原因となっていました、アレは願いを叶える魔導器の一種で膨大な魔力を秘めています、立香達は実際見たことがあるわね?」

 

 

「はい、なんだかすごい力を感じました」

 

 

「その通り。アレを何故、どうやってレフが手に入れたのかは分かりませんが……聖杯でもなければ歴史の改変などは不可能よ。なので貴方達には聖杯の回収、又は破壊をしてもらいます」

 

 

「調査をしていく課程で必ず聖杯に関わる情報も見つかるはずだよ、その時代に聖杯を残すことだけはしないように気をつけてね」

 

 

ロマニが追加で補足説明を入れてくれる。

 

 

「レイシフトしたら、早めに霊脈を探してこちらからのサポートを受けれるようにしてくれ、そうしないと救援物資なんかを送ることが出来ないからね。マシュ、よろしく頼むよ」

 

 

「はい!」

 

 

「さて……今回特異点に向かうメンバーだけど」

 

 

資料を一枚めくると名前を呼び上げていくオルガマリー

 

 

「立香、マシュ、ウルキオラ、スタークの4名になります」

 

 

「あれ?ジャックやエミヤは一緒じゃないんですか?」

 

 

「あまりに複数人をレイシフト出来ないのよ、それにカルデアの守りも必要になってくる。レフがいつか直接攻撃を仕掛けてくる可能性だってあるわ」

 

 

カルデアの守護のため何人かは残る必要があるようだ。

 

 

「一応彼等も霊基を一時的にそちらに送り戦闘することは可能です、それは戦局を見てこちらで判断し増援のサーヴァントを転送出来るから安心しなさい」

 

 

「あとマシュやウルキオラはあなたとの契約上離れることが出来ないのもあります。スタークに関しては聞いたところクラスはアーチャー、そして接近戦だけでなく遠距離からの支援も可能だと判断しました」

 

 

ウルキオラと同じ破面であり、腰に差してある刀から接近戦も可能なアーチャーと仮定を立てているようだ。呼び出されたスタークはというと、欠伸をしている。

 

 

「いきなり仕事ってわけか、ねみぃが仕方ねえな」

 

 

「それと、もう一つの理由は……」

 

 

オルガマリーがもう一つの理由を話そうとするが、先程とは違いその口からはなかなか言葉が出てこない。そんな様子を見ていたロマニが助け船を出そうとするが、ダ・ウィンチに先をこされる

 

 

「そこは私が言おうか。もう一つの理由、それは彼女の監視さ」

 

 

「所長を!?」

 

 

「ああ、言っただろう?魂が非常に不安定だって、なにが起こるかわからないからね、仮に暴走した場合私たちサーヴァントがその対処をするしかない。そのためにもカルデアに何人かのサーヴァントは必要なわけさ」

 

 

「……虚の力が安定していないか」

 

 

「そ・れ・と……ほら」

 

 

ダ・ウィンチはオルガマリーの近くに寄ると、何を思ったのか服をたくし上げる。そのいきなりの行動にオルガマリーは赤面し高く声を上げた。

 

 

「ちょ……!!レオナルド!!何をするの!?」

 

 

「隠す必要はないだろ?君はウルキオラ君の力を受け入れた……そして自身の体も変わってることも」

 

 

「……ッ!」

 

 

「所長……その穴は…!」

 

 

「なるほどな……あんたから虚の力を感じてはいたが、そういうことか」

 

 

露出する腹部。そこにはあった、ウルキオラやスタークと同じく虚である証の穴が。

場所はへその辺り、ぽっかり空いたその穴からは後ろの背景が見えている。

赤面したまま服を元に戻すと、咳払いをして冷静を取り戻した。

 

 

 

「そうよ。私はウルキオラと同じ破面?というのになったみたいなの、この首飾りみたいな白い骨も多分私が破面になってからついていたわ…冬木から戻って、着替えている最中に気がついた…そして思ったの、私はもう人間ではないんだって」

 

 

「所長……」

 

 

悲しげか、それとも寂しげに呟いていく。人間ではなくなったという事実を未だに受け入れきれないからなのか。

 

 

「後悔しているか?」

 

 

「後悔はしていないわ、あれは私が決断したことよ。それにどんな形であれ私は助かった、感謝しているわウルキオラ」

 

 

「感謝は不要だ。お前がいなければカルデアの機能低下が考えられたからな、それを優先しただけだ」

 

 

「そう。今はそういう事にしておくわ」

 

 

クスッと笑うとそう答えた。どこに笑うところがあったのかは解せないが気にしても仕方ないだろう。

 

 

「それに所長には義骸というのを作るまでは当分大人しくしてもらう必要もあるしねー、くれぐれもシミュレーター室で自分の戦闘能力テストなんかしないでくれよ?」

 

 

「え、え…なんでそのことを…!?」

 

 

「隠してもバレバレだとも。あんなに嬉しそうに「これが響転!すごいわ!」とか「虚閃も撃てるじゃない!」とか叫んでいただろう?」

 

 

ニヤニヤしながらそう言うと、またまた赤面してうつむいてしまう。それにしても虚閃までも修得しているとは驚いた。魔術の才能があるからなのか随分と虚の力を使いこなしているらしい。

 

 

「ロマニも知っていたの!?」

 

 

「えーと……僕は、うん。まああれだけ大声だと……ね?所長嬉しそうだなぁって思って聞いてましたよ」

 

 

「ああぁぁぁぁ!!」

 

 

ついに体中真っ赤にしてしゃがみ込む。多分ここのスタッフはみんな知っているのではないだろうか。立香は「あーあれって所長だったんだ」と言い、「随分楽しそうな様子でした」とマシュも追い打ちをかけていく。

 

 

 

「というわけで!試したい事もあるかもしれないが、安定したとわかるまでは禁止だよ」

 

 

「わかったわ……もうしないわよ……というか恥ずかしくて出来ないわ」

 

 

顔をうずめながらモゴモゴと答えた。

 

 

「さ、さて!では君達にはそろそろレイシフトしてもらおうか!」

 

 

ロマニはそそくさとその場を離れると、なにやら機械を触り出す。

 

 

「観測された特異点はすべてで7つだ。そして今回は一番揺らぎが少ない物を選ばせてもらった。向こうについたらこちらからは連絡しか出来ないからね、現地での対応はそちらに任せるよ。それじゃあ各自コフィンに入ってくれ」

 

 

用意されたコフィンが音を開けて開くとその中に立香達は入っていく。横からギャアギャアと騒がしい声が聞こえてくる。

 

 

「おいリリネット、もっと詰めろ!」

 

 

「私の方が小さいんだからスタークが詰めてよ!!」

 

 

「逆だろ、お前が小さいんだからお前が詰めろ!いって!角!角が尻に刺さってるぞ!」

 

 

「やめろよスターク!動いたら私の仮面が折れるだろ!」

 

 

流石に一人用のスペースに二人が入るのは無茶だったようだ。

 

 

「うーん、リリネットちゃんなら小さいし入れると思ったんだけどなぁ」

 

 

「おいそこのオッサン!小さいっていうんじゃねえ!」

 

 

「オッサン!?僕はまだオッサンって年じゃないよ?」

 

 

苦笑いをしていたロマニにすかさず暴言を放つリリネット。オッサンと呼ばれたことに軽くショックを受けている。

 

 

「いやー仲がよろしいようで何よりだね。破面と言っても君達が来てくれてよかったよー。さあレイシフトさせようかロマニ、マリー所長」

 

 

「おいあんた!無理矢理閉めようとすん――っな――!」

 

 

ニコニコしながらコフィンの扉を強引に閉めた。

 

 

「人類の未来はあなた達にかかっているわ、よろしく頼むわね…!――ではこれより未来を取り戻すためのグランドオーダーを開始します!」

 

 

いつの間にか立ち直っていたオルガマリーは所長らしくそうしめた。

次の特異点が始まる。どんな時代でどんな英霊と出会うのか。そしてウルキオラは何故この世界へ来たのか、それがわかる時が来るかもしれない。

 

 

――アンサモンプログラム スタート

――霊子変換を開始します。

 

 

――レイシフト開始まで3 2 1

 

 

――全行程。完了

――グランドオーダー 実証を 開始 します。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――第一特異点――――

AD1431 邪竜百年戦争 オルレアン

 

 




【英霊図鑑ゴールデン】


カルデア・食堂にて


立香とエミヤの姿がそこには見える。


「今日は卵焼きかーエミヤの卵焼き美味しいんだよねー」


「おかわりもあるぞマスター、沢山食べてくれ」


「やったー!いやーエミヤが来てからご飯が楽しみだよー」


「そう言って貰えると私も作りがいがあるというものだ」


「エミヤー御飯は?」


「リリネットか、今日は卵焼きだ。それともオムライスがいいかね?」


「オムライス……いいの!?」


「ああ、構わないとも」


「あ、でも旗みたいなのはいらないからな」


「気に入らないか?」


「子供扱いされてるみたいでムカつく」


「でもリリネットちゃん可愛いし、旗乗せたくなるのわかるー」


「だから子供扱いすんなって言ってるだろマスター!」


「なら残念だが旗はなしにしよう。そうだ、スタークはどうした?」


「寝てる」


「はあ……彼はいつも寝ているな。まあサーヴァントだから無理に食事をさせるわけにもいかないが……」


「あ、でも……スターク、あんたの淹れるコーヒーってのは好きだった言ってたよ」


「ふっ…そうかね?なら今度彼の部屋にコーヒーを持って行くとしよう」


「それよりもオムライス!早く作ってよ!」


「承知した」


「虚ってご飯食べてたの?」


「ご飯って言うよりは魂魄かなー、でも好き好んで食べてる奴もいたかなぁ……ヤミーとか。でもエミヤの作るご飯は美味しいから好きだよ」


「そうだよねーエミヤのご飯は美味しくてついつい食べすぎちゃう…太らないといいけど…」


――そんなワンシーン、今日もカルデアは平和です。


「ウルキオラ!残すなと言っているだろう!」


「俺は少食なだけだ、好き嫌いではない」


「毎回お前は肉系を残しているだろう?」


「気のせいだ。それに俺は立香に言われて仕方なく食事とやらを摂取している……友なら一緒に食べろと煩いからな」


「ならせめて残さず食べてほしいものだがね……肉嫌いなのか?」


「……嫌いではない。ただのタンパク質の塊に過ぎん」


(嫌いだなこれは……ベジタリアンか……)


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第一特異点 邪竜百年戦争 オルレアン
第14話 フランスに降り立つ十刃


書き出すと結構時間かかるので申し訳ないです…
今回のオルレアン、ジャンヌ・オルタちゃんマジでストレスマッハになりそうな予感がする…

改行後の一文字空けや、視点なんかに気をつけて書きました。これで見やすくなるといいんですが…


 広がるのは緑の景色、広大な丘、海のような広い青空。自然に囲まれたそこは狭い空間にいた筈のコフィンではなく絵に描いたような自然の中だった。

 

 

「こいつが特異点ってやつか?それにしちゃ穏やかなとこだな」

 

 

「わーすごい景色……こんなの日本じゃ見られないや」

 

 

 風が流れていき立香の髪を静かに揺らしていく。そよ風なのか心地よさそうだ。

 

 

「フォウ……フォーウ!」

 

 

「あ!フォウ君!来ちゃったの!?」

 

 

「本当ですね、誰かのコフィンに紛れ込んだのでしょうか?」

 

 

「…その獣なら俺の中に入ってきたぞ」

 

 

「フォフォ!?(獣!?)」

 

 

「そうだったのですか。フォウさんとウルキオラさん仲がいいんですね」

 

 

 うっかり紛れ込んだフォウ君。どうやらウルキオラと一緒に来てしまったようだ。

 

 

「先輩、時間軸の座標を確認しました。どうやら1431年です」

 

 

 マシュは端末のような物で現在の時代を確認する。

 

 

「現状、百年戦争の真っ直中という訳ですね、ただこの時期はちょうど戦争の休止期間の筈です」

 

 

「休止?戦争に休止なんてあるのマシュ?」

 

 

 あまり歴史に詳しくないのか立香は頭を傾げていた。

 ちなみに他のメンバーはというとウルキオラは景色をただ見つめており、スタークは早速座り横になる、リリネットは初めて見たであろう景色に視界を奪われてキョロキョロとしている。

 

 

「はい。百年戦争はその名の通り百年間継続して戦争を行っていたわけではありません。この時代の戦争は比較的のんびりしていたものですから」

 

 

 マシュは余程歴史を勉強していたのかその博識の知識を披露する。立香は「なるほどー」とうなずきながらそれを聞いている。

 

 

「休憩しながら戦争だなんて人間は何考えてるかわかんないねー。さっさと相手を殺した方が楽だろ?」

 

 

「こら!女の子がそんな言葉つかっちゃいけませんよ」

 

 

「だから子供扱いすんなっての!」

 

 

 マシュに注意されると今にもウガー!と言いそうなリリネット。

 

 

「リリネットには同感だ…だらだらと無駄に戦いを伸ばすなどと、馬鹿としか思えんな」

 

 

「あんたが他人の意見に賛同するなんてな、珍しい事もあるもんだ」

 

 

「……黙っていろスターク」

 

 

 普段は共感などしないのだろう。それをウルキオラが共感したという事は彼の中で共感するという心を持ったためだろうか?

 

 

「ま、まあ虚である皆さんからしたら不思議だとは思いますが……これが昔の人の戦争なんです。現代のような兵器を使った戦いとは大きく異なっています」

 

 

 これが人間と虚の価値観の違いなのだろう。そう思っている表情しながらマシュは苦笑いをして答えた。

 

 

「先輩?どうしました?」

 

 

「……マシュ、あれなんだろ?」

 

 

「空ですか?」

 

 

 立香はゆっくりと人差し指を上空へと向ける。その動きに連れられるように全員上空へと顔を上げていく。全員の瞳に映し出されたのは巨大な円。遙か彼方だろうか、手を伸ばしても届くことはなく勿論飛行機なんかでも到達は不可能ではないかと思う程の高さ。そこには大きく巨大な円があった。

 

 

『よし!回線が繋がったよ!映像も荒いけど確認が取れるようになったぞ!!……って、どうしたんだい皆?皆して空を見上げちゃって?』

 

 

 どうやらカルデアからの回線が繋がったようだ。しかしロマニの声が聞こえても誰一人として空から視線を外さない。

 

 

「ドクター、映像を送ります。あれは何ですか?」

 

 

『光の輪……?いや、衛生軌道上に展開した魔術式…?』

 

 

『私にも確認させなさいロマニ。……って何よこれ?とんでもない大きさじゃない、北米大陸と同じ…いやそれ以上のサイズかしら?』

 

 

 大陸を超えるほどの大きさとなるとスケールの半端な差が見て取れる。

 

『1431年にこんな現象が起きたなんて確認出来ないわ。間違いなく焼却での影響ね』

 

 

『ひとまずアレはこちらで解析してみるよ、君達は現地の調査に専念してくれ』

 

 

「了解しました。まずは霊脈の確保、そして現地の方との接触ですね」

 

 

「よーし!じゃあ早速行こう!」

 

 

「……宛もないのにどこに向かうきだ?」

 

 

「えーと……感?かな?」

 

 

「話にならんな」

 

 

 その言葉がグサッと刺さったかのように立香は軽く落ち込みしょぼんとした顔をする。

 

 

「まあ最悪俺かウルキオラが上空に行って様子をみるしかねえな」

 

 

「お二人とも空を飛べるんですか?」

 

 

「正確には飛んでるわけじゃねえぜ、霊子を足場にして浮いてるだけだ」

 

 死神や虚であれば当たり前の技術だ。だが他人から見れば空を飛んでいるようにしか見えない。

 

 

「じゃあウルキオラお願い出来る?」

 

 

「……」

 

 

 地を蹴り出し上空へと飛ぼうとするウルキオラ、足に力を込めたところでマシュの声が横切る。

 

 

「待ってください。あれは……どうやらフランスの部隊のようですね。どうしましょう?接触しますか?」

 

 

「現地の人は貴重な情報だからね!話をしに行こう!」

 

 

 マシュと立香を戦闘に、そのフランスの人達の元へ歩いていく。近づくと向こうもこちらに気づきなにやら慌て出す。特にウルキオラを見て騒いでいるようにも見える。

 

 

「マイネームイズ、フジマルリッカ!で合ってるよね?」

 

 

「先輩惜しいです、正解はリッカフジマルですね」

 

 

「なんだ?言語があるのか?めんどくせぇな……マイネームイズ、スタークとかで通じるのか嬢ちゃん?」

 

 

「スタークさんの場合はコヨーテ・スタークでいいと思いますよ。先輩のように日本名だと名前と名字が逆になるんです」

 

 

「なんかめんどくさいねー?」

 

 

「世界の言葉というのは複雑なんですよリリネットさん。おっとそれよりも早速コンタクトを……ヘイ・エクスキューズミー……こんにちは私は旅の者ですが…」

 

 

 マシュが現地人と早速コミュニケーションを取ろうとぎこちない発音で話す。後ろでは「マイネームイズ、ウルキオラシファー……か」とボソッと聞こえたが誰もその声は耳に入ってはいない。

 

 

「……」

 

 

「えーと?」

 

 

「何か喋ったらどうだ人間」

 

 

「ヒッ……!!!敵襲!敵襲だ!!」

 

 

 鎧に身を包んだ男性はそう叫んだ。叫びを上げて数十秒と経たないうちに、ガチャガチャと金属が当たる音を鳴らしながら、複数の兵士にあっという間に包囲されてしまう。

 

 

『ロマニは解析中だから私が様子を見に来たわよ……ってなんで囲まれてるのあなた達』

 

 

「この塵共が勝手に攻撃をしようとしているだけだ」

 

 

「すいません!挨拶はフランス語でするべきでした!あとウルキオラさん、あまりそういう言葉は…」

 

 

『まあ誰を見て敵と思われたのかは大方予想が出来ます…まあ落ち着きなさい、そこは隔離された世界だから何が起きてもタイムパラドックスは起きないはずよ。音便に済ませたいところだけど……彼らの反応を見ても無理そうね』

 

 

 ため息混じりの声が聞こえてくる。どこからともなく聞こえてきたオルガマリーの通信音声に更に警戒を増す兵士たち。

 

 

「あの真っ白な怪物に……今の妙な声……!総員構えろ!こいつら怪しすぎるぞ!」

 

 

 真っ白な怪物とはウルキオラ以外にいなかった。全員の視線が彼に集中するが本人はわかっていない。虚である彼からすると怪物というのは概ね正しい。故に気づいていない。

 

 

「塵が……消えたいようだな」

 

 

 ウルキオラの指先に霊圧が集まっていく。虚閃を放ち彼らを絶命させる気だ。それはまずいと思ったのか立香は彼の腕を両腕で掴み地面へと向ける。

立香に止められたことにより霊圧が拡散していき虚閃を中断する。

 

 

「腕を離せ」

 

 

「むやみに殺しちゃダメだって!」

 

 

「塵を掃除するだけだ」

 

 

「先輩の言うとおりです、むやみに傷つけるのはよくありません!ここはせめて峰打ちで乗り越えましょう!」

 

 

「マシュも物騒なこと言わないでー!」

 

 

「え!?何かおかしかったですか?」

 

 

「マスターは平和的な解決をしたかったんだろうな……まあでもこうなっちゃ仕方ねえな」

 

 

「それ!私が言いたいのはそれ!」

 

 

「…殺さなければいいんだな?」

 

 

「うん!でも平和的に!」

 

 

 ウルキオラはゆっくりと前へ進むと兵士の前で立ち止まる。

 

 

「今すぐ消えろ……でなければ本当に消すぞ」

 

 

 辺りの空気が震え出す。――これは霊圧。ウルキオラは霊圧で彼らを黙らせようとしている。

 霊圧慣れしている立香達は大したことはないが、ただの人であるフランス兵士からすると得体の知れない重圧、そして殺気。ほとんどの兵士は膝を地面につけて立ち上がれなくなっている。

 ウルキオラは対して霊圧は放っていない。全力で霊圧を当てれば彼らは意識を失うだろう、そればかりか立香やマシュまで意識を失いかねない。

 

 

「ヒッ……!!ば、化け物だ……!て、撤退!撤退だ!」

 

 

 辛うじて立っている者達が立てない兵士を引っ張りながら撤退していった。その様子はまさに蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げていった。

 

 

「……霊圧って便利だね」

 

 

「はい。私も同じ事を思いました」

 

 

「これからも似たような状況になったら頼もうか」

 

 

「そうですね。その方が戦闘を避けれそうです」

 

 

『無事に回避出来たようね?次はあまり刺激しないように頼むわよ……現地の人を敵に回したらよけいに面倒なことになるわ』

 

 

「次は大丈夫です、フランス語で話しますので」

 

 

『マシュ、言っておくけど多分言語は大丈夫よ。ある程度の言語は勝手に変換されるようにレイシフト時に翻訳魔術を付与してあるわ』

 

 

「そうだったのですか!?」

 

 

 驚く様子のマシュ。今までの苦労は一体…という表情をしている。

 

 

「へー便利だな魔術って。私たち破面にはそんな便利な力ないからなー」

 

『そこまで万能ってわけじゃないけどね。とりあえず彼らを追ってください、そこでもう一度話してみて』

 

 

「ウルキオラはとりあえず……一番後ろかな?今の事で向こうも怯えるだろうし」

 

 

 こうしてスタークの後ろに隠れるように着いてくることになったウルキオラ。まあ彼だけのせいではないのだろうが……それでも真っ白な顔に、仮面、緑の瞳はやはり怖いのだろう。

 特に文句を言うこともなく最後尾から着いてくるウルキオラ、立香は申し訳なさそうな表情をしているが、仕方ないのだろう。これも平和的話し合いのためである。

 

 

 数分も歩いたら兵士達が逃げ込んだであろう砦らしき建造物が姿を現した。中は目視できるだけでもボロボロになっており戦いの爪痕があちらこちらに刻み込まれている。

 

 

「ひぃ!!来たぞ!!」

 

 

 数名の兵士が出てくるとガタガタと恐怖を表しながら槍を構える。

 

 

「待って!私たちに敵意はないの!だから話を聞いてくれないかな?」

 

 

「あ、あんた達敵じゃないのか?でも後ろにいるその白い奴は…」

 

 

「あ、えーと。彼も敵じゃないよ!さっきはごめんなさい、あなた達に危害を加えたくなくてあんな方法を…」

 

 

「そう…なのか…」

 

 

 案外あっさりと信じてしまう兵士たち。敵ではないとわかると肩を下ろし緊張を解く。

 

 

「……一体何があったんですか?」

 

 

「……ジャンヌ・ダルクさ、あの方が竜の魔女となって蘇ったんだ」

 

 

「ジャンヌ・ダルク?確かあの有名な聖女だよね?学校の教科書にも載ってたなあ」

 

 

「はい。先輩も知っていましたか」

 

 

「魔女はたくさんの魔物を引き連れてフランス中を蹂躙してる……俺達はどこへ逃げることも出来ないんだ…」

 

 

 ガタガタと震えながら話す兵士の声からは恐怖を感じ取れた。

 

 

「しかし妙ですね…彼女が蘇ったというのもですけれど、魔女ですか……」

 

 

 すると後方から大きな音が聞こえる。音というよりはそれは砲口、後ろを振り向くとそこにいたのは大きな翼に鋭い牙、そしてファンタジーにでも出てくるようなその風貌は――そうドラゴン。しかし大きさは比較的小型、ドラゴンというよりはワイバーンというのが正しいのだろう。

 

 

「ヒッ!!来たぞ!!」

 

 

『君達の周囲に大型の生体反応だ!』

 

 

 通信がいつの間にかロマニに変わっていたのか、ロマニの声が聞こえる。

 

 

『しかも結構な数だね、みんな気をつけて!』

 

 

「おいおい、こんな生物もいんのか?」

 

 

「俺達の世界にはいない生物だな…」

 

 

「はい!あれはこの15世紀のフランスに存在してはいけない生物です!」

 

 

「ほんとファンタジー世界みたいだね……みんないける?」

 

 

 立香の合図に全員が臨戦態勢をとる。すると……

 

 

「そこのあなた達!」

 

 

 どこからともなく聞こえてくる女性の声。

 

 

「あなた達を戦士としてお見受けします、どうか私と共に戦ってくれませんか?」

 

 

 現れたのは大きな旗を持った金髪の女性だった。

 

 

「え、うん!勿論!やっつけるつもりだったよ!」

 

 

「助かります……あれは私一人ではとても相手にしきれないので」

 

 

 確かに結構な数のワイバーンが目視するだけでも10はいるだろうか。

 

 

「では私に続いて…「女、邪魔だ」…え?」

 

 

 先頭に立ち、立香達を先導するように向かおうとする女性。その歩みを声が邪魔をした。

 女性はポカンとした顔をして声を出したウルキオラを見る。

 

 

「聞こえなかったのか?邪魔だと言っている」

 

 

「しかし!あの数を相手にするのは…」

 

 

「あの程度の塵を片づけるのに無駄な時間は不要だ」

 

 

「ご…塵!?あなたはアレの恐ろしさを…!」

 

 

 女性の言葉を無視すると前に数歩出て行く。そして人差し指をワイバーンの群へ突き出すと次第に翠色をした霊圧が集束していく。そして放たれたのは――虚閃。

 翠の霊圧の衝撃はワイバーンを飲み込むと、その肉体を肉塊へと変えていく。中には焼け焦げるように灰になって消えていくワイバーンもいる。衝撃が去った後、そこにはもうすでにワイバーンの姿は無く、残ったのは肉片や千切れた翼や鱗のみとなった。

 

 

「え……あの群を一瞬で?」

 

 

 僅か数秒の一瞬の出来事。それを彼女は呆然と眺めることしか出来なかった。自分でも苦戦するかもしれない相手を、指先から放たれた攻撃のみで一掃したのだから無理もない。

 旗を握る力が強まり、鎧の擦れる音が聞こえた。

 

 

 ――彼女はジャンヌ・ダルク、蘇った魔女とは違う者。そんな彼女とカルデアから来た者達の出会いは随分と衝撃的な物になった。

 



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第15話 聖女との出会い

「私はサーヴァント、ジャンヌ・ダルク、クラスはルーラーです」

 

 

 先ほどの砦より少し離れた薄暗い森の中、そこで立香達は先ほどの女性から自己紹介を受けていた。

 ワイバーンを華麗に消し飛ばすという特異点でのデビュー戦を果たした立香達だったが、その圧倒的な力からまた兵士達に怯えられてしまった。そしてこの女性に連れられこの森へとやってきた。

 

 

「ジャンヌ・ダルク…!?え、確かジャンヌ・ダルクってさっきの人がいってた魔女…」

 

 

 まさかの事実、彼女は魔女と言われていたジャンヌ・ダルクだと言うのだ。これには一同は驚きを隠せない表情をする。ウルキオラは興味がないのか特に驚いている様子はないが。

 

 

「はい。私もまだ現界して数時間ほどしかたっておりませんが、確かにあの方達はそうおっしゃっていました」

 

 

「この特異点にはあんたが二人いるっていうの?」

 

 

「ええ……そういうことになるのでしょう」

 

 

「英霊って同じ奴が二人いたりするんだね」

 

 

 サーヴァントとはつくづく不思議な存在だ。同じ人物が存在するということは本来あり得ることではない、だが現実に目の前の女性はそれを体現している。信じざるを得ないだろう。

 

 

「それと私のクラスはルーラーです、それは理解できています。しかし本来与えられるべき聖杯戦争に関する知識が大部分存在していません、さらにステータス面でもランクダウンしています。対サーヴァント用の令呪は勿論、真名看破すら出来ません」

 

 

「ルーラーってすごいクラスなんだね…」

 

 

『横から失礼するよ、うん。ルーラーは彼女が言うようにサーヴァントの真名を知ることが出来る真名看破、そして令呪を使用することが出来る特別なサーヴァントなんだ。その役目は……うん、今はこれを話しても仕方ないかな?詳細はまた特異点を修正したら教えるよ』

 

 

 ルーラーというのは余程特別なクラスなのだろう。令呪を使用することが出来るということは、恐らくは聖杯戦争での監督役のような物。対サーヴァントに対しては有利な立場というやつだろうか。

 

 

「彼女は……いえ、竜の魔女と呼ばれるジャンヌ・ダルクは、あのフランス王シャルル七世を殺し、オルレアンにて大虐殺を行っています」

 

 

『なるほど、彼女の証言からわかったよ。シャルル七世が死に、オルレアンは占領された、それはつまりフランス国家の崩壊を意味する。歴史上フランスは人間の自由と平等を謡った最初の国であり、多くの国がそれに追随した、この権利が百年遅れればそれだけ文明は停滞するわけだ』

 

 

「あの…先ほどから聞こえるこの声は一体…?」

 

 

『おっと自己紹介がまだだった!初めまして聖女ジャンヌ・ダルク、僕はロマニ・アーキマンといいます。彼らのサポートをしている者です、よろしくお願いしますね』

 

 

『そして私はその上司でありカルデアの所長をしています、オルガマリー・アニムスフィアよ』

 

 

『所長、急に現れないでくださいよ』

 

 

『別にいいじゃない。私だってかの聖女に自己紹介したいのよ。それに私だってサポートしてるんだから』

 

 

 通信画面の向こう側ではなにやら騒がしい様子。どうやらジャンヌ・ダルクという女性はそれだけ有名なのだろう。

 

 

「今度は私たちの番だね!私は藤丸立香、カルデアのマスターしてます!こっちは頼れる後輩のマシュ。あっちの白いのはウルキオラ、欠伸してるのがスタークで、この可愛い子がリリネット!」

 

 

 マシュとリリネットはしっかりと紹介したが、その他の紹介が非常に雑な立香。とはいえ当人の二人は全く気にしていない様子。

 

 

「私たちの目的は、この歪んだ歴史の修正です。先ほども言ったようにカルデアという組織に所属しています」

 

 

「歴史の……修正?どういう事ですか?」

 

 

「はい、それについても説明させてもらいますね」

 

 

 今の世界の状況について事細かにジャンヌに伝える。話の中でジャンヌは表情を曇らせたり、驚愕していた。それだけ今の状況がやばいというのが伝わったようだ。

 

 

「よくわかりました……今世界は危機に瀕しているのですね……それに比べたら私の悩みなど小さなものですね……サーヴァントとして未熟であり自分でさえ私を信用出来ていません。オルレアンを占領したあの飛竜…あれを操っているのは認めたくありませんがもう一人の私なのでしょう」

 

 

『あれだけの数を使役できるなんて、現代の魔術では不可能よ。そうなると……やはりアレしかないわね』

 

 

「所長、アレってもしかして聖杯?」

 

 

『その通りよ、それしか考えられないわね…いきなり貴重な情報が手には入ったわね』

 

 

「ってことはその聖杯ってのを回収するために、もう一人のジャンヌ・ダルクってのを倒さなきゃいけねぇわけだな」

 

 

「そうなりますね。一刻も早く聖杯を回収しましょう。幸いにもジャンヌさんと私たちの目的は一緒です、共に行動してもよいのでは?」

 

 

「そうだねマシュ!ここは味方同士仲良く共闘だね!」

 

 

 立香は片手に拳を作ると勢いよく空に上げた。そんなこちらを申し訳なさそうな目で見ているジャンヌ。

 

 

「あの……私がいては足手まといになるかと思いますが……本来の力ならいいですが今の私は大きくランクダウンしていますし…」

 

 

 この遠慮がちな物腰の低さ、間違いなくさっきの戦闘を思い出したのだろう。ワイバーンにすら苦戦しているのに、そのワイバーンを一瞬で灰に変えるだけの力を持つサーヴァントを使役しているマスターの立香。今のジャンヌには立香がとんでもないマスターに見えているのではないだろうか。

 

 

「そんなこと気にしないで!ジャンヌが仲間になってくれたら私とっても心強い!」

 

 

「しかし……」

 

 

 チラッとウルキオラに視線を送るとすぐに立香に視線を戻すジャンヌ。

 

 

「私なんて魔術もろくに使えないヘッポコだから……」

 

 

「謙遜なさらないで、あんなに強力なサーヴァントがいるのですよ?」

 

 

「ジャンヌぅ優しすぎるよ……やっぱり貴方って聖女だね……うん、決めた絶対にジャンヌの手助けをするよ!」

 

 

 ジャンヌの優しさに感動したのか、協力は絶対にすると言い張る立香。それに根負けしたのかジャンヌは諦めて、少し笑顔になる。

 

 

「わかりました……貴方がそこまで言うなら、お願いしてもよろしいでしょうか?」

 

 

「任せて!!私は弱いけど、私の仲間みんな強いから!」

 

 

「フフ……頼もしいです。これならたとえ魔女と呼ばれている私であろうと、恐るるに足りませんね。さっきも……一瞬でしたしね……」

 

 

 先ほどの戦闘を思い出し軽く口元がひきつるジャンヌ。出会いがアレでは仕方ないだろう。協力して戦おうと思っていたら、邪魔だと言われ、あげくワイバーンを塵扱い。そして一瞬で灰に変えてしまっているのだから。

 

 

「とりあえずこれからどうしようか…?いきなり本陣に突っ込む…?」

 

 

「それは流石に無謀かと……いやでも、彼らの力なら出来てしまいそうですね……」

 

 

 本来であれば無謀ともいえる作戦だが、今この場ではその限りではない。十刃であるウルキオラは勿論だが、それに加え同じ十刃で序列が上のスタークまでいてはそう思えてしまう。

 

 

「傲るな、そうして慢心していると敵の思うつぼだ……」

 

 

 作戦とも言えない作戦に対して静かにウルキオラは呟いた。

 

 

『その通りよ立香、あなたがみんなの力を信頼しているのはわかるけど慎重に行くべきだわ。ここは特異点、何が起こるかわからないのよ』

 

 

『本当に魔女を倒せそうなのは否定しないけど…うん』とぼそぼそと話すオルガマリー。

だが彼女の言うとおりだろう、ここで調子に乗って敵の罠にハマるほどまぬけなことはない。それに何が起こるかわからないというのは怖いものだ、もしかしたら向こうもこちらと同等かもしくはそれ以上の戦力をもっているかもしれない。

 

 

「とりあえず今は拠点の確保も大事です。ここは見知らぬ土地ですから」

 

「マシュの嬢ちゃんの案には俺も賛成だ、いい加減に横になりてぇからな」

 

 

「スタークなにもしてないでしょ」

 

 

「うるせぇな、歩くのは疲れるんだよ」

 

 

 ヘトヘトとまではいかないが目からは怠いという気持ちが伝わってくる、スタークは近くの倒木に座ると、深くため息を吐いた。

 

 

「そうですね、スタークさんの言うとおり今は休みましょう。立香さんは人間ですから、私達と違って疲れも溜まりやすいでしょうし」

 

 

「わかりました、ではキャンプの用意をしますね」

 

 

 手際よくマシュはキャンプの用意をしていく。寝る場所は一人分、立香用だ。一方スタークはというとどこから取り出したのかは知らないが、寝袋を持ってきていた。

 立香は最初みんなは寝ないの?と聞き、サーヴァントは睡眠を必要としないと聞き納得はしていなかったが、諦めて「おやすみー」というと簡易的な布団にくるまり横になる、しばらくすると穏やかな寝息が聞こえてくる。

 

 

 立香が眠り、残ったのはサーヴァント達。スタークは寝袋で寝ており、リリネットもスタークの側で静かに寝ている。起きているのはマシュとウルキオラ、ジャンヌの三人だ。

 たき火がパチパチと弾ける音を立てる。その音は沈黙の中を静かに駆け抜けていく。

 そんな沈黙を静かに破ったのはジャンヌだった。

 

 

「彼女…すごいですね」

 

 

「はい。慣れない野宿で心配でしたが先輩も安心して寝ています」

 

 

「それもありますが、彼女自身です。足手まといにしかならないはずの私に協力をしてくださいました、それに仲間だと…」

 

 

「先輩は不思議な方ですから……誰でも受け入れ、大切な仲間だとよく仰っています……そして何よりも私達の事を心配しています。そんな先輩だから私も力になりたいと思えるんです」

 

 

「はい、素敵な方だと思います……ウルキオラさん、あなたもそんな彼女だから力を貸しているのですか?」

 

 

「あいつが不思議な人間なのは認めてやる……」

 

 

「気になったのですが…ウルキオラさんはどうして……先輩に力を貸しているのですか?」

 

 

「声が聞こえたからだ」

 

 

「声ですか?」

 

 

「……それだけだ」

 

 

 そういうとウルキオラはその場から離れ、森の奥へと歩いていく。

 

 

「あ……どこへ?」

 

 

「少し離れたところに生体反応を感じた、それを消してくるだけだ」

 

 

「すごいですね…そんなことも出来るのですか。やはり私なんかでは…」

 

 

「煩いぞ、悲観する暇があるなら……お前に何が出来るのか考えておけ……」

 

 

 そう冷たく言い放つと暗闇に消えていった。すこしばかり暗い顔をするジャンヌ、無理もないだろう自分はなにも出来ない。戦闘はわかっていたが索敵ぐらいはと思っていた矢先、彼は自分よりも遙かに優れた索敵能力を持っているのだから。

 

 

「ウルキオラさん、冷たそうに見えますけど……あれはきっと彼なりの気遣いです」

 

 

「そう……なんですか?」

 

 

「私にはわかります。だって仲間ですから…きっと彼はジャンヌさんに戦闘だけが全てじゃないって伝えたかったんじゃないんでしょうか?」

 

 

「信頼しているのですね」

 

 

「はい。なんだかんだ言ってウルキオラさん先輩に優しいですから」

 

 

「フフッ……確かにそうですね。彼は立香さんの一番近くでずっと立っていましたもんね」

 

 

 クスッと優しい笑みを浮かべながらジャンヌはそう言った。

 ウルキオラは立香が寝静まった後、ずっと近くで周囲を警戒していた。それは彼自身が立香を信頼していなければすることはないだろう。無意識からなのかウルキオラはそれをしていた。きっと彼自身も気付いてはいない。そして自信の行動の変化についても。

 そして夜は更けていく、たき火の音はいつの間にか消え残った炭になった木からは煙だけが立ち上っていった。

 




【英霊大百科】



「いやー久しぶりの出番やね!今か今かと楽しみにしとったよー」


「今日ゲストさんに来てもらってるんや、入っていいでー」


「こんにちはジャンヌ・ダルクです」


「今日は世間でも有名で名高い聖女ジャンヌちゃんに来てもらったで」


「そんな、私は大したことはしていません」


「いやーそういうところが聖女って感じがするわけやねえ」


「ところでジャンヌちゃん、うちの十刃どうやったん?」


「……正直に言いますと…引きました。というか凹みました」


「ほう?と、言うと?」


「なんですかアレ!?あんなの第一特異点にいていいわけないじゃないですか!?私の役目なんですか?旗振りですか?応援してればいいんですか?……グス」


「あららー泣いてもうた。まあ十刃やしねえ……仕方ないといえば仕方ないんやけど」


「……もう1人の私が不憫で仕方ありません」


「ま、まあでも黒ジャンヌちゃんは聖杯持ってるみたいやし?結構善戦すると思うで?」


「もう1人の私には敵ながら頑張ってほしいですね……私は後ろで旗振って応援するので」


「そんなやさぐれんでも…ま、まあ!ジャンヌちゃんにはジャンヌちゃんにしか出来へん事があるやろうしね!まだ始まったばかりやで?」


「そう…ですよね!私にしか出来ないことがきっとある筈です、旗を振って特異点終わりなんてそんな悲しい出番だけは回避してみせます」


「その意気やで!じゃあ今日はここで、バイバーイ」


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第16話 もう1人のジャンヌ・ダルク

遅れて申し訳ありません。仕事が忙しくて中々手をつけれませんでした。
更新できる時はどんどん更新していくので、不定期ではありますがよろしくお願いします。


キャンプを終えた一同は広大な草原を歩いていた。

敵陣に乗り込む前にまずは各地で情報収集をしようという事になったのだ。まずは近場のラ・シャテリアという街に向かっている。

 

 

「うーん!いい天気!本当に特異点なのか疑っちゃうくらいだねー」

 

 

「そうですね先輩、私はカルデアの外以外は資料なんかの情報でしか見た事がありませんので、こういった景色には目を奪われます」

 

 

青空に広大な自然、人理修正という目的が無ければお弁当でも広げてピクニックと洒落こみたいところだ。

 

 

「私も現世は空座町しか見た事ないからなー、人間の世界はこんなところもあるんだなー」

 

 

両腕を頭に交差して空を見ながら歩くリリネット。

 

 

「リリネットちゃん達がいた虚界って所にはこういうの無かったの?」

 

 

「ないよ。ずーっと夜で辺りにあるのは砂漠だけだよ」

 

 

リリネットの言う通り虚界は砂漠と夜だけの世界。緑の草木はなく唯一生えてるのは石英のような物資の鋭い枯れ木のような物。死の世界というイメージが出来るだろう。

そんな空っぽな世界にいた彼等からすると、この色鮮やかな世界は興味深いのかもしれない。

 

 

「砂漠だけの世界…ですか。あなた達はそんな世界で何を食べていたんですか?」

 

 

「魂魄だ…」

 

 

「魂魄…?」

 

 

「人間の魂だ。同じ虚を食らってもいたがな」

 

 

ジャンヌの素朴な疑問に躊躇なく答えるウルキオラ。その言葉にショックを受けたのか顔が強ばる。

そんなジャンヌの警戒心を解くように立香がフォローを入れた。

 

 

「あ、でも!今はウルキオラ達はそんな事してないから!普通にご飯食べてるよ!」

 

 

「え、ええ…わかりました…人々を襲うことは無いとはわかっていましたが、本人の口からそんな事を聞いたので驚いただけです」

 

 

立香のサーヴァントという事から、個々の理由はどうであれ人理修復の為に協力しているという事実からそのような事はしないとはわかっていたのだろう。

 

 

「しかし虚界ですか…あなた達は一体…」

 

 

『話をしているところ悪いけど、目的地に近づいてきたようだよ。何か見えないかい?』

 

 

虚という存在に疑問を抱くジャンヌの言葉を遮るロマニの連絡が入った。その連絡を聞きマシュは目的地の方角を見る。そこに見えたのは真っ黒な煙と赤い炎。街が燃えているのが見てわかった。

 

 

「先輩!街が……!」

 

 

「うん、急ごう!」

 

 

燃え盛る街を見て一同は駆け足で向かいだした。

駆け足で向かっている最中、サーヴァントではない立香は体力、身体能力的に着いていくのがやっとのため、見かねたウルキオラが脇に抱き抱えるとそのまま走り出した。

 

 

「え…?ウルキオラ!?私走れるよ!?」

 

 

「非力な人間に合わせていると非効率だ」

 

 

「いや…ほら?連れて行ってくれるのは嬉しいけど……もう少しいい抱え方があると思うなー」

 

 

「アハハ…」と苦笑いながら答える立香にウルキオラは意味がわからないという顔をしている。

 

 

「意味がわからんな、持ち方に意味があるのか…?」

 

 

ウルキオラ以外は意味を察した様だが本人は理解していない。そのまま持ち方を変えることなく、街まで立香は輸送される事になった。

 

 

街に到着すると、そこに残っていたのは蹂躙され荒れ果てた街。崩れた家屋に未だに燃えている木々。焦げた匂いが鼻を突いてくる。

 

 

「生存者は…」

 

 

「辺りには生体反応は感じられん」

 

 

「そんな…」

 

 

ウルキオラの言葉を聞きガクリと膝を落とすジャンヌ。

彼の言う通り生存者はいないだろう。崩れた建物に下敷きにされた人、炎に焼かれ黒く焦げた人等見るに耐えない状況だ。

もう少し早く来ていたら、キャンプを止めてこの街に来ていれば助けられたのではないか?という悔しさからなのかジャンヌは歯を食いしばり、荒れ果てた街を見ていた。

 

 

『なんだこの反応…サーヴァント!?しかも5騎だって!?』

 

 

ロマニの慌ただしい様子の連絡が入った。

 

 

『君達の反応を察知したのか、サーヴァントが5騎そちらに向かっている!それもすごいスピードだ!5騎なんてとても相手をしてられない、すぐにその場から離れるんだ!』

 

 

「逃げるなんて出来ないよ!」

 

 

『こちらは4騎……いやリリネットちゃんを入れたら5騎?だけど、戦闘向きなサーヴァントはウルキオラとスタークだけだ!こちらから送り込むのには時間がかかる、今乱戦は避けるべきだよ!』

 

 

ジャンヌは大きくステータスダウンしており、マシュは戦闘というよりは守りに特化している。リリネットはサーヴァントなのかどうか不明だが、戦闘は不得意だとわかっているのだろう。

確かに2人で5騎を相手にするのは現実的に不可能。そのためにも戦術的撤退をした方がいいという意味だろう。

 

 

「で、ですが!ウルキオラさんの力は並のサーヴァントを超えています!数で負けていても勝機はあるのでは?」

 

 

ワイバーンを塵として瞬殺したあの力。彼女は彼の強さを知っているからこそ、撤退せずに戦うべきだと進言した。

 

 

『確かに彼の力は並のサーヴァントを軽く超えているとも!それは認めるよ、でも5騎を同時に相手にしたら立香ちゃんの守りが手薄になる!マスターである彼女を失ったら人理修復どころじゃなくなるよ!』

 

 

マスターである立香を思っての撤退なのだとロマニの焦る口調からは強く伝わってきた。だがロマニの提案も虚しく、敵はすぐそこまでやってきていた。

目視できる距離には黒い巨体がこちらにすごいスピードで向かって来ている。あれにサーヴァントが乗っているのだろうか?

 

 

「あれか…」

 

 

『ウルキオラ…なんで指を空に向けているのかな…?』

 

 

「塵を消すだけだ」

 

 

そういうと人差し指に翠の霊圧が込められていく。

 

 

『撃ち落とすって言うのかい!?いやいや、敵かもしれないけど、もしかしたら味方かもしれないんだよ?』

 

 

ロマニの声を聞く間もなく指先から虚閃が放たれた。

味方かもしれない。だが彼にはそんな物関係ないのだろう、無慈悲な一撃は黒い巨体へとドンドン近づいていった。

虚閃が当たる直前巨体が体を逸らしそれを回避した、だが翼に掠ったのかフラフラとバランスを崩す。

しばらくするとバランスを保ち直し、こちらに向かって来た。

黒い巨体が見えるとその正体は巨大な竜。ワイバーンよりも遥かに大きく、それはファンタジーRPGにでも登場しているドラゴンと言えばいいだろうか。

その背中に乗っていたサーヴァント達は飛び降りると目の前に姿を表した。現れた5騎のサーヴァントは金色のような髪に、槍を携えた男。奇抜な衣装に身を包んだ女性、整った顔立ちをした男か女かわからない者、十字架のような物を持つ鍛えられた身体をした女性。

――そして、ジャンヌと瓜二つの顔をした、彼女とは違い真っ黒な服に鎧、そして旗を持ったもう1人のジャンヌ・ダルクだった。

 

 

「全く、信じられません!いきなり攻撃をするなんて非常識な方ですね!?」

 

 

顔を合わせて第一声はそれだった。黒いジャンヌは憤慨した様子で怒っている。

その怒りには味方である立香達も同意をせざるを得ないのか、苦笑いしている。

 

 

「本当にありえませんね……会ってもいない相手に普通宝具なんて使いますか…?まあ、敵なのだから別にいいですけど。それにあの程度の宝具、私達には効果はありません」

 

 

どうやら黒いジャンヌは虚閃を宝具と勘違いしているようだった。ゴホンと咳払いして、改めてこちらを見ると、その視線はこちらのジャンヌで止まった。

 

「なんてこと、まさかこんな事が起こるなんて…ねえ。誰か私の頭に水をかけてちょうだい?まずいの。やばいの。本気で頭がおかしくなりそうなの。――だって、それくらいしないとあまりにも滑稽で笑い死んでしまいそうよ!」

 

 

クスクスと不敵な笑みを浮かべると黒いジャンヌはそう言う。そしてジャンヌを指さすと

 

 

「なにあれ?羽虫?ネズミ?ミミズ?どれも同じことだわ、ちっぽけすぎて同情すら浮かばないわ!ああ――本当にこんな娘にしかすがることが出来ないなんて、ネズミの国にも劣っていたのね!」

 

 

黒いジャンヌは散々ジャンヌを罵倒するとケラケラと笑っている。それに対してこちらは悔しがる素振りは見せていないが、目を見開き驚いている様子だ。

 

 

「貴方は…貴方は誰ですか!」

 

 

「それはこちらの質問です。まあ上に立つ者として教えてあげましょう……私はジャンヌ・ダルク、蘇った救国の聖女ですよ、もう1人の私」

 

 

「馬鹿げた事を…貴方は聖女などではありません。私がそうであるように。いえ、それはもう過ぎたこと、それよりも何故この街を襲ったのですか」

 

 

「何故かって?同じ私ならわかっていると思いましたが…属性が変転しているとここまで鈍いんでしょうか?この街を襲った理由?」

 

 

はぁと溜息を混じらせつつ、片目を閉じてジャンヌを哀れむように見る黒いジャンヌ。

 

 

「馬鹿馬鹿しい。そんなの明白じゃないですか。単にフランスを滅ぼすためです、私はサーヴァントですもの」

 

 

「馬鹿なことを!」

 

 

「馬鹿なこと?それは私達でしょう?何故この国を救おうと思ったのです?何故、こんな愚者達を救おうと思ったのです?裏切り、唾を吐いた人間だと知りながら!」

 

 

言葉の一つ一つに憎しみが込められており、黒いジャンヌの表情に怒気が現れていく。

 

 

「私はもう騙されない、もう裏切りを許さない。そもそも主の声も聞こえない。主の声が聞こえないという事は主はこの国を見放したという事。だから私が滅ぼします」

 

 

「貴方は……本当に私なのですか?」

 

 

「呆れた……ここまでわかりやすく演じてあげたのにまだわからないんですか?本当に目障りですね、もう1人の私」

 

 

自身の残虐性を理解出来ないジャンヌ。同じジャンヌ・ダルクならばこんな非道な事はしないはずだと疑問に感じているのだろう。

 

 

「はぁ……いい加減目障りです。バーサーク、ランサー。バーサーク、アサシン。この田舎娘を始末しなさい。雑魚ばかりでそろそろ飽きたでしょう、喜びなさい彼らは強者です」

 

 

黒いジャンヌの一言で、ランサーとアサシンが前に出る。

 

 

「――よろしい。ならば私は血を頂こう」

 

 

「いけませんは王様、私は彼女の血と肉、臓物を頂きたいのだから」

 

 

「強欲だなアサシン?では魂はどうする?」

 

 

「魂などなんの糧にもなりませんわ。名声や誇りで、この美貌は保てませんのよ?」

 

 

「よろしい!ならば私は魂を頂くとしよう!」

 

 

クルクルと槍を回転させるとランサーは構える、アサシンも手に持つ杖を構えて戦闘態勢を取る。

 

 

「――っつ!」

 

 

2対1、そんな状況に苦虫をかみ潰したような表情のジャンヌ。そんな劣勢を感じていた彼女の前にウルキオラは静かに歩いてく。

 

 

「俺がやろう…」

 

 

「ほう…?汝が我らの相手をすると?」

 

 

2人をまとめて相手にすると彼の言葉を聞いて、黒いジャンヌは高らかに笑いだした。

 

 

「あなた正気ですか?2人のサーヴァントを相手にするなんて愚かですね!精々そこの田舎娘と手を組めば善戦は出来るでしょうがまさか1人とは!」

 

 

「煩い女だ。敵の力量も測れん塵は黙っていろ」

 

 

「ご、塵…!?今貴方私を塵と言いましたか?塵とはそこの哀れな私や、今の貴方のような事を言うんですよ」

 

 

塵と言われた黒いジャンヌは怒気を放ちながら叫ぶ。そうとうムカついているようだ。

 

 

「セイバー!ライダー!あなた達も加わってあのサーヴァントを始末しなさい!」

 

 

ついに怒りからセイバーとライダーまでこちらに向かわせる気満々の黒いジャンヌ。

言われるがままにセイバーとライダーもこちらへと来るとそれぞれ武器を構える。

 

 

「あわわ…ウルキオラ1人じゃ流石に…!スターク!お願いしてもいい?」

 

 

流石に4対1は厳しいと思ったのか立香はスタークを呼ぶ。スタークは欠伸をしながら怠そうにこちらを見る。

 

 

「あいつでも大丈夫だと思うけどな。仕方ねえな、あんたの頼みだ……」

 

 

怠そうに前に出るとセイバーとライダーの前に立ち塞がるスターク。

 

 

「スターク、私は?」

 

 

「お前を使うまでもないだろ、そこで大人しくマスターを守ってろ」

 

 

そう言うと膨れっ面になったリリネットは渋々立香の近くに向かった。

 

 

「まさかサーヴァント4騎をたった2人で戦うつもりですか?あなた達のマスターは残念な頭をしているようですね、この絶望的な状況でそんな指示しか出来ないとは。いいでしょう、この哀れな者達には絶望的な力を教えてあげなさい!」

 

 

ウルキオラだけでなくスタークも1人で2人を相手にするというのだから、黒いジャンヌはコイツらは正気なのか?という顔をしながらもクスクス嘲笑う。

 

 

「私も舐められたものだ、貴様1人で我らを相手にするなどと」

 

 

「本当ですわね?その白い肌から溢れ出る血が楽しみだわ」

 

 

「よく喋る塵だ…来い」

 

 

ウルキオラは剣は抜かずに袴に両手を入れたまま立つ。

 

 

「私達は戦うつもりは無かったけど、マスターがああ言ってるからね。2対1だからって卑怯とは思わないでね」

 

 

「はあ、思わねえよ。面倒くさいがあんたらの相手をしてやるよ」

 

 

「随分な余裕ね?その余裕も何時まで続くかしら?」

 

 

スタークも剣は抜かず、怠そうな口調で構える。

ウルキオラとスターク、4騎のサーヴァントによる闘いが始まった。



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第17話 4対2

――何が起きている?

 

 

 黒いジャンヌ・ダルクはそう感じていた。4騎のサーヴァントに対して相手はたった2騎、数で見ればこちらが圧倒的有利な立場にあるはずだった。こちらのサーヴァントの実力不足?いいや、そんな事はないはずだ。そんなことはあるわけがない。だがあれはなんだ?あの見知らぬサーヴァント達は何者だ?たった一人で2騎のサーヴァントを余裕で相手をするあの底知れない力を持つ奴らは――何者だ?

 時は数分前に遡る、そう黒いジャンヌが感じる前だ。黒いジャンヌが従えたサーヴァント4騎と立香のサーヴァントであるウルキオラとスタークが衝突し戦いは始まった。

 

 

「剣が……!!掠りもしないっ……!」

 

 

 セイバーから放たれる高速の剣劇、それを体を反らしたり首を曲げるだけでとくに無駄な動きをすることなく回避しているのはスターク。あの剣技が遅いとかそういうわけではない、文字通り高速、常人の目で追うのは困難な速度だろう。異常なのはそれを汗一つかくことなく余裕の表情で回避しているスタークだ。

 

 

「あんた、中々やるな。こいつがサーヴァントってやつか?確かにこれは人の手に余る力だな」

 

 

「それはどうもっ!君こそ私の剣をここまで避けるとは、正直自分の腕を自信をなくすよ」

 

 

 戦いの最中にも関わらず会話をするスターク。相変わらず余裕の表情だ。

 

 

「そう謙遜するもんじゃねえだろ?あんたはまだ宝具って奴をつかってねぇからな、英霊って奴は宝具ってのを持ってるんだろ?そいつを見せてもらいたいもんだな」

 

 

「そう易々と宝具を使うと思わないことですね!」

 

 

 セイバーから放たれるは連続の突き攻撃、そうとう速いのか剣が分身しているようにも見えるその連撃を何のこともなく回避する。

 

 

「すげぇな、死神でもないのにここまでとは驚いたぜ」

 

 

 スタークはそう言うと、頭を下げる。下げた瞬間にライダーの攻撃が後頭部を掠めていく。

 こちらを見ることなく回避されたことに驚きの表情のライダー。

 

 

「あなた……後ろに目があるってのかしらっ!」

 

 

「そう殺気を出されたら嫌でも気付くだろ?それに死角からの攻撃は定石だからな」

 

 

 有利に見えるのは攻撃を続けているセイバーとライダーの二人だが、それは悉く回避され無駄に体力を浪費している。スタークは未だに刀は抜かず、そのまま立っているだけ。

 

 

「はぁ!!」

 

 

 再びセイバーは剣を構えてスタークへと向かっていく、先ほどのようなライダーとの連携を取るのだろうか。セイバーはあらゆる剣技を駆使してスタークへと攻撃を繰り出していく、だがやはりそれも一つまた一つと綺麗にかわされる。

 

 

「ライダー!」

 

 

「わかってるわよ!!光よ!!」

 

 

 ライダーが武器を天に掲げると先端が光り輝く。そしてスタークの頭上から光の柱が降り注ぎ、魔を払うかのように辺りを破壊していく。

 

 

「っと……あぶねぇな」

 

 

 その場から離れ光の一撃を避ける。初めて見た攻撃に少しばかり目が動くが、それだけだった。それ以上特に驚く様子はない。しかし油断も束の間、光が消えていきその中から現れたのはギラリと光る切っ先。

 死角からの連携攻撃を警戒していたが、現れたのは目の前から。眼前に迫る刃を回避不可能と判断したのか、手を出すと剣を腕で防ぐ。鉄と鉄がぶつかり合ったような鈍く甲高い音が周囲に鳴り響くと、同時に風圧が二人を中心に広がっていく。

 

 

「今のは焦ったぜ」

 

 

「腕で防いでおいてよく言うね……!」

 

 

 一太刀浴びせられると踏んでいたセイバーからしたらこんな屈辱的なことはない。苦労してやっと当てた一撃は刀ではなく腕で防がれた。まだダメージを与えられたのならまだいい、だが目の前の相手は無傷。その腕は鉄のように堅くその反動から腕には痺れを感じている。

 

 

「スタークさんもウルキオラさんと同じで鋼皮という能力でしょうか?」

 

 

「同じ破面だって言うからそうじゃないかな…?それにしても……スタークってあんなに強いんだ…」

 

 

「そりゃ第1十刃だからねスタークは。あいつやる気ないけど」

 

 

 鋼皮を持つ破面からしたら並大抵の攻撃は無意味に等しい。それなりの火力や圧力を持った一撃でもなければ傷をつけるのも難しいだろう。

 

 

「いい加減宝具って奴をみせてもらいてぇもんだけどな」

 

 

「くっ!そこまで言うなら見せて上げよう、私の宝具を…!」

 

 

 セイバーの体に魔力が集まっていく。それを見て黒いジャンヌは「待ちなさい!宝具の許可はしていません!」と叫んでいる。だがセイバーはそれを無視して宝具を使用した。

 

 

「王家の百合よ、永遠なれ。『百合の花咲く剣の舞踏』!」

 

 

 ――スタークの周りに花びらが舞い始める。それは真っ白な花弁。そしてセイバーは剣を使い美しい舞を踊り始める、見る者全てを魅了する華麗な舞。一瞬だがその光景にスタークの瞳は捕らわれる。

 

 

「綺麗……あれが宝具なの?」

 

 

「はい……綺麗ですね先輩。でも油断は出来ません…!」

 

 

 美しい舞に目を奪われる立香達。スタークはというと眉を動かしなにやら、違和感を感じていた。

 

 

「気付いたようだね?でも遅いよ!」

 

 

 今までとは比べものにならない速度の一撃を繰り出すセイバー。それを先ほどと同じように腕で防ごうとするスタークだが、とっさに刀を抜くとそれで受け止めた。

 

 

「体が重いな……こいつが宝具ってやつか」

 

 

「まさか……私の宝具を受けても尚、その反応速度とはね」

 

 

 目を見開いて驚くセイバー、無理もない宝具を防がれたのだ。相手も宝具を使っているのならわかるが、その宝具すら使用していない。剣をやっと抜かせた程度に終わったのだから。

 

 

「でも……私の宝具を受けたからにはその体の重みはしばらくとれないよ」

 

 

 そう言うと後方から勢いよく武器が振り下ろされる。スタークの身体能力が低下したところを狙ってライダーが武器を振り下ろしたのだ。

 重く思い通りに動かない片腕を使ってそれを防ぐスタークだが、ライダーの力が相当強いのかジリジリと顔に迫っていく。

 

 

「あんた、華やかな割に随分と嫌らしい宝具だな」

 

 

「それを簡単に防ぐ君には言われたくないね…!」

 

 

 ライダーとセイバーの攻撃がジリジリと迫っていく。身体能力の低下が結構響いているのだろうか。

 

 

「おいスターク!真面目に戦え!」

 

 

「うるせぇな、これでも真面目だよ」

 

 

「全然真面目じゃないだろ!攻撃しろよ!」

 

 

「はぁ……」

 

 

 回避と防御しかしていないスタークに痺れを切らしたリリネットが叫ぶ。相当めんどうなのかため息をつくスターク。彼なりに真面目にはやってはいたらしい。

 

 

「わるいな。あいつがうるせぇし、ちょっと反撃させてもらうぜ」

 

 

「両腕が塞がった君に何が出来るというんだい?」

 

 

「……こういうことだ」

 

 

 スタークの胸に青い霊圧が集束されていく。これはウルキオラと同じ虚の技の一つ。

 

 

「虚閃っていう技だ。宝具を見せてもらった礼と思ってくれ」

 

 

 胸に集められた霊圧はそのままセイバーを包み込む。その衝撃でライダーの力が緩んだのを確認すると、武器を掴み回し蹴りを食らわせる。ライダーは飛ばされ瓦礫の山に激突すると激しく土埃を立てて瓦礫に飲まれた。

 

 

「虚閃だけかよ!!」

 

 

「るせぇぞリリネット!ちゃんと反撃しただろ!」

 

 

「剣使えよ!!」

 

 

「剣は疲れるし、めんどくせぇんだよ…」

 

 

 リリネットとギャーギャーやりとりをするスターク。そんな一部始終を見ていた立香達からしたら彼が本気でないにしろ、圧倒的な力を見せつけられただけだ。

 特に動きをすることなく、ノーモーションで放たれた青い虚閃。威力はウルキオラと遜色ない破壊力。それだけではなく、英霊の宝具を受けて軽々と防いでしまっている。

 

 

『ウルキオラも大概だと思ってたけど……彼も規格外だなぁ……立香ちゃんによく従ってくれたね』

 

 

「う、うん。私も正直驚いてる……あんなに強いんだなって」

 

 

 さらにリリネットの会話を聞いている限り、彼はまだ本気を出していない。それなのにも関わらず英霊二人を相手にし、少し反撃しただけでこれだ。

 

 

「ゲホッ!ゲホッ!今のが技?宝具じゃないのかい?」

 

 

 虚閃に飲み込まれたセイバーがフラフラと出てくる。虚閃を直撃したのにも関わらず、多少火傷した程度で済んでいるのはサーヴァントだからだろう。流石にワイバーンのように灰にはならない。

 

 

「宝具……ってのかはわからねぇが、帰刃はまだ解放してねぇからな。疲れるからあんまり解放したくねえけどな」

 

 

「帰刃……それが君の宝具ってわけか」

 

 

「2対1でこのありさまとはね…!あなた本当に英霊かしら?私達より遙かに化け物じみてるわ」

 

 

 瓦礫の山から戻ったライダーもあちこちにかすり傷はあるが致命傷とまではいっていない。まだまだ余裕がある表情をしている。

 

 

「あんたも宝具ってのがあるんだろ?俺達と変わらねえさ」

 

 

「宝具を軽々と防ぐ英霊なんて見たこと無いけれどね」

 

 

「それよりもあんた達まだやる気か?あんたのとこのマスターは大分焦ってるみたいだぜ?」

 

 

 そう言ってスタークはウルキオラ達と黒いジャンヌの方に視線を向ける。そこに見えるのは、ランサーとアサシンが膝をついて息をしている光景、そして黒いジャンヌは先ほどの余裕の笑みは消え、青ざめたような焦った表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした?その程度か?」

 

 

 肩で息をするランサーに向けて放たれた一言。

 

 

「っく!!」

 

 

 ランサーは髪を揺らしながら、鋭い一刺しを繰り出す。それを難なく避けると槍を掴み、ランサーを蹴り飛ばす。

 

 

「はぁぁぁ!」

 

 

 横から飛んでくる魔力の弾丸。アサシンが放った物だ。しかしその攻撃も虚しく、手刀でそれを弾き飛ばし相殺していく。

 

 

「あの騎士王の娘程度にはやると思っていたが……この程度とはな」

 

 

 冬木で死闘を繰り広げたアルトリアとはまるで格下だと言うウルキオラ。目の前にいるサーヴァントも別に格下というわけではない、まだ両者宝具も解放はしておらず、全力も出していないだろう。それでも赤子の手を捻るかのような扱い、まともに攻撃を当てることも出来ていない。

 

 

「我をここまで侮辱するとは…!!ならばこれはどうだ!」

 

 

 ランサーの魔力が増大していく。すると地面から黒い槍が次から次へと飛び出してくる。ウルキオラはそれを後方に回避していくが、槍の方が僅かに速度は速い。

 

 

「我が一撃!受けるがいい!!」

 

 

 その一言を発すると、漆黒の槍はウルキオラの周囲を囲み、身体を突き刺していく。

 

 

――はずだった。

 

 

「鋼皮に傷をつけるか……」

 

 

「馬鹿な……アレを受けてその程度だと」

 

 

 槍が崩れていき、そこにいるのは服が所々破れたウルキオラ。とくに身体に穴などは空いておらず、身体から見え隠れするようにかすり傷のような赤い線が見える。

 

 

「私が言えた義理ではないが……化け物を相手にしているようだな」

 

 

「全く。同感ですわ……本当にあれはサーヴァントなの?」

 

 

 二人を同時に相手にしてこの余裕。そして与えた攻撃もあれだけの傷しか負わせることは出来なかった。

 

 

「何をやっているのですかあなた達!!たかだか一人のサーヴァントに何を苦戦しているのです!」

 

 

「マスター、あの白いサーヴァントは我らの想像を超える強者のようだ。宝具の許可を」

 

 

「何を馬鹿なことを…!!セイバーも勝手に宝具を使うし、あなたもですかランサー!」

 

 

 宝具の許可申請に罵声を浴びせる黒いジャンヌ。この状況が余程気に入らないのか、歯を思いっきり食いしばり目からは怒りが見て取れる。

 

 

「ランサー!あなたはその忌々しいサーヴァントを抑えなさい!アサシンはマスターを狙いなさい!!」

 

 

 司令塔から直接の指示。それに従うようにランサーとアサシンは行動を再会する。現状ウルキオラの撃破が困難と見た彼女は、2対1というアドバンテージを生かしウルキオラの生命線である立香を狙う作戦へと変更。

 優秀な兵士がいるならば、その司令塔を破壊してしまえばいい。至極簡単な理由だ。

 

 

「先輩には指一本触れさせません!!」

 

 

 マシュは立香の前に立ちふさがり、大きな声を出すと盾を構える。

 作戦通りランサーはウルキオラに槍の連撃と先ほどの地面からの槍のコンビネーションを生かし、隙を与えぬよう攻撃していく。その横をアサシンが通り過ぎ、マシュと立香の元へと向かう。

 

 

「――虚閃」

 

 

 ウルキオラの横を通り過ぎようとしたアサシンを襲ったのは翠の衝撃。槍の攻撃を防ぎながら片腕で通り過ぎようとしたアサシンを虚閃で迎撃した。

 マスターを狙うという作戦は失敗に終わった。迎撃されたアサシンを呆然と見る黒いジャンヌ。セイバーとライダーもまるで勝てる様子がなく、肩で息をしている状況。

 

 

「チッ!……あなた達、撤退しますよ」

 

 

 この状況下で取った彼女の選択は撤退。このままでは負けると判断し戦術的撤退を決めたようだ。

 4騎のサーヴァントは素早く距離を取ると彼女の元へと集まった。

 

 

「今回は分が悪いようです、撤退して上げます。ですが――いい気にならないことです」

 

 

 黒いドラゴンへと乗るとそのまま飛去っていく。追撃しようとウルキオラが虚閃の用意をしていたがマシュに止められた。マシュの目線が立香へと向けられると、少しだが息を切らす彼女がそこにはいた。

 冬木ほどではないだろうがウルキオラの戦闘により、多少負担がかかったようだ。

 

 

『撤退してくれたね……いやまさか逆に向こうが撤退するとは思わなかったけど…』

 

 

「本当ですね。お二人のおかげで助かりました」

 

 

『本当にね。君達を呼んだ立香ちゃんに感謝だね、それにこちらも立香ちゃんのためにも長期戦は避けたかったしタイミングがよかったよ』

 

 

 やはりまだ上手く魔術回路が安定していないのか、疲労が溜まりやすいようだ。それともウルキオラの魔力消費が大きいのか……

 

 

『二重契約なんて、普通はしないからね……魔力があっという間に空っぽになっちゃうよ。それを立香ちゃんはがんばって耐えてるんだから…』

 

 

「そんなに心配しなくても大丈夫だよドクター」

 

 

「アハハ」と心配をかけないように笑いながら話す立香。

 

 

「あなた方は本当にお強いのですね」

 

 

「でしょ!ウルキオラもスタークも私の大切で強い子だから!」

 

 

「はい。ハッキリ言って目を疑う戦いでした、まさかこれほどとは…」

 

 

 自分のことのように喜ぶ立香。ジャンヌの強いという中には、立香自身も含まれているが本人は気付いていない。

 本当にこの人達ならこの特異点を修復してしまう。そう思うジャンヌであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――とある上空。そこでは一人の女性が怒気を放ちながら叫んでいた。

 

 

「一体なんだというのですかあのサーヴァントは!あり得ない……2騎を一人で相手にしてさらにあの余裕……なんだっていうの!?」

 

 

 叫んでいたのは黒いジャンヌ。先ほどの戦闘を思い出しながらイライラとしている様子だ。

 

 

「イライラしますね……あの2騎の忌々しいサーヴァントがいなければこんな無様な事には…!全く……話が違うじゃない…!!あの人の話では、こんな苦戦することなくフランスを滅ぼすことが出来るはずなのに!!」

 

 

 足を小刻みに揺らしさらにイライラしている様子を表していく。

 

 

「マスター失礼ですが、先日ワイバーンの群が消えたのはおそらくあのサーヴァントが原因かと…」

 

 

 セイバーがそう言うとさらにジャンヌははぁと深いため息をつく。

 

 

「……なんなんですか?本当になんなんですか?あのサーヴァント共…これじゃあどっちが敵かわからないじゃない」

 

 

 あの二人の規格外サーヴァントに対抗出来る駒はいない。まともに戦うとなれば聖杯によるバックアップ、もしくは大英雄クラスのサーヴァント、あとはこの竜種の頂点たるファヴニールぐらい。

 

 

「今この子をぶつけるわけにはいきません……そうですね……ライダー。あなたに聖杯の力を分け与えます、これで奴らを一人でも多く始末しなさい」

 

 

「わかりました」

 

 

 黒いジャンヌは聖杯を取り出すと、ライダーに向け力を注いでいく。

 力を受け取ったライダーは竜から降りると、立香達の元へと再び向かっていく。

 

 

「さて……私達は一端戻ります。ライダー一人では恐らく到底勝てません、戻ってジルに良い案がないか聞いてみないと…」

 

 

 さっきとは変わり、冷静に話すとファヴニールの速度が上がっていった。



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第18話 2人の英霊

スマホで書くと空白が適用されないのが辛い(泣)


 

「あなた達とーってもお強いのね!私感動しちゃったわ!」

 

 

「全くだね、マリーと加勢するつもりだったけどその必要もなくて驚いたよ」

 

 

そうニコニコしながら話すのは赤い帽子に、赤い服を着た気品のある女性。もつ1人は指揮者の棒を携えた長髪の男性だ。

ここはラ・シャテリアより離れた森。黒ジャンヌを退けた後、この2人が現れたのだ。聞けばこの2人はサーヴァント、女性の方はマリー・アントワネット。男性はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトだ。黒ジャンヌ達とは違いこちらの味方らしく敵意もない。

 

 

「2人を相手にしながらもあの戦い!あなた達は一体どこの騎士様なのでしょう?」

 

 

マリーは先程のスタークとウルキオラの戦いが余程すごかったのか、終始感激しながら話している。

 

 

「でしょう!スタークもウルキオラもとーっても強いんだ!」

 

 

ドヤ顔で自慢する立香。自分の召喚したサーヴァントがあれだけ圧倒的な戦いを披露してくれたのだから鼻が高いのだろう。

 

 

「それで、マリーさんは私達に協力をしていただけるのでしょうか?」

 

 

「ええ、人理修復に特異点。そちらの事情はわかりました。フランスはおろか、世界全ての危機なのですね」

 

 

「マスターも無しに召喚された時点で嫌な音は感じていたが…まさかそんな事が起きているとはね。僕達を含めサーヴァントは既に7騎を超えている。これも人理焼却という影響なのかもしれないな」

 

 

アマデウスは手を顎下に持っていき言った。

通常の聖杯戦争であればサーヴァントは7騎。過去に15騎の大戦もあったらしいが、それを有にしても今回は異常だという事なのだろう。

 

 

「あ、わかった!閃きましたわ!こうやって召喚されたのはきっと英雄のように彼らを打倒するためなのね!」

 

 

パァっと光のように明るくなった笑顔でマリーはそう言った。

 

 

「だって私、生前と変わらずみんなが大好きですもの!もし世界を滅ぼすためなら感情不要だし、第一召喚されないわ!」

 

 

「根拠の無い自信は結構だけどねマリア。相手は掛け値なしに強敵だぞ。彼等のように戦い慣れていればいいが、僕や君は汗を流すタイプじゃない」

 

 

『そうだね、さっきの戦闘記録と君達の証言を合わせるとあのランサーはヴラド三世、アサシンはエリザベート・バートリーで間違いないだろう』

 

 

「あとそうね、セイバーはもしかしたらシュバリエ・デオンじゃないかしら?」

 

 

先程の戦闘とマリーとアマデウスの証言によりランサー、アサシン、セイバーの真名が明らかになった。

 

 

「皆さん歴史に名を刻んだ方々ですね…」

 

 

『今回はこちらにも凄腕のサーヴァントが居たから何とかなったけど、こんな強敵が他にもいるかもしれないと思うと…』

 

 

今回はウルキオラとスタークの活躍で事なきを得たが、次はそうもいかないだろう。敵は今回の戦闘で更に手駒を揃えて来るかもしれない。

 

 

『仮に向こうに大英雄クラスのサーヴァントがいたら、彼等でも太刀打ち出来るかどうか…』

 

 

「そういえば彼等は何者なんだい?ただの英霊にしてはあの力は…」

 

 

「ウルキオラ達は破面って言って、異世界の人なんだー」

 

 

「異世界だって!?異世界の英霊まで召喚できるのかい!?」

 

 

『何故召喚出来たのかはこちらでもわからないんだ。立香ちゃんが特別なのか…又は人理焼却による影響なのか…』

 

 

「まあ!異世界ですって?あなた達は不思議な英霊なのね!是非あなた達の世界の話を聞きたいわ!」

 

 

異世界という単語に反応したマリーは目を輝かせながらウルキオラ達を見る。その輝きからかなり興味津々なのだろう。

 

 

『ま、まあ彼等の話は長くなりそうだから、機会があるときにでも……』

 

 

「そうですね、ウルキオラさん達の話はキャンプの時にでもしましょう。あと霊脈も近いみたいですし、召喚サークルを確立もさせてしまいましょう」

 

 

日も暮れて来ており辺りはオレンジ色の光が差し込んできていた。

マシュの言うようにひとまず霊脈に向かい召喚サークルを確立させると、離れた場所へ移動しキャンプの用意をした。

 

 

辺りを暗闇が支配し、風の流れ木々の葉を揺らす音が静かに響く。

立香は寝袋にくるまって寝ており、サーヴァント達はそれぞれ起きて各々見張りや雑談なんかをしている。

 

 

「あなた達は死神という人達と戦っていたのですね、そんな世界があるなんて私知らなかったわ!」

 

 

「空座町での戦いは俺もいなかったからどうなったかまではわからんがな…」

 

 

マリーの質問になんだかんだと答えているウルキオラ。とは言っても詳細は言わず断片的なものを簡潔にまとめたものだ。

 

 

「あんた、俺達破面が人間の敵ってわかったんだろ?なんでそんな顔してられるんだ?」

 

 

楽しそうに話を聞くマリーの様子を見て疑問に感じたスタークはつい質問をした。

 

 

「ええ。確かにあなた達は過去に人の敵だったのかもしれません。ですがそれは過去だもの!今のあなた達ではないわ。今のあなた達からは敵という空気はないもの、だってもしも敵だとしたらあの子に力を貸していないでしょう?」

 

 

ニコニコと疑っていないと言わんばかりの表情で答えた。

 

 

「英霊ってやつは不思議な奴が多いな、俺達をそういう風に言う奴はコイツらだけだと思ったぜ」

 

 

少し笑みを作るスターク。彼もまたウルキオラと同じように変わって来ているのだろうか。

 

 

「それに……ウルキオラさん。貴方はとても優しいのね?素っ気ないフリをしてるけどわたしにはわかるわ!だって貴方があの子を見る目はとても優しいもの」

 

 

「優しさか……戯言だな。俺達虚にそんな物はない」

 

 

「そんなことないわ。きっと貴方にも分かる時が来るわ、人の心が。だってあなたは既に素敵な心を持っているもの」

 

 

王女からの経験なのか、又はサーヴァントとしてなのかはわからないがマリーはウルキオラに心があると言った。顔はニコニコとしているが、目は真剣で嘘などついていないという目だ。

 

 

「……心か」

 

 

ウルキオラはそれ以上何も言わなかった。かつての彼ならば、それに対して否定や疑問の言葉を投げかけている所だろう。だが言わなかった。それは彼が心を理解し始めている兆し故の沈黙なのかはわからない。

 

 

「あ、ウルキオラさんどこに?」

 

 

「……探査回路に反応だ」

 

 

「でしたら先輩を起こさないと…」

 

 

「不要だ、起きたところで何も出来ん。寝かせておけ」

 

 

そう言うとウルキオラはゆっくりと暗闇へと消えていった。

彼が暗闇に消えた後、クスッとマリーが笑う。

 

 

「ほら、彼は優しいでしょ?」

 

 

「ええ、ウルキオラさんはお優しいですね」

 

 

「不要…か。なんだかんだこの子の事を気遣って起こさないんだろうね」

 

 

そんなマリーにジャンヌとアマデウスも同意する。起こす必要は無いと冷たく言うが、立香の体調を無意識に心配しての言葉なのだろう。

ウルキオラが居なくなり数十秒後、大きな音が鳴り響いた。その音を聞き全員音の方角へ顔を向ける。

 

 

「これは…ウルキオラさんの!」

 

 

「この霊圧からして虚閃だ。敵が結構いるみたいだな」

 

 

「ということは…ワイバーンでしょうか?」

 

 

「……ワイバーンが複数、あと1人サーヴァントみたいな力を感じるな。まああいつ1人でも問題は無いだろうが、一応マスター起こしてくれ」

 

 

「はい、先輩を起こしてきます!」

 

 

スタークは探査回路を展開しウルキオラと交戦しているであろう敵の情報を探ると、立香を起こすようマシュに頼んだ。

 

 

「スタークさんもウルキオラさんと同じような索敵能力があるのですね」

 

 

「まあな。めんどうだからあんまりやりたくねえんだけどな……さて、リリネットも起こすか」

 

 

そう言い頭を掻きながら立香の近くで寝ているリリネットの方へと向かう。

そしてマシュも立香を起こすと一同は急いで交戦中のウルキオラの元へと向かった。

 

 

 

 

 

「ウルキオラさん!」

 

 

マシュ達はウルキオラの元へ走りながら合流する。彼の周りには沢山の敵が群がっており、ウルキオラを攻撃していた。

 

 

「あれは屍人!あんな物まで…!」

 

 

ジャンヌが見た物は動く死体。恐らく黒ジャンヌによって殺された人達だろうか、武装をしておりあちらこちらにいる。

囲まれているウルキオラは近寄る敵を虚弾で蹴散らしつつ、体術を使い次々と肉塊へ変えていく。

 

 

「――虚閃」

 

 

ウルキオラの指に霊圧が収束すると、翠の霊圧は放たれ目の前に群がる屍人やワイバーンを灰へと変えていく。

 

 

「あれだけの数を一瞬とはね、もう彼一人でいいんじゃないかな?」

 

 

ワイバーンや屍人が一瞬で塵になったのを見てアマデウスは苦笑いで言った。

 

 

「……私はもう慣れました」

 

 

ジャンヌはもう慣れたようでさっきまでワイバーン達がいた場所を静かに見つめて呟いた。

 

 

「すごいわ!あなた達がいたらもう怖い物なしね!」

 

 

マリーはというと両手を合わせて笑顔で感激している。

 

 

「はあ……本当に規格外なサーヴァントね。折角のワイバーンもこれじゃあ意味が無いわ」

 

 

溜息を付きながら木の影から現れたのはあの時のライダー。スタークが言っていたサーヴァントらしき力というのはライダーで間違いないだろう。

 

 

「さて。こんにちは、皆さま。寂しい夜ね」

 

 

「あなたは…ライダーですね?一体何者ですか?」

 

 

ジャンヌは旗を強く持ち、身構えながらライダーに問う。

 

 

「何者?そうね……私は何者なのかしら。聖女たらんと己を戒めていたのに、こちらの世界では壊れた聖女の使いっ走りなんて」

 

 

「壊れた聖女……」

 

 

「ええ、彼女のせいで理性が消し飛んで凶暴化してるのよ。今も衝動を抑えるのに割と必死だし、困ったものね、まったく」

 

 

こちらを見ていくとウルキオラとスタークで目線が止まり、数秒じっと見た後にふぅと溜息を吐いた。

 

 

「1人でも始末をしろと言われてたけど……私一人じゃ彼等には敵わないのはわかってるしね。そこの人には痛いほど実力差を思い知らされたわけだし」

 

 

「では敵わないとわかっていながら何故出てきたのです?」

 

 

「そうね。残った理性であなた達を試したいと思ったのか…又はあなた達の行く末を見たいと思ったのか。どちらにしろ、あなた達にこれから立ちはだかるのは竜の魔女、究極の竜種に騎乗する災厄の結晶……それに…」

 

 

「それに…?」

 

 

「竜の魔女だけじゃない……アレも人知を超えた力ね……」

 

 

アレとは何を指した言葉なのだろう。究極の竜種というのは黒ジャンヌ達が乗っていたあの巨大ドラゴンだろう、たがアレとは一体なんなのか…それはライダーの口からは明かされなかった。

 

 

「私ごときを倒せなければ、彼女を打ち倒せるはずがない。私を倒しなさい、躊躇なくその刃を胸に突き立てなさい」

 

 

ライダーの身体から魔力が溢れ出し、戦闘態勢を取ったことが肌を通してわかる。

 

 

「我が真名はマルタ!さあ出番よ、大鉄甲竜タラスク!」

 

 

『マルタ……聖女マルタか!気をつけるんだ皆、彼女はかつて祈りだけで竜種を屈服させた聖女だ!それになんだこの魔力量…!?』

 

 

空気を振動させる程の魔力の波動、先程戦った時はこんなにもの魔力は感じられなかった。

 

 

『みんな気をつけなさい!きっと聖杯による強化を受けているわ!』

 

 

『ちょっ!所長!急に割り込まないでくださいよー!』

 

 

『うるさいわねロマニ!メディカルチェックが終わって戻ったらこれなんだから仕方ないでしょ!』

 

 

音声を通してガチャガチャと慌ただしい音が聞こえてくる。恐らくロマニとオルガマリーが連絡の取り合いでもしているのだろうか。

 

 

『所長が言うように前の彼女とは別物と考えたほうがいい!油断しないように!』

 

 

「作戦会議は終わりかしら?この子も忘れてもらっては困るわね?」

 

 

マルタの横にいるのは巨大な亀のような竜。これが先程呼び出していたタラスクという物だろう。

 

 

「さあ行くわよタラスク!目の前の者達に私達の力を見せてあげるわよ!」

 

 

――聖女マルタ、そして大鉄甲竜タラスクとの闘いが始まる。



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第19話 聖女マルタとタラスク

話を書くのを優先して中々感想の返信が出来ておりません。申し訳ないです(泣)
ちゃんと読んでいますので、少しづつ返信していきます!


 

スタークは右手を突き出し手を広げると青い霊圧が収束されていき、虚閃は放たれた。

 

 

「タラスク!」

 

 

マルタの合図と同時にタラスクは息を吸い込むと、口からは炎を吐き出した。炎と虚閃はぶつかり合い相殺という形で爆発を起こす。

 

 

――ガァン!

 

 

金属同士がぶつかる音が鳴り響く。煙が晴れた先ではウルキオラがタラスクを切ろうと刀を切りつていた。だがタラスクの甲羅が硬いのか弾かれてしまう。

 

 

「大した硬度だ…今までの塵とは違うらしい」

 

 

タラスクの目はギョロっとウルキオラの方へ動くと、体を回転させてその凹凸のある体でウルキオラを吹き飛ばさんとする。

吹き飛ばされる前に素早く響転で距離を取ると、背後に周り虚閃を撃とうと霊圧を込める。

 

 

「させないっての!」

 

 

追撃を阻止するためマルタはウルキオラへ武器を振り下ろした。

虚閃を中断し、腕でそれを防ぐ。

 

 

「……なるほど……身体能力も向上しているようだな」

 

 

「あなたも腕で防ぐのね…!」

 

 

「その程度の攻撃、コイツは不要だ」

 

 

「そう?ならこれはどうかしら!」

 

 

マルタの身体から魔力が放出されると、ウルキオラの腕をジリジリと押していく。とっさに腕を振り払いマルタと距離を取る、ガードしていた右腕はブランと垂れ下がっていた。

 

 

「どうやら骨が折れたようね?その右腕は使い物にならないわよ」

 

 

「……勝機の一つや二つ見つけたくらいで一々煩い奴だ」

 

 

刀で腕を切り捨てるウルキオラ、その行動にマルタは驚くがそれの行動にすぐ納得がいった。右腕が一瞬のうちに再生したからだ。

 

 

「ほんっと、化物ね」

 

 

「俺は虚だ……元より人間ではない」

 

 

刀を抜くとマルタへと向かっていく。武器と武器が混ざり合い、辺りへ轟音と衝撃が広がっていく。

 

 

「▪️▪️▪️▪️!!」

 

 

タラスクは空気を震わせる程の音量で吠えると、スタークへと突進する。

 

 

「あんまりこういう戦いは好きじゃねえんだけどな」

 

 

突進してきたタラスクを腕を使い押し止める。

 

 

「そいつを吹き飛ばしなさい!」

 

 

マルタの合図を聞くとタラスクはさらに吠え、力を込めてスタークを押していく。

 

 

「ちっ…!力比べは柄じゃねえって!――虚閃」

 

 

虚閃を放つとタラスクを逆に押し返していく、力が緩まりスタークはその場から離れ距離を取る。

 

 

『聖杯の強化で彼等でもやっぱり苦戦するか…!』

 

 

戦況は今のところ互角といったところだろうか。それでも強化されたマルタ相手に互角に渡り合う2人は異常な強さを持つとわかる。

 

 

「宝具は?宝具を使えば騎士王の時みたいに勝てるかも!」

 

 

『それはダメだ!彼の宝具は魔力消費が大きいから、立香ちゃんの魔術回路に負担がかかるよ!』

 

 

「ならスタークの宝具は?スタークはカルデアの魔力で負担してるんだよね?」

 

 

『彼の宝具か……確かに可能性はあるけど…』

 

 

「スタークなら解放しないよ」

 

 

立香とロマニの会話に割り込むように言ったのはリリネットだ。

 

 

「スタークは余っ程の事がないと解放しないから。疲れるって言ってやらないんだよアイツ」

 

 

「そ、そんなあ…」

 

 

「でも大丈夫。あの二人は十刃だから」

 

 

本来の力を知っているリリネットは焦ること無くスタークとウルキオラの戦闘を見ていた。特にスタークに関しては彼女が一番理解しているのだろう。

 

 

 

「もう1人は大丈夫かしら…?タラクスは私のように甘くはないわよ?」

 

 

タラスクの攻撃を防ぐ防戦一方のスタークを横目で見ると挑発のように口にする。

 

 

「戦闘中に余所見とは余裕な奴だ」

 

 

視線を外した瞬間にすかさず刀を振るう。切っ先を紙一重で交わすと武器から片手を離し、その拳でウルキオラを叩きつけた。拳を片腕で防ぐとその衝撃で足を地面と擦りながら後退していく。

 

 

「私はコレだけじゃないの。この手も足も全てが武器よ!」

 

 

武器を地面に突き刺すと生身の身体で向かって来る。手、足、膝、肘とあらゆる部位からの連続攻撃。片腕を高速で動かしそれを一つ一つ的確に防いでいくウルキオラ。

 

 

「なるほど……その言葉伊達ではないらしい」

 

 

「何時までその余裕な顔は続くかしら…!」

 

 

ドンドン加速していく体術の連撃。目にも止まらぬ速さの拳は次第にウルキオラの速度を超えていく。

 

 

「ハァァ!」

 

 

ついに拳が胸に直撃する。その衝撃により吹き飛ばされるウルキオラ。木を何本か薙ぎ倒すとその倒れた木々で舞い上がる砂煙で見えなくなった。

 

 

「ホントにかったい身体ね…鉄を殴ってるみたいだわ」

 

 

己の拳を見ながらそう言うと、すぐさまウルキオラが飛ばされた方へと視線を移す。

彼は砂煙の中から何事も無かったかのような目でゆっくりと歩いてくる。

 

 

「お前は今までの塵とは違うらしい……いいだろう、敵として認めてやる」

 

 

途端に辺りの空気が重くなる。ウルキオラが霊圧を上げたのだ、彼なりに本気で相手をするという意思だろう。

 

 

「まさかまだこれだけの力を……」

 

 

ゴクリと生唾を飲むマルタ。体を取り囲む彼の霊圧はビリビリと肌を通していく。マルタはその得体の知れない力から恐怖に近いものを感じる。

 

 

「いいわ、なら私も全力を出す!……タラクス!」

 

 

マルタは後方に下がり武器を取ると、同時にタラスクを呼び戻す。スタークからタラスクは離れると彼女の元へ素早く戻った。

彼女は目を閉じ魔力を溜める。タラスクの体にも魔力が漲り体を覆うように魔力が増大していく。

 

 

「リヴァイアサンの子、今は人を守りし者。──流星となれ!『愛知らぬ哀しき竜よ』!!」

 

 

タラスクの身体が輝くと、高速回転をしながら向かってくる。摩擦熱からの発熱、そして口からの火炎を吐き出し灼熱を撒き散らしながら襲いかかろうとする。

 

 

「…マシュ、少し時間を稼げ」

 

 

ウルキオラはマシュの元へ向かいそう言った。マシュは「わかりました!」と言うと盾を勢いよく叩きつけ、宝具を展開する。

 

 

「宝具、展開します!!」

 

 

巨大な城壁が現われると、タラスクの進行を防ぐマシュ。

 

 

「――くっ!」

 

 

マルタの宝具に少しづつ押されていくマシュ。歯を食いしばりながら耐えようと必死になる。

 

 

『ヤバい!マシュの宝具じゃ、あの宝具を防ぎきれないぞ!』

 

 

「だ、大丈夫です!!私はまだ……いけます!!」

 

 

マシュは全身全霊で防ごうと目を細めながらも回転するタラクスを見つめる。

 

 

「よく耐えたな。――後は俺がやろう」

 

 

耐えているマシュの横でウルキオラは片手を突き出す。

 

 

「さっきの技かしら?そんな技じゃタラスクは止めれないわよ!」

 

 

「虚閃ではない。これは俺達十刃にのみ許された虚閃だ」

 

霊圧が収束していく。今までウルキオラは指先だったが今回は掌。緑と白が混じった霊圧は卍のように螺旋を描き収束される。同時に辺りの空気は重みを増し震え出す。

 

 

「――――王虚の閃光」

 

 

今までの物とは比べ物にならない霊圧の波動。マシュは寸前で宝具を解除すると、素早く後退する。王虚の閃光はタラクスにぶつかると少しの間力と力が拮抗する。そしてタラスクを飲み込むとそのままマルタと辺りの大地や木々を巻き込み粉砕していった。

全てを粉砕しながら進んだその力を見た立香達は立ち尽くして呆然としていた。

 

 

「今のは彼の宝具…なのかしら?」

 

 

「いや……今のはウルキオラの宝具じゃないよ。私も見た事ない技だけど」

 

 

「アレが宝具じゃないってのかい!?」

 

 

マリーとアマデウスは王虚の閃光の一撃の凄さに目を開いて驚くばかり。英霊の宝具を真正面から打ち破るのが宝具ではなく、技というのに驚きを隠せないのだろう。

 

 

「空間が歪んでいますね……それだけ恐ろしい一撃なのでしょう…」

 

 

ジャンヌの視線には空間がねじ曲がり周りの背景が歪んでいた。空間に影響を及ぼす程の一撃、王虚の閃光はかつてグリムジョーが黒崎一護との戦いで使用したがその時と同じような現象だ。

 

 

「う…そ……でしょう?私の宝具であるタラクスを消し飛ばすなんて…」

 

 

崩壊した大地の先には膝を着いて座り込むマルタの姿。恐らく先に直撃したタラクスが盾になったお陰でなんとか一命を取り留めたのだろう。しかし片目を瞑り、頭から流血、足は折れたの変な方へ曲がっている。

 

 

「宝具も通用しなかった……そう……私はここまでみたいね」

 

 

ゲホッと血を吐くと武器を杖にしてヨロヨロと立ち上がる。

 

 

「手は抜いてないわ………むしろ全力を出し切ったわ。それなのにこのザマとはね」

 

 

敗北したマルタは悔しそうな顔はせず、むしろ清々しい表情をしていた。

 

 

「リヨンに向かいなさい。そこの彼等でもあの竜種に太刀打ち出来るかもしれない……でも、竜を倒すのは聖女でも彼等でもない。昔から竜殺しと相場が決まっているわ」

 

 

彼女の身体が薄く光、足元が透けていく。

 

 

「タラスク、ごめん。次はもうちょっと真っ当に召喚されたいものね」

 

 

マルタは目を閉じるとそのまま静かに光の粒となって消えていった。

彼女が消え、沈黙が辺りを包み込む。

 

 

「聖女マルタでさえ、抗えないなんて…」

 

 

消えた彼女を見て悔しそうなジャンヌ。

 

 

「召喚されたサーヴァントに加え、狂化されてしまっては仕方ないのかもしれませんね……それでも彼女が会話を成立させたのは類まれなる克己心が故でしょう」

 

 

「穏やかで同時に激しい方でした。私はわかります。あの人は鉄の聖女、なんであれ最後は拳で解決する金剛石のような方です」

 

 

狂化されても理性を保ちこちらと会話をしたマルタの鋼のような精神力、それは彼女が聖女としての証もあるのだろう。そんな彼女を讃えるようにマシュとマリーは話した。

 

 

「うんうん。タラスクは説教で沈めたと言うけど、ホントはアレだな。力ずくで従えたに違いない。なにはともあれ、彼女のお陰で次の目的地が決まったんだ、旅は急げというだろ?さあリヨンへ向かおう」

 

 

聖杯による強化を受けたマルタを退けたカルデア一行。次は竜殺しがいるであろうリヨンへ向かう事になった。



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