狂犬と消失少年 (火の車)
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序章

最後の新作です。
もうしばらく増えないですね。


 突然だが、俺は今までそこそこ楽しく生きて来た。

 家族もいて、友達もいて、大きな病気もなく、不自由なく過ごしてきた。

 そんな俺、出水陽介も今日から高校2年生!

 

陽介「__おはよー!母さん!」

陽介母「おはよう、陽介!」

 

 俺の家は普通の一軒家だ。

 朝は母さんが作ってくれてる朝食を食べて、洗面などをし、学校に行くのがいつもの流れだ。

 

陽介「そう言えば、父さんは?」

陽介母「もう仕事に行ったよ。なんか忙しらしくって。」

陽介「そうなのか?頑張ってるんだなー。」

 

 俺はそんな事を言いながら朝食を食べた。

 そして、洗面を済ませ、家を出た。

__________________

 

 俺の通う高校は家からそこそこ近いところにある。まぁ、それが理由で選んだんだけどな!

 難点を挙げるとするなら、近くに一緒に学校に行くやつがいない事だな!

 

陽介「いやー、2年になってもこの景色は変わらないなー。」

 

 通学路は春らしく、綺麗な桜が咲いてる。

 風も暖かくて、俺としてはかなり気分が上がってくる。

 

陽介「うーん、いい日だー!__ん?」

 

 俺が歩いてると、前を歩いてる女子のカバンからストラップが落ちた。

 制服的に俺と同じ学校だろう。俺はストラップを拾った。

 

陽介「おーい!そこの女子ー!」

?「あ?」

 

 ストラップを落とした女子は落とした可愛らしいストラップのイメージからかけ離れた、いかにもヤンキーそうな風貌だった。

 

陽介「これ、落としてたぞ!」

?「そ、それは!///」

陽介「お前、見た目の割に可愛いの付けてんのな!」

?「よ、余計なお世話だ!///」

陽介「ははは!まぁ、これ返しとくよ!」

?「お、おう。さんきゅ。」

 

 俺はその女子に拾ったストラップを手渡した。

 

陽介「お前、2年だろ?」

?「あ、あぁ。」

陽介「じゃあ、俺と同い年だな!一緒に学校行こうぜ!」

?「え?......まぁ、別にいい。」

陽介「さんきゅー!」

 

 俺たちはそう言って学校に向かって歩きだした。

 

陽介「__そー言えば、お前って何て名前なんだ?」

ますき「私は佐藤ますきだ。」

陽介「佐藤ますきか!じゃあ、佐藤って呼ぶぞ!」

ますき「別に何でもいい。」

陽介「俺は出水陽介!よろしくな、佐藤!」

ますき「よろしくって、別にこれからかかわる事もあるか分かんねぇのに。」

陽介「まぁ、いいじゃねぇか!」

ますき「はぁ。」

 

 ますきはどこか呆れてるような表情をしてたが、気にせずに歩いた。

__________________

 

 しばらくすると、俺たちは学校に着いた。

 

陽介「あれ?工事してるな?」

ますき「そうだな、どうしたんだ?」

 

 学校に着くと、まず、校舎の工事をしてるのが目に入った。

 結構鉄骨やら木材やら積まれてる。

 

陽介「あれが倒れてきたら大変そうだなー。」

ますき「縁起でもないこと言うな。流石にねぇだろ。」

陽介「冗談だって!クラス表見に行こうぜ!」

ますき「ちょ!待てっての!」

 

 俺たちはクラス表を確認しに行った。

 すると、驚くことに俺と佐藤は同じクラスだった。

 

陽介「これからよろしくな、佐藤!」

ますき「......まじかよ。」

 

 佐藤は疲れたような顔をしてた気がするが、まぁ、気のせいだろ!

 俺はそう思い、佐藤と教室に向かった。

__________________

 

 教室に来ると、俺たちは指定された席にそれぞれついた。

 

男子「お!陽介!」

陽介「おー!お前らも同じクラスかー!」

男子2「俺もいるぞ!」

陽介「よかったー!知ってるやつがいて!」

男子「どうせお前なら友達作ってただろ!」

男子2「だよなー」

陽介「いやいや、知ってるやつがいる安心感はすごいんだぞー!」

 

 俺は1年の時の友達と話していた。

 そんな中、少しま佐藤の方を見てみると

 

ますき「......」

 

 自分の席で一人ぽつんと座っていた。

 

男子「どうした?」

陽介「いやー、佐藤が一人でいるのが気になってなー。」

男子2「あ、佐藤だろ?あいつ有名だぞ。」

陽介「え?そうなん?」

男子「女子の間では近寄りがたいって、話しかける奴がいないんだと。」

陽介「へぇ。」

 

 俺は佐藤の方を見た。

 

陽介「じゃあ、ちょっと話しかけてくる!」

男子「お、おい!」

男子2「どんな目に合うか分かんねぇぞ!」

陽介「大丈夫大丈夫ー。」

 

 俺は二人を振り切り、佐藤の方に行った。

 

陽介「さーとう!」

ますき「......なんだ。友達はいいのかよ。」

陽介「佐藤と話したくてなー。」

ますき「たく、変わった奴だな。」

陽介「そうか?」

ますき「あぁ、変わってる。今の私を見て分かるだろ?誰も近づいて来ねぇだろ。」

陽介「そうだな?なんでだろうな?」

ますき「私は怖がられてんだよ」

陽介「なんで?あんな可愛いストラップ付けてんのに?」

ますき「そのことは言うな!///」

陽介「お、おう。」

ますき「ったく、お前は。」

陽介「ははは!悪かったって!」

 

 俺は佐藤としばらく話してた。

 

先生「__おーい、席に着けよー。」

陽介「え?もう時間かー?」

ますき「そうだよ。早く座れ。」

陽介「へいへい。」

 

 俺は自分の席に着いた。

 

先生「えー今日は......なんか、校長の話聞いて終わりだ!」

男子「適当かよ!」

先生「いやーな?先生も面倒なんだよ?興味もない会議をしたり。」

女子「なんで、教師やってるし!」

先生「ははは。あ、そろそろ体育館に行くぞー。」

 

 先生がそう言うと俺たちは体育館に移動した。

__________________

 

陽介(__な、なげぇ!)

校長『__で、あるからしてー。』

 

 とりあえずうちの校長の話は長い。

 例を挙げるなら運動場でしていた朝礼などを体育館に移動させるほどだ。

 それも意味があるかわからないけどな。

 

校長『__で、あるからしてー。』

陽介(何回それ言うんだよ!このハゲ!)

ますき(あー、だりぃ。さっさと引っ込めよハゲ)

校長『__以上です』

 

 校長の話の所要時間、実に始業式の4分の3!

 驚きの長話、退場者18名、教師の舌打ちなんと50回!

 

陽介(驚きの記録だな。むしろ舌打ち聞こえただろうに話し続けるあのメンタル。あのハゲ、ただモノじゃねぇぞ。)

ますき(あー、疲れた。)

 

 俺たちは始業式が終わり、教室に戻った。

__________________

 

先生「__あー、あのハゲ話長いんだよ。」

男子「先生、本音出てるぞ。」

先生「あ、やっべ。......ハ、じゃなく、校長先生のお話はとてもためになりましたねー。」

女子「うっわ、わざとらし。」

先生「いやでもさ、いくらなんでも話長すぎじゃね?」

 

 教室に帰って来るなり、担任の愚痴から始まると言う画期的なスタイル。

 てか、先生が愚痴っていいのかよ。

 

先生「まぁ、なにはともあれ、今日は終わりだ!あのハ、じゃなくて校長先生の話で帰るのが遅くなったがな。」

陽介(いや、めっちゃ愚痴るな。)

先生「じゃあ、寄り道せずに帰れよー。」

 

 先生はそう言って教室を出ていった。

 そして周りも皆教室を出たので、俺も教室を出た。

__________________

 

陽介(さーて、今日は帰って何するかなー。ん?)

 

 俺が教室を出て、校門まで歩いてると、佐藤を見つけた。

 

陽介「おーい!佐藤ー!」

 

 ガタン!!!

 

陽介「!?」

 

 どこかから不穏な音が聞こえ、そっちに目を向けた。

 そこで、俺の目に映ったのは、止めていた金具が取れて、倒れてきてる鉄骨や木材な数々だった。

 それは、確実に佐藤の方に行ってる。

 

陽介(やばい!)

  「佐藤!!!」

ますき「出水?なんだ?」

陽介「佐藤、上だー!」

ますき「上?__!?」

 

 鉄鋼や木材はますきの方に倒れて行ってる。

 

ますき(お、おい、なんで__)

陽介「くっそぉぉぉ!」

 

 俺は必死に走った。

 とりあえず、助けなきゃいけないと思った。手段があるわけでもなんでもない、ただ、本能が佐藤を助けろと叫んでた。

 

ますき(ここで、終わるのかよ__)

陽介「佐藤!!!」

ますき「出水!?」

陽介「頭を守れ!!!」

 

 ガッシャーン!!!

 

__そこからの記憶は残ってない。

 

 ただ、これが俺の人生が崩れ去るほんの序章だったのだと思う。

 

 

 

 

 




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第一の消失

2話目です


陽介「__ん、ここは......?」

 

 俺は感覚的に目を開けた、でも何も見えない。

 何か巻き付けられてる感覚がある、目隠し的なものがあるんだろう。

 

陽介「あのー、誰かいませんかー?」

?「......起きたか。」

陽介「その声......佐藤?」

ますき「あぁ、そうだ......」

陽介「てか、俺ってどういう状態なんだ?目隠しあって周り見えないし、全身すっごい痛いんだけど?」

ますき「ここは○○病院。お前は今、包帯で全身ぐるぐる巻きだ。」

陽介「なるほどー、そういう事かー。って、じゃあ、なんで目隠しされてるんだ?」

ますき「っ......それは......」

陽介「どうした?」

 

 俺が目隠しの理由を尋ねると、佐藤が喋らなくなった。

 俺がそれを疑問に思ってると、最初から居たのか分からないが、医者が話しかけてきた。

 

医者「起きたかな、出水陽介君。」

陽介「えっと、あなたは?」

医者「私は君の手術を担当した医者だよ。」

陽介「そうなんですか?ありがとうございました。」

医者「いや。お礼を言われる事はしていないよ。むしろ、今回、私が君に謝らないといけない。」

陽介「え?」

医者「......とりあえず、君の目を覆ってる包帯を外すよ。ただ。」

陽介「?」

医者「これを外すと、君はショックを受けるかもしれない。そして、もし、恨むなら、無力な私を恨んでくれ。」

陽介「え?どういう__」

 

 俺が困惑してると、目を覆ってた包帯が外された。

 

陽介「え?」

 

 俺は自分の目を疑った。

 正常に見えてる、変わらずに見えてるんだ、ただ......『半分』なんだ。

 半分は今まで通り、でも、半分は真っ暗、何も見えない。

 

陽介「え?こ、これは、どういう事なんですか?」

医者「君の左目眼球はあの事故で、砕けてしまったんだ......」

陽介「事故......っ!!!」

ますき、医者「出水(出水君)!」

陽介「だ、大丈夫。」

 

 事故の事を思い出すと、ひどい頭痛に襲われた。

 まるで、脳自体が思い出すことを拒否してるみたいに。

 でも、なんとかあの時の事を少し思い出せた。

 

陽介「そうか、あの時......」

ますき「ごめん......」

陽介「佐藤?」

ますき「私を守るために、お前はそんな事になって、でも、私は無事で......」

医者「いや、彼女を責めないでくれ。君の目はもっと医学が進歩していれば救えたかもしれない。」

 

 佐藤も医者も申し訳なさそうに下を向いてる。

 佐藤はどこか泣きそうな顔をしてる。

 

陽介「__いーや、別にいいよ。」

ますき、医者「え?」

陽介「どうせ砕けてたんでしょ?医療が進歩しても無理ですよ。それにさ。」

ますき「?」

陽介「人の命をたったこれだけで助けられたんだ、御の字でしょ!」

 

 正直、片目がなくなったのはショックだし、悲しいとも思ったけど、佐藤は無事だし、勝手に突っ込んだのは俺だ。他の誰かが責任を感じるなんておかしいんだよ。

 

陽介「それで、退院はいつくらいにできそうなんですか?母さんと父さんに心配かけちまう。」

医者「あ、あぁ、退院自体は一週間後にはできると思う。でも、しばらくは安静にね?」

陽介「はい。」

 

 医者はそう言うと、病室から出ていった。

 それで、部屋には俺と佐藤の二人だ。

 

ますき「......」

陽介「佐藤?」

ますき「......どうした?」

陽介「いや、なんか難しそうな顔をしてたから、どうしたのかなって。」

ますき「それは......」

 

 佐藤はさっき同様、泣きそうな顔をしてる。

 

陽介「佐藤?なんでそんな顔してるんだー?」

ますき「だって、私があそこにいなきゃ、お前は......」

陽介「うーん、そんな事気にしなくてもいいけどなー。勝手に突っ込んだのは俺だし。」

ますき「でも......」

陽介「いいっていいって。意外と義理堅いなー、見た目の割に。」

ますき「あ?」

陽介「見た目はヤンキーなのに俺の事をそこまで思ってくれるなんて......」

ますき「誰がヤンキーだ!」

陽介「もしかして、俺に惚れたか?嬉しいなぁ。」

ますき「は、はぁ!?誰が!?」

陽介「俺、彼女いないから大歓迎だぞ?」

ますき「だ、誰が!」

 

 こういう時は強引に忘れさせるの限るよなー。

 

ますき「ほんっと、そんなこと言えるなら元気みたいだな。」

陽介「そうそう、元気元気、チョー元気!」

ますき「そうかよ。ったく。」

 

 佐藤の表情が明るくなった。

 やっぱり、女子はこうでなくちゃなー。

 

ますき「だが、私は責任はとる!」

陽介「えぇ?」

ますき「お前はそんなんだが、私の命の恩人だ。だから責任は果たす!」

陽介「え?責任とは?」

ますき「私が可能な限りお前の助けになる。異論は認めねぇ。」

陽介「あ、はい。」

ますき「これ。」

陽介「?」

ますき「私の電話番号だ。困ったことがあったらかけてこい。」

陽介「あ、はい。」

ますき「今日は帰る。じゃあな。」

陽介「おーう。」

 

 そう言って佐藤は病室を出ていった。

 その後の病室はさっきからは考えられないくらい静かで、すごく退屈だった。

__________________

 

 退院日になった。

 あれから佐藤は毎日欠かすことなく見舞いに来てくれた。本当に責任感が強いんだろう。

 それとは対照的に俺の両親と友達はどっちとも一度も見舞いに来なかった。

 

ますき「__おい、出水。」

陽介「よー、佐藤。」

ますき「とりあえず、退院おめでとう。」

陽介「ありがとう。まぁ、ギブスはまだ取れないんだけどなー。」

ますき「なら、荷物貸せ。持ってやるよ。」

陽介「いいって。このくらい持てる。」

ますき「意地張るなって。」

陽介「ちょ!」

 

 俺は手に持ってた荷物をますきにひったくられた。

 女子に荷物を持たせるなんて体裁が悪いな。

 俺はそう思いつつ自分の家に向かって歩きだした。

 

__________________

 

 病院は俺の家から少しの所に合った病院で、家に着くまでそれほど長い時間はかからなかった。

 少し歩くと、家に着いた。着いた、はずだった。

 

ますき「__なぁ、ここはほんとにお前の家なのか?」

陽介「間違えるわけ、ないだろ?」

ますき「じゃ、じゃあ、なんで!」

陽介「分かんねぇ。分かんねぇよ。」

 

 何度も確認した、周りも確認して、ここが自分の家であったことは間違いない。

 でも、俺は目の前の光景を信じられない、いや、信じたくない。

 だが、現実というものはどこまでも無情に俺に突きつけられる。

 

陽介「......」

ますき「い、出水......?」

 

 佐藤も信じられない、そんな表情だ。俺だってそうだ。

 だって、俺の家だった場所には......『販売予定地』という札だけしかなかったんだから。

 

陽介「ま、待てよ。母さんと父さんは......」

 

 俺は二人に電話をかけた。でも......

 

『おかけになった電話番号は現在使われておりません。』

 

 携帯は無感情にそう言うだけだ。

 俺は段々と残酷な現実というものが見えてきた。

 

陽介「ははは......そういう事、するのかよ......」

 

 俺はこの時分かった。俺は親に捨てられたんだ。

 

 片目と親。これが俺が最初に消失したものだったんだ。

 




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嘘を知る

3話です。


ますき「__おい!出水!」

陽介「......どうした?」

ますき「大丈夫、なのか?」

陽介「何がだ?」

ますき「何がって、お前の親は......」

 

 佐藤は言いずらそうにしてる。

 多分、佐藤も俺が親に捨てられたってことを分かってるんだろう。

 ほんとに、優しいやつだよ。

 

陽介「これ、見てみ。」

ますき「携帯?なんで___これは!」

 

 携帯画面には『名義変更』という文字が書かれていた。

 名義はもちろん『出水陽介』だ。

 

ますき「こ、これって......」

陽介「そういう事だよ。あいつらは本気で俺を捨てたんだよ。」

ますき「で、でも、おかしいじゃねぇか!なんで、急にお前を捨てるなんて!」

陽介「あぁ、そうかもな。」

ますき「いや、それはこの際いいんだよ。一番おかしいのはお前が平気そうなことなんだよ。」

陽介「......そうか?」

ますき「普通、親、その、なんだ、そんな事されたら悲しいもんじゃねぇのかよ!」

陽介「......もちろん、悲しいよ。」

ますき「なら!__」

陽介「悲しくて、こうしてないと、気が狂いそうなんだよ......!」

ますき「!!」

陽介「俺は小さい時から家族に愛されてると思ってた。事故の日の朝だって、母さんの作った朝食を食べて、気持ちよく学校に行ったんだ。なのに......!」

ますき「出水......」

陽介「......悪い。取り乱した。」

 

 俺は一旦、頭を落ち着かせた。

 でも、落ち着けば落ち着くほど、現実が見えてくる。

 小さい時から当り前にあったものが一瞬で消えた、その事実は俺の心に重くのしかかってくる。

 

?「__いた。」

陽介「?」

 

 俺が少し落ち着くと、知らないおじさんがこっちに来た。

 ほんとに全く面識のない、赤の他人だ。

 

同僚「僕は君のお父さんの同僚だったものだ。」

陽介「父さんの?あと、だったって?」

同僚「......君のお父さんは不貞行為がおおやけになりなり、解雇されたんだ。」

陽介「え......?」

同僚「見知らぬ女性とホテルから出てきたところを偶然、君のお母さんの知り合いが目撃しその写真を撮って、報告した。」

ますき「浮気、ってことか。」

同僚「あぁ。そこから、お互いの両親を巻き込んだ話し合いが始まった。結果は離婚だった。」

陽介「......そうですか。」

同僚「そこからお金の話などはスムーズに決まっていき、話し合いは終わると思われた、だがまだ大きな問題が残されていた。」

ますき「まさか!」

同僚「そう、親権だよ。」

陽介「!」

同僚「あの二人の親権争いは立ち会った身から言わせてもらうとひどいものだった。二人の頭に子供を引き取るって言う頭なんてなかったんだ。」

陽介「......」

同僚「言いたくないが、擦り付け合いだった。そして、君の両親が最後の方に言った言葉は、到底、子を持つ親とは思えない最悪のセリフだった。これが、音声だ。」

陽介「......聞かせてください。」

同僚「......分かった。」

 

陽介父『お前が引き取れ!俺があいつに使う金はないんだよ!』

陽介母『私もよ!引き取ったら好きなことも出来なくなるわ!』

 

 時間にしてほんの数秒、だが、俺にはその数秒が永遠にも感じられた。

 いつもと違う、両親の声色、そこから放たれる拒絶の言葉。

 これを聞いて、ずっとなかった自覚が芽生えてきた。

 

陽介(......俺は二人にとってずっと、邪魔だったんだな。)

同僚「そして、話し合いは平行線のまま2日目に持ち越し......のはずだった。」

ますき「だった?」

同僚「次の日の朝には二人はどこかに消えていたんだ。」

ますき「なっ!」

同僚「つまり、失踪したんだ。親権を獲得しないために。」

ますき「く、腐ってやがる!」

同僚「あぁ、彼らはもはや人間じゃない。クズだ。」

陽介「......そうですか。」

同僚「僕はこれで失礼するが、君に行っておきたいことがある。」

陽介「なんですか?」

同僚「......今まで君が感じてた両親の愛情などは忘れた方がいい。」

 

 そう言って、同僚の人はどこかに歩いて行った。

 佐藤は怒ったような顔をしてる。

 

ますき「クソが!」

陽介「怒り過ぎだぞ、佐藤。」

ますき「でも、お前は今まで親を信じて___い、出水、お前、泣いてるのか?」

陽介「......ほんとに、なくなったんだな。」

ますき「お、おい!どこ行くんだよ!」

陽介「分かんね。取り合えず、生きることは考えてるよ。」

 

 俺はどこに向かうのか分からないがともかく歩き始めた

 

ますき(まずい、今のあいつはほっとくには危うすぎる、どうしたら......って、考えてる場合じゃねぇだろ!)

   「おい!出水!」

陽介「どうしたんだ?」

ますき「お前、私の家来いよ。」

陽介「え?」

ますき「今日、泊る場所ねぇんだろ?だったら家に来い。」

陽介「でも、迷惑だろ?」

ますき「大丈夫だっての!......あれだ、命を救ってもらった、礼ってやつだ!」

陽介「でも__」

ますき「うるせぇ!行くぞ!」

陽介「お、おい。」

 

 俺は佐藤に引っ張られ行った。

 

 俺は、これからどうなるんだろう......




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誰も救えない

4話です。


ますき「__ただいま。」

陽介「......」

 

 俺は佐藤に引っ張られ、佐藤の家と思われるところに来た。

 

ますき父「遅かったな、ますき__って、男!?」

ますき母「え!?」

ますき「話を聞け。」

 

 佐藤はお父さんとお母さんに事情を説明した。

 最初は複雑そうな顔をしてたますきのお父さんとお母さんも話が進むにつれ神妙な表情になって行った。

 

ますき父「そんな事が......」

ますき母「ひどい......」

ますき「あぁ。だから取り合えず今日はここに泊める。」

ますき父「そういう事なら仕方ないだろう。むしろ好きなだけ泊ってくれていい。」

ますき「だってよ、出水。」

陽介「......ありがとうございます。でも。」

ますき、ますき父、母「?」

陽介「すぐに出ていきます。」

ますき「なんでだ!?」

陽介「......一人で考えたいこともあるから。」

ますき「......」

 

 佐藤はそれ以上何も言わなかった。

 俺の心中を察してくれたんだろう。

 

陽介「今日はお世話になります。佐藤のお父さん、お母さん。」

ますき父「あぁ。」

ますき母「えぇ。」

 

 その後、俺は佐藤のお父さんに言われ、風呂に入ることにした。

__________________

 

陽介「__ふぅ......」

 

 俺は体を洗って、湯船につかった。

 

『......今まで君が感じてた両親の愛情などは忘れた方がいい。』

 

陽介「......クソ。」

 

 嫌でも思い出す、あの言葉。

 認めたくない、嘘であってほしい、夢であってほしい。

 そう願っても、これは現実で、残酷に俺に降りかかってくる。

 

陽介(なんで、なんでだよ......)

 

 目を閉じれば、昨日の事のように家族との思い出が蘇ってくる。

 小さい時から今まで、俺は親の愛を疑ってきたことはなかった。

 間違ったことをすれば叱ってくれて、良い事をすれば優しく褒めてくれた母さん。

 仕事帰りにいつもお土産を買ってきてくれて、いつも優しかった父さん。

 

陽介(全部、嘘だったのかよ......)

 

 自然と涙が零れる。

 目を失った事より、何より、家族を失った。

 それが何より悲しい。

 

陽介(......俺に生きる意味なんかあるのか?)

 

 そんな考えが頭をよぎる。

 湯船にたまったお湯が目に入る。

 思えば、俺にはもう、何もない。

 

陽介(ここで溺れれば、俺は死ねるのか......?)

 

 俺は湯船に顔を近づけていった。

 生きることも考えたけど、俺には何もないから__

 

ますき『__おい、出水?』

陽介「......佐藤?」

ますき『着替え、ここに置いとくぞ。親父ので悪いけどな。』

陽介「あ、あぁ。ありがとう。」

 

 佐藤はそう言うと着替えを置いて風呂場を出ていった。

 

陽介(ここじゃ駄目だ。佐藤の家族に迷惑がかかる。)

 

 死ぬなら誰もいない、静かな場所で。

 そう思いながら、俺は風呂からあがった。

__________________

 

 風呂を上がると、夕飯の用意がされてた。

 

ますき「__お、あがったか。座れよ。」

陽介「お、おう。」

 

 俺は佐藤に言われて席に座った。

 

ますき父「じゃあ、食べようか!いただきます!」

ますき「いただきます。」

陽介「いただきます。」

 

 夕飯を食べ始めた。

 今思えば、久し振りに病院食以外を食べる。

 そして......

 

ますき父「__いやー、ますきが男を連れてきたときは焦ったなー!」

ますき母「そうねぇ。」

ますき「だから違うって言ってんだろ。」

 

 こうやって、誰かと一緒にご飯を食べるのが久しぶりだ。

 そして、家族のぬくもりも__

 

陽介「__!!」

 

 ガチャン!

 茶碗を落としてしまった。

 

陽介「す、すいません。」

ますき母「大丈夫よ?」

ますき「大丈夫か、出水?」

陽介「は、はい。」

ますき父「人間失敗なんていくらでもあるさ!あはは!」

ますき母「そうよ。この人みたいにいくら失敗しても明るく生きてる人がいるもの!」

ますき父「待て、どういうことだ!?」

ますき母「つまり、そういう事よ。」

ますき「まぁ、そうだな。」

ますき父「ますきまで!?」

陽介(......暖かい家族だな。)

 

 心の底からそう思う。

 皆が笑いあってて、楽しくて。

 

陽介(......俺だって。)

 

 俺だってついこの間まで、こんな風に......

 

 俺は食事を済ませた後、どうすればいいか迷ってた。

 

ますき「おい、出水。」

陽介「どうした?」

ますき「ついてこい。」

陽介「あぁ。」

 

 俺は佐藤について行った。

__________________

 

ますき「__というわけで、お前にはここで寝てもらう。」

陽介「ここって......」

 

 扉には『ますき』と書かれた札がある。

 ここはますきの部屋だ。

 

陽介「いや、まずいだろ。流石に同級生の男を入れるのは。」

ますき「大丈夫だ、むしろ、今お前を一人にする方がまずいっての。」

陽介「っ......!」

 

 心臓が飛び跳ねた。

 そして、自分のさっきの行動を思い出した。

 

ますき「まぁ、入れよ。」

陽介「......あぁ。」

 

 俺は佐藤の部屋の入った。

__________________

 

陽介「これは。」

 

 部屋にはぬいぐるみが大量にある。

 全体的にファンシーさを醸し出す部屋は佐藤の外見イメージとはかけ離れたものだった。

 

ますき「......なにか言いたそうな顔をしてるな。」

陽介「い、いや。そんな事ないぞ?」

ますき「まぁ、言いたいことは分かる。見た目とイメージが違う、とかだろ?」

陽介「」

 

 佐藤はエスパーかなんかか?

 さっきから心を読まれてる気がする。

 

ますき「まぁ、いいけどな。私は風呂入ってくる。」

陽介「あ、あぁ。」

 

 そう言って佐藤は部屋から出ていった。

 俺は床に座った。

 

陽介「......よく考えれば、佐藤に似合ってるよな。可愛い物。」

 

 俺はそう呟いた。

 佐藤は可愛いし、優しいし。

 普通なら、好きになってたかも......なんてな。

 

ますき父『__陽介君。』

陽介「佐藤のお父さん?」

 

 俺が答えると、佐藤のお父さんは部屋に入ってきた。

 

陽介「あの、何かありましたか?」

ますき父「陽介君にお礼を言いたくてね。」

陽介「?」

 

 佐藤のお父さんは真面目な表情だ。

 

ますき父「ますきを助けてくれてありがとう。」

陽介「!」

ますき父「もしも、ますきを失ってたら、そう思うと背筋が凍るよ。ありがとう、陽介君。」

陽介「......いえ、当然の事ですよ。友達が危なかったんですから。」

ますき父「そうか。」

 

 佐藤のお父さんはそう言うと、また口を開いた。

 

ますき父「陽介君には感謝してる。でも、謝らないといけない。」

陽介「え?」

ますき父「君の左目。」

陽介「!」

ますき父「ますきに聞いたよ。庇ったときに......」

陽介「そんな、気にしないでいいですよ。名誉の負傷ってやつですよ。」

ますき父「俺たちには君に返しきれないほど恩がある。困ったことがあったらいつでも力になるよ。」

陽介「......ありがとうございます。」

ますき父「それじゃあ、ゆっくりしていってくれ!」

 

 そう言って佐藤のお父さんは部屋から出ていった。

 

陽介(......本当にいいんですよ。あってもなくても変わらないから。)

 

 そう、もう俺には左目があろうがなかろうがどうだっていい。だって__

 

陽介(__俺はもう、終わりを選ぶから。)

 

 俺がそう思って、しばらく時間が経つと、佐藤が部屋に帰ってきた。

 

ますき「__ふー、さっぱりした。」

陽介「おかえり、佐藤。」

ますき「あぁ。って、もうこんな時間か。」

 

 時計を見ると、もう12時近い。

 

ますき「寝るか。」

陽介「そうだな。」

ますき「確か、予備の布団があるから出すかー。」

陽介「俺がやろうか?」

ますき「私もやるよ。」

 

 俺と佐藤は予備の布団を出して敷いた。

 そして、部屋の電気を消した。

 

陽介(......今日に限れば、暗い方が落ち着くな。)

ますき「__起きてるか、出水?」

陽介「どうした?」

 

 布団に入ってから少し経つと、佐藤が話しかけてきた。

 

ますき「起きてたのか。」

陽介「あぁ。どうしたんだ?」

ますき「......ごめん。」

陽介「?」

ますき「私のせいでお前の目は......」

陽介「あー、その事?別にいいって。」

ますき「よくねぇ。」

陽介「?」

ますき「私はお前の人生を壊したんだ。いいわけねぇよ......」

陽介「......それこそ、どうでもいいよ。」

ますき「え?」

陽介「ますきは助かったんだ。それでいいじゃないか。」

 

 俺は笑いながらそう言った。

 

陽介「助かってラッキーくらいに思っててくれよ、な?」

ますき「......お前も絶対、救ってやるからな。」

陽介「......」

ますき「じゃ、おやすみ。」

陽介「あぁ、おやすみ。」

 

 それから、俺たちの会話はなくなった。

 窓からは月明かりが入ってきて、とても綺麗だ。

 

陽介(佐藤、ごめん。)

 

 俺は佐藤の方を見た。

 穏やかな表情で寝てる。

 俺はそれを見て起き上がった。

 

陽介(俺は、誰にも救えないよ。)

 

 俺は寝てる佐藤に「ありがとう。」と言った。

 そして、俺は書置きを残し、佐藤の家を出た。

 




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手招き

”やみすぎ問題”

ますき「うちの主人公が病み過ぎてる件について。」

陽介「しかたないだろ。」

ますき「まぁ、そうだな。」

陽介「そんなこんなで、このシリーズで初めてなわけだが。」

ますき「まぁ、ここでごちゃごちゃ言っても仕方ないな。」

陽介「そうだな。」

ますき「というわけで、本編開始だ。」


 ”ますき”

 

 朝、目を覚ますと、そこにあるはずの気配はなかった。

 布団は丁寧にたたまれてて、もう起きてるのかと思った。

 

ますき「__おーい、出水ー。」

 

 呼んでも返事がない。

 私は体を起こした。

 

ますき「いない?」

 

 私は部屋を見回した。

 

 机の上に何かの紙がある。

 私はそれを手に取った。

 

『佐藤へ

わざわざ、泊めてくれてありがとうな。

異性の俺を部屋に入れるなんて嫌だっただろうに。

そして、一晩、すごい楽しかった。

家族愛ってやつを見れて、綺麗だって思ったよ。

でも、俺は駄目だった。

そんな綺麗なものを見てるのに息が出来なくなっちまった。

俺の事は探さなくてもいい、忘れてもいい。

お父さんとお母さんによろしく言っといてくれ。』

 

 おかれてた紙にはそう書かれてあった。

 

 気づいたら家を駆けだしてた。

 探さなくていい、そう書いてあった。

 けど、探さないといけない気がした。

 それくらい、あいつの雰囲気は危うかった。

 

ますき(馬鹿野郎が!)

__________________

 

 ここは、どこだろう?

 

 夜からずっと歩いて、たどり着いたのは全く知らない場所だった。

 

陽介(......ま、どこでもいいや。)

 

 ここに来るまで、夜の街で色々なものを見た。

 非行をしてる子供。

 浮気をしてる大人、それが見つかって大喧嘩をしてる夫婦。

 

 どれも、普通、見ていて気持ちのいいものじゃない。

 でも、今の俺にはそれがどうも落ち着いた。

 俺の親のような、人間の本質を見てる気がして、心が落ち着いた。

 

陽介「......どうかしてるな、俺。」

 

 佐藤の家族は暖かかった。

 俺なんかを受け入れてくれて、優しくしてくれて。

 

 そう思う、でも、俺が息苦しくなった。

 息が出来なくて、まるで水の中にいるみたいだった。

 

陽介(俺はどこに向かってるんだろう。)

 

 あてもないまま歩いて、今いるのは全く知らない場所。

 俺は何のために、外に出たんだ?

 

陽介「そっか......」

 

 思い出した。

 

陽介「__俺は死にたいんだった。」

__________________

 

 ”ますき”

 

ますき「__くそっ!」

 

 家を駆けだしてから、しばらく経っちまったがあいつの手掛かりがつかめねぇ。

 もしかしたら、想像より遠くに行ってるのか。

 

ますき(どこだ、どこにいやがるっ!)

 

 私はあたりを見回した。

 

ますき「!」

 

 ある方向を向いた時、不思議な感覚に襲われた。

 一瞬、そこに出水がいた気がした。

 

ますき「なんだ、今のは......?」

 

 困惑した、が、私は走り出してた。

 根拠はない、でも、この先にあいつが、出水がいる気がしたんだ。

__________________

 

陽介「__寝てた、のか?」

 

 俺は道端にあるベンチで目を覚ました。

 どうやら、歩き疲れて眠ったらしい。

 俺は周りを見た。

 

陽介「ここは、バス停?しかも、山の近く?」

 

 俺は周りを見た。

 道路の途中にポツンとある、古びたバス停。

 

陽介「なんで、こんなところに......?」

 

 俺は近くにあったガードレールの下を見た。

 

陽介「!」

 

 下には、人のようなもの......いや、人がいる。

 

陽介「なんで、あんなところで寝てるんだ?」

 

 いや、違う。

 死んでる、じゃなきゃ、あんなところで寝るわけない。

 しかも、一人じゃない。

 何人も、ここで......

 

陽介「......ここなら。」

 

 俺は何かを感じ取った、ここを超えれば俺は死ねる。

 

陽介(そうか、俺はここで......)

 

 俺はガードレールに手をかけた。

 しかし、止まった。

 

陽介「動かない......なんでだ......?」

 

 死ぬのが怖い。

 生きる希望がないとしても、飛び降りて死ぬなんて怖いに決まってる。

 

陽介(俺生きて何になる。)

 

 親に捨てられて、目も無くなって。

 もう、俺は普通に生きられない。

 俺の人生にもう価値なんて残ってない。

 

 そう思うと、突然、体が軽くなった気がした。

 

『こっちにおいで。』

 

 下からそんな声が聞こえてきた気がした。

 何かに手招きされてるように、体が勝手に動く。

 もう怖くない。

 

陽介(生まれ変わったら、裏切りなんてない。幸せな__)

ますき「__出水!」

陽介「佐藤......?」

ますき「何してやがる!戻れ!」

陽介「っ!」

 

 下からの手招きがなくなった気がした。

 逆に、後ろ髪をひかれてるような、そんな感覚に襲われた。

 

陽介「なんで、ここに?」

ますき「分かんねぇ!勘だ!」

陽介「ははっ、めちゃくちゃだな。」

 

 そうしてる間に佐藤は俺に近づいてきた。

 

ますき「てめぇ、何やってやがる!」

陽介「......さぁな。」

ますき「分かるぞ、お前、死のうとしてたんだろ?」

陽介「!」

ますき「バカ野郎が!」

 

 佐藤はかなり怒った様子だ。

 なんで、赤の他人の俺なんかのために。

 

陽介「俺の事は気にしなくてもいいよ。」

ますき「お前がそう思っても私は気になんだよ!」

 

 佐藤は俺の胸倉を掴んできた。

 

陽介「......俺はもう、普通に生きれないよ。だって、もうこんなだからさ。」

 

 俺はそう言った。

 

陽介「だから、俺はいない方がいいんだよ。」

ますき「ふざけんな!」

陽介「!」

ますき「私にはお前の親に捨てられた苦しみなんて理解出来ねぇ!」

陽介「だったら、ほっといて__」

ますき「でもな、目を失った苦しみは分からないじゃ済まねぇんだよ!」

陽介「目......」

ますき「私にはまだ、責任が残ってんだよ!」

 

 佐藤は手に力を込めた。

 

ますき「お前が生きる意味を見失うのも、何となくわかる!親がいなけりゃ寂しい!」

陽介「親......」

ますき「でも、生きてりゃ、もしかしたら、お前が救われる日が来るかもしれねぇだろ!」

陽介「救われる?俺が?」

ますき「あぁ。」

陽介「ありえないよ。」

ますき「そんなの分かんねぇだろ!未来なんて何が起こるか分かんねぇだろ!」

 

 佐藤は俺の目をまっすぐ見てる。

 その目はとても鋭くて、逃がさない、そう言ってるようだ。

 

ますき「そんな可能性がある未来を自分から放棄すんじゃねぇよ!バカが!」

陽介「......」

ますき「お前がまだ、生きたくないってんなら。こうしろ。」

陽介「......?」

ますき「私のために生きろ!」

陽介「!?」

 

 俺は呆気にとられた。

 佐藤のために生きろ?意味が分からない。

 

ますき「私はまだお前に対する責任を果たしてねぇんだよ。だから、私が責任を果たすために生きろ。」

陽介「佐藤......?」

ますき「その間にお前が本当に生きる意味を見つければいい。」

陽介「......」

ますき「分かったか!」

 

 佐藤は物凄い圧をこっちにかけてくる。

 

陽介「は、はい......」

 

 俺はそう答える事しか出来なかった。

 

ますき「じゃあ、戻るぞ!」

陽介「お、おう。」

ますき「って言っても、家じゃ息苦しいんだよな。どうするか......」

 

 佐藤は考えてるようだ。

 

ますき「......よし、思いついた。」

陽介「?」

ますき「お前に住む場所をやるよ、とっておきのな。」

陽介「?」

 

 俺は佐藤の言葉の意味を理解できなかった。

 が、この後すぐに理解することになる。

 

 

 

 




”次回登場?”

チュチュ「さぁ!出番よ出番!」

パレオ「そうですね!チュチュ様!」

チュチュ「私達がどんな役回りで出てくるのか、楽しみにしてなさい!」

パレオ「チュチュ様はいじられ役ですよ♪」

チュチュ「え......?」

パレオ「嘘です☆」

チュチュ「な......!パレオー!」

パレオ「申し訳ございませ~ん!次回に続きまーす!」

チュチュ「こらー!待ちなさい!」


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引き取り手

”お互いをどう思ってる?”

陽介「佐藤はいい人だと思うよ。俺のために色々してくれるし。」

ますき「あいつは命の恩人だ。そして、大きな責任がある。」

陽介「気にしなくてもいいよ。」

ますき「ばか、気になんだよ。」

陽介「ほんとに、義理堅いよな。」

ますき「ばか、普通だ。」

陽介「ま、本編始めるか。」

ますき「そうだな。」

 本編開始


ますき「ここだ。」

陽介「ここは?」

 

 俺が連れてこられたのはかなり大きな建物。

 見た感じはかなり綺麗だ。

 

ますき「入るぞ。」

陽介「おう。」

 

 俺と佐藤は建物に入った。

__________________

 

 エレベーターを上がって、来たのは屋上だ。

 そこには大きいプールがあって、何の施設かよくわからない。

 

陽介「ここは何の施設なんだ?」

ますき「スタジオだ。私らのバンドが練習してるな。」

陽介「スタジオ?」

ますき「あぁ。」

陽介「じゃあ、なんでここに来たんだ?」

ますき「お前の絶好の引き取り手がいるんだよ。」

陽介「?」

 

 俺は疑問に思いつつ、佐藤について行った。

 少し歩くと、建物に着いた。

 

ますき「チュチュ、パレオ、いるか?」

陽介(チュチュ?パレオ?なんだそれ?)

チュチュ「__マスキング!」

パレオ「まっすーさん!」

陽介「!?」

 

 佐藤が呼ぶと、奥からヘッドフォンをつけた女の子と髪がかなりカラフルな女の子が来た。

 

陽介「佐藤、この二人は?」

ますき「お前の引き取り手だ。」

陽介「何?」

 

 見たところ、カラフルな子は分からないが、ヘッドフォンの子は子供だ。

 とても人を引き取るようには見えない。

 

チュチュ「マスキング、そっちの人は誰?」

パレオ「まっすーさんの彼氏ですか?」

ますき「ちげぇよ。まぁ、こいつの話である事に変わりはないが。」

チュチュ「......何か訳がありそうね。その眼帯も。」

ますき「......あぁ。」

チュチュ「奥に来なさい。ゆっくり話しましょ。」

陽介(雰囲気が違う?見た目からは想像できないくらい雰囲気が大人だ。)

 

 俺は奥の方に進む三人について行った。

__________________

 

 奥に来ると、本当にスタジオがあった。

 まるでプロが使ってるみたいな雰囲気だ。

 

チュチュ「それで、話って何かしら?」

 

 チュチュは体に合わない大きな椅子に座ってそう言った。

 パレオは横に控えてる。

 

ますき「実は、こいつを引き取ってほしいんだ。」

チュチュ「what!?」

陽介(そりゃ驚くだろ。)

 

 チュチュは一瞬取り乱したが、すぐに落ち着きを取り戻した。

 

チュチュ「なるほど、ここから何かあるわけね。」

ますき「あぁ。」

チュチュ「話してみなさい。」

ますき「こいつはこの前話した事故で私を助けてくれた奴だ。眼帯はその時につぶれた目を隠すためのだ。」

チュチュ、パレオ「!」

 

 二人は目を丸くした。

 まぁ、普通の反応だな。

 

ますき「そして、こいつは親に捨てられた。」

チュチュ「え!?」

パレオ「なんでですか?」

ますき「それは......」

 

 佐藤は俺の方を見た。

 きっと、俺に気を使ってるんだろう。

 本当に優しいやつだな。

 

チュチュ「......まぁ、話ずらいなら話さなくてもいいわ。」

ますき「わりぃな。」

 

 チュチュも察したようで、それ以上の言及はしなかった。

 

ますき「今のこいつは身寄りがねぇ。だから、せめて雨風を凌げる場所をやりてぇんだ。」

パレオ「それで、ここに来たと言うわけですね!」

ますき「あぁ、そういう事だ。」

チュチュ「そう。」

 

 チュチュはそう言うと、立ち上がって俺の方に近づいてきた。

 

チュチュ「出水陽介だったわね?」

陽介「あぁ。」

チュチュ「いろいろ言いたいことはあるけれど、私たちのドラマーを助けてくれてありがとう。」

陽介「!」

パレオ「チュチュ様!」

 

 チュチュは頭を下げた。

 

陽介「いや、そんなことしなくていい。俺がするべきと思ってしたから。」

チュチュ「でも、あなたは目を失ってるわ。」

パレオ「そうです!普通は目がなくなったらそんな穏やかでいられませんよ!」

陽介「そうなのか?」

チュチュ「マスキングのあなたの引き取りの話、受け入れるわ。」

陽介「!」

チュチュ「これは、マスキングの所属するバンドのプロデューサーとしてのけじめよ。」

パレオ「そうですね!チュチュ様!」

 

 なんか、あっさり引き取ってくれるみたいだ。

 

チュチュ「......そう言えば。」

陽介「?」

チュチュ「陽介、あなた、料理は出来るかしら?」

パレオ「あ!」

陽介「料理?出来るが。」

チュチュ「Good!!!」

パレオ「素晴らしいです!ようさん!」

陽介「え?」

チュチュ「素晴らしい戦力だわ!」

ますき「どうしたんだ?」

チュチュ「何を隠そう、私とパレオは料理が出来ないわ!」

ますき「は?」

パレオ「助かりますー!インスタント生活から脱出です!」

陽介「お、おう、よかったな?」

 

 何故か喜ばれてる。

 一応、家事は全部できるが。

 

チュチュ「でかしたわ、マスキング!」

パレオ「ありがとうございます!まっすーさん!」

ますき「お、おぉ?」

陽介「......これでいいのか?」

ますき「いいんじゃねぇか?喜ばれてるし。」

 

 佐藤は俺の目を見た。

 

ますき「お前は自分が生きる意味を見つけるんだぞ。分かったか。」

陽介「あぁ。分かってる。」

ますき「間違っても、勝手に死のうなんて考えるなよ。」

陽介「しないよ。」

 

 俺はチュチュとパレオの方を見た。

 

陽介「あの二人に迷惑はかけられないから。」

ますき「......あっそ。(その顔が危ういってんだよ。たくっ)」

陽介「佐藤?」

ますき「なんでもねぇよ。(まぁ、これからあいつらとも会うし、何か変わるといいが。)」

陽介(しばらくは、持つか......?)

チュチュ「これからよろしく頼むわ!陽介!」

パレオ「よろしくお願いします!ようさん!」

陽介「あぁ、よろしく。チュチュ、パレオ。」

 

 こうして、俺の引き取り手が見つかった。

 これから先、どうなるんだろうか。




”RASのお二方”

レイ「私達って出番いつなんだろうね?」

六花「物語も始まったばかりですし、これからじゃないでしょうか?」

レイ「そうだね。じゃあ、どんな役回りだろうね?」

六花「分かりませんね?」

レイ「六花は間違いなく......ね?」

六花「え?なんですか......?」

レイ「......don't waste your breath.」

六花「え!?」

レイ「次回に続くよ。ご、ごめんね、六花!」

六花「えぇ!?」


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対面

”今回出番のお二人”

レイ「今回は私たちの出番だよ。」

六花「はい!」

レイ「やっとRASが全員揃ったね。ここから、物語が動くね。」

六花「どんな役回りか、楽しみです!」

レイ「そうだね。......六花の場合は特に。」

六花「え?」

レイ「あの子も出てくるし、頑張ってね六花。」

六花「はい?」

レイ「じゃあ、本編開始だよ。」

「朗報」
ますき、お嬢様学校に通っている模様。
制服、めちゃくちゃ可愛かったです。
アニメ3期1話とても良かったです。


チュチュ「__ここが陽介の部屋よ!」

陽介「おう。」

 

 チュチュに俺が暮らす部屋に案内された。

 かなり広くて、俺にはもったいないな。

 

チュチュ「それで、お願いがあるの。」

陽介「あれだろ、飯作ってだろ?」

チュチュ「YES!」

パレオ「いいですか?」

陽介「やるよ、引き取ってくれたお礼だ。少しでも役に立つよ。」

チュチュ「そんなに自分を卑下する事ないわよ?楽に過ごしてちょうだい。」

パレオ「そうですよ!私達はもうファミリーですよ!」

陽介「っ!......ふぁ、ファミリーか。そうか......」

チュチュ「どうしたの?」

陽介「なんでもないよ。」

 

 家族、その単語は確実に俺の心をえぐってくる。

 怖いんだ、家族って言葉が。

 

陽介「ともかく、俺は夕飯の用意をするよ。何がいい?」

チュチュ「陽介に任せるわ。」

パレオ「私もお任せします!」

陽介「そうか。じゃあ、買い物に行ってくるよ。」

チュチュ「なら、これを持って行っておきなさい。」

陽介「財布?」

チュチュ「今、お金持ってるの?」

陽介「あっ。」

チュチュ「......どうやって買い物する気だったの?」

パレオ「ようさんはおっちょこちょいですね!」

陽介「ははっ、そうかもな。」

チュチュ「ともかく、はい。」

陽介「ありがと。」

 

 俺はチュチュに財布を受け取った後、台所を確認してから買い物に出た。

__________________

 

 スーパーについた。

 意外と近くにあってチュチュの家の立地はいいなと思った。

 

陽介(えっと、足りなかった調味料と......あ、野菜の特売してるまとめて買っとくか。)

 

 チュチュから渡された財布にはそれはもう大量に金が入ってた。

 とても年齢が中学生の子が扱う金額じゃない。

 

陽介(チュチュなら大丈夫だろうけど、一応、気を付けるように言っとくか?)

 

 仮に何かの事件に巻き込まれたりしたら大変だし、注意喚起は必要だな。

 

陽介「今日のメニューは初日だし、嫌いな人が少ないカレーだな。多く作っても何日かに分けられるし。何より、野菜が安い、肉も安い。」

 

 それから俺は結構な時間夕飯の買い物をしてた。

 そして、レジに行った。

 

店員「__お預かりします__って、え!?」

陽介「?」

 

 店員さんは俺を見るなり驚いた顔をした。

 どうしたんだろ?

 

店員「目、目が......」

陽介「目?」

 

 俺は自分の目周辺を触った。

 

陽介(あれ?眼帯がない?)

 

 間違いなく、チュチュの家を出るまではあったはずだ。

 どこで取れたんだ?

 何より、なんで気付かなかった?

 

 俺はそう思ったが、すぐに目を隠した。

 

陽介「......すみません。会計をお願いします。すぐに帰るので。」

店員「は、はい。」

 

 店員さんは慣れた手つきでレジを打っていった。

 俺は出た代金を払い、すぐに店を出た。

__________________

 

 俺は急ぎ足でチュチュの家に向かっていた。

 そんな中、俺はこんなことを思っていた。

 

陽介(__チュチュの心配してたけど、今、一番異常なのは俺なんだよな......)

 

 俺は自分の左目に意識を集中させた。

 もちろん、何も見えないし、何も感じない。

 

陽介(ともかく、早く帰らないと。これ以上、誰かに見られたりしたら__)

?「__きゃっ!」

陽介「!」

 

 歩いてると、左側から来てた人にぶつかった。

 気づかなかったから、俺も踏ん張れずに転んでしまった。

 

陽介「す、すいません。」

?「い、いえ、私も考え事をして__!」

 

 ぶつかったのは綺麗な銀髪の女の子だった。

 俺を見て驚いた顔をしてる。

 

陽介(やばい、見られた。)

?「あ、あの、その左目__」

陽介「す、すいません、急いでいるので失礼します。」

?「ちょ、ちょっと__」

 

 俺は女の子の声を無視して歩を進めた。

 

?「あの目は一体なんなの......?」

 

 そして、俺は今の自分の異常さを自覚した。

 

陽介(店員の人もさっきの女の子も、俺を見て驚いた顔をしてた。)

 

 そりゃそうだ、目がない人間なんて以上に異常に決まってる。

 怖いと思ったり驚いたりするのは当たり前だ。

 

陽介(感覚がマヒしてたんだ。皆がみんな佐藤やチュチュ、パレオとは違う。)

 

 隠さないといけない。

 人の目に移したら駄目だ。

 

陽介(早く、帰らないと。眼帯の予備もある。)

 

 俺はチュチュの家に急いだ。

__________________

 

陽介「__ただいま。」

 

 家に帰ってきた。

 でも、誰からも返事がない。

 

陽介「おーい、チュチュー、パレオー?」

 

 俺は奥に進んでいった。

 そして、スタジオに来た。

 

チュチュ「__ONCE More」

陽介「?」

 

 スタジオにチュチュはいた。

 そして、その奥には__

 

陽介「佐藤とパレオ......と、誰なんだ?」

 

 俺が立ち尽くしてると、腹に響いてくるような衝撃が伝わってきた。

 演奏が始まったんだ。

 

陽介(な、なんだこれ......体が揺れてる?でも、すっごい上手い。)

 

 荒々しい、でも、どこか繊細な感じ。

 バンドをしてるって言ってたけど、これが......

 

陽介「す、すごい......」

チュチュ「__ストップ。」

 

 しばらく、演奏をすると、チュチュの合図で演奏が止まった。

 

チュチュ「休憩よ。各自休んで。」

 

 チュチュがそう言うと、向こうの部屋から四人が出て来た。

 

ますき「あー、疲れた。」

パレオ「今日も素晴らしいドラムでした!」

レイ「お疲れ、皆ー。」

六花「お疲れ様です!」

パレオ「あ!ようさん!おかえりなさい!」

陽介「お、おう。」

 

 パレオがこっちに気付いた。

 

チュチュ「おかえりなさい。意外と時間がかかったわね?」

陽介「あ、あぁ。」

六花「あの、そちらの方は......って、その左目!?」

陽介「!(しまった、油断した!)」

 

 俺はとっさに左目を隠した。

 

ますき「出水、眼帯はどうした?」

陽介「わからん。でも、予備が部屋に。」

ますき「じゃあ、取り合えず取ってこい。な?」

陽介「あぁ、分かった。」

 

 俺は左目を隠しながら部屋に呼びの眼帯を取りに行った。

__________________

 

陽介「__怖がらせてすまなかった。」

 

 予備の眼帯をつけて戻ると、俺はすぐに頭を下げた。

 

六花「い、いえ!頭をあげてください!」

レイ「そうだよ。完全に事故みたいだし。」

ますき「それよりも、眼帯なしで外歩いて大丈夫だったのか?」

陽介「......やばいかも。」

チュチュ「まぁ、仕方ないわよ。気付かない事なんてあるもの。」

パレオ「ロックさんはこの前眼鏡を見失ってましたし!」

六花「そ、そんな事も覚えてるんですか!?」

陽介「あ、あはは。」

 

 佐藤とチュチュとパレオは分かる。

 でも、二人は誰なんだ?

 見た感じはボーカルとギターだったけど。

 

レイ「あ、自己紹介してなかったね。私は和奏レイ。RASではレイヤって呼ばれてるよ。」

六花「朝日六花です!ロックと呼ばれています!」

陽介「出水陽介。チュチュの家の居候になった。」

 

 自己紹介を済ませた。

 二人は慣れたようで、俺の目にはそれ以上触れることはなかった。

 

ますき「二人にも一応話しとくが、こいつは__」

 

 佐藤は俺の事情を二人に話した。

 俺に気を使ってかなりオブラートだった。

 でも、二人には上手く伝わったみたいだ。

 

六花「ひ、ひどいです!」

レイ「考えられないね。」

ますき「まぁ、そういう事だから。こいつと仲良くしてやってくれ。」

レイ「もちろんだよ。」

六花「はい!」

チュチュ「なんか、マスキングが陽介の母親みたいね。」

陽介「っ!!」

 

 ガタッ!

 

ますき「出水!?」

陽介「はっ!......はぁ、はぁ......」

レイ「す、すごい汗よ!?どうしたの!?」

パレオ「ようさん、大丈夫ですか!?」

六花「落ち着いてください!出水さん!」

チュチュ「パレオ!水を持ってきて!」

パレオ「はい!」

 

 この時の記憶は残ってない。

 でも、俺は恐怖に支配されて息が出来なくなって、溺れてるみたいな感覚になった。

 

陽介「__もう、大丈夫。」

 

 どのくらい時間が経ったのか、俺は落ち着きを取り戻した。

 

チュチュ「でも、なんで急にあんな......」

ますき「......まさか。」

レイ「ますき?」

ますき「出水、部屋に戻っておいてくれ。」

陽介「え?」

ますき「お前のためだ。戻っとけ。」

陽介「わ、分かった。」

 

 俺は佐藤に言われた通り、部屋に行った。

 

 ”RAS”

 

チュチュ「それで、マスキング。何が分かったの?」

ますき「あぁ。ただの予想なんだが。」

 

 ますきは難しい顔をしてる。

 

ますき「あいつは今、家族、親とかそう言う単語が怖いんじゃないかなってな。」

六花「怖い、ですか?」

ますき「あぁ。あいつのあの様子を見て分からないか?」

レイ「確かに、高所恐怖症の人とかはああなってた記憶はあるけど。」

ますき「そう言う事だ。」

パレオ「つまり、対人恐怖症という事ですか?」

ますき「それはない。実際に私らとは話せてる。」

チュチュ「じゃあ何?家族恐怖症とでもいうの?」

ますき「そう言う方があってるかもな。」

六花「そんなことが......」

 

 家族恐怖症。

 これほど悲しい恐怖症があるだろうか。

 本来なら、心を許せるはずの家族が怖いのだ、心がいつ壊れても不思議じゃない。

 

レイ「そんなになるまで追いつめられるなんて......」

六花「可哀そうすぎます!」

チュチュ「......私達じゃどうにもできないわ。」

ますき「あぁ。」

パレオ「なんとか、傷が癒えてくれればいいのですが......」

ますき「こればかりはあいつ次第だからな。でも、手助けくらいはできる。」

チュチュ「そうね。私とパレオも日ごろから気にかけておくわ。」

パレオ「はい!」

レイ「私も色々話してみるよ。」

六花「私も何かできる事があれば!」

ますき(出水、何とか耐えろよ。私らが絶対に助けになってやるからな。)

 

 RASと陽介の生活はこうして始まった。

 

 そして、もう一つの出会いも動き出す___

 

 




”?の人”

?「今回、私がだれか分かったかしら?そう、私よ。

謎の眼帯の男、少し興味が出たわ。誰なのかしら?

これから私もこの物語の歯車になるようね、

どんな結末の向かって行くのかしら......

まぁ、いいわ。次回に続くわよ。」


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銀髪の女の子

RASはそれぞれどこのバンドのファンなのか。

レイ:ポピパファン(おたえファン)

六花:ポピパファン(予定調和)

ますき:平等に全てのファン。(全員可愛いから。)

パレオ:パスパレファン(予定調和)

チュチュ:ロゼリア、ポピパファン(ぶっ潰すぶっ潰すも好きの内)

 ポピパ、5分の4


 早朝、俺は厨房に立っていた。

 

 理由は朝食を作ることだ。

 

 居候の身なので、誰よりも早く起きて、家事をこなさないといけない。

 

陽介(それにしても。)

 

 ここの居候になってから、早一週間。

 

 RASの皆はすごく親切にしてくれる。

 

 チュチュとパレオは俺を嫌がることなく、笑顔を向けてくれて、良くしてくれるし。

 

 佐藤は練習で来るときに手作りのお菓子を持ってきてくれる。

 

 和奏と朝日はベースやギターを教えてくれる。

 

陽介(多分、佐藤が皆に何か言ってくれてるんだろうな。)

 

 皆、本当に優しい。

 

 なんで、俺なんかのために。

 

パレオ「おはようございます!」

チュチュ「おはよ。」

陽介「あ、おはよう。二人とも。」

 

 朝食をちょうど作り終えたタイミングで二人が来た。

 

陽介「用意出来てるから、座って待っててくれ。」

パレオ「はい!」

チュチュ「分かったわ。」

 

 俺はすぐにさらに盛り付けて二人に持っていった。

 

パレオ「__いただきます!」

チュチュ「いただくわ。」

 

 配膳を済ませると、二人はすぐに食べ始めた。

 

パレオ「美味しいですねー!」

陽介「そうか。」

 

 二人はいつも、俺の一般的な料理を褒める。

 

 別に特別美味しいわけでもないのに。

 

チュチュ「ほんとに毎日助かるわ。」

陽介「まだ一週間だぞ?」

チュチュ「それにしてもよ。」

パレオ「ようさんは料理の天才ですね!」

陽介「天才の安売りはやめような?」

 

 俺はそう言いながら、洗い物を進めた。

 

陽介(母さんの料理は、もっと......)

 

 美味しかった。

 

 俺の料理は駄目だ。

 

 全くおいしくない、味がしない。

 

 あんなの、駄目だ。

 

陽介「__っ。」

 

 考え事をしながら洗い物をしてると、指を切った。

 

 皿が少しだけ欠けてたみたいだ。

 

陽介(ま、いっか。)

チュチュ「ちょっと、陽介!?」

陽介「?」

チュチュ「指、切ってるじゃない!」

陽介「そうだな?」

チュチュ「そうだな、じゃないわよ!パレオ!救急箱!」

パレオ「はい!」

チュチュ「ありがとう。さぁ、指を出しなさい。」

 

 俺はチュチュの勢いに押されて手当てを受けることになった。

 

チュチュ(本当にマスキングが言ってた通りね。自分の事は全く意に返してないわ。)

パレオ「大丈夫ですか?」

陽介「大丈夫だよ。このくらい。」

チュチュ「ほんとに、もう少し自分に気を使いなさい。」

陽介「切っただけだって。」

 

 チュチュは何と言うか、細かい事にも気を使ってくれる。

 

 こんなのすぐに治るのにな。

 

チュチュ「ほんと、心臓に悪いわ。そもそも__」

 

 チュチュは文句を言いながら、指にばんそうこうを巻いてる。

 

パレオ「ようさんはようさんですよねー。」

陽介「いや、どういうことだよ。」

チュチュ「はい。終わったわよ。」

陽介「ありがと。」

チュチュ「あ、陽介?」

陽介「ん?」

 

 俺が家事に戻ろうとすると、チュチュに呼び止められた。

 

チュチュ「今日はもう、家事はいいわ。」

陽介「なんでだ?」

チュチュ「今日は少し出かけましょ。」

陽介「?」

 

 出かける?

 

チュチュ「だから準備しておいて。」

陽介「うん、わかった。」

パレオ「あ!あそこですね!」

陽介「?」

 

 チュチュとパレオの言ってる意味は分からないが、家主の意向に従うべきだし、用意しておくか。

__________________

 

 少し時間が経つと、家を出る時間になった。

 

 俺はチュチュとパレオと外に出た。

 

陽介「__それで、どこに行くんだ?」

 

 道中、俺はチュチュにそう聞いた。

 

 結局、目的地は聞かされていない。

 

チュチュ「あるバンドのライブよ。」

陽介「ライブ?」

パレオ「はい!チュチュ様が大好きなロゼリア、というバンドです!」

チュチュ「違うわよ!ロゼリアはぶっ潰すの!」

陽介「チュチュ?あんまり危ない事はするなよ?」

チュチュ「マジな反応するのやめなさい!」

 

 なんだろう、この妹感は。

 

パレオ「それでは、行きましょー!」

チュチュ「そうね。」

陽介「あぁ。」

 

 俺たちはチュチュが言うライブハウスに向かった。

__________________

 

 ライブハウスに着き、中に入ると、ものすごい熱気に包まれていた。

 

 ロゼリアって言うバンドはそんなに人気なのか?

 

チュチュ「そろそろ出てくるわよ。」

パレオ「楽しみですねー!」

陽介(チュチュの身体が跳ねてる。楽しみなんだな。)

 

 俺がそんな事を思ってると、ロゼリアと思われる5人が出て来た。

 

陽介「あ、あれは。」

チュチュ「どうしたの?」

陽介「あの、ボーカルの子......」

 

 見たことあるぞ、あの綺麗な銀髪。

 

 あの子は......

 

 メンバー紹介だ。

 

 ギター、氷川紗夜。ベース、今井リサ。ドラム、宇田川あこ。キーボード、白金燐子。

 

リサ『__そして、我らがボーカル、湊友希那!』

 

 そう呼ばれると彼女は少し頭を下げ、こう言った。

 

友希那『行くわよ、BLACK SHOUT』

 

 彼女がそう言うと、演奏が始まった。

 

 すごい演奏だ。

 

 RASの演奏もすごい、けど、それにも負けてない。

 

チュチュ「あれが、私達がぶっ潰すバンドのリーダー、湊友希那よ。」

陽介「湊、友希那......」

 

 出来れば、もう、関わりたくなかった。

 

パレオ「どうしました?ようさん?」

陽介「い、いや、なんでもない。」

 

 だって、湊友希那には俺の左目を見られてるから。

 

 そう思ううちに、演奏が終わった。

 

チュチュ「__さて、挨拶にでも行ってやろうかしら。」

パレオ「殴り込みですね!」

チュチュ「挨拶よ!挨拶!」

陽介「っ......」

チュチュ「どうしたの?」

陽介「い、いや、なんでもない。」

チュチュ「じゃあ、行きましょ。」

パレオ「はい!」

 

 俺はチュチュの後ろについて、ロゼリアのもとに向かって行った。

 

 俺は彼女に、どんな顔をさせてしまうんだろう......

 

 




 ここではRASの事を思いついたら書きます。

”アニメでRASのキャラが出た時の第一印象”

レイ:花ちゃん!?

六花:可愛い(確信)

ますき:かっこいい。

チュチュ:なんかかわいい子出て来た。

 一貫していえる事。
 バンドリにしては珍しいキャラが多い。


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湊友希那

 心臓が動き過ぎて逆に止まりそうだ。

 

 なんせ、今から左目を見られた湊友希那の前に行くのだ。

 

 親の事、この間の店員の事を考えると、呼吸がしずらくなる。

 

チュチュ「__あ!湊友希那!」

陽介(......なんか、嬉しそうだな。)

 

 チュチュは嫌いと言ってたが、絶対にこれは好きだな。

 

チュチュ「止まりなさい!ロゼリア!」

友希那「あなたは、RASの?」

パレオ「はい!チュチュ様とパレオです~!」

紗夜「何の用ですか?また、ぶっ潰すですか?」

あこ「え!?こわっ!?」

燐子「だ、大丈夫だよ......」

チュチュ「今日は私が直々に挨拶に来たのよ!」

 

 チュチュは物凄いどや顔でそう言った。

 

友希那「挨拶?わざわざありがとう。」

チュチュ「ふふん!もっと感謝しなさい!」

リサ「あはは~、ありがとね~。」

 

 てか、すごいな。

 

 さっきまでライブをしてたバンドが目の前でそろい踏みしてる。

 

友希那「それと、後ろの彼はあなた達の仲間かしら?」

陽介「!」

 

 まぁ、気付きますよね。

 

 流石に無視するは駄目だし、俺も挨拶しとこ。

 

陽介「はじめまして。出水陽介です。」

チュチュ「私のもう一人の従者よ!」

陽介「......居候です。」

友希那「あなた、その眼帯......」

陽介「......」

 

 流石に気付くよな。

 

 前は眼帯がなかったにしても、この辺りで左目に眼帯をつけた男なんて一体、何人いるんだろう。

 

友希那「あなた、あの時の?」

陽介「人違い、って言っても通じないですよね。」

友希那「えぇ。だって。」

 

 湊友希那は持っていたカバンから俺が今つけてるのと同じ眼帯を出した。

 

陽介「な、なんで!?」

友希那「この前ぶつかった時、あなたから落ちたの。」

陽介「まさか。」

 

 そんなところにあるなんて。

 

 あの時は焦りすぎて周りが見えてなかったのか。

 

友希那「これは一応、返しておくわ。」

 

 湊友希那は俺の方に近づいてきた。

 

陽介「っ......」

 

 後ずさってしまう。

 

 近くに人が来るのが怖い。

 

 俺を近くで見て、気味悪そうな顔をするのを想像するのも怖い。

 

友希那「なんで逃げるの?」

陽介「それは......」

紗夜「さっきから失礼ではありませんか?目も合わせませんし、その上、落とし物を拾ってもらった相手から逃げるなんて。」

陽介「そ、それは......」

 

 呼吸が上手くできない、冷や汗も止まらない。

 

 視界もグラグラしてきた。

 

チュチュ「ちょっと、やめなさい!」

陽介「ちゅ、チュチュ......?」

 

 庇うみたいに、チュチュが俺の前に立ってる。

 

リサ「これは、訳アリってかんじだね。」

紗夜「ですが、これは......?」

パレオ「ようさん、大丈夫ですか?」

陽介「だ、大丈夫。ありがとう。」

 

 呼吸が戻ってきた。

 

チュチュ「陽介は、私たち以外とはほとんど話せないの。あまり近づかないであげて。」

あこ「話せないって?」

チュチュ「......あまり、話すことじゃないわ。」

 

 チュチュは気を使ってか、俺の事を話そうとしない。

 

 パレオもだ。

 

友希那「あなた、陽介と言ったかしら?」

陽介「は、はい......」

 

 湊友希那は俺に近づいてきた。

 

陽介「っ!!」

友希那「落ち着いて。大丈夫よ。」

 

 彼女は優しい声でそう言った。

 

 元々、声が綺麗なのも相まってすごく、落ち着く感じがする。

 

友希那「恐らくだけれど、人が怖いのは、その左目からよね?」

陽介「......はい。」

友希那「大丈夫。私はあなたの目を気味悪がったりしていないわよ。」

陽介「!」

 

 彼女は俺の頭に手を乗せて、撫で始めた。

 

友希那「大丈夫、大丈夫。」

陽介「......」

 

 なんでだろう。

 

 普通だったら、こんな距離、絶対に耐えられないのに。

 

 逆に安心感が生まれてくる。

 

友希那(恐らくだけれど、この子は......)

 

 彼女は慈愛に満ちた目をしてる。

 

 その目はまるで......

 

チュチュ「陽介!?」

パレオ「どこか痛いんですか!?」

陽介「いや、痛くない。」

チュチュ「じゃあ、なんで泣いてるの!」

陽介「?」

 

 俺は自分の頬を触った。

 

 濡れてる?

 

陽介「......雨か?」

チュチュ「いや、涙よ。」

友希那「ふふっ。」

陽介「?」

友希那「面白いわね、つい、笑ってしまったわ。」

 

 彼女はそう言うと、仲間の方に戻って行った。

 

友希那「眼帯は返したわね?」

陽介「はい。ありがとうございました。」

友希那「それじゃあ、また会いましょう、陽介。」

陽介「機会があれば。」

友希那「また、そこの二人についてライブに来るといいわよ。それじゃあ、また。」

 

 彼女は少し笑ってそう言った後、仲間と帰って行った。

 

 俺はその背中を茫然と見ていた。

 

チュチュ「だ、大丈夫なの?」

陽介「あぁ......」

パレオ「彼女がロゼリアの湊友希那様ですが、いかがでしたか?」

陽介「不思議な人、だった。」

 

 近くに来ても、不快感がまるでなかった。

 

チュチュ「湊友希那は平気だったの?」

陽介「あぁ。」

チュチュ「......そう。」

 

 チュチュは少し複雑そうな顔をした。

 

 どうしたんだろう。

 

チュチュ「今日は帰りましょ。」

パレオ「はい!」

陽介「分かった。」

 

 俺たちはチュチュの家に帰って行った。

__________________

 

 ”ロゼリア”

 

リサ「__それにしても、不思議な子だったね~。」

 

 帰り道、リサはそう口を開いた。

 

 陽介の事だ。

 

紗夜「それにしても、あの態度は何だったのでしょうか?」

あこ「うーん。りんりんみたいに人見知りとか?」

燐子「す、少し違うかも......あれは本当に怖がってたような......」

友希那「気付いていないの?」

リサ「え?」

 

 友希那の意外な発言にリサを始めとしたメンバーは驚いた声を上げた。

 

紗夜「どういう事ですか?」

友希那「多分、彼は対人恐怖症よ。」

燐子「対人、恐怖症......?」

友希那「えぇ。この間ぶつかった時、彼はひどく慌てていたわ。多分、自分が怖がられてると思ってるのよ。そして。」

燐子「......?」

友希那「......彼、多分、親がいないわ。」

リサ、紗夜、あこ、燐子「!?」

 

 友希那の一言に他のメンバーの肩が跳ねた。

 

 親がいないというのは、普通の感覚ではありえないからだ。

 

友希那「居候って言っていたでしょう?あくまで想像なのだけれど。」

リサ「じゃあ、対人恐怖症だとしてもさ、なんで友希那は大丈夫だったの?」

紗夜「そうです。私なんて話しかけただけで怖がられましたし。」

燐子「それは、氷川さんが......悪いです。」

紗夜「え?」

あこ「あれは紗夜さんが怖かったですね。」

紗夜「......」

 

 紗夜は黙り込んでしまった。

 

友希那「......なんでかしら?」

あこ「友希那さんの不思議な力、とか?」

友希那「ありえないわ。」

燐子「でも、さっきの友希那さんは......とても、優しく感じました。」

リサ「分かる分かる!もしかして友希那、一目ぼれした?」

友希那「違うわよ......」

 

 友希那はため息をつきながら、否定の言葉を口にした。

 

友希那「ただ......」

 

 友希那は目をつぶった。

 

友希那(あんなに、おびえた顔をした人間を初めてみて、可哀想に思った。)

リサ「友希那?」

友希那「......なんでもないわ。」

 

 そう言って友希那は歩きだした。

 

友希那(もう一度、会う事があれば......)

 

 友希那はそう思いながら、歩いた。

 

 ”二人”

 

友希那(出水陽介。)

陽介(湊友希那。)

 

陽介、友希那『__彼女(彼)は一体何だったんだ?(のかしら?)』

 

 この出来事から、陽介の運命の歯車はゆっくりと動き出していった。

 

 良い方にも、悪い方にも......




”今回の友希那”

リサ「ねぇ、紗夜ー?」

紗夜「はい?」

リサ「今回の友希那の事なんだけどさ。」

紗夜「はい?」

リサ「なんか、母性を感じたんだよね。」

紗夜「母性?」

リサ「何となくだけど。」

紗夜「......そう言えば。」

リサ「だよね!」

紗夜「ですが、湊さんが?」

リサ「友希那も女の子なんだよ!」

紗夜(それはそうですが。じゃあ、それを引き出した彼は一体?)


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第二の消失

ますき「__出水、いるか?」

陽介「佐藤?」

 

 いつも通り、朝食をとってると佐藤が入ってきた。

 

チュチュ「どうしたの?マスキング?」

ますき「今日は出水を迎えに来たんだ。」

パレオ「ようさんをですか?」

 

 チュチュとパレオは目に見えて困惑してる。

 

 多分、この時期だし、あれかな。

 

ますき「出水、そろそろ学校行くぞ。」

チュチュ、パレオ「!」

陽介「あぁ、やっぱりか。」

 

 そろそろ登校しないと単位もまずいだろうしな。

 

陽介「用意はしてたよ。むしろ遅いと思った。」

ますき「お、そうか。じゃあ、着替えとかしてきてくれ。」

陽介「了解。」

 

 俺は制服に着替えに行った。

 

 ”チュチュ、パレオ、ますき”

 

チュチュ「......大丈夫なの?」

 

 陽介が部屋を出て行くと、チュチュが口を開いた。

 

 神妙な表情だ。

 

ますき「あぁ?何のことだ?」

チュチュ「陽介が人前に出ても大丈夫なのか聞いてるの。」

パレオ「パレオも心配です。」

ますき「私も出来る限りカバーする。あいつは友達がそこそこいる奴だったし、大丈夫かもしれない。」

チュチュ「そういう事なら......」

パレオ「大丈夫、でしょうか?」

 

 多少の不安はあるが、陽介の人生に関わるのでチュチュとパレオは強く言えない。

 

 流石に高校を卒業できないのはまずい。

 

陽介「__お待たせー。」

ますき「お、早かったな。」

陽介「男の着替えなんて、そんな時間かからないからな。」

チュチュ「陽介、気をつけなさいよ。」

陽介「おう。」

パレオ「知らない人について行ったら駄目ですよ?」

陽介「いや、俺は小学生か?」

ますき「まぁ、行こうぜ。出水。」

陽介「分かった。じゃあ、行ってくるよ、チュチュ、パレオ。」

 

 俺はそう言って、佐藤と一緒に家を出た。

__________________

 

 なんだかんだ、進級して学校に行くのは2回目だ。

 

 かなり久し振りに感じる。

 

 言っても、まだ4月なんだけどな。

 

陽介「__おぉ。」

 

 学校に着いた。

 

 すっごい懐かしい。

 

ますき「そんなに物珍しいもんでもないだろ。」

陽介「いや、久し振りで感慨深いんだよ。」

 

 そうそうこんな感じの校舎だった。

 

 新鮮な気持ちで見ると綺麗に見えるな。

 

ますき「ほら、行くぞ。」

陽介「了解。」

 

 俺と佐藤は校内に入った。

 

 校舎までの道って異様に長い。

 

陽介(なんだか、妙に見られてるような?)

ますき(んだよ、うぜぇな。)

 

 校舎に向かってる間、佐藤の目がいつもより鋭い気がした。

__________________

 

 教室に来た。

 

 まだ席替えもしてないみたいで、そのままだった。

 

陽介(やっぱり、見られてる?って、あれは。)

 

 視界の端に友達の姿が見えた。

 

陽介「よっ!久しぶり!」

男子「......おう。」

男子2「......久しぶりだな。」

陽介「久しぶり!」

男子「わりぃけど、俺らちょっと行くわ。」

男子2「またな。」

陽介「え?」

 

 二人は俺が話しかけると教室から出て行った

 

 どうしたんだろ?

 

陽介(トイレか?)

ますき「......」

__________________

 

 それから、俺は普通に学校生活を送った。

 

 でも、前までと違って誰にも話しかけられることはなかった。

 

 そして昼休みになった。

 

陽介(あれか?夏休みに久しぶりに会った友達に話しかけずらいとか、そう言う感じか?)

『__2年B組、出水君。今すぐ職員室に来てください。』

陽介「俺?まぁ、行こ。」

 

 俺は席を立って、職員室に向かった。

 

 ”ますき”

 

ますき(私も一旦、休憩にするか。職員室にいる間は安心だし。)

 

 ますきもそう思って、教室を出て行った。

 

クラスメイト「......」

__________________

 

 職員室の用事を終えて俺は教室に戻っていた。

 

 休んでる間のプリントとか、ノートとか色々なものを貰った。

 

 ......まぁ、案の定、良い顔はされなかった。

 

陽介(まぁ、流石に事情を知ってたらな。)

 

 そう思ってるうちに教室に着いた。

 

陽介「......?」

 

 教室に戻ると、異様な雰囲気に包まれていた。

 

 全員の視線が集まってる。

 

陽介(まぁ、いっか。昼飯食べよ。)

 

 俺は席について鞄の中を見た。

 

陽介「あれ?」

 

 弁当箱がない。

 

 朝、弁当箱が入ってるのは確認したし、忘れたって事はないはず。

 

男子「__どうしたよ、陽介。」

陽介「何故か弁当箱がなくてな。忘れたわけはないんだが。」

男子2「へぇ、大変だな。」

 

 本当にどこ行ったんだろう。

 

女子「__そろそろさ、演技必要ないよね?」

陽介「?」

 

 話したこともない女子だ。

 

 てか、演技ってどういう事だ?

 

女子「弁当のある場所、教えてあげるよ。」

 

 女子はそう言ってある方向を指さした。

 

 ゴミ箱、だ。

 

陽介「!」

 

 俺はゴミ箱の方に駆け寄った。

 

陽介「......これは。」

 

 ゴミ箱の中には弁当箱ごと弁当がぶち込まれていた。

 

 でも、誰がこんな......

 

女子「いい加減気付きなよ。」

陽介「気付く?」

女子「あんた、なんで生きてるのって思われてるんだよ?」

陽介「え?」

 

 なんで生きてる?

 

 なんでそんなこと聞くんだろう。

 

男子「正直、あんな大事故に巻き込まれて生きてるってのもわけわかんねぇし。」

男子2「片目がない人間とか気味悪いし。」

女子2「そんな奴いたら、学校の品格疑われるし。」

女子3「死んでてくれた方がよかったよねー。」

陽介「ど、どいう事だ......?」

女子「分かんないの?」

 

 分かるか分からないかと言われれば分かる。

 

 でも、信じたくない。

 

 友達は、友達だけは裏切らない、絶対に......

 

 そう信じたかった。

 

女子「もうさ、学校辞めて死んだら?」

陽介「っ!」

女子「気持ち悪いんだよ。お前なんてこの学校に相応しくない。」

 

 女子のその声にこたえるように、他の奴らが言ってきた。

 

 「死ね。」「消えろ。」「辞めろ。」

 

 そんな声が重なって、ノイズのように聞こえてくる。

 

「__そんなのだから、親に捨てられるんだよ!」

 

 ノイズの中から、そんな声が聞こえて来た。

 

 その時、俺の心が何かに沈んでいくような気がした。

 

陽介「......っ!!!」

 

 俺は教室を出た。

__________________

 

 ”ますき”

 

ますき「はぁ、少し時間かかっちまった。出水は戻ってっかな。」

 

陽介「__」

 

ますき「出水?」

 

 向こうから出水が走ってきた。

 

ますき「おい、廊下走るとあぶねぇぞ。って、おい!出水!」

 

 私が声をかけても反応せず、通り過ぎていった。

 

 待て、あの表情。

 

 嫌な予感がする。

 

 私はそう思って、すぐに教室に戻った。

 

女子「__あはは!案の定だったね!」

男子「走って逃げやがったよ!だっせ!」

 

 教室に戻ると、そんな話声が聞こえた。

 

ますき「......おい、お前ら。」

女子「佐藤さん?どうしたの?」

ますき「お前ら、出水に何した......!」

 

 私は真ん中で話す女子に詰め寄った。

 

男子「おい!何やってんだ!」

女子2「言いがかりはやめなよ!」

ますき「じゃあ、案の定ってなんだ?そんで、ゴミ箱の中にあいつの弁当箱見えたんだが、お前ら、全員グルって事でいいんだよな。」

 

 私がそう言うと、全員が黙った。

 

 こいつら

 

女子「はぁ、うっぜ。」

ますき「!」

女子「私達があいつの弁当捨てて、そんなんだから親に捨てられるんだよって言ったら走って行った、これでいい?」

ますき「!!!」

 

 こいつ、今なんて言った?

 

 親に捨てられるだと?

 

女子「放してくれない?」

ますき「......クズどもが。」

女子「は?」

ますき「人の心の傷抉って何が楽しいんだよ!お前ら、全員人間じゃねぇ!」

男子「じゃあ、あいつは人間なのか?」

ますき「あ?どういう事だ?」

男子2「片目無くなった奴なんかより、俺らの方が真っ当な人間だと思うけどなー?」

女子「正直、私ならあんなになったら生きてらんないよ。」

女子3「だから、私達は助けてあげたんだよ?あんな生き恥晒したような奴を。」

 

 生き恥?

 

 こいつらは何言ってる?

 

ますき「......恥って、何のことだ?」

女子「片目無くなって、まともに社会復帰も出来なさそうなあれの存在そのものだけど?」

男子「何か間違ってる?」

ますき「......」

 

 存在、そのもの?

 

 あれは私のせいだ、なんであいつが悪く言われなきゃいけない?

 

ますき「......何が恥を晒すだ。」

女子「なに?」

ますき「何もせず、のうのうと生きて、甘い蜜を吸い続けて。他人をいじめることを楽しむような奴らの方が恥をさらして生きてると思うがな。それが真っ当なのか?知らなかった。」

女子2「はぁ?」

 

 私は馬鹿にするような声でそう言った。

 

 こいつらは何もわかってないんだ。

 

 あいつの苦しみも何もかも。

 

 親に捨てられたのだって、あいつは一切悪くない。

 

 親がクズだったんだ。

 

ますき「この、恥さらしどもが。」

男子「だから恥はあいつ__」

ますき「私がお前らみたいな事したら、太陽の下大腕振って歩けねぇよ!!!随分立派な精神だな!!!社会の恥さらしども!!!」

 

 私はそう吐き捨てて教室を出た。

 

ますき(早く、出水を追いかけねぇと!)

 

 私は走って学校を出て行った

__________________

 

 ”陽介”

 

 息が苦しい。

 

 地上にいるのに、水の中にいるような感覚。

 

陽介「はぁ......はぁ......」

 

 景色が揺れてる、気持ち悪い。

 

 上手く、息が出来ない

 

陽介(こ、ここはどこだ?__!)

 

 体が、動かなくなった

 

 俺は道の真ん中で倒れ込んだ

 

 全身がマヒして、立ち上がることもできない

 

陽介「うっ......ぐっ......」

 

 苦しい。

 

 なんだ、これ

 

 風の音、木が風邪で揺れる音、全てがノイズに聞こえる

 

 空気もうまく吸えないし、据えても吸い過ぎる

 

陽介(駄目、だ......)

 

 死ぬかも、そう思った

 

 普通はこんなことで死ぬわけない、でも、死ぬかもしれないと思うんだ

 

陽介「まだ、駄目、だ......」

 

 俺は心臓を抑えた。

 

 止まるな、動け、そう訴えるように力を込めた

 

陽介(佐藤と、約束してる、破っちゃダメだ......)

 

 でも、俺の意識は遠のいて行く

 

 俺の意思ってやつは関係ないらしい

 

陽介(誰、か......)

 

 声が出せない

 

 もがくことしかできない

 

陽介(く、くそ__)

?「__陽介!?」

 

 俺の名前を呼んでる

 

 誰だろう

 

??「ちょ!顔真っ青じゃん!」

?「起きて!陽介!」

陽介「だ、れ......」

?「意識があるわ!」

??「取り合えず、場所を移さないと!」

?「え、えぇ。」

 

 俺は誰かに動かされてるような感覚と一緒に意識を失った




記念イラストのセリフにとても感動しました。

皆さんは見ましたか?

全員のセリフがそれぞれ心に刺さってくる感じで、本当によかったです



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新しい場所

 夢を見た

 

 そこは暖かい家庭で、母さんも父さんもいて

 

 カーテンからは優しい光が差し込んでて、テーブルには温かいご飯がある

 

 笑顔で俺と父さんを呼ぶ母さん、それに眠い目をこすって答える

 

 3人で囲む食卓には笑顔があった

 

 父さんがいつも通り美味しいって褒めて、母さんが何回も聞いたと笑いながら答える

 

 そのやり取りを見て、俺も笑みがこぼれる

 

(__あれ?)

 

 そんな光景が段々、暗くなっていく

 

 いつしか、食卓には俺一人しかいなくて、笑顔もなく淡々と食べ続けてる

 

(3人で食卓囲んだの、いつが最後だっけ?)

 

 あの光景がまるで、遠い昔のようなことに感じる

 

 暗い世界に俺はたった一人残されて、いつか、温かいご飯も消えて

 

 俺には、何も残ってくれなかった......

__________________

 

陽介「__う、ん......?」

 

 俺はどこか知らない場所で目を覚ました

 

 少なくとも、病院とかじゃない

 

陽介(ここは、どこだ?)

友希那「起きた?」

陽介「あなたは......」

友希那「久しぶりね、陽介。」

陽介「湊友希那さん......?」

 

 横を見ると、湊友希那さんが座っていた

 

 あの声はこの人だったのか

 

陽介「あの、ここは......?」

 

 何とか声が出る

 

 さっきに比べれば、まだ調子も戻ってる

 

友希那「ライブハウスよ。ここが一番近かったから。」

 

 そうか、わざわざ運んでくれたのか

 

 重かっただろうに

 

友希那「それにしても、なんであんなところで倒れてたの?」

陽介「それは......うっ!」

 

 起き上がろうとすると、ひどい頭痛がした

 

友希那「急に起き上がったらダメよ。」

 

 彼女はそう言いながら、俺の頭を押さえた

 

友希那「大丈夫?」

陽介「あ、ありがとうございます。」

 

 少しずつ、頭痛が治まってきた

 

 彼女は俺の頭を撫で続けてる

 

友希那「顔色は良くなったわね。」

 

 彼女は頷きながらそう言った

 

リサ「__友希那ー、飲み物買ってきたけどどれがいい?」

友希那「リサ。」

陽介「っ!」

 

 あれは、ベースの今井リサさん、だったはず

 

 俺は体が勝手に動いて後ずさってしまった

 

陽介「......っ。」

 

 変な汗が流れてくる、湊友希那さんは大丈夫だったのに、なんでだ

 

友希那「リサは大丈夫よ。」

陽介「は、はい。」

リサ「あはは、ほんとに苦手なんだね。」

 

 今井リサさんは苦笑いだ

 

 湊友希那さんは相変わらず優しい目を俺に向けてる

 

リサ「ま、まぁ、これ飲みなよ!」

 

 そう言って、飲み物をくれた

 

陽介「あ、ありがとうございます。」

 

 俺は飲み物を受け取った

 

 一口飲むと、かなり落ち着いてきた

 

陽介「......ふぅ。」

友希那「それで、あんなところで倒れてたの?」

リサ「しかも、あんな時間に。」

陽介「それは......」

 

 俺はこの二人に話すべきなんだろうか

 

 あんな話を聞かされても、気分を悪くするだけだ

 

友希那「......学校に行ってたのよね。」

陽介「......はい。」

リサ「もしかして、そこでも人が怖かったとか?」

陽介「いえ。」

友希那「じゃあ、どうしたの?」

陽介「......話すことではないです。」

友希那「そう......」

 

 彼女は俺の方を見てる

 

 ずっと、優しい目のままだ

 

友希那「でも、何か悲しい事があったのよね。」

陽介「!」

 

 彼女はそう言って、俺の頭を撫でた

 

友希那「話してみなさい。相談なら乗るわ。」

陽介「......」

 

 なんで、この人はこんなに安心するんだろう

 

 分からない

 

 この人なら大丈夫かもって思う

 

陽介「......学校に俺の居場所はなかったです。」

友希那「どういうこと?」

陽介「皆、俺が死んでればよかった、片目がなくて気味が悪いって、そんなのだから親に捨てらるって、そう言ってました。」

友希那「っ!」

リサ「な、何それ......?」

陽介「でも、そんなものなんだと思います。RASの皆が特別だったんです。」

 

 普通の人間は俺なんて拒否反応が起きる

 

 俺の親だって、普通の人間だったんだから

 

陽介「俺はもう、あの場所には行けません。だから、学校はやめます。」

リサ「えぇ!?それじゃあ、どうするの!?」

陽介「分かりません。考えます。」

リサ「か、考えるって......」

 

 考えると言っても、選択肢は少ない

 

 どこかで働くか、どうするか

 

チュチュ「__陽介!」

パレオ「ようさん!」

ますき「出水!」

六花「出水さん!」

レイ「出水君!」

陽介「え?皆?なんで?」

 

 ライブハウスの中にRASの皆が入ってきた

 

 探してくれてたのか

 

チュチュ「マスキングから連絡が入ったの。」

六花「学校から飛び出して行っちゃったって......」

パレオ「事情も聴いています。なんてひどい奴らなんでしょう!」

レイ「大丈夫?」

ますき「悪い。私が目を離したばっかりに。」

陽介「いや、大丈夫だよ。」

 

 気づけば、心は少し軽くなってた

 

 落ち着いてる、大丈夫

 

チュチュ「陽介、もうあの場所に行くのはやめておきなさい。」

陽介「チュチュ?」

チュチュ「あなたはあんな場所に行くべきではないわ。あそこはゴミだめよ。」

ますき「あいつらは全員、教師に突き出す。」

陽介「まぁ、元々そのつもりだったよ。」

 

 じゃあ、これからどうしよう

 

 前提として、働くことは確定だな

 

 もう一度、別の学校に行くのは現実的じゃないし

 

六花「でも、学校をやめたら、どうするんですか?」

陽介「働くよ。どこかで。」

チュチュ「あら?あなたは転校するのよ?」

陽介「え?」

友希那「転校?」

チュチュ「えぇ。」

陽介「いやいや、学費とか色々かかるし。俺にはそんな金ないぞ。」

チュチュ「No Problemよ。私が肩代わりするわ。」

陽介「いやいやいや。流石にまずいだろ。ただでさえ居候なのに。」

 

 流石にそこまで邪魔になれない

 

 俺は働かないといけない

 

チュチュ「そう言うと思ったわ。」

パレオ「だから、チュチュ様はこんなリストを用意していたんです!」

陽介「リスト?」

 

 パレオは俺に紙を渡してきた

 

 それには通う学校とバイト先の事が書いてる

 

チュチュ「選びなさい。どこでもいいわ。」

パレオ「チュチュ様は将来的に学費分を返していただければいいと言っています!」

チュチュ「そうよ。」

友希那「どこが候補なの?」

 

 湊友希那さんも紙を覗き込んだ

 

陽介「花咲川、羽丘、か。」

チュチュ「羽丘には学年が下だけどロックがいるわ。ある程度は安心だと思うけれど。」

六花「お二人もいますよ。」

陽介「二人?」

友希那「私達よ。」

リサ「一個上だけどねー。」

ますき「じゃあ、羽丘でいいじゃねぇか。」

レイ「学食もいいらしいし、いいんじゃない?」

 

 どっちに行ってもさほど変わらないな

 

 じゃあ、羽丘にしようか

 

陽介「......じゃあ、羽丘にするよ。」

チュチュ「オッケー。」

陽介「バイト先はギャラクシーにするよ。ライブハウスだよな?」

チュチュ「あら、そう。」

陽介「ちょうどいい距離だしな。」

六花「あ、私もいますよ!」

陽介「六花も?」

 

 六花って意外と多忙なのか?

 

 大変そうだな

 

陽介「出来るだけシフト入って、すぐに返すよ。」

チュチュ「失敗しない事ね。」

パレオ「チュチュ様は焦らなくてもいいと言っています!」

チュチュ「パレオ!」

 

友希那「よろしく、と言っておくわ。陽介。」

リサ「よろしくね!」

陽介「よろしくお願いします。湊友希那さん、今井リサさん。」

友希那「長いわ。」

陽介「え?」

友希那「呼び方が長いわ。」

 

 長い、か

 

 じゃあ、どうするか

 

陽介「じゃあ、湊さんと呼びます。」

友希那「......まぁ、いいわ。」

リサ(あれ?なんか残念そう?)

 

 俺はチュチュの方に顔を向けた

 

陽介「ありがとうな、チュチュ。」

チュチュ「別にいいわよ。どのみち返すんだからお相子よ。」

陽介「そっか。」

 

 そんなこんなで、俺は転校することになった

 

 果たして、俺はどうなるんだろうか

 

友希那「......」

リサ「友希那?」

友希那「何でもないわ。」

リサ「?」

友希那(何なのかしら。私の彼への対応は。)

 

 




 三周年について語りたいですねー。

色々な情報も出てきますし、モニカについても色々ありますし


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羽丘へ

陽介「__なんか、違和感あるな。」

チュチュ「あら、似合ってるじゃない。」

パレオ「よくお似合いですよ!ようさん!」

 

 あれから、試験を受けたり、手続きをしたりして、羽丘への転入が決まった

 

 今日は、初登校日だ

 

陽介「まさか、この年になって転校することになるとは思わなかったよ。」

チュチュ「この年って、まだ10代でしょ。」

陽介「まぁ、そうだけどさ。」

 

 俺はそんな会話をしながら料理をテーブルに並べた

 

パレオ「いただきまーす!」

チュチュ「いただくわ。」

陽介「おう。どうぞどうぞ。」

 

 俺はそう言いながら、自分用に置いておいた野菜の残りを口に運んだ

 

チュチュ「いつも思うけど、なんで陽介はそんなの食べてるの?」

陽介「ん?」

パレオ「いっつも、食材の切れ端ばっかりで、足りるんですか?」

陽介「足りてる足りてる。弁当もあるしな。」

チュチュ「そう。」

 

 チュチュは疑いの目を向けながら、料理を食べた

 

 二人はいつも食べてるとき、嬉しそうな顔をしてくれる

 

 作った身としては冥利に尽きるな

 

 そう思ってるうちに二人は食べ終わり、登校の用意をしていた

 

チュチュ「さて、そろそろ出るわよ。」

パレオ「はい!」

陽介「忘れ物はないか?」

チュチュ「ないわよ。」

パレオ「パレオも問題ありません!」

陽介「そうか。」

 

 俺たちは家を出た

__________________

 

 チュチュたちと分かれて、俺は羽丘に向かっていた

 

陽介(転校って、こんな感じなんだな。)

 

 すっごい緊張する

 

 湊さんと六花は別学年だし、同学年にどんな人間がいるか分からない

 

 もしかしたら、前の学校みたいに......

 

六花「__あ!出水さん!」

明日香「ちょ、六花、その人だれ?」

陽介「六花?と、誰だ?」

 

 しばらく歩いてると、後から六花ともう一人の子がいた

 

 六花の友達か?

 

六花「おはようございます。」

陽介「あぁ、おはよう。」

六花「制服、よくお似合いです。」

陽介「ありがと。」

明日香「六花、その人だれ?」

 

 後ろにいる女の子がそう言った

 

 まぁ、そりゃ不思議だよな

 

六花「この人は今日から転入する2年生の出水陽介さんだよ。」

陽介「出水陽介。よろしく。」

明日香「はい、よろしくお願いします。」

 

 俺と明日香は挨拶をした

 

 真面目そうな子、そんな印象だ

 

明日香「この人って六花とどんな関係なの?」

六花「え?」

陽介「関係?」

明日香「もしかして、恋人、とか?」

六花「!!」

 

 明日香がそう言うと、六花が固まった

 

六花「ち、ちがうよ!な、なな、何言ってるの!?///」

明日香「そうなの?六花から声をかける人だったし、親しいのかなって思ったんだけど。」

陽介「六花とはそういう関係じゃないよ。そもそも、六花みたいなかわいい子、俺なんかには勿体なすぎる。」

六花「か、かわ......っ!///」

陽介「ん?」

 

 六花は顔を真っ赤にしながら震えてる

 

 どうしたんだ?

 

六花「あ、明日香ちゃんのバカー!///」

明日香「えぇ!?私!?」

陽介「六花!?」

 

 六花は叫びながら学校の方に走って行った

 

陽介「ど、どうしたんだ?」

明日香「ま、まぁ、色々あるんですよ。」

陽介「取り合えず、俺達も学校行くか。話とか聞いて良いか?」

明日香「あ、いいですよ。」

陽介「ありがと。」

 

 俺は明日香に話を聞きながら、学校に行った

__________________

 

 学校に来ると、明日香と分かれて職員室に行った

 

 色々な説明を受けたり、必要なものを貰ったりしてるうちにホームルームの時間になった

 

 俺は担任と一緒に教室に来ていた

 

陽介「__出水陽介です。よろしくお願いします。」

 

 俺は軽く頭を下げた

 

 クラスからは拍手の音が聞こえる

 

担任「出水君の事情は話した通りだから、皆、出来るだけ仲良くしてあげてね!」

 

 どうやら、俺の事情は知ってるらしい

 

 チュチュが説明したんだろうな

 

 多分、話したのは目の事だけだろう

 

担任「じゃあ、空いてる席に座ってね。」

陽介「はい。」

 

 俺はあたりを見回した

 

 片方が見えないから、結構大きく顔を動かさないといけない

 

?「__こっちだよ!」

陽介「!」

 

 俺は声の下方向に歩いて行った

 

陽介「ありがとう。」

?「ううん!これからよろしくね!」

陽介「よろしく。」

 

 なんだろう、すごくいい子そうだな

 

 タイプで言えば、クラス委員長みたいな

 

陽介「えっと、君は?」

つぐみ「あ!私は羽沢つぐみです!」

陽介「羽沢ね。」

 

 羽沢か......って、羽沢?

 

 どっかで、その名前聞いたような

 

陽介(商店街のカフェにそんな感じの名前があったような。)

つぐみ「どうしたの?」

陽介「羽沢って、商店街のカフェの名前であったような気がして。」

つぐみ「うん!私のお家のお店だよ!」

陽介「やっぱり。」

 

 買い物の途中とか、良い匂いするんだよな

 

陽介「また今度、行ってみるよ。気になってたから。」

つぐみ「うん!お待ちしてます!」

モカ「おー、つぐ、商売上手ー」

つぐみ「モカちゃん?」

 

 羽沢と話してると、向こうから女の子が話に入ってきた

 

 喋り方、ゆっくりだな

 

モカ「やぁやぁ、転入生君ー」

陽介「あ、はい。」

モカ「あたしはモカちゃん、謎の美少女、青葉モカちゃんだよー」

陽介(え?それ自分で言うの?)

蘭「モカ、すっごい困ってるよ。」

モカ「えー?」

巴「そりゃ、急に美少女とか言われればなー。」

ひまり「困るよねー」

 

 みんながみんな、苦笑いをしながらそう言った

 

 この感じ的に、友達だろうか

 

つぐみ「この子たちはね、蘭ちゃんと巴ちゃんとひまりちゃんだよ!」

ひまり「よろしくね!いずみん!」

陽介「いずみん?」

蘭「まぁ、よろしく。」

巴「よろしくな!陽介!」

陽介「あぁ、よろしく。」

 

 さっそく5人と話せた

 

 最近の女子はかなりフレンドリーというか、コミュ力が高いんだな

 

陽介(......でも。)

 

 裏を考えてします

 

 本当は何を考えてるのか、後から何か仕掛けてくるんじゃないか、また裏切られるんじゃないか

 

 そんな考えが自然に出てきてしまう

 

担任「それじゃあ、今日も一日、頑張りましょう!」

 

 担任はそう言うと、教室を出て行った

__________________

 

 午前の授業が終わり、昼休みになった

 

 初日なだけあって、一緒に食べるやつなんていない

 

 俺は一人で弁当を広げていた

 

陽介「......」

 

 弁当を食べても、やっぱり味がうすい

 

 肉を食べれば変な感触、野菜を食べても繊維を感じるのが強い

 

陽介(なんでだ?)

モカ「じー」

陽介「......どうした?」

 

 机の横から俺の弁当箱を見てる女子が一人

 

 青葉だ

 

 獲物を狙う獣のような、欲しいおもちゃを見つけた子供のような目を向けてる

 

モカ「モカちゃんはお腹がすいていまーす」

陽介「......食べるか?」

モカ「えー?いいのー?」

陽介「いや、わざとらしいな。」

 

 俺はそう言いながら弁当箱を出した

 

陽介「ほら、予備の割りばしあるから使え。」

モカ「おー、どーもどーも。」

つぐみ「モカちゃん、何してるの!?」

モカ「ようくんにお弁当貰ってるー」

蘭「いや、やめてあげなよ。元からそんなに多くなさそうなのに。」

ひまり「そうだよ!」

陽介「別にいいよ。」

巴「男だろ?もっと食わねぇのか?」

陽介「いや?いっつもこんなもんだよ。」

 

 俺はそう言いながら、弁当のおかずを選ぶ青葉を見た

 

モカ「じゃあ、これにしよー」

 

 青葉は一つを箸で摘まみ、口に運んだ

 

モカ「__おー、これはー」

つぐみ「?」

モカ「美味しいよー」

陽介「そうかそうか。」

 

 青葉は気の抜けそうな笑顔でそう言った

 

モカ「かなり濃い味だねー。モカちゃんは好みー」

陽介「え?」

モカ「どうしたのー?」

 

 濃い味?あれが?

 

 俺は薄いどころじゃないように感じたのに?

 

蘭「どうしたの?焦った顔、してるけど。」

陽介「い、いや、大丈夫。」

 

 俺はそう言いながら、弁当のおかずを口に運んだ

 

陽介(......やっぱり。)

 

 薄い

 

 濃くないはずだ

 

巴「汗かいてるぞ?暑いのか?」

ひまり「大丈夫!?顔色悪いよ!?」

陽介「だ、大丈夫。青葉、残りは全部、食ってもいいぞ。」

モカ「え?流石にだめだよー」

陽介「もう満腹なんだ。」

モカ「うーん、そういうことならー」

 

 青葉は不思議そうな顔をしながら、弁当を食べ始めた

 

 俺は一度、呼吸を整えた

 

つぐみ「本当に大丈夫?具合が悪かったりしない?」

陽介「大丈夫だよ。」

モカ「ごちそーさまー」

ひまり「はやっ!?」

モカ「美味しかったんだよー」

陽介「そうかそうか。」

 

 美味しそうに食べてくれてよかった

 

 俺は一息ついた

 

陽介(どうしたんだ、俺?)

 

 俺は残りの学校の時間をそんな事を考えながら過ごした



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ギャラクシー

 放課後、俺はある場所に向かっていた

 

陽介「__ここか。」

 

 目の前の建物の看板には英語でギャラクシーと書かれてある

 

 下に降りる階段がある

 

 俺はそこを降りて行った

__________________

 

陽介「__こんにちは。」

 

 俺はドアを開けて、部屋に入った

 

美子「あ、こんにちは。」

 

 部屋に入ると、中にはやわらかい雰囲気の女の人がいた

 

 どう考えても、ライブハウスの店長って言う雰囲気じゃない

 

陽介「先日、お電話をさせていただいた出水陽介です。」

美子「あ、バイトの子だよね。」

陽介「はい。それで、店長さんはどこに?」

美子「店長は私ですよ?」

陽介「え?」

 

 驚いた

 

 人は見かけによらないんだな

 

美子「いやぁ、バイトの子なんて六花ちゃんから2人目だし助かるよ。」

陽介「そ、そうですか。(え?2人目?)」

 

 そんな少人数で経営をこなしてるって、すごいな

 

 確か、リニューアルオープンライブをしたばっかりだって言うし

 

美子「君の話はオーナーや六花ちゃんから聞いてるよ。」

陽介「はい。」

美子「オーナーからも許可が下りてるし、これからよろしくね。」

陽介「はい。よろしくお願いします。」

 

 俺は頭を下げた

 

六花「__お待たせしました。」

陽介「六花?」

六花「あ、い、出水さん!」

美子「こんにちは、六花ちゃん。」

六花「こんにちは!」

 

 六花は店長と同じTシャツを着てる

 

 バイトしてるって感じる

 

六花「出水さんはこれからここでバイトするんですか?」

陽介「あぁ、お世話になるよ。」

美子「慣れない事もあるだろうから、六花ちゃんも助けてあげてね。」

六花「は、はい!」

美子「じゃあ、陽介君にも制服を渡しておくね。」

陽介「はい。」

 

 俺は店長について行った

 

 その後、Tシャツを受け取り、俺は店の方に出た

__________________

 

美子「陽介君の事はある程度聞いてるから、何かあったら遠慮なく言ってね?」

陽介「......はい。」

 

 俺はそう言われた後、掃除を始めた

 

 そんなに複雑な事でもないし、簡単だ

 

六花「__あの、出水さん?」

陽介「うん?」

 

 掃除の途中、六花が話しかけて来た

 

六花「羽丘は、どうでしたか......?」

 

 六花は心配そうにそう聞いてきた

 

 気にしてくれてたのか?

 

陽介「今のところは楽しかったよ。」

六花「そうですか。(今のところは......)」

陽介「あぁ。」

 

 俺はそう言うと、掃除を再開した

__________________

 

 一通り、掃除が終わった

 

 後は、機材の確認をしたりするよう言われていた

 

陽介「えっと......」

 

 マニュアル通り、機材の確認をしてる

 

 項目にある部分を確認、問題がなければチェックをつける

 

 どうなってたら問題があるとか、そう言う事は詳しく書かれてるし、そんなに困ることはなかった

 

陽介「__これで終わりかな。」

 

 しばらく、作業を続けてると確認はだいたい終わった

 

六花「あっ。」

陽介「六花?」

六花「ここ、チェックしておいてください。」

陽介「え?」

 

 俺は六花が指さすところを見た

 

 確かにそこには、確かに変な部分があった

 

六花「ここは、項目には入ってないですが、とても大切な部分なんです。」

陽介「なるほど。」

 

 俺は六花に話を聞くと、チャックを入れた

 

 それにしても......

 

陽介「それにしても、六花はこんなところに気付いたのか?」

六花「はい。前に音が少しおかしいと思って確認してみたら、項目の部分は何も問題なくて、項目にない部分を見てみたら見つかって。」

陽介「へぇ。」

 

 そういう事にも気を付けておかないとな

 

陽介「六花は視野が広いな、すごいよ。」

六花「いえいえ!そんな!」

 

 六花は激しく否定した

 

六花「でも。」

 

 そのさなか、六花は静かにこう言った

 

六花「私はその時、何かを探すのに一つのものに囚われちゃいけないって思いました。色んなものに目を向けて、色んな可能性を探るのが、大切なのかなって。」

陽介「なるほど。」

六花「あ、ご、ごめんなさい!偉そうに!」

陽介「いや、ためになったよ。ありがとう。」

 

 これからバイトを続けるのに大切な知識を得られた

 

美子「__二人ともー、今日ももうあがっていいよー」

六花「は、はい!」

陽介「わかりました。」

 

 俺と六花は更衣室に向かった

__________________

 

 俺は着替え終わり、帰ろうとしていた

 

陽介(買い物は今日は大丈夫だな。)

 

 そんな事を思いながら、出口の方に歩いていた

 

六花『__きゃー!!!』

陽介「六花!?」

美子「六花ちゃん!?」

 

 バタン!!!

 

 六花の悲鳴が聞こえたのと同時に更衣室から、六花が飛び出してきた

 

陽介「!」

 

 俺はとっさに目を伏せた

 

 なんでかって?

 

 六花が下着のまま飛び出してきてるからだ

 

六花「む、虫、虫がぁ!」

美子「分かった!分かったから隠して!陽介君いるから!」

六花「出水さん......って、きゃあ!///」

陽介「見てない!俺は何も見てない!!」

 

 俺は目を伏せたままそう言った

 

 その後、俺は虫を駆除し、六花は服を着て、事態は収束した

 

 こうして、慌ただしく、初日のバイトが終わった



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生徒会室にて

 転入すると、意外とやることが多い

 

 内容は主に書類を書いたりだ

 

陽介「__えっと、ここだな。」

 

 俺は提出する書類を持って生徒会室に来ていた

 

 扉をノックし返事があったので、部屋に入ることにした。

__________________

 

陽介「__失礼します。って、あれ?」

 

 部屋に入ると、そこには誰もいなかった

 

 確かに、入るときに返事はあった、誰かはいるはずだ

 

陽介(見た感じ、隠れれる場所はあの机の下くらいか?)

 

 俺はそう思い、生徒会長が使ってそうな机に近づいた

 

陽介「これで隠れてたら面白いな。」

 

 俺はそう言いながら、机の下を覗き込んだ

 

 でも、そこには誰もいなかった

 

陽介「あれ?」

?「__何してるの?」

陽介「!!」

 

 俺が顔をあげると、目の前には女子生徒がいた

 

 さっきまで、誰もいなかったのに

 

陽介「い、いつからそこに?」

?「君が入ってきたときから、ずっと後ろにいたよ!」

陽介「え?」

 

 全く気付かなかった

 

 なんだ、この人?

 

?「それにしても、なんで机の下なんて覗いてたの?」

陽介「返事があったのに誰もいなかったので、机の下にでも隠れてるのかと思ったんですよ。」

?「......」

 

 俺がそう言うと、その女子生徒は黙ってしまった

 

?「あはは!面白いね!君!」

陽介「え?」

?「小学生じゃないんだから、そんなとこ隠れるわけないじゃんー!」

 

 その女子生徒は大笑いしながらそう言ってる

 

 まぁ、もっともだな

 

 俺も流石に冗談半分だったし

 

陽介「それで、生徒会長はどこにいるんですか?」

?「あたしだよ?」

陽介「?」

?「あたしが生徒会長だよ!」

 

 その女子生徒は元気にそう言った

 

 どう見ても生徒会長って感じじゃないが、見かけによらないってこともある

 

?「君の事は知ってるよ、出水陽介君だよね!転入してきた!」

陽介「はい、そうですが。」

?「うん!そうだよね!」

 

 女子生徒は笑顔を浮かべながら、椅子に座った

 

日菜「あたしは生徒会長の氷川日菜だよ!よろしくね!」

陽介「あ、はい。よろしくお願いします。」

 

 俺は軽く頭を下げた

 

日菜「書類を持ってきたんだよね?ちょーだい!」

陽介「はい、どうぞ。」

 

 俺は持ってきた書類を出した

 

 氷川さんはそれを受け取ると、中身を確認した

 

日菜「......うん!記入漏れはないね!」

陽介「早いですね。」

日菜「まぁ、見るだけだし!」

 

 俺はそう言われると、生徒会室を出ようとした

 

日菜「あ、待ってよ!」

陽介「はい?」

日菜「少し話をしよ!」

 

 氷川さんはそう言うと、椅子から立ち上がり、こっちに近づいてきた

 

 正直、あんまり一緒にはいたくないな

 

陽介「話ってなんですか?」

日菜「陽介君の話を聞いたのは4日前で、ずっと気になってたの。」

陽介「え?」

 

 氷川さんはそう言って、俺の方に手を伸ばしてきた

 

日菜「この眼帯の下、どうなってるのかなって。」

陽介「!」

 

 そう言うと氷川さんは、俺の眼帯を取った

 

 突然の出来事で反応が出来なかった

 

陽介「な、なにを。」

日菜「気になってるんだよ。どんな風になってるのかなって。」

陽介「き、気になるって。」

日菜「なんで隠すの?見せてよ。」

 

 氷川さんは俺の手を引きはがそうとしてくる

 

 すごい力だ、腕が嫌でも引っ張られる

 

陽介「や、やめてください......!!」

日菜「ちょっとだけ、ちょっとだけだから。」

 

 引き下がる気はないらしい

 

 まずい、手を引きはがされる

 

 嫌だ、あの目を見たくない、人間じゃない何かを見るような目でもう、見られたくない

 

 そう思っても、段々、左目が晒されていく

 

 バン!!!

 

つぐみ「__日菜先輩!!」

陽介「は、羽沢......?」

 

 手が引きはがされる直前、勢いよく扉を開けて羽沢が入ってきた

 

日菜「どうしたの?つぐちゃん?」

つぐみ「どうしたじゃないです!何してるんですか!」

日菜「陽介君に見せてもらおうと思って。」

つぐみ「嫌がってますよね?」

 

 羽沢は目に見えて怒ってる

 

 でも、氷川さんに意に返す様子はない

 

つぐみ「早く眼帯を返して離れてください!」

日菜「えー。」

つぐみ「えー、じゃないです!」

日菜「別にただでとは言わないよ?」

 

 氷川さんはそう言うと、再度俺の方を向いた

 

日菜「そうだなぁ......」

陽介「......?」

 

 氷川さんは考えるような仕草を取った

 

 そして、思いついたように手を叩くと、こう言い放った

 

日菜「見せてくれたら、あたしの初めてをあげる!」

陽介「はぁ!?」

つぐみ「ちょ、ちょっと、日菜先輩!?///」

日菜「分かりやすく言えば、処__」

陽介「言わせねぇよ!?」

 

 この人、何言ってんだ!?

 

 馬鹿か、馬鹿なのか!?

 

日菜「それでもだめなのー?」

陽介「いや、駄目に決まってるでしょう!?常識的に考えて!」

日菜「常識?何それ面白い!」

陽介「面白くはないですよ!」

つぐみ「そ、そそ、そうですよ!そ、そんな......///」

 

 なんなんだ、この人は......

 

 少なくとも普通じゃない

 

日菜「うーん、これでもダメかー。」

 

 氷川さんは残念そうな声でそう言った

 

日菜「じゃあ、今回は諦めるよ。」

 

 そう言って氷川さんは俺に眼帯を返してきた

 

 俺はそれを手を目から放さずに受け取り、すぐにそれをつけた

 

日菜「それにしても、そんなに見せたくないの?折角のチャンスだったのに?」

陽介「いやいやいや、チャンスとかそう言うのじゃないでしょ。自分の事を大切にしてください。」

つぐみ「そうですよ!」

 

 つぐみは生徒会の役員らしい

 

 大変だな、この人の下につくって

 

つぐみ「人には触れちゃいけない事があるんですから、あまり強引な事はしちゃいけませんよ?」

日菜「分かったよー。」

陽介(本当に分かってるのか?)

 

 間延びした、青葉のような話し方に多少の不信感を覚えたが、気にしないことにした

 

陽介「......もう帰ってもいいですか?」

日菜「あ、いいよ!またね!」

陽介「......あ、はい。」

 

 俺は出来ればもう会いたくない、と思いながら生徒会室を出た

 

 生徒会室を出た後、すぐに羽沢の怒声が聞こえて来た。

__________________

 

 俺は教室に戻るため、廊下を歩いていた

 

陽介(__はぁ、疲れた。)

 

 何なんだあの人は?

 

 常軌を逸してる、普通じゃない

 

陽介(人が怖いとかは治ってきてる。あの距離まで人が来ても大丈夫だったし。)

 

 気が滅入ってた、そう言う感じだったんだろう

 

 環境が変わって、良い人が多いから、気持ち的にも持ち直せた

 

陽介(そう思えば。)

 

 さっきの氷川さんを思い出して、俺はある事を思った

 

陽介(チュチュってもしかしなくても、すごい優しいんじゃ?)

 

 俺はそう思うと、ポケットから手帳を出した

 

陽介(ジャーキー、追加っと。)

 

 俺はそう書き込んだ

 

陽介「......さて、バイト行くか。」

 

 俺は手帳をしまって、そう呟き歩きだした

__________________

 

 ”生徒会室”

 

日菜(__うーん、もう少しだったのになー。)

つぐみ「聞いてるんですか!日菜先輩!」

日菜「聞いてる聞いてるー。」

 

 陽介が去った後の生徒会室では、つぐみの説教が続いていた

 

 日菜本人は全くと言ってもいいほど気にしていないが......

 

日菜(何がダメだったんだろ?男の子なら喜ぶと思っての条件だったのに?)

 

 日菜はそんな事ばかりを考えていた

 

 駄目だった理由、次はどうするか、どうすればうまくいくか、それをずっと考えてる

 

日菜(あの誘いにも乗らないなんて、面白い子だなぁ♪)

 

 日菜は笑った

 

日菜「うん!るんっ♪てきた!」

つぐみ「日菜先輩!」

 

 説教の途中にそう言う日菜をつぐみは咎めるが、やはり日菜は気にしない

 

日菜(諦めないよ!次は絶対にあの眼帯の下、見よう!)

 

 日菜は心の中でそう言った

 

 その時の日菜の顔は、新しいおもちゃを見つけた子供の様だったとか



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テスト期間

RASでは六花が一番好きです。
ますきも好きです


 転入して5日目、俺は程々に羽丘に慣れた

 

 女子だけだが、話せるやつもいるし、授業もついて行けてる

 

担任「__それじゃあ、テストに向けて勉強しておくように!」

 

 授業が終わって、ホームルームで担任はそう言い放った

 

 周りからは色々な声が聞こえる

 

陽介「テストかー」

モカ「おー、もうそんな時期ですかー」

つぐみ「頑張ろうね!」

蘭「つぐみは前向きだね。......まぁ。」

陽介「ん?」

 

 美竹はある方向を見た

 

 俺もそっちの方向を見ると......

 

巴、ひまり「」

陽介「あっ(察し)」

モカ「いつも通りだねー」

つぐみ「だ、大丈夫?2人とも?」

ひまり「だ、だだ、大丈夫だよ~」

巴「そ、そうだぞ!」

 

 もうだめだって事が丸分かりな二人が嫌な汗を流していた

 

蘭「まぁ、この二人はモカが見るし、ある程度は大丈夫。」

モカ「もう少しー、モカちゃんの苦労を分かってほしいなー」

つぐみ「大丈夫だよ!まだ一週間あるし!死ぬ気で頑張ろ!」

巴「死ぬ気で......」

ひまり「頑張る......」

 

 二人の目から光が無くなったような気がした

 

 いや、気がしたじゃなくて無くなってるな

 

陽介「まぁ、頑張れ。」

巴「でも、陽介も大丈夫なのか?」

ひまり「転入してきて、まだ5日だよね?」

陽介「俺はまぁ、大丈夫だよ。」

つぐみ「本当に大丈夫?困ったことがあったら言ってね!」

陽介「ありがと。」

 

 俺は勉強は好きでもないけど、嫌いでもない

 

 前の学校でも程々の順位だったし、困ったことはないな

 

陽介「じゃあ、俺は帰るよ。」

つぐみ「うん!またね!」

モカ「お元気でー。」

蘭「長期の別れなの?まぁ、バイバイ、陽介。」

巴「じゃあな!」

ひまり「またねー!」

 

 俺は手を振りながら教室を出た

__________________

 

 俺は学校を出て真っ直ぐギャラクシーに向かった

 

陽介「__こんにちはー。」

美子「あ!陽介君。」

陽介「すぐに準備します。」

 

 俺はそう言って、更衣室に入った

__________________

 

 俺は制服に着替えて、業務を開始した

 

陽介(そう言えば、六花が来てないな。)

 

 いつもなら、俺より早く来てるんだがどうしたんだろう

 

陽介「店長、六花は来てないんですか?」

美子「六花ちゃんはね、ちょっとの間お休みだよ。」

陽介「休み?」

美子「そうそう。テストとライブがあるってー。」

陽介「あー、そう言う事ですか。」

美子「陽介君は大丈夫なの?確か、六花ちゃんと同じ学校じゃなかったっけ?」

陽介「俺は大丈夫ですよ。バイトにはずっと入ります。」

美子「そう?」

陽介「はい。」

 

 俺はそれだけ言って、次の業務に行った

 

 機材チェックだ

 

陽介(項目にあるとこ、六花に言われたところ。)

 

 そのほかの部分もきっちりチェックした

 

 色んな可能性を探る、これが大切だ

 

陽介「うん。本日も異常なし。」

 

 一通り確認を終えて、俺は一息ついた

 

 その時、扉が開いた

 

陽介「いらっしゃいませ。」

明日香「あの、六花いますかって、出水先輩?」

陽介「明日香?どうしたんだ?」

明日香「六花がプリント忘れてて、テストにも出る範囲なのでないと困ると思って。」

陽介「届けに来たと。でも、六花はしばらく休みなんだよ。」

 

 俺がそう言うと同時に俺の携帯が動いた

 

 なんだろう?

 

『今日はバンドの練習が遅くなるから、夕飯はいつもよりゆっくりでいいわ。』

 

 という内容がチュチュから送られてきた

 

陽介「おぉ、タイムリー。」

明日香「え?」

陽介「六花のプリント、俺が渡しておくよ。ちょうどチュチュの所にいるみたいだし。」

明日香「あ、そうですか。ありがとうございます。」

 

 明日香はそう言ってプリントを渡してきた。

 

陽介「これで全部だな?」

明日香「はい。お願いします。」

陽介「了解。」

明日香「それでは、さようなら。」

陽介「おう。」

 

 明日香は店を出て行った

 

 俺は一度、プリントを置きに行ってから、すぐに業務を再開した

__________________

 

 それからしばらくして、店長からあがっていいと言わた

 

 俺は服を着替えて、店を出た

 

 今日は買い物もないし、俺は家に直帰した。

 

陽介「__ただいまー。」

 

 帰ってくると、奥から演奏の音が聞こえた

 

 多分、皆まだいるな

 

 俺はそう思って奥にあるスタジオの方に行った

__________________

 

チュチュ「__今日はこんなものね。」

 

 部屋に入ると、チュチュがそう言った

 

 ちょうど終わった所らしい

 

ますき「あー、疲れた。」

レイ「お疲れ、皆。」

六花「お疲れ様です!」

パレオ「お疲れ様でしたー!」

 

 みんなは疲れながらも、充実した表情を浮かべながら出て来た

 

陽介「チュチュ。」

チュチュ「陽介?帰ってたのね?」

陽介「さっきな。すぐに夕飯の用意するよ。」

チュチュ「お願いするわ。」

ますき「よぉ、出水。」

陽介「お疲れ、佐藤。」

 

 チュチュと話してると、他の皆も近づいてきた

 

ますき「新しい学校はどうだ?楽しいか?」

陽介「楽しいよ。良い人もいるし。」

ますき「そうか。よかった。」

陽介「佐藤こそ、大丈夫なのか?」

ますき「あぁ?なんのことだ?」

陽介「いや、俺の事庇ったって聞いてたから、標的になってたりしないかと思って。」

ますき「あぁ、そういう事か。」

 

 佐藤はそう言うと、悪そうな笑みを浮かべた

 

レイ「ますき、その笑い方やめなよ......」

ますき「わりぃわりぃ。でもよ、おかしくてさ。」

陽介「おかしい?」

ますき「あぁ。こいつが私の心配してるのがおかしくてな。」

 

 佐藤は笑いながらそう言ってる、どういう事だ?

 

ますき「あんなやつら、全員突き出してやったよ!余裕だったぜ!」

パレオ「わぁ!流石まっすーさんです!」

ますき「だろぉ?」

陽介「はは、俺の心配なんていらなかったな。」

 

 佐藤、すごいな

 

 何と言うか、強い

 

陽介「あ、そうだ。六花。」

六花「はい?」

陽介「今日、ギャラクシーに明日香が来てたぞ。」

六花「明日香ちゃんが?」

陽介「これを渡しにだって。」

 

 俺はカバンからプリントを出して六花に渡した

 

六花「あ、これ!ありがとうございます!」

陽介「いいよ。偶然が重なっただけだから。」

六花「あと、しばらくバイトに行けそうになくて......」

陽介「大丈夫。俺が毎日入るから。」

六花「えぇ!?」

 

 俺がそう言うと、六花は驚いた声を上げた

 

 慌てた態度がなんだろう、小動物みたいだ

 

六花「だ、大丈夫なんですか!?テストもあるのに!」

陽介「大丈夫だよ。勉強は多少余裕があるし。」

レイ「へぇ、出水君って勉強得意なんだ。」

陽介「まぁ、元から嫌いじゃないし、やれば何でも案外楽しいぞ?」

レイ「まぁ、そうかもね。」

ますき「六花は大丈夫なのか?勉強、ギリギリなんじゃねぇのか?」

六花「はい......」

陽介「そうなのか?」

 

 そんな風には見えないけど、まぁ、実際そうなんだろうな

 

陽介「でも、羽丘に入ってるわけだし、普通にすれば大丈夫なんじゃないのか?」

六花「入学するときは、本当に猛勉強して......」

陽介「あ、そう言うことか。」

レイ「でも、流石に赤点を取ったりするのはまずいよね。」

ますき「そうだなー」

六花「うぅ......そうですよね......」

陽介「俺が教えようか?」

レイ、ますき、六花「え?」

 

 俺がそう言うと、3人は驚いた声を上げた

 

六花「え?い、良いんですか?」

陽介「いいよ。このくらいの時間まで待てるなら練習の後でも教えるし、連絡してくれれば学校でも教える。」

ますき「おぉ、良いじゃねぇか。」

陽介「出来る限り、簡単に教えるよ。多分、羽丘のならある程度いけると思う。」

六花「そういう事なら、よろしくお願いします。」

陽介「おう、任せとけ。あ、みんな夕飯食っていくか?」

パレオ「いいですねー!」

 

 俺がそう言うと、パレオが最初に乗っかってきた

 

レイ「いいの?」

チュチュ「あら、いいじゃない。ちょうど演奏についての話がしたいと思ってたの。」

ますき「なら、私もいいぜ。」

六花「私も。」

陽介「じゃあ、決まりだな。待ってろ、すぐに準備するから。」

 

 俺はすぐに厨房に行って、夕飯の準備を始めた

__________________

 

 夕飯の用意は意外と早く終わった

 

陽介「__用意出来たぞー。」

パレオ「今日のメニューはなんですかー?」

陽介「今日はビーフシチューとかだぞ。」

 

 俺はそう答えながら、テーブルに料理を並べた

 

 並べ終わると、全員、椅子に座り、手を合わせて、夕飯を食べ始めた

 

パレオ「うーん!」

ますき「うめぇな、これ!」

レイ「うん、お店で出てる料理みたい。」

六花「すごいです!」

チュチュ「いつも通りよ。」

 

 皆、笑顔を浮かべながら食べてる

 

 やっぱり、嬉しいな

 

レイ「そう言えば、出水君は食べないの?」

陽介「俺は後で食べるよ。」

チュチュ「私達も家で陽介が何か食べてるのを見たことがないわ。」

パレオ「ようさんもご一緒すればいいんですけどね?」

陽介「またいつかな。」

 

 俺はそう言いながら、洗い物をしていた

 

 弁当箱とか、料理道具とかだ

 

 片付けまでが料理ってな

 

チュチュ「ねぇ、陽介?」

陽介「うん?なんだ?」

チュチュ「頼みがあるんだけど、いいかしら?」

陽介「いいよ。」

チュチュ「......早いわね。」

陽介「断る理由もないからな。」

 

 俺はそう言いながら、洗い物も片付いてたのでチュチュの方に行った

 

陽介「それで、頼みってなんだ?」

チュチュ「陽介にライブまでサポートを頼みたいの。」

陽介「例えば?」

チュチュ「演奏以外の、食事面、健康面のサポートね。」

 

 なるほど

 

 じゃあ、練習の合間の栄養補給とか、そう言うところか

 

 まぁ、それならできることもあるな

 

陽介「うん、任せとけ。色々考えとくよ。」

チュチュ「Thanks」

 

 そんな会話をしてるうちに皆は夕飯を食べ終わった

 

六花「ごちそうさまでした。」

ますき「ごちそうさまー。」

レイ「ごちそうさま。」

チュチュ「美味しかったわ。ごちそうさま。」

パレオ「ごちそうさまでしたー!」

陽介「お粗末様。食器は置いといていいぞ。」

 

 俺がそう言うと、各々、別々の行動をとり始めた

 

チュチュ「パレオ!」

パレオ「はい!チュチュ様!」

 

ますき「レイ、もう一回、確認しとこうぜ。」

レイ「うん。いいよ。」

 

 それぞれ、自分がすることをしてる

 

陽介「六花はまぁ、勉強するか。」

六花「はい!」

 

 それから、俺は六花に勉強を教えた

 

 なんだかんだ、全員が帰宅したのは、9時半を回ってからだった



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サポート

 学校の昼休み、俺は六花に勉強を教えるために待ち合わせの場所の食堂に来ていた

 

陽介「__えーっと、六花はー。」

六花「出水さーん!」

陽介「あ、いた。」

 

 食堂に入ると、席を取ってこっちに懸命に手を振ってる六花の姿があった

 

陽介「待たせたな。」

六花「いえいえ、突然お呼びしてすみません!」

陽介「呼んでくれって言ったのは俺だよ。気にしなくてもいい。わざわざ席取りまで、ありがとな。」

六花「そんな、とんでもないです。あ、座ってください。」

陽介「おう。」

 

 俺は六花にそう言われ、向かいの席に座った

 

 そして、教科書と問題集を広げた

 

陽介「それじゃあ、始めるか。」

六花「はい!」

陽介「じゃあ、昨日やって分からなかったところの解説だな。」

 

 昨日、六花には一通り数学の問題集をしてもらった

 

 幸いにも、1学期の中間テストなだけあって範囲も狭めだし、余裕で間に合わせられる

 

陽介「じゃあ、まず、なんでこの問題が出来なかったと言うとな__」

 

 それから、俺は昼休み一杯一杯使って、数学の解説をした

 

 教科書通りに教える事は絶対にしない

 

 ある程度、自分の経験から簡単に出来るコツを教える

 

 必要な情報を必要な分だけ入れる、これが重要だ

 

陽介「__まぁ、こんな感じだ。分からない所あるか?」

六花「大丈夫です!」

陽介「じゃあ、数学はあの通りにすればある程度の応用問題も大丈夫だと思う。でも、確認は怠らずに出来る限り反復して問題を解いてくれ。」

六花「はい!分かりました!」

 

 六花がそう言うのと同時に予鈴が鳴った

 

陽介「お、ぴったりだな。」

六花「ありがとうございました!」

陽介「いいよ。あ、次は英語辺りをするから、暗記科目は時間があるときにちょっとでもいいから目を通してくれ。」

六花「はい!頑張ります!」

陽介「じゃあ、教室に戻るか。」

六花「はい!」

 

 それから、俺と六花は分かれてそれぞれ教室に戻った

__________________

 

陽介(__あと一週間くらい。その間にどこまで定着するか、それは六花の頑張り次第。)

 

 いや、頑張り次第なら大丈夫だな

 

 六花は頑張れる子だし、疑う余地はない

 

 俺がそう考えてるうちに、教室に戻ってきた

 

モカ「あー、おかえりー。」

陽介「あぁ、ただいま。」

ひまり「どこ行ってたの?」

陽介「食堂だよ。勉強しに。」

 

 俺はそう言いながら自分の席に着いた

 

 すると、すぐに話しかけて来た

 

蘭「それって誰かと?それとも一人?」

陽介「年下の子と。事情があって教えることになっててな。」

巴「おぉ!陽介は人に教えられるんだな!」

陽介「まぁ、ある程度な。」

つぐみ「すごいね!もう頼られるなんて!」

陽介「色々事情があるんだよ。」

 

 俺は次の授業の用意をした

 

モカ「それでー、どうなのー?」

陽介「間に合うよ。余裕で。」

モカ「おー、さっすがー。」

 

 青葉は俺を真っ直ぐ見据えたままそう言った

 

 すごい意味深な目をしてる

 

陽介「どうした、青葉?」

モカ「なんでもー?」

蘭「モカはいっつも一人で変なこと言ってるから、あんまり気にしなくていいよ。」

モカ「ひどいなー」

陽介「ははは。」

 

 そんな会話をしてるうちに教師が教室に入ってきた

 

 それから、午後の授業が始まった

__________________

 

 それから、午後の授業も終わり、放課後になった

 

 俺はいつも通り、バイトをしにギャラクシーに向かった

 

陽介「__あれ?」

 

 ギャラクシーに着くと、ドアが開いてなかった

 

 なんでだ?

 

 そう思うと、俺の携帯に電話がかかってきた

 

陽介「もしもし?」

美子『あ、もしもし、陽介君?』

陽介「はい。」

美子『もしかして、もうギャラクシーに来てる?』

陽介「はい。今、真ん前にいます。」

美子『あ、やっぱり?』

 

 店長は申し訳なさそうな声でこう言った

 

美子『しばらくね、会議とか色々あるからお休みになっちゃうの。』

陽介「あ、そうなんですか?」

美子『うん。だから、その間はバイトには来なくてもいいよー』

陽介「はい。わかりました。」

 

 俺がそう言うと、電話が切れた

 

陽介(まぁ、やることはあるし。そっちに時間を使えばいいか。)

 

 そう思い俺は足早に家に帰った

__________________

 

 家に帰ってくると、やっぱり演奏の音が聞こえた

 

 ライブ前だし、かなりハードな練習をしてるんだろうな

 

陽介(サポートも頼まれて準備してるし、休憩時間になったら持っていくか。)

 

 俺はそう思いながら、奥の演奏が聞こえる位置で何冊かのノートを広げ、ある事を始めた。

__________________

 

陽介「__ん?」

 

 しばらくすると、演奏の音が止まった

 

 休憩時間になったのか

 

 俺はそう思って冷蔵庫に入れておいたものを持って、奥の部屋に入った

__________________

 

 奥の部屋に入ると、休憩をとってる皆の姿があった

 

チュチュ「あら、陽介。」

陽介「ただいま。頑張ってるな。」

チュチュ「えぇ。最強の音楽を奏でるためには必要なのよ。」

 

 最強の音楽か

 

 素人の俺にはRASの音楽はそう感じるんだけどな

 

チュチュ「陽介はどうしたのかしら?いつもより早く帰ってきてるわね?」

陽介「なんか、ちょっとの間、ギャラクシーが会議やらで閉まるらしいんだ。それで、帰ってきた。」

チュチュ「へぇ、そんな事もあるのね。」

 

 チュチュは頷きながらそう言った

 

陽介「だから、RASのサポートに集中するよ。」

チュチュ「ありがとう。」

 

 俺はそう言ってから休憩してる皆の方に行った

 

 かなり疲労してるな

 

 RASの音楽は激しいし、消耗がかなり激しいんだろうな

 

陽介「大丈夫か、皆?」

ますき「おー、出水ー。」

レイ「見たまんまだよ。」

パレオ「疲れましたー。」

六花「はい......」

陽介「そうかそうか。」

 

 とりあえず、佐藤は重症だな

 

陽介「まぁ、これでも食えよ。」

 

 俺はそう言って、机の上にあるものを出した

 

レイ「これは。」

陽介「レモンのはちみつ漬け。よく聞くから作ってみた。」

パレオ「ありがたいですー!」

ますき「あぁ。疲労回復の効果があるって言うしな。」

六花「美味しそうです!」

陽介「あ、そうだ。」

 

 俺はレモンをつけたはちみつを取って部屋を出た

 

ますき「なんだぁ?」

パレオ「まっすーさん!これ本当に美味しいですよ」

レイ「本当に、甘酸っぱくて、さっぱりしてる。」

六花「すごく、美味しいですね!」

パレオ「チュチュ様も召し上がりますかー?」

チュチュ「......いくつか持ってきて。」

パレオ「かしこまりましたー!」

 

陽介「__おまたせー」

 

 俺は人数分の紅茶を持って、部屋に戻ってきた

 

陽介「ほら、どうぞ。」

六花「紅茶?」

陽介「あぁ。さっきのはちみつを溶かしてある。」

レイ「へぇ、そんな使い方あるんだ。」

ますき「知らなかったなー」

陽介「なんか、喉の調子を整えるのにいいんだと。これなら無駄なく使えるし、はちみつだけなら保存も効く。」

 

 という、ネットで拾ってきた情報を喋った

 

 いやー、ネットは便利だな

 

陽介「いるなら持っていくか?」

レイ「うん、欲しい。」

パレオ「パレオも欲しいですー!」

陽介「いや、いつでも飲めるだろ。」

チュチュ「陽介!」

陽介「なんだ?」

チュチュ「おかわり。」

陽介「了解。」

レイ「あ、私も。」

ますき「私も頼む。」

パレオ「パレオもー♪」

六花「わ、私も!」

陽介「はいはい。ちょっと待っててくれ。」

 

 俺はそう言って紅茶のお代わりを入れに行った

 

 そして、一息ついた後、練習は再開された

 

 俺も作業をしながらそれを聞いていた

 

 やっぱり、すごい演奏だ、チュチュも嬉しそうにうなずいてる

 

 そうして、しばらくの演奏の末、練習が終わった

__________________

 

 練習が終わると、各々、機材を片付けたりしていた

 

 俺もそれの手伝いをしたりしてた

 

ますき「__なぁ、出水。」

陽介「ん?」

ますき「六花の方はどうなんだ?」

陽介「いや、昨日の今日で急激に変わることはないよ。流石に。」

レイ「まぁ、そうだよね。」

陽介「だから、色々、用意したんだ。」

六花「用意?」

 

 俺はさっきまで書いてたノートを六花に渡した

 

六花「これは?」

陽介「六花のテスト範囲をまとめたノートだ。」

六花「えぇ!?」

ますき「いつの間にそんなの作ったんだ?」

陽介「さっきだよ。要点だけまとめた。」

レイ「へぇ、すごいねこれ。」

 

 和奏はそう言いながらノートをめくっていた

 

レイ「キッチリまとまってるし、ちょっと踏み込んだ内容も。」

ますき「確かに、すげぇな。」

陽介「まぁ、今回はライブが重なってるから、ライブのサポートの一環って事で。」

六花「わ、わざわざ、すみません!」

陽介「いいよ、チュチュの頼みだから。」

 

 申し訳なさそうにする六花に、俺は笑いながらそう言った

 

陽介「まぁ、ライブ頑張れな。」

六花「はい!」

 

 そうして、俺はテストの期間をRASのサポートをしてすごした。



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氷川日菜

 RASのサポートをこなしてるうちに、いつの間にかテストが終わった

 

 今日はテストが返却される日だ

 

陽介「__うん。」

モカ「やー、ようくんはどうだったかなー?」

陽介「こんな感じ。」

 

 俺は点数が書かれた紙を渡した

 

モカ「おー、これはこれは。」

蘭「どんななの?......って、すご。」

つぐみ「そうなの?......ほんとだ。」

 

 俺の点数を見て3人は驚いた声を上げた

 

 可もなく不可もなくなんだが

 

モカ「学年9位とは、中々やりますなー。」

陽介「そうか?可もなく不可もなくだと思うけど。」

蘭「いや、どう考えても高いでしょ。こんなに頭良かったんだ。」

陽介「そうでもないよ。俺よりできる奴が少なくとも8人いるんだから。」

 

 そう、何もすごくなんかない

 

 程々、それだけだ

 

つぐみ「頑張ったんだね!すごいなー!」

陽介「え?」

つぐみ「私ももっと頑張るよ!出水君に負けないように!」

 

 頑張った?俺が?何を?

 

 俺は今まで通り、普通に勉強してただけだ、今までだったら9位になったくらいじゃ褒められもしなかった

 

 ましてや頑張ったなんて、絶対に言われなかった

 

陽介(あれ?)

 

 最後に頑張ったて言われたて褒められたの、いつだっけ?

 

 思い出せない、あったはず、あったはずなんだ

 

 高校、中学、小学校、どこだ?

 

 思い出は鮮明に覚えてる、どこだ、どこにある?

 

蘭「出水?」

陽介「っ!な、なんだ?」

蘭「出来れば、あの二人を見るの手伝ってほしいんだけど。」

 

 美竹はある方向を指さしながらそう言った

 

 そこには、うなだれた上原と宇田川の姿があった

 

陽介「あっ(察し)」

蘭「流石にあたし達だけじゃ手が回らなくなってきた。」

陽介「多勢なんだよな?」

 

 二人で4人必要って、どんな突起戦力なんだよ

 

陽介「でも、俺も少し用事があるから、まとめてるノート貸すだけじゃ駄目か?」

蘭「そんなのあるの?」

陽介「あぁ。俺はこれだけで勉強してるから。」

 

 俺はそう言いながら、カバンからノートを5冊出した

 

 すぐに確認できるように持ってきててよかった

 

陽介「はい。」

蘭「あたしも見てみよ。」

モカ「あたしも気になるー

つぐみ「私も見たい!」

 

 そう言って3人がノートを開いた

 

蘭、モカ、つぐみ「!?」

 

 中身を見ると、3人は驚いた表情をした

 

 青葉もあんな顔するんだな

 

蘭(こ、これ......)

つぐみ(綺麗にまとめられてるし、すごく分かりやすい。でも。)

モカ(どこか、こう、狂気を感じるって言うかー......)

 

 3人はノートに目を通してる

 

陽介「どうだ?使えそうか?」

つぐみ「う、うん!このノート、すごいね!いつも作ってるの?」

陽介「そうだな。小学校時からずっと作ってる。」

つぐみ「小学生から!?」

陽介「おう。」

 

 いつからこのノート作るようになったっけ?

 

 まぁ、気付いたら当たり前になってたってだけだな

 

モカ「まー、これを二人に叩きこもっかー」

蘭「そうだね。」

つぐみ「頑張ろうね!二人とも!」

巴「お、おう......」

ひまり「う、ん......」

 

 俺はそんな二人に内心、手を合わせながら教室を出た

__________________

 

 ギャラクシーはもうちょっと閉まってるらしい

 

 再開はちょうど、RASのライブが終わったころだな

 

陽介「__ん?」

 

 歩いてると、ポケットの中の携帯が鳴った

 

 六花からのメッセージだ

 

『学年10番以内に入れました!』

陽介「おぉ、そんなにいったのか。」

 

 俺は六花に頑張ったなと送って携帯をしまい、歩きだした

 

陽介(今日は早めに練習を始めるんだっけ。ライブまでもう少しだし、俺ももう少し考えてみよう。)

 

 俺はそう思い、足早に家に帰った

__________________

 

陽介「__ただいま。」

チュチュ「あら、おかえり。」

パレオ「おかえりなさーい!」

 

 家に入ると、チュチュとパレオがいた

 

 もう帰ってきてたのか

 

チュチュ「突然だけど、ライブの時間表があるわ。目を通しておいて。」

陽介「了解。」

 

 俺は受け取ったプリントを見た

 

 軽く見た感じ、昼飯から結構時間空くな

 

陽介「この間の時間に何か食べる物でも用意するのか?」

チュチュ「そうね。頼むわ。」

陽介「了解。」

パレオ「どんなものを用意するんですか?」

陽介「そうだな......」

 

 確か、甘い物とか辛い物って駄目なんだよな

 

 あと、カフェインもが多く含まれてる飲み物も

 

 のど飴も糖分が含まれてるからダメ

 

陽介「まずは情報収集して、適切なものを適切な量作るよ。」

チュチュ「一人に任せて悪いわね。」

陽介「いいよ。楽しいから。」

 

 俺はそう言って自分の部屋に行った。

__________________

 

 部屋に戻ると、俺はすぐにパソコンを開いた

 

陽介「__ふむふむ。」

 

 あんまり多く食べちゃだめなんだな

 

陽介「おっ。」

 

 おでんの大根がいいのか、大根は腹持ちがいいし、出汁次第で他の栄養も補える

 

 それと、粘膜強化できるオレンジ

 

 あと、ライブ終了後用にりんごのはちみつ漬けもありだな

 

陽介「こう見れば工夫できることは多いな。」

 

 だいたい決まった

 

陽介「さて、用意、始めていくか。」

 

 それから、俺はライブの日用のレシピを作り始めた

__________________

 

 ”アフターグロウ”

 

 アフターグロウは放課後の教室に残り、勉強会をしていた

 

蘭「__すごい。」

巴「分かる、分かるぞ!」

ひまり「すごい!分かりやすい!」

 

 陽介のノートの効果は絶大で、二人はスポンジが水を吸収するように内容を吸収していた

 

 これには、モカとつぐみも唖然としている

 

つぐみ「ほんとに二人なのかな?」

モカ「影武者ー?」

巴「いや、ひどいな。」

ひまり「本物だよー!」

つぐみ「うん。そうだよね。」

モカ「それにしても、すごいね、これー。」

 

 モカはノートを手に取った

 

蘭「まるで魔法だね。」

日菜「__何がー?」

蘭「!?」

つぐみ「ひ、日菜先輩!?」

モカ「どうしたんですかー?」

 

 5人が話してると、日菜が現れた

 

 日菜は面白そうなことに興味津々だ

 

日菜「それで、何が魔法なの?」

つぐみ「なんでもないです。」

日菜「嘘だよね?ずっと見てたもん。」

蘭「!」

 

 アフターグロウは日菜が陽介にしたことを聞いていた

 

 陽介がらみの話題は避けたい

 

日菜「そのノートだよね?見せてよ!」

蘭「ダメです。」

日菜「えー。」

つぐみ「友達に借りてるんです。」

日菜「......じゃあ、諦めるよ。」

 

 日菜はそう言って背中を向けた

 

ひまり(あれ?意外と素直?)

巴「__ひまり!嘘だ!」

ひまり「え?」

 

 ひまりは風が通り過ぎる感覚を感じた

 

 気づけば、机の上にあったノートは消えてた

 

つぐみ「日菜さん!」

日菜「いいじゃーん!減るものじゃないしー!」

 

 日菜はそう言いながら、ノートを開いた

 

蘭「返してください!」

日菜「......この字、陽介君のだねー。」

蘭(あーもう!やっぱり!)

日菜「一見は普通のノートだけど、おかしいよね。これ。」

蘭、モカ、つぐみ「!」

 

 日菜は考えるような仕草を取った

 

日菜「みんなは陽介君の眼帯の理由、知ってるのかな?」

モカ「分からないですー。事情があるからしか聞いてないですしー。」

 

 モカがそう言うと、他のメンバーもうなずいた

 

日菜「だよね。」

ひまり「それがどうしたんですか?」

日菜「色々調べてみたんだけど、あの眼帯の中身を知ってる子がいなかったんだよねー。」

巴「それが?」

日菜「あたし、あの中身が気になる。」

アフターグロウ「!!」

 

 日菜の一言に、全員の肩が跳ねた

 

つぐみ「また、なにかする気なんですか!?」

 

 一番に口を開いたのはつぐみだ

 

 いつもからは考えられないくらい、剣幕だ

 

日菜「何をそんなに怒鳴ってるの?」

つぐみ「前にも言ったでしょう!?人には触れちゃいけない事がありますって!!」

日菜「でも、気になるんだよ。」

 

 日菜はつぐみの怒りに反応してる様子は無い

 

 それにはさすがに、他のメンバーも怒りの視線を向けた

 

蘭「......陽介は、日菜さんの好奇心を満たす道具じゃないんですけど?」

日菜「分かってるよ?当り前じゃん?」

巴「だったら、やめてやるべきですよ。」

ひまり「そうですよ!」

日菜「分かって上でするんだよ。」

 

 日菜は全く飄々とした態度を崩さない

 

モカ「......日菜先輩。」

日菜「どうしたのー?」

モカ「......好奇心だけで動いちゃうと、いつか、人を殺しちゃいますよー。」

蘭、つぐみ、巴、ひまり「!!」

 

 モカはいつもからは考えられないくらい、低い声でそう言った

 

 怒ってるのが、伝わってくる

 

日菜「あはは!なにそれ!」

 

 そんなモカを前にしても、日菜は崩れない

 

日菜「ま、一応覚えとくよー!あ、これ返しとくね!」

 

 日菜は机の上にノートを置いた

 

日菜「じゃあねー!」

 

 日菜は大きく手を振りながら、教室を出て行った

 

 日菜が去った後の教室の中は静寂に満ちていた

 

蘭(まずいことになったね。)

モカ(これは、止めるのキツイかなー)

巴(どうする!アタシたちに出来る事を考えろ!)

ひまり(と、ともかく、いずみんに知らせないと!)

つぐみ(ごめんね、出水君......)

 

 アフターグロウはその後、すぐに荷物をまとめて家に帰った



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ライブ当日

 RASのライブ当日、俺は早朝からキッチンに立ち、食べ物を用意した

 

 用意を終えた俺は、今日のライブ会場に来た

 

陽介(__確か、チュチュが言うには入っていいんだっけ。)

 

 俺は貰ってたカード?を首からかけ、中に入った。

__________________

 

 建物の中に入った

 

 RASの楽屋は......

 

 そう思ってると、俺の携帯が鳴った

 

 パレオからだ

 

パレオ『楽屋は入って、突き当りを右ですよー!』

陽介「あぁ、わかった。」

 

 なんで俺が迷いかけてるって分かったんだろ?

 

 若干疑問は残ったが、俺は指示に従って楽屋の向かった。

__________________

 

陽介「入るぞー。」

チュチュ『オッケー。』

 

 俺が呼びかけると返事があったので、部屋に入った。

 

チュチュ「来たわね、陽介。」

陽介「おう。」

 

 出番まで後3時間くらい、良い時間だな

 

 俺は持ってきた荷物を広げた

 

パレオ「待ってましたー!」

ますき「腹減ってたんだよ!」

 

 パレオと佐藤が真っ先に文字通り食いついた

 

 そのあとをゆっくり、和奏、六花、チュチュが付いてる

 

六花「これは、おでんですか?」

陽介「あぁ。調べた感じ良いらしい。」

レイ「へぇ、知らなかった。」

ますき「うめぇ!」

パレオ「美味しいです!」

陽介「あんまり暴食するなよ。」

 

 俺はそう言いながら、飲み物を置いて行った

 

チュチュ「うん。デリシャス。」

陽介「ありがと。」

 

 チュチュも喜んでくれた

 

 いつもより笑顔だ

 

六花「落ち着く味やぁ~」

陽介「六花?」

六花「あ、あぁ!すみません!///」

レイ「いいじゃない、岐阜弁。」

陽介「あぁ。可愛いじゃないか。」

六花「はぅ......///」

 

 俺と和奏は笑いながら六花を見ていた

 

レイ「そう言えば、今日はライブ、見ていくの?」

陽介「折角だし、見て行こうかな。」

ますき「おぉ、見て行くのか!」

パレオ「気合が入りますねー!」

六花「は、はい!頑張りましょう!」

チュチュ(陽介の効果、すごいわね。)

 

 と言っても、出番までかなり時間あるな

 

ますき「出番までやる事ねぇし、喋ろうぜー。」

レイ「何について?」

ますき「そうだなぁ......」

 

 佐藤は少しうなった

 

 思いつかないんだろうな

 

ますき「あ、出水の好きな食べ物とか?」

レイ「あ、いいかも。私達、意外と出水君のこと知らないし。」

六花「そう言えばそうですね?」

陽介「好きな食べ物?」

パレオ「そう言えば、ようさんのそんな話は聞かないですね!」

チュチュ「そうね。」

陽介「好きな食べ物かー。」

 

 好きな食べ物......

 

陽介「っ......!」

 

 チラついてくる、あの顔が

 

 忘れられない、あの顔が

 

陽介「......暖かい食べ物、かな。」

レイ「暖かい食べ物?」

陽介「あぁ。これと言った特定の物はないな。」

ますき「味噌汁とかか?」

陽介「まぁ、そんな感じ。」

 

 そうなのかは分からないけど、そう答えた

 

 くぅ......

 

 話してる途中、そんな気の抜けた音が聞こえた

 

六花「っ!///」

 

 音の正体を探ろうとすると、お腹を押さえてる六花が見えた

 

陽介(あっ。)

ますき(六花......)

レイ(六花ちゃん......)

チュチュ「ロック、お腹がすいたの?」

六花「はう!///」

パレオ「可愛い音でしてねー。」

六花「......///」

 

 という、チュチュとパレオによる見事な追い打ちを受け、六花は顔を伏せた

 

 もう可哀そうとしか言えない

 

 そう思った俺は、カバンからあるものを出した

 

陽介「六花。」

六花「は、はい......」

陽介「これ。」

六花「これは......?」

 

 俺はあるものを机の上に置いた

 

陽介「塩むすびだ。一応、作ってきといた。」

六花「いただきます......///」

 

 六花は顔を真っ赤にしながら、おにぎりを食べた

 

六花「美味しい......」

陽介「それは普通の塩むすびだよ。」

レイ「いいよね。」

ますき「あぁ。日本って感じがする。」

陽介「そんなもんか?」

 

 おにぎりを頬張る六花を横目に、俺達は色々な話を見て過ごした

 

 そして、出番直前になった

 

陽介「__じゃあ、俺は見やすいところに行くよ。」

チュチュ「そう。じゃあ、また後で。」

パレオ「終わったら来てくださいねー!」

六花「が、がが、頑張ります。」

ますき「力抜けよ、ロック。」

レイ「行こっか。」

 

 そうして、俺は見やすい客席の方に向かった

__________________

 

 客席に来る頃には、もう皆は演奏を始めようとしてた

 

陽介(__あ、これ練習で聞いたことある。)

 

 この会場にこんな感覚で聞いてる人物っているのだろうか

 

 でも、ライブでの演奏は練習の時より何倍も勢いがある

 

陽介「......!」

 

 心が躍る、楽しい

 

 そう思える

 

 いつもとは違う皆の姿、レベルの高い演奏、これほど見て聞いて楽しいものはない

 

陽介(皆、本当にすごいな。)

 

 楽しい時間って、本当に速く過ぎて、すぐに終わった

 

 多分、俺は今の時間を世界一短く感じた自信がある

 

 それくらい、入り込めた

 

陽介(さて、皆のところ行くか。)

友希那「__あれ?陽介?」

陽介「湊さん?」

リサ「あたしもいるよー☆」

陽介「今井さんも。」

 

 俺が皆の所に行こうとすると、二人が現れた

 

 見に来てたのか

 

陽介「来てたんですね。」

友希那「プロデューサーに呼ばれたのよ。」

リサ「そうそう!」

陽介「チュチュが?」

 

 まぁ、ロゼリアに見せつけてやるって言ってたし、そういう事だったのか

 

友希那「あなたは、最近どうかしら?」

リサ「羽丘には慣れた?」

陽介「はい。良い人が多くて、楽しいですよ。」

友希那「そう。よかったわ。」

 

 湊さんは安心したような態度をとった

 

 今井さんも笑顔を浮かべてる

 

友希那「何かあったら言いなさい。力になるわ。」

リサ「うん!」

陽介「ありがとうございます。」

友希那「それじゃあ、私達は帰るわ。」

リサ「またねー☆」

陽介「はい。さようなら。」

 

 二人は出口の方に歩いて行った

 

陽介(俺も行こうか。)

 

 俺も皆の所に向かった。

__________________

 

 楽屋に着くと、皆は各々休んでいた

 

 激しい音楽が多いし、やっぱり疲れるんだな

 

陽介「お疲れ、皆。」

ますき「おー、出水かー」

レイ「お疲れー」

六花「お疲れ、さまです......」

パレオ「どうもー。」

チュチュ「......」

 

 皆、かなりやられてるな

 

 チュチュに関してはうつぶせで倒れてるし

 

陽介「大丈夫かー?」

チュチュ「......大丈夫。」

陽介「りんご食べるかー?」

チュチュ「......食べる。」

陽介「了解。」

 

 俺はりんごのはちみつ漬けをだした

 

 やっぱり、用意しててよかった

 

 俺はチュチュにりんごを食べさせた

 

チュチュ「美味しい。」

陽介「そうかそうか。」

ますき「出水ー、私にもくれー。」

レイ「私もー。」

パレオ「パレオもー。」

六花「私、も......」

陽介「あー、はいはい。」

 

 俺は皆にりんごを食べさせて回った

 

 本当に疲労困憊って感じだな

 

ますき「__よし、復活した。」

レイ「甘いけどさっぱりしてて、元気になるね。」

六花「あれ?私は今まで何を?」

ますき「お前、出水に食べさせてもらってたんだぜ?」

六花「えぇ!?///」

ますき「ちょうど、あんな感じだ。」

 

パレオ「ようさーん、もう1口ー。」

陽介「はいはい。」

 

六花「......///」

レイ「わっ、真っ赤。」

ますき「おもしれぇな。」

陽介「六花どうしたんだ?」

ますき「そっとしといてやれ。」

レイ「そうだね。」

陽介「そうなのか?」

 

 まぁ、二人がそう言うならそうなんだろうな

 

 俺は言われるまま、六花をそっとしておいた

 

六花(うぅ、私ってばなんて......///)

 

 こうして、RASのライブの日が終わった



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バスの中で

 ライブの日から、少し時間が経った

 

 俺はゆったりとした時間を過ごしていた

 

モカ「__平和だねー。」

陽介「そうだなー。」

蘭「だらけてるね。」

 

 俺は5人と交友を深め、楽しく学校生活を送っていた

 

つぐみ「そう言えば、もうすぐだね!」

陽介「ん?何が?」

巴「知らないのか?林間学校だよ!」

陽介「え?林間?」

 

 高校でそんな行事あるのか?

 

 全く知らなかった

 

ひまり「楽しみだねー!」

蘭「あたしは別に。」

モカ「と言いつつ、もう完全に準備を終えている蘭なのであったー。」

蘭「はぁ!?何で知って__」

モカ「適当だったんだけどー?」

蘭「!?///」

陽介「素直じゃないんだな。」

 

 俺は笑いながらそんなやり取りを見ていた

 

 そうしてると、気を取り直した美竹が話しかけて来た

 

蘭「出水は用意してるの?班とかはあたし達に混ざればいいけど。」

陽介「今知った時点でお察しだな。」

モカ「もう3日後だから準備しときなよー?」

陽介「分かった。」

 

 俺はそう返事した

__________________

 

 時間が過ぎて、俺は家に帰ってきた

 

 家に入ると、嬉しそうに笑みを浮かべているパレオがいた

 

パレオ「__おかえりなさいませ♪」

陽介「ただいま。どうしたんだ?何かいいことでもあったか?」

 

 俺はあまりにも気になったので、パレオに質問を投げかけてみた

 

パレオ「それはですねー、ようさんに理由があります!」

陽介「俺?」

パレオ「はい!ようさんの学校では林間学校なるものがあるらしいですね!」

陽介「あ、あぁ。」

パレオ「ようさんがそれに参加することに前向きであると、学校から連絡があったのです!」

陽介「ま、まぁ、見た感じ最初の学費に含まれてたし。」

チュチュ「よ、陽介!」

陽介「?」

 

 パレオと話してると、チュチュも部屋から出て来た

 

 その手には何かが握られてる

 

チュチュ「これを、持っていきなさい。」

陽介「これは?」

チュチュ「虫よけスプレーよ!」

 

 チュチュはどや顔でそう言った

 

 口元がちょっと緩んでるし、パレオと同じなんだろうな

 

陽介「ありがとう。」

 

 俺は虫よけスプレーを受け取った

 

チュチュ「楽しんできなさい。」

陽介「分かったよ。」

 

 チュチュはそれだけ言うと、奥の部屋に行った

 

陽介「林間の用意でもするか。」

パレオ「あ、していますよ!」

陽介「え?」

パレオ「もしも、ようさんが行きたくないと言ったときに引きずるために用意しておいたのです!」

陽介「」

 

 不穏な言葉が聞こえたが、聞かなかったことにしておこう

 

陽介「ま、まぁ、ありがとう。じゃあ、今日はいつもより手の込んだ夕飯にしようか。」

パレオ「はい!」

 

 こんな感じで、俺は林間までの時間を過ごした

__________________

 

 林間学校の当日になった

 

 いつもより早い時間に集合してるからか、周りの生徒は眠たそうだ

 

蘭「__おはよ、出水。」

陽介「あ、美竹......て、青葉?」

 

 声に反応して、振り向くと、青葉に抱き着かれた美竹がいた

 

 いや、何してるだ?

 

蘭「モカ、まだ寝てるよ。」

陽介「え?」

 

 そう言われて、俺は青葉をよく観察してみた

 

モカ「zzz......」

陽介「まじかよ。」

巴「おー!陽介!」

ひまり「おはよう!いずみん!」

陽介「おはよう、二人とも。」

 

 上原と宇田川の二人が来た

 

 早朝にもかかわらず、二人はいつも通り元気だ

 

巴「モカは相変わらずだなー」

モカ「......おはよー。」

ひまり「あ、起きた。」

陽介「おはよう、青葉。」

モカ「おはよー。」

 

 青葉は美竹から離れた

 

モカ「あれー?つぐはー?」

巴「そう言えば、遅刻か?」

ひまり「いやいや、流石にないでしょー!」

陽介「まぁ、羽沢に限ってないよな。」

つぐみ「__皆ー!」

陽介「ほらな。」

 

 話題になると、ちょうど羽沢が来た

 

 噂をすれば何とやらってやつだな

 

モカ「おそかったねー、どうしたのー?」

つぐみ「ちょっと先生と話してたの。」

蘭「どうしたの?」

つぐみ「出水君、バスの座席どうするのかなって思って!」

陽介「あっ。」

 

 完全に忘れてた

 

 てか、気付いてなかった

 

陽介「ごめん。気付いてなかった。」

つぐみ「いいよ!私も偶然気付いただけだから!」

蘭「それで、どうなったの?」

つぐみ「出水君には悪いんだけど、私の隣が空席だから私の隣って事になったの。」

陽介「いや、普通に役得だと思うんだが。」

つぐみ「え?」

 

 こういう時って、だいたい男子で隣同士だし

 

 羽沢みたいな子が隣なら、男子は嬉しいだろう

 

陽介「どうしたんだ?」

つぐみ「い、いや!なんでもないよ!よろしくね、出水君!」

陽介「あ、あぁ。よろしく。」

 

 少し羽沢が慌ててる気がしたが、特に触れないことにした

 

 他の皆の方を見ると、皆は目を丸くしてた

 

モカ「さ、流石、ようくんー。」

陽介「なにがだ?」

蘭「今、役得とかなんとか。」

ひまり「言ってたよね?」

陽介「あぁ、言ってたな。それがどうした?」

巴「む、無自覚か。」

陽介「?」

 

 4人は一か所に集まって何かを話している

 

陽介「あれ、何してるんだろうな?」

つぐみ「な、なんだろうね?」

 

 そんな事をしてるうちに、出発時間になった

 

 教師の指示に従って、俺達はバスに乗り込んだ

__________________

 

 バスの座席は5人は良い感じに固まってた

 

陽介「__羽沢は窓側か内側、どっちがいい?」

つぐみ「うーん、出水君はどっちがいい?」

陽介「俺は時に乗り物酔いしないから、どっちでもいいよ。」

つぐみ「じゃあ、私が窓側に行くよ。......一応。」

陽介「了解。」

 

 そう言って羽沢は席に座った、俺はその隣に座った

 

 そして、バスが出発した

__________________

 

 バスから見える景色は、知ってる町から全く知らない場所に変わって行った

 

 そんな中、俺には気になってる事があった

 

陽介「__羽沢?」

つぐみ「っ!ど、どうしたの?」

陽介「いや、眠そうだなって。」

 

 さっきから、こっちに倒れそうになるのを必死に抑え込んで、寝ないようにしてる様子が見られた

 

つぐみ「うん、実はね......」

陽介「実は?」

つぐみ「今日が楽しみで、あんまり眠れなくて......///」

 

 羽沢は恥ずかしそうにそう呟いた

 

 まぁ、よくある事と言えば、よくあるな

 

陽介「......まぁ、眠いなら、気にしないで寝てもいいぞ。」

つぐみ「い、いや!それは悪いよ!」

陽介「そ、そうか。」

つぐみ「うん!頑張っておきる!」

 

 と言ってる、羽沢の目はかなり眠そうだ

 

 ......そして、30分後

 

つぐみ「すぅ......」

陽介(寝たな。)

 

 羽沢の健闘もむなしく、意外とすぐに眠った

 

 穏やかな表情で寝てる羽沢は同い年とは思えない

 

つぐみ「うん......」

陽介「!?」

 

 羽沢は寝ずらそうに体を動かして、こっちに倒れて来た

 

 今の状態は羽沢が俺の肩にもたれかかってる状態だ

 

陽介(まぁ、よく寝てるし、いいか。)

 

 俺はそう思い、出来るだけ体勢を崩さないように気をつけながら座っていた

 

 周りを見てみると、美竹、青葉、上原、宇田川は寝てた

 

 その様子を見てると、俺もだんだん眠たくなってきた

 

陽介(......俺も寝るか。)

 

 俺はバスに揺られる感覚と共に、目を閉じた

__________________

 

 ”つぐみ”

 

つぐみ「__ん......」

 

 つぐみはふと目を覚ました

 

 周りは長い道のりからか、ほとんどが寝てる

 

つぐみ「!!///」

 

 寝覚めたつぐみは、自分の状況を自覚した

 

 つぐみの顔は真っ赤だ

 

つぐみ(や、やっちゃった、絶対に変な子って思われた///)

 

 つぐみは眠る陽介の横でうなだれていた

 

 年頃の女子が同い年の男子に寄りかかって寝るのは、どう考えても問題があるのだ

 

 つぐみは羞恥心から脱するために、深呼吸をした

 

つぐみ(お、落ち着いた。出水君は私が寝れてないのが分かってたから気を使ってくれたんだよね。)

 

 つぐみはふと陽介の方を見た

 

つぐみ「!!!」

 

 その時、つぐみの目のは驚くべき光景が広がっていた

 

 陽介の眼帯がとれていたのだ、そして、そこから見えてのは......

 

つぐみ(い、出水君の目って......)

 

 つぐみは自身の目を疑った

 

 見たこともないような縫い目に眼球の形が見られない目がそこにあった

 

 つぐみは困惑した、夢とも疑った

 

 だが、それが現実であることは明確だった

 

つぐみ(と、ともかく、眼帯はつけておかないと!)

 

 つぐみはどうしたらいいか分からなかったが、取り合えず取れていた眼帯をつけた

 

 そして、再度落ち着くために深呼吸をした

 

つぐみ(......大丈夫。出水君は出水君だもん。気にしちゃダメ。)

 

 つぐみはそう思い、動揺する心を落ち着けた

 

 そして、陽介の方を見て、疑問が生まれた

 

つぐみ(なんで、あんなことになったんだろ。)

 

 こうして、陽介たちの林間学校が始まろうとしていた



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飯盒資産と部屋

 眠ってるうちに、目的地に着いた

 

 変な体制で寝てたからか、体中が痛い

 

陽介「__あー、体痛い。」

モカ「だらしないですなー。」

陽介「なんで、同じような体制で寝てた青葉は大丈夫なんだ。」

モカ「ふっふっふー、モカちゃんは天才ですからねー。」

陽介「天才ってすごい。」

 

 単純に感心した

 

 なんだろう、日ごろの運動量の差か?

 

つぐみ「......」

蘭「つぐみ?どうしたの?」

つぐみ「な、なんでもないよ!」

巴「気分悪そうだったぞー?バス酔いかー?」

ひまり「すごい山道だったもんねー。」

つぐみ「寝てたから大丈夫だよ?」

陽介「__おーい、移動するってよ。行こうぜ。」

蘭「うん、わかった。」

 

 俺たちは教師の先導のもと、ある場所に移動した。

__________________

 

 俺たちが来たのは、飯盒炊爨をする場所だ

 

 どこかで見たことあるような、屋根があって、火を起こす場所があったり、水道があったりする場所だ

 

陽介「由緒正しき飯盒炊爨をする場所って感じだな。」

巴「いやー!燃えてくるな!」

ひまり「巴ー、あわてて失敗しないでよねー?」

モカ「大丈夫だよー」

蘭「え?」

モカ「何を隠そう、あたし達にはようくんがいるのだよー」

ひまり「あ、そっか!いずみんっていっつも料理してるんだよね!」

陽介「まぁ、そうだな。」

モカ「つまり、そういうことなのだよー。」

 

 青葉は凄いドヤ顔でそう言った

 

 カレーくらいなら簡単だし、さっさと終わらせるか

 

ひまり「じゃあ!頑張ろうね!えい、えい、おー!!」

蘭、モカ、巴、陽介「......」

ひまり「なんでー!いずみんまでー!」

陽介「いや、なんか乗ったらいけない気がして。」

モカ「だいせいかーい。」

蘭「悪くないね。」

巴「やるじゃねぇか!」

陽介「あぁ、ありがとう?まぁ、始めようぜ。」

蘭「分かった。」

つぐみ「......」

モカ「つぐー?」

つぐみ「あ、ごめん!すぐ行く!」

 

 そうして、飯盒炊爨が始まった

 

 役割は、俺、上原、羽沢で野菜を切る、米を洗う

 

 美竹、青葉、宇田川で火おこしだ

 

陽介(この包丁、結構切れるな。)

 

 家で使ってるやつの方が切れるが、学校行事で使うには切れすぎる

 

 これ、班によっては結構な怪我するぞ

 

ひまり「わぁ!いずみん上手ー!」

陽介「普通だよ。あと、それを言うなら上原も上手いじゃないか。」

ひまり「そうかなー?」

陽介「あぁ。安心してみてられる。」

つぐみ「......」

陽介「羽沢の方はどうだ__って、羽沢!?」

 

 俺は羽沢の方に駆け寄った

 

陽介「危ない!」

つぐみ「え?」

 

 俺は羽沢から包丁を取った

 

 あのままじゃ指を切るところだった

 

ひまり「ど、どうしたの!?」

陽介「羽沢が指を切りそうだったから、包丁を取ったんだ。」

つぐみ「ご、ごめん......」

陽介「謝ることはないよ。ミスなんていくらでもある。」

ひまり「どうしたの、つぐ?さっきからボーっとしてるし?」

つぐみ「い、いや、その......」

陽介「?」

 

 羽沢が俺の方を見た

 

 どうしたんだろう?

 

陽介「まぁ、切るのはほとんど終わったし、米洗いに行こう。」

ひまり「うん!そうだね!」

つぐみ「う、うん......って、い、出水君!?」

陽介「ん?」

つぐみ「ゆ、指!」

陽介「?」

 

 俺は自分の指を見てみると、刃にあたっていたのか、血が流れていた

 

陽介「あぁ、血が出てるな。」

ひまり「あぁ、血が出てるな、じゃないよ!?大丈夫!?」

陽介「このくらい、水で流すなりしとけばいいよ。さっさと米洗いに行こうぜ。」

つぐみ「だ、ダメだよ!手当てしないと......」

ひまり「結構、ぱっくりと......」

陽介「でも、時間のロスになるし。」

 

 俺はそう言って、ボールに入れた米を水道に持っていた

 

陽介「さて、手を洗うか。」

 

 俺は血を洗い流すために手を洗った

 

 別に痛いとか、そう言うのは感じない

 

陽介「......よし、止まったな。」

 

 でも、止まったって言っても、衛生的に良くないな

 

陽介「二人とも、悪いけど米洗ってくれないか?流石にこれじゃ汚くて駄目だ。」

ひまり「う、うん、それはいいんだけど。だ、大丈夫なの?」

陽介「大丈夫大丈夫。余裕。」

ひまり「そ、そう。」

つぐみ「ご、ごめん、出水君......」

陽介「別にいいよ。俺が勝手にやったことだから。」

 

 俺は米を上原と羽沢に任せて、火おこしの方の様子を見に行くことにした

__________________

 

陽介「__調子はどうだ?」

 

 火おこしをしてる場所に来た

 

 でも、ちょっと困ってるっぽいな

 

蘭「あ、出水じゃん。もう終ったの?」

陽介「あぁ。後は二人が米を洗ってくれるらしい。それで、何か困ってるのか?」

巴「それがなぁ、なんか奥の方の日が弱いんだよなー。」

陽介「どれだ?」

 

 俺は火の中をよく見てみた

 

モカ「これは、まきと新聞に偏りがあるっぽいんだよねー。」

陽介「あぁ、そうだな。」

 

 よく見ると、奥の方のまきと新聞が少ないな

 

 確かにこれじゃ全体的に強くはならないな

 

巴「どうする?なんか長い薪とかで奥に押し込むか?」

陽介「それじゃあ、面倒だな。薪と新聞、貸してくれ。」

蘭「え?あ、うん。」

 

 俺は美竹から新聞と薪を受け取った

 

巴「どうするんだ?」

陽介「普通にこうするんだよ。」

蘭、巴、モカ「!?」

 

 俺は薪と新聞ごと手を突っ込んだ

 

 そして、奥の方に二つを置いて、手を出した

 

陽介「うん、燃え移ったな。オッケーオッケー。」

蘭「いや、いやいや、なにやってんの?」

陽介「?」

巴「手とか腕は、大丈夫なのか?」

陽介「なんもなってないぞ?ほら。」

 

 俺は手を見せた

 

 不完全燃焼の火だし、ちょっと触ったくらいなら火傷なんかしない

 

モカ「確かに、火傷はないねー。」

陽介「だろ?あ、真似はするなよ?」

蘭「いや、出来ないよ。」

 

 美竹は真顔でそう言った

 

 宇田川もすごい勢いで頷いてる

 

ひまり「__おまたせー!」

つぐみ「準備できたよ!」

陽介「お、ナイスタイミング。」

 

 ちょうど火がいい感じになったころ、二人が野菜と米を持ってきた

 

陽介「じゃあ、仕上げていくかー。」

 

 それから、俺はカレーの仕上げに入った

__________________

 

 カレーが完成し、俺達の班は昼ご飯の時間になった

 

 他の班はまだ全然、完成してない

 

陽介「__あれはトラブルでも起きてたのか?」

蘭「いや、うちが早すぎるだけだよ。」

 

 俺がそう言うと、美竹からそう言われた

 

 そんなに早いと思わなかったし、比較的にって事だろうな

 

ひまり「まぁ、食べようよ!いただきまーす!」

 

 上原に続いて、皆手を合わせてから食べ始めた

 

巴「おー!美味いな!」

ひまり「うん!なんだかいつもよりおいしく感じるよ!」

陽介(うん。しっかり火も通ってるし、カレー粉の溶け残りもない。)

 

 ただ、美味しいかと言われれば、味はほとんど感じない

 

 ドロドロした、ある程度、野菜と肉という事が分かる物体が入ったスープを米と分かるものと一緒に食べてると言う感覚だ

 

モカ「ようくんー?美味しいかねー?」

陽介「あ、あぁ、美味しいよ。」

モカ「そっかそっかー。」

 

 一瞬、心臓が大きく飛び跳ねた

 

 タイミング的に青葉に心を読まれてるように感じた

 

ひまり「この後って、何かあったっけ?」

蘭「この後は宿舎に行って、夜のレクリエーションの用意だから、担当じゃない人は休憩だよ。」

モカ「じゃー、モカちゃん達は休憩だねー。」

つぐみ「あ、私は部屋の事で先生に呼ばれてるから、行かないと。」

巴「そうなのか?じゃあ、4人になるのか。」

 

 羽沢は部屋のリーダー的な奴なのか

 

 大変そうだな

 

モカ「そー言えば、ようくんの部屋はどうなるのー?」

陽介「俺は教師に部屋を一個貰って、一人だよ。」

モカ「おー、ビップだねー。」

陽介「いや、そう言うのでもないよ。言ってしまえばあまりだからな。」

蘭「そう言われれば、そうだね。」

陽介「だから、そこまで良い物でもないよ、退屈になるだろうし。」

 

 そんなこんなで、俺達はカレーを食べ終わり

 

 他の班が終わるのを待った

 

 そして、他の班が食べ終わると、俺達は宿舎に向かった

__________________

 

 宿舎の部屋に来た

 

 当り前だが誰もいない、一人だ

 

陽介(__俺、若干、嘘ついたな。)

 

 俺が一人の部屋になった理由は、目を見られないためだ

 

 だから、俺は部屋の中にある風呂を使う

 

陽介「まぁ、いいだろ。あまりはついでの理由でもあったし。」

 

 俺は荷物を置いて、椅子に座った

 

 それから俺は、夜のレクリエーションの時間まで適当に時間を過ごした



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肝試し

 少し、日が落ちた頃、俺は宿舎の前に出た

 

 レクリエーションは外でするらしい

 

蘭「__あ、陽介。」

陽介「よっ、美竹。」

 

 外に出ると、もう5人がいた

 

 他の生徒もほとんど来てる

 

モカ「遅かったねー、ようくんやー。」

陽介「若干、遅れたかもな。」

ひまり「それにしても、外に集まれって、何するんだろうねー?」

巴「そうだなー。」

 

 そんな会話をしながら周りを見た

 

陽介「あれ?羽沢はいないのか?」

モカ「つぐは戻ってきてないんだよねー」

蘭「どうしたんだろ。」

陽介「まぁ、何か事情があるんだろ。」

 

 俺がそう言うと、教師の声がメガホン越しに聞こえて来た

 

教師『__これから、肝試しをします。』

 

 この声が聞こえた途端、青ざめた三人がいた

 

 俺はそっちの方に目を向けた

 

蘭「き、肝試し、わ、悪くないね。」

モカ「震えてるよー、蘭ー。」

蘭「はぁ!?震えてないしっ!」

ひまり「うわぁん!巴~!!!」

巴「だ、だ、大丈夫だぞ~。ひまり~。」

陽介「どうしたんだ?暑いのか、宇田川?」

 

 上原は分かりやすい、時点で美竹もわかりやすい、宇田川も分かると言えば分かる

 

 この3人、肝試し苦手だな

 

モカ「あー、ペアはクジらしいよー。」

蘭「え......?」

モカ「頑張れー。」

陽介「クジ、引きに行くか。」

巴「......あぁ。」

ひまり「うん......」

 

 俺たちはペア決めのくじを引きに行った

__________________

 

「__次の人どうぞー!」

陽介「はい。」

 

 俺は呼ばれると、くじを引いた

 

 引いたのは、4番だった

 

陽介「4番か。」

蘭「陽介、何番だった?」

陽介「これだ。」

 

 俺は引いたくじを美竹に見せた

 

蘭「あれ、この番号、さっき見たような......」

モカ「おー、相変わらず、ようくんとはご縁がありますなー」

陽介「なんだ、ペアは青葉なのか。」

ひまり「やややばいよ、巴!怖いの大丈夫な二人がー!!」

巴「だ、大丈夫だ!何が来てもぶっ飛ばしてやる!」

陽介「あぁ、そう言えば。」

巴、ひまり「?」

陽介「この辺で昔、肝試しをして行方不明になった女子がいたって宿舎のホールに書いてあったような。」

ひまり「きゃぁぁぁぁ!!!」

 

 俺がそう言うと上原が絶叫し、美竹と宇田川の顔が青くなり、青葉が腹を抱えて笑っていた

 

 一応、これは13年ほど前にあった事件らしく、新聞記事が貼ってあった

 

モカ「......ねー、ようくんー?」

陽介「なんだ?」

モカ「つぐが戻って来ないのってー」

陽介「まぁ、そうだろうな。」

 

 大体、分かるよな

 

 羽沢は仕掛け側だ

 

陽介「どうする?あの3人に言っとくか?」

モカ「いやー、いいでしょー。おもしろそーだしー。」

陽介「恐ろしいやつだな。」

モカ「そうかなー?」

 

 それから、俺は怖がる3人の横で青葉と話しながら順番を待ってた

 

 そして、少し経って、俺達の番が来た

 

陽介「__よし、行くか。」

モカ「そーだねー。」

巴「ふ、二人とも、何かあったらすぐに逃げるんだぞ!」

ひまり「き、気をつけてね!」

蘭「......足元に気をつけなよ。」

陽介、モカ「......」

 

 これが、子供に初めて留守番を任せる親の気分なんだろうか

 

 俺はそんな事を思いながら、肝試しのルートがある森の中に入った

__________________

 

 森の中は暗く、ギリギリ裸眼で前が見える程度だった

 

陽介「__すごい暗いな。」

モカ「そーだねー。蘭たち、転ばないといいけどー。」

陽介「怖がって走って転んだりしてな。」

 

 俺と青葉はそんな話をしながら道を進んでいった

 

 そして、しばらく進むと、変な感覚がした

 

陽介「......?」

モカ「どうしたのー?」

陽介「あそこ、誰かいないか?」

モカ「いるねー。」

陽介「あれ、羽沢だよな?」

モカ「......つぐだねー。」

 

 俺たちの目には気の陰で意気込んでる羽沢が見えていた

 

 隠れれてない、丸見えだ

 

陽介「なんだろうな、自分から罠に突っ込むのって。」

モカ「お笑い芸人にでもなった気分だねー。」

陽介「そうだな。」

 

 俺たちは若干苦笑いしながら、羽沢がいるほうに歩いて行った

 

つぐみ「(あ、誰か来た!)わーっ!!!」

陽介、モカ「」

 

 あまりにも斜め上な驚かせ方に俺と青葉は言葉を失った

 

 まさか、そう来るとは思わなかった

 

 青葉ですら唖然としてる

 

つぐみ「あれ......?」

陽介「羽沢......」

モカ「つぐ......」

つぐみ「なんで、そんなに悲しそうな顔をしてるの!?」

 

 羽沢は人を驚かせたりとかに根本的に向いてない

 

 悲しすぎるほどに怖い要素がない

 

モカ「つぐはー、そのままでいいんじゃないー?」

つぐみ「え?」

陽介「まぁ、怖がりの子には優しいし、良い調整だと思うぞ?」

つぐみ「それって怖くないって事だよね?」

陽介、モカ「......」

つぐみ「?」

モカ「わー、こわーい。」

陽介「すごいこわーい。怖すぎて、心臓が飛び出るかと思ったー。」

つぐみ「棒読み!?」

 

 青葉からアイコンタクトが来たので、乗ってみた

 

 何をしてるんだろう

 

陽介「まぁ、俺達は行くよ。」

つぐみ「うん。」

モカ「つぐも気をつけてねー。」

つぐみ「二人も気をつけてね!」

 

 俺と青葉は手を振りながら、先に進んでいった

 

 羽沢のいた場所を過ぎてから、しばらく歩くと

 

モカ「......」

 

 青葉が足を止めた

 

 俺は振り返って、青葉の方を見た

 

陽介「青葉、どうした?」

モカ「ねー、ようくんー。」

陽介「なんだ?」

 

 青葉は俺を見てる

 

 こんな顔は初めてだ、ゾッとする

 

モカ「ようくん、いっつも上手く隠してるよねー。」

陽介「......何のことだ?」

モカ「とぼけなくてもいいよー。その眼帯の下、目がないんでしょー?」

陽介「っ!!」

 

 心臓が飛び跳ねた

 

 なんで気付いた、誰にも眼帯の下は見られてないはずだ

 

陽介「......なんで、知ってる。」

モカ「バスの中で眼帯とれてたからねー」

陽介「なに!?」

 

 それだったら何で、起きた時眼帯が付いてた

 

 そして、なんで寝てたはずの青葉が見れてるんだ

 

モカ「驚きはしなかったけどねー」

陽介「え?」

モカ「何となくだけど、そんな感じかなって思ってたしー。だって、あそこまで目を隠そうとするなんて、相当だしねー。」

陽介「なるほどな。」

 

 青葉は想像力が豊かだな

 

 でも、今回は的確に当たったわけか

 

モカ「それとー、これも想像なんだけどー」

陽介「?」

モカ「ようくん、あんまり食べ物の味、感じてないんじゃないかなー?」

陽介「!!」

モカ「その反応、あたりだねー」

 

 モカは一人で拍手をしながら、続けて話し出した

 

モカ「おかしいと思ってたんだよねー。モカちゃんがお弁当の味が濃いって言ってから、急に薄くなったんだもんー。」

陽介「......偶然、にしては確かに出来過ぎだな。」

モカ「それだけじゃなくて、今日のカレーとかの感想も、不自然だったしー。」

 

 青葉はずっと気付いてたのか

 

 それにしても、良く俺の事なんか見てたな

 

モカ「まー、これが分かっても、あたしには何もないんだよねー。」

陽介「まぁ、そうだな。」

モカ「特に言いふらしたりもしないしー、心配しなくていいよー。」

 

 青葉はいつも通りの緩い表情になった

 

陽介「うん?じゃあ、とれてた眼帯を直してくれたのは青葉なのか?」

モカ「違うよー。」

陽介「え?」

モカ「モカちゃんも寝ぼけながら見てたから、その後寝ちゃったんだよねー。」

 

 それじゃあ、誰が直したんだ?

 

 少なくとも、後一人に目を見られてる、まずいな

 

モカ「まー、さっさと終わらせよー」

陽介「......そうだな。」

 

 俺と青葉は森を抜けていった

__________________

 

 時間が経って、最後にいペアが戻ってきた

 

 生徒はもう、帰る気満々だ

 

 だが、教師の様子がおかしい

 

陽介「どうしたんだ?」

モカ「どうしたんだろうねー?」

女子「ねぇ、二人とも......?」

陽介、モカ「?」

女子「は、羽沢さん、見てないかな?」

 

 話しかけてきた女子はそう言ってきた

 

 俺は肝試し中に見たと答えた

 

女子「じ、実は、羽沢さんの懐中電灯、電池を入れ替え忘れてたの......」

陽介、モカ「え?」

 

 女子はオズオズと電池を出した

 

陽介「まて、携帯は持ってないのか?」

女子「仕掛け人側、なったらダメだって先生が預かってて......」

陽介「......やばいじゃないか。」

モカ「ヤバいね。」

 

 その時、俺はあの新聞記事を思い出した

 

陽介「青葉、俺は羽沢を探しに行く。」

モカ「あたしも。」

陽介「いや、青葉はもしもの時のためにここにいてくれ。」

 

 俺はそう言って森の中に入って行った

__________________

 

 ”つぐみ”

 

つぐみ「__ど、どうしよ。」

 

 つぐみは森の中で何処か分からないまま、立ちすくんでいた

 

 肝試しの時よりも暗さを増した森の中では自分の手足を確認するのもやっとだ

 

つぐみ「あ、懐中電灯。」

 

 つぐみは懐中電灯のスイッチをつけた

 

 だが、それから光が出る事はなかった

 

つぐみ「えぇ!?な、なんで!?」

 

 何回もスイッチを押した

 

 だが、ついに懐中電灯が動く事はなかった

 

つぐみ「ど、どうしよ......」

 

 その時、つぐみは強い恐怖を感じた

 

 揺れる木々の音は人の声に聞こえてきて、頬に触れる風はどこか生ぬるい

 

 どこからか、地面に落ちてる草を踏みしめるような音も聞こえてくる

 

 今の心情と合わさって、恐怖心が強く煽られる

 

 ガサガサ!!!

 

つぐみ「ひっ!!!」

 

 ただの草の音ですら、今のつぐみには強い恐怖になる

 

 目には涙が溜まり、手と足は震えている

 

つぐみ(だ、誰か、誰か......)

 

 誰かに来てほしい、そう思っても、もう肝試しは終了しており、生徒は来ない

 

 教師が探してくれているかもしれないが、ここがどこか分からない

 

 つぐみはその場で座り込んだ

__________________

 

 ”陽介”

 

 俺は森の中に入って、羽沢を探してる

 

 肝試しの順路にはいなかった、つまり外れた場所にいるって事だ

 

陽介(羽沢のいた場所から考えて、多分、入口の方から出ようとするはず。)

 

 最後のペアが入った頃はかなり暗くなっていた

 

 それで、電池のない懐中電灯しか持ってなかった羽沢は方向感覚がなくなって迷子になってる、という感じだろう

 

陽介(そうだとしたら、かなり探すのが難しい。どう探すか。)

 

 俺は考えた、どうすれば見つけられるか

 

陽介「......そうだ。」

 

 俺は一本の木を思いっきり殴った

 

 そして、左拳から血が出て、それは木にべったりついた

 

陽介「よし、これを目印に探すか。」

 

 俺は捜索を始めた

 

 少しずつ、捜索範囲を広げて行った

 

陽介(どこだ、どこにいる。)

 

 これ以上は流石にきつい

 

 そう思ってると、ある方向に少し開けた場所が見えた

 

 俺はその方向に歩いた

 

陽介「__いた。」

つぐみ「え......?出水君......?」

 

 そこには、涙目で体育座りをしてる羽沢がいた

 

 相当怖かったのか、見るからに震えてる

 

陽介「大丈夫か?」

つぐみ「な、なんで......?」

陽介「仕掛け側の女子に羽沢が戻って来ないって言われてな。探しに来た。」

 

 俺がそう言うと、羽沢は緊張の糸が切れたのか、泣き始めた

 

陽介「はは、すごい泣き顔だな。」

つぐみ「だって、もう、ダメだと思ったんだもん......っ」

陽介「大丈夫だったんだから、良いじゃないか。」

 

 俺は右手を羽沢に差し出した

 

陽介「ほら、帰ろうぜ。それで、飯食って風呂入って、夜は幼馴染たちと楽しいおしゃべりだ。」

つぐみ「う、うん......!」

 

 羽沢は涙を袖で拭ってから立ち上がった

 

 そして、俺は来た道をそのまま戻って行った

__________________

 

ひまり「__あ!つぐー!」

つぐみ「ひ、ひまりちゃ__」

ひまり「心配したよー!!」

 

 森を抜けて、元の場所に戻って来ると、そこには美竹、青葉、宇田川、上原がいた

 

 上原は羽沢に抱き着き、涙を流している

 

陽介「......よかった。」

 

 俺は少し息を吐いた

 

蘭「出水。」

陽介「ん?」

蘭「ありがとう。つぐみを見つけてくれて。」

 

 美竹はそう礼を言ってきた

 

陽介「あー、別に礼とかいいよ。俺が勝手にやったことだし。」

巴「それにしても、どうやって見つけたんだ?」

陽介「勘だ。」

モカ「じゃー、その手は何なのかなー?」

陽介「!」

 

 青葉は俺の手を掴んで、持ちあげた

 

 それは、拳からとめどなく赤黒い血がしたたり落ちてる

 

蘭「それどうしたの!?」

陽介「......擦りむいた。」

モカ「嘘だー。」

陽介「......木を殴った。」

巴「なんでだ!?」

 

 美竹と宇田川の2人は慌てた様子だ

 

 それに対し青葉は何かを考えてるような表情だ

 

陽介「まぁ、こんなの__」

つぐみ「い、出水君!?」

陽介「なんだ?」

 

 上原から解放された羽沢がこっちに駆け寄ってきた

 

 2人よりも慌ててる

 

つぐみ「て、手が!」

陽介「あ、うん。そうだな。」

 

 もう何を言われるか大体わかってるから、そう答えるしかなかった

 

 羽沢はまた涙目になってる

 

つぐみ「す、すぐに手当てしないと!」

陽介「い、いや、こんなの洗えば大丈夫__」

つぐみ「ダメだよ!」

陽介「あ、はい。」

つぐみ「じゃあ、行くよ!」

 

 俺は羽沢に引っ張られて行った

 

 その時、上原がやけにニヤニヤしてる気がした

__________________

 

 宿舎に戻って来ると、俺は水で傷口を洗ってから、羽沢に手当てを受けていた

 

つぐみ「__それで、なんで、こんなことになったの?」

陽介「暗い森の中で人を探すなら分かりやすい目印が必要だった。だから、木を殴って目印を作った。」

 

 俺がそう言うと羽沢はプンプンと効果音が付きそうな雰囲気で、怒っていた

 

 そんな羽沢を見ると、自然に笑ってしまう

 

つぐみ「なんで笑ってるの!」

陽介「いや、なんか可愛らしくてな。」

つぐみ「!///」

 

 俺がそう言うと、羽沢の顔が見る見るうちに赤くなった

 

陽介(感覚的には小型犬みたいな、そんな感じだな。)

 

 俺は一人で納得しながらうなずいた

 

つぐみ「......出水君。」

陽介「どうした?」

つぐみ「見つけてくれて、ありがとうね。」

 

 羽沢は落ち着いた様子を見せてからそう言ってきた

 

つぐみ「本当に、怖かったの。誰にも見つけられなかったらって、思っちゃって......」

陽介「大丈夫だったよ。俺が勝手に探しに行っただけで、俺がいなくても幼馴染の誰かが見つけてたよ。」

 

 俺はそう言いながら立ち上がった

 

陽介「手当、ありがとうな。早く治る気がする。」

つぐみ「うん!」

陽介「それにしても、さっきはかなり剣幕だったな?」

つぐみ「え?」

 

 いつもの羽沢からは考えられないくらい行動が強引だったし、声音も怒ってた

 

 どうしたんだろうか?

 

つぐみ「えっと、それは......///」

陽介「?」

つぐみ「し、心配だったから......///」

陽介「うん?そうか?」

 

 羽沢は消え入りそうな声でそう言った

 

 まぁ、羽沢らしい理由だな、納得した

 

 性格から考えても、これを自分のせいと思ってもおかしくないし

 

陽介「ま、ありがとな。」

つぐみ「うん......///」

 

 俺はそう言って、出口の方を見た

 

陽介「じゃあ、飯食いに行こうぜ。風呂にも入りたいし。」

つぐみ「うん!出水君!」

 

 それから、俺達は他の4人と一緒に夕飯を食べた

 

 これで、林間学校1日目が終わった



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船上で

 ”林間学校、1日目のRAS”

 

六花「__こんにちは。」

チュチュ「来たわね、ロック。」

六花「はい!」

 

 六花はスタジオに来ると、周りをきょろきょろしていた

 

パレオ「どういたしましたか?」

六花「あの、出水さんはいないんですか?」

パレオ「ようさんは本日より林間学校に。」

六花「そ、そうですか......」

チュチュ「どうしたのかしら?」

六花「い、いえ!なんでもないですっ!」

 

 チュチュはそう言うとパソコンに目を移した

 

六花(なんで、ちょっと残念って思ったんだろう......?)

 

 六花はそんな疑問を残したまま、練習の開始を待った

__________________

 

 林間学校、2日目

 

 俺は食堂で朝食を食べてる

 

陽介(__味しない。)

 

 最近、更にひどくなってる気がする

 

 本格的に触感しか感じない

 

つぐみ「__い、出水君!」

陽介「あ、おはよう。羽沢。」

つぐみ「うん!おはよう!」

 

 俺が食事をしてると、朝食が乗せられたおぼんを持った羽沢が来た

 

つぐみ「一緒に食べていいかな?」

陽介「え?別にいいが、あの4人は?」

 

 俺は周りを見渡した

 

 あの4人は、美竹はじっとこっちを見てて、他の3人はニヤニヤしながらこっちを見ていた

 

陽介「......なんなんだ?」

つぐみ「どうしたの?」

陽介「いや、なんでもない。」

 

 俺はもう、気にしないことにした

 

 そして、食事を再開した

 

つぐみ「ここの料理って美味しいよね!」

陽介「あぁ、そうだな。」

つぐみ「なんか、こう、素朴な感じがして!」

陽介「そうだな。」

 

 今日の羽沢はやけに話す

 

 俺は勢いに圧倒され上手く会話ができない

 

つぐみ(う、上手く会話ができない......)

陽介「なぁ、羽沢。」

つぐみ「!」

 

 俺が話しかけると、羽沢は嬉しそうに顔をあげた

 

つぐみ「な、何かな!」

陽介「今日の予定って何だったか覚えてるか?」

つぐみ「今日は、午前は登山で、午後からはカヤックに乗るんだって!」

陽介「山の中でカヤックって、山の意味あるのか?」

つぐみ「さ、さぁ......?」

陽介「まぁ、登山あるし、山である意味はあるのか?」

つぐみ「えっと、出水君......///」

陽介「うん?」

 

 羽沢の顔が赤い

 

 モジモジした態度でこう言ってきた

 

つぐみ「カヤックね、2人乗りかららしいんだけど、私と二人で乗ってくれないかな......?///」

陽介「二人で?」

 

 いつもの4人はいいのかとか、男子と2人なんかでいいのかとか、思う事は多々ある

 

 だが、断る理由もないし、承諾することにした

 

陽介「まぁ、いいぞ。」

つぐみ「え、いいの?」

陽介「あぁ。羽沢が誘ってくれないと一緒に乗るの奴がいなかったからな。」

つぐみ「やった!」

陽介「そんなに嬉しいもんか?」

つぐみ「うん!もちろん、うれ、しいよ......///」

 

 羽沢は話しながらだんだんと赤くなっていった

 

つぐみ「ご、ごめん!私行くよ!また後でね!///」

陽介「え、は、羽沢?......。行っちまった。」

 

 俺は羽沢の行動に疑問を持ちつつ、残りの朝食を食べて朝にすることの用意をした。

__________________

 

ひまり「__みんなー、待ってー......」

巴「なんだひまりー?だらしないなー!」

 

 俺たちは登山に来ている

 

 距離はそこまで長くないが、傾斜も急だし、きついやつはきつい

 

蘭「置いて行くよ、ひまり。」

ひまり「待ってよー蘭ー」

モカ「頑張れーひーちゃんー。」

ひまり「も、モカ......!」

モカ「これを登り切れば、1キロくらい減るかもしれないよー。」

蘭「......ふっ。」

ひまり「何言ってるのー!!蘭も笑わないでよー!!!」

蘭「ご、ごめん。」

 

 そう言いつつも、美竹は笑い続けている

 

 俺の経験上、男子が女子の体重の話に入るのはタブーなので、聞かなかったことにした

 

陽介「距離的にはもうすぐ目的地だと思うんだが。」

つぐみ「そうだね?」

モカ「いやー、もう見えてるよー。」

ひまり「え!?ほんと!?」

陽介、つぐみ「!?」

 

 青葉のその声を聞いて上原は山道を走って登って行った

 

 ここから、頂上なんて見えないけどな

 

モカ「......ひーちゃんが走って行ったらねー。」

陽介「うわ、鬼だ。」

巴「まぁ、いいじゃねぇか!」

蘭「そうだね。ひまり、遅かったし。」

つぐみ「あはは......」

 

 俺たちは苦笑いしながら、山を登って行った

 

 結構な距離を進んだ頃、道の端で座り込んでる上原がいた

 

 こっちに気付いたのか、顔がこっちに向いてる

 

モカ「頂上は見えたでしょー?」

ひまり「もー!モカー!!」

モカ「いいじゃんーいいじゃんー、もうすぐ着くよー。」

ひまり「もう歩けないよー!」

巴「ははは!大丈夫だ!」

 

 宇田川はそう言って上原を無理やり立たせた

 

 これはこれで鬼だな

 

つぐみ「ひまりちゃん!もう少しだよ!」

蘭「あと50メートルくらい。」

 

 とりあえず、じわじわ上原を追い込んでる事は分かった

 

 それをいい受け取り方をして張り切れる上原はまぁ、いい意味で馬鹿なんだろうな

 

ひまり「どうしたの、いずみん?」

陽介「なんでもないぞ。」

 

 俺はそう言って、上原から目をそらした

 

 そして、5人について、頂上に行った

__________________

 

ひまり「__ついたー!」

 

 頂上に着くと、上原が何かから解放されたように叫んだ

 

つぐみ「私、先生に報告してくるね!」

巴「おう!」

モカ「あたしは、トイレー。」

 

 そう言って二人はどこかに歩いて行った

 

陽介「よっと。」

 

 俺は近くにあったベンチに座った

 

 後15分は休憩時間だし、座ったもん勝ちだろう

 

蘭「隣、いい?」

陽介「いいぞ、今のうちに座っとけ。」

蘭「うん。」

 

 美竹は俺の隣に座った

 

陽介「それにしても、景色が綺麗だなー。」

蘭「うん、そうだね。」

 

 美竹はそう言いながら、ノートを出した

 

 そのノートにはある文章が書いてある

 

陽介「それはなんだ?」

蘭「歌詞。」

陽介「歌詞?」

 

 入れは不思議に思って、しばらく美竹がノートに何かを書き込んでるのを見てた

 

 時々、唸ったり、首を傾げたり、試行錯誤をしてる様子があった

 

蘭「......見てて楽しい?」

陽介「楽しいぞ。今の自分の心を率直に書いてて。」

蘭「そう。」

 

 美竹はそう答えると、またノートに目を移した

 

 俺はそれを静かにじっと見てた

 

 ”つぐみ”

 

つぐみ「__い、出水君と蘭ちゃん。」

 

 少し離れた場所から、教師への報告を終えたつぐみが、陽介と蘭の二人を覗き込んでいた

 

 はたから見れば、同じベンチで座り、顔を近づけてるようにしか見えない

 

 そんな雰囲気からか、まだ空いてるにもかかわらず、あのベンチには誰も座ろうとしない

 

つぐみ(な、仲いいのかな?)

モカ「つぐー?」

つぐみ「も、モカちゃん!?」

モカ「何してるのー?」

 

 モカは二人を覗き込んでたつぐみにそう聞いた

 

 モカの表情はニヤニヤしている

 

つぐみ「え、えっと......」

モカ「ようくんと蘭、仲良さそうだねー。」

つぐみ「!!」

 

 モカのその言葉につぐみの肩が跳ねた

 

 自分の心を読まれたんではないかと、つぐみは一瞬驚いた

 

モカ「つぐはそんなに、ようくんが好きかなー?」

つぐみ「え、えぇ!?///」

モカ「まー、見れば分かるよねー。」

つぐみ「うぅ......///」

 

 つぐみは顔を赤くしてうなだれている

 

 そんな、つぐみを見てモカは真面目なトーンで話し始めた

 

モカ「ねー、つぐー。」

つぐみ「ど、どうしたの?」

モカ「ようくんの目はどうだったかなー?」

つぐみ「っ!?」

モカ「眼帯、直してあげたの、つぐなんでしょー?」

つぐみ「......うん。」

 

 つぐみは小さな声でそう答えた

 

 そんなつぐみにモカはこう言った

 

モカ「あんなことになった理由は分からないけどー、見ちゃったなら一応、言っておいた方がいいんじゃないー?」

つぐみ「う、うん。」

モカ(それで、事情とか話すならー、つぐにとってはある意味美味しい展開なんだよねー)

 

 モカは小さく笑った

 

つぐみ「モカちゃん?」

モカ「なんでもないよー。じゃあ、頑張ってねー。」

つぐみ「う、うん!」

 

 そうして、時間は過ぎていった

__________________

 

 あれから、昼食をとり、俺達は水辺に移動した

 

 結構大きな湖があって、確かにカヤックもしたくなるな

 

つぐみ「__出水くーん!」

陽介「あ、羽沢。」

 

 手を置きく振りながら羽沢が近づいて来た

 

 すごく嬉しそうな表情をしてる

 

つぐみ「ペアが出来た人から行くんだって!行こ!」

陽介「あぁ、分かった。」

 

 俺は小走りで出発地点に行く羽沢の後ろをついて行った

__________________

 

 その後、俺達はボートに乗った

 

 結構難しいもので、前に進むのには技術がいる

 

陽介「__上手くなってきたな。」

つぐみ「うん!」

 

 難しいと言っても多少のコツを掴めば、上手く動ける

 

 そして、俺達はかなりの距離を進んだ

 

陽介「結構、遠くに来たな。戻らないと。」

つぐみ「ね、ねぇ、出水君?」

陽介「ん?」

 

 俺が周りを確認していると、羽沢が話しかけて来た

 

 様子がおかしいな

 

陽介「どうした?」

つぐみ「えっとね、出水君に言わなくちゃいけない事があって......」

陽介「俺に?」

 

 俺には心当たりがなかった

 

 言わないといけない事なんて、あるのか?

 

つぐみ「バスの中でのことなんだけど。」

陽介「っ!」

 

 羽沢がそう言うと、俺の心臓が大きく動いた

 

 バスの中、まさか......

 

陽介「......見たのか。」

つぐみ「うん......」

 

 俺がそう聞くと、羽沢は小さな声で答えた

 

 納得がいった、俺の眼帯を直したのは羽沢で、広まらなかったのも羽沢と青葉にしか見られてなかったからか

 

つぐみ「それで、その......ごめんね......」

陽介「いや、謝らなくてもいいよ。」

 

 俺は手を振りながらそう言った

 

陽介「あれを見ても騒がないでくれたおかげで周りに広がらなかったし、見てて気持ちい物じゃないのにわざわざ眼帯も直してくれて。」

つぐみ「そ、そんな!」

 

 俺がそう言うと、羽沢は強く否定した

 

 そして、こう聞いてきた

 

つぐみ「なんで、そんな事になったの......?」

陽介「......」

つぐみ「あ、ご、ごめん!」

陽介「......いや、別に目の理由だけなら話してもいいよ。」

つぐみ「!」

 

 羽沢なら言いふらすこともないだろうし

 

 話しても大丈夫だろう

 

陽介「これは、ある事故でなったんだ。」

つぐみ「事故......?」

陽介「あぁ。前の学校で工事をしてて、その鉄骨と木材がある女子に倒れてきてな、それに俺が勝手に突っ込んだんだ。」

 

 俺がそう言うと、羽沢は驚いた顔をしてた

 

陽介「その時に、まぁ、色々あってこうなってたんだ。」

つぐみ「そうなんだ......」

陽介「まぁ結果として、その女子は助かったし、これだけですんで御の字だったよ。」

つぐみ「それは違うよ。」

陽介「?」

 

 羽沢の声のトーンが下がった気がした

 

つぐみ「命は大切だよ、だって、たった一つしかないから。」

陽介「あぁ。だから、御の字だ。」

つぐみ「でも、出水君の目だって、二度と戻らないんだよ?」

 

 羽沢はそう言った

 

 目からは涙が零れている

 

つぐみ「人を助けた出水君の行動は凄いと思う......」

陽介「......」

つぐみ「でも、出水君が傷ついて、御の字なんて言っちゃだめ......」

 

 声が震えてる

 

 大粒の涙が、船の床に落ちてる

 

つぐみ「だって、それじゃ、出水君が、傷ついていい人みたいになっちゃうもん......!」

陽介「......!」

つぐみ「そんなの、誰も望んでない!お父さんとお母さんだって!」

陽介「っ!!!」

 

 その言葉の後、急激にめまいがした

 

 体温も暑いのか寒いのか分からない

 

 嫌な汗がとめどなく流れてる

 

 呼吸が、上手くできない

 

つぐみ「い、出水君!?」

陽介「俺に、親は、いないんだ......」

つぐみ「......え?」

陽介「俺には、傷つくことを悲しむ親なんて、いないんだ......!」

 

 何を言ってるか分からない

 

 耳が上手く機能してない、世界が回ってる

 

 でも、口が動いてる事は分かる

 

陽介「俺は、捨てられた......事故の後に、いつの間にか......」

 

 俺の中で、何かが崩れていく

 

つぐみ「出水君!」

陽介「__!」

 

 何かに包み込まれる感覚

 

 羽沢、か

 

つぐみ「ごめんね、私、何も知らなくて......」

陽介「......」

つぐみ「辛い事を思い出せちゃって、ごめんね......」

 

 崩壊が、止まった

 

 優しい、香りがする

 

 まるで、さっきまでとは違う世界に来たみたいだ

 

陽介「あ、ありがとう......」

つぐみ「う、うん。」

 

 俺がそう言うと、羽沢は離れた

 

 心臓の拍動も治まって、汗も止まっていた

 

つぐみ「だ、大丈夫......?」

陽介「あぁ、大丈夫だ。」

 

 なんだったんだ、あの感覚は

 

 まるで、心が砂になって崩れていくような感覚

 

 前よりも、強くなってる

 

陽介「......戻ろうか。」

つぐみ「う、うん。」

 

 そうして、俺達は陸の方に戻って行った

__________________

 

 その後、活動は終わり、俺達は宿舎に戻ってきた

 

陽介「__じゃあ、俺は部屋に戻るよ。」

蘭「うん。お疲れ。」

 

 俺はそう言って、自分の部屋に戻って行った

 

 ”つぐみ”

 

つぐみ「......」

モカ「つぐー?どうしたのー?」

つぐみ「ううん。何でもないよ。」

モカ「そうー?」

つぐみ「うん。」

 

 つぐみがそう答えると、モカは思い出したように口を開いた

 

モカ「ようくんとは話せたー?」

つぐみ「っ!......う、うん。」

モカ「?」

 

 あまりにも不自然なつぐみの反応にモカは首を傾げた

 

つぐみ「ほ、ほら!早く行こ!モカちゃん!」

モカ「う、うんー。」

つぐみ(まさか、出水君にあんな事が......)

 

 つぐみは船上でのことを思い出していた

 

 親がいない、陽介はそう言ったのだ

 

つぐみ(出水君......)

 

 つぐみは心臓が締め付けられるような感覚に襲われた

 

 事故に遭って、親に捨てられて、あまりにも可哀そうだと、そう思ったのだ

 

つぐみ(......私がなんとかしたい。)

 

 つぐみは拳を握りしめた

 

つぐみ(何ができるか分からないけど、少しでも、心を埋めてあげたい!)

モカ「つぐー?」

つぐみ「モカちゃん!私がんばるね!」

モカ「うんー?なにをー?」

つぐみ(頑張るよ、私!......好きな人のために......!///)

 

 こうして、林間学校の2日目が終わった



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終わりと遭遇

つぐみ「__出水くーん!」

陽介「!?」

 

 朝、俺が朝食を受け取るためにカウンターの前で待ってると羽沢が走ってきた

 

 あまりにいい笑顔だったから、かなり面食らった

 

つぐみ「おはよう!」

陽介「あ、あぁ、おはよう。」

つぐみ「今から朝ごはん?」

陽介「そうだ。」

つぐみ「じゃあ、一緒に食べよ!」

陽介「あぁ、いいぞ。」

 

 なんなんだろう

 

 羽沢ってずっとこんな感じだったか

 

 そう思ってる内に朝食が来た

 

 そして、羽沢も朝食を受け取って、席に座った

 

陽介「羽沢、今日は__」

つぐみ「今日は午前中に自然観察で、そなとお昼ご飯を食べて帰るよ!」

陽介「あ、あぁ、そうか。」

 

 なんで、言おうとしたことが分かったんだろう

 

 いや、昨日も同じこと聞いたから、パターン的に分かったんだろう

 

陽介「自然観察、つまり自由時間か。」

つぐみ「ま、まぁ、言っちゃえばそうかもね。」

陽介「まぁ、山奥なんて滅多に来ることもないし、そう言うのもいいのかもな。」

 

 俺はそう言った後、味噌汁を飲んだ

 

 まぁ、お湯と大して変わらないんだが

 

つぐみ「やっぱり、自分で作った方が美味しい?」

陽介「?」

 

 俺が朝食を食べてると、羽沢はそう言ってきた

 

 そんなに顔に出てたのか

 

陽介「いや、そういう訳じゃないよ。」

つぐみ「そうなの?」

陽介「あぁ。美味しいよ。」

 

 俺と羽沢はこんな感じで会話をしながら朝食を食べた

 

 ”アフターグロウ”

 

モカ「__おー、良い感じ良い感じー。」

蘭「つぐみ、すっごい笑顔だね。」

 

 少し離れた席で、4人は二人の様子を見ていた

 

ひまり「つぐ、可愛いねー!」

巴「あぁ、そうだなー。」

蘭「あれ、モカがけしかけたんでしょ?」

モカ「その通りー。」

 

 モカは手で丸を作りながらそう言った

 

ひまり「それにしても、好きになったって言ってもさ、あんなに態度変わるものなのかな?」

モカ「!」

巴「だよなー。なんであんなになったんだ?」

蘭「モカ、何か知ってる?」

モカ「......知らなーい。」

蘭「そう。」

 

 モカがそう言うと、3人は納得したように観察を再開した

 

モカ(流石にー、事情は言えないよねー。)

 

 そうして、朝食の時間は過ぎていった

__________________

 

 朝食を食べた後、俺達はある程度の準備して、外に出た

 

 教師から説明を受けて、自然観察が開始しされた

 

陽介「__やる事ないよな。」

つぐみ「あ、あはは。」

 

 活動範囲は肝試しをした森だ

 

 範囲は広いが、何をしたらいいんだろう

 

陽介「__ん?」

モカ「あれはー?」

蘭「なに?」

 

 少し歩いてると、一か所に人だかりができていた

 

 不思議に思い、俺達はそれに近づいて行った

 

「これ、なに?」

「何かの呪い?」

「肝試しとかしたし......まさか......」

 

陽介「何言ってるんだ?......って、あれは?」

 

 そこには、とても見覚えがある、物があった

 

 木の肌に渇いた、赤い模様

 

 ペンキみたいにべったりとついてた様子がうかがえる

 

モカ「あれはー?」

ひまり「ま、まさか、呪い!?」

巴「そそそんなわけないだろー!?」

蘭「そうだよ、馬鹿馬鹿しい。」

陽介「そ、そうだなー。じゃあ、他の所に行くかー。」

つぐみ「......出水君?」

 

 俺が別の場所に移動しようとすると、羽沢が俺の事を呼んだ

 

 それを聞いた俺は、背筋が凍るような悪寒を感じた

 

つぐみ「あれ、何なんだろうね?」

陽介「え、えっと、森に棲んでるおばけさんじゃないかなー?」

つぐみ「出水君?」

陽介「はい!ごめんなさい!」

 

 あれ、俺がぶん殴って付けたやつだ

 

つぐみ「もう。あれは私のせいだけど、もうあんなのしちゃダメだよ?」

陽介「はい。」

蘭「あんな事してたんだ。」

巴「あー、目印ってやつか。」

ひまり「びっくりしたー。」

 

 俺は羽沢にそう注意され

 

 怖がり3人は心底安心していた

 

 ”モカ”

 

モカ(さらっと言ってるけど、あんな量の血が出るほど手が傷ついてるんだよね?)

 

 モカは陽介の手を見た

 

 そこには包帯が巻かれており、一部からは血がにじんでる

 

モカ(まるで、手を切り落としたみたいー。)

蘭「モカ、何ボーっとしてるの?置いて行くよ。」

モカ「あー、待ってよー。」

 

 それから、陽介たちは自然観察と言う名の雑談の時間を過ごした

_________________

 

 それから、俺達は昼食をとっていた

 

 教師から弁当を配られ、好きな場所で食べていいらしい

 

モカ「__それにしても、一瞬で終わったねー。」

陽介「あぁ、そうだな。」

ひまり「楽しかったよねー!」

巴「あぁ!次の行事も楽しみだなー!」

蘭「期末テスト。」

ひまり、巴「うっ、頭が......」

つぐみ「あはは......」

 

 宇田川と上原は頭を押さえた

 

 期末テストか、まぁ、俺は問題ないな

 

巴「陽介ー、助けてくれー!」

ひまり「助けてよー!いずみんー!」

陽介「え?」

 

 二人は俺に泣きついてきた

 

 なんで、俺に来るんだ......

 

陽介「助けるって言っても、俺は何もできないぞ。」

巴「前みたいにノート見せてくれよー!」

陽介「あぁ、そういう事か。」

つぐみ「二人とも!あんまり甘えちゃダメだよ!」

ひまり「でもさー、つぐー。」

蘭「このままじゃ、二人とも学年下になるよ。」

モカ「......ふっ。」

陽介「いや、前のテスト、そんなに絶望的だったのか。」

 

 美竹はため息をつきながら頭を抱えてる

 

 羽沢と青葉も苦笑いだ

 

陽介「そういう事なら、まぁ、写真に撮るくらいにしてくれ。」

巴「あぁ、わかった!」

ひまり「ありがとー!いずみんー!」

陽介「どこまで効果があるかは知らないけどな。」

 

 俺はそう言いながら、残ってた弁当を食べた

 

 そして、テストまでの予定を立てていた

 

陽介(ノートは今まで通り作るとして、六花にも勉強を教えないといけない場合もあるな。バイトも再開されるし......)

 

 やることはたくさんある

 

 まぁ、それはそれでいいんだがな

 

 俺がそんな事を考えてるうちに、昼食の時間は終わり、次の行動に移っていた

_________________

 

 その後、宿舎で最後の集会をして、各自バスに乗り込んだ

 

 バスが出発すると、最初こそ盛り上がったものの、1時間ほど経つと皆寝始めた

 

陽介「__皆寝たなー。」

つぐみ「そうだね......」

陽介「?」

 

 羽沢の方に目をやると、羽沢もかなりウトウトしていた

 

 眠気ってやつは伝染するのか?

 

陽介「寝たいなら、気にせず寝てもいいぞ?」

つぐみ「うん......」

陽介「!」

 

 羽沢はそう返事をすると、俺の方に倒れて来た

 

 そして、頭が俺の太ももの上に乗った

 

つぐみ「これでも、いい?」

陽介「いや、寝れるなら別にいいぞ?」

つぐみ「やった......えへへ」

 

 羽沢はそんな可愛らしい笑みを浮かべた後、すぐに眠りについた

 

 寝てる姿を見ると、本当に同い年か疑いが生まれる

 

陽介「......」

つぐみ「ん......っ。」

 

 俺は少し、羽沢を撫でた

 

 くすぐったそうに体をよじった後に嬉しそうな顔をしていた

 

モカ「__つぐは可愛いかなー?」

陽介「なんだ、起きてたのか。」

 

 横から、美竹の頭を肩に乗せた青葉が話しかけて来た

 

モカ「うちの蘭も可愛いでしょー?」

陽介「あぁ、そうだな。」

モカ「でしょでしょー。」

 

 青葉は緩い笑みを浮かべながら、そう言った

 

モカ「ようくんはつぐにそんな風にくっつかれて嬉しいー?」

陽介「まぁ、可愛らしいし、嬉しいんじゃないか?」

モカ「そっかそっかー。」

陽介「青葉は......って、聞くまでもないな。」

モカ「あたしは嬉しいよー。」

 

 青葉は美竹の頭を撫でた

 

 美竹は表情をゆがめてた

 

陽介「すっごい嫌がられてるな。」

モカ「なんでー?」

陽介「からかってるのが分かってるんじゃないか?」

モカ「そうなのかなー?」

 

 からかってるの部分を否定することもなく、青葉は美竹をいじっていた

 

モカ「ねーねー、ようくんー。」

陽介「なんだ?」

モカ「何か話しよー。」

陽介「話?何についてだ?」

モカ「そーだなー......」

 

 青葉は考えるようなそぶりを見せた

 

 そして、3秒ほど経つと、思いついたように口を開いた

 

モカ「恋バナしよー。」

陽介「恋バナ?」

モカ「そーそー。」

陽介「別にいいが、話すことあるか?」

モカ「ようくんは好きな人いるー?」

陽介「いない。」

モカ「早いー。」

 

 俺が答えると、青葉は残念そうに首を振った

 

モカ「ほんとにいないのー?」

陽介「ほんともほんとだ。」

モカ「モカちゃんとかどー?」

 

 青葉はニヤニヤしながらそう言ってきた

 

陽介「いいと思うが、遠慮しとく。」

モカ「フラれたー。モカちゃん、ショックー。」

陽介「思ってないだろ。」

 

 いつも冗談を言ってるように感じる青葉だが、これは誰が聞いても冗談だって分かる

 

 そりゃ、ニヤニヤしてるしな

 

陽介「そう言う青葉は、そう言うやつはいるのか?」

モカ「あたしー?うーん......」

 

 青葉は少し考えて、すぐにこう答えた

 

モカ「いないねー。」

陽介「だよな。」

モカ「モカちゃんは皆のモカちゃんだからねー。」

陽介「間違いないな。」

 

 この話題、どう考えても俺と青葉にミスマッチだな

 

 だって、お互いにそう言うのに興味ないからな

 

モカ「それで、さっきの続きだけどさー。」

陽介「続けるのか。」

モカ「モカちゃんがダメならー......つぐはー?」

陽介「羽沢か。」

 

 俺は羽沢を見た

 

陽介「可愛いし、一生懸命だから、羽沢を好きな奴は多そうだな。」

モカ「じゃー、ようくんもー?」

陽介「俺は、どうだろうな。」

モカ「んー?」

陽介「俺はこんなだからな。」

モカ「あっ。」

 

 俺は自分の左目を指さした

 

 その後、口も指さした

 

陽介「もしも、俺がちゃんとした普通の人間なら、羽沢をそういう風に思ってたかもしれないな。」

モカ「......」

 

 俺がそう言うと、青葉は黙った

 

 その表情からはいつもとは違い、真面目な表情だ

 

陽介「俺みたいなやつ、羽沢に迷惑をかけるだけだ。」

モカ「ようくんは。」

陽介「?」

モカ「ようくんはどうありたいの?」

陽介「どうありたい?」

 

 質問の意味が分からなかった

 

 何のことを言ってるんだ

 

モカ「ようくんは、なんで自分から普通を捨てようとするのー?」

陽介「っ!」

モカ「ようくんの目と味覚の事しか知らないけどー、まだ、ようくんは普通の人間なんじゃないのー?」

陽介「......違うよ。」

 

 俺はそう言った

 

陽介「俺の目を見た人の目は、人間を見るそれじゃなかった。」

モカ「......」

陽介「......それに。」

モカ「?」

陽介「俺には、流れちゃってるから。」

モカ「え?」

陽介「......人間じゃない、クズの血が。」

 

 苦しい、呼吸が浅くなってる

 

 直接的な表現をしたら気を失うぞ

 

モカ「そ、それって。」

陽介「俺から話せるのはこれだけだ。気になるなら、羽沢に聞いてくれ。」

モカ「え?」

 

 俺はそう言って、目をつぶった

 

 それから、青葉は俺に話しかけてくることはなかった

 

 気づけば、俺も眠りについていた

_________________

 

「__ずみくん。」

 

 誰かの呼ぶ声が聞こえる

 

つぐみ「出水君!」

陽介「......羽沢?」

 

 目を開けると、目の前には羽沢の顔があった

 

つぐみ「着いたよ!」

陽介「あ、あぁ、そうか。」

 

 意識がはっきりしてきた

 

 そして、俺はバスから降りた。

_________________

 

 バスから降りると、教師からもう帰ってもいいと言われた

 

 生徒は各自、帰って行ってる

 

つぐみ「__お疲れ様!」

蘭「......頭痛い。」

ひまり「私もー。」

巴「お疲れだ!皆!」

モカ「お疲れー。」

 

 5人も緩く声を掛け合ってる

 

モカ「じゃー、帰りますかー。」

陽介「そうだな__!!!」

蘭「出水?」

 

 俺がそう言って、家の方向に体を向けると、ある姿が見えた

 

 それを見た途端、俺は呼吸が出来なくなった

 

陽介「あ......あぁ......!!」

巴「お、おい!大丈夫か!?」

 

 俺は知ってる、あの姿を

 

 目から涙があふれて、体が動かなくなった

 

「__この後どうする?」

「分かっているだろう?」

「いつもの、ね?」

 

 知らない男と腕を組んで、見たこともないような化粧をしてる

 

 胸や尻に手が行っても、嫌そうな顔どころか、どこか嬉しそうにしてる

 

 でも、あれは間違いなく......

 

陽介(か、かあ、さん......)

 

 声が出せない

 

 もがくような動きしか出来ない

 

つぐみ「出水君っ!!」

陽介「あ......か......あ......さ。」

つぐみ「え?」

巴「やべぇぞ!救急車!」

ひまり「もうかけた!」

モカ「ようくん!」

 

 俺ははるか遠くに5人の声を感じながら、意識を失った




これを見てる人はミラチケガチャを引きますか?自分は引きます。


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日常

 夢を見た

 

 時計は12時を指していて、太陽も高い位置にある

 

 テーブルの上には、どこかで見たことのあるメニューが並んでる

 

(__これは。)

 

 今日の、朝ごはんだ

 

 俺は母さんの方を見た

 

「......?」

 

 母さんは鏡の前で化粧をしている

 

 いつも外に出る時よりもそれは濃い、気がする

 

「どっか出かけるの?」

 

 俺はそう声をかけた

 

 だが、母さんは俺の声に答えず、どこで買ったか分からないような高そうな鞄を持って家を出て行った

 

 それを見届けると、俺はテーブルの上に置かれているご飯を食べ始めた

 

「......」

 

 俺がそれを食べ始めた時

 

 温度が、消えた

_________________

 

陽介「___っ!」

 

 俺はどこかのベッドの上で目を覚ました

 

 ものすごい量の汗をかいてて気持ち悪い

 

陽介「ここは......」

佐藤「んあ、起きたか。」

陽介「佐藤......?」

 

 横を見ると、佐藤が椅子に座っていた

 

 そのままの体勢で寝てたのか、肩を回したりしてる

 

陽介「佐藤、ここは?」

ますき「病院だよ。お前が急に倒れたから、運ばれたんだ。」

陽介「そうか。」

 

 ここは病院だったらしい

 

 多分、あの5人の誰かが呼んでくれたんだろう

 

ますき「それで、何があった?こうなるって事はただ事じゃねぇだろ。」

陽介「......」

 

 今思い出しても、吐き気がする

 

 ここにいるって事は、あれは夢じゃないって事だ

 

陽介「......母さんに遭遇した。」

ますき「!?」

 

 俺がそう言うと、佐藤が驚いた顔をした

 

陽介「横には、全く知らない男がいた、それで......」

ますき「もういい。言わなくてもいい。」

 

 俺が話してると、佐藤は俺の肩に手を置いた

 

ますき「落ち着け。」

陽介「......佐藤。」

ますき「もしも落ち着けないなら、ほら。」

陽介「?」

 

 佐藤はベッドの足元の方を指さした

 

陽介「!?」

六花「__すぅ......すぅ......」

ますき「ほら、落ち着く寝顔してるだろ?」

陽介「なんで、こんなところで寝てるんだ。」

 

 ベッドの端に頭を置いて、穏やかな表情で寝てる六花がいた

 

 なんでいるの?とか、もうそう言うのは突っ込まないでおこう

 

陽介「まぁ、確かに落ち着くな。」

ますき「だろ?私も六花の寝顔見てたら寝ちまったよ。」

陽介「はは、そういう事か。」

ますき「あとほら、飲んどけよ。」

陽介「ありがと。」

 

 俺は佐藤から飲み物を貰った

 

 俺はそれを口にした

 

陽介「......佐藤。」

ますき「なんだ?」

陽介「味、って言うか、口の中にほぼ何も感じないって言ったら、信じるか?」

ますき「あ?何言って......まさか。」

陽介「あぁ、何も感じない。記憶から、液体って事は分かる。」

ますき「......(こいつは。)」

陽介「まぁ、俺自身には何の問題はないけどな。」

ますき「なに?」

 

 別に、元から味をあまり味を感じなくなってたし、栄養補給の意味が強かった

 

 つまり、これからの問題は......

 

陽介「チュチュとパレオの弁当、味付けミスらないようにしないとな。」

ますき「たく、お前は......」

六花「んぅ......?」

陽介「あ、起きたか。六花。」

六花「あれ......出水さん......?」

 

 六花は不思議そうに、目をこすっていた

 

六花「あ、病院で寝ちゃってた!?」

ますき「あぁ、そりゃもう、ぐっすりな。」

六花「うぅ、恥ずかしい......///」

陽介「可愛い寝顔だったぞ。」

六花「!?///」

陽介「ははは、真っ赤だな。」

 

 俺は笑いながら、ベッドから立ち上がった

 

 さっきまでの気分の悪さも無くなってて、気分が良くなった

 

陽介「ありがとな、二人とも。もう、大丈夫だ。」

ますき「あぁ、そりゃよかったな。」

陽介「それで、今は何時だ?」

六花「10時です。」

陽介「......え?」

六花「午前10時です。」

陽介「......」

ますき「......あっ(察し)」

 

 まずい、これは非常にまずい

 

 重大なミスを犯した

 

陽介「チュチュとパレオの朝ごはん、作ってねぇ!」

六花「えぇ!?」

ますき「やっぱりなー。」

陽介「二人は育ちざかりなのに......」

六花「だ、大丈夫ですよ!ますきさんが持って行ってくれましたから!」

陽介「え?まじ?ありがとう。」

ますき「おう。気にすんなって。」

 

 ひとまず安心だ

 

 それよりも、もう10時、昼ご飯の時間だ

 

陽介「よし、家に帰るか。」

ますき「あぁ、そう言うと思って手配してるよ。」

陽介「佐藤が有能過ぎる。」

ますき「礼は今日の昼めしで良いぜ。六花もな。」

六花「え?」

陽介「よし、任せとけ!」

 

 俺はそう言って、二人が病室から出て行った後に服を着替えた

 

 そして、なんだかんだあって、病院を出た

_________________

 

 外に出ると、急に太陽の下にさらされた肌がチリチリした

 

 段々と夏に近づいてるのを感じた

 

 俺たちは途中、スーパーに寄ってから家に帰ってきた

 

陽介「__ただいまー。」

ますき「おーっす。」

六花「こんにちはー。」

チュチュ『陽介!?』

 

 声をかけると、奥の方からドタドタと音が聞こえた

 

 その後、勢いよく扉が開き、チュチュとパレオが出て来た

 

チュチュ「だ、大丈夫なの!?」

パレオ「おかえりなさいませー!」

陽介「お、おう、大丈夫。あと、ただいま。」

 

 すごく心配してくれてたみたいで、ものすごい声だった

 

チュチュ「そ、そう。」

パレオ「それにしても、びっくりしましたよ!朝起きたら、連絡が入ってて!」

陽介「そうなのか?」

チュチュ「そうよ!それで今から病院に向かおうとしてたの!」

陽介「あ、そうなのか。」

 

 なんて、良い子達なんだ

 

 俺は深く感動した

 

陽介「よし、お昼ご飯にしようか!」

チュチュ「もうちょっと自分の事に興味を持ちなさいよ!」

陽介「まぁまぁ。」

 

 俺はそう言いながらキッチンの方に行った

 

 そして、昼ご飯の用意を始めた

_________________

 

陽介「__お待たせー。」

ますき「おっ、来たな。」

 

 俺は昼ご飯をテーブルに並べた

 

陽介「今日のお昼ご飯は親子丼だぞー。」

六花「わっ、おいしそう!」

パレオ「早く食べましょー!」

チュチュ「そうね。」

ますき「あぁ。」

 

 4人は手を合わせてから、昼ご飯を食べ始めた

 

チュチュ「美味しいわ。」

陽介「そうかそうか。」

ますき「よく作れるな。」

パレオ「ようさんは料理上手ですから!」

陽介「俺よりできる奴はいくらでもいるよ。」

 

 俺はそう言いながら、料理で使った器具を洗ってた

 

ますき(それにしても、あいつやべぇな。味覚もないまま、ここまで出来るんだな。)

六花「美味しい......♪」

陽介「気に入ってくれたみたいだな。」

六花「!///」

陽介「ははっ、顔真っ赤だ。」

 

 俺は粗方、洗い物が終わったのでテーブルの方に行った

 

陽介「そう言えば、六花は今回のテストは大丈夫か?」

六花「あっ......」

陽介「ダメそうだな。」

六花「はい......」

陽介「折角だし、今回も見ようか?」

六花「お、お願いします......」

 

 六花は控えめにそう言った

 

陽介「おう、任せとけ。」

六花「はい!」

チュチュ「頑張る事ね。」

パレオ「頑張ってくださいねー!」

ますき「滑るんじゃねぇぞ。」

 

 こうして、俺は日常に戻ってきた



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昼休みに

 朝、俺は家事をこなしてから家を出て、学校に来た

 

つぐみ「__あ!出水君!」

陽介「おー、おはよ。」

つぐみ「おはよう!体の調子はどう?」

陽介「大丈夫。寝たら治った。」

 

 教室に入ると、一番に羽沢が話しかけて来た

 

 心配してくれてたんだな

 

モカ「つぐー、はやーい。」

巴「すごい反応だったな。」

蘭「うん。飼い主が帰ってきたときの愛犬みたいだった。」

ひまり「つぐも好きだねー。」

陽介「__何言ってんだ?」

 

 席に行くと、4人が何かを話してた

 

 内容は聞き取れなかったが、全員ニヤニヤしてた

 

ひまり「おはよー!いずみん!」

モカ「元気になったみたいだねー。」

陽介「皆が救急車を呼んでくれたりしたからな、助かったよ。」

巴「気にすんなって!」

蘭「うん、良くなったみたいでよかった。」

 

 ほんとにこの5人は優しいな

 

 俺はそう思って頬が緩んだ

 

モカ「どーしたのー?」

陽介「嬉しくてな。」

モカ「?」

 

 俺はそう言いながら席に着いた

 

友希那「__陽介はいるかしら。」

陽介「ん?湊さん?」

 

 名前を呼ばれたと思ってドアの方を見ると、湊さんが来てた

 

 何か用があるらしい

 

 俺は湊さんの方に行った

 

陽介「おはようございます、湊さん。」

友希那「おはよう。ようすけ。」

陽介「今日は何か用が?」

友希那「それもあるけれど。今日は様子を見に来たの。」

陽介「?」

友希那「また、病院でお世話になったみたいね。」

 

 湊さんはそう言いながら、俺の頬に手を添えた

 

 それと同時に、周りの生徒が凍り付いた

 

つぐみ(え!?)

 

友希那「もう大丈夫みたいね。」

陽介「はい、大丈夫ですよ。」

友希那「詳しい事情は聞いてないけれど、無理はいけないわよ。」

陽介「はい、分かりました。」

 

 湊さんはいつも通り、優しい声でそう言った

 

 本当にこの人は安心する

 

友希那「それと。」

陽介「はい?」

友希那「あなた、日菜と__」

日菜「__んー?なーに?」

陽介、友希那「!?」

 

 湊さんが話すのと同時に氷川さんが出て来た

 

 どこから現れた

 

陽介「......氷川さん。」

日菜「久しぶりー!」

 

 最悪だ

 

 出来れば、金輪際、会いたくなかったんだが

 

友希那「何しに来たの?」

日菜「もー、友希那ちゃんこわーい!」

友希那「あなたが陽介にしたこと、知らないとでも思ってるの?」

陽介「!」

 

 すごく、怒った声

 

 俺の背筋まで凍り付きそうだった

 

友希那「今回はやめておきなさい。あなた、本当に取り返しのつかない事をするわよ。」

日菜「大丈夫だよー!あたし、失敗できないもん!」

友希那「日菜......!」

日菜「大丈夫!今日は何もしないよ!」

 

 氷川さんは湊さんを気にする様子もなく、笑みを浮かべている

 

日菜「救急車に運ばれたって聞いたけど、うん!元気そうだね。」

陽介「......さっきまではもっと元気だったんですがね。」

日菜「あはは!そーなんだ!」

 

 氷川さんはそう言って、背中を向けた

 

日菜「じゃあ、あたしは帰るねー!」

友希那「私も戻るわ。」

陽介「はい。さようなら、湊さん。」

日菜「あたしはー?」

陽介「......氷川さん。」

日菜「あはは!じゃあねー!」

友希那「気を付けるのよ、陽介。」

 

 二人は教室を出て行った

 

 俺は少しため息をつき、席に戻ろうと振り向いた

 

男子「__おい!出水ー!」

陽介「!?」

 

 振り向くと、その先には男子が立っていた

 

陽介「ど、どうした?」

男子2「お前......湊先輩と!」

男子3「生徒会長と!」

男子4「羨ましいぞ!!!」

陽介「は?」

 

 何を言ってるんだ?

 

 いや、湊さんは羨ましいかもしれないが、氷川さんはそうでもないだろ

 

男子「ただな。」

陽介「?」

男子「あの可愛い先輩二人が教室に来たんだ。」

男子たち「ありがとな!!」

陽介「お、おう。」

 

 煩悩しかないな

 

 いや、俺も今までは大差なかったかもしれないけど

 

男子2「今まであの5人とも一緒にいるハーレム野郎とか思っててごめんな!」

陽介「いや、それは聞き捨てならないんだが。」

 

 なんだかんだあって、朝の時間が過ぎていった

_________________

 

 午前の授業が終わり、昼休みになった

 

陽介「__あ。」

 

 弁当を忘れた

 

 携帯を見ると、チュチュから連絡が入ってる

 

陽介「あー、やっちまった。」

つぐみ「どうしたの?」

陽介「弁当、忘れた。」

つぐみ「え?大丈夫?」

陽介「まぁ、学食あるし、行ってくるよ。」

 

 俺は席を立った

 

つぐみ「わ、私もついて行っていいかな?」

陽介「ん?いいぞ。」

つぐみ「やった!」

 

 そうして、俺と羽沢は食堂に向かった

_________________

 

 食堂に来ると、案の定、席は埋まってた

 

陽介「__これは、困ったな。」

つぐみ「空いてる席あるかな?」

 

 パンを買って、教室で食べると言う手もあったが、もう売り切れてる

 

陽介「どうしたもんか。」

六花「出水さーん!」

陽介「ん?」

 

 俺は声のした方を見た

 

 そこには、手を振ってる六花の姿があった

 

 俺と羽沢は六花の近くに行った

 

陽介「六花も食堂に来てたのか。」

六花「はい。お弁当を作れなくて。」

陽介「なるほどな。」

六花「出水さんは何で?」

陽介「弁当を忘れたんだ。」

六花「じゃあ、相席しましょう!」

 

 六花はそう言った

 

陽介「いいのか?」

六花「はい!」

陽介「じゃあ、お言葉に甘えて。」

リサ「__友希那ー、この時間に空いてる席なんてないよー」

友希那「......ごめんなさい。」

陽介「あれ?湊さんに今井さん?」

 

 俺が座ろうとすると、二人が来た

 

陽介「まさか、湊さんも弁当を忘れてたり?」

友希那「そうよ。」

リサ、つぐみ「あっ。」

 

 湊さん、今井さんとも相席することになった

__________________

 

陽介「__悪いな、六花。」

友希那「ごめんなさい。」

六花「い、いえいえ!」

 

 俺と湊さんは料理を持ってきて、席に座った

 

リサ「まぁ、食べよっか!」

つぐみ「そうですね!」

 

 二人がそう言うと、俺達は昼ご飯を食べ始めた

 

リサ「__出水君さ。」

陽介「はい?」

リサ「学食で和食って渋いねー。」

陽介「俺は基本的に栄養重視なので。」

リサ「へー、何か事情でもあるの?」

陽介「まぁ。」

 

 味しないから、栄養さえ気にしてたらいい、なんて言えないよな

 

友希那「あら、陽介。口元にお米が付いてるわ。」

陽介「え?どこですか?」

友希那「ここよ。」

つぐみ、六花「!」

 

 湊さんは米粒を取ってくれた

 

陽介「すみません。」

友希那「別にいいわ。」

 

 湊さんはそう言って、とった米粒を口に運んだ

 

つぐみ「友希那先輩!?」

六花「な、何してるんですか!?」

友希那「何って、お米を食べただけよ?」

陽介「?」

六花「く、口元についてたお米を食べるなんて......///」

つぐみ(ず、ずるい......!)

 

 二人が何に動揺してるのかよく分からない

 

 何か問題があったのか?

 

陽介「って、六花?」

六花「はい?」

陽介「ソース、ほっぺについてるぞ?」

六花「!?///」

 

 俺は持ってたハンカチで六花のほっぺを拭った

 

つぐみ(ろ、六花ちゃんまで!?)

陽介「どうやったら、そんなところに付くんだ?」

六花「は、恥ずかしい......///」

 

 俺がそう言うと、六花の顔は真っ赤になり、縮こまった

 

1「__あー、空いてる席ねーかなー?」

陽介「?」

 

 俺たちが食事をしてると、こっちを見ながらわざとらしくアピールしてる3ん人組がいた

 

 あれは、3年か

 

2「あれー?あそこに女子に一人男子が混ざってる席があるぞー?」

3「羨ましいねー。色男はー。」

1「おい、そこの色男。」

 

 3人はついに、接触してきた

 

陽介「......」

2「お前だよお前!」

陽介「......あ、はい。なんですか?」

3「昼休みに女子をこんなに侍らせて、気分いいだろ?」

陽介「いえ。そう言うのじゃないので。」

1「謙遜すんなってー。」

 

 その3人組は俺の肩に手を置いてきた

 

1「頼みがあんだけどさ。」

2「女子と縁がない可愛そうな俺たちに、ちょーっと、お前の幸せを分けてくれよ。」

3「もちろん、断るなんてしないよなー?」

陽介「知らないですよ。そもそも、俺にどうしろって言うんですか?」

1「お前が侍らせてる女子を譲ってくれって言ってんだよ。」

陽介「諦めてくれません?」

 

 心の声が完全に漏れた

 

 口調も荒くなってるし

 

陽介「俺がどうしたところで、この4人がここにいる保証はないでしょう。こんな事、時間の無駄ですよ。」

リサ「ま、そうだよねー。」

1「まぁ、そう言うなって。」

陽介「っ!」

 

 一人の男子が俺の胸倉を掴んだ

 

友希那「陽介!」

六花「出水さん!」

1「先輩からの頼みは命令なんだよ。分かるか?」

2「さっさと消えろや。」

3「お前らも、従わねぇと、こいつをボコるぞ?」

リサ「っ!最低!」

 

 面倒なことになった

 

 正直、ボコられるとか、そう言うのは一切怖くないんだが、4人に被害が行くのはな

 

陽介(仕方ない。ボコボコにされるの覚悟で抵抗してみるか。)

1「おい!何動いてやがる!!」

陽介「あんまり、皆に迷惑をかけないでほしいのですが。」

1「!」

 

 俺は胸倉を掴んでる手を掴んだ

 

2「この!」

日菜「__何してるのー?」

3「!!」

陽介「......氷川さん。」

 

 3人組の注意が全部俺に向いたと同時に氷川さんが歩いてきた

 

日菜「まー、見てたんだけどねー。」

陽介「......何しに来たんですか?」

日菜「助けに来て挙げた、って言っても信用しないよねー?」

陽介「まぁ。」

 

 この人は全くつかめない

 

 でも、俺を狙ってる人物である事は分かってる

 

日菜「まぁ、あたしのために陽介君を助けてあげるよ!せんせー!」

1,2,3「!?」

教師「__さて、お前ら。わかってるな?」

 

 それからは早いもので、3人は教師にどこかに連れていかれた

 

日菜「__まぁ、こんなものだよ!」

陽介「......助けてくれたことには感謝します。」

日菜「いいよいいよ!これで、前の事はチャラね!」

陽介「まぁ、いいですよ。」

 

 俺はため息をつきながらそう言った

 

陽介「それにしても、意外ですね。」

日菜「何が?」

陽介「氷川さんなら、俺の左目を見せろとか言うかと思いましたよ。」

日菜「しないよ。そんなこと。」

陽介「へぇ。」

日菜「今日は、何もしないって言ったし。」

 

 今日は、ね

 

日菜「じゃあ、バイバーイ!」

 

 そう言って氷川さんはおおきく手を振ってどこかに行った

 

陽介「はぁ。」

六花「だ、大丈夫ですか......?」

陽介「あー、見ての通り、大丈夫。」

リサ「さ、災難だったね。」

 

 本当に、こんなことはもうない方がいい

 

友希那「ごめんなさい。動けなくて......」

陽介「いえいえ。湊さんたちに何もなくてよかったです。」

友希那「ありがとう。」

陽介「!」

 

 湊さんは俺の頭を撫でた

 

リサ(まーたやってるよー。)

つぐみ「友希那先輩!」

六花「なにしてるんですか!」

友希那「いい子に、ご褒美?」

陽介「はは、ありがとうございます。」

 

 そんなやり取りをしてるうちに予鈴が鳴った

 

 いれたちはテーブルの上を片付けて食堂を出た

 

友希那「じゃあ、また。」

リサ「またねー☆」

陽介「はい。」

つぐみ「さようなら。」

 

 3年の二人は教室が逆の方にあるので、すぐに分かれた

 

六花(なんだろう、ずっとモヤモヤする......)

陽介「六花?」

六花「あ、す、すみません!」

陽介「いや、特に何も言ってないんだが。」

六花「わ、私、早く教室に戻らないとー!」

陽介「六花!?」

つぐみ「六花ちゃん!?」

 

 六花は大声を出したと思うと、教室の方に走って行った

 

陽介「......なんだったんだ?」

つぐみ「さ、さぁ?」

陽介「俺達も戻るか。今日は悪かったな、面倒なことに巻き込んで。」

つぐみ「ううん!大丈夫だよ!」

 

 そうして、俺と羽沢は教室に戻って行った

__________________

 

 ”日菜”

 

日菜(__いやー、今日はついてたなー!)

 

 日菜は歩きながらそんな事を考えていた

 

日菜(偶々、陽介君を助けて、前の事をチャラにできたし!)

 

 日菜はそう思いながら、笑みを浮かべた

 

 それは一見、可愛らしいものだが、実態は違う

 

日菜(これで、もっとあの眼帯を狙いやすくなるね♪)

 

 まるで獲物を狙う獣ような目に口元には笑みを浮かべて

 

 軽い足取りで日菜は廊下を歩いて行った



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祭りの夜 前編

 ”チュチュ”

 

チュチュ「......」

 

 チュチュはスタジオにある椅子に座って考え事をしていた

 

パレオ「チュチュ様ー?ジャーキー入りますかー?」

チュチュ「No。」

パレオ「えぇ!?」

 

 まさかのチュチュの返答にパレオは目を丸くした

 

パレオ「チュチュ様、どうしたんですか!?」

チュチュ「うるさいわね。考え事をしてるのよ。」

パレオ「考え事?それはなんですか?」

チュチュ「陽介の事よ。」

パレオ「ようさんですか?」

 

 パレオは首を傾げた

 

 チュチュは難しい顔をしたまま、椅子にもたれかかった

 

チュチュ「パレオは陽介がいつ寝てるか分かるかしら?」

パレオ「え?分かりませんね?」

チュチュ「そう。」

パレオ「どうして急にそんな事を?」

チュチュ「私も、分からないのよ。」

 

 チュチュの言葉にパレオはさらに分からなくなった

 

 別に同じ部屋で寝てるわけでもないのに、分からないのがそんなに問題なのかと思った

 

チュチュ「この間、作業のために夜更かしした時、陽介の部屋の前を通ったの。」

パレオ「そうなんですか?」

チュチュ「えぇ。その時、陽介は起きてたわ。朝の4時よ。」

パレオ「でも、一回だけなら、その日だけという事はないですか?」

チュチュ「誰が、その日だけって言ったのよ。」

パレオ「え?」

 

 パレオは嫌な予感がした

 

チュチュ「少なくとも一週間、陽介は寝てないわ。」

パレオ「!?」

チュチュ「理由は分からない、けど、あれはどう考えても異常よ。」

 

 チュチュは頭を抱えた

 

パレオ「でも、なぜ、そんなことを......」

チュチュ「テスト前と言ってたし、テスト勉強なら良いのだけれど。」

 

 スタジオには重い苦しい空気が流れた

 

 最後にはパレオまでも頭を抱えた

__________________

 

 ”陽介”

 

 テストも最終日の放課後、俺は美竹たちと教室で話していた

 

 本当はバイトがあったはずなんだが、店長に

 

美子『お給料払いきれなくなるから、お休みとってー!』

 

 と、泣かれたので、週3日バイトが無くなった

 

陽介(困ったな。一日でも早く、お金を返していきたいんだが。)

モカ「ねー、ようくんー。」

陽介「うん?」

 

 俺がそんな事を考えてると、青葉が話しかけて来た

 

 他の4人の目線も俺に集まってる

 

モカ「さっきの話聞いてたー?」

陽介「悪い、聞いてなかった。何の話だ?」

ひまり「お祭りだよ!お祭り!」

陽介「祭り?」

巴「あぁ!商店街の一大イベントだぜ!」

つぐみ「色んな屋台が出たり、舞台があったりするよ!」

 

 もうそんな時期か

 

 期末テストも終わったし、時期っちゃ時期だったな

 

陽介「それで、それがどうしたんだ?」

蘭「出水は来るの?」

陽介「俺?」

 

 俺は考えた

 

 どう考えても、俺は祭りに行ける状態じゃない

 

 身体的にも財政的にも

 

陽介「うーん。俺は行けないかな。」

ひまり「えー、なんでー!?」

陽介「まぁ、金がないとか理由は色々ある。」

蘭「出水、バイトしてなかったっけ?」

モカ「確か、ギャラクシー。」

陽介「してるが、ほとんどは家主に渡してるからな。」

 

 俺は金を使う事もないし、学費を返すために8割くらいはチュチュに渡してる

 

 全部渡しても良かったが、チュチュに却下された

 

巴「そっか、残念だな。」

陽介「まぁ、皆は皆で楽しむと良いよ。」

つぐみ「本当に来ないの?」

陽介「え?」

 

 突然、羽沢がそう言った

 

 その声は拗ねた子供みたいだった

 

つぐみ「私、出水君とお祭り回りたい。」

陽介「そ、そうか。」

つぐみ「来ないの......?」

陽介「ぐっ......」

つぐみ「出水君......」

 

 す、すごい罪悪感が押し寄せてくる

 

 涙声になってきてるし

 

陽介「や、やっぱり行こうかな?」

つぐみ「!」

陽介「せ、折角だし、楽しい事をするのもいいかなーなんて?」

つぐみ「やった!じゃあ、一緒に行こうね!」

陽介「あ、あぁ。」

 

 羽沢、恐ろしい子だな

 

 あれを断れるのは相当の猛者だぞ

 

モカ「じゃー、ようくんも参加ってことでー。」

蘭「大丈夫なの、出水?」

陽介「まぁ、いいだろ。てか、あれを断るのは無理だ。」

蘭「......そうだね。」

 

 美竹は苦笑いでそう言った

 

ひまり「じゃあ!決まりだね!」

巴「盛り上がろうぜー!」

つぐみ「うん!」

 

 こうして、俺が祭りに行くことが決まった

__________________

 

 家に帰ってきた

 

 今夜は祭りに行くし、夕飯とかも作って行かないといけない

 

 そんな事を考えながら、扉を開けた

 

陽介「__ただいまー。」

パレオ「おかえりなさーい!」

チュチュ「おかえり、陽介。」

 

 扉を開けると、チュチュとパレオがいた

 

チュチュ「今日はテスト終わりだったかしら?」

陽介「あぁ、そうだ。」

 

 俺はカバンを置きながらそう答えた

 

パレオ「そう言えば、今夜この近くでお祭りがあるらしいですよー!」

 

 俺がソファに座ると、パレオはそんな事を言い出した

 

 チュチュは意外にもそれに反応した

 

チュチュ「へぇ、そんなのがあるのね。」

パレオ「はい!」

チュチュ「......そうだわ。」

陽介「?」

 

 チュチュは何かを思いついたように手を叩いた

 

チュチュ「陽介、今日はバイトは休みだったわよね?」

陽介「あぁ、そうだけど。」

チュチュ「じゃあ、予定はないわけね。」

陽介「あ、あぁ。」

チュチュ「なら、これを受け取りなさい。」

 

 チュチュはそう言ってお金を出した

 

陽介「......いや、俺は元から祭りに行くことにはなってたんだ。」

チュチュ「そうなの?ちょうどよかったわね。」

陽介「多いよ。」

チュチュ「?」

 

 チュチュは不思議そうな顔をしてる

 

 なぜ、俺がこういうのかと言うと、チュチュは2万円を出してきたのだ

 

チュチュ「これは、あなたのじゃない?」

陽介「いや、それは学費を返すためだよ。基本的にあんまりお金を使わないし。」

パレオ「まぁまぁ、いいじゃないですかー!たまには!」

チュチュ「そうよ。お祭りは楽しむものよ。」

 

 そう言ってチュチュはお金を俺に押し付けて来た

 

 俺はそれを受け取った

 

チュチュ「楽しんできなさい。あなたの周りの人間は皆、それを望んでるわ。

陽介「......そんなもんかね。」

 

 俺はそう言いながら、キッチンの方に行った

 

陽介「まぁ、夕飯は作っておくから、好きな時に温めて食べてくれ。」

チュチュ「OK」

パレオ「ありがとうございますー!」

 

 それから俺は夕飯を作ったり、洗濯をしたりして、祭りまでの時間を過ごした

__________________

 

 時間が経って、俺は祭りの会場に来ていた

 

 周りにはたくさんの人がいる

 

つぐみ「__出水君!」

陽介「あ、羽沢。」

 

 待ち合わせ場所に行くと、もう5人がいた

 

 それにしても

 

陽介「美竹と上原は浴衣なんだな。」

ひまり「だって!折角のお祭りだよ!」

蘭「モカが、そう言うものだって。」

モカ「あれー?そうだっけー?」

陽介(あぁ、騙したんだな。)

 

 騙す青葉もだが、信じる美竹も美竹だな

 

 俺はそう思った

 

巴「まぁ、行こうぜ!」

ひまり「そうだねー!」

蘭「モカ、後で話ね。」

 

 俺たちは人込みの方に向かって行った

__________________

 

 祭りにはは色々な屋台がある

 

 食べ物、ゲーム、クジ、あげればきりがない

 

陽介「__色々あるな。」

つぐみ「そうだね!」

ひまり「あ!りんご飴だー!巴ー!」

巴「はいはい。買いに行こうなー。じゃあ、行ってくるよ!」

 

 二人はりんご飴を買いに行った

 

 それと同時に、青葉も反応した

 

モカ「この匂いは......!」

蘭「モカ?」

モカ「やまぶきベーカリー」

蘭「ちょ、モカ!」

 

 青葉は獲物を見つけた獣のような目をして、どこかに走って行った

 

 美竹はそれに慌ててついて行った

 

陽介「......めちゃくちゃだな。」

つぐみ「あ、あはは。」

 

 この状況には羽沢も苦笑いだ

 

陽介「まぁ、なっちまった物は仕方ないし、二人で見て回るか。」

つぐみ「うん!」

 

 俺と羽沢は屋台を見て回った

 

 少し歩くと、少し何かで遊ぼうと言う事になり、遊べる屋台を探した

 

 その時、ある屋台が俺の目に入った

 

陽介「__あれ、いいんじゃないか?」

 

 俺は金魚すくいの屋台を指さしながらそう言った

 

つぐみ「金魚すくい?」

陽介「あぁ。」

つぐみ「いいね!やってみよ!」

陽介「!」

 

 そう言って羽沢は俺の手を掴んだ

 

 そして、金魚すくいの屋台に行った

 

つぐみ「二人分お願いします!」

 

 羽沢がそう言うと、おじさんはポイと桶をくれた

 

 俺はお金を払って、金魚が入ってる水槽の前でしゃがんだ

 

つぐみ「頑張るぞ!」

陽介「焦ると、すぐに破れるぞ?」

つぐみ「大丈夫!こういうのは意外と得意__」

 

 そう言う羽沢は水の中にポイをつけ、金魚をすくった

 

 だが、紙はすぐに破れてしまった

 

つぐみ「__な、なんで!?」

陽介「大きいのを狙い過ぎだよ。これは紙だからな。」

 

 俺はそう言いながら、小さい金魚をすくって桶に入れた

 

陽介「こんな感じだよ。」

つぐみ「すごい!上手なんだね!」

陽介「いや、普通だと思うけど。」

 

 俺はそう言いながら2匹目をすくった

 

陽介「__!」

 

 ポチャン、と水音をたて、跳ねたそれは俺の手に持ってる桶に飛び込んできた

 

 それは、見たことのない形の金魚だった

 

陽介「なんだ、これ?」

つぐみ「変な形だね?でも、これって、出目金じゃない?」

陽介「え?」

 

 俺はそれをよく見た

 

 確かにそれは出目金だった

 

 でも、それを象徴するもの、片方の目がないんだ

 

陽介「左目がない?」

つぐみ「そうだね?どうしたのかな?」

 

 理由は何でもいい

 

 でも、俺はこう思った

 

陽介「......可哀そうに。」

つぐみ「え?」

陽介「いや、なんでもないよ。ポイも破れた、違うところに行こう。」

つぐみ「う、うん。」

 

 俺はそう言って、金魚すくいの屋台から移動した

 

 それから少し、歩いた

 

つぐみ(__さっきの言葉、あれって......)

陽介(人が多くなってきたな。)

 

 時間が進むにつれて、人が増えて来た

 

陽介「羽沢、逸れないように......って、羽沢?」

 

 羽沢のいた方に目をやると、そこには羽沢がいなかった

 

 俺は周りを見た

 

 その時、こっちに向いてる手を見つけた

 

陽介「これか?」

 

 俺はその手を引っ張った

 

 流石に怪我をさせるわけにいかないから、力加減をしたが

 

陽介「悪い、注意不足だった__」

友希那「あ、あれ?陽介?」

陽介「え?湊さん?」

 

 俺が手を引いたのは湊さんだった

 

 この時、俺は激しく困惑した

 

 まだ祭りの夜は続く




3周年に則ったことを語るメタ回でもしようと思います

別のシリーズの番外編として投稿します


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祭りの夜 後編

陽介「__なんで、湊さんが?」

 

 羽沢が湊さんになった

 

 俺は人ごみで羽沢を見失って、それらしい手があったから引っ張った

 

 そしたら、こうなった

 

友希那「陽介、少し移動しないかしら?人が多いわ。」

陽介「そうですね。」

 

 俺と湊さんは人ごみから外れた

__________________

 

 人が比較的、少ない場所に来た

 

 そこで、俺は一息ついた

 

陽介「__ふぅ、やっと抜けられましたね。」

友希那「そうね。それでなのだけれど。」

陽介「?」

友希那「いつまで手を握ってるの?」

陽介「あっ。」

 

 俺はそう言われると、とっさに手を離した

 

 手を離すと、湊さんはむくれた顔をした

 

友希那「......急に放すことないじゃない。」

陽介「あ、すみません......」

友希那「ふふっ、冗談よ。」

陽介「!」

 

 湊さんは笑いながら俺の頭を撫でて来た

 

友希那「それにしても、陽介はお祭りに来てたのね。」

 

 少し撫でた後、湊さんは手を引いてこう聞いてきた

 

陽介「羽沢に来てほしいと言われて。」

友希那「羽沢さんが?」

陽介「はい。」

友希那「へぇ......」

 

 湊さんは目を丸くした

 

 俺はそれを見ながら、湊さんに質問することにした

 

陽介「湊さんは誰かと来てたんですか?」

友希那「リサに引っ張られてきたの。」

陽介「あぁ。」

 

 想像が付いた

 

 今井さんは見るからに祭りとか好きそうだし

 

友希那「お互いに災難ね。一緒に来た相手とはぐれるなんて。」

陽介「そうですね。」

 

 俺は苦笑いをしながら、そう言った

 

 それにしても......

 

陽介「これからどうしましょうか。」

友希那「そうね......」

陽介(ともかく、羽沢を探さないとな。今井さんも探さないとだし。)

友希那「折角だし、一緒に回りましょう?」

陽介「え?」

 

 俺が考えてると、湊さんの口から意外な言葉が出た

 

友希那「羽沢さんとリサを一緒に探しましょ?」

陽介「あぁ、そういう事ですか。」

 

 納得した

 

 特に断る理由もないし、俺は湊さんと祭りを回ることにした

__________________

 

 祭りの会場に戻ってきた

 

 人は相変わらずの多さだ

 

陽介「__やっぱり、減ってるなんてないよな。」

友希那「そうね。」

陽介「まぁ、止まってても仕方ないので行きましょう。」

 

 俺は人ごみの中に入って行こうとした

 

 すると、袖に変な感覚を感じた

 

陽介「どうしたんですか?」

友希那「こんな人混みの中、絶対にはぐれるわ。」

陽介「そう言えば、そうですね。」

 

 危なかった

 

 また同じ失敗をするところだった

 

友希那「だから、手を繋ぎましょう。」

陽介「はい......って、え?」

友希那「それじゃあ、繋ぎましょうか。」

 

 そう言って、湊さんは俺の手を握った

 

 なぜか、指を絡めてる

 

陽介「......つなぎ方おかしくないですか?」

友希那「そんな事ないわ。」

陽介「でも、普通じゃな__」

友希那「行くわよ。陽介。」

陽介「あ、はい。」

 

 湊さんから今までにない圧を感じた

 

 俺はそれ以降、何も言えないまま人ごみに入って行った

 

 それから、色々な所を歩き回った

 

 そして、30分ほど歩いた頃......

 

友希那「__疲れたわ。」

 

 湊さんはそんな事を言い出した

 

 心なしかさっきより、進むのが遅くなってる気がする

 

陽介「休憩しますか?」

友希那「お願いするわ。」

陽介「かき氷でも買っていきましょうか。」

 

 俺と湊さんは近くの屋台でかき氷を買ってから空いてるベンチに座った

__________________

 

友希那「__本当にいいの?」

陽介「いいですよ。」

 

 俺は買ったかき氷を湊さんに渡した

 

陽介「チュチュには返金は受け付けないって言われたので。」

友希那「そう。それじゃあ、いただくわ。」

 

 そう言って湊さんはかき氷を食べ始めた

 

 味は俺はレモンで湊さんは苺だ

 

友希那「冷たくて美味しいわ。」

陽介「そうですね。」

 

 俺は少しずつかき氷を食べ進めていった

 

 その途中、ある事を思い出した

 

陽介「そう言えば、かき氷のシロップっていちご、メロン、レモンは同じ味らしいですよ。」

友希那「そうなの?」

陽介「はい。着色料にしか違いがないらしくて、幻覚みたいなものらしいです。」

友希那「信じられないわ。」

 

 湊さんは首をかしげながら自分のかき氷を見てる

 

友希那「ねぇ、陽介。」

陽介「はい?」

友希那「食べ比べしましょう。」

陽介「はい?」

 

 何を言ってるんだろう

 

 開いた口が塞がらないとはこういう事なんだろう

 

友希那「まずは、陽介が食べてみて?」

 

 湊さんはそう言いながら、すくったかき氷を俺に差し出してきた

 

陽介「いやいや、ダメでしょう。しかもそれ、湊さんのですし(スプーン的な意味)。」

友希那「早くして。溶けてしまうわ(かき氷の事しか頭にない)。」

陽介「あ、はい。」

 

 今日は湊さんの圧が強い気がする

 

 俺は差し出されたかき氷を食べた

 

陽介「あー。」

友希那「次は陽介が食べさせて。」

陽介「はい。」

 

 俺はもう考える事をやめて、かき氷をすくって、湊さんの方に差し出した

 

 湊さんはためらうことなくそれを口に入れた

 

友希那「......同じね。」

陽介「そうですよね。」

友希那「それが分かったらもういいわ。食べましょうか。」

陽介「はい。」

 

 それから俺は残ったかき氷を食べた

 

友希那(......あれ?今、私は陽介の使ったスプーンでかき氷を食べたの?)

陽介「......?」

 

 急に湊さんの顔が赤くなった

 

陽介(どうしたんだろう?)

友希那(や、やってしまったわ......///)

 

 俺と湊さんはかき氷の容器を近くのゴミ箱に捨てて

 

 羽沢、今井さん探しを再開した

__________________

 

 しばらく人混みの中を歩き、会場から外れた場所まで来てしまった

 

陽介「__ん?」

 

 そこに、一つの屋台があった

 

 他の屋台とは異彩を放ってて、人っ子一人近づこうとしてない

 

友希那「どうしたの?陽介?」

陽介「あの屋台、何なんでしょうか?」

友希那「お守り屋......?」

 

 見た目はお守り屋というよりも占いの館?みたいだが

 

 書いてるからお守り屋なんだろうな

 

おばさん「__そこのお兄さん。」

陽介「俺ですか?」

 

 店を見てると、おばさんが声をかけて来た

 

 見すぎてのがまずかったのか

 

陽介「すみません。見すぎましたか?」

おばさん「いやいや、謝ることないよ。」

 

 おばさんは不気味に笑いながら、そう言った

 

 不気味だが悪い人じゃなさそうだ、不気味だが

 

友希那(不気味ね。)

陽介「えっと、俺はなんで呼ばれたんでしょうか?」

おばさん「いやねぇ、お前さんから変な気を感じたんだよ。」

陽介「?」

 

 この人は何を言ってるのだろうか

 

陽介「何を言ってるんですか?」

おばさん「その眼帯の下、目がないみたいだねぇ。」

陽介、友希那「っ!?」

 

 俺は咄嗟に左目を抑えた

 

 眼帯は取れてない、見られてはいない

 

陽介「な、なんで?」

おばさん「さぁねぇ。」

 

 おばさんは相変わらず不気味な笑みを浮かべてる

 

おばさん「お前さん、目以外にも、色んなものを失ってるねぇ。」

陽介「......!」

おばさん「何とは言わないが、お前さんの心、何と言うか、荒んでるねぇ。」

友希那(荒んでる?陽介が?)

 

 このおばさんはやばい

 

 俺の本能がそう訴えかけてくる

 

 何者なんだ

 

おばさん「このままじゃ、お前さん、近々心を壊すよぉ?」

陽介「......そうですか。」

おばさん「だから、サービスでこれをあげるよぉ。」

陽介「これは?」

おばさん「お守りさぁ、縁結びのねぇ。あ、お姉ちゃんにもあげるよぉ」

 

 縁結び

 

 なんで、これが俺にこれを?

 

陽介「悪いですが、俺に縁結びは......」

友希那「?」

おばさん「そう言わず、持っていきんさい。」

 

 おばさんはそう言って、俺にそのお守りを押し付けて来た

 

おばさん「若いお兄さんとお姉さんなんだ、出会いの一つや二つあるさぁ。」

陽介「......そうですかね。」

友希那(そう、なのかしら?)

 

 俺は断れないのを悟り、お守りを受け取った

 

 店の外観から考えられないほど、綺麗なお守りだ

 

おばさん「お前さんらに幸あれ。」

陽介「ありがとうございます。占い師のおばさん。」

友希那「ありがとう。」

おばさん「お守り屋だよぉ。」

友希那(お守り屋って一体......?)

おばさん「じゃあねぇ。」

 

 おばさんは去って行く俺と湊さんに手を振っていた

 

 去り際、おばさんの口が不自然に動いてるのが見えた

__________________

 

 俺は人ごみを歩きながら、お守りの事を考えていた

 

陽介(縁結びか。)

 

 確か、恋愛成就とかそんな効果があるのじゃなかったっけ

 

 なんで、こんなのを俺に?

 

友希那「ねぇ、陽介?」

陽介「はい?」

友希那「さっきのお店の事だけれど、不思議なお店だったわね。」

陽介「はい。」

 

 湊さんも不思議そうな顔をしてる

 

 それはそうだが

 

陽介「本当になんなんでしょうね、これ。」

 

 俺はさっき貰ったお守りを出した

 

つぐみ「__あ!出水君!」

リサ「友希那ー!」

陽介「羽沢?今井さんも?」

 

 少し歩いてると、羽沢と今井さんが走ってきた

 

 よかった、何とか合流出来た

 

つぐみ「ごめんね!」

陽介「いや、俺の不注意だ。」

リサ「なんだー!出水君といたんだ!」

友希那「えぇ。」

六花「__あれ?出水さん?」

ますき「なんだ、来てたのか。」

陽介「六花?佐藤?」

 

 すごい偶然だな

 

 六花は練習帰りか

 

陽介「奇遇だな、二人とも。」

ますき「私らは練習帰りに寄ってみただけだ。」

六花「はい!」

陽介「なるほどな。お疲れ。」

日菜「__あー!陽介君だー!」

陽介「っ!?」

 

 嫌な声が聞こえる

 

 最高に楽しそうなのにな、なんでだろう

 

日菜「皆も来てたんだー!」

陽介「......こんばんは。」

つぐみ「日菜先輩も来てたんですね。」

日菜「うん!お姉ちゃんと来たの!」

つぐみ「じゃあ、その紗夜さんは?」

日菜「......あ。」

 

 置いてきたんだな

 

 この人はこの人だな

 

日菜「あ、そう言えば聞いてよ!陽介君!」

陽介「......なんですか?」

日菜「さっき、向こうの方の屋台でこんなの貰ったの!」

 

 そう言って氷川さんは勢いよく、あるものを出した

 

陽介、つぐみ、友希那、六花、ますき「!?」

日菜「?」

 

 氷川さんが出したのは俺がもらったのと同じ、お守りだった

 

陽介「な、なんでそれを。」

ますき「私も同じの持ってるぞ。」

六花「わ、私も......」

友希那「私もよ。」

つぐみ「私も貰いました?」

陽介「え?」

 

 なんで、こんな事あるのか?

 

 いや、あり得ると言えばあり得るが

 

日菜「みんな持ってるんだー!お揃いだね!」

陽介「......」

リサ「えー?あたし貰わなかったよー?」

友希那「そうなの?」

リサ「うん。それどころか見向きもされなかったよー?」

日菜「そー言えば、おねーちゃんも貰ってなかったような?」

 

 どういう事だ

 

 貰わない人間がいる、つまり、何か関連性があるのか?

 

陽介(だが、この5人の共通点は少ない。だったら、なんだ?)

 

 考えても分からない

 

紗夜「__日菜!」

日菜「あ!おねーちゃんだ!」

紗夜「そろそろ帰るわよ!」

日菜「はーい!じゃあね、皆!」

 

 氷川さんはそう言ってお姉さんの方に走って行った

 

ますき「私らも帰るかー。」

六花「はい!」

陽介「まぁ、そうだな。」

つぐみ「そうですね。ごめんね、出水君。」

陽介「いや、いいよ。」

友希那「陽介、今日は楽しかったわ。ありがとう。それじゃあ。」

リサ「じゃあねー!」

陽介「はい。さようなら。」

 

 こうして俺たちは解散して、各々、家に帰って行った

 

 だが、あのお守り、あれは何なんだ?

 

 そんな疑問を残し、祭りの夜が終わった

 



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真相

 終業式の日になった

 

 終業式なんて、校長の話やらの長い話を聞くイメージしかないな

 

モカ「__ねー、ようくんやー。」

陽介「なんだ?」

モカ「ようくんは夏休みに予定はあるかなー?」

陽介「家事、バイト。」

モカ「おー。」

 

 チュチュとパレオも夏休みだ

 

 3食の用意、洗濯をしなきゃいけない

 

 ギャラクシーでもライブの予約が入ってるし、忙しくなる

 

陽介「あんまり時間はないな。」

モカ「そっかー。(これは、きついなー。)」

巴「忙しそうだな、陽介。」

ひまり「私達もバイトあるんだよー?」

巴「分かってるって!」

モカ「じゃー、暇なのはあたしと蘭だけだねー。」

蘭「いや、なんで?」

 

 聞き捨てならない、という風に美竹は話に入ってきた

 

モカ「じゃあ、忙しいのー?」

蘭「......時間はある。」

モカ「だよねー。」

 

 青葉はヤレヤレといった態度でそう言った

 

 美竹は若干悔しそうにしてた

 

陽介「そう言えば、羽沢は?」

ひまり「つぐは終業式だから体育館だよー。」

陽介「あ、そっか。って、あれ?」

 

 羽沢は生徒会で終業式の手伝い、つまり......

 

 そう思うと、嫌な予感がしてきた

 

 その時、俺の携帯がなった

 

陽介「......」

巴「陽介?携帯なってるぞ?」

陽介「......あぁ。」

 

 今俺、完全にフラグ建てた

 

 いや待て、あの人は俺の電話番号を知らない

 

 チュチュかパレオか六花か佐藤だ

 

 そう思い、俺は電話に出た

 

陽介「もしもし。」

日菜『もしもーし!陽介君ー?』

陽介「」

 

 俺は静かに電話を切った

 

 すると、すぐに携帯が鳴った

 

陽介「......なんで、俺の電話番号知ってるんですか。」

日菜『つぐちゃんの携帯見た!』

陽介「あ、はい。」

 

 やっぱり、この人ヤバい

 

 普通じゃない、常軌を逸してる

 

陽介「何の用ですかね。」

日菜『なんだろ?陽介君があたしの事、考えてる気がして!』

陽介(いや、なんで分かったんだよ。)

日菜『あ!後、純粋に用があったんだよ!』

陽介「......なんですかね。」

日菜『今日の終業式の後、今から言う教室に来てほしいの!』

陽介「嫌です__」

日菜『じゃあ!その教室言うね!』

陽介「聞かないんですね、はい。」

 

 氷川さんはある教室の場所を言ってきた

 

 美術準備室らしい

 

日菜『じゃあ!終業式、楽しみにしててね!』

 

 言いたいことだけ言って氷川さんは電話を切った

 

 一気に年を取った気がする

 

陽介「はぁ......」

蘭「誰からだったの?」

陽介「......氷川さん。」

蘭「あっ(察し)」

モカ「大変だねー。」

陽介「大変とかそう言うレベルじゃないんだよな。」

 

 俺は机に顔を伏せた

 

 勘弁してほしい

 

陽介(逃げよう。)

 

 俺がそんな事を思ってるうちに、体育館に移動する時間になった

__________________

 

 終業式はやっぱり退屈だ

 

 校長の話は聞く価値もないし、立ってるだけだ

 

陽介(__今日の晩御飯は暑いし、ちょっと手の込んだそうめんとかいいな。薬味を色々用意して。)

 

 俺は話しを全てガン無視して晩御飯のメニューを考えていた

 

つぐみ『次は、生徒会長のお話です。』

陽介「ん?」

 

 考え事をしてると、そんな声が聞こえて来た

 

 ちゃんと羽沢が生徒会してるなと思いつつ、壇上の方に目を移した

 

日菜『皆ー!おはよー!』

 

 壇上に上がろうが、いつもと変わらない態度

 

 あの人は本当にブレないな

 

日菜『今日は一つだけ話したいことがあるんだ!』

 

 氷川さんはそう言って、話し始めた

 

日菜『最近、あたし、気になる子がいるんだー!』

陽介(へぇ、そんな人が。あの人も女子なんだな。)

 

 俺は少し感心しながら、話を聞いてた

 

 初対面が強烈なだけで、実は普通の女子だったのか

 

 そんな事を考えていた

 

日菜『今日!その子をこの後に呼んでみたの!』

陽介「!?」

 

 その一言でさっきまで考えてた事が全部崩れた

 

 気になるってのは、つまり、目の事か

 

 しかも、氷川さんの言い方的に意味が全く違うように聞こえる

 

 周りから聞けば、まさかという反応だ

 

 周りからは色んな声が聞こえる

 

陽介(いや、まだ逃げられる。まだ誰かは特定されてない、大丈夫__)

日菜「その子がもし来てくれなかったら、夏休み明けに名前晒すねー。」

陽介「」

 

 逃げ道が塞がれた

 

 終わった

 

 それから、俺は話しの内容が入って来ないまま氷川さんの話が終わった

 

 そして、終業式が終わった

 

蘭「......ねぇ、日菜さんのあれって。」

モカ「うんー、ようくんだろうねー。」

ひまり「だ、大丈夫なの?」

陽介「もうだめだ......終わった......もうどうすればいいんだよ......」

巴「完全にやられてるな。」

 

 このまま、行かないとしよう

 

 夏休みまでは良い、終わった後、俺は女子の呼び出しを無視した最低な男子になる

 

 そうなったら俺は、学園中からイジメられる可能性がある

 

陽介「......行くしか、ないのか......?」

モカ「行かないと、やばいかもねー。」

巴「日菜先輩は本当にやりかねないからなー。」

陽介「そう、ですよね。」

蘭「け、敬語になってる......?」

 

 そんな話をしながら、俺達は教室に戻った

__________________

 

 教室に戻ってから、課題を受け取ったり、夏休み明けに提出する書類を貰ったりして、終礼が終わった

 

 そして、俺は今、廊下を歩いてる

 

陽介「......」

 

 足取りが重い

 

 どうせまた、眼帯狙われるんだろうな

 

陽介「......仕方ないか。」

 

 もう狙われるのも面倒だし、向こうが用意した舞台に行くならどうせ頷くまで部屋から出られないだろう

 

 仮に逃げ切れたとして、良くない噂を広められる危険もある

 

 だったら、後は天秤にかけるだけだ

 

陽介「__そうは思ってもな。」

 

 これを他人に見せるのは、普通じゃない

 

 常軌を逸した行動だ

 

陽介「......入るか。」

 

 俺は目の前にある、美術準備室の扉を開けた

__________________

 

日菜「__あ!来たね!」

 

 部屋の中に入ると、机の上に座ってる氷川さんがいた

 

 顔には笑みを浮かべてて、カーテンから差し込む光と相まって幻想的にも見える

 

陽介「......机の上に座ると、罰があたりますよ。」

 

 そう思っても、こんな感想しか出ない俺はかなり冷めてるんだろうな

 

 俺は軽くため息をつきながら、氷川さんの方に歩いた

 

日菜「来てくれて嬉しいよ!陽介君!」

陽介「あんな脅しかけておいて、よく言いますね。」

 

 自分でも人にこんな刺々しい態度を取れるなんて知らなかった

 

 まぁ、単純にこの人が苦手なんだろうな

 

陽介「大体、呼んだ理由は分かりますけど、あんな事すると面倒なことになりますよ。」

日菜「面倒な事?なに?」

陽介「さっきも男子が騒いでたでしょう。外見はいいので。」

日菜「うーん?ありがと!」

陽介「すいません。クラスの奴が言ってただけで俺は全く思ってないです。」

 

 俺はそう言いながら机に鞄を置いた

 

陽介「どうせ、今日も俺の眼帯を狙うんでしょう?」

日菜「うん!」

 

 この人は屈託のない笑顔でそう答えた

 

 このくらいは予想できた

 

 だから、俺が慌てることはない

 

陽介「そうですか......」

 

 心臓の動きがすごい

 

 今から俺は告白でもするのかね

 

 いや、ある意味それよりも勇気がいるな

 

陽介「二つ。」

日菜「ん?」

陽介「一つ、絶対に他言しない。二つ、騒がない。」

 

 俺がそれだけ言うと、氷川さんは嬉しそうな表情を浮かべた

 

日菜「え!見せてくれるの!?」

陽介「はい。」

 

 俺は静かにそう答えた

 

陽介「氷川さんは、これを何だと思っていますか?」

日菜「んー、何もない中二病か充血してたりかな?」

陽介「......だったら、よかったですね。」

日菜「?」

 

 俺はそう言いながら、眼帯を外した

 

 左目の方に空気を感じる

 

日菜「__え......?」

陽介「......」

 

 俺が眼帯を取ると、氷川さんの表情が変わった

 

 そりゃそうだ

 

 不自然なしわに沢山の縫った後、こんなもの普通に生きてれば見ないんだから

 

陽介「どうですか?こんなものを見た気分は。」

日菜「え、え?ま、待って、待ってよ」

陽介「これが氷川さんがずっと狙ってたものですよ。」

 

 俺は氷川さんに一歩近づいた

 

陽介「可哀そうに。こんなものをずっと追いかけてたんですよ?どうですか?」

日菜「......」

 

 頭がふらふらして今にも倒れそうだ

 

 これ以上はダメだ

 

陽介「......これ以上、俺に関わらない方がいい。」

 

 俺はそれだけ言い残して、部屋を出て行った

__________________

 

 ”日菜”

 

 頭が、真っ白になった

 

 足から力が抜けて、その場で座り込んじゃった

 

日菜(あ、あれって......)

 

 あたしは見た、いや、見ちゃった

 

 あの目を

 

 何個もある縫い目、まるで、そこだけ何年も年を取ったみたいにシワがたくさんあった

 

 それで、そこにあるはずの形がなくて、平じゃなくて、へこんでたように見えた

 

日菜(あたしは、何をしたの......?中二病、充血?全然違うじゃん)

 

 最低、あたし、最低だ

 

 あんなに笑って、見せてってせがんで、無理やり眼帯剥ぎ取ろうとして

 

 あんな、遊び感覚で......

 

日菜「ごめんなさい......ごめんなさい......」

 

 勝手にそんな言葉が出て

 

 目からは涙が流れてくる

 

つぐみ「__誰かいるんですかー?って、日菜先輩!?」

日菜「つぐちゃん......」

つぐみ「ど、どうしたんですか!?」

 

 つぐちゃんは心配そうにあたしの前にしゃがんでる

 

日菜「あたし、あたし最低、なの......」

つぐみ「出水君ですよね。」

日菜「え、なんで......?」

 

 つぐちゃんはあたしのしたことを分かってるみたい

 

 それで、つぐちゃんは......

 

 パシン!!!

 

つぐみ「最低です。日菜先輩。」

日菜「......」

 

 右頬が痛い

 

 つぐちゃんに初めて叩かれた

 

つぐみ「私達、言いましたよね。人には触れちゃいけない事があるって。」

日菜「......うん。」

 

 怒ってる

 

 当り前だよ、つぐちゃんは陽介君を庇ってたんだから

 

日菜「ごめん、なさい......」

つぐみ「私に謝られても困ります。」

 

 つぐちゃんは引き離すようにそう言ってきた

 

つぐみ「謝るのは、出水君にです。」

日菜「......うん。」

つぐみ「日菜先輩が出水君に謝るまで、私は日菜先輩と口をききませんからね。」

 

 そう言って、つぐちゃんは部屋を出て行った

 

 最後の方には、もう、あたしの事なんて心配してなかった

 

日菜「あたし......」

 

 それから、しばらく、あたしはその場から動けなかった......



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謝罪

 ”日菜”

 

 昨日から、頭の整理が出来てない

 

 ずっと、止まったまま

 

 何も分からないまま、時間が過ぎて行ってる

 

日菜「__つ、つぐちゃん......」

つぐみ「......」

日菜「あっ......」

 

 つぐちゃんは本当にあたしと口をきいてくれない

 

 ずっと、無視してる

 

 いつも、怒ることがないツグちゃんだけど、今回は本当に怒ってる

 

日菜「......」

 

 謝らないといけない、でも陽介君にどんな顔で会えばいいんだろ......

 

 あたしは廊下に出た

__________________

 

日菜(ずっとこのまま、なんて、絶対ダメ......。)

 

 ふざけて謝るのには慣れてる、でも、今回は全然違う

 

 どうしたらいいんだろう......

 

千聖『__それで、なんで私にかけてくるのかしら?』

日菜「お願い。」

 

 あたしは千聖ちゃんに電話をかけた

 

 謝る、と言えば千聖ちゃんだと思ったから

 

千聖『ただ事じゃないみたいね。』

日菜「うん......」

 

 千聖ちゃんもあたしの雰囲気を感じ取って、声のトーンが変わった

 

千聖『そうね、私の所に謝りに来たスタッフやプロデューサーは菓子折りを持って謝りに来てたわね。』

日菜「なるほどね、ありがと。」

千聖『(これは果たして参考になるのかしら?)』

 

 あたしは電話を切った

 

日菜(謝りに行かないと。)

 

 あたしはそう思って、学校を出た

__________________

 

 ”陽介”

 

陽介「__あー、疲れた。」

 

 今日から夏休みなだけあって、俺は結構な時間バイトに入ってた

 

 様々なバンドからライブの申し込みがあって、それの整理やら準備やらで手いっぱいだ

 

陽介(昼に帰ってきた時に晩御飯の下ごしらえはしてたし、ある程度すぐに仕上げられるな。)

 

 珍しいデスクワークに凝り固まった肩を軽く回しながら、俺は部屋に入って行った

 

陽介「ただいまー。チュチュ、パレオー。」

日菜「__お、おかえり......」

陽介「はい?」

 

 俺は目を疑った

 

 居るはずない、あんなの見てここに来るはずない

 

 俺は確かに、もう関わらない方がいいって言った

 

陽介「......なんで、いるんですか。」

日菜「え、えっと......」

チュチュ「彼女はあなたに話があるみたいよ?」

陽介「話?」

 

 話か

 

 この目の理由、いや、それ以外か

 

 パターンはいくつかあるけど、警戒は必要だな

 

陽介「......俺に話があるなら、部屋にどうぞ。」

日菜「あ、うん......」

 

 どのパターンにしても、チュチュとパレオに聞かれるのは面倒を招く可能性がある

 

 幸い、あの部屋は音が漏れずらい、話にはもってこいだ

__________________

 

陽介「__それで、話とは?」

 

 部屋に来ると、俺はすぐに話を切り出した

 

 一応、客に無礼は出来ないので綺麗な座布団に座らせた

 

日菜「えっと......」

陽介(......なに?)

 

 俺が考えたパターンの内、これは14しかない

 

 妙にしおらしい、何が狙いだ?

 

 加えてあの鞄、女子が出歩くなら持ってても不思議じゃない、でも、今はこれも不安要素の一つだ

 

陽介(どう出てくる。ここから予想されるのは、これは演技でカバンの中に盗聴器がある。この人の性格的にありえる。)

日菜「ご、ごめん、なさい......」

陽介「え?」

 

 想定外

 

 俺の頭にそんな単語が浮かんできた

 

 謝る、それは数あるパターンの内でもほぼ1通り

 

 俺の予想では、目の事について直接、もしくはさりげなく情報を引き出しに来る、だった

 

日菜「あ、これ......」

陽介「え、あ、ど、どうも。」

 

 氷川さんは鞄からお菓子を出した

 

 しかも、かなり高価そうだ

 

 どういう事だ

 

日菜「お詫びには、菓子折り持ってって......」

陽介「な、なるほど。」

 

 見たところ、開封後じゃない

 

 睡眠薬、自白剤の類はありえない

 

陽介(それじゃあ、さっき鞄からこれを取り出すと同時に何かした?いや、相当手馴れてない限りできない。)

 

 思考を整理した

 

 状況から考えて、今までのような目的はない、と考えられる

 

日菜「陽介君の事、何も知らないで、あたし、ずっと......」

陽介「ちょっと!?」

 

 氷川さんは涙を流してる

 

 目で見てるものが信じられない

 

日菜「あんな、事になってるのにぃ......ずっと、ずっと......」

 

 まるで子供みたいに顔をくしゃくしゃにしてる

 

 嘘なんてない、綺麗な涙だ

 

陽介「もう、いいですよ。」

日菜「え......?」

陽介「俺は人に罪悪感を持ってほしいとも泣いてほしいとも思ってない。はっきり言って興味なんてない。」

 

 俺は氷川さんの前にしゃがんだ

 

陽介「俺なんかのために時間を浪費するのは、ただただ無駄だ。もっと有意義な使い方がある。」

日菜「よ、陽介君......?」

陽介「得意不得意を入れても、全人類通して涙なんて誰も似合わない。」

 

 俺は持ってたハンカチを氷川さんに渡した

 

日菜「あ、ありがと......」

陽介「大丈夫。俺は別に気にしていないですよ。」

 

 俺はそっと、氷川さんに微笑みかけた

 

日菜「っ......!///」

陽介「さて、これ以上はご両親が心配するでしょう。帰った方がいいですよ。」

日菜「う、うん。」

 

 そう言って氷川さんは立ち上がった

 

日菜「ね、ねぇ、陽介君?」

陽介「なんですか?」

日菜「陽介君はなんで、ここに住んでるの。」

陽介「っ......」

 

 まぁ、そりゃ気になるよな

 

 チュチュ、パレオと兄妹なんて言われても容姿的に無理がある

 

日菜「陽介君......?」

陽介「捨てられたんですよ。」

日菜「え......?」

陽介「目を失ったと同時に、家族も失った。」

 

 俺がそう言うと氷川さんは何も言わなくなった

 

陽介「ははっ、そんなに気にしなくてもいいですよ。」

日菜「陽介君......?」

 

 俺は笑いながらそう言って、ドアを開けた

 

陽介「今は今で充実した日々を送って、満足はしてますから。」

日菜「うん。」

陽介「どうぞ、玄関までお送りします。」

 

 俺がそう言うと、俺と氷川さんは玄関の方に行った

__________________

 

日菜「__今日はごめんね。」

 

 玄関先で氷川さんはそう言ってきた

 

陽介「いいですよ。こちらこそ、お菓子もらっちゃって。」

日菜「い、いいの!前食べておいしかったから、食べてみて!」

陽介「ありがとうございます。」

 

 俺は軽く頭を下げた

 

日菜「じゃあ、お邪魔しました!」

陽介「はい。夜道にお気をつけて。」

 

 氷川さんはエレベーターを降りて行った

 

チュチュ「__何の話だったの?」

陽介「色々あってな。それの話だ。」

チュチュ「そう。」

陽介「晩御飯にしようか。今日はビーフシチューだ。」

チュチュ「Good。」

 

 俺はそう言って、晩御飯の用意を始めた。

 

陽介(あ、羽沢に一応言っとかないと。80%くらいの確率で羽沢が絡んでるからな。)

__________________

 

 ”日菜”

 

 許してくれた

 

 あんなひどい事したあたしを、叩くことも、怒ることもしないで

 

 陽介君は、優しかった......

 

日菜(ありがとう、陽介君......)

 

 こんなあたしを慰めてくれて、優しくしてくれて

 

 微笑みかけてくれて......

 

日菜「......///」

 

 自然と頬が熱くなる

 

 心臓も動いてうるさいよ

 

 チリン♪

 

日菜「あ、これ。」

 

 鞄の中にこの前貰ったお守りが入ってた

 

 それには縁結びって書いてある

 

日菜(確か、陽介君もこれ、貰ってたような?///)

 

 縁結び、これって、そう言うあれだったよね?

 

日菜「効果、本当にあるのかも......///」

 

 あたしはそのお守りを胸に抱いた

 

 ほんのり、暖かく感じる

 

日菜「あたし、陽介君が好き......!///」

 

 そう小さく呟くと、さらに顔が熱くなって、心臓が激しく動いた

 

 それが、何よりの証拠なんだって思うと

 

 この熱も心臓の音も、全部が愛おしく感じる

 

日菜「陽介君は、あたしの事、嫌いかもしれないけど......」

 

 日菜は胸元を握りしめた

 

日菜「これから、ちょっとずつ挽回する。それで、少しでも、陽介君に好きなってもらえたら......///」

 

 また、あたしに優しく微笑みかけてくれるのかな

 

 あたしはそんな夢を抱きながら、お家に帰って行った




 そろそろ、モニカの方のアイディアも出てきました
 実行も近いかも


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片鱗

瑠唯さんが言ってた「あの子」ってまさか、りん......?


 朝、俺はいつも通りバイト前に二人のご飯を作っていた

 

 今日は昼も帰ってこれないし、朝と昼、両方作って行かないといけない

 

陽介「__よし。」

 

 俺は朝ごはんを二人に出しに行った

 

チュチュ「おはよう、陽介。」

パレオ「おはようございます!」

陽介「あぁ、おはよう。朝ごはん、ごうぞ。」

 

 俺はテーブルの上に料理を並べた

 

 二人は席に着いた

 

陽介「今日は昼に帰ってこれないから、お昼ご飯は作ってあるのを温めて食べてくれ。」

パレオ「はい!分かりました!」

チュチュ「OK。」

陽介「じゃあ、もう時間だから行ってくるな。」

チュチュ「行ってらっしゃい。」

パレオ「行ってらっしゃいませー!」

 

 俺はそんな二人の声を背に家を出た

 

チュチュ「......あっ。」

パレオ「どうしました?チュチュ様?」

チュチュ「そう言えば、あの事を陽介に言うのを忘れてたわ。」

パレオ「あ!」

チュチュ「まぁ、大丈夫ね。陽介、弁当を作る時間がないって言ってたし。」

__________________

 

 外はもう7月なだけあって、かなり暑い

 

 記録的猛暑、なんて毎年聞くけど

 

 本当にそう感じるほど暑いんだよな

 

 そんな事を考えながら、歩いてるうちにギャラクシーに着いた

 

陽介「__おはようございます。」

六花「あ!出水さん、おはようございます!」

陽介「おはよう、六花。」

 

 建物の中に入るともう、六花がいた

 

 結構ギリギリになったな

 

陽介「すぐに着替えてくるよ。」

六花「はい!」

 

 俺は更衣室に向かった

__________________

 

 更衣を済ませ、俺は業務を開始した

 

 この時期はなんせ、ライブの予約が多い

 

陽介(この辺りはある程度サークルに集まるって言っても、それでもすごいからな。)

 

 パソコンの画面には多くのバンドの名前が並んでる

 

 そして、それぞれのセトリ、照明や機材の配置の要望

 

 その他にもまとめる情報が多すぎる

 

陽介「......あれ、これ。」

 

 Poppin'Party

 

 そのバンドが目に留まった

 

 どっかで聞いたことあるな

 

陽介「うーん。」

六花「__どうしたんですか?出水さん?」

陽介「六花か。いやな、このバンド、どっかで見たか、聞いたことある気がして。」

六花「あ!ポピパさん!!!」

陽介「!?」

 

 パソコンの画面を見ると、六花が急に大きな声を出した

 

 ポピパ、さん?

 

 あ、思い出した

 

陽介「そう言えば、いっつも六花が言ってたな。」

六花「はい!ポピパさんはとっても素敵なバンドで、大ファンなんです!」

陽介「へぇ、あの六花が。」

 

 六花の演奏技術は凄く高い水準だと分かってる

 

 そんな六花が好きなバンド、少し興味があるな

 

陽介「夏休み中にここでライブするらしいな。」

六花「はい!知ってます!」

陽介「まぁ、だよな。」

 

 六花の態度を見れば、もうライブの事を知ってるのは分かる

 

 チケットの発行も明日からだし、六花は最速で取るんだろうな__

 

六花「もうチケットも頂きました!」

陽介「いや、最速越すのか。」

六花「え?」

陽介「いや、なんでもない。」

 

 驚き過ぎて声が出てしまった

 

 Poppin'Partyのライブの日は六花はバイトの日ではないし

 

 相当楽しみだったんだろうな

 

陽介「......まぁ、楽しむといいよ。俺はちゃんとお仕事しておくからさ。」

六花「はい!お願いします!」

陽介「じゃあ、俺は作業に戻るよ。」

 

 俺はそう言ってパソコン画面に目を移した

 

 前に結構進めてたから、今日の作業は比較的に楽だ

 

 間違えがないかの確認、急な変更にもある程度対応できるようにしておくとか、それだけだ

 

陽介(このバンド、セットの内容が多いな。少しならいいが、大幅な変更があったら骨がリアルに折れそうだ。)

六花「......」

 

 内容はバンドで大きく異なる

 

 でも、照明が派手なバンドとか、こだわりが強かったりするバンドは大変だ

 

 まぁ、チュチュよりマシだがな

 

六花(真面目に働いてる......)

陽介(......ん?)

 

 六花から視線を感じる

 

 やばい、なんかやらかしたか

 

六花(パソコン、打つの早いなぁ。指も綺麗で、女の子みたい。)

陽介(な、なんだ?ずっと見てるぞ?)

六花(首も細くて......)

陽介「あ、あの、六花?」

六花「ふぇ?は、はい!」

陽介「さっきから、ずっと見てるけど、どうした?」

六花「」

 

 俺がそう聞くと、六花が固まった

 

 そして、段々、顔が赤くなっていった

 

六花「な、なんでもないんです!///ごめんなさい!///」

陽介「いや、何もないならいいんだ。」

 

 俺はそれだけ言って、作業に戻った

 

六花(なんで、出水先輩の子と見てたんだろ?)

陽介(あー、焦った。何かミスしてるのかと思った。)

 

 俺はそうして、昼まで作業を続けた

__________________

 

陽介「__あー。」

 

 昼休憩の時間になった

 

陽介(なんとか、昼までに作業が終わった。昼からは、近日中にあるライブの準備しないと。)

美子「__陽介くーん?」

陽介「はい?」

 

 俺が一人で椅子の背もたれにもたれかかってると、店長が顔をのぞかせた

 

 何か用がある様子なので、俺は店長の方に行った

 

陽介「どうしましたか?」

美子「出水君にお客さんだよ。」

陽介「お客さん?」

 

 思い当たる人物がいない

 

 佐藤なら遠慮なく入って来るし、チュチュとパレオはライブの準備にかかりっきりだし

 

 何者だ?

 

美子「可愛いお客さん、だよ?」

陽介「?」

 

 俺は訳が分からなかったが、お客さんとやらの所に向かった

__________________

 

 確か、店の方にいるって聞いたけど

 

 どこにいる

 

陽介(......あっ。)

日菜「よ、陽介君!こんにちは!」

 

 お客さんとは氷川さんの事だったようだ

 

 ひとまず、詐欺とかそういう類じゃない

 

陽介「どうしたんですか?」

日菜「え、えっとね、チュチュちゃんから陽介君、お昼持って行ってないって聞いて。」

 

 氷川さんはそう言って、カバンの中から弁当箱を取り出した

 

日菜「その、お昼、作ってきたの......///」

陽介「!?」

 

 この人、料理とかするんだとか、なんでわざわざ作って来たんだとか、そう言うのはいい

 

 どういう意図なのか分からないけど、良い思いをしてるわけだし

 

 何がまずいって、俺、味を感じないんだよ

 

陽介(だからと言って、断ると、あらぬ誤解を招くし。)

日菜「陽介君......?」

陽介「い、いや、その。」

日菜「やっぱり、いらなかったかな......」

陽介「!」

 

 氷川さんは悲しそうな声でそう言った

 

 女子が悲しむのは良くない

 

 氷川さんは善意でしてくれてるわけだし

 

 そう思ってからの、俺の行動は早かった

 

陽介「お昼を持ってきてくれたのは、嬉しいですよ。」

日菜「え......?」

陽介「ただ、少し事情があるので、お話しします。」

 

 俺は氷川さんに味を感じない事を話した

 

 それで、わざわざ作ってきてくれたのが申し訳ないとも話した

 

日菜「__そ、そうだったんだ......」

陽介「はい。わざわざ作ってきてくれたのに、すいません。」

日菜「いやいや!陽介君は悪くないよ!」

陽介「いえ。俺の身体の事です。」

日菜「あと、栄養は考えて作ったから、食べるだけ食べてみて!」

 

 氷川さんはそう言って、弁当箱を開けた

 

 確かに、栄養バランスは見た感じ、すごくいい

 

陽介「それじゃあ、いただきます。」

日菜「うん!あ、お箸!」

陽介「ありがとうございます。」

 

 俺は氷川さんから箸を受け取った

 

陽介「それじゃあ、いただきます。」

日菜「うん!めしあがれ!」

陽介「じゃあ、まずはハンバーグから。」

 

 俺はハンバーグを箸で割り、口に運んだ

 

陽介「!!!」

 

 口に入れた途端、俺の身体に衝撃が走った

 

 信じられない、なんでだ

 

 しばらく、縁遠くなってた間隔、これは......

 

日菜「よ、陽介君......?」

陽介「お、美味しい?」

日菜「え?」

 

 自分でも信じられない

 

 俺からは味覚が消えてるはず、味を感じるわけない

 

 でも、今......

 

 俺は二口目を口に運んだ

 

陽介「やっぱり、美味しい。」

 

 信じがたい、けど、俺は確かに味を感じてる

 

日菜「ほ、ほんとに?」

陽介「は、はい。信じがたいですが、美味しい、味を感じてます。」

日菜「......」

陽介「氷川さん?」

 

 感想を言うと、氷川さんは静かになった

 

日菜「__やったー!!」

陽介「!?」

日菜「よかった、頑張った甲斐あったよ!」

 

 氷川さんはそう言って、喜んでいた

 

 俺はその姿を見て、心が温かくなった

 

陽介(......あれ?この感じ。)

 

 感じたことがある

 

 暖かくて、幸せで、楽しく笑いかけてくれる人がいる

 

陽介「__あ。」

 

 あった

 

 小さいときに、家族でご飯を食べてた時に感じてた

 

 母さんは感想を聞いて来て、父さんはそれを嬉しそうに見てた

 

 俺はそれを思い出しながら、弁当を食べ進めた

 

陽介(小学校くらいの時、本当に家族で食べるご飯が楽しくて毎日早く帰ってたっけ。それで、父さんの帰りを母さんと一緒に待って。)

 

 暖かい記憶が溢れてくる

 

 優しくて、誰も傷ついてない、優しい時間

 

陽介(確か、母さんの作ったハンバーグが一番だって、クラスメイトと喧嘩したこともあったなぁ。)

 

 俺はそんな事を思いながら、最後の一口のハンバーグを口に運んだ

 

 そして、弁当箱の中身はすべてなくなった

 

陽介「ごちそうさまでした。」

日菜「うん!」

陽介「ありがとうございました。本当に、美味しかったです。」

日菜「陽介君?」

陽介「はい?」

 

 氷川さんは不思議そうに俺の顔を見ている

 

 何かついてるのか

 

日菜「なんで、泣いてるの?」

陽介「え?」

 

 頬に触れると、生ぬるい液体の感触があった

 

 涙が流れてる

 

 でも、なんでだろう

 

陽介「......なんだろ、これ。」

日菜「うーん、疲れてるんじゃないかな?」

陽介「疲れ?」

日菜「うん。少し寝たら?」

陽介「......そうですね。奥に戻って__」

日菜「はい!」

陽介「?」

 

 俺が立ち上がろうとすると、氷川さんは自分の膝を叩いていた

 

 何のサインだろうと思い、俺は数秒その光景を見てた

 

日菜「あたしの膝、使いなよ!」

陽介「いや、悪いですよ。」

日菜「いいよいいよ!......そもそも、陽介君以外にはしないよ///」

陽介(......ふむ。)

 

 女子の膝枕は正直、かなりの特権だ

 

 ただ、俺と氷川さんは付き合ってるわけでも、ましてや身内でもない

 

 そんな相手にしてもいいものなのだろうか

 

日菜「あ、大丈夫だよ!お仕事が始まる前に起こすから!」

陽介「いやそういうことじゃ......」

日菜「ほら!おいでおいで!」

陽介「......」

 

 俺はかなりチョロいらしい

 

 疲れてるのもあっただろうけど、結局、日菜さんの膝枕にお世話になることになった

 

陽介(......柔らかい。)

日菜「ゆっくり寝てね。」

 

 氷川さんは気を使ってか、かなり小さい声で俺にそう言った

 

陽介「......すいません。」

 

 俺はそう言うと同時に、意識を手放した

 

 ”日菜”

 

 陽介君はすぐに寝ちゃった

 

 本当に疲れてたみたい

 

日菜(それにしても......)

 

 あたしは眠ってる陽介君を見た

 

 穏やかな表情で寝息を立ててる

 

日菜(か、可愛すぎるよぉ......///)

 

 眠ってる陽介君は、いつもの影がかかってる感じじゃなくて

 

 すごく、幼く感じる

 

 この間まで、こんな姿を見せてくれるなんて、考えられなかった

 

日菜(す、少しだけ撫でちゃダメかな?///)

 

 起こしちゃうからダメ、そう思っても手は言うことを聞いてくれない

 

 段々と陽介君の頭の方に伸びていく

 

陽介「......ん。」

日菜「!」

 

 もう少しで触れるところで、陽介君の口が動いた

 

 今、なんて言ったんだろう

 

陽介「......かあ、さん......」

日菜「っ!」

 

 陽介君がお母さんを呼んだ

 

 確か、陽介君はお母さんとお父さんに捨てられたって言ってた

 

日菜「よ、陽介君......」

陽介「......」

 

 陽介君の目から、涙が零れて、あたしの太ももにまで滲んできた

 

 その涙はひどく冷たく感じた

 

 まるで、温度がなくなったみたいに

 

 あたしは静かに、陽介君の涙を拭いた

 

 その後、陽介君を優しくなでた

 

日菜「大丈夫だよ。陽介君。」

陽介「......」

日菜「今の陽介君の周りにいる皆は誰も、陽介君を置いて行かないから。」

 

 そう言うと、陽介君の表情が少し柔らかくなった気がした

 

 こんなに寝てるのに、起きてるんじゃって疑っちゃった

 

日菜(あたしも、絶対に陽介君を置いて行ったりしない。嬉しくないかもだけど、あたしはそうしたい......)

 

 あたしは心の中でそう呟いた

__________________

 

 ”六花”

 

六花「......」

 

 お昼を済ませて、ギャラクシーに戻って来ると

 

 出水さんと氷川先輩がいた

 

 出水さんは氷川先輩に膝枕をされてる

 

六花「......」

 

 私は扉の隙間からその光景を見てます

 

 穏やかな表情で眠ってる出水さん

 

 それをいつからは考えられない優しい表情で見てる氷川先輩

 

 そんな、微笑ましい光景

 

 普通なら、そう思うはずなんです、でも......

 

六花「......っ。」

 

 なんで、こんなに胸が苦しいんだろ......

 

 私だって、膝枕くらいできます

 

 お昼ご飯だって、作って来れます

 

 私の方が出水さんと一緒にいました

 

 一緒にお勉強もしました、メールだってよくします

 

六花(なんで、私じゃ駄目なんですか......)

 

 黒い感情がずっと渦巻きます

 

 私は氷川先輩よりも前から、出水さんの事情を知ってました

 

 氷川先輩はつい昨日じゃないですか

 

 なんで......

 

六花「出水さん......っ。」

 

 胸が苦しい

 

 何かに握られてるみたい

 

美子「__六花ちゃん?」

六花「っ!?」

美子「そんなところで何してるの?入らないの?」

六花「す、すいません、もう少し外に出てます。」

美子「え?六花ちゃん?」

 

 私は店長にそう言って、階段を上がって行きました

 

美子「六花ちゃん......?」

 

 

 




モニカ新作は準備がおおよそ整いました
自分は最初ましろが好きでしたが、ストーリーを読んで好きなキャラが変わりました
(ただ、ましろも性格に人間味があって好き)
なので、その子をヒロインとします。

明日にでも投稿するのが、良いんでしょうか。


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朝日六花

陽介「__朝か......」

 

 連日のデスクワークで俺はかなり疲れてたらしい

 

 珍しく熟睡出来た

 

陽介(それにしても、昨日は何だったんだ?)

 

 昼休憩が終わって、氷川さんが帰ってから

 

 六花の様子がおかしかった

 

 妙に避けられてると言うか、チラチラ遠くから見られてたり

 

陽介(何なんだろう?そう言う年頃なのか?)

 

 俺はそんな事を考えながら服を着替えた

 

 そして、朝ごはんを作りにキッチンに行った

__________________

 

陽介(......やっぱり駄目か。)

 

 昨日の氷川さんの弁当から味を感じるようになったと思ったけど

 

 やっぱり、何も感じないな

 

陽介(あれは何だったんだ?超常現象か?)

 

 俺は考え事をしながら手を動かしていた

 

 しばらく、準備をしてるうちに2人が起きて来た

 

パレオ「__おはようございます!」

チュチュ「......Good morning。」

陽介「おはよう、2人とも。」

 

 俺は2人の様子を確認して

 

 すぐに朝ごはんを仕上げた

 

陽介「おーい、出来たぞー。」

 

 俺はそう声をかけながらテーブルに料理を並べた

 

 2人とも席に着いた

 

陽介「それじゃ、俺は行ってくるよ。」

チュチュ「今日行けば、2日休みになるんだったわね?」

陽介「そうだぞ。」

パレオ「頑張ってくださいね!」

陽介「あぁ、ありがとな。」

 

 俺は家から出た

 

 そして、ギャラクシーに向かった

__________________

 

 今日はデスクワークとは別に腰に来る仕事、機材運びだ

 

陽介「__重っ!」

 

 機材や他の色々な物を楽屋に運び込む

 

 この仕事は大変だな

 

六花「だ、大丈夫ですか、出水さん......?」

陽介「大丈夫だ。」

 

 こういう時に俺が頑張らないと

 

 重いし、六花と店長がケガしてもやばい

 

 それから俺は、昼休憩まで荷物を運び続けた

__________________

 

 昼休憩の時間だ

 

 俺は従業員スペースに置いてる机に伏せていた

 

陽介「......死ぬ。」

 

 もう腕が上がらない、棒みたいだ

 

 そして何より、腰が痛い

 

陽介(恐るべし、重い物。)

六花「__出水さん、いますか?」

陽介「六花か。」

 

 俺は顔を挙げた

 

陽介「どうした?」

六花「お弁当を作っていたので、食べてくれませんか?」

陽介「弁当?六花が?」

六花「はい!」

 

 最近、店長が買ってきてる昼ご飯の出番がない気がする

 

 まぁ、家で食べる分が出来て財布に優しいって言ってたけど

 

六花「ますきさんに出水さんの事は聞いているので、栄養が豊富なメニューです!」

陽介「ありがとう。いただくよ。」

六花「はい!」

 

 六花はそう言って、俺の隣に座った

 

 そして、弁当箱を開けた

 

陽介「おぉ。」

 

 一見すれば、女の子らしい可愛い弁当

 

 よく見てみれば、すごく栄養が考えられてる

 

 そんな事を考えてると、六花に箸を渡された

 

陽介「いただきます。」

六花「どうぞ!」

 

 俺は箸でおかずを掴んだ

 

 だが、今の俺は腕が死んでる

 

 箸を持つ手がかなり震える

 

六花(出水さん、食べずらそう?)

陽介「__!」

 

 なんとか、震える手で口まで運べた

 

 その時、また、衝撃が走った

 

陽介「味を感じる?」

六花「え?」

陽介「う、美味い。」

 

 朝は確かに何も感じなかった

 

 氷川さんの時と同じ、なんでだ

 

陽介「まぁ、悪い事でもないし、いいか。」

六花「は、はい。でも。」

陽介「?」

六花「あの、食べずらいですか?」

陽介「え?」

 

 六花は俺の手が震えてるのに気づいたらしい

 

 俺は頷いた

 

陽介「午前の荷物運びで腕がな。」

六花「頑張ってましたもんね。」

 

 六花はそう言いながら、俺が持ってる箸に手を伸ばしてきた

 

 そして、俺から箸を取った

 

陽介「なにするんだ?」

六花「はい、あーん。」

陽介「!?」

 

 六花は予想外な行動に出た

 

 え、六花ってこんな子だったか?

 

陽介「あの、六花?流石にそこまでは。」

六花「食べずらいんですよね?だから、お手伝いを。」

 

 やめる気はない

 

 そんな感じの雰囲気だ

 

陽介「じゃあ、食べるぞ。」

六花「はい!」

 

 俺は六花が差し出してきてる料理を口に入れた

 

 相変わらず、味も感じるし、美味しい

 

六花「美味しいですか?」

陽介「あぁ、美味しいよ。」

六花「そうですか♪」

 

 それから、六花は俺に弁当を食べさせ続けた

 

 俺もそれを受け入れていた

 

六花(出水さん、喜んでる。)

陽介「悪いな六花、全部食べさせてもらって。」

六花「大丈夫です!こちらこそありがとうございました!」

陽介「え?あ、うん。」

 

 何故かお礼を言われ、困惑した

 

 六花の表情は明るいし、なんでだ?

 

陽介(それにしても。)

 

 この現象は何なんだろう

 

 味を感じたのは今の所、氷川さんと六花

 

六花「あの、出水さん?」

陽介「うん、どうした?」

 

 考え事をしてると、六花が話しかけて来た

 

六花「眠たくありませんか?」

陽介「え?いや、眠たくはないかな。」

六花「そうですか......」

 

 六花は残念そうな声でそう言った

 

陽介「ど、どうしたんだ?」

六花「昨日、氷川先輩......」

陽介「!」

 

 思い当たる事しかない

 

 まさか、見られてたのか

 

陽介「あ、あれを見てたのか。」

六花「......」

陽介「いやぁ、年上のあんな姿を見るのはきついよなー、あはは。」

六花「そ、そうじゃないんです!」

陽介「?」

 

 六花は慌ただしく手を動かして

 

 言葉を絞り出そうとしている

 

六花「羨ましかったんです......」

陽介「羨ましい?」

 

 どういう事だろう

 

 俺が羨ましかったのか?

 

六花「氷川先輩が出水さんに膝枕をしてるのを見て、羨ましくて。」

陽介「えぇ!?」

六花「私だって、膝枕くらいできますよ......?」

 

 そう言って、六花は顔を近づけて来た

 

 俺は驚いて、後に飛びのいた

 

六花「お弁当だって、私も作れます。」

 

 六花はそう言いながら、また俺に近づいて来た

 

 六花の様子が少しおかしい

 

六花「私の方が出水さんの事を分かってます......」

陽介「!」

 

 六花は俺に抱き着いてきた

 

 どうなってるんだ?

 

 俺は頭を上手く整理できない

 

陽介「ろ、六花?何してるんだ?」

六花「......おかしいんです。」

陽介「え?」

六花「昨日の出水さんと氷川先輩を見てから、ずっとモヤモヤして、胸が苦しくて。」

 

 六花の力が強くなっていってる

 

 抱き着いてる、と言うよりは縛り付けてるみたいだ

 

陽介(ど、どういう事だ?)

六花「私の方が一緒に勉強したりして一緒にいます、メールだってたくさんしました。私の方が出水さんの事を分かってるんです!!」

 

 六花はいつもからは考えられないような表情だ

 

 すごい剣幕だ

 

六花「出水さんは、私の事が嫌いですか......?」

 

 一転して六花は弱弱しい声でそう聞いてきた

 

 腕の力も弱くなった

 

 俺は状況を整理できていなかったが

 

 六花の問いかけには、直ぐに答えられた

 

陽介「いや、六花の事は好きだよ。」

六花「!」

陽介「一生懸命で勉強を教える時も頑張ってくれるし、ギターを弾くときはかっこいいし、仲良くしてくれるし、いい友達だと思ってるよ。」

 

 俺は六花にそう言った、嘘はない

 

 羽丘に転校する前から、六花とは結構な数メールをしてるし

 

 よく一緒にいる、仲が良い友達だと思う

 

六花「そうですか......」

陽介「おう。俺が六花を嫌いなわけないだろ?」

六花「よかった......」

 

 六花はそう言うと俺から離れた

 

 そして、笑顔を向けて来た

 

六花「私も出水さんの事は大好きです!」

陽介「おう、ありがと。」

 

 いつも通りの六花だ

 

 いや、ちょっと違うけどな?

 

六花「また、お弁当を作ってきてもいいですか?」

陽介「いいのか?」

六花「はい!」

 

 六花はそう言うと、扉の方に歩いた

 

 俺はそれを目で追った

 

六花「もう始まる時間ですね!午後も頑張りましょう!」

陽介「そうだなー。」

 

 俺と六花は部屋から出た

 

 そして、午後の業務がすぐに始まった

 

 バイトが終わる頃には、俺の腕と腰は限界を迎えた

__________________

 

 ”六花”

 

 バイトの途中、私はさっきの事を考えていました

 

 少し、出水さんは誤解しています

 

六花(本当は......)

 

 出水さんが思うような、お友達としてじゃない

 

 もっと違う、好きなんですよ?

 

六花(私は出水さんを男の人として、大好きなんですよ?)

 

 私は出水さんの方を見ました

 

 私が見ているのに気づくと

 

 出水さんは小さく手を振ってくれます

 

 その表情はとても優しい笑顔で

 

 行動と相まって、とても可愛らしいです

 

六花(好きだなぁ......///)

 

 私はそんな事を思いながら

 

 バイトを続けました




この作品のタイトルを変更したいと思います
まだ考えてはいないですが......


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ハプニング

 今日は休みだ

 

 学校は勿論、夏休みだし

 

 バイトも2日間、休みだ

 

 とは言っても、俺にはやることがある

 

陽介「__ふんふーん。」

 

 掃除、洗濯など、これをしてれば一日なんてすぐに終わる

 

 やるべきことはいくらでもある

 

陽介「チュチュー、この服洗濯しても大丈夫かー?」

チュチュ「えぇ、オッケーよ。」

陽介「オッケー、と。」

 

 俺は籠にチュチュの服を入れた

 

 そして、洗濯機にそれを持っていこうとした

 

チュチュ「__って、何やってんの!?」

陽介「え?洗濯?」

チュチュ「そうじゃないわよ!」

陽介「?」

 

 チュチュの言いたいことが分からない

 

 何をそんなに大声を出してるんだろう

 

 俺は首を傾げた

 

チュチュ「今日は休みでしょ!?なんで、休んでないの!?」

陽介「え?やるべき事があるから?」

チュチュ「そうじゃないわよ!」

陽介「えぇ?」

パレオ「チュチュ様はようさんにちゃんと休んでほしいのですよ!」

陽介「学校もバイトもないけど?」

パレオ「そ、そうじゃなくてですね___」

 

 ピンポーン

 

 俺達が話してるとインターフォンが鳴った

 

パレオ「ただいまー!」

 

 パレオはそう言って客を迎えに行った

 

 そして、チュチュは椅子に座った

 

チュチュ「全く、あなたは__」

陽介「あ、あはは。」

 

 パレオが部屋から出ると

 

 チュチュの説教が再開した

 

チュチュ「まず、休むと言う意味から教えてあげるわ。」

ますき「よぉ、来たぞー。」

陽介「あれ?佐藤?」

日菜「あたしもいるよー!ほんとはつぐちゃんも呼んだんだけどね!」

友希那「私もいるわ。」

六花「わ、私も......」

 

 すごい数のお客さんだ

 

 今日は何かあったのか?

 

ますき「って、なにやってんだ?」

陽介「えーっと、説教されてる。」

チュチュ「陽介が休まないのよ!」

 

 チュチュは佐藤にそう言った

 

 すると佐藤はなるほどなという感じの顔をした

 

パレオ「皆さんはどう言うご用で?」

ますき「あたしとロックはこいつを遊びに誘いに来たんだ。」

六花「はい!」

友希那「私は陽介の様子を見に来たわ。」

日菜「あたしは遊びに来たー!」

チュチュ「そう。なら、ちょうどいいわ。そこの社畜をさっさと連れ出して。」

陽介「社畜!?」

友希那「分かったわ。」

日菜「陽介君、借りていくねー!」

陽介「え、ちょっと__」

六花「早く着替えてきてください。」

陽介「え?はい。」

 

 俺は皆にそう言われ

 

 部屋に戻り、服を着替えに行った

__________________

 

 服を着替えて、家を出た

 

 はたから見れば

 

 女子の中に男子が一人混じってるから

 

 すっごい見られる

 

ますき「__どこ行くー?」

日菜「そうだねー、どこかあるー?」

六花「あんまり、このメンバーで集まりませんもんね。」

友希那「そうね。」

 

 4人は考えながら、俺の前を歩いてる

 

 これから、どこに行くんだろうか

 

ますき「あっ、じゃあ、あそこいこうぜ!」

六花「あそこ?」

陽介「?」

ますき「ショッピングモールだ!」

 

 佐藤がそう言うと

 

 他の3人も賛同し

 

 ショッピングモールに行くことになった

__________________

 

 ショッピングモールに着いた

 

 夏休みなだけあって、結構、学生と思われる人たちもいる

 

日菜「__わー!結構いるねー!」

ますき「夏休みだからな。」

陽介「来たわ良いんだけど、何するんだ?」

 

 ショッピングモールと一口に言っても色々ある

 

 この4人はどこに行くんだろう

 

友希那「どこに行くの?」

ますき「そうだなぁ......」

日菜「あたし、服見に行きたい!」

ますき「お、いいな!」

六花「そうですね!」

陽介「服?」

 

 氷川さんの声から

 

 何かわからないうちに

 

 俺たちは服屋に移動した

__________________

 

 服屋に来た

 

 女性用の服ばっかりおいてる

 

 俺、完全に場違いだな

 

陽介(俺、ここにいていいのか?)

 

 そんな事を思いながら

 

 店内にある椅子に座っている

 

 物凄くいずらい

 

日菜「ねぇねぇ、陽介君!」

陽介「はい?」

日菜「これかこれ、どっちがいいかな?」

 

 氷川さんはそう言って

 

 服を2着見せて来た

 

 色は似てるけど、形は結構違う

 

陽介「うーん、右ですかね。」

日菜「右ね!」

 

 氷川さんはそう言って

 

 試着室に入って行った

 

ますき「へぇ、しっかり選ぶんだな。」

陽介「まぁ、聞かれたし。」

ますき「てか、なんで右選んだんだ?」

陽介「なんとなく、似合いそうだなーって。」

ますき「へぇ。」

 

 佐藤はそう言って、体の方向を変えた

 

 俺は佐藤の方を見た

 

陽介「佐藤?」

ますき「あたしも服、選んでくるわ。」

陽介「え?」

ますき「じゃあ、候補持って来るから、意見聞かせろよ。」

 

 佐藤はそう言って、服を選びに行った

 

 俺は首を傾げた

 

陽介「なんだったんだ?」

六花「出水さん?」

陽介「六花?」

 

 佐藤が服を選びに行くと

 

 六花が俺の所に来た

 

 六花も服を持ってる

 

六花「あの、どっちがいいですか?」

陽介「うーん......」

 

 なんだろう、さっきの氷川さんはすぐに分かったけど

 

 こっちは分かりずらい

 

 どっちも同じに見える

 

陽介「試着してみてくれないか?」

六花「え?」

陽介「かなり似てるから、着た姿見比べた方がいいと思って。」

六花「じゃあ、来てみます!」

 

 六花はそう言って、試着室に入った

 

日菜「ねー、どう?」

 

 それと同時に氷川さんが試着室から出て来た

 

 さっき選んだ服を着てる

 

陽介「可愛いですね。流石です。」

日菜「!///」

 

 水色を主体とした服

 

 腰辺りには似た色合いのベルトがある

 

日菜「え、あ、その......///」

陽介「?」

日菜(そ、そんな事言われると思わなかった///)

 

 氷川さんは俺の顔をまじまじと見てる

 

 俺は首を傾げた

 

日菜「えっと、これ買ってくる!///」

陽介「あ、はい?」

 

 氷川さんはそう言ってレジに走って行った

 

 すごい顔赤かったな

 

ますき「どうしたんだー?」

陽介「分からん。って、持ってきたのか?」

ますき「あぁ。どうだ?」

陽介「おぉ。」

 

 なんかすごいかっこいい服持ってきた

 

 これはどっちも似合う

 

陽介「そうだなぁ......あ、そっちの上と下合わせればよくないか?」

ますき「おぉ、いいな。じゃあ、これにする。」

陽介「あ、試着しないスタイルなんだな。」

ますき「あぁ、あたしはこれでいい。」

 

 佐藤は服を持ってレジに向かった

 

 少し、笑ってたような気がした

 

 何か面白かったのか

 

ますき(若干、引っかけだったけど、あいつ気付いたな。)

 

六花「__出水さん?」

陽介「ん?六花?」

 

 六花は試着室のカーテンを開けた

 

六花「ど、どうですか......?///」

陽介「おぉ。」

 

 一目見て分かった

 

 てか、直感した

 

陽介「これだ。」

六花「?」

陽介「六花によく似合う。可愛いぞ。」

六花「ふぇ?///」

 

 なんだろう、素直に可愛い

 

 でも、もう少し伸びしろを感じる

 

陽介「あ、そうだ。」

六花「!?///」

 

 俺は六花の眼鏡を取った

 

 やっぱり......

 

陽介「こっちの方がいいな。」

六花「そ、そうですか......///」

陽介「あ、ごめん。眼鏡とって。」

六花「だ、大丈夫ですよ!あ、着替えますね!」

陽介「あぁ。」

 

 六花はカーテンを閉めた

 

六花(出水さん、この服に合うって可愛いって......///)

__________________

 

 しばらく、この服屋にいるけど

 

 湊さんを見かけない

 

陽介(あれ?どこ行った?)

 

 俺は店内を探し回った

 

陽介「湊さーん、いますかー?」

友希那「__陽介、いるの?」

陽介「あ、そこにいたんですか。」

 

 湊さんは俺がいた場所から少し離れた試着室にいた

 

 声的に少し、困ってるみたいだ

 

陽介「どうしたんですか?」

友希那「服が、引っかかってしまったの。」

陽介「引っかかった?」

友希那「これなのだけれど......」

 

 そう言って、湊さんはカーテンを開けた

 

陽介「ちょ!湊さん!?」

 

 湊さんはなんと、下着が見えたままカーテンを開けて来た

 

陽介「何やってるんですか!?」

友希那「だから、服が引っ掛かって......」

陽介「そ、そうじゃなくて!__!」

 

 まずい、視線がこっちに集まってる

 

 やばい、どうしよ

 

陽介「失礼します!」

友希那「え__」

 

 俺は湊さん事、試着室に入った

__________________

 

 試着室の中は狭い

 

 俺と湊さんが入ったらスペースがぎりぎりだ

 

陽介(__あっ)

 

 完全にやらかした

 

 まずいだろ、これは流石に

 

 この空間に目の前には年上の女の人だぞ

 

 しかも、半裸

 

 もう一度言おう、半裸だ

 

友希那(密室、私は服をほとんど着れてない、目の前には陽介......)

 

 湊さんは何も喋らない

 

友希那「~!///」

陽介「み、湊さん?」

友希那「だ、大丈夫よ///と、取り合えず。後ろのチャックを下げてくれないかしら?///」

陽介「え?」

 

 俺は耳を疑った

 

 チャックを下げれば、服は脱げる

 

 この状況でだ

 

友希那「お、お願いするわ///」

陽介「!」

 

 湊さんは背中を俺に向けて来た

 

 今の湊さんの背中は完全に無防備

 

陽介「......か、かんでますね。下げますよ。」

 

 俺は激しく動揺しているが

 

 この状況なら湊さんに着替えてもらって

 

 一人ずつ試着室から出るのが得策だ

 

 俺は少しずつチャックを下げて行った

 

 それにつれて、湊さんの肌が晒されていく

 

 俺は目をそらした

 

陽介「さ、下げ終わりました。」

友希那「あ、ありがとう///」

陽介「は、早く着替えてください。」

友希那「えぇ///」

 

 湊さんは服を拾うためにしゃがんだ

 

 俺は全身全霊で目をつぶった

 

つぐみ『__あのー、大丈夫ですかー?』

陽介(え?)

友希那(は、羽沢さん!?)

 

 この声は間違えようがない、羽沢だ

 

 そう言えば、氷川さんが呼びたかったとか言ってたけど

 

 まさか、ここに来てたのか!

 

友希那「は、羽沢さん。私よ。」

つぐみ『友希那先輩!どうしたんですか?随分、長く試着室に入ってますけど?』

 

 湊さんが対応を始めた

 

 ここは、女性用の服が多く打ってる店

 

 湊さんが対応すれば、上手く避けられる

 

友希那「す、少し、チャックが引っ掛かって脱げないの。」

つぐみ『そうなんですか?お手伝いしましょうか?』

友希那「だ、大丈夫よ。」

陽介(よし、運びは完璧!後は羽沢が離れるのを待てば__)

つぐみ『じゃあ、私、使いたいので待ってますね!』

陽介、友希那「」

 

 詰んだ、完全に詰んだ

 

 もう、終わりだ

 

陽介(どうする!?いや、どうしようもないだろ、これ。)

 

 一周回って、頭が冷静になる

 

 冷静になった所でどうしようもないが

 

友希那(ど、どうすれば......)

 

 時間は無感情に過ぎていく

 

 外からは羽沢の気配を感じる

 

つぐみ『湊先輩?大丈夫ですか?』

友希那「だ、大丈夫よ。待たせてごめんなさい。』

つぐみ『やっぱり、まだ引っかかってるんですね?お手伝いします!』

友希那「え?ちょっと待って__って、きゃあ!」

陽介「!?」

 

 カーテンを掴もうとした湊さんは床に落ちてた服に足を取られ

 

 俺事、カーテンを押しのけて、試着室の外に倒れた

 

陽介「__いつつ......」

友希那「ご、ごめんなさい......」

つぐみ「え?出水君......?」

陽介、友希那「あっ」

 

 視線をあげると

 

 困惑しきった顔の羽沢が写った

 

つぐみ「え、な、なんで、友希那先輩と出水君が......?」

友希那「は、羽沢さん、これには訳があって......!」

つぐみ「2人って仲良かったし、やっぱり、そう言う関係だったんだ......」

陽介「え?ちょ、なにそれ!?って、羽沢!?」

 

 羽沢は突然、目に涙を浮かべた

 

つぐみ「ご、ごめんなさい!邪魔しちゃって......!」

陽介「ち、違う!何か分からないけど違うから!」

巴「__どうした!つぐ!」

ひまり「な、泣いてるの!?」

蘭「どこのどいつ?つぐみ泣かせたの」

モカ「モカちゃんもおこだよー......!」

 

 羽沢の泣き声に釣られて

 

 アウターグロウの5人が集まってきた

 

巴「って、陽介!?」

蘭「......何やってるんですか、湊さん?」

友希那「そ、それは......」

陽介「羽沢泣かせたの謝るから、話を聞いてくれ!」

 

 それから俺は皆に事情を説明し

 

 綺麗な土下座を披露した

 

 そして、明日、羽沢に時間を作ると言う約束をした



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デート

つぐみ「__おーい!出水君ー!」

 

 休日2日目

 

 俺は商店街の前で羽沢と待ち合わせていた

 

陽介「おはよう、羽沢。」

つぐみ「うん!出水君は結構、待ったかな?」

陽介「そんなに待ってないよ。」

 

 俺がそう言うと、羽沢はほっとしたように胸をなでおろした

 

 まだ、待ち合わせ10分前なんだけど

 

陽介(本当に、いい子だな。)

つぐみ「出水君?」

陽介「なんでもないよ。」

つぐみ「そう?」

 

 羽沢は首をかしげている

 

 俺は少し笑った

 

陽介「行こうか。」

つぐみ「うん!」

 

 俺たちは移動を始めた

__________________

 

 俺たちは行き先を相談しながら

 

 ショッピングモール内を歩いてる

 

 候補が結構多くて、どこに行くか迷う

 

陽介「__どこがいいかなー。」

つぐみ「うーん。」

 

 俺は特にこれと言った趣味があるわけじゃない

 

 基本的に行先は羽沢に任せたいんだが

 

つぐみ「あ!映画見ようよ!」

陽介「じゃあ、映画に行こうか。」

 

 そうして、俺達は映画館に向かった

 

 俺は映画館に着く前に何を見るかを聞いてみる事にした

 

陽介「何の映画を見るんだ?」

つぐみ「ちょっと、見て見たい映画があったんだ!」

陽介「見てみたい映画?それってどんなの?」

つぐみ「えっと、あ、そこに掲示されてるよ!」

陽介「?」

 

 俺は羽沢が指さしたポスターを見た

 

 見た感じは、恋愛映画っぽい

 

 ピンクとか、桜主体のデザイン

 

陽介「なんだか、爽やかな青春映画って感じがするな。」

つぐみ「なんだか、学校の子が話してるの聞いて、面白いのかなって!」

陽介「へぇ、そんな映画なのになんでネットとかで話題になってないんだろうな?」

つぐみ「きっと、隠れた名作とかだよ!」

陽介「そうかもな。」

 

 俺たちはそうして、映画館の中に入った

__________________

 

 映画館に入った後

 

 俺たちはチケットやら飲み物やらを買った

 

 そして、店員に言われたスクリーンに来た

 

陽介「__結構、人少なくないか?」

つぐみ「そ、そうだね?」

 

 この時点で結構な暗雲が立ち込めてきてる

 

 いや、隠れた名作だとしたら、まぁ、セーフだな(?)

 

陽介「まぁ、上映されて経ってるっぽいから、そう言うのもあるかもしれないな。」

つぐみ「そ、そうだね。」

 

 そうこう言ってるうちに、電気が消え

 

 映像が始まった

 

 最初に公告が入り、本編が始まった

 

陽介(うん。)

 

 最初の入りは高校の入学式当日で

 

 新しい環境に希望を抱いてる主人公

 

 順調に友達を作り、とても楽しそうに見える

 

つぐみ「......?」

陽介(うん?)

 

 突然季節が過ぎ、雰囲気がおかしくなった

 

 主人公の周りから友達が消えた

 

 あからさまに避けられてる

 

陽介(......イジメか。)

 

 流石に映画でも胸が痛む

 

 実際に体験した身だからだろうか

 

 だが、この映画の主人公には希望があった

 

 同じクラスの男子、主人公が恋してる相手だ

 

 イジメられてる主人公に優しく笑いかけて

 

 心の支えになってる

 

陽介(いいなぁ、こういうの。)

つぐみ「......あれ?」

陽介「?」

 

 羽沢が小さく声を上げた

 

 俺は不思議に思いながらスクリーンに視線を戻した

 

『__本当にお前の事好きだと思ってたの?馬鹿だねー。』

陽介「!」

 

 なんと、その男子は主人公を騙してたらしい

 

 実際はイジメの主犯で、裏ですべてを操ってた

 

 主人公の目からは涙が零れ落ちて

 

 ついに、人生に絶望してしまい

 

陽介「やめろ......」

つぐみ「出水君......?」

 

 主人公は、自殺した

 

 俺は耳を抑えた

 

陽介「......」

つぐみ「い、出水君?」

陽介「ダメ、ダメなんだ......」

 

 あの光景がフラッシュバックしてくる

 

 羽丘に行く前の、前の学校の最後の日が

 

 この主人公は、俺みたいに止めてくれる人がいなかった

 

 俺だって、何か間違えてたら......

 

つぐみ「だ、大丈夫?」

陽介「あぁ、大丈夫......」

 

 それから、しばらくして映画が終わった

 

 最終的には、幽霊になった主人公が

 

 いじめを行った生徒に復讐していくと言う

 

 ホラー映画だった

 

 俺たちは映画館を出た

__________________

 

 映画館を出た後、俺は近くのベンチに座った

 

 頭の中で記憶が渦巻いてる

 

陽介「......」

つぐみ「だ、大丈夫?出水君?」

陽介「......どうだろう。」

 

 正直、かなり吐き気がしてる

 

 まだ、嫌な思い出くらいだから、若干はよかった

 

つぐみ「の、飲み物飲む?」

陽介「あ、ありがとう。」

 

 俺は羽沢から飲み物を受け取り

 

 それを飲んだ

 

 気分的に、マシになった気がする

 

つぐみ「あっ///」

陽介「どうした?」

つぐみ「う、ううん!なんでもないよ!///(わ、私の飲みかけの方渡しちゃった!?///)」

陽介(どうしたんだろう?)

 

 羽沢が顔を真っ赤にしてる

 

 何かあったのだろうか

 

陽介「まぁ、マシになって来たから、どこか行こうか。」

つぐみ「え?大丈夫なの?」

陽介「大丈夫だから、行こ。」

 

 俺はそう言ってベンチから立ち上がった

 

 そして、その場から移動した

__________________

 

 俺たちは雑貨屋に来た

 

 かなり品ぞろえがよくて、色々な物がある

 

陽介「__へぇ、こんなところもあったんだな。」

つぐみ「私は結構、皆で来たりするよ!」

 

 俺は店の中を見た

 

 所々、男が使えそうなものもあるが

 

 主なターゲット層は女性なのか、女性向けの商品が圧倒的に多い

 

つぐみ「出水君は何か何か買いたいものある?」

陽介「うーん、特にないな。」

つぐみ「じゃあ、ゆっくり見て回ろっか!」

陽介「そうだな。」

 

 俺たちは雑貨屋内を見て回った

 

 スマホケースやらヘアゴムやら

 

 本当に色々ある

 

 まぁ、どれも俺が使うようなものじゃないけど

 

 でも、羽沢が楽しそうだし、良かったな

 

つぐみ「__あっ。」

陽介「羽沢?」

 

 しばらく店内を見てると

 

 羽沢が足を止めた

 

陽介「どうした?」

つぐみ「これ、可愛いなって。」

陽介「写真立て?」

 

 その写真立てはメインの色は白で

 

 透き通るような綺麗さもあるものだった

 

陽介「おー、こんなのも置いてるのか。」

つぐみ「こういうの良いなー。買っちゃおかな?」

陽介「いいんじゃないか?デザインもいいし。」

つぐみ「じゃあ、買うよ!」

 

 そう言って、羽沢は写真立てを手に取った

 

陽介「あ、待ってくれ。」

つぐみ「え?」

陽介「それ、俺が金払うよ。」

つぐみ「えぇ!?そんなの悪いよ!」

陽介「別にいいよ。」

 

 俺はそう言って羽沢の手から写真立てを取った

 

つぐみ「あ!」

陽介「俺、自分に基本、金を使わないから。余るんだ。」

 

 俺はそう言って、レジに写真立てを持っていき

 

 会計をした

 

陽介「ほい。」

 

 そして、それを羽沢に渡した

 

陽介「幼馴染5人との写真でも飾ればいいんじゃないか?」

つぐみ「ほ、本当にいいの?」

陽介「いいよ。」

 

 俺がそう言うと

 

 羽沢はそれを受け取った

 

つぐみ「ありがとう!出水君!」

陽介「あぁ。」

 

 羽沢は嬉しそうに買った写真立てを持ってる

 

 そこまで高価な物でもないのにここまで喜べるのは

 

 羽沢の美点だと思う

 

陽介「ここも結構見たし、そろそろ行くか。」

つぐみ「うん!」

 

 俺たちは雑貨屋を出た

 

 それから、服屋で服を見たり

 

 本屋に行ったりと、色々な所に行った

__________________

 

 一通り遊んで外に出ると

 

 もう、日が落ちかけてた

 

陽介「結構、遊んだな。」

つぐみ「そうだね!」

 

 俺たちは帰り道、そんな話をしていた

 

 羽沢は満足そうに笑ってる

 

陽介(よかった、楽しんでくれたみたいで。)

 

 俺はそう思いながら、羽沢の横を歩いていた

 

 羽沢は鼻歌を歌いながら、軽い足取りで歩いてる

 

つぐみ「__あ、出水君!」

陽介「?」

 

 すると突然、羽沢が何かを思いついたような声を上げた

 

 俺は羽沢の方に顔を向けた

 

陽介「どうした?」

つぐみ「あのね、一緒に写真撮ろう!」

陽介「写真?」

つぐみ「向こう行こ!」

陽介「ちょ!」

 

 俺は羽沢に引っ張られ

 

 近くの公園に入った

__________________

 

 公園に来ると

 

 羽沢にベンチに座らされた

 

 そして、羽沢は俺の隣に座った

 

つぐみ「__もうちょっと、こっちによって!」

陽介「お、おう。」

 

 俺は羽沢と肩が触れ合う距離にいる

 

 すごい近い

 

つぐみ「えっと、ひまりちゃんがやってたみたいに......」

 

 羽沢は携帯を出し

 

 斜め上に掲げた

 

つぐみ「じゃあ、撮るよ!はい、チーズ!」

陽介「!」

 

 羽沢がそう言うと

 

 携帯からシャッター音が鳴り響いた

 

つぐみ「撮れたよ!」

陽介「おー、良く撮れてるなー。」

 

 俺は写真の取れ具合に感心した

 

 でも、何で撮ったんだろう

 

 そう思ったが、気にしない事にした

 

つぐみ「ありがとう!出水君!」

陽介「おう。じゃあ、帰るか。」

つぐみ「うん!」

 

 そうして、俺達は帰って行った

 

 こうして、俺の休日が終わった



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Poppin'Party

 休日が終わり、夏休みも残り少なくなった

 

 今日はギャラクシーでライブがある日

 

 ここに来て初めてのライブのスタッフだ

 

 今、結構、楽しみにしてる

 

陽介(__どんなバンドが来るんだろう?)

 

 俺は最終調整を手伝いながらそんな事を考えていた

 

香澄「__おはようございまーす!」

陽介「!?」

六花「香澄先輩!」

陽介「六花?」

 

 作業の途中、突然、猫耳を模したような髪型をした

 

 いかにも活発そうな女子が入ってきた

 

 六花があからさまに嬉しそうにしてる

 

陽介「Poppin'Partyか。」

香澄「はい!今日はよろしくお願いします!」

陽介「はい、よろしくお願いします。」

 

 俺は軽く頭を下げながら、そう言った

 

 それに続いて、4人の女子が入ってきた

 

たえ「おはようございますー。」

沙綾「今日はよろしくお願いします!」

りみ「お願いします!」

有咲「よろしくな、ロック。」

六花「はい!皆さん!」

 

 六花は嬉しそうにしてる

 

 大ファンだって言ってたし

 

 そりゃ、テンション上がるよな

 

陽介「Poppin'Partyさん、楽屋はこちらになります。」

香澄「はい!」

沙綾「ご丁寧にありがとうございます!」

 

 俺は5人を楽屋に案内した

 

 そして、作業を再開した

__________________

 

 ライブの準備は順調に進み

 

 滞りなくライブが開始された

 

 Poppin'Partyの出番は最後らしい

 

陽介「__ロッカ、そわそわしてるな。」

六花「はい!だって、ポピパさんのライブですから!」

陽介「六花が嬉しそうで、俺も嬉しいよ。」

 

 俺は軽く笑いながらそう言った

 

 すると六花は照れくさそうに笑った

 

陽介「__おっ。」

 

 しばらくライブを見てると

 

 Poppin'Partyの出番前になった

 

六花「ポピパさん!」

香澄「やっほー!」

たえ「さっきぶりー。」

陽介「出番が迫っていますので、確認などをお願いします。」

沙綾「はい!」

りみ「皆、何か忘れてたりしない?」

有咲「うーん、私は大丈夫だな。」

香澄「あるよ!有咲!」

 

 そう言うと、手を前に出した

 

 円陣、と言うやつか

 

たえ「あ、忘れてた。」

沙綾「あははー、そうだねー。」

りみ「そうだね。」

有咲「ここでやんのか!?」

 

 そう言いつつ、手を差し出した

 

 この子、素直じゃないんだろうな

 

香澄「行くよ!」

 

 そう言って、掛け声をかけ

 

 円陣をした

 

 こういうのを見てると、青春を感じるな

 

香澄「じゃあ、行ってきます!」

 

 そう言って、Poppin'Partyの5人はステージに出て行った

 

六花「やっぱり、ポピパさん最高......!」

陽介「六花も見やすいところに移動すればいいじゃないか。」

六花「え?」

陽介「ここは俺が見とくから、行ってくればいいよ。」

六花「い、いいんですか。」

陽介「いいよ。行っておいで。」

 

 俺がそう言うと

 

 六花は客席の方に行った

 

陽介「本当、微笑ましいな。」

 

 俺はそう呟いて

 

 備え付けのパイプ椅子に座った

 

陽介「俺も六花が大好きなバンドを見てみるかね。」

 

 俺は隙間から見える

 

 5人の姿を眺めた

__________________

 

六花「__最高やったー!」

 

 Poppin'Partyの出番が終わると

 

 六花は大急ぎでこっちに戻ってきた

 

 かなり満足そうな表情をしてる

 

六花「ありがとうございます!出水さん!」

陽介「大丈夫、見てただけだから。」

香澄「__あー!楽しかったー!」

陽介、六花「!」

 

 六花が戻ってきてすぐ

 

 5人は充実感を感じる表情を浮かべながら出て来た

 

六花「お疲れ様でした!」

香澄「ロックー!」

六花「きゃ!」

有咲「おい!抱き着くなって、香澄!」

たえ「香澄ー、有咲が私に抱き着けだってー。」

香澄「え!?」

有咲「はぁ!?」

香澄「有咲ー!」

有咲「うわー!こっち来んなー!」

 

 2人は楽しそうにじゃれあってる

 

 良いよな、仲良さそうで

 

沙綾「すみません、騒がしくて。」

陽介「大丈夫ですよ。むしろ、良いじゃないですか、仲の良さが出てて。」

りみ「ありがとうございます!」

陽介「いえいえ。」

 

 俺は軽く手を振りながらそう答えた

 

陽介(さて、俺は仕事に戻るか。六花はまだ話したいだろうし。)

 

 俺はそう思い

 

 その場を離れようとした

 

香澄「あの!」

陽介「はい?」

香澄「今日は、ありがとうございました!」

陽介「いえいえ。」

 

 きっちり、お礼が言える子達なんだな

 

たえ「なんで、眼帯なんてつけてるの!?」

陽介「っ!」

有咲「そう言えば、そうだな?何か怪我とか?」

陽介「き、気にしなくていいですよ。こんなの。」

沙綾「大丈夫ですか?汗かいてるみたいですけど?」

陽介「だ、大丈夫。」

六花「出水さん、向こうに行きましょう。それでは皆さん、私達はお仕事に戻りますね!」

香澄「え?うん!またね!」

六花「はい!」

 

 そうして、俺達は5人から離れた

__________________

 

 5人から離れると

 

 俺は椅子に腰を下ろした

 

六花「だ、大丈夫ですか?」

陽介「焦ったけど、大丈夫。」

 

 無理に詮索してくる雰囲気もなかったし

 

 単純に不思議に思ったんだろう

 

 普通の人間は眼帯をつけてないからな

 

陽介「もう少し、不思議に思われない工夫がいるかもな。」

六花「え?でも、どうするんですか?」

陽介「そうだな......サングラスでもかけるか。」

六花「学校で付けられませんよ?」

陽介「冗談だよ。」

 

 正直、教師などに理解を得ることを考えれば

 

 眼帯というのは最適解だ

 

陽介「いっそのこと、中二チックなデザインにして、周りに疑問に思われないようにするか。」

六花「!?」

 

 俺がそう言うと

 

 六花は俺の肩を掴んできた

 

陽介「ろ、六花?」

六花「それだけはやめてください。」

陽介「え?」

六花「そんな事したら、私泣きますよ。本気で泣きますよ?」

陽介「泣く!?え、なんで?」

 

 六花があまりに剣幕にそう言うので

 

 俺はたじろいでしまった

 

陽介「さ、流石に俺もそれは嫌だからしないよ。」

六花「ですよね。よかった......」

 

 六花は安心したように胸をなでおろした

 

 それにしても、すごい剣幕だったな

 

陽介「まぁ、当面はこのままだな。対策なんて出来ないし。」

六花「そうですね......」

 

 六花は疲れたように肩を落としている

 

六花「私達もお仕事に行きましょう。そろそろ時間ですし。」

陽介「そうだな、行こっか。」

 

 そうして、俺達はライブの後始末をしに行った

 

 こうして、俺の1日が終わった

 

 そして、残りの夏休みもバイトをしたりして過ごした



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始業式

 夏休みも過ぎ、今日は始業式だ

 

 やることをやっていたら、夏休みなんて一瞬だったな

 

陽介(もう、8月も終わるのか、早いな。)

 

 元気だった緑の葉たちも段々と元気を失って

 

 もう、秋や冬に向けて用意を進めてる

 

陽介(俺もチュチュとパレオにマフラーとか作ろうかな。)

つぐみ「__出水くーん!」

陽介「羽沢?」

 

 声がしたので振り返ると

 

 羽沢が俺に向かって走ってきていた

 

 他の4人は苦笑いを浮かべながらそれについて来てる

 

つぐみ「おはよう!」

陽介「おはよう、羽沢。」

モカ「もー、早いよ、つぐー。」

ひまり「ほんとだよー。」

巴「まぁ、いいじゃねぇか!ツグも嬉しそうだったし!」

蘭「飼い主を見つけた犬みたいだったね。」

陽介「美竹たちも、おはよう。」

 

 俺が4人に挨拶をすると

 

 4人は挨拶を返した

 

陽介「5人とも、しっかり宿題は終わらせたか?」

モカ「モカちゃんは完璧ー。」

つぐみ「私も大丈夫だよ!」

蘭「あたしも。」

巴「見くびんなよ!アタシも終わった!」

ひまり「当り前だよ!」

 

 後半2人は胸を張りながらそう言った

 

 楽しそうで何よりだ

 

陽介「じゃあ、登校日に追加で渡された奴は?」

ひまり、巴「え!?」

つぐみ「そ、そんなのあったっけ!?」

陽介「......ふふっ。」

 

 まさか、こんな簡単に騙されるとは

 

 将来、詐欺にあわないか心配だな

 

陽介「大丈夫、嘘だから。」

ひまり「も、もー!」

巴「騙したな!陽介!」

つぐみ「び、びっくりした......」

陽介「ははっ、悪かった。」

モカ「まぁ、騙されるひーちゃんもひーちゃんだよー。」

蘭「そうだね。」

ひまり「私だけ!?」

陽介「ははは。」

 

 やっぱり、友達といるのは楽しい

 

 心が軽くなる

 

陽介「__っ!!!」

蘭「陽介?」

 

 歩いてると、向こうから見知った顔

 

 あれは、あれは......

 

陽介「父、さん......」

陽介父「......」

 

 父さんは俺の横を通り過ぎていった

 

 一瞬、こっちを見た、気がした

 

陽介「くっ......!!!」

巴「陽介!」

 

 俺は息苦しくなって、立ってられなくなった

 

 変な汗も大量に流れてくる

 

ひまり「え?え?どうしたの!?」

モカ「ま、まずいよ。大丈夫!?」

陽介(やばい......もう、あれ出さないと......)

 

 俺は鞄の中に入ってる薬を取り出した

 

 そして、それを水と一緒に飲み込んだ

 

陽介「はぁ、はぁ......」

つぐみ「だ、大丈夫!?」

陽介「もう、大丈夫。」

 

 俺は謝りながらゆっくり立ち上がった

 

 5人は心配そうな表情を浮かべてる

 

陽介「急にあんなことになって悪かったな。」

巴「待て、陽介。」

陽介「どうした。」

蘭「あの薬、なに?」

陽介「......やっぱり、気になるか。」

 

 あれは、医者にあの症状について話したとき

 

 もしもの時にと、貰っていた

 

陽介「精神安定剤って呼ばれるものだ。」

アフターグロウ「!?」

つぐみ「な、なんで、そんなもの?」

陽介「......親と接触した時のため。」

ひまり「親?」

モカ(もしかして......今の。)

陽介「あんまり乱用できないけど、偶にくらいなら大丈夫。学校、行こうぜ。」

蘭「ちょ、陽介!」

 

 俺は5人にそう言うと、学校に向かって歩き始めた

__________________

 

 学校について

 

 俺たちは教室に行き

 

 自分の席に腰を下ろした

 

陽介(__まずいな。)

 

 あの薬は効果が出やすいようにかなり強い

 

 その分、依存になったり、脳ダメージを受けやすい

 

 それをこんなに早く使うと思わなかった

 

モカ「ようくんー。」

陽介「青葉?」

 

 席に座ってると、青葉が話しかけて来た

 

 いつもより声が低い

 

陽介「どうした?」

モカ「ようくんの親、さっきすれ違った人だよね。」

陽介「......そうだ。」

 

 俺がそう答えると、青葉は俺の肩に手を置いた

 

モカ「大丈夫。あたし達が付いてるからね。」

陽介「!」

蘭「なにしてんの?」

モカ「なんでもないよー。」

 

 美竹に呼ばれると

 

 青葉はいつもの調子に戻った

 

陽介「......ありがとう。」

蘭「なにが?」

陽介「なんでもないよ。」

 

 それから、俺達は始業式に行った

 

 相変わらず、自由な氷川さん、苦労する羽沢の構図は変わらなかった

 

 でも、氷川さん、俺の方見るたびに大人しくなってたな

 

 どうしたんだろう?

__________________

 

 始業式は相変わらず

 

 自由な氷川さん、苦労する羽沢の構図は変わらなかった

 

 でも、氷川さん、俺の方見るたびに大人しくなってたな

 

 どうしたんだろう?

 

 そんな事を考えながら、俺は教室に戻った

 

担任「__今日はここまでです。」

 

 宿題を提出したり、連絡を済ませると

 

 すぐに下校する時間になった

 

陽介(うーん、今日の夕飯は......肉じゃがとかいいなー。)

モカ「今日の夕飯は肉じゃがー。」

陽介「え!?」

モカ「って、顔に書いてあったよー。」

陽介「すごいな、当たりだ。」

モカ「ふっふっふ~、モカちゃんの目は確かなのだよ~。」

 

 青葉はそう冗談めいた口調で言った

 

 正直、かなりすごい事だと思うが

 

 絶対に才能の無駄遣いだよな

 

巴「何やってんだ、2人とも?帰るぞ?」

陽介「あぁ、分かった。」

モカ「りょーかいー。」

 

 俺は席を立ち、教室を出た

__________________

 

ひまり「__ここで問題!」

 

 帰り道、上原が大きな声でそう言った

 

 問題ってなんだろう

 

ひまり「2学期にあるイベントと言えば!」

蘭「文化祭?」

巴「球技大会!」

つぐみ「体育祭かな?」

陽介「テスト。」

モカ「からの補修~。」

ひまり「後半の二人!?」

 

 上原は俺と青葉を見て叫んだ

 

 現実を言わないでと目で訴えてきてる

 

陽介「悪い悪い。」

モカ「ごめーん。」

ひまり「まぁ、いいよ!」

巴「それで、どうしたんだ?」

ひまり「いやー、楽しみだなーって!」

蘭「ひまりはいつでも楽しんでるでしょ。」

 

 美竹は上原にそう言った

 

 まぁ、全くその通りだと思うが

 

モカ「ようくんは何が一番楽しみー?」

陽介「俺はこれと言ってないよ。」

ひまり「えー!なんでー!?」

陽介「羽丘の文化祭とか初めてだし、一番はないかなって。」

蘭「そういう事ね。」

 

 5人は納得したようにうなずいた

 

日菜「よーうーすーけー君!」

陽介「え?__うわっ!」

 

 俺は後ろから氷川さんに猛追された

 

 びっくりしたが、そこまで苦しくなかった

 

 むしろ、抱き着いただけだった

 

陽介「どうしたんですか?」

日菜「陽介君見つけたから、追いかけて来たんだー!」

陽介「そうですか。」

蘭「......犬2号。」

陽介「何か言ったか?」

蘭「なんでもないよ。」

 

 俺がそう尋ねると

 

 美竹は首を横に振った

 

日菜「あ、そうだ、陽介君!」

陽介「はい?」

日菜「陽介君に体育祭の事を言いに来たんだよー!」

陽介「体育祭?」

日菜「うん!」

 

 氷川さんは元気にうなずいた

 

 なんで、俺に?

 

日菜「陽介君、何か要望とか無いかなって!」

陽介「要望?」

日菜「うん!陽介君の要望なら100%通すよ!」

陽介「いや、それはダメでしょ!?」

日菜「大丈夫大丈夫!上級国民って事で!」

陽介「学校でしょう?」

日菜「じゃあ、上級生徒?」

陽介「いや、なんで身分制になってるんですか......」

 

 俺は少しため息をつき

 

 氷川さんの申し出を断った

 

 流石に1人の生徒が優遇されるのは良くないし

 

日菜「えー、なんでもいいんだよー?」

陽介「いや、いいです。」

日菜「今なら、女の子も選り取り見取りだよー?もちろん、あたしも!」

陽介「いや、いいです(2回目)」

 

 なんでシレっと自分を候補に入れるんだろう

 

 まぁ、冗談で言ってるんだろうけど

 

日菜「もー、つれないなー。」

陽介「俺の事を何だと思ってるんですか。」

モカ「いやー、権力持ってるねー。」

陽介「いや、権力って言われてもな。俺はそんなたいそうな人間じゃないし。」

 

 俺は首を振りながらそう言った

 

蘭(日菜さんをまさか、あんな風にするなんて。)

巴(流石、陽介。)

ひまり(つ、強い。)

 

 その後、俺達はそれぞれ帰路についた

__________________

 

陽介「ただいまー......って、うん?」

 

 家に帰ってくると、少し騒がしかった

 

 俺は不思議に思いながら奥に行った

 

陽介「なにしてるんだ?」

チュチュ「あ、陽介!」

パレオ「おかえりなさいませー!」

陽介「いや、ほんとに何してるんだ?」

 

 部屋に入ると

 

 2人はリュックにカメラやらシートやらを詰め込んでいる

 

パレオ「これは、ようさんの体育祭を見に行く準備ですよー!」

陽介「!?」

チュチュ「そうよ!」

陽介「え?来るのか?」

チュチュ「当り前じゃない!キッチリ撮影もしてやるわ!」

 

 チュチュは嬉しそうにそう言った

 

陽介「ははは、そうか。」

パレオ「パレオも応援しますよー!」

チュチュ「楽しみにしてなさい!」

陽介「分かった。」

 

 俺はそう答え、昼ご飯を作りに行った

 

 なんだか、2人が見に来てくれるのがうれしくて

 

 すこし手の込んだ物にした



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体育祭の日

 体育祭の日になった

 

 俺はいつも通り、登校し

 

 グラウンドの自分の席に座ってる

 

陽介「__いやー、始まったなー。」

モカ「そーだねー。」

 

 横には青葉が座っている

 

 他の4人は競技に出るために招集場所に行った

 

モカ「ようくんは200m走に出るんだよねー。」

陽介「まぁ、走るの嫌いじゃないしな。」

 

 俺は競技を見ながらそう答えた

 

 活気があって、皆、すごい楽しそうだな

 

友希那「__陽介。」

陽介「あ、湊さん。」

リサ「やっほー☆」

モカ「リサさんもー。」

 

俺と青葉は立ち上がり

 

 2人の方に近づいた

 

陽介「おはようございます。」

友希那「おはよう、陽介。調子がよさそうね。」

陽介「はい、とても元気です。」

友希那「そう、よかったわ。」

 

湊さんは優しい微笑みを浮かべながらそう言った

 

この人の笑顔はすごく安心する

 

リサ「出水君は競技、何出るのー?」

陽介「俺は200m走に出ます。」

友希那「あら、そうなのね。応援してるわ。」

陽介「ありがとうございます。湊さんが応援してくれればいくらでも頑張れます。」

友希那「そ、そう///」

リサ(ニヤニヤ)

 

俺がそう言うと湊さんの声が小さくなり

 

今井さんがニヤニヤし始めた

 

友希那「私達は行くわ///頑張りなさいよ、陽介///」

陽介「はい、湊さん。」

 

そうして、2人は自分のクラスの方に戻って行った

 

俺はそれを見送り、自分の席に戻ろうとした

 

陽介「何ニヤついてるんだ?」

モカ「いや〜、ようくんは罪な男だなーって思って〜」

陽介「どういう事だ?」

モカ「ようくんは知らなくていいんだよー。」

 

青葉はにやけ顔のまま席に戻って行った

 

俺は首をかしげながら席に戻った

__________________

 

しばらく時間が経つと

 

競技に行ってた美竹と上原と宇田川が戻ってきた

 

そして入れ違いという形で、俺と青葉は席を立った

 

そして、招集場所に来た

 

日菜「__あ、陽介君!」

陽介「あれ、氷川さん?」

モカ「日菜先輩ってここの担当でしたっけー?」

日菜「陽介君の出番だから、見に来たんだよ!」

陽介「あ、そうなんですか。」

日菜「うん!頑張ってね!」

陽介「ありがとうございます。」

 

俺は軽く頭を下げた

 

氷川さんは嬉しそうに鼻歌を歌ってる

 

チュチュ「__陽介!」

陽介「あ、チュチュ。」

チュチュ「応援に来てあげたわ!頑張りなさいね!」

陽介「あぁ、頑張るよ。」

チュチュ「1番よ!絶対に一番を取るのよ!」

陽介「は、はは、頑張るよ。」

 

正直、そこまでの自信はないけど

 

楽しそうなチュチュを見てるとYESとしか答えられない

 

陽介(なんとか、頑張ろう。)

日菜「陽介くーん!入場だよー!」

陽介「はい、直ぐに行きます。」

 

俺は入場の列に並び

 

後は流れに沿って入場した

__________________

 

入場すると、かなり人の圧を感じた

 

結構、保護者も多く来てるんだな

 

俺はそんなことを考えながら自分の順番を待った

 

陽介「__俺の番だ。」

 

しばらく待つと、順番か回ってきた

 

横を見るといかにも体育会系な男子が立っている

 

陽介(うっわ、足速そう。)

 

流石に帰宅部の俺が勝てるわけない

 

でも、手を抜く訳にも行かないし

 

全力でやるだけやってみるか

 

『位置について、よーい!』

 

ドン!

 

と言う、音と同時に俺はスタートした

 

陽介(あれ?)

 

スタートすると

 

3人は前にいず、俺の後方にいた

 

俺は首をかしげた

 

陽介(スタートミスったのか?)

男子(は、はや!?)

男子2(なんだこいつ!?)

男子3(俺、サッカー部でトップなんだけど?)

陽介(追いついてこないなー)

 

そんなことを思ってるうちに

 

俺はゴールテープを切った

 

陽介(__1位になった?)

 

"客席"

 

日菜「__きゃー!///陽介君、かっこいいー!///」

友希那「か、かっこいいわ.....!///」

リサ(この2人、すごいデレデレだねー。なんだろう、2重の意味で負けた男子たちがいたたまれない。)

 

つぐみ「見て見て!出水君、1番だよ!」

蘭「はいはい、見てる見てる。」

巴「それにしても、すごい速かったなー!あいつすげぇや!」

ひまり「あの3人、全員運動部で足も速いのにね!」

モカ(まぁ、本人は不思議そうにしてるんだけどね〜。)

 

六花「出水さんすごい!ね、ね!明日香ちゃん!あこちゃん!」

明日香「うん、速かったねー。ありゃ、すごいわ。」

あこ「なんか、バーン!って感じだったね!」

六花「やっぱり、かっこええなぁ///」

明日香(く、空気が甘い。)

 

チュチュ「やったわ!陽介が1番よ!1番!」

パレオ「はい!チュチュさま!」

チュチュ「ちゃんと撮ってたでしょうね?」

パレオ「はい!完璧です!」

レイ「それにしても、速かったね。何かしてたのかな?」

ますき「部活には前の学校でも入ってなかった。でも、足が速いのは噂ではあるが聞いたことあったな。」

レイ「へぇ、そうなんだ。」

 

"陽介"

 

200m走が終わった後

 

俺は自分の席に戻ってきた

 

なぜか、一緒に走った3人に睨まれた.....

 

つぐみ「__おかえり!出水君!」

陽介「あ、ただいま。」

 

席に戻ると最初に羽沢が来た

 

なんだろう、耳と尻尾が見える

 

とうとう、俺の目は潰れたか?

巴「おう、陽介!すごい速かったな!」

ひまり「うん!あんなに圧倒して1位になるなんて!」

陽介「あれは、全員スタートをミスっただけだろ?」

蘭「え?」

陽介「だって、そうじゃないと、あの3人が単純に足が遅いだけになるし。」

ひまり「え?え?」

巴(別にそんな風には見えなかったんだけどな?あれ?)

 

青葉以外の4人は首を傾げてる

 

何か不思議な事でもあったのか?

 

陽介「なぁ、青葉。皆は何を悩んでるんだ?」

モカ「うーん、なんなんだろうねー?」

陽介「?」

 

青葉はヤレヤレと言った感じの態度だ

 

何か知ってる風だが、まぁ、別にいいだろ

 

陽介(さてと、後はゆっくり見てるかー。)

 

俺はそれから

 

競技をしてる方をぼーっと眺めていた

 

そして、時間は過ぎて行った

__________________

 

昼休憩の時間になった

 

昼はチュチュ達と合流する予定だ

 

陽介「__あ、いた。」

チュチュ「来たわね、陽介!」

陽介「待たせて悪いな。」

 

俺はそう言いながら

 

みんなが座ってるシートの上に座った

 

ますき「それじゃ、食うか!」

六花「そうですね!」

チュチュ「今日のお弁当も陽介の手作りよ!感謝して食べなさい!」

陽介「いや、別にいいんだが。」

レイ「楽しみだね。ライブの時に作ってきてくれたのも美味しかったし。」

パレオ「いただきますね!」

 

そう言いながら、各々、好きなおかずを取って

 

美味しそうにだべてくれてる

 

作った側としては、冥利に尽きるな

 

ますき「おい、食わねぇのか?」

陽介「食べるよ。」

パレオ「パレオのおすすめはこれです!」

陽介「ははは、そうか。」

 

俺も皆が食べるのを邪魔しないように

 

程々のペースで箸を入れた

 

陽介「__あれ、六花?」

六花「はい?」

陽介「頬にご飯粒ついてるぞ?」

六花「え!?///ど、どこですか!?///」

陽介「ここ。」

 

俺はそう言って、六花の頬についてたご飯粒を取り

 

それを口に入れた

 

六花「!?///」

陽介「落ち着いて食べないと喉詰まらせるぞ?」

六花「は、はいぃ......///」

レイ(ロックちゃんの顔真っ赤だ。て言うか、あれを無自覚でやってのけるなんて。)

ますき「ほんとにこれうめぇな。どうやって作ってんだ?」

陽介「普通にだよ。特別なことはしてない。」

ますき「まじかよ。」

 

佐藤は驚いたように声を上げた

 

料理で1番大切なのは、食べる人物を考えること

 

これは、決して感情論などではなくて

 

何時何分に食べ始めるのかとか、そういう事だ

 

ますき(何が1番やべぇって、こいつ、味とか感じてないんだよな。しかも、それをあの2人に悟られてもいねぇ。)

レイ「あ、ますき。そこにある、ハンカチとって。」

ますき「ハンカチ?あぁ、これか。」

陽介「俺が取るよ。」

ますき、陽介「!?」

 

俺がハンカチを取ろうとすると

 

少し遠かったのか体制を崩した

 

陽介(か、顔近__)

ますき「!!」

佐藤はすぐに体制を戻し、顔を離した

 

俺は佐藤に謝った

 

陽介「わ、悪い。」

ますき「......いや。」

 

やっぱり、怒ってるのか?

 

余計なことしやがってって

 

ますき「......///」

レイ「ますき?どうしたの?」

ますき「な、なんでもねぇ!///」

レイ「そ、そう?」

六花(むぅ......)

 

そうして、時間は過ぎ

 

昼休憩の時間が終わった

__________________

 

昼休憩が終わると

 

俺はまた、自分の席に戻った

 

陽介「......」

 

実は俺の出番は午前しか無いんだ

 

色々な事情があって、午後に出られる競技がなかった

 

だから、今、かなり眠い

 

陽介(でも、こんな所で寝たら首痛める。)

 

体に悪いことはしたくない

 

でも、かなり眠い

 

あの5人もどこかに行ってるし

 

友希那「陽介?」

陽介「湊さん?」

友希那「どうかしたの?かなり眠たそうだけれど?」

陽介「暇すぎて、眠たくなっちゃって。」

友希那「そうなの?」

陽介「はい......」

友希那「......」

 

湊さんは何かを考えている

 

そして、しばらくすると俺の隣に座った

 

友希那「膝、貸してあげるわ」

陽介「え?」

友希那「そうすれば、首を痛めたりはしないし、ないよりは寝心地がいいわ。」

陽介「......」

 

常識的に考えよう

 

この状況で膝枕で寝てみろ

 

どう考えても見え方がやばい事になる

 

陽介「い、いえ、大丈夫です。」

友希那「遠慮なんていいのよ?」

陽介「!」

 

湊さんはそう言って

 

俺を横にさせた

 

急な事で対応が出来なかった

 

友希那「目の下にクマがあるじゃない。しっかり寝なさい。」

陽介(やば、横になると睡魔が.....)

 

俺は最近の疲れからか

 

睡魔と戦う気力が全くない

 

俺はそのまま、意識を手放した

 

"友希那"

 

勢いで膝枕なんてしたけれど

 

陽介はすごい勢いで寝てしまった

 

そんなに寝心地がいいものなのかしら?

 

友希那(それにしても......)

 

私は膝の上に乗ってる陽介を見た

 

正直、すごく可愛い

 

今すぐにでも抱きしめて一緒に寝たい

 

友希「陽介?」

 

私は小さな声で名前を呼び

 

彼の頬をつついた

 

感触的には柔らかいけれど

 

少し痩せてるようにも感じる

 

彼は頬を続いても穏やかな寝息を立てている

 

友希那(至福だわ.......///)

 

猫たちといる時以上に癒される

 

もう一生このままがいいわ

 

陽介「......醤油......砂糖.......」

友希那(なんの夢を見ているのかしら。)

 

陽介の事だから

 

家で足りなくなってる調味料かしら

 

それとも、夢の中でも料理をしているのかしら

 

友希那「いい子ね、陽介。」

 

私は陽介の頭を撫でた

 

すると彼は嬉しそうに頬をま緩ませた

 

友希那「.......ねぇ、陽介?陽介は私の事が好きかしら?」

 

私は意識のない彼にそう問いかけた

 

声が聞こえてる訳ない

でも、私は話を続けた

 

友希那「私は陽介が好きよ。」

 

私は小さくそう言った

 

私は彼の前髪をかき分けた

 

友希那「.......だって、あなたは何も変わってないんだもの。」

 

私は陽介に向かって

 

そう呟いた

__________________

 

"陽介"

 

目を覚ますと

 

俺は湊さんさんの膝に頭を乗せたままだった

 

湊さんにすみませんと謝ると

 

彼女は優しくいいわよ、と言ってれた

 

俺が立ち上がると、他の生徒は閉会式の準備をしていた

 

俺と湊さんは慌てて、列に入り、閉会式に参加した

 

陽介(俺、どんなに寝てるんだよ!)

 

俺だけならいいが、湊さんにまで迷惑をかけた

 

後でしっかり謝っておかないと

 

そう後悔してるうちに閉会式が終わった

 

モカ「やぁやぁ、ようくんー」

陽介「ん?どうした?」

モカ「いやー、さっきは湊さんの膝でぐっすりだったねー。」

陽介「み、見てたのか。」

 

それはそうだ

 

青葉の席は俺の隣

 

戻ってくれば見られるに決まってる

 

モカ「良かったねー、つぐに見られなくてー」

陽介「え?なんで羽沢?」

モカ「さー?」

 

青葉は笑いながらそう言ってきた

 

俺は不思議に思ったが気にしないことにした

 

蘭「2人とも何してるの?」

巴「さっさと帰ろうぜー」

ひまり「もうクタクタだよー」

陽介「あれ?羽沢は?」

モカ「つぐは生徒会だから後片付けだよー」

陽介「そ、そうか。」

 

羽沢は大変だな

 

疲れてるだろうに、後片付けなんて

 

蘭「さっき、先に帰っててってつぐみに言われた。」

陽介「なら、帰っとくか。」

 

俺はそう言って、校門の方を向いた

 

陽介母「__陽介。」

陽介「え?」

 

俺は背筋が凍った

 

だって、目の前には母さんがいたから

 

陽介「な、な、なんで?」

蘭「誰?」

陽介「俺の、母さん.....」

4人「!!」

 

なんで、なんで今更

 

わざわざ学校まで来た

 

陽介「!」

 

俺は鞄から薬を取りだし

 

それを服用した

 

しないといけないって本能が判断した

 

陽介「今更、何の用?」

陽介母「陽介、私と一緒にやり直しましょ?」

陽介「え?」

 

母さんの口から信じられない言葉が出た

 

やり直す?どういう事だ?

 

陽介「な、何を言ってるんだ。1度、俺を捨てたくせに。」

陽介母「あれは、試練だったのよ。」

陽介「は?」

陽介母「あなた、バイト始めたそうじゃない。」

陽介「......それが、なに。」

陽介母「私はあなたに1人で生きられる練習をして欲しかったの。だから、あえて、突き放したの。」

 

何を、言ってるんだ?

 

試練?1人で生きる練習?

 

あえて、突き放した?

 

陽介母「あなたは自分で稼げるようになった。合格よ。私のところに戻ってきなさい?」

陽介「は?何言ってるんだよ、分かんないよ......」

 

頭の中がグチャグチャになる

 

なんなんだよ

 

陽介母「あと、あなた、今、あのマンションに住んでるみたいね。」

陽介「!(チュチュの家まで!)」

陽介母「ちょうどいいから、あそこの人から少し、お金を借りてきなさい?そうすれば、私たちは幸せに暮らせるわ。お父さんからも養育費が取れし、楽しく暮らせるわ。」

陽介「な、なんで、そんなことを......?」

 

何がなんだかわからない

 

なんで、チュチュたちのことを言ってるんだ?

 

お金を借りてくる?

 

そんなことして、なんになるんだ?

 

陽介母「これからはバイト代も管理してあげるから、かえってらっしゃい?」

モカ「__いい加減にしたらどうですか?」

陽介母「あ?」

陽介「あ、青葉......?」

モカ「黙って聞いてましたけど、随分勝手ですね。試練?突き放した?お金を借りてこい?バイト代も管理してあげる?」

陽介母「そうよ。それの何がおかしいの?私は母親なのよ?」

モカ「ようくんが1番辛い時期に突き放しておいて、よくそんなことが言えますね。」

 

明らかに青葉は怒ってる

 

他の3人も驚いてる

 

陽介母「あえてよ、あえて。試練は辛いほど乗り越えた時のリターンが大きいの。」

モカ「ようくんは事故でこんな事になってるのに、それなのにその試練ってやつをかしたんですか?状況の判断も出来ないんですか?」

陽介母「うるさいわね!親子間の問題に口出ししないで!」

 

そう叫びながら母さんは学校に入ってこようとした

 

モカ「はい、ストップ。」

陽介母「何よ!」

モカ「あなたは、そこから先には入れませーん。」

陽介母「は?」

モカ「だって、部外者ですよね?入ったら不法侵入ですよ?」

陽介母「うるさい!私は保護者よ!」

 

母さんは再度、学校に入ろうとした

 

すると、青葉はまた止めた

 

モカ「警備員さん呼びますよー?言っておきますけど、不法侵入は犯罪ですよ?」

 

青葉がそう言うと、上原がどこかに走って行った

 

多分、警備員を呼びに行ったんだ

 

モカ「入りたいならどうぞー。ようくんを連れ去るころにはあなたは警備員さんに連れ去られますけどねー。」

陽介母「ちっ!」

 

母さんは大きく舌打ちをすると

 

どこかに歩いて行った

 

俺は足の力が抜け、その場にへたり混んだ

 

巴「陽介!」

蘭「大丈夫!?」

陽介「あ、あぁ......」

 

嫌な汗が流れてる

 

心臓も動きすぎて痛い

 

巴「それにしても、とんでもないやつだな!」

蘭「うん。普通なら、あんなこと言えないよ。」

 

2人も怒ったような声でそう言ってる

 

モカ「ようくん。」

陽介「青葉......」

モカ「ごめんね、追い返すのがやっとだった......」

 

青葉は落ち込んだようにそう言った

 

陽介「い、いや、ありがとう。」

モカ「辛かったよね、あんなこと言われて。」

陽介「!」

 

青葉は俺を抱きしめてきた

 

モカ「今は、安心して。」

陽介「......あぁ。」

 

俺は完全に体の力を抜いた

 

その瞬間、俺の目の前は真っ暗になった

 

__________________

 

"蘭"

 

あの人が去った後

 

陽介はショックからか意識を失った

 

一応、あの人の再来を危惧して校内の保健室で何人かに着いてもらってる

 

日菜さんやつぐみや湊さん、RASの人達が駆けつけてきて

 

事情を説明すると、怒り狂って、あたしも怖いくらいだった

 

蘭(.......でも。)

 

あたしにはもっと怖いことがあった

 

モカ「.......」

 

モカだ

 

長い付き合いだけど、あんなに怒ったモカ、初めて見た

 

いつもはよく言えばのんびりして、穏やかなモカ

 

そんなモカがあんなに怒るなんて......

 

蘭(どうしたんだろ、モカ。)

 

あたしはそんな疑問を感じながら

 

交代で陽介の様子を見に行った



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体育祭後

 夢を見た

 

 外を見るともう夜で

 

 俺は暗い中で食事をしてる

 

陽介(なんで、1人で食べてるんだろ?)

 

 俺は家族がいる

 

 だから夜ご飯は皆で食べる

 

 なのに、なんで、俺は1人なんだ?

 

 俺がそう思ってると

 

 テーブルの真ん中に火が灯された

 

陽介「!」

 

 火が灯されて見えたのは

 

 家族なんかじゃなかった

 

 それは、2人を模したハリボテで

 

 全く無感情に椅子に置かれてるだけだ

 

陽介「な、なんで......?」

 

 そう問いかけても、答えてくれる人はいない

 

 だって、ここには俺とハリボテしかいないから

 

陽介(あれ?)

 

 そう言えば

 

 俺って、最後に家族揃ってご飯食べたのいつだっけ?

 

 食卓囲ったのいつだっけ

 

陽介「誰も、いなかった。」

 

 最初こそいたのかもしれない

 

 でも、最後には消えてた

 

陽介「と、言うことは.......」

 

 俺は家族に裏切られたのか?

__________________

 

陽介「__ん.......」

 

 目を覚ますと、そこは保健室のベッドの上だった

 

 もう外も暗く、夜になってる

 

陽介「っ......」

 

 すごく頭が痛い

 

 そして、何の夢を見てたか思い出せない

 

陽介「俺は、一体......?」

 

 そう呟くと、保健室のドアが空いた

 

 そして、カーテンが開かれた

 

陽介(だ、誰だ。)

ますき「__よう、出水。」

陽介「佐藤か。」

 

 俺は内心ホッとした

 

 すると、佐藤がこう言ってきた

 

ますき「災難だったな。」

陽介「!」

ますき「話は聞いた。悪いが、お前の親はくそ以下だ。」

陽介「......分かってるよ。」

 

 俺は静かにそう答えた

 

 あんなのを見れば、馬鹿な俺でも多少は分かる

 

陽介「でも、あんな2人でも家族だから。」

ますき「!」

陽介「捨てきれないんだ......」

ますき「そうか。」

陽介「悪いな。」

ますき「謝る必要はねぇよ。気持ちはわかるしな。」

 

 佐藤はそう言って

 

 俺の鞄を持った

 

ますき「帰ろうぜ。」

陽介「あぁ。」

 

 俺はベッドから立ち上がり

 

 保健室から出た

 

 そして、佐藤に家まで送ってもらった

__________________

 

 体育祭から一晩明けた

 

 昨日は帰ってからチュチュとパレオが怒ってて

 

 それを宥めるのが大変だった

 

 まぁ、佐藤にも協力してもらったが

 

 俺はそんなことを思いながら教室に入った

 

男子「__出水!」

陽介「!?」

男子2「お前、大丈夫かよ!?」

女子「昨日はあれから何も無かった!?」

 

 教室に入るとクラスメイトのみんなが

 

 俺に色々な言葉をかけてきた

 

 俺はそれに答えながら、自分の席に行った

 

陽介「な、なんだ?」

蘭「皆、陽介を心配してたんだよ。」

陽介「俺を?」

巴「あぁ!昨日のあれを周りのヤツらが全員聞いててな!」

ひまり「それで、こうなったわけ!」

陽介「な、なるほど。」

つぐみ「でも、1番心配してたのは、モカちゃんだよね!」

陽介「青葉?」

 

 俺は青葉の方を見た  

 

モカ「そうかなー?」

蘭「そうだよ。あの人が来た時も見たことないくらい怒ってたし。」

巴「あれは、アタシもビビったよ!」

ひまり「なんであんなに怒ってたの?」

モカ「......なんでもないよー」

陽介「?」

 

 青葉は目線を逸らしながらそう答えた

 

 でも、確かに、昨日はすごい怒ってたな

 

モカ「友達があんな事になったら誰でも怒るでしょー?」

巴「あ、熱いぜ、モカ!」

ひまり「今のカッコよかったよー!」

つぐみ「流石、モカちゃんだね!」

蘭「悪くないね。」

モカ「あははー、とうもどうもー。」

 

 青葉はいつもの調子でいる

 

 それに最早、安心感すらある

 

モカ「もうすぐ先生来るよー。」

ひまり「え!?もうそんな時間!?」

モカ「嘘だよー」

ひまり「もー!モカー!」

モカ「あはは〜」

 

 それからしばらくすると

 

 担任が来て

 

 軽い連絡などをするとすぐに学校が終わった

__________________

 

 放課後、俺は生徒会室に呼ばれた

 

 昨日の事の話だろうと思い

 

 俺はすぐに生徒会室に行った

 

陽介「__失礼します。」

日菜「陽介君!」

陽介「うわ!」

 

 生徒会室に入った瞬間

 

 氷川さんは俺に抱き着いてきた

 

陽介「ど、どうしたんですか?」

日菜「昨日の話聞いたよ。全く、ひどい人だね!」

 

 氷川さんは怒ったようにそう言った

 

 どうやら、昨日の事は耳に入ってるみたいだ

 

つぐみ「日菜先輩、座ってください。」

日菜「あ、うん。わかった。」

 

 氷川先輩は椅子に座った

 

 そして、俺も羽沢に言われ、椅子に座った

 

陽介「あの、なんで俺は呼ばれたんでしょうか?」

日菜「実は、ある所から、こんなのが届いたの。」

陽介「これは?」

 

 氷川さんが出したのはボイスレコーダー

 

 しかも、どこかで見たことがある

 

陽介「父さんの同僚が持ってた、ボイスレコーダー......」

日菜「これに入ってる音声、聞いちゃったんだ。」

陽介「っ!」

 

 氷川さんは低い声でそう言った

 

 俺も嫌な記憶が蘇ってきた

 

日菜「正直、寒気がした。こんなひどい親がいたんだって。」

陽介「......はい。」

つぐみ「私達が思ってる以上に出水君は、辛かったんだね......」

 

 あの音声が蘇ってくる

 

 そして、思い出す

 

 俺は、父さんと母さんの邪魔だったって事を

 

 これが、真実だって事を

 

日菜「こんな事、言いたくないんだけど。陽介君は絶対に親の所に行っちゃだめだよ。」

陽介「......分かってます。」

つぐみ「!」

陽介「俺も一度、それを聞いています。」

日菜「だったら、もうあの人に会わないように__」

陽介「すいません。」

 

 俺はそう言って椅子から立ち上がった

 

 氷川さんと羽沢は驚いた顔をした

 

陽介「もう少し、整理させてください。」

日菜「っ!......分かった。」

 

 俺は氷川さんがそう答えたのを聞くと

 

 生徒会室から出た

__________________

 

 まだ外は明るい

 

 でも、生徒はほぼ下校してる

 

陽介「......」

 

 そんな廊下を一人で歩いてると

 

 嫌でもほかの事に意識が向く

 

 あのレコーダーの音声が聞こえてくる気がする

 

陽介(......うるさい。)

 

 まだ、夢であってほしいと願ってる自分がいる

 

 今、起きてる事が全部夢で

 

 本当の俺は左目があって

 

 家族3人で仲良く暮らしてるんじゃないかって

 

 まだ、俺はそう思ってるんだ

 

 夢の中だから味を感じないじゃないかとか

 

 そんな事を偶に考える

 

モカ「__ようくんー。」

陽介「青葉?」

 

 廊下を歩いてると

 

 青葉が歩いてきた

 

陽介「何してるんだ?」

モカ「ようくんと帰ろうと思ってー。」

陽介「俺と?」

モカ「そーだよー。」

 

 青葉は頷きながらそう言った

 

 いつもはあの4人と一緒なのにな

 

陽介「まぁ、そういう事なら。」

モカ「じゃあ、行こっかー。」

 

 そうして、俺と青葉は一緒に帰ることになった

__________________

 

 俺は青葉と横並びで歩いてる

 

モカ「__いやー、秋だねー。」

 

 青葉はそんな事を言ってきた

 

 確かに、葉っぱの色も変わって

 

 いつもの道なのに秋を色濃く感じる

 

陽介「そうだな。」

モカ「ようくんは何の秋が好きー?」

陽介「うーん、食欲の秋だな。」

モカ「あっ、あたしと一緒だー。」

陽介「まぁ、俺は食べるって言うか、作る方だけどな。」

モカ「それなら、さらにモカちゃんと相性抜群じゃんー。」

陽介「間違いないな。」

 

 青葉の食欲はすごい

 

 自分の弁当食べてから俺の弁当も食べるからな

 

 それでなんで、体型をキープできるんだろう

 

陽介「何か作ろうかな。」

モカ「おー、なになにー?」

陽介「カップケーキとかのお菓子系かな。」

モカ「食べたい食べたいー。」

陽介「ははは、作ったら持っていくよ。」

 

 そんな話をしながら

 

 俺たちは道を歩いた

 

陽介「__ん?青葉?」

モカ「どうしたのー?」

陽介「ちょっと、大人しくしてくれ。」

モカ「!?///(ち、近__)」

陽介「ほら、取れた。」

モカ「え?」

 

 俺は青葉の頭についてた葉っぱを取った

 

 青葉はポカーンとしてる

 

陽介「ついてたぞ?」

モカ「あ、そ、そう言うー......///」

陽介「どうした?」

 

 青葉の顔が赤い

 

 どうしたんだろう?

 

陽介(熱でもあるのか?)

モカ「もー、ようくんはー///」

陽介「?」

 

 何のことを言ってるんだろう

 

モカ「か、帰るー......///」

陽介「え?」

モカ「じゃあねー///」

陽介「ちょ、青葉!?」

 

 青葉は突然走り出した

 

 俺はその場に取り残された

 

陽介「な、なんだったんだ?」

 

 俺は不思議に思ったが

 

 1人で家に帰ることにした

__________________

 

 ”モカ”

 

モカ「__もー、ようくんはー......///」

 

 あたしは少し走った後

 

 そう呟いた

 

 あんなに近くに顔が来たから

 

 焦ったのなんの......

 

モカ「ようくんって本当に意外とタラシだよねー///」

 

 あたしはそう呟いて

 

 鞄の中からあるものを出した

 

モカ「このお守り、効果あるんだねー///」

 

 あたしが握ってるのは

 

 この前道端で貰った、縁結びのお守り

 

 これ、本物なんだね

 

モカ(皆、なんで怒ったのとか、あたしに行ってくるけどー。)

 

 あたしはため息をついた

 

 そして、こぶしを握りしめた

 

モカ「......そんなの、好きだからに決まってるじゃん。」

 

 あたしは秋晴れの空に向かって

 

 小さくそう呟いた



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試食会

 今、俺と羽沢はチュチュの家のキッチンで料理をしてる

 

陽介「__もう少し待っててくれよー。」

ますき「おーう、わかったー。」

 

 なぜ、こんなことをしてるかというと

 

 文化祭でのクラスの出し物が担任や委員長の趣味とやらでメイド喫茶になって

 

 そこで、いつも料理をしてる俺が厨房の担当になって

 

 今日、試作会にRASの皆と5人を呼んだわけだ

 

 チュチュは俺が友達を呼んだとたいそう喜んでた

 

陽介「ほい、取り合えず、3品完成。」

 

 俺はテーブルにオムライス、ナポリタン、カレーを置いた

 

 そして、全員にスプーンやフォークを渡した

 

モカ「おー、美味しそー。いただきまーす。」

蘭「ちょ、モカ、早いって。」

陽介「ははは、良いじゃないか。」

 

 青葉が食べ始めると

 

 皆も続々と食べ始めた

 

六花「これ、美味しいです!」

レイ「うん、お店に出てるのに負けてない。」

ひまり「いくらでも食べられそー!」

巴「また太るぞ、ひまりー!」

ひまり「きゃー!」

 

 見た感じ、全部、受けがよさそうだ

 

 カレーは保存がきくし

 

 他2品も簡単、これは決定的だな

 

つぐみ「本当にすごいよ!うちでも出してほしいくらい!」

陽介「気に入ってくれたみたいでよかった。」

ますき「ナポリタンの味もちょうどいい。一発で美味いってわかる。コツとかあるのか?」

陽介「ラードを使うのと、ケチャップの種類を考えて、調味料に生クリームを使うって書いてあったから使ったな。」

ますき「へぇ、なるほどなぁ。」

パレオ「これはまた作ってほしいですー!」

チュチュ「そうね。」

陽介「あぁ、分かった。」

 

 テーブルを見ると

 

 料理はもう、ほとんどなくなっていた

 

 まぁ、青葉だろうな

 

モカ「いや~、美味しかったね~。」

陽介「早いな。」

蘭「モカ、食べすぎ。」

陽介「まぁ、デザートもあるし。ちょうどいいんじゃないか?」

ひまり「デザート!?」

陽介「あぁ、用意してるから出してくるなー。」

 

 俺はそう言って、キッチンに行き

 

 用意しておいたデザートを出した

 

陽介「まぁ、こんな感じかな。」

ますき「おぉ!すげぇ!」

 

 俺が用意したのは

 

 ショートケーキ、ロールケーキ

 

 カップケーキ、プリン、チョコのムースだ

 

ひまり「こ、これ全部食べていいの!?」

陽介「いや、皆で分けてくれよ?」

チュチュ「......目が血走ってるわね。」

パレオ「すごい気迫ですね!」

巴「あ、あはは、甘いものに目がないやつだから、悪いな。」

 

 上原はデザートを一通り食べて行った

 

 他の皆も、のんびり食べてる

 

ひまり「う~ん!美味しい!」

蘭「これ、学校の文化祭で出していいの?」

レイ「うん、学校行事で定められる値段の範囲超えそうだね。」

陽介「あー、大丈夫。一応、材料費とかは考えてるから。そんな高級ってわけじゃないよ。」

六花「それでも、こんなに美味しいんですね!流石、出水さんです!」

陽介「これくらい、誰でもできるよ。あ、デザートと一緒にどうぞ。」

 

 俺はそう言いながら、皆の前に飲み物を置いた

 

パレオ「これは、なんでしょうか?」

陽介「はちみつティーだ。」

ひまり「へー!レモン入ってるよ?」

陽介「まぁ、一回飲んでみてくれ。」

 

 俺がそう言うと、皆はハチミツティーを飲んだ

 

 すると、全員、驚いたような表情を浮かべた

 

つぐみ「わぁ!爽やかな感じがする!」

レイ「これ、前の練習の時に出してくれたのだよね?」

陽介「そうだ。レモンをつけたはちみつを入れて、そのレモンも入れた。」

チュチュ「無駄もないし、良いメニューになるわね。」

陽介「だろ?」

 

 俺が出すのはこんなもんかな

 

 学校行事だし、このくらいがちょうどいいだろう

 

つぐみ「本当に美味しいなぁ......」

陽介「ありがと。」

つぐみ「出水君、お店とか出さない?」

陽介「え?いや、無理だろ。」

ますき「そうか?あたしも出来そうだと思うが。」

 

 2人は頷きながらそう言ってる

 

 流石に、店とかやろうとは思わないな

 

 いつか、お化け屋敷扱いされそうだし

 

つぐみ「じゃあ、私のお家とか!」

陽介「え?」

つぐみ「私がコーヒー淹れて、出水君がお料理作って......って、あれ?」

 

 その場にいる全員が羽沢を見てる

 

 そして、次第に羽沢の顔が赤くなっていった

 

つぐみ「......///」

蘭「つぐみ、えっと、大胆だね。」

つぐみ「」

 

 美竹のその一言で羽沢は篭絡した

 

 そして、近くに置かれてた毛布にくるまった

 

巴「つ、つぐ?出てこいよー?」

レイ「だ、大丈夫。お家がお店だったらそう思ったりもするよね?」

ひまり「そ、そうなのかな?」

巴「そういう事にしとけって!」

 

 皆、毛布にくるまってる羽沢を励ましてる

 

 なんだろう、この構図

 

チュチュ「言っておくけど、陽介は簡単には婿にやらないわよ。」

パレオ「チュチュ様という姑がいますからね!」

チュチュ「誰が姑よ!」

モカ「まー、姑はともかく、ライバルは多いかもねー。」

六花、ますき「!」

陽介(ライバル?飲食店のか?)

 

 俺はそんな事を考えながら

 

 食器を片付けている

 

つぐみ(い、勢いですごいこと言っちゃった!///)

陽介「羽沢?」

つぐみ「い、出水君?///」

陽介「まぁ、良く分からんが、元気出せよ。」

 

 一通り食器を片付けた後

 

 羽沢に声をかけた

 

陽介「言葉のあやってこともあるし。別に深い意味はなかったんだろ?」

つぐみ(うぅ!そう言われたらそう言われたらで複雑......)

チュチュ(陽介はガールの心を抉る天才ね。)

 

 それから、時間は過ぎていき

 

 羽沢は毛布から出て来ることがなく

 

 そのまま眠ってしまった

 

つぐみ「__すぅ......」

陽介「まさか、ここで寝るとは。」

 

 美竹、青葉、上原、宇田川、和奏、六花は家に帰った

 

 チュチュとパレオは用事があると家を出て

 

 残ってるのは、俺と佐藤と羽沢だけだ

 

ますき「まぁ、いいじゃねぇか。可愛い寝顔だし。」

陽介「まぁ、間違いないな。」

 

 俺と佐藤は眠ってる羽沢を見ながらそう言った

 

 しばらく、羽沢を見てると、佐藤が口を開いた

 

ますき「最近はどうだ?」

陽介「ん?何がだ?」

ますき「学校とか、色々あんだろ。」

 

 佐藤はぶっきら棒にそう言った

 

 俺の事を心配してるのか

 

陽介「充実してるよ。学校もバイトも楽しいし、家事にやりがいもあるし。」

ますき「そうか。」

 

 俺がそう言うと

 

 佐藤は安心したように息をついた

 

陽介「これも、佐藤のお陰だよ。」

ますき「そうか。」

 

 佐藤は照れくさそうに眼をそらした

 

 俺は静かな声で話を続けた

 

陽介「チュチュと出会わせてくれたことだけじゃなくて、あの時、死ぬのを止めてくれたから、今の俺がある。」

ますき「!」

陽介「今の俺は佐藤のお陰だよ。」

ますき「なんだぁ?あたしに惚れでもしたか?」

 

 佐藤はからかうようにそう聞いてきた

 

 俺は少し驚いたが、表に出すことなく答えた

 

陽介「あぁ、好きだよ。」

ますき「はぁ!?///」

陽介「まぁ、皆も好きだけど。」

ますき「っ!///」

陽介「ん?どうした?」

 

 佐藤の方を見ると

 

 佐藤はソファに顔を埋めて悶えている

 

 俺は笑いながら佐藤を見た

 

陽介「ははは、面白いな。」

ますき「......おもしろかねぇよ///」

陽介「そうか。って、あっ。」

 

 羽沢の方を見ると

 

 かけてあった毛布が落ちていた

 

 俺は毛布を掛けなおした

 

陽介「羽沢も、俺の秘密を知っても優しくしてくれてる。いい子だよ。」

ますき「そうか。」

 

 俺がそう言うと

 

 佐藤も羽沢の前にしゃがみ

 

 頭を撫で始めた

 

陽介「可愛い寝顔だな。」

ますき「あぁ、こいつ、可愛いな。」

 

 俺と佐藤はそんな風に笑いあいながら

 

 また、寝てる羽沢を眺めた

 

つぐみ(お、起きてるよ~!///)



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文化祭1

女子「__出水君!ナポリタン追加!」

陽介「オッケー。」

 

 今日は文化祭当日だ

 

 うちのクラスのメイド喫茶は好評で

 

 さっきから客足が絶えない

 

陽介(まぁ、可愛いメイドがたくさんいるしなぁ。)

 

 チラッと見たけど、皆よく似合ってた

 

 可愛いメイドが接客してくれるんだし

 

 お客さんもたくさん集まるよな

 

 俺はそんな事を思いながら注文が来た品を仕上げていった

__________________

 

 暫く手を動かしてるうちに

 

 昼を過ぎて、俺は休憩時間になった

 

陽介「__ふぅ、疲れた。」

モカ「お疲れー。」

陽介「なんだ、青葉も休憩か?」

モカ「あたしだけじゃないよー。」

つぐみ「お疲れ!出水君!」

巴「よー!陽介!」

ひまり「お疲れさまー!」

蘭「つ、疲れた......」

 

 どうやら、いつもの5人は同時に休憩らしい

 

 相当な激務だったのか、美竹の顔が死んでる

 

陽介「ははは、メイドは大盛況だったみたいだな。」

蘭「違う、そうじゃないよ......」

陽介「え?」

つぐみ「実は、今日来てたお客さんは出水君の料理目当てだったらしいんだよ!」

ひまり「なんか、SNSでここの料理が美味しいって投稿があって、人が集まってたみたい。」

陽介「そ、そんな事が。」

 

 その投稿をした人物は著名人かなんかか?

 

 まぁ、褒められるのはいいんだが

 

巴「まじで旨かったからなー。」

陽介「ありがと。」

モカ「ようくん、お疲れだねー?」

陽介「まぁ、流石に疲れはした。」

 

 フライパン振ったりしたし

 

 流石に肩が凝った

 

モカ「そんなようくんには、美少女メイドモカちゃんが癒してあげるよー。」

陽介「え?何かしてくれるのか?」

モカ「うんー、何かあるかなー?」

つぐみ「わ、私もしたい!」

陽介「!?」

ひまり「あ、そう言うの事なら来て!2人とも!」

 

 そう言って、上原は青葉と羽沢連れて行った

 

 どうやら、何かの打ち合わせをしてるみたいだ

 

モカ「なるほどー。」

つぐみ「それでいいのかな?」

ひまり「大丈夫大丈夫!(多分)」

 

 そんな声と共に3人は戻ってきた

 

 そして、青葉と羽沢は俺の前に立った

 

陽介「?」

モカ「それじゃあ、作戦開始ー。」

陽介「!」

 

 青葉はそう言うと、俺の膝の上に乗ってきた

 

 俺は驚いたが、何とか落とさないようにした

 

陽介「な、なんだ!?」

モカ「モカちゃんセラピーだよー。」

陽介「アニマルセラピーの一種か?」

モカ「癒されるでしょー?」

 

 青葉はそう言いながら俺にじゃれてくる

 

 なんだろう、メイド服の生地が柔らかいのと

 

 女の子特有の柔らかさと重なって......

 

陽介「確かに、癒される。柔らかい。」

モカ「!///」

陽介(なんだろう、どこかで感じたことがあるんだよな。)

 

 最近もあった

 

 ソファに座ってるときに......

 

陽介「あ、クッションだ。」

モカ「え?クッション?」

陽介「そうそう、家に置いてるクッションに感触がそっくりなんだ。すっごい柔らかい。」

モカ「///」

 

 俺はそう言いながら青葉を抱きしめた

 

 いやぁ、癒される......

 

モカ(す、すごく恥ずかしい......///)

蘭(も、モカが大人しい!?)

ひまり(あんなモカ、見たことない......)

巴(流石、陽介だぜ。)

つぐみ「い、出水君!」

陽介「羽沢?」

 

 しばらくすると、羽沢が声をかけて来た

 

 俺は羽沢の方を向いた

 

つぐみ「あ、あーん......///」

陽介「!?」

 

 羽沢はカレーを差し出して来た

 

 これは、メイドっぽいな(?)

 

 俺はそう思いながら、差し出されたカレーを食べた

 

つぐみ「ど、どうかな?」

陽介「なんだろう、すごい状況だなって思う。」

 

 膝の上に青葉

 

 カレーを食べさせる羽沢

 

 羨ましいと思われる状況だが

 

 不思議だな

 

モカ「あ、そうだー、ようくんー?」

陽介「なんだ?」

モカ「明日、あたしと回ろうよー。」

つぐみ「あっ。」

陽介「明日?明日は悪いが先約が入ってるんだ。」

モカ、つぐみ「え?」

 

 俺がそう言うと

 

 2人は目を丸くした

 

陽介「前、湊さんに誘われてな。それで、回りましょうって。」

モカ「そっかー......」

つぐみ「それじゃあ、仕方ないね......」

陽介「悪いな。(なんで羽沢まで?)」

 

 こんな感じのやり取りをしてるうちに休憩時間が終わった

 

 そして、仕事が再開された

__________________

 

 昼からの仕事も特に内容は変わらない

 

 注文が来た料理を作るだけだ

 

陽介「ふんふーん。」

 

 慣れたもので、鼻歌を歌う余裕も出て来た

 

陽介(それにしても、明日、俺は自由だけど、大丈夫なのか?)

女子「出水君!」

陽介「ん?」

女子「お客さんだよ、出水君に!」

陽介「?」

 

 俺は他のメンバーに任せ

 

 客の対応に向かった

__________________

 

 厨房から出て来ると

 

 やっぱり、すごい人数がいた

 

陽介(確か、窓際の席だっけ?)

 

 俺は言われた席に向かって行った

 

 そこにはよく知る人が見えた

 

陽介「チュチュ、パレオ!」

チュチュ「来たわね、陽介!」

パレオ「こんにちはー!」

 

 俺は2人に近づいた

 

陽介「来てたんだな。」

チュチュ「当然よ!」

パレオ「チュチュ様がどうしても来たいと申しますので!」

陽介「ははは、ありがと。」

 

 RASで忙しいのに

 

 俺の行事に毎回来てくれる

 

 嬉しいものだな

 

チュチュ「それにしても、すごい数ね。」

陽介「確かに、そうだな。」

パレオ「さっきSNSを見たんですけど、著名なレポーターの方がここを呟いてたんですよ!」

陽介「え?」

 

 まじでそんな人が

 

 てか、なんで文化祭にそんな人が来てるんだ?

 

チュチュ「まぁ、頑張りなさい。」

陽介「分かってるよ。」

男「__ねぇ、この後時間あるぅ?」

陽介「なんだ?」

 

 厨房に戻ろうとすると、変な声が聞こえて来た

 

 俺は声がした方を向いた

 

男「俺とデートしようよ。」

モカ「えー、嫌ですー。」

 

 絡まれてるのは青葉だった

 

 話しかけてるのは金髪にピアスを開けた

 

 20代くらいの男だ

 

男「そう言わないでさ。」

モカ「あのー、仕事中なので戻ってもいいですかー?」

男「ちょ、待てよ!」

モカ「っ!」

 

 青葉が去ろうとすると

 

 男は青葉の腕を掴んだ

 

 俺はまずいと思い、それに近づいた

 

陽介「あの。」

男「あぁ?」

陽介「青葉が迷惑してるので放してあげてください。」

男「嫌だよ。なんで、そんなことしなくちゃいけねぇんだ。」

陽介「迷惑、と言いましたが。聞き取れませんでしたか?」

男「聞こえてるっての!」

陽介「じゃあ、理解が出来なかったんですね、残念です(頭が)」

男「なんだと!?」

 

 男はそう言って、席から立ち上がった

 

 そして、俺に詰め寄ってきた

 

男「おまえ、調子乗ってんじゃねぇぞ?」

陽介「いえ、調子には載ってません。俺は注意をしてるだけです。」

男「それが調子に乗ってるって言ってんだよ!分かんねぇのか!?」

陽介「......はぁ。」

男「なんだよ、そのため息は?」

陽介「いや、注意しただけで調子に乗ってるように感じるなんて、さぞ、甘やかされてたんだろうなと思いまして。」

 

 この若さでこんな行い

 

 碌な育てかたされてないんだろうな

 

男「俺の親父はヤクザの幹部だぞ?お前なんて、いつでもボコれるんだぜ?」

陽介「......(へぇ、ヤクザねぇ。)」

男「どうだ? ビビっただろ?」

陽介「じゃあ、その組織の名前を教えてください。」

男「は?」

 

 俺はその男にそう問いかけた

 

 すると、男は途端に焦りの表情を浮かべた

 

男「そ、そりゃあ、あれだよ、あれ。」

陽介「あれ?」

男「......○○組だ!」

 

 男は言うのを渋りながらそう言った

 

 もう、これは勝ったな

 

陽介「○○組か......」

男「ど、どうだ!?今なら謝れば__」

陽介「それ、焼肉屋ですよね?」

男「!!」

 

 もう、これは笑うしかない

 

 まさか、馬鹿正直に喋るなんて

 

陽介「お父さんが焼肉屋の店長かなんかですか?」

男「ぐっ!」

陽介「確か、他県にある店で、この辺りにいる人が聞けば、そう言う組織の名前に聞こえますよね。」

男「そ、そんなわけ......」

陽介「もう、嘘はやめた方がいいですよ?恥をさらすだけなので。」

 

 俺は笑いながらそう言った

 

 男はもう、顔真っ赤だ

 

陽介「俺はね、色々なわけあってこの辺りにあるそう言う組織の事は調べてるんですよ。」

男「は、はぁ......?」

陽介「本当にもしもの時のために、全部、調べた。だから、あなたの嘘なんて通用しない。」

男「く、くそぉ!」

陽介「っ!!」

 

 男は俺の顔を殴り

 

 尻もちをつくと、更に詰めて来た

 

男「この眼帯根暗野郎が!」

陽介「!(しまった!)」

 

 男は俺の眼帯に手をかけ

 

 引きちぎった

 

 俺は目を抑えた

 

男「おいおい、中二病かよ。」

陽介「......それだったら、よかったんですけど。」

男「なんだそれ?」

チュチュ「やめなさい。」

男「あ?何だこのガキ?」

チュチュ「人の眼帯を取るなんて、マナーがなってないわね。犬の方が十分にマシよ?」

男「なんだとぉ......!!」

 

 今度はチュチュの方に行った

 

 チュチュはああ見えてかなり怖がってる

 

 その証拠に足が震えてる

 

陽介「待て。」

男「チッ、なんだよ。」

陽介「チュチュに近づくな。この外道。」

 

 俺はそう言って、男とチュチュの間に立った

 

男「なんだ、このガキが大事なのか?ロリコンかよ。」

陽介「うるさい。チュチュがガキなら、あんたはクソガキだ。」

男「お前、うぜ__っ!!!」

 

 俺は男を突き飛ばした

 

 男は舌を噛んだようで痛がってる

 

男「お、お前......って、は?」

陽介「......」

チュチュ「よ、陽介!隠しなさい!」

モカ(や、やばい!)

 

 突き飛ばしたことで俺の手は目から外された

 

 それで晒されるのは、見るも無残な目だったものだ

 

男「な、なんだよそれ?」

陽介「さぁ、何なんだろうな。」

 

 俺は男の前にしゃがみこんだ

 

陽介「......」

男「き、気持ちわりぃ!!」

陽介「......っ。」

 

 男は俺を押しのけ

 

 部屋の中から出て行った

 

 俺は静かに目を隠した

 

つぐみ「い、出水君!」

陽介「羽沢。」

つぐみ「これ、使って!」

 

 羽沢は俺の目にタオルを巻き付けた

 

 眼帯の代わりだろう

 

チュチュ「よ、陽介、大丈夫なの!?」

陽介「大丈夫。あの人は追い返せたから。」

チュチュ「そうじゃなくて!目を、こんな所で出して......」

陽介「......」

 

 周りを見ると

 

 皆、困惑してる

 

パレオ「ど、どうして、こんなところで!?」

陽介「あの人は、怖がりだったから。チュチュに被害を生かせないようにするには最適だと思って。」

チュチュ「だ、だからって......」

モカ「よ、ようくん......」

陽介「青葉、大丈夫か?」

モカ「うん......」

陽介「なら、よかった。」

 

 俺は不安そうにしてる青葉にそう言った

 

 そして、空いてる手で頭を撫でた

 

モカ「でも、ようくんの秘密が......」

陽介「俺は大丈夫だよ。もう、慣れてるし、青葉たちもいるし。」

日菜「__騒ぎってここー!?」

陽介「氷川さん?」

日菜「あれ、陽介君!?眼帯は!?」

陽介「取られちゃいました。」

 

 そう言うと

 

 氷川さんは慌てて近づいて来た

 

日菜「と、取り合えず!保健室行こ!ここじゃ、人が多いから!」

陽介「はい、分かりました。」

 

 俺は氷川さんと保健室に向かった

 

 チュチュとパレオ、青葉と羽沢も同行した

 

 こうして、文化祭1日目が終わった



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文化祭2

 今日は文化祭2日目、最終日だ

 

 だが、困ったことがある

 

陽介(__俺、人前に出れるのか?)

 

 昨日、俺の秘密は自分のせいだが大衆の面前にさらされた

 

 シャッター音も何回か聞こえたし、少なくとも校内で広まってるのは間違いない

 

陽介(今日は湊さんと回る予定だが、大丈夫なのか?)

 

 十中八九、俺は奇異の目で見られる

 

 どう考えても、湊さんに迷惑だ

 

陽介(一応、学校には来たけど、湊さんには連絡して断るか......)

友希那「__どうしたの?陽介?」

陽介「み、湊さん。」

 

 携帯を出して連絡をしようとすると

 

 湊さんが教室に入ってきた

 

友希那「時間になっても来ないから、美竹さんたちに話を聞いたわ。」

陽介「すみません......」

友希那「いいのよ。」

 

 湊さんは優しく微笑んでる

 

 この人は本当に優しい

 

友希那「あなたの目、見られてしまったみたいね。」

陽介「はい。」

友希那「でも、大丈夫よ。」

陽介「え?」

友希那「だって、あなたの事は皆が説明したもの。」

 

 俺は湊さんの言葉にたいそう驚いた

 

 湊さんは俺に手を差し出して来た

 

友希那「行きましょう。きっと、大丈夫よ。」

陽介「は、はい。」

 

 俺は椅子から立ち上がり

 

 湊さんと一緒に教室を出た

__________________

 

 廊下に出ると

 

 多少の視線は感じたけど、悪意は感じなかった

 

 時には俺に優しい言葉をかけてくれる人もいた

 

陽介「__お、驚いた。」

友希那「これは、私達の説得だけじゃ不可能だったわ。」

陽介「?」

友希那「あなたがこの学校に来てからの行いがあってこそよ。」

陽介「そうですか......」

 

 やっぱり、前の学校とは違う

 

 ここには、良い人が多い

 

友希那「行きましょう、陽介。」

陽介「!」

 

 湊さんは俺の腕に抱き着いてきた

 

 俺は驚いて、湊さんを見た

 

友希那「今日はデートよ。」

陽介「あ、はい。わかりました(?)」

 

 俺は困惑しながら

 

 湊さんに腕を引かれた

__________________

 

 まず来たのは、湊さんのクラスだった

 

 どうやら、猫カフェをしてるらしい

 

 俺と湊さんは教室に入った

 

リサ「__いらっしゃーい!って、友希那と出水君じゃん!」

友希那「来たわ。」

陽介「こんにちは。」

 

 店に入ると、猫耳をつけた今井さんがいた

 

 猫カフェって、そういう事?

 

陽介「ね、猫(がいる)カフェじゃないんですね。」

リサ「そうなんだー、猫(コスプレ)カフェなんだよねー。」

 

 まぁ、学校行事で動物って連れてこれないよな

 

 コスプレカフェってのもまたいいな

 

リサ「昨日は友希那も来てたんだよ~☆」

陽介「それはそれは、似合いそうですね。」

友希那「ちょっと、2人とも!///」

 

 湊さんは顔を真っ赤にしながら何かを訴えてる

 

 今井さんは苦笑いをしながら俺と湊さんを席に案内した

 

友希那「陽介あなた、中々、意地悪ね。」

陽介「ははは、すみません。」

 

 湊さんは少し拗ねてるみたいだ

 

 年上だけど、この人可愛いな

 

友希那「まぁいいわ。注文はどうする?」

陽介「えーっと、一番栄養価の高い物を。」

友希那「あっ。」

 

 俺がそう言うと、湊さんは暗い顔をした

 

友希那「ご、ごめんなさい。あなたは味覚が......」

陽介「いえ、もう慣れてるので。お気になさらず。」

 

 俺はそう言いながらメニューを見た

 

 女性ウケがよさそうなスイーツが多い

 

 俺はコーヒー、湊さんはケーキと紅茶を注文した

 

陽介「そう言えば、湊さんは猫が好きだと聞いたことがあるのですが。」

友希那「え?誰に聞いたのかしら?」

陽介「今井さんにメッセージで。」

友希那(リサ......!)

リサ「__お待たせー、コーヒーと紅茶、ケーキだよー☆」

 

 湊さんと話をしてると

 

 今井さんが注文した品を持ってきた

 

陽介「ありがとうございます。」

リサ「はいはーい!どうぞー!」

友希那「リサ?」

リサ「うん?どうしたのー?って、ひぃぃ!!」

 

 今井さんは突然、おびえたような声を上げた

 

 どうしたんだろう?

 

リサ(え?友希那が怒ってる!?なんで!?)

友希那「リサ、陽介と仲良くやりとりをしてるみたいね?」

リサ「あっ。」

友希那「それで、猫の事も話したみたいね?」

リサ「い、いやー(え、待って、これどっちで怒ってんの!?)」

 

 今井さんは何を焦ってるんだろう?

 

 別に俺とメッセージのやり取りするくらいだし

 

陽介(猫好きがばれたのがそんなに問題なのか?)

リサ「ご、ごめん、出水君とやりとりして!」

陽介「え?」

友希那「なっ!?///」

リサ「あれ?」

友希那「私は猫の事を言っているの!///」

リサ「わー!ごめんごめん!!」

 

 湊さんは今井さんを追いかけていった

 

 俺はそんな2人を見ながらコーヒーに口をつけた

 

陽介(どうしたんだろ?)

__________________

 

 あれからしばらくすると

 

 機嫌が直った湊さんと

 

 少し、疲れた顔をした今井さんが戻ってきた

 

 その時、今井さんが「私はお喋りです。」と書かれたプレートをかけていた

 

 俺は何があったかを抱いたい察した

 

友希那「__全く、リサは。」

陽介「ま、まぁまぁ。」

 

 俺と湊さんは教室を出て

 

 次にどこに行くか考えていた

 

友希那「あれは、何かしら?」

陽介「?」

 

 俺は湊さんが指さす方を見た

 

 そこには、黒いカーテンで覆われた教室

 

 看板には恋愛占いと書かれている

 

陽介「あれは、看板的には占いですね。」

友希那「あれに行きたいわ。」

陽介「え?(意外だな。)」

友希那「行きましょ、陽介。」

陽介「あ、はい。」

 

 俺は湊さんについて行き

 

 カーテンを開け、教室に入った

__________________

 

 教室の中には

 

 いかにもな格好をした生徒が座っている

 

 変な雰囲気だ

 

?「どうも、こんにちは。」

陽介「えっと、こんにちは。」

友希那「こんにちは。」

?「そこにおかけになってください。」

 

 ?さんにそう言われたので

 

 俺と湊さんは前に置かれてる椅子に座った

 

?「さて、今日は何が聞きたいのですか?」

陽介「えっと__」

?「2人の相性ですね!?」

陽介、友希那「!?」

?「それじゃあ、占いますね!」

陽介「あ、もうそれでいいです。」

 

 そうして、?さんが占いを始めた

 

 正直に言って、怪しすぎる

 

?「きえ?きぇぇぇぇぇえええ!!!」

友希那(これは何を見せられてるのかしら?)

陽介(奇声を発してるようにしか見えない、いや、見れない。)

 

 十数秒、叫び続けた後

 

 今度は打って変わって、魂が抜けたように静かになった

 

 俺と湊さんは首を傾げた

 

?「整いました......」

陽介(何がだろう。)

?「2人の相性は最高にいいですね!」

友希那「!///」

陽介「なるほど。」

 

 まぁ、湊さんとはそうだろうなぁとは思ってた

 

 なんか、謎の安心感がある人だったし

 

?「欠点を補いあえる関係、まさに理想です。」

陽介「そうなんですか(?)」

?「彼女さんはあなたの欠点を絶対に受け入れてくれますよ。」

友希那「そうね。」

陽介「!?(あの、いや、湊さんは彼女というわけじゃないんだけど!?)」

 

 それからしばらく?さんの話を聞いた

 

 まぁ、基本的には良い事だった

 

 確信をつく部分もあったし、

 

 占いって言うのは本当なのかもしれない

 

?「__そう言えば、君は出水君だってね。」

陽介「あ、はい。」

?「君、かなり迷ってるね。」

陽介「......」

?「この世には、忘れた方がいい事なんて、たくさんあるんだよ。」

陽介「......わかってます。」

友希那「?」

 

 俺は小さくそう答えて、その教室を出た

 

 湊さんも慌ててついてきた

__________________

 

 俺は教室を出て、落ち着くように歩いてる

 

 周りの声が雑音に聞こえてくる

 

友希那「__陽介!」

陽介「すみません、落ち着きました。」

 

 俺は足を止めて

 

 湊さんを見た

 

 湊さんは少し頬を膨らませてる

 

友希那「全く、歩くのが早いわ。」

陽介「す、すみません。」

友希那「まぁ、いいわ。行きましょう。」

陽介「あはは、そうですね。」

 

 俺はそう言って

 

 湊さんと次の行先に向かって歩こうとした

 

陽介母「__陽介。」

陽介「っ!!」

 

 俺は声をのした方に振り向いた

 

 そして、俺の目には見知った姿が見えた

 

 その姿を見た瞬間、全身から汗が噴き出した

 

陽介「......なんで、ここに?」

陽介母「入れたから入ったのよ。」

 

 たしかに、文化祭期間は警備が薄くなる

 

 だから、前みたいに警備員に止められなかったわけか

 

 完全にこの可能性を捨ててた

 

陽介「何か、用?」

陽介母「分かってるでしょ?私の所に帰ってきなさい。」

友希那「!」

陽介母「最近のバイトのお給料とかは全部持ってね?」

陽介「......」

 

 母さんはいつも通りのトーンでそう言ってきた

 

 そのあまりの母親らしい態度は

 

 まるで、捨てたことなんて忘れてるみたいだ

 

陽介母「戻って来ればもう、学校に行く必要もないわ。働きなさい。」

友希那「なんで!?」

陽介母「今まで育てた分、お母さんに恩返しできるチャンスをあげるわ。」

陽介「......」

 

 全部、分かってる

 

 俺に戻って来いと言ったのは一時しのぎの金と

 

 永久に金を生み出すATMが必要なんだって

 

陽介母「職場はもうあるわよ?あなたの新しいお父さんの所!ビシバシと鍛えてくれるわ!」

友希那「何を勝手な事を言っているの!?」

陽介母「勝手じゃないわ。親子間の問題でしょ?」

友希那「親子?陽介に愛を注いだこともないくせに!!」

陽介「え?」

 

 湊さんはまるで知ってるような言葉を放った

 

 母さんは湊さんを睨んだ

 

陽介母「......何を言ってるのかしら?」

友希那「今から10年前、あなた、陽介を突き飛ばしてケガさせてたわよね?」

陽介母「っ!なんで、それを!?」

友希那「それだけじゃないわ。あなたが陽介を机に縛り付けて勉強させてたことも、家事を全部やらせてたことも知ってるわ。」

陽介「っ!!」

 

 湊さんが話してる途中

 

 俺は強い頭痛を感じた

 

 なんだ、これ?

 

陽介母「そんな事、なかったわよ?」

友希那「ここまで来て白を切るの?」

陽介母「なら、陽介に聞いてみなさいよ。」

 

 母さんがそう言うと

 

 湊さんは俺の方を見た

 

 そして、俺に語り掛けて来た

 

友希那「陽介、思い出して。あなたは親にどれだけ苦しめられてたか。」

陽介「苦しめ、られてた?」

陽介母「そんな事なかったわよね?」

友希那「黙りなさい!」

 

 苦しめられてた?

 

 俺はただ、ロープで血が滲むくらい椅子に縛られて勉強して

 

 それ以外の時間はほとんど家事をしてただけで

 

 何か失敗した時、躾られてただけ

 

 友人関係だって、上手く言ってた

 

 母さんが外では全部、隠せって言ってたから

 

陽介「......あれ?」

 

 それだけって言えることなのに

 

 なんで、母さんは隠した

 

 なんでだ?

 

陽介「......母さん。」

陽介母「なに、どうしたの?」

陽介「子どもって、家の家事を全部したり、暴力を振るわれるのは普通なの?」

陽介母「当たり前でしょ。ただでさえ金がかかるんだから、家族のために働いて、ストレスのはけ口になるのは当然でしょ?何を言ってるの?」

友希那「この......!!!」

陽介「......そっか。」

 

 俺はゆっくりと立ち上がった

 

 視界が揺れてる

 

 頭もグルグルしてる

 

陽介「......」

陽介母「もういいでしょ?さっさと来なさい。退学の手続きをするわよ。」

 

 母さんはそう言って

 

 俺の腕を掴んだ

 

 ネイルの爪が食い込んでいたい

 

友希那「陽介!」

陽介(......なんで、今まで信じてたんだろ。)

陽介母「!__きゃあ!」

友希那「!?」

 

 俺は腕を振って

 

 母さんを壁に打ち付けた

 

 俺はその様子を見ながら

 

 静かに呟いた

 

陽介「目が覚めた。」

陽介母「な、なんですって?」

陽介「母さんと父さんから離れて、優しい家族に出会って、普通の感覚ってのが身に着いたんだと思う。」

陽介母(ま、まさか......)

陽介「ありえない話だけど、俺の事、洗脳してたんでしょ?」

 

 勿論、根拠なんてない、でも

 

 子供なんて、小さい時から言われ続ければそれが普通と思うよな

 

 それは、立派な洗脳だよな?

 

陽介「母さんはずっと、さっきみたいに教えて来たよね。子供は邪魔なんだから、せめて役に立て。部屋はあげるからって。」

陽介母「そ、その通りじゃない。雨風しのげる場も与えてた!」

陽介「小さいときは俺は2人にいてくれるだけで感謝してた。そう思う風に育てられたから。」

陽介母「そ、そうよ。一緒にご飯も食べてあげたわ。それに、たまには作ってあげたじゃない。」

陽介「そうだね。半年に一回あるかないか。メニューは決まって、火が通り切ってないクソ不味いハンバーグだったね。」

 

 俺は母さんを睨みながらそう言った

 

 母さんは少したじろいだ

 

 俺は続けて話した

 

陽介「まぁ、味になんて怒ってないよ?俺は偶に作ってくれるそのハンバーグが大好きだったから。」

陽介母「そ、そうでしょ?」

陽介「まぁ、それも過去の事だけどね。」

 

 俺は母さんの前に立ち

 

 静かな声で、こう問いかけた

 

陽介「母さんは、俺の事どう思ってる?」

陽介母「あ、あなたは愛する息子よ!だから、私の所に来て働いて!ね?」

陽介「冗談キツイね。」

陽介母「ぐぅ!!!」

 

 俺は母さんを蹴り飛ばした

 

 そして、蹴り飛ばした方にゆっくり歩いた

 

日菜「__ちょっと、騒ぎって何!?」

つぐみ「通してください!」

六花「な、なんだろう?って、出水さん!?」

モカ「あそこにいるのは、ようくんの......!!」

日菜、つぐみ、六花「あれが!?」

 

 周りに人が集まってきた

 

 これじゃ、周りのみんなに迷惑だな

 

陽介「真面目に答えてよ。愛してるのは、身の回りの事を何でもしてくれて、お金も持ってきてくれる奴隷でしょ?」

陽介母「......そ、そんなこと......」

陽介「あるから、俺の事を捨てたんだろ!!」

 

 俺はそう言って、もう1度蹴り飛ばした

 

 母さんは簡単に飛んでいった

 

 すると、母さんは俺に怒鳴ってきた

 

陽介母「お、親に向かって何するの!?このクズ!!」

陽介「あぁ、俺はクズだ。クズの子供だからな。」

 

 周りが見えない

 

 俺は今、どう写ってるんだろう

 

 ただの暴力男か

 

陽介母「あ、あんたなんて昔から、なんのとりえもない不良品のくせに!そんなあなたを育ててあげた恩を仇で返すの!?」

陽介「恩はあっても、仕打ちが酷過ぎてマイナスなんだよ。しかも、俺の高校の奨学金、あんた使いつぶしたよな?大好きなブランドバッグに。」

陽介母「なんでそれを!?」

陽介「チュチュが前の学校の滞納してた学費、払ってくれたからな。その時に分かったよ。」

 

 俺は母さんにゆっくり近づいた

 

 ゆっくりと、恐怖を与えるように

 

 出来るだけ睨みつけて

 

陽介「知ってるか?俺、家事とお金がないために修学旅行とか行った事ないんだぜ?」

陽介母「......そうね。」

陽介「ここまでしておいてさ、恩とかあるのかな?ないよな?」

 

 俺はそう言いながら足を振り上げた

 

 すると、母さんは両手を前に出した

 

陽介母「ま、待ちなさい!」

陽介「あ?」

陽介母「あんたは、家族にそんな事をするの!?私は仮にも母親よ!?」

陽介「......家族じゃない。」

 

 俺は振り上げた足を母さんにぶつけた

 

 母さんは腹に蹴りが当たって、悶絶してる

 

 俺はそんな母さんを見下しながらそう言った

 

陽介「俺の家族はチュチュとパレオだ。あんたはもう、場違いなんだよ。」

陽介母「こ、この......!」

陽介「もう、うるさいんだよ。ごちゃごちゃと。さっさと帰って浮気相手と新しい奴隷でも作れよ。」

陽介母「あ、あんたなんか私の子じゃない!人間じゃない!!この化け物!!」

陽介「そうだよ。」

 

 俺は眼帯を外し、前髪を挙げ

 

 そして、母さんに目線を合わせた

 

 母さんの顔は恐怖で染まった

 

陽介母「ひっ!!!」

陽介「ほーら、異形の化け物だぞ。あんたはこんなのを奴隷にしたかったんだぜ!」

陽介母「っ!!!気持ち悪い!!!」

 

 パシンっと、乾いた音が廊下に響き

 

 母さんはそう吐き捨て、その場を走り去っていった

 

陽介「......っ」

友希那「よ、陽介......?」

陽介「湊さん......」

友希那「だ、大丈夫、なの?」

陽介「はい、大丈夫ですよ......」

 

 湊さんが話しかけて来たのを口火に

 

 氷川さん、羽沢、青葉、六花が近づいて来た

 

 皆、心配そうにしてる

 

日菜「陽介君、さ、さっきの!」

つぐみ「お母さんがいたのに、大丈夫だったの!?」

陽介「別に何もないよ。あんなの。」

 

 俺は軽い口調でそう言った

 

六花「な、なんだか、変わりましたか?」

陽介「そうか?別に何も変わらないと思うけど?」

モカ「なんだか、違う。眼の光が変わったきがする。」

陽介「そうなのか?」

モカ「絶対に変わったよー。」

陽介「まぁ、そうだとしたら......」

 

 俺は少しうつ向いた

 

 床を見ると、水が落ちてる

 

 頬には生ぬるい感触がある

 

六花「な、泣いてるんですか?」

日菜「陽介君!?」

陽介「夢が......」

つぐみ「?」

陽介「......夢が、終わったんだよ。」

 

 ずっと、信じてた人たちだから

 

 家族に情がなかったわけじゃない

 

 やっぱり、血のつながった家族は家族だったんだ

 

 あんなことをしたのは、胸が痛むんだ

 

友希那「頑張ったわね、陽介......」

陽介「湊、さん......」

友希那「あなたは、何も間違えてない。」

 

 俺はそう言われた瞬間

 

 足の力が抜け、その場に崩れ落ちた

 

 湊さんはそんな俺を抱き寄せた

 

陽介「信じてた、信じてたんだ......俺は......!!」

友希那「いいわよ、好きなだけ泣きなさい。」

陽介「夢が覚めれば、優しい母さんと父さんがいるって、信じてたんだ、ずっと......!!」

 

 俺はそれから、泣き続けた

 

 家族を失った事か、今までの苦痛からか

 

 俺は感情が爆発し、ダムが決壊したように涙を流した

 

 俺はしばらくして泣き止んだ後、

 

 泣き疲れて湊さんの腕の中で眠ってしまった



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再会

陽介「__うん、ここは......?」

 

 目が覚めると、保健室のベッドの上にいた

 

 部屋も暗いし、外はもう夜なんだろう

 

 頭もいたい、どんなに寝たんだ

 

陽介「?」

 

 なんだろう、少し違和感を感じる

 

 暗闇に目が慣れて来た

 

 そして、段々と誰かのシルエットが浮かんできた

 

陽介「湊さん?」

友希那「すぅ......」

 

 どうやら、眠ってるみたいだ

 

 今まで俺についててくれたんだろう

 

 後夜祭をしてる時間だろうに

 

友希那「んぅ......陽介......?」

陽介「おはようございます。」

友希那「えぇ、おはよう。」

 

 湊さんはすぐに目を覚ました

 

 そこまで、深い眠りじゃなかったんだろう

 

 湊さんは目をこすっている

 

陽介「湊さん、目に悪いですよ?」

友希那「大丈夫よ、これくらい。」

陽介「そうですか。」

 

 そこで会話が止まった

 

 寝ぼけた頭が少し冴えてきて

 

 昼の光景が鮮明に蘇ってくる

 

 叩かれた右頬の痛みも思い出して来た

 

陽介(そっか、俺は母さんを......)

 

 俺は自分の親に蹴りを入れて、暴言を吐いた

 

 どんな人間でも、親にそんな事をするのは

 

 やっぱりいい事じゃない

 

友希那「あなたは、どんな人間にも優しいわね。」

陽介「え?」

友希那「自分の親にあんなことをして、心を痛めてるのでしょう?」

陽介「......はい。」

 

 湊さんに俺の事はお見通しらしい

 

 そんなに顔に出てるわけでもないだろうに

 

陽介「昼の俺はどうかしてました。冷静になれれば、もっといい解決策もあったと思います。」

友希那「あなたを全く知らない人から見たら、そうかもしれないわね。」

陽介「はい......」

 

 心臓が痛くなる

 

 暴力でしか訴えられないのは、ダメな人間だ

 

 俺の親と何も変わらない

 

友希那「でも、私からすれば、あなたの行動は正しいわ。」

陽介「!」

友希那「私はあなたの小さい頃の事を知っているから。」

陽介「昼も言っていましたよね?」

友希那「えぇ、あなたは忘れてるかもしれないわね。周りが見えていなかったから。」

 

 湊さんはそう言って、俺の手を握った

 

 暖かくて、優しい手だ

 

友希那「私があなたと出会ったのは10年前。公園の木々の陰だったわ。」

 

 湊さんは静かにそう語り始めた

 

 俺は少し、思い当たることがあった

 

友希那「私が歌っているときに、信じられない姿の男の子が現れたの。」

陽介「信じられない、姿?」

友希那「頭から出血してるのに、医者に言った形跡もなく、適当にまかれた包帯だけ。袖から見える腕には無数の傷が見えたわ。」

 

 湊さんは悲しそうな表情でそう言った

 

 俺は自分のそんな状態を、気にしたこともなかった

 

友希那「その時、私は慌てて問いかけたわ。どうして、そんな怪我をしているかを。」

陽介「......」

友希那「その問いかけに、その男の子は転んだと答えたわ。私は頭が真っ白になったわ。」

陽介(あれ......?)

 

 その話、記憶にある

 

 でも、あの時の子は......

 

友希那「嘘をつかないでと言ったら、あなたはお母さんがそう言ってたからそうなんだよって、笑顔で言ってたわ。」

陽介「!」

友希那「当時は春で暖かくなってきてたのに、私は寒気がしたわ。」

陽介「......(やっぱり、記憶の合致する。)」

 

 確か、それから、俺はその女の子と会うようになって

 

 それで、俺は家で何をしてるか答えた

 

 それが、母さんに見つかって......

 

陽介「ま、まさか、ゆきちゃん......?」

友希那「そうよ!」

陽介「やっぱり。」

 

 俺がここまで話してる相手は1人だけ

 

 でも、あの子は......

 

陽介「ゆ、ゆきちゃんって、年上だったんだ......」

友希那「え?そこだったの?」

陽介「いや、俺も最初は小さいのに歌が上手いなーと思ってて。」

友希那「あなた、失礼ね。」

 

 湊さんは不服そうな表情を浮かべている

 

 俺は苦笑いしながら湊さんをなだめた

 

友希那「でも、そんな事より......」

陽介「っ!」

友希那「なんで、私の前から消えたのよ......」

 

 湊さんは俺に縋り付くように抱き着き

 

 消え入りそうな声でそう言った

 

友希那「最初はあなたの事が怖かった、でも、次第にあなたに歌うのが楽しくなっていたの......」

陽介「湊さん......」

友希那「なのに突然、あなたは消えて......私ずっと、さがして......!」

 

 湊さんは涙声でそう言ってる

 

 でも、俺には引っかかる部分があった

 

陽介「俺の事、いつ気付いたんですか?」

友希那「二回目に会った時、あなたの額の傷が見えて、名前を聞いて確信したわ。」

陽介「そんな時から、気付いてたんですか。」

 

 なんで、湊さんが最初から優しかったとか

 

 あんなに安心できたのとか

 

 色々と合点がいった

 

友希那「あなたが彼女たちといた時点でもう、親がいないと言うのも分かったわ。」

陽介「そうですか......」

 

 湊さんは全部気付いてたわけか

 

 わざわざ、俺の事を覚えてて

 

 今まで......

 

友希那「優しいあなただから、あんな親にでも優しくすると思うわ。」

陽介「......はい。」

友希那「だから、悲しければ私を頼って。いつかは、悲しみからも解放してあげるから。」

陽介「......はい。」

 

 湊さんは優しく、俺の頭を抱いた

 

 俺の方が体が大きいのに、包み込まれる

 

陽介「でも、まだ、終わってません。」

友希那「?」

陽介「俺には、まだやるべきことが残されています。」

 

 俺はそう言って、湊さんを離した

 

 そう、俺にはまだやるべきことがあるんだ

 

陽介「まだ、決着はついてないですから。」

 

 俺はそう言って、ベッドから立ち上がり

 

 服をきっちりと着直した

 

陽介「また泣くのは、全部終わってからにします。」

友希那「決着って......」

陽介「家族と過ごした過去と決別します。」

友希那「っ!陽介......」

 

 体が震える

 

 捨てるのが怖いのは、俺の性なんだろう

 

 でも、捨てないと俺は前に進めない

 

陽介「......っ。」

友希那「陽介?」

陽介「はい?__!?」

 

 湊さんの方を向くと

 

 首に手を回され、ベッドに引き寄せられた

 

 形的には、俺が湊さんを押し倒した形になってる

 

陽介「み、湊さん!?」

友希那「怖いんでしょう?」

 

 湊さんはそうささやいた

 

 俺は肩が跳ねた

 

友希那「だから、勇気をあげる。」

陽介「勇気......?」

友希那「ここで、私をあなたのものにして......?///」

陽介「え?」

 

 湊さんは首に回してた手をほどき

 

 俺に体を差し出す体制になった

 

陽介「い、いや、そんな事をしたら......」

友希那「大丈夫よ///」

陽介「?」

友希那「私はずっと、あなたが好きだったから///ずっと、こうしたかった////」

陽介「!?」

 

 湊さんは拒むどころか、受け入れる体制だ

 

 俺の頭の中はパニック状態だ

 

友希那「陽介......?///」

陽介「み、湊さん......」

友希那「昔みたいに、ゆきちゃんって呼んでもいいのよ?///」

 

 頭では断らないといけないと思ってる

 

 でも、体が言う事を聞かない

 

 心のどこかで、このままでいいと思ってるんだ

 

陽介(駄目だ、まだ......)

友希那「陽介?」

陽介「まだ、駄目です。」

友希那「え......?」

 

 俺は理性をフル稼働させ

 

 湊さんの上から離れた

 

陽介「こんな中途半端な状態で、湊さんとそういう事をしたくない。」

友希那「そう......」

陽介「全ての迷いが晴れてからでも、何も遅くないですから。」

友希那「え?」

陽介「あっ。」

 

 俺、完全にやらかしてるな

 

 これじゃあ、本当は望んでますって言ってるようなもんだ

 

 いや、嘘でもないんだけど

 

友希那「それは、期待してもいいって事よね......?///」

陽介「あ、えーと、はい。(思考停止)」

友希那「じゃあ、その時を楽しみにしているわね///」

チュチュ「__陽介!」

陽介、友希那「!?」

 

 話を終えたのと同時にチュチュが保健室に入ってきた

 

 俺は湊さんから急いで離れた

 

ますき「大丈夫か、出水?」

陽介「佐藤も?」

チュチュ「あなたの母親が来たらしいけれど、大丈夫なの?」

陽介「あぁ、湊さんが助けてくれた。」

 

 俺がそう言うと、チュチュはホッ吐息をついた

 

 佐藤も安心したようだ

 

チュチュ「湊友希那。」

友希那「なに?」

チュチュ「陽介をありがとう。」

陽介、ますき、友希那「!?」

 

 チュチュは湊さんに頭を下げた

 

 俺たちは全員、かなり驚いた

 

陽介「チュチュ......」

チュチュ「あなたは私の家族なんだから、礼を言うのは当然なのよ。」

陽介「ありがとう、チュチュ。」

ますき「......いいやつだな。」

 

 改めて、チュチュの優しさが身に染みた

 

 家族って言ってくれたのも、嬉しかった

 

チュチュ「き、今日は帰るわよ!///」

陽介「おう。」

ますき「あたしも帰る。」

陽介「佐藤も来てくれてありがとうな。」

ますき「あたしも心配だったし。だがまぁ......」

陽介「?」

 

 佐藤は俺の目を真っ直ぐ見た

 

 そして、ふと笑った

 

ますき「いい目になったな、出水!」

陽介「!」

 

 佐藤は笑顔でそう言って

 

 拳を突き出して来た

 

陽介「あぁ......!」

 

 俺は自分の拳をあてた

 

友希那「......」

陽介「あ、湊さんはどうしますか?」

友希那「私も帰るわよ。」

 

 そう言って、湊さんもベッドから立ち上がった

 

 チュチュと佐藤は先に保健室から出た

 

友希那「陽介。」

陽介「はい?」

友希那「さっきの話、少し帰るわ。」

陽介「?」

友希那「あなたが選ぶ相手は私に限られていないわ。」

陽介「え?」

 

 湊さんの言う意味が分からない

 

 どういうことなんだ?

 

友希那「私はあなたが好きだけれど。」

陽介「は、はい。」

友希那「私以外にも、たくさんいるみたい。」

陽介「えぇ?」

友希那「もちろん、負けるつもりはないけれど。その子たちを選んでも文句は言わないわ。」

 

 湊さんはそう言って、保健室から出て行った

 

 俺はポツンと一人残された

 

陽介「ど、どういうことなんだ......?」

 

 俺は湊さんの言った意味を理解できないまま

 

 先に出て行ったチュチュと佐藤を追いかけた



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聞き耳

文化祭も終わって、今日は片づけだ

 

 俺は一足早く来て、片付けに取り掛かってる

 

 それで、出来るだけ早く帰ろうと思ってる

 

陽介「__こんなもんかな。」

 

 厨房の片づけは粗方終わった

 

 ゴミも落ちてないし、食器と道具の洗い残しもない

 

 校長と同時に来た甲斐はあった

 

陽介(本当は全部片づけたかったけど、一人じゃきつかったか。)

 

 時間を見れば、もうすぐ登校してくる時間だ

 

 見つからないように、裏口から出ないと

 

陽介「......帰るか。」

 

 俺はそう言って、厨房から出た

 

陽介「__っ!」

 

 すると、突然、教室の電気がついた

 

 暗い教室で作業してたからか

 

 目が慣れるのに少し時間がかかった

 

陽介「な、なんだ?」

モカ「水臭いねー、ようくんやー。」

陽介「青葉?」

蘭「あたし達もいるけど。」

 

 段々、目が慣れて来くると

 

 そこには、クラスメイトが全員いた

 

 俺は驚いて、後ずさった

 

巴「おいおい、一人で片付けてたのかよー!」

ひまり「てか、厨房一人で片付けてるじゃん!早すぎない?」

つぐみ「私達も呼んでくれればいいのに!」

 

 5人を口火に他のクラスメイトも俺に話しかけて来た

 

 もしかして、昨日の事を知らないのか?

 

つぐみ「ここにいる皆、昨日の出水君の事は知ってるよ。」

陽介「!?」

つぐみ「それで、皆、集まってくれたんだよ!」

陽介「な、なんで?」

 

 流石にあの出来事を知ってて

 

 俺に近づこうと思うのか?

 

男子「出水ぃ!」

陽介「な、なんだ?」

男子「お前、辛かったんだなぁ......!」

陽介「泣いてる!?」

女子「だって、あんなになるまで親に追い詰められてるなんて!」

 

 クラスメイトの皆は終えに色んな声をかけてくれてる

 

 俺はその様子を見て、ここの皆は本当に優しい人たちなんだって思う

 

 男子に関しては男泣きしてるし

 

陽介「でも、なんで、いつもはまだ誰も来てない時間なのに?」

巴「あたし達が呼んだのさ。」

ひまり「いずみん、どうせ、俺はダメだからーとか言うと思って!」

蘭「皆がどう思うか、これでわかるでしょ?」

 

 これを画策したのは5人らしい

 

 目尻が熱くなるって、こういう事だな

 

陽介「......ありがとう、皆。」

 

 俺がそう言うと

 

 クラスは祭りのような盛り上がりになり

 

 それから、俺は皆と残りの片づけをした

__________________

 

 片付けは昼には終わり

 

 俺は5人と帰る事になった

 

モカ「__いやー、今日は感動だったねー。」

陽介「そうだな。」

 

 人間の暖かさを感じた

 

 前の学校が酷いだけだった

 

巴「気分いいし、ラーメンでも食いに行こうぜ!」

ひまり「いいねぇー!」

陽介「あ、悪い、チュチュとパレオのご飯用意しないと。」

つぐみ「私も店の手伝いが......」

蘭「あたしも華道。」

モカ「パン~。」

巴「マジかー。」

ひまり(え?モカのって理由なの?)

 

 そうして、俺達は間もなく別れ

 

 俺は帰路についた

__________________

 

 家に帰ってくるとチュチュとパレオは家にいた

 

陽介「__ただいま。」

チュチュ「おかえり、陽介。」

パレオ「おかえりなさいませー♪」

 

 2人は笑顔で家に迎えてくれる

 

 昨日、家族と豪語しただけに

 

 少し2人の顔をを見るのが照れくさいな

 

チュチュ「どうしたの?」

陽介「い、いや、なんでもない。」

チュチュ「?」

パレオ「少し、顔が赤くありませんか?」

陽介「な、なんでもないぞー。」

 

 俺は鞄を置き

 

 慌ててキッチンに行った

 

陽介(さてと、昼ご飯作るか。)

チュチュ「陽介ー、ジャーキーある?」

陽介「買ってきてるよ。」

チュチュ「Thanks」

 

 俺がそう答えると

 

 チュチュは嬉しそうにソファに座った

 

陽介「よし、早く作らないと。」

 

 俺はそう呟いて

 

 昼ご飯を作り始めた

__________________

 

 俺はテーブルに料理を並べ

 

 チュチュとパレオは席に着いた

 

 そして、食事を始めた

 

チュチュ「美味しいわ。」

パレオ「やっぱり、ようさんは天才ですよー!」

陽介「いやいや、俺くらいできる奴なんていくらでもいるよ。」

パレオ「そうですかねー?」

陽介「そうそう、これとか、ちょっと味濃いし......って、え?」

チュチュ、パレオ「?」

 

 俺は今、なんて言った?

 

 味の事言ったよな?

 

陽介(味覚が戻った!?)

チュチュ「そんなに濃いかしら?」

パレオ「普通だと思いますけど?」

陽介「そ、そうか?」

 

 何で突然、味覚が戻ったんだ?

 

 いや、それ自体は良い事だし、良いんだけど

 

 無意識過ぎてびっくりした

 

陽介(でも、これならもっと、料理の質上げられるな。ラッキー。)

 

 俺は小さくガッツポーズをした

 

 これで、2人にもっと美味しいものを食べさせられる

 

チュチュ「そう言えば、陽介はこれから予定はあるの?」

陽介「うーん、少し調べものするくらいかな?」

チュチュ「じゃあ、家にいるのね?」

陽介「まぁ、うん。」

 

 俺が頷くと、チュチュは笑みを浮かべた

 

チュチュ「じゃあ、ゆっくりしなさいよ。」

陽介「あぁ、分かった。」

パレオ「ふふふ。」

 

 チュチュにそう言われた後

 

 俺は食事を済ませて

 

 洗い物をし、部屋に戻った

__________________

 

 部屋に戻ると、俺はパソコンを開き

 

 調べものを始めた

 

陽介(__これだ。)

 

 調べてるのは父さんの会社の事だ

 

 主に倒産の理由を調べてる

 

陽介「......これは。」

 

 気になる記事を見つけた

 

 これは、あの会社の社員の掲示板?

 

陽介「会社の金を横領、社内情報の流出......」

 

 そこには色々な事が書き込まれてる

 

 ネットの情報だし、確かじゃないけど

 

 情報の流出はニュースにもなってた

 

 俺はそのページを流し見た

 

陽介「__なんだこれ。」

 

 そこで、気になる一文が見えた

 

陽介「得意先の社長令嬢の恋人が浮気してた?」

 

 どうやら、父さんの会社の社員が令嬢にアプローチをかけ

 

 交際に発展したが、相手が既婚者だと判明

 

 その怒りで売り上げがほぼなくなり、ほどなくして倒産

 

陽介「......待てよ?」

 

 この情報が確かなら

 

 父さんの浮気の期間と完璧に合致する

 

 いや、でも、な?

 

陽介「流石に、な?冗談だよな?」

 

 相手は大きくはないにしても社長令嬢だし

 

 ネット上に名前が出ない事なんてあるのか?

 

 俺はそう思って、社長令嬢の相手の名前を調べた

 

 それ意外にと言うか、簡単に出て来た

 

陽介「......うっわ。」

 

 相手の名前は父さんの名前だった

 

 もう少し、信じさせてほしかったけど

 

 もう悲しいとかじゃなくて、呆れた

 

 横領した金もホテルや貢ぎに使われてたらしい

 

 てか、俺が中2の時から浮気してたのかよ

 

 よくバレなかったな

 

陽介「目も当てられねぇ......」

 

 浮気が原因で、会社が倒産して

 

 母さんと離婚して、俺は捨てられたのか

 

 なんか、文面にしたら馬鹿馬鹿しいな

 

 俺が色々、吹っ切れてるのもあるけど

 

陽介「俺、父さんぶん殴っても許されるよな?」

 

 段々と怒りがこみあげて来た

 

 俺はページを全て消し

 

 パソコンをシャットダウンした

 

陽介「もう、なんなんだろ......」

 

 今まで悩みに悩んだ時間は何だったんだ

 

 俺はこんなバカな人間に振り回されてたんのか

 

陽介「決めた。父さんは一回ぶん殴る。」

 

 俺はそう呟き、時計を確認した

 

 今で2時くらい、そんなにかからなかった

 

 俺は水を飲むためにリビングに行った

__________________

 

チュチュ「__マスキング!そこ違うわよ!」

ますき「あぁ?」

陽介(ん?)

 

 リビングに来ると

 

 RASの皆の声が聞こえた

 

 何かの飾りつけをしてるみたいだ

 

パレオ「楽しみですねー!ようさんの誕生日会!」

陽介(え?)

レイ「そうだね。皆、プレゼント何用意した?」

六花「私は、寒くなって来るので冬物の服を!」

パレオ「どんなのですかー?」

六花「それは、見てからのお楽しみで!」

陽介(すごい嬉しいけど、六花、高そうな袋持ってる!?)

 

 すごい申し訳ないんだけど

 

 今度、お礼しよう

 

レイ「私は料理本かな、かなり本格的なやつ。」

ますき「おぉ、いいな。」

レイ「出水君の料理に少しでも役立ってくれれば。」

陽介(レパートリーなくなってきたからすごい助かる。)

 

 和奏のセンス、最高

 

 何かお礼で作ろう

 

パレオ「私はネックレスを買いました!」

六花「えぇ!?」

パレオ「ようさん、オシャレをしないんですよ!少々、値は張りましたが......」

陽介(ちょ、パレオ、まじ!?オシャレ、気を遣おう。)

 

 また、お礼しよう

 

 バイト代溜まったらパレオの欲しいもの買ってやろう

 

チュチュ「私はスーツよ。」

レイ「スーツ?なんで?」

チュチュ「もしも、陽介が私のライブの準備についてくるとき、恥をかかないようにするためよ。他にも用途はあるし、長く使えるわ。」

パレオ「流石です!チュチュ様!」

チュチュ「当然よ!」

陽介(そこまで考えてるのか。よし、もっと頑張ろう。)

 

 チュチュの手伝い、もっとしよう

 

 まずはバンドの知識をつけよう

 

チュチュ「マスキングは?」

ますき「あー、あたしは財布と時計だ。」

陽介(!?)

 

 俺は佐藤が言い放った言葉に驚いた

 

 財布と時計?

 

 しかも持ってる袋、あれ絶対に高いぞ

 

六花「こ、高級品なんじゃ......?」

ますき「まぁ、サポートで稼いだ金、吹っ飛んだ。」

レイ「それって相当じゃない?」

ますき「いいんだよ。誕生日なんだし。」

 

 佐藤は軽くそう言ってる

 

 俺的には申し訳なさ過ぎて

 

 今すぐ、何かしないといけないと思ってるんだが

 

ますき「あいつはガキの頃から苦労してたし、今までの分、贅沢してもいいだろ?てか、誕生日って口実ねぇと、こんなの渡せねぇよ......///」

レイ「ますき......」

六花(なんだろ、ますきさんから似た匂いがする。)

 

 しばらくすると、俺は聞き耳を立てるのをやめ

 

 静かに部屋の方に歩いた

 

陽介(これから、全員に恩返ししていこう。)

 

 俺は皆に感謝しながら

 

 そう強く心に誓った

 

 この後、皆から誕生日を祝ってもらって

 

 すごく、幸せな1日になったのは言うまでもない



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誕生日

 先日、俺は17歳になった

 

 みんなが誕生日を祝ってくれて

 

 すごく、幸せな時間だった

 

陽介「__おはよう。」

つぐみ「あ、出水くん!おはよう!」

モカ「おはよー。」

蘭「はやっ。」

 

 俺はいつも通り

 

 学校に来て5人に挨拶した

 

 やっぱり、この5人は落ち着く

 

陽介「って、あれ?宇田川に上原は?」

蘭「あれ。」

陽介「?」

 

 俺は美竹が指さした方を見た

 

 そこには、死にそうな顔の2人がいた

 

巴「テスト、今日がテスト.....」

ひまり「終わった......」

陽介「あっ(察し)」

 

 もう察した

 

 いつも通りってやつだこれは

 

巴「このままじゃ、あこと同じ学年になっちまう......」

ひまり「やばいやばいやばい。」

陽介「あ、あはは......」

蘭「ちゃんと勉強すればいいのに。」

巴「ふっ、いつも通り過ごしてたらテストから来てたんだ。」

 

 宇田川はふっと笑ってそう言った

 

 美竹と羽沢は困ったような顔をしてる

 

 俺も苦笑いだ

 

巴「さて、陽介。」

陽介「あーはいはい。」

 

 俺は鞄からノートを出した

 

 そして、それを宇田川に渡した

 

巴「__ギリギリまで詰め込めー!」

ひまり「おー!」

 

 2人はノートを凝視し始めた

 

 目が血走ってる

 

 これは相当やばいんだな

 

蘭「全く......」

モカ「まー、これもいつも通りー。」

つぐみ「そ、それでいいのかな?」

陽介「良くはないと思う。」

蘭「あ、そう言えば。」

陽介「?」

 

 美竹は何かをつぶいやたかと思えば

 

 鞄からあるものを出し

 

 俺の方に差し出してきた

 

陽介「これは?」

蘭「誕生日、昨日でしょ?」

陽介「え?なんで知ってるんだ?」

蘭「生徒手帳に書いてたから。」

 

 あ、見たんですね

 

 まぁ、いいけど

 

蘭「まあ、押し花の栞だよ。」

陽介「ありがとう。ありがたく使うよ。」

モカ「じゃあ、モカちゃんはやまぶきベーカリーのポイントカードー。」

蘭「ちょ、モカ!」

つぐみ「モカちゃん!」

モカ「あっ......」

 

 青葉がポイントカードを出すと

 

 2人が叫んだ

 

 どうしたんだ?

 

モカ「ご、ごめん、ようくんー......」

陽介「あー。」

 

 これはあれか

 

 俺の味覚が戻ってるの知らないんだ

 

陽介「あの、3人とも?」

蘭、つぐみ、モカ「?」

陽介「実は、俺の味覚、戻ったんだ。」

 

 俺がそう言うと

 

 3人は目を見開いたまま固まった

 

 そして、数秒後

 

アフターグロウ「えぇぇぇ!?」

陽介「!?」

つぐみ「い、いつから?」

陽介「昨日かな?昼ごはん食べてる時に。」

巴「良かったなー!陽介ー!」

ひまり「きっと、いずみんに神様からのプレゼントだよ!」

陽介「そ、そんな大袈裟だな。」

 

 まさか、こんなに喜ばれるとは

 

 本当にいい人揃いだな

 

モカ「そうなれば、これはモカちゃんのフルコースを披露する時だねー。」

陽介「え?そんなのあるのか?」

蘭「やめといた方がいいよ。お腹壊すから。」

モカ「えー?」

つぐみ「出水君、うちにも来てみてね!」

陽介「俺も行きたいから行くよ。」

巴「それじゃあ、今日は陽介の祝いだー!」

蘭「あれ?巴、テストは?」

巴「大丈夫だ!いける!」

ひまり「私もー!」

モカ、蘭、つぐみ、陽介「あっ(察し)」

 

 それから、時間が経ってテストが始まり

 

 休み時間のたびに2人の目が死んでいったのは  

 

 まぁ、言うまでもないよな

__________________

 

 それから放課後

 

 テスト1日目が終わった

 

巴、ひまり「......」

蘭「まぁ、そうだよね。」

モカ「予定調和だねー。」

つぐみ「だ、大丈夫?」

巴「冷静に考えればさ、あこと同じ学年って楽しいよな?」

陽介「なんかとんでもないこと言い出した。」

 

 まだ諦めるのは早い

 

 早い、のか?

 

 いや、早いと言うことにしとこう

 

巴「__だか!」

陽介「!」

ひまり「いずみんのお祝い行くよー!」

モカ「めげないなー」

蘭「まぁ、誕生日もあるし。場所どうする?」

モカ「羽沢珈琲店ー」

つぐみ「うん!大丈夫!確認したらいいって!」

陽介「はや!?」

 

 これから俺たちは

 

 商店街にある羽沢珈琲店に向かった

__________________

 

 商店街には結構来てるけど

 

 羽沢珈琲店に来るのは初めてだ

 

 すごくいい雰囲気家のお店で

 

 コーヒーのいい匂いがする

 

陽介「__おぉ。」

つぐみ「ご注文は何にしますか?」

モカ「ようくんにつぐをひとつー」

つぐみ「もモカちゃん!?///」

 

 青葉はニヤニヤしながらそう言った

 

 羽沢は顔を真っ赤にしてる

 

蘭「あたしたちはいつも通りだね。」

巴「陽介も食うぞー!」

陽介「じゃあ、コーヒーとこのケーキにしようかな。」

つぐみ「はい!かしこまりました!」

 

 羽沢は慣れた手つきで注文を取り

 

 厨房のほうに行った

 

モカ「さー、ようくんー?」

陽介「なんだ?」

モカ「つぐのエプロン姿の感想はー?」

陽介「え?」

ひまり「あ!気になるー!」

巴「そうだな!」

 

 青葉、上原、宇田川の3人は

 

 興味津々と言う感じでそう聞いてきた

 

 美竹もすごい聞き耳立ててる

 

陽介「そうだなぁ......」

 

 俺は少し考えた

 

 羽沢のエプロン姿は  

 

陽介「なんというか、新妻感?があったな。」

モカ「おー、つまりは嫁にしたいくらい可愛かったとー?」

陽介「え?まぁ、嫁にしたいかは別として可愛かった。」

モカ「だってさー、つぐー」

陽介「え?」

つぐみ「///」

 

 後ろを向くと

 

 注文した品を持った羽沢が

 

 顔を真っ赤にして立っていた

 

ひまり「よかって!つぐ!」

巴「嫁にしたいだってさ!」

蘭「悪くないね。」

陽介「いや、嫁にしたいかはちょっと別なんだけど。」

モカ「でもー?」

陽介「え?」

 

 青葉は謎のふりをしてきた

 

 美竹の方をちらっと見た

 

 あ、言えと?いつものやつを

 

陽介「悪くない、とは思ってる。」

つぐみ「ふぇ......?///」

 

 あーもう言っちゃったよ

 

 いや、嘘でもないけどさ

 

巴「これはこれは?」

ひまり「もしかして?」

つぐみ「そ、そんなのじゃないよ!......まだ。」

ひまり「いただきましたー!」

蘭「何やってんだか。」

モカ「さ〜?」

陽介「いや、ふっかけたの青葉だろ。」

モカ「細かいことは置いといてー。食べよー?」

つぐみ「そ、そうだね!」

陽介「いただきます。」

 

 それから、俺たちはしばらく

 

 羽沢珈琲店で食事をしながら談笑した

 

 その間、俺と羽沢は 

 

 さっきの件で延々といじられ続けた

 

 そして、2時間ほど経った

 

ひまり「あ、そういえば。」

巴「どうした?」

ひまり「さっき、携帯鳴ってたけど、誰?」

陽介「俺じゃないぞ。」

蘭「あたしも。」

モカ「もかちゃんも違うー。」

つぐみ「私も。」

巴「あたしも来てねぇなー」

ひまり「え?」

 

 上原は慌てて携帯を見た

 

 そして、首を傾げた

 

ひまり「なんか、リサ先輩から、そっちに行ったって。」

蘭「何それ?」

陽介「?」

 

 俺たちは全員、首を傾げた

 

 そっちに行った?

 

 それ単体なら全く意味がわからない

 

 そう思ってると、突然

 

 店のドアが勢いよく開いた

 

アフターグロウ+陽介「!?」

日菜、友希那「陽介(君)!!」

 

 入ってきたのは

 

 氷川さんと湊さんだ

 

 すごく慌ててる

 

陽介「ど、どうしました?」

友希那、日菜「はい、これ!」

陽介「?」

 

 2人は同時に何かの袋を手渡してきた

 

 氷川さんのはフルーツっぽい

 

 俺はそれを受け取った

 

友希那「誕生日プレゼントよ!」

日菜「あたしも!」

陽介「え?知ってたんですか?」

友希那「さっき、リサから聞いたわ。」

日菜「それで、慌てて買ってきたんだよ。」

 

 え、すごい申し訳ない

 

 少なくとも2時間以内に買ってるし

 

友希那「私は包丁を買ったわ。」

陽介「包丁!?」

友希那「料理に使いなさい。」

 

 本当だ中に箱入ってる

 

 見た感じ、すごい綺麗な刃をしてる

 

日菜「あたしは見ての通りフルーツ詰め合わせ!チュチュちゃん達と食べてね!」

陽介「ありがとうございます。ありがたくいただきます。」

日菜「喜んでもらえてよかったよ!」

 

 すごくたくさんフルーツが入ってる 

 

 メロンとかマンゴーとかはいってる

 

 2人ともよろこぶだろうな

 

陽介「......」

 

 そう言えば、

 

 俺って昨日の今日でいいもの貰いすぎだよな

 

 俺もきっちりお返ししないと

 

日菜「あ、陽介君、そんなに気にしなくてもいいよ!」

陽介(心読まれた!?)

日菜「もっと前もって知ってたら、もーっと、るん♪ってくるもの買えたから!」

陽介「いやいや、これ以上は凄すぎですよ。」

 

 これ以上ってなんなんだろう

 

 庶民感覚の俺には想像もつかない

 

友希那「陽介、お誕生日おめでとう。」

日菜「おめでとー!陽介君!」

ラン、巴、ひまり「あめでとう!」

つぐみ「お誕生日おめでとう!」

モカ「おたおめー」

陽介「ありがとう、みんな!」

 

 こうして、俺は誕生日の翌日も

 

 みんなに祝ってもらってとても嬉しかった

 

 俺も絶対にみんなの誕生日に何かしよう

 

 そう固く心に誓った

 

 

 

 



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決着

 テストが期間が過ぎ

 

 一日挟んで順位が発表された

 

陽介「__おぉ。」

モカ「お~。」

 

 俺の順位は学年5位

 

 前回から4つ上がった

 

 これは流石に驚いた

 

つぐみ「今回難しかったのに、すごい!」

陽介「いやー、流石に驚いた。」

蘭「それに対して、あの2人は......」

巴、ひまり「」

陽介「あっ。」

 

 俺は2人の順位を確認した

 

 結果はまぁ、お察しだった

 

 これには青葉すら苦笑いだ

 

陽介「ま、まぁ、順位は下がったけどそこまで深刻じゃないって。」

つぐみ「そ、そうだよ!赤点の数も減ってたし!」

モカ「補修は免れないけどねー。」

蘭「モカ!」

巴「だ、だよな~......」

ひまり「アハハ......」

 

 やばい2人の目に光がない

 

 いや、確かにヤバいけど

 

モカ「まー、元気だしなよー。」

つぐみ「そうだよ!この後は修学旅行の話だよ!」

ひまり、巴「あ、そうだった!!」

陽介、蘭「!」

巴「テンション上がって来たー!」

 

 いきなり元気になったな

 

 それにしても、修学旅行か

 

陽介「どんなだろう、修学旅行。」

蘭「そう言えば、行った事ないんだっけ。」

陽介「まぁ。」

モカ「じゃあ、教えてあげるよー。」

陽介「!」

 

 青葉がそう言うので

 

 俺は青葉の方に顔を向けた

 

モカ「修学旅行はねー。」

陽介「修学旅行は?」

モカ「すっごい楽しいものだよー。」

陽介「いや、アバウトだな。」

蘭「そんな事だと思った。」

 

 美竹は呆れながらそう言った

 

 まぁ、青葉はこんな感じだと思ってた

 

つぐみ「説明会は去年にあったから、出水君は知らないよね。」

陽介「一応、書類で内容は見たよ。」

モカ「楽しみだよねー、スキー。」

陽介「スキーって初めてするな。」

蘭「まぁ、この近くにないからね。」

 

 感慨深いな

 

 初めての修学旅行で初めてのスキー

 

 世界が広がってるように感じるな

 

 そんな事を考えながら

 

 俺達は教室に戻った

__________________

 

 ホームルームで修学旅行の事を決めるらしい

 

 まぁ、活動班は美竹たちとだし

 

 部屋は色々あって一人に部屋だし

 

 俺が決める事ってほぼないな

 

モカ「あたし達はもうほぼ決まってるみたいなもんだしー、観光どこ行くか考えよっかー。」

陽介「と言っても、何があるか知ってるのか?」

モカ「わかんないー。」

つぐみ「あ、あはは。」

陽介「まぁ、だよな。」

 

 観光ねー

 

 まぁ、どうせ気ままに動くだろうし

 

 決めて意味があるかと言われると、な?

 

モカ「修学旅行で何したいー?」

つぐみ「修学旅行で?」

陽介「うーん。」

 

 まぁ、楽しめればいいかな

 

 勝手もわからんし

 

陽介「青葉は何がしたいんだ?」

モカ「うーん、あたしはねー。」

つぐみ「?」

モカ「ようくんのお部屋行きたいなー。」

つぐみ「!?///」

陽介「ダメだろ。」

 

 何を言ってるんだか

 

 そんなのしたら大騒ぎだよ

 

 そして、俺が干されるわ

 

モカ「えー。」

陽介「俺が捕まるから勘弁してくれ。」

つぐみ「だ、だよね......///」

陽介「羽沢?どうした?」

つぐみ「な、なんでもないよ!?///」

陽介「そ、そうか?」

 

 まぁ、こんな感じの会話をしてるうちに話は進んで行き

 

 なんだかんだ、時間は過ぎていった

__________________

 

 放課後、俺は5人と学校を出た

 

 そして、通学路を歩いている

 

陽介(あぁ、そろそろ時間だ。)

巴「この後さどっか行かね?」

ひまり「あ、いいね!」

モカ「現実逃避ー?」

巴、ひまり「そうじゃない!」

蘭「まぁ、あたしもいいよ。」

つぐみ「私もうちの手伝いないよ!」

陽介「俺はちょっと、予定あるな。」

アフターグロウ「?」

 

 俺がそう言うと5人は首を傾げている

 

 俺は少し笑って、口を開いた

 

つぐみ「何かあるの?」

陽介「まぁ、色々とな。」

 

 俺はそう言って、

 

 5人と別の方向を向いた

 

陽介「ちょっと、修学旅行を楽しむ準備をしてくる。」

 

 俺は手を振りながら

 

 ある場所に向けて歩いて行った

 

 ”アフターグロウ”

 

 陽介が去った後

 

 蘭は突然、口を開いた

 

蘭「あれ、どう思う?」

 

 蘭のその問いかけに

 

 4人は黙り込んだ

 

 あの顔は何かする気だ

 

 そう言うのが伝わってきた

 

モカ「何かしそうだね。」

巴「それも大体、想像つくな。」

つぐみ「うん......」

ひまり「多分、あれだよね?」

 

 5人の考えは一致していた

 

 陽介は親に会いに行く

 

 そうに違いないと

 

つぐみ「大丈夫かな......」

モカ「まー、大丈夫でしょー。」

蘭「モカ?」

モカ「今のようくんは違うからねー。」

 

 モカはそう言い

 

 歩を進めた

 

モカ「行こっかー。」

巴「まぁ、あたし達が口出すことじゃないな。」

ひまり「そうだね......」

 

 そう言って5人は歩を進めた

 

 その間、4人は

 

 モカの余裕に少し疑問を感じていた

__________________

 

 ”陽介”

 

 しばらく歩き

 

 俺はある建物の前に来た

 

 ここは、俺の親が浮気の示談で使った建物だ

 

 俺はそんな建物に軽い足取りで入り

 

 ある部屋に迷いなく入った

 

陽介「__お待たせ、母さん、父さん。」

陽介父母「!」

同僚「来たか。」

 

 部屋の中には両親と父さんの同僚

 

 俺は笑みを浮かべながら

 

 3人の前に座った

 

陽介「久しぶりだね。」

母「......」

父「いきなり呼びつけて、何の用だ。」

陽介「せっかちだね。盛るのは浮気だけにしてよ。」

父「っ!!」

 

 俺が煽るような口調でそう言うと

 

 父さんの肩が跳ね、目つきが鋭くなった

 

陽介「まぁ、俺もあんたらなんかと長い間いたくないし。さっさと話しを進めようか。」

 

 俺はそう言って、

 

 ある紙を2人の前に出した

 

父「これは?」

陽介「誓約書だよ。俺に二度と近づかないって言う内容のね。」

母「!」

父「......これを、書けと?」

陽介「そうじゃなきゃあんたらに一切用はないよ。」

 

 明らかに2人は動揺してる

 

 まぁ、そうだろうな

 

母「か、考え直さない......?」

陽介「なんでかな?」

父「お、俺達の遺産を相続できなくなるぞ?」

陽介「いらないよ。そんな負の遺産。」

父母「!?」

 

 まさか、といった表情だ

 

 それもそのはず

 

 この2人で残せる遺産は借金しかないんだ

 

陽介「俺はあんたらと縁を切るのもそうだけど、遺産を引き継ぎたくないから今日呼びつけたんだよ。」

同僚「このことは私が伝えた。」

父「お、お前!」

陽介「じゃあ、さっさと書いてよ。俺だって合計数千万もある借金なんて背負いたくないんだよ。」

 

 俺がそう言っても2人は手を動かそうとしない

 

 そして、2人は少しため息をついた

 

父「誰が書くか、こんなの。」

陽介「!」

母「そ、そうよ。」

陽介「ふーん。」

父「俺は認めないぞ。お前だけが幸せになるなんて。」

母「親の苦しみを一緒に味わいなさい。」

 

 なーに言ってんだか

 

 馬鹿馬鹿しくて笑えて来た

 

 もう、あんたらに拒否権なんてないんだよ

 

陽介「じゃあ、借金増えるけどいいんだね?」

父母「は?」

陽介「これは何かわかるかな?」

 

 俺はさらに鞄から 

 

 ある紙を出した

 

母「それは?」

陽介「診断書。」

父母「え?」

陽介「あんたらに今まで付けられた傷。捨てられた時の精神病とかの。」

 

 その言葉を聞き

 

 2人は再度動揺した

 

陽介「それとこの、レコーダー。」

 

 これは同僚さんから送られてきたものだ

 

 これには俺を捨てた証拠がたんまりと入ってる

 

陽介「2人が拒否するなら、俺はこれを証拠に裁判を行う。」

父母「!?」

陽介「さーて、2人からいくら取れるかなー?」

父母「......」

 

 この2人は最終的に俺に借金を押し付ける気だった

 

 だって、今、父さんは無職

 

 母さんは俺を連れてこれなかったから浮気相手に捨てられたから

 

 どうせ、借金返済のめどなんてない

 

陽介「俺と裁判したら借金増えるね。」

父「そ、それが親にする事か......?」

陽介「じゃあ、あんたらのしたことは親のする事?」

父母「......」

陽介「今更、家族面する必要ないよ。俺はあんたらなんて必要ないからさ。」

 

 俺は再度、紙を2人に突きつけた

 

 そして、こういった

 

陽介「さっさと書いてよ。」

父「......この、クズめ。」

母「悪魔......」

陽介「あはは、笑わせんな。」

 

 俺はそう言って

 

 書類を記入させ

 

 ハンコを押させ、契約が成立した

 

 俺はそれを鞄に入れた

 

陽介「さてと、じゃあ、真面目な話はここまでだな。」

 

 俺はそう言うと椅子から立ち上がり

 

 元父親の前に立った

 

父「?」

陽介「俺は感謝してるよ。」

父「は?」

陽介「あんたらが捨ててくれたおかげで、良い家族やいい友達に出会えたから。結果的には良かった。」

父「それが、なんだ?」

陽介「でも、元はと言えばあんたの浮気のせいだよな。」

父「っ!?」

 

 俺はこぶしを握り締め

 

 そして、元父の右頬を殴った

 

 元父は椅子から転がり落ちて行った

 

父「な、何をする!?」

陽介「最後に2人に向けて一言。」

父母「?」

陽介「さっさと死んじまえ、クズ人間共!!」

 

 俺はそう言って

 

 その部屋を出て行った

 

 俺の心は妙に晴れやかだった

 

同僚「......立会人の仕事は終わりました。私も帰る。」

 

 同僚さんも部屋を出て来た

 

 それを確認して、その建物を後にした

__________________

 

 俺は建物を出ると

 

 少し息をついた

 

陽介「__やっと、終わった。」

 

 心が本当に軽い

 

 雲一つない快晴の空のような

 

 そんな気分だ

 

ますき「......やっぱ、ここにいやがったか。」

陽介「佐藤?」

 

 建物のドアの袖には

 

 佐藤が立っていた

 

 横にバイクが置かれてある

 

ますき「その様子じゃ、決着はついたみたいだな。」

陽介「あぁ、完璧にな。」

ますき「そうか!」

陽介「!」

 

 佐藤はそう言って

 

 笑顔で拳を突き出して来た

 

陽介「ふっ。」

 

 俺はその拳に自分の拳を合わせた

 

 俺と佐藤は笑いあった

 

ますき「やったな、出水!」

陽介「あぁ、佐藤!」

 

 俺と佐藤は拳を放し

 

 少し落ち着いた

 

ますき「これで、お前も迷いなく生きられるな。」

陽介「あぁ。」

ますき「じゃあ、行こうぜ。」

 

 佐藤はバイクに乗り

 

 後ろを指さした

 

ますき「行こうぜ、あいつの誕生日祝うんだろ?」

陽介「あぁ、行こう。」

 

 俺はそれから佐藤にヘルメットを受け取り

 

 家に向かって走って行った

 

 その間、俺の心はバイクに乗ってるそう快感を体一杯に感じていた

 

 

 



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家族

陽介「__よし。」

 

 チュチュが寝静まった後、

 

 俺はキッチンである作業をしていた

 

 そして、それが終わり、少し息をついた

 

陽介(なんとか、間に合った。)

 

 なんで、こんなことをしてるかというと

 

 明日、いや、今日はチュチュの誕生日だからだ

 

 RASの皆と打ち合わせをして、

 

 今日までゆっくり準備を進めて来た

 

 そして、大体、準備は整った

 

陽介「さてと、俺も寝るか。」

 

 俺はキッチンにおいてあるそれを片付け

 

 自室に戻り、眠りについた

__________________

 

 朝になり

 

 俺はいつも通り朝ごはんを準備し

 

 3人で食卓を囲んでいる

 

陽介「__なぁ、チュチュ。」

チュチュ「どうしたの?」

陽介「今日は何か用事あるか?」

チュチュ「そうね、今日は特にないわ。」

陽介「そうか。」

 

 という事は家にいるのか

 

 さて、これはどうするか

 

 俺がそう思ってると、

 

 パレオがアイコンタクトをしてきた

 

パレオ「チュチュ様、今日はライブハウスへの訪問がありますよ?」

チュチュ「そんなのあったかしら?」

パレオ「ありましたよー!」

 

 チュチュは少し考え

 

 少しするとハッとした顔をした

 

チュチュ「......あったわ。」

陽介「じゃあ、俺は留守番だな。」

チュチュ「えぇ。ゆっくりしてなさい。」

パレオ「ごゆっくりー!」

陽介「あぁ、分かった。」

 

 それから、朝ごはんを済ませ

 

 チュチュとパレオは家を出た

 

 俺は家に一人残った

 

陽介「さてと、初めて行くか。」

 

 俺はそう呟き

 

 誕生日会の準備を始めた

__________________

 

 暫く準備を進めると

 

 佐藤と和奏と六花が来た

 

 3人は部屋の装飾ともう一つの用意を始めた

 

陽介(__作っていくかー。)

 

 俺は料理を作って行った

 

 とりあえず、チュチュが気に入ったものを片っ端から

 

ますき「相変わらず、手際良いなー。」

陽介「これくらい普通だろ?」

ますき「普通じゃねぇよ。」

レイ「ほんとにかなり手際良いよね。」

六花「年季が入ってるように感じます!」

陽介「ふーむ。」

 

 そんなにいいんだろうか

 

 まぁ、結構慣れてきたし

 

 程々には良いんだろうな

 

ますき「てか、お前は何にしたんだ?」

陽介「ん?」

ますき「プレゼントだよ。」

陽介「あー、気になる?」

六花「私も気になります!」

レイ「私も気になるな。」

陽介「そうだなぁ。」

 

 まぁ、減るもんでもないし

 

 見せてもいいかな

 

陽介「俺は作ったよ、プレゼント。」

六花「作った?」

陽介「これ。」

ますき、六花、レイ「えぇ!?」

 

 俺がプレゼントを見せると

 

 3人は驚きの声を上げた

 

レイ「こ、これ作ったの!?」

陽介「あぁ。結構かかったよ。」

六花「け、結構って、どの位ですか?」

陽介「うーん、テスト期間、チュチュがいない時間と寝てる時間使って大体、3徹くらいかな?」

ますき「す、すげぇな。」

陽介「材料集めも結構かかったよ。いやー、楽しかった。」

 

 最近は色々することが多かったし

 

 材料集めだけでも3日かかったよ

 

ますき「まさか、ここまでやるとはなぁ......」

陽介「まぁ、俺にできるのはこのくらいだし。」

六花「いや、すごいですよ!こんなの普通、作れないです!」

レイ「プロと遜色ないんじゃないかな?」

陽介「いや、それはないだろ。」

 

 それから、俺達は準備を進めていった

 

 そして、時間が過ぎていった

__________________

 

 しばらく、時間が経ち

 

 パレオから連絡が来た

 

 もうすぐ、帰ってくるみたいだ

 

陽介「__3人とも、準備してくれ。」

ますき「おう、分かった。」

レイ「了解」

六花「はい!」

 

 俺たちはドアの前に集まった

 

 そして、チュチュが来るのを待った

 

パレオ「チュチュ様!早く!」

チュチュ「ちょっと、パレオ!」

 

 そんな声と共に

 

 チュチュとパレオが部屋に入ってきた

 

 それと同時に俺たちはクラッカーを鳴らした

 

RAS4人+陽介「チュチュ(様)誕生日おめでとう!」

チュチュ「え?」

 

 チュチュは鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔をしてる

 

 そんな様子を見て、みんな笑顔になってる

 

チュチュ「い、いつの間に準備してたの?」

陽介「俺の誕生日の2日後から。バレないように。」

パレオ「ようさんの隠密さには頭が下がりました!」

チュチュ「ま、全く気づかなかったわ。」

パレオ「それでは、チュチュ様!」

チュチュ「What!?」

 

 パレオはチュチュを引っ張り

 

 椅子に座らせた

 

 その前には4人の楽器が置かれている

 

レイ「チュチュの誕生日を祝って。

Beautiful Birthday」

 

 和奏がそう言うと

 

 4人の演奏が始まった

 

 すごく、いい歌だ

 

 小さくも大きく輝く、

 

 チュチュと言う人間を表してるようで

 

 みんな、チュチュのことが好きなんだって伝わってくる

 

陽介(マジで、すごい。)

 

 これがRASに選ばれた4人の演奏

 

 少ない時間でここまでに仕上げるのか

 

 流石としか言いようがないな

 

 そう思ってるうちに演奏が終わった

 

ますき「__どうだ?チュチュ?」

チュチュ「Excellent......」

パレオ「やりました!」

六花「はい!」

レイ「お疲れ様、みんな。」

 

 チュチュもかなり喜んでる

 

 まぁ、驚いてる方が強そうだけど

 

 そう思ってると

 

 佐藤が俺の方を向いた

 

ますき「そう言えば、出水もプレゼントあるらしいぞ。」

陽介「!?」

チュチュ「present?」

ますき「あぁ。」

 

 佐藤は悪そうな顔をしてる

 

 この雰囲気で俺に振るか?

 

 チュチュも俺の方見てるし

 

陽介「あー、分かった。持ってくる。」

 

 俺はそう言って

 

 キッチンに行き

 

 プレゼントを取った

 

 そして、5人のところに戻った

 

チュチュ「そ、それ!」

陽介「えっと、ローズケーキってやつ。」

 

 そう、俺が作ったのはローズケーキ

 

 かなり精巧に作れたと思う

 

 チュチュは驚いた顔をしてる

 

パレオ「それにしても、色んな色がありますね?」

陽介「まぁ、意味があるから。」

 

 俺はいくつかにエリアを分けて

 

 花束をいくつか作った

 

陽介「赤の中に白のは温かい心って意味があって。赤と白にもそれぞれ、愛してますと深い尊敬って意味があって。ピンクには可愛い人。青は奇跡って意味がある。」

 

 俺はそう言いながら、

 

 チュチュの前に立った

 

 そして、口を開いた

 

陽介「チュチュ。」

チュチュ「陽介?」

陽介「俺の家族になってくれて、ありがとう。」

チュチュ「!!」

 

 俺がそう言うと

 

 チュチュは目を見開き

 

 そして、バッと顔を隠した

 

陽介「え!?チュチュ!?」

チュチュ「な、なんでもないわ。」

パレオ「チュチュ様〜、泣いておられますね?」

チュチュ「な、泣いてないわよ!」

ますき「良かったなー、チュチュー。」

 

 4人はチュチュを取り囲んでる

 

 チュチュは騒いでるけど

 

 手と手の間から泣いてるのが見えた

 

 喜んでる、のか?

 

レイ「でも、本当にすごいよね、これ。」

六花「そうですね!チュチュさんへの愛を感じます!」

チュチュ「すごい......」

 

 チュチュは涙がひいたのか

 

 手を顔から外し

 

 プレゼントを見てる

 

チュチュ「ありがとう、陽介!」

陽介「喜んでくれたなら、よかった。」

 

 俺はチュチュにそう言った

 

 チュチュは本当に嬉しそうにしてる

 

 そう言う様子は可愛らしい

 

ますき「よかったな、出水。」

陽介「佐藤?」

ますき「最高の家族に出会えて、よかったな。」

陽介「あぁ、そうだな。」

 

 俺はチュチュたちを眺めた

 

 そして、少し笑った

 

陽介「本当に最高の家族だよ。」

ますき「......そうか。」

陽介「佐藤は最高の相棒かな。」

ますき「ん?」

陽介「な?」

 

 俺はそう言って

 

 佐藤の方に拳を出した

 

 すると、佐藤はふと笑って

 

 拳を合わせてきた

 

陽介「やっぱり、佐藤は良い奴だな。」

ますき「どっちがだよ。お人好し。」

陽介「そう言うなって、相棒。」

ますき「相棒、悪くはねぇな。」

陽介「だろ?」

 

 俺はたまに思うことがある

 

 やっぱり、佐藤が大事だって

 

 佐藤がいなかったら何も始まってなかったって

 

 この目のことも全部、

 

 俺を救うためのものだったんじゃないかって

 

陽介「やっぱ俺、佐藤が大事だよ。」

ますき「!///」

陽介「それだけだよ。」

 

 俺はそれだけ言って

 

 みんなの方に歩いていった

 

 そして、パーティが始まり

 

 楽しい時間を過ごした

 

ますき「__たくっ、あの野郎......///」

 

 その間、佐藤の顔が赤かったけど

 

 まぁ、気のせいだと思う



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約束

 今日は終業式の日だ

 

 なんか、一瞬で時間が過ぎた気がする

 

 でも振り返ってみたら色々あったな

 

陽介(もう、すっかり寒くなったな。)

 

 ここに来たときはまだ春

 

 それからもう約8か月経ったのか

 

 時間の流れって言うのは早いな

 

モカ「黄昏てますな~。」

陽介「おはよう、青葉。」

 

 窓の外を眺めてると

 

 5人が教室に入ってきた

 

つぐみ「おはよう!出水君!」

蘭「何考えてたの?」

陽介「うーん、時間が経つのは早いなーって。」

ひまり「考えてる事が年取ってるねー。」

巴「はは、そうかもな。」

 

 今となっては俺もいい友達が出来た

 

 一緒にいて楽しいし、みんないい人だし

 

 ほんとにこの5人には救われてると思う

 

 佐藤の言った事がまさしく現実になったな

 

モカ「おー、また黄昏た顔してるー。」

陽介「そうか?」

モカ「うんー。何と言うか、儚い......って感じー?」

陽介「はは、なんだそれ。」

つぐみ「でも、今日はなんだか雰囲気が柔らかいね!」

陽介「んー、まぁ、それはあるかもな。」

 

 自分で自分の変化って分かりづらいけど

 

 なんだか、最近、心が穏やかになってる気がする

 

 よく分からないけど

 

ひまり「そう言えば、皆は冬休みに予定ある?」

蘭「あたしは年末年始は親せきの集まりかな。」

モカ「モカちゃんは暇ー。」

巴「アタシもかな?」

つぐみ「私も時間あるよ!」

陽介「俺は、まぁ、その時によるかな。」

ひまり「いずみんはかなり忙しいもんねー。」

 

 年末年始って何してるんだろ

 

 年末は大掃除して

 

 年始はRASの皆で新年会して

 

 バイトして課題して、くらいだな

 

巴「冬休み終わったらすぐに修学旅行もあるし、楽しみだな!」

陽介「あぁ。」

ひまり「ほんとにねー!」

日菜「__陽介くーん!!」

陽介「!?」

 

 俺が5人と話してると

 

 突然、教室に氷川さんが走り込んできた

 

 そして、俺に抱き着いてきた

 

陽介「な、なんですか?」

日菜「3学期になったら陽介君に会いずらくなるから来たんだよー!」 

陽介「あ、はい。」

 

 なんでこんなに落ち着いてるんだろうか

 

 いや、普通に異常な状況なんだけど

 

モカ「......何してるんですかー?日菜先輩?」

つぐみ「そうですよ。何してるんですか?」

蘭、ひまり、巴(こ、怖い。)

 

 青葉と羽沢から黒いオーラが見える気がする

 

 てか、2人とも声変わってないか?

 

日菜「2人ともどうしたの?」

モカ「なんで、ようくんに抱き着いてるんですかー?」

つぐみ「出水君、嫌がってますよ?」

陽介(いや、別にそんな事はないけど。)

 

 と思っても

 

 2人の雰囲気的に言えない

 

 てか、なんでこんなに怒ってるんだ?

 

モカ「早く離れてくれませんかー?」

日菜「もう少しー。」

陽介「まぁ、俺は別にいいですよ。周りに迷惑をかけないなら。」

モカ、つぐみ「!」

ひまり(い、いずみん......)

蘭(この状況であの発言......)

巴(さ、流石、陽介。)

 

 それから時間は過ぎていき

 

 氷川さんが俺から離れた後、

 

 終業式のため、講堂に移動していった

__________________

 

 終業式は滞りなく終わった

 

 氷川さんも珍しく真面目だった

 

 横にいる羽沢が驚いた顔をしてたのは印象的だった

 

 そして、俺達は教室に戻ってきた

 

モカ「__いやー、驚いたねー。」

陽介「そ、そうだな。」

 

 今日の氷川さんの様子には

 

 全生徒が驚きを隠せていない

 

 一体、何があったんだろう

 

蘭(絶対、陽介だ。)

ひまり(いずみんだね。)

巴(流石だぜ、陽介。)

陽介「まぁ、真面目なのは良い事だし、なんでもいっか。」

つぐみ「そうだね。」

モカ「まー、そうだねー。」

 

 それから、ホームルームが始まり

 

 冬休みの過ごし方、課題の配布などがあり

 

 すぐに解散になった

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 帰り、俺は買い物があるのを思い出し

 

 5人と別れ、近くのスーパーに来た

 

陽介(年越しと言えばそばだよなー。あとは、普通の食事用の食材。調味料は不足してない。あ、ジャーキー買っとかないと。)

 

 俺は籠に食材を詰めていった

 

 ある程度、買わないといけないものを詰め

 

 そして、残りに買わないといけないものを考えた

 

陽介(うーん。)

リサ「__あ、出水君じゃん☆!」

陽介「あ、今井さん。」

 

 少しその場に立ち止まってると

 

 今井さんが買い物籠を持って歩いてきた

 

リサ「出水君も買い物?」

陽介「はい。家事は俺に任されてるので。」

リサ「偉いねー、男の子なのに。」

陽介「いえいえ、普通ですよ。」

 

 ここで今井さんと会うのは初めてだな

 

 結構通ってると思うんだけど

 

陽介「今井さんはここには結構来てるんですか?」

リサ「うん!お母さんに頼まれたりで結構来るかな?」

陽介「なるほど。」

 

 じゃあ、被ることは少ないのか?

 

 どうなんだろう

 

リサ「出水君、結構買ってるね?いつもそんな感じ?」

陽介「まぁ、こんな感じです。2人とも育ちざかりなので、栄養を考えたら色々必要で。」

リサ「し、思考が親だね。」

陽介「今井さんもクッキーの材料が多いですね?よく作られるんですか?」

リサ「うん☆友希那が大好きでね!」

陽介「湊さんが。」

 

 俺は少し驚いた

 

 湊さん、クッキー好きだったのか

 

 なんか渋めの物好きと思ってた

 

陽介「あ、そろそろ行きますね。」

リサ「うん!またね!って、あ、そうだ!」

陽介「?」

リサ「友希那、出水君が会いに来てくれなくて寂しがってたよ?」

陽介「え?」

リサ「またさ、会いに行ってあげてね!」

陽介「あ、はい。分かりました。」

リサ「じゃあ、またね☆」

 

 俺はそうして、今井さんと分かれ

 

 レジでお会計を済ませて、

 

 俺はスーパーを出た

__________________

 

 スーパーを出て

 

 俺は買い物袋を持ち

 

 のんびりと道を歩いている

 

陽介(__いやー、寒いなー。)

 

 袋を持つ手は結構かじかんでるし

 

 周りを歩いてる人たちも少し前かがみで

 

六花「出水さーん!」

 

 前からは後輩が走ってきて

 

 って、六花?

 

陽介「どうしたんだ?」

六花「偶々見かけました!」

陽介「そうなのか。」

六花「はい!」

 

 六花はすごい笑顔で俺に話しかけてきてる

 

 なんか、こういう子って可愛らしいよな

 

 ザ・後輩って感じで

 

六花「出水さんも今帰りですか?」

陽介「あぁ、そうだよ。」

六花「一緒に帰りましょう!」

陽介「あぁ、いいよ。」

 

 そうして、俺と六花は一緒に帰ることになった

 

 六花は弾むような軽い足取りで歩いてる

 

 鼻歌も歌っててすごくうれしそうだ

 

陽介「何かいいことあったか?」

六花「はい!今がすごく楽しいです!」

陽介「今?」

 

 ただ歩いてるだけだと思うけど

 

 いや、それが楽しいなら良い事だろうけど

 

六花「出水さんも楽しそうですね!」

陽介「ん?」

六花「なんだか、この間からさらに優しそうになりました!」

陽介「んん?」

 

 なんか、羽沢にも似たようなこと言われたな

 

 そんなに変わったのか?

 

陽介「うーん、あんまりわからん。」

六花「私もなんとなくなんですけど、なんだか、そんな気がして。」

陽介「じゃあ、そういう事でいいかな。」

 

 周りから見た評価の方があてになるし

 

 灯台下暗しって言葉もあるし

 

陽介「まぁ、のんびり帰ろうか。」

六花「はい!」

 

 それから俺と六花はのんびり

 

 雑談をしながら歩いた

__________________

 

 しばらく歩いて

 

 ちょうど、家の前まで来た

 

陽介「__じゃあ、今日はここまでだな。」

六花「......」

陽介「?」

 

 突然、六花が喋らなくなった

 

 ほんの数秒前まで楽しそうに話してたのに

 

 どうしたんだ?

 

陽介「六花?」

六花「あの、出水さん?」

陽介「なんだ?」

六花「あの、明後日、予定はありますか?」

陽介「明後日?」

 

 明後日?

 

 明後日と言えば、12月24日

 

 クリスマスの日だったか?

 

陽介「一応、バイトも休みだし、あるけど。どうした?」

六花「えっと、その......///」

陽介「?」

 

 六花は手をモジモジとさせ

 

 顔が少し赤いように見える

 

 俺は首をかしげながら六花を見た

 

六花「その日、私と一緒に過ごしてくれないでしょうか......?///」

陽介「え?」

六花「あの、ダメだったら__」

陽介「いや、いいよ?」

六花「!///」

陽介「折角だし、2人でどこか行こうか。」

六花「はい!///」

 

 こうして、今年のクリスマスは六花と過ごすと約束した

 

 六花はそんな会話の後、

 

 嬉しそうに駆け足で帰って行った



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クリスマス(前編)

 12月24日の朝

 

 俺はいつも通り、3人で朝食を摂ってる

 

 2人は美味しそうにご飯を食べてた

 

パレオ「__今日はクリスマスですねー!」

チュチュ「そうだったわね。」

パレオ「ようさんは何か予定はおありですか?」

陽介「俺は六花と出かけるよ。」

チュチュ「ロックと?」

 

 チュチュは驚いたような声を出した

 

 パレオは目をキラキラさせてる

 

パレオ「それは、デートですか!?」

陽介「んー、どうなんだろうな。」

パレオ「デートですね!」

チュチュ「かなり食い気味ね。」

パレオ「だって、クリスマスに男女が2人ですよ!?これはデートです!」

陽介「そ、そうか。」

 

 パレオが言うならそうなんだろう

 

 女心ってやつ良く分かってるだろうし

 

陽介「一応、夕方に約束してるから。夕飯は__」

チュチュ「今日はパレオと外食にするわ。」

陽介「え?」

チュチュ「陽介はロックとのデートに集中しなさい。」

パレオ「そうです!」

陽介「お、おう。分かった。」

 

 なんか、チュチュも嬉しそうにしてる

 

 パレオは相変わらずだし

 

チュチュ「楽しんできなさい、陽介。」

パレオ「勝負は暗くなってからですよ!」

陽介「いや、何の話?」

 

 そんな感じに朝の時間を過ごし

 

 洗い物を終えた後、

 

 俺は夕方までゆっくりしてた

__________________

 

 少し日が傾き

 

 空が半分くらい夜になってる

 

 俺はそんな中、駅前で六花を待ってる

 

陽介(__人多いなー。)

 

 周りにはやけにカップルが多い

 

 すごいイチャイチャしてるし

 

 人前でよ出来るなー、すごい

 

六花「出水さん!」

陽介「あ、六花。来た......か?」

六花「......///」

 

 六花の声がした方を見ると

 

 いつもと丸っきり雰囲気が違う六花がいた

 

 髪を下ろして、眼鏡も外してる

 

 服もなんかすごいお洒落だし

 

 若干だけど、化粧もしてる

 

陽介「お、おぉ。」

六花「こんばんわ///」

陽介「お、おう。こんばんわ。」

 

 これは驚いた

 

 別人ってほどじゃないけど

 

 なんか、すごい

 

六花「あの、どうでしょうか......?///」

陽介「すごい似合ってる。びっくりした。」

六花「そうですか......///」

 

 六花は恥ずかしそうに口元を抑えてる

 

 仕草はいつもの六花ぽいな

 

 なんかほんわかした

 

陽介「じゃあ、行くか。」

六花「はい!」

 

 俺と六花はその場を離れ

 

 夜の街に繰り出して行った

__________________

 

 俺と六花は近くのショッピングモールに来た

 

 外にいても寒いし、ここなら色々あるし

 

陽介「__ここもクリスマスだなー。」

六花「そうですね!」

 

 真ん中の吹き抜けの様な空間には

 

 大きなクリスマスツリーがある

 

 イルミネーションも綺麗で

 

 まさしくクリスマスだ

 

六花「出水さんは何かみたいものありますか?」

陽介「うーん。あっ、あそことかいいな。」

六花「あそこって?」

陽介「まぁ、ついて来てくれ。」

 

 俺はある店に向けて歩いた

__________________

 

 俺達が来たのはアクセサリーショップだ

 

 なんか、六花にあげようと思って

 

 目に入ったので、店に入ってみた

 

六花「す、すごいキラキラしとる......」

陽介「六花は何か欲しいのあるか?」

六花「え?」

陽介「クリスマスだし、六花、あんまりアクセサリーとかのイメージないし。」

六花「え、え?」

 

 六花はワタワタして慌ててる

 

 俺はその様子をニヤニヤしながら見てる

 

 いやー、六花って感じがするな

 

六花「あ、あの、その......」

陽介「はは、想像通りの反応で嬉しいよ。」

 

 多分、このままだったら一生ここにいそうだし

 

 俺が何か見繕ってみるか

 

六花「あの、私、アクセサリーなどは......」

陽介「まぁ、今はそうでも、いつか六花にそう言う時期が来た時に役立てばーとかそう言う感じだよ。」

六花「時期?」

 

 六花も大学生とかなれば

 

 やれブランド服やらアクセサリーやら

 

 そう言うのに気を遣う時期も来るだろう、多分

 

陽介(うーん......あ。)

 

 その時、ある一つの商品が目に入った

 

 俺はそれの前に立った

 

陽介「これとか良さそう。」

六花「これは、ピアスですか?」

 

 俺が目をつけたのは、

 

 青色の綺麗なピアスだ

 

 なんか、六花に似合いそうな気がする

 

陽介「これにしよう。」

六花「えぇ!?でも、これ!」

 

 多分、六花が言ってるのは値段の事だろう

 

 まぁ、おおよそ学生が手出しするレベルじゃない

 

 けど、まぁ、別にいいだろ

 

陽介「六花には世話かけたし、まぁ、これくらい。」

 

 俺はそう言って、店員さんに話しかけ

 

 そのピアスを購入した

 

 その後、俺と六花は店を出た

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 店を出た後、

 

 俺と六花はショッピングモールを出て

 

 公園のベンチに座った

 

 外の空気はひんやりしてて気持ちがいい

 

陽介「__結構、寒いなー。」

六花「そうですね。」

 

 ここから見える夜の街はかなり人がいる

 

 まるで祭りみたいだ

 

六花「あの、出水さん。」

陽介「どうした?」

六花「手を、繋ぎませんか......?///」

陽介「手を?」

六花「はい......///」

陽介「......あ、そうか。」

 

 俺は六花の手を取った

 

 六花の手は凄く冷たい

 

 もう少し早く気付くべきだった

 

六花(すごい///男の人の手ってこんななんだ///)

陽介(六花の手、柔らかいな。)

 

 女の子の手って柔らかいんだな

 

 男との違いがすごい

 

 六花は顔を赤くしたまま話さなくなった

 

陽介(俺、幸せになったな。)

六花「出水さん?」

陽介「ん?どうした?」

六花「いえ、少し力が強くなったので。」

陽介「あ、ごめん。」

 

 俺は握る手の力を緩めた

 

 そして、六花が話しかけて来た

 

六花「少し、お話を聞いてくれませんか?」

陽介「話?全然聞くよ。」

 

 俺がそう言うと

 

 六花は少し息をつき

 

 そして、話し始めた

 

六花「私、嬉しいんです。」

陽介「嬉しい?」

六花「出水さんが幸せになってくれて。」

陽介「!」

六花「私が初めて会ったとき、出水さんはまるで死人のようでした。」

 

 六花は静かな声でそう言った

 

 死人、ある意味正解かもしれない

 

六花「でも、今は何だか生きてるって感じます。」

陽介「そうだと思うよ、俺も。」

 

 六花は嬉しそうに笑みを浮かべてる

 

 俺の事をまるで自分の事のように

 

 ほんと、いい子だな

 

陽介「......俺さ、前に死のうとしてたんだよ。」

六花「!」

陽介「その時、佐藤に止められてさ。可能性のある未来を放棄するなって。」

 

 今でも思い出せる

 

 必死な顔で訴えてくる姿

 

 生と死の狭間から引き上げてくれた手を

 

陽介「ほんとに、あの時止めてくれてよかった。」

六花「私も、そう思います。」

陽介「ん?」

六花「出水さんが亡くなってたら、今がないですから。」

 

 六花は強く手を握り、

 

 そう言った

 

六花「出水さんがいなかったら、今までの楽しい記憶も、今の気持ちだって無くなりますから......///」

陽介「今の気持ち?」

六花「私が出水さんを好きって、気持ちです///」

陽介「!」

 

 俺は驚きで目を見開いた

 

 六花は顔を真っ赤にしてる

 

六花「いつも優しくて、私を気にかけてくれる出水さんをいつの間にか好きになっていました///」

陽介「六花......」

 

 正直、少し困惑してる

 

 そこまで自分がいい人間と思ってない

 

 湊さんにも告白されたけど、

 

 あれは例外だと思ってた

 

 しかも、告白してきたのが六花

 

 正直、死ぬほど嬉しい

 

 でも......

 

陽介「俺は、やめといた方がいいよ。」

六花「え......?」

陽介「六花は俺より若いから、もっといい未来がある。なにより、俺じゃ六花を幸せにできない。」

 

 俺はそう言って、

 

 眼帯を外した

 

陽介「俺の目は見ての通り、これだからさ。俺はともかく、六花にまで苦労かける。」

六花「......」

陽介「世間に後ろ指をさされるかもしれない。だから、六花はもっといい道を__」

六花「関係ありません!」

陽介「!」

 

 突然、六花は大きな声で叫んだ

 

 俺は驚いた肩が跳ねた

 

六花「出水さんのその目は決して醜いものなんかじゃありません!むしろ、綺麗なものです!」

陽介「っ!」

六花「だって、会って間もない、ほとんど話したこともない人を助けられる、優しい心を表してるんですから!」

 

 六花は俺の両手を取り

 

 俺の目をまっすぐ見てる

 

 六花の目には迷いがない

 

六花「仮に私と出水さんがお付き合いをしいて、世間に後ろ指を刺されても、私はむしろ胸を張れます!こんなに優しい人が彼氏だって!」

陽介「!!!」

六花「だから、そんなに自分を卑下しないでください......」

 

 六花はそう言い終えると

 

 少し息を切らした

 

六花「私は何を言われても、出水さんを諦めません。絶対に。」

陽介「......そっか。」

 

 六花は本気だ

 

 一切の迷いなく、さっきのを言いきった

 

 俺のすべてを受け入れる気だ

 

陽介「六花の気持ちは良く分かったよ。」

六花「!」

陽介「もう、言い訳はしない。」

 

 六花も本気だ

 

 だから、俺も本気で答えを出そう

 

陽介「でも、少し待ってくれ。」

六花「!」

陽介「俺は湊さんにも告白されてるから。」

六花「そ、そうですか......///」

陽介「答えはしっかり出す__ん?」

六花「!」

 

 俺が話してると

 

 空から、白い物体が落ちて来た

 

 鼻にかかって、少し冷たい

 

陽介「雪?」

六花「雪、ですね。」

 

 ホワイトクリスマスってやつだな

 

 神様も粋な事するよな

 

六花「綺麗......」

 

 雪は町から洩れる光に照らされていて

 

 幻想的な雰囲気を醸し出してる

 

 六花はそれに見入っている

 

陽介「六花。」

六花「はい?」

陽介「見とれるのもいいけど、風邪ひくし、今日は帰ろう。」

六花「あ、そうですね......」

 

 六花は少し残念そうな声を出した

 

 まぁ、あんまり何もしてないもんな

 

陽介「また、一緒にどこか行こう。」

六花「はい!」

陽介「じゃあ、駅に__」

 

 俺が喋ろうとすると、

 

 ポケットに入れてる携帯が鳴った

 

 チュチュからだ

 

陽介「もしもし?どうした?」

チュチュ『陽介、今どこにいるの?』

陽介「え?六花と一緒にいるけど。今ちょうど、帰ろうとしてた。」

チュチュ『今、雪で電車止まってるわよ?』

陽介「え?」

六花「?」

 

 俺はチュチュの言葉を聞いて

 

 頭が真っ白になった

 

 いや、まじでか

 

陽介「ま、まぁ、考えるよ。」

チュチュ『気をつけなさいよ?』

 

 そう言って、チュチュは電話を切った

 

 俺は携帯を直して、六花の方を向いた

 

六花「どうしたんですか?」

陽介「電車、止まったらしい。」

六花「え?」

 

 六花は目を丸くした

 

 いや、まさかさ、止まると思わないじゃん?

 

陽介「この状況、どうする?」

六花「え、えーっと......どうしましょう?」

陽介、六花「......」

 

 どうやら、俺と六花のクリスマスってやつは

 

 まだ終わらないらしい

 

 

 



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クリスマス(後編)

 あれから、俺と六花は雨風しのげる場所を探した

 

 早足で歩き回り、俺と六花はある施設に入った

 

 そして......

 

六花「__お、お風呂、いただきました......///」

陽介「......あぁ。」

 

 俺と六花は所謂、ラ〇ホというところにいる

 

 一応言おう、狙っていたわけじゃない

 

 ただ、近くにここと同種の施設しかなかったんだ

 

 今の状況を説明しておくと

 

 とりあえず部屋に入った後、

 

 風邪ひかないよう先に風呂に入れて、今に至る

 

陽介「じ、じゃあ、俺も風呂入ってくるよ。」

六花「はい......///」

 

 俺は六花にそう言って、

 

 少し早歩きで風呂に向かった

__________________

 

陽介「__はぁぁぁぁ......」

 

 俺は湯船に体を沈めながら

 

 大きく息を吐いた

 

陽介(まさか、こんなことになるとは。)

 

 多分、今までの先輩後輩の関係なら、

 

 意識する事なんてなかったんだが

 

 さっきの事もあって、かなり意識してる自分がいる

 

陽介(変な気は起こさないけど、状況的に......)

 

 下手な事して六花が調子崩したらダメだし

 

 とりあえず、風邪ひかないように

 

 六花が安心できるように努めよう

 

陽介「よし、何か行けそうな気がしてきた。」

 

 俺はそう呟いて、

 

 頭と体洗って、自分の頬を叩いてから

 

 風呂を出た

__________________

 

 部屋に戻ると、

 

 六花はベッドにポツンと座っていた

 

六花「あ、おかえりなさい。」

陽介「風呂行ってただけだぞ?」

 

 俺は笑いながら、

 

 置いてある椅子に座った

 

陽介「この雪、明日の朝まで降るらしい。今日は泊りだな。」

六花「お、お泊り......!?///」

 

 六花は一気に顔を赤くした

 

 あんまりそう言う反応をしないで欲しい

 

 何かそう言う風に見えてしまう

 

陽介「さて、寝るにしても少し早いし、何かするか。」

六花「じ、じゃあ。」

陽介「ん?」

六花「出水さんの女性の好みを知りたいです///」

陽介「俺の好み?」

 

 俺は六花にそう聞かれ、

 

 少し考えた

 

 好みの女子、女性か

 

陽介「好みとかは特にないな。」

六花「!」

陽介「でも、俺を支えてくれた皆は好きだよ。六花とか。」

六花「ふぇ!?///」

陽介「あはは、顔真っ赤だな。」

 

 六花は表情がコロコロ変わって面白い

 

 ついつい、からかいたくなる

 

陽介「逆に、六花の好みは?」

六花「出水さんです。」

陽介「お、おう。早いな。」

 

 六花は直球だな

 

 少し驚いた

 

 まぁ、でも、それだけ好かれてるって事だろう

 

六花「私は出水さんだから好きになれたと思っています。だから、その、あの.....///」

陽介「ありがとう、六花。」

 

 俺は六花の頭を撫でた

 

 六花は少しくすぐったそうにしてる

 

陽介「俺もそこまで好かれてると嬉しいよ。」

六花「はぃ......///」

陽介(ほんと、こんな子が俺を。)

 

 もし、六花と一緒になったら

 

 とか、少し考えてみる

 

 思い思われていて、きっと幸せなんだろうな

 

陽介「......それも、いいかもな。」

六花「え?」

陽介「なんでもないよ。」

 

 俺はそう言って、

 

 部屋にある時計を確認した

 

 時計の針はもう、0時前を刺してる

 

陽介「そろそろ寝ようか。」

六花「......はい。」

陽介「?」

 

 俺は六花の返事に疑問を感じたが

 

 部屋の電気を消し、

 

 一つしかないベッドに六花と入った

 

陽介「......」

 

 俺は暗い部屋の天井をボーっと眺めてる

 

 眠れなかった時期のせいで夜更しになれてるからか

 

 なんか、あんまり眠たくない

 

陽介「......」

 

 部屋には時計が時を刻む音だけが響いてる

 

 それにしても眠れない

 

 ボーっとしてるうちに20分も経った

 

 時刻は0時13分、もう12月25日だ

 

六花「__あの、出水さん......?」

陽介「ん?どうした?」

 

 それから、更に20分ほどボーっとしてると

 

 六花が話しかけて来た

 

 六花も眠れないんだろうか

 

 俺はそう思い、六花の方を見ようとした

 

陽介「っ!?」

六花「......///」

 

 その時、六花は俺の上に乗ってきた

 

 それと......

 

陽介(......感触がおかしい?)

 

 布と布が擦れる感覚がない

 

 いや、まて、これ......

 

六花「どう、ですか......?///」

陽介「!?(これは)」

 

 暗いと言っても

 

 目も普通になれてる

 

 だから、六花の姿も見える

 

 俺は自身の目をふさいだ

 

陽介「ちょ、何やってるんだ!?」

 

 六花は先ほどまで着ていた、

 

 部屋に備え付けられていた浴衣を着ていない

 

 俺が来てる浴衣越しに、

 

 女の子らしい柔らかい感触が伝わってくる

 

六花「......出水さんが何もしないから///」

陽介「え?」

六花「だから......んっ///」

陽介「!!」

 

 六花はそう言いながら顔を近づけ

 

 唇を合わせて来た

 

 六花の舌が口の中に侵入してきて、

 

 呼吸が上手くできない

 

 しばらくすると、六花は離れた

 

六花「はぁ、はぁ......///」

陽介「ろ、六花......?」

六花「ここで、シましょう......?///」

陽介「えぇ......!?」

 

 俺は耳を疑った

 

 六花はこういう事言う子だったか?

 

 てか、これ不味いんじゃ

 

陽介「六花、それは不味いって!まだそう言う関係じゃないし!」

六花「分かってます......」

陽介「!」

六花「だからこそ、今なんです。」

 

 六花は静かな声でそう言った

 

 俺はその言葉の意味が分からない

 

 だからこそ?

 

六花「もしも、私が出水さんに選ばれなかったら、さっきそれが頭をよぎりました。」

陽介「......」

六花「だから、今日......」

 

 六花は俺の浴衣をはだけさせ

 

 ゆっくりと胸元に手を当てて来た

 

 少しひんやりとした手に触られ

 

 体が少しびくっとした

 

六花「私に、思い出をください......」

陽介「!!」

六花「今夜だけは、私だけを見てください......」

 

 六花は泣きそうな震えた声でそう言った

 

 俺の胸元にある手も震えてる

 

 きっと、怖いんだ、拒絶されるのが

 

陽介(六花......)

 

 六花の顔を見ると、心が痛くなる

 

 俺は、どうすればいいんだ?

 

 これを受け入れれば、六花は救われるかもしれない

 

 でも、それはあまりに不誠実で

 

 近い未来、六花に牙をむく可能性もある

 

 それは、絶対にダメな事だ

 

 どうすれば、六花を救える?

 

陽介(考えろ、考えろ、俺!)

六花「出水さん......」

陽介「!」

 

 時間をかけて考えてる場合じゃない

 

 行動に移せ、止まるのが六花を不安にする

 

 俺はそう思い、固まる口を動かした

 

陽介「六花。」

六花「!!」

 

 俺は静かに名前を呼び、

 

 衣服を身にまとってない六花を抱きしめた

 

 安心させるように、優しく抱きしめた

 

陽介「まず、俺は六花の事が嫌いじゃない。」

六花「出水、さん......?」

陽介「むしろ、大好きだ。」

六花「......///」

 

 俺はゆっくりと、

 

 出来るだけ落ち着いた声で話した

 

 六花の抱きしめてくる力が強まった

 

陽介「だからこそ、六花とは誠実でありたい。」

六花「!」

陽介「俺は絶対に六花を傷つけたくない。だから、今はダメだ。」

六花「そう、ですか......」

 

 六花は沈んだ声でそう言った

 

 そして、六花は悲しそうな顔をして離れようとした

 

六花「!」

陽介「だからさ。」

 

 俺はそんな六花を抱き留め、

 

 言葉を続けた

 

陽介「もう一度、キスしよう。」

六花「え......?」

陽介「六花、目をつぶって。」

 

 俺がそう言うと、六花は目を閉じた

 

 俺はその六花に顔を近づけ、

 

 唇を合わせた

 

六花「ん......っ///(優しい......)」

 

 出来るだけ優しく

 

 さっきと違って、穏やかに

 

 触れ合うようなキスだ

 

 5秒ほどして、俺は六花から離れた

 

陽介「これも、思い出になるか?」

六花「はい///」

陽介「良かった。」

 

 俺は六花の頭を撫でた

 

 六花は嬉しそうな表情を浮かべてる

 

陽介「じゃあ、六花。」

六花「はい?」

陽介「服、着ような?」

六花「!?///」

 

 俺がそう言うと、

 

 六花は布団の中に飛び込み

 

 そして、中でごそごそし始めた

 

六花「す、すみません///」

陽介「大丈夫、とは言えないけど。俺こそ悪かった。」

 

 俺はそう言いながら

 

 掛け布団を少しめくり、自分の横を叩いた

 

 六花はそれを見て、首を傾げた

 

陽介「寒いし、近くで寝よう。」

六花「!」

 

 優しい声でそう言うと、

 

 六花はゆっくり、俺の横に来て、そこで寝転んだ

 

 それを見て、俺もベッドに寝ころんだ

 

陽介「抱き着きたいなら、好きに抱き着いてもいいよ。」

六花「え......?///」

陽介「こんな事、滅多にないから。六花の好きにしてくれ。」

 

 俺がそう言うと、

 

 六花は迷いなく、俺の腰辺りに手を回し

 

 体を密着させてきた

 

六花(出水さんがこんなに近くに......///)

陽介「今夜はさ。」

六花「?」

陽介「六花だけ、見てる。」

六花「~!///」

 

 それから、俺は六花を抱きしめ続け

 

 しばらくすると、六花は寝息を立て始めた

 

 その表情は心底幸せそうで、

 

 俺も嬉しくなった、ただ......

 

陽介(ね、寝れない......!)

 

 自分の腕の中に女の子がいるなんて初めてだし

 

 しかも、こんなかわいい子だぞ?寝れるか?

 

 いや、寝れるわけない

 

 さっきまでの発言を考えるとさ、

 

 今の俺、最高にダサいな

 

陽介(これ、いつ寝れるかな......)

 

 俺は腕の中に六花を感じながら

 

 長い時間を過ごした

__________________

 

陽介「__ふぁ~......」

 

 朝、俺はベッドの上で目を覚ました

 

 あれから何だかんだあって、

 

 寝たのは4時くらいだった

 

陽介「あれ?」

 

 横を見ると、六花の姿がなかった

 

 体勢的には寝た時と一緒だし、

 

 ベッドも広いから落ちたなんてない、はず

 

六花「あ、おはようございます!」

陽介「あ、六花。おはよう。」

 

 横を見ると、

 

 乾かしてた服に着替えた六花が立っていた

 

 俺は眠い目をこすり、ベッドから降りた

 

陽介「六花はよく眠れたみたいだな。」

六花「はい!とても幸せに眠れました!」

陽介「あはは、それならよかった。」

六花「あ、出水さんの服はそこに置いてありますよ!」

陽介「お、ありがとう。」

 

 俺はそう言って、

 

 テーブルに置いてある自分の服を取った

 

陽介「じゃあ、ちょっと着替えてくる。」

六花「はい!」

 

 俺はそう言って、洗面所に向かい

 

 服を着替えた

 

 そして、すぐに部屋に戻った

 

陽介「__さてと、じゃあ、そろそろ帰るか。」

六花「あの、出水さん。」

陽介「ん?どうした?」

六花「すごく、言いずらいんですが......」

 

 六花は本当に言いずらそうに

 

 言葉を絞りだすようにこういった

 

六花「前が、見えません......」

陽介「え?」

六花「昨日は、コンタクトだったので......」

陽介「あー。」

 

 なるほどなー

 

 六花っていつも眼鏡つけてるし

 

 コンタクト寝てるときに外すよな

 

陽介「まぁ、大丈夫だよ。」

六花「え?」

陽介「取り合えず、帰ろう。」

 

 俺はそう言って

 

 六花と共にホテルを出た

__________________

 

 帰り道

 

 俺と六花はまず電車に乗り、

 

 住んでる町まで帰ってきた

 

 まだ早朝なこともあって、人通りは少ない

 

 そんな道を俺は六花を背負いながら歩いてる

 

六花「__あ、あの、重たくないですか?」

陽介「全然。むしろ、軽すぎるくらいだよ。」

 

 不安そうな六花に俺はそう答えた

 

 マジで軽いよ?

 

 非力な俺でも全然余裕で背負えるから

 

陽介「さーてと、六花の家はー......」

 

 少し遠くに目をやると、

 

 六花の住み込んでる銭湯が見えて来た

 

 少し歩いて、銭湯の前まで来た

 

陽介「__えっと、確かボイラー室の裏部屋だっけ?」

六花「はい。」

 

 俺は六花の答えを聞いて

 

 小声でお邪魔しますと言いながら

 

 ボイラー室の方に入って行った

__________________

 

 六花の住んでる部屋は

 

 かなり風情のある和室だった

 

 俺は置いてある眼鏡を六花に手渡した

 

六花「ここまで、ありがとうございました。」

陽介「気にしなくてもいいよ。」

 

 俺は笑顔でそう答えた

 

 そして、六花に背中を向けた

 

陽介「じゃあ、俺は帰るよ。」

六花「はい。」

 

 俺は部屋から出ようとした

 

六花「あの、出水さん。」

陽介「ん?」

 

 その時、六花が声をかけて来た

 

 俺は六花の方に振り向いた

 

六花「大好きです、出水さん///」

陽介「ありがとう、六花。」

六花「それでは、また///」

陽介「あぁ。」

 

 俺はそう言って、軽く手を振りながら

 

 六花の部屋から出た

 

六花「本当に、好き......///」

__________________

 

 旭湯を出て

 

 少し歩き、俺は家に帰ってきた

 

 チュチュとパレオはもう起きてるみたいだ

 

陽介「__ただいまー。」

チュチュ「あ、陽介!」

パレオ「おかえりなさいませー!」

 

 家に入ると、

 

 チュチュとパレオが出迎えてくれた

 

 この感じ、やっぱりいいな

 

チュチュ「かなり災難だったわね。雪で電車がstopするなんて。」

陽介「あはは。まぁ、災難だけじゃなかったよ。」

 

 俺は軽く笑いながらそう言った

 

 まぁ、六花といるのは楽しかったし

 

 嘘はないよ?

 

パレオ「あれ?」

陽介「ん?」

 

 俺の方を見てたパレオは首を傾げた

 

 俺はパレオの方を向いた

 

陽介「どうした?」

パレオ「ようさんの首元に虫に刺された跡みたいなものが......」

陽介「え?」

 

 この時期に虫刺され?

 

 いや、そんな事はほぼないだろ

 

パレオ「あ、見ますか?」

陽介「ありがと。」

 

 俺はパレオに渡された手鏡を覗き込んだ

 

 そこには確かに、虫刺されに似た跡がある

 

 でも、これ、少し違うな

 

陽介「あー。」

チュチュ、パレオ「?」

陽介「まぁ、これは問題あるものじゃないよ。大丈夫。」

チュチュ「そう?」

陽介「そうそう。あ、俺、一回部屋行くよ。」

チュチュ「分かったわ。」

 

 俺はそう言って

 

 自分の部屋の方に歩いて行った

 

 その途中......

 

陽介(やってくれたなー、六花。)

 

 大体わかるけど、これキスマークだ

 

 多分、俺が寝てる間に付けたんだろうな

 

 俺は軽く頭を掻いた

 

陽介(意外と悪い子だな、六花。)

 

 俺は笑みを浮かべながら

 

 心の中でそう呟いた

 

 これが、俺のクリスマスの出来事だった

 

 




本日、とうとうRASが追加ですね。
すごく楽しみです。六花欲しい。


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天体観測

 年末も近くなり、俺は今、大掃除をしてる

 

 と言っても、まめに掃除してるし

 

 今から何か特別に掃除しないといけない場所もない

 

 音楽機材についても勉強して掃除もしてるし

 

陽介(__よしっ。)

 

 粗方掃除も終わり

 

 俺は汗を拭った

 

 風呂掃除、トイレ掃除、

 

 プール周りの掃除も終わったし

 

陽介(そう言えば、RASの皆も年越しそば食べに来るんだっけ?材料余分に買っといてよかった。)

 

 昆布はもう水につけてるし

 

 他の事は当日にするし

 

 新年会の準備も予定通りに進んでるし

 

 結構時間が出来てしまった

 

陽介(まぁ、ゆっくりしようかな__ん?)

 

 ソファに座りながらそう考えてると

 

 俺の携帯が鳴った

 

 氷川さんからだ

 

陽介「もしもし?」

日菜『あ、もしもし!陽介君!』

 

 電話の向こうの氷川さんはいつも通りだ

 

 元気で明るい声音でこっちまで元気になる

 

陽介「どうしました?」

日菜『今夜、一緒に星見に行こうよ!』

陽介「星?」

日菜『うん!』

 

 そう言えば、氷川さん一応、天文部だったな

 

 星が綺麗に見えるのは冬って聞くし、

 

 部活動の一環か?

 

日菜『あ、急だから無理だったら断っても......』

陽介「別にいいですよ。」

日菜『え?』

陽介「今ちょうど時間が出来たので。と言うか、氷川さんってそう言うキャラじゃないでしょ。」

 

 俺は苦笑い気味でそう言った

 

 氷川さんって「強制ね♪」くらい言うイメージだし

 

 いや、でも、最近はそうでもなかったか?

 

陽介「何時に集合しますか?」

日菜『8時!学校前で!』

陽介「わかりました。用意しておきます。」

日菜『うん!後でね!陽介君!』

陽介「はい。」

 

 氷川さんは電話を切った

 

 俺はテーブルに携帯を置き

 

 一息ついた

 

陽介(天体観測って、何いるんだろ?)

 

 俺はそんな事を考えながら、

 

 必要と思うものをリュックに詰めていった

 

 その後、2人の夕飯を作ったり、

 

 残りの洗濯などをして時間を過ごした

__________________

 

 ”日菜”

 

日菜「__ふー......」

 

 電話を切った後、

 

 あたしは少し息をついた

 

日菜(なんとか、誘えた......)

 

 正直、断られるかと思った

 

 ずっと誘おうと思ってたけど、

 

 どうやって誘うか考えてたら当日になってた

 

 緊張なんて初めてしたかも

 

日菜(今日、何着て行こうかな。)

紗夜「何をしているの?」

日菜「あ、おねーちゃん。」

 

 そう言えば、今いるのリビングだった

 

 おねーちゃんはソファの後ろで首をかしげてる

 

 あたしは寝転んでる体を起こして、

 

 おねーちゃんの方を向いた

 

紗夜「誰かと電話してたようだけれど。」

日菜「陽介君だよ。」

紗夜「RASの2人といた彼だったかしら?何の話をしていたの?」

日菜「今夜、天体観測に行くの!」

紗夜「天体観測?」

日菜「うん!誘ったら来てくれるって!」

 

 おねーちゃんはアタシをじっと見てる

 

 そして、少しすると小さくうなずいた

 

日菜「どーしたの?」

紗夜「あなたがお熱になるなんて、もう少し彼と話していればよかったわ。」

日菜「えぇ!?///」

 

 おねーちゃんは微笑みながらそう言ってきた

 

 まさか、おねーちゃん気付いてたの?

 

紗夜「頑張りなさいね。」

日菜「う、うん......///」

紗夜(これはかなりね。すごいのね、彼。)

 

 おねーちゃんはリビングを出て行った

 

 あたしはまた何を着て行こうか考え始めた

 

日菜「......あ!」

 

 ある事を思いついて、

 

 あたしはソファから飛び降りた

 

日菜「おねーちゃーん!何着て行けばいいか一緒に考えてー!」

紗夜「な、なに!?」

 

 それから、あたしはおねーちゃんと一緒に服装を考えた

 

 そして、夜に向けて持ち物とかを準備した

__________________

 

 ”陽介”

 

 夜になった

 

 俺はチュチュとパレオに夕飯を出し、

 

 家を出て学校の前まで来た

 

 待ち合わせの10分前、

 

 勿論、氷川さんはまだ来てない

 

日菜「__陽介くーん!」

陽介「!?」

 

 俺が着いた瞬間、氷川さんが向こうから走ってきた

 

 俺は驚きのあまり、自分の目を疑った

 

日菜「お待たせ!」

陽介「ひ、氷川さんって時間守るって心があったんですか......!?」

日菜「あるよ!?」

 

 本気で驚いた

 

 あと20分は待つのを想定してたぞ

 

陽介「氷川さん、体調が悪いなら無理しないでください。」

日菜「健康だよー!あたし風邪ひかないもん!」」

陽介「そ、そうですか。」

日菜「陽介君はあたしの事をどう思ってるの?」

陽介「それは、まぁ......」

 

 察してください

 

 俺はそう体一杯でそう表現した

 

日菜「うん、大体わかった。」

陽介「まぁ、行きましょうよ。」

日菜「そうだね!釈然としないけど!」

 

 それから、俺と氷川さんは学校に入った

 

 そして、屋上に向かって行った

__________________

 

 屋上に来ると、

 

 まず、冷たい風が体を通り過ぎた

 

 寒さで背中がぞわっとした

 

陽介「__さっむ。」

日菜「あはは!そうだねー!」

 

 そう言う氷川さんは全く寒そうじゃない

 

 まじで、この人寒さとか感じてないんじゃないか?

 

 俺はそう思いながら動き回ってる氷川さんを見てる

 

日菜「見て見て!陽介君!」

陽介「?」

 

 氷川さんは空の方を指さしてる

 

 俺はゆっくりと空を見上げた

 

陽介「おぉ。」

 

 見上げると満天の星空

 

 やっぱり、冬って星が良く見えるんだな

 

日菜「こっちで一緒に見よ!」

陽介「あ、はい。」

 

 氷川さんはいつの間に敷いたのか分からないシートをポンポン叩いている

 

 俺は歩いて氷川さんの方に行き、横に座った

 

日菜「はい、毛布!」

陽介「あ、どうも。って、一緒に入るんですね。」

日菜「うん!るんっ♪てする!」

 

 氷川さんは嬉しそうにそう言った

 

 まぁ、2人で入ると温かいし、いいか

 

 俺は再度、空を見上げた

 

陽介(ここまで多いと何が何かわからないな。)

日菜「あの星とあの星が冬の大三角だよ!」

陽介「え?」

日菜「ほら!あれとあれ!」

 

 俺は氷川さんの指さす星を追っていった

 

 確かに、三角形になる

 

日菜「あの赤っぽいのがベテルギウスで、三角の左側がプロキオンで、それであれがシリウスだね!」

陽介「よく知ってますね。」

日菜「ふふん!天文部部長だからね!」

 

 氷川さんは胸を張ってそう言った

 

 この人、結構子供っぽいな

 

 褒めて伸びる的な

 

日菜「あそこにはなんと、ふたご座があるよ!」

陽介「なるほど。」

 

 それから、

 

 俺は氷川さんの解説を聞きながら星を見た

 

 珍しく、氷川さんの説明が分かりやすくて、

 

 知識がほとんどなくても楽しく星を見る事が出来た

 

 天体についての知識も色々と聞けて、

 

 少し、賢くなれた気がする

 

 だが、しばらくすると会話が無くなって行った

 

日菜(__し、喋れること全部喋っちゃった......)

陽介(どうしよう。)

 

 星見ろよと思うかもしれないけど、

 

 会話がないのは結構きつい

 

 多分、氷川さんも話せること話しただろうし

 

陽介「氷川さん。」

日菜「どうしたの?」

陽介「少し聞きたいことがありまして。」

日菜「聞きたいこと?いいよ!何でも聞いて!」

 

 氷川さんは笑顔でそう言った

 

 じゃあ、なんでも聞いてみよう

 

陽介「氷川さんは卒業したらどうするんですか?」

日菜「え?」

陽介「?」

日菜「......考えてなかった。」

陽介「ですよね。」

 

 正直、氷川さんに心配は無用だと思う

 

 何でもできる人だし

 

 アイドルに集中する道もある

 

 進学するにしてもどこにでも行けるだろうし

 

日菜「急にどうしたの?」

陽介「何となく、気になったので。」

日菜「なるほどねー。卒業かー。」

 

 氷川さんはぼやくようにそう言った

 

 そして、少しの間空を見上げ

 

 ゆっくり口を開いた

 

日菜「卒業、したくないな......」

陽介「!」

日菜「高校生活楽しいし、今を無理に変えたくないなって。」

 

 氷川さんは寂しげにそう呟いた

 

 少し意外だ

 

 この人なら、新しい環境にわくわくすると思ってた

 

 俺もこんな風に思う時が来るのだろうか

 

日菜「陽介君は考えてたりするの?」

陽介「俺は多分、働きます。」

日菜「え?でも、陽介君って成績良いよね?進学しないの?」

陽介「今の俺は学費を払えないので、進学はしません。」

日菜「そっか......」

 

 正直、先の事は考えてなかったけど

 

 多分、こうすると思う

 

 後の事はその時考えよう

 

日菜「大学もねー、陽介君が来てくれるなら楽しそうだったのになー。」

陽介「え?俺ですか?」

日菜「あっ、なんならうちの事務所で働く?」

陽介「いやいや、無理でしょ。見ての通り、俺には問題があるので。」

日菜「!」

陽介「これは普通に見ればあまり良い印象を持たれないので。」

 

 これというのは目の事だ

 

 社会の風潮的に俺は障害があるってされるし

 

 世知辛いってやつだな

 

陽介「まぁ、そんな事はどうでもいいんですけど。」

日菜「え?」

陽介「元は氷川さんの話なので。」

 

 俺は声音を変え、話を切り替えた

 

 氷川さんは目を丸くしてる

 

陽介「氷川さんの卒業は俺としても寂しいです。」

日菜「え!?///」

陽介「やっぱり、氷川さんが生徒会長だと学校が明るくなるし、頻繁に構っていくれたので。」

 

 最初こそ、俺はこの人が嫌いだった

 

 でも、キッチリ反省して謝って

 

 それからは優しい良い先輩だった

 

 まぁ、妙に抱き着かれたけど

 

日菜「......あたしも寂しい。」

陽介「?」

日菜「さっきの事もだけど、陽介君と別れるのは寂しい。」

 

 氷川さんはそう言って、

 

 俺の方に顔を向けて来た

 

日菜「だって、陽介君の事、好きだから。」

陽介「え?」

日菜「......///」

 

 氷川さんは顔を赤くしてる

 

 いや待て、氷川さんが俺を好き?

 

 いやでも、言われてみれば

 

 思い当たるところもある

 

 氷川さんらしからぬ行動とかあったし

 

日菜「最初は罪悪感だったの。」

陽介「!」

日菜「陽介君の傷に触れちゃって、それで、胸が痛くなって......」

陽介「あー。」

日菜「それで謝った時、あんなにひどいことしたのに叩くことも怒鳴ることもしなくて、それで好きになって、好きになってもらいたくなったんだ///」

陽介「その事なんですけど。」

日菜「?」

陽介「今となっては、俺は少し氷川さんに感謝してるんです。」

日菜「えぇ!?」

 

 氷川さんは驚いたような声を出した

 

 俺はそんな氷川さんを見ながら続けて話した

 

陽介「今思えば、俺が吹っ切れたと言うか、今みたいになれたのはあれがあってこそかなって思ってます。だから、感謝してます。」

日菜「そ、そうだったんだ。」

陽介「はい。」

 

 なんか、氷川さんが驚いてるのを見ると気分がいいな

 

 してやったりみたいな、そんな感じになる

 

陽介「それに、俺謝ってもらった日から割と氷川さん好きですよ。」

日菜「え?///」

陽介「お弁当作ってきてくれてくれたり、偶に顔赤くしてるの結構かわいいと思ってました。」

日菜「よ、陽介君......///」

 

 氷川さんは口元を抑えて顔を赤くしてる

 

 この人、素でいたらもっとモテそうだな

 

 女の子らしい面って言うのかな

 

 そう言うのあるし

 

陽介「でも、答えはちょっと待ってください。」

日菜「!」

陽介「待たせてる人たちがいるので。」

日菜「そっか。」

陽介「必ず、氷川さんがこの学校にいる間に返事します。」

日菜「うん、わかった。待ってるね!」

 

 氷川さんはそう言って立ち上がった

 

 そして、俺の方に手を差し出して来た

 

日菜「帰ろっか!星も見たし!」

陽介「そうですね、氷川さ__」

日菜「日菜だよ!」

陽介「え?」

日菜「日菜って呼んで!」

 

 氷川さんは輝かしい笑顔でそう言ってきた

 

 まー、名前呼ぶくらいなら

 

陽介「行きましょう、日菜さん。」

日菜「うん!陽介君!」

陽介「!」

 

 日菜さんは俺の手を握ってきた

 

 少し驚いたが、これくらいいいだろ

 

 俺と日菜さんはそのまま階段を降りて行った

__________________

 

 階段を下りて、

 

 今、正門に向かって歩いてる

 

日菜「__いやー、今日は良かったー!」

陽介「よかったですね。」

 

 日菜さんはご満悦と言った感じだ

 

 まぁ、俺も楽しかったし

 

 なんだかんだ、星の事も知れたし、よかった

 

警備員「__そこで何をしてる!」

陽介「ん?」

日菜「あっ。」

 

 歩いてると、背後から声をかけられ

 

 懐中電灯の光を当てられた

 

日菜「走って!陽介君!」

陽介「え?__ちょ!」

 

 俺は日菜さんに手を引かれ、

 

 走り始めた

 

 そして、学校の外に飛び出た

 

陽介「あの、許可とってないんですか!?」

日菜「あはは!忘れちゃった!」

陽介「忘れた!?」

日菜「でも、これもるんっ♪てくるね!」

陽介「しませんよ!?」

 

 やっぱりこの人、

 

 可愛いけど、やばい!!!

 

 俺はそう思いながら寒天の下を氷川さんに手を引かれ走った

 

 

 



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年末

 今日は12月31日、年末だ

 

 俺は朝から忘年会と新年会の用意を進めて

 

 なんだかんだあってもう夕方になった

 

ますき「__よー、来たぞー。」

六花「お邪魔します!」

レイ「飲み物とか持ってきたよ。」

パレオ「いらっしゃいませー!」

チュチュ「よく来たわね。」

陽介「いらっしゃい。適当に座ってくれ。」

 

 俺はそう言ってキッチンに向かった

 

 そして、年越しそばの用意を始めた

 

 まぁ、てんぷら作って

 

 出汁とかえし合わせるだけだけど

 

陽介(年越しそばと言えば海老天、これは常識。)

六花「何かお手伝いすることはありますか?」

陽介「あ、六花。そうだなぁ、薄力粉とそれ混ぜてくれるか?」

六花「はい!」

 

 六花は菜箸をもってボウルの中身を混ぜ始めた

 

 俺は海老を切り始めた

 

 切り方なんかはまぁ、基本的なことだけで

 

 後は酒やらなんやら混ぜて揉み洗い

 

 当たったりしたらまずいどころじゃないからな

 

六花「やっぱり、お上手ですね!」

陽介「そうか?海老はあんまり触らないから知識だけで切ってた。」

 

 海老使った料理も増やそうかな

 

 エビチリとかエビフライとか

 

 俺はそんな事を考えながら料理を進めた

 

陽介(油は......160℃か。)

六花「2人でキッチンに並んでると......」

陽介「?」

六花「なんだか、夫婦みたいですね?///」

陽介「そ、そうか?」

六花「子どもは3人くらいで、それで......///」

 

 六花は恍惚とした表情を浮かべ

 

 何かをぼやいている

 

 これはやばいな

 

陽介「お、おーい?六花ー?」

六花「っ!///」

陽介「戻って来たか?」

六花「は、はい、すみません......///」

陽介「い、いや、大丈夫だよ。(死ぬほど焦ったけど。)」

 

 六花は暴走タイプってところだな

 

 妄想に浸って周りが見えなくなるみたいな

 

 別にそれはそれでいいんだけど、

 

 出来れば、俺のいないところでしてくれ

 

 すごい恥ずかしいから

 

陽介「さ、さて!早く仕上げようか!」

六花「は、はい!」

 

 それから、俺と六花は動揺しながらも料理を進め

 

 年越しそばを完成させた

__________________

 

陽介「__出来たぞー。」

 

 俺は皆の前にそばを置いて行った

 

 配り終えた後、俺も自分の席に座った

 

チュチュ「それじゃあ、いただくわ。」

RAS、陽介「いただきます。」

 

 こうして、俺達の忘年会が始まった

 

 流石に料理はそばだけじゃないぞ?

 

 一応、色々作ってあるよ?

 

ますき「いやー、今年は色々あったなー。」

陽介「そうだな。1年が10年くらいに感じた。」

レイ「出水君が言うと重みが違うね。」

陽介「はは、そうかもな。」

 

 今となっては今年の事も笑い話にできるな

 

 今年は何と言うか、メンタル鍛えられたなぁ

 

 そう思ってると、パレオが口を開いた

 

パレオ「初めてようさんに出会ったときはすごかったですね!」

チュチュ「そうね。一瞬、死んでるかと思ったわ。」

陽介「死んでる!?」

チュチュ「それくらいひどい状態だったのよ。」

 

 俺はチュチュの言葉にかなり驚いた

 

 そんな風に見えてたのか

 

 やばいな、この間の俺

 

ますき「今思えば、全部、今年の出来事なんだな。」

陽介「佐藤?」

ますき「なんでもねぇよ。」

 

 佐藤は手を振りながらそう言った

 

 佐藤がそう言ってるし、何もないだろと思い

 

 俺は食事を再開した

 

六花「私は出水さんに出会えてよかったですよ!」

陽介「ははっ、ありがとう。」

チュチュ「ロックはやけに陽介に懐いてるわね。」

六花「!///」

パレオ「ロックさん、まるで恋__」

レイ「ぱ、パレオ、それはやめたげて?」

パレオ「はい?」

チュチュ「仲が良いのは良い事よ。」

 

 チュチュは落ち着いた声でそう言った

 

 パレオは楽しそうに六花を見てる

 

 和奏は苦笑いを浮かべてる

 

 その時、俺はあの事を思い出した

 

陽介「あ、そう言えば、パレオ?」

パレオ「はい?」

陽介「昨日、日菜さんと出かけた時に貰っといたやつなんだけど......」

 

 俺はそう言いながら、

 

 近くにあるリュックの中からあるものを出した

 

 それを見るとパレオの表情が一瞬で変わった

 

陽介「これ。」

パレオ「こ、これは......!」

陽介「確か、ファンだったよな?」

 

 俺が出したのは日菜さんのサインだ

 

 昨日の帰り際に思い出して書いてもらっておいた

 

 パレオの目が分かりやすいくらいキラキラしてる

 

 まるで、空腹で餌を前にしたペットみたいだ

 

陽介(あの人ってちゃんとアイドルしてるんだな。)

パレオ「わ、私宛のサイン......!」

陽介「よかったな。」

パレオ「はい!ありがとうございます!」

 

 喜んでる子は可愛いなぁ

 

 なんだかほんわかする

 

 またなんか日菜さんに頼もう

 

陽介「すごい喜びようだな。」

六花「私もポピパさんのサイン貰えたらあんな感じになります!」

ますき「まぁ、ロックはそうだろうなー。」

レイ「ガチだもんね。」

陽介「そうだな。」

 

 まぁ、こんな感じに

 

 俺達はまったり飯を食べた

 

 そして、時間は過ぎていった

__________________

 

 しばらく時間が経ち、

 

 時刻はもう0時を回った

 

 泊りを想定して夜に集合したけど、

 

 まさか、もう全員寝るとは

 

陽介(これでよし、と。)

 

 俺は全員に毛布を掛けていった

 

 風邪ひいたりしたら不味いしな

 

陽介(てか、この部屋暑いな。)

 

 俺はそう思い、

 

 皆の様子を少し見てから、

 

 外に出ることにした

__________________

 

陽介「__うわ、結構寒い。」

 

 外は結構冷えてる

 

 屋上なだけあって風もあるし

 

 まぁ、暑かったし丁度いいかな

 

陽介「よいしょっと。」

 

 俺はプールサイドにある椅子に座った

 

 ここに来て初めてここ使ったかも

 

 俺は体を完全に椅子に預けた

 

ますき「__おい、ここいいか?」

陽介「あ、起きたのか?」

ますき「あぁ。チュチュに顔面蹴られてな。」

陽介「そ、そうか。」

ますき「まぁ、いいんだけどな。」

 

 佐藤はそう言いながら、

 

 俺の横に座った

 

 そして、しばらくの無言の後、

 

 佐藤が口を開いた

 

ますき「......お前はさ。」

陽介「ん?」

ますき「どうだった?もう去年、になるか。」

陽介「去年?そうだなぁ......」

 

 去年の感想ねぇ

 

 まぁ、去年はこれにつきるかな

 

陽介「成長した1年だと思ってる。」

ますき「成長?」

陽介「今までの自分を壊してさ、それで成長したみたいな?」

ますき「......そうか。」

 

 佐藤は深く頷いてる

 

 まぁ、間違ってはないよな?

 

 結果として、俺は変われたわけだし

 

ますき「......今思えば、始まりはあれなんだよな。」

陽介「?」

ますき「あの事故、あれが全部の始まりだったな。」

 

 佐藤はぼやくようにそう言った

 

 ライトで照らされてる瞳は、

 

 少し涙で潤んでるようにも見える

 

 佐藤はまだ後悔してるんだろうか

 

ますき「ほんとに、悪かったな......」

陽介「気にしなくていいって、今生きてるわけだし。そもそも、目が無くなったのは大きな問題じゃなかったし。」

ますき「......」

 

 佐藤はうつ向いて黙りこくってる

 

 ほんとに義理堅いと言うかなんというか

 

 意外と真面目だよなぁ

 

陽介「後さ、俺の目が無くなってなかったら多分、今頃この世にいないよ。」

ますき「なに?」

陽介「目があろうがなかろうが、親には捨てられてたしな。」

ますき「っ!」

陽介「佐藤と出会ってたから、俺は今こうして生きてるんだよ。」

 

 俺は優しい声音でそう語りかけた

 

 実際にそうだろ?

 

 これがあったから、佐藤と関われて

 

 自殺しそうなところを止められて

 

 チュチュ達と出会ったわけだし

 

ますき「......そうか。」

陽介「全部繋がってるんだよ。俺はこれでよかったって思ってるし。」

 

 俺は軽い口調でそう言と、

 

 佐藤は呆れたように口を開いた

 

ますき「ほんと、人がいいやつだな。」

陽介「そうか?そうでもないぞ?」

ますき「いや、いいよ。お前は馬鹿みたいにお人よしだ。」

 

 佐藤はそう言いながら少し笑ってる

 

 バカって、中々ひどい言われようだな

 

陽介「そこまでだと思うけどなー。」

 

 よくわからんな

 

 別にそんな意識してないし

 

陽介「と言うか、かなり褒めてくれるよな?」

ますき「?」

陽介「やっぱり、俺に惚れちゃった感じ?」

ますき「っ!///」

 

 俺がそう言うと、

 

 佐藤は俺のいる反対に顔を向けた

 

 表情は見えないけど、耳が真っ赤だ

 

ますき「......そうじゃない、とは言わねぇ。」

陽介「ん?」

ますき「って、こっち見てんじゃねぇよ!!///」

陽介「ぐへっ!」

 

 俺は佐藤に顔を掴まれた

 

 力強すぎるだろ

 

 流石、RASのドラマー様だ

 

ますき「たくっ、なんでこういう時にふざけんだよ......」

陽介「いやぁ、ついつい。」

 

 俺は頭を掻きながらそう言った

 

 いやさ、空気を換えるためにはこうするのがいいじゃん?

 

ますき「やっぱ、お前、可愛くねぇな。」

 

 佐藤はそう言いながら、

 

 椅子から立ち上がり

 

 手をポケットに入れた

 

 そして、室内の方に体を向けた

 

ますき「可愛くはねぇけど......」

陽介「?」

 

 一歩踏み出そうとした瞬間、

 

 佐藤は俺の方を向いた

 

 俺は首を傾げた

 

ますき「お前、かっこいいよ。」

陽介「!!」

ますき「じゃあ、私も寝てくる。あけおめ。」

陽介「お、おう。あけおめ。」

 

 佐藤は室内に戻って行った

 

 俺はその後ろ姿を茫然と眺めていた

 

 かっこいい、か

 

陽介「......マジで、あの態度。勘違いしそう。」

 

 俺は顔を抑えながらそう呟いた

 

 褒められるの慣れないな、ほんとに

 

陽介(......多分、多分だぞ?)

 

 本当に多分だけどさ、

 

 佐藤は俺の事好きだと思う

 

 思い込みとかだったら恥ずかしいけど

 

 確信に近い何かがある

 

陽介「......いや、今は考えるのはよそう。」

 

 俺はそう呟き椅子から立ち上がった

 

 それからは、もう少し風に当たった後、

 

 俺は室内に戻り

 

 再度、皆の様子を確認してから、

 

 自室に戻り、床に着いた

 

 

 



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正月

 朝、俺はいつも通り朝食の準備をしてる

 

 正月だし、皆はそんなに早く起きてこないかな

 

六花「__おはようございます、出水さん。」

陽介「あ、起きたのか?」

六花「はい。」

 

 なんてことを考えながら料理してると

 

 六花が眠たそうな顔をしながら歩いてきた

 

 俺は六花の姿を見た瞬間、目をそらした

 

六花「出水さん?」

陽介「ろ、六花?ふ、服が......」

六花「わざとですよ......?///」

陽介「!?」

 

 六花の方を見てないけど、

 

 なんか近づいて来てる気配を感じる

 

 新年早々、何かヤバい気がする

 

六花「どうですか......?///」

陽介「ど、どうなんだろうなー?」

 

 チラッとも見てないとは言わない

 

 てか、六花ってこういう子だったっけ

 

 いや、今更かもしれないけど

 

 六花ってどっちかって言うと

 

 今の反対みたいな子じゃないっけ?

 

六花「今日はピンクです。」

陽介「何言ってるの!?」

六花「折角の新年ですし、思い出に......///」

陽介「思い出って何の!?」

ますき「__何騒いでんだ?」

陽介「さ、佐藤?」

 

 六花とやり取りをしてると、

 

 佐藤があくびをしながら近づいて来た

 

 なんだかんだ、佐藤も起きるの早いんだな

 

六花「何もありませんよ?少しお話をしてただけです。」

ますき「そうか?ならいいや。」

陽介「もうすぐ朝ごはん出来るぞ。」

ますき「あぁ、分かった。座って待ってる。」

 

 佐藤はそう言って、

 

 椅子に座ってテレビをつけた

 

 なんだろう、この亭主感は

 

 たくましいなぁ

 

六花「......残念です。」

陽介「あ、あはは。(た、助かった。)」

 

 それから俺は全員分の朝ごはんを準備し

 

 皆を起こした

__________________

 

 早朝、なんか色々あった気がするけど

 

 もう、あの事は一旦忘れておこう

 

 俺はそう考えながら無心でご飯を食べてる

 

レイ「この後、皆はどうする?」

ますき「そりゃ、初詣行くだろ。な、出水?」

陽介「まぁ、そうだな。」

六花「私も行きたいです!」

パレオ「パレオも~!」

チュチュ「私も行くわ。」

 

 全員、初詣に行くみたいだ

 

 チュチュも行くのは結構意外だったけど

 

チュチュ「食べ終わったらすぐに行くわよ。」

パレオ「チュチュ様以外、全員食べ終わってますよ?」

チュチュ「嘘でしょ!?」

パレオ「はい!嘘です♪」

チュチュ「パレオ~!」

陽介「あ、あはは。」

ますき「新年早々、可愛い会話してるな。」

レイ「そうだね。」

六花「私達も準備しておきましょうか。」

 

 俺達は各自、外に出る準備をした

 

 まぁ、俺が準備することなんて無かったけど

 

 しばらくし、俺達は全員家から出た

__________________

 

 家を出てしばらく歩き

 

 一番家から近い神社に来た

 

 やっぱり、神社はかなり混んでる

 

ますき「__結構人いるなー。」

陽介「そうだな。」

ますき「はぐれんなよ、出水。」

 

 佐藤は俺の方を見ながらそう言った

 

 なんだ、このイケメン

 

陽介(あれ?俺と佐藤の性別って逆だっけ?)

 

 そう思わざる得ないぞ、これは

 

 俺が弱弱しいのもあるけど

 

 佐藤ってすごいんだなぁ

 

レイ「ここでは屋台もしてるみたいだね。」

パレオ「だからこんなに混んでるんですねー。」

チュチュ「もう疲れたわ......」

 

 確かに、この人の多さはきついな

 

 チュチュはマジで疲れた顔してるし

 

レイ「流石に6人で固まって動くのは難しいし、人数を分けて行動しよう。」

陽介「それいいな。どう分ける?」

六花「私は出水さんとがいいです!」

ますき「私も出水と行く。」

パレオ「ちょうどいいです!私はチュチュ様といたかったので!」

チュチュ「な、なんでもいいわ......」

レイ「じゃあ、後で神社の外で落ち合おう。」

陽介「了解。」

 

 それから、3人ずつに分かれ

 

 それぞれ神社の中を回ることにした

__________________

 

陽介「__うわぁー。」

 

 少し歩き、俺達は本殿の前に来た

 

 案の定というか、何と言うか

 

 やっぱり凄い並んでる

 

 これは、すごいなぁ......

 

ますき「こんな並んでるのか。」

六花「すごい人数ですね?」

陽介「まぁ、取り合えず並ぼうか。」

 

 俺はそう言いながら

 

 列の最後尾に立った

 

 これ、いつになったら参拝できるんだろう

 

日菜「__わー!すっごく並んでるよー!」

紗夜「こら日菜!走らないの!」

陽介、ますき、六花「ん?」

日菜「あ、陽介君だー!」

陽介「日菜さん?」

日菜「あけましておめでとー!」

 

 日菜さんはおおきく手を振りながら近づいて来た

 

 振袖来てるのにこの人の動くスピードすごいな

 

日菜「陽介君も来てたんだね!」

陽介「はい、やっぱり特別な日なので。」

紗夜「久しぶりですね。」

陽介「はい、どうも。」

 

 氷川さんとはどう接していいか分からないな

 

 ほぼ初対面みたいなもんだし

 

友希那「__陽介!」

陽介「!」

 

 少し距離のある場所から知ってる声が聞こえた

 

 まぁ、神社だってそこら辺にあるわけじゃないし、

 

 いても不思議じゃないか

 

陽介「湊さん......って。」

ますき(お、おせぇ!)

紗夜(湊さん......)

友希那「はぁはぁ......」

陽介「だ、大丈夫ですか?」

 

 湊さんはかなりの時間をかけ、

 

 俺の所まで走ってきた

 

 まるで、何キロも走ってきたみたいだけど

 

 距離は20mもない

 

友希那「ひ、久し振りね。」

陽介「はい、久し振りですね。」

 

 湊さんはいつも通りの態度をとっているが

 

 さっきのを見たらそれも可愛げがあるように見えて

 

 なんか、おかしいな

 

友希那「あなたに会えて嬉しいわ。今日ここに来てよかったわ。」

陽介「俺も嬉しいですよ、湊さん。」

六花(な、なんか、いい雰囲気なっとる!?)

 

 今年も湊さんの安心感は健在みたいだ

 

 朝はかなり冷や冷やしたから、

 

 すごい助かる

 

日菜「あ、そうだ!」

陽介「?」

日菜「せっかく会ったから陽介にこれあげる!」

 

 日菜さんはそう言って、

 

 お年玉袋を渡してきた

 

陽介「え?」

日菜「おねーちゃんに入れすぎたらダメって言われたからそんなに入ってないけどね!」

紗夜(それでも3万円は入ってるのだけれど。)

友希那(これは、負けていられないわ!)

紗夜(湊さん!?)

 

 日菜さんは拒否しても無駄だろうなぁ

 

 かと言って、一つ上の先輩に貰うのは

 

友希那「陽介!」

陽介「は、はい!?」

友希那「これを受け取りなさい。」

陽介「へ?」

 

 今度は湊さんが袋を渡してきた

 

 異様に膨らんでる

 

友希那「取り敢えず、今持ってる分全て入れたわ。」

陽介「いや何やってるんですか!?」

友希那「日菜が渡したんだもの、私が渡さない訳には行かないわ。」

陽介「いやいや、そういうのないですよ!?」

日菜(中々やるな〜、友希那ちゃん。)

 

 湊さんは何を熱くなってるんだ?

 

 らしくなさすぎる

 

 俺はそんなことを思いながら

 

 手に握られてる袋を見た

 

ますき「まぁ、儲けくらいで貰っとけよ。」

陽介「いや、でもな......」

ますき「本人たちがいいって言ってんだしいいんだよ。」

六花(そ、そういうものなんでしょうか?)

 

 うーん、2人と何かすることがあればそれに役立てるか

 

 それなら、精神的に大丈夫だし

 

 返却できないならそうしよう

 

日菜「じゃあ、陽介君は今からあたし達みんなで遊ぼ!」

陽介「え?」

友希那「そうね。私もしばらく会っていなかったし。」

 

 2人はそう言いながら

 

 俺の両腕を掴んだ

 

六花「ず、ずるいです!」

陽介「ちょ、六花まで!?」

ますき「モテモテだな、出水。」

陽介「佐藤?なんでそんなに怒ってるんだ!?」

紗夜(そ、想像以上に大変ね、彼。)

 

 それから、参拝を済ませて

 

 屋台を回る間

 

 俺は3人にくっつかれ

 

 佐藤に気を使いながら時間を過ごした

 

 何というか、楽しかったっちゃ楽しかったけど

 

 物凄く疲れる新年の幕開けだった 

 

 

 



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平穏?

 朝、俺は自室で目を覚ました

 

 なんか、すごい頭が痛い気がする

 

 今日は1月2日だけど、昨日の記憶が抜けてる

 

 確か、初詣に行って、それから新年会をして

 

 そっからの記憶が曖昧だ

 

陽介(__てか、なんかベッドが狭い気が__)

六花「すぅ......すぅ......」

陽介「」

 

 眠い目を覚まして布団をめくると、

 

 穏やかに眠ってる六花が現れた

 

 取り合えず、服は着てる(安心)

 

 でも、これだけで狭く感じるのか?

 

友希那「んぅ......どうしたの、陽介?」

日菜「あれぇ、ここどこぉ......?」

陽介「」

 

 どういう状況だよ

 

 いや、この状況はどう考えてもおかしい

 

 なんで、この2人が俺の隣で寝てるんだ

 

日菜「あれ、陽介君!?///」

友希那「な、なんで私の部屋に!?///」

陽介「俺の部屋ですよ!」

日菜、友希那「え......?」

 

 俺がそう言うと、

 

 2人は周りをきょろきょろし始め

 

 そして、顔が赤くなっていった

 

六花「あれ、どうしました?」

陽介「俺がどうしましただよ?なんで六花はここで寝てるんだ?」

六花「え?私は出水さんが良いって言うので。」

陽介「へ?」

日菜、友希那「陽介(君)......?」

陽介「いやいやいや、俺も良く分かんないんですよ!」

 

 まずい、全く記憶がない

 

 でも、俺がこれを良いっていう訳ないし

 

 何かあったのは間違いない

 

六花「出水さん、チュチュさんのお母様が間違えて送ってきたお酒を飲んで酔ってたんですよ?」

陽介「え?」

友希那「そう言えば、そうだったわ。」

日菜「いやー、すごかったね、陽介君!」

陽介「何がです!?」

 

 昨日の俺は果たして何をしたんだ

 

 いや、何もしてない事を切に願ってるけど

 

 でも、この状況......

 

ますき「__おーい、出水起きたかー?」

陽介「あっ。」

ますき「......何やってんだ?」

 

 状況整理の途中、佐藤が部屋に入ってきた

 

 すごく鋭い目で俺を睨みつけてきてる

 

 仕方ない事だけど、怖い

 

陽介「佐藤、少し俺の話を聞いてくれ。」

ますき「......言い訳は聞く。」

陽介「あの、俺には昨日の記憶がなくてですね、それで、俺も気づいたらこの状況で......」

ますき「それで、記憶がない間に3人とおめでた、と......(私を呼ばないで。)」

陽介「なに!?」

六花「ご、誤解です!ますきさん!」

友希那「そ、そうよ!何もしてないわ!」

日菜「まだそう言うのはしてないよー!///」

 

 佐藤はどんな誤解をしてるんだろう

 

 いや、もう大体想像はつくけどさ

 

 分かりたくないんだけど

 

ますき「......まぁ、そういう事ならいいが。」

陽介「そ、それで、何か用か?」

ますき「あ、そうだった。そろそろ起きる時間だぞ。」

六花「え?今、何時ですか?」

ますき「11時だ。」

陽介、六花、友希那、日菜「え?」

 

 やばい、かなり寝坊してる

 

 いつも、4時には起きてるのに

 

 どんな熟睡してたんだ

 

陽介「まぁ......リビング行きましょうか。」

友希那「そうね。」

日菜「うん。」

六花「はい!」

 

 それから俺達は服装を整え

 

 疲れを感じながらリビングに向かった

__________________

 

 リビングに来ると、

 

 RASのメンバーと今井さん、氷川さんがいた

 

 段々と記憶が蘇ってきた

 

 そうだ、初詣で4人と会って、

 

 それで新年会一緒にどうですかってなって

 

 それで、こうなったんだ

 

リサ「あ、友希那!」

紗夜「日菜!出水君に迷惑をかけてないでしょうね!」

陽介「だ、大丈夫です。こちらこそ、すみません。」

紗夜「いえ、こちらこそすみません......」

リサ「いやー、昨夜はお楽しみ__」

友希那、日菜「してない(よ)!!///」

リサ「うわ!」

 

 何か口走ろうとした今井さんに

 

 2人はすごい大声で否定した

 

 いや、俺は強く出れないし、

 

 正直助かった

 

チュチュ「言っておくけれど、うちの陽介は簡単にはやらないわよ。」

陽介「チュチュ!?」

パレオ「はい!そうですね!」

レイ「まるで頑固な父親だね。」

陽介「ま、まぁ、偶に言ってるな......」

 

 そう言うのって娘とかに言うもんじゃないのか?

 

 まぁ、家族として大事にされてるし

 

 俺としてはいいんだけど

 

リサ「いやいや~、友希那は良い子だよ~?」

紗夜「ひ、日菜だって、いい子ではありますし。何でも出来ます!」

チュチュ「何の売込みよ!」

陽介「は、ははは......」

レイ(うわ、すごい顔引きつってる。)

 

 割と今の状況って笑えないんだよ

 

 告白された3人にプラス、

 

 俺の事が好き(仮)な佐藤もいる

 

 さっきから心臓バックバクだよ

 

 今にも風船みたいに割れそうだよ

 

レイ「出水君。」

陽介「和奏......?」

レイ「頑張れ。」

陽介「......はい。」

 

 和奏は俺の肩に手を置き、そう言ってきた

 

 その言葉は異様な重みがあるように感じた

__________________

 

 それから時間が経ち

 

 湊さんたちは皆家に帰って、

 

 家にはRASのメンバーが残った

 

 俺はリビングのソファに座り

 

 疲れからかボーっとしてる

 

ますき「疲れてんな、出水。」

陽介「佐藤か。」

ますき「隣、座るぞ。」

陽介「どうぞどうぞ。」

 

 俺がそう言うと、佐藤は横に座ってきた

 

 そして、机に缶コーヒーを置き

 

 こう言ってきた

 

ますき「さっきそこで買ってきた。やるよ。」

陽介「ありがとう。」

 

 俺は缶コーヒーを開け、一口それを飲んだ

 

 すっごい苦い、これブラックだ

 

 別に飲めるけど、苦い

 

陽介「......まだ怒ってるのか?」

ますき「あぁ?」

陽介「あれは別に何もないよ。」

ますき「......別に、怒ってねぇ。」

 

 佐藤はそっぽを向きながらそう言った

 

 いや、それは怒ってる人の態度なんだよなぁ

 

 可愛らしいと思うけど

 

陽介「そうか。」

ますき(こいつの事は、私だけが知ってても良かったのにな。)

陽介「?」

ますき(いつの間にかあんなにたらし込みやがって......)

 

 なんか、すごい佐藤に見られてる

 

 やばい、何かしたのか?

 

 思い当たる節が今朝の事以外ないんだが

 

ますき「おい、出水。」

陽介「なんだ?」

ますき「お前、嬉しいか?あんな女に囲まれて。」

陽介「え?」

ますき「さっさと答えろ。」

陽介「うーん。」

 

 佐藤は真顔のままそんな質問をしてきた

 

 どんな質問だよとか思うけど

 

 でも、答えた方がいいよな

 

陽介「嬉しいとはちょっと違う。」

ますき「違う?」

陽介「なんて言うんだろ......」

 

 俺は少し考えた

 

 嬉しいとは違う、この感情

 

 強いて言うなら......

 

陽介「びっくりする。」

ますき「はぁ?」

陽介「いや、まだ夢っぽい感じがしてな。」

ますき「......」

 

 そこは嬉しいて言えよ、

 

 佐藤はそう言わんばかりの顔をしてる

 

 なんて答えれば正解だったんだ

 

ますき「まぁ、お前はそう言う奴だよな。」

陽介「?」

ますき「なんて言うか、馬鹿だよな。」

陽介「ひどい。」

ますき「ははっ。」

 

 バカなことは否定はしない

 

 現に愚行の限りを尽くしてるわけだし

 

 言われても仕方ないとしか思えない

 

陽介「でも、誰も後悔させない。」

ますき「!」

陽介「俺にはそう言う責任があるからな。」

ますき「間違いねぇな。」

陽介(佐藤も、な。)

ますき「?」

 

 佐藤は仮だけど、確信はある

 

 てか、割とあからさまだし......

 

 日ごろの態度とか、今朝とか

 

陽介「さてと、そろそろ飯作るか。」

ますき「おい、なんだよさっきの意味深な目は。」

陽介「なんでもないよ。」

ますき「おい!待ちやがれ、出水!」

陽介「待ちませーん。」

レイ(イチャついてるなー......ロックがいなくてよかった。)

 

 それから、俺は佐藤に後ろをつけられたが、

 

 それを無視して料理をした

 

 佐藤は煮え切らないって顔をしてたけど、

 

 まぁ、今はそれでもいいだろ

 

 それと、和奏は終始、苦笑いを浮かべていた

 

 

 

 



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旅立ち

 冬休みが明けた

 

 俺はいつも通り学校に来て、

 

 自分の席に座った

 

モカ「__おはよー、よう君ー。」

陽介「あ、おはよう。青葉。」

つぐみ「今日も早いね!」

陽介「生活リズムを崩さないようにしてるからな。」

 

 青葉と羽沢は教室に入って来るなり、

 

 俺の前に来た

 

蘭「は、早いって、2人とも......」

ひまり「もう!置いて行かないでよ!」

巴「あはは、まぁ、許してやれって!」

陽介「おはよう、3人とも。」

 

 遅れて、美竹、上原、宇田川が入ってきた

 

 これで、いつもの5人が揃った

 

 やっぱり、この雰囲気は落ち着くな

 

モカ「いやー、三学期ですなー。」

つぐみ「そうだね。もう少しで3年生だよ!」

巴「か、考えたくないな......」

陽介「あはは。」

 

 そうか、もう、3年になるのか

 

 ここに来たのが今年だからか、

 

 あんまり時間の感覚がなかった

 

ひまり「そ、そんな事より、修学旅行だよ!」

モカ「いやー、楽しみだねー。」

陽介「そうだね。」

巴「いやー!胸が躍るなぁ!」

 

 修学旅行か

 

 今までに経験がないし、楽しみだ

 

 RASの皆にお土産買っていかないと

 

モカ「言っても、明日出発だねー。」

蘭「そうだね。準備出来てる?」

巴「当り前だ!」

ひまり「ばっちり!」

陽介「俺も出来てるよ。」

蘭「なら、大丈夫だね。」

 

 それから、俺達はしばらく談笑し

 

 しばらくして、体育館に移動した

__________________

 

 始業式は相変わらず盛り上がった

 

 日菜さんは場を盛り上げる天才なんだろう

 

 相変わらずすごい人だな

 

 とか、そんな事を考えつつ、

 

 俺は家に帰ってきた

 

陽介「__ただいまー。」

チュチュ「おかえりなさい、陽介。」

陽介「あれ?パレオはまだ学校か?」

チュチュ「えぇ。」

陽介「なら、パレオは作り置きになるか。」

 

 俺はそう言いながら鞄を置き、

 

 エプロンを身に着けた

 

チュチュ「陽介は明日からschool tripだったわね。」

陽介「あぁ。3泊4日だよ。」

チュチュ「ok.楽しんできなさいよ。」

陽介「分かってるよ。お土産もしっかり買ってくる。」

チュチュ「あまり気にしなくてもいいわよ?」

陽介「折角だから、買ってくるよ。」

 

 俺がそう言うと、

 

 チュチュは少し笑いながらソファに座った

 

 それを見て、昼食の準備を始めた

__________________

 

 昼食を済ませてから、

 

 チュチュとしばらく話をしてると

 

 RASの皆が練習に来た

 

六花「出水さん!」

陽介「いらっしゃい、六花。」

ますき「よう。」

レイ「何かお話し中だった?」

パレオ「もしかして、何か深いお話でも?」

陽介「いや、ただの雑談だよ。」

 

 俺はそう言ってソファから立ち上がり

 

 キッチンの方に体を向けた

 

陽介「外は寒かっただろうし、ホットミルクでも淹れるよ。」

ますき「あ、私はコーヒーがいい。」

陽介「了解。少し待っててくれ。」

 

 俺はそう言ってキッチンに行き、

 

 ホットミルクとコーヒーを入れた

 

 そして、その日は皆の練習を見守った

__________________

 

 一晩明けて

 

 俺はいつもよりも早く学校に来た

 

 学校前にはバスが止められてて、

 

 これから修学旅行なんだって思った

 

日菜「__陽介くーん!」

友希那「陽介。」

陽介「あれ、日菜さんに湊さん?」

 

 集合場所に向かってる途中、

 

 日菜さんと湊さんが走ってきた

 

 他の人は来てない時間なのに

 

日菜「見送りに来たよ!」

陽介「わざわざ、こんな朝早くに?」

友希那「もちろんよ。陽介の旅立ちの日よ。」

六花「__お、遅れてもうたぁ!」

陽介、友希那「!?」

日菜「あ、ロックちゃん!」

 

 2人と出くわしてすぐ、

 

 校門の方から六花が走ってきた

 

 かなり息切れしてて、

 

 かなり急いできたのがよく分かる

 

陽介「ろ、六花も来てくれたのか。」

六花「はい!勿論です!あと、これも渡しに!」

 

 六花はそう言うと、鞄からお守りを出し

 

 それを俺の手に握らせた

 

六花「交通安全と厄除けのお守りです!無事に帰ってきてくださいね!」

陽介「あはは、大丈夫だよ。安全は保障されてるし。」

六花「万が一です!」

陽介「そ、そっか。」

六花「お土産は出来れば、出水さん自身を......///」

陽介「あー!もう集合だー!行かないとなぁー!」

六花「あっ......」

 

 俺は流れから六花の言動を察し、

 

 逃げるようにクラスの方に走った

 

六花(逃げられちゃった......)

日菜(お~、攻めるね~。)

友希那(......負けないわよ。)

 

 後ろで繰り広げられている、

 

 静かな戦いに気付かずに

__________________

 

蘭「あ、来たよ。」

陽介「おはよう。」

 

 集合場所に来ると、

 

 もう、集合はほとんど完了してた

 

 もう、出発間近みたいだ

 

ひまり「日菜先輩たちと話し過ぎだよー!」

巴「湊さんと六花もいたな。」

陽介「わざわざ見送りに来てくれたみたいで、ありがたいです。」

モカ(......アピールしてるなー。)

つぐみ(私も、負けられない......!)

陽介「2人とも、どうかしたか?」

つぐみ「あ、なんでもないよ!」

モカ「そうそう、なんでもないー。」

陽介「そうか?」

教師「__そろそろ移動するぞー!」

 

 俺達は教師のその声の後、

 

 周りの生徒と一緒にバスに移動していった

__________________

 

 バスに移動してすぐ、俺は席に座った

 

 今回、バスの座席を決めるのにひと悶着あった

 

 まぁ、主に青葉と羽沢が珍しく揉めたからだけど

 

陽介(__大変だったなぁ......)

 

 日頃は言い合いなんてしない2人だし、

 

 止めるのに中々、骨が折れた

 

 それで、俺の隣になったのは......

 

蘭「ここだよ、陽介。」

陽介「あぁ、美竹。」

 

 美竹だ

 

 上手く間に入ってくれて、助かった

 

 俺は内心感謝しながら隣に座った

 

蘭「今更だけど、モカかつぐみの方が良かった?」

陽介「いや、正直、助かったと思ってる。あの時の2人をみると......」

蘭「......まぁ、そうだよね。」

 

 美竹は疲れたような声でそう言った

 

 流石に俺も苦笑いになる

 

蘭「まぁ、ゆっくり座ってよ。」

陽介「そうだな。美竹と話せることは結構あるし。」

蘭「?」

陽介「これ、持ってきたんだ。」

 

 俺はそう言いながら花の図鑑を出した

 

 そして、それを広げた

 

陽介「花の事、少し教えて欲しいんだ。」

蘭「へぇ、そんな趣味あったんだ?」

陽介「いや、花を模したケーキを作るのに意味とかよく知りたいなって。」

蘭「......陽介も陽介で相当だよね。」

陽介「?」

 

 美竹はため息をつきながらそう言ってきた

 

 どうしたんだろう?

 

蘭(何と言うか、料理に関しては拘ると言うか......変態と言うか。)

陽介「美竹?」

蘭「まぁ、いいよ。教えてあげる。(そろそろ......)

 

モカ、つぐみ「......」

 

蘭(......モカとつぐみが怖いし。)

陽介「じゃあ、お願いするよ。」

蘭「どこから教えればいい?」

陽介「最初から。」

蘭「最初から!?」

 

 それから、俺はバスの時間

 

 美竹に花の事について教えてもらった

 

 とてもためになる話が多くて、

 

 目的地までの時間を有意義に過ごせた

 

 

 



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修学旅行1

 長いバスの旅を終えて、目的地に着いた

 

 綺麗な雪景色が見えて、すごくいい場所だ

 

陽介「__おぉ。」

 

 俺達はすぐにホテルに移動し、

 

 指定された部屋に入った

 

 和室で寝泊まりするのは久しぶりだ

 

 日本人の本能ってやつなのかな

 

陽介(落ち着くなぁ......)

 

 部屋にはお茶とかお菓子も置いてるし、

 

 もう、この部屋だけで充分満足できそうだ

 

 俺はついつい和んでしまった

 

陽介「いやぁ、いい空間だなぁ......」

つぐみ『__出水君ー?』

陽介「ん?羽沢?」

 

 部屋で和んでる途中、

 

 外から羽沢の声が聞こえて来た

 

 俺はドアの方に歩き、開けた

 

陽介「どうかしたか?」

つぐみ「この後、皆でスキーに行くけど、出水君も来る?」

陽介「あぁ、行くよ。」

つぐみ「じゃあ、準備して!待ってるから!」

陽介「分かった。」

 

 俺は一旦、部屋に戻り、外に出る準備をした

 

 そして、羽沢と一緒にホテルを出た

__________________

 

 スキー場には初めて来た

 

 一面真っ白な雪景色で別世界に来たみたいだ

 

 そんな中を俺は......

 

陽介「__うわぁぁぁぁあ!!!」

 

 漫画の様に綺麗に転がっている

 

 ここまで来れば芸術的だと思う

 

つぐみ「い、出水君、大丈夫ー!?」

陽介「あ、はは、大丈夫。」

 

 何とか転がるのが止まると、

 

 5人が後から追いついてきた

 

巴「い、生きてるかー!?」

陽介「生きてるよ、流石に。」

モカ「いやー、芸術的な転がり方だったねー。」

ひまり「ほんとに漫画みたいだった!」

蘭「陽介って、運動苦手だったっけ?」

陽介「基礎体力は人並みだけど、絶望的にセンスがなくてな......あはは。」

 

 球技とかは絶望的に弱いんだよな

 

 走るとかは全然出来るんだけど

 

 道具を使うとかになると駄目で仕方ない

 

巴「体育とかでもサッカーとかはダメだったよな?」

ひまり「足は滅茶苦茶に速いのに!」

陽介「いやー、お恥ずかしい。」

 

 俺は頭を掻きながらそう言った

 

 まさか、ここまで出来ないとは

 

 軽く誤算だったかもしれない

 

蘭「出水はスキー禁止だね。」

陽介「え?」

蘭「流石にあれ見たらさせられないって。怪我してからじゃ遅いし。」

巴「まぁ、そうだな。」

ひまり「スキー以外にも出来る事はあるし!」

モカ、つぐみ「!」

 

 まぁ、言ってる事は最もで

 

 確かに怪我してからじゃ遅いし

 

 初心者コースであれだしな

 

陽介「じゃあ、俺はお土産でも見に行こうかな。」

モカ「あたしも行くー。」

つぐみ「わ、私も行きたい!」

陽介「へ?」

蘭「まぁ、いいんじゃない。(どうせ止めても聞かないし。)」

 

 青葉と羽沢はスキーが出来るのに

 

 何故か付いてくることになった

__________________

 

 ホテルの近くに大きなお土産屋さんがあった

 

 お土産以外にも魚介とか色々あって、

 

 すごく充実した施設になってる

 

モカ「__あ、美味しい......」

陽介「食べたのか?」

 

 青葉は魚介を見ながらそう言った

 

 口の端からよだれが垂れてる

 

 すごい食い意地だ

 

つぐみ「も、モカちゃん......?」

モカ「やだなー、そこまで食い意地張ってないよー。」

陽介「口元のよだれを拭ってから言ってくれ。」

モカ「おっとー?」

陽介「ほら、顔こっちに向けて。」

モカ「むぐっ///」

つぐみ「!」

 

 俺はハンカチを取り出し、

 

 青葉の口元を拭った

 

 袖口で拭うとかは良くないし

 

陽介「ほら、綺麗になったぞ。」

モカ「お、おー......///」

つぐみ(ず、ずるい!)

陽介(どうしたんだ?2人とも。)

 

 青葉は顔を赤くしてるし、

 

 羽沢は少し頬を膨らませてる

 

 総じていえる事は可愛いなんだが

 

 なんでこうなった?

 

つぐみ「そ、そう言えば、出水君はどんなお土産を買いたいの?」

陽介「うーん......考えてないな。」

モカ「じゃあ、このうにとかー。」

陽介「予算オーバーだよ。」

 

 生ものとか腐らせそうで怖いし

 

 日持ちするお菓子とかがいいな

 

 まぁ、別に今買うわけじゃないし

 

 今日は見るだけでもいいかな

 

 俺はそんな事を考えながら、

 

 店の中を見て回ることにした

__________________

 

 しばらく歩いて回ってると、

 

 変な屋台を見つけた

 

 というか、どこかで見たことがあるような

 

おばさん「__おやおや、いつぞやの。」

陽介、つぐみ「!?」

おばさん「久しぶりだねぇ、お兄さんに可愛らしいおねぇさん。」

 

 屋台から顔を出したのは、

 

 夏祭りの時に会ったおばさんだった

 

 いや、こんな所で何をしてるんだ

 

おばさん「お兄さんの方はかなり変わったようだねぇ。」

陽介「!」

おばさん「心を壊さなくてよかったねぇ。」

 

 このおばさん、本当に何者なんだろう

 

 俺の事なんでも分かってるんじゃないか?

 

おばさん「どうだい?一つ占いでも?」

陽介「え?お守り屋さんなんじゃ?」

おばさん「今日は占いの気分なのさ。」

つぐみ(き、気分で変わるものなんだ......)

 

 俺と羽沢は首を傾げつつ、

 

 おばさんの屋台の方に歩いて行った

 

おばさん「さぁ、占ってあげよう。」

陽介「これは何占いなんですか?」

おばさん「なんでもいいよぉ。恋愛、受験、就職、なんでも。」

陽介「じゃあ、就しょ__」

つぐみ「れ、恋愛で!」

陽介「え?」

おばさん「オッケーじゃ。」

陽介「いや、ノリが軽い!」

 

 そんなツッコミも無視されて、

 

 おばさんは占いの準備を始めた

 

おばさん「ふむむムムム......」

陽介「......」

つぐみ(ど、どうなるんだろう。)

 

 おばさんは水晶を凝視してる

 

 そして、しばらくすると、

 

 俺達の方を見た

 

おばさん「ほう......これは......」

陽介「どうなんですか?」

おばさん「子どもが3人いる未来が見えたよ。」

陽介「何の占いしてるんですか!?」

つぐみ「っ!!///」

おばさん「幸せそうな家庭だったねぇ......」

陽介「本当に何を見たんです!?」

つぐみ「......///」

 

 なぜ、俺がこんなに焦ってるのかというと

 

 無駄に現実味がある答えだからだ

 

 今まで告白されたのが、

 

 湊さん、六花、日菜さんというわけで

 

 仮にそう言う未来があったとして、

 

 全員の行動から考えてあり得るからだ

 

おばさん「お盛んだねぇ、お兄さんや。」

陽介「......(何も言えない。)」

つぐみ(あ、あわわわわ!///)

おばさん「お兄さんとお姉さんにはこれをあげよう。」

 

 そう言っておばあさんはお守りを渡して来た

 

 お守りが凄い数になったな

 

 縁結びに交通安全、厄除け、それに、これは

 

おばさん「安産祈願だよ。」

陽介「早いわ!!!」

つぐみ「あ、ありがとうございます!///」

陽介「ん!?」

おばさん「頑張りんさい。」

陽介「......」

 

 俺はその瞬間に考えるのをやめた

 

 もうあれだ、深く考えたら負けだ

 

 絶対に自滅してダメージを受ける

 

 出来るだけ目線を外そう!

 

おばさん「そう言えばなんじゃが......」

陽介、つぐみ「?」

おばさん「お前さんら、もう1人の子はどうした?」

陽介、つぐみ「......あっ。」

 

 俺と羽沢は思い出したような声を出した

 

 そう言えば、青葉、トイレ行ってるんだった

 

 あれ、これ、マズいんじゃ......

 

陽介「い、行くぞ、羽沢!」

つぐみ「う、うん!」

 

 俺と羽沢は屋台を出て、

 

 青葉を探しに行った

 

おばさん(2人に幸あれぇ。)

 

 ”その頃のモカ”

 

モカ「おいひい~。」

 

 1人で大量に試食を食べ回っていた

 

 

 



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吐露

 修学旅行1日目の夜

 

 俺は夕食を食べ終えて、風呂にいる

 

 体の傷は周知の事実になったし、

 

 今更隠す必要もなくなった

 

陽介(__はぁ......心休まるなぁ......)

 

 温泉なんて初めて入った

 

 効能があるとか聞いたことあったけど、

 

 本当にあるかは体感しずらいな

 

男子「おーい、出水(小声)」

陽介「ん?どうした?」

 

 湯船につかっていると、

 

 クラスの男子が小声で話しかけて来た

 

 他にも何人か一緒にいて、

 

 何かを企んでる顔をしてる

 

男子「折角、修学旅行に来たんだ。何か思い出を作りたくないか?」

陽介「勝手にできそうなもんだけど。」

男子2「いや、違う!」

男子3「思い出は作りに行くんだ!」

 

 男子たちは凄い剣幕で捲し立ててくる

 

 なんで、こんなに必死なんだろう

 

陽介「な、何が言いたいんだ?」

男子「修学旅行で温泉......やることは一つだろ?」

 

 男子はさも常識のようにそう言ってくる

 

 俺は何のことを言ってるか分からない

 

男子「......覗きだ。」

陽介「......(???)」

男子2「覗きだ。」

陽介「いや、聞こえてないわけじゃないよ?いや、普通にやめとけって。」

 

 俺は溜息を付きながらそう言った

 

 覗きって普通に犯罪だし

 

 ハイリスクハイリターン過ぎるし

 

 ていうか......

 

男子「行くぞ、同志たち!」

男子たち「おー!」

陽介「いや、あの、今は__」

 

 男子たちは垣根の前に集まり

 

 器用に上に登り始め、

 

 顔が一番上に到達すると__

 

男子達「グ八ッ!!!」

陽介「あー......」

 

 向こうから桶が飛んできて、

 

 男子たちは花から血を吹き出しながら、

 

 垣根から落下してきた

 

陽介「今、女湯には宇田川がいるから、覗こうとすると桶が飛んでくるぞ?」

男子「さ、先に言ってくれ......よ。」

 

 桶をぶつけられた男子たちは全員倒れた

 

 宇田川、流石の投桶(?)だな

 

 一人一つで確実に仕留めた

 

巴『__陽介ー!そっちはどうだー?』

陽介「全員気絶したよ。」

巴『あっはは!ざまぁねぇな!』

陽介「あ、あはは......(怖い。)」

 

 よ、よかった

 

 今の俺がこんな性格で

 

 一昔前なら俺もあんな風に......

 

陽介(ご、ご愁傷様です......)

 

 俺は倒れてる男子達に手を合わせ

 

 それからもゆっくり湯船につかった

__________________

 

 ”女湯”

 

巴「__そう言えばさぁ。」

 

 5人が湯船につかっている途中

 

 巴がつぐみとモカに話しかけた

 

モカ「なに~?」

つぐみ「どうしたの?」

巴「2人って陽介の事好きだろ~?」

モカ、つぐみ「!?///」

蘭「ちょ、巴!?」

 

 巴がそう言うと、

 

 モカとつぐみは顔を赤くし、

 

 蘭とひまりは巴に向かって叫んだ

 

ひまり「そういう事今言う!?横にいずみんいるかもしれないのに!」

巴「大丈夫だよ。陽介、そんなに長湯しないって言ってたし。」

蘭「いや、そう言う問題じゃないでしょ。」

 

 蘭は溜息を付きながらそう言い、

 

 巴の頭を軽くはたいた

 

巴「それで、どうなんだ?」

つぐみ「そ、それはー......///」

モカ「好きだけど~......///」

巴「あはは!つぐはともかくモカをそうさせるなんて、流石は陽介だな!」

蘭「それはまぁ、分かる。」

ひまり「モカがねー。」

モカ「ちょっと~、失礼じゃない~?」

 

 モカは不服そうに唇を尖らせている

 

 蘭たちは笑いながら、そんなモカを見てる

 

ひまり「でも、これって、2人ってライバル同士って事なんだよね?」

つぐみ「あっ、そ、そう言えば。」

モカ「......うん~、そうだね~。」

蘭「......」

ひまり「す、すごっ、ラブコメみたい!」

蘭「そんな楽しいものじゃないでしょ......」

モカ「......」

巴「モカ?」

 

 そんな会話の途中、

 

 巴はボーっとしてるモカに声をかけた

 

 それに続き、蘭もモカに話しかけた

 

蘭「どうしたの?」

モカ「......あ、いや~、なんでもない~。」

蘭「......ねぇ、モカ__」

モカ「そろそろ上がるね~。」

蘭「ちょっと__」

 

 モカは急ぎ足で湯船からあがり、

 

 脱衣所の方へ歩いて行った

 

 蘭はそのモカを追いかけるように湯船から出た

__________________

 

 ”蘭”

 

蘭「__ちょっと、モカ。」

 

 お風呂から出てすぐ、

 

 あたしは旅館の廊下でモカを呼び止めた

 

 モカはゆっくりあたしの方に振り返った

 

モカ「どうしたの~?」

蘭「少し、聞きたい事あるんだけど。」

モカ「お~、なになに~?」

蘭「モカ、ほんとに陽介が好きなの?」

 

 少し違和感を感じてた

 

 何と言うか、モカから闘争心とかを感じない

 

 つぐみはライバル意識を少なからず持ってた

 

 けど、モカはそれがなかった

 

モカ「......」

蘭「どうなの?」

モカ「......」

 

 モカは下を向いて黙り込んでる

 

 あたしはしびれを切らして、

 

 続けて言葉を連ねた

 

蘭「モカ、あんまりにも身を引き過ぎだよ。付き合えなくてもいいみたいに見える。一応言うけど、半端な気持ちは陽介を傷つけるよ。」

モカ「......蘭はようくんに優しいね。」

蘭「!」

 

 モカはいつもより低い声でそう言った

 

 日頃とのギャップであたしはかなり驚て

 

 変な汗が流れて来た

 

モカ「でも、蘭は分かってない。」

蘭「......分かってないって?」

モカ「本気で好きだからこそ、一歩引いてるんだよ。」

蘭「え......?」

 

 訳が分からない

 

 本気だから、一歩引く?

 

 そんなの、矛盾してる

 

蘭「どういう事......?」

モカ「あたしはよう君に幸せになってほしいんだよ。」

蘭「うん。」

モカ「そう考えたら、あたしは相応しくない。きっと、つぐならよう君を幸せにしてくれる。」

 

 モカは笑みを浮かべながらそう言った

 

 そう言葉を連ねるモカは、

 

 笑みの奥に何か諦めたような感じもする

 

モカ「仮につぐじゃなくても、よう君の周りには素敵な子がいっぱいいるから。別にあたしじゃなくてもいい。」

蘭「い、いや、待ってよ。モカだって陽介と仲いいし、幸せにできるんじゃないの?」

モカ「......そんな無責任なこと、あたしは言えないよ。」

蘭「な、なんで......?」

モカ「......自信がないから。」

 

 モカは小さな、消えそうな声でそう言った

 

 あたしはその様子にひどく驚いた

 

 いつもは自信満々なモカなのに、

 

 今は本当に微塵の自信も感じられない

 

モカ「あたしはよう君が幸せならそれでいい。今までの辛い出来事を埋められる子と一緒になって、よう君が進みたい道に行く......あたしはそれを見守れればいいんだよ。」

蘭「......」

モカ「きっと、それが一番なんだよ。」

蘭「......待って。」

モカ「!」

 

 あたしは歩いて行くモカの手を掴んだ

 

 モカはゆっくり顔をこっちに向けて

 

 あたしの目を見据えてる

 

蘭「なら、陽介を諦めるって言うの?」

モカ「うん、それが一番だから。あたしに踏み込む余地はないよ。」

蘭「誰も、そんな事決めてないのに?」

モカ「っ......!」

 

 掴む手に力が入る

 

 でも、このままモカが諦めたら

 

 あまりにもモカが報われない

 

 ここまで思ってるのに思いを伝えられないなんて

 

 そんなに悲しい事はないから

 

蘭「陽介の幸せは陽介が決める。そして、あたしは陽介を一番思ってるのはモカだって思ってる。」

モカ「蘭......」

蘭「なのに、陽介の選択肢にモカが入らないなんて、あたしは絶対に許せない。」

 

 熱くなって、言葉が勝手に出てくる

 

 あたしはモカの目をじっと見つめ

 

 次の言葉を口にした

 

蘭「告白、しなよ。」

モカ「......っ。」

 

 あたしがそう言うと、

 

 モカが下を見たまま目を見開いた

 

 あたしは続けて話した

 

蘭「モカなら、大丈夫。幼馴染のあたしが言うんだから、間違いない。」

モカ「......」

蘭「幼馴染を信じて。」

 

 ひねり出すような声でそう言った

 

 すると、モカの手に力が入って、

 

 今度はモカが口を開いた

 

モカ「......蘭は、幼馴染を過信しすぎだよ。」

 

 モカが顔を上げ、

 

 あたしと真っ直ぐ目が合った

 

 モカの瞳は涙で濡れてて

 

 照明に照らされて輝いてる

 

モカ「蘭のせいで、もうあきらめられないじゃん......」

蘭「じゃ、じゃあ。」

モカ「うん......伝えるよ。この修学旅行中に。」

蘭「......良かった。」

 

 あたしはそう言って少し笑って、

 

 モカから少し離れた

 

 やばい、すごい心臓ドキドキしてる

 

 人の背中押すのって、難しい

 

モカ「ありがとうね、蘭~。」

蘭「......頑張りなよ、モカ。」

 

 あたしは笑顔のモカにそう言い

 

 少しだけ息をついた

 

蘭(お願い陽介。モカの気持ち、ちゃんと受け止めてあげて。)

 

 あたしは心の中でそう祈り

 

 歩いて行く幼馴染の背中を見送った

__________________

 

 ”陽介”

 

 風呂を上がった後、

 

 俺は部屋で携帯を見てる

 

 佐藤と六花がメッセージを送ってくる

 

陽介「__ははっ。」

 

 佐藤が送ってきたのはRASの練習風景

 

 チュチュもパレオも和奏も六花も楽しそうで

 

 数日離れる身としては、安心する

 

陽介「ん?六花からも写真?六花が取った練習風景かな__ぶふっ!!」

 

 六花のトーク画面を開いた瞬間、

 

 俺は飲んでたお茶を吹き出し、

 

 手に持ってた携帯を落としてしまった

 

陽介(ちょ、ろろ、六花!?)

 

 俺は落とした携帯を拾い上げ、再度画面を見た

 

 そこには、

 

 『どうでしょうか?』という文章と共に

 

 六花の下着姿の自撮りの写真があった

 

陽介(え、えっと......年頃の女の子がそんな事しちゃだめだろ、っと。)

 

 俺は落ち着きを取り戻し、

 

 六花にそう言う内容のメッセージを送った

 

 すると、すぐに返信が帰ってきた

 

陽介「えっと、『お好きに使ってください......♡』って、なにに!?」

 

 ハートの付いた可愛らしい文章

 

 六花も女子高生だなぁ......って

 

 いや、使ってくださいって何なんだよ

 

陽介「......」

 

 いや、嬉しくないわけじゃないんだ

 

 一応、俺も年頃な男なわけで、

 

 嬉しいことは間違いないんだ

 

陽介(......い、一応?好きなようにしていいって言ってるし?な!?)

 

 俺は心の中でそう言い訳しながら、

 

 周りをキョロキョロしながら、

 

 静かに保存ボタンを押した

 

つぐみ『__出水君?』

陽介「は、はい!出水陽介でございます!!!」

つぐみ『え、ど、どうしたの!?』

陽介「え、は、羽沢か......?」

 

 心臓が驚きで砕けるかと思った

 

 俺はゆっくり立ち上がり、

 

 部屋のドアを開けた

 

陽介「よ、よう、羽沢。」

つぐみ「う、うん。大丈夫?なんだか、すごく汗かいてるけど?」

陽介「あ、あはは、そうか?」

つぐみ「う、うん。」

陽介「ま、まぁ、そんな事は良いんだ。それで、何か用か?」

つぐみ「あ、え、えっと......///」

陽介「?」

 

 突然、羽沢がモジモジしだした

 

 そして、少しして

 

 意を決したようにこう言ってきた

 

つぐみ「ちょっと、お散歩行けないかな......?///」

陽介「散歩?まぁ、いいぞ?自由時間だし。」

つぐみ「じゃあ、行こ!出水君!」

陽介「あ、あぁ?」

 

 俺は大きな疑問を感じつつ、

 

 テンションの高い羽沢に手を引かれ

 

 夜の散歩に出かけて行った

 

 

 

 



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月が綺麗ですね

 旅館の中庭

 

 綺麗な植物に流れる水の音

 

 当蝋型のライトに照らされて、

 

 風流な雰囲気を醸し出している

 

 そんな庭の中を俺と羽沢は散歩中だ

 

陽介(__ここの雰囲気、好きだな。)

つぐみ「......///」

 

 冷えた空気が心地いい

 

 なんか、頭がすっきりしてくる

 

陽介「羽沢?」

つぐみ「あ、ど、どうしたの?」

陽介「なんかボーっとしてたが、大丈夫か?」

つぐみ「う、うん!大丈夫だよ!」

陽介「そうか。なら、よかった。」

 

 羽沢、結構長湯してたらしいし

 

 若干のぼせてるのかもしれない

 

 それなら、歩くよりゆっくりした方がいいか?

 

陽介「なぁ、羽沢。そこで座らないか?」

つぐみ「うん!いいよ!」

陽介「じゃあ、お先にどうぞ。」

 

 俺は近くにある岩に羽沢を誘導した

 

 羽沢はゆっくりそこに腰を下ろし、

 

 俺も岩に座った

 

つぐみ「ここ、すごくいい場所だね!池もこんな近くにあるよ!」

陽介「あぁ。何と言うか、風流だな。」

つぐみ「ふふっ、ちょっとおじいさんっぽいね。」

陽介「......俺も分かってるから言わないでくれ。」

 

 俺は頭を抱えながらそう言った

 

 羽沢は隣で小さく笑ってる

 

陽介「そう言えば、言い忘れてた。」

つぐみ「どうしたの?」

陽介「羽沢の浴衣、すごい似合ってるな。」

つぐみ「!///」

陽介「こう素朴な感じがして、落ち着く似合い方って感じがする。」

 

 田舎とかの旅館に行ったら、

 

 こういう子が親の手伝いで働いてそう

 

 眩しい笑顔でお客さんを迎えて、

 

 慌てて転ぶまでは想像した

 

つぐみ「い、出水君も似合ってるよ!///す、すごくかっこいい!///」

陽介「あはは、ありがとう。でも、そんな必死にならなくてもいいぞ?」

つぐみ「///」

 

 本当に可愛らしいな

 

 この庇護欲を掻き立てられる小動物感

 

 これは羽沢だからこそだな

 

 ”つぐみ”

 

 ど、どうしよう

 

 今、すっごくいい雰囲気

 

 出水君がこんな近くにいる

 

つぐみ(ひまりちゃんに言ってきなよって言われたけど、まさか、こんなに上手く行くなんて///)

 

 流石の私でも分かってる

 

 今、すごくチャンスだってこと

 

つぐみ(で、でも、どうやって、何を言えば......!?///)

陽介(羽沢、すごい慌ててるな。何かあったのか?)

 

 好きです、なんて恥ずかしくて言えない

 

 でも、それしか......

 

つぐみ(い、いや、ある!きっと、出水君なら知ってる!)

陽介(なんだ、今度は張り切ってる?)

 

 私は小さく息を吐いた

 

 そして、思い切って出水君の方を見た

 

つぐみ「い、出水君。」

陽介「ど、どうした?(真剣な顔だ。)」

つぐみ「き、今日は、月が綺麗ですね......!///」

陽介「え?(こ、これは。)」

 

 ”陽介”

 

 月が綺麗ですね

 

 これって、そういう事なのか

 

 羽沢の表情からしてそうとしか思えない

 

つぐみ「......///」

陽介(ど、どう答える......?)

 

 この返事は『はい』か『いいえ』しかない

 

 そうですか、なんて返してみろ

 

 俺はただの最低男になる

 

陽介(......ここは、正直に言おう。)

つぐみ(ど、どうしよう、出水君黙っちゃった......)

陽介「......今は答えられない。」

つぐみ「っ!」

 

 俺はそう答えた

 

 羽沢は目を見開いて俺を見てる

 

陽介「その理由は他の人にも告白されてるのと、それと......」

つぐみ「それと......?」

陽介「......答えるとしたら、『あなたと見る月だから。』ってなるから。」

つぐみ「ふぇ......?///」

 

 羽沢は顔を真っ赤にした

 

 いや、俺もかなり恥ずかしい

 

つぐみ「そ、そうなんだ......///」

陽介「その、羽沢は可愛いし、優しいし、一生懸命だし。俺の事を気にかけてくれたし、本当に感謝してる。」

つぐみ「そ、そんな!///私は、出水君が好きだから、勝手に......///」

陽介「っ!(か、可愛い。)」

 

 ちょっとでも理性が緩んだらokしそうだ

 

 それくらいに愛らしい

 

つぐみ「出水君は誰に告白されてるの?」

陽介「え?」

つぐみ「ちょっと、気になっちゃった。」

陽介「湊さん、六花、日菜さん。そして羽沢だよ。」

つぐみ「......素敵な人ばっかりだね。」

陽介「俺もそう思うよ。」

 

 本当に俺には勿体ないと思う

 

 もっと相応しい人間がいる

 

 そう思うけど、俺を選んでくれた

 

 だから、逃げ口上は使わない

 

 真っ向から、向き合わないと

 

つぐみ「......でも、私、選ばれたいな///」

陽介「!」

つぐみ「なんて、言っちゃったら我が儘かな?///」

陽介「......可愛い我が儘だと思うよ。」

つぐみ「そ、そっか///」

 

 羽沢は恥ずかしそうに眼を反らし、

 

 岩から立ち上がった

 

つぐみ「__もし。」

陽介「羽沢?」

つぐみ「もし、選んでくれなかったら、とびっきり苦いブラックコーヒー飲んでもらおっかな!」

陽介「!」

 

 羽沢は弾けんばかりの笑顔でそう言った

 

 少しいたずらっぽさも含んでて、

 

 言ってる内容がなんとも可愛らしい

 

陽介「......好物だよ。ブラックコーヒー。」

つぐみ「うん!だからだよ!」

 

 そう言いながら、羽沢は手を握ってきた

 

 小さくて、少しだけ冷えた手だ

 

 すごく女の子らしい手をしてると思う

 

つぐみ「旅館に戻ろ!出水君!」

陽介「あぁ、分かった。」

 

 俺と羽沢は手を繋いだまま、

 

 歩いて旅館に戻って行った

 

 戻るまでの道のり、

 

 羽沢はずっと嬉しそうに笑っていた

__________________

 

 旅館に帰ってきて羽沢と別れ、

 

 俺は自分の部屋に戻った

 

陽介「__あれ、電話?」

 

 部屋に戻ってすぐ、俺の携帯が鳴った

 

 これは、佐藤からだ

 

陽介「もしもし?どうした?」

ますき『お、出たか。』

 

 佐藤はいつも通りの声だ

 

 すごい安心感がある

 

 俺は内心そう思いつつ、話を進めた

 

陽介「どうかしたのか?」

ますき『いや、なんて言うか......チュチュのとこ行ってお前に会わねぇと落ち着かねぇって言うか。』

陽介「あはは、佐藤は意外と寂しがり屋か?」

ますき『は、はぁ!?うっせぇ!///』

 

 佐藤は大きな声を出してる

 

 だが、照れ隠しなのが見え見えだ

 

 きっと、電話の向こうでは、

 

 佐藤が顔真っ赤にしてるんだろうな

 

陽介「それで、どうしたんだ?本当に寂しくて電話してきたわけじゃないんだろ?」

ますき『え?あ、それはぁ......///』

陽介「?」

 

 佐藤の歯切れが悪い

 

 でも、何か隠してる感じでもない

 

陽介「......まさか、マジで寂しいからかけて来たのか?」

ますき『そ、そうだよ!///悪いのかよ!!///』

 

 佐藤はまた大きな声を出してる

 

 ほんとに可愛いやつだな

 

 誰だよ、佐藤のこと狂犬なんて呼んだの

 

ますき『(こっちの気も知らねぇで、こいつは......///)』

陽介「じゃあ、今1人だし。ちょっと話そうか。」

ますき『!』

陽介「俺も佐藤と話すと落ち着くから。」

ますき『そ、そういう事なら仕方ねぇな!///』

陽介「あはは。」

 

 それから俺は夜遅くまで佐藤と電話した

 

 今日あった事とかの話をして、

 

 羽沢の事があって、心臓がやばかったけど

 

 すごい落ち着いた

 

 

 



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雪の中の告白

 羽沢に告白されて一晩明けた

 

 あの後は0時まで佐藤と電話して、

 

 お互いに眠たくなって眠った

 

つぐみ「__出水くーん!」

陽介「あ、羽沢。」

 

 朝ごはんの時間になり食堂に来ると、

 

 羽沢が向こうから駆け寄ってきた

 

つぐみ「おはよう!」

陽介「あぁ、おはよう。」

つぐみ「今から朝ごはんだよね?一緒に食べよ!」

陽介「いいよ。」

つぐみ「やった!」

陽介(......うん、可愛い。)

 

 朝ごはん一緒に食べるだけでこの喜びよう

 

 誰だってかわいいと思うだろ?

 

 俺はそんな事を考えつつ朝ごはんを取りに行った

 

 ”モカ”

 

モカ(ど、どうしよう......)

 

 早くに食堂に来てようくん待ってたけど

 

 なんて話しかけて良いか分からなくなって、

 

 つぐに先を越されちゃった......

 

モカ(はぁ、今回は諦めよ......)

蘭「__はぁ、何してんの?」

モカ「あれ、蘭......?」

 

 あたしがお盆を持って出来に座ろうとすると、

 

 どこか呆れた顔の蘭が話しかけて来た

 

 そして、軽くデコピンをしてきた

 

モカ「痛いよ~......」

蘭「なに1人で食べようとしてんの?陽介のとこ行けばいいじゃん。」

モカ「いや、だって、つぐが......」

蘭「そんなの気にしなくていいって。(つぐみも気にしないだろうし。)

モカ「で、でも......」

蘭「つべこべ言わず、行くよ。......陽介!」

陽介「ん?どうしたー?」

モカ「ら、蘭~!」

 

 あたしは蘭に手を引かれ、

 

 ようくんとつぐのいるテーブルに向かった

__________________

 

 困惑したまま引っ張られ、

 

 もう2人のところまで来ちゃった

 

蘭「ここ、モカも座っていい?」

陽介「いいぞ?なぁ、羽沢?」

つぐみ「うん!モカちゃんも一緒に食べよ!」

モカ「!」

 

 2人は迷うことなく承諾した

 

 なんで、2人で楽しそうに食べてたのに

 

 あたしは困惑した

 

蘭「ほら、座りなよ。」

陽介「美竹は食べないのか?」

蘭「あたしはいいよ。巴とひまり起こしに行かないといけないし。」

陽介「あっ(察し)」

 

 よう君は何かを察した顔をした

 

 想像通り、あの2人は夜更しして

 

 今も部屋で寝てる

 

蘭「そういう訳だから。3人でごゆっくり。」

つぐみ「またね、蘭ちゃん!」

陽介「じゃあなー。」

 

 2人は歩いて行く蘭に手を振ってる

 

 こういうところも2人はよく似てる

 

 やっぱり、この2人なら......

 

モカ(きっと、幸せに......)

陽介「青葉?」

モカ「っ!ど、どうしたの~?」

陽介「なんか、ボーっとしてるから。調子悪いのか?」

つぐみ「大丈夫?」

 

 2人は心配そうにこっちを見てる

 

 この2人の子供ってこんな気分なのかな

 

 もう、考えただけでない自信失くしそう......

 

モカ「だ、大丈夫だよ~。」

つぐみ「そう?」

モカ「う、うん~。2人の気のせいだよ~、あはは~。」

陽介「......?」

モカ(やっぱり、あたしじゃ......)

 

 あたしは楽しそうな2人に疎外感を感じながら

 

 味気が無くなった朝食を詰め込んだ

__________________

 

 ”陽介”

 

 青葉の様子がおかしい

 

 気のせいとかでは絶対にない

 

 なんか、元気がないように見える

 

陽介(何があったんだ?)

 

 熱があるようには見えなかった

 

 じゃあ、何か他の不調?

 

 それとも......

 

蘭「__陽介。」

陽介「あ、美竹。」

蘭「少し、話があるの。」

陽介「話?(この雰囲気。)」

 

 いつもの美竹じゃない

 

 ちょっと張り詰めてる気がする

 

 こっちの息が詰まりそうだ

 

蘭「陽介は気づいてるよね。モカがおかしいってこと。」

陽介「あぁ、美竹は知ってるのか?」

蘭「うん、知ってる。」

陽介「!」

 

 美竹は軽くうなずいた

 

 これで俺は余計に分からなくなった

 

 体調不良じゃないのは確実になった

 

 でも、美竹が深刻そうな理由が分からない

 

蘭「今の陽介にあんまり、こんな話したくない。でも、話さないといけない。」

陽介「それは......?」

 

 美竹は拳を握り込んで歯を食いしばってる

 

 本当に話ずらいと思ってるんだ

 

蘭「実は__」

女子「み、美竹さん!」

蘭、陽介「!!」

 

 美竹が何かを言おうとした時、

 

 1人の女子がこっちに走ってきた

 

蘭「なに?」

女子「そ、その、青葉さん見てない?」

蘭「モカなら、自由時間になってから見てないけど。」

陽介「どうかしたのか?」

女子「そ、その、今外が大雪で全員ホテル待機になったんだけど......青葉さんだけいないの......」

蘭、陽介「っ!?」

 

 女子のその言葉で背中が寒くなった

 

 自由時間に入ってから30分ほど

 

 仮にすぐに外に出てたとしたら......

 

女子「ここ、雪崩も起きるらしいし、もしものことがあったら......」

陽介「......起こさない。」

蘭「陽介?」

 

 俺は小さな声でそう言い、

 

 出入口の方を向いた

 

陽介「青葉を探してくる。」

蘭「ちょっと、危ないって!」

陽介「大丈夫だ。別に死にはしない。行ってくる!」

蘭「ちょっと、陽介!」

 

 俺は美竹の声を無視し、

 

 ホテルの外に出て行った

__________________

 

 ”モカ”

 

 外は、すごい雪が降ってる

 

 向こうじゃ滅多に見れないくらい降ってる

 

モカ(__ま、前が見えない......)

 

 まるで雪のカーテン

 

 幸いにも屋根がある場所に来れたけど、

 

 これはしばらく帰れない

 

 帰ろうとしたら迷子になって凍死しそう

 

モカ(でも、ちょうどよかったかも。)

 

 この感じじゃ、絶対にホテル待機だし

 

 ホテルにいたらきっとよう君に会っちゃう

 

モカ(......さらに思い知っちゃったよ。)

 

 本当につぐと相性がいい

 

 しかも、あの雰囲気

 

 2人の間には絶対に何かあった

 

 あたしが余計なことをしなければ、

 

 よう君は幸せになれる......

 

モカ(......でも、諦めるのは......)

 

 嫌だ、なんて思っちゃう

 

 蘭のせいだ

 

 蘭のせいでその気になったから、

 

 諦めたいのに諦められない

 

モカ「......どうすればいいの~......?」

陽介「__あ、こんな所にいたのか。」

モカ「え?」

 

 あたしが1人で考え事をしてると

 

 白い息を吐いて、少し疲れてる

 

 いつも通り優しい表情のよう君がいた

 

モカ「な、なんで、ここに?」

陽介「大雪で危ないから、探しに来た。安全な所にいてくれてよかった。」

 

 よう君は安心した様な声でそう言った

 

 本当に心配してくれてたんだ

 

 やっぱり、よう君は優しい

 

陽介「さぁ、帰ろう......って、言いたいところだけど。」

モカ「?」

陽介「ちょっと、疲れたから、休んでもいいか?」

 

 よう君は笑いながらそう言った

 

 そして、あたしの横に座った

 

陽介「いやー、体力がないと困るな、あはは。」

 

 よう君はずっと笑ってる

 

 こんなに笑えるようになったんだって、

 

 すごく嬉しく思う

 

モカ「......」

 

 どう接していいか分からない

 

 告白したい気持ちとしたくない気持ち

 

 其の2つが混在してぐちゃぐちゃになってる

 

陽介「......青葉、何か悩みあるのか?」

モカ「え?」

 

 突然、よう君がそんな事を言ってきた

 

 あたしは心を読まれたような感覚になって

 

 ひどく驚いた

 

陽介「朝から元気ないだろ?」

モカ「......!」

陽介「何かあったなら相談してくれ。」

 

 よう君はそう言ってあたしの方を見てる

 

 まさか、気付かれてたなんて......

 

モカ「......よう君は好きな人とかいる?」

陽介「え?」

モカ「......」

陽介「え、えーっと......」

 

 よう君は困ったような表情を浮かべてる

 

 当り前だよ、突然こんな質問されたら

 

 あたしだって絶対に困る

 

陽介「そ、そうだな、特定の人物はいないと言うか、決められないと言うか......」

モカ(そっか、多分、湊さんに日菜先輩、つぐあと六花も......)

陽介「でも、もうすぐに決める。先延ばしにし過ぎるのは悪いから。」

モカ「っ!」

 

 真面目な顔でよう君はそう言った

 

 そっか、もう決めるんだ

 

 それでいいんだよ、よう君

 

モカ(......っ。)

 

 出来れば、つぐを選んでほしい

 

 そう思うけど、何かが勝手に蠢いてる

 

 それは頭のてっぺんから下に降りて行って

 

 神経を段々、支配される

 

陽介「?」

モカ「......っ!」

陽介「青葉?」

モカ(もう、ダメ......ッ)

 

 あたしはよう君の袖口を掴んだ

 

 もう、止まれない

 

 だって、あたしだって......

 

モカ「......よう君が好き。」

陽介「え?」

 

 ”陽介”

 

 青葉は消え入りそうな声でそう言った

 

 聞き逃すことなんて無い

 

 確かに、好きと聞こえた

 

モカ「本当は言いたくなかったんだ......」

陽介「っ!」

モカ「あたしはよう君に幸せになってほしい......だから、出来ればつぐと一緒になってほしかった。」

 

 青葉はつらつらと言葉を並べた

 

 段々と目から涙が零れてきてて、

 

 声が震えてきてる

 

モカ「でも、蘭に背中を押されて、こんなによう君に優しくされたら、止まれないよぉ......!!」

陽介「青葉......」

モカ「お願い、よう君......幸せにできる自信なんてないけど、頑張るから、あたしと一緒にいて......」

 

 青葉が袖口を掴む力が強くなった

 

 美しく悲痛な感情が伝わってくる

 

陽介「......そんな自信、いらないよ。青葉。」

モカ「え......?」

陽介「むしろ、自信がないのは俺の方だよ。」

 

 俺は青葉に上着を着せながらそう言い

 

 少しだけ大きく息をした

 

陽介「こんな素敵な子にこんなに思われて、俺の方が幸せにできる自信ない。」

モカ「そ、そんなこと、よう君は......」

陽介「出来る事なら、みんな幸せにしたい。勿論、青葉も。」

モカ「っ......///」

 

 俺は青葉の頭を撫でた

 

 なんか、モフモフしてて、

 

 日ごろの青葉を表してるようだ

 

陽介「みんな、俺を幸せにしてくれた。青葉も普段は面白くて変なことも言うけど、母さんが来たときは守ってくれて、俺を友達だって言ってくれた。その事は感謝してもしきれない。」

モカ「よ、よう君~......///」

陽介「結果はどうなるか分からないけど、その、そうなってるかもしれないし。そうならなくても、青葉とは一緒にいたいって思う。」

 

 俺はそう言ってベンチから立ち上がり、

 

 振り向いて青葉の方に手を差し出した

 

陽介「雪がちょっと弱くなった。今のうちに帰ろう。」

モカ「うん~!よう君~!///」

 

 青葉は弾けんばかりの笑顔で頷き、

 

 差し出した俺の手を握った

 

モカ「......大好きだよ~///」

陽介「俺も好きだよ、今は、友達として。」

モカ「うん~......!///」

 

 俺と青葉は手を繋いでホテルに帰った

 

 帰ったら4人が待ち構えてて、

 

 羽沢がちょっとだけむくれてた

 

 でも、まぁ、これもいい思い出だな

 

 

 

 



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ビデオ電話

 朝、青葉に告白され

 

 その後にホテルに帰って来て

 

 それからは1日はホテル待機だった

 

 それで今は夜ご飯、なんだけど......

 

モカ「ようくん、あーん///」

陽介「......」

つぐみ「い、出水君!私のも食べて!///」

陽介「......」

 

 今はこういう状況になってる

 

 青葉と羽沢から料理は差し出され

 

 体を密着させられている

 

 なんなんだろう、この状況

 

巴「お、おー、すごいことになってるな。」

蘭「あんなモカとつぐみ、初めて見た。」

ひまり「う、うん。」

 

 3人も驚いた顔をしてる

 

 俺ですらこの驚きようだし、

 

 幼馴染だとさらに驚くだろう

 

モカ「ほら~、食べて~?」

陽介「あ、うん。」

つぐみ「私も私も!」

 

 俺は2人に差し出された料理を食べた

 

 2人は嬉しそうな顔をして、こっちを見てる

 

 すごく食べずらいな

 

蘭「陽介、何したの?」

陽介「な、何もしてないはずなんだけど。」

モカ「そうそう~、モカちゃんはいつも通りだよ~。」

つぐみ「私も!」

巴(違うから言ってるんだけどなー。まぁ、流石、陽介だな。)

ひまり(いずみんモテモテだねー。)

陽介(う、うーん、なんでだろ。)

 

 俺は今の状況に疑問を感じつつ

 

 2人から出される料理を食べ

 

 夜ご飯の時間を過ごした

__________________

 

 夜ご飯を終え、風呂に入った後

 

 俺は自分の部屋に帰ってきた

 

 何と言うか、嬉しい状況なんだけど

 

 すごく疲れたな......

 

陽介「ん?」

 

 1人で少し笑ってると、

 

 テーブルに置いてある携帯が鳴った

 

ますき『おう、出水。』

陽介「今日も寂しかったのか?」

ますき『ち、ちげぇよ!///』

陽介「あはは、そうかそうか。」

 

 佐藤は本当に分かりやすい

 

 電話越しでもどんな顔をしてるか分かる

 

 そう言うところが可愛いと言うか

 

 面白いって言うのか

 

ますき『それで、修学旅行はどうだ?』

陽介「楽しいよ。今日はホテル待機になったけど。」

ますき『あー、そっちは大雪だったか。』

陽介「そうそう。」

ますき『そりゃあ、災難だったな。』

 

 佐藤は調子を取り戻したようで、

 

 いつもの声のトーンになった

 

 そして、少し間が空いた後、

 

 佐藤はこう言った

 

ますき『なぁ、ビデオ通話にしないか?』

陽介「え?」

ますき『今、部屋だろ?顔合わせねぇとお前の調子が分かんねぇ。』

陽介「まぁ、いいぞ。俺も佐藤の顔見たかったし。」

ますき『じゃあ、切り替えるぞ。』

陽介「了解。」

 

 俺は画面のカメラマークをタップした

 

 すると画面は写真を撮るときのようになり

 

 佐藤の顔が映った

 

 どうやら、風呂上りみたいだ

 

陽介「おぉ、なんか久しぶりに感じる。」

ますき『あぁ、そうだな。』

 

 約2日ぶりに見る佐藤は優しい笑みを浮かべてる

 

 改めてしっかり顔を見て見ると、

 

 綺麗と言うか可愛いと言うか、顔がいい

 

ますき『どうした?』

陽介「なんでもないよ。それで、何の話する?」

ますき『そうだなー......じゃあ、お前が何人に告白されてるか聞きたいなー。』

陽介「え!?」

 

 佐藤は悪戯っぽく笑ってる

 

 マジか、バレてたのか

 

ますき『それで、どうなんだ?』

陽介「ま、まぁ......5人ほどに。」

ますき『おー、モテモテだなー。』

陽介「ま、まぁ、かなり運がいいな。」

ますき『いーや、それは実力だっての。謙遜すんなって。』

陽介「あ、あはは。」

 

 実力って何なんだろうか

 

 別に俺は顔がいいわけでもないし

 

 人生における運を9割使ってる気がするんだけど

 

ますき『それで、どんな奴らに告白されたんだ?印象とか教えてくれよ。』

陽介「印象?」

ますき『じゃあ、最初に告白した人からな。』

 

 すごく勝手に話を進めるな

 

 俺はそう思ったが折角だし話すことにした

 

 最初は湊さんか

 

陽介「最初の人はすごく安心感のある人だよ。いつも優しくしてくれて、昔の俺の事も知ってて、俺が呪縛から逃れられたのはあの人のお陰と思ってる。」

ますき『じゃあ、子供時に会ってたのか。それはどこのボーカルの先輩だ?』

陽介「わ、分かってるのか......」

 

 佐藤、俺の事なんでも知ってるんじゃ?

 

 もう、隠そうとしても筒抜けなのかもしれない

 

ますき『じゃあ、2人目。』

陽介「2人目の子は良い後輩と言うか、可愛い子だよ。日ごろはオドオドしてるけど頑張り屋で、ライブになれば誰よりかっこよく演奏する。年下ながら尊敬してるよ。不安定な俺を支えてくれた1人だし。」

ますき『ロックかー。そう言う風に思ってたんだなー。』

陽介「いや、ハッキリ名前出さないでくれ。恥ずかしいから。」

ますき「わりぃわりぃ。じゃあ、次の人。」

 

 次は日菜さんか

 

 この人は結構色々あったな

 

陽介「その人、最初は嫌いだった。いつも眼帯狙ってくるし、常識ないし。でも、悪い事したら謝るし、自分の興味本位で人が傷つくのを気にしない人間じゃないのは分かった。むしろ、関われば話すの楽しいし、一緒にいれば発見も多い。ファンタジーな人だな。」

ますき「出水とは相性よさそうだな。お前、頭硬いし。」

陽介「俺もそう思うよ。」

ますき「じゃあ、次な。」

 

 俺が笑ってると、

 

 佐藤は話を次に進めた

 

 顔が興味津々だ

 

陽介「4人目は昨日告白された。いつも一生懸命で名前から頑張ってる?っていう意味の言葉が生まれてた。生徒会の子でさ、俺の事を気にかけてくれて、親の話をしても変わらず接してくれて、自分に自信がないけど、本当に素敵な子だと俺は思ってるよ。」

ますき『じゃあ、流れで5人目話せよ。今日だろ?』

陽介「5人目の子は、すごく俺を思ってくれてた。いつもは自信満々なのに、俺を幸せにする自信がないからって告白をやめようとしてた。でも、その子は多分、羽丘に来てから1番一緒に行動したし、何となく性格の相性もいいのかなって思ってる。きっと、一緒にいればいい未来が来るのかなって。」

 

 口に出してみると、皆すごく素敵だ

 

 俺なんかが選んでいい人たちじゃない

 

 もう、運は使い果たしてるな

 

ますき『出会いに恵まれたな、出水。』

陽介「あ、佐藤?」

ますき『なんだ?』

陽介「俺の思い込みじゃないなら、もう1人いるんだけど。」

ますき『!!』

 

 俺がそう言うと佐藤の表情が変わった

 

 まぁ、分かってるんだろうな

 

陽介「俺はきっと、最初はその子が好きだった。」

ますき『!』

陽介「でも、今は並ぶ子が5人も出て来たから好きとは言えない。でも、大切なのは間違いないよ。」

 

 俺が話してる途中、

 

 佐藤は何も話さなかった

 

 でも、若干、顔が赤くなってる

 

ますき『......その、もう1人。』

陽介「?」

ますき『そいつが告白したら、答えだすんだな?』

陽介「一緒にいたいと思ったら、俺から告白するつもりだったけど。」

ますき『いーや、きっとそいつは自分から言いたいと思ってる。』

 

 佐藤は片目を閉じながらそう言った

 

 俺の潰れた目の方が空いてる

 

 器用なもんだな

 

ますき『......なぁ、出水。』

陽介「どうした?」

ますき『修学旅行から帰ってきたら、迎え行く。』

陽介「......あぁ、分かった。」

ますき『じゃあ、今日はここまでな。さっさと寝ろ。じゃあな。』

陽介「あぁ、またな。」

 

 そう言うとすぐ、画面はホームに戻った

 

 画面に映る自分の顔は少し笑ってて

 

 でも、心臓は大きな音を出して動いてる

 

 すっごい緊張してるな、これ

 

陽介(これで、決めるから。)

 

 まだ、自分の気持ちなんて分からない

 

 誰を好きになるのか、一緒にいるのか

 

 まだ、何も分からない

 

陽介(その辺りは未来の俺に任せよう。)

 

 今は修学旅行を楽しもう

 

 答えはきっと、おのずと出て来ると思う

 

 俺はそんな事を考えながら、

 

 テーブルに置いてある明日のスケジュールに目を通してから、敷いてある布団に入って眠りについた

 

 

 

 



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自由時間

 修学旅行3日目

 

 もう、日数も半分を過ぎた

 

 今日も5人と朝ごはんを食べてる

 

モカ「__はーい、ようくん~。」

つぐみ「これも食べて!」

陽介「ちょ、ちょっと待って。」

蘭「......相変わらずだね。」

 

 俺は左右から料理を出されて

 

 口を必死に動かしてる

 

 美少女2人に食べさせてもらえるのは幸せなことなんだけど、口は1つしかないので食べるのが大変だ

 

ひまり「モテモテだねー!」

巴「こんな2人、初めて見たな!」

蘭「陽介が2人を変えちゃったね。」

陽介「それはいい事なのか......?」

モカ「いいんだよ~。」

つぐみ「うん!いいことだよ!」

 

 2人は良い笑顔でそう言ってくる

 

 それを見て他の3人は苦笑いを浮かべてる

 

 多分、俺も同じような表情をしてると思う

 

蘭「今日も基本的に自由だけど、どうする?」

陽介「みんなで行ってもいいんじゃないか?」

 

 人数は多い方が楽しいだろうし

 

 幼馴染5人で思い出を作るのもいい事だし

 

蘭(そうしたいのは山々なんだけど......)

モカ(ようくんと行きたい......///)

つぐみ(2人で......!///)

蘭(モカとつぐみの2人で行きたいオーラが凄いんだよ。てか、なんで陽介は気づかないんだろ。)

陽介「?」

 

 美竹は何か言いたげにこっちを見てる

 

 なんで、こんなに見られてるんだろう?

 

 俺がそんな事を考えると同時に、

 

 上原が何かを思いついた様な声を出した

 

ひまり「折角だし、くじで決めようよ!」

陽介「クジ?」

ひまり「うん!アプリで偶々入れてあるんだ!」

巴「へぇ、そんなのあるのかー。」

ひまり「これこれ!」

 

 上原は携帯をテーブルに置き

 

 画面には箱に入ったクジが写ってる

 

 こんなアプリもあるのか

 

 と、俺は少しだけ感心した

 

モカ(確率は5分の1.......!)

つぐみ(引けない確率じゃない!)

蘭(もう欲望が透けて見える。)

巴「じゃあ、引くか。」

ひまり「じゃあ蘭からね!」

 

 そうして俺達は順番にくじを引き

 

 今日の自由時間のペアを決めた

__________________

 

 という事が朝にあって

 

 少し時間が流れ自由時間になり、

 

 俺はペアと一緒に喫茶店に入ってる

 

蘭(なんで、あたし......?)

陽介「どうかしたか?」

蘭「なんでもないよ。」

 

 俺のペアは美竹だ

 

 後は青葉と羽沢、上原と宇田川だ

 

 いい感じにばらけたな

 

陽介「それにしても、ここのコーヒーも美味しいな。」

蘭「うん、いい味してるね。店の雰囲気もいいし。」

陽介「心が落ち着くよな。」

 

 店内はコーヒーの匂いがしてて、

 

 ちょうどいい音量で音楽が流れてる

 

 客も時間的に多くないし

 

 すごい落ち着く

 

蘭「て言うか、陽介はあたしと2人で良いの?モカとかつぐみじゃなくて。」

陽介「俺は誰とでも嬉しいよ。それに、相談相手なら美竹が一番いいし、ちょうどよかった。」

蘭「相談?」

 

 美竹は首をかしげてる

 

 まぁ、相談って急に言われたわけだしな

 

 俺はそんな美竹を見ながら話を続けた

 

 ”蘭”

 

陽介「昨日、青葉に告白された。」

蘭「うん、知ってる。」

陽介「それで、俺は他の人にも告白されてて。」

蘭「選べないって事?」

陽介「いや、違う。」

 

 あたしの言葉に陽介は首を横に振った

 

 少しだけ驚いた

 

 じゃあ、相談事って何なんだろ

 

陽介「俺は誰を好きになるんだろうって。。」

蘭「!」

陽介「みんな大切であることは間違いないんだけど、好きかどうかはまた話が違うと思ってな。」

蘭「なるほどね。」

 

 陽介の気持ちは分かる

 

 そう言う気持ちって分かりずらいし

 

 自分じゃ整理が付けにくいし

 

蘭「じゃあ、現時点で好きな人はいないんだ。」

陽介「あぁ、いない。」

蘭(じゃあ、あの2人の可能性もゼロじゃないかな。)

 

 陽介の今までの体験的に

 

 近しい人物以外を好きになることはないだろうし

 

 相手はほぼ絞られるかな

 

陽介「俺は、誰を好きになるんだろう。」

蘭「あたし的にはモカかつぐみだと嬉しいんだけど。」

陽介「ははっ、そうなっても楽しいだろうな。」

 

 陽介は朗らかに笑ってる

 

 こんな風に笑うようになったんだ

 

 ほんと、初めて会った時とは別人みたい

 

陽介「じゃあ、そうなった時のために2人について教えてくれないか?」

蘭「うん、いいよ。何でも教えてあげる。」

陽介「よろしくお願いします。美竹先生。」

蘭「ごめん、それはやめて。」

 

 あたしはそう拒否の言葉を口にし

 

 それからあたしはモカとつぐみの事を陽介に教えた

 

 2人の事について話すたびに陽介なら安心して任せられるって思った

__________________

 

 ”モカとつぐみ”

 

 観光客が多く集まるスポット

 

 そこで、モカとつぐみはアイスを食べながら

 

 少し落ち込んだ表情をしていた

 

モカ「クジって、なんで綺麗に外れるのかな。」

つぐみ「わ、分かんない。」

モカ「しかも、ペアが蘭なんてね~。」

 

 モカはふとそんな事を言った

 

 つぐみは不思議そうに首を傾げ

 

 モカの方を見た

 

つぐみ「蘭ちゃん何かあるの?」

モカ「いや~、あの2人もかなり仲が良いから、もしかしたら......なんて~。」

つぐみ「それはないんじゃないかな?蘭ちゃんにそんな雰囲気なかったし。」

モカ「いや~、よう君の方なんだよ、問題は~。」

つぐみ「え?」

 

 モカの言葉でつぐみはさらに分からなくなった

 

 そんなつぐみを見て、モカは続けて話した

 

モカ「ようくん、特定の好きな人とかいないから、蘭に持っていかれちゃったりとか考えてね~。」

つぐみ「い、いや、でも。」

モカ「絶対にないって言える?」

つぐみ「......言えないかも。」

 

 つぐみは小さな声でそう言った

 

 モカは少しだけ溜息を付き

 

 アイスを舐めた

 

モカ「まぁ、あたしはようくんが幸せならなんでもいいんだけどね~。」

つぐみ「それは、私も思うけど......」

 

 つぐみは落ち込んだ声でそう言った

 

モカ「やっぱり、一緒にいたいよね。」

つぐみ「うん......」

 

 モカは薄く笑いながらつぐみを見てる

 

 そして、ゆっくりつぐみの頭に手をやった

 

つぐみ「モカちゃん?」

モカ「もしも、あたしがよう君に選ばれたら、恨んでもいいよ。」

つぐみ「え?」

モカ「絶対につぐの方がよう君を幸せにできるから。」

 

 つぐみは驚いた表情を浮かべてる

 

 モカはいつもと違った真剣な表情で

 

 声もいつもより低くなっている

 

つぐみ「恨まないよ!」

モカ「!」

つぐみ「モカちゃんは友達だし、何より出水君が決める事だから!」

 

 つぐみは訴えるような声でそう言った

 

 その様子を見たモカはつぐみをジッと見て

 

 ボソッと言葉を出した

 

モカ「......つぐはいい子だね~。」

 

 モカはつぐみを撫で続けている

 

 それはまるで、ペットを可愛がる手つきだ

 

つぐみ「も、モカちゃん、いつまで撫でてるの......?」

モカ「んー、尊みが治まるまで~?」

つぐみ「う、うん?」

 

 それからしばらく、

 

 モカはつぐみを撫で続け

 

 それを偶々見つけた陽介と蘭が疑問符を浮かべたのはまた別のお話

 

 




終わったシリーズの番外編書きます。
どれがいいとかあれば教えてください。


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帰り

今日は昼にすごいものを見た

 

 何故か羽沢を撫でてる青葉がいて、

 

 なんか青葉は幸せそうな顔してたし、

 

 羽沢は困ってるけど嬉しそうな顔をしてて

 

 なんとも微笑ましい光景だった

 

 仲が良くていいと思った

 

陽介(__あれ、今日でここに泊まるの最後なのか。)

 

 俺はスケジュールを見てるとそんな事を思った

 

 日数は3泊4日なわけで、もう3日目の夜

 

 寝て起きたらもう帰るだけだ

 

 何と言うか、早いな

 

陽介「なんか......すごかったな。」

 

 修学旅行の内容が頭に入ってない

 

 青葉と羽沢の記憶が色濃く残ってる

 

 いや、むしろそれしか無かったんじゃって思う

 

陽介(まぁ、うん、すごかったなー__)

モカ「__よう君~、入るね~。」

陽介「!?」

つぐみ「私も......」

陽介「んん!?」

 

 あれ、なんで鍵開いてるんだ?

 

 て言うか、なんで2人がここに来たんだ?

 

 俺は咄嗟の出来事で混乱した

 

陽介「ど、どうしたんだ?」

モカ「いや~、修学旅行最終日だし、遊びに来たんだよ~。」

つぐみ「出水君が寂しがってるって、モカちゃんが!」

陽介「いや、別に寂しいと思った事はないんだけどな。」

 

 それにしても、この状況は問題だ

 

 男1人の部屋に女子が2人

 

 これ、仮に誰か来たらマズいんじゃないか?

 

 捕まったりしないか......?

 

モカ「流石によう君の部屋は綺麗だねー。」

陽介「まぁ、俺しかいないからな。」

つぐみ「それでも、整理整頓が上手だよ!」

陽介「そうか?」

 

 そんな会話をしながら

 

 2人は置いてある座布団に座った

 

 俺は部屋に置いてあるお茶を淹れに行った

 

つぐみ「あ、手伝うよ!」

陽介「いや、いいよ。すぐに終わるから。」

モカ「お菓子食べてもいいー?」

陽介「あぁ、いいよ。好きなだけ食べてくれ。」

 

 そう言えば、今日の昼に美竹が『モカが部屋のお菓子全部食べた。』って言ってたな

 

 分かってるけど食いしん坊だな

 

 作る身としては良く食べてくれる子はいい

 

 しかも美味しそうに食べてくれる

 

陽介「はい、どうぞ。」

つぐみ「ありがとう!」

モカ「おいひい~。」

陽介「ははは、それ美味しいよな。」

モカ「うん~。」

 

 俺は2人の反対側に座り

 

 お菓子を食べてる2人の姿を見た

 

陽介(うん、可愛いな。)

 

 美竹からの話を聞いた後に2人を見ると少し違う見え方になるな

 

 深みが増すと言うか、何と言うのか

 

 本当に見方が少しだけ変わった

 

モカ「どうしたの、よう君ー?」

陽介「ん?」

モカ「もしかして、美少女2人が目の前にいて緊張してるの~?」

つぐみ「!?///」

 

 青葉はニヤニヤしながらそう言ってきた

 

 羽沢は横でワタワタしてる

 

陽介「緊張はしてないけど。折角、青葉がいるように美少女2人がいるから目に焼けつけておこうと思って。」

モカ、つぐみ「っ!?///」

陽介(お、青葉まで表情変わった。面白いな。)

 

 最近、青葉の表情が分かりやすくなった

 

 前までは全く違いが分からなかったのに

 

 美竹もこれには驚いてたな

 

つぐみ「な、ななな、何言ってるのかな!?///」

モカ「も、もー......///」

陽介「青葉は自分で言ってただろ?」

モカ「それとこれとは違うんだよねー......///」

 

 ヤバいな

 

 これ、構図がただのタラシの最低男だ

 

 いつか刺されたりしないかな、俺

 

陽介「......ま、まぁ、折角来たんだし何か話そうか。」

つぐみ「大丈夫?何か変な汗かいてるよ?」

陽介「大丈夫大丈夫。自分の愚行で刺される未来が見えただけだから。」

つぐみ「刺される!?」

モカ「どんな想像したのー?」

 

 それはもう、ヤバい未来だよ

 

 あんまり不用意な事が出来ないなよ

 

 いや、元からする気もないけど

 

モカ「あたし達も何か用があって来たわけじゃないしー。」

つぐみ「私も、モカちゃんに呼ばれたから来てて。」

陽介「あ、うん。そうか。」

 

 俺はチラッと時計を見た

 

 時間的にもうすぐ消灯時間になる

 

 あんまりゆっくりも出来ないらしい

 

陽介「じゃあ、部屋に戻ったらどうだ?もうすぐ消灯時間だぞ?」

モカ「えー、ここで寝たらダメー?」

陽介「ダメです。」

モカ「どうしてもー?」

つぐみ「......///」

陽介「どうしても。美竹たちも心配するだろ__!」

 

 俺が話してる途中、部屋の電気が消えた

 

 暗闇の中で青葉がニヤニヤしてるのが分かる

 

 多分、手元に電気のリモコンがあったのか

 

陽介「あのー、青葉さん?」

モカ「ん~?どうしたの~♪」

陽介「いや、流石にここでは駄目だぞ?」

モカ「モカちゃん、暗くて足元見えな~い♪」

つぐみ「私も、何も見えない、出水君とモカちゃんしか見えない///」

陽介「見えてるよね、それ。」

 

 別に電気を消しても足元位見える

 

 片目しかない俺でも見えてるんだし、

 

 2人が見えない事なんてありえない

 

 羽沢に関してはもう自白しちゃってるし

 

モカ「......よう君はあたし達が邪魔ー......?」

陽介「え?」

つぐみ「一緒にいたら、ダメかな......?」

陽介「いや、邪魔とかじゃなく......」

モカ「ようくん~......」

つぐみ「出水君......」

陽介「......」

 

 もう、このパターンは分かってるんだ

 

 いつもなら、ここで押しに負けて

 

 なんだかんだで何でも承諾してしまう

 

 だが、流石に今回は__

 

陽介「......睡眠をとるだけなら。」

 

 今回も無理でした

 

 だって、2人が本当に悲しそうな顔してるんだよ

 

 断ったら本当に泣きそうな顔だし

 

 だから、無理です(諦め)

 

モカ「やったー。」

つぐみ「じゃあ、寝よっか!」

陽介(寝る時のテンションじゃないんだが。)

 

 俺はそんな事を思いつつも2人に腕を引かれ

 

 一緒の布団に3人はいると言う構図が出来た

 

 いや、大丈夫、大丈夫だ

 

 六花とだって一緒に寝たんだ

 

 もう流石に耐性ついてる(はず)

 

陽介(よし、出来るぞ、俺!)

モカ「ようくん~。」

陽介「あ、青葉!?」

モカ「ようくんはあったかいね~///」

 

 布団に入ってすぐ

 

 右で寝てる青葉が抱き着いてきた

 

 青葉の感触はイメージ通り、柔らかい感じだ

 

 しかも、女子ってなんで固有の匂いがあるんだろう

 

つぐみ「わ、私も......!///」

陽介「っ!(羽沢まで......!?)」

 

 今度は左の羽沢も抱き着いてきた

 

 青葉とはまた違った感触と匂い

 

 しかも、2人とも幸せそうな顔をしてるのがまた効く

 

モカ「じゃあ、寝るねー。」

陽介「え、あの__」

つぐみ「おやすみなさい......」

陽介「......」

 

 2人は俺に発言を許さないまま目を閉じた

 

 起きてるかもしれないけど、

 

 寝ようとしてるのを邪魔するのもだし

 

陽介(い、いや、出来る!耐性があるんだ!集中すれば寝れる!)

 

 俺は心の中でそう自分で言い聞かせた

 

 なんだかできる気がしてきた

 

 俺はそう思いながら目を閉じた

 

 

 ”3時間後”

 

 ......無理でした

 

 所詮、気がしただけだったみたいだ

 

 耐性なんてつくわけがない

 

モカ「ん......よう君......」

つぐみ「出水君......」

陽介「......」

 

 さっきから2人の寝言には俺の名前が良く入る

 

 しかも、妙に可愛らしいんだよ

 

 起きてるんじゃないか疑ったけど、間違いなく熟睡してる

 

 しかも、左右から美少女に抱き着かれてる

 

 こんなので寝られるわけがない

 

陽介(あー......またこのパターンかー。)

 

 六花の時を思い出すなー

 

 あの時も朝方まで起きてたんだっけ

 

 この初心さ、喜べばいいのか悲しめばいいのか

 

 今の俺にはよく分からない

 

陽介(さて、今日は何時まで起きてるかな。)

 

 俺はそんな事を考え、

 

 左右で寝てる2人の息遣いを感じつつ

 

 自分に眠気が来るのをじっと待っていた

__________________

 

 なんだかんだあって朝になり

 

 部屋の片づけなどをしてホテルを出て

 

 少しばかりの活動をして、昼頃、帰りのバスに乗り込んだ

 

蘭「__よ、陽介、大丈夫......?」

陽介「大丈夫......とは言えない。」

 

 結局、俺は一晩眠ることが出来なかった

 

 その結果、俺は今現在、すごく眠い

 

 最近はしっかり寝るようになったし

 

 これは流石にきついものがある

 

蘭「て言うかさ、昨晩、モカとつぐみが戻って来なかったんだけど......何かあった?」

陽介「......一緒に寝てた。(いや、俺は起きてたし寝たと言うのか?)」

蘭「あっ(察し)」

陽介「それで、寝られなくなってな。寝てないんだよ。」

蘭「た、大変だね。」

 

 美竹は心配そうにこっちを見てる

 

 まぁ、ただ寝てないだけなんだけだし

 

 そこまで重症ってわけじゃない

 

 まぁ、流石にバスでは寝るけど

 

陽介「まぁ、今から寝るよ。」

蘭「うん、おやすみ。」

陽介「あぁ、おやすみ......」

 

 俺は背もたれにもたれかかり、

 

 ゆっくり重たい瞼を閉じた

 

 ”蘭”

 

 陽介はバスに乗ってからすぐに眠った

 

 大体の状況は掴めてる

 

 もう大変だったねとしか言えない

 

蘭(モカとつぐみ......ほんとに何してんの......)

 

 全く、呆れた2人だよね

 

 モカに関してはあんなに告白渋ってたのに

 

 つぐみも日ごろはあんな感じなのに......

 

陽介「んん......」

蘭「!」

 

 あたしが考え事をしてると、

 

 横にいる陽介が肩にもたれかかってきた

 

 モカとかはよくこんな感じになるけど

 

 男子とこうなったのは初めてだね

 

蘭(寝ずらかったのかな?)

陽介「......zzz」

蘭「......陽介は苦労に好かれてるね。」

 

 あたしは陽介の頭を撫でた

 

 日頃は凄いしっかりしてるけど、寝れば普通の男子って感じ

 

 まぁ、陽介に起きてたことはとても普通じゃないんだけどね......

 

蘭「......お疲れ様、陽介。」

 

 あたしは小声でそう言った

 

 そして、あたしは静かに視線を陽介から外した

 

 すごい後ろから2人の視線感じるし、それに

 

蘭(......いや、やめとこ。)

 

 あたしはゆっくり目を閉じ、

 

 色々な事を気にしないように眠った

__________________

 

 ”陽介”

 

 ものすごく体が痛い

 

 座って寝ることがほぼないからだろうか

 

 体中から変な音が鳴ってる

 

ひまり「いずみん、すごい顔してるねー。」

巴「寝起きって感じが伝わってくるな!」

陽介「おはよう、2人とも......」

 

 段々と頭がさえて来た

 

 日は傾いてて、もう夕方だ

 

 そう言えば、何で起きた時美竹にもたれかかってたんだ?

 

 寝相が悪くて体が動いたのか?

 

蘭「じゃあ、あたしは帰るよ。」

巴「蘭も眠そうだな。危ないし、あたしもついて行くぞ?」

蘭「いい......」

ひまり「もう!意地張らないの!」

モカ「そうだよ~、蘭には聞かないといけない事があるし~。」

つぐみ「今の蘭ちゃんは放っておけないしね!」

蘭「騒がしい......」

陽介「あ、あはは......」

 

 あの4人は元気だな

 

 やっぱり、俺とは体力が違う

 

 羨ましい限りだ

 

モカ「よう君も一緒に帰るー?」

陽介「そうだなー、俺も行こうかな__!」

 

 俺がそう言おうとすると、

 

 校門の方に1つの影があるのに気づいた

 

 俺はそれを見て少しだけ笑った

 

陽介「やっぱり、やめとく。迎えが来てるし。」

巴「迎え?」

陽介「あぁ、俺はそっちに行くよ。」

 

 俺はそう言って校門の方に歩き始めた

 

 全く、気付かなかったらどうする気だったんだろう

 

ひまり「またね!いずみん!」

モカ「また学校で~。」

つぐみ「お疲れ様!」

巴「じゃあな!」

蘭「......また。」

陽介「あぁ。」

 

 俺は5人に手を軽く振りながら

 

 校門前にいる迎えの所に歩いた

__________________

 

ますき「__友達と帰らなくていいのか?」

陽介「ん?」

 

 校門前にいたのは佐藤だ

 

 佐藤は首をかしげながらそう聞いてきた

 

陽介「折角、会いたかった女の子がお迎えが来てたからな。来ちゃったよ。」

ますき「......そうかよ。」

陽介「!」

 

 佐藤はヘルメットをこっちに投げて来た

 

 俺はそれを両手でキャッチした

 

 佐藤の方を見ると、少しだけ顔が赤くなってる

 

 ヘルメット渡すのと、照れ隠しの意味があったらしい

 

ますき「まぁ、乗れよ。ちょっとだけ走ろうぜ。」

陽介「どこまで行く?」

ますき「......気分。」

陽介「分かった。」

 

 佐藤は先にバイクに乗りエンジンを入れ

 

 俺はその後部座席に座った

 

 佐藤のバイクには初めて乗る、楽しみだ

 

ますき「じゃあ、行くか。」

陽介「あぁ。」

 

 そう言って、バイクは動き出し

 

 決まらない目的に地に向かい

 

 走り出した



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告白と選択

 バイクに乗ってから、

 

 最初はいつもの街の中を走り

 

 段々と見知った風景が無くなって行き

 

 いつの間にか全く知らない場所まで来た

 

陽介「佐藤、どこまで行くんだ?」

ますき「分かんねぇ。」

 

 佐藤はバイクを止めようとしない

 

 段々と見える建物が少なくなって

 

 自然の景色が増えていき

 

 都会と呼べる部分から遠ざかっていく

 

陽介(どこまで行く気だろう。)

 

 もう全く知らない場所まで来た

 

 右側を見れば木々が見えて、

 

 左側を見れば月に照らされた海が見える

 

 本当に目的地がないのだろうか

 

 そんな事を考えてると、急にバイクが止まった

 

ますき「__この辺でいいだろ。」

陽介「!」

 

 止まった場所は景色がよく見えるが、

 

 特に変哲の無いガードレールの前だ

 

 佐藤はバイクから降り、

 

 俺も佐藤に続いてバイクを降りた

 

陽介「なんでこんな所まで来たんだ?」

ますき「何となくだ。」

陽介「そうか。」

 

 佐藤はこういうところあるよな

 

 行き当たりばったりと言うか、

 

 考える前に行動すると言うか

 

 まぁ、それも佐藤の面白い所なんだけど

 

 俺はそんな事を思いながらガードレールの前に立ってる佐藤の横に立った

 

陽介、ますき「......」

 

 ガードレールの前に2人で並び、

 

 綺麗な海の景色を眺めてる

 

 話したい内容は分かってる

 

 けど、そのせいで中々話を振れない

 

 そんな風に沈黙したまま時間が流れていく

 

ますき「......修学旅行。」

陽介「ん?」

ますき「どうだった。楽しかったか?」

 

 佐藤はそう尋ねて来た

 

 聞いてくる内容が保護者のそれだな

 

 俺はそれに笑みをこぼしつつ、

 

 佐藤の質問に答えた

 

陽介「楽しかったよ。修学旅行は初めてだったし、学校の皆といつもより長い時間一緒にいるのも面白かった。」

ますき「そうか、よかったな。」

陽介「あぁ、本当に良かった。」

ますき「......」

 

 佐藤はボーっと海の方を見てる

 

 一見すれば綺麗な表情をしてる

 

 けど、これはボーっとしてるだけだ

 

 それでも、こんな風に見えるんだから

 

 何と言うか、得な見た目してるな

 

ますき「なんだ?」

陽介「いや、佐藤って何してても様になるなって思って。」

ますき「そうか?」

陽介「そうだよ。本当に綺麗な見た目をしてるからな。」

ますき「......そうか。」

 

 これは照れてる表情だ

 

 佐藤の変化は分かりやすい

 

 この場合は耳がすぐに赤くなったりする

 

 あと、少しだけそっぽを向く

 

陽介「佐藤って可愛いよな。」

ますき「!///」

陽介「なんか日頃はかっこよさそうに振舞ってるけど、お菓子作り好きだったり、少女マンガ読んで泣いてたりと乙女だよな。」

ますき「う、うるせぇ......///」

 

 向こうを向いてるが顔が真っ赤なのが分かる

 

 とうとう繕う余裕も無くなったようだ

 

 まぁ、元から余裕があると思ってなかったけど

 

陽介「あはは、佐藤は面白いな。」

ますき「たくっ、お前ってなんでこういう時にふざけるんだよ......」

陽介「うーん、分からないな。けど、話してる内容は全部本音だぞ?」

ますき「......そうかよ///」

 

 佐藤はそう言った後、小さく息を吐いた

 

 そして、俺の目を真っすぐ見て来た

 

 佐藤の身に纏う空気が少しだけ変わり

 

 これから、本題に入るんだと言う事が分かる

 

ますき「私の言いたいこと、分かるか?」

陽介「.....俺には分からないな。」

ますき「......///」

 

 俺はそう答えると、佐藤の様子を伺った

 

 もちろん、分からないと言うのは嘘だ

 

 でも、自分で言いたいって言ってたし

 

 こういう方がいいだろう

 

陽介「是非とも教えてくれ。」

ますき「......性格わりぃな///」

陽介「あはは__!!」

 

 顔を赤くした佐藤を見て笑ってると、

 

 いきなり腕を引かれた

 

 俺と佐藤の顔の距離が近くなり、

 

 一気に心臓が跳ねた

 

ますき「教えてやるよ、出水///......んっ///」

陽介「っ!」

 

 佐藤はゆっくり唇を合わせて来た

 

 柔らかい感触と口内に入ってくる舌の感覚

 

 そして、目に大きく写る佐藤の姿

 

 それで、今の状態を確かに認識できる

 

ますき「ん、ちゅ......///」

陽介(な、なが......っ!)

 

 呼吸が上手く出来ない

 

 俺もテンパっているんだろうか

 

 頭がボーっとして、溺れているような感覚になる

 

ますき「__ちょっとは伝わったか?///」

陽介「......少女漫画の真似だよな?」

 

 俺は佐藤にそう言った

 

 すると、佐藤は目を見開き

 

 驚いたような声を出した

 

ますき「な、なんでわかった!?///」

陽介「最初から何となく、この場所に来た位から。」

 

 大方、告白の仕方とか分からなくて

 

 取り合えず手に取った少女漫画の真似をする

 

 佐藤なら多分、こんな感じだろう

 

 何と言うか......可愛いな

 

ますき「じゃあ、こう言うのもいいんだろ///」

陽介「おっと。」

ますき「......///」

 

 佐藤は俺に抱き着いて、

 

 顔だけあげて俺と目を合わせてくる

 

 少しだけ俺のほうが背が高く、

 

 目線を合わせるため健気に顔を上げてる姿はなんとも可愛らしい

 

ますき「お前が好きだ///守ってくれた、あの日から......///」

陽介「......そっか。」

ますき「!///」

 

 俺は佐藤を抱きしめ返した

 

 心音がこっちにまで伝わってくる

 

 この鼓動を感じるたび、

 

 この子を守れてよかったって思う

 

陽介「俺は佐藤が大事だよ。そして今をくれたことを感謝してる。」

 

 俺は小さな声でそう言った

 

 俺の人生は間違いなく、この子から変わった

 

 色々、遠回りをしたんだと思うけど

 

 きっと、これが、出会う事が

 

 俺の人生の正規ルートだったんだろう

 

ますき「......さっさと決めろよな///」

陽介「......分かってる。」

 

 俺は少しだけ目を瞑った

 

 そうだ、もう選ぶ時が来たんだ

 

 選ぶ、なんておこがましいけど

 

陽介「俺は......」

 

 大きく空気を吸った

 

 ここが未来への大きな分岐点

 

 次の一言で決まるんだな

 

陽介「俺が好きなのは__」

ますき「!」

 

 俺は目を見開いて、

 

 意を決して次の言葉

 

 自分が心から望んだ相手の名前を口にした

 

 

 




ここからルートが分かれます。
最初はますきです。
後はその時その時で決めます。


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ますきルート
幸せな日


 俺が心から望んだ女の子

 

 その子は俺に未来を与えてくれた

 

 何にも代えられない出会いを与えてくれた

 

 かけがえのない、そんな女の子

 

 俺はそんな子の名前を口にした

 

陽介「__俺が好きなのは、佐藤だよ。」

ますき「!」

 

 俺はハッキリとした声でそう言った

 

 佐藤はそれを聞くと目を見開き、

 

 抱きしめてる腕の力が少しだけ強くなった

 

ますき「ほ、ほんとか......?///」

陽介「あぁ、本当だよ。俺は心から佐藤ますきの事が好きだって思ったよ。」

ますき「......そうか///」

陽介「!」

 

 佐藤は俺の胸元に顔をうずめた

 

 胸の奥がすごく温かい

 

 目の前にいる佐藤を見てると

 

 幸せが溢れてきて、笑みがこぼれる

 

ますき「......好きだぞ///」

陽介「あぁ、俺も佐藤が好きだ。」

 

 俺達はそんな言葉を言い合い

 

 しばらくそのままの状態でいた

 

 その後はまた佐藤のバイクに乗り

 

 俺達が住んでる町まで帰って行った

__________________

 

 佐藤と付き合うようになって1週間が経った

 

 告白してくれたみんな、お世話になった皆、佐藤のご両親に報告をしたりして時間が一瞬で過ぎて行った

 

 みんな、本当に暖かく祝福してくれて

 

 本当に嬉しかったのを覚えてる

 

 そんな事があって、俺は今......

 

ますき「__おーい、来たぞー。」

陽介「あ、いらっしゃい。」

 

 平和な日常を過ごしている

 

 今日はRASの練習の日で

 

 俺は練習後に食べるお菓子を作り

 

 みんなを待っていた

 

ますき「おっ、今日はなんかミカンの匂いがするな。」

陽介「正解。今日はみかんのタルトだよ。」

パレオ「かなりのお時間をかけられていました!早朝からもう、ここはみかんの香りばかりです!」

チュチュ「全く、girl friendが来るのがそんなに楽しみかしら。」

 

 チュチュは呆れたような声でそう言った

 

 それを聞いて佐藤はニヤニヤとしてる

 

 俺は少しだけ恥ずかしくなり頬を掻いた

 

ますき「そうかそうか、そんなに私が来るのが嬉しいのか。」

陽介「もちろん、佐藤と会うのはいつも楽しみにしてるよ。会えない日も佐藤の事ばっかり考えてる。」

ますき「っ!///......そ、そうかよ///」

パレオ(おぉ!何というカウンター!)

 

 佐藤は優位に立ってもすぐにこうなる

 

 ちょっと、チョロすぎる気もする

 

 まぁ、そこが最高に可愛いんだけどな

 

 俺はそんな事を思いながら佐藤を見た

 

ますき「......私も、お前のこと考えてる////」

陽介「!」

ますき「て言うか、お前が勝手に夢に出て来るんだよ......バカ野郎///」

陽介(可愛すぎる。)

 

 こんな可愛いバカ野郎は初めて聞いた

 

 これで平静を保ててるなって自分に感心する

 

 てか、夢に出て来るってすごいな

 

 俺も出て来ることが多いから

 

 なお凄いって思う

 

陽介「佐藤はかわいいな。」

ますき「う、うるせぇ!///てか、あいつらの前でそれ言うな!///」

陽介「じゃあ、2人の時に言う事にするよ。」

ますき「~っ!///だから、お前は喋り過ぎなんだよ!///」

陽介「あはは。まぁ、そう怒らないで。」

ますき「誰のせいだよ!!///」

チュチュ「イチャつくのはそこまでにしなさい!」

陽介、ますき「!」

 

 チュチュの一声で俺達は動きを止めた

 

 そして、声がした方向に体を向け

 

 仁王立ちしてるチュチュを見た

 

レイ「仲睦まじそうで安心したよ。」

六花「ごちそうさまです!」

陽介「え?あ、うん、お粗末様?(?)」

 

 まだ、お菓子は出してないんだけど

 

 何か食べたのか?

 

 俺は不思議に思い首を傾げた

 

レイ「それにしても、相変わらずのクオリティだね。」

陽介「佐藤のお父さんからみかんをたくさん貰ってな。折角だし、何か一工夫しようかなって。」

レイ(一、工夫......?)

チュチュ(一工夫の範囲はどう考えても超えてるわね。)

ますき「へぇ、それで家にあったみかんが1箱減ってたのか。」

陽介「この前、夕飯を作りに行ったときに貰った。あ、切り分けるから持って帰ってくれよ。2人にも食べてもらいたいし。」

チュチュ、レイ、六花、パレオ「!?」

 

 俺は偶に佐藤の家にご飯を作りに行ってる

 

 お義母さん(呼べと言われた)が忙しいときに作りに行った

 

 また頼みたいって言われたし

 

 次は何を作ろうか秘かに考えてたりする

 

レイ(も、もう両親公認!?)

六花(お夕飯作りに行ったんですか!?)

チュチュ(な、なんて陽介なのかしら......)

パレオ(もう、ご両親の胃袋を掴んでいるのですね。)

陽介「?」

 

 なんか、4人からすごい視線を感じる

 

 何か変なところがあるんだろうか?

 

 服装はいつも通りのはずなんだけどな

 

チュチュ「と、とにかく練習を始めるわよ!お菓子はその後!」

ますき「あぁ、そうだな。やるか。」

パレオ「頑張りましょう!」

レイ「うん。(2人の雰囲気に当てられないように。)」

六花「はい!(お2人の甘い空気に当てられないように。)」

陽介「じゃあ、俺はいつも通りにしてるよ。」

チュチュ「......マスキングとイチャつくんじゃないわよ?」

陽介「それは勿論。」

チュチュ(......どの口が言うのかしら。)

 

 俺はチュチュから変な視線を感じた

 

 だが、それはもう気にしないことにした

 

 それから5人は練習を始め

 

 俺はそれのサポートをしたりした

__________________

 

 2時間ほどの練習を終え、

 

 4人がスタジオから出て来た

 

 今日もかなりハードな練習で

 

 流石にみんなへばってる

 

ますき「出水ー......」

陽介「はいはい。お疲れ様、佐藤。」

 

 佐藤はソファに寝転がってダラーっとしてる

 

 かなり体力を使ったみたいだ

 

 俺は佐藤の頭の上に腰を下ろし

 

 軽く頭を撫でた

 

チュチュ(早速イチャつき始めたわ。)

レイ(平和だね。)

ますき「お菓子くれ......」

陽介「持ってきてるよ。でも、食べるなら体起そうな。」

ますき「分かった。」

 

 佐藤は体を起こし、

 

 背もたれじゃなく、俺の方にもたれて来た

 

 練習後で火照った体は暖かくて

 

 佐藤の匂いが色濃くして安心する

 

陽介「はい、口開けて。」

ますき「あーん。」

 

 俺は佐藤にタルトを食べさせた

 

 ダルそうな態度の割に口はしっかり動いてて

 

 口の中からそれが無くなると

 

 また物欲しそうに口を開けた

 

六花(ますきさん、かわええなぁ......)

パレオ(イチャついてますねー。)

陽介「眠たいか?」

ますき「眠い......」

陽介「じゃあ、寝に行くか。また床で寝られても困るし。」

 

 俺はそう言って佐藤を抱き上げ

 

 そして、4人の方に目を向けた

 

陽介「佐藤寝かせてくるよ。お菓子とかは用意してるから、好きに食べてくれ。」

六花「は、はい!」

レイ「いただくよ。」

陽介「じゃあ、また。」

 

 俺はスタジオの部屋を出て行って

 

 自室の方に歩いて行った

__________________

 

陽介「ほら、ベッドに来たぞー。」

 

 俺はそう言いながら、

 

 佐藤をゆっくりベッドに下ろした

 

 うつらうつらと眠たそうにしてる

 

ますき「......一緒に寝ようぜ。」

陽介「あぁ、いいよ。」

 

 そう言いながら俺はベッドに入った

 

 すごく佐藤と近い、可愛い

 

 俺は無意識のうちに佐藤を抱きしめた

 

 全体的にすごく柔らかい

 

ますき「......汗臭くないか?」

陽介「全然、佐藤の匂いがして安心する。」

ますき「私も、お前の匂いは安心する......///」

陽介「......」

 

 可愛い、ただただ可愛い

 

 背中に手を回してきて抱きしめてくる

 

 顔も少し赤くなってて

 

 声も少しだけいつもより子供っぽい

 

 甘えられてる感じがたまらなくいい

 

ますき「......陽介。」

陽介「ん?(あ、こっちになったか。)」

 

 ますきは少しだけ顔を離し

 

 何かをアピールするような目をしてる

 

 俺はそれを見てゆっくり顔を近づけ唇を合わせた

 

ますき「んぅ......ちゅ、ん......っ///」

 

 ますきは2人になるとこうなる

 

 いつもよりもさらに女の子らしくなって

 

 態度的にも少しだけ弱弱しくなる

 

 今も目をキュッと閉じて目尻に涙を浮かべてる

 

陽介「__これで満足か?」

ますき「......そう見えるか?///」

陽介「半々ってところかな。」

 

 俺は笑いながらそう言った

 

 ますきはさらに体を密着させてきてる

 

 うーん......すごい

 

ますき「腕......///」

陽介「はいはい。」

 

 俺はますきの頭の下に腕を通した

 

 ますきはそれの上に頭を乗せ、

 

 嬉しそうな表情を浮かべている

 

ますき「......寝てる間にどっか行くなよ///」

陽介「大丈夫、俺も寝るか、ますきの可愛い寝顔を見てるから。」

ますき「そうか......///」

陽介「おやすみ、ますき。」

ますき「おやすみ......///」

 

 ますきはそう言って目を閉じた

 

 俺はそれを見て少しだけ眠たくなり

 

 ますきと一緒に眠りについた

__________________

 

 ”RASの4人”

 

パレオ「あらあらあら♪」

 

 練習が終わってから2時間後

 

 2人が来ない事を不思議に思った4人は陽介の部屋に来た

 

 そこで、ある光景を目に焼き付けていた

 

ますき、陽介「......zzz」

六花「で、でらかわええ......!///」

レイ「ふふっ、本当に仲良しだね。」

チュチュ「気の抜ける顔で寝てるわね。」

 

 ますきは陽介の腕枕で寝ており

 

 陽介はますきを離さないように腕枕をしてる反対の腕で抱きしめてる

 

レイ「もう少し寝かせてあげようか。」

チュチュ「そうね、別に泊りでもいいし。」

六花「お夕飯、用意しておきましょうか。」

パレオ「お手伝いしますよ♪」

 

 4人は幸せそうな2人を見ながら戸を閉め

 

 部屋はまた真っ暗になった

 

陽介「ますき......」

ますき「陽介......」

 

 2人一緒のベッドで眠っている2人は

 

 どこまでも幸せそうな顔をしていた

 

 これが2人が付き合い始めてすぐの話だ

 

 

 



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休日

 時は流れ、俺達は3年生になった

 

 日数にしてみればそこまで経ってないが

 

 俺とますきには確かな変化があった

 

陽介「__ますき、起きろ。」

ますき「んぁ......?」

陽介「もう朝だぞ。」

 

 その変化の1つはこれだ

 

 俺は最近、ますきの家に通いっきりだ

 

 朝に起こしに来たり、ご飯を作りに来たり

 

 まぁ、色んな理由でよく来てる

 

ますき「朝からうるせぇぞ、陽介......」

陽介「全く......」

ますき「......?」

 

 俺は寝ぼけてるますきに顔を近づけ

 

 頬に軽く唇を当てた

 

ますき「!///」

陽介「よかった、起きたみたいだな。」

ますき「朝からお前は......///」

 

 ますきは照れくさそうに頬を掻いてる

 

 その行動は本当に可愛いらしい

 

陽介「おはよう、ますき。」

ますき「......おはよ///」

陽介「朝ごはん、出来てるぞ。」

ますき「あぁ。」

 

 ますきはそう言ってベッドから出て来た

 

 俺はその姿を見て息を呑んだ

 

ますき「......なんだ?」

陽介「......な、なんでもないよ。」

 

 ますきは可愛らしいパジャマを着てて

 

 でも、その下には想像はるかに超える凹凸の激しい体

 

 このギャップは破壊力抜群だ

 

陽介「お、俺は朝ごはんの用意してくるよ。」

ますき「あぁ、頼む。」

 

 俺は出来るだけますきを見ないようにし

 

 急いで部屋から出た

__________________

 

 今日の朝はサンドイッチだ

 

 色々中身を工夫して、いい出来だと思う

 

ますき「おー、今日はサンドイッチかー。」

陽介「あぁ、そうだよ。」

ますき「こりゃ楽しみだ。」

 

 ますきはそう言って椅子に座り、

 

 手を合わせてからサンドイッチを手に取り、それを口に入れた

 

ますき「__おぉ、美味いな。」

陽介「よかった。ほら、コーヒーも入ったよ。」

ますき「ナイスタイミングだな。」

 

 ますきはコーヒーに口をつけた

 

 うん、この光景は絵になる

 

 やっぱり、ますきは可愛いな

 

ますき「今、世界一美味しい朝飯を食べてる自信ある。」

陽介「それは過言じゃないか?」

ますき「それくらい美味いんだよ。」

陽介「ははっ、ありがとう。」

 

 俺は笑いながらそう答えた

 

 そして、それからますきは食事を進め

 

 それに並行して洗い物をしたりして

 

 ゆっくりと時間は過ぎて行った

__________________

 

 ますきが朝ごはんを食べ終わって

 

 ある程度の片づけを終えて

 

 俺は洗濯物をたたんでる

 

ますき「......なんで陽介がやってるんだ?」

陽介「え?お義母さんが出かけたからだけど?」

ますき「たくっ、引き受けるお前もお前だよ。」

陽介「痛い。」

 

 ますきは俺の頭を小突いて、隣に座ってきた

 

 そして、洗濯物の山から服を一枚引っ張り出した

 

ますき「私もやる。」

陽介「そうか?」

ますき「お前1人にやらせられねぇだろ。」

 

 そう言いながら洗濯物をたたみ始めた

 

 ますきはかなり女子力高いし

 

 洗濯物たたみも手際がいい

 

陽介「~♪」

ますき「なんか、楽しそうだな。」

陽介「もちろん楽しいよ。なんだか、将来を先取りしてるみたいで。」

ますき「っ!///」

陽介「あはは、顔真っ赤だな。」

ますき「う、うるせぇぞ!///」

 

 ますきは大きな声でそう言った

 

 物凄く照れてるのが分かって面白い

 

 出来れば一生この可愛いままでいてほしい

 

 でも、少し変わった姿も見て見たい

 

 うーん、悩むな......

 

陽介「まぁまぁ、そんなに怒らないで__ん?」

ますき「__!?///」

 

 そう言いながら洗濯物に手を突っ込むと

 

 なにか、異様な肌触りの物を掴んだ

 

 その瞬間、何か変な汗が流れ始め

 

 俺はゆっくり、自分の手の方に顔を向けた

 

陽介「......」

ますき「よ、陽介......?///」

 

 俺の手には見覚えのある

 

 赤色のかなり大きな下着が握られていた

 

 これ、俺の記憶が間違いないなら......

 

ますき「おい、陽介......?」

陽介「な、なななんだ?」

ますき「それ、私のなんだが......いつまで見てんだ?」

陽介「ご、ごめん!」

 

 俺はそれを洗濯物の中に戻した

 

 ますきからの視線が痛すぎる

 

 やばい、これは完全に怒ってる

 

陽介「え、えーっと、ますき?」

ますき「......なんだ?」

陽介「その、ますきって意外と下着派手だよな__ぐふっ!」

ますき「!!///」

 

 俺は益樹のビンタをくらった

 

 バシン!という流石ドラマーといういい音が鳴り

 

 俺はソファに吹き飛ばされた

 

 ますきはドスドスと足音を立て部屋に戻って行った

__________________

 

陽介「__おーい、ますきー?」

 

 あの後、俺はますきを追いかけ

 

 部屋の前でますきの名前を呼び続けてる

 

 これは、完全に拗ねてる

 

ますき『......入れ。』

陽介「!」

 

 部屋の中からますきの声が聞こえた

 

 俺はそれに指示に従い、

 

 ゆっくり部屋の扉を開け、中に入った

 

陽介「ま、ますき?」

ますき「......こっちこい。」

陽介「は、はい。」

 

 俺はますきの近くに行った

 

 何が起きるんだろうか

 

 全く見当がつかない

 

ますき「......」

陽介「ますき?」

ますき「大人しくしてろよ......」

陽介「!」

 

 ますきの隣に座ると

 

 ますきは俺の方に体を預けてきた

 

 良い匂いがして、安心する

 

ますき、陽介「......」

 

 でも、ますきが全く喋らない

 

 怒ってるのか拗ねてるのか分からない

 

 一体、どういう感情を持ってるんだろうか

 

ますき「......あの下着。」

陽介「ん?」

ますき「あれ、持ったよな?」

陽介「......はい。」

 

 俺は小さな声でそう答えた

 

 すると、ますきは俺の顔を掴んできた

 

陽介「!!??」

ますき「......さすがの私も恥ずかしかったぞ///」

陽介「す、すいません。」

ますき「......だったら、責任取れよな////」

陽介「へ?」

 

 責任、ってなんだ?

 

 いろいろな考えが浮かんでくる

 

 う、うーん、どれだろうか

 

陽介「せ、責任ってどういう事だ?」

ますき「お前が思うことだよ......///」

陽介「じゃあ......結婚とか?」

ますき「!///」

 

 俺がそう言うのと同時に

 

 ますきの体温が一気に上がった気がして

 

 そして、俺の膝の上に向かい合うように座ってきた

 

陽介「元からその気だったけど、これでいいのか?」

ますき「100点、やるよ///」

 

 ますきは恥ずかしそうにそう言った

 

 もう、可愛すぎる

 

 今すぐ結婚したいと思うくらいには可愛い

 

 いやでも、稼ぎがないからまだ駄目だ

 

 俺はそう考えて自分を律した

 

ますき「絶対に、約束だからな......?///」

陽介「あぁ、分かった。」

ますき「じゃあ、もうちょっとこうしてようぜ///」

陽介「いいぞ__!」

 

 ますきはそう言いながら抱き着いてきた

 

 その時、またしても俺に大きな衝撃が来た

 

 胸辺りに感じる、この柔らかすぎる感触

 

 そう、ますきの胸が当たってるんだ

 

 お互いの体でそれが潰されて

 

 感触がもろに伝わってきてる

 

陽介(落ち着け、俺。マジで落ち着け、平常心だ。)

ますき(......なんか、変なものが太ももに__!?///)

陽介「......」

ますき「よ、陽介?///」

陽介「っ!な、なんだ!?」

 

 俺はますきに名前を呼ばれ

 

 裏返った声で返事をしてしまった

 

 なんか、妙に色っぽく見える

 

 これは、錯覚なのか、それとも......

 

ますき「なんか、その、なんかが太ももに当たってるんだが///」

陽介「き、きき気のせいじゃないか?」

ますき「......流石に分かってるって///」

 

 ますきはそう言って

 

 わざとらしく下半身を動かした

 

 ......やっばい

 

ますき「親父とかは確か、夕方まで帰ってこなかったよな?///」

陽介「確か、そうだったはずだけど。」

ますき「じゃあ、いけるな。」

陽介「え、いけるって何が__!?」

ますき「......するぞ///」

 

 その声を聞き俺は震えた

 

 いつもとまるで違う聞いたことのない声

 

 俺自身も欲求が正直に表れ始めてる

 

陽介「い、いや、マズいって。」

ますき「いいんだよ。どうせ、結婚するんだろ?///」

陽介「え、いや、あの__」

ますき「行くぞ!///お前も男なら覚悟決めろ!///」

陽介「ますき、ちょ__」

 

 俺はますきに引っ張られ

 

 ベッドに引きずり込まれてしまった

 

 これについて俺が言えることは

 

 大人になりましたと言う事だけだろう

 

 

 



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END 幸せな夫婦

 とある日曜日の朝

 

 俺はカーテンから差し込む日の光を浴びて目を覚ました

 

 少し眩しく感じ目をこすり

 

 横で眠っている愛しい人を揺すった

 

ますき「ん......っ、朝か......?」

陽介「あぁ、そうだよ。」

ますき「おはよ、陽介。」

陽介「おはよう、ますき。」

 

 数年の時が経った

 

 俺達はお互いの生活が安定するようになってから晴れて結婚し

 

 今はこの前に購入した一軒家に住んでる

 

ますき「今、何時だ......?」

陽介「9時43分だよ。」

ますき「なら、まだ大丈夫だな。」

 

 ますきはこの数年でさらに美しくなった

 

 立ち居振る舞いには気品が備わり

 

 髪はかなり伸びて、顔つきも大人っぽくなった

 

 今は活動を停止してるが、

 

 世界に名の知れ渡ったRASのドラマーを務めてる

 

ますき「確か、今日はあいつらが来るんだったよな?早く準備しないと。」

陽介「ほら、これ羽織って。体冷やすぞ。」

ますき「さんきゅー。」

 

 俺はベッドから出たますきにブランケットを羽織らせた後

 

 開き切ってないカーテンの開けた

 

 外は少量の雪が降っていて

 

 窓越しに冬の訪れを感じさせる

 

陽介「ますきはゆっくりしてて。準備は俺がするから。」

ますき「この過保護男が。」

陽介「いくらでも言ってくれていいよ。事実だから。」

ますき「く、曇りない目で言うなよ。」

陽介「あはは、まぁ、リビングに行こうか。」

ますき「あぁ、そうだな。」

 

 それから俺とますきは部屋から出て

 

 ますきにハーブティーを出した後

 

 俺は皆を迎える準備をした

__________________

 

 ピンポーン

 

 あれから2時間ほど経ち

 

 家のインターフォンが鳴り響いた

 

 俺はそれを聞いて玄関に行き

 

 ゆっくりと扉を押した

 

チュチュ「来たわよ、陽介。」

パレオ「こんにちは、ようさん!」

六花「お久しぶりです!」

レイ「元気そうだね。」

陽介「いらっしゃい、みんな。」

 

 玄関先にはRASの皆がいる

 

 皆はそれぞれ成長して、大人になってる

 

 見てるとさらに時間が経ったと感じる

 

陽介「取り合えず入ってくれ。」

チュチュ「お邪魔するわ。」

 

 俺はみんなを家に招き入れ

 

 玄関の扉を閉めた

__________________

 

レイ「ますき、来たよ。」

ますき「おーう、久し振りだなー。」

 

 リビングではますきがソファに座って

 

 軽くこっちに手を振ってる

 

 RASの皆はそれを見て苦笑いを浮かべてる

 

レイ「もう、ちょっとダラけ過ぎじゃない?」

ますき「いいじゃねぇか。どうせ、お前らしか来ないんだし。」

チュチュ「って言ってるけど、陽介はどう思ってるの?」

陽介「これがますきだし、まぁ、いいんじゃないかな。」

チュチュ「こっちもこっちで相変わらずね。」

 

 チュチュは溜息を付きながらそう言った

 

 何か呆れられることがあっただろうか?

 

 そんな事を思ってるうちに皆はますきの周りに座った

 

チュチュ「......まぁ、いいわ。」

陽介、ますき「?」

六花「ますきさん、お体の調子はどうですか?」

パレオ「確か、もう8か月でしたよね?」

ますき「あぁ、今日も元気に蹴ってきてるよ。」

 

 今のRASの活動停止の理由はますきの妊娠だ

 

 パレオの言うようにもう8か月になり

 

 もう出産もそう遠い話じゃない

 

陽介「はい、飲み物が入ったよ。」

六花「わぁ!ありがとうございます!」

チュチュ「thank you.」

 

 俺は皆の前に飲み物を置いて行き

 

 その後に空いてるますきの隣に座った

 

レイ「もうますきもお母さんかー。」

チュチュ「私達の中では一番早いわね。」

ますき「そうは言うが、お前らは男に興味ないだろ。」

レイ「うん。」

チュチュ「そうね。あなた達が心配で相手探しなんてしてられないわ。」

パレオ「パレオも特に考えていないですね?」

六花「私も今は特に、ですね。」

 

 今の所、RASでの既婚者はますきだけ

 

 他の4人はもうこの調子だ

 

 まぁ、無理にする事でもないんだけど

 

 興味なしって言うのも問題なんだよな

 

レイ「まぁ、私達の事は良いんだよ。」

陽介(良い、のか......?)

パレオ「本当に素敵なお家ですね!」

ますき「滅茶苦茶に話かえたな。」

 

 ますきは呆れたような声でそう言った

 

 本当に4人にとってどうでもいい事なんだろう

 

チュチュ「まぁ、旦那の方がすごくなったものね。」

レイ「今や三ツ星レストランのシェフだからね。」

陽介「い、いやー、そうでもないよ。」

 

 俺は横に首を振った

 

 でも、4人の話は止まらないみたいだ

 

パレオ「料理人のファーストシートに立つ存在と雑誌で特集が組まれていましたね!」

六花「あ、私、その雑誌買いました!3冊!」

陽介「なんで!?」

六花「それはもう、ファンなので!」

 

 六花は曇りのない顔でそう言った

 

 いや、絶対に3冊も必要ない

 

 だって、俺だぞ?

 

ますき「あれ面白いよなー。こいつ、ちゃんと写真とか撮ってたし。」

陽介「やめてくれ。あれマジで恥ずかしかったんだよ......」

チュチュ「良く撮れてたじゃない。しっかり表情もキメて__」

陽介「やめてください(切実)」

 

 俺は頭を抱えながらそう言った

 

 写真に関してはもう、勝手に話が進んで

 

 本当に不本意だったんだ

 

陽介「ま、まぁ、もっと他の話しよう。お、俺の事なんてどうでもいいだろ?」

ますき「おい、声が震えてるぞ?」

チュチュ(なんでこんなに大物になっても、こういうところは変わらないのかしら。)

 

 取り合えず、この流れを変えないと

 

 俺はその一心で話を変えた

 

 ダメージは残したくない(切実)

 

陽介「せ、折角みんなが来てくれたし、準備しての出そうかな。」

パレオ「おぉ!」

レイ「三ツ星シェフの料理だね。」

チュチュ「楽しみにしてるわ。」

六花「あ、私、お酒持ってきました!」

陽介「鞄の中身それだったのか。」

ますき「じゃあ、いっちょ美味いの頼むぞ。」

陽介「まぁ、頑張るよ。」

 

 それから俺は皆に料理を出した

 

 もう食べて飲んで歌ってと盛りあがり

 

 家に防音設備がないと苦情が来ただろう

 

 それくらいに盛り上がって

 

 俺もますきも楽しい時間を過ごした

__________________

 

陽介「__それで、こうなるのか。」

ますき「そうだな。」

 

 4人は全員酔っぱらって眠り

 

 俺は全員に毛布を掛けて

 

 ますきの隣に座ってる

 

 まぁ、こうなると思った

 

陽介「ますきは飲んでないんだな。別に嫌いじゃなかっただろ?」

ますき「まぁ、今は腹に子供いるしな。酒は飲まねぇよ。」

 

 ますきは本当にしっかりしてる

 

 いい母親になってくれそうだ

 

 その分、俺のハードルも高くなるけど

 

 俺はそんな事を考えながら

 

 横にいるますきのお腹を撫でた

 

陽介「ますきに似てくれるといいな、この子。強くてかっこいい、そんな子になってほしい。」

ますき「まぁ、お前の苦労体質は受け継がない方がいいな。」

陽介「それは本当もう......間違いない。」

 

 出来れば、幸せに育ってほしい

 

 その為には俺もしっかりしないといけない

 

 反面教師はもう嫌って程みたし

 

 あれと同じには絶対にならない

 

 俺は固く拳を握りしめた

 

ますき「......別にそんなに気負う必要もないだろ。」

陽介「!」

 

 ますきが俺の手を握ってきた

 

 そして、こっちに微笑みかけて来た

 

ますき「陽介、意識したら絶対に空回りするしな。」

陽介「み、耳が痛い。」

ますき「でも、私はそんな陽介を愛してるぞ......?///」

陽介「!」

 

 ますきは恥ずかしそうにそう言った

 

 本当に可愛すぎると思う

 

 何年たってもこれは変わらないな

 

陽介「俺も愛してるよ、ますき。」

ますき「じゃあ、いつもの頼む......///」

陽介「かしこまりました。」

ますき「ん......っ///」

 

 俺は目を閉じてるますきに唇を合わせた

 

 いつもの、というのは

 

 最近、日課で一日一回してる所からだ

 

 夫婦の触れ合いを確保しようと

 

 ますきの提案から始まったんだ

 

陽介「俺、頑張るよ。家の事も仕事も。」

ますき「いつも頑張ってるだろ、全く......///」

陽介「!」

ますき「ちゅ......///」

 

 今度はますきからキスをしてきた

 

 さっきよりも深くて長くて

 

 よりますきを感じられる

 

ますき「一つ、黙ってたことがあるんだけどさ......」

陽介「黙ってた事?」

ますき「実はな......その、私らの子供、双子なんだよ///」

陽介「え__」

チュチュ、パレオ、六花、レイ「えー!?」

ますき、陽介「!?」

 

 ますきがまさかの発言をした瞬間、

 

 寝てるはずの4人が大声を出した

 

 俺達は驚いて、4人の方を凝視した

 

陽介「み、みんな起きてたのか!?」

チュチュ「あんまりにもイチャイチャしてたから起きられなかったのよ!」

レイ「邪魔しちゃ悪いかなって。」

六花「なんだかお二人が可愛らしくて、つい!」

パレオ「本当に起きるに起きられなかったです!」

ますき「お、お前ら......///」

 

 ますきは恥ずかしそうに眼をそらしてる

 

 ていうか、さっきの全部聞かれてたのか

 

 いや、俺達が悪いんだけどさ

 

ますき「ま、まぁ、そういう事だ///」

陽介「いやー、驚いたよ。今年で一番驚いた。」

チュチュ「私達もよ。」

六花「もう心臓飛び出そうやった!」

パレオ「本当に驚いていますね、ロックさんが方言になっています!」

レイ「それにしても、双子か。」

 

 4人は驚いた表情をしてる

 

 多分、一番驚いてるのは俺だろうけど

 

チュチュ「まぁ、私達はもう一回寝るわ。」

陽介「え?」

パレオ「さっきの続きをどうぞ!」

六花「ごゆっくり!」

レイ「私達は寝てるから、思う存分。」

陽介、ますき「できない(ねぇ)よ!?///」

 

 これが今の俺達だ

 

 2つの新しい命に愛する人がいて

 

 そして、大切な仲間もいる

 

ますき「頑張ろうな、陽介!」

陽介「あぁ、ますき。」

 

 今の俺には自信しかない

 

 子供も幸せにできるし

 

 何があっても絶対に大丈夫だ

 

 だって、俺のパートナーは強くて優しくて可愛い

 

 この世でたった1人の素敵な人だから

 

 

 

 




ますきルートはここまでです。


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六花ルート
始まりの日


 佐藤と話したあの日

 

 俺は自分の心を打ち明けた

 

 その時に自分が好きな子の名前も口にした

 

陽介(__落ち着け、俺。)

 

 それで今、俺はその子を待ってる

 

 目的は一つ、告白の返事だ

 

 まだ冷える夜の公園に立ってるだけ

 

 それなのに変な汗が止まらない

 

 今までにないほど緊張してる

 

 もう本当にどうにかなってしまいそうだ

 

陽介「......」

 

 かなり待たせてしまった

 

 でも、その間も俺の事を好きでいてくれた

 

 だからこそ、俺は真摯に答えるんだ

 

六花「__出水さん。」

陽介「来てくれたか、六花。」

 

 俺がここに来て十数分が経った頃

 

 落ち着きのない俺の前に六花が現れた

 

 急に呼び出したからか、よく見る服装で

 

 俺は少しだけ心が落ち着いた

 

陽介「急に呼び出して悪いな。」

六花「い、いえ!大丈夫ですよ!」

 

 六花は明るい笑顔を向けてくれる

 

 でも、今の時刻は夜の8時17分

 

 常識的に人を呼び出す時間ではない

 

 それでもこの対応なんだ

 

 本当に何と言うか、助かる

 

六花「そ、それで今日は何の用で......?///」

陽介「えーっと、その。」

 

 告白の返事をしたいです

 

 とか、そんな事をあっさり言う男気

 

 生憎、俺には備わっていない

 

 その証拠に今にも俺は意識したら心臓が止まりそうだ

 

陽介「......きょ、今日はいい天気だったな。」

六花「え?あ、はい、そうですね?」

陽介「こ、この感じなら明日も晴れそうだな。」

 

 ビビッてこんな言葉しか出てこない

 

 ヘタレな自分が恨めしくなる

 

陽介(こんな事ばかりしてられない。)

 

 俺は一度、大きく呼吸をした

 

 自らの心を言葉にすること

 

 これは決して簡単なことじゃない

 

 でも、俺はそのための準備はしてきた

 

 出来ない事なんて絶対にありえないんだ

 

陽介「......言いたいことがある。」

六花「!」

陽介「今日はそのために呼んだんだ。」

六花「......はい。」

 

 六花は緊張した面持ちになった

 

 もう大体のことは分かってるんだろう

 

 そして、迷っているんだ

 

 受け入れられるのか拒絶されるのか

 

六花(この感じ、ダメだったのかな......)

陽介「......」

 

 六花の顔から不安の色が見える

 

 言おう、言えば、この表情は変わる

 

 その姿は可愛らしくて綺麗なものになる

 

 俺はそんな事を思いながら

 

 次の言葉を口にした

 

陽介「俺は、六花が好きだよ。」

六花「......え?」

 

 俺がそう言った瞬間、

 

 六花は目を見開いて俺の方を見て来た

 

 俺はそれを見て少しだけ口角を上げた

 

陽介「あれ、聞こえな__」

六花「出水さん!」

陽介「!」

 

 俺が言葉を発しようとしたとき

 

 六花は俺に抱き着いてきた

 

 力が強い、これがギタリストか

 

陽介「......よかった、聞こえてたみたいだ。」

六花「当り前、です......!///」

 

 六花の抱きしめる力が強くなる

 

 この強さが六花の思いの大きさ

 

 伝わりすぎて、痛みすら感じる

 

六花「大好きです!///私も、出水さんが!///」

陽介「ありがとう、六花。」

 

 俺は静かに抱きしめ返した

 

 暖かい、まるで冬じゃないみたいだ

 

 これが人間の温かみ

 

 佐藤にも負けていない

 

陽介「これからよろしくな、六花。」

六花「はい!///」

 

 六花は元気な声でそう答えた

 

 さっきまでの不安の色は全くない

 

 喜びに満ちた、綺麗な声だ

 

 こんなに喜んでくれるんだから

 

 これだけで六花を選んでよかったって思う

 

陽介「今日は帰ろう。そして、また明日会おう。」

六花「......それは、嫌です。」

陽介「え?」

六花「今日はもっと、一緒にいたいです......///」

 

 六花の控えめな声が聞こえてくる

 

 でも、もう夜だ

 

 これからどこかに行くことは難しい

 

六花「......私の家に行きましょう///」

陽介「!」

六花「お願いします......///」

陽介(う、うーん......)

 

 これは、どうしたものだろうか

 

 六花の願いは叶えるべきなんだけど

 

 これは倫理的に大丈夫なのか?

 

陽介「......き、今日だけだぞ?」

六花「!///」

陽介「行こう、六花。」

六花「はい!///」

 

 それから、俺達は旭湯に移動し

 

 六花の部屋で一晩過ごした

 

 この夜は本当に色々あって

 

 絶対に一生忘れる事はないだろう

 

 それくらいに濃密な時間だった

__________________

 

 翌日、俺と六花は家に来た

 

 そして、チュチュ達に報告をしたんだが

 

チュチュ「__それで、一晩も家を空けたのね。」

陽介、六花「申し訳ありません......」

 

 家の主は怒り心頭の様だ

 

 あまりの迫力で俺達は何も言えなくなってる

 

 本当に母親より母親らしい

 

パレオ「まぁまぁ、チュチュ様!そんなにお怒りになられなくても~!」

チュチュ「怒ってないわよ!心配してるのよ!」

パレオ「それにしても、お二人とも同じ匂いがしますね?」

陽介、六花「!!?」

チュチュ「......あんた達。」

 

 チュチュの声の棘が増した

 

 俺は振り向くことを拒否する首を動かし

 

 ゆっくりチュチュの方に顔を向けた

 

チュチュ「まさか、交際初日に......なんてことないでしょうね?」

陽介「そ、そそそんなまさか!?な、なぁ!?」

六花「で、でですよね......!?」

パレオ(分かりやす過ぎますよ!?)

チュチュ「あんた達......!!」

 

 やばい、チュチュの後ろに何か見える

 

 これはマズい

 

 こんなに怒ったチュチュは初めて見た

 

チュチュ「そんなに二人が好きなら、罰としてプール周りの掃除してきなさい!!!」

陽介、六花、パレオ「え?」

チュチュ「Hurry up!!!」

陽介、六花「は、はいぃぃぃ!!」

 

 俺達はチュチュにそう言われ

 

 外にあるプールに向かって走って行った

 

 ”チュチュとパレオ”

 

チュチュ「はぁ......」

 

 2人が走って行ったあと、

 

 チュチュは大きなため息をついた

 

 その表情は疲れと呆れを含んでいる

 

チュチュ「全く、あのcrazy couple......」

パレオ「まぁまぁ、良いではありませんか!ようさんもあの様子でしたし!」

チュチュ「別に、本気で怒ってたわけじゃないわ。」

パレオ「あら?」

 

 パレオはチュチュの態度に驚いた

 

 さっきまでの表情とは打って変わり

 

 優しげな眼をして外の方を眺めてる

 

チュチュ「今、陽介のfamilyは私達だけよ。」

パレオ「えぇ、そうですね?」

チュチュ「だから、ああ言った姑みたいなことを言うのも悪くないでしょ?」

パレオ「チュチュ様......!」

チュチュ「ちょ、抱き着かないで!」

 

 パレオはチュチュに抱き着いた

 

 チュチュは嫌そうな顔をしながらも

 

 目は外の陽介たちに向いてる

 

陽介『六花!?それホースの蛇口!』

六花『え__きゃぁ!!』

陽介『うわぁ!!』

チュチュ(あの2人はもう少し、見守っていないと駄目ね。)

パレオ「チュチュ様~♪」

チュチュ「離れなさいよ!」

 

 正しく前途多難

 

 これが、2人の始まりだ

 

 チュチュの見守る2人はこれから、

 

 一体、どうなっていくのだろうか

 

 

 



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適度な衝突

 朝の俺の行動は一定だ

 

 朝5時に起床、2人の朝食とお弁当を作り

 

 制服とかを畳んで準備する

 

 こんな感じで俺は朝の時間を過ごす

 

チュチュ「__Good morning」

陽介「あ、おはよう、チュチュ、パレオ。」

パレオ「おはようございます、ようさん!」

 

 この2人の起きる時間も覚えた

 

 毎日同じ時間に起きてくれるし、

 

 準備する身としては本当にありがたい

 

パレオ「今日も美味しそうです~!」

陽介「あはは、ありがとう。」

チュチュ「いただくわ。」

陽介「あぁ、どうぞ。」

 

 俺は席に着いた2人の前に料理を置き

 

 一緒に朝食を食べ始めた

 

チュチュ「陽介、ロックとは上手くいっているかしら?」

陽介「ん?それはまぁ、上手くいってると思うけど。」

 

 六花と付き合い始めて、3か月ほど

 

 ここまで喧嘩などは特にない

 

 関係も良好だし、上手くいってると言える

 

パレオ「この間も仲睦まじく歩いていましたね!」

陽介「なんで見てるんだ?え、てか、いつ?」

パレオ「私が見たのは、一週間前でしたね!まさしく学生カップルという感じでした!」

チュチュ「いい感じなの。ならいいわ。」

 

 チュチュはそう言いながら食事を進め

 

 パレオもこっちを見てにこにこしてる

 

 ていうか、俺ってそんなに心配されてるのか

 

 マジで母親すぎる

 

パレオ「ですが、ようさん?」

陽介「?」

パレオ「喧嘩をしない事=上手くいってる、ではないのですよ?」

陽介「え?」

パレオ「適度な衝突も必要なんですよ?」

チュチュ「そんなの必要かしら?」

 

 チュチュは首をかしげてる

 

 俺もかなり疑問に思ってる

 

 喧嘩なんてしないに越したことないし

 

 喧嘩をして何かあるとも思えない

 

パレオ「はい!最近呼んだ漫画に描いていました!」

陽介「漫画の影響か。」

チュチュ「どうせそんな事だと思ったわ。」

 

 チュチュは呆れたようにそう言った

 

 俺も少しだけ肩透かしを食らった気分だ

 

 パレオってそう言うところあったな

 

パレオ「お二人とも呆れていませんか?」

チュチュ「その通りよ。」

陽介「あ、あはは。」

パレオ「もう!これは的を射ているのですよ!」

チュチュ「そうね、私もそう思うわ。」

パレオ「すごい棒読みです!?」

 

 こんな調子で会話をしつつ

 

 食べ終えた後は食器の片づけをし

 

 バイトの時間を待った

__________________

 

 時間になり家を出て

 

 俺はギャラクシーに向かってる

 

 春になって桜も咲いてて

 

 去年の事が嘘のように穏やかだ

 

明日香「__あ、出水先輩。」

陽介「あっ、明日香。こんにちは。」

明日香「こんにちは。」

 

 六花と付き合うようになってから

 

 明日香とも何かと話すようになった

 

 一緒に裏方の仕事もするようになったし

 

 学校でも会えば世間話もする

 

明日香「これからギャラクシーに向かうんですか?」

陽介「そうだよ。これからバイトだから。」

明日香「じゃあ、一緒に行きましょう。私も用があるので。」

陽介「そうなのか?じゃあ、一緒に行くか。」

 

 俺は軽く頷き

 

 明日香と一緒に歩き始めた

 

明日香「先輩は相変わらず六花と仲が良いですよね。」

陽介「まぁ、俺もそう思うよ。」

明日香「学校でも公認のカップルですから、男子は六花に話しかけちゃいけないって言う暗黙の了解が出来てますよ。」

陽介「え、そんなのあるのか!?」

 

 正直、すごく助かる

 

 六花と俺は学年が違うし

 

 いつもかなり心配してたんだ

 

明日香「......本当に六花の事を大切にしてるんですね。」

陽介「え?」

明日香「安心したって言うのが態度に滲み出てましたよ?」

陽介「そ、そうか?」

 

 そんなのが出てるのか

 

 いや、そんなことあるのか?

 

明日香「六花は幸せ者ですね。こんなに思ってくれる人がいて。」

陽介「明日香にもいい人が現れると思うけど。」

明日香「私、先輩よりは程々な人でいいです。」

陽介「あの、俺が程々以下なんだが......」

 

 俺は頬を掻きながらそう言った

 

 明日香はそれを見て溜息を付き

 

 少しだけ遠くを眺めてる

 

明日香(六花の話を聞くたび、この人、聖人君主なんだよね。それで実際に放したらまんまその通りだし。)

陽介「明日香?」

明日香「あっ、なんでもないです。少し急ぎましょうか。」

陽介「そうだな?」

 

 明日香にそう言われ

 

 俺達は少しだけ歩くのを速くした

__________________

 

 決して遠くない距離を歩き

 

 ギャラクシーまで来た

 

 俺は階段を降りてる

 

明日香「__きゃ!」

陽介「っ!(明日香!?)

 

 下についた瞬間

 

 上の方から明日香の叫び声が聞こえ

 

 後ろを振り向くと明日香が落ちて来た

 

 俺は何とかその場で踏んばって

 

 明日香を受け止める事が出来た

 

陽介「だ、大丈夫か?」

明日香「す、すいません。階段を踏み外しました。」

陽介「気にしなくてもいいよ。怪我とか__」

六花「__ど、どうしました!?なにか叫び声が......え?」

陽介、明日香「あっ。」

 

 明日香の無事を確認してると

 

 勢いよく扉が開き六花が顔をのぞかせた

 

 これは非常にマズい

 

六花「......何を、してるんですか?」

明日香「わ、私が階段を踏み外しちゃって、それで先輩が助けてくれただけだよ?」

陽介「きゅ、急なことだったからこんなことに。」

六花「......そうですか。」

 

 やばい、すごく怒ってる

 

 こんな六花は初めて見た

 

 俺は取り合えず明日香から離れ

 

 六花の方を見た

 

六花「早く着替えてきてください。時間になるので。」

陽介「は、はい。」

明日香「私も店長さんに用があるから......」

 

 俺達は建物に入り

 

 俺はバイトの用意、明日香は店長に用を済ませに行った

__________________

 

 バイトが始まり

 

 店長は明日香と外に出て行ってしまったが

 

 俺はいつも通りの業務をこなしている

 

 でも、1つ、おかしい事がある

 

六花「......」

 

 そう、六花だ

 

 いつもなら笑顔で話しかけて来るのに

 

 今日に限って何も話しかけてこない

 

 むしろ、なぜかずっとそっぽを向いてる

 

陽介「ろ、六花?」

六花「ふんっ。」

陽介(ふ、不機嫌だな。)

 

 六花がこうなるのは初めてだ

 

 もう、俺へのダメージは凄い

 

 物凄く胸が痛い

 

 でも、言い訳は六花を刺激するし

 

 これは、どうしたものか......

 

陽介(そろそろ時間か。)

 

 時計を見るともうシフトは終わり

 

 後は店長が帰るのを待つだけだ

 

 でも、帰って来ると言った時間は過ぎてる

 

 俺がそんな事を考えてると店の電話が鳴った

 

陽介「はい、ギャラクシーです。」

美子『あ、陽介君?』

陽介「店長?どうかしましたか?」

美子『今、雨が降ってて帰れないんだよ!』

陽介「え、雨?」

美子『そう、だから、六花ちゃんと一緒に店番お願いしてもいい?』

陽介「あ、はい、分かりました。お気をつけて。」

 

 俺はそう言って電話を切り

 

 六花の方を向いて口を開いた

 

陽介「雨で帰れないから店番お願いだって。」

六花「......」

陽介(へ、返事してくれないか......)

 

 六花は軽く頷いたが

 

 声を出して返事はしてくれなかった

 

 そろそろ心が限界になってきた

 

陽介「あの、六花?本当にあれは事故だったんだよ。」

六花「......」

陽介「決して浮気とかそう言うのではないんだよ。」

六花「......明日香ちゃんは。」

陽介「!」

 

 やっと、六花が返事をしてくれた

 

 俺は少し心が軽くなったが

 

 六花の話を聞くとにした

 

六花「出水さんの話をするたび、いい人なんだねって言います。」

陽介「え?」

六花「ああいう人がいれば私も好きになるかなって言ってました。」

 

 そんな話は初めて聞いた

 

 しかも、そんな雰囲気もなかったし

 

 そんな風に思われてるなんて知らなかった

 

六花「それで、さっきのを見て明日香ちゃんに出水さんを取られちゃうと思って、怖くて......」

陽介「っ!」

 

 六花は涙目になりながらそう言った

 

 眼鏡越しに見える瞳は震えてて

 

 胸が締め付けられる

 

六花「ご、ごめんなさい......!」

陽介「六花!」

六花「......っ!」

 

 俺はバックヤードの方に走る六花の手を掴み、そのまま壁に追い込んだ

 

 今の六花に何を言えばいいのか分からない

 

 でも、体が勝手に動いた

 

 つまり、この行動には意味があるんだ

 

 六花に何かしてあげられることがあるんだ

 

陽介「俺の前からいなくならないでくれ、六花。」

六花「っ!」

 

 俺は最低野郎だ

 

 人に傷つけられることを知ってるのに

 

 それなのに六花を傷つけてしまった

 

 でも、俺から出るのはわがままな言葉だけ

 

 本当に、最低だ

 

六花「出水さん......?」

陽介「俺はもう、六花がいないと駄目なんだ。寝ても覚めても、何をしてる時でも六花の事を考えてしまう。一緒にいる時はどうしようもないくらい楽しくて、何もしてなくても幸せな気持ちになる。日ごろの可愛い姿にもギターを弾くときのかっこいい姿にもつい見惚れてしまう。」

六花「っ!///」

陽介「俺は、どうしようもないくらい六花が好きなんだ。愛してる。」

 

 口から出る言葉が止まらない

 

 壊れたダムのように流れて行ってしまう

 

 日頃は恥ずかしくて言えない事が

 

 全部、六花に伝わってしまう

 

陽介「だから__」

六花「も、もう、いいです......///」

陽介「!」

 

 六花は小さな声でそう言うと

 

 俺の背中に手を回して来た

 

 心が満たされていくのが分かる

 

 さっきまでの反動もあるのだろうか

 

六花「ごめんなさい......あんな態度とっちゃって......」

陽介「元はと言えば、俺が原因だから。」

六花「いえ、私が悪いです、だから__」

陽介「!」

六花「ん......っ!///」

 

 視界が六花でいっぱいになり

 

 唇にはやわらかい感触がある

 

 俺は頭の位置を少し低くし

 

 今の行為を遠投する意思を見せた

 

六花「チュ......ぁ、はぁ......んっ///」

陽介(これ、やば。)

 

 六花の舌が口内に侵入してくる

 

 懸命に舌を絡めて

 

 段々と息が熱くなっていく

 

六花「__安心してくれましたか......?///」

 

 数秒ほどして、唇が離れ

 

 六花は恥ずかしそうにそう聞いてきた

 

 妙に色っぽい表情をしてて

 

 さっきとは別の意味で胸が締め付けられる

 

陽介「安心は、出来た......」

六花「よかったです///」

陽介(......一回、落ち着かないと。)

六花「!」

 

 俺は六花から少しだけ離れ

 

 何回か深呼吸をした

 

 嬉しさとか色々な物で心音が凄い

 

 心臓が破裂しそうだ

 

陽介「の、飲み物でも淹れようか。」

六花「は、はい!(?)」

 

 俺はそう言い、

 

 飲み物をとりに店の方に戻った

__________________

 

 店の方に戻ってきて

 

 俺と六花は飲み物を飲んで一息ついた

 

 何とか落ち着きは取り戻せ

 

 六花とも普通に会話できるようになった

 

六花「__あの、出水さん......?///」

陽介「ん?どうした?」

 

 俺は六花に呼ばれそっちを向いた

 

 顔を少しだけ赤くして

 

 俺の方を見てモジモジしてる

 

六花「その、何か今日の私で変わったところはないですか......?///」

陽介「え?六花の変わった所?」

六花「......やっぱり、分からないですか......」

陽介「ピアス開けたんだろ?」

六花「え?」

 

 答えると、六花が目を丸くした

 

 俺は鈍感だと思われてるんだろうか

 

 いや、間違いではないんだろうけど

 

陽介「違ったか?」

六花「せ、正解です///でも、なんで......?///」

陽介「可愛い彼女変化に気付けないようじゃ、恋人失格だろ?」

六花「い、出水さん......///」

陽介「ていうか、それクリスマスに買ったやつだな?つけてくれたのか。」

六花「折角のプレゼントなので、付けたくなって......///」

 

 青色主体のピアスは六花によく似合ってる

 

 俺の見立てに間違いはなかったみたいだ

 

 飼った甲斐があったってやつだな

 

陽介「よく似合ってるよ。」

六花「ありがとう、ございます......///」

陽介(あー、マジで可愛い。)

 

 可愛い子がアクセサリー1つ付けるとこうなるんだな

 

 いつもと少しだけ雰囲気が違うような気がして、また違った大きな魅力が見えてくる

 

陽介「......なぁ、六花?」

六花「はい?」

陽介「俺、また六花にアクセサリー買うよ。」

六花「えぇ!?そ、そんな、悪いです!」

陽介「大丈夫、それは俺にも必要なものだから。」

六花「え?__!///」

 

 俺はそう言いながら、

 

 六花の左手を持ち上げて

 

 薬指に右手を添えた

 

陽介「この指に付ける指輪、必要になりそうだし。」

六花「ふぇ......?///」

陽介「な?」

 

 俺は笑いながらそう問いかけた

 

 六花は一瞬だけあたふたした後

 

 気を取り直した様子を見せた

 

六花「『なりそう』じゃなくて、『なる』ですよ......?///」

陽介「あはは、そうだったな。」

六花「楽しみにしてますね///」

陽介「あぁ、出来るだけ早く用意するよ。」

 

 そんな会話の後

 

 俺と六花は店で2人で並んで座り

 

 楽しく話をしながら店長たちが帰って来るのを待っていた

 

 俺は朝パレオが言ってた、『適度な衝突も必要』という事の意味を理解した



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END 成長した姿

 数年の時が流れ、俺は28歳となった

 

 高校卒業後は専門学校に通い、

 

 今は町で小さな定食屋を営んでる

 

 基本は定食屋だが、夜は少しだけお酒も出す

 

 毎日席が埋まるくらいにはお客さんが来て

 

 今日も今日とて大忙しだ

 

「__陽介君、麻婆定食1つ!」

「こっちはとんかつ定食!」

陽介「はい、少々お待ちください!」

 

 俺はお客さんからの注文が入り

 

 手早く調理を進める

 

 この数年でかなり腕もあがった

 

 多少の事では手間取ったりはしない

 

陽介(出来上がりまで後30秒くらいかな。)

六花「__陽介さん!ただいま戻りました!」

陽介「あっ、おかえり六花!」

 

 調理が終盤に差し掛かったころ

 

 店の暖簾を押しのけながら、

 

 外に出ていた六花が帰ってきた

 

 少しだけ息を切らせていて走っていたのが分かる

 

「お!嫁さんが帰ってきたな!」

「おかえりー!六花ちゃん!」

六花「あっ、日高さんに鈴木さん!いらっしゃいませ!」

日高「あぁ、今日もお邪魔してるよ。」

鈴木「お宅の旦那さんの飯があまりに美味しすぎてね。」

日高「それこそ、家の嫁さん以上だよ!」

六花「ふふっ、奥さんに怒られますよ?」

 

 六花は笑いながら常連2人の相手をしてる

 

 日頃は接客をしてもらったりするし

 

 まさしく看板娘というやつだ

 

 お客さんからも人気があるし

 

 RASのギタリストとしても知名度が高い

 

陽介「はい、お待たせしました。」

鈴木「おー!」

日高「待ってました!」

 

 俺は2人の前に料理を置き

 

 手拭いで手を拭きながら

 

 帰って来たばかりの六花の方を見た

 

陽介「帰って来たばっかりで悪いけど、少しだけ接客頼めるか?」

六花「はい!全然いけます!」

 

 六花はそう言いながら手を洗い

 

 エプロンを身に着けた

 

 毎度のことながら、すごい張り切ってる

 

「六花ちゃーん!こっちにビールおねがーい!」

「こっちには焼酎お願い!」

六花「はい!かしこまりました!」

「六花ちゃん、今日も可愛いよー!」

陽介「......!」

鈴木、日高(......あっ(察し))

 

 俺は食材を切る手を止めた

 

 そして、さっき聞こえた2つの酒を取り

 

 それを席に持っていった

 

「折角だし、お酌の1つでも頼めないかな?」

六花「うーん、どうでしょうか。」

陽介「__お待たせしました。」

 

 俺は静かに飲み物を置いた

 

 そして、笑顔のまま注文したお客さんの方を見た

 

陽介「ビールと焼酎です。ビールはかなーり冷えておりますので、どうぞ。浜田さん?」

浜田「は、ははっ、ありがとうございます(こ、怖い。目が笑ってない。)」

周りの客(いつものだ。それにしても怖い。)

陽介「あ、折角なのでジョッキもサービスですよ。」

浜田「あ、あの、もったら凍傷しそうなんですが?」

陽介「ははは、そんなまさか。」

 

 俺は笑いながらそう言った

 

 勿論、そんな危ないものじゃない

 

 あと数秒すれば適温になるようにしてる

 

 流石に怪我させるとかはしない

 

六花「よ、陽介さん?そんなに怒らなくてもいいですよ?」

陽介「俺は怒ってないよ。ただ、注文された品を持ってきただけ。」

周りの客(いやいやいや。)

 

 なんだか周りがみんな首を振ってる気がする

 

 そんな態度に出したつもりはなかったんだけど

 

 俺もまだまだだな

 

六花「もうっ、いっつもそれ言うじゃないですか!浜田さんも冗談で言ってるんですから!」

陽介「分かってるよ。俺も浜田さんがこれを欲しがってるって分かってるから。」

浜田「今日のは手を込んでるねー。本当にヤバいのと思ったよ。」

陽介「ははは、流石にそんなの出せませんよ。」

六花「もう!2人とも意地悪です!」

陽介「あはは、ごめんごめん。」

 

 俺は六花の頭を撫でながらそう言い

 

 歩いて厨房に戻って行った

 

 六花は顔を真っ赤にしてる

 

 まだまだ初心な子で可愛いと思った

 

六花「......もうっ///」

周りの客(あの2人、可愛いなぁ......)

浜田(飯が美味い。)

 

 俺はそれからも注文をさばき

 

 閉店時間間近まで手を動かし続けた

__________________

 

 少し時間が経って閉店間近

 

 店内には常連の2人が残ってる

 

 俺は一息つきながらカウンター席に座った

 

鈴木「いやー、今日も良いもの見せてもらったよ。」

日高「仲のいい夫婦を見ていると更にご飯が美味しくなる。」

陽介「ははは、それはよか__」

 

 ガラガラガラ

 

 俺が話してる途中、

 

 店の戸がゆっくりと開いた

 

 そして、ある人物が顔をのぞかせた

 

陽介父母「よ、陽介......」

六花「っ!」

陽介「......」

 

 入ってきたのは俺の両親

 

 前よりも大分老け込んでいて

 

 上手くいってないのか顔が死んでる

 

 俺は席から立ち上がり

 

 2人の前に立った

 

陽介「いらっしゃい。お席に案内します。」

六花「!(陽介さん......)」

 

 俺はあくまで客として対応する

 

 席に案内し、お冷を出し

 

 注文を取ると言う作業を遂行するだけだ

 

父「よ、陽介、久し振りだな。」

母「げ、元気にしてたかしら......?」

陽介「ご注文は?」

 

 俺は淡々とそう言った

 

 あの2人は関係ない事ばかり言ってくる

 

 早く注文を言って欲しい

 

父「な、なぁ、久し振りの親じゃないか。」

母「子供がいるんでしょ......?一度くらい会わせてくれても......」

陽介「......」

 

 俺は2人の対応が面倒になり

 

 厨房の方に歩き、袖をまくった

 

六花「何を、作るんですか?」

陽介「この場に相応しい料理だよ。俺が勝手に作るから、お代を取る気はない。」

鈴木(こんな陽介君、初めて見たな。)

日高(何が起きるって言うんだ?)

陽介「......」

 

 俺は大量の鶏肉を取り出し

 

 手早く炒めていく

 

 そして、辛みのある調味料を入れ

 

 それをご飯の上に乗せた

 

日高(うっ、すごく辛いにおいだ。)

鈴木(でも、美味そうだなぁ......)

陽介「......」

 

 俺は丼をお盆に乗せ

 

 ゆっくりと歩きながら2人の席に運ぶ

 

 大丈夫、平常心でいられてる

 

 六花が心配そうにしてるのも見えた

 

陽介「お待たせしました。」

 

 俺は丼をテーブルに置いた

 

 まじで存在しないもの作ったかも

 

 完全な思い付きの創作料理だし

 

母「こ、これは......?」

父「何だって言うんだ......?」

陽介「親子丼卵抜き。さっさと出て行け風でございます。」

父母「!!」

 

 俺は笑顔でそう言った

 

 2人の顔が少しだけ歪み

 

 俺の方を凝視してる

 

陽介「申し訳ありませんが、俺の親は六花のご両親だけなので。家の子にはもう会っていただきました。」

父「な、何を......」

母「私達を忘れたって言うの......!?」

父「お前は出水だろ......!」

陽介「出水?はて、何のことですか?」

父母「は?」

 

 2人は目を丸くしてる

 

 俺は少しだけ口角を上げて

 

 優しい声で次の言葉を口にした

 

陽介「俺は朝日陽介ですよ?」

父母「!?」

 

 俺は2人に背中を向け

 

 六花の方に歩いた

 

 もう、この2人に用はない

 

陽介「六花、もう家の方に戻ってもいいよ。後は俺が片付けておくから。」

六花「いえ、私は一緒にいます。」

陽介「はは、そっか。」

鈴木「じゃあ、俺達も帰るかな!」

日高「そこの2人も連れて!」

陽介「!」

 

 鈴木さんと日高さんは席から立ち

 

 あの2人の方に歩いて行った

 

鈴木「ほら、あの夫婦の邪魔するのも悪いし早く出て行こうや。」

日高「今からあの2人は忙しいんだからさ。」

陽介「あの、シレっととんでもない事言いましたね。」

六花「この後って__っ!///」

鈴木「じゃあね!2人とも!」

日高「お代はここに置いとくから!」

父「な、なんだ、あんたたちは!」

母「は、放して__」

 

 酔った勢いもあったんだろうか

 

 常連の2人はあっさりとあの2人を連れて行った

 

 俺は軽く一息つき、さっき作ったのを片付け

 

 そして、2階の住居部分に帰った

__________________

 

 六花と2人でリビングに入ると

 

 こっちに走ってくる影があった

 

 俺はそれを受け止め、軽く持ち上げた

 

?「おかえりなさい!パパ!ママ!」

陽介「ただいま。」

六花「今日はますきさんが来れなかったけど、寂しくなかった?」

?「うん!ちゃんとおるすばんしてた!」

陽介「そうか、葵は偉いな。」

葵「うん!」

 

 この子は俺と六花の第一子

 

 女の子で名前は朝日葵だ

 

 俺と六花を丁度半々にした見た目で

 

 良い部分が六花に似てすごく可愛い

 

陽介「ご飯はもう準備してあるし、食べようか。」

葵「うん!食べる!」

 

 俺はそう言う葵を下ろして

 

 キッチンに用意してある夕飯を温めた

 

 そして、それをよそってテーブルに並べた

 

葵「いただきまーす!」

六花「いただきます!」

陽介「あぁ、どうぞ。」

 

 葵は手を合わせた後

 

 目の前にある料理を食べ始めた

 

 この年なのに好き嫌いがない

 

 作る身としては本当に助かる

 

葵「美味しい!」

六花「本当に美味しい、流石パパだね!」

陽介(可愛い。)

 

 嫁も娘も天使だな

 

 確かに目の前で良いものがあるとご飯が美味しくなる

 

 あれは本当なのか

 

葵「あ、パパ笑ってる!」

陽介「笑ってるよ。」

六花「どうしたんですか?」

陽介「2人が可愛くてついな。」

葵「葵かわいい?」

陽介「あぁ、可愛いよ。」

 

 俺はそう言いながら葵の頭を撫でた

 

 嬉しそうに目を細めてて

 

 本当に可愛らしい

 

六花「食べ終わったらママと一緒にお風呂入ろうね?」

葵「うん!はいる!」

陽介「じゃあ、早く食べないとな。」

 

 それから俺達は食事を進め

 

 食べ終わった後は俺は洗い物

 

 六花は葵を風呂に入れに行った

__________________

 

 2人が上がった後、俺も風呂に入り

 

 葵はもう眠ってしまった

 

 俺と六花は今、リビングのソファに座ってる

 

六花「あの、陽介さん?」

陽介「ん?どうした?」

 

 しばらく静かに座ってると

 

 六花が控えめな声で話しかけて来た

 

 俺は顔を横に向けた

 

六花「あの、大丈夫でしたか?あの2人が来て......」

陽介「全然大丈夫だよ。」

 

 心配そうに尋ねてくる六花に俺はそう答えた

 

 学生の時には克服してるし

 

 今更来ても思う事は何もない

 

陽介「心配かけちゃったか?すまないな。」

六花「やっぱり、高校生の時の陽介さんを見てるので......」

陽介「あはは、優しいな六花は。」

六花「......///」

 

 俺は六花の頭を撫でた

 

 風呂上がりで良い匂いがする

 

 心が落ち着くな

 

陽介「愛してるよ、六花。」

六花「私も愛してます、陽介さん......///」

 

 俺達はそう言いあった後、

 

 ゆっくり唇を合わせた

 

 時間にして3秒ほど

 

 だが、体感は何倍にも感じた

 

葵「ぱぱー、ままー......」

陽介「葵?起きたのか?」

葵「ままいなくなったんだもん......」

 

 葵は眠そな声でそう言った

 

 半分は寝てるんだろう

 

 俺と六花はアイコンタクトをした後

 

 ソファから立ち上がった

 

六花「一緒に寝ようね、葵ちゃん。」

葵「うんー......」

陽介「ほら、おいで、葵。」

葵「うんー......」

 

 葵は両手を前に出しながらこっちに来た

 

 俺はそんな葵を抱き上げ、

 

 リビングの電気を消した

__________________

 

 寝室に来た

 

 部屋の中は小さな灯りだけが付いている

 

 俺と六花は間に葵を寝かせ

 

 葵越しに目を合わせている

 

葵「すぅー、すぅー......」

陽介「良く寝てるな。」

六花「はい、可愛いですね。」

 

 六花は嬉しそうにそう言い

 

 眠っている葵の頭を撫でた

 

 その表情は母親らしく、美しい

 

陽介「......なぁ、六花。」

六花「はい?」

陽介「俺、六花と葵を守れるように頑張るよ。」

六花「!......はい。」

 

 俺はベッドの中で六花の手を握った

 

 柔らかくて、暖かい

 

葵「んぅ......」

陽介「......あんまり話してると起きちゃうな。」

六花「私達も寝ましょうか。」

 

 俺は枕元にある明かりを消し

 

 部屋の中は真っ暗になった

 

 でも何とか六花の顔は見える

 

六花「愛してます、陽介さん。」

陽介「愛してるよ、六花。」

 

 俺達は手を繋いだまま眠りについた

 

 3人で眠るベッドの中は暖かくて

 

 今、自分が幸せだと感じる事が出来る

 

 これからも、六花と葵と一緒に

 

 俺はこの幸せを噛み締めていたい

 

 

 

 



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友希那ルート
10年越しの想い


 1月の中旬、俺はいつも通り学校に来てる

 

 いつも通り授業を受け、いつも通り5人と話す

 

 ......なんていう事は出来ず

 

 俺の状態はいつも通りからかけ離れている

 

ひまり「__だ、大丈夫、いずみん?」

陽介「だ、だだ大丈夫だぞ!?」

ひまり「いや、ガッチガチじゃん!」

巴「いやー、緊張してるなー。」

 

 そう、今俺はかなり緊張してる

 

 心拍数は全力疾走後くらいかもしれない

 

 変な汗も流れてくるし、落ち着かない

 

 端から見れば情緒不安定もいい所だ

 

蘭「まぁ、陽介が緊張してる理由は明らかだね。」

巴「決めたんだろうな。」

モカ「そうだね~。」

陽介「あ、青葉。」

 

 俺は落ち着きがないまま、

 

 青葉の方に視線を向けた

 

 この一週間ほどで俺は5人に返事をした

 

 青葉と羽沢もその中に入ってて

 

 もう、断ったと言う事になる

 

モカ「そろそろ時間でしょー?行かなくていいのー?」

陽介「そ、そうだな。行ってくる。」

 

 俺は青葉にそう言われ

 

 椅子からゆっくり立ち上がり

 

 そして、大きく深呼吸をした

 

陽介(大丈夫、佐藤や六花に日菜さんに頑張れって言われたじゃないか。出来る、俺は出来る。)

 

 俺はそう意気込んで

 

 勢いよく教室の外の方を向いた

 

 さっきよりは落ち着けたみたいだ

 

陽介「よし、行ってくる。」

つぐみ「い、出水君!」

陽介「羽沢?」

つぐみ「頑張ってね!応援してる!お幸せに!」

陽介「!......あぁ、頑張るよ。」

 

 必死な、何かを我慢してるような声

 

 俺はそんな羽沢の言葉を背に教室を出て、

 

 待ち合わせ場所である屋上に向かった

 

 ”アフターグロウ”

 

蘭「......つぐみ、大丈夫なの?」

 

 陽介が去った後、蘭はそう尋ねた

 

 つぐみはスカートの裾を抑えながら

 

 4人の方を向いた

 

つぐみ「大丈夫だよ!一週間前にちゃんと割り切ったもん!」

ひまり(つぐ......)

巴(やっぱ、キツいよな......)

 

 つぐみの手は小さく震えてる

 

 それは、必死に気持ちを押し殺すようで

 

 見てるだけで4人の表情が曇る

 

モカ「つぐー、ちょっと付き合ってよー。」

つぐみ「え......?」

モカ「モカちゃん、今からパン食べに行きたいんだー。」

つぐみ「!」

 

 モカはつぐみの手を握り

 

 そして、教室のドアの方に引っ張った

 

 つぐみは慌てながらもそれについて行った

 

モカ「一緒にやけ食いしようねー。」

つぐみ「......うん!」

蘭「行ってらっしゃい、2人とも。」

巴「お腹壊すなよ!」

ひまり「あんまり無理に食べさせちゃダメだからね!」

モカ「了解了解~。」

 

 モカはそんな返事をしながら

 

 つぐみを外に引っ張って行った

 

 その様子を見て3人は軽く息をついた

 

巴「モカもつらいだろうに、ほんと良いやつだな。」

ひまり「私、うっかり泣いちゃいそうだった。」

蘭「......陽介が幸せになるのに、罪悪感はいらないからね。」

巴「蘭?」

 

 蘭はポツリとつぶやいた

 

 その表情はまるで見守る姉か母親の様だ

 

 巴はそんな蘭の方を見て首を傾げた

 

蘭(お幸せに、陽介。)

 

 蘭は口角を上げたまま目を閉じ

 

 心の中でそう祈った

__________________

 

 ”陽介”

 

 俺は廊下を全力で走り

 

 待ち合わせの場所の屋上まで来た

 

 もう来ているのだろうか

 

 俺は扉の前で何回か深呼吸をし

 

 意を決して扉を開いた

 

陽介「__お待たせしました、湊さん。」

友希那「あら、もう来たのね。」

 

 扉を開け、見えたのは湊さんの姿だ

 

 風で長い銀色の髪は靡ていて

 

 向けられた笑顔は夕日よりも美しい

 

友希那「今日は一体、何の話かしら?」

陽介(絶対に分かってる。)

 

 湊さんは悪戯っぽい笑みを浮かべてる

 

 こんなに意地悪な湊さんは初めてだ

 

 でも、それすら可愛く感じるのは

 

 俺が湊さんを好きだと言う事なんだろう

 

友希那「あなたの口からちゃんと聞きたいわ。」

陽介「......分かりました。」

 

 俺は湊さんの方にそう言われ歩み寄る

 

 近寄るたびに心拍数が上がる

 

 でも、さっきよりも大丈夫だ

 

 皆の言葉がちゃんと効いてるんだ

 

 言える、絶対に言える

 

 俺はそう思いながら、湊さんの目の前で足を止めた

 

陽介「俺は、湊さんが好きです。」

友希那「!///」

陽介「いつも優しくて、俺を助けてくれた。湊さんの存在はいつも、力になってくれました。俺はそんな湊友希那さんが大好きです。」

友希那「陽介......!///」

陽介「!」

 

 俺が言葉を言いきると、

 

 湊さんの身体が俺の方にもたれ掛かってきた

 

 俺の胸元に頭を押し付けてきてる

 

 その行動は物凄く可愛らしい

 

友希那「10年間、待っていたわよ///」

陽介「はい、お待たせしてすいません。」

友希那「いいのよ///」

 

 湊さんはそう言って服を掴んでくる

 

 10年も前から思われていた

 

 あの時は何も見えてなかった

 

 ただ、親に言われた事をするのに必死だった

 

 でも、今は湊さんの姿がはっきり見える

 

友希那「陽介?」

陽介「はい?」

 

 しばらくその体制のままいると

 

 湊さんが小さな声で名前を呼んだ

 

 俺は視線を下げ、湊さんの方を見た

 

友希那「私に、全てをかける覚悟はある......?///」

陽介「!」

 

 そう問いかけられた瞬間、

 

 俺の心臓は大きく跳ね、そして目を瞑った

 

 少しだけ甘えるような声、赤くなった顔

 

 そして、上目遣い......

 

 まともに目を向ける事すら難しい

 

 だが、俺は目を開け、次の言葉を口にした

 

陽介「もちろん、その覚悟を持って今日は来ました。」

友希那「そう......」

陽介「っ!!」

友希那「んっ......///」

 

 湊さんは俺の顔を引き寄せ、キスをした

 

 身長が少し足りなくて懸命に背伸びをしてる姿に愛おしさを感じる

 

 キスの時間はほんの5秒ほどのはずだが、

 

 それ以上に時間が長く感じた

 

友希那「なら、私の全てをあなたにあげるわ///」

陽介「!」

友希那「これからもよろしく、陽介///」

陽介「はい、湊さ__」

友希那「友希那よ。」

陽介「......友希那さん。」

友希那「......今はそれでいいわ。」

 

 友希那さんは不服にそう言った

 

 下から来る視線が痛い

 

 でも、流石に年上を呼び捨てには出来ない

 

 今の俺にそんな根性はない

 

友希那「じゃあ、一緒に帰りましょうか......と、言いたいところだけれど。」

陽介「?」

友希那「今日はいつもよりも寒い気がするの。そして、手袋も忘れてしまったわ。」

陽介「......?」

 

 友希那さんはこっちをチラチラ見てる

 

 手袋忘れたのか

 

 じゃあ、俺のを貸すか?

 

 俺は別に大丈夫だし

 

友希那「......鈍感ね///」

陽介「友希那さん?__!」

友希那「こうやって、手を握れば寒くないわ///」

 

 友希那さんは恥ずかしそうにそう言った

 

 今のは手を繋ぎたいと言う事を遠回しに伝えようとしたと言う事か

 

 全く分からなかった(鈍感)

 

友希那「帰りましょう、陽介///」

陽介「はい。」

 

 つないだ手は手袋より温かい

 

 何より、心が温かい

 

陽介「ゆきちゃん。」

友希那「っ!?///」

陽介「10年前はそう呼んでましたね。」

友希那「......それでもいいわ///」

 

 友希那さんは恥ずかしそうにそう言った

 

 10年前に出った女の子とまた出会って

 

 救われて、好きになって

 

 そして、こんな風に付き合う事が出来た

 

 ゆきちゃんを待たせた10年

 

 それをこれから埋めていくとしよう

 

 

 



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卒業の日

 友希那さんと付き合い始めて約2か月

 

 最近は気温も少し上がってきて

 

 寒いと感じる事は少なくなってきた

 

 今日は3年生が卒業する日

 

 友希那さんが学校からいなくなる

 

 そのことに多少の寂しさを感じてる

 

 そんな中、俺は校内のベンチに座ってる

 

友希那「__陽介。」

陽介「あ、友希那さん。」

 

 12時を過ぎた頃

 

 胸元に花をつけた友希那さんが走ってきた

 

 向こうを見れば、同級生同士で話したり、写真を撮ったりしてる

 

陽介「いいんですか?まだ向こうは盛り上がってますが。」

友希那「リサに行って来いと言われたのよ。そもそも、私は陽介が一番大事よ。」

陽介「......そうですか。」

 

 俺は恥ずかしくなって少し目を背けた

 

 こうも直球で言われると流石に照れがある

 

 そんな俺を見て友希那さんは笑ってる

 

 俺は気を取り直して、友希那さんを見た

 

陽介「ご卒業おめでとうございます、友希那さん。」

友希那「あら、陽介なら私がいなくなって寂しいと言うと思ったのだけれど?」

陽介「......どこまでわかってるんですか?」

友希那「何でも分かってるわよ。」

陽介(う、うーん。)

 

 俺は頭を抱えた

 

 この人、本当はエスパーなんじゃないのか?

 

 そんなに分かりやすいつもりはないんだが

 

友希那「これからもあなたと私は一緒にいるわけだし、寂しくはないわよ。」

陽介「それは分かってますよ。でも、1つの節目として感慨深いと言う事もあるので。」

友希那「そうかしら?」

 

 友希那さんは首をかしげながらそう言った

 

 なんか、卒業の感動?と言うのか

 

 そう言うのをあんまり感じないな

 

 まぁ、らしいと言えばらしいのかもしれない

 

 俺がそんな事を考えてると

 

 友希那さんは何かを思い出したような顔をした

 

友希那「そう言えば。」

陽介「?」

友希那「卒業するとき、第2ボタンをあげると聞いたの。」

陽介「第2ボタン?」

 

 そう言えば、そういうのあったな

 

 確か1番大切な人を表すって

 

 そんな事を思ってると、

 

 友希那さんは自らの第二ボタンに手をかけた

 

友希那「これは陽介にあげるわ......一番、大切な人だもの///」

陽介「ありがとうございます。」

 

 俺はボタンを受け取った

 

 さっきまで制服についてたもの

 

 何と言うか、不思議な感じがするな

 

 暖かい部分と冷たい部分がある

 

友希那「これからも、愛しているわ///」

陽介「俺も愛してます、ずっと。」

 

 俺と友希那さんはその場で抱き合った

 

 誰かに見られてるとか考えたけど

 

 もう、そんな事どうでもよくなった

 

 友希那さんは体温が高くて、良い匂いがする

 

友希那「陽介......///」

陽介「友希那さん......」

 

 段々とお互いの顔が近づいて行く

 

 お互いの息がかかる位置まで来て

 

 もうキスをする直前、だがその時

 

 パシャと、カメラのシャッター音が聞こえた

 

友希那、陽介「!?」

リサ「あっ......」

友希那「り、リサ......!///」

リサ「やっば!やっちゃった!」

チュチュ「何してるのよ!」

リサ「ご、ごめんって!」

 

 音がした方を見ると、

 

 今井さんとチュチュ、パレオがいた

 

 友希那さんは顔を真っ赤にして怒ってる

 

陽介「な、何してるんだ?今井さんはともかく2人まで。」

リサ「え、あたしは?」

チュチュ「湊友希那の卒業を祝いに来てあげたのよ。陽介のgirl friendだもの。」

陽介「それで、写真を撮ってた意味は?」

パレオ「お2人があまりにイチャイチャしていたので、後で茶化してやろうとリサ様が!」

リサ「えー!?あたしだけ!?」

 

 大体の状況は理解した

 

 まぁ、今井さんだったな

 

 俺は小さくため息をついた

 

陽介「いるなら声かけてくれよ。」

チュチュ「あら、続きはしないのね?」

陽介「また後でするよ。」

友希那「!?///」

リサ(あっ、友希那の顔真っ赤だ。撮っとこ。)

友希那「リサっ!///」

 

 また、今井さんが怒られてる

 

 友希那さんを弄りたい気持ちは分かる

 

 通常時は滅茶苦茶に可愛い人だし

 

チュチュ「まぁ、卒業おめでとうと言っておくわ。これからもうちの陽介をよろしく。」

友希那「当然よ。一生離れるつもりはないわ。」

チュチュ「そう。ならいいわ。」

友希那、陽介、パレオ、リサ「!」

 

 チュチュは友希那さんの方に手を出した

 

 俺はかなり驚いた

 

 友希那さんに限定されるけど、

 

 こんなに素直なチュチュは初めて見た

 

チュチュ「陽介がいるし、もうぶっ潰すなんて言ってられないわ。これからはよきライバル......もとい、嫁姑関係として、よろしく。」

友希那「!......えぇ、チュチュ。」

パレオ「チュチュ様......!」

リサ「いいお母さんじゃん!出水君!」

陽介「......えぇ、本当に。」

 

 俺は小さな声でそう言った

 

 ちょっとだけ涙が出て来た

 

チュチュ「陽介。」

陽介「なんだ?」

チュチュ「何を泣いているの?......まぁ、いいわ。これを受け取りなさい。」

 

 チュチュはある物を差し出して来た

 

 何かの手帳のようなもので

 

 俺は訳も分からず、それを受け取った

 

陽介「なんだ、これは?」

パレオ「それはようさんの今までのバイト代ですよ。」

陽介「え?」

チュチュ「返却は受け付けないわ。」

陽介「いや、受け取れないって!学費とか__」

チュチュ「そんなの、もう返済済みよ。」

陽介「ど、どういう事だ?」

 

 訳が分からない

 

 前の学校に羽丘の学費

 

 そんなのを返しきれた覚えは全くない

 

 ていうか、学生の間に返せる額じゃない

 

チュチュ「毎日の家事にも給料があるのよ。別にバイトだけで返せとは言ってないわ。」

陽介「え、いや、それにしても__」

チュチュ「ウジウジうるさいわね!返済は終了!それは陽介のモノよ!」

 

 チュチュは怒鳴るようにそう言ってきた

 

 俺はその勢いに押されてしまい

 

 少しだけたじろいだ

 

チュチュ「それでfianceeに何かしてあげなさい。」

パレオ「ここからデートですよね!ごゆっくり!」

リサ「あたしも帰るよー!ごゆっくりー!」

 

 3人は校門の方に歩いて行く

 

 未だに俺は混乱したままだ

 

 歩いてる途中、チュチュは振り返り

 

 俺の方に笑いかけて来た

 

チュチュ「契約書の無い契約を信用しない事ね。」

陽介「!!」

 

 チュチュはそう言って学校から出て行った

 

 俺と友希那さんはその場に残され

 

 少しだけ静寂が流れた

 

陽介(最初からこれを考えてたのか......)

友希那「ふふっ、完全に騙されてたわね。」

陽介「は、はい。こんなの全く知りませんでした。」

 

 家事なんて好きでしてたし

 

 あれで給料が出てたのが信じられない

 

 本当にチュチュに騙された

 

友希那「ねぇ、陽介。」

陽介「どうかしましたか?」

友希那「少し、おねだりしてもいいかしら?」

陽介「え?別にいいですけど、珍しいですね?」

友希那「今、欲しいものが出来たの。」

陽介「!」

 

 友希那さんは笑みを浮かべながら手を握ってきた

 

 そして、楽しそうな声で次の言葉を口にした

 

友希那「私、あなたからの指輪が欲しいわ///」

陽介「っ!?」

友希那「これから大学に行ってしまって、あなたの近くにいられないし......その、あなたのものという証拠が欲しいの///」

 

 俺は固まってしまった

 

 物凄く可愛いおねだりだ

 

 これはもう、やるしかない

 

 もう恥ずかしいとか言ってる場合じゃない

 

陽介「分かりました、行きましょう。」

友希那「!///」

陽介「俺も友希那さんに手出しされたくないので、今すぐに行きましょう。」

 

 俺は友希那さんの手を引き、

 

 学校の外の方に歩き始めた

 

 どんなのを買おうかとか

 

 どんなのが友希那さんに似合うだろうとか

 

 そういう事を考えてる

 

友希那「せ、積極的ね......///」

陽介「友希那さんが可愛いのが悪いです。」

友希那「~っ!///」

 

 俺と友希那さんはそのまま学校を出て

 

 付き合ってから何回目かのデートをした

 

 その途中に友希那さんに指輪を買って

 

 それをつけた友希那さんを見て

 

 いつか訪れる未来を想像することになる

 

 

 

 



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END 立場逆転

 ”友希那”

 

友希那「__だ、大丈夫?陽介?」

 

 とある休日の朝

 

 私はソファでうなだれてる陽介にそう尋ねた

 

 陽介は私の声を聞くと顔だけを動かした

 

陽介「大丈夫だよ......あはは。」

 

 陽介は苦しそうな声でそう言った

 

 表情からも今の陽介の状態が伝わってくる

 

陽介「い、いやぁ、不覚だった。まさか、麗奈と壮馬を抱っこしようとしたら腰をやるなんて。」

友希那「もうっ、2人も大きくなっているのに。」

陽介「まだいけるかなと思って。」

 

 陽介は子供を抱っこしようとして

 

 その時に腰を痛めた

 

 麗奈と壮馬は双子で、もう2人とも6歳

 

 来年には小学生になる

 

 そんな子供を同時に抱っこしようとすれば

 

 こうなるのは目に見える

 

麗奈「パパ、大丈夫?」

壮馬「大丈夫?」

陽介「大丈夫大丈夫。いやぁ、2人とも大きくなったな。」

友希那「湿布を貼るわね?」

陽介「ありがとう。」

 

 私は陽介の腰に湿布を貼る

 

 陽介は太ると言う事を知らないと思う

 

 それほどに腰回りが細い

 

 もしかしたら私より細いかもしれない

 

友希那「はい、出来たわよ。麗奈と壮馬は向こうで遊んでなさい。」

麗奈、壮馬「はーい!」

 

 麗奈と壮馬はテレビの前に走って行った

 

 私はそれを見て一息つき

 

 陽介の頭の近くに座った

 

陽介「よかった。」

友希那「?」

陽介「今日のロゼリアの皆に出す料理、全部できた後で。」

友希那「あなたは......」

 

 私は頭を抱えた

 

 こんな時も自分の事を気にしない

 

 こういう所は何年たっても変わらない

 

 頭は良いはずなのに、本当にバカ

 

友希那「そんなこと気にしなくていいのよ。自分の身を案じなさい。」

陽介「案じてる案じてる。でも、自分の仕事はちゃんとしたい。」

友希那「そう言うところよ......」

 

 本当に呆れる

 

 陽介にもこういう所も好きと思う私にも

 

 段々と毒されて行ってるわね

 

陽介「まぁまぁ、そう怒らないで。」

友希那「怒ってはないわ。ただ、自分の旦那に呆れてるのよ。」

陽介「こ、これは手厳しい。」

友希那「ふふっ、もう、優しいだけの私じゃないわよ?」

陽介「それは、喜べばいいのか......?」

 

 陽介は複雑そうな顔をしてる

 

 私はそれを見て笑った

 

友希那「もうすぐ皆来るけれど、陽介は動けないわね。」

陽介「申し訳ない。」

友希那「いいのよ。知らない人が来るわけではないし。」

 

 私はそう言いながらソファから立ち上がり

 

 それと同時に家のインターフォンが鳴った

 

友希那「出て来るわね。」

陽介「あぁ。」

 

 私はそう言った後、玄関に行き

 

 ロゼリアの皆を迎え入れに行った

__________________

 

 ”陽介”

 

 友希那が玄関に行ってすぐ

 

 友希那とロゼリアの皆が入ってきた

 

 みんな、高校の時から成長してて

 

 あこなんて身長が宇田川と同じくらいになった

 

あこ「あれ、どうしたの?陽介さん?」

陽介「いやぁ、2人を抱っこしようとしたら腰をやって。」

あこ「えぇ!?」

燐子「だ、大丈夫なんですか......?」

陽介「さっきよりはマシになりましたよ。」

 

 俺はそう言いながら体を起こした

 

 座るくらいならもう大丈夫だと思う

 

 お客さんの前でだらしない体勢でいたくない

 

リサ「いやー、年取ったねー☆」

紗夜「私達より年下よ、今井さん?」

リサ「それ言っちゃダメなやつだよ!?」

陽介「あ、あはは。」

 

 一応言うが、俺は今年で29歳になる

 

 そこから考えて、年上の人たちは......

 

 いや、失礼だからやめておこう

 

麗奈「あー!リサおばさん!」

壮馬「こんにちは!リサおばさん!」

リサ「ちょ、まだ20代だから!おばさんはやめてよー!」

麗奈「でも、ママが何でもいいって。」

壮馬「ちゆ姉さまがおばさんだって。」

リサ「チュチュ!?」

 

 家の子供たちは地雷を踏みぬいて行った

 

 ていうか、チュチュは何を教えてるんだ

 

 勘弁してくれ......

 

リサ「友希那ー!」

友希那「いいじゃないの。子供のすることだし。」

リサ「それでもあの言葉は響くんだよー!」

 

 今井さんがこれもかと嘆いてる

 

 にもかかわらず麗奈と壮馬は気にしてない

 

 この鈍感さは間違いなく俺の子だ

 

あこ「麗奈に壮馬ー!久しぶりー!」

麗奈「あこちゃんだー!」

壮馬「久しぶりー!あこ姉さま!」

紗夜「相変わらず元気ですね。」

燐子「そうですね......可愛いです。」

 

 みんな、麗奈と壮馬に構ってくれてる

 

 あの2人はロゼリアの皆が大好きで

 

 来てるときは嬉しそうにしてる

 

 麗奈はあこ、壮馬は白金さんに特に懐いてる

 

壮馬「燐子姉さま、この本一緒に読みたい!」

燐子「うん......いいよ。」

麗奈「あこちゃんゲームしよ!」

あこ「いいよー!なにする?」

麗奈「スマ〇ラ!」

 

 麗奈と壮馬は2人を引っ張り

 

 それぞれがしたい事をし始めた

 

 その様子を見て今井さんはまた嘆きだした

 

リサ「なんで、燐子はお姉さん呼び......?」

友希那「2人とってリサは叔母みたいなものだもの。仕方ないわ。」

リサ「そういう事じゃないんだよー!」

紗夜「まぁ、いいじゃない。もういい年なんだから。」

リサ「いーわーなーいーでー!」

 

 そう言いながら今井さんは耳を抑えた

 

 想像以上にダメージを受けてるな

 

 まぁ、与えてるのは他でもない家の子なんだが

 

リサ「もう!今日は飲むぞー!」

友希那「飲み過ぎないでね。今日は陽介が動けないから介抱できないのよ。」

紗夜「無理でしょうね。十中八九酔いつぶれます。」

陽介(ふ、二人とも辛辣だなー。)

 

 こうして、ロゼリアの5人の飲み会が始まった

 

 俺はリビングのソファに座ったまま

 

 この5人の生末を見守っていることにした

__________________

 

リサ「__zzz......」

 

 飲み会が始まって3時間

 

 案の定、今井さんは酔いつぶれた

 

 これはいつものパターンだ

 

 友希那も知ってたと言わんばかりに

 

 眠ってる今井さんの方を見てる

 

友希那「今日はやけに飲んでたわね。」

あこ「リサ姉、なんか彼氏と別れたみたいですよ。」

紗夜「あら、そうなの?」

あこ「なんか、価値観が合わないからーって。」

陽介「通りで。」

 

 確かに、今日はやけに荒れてた

 

 子供たちの前で態度に出さないけど

 

 眠ってからは凄かった

 

 飲んで飲んで飲みまくってた

 

友希那「勿体ないわね。相手はかなり有望な人だったのに。」

陽介「うーん、そうかな。」

友希那「?」

陽介「あの人は多分、かなりの男尊女卑をしてそうだったし。別にそんなに仕事がうまくいってるように見えなかったけど。」

燐子「そうなんですか......?」

陽介「俺の人を見る目が確かなら。」

 

 高校のとき体験とかで

 

 俺の人を見る目はかなり養われた

 

 あくまで憶測レベルだけど

 

 多分、的を射てると思う

 

友希那「あなたの職場にいい人はいないの?」

陽介「うーん、どうだろう。世間的にいい人でも、今井さんにとっていい人とは限らないから。」

燐子「今井さんの相手は......どんな人がいいんでしょうか?」

紗夜「そうね、ある程度しっかりしてるけど、支えがいあって。」

あこ「理解とかし合えて、趣味が合う......って。」

燐子、あこ、紗夜(それ、なんて友希那(湊)さんか陽介君(さん)?)

陽介、友希那(そんな人いるか(かしら)?)

 

 3人がジッとこっちを見てる

 

 何か変なところがあるんだろうか?

 

紗夜「ま、まぁ、今井さんには湊さんたちがいますし。」

燐子「きっと、大丈夫です......!」

あこ「う、うん!もう、2人と実質家族だし!(?)」

陽介、友希那「?」

 

 なんか、3人が目をそらしてる

 

 ていうか、シレっと諦めるとやめてあげて

 

 今井さん、本当にいい人だから

 

 本当なら引く手あまたになるはずだから

 

紗夜「も、もう少し飲みましょうか。」

あこ「そ、そうですね!」

燐子「私もまだ大丈夫です......!」

陽介、友希那(あっ、飲み過ぎる奴だ(わ))

 

 俺はそんなこと思いつつ、

 

 3人が飲んでるのを見守った

 

 なんだか、皆いつもより飲んでて

 

 1時間ほど経つと......

 

紗夜、燐子、あこ「......zzz」

陽介「__まぁ、そうだよな。」

 

 案の定、酔いつぶれた

 

 なんであんなに飲んでたんだろうか

 

 忘れたいことがあったんだろうか

 

 俺はそんな事を思いながら

 

 ソファにもたれ掛かった

 

友希那「もう腰は大丈夫なの?」

陽介「大分マシになったよ。」

友希那「そう、ならいいわ。」

 

 友希那は2つグラスを持って横に座り

 

 一つを俺の方に差し出して来た

 

友希那「一緒に飲みましょう?」

陽介「まぁ、いいよ。」

 

 俺は友希那からグラスを受け取った

 

 あまり酒は得意じゃないけど

 

 少しくらいなら大丈夫だろう

 

友希那、陽介「乾杯。」

 

 カンっと、ガラスがぶつかる音が鳴り

 

 俺と友希那は酒に口をつけた

 

 なんだか久しぶりに飲んだ気がする

 

友希那「やっぱり、あまり飲まないわね。」

陽介「得意じゃないから、程々しか飲めないよ。」

友希那「......そう。」

陽介「友希那?」

 

 俺が言葉を言いきった後、

 

 友希那は思い切りグラスを傾けた

 

 口の中に大量の酒が入って行ってる

 

陽介「友希那?飲み過ぎは体に毒__!!」

友希那「んっ///」

陽介(ゆ、友希那!?)

 

 友希那に注意をしてると

 

 突然、唇を合わせて来た

 

 これはキスと言うより、酒を口移ししてる

 

 あまり飲まないのが面白くなかったんだろう

 

友希那「これで、いい感じに酔えるでしょう?///」

陽介「友希那の方が酔ってるじゃないか。」

 

 友希那は酔うとスキンシップが過激になる

 

 最初は可愛いものだったけど

 

 今じゃこれだ......別にいいんだけど

 

友希那「ねぇ、陽介?」

陽介「どうした?」

友希那「リサの事なのだけれど。」

 

 友希那は心配そうな声でそう切り出して来た

 

 やっぱり、気にかけてたみたいだ

 

 これまで、今井さんは付き合ったり別れたりの繰り返しだし

 

友希那「大丈夫なのかしら.....」

陽介「大丈夫だよ。」

友希那「どうしてそう言えるの?」

陽介「うーん。」

 

 俺は少し考えた

 

 特に根拠があるわけじゃない

 

 何となくそう思っただけだ

 

陽介「なんとなく、もうすぐ素敵な出会いがある気がする。」

友希那「何となくなのね。」

陽介「もしなくても、俺達が愚痴を聞くことはいつまでも出来るだろ?」

友希那「!」

 

 俺はそう言い、

 

 手に持ってるグラスを揺らした

 

 そして、言葉を続けた

 

陽介「もし素敵な出会いがあれば、盛大に祝ってあげればいい。」

友希那「そうね。」

 

 俺達はそう言いながらグラスに口をつけ

 

 眠ってる今井さんの方に目を向けた

 

 そして、俺達は小さく笑った

 

友希那「今は私が見守る側ね。」

陽介「立場逆転、だな。」

 

 得意げそうな友希那に俺はそう言い

 

 俺はそれを見てまた笑った

 

リサ「__2人とも~!」

陽介、友希那「!?」

リサ「もう2人とも好き~!」

陽介「ちょ、今井さん!?」

友希那「リサ!?」

 

 俺達がそんな会話をしてると、

 

 眠ってた今井さんが目を覚まし

 

 俺達に抱き着いてきた

 

 良い匂いと酒の匂いが混在してる

 

リサ「あたし頑張るよ~!もういっそ2人の家族がいいよ~!」

陽介「分かった!分かりましたから!」

友希那「は、離れなさい!///」

リサ「もう、2人とも愛してるよ~!」

 

 今井さんはそう言いながら抱き着いてくる

 

 友希那も引きはがそうとしてるが

 

 中々これが離れない

 

友希那(......全く。)

陽介(これは......)

陽介、友希那(俺(私)たちがまだまだ見守らないと。)

 

 俺と友希那は苦笑いを浮かべながら

 

 今井さんに抱き着かれ続けた

 

友希那「......仕方ないわね///」

陽介「!」

 

 友希那は小さくそう呟いた

 

 見守ってくれてた人を見守る

 

 すごい立場逆転だが、それも悪くない

 

 きっと、友希那もそう思ってるんだろう

 

 でも、当の今井さんがこの調子じゃ、俺達が安心できるのはまだまだ先みたいだ

 

 

 



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つぐみルート
幸せな未来予想図


 放課後の誰もいない教室

 

 風に揺られたカーテンの隙間から夕陽が差し込んできて、とても綺麗な景色だ

 

 俺はそんな教室で1人、席に座っている

 

 その時、教室の静かにドアが開いた

 

つぐみ「__もう下校時刻ですよ、って出水君?」

陽介「よかった、羽沢が来てくれて。」

つぐみ「え?」

 

 そう言うと羽沢は首を傾げた

 

 実の所、羽沢が来るのは分かってた

 

 日菜さんに頼んでおいたから

 

 俺はそんなことを考えながら

 

 羽沢の方に歩み寄った

 

陽介「羽沢が来るのを待ってたんだ。」

つぐみ「どういう事?」

陽介「それは......」

 

 少しだけ緊張してる

 

 それでも、少しだけ

 

 羽沢から出る優しいオーラからだろうか

 

 何と言うか、安心感が凄い

 

陽介「今日は羽沢に言いたいことがある。」

つぐみ「!」

陽介「聞いてくれるか?」

つぐみ「......うん。」

 

 羽沢は深く頷いた

 

 俺はそれを見て少し呼吸を整え

 

 頭の中と心を少し整理するため目を閉じた

 

陽介(大丈夫。何回もイメージはした、いける。)

 

 俺は目をゆっくり開き

 

 羽沢の姿を視界に収めた

 

 少し緊張した面持ちで不安そうな顔をしてる

 

 俺はその様子を見た後、次の言葉を口にした

 

陽介「俺は羽沢が好きだ。」

つぐみ「!///」

陽介「可愛らしくて健気な姿も頑張り屋で優しい性格も、全部が好きだ。だから、俺と付き合ってくれ。」

つぐみ「......」

 

 羽沢はうつ向いている

 

 表情の変化が読み取ることができない

 

 一体、どんな表情をしてるんだろう

 

 俺は内心不安に思いつつ羽沢の方を見た

 

つぐみ「......よかった。」

陽介「羽沢__!」

つぐみ「本当に、よかった......!///」

 

 羽沢は突然、顔を上げた

 

 夕日に照らされた笑顔は美しく

 

 涙で潤んだ瞳は宝石のように光り輝いている

 

 俺はそんな姿に見惚れてしまった

 

つぐみ「私、絶対にダメだって思ってた、出水君に告白した人、みんな素敵な人だから、私なんてダメだって思ってた。」

陽介「羽沢だって、すごいレベルの美人さんだよ。」

つぐみ「ふふっ、ありがとう///」

 

 羽沢は笑いながらそう言って

 

 俺の方にゆっくり歩み寄ってきた

 

 そして、俺の前で足を止めた

 

つぐみ「私も、出水君のことが大好きだよ!///」

陽介「!」

つぐみ「だから、その......よろしくね?///」

 

 羽沢は少し困ったように笑ってる

 

 照れてるのが分かって、すごく可愛い

 

 俺はそんな羽沢をじっと見つめた

 

つぐみ「い、出水君......?///その、あんまり見られると......///」

陽介「なぁ、羽沢。」

つぐみ「ど、どうしたの......?///」

 

 羽沢は顔を赤くして様子を伺ってる

 

 本当に小動物感があって可愛らしい

 

 そう、可愛らしいんだ

 

 そんな子を見ればよくも出てくる

 

陽介「キス、してもいいか?」

つぐみ「ふえ......?///」

 

 羽沢の顔を少し持ち上げつつ

 

 真剣な声で俺はそう言った

 

 羽沢は状況を一瞬掴めなかったようで

 

 少ししてから慌て始めた

 

つぐみ「き、ききキス!?///」

陽介「あぁ。」

つぐみ「え、えっと、その......///」

 

 羽沢は目を右往左往させてる

 

 恥ずかしそうにこっちを見たと思えば

 

 また視線を逸らしていく

 

 俺がしばらくその様子を観察してると

 

 羽沢が意を決したように口を開いた

 

つぐみ「キスは......まだ恥ずかしいかな......///」

陽介「そうだよな。急に言って悪かっ__!」

 

 謝罪の言葉を口にしようとした時

 

 唇に不思議な感触があった

 

 羽沢か人差し指を俺の唇に当てていた

 

 ほんの一瞬触れると羽沢は指を離した

 

つぐみ「ん......///」

 

 指を離すと今度は自分の唇にさっきの指を当て始めた

 

 その顔は真っ赤で夕日にも負けてない

 

 俺は思考がフリーズした

 

 少しして羽沢は指を離した

 

つぐみ「今は恥ずかしいから......これで我慢してね?///」

陽介「お、おう。」

 

 本人は控えめにしたつもりだろうけど

 

 正直、これ方が恥ずかしいと思う 

 

 て言うか、これは天然なのか?

 

 だとしたら、ヤバすぎる

 

つぐみ(出水君、どうしたんだろ?///)

陽介「羽沢は、凄いんだな。」

つぐみ「え?」

陽介「いや、なんでもない。」

 

 あれは天然だった

 

 俺は変な汗を流しつつ

 

 顔を赤くしてる羽沢の方を見た

 

つぐみ「き、今日は帰ろ!///一緒に!///」

陽介「あぁ、帰ろう。」

 

 俺がそう言うと羽沢は手を握ってきた

 

 少し驚いたが、俺達はそのまま教室を出て

 

 2人一緒に帰路についた

 

 帰ってる途中、ずっと羽沢が笑ってて

 

 隣にいる俺も自然と笑顔になれて

 

 とても穏やかな時間だと感じられた

__________________

 

 羽沢と付き合い始めてから2週間が経った

 

 俺達の仲は良好で

 

 今日は羽沢珈琲店に手伝いに来てる

 

ひまり「__来たよー!つぐ、いずみん!」

巴「おー、やってるなー。」

つぐみ「あ、いらっしゃい!」

蘭「出水は真面目に働いてるみたいだね。」

モカ「感心感心~。」

 

 昼を少し過ぎたころ

 

 いつものみんなが店に入ってきた

 

 羽沢は嬉しそうに4人に近づき

 

 俺はお絞りとお冷を用意してから

 

 4人の方に近づいて行った

 

陽介「はい、どうぞ。」

巴「ありがとよ!」

モカ「流石、よう君~。仕事できるね~。」

陽介「あはは、ありがとう。」

モカ「よきにはからえ~。」

ひまり「もう!何言ってるの!」

蘭「いつもこんなもんでしょ。」

 

 青葉はいつものように冗談めいた話し方をしてる

 

 青葉は羽沢と付き合ってからいろいろなことに協力してくれて、いつもお世話になってる

 

つぐみ「ご注文は?」

モカ「いつもの~。」

蘭「いつも通り。」

ひまり「私もー!」

巴「あたしもいつものだ!」

つぐみ「かしこまりました!出水君!」

陽介「あぁ、分かった。」

 

 俺はそう言って厨房に下がり

 

 注文された品の準備に行った

 

 ”別視点”

 

モカ「それにしても~。」

 

 陽介が下がった後

 

 モカはつぐみの方に視線を向けた

 

 つぐみは首を傾げ、モカの方を見た

 

モカ「もう2人は夫婦みたいな雰囲気あるね~。」

つぐみ「も、モカちゃん!?///」

ひまり「あ、分かるー!」

 

 モカの言葉に他の3人もうなずいた

 

 つぐみは顔を赤くして慌てた様子だ

 

 それを見て4人は笑みを浮かべた

 

巴「もう羽沢珈琲店のエプロンも板についてるしな。」

蘭「陽介がこの店を継ぐ日も近いかもね。」

つぐみ「も、もう!///」

陽介「__俺も出来るだけ早くそうしたいかな。」

つぐみ「!?///」

ひまり「きゃー!大胆!」

 

 陽介は4人の前に注文の品を並べ

 

 笑いながらそう言った

 

 つぐみはそれを聞いてさらに顔を赤くした

 

陽介「羽沢珈琲店を継げるように頑張るよ。」

つぐみ「い、今でもお父さんよりおいしいコーヒー淹れるから拗ねてるのに......?」

蘭「も、もうそのレベルなの?」

巴「いやー、陽介だし当然だろ!」

陽介「もっと高められると思うんだけどな。」

 

 陽介は難しい顔をしている

 

 その様子を見て5人は苦笑いを浮かべた

 

 これ以上とは何だろう

 

 そんな感情が表情から見て取れる

 

ひまり「て言うか、いずみんがここを継いだら出水珈琲店になるの?」

陽介「それはならないかな。」

つぐみ「え?」

陽介「ここはずっと、羽沢珈琲店だし。俺が出水のままとも限らないし。」

つぐみ「ふぇ?///」

蘭、モカ ひまり、巴「!?」

 

 5人の体が固まった

 

 陽介は笑みを浮かべながら

 

 他のテーブルの片付けをしている

 

つぐみ「い、いい出水君!///」

陽介「ん?どうした?」

つぐみ「え、えっと、その......///」

陽介「あはは、顔真っ赤だな。」

つぐみ「そ、そうじゃなくて!///」

 

 つぐみは大声で何かを言おうとしてる

 

 陽介は笑いながらつぐみを見ている

 

陽介「羽沢。」

つぐみ「な、なに?どうしたの?」

陽介「俺、自分の名字嫌いだから、出来れば変えたいかな。」

つぐみ「っ!!///」

巴(お、おぉ......)

ひまり(大胆プロポーズ......!)

蘭(つぐみ、顔真っ赤だね。)

モカ(これは、苦労しそう......もとい、面白くなりそうですな~。)

 

 4人は陽介とつぐみのやり取りを見守った

 

 楽しげに会話をする2人の姿はまるで近い未来を確信させるような

 

 仲睦まじいものだった

 

 

 



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想像できない姿

 3年の先輩方が卒業し

 

 それに伴い俺も3年生になった

 

 前3年の先輩、と言うか日菜さんは確かな置き土産を残して行った

 

 俺は今日もそれで頭を抱えている

 

陽介「__つ、疲れた......」

つぐみ「だ、大丈夫?」

 

 俺は日菜さんの推薦で生徒会長になった

 

 勿論、最初は全力で断った

 

 でも、あの日菜さんだ

 

 いくら断っても聞いてくれるはずもなく

 

 気づけば今みたいなことになっていた

 

陽介(あの人、涼しい顔でこんな仕事してたのか......化け物か......?)

 

 生徒会長になると、

 

 あの人のすごさを実感する

 

 この作業をこなしてあんなに遊んで

 

 もう完全な化け物だ

 

つぐみ「ひ、日菜先輩は特殊な人だから、真似しようと思っても出来ないよ。」

陽介「まぁ、それは一理......いや、百理はある。」

つぐみ「アハハ......」

 

 俺はパソコンから目を離し

 

 凝り固まった肩を回した

 

 結構エグイ音が鳴る

 

 最近は肩も凝ってたし、当たり前か

 

陽介「って、もうこんな時間か。」

 

 時計はもう6時を指してる

 

 日も傾いて来て暗くなってきてる

 

 俺はパソコンの電源を落とし

 

 長いこと座った椅子から腰を上げた

 

陽介「今日はもう帰ろう。他の皆も今日は終わり。」

生徒会メンバー「はい、生徒会長!」

つぐみ「お疲れ様!みんな!」

 

 ぞろぞろと他のメンバーが立ち上がり

 

 机の周りを片付けていく

 

 俺はその様子を見守りつつ帰り支度で

 

 鞄に家で確認する資料をつめていった

 

「お疲れ様でしたー!」

「また明日ー!」

「ごちそうさまでしたー!」

陽介、つぐみ(ごちそうさまでした?)

 

 俺と羽沢が首をかしげてる内に

 

 他のメンバーは生徒会室から出て行った

 

 俺達は2人部屋に残され

 

 俺は羽沢に話しかけた

 

陽介「俺達も帰ろうか。」

つぐみ「......」

陽介(今日は朝に仕込んでおいた肉じゃがかな__ん?)

 

 今日の晩御飯の事を考えてると

 

 制服の裾を後ろから引かれた

 

 俺は後ろを振り向き

 

 引いてるであろう女の子の方を見た

 

陽介「どうした?」

つぐみ「その、2人になったから......///」

陽介(あー......)

 

 羽沢は恥ずかしそうにそう言い

 

 熱っぽい視線を向けてくる

 

 俺はそんな姿を見て頬を掻き

 

 廊下の方を確認した

 

 もう結構、暗くなって人の気配はない

 

陽介「バレないようにしようか。」

つぐみ「!///」

陽介(取り合えず......)

 

 俺は扉の鍵を閉め電気を消した

 

 電気を消してみると外の暗さを感じる

 

 でも、まだ真っ暗と言うほどでもない

 

 俺は羽沢を壁際に追い込むように立った

 

つぐみ「陽介、くん......///」」

陽介「なんだ?」

つぐみ「キス、したい......///」

 

 羽沢が俺を名前で呼ぶとき

 

 それは大体こういうときだ

 

 羞恥心が振り切った状態というか

 

 そう言う風にならないと恥ずかしくて名前を呼ぶことができないらしい

 

陽介「行くぞ。」

つぐみ「んっ///」

 

 俺は羽沢にキスをした

 

 学校内で隠れてこういう行為をする

 

 決して珍しい事でもないんだが

 

 何回やっても背徳感が付きまとう

 

つぐみ「チュ......ぁんっ......///」

 

 羽沢が舌を懸命に絡めてきて

 

 熱い息が伝わってくる

 

 漏れる声は妙に色っぽくて

 

 日頃も真面目さが影を潜めてる

 

 本当に日頃とのギャップが凄い

 

つぐみ「はぁ......はぁ......///」

陽介「満足したか?」

つぐみ「もっと、ほしい......///」

陽介「なら__!」

 

 俺がそう言って羽沢に顔を近づけると

 

 扉のガラス部分が白色に発光した

 

 それを見て、俺と羽沢の体が跳ねた

 

警備員『__本日も異常なーし。ふんふーん♪』

 

 それと同時に外から鼻歌が聞こえ

 

 俺は変な汗が流れるのを感じた

 

陽介(のんきすぎだろ。)

つぐみ(も、もう見回り__っ!?///)

陽介(やばい、バレるバレる!)

 

 俺は羽沢を隠すように覆いかぶさった

 

 羽沢の息が荒くなって少し声が出てる

 

 俺は気付かれない事を祈りつつ

 

 警備員が通り過ぎてくれるのを待った

 

陽介(......行ったか?)

つぐみ「......///」

 

 扉の向こうに気配を感じない

 

 どうやら通り過ぎてくれたみたいだ

 

 俺は少し羽沢から距離をあけ

 

 羽沢の方に視線を落とした

 

陽介「羽沢、今日はここまでにしよう。」

つぐみ「え......?///」

陽介「!?」

 

 視線を落とした先に見えたのは

 

 目が虚ろで口の端から少し唾液を垂らしてる

 

 想像が付かない程に惚けた羽沢の顔があった

 

つぐみ「もっと、もっとしたい......///」

陽介「......あと1回だけだ。」

つぐみ「んんっ!///」

 

 俺は強引に羽沢の唇を奪った

 

 この状況を収束させる方法は1つ

 

 一回で羽沢を満足させる

 

 俺は貪るように舌を絡め

 

 羽沢の細い体を抱きしめた

 

つぐみ(すごい......///陽介くん、激しい......っ///)

 

 健全なカップルの構図とはかけ離れてる

 

 誰が俺達のこんな姿を想像するだろう

 

 もしかしたらあの4人でも出来ないかもしれない

 

 それほどに今の状況は問題だ

 

 俺はそんな事を考えつつ唇を離した

 

陽介「__帰ろう、羽沢。」

つぐみ「うん......///」

 

 俺は羽沢の手を引き

 

 警備員にばれないようになるべく急ぎ

 

 学校から出た

__________________

 

 もうすっかり暗くなった帰り道

 

 そんな道を俺達は手を繋いで歩いてる

 

 もうこれも何度もしている

 

 だが、この時間の心地よさは変わらない

 

つぐみ「さ、さっきはごめんね......」

陽介「大丈夫だよ。」

 

 俺は笑いながらそう言った

 

 羽沢の暴走は別に珍しい話でもない

 

 数か月も一緒にいれば何回も起きるし

 

 なんとなく慣れてくる

 

陽介「俺は別にあの羽沢も好きだし。むしろ、何か不満がある方が嫌だよ。」

つぐみ「不満......」

陽介「ん?」

 

 不満という言葉に反応した

 

 羽沢は何か不満があるのだろうかと

 

 俺は不安を覚えた

 

つぐみ「......ちょっと、あるかも。」

陽介「!」

 

 羽沢は控えめな声でそう言い

 

 顔を赤くしたまま、

 

 次の言葉を口にした

 

つぐみ「出水君が、優しすぎる事......」

 

 羽沢はそう言って

 

 手を握る力を強めて、

 

 俺のほうに熱っぽい視線を向けて来た

 

つぐみ「私、もっと出水君と......陽介君と先に進みたいな......///」

陽介「え?先?」

つぐみ「......この後、私の家に来ない......?///」

陽介「!?」

 

 俺は思考がフリーズした

 

 先、キスまで進んだという事は

 

 つまり......

 

陽介「は、羽沢?流石にそれはな?俺たちまだ高校生だし__」

つぐみ「高校生だから、だよ......///」

陽介「......どういう事だ?」

 

 俺がそう尋ねると

 

 羽沢は俺の腕に抱き着いたかと思うと

 

 耳元に口を近づけていた

 

つぐみ「私だって、そういう事に興味あるんだよ......?///」

陽介「!?」

つぐみ「わがまま言うエッチな子は、嫌いかな......?///」

陽介「......」

 

 これはなんて事だろうか

 

 羽沢はいつからこんな子になったんだ?

 

 いや、これは潜在的な物だろうか

 

 どちらにしても、これは......

 

陽介「嫌いな訳ないだろ。」

つぐみ「!///」

陽介「俺が羽沢を嫌いになることはない。俺の覚悟はそこまで安くない。」

つぐみ「う、うん......///」

 

 俺は羽沢の手を引き

 

 羽沢珈琲店の方に体を向けた

 

 ここまで言われたら仕方がない

 

 彼女に不満を感じさせるのは良くない

 

陽介「羽沢の家でいいんだよな。」

つぐみ「う、うん......///」

陽介「じゃあ、少し待ってくれ。」

 

 俺はポケットから携帯を取り出し

 

 家にいるチュチュに電話をかけた

 

チュチュ『どうかしたの?』

陽介「今日、帰れなくなった。悪いけど、夕飯は佐藤が来てたら頼んでくれないか?」

チュチュ『マスキングならいるけど、どうしたの?』

陽介「大切な急用ができたんだ。」

チュチュ『OK、分かったわ。』

陽介「じゃあ。」

 

 俺は電話を切り

 

 携帯をポケットにしまった

 

 そして、羽沢の方を見た

 

陽介「行こうか。羽沢の家でいいんだよな?」

つぐみ「いいけど、いいの......?///」

陽介「もうここまで来たら引けない。行こう。」

つぐみ「うん......///」

 

 俺は羽沢の手を握り

 

 目的地である羽沢の家にコンビニ経由で向かった

 

 コンビニではまさかの青葉がバイト中で

 

 色々察しられ、少し恥ずかしかった

 

 

 



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END 貪欲な幸せ

 商店街にあるコーヒーの香りが充満する落ち着いた雰囲気の店

 

 そこでは常連の人たちや放課後の学生が談笑している

 

 そんな人に愛される店

 

「__陽介さーん!ブレンドコーヒー1つ!」

陽介「はい、少々お待ちください。」

 

 俺は今、そんな店でコーヒーを淹れてる

 

 お義父さんに習った手順を辿り

 

 いつも通りのコーヒーを淹れる

 

 店内に充満する香りが一層強くなる

 

 淹れてる本人も浸りたく香り

 

 俺はそれを感じながら注文があった席に注文された品を持っていった

 

陽介「お待たせしました。ブレンドコーヒーです。」

「わぁ!ありがとう!」

 

 この子は常連の女の子

 

 名前は早霧夕菜ちゃんだ

 

 綺麗な茶髪まとめられていて

 

 ブラウンの瞳は輝き澄んでいる

 

 容姿はかなり整っていると思う

 

 この子は毎週、店に来てくれて

 

 眼帯をつけてる俺を怖がらず気さくに話してくれる

 

 コミュ力の高い子だ

 

夕菜「陽介さんの淹れるコーヒーはいつも美味しいなー!」

陽介「そう言ってくれると嬉しいよ。嬉しいついでに少しサービス。」

夕菜「ケーキだ!ありがとう!」

陽介「勉強頑張ってるみたいだし、甘いものを摂取するのはいい事だよ。」

 

 俺はそう言いながら

 

 テーブルの上のテキストを見た

 

 そこで、ある事に気付いた

 

陽介「30pの問6、間違えてるよ。」

夕菜「えぇ!?ほんと!?」

陽介「簡単な計算ミスだから、もう一回やってごらん?」

夕菜「うん。」

 

 夕菜ちゃんは俺が言った部分を解き直した

 

 途中式を見直していき

 

 何かに気付いたかと思えば

 

 おもむろに計算をやり直していった

 

夕菜「ほ、ほんとだ。陽介さん、頭もいいんだ!」

陽介「あはは、それほどでもないよ。」

夕菜「いいなー、私、勉強苦手なんだよねー。」

 

 夕菜ちゃんはうなだれながらそう言った

 

 高校2年生だし、来年には受験だ

 

 勉強の事で悩みが尽きないんだろう

 

 俺も昔を思い出す

 

陽介「今、ちゃんと勉強してるだけでも十分偉いよ。」

夕菜「ほんとにー?」

陽介「うん、もっと自分を誇っていいと思うよ。」

「__陽介君、注文良いかなー?」

陽介「あ、はい、ただいま!......まぁ、頑張って。ごゆっくり。」

夕菜「うん、陽介さん......」

 

 俺はそう言って夕菜ちゃんから離れ

 

 呼ばれた席に注文を取りに行った

 

 でも、離れる直前

 

 後ろ髪を引かれるような感覚があった

__________________

 

 しばらく時間が経ち

 

 店の閉店時間が近くなってきた

 

 さっきまでいた人たちもいなくなった

 

 けど、1人、ずっといる子がいる

 

陽介「__夕菜ちゃん?勉強は捗ったかな。」

夕菜「陽介さん。」

 

 そう言いながら俺はコーヒーを出し

 

 夕菜ちゃんの向かいの席に座った

 

 テーブルに置かれてるテキストは俺が見た時よりも進んでおり

 

 熱心に勉強してたのが伝わってくる

 

陽介「今日はお疲れ様。」

夕菜「ありがとう!でも、もう少し分かるようになりたいな。」

陽介「向上心があるね。」

 

 俺は笑みを浮かべながらそう言った

 

 置いてあるノートの端には細かくメモがある

 

 流石に俺もこんなことしなかったな

 

 本当に真面目だ

 

夕菜「まぁ、それはそれとして。」

陽介「「?」

夕菜「陽介さん、奥さんとどうなの?」

陽介「つぐみ?」

 

 俺は少し首を傾げた

 

 どうしてこんなこと聞くんだろう

 

 年頃だし興味があるんだろうか

 

陽介「今は妊娠中だから、家でゆっくりしてもらってるよ。まぁ、落ち着かないのか家事をしたり子供の送り迎えとかするんだけど。」

夕菜「......そうなんだ。」

陽介「?」

 

 夕菜ちゃん、少しだけ元気がないな

 

 少し悩みがあるように見える

 

 所詮、学生の経験に基づくものだけど

 

陽介「夕菜ちゃんは何かあったの?」

夕菜「え......?」

陽介「悩んでるように見えるから、話くらいなら聞くよ。」

夕菜「......じゃあ、聞いてくれる?」

陽介「うん、どうぞ。」

 

 俺がそう言うと

 

 夕菜ちゃんはうつ向き

 

 少しして、話し始めた

 

夕菜「......私、学校で友達いないの。」

陽介「え?」

 

 驚いてつい声が出た

 

 意外だった

 

 夕菜ちゃんは気さくで明るい子だ

 

 きっと学校でも人に囲まれている

 

 そう勝手に思ってた

 

夕菜「うちの学校、派手な生徒ばっかりで話について行けなくて......」

陽介「な、なるほど。」

 

 確かに派手な生徒の話は難しい

 

 俺も学生の時はそんな事思ったことがある

 

 だからこそわかる

 

 学校生活のうえでそれはキツイ

 

夕菜「だから、初めてここに来たときは嬉しかったの。」

陽介「ここに初めて来たとき?」

 

 夕菜ちゃんが小さく頷く

 

 確か初めて来たのは1年前になるのか

 

 そう考えるとかなり通い詰めてる

 

夕菜「コーヒーの香りにつられて店に入ったら、陽介さんが優しく笑いかけてくれた......」

陽介「!」

夕菜「最初は眼帯を付けてて少し怖かった。けど、話しかけたらすごく優しくて、ちゃんと名前も覚えてくれてた......」

陽介「そっか。」

 

 特別に意識したことはない

 

 けど、それが夕菜ちゃんのためになっててよかった

 

 俺がそんな事を考えてると

 

 夕菜ちゃんは俺の方を見て来た

 

夕菜「だから、あのね......///」

陽介「?」

 

 様子がおかしい

 

 顔が少し赤いし、目も泳いでる

 

 そして、次の言葉に詰まってるみたいだ

 

 だが、夕菜ちゃんは大きく浮きを吸って

 

 意を決したように口を開いた

 

夕菜「私、陽介さんの事が好きなの......///」

陽介「......!」

 

 夕菜ちゃんははっきりそう言った

 

 一体、告白されるのは何年ぶりだろう

 

 しかも、13歳年下の女の子なんて

 

陽介「れ、冷静になって。俺にはつぐみがいる。それに俺はもう30歳だ、夕菜ちゃんと13歳も離れてるんだよ?」

夕菜「そんなの、関係ない!///奥さんがいても、何歳離れてても、私は陽介さんが好きなの!///」

陽介「......」

 

 夕菜ちゃんは必死にそう訴えてくる

 

 断るのはきっと簡単にできる

 

 でも、さっきの話を聞くと

 

 少しだけ迷いが生じてしまう

 

陽介(......何回やっても、心が痛むな。)

 

 目を見れば大体わかる

 

 この子は真剣な気持ちをぶつけてる

 

 でも、俺にはこれを断る義務がある

 

 誰も、傷つけないために

 

陽介「......ごめんね、夕菜ちゃん。」

夕菜「っ!!」

陽介「俺にはつぐみを裏切ることができない。」

夕菜「......そっか、そうだよね。」

 

 夕菜ちゃんは悲しそうな顔をしてる

 

 女の子のこんな姿は見たくない

 

 ほんと、こんな子を悲しませるなんて

 

 最低だ

 

夕菜「ごめんなさい、急にこんなこと言って......」

陽介「ちょっと待って。」

夕菜「......?」

 

 俺は席を立った夕菜ちゃんを止め

 

 レジの端にあるメモ用紙を一枚切り

 

 そこにある事を書き込んでいった

 

陽介「これ、俺の連絡先。」

夕菜「え......?」

陽介「夕菜ちゃんの想いには答えらえないけど、学校や勉強の相談に乗ったりは出来るよ。」

夕菜「陽介、さん......」

陽介「はい、どうぞ。」

 

 俺が目も容姿を差し出すと、

 

 夕菜ちゃんはそれを受け取った

 

 それを見て、俺は少しだけ笑った

 

陽介「学校で友達がいなくて寂しかったら、いつでもおいで。俺はいつでも待っているから。」

夕菜「うん、ありがとう、陽介さん......///」

 

 夕菜ちゃんはそう言うと

 

 慌てた様子でカバンを持ち

 

 ドアの方にパタパタと走って行った

 

夕菜「また来るからね、陽介さん!」

陽介「うん、いつでもお待ちしてます。」

夕菜「またね!」

 

 夕菜ちゃんはそう言って店を出て行った

 

 その瞬間、俺の体から力が抜け

 

 近くの椅子に腰を下ろした

 

陽介(取り合えず、片付けとかして帰ろうか。)

 

 俺はそんな事を考えて腰を上げ

 

 さっさと店の片づけを済ませ

 

 2階の家の部分に帰って行った

__________________

 

陽介「__ただいまー。」

 

 帰るまでの時間ほんの数秒

 

 店から直通の我が家に帰ってきた

 

 俺はリビングの扉を開け入ると

 

 何か異様な気配を感じた

 

つぐみ「おかえり、陽介君。」

陽介「え、あの、何か怒ってないか?」

 

 リビングでソファに座ってるつぐみは何か怒っているように見る

 

 表情はいたって可愛らしい笑顔だが

 

 雰囲気で何か恐ろしいものを感じる

 

つぐみ「女子高生の可愛い女の子に告白されて嬉しかった?」

陽介「え、なんで知ってるんだ!?」

つぐみ「見てたよ。お手伝いに行こうとしたら話し声が聞こえて、覗いてたんだ。」

陽介(や、やばい、猛烈にヤバい。)

 

 つぐみはかなり怒ってる

 

 蛇に睨まれた蛙になった気分だ

 

 変な汗も止まらない

 

 いや、悪いことはしてないんだけど

 

陽介「あ、あのな?俺もあんな風に思われてるなんて知らなかったし、きちんと断ったs__」

つぐみ「でも、連絡先は渡すんだね?」

陽介「......」

 

 それを言われるとぐうの音も出ない

 

 いやでも、あれは一大人として力になりたかったというか

 

 別にやましい思いはなかった

 

陽介「な、悩んでるみたいだったし......」

つぐみ「......そうなんだ。」

陽介(ど、どうしよう。)

 

 結婚して結構経つけど

 

 今までで一番怒ってるかもしれない

 

 ていうか、こんなこと今日が初めてだし

 

 前例がないから余計に怖い

 

つぐみ「......やっぱり、30歳超えたら魅力ない?」

陽介「え?いや、そんな事ないって!そんなこと思ったこともないし!」

つぐみ「妊娠中でご無沙汰になってるし、やっぱり若くてかわいい女子高生の方が魅力的だよね......」

陽介「......」

 

 マタニティーブルーの症状なのか

 

 今日のつぐみは何だか暗い

 

 日中は1人で子供の相手をしてるし、

 

 やっぱり、負担が大きいのか

 

陽介「......そんな事はないよ。」

つぐみ「!」

 

 俺はつぐみの方に歩み寄り

 

 体を揺らさないようにゆっくり

 

 優しく抱きしめた

 

陽介「ただでさえ不安を感じる時期なのに、ごめん。」

つぐみ「陽介君......」

 

 つぐみは涙声で名前を呼んできた

 

 そして、俺の背中に腕を回した

 

 よかった、拒否されなくて

 

陽介「つぐみ一人に負担かけてごめん。もっと配慮するべきだった。」

 

 つぐみなら大丈夫

 

 そう思ってしまっていた節がある

 

 つぐみを労わってるつもりだったけど

 

 まだまだ、俺は何も足りてなかったみたいだ

 

 3人目の子供で気付くなんて

 

 遅すぎるにもほどがある

 

つぐみ「全然、陽介君は悪くないの......」

陽介「つぐみ?」

つぐみ「最近、体調が悪くて、それで、陽介君に当たっちゃったの......」

 

 つぐみは悲しそうな声でそう言った

 

 俺はそんなつぐみを少し強く抱きしめ

 

 ゆっくり背中を撫でた

 

陽介「それならよかった。」

つぐみ「え......?」

陽介「それがつぐみのためになるなら、いくらでも当たってくれていい。」

つぐみ「うぅ......」

 

 つぐみは胸元に頭をグリグリしてきた

 

 かなりストレスが溜まってたんだろう

 

 こんなに甘えてくれるのはよかった

 

 俺は少し安心し、体の力を抜いた

 

つぐみ「ごめんね、ごめんね......!」

陽介「いいんだよ。」

 

 こういう状況だけど

 

 やっぱりつぐみは可愛い

 

 学生時代よりも髪は伸びて

 

 顔も少しだけ大人になった

 

 まぁ、30歳になったし当然か

 

陽介「落ち着けるように、暖かい飲み物淹れようか。子供たちはお義母さんとお義父さんが見てくれてるし。」

つぐみ「うん。」

 

 俺はそう言ってつぐみから離れ

 

 キッチンに行き

 

 カフェイン抑えめのコーヒーを淹れた

 

 つぐみはそれを飲んで

 

 少しだけ落ち着いてくれた

__________________

 

 つぐみとソファでゆっくりし始め

 

 大体、40分が経った頃

 

 リビングのドアが勢いよく開き

 

 2つの小さな影が飛び込んできた

 

?「お父さんだー!」

??「おかえりー!お父さん!」

陽介「あ、風呂からあがったのか。香織、叶。」

叶「うんー!」

香織「さっぱりー!」

 

 2人は元気にそう言った

 

 我が子が子供で一番かわいいと思うのは

 

 親ばかと言う奴なんだろうか

 

香織「お父さん!」

陽介「どうした?」

叶「私達、お風呂で考えたの!弟が生まれたら何しようか!」

陽介「おぉ。」

つぐみ「それは、どんな?」

 

 つぐみがそう尋ねると

 

 我が子達は輝かしい笑顔を浮かべ

 

 嬉しそうな声で次の言葉を口にした

 

叶「私は、お勉強教えてあげる!」

香織「私は一緒に遊ぶの!」

陽介、つぐみ(可愛い。)

 

 俺は眉間を抑えた

 

 もう、可愛すぎる

 

 目に入れても痛くなさそう

 

 入れる目が1つしかないけど

 

叶「だから、お母さんのおなかにいるうちに話しかけるの!」

つぐみ「わわっ!」

香織「おねーちゃんだよ~!」

 

 2人はつぐみのお腹に顔を近づけ

 

 中の子に話しかけている

 

 微笑ましい光景だな

 

叶「でも、この子の名前何なの?」

香織「そう言えば、知らない!」

陽介「あれ、言ってなかったっけ?」

つぐみ「あっ、忘れてたかも。」

 

 つぐみははっとした顔でそう言った

 

 我が子達は興味津々で俺達の方を見てる

 

叶「教えて!」

香織「気になる!」

陽介「そうだな、言っとこうか。」

つぐみ「ふふっ、そうだね。」

 

 俺はつぐみと目配せをし

 

 呼吸を合わせて

 

 同時に3人目の子の名前を口にした

 

陽介、つぐみ「この子の名前は廉人だよ。」

叶「わぁー!かっこいいー!」

香織「廉人ー!おねーちゃんだよー!」

陽介「ふっ。」

つぐみ「ふふっ。」

 

 早速、名前を呼んでる

 

 中の子より気に入ってるんじゃないか?

 

 俺とつぐみはその様子を見て笑った

 

 

 これが、今の俺の家族

 

 毎日、幸せに過ごしてる

 

 でも、まだまだ貪欲に求めて

 

 文句を言われるくらいもっと幸せに過ごしたい

 

 

 

 



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モカルート
踏み越えたステップ


 今日は1月14日

 

 陽介たちは修学旅行から帰ってきて

 

 いつも通りの生活を送っている

 

 今はいつもの5人と弁当を食べてる

 

巴「おぉ、今日の弁当もすごいな。」

ひまり「す、すごい量......」

陽介「そ、そうか?」

 

 巴とひまりは俺の弁当を覗いている

 

 陽介の今日の弁当は2段重ねで

 

 おかずの種類もかなり豊富に作られている

 

陽介「さ、最近、食欲旺盛でな。」

蘭(......ダウト。)

 

 引きつった顔でこらえる陽介を見て

 

 蘭は心の中で小さく呟き

 

 そして、横にいる少女の方を見た

 

モカ「今日も美味しそー。」

陽介「そ、そうか?なら、食べてもいいぞ。」

モカ「わーい!よう君大好きー!」

陽介「そ、そうか!」

蘭(これ、絶対にモカが喜ぶからだよね。)

 

 蘭は溜息を付きながらそう考えた

 

 なんでこんな回りくどい事をするのかと

 

 もうさっさと付き合えばいいのにと

 

巴(あー、これはあれか。陽介はモカが。)

ひまり(そっかー、いずみんはモカに行くんだー......って。)

つぐみ「......」

 

 巴とひまりは息を呑んだ

 

 つぐみは陽介とモカのやり取りをじっと見つめている

 

 だが、その表情はいたっていつも通り

 

 2人はそのことに驚いた

 

巴「つ、つぐ?」

つぐみ「どうしたの?」

ひまり「いや、あの、大丈夫......?」

つぐみ「私はいつも通りだよ?」

 

 つぐみは笑顔でそう答えた

 

 いつも通りの可愛い笑顔

 

 それに今は違和感を感じる

 

ひまり「い、いいの?いずみんが......」

つぐみ「......いいんだよ。」

ひまり、巴「!」

 

 つぐみは静かにひまりの問いかけに答えた

 

 そして、陽介とモカに聞こえないよう

 

 静かな声で話し始めた

 

つぐみ「出水君が幸せそうで私も嬉しいし、それに......」

巴「それに?」

つぐみ「約束してるから。私を選んでくれなかったら、出水君にブラックコーヒー飲んでもらうって。」

巴「......そっか。(たくっ。)」

 

 巴は頭をガシガシと掻いた

 

 横にいるひまりも微笑んだ

 

ひまり、巴(ブラックコ-ヒー、いずみん(陽介)の好物だよ。)

 

 2人はそんな事を考えながら

 

 横にいる陽介とモカの方に目をやった

 

モカ「これも美味しいー。」

陽介「よかった。最近の研究で出来た新作なんだ。」

モカ「よう君は研究熱心だねー。」

蘭(これ、『料理』の研究じゃなくて『モカの好み』の研究なんだけど......あたし、何時間も話聞かれたし。)

モカ「さいこーだよー。」

陽介「もっと食べて良いぞ。」

モカ「わーい。」

蘭(まぁ、モカが楽しそうだし、いいかな。)

 

 蘭は2人を見て小さく笑い

 

 残ってる自分の弁当に手を付けた

__________________

 

 ”陽介”

 

 昼休みから時間が経ち放課後になった

 

 俺は凝った肩を軽く叩き

 

 横の席の青葉の方を見た

 

モカ「んー......もうたべらんないよー......」

陽介「......」

 

 青葉は授業を真面目に聞くのがバカらしいくらいぐっすり眠ってる

 

 正直に言うとすごい可愛い

 

 いつも自称してるけど

 

 美少女、そんな言葉が当てはまる

 

陽介「青葉、授業終ったぞ?」

モカ「んー......?」

陽介「青葉?」

モカ「ぎゅー。」

陽介「!?」

 

 眠っている青葉を起こすと

 

 青葉は眠そうな目のまま抱き着いてきた

 

 ......腕にだけど

 

陽介「あ、ああ青葉!?」

モカ「んー?__っ!?///」

 

 俺が大声で名前を呼ぶと

 

 青葉の目がぱっちりと開いた

 

 そして、バッと俺の腕から離れていった

 

モカ「ご、ごめんー、よう君ー///」

陽介「だ、大丈夫だよ。起きたみたいでよかった。」

モカ「あ、あはは~///」

 

 青葉は顔を赤くして笑ってる

 

 この可愛さは反則だ

 

 目をそらしたくても凝視してしまう

 

周りの生徒(この2人、これで付き合ってないのか。)

陽介「さ、さて、片付けでもするかー!」

モカ「う、うんー、そうだねー///」

 

 それからしばらくして担任が来て

 

 ホームルームが始まった

__________________

 

 ホームルームが終わり

 

 他の生徒は教室を出て行った

 

 俺も帰ろうと思い鞄を肩にかけた

 

 その時、1つの足音が聞こえて来た

 

蘭「__陽介。」

陽介「美竹?バンドの練習じゃなかったか?」

蘭「今から行くよ。でも、少し話したくて。」

 

 美竹はそう言いながら歩み寄ってきた

 

 話したいことって何だろう

 

 俺はそんな事を考えた

 

蘭「今日の7時、ここに来て。」

陽介「え?ここって、CiRCLEじゃないか。」

蘭「そうだよ。まぁ、取り合えず来てね。」

陽介「まぁ、大丈夫だが。」

 

 なんで、ここに呼ばれるんだ?

 

 ここは美竹たちが練習で使ってる場所だし

 

 うーん、よくわからん

 

蘭「それとこれ。」

陽介「?」

 

 美竹はなにかが書かれた紙を渡して来た

 

 俺はそれを受け取り内容を見た

 

 その時、俺は驚きで目を見開いた

 

蘭「ブラックコーヒー無料だって。」

陽介「......期日は明日、か。」

蘭「そういうこと。がんばれ。」

 

 これを貰って、大体わかった

 

 今日に呼ばれた理由は......

 

 俺は小さく息をついた

 

蘭「じゃあ、また。」

陽介「......あぁ。」

 

 美竹は軽く手を振りながら教室を出て行った

 

 俺は貰ったブラックコーヒー無料券

 

 そう書かれた手紙を見た

 

陽介(『頑張ってね。』か......)

 

 可愛らしい字で書かれた文章

 

 こういうのが一番心に刺さってくる

 

 俺は少しだけ目を閉じた後

 

 財布にその手紙を入れ

 

 その後、教室を出て行った

__________________

 

 1月なだけあって夜は寒い

 

 俺は一度家に帰り服を着替え

 

 チュチュ達に夕飯を出した後CiRCLEに来た

 

蘭「来たね。」

陽介「美竹?待ってたのか?」

蘭「陽介がビビッて帰らないようにね。」

陽介「さっきのを見て、流石にそんな事しないよ。」

蘭「うん、知ってる。」

 

 美竹はそう言いながら

 

 俺に向けて手招きをしてきた

 

蘭「モカがいるところに案内するよ。ついて来て。」

陽介「分かった。」

 

 俺は美竹の後ろをついて行き

 

 CiRCLEの中に入って行った

__________________

 

 決して長くない通路を歩き

 

 一番奥にある部屋の前に来た

 

蘭「ここにいるけど、覗いてみる?」

陽介「ちょっと気になる。」

蘭「じゃあ、見てみて。」

陽介「あぁ__!!」

 

 扉にあるガラスの部分からのぞくと

 

 そこにはギターを弾く青葉の姿が見えた

 

 汗ばん見ながら真剣な顔で弾いてる

 

 その姿は可愛いというより美しい

 

 俺はその姿に見惚れてしまった

 

蘭「モカ、あたし達にバレないように練習してるんだ。」

陽介「人に努力を見られたくないタイプだからな。」

蘭「その通り。」

 

 美竹はそう言いながら

 

 俺の肩を軽くたたいてきた

 

 そして小さな声で耳打ちしてきた

 

蘭「行っておいで。」

陽介「......あぁ。」

蘭「じゃあ、あたしは帰るよ。」

 

 俺が頷くと

 

 美竹は来た通路を歩いて行った

 

 だが、その途中に足を止め

 

 こっちを見た

 

蘭「モカは今日、あたしの家に泊まることになってるから。」

陽介「え?」

蘭「だから、まぁ、誤魔化す用意は出来てるよ。」

 

 美竹は笑いながら歩いて行った

 

 いや、そんな事考えてないし

 

 イヤというわけではないんだが

 

 俺はそんな事を考えながら

 

 小さくため息をついた

 

陽介「......行こう。」

 

 俺はそう呟き

 

 青葉がいる部屋のドアを開けた

__________________

 

 ”別視点”

 

陽介「__し、失礼しまーす。」

モカ「え......?」

 

 陽介が部屋に入ってくると

 

 モカは驚いたのか目を丸くした

 

モカ「な、なんで、よう君が?」

陽介「えーと、色々あってな。」

 

 陽介は目をそらしながらそう言った

 

 隠れて努力するタイプのモカに対して

 

 蘭に呼ばれたとは言えない

 

 陽介はとりあえず誤魔化すことにした

 

"陽介”

 

陽介(それにしても......)

モカ「?」

 

 近くで見るとさらにすごい

 

 なんか、すごい色気がある

 

 つい、そんな目で見てしまう

 

陽介(駄目だっての!このバカ!)

モカ(なにしてるんだろー?)

 

 今の内から煩悩を持ちすぎあだ

 

 これから、長い時間をかけて

 

 確かなステップを踏んでそういう事に至るんだ

 

 俺は心の中で自分をそう一括した

 

陽介「青葉、今日は話したいことがあるんだ。」

モカ「!」

 

 俺は気を取り直し話を切り出した

 

 それを聞くと青葉の体が強張り

 

 俺の方を凝視してきた

 

モカ「それは、あたしの想像通りの話かな?」

陽介「そうだと思う。」

モカ「......じゃあ、聞かせて欲しいな。」

陽介「分かった。」

 

 俺は少しだけ青葉に近づいた

 

 正直、何も言葉は考えれてない

 

 何を言うべきかもわからない

 

 だから、直球に本心を話そう

 

 俺はそう思いながら勢いに任せて口を開いた

 

陽介「俺と結婚してくれ、青葉。」

モカ「__え......?」

陽介「あっ......」

モカ「え、えっと、今のって......」

 

 青葉は困惑してる

 

 いや、それはそうだろ

 

 なんで、付き合うから結婚に飛ぶんだよ

 

 テンパりすぎて普通に間違えたよ

 

陽介「い、いや、間違い......なんだけど、そうでもないと言うか。ちょっと飛び過ぎたと言うか......」

モカ「......」

 

 やばい、自分が何を言ってるか分からない

 

 これ絶対に青葉引いてるって

 

 俺の人生終了だよ

 

モカ「......よう君。」

陽介「ど、どうした?」

 

 青葉が近づいてくる

 

 俺は焦りから冷静に青葉を見れない

 

 気づけば、青葉は目の前にいた

 

モカ「......いい、よー?///」

陽介「へ......?」

モカ「あたしも結婚したい......///」

陽介「っ!?」

 

 青葉は小さな声でそう言い

 

 俺の背中に腕を回して来た

 

 それを聞いて、一瞬思考が停止した

 

モカ「間違いだから、ナシ......?///」

陽介「いや、ナシじゃない。」

モカ「じゃあ、今日から恋人......もとい、婚約者だねー///」

陽介「!!」

 

 青葉は笑顔でそう言ってきた

 

 まるで、暖かい太陽のような笑顔

 

 俺はそれをみて、青葉を抱きしめた

 

モカ「もー///乱暴だよー///」

陽介「ごめん、嬉しくてつい。」

 

 俺はしばらく青葉を抱きしめた

 

 柔らかく、優しい感触

 

 それを体一杯に感じられて

 

 俺にとって私服と言える時間だ

 

 そんな事を思いながら抱きしめてると

 

 青葉が背中を叩いてきた

 

モカ「よ、よう君?そろそろ、放さないー?///」

陽介「もう少し。」

モカ「う、うー......///」

 

 青葉は恥ずかしそうに目を伏せた

 

 そして、俺の服を引っ張り始めた

 

モカ「あ、汗かいちゃってるし、恥ずかしいよー......///」

陽介「青葉の匂いだから、大丈夫。」

モカ「~!///(モカちゃんが大丈夫じゃないよ~!///......でも、なんだろう......///)」

 

 今までにないタイプの幸せだ

 

 なんだろう、体が浮いてるみたいだ

 

 そんな事をもいながら抱きしめてると

 

 何か違和感を感じた

 

モカ「はぁ、はぁ......///」

陽介「あ、青葉!?大丈夫か!?」

モカ「ふえ......?///」

 

 青葉は虚ろな目でこっちを見てる

 

 顔も真っ赤で息も荒い

 

 でも、体調不良って感じもしない

 

モカ「おかしい......///」

陽介「え?」

モカ「なんだか、体が熱くて、恥ずかしいのに嬉しくて、なんだかキュンキュンしてる......///」

陽介「っ!!」

 

 そう言う青葉の姿を見て

 

 俺は息を呑んだ

 

 目は虚ろなまま潤んでいて

 

 汗が流れる首筋は妙に魅力的で

 

 俺の目はそこに誘導されている

 

モカ「ねぇ、よう君ー......///これ、どうにかしてー......?///」

陽介「っ!!」

モカ「......!///」

 

 俺は強引に青葉の唇を奪った

 

 舌って、甘いものだったのか

 

 何だか甘味を感じる

 

モカ「チュ、ん......はぁ///んっ......///」

 

 上手く呼吸が出来ないまま

 

 青葉と唇を合わせ続け

 

 数秒ほどすると話した

 

 俺も青葉も息切れしてて

 

 酸素を欲して大きく呼吸をした

 

モカ「よう君ー......///」

陽介「あ、青葉......?」

モカ「モカちゃん、我慢できない......///」

陽介「っ!?」

 

 青葉はそう言いながら

 

 来ているTシャツを脱ぎ捨てた

 

 可愛らしい薄い緑色の下着が露になり

 

 汗ばんだ体も俺の目に飛び込んできた

 

陽介(もう、無理だろ。)

モカ「ひゃ!///」

 

 俺は目の前にいる青葉を抱きしめ

 

 首元に顔を埋めた

 

 さっきよりも濃い匂いがする

 

 落ち着くようで落ち着かない

 

モカ「......あと、1時間くらいあるから///よう君の好きにして......?///」

陽介「分かった。でも、下手だと思うから先に謝っとく。」

モカ「きっと、よう君なら大丈夫だよー///」

 

 それからの事はあまり覚えてない

 

 覚えているのは青葉の姿だけで

 

 気づけば1時間が経っていた

 

 こうして、何か色々なステップを踏み越えて青葉と付き合い始め

 

 CiRCLEを出た後は俺の家に行った

 

 

 

 翌日、ブラックコーヒーを飲みつつ

 

 あの4人に質問攻めをされた

 

 だが、それはまた別の話だ

 

 

 



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バレンタイン

 今日は2月14日

 

 世間はバレンタインで盛り上がっている

 

 まぁ、それは俺も例外じゃなく

 

 青葉に貰えるかなーとか

 

 朝は割と期待して家を出た

 

陽介「__おはよう、青葉。」

モカ「お、おはよー、よう君ー。」

陽介「?」

 

 朝、いつも通り青葉に挨拶すると

 

 少し違和感を感じた

 

 何と言うか、目が合ってない

 

ひまり「あ、いずみんだー!」

巴「よぉ!陽介!」

つぐみ「おはよう!」

蘭「おはよ。」

陽介「あ、おはよう。」

 

 青葉の方を見てると

 

 いつもの4人が声をかけて来た

 

 俺は一旦、青葉から目を放し

 

 4人の方を向いた

 

陽介「宇田川のそれ、すごいな。」

巴「あー、まぁな。」

陽介「流石だな。」

 

 宇田川は両手に紙袋を持ってて

 

 中には大量のチョコが入ってる

 

 男子よりモテるのは知ってたけど

 

 まさかこれほどとは......

 

巴「でも、ここまで来るとお返しがな......」

陽介「あっ(察し)」

つぐみ「た、大変そうだね。」

巴「マジでどうしよ......」

 

 宇田川の顔が青くなってる

 

 もしも時は手伝ってやろう

 

 まぁ、何ができるかは知らないが

 

ひまり「まぁ、巴の事は良いとして。」

巴「おい!」

ひまり「いずみんにもチョコあげるよー!」

陽介「おぉ、ありがとう。」

モカ「!」

 

 俺は上原からチョコを受け取った

 

 女子高生らしい可愛らしいラッピング

 

 やっぱり、上原の女子力は高いと思う

 

つぐみ「私もあるよ、出水君!」

陽介「ありがとう。これはコーヒーを使ってるのか?」

つぐみ「うん!色々調べて作ってみたんだ!」

陽介「すごくいい色味をしてるな。今度教えてくれ。」

つぐみ「うん!いいよ!」

 

 羽沢は元気に頷いた

 

 これで貰ったチョコは2個

 

 今までで最高記録だ

 

蘭「そう言えば、陽介、モカに貰ったの?」

モカ「っ!」

陽介「え?貰ってないけど。」

 

 そう言えば貰ってない

 

 て言うか、そう言う話にならなかった

 

つぐみ「え、そうなの?」

ひまり「折角のバレンタインなのに!?」

陽介「まぁ、あげないといけないってルールはないし。」

巴「でも、欲しくないのか?」

陽介「え?欲しいけど。」

巴「いや、正直だな。」

 

 宇田川は苦笑いをしながらそう言った

 

 そりゃ、青葉からのチョコは欲しい

 

 でも、無理する事でもないし

 

 チャンスはまだいくらでもあるし

 

蘭「まぁ、正直ついでにこれあげるよ。」

陽介「え、美竹まで?」

蘭「なに?」

陽介「いや、意外だなって。」

 

 俺は美竹からもチョコを受け取った

 

 受け取ったチョコを見て

 

 俺はさらに驚いた

 

ひまり「わー!蘭のチョコ可愛い!」

蘭「いや、普通のなんだけど。」

巴「それにしても、ラッピングにハート多くて可愛いな。」

つぐみ「私もちょっと驚いた。」

モカ「......」

 

 これは流石に驚いてる

 

 イメージでは何と言うんだろうか

 

 もうちょっと渋いと思ってた

 

陽介「まぁ、ありがとう。ありがたくいただくよ。」

蘭「うん、味も大丈夫だと思うよ。」

陽介「そこの心配はしてなかった......ん?」

モカ「......」

 

 美竹と話してると

 

 横から視線を感じ、その方向を向いた

 

 すると、青葉がこっちを見ていた

 

 でも、怒ってるとかじゃない

 

陽介「どうかしたか?」

モカ「な、なんでもないよー。蘭たちにチョコ貰えてよかったねー。」

陽介「あぁ、そうだな?」

 

 俺は首をかしげながらそう答えた

 

 なんだろう、様子がおかしい

 

 いつもの元気もないし

 

 なんか、いつもより見られてる

 

陽介(うーん、どうしたんだろう__ん?)

 

 青葉の事を考えてると

 

 ポケットに入れてる携帯が鳴った

 

 俺は携帯を取り出し、画面を見た

 

陽介(美竹から?)

蘭「......」

 

 美竹からのメッセージには

 

 『後で屋上に来て』と書かれていた

 

 俺は不思議に思いながら携帯をしまい

 

 美竹の方をちらっと見た

 

蘭「......ちょっと、話そ。」

陽介「......了解。」

モカ「......?」

 

 俺は軽く頷いた後、席に着き

 

 美竹は教室を出るタイミングを伺った

__________________

 

 美竹が教室を出るタイミングは早く

 

 1限目が終わってすぐの事だった

 

 俺は美竹が教室を出るのについて行って

 

 屋上に移動した

 

陽介「__それで、話ってなんだ?」

 

 俺は屋上に来てすぐ、そう尋ねた

 

 美竹はフェンスに肘をつき

 

 小さくため息をついた

 

蘭「今日、モカの様子おかしいでしょ?」

陽介「あぁ、そうだな。」

蘭「それ、なんでか分かる?」

陽介「全く分からん。」

蘭「はぁ、だよね。」

 

 美竹は呆れたようにそう言った

 

 でも、流石に原因なんて分からない

 

蘭「ねぇ、本当にモカがチョコを用意してないと思う?」

陽介「......それは、どういう事だ?」

蘭「そのまま。」

 

 美竹にそう言われ、少し考える

 

 イメージでは、青葉は食べる専門

 

 あげる側のイメージはあまりない

 

 でも、どうだろう......

 

陽介「半分半分、って所だな。」

蘭「......じゃあ、答えを教えてあげる。」

陽介「え?」

 

 美竹は俺の方に歩み寄ってきて

 

 耳元に顔を近づけて来た

 

 そして、小声でこういった

 

蘭「__モカ、ちゃんと用意してたよ。」

陽介「!」

 

 その言葉を聞くと

 

 美竹の気配が通り過ぎて行った

 

 振り返るともう歩いて行ってる

 

蘭「後は任せるね。」

陽介「......あぁ。」

 

 美竹は屋上から出て行った

 

 俺もそれについて行き

 

 教室に戻ることにした

__________________

 

 一日の授業を終え、放課後になった

 

 今日、青葉たちは練習がないらしく

 

 俺と青葉は一緒に帰ってる

 

陽介「青葉、今日どっか寄っていくか?」

モカ「そうだねー、ちょっとお腹すいたかもー。」

陽介「おっ、ちょうどよかった。俺も腹減ってたんだ。」

 

 俺と青葉はそんな会話をしながら歩いてる

 

 空腹なのは本当だ

 

 今日は体育で体を動かしたし

 

陽介「折角だし、チョコでも食べたいな。」

モカ「!?」

陽介「今日はどこもかしこもバレンタインだろうし、やまぶきベーカリーも何かしてるかもな。」

モカ「その、よう君......」

陽介「!」

 

 俺がのんきに喋りながら歩いてると

 

 後ろから青葉が服の裾を引っ張ってきた

 

 俺はそれに反応して振り返り

 

 うつ向いてる青葉の方を見た

 

モカ「えっとね、実はあたし、チョコ持ってるの......」

陽介「あぁ、知ってるよ。」

モカ「え?」

陽介「美竹に聞いた。」

モカ(ら、蘭~......)

 

 青葉は小さく肩を落とした

 

 でも、弱気な青葉も珍しいな

 

 いつもはニヤニヤしてるのに

 

モカ「その、渡せなかった理由があって......」

陽介「渡せなかった理由?」

モカ「うん......」

 

 青葉は暗い顔のまま

 

 鞄の中から可愛らしい袋を出し

 

 それを俺の方に差し出して来た

 

陽介「__!(なるほど。)」

モカ(うぅ......)

 

 青葉に渡されたのはチョコクッキーだ

 

 だが、少し色が黒っぽい

 

 多分、これは......

 

モカ「張り切って作ったら焦がしちゃって......それで......」

陽介「なんだ、そんな事か?」

モカ「え......?」

 

 俺はそう言いながらクッキーを1つ手に取った

 

 焦げてると言っても形は綺麗だし

 

 匂いも甘くて良い匂いだ

 

陽介「別にちょっと焦がしたくらい気にしなくていいのに。」

モカ「!!」

 

 俺はそう言いながらクッキーを口に運んだ

 

 食感はサクサクしてて

 

 口に入れるとチョコレートの風味

 

 そして、少し焦げた部分の苦みを感じ

 

 良い感じに甘さが調節されてる

 

陽介(ふむふむ。)

モカ「よ、よう君、そんな無理して食べなくても......」

 

 青葉は慌てた様子でそう言ってる

 

 けど、俺は特に手を止めることなく

 

 クッキーを口に運び続けた

 

陽介「__うん。」

 

 クッキーを食べ終え、少し頷いた

 

 青葉は不安そうにこっちを見てる

 

 俺はそれを見て、少し笑った

 

陽介「美味しいかったよ。」

モカ「!///」

 

 俺は青葉の頭を撫でた

 

 青葉の撫で心地はふわふわしてて

 

 撫でてる方も気持ちがいい

 

 そして、青葉が可愛い

 

モカ「あ、あんなの焦げてたし......///」

陽介「青葉が作っただけで100割増しで美味しいけど、別にクッキー自体の出来も悪くなかった。」

モカ「~!///(よ、よう君......///)」

 

 青葉の顔が真っ赤になってる

 

 うむ、可愛すぎるな

 

 いつもの自信満々もいいけど

 

 こういう姿もいいな

 

 そんな事を考えてると

 

 青葉は俺の腕に抱き着いてきた

 

モカ「甘々判定過ぎ~......///」

陽介「そうか?妥当だと思うけど。」

モカ「......すき~///」

陽介「俺も好きだぞ。」

モカ「うん///」

 

 青葉は小さな声でそう答えた

 

 その姿を見ると自然と頬は緩む

 

 俺はだらしない顔を直しながら

 

 横にいる青葉の方を見た

 

陽介「じゃあ、俺の家行くか。」

モカ「え?///」

陽介「青葉用のチョコ使ったパン作ったからな。チョコデニッシュもチョココロネも何でもあるぞ?」

モカ「ほ、ほんとに~!楽しみ~!」

陽介「あはは、そうか。」

モカ「早く行こ~!ようくん~!」

陽介「あぁ、行こうか。」

 

 それから俺と青葉は家に向かった

 

 まぁ、言えでは青葉がパンを食べまくって

 

 俺はその様子を楽しく観察してた

 

 

 チョコをくれる彼女もいいけど

 

 やっぱり、たくさん食べる彼女が好きだ

 

 俺はそう思った

 

 

 



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END 結婚式前

 高校を卒業して5年の月日が経った

 

 モカは大学に進み、俺は料理の修行をした

 

 その間、少し喧嘩したりトラブルだったり

 

 色々あったけど、楽しく過ごして来た

 

 それで、今日は2人である所に来てる

 

モカ「__よう君~。」

陽介「あっ、着替え終わったかモ......カ?」

モカ「いぇ~い。」

 

 俺はモカの姿を見て息を呑んだ

 

 モカはウエディングドレスに身を包み

 

 軽くメイクを施されていて

 

 少し伸びた髪はキレイに靡いている

 

 その姿は可愛いと言うよりも美しい

 

 俺はその姿に見入ってしまう

 

モカ「どうしたの~?」

陽介「あ、い、いやなんでもないよ。」

モカ「そう~?」

 

 モカの見た目は反則だと思う

 

 なんでこんなに綺麗なんだ

 

 しかも、なんでこんなに似合うんだ

 

 俺は軽く眉間を抑えた

 

モカ「ふっふっふ~、似合うでしょ~?」

陽介「あぁ、似合う、似合いすぎる。結婚したい。」

モカ「っ!?///」

 

 俺はモカに詰め寄りながらそう言った

 

 近くで見るとなお美しい

 

 でも、よく見るといつもの可愛さもある

 

モカ「も、もう~///今日はそれの用意で来たんでしょ~?///」

陽介「あぁ、そうだった。一瞬だけ記憶が飛んでた。」

モカ「うぅ~///」

 

 モカは顔を赤くして唸っている

 

 付き合うようになって結構経つけど

 

 年々、モカの可愛さが開拓されている

 

 それが本当に幸せだ

 

陽介「モカはドレス、それでいいか?」

モカ「うん~、さいこーだよ~!」

陽介「じゃあ、それにしようか。」

モカ(ほ、ほんとに買うんだー。)

 

 俺は財布を取り出し

 

 近くにいた店員に話しかけた

 

 一応、今の俺の年収的な事を言うと

 

 まぁ、必要ない程多いくらいだ

 

モカ「そんなに使っていいのー?」

陽介「いいよ。俺はあんまりお金使わないし。」

モカ「そ、そっかー。(あんなに稼いでるのに、なんで学生の時とあんまり変わらないんだろう。)」

陽介「?」

 

 モカから不思議な視線を感じる

 

 なんでこっちを見てるんだろう

 

 俺はそんな事を考えながら

 

 取り合えずドレスを購入した

 

陽介「どうかしたか?」

モカ「ううんー、なんでもないよー。」

陽介「そうか?じゃあ、帰るか。」

モカ「うん、そうだねー。」

 

 俺がそう言うとモカは頷き

 

 俺達は家に帰って行った

__________________

 

 俺とモカはマンションに住んでる

 

 モカが大学に通ってるときに同棲という形でここに住み始めた

 

 チュチュの家ほどじゃないけど

 

 部屋はかなり広い

 

モカ「__ただいまー。」

 

 モカはソファに倒れながらそう言った

 

 これはいつもの流れだ

 

 基本的にダラダラするのが好きだし

 

 そう言うところが可愛かったりする

 

陽介「モカ、ダラけるのは化粧落としてからにしろよ。」

モカ「よう君落としてよー。」

陽介「はいはい、分かった。」

 

 そのくらい自分でしろ、とか

 

 普通ならそう思うのかもしれない

 

 でも、俺の場合は少し違い

 

 こういうのも可愛いと思ってる

 

陽介「モカ、こっちおいで。」

モカ「はいはーい。」

 

 化粧落としの用意をして

 

 俺はモカを呼んだ

 

 モカはのんびり俺の方に近づいて来て

 

 顔をこっちに差し出して来た

 

陽介「じゃあ、始めるぞ。」

モカ「りょーかーい。」

 

 最近の化粧落としは便利で

 

 割と楽にクレンジングと洗顔を同時に完結させられる

 

 ファンデーションに泡を乗せ

 

 馴染ませてからモカの顔にそれを当てる

 

陽介「モカはかなり薄化粧だよな。」

モカ「モカちゃんは美少女だから厚化粧の必要がないのですよー。」

 

 モカは胸を張りながらそう言った

 

 こういう所も可愛いんだが

 

 俺は1つ疑問が浮かんできた

 

陽介「23歳は少女なのか?」

モカ「美は否定しないんだねー。」

陽介「勿論。」

 

 俺が静かにそう答えると

 

 モカは嬉しそうに笑みを浮かべた

 

 疑いようなくモカは美人だ

 

 だから否定は必要ない

 

 俺はそんな事を考えながら化粧を落とした

 

陽介「はい、終わり。」

モカ「ありがとー。」

陽介「別にいいよ。慣れてるし。」

 

 俺はそう言いながら道具を片付けた

 

 そして、冷蔵庫に貼ってるメモを見た

 

 ここには今日のご飯のメニューが書かれてる

 

 ちなみに、書いたのはモカだ

 

陽介(今日はビーフシチューにパンか。材料は足りてるし、大丈夫だな。)

 

 そんな事を考えながら冷蔵庫から離れ

 

 モカが寝転んでるソファの方に歩いた

 

 そこではまぁ、案の定モカがダラダラしてた

 

モカ「あー、おかえりー。」

陽介「ただいま。」

モカ「よう君ひざまくらしてー。」

陽介「了解。」

 

 俺は少し笑ってソファに座った

 

 すると、モカはすぐに太ももに頭をのせてきた

 

 うん、可愛い

 

モカ「いやー、もうすぐだねー。」

陽介「あぁ、そうだな。」

モカ「今日、ウエディングドレス着て実感したよー。」

 

 モカがそう言うと

 

 俺はさっきのモカの姿を思い出した

 

 物凄く似合ってた、いや、似合いすぎてた

 

 こんな子が俺の嫁になるなんて

 

 世の中分かんないものだな

 

モカ「よう君に『結婚してくれ』って言われてから5年くらい経ったんだねー。」

陽介「あ、あはは、あの時は勢い余ったよ。」

 

 学生の時を思い出すな

 

 あの時は緊張しまくってて

 

 付き合うから結婚に飛んでしまった

 

陽介「まぁ、それで今があるわけだし、後悔はないかな。」

モカ「モカちゃんもないよー。」

陽介「そうか。」

モカ「ん......っ///」

 

 俺はモカの頭を撫でた

 

 モカの髪はサラサラで良い匂いがして

 

 撫でてると心が落ち着く

 

 目を細めて気持ちよさそうにしてるにしてるモカを見るのも楽しい

 

モカ「また撫でるの上手くなったねー///」

陽介「毎週してるからな。どうすれば喜ぶのか分かって来たよ。」

モカ「むぅ~///扱いがペットだよ~///」

陽介「あはは、そんな事はないよ。」

 

 俺は唇を尖らせてるモカにそう言い

 

 頭を撫でるのを再開した

 

 すると不服そうな表情はすぐに消えて

 

 さっきみたいな蕩けた表情になった

 

 俺はその様子を見て

 

 それからしばらくモカを撫でていた

__________________

 

 1時間ほどモカを撫で続けた

 

 俺は時計で時間を確認し

 

 撫でてる手を止めた

 

陽介「そろそろ夕飯の用意しないと。」

モカ「え~......」

 

 俺がそう言うと

 

 モカは残念そうな声を上げた

 

 でも、そろそろ準備しないと遅くなる

 

 俺は断腸の思いでソファから降りた

 

モカ「よう君~......」

陽介「また夜にも出来るからな?夕飯食べられないのは嫌だろ?」

モカ「そうだけど~......」

陽介「だろ?だから、ちょっと我慢しt__ん?」

モカ「?」

 

 モカを説得していると

 

 机に置いてる俺の携帯が鳴った

 

 俺は携帯を手に取り画面を確認した

 

陽介「宇田川から?」

モカ「ともちんー?なんだろー?」

陽介「......なるほど。」

 

 俺はチャットを見て笑った

 

 そして、寝転んでるモカの方を見て

 

 モカに話しかけた

 

陽介「今日は、ビーフシチュー無理そうだ。」

モカ「なにかあったのー?」

陽介「これ。」

モカ「......ほー、これはこれは。」

 

 俺はモカに携帯画面を見せた

 

 それを見て、モカは頷き

 

 俺達は目を合わせた後、笑った

 

陽介「今日は、家で飲み会だな。」

モカ「そうだね~。なんだか久しぶりに感じるよ~。」

陽介「俺は割とそうでもないかも。」

 

 宇田川からのチャットの内容は

 

 簡単に言えば、『飲み会しようぜ!』だ

 

 それに、あの4人のお祝いのメッセージが入った写真が添えられてて

 

 俺もモカもそれを見て和んだ

 

陽介「いい友達だな。」

モカ「そうだね~、最高の幼馴染だよ~。」

 

 モカは嬉しそうな顔でそう言った

 

 こういう顔をするのは珍しい

 

 滅多に見られない表情だ

 

 やっぱり、それだけ嬉しいんだろう

 

陽介「今日は予定を変えて、色々用意しとくか__」

 

 ピンポーン

 

 俺が袖をまくっていると、

 

 家のインターフォンが鳴った

 

ひまり『いずみんー!モカー!来たよー!』

陽介「はやっ!?」

モカ「お、おー、チャットが来てすぐかー。」

 

 これにはさすがに驚いた

 

 モカですら唖然としてる

 

 いや、来るのが速過ぎる

 

 チャットが来てから5分経ってないぞ

 

陽介「仕方ない、4人を迎え入れてから作るか。」

モカ「あはは~、すいませんな~。」

陽介「まぁ、いいよ。」

 

 俺は少し笑いながらそう言い

 

 インターフォン越しに鍵を開け

 

 そして、今度こそ袖をまくった

 

 すると、モカが服の裾を掴んできた

 

モカ「ねぇ、よう君ー。」

陽介「ん、どうした?」

モカ「愛してるよ~。」

陽介「!」

 

 モカは微笑みながらそう言い

 

 玄関の方に歩いて行った

 

 俺は急な出来事で恥ずかしくなり

 

 軽く眉間を抑えた

 

陽介「......俺も、愛してるよ。」

 

 俺は小声でそう言った

 

 玄関の方から賑やかな声が聞こえ

 

 その声がこっちに迫ってくる

 

 もうすぐ、飲み会が始まる

 

陽介(さてと、始めようかな。)

 

 それから俺は料理を始めて

 

 さらにそれから飲み会が始まった

 

 今日の飲み会は全員が全員お祝いムードで

 

 俺とモカの方が何だか恥ずかしくなった

 

 でも、その時間は凄く幸せで

 

 俺もモカも大いに楽しんだ

 

 

 

 その一か月後

 

 俺とモカは結婚式を挙げたが

 

 それはまた別の話だ

 

 

 



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日菜ルート
必死の宣言


 天才の横に立つこと

 

 それは決して簡単なことじゃない

 

 周りの目、価値観の相違など

 

 様々な問題が生じる可能性もある

 

 ......なんてものは糞食らえだ

 

陽介「__日菜さんが、風邪!?」

リサ「そうなんだよねー。」

 

 そんな意気込みをして学校に来てすぐ

 

 俺は早速出鼻を挫かれてしまった

 

 あの日菜さんが風邪?

 

 あれ、明日世界は終わるのか?

 

リサ「今、明日世界滅ぶかも、とか考えてたでしょ?」

陽介「はい、それくらい意外なので。」

リサ「まぁ、気持ちはわかる。」

 

 今井さんも深く頷いた

 

 この際、俺の決心どうのこうのはいい

 

 驚きの波が収まって心配になってきた

 

 あの人、風邪とか慣れてなさそうだしマズいんじゃ......

 

リサ「それでさ、出水君にお見舞いに行って欲しいんだ☆」

陽介「え、見舞い?」

リサ「日菜のバンド仲間の子達が補修とか仕事で行けないらしくて、安心できる人に任せたいって。」

陽介「なるほど。」

 

 俺が安心できるかどうかは置いていて

 

 見舞いに行けるのは好都合だ

 

 女の人に家に行くのは気が引けるけど

 

リサ「出水君は日菜の見舞い行けr__」

陽介「行きます。」

リサ「いや、すごい食い気味だね。」

陽介「あ、すいません。」

 

 今井さんは苦笑いを浮かべている

 

 ついつい食い気味になってしまった

 

 一旦落ち着かないと

 

リサ「まぁいいや!じゃあ、よろしくね!」

陽介「任せてください。死んでも成し遂げてみせます。」

リサ「今から戦いにでも行くの?まぁ、またね。」

陽介「はい。」

 

 今井さんはそう言って3年の教室の方に行った

 

 俺はそれを見送ってから教室に行き

 

 今日は日菜さんの見舞いに何を持っていこうか考えて過ごした

__________________

 

 放課後、俺はスーパーを経由して日菜さんの家に来た

 

 場所は今井さんに教えてもらった

 

 ていうか、あの人マンション済みだったのか

 

 失礼なんだけど......苦情とか大丈夫なのか?

 

 俺はそんな事を思いながら階段を上がり

 

 チャットで送られてきた部屋番号の部屋に来た

 

陽介「ごめんくださーい。」

 

 俺はそう言いながらインターフォンを押した

 

 すると、家の中から足音が聞こえ

 

 ゆっくりドアが開いた

 

紗夜「あら、もう来たんですか。」

陽介「こんにちは、氷川先輩。」

紗夜「はい、こんにちは。」

 

 氷川さんは行儀良く頭を下げて来た

 

 この人、本当に日菜さんの姉なのか?

 

 イメージが正反対なんだけど

 

紗夜「今井さんから聞いていますよ。どうぞ、入ってください。」

陽介「はい、お邪魔します。」

 

 俺は氷川先輩に通され家に入った

__________________

 

 家の中はマンションって感じだ(?)

 

 どうやら両親は仕事で不在らしく

 

 今、この家には3人しかいないらしい

 

紗夜「来てもらったところ悪いのですが、私もあと少しで出ないといけないんです。」

陽介「あ、そうなんですか?」

紗夜「はい。なので、日菜の面倒を見てあげてください。」

陽介「分かりました。任せてください。」

 

 じゃあ、2人になるわけか

 

 まぁ、心配なことはない

 

 シミュレーションはちゃんとしてきた

 

紗夜「日菜にとっても人生初めての風邪で想像よりもつらそうなので、しっかりと見てあげてください。」

陽介「はい、分かりました(この人、すごくいいお姉ちゃんしてるな。)」

 

 氷川先輩の第一印象は怖いだったけど

 

 こういうの見ると優しい人だって思う

 

 俺がそんな事を考えてると、氷川先輩はギターケースを背負い

 

 こっちに背中を向けて来た

 

紗夜「それでは、よろしくお願いします。」

陽介「はい、いってらっしゃい。」

紗夜「あら、今日帰って来る頃には私は義姉かしら?」

陽介「!?」

紗夜「私はそっちも期待していますよ。」

 

 氷川さんはそう言って家から出て行った

 

 そうだ、あの人ロゼリアの人だった

 

 湊さんに聞いててもおかしくないか

 

陽介「まぁ取り合えず、日菜さんの部屋に行ってみよう。」

 

 俺はそう呟いて

 

 目の前にある日菜さんの部屋の戸を軽くたたき

 

 返事はなかったけど取り合えず入ることにした

__________________

 

陽介「__お邪魔しまーす。」

 

 俺は小さな声でそう言いながら部屋に入った

 

 女の子らしくい内装に日菜さんの匂いがする

 

 これが、日菜さんの部屋か......

 

陽介(って、ジロジロ見るのはダメだ。日菜さんの様子を見ないと。)

 

 俺は激しく首を振り

 

 本来の目的を果たすため、ベッドの方に近づいた

 

陽介(日菜さんは__っ!?)

日菜「すぅ、すぅ......」

陽介(か、可愛いすぎだろ!!!)

 

 いつもの雰囲気から考えられない寝顔

 

 そうだ、この人すごい可愛いんだった

 

 ていうか、なんで寝てるときこんな静かなんだ

 

 こういうのズルいだろ!!!

 

陽介(落ち着け、この人はアイドル。可愛いのは当然だ。学校でもトップクラスのルックスを持ってるし、日菜さんに憧れを抱く男子も多かったしそう、当然、必然なんだ。)

 

 俺は自分にそう言い聞かせてお落ち着いた

 

 今日はあくまで見舞いに来てるだけ

 

 氷川先輩の言葉で変に意識してしまってるんだ

 

 まずは自分がやるべきことを使用

 

陽介(飲み物が無くなってるから取り換えて......)

 

 いや、やることがない

 

 氷川先輩の仕事が完璧すぎる

 

 飲み物補充以外することがないじゃないか

 

 そんな事を考えながらやることを探してると

 

 ある事に気付いた

 

陽介(あ、冷えピタ取れかかってる。)

 

 俺は軽くそれに触れた

 

 結構ぬるくなってて、長時間貼られているのが分かる

 

 一回変えた方がいいか

 

 俺は日菜さんの額についてる冷えピタをはがし

 

 持ってきたそれを貼った

 

日菜「ん......?」

陽介「あ、起こしちゃいましたか?」

日菜「え、陽介君......?」

 

 日菜さんは寝ぼけた目のままそう言ってきた

 

 珍しく状況がつかめてないみたいだ

 

 こういう姿を見るのは初めてだ

 

陽介「気分はどうですか?」

日菜「ちょっとだけ、辛いかも......」

陽介「じゃあ、安静にしてください。」

 

 俺はそう言いながら日菜さんの頭を撫でた

 

 日菜さんは不思議そうな顔をしながらも嬉しそうにもしてる

 

 しばらくそうしてると、日菜さんが口を開いた

 

日菜「なんで陽介君がいるの?」

陽介「今井さんに頼まれてきたんですよ。」

日菜「そうなんだ、ありがとう。」

 

 日菜さんは笑みを浮かべながらそう言った

 

 もうさ、この人のギャップズルいよ

 

 今メチャクチャ可愛いもん

 

 今すぐ3000m位ダッシュして落ち着きたいもん

 

陽介「今日、何か食べましたか?」

日菜「ううん。」

陽介「何か食べられそうですか?」

日菜「少しだけなら食べられそう。」

陽介「じゃあ......」

 

 俺は買い物袋からモモの缶詰を出した

 

 安定的にこれは美味しいだろうし

 

 風邪の人におすすめって言われたから買ってきた

 

陽介「体起せそうですか?」

日菜「うん。」

陽介「っ!?」

 

 日菜さんは軽く頷いて体を起こした

 

 その瞬間、俺は日菜さんから目をそらした

 

 俺の目飛び込んできたのは日菜さんのパジャマ姿

 

 いやそこまではいい、問題は......

 

日菜「!!///(あ、開いちゃってた!?///)」

陽介「見てないです、俺は何も見てないです。」

日菜「ご、ごめん......///」

 

 向こうからボタンを留める音が聞こえる

 

 まぁ、ずっと布団に入ってたら暑いし

 

 ボタンを緩めたくなる気持ちもわかる

 

 問題は俺の心持ちだ

 

陽介「は、はい、桃缶です。どうぞ。」

日菜「う、うん、ありがと......///」

 

 日菜さんは顔を赤くしたまま缶詰を受け取り

 

 一緒に渡したフォークでそれを食べ始めた

 

 俺は特にやることがないのでその様子を見守ってる

 

日菜「美味しい......るん♪ってする。」

陽介「よかったです。」

日菜「陽介君、いつまでここいるの?」

陽介「そうですねぇ......」

 

 氷川先輩曰く、両親の帰りは遅い

 

 そして、先輩自身もあと3時間は帰ってこない

 

 だとしたら、後3時間はいる事になる

 

陽介「氷川先輩が帰ってきたら帰ります。なので、まだ時間はありますね。」

日菜「そっか......///」

陽介(あーもう!またそう言う顔する!!)

 

 可愛いに可愛いをかけ合わせたらどうなる?

 

 そう、可愛いだ(何言ってんだ?)

 

 って、風邪ひいてる人に下心を持ったらダメだ

 

陽介「だ、台所借りてもいいですか?」

日菜「え?」

陽介「日菜さんの夕飯用に食べやすいもの作るので。」

 

 俺はそう言ってドアの方に行った

 

 その時、後髪を引かれる感覚を襲われ

 

 後ろから日菜さんの声が聞こえて来た

 

日菜「行っちゃうの......?」

陽介「え、いや、あの......」

日菜「一緒にいてくれないの......?」

陽介「......」

 

 俺は日菜さんにそう言われ

 

 綺麗な回れ右を決めベッドの横に座った

 

 いや、これは逆らえないよ

 

 だって寂しそうな声出されたらダメだよ

 

陽介(何話そう。)

日菜(......)

 

 そんな事を考え

 

 しばらく、俺と日菜さんは無言のまま

 

 部屋の中で静かに座っていた

__________________

 

 無言のまま1時間が経過した

 

 日菜さんといて無言になるのは珍しい

 

 俺が意識しすぎてるのが大きいけど

 

 なぜか日菜さんも話さないんだが

 

日菜「......ねぇ、陽介君?」

陽介「はい?」

 

 そろそろ間が持たなくなってきたころ

 

 日菜さんが静かに口を開いた

 

 俺はベッドの上に顔を向けた

 

日菜「あたし、陽介君と付き合っちゃダメかもしれない......」

陽介「え?」

 

 日菜さんの言葉を聞き俺は目を見開いた

 

 付き合っちゃダメ?

 

 なんでそんな話になったんだ?

 

 俺が考え込んでると、日菜さんは話し始めた

 

日菜「千聖ちゃんがね、芸能人と一般人が付き合うと苦労するって......」

陽介「っ!!」

日菜「メディアに追いかけられたり、顔が広く知られちゃったりしたら、陽介君に迷惑がかかっちゃう。」

陽介「......」

日菜「陽介君のことは大好きだよ。でも、陽介君の迷惑になってまで自分の気持ちを優先したくない......だから、あの告白は忘れて欲しいの......」

 

 日菜さんの言ってることは考えてた

 

 勿論、苦労だってあるだろう

 

 ファンの嫉妬で実害が出るかもしれないし

 

 記者に追いかけまわされるかもしれない

 

 そんなの分かってる

 

 でも......

 

陽介「一般人はアイドルと付き合ったら苦労する?だから付き合ったらダメ?」

日菜「......?」

 

 俺は拳を握り込んだ

 

 少し、ほんの少しだけ怒ってるかもしれない

 

 今さら忘れるなんてできるわけがない

 

陽介「冗談じゃないっ!」

日菜「っ!」

陽介「なんで周りのせいで俺や日菜さん自身の気持ちを否定されないといけないんですか!?気に入らない!!」

日菜「え......?」

陽介「日菜さんがアイドルだなんて最初から分かってる!ステージに立てば遠い世界の人間、そんなことは俺が一番分かってるんですよ!」

 

 俺は日菜さんの目を真っすぐ見た

 

 こんなに迷った目をしてる

 

 そうさせた民衆が気に入らない

 

 『アイドルと一般人』その肩書が日菜さんをそうさせるんだとしたら、それは間違いなく俺のせいだ

 

陽介「だったら、俺が氷川日菜に負けないくらい一流になればいいだろ!!」

日菜「陽介、くん......?」

陽介「そうすれば誰にも文句は言わせない!!氷川日菜に相応しい人間になって全員黙らせてやる!!」

 

 俺は言葉を言いきると軽く息切れを起こした

 

 でも、まだ言いたいことを言えてない

 

 俺は呼吸を整えた

 

陽介「俺は日菜さんが好きです。あなたといたいと俺は心から思った。」

日菜「あ、あの......///」

陽介「だから、待っててください。すぐに日菜さんに相応しい人間に__」

日菜「ま、待って陽介君......!///」

陽介「?」

 

 日菜さんは慌てた様子で手を振ってる

 

 俺はそれを見て落ち着きを取り戻し

 

 日菜さんの話を聞くことにした

 

日菜「あのね、あんなにかっこいい事を言ってくれて嬉しかったんだけどね......?///」

陽介「はい?」

日菜「えっと、実は__」

 

 日菜さんは申し訳なさそうに口を開いた

 

 そして、そこから発せられた言葉を聞いて

 

 俺は少し思考が停止し

 

 何秒か経って、俺は大声を出すことになった

 

陽介「__全部演技だった!?」

日菜「う、うん......」

 

 日菜さんの話では白鷺千聖さん?に一般人とアイドルの交際は苦労することもあるかもしれないから、覚悟がないなら止めてあげるのも優しさと言われ今回の事をしろと言われ

 

 それで俺があまりにも必死だったから止められなくなったらしい......

 

陽介(いや、恥ずかしすぎるんだが!?)

 

 俺は頭を抱えた

 

 こんなに恥ずかしいのは初めてだ

 

 いや、嘘は一切なかったんだけど......

 

日菜「ご、ごめんね......」

陽介「いや、もういいですよ。形はどうあれ、言いたいことは言えたので。」

日菜「う、うん///」

 

 俺は日菜さんに目線を合わせ

 

 軽く微笑みかけた

 

 そして、今度はゆっくり口を開いた

 

陽介「俺と付き合ってくれますか?日菜さん?」

日菜「うん、陽介君......!///」

陽介「おっと。」

 

 日菜さんは俺に抱き着いてきた

 

 俺は一瞬焦ったが落ち着きを取り戻し

 

 日菜さんを抱きしめ返した

 

日菜「好き、好き、大好き!///」

陽介(か、可愛い。)

 

 俺はしばらく日菜さんと抱き合い

 

 数10分ほどそのままだった

__________________

 

 あれから1時間30分ほど経ち

 

 そろそろ氷川先輩が帰って来る時間になった

 

 外はもうだいぶ暗くなってて

 

 そろそろ帰らないといけない

 

陽介「__そろそろ帰ります。」

日菜「えー!」

 

 日菜さんはこの1時間30分で元気を取り戻し

 

 なんだかんだでいつもの調子になった

 

 この人の体力どうなってるんだろう

 

 いや、こっちの方が落ち着くんだけど

 

陽介「そろそろ氷川先輩が帰って来るので、今日の所は帰ります。また明日会えますし。」

日菜「でも、もっと一緒にいたい......」

陽介「そ、そう言われても。」

日菜(あっ、そうだ!)

 

 これは上手くいって帰るしかないな

 

 必要以上にいると迷惑になるし

 

 俺はそんな事を考えながら頬を掻いた

 

日菜「よーすけ君♪」

陽介「はいはい、なんですか__ぶふっ!!」

日菜「あはは!すごい驚いてるー!」

陽介「いや、なにやってるんですか!?」

 

 日菜さんに呼ばれ後ろを振ろ向くと

 

 なぜか、日菜さんが下着姿になっていた

 

 水色のシンプルなデザインはむしろ生活感があって惹かれるものがある

 

 って、そうじゃなく!

 

日菜「帰っちゃうの......?///」

陽介「え?」

日菜「まだ、看病は終わってないよ......?」

陽介「......???」

日菜「汗かいちゃったから、拭いて欲しいな?///」

 

 日菜さんは恥ずかしそうにそう言った

 

 いや、拭く?

 

 あー、うん、そういうこともあるよね

 

 俺はまた思考が停止した

 

日菜「陽介君が好きな所、拭いてもいいよ♡」

陽介「っ!分かりましたよ!洗面所はどこですか!?」

日菜「部屋を出て左に行ったらすぐだよ!」

陽介「言っときますけど、拭くだけですからね!?」

日菜「うん♪」

 

 それから俺は最後の看病?をした

 

 その時は色々と危なかったけど

 

 鋼の精神+無類のヘタレっぷりを発揮し

 

 その後は何も起きず、俺は家に帰った

 

 

 後日、氷川先輩に『お義姉ちゃんと呼んでもいいですよ?』と言われたり

 

 パスパレの人たちにあの言葉関連で初対面で弄られたり

 

 楽しくも大変な日々を送ることになった

 

 

 

 



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帰国

 日菜さんと付き合って1年と少しが経った後

 

 俺は高校を卒業し

 

 その後、日菜さんと同じ大学に進学して

 

 順調に卒業......

 

 まぁ、それまでは良かったんだけど

 

陽介「__久しぶりだな、日本。」

 

 俺は大学卒業後、海外を飛び回ってた

 

 何カ国行ったかはちゃんと覚えてないけど

 

 結構な下積みを作ってこれて、大きな収穫を得た留学?になった

 

陽介「......あっ。」

 

 荷物が入ったカバンを持って空港を出ようとした時、俺はある事に気付いた

 

 これは致命的だ

 

 100%日菜さん拗ねるし、チュチュにも怒られる

 

陽介「き、帰国の連絡するの忘れてたー!!!」

周りの客(何叫んでるんだろう?)

陽介(い、1時間は説教だな......)

 

 俺は帰国早々大きく肩を落とし

 

 取り合えず家に帰るため空港を出た

__________________

 

 ”事務所”

 

 とある芸能事務所のレッスンルーム

 

 そこではパスパレの5人がレッスンに勤しんでる

 

 だが1人、異様な雰囲気を放つメンバーがいた

 

日菜(ズーン......)

麻弥(空気重っ!!)

 

 陽介が日本を去って3年

 

 気分で動く日菜にとってこれは致命的だった

 

 練習では集中力を欠きミスを連発

 

 ライブは何とか乗り越えるものの

 

 日菜本来の高い演奏技術は鳴りを潜めていた

 

イヴ「ひ、ヒナさん?」

日菜「......なに?」

彩「き、今日も調子よくないよね?帰って休んだ方がいいんじゃ?」

日菜「......大丈夫。」

千聖(これは重症ね。)

 

 メンバーの心配の声には生返事しか返ってこない

 

 まるで魂の一部が欠落したように

 

 日菜の目は生気が弱まっている

 

千聖「日菜ちゃん?彼は今年には帰って来るんでしょう?そんなに落ち込まなくてもいいんじゃないかしら?」

日菜「もう3年もあってないんだもん......しかも、まだ連絡も来てないし......」

彩(た、確かに。)

麻弥(日菜さんは出水さんを溺愛してますし、1年も会ってないとなると......)

イヴ(チメイショウです......)

 

 どうしようもない

 

 パスパレの4人はお手上げ状態だ

 

 これはもう陽介の帰りを待つしかない

 

 4人がそう考えていると

 

 部屋の外から何かの話声が聞こえて来た

 

『__ぜひうちで接待に君の力を貸してくれ!』

『頼むよ!』

『勘弁してください。俺はまだ新人の身なので。』

彩(あれ?)

麻弥「この声は......」

 

 パスパレ5人はドアの方を凝視した

 

 そして、数秒後

 

 そのドアはゆっくりと開かれた

 

日菜「っ!!」

陽介「__ど、どうもー、日菜さんはここにいますか?」

日菜「よ、陽介、君......?」

 

 そこから現れた陽介の姿を見て

 

 日菜は物凄い速さで動きだした

 

 ”陽介”

 

陽介「おっと。」

 

 レッスンルームに入ると日菜さんが飛びついてきた

 

 日菜さんは練習着を身に纏っていて

 

 ほんの少し前まで練習してたのが分かる

 

 ていうか、今の動き凄かったな

 

陽介「ただいま戻りました。帰国の連絡は......忘れちゃいました。あはは。」

日菜「むぅー!忘れちゃった、じゃないよー!あたし、すごい落ち込んでたのにー!」

陽介「す、すいません。謝るので二の腕抓るのをやめてください。」

 

 日菜さんは抱き着きながらも二の腕を抓ってくる

 

 幸せな感触と鋭い痛みが同時に来る

 

 でもまぁ日菜さん可愛いし、オッケーだな

 

千聖「相変わらずイチャついてるわね。」

陽介「あ、どうも、白鷺さん。」

千聖「えぇ、お噂はかねがね聞いてるわ。歴史に名を遺すと言われる世界一の若手料理人さん?」

陽介「あ、あれは完全に成り行きなんですがね......」

 

 俺が海外に行ってた理由は料理の修行

 

 そのはずだったんだけど......

 

 なぜか国際料理コンクール?に出されて

 

 そこでなんか色々な賞を受賞して

 

 なんか色々な取材とか受けて帰国

 

 ......で、今に至る

 

日菜「陽介君!」

陽介「あーはいはい。分かってます。」

日菜「......♪」

 

 俺はくっ付いてる日菜さんの頭を撫でた

 

 もう磁石でくっ付いてるってレベルで離れない

 

 まぁ、離れる必要はないしいいんだけど

 

彩「す、すごい!有名人が目の前にいるよ!」

イヴ「アヤさん!私達もアイドルですよ!?」

麻弥「驚いて混乱してますね、これは。」

陽介「皆さん、俺がいない間の日菜さんはどうでしたか?」

千聖「面倒臭かったわ。」

彩「日菜ちゃんじゃなかったね。」

麻弥「まぁ、大変ではありましたね。」

イヴ「ちょっとウザかったです!」

日菜「イヴちゃん!?」

 

 若宮さん、さらっと毒吐いたな

 

 流石の日菜さんも動揺してるぞ

 

 でもまぁ、大体の状況は分かった

 

陽介「いやー、ご迷惑をおかけました。」

千聖「全くよ。でも、これからは手綱を握ってくれる旦那がいるし、大丈夫ね。」

陽介「まだ結婚はしてないんですがね。」

彩(まだ、なんだよねー。)

麻弥(どうせ、すぐに招待状が来るでしょうね。)

イヴ(ヨウスケさんのあの目は何かを狙ってる目です!)

陽介「?」

 

 なんだろ、すごい視線を感じる

 

 しかも妙に生暖かいし

 

陽介「日菜さんはこれからどうしますか?俺はチュチュ達の帰国の挨拶......説教を受けに行きますが。」

日菜「あたしも行く!レッスンも終わったし!」

陽介「そうですか。じゃあ、待っているので一緒に行きましょう。」

日菜「うん!」

 

 日菜さんは頷くと急いで部屋を出て行った

 

 俺は日菜さんを待つ間、パスパレの皆さんと話をして

 

 それから少しして俺と日菜さんは事務所から出た

__________________

 

 道を歩いてると人の視線を感じた

 

 もうこっちにも顔が知れ渡ってるらしい

 

 勘弁してくれとしか思わない

 

 俺は日菜さんと歩く楽しさと道行く人に見られる面倒くささを感じつつ

 

 どこか懐かしいチュチュのマンションに来た

 

陽介「__ただいまー、チュチューパレオー。」

チュチュ「え、陽介?」

ますき「あ、出水?」

六花「出水さん!?何で日本に!?」

陽介「帰ってきちゃった☆」

 

 俺は冗談めいた口調でそう言った

 

 すると、チュチュはゆっくりこっちに歩いてきた

 

 足音が大きくなってるのは気のせいじゃない

 

チュチュ「おかえり、陽介。」

陽介「あ、あぁ、ただいま__」

チュチュ「なんて、言うと思ったの!?そこに座りなさい!」

陽介「は、はいぃ!!」

 

 俺はチュチュにどやされ

 

 急いでその場に正座で座った

 

 チュチュの足音が大きくて怖い

 

チュチュ「陽介、私は言ったわよね?帰って来るときは連絡する事って。」

陽介「はい......」

チュチュ「それなのに連絡もよこさないで急に帰ってきて......バカなの?」

陽介「大変申し訳ございません......」

 

 チュチュは19歳になって大変美しい女性になられた

 

 身長も伸びた、だからこそ怖い

 

 昔から母親みたいだったけど、大きくなって母親みが増した

 

日菜(さ、流石お義母さん。陽介君が小さく見える。)

レイ(こうなると思った。)

ますき(なーにやってんだか。)

パレオ「まぁまぁ、チュチュ様!今日くらいは良いじゃありませんか!」

チュチュ「あんたは陽介を甘やかしすぎなのよ!」

パレオ「きゃー!怖いですー!」

六花(子供に厳しい親と甘やかす親の構図になっとる。)

 

 そろそろ許してほしい

 

 固い床に座ると足痛いし

 

チュチュ「もういいわ。立ちなさい。」

陽介「ありがたき幸せ。」

チュチュ「ふざけてるとぶん殴るわよ?」

陽介「申し訳ございません。」

 

 俺はチュチュに頭を下げた

 

 いやもう、怖い

 

 仮にチュチュが結婚したら相手大変だな

 

 絶対に尻に敷かれる

 

パレオ「ようさんの話は海を渡って伝わってきましたよ!」

ますき「大物になりやがったな。」

陽介「それを言うなら、RASの話も聞いたよ。海外ツアーしたんだろ?」

レイ「出水君とは綺麗にすれ違ってたよね。」

六花「折角だから見てもらいたかったです。」

陽介「いやー、俺も見たかったんだけど。滞在期間とかの関係でなー。」

 

 俺は軽く頭を掻いた

 

 ほんと、綺麗にRASのライブと被らなかった

 

 色んなレストランやホテルに呼ばれて

 

 ライブに行けると思ったら飛行機で飛ぶことが多かった

 

 いやー、残念だ

 

チュチュ「陽介。」

陽介「なんだ?」

チュチュ「これからどうする気なの?」

陽介「これから?」

 

 なんだろ、あんまり考えてなかった

 

 でもここで、何もないなんて言ってみろ?

 

 今度こそあのヒールで蹴り入れられる

 

 なんかイメージしたこと言えばいいや

 

陽介「まぁ、しばらくは日本で仕事して......」

日菜「!」

陽介「また海外に出る......」

日菜「え......?」

陽介「ことはなく、自分で店を持つことも考えようかなって。」

 

 向こうのシェフにも言われたし

 

 自分の店を持つのもいいかもしれない

 

 どんな店がいいかな?

 

日菜「陽介君お店持つの!?」

陽介「まだイメージ段階ですけど、資金も十分ありますし出来ない事はないですね。」

日菜「そうなんだー!楽しみー!」

ますき「取り合えず、オープンしたら呼んでくれよー?」

陽介「分かった分かった。とっておきの食わせてやるよ。」

 

 とまぁ、活動方針の発表はこんなもんかな

 

 別にこれは追々でもいい事だし

 

 今は日本のホテルとかレストラン回って仕事だな

 

ますき「おい、出水。」

陽介「ん?」

ますき「仕事もいいが、あっちはどうするんだ?」

六花「あ、私も気になります。」

陽介「まぁ、そっちは......」

 

 俺は日菜さんの方を見た

 

 そして、少しして視線を外し

 

 少しだけ笑った

 

日菜「?」

陽介「すぐにしようかな。」

ますき、六花「!」

陽介「日菜さん?」

日菜「どうしたの?」

陽介「少し外出ませんか?屋上ですけど。」

 

 俺はそう言うと日菜さんは頷き

 

 俺と日菜さんは室内から出た

 

 出る直前、皆に生暖かい目で見られてたけど

 

 もういいや

__________________

 

 もう春と言っても時間は遅くなってて暗く

 

 プールサイドにあるライトが綺麗に光ってる

 

 家がこんなに雰囲気がいい場所でよかった

 

日菜「わー!たかーい!」

陽介「そう言えば、あんまり来たことありませんでしたね。」

日菜「うん!だから今、すっごくるん♪ってしてる!」

陽介「それはよかったです。」

 

 日菜さんは楽しそうに景色を見てる

 

 俺は笑いながらその様子を見て

 

 ゆっくり歩いて日菜さんの隣に立った

 

陽介「......日菜さん。」

日菜「どうしたの?」

陽介「良い話とほどほどにいい話、どっちから聞きたいですか?」

日菜「なんだか変な質問だね?」

 

 日菜さんはそう言いながら

 

 俺の質問について考えてる

 

 そして、少しして答えを口にした

 

日菜「良い話!」

陽介「了解しました。」

 

 俺はそう言って少し息をついた

 

 まぁ、日菜さんはそう言うと思った

 

 俺はそう思いながら、日菜さんの手を取った

 

日菜「っ!///」

陽介「この3年、俺は日菜さんの事をずっと考えてた。そして、あなたを幸せにする準備が出来た。」

日菜「幸せにする準備......ってことは!///」

陽介「多分、正解です。」

 

 俺はそう言って懐にある箱を取り出し

 

 それの中に入ってる指輪を丁寧に日菜さんの左手薬指にはめた

 

 そして俺はゆっくり口を開いた

 

日菜「!///」

陽介「結婚しましょう、日菜さん。」

 

 俺は笑みを浮かべながらそう言った

 

 すると日菜さんは一気に顔を紅潮させ

 

 一筋の涙が頬を伝っていった

 

日菜「この3年間、すごく寂しかった......」

陽介「す、すいません。」

日菜「いいの!だって今、こんなに幸せで、るん♪ってしてるから///」

 

 日菜さんは満面の笑みでそう言った

 

 涙で濡れた瞳は照明で照らされ

 

 いつも違った笑顔はどこか幻想的だ

 

 この人の魅力は底が知れないな

 

日菜「あたし、頑張る!///陽介君のお嫁さん!///」

陽介「もう充分ですが、面白そうなので頑張ってください。」

チュチュ「__陽介!」

陽介「ん?チュチュ?」

 

 日菜さんと顔を合わせて笑ってると

 

 プールの向こうからチュチュの声が聞こえた

 

 声の方向を見ると向こうには皆がいて

 

 こっちをニヤニヤしながら見てる

 

陽介「どうしたー?」

チュチュ「あなた、ヒナ・ヒカワと付き合うようになってよく我慢してたし......一晩くらい帰って来なくてもいいわ!」

陽介「え?」

日菜「っ!?///」

 

 一晩帰って来なくていい?

 

 ......あっ(察し)

 

 なるほど、そういうことか

 

日菜「な、なにいってるのー!?///」

陽介「あぁ、ありがとう!チュチュ!言葉に甘えさせてもらうよ!」

日菜「陽介君!?///」

陽介「日菜さんが望まないなら普通にデートでもいいですよ。」

日菜「う、うぅ......///」

 

 この人、自分から基本来るのに

 

 打たれたら結構弱いんだよな

 

 まぁ、そこが可愛いんだよ

 

日菜「......いじわる///」

陽介「あはは、可愛いですね。」

日菜「もう!もう!///」

陽介「じゃあ、行きましょうか。」

 

 俺はプンプンと怒ってる日菜さんを引っ張り

 

 屋上から室内を経由しマンションを出て行った

 

 俺はこれから離れてた3年と待たせた5年を埋めに行くわけだが

 

 しばらく休みだし、長く楽しむとしよう

 

 

 



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END 1回目の結婚記念日

 ”日菜”

 

 今日は6月15日

 

 普通の人はなんてことない日だろうけど

 

 あたしにとっては特別な日

 

 そう、今日は陽介君との1回目の結婚記念日!

 

日菜「__陽介君、今日もお仕事?」

陽介「いや、ないよ。けど、用事があるから少し出かけるかな?」

日菜「そうなんだ......」

 

 ......なんだけど

 

 陽介君はまーったく覚えてる感じがしない

 

 分かってるよ?

 

 あっちこっちのレストランやホテルに引っ張りだこで大忙しで

 

 うっかり忘れちゃう事もあると思うよ?

 

 でも、初めての結婚記念日なのに......

 

陽介「昼くらいには帰るよ。」

日菜「う、うん、行ってらっしゃい......」

 

 いつも着てる服を着て陽介君はリビングを出て行った

 

 あたしはそれを見送った後ソファに座って天井を眺めた

 

日菜(どうしよ......)

 

 気分的に1人で家にいるのがつらい

 

 この家がすごく大きい分、余計に寂しい

 

日菜(そう言えば、陽介君の用事って何だろう?)

 

 天井を眺めてると、そんな事が頭に浮かんできた

 

 陽介君、仕事は多いけど用事って今までにあったかな?

 

 しかも、あんな私服で行く用事って何なんだろう?

 

日菜「......気になる。」

 

 あたしはそう呟いた

 

 そして勢いよくソファから立ち上がった

 

日菜「付けてみよう!暇だし!」

 

 あたしはそう意気込んで

 

 この前買った変装用の服を着て

 

 陽介君を追いかけるために家を出た

__________________

 

 尾行を始めて少し歩いて商店街に来た

 

 陽介君は八百屋さんにも肉屋さんにもいかず

 

 慣れ親しんだ羽沢珈琲店に入った

 

 あたしも陽介君に続いて店に入って

 

 今は少し離れた席で2人の話に聞き耳を立ててる

 

陽介「__いやぁ、待たせてすまない。」

蘭「別にいいよ。呼んだのはあたしだし。」

 

日菜(蘭ちゃん?)

 

 陽介君の待ち合わせの相手は蘭ちゃん

 

 高校の時よりも大人っぽくなってて

 

 今は確か、お家で華道してるんじゃなかったっけ?

 

 そんな子が陽介君に何の用だろう?

 

陽介「今日はどうした?俺を呼ぶなんて珍しいな。」

蘭「少し相談があってね。」

陽介「美竹が?それはまた重ねて珍しい。」

 

 陽介君は首をかしげながらそう言った

 

 まぁ確かに蘭ちゃん素直じゃないしねー

 

 陽介君が不思議に思うのもわかるかな?

 

 あたしなんて蘭ちゃんにすごい怒られたし!

 

蘭「まぁ、今回は適任なのが陽介しかいなかったから。」

陽介「俺?」

蘭「その、陽介に料理を作ってほしいの......結婚式の。」

陽介「結婚式!?」

日菜(うそ!?蘭ちゃん結婚するの!?)

 

 いや、蘭ちゃん可愛いんだけどね?

 

 性格的に結婚とかするイメージ無かった

 

 なんか一生幼馴染といる!って感じだったし

 

蘭「こ、声大きいって。」

陽介「あ、あぁ、悪い。驚いてつい。」

蘭「失礼だね。」

 

 蘭ちゃんは不服そうにそう言った

 

 ごめん、あたしも失礼だったね

 

 陽介君は驚き過ぎだけど

 

 いやでも、意外だなー

 

陽介「悪い悪い。それで、料理だったか?」

蘭「うん。安心して任せられる人が思いつかなくて。」

陽介「まぁ、そういう事なら全然引き受けるけど。」

蘭「ありがと。じゃあ、料金とかの話も__」

陽介「いや、別にいいよ。俺個人でするなら。」

蘭「え?」

 

 陽介君は軽い口調でそう言った

 

 蘭ちゃんは凄い驚いてるけど

 

 あたしからすれば別に意外な話でもない

 

 陽介君はずっと、『アフターグロウの皆は俺を支えてくれた恩人。』って言ってるし

 

蘭「いや、仕事で料理してるんでしょ?それは問題あるんじゃ__」

陽介「大丈夫大丈夫。折角の恩人の門出だし、ちょっとくらい頑張ってもいいだろ?200人までなら全然捌くよ。」

蘭「いや、そんなにいないからね?」

 

 蘭ちゃんはそうツッコミを入れた

 

 陽介君もあたしに似て来たねー

 

 これはすっごくるん♪ってする!

 

蘭「全く、陽介は変わったね。」

陽介「そうか?そんなに変わらないと思うが。」

蘭「変わったよ。昔に比べてすごく明るくなった。」

 

 蘭ちゃんは笑いながらそう言った

 

 うんうん!陽介君はいいお友達を持ったね!

 

蘭「本当に良かったよ。」

陽介「そう言う美竹はあんまり変わらないな。」

蘭「そう?」

陽介「そうそう、悩み事を隠すのが下手な所とか。」

蘭「え?」

日菜(え?)

 

 陽介君は真面目な声でそう言った

 

 蘭ちゃんが悩んでる?

 

 そんな様子は無かった......と思う

 

 陽介君には何が見えたんだろ?

 

蘭「な、何急に?あたしは別に悩んでないんだけど。」

陽介「いや、今の美竹の顔がさ、昔日菜さんに俺のノート見られた時と一緒なんだよ。」

蘭「っ......!」

日菜(!)

陽介「どうだ?」

 

 陽介君は蘭ちゃんにそう尋ねた

 

 蘭ちゃんは少しだけ下を向いて、何か言いずらそうな顔をしてる

 

 さっきの言ってたのはほんとだったんだ

 

蘭「......あたし、結婚したくない。」

陽介「え?」

日菜(えぇ!?)

 

 蘭ちゃんはしばらくして小さな声でそう言った

 

 いやいやなんで!?

 

蘭「今回の相手の人は華道の名家の人で真面目で優しくて、すごいいい人なの。きっと、いい結婚生活を送れると思う......」

陽介「それなのに、何で悩んでるんだ?」

蘭「......この人と結婚していいと思ってる。けど、したかった人じゃない。」

陽介「したかった人じゃない?」

日菜(!)

 

 蘭ちゃんの気持ち、少し分かる

 

 もし仮にあたしが陽介君に選ばれてなかったら

 

 もしもそれで結婚してって言われたら

 

 あたしも同じことを思ってたかもしれない

 

蘭「だって、あたしの初恋は始まる前に終わったから......!」

陽介「美竹!?」

日菜(蘭ちゃん!?)

 

 蘭ちゃんは涙を流してる

 

 それを見て、少し嫌な予感がした

 

 けど、あたしは話を聞くことにした

 

陽介「だ、大丈夫か?ほら、涙拭けって。」

蘭「あたし、陽介が好きだった......初恋だった......」

陽介「え?」

日菜「っ!」

 

 蘭ちゃんは泣きながらそう言った

 

 ど、どうしよう

 

 蘭ちゃんがそう思ってたのを知らなかった

 

蘭「だけど、この気持ちに気付いた頃には陽介は日菜さんと付き合ってて、それで海外に行って......」

陽介「そ、そうか......」

 

 陽介君も困惑してる

 

 けど、私はそれ以上に不安を感じてる

 

 陽介君が蘭ちゃんを選ぶことじゃなく

 

 どうやって断るのか

 

 変な断り方をしたら、蘭ちゃん傷ついちゃう

 

陽介「だが美竹、俺には日菜さんがいる。それは結婚したからと言う責任じゃなく、ただ俺が日菜さんといたい。だから__」

蘭「分かってる。」

陽介「!」

蘭「だから、今回のことお願いしたの。」

日菜(!)

 

 蘭ちゃんは静かな声でそう言った

 

 それで何となくわかった

 

蘭「陽介の仕事を見れば、きっと遠くに行ったって思えるから。キッパリ諦められる。」

陽介「......分かった。」

 

 蘭ちゃんの言葉に陽介君はそう答えた

 

 あの顔、仕事をしてる時の顔だ

 

 真面目でキリっとした、かっこいい顔

 

陽介「その仕事、謹んでお受けしよう。」

蘭「うん、ありがとう。」

陽介「でも。」

蘭「?」

陽介「遠くに感じる必要はないよ。」

日菜(陽介君......!)

 

 陽介君はそう言って笑みを浮かべた

 

 蘭ちゃんは目を見開いて

 

 驚いた顔で陽介君を見てる

 

陽介「美竹は友達だ。今、俺が生きてられてるのも美竹のお陰でもある。」

蘭「陽介......」

陽介「俺はずっと、美竹の幸せを願ってるよ。」

 

 そう、これが陽介君

 

 一途で絶対に誰も不幸にしない

 

 やっぱり、るん♪ってする

 

陽介「何かあれば、俺が店を開いてればいつでも来ればいいよ。いつだって、俺が作れる限り最高の品を用意して待ってるさ。」

蘭「うん、ありがとう、陽介!」

陽介「まぁ、そこまでは良いけど。」

蘭「?」

日菜(?)

 

 陽介君は話がひと段落すると立ち上がり

 

 笑いながらこっちを向いた

 

 そして、ゆっくり口を開いた

 

陽介「全く、まさか本当について来てるとは。プライバシーも何もないな、日菜。」

日菜「えぇ!?何でわかったの!?」

陽介「まぁ、ある程度予想がついたし。こっちにも諜報員がいるんでね。」

つぐみ「あ、あはは......」

日菜「しまった!ここ、羽沢珈琲店だった!」

 

 ”陽介”

 

 日菜さんは目に見えて慌ててる

 

 いやー、分かりやすい

 

 慣れれば日菜さんの行動読みやすいな

 

陽介「全く......」

蘭「まぁ、あたしも薄々察してた。」

つぐみ「注文の時に頼まれました。」

日菜「全員気付いてたの!?」

 

 なんかあたしバカみたいじゃん!

 

 つぐちゃん、どんな目であたしを見てたの?

 

 ずっと店の端っこで立ってたけど!?

 

陽介「この分じゃ、結婚記念日のプレゼントはお預けかな。」

日菜「え?」

陽介「ん?どうかしました?」

 

 俺はわざとらしくそう言った

 

 大方、忘れてると思ったんだろうな

 

 残念ながら中々マメにしてるから忘れないんだよな

 

陽介「じゃあ、美竹。俺は日菜を連れて帰るよ。さっきの話はまた連絡してくれ。あと、お代はここに。」

蘭「うん、ありがとう、陽介。」

つぐみ「ありがとうございました!」

陽介「日菜、帰るよ。記念日のお祝い、したいだろ?お義姉さんも来るらしいしけど、今日の事は報告な。」

日菜「えー!?そんなー!?今日は許してよー!」

陽介「だーめ。」

日菜「陽介君ー!」

 

 俺はそう言いながら店を出て

 

 日菜も後に続いて店を出て来た

 

 

 俺はプレゼントを渡す心の準備をしないといけない

 

 けどまぁ、これから何個の渡す内の1つだ

 

 一体、あと何回結婚記念日を迎えるか分からないけど、まだ1回目

 

 俺と日菜はまだまだこれからだ 

 

 日菜に習って、るん♪ってする日々を送れれば

 

 きっと、幸せなんだろうな

 

 

 




もう少し付き合ってください


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アナザーヒロイン
もう1人のヒロイン


 俺には好きな人がいる

 

 日頃の素直じゃない態度からは分からないけど

 

 その子は優しくて真面目で礼儀正しい

 

 そして、すごく可愛い子だ

 

陽介「__と言う訳で、俺は美竹に告白しようと思ってるんだ。」

巴「なるほどな。」

ひまり「いずみんそっち行くんだ~!」

 

 朝、美竹が出てる間に俺は2人そう言った

 

 さて、まぁ決心自体はとっくに出来てる

 

 6人全員にキッチリ返事をしてきたし

 

 色々なけじめはつけて来た

 

巴「陽介はモカやつぐに告白されてたが、なんで蘭なんだ?」

陽介「!」

ひまり「そうそう!他にも友希那さんとかいたのに!」

 

 2人は不思議そうにそう尋ねて来た

 

 確かに、俺に告白してくれた皆は全員、心が綺麗で可愛かった

 

 誰を選んでも幸せになれる

 

 それ位に恵まれた選択肢だったのは間違いない

 

 じゃあ、なんで美竹を好きになったのか

 

 その答えは簡単なことだ

 

陽介「美竹と一緒にいたいと思った。」

巴「......受け入れられない可能性もあるぞ?」

陽介「それならそれでいい。むしろ、今まで運が向き過ぎてたんだ。だから、フラれたら潔く諦める。」

巴「そうか......なら、あたしから言う事はない!」

ひまり「うん!頑張ってね!」

陽介「あぁ、ありがとう。」

蘭「__なにしてんの?」

陽介「あ、おかえり、美竹。」

 

 宇田川、上原と話してると美竹が戻って来た

 

 気づかなくて少しだけ驚いたけど

 

 あんまりあからさまに態度に出すとバレるし

 

 結構、無理やり隠した

 

巴(強くなったな、陽介。)

ひまり(私の方が動揺してるんだけど。)

蘭「何の話してたの?」

陽介「なんでもないよ。」

 

 それから俺達は教室で他愛のない話をし

 

 担任が来てからはホームルームが始まり

 

 いつも通り授業を受け、放課後までの時間を過ごした

__________________

 

 ”蘭”

 

 あたしには多分、好きな人がいる

 

 そいつはあたしが見た仲で誰よりも苦労人

 

 去年だけで目を失って、親関係で色々あって......ずっと、1人で傷ついてた

 

 でも、今、そいつは幸せを掴もうとしてる

 

蘭(......陽介、誰を選んだんだろ。)

 

 陽介が幸せになることが嬉しい

 

 こう思う辺り、きっと好きなんだろうね

 

 ほんと、あたしも面倒な性格だよ

 

 モカをけしかけておいてこれだもん

 

蘭「モカかつぐだと、いいな。」

陽介「__美竹、やっぱりここにいたのか。」

蘭「陽介?帰ったんじゃないの?」

陽介「今日は美竹に用があってな。」

 

 陽介は笑いながらこっちに歩いて来て、あたしの横に並んだ

 

 てか、陽介があたしに用ってなんだろ?

 

 また花のこと聞きたいとか?

 

蘭「どうしたの?また花のこと?」

陽介「少し......いや、かなり系統が違う。」

蘭「?」

 

 なんか、すごく真剣な顔

 

 こんな陽介、初めて見た

 

 これ、どういう感情の顔なんだろう

 

陽介「今日は美竹に言いたいことがあって来た。」

蘭「それって何?」

陽介「まず、俺は......告白してくれた皆に断りを入れた。」

蘭「え?」

 

 あたしは目を見開いた

 

 今、陽介は全員断ったって言った?

 

 なんで?

 

 陽介はあの中の誰かと付き合って、幸せになるはずじゃないの......?

 

陽介「もちろん、あの6人に不満があった訳じゃ断じてない。全員が俺を支えてくれた、かけがえのない人たちだ。」

蘭「じゃあ、なんで......?」

陽介「でも、俺を支えてくれた人の中で他に一緒にいたいと思う子がいる。」

蘭「一緒に、いたい人......?」

 

 陽介は病的に義理堅い、それを分かってる

 

 きっと全員の告白を断る時だって

 

 決して大袈裟ではなく心が押し潰されそうになったはず

 

 そこまでして一緒にいたい相手って......

 

陽介「俺は、美竹が好きだ。」

蘭「__え?」

陽介「俺は美竹蘭とこれから一緒にいたいと思った。」

蘭「え、ちょ、ちょっと......」

 

 待ってよ......

 

 絶対にそうじゃないじゃん

 

 つぐみは陽介のために頑張ってた、モカは誰よりも陽介の幸せを祈ってた

 

 なのに、なんであたしなの......?

 

蘭(......断らないと。)

 

 そうしなきゃ、誰も報われない

 

 絶対にダメ

 

 陽介には幸せになる道があるんだから

 

蘭「......ごめん。」

陽介「っ!」

蘭「あたしは陽介の気持ちに答えられない。きっと、陽介にはもっといい人がいるよ、だか、ら......」

陽介「み、美竹、どうしたんだ!?」

蘭「こ、これは違うから!」

 

 なんで?

 

 断らないといけないって頭では分かってる

 

 言葉だって全部絞り出した

 

 なのに、なんで......

 

蘭(なんで、涙が止まらないの......!!)

陽介「だ、大丈夫か?」

蘭「っ!さ、触らないでっ!」

陽介「!!」

蘭「あっ......」

 

 あたしは陽介の手をはたいてはっとした

 

 今、あたしは何したの......?

 

 陽介の、手を......

 

蘭「ご、ごめん......っ!」

陽介「美竹!!」

 

 あたしは陽介の声を無視し

 

 泣きそうになるのを抑え

 

 あてもなくどこかへ走った

 

 ”陽介”

 

陽介「美竹......」

 

 俺ははたかれた自分の手を見た

 

 少し赤くなってて、今も痛みがある

 

 そっか、俺はああなるまで怒らせたのか......

 

陽介(また、謝らないとな__って、あれ?)

 

 教室に戻るため振り向くと、屋上の真ん中に一冊のノートが落ちていた

 

 あれは、美竹がいつも書いてる歌詞ノート

 

 俺はノートを拾い上げ、それを広げた

 

陽介「__っ!」

 

 俺はそれを見て驚いた

 

 その中身は歌詞......だけど

 

 前に聞いた5人のバンドの系統とは異なる

 

 どこか、恋文のような文章が書かれている

 

陽介(こ、これって......!)

 

 ノートのページをめくって行くと

 

 最後のある言葉がページの端に小さく書かれていた

 

 それを見た俺はノートをそっと閉じ

 

 美竹が走って行った方を見た

 

陽介(追いかけないと。)

 

 俺は心の中でそう呟くと

 

 ノートを懐に入れ

 

 急いで屋上から出て行った

__________________

 

 ”蘭”

 

 ......罪悪感が、のしかかる

 

 陽介は純粋に好きだって言ってくれただけ

 

 なのに、あたしは何をしたの?

 

 怒鳴りつけて、手を叩いて、あんな逃げ方して......

 

蘭(もう、嫌だ......)

 

 あたしは川辺のフェンスに突っ伏した

 

 自分で望んだ失恋ってこういう気分なんだ

 

 自分に自信がないからって好きな人を拒絶する

 

 それはこんなに惨めで悲しい......

 

蘭「......どうせ、あんなひどい振り方したら嫌われただろうし。いっそ、この川の流れに一回くらい流されてみたい。」

陽介「__そう言うのは......少しだけ早いと思う。」

蘭「......!?」

陽介「よかった、青葉に聞いた通りだった......」

 

 川に向かってしゃべってると

 

 走ってたのか息が上がってる陽介が立っていた

 

 まさか、追いかけて来たの......?

 

蘭「な、なんで......」

陽介「ノートの中、見たんだ。」

蘭「っ!!」

 

 陽介は懐からあたしのノートを出した

 

 しまった、あれ落としてたんだ

 

 って、あの中を見られたって事は......

 

蘭「そっか......」

 

 あのノートに書いたのは陽介への想い

 

 そして、最後のページには......

 

 『陽介が好き』って書いてた

 

 そっか、見られたんだ......

 

陽介「別にそんな意図はなかったんだろうけど、少し話を聞ききたい。」

蘭「......そのままだよ。それは、間違いなくあたしの気持ちそのものだから。」

 

 あたしは小さな声でそう言った

 

 陽介は驚いたような表情を浮かべてる

 

 そりゃそうだよ

 

 さっきあんな事された相手にこんなこと言われたら

 

蘭「でも......あたしは陽介とは付き合えない。」

陽介「!」

蘭「あたしが陽介と一緒になったら、誰も報われないから......」

陽介「報われない......?」

蘭「だから、あたしの事は忘れて__」

陽介「それは出来ない。」

蘭「え?」

 

 陽介ははっきりそう言った

 

 出来ないって、どういうこと?

 

 陽介にはたくさんの女の人が......

 

陽介「俺は美竹がダメだったら、あの6人と誰かに近づくなんてことはしない。そんなキープするような真似は誠実じゃない。」

蘭「じゃあ、完全に断ったってこと......?」

陽介「それで間違いない。」

 

 ......バカだ

 

 バカが付くほど、誠実

 

 あんなに思ってくれる6人がいたのに

 

 あたしを一途に思ってるって言うの......?

 

蘭「ば、バッカじゃないの......?なんであたしなんかに......」

陽介「お前が美竹蘭だからだ!」

蘭「......!」

陽介「それ以外の理由、必要か?」

 

 陽介は優しく微笑みかけてくる

 

 心臓が痛い

 

 この笑顔を見ると何かが崩れる

 

 あたしの決心を平気で壊しに来る

 

 ズルい、ズルいよ......

 

陽介「俺は、美竹が好きだ。」

蘭「......っ///」

 

 その言葉を聞くと

 

 私は静かに右の手を伸ばした

 

 その手は陽介の上着の胸元を摘まんで

 

 恥ずかしいから反対の手で口元を隠した

 

蘭「......あたしの決心、意味ないじゃん。」

陽介「!」

蘭「でも、なんでかな。今、すっごく幸せって思っちゃう///」

陽介「美竹__!」

蘭「蘭、だよ......///」

 

 あたしは人差し指で陽介の唇に触れた

 

 決心、意味なくなったね

 

 だって、結局、陽介が欲しくなっちゃったから

 

蘭「あたしも好きだよ、陽介......///」

陽介「蘭......」

蘭「付き合うからには、中途半端なことしないでよね......///」

陽介「あぁ、分かってるよ。本気で蘭を愛し続けて......いつか、その先に。」

 

 陽介はそう言ってあたしを抱きしめた

 

 あたしも陽介を抱きしめ返した

 

 外はまだまだ寒いはずなのに、暖かい

 

 こんなに心が温かいなんて

 

 これが、幸せって事なのかな......?

 

蘭「陽介、少し屈んで。」

陽介「ん?あぁ?」

 

 あたしは陽介を屈ませた

 

 目が合って一瞬、すごくドキッとした

 

 けど、ここからだから

 

陽介「なにするんだ?」

蘭「誓いのキス、一回目///」

陽介「!!」

蘭「愛してるよ///__」

 

 そう言った次の瞬間

 

 月明かりに照らされた2人の影は重なり

 

 あたしは心が満たされて行くのを感じた

 

 

 



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4月10日

 蘭と付き合い始めて4年が経った

 

 俺は何の以上もなく高校を卒業し

 

 大学入学と同時にチュチュの家を出た

 

陽介「__んん......朝か......?」

蘭「おはよう、陽介。」

陽介「あぁ、おはよう、蘭......」

 

 それから、俺は大学3年生になり

 

 今はバイトをしつつ、蘭とアパートで暮らしてる

 

 蘭の両親公認の、所謂同棲と言う奴だ

 

 朝起きて愛する彼女がいるなんて、この上なく幸せなことだ

 

 寝ぼけてるのについ顔が綻んでしまう

 

陽介「蘭、起きるの早くないか?」

蘭「陽介の寝顔見てた。」

陽介「見ても楽しいものじゃないだろ......」

 

 俺はそう言いながら体を起こした

 

 時間は朝の5時30分

 

 いつも通りの起床時間だ

 

陽介「朝ごはん、すぐに用意するよ。何がいい?」

蘭「なんでもいい。」

陽介「そう?じゃあ、和食にでもしようかな。」

 

 俺はそう言ってベッドから出て

 

 朝ごはんを作るため台所に行った

 

 ”蘭”

 

 今日は、4月10日

 

 あたしの誕生日

 

 そんな日にあたしは少し不満を感じてる

 

蘭(......陽介、いつも通りすぎじゃない?)

 

 いつも通りを大切にしてるあたしだけど

 

 今回に関しては話が変わる

 

 こういう時は少しくらいソワソワすると言うか

 

 もう少し気にする仕草を見せて欲しい

 

 去年までは、もっと態度に出してくれてたのに......

 

蘭(まさか、忘れてるんじゃ......って、陽介に限ってそんな訳ないか。)

 

 だって、陽介だよ?

 

 自惚れてるわけじゃないけど、あたしはすごく愛されてる

 

 いつも、あたし事を気遣ってくれるし

 

 愚痴を言っても嫌な顔せず聞いてくれるし

 

 一緒に暮らして、あたしの嫌な所なんて何個も見てるのに、それでも付き合った頃と何も変わらない

 

蘭(そんな陽介だもん。きっと、覚えてるよね......?)

 

 あたしはそんな不安を感じつつ

 

 朝ごはんを作ってくれてる陽介の所に行った

__________________

 

 今日の朝ごはんは純和食

 

 いつも通り、陽介のご飯は美味しい

 

 今まで色んな和食食べたけど、贔屓目なしで一番おいしい

 

 いつか、料理の道に進んだりするのかな?

 

蘭「今日も美味しいよ。」

陽介「そうか、よかった。」

蘭「また腕を上げたんじゃない?」

陽介「まだまだだよ。もっと改善できる点はあるから。」

 

 陽介は微笑みながらそう言った

 

 この向上心の高さ、やっぱり料理人向いてそう

 

 本人にとっては至って普通の事なんだけど

 

蘭「陽介、今日何か予定ある?」

陽介「特にないよ。蘭は?」

蘭「あたしはモカ達と集まるよ。」

陽介「?」

 

 あたしは結構わかりやすく陽介に視線を送った

 

 これで気付くかな

 

陽介「そっか。帰りは何時くらいになる?」

蘭「......」

陽介「蘭?」

 

 そうだ、陽介ってこういうのには鈍感なんだ

 

 体調不良とかにはすぐに気付くのに

 

 なんで、こういうのだけ......

 

蘭「......お昼から、結構遅くなる。夕飯も食べるって。」」

陽介「じゃあ、夕飯はいらないか。」

蘭「うん......」

 

 本当に気付いてない......

 

 本気で忘れてるの......?

 

陽介「俺はずっと家にいるから、ゆっくり楽しんでおいで。」

蘭「......分かった。」

 

 陽介にそう言われたあと

 

 あたしは朝ごはんを食べて

 

 お昼まで作曲をしたりして時間を過ごした

 

 陽介はいつも通り、掃除とか洗濯をしてた

__________________

 

 お昼、あたしは家を出て羽沢珈琲店に来た

 

 今日は定休日だけど

 

 あたしが誕生日だからって開けてくれてる

 

 なんだけど......

 

蘭(はぁ......)

モカ「__おやおや~?浮かない顔をしてるねー蘭~?」

蘭「え?そ、そう?」

巴「なんか悩みか?」

ひまり「蘭の悩みなんていずみんの事しかないんじゃない~?」

つぐみ「ふふっ、確かに。」

 

 皆、あたしにどんなイメージ持ってるんだろう

 

 でも、間違ってないあたり正しいのかな?

 

モカ「話してみなよー。」

蘭「......陽介、誕生日忘れてるんだ。」

モカ、巴、ひまり、つぐみ「......え?」

 

 あたしがそう言うと4人は信じられないと言った顔をした

 

 気持ちは分かる

 

 あたしだって、朝はそう思ってたもん

 

巴「よ、陽介が?ありえないだろ。」

ひまり「いずみんだよ!?口を開けば蘭、蘭としか言わない!」

つぐみ「私も、あんまり考えられないかな?」

モカ「うーん、ようくんに限ってあり得るのかな~?」

 

 みんな、口々にそう言ってる

 

 それくらい、陽介はしっかりしてるんだもん

 

 記念日とか、すごいしっかり覚えててくれるんだもん......

 

蘭「陽介、あたしに興味なくしちゃったのかな......」

ひまり「い、いや、それはないでしょ!」

巴「考えすぎだって。一緒に住んでるんだったらそう言う事だってしてるんだろ?」

蘭「え?」

モカ、つぐみ、巴、ひまり「え?」

 

 あたしは巴の言葉に首を傾げた

 

 そう言う事って、なんだろ

 

ひまり「(ま、まさか。)ら、蘭って、いずみんとどこまでした?」

蘭「え?キスは偶にするくらいだけど......」

ひまり「えぇ!?」

巴「そ、そうなのか!?」

つぐみ「ま、まだだったんだ......」

蘭「え、な、何......?」

 

 なんでこんなに驚いてるんだろう?

 

 モカまで本気で驚いてるし

 

ひまり「そ、それは酷いよ!あんまりだよ!蘭!」

蘭「え......?」

つぐみ「ら、蘭ちゃんと出水君が寝てる部屋って......」

蘭「い、一緒だけど......」

モカ「これはー......」

巴「陽介も大変だな......」

 

 なんか、変な目で見られてる

 

 ど、どういう事なの?

 

 陽介が大変って、どういう事......?

 

蘭「な、なに?」

巴「そのな?言いずらいんだがー。」

モカ「蘭、ようくんとエッチしてなかったんだー。」

蘭「!?///」

つぐみ「も、モカちゃん!?」

ひまり「直球過ぎるよ!?」

 

 も、モカはなに言ってるの!?

 

 そ、そう言うのは結婚してからじゃないの?

 

 陽介だって、何も言ってこなかったし......

 

巴「きっと、陽介は優しいから蘭に合わせてたんだろうな。」

ひまり「いずみん、平気で結婚するまで耐えそうだもんね......」

モカ「少し考えてみて?蘭。」

蘭「え、うん。」

 

 モカは真剣な顔でそう言ってきた

 

 あたしはその勢いに押されて

 

 背筋が自然にピンっと伸びてしまった

 

モカ「よう君だって、年頃の男の子なんだよ。だから勿論、性欲だってあるんだよ?」

蘭「う、うん......」

モカ「なのに、2年間そんな雰囲気もないまま、夜は隣で最愛の彼女と添い寝......よう君、きっと、すごく我慢してるよ?」

 

 た、確かに陽介とそんな雰囲気になったことはない

 

 でも、そんなに気にしてる様子もなかった

 

 ......いや、でも、陽介って隠し事上手いし

 

 もしかしたら......

 

モカ「2人の在り方に口は出さないけど、もう少し、よう君のこと考えてあげたら~?」

蘭「で、でも、どうすればいいの......?」

巴「こういう時はひまりだ!」

ひまり「えぇ!?」

つぐみ「ひまりちゃん!」

ひまり「え、えーっと......こ、こう、お酒とか飲んでそう言う雰囲気にする、とか......?」

蘭「お酒......なら、大丈夫かも。」

モカ「ちゃんとアピールしなよ~。それと、ギリギリで寝るなんてテンプレ展開もダメだからね~?」

 

 テンプレ展開って、なんの?

 

 まぁ、それはいいや

 

 取り合えず、アピールすればいいんだよね?

 

 それなら......

 

巴「よし!そうと決まれば準備するぞ!」

つぐみ「行こう!蘭ちゃん。」

蘭「え、ちょっと待っ__」

 

 あたしは4人に引っ張られ

 

 色んな知識を教えられた

 

 この時点ですごく恥ずかしかった

 

 あたし、あんなの出来るのかな......?

__________________

 

 あれから少し時間が経って

 

 時間はもう夜の8時

 

 つぐみの家でお夕飯を食べて

 

 皆に誕生日を祝ってもらって、あたしは家に帰ってきた

 

蘭「__ただいま。」

陽介「あ、おかえり、蘭。」

 

 リビングに入ると、テーブルで本を読んでる陽介が微笑みかけて来た

 

 いつも通りの優しい表情

 

 見てて、すごく安心する

 

陽介「その顔を見る限り、楽しめたみたいだな。」

蘭「うん。」

陽介「どうする?もう8時だし、風呂入って寝るか?」

蘭「そ、その事なんだけど......」

陽介「?」

蘭「お酒、少し飲まない......?」

陽介「え?」

 

 陽介は首を傾げた

 

 まぁ、あたしはそんなにお酒飲まないし

 

 二十歳になってから飲んだ回数多くないし

 

陽介「珍しいな?」

蘭「今日はそう言う気分だから。」

陽介「じゃあ、用意するよ。客用に置いてるのあるし。」

蘭「うん。」

 

 陽介はそう言って台所に歩いて行った

 

 本当にいつも通り

 

 なにかあったらすぐに動いてくれる

 

陽介「ワインでいいか?」

蘭「うん、いいよ。陽介が用意してるのだもん。」

陽介「あはは、ちょっと過大評価だな。」

 

 そう言いながらも、慣れた手つきでワインを開け

 

 グラスに注いでいく

 

 透明なグラスが綺麗な赤色に染められて

 

 フルーティーな香りが漂ってくる

 

 こんなに良い匂いするんだ

 

陽介「はい、どうぞ。」

蘭「うん、いただきます。」

 

 あたしはワインを口に含んだ

 

 辛口な、あたし好みの味

 

 度数もちょうどよくて、飲みやすい

 

蘭「やっぱり、美味しい。」

陽介「そっか。よかった。」

蘭「陽介も飲めば?」

陽介「じゃあ、いただこうかな。」

 

 陽介もグラスにワインを入れ

 

 少しだけ口に含んだ

 

 そして、何かを確かめるような顔をして

 

 数秒後、少しだけ口角を上げた

 

陽介「満点だ。奮発してよかった。」

蘭「え?」

陽介「あっ(やば。)」

 

 あたしは陽介の言葉に首を傾げた

 

 奮発?

 

 これってお客用って言ってなかったっけ?

 

陽介「あはは、お酒はいけないな。あんまり強くないから、すぐに酔いが回る。」

蘭「陽介?どういう事?」

陽介「えーっと、このワイン、蘭の誕生日の日にちょうどピークが来るのを選んできたんだ。」

蘭「!!///」

 

 じゃ、じゃあ、覚えてたんだ!

 

 やっぱり、陽介だもんね!

 

陽介「朝に言わなかったのは、青葉たちと集まるのを知ってたし、お酒を飲むのは夜でいいと思ったからだよ。」

蘭「......あたし、結構へこんだんだけど。」

陽介「おっと。」

 

 あたしは陽介の胸元に顔を埋めた

 

 陽介の匂いがする

 

 お酒なきゃ、こんなに甘えられないかも

 

蘭「覚えてないかと思って、ちょっと悲しかった......」

陽介「ごめんごめん。」

蘭「......でも、それで気付けたこともあるの。」

陽介「?」

蘭「......っ///」

 

 どうしよう、ドキドキする

 

 自分から誘うのってどうなの?

 

 はしたないとか、思われないかな?

 

蘭「ごめんね、陽介......」

陽介「え?」

蘭「あたし、陽介のこと、何も分かってなかった......」

陽介「え?ど、どういう事?」

 

 陽介は分かりやすく混乱してる

 

 この反応はある意味予想通り

 

 でも、ここで引いちゃダメだ

 

 このまま陽介に甘えてたらダメ

 

蘭「あたしたち、付き合い始めてから結構経つよね......?///」

陽介「まぁ、4年くらいになるな。。」

蘭「それで、同棲を始めて3年目、だよね......?///」

陽介「そうだな?」

 

 こうやって振り返ってみると、結構長い

 

 少し考えてみれば、頃合いだったのかもしれない

 

蘭「......だから、あのね......?///」

陽介「?」

蘭「キスの続き、しようよ......///」

陽介「え?」

 

 陽介は驚いた顔をしてる

 

 あたしは構わず、そんな陽介を抱きしめて

 

 出来るだけ、体を当ててる

 

 お酒なかったら絶対にできないよ、こんなの

 

蘭「陽介も、我慢してたよね......///」

陽介「い、いや、そう言うのは結婚してからの方がいいんじゃないか?」

蘭「あたしは、陽介に全部貰ってほしい///陽介に我慢してほしくない///」

 

 あたしはそう言葉を並べた

 

 陽介はあたしの目を真っすぐ見てる

 

 その隻眼の瞳は真剣で、それでいて奥に優しさが滲んでて、陽介らしい綺麗な目をしてる

 

陽介「そっか......(バレちゃってたか。)」

 

 陽介は少し眉間を抑えた

 

 そして、何秒かして、あたしの肩を掴んできた

 

 顔と顔の距離が近くて、ドキッとする

 

陽介「ごめん、蘭。」

蘭「ううん、こっちこそ__」

陽介「俺、いつもみたいに自分を抑えられる自信ない。」

蘭「__え......?///」

 

 陽介はそう言うと、あたしを無理やり立たせ

 

 そして、ぎゅっと抱きしめてくれた

 

 暖かくて、嬉しくて

 

 あたしも陽介の背中に腕を回した

 

陽介(これは、誕生日プレゼントは明日の朝かな。)

蘭「優しく、してね......?///」

陽介「......あぁ、分かってるよ。蘭。」

 

 そんな会話をした後、あたし達は寝室に入った

 

 そのあとの事は少し、夢みたいでぼんやりとしてる

 

 けど、すごく幸せだったことと

 

 最後、結婚しようって言われたのは確かに覚えてる

 

 これが、あたしの21歳の誕生日の出来事だった

 

 

 



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END 新しいスタート

 蘭と付き合ってから10年が経った

 

 これまで、色々あった

 

 蘭と結婚したい人が現れて一悶着あったり

 

 2人で喧嘩したり、挫折したりもした

 

陽介(......本当に、大変だった。)

 

 けど、俺と蘭はその日々を全部、糧にした

 

 だから、ここまで来れた

 

 2人でずっと、長い旅路を歩くことが出来た

 

蘭「__陽介、どうしたの?」

陽介「少し、今までの事を思い出してただけだよ。」

 

 今日は、俺と蘭の結婚式

 

 そして、今は披露宴の真っ最中だ

 

 今回の料理は会場の厨房を借りて俺が作った

 

 理由はまぁ、みんなからのゴリ押しで

 

蘭「みんな、喜んでくれてるじゃん。よかったね。」

陽介「本当に良かったよ。人生で3番目に緊張したし。」

蘭「ふふっ、陽介、徹夜でメニューとかレシピ考えてたもんね。」

陽介「まぁ、好き嫌いとか全部チェックして、色々してたからな。」

チュチュ「__陽介。」

パレオ「来ましたよ~!」

陽介、蘭「!」

 

 蘭と話してると向こうからチュチュが歩いてきた

 

 成長したチュチュの姿は正に淑女と言った感じで

 

 背もグンと伸びて、もう誰もが認める立派なレディだ

 

 その横には昔のままパレオが控えている

 

 パレオは元々高かった背がさらに伸び

 

 今日は黒髪を下ろして、落ち着いた格好をしてる

 

 まぁ、態度は元気そのものだけど

 

陽介「楽しめてるか?」

チュチュ「of course.素晴らしい料理に幸せそうな新婚夫婦、これ以上、私が求めるものはないわ。」

パレオ「幸せここに極まれり!ですね!」

蘭「よかったです、お義母さん。」

チュチュ「......未だにそう言われるのは慣れないわね。」

 

 チュチュは困った顔でそう言った

 

 年上の母親扱いは思うところがあるんだろう

 

 でも、俺にとってチュチュは母親みたいなものだったし

 

 間違いじゃないから、本人も否定できないらしい

 

パレオ「チュチュ様がお母様なら、パレオはどのポジションになるのでしょうか?」

陽介「んー、妹でいいんじゃないか?」

パレオ「あ、そうですね!お兄様!」

陽介「そ、その呼び方はちょっと......」

パレオ「えぇ!?自分で言ったじゃないですか!?」

蘭、チュチュ「ふふっ。」

 

 俺とパレオのやり取りを見て、2人が笑った

 

 いや、流石に今になってあの呼ばれ方はキツイ

 

 今まで通りにしといてもらおう

 

 うん、それがいい

 

チュチュ「まぁ、長居しても他が来にくいし、言いたいことを言って戻るわ。」

陽介「言いたいこと?」

チュチュ「そうね......」

 

 チュチュは考える仕草を見せ

 

 少しして、俺の方を見た

 

チュチュ「......初めて会ったあの日、いつ死んでもおかしくないような顔をしてたあなたが幸せになってくれて、本当に良かった。」

陽介「!」

チュチュ「居候から家族になって、あなたの母親と言われるようになって、複雑だけど、悪くないと思ってるわ。だから、だから......」

陽介、蘭、パレオ(な、泣いて......!)

チュチュ「もっと、幸せになりなさい!母からの命令よ!妥協は......私が許さないんだから!」

パレオ「あっ、チュチュ様!わ、私もついて行きますね!」

 

 チュチュは泣きながらどこかに歩いて行った

 

 パレオもそれに慌ててついて行った

 

陽介「チュチュ......」

蘭「ほんと、いいお義母さんだね。」

陽介「自慢の家族だよ。永遠に......」

蘭「これから、親孝行だね。」

陽介「うん。」

モカ「__おやおや~、しんみりしてますな~。」

つぐみ「えっと、今、大丈夫かな?」

 

 少し涙目になってると

 

 今度は青葉と羽沢が歩いてきた

 

 2人とも、少しだけ笑ってる気がする

 

モカ「ようくんってマザコンだよね~。気をつけなよ、蘭~。」

蘭「大丈夫。もう知ってるし、理解もしてるから。」

つぐみ「姑さんとは仲良くしないとね。」

陽介「なんか、俺のイメージ酷くなってないか?」

 

 いや、チュチュの事はもちろん好きだけど

 

 マザコンって言われるとそれはそれでだな

 

モカ「そんなよう君と蘭に親友であるモカちゃんからありがた~い言葉を授けよう~。」

蘭「ありがたい言葉?」

モカ「まず、蘭ね。」

蘭「!」

 

 青葉はそう言って蘭の前に立った

 

 その表情はさっきまでとは違って

 

 優しいけど、真剣にも見える

 

モカ「蘭とは幼馴染で、小さいときからずっと一緒でさ。Afterglow始めて、その中で色んなすれ違いも起きたけど、幼馴染皆でずっといられた。それはきっと、蘭が悩んでくれたからだと思ってるよ。これからも、あたしは多分、こんな調子だろうけど、これからもよろしく。よう君と幸せになってね。」

蘭「モカ......」

モカ「次、よう君ね~。」

 

 青葉は次に俺の前に来た

 

 いつもおちゃらけてる分、真剣な時の感動が大きい

 

 俺、何言われるんだろ

 

モカ「よう君は今、幸せ?」

陽介「勿論、幸せだよ。」

モカ「だったら、よかった。」

陽介「!」

 

 青葉はそう言いながら

 

 優しい手つきで俺の頬を撫でた

 

モカ「誰よりも幸せになってね。蘭はいい子だって知ってると思うけど、あたしが一番保証するから。」

陽介「......分かった。ありがとう、青葉。」

モカ「あと、あたしは生涯独身貫くからさ~、2人の子供、早く会わせてね~。」

蘭「な、何言ってんの!?///」

モカ「待ってるからね~。」

 

 青葉はそれだけ言って歩いて行った

 

 最後に爆弾落として行ったな

 

 でも、いつもの青葉で安心した

 

つぐみ「2人とも、本当におめでとう!」

陽介「ありがとう。」

蘭「ありがと、つぐみ。」

つぐみ「蘭ちゃんのドレス姿は綺麗だし、出水君もなんだか大人になって、すごく嬉しいって思ってる!」

 

 羽沢はずっといい子だ

 

 学生の時から変わらない優しい雰囲気

 

 10年たっても、羽沢は羽沢だ

 

つぐみ「これから、難しい事も大変なこともあるだろうけど、夫婦で力をあわせて頑張ってね!」

蘭「うん、頑張るよ。」

つぐみ「それでは、お幸せに!また、家にも遊びに来てね!」

陽介「あぁ、近いうちに行くよ。」

つぐみ「2人の子供も楽しみにしてるね!」

蘭「つぐみまで!?///」

陽介(め、珍しい。)

つぐみ「ふふっ、偶にはね!」

 

 羽沢も笑いながら席に戻って行った

 

 青葉はともかく、羽沢は本当に珍しい

 

 まさか、ちょっとお酒とか飲んだか?

 

 確か結構弱いって言ってたはずだし

 

蘭「......こ、子供とか考えた方がいいのかな?///」

陽介「いつかは。」

蘭「お、男の子と女の子ならどっちがいい......?///」

陽介「うーん、最初は__」

日菜「__陽介君似の女の子がいいと思うよ?」

蘭「!?」

 

 やっぱりいた

 

 この人、絶対にこっそり近づいてくると思ってた

 

 分かってればそこまで驚かないな

 

 初めて会った時が1番驚いたっけ

 

陽介「その心は?」

日菜「陽介君似ならきっと料理上手で面倒見良いだろうし、下の子が出来た時に安心かなって。」

陽介「なるほど。」

蘭「な、なんで普通に会話できるの......?」

陽介「日菜さんが急に出て来るなんていつもの事じゃないか。」

蘭「強くなったよね、陽介......」

 

 蘭は溜息を付きながらそう言った

 

 別に何年も一緒にいれば慣れるし

 

 そんなに大袈裟なことでもないと思うけど

 

日菜「いやー、2人の結婚は待ちわびたよー!ずっと楽しみにしてたんだー!」

陽介「そうなんですか?」

日菜「そうそう!ずっと余興のネタ考えてた!」

陽介「努力の方向性おかしくないですか?」

蘭「てゆうか、何するんですか?」

日菜「こう、ビューン!って飛んで、バーンって着地するの!」

陽介「それ、その服装で大丈夫ですか?スカートですよ?」

日菜「......あっ。」

 

 俺がそう言うと

 

 日菜さんはハッとした表情をした

 

 この人、やっぱり気付いてなかった

 

 てゆうか、危なすぎる

 

 一応、言ってよかった

 

日菜「だから、おねーちゃんはやめておきなさいって言ってたんだ。」

蘭「その時点で気付かないのは相当ヤバくないですか?」

陽介「まぁまぁ、日菜さん、ずっとこんな感じだから。」

日菜「やっぱり、陽介君のあたしへのイメージって酷いの?」

陽介「いえいえ、可愛いと思ってますよ。パスパレも応援してますし。」

 

 多分、この人を弄れるの俺くらいだろう

 

 氷川さんも驚いてたくらいだし

 

日菜「じゃあ、いいや!」

蘭「いいんだ。」

日菜「あんまり2人のこと邪魔してもだし、あたしは行くよー!また遊びに行くね!陽介君、蘭ちゃん!」

陽介「いいですけど、また飲み過ぎて氷川さんに迎えに来てもらうなんてことは勘弁ですよ?」

日菜「うっ、そ、それは善処するよ!」

蘭(この人、陽介に弱すぎるでしょ。)

 

 日菜さんはそそくさと逃げるように去って行った

 

 天才アイドルもああなっては形無しだ

 

 まぁ、それが俺がファンでいる理由でもあるけど

 

蘭「天才も形無しってやつだね。」

陽介「俺もそう思ってた。」

蘭「あれなら、あたしでも推せそう。」

陽介「一緒にライブ行くか?楽しいぞ?」

蘭「旦那がアイドルオタクになってる。」

陽介「それほどじゃないって(多分)」

 

 いや、もしかしたらそうかもしれない

 

 趣味は何ですかって言われればパスパレだし

 

 料理は仕事になっちゃったし

 

 あれ、もしかして、俺はアイドルオタクになったのか?

 

 まぁ、いいや

 

友希那「__陽介、美竹さん。来たわよ。」

陽介「あ、湊さん!」

蘭「こんにちは。今日はありがとうございます。」

友希那「2人の晴れ舞台だもの。気にしなくてもいいわ。」

 

 湊さんは相変わらず素敵な人だ

 

 どんな時も相談に乗ってくれたし

 

 蘭と喧嘩して俺が落ち込んだ時

 

 悪い所は怒ってくれた

 

友希那「陽介、美竹さんは素敵な人よ?横に立つ夫として、今まで以上に服装に気を使ったり、オシャレをするのよ?」

陽介「はい、分かってます。」

友希那「困ったときはまた相談に来なさい。いつでも、陽介のためなら時間を空けるわ。」

陽介「ありがとうございます、湊さん。」

 

 こういう感じだ

 

 湊さんは姉のような存在になった

 

 俺も蘭も半ば、頭が上がらないようになってる

 

 蘭まで、だ

 

友希那「美竹さんは、無茶をする陽介を支えてあげて欲しいわ。この子、責任感が強すぎるあまり平気で徹夜をしたりする子だから。あなたがいいブレーキになって、そして、辛いときは陽介を頼って、素敵な夫婦になってくれることを祈っているわ。」

蘭「ありがとうございます、湊さん。」

友希那「あと、私の事はお義姉さんと呼びなさい。」

蘭「すみません、それはちょっと。」

友希那「そう......」

 

 湊さんは残念そうな声を出した

 

 蘭としても、高校時代があるから複雑なんだろう

 

 まぁ、お義姉さんと呼ぶのは少し見てみたいけど

 

友希那「それはもういいわ。」

陽介(あ、いいんだ。)

友希那「言いたいことは言えたし、呼び方はこれからよ。」

蘭(諦めないんだ。)

友希那「また、2人の家にお邪魔するわ。独身の姉を労わってもらいに。」

陽介「いつでも来てください。」

友希那「ふふっ、あなた達の子供の名前でも考えておくわ。」

 

 湊さんは微笑みながら自分の席へ戻って行った

 

 みんな、気が早いな

 

 子供なんてまだまだ......とは言えないけど

 

 もう少しだけ先になると思うし

 

 いやでも、もう考えて置いた方がいいのか?

 

 経済的な不安も俺と蘭は少ないし

 

蘭「みんな、あたし達の子供に興味津々だね。」

陽介「まぁ、本気と冗談が半分ずつって感じだと思う。」

蘭「確かに、そういうメンバーだもんね。」

六花「__陽介さん、蘭先輩!」

陽介「あ、六花。佐藤も!」

ますき「よっ、来たぞー。」

 

 今度は佐藤と六花だ

 

 2人とも、こういう服着てるの初めて見たかも

 

 佐藤は髪伸ばして、見た目から口調が想像できない

 

 六花は普通に似合ってる

 

 大分大人っぽくなって、高校の時の面影が薄れつつある

 

ますき「いやー、陽介があんな人前でキスするなんてなー。成長しやがってー。」

陽介「あ、改めて言われると恥ずかしいからやめてくれ......」

ますき「別にいいだろ。私に見られるなんて初めての事でもないし。」

六花「そうなんですか?」

ますき「あぁ。そりゃあもう濃密な__」

蘭「や、やめてやめて!///」

陽介「それ以上は教育によくないぞ!?」

ますき「誰のだよ。成人ばっかだろ。」

 

 佐藤は呆れたような声でそう言った

 

 実際、見られてるんだよな

 

 あんなところでしてる俺達が悪いんだけど

 

 あの時は大変だった

 

ますき「まぁ、いいや。ロック、なんか言ってやれよ。」

六花「え?」

ますき「ほら、言いたいことあるんだろ?」

陽介「なんでも言ってみてくれ。」

蘭「六花はちょっと気になる。」

六花「えっと......」

 

 みんなの視線が六花に集まってる

 

 六花は少しだけ慌てた様子を見せ

 

 少しして、口を開いた

 

六花「......正直、2人が付き合ったとき、悔しいと思ってました。」

陽介、蘭「!」

六花「出来れば、私が陽介さんを幸せにしたいと思ってたし、学生時代、なんで自分が隣にいないのかって思ったこともありました。」

陽介「六花......」

六花「でも、今は満足してます。あの顔を知ってるからこそ、今、本当に幸せなんだって思えて......私じゃなくてよかったのかもしれないって。」

 

 六花はずっと笑ってた

 

 学生時代、俺が蘭の話をしても

 

 ずっと、笑って聞いてくれてた

 

 けど、本当はこうだったなんて

 

 申し訳ない気持ちが出て来る

 

六花「だから、幸せになってくださいね!陽介さん!」

陽介「......うん。」

ますき「おいおい、そんな顔すんなってー。」

蘭「マスキング?」

ますき「ほら、誓いがあるんだろ?」

蘭「?(誓い?)」

 

 この誓いと言うのは

 

 俺と佐藤が大学時代

 

 コーヒー飲みながら近況報告してるとき

 

 よく分からない流れから生まれた

 

ますき「折角だし、彼女......いや、嫁にも言ってやれよ。ほら。」

陽介「あー、もう......」

蘭「え、な、なに?」

六花「あー(察し)」

 

 佐藤が突き出して来た拳に自分の拳を合わせた

 

 なんで今、してんのか分からないけど

 

 もう、いいや

 

陽介「俺は誰よりも不平等に蘭を幸せにする。」

蘭「!!///」

ますき「覚えてんじゃねぇか。」

陽介「実際、そのつもりでずっと蘭といたからな。」

 

 俺はこの場で何言ってんだ

 

 佐藤、相変わらず滅茶苦茶な奴だ

 

 でも、面白いし、オッケーだな

 

ますき「気張れよ、相棒。お前の仕事はまだまだこれからなんだからな。」

陽介「分かってる。」

ますき「蘭も、こいつは頭がいいがバカだ。だが、私が認めたかっこいい男でもある。絶対、幸せにしてくれる。」

蘭「うん、ありがとう......///」

ますき「ふっ、可愛い奴だ。」

六花「もう行くんですか?」

ますき「どうせ、2次会あるだろ?これ以上弄るのは、その時でいい。」

陽介「恐ろしい前振りをするな。」

 

 溜息を付きながらそう言った

 

 そうだ、2次会だ

 

 絶対にそこで弄られまくるじゃん

 

ますき「じゃあな、新婚夫婦。また後でー。」

六花「失礼します!」

蘭「う、うん。」

陽介「六花まで今回は乗り気なのか。」

 

 佐藤と六花は向こうに歩いて行った

 

 うわぁ、2次会、怖いなぁ

 

 今日は羽沢も若干危ないし

 

 青葉とかはもう確定じゃん

 

蘭「ね、ねぇ、陽介?///」

陽介「どうした?」

蘭「さっきのって、本当......?///」

陽介「あー、うん。」

 

 本人に聞かれると恥ずかしいな

 

 穴があったら入りたい

 

陽介「えーっと、蘭?」

蘭「は、はい......///」

陽介「これからを大前提としてさ、これまで、俺は蘭をちゃんと幸せにできてるか?」

蘭「それは......///」

陽介「!」

 

 蘭は顔を赤らめ

 

 静かに手を握ってきた

 

 そして、小声でこう言った

 

蘭「......勿論、ずっと幸せだよっ///」

陽介「よかった。なら、大丈夫だ。」

蘭「ううん、ダメ///」

陽介「?」

 

 蘭の手を握る力が強くなった

 

 それでもそこまで強くないあたり可愛い

 

 それにしても、どうしたんだろう

 

蘭「これからも幸せにしてくれないとっ///不平等に///」

陽介「あ、そういう事か。」

蘭「してくれるよね?///旦那様///」

陽介「勿論、任せてくれ。」

蘭「うん、大好きだよ///」

 

 俺は蘭の問いかけに答え

 

 それを聞いた蘭は嬉しそうな表情をしていて

 

 この上なく、可愛いと思った

 

 俺はこれから、この子をもっと幸せにしないといけない

 

 だから、ここはゴールじゃない

 

 俺と蘭、2人で生きる新しい人生のスタートだ

 

 

 

 




これにて完結です。
ありがとうございました。

(タイトル変えると言って変えてない)


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