まどマギ外伝RTA_全員生存ルート (計量器)
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第一回

 盗んだSG(ソウルジェム)と走り出すRTA、はーじまーるよー。

 

 『マギレコ』のRTAは現時点で1つも無いようなのでレギュレーションを作成しました。

 よって私が世界一位です。

 

 レギュレーションは『マギレコ』ルートのハッピーエンド、即ちういちゃん奪還ワルプルギス撃退エンドですね。

 

 『マギレコ』ルートは全ルート中最も自由度が高く、未知のイベントが高確率で発生する非常に面倒なルートなのですが、今回は全員生存が条件。

 このルートを通らない場合他ルートは原作通りのオチを迎える事になり、多数の死者が出てしまいます。

 だから面倒でも、このルートを走らざるを得ないんですね(血涙)

 

 計測開始はルート選択画面の「はじめから」選択時、計測終了はエンドロール終了後の一枚絵表示の瞬間とします。

 尚、ホモ要素は当然ありません(断言)

 

 はい、よーいスタート(棒読み)

 

 初回なので飛ばせないOPを眺めている間に、今回のルートについて、お話しします。

 

 『マギレコ』ルートは先述の通り全ルート中最高の自由度を誇り、その為唯一他作品のシナリオに干渉可能です。

 これを利用して外伝作品に干渉し、メインキャラ全員救っちゃおうぜ! というのが本RTAの趣旨であります。

 

 本RTAではまず最初に『かずみ』ルートの攻略を行い、次に『すずね』ルート、そして『おりこ』ルート、最後に『まどか』ルートと『マギレコ』ルートの同時攻略を行います。

 因みに『マギレコ』ルートは『たると』ルートへも干渉可能なのですが、ワルプルギス討伐後に開放なので今回はスルーです(無慈悲)

 

 ルート攻略の順番についてですが、単純に時系列との兼ね合いです。

 ほむらちゃんが転校してくる頃には、既に『かずみ』ルート終了後かつ『すずね』ルート進行中。

 よって、アニメほんへの流れに沿って進行する『まどか』『おりこ』ルートを攻略してからでは、既に多数の死者が出た後の初手詰み状態になってしまうんですね。

 他にも初手『かずみ』ルートを取るメリットは色々とあるのですが、OPがそろそろ終わるのでキャラクリに入りましょう。

 

 名前は入力速度を考慮して「穂波 萌香(ほなみ もえか)」略してホモとします。

 性別は基本的に女性で確定なので、次に所属する学校と年齢を決定します。

 学校は攻略可能キャラや拠点の位置等に関わるので、通常プレイなら見滝原や神浜市立大附属を選ぶところですが……。

 今回は「通っていない」を選択します! 

 これは複数ルートを行き来する為に移動が激しくなる都合上、どこを拠点にしてもまず味だからです。

 代償として知力のステにマイナスの補正がかかってしまいますが、RTAでは知力なんか必要ねぇんだよ! なので(特に問題は)ないです。

 今回はキャラの攻略もしませんしね。

 

 年齢は10才を選択します。

 一部のキャラは年齢によって対応を変えてくるので、円滑に進めたい場合は幼めがオススメです。

 また、自分と同年代の相手にしか心を開いてくれないキャラもいるので、パーティメンバーに不足しがちな幼女ポジを埋める意味もあります。

 

 続いて技能ポインヨを振っていきましょう。

 ステータスは原作にある攻撃力・防御力・持久力・スピード・初期属性魔術に、知力と精神力を加えた7つとなっています。

 ここから更にレベルアップ等で新たに魔術を習得すると、追加習得魔術のステータスが伸びていく訳ですね。

 今回は全員生存ルートを目指すので、初期ポインヨは精神力に全振りします。

 精神力はSGの濁りにくさに関係するので、通常プレイでも多めにとる人がほとんどなのではないでしょうか。

 実際、一度仲間を増やせば戦闘は丸投げしてしまえるので、他のステータスなんて飾りですよ、飾り! 

 

 最後に初期属性魔術を決定しましょう。

 『盗っ人』を選択します。

 これはスリ技能を示す魔法ですね。

 レベリングには戦闘回数をこなすのが一番なのですが、戦闘用ステが逆カンストしているこの幼女では碌々戦えません。

 そこでこの魔法が必要になるのですが……理由はすぐ分かるので後述します。

 

 

 

 さて、ようやくゲームスタートです。

 今回は学校に通っておらず拠点(自宅)がないので開始位置は神浜市内からランダムですが……まあ、どこであっても余り変わりありません。

 すぐにあすなろ市に高飛びしますからね。

 家なき子の幼女がどうやってそんな長距離移動するのかって? そりゃお前……(ゲス顔)

 

 スリます。

 そこら辺を歩いている適当な人間に近づいて……タイミングよくボタン! 

 はい、これでお金をスれました。

 魔術レベルが低いうちは中々上手くいきませんが、これはレベルが成功判定時間と関係しているからなんですね。

 レベルが高いほど成功判定時間が伸びるのですが、判定時間中にボタンを押しさえすればレベル関係無く確実に成功します。

 その為RTAではレベリングの必要すらなく盗り放題の神魔法なのです。

 もし失敗するとどうなるかって? 私、失敗しないので(フラグ)

 

 ここでモブ魔法少女を見かけたら、ついでにSGをスりましょう。スりました。

 そのままモブ子から離れると……バターンッ! と倒れましたね。

 

LEVEL UP!

 

 はい、これが『盗っ人』を取得しておいた最大の理由です。

 魔法少女はSGから100m以上離れると行動不能になるのはみなさんご存知かと思いますが、『盗っ人』を用いてスッてしまえば簡単に達成できます。

 そしてこの際、「魔法少女を戦闘不能にした」事で戦闘に勝利した扱いとなり、経験値が手に入るのです。えぇ……(困惑)

 この手段ならステが低くともレベリングが可能なので、正面切って戦う必要性は皆無。

 しかも対魔法少女戦で得られる経験値は対魔女戦のソレよりも多い傾向があるので、効率の面でもうま味です。

 

 このように、モブ魔法少女を見かけたら積極的にスッていきましょう。

 神浜はモブ魔法少女が特に多いですから、移動のついでにスるだけでも十分にレベリングができるんですね。

 全員生存ルートじゃないのかって? 

 モブなんか頭数に入んねぇんだよ(辛辣)

 真面目に答えると、SGを盗っただけでは魔法少女は死んだりしません。

 経験値取得後は神妙にSGをお返ししましょう(ポイッ)

 もし他人のSGなんか持った状態でネームドキャラに話しかけようものなら、即戦闘になって関係修復不可能ですからね(2敗)

 

 レベルが上がったので、早速追加習得魔術を取っておきましょう。

 今回習得するのは『隠密』。

 こちらが攻撃するまで発見されにくくなる魔法です。

 これがあれば先手がグッと取りやすくなりますし、『盗っ人』の成功判定にもプラス補正が入ります。

 

 ここからはただひたすらに移動とスリを繰り返す退屈な時間が続くのでカットだ。

 

 

 

 さて、駅から駅へ電車を乗り継ぎ、数多のモブを辻斬りしつつやってきましたあすなろ市。

 ここから『かずみ』ルートスタートですね。

 ルート変更に伴ってロードが入るので、ここで『かずみ』ルートの救済対象キャラを確認しておきます。

 

 まずは、主人公「かずみ」の所属するチーム・プレイアデス聖団の面々。

 「御崎海香」「牧カオル」「宇佐木里美」「若葉みらい」「浅海サキ」「神那ニコ」の7人組です。

 

 そして、所謂悪役側の魔法少女達。

 ユウリ様こと「杏里あいり」、ジェム狩のやべーやつこと「双樹姉妹」、そして黒幕の「聖カンナ」の4人です。

 

 以上、合計11人が『かずみ』ルートにおける救済対象キャラクターですね。

 今回はまずこの11人全員を生存させるのが目標になります。

 

 ルート攻略の流れですが……実は、現時点でかなりギリギリです。

 時系列の関係から既にかずみと海香&カオルの合流イベントは終了済み。

 よってコールサイン・プロローグ戦の直前から攻略開始ですが、その直後にユウリ様の襲撃&魔女化イベントになります。

 しかも後述の理由により、現在あすなろ市内ではSGの浄化が困難な状態。こんなんどうしろと? 

 

 無論、策はあります。ではイクゾー! 

 スリ師の手腕、見たけりゃ見せてやるよ(震え声)

 

 まずはかずみちゃん達を発見します。

 魔女探索イベントで出現位置がほぼ固定されているため容易です、ホラ。

 そして気づかれないよう尾行し、ユウリ様による分断を見守りましょう。

 ここまでは順調。

 ユウリ様とかずみちゃんが路地裏に入って行きましたね、変装を解除して一触即発です。

 まだだめだ……こらえるんだ……。

 サキさん達が気づいて合流、友情イベントが入りました。

 サキさん達の合体魔法(フィリ・デル・トアノ)! 

 

 い ま で す ! 

 

 ユウリ様のジェムをスッてシュゥゥゥーッ!! 

 超! エキサイティン!! 

 

 SGをトッコ・デル・マーレした事で、ユウリ様が無力化されました。

 尚、ここで本当にシュゥゥゥーッ!!し( 投 げ )てしまうと再走案件です(1敗)

 後は攻撃による粉塵を煙幕代わりに逃げるんだよォォォ──────ッ

 

 カット。

 ようやく逃げ切りました……。

 現時点でHPは赤ギリギリです。

 攻撃の余波と全力疾走だけで瀕死とかモヤシかな? 

 

 このままあすなろ市外まで出て、レベリング中にスッておいたGS(グリーフシード)でユウリ様のSGを浄化すれば工事、完了です……。

 

 どうしてこんな周りくどい真似をする必要があるかと言うと、先述の通りあすなろ市内はSG浄化不可の「箱庭」だからです。

 

 「箱庭」は魔法少女システム否定のために聖団が作り上げた結界で、内部では鬼畜害獣(キュゥべえ)が認識されなくなります。

 それは良いのですが、何をトチ狂ったのかSGの浄化方法の記憶を書き換える効果まであり、そのせいで聖団の側にいるジュゥべえにしか浄化ができない(と思い込まされている)状態なのです。

 さらに始末の悪い事に、そのジュゥべえによる浄化は不完全で表面のコーティングのみに留まるというクソ仕様(聖団の面々は気づいていませんが)。

 UMK姉貴ほんと天才だね♡ 死ねよ

 

 失礼、取り乱しまみた。

 とにかくそんな訳で、だから、一度市外に出る必要が、あったんですね。(メガトン構文)

 

 さて、HPは放っておけば魔力(MP)を対価に自動回復しますが、下手に動くとSGがマッハで濁って危険が危ないです。

 初日の目標は達成したので、おとなしく眠ってしまいましょう。

 

 今回はここまでです。

 ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 一瞬の出来事だった。

 かずみに促され、謎の魔法少女に攻撃を放った私たち。

 照準がブレて威力が更に落ちるのは想定外だったが、仕留めるつもりで放ったものでは無かったハズ。

 それなのに。

 

「殺しちゃった……の……?」

 

 金髪の少女の手を握り、震えた声で問いかけるかずみ。

 ピクリとも動かなくなったその少女を見て、私は絶句する。

 みらいも里美も、こんな事態は想定していなかっただろう。

 

「ち、違う!」

「だって……脈が……」

 

 そう言って差し出された腕を掴むと、確かに脈を感じない。

 致命傷にはなっていないハズなのに? 

 これは───

 

「見てサキ! コイツ、ジェムが無い!」

「ニコ!」

「いや知らんが。こーゆーの全部私のせいにスンナよ」

 

 ニコでは無い? 

 しかしこれは明らかに私たちと同じ手口(トッコ・デル・マーレ)だ。

 私たちと同じ魔法を使う魔法少女が、この近くにいるという事? 

 

「サキちゃん、この子の顔……」

 

 里美のつぶやきで、私たちの視線は金髪の少女の顔に集まる。

 そこにいたのは、あの日の夜、ミチルの目の前で魔女となったハズの少女。

 

「なんで……」

「…………」

「飛鳥、ユウリ……?」

「どういう事なの? この子、知り合いなの!?」

 

 私の肩を掴み、揺さぶって問いかけてくるかずみ。

 分からない。分からない。分からない! 

 どうしよう、どうしたらいい、ミチル!? 

 

「サキ」

 

 そのささやきで意識を取り戻した時、最初に目にしたのはニコの腕の中で眠るかずみ(ミチル)だった。

 

「色々あってパニクるのも分かる。だが、まずは目の前の仕事を片付けよう」

「……! そうだよ、早く海香達を見つけないと!」

「っ、ああ、そう、だったな。……ニコ、その子は」

「ん、一応回収しとく」

 

 かずみの身体を私の胸に預け、飛鳥ユウリらしき少女を手際良く容器に仕舞い込むニコ。

 この時、私は気づけなかった。

 突如現れた死んだハズの少女。

 私たちと同じ魔法を使う謎の存在。

 初めての死に取り乱し、眠っているかずみ。

 それらにばかり気を取られ───

 里美の顔が、青白く沈んでいる事に。



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第一回・裏

 ───御崎邸。

 私たちプレイアデスは、海香達を捕らえていた魔女を打倒し2人を解放した後、全員で拠点であるこの場所に集まっていた。

 但し、これから行われる議論の対象となる、かずみを除いて。

 

「全員、揃ったわね。では」

 

 海香に促され、ニコがピッと3本指を立てる。

 

「お題は3つ。

 1つ、飛鳥ユウリの過去と正体。

 2つ、それを襲った謎の下手人。

 3つ、ジェム狩を見たかずみの記憶」

「まずは私からね」

 

 そう言って海香は、小瓶に入った飛鳥ユウリを取り出し、机に置く。

 

「彼女の記憶を見たわ。結論から言って、彼女は飛鳥ユウリではない」

「やはりそう……か」

 

 正直に言って私は、恐らくは他の者も、それを聞いて少し落胆した。

 もし彼女が本当に飛鳥ユウリなら、それは死者蘇生(アダムのリンゴ)が実ったという事。

 その事情を把握できれば、私たちの計画に大いに参考になっただろう。

 しかし、薄々感づいていた事ではあった。

 それを実らせる事の難しさは、私たちが良く知るところだったから。

 

「で、ユウリじゃなきゃそいつは誰なのさ?」

「彼女は杏里あいり。飛鳥ユウリの友人であり……彼女の生を引き継ぐ事を願って、魔法少女になった者よ」

 

 そこから語られた飛鳥ユウリ……そして、杏里あいりの過去は、私たちに重くのしかかるモノだった。

 

「まさか、私たちの知らないところでそんな事が……」

「……でも、ボクらを恨むのってお門違いじゃない? ボクらはただ魔女退治(当たり前の事)をしただけだよ」

「みらい!? あんたなんて事言って───」

「彼女は契約の際に、真実について詳しく聞かされていたワケでは無いわ。魔女化の真相を知らなければ、私たちを恨むのも無理の無い事」

 

 黙りこくるみらいとカオル。

 

「結局は彼女も、魔法少女システムの被害者の1人という事か……」

「……その子は何故、急に意識を失ったの?」

 

 次に問いかけたのは里美。

 

「それについては、記憶を見ても分からなかったの。唐突に、としか。ただ……」

「ただ?」

「気になる人物との接触があったわ。顔や声は分からなかったけれど……」

 

 そう言って取り出したのは、GSに似た歪な何か。

 

悪意の実(イーブルナッツ)。記憶の中の人物はそう呼んでいた」

「この間の刑事さんに使われてた、人を魔女モドキに変えるしゃらくさい代物だよ」

「そうか、彼女にそれを与えた存在……黒幕が居るんだな?」

「ええ。そして今考えられる限りは、それが彼女のジェム喪失の原因」

「黒幕の刺客として送り込まれたが、意にそぐわない行動をとった為に粛清……そんなところか」

 

 無言で肯く海香。

 しかし、だとすれば彼女は既に……

 

「それって、その子のジェムはもう、この世に」

「その可能性は否定できないわ」

 

 海香がそう言い切った刹那、全員の間に緊張が走る。

 この事実が示すのはつまり、黒幕の目的が何であれ、そいつは私たちを()()()()()()()、という事だ。

 現に私たちは、飛鳥ユウリ……杏里あいりのジェム強奪という凶行の瞬間に、目の前に居ながらにして気づけなかった。

 正体が分からない以上、今もこの中の誰かが狙われていないという保証は無い。

 里美は自分がこの話を切り出した事を後悔したのか、床にうずくまってしまっている。

 

「そんなの……そんなの私たちにどうしろっていうの!? 私たちが何か悪い事した!? 何でそんなのに狙われなきゃいけないの!」

 

 里美の叫びに共感しなかった者はこの場にいないだろう。

 しばし空間を沈黙が支配したが、それを打ち壊す者がいた。

 

「はい、それじゃ私のターン。ささやかながら嬉しいニュースかもよ」

 

 そう言ってニコは、端末を取り出して自作のアプリを起動させる。

 

「あの後現場に戻って、魔力の痕跡が無いか分析した。で、ものの見事にビンゴ」

「黒幕の正体が分かったのか!?」

「……ごめん、そこまで万能じゃない」

 

 あまりにも堂々とした発表だったので、本人の想定以上に食いついてしまったらしい。

 ついずっこけてしまうが、お陰で場の空気も少し和んだようだ。

 

「奴さん姿を隠すのはプロ級だが、足跡を隠すのは素人だね。データは十分手に入った。みんな、ジェムを」

 

 ジェムを集め、得られたデータとやらを共有するニコ。

 

「これで半径100m以内の同パターンの魔力は検知できる。狙われてるかどうか位は分かるハズさ」

 

 それを聞いて少し安心した表情になる里美。

 確かに、今はジェムに反応は見られない。

 

「私からは以上。じゃ、最後の議題に入ろう。かずみの、記憶について」

 

 場に再び、重苦しい沈黙が訪れる。

 こればかりは、私たちが逃れる事のできない問題だ。

 もしこの一件の記憶を残しておくなら、遅かれ早かれ、かずみには魔法少女の真実を伝えねばならないだろう。

 しかしそれは同時に、かずみが今までのかずみ(12人のかずみ達)のようになってしまう可能性が上がる、という事でもある。

 

「私は、このことは忘れさせるべきでは無いと思う」

「同感」

 

 聖団の二大ブレインの意見が一致した。

 それに真っ先に異を唱えたのは、里美。

 

「どうして!? このままにしておいたら、今度のかずみちゃんも……」

「いずれ知る事よ。それが少し、早まっただけ。加えて、記憶を消すという選択は今となっては合理的ではないわ」

「どういう意味だ?」

 

 私の質問に答えたのは、海香では無くニコだった。

 

「つまり海香嬢はこう言いたい。『仮に記憶を消したとして、次の脱落者が自分になれば、その時はどうするのか』」

「はぁ!? どういう事だよ海香! そんなのまるで……」

 

 私もカオルと同じ感想だ。

 その言い草はまるで、次の標的が自分である、と分かっているように聞こえる。

 

「杏里あいりの記憶から推測するなら、黒幕の当面の目的はかずみを手に入れる事でしょうね。そう考えると、彼女がかずみを襲ったあのタイミングで消されたのも肯ける」

「それがどうさっきの結論につながるんだよ?」

「かずみを狙う理由を考えればいい。なぜ他の誰でもなくかずみなのか?」

「それってもしかして……かずみの()()を知ってるって事か?」

 

 カオルを指差し、正解、という風に舌を鳴らすニコ。

 

「仮にそうだとすると、かずみが狙われているのは人造魔法少女だから、という事になる。単純にその存在に興味があるのか、黒幕にも生き返らせたい相手がいるのかは分からないけど……」

「いずれにせよ、この計画で記憶(ソフト)身体(ハード)の中核を担う、海香嬢と私も狙われている可能性が高いという事だナ」

 

 その予測に思わず私は圧倒される。

 仮にそれが事実なら、黒幕は一体どこまで私たちの事を知っているというのだ? 

 

「そこまで……知られているものなのか?」

「分からない。だからこそ、あり得ない話ではないわ」

「今でこそ私のデータが有るが、無きゃずっと隣に居ても気づかなかったかもね」

「……」

 

 結論としては、かずみの記憶を消す事はせず、かずみ自身があの一件を問い詰めてきたら全て話すという方針に落ち着いた。

 そして海香達の推測が正しかった場合に備え、今後は必ず2人以上で固まって行動しよう、という話になったのだが、ニコからは「自分は単独で行動するから、残りはかずみと海香について欲しい」と対案が出た。

 かずみへの処置を考えるなら自分より海香の方が重要である、というのと、何やら他のメンバーには見せたくない策があり、それを試したいからだそうだ。

 皆思うところが無いワケでは無いようだったが、それ以上の案が出せず、結局はそこでお開きとなった。

 

 

 

 それから数十分。

 海香とカオルはかずみの様子を見に、ニコは策を詰め直す為に、それぞれ部屋から離れていた。

 今もこの場に残っているのは、私とみらい、そして里美。

 私たちはかずみの記憶を残すという選択が本当に正しかったのか、議論を続けていた。

 

「私やっぱり、かずみちゃんの記憶は消しておくべきだと思うの」

「里美も、そう思うか」

「もし海香ちゃん達の推測が当たっていたとしたら、それが分かる時にはもう手遅れなワケじゃない?」

「と、言うと?」

「私は、6人の内誰か1人でも欠けたら、もうかずみちゃんは造れないと思う」

 

 里美の言う通りだ。

 私たちの計画は、海香とニコの魔法を核として、それを残りの4人で補強する事で成り立っている。

 私たちの内1人でも欠ければたちまち出力不足となり、今まで以上に計画が難航するのは目に見えている。

 それが中核である海香かニコだったならば、再起は不可能と考えていいだろう。

 だが、それは黒幕が狙った聖団のSGを砕いた場合の話。

 海香達の推測が正しいなら、黒幕はかずみの秘密を知り尽くすまで、捕らえた聖団を生かしておくハズだ。

 だからこそ、私は里美の次の発言に耳を疑った。

 

「だから多分、今のかずみちゃんは最後のかずみちゃんなのよ。それだったらせめて、今のかずみちゃんには最後まで、かずみちゃんのままでいて欲しい」

「はっ?」

「だってこの瞬間も、私たちの命は狙われているワケでしょう? 明日の朝、私たち全員が無事だって保証がどこにあるの?」

「待て、さっきニコが対策を施してくれただろう! 今の私たちには十分な自衛策が有る!」

「本当にそう思うの?」

 

 真っ直ぐな、そして深く暗い里美の目に見つめられ、私は固まってしまった。

 

「海香ちゃん達の推測が正しいなら、何故黒幕はニコちゃんの対策を止めに来なかったの? 彼女はいつでもどこでも、誰にも気づかれずに他人に近づけるんでしょう?」

「それ、は……」

「きっとこういう事なのよ。『ニコちゃんの対策は、彼女が意に介するようなものじゃない。あんな対策とったところで、彼女を止める事なんかできない』。だから───」

「おい」

 

 あっけにとられる私をよそに、里美の話を遮ったのはみらいだった。

 

「一人ではしゃぐな。少しはサキの話も聞け。さ、サキの番だよ」

 

 みらいは里美に冷たく言い放つと、私に笑顔で発言を促した。

 あまりに急な事だったので対応が一寸遅れたが、私は少しずつ、言葉を選んで話しはじめる。

 

「……私は、黒幕が必ずしも、私たちの命を狙っているワケでは無いと思う。それに海香も言っていたが、黒幕の当面の狙いはかずみ。海香やニコ、他の団員が標的になるのは、その次の段階じゃないか?」

 

 それならば、また残った団員でかずみを造り直せば良い。

 そう続けようとした矢先───

 

「なぁんだ。サキちゃんも私と同じ考えなのね。()()()()()()()()()()()()()()()

「なっ……」

「黒幕の狙いはかずみちゃん。私たちじゃない。なら、私たちが取るべき選択は一つだよね」

「里美、まさか」

「ミチルちゃんのおばあさまは、延命を拒否してたって言ってたよね。きっとかずみちゃんも、そういう運命なんだと思う」

 

 そう言うや否や、里美はスッキリした顔で立ち上がって伸びを始めた。

 

「あぁ、聖団の中に味方が居るって分かって良かったぁ。それがサキちゃんなのはちょっと意外だけどね」

「待て里美! 私は……」

()()()()()()()()()()()()()()()、そうでしょ?」

 

 何故。

 何故里美がその事を。

 12人のかずみ達が生きている事を、知っている? 

 

「ふふっ、サキちゃんて隠し事が下手だよね。サキちゃん大好きなみらいちゃんも、もちろん知ってたでしょ?」

 

 咄嗟にみらいの方を向く。

 みらいは再び里美の発言を遮ろうとしていたのか、口を開いたまま固まっていた。

 私の視線に気づくと、少しバツの悪そうな顔をして横を見やる。

 みらいまで? 

 そんな、バカな。

 私がこれまでしてきた事は、一体───

 

「それじゃ私、最後のかずみちゃんの顔を見てくるね。サキちゃん、後は、ヨ・ロ・シ・ク♡」

 

 スキップしながら部屋を出て行く里美。

 みらいはその後ろ姿を、ぬいぐるみを抱きしめながら睨んでいた。

 

「ったく、サキを散々苦しめやがって。聖団でさえ無ければ……」

 

 そう悪態を吐いたかと思うと、今度は天使のような笑顔で、私に語りかけてきた。

 

「で、どうする、サキ? ボクが代わりに始末しておこうか? それとも、里美のヤツの方にする?」

 

 ああ、ミチル。

 

「ねぇ、サキ」

 

 ああ、ミチル。どうすればいい。

 

「ねぇ、サキ。どうすればいい?」

 

 答えを。

 

「答えを」

 

 答えを、教えてくれ。

 

「答えを、教えてよ」

「サキ」




(今後も裏パートを書くかは分から)ないです。


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第二回

 魔法少女が出て殺す!(仮死状態)なRTA、はーじまーるよー。

 

 今回はユウリ様の救助(?)に成功して寝たところから。

 

 おはよーございまーーーーす!!(AM5:00)

 魔法少女に睡眠なんか必要ねぇんだよ! 

 実際現時点ではそもそもHP最大値が少ないので、2時間半も眠ればばっちり全快してくれます。

 リアルならもうちょっと寝ていたいところですが、悲しいけどこれ、RTAなのよね! 

 

 では早速仕事に取りかかりましょう。

 倍速で移動しながら次の仕事を解説していきます。

 丁度今頃にはコールサイン・プロローグが打倒されているハズなので、お次のイベントはユウリ様襲撃……では、当然ありません。

 ユウリ様は無力化され我が手中に落ちている(文字通り)ので、ユウリ様関連のイベントは全てスルー。

 よって次のイベントは丁度丸1日後の朝5:00、双樹姉妹襲撃&ニコちゃん魔女化となります。

 

 1日も空きがあるなら少しはゆとりがあるかな?と思われるかも知れませんがあまーい!(ITDJN)

 聖団をナメてはいけません。

 彼女達はあの白い悪魔(キュゥべえ)を駆逐一歩手前まで追い込んだ集団。

 結果的にその目論見は失敗しましたが、彼女達の分析力・立案力・実行力は魔法少女界隈でも屈指のモノです。

 次の課題はニコちゃんの魔女化回避な訳ですが、このまま無策でユウリ様の時のようにスリに行ったとしましょう。

 その時点でホモちゃんはザ・エンドです(カチッカチッ)。

 

 理由は2つ。

 1つ目は、聖団に合流を許してしまった事。

 これにより、ニコちゃんがユウリ様襲撃現場で得たホモちゃんの魔力パターンを分析し、聖団全員に共有してしまいます。

 無論万全では無いので、団員に近づかなければこちらが見つかる事はありません。

 しかし近づかなければスれない都合上、こちらからもだいぶ手を出しにくい状態です。

 ただ、もしそれだけだったならば、聖団の進行ルート上に罠を張り、無力化してからスる等、まだやりようがありました。

 ですが2つ目の理由により、ニコちゃんのSGだけは、どう足掻いても()()()()スれないのです。

 

 2つ目の理由、それは相手が聖団のびっくり箱(ニコちゃん)だからです。

 彼女はその分析力・発明力に加え、厄介なものをもう一つ持っています。

 固有魔法・再生成です。

 この魔法のおかげで、彼女はUMK姉貴に次いで聖団中2位の手数を誇り、その頭脳と合わせて罠には罠で対抗してきます。

 仮に彼女に近づく事に成功し、そのSGに触れられたとしましょう。

 するとすかさず、ダイバー・ダウンに改造されたグッチョの如く、ニコちゃんの肋骨が噛みついてきて腕をへし折られます。

 再生成の能力を応用して、自分自身の身体を罠に改造しているんですね。

 お前精神状態おかしいよ……(恐怖)

 

 以上2点の理由により、このまま向かっていったとしても、ホモちゃんがお亡くなりになるだけの可能性が大です。

 ではどのように手を打つか? 

 

 ここに同時発生するもう一つのイベントがあるじゃろ? 

 

 これ(双樹姉妹)を、こう(囮に)して、こう(同時襲撃)じゃ。

 

 という訳で、現在はあすなろ市周辺にいるハズの、双樹姉妹の捜索作業中なのです。

 双樹姉妹があすなろ市に襲来するのは本来なら明日ですが、既に市周辺には来ています。

 彼女達が聖団に接触する前にこちらに引き入れ、2人……3人?掛かりで襲っちまおうというわけです。3人に勝てるわけないだろ! 

 

 あんなPSYCHO-PASSをどう仲間に引き入れるんだという疑問が当然浮かぶでしょう。

 しかし既に、彼女達を引き入れる為の条件は整っているのです。

 それがこの……

 

 他 人 の ソ ウ ル ジ ェ ム 〜(某青狸風)

 

 彼女達は他人のSGをコレクションして宝箱に仕舞い込むという大変良い趣味()を持っており、自分の同類(魔法少女)を見つけると嬉々として話しかけてきます。

 無論、それは相手と仲良くなる為では無く、コレクションする際のラベリング用に名前を聞く為なのですが。

 どうしてこう名前を聞いてくる魔法少女は地雷女ばっかりなんだ(某銀髪の13歳を見ながら)

 

 そういうワケで、彼女達は他人のSGを持っていても安心(?)して話しかけられる例外的存在なのです。

 どころかむしろ、同じ趣味を持つ同士で話が弾むので仲間にできる可能性が上がる、という特殊仕様。

 彼女達を仲間にできれば、ステータス雑魚のホモちゃんでも十分に他の魔法少女と渡り合えるようになりますし、何より「他の魔法少女を仲間にする」という行為自体が経験値の加算対象なので、将来的にホモちゃん自身の強化にも繋がるのです。

 

 但し、彼女達を仲間にする際は(実際は1点どころでは無いですが) 1点だけご注意を。

 多重人格者だからといって、彼女達の事を「1人」として扱ってはいけません。

 必ず「双樹あやせ」「双樹ルカ」の「2人」として扱いましょう。

 1回くらいなら見逃してくれますが、姉妹(自分)大好きサイコレズなので2回目には頃しにきます(1敗)

 

 そうこうしているウチに、見つけましたね、双樹姉妹です。

 早速話しかけに……行きたい所さんですが、待て待て、焦るんじゃない。

 今後のルート安定の為に、話しかける前にしておきたい事があります。

 皆さんお察しかと思われますが……

 

 スリッ

 

 魔法少女との交渉事の際、相手のSGをスッてから話しかけると()()効用が期待できますから、相手によってはやっておきましょう。

 これは試走では(結果的に無しで上手くいったので)併用しなかったテクニックなのですが、今回は安定を取ります。

 どう転ぶかは神のみそ汁(乱数次第)……。

 よし、じゃあ(会話)ブチ込んでやるぜ! 

 

 

 

 ヘイ、チャンネー! 

 これ、キミの落としモンだろぉ?(ユウリ様のSGを見せつつ)

 何、違う? 

 おっとホントだ、こっちだったぁ〜(姉妹のSGを見せつつ)

 へへへ、もう意味分かっただろ? 

 お前らは俺のモンになるんだヨォ!(ゲス顔)

 

 

 

(…………行けたか?)

 

 

 

 【双樹あやせが 仲間に 加わった】

 【双樹ルカが 仲間に 加わった】

 

LEVEL UP! 

 

 ……どうやら、上手くいったみたいです。

 今の現象について、少しばかり説明をば。

 先程、双樹姉妹を仲間に加えられるとうま味、と申しましたが、無視できないデメリットも有ります。

 それは、AIが走者の予期せぬ行動を取る場合が多々有る事。

 これはどの魔法少女でもそうなのですが、彼女達の場合は特にそれが顕著です。

 パーティに加えておいてもいつの間にか居なくなっていたり、見つけたと思ったら既に救済対象を狩った後だったりと、リセポをバラまきまくる悪魔の様な挙動をしやがります。

 

 とは言っても、彼女達はあくまでSGをパクってくるだけで誰かを死なせたりは(あまり)しないので、まだカバー可能な範疇。

 気に食わねーヤツをバンバン頃しまくる某クソザコピエロよりはマシなので、試走ではそこまで気にならなかったのです。

 しかし、今回は本走。

 念には念を入れて、とあるテクを使っておきました。

 

 そのテクというのが、先程の会話時のやり取り。

 初対面の際に相手のSGを握りしめ、ちょちょいっと脅してやれば、とりあえずは「恐怖」という名の枷を与えてやれます。

 そうしておく事で、パーティ内での独断専行を抑制できるんですね。

 特に彼女達は、お互いの事が大・大・大スキな究極百合姉妹。

 自分のSGならいざ知らず、相方のSGが狙われているとなれば、だいぶ言う事を聞いてくれるようになる……ハズです。

 

 代償として、この手段でパーティに加えたキャラの好感度は最低値になるワケですが……別に今回はキャラ攻略が目的じゃないから(震え声)

 今ご覧頂いているように、顔を真っ赤にして烈火の如くお怒りなので、双樹姉妹も例外では無いみたいですね。

 このまま連れ回しておくといつホモちゃんがお亡くなりになるか分からないので、『かずみ』ルートを最速で終わらせ、彼女達にはSGを残して一度退場して貰う必要があります。

 それまでに彼女達が反旗を翻すかどうかは、完全に乱数依存です。祈りましょう。

 

 さて、初めての仲間作り()に成功したのでレベルアップです。

 おっ、今回の経験点で精神力のステがカンストできましたね。

 これは実にありがたいです。

 精神力が高いとSGが濁りにくくなるだけでなく、洗脳の類に耐性が付くという実に素晴らしい恩恵が生じます。

 一体何度これのおかげで豆腐メンタル(宇佐木里美)から命を救われた事か……。

 他ルートでも洗脳系の敵は『おりこ』のクソザコピエロ(優木沙々)とか、『すずね』の駄々っ子(日向華々莉)とか、『マギレコ』のレイプ目量産機(記憶キュレーター)とか頭痛くなってくるほど居ますから、それらをまとめて無効化できるのはとても心強いです。

 

 そして、ホモちゃんのステータスは当面はこれで完成です。

 レーダーチャートがまち針みたいだぁ……(直喩)

 今後余った経験点は、何か起きた時に柔軟に対応できるよう、すぐに振らずに貯蓄しておきましょう。

 万が一でも知力なんぞに振ろうものなら、いざという時に仲間の謀反から逃げきれずお陀仏です(3敗)

 

 以上で準備は整いました。

 では早速ニコちゃんを仕留めに……じゃなかった、助けに、イクゾー! 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 ヒュアデスだかプレイアデスだかいうアドレスから来たメールを見て、私たちはここ、あすなろ市に立ち寄っていた。

 何でもここには、私たちの大好きな宝石が集まる場所があるらしいが……実際のところ、その真偽はどうでも良かった。

 

 ただ、そのメールを寄越した相手に会ってみたかったのだ。

 私たちにそんなものを寄越すという事は、私たちの趣味を知っているという事。

 もしかすると、私たちと同じ趣味を持っているのかも。

 もしそうなら、その子の宝石(ジェム)はどんなにキレイだろう。

 それだけを楽しみに、この街に来たのだけど。

 

「ねぇ、あなた」

 

 耳元でささやく声がして、振り向いた。

 そこにいたのは、まるで闇に融けているかのような、黒ずくめの少女。

 その首元で光る漆黒の宝石(ジェム)を見て、私たちは気づいた。

 

「あなた、魔法少女ね?」

 

 黒づくめの少女はコク、と頷くと、手に持ったものを見せてきた。

 ソウルジェム。

 当然、自分のものでは無いだろう。

 

「……ふぅん、そういう事」

 

 どうやらこの子が、さっきのメールの相手らしい。

 首元のものも手にしたものも、まるで浄化したばかりのような、一点の曇りもない輝きを放っていた。

 私たちと同じ趣味って事で、間違いなさそうね。

 

「それで、私たちに何の御用?」

 

 私は少し、この子に興味が湧いてきていた。

 その首元の宝石(ジェム)が、あまりにもキレイだったから。

 摘み取る前にちょっとくらい、話そうかと思う程度には。

 

 すると彼女はその手の宝石(ジェム)をしまい、新たに2つの宝石を取り出した。

 それは私たちが良く見知った、真紅と純白の宝石。

 私たちの一番の、宝物。

 それは、私たちの───

 

「貴様ッ……」

 

 思わずルカが出てきて彼女に掴みかかろうとするが、それはすぐに遮られた。

 

「双樹あやせ。そして、双樹ルカ。

 あなた達なら、この意味、分かるでしょう?」

 

 意味。

 

 数多のキレイな宝石を集め、自分のモノにしてきた私たちにとっての、この行為の意味。

 

 魂そのものを宝石に変じた、魔法少女である私たちにとっての、この言葉の意味。

 

 私たちと同じ価値観を持つ者が、相手の生命の輝き(ジェム)を、美しいと感じて欲する事の、意味。

 

 呆然としてしまう私たち。

 彼女の言う通り、その意味が推測できない私たちでは無い。

 だが、まさかとも思ったのだ。

 まさか、そんな。

 私たちの理想そのままの出来事が、起きるハズが無い。

 

 そんな混乱の渦中にいる私たちに、彼女はトドメを刺しにきた。

 私たちの(ジェム)を握りしめ、胸元に大切そうに抱き抱えると、蠱惑的な笑みでこう言ったのだ。

 

「私のモノに、なって欲しい」

 

 瞬間、私たちの身体には、火が着いたとも氷が触れたとも言えるような、奇妙な感覚が走った。

 

 これは、つまり。

 こ、こ、こくっ……

 

『……告白、ですね』

 

 その上ずったルカの声で、私の炎は一気に燃え上がってしまった。

 

 夢だった。

 キレイな宝石を手にする事が。

 

 夢だった。

 真っ白なドレスを着る事が。

 

 夢だった。

 私を理解してくれる相手と出会う事が。

 

 ……夢だった。

 王子さまの求愛を受け、共に生涯を過ごす事が。

 

 そう、夢()()()

 たった今、黒ずくめの少女(おうじさま)の求愛を受けるまでは。

 

「……あなた、名前は?」

「モエカ。 穂波、萌香」

 

 穂波 萌香。

 それが、私たちの王子さまの名前。



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第二回・裏

「残酷な描写」タグの使い所(多分)



 白状してしまうと、穂波さんに(ジェム)を奪われ、告白を受けたのは、悪い気分ではありませんでした。

 私とあやせの趣味は少々異なりますが、根っこの部分は同じですから。

 ですから彼女が本当に、私たちを好くが故に今までの行動をとったのだとしても、それは不思議ではありません。

 ですがなればこそ、やはり彼女は信用ならなかった。

 私たちの事を本当に好いているなら、何故他の女(神那ニコ)(ジェム)を求める必要があるのです? 

 それに彼女には、謎が山積みでした。

 なぜ私たちの名前や趣味を知っているのか? 

 いつの間に私たちの宝物(ジェム)を奪ったのか? 

 これから私たちに何をさせようと言うのか? 

 どうしてこんな彼女の事を、信じる事などできましょう。

 

 私はあやせに警告するつもりでした。

 彼女には何か裏が有る。

 彼女に従うべきではない、と。

 しかしそんな私の理性は、彼女のくすぐったい言葉ですぐさま揺らいでしまいました。

 

「じゃあ、抱いて?」

「…………はっ!?」

 

 一瞬、頭が凍りつきました。

 きょとんとするあやせを押し除け、詳しく話を聞いてみれば、単に移動時に運んで欲しいというだけの事だったのですが。

 当たり前の話です。

 彼女はどう見積っても齢10程度。

 抱くという言葉が持つ夜の意味など、知っている訳が無いでしょう。

 だと言うのに私は、彼女の超然かつ、妖艶とした雰囲気のせいか……。

 

 しかしそれは、私があやせを説き伏せてまで、彼女を抱いて朝焼けの街を駆けたのとは、何の関係もありません。

 それは彼女が怪しかったからで、あやせに近づけるのは危険だと、そう考えたからに過ぎないのです。

 決して私の夢が、想い人を我が胸に抱き逃避行を演じる事であるのとは、何の関係も無い、ハズなのです。

 

 私は彼女を信用しません。

 私が彼女に同行するのは、単にあやせの身を案じてです。

 それ以外の意味など、ありません。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 双樹姉妹を仲間に引き入れたら、早速ニコちゃん救出作戦について説明しておきましょう。

 作戦内容は、

 「自分がニコを広場に誘き寄せる」

 「あやせが近くの建物の屋上から狙撃」

 「SGを奪う前にニコの身体を焼き尽くす」

 この3点さえ伝えておけばOKです。

 実際には途中に色々あるのですが、そこは彼女達が自力で判断してくれるでしょう。

 これ以上詳しく説明しようとしても、ホモちゃんは知力が低いので言葉足らずになってしまい、「雰囲気で」「それっぽい」発言しかできませんしね。

 

 それから折角仲間ができたので、今後移動の際は彼女達に運んで貰うようにしましょう。

 その方がスピード面で効率的です。

 ホモちゃんの年齢を10才にしておいたのは、この為でもあったんですね。

 

 尚、運んで欲しいと伝えたらルカさんにめちゃくちゃ警戒されましたが、私は元気です。

 何故か背負われるのではなくお姫様抱っこされる形になり、場合によってはこのまま投げ捨てられるんじゃないかとビビりましたが、私は元気です。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 あの女が、穂波さんが狙う魔法少女……。

 確かにそのジェムは美しい。

 ですが、私たちのモノほどでは無いですね。

 一体何が、穂波さんをそこまで駆り立てるのでしょう? 

 

『ねぇルカ、本当にこれでいいのかな?』

 

 屋上から神那ニコを睨む私に、再びあやせはそう問いかけてきました。

 

『重ねて言いますが、私は穂波さんを信用しきれていません。まずは神那ニコとやらが、どんな相手なのか見極めてから。彼女に従うのは、それからでも遅くは無いハズです』

 

 拗ねて黙り込んでしまうあやせ。

 だってそうでしょう? 

 「自分が囮になる。あやせは上から撃つだけでいい」。

 そう言われても、あまりに不明瞭が過ぎます。

 それに何故、わざわざあやせを指名するのか? 

 遠距離から攻撃する手段は、私にだって無いワケではありません。

 ですから屋上で待機するのは、あやせでなく私でも、何の問題も無いハズなのです。

 

「全く、彼女は一体何を考えているのやら……」

「私も是非知りたいね」

 

 

 

 ───刹那。

 背後の気配に刃を突き立てようとする私、手を自ら切断し距離を取る襲撃者。

 危なかった。

 襲撃者の手は、私のジェムに触れる寸前だった。

 とっさにその手ごとジェムを凍らせていなければ、次の瞬間には引き抜かれ、私は地に伏していたでしょう。

 振り向き様睨み付けた先には、珍妙な格好をした女が一人。

 

「参ったな……今ので決まらないのか」

 

 発言とは裏腹に、涼しい顔で対峙する隻腕の魔法少女。

 広場をチラリと見やると、彼女が先程までいた位置には人形が。

 ……なるほど、あちらは囮でしたか。

 

「神那ニコと、お見受けします」

「よくご存知で」

 

 そう答える彼女の顔は、むしろ挑発的にも見えるほどに無表情。

 

「……私としては、特に争いたくは無いんだけど」

 

 そう言いつつも彼女は、ジリジリと、間合いをはかるような振る舞いを見せる。

 

「いとをかし。先手を打ったのはそちらでしょうに」

 

 この類の相手は好都合。

 足元から氷を這わせ、釘付けにしてしまいましょう。

 

「本当さ。ただ少し話が聞きたかったんだよ、君のボスについて」

 

 気づかれないよう、少しずつ。

 無駄話に付き合うのも、今だけです。

 

「ボス? はて、何のことやら分かりかねます」

 

 彼女が仕掛けるその間際。

 その一瞬で、確実に仕留め───

 

「うん、この様子じゃ期待外れみたいだ。君はどう見ても下っ端だもの」

「……今、何と?」

「頭の方は鈍いなぁ。『イザとなればちょん切られる、トカゲの尻尾にしか見えない』って言ったのさ」

 

 ……やはり私たちは、そう見えるのか。

 穂波さんに利用されるだけの、傀儡に? 

 

「その口、閉じろッ!!」

 

 慎重さをかなぐり捨て、瞬時に胸元まで凍り付かせる。

 その忌々しい首を切り飛ばそうとした矢先

 

「……ッ!?」

 

 耳元で鳴り響く切断音。

 私の肩は宙を舞い、それがあるハズの位置にはギロチンのような刃物。

 これは───

 

「プロルン・ガーレ」

「ぐぅ……ッ!?」

 

 無数の弾丸を撃ち込まれ、私は思考する間も無く広場へと叩き落とされる。

 

『ルカ、しっかりして! ルカ!!』

 

 ジェムの付いた私の肩を()()で持ち、こちらに歩いてくる神那ニコ。

 その様子でようやく、敵の能力に気づきました。

 

 再構成。

 恐らく、切り離した腕はギロチンに、全身の氷は弾丸に変じ、そして腕も同様に氷から造ったのでしょう。

 

『相性が、悪過ぎますね……』

 

 時既に、遅し。

 

『……大丈夫、ルカ。後は私が』

 

 いつもならそう言われれば、すぐにあやせを送り出すのです。

 しかしこの時の私は、何かがおかしかった。

 

『っ待つのです、あやせ!』

 

 私が制止するより先に、近づいた相手の不意をつき、変身するあやせ。

 抱えられた私の腕をサーベルの背で弾き飛ばすと

 

「アヴィーソ・デルスティオーネッ……!」

 

 轟音と共に火球が放たれ、神那ニコを弾き飛ばす。

 爆煙の晴れた後には、ただ物言わぬ炭塊のみ。

 

『……一撃、ですか……』

 

 きっと穂波さんは、この事を把握していたのでしょう。

 氷を扱い、敵に素材を与えてしまう私は相性が悪く。

 炎を扱い、敵の周囲を焼き尽くせるあやせは相性が良い。

 わざわざ広場に誘導したのも、敵の武器に変わるモノが少ない場所を用意する為。

 

 穂波さんはここまで考えて、私たちに指示を与えたというのに。

 にも関わらず、私はその言葉を無視して私情で動き、あやせの身まで危険に晒してしまった。

 

 私はこの事を不甲斐ない、情けないと思うと同時、何故か……あやせに対して、悔しいとも思っていたのです。

 

「これで仕留めた……よね……」

 

 そんな気待ちを誤魔化そうと、あやせに声をかけようとしたその時。

 

「……うん、用心に越した事は無いね」

 

 背後からの声に驚き振り返ると、そこには───当然のように無傷で立っている、神那ニコ。

 

 直後、視界の端の違和感に気づく。

 いつの間にか消えていた、囮と思っていた人形。

 そんな……最初から……本体は人形の方だった……? 

 

「トッコ、デル、マーレ」

 

 呆けた一瞬にあやせのジェムを奪われ、一人残される私。

 今まで感じた事が無い程の、空虚。

 私は、あやせがいないと……こんなにも、空っぽなのか。

 

「さて、まずは何から聞かせて貰おうか」

 

 今までと変わらぬ無表情で、こちらを眺める神那ニコ。

 その時の私には、その表情が余裕ではなく、無関心を示すように思えてなりませんでした。

 

「……いや、もう君は()()()()かも」

 

 びくり、と震える私。

 

「……要ら……ない……?」

 

 穂波さんには求められず。

 神那ニコに勝つ事もできず。

 果てに、半身のあやせすら失った。

 

 確かに今の私に、何の価値があるのでしょう。

 絶望に呑まれつつある私を尻目に、振り返る神那ニコ。

 

「ヤな趣味だね、人のタイマンを覗き見なん……て……?」

 

 その視線の先には、コロコロと転がる漆黒の宝石。

 まさか……あの人の、ジェム? 

 

 次の瞬間、何かが肉に突き刺さる音の連続。

 見上げた先に写ったのは、信じがたい光景でした。

 

 神那ニコの首元に組み付く少女。

 その全身に食い込んだ、数十の骨。

 よく見ればそれは、神那ニコの背から飛び出ていて……。

 余りに惨いその光景に、私は思わず叫んでしまう。

 

「穂波さんっ!」

 

 崩れ落ちる神那ニコ。

 食い込んだ骨を外し、抜け出ててきた穂波さんは、そのままふらりと倒れ込む。

 

「そんなっ……!」

 

 その痛々しい姿はまるで、彼女に従わなかった私への罰のようで。

 ありもしない両腕で、とっさに抱きとめようとせずにはいられませんでした。

 案の定受け止めきれず、私の身体にぶつかるようにもたれる穂波さん。

 ぶつかった拍子に血反吐を吐き、もがき始めてしまいます。

 きっと口に絡んだ血痰で、呼吸もままならないのでしょう。

 

「お気を確かに! 今、止血をっ!」

 

 身体中から流れる穂波さんの血に濡れながら、片腕でそっと彼女を寝かせ、傷口を凍らせる。

 けれど簡易的な止血を終えて尚、その息遣いは荒いまま。

 このままでは、穂波さんが。

 私のせいで、私たちの……()()()()()()を、失ってしまう。

 

「……穂波さん、必ず、助けてみせます」

 

 私は意を決し、穂波さんに口付けをしました。

 そして喉から血を吸い出し、人工呼吸を試みたのです。

 彼女を救いたい、その一心でした。

 

 早く、早く、早く! 

 目を覚まして、穂波さん……! 

 

 静かに蘇生を続ける事、数分。

 私には無限と思えたその時は、彼女が咳をしだすとともに、終わりを告げました。

 

「……ル……カ……?」

「……ああ、良かった……良かった……!」

 

 天に祈りが届いた。

 私は本気でそう思ったのです。

 こんな私にも、できる事があった。

 そう考えただけで、涙が溢れて溢れて、止まりませんでした。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 生きてる^~↑ああ^~生きてるよぉ~!(ONDISK)

 いや、ホントに、死んだかと思いました。

 

 姉妹に作戦を伝えた後、実はホモちゃんにも仕事がありました。

 その仕事については、まあ、次回あたりに解説するとして。

 とにかくその為に広場から離れていたのですが、あやせちゃんの戦闘時特有のド派手な爆音がなかなか聞こえず不思議に思い、戻ってみると……。

 そこには何故か、ニコちゃんに敗北寸前のルカちゃんが。

 

 なんで?(殺意)

 

 本来ならここは、あやせちゃんが辛くも余裕勝ち(一行矛盾)している場面。

 この時点で明らかに大ガバが発生しつつある事は確信しましたが、これは変幻自在にして無形不定の『マギレコ』ルート。

 「ワンチャン短縮になったりするのでは」という誘惑の声があり、結果、ホモちゃんは突発的にRTAの続行を決意してしまいました。アホかな? 

 

 しかし実際、突破法は有りました。

 方法は至って単純、ニコちゃんの有能さを逆手に取るんです。

 ニコちゃんがホモちゃん探知アプリを開発した事は、皆さんご存知の通り。

 そしてこの探知アプリ、何を基準に探知しているかと言えば、魔力源であるSGなんです。

 これを利用すれば、SGをニコちゃんに近づけてあえて探知させる事で、ニコちゃんを誘き寄せる事ができます。

 更にその後身柄を発見される前に、SGだけを探知範囲外にブン投げてしまえば、ニコちゃんからは急速で相手が行方をくらましたように思えるワケですね。

 つまり逆に、SGだけを先にニコちゃんの後ろに投げてやれば……簡単に背後が取れるって寸法よ! 

 

 ええ、まあ。

 結果はご覧の通りなんですけどね。

 だから言ったんですよ、ニコちゃんのSGは単独ではスれないって。

 

 

 

 どうしてこうなった(諦観)



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第三回

 ガバも最速なRTA、はーじまーるよー。

 

 今回はニコちゃんの救助に成功して寝た(強制)ところから。

 

 おはよーございまーーーーす……(PM5:00)

 なんでこんな時間まで寝てるんですかね……(殺意)

 現時点では最大HPが少ない、と言及しましたが、それが完全に裏目に出ました。

 このゲーム、最大HPを超えるダメージを受けても即リタイアとはなりませんが、その場合超過ダメージはMPの方に入ります。

 そしてHP自動回復はMPを消費して行うので、うわぁ、SGが真っ……く……ろ……

 じゃ、ないですね。なんで? 

 あ、よく見たらGS転がってるじゃん。なんで? 

 

「ただいまっ!」

 

 なんじゃっ!? おう、双樹姉妹か……。

 なんかGS抱えて持って来てくれてますね。え、なんで?(恐怖)

 

 拙い会話力で聞き出したところによると、あの後ホモちゃんの身体を回収してあすなろ市外のホテルにin(無許可)し、ホモちゃんの為にGSを集めてくれていたみたいです。え、なんで怖い……(素)

 これはアレですかね、恩を売っておけ的な……? 

 いやだとしたらSG砕いた方が早いよな……サイコの美学がSGを砕く事を許さなかった……?(意味不明)

 

 ……多分、ルカちゃんは武士気質で義理堅いので、そういう事でしょう、うん(思考放棄)

 

 正直画面が暗転した時点で終わったな(確信)状態で、暗転明けても生きてた時点でびっくらこき、良くて見捨てられて路上放置あたりだと思っていたんですが……。

 続行して良かった(小声)

 いえ、最初から計算づくでしたとも! 本当に! 

 とにかくこれで予測よりは早く復帰できそうですね。

 まあそもそもガバってなければそんな予測する必要も無かったんですがね! 

 

 閑話休題。

 持ち物を確認しましょう。

 ここまで何故か凶乱数と思しきナニカに見舞われそして恵まれまくっていますが、ニコちゃんのSGがスれていなければ全て無意味。

 持っていなければ再走確定(リセット)です。

 頼むぞ……頼むぞ……

 

 

 

 持ち物

  [「杏里あいり」のSG]

 ▶︎[「神那ニコ」のSG ]

 

 ッシャオラァ! 

 続 行 確 定 で す ! 

 やったぜ。

 天に祈りが届きましたね、走者のリアルSGもみるみる浄化されていくようです……。

 とりあえずこれで一安心、ですがそれでも今日の夜まではHP的に動けそうにないですね。

 じゃあしょうがない、こんな風に時間が余った時は

 

 み な さ ま の た め に 〜

 

 前回の仕事と、今後の展望について、お話しします。

 

 まず前回の仕事についてですが、それは……ストーカーと化したラスボスこと、聖カンナへの対応。

 と言うのも、彼女は実に厄介な魔法の持ち主なので、色々と対策が必要だったんですよ。

 彼女の魔法、その名も「コネクト」。

 この魔法は「他者に接続する」というなんとも曖昧な文言で説明されるのですが、その実態は驚愕の一言につきます。

 

 第一に、接続相手の思考や五感情報を閲覧する能力。

 彼女はこれで聖団の計画や動向を把握しており、漫画ほんへの聖団達は終始彼女に踊らされっぱなしでした。

 もしホモちゃんが彼女に接続されてしまうと、ホモちゃんと彼女の目的が相反する以上、彼女に消されかねません。

 そして本命と言っても過言では無いのが、第二の能力……相手の魔法をコピーする能力です。

 このコピー能力、何の制約も無く本人同様に他者の魔法を扱えるだけでなく、複数種同時にパクれるというなんともチート臭い性能をしているのです。

 ホモちゃんの思考と魔法をパクられ、その上聖団の魔法まで使い放題とくればもう激マズです。

 生半可な戦力では勝てないどころか、その生半可な戦力を調達する事すらままならなくなってしまいますからね。

 

 幸いにもこの魔法の接続相手は「自身が直接目撃・接触した人物」に限定されるので、出会わなければどうという事もありませんが、それでも脅威は脅威。

 絶対に見つかるワケにはいかないホモちゃんですが、ニコちゃんを救う必要上、ニコちゃんの探知に掛からないワケにもいきません。

 ニコちゃんの探知に掛かるという事は、その思考を盗み見ている聖カンナにも所在がバレるリスクを負う事になります。

 そんな時に便利なアイテム。

 マギレコプレイヤーの皆さんならきっとご存知の……

 

 空 っ ぽ の ジ ェ ム 〜(某青狸風)(2回目)

 

 羽根羽根タワーイベントのストーリーで、保澄雫ちゃんが使っていたアレですね。

 このような魔力を持たない小物に自分の魔力を貯めておくと、擬似魔力源となって居場所の撹乱等に役立ってくれます。

 これはマギウスの翼に属するようなクソザ……力の弱い魔法少女でも方法さえ知っていれば使う事ができる、謂わば基本技術。

 ですが聖カンナは聖団にお熱だったので、団員の固有魔法やチームプレイの技術には詳しくても、こういう小技には明るくなく、意外と簡単に引っかかってくれるんです。へっ甘ちゃんが! 

 

 前回は説明が煩雑になるので言及を控えましたが、実はニコちゃんの誘き寄せもこれで行っていました。

 そして具体的な仕事の内容というのが、その誘き寄せを聖カンナに対してのみ続行する事だったんです。

 彼女もこちらを正体不明の警戒対象と認識しているので、積極的に探す事こそしませんが、チャンスがあれば正体を探ってきます。

 よってニコちゃんの探知に掛かったあのタイミングは、彼女にとってもこちらを探る絶好の機会だったのです。

 ならば探らせちゃってもいいさの発想で、ニコちゃんの気が双樹姉妹の方に逸れた頃を見計らって彼女の探知にのみ掛かり直し、別の場所に誘導。

 そして空ジェムをブン投げて位置を撹乱する事で、暫くその場に留まっておいて貰ったというワケでした。

 こうすれば、ニコちゃんのSGを回収する際に彼女に見つからずに済みますからね。

 

 ただこのアイテム、単に魔力を込めるだけという簡単な手順の反面、まともに動作するように作るのには少しばかり時間がかかります。

 精神ガンギメで魔力量お化けのホモちゃんでも、この時点では1つ作るのが精一杯。

 チャート通りに進んでいれば、その1つがあれば十分だったんですけどね(半ギレ)

 何故かもう一度気を引く必要が生じた結果、SG本体のブン投げとかいうアホみたいな作戦を敢行せざるを得なかったんですよね(全ギレ)

 まあ結果として、恐らくはそれが原因で無事に復帰出来そうなのでヨシ! 

 

 さて、次の話題は今後の展望ですが……実は、現時点でかなりギリギリです(2回目)

 ニコちゃんの脱落をトリガーとして、今頃は漫画ほんへ同様、聖団にはニコちゃんのフリをした聖カンナが合流している事でしょう。

 そしてこれにより、あるイベントのフラグが揃ってしまいました。

 そのイベントとはズヴァリ! 豆腐メンタル(宇佐木里美)の発狂イベントです。

 これは彼女の精神力が一定値以下で、かずみちゃんが真実を知っている場合に発生するイベント。

 聖団が狙われている可能性があり、しかも実際にニコちゃんが襲われた事で、彼女のメンタルは間違いなく限界を迎えています。

 さらに初日にかずみちゃんがジェム狩を目撃しているので、今日のお昼には漫画ほんへ同様の記憶復活(改竄)イベがあった事でしょう。

 はい、役満です。本当にありがとうございました。

 

 え? それ両方ともお前が原因だろって? 

 そうだよ(あっけらかん)

 実際、イベントの発生自体は目論見通りなんですよ。

 このイベントが起きないとかずみちゃんが覚醒しませんし、それに伴う聖団の改心イベも発生しませんから。

 問題は……そのイベントに対する準備時間がまるまるすっぽぬけた事なんですよね……(絶望)

 本来ならここから一気に里美、サキ、みらいの3人斬り(スリ)とか、ラスボスを死なないように暗殺(一行矛盾)したりとか、事によってはレイトウコの宝石(ジェム)の山を見て暴走した双樹姉妹の躾(意味深)とかをしなければならないんですが……。

 

 (PM6:00)

 

 …………。

 動けるようになる頃にはもうイベント始まってますねコレ(諦観)

 まま、ええわ、そうなっても里美ちゃんが死ぬまでには少し猶予があるハズなので、最悪彼女のジェムだけパクッてトンズラしましょう。

 その場合かずみちゃんが漫画ほんへ同様1週間引き篭もりやがるのでロスとかガバってレベルじゃないですけどね(笑)

 

 せめて大量のGSでもあれば魔力でゴリ押しできるんですが、そんなモン集めてる時間無いですしね……。

 大量のGS……大量の……GS……? 

 

 

 

 目の前に有るやん。

 

 あっちょっと待ってもらって……(混乱)

 結界内だと記憶改竄でGSが使えなくなるから……

 いやサキさんの魔法を利用すれば……

 でもそれだと結局決め手が……

 クッソ、QB(キュゥべぇ)に頼りたくなってきたゾ……

 QBに……QB……QB……? 

 

 

 

 行けるやん!(天啓)

 えっ行けるのコレ(困惑)

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 クソッ、何もかも上手くいかない……! 

 全てが狂い始めたのは、ユウリがかずみ強奪に失敗したあの時からだ。

 アレのせいでかずみは忌々しいプレイアデスの手に渡り、挙句ユウリの単独行動が悪化した。

 

 それだけではない。

 ユウリのジェムを持っていきやがった何者か。

 恐らくは外道姉妹のツレだろうが、あんな狂った連中が仲間なんか作れたのか? 

 面倒なのは、そのツレとやらがこちらを警戒しているらしい事だ。

 コネクト伝てに外道姉妹を知り、手駒にしようとメールを送ってはみたが、結局呼び出した場所に来やしなかった。

 お陰で外道姉妹とのコネクトも出来ず、ツレの正体も分かっていない。

 あいつらがオリジナル(神那ニコ)を仕留めてくれたのだけは僥倖だったが、結局そのツレの姿は拝めずじまいだ。

 

 そして最悪なのは、宇佐木里美への影響だ。

 ユウリが目の前で始末され、奴のメンタルがヤバくなっているのは想像がついていた。

 だがしかし、コネクトで覗いた奴の思考は、そんな言葉で済むようなものではなかったのだ。

 オリジナル(神那ニコ)が襲われた際、プレイアデスに通信を送った事で、あの後現場に牧カオルと宇佐木里美がやって来た。

 牧カオルの方は相変わらずだったが、宇佐木里美。

 奴は驚くべき事に、ユウリのジェムを奪った黒幕を神那ニコ()だと勘違いしていやがった。

 

 『対策を施したフリをすれば、周りの皆は油断する。

  実際に自分が襲われれば、自分は真っ先に容疑者から外れる。

  黒幕が対策を止めに来なかったのも、対策を施す事自体が黒幕の策だからだよね』? 

 

 こいつ、頭おかしいんじゃないのか。

 今まで何度も共に死線をくぐり抜けた戦友を、そんなに簡単に疑えるものなのか? 

 

 この思考に至ったのが、他の連中ならまだ良かった。

 よりによって、宇佐木里美だと? 

 洗脳魔法(ファンタズマ・ビスビーリオ)を持つ、宇佐木里美だと!? 

 こいつはプレイアデスの中でも特に厄介なのだ。

 一度この魔法に掛かってしまうと、いくら私といえど抵抗手段が一つも無い。

 私が唯一できる対策は掛けられる前にこちらから掛ける事ぐらいだが、そうなれば他のプレイアデスとの戦闘は免れないだろう。

 無論全員を相手にしようと、私が勝てるという確信は有る。

 しかしそれは、魔力(リソース)が万全の場合の話だ。

 宇佐木里美を抑えたままで、残り4人の猛攻を耐え抜けるだろうか。

 よしんばそれを耐えたとしても、濁り切った私のジェムをあのジュゥべえが浄化するだろうか。

 どう考えても、私が魔女になる結末しか見えない。

 本来ならば私は、宇佐木里美がトチ狂い、魔女になってから本格的に動き出すつもりだった。

 だと言うのに、奴は既にかずみ達を殺す気満々だ。

 魔女戦の途中でユウリに襲われそのまま気を失ったせいで、まだかずみには碌な戦闘経験が一つもない。

 一応魔女モドキと戦わせてはおいたが、あんなもの魔女や魔法少女に比べれば戦った内にも入らないだろう。

 このままでは奴のかずみ殺害計画は、止められる者も居らず、かずみ自身の抵抗力も足りずで無事に完遂される事になってしまう。

 

 ああ、どうしてこうなった。

 それもこれも全部、外道姉妹のツレのあいつのせいだ。

 一体あいつは何者なんだ? 

 奴らはまさかプレイアデス全員の、そして或いは私のジェムすらも狙っているのか。

 冗談じゃない。

 プレイアデスの壊滅は私の復讐だ、私の願いだ! 

 他の誰にも邪魔されてたまるものか! 

 

 こうなればもう、私が先手を打つしかない。

 直接私が手を下す事は避けたかったが、もはや手段を選んでいる余地は無い。

 プレイアデスは今夜潰す。

 私の(ジェム)を狙うなら、外道共も葬ろう。

 そして私は作ってみせる。

 かずみや私のような、造られた者(ニセモノ)達だけの世界を。

 プレイアデスに擬えて、名付けるならばヒュアデス。

 プレイアデスも外道共も、ヒュアデスの世界の礎にしてくれる……!



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第三回・裏

 これは、罰だ。

 禁忌を犯し、生命を弄び、故人の尊厳を蔑ろにした私たちへの、罰だ。

 

 レイトウコでかずみに過去を見せてからしばらくして、御崎邸に居た私のもとに、ニコからある報せが届いた。

 

 「里美が乱心した」。

 

 とうとうこの時が来てしまった、と最初は思っていた。

 恐らく12人のかずみ達(かずみシリーズ)にかずみを襲わせ、共倒れさせるつもりなのだろう、と。

 私はニコに足止めを頼み、他の聖団に知らせずに里美の説得に向かった。

 里美達がレイトウコから出る前なら、まだ間に合う。

 里美を説得し、かずみ達を落ち着かせれば、全ては今まで通りのままだ。

 今まで通り、かずみ(ミチル)が居て、みんなが居て、それで笑って過ごす事ができるハズ。

 この考えが、迂闊だった。

 レイトウコに辿り着いた私が見たのは、里美を磔にするかずみ達と……ニコではない、誰かの姿だった。

 

 その後の記憶は朧げだ。

 いつの間にか私は地に伏していて、身体はピクリとも動かなかった。

 すぐには状況が飲み込めなかったが、意識がはっきりしてくるとともに、私たちは今「終わり」の最中にいるのだと気づいた。

 周囲を見渡して目に入るのが、私たちの絶望を示すものばかりだったのだ。

 

 地面に散らばって尚蠢く、かずみ達の手足。

 互いを庇うようにうずくまる、海香とカオル。

 満身創痍の身体で、怒声を上げてかずみ達と戦い続けるみらい。

 虚ろな目で、磔にされたままの里美。

 それを監視するように立つかずみ達と、ニコに似た誰か。

 そしてその手の中に握られた、瓶詰めのかずみ。

 星一つ見えない曇天の下には、みらい達が鍔迫り合う音と、ニコに似た誰かの笑い声ばかりが響いていた。

 

「気分はどうだ、プレイアデス!? お前達の大好きなかずみに殺される気分はさぁ!」

 

 どこか芝居がかった、しかし隠しきれない憎悪の滲む咆哮が耳に飛び込むと同時、みらいが押し負け、腕を切り飛ばされる姿が見えた。

 そのまま弾き飛ばされ、みらいは壁にめり込み動かなくなる。

 とっさにみらいの名を叫ぼうとするが、喉が潰れているのか声も出ない。

 ただひゅう、と空気の通り抜ける音がするばかりだった。

 

 何なのだ、この光景は。

 一体どうして、こんな事に。

 

「どうして、だと!? まだ分からないのか、浅海サキ……いや、お前はさっきまで洗脳されてたっけ」

 

 まあいいや、と吐き捨てると、彼女は手にしたかずみを私たちに見せつけるようにして、演説を始める。

 

「これは復讐なんだよ、身勝手に生命を生み出すお前達へのさ。お前達はかずみと私、自分達が造り出したモノに殺されるんだ」

 

 かずみと……私? 

 それはつまり、彼女もまた、聖団の誰かに造られた存在という事なのか? 

 

Exactly(ご名答)。聖()()()、と名乗れば、誰が造ったかは分かるだろう?」

 

 ……そうか、()()ニコの願い事。

 ニコだけは、私たちの誰にも願いを明かさなかった。

 恐らく聖カンナは、そんなニコの願いの産物。

 まさか、その願いの主は、今……。

 

「そのまさかだとも。尤も、あいつを仕留めたのは───」

 

 その瞬間演説は途切れ、聖カンナの意識は空へ向いた。

 私にも分かる。

 この気配は、あの時の。

 杏里あいりを消し、ニコを襲ったというあの気配。

 

 ───爆音。

 唐突な空からの攻撃で、かずみ達が吹き飛ばされていく。

 土煙の晴れた後に現れたのは、半身を純白、もう半身を真紅で彩られた、ドレス姿の魔法少女。

 

「……主役抜きでパーティなんて、せっかちが過ぎないかな?」

「主役は私さ。題目は『ヒュアデスの暁』、お前達はその端役にして……生贄だァ!」

 

 聖カンナの号令で、かずみ達が一斉に突進し襲いかかる。

 ドレスの襲撃者は炎を吹き上げつつ跳躍して躱すと、かずみ達を一瞬で凍り付かせ───

 

「ピッチ・ジェネラーティ!!」

 

 煌びやかに輝く光線を放ち、氷漬けのかずみ達を砕いていく。

 巻き上がる血飛沫と蒸気。

 その最中で笑う襲撃者はさながら、炎の光を氷の反射で集め、スポットライトを浴びるが如しだ。

 

「ッッ……このハデ好きクソ外道があああ!!!」

 

 ……アレが、私たちが恐れていたものの正体。

 想像との乖離の激しさに、私の混乱は更に加速していく。

 今まで影に徹し暗躍してきたと思われたソレは、いざ目の前にすれば、むしろ強すぎる存在感で気が滅入る程だ。

 半身や頭部を失いながらも攻撃を続けるかずみ達を翻弄するその姿は、舞台上で踊るかのように軽やかですらあった。

 

『ねぇ、あなた』

 

 そんな襲撃者に意識が向いていたからか、その消え入るような呼びかけは幻聴のように思えた。

 いや、実際のところ、幻聴だったのかも知れない。

 声に気づいて見上げた先に立っていたのは、宵闇との境目すら曖昧な、幼い少女。

 そこにいる事を意識しなければすぐにでも見失いそうなその姿は、魔法少女のようでありながら、しかしジェムの類も見当たらない、訳の分からない出で立ちだった。

 

(……幻覚、なのか)

 

 もはや私の意識は正常では無いのかも知れない。

 あらゆる出来事がいきなり過ぎて、その時の私にはそれ以上の考えが浮かばなかった。

 しかし幻覚にしては驚く程鮮明な声で、少女の影は口一つ動かさず、私への語りかけを続けたのだ。

 

『かずみを助けたい?』

 

 かずみ(ミチル)

 その名を聞いて、私の思考は少しずつ、現実に戻ってくる。

 そうだ、かずみ。

 もはや他の何も分からないが、これだけははっきりしている。

 かずみを、助けなければ。

 しかし、そんな方法が一体どこに? 

 答えを求めるように再び少女の姿を見据えると、こんな言葉が続いた。

 

『コレを持って、まっすぐ北へ、市の外まで。答えはかずみが見つける』

 

 コレ。

 そう言って少女が差し出したのは……幽かな息が続くのみの、かずみ達の1人の頭部。

 虚な目とだらしなく開いた口からは血が溢れ、未だに生きている事が信じがたい程の有り様だった。

 

 いよいよもって、気が触れたか。

 幻覚の少女は死にかけのかずみを見せつけ、倒れた私に救済を説く。

 これ以上に変哲な状況が有るだろうか。

 しかしもはやこの惨状では、そこにしか頼るあては無い。

 決意と共に立ち上がろうとすると、私の身体が驚く程軽い事に気づく。

 これは……身体中の傷が、治っている? 

 戸惑う私をよそに、彼女はかずみを私の腕に収めると、かずみの耳元でこう囁いた。

 

「ねぇ、おなか、空いてる?」

 

 ───瞬間、私は電撃的に思い出す。

 その台詞は、確か。

 ミチルの祖母がその死の間際、ミチルに伝えたというあの台詞。

 それに続く言葉は───

 

『行って!』

 

 その言葉で反射的に、私の身体は雷となって飛び出していく。

 「まっすぐ北へ、市の外まで」。

 確か少女はそう言った。

 そこに何が待っているかは分からない。

 だが今は、これに賭けるしか無い。

 疾走の果て、私がたどり着いた先に待ち受けていたのは、思いがけない……いや。

 私には()()()()()()()()()()存在だった。

 

「やあ、久しぶりだね。待っていたよ、プレイアデス」

「お前は……キュゥべえ、なのか……?」

 

 キュゥべえ。

 魔法少女を生み出す妖精。

 全ての元凶にして、無邪気な悪意(The innocent malice)

 私たちが、殺したハズの存在。

 

 ……思い出してきた。

 今まで私たちが何をしてきたのかを。

 こいつに何をされてきたのかを。

 こんなものが。

 こんなものが、救いだと言うのか!? 

 

「その様子じゃ、意図を理解しているのはかずみの方だけみたいだね」

「……何だと?」

 

 その言い草に引っかかり、腕の中のかずみを見てみると……かずみは今までの様子が嘘のように、しっかりと前を見据えていた。

 どういう……事だ? 

 かずみは何故、こんなにも意志の強い目つきをしているのだ? 

 

「かずみは契約の為にこの場に来たのさ。願いを叶え、魔法少女になる為にね」

「契約、だと? 魔法少女のかずみ(ミチル)に、そんな事ができるハズが───」

「私は……ミチルじゃ、ない……よ」

 

 途切れ途切れで掠れている、しかし確かな決意を伴う声が、腕の中から聞こえた。

 ミチルじゃ、ない。

 ……ミチルじゃ、ない? 

 私がその意味を理解するより先に、キュゥべえはかずみに問いかける。

 

「かずみ、キミはどんな祈りでソウルジェムを輝かせるのかい?」

「私、は……生き、たい。……ううん、()()()……は。生きて……いきたいっ……!」

 

 その宣言と共に、眩い輝きが私の眼前に満ちる。

 目が眩み、思わずかずみから手を離してしまうが、かずみの()()は地に落ちる事なく、更に輝きを増して宙へ浮かんでいく。

 

「契約は成立だ。君の祈りはエントロピーを凌駕した。さあ、その新しい力を解き放ってごらん、魔法少女かずみ(かずみマギカ)

 

 口上の終わりとともに輝きは落ち着き、私の前には……ミチルの姿にそっくりの、かずみが凛と立っていた。

 ああ、これか。

 少女の言っていた、救いというのは。

 余りにも急な展開に、私は実感の湧かぬまま、ただ目の前の出来事をそう認識した。

 

「さて、早速だが初仕事だよかずみ。伝言を預かっていてね、それを果たして貰いたいんだ」

 

 救いの喜びを噛みしめる間も無く、キュゥべえは話を先に進める。

 

「僕との契約が必要になる存在が、あすなろ市にはもう1人居る。その為に君には、『箱庭』を壊して貰いたい」

「……『箱庭』を、壊すだと!?」

 

 あすなろ市を出た今ならば、私にもその意味が分かる。

 それはつまり、キュゥべえの侵略を許すという事。

 私たち聖団の、魔法少女システムの否定が、無に帰すという事。

 そんな凶行を見逃すワケには行かない! 

 抗議の意を浮かべた私の顔を見て、キュゥべえは何を履き違えたのか、頓珍漢な解説を始める。

 

「心配の必要は無いよ。かずみは『箱庭』同様、プレイアデスの6人で造り上げたんだろう? 加えて、かずみの魔法の性質は破戒。出力・相性の両面から見て、成し遂げるのは造作も無いだろうね」

 

 そんな解説を聞くまでも無く、既にかずみは杖を天に掲げ、魔法を放つ直前だった。

 

 「待ってくれ」。

 

 ……その一言を発する事すら、出来なかった。

 かずみの目の、意志の輝きに圧倒されて。

 

「─── 解除(カルチェーレパウザ)!!」

 

 天に光が上り詰めると、破戒の轟音が降ってきた。

 「箱庭」が崩れ落ちているのだ。

 それは同時に、私たちの叛逆の崩壊も意味する。

 ああ、終わった。

 そんな虚無感に支配されてもおかしくない状況だというのに、私は。

 

「……行こう、サキ!」

 

 かずみに手を差し伸べられただけで、何故か救われたように思えてしまうのだった。

 

 

 

 かずみ、そしてキュゥべえと共に戻った先で、私は新たな驚きに出くわした。

 周囲には先程まで散らばっていた手足はどこにも見当たらず、代わりに五体満足のかずみ達(かずみシリーズ)が倒れている。

 その顔は、つい数分前まで激戦の当事者であったとは思えない程に、皆穏やかだった。

 

 その様子を受けて、苦々しそうな顔を見せる者が一人。

 聖カンナだ。

 彼女は襲撃者と、そして瓶から抜け出したらしいかずみの前で、膝を突いて唸っていた。

 

「……カンナ。やっぱり私は海香やカオル、トモダチのいない世界なんてイヤだよ。だから───」

「だから、何?」

 

 かずみの発言を遮って、ケーブルのようなモノを展開する聖カンナ。

 そのケーブルの向かう先は───

 

「っこいつ、グリーフシードを!」

 

 襲撃者の懐から次々と湧き出るグリーフシード。

 聖カンナはそれを上空に集めると、かずみを突き飛ばし絶叫する。

 

「お前が悪いんだかずみ! お前が払いのけたこの手で……!!」

「違う、カンナ! 私は払いのけてなんか……!」

「黙れえええ!!!」

 

 集まったグリーフシードから瘴気が溢れ、一つの形を成していく。

 瘴気の噴き出る勢いで、跳ね飛ばされる私たち。

 

「カンナッ……!」

「私はお前の居場所(せかい)を終わらせる!!」

 

 跳躍し、完全に形を得た魔女に飛び乗る聖カンナ。

 その魔女の姿はまるで、いつか伝え聞いた最強の舞台装置。

 

「なるほど、彼女が魔法で魔女達をつなぎ変異させたのか。名付けるならそう、『ワルプルギスの夜』に擬えて」

 

 ヒュアデスの、暁。

 

「……みんなは、ここで待ってて」

「えっ……」

 

 言うが早いか、魔法少女のかずみが飛び出し、ヒュアデスの暁に向かっていく。

 

「待って、私も!」

「ダメだかずみ! 今の君では……!」

 

 引き留めようとする直前、衝撃音で怯むかずみと私。

 音のする方を見れば、魔法少女のかずみがタワーに叩きつけられ、額から血を流す様子が写る。

 それでも尚立ち上がり、ヒュアデスと対峙するかずみ。

 

「そんな……!」

「仕方ないよ、彼女1人では荷が重すぎた。4()()()の彼女では、因果の量が足りないんだ」

 

 何の感慨も無さそうに、そう呟くキュゥべえ。

 私は冷徹なその言い回しに、言いようもない不快感と怒りを覚えた。

 

「どの口が、仕方ない等と……!」

 

 そんな私を意に介する様子も無く、かずみの方に向き直るキュゥべえ。

 そしていつも通りと言わんばかりに、お決まりのあの台詞を出力し始める。

 

「でも、1()3()()()の君なら運命を変えられる。その為の力が、君には備わってるんだから」

「……そうか。あなたが来たのは、この為ね?」

 

 ……まさか。

 そう思い至った時には、もう遅かった。

 先程と同じ、あの目つき。

 有無を言わせぬ意志の輝きが、既にその目には宿っていた。

 

「私はトモダチを……みんなを、そしてカンナを助けたい。だから私に、その為の力を!」

「───契約は成立だ、2人目の魔法少女かずみ(かずみマギカ)




(かずみシリーズやレイトウコの魔法少女達も含めた)全員生存ルートです。


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第四回

新年初投稿です。



 ガバで加速するRTA、はーじまーるよー。

 今回は無事に聖カンナを討伐したところから。

 

 やりました。(正規空母)

 オレの……オレの覚悟の勝利だッ! こォれしきィィイイのオオ事ォォオオオ!! 

 

 というワケで無事に『かずみ』ルート最大の難所を乗り越えましたので、前回のハイライトを振り返っていきましょう。

 何故か発狂してるのが里美ちゃんでは無く聖カンナで、段階が一足飛びになった感はありますが、前回の課題は以下の通りでした。

 

 まず大前提として、その場に介入する手段。

 本人が脱落したところで、ニコちゃん製の探知は健在。

 そのまま突っ込めば袋叩きにされ、ガメオベラ一直線です。

 

 次に、如何にしてかずみシリーズを無力化するか。

 里美ちゃんが従える(予定だった)彼女達は、控えめに言って無敵です。

 聖団全員の魔法を使えるというだけで十分すぎるほどに強いですが、そんな魔法少女が実に12人。

 彼女達全員を相手にしては、クソ雑魚のホモちゃんは勿論の事、双樹姉妹や聖団メンバーですら碌な戦果を挙げられないでしょう。

 

 そしてよしんばそれらを解決したとして、濁りきったSGをどうするか。

 ホモちゃん自身に加え、聖団メンバー、聖カンナ、場合によっては双樹姉妹のSGも浄化の必要があるでしょう。

 しかし、決戦の舞台は「箱庭」の中。

 GSは姉妹のお陰で数こそ潤沢ですが、それを用いての回復は望めません。

 

 このように主要な課題を挙げただけでもてんこ盛り、詰み一歩手間の惨状だったワケですが、ええ、ものの見事に解決致しましたとも。

 

 

 

 ホモちゃんではなく、かずみちゃんがな! 

 『かずみ☆マギカ』なんだから当たり前だよなぁ? 

 

 いえ、まあ、一応ホモちゃんも、微力ながらお力添えは致しましたがね? 

 正体不明の通りすがりが茶々入れるより、主人公に頑張って貰った方が上手くいくって、はっきりわかんだね。

 そんなワケでして、前回のホモちゃんの作戦は題するなら「人任せ」でした。

 かずみちゃんが全てを解決するまでの導線引きが、走者に課せられた仕事だったのです。

 

 作戦の大まかな流れは以下の通り。

 まず、ホモちゃんのSGと集めたGSを姉妹に持たせ、特攻を仕掛けさせます。

 彼女達の仕事は主に3つあり、1つは聖カンナの目を逸らし、ホモちゃんの存在を気づかせない事。

 その為に彼女達には、ホモちゃんのSGを探知させて周囲に正体を誤認させつつ、可能な限りハデに暴れ回ってもらいました。

 これによりホモちゃんはフリーになり、聖カンナのすぐそばに居ながらにして暗躍が可能となります。

 

 2つ目の仕事は、ホモちゃん、ひいてはサキさんが運びやすいよう、かずみシリーズの内1人の頭を斬り飛ばす事。

 いくら目が逸れているからといっても、流石に人一人連れていれば気づかれてしまいますし、加えてサキさんは『隠密』を持っていません。

 彼女にかずみちゃんを丸ごと受け渡すなんて目立つ真似をすれば、ホモちゃんの存在まで諸共にバレてしまいます。

 かと言ってホモちゃんがかずみちゃんを連れ出そうにも、SGを姉妹に預けた手前100m以上離れられませんし、何より足が遅いです。

 かずみシリーズは流石の生命力のお陰で首だけでもバッチリ生きていられますから、恐らくあの状況ではこれが最善の一手でしょう。

 

 3つ目の仕事についてはもう少し後の話になりますから、ホモちゃんパートの後に解説します。

 

 さて、かずみちゃんの頭をゲットしたら、ここからはホモちゃんの出番です。

 正確には、下準備も含めてホモちゃんの仕事だった、と言うべきでしょうか。

 まず予め市外にQBを用意しておき、サキさんを使ってかずみちゃんを輸送します。

 この時、サキさんがクッソボロボロに炒めつけられて「サキ炒め」と化している事は想像に難くありません。

 よって、彼女が動けるようになる程度の回復魔法が必要になります。

 残念ながら現在のパーティ面子にゆまちゃんは居ないので、今回その役割はホモちゃん自身が担う事になりました。

 やってて良かった経験点プール……。

 

 そしてサキさんの回復と並行して、サキさんとかずみちゃんの言いくるめも行います。

 と言ってもサキさんの方はかずみちゃん大好きですからね、テキトーな事を抜かしておけば、<説得>も<言いくるめ>も無いホモちゃんでもどうこうできてしまうでしょう。できてしまいました。

 かずみちゃんの方は正直賭けでしたが……走者が試走を経て培ったカンが「これだ!」とキーワードを指し示してくれたので、それに従った所存です。

 果たして上手くいってくれたようなので、ここは素直に喜んでおきましょう。やったぜ。

 

 そうなれば後は成り行きを見守るだけ。

 何といってもかずみちゃん達は主人公ですからね、ちょっかいをかけずとも自然と全員生存を目指して動いてくれるのです。

 サキさんはかずみちゃんヘッドを抱えて疾走。

 かずみちゃんヘッドが漫画ほんへのかずみちゃんのように契約し、かずみシリーズは全て「人間」化。

 結果、かずみシリーズを従えていた聖カンナは戦力を削がれ形勢逆転、といった具合でした。

 

 また、予めQBに「契約相手が市内にも居る」事をそれとなーく伝えておき、「箱庭」の破壊を誘発。

 本来ならば聖団の任意解除か、聖団の一定数の死亡でしか解除されない「箱庭」ですが、ぶっ壊しちまえばンな事関係ねぇんだよ! 

 これでGS使えない問題も解決され、晴れて『かずみ』ルートの課題完全クリア……とは行かないのが世知辛いところ。

 

 最後の課題は「ヒュアデスの暁」討伐、全員生存を目指すなら避けては通れない障壁です。

 コイツは内部データ的には『かずみ』ルートのラスボスとして扱われており、ルート終盤かつ聖カンナが生存していれば、それまでの流れを無視して必ず出現します。

 ニコカンとかいう世にも稀なカップリングが誕生したと思ったら魔力暴走とか何とか下らない理由で湧いて出てきて全てを無茶苦茶にしていきやがったのを未だに許してねぇからな俺は……(殺意)

 

 まあとにかくそんなクソったれを対策しなければならないのですが、これが中々に骨が折れる。

 単純に戦闘力が高く、かずみちゃん抜きのパーティではどう足掻いても倒せません。

 加えて言うと契約前の魔女っ娘かずみちゃんでも同様で、未契約のかずみシリーズでは束になろうと敵いません。

 唯一対抗可能なのは13番目、即ち主人公のかずみちゃんが契約した場合で、それでも単騎で挑めば良くて相討ち。

 安定して勝利できるようになるラインは契約かずみちゃん+聖団2人相当の戦力からと、中々の鬼畜ぶりです。

 加えてコイツが出現したという事は、レイトウコの魔法少女達が犠牲になっているという事でもある訳で。

 無事に討伐できたとしても、その点について一部聖団と聖カンナの間で遺恨が残り、後々死者が出てしまう場合があるのです。

 

 今回については、とうとうヒュアデスが出現し、あわや聖団壊滅かという場面、既に契約していたかずみちゃん達により、打倒は無事にされました。

 しかし残念遅かった、レイトウコの魔法少女達は尊い犠牲に……。

 もしこれが通常プレイなら、そういった事態が訪れた事でしょう。

 けれど今回はRTA、そうはならなかったのですよ。

 

 ヒュアデスが出ちゃっても大丈夫。

 そう、GSならね。

 

 ここでようやく姉妹3つ目の仕事が効いてきます。

 彼女達が集めてきてくれた大量のGS、そのままでは聖団に渡すタイミングもありませんし、回復に使えるワケでもありませんが、意外な活き方をしてくれるのです。

 

 聖カンナは万能です。

 誇張抜きに万能です。

 相手の思考・戦法・持ち物さえも、対面すればお見通しなのです。

 そう、()()()さえも。

 大量の魔女の種(ヒュアデスノモト)が必要な時、目の前にある既製品(グリーフシード)と、背後かつ屋内の種の種(ソウルジェム)なら、どちらを選ぶのが効率的でしょう? 

 聡明な視聴者様方のお察し通り、上手く策にハマって貰えたのが今回お見せしたRTAというワケなのです。

 通常プレイでヒュアデス憎しの一心で色々と試行錯誤していたのがこんな所で活きるとは、やっぱやり込みって重要なんやなって……。

 

 かくしてヒュアデスは無事完全攻略。

 討伐後にGSがドロップアイテムと化して空から降り注ぐので魔法少女達のアフターケアも万全と、正しくパーフェクトに事態を運ぶ事ができました。

 ここまで上手く収められたのも、ひとえに姉妹の尽力のお陰ですね。

 何とお礼を述べたものやら……。

 

 褒美に死をやろう。

 

 まあ、今回は全員生存ルートですから、SGを引き剥がしてホモちゃんが持っていくだけですけどね。

 え、何故かって? 

 第二回で解説した通りですよ、彼女達は爆弾なんです。

 ただでさえコントロールが難しいのに、今は脅して仲間にしている状態ですからね。

 このままではいつホモちゃんがお亡くなりになるか分かりません。

 幸い今はホテルに女2人(3人)、密室、何も起きないはずがなく……。

 それじゃ、ちょっと眠ってろおま───(コンコン)

 

 

 

 ……ノック音? 

 

「そこに、居るんでしょ?」

 

 えっ誰?(恐怖)

 

 

 

 ■■■

 

 

 

「本当に物凄かったね、変身したかずみは。この魔法少女は()()()だ、と思っていたけれど……まさかヒュアデスの暁を、一撃で倒すとはね」

 

 キュゥべえにしては珍しく、興味深そうな声色の台詞を耳にして、呆けていた私は現実に引き戻される。

 一夜にして訪れた、私たちの叛逆の崩壊、そして救済は、実にあっけなく幕を下ろした。

 私たちに底知れぬ絶望をもたらすハズだっただろうヒュアデスの暁( ソ レ )は、キュゥべえの台詞通り、一撃で沈黙した。

 今となってはその面影は、戦いの余波で散った雲間から覗く暁に照らされた、降り注ぐグリーフシードのみ。

 

「……お前は、これで良かったのか」

 

 何がだい、と聞き返してくるキュゥべえ。

 この状況は、インキュベーターとしては明らかに不利益なハズだ。

 あのまま放置しておけば、叛逆を企てた私たちは死に、キュゥべえはあすなろ市での活動を再開できただろう。

 にも関わらず、キュゥべえは2人のかずみと契約する事で、結果として私たちのみならず、聖カンナやかずみシリーズの命すらも救ってみせた。

 その事を問うと、キュゥべえはそんな事か、と言わんばかりに、淀み無く答える。

 

「いいや、むしろボクは()()に感謝しているくらいさ。彼女のお陰で『箱庭』の攻略も達成できたし、かずみという将来有望な魔女候補を2人も得られた」

「……ああ、お前はそういう奴だったな」

 

 やはり、こいつらと私たちの倫理観はかけ離れているらしい。

 『ただ死なれるよりは、魔女になってもらった方が都合が良い』と続くその台詞を聞かされて、つくづくそう再確認させられる。

 それと同時に、私はキュゥべえの台詞に一つの引っかかりを覚えた。

 

 ()()

 今まで極限状態故の幻覚だと思っていたそれが、明確に姿形を持つ存在なのだと分かり、少し驚く。

 唐突に現れ、いつの間にか襲撃者共々居なくなっていた彼女。

 一体彼女は何を理由に、キュゥべえを利用してまで私たちを助けたのか? 

 そもそも彼女の目的は、本当に私たちを救う事だったのか? 

 杏里あいりを消し、ニコを襲った襲撃者との関連を思えば、単にそれが目的とは考えづらい。

 判断するには情報が全く足りないが、恐らく彼女を捉えた者は私以外には居ないだろう。

 加えて、彼女たちが再び私たちの前に姿を現す事があるかすら、定かではない。

 一切の手がかりが無い事を確認した私は、思わず呟く。

 

「私たちを救いもすれば、殺しもする……。一体、彼女たちは何だったんだ……?」

「おかしな事を言うね、浅海サキ。彼女がキミ達を害した事が一度だってあったかい?」

「お前こそ何を言う、現に私たちはニコを失って───」

「神那ニコなら、()()に居るじゃないか」

 

 ……そこ? 

 そう言ってキュゥべえが指したのは、握りしめた私の手。

 恐る恐る開くとそこには、一点の曇りも無い、2つのジェムがあった。

 1つは間違いなくニコの物だ。

 そして、もう1つは。

 

「まさか……杏里、あいり?」

 

 いつの間にか握り締めていたそれらを見つめ、私は今日何度目か分からない驚愕に襲われる。

 もはや慣れてしまったのか、その時の私の口からは乾いた笑いしか出なかったが。

 少し前まで彼女たちを警戒していたのが馬鹿馬鹿しく思える、この現状。

 都合が良すぎて怖いくらいだが、たまにはこんな事があってもいいのかも知れない。

 

 そんな気持ちのまま、この話を終えられれば良かったのだが。

 落ち着いた私の元に、聖カンナを抱えたかずみが駆けてくる。

 かずみにもニコの無事を伝えよう、そう思った矢先、その目に光るものが浮かんでいる事に気づいた。

 嫌な予感が背に走る。

 晴れやかな気分は消え去り、今までのような不安感が再び顔を出す。

 そしてかずみが放った言葉は、その不安を決定付けるに足るものだった。

 

「もう1人の私が、4番目のかずみが、どこにもいないの!」

 

 その言葉に対し、笑いは出る筈もなかった。



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第四回・裏

ヒュアデス戦直後の展開は原作とほぼ同じなので原作を読んで下さい(販促)



 食器の擦れる音に、少女達の談笑の声。

 懐かしさに包まれながら、私は目覚め───

 

「……うわっ!?」

「起きた!」「おはよー!」

 

 目にしたものは、黒髪の少女達。

 寸分違わぬ容姿の彼女達を、私は知っている。

 上体を起こし後ろを見やれば、談笑の主も目に入る。

 つまり、ここは。

 

「おはよう。よく眠れた?」

 

 優しげな声で問いかけてくる、かずみ達の一人。

 眼前の二人と違い、その手には指輪が光っている。

 彼女に誘われテーブルへと来てみれば、そこには色とりどりの料理が並んでいた。

 

「これは一体……」

「歓迎会よ。12人のかずみ達による、()()()()の為の、ね」

 

 かずみへとサラダを取り分ける手をそのままに、御崎海香がそう告げる。

 歓迎会という割には、私を抜きにして既に楽しんだ後らしく、よく見ると卓上には片付いた皿がいくつも重なっていた。

 テーブルを囲む少女達は、やってきた私を拒む事も無く、好き勝手にパーティを続けている。

 

 ユニを掲げて自慢げな牧カオルと、目を輝かせて話に聞き入るかずみがいる。

 若葉みらいとかずみに挟まれ、腑抜けた顔をした浅海サキがいる。

 泣いて謝り倒す宇佐木里美と、それに泣いて謝り返すかずみがいる。

 そして……膝の上にジュゥべえを乗せ、それにかずみと共に食事を与える神那ニコが、いる。

 

「驚いた?」

 

 心の内を読んだかの如く私に語りかけてくる、指輪のかずみ。

 外道姉妹らに連れ去られ、いずこかへと消えた筈のニコの姿を見て、私の胸には安堵とも困惑ともつかない感覚が去来していた。

 感情を処理できず呆然と立ち尽くしていると、ふと肩を叩かれ、聞き覚えのある声が背後から響く。

 

「あんたも複雑な心境かい、黒幕さん」

 

 二つに分かれた金髪の持ち主、杏里あいり。

 かつて互いに、目的の為に利用し合った相手。

 やけにボロボロなその姿は、傷だらけの身体だと言うのに穏やかな雰囲気を醸し出していた。

 

「話はかずみから聞いたよ。自殺未遂たぁバカな真似をしたもんだ」

 

 そう言いながらケタケタと笑う彼女は、かずみと共に事の顛末を語って聞かせた。

 曰く、自殺を試みた私が気絶させられた後、いくつかの事件があったらしい。

 1つは、4番目のかずみの失踪。

 混乱の最中という事もあり、あわや大捜索に発展しかけたが、御崎邸からある物が発見された事で終息となった。

 イチゴリゾットのレシピと、それに挟まった一通の手紙。

 「礼を言いに」とだけ走り書きされた手紙だったが、指輪のかずみはそれで行き先を察したらしい。

 そして、もう1つの騒動というのが。

 

「……この乱痴気騒ぎなのか」

「正確に言うと、その前の決闘も込みね」

 

 手紙を見た指輪のかずみが最初に取った行動は、なんと歓迎会の企画だった。

 どうにもズレた感性に思えるが、かずみにとっては重要らしい。

 その手始めに着手したのが、ニコとあいりの復活だった。

 

「海香たちから、話は聞いてたから。私たちの再出発には、あいりが必要だって思ったの」

 

 かずみは再生成の魔法を用い、二人に肉体を与え直した。

 当然ただそうしただけでは、あいりが再び凶行に及ぶだけだろう。

 それを承知で決行したのは、かずみにある秘策があったからだという。

 

「……まさか、それが決闘なのか? 少年漫画でもあるまいに」

「まあ結局、私が負けちゃったんだけどね」

「本気で殺しにこないヤツを殺す気になんかならんわ、バカめ」

 

 バカって言う方がバカだもん、と舌を出すかずみにじゃれ返すあいり。

 妹に向けるようなその視線は、確かに殺意とは無縁のモノだった。

 しかしじゃれ合いが一段落着くと同時、その視線は私がよく知るソレへと変わる。

 

「だからといって、私の復讐を終わらせるつもりはないがな。ようやく憎むべき本当の敵(キュゥべえ)を見つけたんだ」

「全くその通りだ。私たちの戦いも何一つとして終わってはいない」

 

 そう割って入る声はサキ。

 若葉みらいとかずみ達を引きずりながら、格好つけた様子で続ける。

 

「黒づくめの少女の行方、海香の見たジェム浄化の謎、レイトウコの少女達の処遇、『箱庭』の今後。解決せねばならない課題は山積みだからな

 ……どうしたみんな?」

「……にやつきが収まってないぞ、お前」

 

 慌てて口元を隠し、赤面するサキ。

 全く締まらない腑抜けた姿を見ていると、あいり同様、私も今までの殺意が馬鹿馬鹿しく思えてきた。

 ……本当に、何故あんな事をしてきたのだろう。

 結果として誰も死なずに済んだものの、人を殺そうとした事には変わり無い。

 一つでも何かが違っていたら、私は……。

 

「カンナ。これが終わったら、カンナの家に連れてってよ」

 

 罪悪感に沈みかけた私に、かずみがそっと手を差し伸べる。

 しかし私は、その手を取るべきか分からなかった。

 ()()()の家。

 果たしてそこは今の私が、帰っていい場所と言えるのだろうか。

 

「きっと()()()()が居なくなって、すごく心配してるんじゃないかな」

「かずみ……」

 

 かずみはいつも、こうなのだろう。

 誰かの悩みをたった一言、一瞬にして消し飛ばす。

 他者の心の戒めを、それ自身の手で破らせる。

 その有り様は、正しく破戒。

 きっと私の次の言葉も、そんな彼女が言わせただけだ。

 きっと今は、それでいい。

 

「嫌だ」

「えっ」

「1人では、嫌だ。2()()()()()()()()()()()だからな」

 

 視界の端でびくりと肩を震わす彼女。

 聞こえているなら続けて告げよう。

 彼女にとっての、破戒の台詞を。

 

「家族に顔くらい見せなよ、ニコ」

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 何かがおかしい。

 そう気づいたのは、あの戦いの直後だった。

 

「あはは、みんな薄汚れちゃってるねぇ」

 

 ヤケに急いだ萌香の様子で、何となく察した通りだった。

 戦いを終えて見渡せば、酷い有様が目に入る。

 誰もが魔力を使い果たし、お世辞にも美しいジェムとは言い難い。

 となれば残りの標的は、空中で踊る黒と白のみ。

 魔女使いも居るには居るが、アレでは成果にならないだろう。

 私はそれらを把握して、期待を込めて萌香に問うた。

 

「ねぇねぇ、次の仕事はなぁに? やっぱり2人を仕留めにいくの?」

 

 それなら私もついて行こう。

 今の私は萌香の騎士(ナイト)、醜い穢れより守る者。

 お姫様ごっこもスキだけど、ルカの趣味だって悪くない。

 つぶらな翡翠の瞳を見つめ、萌香(王子さま)の命を待つ。

 けれどそれは耳に届かず、代わりにこの目に飛び込んだのは───

 プレイアデスの1人に触れ、その傷を少しばかり癒す萌香。

 

「……? あな、たは……」

 

 彼女の意識を確認すると、萌香はジェムを手に取って、その目の前で浄化を始める。

 ……何の為にそんな事を? 

 そんな疑問も浮かんだが、それは直後の光景にかき消される。

 

『これはっ……ジェムが、剥がれ……!?』

 

 なんと浄化を続けた後に、濁りが消えるとジェムはヒビ割れ、穢れを再度晒したのだ。

 冷静沈着なルカですら、その様子に驚きを隠せない。

 ジェムの持ち主も同様らしく、眼鏡の奥の目を見開き、萌香の事を見上げていた。

 唯一動じていないのは、行為者である萌香だけ。

 萌香は少女を一瞥し、再度の浄化を試みる。

 今度はジェムは姿を変えず、通常通りに浄化が済んだ。

 

 美しく輝く青い宝石(ジェム)

 数瞬前の濁りようを知らなければ、間違いなく私たちのコレクションに加え得る逸品だ。

 そして私は理解した。

 萌香の行動はこの為か、と。

 これ程美しい宝石(ジェム)ならば、確かにそうする価値がある。

 私たちもこれからは、浄化してから見定めようか。

 萌香とルカと3人で、魔法少女と魔女を狩る日々。

 戦いが少し増えるとしても、一緒ならきっと楽しいよね? 

 

 そんな儚い妄想は、他でもない萌香にかき消された。

 その手に握った穢れなき宝石(ジェム)

 それを一目確認すると、萌香は持ち主に宝石(ジェム)を戻し、満足そうに笑みを浮かべる。

 

「さぁ、行きましょう? 彼女以外に見られては困るから」

 

 踵を返し、素っ気なく呟く萌香。

 予想外に過ぎる行動に、驚きの言葉も出なかった。

 

 だって、おかしいじゃない。

 私たちは何しに来たの? 

 宝石(ジェム)を摘みに来たんじゃないの? 

 なぜ目の前のそれを手放すの? 

 何の為の浄化だったの? 

 私たちと同じ趣味じゃないの? 

 ……私たちの王子さま(理解者)じゃ、ないの? 

 

 混乱と疑念に呑まれた私に、ルカがすぐさまフォローに入る。

 

『……あやせ、気持ちは分かります。ですが一旦帰還しましょう。彼女の考えは、その後でも聞けるハズです』

『…………そう……だね』

 

 ドレスの端を引っ張って、抱擁を求める萌香。

 小さな彼女を抱えると、思わず心が締め付けられる。

 あまりに軽いその身体。

 けれど感じる確かな重みが、その存在を突きつける。

 たった2人きりだった私たち。

 そんな世界で出会ってしまった、私たち以外の理解者。

 私たちを求めてくれた、王子さま。

 そんな大切な王子さまが……本当は()()()かも知れないなんて。

 

 欲しいモノが手に入らない事は、とても辛い。

 それを手に入れる為ならば、魂を差し出せる程に。

 

 けれど、得てしまったモノを失う事は、もっと辛い。

 それを守る為の対価は、既に支払ってしまったから。

 

 だから私たちには、願う事しかできない。

 妖精による確約も、魔女による反転もない願いを。

 ねぇお願いだよ、王子さま。

 どうか2人ぼっちの私たちを、裏切らないで。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 『マギレコ』ルートにおける『かずみ』ルート攻略のワンポイントアドバイス。

 全てが終わっても安心なさらぬようお気をつけを。

 通常『かずみ』ルートはヒュアデス討伐と同時に終了しますが、『マギレコ』ルートの場合はその後もガッツリ続きます。

 特にイベントも無いので走者は先に進みますが、ルート終了までのケアが雑だと死人が出る事があります。

 

 その内の1つが、魔女化による死亡。

 ジュゥべえによる浄化の欠陥を誰かに悟らせておかないと、最悪全員お陀仏です。

 よって今回はUMK姉貴に浄化を披露し、ヒントを与えておきました。

 彼女やニコカンは賢いですから、この内1人に見せておけば、後は自力で何とかするでしょう。

 

 終わりっ!閉廷!……以上!皆解散! 

 だから姉妹早く離脱して! 

 誰かに見つかると問い詰められて面倒なんだよォ! 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 あの時萌香を運び込んだ、同じホテル、同じベッド。

 なのに全てが正反対だ。

 萌香の身体はボロボロだけど、愛おしさでいっぱいだったあの時。

 萌香は安らかに落ち着いているのに、不安で押しつぶされそうな今。

 ここを出る時預かった宝石(ジェム)も、その不安を癒してはくれない。

 あんなに心強く思えたお守りが、どうして今はこんなにも、私たちの心をかき乱すのか。

 

 『萌香の考えは、後で聞ける』? 

 そんなの、全然ウソじゃない。

 私もルカも怯えたきりで、言葉は一つも出てこなかった。

 無限に続くかの如き沈黙。

 それを破ったのは、やはりと言うか、萌香だった。

 

「2人とも」

「? 何……って───!?」

 

 俯いていた顔を上げると、そこには視界いっぱいの萌香。

 いきなりの出来事に、処理が追いつかず脳が沸き立つ。

 しかしそれが幸いしたか、今まで開かなかった口が、熱を逃すかのように動きだした。

 

「なな、なんでこんな、近っ」

「2人のお陰で、目的は達せられた。何かお礼をしようと」

 

 目的。

 意図せず出てきたその単語が、私の思考を急速に冷やす。

 聞くならきっと、今しかない。

 私は意を決し、萌香の翡翠の瞳を見据えた。

 

「お礼の前に、聞きたいの。

 ……萌香にとって、宝物ってどんなもの?」

 

 意を決したのは、嘘じゃない。

 けれど臆病な私では、婉曲に問うのが精一杯。

 正面から切り出すなんて、そんな勇気はとても無い。

 その心境を知ってか知らずか、萌香は静かに間を空けて、私たちに答え始める。

 

「手元に置いて、手放さない。()()()()()()()()()()()()。あなた達だって、そうでしょう?」

「えっ……」

 

 不意に返された言葉で、私は困惑してしまう。

 確かに私は、狙った宝石(ジェム)は手に入れなければ気が済まない。

 そういう意味で、「手元に置く」のは合っている。

 でも「手放さない」というのは違う。

 濁ったジェムならすぐに捨てるし、その後の事など気にもしない。

 ここまで考えて、私は気づいた。

 

(……そっか。宝石(ジェム)は宝物じゃないんだ)

 

 私たちにとって、ジェム摘み(ピックジェムズ)は確かに趣味だ。

 けれどそれら全てが宝物、という訳では無い。

 私たちにとっての宝物は、私たち自身の宝石(ジェム)だけ。

 穢れようとも捨てられない、唯一のもの。

 それこそが、萌香の言う宝物。

 手に入れなかったあの宝石(ジェム)は、萌香の宝物足り得なかった。

 濁れば捨てるだろうから、私たちにとっても当然違う。

 そして後半の言葉の意味は───

 

「もう、じれったい」

「わっ!?」

 

 思考の海に沈んだ私は、萌香に無理矢理引き揚げられた。

 気づけばベッドに押し倒され、小さな身体がしなだれかかる。

 

()()に浄化を。それが済んだら、()()()しましょう?」

 

 そして萌香は小さなその手で、グリーフシードを見せびらかす。

 ()()()()()

 その言葉で漸く、私たちは確信する。

 

 お礼は浄化。

 宝石(ジェム)を浄化し、穢れを消す事。

 それは即ち、萌香と共に戦った、思い出の証を消し去る事。

 

 そしてお別れ。

 過去の繋がりを消すのと同様、今の繋がりを断ち切る事。

 

『……試されていたのは、私たちの方でしたね』

 

 さあ手に取ってと微笑む萌香。

 その真意に気づける者が、果たして他に居るのだろうか。

 きっと今の私の顔は、過去最高にだらしない。

 ああ、こんな彼女に答えるならば。

 捻くれた愛に、応えるならば───

 私たちもまた、歪まなければ。

 

「……そういう冗談、()()()()()なあ」

 

 そしてその手を()()()()()()()した瞬間。

 

「───客人ね」

 

 睦言の時は、終わりを告げた。



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第五回

(アニレコが)アア、オワッタ・・・・・・・・!



 ガバがガバを呼ぶRTA、はーじまーるよー。

 今回はリガバリのツケが回ってきたところから。

 

 

 

 【かずみ(IV)が 仲間に 加わった】

 

LEVEL UP! 

 

 

 

 えー、走者のホモです(半ギレ)

 予期せぬ新規メンバーの加入により、オリチャーを発動して本走を再開します(全ギレ)

 

 詳しく説明させて頂きますと、結論から言って、全てわたしの所為です。

 ヒュアデス討伐後、ホモちゃんは姉妹を始末する為、共にホテルへと帰還しました。

 とは言っても姉妹はかなりの強者、更にホモちゃんも以下のハンデを負っていたので、一筋縄では行きません。

 

 ハンデその1は『盗っ人』『隠密』の機能不全。

 共にこのチャートでは便利な魔法ですが、こういった状況では不便です。

 まず、姿を捉えられた状態では『隠密』はほとんど無意味です。

 せいぜい影が薄くなる程度で、有意な効果はありません。

 そして『盗っ人』の方ですが、これも対面では役に立ちません。

 無警戒の相手から1つ2つアイテムを奪う程度は余裕ですが、警戒されるとほぼ自動で防がれます。

 

 ハンデその2は「SGを相手に預けている」という現状そのものです。

 心臓を握られたも同然なので、下手に動けばいつ画面がブラックアウトするか分かりません。

 しかも流石は姉妹、ホモちゃんがSGを預けて以降ガッチリ握って離さない。

 「いつでも殺せるぞ」と言わんばかりに無邪気なあやせちゃんの、なんと恐ろしい事か……。

 適当なタイミングでスればいいかなとか考えてた過去の走者をブン殴ってやりたいですねぇ、ええ。

 

 兎角非常に困難な状況でしたから、走者は一計を案じました。

 圧迫面接スタイルです。

 ホモちゃんは現在、姉妹にとっては敵同然の存在のハズ。

 そんな相手と対峙する時は、挑発行為がうってつけです。

 敢えて彼女達に急接近し、用済みを突きつける位してやれば、判断力を奪うのには十分でしょう。

 またその際、対価としてGSを見せておく事で、「SGを取り出す事が自然になる」文脈作りもしておきました。

 こうすれば「ホモの提案に乗ったフリをした不意打ち」を選択肢として暗示できますし、自分のSGの所在を意識せざるを得なくなります。

 同時に意識が目の前のホモちゃんと自身のSGへ集中する為、ホモちゃんのSG(ほんたい)への注意も疎かになる事でしょう。

 

 ここまでお膳立てすれば、後は早撃ち勝負です。

 SGを取り出し変身するか、尻尾巻いて逃げ出すか……当然、後者はあり得ません。

 そして取り出したその瞬間が、走者にとって一世一代の大勝負に……なるハズでした。なるハズだったんです。

 不意打ちで仕掛けられた謎の問答を無視しておけば、こうはならなかったのかも知れません(姉妹とのマトモな会話とか珍しすぎて普通に回答してしまいました)。

 宝物か……ライナスの毛布の話でもしとこうかな……とかウダウダやっている隙に……

 

 

 

外 窓 か ら 乱 入 者 が

 

 か ず み 4 番 登 場

 

 仲 間 に し ろ と 迫 ら れ る ホ モ

 

 殺 し 合 い の 最 中 と か 言 え な い 空 気

 

 

 

 こんな時どうすべきか、皆さんならご存知ですね? 

 走者に必需の伝統芸能、オリチャーの発動です(ヤケクソ)

 姉妹の注意がよばんちゃんに逸れた瞬間、ホモのSGをスッて離脱! 

 何事も無かったかのように振舞い、よばんちゃんに応対! 

 今までの雰囲気を有耶無耶にしつつ、新たな用心棒をゲットォ! 

 無茶苦茶なのは分かりきっていますが、これが最良の選択なのです。

 少しでも対応が遅れれば状況は拗れに拗れるでしょうし、ホモは死にます。

 ならばいっその事よばんちゃんを加入させ、姉妹に対する抑止力にしてしまった方がベターなのです。

 単純戦力が増えますし、姉妹を始末せずに済みますからね。

 

 まあ戦力が増えればガバも増えるんですがね! 

 特に痛いのは食事イベントの発生ですね。

 『かずみ』系列のキャラクターの加入後は、ほとんどの場合食事イベントの発生率が上昇します。

 (今回はよばんちゃんですが)かずみちゃん本人の場合さらに顕著で、1日3食を欠かす事は難しくなってしまいます。

 本来のチャートなら食事なんてするだけ時間の無駄なので、一度もせずに終わる予定だったんですけどね……。

 もちろん通常プレイの場合は、食事イベントはとてもありがたいんですよ? 

 SGの濁りは抑えられる、チーム全体の好感度・親密度・連携度は上がる、ビキビキビキニ123な良イベです。

 良イベですが……魔力しか取り柄の無いホモが魔力補助貰っても意味無いんだよ!(絶叫)

仲間キャラ要らないRTAで親密度上げてもジャマなだけなんだよォ!(慟哭)

 

 ……失礼、取り乱しまみた。

 一先ず、これにて『かずみ』編は攻略完了。

 数日間のインターバルを経て、続く『すずね』編の攻略に参りましょう。

 

 インターバルはなんの面白みもないじゃない! のでカットだ(無慈悲)

 

 

 

 さて、手癖で移動費をスッてきたのをよばんちゃんに咎められたりしつつ、やってきましたホオズキ市。

 ルート変更に伴うロードの間、『すずね』編の救済対象を確認しておきましょう。

 

 主人公にして暗殺者の「天乃鈴音」。

 ホオズキ市の魔法少女チーム「成見亜里紗」「詩音千里」「奏遥香」「日向茉莉」。

 そして駄々っ子こと黒幕の「日向華々莉」。

 

 以上、合計6人が『すずね』ルートの救済対象です。

 今回はこの6人をSAVEすればクリアなのですが、ルート攻略の都合上、言及の必要がある魔法少女がもう1人います。

 

 それは……スピードアップが固有魔法、死ぬのも最速こと「穂香佳奈美」ちゃんです。

 誰? となった方は『すずね』の1話冒頭だけ読み返して頂ければ幸いです。

 そこに彼女の活躍の全てがあります。

 読み返しましたか? 結構。

 何故こんな一瞬しか登場しないキャラを気にかける必要があるのか、それには走者のプレイスタイルとゲームシステムが関係しています。

 

 皆さまご存知の通り、本RTAではプレイヤーキャラを魔力に特化させる代わりに、他キャラに戦闘や移動を委ねるスタイルを採用しております。

 そしてその仲間キャラは、基本は定期的に交換するチャートになっているのです。

 付き合いが長引いたり、複数人と一緒に居たりするとガバノモトですからね。

 姉妹とよばんちゃん? 知らなーい

 

 そういったワケでして、仲間キャラは欲しいけど長く付き合いたくは無い、というジレンマを走者は常に抱えています。

 そんな悩みを解決するのが、このゲームにおいて「サブキャラクター」に分類されるキャラ達です。

 代表的な所では『まどか』の「志筑仁美」ちゃん等ですね。

 モブという訳ではないけれど、本筋に必須な訳でもない。

 そんな彼女達は仲間に加えるのも、仲間から外すのも容易ですし、特殊イベントも少ないです。

 よって、ホモちゃんの戦力にするにはピッタリなんですね。

 

 その分デメリットもあります。

 彼女達は往々にして、性能が低かったりピーキーだったりするのです。

 佳奈美ちゃんも例に漏れずピーキーですが、その適所というのがRTAなのですよ。

 固有魔法はスピードアップ、しかも「性格:騙されやすい」。

 火力も知力も必要ねぇんだよ! を地で行くRTAという文脈では、これ以上無い人材というワケです。

 

 これらの理由から当初のチャートでは、彼女をアシにして走る予定になっていました。

 現在は姉妹もよばんちゃんも居るので、正直仲間にはしたくないのですが……

 当初のチャートからズレるとどんなガバが生じるか分からないし……(ボソッ)

 諸般の事情から、一応救助するチャートを継続します。

 まあ多分、助けるだけ助けたら後は放置になりますがね。

 

 といった所で到着しましたね、殺害現場の廃工場です。

 今回は『マギレコ』ルートなので神浜外の魔女は減少傾向にありますが、イベントに伴う魔女戦は確定発生・ほぼ場所固定となっています。

 ランダム要素が無いとは、なんとお優しい方……。

 魔法少女達にも魔女を見習って貰いたいモノです(意味不明)

 予定通りならそろそろ魔女戦が終わり、鈴音ちゃんと佳奈美ちゃんが結界から出てくるハズですが……おっ、来ましたね。

 おっしじゃあ初仕事じゃ! 

 走者の華麗なるスリテクをご覧に入れ───(ガキン!)

 

 は? 

 

 ……よばんちゃん!? 何勝手に助けてんすか!? やめてくださいよ本当に!!! 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 かつて、私は魔女だった。

 出自も、身体も、精神(こころ)まで。

 全てが魔女で出来ていた。

 絶望に呑まれて生命を絶った、ワタシノモトになった人。

 私は「彼女」を求められたが、そうなる事は出来なかった。

 「和紗ミチル」或いは「カズミ」。

 それが私の名前だった。

 彼女達にはそう呼ばれ、私にとってもそうだった。

 あんな事件が、起きるまでは。

 

 

 

 その日は暗い雨だった。

 御崎邸で一人寂しく、料理を作って帰りを待つ。

 ()()()()()()()()()()()療養中の私にとって、出来る事はそれだけなのだ。

 どこにも悪い所はない、皆と一緒に戦いたい。

 そんな主張をしてみても、通る事は決してなかった。

 皆の心配の気持ちは分かる。

 大切に思うからこそ、戦いを遠ざけるのだと。

 それが分かっているから余計に、戦えないのが不満だった。

 皆のサポートすらもできず、待つだけの自分が不快だった。

 何故か皆から距離を置かれ、疎外感すら有るのが不安だった。

 

 料理を完成させてしまい、家事全般も終えたとなれば、私の仕事はもうおしまい。

 皆が魔女と戦う中で、一人燻るばかりの私。

 だからその日の来訪者は、私にとっては僥倖だった。

 

(───魔女の気配!? 近い!)

 

 皆が居ないこの状況では、私が戦う他に無い。

 グリーフシードの1つでも手に入れられれば、役に立てる。

 これから魔女と戦うというのに、浮き足立って出て行く私。

 思えばこんな不謹慎さが、バチが当たった理由なのかも。

 その日の私の脳裏には、そんな考えはよぎりもしなかった。

 

 私の意識が戻ってきたのは、里美の悲鳴を耳にした時。

 魔女に向けた殺意の矛先は、別のものへと変わっていた。

 短い白髪、金縁の眼鏡。

 よく見知った彼女の顔が、私の眼前で歪んでいた。

 

「サ……キ……?」

「! か……ずみ……! 正、気に……」

 

 傷だらけの酷い身体。

 一体誰が、こんな事を。

 そんな義憤に駆られたのも束の間、その犯人はすぐに分かった。

 締め付けられたサキの首。

 首に巻きつく魔女の腕。

 それが伸びるのは、私の肩から。

 握り締めた掌が感じる温度の正体に気付いた時、私の意識は、二度目の絶望に堕ちていった。

 

 あの日、「カズミ」と呼ばれた私は死んだ。

 文字通り、自らの死を望んだ事で。

 「カズミ」は自死を望みはしない。

 だから私は、「カズミ」じゃない。

 自他共に認める失敗作に、生きる理由などあるだろうか。

 私はさながら、生きた屍。

 決して生きてはいないのに、死んでいるとも言い切れない。

 いっそ死ねれば楽なのに、その自由すらも得られない。

 自ら心臓を抉り出し、それを引き裂いた事がある。

 自分の頭を切り落とし、脳髄を掻き回した事もある。

 雷を落として火を起こし、五体を焼き尽くした事さえある! 

 これだけやっても死ねないのなら、残る手段はたった一つ。

 そして私は、心を殺した。

 

 暗闇の中でただ静かに、最期の時を待つだけの日々。

 そんな日々の中変わりゆくのは、ただ同胞の数だけだ。

 彼女達もまた私のように、狂ったように自傷した。

 そしてそれが無駄だと悟ると、皆一様に死人になるのだ。

 それを眺める私の心に、感情の波は立たなかった。

 同情も憤怒も憐憫も、嘲笑すらも浮かばなかった。

 あるのは一重に、絶望ばかり。

 私は身体のみならず、精神(こころ)まで魔女に堕ちたのだ。

 それに気づくに至っても、涙の一つも出なかった。

 全ては()()()()に呑まれ、最後に殺意に成り果てる。

 あの暗闇の中にいた頃は、それを抑えるので精一杯。

 だからきっと気づけなかった。

 この身に()()がある意味に。

 

 

 

「ねぇ、おなか、空いてる?」

 

 

 

 あれから少しの時を経た。

 かつて魔女だった私は死んで、今は人間の私になった。

 これでようやく、帰れるハズだ。

 皆の所に、戻れるハズだ。

 でも私はそうしなかった。

 私の足が向かった先は、もっともっと別の場所。

 だって私はあの時の、質問にまだ、答えてない。

 

 

 

「空いてるよ。だから作って来たの、イチゴリゾット」

 

 

 

 私を造った彼女達に、未練が無かった訳じゃない。

 もっと一緒に居たかった。

 もっと一緒に笑いたかった。

 もっと一緒に、生きたかった。

 でもそれは多分()()()の意志だ。

 私の意志でもあるけれど、()()()の意志では、きっと無い。

 ()()()が選んだ道は、他でも無いこの道なんだ。

 この身に生命が宿った事が、彼女がくれた道標。

 明日に踏み出す為のこの力、私は彼女の下で振るおう。

 私は自死を望まない。

 他人の傷も望まない。

 他人を傷つける事はきっと、その人自身も傷つけるから。

 だから私はもう誰も、誰にも、傷つけさせたりなんか……しない。



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第五回・裏

新年度初投稿です…(懺悔)



 夢を見た。

 少し久しぶりに見た夢だった。

 ここ暫く会っていない、おばあちゃんと話す夢。

 その顔は相変わらず黒塗りで、何を言っているか分からない。

 懸命に話しかけても、ふっとどこかへ逃げてしまう。

 駆けずり回って探しても、見つけたと思って捕まえても、またすぐどこかに消えてしまう。

 そのうちおばあちゃんは影も形も無くなって、結局いつも最後には私が一人残るだけ。

 なんて、後味の悪い夢。

 こんな夢を見るのはいつも、決まって悪い事があった後だ。

 思い出してきたかつての記憶。

 笑顔が似合う銀髪の少女。

 彼女と名前を教えあい……直後、目の前で閃く刃。

 そして私は確信した。

 

(……ああ。私、死んだん───「おっきろーッ!!!」

「ひゃああああッ!?」

 

 天地がひっくり返るとは、まさに今のような事を言うのだろう。

 沈みかけた意識は急浮上し、ベッドの上の身体に叩き込まれる。

 目を瞬かせ見てみれば、そこにはどこか見覚えのある、黒髪の少女の姿があった。

 

「おはよう。よく眠れた?」

「えっ……と、アレ、私……?」

「ふふ、まずは朝ご飯の時間だよ」

 

 そう言われてみるとふと、甘い香りに気がついた。

 その方向に視線をずらせば、そこには既に先客が二人。

 長髪を後ろで纏めた少女が、膝に乗せた幼女の口元に、食事を運ぶ最中だった。

 

「ああっ、穂波さん暴れないで!朝食は逃げたりしませんからっ」

「ならもっと早く、次を頂戴」

 

 忙しなく食器を動かす少女に対し、膝上の幼女はすぐさまフレンチトーストを飲み込んで、矢継ぎ早に催促をかけていく。

 まるで姉妹のような微笑ましい光景に、私の気持ちは少しずつ和んでいった。

 すると緊張が解れるにつれ、次第に何かが自分の中で、形を得て蘇っていく。

 それは昨夜の、本当の記憶。

 ……そうだ、黒髪の彼女は確か。

 私の生命を救ってくれたのだ、と。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 はい、お察し頂けますように早速ガバです☆

 本来のチャートでは鈴音ちゃんの一閃に合わせ、佳奈美ちゃんのSGをスるハズでした。

 そうする事で佳奈美ちゃんを死んだように見せかけつつ救助し、今後の動きをやり易くする手筈だったんですね。

 あれ、なんで失敗したんでしょうね? 

 ここちょっと(思考から)消えてますね、4番という魔法少女がいたんですけど。

 

 まあ、そういった経緯で、とりあえずプランB発動です。

 あ?ねぇよそんなもん、との事なので、その場で作成しました。

 何故か飛び出したよばんちゃんに加え、なし崩し的に姉妹も投入。

 2人がかりの戦力で、鈴音ちゃんを圧倒します。

 またこの時、姉妹のSGを預かって不死身にしておきました。

 これによりこちらが魔法少女の真実を知っている事を悟らせつつ、鈴音ちゃんを牽制。

 どうにか彼女を撤退に追い込んだら、一先ずミッションコンプリートです。

 深追いしてこの場で鈴音ちゃんのSGをスる事はしません。してはいけません。

 そうした場合、とある理由でなんやかんやありホモは死にます(5敗)

 詳細は追って説明するとして……さて、この後どうしよっかな(痴呆)

 一応手は打ちましたけど、上手くいくかは……ナオキです……。

 

 ていうか姉妹、いい加減食事の度に拘束するの止めて貰えません? 

 毒でも盛ってんの?(疑心暗鬼)

 よばんちゃんもさぁ……笑って見てないで止めるとかさぁ……。

 彼女が居てもガバが増える一方ですし、加入させた意味どこ……?ここ……? 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 迂闊だった。

 まさか彼女に、あんなに仲間が居たなんて。

 結界付近で待ち構え、誘き出された魔法少女を狩る。

 いつも通りのその作業、変わった事は無かった筈。

 それなのに突如現れた、二人の手練れの魔法少女。

 黒い帽子と、白いドレス。

 決意を秘めた眼差しと、戦いを楽しむ緩んだ口。

 受ける印象は正反対の二人だったが、どちらも実力は本物だ。

 荒れ狂うような炎の波は確実に私を後退させ、多彩な魔法を放つ杖は私の反撃を的確に潰していく。

 攻撃に殺意は見えなかったが、手加減という訳でも無いらしい。

 撤退こそ成功したものの、むしろ意図的に逃されたようにすら感じられる。

 

 兎角、厄介な事になってしまった。

 あれだけの数が居たというのに、全く気配に気づけなかった。

 大方、「陽炎」のような隠蔽魔法の類いだろう。

 もし向こうから奇襲を受けたら、対処できるかは分からない。

 加えて恐らく彼女らは、真実について知っている。

 ドレスの少女の身体には、ジェムが全く見当たらなかった。

 帽子の少女の立ち回りも、耳元のジェムを意識したそれに違いない。

 魔女化まで知っているかは不明だが、その可能性もあり得るだろう。

 だがそれだけならば、大きな懸念にはならなかった。

 例え相手が強者だろうと、真実を知る者であろうと、私がする事は変わらない。

 しかし顔すら見せぬ相手が居るとなると、少し事情が変わってくる。

 

『───あなた一人では勝てない。手を引きなさい』

 

 戦いの最中、突如として響いたその念話は、終始私に撤退を求め続けた。

 単にそれだけだったならば、私は声の主の事を、彼女らの仲間の一人と考えた事だろう。

 そう、その念話があんな事を言い出さなければ。

 

『一人で立ち向かっては駄目。日向茉莉を利用しなさい』

『!? それは、どういう───』

 

 私がそう聞き返して以降、声はピタリと止んでしまった。

 日向茉莉。

 現在私が通う中学の、クラスメイトにあたる少女だ。

 彼女を利用しろというのは、一体どういう意図なのか。

 目の前にいる少女達と、何か関係があるというのか? 

 そもそも声の主は何故、彼女の事を知っている? 

 その時は戦闘に気を取られ、それ以上深く考える事もままならなかった。

 

 そして、翌日。

 私はその声の意図の一端に、触れる事になる。

 日向茉莉を観察し、ある事実に気がついたのだ。

 1つ目の発見は、肌身離さず着けた指輪。

 見慣れた装飾が彩る腕部に、緑の宝石が嵌っている。その異様な煌めきは、彼女の正体を示すモノだ。

 2つ目の発見は、時折見せる謎の態度。

 突如虚空を見たかと思えば、コロコロ表情を変えてみせ、身振り手振りをしさえする。

 まるでそこにいる見えない誰かと、会話でもするかのように。

 これらを合わせて考えれば、自ずと答えは見えてくる。

 そう、彼女は魔法少女なのだ。

 それも集団で活動する、チームの魔法少女。

 指に嵌めたソウルジェムと、隠す素振りの無い念話の仕草がその証。

 

 その事に気がつけば、彼女が名指しされた意図はすぐに分かった。

 彼女はどうにも、人が良すぎる。

 「クラスのみんなが友達だ」等と、きょうび小学生でも言わないだろう。

 けれど彼女はそのフレーズを、現実のものとしつつあった。

 転校したての私にも、一番に話しかけたのは彼女なのだ。

 そして彼女の会話からは、いつも人との繋がりが見てとれた。

 観光先で出会った少女とその日の内に仲良くなり、そのまま自宅にまで招かれるなど、他に誰ができるだろうか? 

 

 そんな彼女の目の前に、一人で戦う魔法少女が居たとしよう。

 彼女はその魔法少女に、どうやって接する事だろう。

 答えは出たも同然だ。

 あの声は暗にこう言ったのだ。

 「彼女に取り入り、仲間を利用し、殺人に加担させなさい」と。

 そうと分かると、私の行動は早かった。

 放課後に彼女を呼び出して、()()()()()を持ちかける。

 果たして彼女の反応は、予想以上のモノだった。

 私の手を屋上へと引き、笑顔で仲間の下へ駆けていく。

 引き合わされた仲間達も、快く私を迎えてくれた。

 

「魔法少女は助け合いでしょ?」

 

 そう言って私の手を、魔法少女殺しの手を握る。

 魔法少女は助け合い。

 確か椿も、似たような事を言っていた。

 だから私も助けているのだ、真実を知らぬ者達を。

 魔女と化し人を呪う前に、苦しまないよう眠らせる。

 例えそれで、誰かの生命を散らせようとも。

 例えそれで、誰かの仲を生と死で引き裂こうとも。

 例えそれで、私に向けた笑顔が、二度と咲く事が無くなろうとも。

 それが私の、使命なのだ。

 

 声の主の真意とやらは、まだ私には分からない。

 だがそんなものはどうでも良い。

 結局彼女も最後には、私がこの手にかけるだろう。

 今しばらくはここに潜んで、機が熟すのを待つ事だ。

 その時までは彼女の策に、便乗するのも悪くない。

 日向茉莉のチームの事も、それまで存分に利用させてもらうとしよう。

 

「……改めてこれからよろしく、日向茉莉さん」

「うん、よろしくね鈴音ちゃん! これでもう茉莉たち、友達だね!」

 

 そんな思惑の私に対し、彼女は満面の笑みでそう返した。

 単なる協力関係、という程度で話したつもりの私にとっては、少し意外な返答だった。

 どうやら底抜けに明るい彼女にとっては、単に同じ魔法少女(同業者)というだけで友達になり得るモノらしい。

 私が久しく聞いた覚えのないその言葉を、彼女は容易に語りかける。

 そのフレーズを耳にして、嬉しいと思う自分も居たが───そんな半端な感情は、すぐさま消えて無くなった。

 もし彼女が私の真意や、してきた事を知ったとしたら、きっと「友達」とは呼ばれない。

 

 もう一度、目の前の少女を見る。

 明るく元気で、友人がいて、愛されている彼女の事を。

 幸福を体現したようなこの少女に、私と正反対のこの少女に、私は何をしようとしている? 

 友人達を巻き込ませ、殺人の為に利用した挙句、その子達さえも殺そうとしている。

 これが「友達」のする事だろうか? 

 そうであって良い筈がない。

 私は彼女達を殺し、彼女達は私を恨むだろう。

 それが訪れる未来の姿だ。

 使命の為なら、やむを得ない。

 私は正しい事をしている。

 後戻りはとうの昔にできなくなったし、今更するつもりなんてない。

 そう、()()()()()()()

 私の決意も、行動も、間違ってなどない筈だ。

 ……間違ってないよね? 椿……。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 落ち着きを取り戻した私の前には、温かな食事が並んでいた。

 トーストに半熟の卵が乗ったコレは、エッグベネディクトと言うらしい。

 一緒に淹れてもらったコーヒーは、バターをひとかけ溶かし入れるのがコツだそうだ。

 見慣れないものばかりだったけど、どれもとってもおいしくて、黒髪の彼女にお礼を言わずにはいられなかった。

 

「そう言ってもらえると嬉しいな。他の二人も食わず嫌いせずに食べてくれるとありがたいんだけど……」

「だって甘いモノの方が美味しいもん。ね、萌香?」

「チョコが食べたい……」

 

 軽い会話を交わしながら、長髪の少女は膝元の子の口を拭う。

 賑やかな朝の家庭の一幕、といった雰囲気だ。

 見る人の気持ちをも明るくしそうなやり取りに、思わず私も笑顔が溢れる……と、そう言えたら良かったけれど。

 私はこういう団欒が、ちょっとばかり苦手だった。

 失ってしまったあの時間。

 守れる筈だったモノを、守れなかったあの願い。

 それらが勝手に這い出てきては、陰から私を責めたてる。

 そんな気持ちが付き纏うから、ほんの少し、苦手なのだ。

 

「……そういえばまだ、名前聞いてなかったよね?」

 

 ふと気づくと、黒髪の少女がこちらを覗き込んでいた。

 暗い気分が外に漏れ出て、気を遣わせてしまったのだろう。

 その顔は少し困ったような、複雑な笑みを浮かべていた。

 慌てて取り繕おうとする私だったが、彼女は「無理はしなくていいよ」と言って、そっと私に手を差し伸べた。

 

「人に聞く前に、先に名乗らなくちゃだよね。私は()()()。向こうにいるちっちゃい方は萌香で、もう一人は今は……あやせだね」

 

 そう言って奥を見やれば、あやせと呼ばれた少女は笑顔で手を振ってくる。

 萌香という子の方からは特に何も無かったけれど、少なくとも拒絶はされていないらしい。

 私は二人に一声かけると、スバルに握手を返す為、手を差し出そうと動かした。

 すると手と手が触れる直前───

 

『アナタノナマエヲオシエテ?』

 

「っひっ……!?」

「ど、どうしたの? 大丈夫!?」

 

 ……私の脳裏を支配したのは、閃く刃の幻影だった。

 手を差し出して、名を名乗る。

 たったそれだけの行動が、何故かできなくなっていた。

 手足が震え立てなくなり、目眩と頭痛と腹痛がゆっくりと襲いかかってくる。

 呼吸が荒く乱れると同時、思考が白く塗り潰される。

 スバルの腕に抱えられ、しばらく経ったその頃には……私の中から、()()は消えて無くなっていた。

 おばあちゃんから貰った筈の、一番大事な贈り物。

 

「……どうしよう……私……名前が、分からない……」



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第六回

 駄目、駄目、駄目、駄目、全部ダメッ!! 

 何なの最近の鈴音ちゃん!? 

 狙った魔法少女に返り討ちにはあっちゃうし、他の魔法少女にすり寄ったりなんかしちゃってさ! 

 しかも相手がよりによって茉莉だなんて! 

 記憶はバッチリ消した筈、なのに何で茉莉が魔法少女だって知ってるの!? 

 なんかもう打ち解けた感じになってるし。

 鈴音ちゃんは人殺しでしょ? 

 皆と仲良くなる資格なんか無いって、自分が一番分かってるでしょ!? 

 それなのに何で、満更でも無さそうにしてるワケ!? 

 こんなの鈴音ちゃんじゃない。

 鈴音ちゃんは「絵本の魔女」みたいに、もっと不幸で、孤独で、惨めじゃなきゃダメなのにっ! 

 

 受け入れちゃう茉莉も茉莉だよ。

 あんな素性もよく分からない子、仲間になんかしないでしょ、普通? 

 そうやって皆にいい顔ばっかして、皆とすぐに仲良くなって。

 私が目をつけた相手の事を、横からかっさらっていくんだ。

 相手はあの鈴音ちゃんだよ? 

 私たちから椿を奪って、たくさんの魔法少女を殺した、すっごく悪いヤツなんだよ? 

 そんなのと仲良くなろうって方がどうかしてると思わない? 

 

 もしかして二人とも、記憶戻ってたりするのかな。

 会話を聞いた限りじゃあ、そんな様子は無さそうだけど。

 でもこのままにしておいたら、いつか本当に戻りかねない。

 まあ仮にそうなっても、また消しちゃえばいい話だけどね。

 真の問題はソコじゃない。

 私が始めたゲームの事を、知ってる奴が居るって所だ。

 鈴音ちゃんのあの行動、そうじゃなきゃ説明つかないもん。

 ソイツの目的が何なのかは、今の時点じゃ分からない。

 でももし私の邪魔をするなら……全部まとめて、壊さなくちゃね? 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 ガバが加速器と化すRTA、はーじまーるよー! 

 今回は佳奈美ちゃんの救助に成功したところから。

 

 なにホモ? 

 仲間キャラが増えて上手く走れない? 

 ホモ、それは

 仲間キャラを邪魔だと思うからだよ

 逆に考えるんだ

 「仲間がいるのもいいさ」と考えるんだ

 

 という訳で、ど頭からオリチャー発動です(n回目)

 事の発端は、朝食の際のハプニングでした。

 救助に成功した佳奈美ちゃんですが、何と記憶の一部が無くなっていると言うではありませんか。

 そう……(無関心)となる走者に対し、心配そうに対応の相談を持ちかけるよばんちゃん。

 それだけなら単なる小ガバに過ぎませんでしたが、ここでよばんちゃんから衝撃の発言が飛び出しました。

 

「どうしよう……海香の魔法でトラウマを消す事もできるけど……」

 

 ふーんそっかー、まあそれでいんじゃね? 

 と流そうとしかける程度には自然に出てきた発言でしたが、これを聞き逃さないのが一流の走者の証です(適当)

 そもそもよばんちゃんと言えば、かの「魔女の肉詰め(マレフィカファルス)」計画の産物。

 和紗ミチルの『破壊/破戒』に加え聖団全員の魔法を使えるのが、かずみシリーズ最大の特徴です。

 とは言え、まさか契約して尚その特徴を完全に引き継いでいたとは、この海のリハクの目を持ってしても……。

 これは……予期せぬ大収穫じゃな? 

 

 以上の事実が分かるや否や、走者は悶絶大興奮。

 何しろ魔法少女8人相当のユニットです、使わない手はありません。

 寧ろ使いこなす事さえできれば、大幅な短縮すらも見えてきます。

 特にこの『すずね』ルートに対しては、よばんちゃんは開幕で全てを終わらせ得る程のメタ性能を保持しています。

 これまでのガバを帳消しにした上、お釣りが出る程の高速ルートの構築が可能です。

 よばんちゃん最高や!佳奈美ちゃんなんて最初からいらんかったんや! 

 

 そうと決まれば下準備です。

 よばんちゃんの性能をフルに引き出し、ソッコーでケリを着けてくれましょう。

 まずはコートと鈴の用意です。

 ニコちゃんの『再生成』の魔法があれば、そこらのゴミからでも作れます。

 何でそんなモンを?とお思いかも知れませんが、詳細は後述します。

 

 続いてホオズキ市を偵察し、チーム茜ヶ咲の面々を見つけて接触しやすくしておきましょう。

 高速移動と隠蔽魔法の組み合わせなら、最速かつ秘密裏に事を済ませられます。

 よばんちゃんにやって貰っても良いですが、ここは魔力消費を考慮して佳奈美ちゃんwithホモで出ます。

 ガバノモトになるとまず味なので、ついでに佳奈美ちゃんのトラウマは出撃前にバッチリ消しておきましょう。

 オラッ改竄!こんな耐性ガバガバでさ、恥ずかしくないのかよ?(精神MAX並感)

 

 また初偵察の際には、チーム茜ヶ咲と鈴音ちゃんがよろしくやっているかもキチンと確認しておきましょう。

 よばんちゃんと姉妹で威嚇した上、ホモもネタを仕込んだので、大抵は(表面上)仲良くしてくれているハズ。

 上手くいけばキリサキさんの始動を少しは遅らせられます。

 もし乱数運が悪く普通にチーム茜ヶ咲が全滅していたらリセットです。

 

 偵察の際の注意点……というか、『すずね』ルートを走る上での注意点ですが、茉莉ちゃんには最大限の注意を払いましょう。

 彼女の固有魔法は『探知』。

 一度勘付かれたら最後、『隠密』をひっぺがされてザ・エンドです。

 ただそれだけならば『解除』を使う千里ちゃんにも同じ事が言えますが、茉莉ちゃんには更に厄介な背景が2つあります。

 1つは素の直感の高さ。

 彼女には『探知』云々を抜きにした、過程をふっ飛ばして結論を予感できる能力が備わっています。

 彼女の前でおかしな行動をしようものなら、『隠密』を剥がされる前から警戒されるなんて事もあり得ます。

 

 そしてもう1つ最悪なのが、彼女が黒幕・日向華々莉の妹であるという事実です。

 茉莉ちゃんをスッてしまうと、彼女の動きが一気に過激化。

 ありとあらゆる手を尽くして走者の事を頃しにきます。

 同様の事は鈴音ちゃんにも言えるので、華々莉を始末しなければこの2人には手が出せません。

 佳奈美ちゃん救助の際に鈴音ちゃんを仕留めなかったのは、そんな理由があったからなんですね。

 もうワシはホオズキ市の全魔法少女に追い回された挙句に華々莉含めた全員で集団魔女化される地獄なんぞ味わいとうない……。

 

 さて偵察の結果ですが、チーム茜ヶ咲(+鈴音ちゃん)は原作通り、パトロールを兼ねたキリサキさん探しをするようです。

 今回は鈴音ちゃんが新入りという事なので、案内も兼ねてリーダーの遥香さんが一緒に行動していますね。

 各メンバーの向かう方向も概ね把握できたので、これで下準備は完了。

 いよいよ実働に入りましょう。

 仮拠点の市外ホテルまで戻ったら、出撃メンバーを入れ替えます。

 今回必要な面子はホモ+よばんちゃん+誰か1人。

 大事をとってカナミちゃんにしておきましょう。

 ここで姉妹を選ばない理由ですが、その説明をする前に今の銀河の状況を理解する必要がありますので、手短に解説致します。

 

 『すずね』ルート最大の障壁は、何といっても黒幕である日向華々莉。

 『暗示』の使い手である彼女は、その魔法を姿を隠す為だけでなく、様々な悪事に用います。

 一般魔法少女を手駒にしたり、こちらのチームに脳破壊(N T R)を仕掛けてきたり……。

 当然走者は精神ガンギメで彼女をバッチリメタっているので、姿も見えるし洗脳もされません。

 しかし、他の魔法少女は如何ともしがたい所。

 単純に数を頼りにフクロにされればそれだけでホモは落ちますし、ホモ以外は彼女を知覚できません。

 そんな訳で彼女の前に魔法少女を並べる事は、戦力の献上に他ならないのです。

 カナミちゃんのようなクソザ……ピーキーな魔法少女ならともかく、姉妹をNTRれた日には死兆星を拝む羽目になるでしょう。

 

 ではそんな彼女に対して、どう打って出るべきか? 

 答えは簡単「殺られる前にヤれば良い」。

 今までであればできる訳ねーだろふざけんな、で一蹴された回答でしょうが、よばんちゃんが居れば可能です。

 日向華々莉は暗示魔法で姿を隠し、その上所在も不特定。

 よって、通常はストーリーが進み自ら姿を見せにくるのを待つ羽目になってしまいます。

 しかし、ここはRTA。

 ストーリー進行など待たず、黒幕を無理矢理表舞台に引きずり出してくれましょう。

 その為に用意致しましたのがコチラ。

 

 穂香佳奈美

 E:[双剣](固有武器)

   [灰色のコート]

   [鈴のアクセサリ]

 

 聡明な視聴者様方ならば、これを見ればお分かり頂ける事でしょう。

 そう、鈴音ちゃん、正確に言えばキリサキさんの扮装です。

 作戦は以下の通り。

 まずホモ達3人で固まって動き、鈴音ちゃん達に近づきましょう。

 十分な距離まで来たら、この格好の佳奈美ちゃんを鈴音ちゃん達にけしかけます。

 鈴音ちゃんとチーム茜ヶ咲の距離が近く、かつキリサキさんの紛い物まで現れた。

 となれば、鈴音ちゃんを孤立させたい黒幕からすれば面白い筈がありません。

 必ずや現場付近に現れ、鈴音ちゃんか佳奈美ちゃんに暗示をかけにくるでしょう。

 その瞬間をホモが見逃しさえしなければ、よばんちゃんの『イル・フラース』による加速で一気に近づく事ができます。

 後は目の前の日向華々莉をサクッとトッコしてしまうだけ。

 名付けて……「噂に変装(Rumors in Disguise)」作戦です! 

 和訳が間違ってる?こまけぇこたぁいいんだよ!! 

 

 とまあ解説もそこそこに、配置に着いたようですね。

 では早速、作戦開始! 

 キリサキ佳奈美ちゃん、GO! 

 おーよしよし、鈴音ちゃん戸惑ってますね。

 一緒に来ている遥香さんも、鈴音ちゃんの様子から察したのか戦闘態勢です。

 その調子やで、佳奈美ちゃん! 

 さて、ではそろそろコチラもお仕事です。

 もう近くに華々莉が来てもおかしくない頃合いですが……? 

 ……居ましたね。

 

計   画   通   り

 

 ヨシよばんちゃん、イル・フラースや! 

 待っとれ華々莉ィ! 

 突然行って、退場(びっくり)させたる! 

 よーくタイミングを見計らって……

 ステンバーイ……ステンバーイ……

 ゴッ───「うわあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」

 

 

 

 ……あっっっっっぶぇ!!!!! 

 

 佳奈美ちゃん!? 

 なに遥香さんに切り掛かっとんねん!!!(殺意)

 

 間一髪でスる相手を遥香さんに切り替えたので、致命傷(ジェム破損)は免れましたが……。

 ええ、ガバですね、コレは。

 やべぇな。(NYN姉貴)

 とか言ってる場合じゃねえ! 

 華々莉は!?おらんやんけ!!! 

 コレは完全にしくじったな!?!? 

 原因はよく分かりませんが(痴呆)、ここは逃げの一手でしょう。

 このままだと何故か暴走した佳奈美ちゃんや、場合によっては鈴音ちゃんとも戦闘になりかねません。

 スッた相手が遥香さんなのも好都合! 

 この後のイベントは黒幕関係以外では遥香さんの魔女化くらいなので、それをすっ飛ばす事ができるでしょう。

 まま、結果オーライだよ! 

 

 

 

 そんな訳ねぇだろバカか?(豹変)

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 鈴音ちゃんに余計な事を吹き込んだ奴を探す為、彼女を観察していた時に、その子はふっと現れた。

 灰色コートに大きな双剣、オマケに鈴までバッチリなんて、随分ナメた真似してくれる。

 格好の意図は明白だ。

 彼女が()()()で間違いない。

 最初は単にそう思って、すぐぶっ壊しちゃうつもりだった。

 でもその子の頭をイジろうとして、記憶にアクセスをかけてみると、何かノイズがあるのに気づく。

 今までに無い感覚だったが、だからこそ私はその感覚から、一つの予感が導けた。

 もしかして、この子は既に()()()()()()()? 

 

 それに気が付いて改めて彼女の顔を見てみれば、更に面白い事が分かった。

 この子は昨日、鈴音ちゃんに襲われた子だ。

 確か名前は……カナミ、だっけ。

 他に知ってる事と言えば、固有魔法が加速能力って事くらい。

 どうにもそこが引っかかる。

 果たしてたったそれだけの魔法で、一夜にしてこのふざけたお遊戯(鈴音ちゃんの真似事)を思いつくかな? 

 それに第一、動機は何なの? 

 殺されかけた復讐にしては、ちょっとピントがズレてるよね? 

 そういえば昨日襲われた時は、他の仲間も一緒にいたっけ。

 その子達はどうしたのさ? 

 なんで今は一人で居るワケ? 

 

 湧き出たそれらの疑問について、一度手を止めて思考する。

 そして考えを巡らせてみて、私は一つの答えを見出した。

 ……ああ、ああ、そういう事ね。

 カナミちゃん、貴女もゲームの駒なのね? 

 昨日の連中の内の誰かが、貴女で遊んでいるんでしょ? 

 私が鈴音ちゃんの人生で遊んでいるのと同じように! 

 

 そうと分かれば話は早い。

 ソッチが私のゲームを無茶苦茶にするのなら、コッチも同じ事をするまでだ。

 そう、例えばこんなのはどう? 

 カナミちゃんの記憶を戻して、恐怖を何倍にもした上で……

 私と茉莉以外の魔法少女を()()()()()()()()()()()()()とか。

 それからそうね、本物の鈴音ちゃんは見えない暗示もかけておこっか。

 カナミちゃん程度の雑魚じゃあ、鈴音ちゃんに突っ掛かっても負けちゃうだけだ。

 それじゃ全然つまらない。

 カナミちゃんには、みんな、みんな。

 ゲームに茶々入れた連中も、

 鈴音ちゃんのお友達も、

 みんな殺して貰わなきゃ!!



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第六回・裏

(投稿ペースがクソ雑魚ナメクジなだけで失踪は一度もして)ないです。

ないんです…。



「逃げてっ!」

 

 それが私が聞いた、奏遥香の最期の言葉だ。

 突如現れた「キリサキさん」にあっけに取られ、対応が遅れた私に対して、彼女の行動は迅速だった。

 何らかの魔法を「キリサキさん」にかける仕草をしつつ、私に目で撤退を促す。

 後で分かった事ではあるが、同時に仲間への念話までしていたらしい。

 それらを一手にこなす程に優秀で、チームに入ったばかりの私をも目の前の敵から庇えるような、優しい人。

 そんな人がたった今、私の目の前で、命を落とした。

 

 あまりに一瞬の出来事過ぎて、正直すぐには飲み込めなかった。

 気づいた時には「キリサキさん」の姿は無く、血溜まりに横たわる彼女が残るばかり。

 胸元を縦に大きく裂かれたその身体は明らかに、人間(ヒト)としても、魔法少女としても、死んでいた。

 

「は……はは……嘘、でしょ? 遥香がこんなドッキリなんて、らしくないわよ……」

 

 乾いた笑い声に振り向くと、そこに居たのは成見亜里紗だ。

 奏遥香が送った念話から、ここへと辿り着いたのだろう。

 その顔は笑ってこそいたが、引きつったその様は明らかに、動揺の表れだ。

 彼女はゆっくり近づくと、奏遥香の遺体を抱き寄せ、首に手を当て脈をはかる。

 そして……しばらくして手を離すと、その手を握りしめて私に問うた。

 

「……どっちへ行った?」

「えっ……」

「アイツがどっちへ行ったかって聞いてんのよ!」

 

 凄まじい剣幕だった。

 握りしめた手からは血が滲み、鬼の形相を浮かべながらも、その目は潤んでいた。

 「アイツはどっちへ行った」。

 「キリサキさん」の行方を聞いているのだろうその質問に、私は答えられなかった。

 純粋に行方が分からないというのもある。

 しかし同時に私の中で、別の答えが見つかってもいた。

 「キリサキさん」とは、私自身だ。

 奏遥香を切りつけた「キリサキさん」でこそ無いものの、彼女の死の遠因は間違いなく私にある。

 何故ならあの「キリサキさん」は───

 

「……そこまでになさい、亜里紗」

 

 成見亜里紗が今にも私に掴みかからんとする最中のその声は、詩音千里のものだった。

 そして彼女の背後からは、困惑した様子の日向茉莉が顔を出す。

 

「鈴音さん、固まってしまっているわ。それじゃ分かるものも分からないでしょう」

 

 詩音千里がそう言うと、成見亜里紗は不服を顔に表しつつも、静かに手を下ろす。

 それを確認した詩音千里は、彼女に代わり改めて話を切り出した。

 

「驚かせてしまってごめんなさい。まずはゆっくり落ち着いて。その後で、もし分かる事があれば教えてくれる?」

 

 私にとって、その言葉はとても困ったものだった。

 人の死自体は見慣れている。

 もはや取り乱す事もない程に。

 だがその質問に対しては、()()()()()()()()()()()()()()

 私は既に知っている。

 「キリサキさん」の正体も、何故私たちの前に現れたかも。

 唯一分からない事は、何故私を狙わなかったのかという点くらい。

 だがその疑問の答えすらも、私が当たり障りのない返答をする内に、明らかになっていってしまった。

 

「一直線に遥香を狙って……?」

「それに魔法をかける仕草、って事は……」

「……『注目(アテンション)』、でしょうね」

 

 『注目(アテンション)』。

 『魅了』の魔法を持つ奏遥香は、どうやら他者の注意を引きつける事ができたらしい。

 話を聞く内にはぐらかされたが、文脈からしてそれで間違いないだろう。

 はぐらかす理由も察せられる。

 それは即ち、「彼女は私の代わりに死んだ」という事実を突きつけるのに他ならない。

 彼女達は私に責任を感じさせぬよう、とっさに誤魔化そうとしたのだろう。

 実際の所は既に、勘づける程度には情報が揃ってしまっていたが。

 

 重苦しい空気が場に漂う。

 仲間の死に直面したのだから、当たり前の事ではある。

 ただ今回は、単にそれだけとは言えない事態が起きたのだ。

 チームを引っ張るリーダーだった魔法少女が、死んでしまった。

 それも今日出会ったばかりの、新入りを守る為だけに。

 「キリサキさん」の正体だとか、そんな事を抜きにしても……奏遥香の死の責任は、私にあるとしか見ようがない。

 だと言うのに彼女達には、私を責める気配は微塵もない。

 それどころか、こんな台詞まで飛び出す始末だ。

 

「鈴音ちゃん……怖かったよね。辛いよね。でも大丈夫、茉莉たちが居るからもう、大丈夫だから……」

 

 そう言って私を優しく、それでいて力強く抱きしめる。

 おかしい。何かがおかしい。何がおかしい? 

 そんなの決まりきっている。

 彼女の死の元凶が、こうして労られている事が、おかしい。

 

「……ねえ茉莉。あなたの魔法で『キリサキさん』を探せない?」

 

 ふと、詩音千里がそう問いかけた。

 日向茉莉はそれに対し、戸惑いながらこう返す。

 

「茉莉のは戦う時のサポート用だから、人を探すのとかとはちょっと違うけど……でも、何でそんな事……?」

「そうか、アイツを探して取っちめようって事ね!?」

 

 興奮気味にそう言いだす成見亜里紗。

 詩音千里はその発言を、顔を伏せたまま強張った声で否定した。

 

「いえ、逆よ。『キリサキさん』から逃げる為に、彼女の気配の無い場所に行くの」

「なっ……アイツは遥香の仇なのよ!?」

 

 猛る成見亜里紗にとって、その発言は相当に意外なものだったらしい。

 数瞬前の勢いのまま、今度は彼女へと掴みかかった。

 しかし彼女は怯む事も無く、無抵抗でそれを受け入れる。

 その様が癇に触れたのか、成見亜里紗は更に激しさを増して続けた。

 

「ビビって尻尾巻いて逃げようっての!?」

「そうじゃないわ。ただ、彼女とは戦うべきじゃない」

「あんた遥香に憧れてるって言ってたじゃん! それなのに死んだらもうどうでも良いって訳!?」

「違うっ!!!」

 

 叫び声の後、再び訪れた静寂の中で顔を上げ、しっかりと前を見据える詩音千里。

 その目は成見亜里紗と同様に潤んでいながらも、単なる怒りや殺意とは違う、強い決意を灯していた。

 

「……先輩は鈴音さんを庇って亡くなった。けれど隣に居たのが鈴音さんじゃなく、私たちや……他の誰かだったとしても、先輩は同じようにしたでしょうね」

 

 声を小さく震わせつつも、力強くハッキリと言葉を紡ぐ彼女。

 その姿は、まるで……。

 

「だから私たちは、何としてでも生き残らなくちゃいけないの。先輩の死を、無駄にしない為にも」

 

 彼女自身が、「私が奏遥香(リーダー)にならなければ」と暗示をかけるかのようだった。

 

 ねえ、椿。

 私は誰かにあんな悲壮な決意をさせる為に、こんな事をしてたんだっけ……? 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

「あははっ! ちょっと無用心じゃなぁい?」

 

 ホオズキ市の市外にある、寂れたホテルの一室にて。

 私の目の前で立ち尽くす、3人の魔法少女たち。

 炎を操る魔法のあやせに、再生成の魔法のスバル。

 そして、2人のところまで導いてくれた佳奈美ちゃん。

 さっきまで敵だった魔法少女も、私にかかればこんなモノだ。

 今や3人全員が、私に忠実なしもべたち。

 後は残った最後の1人、穂波萌香を始末するだけ。

 どこかに逃げちゃったみたいだけど、見つけ出すなんて難しい事じゃないもんね。

 

 ただその最後の1人だけは、確実に仕留めておかなくっちゃ。

 恐らくは穂波萌香こそが、佳奈美ちゃんをイジった犯人。

 それがどうして分かるかと言えば、カギは佳奈美ちゃんの記憶にある。

 茉莉のチームのリーダーが斬り殺されたのを見届けた後、私は佳奈美ちゃんを呼び寄せて、改めて暗示をかけた。

 佳奈美ちゃんがどこから来て、誰にイジられ、何故あんな事をしていたのか。

 それを調べあげる為にね。

 残念な事に記憶の復元はできなかったけど、それでも情報は手に入った。

 

 魔法少女の固有魔法は、1人につき1種が基本だ。

 もちろん固有魔法を応用したり、追加で魔法を覚える事は、やろうと思えば誰でもできる。

 ただ、それでやれる事には限度があるのだ。

 炎の魔法単体じゃ、どう使っても氷は出せない。

 モノを作り出す魔法だけじゃ、逆立ちしたってヒトの内面(こころ)には触れられない。

 となれば残った可能性から、自ずと答えは見えてくる。

 「隠密魔法で姿を消す」なんて、私の魔法とソックリだよねえ? 

 そんな魔法を応用すると一体何ができるのかは、鈴音ちゃんで実証済みだ(私がいちばん知っている)

 

 さてと、じゃあこの推論が正しいか、早速教えてもらおっかな。

 そう思ってスバルの頭に手を伸ばし、私は『暗示』を試みた。

 

「キミが知ってる穂波萌香、ぜーんぶ私に教えてよ?」

 

 当然スバルは抵抗も無く、自身の口をゆっくり開き、答えを紡ぎ出そうとする。

 私はその声が届くのを数瞬だけ待っていたけれど、直後とんでもない思い違いに気付かされた。

 私の耳に届いた音が、スバルの声でも萌香の情報でもなくて……2人の魔法少女が、昏倒する音だったから。

 ああ、そっか。

 私に似てる魔法を使って、私と同じ事をしてるなら、判断が私に似ててもおかしくない。

 私だって手駒を他人に盗られるくらいなら、()()()()()()()()()()()()

 

「っ……佳奈美ちゃん、警戒して! 動くモノがあれば殺してっ!」

 

 とっさに彼女にそう命じ、背を合わせ臨戦態勢をとる。

 どうして気づかなかったんだろう。

 このホテルの守りの薄さは、無用心だからなんかじゃない。

 最初から、守る気なんて更々無かったって事なんだ。

 私は『暗示』で他人の意識を自由自在に操れるけど、()()()()()()()()()()()()

 私に手駒を取らせないなら、これ以上の手は無いだろう。

 

 私の考えが正しければ、萌香は既に近くに居る筈。

 倒れた2人のソウルジェムは、確かにバッチリ砕けている。

 これが暗示って可能性も無くはないけど、同じ魔法の使い手である私なら、かけられた事ぐらいには気づけるだろう。

 全く、つくづくナメた真似してくれるよね。

 こんな近くにまで寄るなんて、「直接対決に持ち込めば自分が負けるワケ無い」って言ってるようなものじゃない? 

 だったらその勝負ノッてあげる。

 かかって来なよ、穂波萌香。

 私に触れるその直前、頭の中メチャクチャに掻き回して魔女にしてやる……! 

 

 

 

 ……そして数分の間、ホテルの雑踏を伺える程の静寂の時が流れた。

 よく言うもんね、こういう対決は先に動いた方が負け、って。

 私は気が短いって事、正直自覚してはいるけど……流石に少し、待つ時間が長すぎない? 

 もしかして、こうして消耗を待つ作戦? 

 そうじゃないとすればそれは……逃げる時間を、稼ぐ為? 

 

「しまっ……佳奈美ちゃん!」

 

 気づいた時には遅かった。

 実際のところ萌香は逃げた訳じゃなかったから、「気づいた」というのもおかしいけれど。

 とにかく、咄嗟に振り向いた時にはもう……佳奈美ちゃんは、私に切り掛かっていた。

 

「っ……なんで、なんでなんでなんでなんでッ!」

 

 遮断し損ねた痛覚が、切り飛ばされた肩から襲い来る。

 久しく感じていない痛みで、頭に血が昇るのが分かる。

 呼吸はどんどん荒くなり、足元さえも覚束ない。

 してやられた、と思ったけれど、でも今一番腹が立つのは。

 

「なんで、勝手に死んでるのさ……萌香ァ!」

 

 張本人の穂波萌香が、私の目の前で既に事切れてるっていう事実。

 振り向き様に切り掛かってきた佳奈美ちゃんだけど、その狙いは私じゃなかった。

 あの子の刃の切っ先は、私に忍び寄る萌香の方を向いていたんだ。

 多分萌香は、佳奈美ちゃんの居ない側から私に近づこうとして、見つかって切られたのだろう。

 置き土産と言わんばかりに、私の片腕を道連れにして。

 ああもうサイアク、殺す時には思いっきり楽しんでやろうと思ってたのに。

 今の萌香にはただ「立て」と命じる暗示すら効きやしないし、表情さえも吹き出す血に濡れて分からない。

 こんな近くまで寄っていたのに全く気配もしなかったなんて、私の方が負けたみたいじゃん……! 

 

「どうしてくれる訳、佳奈美ちゃん……?」

 

 ソレもコレも、全部佳奈美ちゃんが鈴音ちゃんにちょっかいかけたのが始まりだ。

 この子さえいなければ、こんな事にはならなかった。

 だったらもう、佳奈美ちゃんに全部の責任とって貰うしかないよねえ? 

 茉莉のチームなんかどうでもいいし、殺すだけなら私一人で十分だし! 

 とにかく今は誰でもいい、メチャクチャにしなきゃ気が済まないッ! 

 

「代わりに佳奈美ちゃんがさぁ! 魔女になっ……てよ……?」

 

 残ったもう一本の腕を、佳奈美ちゃんに突きつけた……つもりだったのに。

 目の前の佳奈美ちゃんは既に、()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()に変貌を遂げ、かつて香奈美ちゃんだったモノを貪っていた。

 確かに佳奈美ちゃんのジェムなんて一度も気にして無かったけどさ、よりによって今なんて……! 

 予想外続きで溜まりに溜まった苛立ちに任せ、そこら中を蹴りつける。

 それでスッキリする訳無いなんて、分かってはいたけれど。

 

「タイムリミットを覚えているかい? 日向華々莉」

 

 でも蹴り飛ばされて転がった腕の影から、純白のケダモノ(キュゥべえ)が最後通告をしに出てくるなんて、そんなのまで予測しろっていうの……?




(誰も死んで)ないです。(ネタバレ)


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第七回

間に合ったな(星の爆散を見届けながら)



 「死に至るガバ(大嘘)、そして」なRTA 、はーじまーるよー! 

 今回は日向華々莉を何とかだまくらかしたところから。

 

 前回のガバライブ! 

 『すずね』ルートに入った走者を待っていたのは、佳奈美ちゃんが裏切ったというお知らせ。

 ホモ「私の輝かしい、チャート構築が!?」

 チャート崩壊を阻止するためには、離反した佳奈美ちゃんを迎え撃つしかない。

 そこで私は、彼女の事は切り捨てて、別ルートを模索する事にしたの。

 でも……

 よばん「佳奈美ちゃんの事、見捨てちゃうの……?」

 あやせ「私はどっちでもいいけど」

 それでも私、佳奈美ちゃんのために何かしたい。諦めきれない! 私、やっぱりやる! 

 

 

 

 という訳で『チャートは進行する』『佳奈美ちゃんも守る』「両方」やる覚悟を決めた走者。

 そんなこんなで組み上げられた作戦が、以下の通りでした。

 

 まず姉妹とよばんちゃんからSGを預かり、圏外になる100m手前まで移動します。

 そして佳奈美ちゃん&華々莉がホテルに乱入し、()()()()()()()()()()()()()()2()()に暗示をかけるのを待ちましょう。

 良きタイミングが訪れたら、裏人格のルカさんから念話を貰い、2人のSGを圏外に置いて意識を絶つ事で暗示を解除。

 この際、よばんちゃんに作って貰った偽ジェムをルカさんの氷魔法で細工して砕き、2人の死を偽装します。

 

 それらが済んだらルカさんと引き続き連絡し、華々莉たちが撤退していない事を確認しつつ現場に急行!(所要時間数分)(クソ雑魚走力)

 ホテルに到着しポジションが確定したら、佳奈美ちゃんだけに念話を送りつけてホモの存在を感知させ、華々莉の片腕ごとブッた切って貰います。

 相当に凝った暗示でない限り、暗示にかかったキャラクターは直線的な行動しかしないので、誘導は容易です。

 直後、華々莉はホモに暗示をかけ 死 亡 確 認 をしてきますが、カスがそんなモン効かねえんだよ(無敵)(精神MAX)

 直接華々莉のSGをスっても良いのですが、警戒されている以上、成功率はダダ下がりで安定しません。

 今回はただでさえガバっている都合、なるべく運が絡まない手を選んだ形です。

 ここで華々莉の片腕を巻き込んだ意図についてですが、それは後ほど。

 

 さて、走者陣営の身を隠す用意をしつつ、華々莉を退散させるだけなら、以上の作戦で十分でした。

 しかし今回はチームメンバーに良識派のよばんちゃんが居る以上、佳奈美ちゃんを見捨てるルートは取りたくありません。

 よって、もう1つ小細工をツッコんでおきました。

 それがコチラの……

 

 悪 意 の 実(イーブルナッツ) 〜(某青狸風)(n回目)

 

 切り掛かってきた佳奈美ちゃんのSGをスりつつ、よばんちゃんに製作して貰ったコイツを取り付ける事で、あたかも佳奈美ちゃんが魔女化したかのように演出しました。

 魔女モドキは普通の人間にも使用可能な手前、魔法少女が変貌させられても魔力消費がありません。

 また万一魔女モドキが打倒されても、当たりどころが悪くなければ中の人にはダメージが入りません。

 魔女化の防止、SG破損の予防を両立できるので、ただ生命を繋ぐだけならば中々優秀なシロモノです。

 当然ながら魔女モドキ化すると任意操作をほぼ受け付けなくなるので、パーティメンバーには使いたくないアイテムですがね。

 華々莉としても、役目が終わり、しかも魔女化で扱いづらくなった佳奈美ちゃんを連れ回す理由は無いハズ。

 恐らくこの場で佳奈美ちゃんを手放してくれる事でしょう。

 後は姉妹とよばんちゃんを蘇生して、彼女を正気に戻すだけです。

 

 以上、NNK姉貴からパクッた死んだフリ作戦でした。

 「パクるな」と言われても、すずね勢がこんな策に引っかかる奴ばっかなのが悪い(暴論)

 それにRTA的にも、ここで死んだフリ作戦を採用する意義は確かにあります。

 『すずね』本編において、華々莉は鈴音ちゃんを精神的に追い詰める為、ある取引をしていました。

 それはQBと結んだ第二の契約「鈴音・華々莉から生じる利益を超えない限り、魔法少女殺害を容認する」。

 これは本作でもフラグという形でしっかり再現されており、()()()()()()()()()()()()()()()事で、契約はリミットを迎えました。

 結果、QBが華々莉に催促しに現れ、ストーリーが強制進行するという訳です。

 

 まあ実際のところは誰も死んでないのでホモが裏から手を回したんだがな! 

 ここら辺の自由度は『マギレコ』ルートの欠点でもありますが、同時に魅力でもありますね。

 インキュベーター的にも、これ以上の脱落ナシで事態を収束できるなら乗らない手は無いという事か、こういった交渉は基本的に上手くいきます。

 交渉には本来ある程度の知力が必須になりますが、こういった成功率の高い交渉の場合はそうでもないので、それを見越して知力にはステを振らなかったのです(結果論)

 

 解説も終わった所で今後の動きですが、ここで片腕切断の理由をお話しします。

 単純にその方が撤退率が上がる、というのもありますが、それ以上に重要な点が1つ。

 今回の作戦目標は「日向華々莉を追い払う」事。

 そう、華々莉とは再戦の必要があるのです。

 ストーリーを強制進行させた事もあり、日数の余裕もナッシング。

 今夜辺りには決戦の火蓋が落とされる事になるでしょう。

 それに計算し直したら『おりこ』ルート開始まであと1日しかないし(小声)

 そんな訳で、華々莉の戦力ダウンも図っておきたかったのです。

 華々莉が使う暗示魔法は、劇中描写からも分かる通り、基本的に掌から出力されます。

 ですから利き腕を落としてやれば、魔法の命中率もグッと下がり、華々莉との戦闘を有利に運びやすくなるのですね。

 

 よって残った仕事はあと1つ「日向華々莉を仕留める事」! 

 居場所は鈴音ちゃんを見つければ逆説的に探知できるので、難しい事はありません。

 鈴音vs華々莉の決戦場に乗り込んで、双方疲れきった所を美味しく頂くって寸法よ!(三下ムーブ)

 

 

 

 ……という訳なんで、早く華々莉にはどっか行って欲しいんですが?(床ペロ状態)

 こんな死体が転がるだけのホテルに何の用があるんです? 

 もうする事無いでしょ……? 

 

 何 で こ ん な 場 面 写 す 必 要 が あ る ん で す か ? 

 

「……あはっ。イイコト思いついちゃったぁ」

 

 えっ。

 

「佳奈美ちゃんも……鈴音ちゃんに復讐、したいよねぇ?」

「……連れて行ってあげる」

 

 あっ(察し)、ふーん。

 華々莉のヤツ、魔女った佳奈美ちゃんを連れて行っちゃいましたね。

 そっかあ、そういう事するんだぁ。

 

 ふーん(半ギレ)

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 「キリサキさん」から逃れたあの後、私たちはチームで話し合った。

 今後私たちはどう動き、「キリサキさん」に対処すべきか。

 いくらかの意見交換の後、詩音千里の主導の下、結局は以下の方針がまとまった。

 「暫くの間パトロールはせず、放課後は可能な限りチーム全員で過ごす事」。

 これは「キリサキさん」から身を守る為だけでなく、最近は魔女が減っていたという事情も込みでの判断だった。

 リソースが確保できない以上、万一に備え力を温存しようという事だろう。

 成見亜里紗はこの方針に不服なようだったが、「無策で引きこもる訳ではない、直接探す以外にも出来る事はある筈だ」と詩音千里に説得され、一応は合意となった。

 私もその時の判断には、特に異論を持たなかった。

 ただその「出来る事」というのが───私の過去に触れる可能性を示唆していれば、反応は違ったかも知れないが。

 

「もし良ければ……私たちの願いについて、話してみない?」

 

 翌朝、詩音千里はそんな話を持ちかけてきた。

 彼女に曰く、放課後に集まる際、予定していた事はいくつかあった。

 「キリサキさん」の情報を、安全な手段で収集する事。

 他の魔法少女に出会ったら、「キリサキさん」の危険性を伝える事。

 そしてチームの結束を高める為に、互いについて知っておく事。

 確かにそれらの行いは、事後対策としては申し分無いものだろう。

 戦いの前には情報が要るし、それは敵についてに限らない。

 背中を預ける仲ならば、可能な限り互いを知っていた方が良い。

 そして「そこまで親しくなれていないから、私は聞くだけにさせて欲しい」と言えば、受け入れてくれる配慮もあった。

 彼女は間違いなく、リーダーに必要な資質を意識し、それを実践していたと言えるだろう。

 だから私の()()()()に、彼女の落ち度は一つも無い。

 これは私の失敗だ。

 ただ私が一方的に、彼女達の話を聞く事すら、きっとすべきで無かったのだ。

 

 

 

 放課後がやって来て、賑わいのある街のカフェにて、その催しは行われた。

 日向茉莉に聞く所、ここは結構な頻度で利用する、チームお気に入りの場所だと言う。

 店員にもすっかり顔を覚えられており、空いている時は奥の席を取っておいて貰えるそうだ。

 

「でもアソコ、4人席なんだよね。()()()()()()()5()()……だか……ら……」

 

 日向茉莉は既に出かかったその言葉を、苦い顔をして飲み込んだ。

 そう、4人だ。

 かつて彼女たちは4人組で、そして私が増えた今でさえ、4人なのだ。

 既にこと切れていた彼女について、私たちはどうする事もできなかった。

 私が今ここに立っているのは、あの路地で彼女を見捨て、彼女の居場所を奪ったからだ。

 日向茉莉に悪気は無いだろう。

 今まで通りの日常ならば、その発言には何の問題も無かったのだから。

 

「2人とも、暗い顔はそこまで! 今は仲良くなる為の時間よ?」

 

 暗い空気の私たちの間に、割って入る詩音千里。

 私たちは彼女に押され、席の奥へと追いやられる。

 明るすぎる程のその様は、付き合いの短い私から見ても、彼女らしいとは思えなかった。

 日向茉莉も成見亜里沙も、こんな事態は珍しいのか、ぎこちなさそうな雰囲気だ。

 こんな有様では仲良くなるも何もない、と思わないでもなかったのだが、結果としては逆だった。

 そのぎこちなさが功奏してか、皆饒舌になったのだ。

 ……どういう訳か、私も含めて。

 最近の出来事といった軽い話から、将来の夢といった重大な話題まで。

 そしてその会話の流れで、その時は訪れた。

 

「……そろそろ、いい時間になってきたみたいね?」

 

 詩音千里は時計を見ると、一呼吸置いて本題に入ろうとする。

 そして話を始めようとして……それを遮る者が一人。

 

「あのさ、アタシに先陣切らせてくんない? 昨日はちょっと……噛みついちゃったし」

 

 声の主、成見亜里紗はドリンクを一気に飲み干し、笑って続けた。

 

「多分この中じゃ、アタシが一番下らない願いだから。ハードル低い方が話しやすいでしょ?」

 

 それを否定する声は無い。

 ただそれは「下らない」という発言に同意だからでは無いだろう。

 恐らく残り2人は既に、彼女の願いを知っている。

 それに対する本人の想いも分かった上で、彼女の主張を尊重したのだ。

 

「アタシはね、ムカつくヤツをぶん殴る力を願ったの。その力で……イジメられてた自分を、変えたかった」

 

 成見亜里紗は淡々と、落ち着き払ってそう語る。

 恥じるでも誇るでもないその様は、「下らない」事を話す素振りでは決してない。

 その願いの内容も、「自分を変える為の力」ときている。

 それを成す手段はともかくとしても、自らの弱さを認め、改善しようとするその想いは、疑いなく立派なものの筈だ。

 単に憧れから他者の模倣を願うの(以前の私)とは、きっとまるきり訳が違う。

 

「ま、結局1人じゃ『心の弱さ』みたいなのは変わらなくてさ。イジメられなくなったって、孤立してるのには変わりなかった。今の私があるのは……」

 

 そう言いながら、彼女は隣の詩音千里を抱き寄せる。

 

「千里が会わせてくれた皆と、一緒に過ごした結果ってワケ……ハイこれで終わり! さっさと次行って!」

 

 照れ臭そうな成見亜里紗と、それを無言で受け入れる2人。

 この様子を見ただけで、彼女達の結束は分かるだろう。

「例え道を間違えても、連れ戻してくれる者がいる」。

 その信頼が彼女達の支えであり、そして強さの源でもある。

 たった1人で戦う私とは、全く別の人間なのだ。

 ……果たして今の私は、正しい道に居るのだろうか。

 仮に間違いだったとしたら、連れ戻してくれる者は、居るのだろうか。

 

「じゃあ次……茉莉が話しても、いいかな?」

 

 沈みかけた私をよそに、続けて名乗りを挙げたのは、落ち着かない様子の日向茉莉。

 彼女はやたら真剣な目で、まっすぐ私を見つめている。

 何故か私はその表情を、初めて見たとは思えなかった。

 謎の既視感が拭えないまま、日向茉莉は更に続ける。

 

「なんだかこの話は、鈴音ちゃんにはしなくちゃいけない気がするの」

 

 そう、使命感のようなものを吐露する彼女。

 どうやら、何か重大な事を彼女はかつて願ったらしい。

 残る2人も彼女の願いは初めて聞くのか、少しばかり前のめっているのが分かる。

 しかし、私はその話を……日向茉莉の願いの話を、はるか昔に、聞いたような。

 朧げな記憶を辿りながら、彼女の語りを待つ私。

 私の記憶が正しければ、私はそれを知っている。

 明らかに間違ったこの記憶が、その答えを既に知らせている。

 なんだ。なんだ、この記憶は? 

 いやきっと思い違いだ、と私の理性が語りかける。

 いやこれこそが真実だ、と私の本能が訴える。

 その感情の相克の中、日向茉莉の口が開き、その答えは示された。

 

「茉莉はね、茉莉は目が───」

 

 

 

「はぁい、仲良しゴッコはおーしまい」



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第七回・裏

初投稿(から1周年(と7ヶ月弱))です。

ご愛読ありがとうございます。



 聞いた事がない筈の懐かしい声を耳にした直後、全ての幕は下ろされた。

 夕暮れ刻のカフェでの談笑、和やかで落ち着く平和なひととき。

 その最後の瞬間に気づく間もなく、私達は夜天の下、薄暗い路地に放り出され、呆然と立ち尽くしていた。

 「自分に何をされたか分からない」不愉快な感覚と、「()()()()()()()()()()分かってしまった」絶望に包まれて、立っていた。

 

「……あはっ。思ったより効いてるみたいだねえ?」

 

 路地の奥の闇から響く笑い声。

 数瞬前なら意味不明だったろうその発言を、私はしっかり聞いてしまった。

 脳裏にこびりついて離れない、知らない情景、知らない感情。

 そして知る筈のない、声の主。

 

「お姉……ちゃん……?」

「……久しぶりだね、茉莉」

 

 青い顔をして呟く日向茉莉に、姿を見せた声の主……日向華々莉が微笑みかける。

 

「ホントはもうちょっと遊びたかったけど、なんか急かされちゃってさぁ。()()()()()()だか何だか知らないけど、白けた事してくれるよねぇ」

 

 口では悪態を吐きつつも、その表情は変わらない。

 にやにやと満足げな口元のまま、じっと私を射殺さんばかりに睨んでいる。

 その目つきはまるで……いや、まさしく。

 親の仇に向けるソレだ。

 

「……ちょっと、どういう事よ、コレ……?」

「今のは一体……頭の中に、映像が……?」

 

 困惑の様子を隠せない、成見亜里紗と詩音千里。

 そんな二人を嘲りながら、日向華々莉は更に続ける。

 

「キミ達まだ分かんないの? せっかく鈴音ちゃんと私の記憶、見せてあげたって言うのにさぁ」

「記憶、ですって……?」

「そ。鈴音ちゃんがキミらに会うまで、どこで何してたかって記憶。ついでに()()()()()()()()()()()って事までね」

 

 その言葉を聞いた瞬間、私の背筋は凍りつく。

 それの意味するところはつまりこうだ。

 「私が彼女らのリーダーを、奏遥香を死に追いやった」。

 それを知られたという事だ。

 

「あ、『黙って聞いてて』ね、鈴音ちゃん」

「っぐ……!?」

 

 思わず開いた私の口は、悲鳴も弁明もなく閉じられる。

 それはいつかの昔、神浜で見た彼女の魔法によるモノだ。

 

(『暗示』の魔法……!)

 

 気づいた後ではもう遅い。

 口だけでなく手足すらも固められてしまった今では、日向華々莉を止める事も、3人を守る事もできはしない。

 

「……つまり、何? 『天乃鈴音はキリサキさんで、ヒトゴロシだ』って……アンタはそう言いたいの?」

「それに加えて、魔女の正体と……魔法少女の真実、ね」

 

 静かな怒りの滲む声で呟く、成見亜里紗と詩音千里。

 当然だろう。

 奏遥香が守った私が、実際はその死の元凶だった。

 しかも彼女以前に既に、幾人もの魔法少女を手にかけている。

 とても許される事ではない。

 第一に、私自身が許せない。

 椿の死を受け止めきれなかったばかりか、作られた正義を振りかざし、無関係な人々を巻き込むなんて……正気の沙汰とは思えない。

 

「あはっ、信じられないでしょ? この子ってば、ヒトゴロシの癖してキミ達と笑いあってたんだよ? 魔女よりよっぽど『魔女』だよねぇ!?」

 

 心底愉快そうに語る彼女の言葉に、間違った部分は一つもない。

 私は魔女だ。

 魔女になった魔法少女も、魔女になる前の魔法少女も、全て等しく殺しまわった。

 身勝手な正義(呪い)を無差別に振り撒いて、被害者本人だけでなく、その周囲も傷つけた。

 そして残された人々がどうなるか、この目で、心で、知ってしまった。

 絶望の連鎖を断とうとして、魔法少女を救おうとして……私自身が、絶望をもたらす側になっていた。

 こんな私が、魔女そのものでしかない私が、彼女らに憎まれない筈が───

 

「ホント、信じらんないわ……

 アンタの話、全部ねッ!」

「……ハァ?」

 

 成見亜里紗のその声で、辺り一帯が静まり返る。

 

「その通りよ。今までずっと一緒に居て、私たちを害する素振りが一度もなかった鈴音さん。いきなり出てきたあなたと比べて、どちらが信用に足るかなんて事……」

「火を見るよりも、明らかってモンよ!」

 

 言うが早いか、変身し日向華々莉に飛び込む彼女。

 しかしその切先が届いたのは、日向華々莉の喉元ではなく……突如として現れた、黒い刃の壁だった。

 

「これはっ……」

「魔女!?」

「驚いた? 信じられないみたいだから、まずはショーコその1ね。『私の魔法は魔女すら操る』。鈴音ちゃんをお人形にするのもワケないって事!」

 

 そんな反応は予測済みだ、と言わんばかりの日向華々莉。

 彼女が呼び出した魔女は狼から刃が生えたような歪な姿でありながら、そのアンバランスさからは想像もつかないスピードで2人の攻撃を往なしていく。

 神出鬼没なその動きはまるで出鱈目で、()()か何かでもしているのかという不規則さだ。

 

「そしてコレがショーコその2。『鈴音ちゃんの被害者』ちゃんって、勿論覚えてるよねぇ?」

 

 そう言って彼女が指を鳴らすと、魔女は合わせて立ち止まる。

 改めてその姿を見てみれば、彼女の意図は自ずと分かった。

 その背に生えた……いや、刺さった無数の刃は間違いなく、()()()()()()()()()のそれだ。

 何故そうなってしまったかなんて、今さら言うまでもない事だ。

 誰だって唐突に生命を狙われれば、恐怖を感じない訳がない。

 恐怖は心を蝕んでいき、疑心や不安を伴って、やがて絶望に行き着くだろう。

 眼前の魔女は紛れもなく、()()()()()彼女の姿。

 魔法少女を救おうとして振るった刃が、結局は魔女を生み出したのだ。

 

 これで全てがはっきりした。

 やはり私は間違っていた。

 私の行いが魔女化を食い止めていたのなら、まだ言い分はあるかも知れない。

 だが実際は真逆なのだ。

 私が掲げ続けた正義は、ただのエゴによる殺人だった。

 それを自覚してしまった以上、私にもはや価値は無い。

 懺悔も謝罪も弁明も、する権利すらもないだろう。

 そして実際今の私に、それらを行う術は無い。

 だと言うのに……だと言うのに彼女達は、私を背にして並び立ち、こんな私を護り続ける。

 

「まさか……その魔女があの時の『キリサキさん』、とでも言いたいの?」

「それを信じさせたいんなら、変わる瞬間でも見せてみろっての。仮に信じてやったとしても、遥香を殺したのはソコの魔女でしょ? だったら仇は……アンタらなのよっ!!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、苦々しい表情に変わる日向華々莉。

 成見亜里紗はその隙に、すかさず再び斬りかかる。

 一瞬をついたその斬撃を食い止める()()は何もない。

 そのまま首元に当たる寸前まで鎌は振われ……

 

「っ華々莉、避けっ……!?」

 

 そして、止まった。

 何に阻まれる事もないのに、()()()()()()()()()()()

 

「!? こンのっ……千里!!!」

「やろうとしてる、でも……!」

「あっは、バカじゃないの!? キミらの魔法、私が知らない訳ないじゃん! 『解除』も『探知』も、最初から使えないよぉ?」

 

 勝利を宣言するが如く、そう断言する日向華々莉。

 嘲笑的な表情のまま、その視線は彼女の妹……日向茉莉へと向けられる。

 

「それにしても茉莉ってば、『よけて〜』なんてカワイイ所あるよねぇ。こんなの当たる訳ないのにさぁ?」

「てめぇ……ッ!」

「じゃ、そんな茉莉からショーコその3」

「!」

 

 途端、彼女の態度は打って変わり、まるで感情の読み取れない能面の如きものになる。

 

「茉莉は鈴音ちゃんとの記憶、本物だって分かってるでしょ? 二人に何か言ってあげなよ」

「何よ、仲間割れでもさせようっての!?」

 

 ……ああ、きっとそうなのだろう。

 日向華々莉は試している。

 彼女の妹、日向茉莉を……自分と同じ、()を奪われた痛みを知る者を。

 成見亜里紗と詩音千里に、その本当の痛みは知り得ない。

 『暗示』で再現された記憶は、彼女達自身のモノではないからだ。

 でも私と茉莉だけは違う。

 椿を失った悲しみも、そこから生じた行動も、忘れていただけの本物だ。

 

「……うん。茉莉は小さい頃、鈴音ちゃんに会った事、あるよ」

「茉莉……!?」

 

 だから彼女は2人と違い、直感的に分かる筈だ。

 日向華々莉が見せた記憶の、その全てが真実だと。

 私が犯してきた罪も、私が彼女に近づいた意味も、実感を持って知った筈だ。

 

「でも鈴音ちゃんがその後何をしてたかは知らないし、華々莉が言ってる事が本当か嘘かも分からないよ」

 

 椿を殺したこの私が、殺人者であるこの私が、受け入れられる筈がない。

 事実、日向華々莉はそうなのだ。

 その妹である彼女なら、同じ怒りや憎しみを抱いていてもおかしくない。

 こんな私がそばに居れば、許せないと思うのが道理だろう。

 目の前で無防備を晒していたら、仇を討とうと思うだろう。

 それが普通の反応だ。

 それなのに、どうして彼女は私なんかに───

 

 

 

「だから茉莉に言えるのは1つだけ。鈴音ちゃんと茉莉は……ううん、茉莉たち皆は、鈴音ちゃんの友達だよっ!」

 

 その手を、差し伸べてしまうのだろう。

 

「……よっく言った、茉莉ィ!」

「ええ、そうよ! 先輩が繋いでくれた生命、誰にも奪わせたりはしない……!」

「……あーあ、やっぱりそうなるんだ……

 

 

 

 じゃ、もうどーでもいーや」

 

 次の瞬間、3人の倒れる音が響いた。

 

「っ……何よっ……コレ……?」

「力が……入らな……」

「あーおっかし……随分張り切ってたモンだよねぇ? キミら全員、暗示に嵌った時点で詰んでるっていうのにさあ……」

 

 無感情な雰囲気のまま、淡々と語る日向華々莉。

 無力化された彼女達を、わざとらしく踵で踏み躙りながら踏み越えて、ずかずかとコチラに歩んでくる。

 

「さっき言ってた事だけどさあ……『その瞬間を見たら、信じるしかない』んだよねえ?」

 

 そう言いながら私の額に手を伸ばし、『暗示』をかける……事はなく、踵を返してこう続けた。

 

「『魔女の口づけ』ってあるよねぇ。人間達を絶望させて、結界に誘いこんじゃうアレ。弱りきった魔法少女が食らったらどうなるか、見てみたいって思わない?」

「て……めぇ……!!」

 

 きゃらきゃらと幼児のように笑いながら、彼女は転がる成見亜里紗を蹴りつける。

 まるで上手くいかないゲームを壊して、鬱憤を晴らそうとするかのように。

 その狂気的な姿を目にして、ようやく私は確信した。

 今のコイツは、()()()()()()()()()()()()()つもりだ。

 絶望して魔女と化した、私自身の手を使って……! 

 

「あはっ、その顔最ッ高かも! その目で確かめさせてあげる! 単に狂って自殺するのか、醜い魔女に変わるのかをさぁ!」

 

 だが彼女の意図が分かっていようと、もはや誰にも止められない。

 ()()()()()()()は一人残らず、彼女の魔法の支配下だ。

 

 ああ、どうしてこうなった。

 罪を犯した私だけが、孤独に死ぬならまだ良かった。

 私を信じ、護ってくれた彼女達まで、それに巻き込んでしまうなんて……そんな理不尽、あって良い筈がない。

 せめて最期に……

 

「さあ佳奈美ちゃん、時は来たよ……キミの鈴音ちゃんへの想い、全部まるっと吐き出しちゃえ!!!」

 

 彼女達(仲間達)だけでも、救えたら───! 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

『……佳奈、ちゃ……たす……』

 

 始まりは一本の電話だった。

 下校途中、焼き芋屋さんに寄っていた時にそれは鳴り……そして、一人の命が終わった。

 

「おばあ……ちゃん……?」

 

 心筋梗塞。

 何もしなければ発症から1時間以内に死に至る上、激しい痛みや呼吸困難も伴うという、恐怖の病。

 それがおばあちゃんの死因だった。

 

 絶望しかなかった。

 おばあちゃんしか身寄りがなかった私にとって、それは全てを失った事と同じだった。

 遺産も住所も残っていたし、学校の友達皆で慰めてくれもしたけれど。

 私の心の大きな穴は、それでは埋まってくれなかった。

 

 もうおばあちゃんと料理はできない。

 もうおばあちゃんの笑顔は見れない。

 もうおばあちゃんには、二度と会えない。

 それらがもたらす悲しみが、他の全てに勝っていた。

 

 あの時電話を貰ってすぐに、救急車を呼んでいたら。

 あの時寄り道なんかせず、まっすぐ家に帰っていたら。

 あの時家に着いたらすぐに、心肺蘇生をしていたら。

 あの時、あの時、あの時、あの時───! 

 

 

 

「その願いは君にとって、魂を差し出すに足るものかい?」

 

 ある日突然、その救いの手は現れて……私は当然、その手を取った。

 

 

 

 

 

 そしておばあちゃんは亡くなった。

 

 私が願いを果たし、おばあちゃんを助けた翌週、亡くなった。

 今度は脳梗塞で、即死だった。

 助けに入る暇もなかった。

 医師に聞いた所によれば、考えられる原因は暴飲暴食、高血圧。

 そして同様の理由で引き起こされる病の代表が、心筋梗塞。

 つまりおばあちゃんの死の要因は、電話を貰うよりとっくの前に決まっていたのだ。

 それを私は見逃した。

 同じ食卓を囲んでいながら、おばあちゃんを大好きだなんて言っていながら……。

 

 

 

 結局話は単純だ。

 私は願いを間違えたのだ。

 私の望みを果たすには、私の願いは遅すぎた。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 華々莉が魔女に命じた直後、私はそこに立っていた。

 

 そこは奇妙な空間だった。

 ある場所は暖かい家庭の情景。

 ある場所は暗く沈んだ病室。

 そしてある場所は、息詰まるような狭い路地。

 三つの場所が一つとなって入り混じるその舞台に、私と()()は立っていた。

 

「……だから私は誓ったんだ」

 

 そう呟き、私へと歩み寄る穂香佳奈美。

 彼女の両手は迷いなく、私の首へと伸びてゆき───そして力強く締めつける。

 

「私はもう誰かを死なせたくない。大切な人を失いたくない」

 

「私なんかの間違いで助けられる筈の生命を散らせるなんて、そんなのもう沢山なの」

 

「だからもし、私にも救える生命があるのなら……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう語る彼女の手足は震え、顔はぐしゃぐしゃに濡れていた。

 けれど手に込められた力だけは、一切の加減も緩みもなく、確実に強さを増していく。

 「私を殺して、これ以上の殺人を止めさせる」……そんな決意のこもった行動だった。

 

 私と同じだ。

 「魔法少女が居なくなれば、魔女が起こす悲劇も無くなる」。

 そう考えたかつての私と、同じ道を行こうとしている。

 そんな考えに至ったのは、やはり私が彼女を殺そうとしたからだろう。

 これもまた一つの、魔法少女の悲劇の連鎖だ。

 もし私が独りならば、この殺意を受け入れて魔女になる道もあっただろう。

 本当はそうすべきだとは、今でも思う。

 ……それでも、私は。

 

(……椿?)

 

 ふと目を横に向けると、そこに彼女の姿はあった。

 優しく笑いかけた椿は、他に何をするでもなく、静かに私の手元を見つめる。

 その目線の先にあるもの。

 そして椿の、視線の意図。

 

(……分かったよ、椿。お別れはもう、済ませたもんね)

 

 首を絞める手の強さに呼応するかのようにして、私の手も刃の柄を握りしめる。

 魔女になった魔法少女を、元に戻す術はない。

 故に魔女の救済は、その魂を消す事でしか叶わない。

 だけど魂が消えた後も、確かに残るものがある。

 

 今の私に必要なのは、椿との思い出じゃない。

 今の私に、必要なのは───! 

 

『お願い佳奈美……力を、貸して!』



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第八回

 魔女に命じた一寸後、鈴音ちゃんの絶叫とともに巨大な炎壁が立ち登る。

 その業火は周囲の全てを飲み込んで、私の眼前を覆い尽くした。

 恐らくこれで、鈴音ちゃんもその友達も、けしかけた魔女ごと綺麗さっぱり燃え尽きるだろう。

 そしてその後に残るのは、「一人ぼっちの絵本の魔女」だけ。

 実にあっけない幕切れだ。

 鈴音ちゃんが魔法少女のお友達なんて作っちゃうのがいけないんだよ? 

 そんな事されたら私、その子達の目の前で鈴音ちゃんをぶっ壊すしかなくなるじゃん。

 しかも結局その子達、最後まで偽物の鈴音ちゃんを信じて死ぬなんて。

 もし鈴音ちゃんが独りのままなら、もしあの子達が鈴音ちゃんを信じなかったら、あの子達だけは生き延びられたかも知れないのにね。

 

 そんな想いを抱きながら、お気に入りの絵画を愛でるように、私は炎壁に手を伸ばす。

 ああ、なんて綺麗なんだろう。

 いつまでもこの椿の炎を、眺めていたい気さえするかも。

 でもこの生命の灯ももうじき消える。

 消えるからこそ美しいの。

 椿に別れを告げられて、茉莉も誰も居なくなって、復讐も完遂した後は、もう私にやる事なんて何も無い。

 ただ一つ、魔女になった鈴音ちゃんを見届ける事以外には。

 今の私に残っているのは、そんな最初で最後の願いだけ。

 その成就の瞬間を今か今かと、子供のように待っていた時。

 

「どこを見ているの?」

 

 その声は耳元で響いた。

 

「遅い」

 

 突然の声に振り向いても、路地の闇から吹く風の他には何もない。

 タチの悪い幻聴か、と前を向き直した頃には既に、炎壁はすっかり消えていて。

 そしてそこに立っていたのは……

 

 魔女なんかではない、鈴音ちゃんだった。

 

「はぁ……? 何っ? 何なの!?」

 

 思わず間抜けな声を上げながら、残った左手を鈴音ちゃんに向ける。

 ……いや、向けたつもりだったのに。

 

「やはりその手が、『暗示』の力の源なのね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ものね」

 

 鈴音ちゃんはそう淡々と、()()()()()()()()()()を見ながら告げる。

 痛みを感じる暇も無かった。

 斬られた瞬間も分からなかった。

 けれど確かに私の視界の端っこには、斬り飛ばされた手が転がっていた。

 

「その状態でも魔法が使えるかは知らないけれど……不審な動きを見せるようなら、次はジェムを弾き飛ばすわ」

 

 砕けない程度に加減してね、と続ける鈴音ちゃん。

 そこまで聞いて私はようやく、起きている事態を飲み込んだ。

 鈴音ちゃんは魔女になってない。

 けしかけた魔女は跡形も無く、茉莉もお友達もピンピンしてる。

 そして今の鈴音ちゃんの、異常な速度。

 

「鈴音ちゃん……()()()()()を使ったんだ? 椿との思い出を捨ててさぁ……!」

 

 私にはあり得ない発想だった。

 鈴音ちゃんの『継承』の魔法を使えば、倒した魔女の能力が()()()()()手に入る。

 佳奈美ちゃんの『加速』があれば、私の『暗示』を喰らう前、予備動作を見切って避ける、なんて芸当も可能だろう。

 でもそんなのは可能性だ。

 本当に上手く行くかなんて、試してみなければ分からない。

 そんな分の悪いギャンブルに椿の魔法を賭けるなんて……はっきり言って、正気じゃない。

 

「いいえ……私は椿の想いも、佳奈美たちの想いも、全て引きずって生きていく……!」

 

 そんな訳の分からない戯言を喚く鈴音ちゃん。

 椿の魔法を捨てたって事に変わりは無いのに、何言ってるのか意味不明だよ。

 いずれにせよもう私には、鈴音ちゃんを魔女にする手立てはない。

 正真正銘……これで、終わりだ。

 

「……殺すんだ? 私も、椿みたいに?」

 

「いいえ、決して」

 

「嘘ばっかり、もう飽きちゃった。あーあ、本当に私……どこで、間違えたんだろね?」

 

「あははっ、そりゃ最初からでしょ! だって()()()()()()()()より、()()()()()()方が辛いもん!」

 

 

 

 場違いな程の明るい声が、路地の壁に反響する。

 突然に割り込んだその声は、当然鈴音ちゃんのものではない。

 茉莉でもない、そのお友達も違う。

 もちろん、私の訳もない。

 

 一瞬に場の空気が凍りつく。

 まだ見ぬ脅威が、正体不明の何者かが、私たちを眺めている? 

 いや違う、()()()()()()じゃない。

 他の皆にとってはそうでも、私にとってはそうじゃない。

 あの時聞いた、彼女の声だ。

 直接耳にした訳じゃない、それでもすぐに判別できる。

 この暑苦しい程に明るいのに、背筋が冷えるような不気味な声は───! 

 

「じゃ、おやすみなさい」

 

 

 

 そして思考は、巨大な氷河に閉ざされた。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 存在しないチャートが溢れ出すRTA 、はーじまーるよー! 

 今回はチーム茜ヶ咲をラスボスごと全滅させたところから。

 

 全滅から始まる全員生存RTAって何だよ(哲学)

 

 前回は華々莉を追い払い安心したのも束の間、佳奈美ちゃんを拉致られて走者ブチ切れENDと相成っておりました。

 復活させた姉妹やよばんちゃんと共に、カチ割られてまろびでた脳ミソの始末等をしつつ、必死にリカバリ案を練る走者。

 脳内のジョースター卿に助けを求めてはみたものの、「逆に考えるんだ」というお決まりのフレーズが木霊するばかりでちっとも役に立ちません。

 しゃーなし現場で考えるべ、のスタンスで魔女モドキレーダーを辿り、決戦場に向かった所……

 

 

 

「『魔女の口づけ』ってあるよねぇ」

 

 ……ん? 

 

「弱りきった魔法少女が食らったらどうなるか、見てみたいって思わない?」

 

 ……あっ、これかぁ! (ひらめき)

 

 

 

 瞬間 走者の脳内に溢れ出した ()()()()()チャート

 

 どうやらこの事態は "想定通り"のようだな

 

 

 

 といった具合に啓示を受けまして、それに従った結果が先程の全☆滅ENDだったのです。

 全滅してたらタイトル詐欺じゃん、とのご意見あるかも分かりませんが、どうかご安心を。

 コチラ勿論計算の内、生存の為の全滅です。

 どういうこっちゃ、な視聴者兄貴達の為に、早速状況整理を踏まえた解説へと参りましょう。

 

 まず今回の目標はただ一つ、「鈴音と華々莉を無力化する事」。

 どちらも強敵ではありますが、弱体化している事もあり、現状戦力の走者達ならまあなんとかなるレベルの2人でした。

 そう、()()()2()()()()なら、ですが。

 問題は今回の残りの面子、特に茉莉ちゃんと千里ちゃん、そして魔女モドキの佳奈美ちゃんです。

 

 まず茉莉ちゃんはご存知の通り、仲間を殺した通り魔とか、いきなり出てきた自称姉とも仲良くできちゃう異じょ……博愛の化身。

 2人のどちらを先に仕留めようとも敵対不可避で、以前言及しましたように『探知』魔法の相性が走者と最悪です。

 また茉莉ちゃんが敵対すれば、同時に高確率で千里ちゃんと亜里沙ネキも牙を剥きます。

 要マークの千里ちゃんは『解除』の魔法が非常に厄介。

 当然隣に火力特化の亜里沙ネキも加わるので、合計戦力はかなりのモノです。

 

 仮に彼女達だけならば、姉妹とよばんちゃんに制圧してもらってからスる、というのもアリかも知れませんが……佳奈美ちゃん……。

 魔女モドキ化のせいでスって止める事もできんやんけ……(絶望)

 故に彼女はホモ以外に何とかしてもらうしかありませんが、戦力が未知数な以上、正直誰をあてがうのも不安です。

 この子の相手を任せた間にホモが死なないとも限りませんし。

 

 という訳で先に本丸以外を片付けたいのは山々ですが、当然そんな真似はできません。

 弱体化してるとは言え茉莉ちゃん仕留められてブチ切れて連携し始めた鈴音&華々莉(主人公とラスボス)とか(勝てる訳)ないです。

 つまり……

 

 

 

 敵 が 多 す ぎ る

 

 

 

 あーあ、どっかに上記戦力の過半数を一手に「直ちに生命に影響は無い」程度に無力化してくれる都合の良いヤツとかおらんかなー!? 

 

 

 

 おったわ……(やりたい放題のラスボスを見ながら)

 

 

 

 正に「勝手にスコーンが割れた」状態。

 走者が何をした訳でもないのに随分と都合の良い盤面になりましたが……

 実は、コレも計算の内なのですよ。

 決してたまたま上手くいったとかソンナコトハナイノデスヨ。

 

 まず前提として、華々莉はあくまで鈴音ちゃんの絶望を希望しているので、可能な限り直接は殺しません。

 『暗示』をはじめ、数々の回りくどい手法を用いた精神攻撃を試みます。

 また絶望までの経緯にもこだわりがあり、「孤独感」を味わわせる方向を好みます。

 今回の場合、鈴音ちゃんがチーム茜ヶ咲とそれなりに仲良くしていたようなので、彼女達に鈴音ちゃんを見捨てさせたかったのでしょう。

 その為には、鈴音ちゃんより前に周りを殺す訳にはいきません。

 かと言って野放しにしておくのも面倒ですから、となれば「魔法や移動を封印し、話せる程度に生かしておく」のが最適でしょう。

 誰だってそーする、走者もそーする。

 

 そして精神攻撃についてですが、今回は自身の状態が万全でない事もあってか、更に回りくどい方法を用いたようですね。

 それが魔女(モドキ)佳奈美ちゃんを用いた、「魔女の口づけ」作戦です。

 『まどか』原作を見ていただければ分かる通り、魔女の口づけには確かに精神へのマイナス作用があります。

 コレを利用・強化すれば、弱った魔法少女相手であれば十分な精神攻撃になるでしょう。

 「佳奈美ちゃんも復讐したいよね?」という華々莉のセリフは、恐らくはこの事を指していたものと思われます。

 

 さて、このセリフを聞いていたお陰で「あっ、これかぁ! (ひらめき)」となった走者。

 ジョースター卿の教えに従い、「あえて精神攻撃させる」事で、活路を切り開く結果となりました。

 まあお話は簡単です。

 コチラには駄々っ子もビックリの精神汚染源である、UMK姉貴の魔法の使い手が居ますよね? 

 

 これ(『隠密』で隠したよばんちゃん)を

 こうし(「口づけ」されてる鈴音ちゃんにぶつけ)て

 こう(同タイミングで記憶改変)じゃ。

 

 もしコレが華々莉直々の精神攻撃だった場合は、記憶干渉の経由地であるよばんちゃんが汚染され魔女ってしまう恐れもあったのですが、今回は安全そのものでした。

 魔女モドキが「魔女の口づけ」なんか使える訳ないんだよなあ……。

 故に安心して本作戦に踏み切れた走者は、華々莉の隙につけ込んで代わりに精神攻撃をしておいたのです。

 その名も、ありもしない記憶を鈴音ちゃんに見せて覚醒を促す……「存在しない記憶」作戦です! (そのまんま)

 

 と言っても、いくら高性能なよばんちゃんでも短時間で複雑な記憶改竄は不可能です。

 よって今回は「ホモと鈴音ちゃんの記憶の一部を同期させる」形で、無理矢理椿さんのイメージを想起させ、鈴音ちゃんの覚醒を促す方式となりました。

 まあ当然ホモが椿さんに会った事なんかある訳ないから、それっぽい想像を浮かべただけなんだがな! 

 ほんへクリア後の過去編ifルートとかでなら会えるし会いまくっとるねんけどな……。

 椿さんに甘えまくる駄々っ子たちは いいぞ。

 

 さてこの偽椿さんですが、想像の産物なので当然話しかけたりする事なども出来ず、正直騙されてくれるかかなり不安な代物でした。

 不安、だったのですが……やっぱり鈴音ちゃんは鈴音ちゃんだったよ……。

 キミちょっと軽率にオモチャにされ過ぎと違う……? (加害者の弁)

 

 まあそういった訳で、つつがなく騙されてくれた鈴音ちゃん。

 主人公が頼りになるのはどのルートでも同じですね。

 『かずみ』ルート同様に、文字通り一瞬にしてケリをつけてくれました。

 それを見届けた後に走者達はサクッと離脱。

 入れ替わりに投入した姉妹の手により、晴れて『すずね』チームは氷漬けにされ全滅です。

 コレもやはり鈴音ちゃん&華々莉のお陰でしょう。

 鈴音ちゃんが魔法を乗り替えてくれたお陰で椿さんの炎で氷が溶ける恐れがなくなりましたし、茉莉ちゃん達が抵抗不能だったお陰で暗躍がバレずに済みましたからね。

 オマケに佳奈美ちゃんの始末もしてくれたので、彼女のSGの回収も無事終えられましたし……。

 ホンマ、主人公は……最高やなって! (満面の笑み)

 

 

 

 とこんな具合に、以上が「全滅までの経緯」でした。

 次はようやく肝心の「全滅させた理由」についてですが……まあ何という事はありません。

 

 その方が楽じゃん!(大声)

 

 鈴音ちゃんの覚醒により一見落着に見える場面ですが、だからといってこのまま放置するなんてとんでもない! 

 『かずみ』の際にも言及致しました通り、事後処理も重要な課題です。

 ぶっちゃけた話、遥香さんがお亡くなりになった(なってない)時点で将来的な破滅は既定路線。

 ラスボスの華々莉もカンナ程安定している訳ではないので、放っておくだけで周囲を巻き込んで死にかねません。

 故に本来のチャートでは、良き所で鈴音と華々莉のSGをスり、そのまま『おりこ』ルートへと行く手筈だったのですが……。

 

 ジェム持っていきたくない……持っていきたくなくない……? (悪魔の囁き)

 

 以前も言及しました通り、他人のSGなんてモンは呪いのアイテムでしかありません。

 NPCとの敵対を誘発するわ、ホモの被弾時に割れでもしたらガメオベラだわで良い点なんてないのです。

 仮によばんちゃんを上手く使えば、記憶イジッて受肉させて某携帯獣(ポケモン)モドキにできる可能性はあるでしょう。

 そんな事してもほぼ間違いなくなつき度不足で言う事を聞かんだろうがな! 

 だったらもうほぼオリチャーなんだし、メンバー全員ナカヨシな記憶に書き換えて、スルーしちゃうのが最適だよネ!!! 

 

 

 

 ……ですのでどうかお願いします、神様仏様よばん様。

 

 

 

 「この惨状がどういうつもりか……説明してもらえる?」

 

 その杖をかよわいホモに向けないでやってもらえませんか……




Q:華々莉の片腕って六回の裏で飛んでたよね?鈴音たちはツッコまないの?

A:鈴音たちを煽ってる時は『暗示』で両腕健在に見せてたよ。ダサいからね。
 鈴音ちゃんにブッた斬られた後は、鈴音ちゃんが両腕斬り飛ばした(つもりでいた)から両腕無いのが自然状態だよ。ダサいね。



Q:走者は佳奈美の記憶見てるよね?コメントとかないの?

A:走者は見てないよ。
 ホモは見たよ。


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