いつの間にかハイスクールD×Dの木場君? (ユキアン)
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第1話

やあ皆、君たちは転生を信じるかい?僕は信じてなかった。うん、過去形。何が言いたいかと言うと転生しちゃった(笑)

 

別に子供を助けようとして車に跳ねられたりした訳じゃない。前世の一番最後の記憶は部屋がもの凄い勢いで揺れていた事位しかはっきりと覚えていない。おそらくは地震だろう。そしていつの間にか赤ん坊として生まれ変わっていた。しかも前世とは違う世界だと思う。何故分かるかって?それにはまず僕の家族について説明しなければならない。

 

僕は教会の入り口に捨てられていた孤児で、そのまま教会が経営する孤児院に入れられた。その事に関しては別に気にしない。僕の意識がはっきりした時には既に捨てられた後だったから。年老いた神父様が僕の父親で、神父様の奥さんが僕のお母さん、そして一緒の境遇の孤児が僕の兄弟。それで良いじゃないか。

 

前世では無宗教だったが、それは宗教に触れる機会が葬式とか正月やクリスマスなど、まあ普通の日本人だったからだし、ちょっと触れてみれば面白いと感じられたからそれを受け入れた。それなりに戒律はあるけどそれを守って生きていこうと思う。なんだかんだで命を救われているからね。宗教の話は此所までにしておこう。面倒な事が多いからね。

 

そして5歳の時に、僕達はとある方と出会った。ぶっちゃけると本物の天使様と。周りの兄弟達が目を輝かせている中、僕だけは唖然としていた。前世にも居たのかなと思ったのだが、僕には神から与えられた力があるから同じ力を持つ者達の元に来る様にと言われた。その次の日には荷物を纏めてイタリアにまで送られてしまった。

 

え?5歳の子供をいきなり外国に送り込むの?ちょっと待って、英語ならともかくイタリア語なんて知らないから。というかこれからどうすれば良いのか知らないんですけど。そう思っていたのだが、向こうの空港に迎えの人が来ていた。神父服って目立つんだよね。とりあえず近づいて見たのだが、どう話しかけて良いのやら全く分からなかったが、向こうの人は普通に日本語を話せたので助かった。何でも翻訳魔法みたいな物があるらしい。何それ、めちゃくちゃ覚えたい。海外旅行が楽になりそうだ。

 

その後、そのままバチカンまで連れて行かれる。何でも僕と同じで神器、神から与えられた力を持つ中でも、今回は剣に関する力を持っている同年代が集められているらしい。神から与えられた剣か。神造兵器と言われると前世で好きだった7人の魔術師と英雄が殺し合うゲームを思い出す。エクスカリバーとかだといいなぁ~とか声に出すと、あるらしい。折れて7本の新しい聖剣に作り直したらしいけど本物が。え?この世界じゃあ、神話って本当にあった事なの?

 

聞いて見ると本当にあった事で英雄の肉体を持って産まれて来る者もいれば魂を受け継いで産まれてくる者もいるし、各神話の神々も存在しているそうだ。なんと言うパワーインフレの世界なんだ。戦いには巻き込まれたくないなぁ。普通に神父様になって暮らそうと思ってたのに。なんかエクソシストとかも居て、悪魔とか堕天使とかと戦っている教会関係者も居るんだって。もしかしてイスカリオテもあるのかな?ちなみに僕もそっち方面で期待されているらしい。

 

勘弁して下さい、えっ、ウチの神父様も元エクソシストで結構有名だったの?そう言えばなんかライトセイバーの柄みたいなのが部屋に幾つか置いてあったけどあれってエクソシストの武器なの?聞いて見るとそうらしい。通常はそのライトセイバーと銃を持って戦うのが基本らしい。ウチの神父様は普通のライトセイバーと投擲用の短いライトセイバーを持って戦うのが基本だったらしい。

 

そんな話をしながらとある聖堂へと連れて行かれた。そこには既に多くの子供が集められていた。人種は様々だけど、みんな揃って十字架を首に掛けている。そう言う僕も神父様に飛行機に乗る前に掛けられている。天使様が作った身分証明用の物らしいので外さない様にと言われている。

 

僕が一番最後だったのか、僕が聖堂に到着すると同時に先日とは違う天使様が現れた。これから一人ずつ神から授かった力、神器を出す儀式を行うらしい。まずは右手を上げて降ろし、自分が一番強いと思う剣を使う人物の一番強いと思う姿を想像し、それを真似るのだそうだ。そんな事で神器が出せるのかと疑問に思うのだが、強く念じる必要があるらしい。なるほどと思いつつ考える。

 

僕が一番強いと思う剣を使う人物か。考えが終わる前に他の子供達が次々に神器を召還していく。殆どの子供がその地方の神話の神々や英雄の真似をして、色々な剣が現れる。それがどんな物なのかを天使様が説明して下さる。そしてとうとう僕の番になったのだが、未だに一番強いという人物が決まらない。

 

戦場は常に虚ろで、状況によっては際弱が最強に勝つこともある。常勝不敗の人物など、僕は知らない。ああ、だけど、自分を殺してまで戦い続け、裏切られようとも一人も恨まずに死んでいき、英霊となって真の答えを得た変わり者が居たな。彼の心のあり方は僕は強いと思う。

 

右手を上げて降ろし、目を瞑ってアレの詠唱を始める。

 

「I am the bone of my sword.」

 

一度詠唱を始めると頭に次々と詠唱が思い浮かぶ。

 

「Steel is my body, and fire is my blood.」

 

様々な剣が思い浮かぶ。前世の漫画などで見た物や、彼が見て来た物が。

 

「I have created over a thousand blades.」

 

身体の中で何かが熱くなっていくのが分かる。

 

「Unknown to Death.」

 

周りでみんなが困惑しているが関係ない。

 

「Nor known to Life.」

 

知らないはずの知識や経験が僕に刻み込まれていく。

 

「Have withstood pain to create many weapons.」

 

彼の思いが世界を超えて流れ込んでくる。

 

「Yet, those hands will never hold anything」

 

そして前世の記憶が記録になっていく。

 

「So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS.」

 

詠唱の完了と同時に自分の中の何かが弾け、床一面に様々な聖剣、魔剣、名剣、無銘の剣が突き刺さる光景を見て、そこで意識が無くなる。

 

 

 

 

 

 

次に目を覚ますと何処かのベッドに寝かされていた。身体を起こして自分の身体を調べる。前世の事は思い出せるが、まるで本を読んでいる様な感覚で現実味が無い。それから自分の中に何かがあり、そこに意識を集中しながら剣を想像すると自分で思った所に剣が現れる。またアーチャーとは違い、槍などは出せないが形はある程度変形させて出す事は出来る。大きさも自由自在で姿は同じでも能力は別にする事も出来る。消すことは出来ないが折れば消えるので今まで出した分を折っていく。

 

アーチャーの経験も身体に刻まれたおかげでそれなりに動く事も出来る。さすがに5歳児での動き方はアーチャーにも無いので成長に合わせて摺り合わせていくしかないのだろう。アーチャーの記憶もあるけど、前世の記憶と同じく現実味がないので『正義の味方』に引きずられる事もなさそうだ。そこまで確認した所で誰かが部屋に入って来た。

 

「目を覚ました様ですね」

 

部屋に入って来たのは女性の天使様だったのだが、問題なのは背中の翼の枚数が多いという事だ。ここに来るまでの案内をしてくれた人の話によると基本的に上位に成る程翼の数が多いのだが、目の前に居る方は最低でも上位級、もしかしたら最上位級の方である可能性がある。

 

「そのままで結構ですよ」

 

頭を下げようとした所で天使様から止められる。

 

「貴方に、色々と聞きたい事があるのですが、構いませんか?」

 

「はい、僕に答えられる事なら何なりと、天使様」

 

「ああ、自己紹介がまだでしたね。私はガブリエル」

 

予想以上の方が出て来られた!?何故そんなトップクラスの天使が!?

 

「木場祐斗です」

 

「では、祐斗さん。貴方に問います。貴方があの神器を出す際に想像していたのは誰ですか?」

 

「……此所とは違う世界に置いて、9を救うために1を切り捨て続けて来た英雄であり、化け物である男です。悩んでいた際に、ふっと頭の中に思い浮かんで来たのです。彼の全てが。あの詩は彼の一生を綴った物と思われます」

 

どう言おうか悩んでけど、事実だけを言えば良いだろう。

 

「そうですか。嘘はないようですね」

 

危なかった。やはり嘘発見用の術式とかがあったみたいだ。下手に誤摩化さなくて良かった。

 

「貴方の神器なのですが、何があったのか本来の物が変質した様です。本来の物は魔剣創造、あらゆる属性の魔剣を造り出せる物なのですが、あの時造り出された剣は魔剣、聖剣、名剣、一般的な剣など無作為に造り出されていました。込められている力も普通の物よりも強力でした。魔剣創造の聖剣版である聖剣創造で作った物と打ち合わせてみた所、一振りが百振りを叩き折って、なお健在している物もありました。また殆どの剣が特殊な能力も備えていましたが詳細が判明した物は半分以下です。貴方には分かりますか?」

 

「基本は伝説や神話で登場した剣のはずです。どれが何なのかは見て触れれば、分かると思います」

 

アーチャーと混ざった今の僕には解析位なら可能だ。最も、剣と自分の身体位しかまともに解析出来そうにないけどね。

 

「そうですか。なら疲れている所悪いのですが、判別を行ってもらえますか?」

 

「はい。その前に聞きたいのですが、僕が倒れたのは何が原因だったのでしょうか?」

 

「力の使い過ぎです。アレだけの量と質の剣を作ったことで貴方の魔力が尽きたことが原因です」

 

やはりそうなのか。そちらの方も追々鍛える必要があるな。主に生き残るために。

 

「なるほど、ありがとうございます」

 

ガブリエル様直々に案内されて剣が保管されている場所まで行く。魔力を持たない普通の剣は既に別の場所に運び込まれたそうだが、魔剣を処分しようとして負傷した者が居るので迂闊に触れないので聖堂に突き刺さったままになっている。

 

「とりあえず、聖剣と魔力が籠っているだけの魔剣を分けて下さい。呪い付きの方は後々処分の方法を考えます」

 

「分かりました」

 

とりあえず近くに有った聖剣から順に解析をかける。

 

「ガラティーン、グラム、ダモクレスの剣、リジル、アスカロン、バルムンク、ラハイヤン、天叢雲剣、十束剣、カラドボルグ、ミスティテイン、フラガラッハ、アロンダイト、魔剣の性質を持ったグラム、ここら辺のは魔剣ばっかか、バルムンク、ティルヴィング、レーヴァテイン、アロンダイト?ああ、アーサー王を裏切った後の物か、それから村雨?一人も斬ってないから妖刀らしくないな、これはノートゥング?グラムのモデルになった奴だっけ?十束剣、布都御魂剣、エクスカリパー?」

 

「エクスカリバーですって!?」

 

ガブリエル様が驚いているが、こいつは偽物だ。

 

「いえ、エクスカリパーです。能力は、どんな防御も無視して絶対にかすり傷を負わせる?剣として使わなければ強力?彼の世界にあったのか?こっちはゾンビキラー?アンデット系統を一撃で葬るみたいですね。次は、TCM?10種類の剣に変化する剣か。内容は鋼鉄、爆発、加速、封印、氷炎、真空、重力、光、羅刹、浄化か。ただし所有者を選ぶ。使えないと。鎧の魔剣?鎧化の呪文を唱えると雷撃以外の攻撃を防ぐ鎧に変化するのか。覇者の剣レプリカ?レプリカなので性能は劣化しているが量産品よりは強い。その横が本物か。レプリカは要らないと。次は、見るからに剣じゃないのに何かの力を感じる、首領パッチソード。ただのネギだね。なんか変なのが混じりだしてきたな。この3本は兄弟剣か。フレイムタン、サンダーブレード、アイスブランド、炎、雷、氷を操れる剣。次が、危ない!!」

 

次に触れようとした物は見た目的には変わった形をしているだけだが、直感が告げている。こいつは精神を一気に汚染してくると、それどころか世界をも汚染すると。こいつだけは今此所で破壊する必要がある。

 

「どうかしたのですか?」

 

「離れていて下さい。無意識だったとはいえ、こいつは作られてはいけなかった。すぐに存在を抹消しなければならないんです」

 

僕の身体の中にある神器にありったけの体力と気力を注ぎ込み最も有名であろう剣を作り上げる。こいつでなら行けるはず。残しておいた魔力を造り出した剣、エクスカリバーに注ぎ込んで振り下ろす。世界を汚染する剣は塵一つ残すこと無く、極光に飲み込まれて消えていく。エクスカリバーを杖代わりに身体を支える。他にヤバい物が無いかを確認する。世界を汚染する様な物は、もう残っていないようだ。精神を汚染する物は他にも有るようだが。そっちも先に破壊してしまおう。もう一度エクスカリバーを作り出すのは骨が折れる。身体を引きずりながら精神汚染系の剣を叩き折っていく。

 

「とりあえず、危ないのは処分し終わりました。後は、お任せします」

 

そこまで言った所で本日二度目の気絶をした。

 

 




BGMがエミヤだったのが悪い。
あと無限の剣製と魔剣創造が似ているのも悪い。
だから僕は悪くない。
Q.E.D終了。


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第2話

指が進む進む。
今日中に3話目も投稿出来るかも?


神器を目覚めさせてから、僕の生活は一変した。最初の2週間は神器を能力を確認していき、詳細まで判明した。アーチャーの使っている投影に似ているけど、それに魔剣創造の性質が混ざったようだ。また世界からの修正も知名度補正も存在していて、1本ならともかく、2本目以降を作ると質がかなり劣化するようだ。

 

まあ普通の剣にそういう能力を持たせれば問題は無いみたいだ。そんなに保たないけど複数本持てば良いだけの話だしね。収納の魔法陣なんて便利な物があるみたいだし。ちなみに『壊れた幻想』も使えるようになった。大量に作っているうちにコツを掴んだみたいだ。ちなみに変質した神器には『無限の剣製』の名を与えた。

 

その後、バチカンに留まることになった僕は生活のために翻訳魔法を習ってから日々、大量の剣を作り、魔力が尽きたら聖職者としての勉学に励みつつ、身体の方も鍛え始めた。とは言っても5歳児なので軽く運動をする程度に抑えている。

 

それから隠秘学に関しては今の所諦めた。鬼戒神なんて目立つ物が知られていないのだ。この世界には隠秘学が存在しないのかもしれない。クトゥルー神話は存在していたけど、外なる神々は居ないみたいだ。居ても困るけど、見た目的にも精神汚染的にも。いや、地球に居ないだけで自分たちの星に居るのだろうか?あまり深く考えないでおこう。こちらに対抗出来る手段が無いのだから。

 

 

 

そんな感じで3年程軟禁されていた。まあ仕方ないとは思うよ。僕の作る聖剣も魔剣もかなり強力な物だから。作れる僕は普通の人間の子供だから万が一襲われでもしたら危ないから。生活には困らないから普通に軟禁生活を楽しんでいる。結構重要な書物とかも閲覧させてもらえるから、慣れると楽しいのだ。

 

あとは、最近になってエクソシストの術式とか、天使様達が使う術式も習っている。何が無限の剣製の力を高める要因になるか分からないからね。出来れば悪魔や堕天使の術式も欲しいけど、さすがに聖職者である僕が悪魔と契約する訳にもいかない。無理矢理縛る術式とか剣を作ろうかな?もしくはルールブレイカーで契約を踏み倒すか?一応ガブリエル様に意見を上げておこう。

 

そうそう、言い忘れてたけど僕は現在ガブリエル様に保護されている。ガブリエル様には生活面などで色々とお世話になっているので個人的に実験が終わった強力な能力を持つ剣、漫画やゲームに出てくる剣を渡している。ガブリエル様は戦場に出ることはなさそうだから自然治癒強化や疲労軽減とかの普通の事務系の仕事にも使えそうな物だ。サイズも邪魔にならない様に短剣サイズで作ってある。

 

このサイズ変換はかなり重宝している。所有者に毒無効、呪い無効、洗脳無効、自然治癒強化、自然魔力回復強化、疲労軽減、重力干渉、酸素供給、各種ステータス強化、各属性無効を与える剣を各種一本ずつ最小サイズで作って体内に埋め込んである。

 

これぞチート。もう少し研究が進めば物理も無効になれる。そうなれば自由に動いても大丈夫なはずだ。いや、待てよ。逆に考えれば僕を縛れないと判断して消されるかもしれない。隠蔽系と転移系の研究も進める必要があるな。出来れば囮とかも欲しいな。要研究事項に追加しておこう。

 

 

 

 

 

それから更に2年の月日が流れた。この2年で十分な数の聖剣、魔剣が揃ったので、最近になって高位のエクソシスト様の同伴で悪魔狩りを行い始めた。とは言ってもはぐれ悪魔という主を殺して逃げ出した奴らを捜しだして殺すだけなんでけどね。

 

面倒だけど説明しよう。勢力的には悪魔、堕天使、天使の三勢力がある。これが基本ね。内部は結構細分化されるから今は置いておく。昔、この三勢力で大戦が起こり、そこに二天龍と呼ばれる2頭の竜が乱入したことで、どの勢力も壊滅的な被害を受けたんだ。このままではどの勢力も滅びてしまうので停戦し、大きな争いは無くなったんだ。そして人数を増やすために目を付けたのが人間で、契約や信仰などによって勢力を回復させていってるんだ。

 

それでまあ、同じ場所だと下の暴走が起こったりするから交渉で少しずつ裏の領地を作っていったらしい。小さな争いから再び大戦なんて起こしたくないんだ。だから新しく領地を増やす時以外は争うことなんて無いんだけど、犯罪者からすれば他の勢力の領地に逃げ込むと追手を撒き易いのだ。

 

なので一定以上の犯罪を起こして逃走した者は全ての勢力から狙われることになる。手配書もちゃんと配られるし、基本的にDEADorDEATHだからガス抜きに良いらしい。ちなみに天使の手配書は存在しない。そういうことをした時点で堕天してしまうから。

 

ちなみにこの悪魔狩り、教会内の過激派が行うと結構凄いことをする。悪魔の領地に潜入して悪魔と契約している人を瀕死に追い込み、契約している悪魔を召還した所で奇襲したりとか。ここまでやってバレると教会から追放されてはぐれエクソシストとかになる。以前までなら光力(魔力と一緒なんだけど、悪魔の使う力とは違うと言いたいが為に光力という名前が付いているだけ。本質は一緒だよ)を用いた剣を使っていて、作った天使様が許可を出さなければ使えなくなっていたんだけど、今は僕の剣が主流になっているので『壊れた幻想』で吹き飛ばしている。これだけでかなりのはぐれエクソシストを殺している。

 

まあ最初の頃は葛藤とかもあったんだけど、そこはアーチャーが混じった影響からなのかすぐに慣れてしまった。慣れって怖いね。今では普通に首を刎ねても何とも思わない。もちろん祈りを捧げるけどね。相手が悪魔だろうが堕天使だろうが天使だろうが人間だろうが死ねば皆一緒だから。

 

最近は堕天使を狩った際に残る羽をコレクションしている。これを使って何か出来ないかの研究中だ。周りには変な目で見られているけどガブリエル様直々の許可を得ているから問題無い。ミカエル様達から何かいわれない限りは。

 

物理無効に関する研究は行き詰まっている。物理無効事体は完成したのだが、能力使用中は動けない。ミスって物理法則無効を作ってしまった。完全に所有者にかかる物理法則を無効化してしまうのだ。もし体内に重力干渉、酸素供給の魔剣を埋め込んでいなかったら僕は死んでいた。まさか僕にかかる重力や大気圧が無くなるとは思ってもみなかった。おかげでボツとなった。物理無効に関しては別のアプローチを試しているが上手く行っていない。何か参考資料でもあれば良いのだが、障壁って以外と雑な技術なのだ。魔力任せに物理的、魔術的な壁を産み出す。これだけなのだ。とてもではないが参考にはならない。諦めて色々とアーチャーの記録や前世の記録から使えそうな物をピックアップして研究を進めている。

 

 

 

 

 

更に1年後、最近思うのだが、僕は聖職者らしくないと思う。一般人と関わることはほぼ無く、教会関係者か天使様達位。エクソシストとして各地へ向かう時以外は剣の作成と研究、訓練の日々。主への祈りを忘れたことは無いが、はたして僕は聖職者と言えるのだろうか?

 

まあ、存在自体が秘匿されてるしね。上の方の人とかはともかくとして下の方には一般のエクソシストと思われてるから。

ちなみに聖職者に相応しいのは誰かと教会関係者や信者が問われれば、ほとんどの者がアーシア・アルジェントと答えるだろう。まさに聖女というイメージをそのまま人に押し込めた感じの少女だ。

 

彼女の持つ『聖母の微笑』はかなり珍しい治療系の神器で、失われた腕とかはともかくとしてほぼ全ての傷を驚異的なスピードで治療出来るという物です。そしてそれを無償で行い、誰にでも救いの手を差し伸べる彼女を人々は聖女と呼び始めた。

 

ちなみに僕も治療系の剣を最近になって作れる様になった。ただし見た目的に治療じゃないし、治療を受ける側も遠慮するのでお蔵入りになってしまった。治療のために傷口周辺に斬り掛かる必要のある剣なんだ。うん、心臓に悪いよね。現在は何とか癒しのオーラだけを飛ばせないのかを研究中だ。研究と言えば面白い物が先日完成した。

 

悪魔は光力が弱点なんだけど、堕天使にはそれらしい弱点が無かった。だけど、堕天使の羽を研究していくうちに弱点を開発してしまったのだ。とりあえず対堕天使用として使ってもらったのだが、効果は絶大だったらしい。悪魔や人間相手では普通の剣なのだけど、堕天使が相手の場合のみ激痛や、切り口が焼けただれるなどの効果を発揮したそうだ。

 

この事実を知った時、僕がもう少し周りのことを気にしていれば未来は変わっていたのだと僕は振り返ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

対堕天使用の剣を造り出してから半年後、僕は世界を旅しながらの逃亡生活を送っていた。対堕天使用の剣が作れるのならいずれ対天使用、更にその先にある対神用の剣が産み出せるのではないのかと天界の上層部に思われ、刺客が放たれた。用意周到に天使様達に有効な術を施した剣を用意して、僕が謀反を起こそうとしていると騒ぎ立てたのだ。

 

刺客自体は撃退したのだが、このような状況に置かれては逃げるしか生き延びる道は無く、探索系と隠蔽系と転移系をフル活用して天界に居られたガブリエル様に別れの挨拶を告げてから本気の逃走を始めた。

 

僕の作った剣は爆破せずに残しておいたのだけれど、大半が壊されていった。残っているのは個人的な友好があった一部のエクソシストとガブリエル様にプレゼントした分、それと初日に作ったエクスカリバーだけだ。追手は完全に撒いたけど、教会の勢力圏には立ち寄れないし、他の勢力を刺激する訳にもいけないので街から街への移動は転移を使っている。

 

何でも僕が作る転移系の剣、魔力を使っている訳でもないので感知されることがまず無いのだ。これが出来るのは聖王剣コールブランドだけなのだ。しかも隠密性では僕の方が上なのだそうだ。お金の方は剣の制作費やエクソシストとしての給料が銀行にあったので、口座が凍結される前に全て引き出して収納用の魔法陣に突っ込んでいるので数年は働かなくても大丈夫だ。当分は気楽に旅を続けよう。

 

 




まさかのセリフ無しorz


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第3話

旅を初めて1年経った現在、僕はボロボロだった。特に精神的に。油断していたのが原因だ。幼い頃に無いだろうと思っていた隠秘学に連なる物が存在していて、それに触れてしまったのだ。死霊秘法(ネクロノミコン)の写本であるギリシャ語版の断片に。アーチャーの記録が無ければ確実に発狂している所だった。SAN値が直葬される所だった。

 

偶々感じた気配を辿って突入した屋敷ではぐれ悪魔を討伐した後に家捜しをしていた所、地下研究室らしき所にそれは置かれていた。それに偶々触れてしまった僕は魂を汚染されてしまった。ただの紙切れ一枚にだ。

 

現在は収納の魔法陣に放り込んだためになんとか周囲への汚染は止まったけど、僕は当分動けそうに無い。にも拘らず、この場に何体かの悪魔と、それに追われている何かが近づいて来ている。勘弁して欲しいんだけどな。

 

適当な剣を杖代わりに階段を上っていく。玄関の方まで向かうと丁度追われている方が、屋敷に飛び込んで来た。追われていたのは猫耳と尻尾が生えている少女で、酷い怪我を負っている。既に体力が尽きたのか気を失っている。確か猫又とかいう妖怪であっていたかな?そんな彼女を追う様に三人の悪魔が屋敷に入ってくる。

 

「やれやれ、一体何事ですか?」

 

猫又の少女に治療系に剣を突き刺してから、悪魔に尋ねる。傷が癒え始めていることに悪魔達が驚いているが無視する。

 

「何故此所に教会の者が居る?」

 

「はぐれの気配を辿って来ましてね。襲われたので滅したのですよ。所でこの少女をどうするおつもりで?」

 

「貴様に答える必要は無い」

 

「いえいえ、そういう訳にもいかないのでね。聖書にはこう書かれています。汝、汝が隣人を愛せとね。ここでこの少女を見捨てるのは主の意向に背くことになるのですから」

 

「そいつは妖怪だぞ!!」

 

「それがどうかしましたか?聖書の解釈は人それぞれですからね。私にとっての隣人ではない者とは罪を償おうともしない犯罪者と私に襲いかかって来る者です」

 

「……たかがエクソシストごときが!!」

 

はぁ~、プライドが高い奴が多いから悪魔って嫌いなんだよね。三人の内二人は魔法使いタイプなのか、その場で魔力を高め始め、激昂しているのが戦士タイプなのか殴り掛かってくる。相手にするのは面倒なので収納の魔法陣から先程手に入れた死霊秘法(ネクロノミコン)の写本の断片を取り出して見せ付ける。それだけで戦闘自体は終了した。

 

三人ともSAN値を直葬されて絶叫を上げたり、無気力になって倒れ込んでしまった。それを見て、アーチャーの記録を持っていて本当によかったと心から思う。だが、おかげで僕も再び汚染させてしまった。これを機に精神汚染無効系の剣を作っても良いと思った。

 

とりあえず悪魔達は気絶させてから適当に縛り上げて転がしておく。猫又の少女は傷の方は治ったのだが、多少の衰弱が見られるので客間を見つけてベッドに寝かせておく。僕も疲れきっているのだけど、何か有った時にすぐに対応出来る様に少女と同じ部屋のイスに座って眠りに着く。一応隠蔽系の剣を大量に作って結界みたいな物を敷いておいたから大丈夫だとは思う。疲れた。

 

 

 

 

 

 

 

不意に強大な力を持った悪魔が二人、街に現れたことで目が覚める。その悪魔達は明確にこの屋敷に向かって来ている。出来れば気づかれたくはないのだが、転移系の剣で逃げようかと思ったが、今逃げればやましいことがあると自供する様な物だ。僕の作る隠蔽系の剣は天界の警備すらも抜くことの出来る物だ。それを大量に作って結界を敷いているのだ。気づかれるはずが無い。

 

そう思っていたのだがその悪魔達は迷うことなくこの部屋に向かってくる。何故気づかれたのかと思ったのだが、よく考えて見るとここははぐれ悪魔が住んでいてしかも死霊秘法(ネクロノミコン)の写本なんて物を取り扱っていたのだ。そんな屋敷にぽっかりと何も感じない部屋があれば怪しいの一言に尽きる。

 

自分のミスに頭を抱えながらとりあえず少女を守る様に新たに剣を創造して結界を敷く。防御に関してはガブリエル様のお墨付きだ。簡単に抜かれることはない。まあ問題があるとすれば相手がガブリエル様達並の強者だってことかな。

 

体調は相変わらず最悪だ。体力と魔力は有り余ってるから問題無いけど、まともに戦えるかどうか分からない。何とか交渉で立ち回れると良いんだけどな。

 

そして部屋に入って来た二人の悪魔を見て、頭を抱えたくなった。ガブリエル様達並の力を持っていて、燃える様な紅い髪の男と銀色の髪のメイドの組み合わせなど四大魔王の一人であるサーゼクス・ルシファーとその妻であり最強の女王であるグレイフィアしか思い当たらない。逃げ切るのは無理だな。せめて街に入って来たのを感じた時点で逃げに徹していれば何とかなったんだけど。

 

「これは、すごいね。目の前に居ると分かっているのに今にも存在を見失いそうになる」

 

「お下がりくださいサーゼクス様。いくら人間のエクソシストとは言え此所までの装備を持っている者は報告にございません」

 

「いや、大丈夫だよ。そもそも彼は消耗している。それに敵対する意志はないようだ」

 

良かった。どうにか交渉が出来る相手のようだ。

 

「座ったままで失礼。動ける力が殆ど残ってないので」

 

「構わないよ。それより君に聞きたいことがある。その少女とはどういう関係だい?」

 

「この街に偶々寄った所、はぐれの気配がしたのでそれを討伐し終えた所に彼女が逃げ込んで来たのですよ。それを追う様に玄関に転がしている悪魔達がやって来たので話を聞こうとした所、襲いかかって来たので気絶させたのですよ」

 

「その子は妖怪なのに助けたのかい?」

 

「追って来た悪魔達にも言いましたけど聖書にはこう書かれています。汝、汝が隣人を愛せとね。聖書の解釈は人それぞれですから、私にとっての隣人ではない者とは罪を償おうともしない犯罪者と私に襲いかかって来る者です。そう説明したのに襲いかかって来たので倒したまでです。殺せば面倒なことが起こりそうでしたので命までは奪っていませんが」

 

「そうみたいだね。最も精神面では無事とは言えないみたいだけど」

 

そう言って先程までと打って変わり、濃厚な殺気が部屋一杯に溢れる。

 

「原因は僕ではないのですがね。ここのはぐれ悪魔が研究していた物。それに魂を侵された結果ですよ。触れてみますか?この世の邪悪を一つにぶち込んで混ぜ合わせた様な狂気の一片に。僕自身も侵されてこの様ですよ。もう少しで僕もあの三人の様になっていた」

 

「少し興味があるね」

 

「サーゼクス様!!」

 

「分かっているよ。興味があるだけでそれに触れようとは思わないよ。少なくとも此所に住んでいたはぐれ悪魔の今までの素性とあの三人を見れば彼の言っていることは事実だと分かるからね。ちなみにそれの正体は何なのか聞いても良いかい?」

 

「死霊秘法(ネクロノミコン)の写本の中で最も古い物とされるギリシャ語版の1ページ」

 

「たかが紙切れ1枚にここまでされるなど信じられるか!!」

 

「なら、触れてみますか?生半可な覚悟では一瞬にして喰らいつくされるぞ」

 

脅しと共に少しだけ収納の魔法陣から断片を取り出す。すぐに顔色を変える二人を見てすぐに収納し直す。

 

「……見ての通り、今ので僕に抵抗する力は完全に無くなった」

 

僕の汚染も再び侵攻し、髪の毛が金から白になり、立ち上がる気力すらなくなった。少女は結界のおかげで無事なようだ。

 

「それで、ここへは何が目的で来られたのですか?この少女を始末するというのなら、命をかけて邪魔をさせて貰いますよ」

 

「いや、逆だ。私は彼女を保護しに来たのだよ」

 

「保護?すみませんが状況がまったく読めないのですが?」

 

「ふむ、話すと長くなるから簡単に説明するけど、彼女のお姉さんが主殺しの上に色々と犯罪を起こしてね。はぐれ認定されたのだよ」

 

「そこまでは理解出来ますけど、それで何故彼女が、ああ、そういうことか。そのお姉さんと仲が良かったから手引きしたとか、色々思われたんですね」

 

「その判断で間違いないよ。だが彼女は転生悪魔ではないし、罪を犯した訳でもない。ただ一緒に暮らしていただけだ。彼女自身に罪はない。でもそれで納得しない者も多い。あの三人もそう言った考えを持つ主の者でね」

 

「なるほど。それで保護と言いますが、どうするおつもりで?」

 

「私の妹の眷属になってもらおうと考えている。無論、本人が望めばだけどね。それを断られると、申し訳ないが軟禁という形になるだろう」

 

「軟禁ですか」

 

「彼女は猫又の中でも絶滅危惧種である猫魈の生き残りでね。出来るだけ死なせたくはないからね。君が渋るのも分かるが」

 

「いえ、僕も教会で軟禁されてましたから。まあ、そこそこ良い待遇でしたから不満は無かったんです。でも、それが原因の一部で今は教会から追われている身な者で」

 

「教会から?グレイフィア、彼の手配書はあったかい?」

 

「いえ、私が知る限りでは無かったはずです」

 

「教会にとって僕の存在を知らせることは不味いですからね」

 

そう言ってから殆ど力を込めていない聖剣と魔剣と名剣を作り出す。

 

「これは!?聖剣創造と魔剣創造?だが、それだと最後の一本の説明がつかない?禁手化しているような気配もない」

 

「『無限の剣製』魔剣創造の亜種に一応位置づけられています。この1年程度で7年前から強まっていた天界の勢力の力が弱まっているはずでしょう。僕の無限の剣製はあらゆる剣を作り出せる。その力は年々強くなり、とうとう対堕天使の概念を持った剣すらも作れる様になりました。それが原因で上の方の何人かにこう思われてしまった。いずれは対天使用の剣を産み出して謀反を起こすのではないのかとね。おかげで僕は教会から逃げ出すしか生きる道が無くなった。お世話になった人達に別れを告げてから今まで逃亡生活ですよ。教会は僕の痕跡を消すために僕の作った剣の大半を破棄し、昔の武器を使っているみたいですね」

 

「……何故そんなことを話すんだい?」

 

「打算的な話ですが、僕も保護してもらいたかったからですかね?死にたくなかったから教会から逃げ出した物の、たった1年で随分と疲れました。そして死霊秘法(ネクロノミコン)の写本に侵されてしまった以上、教会に戻ることも出来なくなった。疲れ果てていても、生きるためには逃げ続けるか、誰かに保護されるしかない。そんな時に貴方に出会い、少なくとも信用出来ると思った。こんな子供に、態々自分の印象が悪くなる様なことまで教えてくれたのだから」

 

「なるほどね。それで私にどんなメリットがあるんだい?」

 

「年間で2万本の魔剣と名剣を献上しましょう。天界勢が使っていた物と同レベルの物を。それとは別に報酬を貰えるならオーダーメイドで剣を作りましょう」

 

「そんなにかい!?」

 

「少なかったですか?教会にいた頃は年間で3万本は作っていましたし、エクソシストとしても活動していましたけど?」

 

「その2万本とはこの部屋にある剣と同等なのかい?」

 

「はい。それで、どうでしょうか?」

 

「私としては構わないのだが、本当に良いのかい?悪魔になれば神に祈りを捧げることも出来なくなるのだよ?」

 

「主への祈りや十字架で激痛が走るという奴でしょう。もちろん知っています。ですが、その程度で主への信仰をやめるとでも?その程度の試練、乗り越えてみせましょうとも」

 

教会に追われようとも習慣として付いてしまっている祈りなどを捨てるわけにはいかない。初志貫徹で一生信仰していくことを決めている。激痛位我慢してみせるし、そういう耐性を持った剣を作るのも有りだ。

 

「ふ、ふはははは、聞いたかいグレイフィア。ここまではっきりと言い切るのは初めて聞いたよ」

 

「サーゼクス様、まさか」

 

「うん、気に入った。その条件で君も保護しよう。納める魔剣については後日、要望を出しておこう。忘れていたが、私はサーゼクス・ルシファー。魔王をやっている」

 

「木場祐斗です。元ガブリエル様直属のエクソシスト兼鍛冶屋をやっていました」

 

「鍛冶屋か。言い得て妙だね」

 

「自分でもそう思いますけどね。7年間ずっと剣に触れている生活でしたから」

 

「これからは教会にいた頃よりも楽しい生活が送れるはずさ。悪魔にも法はあるが緩いし、欲望に忠実ならそれで良いと僕は思っているよ。君が先程言った悪魔になろうとも神への祈りを捨てないというのも立派な欲望だ」

 

「その考えで言えば、この世には悪魔しか居ないと言っている様な物ですね。まあ生きていくには食欲と睡眠欲は満たさないといけない以上、否定出来ないんですけどね」

 

「本当におもしろい考えをするね。君の将来が楽しみだよ」

 

僕としては普通だと思っているんだけどね。

 

「それでは行こうか。彼女を守っている結界を解いてもらえるかい?」

 

「こいつでベッドの四隅に刺してある剣を折って下さい」

 

グレイフィアさんに対結界の剣を渡して叩き折ってもらう。正直、剣を振るどころか杖無しで歩ける気がしない。グレイフィアさんが少女を抱えてサーゼクス様の傍に戻る。それと同時に床に魔法陣が現れる。感覚的に転移系の物だと分かる。紋章はルシファーの物だからサーゼクス様が発動させているのだろう。

 

「では、行こうか」

 

転移が発動する時に思い出した。冥界の空気って確か純粋な人間には毒だと聞いた覚えがある。魔力を身体に埋め込んでいる魔剣に流し込んでとりあえず宇宙でも生きていられる状態を保っておく。転移すると同時に魔剣の魔力が削られていくのが分かる。あの各地のおいしい物が大好きなエクソシストの先輩が言った通りだったな。と言うか、一言欲しかったですサーゼクス様。

 

 




何故かデモベが混ざってしまいましたorz
おかしい、何故こんなことに?


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第4話

サーゼクス様に冥界に連れて来られて数日が過ぎた。この数日でようやく精神汚染によるダメージが抜けた。覚えている術式を全部試してみてだ。だが殆どが効果を示すことはなく一番効果を発揮したのがアーチャーの記録にある精神の解体清掃だったのは悲しく思う。

 

自己催眠によって意識を解体、ストレスを識域もろとも消し飛ばすという荒療治なのだが、これが僕の精神と同化してしまっている部分以外である大半の汚染の原因を吹き飛ばしてしまった。これによってようやく休息による回復が行われる様になり、なんとか動ける様にまで回復した。

 

最も髪の毛は白く染まったままだ。一番汚染が顕著に現れていた所為で元に戻らなかった。まあ気にしないけどね。さすがに全て抜け落ちたとかになると気にするけど、色位で慌てたりしない。いざとなれば染めれば良いだけだしね。

 

ちなみにまだサーゼクス様の屋敷にお世話になっている。僕の体調のこともあったんだけど、問題はあの猫又の少女、塔城白音さんが周囲を威嚇し続けているためにサーゼクス様の妹さんに会わせられないのだ。僕も自分のことで精一杯だったので、会っていないのだ。

 

というわけで様子を見に行くことにする。時間は昼食を摂り終わってしばらくしてから。目的の部屋には結界が張られていて逃げ出せない様になっている。対象は妖怪だけなので僕が出たり入ったりする分には問題無い。それにしても悪魔も天使も使う術式に変わりが見えない。属性の部分とそれを効率的に働かせる部分以外違いが見当たらない。堕天使だとたまにオリジナルらしき物とかあっておもしろかったんだけどね。こっちでもそういう物を捜してみよう。

 

マナーとしてドアをノックして返事を待つ。無反応だったのでもう一度ノックをして反応を待っているが返事はない。仕方ないのでドアを開いて部屋に入ると同時に殺気を感じて普通の大剣を盾として作り出す。

 

「にゃう!?」

 

急に現れた障害物を躱すことが出来ずに顔面をぶつけたようだ。

 

「大丈夫?」

 

「……大丈夫じゃないです」

 

僅かだけど血の臭いがするから鼻血でも出しているのだろう。大剣の向こう側に居る塔城さんにポケットティッシュを渡す。

 

「すみません」

 

しばらくの間、微妙な空気が流れる。なんと言うか、色々と失敗した気がする。この空気をどうしようか考える。

 

「……ありがとうございました」

 

そう言って半分位減ったポケットティッシュが返される。

 

「それで、貴方は何者なんですか?今まで部屋に来た人達とは根本的に臭いが違います」

 

「覚えているか分からないけど、君が気を失う直前に飛び込んだ屋敷のはぐれ悪魔を討伐していたエクソシストだよ。最も、教会はクビになっているからボランティアだけどね」

 

エクソシストという単語に反応して塔城さんが一気に離れるのを感じた。

 

「ああ、大丈夫だよ。君を討つつもりは無いよ。僕は変わり者でね。罪を償おうとしない犯罪者と僕を殺そうと襲いかかってくる者以外を滅するつもりは無いんだ。それにしばらくすれば転生悪魔になるしね」

 

「……本当に変わり者です。何も考えていないんですか?」

 

「そう見えるかい?なら、そうなのかもね」

 

「自分のことなのにそれで良いんですか?」

 

「他人からの評価を気にしないで生きていたからね。そのおかげで教会から追われることになったんだけど、今は関係ないから置いておこう。君のことはサーゼクス様から少し聞いてね。これからどうするつもりだい?」

 

「……それは」

 

「ちなみに僕が考えつく君が取れる道は三つだ。一つ、このまま軟禁生活を続ける。その内無理矢理でも子供を作らされるかもしれないね。絶滅危惧種である猫魈の数を増やすために。あんまりオススメ出来ないけど、安全ではある。

 

二つ、サーゼクス様の妹さんの眷属、つまりは転生悪魔になる。悪魔としての仕事やレーティングゲームを行ったり、はぐれ悪魔の討伐や小競り合いだろうけど天界、堕天使勢との戦闘もあるだろう。そこそこに危険ではあるね。ただし、軟禁生活よりは自由を得られる。元エクソシストだからあまり悪魔のことには詳しくないけど、大体は領地での契約などを行うから領地内では好きに出来ると思うよ。僕が掲示出来る中では一番オススメだね。無理矢理子供を作らされることもたぶん無いと思うし、好きな相手を選ぶことも出来るだろうね。もちろん時期も。悪魔は欲望に忠実であれば良いとサーゼクス様は言っているからね。ある程度は好きに生きれる。上級悪魔になれば独り立ちすることも出来るらしいし。

 

三つ、此所から逃げ出して手配されるか。力が無いとすぐに捕まるだろうし、自由も束縛されるだろうね。逃げ切れたとしても安寧は手に入らない。1年程逃亡生活を続けたけど、結構淋しいんだ。どんどん周囲のことが信じられなくなって人目を避ける様になって、そして疲れ果てるんだ。あれはキツい。まあ運が良ければ似た様な境遇の集団に合流出来るかもしれない。殆ど無理だろうけどね。だからオススメしないよ。だけど絶対に自分の力だけでやりたい何かがあるのなら、これを選ぶしか無い。勢力に縛られない自由を得るにはこれしか無い。悩む猶予は後数日と言った所かな。

 

ああ、もう一つだけあったか。ここで命を絶つかだ。悪魔の駒の蘇生は死後数時間が限界だ。時間さえ計れば、死ぬことは出来るだろう」

 

即死と転生批判の概念を持たせたナイフを作り出して床に置いておく。

 

「死にたいなら、使うと良い。痛みも感じずに逝ける」

 

言いたいことは言ったので盾にしていた大剣を担いで部屋を出る。さて、この大剣をどうしようか?

 

 

 

 

 

 

 

翌日も同じ時間位に部屋を訪ね、ノックをする。

 

「はい」

 

今日は返事をもらえた。部屋に入る前に昨日と同じく大剣を作って姿を隠す。

 

「……どうして姿を隠すんですか?」

 

「姿が見えない方が、言い難いことも言い易いと思ってね。さて、昨日はよく考えてみたかい?これからどうするかを」

 

「……分からないんです」

 

「何がだい?僕に答えられることなら答えよう」

 

「何故、貴方はここまでしてくれるんですか?」

 

「それは僕が元教会関係者で変わり者だからとしか答えられないね。汝、汝が隣人を愛せ。この隣人とは何処までなのかが人にとって違う。家族?友人?同じ宗教の人?昨日も言ったけど僕は罪を償おうとしない犯罪者と僕を殺そうと襲いかかってくる者以外は隣人だと思っている。神は試練しか与えてくれないけど、僕らは手の届く範囲で救いを与えることも出来る。それは素晴らしいことだと思っている」

 

「それなのに悪魔になるんですか?」

 

「悪魔であろうと関係ないよ。公私を分ければ問題無い。契約は契約、奉仕は奉仕」

 

「祈ることも出来なくなるのに?」

 

「祈ることは出来るさ。激痛付きだけどね。それ位は試練として受け入れるさ」

 

「やっぱり変です」

 

「自分でも自覚してるよ。まあ5歳から軟禁生活だったんでね。何処かズレてしまってるんだよ」

 

「……軟禁生活ですか?」

 

「そう。神器が変質してね。元は魔剣創造、あらゆる属性の魔剣を作れる能力だったんだけど無限の剣製と言う名前をつけた物に変わってね。あらゆる剣を作れる様になった上に、概念の付与まで出来る様になってしまったんだ。その力を天界の勢力の強化のために軟禁されていてね。毎日剣を作って神父としての勉強をして、寝る前に無限の剣製の研究をして。ある程度成長したらエクソシストとしての修行も始めて、高位のエクソシストと一緒にはぐれを狩ったりしていたんだ。まあ、あまり人と関わらない生活だったね。そして、とある概念の剣を作ったことで天使様達に危険視されて殺されそうになったから逃亡したんだ。それが出来るだけの力があったから。そして1年程逃亡生活を続けて今はここに居る」

 

「……苦労してたんですね」

 

「逃亡生活の最後の方以外は苦労していないよ。苦労と認識出来ていなかったからね」

 

「すみません」

 

「謝られる様なことじゃないさ。他に聞きたいことはあるかい?」

 

「……どうして悪魔になろうと思ったんですか?」

 

「……淋しくなったんだ。だから、信用出来そうな相手だったら堕天使でも良かった。一人になるには相当な覚悟が居る。何か信念が無ければ、耐えられない」

 

「……信念」

 

「今日はこの位にしておこうか。何か考えたいことがあるようだしね。明日もこれ位の時間に来るよ」

 

「あっ、はい」

 

昨日と同じく大剣を担いで部屋から出ていく。今日の大剣は中身がスカスカなので普通に折って消滅させる。

 

 

 

 

 

 

翌日、塔城さんの部屋に向かう前にサーゼクス様からの伝言を預かった。3日後にサーゼクス様の妹であるリアス・グレモリー様と顔見せを行うそうだ。だから、塔城さんにそれまでに答えを出す様に決めておいて欲しいと伝えておいてくれと。

 

3日後か。確か悪魔の駒を使っての転生にはコストがあったはず。強い者程、多くの駒が必要になる。強化に使っている魔剣とかを一度取り出しておかないといけないかな。最悪、デメリット満載の魔剣を用意した方が良いかもしれない。僕自身の能力はともかく無限の剣製のコストが分からないから。

 

最悪、一度無理矢理引き抜いて死んでから転生して元に戻してもらうのが一番だろう。抜くだけ抜いて、そのままにするのなら死霊秘法(ネクロノミコン)の写本を自動で放出する様にしておけば良いだろう。派手に自爆するために魔力も注ぎ込んで辺り一面を汚染する様にしておこう。念には念を入れておかなければ。まあ細工は塔城さんの所に行ってからでいいだろう。

 

ノックをして返事をもらってから大剣で姿を隠してドアを開ける。

 

「やあ、今日は先にサーゼクス様からの伝言を伝えるよ。3日後、それまでに答えを出して欲しいそうだ。僕も3日後に転生悪魔になって主の方に着いていかなければならないと思うから相談に乗れるのは今日も合わせて三回だ。さて何か聞きたいことや、悩んでいることはあるかい?」

 

「……ずっと考えていたんです。お姉ちゃんが、主人を殺して、私を置いていって。なんでそんなことをしたのか?分からないんです。あんなに優しかったのに、どうして」

 

「難しい悩みだ。それを晴らすためには本人に聞くしかない。となると初日に掲示した一つ目は無しだね。こちらからもあちらからも接触することが難しい。となると二つ目か三つ目となる。メリット、デメリットは昨日も話した通りだけど、今日はそのお姉さんに直接会うことに視点を合わせてみよう。

 

まずは二つ目の方のメリットから。これはある程度の自由が確保されているということだ。それを使って自分の足で捜すのも良いけど、お金を貯めて情報屋を雇うのが一番だろうね。それなりのお金を積めば確実に情報を集めてくれる。それを使って何とか接触出来るかもしれない。デメリットはある程度の監視もあるだろうから、接触が難しいということかな。お姉さんがはぐれ認定されていることが一番の問題だ。

 

続いて三つ目の方だけど、接触までの方法は情報屋が一番だ。他にも自分の足を使うのも良いし、はぐれが集っているグループに身を寄せるのも一つの手だろう。何より自由度はかなり高い。デメリットは追手が居る上に、命の危険がかなりあることだ。お金を集めるために犯罪の一つや二つに手を染めなければならないかもしれない」

 

「どうするのが一番だと思いますか?」

 

「僕的には二つ目のプランを推したい。時間はかかるかもしれないけど、お姉さんが無事なら確実に会うことが出来る。情報屋に関してもエクソシスト時代に腕のいい奴と知り合ってるからね。紹介も出来るし、なんならお金も貸そう。正直言って、三つ目を選んでも生きていけそうにないからね」

 

「そこまでして貰う訳には」

 

「そうかい?まあ、気が向いたら言ってくれ。出来る限り力を貸そう」

 

「ありがとうございます。すみません、顔もちゃんとお見せしていないのに、頼ってばかりで」

 

「気にしなくて良いですよ。では、また明日」

 

「あの」

 

「はい?」

 

「明日は、ちゃんと顔を見せてくれますか?」

 

「悩みは晴れましたか?」

 

「まだ、色々と悩んでいますけど、それでも自分がどうしたいのかだけは分かりました。あとは、私が自分で見つけないといけないことだと思うんです」

 

「声に迷いが消えましたね」

 

壁にしていた大剣を蹴り砕いて姿を現す。

 

「改めて自己紹介をしましょう。僕は木場祐斗、元ガブリエル様直属のエクソシスト兼鍛冶屋だよ」

 

「塔城白音です。猫又の妖怪です」

 

どちらからともなく握手を交わす。それにしても、やはり動くんですね、その耳と尻尾。前世の僕もアーチャーも犬よりは猫派だったのでものすごく興味があります。

 

まあ、触ったりはしませんよ。相手は年下の女性ですからね。揺れる尻尾に釣られそうになる視線を何とか固定する。塔城さんは僕の胸にある十字架に視線が釘付けになっています。

 

初めて会った天使様に頂いた十字架ですが、持ち主の居場所を突き止める術式がかかっていたので刺客を撃退した後にルールブレイカーで解呪した所、砕けてしまったのでそのままにしていたのですが冥界に来てから身を守るために聖なる力で身を守る為に、今は僕が作った剣を芯にして構築しているのですが、芯に使った剣がガラティーンの所為で昼間である現在は聖なる力が全開で放たれているのです。それを緩和する術式は施してあるのですが、やはり気になってしまいますよね。

 

「これが僕の力で産み出した聖剣です。今は無理矢理力を押さえつけている状態ですが、僕を冥界の空気から守ってくれる位には聖なる力を発してくれています」

 

魔力効率は最悪ですけどね。聖剣の恩恵無しで体内に埋め込んでいる魔剣の力を解放するよりはマシ程度です。この状態を維持するのに一日1割程削られます。自然回復量が減っていた精神汚染中はある程度緩和するまでは死を覚悟する位でした。

 

「……それを付けたままで居る気なんですか?」

 

「ええ、例え術式で抑えているとは言え、聖剣を芯とした十字架を掛け続ける。それは僕の覚悟です。何を失ったとしても、僕は信者であることをやめはしません。だから簡単に教会から逃げ出しました。祈るだけなら所属は関係ありませんから」

 

それに私の信仰の先は聖書に書かれている神に対してです。つまりは本物ではなく偶像の神に対して。そのことに激怒しそうな人も居ますが、ガブリエル様は特に何も言ってはこなかったので大丈夫でしょう。ミカエル様もです。

もしかして聖書の神って死んでるんでしょうか?深く考えると危険な気がするので忘れましょう。敵が増えると面倒ですからね。

その後は退屈しのぎの雑談をしてから別れ、3日後を待つことになりました。さて、僕達の王となる人はどんな人でしょうね。

 



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第5話

僕の主となられるリアス・グレモリー様はサーゼクス様に似た紅い髪を持った方だった。グレイフィア様に紹介され、白音さんと一緒に頭を下げる。僕の首にかかっている聖剣を芯にした十字架に眉をひそめていますが、グレイフィア様が何かを耳打ちして納得させてくれた様です。

 

そして、先に白音さんがルーク一つで転生し、僕はナイト一つで転生出来る様です。やはり魔剣に魔力を通さなければ問題無い様ですね。今の僕は年齢相応の力しかありませんから。無限の剣製もどうやらそこまでコストは高くない様です。そして悪魔の駒を埋め込まれ、身体が作り変わるのと同時に激痛が走ります。

 

「ぐっ、がああああああああああ、あああああああああああああ!!!!」

 

十字架がかかっている胸元が爛れているのがわかる。だけど十字架を捨てるわけにはいかない。全身に埋め込んでいる自然治癒促進の魔剣に魔力を全力で流し込み、破壊と再生が続けられ、やがて再生の方が勝り表面的には普通に見える様になる。そして新たに麻酔の様に痛覚を遮断する剣を体内に精製して問題無い様に見せる。

 

「はぁ、はあ、お、お見苦、しぃ、ところを、お見せ、しました」

 

「大丈夫なの?無理せずに外した方が」

 

「いえ、最初から、覚悟して、いたことです。はぁ、サーゼクス様からも、許可は頂いて、います」

 

呼吸を整えながら主となったサーゼクス様の妹であられるリアス・グレモリー様に説明を行う。

 

「お兄様がそう言っているなら良いんだけど、本当に大丈夫なの?」

 

「数日もすれば、慣れます」

 

実際、聖剣と十字架によるダメージに関しては既に対応出来ていますから。あとはこの倦怠感をなんととかすれば良いだけです。こちらも慣れればどうとでもなります。魔力はゴッソリと持っていかれますが。

 

震える膝を気力で支えて立ち上がり、仕込み杖を作って身体を支えます。白音さんが私を支えようとしますが、近づかない様に断ります。先に悪魔になっている白音さんが僕に触れれば聖なる力で火傷を負う可能性がありますから。

 

ちなみに3日間の間にそこそこの友好関係を作ることに成功しました。今世での初の友達です。孤児院では周りは兄弟ですし、教会時代は軟禁状態、エクソシストとして活動していたときに一人だけ気があったのが居たのですがすぐに彼は追放処分を受けてましたし。今更ながら淋しい生活を送っていたことに気づいてちょっとだけショックを受けてしまいました。

 

 

 

 

 

悪魔に転生して一ヶ月が過ぎました。一週間程で聖剣と十字架に対する耐性が付いてきたのですが、悪魔稼業を始める前に悪魔に関しての勉強が必要なのでグレモリー家の執事さん達に歴史や文字、マナーにレーティングゲームの勉強を見てもらっています。

 

グレモリー家では眷属も家族としてみられるので様付けで呼ばれるのは中々慣れないです。マナーに関してはグレモリー家や悪魔独自の物以外は教会時代に完璧に覚えていたので問題ありません。大戦期の歴史も大まかな部分はどの勢力でも一緒ですが、細かい部分では違いますが仕方のないことでしょう。文字に関しては若干手こずりましたが、こちらも問題無く覚えることが出来ました。

 

サーゼクス様との契約で作ることになっていた剣は一通りの勉強が終了した後にグレイフィア様がリストを持って来て下さったので、その日の内に2万本を精製して渡してあります。驚かれていましたが、これ位なら何の問題もありません。教会時代は消耗品扱いで大量に作っては折られていましたから。オーダーメイドで作った物はさすがに使い捨てにされることはありませんでしたが、普通の物は使い捨てが基本でしたからね。

 

それが終わってからは領土の一部を与えられ、そこに屋敷を用意してもらい新たな概念の研究と、死霊秘法(ネクロノミコン)の研究を始めました。精神汚染に関してはある程度緩和させる事に成功し、除去も可能となったので始めたのですが、さすがに1ページだけというのは効率が悪いとしか言いようがありませんでした。

 

内容としてはアトラック・ナチャに関する記述の様なのですが、この1ページには拘束に関する部分しか書かれていません。まあ封印系の概念に取り入れることは出来たので良かったのですが、出来れば一冊丸々欲しい所です。一カ所だけ心当たりがあるので、探索に向かいましょう。白音さんは苦戦している様なので悪魔としての仕事はまだまだ先になる様です。

 

 

 

 

持って来ている携帯食料を口にしながら夜空を見上げ溜め息をこぼす。アリゾナの砂漠を練り歩くこと三ヶ月、未だに目的の物は見つかっていない。そろそろ食料と水が底を尽きそうなので早めに見つけたいのですが、中々見つかりません。というかあるんでしょうか、最終決戦で勝利したデモンベインは?

 

アーカムという街はありましたし、覇道財閥もありましたし、総帥は兼定で娘に瑠璃が居る以上は鬼神飛翔のはずです。魔導探偵の噂も聞いた事があるのでデモンベインは此所に落ちているはずなんだけど。機械言語版の死霊秘法(ネクロノミコン)はデモンベインに搭載されているものだけだからなんとしても回収したい。最悪、覇道邸地下に侵入する必要があるかもしれないから、出来れば此所で回収したいんですけどね。

 

そしてその十日後にようやく目的の物であるデモンベインが埋まっていると思われる場所を探し当てた所で食料などが底を付いたので目印に魔剣を埋めてから一度冥界に戻り、白音さんの様子を確認してから再び食料などを補充してから一人でデモンベインの発掘を始めます。風の魔剣を作り出し、砂を吹き飛ばすと朽ちかけている鋼の巨神が姿を現します。

デモンベイン、人の為の鬼戒神、最弱無敵の魔を断つ剣。

 

これを実際に目にした所で頭を抱えたくなる。まさかデモンベインの世界とクロスしているとは思ってもみなかった。最もループを破った後の世界だったのだけは行幸と言えるだろう。ループ中の場合、意地でもシャイニング・トラペゾヘドロンの開発を行わなければならない所だった。

 

外装を取り外して内部を調べて見ると、意外にも状態は良いようで、それどころか機関である獅子の心臓が生きていることに驚きました。休眠状態のようですが、解析次第では稼働させることも可能でしょう。コックピットの方からも機械言語版の死霊秘法(ネクロノミコン)が発見されましたから当初の目的から言えば大成功とも言えるでしょう。

 

最も、これからこの機械言語版は再翻訳しなければ運用は不可能で、デモンベインも僕一人での修復は……死霊秘法(ネクロノミコン)を解析して獅子の心臓を稼働させれば自己修復でなんとか出来るでしょうか?とりあえず回収は決定ですね。収納用の魔法陣を新しく用意してデモンベインを回収して屋敷に戻ります。

 

部屋に戻るとサーゼクス様からオーダーメイドの魔剣の注文書が来ていたのでデモンベインの改修費用にちょうど良いと思い、魔剣を精製してグレモリー家本宅に届けておきます。その後は古い機械言語の勉強を行い、今の新しい機械言語に再翻訳を行う日々が続きます。それが終われば天界語と冥界語の写本も作り、厳重に封印しておきます。半分程写した所で魔術書としての力を発揮しましたから。正式な素材を使えば1ページで精神を犯しにくる戦術兵器ですから取り扱いには十分に注意しないといけません。

 

機械言語の方は機械に通さない限り、魔術書としての力は発揮出来ない様なのですが、こちらも封印しておきます。1ヶ月ぶりに屋敷から出て白音さんの様子を見に行きます。その間に魔剣を作った報酬で得たお金を使って人(人?)を雇い、地下を掘る様に依頼しておきます。そろそろデモンベインを本格的に調べたいですからね。

 

未だに白音さんは知識を詰め込むのに時間がかかっている様です。まあ語学は面倒ですからね。今は客間で休んでいると聞かされてそちらまで案内してもらいます。広すぎるんですよグレモリー邸って。貴族としてある程度の見栄を張る必要があるのは理解しますが、無駄も多いと感じてしまいます。孤児院時代と教会時代は清貧生活が普通でしたから、どうにも落ち着かないんですよね。自分の屋敷でも基本的には研究室に簡易のベッドを持ち込んでそこで寝ている位ですから。案内された部屋では白音さんがぐったりとしてソファーに身を預けていました。

 

「大分、お疲れの様ですね」

 

「祐斗さん、お久しぶりです」

 

「お久しぶりです。勉強の方は大丈夫ですか?」

 

「なんとか、と言った所でしょうか。祐斗さんは今まで何処に?」

 

「アリゾナの砂漠を練り歩いてとある物の発掘にね」

 

「砂漠にですか?」

 

「そう、誰が作ったのか、何時作られたのかすら分からない機械の神をね。出来れば見つからない方が良かったんだけどね。まあ断片は見つかってたから半分諦めてたんだけど」

 

「どう言うことなんですか?」

 

「神話関係は大抵は存在してるっていうのはもう習ったかい?」

 

「はい」

 

「その神話の中でも最も特殊な神話、クトゥルーに関しては?」

 

「あれは小説なんじゃないんですか?」

 

「居るよ、あの邪神共は。まあそれに対抗する者は他に居るから安心して良いよ。僕が用意しているのは万が一の保険だから。彼らと彼ならなんとかしてくれるだろうけど、ピンチになるならそれを手伝える位にはね」

 

「彼らと彼?分ける必要があるんですか、それ?」

 

「ええ、もちろんですよ。これ以上は秘密ですけどね。ここから先には文字通り全てを賭けないといけないですから。スタートに立てるかどうか、そこで魂を賭け、スタートするのに才能が必要で、先に進むのに良識を捨てなくてはいけない。そんな世界ですよ。迂闊に踏み込んで髪が金から白になってしまう位に」

 

「!?」

 

自分の髪を触りながら説明すると白音さんが驚きで目を見開く。あっ、やっぱり猫なんですね。瞳が猫みたいになってます。普段は人と変わらないんですが、興奮したりすると猫っぽさが出るみたいですね。

 

「まあ今は対策も用意してますから問題無いです。回収した機械の神も安全な物ですし、今は壊れていますから。修理も何時終わるか全くもって不明ですし、一番危険な物は魔剣で封印済みです」

 

実際、本当に修理出来るかも分からないんですよね。回収した機械言語版にはアイオーンに関する記述も見つからなかったですから見本になりそうな物もありませんし、装甲の素材であるヒヒイロカネも教会時代に見た物と微妙に違う感じがするんですよね。修理と言うか改修になるでしょうね。

 

「まあこの話は置いておきましょう。あまり考えていると身体にも精神にも悪いですから」

 

そこからは出来るだけ普通の話をして過ごしました。まあ二人とも話のネタになる様なことが少なくて困りもしましたが。前世とアーチャーの記録からなんとか使えそうな物をピックアップしながらもなんとかやり過ごすことが出来ました。少しは気を利かせれる様にならないといけませんね。

 

 

 




ということでデモンベインを発掘してしまいました。デモンベイン側の原作を崩壊させずに回収できるデモンベインはこれ一機だけです。他のデモンベインは九郎の元に届かないと旧支配者に滅ぼされてしまいますから。


タグに原作通り進めたいを入れてるんですが、本当に願望になりそうです。今考えてるプロットだと4巻まではなんとか原作っぽい気がする何かですけど、5巻から先は真っ白です。誰かネタを分けて下さい。


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第6話

現在僕はルーマニアの地に足を踏み入れている。

 

「どうやらあの城にギャスパーの幼なじみが居るのは間違いない様ですね。ハーフで利用出来る神器を持っているというだけで不遇な生活を強いる愚者共には、聖職者として天罰を与えなくてはなりませんね」

 

探知用の魔剣を折り、収納用の魔法陣から死霊秘法(ネクロノミコン)の写本を取り出す。目的の頁を開き、魔力を通す。

 

「ニトクリスの鏡よ。汝の力を僕に」

 

虚空に映し出す幻像を僕自身に纏わせて正体がばれない様にする。見た目は前世の記録にあるアレクサンド・アンデルセン神父の姿をとり、聖書に十字架を装備し、銃剣を作り出す。全身が聖書と十字架に焼かれるのを感じながら、魔力は全て肉体強化と体内の魔剣の活性化に回して問題無い様にします。そして準備が整った所で城に向かって歩みを進み始め、門番達がこちらに気付いた所で銃剣を彼らに対する十字架の様にクロスさせて構える。

 

「貴様、何者だ!!」

 

「我らは神の代理人、神罰の地上代行者。我らが使命は我が神に逆らう愚者を、その肉の最後の一片までも絶滅すること。AMEN!!」

 

名乗りと共に一気に懐まで飛び込み、首を切り落として城の入り口まで駆け、蹴りやぶる。目標の人物が囚われている場所は地下なので襲いかかって来る相手を皆殺しにしてからゆっくりと下に降りる階段を見つけるとしましょうか。

 

襲いかかって来る相手の首を刎ねたり、心臓に銃剣を突き立てて苦しまない様に殺しながら少しずつ城の探索を始める。それにしてもこの世界の吸血鬼は弱いですね。FateやHELLSINGの吸血鬼とは比べようが無い位に弱いですね。折角術式を満載した聖書も用意して来たのに無駄になってしまいましたね。アンデルセンごっこをするためだけに頁をバラまいたりする術式を新しく作ったというのに。少しは楽しませて

 

「ふっ!!」

 

「甘い!!」

 

今まで気配を消していた誰かが背後から斬り掛かって来たので、それを銃剣で受け止めて弾きます。振り返ると既に襲撃者は姿を隠し、けれども空間全体に殺気が満ちています。

 

「少しは手練の様です、ね!!」

 

再び背後からの斬撃を弾いて壁を背にします。やはり襲撃者の姿が見つかりません。何かの術を使った様な痕跡も無し。となれば神器でしょうね。どんな神器か分かりませんが、厄介ですね。仕方ありません。周囲全てを爆破しましょう。

 

鎖で繋いだ銃剣を廊下の端から端まで突き刺し、壊れた幻想で一気に爆破します。爆煙の中、不自然な揺らぎを見つけ、そこに銃剣を大量に投擲する。

 

「そこか!!」

 

姿は見えないまでも殺った手応えがあった。現れたのは鍛えられた身体を持った中年位の吸血鬼だった。おそらくは誰かから奪った神器と思われる脚甲を付けているが、それも消え去った。今のがこの城で一番強かった男なのだろう。しばらく経っても誰も襲いかかって来なくなった。部屋の片隅で気配を消して見つからない様にしている。襲って来ないのなら見逃しましょう。

 

おや、転移で逃げようとしている様ですね。死霊秘法(ネクロノミコン)を再度開き、隔離結界を発動します。これで逃げるには死霊秘法(ネクロノミコン)を破壊するしかありません。破壊出来ると良いですね。さて、今の魔力のおかげで大体の道は分かりました。そちらに向かう道すがら罠によって身体はボロボロになりながらも再生を続けているので全く問題はなく、目的の場所まですんなりと来れた。

 

「さあ、化け物達よ滅される時が来たぞ」

 

ドアを蹴破った先には未だに転移を試みようとする奴らと僕の目的の人を見つけた。目的の人物以外が何かをする前に銃剣を突き立てて首を刎ねる。

 

「ヴァレリー・ツェペシュで間違いないな?」

 

「私を殺しに来たんですか?」

 

「いや、救いに来た。ギャスパーに頼まれてな」

 

聖書を開き、転移の術式を発動させる。聖書の頁が飛び散り、僕と彼女を包み込む様に飛び交う。次の瞬間には冥界にある僕の屋敷に到着する。ニトクリスの鏡を解除して本来の姿を曝す。

 

「さて、改めて自己紹介をしよう。僕は木場祐斗、ギャスパーに頼まれて君を攫わせてもらったよ。ちなみにギャスパーは部屋を出て左の一番奥にある部屋に居るよ」

 

そう言うとヴァレリーは部屋から駆け出していった。

 

さて、そろそろ今回のことについての説明をしよう。

 

事の始まりはリアス様が新しく眷属として連れて来たギャスパー・ヴラディの生涯を聞いて、少しイライラしていたのだ。軟禁するならそれなりの対応という物があるからね。そして停止世界の邪眼という神器を暴走させてしまうギャスパーもグレモリー家は軟禁すると言うから、ついつい軟禁されている部屋から攫って僕の屋敷に招かせてもらった。

 

ギャスパーの停止世界の邪眼を調査した所、僕が頑張ればどうにか出来そうだったので彼を外に出す為に一人残った幼なじみの少女ヴァレリー・ツェペシュを救う対価に研究に付き合ってもらうことにしてルーマニアに殴り込みに行っていたのだ。ギャスパーを攫った件に関しては僕の方でなんとかするとサーゼクス様に報告しておいたので問題無い。

 

いやぁ、それにしても疲れました。全身を焼かれる感覚は何時になっても慣れないですね。ある程度の耐性は付き始めていますが、普通の悪魔よりはマシ程度ですからね。それはともかく、今日奪った命達の為に祈りを捧げるとしましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァレリーを拉致して来てから半年、ギャスパーの神器を制御することに成功した。とは言ってもON/OFFを完璧に行えるだけなのだが、それでもギャスパーは何時か自分だけしか動けない世界が来るのではないのかという恐怖に怯えなくて済むと、泣いて喜んだ。

 

僕にはその恐怖がどんな物なのかは分からないけど、それでも目の前に居るギャスパーが救えて良かったと思う。ヴァレリーも一緒に喜んでいた。彼女の方もかなり難しい事情を抱えている。

 

実は彼女が軟禁されていた理由が判明した。彼女もギャスパーと同じく神器を宿していたんだけど、『幽世の聖杯』と呼ばれる神滅具だったんだ。しかも亜種。幽世の聖杯は命を司る能力を持っていて、生命に関わることなら大抵のことは出来るという強力すぎる物だ。やろうと思えば新たな神を産み出すことも出来るだろうね。まあ使いすぎると精神が汚染されて見えてはいけない物とか見える様になるらしい。

 

クトゥルー関連の精神汚染とは別の意味で怖いね。根は同じだから処置は出来るから怖くないけどね。そして亜種としての特性は三つで一つという変わった特性を持っている。そしてその内の一つが盗まれている。うん、どれか一つでもあれば能力の発動が可能なんだ。もちろん精神汚染は使った人に発生する仕様だ。盗んだ相手に心当たりは無し、というか三つで一つというのに気づいたのが僕の研究によって初めて知ったそうだ。本格的に彼女の身柄の安全を確保する必要がある。ここはリアス様よりサーゼクス様に伺った方が良さそうだ。話が大き過ぎますからね。

 

 

報告の結果、二人は僕に任せると言われた。いやいやいや、ただでさえ世渡りに失敗して教会から逃げ出さなければならなかった僕に預けられても困るんですけど。とりあえず二人とちゃんと話し合う必要が、えっ、僕を信用しているから好きにしてくれって。

 

……ああ、もう、分かりましたよ。面倒を見れば良いんでしょう!!

幸い神滅具所有者も神器を持っているということしか分からないんですから出さなければ良いだけの話です。それからギャスパーも一緒に住みたいというので再び屋敷を改築して二人がちゃんと生活出来る様にして、訓練とかが出来る場所も用意して、危険な物が置いてある部屋には僕しか入れない様に結界を敷いて、二人の将来に関して取れる道も出来るだけ考えて掲示して、それから、えっ、白音さんも一緒に暮らしたいって?一人だと寂しいから?ごめんなさい、増築お願いします。予算はジャンジャン使っていいですから。

 

それから白音さん、その抱えている白猫はどうしたんですか?使い魔ですか。ちょっと撫でさせてもらって良いですか?おおぅ、中々良い毛並みですね。ちょっと軽い気がしますが、今まで野生だったのなら仕方ないのでしょうか?白音さん、どうかしましたか?何でもないと言われてもそう不機嫌な顔をされたらって痛いですから脛を全力で蹴るのは止めて下さい。肉体強化してなかったら折れてますから。まあ折れても5秒程で治療出来るんですけどね。伊達に日々身体を聖剣に焼かれてないですから。自然治癒力とかも昔に比べるとかなり上がってますよ。魔力量もかなり増えてますしね。

 

最後に敵意を持った人が入って来れない様に結界を敷いて、魔力源は獅子の心臓に設定してついでに機械言語版、冥界言語版、天界言語版の写本を獅子の心臓に置いておけば大丈夫でしょう。さすが平行世界からエネルギーを引っ張って来る無限機関なだけはあります。燃費が最悪なこの結界を常時発動させれるんですから。これで鬼戒神同士の戦いになるとパワー不足ってどう言うことなんでしょうね?たかが一人の魔術師から引き出した魔力の方が大きいって。大導師は邪神とのハーフだからまだ分からないでもないけど。まあ気にしない方が身の為かな?

 

 



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第7話

……疲れた。しばらくはそっとしておいて下さい。

何があったって?ちょっとアーカムで色々と巻き込まれただけですよ。具体的に言うと血の怪異に巻き込まれた。

あれはいきなりの事だった。そう、本当にいきなりだった。屋敷の改築はとっくの昔に終わって白音さんにギャスパーにヴァレリーさんの4人で今年からリアス様達が通っておられる駒王学園の入試に向けた勉強をしていた時に、突如紅いデモンベインによって地下を荒らされてギリシャ語版の1ページを奪われてしまった。

 

こんな所で鬼神飛翔が原作から外れるとは思っても見なかったので急いで残りの写本と修復途中のデモンベインを抱えてアーカムに直行したんですよ。もちろん三人は置いてきました。魔導書の汚染に耐えられない上に、文字通り最悪の敵ばかりの場所に連れて行くには力不足過ぎますから。

 

そこからは本気で大変でしたよ。魔導探偵や教授達と協力して逆十字と戦ったり、破壊された二闘流のデモンベインと本家のパーツを利用して博士に僕の持っていたデモンベインを改修してもらって半人半書と共にエロ本と戦ったり、何故か大導師に気に入られてその魔導書に狙われたり、最後の邪神との戦いにも参加してと気が休まる暇が無かった。もうね、一生涯分戦いきったと思うんだ。もうゴールしても良いよね?のんびり暮らしても良いと思うんだ。

 

まあ多少のメリットはあったんだよ。アイオーンに関する記述や、イタクァとクトゥグアに関する記述を写本化できたし、デモンベインも改修出来たから。使おうと思えばアイオーンもデモンベインも使えるしね。アイオーンの方は降りた後に魔力不足で寝込む羽目になるだろうけど。

 

トラペゾヘドロンに関しては触れるつもりは無い。間近で見たけど、あれは僕の手に余る代物だから。半年程教授の元で隠秘学についても学んで更なる力を身に付けられ、ついでに機械言語版と冥界言語版と天界言語版が混ざって化身した。

 

ついでで言うことじゃないと思うけど、予想外過ぎたんだ。容姿は本家とエロ本を足して3で割っちゃったみたいで、6歳位で精神面もそれ位の蒼いゴスロリ服を着た無垢な幼女なんだ。僕が面倒を見るしかないんだけどパパと呼ぶのだけは勘弁して下さい。写本を作ったのは確かに僕ですけど、白音さん達からの冷たい視線が辛いですから。

 

今は何とか“ますたー”と呼ぶ様に教育することが出来た。まあ常識も知らない子供なので教えればちゃんと覚えてくれます。あっ、ちなみに名前はルゥです。そして先日サーゼクス様のご子息であられるミリキャス様の友人としてどうかと悪ふざけで言ってみたら、それは良いねと返されて引きつったのも懐かしい。

 

やはり子供同士、相手に敵意や悪意が無いのを感じ取ってすぐに仲良くなっていました。こっちはハラハラしてましたけどね。あんな幼女でも本質は邪悪を討つための外法が詰められた魔導書ですから。そちら側に触れてしまえば敵意や悪意に関係なく殺してしまいますから。目が離せないんです。

 

ルゥの魔導書としての性能はアル・アジフ以下大十字九朔以上ですから。生半可な才能や耐性じゃあ一瞬で喰われます。僕は既に慣れてますから大丈夫なんですけどね。教授には驚かれましたけど。そんな才能でよく生きているな、と。アーチャーの記録が無かったら死んでますけどね。

 

まあそんなことがありまして、当分休みたいんですけど入試が迫っているんですよね。ついでに人間界で住む場所も用意しないといけませんし。グレモリー家でマンションを用意してくれるそうですけど、僕の場合色々と結界を敷いたりしないと危険過ぎますのでそこそこ大きい一軒家を自分で用意します。

 

三人は来年受験するのですが一緒について来ると言っていますので色々と改築も必要です。普段はお金をそこまで使わないのでこう言う時に一気に使います。建物の場合は質実剛健が基本ですね。華美な装飾を否定する訳ではありません。そういうのが必要な地位の人達からすれば華美ではなく分相応の代物ですから。僕の場合はそう言うのは必要無いのでいざという時の為に篭城出来る位の建物を用意します。扱っている物を考えれば足りない位なんですけどね。覇道財閥に比べるのもおこがましい位の設備ですから。何か問題があれば博士が手を貸してくれるそうなのでそこまで悲観してません。

 

 

 

 

 

 

 

 

今世では初の学園生活は中々楽しい物ですね。ここまで多くの人と触れ合うのは今世では初です。そして初めて気づいたのですが、どうやら僕、女性受けする顔立ちだった様です。学園でもよく女子から遊びに誘われますし、ようやく始めた悪魔稼業でも女性の顧客が多いですし、内容の方もそういうのが多いですから。

 

聖職者としては落第なのですが、悪魔としては及第点。悩みどころですね。男子の一部からは敵意の目で見られていますけど。特に隣のクラスの通称「変態三人組」からは親の仇を見る様な目で見られている。さすがに彼らのフォローは僕にでも不可能でどうすることも出来ない。他の男子は一緒に誘ったりしてなんとか出来るんだけど、彼らは性欲を全開にしてそれを隠すこともしないのでどうすることも出来ない。そういうことに興味があるのは仕方ないことだけど、学園にDVDなどを持ち込んで普通に教室で見せ合うのはどうかと思う。

 

リアス様はオカルト研究部という部活を作り、旧校舎を拠点としていました。かなり魔術的にはお粗末な拠点でしたけど。僕もオカルト研究部に入部する様にと指示があったので籍を置いています。悪魔稼業の為に集っても問題無い様にする為のカモフラージュだそうです。だからと言って意味の無い魔法陣を壁に書くのはどうなんでしょうね?床にあるのは転移の魔法陣なので構わないのですけど、どうせなら壁にも何か役に立つ物を書いておきましょうよ。とりあえず天井に魔力徴収と照明と保温の魔法陣を書いて壁に遮音と鉄壁の魔法陣を書き直しておきました。

 

それから、ひさしぶりに日本に戻ったので5歳まで過ごした教会がどうなったのかを覗いて来た。神父様はさらに年老いて杖を突いておられたが元気そうに過ごしておられたし、弟達も立派になっていた。兄達は既に離れられているのでどうなったか分からないが元気に過ごしていることだろう。正面から会いに行くことは出来ないのが悔やまれる。転生に関する研究を始めるか?

 

デモンベインの解析はほぼ終了した。悪魔稼業で少し忙しいが研究に関しては暇になっている。一時的にでも肉体だけを変化させれれば正面から会いに行っても大丈夫なはずだ。あっ、駄目だ。もしかしたら天界勢力内で指名手配されている可能性がある。変装する必要も、変装したら意味が無い気がする。はぁ、疲れているみたいだ。今日の所は帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまり思い出したくない。白音さん達に心配されてしまいましたが、あれと相対して普通に会話出来た時点でまだまともな方でしょう、きっと。逆十字達並のプレッシャー、サーゼクス様達並の魔力、鍛え抜かれた逞しすぎる肉体、達人級と言える程の武、強者としての力の意味を知っている目、何故か手に持つかわいらしい杖と今にも破れそうな少女服。男の中の漢な見た目なのに魔法少女プリティ☆ベルと名乗ってましたよ。5代目だそうです。バグらしいです。

 

話してみたらもの凄くいい人でしたし。普通に良い人過ぎてなんでそんな格好をしているのか逆に聞き辛かったです。結局は悪魔の仕事でちょっと訪れているだけだと言うと暴れたりしないでねと言われただけで済みました。今度は普通の服を着ている時に出会いたいです。

 

あと、仮面ライダーに似ている悪魔とも会った。最初は神父服を着ている僕に襲いかかってきそうになったけど、悪魔だと気づいて止まった。話を聞いた所、世話になっていた人達を教会関係者に皆殺しにされたそうだ。ああ、あるあるそういうの。たぶん、はぐれエクソシストだ。とりあえず知っている分の情報と探知系の魔剣をあげたら丁寧にお礼を言われた。たいしたことじゃないから今度会ったら何か奢ってもらうことで話をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

季節が巡り、春。白音さん達も駒王学園に入学して来たので顔見せの為に生徒会室に向かいます。生徒会には部長の友人でシトリー家の次期当主であられるソーナ・シトリー様とその眷属で固められています。そこで顔見せと軽い手合わせをしたのですが、この程度なんですか?

 

僕一人対残りの全員で戦っても負ける気がしないんですが。ギャスパーの停止世界の邪眼にかからないと触れることすら出来そうにないんですけど。ルゥがなんとか僕に付いて来れるかどうかと言った所です。途中で転けて泣いてましたけど。泣き止むまで抱きかかえて手合わせをしてたんですけど、それでもかすりすらしませんでした。

 

さすが騎士(ナイト)なだけはあると言われましたけど、手加減している状況で言われても。やはり血の怪異での戦闘経験値がここに来て大幅に現れているのでしょうね。久しぶりに顔でも見せに行きましょうか。

 

 

 

 

 

 

久しぶりにアーカムに顔を見せに行き、その後のこととかを報告しあいました。ルゥもそろそろ魔導書としての力を使い始めても良い頃なのでアル・アジフに色々と教えて貰いました。ルゥはアル・アジフのことをおねえちゃんと呼んで懐いていますし、アル・アジフも満更では無い様です。おい、そこのロリコン、ルゥを変な目で見るな。首筋にバルザイの偃月刀を突きつけてやります。そのまま引きずって訓練を付けてやることにします。邪な考えが浮かばない位徹底的に。

 

「さあさあ、かかって来なさい!!」

 

「のわああああ!?何その物量!?というかバルザイがなんでそんなに!?」

 

「黄金の剣の方が良いですか?」

 

「なんでマスターテリオンのそれを!?」

 

「僕の神器、無限の剣製はありとあらゆる剣を作り出すことが出来る物ですから。オリジナルよりは若干威力は落ちますが十分でしょう」

 

「十分どころか過剰すぎるわって今掠った!!」

 

「安心して下さい。死んですぐなら死者蘇生も出来ますから」

 

「安心出来るかぁぁ!!!!」

 

その後もアル・アジフとルゥが戻って来るまで訓練を続けました。さすがにマギウススタイルでなければ人間の域を出れない様ですが、それでも強者ではあります。訓練ということで全力を出し切れないのも原因なのでしょうが、敵には回したくないですね。

 

 




ということで次回より原作スタートです。
ですが、更新がちょっと遅れます。具体的には日曜日まで更新できそうにないです。


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第8話

街に堕天使が入った様ですね。こちらにちょっかいをかけて来ないなら放置で良いでしょう。中級が一人に下級が三人ですし、大したことは無いでしょう。僕が昔作った聖剣を持っている様ですが最初期の実験用の物ですから効果もそこまで強力な物ではありませんしね。戦闘になれば壊れた幻想で一撃ですし。まあまともに喰らうとサーゼクス様達でも致命傷、部長なら即死クラスの聖剣なんですけどね。白音さん達に注意する様にだけ言っておきましょう。

 

「ルゥも気をつけるんですよ。はい、今日のお弁当です。知らない人に付いて行ったりしたら駄目ですよ、それから危ないと思ったらアトラック・ナチャで拘束して逃げるんですよ」

 

「うん、わかってるよますたー。いってきま~す」

 

「はい、いってらっしゃい」

 

遊びに出かけるルゥを見送り教会の掃除をする道具の準備をします。一応この街にも教会はあるんですよ。グレモリー家の領地になる前まではちゃんと神父様も派遣されていたのが。現在は悪魔の領地なので廃教会になっていますが、月に一度僕が掃除と整備をしているのでいつでも使用可能な状態になっています。使用する機会なんて無いですけどね。それでも聖職者として朽ちていく教会を黙って見過ごせなかったのです。もちろん、廃教会とは言え悪魔がその領域に入ることはまずいので肉体変化の魔剣を作って人間の身体に戻ってから掃除を行っています。屁理屈かもしれませんがこれで問題はありません。悪魔の領地に住む人間の信者が勝手に掃除をしているだけですから。

 

ということでいつも通り夕方まで掃除や整備を終えて家に帰ろうとした所で堕天使の気配が近づいてきます。この教会を拠点にするつもりなのでしょう。別に構いませんけどね。誰かが住んでいないと建物って痛み易いですから。

 

接触はして来ない様なので無視して翌日遠距離から確認した所、結構な人数のはぐれエクソシストを呼び集めていました。あれ位派手に動いていれば部長達も気づいているでしょう。

 

 

 

前言撤回、ソーナ・シトリー様は気づいておられましたが、部長は気づいていませんでした。ソーナ様に鞍替えした方が良さそうな気がしてきました。戦車(ルーク)と僧侶(ビショップ)と騎士(ナイト)が一つずつ余ってませんかね?このまま部長についていくのが不安になってきます。眷属として出来る限りのフォローはしますけど、心中は勘弁です。僕の目的は長生きすることですから。

 

そんなことを考えていたらとうとう犠牲者が出てしまった。変態三人組の一人、兵藤一誠君が。彼は神器を持っていたので、それが原因で殺されたのでしょう。部長はそんな兵藤君を悪魔の駒を使って転生させました。兵士(ポーン)を8個。それが兵藤君に使われた駒の数。

 

一言で言うならありえない。彼単体で言えば兵士(ポーン)一つで十分だ。ならば残りの7個分は神器のコストだ。おそらく神滅具。未熟な王の元に未熟で強力な武器を持った兵士が仕えることになった。不安だ。果てしなく不安だ。兵藤君の人となりは分かっている。性欲が全面的に出ているが、根は善人だ。だから暴走する様なことは無いだろう。だけど問題は部長の方だ。身内に甘すぎる。人としても王としても悪魔としても甘すぎる。未熟すぎる。

 

状況を本当に理解出来ているのだろうか?これは堕天使側からの挑発の一つだ。こちらの器を調べようとしている。ソーナ様はグレモリー家の領地ということで表立って動けないが何が起きても対応出来る様に動かれている。それに対して部長は眷属の力の把握すら行っていない。僕の力が何処までの物なのか、ルゥがどれだけ危険な存在なのか、眷属ではないがヴァレリーさんがどれだけ重要な存在なのかを理解していない。この程度がグレモリー家の次期当主ですか。正直言ってがっかりです。

 

 

 

 

 

兵藤君がオカルト研究部に入部してしばらく経ちました。部長達は兵藤君が持っていた神器を『龍の手』だと勘違いしていますが、あれは覚醒していないだけで『赤龍帝の篭手』で間違いないでしょう。

 

彼はこれから大きな戦いに巻き込まれて行くでしょうね。多少なら手を貸しても良いでしょう。それ以上に力が必要なら対価を貰いますけどね。だから魔力が足りなくて転移出来なかった彼に魔剣をあげた分は今度ジュースかなにかでも奢ってもらうことにしましょう。子供でも使える魔法陣が使えないなんていう希少性を見せて貰ったお礼ですよ。込めてある魔力が切れるまでは魔剣から魔力を使う様にしてありますから。

 

 

 

 

 

兵藤君からアーシア・アルジェントがこの街に来ているの聞かされた。あの聖女が何故この街にいるのだろう?部長は兵藤君に教会に近づかない様にとしか言っていないが、僕としてはそちらの方が気になる。最初は同名の別人だと思ったが、聖母の微笑を持っている以上同一人物だろう。何か嫌な予感がする。接触するべきだろう。部活を早めに切り上げて肉体を人間に変化させてから教会に向かう。隠蔽系の魔剣を使って侵入し、堕天使が何を企んでいるのかを調査した。

 

そして堕天使の目的がアーシア・アルジェントの聖母の微笑だということが判明した。神器を奪われるということは死を意味する。彼女はそれを知っているのだろうか。

 

教会から離れて彼女を探索系の魔剣を使って探し出し、急行する。すぐ近くにはぐれエクソシストの気配もするし、兵藤君の気配もある。これはよくはぐれエクソシストがやる釣りだと判断して転移系の魔剣でそこまで飛ぶ。転移した先では兵藤君が昔僕の作った聖剣によって今にも斬られようとしていた。転移系の剣の力を応用して聖剣と兵藤君の間に亜空間を作り出してなんとか殺されるのを防ぐ。

 

「大丈夫かい、兵藤君!!」

 

「木場!?お前、どこから」

 

「説明は後だ。ってフリード・セルゼン?」

 

兵藤君を殺そうとしていたのは教会時代に気が合うエクソシストだったフリード・セルゼンだった。

 

「おやおや、なつかしい顔だと思ったら鍛冶屋さんじゃないですか?教会から追われた噂に聞いたことが聞いた事がありましたけど、中々お元気そうで」

 

「そっちこそ、未だに一人で悪魔狩りをしてると思っていましたが、今は堕天使達と仲良く狩りですか?」

 

「さすがに一人じゃ化け物を皆殺しにするなんて出来ないなんてことは理解してるんですよね。だから手始めに悪魔共からと考えてたんですけど、アンタはどっちよ?」

 

「教会一の変わり者は伊達ではないですからね。悪魔になった今でも、おっと、今は人間の身体でしたっけ。これでよし」

 

「うほっ、今の今まで人間の気配だったのに悪魔だなんて、しかも十字架まで身につけるだなんて変わり者もここまで来れば俺っち尊敬しちゃう!!」

 

巫山戯た会話をしながらも互いに斬り合うのは止めずに部屋を荒らし続けて行く。

 

「兵藤君、君は部室に帰るんだ。行きたい場所をイメージしながらその剣を振れば飛べるから」

 

持っていた魔剣を兵藤君に投げ渡し、聖剣の力を抑える魔剣を作って斬り結ぶ。

 

「アーシア・アルジェントさんを連れて行くのも忘れないで!!堕天使は彼女の神器を狙っている。神器を抜かれた人間は死んでしまう」

 

「おっとぅ、そこまで知られてるんだったら余計に逃がすわけにはいかないさ~!!」

 

フリードが光弾を撃ち出す銃を取り出して兵藤君に向けるのと同時にその射線状に大剣を並べて盾にする。

 

「早く行くんだ!!守りながらじゃ限界が来る!!」

 

十字架を外せば余裕ができるんだけど、外さなくても余裕でフリード位なら殺せるんだけど、兵藤君達の前だとね。ちょっとショッキングな場面は早い気がする。フリードクラスの中途半端な強さの奴を無力化するのは難しいんですよね。もう少し強いか弱いかはっきりしてくれれば良いのに。

 

「すまん、木場。アーシア、こっちだ」

 

「ですが」

 

「早く行くんだ。他の堕天使が近づいて来ている。僕なら大丈夫だ」

 

「すぐに部長達を連れて来るから」

 

そう言って兵藤君達が離れると同時に堕天使達がやってくる。ちょうど良い。フリードをやって来た堕天使達に投げ飛ばし、新たに作り出した転移系の魔剣で纏めて教会に飛ばす。

 

「ルゥ!!」

 

「いえす、ますたー」

 

僕の呼びかけにルゥが転移で姿を現す。

 

「マギウススタイルだ」

 

「りょうかい」

 

アル・アジフの様にルゥを構成する頁が僕に纏わり付いてマギウススタイルに変身する。ルゥは手のひらに乗る位の小ささに変化して僕の頭の上に乗る。

 

「行くよ。部長達が来る前に全てを終わらせる」

 

僕自身も魔剣で教会に転移する。

 

「へぇ、僅かな間に防衛体制を整えたか」

 

転移した先には、はぐれエクソシスト達と4人の堕天使が武器を構えていた。フリードの姿は見えないのはおそらく逃げ出したのだろう。相変わらず鼻が利くみたいだ。

 

「ふん、ただの下級悪魔が「アトラック・ナチャ!!」なっ!?」

 

こちらを見下している中級堕天使が何かを言おうとしていたが、こちらは制限時間があるんだ速攻で終わらせてもらう。

 

「ロイガー&ツァール!!」

 

オリジナルと無限の剣製で産み出した大量の小剣を十字に組み合わせてはぐれエクソシストに投擲する。そして残った堕天使の首をバルザイの偃月刀で刎ねて終わりです。

 

「ルゥ。死体の後片付けを。魔剣も食べて良いからね」

 

「うん。ダンセイニ、おいで」

 

ショゴスが僕の足下から産み出される。

 

「のこさずたべてね」

 

ルゥの命令でダンセイニと名付けられたショゴスが死体を飲み込んでいく。これで問題は無くなった。おっと、問題が解決した証拠に羽だけは回収しておかないとね。

 

 

 

 

 

 

翌日、勝手な行動をしたとして部長に怒られた。理不尽な。部長が動かなかったのが全ての原因なのに、なぜ僕が怒られなければならない。やはり、王としての才能はほぼ無いのだろう。何処かにトレードしてもらいたいですね。

 

ソーナ様なら僕を使いこなしてくれるのでしょうけど。はぁ、もしくは再び出奔しましょうか?駄目ですね。そうなると白音さん達も付いてきそうです。さすがに逃走生活を送りながら面倒を見るのは不可能に近いです。サーゼクス様に一度相談した方が良いですかね?丁度オーダーメイドの魔剣を注文されてましたから直接届けるついでに。これ以上失望させないで下さいね、リアス部長。

 

アーシア・アルジェントに関してはあの教会にそのまま住むようだ。かなりグレーな方法だが、それを可能にする方法をソーナ様が知っておられたおかげだ。それが彼女にとって一番良いと思う。彼女にはこちらの世界は似合わない。兵藤君もこれからも普通に会えることに喜んでいた。まあ教会に足を踏み入れるのは結構問題なので外で出会う形になるんですけどね。

 

 

 




というわけで1巻が終了しました。短いですけど、木場君の視点からだとこれ位しか書くことがないんですよね。
ついでにアーシアの悪魔化が無くなりました。
うん、どうしてか分からないけど悪魔化するのが想像出来なかった。
次回のライザー戦はそこそこ長くなりますし、木場君がかなり喋ってます。
冷静に考えるとリアス部長は色々と抜けている部分が多いですから、木場君?には耐えられないことが多いんです。


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第9話

堕天使の事件からしばらくして、サーゼクス様にお会いしてリアス部長に関しての相談を行った。サーゼクス様はもう少し長い目でリアス部長のことを見て欲しいと。自分が急に魔王の座に付いてしまった為にリアス部長に全てを押し付ける形になり、リアス部長なりに次期当主として頑張っているのだそうだ。

 

……それを言うとソーナ様も同じ条件なのだが、サーゼクス様直々に頼まれたとあってはしばらくはこのままで居るしか無いのだろう。代わりと言ってはなんだが、今回の功績と魔剣を納めていた貢献から試験無しでの中級悪魔への昇格を言い渡された。おそらくは次にリアス部長が何か重大な失態を犯し、僕が解決した場合に上級悪魔への昇格から独立出来る様にという考えだろう。そういう考えがみえたので今回はここまでにしておきましょう。

 

 

 

未だに赤龍帝の篭手が覚醒しない兵藤君の為にちょっとした訓練をつけることにしました。この前のフリードのようなことが絶対に無いとは言い切れませんからね。というわけで結界で運動場を隔離してルゥの出番です。

 

「木場、その子誰なんだ?」

 

「この子はルゥ、僕の持っていた魔導書の精霊です。幼い見た目ですが、グレモリー眷属内での危険度はトップクラスですから」

 

「へ?」

 

「それじゃあルゥ、アトラック・ナチャを化身させて」

 

「りょうかい、ますたー。おいで、アトラック・ナチャ」

 

ルゥを構成する頁が飛び出して、アトラック・ナチャを形成する。女性と蜘蛛を混ぜた様な姿で、魔導書としてのおぞましい気配を漂わせながら兵藤君に襲いかかる。

 

「殺傷能力は低い方だけど、油断すると死ぬか廃人になるよ」

 

「それを先に言えええええ!!!!」

 

兵藤君がアトラック・ナチャのページモンスターに背中を向けて逃げ出す。ああ、そんなことをすると糸から逃げれなくなるよ。案の定すぐに拘束され、腕を喰いちぎられそうになった所でBoostと言う音声と共に赤龍帝の篭手が覚醒したのを感じる。まあ2倍になった程度ではアトラック・ナチャの拘束を解くことは出来ずに右肩を喰いちぎられたけど。そこで一度アトラック・ナチャをバルザイの偃月刀で斬り、頁に戻してから兵藤君の肩を治療する。

 

「とりあえず今日はこれで終了だね。これから毎日戦ってもらうから」

 

「こんなのと毎日戦うのかよ」

 

喰いちぎられた場所を押さえ、震えながら兵藤君が聞いてきます。

 

「残念ですけど、長生きしたいなら戦ってもらうしか無いですね。兵藤君の神器、それは龍の篭手なんかじゃなくて赤龍帝の篭手と呼ばれる神滅具です。10秒毎に倍化の力を貯めれて、時間さえかければ神をも葬ることが出来ると言われている物です。そして龍は争いを招く生き物。そして赤龍帝には対と為す存在、白龍皇が居ます。仲が悪い両者は神器に封じ込められる前から争い続け、封じ込められてからも宿主を変えて争い続けています。死にたくなければ戦って勝ち取るしかないんです」

 

「嘘だろう?」

 

「残念ですが現実です。ですが、兵藤君にとってメリットもありますよ」

 

「メリット?」

 

「龍は確かに争いを招きますが、それ以外の物も引き寄せます。財や、女性ですね。ハーレム、作り易いですよ。悪魔の方では一夫多妻ですし、力があれば簡単にお金を稼げますし、女性もよりどりみどりですね」

 

「マジで!?」

 

「はい。何人かそういう人に会ってますから。欲望を抑える必要が少ないのが悪魔社会です。もちろん、それには力や功績が必要です。ですが、赤龍帝なら力はすぐにつきます。死ななければね」

 

「結局はそこに行きつくんだよな」

 

「まあ頑張って下さい。対価さえ貰えばドーピングにも協力してあげますから」

 

「ドーピング?変な薬か?」

 

「魔剣ですよ。小指の爪位の大きさの魔剣を身体に埋め込んでそれに魔力を通すだけで簡単に強くなれます。まあ兵藤君のゴミみたいな魔力だとどうしようもないんですけどね。そこはこの前渡した魔剣に日頃から魔力を込めて頑張って下さいとしか言えませんけど」

 

「魔力って増やせるのか?」

 

「日頃から使ってると増えますよ。僕は5歳のときから毎日底を付くギリギリまで使い続けてきましたからかなり魔力は多い方です」

 

実際の所、魔力量自体は部長より少し多い位ですが、質が段違いなんです。普通の悪魔が使う魔力が精製前の石油で僕はジェット燃料並みに。同じ1の魔力で結果は数十倍の差が現れるんです。たぶん、アーチャーの記録と無限の剣製を使い続けた所為だと思うのですが、実際の所よく分からないんですよね。気づいたのは最近ですし。

 

もしかしたら魔導探偵や逆十字の魔力も僕の様に質が高い物なのでしょうか?それならあの力にも納得ですね。

 

「ということで何とかアトラック・ナチャに勝てる様になって下さいね。本来のアレは拘束術式なんですから」

 

「いや、なんで魔導書があんな化け物に」

 

「それを言うと目の前に居るルゥも化け物になるんですけど」

 

「ますたー、わたし、ばけもの?」

 

「ごめんなさい」

 

「彼の言うことは気にしなくて良いですよ。ルゥはルゥですから」

 

「うん、わかった」

 

ちょっと不安そうにしているルゥを抱きかかえて結界を解きます。

 

「それじゃあ、今日も元気に悪魔稼業を頑張りましょう」

 

「お~」

 

 

 

 

 

 

 

 

兵藤君の特訓を始めてから三週間程経った頃でしょうか。部室に顔を出すと部長がイラついている顔でソファーに座り、その後ろにグレイフィア様が居ました。はて、何かあったのでしょうか?念のためにルゥを呼び出しておきましょう。白音さん達も部室に来るなり、グレイフィア様を見て首を傾げていました。しばらくして兵藤君も部室にやって来たことで部長が口を開きます。

 

「今日は皆に話があるの」

 

「お嬢様、私からお話ししましょうか?」

 

「いえ、私から話すわ。これは私の問題だもの。皆、実はね」

 

と部長が話し始めた途端、床の魔法陣が光り始めました。話の邪魔なので隔離結界の魔剣を突き立てて強制的に転移をキャンセルします。

 

「あっ、気にしないで続けて下さい」

 

「……何を為されたのですか?」

 

「重大な話を邪魔されたくないので旧校舎一帯を隔離させてもらいました。何か不都合でしたか?」

 

「いえ」

 

そして部長が本題に入ってくれました。

 

「私、結婚することになったの」

 

「それはおめでとうございます」

 

「めでたくなんかないわよ!!」

 

「何故です?お相手に何かご不満でもあるのですか」

 

「不満も何も、私の意見なんて一つも聞かないで、当初の約束すらも無視して結婚しろというのよ」

 

部長の意見が一切入らないのは貴族として仕方ないことだと思いますが、約束を無視してですか。それは気に喰いませんね。約束を破るということは契約を守らないということです。それは許せませんね。

 

「グレイフィア様、この話、何処の誰が乗り気なのですか?あと、当初の約束に付いても詳しくお願いします」

 

「そう言うと思いましてこちらに資料を用意しております」

 

「祐斗?グレイフィア?」

 

部長が不思議そうにしていますが後回しです。資料に目を通して分かったことは、当初の約束では部長が大学を卒業後に婚約を発表、数年の内に結婚を予定していたみたいです。お相手はフェニックス家の三男ライザー様。部長とライザー様は面識はあるそうですが、部長の趣味には合わなかった様です。というかライザー様の眷属は全て女性でハーレムですか。部長、そういうの嫌いそうですからね。

 

一番乗り気なのはライザー様のようですが、両家共に前向きに検討しているみたいですね。まあ、悪魔社会の事情から考えれば分からないでも無いです。数を増やす為に子づくりは奨励されてますが、そもそもの出生率はそんなに高くないからこそ転生悪魔で数を増やしているのが現状ですから。

 

サーゼクス様は部長が望まないのであればレーティングゲームによって婚約を破棄しても良いと考えている様ですね。これは都合が良いですね。兵藤君の特訓のエネルギーになります。本当に良い機会です。白音さん達の経験値も稼げますからね。それに部長の王の器を調べるには持って来いです。

 

「部長、どうしてもライザー様との結婚は嫌なのですよね」

 

「ええ、もちろんよ」

 

「サーゼクス様は部長が嫌だと言うのならレーティングゲームによって決着を付ける様にとのことです。勝てば婚約の破棄、負ければ結婚。単純にして分かり易い上に実に悪魔らしい考えです」

 

「本当なのグレイフィア」

 

「はい。レーティングゲームに勝利したのなら婚約の破棄、また、お嬢様の婚約相手はお嬢様自身が決めても良いとのことです」

 

「それはライザーも承知なの?」

 

「いえ、お嬢様がレーティングゲームを行う意思があるのを確認した後にお伝えする予定です。準備期間などもございますので10日後を目処にレーティングゲームを開催する予定です」

 

10日か、どう頑張ってもライザー様を倒せる位にまで成長することは不可能だね。だからこそ余計に部長の王の器が知れる。

 

「分かったわ。その提案受けるわ。やるわよ、皆」

 

「「「「はい」」」」

 

「ではライザー様の方にもご報告させて頂きます。詳しいことは後日」

 

一礼して転移しようとするグレイフィア様に合わせて剣を折る。そしてグレイフィア様が転移すると同時にもう一度同じ剣を作り出して床に突き立てておく。

 

「それで部長、これからの予定はどうします?」

 

「もちろん合宿よ。レーティングゲームの間、学校も悪魔稼業は休んで特訓するしかないわ。今日の所はお得意様に召還に応じれないことを説明して回って来て。明日からはグレモリー家の別荘で特訓をするからその準備も忘れない様に」

 

方針は悪くないですね。というかこれ以外だったら見捨てる気でしたけど。

さて、部長は一体どう言う特訓を指示するのか見物ですね。

 

 



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第10話

グレモリー家が所有する別荘はとある山の山頂にあるらしく、体力を鍛える為にも麓から昇っていくことが決まった。荷物は僕と白音さんと兵藤君の三人で分担して運ぶことになった。内訳は5:3:2と言った所だ。今回の合宿は眷属全員とルゥとヴァレリーの8人で行うことになっている。とは言ってもルゥとヴァレリーはレーティングゲームに参加することは無いので主に家事などを手伝うだけだ。ヴァレリーは神滅具を使ってもいいと言っているが命の危険が有る訳でもないので丁寧に断っておいた。

 

「兵藤君、無理しないで。荷物持とうか?」

 

登山を開始して半分程登った所で兵藤君の体力が限界に来ていた。

 

「はぁ、はぁ、い、いや、大丈夫だ。これ位、部長の処女を守る為なら」

 

「それで倒れたら意味が無いでしょう。ほら、この後も特訓が待っているんですから」

 

そう言って強引に背中に背負っているリュックを奪い、僕の身体より大きなリュックの上に座っているルゥに投げ渡します。

 

「なんで、そんなに持っているのに平気そうなんだ?」

 

「魔力による肉体強化を施していますから。エクソシストの基本中の基本の術です」

 

「そう言えば、木場は元エクソシストだったんだよな。なんで今は悪魔になったんだ?」

 

「僕は周りの評価を気にしない性格だったのが原因の一つですね。周囲の評価を意図的に操作されて、逃げ出すしか生き残る道が無かったんですよ。直属の上司には理解してもらえていたのだけが救いです」

 

「教会の人もあまり普通の人と変わらないんだな」

 

「ですね。アーシアさんも話を聞く限り、僕と似た様な境遇ですよ。聖女と呼ばれていたアーシアさんの元に悪魔が近づける訳が無い。誰かが手引きしたのは間違いないですね」

 

「あんなに良い子なのにな。なんでそんなことをするんだろうな」

 

「それが人間らしさとしか言えませんね」

 

そこで会話が途切れ、しばらく無言で山を登り続けているとルゥが飽きたのか足をばたつかせている。

 

「ますたー、おかし食べてもいい?」

 

「いいですよ。ゴミはちゃんと持っているんですよ。そこらに捨ててはいけませんよ」

 

「は~い」

 

自分の鞄からお菓子を取り出して食べ始めるルゥを兵藤君が羨ましそうに眺めている。

 

「兵藤君も要りますか?」

 

ポケットから同じ物を取り出して差し出す。

 

「サンキュー。見たこと無い包装だけど、何処の奴だ?」

 

「僕の手作りですよ。大量に作って収納の魔法陣で保存している物です」

 

「へっ?手作り?この如何にも高級品っぽい物が?」

 

「手作りですよ。今回の合宿でも洗濯以外の家事は僕が担当することになってますから」

 

「……やっぱり家事が出来るのがモテる秘訣なのか?」

 

「兵藤君の場合、その性欲を隠せばなんとか、まだ希望は持てるんですが。もう少し抑えれません?幾ら悪魔だと言っても、もうちょっと功績とか立ててからの方がいいですよ」

 

「無理だな」

 

「ならとにかく将来性を見せないと。ライザー様とのレーティングゲームで活躍しないといけませんね」

 

「分かってるよ」

 

「頑張って下さいね。前にも言いましたけど、対価さえ払ってくれるなら、どんな魔剣だって用意してあげますから。さすがに死者蘇生とかは今の兵藤君では払いきれませんけど」

 

「逆に聞くけど何を払ったら何処までの物を用意してくれるんだよ」

 

「その時の感情次第ですね。僕の心を動かせればそれだけレートは下がります。本気の覚悟って、色々と動かす物ですよ。あのロリコンへっぽこホームズみたいに」

 

「何その不名誉な名前!?」

 

「大丈夫ですよ。探偵としては良くて二流でも、魔術師としては一流ですから。ロリコンと言ってもお相手の見た目がそうなだけで、実年齢は年上ですから」

 

「おねえちゃんのことだよね、ますたー」

 

「お姉ちゃん?ルゥって魔導書の精霊だよな。それのお姉ちゃんってことは」

 

「魔導書の精霊です。名前はアル・アジフ。最強の魔導書のオリジナルですよ。ちなみにルゥはアル・アジフと同じ魔導書の写本三冊が融合した精霊です。本来なら化身するまで長い年月と莫大な魔力に触れる必要があったのですが、三冊が融合するイレギュラーによって化身が早まったみたいですね」

 

「いや、それは置いておいても、魔導書相手だろう?上級者過ぎるだろ」

 

「そんな事を言っては駄目ですよ。他にも似た様な人が居るんですから。それからその二人、兵藤君なんて目じゃない程強いですからね。下手すれば二天龍相手に完勝とかしますよ」

 

レムリア・インパクトとかハイパーボリア・ゼロドライブとかだけでも軽くオーバーキルですよ。シャイニング・トラペゾヘドロンになるとどうすることも出来ませんし。

 

「どんだけ強いんだよ」

 

「50mのロボットを素手で殴り飛ばす位」

 

「ちょっ、50mのロボットってマジかよ」

 

「本当ですよ。僕も2機程持ってますよ。暇な時に家に来てもらえばお見せできますよ」

 

「……操縦は?」

 

「命がけでいいなら。操縦者の魔力で動きますから、しかも1機は操縦者の力量が足りないなら命すら削って無理矢理稼働します。兵藤君だと起動だけで全魔力が底を付いて一気に命が削られます」

 

「くぅ、一度は巨大ロボットを動かしてみたいのに」

 

「魔力が増えてから頑張って下さい。僕が生きている限りはちゃんと保管していますから」

 

くだらない話をしながらもこっそりと疲労回復の魔法を兵藤君にかけながら山を登り、とうとう別荘にたどり着く。

 

「それじゃあ、荷物を置いたら服を着替えて集合よ」

 

 

 

 

 

 

 

そして始まった合宿なのだが、所詮は現場を知らないお嬢様という意見しか出なかった。この程度ではライザー様に勝てない。基礎固めはもう遅い。10日で劇的な変化が生まれる訳が無い。基礎固めは常日頃からやっておく物ですから。兵藤君の場合は赤龍帝の篭手があるので本番までに出来る限り力を付けると言うのは間違いではありませんけどね。

 

今の状況で行わなければならないのは僕達の連携の確認、ライザー様の眷属の能力の把握、そして戦闘方針の設定だろう。夕食を終え、兵藤君と露天風呂に向かう。ギャスパーは疲れたので明日の朝に入ると言って自室の戻った。

 

「うおっ、木場って結構鍛えてるんだな。服の上からじゃ全く分からなかった。というか十字架なんて付けてて大丈夫なのか?」

 

「鍛えているのは当たり前です。健全なる魂は健全なる肉体に宿る。健全なる魂は上質の魔力を産み出しますから。十字架に関しては触ってみると面白いですよ」

 

「どれどれって、痛ったああああああああああああああああ!!!!」

 

「聖剣を芯にした特別製の十字架です。聖なる力を封じ込めることは不可能でしたが触れない限りは無害なようになる術式を織り込んであります。悪魔が聖なる物に弱いのがよく分かるでしょう」

 

「ああああああ、爛れてる爛れてる。やばい、痛い痛い痛い」

 

「はいはい、治療しますよ」

 

治療の魔剣で十字架に触れた右手を斬って治療する。

 

「ちなみに今は夜ですから聖剣の力が弱まっています。太陽が昇っている時間帯では今の数倍の威力になります」

 

「なんで木場は無事なんだよ!!」

 

「無事じゃないですよ。全身に激痛は走っていますし、身体が破壊されるのと同時に高速で治癒しているので表面上は普通に見えるだけです。悪魔になろうとも僕は聖職者ですから」

 

「何でそこまでするんだよ」

 

「僕は捨て子でしてね。拾われたのが教会で、教会が無ければ死んでいたからでしょうね。だから教会の教えを捨てることが出来ないんです。それを捨てると言うことは僕の人生の否定ですから」

 

十字架を触りながら兵藤君の問いに答える。

 

「兵藤君にはありませんか?自分の全てを賭けてでも成し遂げたい何かは?」

 

「……急に言われてもな」

 

「ええ、そうでしょうね。それが普通です。部長もそうでしょう。だから、今回のレーティングゲームに勝つことは出来ない」

 

「なっ!?じゃあ、この合宿は無駄だって言うのかよ!!」

 

「合宿自体が無駄だとは言いませんよ。だけど、この程度じゃあ無理ですね。ライザー様はそれだけの強さがある。フェニックスの不死性は強力です。どんなダメージからでも復活出来る。再生の度に精神が摩耗しますが、それも訓練次第では強くすることが出来る。このレーティングゲームで僕らが勝てると思っている人は殆ど居ませんよ」

 

「諦めるのかよ!!」

 

「なぜ諦める必要があるんですか?僕は負けるだなんて思っていませんよ。部長が王としての資質を見せてくれれば、フェニックスごときに負けはしませんよ。僕はね」

 

「どういう意味だよ」

 

「そのままですよ。レーティングゲームに勝つだけならただ僕に命じれば良い。全てを倒せとね。だけど部長はその命令を出すことは絶対に無い。僕より自分の方が強いと思っているから。朝にも言ったけど、僕は50mのロボットを2機所有している。普通に考えて個人でそれを倒せるとでも思うかい?ちなみに悪魔で鬼戒神、50mのロボットを所有しているのは僕だけだ」

 

「そんなに強くないからじゃないのか?」

 

「いや、扱えないんだよ。鬼戒神を動かすのに必要なのは力のある魔導書と魔力だ。そして力ある魔導書は才能や適正を持たない者を喰らいつくす。欠片だけでも味わえば分かりますよ」

 

収納の魔法陣から、エロ本から再び回収したギリシャ語版の写本の断片を少しだけ取り出してすぐに収納する。一瞬だったのにも関わらず兵藤君は顔を青ざめて震えています。仕方ないので首を掴んで露天風呂に投げ込みます。風呂に投げ込まれたのにも関わらず兵藤君は文句も言えずに未だに震えています。

 

「どうです、力ある魔導書の威力は?ルゥはこの力を自分で抑えていますから普通に接していても問題ありませんが、全力を出せば今のよりも強力な力を発揮します。分かったでしょう?グレモリー眷属内で一番危険なのがルゥだってことが」

 

かけ湯をしてから僕も湯に身体を沈めて兵藤君に説明を続けます。

 

「今のは例の一つです。僕が負けない理由は他にも在ります。兵藤君は僕の神器が何か知っていますか?」

 

「…………部長が言うには、色々な魔剣が作れる魔剣創造だって」

 

「その時点で間違っているんですよ。自分の眷属のことをまともに理解していないのにその力を十分に発揮させれると思いますか?ちなみに僕の神器は無限の剣製、ありとあらゆる剣を作ることが出来る神器です。なまくらから名剣、聖剣から魔剣に妖刀。僕に作れない剣は存在しません。不死であるフェニックスであろうと不死殺しの剣を作ればそれだけで事足ります」

 

防御に関しても前世の記録にある鎧の魔剣を装備すれば雷撃以外は無効に出来ますしね。それに油断してるでしょうから腕の一本も切り落とせばそれだけで勝てるでしょう。

 

「僕はレーティングゲームにおいては王の指示を完璧にこなすことしかしませんよ。時間を稼げと言うのなら試合終了まで稼ぎましょう。サクリファイスが必要なら大勢を巻き込みましょう。敵を倒せと言うのなら全てをなぎ払いましょう。だけど使い方を間違えても僕はそれを正す気は無い」

 

「……何でそんな事言うんだよ」

 

「僕は部長を王と見てないですからね。リアス部長の兄君で魔王の一人であられるサーゼクス・ルシファー様との契約によって僕はリアス部長に仕えているだけですから。契約が果たされているうちは従いますよ」

 

「知らなかったぜ、お前がそんなに薄情な奴だったなんて」

 

「薄情?それはお互い様なんですよ」

 

そう、お互い様なんですよ。グレモリーは情に厚い?何処がだ。三年だ、三年もの間、僕は燻り続けた。リアス・グレモリーは僕の価値を見ようともしてくれなかった。見せる機会をくれなかった。普通の主従関係のデメリットは存在しなかったがメリットも存在しなかった。無知は罪であり、知ろうとしないのもまた罪である。彼女は僕の隣人足りえない。

 

「兵藤君も王を目指すのなら覚えておくと良いよ。眷属を引き連れる為に必要なのは眷属の欲を満たすことだ。それは人によって全く異なる。それを見抜いて適度に与えるのが重要なんだよ。その点で言えばリアス部長は最低だ。何も分かっていないんだから。僕も白音さんもギャスパーも本当に必要な物を与えられたことが無い」

 

「それは、それは……」

 

「僕達から言う物ではないのは分かるよね。部長がそれを知ろうとすれば僕達も少し足を残して、それで知って貰うのが一番なんだけど。部長はそういった仕草を見せたことが一度も無い」

 

「……」

 

とうとう反論する言葉が無くなり兵藤君は黙り込んでしまう。存分に悩むと良い、それも主の思し召しでしょうから。

 

 



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第11話

結局、初日から特訓内容は変わらず裏でこっそりと日課の訓練と言う名の実践を追加していた兵藤君はかなり強くなりました。まあ、フェニックス相手にはまだまだ足りませんけどね。初日の風呂で話したことを兵藤君は部長には話せなかった様です。

 

話せば部長は確実に怒って意地を張るでしょうしね。器の小さい人ですね。あと4時間でレーティングゲームが始まります。デビューが黒星なのはあまり好ましくないんですけどね。そんなことを考えつつエクソシスト時代の服を着込んで体内の魔剣を確認していると白音さんが部屋に入ってきました。

 

「どうかされましたか?」

 

白音さんにイスを勧めて僕はベッドに腰掛けます。

 

「祐斗さんは、このレーティングゲームをどう思っていますか?」

 

「リアス・グレモリーの王としての分水嶺です。勝敗は関係ありませんが、内容によっては僕は部長を見限ります。当ては無いのでしばらくはこのままで居るでしょうが、チャンスがあれば離れます。はぐれになるか、別の王の眷属になるかは分かりませんけどね」

 

「……そう、ですか。部長は勝てるでしょうか」

 

「さあ、どうでしょうね?僕が本気を出せば必勝は約束されています。僕を上手く使いこなせば8割は大丈夫でしょう。兵藤君が今の限界以上の力を引き出せば4割といった所でしょうか。ただリアス部長ではライザー様は絶対に倒せないとだけ言っておきましょう。ですが白音さんなら、あの力を、仙術を使えば1割は勝てるでしょう」

 

「……無理です。お姉ちゃんには出来たのに、私には出来なかった。気を選り分けれなかった。飲まれて、祐斗さんを傷つけた」

 

2年前のことをまだ気にしておられたのですね。まあ簡単に説明すると独学で手を出したのが失敗でしたね。ちゃんとした文献もなく師もいない、僅かな噂のみで使わせてしまった僕のミスです。白音さんのお姉さんは初めてでも使いこなせていて、その後に世界の悪意に飲まれたと白音さんから聞いていたので問題無いと思っていたのですが、見事に暴走してしまいました。

 

そして白音さんを元に戻す為に研究を行いながら丸一日押さえつけていた際にボロボロにされたのです。僕は気にしていないのですが、白音さんはそれがトラウマになってしまい、仙術に対して極端に怯える様になってしまいました。

 

「なら、使わなくても大丈夫です。リアス部長は仙術に関しては全く知りません。このまま黙っていれば何も問題ありません。そもそもレーティングゲームに勝っても負けても僕達には何の関係もありませんから」

 

「でも、それは」

 

「酷いと思いますか?ですが、僕にはリアス部長の為に動かなければならない理由がありません。眷属ですから命令があれば動きますが、命令外に関しては特にするつもりはありません」

 

「良いんですか?」

 

「ええ。元々、僕が悪魔の保護下に入る為に交わした契約は年間2万本の魔剣を納めることだけですから。いざとなれば悪魔と敵対しても構いませんしね。それだけの力は既に手にしました。面倒なのでそんなことはしたくありませんが」

 

纏まっている所に神獣弾を撃ち込んだりするならともかく、領地を一つ一つ潰していくのは効率が悪いですし、魔王様達を狙うのも何処か違いますからね。

 

「まあ気楽に戦えば良いですよ。もしもの保険をサーゼクス様は用意しているみたいですし」

 

グレイフィア様に貰った資料の一番最後には花嫁泥棒に来ても問題無い様に手配もしていると書かれていましたからね。僕はそんなことするつもりはありませんが、兵藤君には必要でしょうしね。

 

「保険ですか?」

 

「ええ、保険です。それを活かせるかどうかは分かりませんけどね。その鍵は全て兵藤君が握っています」

 

「イッセー先輩が?」

 

「その時になれば分かりますよ」

 

「祐斗さん、楽しそうですね」

 

「ええ、とてもね」

 

楽しみですよ。実に楽しみです。兵藤君がどんな行動を取るのか、本当に楽しみです。

 

 

 

 

 

 

 

 

レーティングゲーム開始10分前、僕達は部室に揃って最後の準備を整えていた。僕以外の皆は学校の制服で僕だけがエクソシスト時代の服装だ。この時点でリアス部長の評価はマイナスだ。僕のこの服は見た目は普通の神父服を改造しただけに見えるが、裏地にはびっしりと聖なる守りの術式が敷き詰められている鎧なのだ。

 

白音さん達の服にも家を出る前に簡易的な旧き印を刻んでおいたのである程度の防御力を発揮してくれるだろう。こういう道具を用意するのはルールには抵触しないので戦力差を詰める為には用意するべきだ。

 

今回のレーティングゲームでは一番シンプルなルールが用いられている。禁止されているのは試合中の自分たちの転移行為のみ。外部に用意してある道具を転送したりするのはOKで、肉体と魔力を回復させるフェニックスの涙と呼ばれ道具は2個まで、あとは王が敗れれば負けと言うシンプルな物だ。

 

だが、部長は特に道具を用意した様子は無い。僕はこの神父服に魔力回復用の薬と符を大量に用意して来ている。他にも使えそうな物はお金に糸目をつけずに用意してある。白音さんも傷を癒す薬を、ギャスパーはニンニク対策のマスクをそれぞれ用意している。対して部長達は何も用意していない。兵藤君は僕が以前渡した魔力を蓄えておける魔剣を持っている。まあそれ以外は用意出来ないから仕方ないだろう。

 

ちなみにルゥは今回戦わせるつもりは無いので家で寝ています。ヴァレリーさんも家にいるので何かあっても問題無いでしょう。

 

「皆様、間もなくゲームの開始時刻です。準備はよろしいでしょうか?」

 

部室にグレイフィア様が転移で現れる。

 

「問題無いわ」

 

「では、最後の確認を。試合開始と共にこちらの魔法陣から皆様は戦闘用に用意されたフィールドに転送されます。転送先は異空間に作られた世界ですのでどれだけ壊されても構いません。思う存分、ご自由にどうぞ」

 

最後の一文は僕に対して言っている様ですが、命令が無い限りはそんなことしませんよ。

 

「それでは眷属の方々は魔法陣の上に移動をお願いします」

 

グレイフィア様の指示に従って魔法陣の上に移動する。

 

「それではこれより転移します。なお、一度フィールドに転移しましたらゲーム終了まで魔法陣による転移は出来なくなりますのでご注意ください。それではお嬢様、ご武運を」

 

その言葉と共にフィールドに転移される。今回のレーティングゲームのフィールドはどうやら駒王学園のようですね。転移前の部室と変わらない様に見えますが天井と壁に書かれている魔法陣に僕の力を感じない所を見ると作動させることも出来ないのでしょう。

 

『皆様、ようこそおいでくださいました。私はこのたびグレモリー、フェニックスご両家開催のレーティングゲームの審判(アービター)を仰せつかりましたグレモリー家使用人、グレイフィアと申します。我が主、サーゼクス・ルシファー様の名の下に今宵のゲームを見守らせて頂きます。

 

早速ですが、ゲームのルールを説明いたします。今宵のゲームの舞台はリアス様の通う人間界の学校、駒王学園となっております。実際の物とは違い、予め仕掛けてありました魔法陣はイミテーションとなっております。そして転移先が本陣となっております。リアス様の本陣は旧校舎2階のオカルト研究部部室、ライザー様の本陣は新校舎最上階の生徒会室となっております。兵士(ポーン)の方々はプロモーションする際には敵本陣周辺までお越し下さい。なお、人間界の夜明けまでが制限時間となっておりますのでご注意ください。予想では4時間47分となっております。それではゲームスタート』

 

そして学校のチャイムがフィールド内に鳴り響く。もの凄く緊張感が無くなるね。

 

「では、まず皆これを付けてちょうだい」

 

部長はそう言うと副部長が皆にイヤホンタイプの通信機を配った。まさか戦闘中に破損の恐れがある物を使うとは思っていなかった。

 

「戦場ではこれを使ってお互いにやり取りするのよ」

 

「すいません、部長。もっと便利な物を用意しています」

 

僕は収納の魔法陣から人数分の術式をかき込んだ紙を取り出してそれを配る。

 

「その紙をこうやって肌に触れさせて下さい。そうするとそこに魔術刻印が刻まれます」

 

右手の甲に紙を押し付けるとそこに三日月と星を模した様な術式が描かれる。それを皆に見える様に見せる。

 

「これに魔力を通すことで通信が出来る物です。破損の恐れがある通信機よりは安全ですし、素の兵藤君の魔力でも使うことが出来る省エネタイプの物です。その分距離が短いんですがこの学園の端から端なんて距離じゃない限りは通じます。ちなみに1日もすれば消えるインスタント式です。天界側には普通にあるんですけど、冥界側には無かったりします?」

 

「ええ、少なくとも私は聞いたことが無いわ」

 

部長が素直に驚いている。ふむ、それなら仕方ないですね。

 

「じゃあ次に作戦を考えないとね」

 

えっ?それはもちろん幾つかプランを用意してあって、どれが一番良いかを確認するんですよね。

 

「まずは兵士(ポーン)の対処が先決かしら?8人全員が女王(クイーン)にプロモーションしたら厄介よ」

 

まあそうですね。それは基本でしょう。予め用意しておいた学園の地図を広げて、そこにペンで予想される侵攻ルートと主戦場になると思われる場所に矢印や印を付ける。

 

「とりあえずこれが予想される敵の侵攻ルートです。おそらくは向こうもルートの決定や戦力の振り分けを考えているでしょうから今の内に赤く塗った部分に罠を仕掛けておいた方が良いでしょう」

 

地図には旧校舎周辺の森と旧校舎と新校舎を直接繋ぐ道が赤く塗ってある。

 

「そうね。それが良いわね。白音とギャスパーは周囲の森を、祐斗は新校舎への道に罠を仕掛けて来て。朱乃は念のために旧校舎全体に三重の結界を張ってちょうだい」

 

「「「「分かりました」」」」

 

今の指示には全く問題ありませんね。割り振りも最善です。

さて、とりあえずエクソシスト式と天使式の罠を仕掛けておきますか。あと、地味に効く聖歌を録音した物も流しておきましょう。我慢すればなんとか通れる位に微弱な物ですが、注意力が散漫になって罠の方に引っかかってくれるでしょう。最後に古典的な二重の落とし穴を掘っておきましょう。明らかに地面が掘り返された後がある落とし穴と、その奥に巧妙に隠された落とし穴を仕掛けると言う物ですが、これが意外と効率がいいんですよね。穴の底には聖書と十字架を放り込んでおきましょう。

 

とりあえずはこんな所でしょう。部室に戻ると既に他の皆は揃っていて、部長の作戦を決めていたようだ。まずは主戦場になると思われる体育館とグラウンドの二カ所に戦力を分散。体育館に何人かを誘き寄せてから副部長が体育館を爆破して纏めて撃破する予定だ。

 

その間、もう片方の主戦場であるグラウンドでは時間稼ぎを行う。オーソドックスではあるがこの作戦には大きな問題点がある。その作戦が有効なのは数が最低でも同じ時でなければ各個撃破される可能性が高いということだ。体内に仕込んである探知系の魔剣に魔力を流して敵の位置を確認する。生徒会室に1、体育館に4、フィールドの上空ギリギリに1、残りがグラウンドか。

 

「体育館にはイッセーと白音が、グラウンドには祐斗とギャスパーが向かってちょうだい。祐斗達は無理をする必要はないわ。体育館の方の決着が付いて、合流するまでは他の場所に敵が行かない様にしてくれるだけで良いわ」

 

「分かりました。それではギャスパー、行きましょう」

 

「はい、祐斗さん」

 

ギャスパーを連れて部室を出ると同時に体内の隠蔽系の魔剣を発動させて、自分とギャスパーの気配を周囲に同化させて移動する。そのままグラウンドの端の方にある建物の影に身を潜める。改めて探知系の魔剣を発動させてみると三人が旧校舎の方に向かって移動を始めている。まあその方向は僕が罠を仕掛けた場所ですから放っておけば良いでしょう。抜けられたらここから魔剣を精製して壊れた幻想で爆破すれば良いだけですし。

 

『ライザー・フェニックス様の兵士(ポーン)1名、リタイア』

 

位置的には最初の落とし穴に引っかかっていますね。

 

『ライザー・フェニックス様の兵士(ポーン)1名、リタイア』

 

今度は落とし穴を飛び越えようとジャンプして奥の落とし穴に引っかかりましたね。

 

『ライザー・フェニックス様の兵士(ポーン)1名、リタイア』

 

そして最後の一人は羽を出して飛び上がった所を少し高い位置に仕掛けておいたエクソシスト式の罠に引っかかり、地面に落ちた先に仕掛けてあった天使式の罠に引っかかりリタイアしたみたいです。全部の罠をコンプリートしてくれるなんて仕掛けた側からすれば嬉しい限りです。

 

「祐斗さん、もしかしてライザー様の眷属の方って」

 

「それほど強くはありませんよ。基本的にライザー様一人居ればどうとでもなるチームですから。それでも女王(クイーン)であるユーベルーナさんの様に十分強い人も居ますよ。まあ、副部長よりも弱いですけど。でもかなり高い確率でフェニックスの涙を所持しているでしょうから副部長が負ける可能性もあります。おそらく何も回復道具を持ち込んでいないでしょうから。何故用意しないんでしょうね?お金なら持っているでしょうに」

 

「でも、祐斗さんの在庫も異常だと思いますよ。何処と戦争するつもりなんですか?」

 

「念のためですよ。僕、全力で戦うとアレだけの量が有っても1日で底を尽きますから」

 

デモンベインにアルハザードのランプを搭載して全力でバルザイや黄金の剣を作り続けて、神獣弾や必滅呪法を連続で発動させればそれ位消費しますからね。上級悪魔1個師団が一月は全力で戦える物資が消えてなくなりますよ。燃費が悪過ぎますよ。

 

ですが、1個師団以上の働きは見せれます。というか単機で三大勢力と戦えますよ。無限の龍神オーフィスや赤龍神帝グレートレッド相手にどこまで戦えるかは分かりませんけど。

そんなことを考えていると体育館の方で大きな爆発音が聞こえてきました。

 

『ライザー・フェニックス様の兵士(ポーン)3名、戦車(ルーク)1名、リタイア』

 

どうやら作戦は成功した様ですね。そう思っていたら再び爆発音が聞こえてきました。確認の為に全員に念話を送ります。

 

『後の方の爆発は何事ですか?』

 

『オレ達が狙われて白音ちゃんが!!』

 

『落ち着きなさい、兵藤君!!白音さん、大丈夫ですか?』

 

『……なんとか。しばらく休めば大丈夫です』

 

『兵藤君、白音さんを校舎内に運んで来ださい。敵はどうしていますか?』

 

『今、副部長が戦ってる』

 

『なら兵藤君は、ちょっと待って下さい。部長はどうしました?』

 

普通なら一番驚いているはずの部長の声が聞こえません。副部長は戦闘中ですから仕方ないとしても、部長が通信に出ないのはおかしいです。

 

『『『え?』』』

 

慌てて探知系の魔剣を発動させるとライザー様と共に屋上に向かっている様です。

 

『兵藤君!!白音さんを校舎内に運んだら急いで生徒会室でプロモーションを!!その後は屋上へ!!白音さんも回復次第屋上へ向かって下さい。部長が何故かライザー様と一騎打ちをしようとしています!!』

 

『『『なっ!?』』』

 

「ギャスパーも副部長の援護に行って下さい。ここは僕一人で抑えます」

 

「は、はい。気をつけて下さいね」

 

ギャスパーに副部長が居る辺りを教えてグラウンドの中央に姿を現す。

 

「リアス・グレモリーが騎士(ナイト)、木場祐斗。誠に遺憾だけど、君たちを部長達の元に行かせるわけにはいかなくなった。正々堂々かかってくるも良し、闇討ちするも良し。だが、逃がしはしない」

 

グラウンドに居るライザー様の眷属全員を囲う様に聖剣を四隅に打ち込み、結界を張る。

 

「この結界を解く方法は一つ、この魔剣で結界の隅にある剣を叩き折るだけだ」

 

そう言って剣を折ることに特化した魔剣をグラウンドの中央に突き刺す。

 

「急いだ方が良いですよ。ウチの兵士(ポーン)は赤龍帝ですから」

 

その言葉によって場の雰囲気が変化した。一人が私の後ろに回る様に移動を始め、残りの全員が魔力を高め始めた。それに合わせて僕も魔力を高め始めます。しばらくするとまず最初に結界に魔法を撃ち込んで破ろうとしていましたが、その全てが結界に触れることはなくすり抜けていきます。

 

この結界は今は触れたものに強力な聖なる力を浴びせるだけの物ですから。物理的な障壁では有りませんので攻撃が当ることは有りません。ですが、その聖なる気から近づけないでいます。結界を破れないと見た相手は僕に向かって魔法を打ち込んで来ます。僕はそれを避けることはせずにそのまま受けることにしました。

 

「やったわ。シーリス、すぐにその剣で結界を」

 

身体を炎に包まれながら、確かにそう聞こえた。甘いですね。アナウンスが流れていないのに敵を倒したと判断したのは。シーリスと呼ばれた相手は僕の背後に回っていた人の様ですね。後ろから駆け出して魔剣に手を伸ばします。まあそんなこと許さないんですけどね。

魔剣に伸ばした腕を直前で掴んで止め、驚いて動きが止まった所で掴んでいる腕の骨を握りつぶし、指示を出していた人の方に放り投げる。その勢いで僕を包んでいた炎が飛び散っていく。

 

「甘過ぎますね。リタイアのアナウンスは流れてもいないのに」

 

「そんな、無傷だなんて!?」

 

伊達に各属性無効の魔剣を体内に埋め込んでいませんからね。神父服も対フェニックス用の術式を用意してありますから燃えてませんし。

 

「さあ、どんどんかかって来て下さい。僕は今の所動く気はありませんから。時間を稼ぐのが目的なのでね」

 

剣を産み出すことはせずに拳を握る。確かライザー様の眷属には妹のレイヴェル様が居たはずですからね。時間が有れば対フェニックス戦の実験台になってもらいましょう。その後、折角襲いかかり易い様に無手で構えているのにも関わらず膠着状態が続く。そしてゲームが動く。

 

『リアス・グレモリー様の女王(クイーン)、リタイア』

 

どうやら副部長が負けた様ですね。

 

『ギャスパー、どうなっていますか?』

 

『副部長が油断してフェニックスの涙を使われました。僕には手を出すなって』

 

『仕方有りません。ギャスパーはそのままライザー様の女王(クイーン)を抑えて下さい。白音さん、そちらは?』

 

『とりあえず動ける位にはなりました。今、屋上に向かっています』

 

『兵藤君、部長、聞こえますか?』

 

二人はどうやら戦闘に意識が傾いていて答えられないみたいですね。

 

『僕の方はこのまま残りを拘束し続けます。何かあれば連絡を、特に白音さんは部長が勝負を諦めかけたら連絡を下さい。一度だけ部長に手を貸します』

 

『ありがとうございます、祐斗さん』

 

「そちらの女王(クイーン)が落とされた様ですね」

 

「ええ、そのようですね。ギャスパー、ウチの僧侶(ビショップ)と共に戦えば負けなかったのにくだらないプライドから負けた様です」

 

「それは貴方もでしょう。この人数差で勝てると思っているのですか?」

 

「思っているからこうやって正面に立って時間を稼いでいるんですよ。部長からのオーダーは時間稼ぎですのでね。別に貴女達を撃破する必要がないんですよ。ああ、一つ言い忘れていましたけどこの結界出ようと思えば普通に出れますよ」

 

その言葉に頭の悪そうな一人が結界から出ようと駆け出し、光力に焼かれて光となって消えていく。

 

『ライザー・フェニックス様、僧侶(ビショップ)1名、リタイア』

 

「耐えられればね。ちなみに僕は普通に耐えれます」

 

そう言って刺しておいた魔剣を引き抜いて一度結界の外まで出てから再び戻る。

 

「はい、ということで貴女達を放置しておいても良いのですが部長から指示がこないのでここで待機させてもらっています」

 

「舐められたものですわね」

 

「舐めてなどいませんよ。戦いにおいて油断や慢心程危険な物はない」

 

『祐斗さん、もう駄目です。イッセー先輩がボロボロで、部長、今にも投了(リザイン)しそうです』

 

『分かりました。少しこちらも動きます』

 

「さて、残念ですがそろそろ僕も動かさせてもらいましょう。とは言っても、既に仕込みは終わっているんですけどね」

 

結界の中央に結界を構成しているものと同じ物を突き刺すと同時に、結界が完成する。結界の中を聖なる力で満たす浄化の結界が。

 

「「「「「「きゃあああああああああああ!!」」」」」」

 

「ぬっ、ぐぅぅ!!」

 

一撃で仕留めることを前提にしていたので僕自身にも無視出来ないダメージが入りますが、目の前の6人が光に包まれて消えたのを確認すると同時に壊れた幻想で聖剣を爆破して結界を解除します。

 

『ライザーフェニックス様の兵士(ポーン)2名、僧侶(ビショップ)1名、戦車(ルーク)1名、騎士(ナイト)2名、リタイア』

 

これで多少は部長に余裕が出来たはずです。少し休んだら、すぐに屋上に向かいましょう。

呼吸を整えてから校舎に向けて歩き出そうとした所でそのアナウンスが流れた。

 

『リアス・グレモリー様の投了(リザイン)を確認しました。このゲーム、ライザー・フェニックス様の勝利です』

 

やはりリアス・グレモリーは王の器に相応しくないということがはっきりと判明した。分かっていた事とはいえ、がっかりしましたよ。

自分勝手な行動、眷属への指示の拙さ、駒の数はこちらが上で試合を投了。部長が撃破されての敗北なら、まだ見守ろうと思っていたけど、途中で諦めるという行為を僕は許さない。自分から望んだ戦いを自ら諦めるなど、絶対に許さない。

 

 



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第12話

レーティングゲームが終了した後、僕らは冥界に連れて行かれた。明後日にはリアス・グレモリーの結婚式が行われるからだ。とりあえず、僕らは冥界の僕の屋敷にて結婚式の準備をすることになった。グレモリー家お抱えの仕立て屋に礼服の準備をして貰い、当日の予定を聞いたら、あとは身体を休めておく様にとのことだった。

 

僕は試合の映像をグレイフィア様に用意してもらい、それを分析して全員の評価を付けていった。こんなことをするのは眷属としては問題だろうが、事実を事実として受け止めてもらう必要がある。グレイフィア様も僕とは別に評価を纏めてくれるそうなので後で確認させてもらう。

 

とりあえずリアス・グレモリーと副部長に関してはマイナス評価しか存在しない。理由は言わなくても分かるでしょうが、あえて試合外も含めて纏めるなら準備不足の一言ですね。力も情報も道具も全てが足りていないです。一騎打ちに関してのやり取りも聞きましたが、安い挑発でした。何かの駆け引きが有った訳でもなく、ライザー様がリアス・グレモリーの眷属を見下し、それに激怒してこちらから一騎打ちを申し込んでいました。愚かです。愚か過ぎて殺したい位です。せめて何か勝算でもあれば奇策として評価していたでしょう。ですが、リアス・グレモリーはバアル家の破滅の魔力によるゴリ押し一択の攻撃しかしませんでした。

 

 

副部長に関しては無駄なプライドによる一騎打ちを行ったことですね。ギャスパーの停止世界の邪眼による援護を受ければ5秒と経たずに勝てたでしょう。それ以外は普通ですね。副部長が堕天使であるバラキエルと人間の間に産まれたハーフであることは勝手に調べさせてもらって知っています。その力が嫌いなことも、その理由も。それに関しては個人の事なので触れないでおきます。ただ、その力を使えば余裕で勝っていたでしょうね。まあ僕も十字架を付けていて能力が落ちていますから人の事は言えません。

 

 

続いて今回の大金星である兵藤君。合宿最終日には、なんとかアトラック・ナチャのページモンスターを倒せる位にまで成長しただけの事はあります。体育館でのチェンソーを持った双子を相手に焦る事なく対処出来ていました。しかし、洋服崩壊(ドレス・ブレイク)は減点ですね。みだりに女性の肌を曝させるのはいただけません。

 

その後のライザー様との戦いですが、やはりフェニックスの不死性に苦戦する姿が目立ちますが、善戦はしていました。僕からの連絡の後、赤龍帝の篭手の倍化の力を貯めながら生徒会室に向かい、女王(クイーン)にプロモーションして屋上に辿り付くと同時に倍化の力を使用して真っ向からライザー様を圧倒していました。

 

しかし、空を飛び慣れていない事と倍化の力が切れてから再び貯めるまでの間にダメージを貰い過ぎ、途中で致命傷になりそうな攻撃を躱す為に力を使ってしまい押される一方になってしまった様です。ここで白音さんが屋上に到着し、白音さんが持っていた回復薬で傷を癒しながら再び倍化の力を貯めて攻勢に移ったのですが、ダメージが予想以上に大きかったのか途中で倒れてしまいました。

 

それでも諦めずに立ち上がろうとする姿にライザー様も兵藤君への評価を改めていたのが印象深いですね。そして何とか立ち上がり駆けだそうとした所で部長の投了(リザイン)宣言を聞き、振り返ってそれを再度確認して悲しそうな顔をして倒れてしまいました。

 

 

次に白音さんですが、一番の評価は不可視の魔法に気付いて兵藤君を庇えた事でしょう。それ以外はまあ普通でしたね。合宿は全て部長のメニューに任せていましたが、普段の物よりも密度が低い物だったのであまり変わっていませんから。

 

 

続いてギャスパー。評価する部分はライザー様の女王(クイーン)を上手に足止めしていた所ですね。停止世界の邪眼を一瞬から数秒間だけ発動させて、その間に移動する事で高速移動の様に見せかけて相手に常に周囲を警戒させていました。中々おもしろい使い方ですね。

 

 

僕の評価はどうでも良いです。正直、今回のレーティングゲームでの目的は達成していますから。単純な戦績で言えば僕一人でほとんどの敵を仕留めていますから酷い評価にはならないと思っています。まあ酷い評価でも気にしないんですけどね。

 

 

 

 

翌日、兵藤君が目を覚ましたと報告があったので顔を見に行きます。

 

「酷い顔ですね」

 

ベッドの上にはミイラ男一歩手前の兵藤君が寝かされていました。

 

「……なあ、木場」

 

「はい」

 

「部長が投了(リザイン)したのは、オレの所為なのか?」

 

「さあ?僕は部長ではありませんからね。その場にも居ませんでしたし」

 

「お前なら、勝てたんだよな」

 

「ええ、僕はゲーム終了間際にライザー様の妹であられるレイヴェル様を含め眷属の大半を倒しています」

 

まあレイヴェル様が予想以上に打たれ弱かったのも原因なんですけどね。ライザー様ならあの結界にも耐える事が出来たでしょう。

 

「……ごめん、ちょっとだけ一人にしてくれ」

 

「分かりました。遮音結界、張っておきますから」

 

それだけを告げて部屋から退室する。おそらくは今頃泣いていると思う。その涙はどんな理由で流れているのでしょうね?ライザー様に勝てなかった自分の弱さになさなのか、それとも部長に信用されなかった情けなさなのか、それとも別の何かなのでしょうか?

兵藤君、君はこの後どんな未来を見せてくれますか?それが僕には楽しみですよ。

 

 

 

 

 

 

そしてその日の深夜に兵藤君は僕の屋敷にやってきました。

 

「木場、頼みがある。オレにライザーを倒せるだけの魔剣をくれ!!」

 

そう言って屋敷に訪れた兵藤君は土下座をしました。

 

「ええ、構わないですよ。ですが、兵藤君は何を代価に捧げてくれるのですか?」

 

「色々、本当に色々考えたんだ。合宿の初日に、露天風呂で言われたときから。自分の全てを賭けてでも成し遂げたい何かを」

 

「ええ、それで何か見つかりましたか?」

 

「ライザーに負けた時、部長は泣いていた。オレが弱かったから。オレは弱い、少し前までスケベなだけの高校生だったから。だけど、好きな人を泣かせたままでいる弱い男にはなりたくない!!これからも泣かせてしまうかもしれないけど、それでもそれを笑顔に変えてみせる!!オレは部長の笑顔を作り続けてみせる!!」

 

顔を上げた兵藤君の顔はもの凄く綺麗な顔だった。純粋でどこまでも欲望を追い求める悪魔らしく、人間らしく、男らしい顔です。

 

「だから、守る為に必要な物以外、好きなだけ持っていけ!!」

 

ですが、どこまでも顧みないのは減点ですね。

 

「それがどういう意味か分かっていますか?もう一度良く考えて下さい。前提知識として教えますが、僕は部長のことはどうでも良いと思っています。何が欲しいのか明確にしないのならライザー様倒せるギリギリの力を持つ魔剣を与えて、全てを貰っていきますよ。記憶や寿命、そう言う物も僕は徴収出来るのですよ」

 

「なら今はあの炎を、フェニックスの炎に対抗出来る力をくれ!!フェニックスを倒す力は赤龍帝の篭手でなんとかする。それの代価に相応しいのはなんだ?」

 

「そうですね。フェニックスの炎を限定にするならそこまでの対価は要らないですね。ですが2週間、僕の実験に協力してくれるのなら雷撃以外の魔法を無効化する物をあげましょう。どうします?」

 

「どんな物なんだ」

 

「銘を鎧の魔剣。鎧化(アムド)の呪文で詠唱者を包む鎧となる魔剣です。魔力を通さない金属で構成されていますが、金属故に雷撃だけは防げない物です。熱や浸水はカバーしてくれるんですが」

 

「それで十分だ」

 

「ではこれがその魔剣です。明日、結婚会場に向かうまでに慣れておいて下さい。傷の治療と送迎はサービスしておきますよ」

 

鎧の魔剣を作り出して手渡し、治療の魔剣で兵藤君を斬りつけて残っている傷を全て癒す。

 

「木場、ありがとう」

 

「気にしないで下さい。僕は君の事が気に入っているんですよ。イッセー君」

 

「ははっ、初めてだな。お前が名前で呼んでくれるの」

 

「ふふっ、そうですね。言ったでしょう、君の事が気に入っているって。その欲望に忠実なまま、何処まで駆け上がれるのか。それを僕は楽しみにしてるんですよ。歴代の赤龍帝は悲惨な末路しか辿っていません。ですが、今代の赤龍帝は規格外過ぎますからね。どうなるのか予想が出来ない。それがもの凄く楽しみなんですよ」

 

基本性能は論外な程低いのにも関わらず成長率はかなり高いですし、何より歴代の赤龍帝と違い転生悪魔になっていますからね。基本性能の脆弱さが逆に利点になった様ですね。

 

「さて、時間はまだ有りますからね。少しでもフェニックス相手に戦う為の技も教えましょう」

 

「代価に何をすれば良いんだ?」

 

「これに関しては実践でフェニックス相手に使ってもらうだけで良いですよ。自信は有りますが、そもそも効くかどうかも分からない物ですから」

 

「つまり実験して来いと」

 

「そうですね。この技の開発というかこれを思いついた理由を説明します。それを聞いて納得出来なかったら使わなくても良いです。対フェニックス用の技ですが、別にフェニックスが相手でなくても通用する技です。覚えておいて損はないでしょう。時間操作は面倒なのでさくさく行きましょう」

 

「時間操作まで出来るのかよ!?」

 

面倒だからしませんけどね。効率も悪いですし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白音さんやルゥを結婚会場に送り出した僕はイッセー君の最後の調整を始める。ボロボロの身体を治癒系の魔剣で斬りつけて癒し、疲労回復の薬と魔力回復の薬を口に流し込み、風呂に放り込んで身体を綺麗にさせている間に代価を追加で貰って用意する事になった防御術式を織り込んだ服を脱衣室に置いておき、一番良いタイミングで乱入する為に監視の術で会場を覗き見ています。

 

会場は既に招待された悪魔で一杯の様ですね。明らかに不自然に広く用意されている通路に何人かが眉を潜めてもいる様です。そして部長の眷属が居なければならない所に僕とイッセー君が居ない事で機嫌が良さそうなサーゼクス様が見えます。

 

あっ、目が合いました。気付かれた様です。

 

他に変わった物は、ライザー様の眷属が何やら深刻そうな顔をしていますね。何かあったのでしょうか?

風呂から上がって来たイッセー君は僕が用意した服を着込んで鎧の魔剣と改造した魔力貯蔵用の魔剣の二本を持って僕の隣にやって来て会場の映像を覗き込みます。

 

「イッセー君、Boostを貯め始めて下さい。限界まで貯めてから会場に乗り込みます」

 

「もう始めてる」

 

イッセー君はいつの間にか左腕に赤龍帝の篭手を装備して力を貯め始めていました。やる気は十分ですね。それにしても会場に入って来たライザー様の顔が気になりますね。何処か不満そうな顔をしています。

 

『Boost!!』

 

「貯まったぞ」

 

「では、派手に行きましょう」

 

転移の魔剣ではなく空間接続の魔剣を振り、会場の天井に空間の穴を繋げます。

 

「よっしゃあ、行くぜ!!」

 

イッセー君が迷うことなく穴に飛び込み、僕もそれに続いて穴に飛び込んで空間を塞ぎます。綺麗に床に着地すると、会場の視線が僕達に集る。

 

「部長は渡さねえ、決着を付けに来たぞライザー!!」

 

周りの事など気にもしない様にイッセー君がライザー様に向かって吼える。

 

「来ると思っていたぞ赤龍帝!!あの様な決着で、納得していないのはオレも同じだからな!!」

 

なるほど、ライザー様も不完全燃焼だったという事ですか。ライザー様はイッセー君に向かって小ビンを投げ渡し、自らも同じ小ビンの中身を浴びます。

 

「フェニックスの涙だ。これで条件は同じだ。互いに言い訳は出来ん」

 

「へっ、上等だよ」

 

完全に回復しているイッセー君もフェニックスの涙を浴びる。それを見たライザー様は2本の剣を手元に召還する。これで条件は同じになってしまいましたね。

 

「それで、貴様は何だ?」

 

ライザー様が僕を睨みつけてくる。

 

「僕はこの戦いの見届け人さ。サーゼクス様が用意した余興の邪魔をさせない為にね」

 

「余興?」

 

「それに関しては私が説明しよう」

 

奥の方からグレモリー卿とフェニックス卿、それにグレイフィア様を連れてサーゼクス様が姿を現す。

 

「私の可愛い妹の婚約パーティーを派手にしたいと思ってね。ドラゴン対フェニックス、実に面白い余興だと思いませんか?それに本人達はこの前のレーティングゲームの結果に満足していないようで、この通りやる気も十分」

 

サーゼクス様の言葉に周りで何かを言っていた人達も黙り込んでしまう。

 

「さて、ドラゴン使い君。君はこの戦いに勝ったら、何を望む?」

 

「「「サーゼクス様!?」」」

 

「悪魔なのだから当然でしょう。何かをさせるのですから。何でも良いよ、爵位かい?それとも絶世の美女?それとも使い切れない程の金銀財宝?」

 

周りの方々が驚かれていますが、当然の事でしょう。イッセー君はサーゼクス様から依頼されて戦うのだから。その中で最もサーゼクス様が楽しめる結果はイッセー君が勝つこと。つまりは正統な報酬を得る事が出来るという事ですからね。

 

「部長を、我が主であるリアス・グレモリー様を返して頂きたい」

 

「いいだろう。君が勝てば連れて行くが良い。ライザー君は何を望む?」

 

「今回使ったフェニックスの涙の代金を貰えればそれだけで十分ですよ。この戦いはオレも望んでいる事ですから」

 

その言葉で戦いが行われる事が決まった。この為に予め用意されていたであろう壁際の席以外が退けられて会場中央にスペースが作られる。スペースの中央でライザー様とイッセー君が向かい合い、ライザー様の後ろにはフェニックス家の関係者が、イッセー君の後ろにはグレモリー家の関係者が席に着き、僕は立会人としてイッセー君とライザー様の隣に立つ。

 

「ルールはどちらかが降参するか戦闘不能に陥るまで。死体が残っているなら死んでも10秒以内なら蘇生出来ますから存分にやって構いませんよ。立ち会いは僕、鍛冶師(ブラックスミス)ファングがさせて貰います」

 

魔剣のオーダーを受ける際に名乗っている偽名を告げると殆どの人が目を見開いて驚いている。分かっていないのは部長と副部長とイッセー君だけですね。僕、基本的に依頼は受けても届けるのはそれ専門の個人業者に頼んでますから顔を見せる事が有りませんでしたから。依頼の方法も専用の書類にスペックをかき込んで魔力を通すと自動で僕の工房に転移する様になってますし。サーゼクス様達魔王樣方には直々に持って来る様にと言われているので直接配達していますけど。

 

あと、偽名を名乗ったのにはもう一つ訳が有ります。今ここに居る僕はリアス・グレモリーの眷属である木場祐斗ではなく、サーゼクス・ルシファー様お抱えの鍛冶師という宣言の為です。こういった事をちゃんとしておかないと、後々面倒な事があるのが社会という物ですから。

 

「周囲への被害は僕の方で食い止めますので。思う存分、納得がいくまで戦って下さい。このコインが合図です」

 

イッセー君とライザー様に見える様にコインを見せて、それを弾き上げる。弾き上げられたコインが重力に引かれ、速度を落とした所でイッセー君とライザー様以外の魔力の高まりを感じ、実体以外を切る剣ルーンセイヴを産み出してコインを狙った部長の魔力弾を切り捨てる。

 

「なっ!?」

 

「さあ、始まりますよ。あの日の続きが」

 

会場中に聞こえる様に部長の方を向いて笑顔で宣言する。たぶん、部長に向ける今の僕の笑顔は歪んでいるでしょうね。自分でも分かります。聖職者としては最低だと思いますが、悪魔としては良いと思っている自分がいるのもまた事実ですから。

コインが床に落ちると同時に二人が動き出す。

 

「鎧化(アムド)!!」

 

イッセー君が改造した魔力貯蔵用の魔剣を背後の床に突き刺し鎧の魔剣の呪文を唱えて鎧を纏う。それは間違いではないのですがベストな答えではないんですよね。まさかあの剣をライザー様が持っているとは思っていませんでしたから。

ライザー様が2本の剣を一本の剣の様に両手で握り、イッセー君に斬り掛かる。イッセー君はそれを右肩で受け止めて

 

「があああああああ!?」

 

鎧の右肩の部分が砕けて、左肩を軽く斬られただけにしては異常な程の叫び声をあげて後ろに下がる。

 

「鎧砕きと兵士殺し、そこに居る鍛冶師(ブラックスミス)ファングの実験作の二振りだ。父上のコレクションから勝手に持ち出させてもらったが、正解だったようだな」

 

2年前程前に開発した物理的魔術的防御を無効化する鎧砕きと悪魔の駒の兵士(ポーン)を持つ者に対して聖剣で斬られたかの様なダメージを与える兵士殺しを、その性能を知る為に市場に流していたのですが、何処からもそんな噂は聞こえて来なかったので何処かで在庫になっていると思っていたのですがフェニックス卿が買われていたのですか。

 

しかもコレクションでは噂が流れないはずですね。たぶん、他の王殺し、女王殺し、騎士殺し、戦車殺し、僧侶殺しもフェニックス卿のコレクションに含まれているのでしょうね。

 

「くそ、そっちも準備してやがったのか」

 

「当たり前だ。お前なら絶対に来ると確信していたからな。準備は怠っていなかった。その鎧もオレ対策に用意したのなら効果は分かる。オレの炎を無効化する物だろう。鍛冶師(ブラックスミス)ファングはそちらに付いているのなら予想出来る」

 

「なら、これは予想出来るか!!」

 

左肩を抑えながらイッセー君がライザー様に向かって走りだす。どうやらアレを使う様ですね。出来ればまだ残して置いた方が良いんですがね。仕方ないんですよね、この状況では。

 

「何を考えている。だが、これで!!」

 

再び斬り掛かるライザー様。剣を使い慣れていないのか直撃する様な事はないでしょうが掠るだけでもダメージは大きいですからね。イッセー君の手が分からない以上、間違っていないでしょう。

 

「こいつが赤龍帝の篭手の第2の力、ブーステッド・ギア・ギフト!!」

 

倍化の力を他の物に譲渡する力。それが赤龍帝の篭手の第2の力、これによって部分部分の強化を行える様になり、そしてそれを利用した技。

 

「名付けてオーバーブレイク!!」

 

ここに来る前に貯めておいた倍化の力をライザー様の持つ2本の剣の能力に譲渡する。器である剣に収まりきれない力が溢れ、砕け散っていく。

 

「何!?」

 

「儂のコレクション!!」

 

だけど、少しだけ誤算が発生した。兵士殺しの方は灰の様に散ったのに対して、鎧砕きは砕けつつも礫となってイッセー君の鎧の魔剣を削り落としていく。

 

「ちぃ!!」

 

苦し紛れにライザー様が炎を放ち、イッセー君は前転で鎧の魔剣で残っている背中の部分でその炎を受け止めた。そしてそのまま自前の魔力と残っている倍化の力を使った魔力弾でライザー様の顔を吹き飛ばす。顔が再生する間にライザー様の服を掴み、背負い投げで床に叩き付ける。

 

「がはっ!!」

 

叩き付けられた衝撃で肺から空気が抜けて苦しそうなライザー様をさらに床に叩き付ける。イッセー君はそれを繰り返す。

派手な見た目と音はするが、ダメージはそれほどでもない投げ技の連続によって再生が行われないライザー様に確実にダメージが入っていく。

 

これがフェニックス対策に考えだした戦法です。一定以上のダメージが一度に入ると炎となって再生するフェニックスに対して、一定未満のダメージを継続して与える事で倒そうというのがこの戦法です。これが有効だと気付いたのはレーティングゲームの際の最後の結界です。あれは結界内に光力を満たし続けるという物です。それを受けてレイヴェル様はリタイヤされていますが、再生が行われた様子がありませんでした。それは光力によるダメージの入り方にあるのだろうという仮定を立てるには十分でした。

 

ゲームに例えるなら通常攻撃だとHPのバーを一気に削り落とすのに対し、あの結界のダメージの入り方はじわじわと削れていく物なのでしょう。数値に表すならパンチ1発で300削れるのに対して、結界の方は1ダメージを時間ごとに与える物だという事です。相性の関係で1ダメージを与える時間がかなり短いのでしょうけど。

 

叩き付けられながらもライザー様は全身から炎を吹き出すが、本気の時と比べると弱すぎる炎は僕が用意した防護服に全て防がれる。

 

「な、何故再生が」

 

「とっとと気絶しやがれ!!」

 

「くそが!!」

 

最後の気力を振り絞ってなのか今まで以上の炎に防護服が燃える。

 

「ぬうおぉ!!」

 

一部が燃え尽きた事で術式が壊された防護服を脱ぎ捨てて魔力貯蔵用の魔剣の傍にまでイッセー君が下がる。ライザー様はようやくまともな呼吸が出来る様になり、冷静になったのか自分を傷つけて再生する。これで圧倒的にイッセー君が不利になった。残されているカードは2枚。それで駄目ならイッセー君の負けだ。

 

「どうやったのかは分からんが、再生を封じた攻撃は褒めてやる。だが、防護服も無くなったお前の方が不利だ。決着を付けてやる」

 

「まだだぜ、オレにはまだジョーカーが残されてる。木場が立てた予想通りだ、だからあいつがオレにくれた策を使うぞ!!ドライグ、先に交わした契約通りだ、輝けぇっ、オーバーブースト!!」

 

『Welsh Dragon over booster!!』

 

その言葉と共にイッセー君が真紅のオーラに包まれる。そして、真紅のオーラの中から赤いドラゴンを模した鎧を纏ったイッセー君が飛び出して来た。そしてそのままライザー様を殴り飛ばし、止まれずに壁に激突する。殴られたライザー様は口から血を吐き、驚いている。

 

「ごはっ!!何故、そんな攻撃が」

 

「木場からこいつを借りたんだよ」

 

壁に開けた穴からイッセー君が姿を現し、左手に握っている物を見せる。

 

「じ、十字架だと!?だが、力も感じないただの玩具の、なんだ、その十字架は!?明らかに尋常じゃない力が込められているのが目に見えて分かるというのに、力を全く感じないだと!?」

 

「こいつは木場が普段から身につけている聖剣を芯にした十字架だ。あいつが研究の末に触れない限りは完全に無害にする事が出来る術式が施されてる。こいつがどれだけ恐ろしい物なのかは自ら実証済みだ。倍化の力をを使わなくても効くだろう?」

 

「馬鹿な、それではお前も、何だその左腕は」

 

ライザー様は気付いた様ですね。イッセー君の左腕は、もう人間でも悪魔でもなくなっています。禁手化に足りない力を自らの身体を捧げる事で無理矢理引き出しているのです。そのおかげで左腕はドラゴンになり、十字架なども触れる事が可能になりました。

 

「部長をお前に渡さない為なら、腕の一本や二本くれてやるよ!!」

 

実に男らしいセリフですね。リスクや後の事など考えずに目的の為に突き進む悪魔らしくもあるセリフです。ああ、美しい。絶望をものともせずに突き進む事こそが英雄(ヒーロー)の絶対不変の真実。それが□□□姿を見てみたい。

 

「くたばれや、ライザー!!」

 

「それはこちらのセリフだ!!」

 

イッセー君は再び左手で殴りながら右手に倍化の力を集中させて殴り、ライザー様はイッセー君の左の拳打を右手に魔力を集中させて防ぎながら背中の炎の翼をイッセー君に向ける。互いに死力を尽くして戦う。どちらにも余裕は残されていない。そして戦況が一気に傾く。イッセー君の禁手化が解ける。

 

それを好機と見たライザー様の蹴りが兵藤君の身体を的確に捉えた。ああ、この楽しい戦いもとうとう終幕ですか。惜しかった、本当に惜しかった。勝負は時の運と言いますが、本当にその通りですね。一手違っただけでこの勝敗は逆になっていたでしょう。残念でしたね、ライザー様(・・・・・)

 

「こいつがオレの最後のジョーカーだ!!」

 

イッセー君が蹴り飛ばされた場所は最初に魔力貯蔵用の魔剣を突き刺していた場所だった。この魔剣はとある改造を施してある。イッセー君が最後の切り札として自分のコレクションの全てを代価に支払って作った物だ。

 

「拘束術式解放」

 

パスワードによって魔剣が真の姿を曝しだす。

 

「聖剣だと!?」

 

「行けえええぇぇぇ、グランドクロス!!」

 

刀身と柄によって形成されている十字から込められていた魔力全てを光力に変換し、その進路状にあるもの全てを飲み込んでいく。その射線状には特に誰もいなかったので放っておいたのですが、やはり強力ですね。壁には綺麗な十字が刻まれ、ライザー様は床に倒れられていた。

 

グランドクロスを放った元魔剣の聖剣も粉々に砕け散り、それを杖にしていたイッセー君も倒れる。それでも二人とも意識が残っているのか全身を振るわせながらも立ち上がろうとする。全員が見守る中、先に立ち上がったのはライザー様だった。

 

「見事だよ、本当に見事だよ赤龍帝」

 

立ち上がろうとするイッセー君を見下ろしながらライザー様は呟く。

 

「……オレの負けだ」

 

そしてそのまま後ろに倒れ、完全に意識を失う。その顔は満足したのか綺麗な笑顔だった。そしてイッセー君が完全に立ち上がる。

 

「ああ、オレの勝ちだ。ライザー」

 

勝ち名乗りをあげて、こちらも同じく倒れそうになったので僕が支えると共に周りに分からない程度に回復の魔法をかけてあげます。

 

「すまん、木場」

 

「よく頑張りました、イッセー君」

 

そのまま部長の傍まで連れて行ってあげると自分の力だけで立ち、膝を付いて手を差し伸べます。

 

「部長、帰りましょう」

 

「イッセー」

 

その手を部長が握ると今度は部長の隣に居たグレモリー卿達に頭を下げる。

 

「勝手な事をして申し訳ありません。ですが、我が主を連れて帰らせてもらいます」

 

連れて帰ると言っても僕が居ないと帰れないんですけどね。まあ今回は楽しませてもらったので代価をあげても良いでしょう。

 

「イッセー君、楽しませてもらったお礼です。使い方、覚えてますね?」

 

転移の魔剣に魔力貯蔵の効果を持たせた物をイッセー君に手渡す。

 

「サンキュー、木場。それじゃあ、皆、また部室で」

 

イッセー君が転移の剣を振り、この場から去っていく。さて、僕は僕で用事を済ませましょうか。ライザー様に向かって一言告げる。

 

「起きていらっしゃるのでしょう、ライザー様」

 

「……ふん、気付いていたのか」

 

「ええ、まあ気絶していたのは確かな様ですけどね。治療、要りますか?」

 

「いらん、この程度、少し休めば治せる」

 

妹であられるレイヴェル様に支えられながらライザー様が立ち上がる。

 

「それにしても、貴様は一体何者だ?あの十字架を普段から身につけているなんて。マゾか?」

 

「いえいえ、僕は教会から追われた身とは言え、信徒ですから。日々主への祈りを捧げ、十字架を身につけ、それによって受ける苦痛は主から与えられた試練と思っています。慣れれば結構どうにかなるものですよ」

 

イッセー君が落としていった十字架を拾い上げて首に掛け、服の中に入れてみせます。

 

「悪魔らしくないとお思いでしょうが、僕の生きる道ですから。どんな環境におかれ様が、僕は主への信仰は止めませんよ。これもまた欲望の一つですから」

 

「……歪んでいるな。それも酷く。だが、欲望に忠実なのは実に悪魔らしい」

 

「お褒めに預かり恐悦至極」

 

恭しく一礼した後に鎧砕きと兵士殺しを作り出してライザー様に差し出す。

 

「フェニックス卿のコレクションだったのでしょう。イッセー君が壊した物の代わりです。壊された物よりも性能は上がっています。それから」

 

間近で見て、触れて、解析したことで産み出せる様になった新たな魔剣。フェニックスそのものと言える新たな概念の魔剣。折れようと砕けようと、炎と共に再生する魔剣。魔剣フェニックスを産み出す。

 

「これは僕の新作です。ライザー様のおかげで完成した、魔剣フェニックス」

 

「魔剣、フェニックス?」

 

「フェニックスの特性を宿した魔剣です。折れようが砕けようがフェニックスの如く蘇る魔剣です」

 

そう言って剣を叩き折り、再生する様を見せてから差し出す。

 

「今日の余興、楽しめましたよ。これはそのお礼です」

 

「ふん、受け取っておいてやろう。それから、貴様の名は?」

 

「木場祐斗。元ガブリエル様直属のエクソシスト兼鍛冶屋、今はサーゼクス・ルシファー様お抱えの鍛治師兼リアス・グレモリー様の眷属最強の騎士(ナイト)。さて、僕達も帰らせてもらいましょうか」

 

「ますたー、もう少しミリキャスさまといっしょでもいい?」

 

「構いませんよ。今日は冥界側の屋敷に居ますから、送って貰って下さい」

 

「は〜い」

 

「ありがとうございます、祐斗さん」

 

「いえ、ミリキャス様。僕の方こそルゥと遊んでもらって申し訳ないです」

 

「そんなことないです。僕の方こそ楽しいですから」

 

「そうですか。これからも遊んであげて下さい。白音さん、ギャスパー、ヴァレリーさん、帰りましょう」

 

「「「はい」」」

 

観客席の方から三人が傍にやって来たのを確認してから転移の魔剣を産み出して構える。

 

「それではいずれまた何処かで」

 

魔剣を振り下ろし、転移する。

実に楽しい一日でした。イッセー君は英雄(ヒーロー)の素質を見せつけた。決して挫けない心、周囲が手を貸したくなる魅力、敵すらも認めさせる力。まだまだ足りないけれど卵としては合格ですね。彼が新たな神話を築く事が出来るのか、それともただ歴史に埋もれるのか。楽しみですね。そして最後は□□□□□□

 

 



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第13話

拝啓、ガブリエル様。

初夏の風に肌も汗ばむ頃、天界は相変わらず変化が少ないのでしょうがいかがお過ごしでしょう。僕の方は日々、主への感謝を忘れず信徒として恥ずかしくない様に努めております。急なお手紙で困惑されると思いますがそれなりの事情があります。

この度、お手紙を差し上げたのは教会で保管されている三本のエクスカリバーと天界で保管されている僕の作り出したエクスカリバーが日本に近づいているのを感知したからであります。今の情勢下において、4本ものエクスカリバーが集ると言うのは余程の事体が起こっているという事でしょうか?

僕としましては悪魔に転生した今となっても一人の信徒であると思っています。僕が力になれるのでしたらいくらでも力を貸すつもりです。

何かございましたら人間界のグレモリー領であります駒王の教会にまでご連絡ください。

敬具

元ガブリエル様直属エクソシスト兼鍛冶屋 木場祐斗より

 

 

追伸

上司が同僚といちゃついて仕事が滞っているのですが、見捨てても良いんでしょうか?それともこれも主が与えられた試練なのでしょうか?あと、同僚の契約者がもの凄く濃い人物ばかりで驚いています。

 

 

 

 

 

 

 

先日、天界のガブリエル様の元に送った手紙の内容を思い出しながら、駒王の名前を出しておいて良かったと思います。何を考えているのか、この駒王に再び堕天使と大量のはぐれエクソシストが侵入して来た様です。エクスカリバーを4本も持って。どうやら盗難にあった様ですね。ということは追手が差し向けられているはずですね。とりあえずアーシアさんに話を通しておきましょう。彼女は彼女で狙われる可能性が高いですから。ちょうど明日はミサですから、教会に足を運びますしね。

 

翌日に朝早くからアーシアさんの手伝いをしてから何か危険なことが起こるかもしれないので気をつける様にと伝えると同時に、身を守る符や僕に連絡を取れる様に聖剣を渡したりしてから教会を後にします。

今日はスーパーの特売もやってますし、効率よく動けばタイムサービスにも間に合うでしょう。人と人の間をすり抜けながら目的の物(特売品)を籠に詰めて行き、それが終わってからゆっくりと品定めをしながらスーパーを歩いて行きます。今日は中々質のいい物が豊富でしたのでいつもより買いすぎてしまいましたが問題ありませんね。

 

聖歌を口にしながら家に帰ろうと歩いているとちらりと神父服らしき物を来ている人物が目につきました。はぐれエクソシストなのでしょうが、あの顔、何処かで見た事がある様な気がします。そう、何処かで、もっと幼い頃にあった気がします。思い出せないままその人物は人ごみに紛れて見失ってしまいました。はて、本当に何処であったんでしたっけ?

 

 

 

 

 

 

駒王学園の年間行事の一つ、球技大会がやってきました。空はカラッと晴れて運動には持って来いですね。こんな日にこそ洗濯物を干したいのですが、生憎と夕方からは雨らしいので諦めましたけど。

 

そして僕達オカルト研究部員、正確に言うと僕と一緒に暮らしている皆は校庭の一角に集ってのんびりしている。広げたレジャーシートの上で白音さんが僕の手作りのお菓子を食べ、ギャスパーとヴァレリーさんはお茶を飲んだりしてリラックスしています。部長とイッセー君の傍は居心地が悪いですからね。どちらか一人だけなら問題無いのですが、二人揃うと部長がイッセー君を誘惑しようと色々と行動を起こすので目の毒なんです。

 

今度は色ボケですか。本当に勘弁して下さい。白音さん達も最近は部長のことを不信な目で見る様になってきました。本当に独立か離反を考えた方が良さそうです。野良となるか、アーカムの方に行って覇道財閥に雇われるのも有りかもしれませんね。

 

そうそう、イッセー君なんですが、ドライグに捧げた左腕は2週間の研究の内に奪還は不可能と判断しました。たぶん、ドライグの一部になってしまっていますね。強引に奪い返せない事はないんですが、命がけです。ドライグも契約の代価として正式に貰った物を奪われたくないでしょうしね。早々に諦めました。

 

仕方ないので肉体変化系の魔剣を調整して埋め込み、見た目だけは普通に見える様にしました。肘から先だけは竜の性能の腕です。見た目は普通なのでメリットしか存在しません。まあこれは片手間でやっていたことです。

 

僕の真の研究は倍化の力の研究です。これが成功すれば無限の剣製は更に凶悪な事になりますからね。まあ、2週間程度じゃあ対した結果は出ませんでしたけどね。精々強化魔法の効率が上がった程度です。8%位。無いよりはマシ程度ですね。これが12%位だと話は変わってくるのが残念で仕方ありません。まあデータは取れたのでこれからも研究を続けて行こうと思います。

 

しばらくのんびりしていると副部長が今日行われる競技を教えに来てくれた。クラス対抗は野球、女子対抗はテニス、部活動対抗はドッジボール、そして男子対抗はハンマー投げ!?ちょっと待って、ハンマー投げって球技なの!?というかハンマーなんてあるの!?この日の為に購入した?馬鹿じゃないんですか。

 

クラスメイトが集っている所に行ってみると、僕はハンマー投げに回されていました。くっ、僕がいつも女性に囲まれているけど女性に嫌われる可能性から嫌がらせが出来ないからと言ってこんな所で仕返しにくるとは。

 

どうやらイッセー君もハンマー投げに回されたみたいですね。まあ悪魔なのでこれ位苦にはならないんですけどね。それにしても初めてやるのでまともに投げれるのかが心配です。ルールはちゃんと用意されていたので出番までそれに目を通しながら応援をしていたのですが、かなり不安です。今回使われるハンマーは公式の半分の重さですが、それでも背筋にかかる負荷は200kgを軽く超えます。まともにやれば負傷者続出です。練習の時間はあるようで、男子対抗の選手が順番に練習していますが、全員が腰を抑えながら離れて行きます。イッセー君は回り過ぎで目を回してダウンしてますし。とりあえず一度投げてみたのですが、これはかなり腰に来ます。フォームが悪い所為なのでしょうが、かなりの背筋も要ります。

 

やはり球技としての選択は間違ってますよ。あと、調べてみたら球技じゃなくて陸上競技の投擲競技でした。ちょっと考えた人、貴方も参加しなさい。おもしろそうの一言で決めたんでしょう。

 

男子対抗に参加する選手は皆協力的ですぐに発案者を見つけ出し、特別枠で参加させましたよ。全員で生徒会に直訴までしましたから。大半が腰を抑えながらの直訴に会長も納得して匙君を差し出してくれました。

 

匙君が40mという記録を出しながら腰を抑えて生徒会のテントに帰ろうとする目の前でイッセー君と二人で50m程の記録を見せつけると意地になって悪魔の力を全開にして70mの記録を出したが僕達は相手をせずに放置した。それに唖然としてから憤慨して生徒会のテントに帰っていきます。腰を抑えながら歩き、痛みを我慢しながら。そんな姿を見て選手の殆どが笑っていましたよ。何故なら真面目にやっていたのは彼一人ですから。

 

結局優勝は匙君で、イッセー君が2位、僕が3位という結果で終わりました。

女子対抗のテニスではヴァレリーさんがクラスメイトと一緒にベスト8まで勝ち上がったみたいです。白音さんとギャスパーはクラス対抗の野球でそこそこの成績を残しているみたいです。

 

そして現在女子対抗決勝では部長と副部長のペア対会長と副会長の試合が繰り広げられているのですが、魔力や魔法をそんな簡単に使わないで下さいよ。認識阻害の結界位張って下さいよ。会長も部長とライバル関係なのは知っていますが、せめてもう少しだけ冷静に行動して下さい。とりあえず会長のサーブを部長がレシーブした時点でこっそり認識阻害を張った僕は間違っていないと確信出来る。

 

それにしても気になったのですが、ボールを打つのに魔力は使っているのに、何故ラケットやガットを強化しないのでしょうか?そのままだと威力に耐えきれなくて、あっ、二人のガットに穴が開いた。

 

結局試合はそこで終わり、同時優勝で幕を下ろしてくれれば良かったんだけど、部活動対抗のドッジボールにまで勝負は流れる事になった。

 

そして始まったドッジボールでは少々卑怯な手段を使わせてもらいましたよ。初期の外野に僕とイッセー君を配置する事によって男子からの攻撃は完全にカット、女子の球にやられる程、オカルト研究部の女性陣は弱くありません。そんな調子で決勝まで進み、生徒会チームとの試合となる。さすがにこのチームに対して今のフォーメーションは有効ではないのでギャスパーとヴァレリーさんを外野にして僕とイッセー君と白音さんを前面に押し出した攻撃的なフォーメーションだ。

 

「あら、リアス。貴方は眷属を盾にして恥ずかしくないのかしら」

 

生徒会チームは個人個人が動き易い配置になっている。こっちは僕達三人が部長達を守る盾の様に見える。

 

「言わせておけb「部長、グレイフィア様の言葉をお忘れで?」ぐっ、わ、分かってるわよ」

 

「少しは貴方の眷属の力を信じて下さい。それも王としての務めですよ」

 

そう言うと何とか引き下がってはくれた。そして試合が始まる。なお、昼食の間にちゃんとしたルール設定だけはしておいた。テニスの時みたいに魔法を連発されるのは危険すぎるので魔力を使うのは禁止で、悪魔の身体能力は全開でもOK。その上で認識阻害の結界を敷く事になっている。

 

先手は生徒会側でまずは様子見なのか手が届かない高さで外野へのパスを行う。そこからが甘い。隣にいる白音さんに目を向けるとすぐに理解してくれたのか僕に向かって走ってくる。僕は腰を落として両手を組んで足場を作り、その足場に白音さんが乗ると同時に高く放り投げる。

 

「「「「なっ!?」」」」

 

白音さんはボールをそのまま空中でキャッチして身体を回転させて投げ返す。唖然としていた匙君の顔面に命中してボールはそのまま外野にまで飛んで行く。そして生徒会チームが立ち直る前にヴァレリーさんがもう一人、確か会計の子だったかな?その人に当てて開始早々戦力の40%が削られてしまった。

 

「油断大敵ですよ。様子見などせずに最初から全力で行くのが戦いで生き残るコツですよ」

 

何とか立ち直った生徒会チームに挑発も忘れない。戦闘において、意外とこの挑発と言うか会話というのは役に立ちます。意識を反らさせたり、精神的に揺さぶりをかけたりと便利です。相手の感情を上手く誘導する仕草なども神父としての勉強の中にありましたから。殆ど使う機会がありませんでしたけど。

 

その後も会話で狙いを僕に集中させたり、視線によるフェイントなどで流れる様に残りの二人にもボールを当ててコートに残されたのは会長一人だ。

 

「はい、お膳立てはしてあげましたよ。決着付けたいんでしょう」

 

手元にあったボールを部長にパスして端の方に移動する。

 

「祐斗、貴方」

 

「これで負けたら笑ってやります」

 

「えっと、部長頑張って下さい」

 

「あらあら、これは頑張るしか無いですわね」

 

部長が僕の事を驚いた目で見ているうちに内野に居た皆がコートの端の方に移動する。そして部長と会長の一騎打ちが始まる。こういう大した物がかかっていないなら一騎打ちの為の労力は気にしませんよ。プライド位なら幾らでも賭けて下さい。

 

ちなみに結果は試合に勝って勝負に負けたとだけ言っておきます。宣言通り白音さんは部長を笑い者にしていました。

 

 

 

 

昼間とは打って変わり、大雨が降る中を傘をさしながら教会を目指して歩いて行く。そろそろガブリエル様から何か連絡が入っているかもしれないのでそれの確認です。教会への角を曲がった所で、正面から聖剣を突き刺された。

 

「あっ?」

 

僕を突き刺している聖剣を解析すれば、それは透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)だった。破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)だったら危なかったですね。とりあえず人払いの結界を張って。

 

「主の元へ送ってあげましょう」

 

逃げられない様に透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)を持っていると思われる部分を握りしめ、足下から破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)を産み出して相手を殺します。担い手が死んだ事で透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)の効果が切れ、姿が見えるのですが、先日とは違う男ですが、やはり何処かで見た事のある顔です。

 

悩みながらも、とりあえず聖剣を身体から引き抜き、封印を施しておきます。その後、収納用の魔法陣に放り込んでおきます。それが終わってから殺した相手を聖火で燃やし尽くし祈りを捧げておきます。傷は既に体内の自然治癒強化の魔剣の力で塞がっています。聖なる力が体内に残っていて気持ち悪いですが、肉体を人間に変化させれば問題ありません。一番の問題は斬られて血で赤く染まった服でしょうか。

 

 

 

 

 

教会まで行ってみると、アーシアさんは普通に居ました。教会の近くで襲われたので、もしかしたら何かあったのかもと思いましたが、無事な様ですね。アーシアさんは僕の服を見て驚いていましたけど。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「ええ、傷は既に治療済みですよ。それより、ガブリエル様から何か連絡は来ていますか?」

 

「えっと、こちらにエクソシストを向かわせているそうです。明日にはグレモリーさん達との交渉に入ると。何かあったのですか?」

 

「教会からエクスカリバーが盗まれたそうです。僕もすぐそこで襲われました。アーシアさんの方は大丈夫ですか?」

 

「そうなんですか!?私の方は特に何も無かったのですが」

 

「不安なようでしたら以前渡した符をしっかりと持っていて下さい。あれは上級クラスの攻撃もしばらくの間なら防いでくれますから。さすがに破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)が相手だと2発持てば良い方ですが」

 

さすがに使い捨ての符では力不足なんですよね。僕が自分で張れば破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)に破られる事は無いんですけど。

 

「分かりました。しっかりと持っておきますね」

 

「そうしてください。もしかしたら派遣されるエクソシストの拠点になるかもしれませんから寄宿舎の用意だけお願いします。人数は分からないので、多少多めに用意しておいて下さい」

 

「はい。分かりました」

 

「何かあったらすぐに連絡して下さいね。同じ神に仕える者同士ですから、いつでも頼って下さい」

 

「すみません。何から何までお世話になってしまって」

 

「気にしないで下さい。僕もルゥの面倒を見てもらっていますし。それに僕は孤独に耐えられずに悪魔になってしまいましたが、アーシアさんには同じ道を歩んで欲しくありませんから。悪魔になれば祈りを捧げるのにも、十字架を身につけるのにも激しい苦痛が伴いますから」

 

正直言って痛覚遮断の魔剣が無ければ十字架はすぐにでも外したいです。聖剣を芯にしていますからダメージが大きすぎるんですよね。まあ、普通の物でも無視出来ない程のダメージを受けますけど。ある程度の耐性は付いて来たのですけど、修行不足ですね。

 

 

 

 

 

 

自宅に戻ってから念のために一緒に暮らしている皆さんに聖剣対策の符を渡しておきます。これを持っておけば聖なる力からある程度は守ってくれます。悪魔の皆さんからすれば殺してでも奪い取りたい位の性能ですが、僕にとっては無用の長物です。

 

「またはぐれエクソシスト達が何かを計画している様なので皆さん注意して下さいね。相手は聖剣エクスカリバーを持ち出していますから。どうせなら間違えてエクスカリパーの方を盗んでくれていた方が面白かったのですが」

 

「エクスカリパー?」

 

白音さんが首を傾げながら訪ねてきます。

 

「エクスカリバーの偽物です。どんな防御も無視して相手にかすり傷を与える事が出来る剣です。聖剣を名乗っていますが聖なる力もほとんど相手にまで届きません」

 

「それって意味があるんですか?」

 

ギャスパーが疑問に思うのも仕方ありませんね。

 

「記録上にはこの剣と最高の相性の術式があるんですが、既に失われていて再現は難しい様です。それでもエクスカリパーは他にも使い道があります」

 

「何か魔法を強化したりするんですか?」

 

それなら剣じゃなくて杖ですね。

 

「エクスカリパーは剣として使わなければ強力な武器になるんです」

 

「……剣を剣として使わない?」

 

ヴァレリーさんが謎掛けの様なこの説明に考え込みます。

 

「例を上げるなら、矢として撃ち出したり、相手に投げつけたりですね。他にも剣として扱わない使い方をすると恐ろしい威力を発揮します。おそらくは本家のエクスカリバーと威力は変わらないでしょうね」

 

「なんですか、その巫山戯た剣は」

 

「それ以上に巫山戯た物も記録だけですが居ます。エクスカリバーの精霊と書かれていたのですが、全身真っ白で死んだ魚の様な目をしていて無駄に高いシルクハットを被り白い杖を振り回し、自分を扱う為に守って欲しい1000の項目とか言う本を渡してくるそうです。あと、ウザイそうです。性能はギャグ補正でも入っているのか、文字通り最強の力を得るみたいですね。でも、ウザイみたいです。1000の項目さえ守れば誰でも使う事が出来るみたいです。そして、ウザイです」

 

「「「何処までウザイんですか!!」」」

 

仕方ないじゃないですか約束された勝利とウザイ剣(エクスカリバー)なんですから。

 

 



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第14話

翌日の放課後、部室から聖剣の気配を感じて急いで向かってみると、部長と副部長以外に二人のシスターが机を挟んで対峙していた。

 

「やっと来たわね。祐斗」

 

「どうかしましたか?」

 

「教会から貴方に客人よ」

 

「客人とは少し違うな。私達は任務で訪れているだけだ。木場祐斗で間違いないな。元ガブリエル様直属のエクソシストで」

 

青い髪のシスターがソファーから立ち上がり僕を睨んでくる。

 

「そうですよ」

 

「一応、確認させてもらう。ガブリエル様がおっしゃるにはこれを見せるだけで分かると言っていたが」

 

そう言って封印の布で覆ったエクスカリバーを二本見せてくる。

 

破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)がどうかしましたか?破損なども別にありませんが」

 

「「えっ!?」」

 

部長と副部長が驚いていますが、僕からすればすぐに分かります。

 

「本当のようだな。例え封印が施されていようと剣ならばどんな物か分かるとおっしゃられていたが。とりあえず最優先の任務を果たさせてもらおう。ガブリエル様から貴様宛に手紙だ」

 

おや、少しだけ予想外でした。青い髪のシスターから封筒を手渡され、開封して手紙に目を通す。結構枚数が多いですね。

 

最初は季節の挨拶から始まり、僕が生きている事に喜ばれ、同時に悪魔に転生している事に悲しんでいると書かれていた。

 

それから日本にやってきているのは聖剣に関する研究をしていたバルパー・ガリレイと言う最近まで協会に所属していた男で、神の子を見張るもの(グリゴリ)の幹部であるコカビエルと共に聖剣を奪取。またバルパー・ガリレイの元に居たエクソシスト達もバルパーに付いて行ったみたいだ。分かっている情報はそれだけでおそらくは駒王で何かを起こすつもりなので、それを防いで欲しいとのこと。コカビエルは未だに戦争を求めている主戦派なので、おそらくはリアス・グレモリーと、ソーナ・シトリーの命を狙っている可能性が高いので気をつける様に、また聖剣は最悪の場合、核さえ残っていれば破壊も許可すると書かれている。

 

そして天界からは破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)の使い手であるゼノヴィアと紫藤イリナを僕に預けるので聖剣の担い手に相応しい教育を付けるようにと先の分と一緒の命令書と一時的にエクソシストとして活動出来る権限とミカエル様からの任命書が入っていた。更に魔王様達との交渉は既に終わっているらしく、グレモリー領での活動も保証されている。ありがたい事ですね。

二人にも四大熾天使様の連名での命令書が同封されている。

 

これ、逆らうと凄い目に会いそうだな。というか、僕って転生悪魔になったのに結構信頼されてるんだ。やっぱり年に一度の研究報告を実物で送っていたのは正解だったね。

 

一番最後の紙には追伸が書かれていた。おそらく近日中に三大勢力で会談が行われる可能性があり、その場合駒王がその場に選ばれる可能性があるのでその時にゆっくりと話す機会を作ろうとの事が書かれていた。ありがとうございます。

 

「なるほど。とりあえず、これは二人宛の物だから」

 

命令書を二人に手渡すとすぐに顔が驚愕した物に変わる。

 

「なっ、何だこれは!?」

 

「うわぁ、うわぁ~、四大熾天使様の連名の命令書なんて初めて見たよ」

 

「まあそう言う訳です」

 

「祐斗?何が起こっているの?」

 

部長が驚く二人を見て訪ねてきます。

 

「現在、教会が保管しているエクスカリバーの半分が盗まれました。盗んだ犯人はどうやらこの駒王付近に潜伏して何かを起こそうとしているみたいです。そして彼女達はエクスカリバーの奪還、あるいは破壊を命じられて来た聖剣使いです。手紙の内容ですが、彼女達はこの事件が解決するまでの間、僕の指揮下に入って任務を果たさなければならないんです。また例外的に僕も、一時的にエクソシストに復帰する事になりました。これ、その任命書です。上の方での話し合いは終わっている様なので事件解決まで単独行動をさせて貰いますね。後日、サーゼクス様から正式に辞令が降りてくるみたいです」

 

「はあ!?ちょっと、待ちなさいよ。こっちでも問い合わせるから」

 

部長が通信の魔法陣を出したので、今の内に二人の現状を確認しておきましょう。

 

「二人とも、活動資金や宿の手配の方は大丈夫ですか?」

 

「……むぅ」

 

ゼノヴィアさんが不満そうにしてますけど、一応仮の上司ですからね、僕。部下なんて一度も持った事無いですけど。

 

「納得が言っていない様ですが、僕の方はミカエル様からの任命書なので逆らうと大変な目に、破門で済めば良いのですが」

 

「ほらゼノヴィア、命令書には従わないと。ミカエル様からも認められてるってことは何か事情があるはずだから。とりあえず資金の方は大丈夫だよ。宿の方はこれから捜す必要があるけど」

 

「ええっと、貴方の方が紫藤イリナさんで合っていますか?」

 

「そうだよ」

 

「宿の方はこちらで準備しています。それから街には既にはぐれエクソシストが行動していますので注意して下さい。昨日もいきなり襲われましたから。まあおかげで透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)の奪還は終わっています」

 

収納の魔法陣から透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)を取り出してみせる。

 

「それから僕は必勝の手が無い限り、突発的な戦闘以外はしない派なので。僕抜きで必勝の手が打てる位にまで二人を鍛え上げますから。二人とも破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を使いこなせていない様なので、鍛え上げろとも命令されてますので」

 

二人が不機嫌そうな顔をしますが、そもそも擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を剣の状態で持っていても説得力がありません。擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)はどのような形にも変化させる事が出来、どんな形であろうと聖剣としての力を発揮する事が出来る剣です。それこそ神父服の様な形にして着込めば攻防一体の武器になります。

 

破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)も僕が教会に居た頃に見た物とは形状が変わっていました。僕が見た物は日本刀の様な素早く振れる物で、今の様な大剣とは違います。破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)の破壊力は普通の剣とは違い、どれだけ聖剣としての力を引き出せるかによって決まります。なので普通の剣の様な扱い方では宝の持ち腐れです。聖剣の力を最大限まで引き出した上で、素早く細かく振るのが破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)の正しい使い方です。ちゃんと解析して仕様書を置いておいたのですが、どうやら僕の研究資料の大半は捨てられてしまった様ですね。生憎と錬金は出来ないのでこの形のままでなんとかするしかありませんね。

 

「……確認が取れたわ。確かに一時的に私の眷属から離れてエクソシストとしての行動が認められてるわ」

 

「ご理解戴けたようで何よりです。気をつけて下さいね。敵はエクスカリバーを持っています。部長達では一撃で滅されますよ。それから会長達にも伝えておいて下さい。一応、一週間を目処に解決させる予定ですが、何かあればすぐにでも対処しますので部長達は自分の身を守る事のみ考えていて下さい」

 

「この件に関しては全て貴方に任せる様にと、こっちも四大魔王様連名での命令が届いたわ」

 

部長が不満そうに答えます。まあ部長には荷が重過ぎますからね。

 

「それでは僕らは行動を開始します。何かあれば連絡しますし、そちらも何かあれば連絡して下さい」

 

「分かったわ」

 

「では、今日はこれで。二人とも、しばらくの間お世話になる所に挨拶に行きますよ」

 

「あっ、ちょっとだけ寄りたい所があるんだけど」

 

「こら、イリナ。私達には任務があるんだぞ」

 

「一応聞きますが、どこにですか?」

 

「昔ここらに住んでたんだけど、その頃の幼なじみに会っておこうかなって」

 

「それ位なら構わないでしょう。案内してくれますか?」

 

紫藤さんに案内されて向かった家の表札には兵藤となっていた。どうやらイッセー君の幼なじみだったみたいですね。それならあのまま部室に居れば会えたのですが言わない方が良いかもしれませんね。幼なじみが悪魔に転生してますから。

イッセー君のおばさんは紫藤さんの事を覚えていたのか家に上げられて、お茶を飲みながら世間話に花を咲かせる。

 

しばらくするとイッセー君と部長が帰って来たようだ。そう言えば部長、同棲してるんでしたっけ。その欲望に忠実な所は評価しますよ。ただ、学生の身分という事だけは忘れないで下さいね。

 

紫藤さんはイッセー君が悪魔に転生している事にもの凄く落ち込んでいました。おばさんは、リアス部長を見て落ち込んでいると勘違いしてくれたのでそのまま御暇をさせて貰いましょう。

 

教会に向かう道すがら、イッセー君が悪魔に転生した事情や赤龍帝の篭手に関する事を説明すると更に落ち込んでしまった。ついでに左腕の事を話すと完全にダウンしてしまった。そんな紫藤さんをゼノヴィアさんが担いで教会まで運ぶ。

 

「アーシアさん、居ますか?」

 

「は~い、祐斗さん。そちらのお二人が派遣されて来たエクソシスト様ですか?」

 

「そうです。ゼノヴィアさんと紫藤さんです。お二人とも、紹介します。彼女はアーシア・アルジェントさん。名前位は聞いた事があるでしょう?」

 

「もしや、『魔女』のアーシア・アルジェントか?」

 

『魔女』という単語にアーシアさんの肩が跳ねる。

 

「へぇ、あなたが一時期話題になってた『魔女』になった『聖女』さん?悪魔や堕天使でも癒す能力を持ってたらしいわね」

 

今までダウンしていたイリナさんも興味を持ったのか復活してきました。

 

「……わ、私は」

 

はぁ~、この二人も周囲の言葉を鵜呑みにするタイプですか。アーシアさんを蔑んだ目で見る二人に拳骨を落とします。

 

「お二人とも、彼女の事をどれだけ知っているのですか」

 

少しだけ怒気を込めて二人に質問します。

 

「いてて、悪魔の傷を治療したんでしょう」

 

「ええ、そうですね。その状況が既におかしいと気付かないのですか?」

 

「「?」」

 

本気で分かっていないみたいですね。

 

「アーシアさん、貴方が悪魔を治療したのは何処ですか?」

 

「えっ?その、教会の隣にあるちょっとした花壇がある場所です」

 

「お二人とも気付いた事はありますか?」

 

「何かあるか、イリナ?」

 

「うん?なんか違和感があるんだけど」

 

「なら、少しだけ言い方を変えましょう。教会の敷地内に傷ついた悪魔が入って来てなんでエクソシストが居ないんですか?しかも治療している姿を見ていた人物は居るのにその悪魔に追手がなぜ刺し向けられていないんですか?」

 

「「……あ!!」」

 

「ようやく気付きましたか。そんな状況、どう考えても誰かの手引きが無ければ発生しませんよ。中級、下級の天使様達、一般のエクソシスト達は何も考えずにアーシアさんのことを追放していますが、それだけで済んでいるのはミカエル様達が追手も破門も許可していないからです。それからアーシアさんを最初に魔女と糾弾した神父は現在バチカンの地下に収容されている事も知らないのでしょう?ミカエル様達はアーシアさんの行動にあまり肯定的ではないにしても否定的ではないのですよ」

 

「だが」

 

「汝、汝が隣人を愛せ。アーシアさんはこの言葉に従っているだけです。主は隣人が誰とは差しておられません。アーシアさんにとっての隣人と、ゼノヴィアさん達の隣人が異なるのは、人として当然でしょう」

 

「でも、それで悪魔を治療しても良いというわけじゃないでしょう!!悪魔や堕天使は人間にとって害悪なんだから!!」

 

「では何故主は悪魔達を滅ぼしていないのですか?そして悪魔達を滅ぼせと言葉を残していないのですか?」

 

「そ、それは」

 

「主にとって悪魔達も隣人であったのではないのでしょうか?主は悪魔も堕天使も人間も必要とあらば殺しています。ですが、滅ぼしたりはしていません。そこに主の考えがあるのでしょう。その考えを汲むのが我々信徒の使命では無いのでしょうか?」

 

「でも、皆が言っているし」

 

「ではなぜ悪魔や堕天使を殲滅していたフリード・セルゼンが追放されるのです?」

 

「えっと、それはほら……ゼノヴィアも何か言ってよ」

 

「う、うむ、奴は、ほら、残虐でだな」

 

「残虐で自己的で手の付けられない様な男ですが、人を殺す際には明確な線引きを持っている男です。悪魔に利用されているなら殺さず、悪魔を利用しているなら殺し、悪魔であることを知らずに傍に居るのなら無視し、悪魔であることを知った上で共に居るなら諭し、それでも共に在るのなら悪魔と共に殺す。堕天使も同様です。あの男は自分の様な人間を一人でも救う為に力を求め、そして狂った。狂いながらも自分の中の殺しの線引きだけは守り続けている、十分に尊敬に値する男ですよ」

 

「だが、主への祈りを忘れた」

 

「自らを犠牲にしてまでも人を救おうとする者が祈りを忘れた位で主は御怒りになるのですか?聖書には一言もそのような事は書かれていませんよ」

 

その後も反論しようとする二人を諭し続けたのですが、少々やりすぎました。二人とも端の方で膝を抱えて何やらぶつぶつと言っています。

 

「あっ、アーシアさん。しばらくの間、僕とルゥもこちらでお世話になっても大丈夫でしょうか?ミカエル様達の命令で二人を鍛え上げたり、聖剣の奪還を行わなければならないので」

 

「あっ、はい。大丈夫です。一応、十人程度は泊まれる準備をしていましたから。それよりもお二人は大丈夫ですか?」

 

「アレ位で完全に折れるなら聖剣を任せられたりしないでしょう。今日の所は休ませてあげれば復帰するでしょう。では荷物の準備がありますので、明日の朝に」

 

「はい。分かりました」

 

教会を後にして自宅に戻って戦闘用の神父服と普通の神父服を鞄に詰め込み、リビングに居た皆さんに少しの間エクソシストとして活動する事になったことと、しばらくの間悪魔稼業を控える様に伝えます。もしかしたら釣りを行われるかもしれませんからね。

 

 

 

 

翌日、早朝からまだ眠そうなルゥを背中に担いで教会に向かうと、ちょうど三人が主へ祈りを捧げている所でした。

 

「おはようございます」

 

「「「おはよう(ございます)」」」

 

「う~ぅ……ぉはよぅ」

 

「ふふ、ルゥちゃんはまだ眠いみたいですね。お部屋の方に案内しますね」

 

「ゼノヴィアさん、すみませんがルゥをお願いします。僕は訓練の為の場所を準備しますので」

 

「分かったが、その子はなんだ?」

 

「この子の説明は後でしますよ。準備ができたら呼びますので。それまでに身体を解しておいて下さい」

 

皆さんを見送ってから台座をずらして地下への階段を降りて行きます。春先にやって来た堕天使はここで神器を抜く儀式をするつもりだったのか、中々広い空間が教会の地下に存在するのです。ここに結界を張って訓練をするつもりなのですが、それだけでは色々と不便なので照明の魔法陣を書いたり、地面をある程度均したりします。それが終わってから地上に戻って二人を連れて訓練を開始します。

 

 




次回、特訓編。
独自設定盛り沢山でお送りします。


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第15話

二人の訓練で最初に始めたのは簡単な座学です。とりあえず自分の得物の詳細位は知っておかないといけませんからね。二人はやはり僕が解析する前の古い伝聞のことしか教えられていませんでした。

 

次に行うのは効率的な聖剣の力を引き出す訓練です。聖剣の担い手に一番必要なのは聖剣の力を引き出す事です。聖剣の力を引き出せば肉体にも勝手に補正が入りますから、それだけでも十分な訓練になります。

 

「そういうわけでゼノヴィアさんはこの水銀の入った壷に破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)を突き刺して壷が壊れるまで水銀を破壊し続けて下さい。気絶するまで休む事は許しません。紫藤さんはこの紙に書いてある通りの順番に擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を変形させ続けて下さい」

 

「本当に効果があるのか?こんな訓練、聞いた事も無いが」

 

「文句を言わずにやってみて下さい。すぐに意味が分かりますから」

 

ぶつぶつと文句を言いながらも二人は訓練を開始して、1分も経たないうちに表情が変わります。

破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)で液体を破壊すると周囲に飛び散るのですが、水銀は聖剣の力を吸収しますから威力が下がり壷を軽く叩くだけで終わります。一定以上の力を溜めてから一瞬の内に出せれば壷を壊せるのですが気付くのは何時になるのでしょうね。

擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)の変形で最も効率がいいのは鞭と言うか蛇腹剣というか、流体が一番良いんですよね。その為には連続且つ高速で変形させるのがコツなのですがこちらも何時気付くんでしょうか?

 

「くっ、これは、中々、きつい」

 

「ふっ、ほっ、なっ、もう」

 

「はいはい、二人とも頑張って下さい。100%まで引き出せとは言いませんが80%位までは引き出せる様になって下さいよ」

 

見た所聖剣の力を引き出せているのはゼノヴィアさんは4割、紫藤さんは3割に届いていません。その程度でも一般のエクソシストの肉体強化よりも強力な物が発動しているのでエクスカリバーの凄さがよく分かります。

 

まあ、肉体強化だけに限れば僕の体内にある魔剣の半分以下の性能なんですけどね。一つの剣に複数の能力を持たせるより、一つだけの方が強力ですからね。それを複数持てばエクスカリバー以上の力を持つなんて簡単です。魔力が足りればですが。

 

昼食までにゼノヴィアさんは4回程気絶し、その度に僕が強制的に薬と魔法で魔力や疲労を回復させて訓練を続けさせます。紫藤さんも途中で飽きたのか逃げ出そうとしたので見た目が危なそうな妖刀で周囲を囲んで無理矢理訓練をさせました。

 

昼食を終えてから二人が手本を見せてみろとエクスカリバーを突き出して来たのでお望み通り手本を見せます。聖剣を扱うには才能が必要だと言われていますが、別に必須ではありません。莫大で純粋な魔力を注ぎ込めば力を引き出すのは誰にでも出来ます。二人には教えませんけどね。ちょっとした裏技ですし、効率が悪いですし。とりあえず身体を一度悪魔に変えてから右手に破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)を左手に擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を構えて二人に課した訓練をやってのけます。破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)は先端を浸けただけで壷を粉砕し、擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)は指定した順に高速で変形しつつ、最終目標である流体にまで変化させる。それを腕の動きとは全く別の動きをさせてターゲットとして作った剣を切り裂いていく。その後、ルゥにも持たせて同じ事をさせる。

 

「今ので90%と言った所です。これ以上は僕の身体の方が持たないので出せませんが」

 

「「……悪魔と子供に負けた」」

 

昨日の様に膝を抱えて部屋の隅に移動する様な事はありませんでしたが、ぶつぶつと何かを言いながら訓練を始める二人の監視は要らないと思い、地上に上がってアーシアさんとルゥと一緒にお菓子を焼いたりして時間を潰し、時折様子を見に降りたりしながら時間を潰す。

 

夕食が終わってからは仕上げとしてルゥのページモンスターと戦ってもらう。とりあえず最初は半分程の頁で用意したアトラック・ナチャだ。危険度は低いながらもそこそこの戦闘力はあるのでこういう特訓には重宝するんだよね。

 

「ゼノヴィア、何また捕まってんのよ!!」

 

「仕方ないだろう。って、うわ、首に!!」

 

イッセー君が戦ったのはグラウンドだったのでアトラック・ナチャの糸は躱し易かったのですが、ここは地下なので糸が三次元から襲ってくるので脅威度は上がっています。

 

二人してアトラック・ナチャを倒したのは30分程してからでした。60点ですね。次回も同じ様なら評価は下がりますが対策位練れるでしょう。

 

「少し休憩したらもう少し強い個体と戦ってもらいますから」

 

2回目の戦いはちゃんと対策を練ったのか、ゼノヴィアさんと紫藤さんの位置が逆になり、紫藤さんがアトラック・ナチャの糸を切り払い、出来た穴にゼノヴィアさんが飛び込んでアトラック・ナチャを切り捨てました。それでも20分程戦っている上に被弾も目立ちます。それに一つ気になった事があります。

 

「お二人とも、なぜ術式を使わないんですか?」

 

「「術式?」」

 

エクソシストが使う術式を一切使わないので話を聞いて見るとそんな物知らないと答えられてしまった。仕方ないので二人には座学を受けてもらう事にしました。

 

「という訳です。分かりましたか?」

 

「分からない事が分かりました」

 

紫藤さん、そんなお約束みたいな答えを返さないで下さい。ゼノヴィアさんもそんな机に突っ伏さないで。まだ基本の部分しか説明してないんですから。最低でも肉体強化と光弾と光刃は覚えてもらわないと話にならないんですから。遠中近、全ての距離に置いて最低限の力を持っていないと完封負けする可能性が発生しますから。時には背中を見せて逃げる事も重要です。その為の力は必要ですから。

 

 

二人の訓練が終われば今度は自分の訓練を始めます。相手の持つ聖剣は天閃、夢幻、そして僕の作ったエクスカリバー。この中で一番危険なのは夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)です。最も力を引き出すのが難しい聖剣ですが、その力は一つの街を滅ぼす事すらも可能な程の力を秘めている物です。こう言ってはあれですが、どちらかと言えば魔剣の性質を持っている聖剣です。そしてこれに対応出来るのはルゥだけです。遥か昔に一度だけ解析した事がある物が相手では、それに対応する物を用意する事が難しい。それゆえに用意するのは対幻術、対精神攻撃などの精神面に関する防御。

 

それらの研究は最も進んでいない項目である。精神汚染に関しては命に関わるので最優先で研究を行ったのだが、精神攻撃に関しては魔眼が一般的であり、目を合わせなければ良いという解決策がある為に殆ど進んでいない。以前、作った物でどれだけの事が出来るのかは未だに不明だ。相手が聖剣の力ともなればどうなるか分からない。それに対抗する為に僕自身の抵抗力を上げる為に幻術を見せたりする聖剣を作り出してルゥに使わせる。その結果を元に改良を加えていきます。

 

 

 

翌日からも似た様な訓練を続けながら、色々なページモンスターと戦わせて経験を積ませます。まあ完全に頁を使うのはアトラック・ナチャだけですが。鬼戒神を平気で傷つけるバルザイの偃月刀やロイガー&ツァールはもちろん、どんな物でも出せるニトクリスの鏡や旧支配者であるイタクァとクトゥグアなんて危険な物はページモンスター化させれませんよ。

 

とりあえず一通り倒し終わった後は僕との模擬戦です。敵であるのははぐれエクソシストと聖剣使い、そしてコカビエル。コカビエルは聖書にもなが記される程有名な相手なのでどのような戦法で戦ってくるのかも分かっているのでそれを想定した戦い方で二人と戦います。

 

天井付近に浮遊し、光弾と光槍を二人目掛けて降り注がせ、隙が出来た所に高速で接近して光槍を振るう。

二人はここ数日のページモンスターとの戦いの経験によってそれらを的確に回避していく。連携も初日の時よりも上手くなっているのですが、大戦期を生き延びた熟練者を相手にするとなると不安です。それでもなんとか食い付けると言った所でしょう。聖剣の力は70%と言った所ですが、これなら任務を最低限果たす事は可能ですね。防御面は僕が防護服を用意すれば心配もありませんね。それにゼノヴィアさん、他に何か隠している様ですしね。

そろそろ本来の聖剣奪還に移りましょうか。

 

「二人とも、明日からは聖剣奪還に向けての行動を始めます。後で戦闘服を一着貸し下さい。明日までに防御術式を刻んでおきますから」

 

「はいは〜い、質問」

 

「なんですか?」

 

「どうやって相手を捜すの?」

 

「ああ、言っていませんでしたね。意識すれば自分が作った剣と解析した物なら大体の居場所が分かるんです」

 

毎日の様にあちこち移動しているみたいですが、何をしているんでしょうね?拠点らしい場所も無い様ですし。紫藤さんは納得したのか質問を終えました。

 

「私も構わないか?」

 

「構いませんよ」

 

「その防御術式とはどんな性能なのだ?」

 

「今私が着ている物です。そうですね、今のゼノヴィアさんの全力の光弾位なら衝撃以外は防いでくれますよ」

 

「そんなにか!?教会では聞いた事も無いぞ」

 

「僕、どちらかと言えば戦闘職よりも研究職の人間なんですよ。色々な魔法や術式を研究して回っていますから。僕独自の技術です。任務が終わったらそのまま持ち帰ってもらって構いませんよ」

 

「良いのか?独自開発した物なのだろう?教会に持って帰った所でお前の評価にはならないぞ」

 

「他人からの評価を気にしないのが僕ですから。おかげで教会から逃げ出す羽目になりましたけど」

 

あんな失敗を犯した現在はある程度は気にしていますよ。ある程度はですけど。

 

「他に質問はありますか?」

 

「いや、大丈夫だ」

 

「では、今日はゆっくり休んで下さい」

 

 




ちょっと短いけど、キリがいいので今回はここまでです。
次回はエクスカリバー編の終了までやりたいと思います。
その次にエピローグと言うか、次回の停止教室のヴァンパイアの為に三勢力での裏会合を挟もうと思います。


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第16話

 

二人から預かった戦闘服に術式を刻み込んでいきながら、聖剣の位置を確認していると、どうやら一カ所に合流してから何処かを目指しているみたいです。多少気にしながら作業を進めていき、二人分が完成した所で聖剣使い達が何処を目指していたのかが分かる。

 

 

 

駒王学園。

なんでそこに行くのかな。また部長達が面倒な事をしてないと良いんだけど。

寝ている二人を起こして戦闘服に着替える様に指示を出す。ルゥには教会の守護を頼む。もしかするとここに襲撃を仕掛けてくる可能性があるからだ。

準備が終わった二人と共に駒王学園の傍まで転移する。

 

 

 

 

 

学園の傍に転移すると、既に結界で覆われていて校門の所に会長達がいた。

 

「会長」

 

「木場君ですか。そちらがリアスの言っていた教会からの?」

 

「そうです。状況はどうなっています」

 

「報告にあったコカビエル一派がグラウンドで何かの儀式を始めています。その影響が周囲に出始めていたので今は私の眷属達で結界を張っています」

 

「部長達は?」

 

「それが、直前にリアスが釣りを行われて、そのまま眷属達と共に交戦に入ってしまいました」

 

くっ、明らかに狙われていたみたいですね。それにしても他の眷属に連絡する余裕はあるのに僕には一言も無しですか。まったく、上からの命令にも従えないとは。

 

「魔王様達に救援は?」

 

「既におね、セラフォルー・レヴィアタン様に。リアスの方もサーゼクス・ルシファー様に行っているはずです」

 

「分かりました。それでは会長達はこのまま結界の維持をお願いします。それからこの魔剣を。持っていれば魔力にブーストを行ってくれます」

 

「ありがとうございます。シトリーの名に賭けて結界は維持してみせます」

 

「頼みます。ゼノヴィアさん、紫藤さん、行きますよ」

 

「「はい」」

 

一時的に結界に穴を開けてもらい、学園に侵入する。そのまま一直線にグラウンドに向かうとケルベロスと同年代のエクソシスト達に部長達が追いつめられていました。まったく、世話の焼ける人です。

 

今にも部長を喰い殺そうとするケルベロスの体内に魔剣を産み出し、そのまま壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)で爆殺します。

 

「まったく何をしているんですか」

 

「祐斗!?」

 

「「「「「祐斗さん!!」」」」」

 

「木場、来てくれたのか」

 

「何かあれば連絡する様に言っていたでしょう。それから、上から目障りなんですよ、コカビエル。ただ生き延びただけの堕天使風情が」

 

体内の重力制御の魔剣に魔力を通して大導師の重力結界っぽい物を発動させてコカビエルを地面に叩き付ける。

 

「くっ、これは!?」

 

「ゼノヴィアさん、紫藤さんはコカビエルを。一定以上の高さには飛ばしませんが援護はしませんよ。二人で出来る所までやってください。ただし、命は大事にして下さいよ。生きていればいくらでも治療してあげますから」

 

「「はい」」

 

二人が聖剣を抜き放ち、地面に叩き付けられたコカビエルと交戦に入る。

さて、僕は聖剣の方をどうにかしましょうか。

 

「バルパー・ガリレイ、貴方には聖剣強奪の容疑がかかっている。抵抗する様なら排除せよともね」

 

「来たか、贋作者(フェイカー)よ。聖剣を穢し者よ!!」

 

贋作者(フェイカー)?」

 

贋作者(フェイカー)という呼び名に首を傾げていると、はぐれエクソシスト達が今まで使っていた量産型の光剣を捨てて、神器を取り出す。その姿を見て、先日から疑問に思っていた事の答えが見つかりました。

 

「そうか。何処かで見た覚えがあるはずだ。あの日、僕と一緒に集められていた子達か」

 

あの日、僅かな時間しか会っていなかったので今の今まで分からなかった。

 

「そうだ。私の聖剣計画の為に集められた者達だ。だが貴様が、贋作者(フェイカー)が贋作を量産した事で行き場を失った者達だ!!」

 

「行き場を、失った?」

 

「そうだ。貴様が贋作をバラまいたおかげで、私の研究も彼らの神器も不要と見なされたのだ。所有者を選ばず、消耗品として切り捨てる事すら許される貴様の贋作のおかげで我らの夢と誇りは穢された!!」

 

「僕らは主から与えられた神器を誇りに思っていた。なのに、お前が作る贋作が、僕らの誇りが使い捨てにされるのを、僕らはずっと耐えなければならなかった」

 

「その果てには使い勝手が悪いからと貴様の贋作を支給される始末」

 

「だからこそ我らは貴様を教会から追放した。そして貴様の贋作を危険だからと全て処分した。そして穢された聖剣を再び取り戻す為に、我らは行動を起こした。聖剣(エクスカリバー)を束ね、絶対的な力を見せつける為に」

 

それなのに僕の作った聖剣(エクスカリバー)も持ち出しているのは何故なのでしょうね?他にも疑問はあるのでそちらの方を先に尋ねましょう。

 

「だが所有者を選ぶ聖剣(エクスカリバー)が使い難いというのもまた事実だ。それをどうするつもりだ」

 

「その点は既に解決している。聖剣(エクスカリバー)を扱うには特定の因子が必要なのだ。だが、その因子も一定以下を持つ者しかいない。稀にあのゼノヴィアの様な者もいるがな。だが、私は思いついた。一定以下の因子しかないのならそれを抽出して纏める事が出来ないのかを。そして私はそれに成功した。最初期には志願者が殉死したが今ではそのような事もなく因子を取り出す事が出来る様になった」

 

「なるほどね。それで後は絶対的な力を持った聖剣(エクスカリバー)を用意して、聖剣の穢れを落とそうと考えているのか」

 

「そうだ。貴様さえいなければ、このような事をせずに済んだ物を!!」

 

「なるほどね。それはすまなかった」

 

僕が周囲の事を気にしていなかった所為で彼らはこうして行動してしまった。それは僕の責任でもある。

 

「……貴様、何処まで我らを馬鹿にする!!」

 

謝罪が気に喰わなかったのか、全員が激怒して僕に襲いかかってくる。なら、その怒りを受け止めるのが僕の贖罪だろう。

無限の剣製を使わずに、光剣を展開してエクソシスト達と斬り結び、命に関わらない攻撃をその身に刻み続けていきます。

 

「祐斗、今援護を」

 

「必要無いです。僕が死ぬまで手出しは無用です。自分の身を守る事だけ考えていて下さい」

 

部長達が援護をしようとしますが、それを聖剣による結界で止めます。これは僕への罰なのですから。気が済むまで、お相手いたしますよ。

 

 

 

戦いは苛烈さを増していき、まず右腕を切り落とされ、次に左目を潰され、左足、右足を切り落とされ、体中に光剣を突き刺され、突き倒される。

 

「ふははははは、所詮はこの程度の存在だったのだ。聖剣(エクスカリバー)の統合も丁度終わったわ。私自らの手で葬ってくれる!!」

 

バルパーが3本の聖剣(エクスカリバー)を束ねた物で地面に転がっている僕の心臓を貫く。

 

「ついにやったぞ!!これで聖剣は真の輝きを取り戻す事になる。皆も喜べ!!我らの誇りは今この手に戻ったぞ!!」

 

そうですか。それは良かった。これで僕は彼らから許しを得た事になりますね。まあ、一応聞いておきましょう。勘違いだと困りますからね。

 

「満足した様ですね」

 

「ああ、これであの二人を殺し、さらに聖剣(エクスカリバー)を鍛えれば……」

 

「どうかしましたか?」

 

バルパーが僕を見下ろしながら、顔を驚愕に染めていき、後ろに下がっていきます。その隙に、擬態の魔剣(エクスカリバー・ミミック)を左腕に産み出し、切り落とされた四肢を回収して魔剣で繋ぎ止め、自然治癒強化の魔剣と治癒系の魔剣に魔力を注ぎ込み、身体を修復します。

 

「……化け物」

 

誰が言ったのかは分かりませんが、それが僕を見ていた人の総意でしょう。

 

「僕は自分の罪を償っていただけですよ。満足されたのでしょう。ここからは僕の番ですよ。等しく、神の元に送って差し上げましょう。まずはその聖剣(エクスカリバー)からです」

 

「皆の者、私を守れ!!」

 

今まで散っていたエクソシスト達が集り、バルパーの前で盾の様に神器を構える。

 

「さて、とりあえず色々と聞きたい事があるんですが、とりあえず一点。先程の儀式、聖剣(エクスカリバー)を束ねるというのは素晴らしいと思いますけど材料の把握は出来ているんですか?」

 

「ふん、当たり前だろうが。天閃に夢幻、そして大戦中に失われていたとされていたが天界に保管されていた支配。本来ならここに透明も入るはずだったのだがな」

 

「ああ、なるほど。そこから勘違いしてましたか。残念ですが、三本目は僕が昔作った約束された勝利の剣(エクスカリバー)ですよ。支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)は未だに行方不明ですよ」

 

「なっ、そんな馬鹿な!?この聖剣も穢されているだと!?」

 

「まあそういうことですね。ちゃんと調べないからそうなるんですよ」

 

いくら魔力や光力を注ぎ込もうが肉体強化などの補正が入らない時点で気付くと思うのですがね。

 

「それじゃあ、さくっと終わらせてもらいましょうか」

 

「先程まで手も足も出なかった貴様に負けはせん!!」

 

「おやおやバルパー・ガリレイ、貴方は僕の無限の剣製の特性を忘れたようですね」

 

「しまっ」

 

「夢を抱えて溺死しなさい。壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

聖剣(エクスカリバー)を束ねるという事は、特性や性質をそのまま残すという事であり、僕の聖剣(エクスカリバー)を束ねたという事はそのまま壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)が使えるという事になる。

 

束ねられた聖剣(エクスカリバー)の芯になっていた物は僕の物だった。おかげで2本の聖剣(エクスカリバー)の力も合わさって大爆発を起こす。爆発が収まると、そこにはバラバラになったバルパーとエクソシスト達のそれを見て部長達が気分を悪くしているが、この程度の覚悟もないのなら戦場に立って欲しくない。

 

バラバラになった死体を擬態の魔剣(エクスカリバー・ミミック)で一カ所に集め、聖水で清めてから火葬式典で灰すら残さずに燃やし尽くす。それから爆発した聖剣の欠片から二つの核を回収しておく。この核さえあれば聖剣(エクスカリバー)は修復可能なのだ。

それが終わってから二人とコカビエルの方に目を向ける。

 

エクソシストと戦いながらも二人の方を気にしていたので大丈夫だというのは分かっていたけど、五分の戦い、いや、若干押し気味な所を見るとこの一週間の訓練は無駄ではなかったみたいだね。

 

「二人とも、加勢は要りますか?」

 

「いらん。イリナ、足を止めろ!!」

 

「オッケー」

 

紫藤さんの擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)が網の様な形に変形して、切り離される。実戦によって更に聖剣の力を引き出せる様になりましたか。良い兆候ですね。ですが、あまり時間をかけると経験が物を言いますからね。いつでも介入出来る様に準備だけはしておきましょう。血の怪事件ぶりですが、失敗しないで下さいよ。

 

 

 

呼吸を整えて、全身に魔力を循環させ、練り上げた魔力を身体の、魂に注ぎ込み、展開の準備を始める。そして、誰にも理解されなかった英雄(化け物)の生涯を紡ぐ。

 

「I am the bone of my sword.

 

 Steel is my body, and fire is my blood.

 

 I have created over a thousand blades.

 

 Unknown to Death.

 

 Nor known to Life.

 

 Have withstood pain to create many weapons.

 

 Yet, those hands will never hold anything」

 

これで残りの一節を唱えれば、禁手らしき物が記録で言う大禁呪『固有結界』が発動する。しばらく二人の戦いを見守っていると、コカビエルが重力結界に耐えながらなんとか高度を保ち、光槍と光弾の雨がグラウンド全体に降り注いでくる。

 

紫藤さんがそれを擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)をドーム上に展開してゼノヴィアさんと立てこもり、部長達は僕の結界に守られ、僕は頭だけを守って全身を貫かれながら超速再生でやり過ごす。

 

「ここまでですね。ゼノヴィアさん、紫藤さん、後は僕がやるので」

 

「まだやれます」

 

「駄目です。お二人はあの高さまでの有効打が無いでしょう。それにこれから起こる事は普通なら体験出来ない様な事ですから。おそらくはミカエル様達ですら辿り着く事の出来ない領域、味わってみて下さい」

 

残していた最後の一節を紡ぐ。

 

「So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS.」

 

詠唱が終わると同時に僕の足下から円上に炎が広がっていき、世界が塗りつぶされていく。

 

夕暮れの様な赤黒い空に浮かぶ大量の大きな歯車、どこまでも広がる荒野に墓標の様に突き立つ魔剣、聖剣、名剣、無銘の剣、なまくら。それらを照らす様に舞い散る火の粉。

 

「なにが、何が起こったというのだ!?」

 

コカビエルが慌てふためき、他の皆が周りの風景に唖然とする。

おや、どうやら範囲指定を間違えた様ですね。会長達も取り込んでしまった様です。まあ、固有結界内なら幾らでも補助出来るので問題ありませんね。

 

「ここは、英雄を目指し英雄に成れなかった守護者の心象風景が産み出した世界。彼は9を救う為に1を殺し続ける事を強制され続けている。ここの全ては剣を内包し、世界は剣で出来ている」

 

僕が右手を上げるのと同時に、突き刺さっていた剣がひとりでに抜けて浮かび、切っ先をコカビエルの方に向ける。さらに、ありとあらゆる空間から剣が産まれ、同じ様に切っ先をコカビエルに向ける。

 

「コカビエル、お前の相手は文字通り無限の剣だ。この世界の全てが貴様を殺す」

 

僕が手を振り下ろすのと同時に剣がコカビエルに向かって飛び出していく。

コカビエルは必死に光弾や光槍で剣を迎撃していくが、それもすぐに捌ききれなくなり、剣の波に飲み込まれて、一枚の羽を残して消え去る。

それを拾ってから固有結界を解除する。

 

「祐斗、貴方は一体何者なの?」

 

「僕は僕ですよ。変わり者の聖職者。それ以上であるかもしれませんけど、それ以下ではありませんよ」

 

見れば部長達は皆ボロボロで、会長達も魔力が殆ど尽きています。少しだけ不味いですね。固有結界の再展開まで少しかかります。

 

上から降って来た蹴りを龍殺しの特性を付けた大剣で受け止めます。全身に魔力を通して魔剣を全て全力で起動させます。

 

「まったく、噂通りの戦闘狂ですか」

 

防御に使ったのと同じ大剣を空に産み出して降り注がせる。それを躱すのは白い鎧。

 

「龍殺しをこれほど容易く産み出すとは。アザゼルが気にしているのも頷ける」

 

「いきなりの攻撃、一体何が目的ですか白龍皇?」

 

二天龍の片割れ、白龍皇。アザゼルとの仲が分かる言い方から神の子を見張るもの(グリゴリ)に所属している様ですね。

 

「アザゼルに言われてコカビエルを捕らえに来たのだがな。一足遅かったようだ」

 

「ええ、ですからとっととお帰りください。羽は持って帰ってもらって構いませんから」

 

「オレとしても赤龍帝よりもお前の方が気になるんだがな」

 

「残念ながら、僕は研究職の方が向いているんでね。手加減なんか出来ませんよ。今の情勢でそんな事をすればどうなるか分からないのでお断りですね」

 

「そうか。それがお前の答えか。今日の所は退かせてもらおう」

 

そう言って白い鎧の男はコカビエルの羽を拾って、一瞬にして視界から消えていった。中々早いね。

 

「……今のは?」

 

「今代の白龍皇ですね。どうやらイッセー君よりも早く覚醒しているみたいです。あれ、禁手化ですよ」

 

大量に作った龍殺しの剣と部長達を守る為に結界を張っていた魔剣を収納用の魔法陣に片付けながら部長達に治療用の魔剣を突き刺し、会長達に魔力回復の薬と符を渡す。ゼノヴィアさん達も疲労が激しかったので幾らかの回復薬を飲ませる。

 

「さあて、あとはミカエル様に報告して終わりですね。部長達も魔王様達への報告忘れないで下さいよ。ゼノヴィアさん、紫藤さん、帰りますよ」

 

「待ちなさい祐斗。貴方にはまだ聞きたい事が」

 

「その要求を聞かないといけない理由は今の僕にはありませんから。今の僕はミカエル様直属のエクソシストですから。命令権はミカエル様しか持ってません。それにまだ任務は終わってませんのでね。では、これで」

 

ゼノヴィアさん達を連れて転移の魔剣を振り下ろし、教会に戻ります。

 

「さて、とりあえず今日の所は休みましょうか。聖剣(エクスカリバー)は三本も壊してしまいましたが二本は核を回収してますし、残りの一本は僕が作った物ですから問題無いでしょう」

 

「……なあ、一つ聞いても良いか?」

 

「なんです、ゼノヴィアさん?」

 

「アレだけの力を持っていて、どうして悪魔になったんだ」

 

紫藤さんも同じみたいですね。まあ良いでしょう。先日から自分がおかしくなっているのに気付いてしまいましたから。自分がどの程度狂っているのか、自分でも確認しましょう。

二人を連れてリビングに向かい、飲み物を用意してから話し始める。

 

「昔、ある所に一人の男が居ました。それなりの大学には通っていましたが、誇れる事は精々が色々な数式や化学式を知っている位の平凡な、本当に平凡な男で、ある日地震で死にました」

 

「一体何を?」

 

「昔、ある所に一人の少年が居ました。彼は幼い頃に人為的な災害にから唯一の生き残りであり、それから救ってくれた男は魔術師で正義の味方を目指していた頃もありました。男は既に大人で正義の味方に成れない事を知っていました。それでも正義の味方になろうとしていました。少年にはそれが美しく見えて、自分も正義の味方になる事を決意しました」

 

「ちょっと話を」

 

「男は呪いに倒れ、男の夢を少年は継ぎ、青年になった頃に英雄達に出会いその道を進む事を決意しました。ですが、青年には英雄に成れる様な才能は無く、それでも自分に出来る事を限界以上に行っていきました。彼が大人と呼ばれる頃にはかれに賛同する者も居ました。彼は多くの人を無償で救い続けてきました」

 

「とりあえず大人しく聞こう。何か意味があるのだろう」

 

「ある時、男の力ではどうする事も出来ない現状が立ち塞がり、それによって死ぬ運命にあった百の命を救う為に世界と契約を交わしました。それによって奇跡とも言える結果を残し、彼はまた誰かを救う為に去っていきました」

 

「うん、素晴らしい男なのだな」

 

「それからしばらくして、彼は守ろうとしていた人達の手によって生涯を閉じました」

 

「「え!?」」

 

「昔、ある所に一冊の魔導書がありました」

 

「ちょっ、なんでさっきの男は殺されたのよ」

 

「その魔導書は邪神やその下僕と戦う為にこの世のありとあらゆる外法を記された力ある魔導書でした。そしてその魔導書は多くの写本も作られう程の物でした。その写本の内、とある一冊のとある1ページがとある悪魔の手に渡り、その悪魔は精神を侵され狂ってしまいました」

 

「精神を侵されて狂う?」

 

「その悪魔は正気を失ってはぐれ悪魔となり、日々何かの研究を行っていました。周囲の人間を実験材料にもしたりしていましたが、ある日、ふらっと現れたはぐれエクソシストに討伐され、魔導書の1ページはそのはぐれエクソシストをも蝕みました。しかし、そのはぐれエクソシストは正気を失わずにいました。ですが、そのはぐれエクソシストは魔導書の浸食と教会から逐われてからの一人旅で一人旅で摩耗していました。それこそ悪魔に救いを求める程に」

 

「それが、お前なのか」

 

「昔、ある所に一人の赤ん坊がいました。その赤ん坊は教会の前に捨てられており、神父様が運営している孤児院にて育ち、幼いながらも聖職者として生きる道を決めていました。そしてその子は神から与えられた力があるという事でローマに招かれ、そこで神から与えられた力、神器を出現させる儀式を行いました」

 

「噂には聞いた事あるけど、そんなこと実際にあったんだ」

 

「その儀式において少年の異常性が発揮されました。彼には前世とも言える記憶が、色々な数式や化学式を知っている位の平凡な、本当に平凡な男の記憶が。その男の記憶の中には正義の味方になりたかった英雄(化け物)の生涯を綴った詩が。少年は英雄(化け物)の詩を紡ぎ、3人が混ざった。聖職者の少年と平凡な男と正義の味方になりたかった英雄(化け物)が混ざり合い、魂すらも変質させ、神器も変化した」

 

「あっ、話が繋がった。ってことは……どういうこと?」

 

「元から僕は、普通の人とは違うという事だけ分かってもらえれば良いよ。特に精神面に関してはかなり不安定な存在なんだ。普通の人の魂がゴムボールの様なある程度の変化に耐えられる物なら、僕の魂は巨大な合金で作った様な物なんだ。大抵の事では壊れたりはしないけど、部分部分で脆かったり、元の形に戻らなかったりと一度バランスが崩れると壊れる一方さ。そして既に壊れる始めている。気付いたのは最近だけど、どれだけの余裕があるのかが分かりません」

 

実際、違和感に気付いたのはイッセー君とライザー様の一騎打ちの後だ。それまでは特に違和感はなかったけど、原因は死霊秘法(ネクロノミコン)で間違いないでしょう。正気を保てなくなったとき用の自爆術式も用意しなくてはなりませんね。僕が暴走すると大変ですから。

 

「話は戻りますけど、精神的に弱っていた所に契約には紳士であろうサーゼクス様に出会った事で悪魔に転生する契約をこちらから持ちかけたんですよ。悪魔になっても神に祈る事はできますから」

 

「普通は出来ない事だがな。私も直接見るまでは信じられなかったが、身体を焼かれながらも十字架や聖書を身に付けて祈りを捧げたり、ミサを取り仕切っている所を見てしまうとな。これなら神も許して頂けると思ってしまう」

 

「悪魔の身体で聖剣振ったりもしてたし、人となりも聖職者としてまったく問題無いと思うし、そもそも人間の身体に戻れるなら大丈夫だと思うよ」

 

「それでも今は契約に基づいて悪魔をやってますから。契約が終わるか、内容の変更が無いと完全に悪魔を辞める事は出来ませんからね。人としても悪魔としても約束を破るのは最低の行為ですから」

 

「そう言えばそんな制約が悪魔にはあったっけ。交わした契約は必ず履行しないといけないんだっけ」

 

「そうですよ。だから質の悪い悪魔の場合、契約を交わす時に注意しないといけないんですよ。一番良いのは契約書を用意する事ですね。これなら両者が裏をかこうと努力出来ますから」

 

「いやいやいや、裏をかこうとするのは間違っているぞ」

 

「決められた条件下で最大限の結果を残す為の努力を怠るは堕落です」

 

本来の話から多少ズレて来たので軌道を修正する。

 

「とりあえず、僕は精神的に不安定になった事が原因で悪魔に転生しました。いくら人間に戻れるからと言っても正規の神父やエクソシストに戻る事は出来ないでしょうね」

 

「それでも今回の様な特例として復帰出来るんだ。今の内に何かやっておきたい事をやった方が良いんじゃないか?」

 

「やりたい事ですか」

 

今だからこそ出来る事となると、アレしかありません。ですが本当に良いのでしょうか?

 

「主もそれ位の事は許してくれるはずさ。明日は私達はゆっくり休ませて貰おうと思うからな」

 

「……ありがとうございます。すみませんが留守を任せます」

 

 

 

 

 

翌日、僕は、僕が拾われた教会に足を運んだ。今までは悪魔だという事でどうしても足が進まなかったけど、今は例外的とは言え正式なエクソシストだ。それでも緊張しながら教会の扉を開く。そこにはちょうど主への祈りを捧げていた神父様が居られた。扉の開く音に気付いて神父様が振り返って顔をあわせる。記憶よりも皺が増え、身体の方も少し痩せた様に見えるけど、それでも元気そうな神父様を見て、自然と涙がこぼれる。

 

「……もしや、祐斗か?」

 

「はい、神父様」

 

「そうか、元気にしていたか」

 

「はい」

 

「大きくなったというのに、今の方が子供らしいな」

 

「ここの所、色々と自覚してしまって」

 

「まあよかろう。それから、おかえり。祐斗」

 

「ただいまもどりました」

 

涙を零しながらも、笑顔で返事をした僕を神父様は優しく迎え入れてくれました。このような機会を設けてくれたゼノヴィアさん達に感謝と神の御加護を。

 

 

 



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閑話1

 

「う~ん、予想以上の結果で終わってしまったね」

 

『サマエルとまでは行かないが、それでも既存の龍殺しよりも遥かに強力な剣を簡単に作り出すとかシャレにならないぞ。ヴァーリの野郎は未だに寝込んでやがるしよ』

 

通信映像の向こうでアザゼルがげっそりとしている。おそらく今まで治療にあたっていたのだろう。

 

『それに左腕以外の四肢を切り落とされた上で心臓を聖剣で貫かれて生きてるとか生物辞めてるんじゃないのか?』

 

「それに関しては本人曰く、心臓は血流の操作に必要なだけで他の物で代用が可能なら問題無いとのことだ。おそらくは血流操作に特化した魔剣を身体に埋め込んでいたのだろう」

 

『ちっ、オレが作ってる人工神器なんて目じゃねえ位の性能と汎用性を出せるとかやってられねえな。おいミカエル、そっちの聖剣使いからの報告はどうなんだ?』

 

『教会に所属していた頃とは嗜好の変化がある位ですね。根はまったく同じですが悪魔に転生した事で悪魔としての嗜好も理解している様です。能力は格段に跳ね上がっていますがね』

 

「やはりそうか。こちらでも最初期の物と今年受け取った物での性能が大分違う。下手をすれば我々ですら一撃で葬る様な物を作れる様になっている」

 

『明らかに異常だな。個人で二天龍すら相手に出来そうだ。性格の方はどうなんだ?それ次第では』

 

アザゼルはそこで言葉を切るが、何が言いたいのかは分かる。だがその心配は無用だろう。

 

「完全に身内と認めた者には甘いね。まるで親の様に見守る様に、そっと背中を押す様な甘さだけどね。それから完全に敵対していないのであれば、頼めば手を差し伸べてくれるだろう。悪魔だから代価は求めるだろうけど、良心的な物ばかりだ」

 

『そうですか。教会時代は存在の秘匿の為に接触する者は最低限しかいませんでしたから理解していなかったのですが、ガブリエルにはいつも聖剣を送っていた様ですから、身内に甘いというのは間違いないでしょう』

 

「今回の四肢を落とされた件も、自分の存在の所為で居場所を失った者達への償いだと本人が言っていたと妹から報告が来ている。その償いが済んだ後は容赦なく葬ってもいる」

 

『そこら辺は実に人間臭いな。まあ話を聞く限り、明確に敵対行動を起こさなかったら大丈夫なんだろう』

 

『それに関して別の報告が来ています。どうやら何かに精神を侵されているらしく不安定だから自爆の用意を始めていると』

 

『実に不安にさせてくれる報告だな。自爆の準備を進めているだけマシと言った所か。それにしても精神を侵されている?アレだけの力を持っていてか?』

 

「それに関しては心当たりがある。死霊秘法(ネクロノミコン)の写本だ。私自身も見せて貰った事がある。あれは危険だ。上級間近と言われていた三人が廃人にされている。1頁の紙切れにだ。彼はその後、完全な写本を何処からか見つけて来て研究もしている。研究用にと一冊贈られたよ」

 

『おいおい、なんの冗談だ?そんな物聞いた事も無いぞ』

 

『そうですね。にわかには信じがたいですね』

 

「だが事実だ。私も調べてみたのだが、オリジナルはともかく幾らかの写本を手にしている。『セラエノ断章』『エイボンの書』『水神クタアト』どれも写本の一部の上に適当な材料で作られていた為に写本自体に力は持っていなかったが、中身を全て閲覧するのはアジュカですら不可能だった」

 

『どういうことだ?』

 

「文字通り精神を喰らいにくるそうだ。まともな精神では触れる事すら止めた方が良いともね。天使が触れれば堕天してもおかしくないと」

 

『それを平気とは言わなくとも全て閲覧した上で写本を書いて研究してるとか異常を通り越しているな。他にそいつのヤバそうな情報は?』

 

「とりあえず確定情報として一つ、危険が懸念される情報が一つ、そして今回の事件で確認された禁手化。確定情報から行こう。力ある魔導書は莫大な力と時間によって精霊へと昇華する。彼の書いた写本の一部がイレギュラーによって既に精霊へと昇華している。見た目は普通の少女の様だが、最初の頃は24時間常に監視する位に危険な存在だと判断している。それでも最近は普通の親の様に接している所を見ると、力が暴発する様な事も無いのだろう」

 

『それで危険が懸念される情報は?』

 

「何か巨大な物を所有しているみたいだ。それも50mはある様な物をだ」

 

『それがどうしたんだ?確かに50mはデカイと思うが、それだけだろう?』

 

「確かにそれだけなら気にしないのだが、かなりの量のヒヒイロカネや水銀なんかの魔法金属を大量に集めたりしていた事もあったんだ。量的に言えば50mクラスのゴーレムとかが作れる位。それに一度冥界にある彼の屋敷が半壊してね。目撃情報から纏めると血の様に赤い巨人が屋敷を壊し、大量の紙の様な物の集まりから赤い少女が現れて屋敷の地下から何かを持ち出して逃げたらしくてね。彼、同居人に屋敷の修理を依頼する様に頼んで追いかけていったらしい」

 

『……その赤い少女はさっきの魔導書の精霊か?』

 

「同一人物では無いだろうけど、魔導書の精霊だろうね。それから半年程の間、彼は行方知れずだ。帰って来た時にはルゥちゃん、魔導書の精霊と一緒に帰って来たのはよく覚えているよ。さて、ここで問題なのだが、その巨人、力ある魔導書から召還されたのか、それとも魔導書の力を引き出すのに必要な物なのか、それとも別の物なのか」

 

『一番最初のは最悪かもしれないが最悪じゃないかもしれねえ』

 

『二番目なら最高とは言いませんが最高に近いでしょう』

 

「そして最後の場合も最悪かもしれないが最悪じゃないかもしれない。アザゼル、最悪の物だった場合どんな物だと思う?」

 

『そうだな。前者の二つを含めた上でブースト機能もあると考えるな。それから50mという巨体も不味いな。龍ですらパワー負けするだろうな。その上でその巨体が振る剣を作れるとなるとオーフィスやグレートレッドじゃないとどうする事も出来ないかもしれん。間違ってもオレ達でなんとか出来るもんじゃねえな』

 

『おそらくですが創造は可能でしょう。彼の禁手化、固有結界と言いましたか?あの結界内にそれらしき物が紛れていたと報告が上がっています。さすがにコカビエルに対しては使っていなかった様ですが』

 

「やはりか。やはり敵対するのは避けた方が良さそうだ」

 

『人質や暗殺も駄目だろうな。人質なんか取ればどんな物が飛んでくるか分からねえし、暗殺と言ってもどうやって気付かれずに一撃で殺すんだよ』

 

『彼、隠蔽系、転移系、索敵系はかなり充実してますしね。教会から追われる一件も普通にガブリエルに挨拶してから追撃を振り切って完全に行方知れずになっていましたし』

 

「私も初めて会った時は驚いたよ。部屋中に隠蔽系の魔剣を突き刺して結界を張っていてね。目の前に居るのが分かっているのに見失いそうになる位だったよ。今、同じ事をされると完全に見失うだろうね」

 

『万能過ぎるな。方法としては成長した赤龍帝が倍化を完全に溜めた状態で誰かの転移で懐に潜り込んで最高の一撃を加えて完全に消滅させるしか無いだろうな。それすらも躱されそうで微妙なんだが』

 

「それもあるが、基本的に二人は仲が良いからね。普通に断られるだろう。それこそ彼が世界の敵にでもならない限り」

 

『してみるか?』

 

「デメリットしかないだろうね。彼が作った剣は彼の意思一つで爆破出来るんだ。そんな事をされると私達は種としての危機に陥る。今の冥界では彼の剣を持っていない家の方が少ない。フェニックス卿の様にコレクションしている人も居るから非戦闘員にも危害が及ぶ可能性が高い」

 

『天界も似た様なものですね。彼は自分の好きな場所に剣を創造出来ますから。天界の重要拠点に大量に作られると一瞬で片がつきます。私達の負けでね』

 

『となると、一番有効に奴を使うには』

 

「三勢力何処にも所属せずに特定の事体においてのみ、その力を振るってもらうのが一番だろうね」

 

『抱え込む気は無いのか?』

 

「少なくとも悪魔では無理だと判断している。彼を使いこなせる様な人材は私達魔王勢やランキング上位の一握りだけだろう。無理を言って妹の眷属にはしてみたんだけど、不満ばかり溜めてしまっているみたいだね。セラフォルーの妹ならそんな事はなさそうなんだけど、やっぱり使いこなす事は出来そうにないね。彼は単独で勢力になれる人材だからね」

 

『天界では危険視している者が多いので抱え込むのは難しいでしょう。私達はともかく、上級の一部と中級の大半は危険視していますから』

 

『こっちだと、なんとか自分達の得になるようにあれこれして怒らせて殲滅されるだろうな。使い難いにも程がある人材だよ』

 

「となるとやはり独立勢力として動いてもらうのが一番だね。ミカエル、アザゼル、先に選抜した技術者を集めて転生天使を作る為の道具を作ろう。正式に同盟を組む際に、彼に悪魔の駒と一緒に渡して独立勢力を作ってもらう。その際にある程度こちらからの譲歩を行う。おそらくは人材関係になるはずだ。その方向で大丈夫だろうか?」

 

『とりあえずはな。細かい所は追々と言いたいが、その前に一度直接会わせろ。お前達はそれなりに面識があるんだろうけど、こっちはそうじゃねえ。直接会って確かめたい』

 

「それは構わないよ。細かい所を調整する際に彼にも同席してもらおう」

 

『ついでにこっちで勝手に接触しても構わないか?』

 

「出来ればいきなり会うのは止めて欲しいね。妹を刺激すると彼まで機嫌が悪くなるから。今回も事前に何かあった時に連絡する様に伝えてあったそうなのだが、連絡を行わなかったみたいでね。他にも妹が自分を使ってくれない事に不満を持っているから、今更王として振る舞われると神経を逆撫でされるだろうね。力の確認すらしていなかったから評価がだだ下がりだ。来年の契約更新時に出奔しそうな位に。そうなると妹の眷属の半分は一緒に付いて行ってしまうだろうね」

 

『どんだけ人望が無いんだよ、お前の妹』

 

「逆だよ。彼に力と魅力がありすぎるんだ。どうする事も出来ずに困っている所に手を差し伸べて救ってくれる存在に魅かれるのは当然だろう?」

 

『まあ、あの年齢でそこまでしっかりとして、実力と魅力も十分なら分からないでもないな。出来ない事の方が少なそうだし、根は善良みたいだし。聞いている限りでは、もし出来ない事でもなんとかしようと努力するだろうな』

 

『ただ、自分に関する評価をまったく気にしていないのがマイナスですけどね。教会から追われる様になった件も少しは周りの事を気にしていれば十分に防げていましたから』

 

「悪魔に転生してからは多少は気にする様にはなっているよ。まあ、別の方向に頑張って肉体を変化させて、人間に戻ってから教会の整備や掃除をしているんだけどね。そういう裏道や抜け道を巧みに潜り抜ける辺りが多少目立つけど」

 

『何かしたのか?』

 

「あとから聞いた話なんだが、レーティングゲームでフェニックスの涙以外の回復アイテムを上級悪魔一個大隊が一ヶ月無補給で全力戦闘が出来る量を用意していたみたいだ」

 

『……突っ込みどころが多過ぎて何処から突っ込んでいいのか分からねえな』

 

「だろうね。基本的に魔剣のオーダーで資金は十分で、生活は質素とまでは言わないがそれでも収入から考えるとかなり質素な生活を送っているからね。建物の改築なんかには十分な資金を投入するけど冥界と人間界に一つずつあるだけだし、回復アイテムの方も素材から自分で作ったりもしているから、それほど費用もかかっていないみたいだ」

 

『それでも過剰すぎるだろう。何処かと戦争でもするのかと思う量だぞ』

 

「それでも全力で戦えば丸一日で全て消費するらしいけどね。全力を出す為に、他にも色々と道具を用意する必要もあるらしい」

 

『あ~、もう突っ込まねえぞ。この話は終わりだ。とりあえずこれが最後にしたいが、禁手化についてだ。固有結界、聞いた事はあるか?色々な文献なんかも漁ってみたが情報は0だ』

 

「こっちもそうだ。名前からして結界のはずなんだが、私達の知る結界とは全くの別物みたいだ。実際に体験した者達からの意見をまとめてみた所、一番近いのは次元の狭間だと思われている。本人に確認してみたんだけど、説明がし辛いらしい。ただなんとなくで使いこなしているみたいだ。強力だが魔力の消費も多いので長時間の展開も不可能だそうだ。そして発動には呪文も必要みたいなんだが、内容が理解出来ないんだ」

 

『どんな物だ?』

 

「英語のはずなんだけど、文法的におかしな部分が多い。本人は英雄(化け物)の詩と言っている」

 

『本当に意味が分からねえな。これが何故英雄(化け物)の詩なんだ?』

 

『……これは』

 

『何か知っているのか、ミカエル』

 

『これは彼が神器を初めて召還した時に唱えていた呪文です。9を救う為に1を切り捨て続けて来た男の詩だと。無償で人を救い続け、人々に裏切られて死んだとも聞いています。調べてみましたが過去にそう言った人物は居ませんでした』

 

『何故そんな詩を知っているのか気になるが、今はおいておくか。結界内の風景はその男の心象風景らしいが、なんともまあ味気ないと言うか、まるで機械か舞台装置だな』

 

「そうだね。不毛の大地に空に浮かぶ歯車、墓標の様に突き立つ剣とそれらを照らして鍛え直す炎。ものすごく悲しく虚しい人生を送っていたのだろうね。能力の方はどんな物か予想は出来るかい?」

 

『たぶんコストが結界の維持だけになるのと、剣の射出が可能になるのと、結界内に取り込むだけだろうな。禁手にしてはあまり性能が跳ね上がっていない様に感じるが、コスト度外視の性能を突き詰めた剣が全方角から豪雨の様に降り注いでくるからな。結界内に取り込まれた時点で生き残る方法はあの男の意思一つだろうな。ヴァーリだろうが赤龍帝だろうが二人同時に居ようが関係ないな。コカビエルと同じ最後を辿るだろうな。現に固有結界外で戦ったヴァーリが寝込む位の龍殺しの剣を普通に量産出来る程度の魔力はあるんだからな』

 

「敵にだけは回したくないね」

 

『同感だよ』

 

結局、彼には色々と苦労をかける事になるけどそれでも平和に近づくというのなら彼も納得してくれるはずだ。そう思いながら同盟に向けた話し合いを続けていく。

 

 



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第17話

聖剣事件が終わり、エクソシストとしての権限を返上して悪魔稼業に戻ってしばらく経ったある日、サーゼクス様に呼ばれて冥界に戻る。グレイフィア様に案内されてサーゼクス様の執務室に通される。

 

「よく来てくれたね」

 

「いえ、なんとなく用件は予想していますから。おそらくは三勢力間での停戦、もしくは同盟と言った所でしょうか?」

 

「うん、その通りなんだ。前回のコカビエルの一件の時も例外とは言え、悪魔である君をエクソシストとして活動させる位には前から話が進んでいる。だがこれに反対する者が多いのも確かだ」

 

「そうですね。でなければ聖剣が、特に天界で保管されていたエクスカリバーが盗まれる訳がありませんから」

 

「ミカエルも嘆いていたよ。それでも今回の一件で同盟を組む事になったのだが、別の問題が出て来た」

 

「僕、正確に言えば無限の剣製でしょうか?」

 

「それもある。アレだけの力を見せつけてしまった以上、今の状況に置いておく事も出来ない。契約に基づいて保護したいのだが、それが許される状況では無くなってしまった」

 

「仕方ないでしょうね。それで、僕はどういう扱いになるのですか?」

 

「先日の通信での会談の結果、三勢力の同盟と同時に各勢力から独立した部隊の王となってもらう事になる」

 

「独立した部隊の王ですか?」

 

「独立部隊は三勢力の同盟を邪魔に思う者を相手に戦うことになる。人員と物資や資金は各勢力から平等に出し合う事になっている。それらを纏める王として君が選ばれた。君は相手の種族がなんであろうと気にしないだろう。それが出来て独立部隊を引き入れる人材は君しか居ない。これは三勢力の総意でもある」

 

そこまでの評価がされていたとは知らなかった。

 

「正式に部隊が設立された際に君には悪魔の駒と、悪魔の駒と人工神器を元に開発された転生天使を作るトランプが支給される。だが、会談の最中、もしくは終了と同時に襲撃も予想されるのでね、先に人員を選出しなければならない。希望はあるかい?」

 

「そうですね。とりあえず白音さんとギャスパー、ヴァレリーさんですね。あの三人なら性格的にも能力的にも問題無いでしょう。教会側からは前回の任務を共にしたゼノヴィアさん達と、後衛タイプの人を一人。聖剣はこちらで用意するので必要ありません。堕天使側からは前衛と後衛、それからサポートタイプを一人ずつ。前提条件としては集った同僚に対して敵対しないことです。それから出来ればで良いんですが、出来るだけ能力の高い人材を出す様にして貰いたいんです。悪魔側の三人の詳細は報告してある通りですし、教会側は聖剣使いの二人です。ここで堕天使側だけ能力の低い者を出すと不満がでますから」

 

「分かった。ミカエルとアザゼルに伝えておこう。それからしばらくの間、同盟に向けた調整に付き合ってもらう事になる」

 

「分かりました。またしばらくの間、通常の悪魔稼業は休んで時間を作っておきます」

 

「すまないがそうしてくれるとありがたい」

 

サーゼクス様との話を終えた僕は、これからのことを考えて冥界中を移動して色々と魔術道具を購入したり、素材を回収する。

また徹夜で薬の調合や符を製作しなくちゃね。

 

 

 

 

 

 

休日、僕とイッセー君は駒王学園のプール掃除を行っている。そろそろプール開きの時期に掃除を受け持つ代わりに一番に使用する権利を部長が会長から取って来たのが始まりだ。女性陣が着替えに時間がかかっている中、僕とイッセー君は男ということですぐに着替え終わり、先に終わらせてしまうことにしたのだ。

 

「木場、わざと言語を変えたり音程を外してまで聖歌を歌おうとするのは止めろよ。気になるじゃねえか」

 

プールに浮かんでいるゴミを網で掬い上げて捨てながらイッセー君が文句を言ってきました。

 

「僕なりに気を使ってるんだよ。僕が本気で聖歌を歌うとイッセー君、死ぬよ」

 

「あ~、もしかしなくてもその十字架の所為か?」

 

「いえいえ、僕の癖みたいなもので、聖歌を歌う際に光力を込めちゃうんですよ。テンションによっては込めすぎてしまいます。それはもう悪魔達の地獄絵図を作り出してしまう位に」

 

一度冥界でやってしまい、白音さん達が死にかけてましたから。僕にもダメージがあったのですが、聖歌によるダメージで光力のダメージだとは気付かなかったのが原因です。あの頃はルゥも居ませんでしたから白音さん達が倒れていることに気付けずに居ましたから。

 

「……木場でもそんなミスするんだな」

 

「若さ故の過ちという奴です」

 

「ふ~ん」

 

ゴミが掬い終わった所でプールの底に空間接続の魔剣で次元の狭間に穴を繋げて排水を行い、悪魔の力を全開にしてイッセー君と二人でモップで苔を落としてそれも次元の狭間に捨て、綺麗になったのを確認してから浄化の魔法をかけて更に綺麗にしておきます。

 

「おい、ちょっと待て木場。そんなのがあるのなら最初から使えよ!!」

 

「ゴミや苔がある状態で使っても意味がないですからね」

 

「ああ、そうなんだ」

 

イッセー君が納得してくれた様なので再度浄化の魔法を使ってプールを綺麗にする。それが終わってから水を溜め始めるのですが、暇なので先日サーゼクス様が訪れた時のことを尋ねることにしました。

 

僕はその時、ちょうど長期契約で不在だったので詳しいことは分からないんですよね。白音さん達からは三勢力の会談が駒王学園で行われるということしか聞いていませんが、その後サーゼクス様とグレイフィア様がイッセー君の家に泊まったということは聞いています。

 

「サーゼクス様か。その、なんて言えば良いんだろうな。とにかくオレが持ってたイメージを壊されたな」

 

「まあ、プライベート時の魔王様達はかなり軽いからね。セラフォルー・レヴィアタン様なんて特に凄いよ。たぶん、今度の授業参観にやってくるはずだから、見て見ると良いよ。魔王のイメージが完全に壊されるから」

 

「うわぁ~、見たい様な見たくない様な。あれ、授業参観に来るってことは会長の身内なのか?」

 

「そうだよ。会長のお姉さん。ただ、二人の仲は良いんだけど、そのね、会長が苦労していることだけ覚えておいてあげて欲しいんだ。出来れば、お姉さんの話題は出さないであげて欲しいんだ」

 

「仲が良いのにか?」

 

「うん。お姉さんであるセラフォルー様を見れば、理解できるから」

 

「よく分からんが覚えておくよ」

 

それから半分程水が貯まった所で塩素を放り投げて、魔法で水を出して一気に一杯にまで張る。

 

「だから最初から魔法を使えよ!!」

 

「魔法で産み出される水は完全な純水だからね。成分的に水道水と割った方が良いんだよ」

 

イッセー君に説明が終わった所でオカルト研究部の女性陣とルゥがプールにやって来ました。部長はかなり布面積の少ない赤い水着を、副部長はやはり布面積が少ない白い水着を着ていました。白音さんは学校指定のスクール水着で、ヴァレリーさんは肌を隠す様に長袖のラッシュガードにレギンスを履いています。ルゥは先日白音さん達にお金を渡して買いに行って貰ったフリルがたっぷりの蒼いワンピースタイプの水着と浮き輪を装着していました。そしてギャスパー、貴方は水着も女性物を着るのですね。花柄のブラにデニム地のパンツ、貴方はそれでも吸血鬼で男なのですか?

 

「木場、オレ生きてて良かった」

 

僕の隣で涙を流して神に祈りを捧げ、激痛に転げ回る。部長がそれを見てイッセー君に駆け寄ったので面倒を任せて白音さん達の方に移動します。準備運動をしてから泳ごうとした所で白音さんに呼び止められた。

 

「どうかしましたか?」

 

「あの、祐斗さんは泳げますか?」

 

その一言で事情は分かりました。ちなみに普通の泳ぎ方は普通ですが、戦場で必要な特殊な泳ぎ方はアーチャーの記録のおかげで得意です。

 

「ええ。なんなら泳ぎ方を教えましょうか?水泳部の様に速く泳ぐ方法は知りませんが、ちょっと特殊な泳ぎ方は得意ですから」

 

「お願いします」

 

とりあえず基本の浮かび方からですね。肺に出来る限り空気を取り込むだけでも結構変わってきます。日頃から呼吸を意識する様に言ってありますから肺活量はかなりの物になっているので、浮かぶだけならすぐに出来るでしょう。それが終われば基本的な足の使い方と息継ぎを教えると、白音さんは一人でも十分に泳げる様になりました。

 

途中で部長と副部長がイッセー君を取り合ったりしていましたが、基本的には平和な一日でした。日頃はあまり遊んであげられないルゥと一緒に遊んであげ、とても楽しんでくれたみたいです。

 




次回、魔王少女襲来。


今気付いたけど、イベントの大半を潰してた。
オリジナルの会談調整の話がメインになりそう。


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第18話

サーゼクス様とセラフォルー様が楽しみにしている授業参観がとうとうやってきました。まあ、僕にはあまり関係ないんですけどね。僕の親と呼べる神父様は隣の県に住んでるから。

 

授業参観に割り当てられている時間の僕のクラスの授業は音楽だった。普通にやれば良いのにかなり特殊な楽器が用意されていて、それでクラスの一人が即興曲を披露することになったのだけど、やはりと言うか僕がやる事になった。

 

とりあえず用意された楽器の中からノコギリを手に取る。ミュージックソウと呼ばれる演奏用のノコギリでイスに座って股で挟み、刃を曲げたりしながら弓か撥を使って演奏するのだ。音程が安定せずに、かなり難しい部類にあたるのだけど、これも剣の一種ではある。解析しながら適当に音を出せば、どのように扱えばどんな音が出るのか分かる様になる。後は聖歌を適当にアレンジすれば良いだろう。防音設備は十分だと思うけど、一応遮音結界を張ってから適当に演奏する。

 

アンコールと言われても時間が足りないですし、あまり音楽には興味があまりないので賛美歌位しかレパートリーがないので辞退させてもらいました。

 

イッセー君のクラスでは英語のはずなのに紙粘土で物を作る授業だったとか。この学園に居るとたまに頭が痛くなることが多いんですよね。この前の球技大会のハンマー投げとか。ちなみにイッセー君は部長の裸婦像を作ってクラスメイトにオークションにかけられそうになったそうだ。コレにはさすがに苦笑いだよ。

どっちにって?イッセー君もイッセー君のクラスメイトも両方だよ。

 

 

 

とりあえず部活に行くために二人で部室に向かっていると、前方に男子が集っている場所があり、そこから聞いた事のある声と携帯のシャッター音が聞こえて来た。あの方は今日もあの格好なのか。

 

「なあ木場、誰か有名人でも居るのかな?」

 

「ええ、有名人ですよ。裏の世界の有名人ですが」

 

頭を抱えていると騒ぎを聞きつけた匙君がやってきました。

 

「ほらほら散れ。今日は授業参観なんだぞ!!」

 

匙君に追い立てられて男子が散った先にはやはりというかあの方が私服、魔法少女服で居ましたよ。

 

「あんたもそんな格好しないでくれ。って、もしかして親御さんですか?困りますよ、場に合う衣装という物があるでしょう?」

 

「え~、だってこれが私の正装だもん♪あっ、ゆうたん、お久しぶり~♬ルゥたんは元気にしてる?」

 

「ええ、元気にしてますよ。貰った服はたまに着ていますよ」

 

かわいらしいポーズをとるあの方が僕を見つけたのか手を振りながら近づいてくる。それを見て匙君が僕達に気が付いたようだ。

 

「木場、お前の知り合いなのか?」

 

「ええ、知り合いと言えば知り合いです。というか、匙君の知り合いの身内です。よく顔を見てみれば分かりますから」

 

匙君が目の前の魔法少女の格好をしているあの方の顔を見て悩み始めます。そんな中、匙君の背後の廊下から会長に先導されて三人の紅髪の男女が姿を現した。

 

「何事ですか、サジ?問題はいつも簡潔に終えなさいといつも――」

 

そこまで言った所であの方を目にした会長は言葉を止めた。

 

「ソーナちゃん♪見つけた☆」

 

会長を見つけたあの方は走り出して会長に抱きついた。その様子を見てイッセー君と匙君はようやくあの方の正体に勘付いたようです。そして紅髪の三人の内、若い男性の、サーゼクス様が声をかける。

 

「やあセラフォルー、君も来ていたのか」

 

その言葉にイッセー君達が固まる。

 

「レヴィアタン様です。現四大魔王のお一人の」

 

「ええええええええええええええええええええええ!?」

 

僕の補足に、イッセー君が驚いて大声を上げます。

 

「セラフォルー様、お久しぶりです。今日はソーナの授業参観に?」

 

「そうなの♡ソーナちゃんったら酷いんだよ。今日のこと内緒にしてたんだもん。ゆうたんが配達ついでに教えてくれなかったら、お姉ちゃん悲しくって天界に攻め込んじゃう所だったんだから☆」

 

「今の情勢でそれをやられると非情にまずいので止めて下さい」

 

「分かってるって。それよりゆうたん、その子が噂のドライグ君?」

 

「そうですよ。イッセー君、ごあいさつを」

 

「えっ、あの、ひょ、兵藤一誠です。リアス・グレモリー様の下僕で兵士(ポーン)をやってます。よろしくお願いします」

 

「はじめまして☆私、魔王セラフォルー・レヴィアタンです♩レヴィアたんって呼んでね」

 

イッセー君のお得意様の一人であるミルたんが解説してくれた魔法少女の決めポーズを決めるセラフォルー様に頭が痛くなる。

 

「ふむ、セラフォルー殿。これはまた奇抜な衣装ですな。いささか魔王としてどうかと思いますが」

 

頑張って下さいグレモリー卿。貴方ならやれる可能性があるのですから。

 

「あら、グレモリーのおじさま、ご存じないのですか?これは今この国で流行している衣装なのですよ?」

 

まあ、確かに局所的には流行していますね。嘘は言ってません。

 

「ほう、そうなのですか。これは私が無知だったようだ」

 

負けないで下さいよ。

 

「ははは、父上信じてはなりませんよ」

 

そんなグレモリー親子とセラフォルー様の会話を聞きながら周りに気付かれない様に会長の横にまで移動して、薬関係が入っている収納の魔法陣から小ビンを二つ取り出す。

 

「天然素材から作った頭痛薬と胃薬です」

 

会長にだけ聞こえる位の声量で告げて、小ビンを握らせる。

 

「ありがとうございます」

 

なんともいえないような顔で会長がお礼を言って来た。うん、仲が良い身内だけどあの格好だけは認められないんですね。あれで必要な時はちゃんとした正装が出来るのだから質が悪い。だけど、欲望に真直ぐなので僕からは何も言えない。周囲に甚大な被害を出している訳でもないので、精々がこうやって会長に薬を渡してたまに愚痴に付き合ってあげる位しか出来ない。僕達は無力だ。これが魔王様の力か。

 

 

 

授業参観の翌日、サーゼクス様とグレイフィア様と共に三勢力での会談の前の事前会談に参加する。事前会談ではあるが、ここで話がこじれれば戦争が起きる可能性もある以上気を抜くことは出来ない。サーゼクス様もいつもの軽い感じではなく悪魔を束ねる魔王としての威厳に満ちている。略装ではあるが失礼にならない程度にしている。

 

そして会議室に集ったのは悪魔側はサーゼクス様とグレイフィア様と僕、天使側はミカエル様とガブリエル様、堕天使側はアザゼル様お一人だ。

 

「では、始めようか。第一の議題は先日起こったコカビエルとバルパーによって引き起こされた聖剣奪取事件に関してだ」

 

サーゼクス様のその言葉で始まった会談は各勢力が凌ぎを削る場となった。どこまで賠償をするのか、どこまでなら譲れるのか、どれだけ認めるのかを徹底的に詰めていく。こういう経験は今までなかったので出来る限り身につける必要がある。今後は僕もここに居る人達を相手にこういう場に参加する必要があるからだ。

 

二時間程経過した所で一度休憩に入り、再び論戦が始まる。たまに僕にも話が振られる様になり、ただ事実だけを述べていく。休憩から一時間経った所でようやく今日の会談が終わるのだが、アザゼル様が僕と一対一で話し合いをしたいらしく、サーゼクス様もミカエル様もそれを許可したのでアザゼル様と二人きりになる。

 

「さてと、改めて自己紹介をしよう。オレはアザゼル。神の子を見張るもの(グリゴリ)のトップをやらせてもらっている」

 

「木場祐斗です。元ガブリエル様直属のエクソシスト兼鍛冶屋で、現在はリアス・グレモリー様の騎士(ナイト)兼サーゼクス・ルシファー様お抱えの鍛治師をやらせてもらっています」

 

「ああ、そこら辺は聞いてるよ。神器が変化したり、変な魔導書を持っているとかな。だがな、オレが聞きたいのはそんなことじゃない」

 

僕の神器や魔導書よりも興味を引く物があるのか。

 

「答えられる限りは答えましょう」

 

「ああ、是非とも答えてもらいたいねぇ。返答次第じゃあ、ここで」

 

「無理ですね。そもそも未だに一対一だと思っている時点で勝ち目はないですよ」

 

アザゼル様の背後に潜んでいたルゥがアザゼル様の背中に抱きつく。

 

「っ!?いつの間に!?」

 

「ルゥ、もういいですよ」

 

「いえす、ますたー」

 

アザゼル様から飛び降りたルゥを膝の上に乗せて頭を撫でてあげます。

 

「紹介しましょう。僕の持つ魔導書、死霊秘法(ネクロノミコン)の写本の精霊、ルゥです」

 

「はじめまして」

 

「今は力を抑える様に指示していますが、先程の距離で全力で力を解放させれば命以外の全てを奪えています」

 

「ちっ、契約違反を平気でするとわな」

 

「甘いですね。契約はサーゼクス様としか交わしていないでしょう。僕自身に何の拘束もありませんでしたから。それに今の僕は人間ですからね。悪魔の法則は通用しませんよ」

 

「……お前、これがどう言うことか分かってるのか」

 

「もちろん、挑発ですよ。僕は天使と悪魔に恩がありますけど、堕天使には仇しかありませんからね。僕の心証を分かり易く伝えるには良い手でしょう?」

 

「ミカエルやサーゼクスの報告と違うな。猫を被ってやがったか」

 

「いいえ、見せる機会がなかっただけですよ。評価が0の相手に対してはこんな物ですよ。部長は契約に基づいて配下に着いていますから最低限の礼儀はとりますけど、それがなければこんな態度を取っているでしょう」

 

「……お前、本当に聖職者なのか?」

 

「……自分でも壊れ始めてるのは分かっていますから。あと、10年まともに過ごせれば良い方です」

 

自覚してから、自分の不安定さが増しているのが分かりました。汚染を舐めすぎていました。

 

「はん、10年で何が出来るというんだ」

 

「三勢力を皆殺しにする位なら。勢力を壊すだけなら1年も要らないです」

 

「……ハッタリ、じゃあなさそうだな」

 

「ええ。壊すだけならね。僕の破壊の後には、狂気しか残らない。残されるのは侵されて犯されて冒された魂のみ。それは文字通りの地獄。尊厳の一切が無い地獄。力を解き放った僕はそれしか出来ない」

 

「意味が分からんな」

 

「少しでも触れれば分かりますよ」

 

収納の魔法陣から一番適当に書いた死霊秘法(ネクロノミコン)の写本を取り出してアザゼル様に投げ渡す。

 

「こいつは、話にあった死霊秘法(ネクロノミコン)の写本か?」

 

「一番力の無い物です。ですが、油断しないで下さい」

 

「油断出来るかよ。こんな禍々しい物を前に油断なんて出来る訳が無いだろうが」

 

そう言いながら、ゆっくりと写本を開くアザゼル様。しばらくの間、頁を捲る音だけが響き、徐々にアザゼル様の顔色が悪くなっていく。そろそろ限界だろうという所で写本を取り上げる。

 

「やはりアザゼル様にも適正は無かった様ですね」

 

写本を取り上げるのと同時にアザゼル様が荒い呼吸をしながら床に膝を付く。

 

「はぁ、はっ、はあ、これで、一番力が無いだと!?」

 

「ええ。普通の文具屋に売っていた白紙の本に普通の鉛筆で書き込んだだけの代物です。頁数の問題で7割程しか書けていませんが、それでも最低限の力を持った魔導書です」

 

「巫山戯た、代物だ」

 

そう言って完全に意識を失ったアザゼル様にある程度軽度なら効果が出始めるようになった精神除染の魔剣で治療を行ってからサーゼクス様に連絡を入れてアザゼル様を迎えに来てもらう。

 

 

 

 

 

数日後、サーゼクス様からの命令でイッセー君を連れて副部長が管理している神社に向かいます。今度は天界側との会談だそうです。イッセー君には友好の証として天界側から聖剣を贈るそうです。もちろん、僕が作った物ではなく昔から存在している聖剣だそうです。

 

「なあ木場、悪魔が神社に入って大丈夫なのか?」

 

「今日向かっている神社は悪魔側で管理している物だから大丈夫だよ。それに詳しいことを言うと神社の管轄は天界側じゃ無くて日本神話側だから」

 

「他にも勢力があるのか?」

 

「詳しい話をすると長くなるから簡単に説明するけど、三大勢力と言われる悪魔、天使、堕天使は数を増やす方法があるからこそ三大勢力なんだ。それ以外の勢力は各神話体型ごとに存在していて、現存する数から減ることはあっても増えることはほとんど無いんだ。精々が北欧神話の勇者(エインヘリアル)とヴァルキリー位かな。まあその勇者(エインヘリアル)も近代に進むに連れて徐々に質が悪くなっていって、今では殆どが下級程度の力しか持っていないらしいよ。ヴァルキリーの方も昔に比べれば質は下がっているみたいだけど、それでも十分な力を持っているらしいよ。それでもその増え方は人間の出生率より低いみたいだね。あと知る限りだと仙人と半妖位かな。そっちは噂程度しか聞いたことが無いけどね」

 

「ふ~ん。やっぱり戦争は数なんだな」

 

「少し違うね。各神話の神々は上級悪魔が1000人集った所で殲滅することなんて容易い位に強力さ。だけど、領地を治めるにはやはり数が居るんだ。その数を簡単に増やせないから大勢力とは呼ばれないんだ」

 

「なるほど」

 

「逆に人間が勢力として数えられないのが強大な力を持たないからなんだ。正確に言えば強力な力を持っている人間は何処かの勢力の庇護下にあると言った方が良いね。例外も居るけど」

 

「例外って?」

 

「ミルたん達」

 

「……やっぱりアレは例外なのか」

 

「うん。色々と調べてみたけど、神器も持っていない普通の人間なんだ。もしかしたらもの凄い力を持っていてそれを完全にコントロール出来るのかも知れないけど、だとしたらその正体が何者なのかが全く分からない。可能性として最も高いのが、英雄の卵かな?生きている間に何らかの功績を残して名を世界に刻めば英雄としてその力と魂が受け継がれていく様になるね」

 

「絶対産まれてくる時代を間違えてるよな。戦国時代とか三国志の時代とかに産まれてたら絶対に名を残してるよな」

 

「呂布とか関羽とか本多忠勝とかと名を並べている可能性が高いですね」

 

そんな話をしながら目的地である神社に到着する。鳥居の所に巫女服を着た副部長が僕達を待っていた。

 

「お待ちしておりました」

 

「あ、朱乃さん!?」

 

「彼が赤龍帝ですか」

 

副部長の後ろからはミカエル様とガブリエル様が姿を現す。

 

「お久しぶりです。ミカエル様、ガブリエル様」

 

石段上ではあるけど、膝を付いて頭を下げる。

 

「久しいですね、木場祐斗。健勝、とは言えぬ様ですが」

 

「これも主が僕に与えた試練なのでしょう。ならばその試練に挑むのが信徒としての定めでしょう」

 

「色々と聞きたいこともありますが、私からは後にしておきましょう。それまではガブリエル、貴女に任せます」

 

「はい」

 

そうして副部長に案内されて、神社の一室に通される。

 

「改めてお久しぶりです、ガブリエル様」

 

「本当に久しいですね、祐斗。ずっと心配していたのですよ」

 

「申し訳ありません。ほとぼりが冷めるまで逃げ続けようと思っていたのですが、定住を持たないというのは予想以上に心をすり減らせるものでしたので。そんな折りに邪悪に対する外法に触れてしまい、正式な聖職者として居られないと感じてしまいました」

 

「そして悪魔になったと聞いています。ですが十字架と信仰は捨てなかった」

 

「はい。悪魔に成ろうとも、信仰を捨てることは出来ませんでした。それは僕の人生の否定でもありますから。この身を焼く痛みも受け入れています」

 

「あまり無理はしないように。これから貴方は多くの物を背負って立たなければならないのですから」

 

「分かっています。それがとても名誉であることも」

 

硬い話はそこで一度終わり、今まで僕がやってきたことを話した。逃亡先で見た珍しい物や悪魔に転生してからの白音さん達との日常、高校での生活などの平穏な出来事を。ガブリエル様は僕の話を楽しそうに聞きながらたまに相づちをうってくれる。たったそれだけなのに、なんというか、安心出来た。ローマに居た頃は普通のことだったのにね。

 

しばらくするとミカエル様が部屋に訪れて来られた。

 

「待たせましたね、木場祐斗」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「そうですか。木場祐斗、貴方は今も主を信仰しているのは間違いありませんね」

 

「はい、もちろんです。悪魔に転生しようとも、この身は敬虔なる信徒であるつもりです」

 

「では、心を強くして聞きなさい。これは今度の会談において知っておかねばならない事項です。事は貴方にも関係している可能性があります」

 

「僕に関係している可能性が?」

 

「そうです。これを知る者はかなり上の者だけです。心して聞きなさい。主は、神は既に存在していません」

 

ああ、やはりですか。なんとなくですが、そう思っていましたけど、本当に神は死んでいたのですね。

 

「あまり驚かないのですね」

 

「なんとなくですが、勘づいていました。確信と言うか、一番疑問に思ったのがアーシアさんが教会から追われた事ですね。アーシアさん程の聖職者に神の加護がない時点で異常を感じていました。ゼノヴィアさん達は信仰が足りなかったからと思っているみたいですが、僕の目からはそうとは思えませんでした。それと僕自身の事でも薄々感じていました」

 

「そうですか。それと貴方が独立部隊に指名したゼノヴィアと紫藤イリナ、こちらで選んだグリゼルダは神の不在を知り、現在は精神が不安定になっています。合流は少し遅れる事になるでしょう」

 

「大丈夫です。独立部隊設立後は部隊員の訓練から始める予定ですので、しばらくの間は僕と魔導書の精霊であるルゥだけで動くつもりです」

 

「それで問題無いのですか?」

 

「僕とルゥだけで過剰戦力ですから」

 

「分かりました。ですが、出来る限り早急に合流出来るようにします」

 

「はい。それと別件になるのですが、アーシア・アルジェントを駒王の教会で保護しています。どうしましょうか?」

 

「そのまま保護しておいて下さい。今の教会では受け入れる事が出来ませんから。ですが、彼女には真実を知る資格がありますし、謝罪もしなければなりません。後日、伺わせてもらいます」

 

「分かりました。アーシアさんにはこちらから話を通しておきます。会談の後でよろしかったでしょうか?」

 

「それで構いません。そろそろ戻ります。次に会うのは会談の時になるでしょう。会談後は、貴方が信じる道を行きなさい」

 

「はい、ミカエル様」

 

天界へと戻るミカエル様とガブリエル様を見送り、イッセー君を迎えにいくと副部長に告白まがいの事をしていたので空気を読んで一人で神社から帰る事にしました。

 




コカビエル戦の時に木場君?が変な剣を使っていたツッコミがリアルで入りました。
誤字ではないです。

今更ながらギャスパー君のイベントが全て潰れている事に愕然としました。


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第19話

三勢力会談当日、僕はこの日のために準備しておいた戦闘用神父服に袖を通し大量の薬や大量の符を用意し、ルゥにも戦闘があると伝えてあります。確実に今回の会談による和平を邪魔する者は現れます。その筋の情報屋に大金を積んでいますから確実です。

 

まあ僕としては、ちょうど良いとも感じました。ここで僕の力をはっきりと示しておけば馬鹿な真似をする人も減るでしょう。だから過剰戦力ではありますが鬼戒神(デウス・マキナ)を使って一気に殲滅するつもりです。デモンベインではなく、アイオーンですけどね。デモンベインは魔を断つ剣ですから、このような虐殺に使いたくはありません。念のために神獣弾も一発ずつだけですが用意してあります。使えば駒王が地図から消える事になるでしょうが。

 

ルゥもいつでもマギウススタイルに移行出来るように普通の服は脱いで、自分の頁を使った服に着替えています。最初に化身したときの蒼いドレス。会談には少々場違いな気がしますが、仕方ないので割り切っておきましょう。

 

準備を終えた僕はルゥと一緒に会談に使われる生徒会室に転移して指定されている席に着いておく。ルゥが暇そうに足をぷらぷらとさせているがもう少しの間だけ我慢してもらう。

 

しばらく待っていると今回のホストであるサーゼクス様とグレイフィア様とセラフォルー様がやってくる。続いてミカエル様とガブリエル様が、時間ギリギリにアザゼル様ともう一人の堕天使と白龍皇と思われる男がやってくる。生徒会室に入って来た時に僕を見て、顔を顰めていましたから。そして最後に部長達と会長がやってきて驚いていた。部長が何か言いたそうにしていたが、サーゼクス様に言われて大人しく席に着く。

 

会談が始まり、とは言っても最終確認みたいな物だ。交渉に関しては既に終わっているから、今日のコレは対外的に示すために行う物だ。その確認だけでも30分近く時間がかかっている。ルゥは話に飽きているけど、真面目な顔をしている。微かな敵意が学園を包囲し始めています。サーゼクス様達も気付いているのか、いつでも戦闘に入れるように魔力を高め始めています。白音さん達や会長も僕やルゥ、サーゼクス様達の様子を見て身構え始めました。部長と副部長とイッセー君は変わった様子はありません。

 

二つ目の議題であった三勢力間の和平が成立しても相手は仕掛けて来なかったので、最後の議題である独立部隊についての話に移る。

 

「三勢力での和平に伴い、各勢力から選抜された者による独立部隊を設立する事になった。この独立部隊は既存の指揮系統から完全に外れ、三勢力のトップからの要請、あるいは独立部隊の王の判断で三勢力の和平の状態を維持するためにその力を振るう事になる。我々悪魔はこの案件を承認する」

 

「天界側も同意します」

 

神の子を見張る者(グリゴリ)も同じだ。ただ、メンバーの選抜に手間取っている。決まり次第、逐次合流という形になる」

 

「それは仕方ないね。ただあまりにも時間がかかる様なら」

 

「分かってるよ。多少メンバーの質が落ちる分、他の面で融通するつもりだ。具体的には人工神器だ」

 

「それでも一人は実力者を出してもらわなければ納得出来ませんね」

 

「そっちの方も一応考えてあるが、もう少し時間をくれ」

 

「念を押すようで悪いが、あまり時間をかけないようにね」

 

「分かってるよ。だがな、悪魔側や天界側と違ってこっちは印象が悪いんだよ。その分、色々と気を使う必要があるんだよ」

 

うん、ちゃんと僕の言いたい事が伝わっているようで何よりです。まあ同僚になる相手を敵視しない事と、僕の研究成果に勝手に触れないなら大抵の事は許せるんですけどね。

 

「まあ良いだろう。それでは満場一致で独立部隊の設立は決定となる。そしてその独立部隊の王に悪魔側は木場祐斗、君を選ぶ」

 

「天界側も同じく」

 

神の子を見張る者(グリゴリ)もだ」

 

サーゼクス様、ミカエル様、アザゼル様の言葉に部長達が驚き、声を上げる。それらを無視して三人の前で膝を付く。

 

「何か誓いの言葉はあるかい?」

 

「この身この魂が朽ちるまで僕は剣と成りて平和を守ります」

 

「良い誓いの言葉だ」

 

そう言ってサーゼクス様は悪魔の駒を、ミカエル様とアザゼル様はトランプを差し出して来た。

 

「これらに魔力を込めれば、君だけの物になる」

 

三人から受け取った悪魔の駒が入ったケースとトランプに魔力を全力で込める。

 

「これは、予想以上だね」

 

サーゼクス様が驚いた顔で悪魔の駒とトランプを見る。まあ、それも当然だろうね。悪魔の駒の半分が変異の駒(ミューテーション・ピース)になっているから。正確な内訳は兵士が3個、騎士と戦車が1個、僧侶が2個、そして何故か王も変異の駒(ミューテーション・ピース)になっている。そしてトランプの方はもっと凄い事になっている。

 

ミカエル様から渡されたのはハートのAからKまでの13枚だったのだが、ハートが全て黒く染まっているのだ。絵柄の3枚も黒く染まっている。アザゼル様から渡されたスペードのAからKは更に凄い。白と黒が反転してしまっているのだ。分かりやすくなったと割り切ろう。

 

破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)を用い、部長との契約を破棄して新たに王の駒とハートとスペードのKを体内に取り入れて転生する。背中からは3種3対6枚の翼が生える。肉体的には上手い具合に中和されたのか人間に近い身体だ。例えるなら人間から他の種族へと変化するための交差点に居る感じだ。

 

悪魔の駒の契約が解かれた事に唖然としている部長に騎士の駒を投げ渡し、白音さん達に悪魔の駒を渡そうとした所で学園を覆う結界が変化した。

 

解析して見ると結界の内と外を切り離す隔離結界ですね。これで学園の外で待機している三勢力の軍は学園に入って来れなくなりましたね。

 

「早速僕の仕事の様ですね、ルゥ」

 

「いえす、ますたー」

 

ルゥを構成する頁が僕に纏わり、マギウススタイルになる。それと同時に生徒会室の中央にレヴィアタンの魔法陣が浮かび上がり、一人の女性が現れると同時にその両手足をマギウスウィングで切り落とす。

 

「ぎゃああああああああ!!」

 

「捕虜はこいつだけで良いですよね?残りは見せしめに殲滅します」

 

「あ、ああ」

 

僕の行動にサーゼクス様も引いていますが、最初から舐められると面倒しかありませんからね。ここは容赦なく、抵抗する気が起きない位に一方的に処理しなければなりません。

 

「皆さん、これから僕一人でも過剰戦力だということを証明します。僕はこの力を振るうのを躊躇うつもりはありません」

 

生徒会室の四隅に魔剣を打ち込み、精神汚染に対する結界と物理結界と魔術結界を張ってからルゥと一緒にグラウンドに飛び出す。襲撃者達は校舎を包囲するようにいますが、グラウンド側に多くの戦力が集っています。それを一撃で殲滅するために聖句を唱える。

 

永劫(アイオーン)!時の歯車、断罪の刃、久遠の果てより来たる虚無」

 

詠唱の段階でもかなりの量の魔力を持って行かれる。鬼戒神の中でも術者に一番優しくない鬼戒神なだけはあります。

 

永劫(アイオーン)!汝より逃れ得るものはなく、汝が触れしものは死すらも死せん!!」

 

聖句を告げ終えると同時に機械で出来た神が顕現し、身体が頁の様に崩れ、アイオーンの中に転移する。

 

「アルハザードのランプ、点灯」

 

魔力をアルハザードのランプに叩き込み、出力を上げる。相変わらずの大食いに呆れながら魔力回復薬を飲み干し、操縦席の下に居るルゥに視線を向ける。そこにはいつもの姿ではなく、アル・アジフと同じ位にまで成長したルゥが術式を組み上げている。

 

「術式のアレンジは大丈夫かい?」

 

「バルザイの偃月刀とアトラック=ナチャなら今すぐにでも。シャンタクも問題ないよ。他のはもう少しだけ待って」

 

「十分さ。バルザイの偃月刀!!」

 

アイオーンのサイズに合わせた大きさになったバルザイの偃月刀を握り、足下に居る敵を見下ろす。せめて苦しみを知らずに逝くといい。

魔力をバルザイの偃月刀に集めて、敵に目掛けて一気に振り下ろす。

 

「むっ、加減を間違えた」

 

アルハザードのランプの影響もあり、バルザイの偃月刀は熱を帯びていた。敵である悪魔が塵一つ残らず消し飛んだのは良いんだけど、その熱が膨大過ぎたためにグラウンドの土が融解してしまった。あとで元に戻さないとね。

 

「マスター、敵性体が逃走に移ります」

 

「隔離結界発動」

 

「隔離結界発動するよ」

 

ルゥが隔離結界を発動させて逃亡を封じる。レーダーに映る敵の位置はばらけており、一つ一つ回るのは面倒である。

 

「ならここはイタクァの出番だね」

 

「少しだけ待って。うん、アレンジ完了」

 

アイオーンの右手に回転式拳銃が現れる。それを握り、空に向けて連射する。回転式拳銃から撃ち出された弾丸は僕が感知した敵に向かって軌道を変化させて敵を飲み込み、周囲を凍らせて砕け散らせる。

 

「やはり威力過多だね。修復が面倒だけど仕方ないね。これで残るは一人だけだ」

 

「レーダーには反応は無いけど?」

 

「今の所は敵対していないからね。アイオーンのレーダーは僕達に向けられる敵意に反応するように設定しているから」

 

「じゃあ、あの会談の場に?」

 

「そうだよ。たぶん戦闘を行う事になるけど、無限の剣製は使わずに戦うから。僕の切れる手札は無限の剣製以外にもあると言うことを見せないといけないからね。でも、汚染には注意しないといけないから本気は出さずに行くよ」

 

「それだと使えるのはバルザイの偃月刀とロイガー&ツァールにアトラック=ナチャ、もう少し待ってくれればニトクリスの鏡も術式のアレンジが終わるよ」

 

「それだけあれば十分だよ」

 

アイオーンから生徒会室に転移すると同時にアイオーンが姿を消す。僕の頭の上には再び小さくなったルゥも居る。

 

「とりあえず、結界内に居る敵対勢力は殲滅しました。光力は全く感知出来なかったので全て悪魔だった様ですね」

 

「……あれは、一体何なんだい?」

 

僕の報告に反応したサーゼクス様がアイオーンについて尋ねてきました。

 

「あれはアイオーン。機械で作られた神。力ある魔導書に記される中でも一番強力な物。アイオーンはその中でも上から数えた方が早い位に強力な鬼戒神です。最も、未だに全力を出した事は無いんですけどね。先程のも死霊秘法(ネクロノミコン)の記述であるバルザイの偃月刀の精錬法とイタクァの力を回転式拳銃に込める事によって安定させた物を使っただけでアイオーンの力は殆ど使っていません」

 

「あれでだと!?」

 

アザゼル様が驚いておられますが

 

「鬼戒神はそういう物です。それから一つ報告があるのですが」

 

「他に何かあるのかい?」

 

「ええ、ほぼ確定事項なのですが、今回の襲撃を行ったのは禍の団と言う組織の旧魔王派と呼ばれる者達です。名前で分かる通り、旧魔王様の親類の者達が今の魔王様達への不満から自分たちで成り上がろうとしている者舘ですね。正確な数は分かりませんが非戦闘員を含めて1万から3万と言った所でしょうか。まあ不満なのは分かりますが、今の魔王様達は実力でその場を勝ち取っているので旧魔王派に勝ち目は無いんですけどね。筆頭はシャルバ・ベルゼブブです」

 

「ちょっと待て!?なんでそんな事を知ってるんだよ。コレから唯一の捕虜のカテレアから聞き出すのが普通だろうが!!」

 

アザゼル様が叫ばれますが、普通にやっていると僕の方が持たないのは目に見えていますからね。僕が倒れた後も眷属だけでどうにか出来る様になってもらうためには危ないのはとっとと滅ぼすのが一番です。

 

「そんな後手に回る様な真似はしませんよ。僕はある程度の必要悪は認めますけど、それ以外は積極的に滅ぼして平和を作り上げる気ですから。そのために滅ぼさなければならないであろう相手の情報を情報屋に集めさせました。僕の1年分の収入を注ぎ込みましたから、大半の情報は集め終わっています。禍の団についても大半の事は分かっています。その中に面白い情報がありましてね」

 

「面白い情報?」

 

「一つはトップが無限の龍神だと言う事。まあ旗頭にして下で好き勝手しているんでしょうけどね。もう一つは、禍の団にはいくつかの派閥があるのですがその中に最近出来た小数精鋭の派閥があるんですよ。禍の団内での通称はヴァーリチーム」

 

ヴァーリに生徒会室に居る皆の視線が集る。ヴァーリはそれをなんとも思わずに席から立ち上がる。

 

「そこまで知られていたか」

 

「ヴァーリ、お前どうして」

 

「魅力的なオファーがあったからな。『アースガルズと戦ってみないか?』こんなことを言われたら自分の力を試したいオレは断れない。まあ今は他にも戦いたい相手が居るけどな。木場祐斗、いつかお前を倒したい」

 

「いつかと言わずに今からでも僕は構いませんよ。勝てないから戦いたくないというのならハンデをあげても良い」

 

昔開発した、神器を抜き取っても所有者を殺さなくて済む方法で無限の剣製が込められた宝玉を抜き取り、白音さんに投げ渡す。

 

「これで僕は無限の剣製が使えない。更に言えば魔力もかなり大量に消費している。ここまでお膳立てしてあげたんだ、どうする?ヴァーリ・ルシファー」

 

「「「ルシファー!?」」」

 

「驚いた、そんな事まで知られていたのか。そうさ、オレは先代ルシファーの孫と人間の間に産まれたハーフ。ハーフだからそこ神器を手に入れる事が出来た。まあ偶然だけどな。だが、そのおかげでオレはルシファーの真の血縁者であり白い龍(バニシング・ドラゴン)でもあるオレが誕生した。運命、奇跡というものがあるのなら、オレのことかもしれない」

 

「ふ、ふふふ、あははははははは」

 

ヴァーリの運命や奇跡が自分の事かもしれないという言葉を聞いて、僕は笑い出す。たかが力があった家系の血を引いていて、神滅具(ロンギヌス)を持っているだけで運命や奇跡を名乗るなんて

 

「思い上がるな、雑魚が」

 

体内の魔剣に魔力を限界まで叩き込んで強化した蹴りでヴァーリを吹き飛ばす。

 

「運命や奇跡というのはもっと重い物だ。お前達が知らないだけで運命や奇跡に相応しい者は他に居る。僕が知るだけでも二人だ。白の王に黒の王。彼らの様な人物にこそ運命や奇跡、そして、必然という言葉が存在するのだと」

 

空中で体勢を整えようとするヴァーリを重力結界でグラウンドに叩き付ける。

 

「どうした?その程度なのか?」

 

「禁手化!!」

 

『Vanishaing Dragon Balance Breaker!!』

 

ヴァーリの背中に展開された白い翼から音声が響き、白いオーラがヴァーリを包む。そして白いオーラの中から白い輝きを持つ鎧を身に纏ったヴァーリが現れる。それと同時に重力結界がどんどんと半減されていく。確かに凄い力ではあるけど、何度も重力結界を張り替えれば良いだけの話だから未だにヴァーリは重力に押しつぶされている。

 

「この術はただの人間の魔導士が破る事も出来た物だよ。それを破れない君は所詮はそんなものなんだよ」

 

重力結界の中を歩いてヴァーリの傍まで行き、兜を左手で掴んで持ち上げる。

 

「クトゥグア」

 

右手に自動拳銃を呼び出してそれをヴァーリの腹部に押し付ける。

 

「せめてコレ位には耐えてね」

 

そして躊躇いなく引き金を引く。自動拳銃から放たれた灼熱の弾丸は、その一撃でヴァーリを包んでいた鎧を粉々に砕き、ヴァーリの全身を焼き尽くした。ヴァーリはクトゥグアがヒットした衝撃で僕の手から離れて10m程の高さまで飛び、地面に叩き付けられそうになった所を結界を破って現れた男が拾ってそのまま逃亡した。

 

後始末もあるので追撃は良いでしょう。フェニックスの涙でも使わなければ当分は動けないでしょうしね。それでも情報屋を使って情報だけは逐一集めておきましょう。

 

それにしても、久しぶりに全開に近い力を発揮出来ましたね。力を抑える必要がないのは楽で良いです。もう少し手応えのある敵ならもっと良かったのですが、仕方ありませんね。ヴァーリの言う自分の力を試したいと言うのは分からないでもないんですよね。ただ、そのために平和を乱すと言うのなら排除対象です。今回は保留にしておいてあげますよ。

 

 

 

 

 

 

 

西暦20XX年、七月

天界代表天使長ミカエル、神の子を見張る者(グリゴリ)総督アザゼル、冥界代表魔王サーゼクス・ルシファー、以上三大勢力代表の名の下に和平協定が成立。以降、三大勢力での戦闘は禁止され協調体制へ。その足がかりとして三大勢力から活動のための資金や人材を捻出し、既存の指揮系統から完全に外れた平和維持を目的とした独立部隊『断罪の剣(ジャッジメント)』設立された。

 




いやぁ、良い戦いでしたね(棒読み)
ヴァーリが弱く見えますが、そう思う方はデモベを知らない人が多いと思われます。
そうでも無い方も居るでしょうが、久郎との肉体スペックの差でここまでの差が出ていると思って下さい。

本編の方の予告としましては、とりあえず独立部隊『断罪の剣(ジャッジメント)』のメンバーの顔合わせと転生、現状報告と各種待遇についてのお話し合いの後に冥界入で特訓ですね。メンバーの力を見せつけると言う意味ではちょうど良い行事がありますし。堕天使勢も三人参加で男一人に女二人という構成です。10人中2人しか男が居ません。ギャスパーは別枠です.プール回で木場君?の中では女性扱いが確定になりましたから。

それでは次回をお楽しみに。


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IF ネギま編

リクエストにありました
『もしも木場君?がネギまの世界に行ったら』
です。


おや?僕に対する新規の契約召還の様ですが、何処か変ですね。まあ向こうに行ってから考えましょうか。

 

 

 

「以上が契約内容だ」

 

「一応確認しますけど、本気ですか?」

 

「本気だ。さっさと仕事にかかれ」

 

「分かりましたけど報酬はちゃんと払って下さいよ。とは言っても貴方の魂はあまり価値がないですね。これから向かう村の者の魂を貰っていきますよ」

 

「かまわん。好きにすれば良い」

 

「それではこれで」

 

僕を呼び出したのは歳をとった魔術師で、とある村に住んでいる少年の心に闇を植え付ける事を依頼された。他にも悪魔が呼ばれているみたいだけど、僕の知る悪魔とは完全に別物だった。というか、呼び出されたこの世界そのものが僕の知る物とは違うみたいだ。まあ、契約しちゃった以上仕事はしないとね。取り分が減るのは嫌なので一緒に呼び出された悪魔を滅してからどうするかを考える。

 

出来るだけ深い闇を植え付けろと言う事なのであまり気は進まないけど少年の目の前で村人を皆殺しにするのが一番だろうね。方針を決めた僕は村の近くまで転移して禍々しい魔力を発しながら村に近づいていく。村の前では何人もの魔術師が杖を構えて僕を待っていた。

 

「村に何の用じゃ?」

 

「仕事だよ。契約を正式に交わした以上、悪魔は契約に縛られるからね。答えてくれないだろうけど一応聞いておこう。この写真の少年は何処に居る?」

 

返答は魔法で返って来た。まあ、そこまで脅威を感じる物ではなかったので僕の神父服の防壁を抜く事は出来ませんでしたけど。魔法の弾幕を物ともせずに少年を捜すのですが、どうやら村から離れた所にある湖で遊んでいる様ですね。とりあえず、少年には村に帰って来てもらう必要があります。目の前で故郷を失うというのは実に堪えますからね。

 

魔剣を作り出して空に放り投げて壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)で爆破する。子供は何か異常を感じれば誰かのもとに駆けつける習性がある。これで少年はこの村に帰ってくるだろう。後は外から中には入れるけど、中から外に出れない結界を村に敷いて準備完了だ。

 

適当に反撃をしながら待っていると結界に反応が有った。少年が結界内に入ったようだ。そちらに向かって走りだし、少年に対峙する。

 

「君はネギ・スプリングフィールドであっているかい?」

 

「えっ、うん」

 

「そうか。すまないとは思うけど、これも仕事でね。恨んでくれていいよ」

 

そう言ってから一番先頭を飛んでやって来た若い男の魔術師に向かって障壁突破に特化した剣を投げて殺す。

 

「えっ?」

 

少年は今起こった出来事を理解出来ていないようだが、仕方ないだろう。必死に少年を救おうと魔術師達が接近して来て、それを全て斬り殺す。少年の目の前でだ。少年は一歩も動けずにただ虐殺風景を眺めている。

 

それにしても濁った魂ばかりであまり儲けが出ないね。数だけは多いから損にはならないけど、もう少し質の良い綺麗な魂が欲しいな。その点で言えば頑固そうな老魔術師の魂はもの凄く良い物だ。向こうでも滅多に見ない程に綺麗で力強い色をしている。これはコレクション行きですね。

 

しばらく作業の様に村人を狩っていると高速でこちらに接近してくる高魔力を感知した。そちらの方を見てみると、少年に似た男がこちらに向かって飛んで来ている。おそらくは父親でしょうね。

 

ですが、その男は何を思ったのか雷撃系統の直射型の魔法を僕に向けて撃ってきました。近くにはまだ生きている村人や少年が居ると言うのに。

 

とりあえず少年は出来るだけ傷つけない様にと契約を交わしているので、僕と少年を守る様に雷撃耐性の魔剣を壁の様に並べて防御する。男の魔法が過ぎ去った後には、僕の魔剣以外何も残っていなかった。その威力に唖然としながら、それを密集地帯で使う愚かさに怒りが込み上げてきました。

 

これは八つ当たりだと言うのは分かっています。ですが、僕は怒りを抑える事が出来ませんでした。

 

「I am the bone of my sword.

 

 Steel is my body, and fire is my blood.

 

 I have created over a thousand blades.

 

 Unknown to Death.

 

 Nor known to Life.

 

 Have withstood pain to create many weapons.

 

 Yet, those hands will never hold anything

 

 So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS.」

 

固有結界を発動し、男と僕だけを隔離して、一方的な虐殺を行いました。わざと殺さない様に使う剣はエクスカリパーのみ。障壁を簡単に貫いて、直撃してもかすり傷しか負わせる事の出来ないエクスカリパーは嬲り殺しにぴったりの武器でした。それに幾ら傷を負った所で治療出来る剣があるのもあって、いつまでも続く無限地獄がこの世に顕現してしまいました。

 

男の反応が無くなるまで続けた剣の嵐を解き、魂を奪おうとした所で奇妙な事に気が付きました。一つの身体に複数の魂を感じられるのです。一つはこの男自身の魂でしょう。ギラギラと目に痛い位に輝く魂です。僕の好みでは有りませんが、評価が高い魂ですので確保しておきましょう。残りの魂は、何度も何度も生き長らえた様な濁った魂です。これも僕の好みでは有りませんが興味深いので確保しておきましょう。

 

魂の回収が終わった所で固有結界を解除すると、少年は既に村から離れている様でした。村から少し離れた丘になっている場所に少年の魔力を感知したので父親であると思われる男の死体と杖を持って、かなり久しぶりに悪魔の翼を出して空を飛んで追いかけます。

 

少年に追い付くと、傍には片足を失った女性が倒れていた。少年はその女性を必死に引きずりながら村から離れようとしている。

 

「何処に行こうとしているんだい?」

 

空から声を掛けると、少年は驚いて子供用と思われる小さな杖を構える。

 

「安心して良いよ。僕の仕事はもう終わったからね。この辺りで生きている人間は君とその女性だけさ。それと彼は君の父親だろう。死体だが持って来てあげたよ」

 

そう言って少年に向かって担いでいた男の死体と杖を投げる。

 

「それとこれは僕からの施しさ」

 

魔剣を使って片足を失った女性の止血を行う。

 

「そして最後にこれを君に渡しておこう」

 

僕を召還するのに必要なチラシを一枚、少年に投げ渡す。

 

「それを使えば僕を呼び出す事が出来る。代価を用意すれば、僕はどんな願いでも叶えてあげるよ」

 

それこそ死者蘇生だってね。言葉にせずに目だけで語っておく。コレ位の子供は見境無いからね。代価が足りないと断っても、しつこく纏わり付くのが目に見えている。なんとかしてあげたいとは思うけど、奇跡の安売りは神の存在を軽くする行為だからあまり褒められた事ではないんだよね。だからこんな事しか言ってあげられない。

 

「僕を殺せる位強くなって、復讐のために呼び出すのも有りだよ」

 

それだけを告げて僕は依頼主の元に転移する。

 

 

 

 

 

 

依頼主に報告後、僕は元の世界に帰る事が出来なかった。向こうの世界に残して来た『断罪の剣(ジャッジメント)』の皆の事が気になるので帰還方法を開発しながら、たまに悪魔の仕事をしつつ、経歴を詐称して身体も人間に作り替えて日本にある麻帆良学園と呼ばれる学園都市にある教会で神父をやって過ごしています。

 

この世界の事を色々と調べて分かった事ですが、歴史はそれほど変わりが無いようです。ですが悪魔は別の存在ですし、天使や堕天使、神話勢力の存在は確認されませんでした。その代わりに魔法使いは大量にいます。

 

彼らの使う魔法は僕達の魔法とは色々と違いますけどね。

僕らの使う魔法は魔力をそのまま火や水に直接変化させたり、イメージ通りの現象を起こすのですが、彼らの使う魔法は魔力と言う資金を使って精霊と言うアルバイトを雇い、呪文と言う仕事を割り振って結果を出すという非情に効率の悪い魔法体系のようです。

 

また僕らに比べるとスペックがかなり落ちるのでそこまで強くもありません。実際、この世界で一番強いとされるナギ・スプリングフィールドを殺してしまいましたから。あの程度ならコカビエルでも倒せるでしょうね。

 

それからこの学園都市は魔法使いが運営しているので、魔法使いとして赴任すると色々と融通してくれるので過ごしやすいのも特徴ですね。シフト制で夜間の警備なども有りますが、夜間の活動の方が多い僕に取っては何の問題も有りません。ただ、学園を覆う結界によって悪魔や天使や堕天使になると力を押さえつけられる上に警備の人間にバレる事もあるので少しだけ大変ではあります。

 

そして6年の月日が流れ、ようやく帰還の目処が立ち始めた頃にあの日の少年が魔法使いの修行として麻帆良にやってくるということが学園長から伝えられた。

ふむ、逃げますか。会えば高確率で面倒な事になりますから。

 

その日の内に父が倒れたので故郷に帰ると告げて麻帆良から逃げ出した僕はひっそりと研究の日々を過ごしていたんだけど、ある日悪魔の仕事として依頼されたのが麻帆良学園の戦力調査と少年の脅威度の確認という依頼でした。出来る限り人殺しは避ける様にも言われ、代価も十分に払われてしまっては断る事も出来ませんでした。

 

久しぶりに戻って来た麻帆良学園は生憎の雨模様。傘を持って来ていなかったので魔法で身体に雨が当たらない様にして、依頼主の人形の少年に貰った符を使ってから学園内を悪魔と天使と堕天使の身体で歩きます。人形の少年に渡された符は学園の結界を誤摩化す物のようだ。

 

しばらく歩いていると前方から女子中等部の制服を着た集団が走って来ているのを見かけた。その中に顔見知りの子が居たので挨拶でもと思ったのだけど、僕の顔を見た集団が身構えた。どういうことでしょう?

 

「あ、あんた、まさかネギの過去に出て来た悪魔!?」

 

先頭を走っていたオッドアイの少女がそう叫んで来ました。

おや?どうやら僕の正体を知っているようですね。

 

「木場さん、嘘ですよね。あんなに優しくしてくれた貴方が、悪魔だなんて」

 

「ええ、僕は悪魔なんて者ではありませんよ」

 

背中から天使の翼を出して顔見知りである桜咲さんに見せつけます。それを見て安堵している桜咲さんには悪いのですが、続いて堕天使の翼、そして最後に悪魔の翼を見せつけます。

 

「僕は単体の種族ではなく、悪魔でもあり天使でもあり堕天使でもある存在です。そしてネギ少年の過去に出て来た、彼の故郷を滅ぼした悪魔は僕で間違いありませんよ」

 

「そ、そんな!?」

 

「僕は全ての種族の制約に縛られて生きていますからね。悪魔として召還され契約を交わせば僕に拒否権はありません。彼の故郷を滅ぼしたのもそういう契約を交わしたからです。まあ3割程は彼の父親であるナギ・スプリングフィールドの所為ですけどね。まあ今となってはどうする事も出来ないですが」

 

「なんなのよ、それ。そんな事でネギの故郷を!!」

 

「お嬢さん、悪魔にとって契約とは絶対なんですよ。それを破ると言う事は死を意味する。死にたくないから殺す。実にシンプルな答えです」

 

「巫山戯んじゃないわよ!!」

 

オッドアイの少女がパクティオーカードから大剣を取り出して僕に斬り掛かってきました。神父服の障壁だけで大丈夫だと思っていたのですが、どうやら魔力無効化能力を持つ剣だったようです。あっさりと障壁は壊されて左肩から右脇腹にかけて両断されてしまいました。僕じゃなかったら即死ですよ。

 

「気に喰わないから殺す。実にシンプルな答えです。ですが、僕は死にたくないので先に殺す事にしましょう」

 

両断されながらも生きている僕を見て驚いている少女を強化した蹴りで倒して、両手足に剣を突き刺して地面に縫い付けます。それから身体を繋げて治療します。

 

「いやあああああああ!!」

 

「ふむ、どうやらこちらの世界の事を甘く見ているようですね。中学生にとって魔法なんて言葉は甘美に聞こえるのでしょうが、もっと血なまぐさい物ですよ。良かったですね、僕が契約に縛られていて人を殺せない状態で。そう言えば、ネギ少年は女子中等部に配属されていましたね。と言う事は君たちはネギ少年の担当するクラスの娘ですか。気は退けますが、餌になってもらいましょうか。抵抗するなら彼女の様に痛い目にあってもらいます。抵抗しないなら出来るだけ痛くない様にしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

抵抗した数人を死なない上に後遺症も残らない様に斬りつけて動けなくし、抵抗しなかった残りもエクスカリパーで痛みを教えてから意識を奪い、屋外ステージに運び、巨大な剣を十字架の様に並べ、そこに両手足をエクスカリパーで串刺しにして張り付けておきます。一応怪我の方は治療してあるので死にはしないでしょう。準備が整ってから式紙を使ってネギ少年を招待する。暇な間、羽を繕っているとネギ少年が杖に乗ってこちらに向かって飛んで来ており、父親と同じ様に周囲の事を考えずに雷の暴風を撃ち込んで来た。

 

「まったくもって救いようの無い親子だ」

 

怯える少女達の前に立ち、昔と同様に雷撃耐性の魔剣を壁の様に並べて防御する。ネギ少年はそのまま加速して体当たりを仕掛けようとして来たので体内にある重力操作の魔剣で地面に叩き付け、両手足に魔力封印の剣を突き刺して動けなくする。

 

「ガッカリだよ。君もあの父親の様に何も考えられない馬鹿だったとはね。魂も酷い濁りようだし、殺す価値もないね」

 

そのまま帰ろうと思ったのだけど、どうやら魔法先生に囲まれたようだね。そして二人の人物が僕の前に姿を現す。

 

「お久しぶりですね、学園長に高畑先生」

 

「6年間まったく気付かなかったが、お主、何者じゃ?」

 

「なら、改めて自己紹介をしましょう。僕は木場祐斗、こことは違う世界、おそらくは平行世界から何かの事故で呼び出されてしまった悪魔でもあり天使でもあり堕天使でもある存在、そしてその世界の裏の業界の平和維持を目的とした独立部隊『断罪の剣(ジャッジメント)』の王。更に言えば6年前にネギ少年の故郷を滅ぼし、ナギ・スプリングフィールドを殺した存在だ」

 

ナギ・スプリングフィールドを殺したと言う言葉に多くの魔法先生が及び腰になる。

 

「まあ、今は契約に縛られてるから誰も殺さないよ。ある程度の怪我はさせる事になるから嫌なら逃げてね」

 

再びエクスカリパーを作り出して構え、学園のツートップと戦闘に入り、5分と経たずに撃破してしまった。やっぱりこの世界の住人は弱いよね。死なない程度に治療してあげてから契約は完了したと判断して転移で依頼主の元に戻りました。依頼主の人形の少年は使い魔かなにかで覗いていたのか苦い顔をしながら小言を言って来た。まあ仕方ないだろうけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう少しで帰還に必要な分の魔力が貯められそうになった8月の終わり頃、再び悪魔として召還された場所は麻帆良学園の上空だった。上を見上げると魔法世界が見えるので何やら色々と大変な状況なようだ。周りを見ると何かと縁があるのかネギ少年とその仲間達と思われる少女達が居る。まあ、僕の姿を見て顔を青ざめていますけどね。

 

「それで、僕を呼び出したのは誰ですか?」

 

「私だ」

 

そう言ったのは全裸の男だった。何故全裸なのかは置いておきましょう。面倒ですから。

 

「依頼内容と報酬の方は?」

 

「儀式の邪魔をする者の排除だ。殺しても構わん。報酬は目録を用意してある」

 

投げ渡された目録に目を通して、その量に驚く。

 

「本当に良いんですか?かなりの量なんですけど。これの半分もあれば十分ですよ」

 

「儀式が成れば必要無くなる。だから絶対に儀式の邪魔をさせるな!!」

 

「分かりました。というわけでネギ少年にその仲間達、今回は僕も本気で行こう。手加減も一切無しだ。儀式の邪魔をすると言うのならその命、散らす事になるよ」

 

いつもは抑えている魔力を高め、体内の魔剣を全て活性化させる。両手には魂を犯す妖刀を産み出す。

 

「くっ、ここで諦めるわけにはいかない!!」

 

「そんな震えながら言っても説得力は無いよ」

 

目の前に居るネギ少年は既に魔力が枯渇しかけている。だけど、油断せずに居る。こういう追い込まれた状態と言うのは火事場の馬鹿力を発揮しやすいからね。急激なパワーアップに驚いて負けると言うのはレーティングゲームでもたまに見られる。

 

残りの少ない魔力を使って瞬動で近づいて来たネギ少年の首を刎ねる。血が飛び散る前に火葬式典を叩き込み、灰すら残さずに燃やし尽くす。勝負は一瞬で着いた。

 

「「「「「「ネギ先生!?」」」」」」

 

「さて、次は誰だい?彼程度なら苦労もしないけど、僕も命を奪いたい訳では無い。大人しくしているか、下がれば僕は何もしないよ。それでいいよね?」

 

「無論だ。こちらは儀式が成功すれば他の事はどうでも良いからな」

 

「と言う訳だ。大人しくしておく方が身のためだよ。敵討ちのために襲ってくるのならそれも良し。だけど、物語の様にそれが成功する可能性はほとんど無い。僅かな望みに賭けるも良し、賭けぬも良し」

 

そんなことを話していると急に一人の少女が叫び声を上げ始めました。ネギ少年の仲間達はその少女に気を取られて動きが完全に止まります。原因はおそらくアレでしょうが念のためにその少女の魂を覗いて見ると見事に魂を喰い散らかされていました。

 

「ああ、僕の内面か心の中を見てしまったのですね。心を読むと言うのはメリットよりもデメリットの方が多いんですよ。特に僕や力ある魔導書を読んだ事のある者の心を読むのわね。残念だけど、彼女は廃人確定さ。魂を食い荒らされたんだ。もうどうする事も出来ない。殺してあげるのがせめてもの情けだよ」

 

それでもすぐに決められないであろう少女達のために廃人が確定した少女の意識を奪ってあげる。

 

「君たちはよく頑張ったよ。だけど、運が悪かった。相手が僕だから。でも、勝ち目も有ったんだよ。僕はネギ少年に僕を呼び出すために必要なチラシを渡していたからね。それを使って僕を呼び出して契約すれば良かったんだ。僕は僕の世界の悪魔の中でも善良な方でね。呼び出してから交渉すれば代価を多少減らす事もあるし、納得ができないのなら何も取らずに帰るからね。そして代価を支払ったのなら契約を遵守する。それが僕だ。『自分たちと敵対しない』そういう契約を交わしていれば、僕は君たちに手を出す事は出来なかった」

 

説明しながらも飛びかかってくる魔法先生や魔法世界の住人と思われる獣人に障壁突破に特化した剣を投げつけて殺していく。たまに剣を弾くのも居たけど、弾くと同時に壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)で爆破して殺していく。その中には学園長や高畑先生も含まれる。

 

「ふむ、中々面白い話だな」

 

「おや、エヴァンジェリンさんでは無いですか?貴女も儀式の邪魔をしに来たんですか?」

 

「いや、私としては魔法世界がどうなろうと構わんのだが、このままだと呪いがどうなるのか分からんのでな。貴様、先程契約は遵守すると言ったな。なら私の呪いもどうにか出来ると?」

 

「余裕ですね。それ位なら指輪型の魔法媒体一つで解きますよ」

 

「良いだろう。受け取れ」

 

投げ渡された指輪型の魔法媒体を確認して、それが最高品質の物であることが分かる。

 

「貰い過ぎですね。魔法契約や呪いを一度だけ壊す短剣です。貰い過ぎの分、二本お渡ししておきます。対象に突き刺せばそれで解呪出来ますので」

 

エヴァンジェリンさんの手元に破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)を二本産み出す。エヴァンジェリンさんはそれを眺めてから一本を自分に突き刺す。それと同時に何かが砕ける音が聞こえて来た。

 

「確かに登校地獄の呪いが解けたな。これでここともおさらばだな。もう出会う事は無いだろう」

 

「お達者で」

 

頭上から降って来た岩に出来た影に潜り込む様にエヴァンジェリンさんは転移していった。

 

 

 

それからしばらくして、僕を呼び出した全裸の男の言う儀式が成功したのを見届けてから僕は隠れ家に転移した。

それから数日後に元の世界に帰還を果たした。幸いな事にかなりの時差が有ったらしく、僕が行方不明になってから一週間しか経っていなかった。

 

 




次回は『リリなの』です。
無印、A's、sts、全て違う世界軸で木場君?が活躍?


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IF リリなの編 その1

お待たせしました。
ようやくの更新ですが、予定を変更しまして無印とA'sだけとなっております。もうね、収拾がつかなくなってデウス・エクス・マキナが欲しくなりましたよ。本当に。でも、読めた物じゃなかったので消しました。簡単に内容を説明しますと、スカに呼ばれた、魔導書の写本をあげた、量産された、ミッドは邪神に犯された、木場君?は呼び出されなかった。となっております。



無印

 

 

「うわっ、危なっ!!」

 

悪魔の仕事として誰かに召還されて辿り着いたのは周囲の機械が色々と爆発したりしている建物で、目の前には僕を呼び出したと思われる黒髪の女性が倒れている。というか、明らかに召還事故で呼び出されている。だって僕のチラシが無いんだものって、そんなことを考えている暇はなかった。

 

目の前で倒れている召還主を抱えて建物から脱出を計る。途中、同じ様に倒れている金髪の女の子も抱えて走る。通路を塞いでいる瓦礫も蹴り飛ばし、ひたすらに非常口と思われる方向に走る。

 

 

 

 

 

「……ここは?」

 

「あっ、気が付いたみたいだね」

 

召還された場所から脱出した僕は二人を連れて人目につかない山奥まで走り続け、そこに収納用魔法陣からコテージを出して二人の看病をしていた。半日程で僕を呼び出したと思われる女性が目を覚ました。

 

「……神父?なんでここに、いえ、ここは、そうだアリシア!!」

 

急にベッドから立ち上がろうとして転がり落ちる。

 

「落ち着いて下さい」

 

「落ち着いていられる訳無いでしょう!!あそこにはアリシアが、私の娘が!!」

 

「それって、その子の事ですか?」

 

女性は後ろのベッドに視線をやるとそこに寝かされている金髪の少女をみて抱きついた。

 

「ああ、アリシア、アリシア~~!!」

 

既に彼女の息はない。あの建物から脱出する頃には息を引き取った。しばらくの間、女性の絶叫が続く。それが少し収まった所で彼女に語りかける。

 

「僕は貴女に呼び出された悪魔です。代価を払うと言うのなら、僕はどんな願い出も叶えてみせますよ」

 

「なら娘を生き返らせてちょうだい!!」

 

「ええ、構いませんよ。代価が払えるなら。ちなみに死者蘇生はかなり代価が重いですよ。僕としては悪魔、天使、あるいは堕天使への転生をお勧めします。時間の猶予はあと半日はありますから、説明だけでも聞いてから決めて下さい」

 

本当は魂を確保しているので肉体が腐るまでは大丈夫なんですけどね。出来れば彼女を配下に加えたい。僕達の魔力とは大分違うみたいだけど、莫大な魔力を身に秘めている。是非ともその魔力を研究させて貰いたいし、たぶん彼女は技術屋だ。○○○○さんとも話が合うはずだ。そのためなら悪魔の駒や転生用のトランプの一つや二つ惜しくない。なんなら異変の駒だって使っても良い。

 

僕は女性、プレシア・テスタロッサに転生に関する事と三種族に関する事を全て話した。そして転生の代価としてプレシアにも転生して僕の配下になってもらいたいとも告げた。プレシアは悩んだ末に娘であるアリシアと共に堕天使に転生した。プレシアにはスペードの8を、アリシアにはスペードの4を使い、堕天使への転生を果たした。

 

その後、次元の狭間を経由して人間界の屋敷へと二人を招待し、『断罪の剣(ジャッジメント)』の皆に紹介する。アリシアはルゥと楽しそうに学校に通っている。プレシアもアリシアの面倒を見ながら屋敷の寮母さんみたいなことをやってくれている。最近は何処も大人しいので『断罪の剣(ジャッジメント)』は絶賛開店休業中だ。今日も世界は平和だね。

 

 

 

無印、始まる前に完

 

 

 

 

 

 

A's

 

 

「えっ、なにこの状況?」

 

悪魔の仕事として召還された僕は状況に付いていけなかった。僕の他に部屋に居るのは薄着の女性が二人に少女が一人、褐色肌の筋肉質で動物の耳が生えている男が一人、そしてベッドの上で気絶しているパジャマ姿の少女が一人。気絶している少女以外は少女に対して跪いているから主従関係、いや、普通の魂じゃないから柄今か何かかな?まあそれは置いておこう。とりあえず今やらなきゃいけないのは僕を呼び出したと思われる少女の安全の確保だね。

 

手を叩いて大きな音を出して注目を集める。

 

「貴様、何者!!」

 

各々の武器と思われる物を展開しながら構えるけどそれはどうでも良い。

 

「周りの状況をちゃんと見ていますか?貴女達が主としている少女は倒れているのですが」

 

その言葉に振り返って慌てだす4人を見て頭を抱えたくなる。

 

「落ち着きなさい!!医療の心得がある人は?」

 

「最低限の事なら私が」

 

堪えたのは金髪の女性だった。

 

「なら僕の補佐をお願いします。他の三人は家の中から救急箱などを捜して下さい。それから何処かに彼女が常用している薬があるはずですからそれも」

 

「なぜそんな事が分かる」

 

尋ねてきたのはピンク色の髪の女性だ。

 

「ベッドの横に車いすが置いてあるでしょう。ですが足にギブスを嵌めていないと言う事は骨折などではない。なら病気か神経系の異常でしょう。それなら何か薬を服用しているはずです」

 

「なるほど」

 

説明をしながら少女の脈を測ったり、魔法を使って検査を行う。魔力不足と言う事以外は問題無いようですね。

 

「薬を見つけてきたぞ」

 

「こちらも検査が終わりました。ただの気絶です。このまま休ませてあげれば問題無いでしょう」

 

薬を受け取って調べてみますが、ただの抗生物質ですね。まあ普通の医者が診ても魔力不足なんて分かりませんから仕方ないでしょう。

 

「さてと、とりあえずは彼女が目を覚ますまで、そちらの内一人がここに残って他は外に出ましょうか。お互い、色々と話し合う必要がありそうですし」

 

「そうだな。貴様が主に対して敵意は持っていないのは分かるが、それでも側に置いておく理由が無い」

 

「まあ僕としては彼女に帰れと言われれば帰れるんですが、それまでは帰れないんですよね」

 

とりあえず窓から屋根に上がり、お互いの情報を交換する。僕が悪魔だと言った時にはもの凄い形相で僕に斬り掛かろうとしてきたけど、ちゃんと説明すれば一応は納得してくれた。

 

そのまま翌日まで屋根の上で待機していると、どうやら少女が目を覚ましたらしく僕と一緒に居たピンクの髪の女性シグナムと褐色肌の筋肉質で動物の耳が生えている男ザフィーラと共に窓から部屋に入る。

 

「うわぁ、ホンマに空飛んどるわ。というかなんで神父様が?」

 

「初めまして、僕は木場祐斗。神父でもあるけど悪魔で天使で堕天使でもある変わり者さ。今回は悪魔としてやってきてるんだ」

 

「へぇ~、なんやめちゃくちゃな人なんやな」

 

「まあね。僕の他にはもう一人居るだけだからね。三種族の間で子供を作っても親のどちらかの方になるからね。まあそれはさておき、何か叶えたい願いはあるかい?代価さえ払えば、大抵の事は叶えてあげるよ。もちろん代価が何かは契約を交わす前にちゃんと掲示するから、納得ができないなら細かい調整をしたり、キャンセルも出来るから安心していいよ」

 

「悪魔との契約かいな。代価って、やっぱり寿命とか魂とかなん?」

 

「最近は金品での契約の方が多いね。もちろん魂での契約が一番代価としては高い価値を持つけど、人によって価値のバラツキがあるから一概には言えないかな。あと、軽いお願いだと魂を差し出されても困るから調整が利きやすい金品が一番多いね」

 

「ふ~ん、そうなんか。でも、今は特に叶えて欲しい事なんて、あっ、ちょっとだけこの人達とのお話もせなあかんから一緒に居てくれる?」

 

「それならコーヒーを一杯で良いさ」

 

「ほんなら朝食も付けるわ。一緒に食べよ」

 

「見ず知らずの悪魔にそこまで気を許して良いのかい?さっきの説明だって嘘を付いているかもしれないよ」

 

「う~ん、そんな風には見えへんからな。女の勘って結構すごいんやで」

 

「よく知っているよ。白音には隠し事をしてもすぐにバレるからね」

 

「なんや、恋人か?」

 

「さあ、どうだろうね?プライベートな事だからあまり話したくはないね」

 

「そう言われると余計に気になってしまうで」

 

「おませにも程があるよ。それよりも待たせたままで良いのかい?」

 

「あっ、ごめんな」

 

「いえ」

 

その後、シグナム達は守護騎士としてではなく、八神はやての家族として暮らしていく事が決まった。とりあえず契約は果たせたとして、次回の召還の際に使ってもらうためにチラシを置いてから自宅に転移する。

 

 

 

 

あれからしばらく経ったある日、呼び出された先に居たのは何か覚悟を決めた守護騎士達だった。

 

「なにがあった?」

 

「……主はやてが倒れられた」

 

「原因は魔力不足ですね」

 

「正確には少し違う。前にも話したが、闇の書が原因だ。今までの主は我々を道具として扱い、闇の書を完成させていたから今まで知らなかったのだが、急に主はやての魔力を急激に吸い上げ始めた。その所為で下半身の麻痺が進行し始めた。担当の医師が言うには、1年持てば良い方だと」

 

「1、年」

 

ようやく、ようやくひとりぼっちから解放された少女が後1年しか生きられないなんて。そして僕は

 

「すまない。僕にはどうにかする事は出来るけど、どうする事もできない」

 

「どういうことだ?」

 

「僕には、木場祐斗には、はやてを救うだけの力はある。闇の書を完成させるだけの魔力も持っているし、無理矢理身体を治す事だって出来る」

 

「ならば何故出来ないなんて」

 

「今の僕は悪魔としてここに居る。しかも、契約を結ぶための召還でだ。代価が、代価を君たちが払えない。代価が支払われない以上、僕は何をする事もできない」

 

「何故だ!?私達に払える物なら何だってくれてやる!!だから、主はやてを」

 

守護騎士達が揃って頭を下げる。自分たちの命が必要だと言えば喜んで差し出すと思われる位に必死だった。

 

「僕だってどうにかしてあげたいさ。君たちは一種のプログラム生命体だ。魂は偽りだし、記憶は記録として扱われている。身体や武器も僕達の使う魔力とは別の物で構築されている。そして何か金品を持っている訳でもない。これでは契約を交わす事は出来ない」

 

そう言うと守護騎士達は落ち込む。僕も彼女の事は助けたいと思っている。だけど、この街はどうやら異世界にあるようで、場所の特定ができずに転移してくる事ができない。天使や堕天使、あるいは僕個人として彼女を救うのなら問題は無かった。だから、多少は問題がある方法で守護騎士達の力となろう。

 

「契約を交わす事はできない。だけど僕だってはやての事を救ってあげたい。あの幼さで一人で生きてきた彼女を。だから、力づくで奪いに来い!!」

 

エクスカリパーを二本産み出して構える。僕の言葉に反応して守護騎士達が構えを取る。最初に動いたのはシグナムだった。最初の一手は守護騎士達からでなくてはならない。

 

召還されて襲われたから反撃した。その際に負傷した。この口実があれば悪魔の契約をある程度誤摩化す事が出来る。

 

戦いの結果、守護騎士達は重傷をおったが、最後の最後でシャマルが僕の魔力の一部を奪う事に成功した。そのおかげで闇の書の半分に届くか届かない程度まで完成したそうだ。はやてに心配されない様にするために数ページ分の魔力を使って治療するそうだがそれでもかなりの量の魔力だったようだ。

 

話を聞き終わった所で僕は自宅に転移する。はやてが死なずにすむ事を神に祈って。

 

 

 

 

 

しばらくして、僕が呼び出された先は地獄だった。はやてや守護騎士、見慣れぬ少女達がボロボロの姿になり、海では旧支配者が一柱ダゴンが暴れている。

 

「なぜダゴンが?」

 

「君はあれを知っているのか?」

 

尋ねてきたのは見知らぬ少年だった。チラシを握っている所を見るとこの少年が呼び出したようだ。

 

「まあ知ってますよ。微妙に違う存在みたいですけど、姿形はほぼ一緒ですね。それで、僕を呼び出したのは貴方のようですが、僕の説明は要りますか?」

 

「いや、単刀直入に聞くがアレをどうにか出来るか?」

 

「まあダゴンに似ているだけなら問題無いですね。ですが代価の方は高く付きますよ」

 

「どれ位になる」

 

「そうですね。純金で3000kgと言った所ですね」

 

「なっ!?巫山戯ているのか!!」

 

「巫山戯てなんていませんよ。アレは低級とは言え、神の一柱ですから。並大抵の攻撃ではびくともしなかったでしょう?それを葬る事になるのですから、それ相応の代価は必要です」

 

「くっ、他の物ならどうなる」

 

「そうですねぇ、そこの白い少女と黒い少女にそれからはやて、三人が僕の眷属となるのなら十分ですね」

 

「「「眷属?」」」

 

「そう、簡単に言えば悪魔に転生して働くんだよ。メリットは今よりも強い力を簡単に得る事が出来る。それに寿命ももの凄く延びる。少なくとも1万年程度じゃあ寿命で死ぬ事は無い。他にも色々とあるけどそれは置いておこうか。デメリットは神に祈ったり、聖なる物に触れると激痛が走る。他にも悪魔としての生き方に縛られたりもするね」

 

「それは、ちょっと」

 

「嫌かな」

 

「なら、天使でも堕天使でも良いよ。メリットやデメリットもあまり変わらないよ。まあ天使だと堕天する可能性もあるけど、堕天使だとほぼデメリットはないね」

 

「それでもやっぱりなぁ」

 

「そうなると魂になるけど、死後の回収が難しいからこの場での回収になるよ。ちなみに魂の価値によって変わるから、どれだけとは言い難いね。まあ少なくともこの場に居る2人以上は必要になるね」

 

「巫山戯るな、そんなの許される訳無いだろう!!」

 

「若いねぇ。そんな君に素晴らしい情報を提供しよう。ダゴンを放っておけば一月かからずにこの星は朽ち果てるよ。それが嫌なら犠牲を覚悟しろ。旧支配者が居て対抗出来る者が居ない時点で数の問題だ。小を犠牲にして大を救うか、全滅するかの二択だ。旧支配者に対抗出来るのは旧支配者か旧神、あるいはそれらの力を扱える魔術師か、召還される前に封じるかのどれかだ。さあ、どうする?はやてのために魔力を奪われる位なら別に構わなかったけど、さすがに旧支配者とボランティアで戦うのは勘弁して欲しいね」

 

この会話の最中もダゴンは暴れ回っている。その影響で結界らしき物に罅が入り始めている。時間はそんなに残されていないだろうね。

 

「なあ、祐斗の兄ちゃん。もう少し安うならへん?」

 

「とは言っても、これで赤字にならないギリギリの値段なんだけどね。そもそもなんでダゴンらしき物が居るの?」

 

そしてようやく説明してもらったのだが、闇の書は過去の持ち主によって改変されて内部でバグが発生し闇の書の完成と共に周囲に破壊を齎す兵器と化していたそうだ。そして現在はバグの部分を切り離したのだが、そのバグがダゴンを形成したそうだ。闇の書は奪った魔力から魔法をラーニング出来たりするので、それが混ざり合った結果がダゴンなのだと彼女達は推測したそうだ。

 

「なるほど、半分位は僕の責任だね。ダゴンが形成されたのは僕の魔力の影響だろう。しかも闇の書の半分は僕の魔力から出来ているからね。大負けに負けて、はやて一人が眷属になる事でなんとかしよう」

 

「それでええよ。あっ、シグナム達も一緒でええか?」

 

「使い魔として仕事を手伝って貰う事はよくあるから問題無いね。給料とか保険とか待遇とか仕事の内容の説明に関しては後日にしておこう。まずはダゴンをどうにかしないといけないからね」

 

僕が持つ魔導書の中でも最も異色で強大な魔導書、死霊秘法(ネクロノミコン)血液言語・混合版を取り出す。4冊の死霊秘法(ネクロノミコン)の精霊の協力を得て産み出した、現在のオリジナルに最も近い魔導書だ。実戦で使うのは初めてだが、不安など無い。

 

「汝は、憎悪に燃える空より産まれ落ちた涙

 汝は、流された血を舐める炎に宿りし正しき怒り

 汝は、無垢なる刃

 汝は、『魔を断つ者(デモンベイン)』」

 

聖句を唱えると共に現れるは第5のデモンベイン。鬼戒神ではない鬼戒神()。僕の持てる全ての力と知識と人脈をつぎ込んで建造した新たな刃。それがこのデモンベイン・セイバー。

 

デモンベイン・セイバーが顕現すると同時に僕の身体が頁の様に解けて操縦席に転移する。ダゴンはすぐさまデモンベインに攻撃を仕掛けるけど、一切の傷も衝撃も与える事が出来ずに居る。

 

「システムに異常は無いね。さすがはドクターの最終作品だ。さあ、僕らの初陣を飾ろうか」

 

両手足に生えているシャンタクに魔力を送り込み、空を駆ける。そのままティマオイスとクリティアスにエネルギーを回し、ドクターが組んだプログラムを走らせると同時に機体が高速回転を始める。そしてそのまま足からダゴンに突撃する。

 

「アトランティス・ドリル・ストライク!!」

 

ドクターがどうしても引かなかった自分のロマンであるドリルを搭載すると言うのを自重してもらうために、妥協点としてアトランティス・ストライクの派生としてプログラムを走らせる事によって理想的な回転で機体そのものをドリルに見立てるアトランティス・ドリル・ストライクを搭載し、かつ初起動時に使用すると言う契約はこれで完了した。

 

アトランティス・ドリル・ストライクで開けた風穴は振り返る頃には既に半分以上塞がっていた。しかし、再生に力を回している所為か動きが止まっている。これは良いサンドバックだね。なら次は左腕に仕込んだアレを使おう。

 

左手に魔力を通すと、自動的に術式が作動し絶対零度を纏う。再びシャンタクで接近し、左手の貫手を放つ。

 

「ハイパーボリア・ゼロドライブ!!」

 

苦い思い出がかなりある術ではあるが、威力はお墨付きであり、使用出来るのなら使用するのが僕のポリシーだ。全身が凍り付きながらも未だに再生を続けるダゴンに呆れながらも右手にも魔力を集中させて術式を発動させる。本家の技術をそのまま転用したそれは、無限の熱量を産み出し、僕はそれを叩き付ける。

 

「レムリア・インパクト!!」

 

さすがに耐えきれなかったのかダゴンはコアの部分を残してその身体を消滅させる。僕はそのコアを握り込み、両腕に魔力を等分に込めて対消滅を起こさせてコアを完全に消し去る。

 

 

 

 

 

そして、事件を解決した僕ははやてと守護騎士、知らない間に増えていた融合機のリィンフォースを連れて僕達の世界に案内した。はやてにはスペードの8を与えて堕天使となってもらった。リィンフォースの方の不具合はドクターの遺産にあったアンドロイド技術と魔術と錬金術を複合させた物を使って新たな身体を与えた事でどうにかなった。しばらくは守護騎士達とはやてを鍛えながらのんびりと過ごそう。チラシをはやての友人の少女に渡して来たから、たまには向こうの世界に遊びに行けるだろう。さてと、久しぶりにルゥの所に顔を見せに行こうか。前に会ったのは子供が産まれたときだっけ。それからドクターの墓に報告にも行かないとね。アンタのドリルは最高だったってね。

 




次回は本編に戻ろうと思います。


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第20話

遅くなって申し訳ありません。
引っ越しの準備などでバタバタとしていました。
今話ではちょっとだけ予想外の人(?)達の登場です。


断罪の剣(ジャッジメント)』の設立と同時に僕が始めたのは屋敷に改築だった。冥界にあるのと人間界にあるのと両方だ。冥界の方は土地が余っているので問題無かったけど、人間界の方は普通の住宅地に建ててるから周囲に住んでいる人達と交渉して大金と、新しい住居を用意して買い取らせてもらった。

 

人間界の屋敷の改築にはドクターと覇道財閥に協力して貰い、魔術的にも強固な造りで、地下もかなり手の込んだ造りとなっている。デモンベインの格納庫の他にも研究室や特訓場、書庫に礼拝堂や大浴場等々も用意した。福利厚生はしっかりとしておかないとね。

 

屋敷の方の外観は変わっていないけど、あちこちに細かい結界式を書き込んであるのでかなり頑丈になっている。リアス・グレモリーの魔力弾程度ではびくともしないよ。サーゼクス様クラスになると罅が入りそうだけど、自動修復の術式も書き込んでいるから問題無いはず。ちなみにエネルギー源はデモンベインの『獅子の心臓』だ。人間界と冥界、二つの屋敷の術式を維持出来るなんてチートだよね。

 

内装もあまり変わりはないけど、各個室は空間に干渉して広げてある。大体20畳程の空間を自分で好きな風に弄れる様にしてある。それをこれからの事も考えて40部屋程用意し、リビングや食堂や厨房なども屋敷の広さに合わせて作ります。

 

そして最後に浄化と状態保存の結界を屋敷全体に敷いて完成です。建設期間三日、総費用が3120億9350万円ですんだのはドクターのおかげですね。ついでとばかりにデモンベインの調整も行っていってくれましたし、ドクターには感謝しても仕切れませんね。

 

 

 

 

 

「久しぶりだな。これから世話になる」

 

「やっほ~、お久しぶり」

 

夏休みに入った初日、ゼノヴィアさんと紫藤さん、それから報告にあったグリゼルダさんがやってきた。

 

「お久しぶりです、ゼノヴィアさん、紫藤さん、それから初めましてグリゼルダさん」

 

「初めまして、二人のお目付役も承りましたグリゼルダと申します。木場さんの噂は教会に所属していた頃から聞いていました」

 

「まあ、あまり良い噂ではないでしょうね。引き蘢って研究ばかりしていましたから。さて、立ち話もなんですから屋敷の方へどうぞ」

 

「「「失礼します」」」

 

荷物を持った三人をリビングに案内し、お茶とお菓子を用意してから色々と説明を始める。

 

「『断罪の剣(ジャッジメント)』の体制に付いては全員が揃ってから話そうと思っているから数日間はゆっくりと身体を休めていてね。部屋の方は最低限の家具とかは用意してるけど、足りない様なら用意するから遠慮なく言ってね。屋敷の方はこの後案内するけど、基本的に好きに使ってもらって構わないよ。それから事前に言い含められてると思うけど、出来るだけ仲良くしてね。背中を預けれる位とまでは言わないけど、背中を見せれる位にはね。僕からは以上だよ。何か質問はあるかい?」

 

「はいは~い、ミカエル様達から武器は貰う様にって言われてるんだけど」

 

「ゼノヴィアさんと紫藤さんの分は用意してありますよ。殆ど能力の変わらない破壊と擬態の名剣です。破壊の方はデザインが変わっていますがこちらの方が本来の姿ですので慣れて下さい」

 

形状が刀になった破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を二人に手渡す。

 

「グリゼルダさんはどうします?生憎と僕がすぐに用意出来るのは剣か、ちょっとした銃か符位ですが」

 

「そうですね。私は基本的に後衛向きで盾役をこなす事もありますので、出来れば符などを拝見させてもらいたいのですが。あとは、二人から木場さんは特殊な術を使ったりすると聞いていますのでそちらの手ほどきを受けたいのですが」

 

「構いませんよ。今までまとめた研究資料などもありますから参考にして下さい。案内しますよ」

 

グリゼルダさんを地下の研究室に案内するために立ち上がると、二人も少し気になるのか一緒に付いて来た。

 

「ここが共同で使う事になる研究室です。触媒や資材は好きに使っても構いませんが何をどれだけ使ったなどはキチンと記録を取っておいて下さい。無くなるたびに補充しますから。棚に研究資料の方は屋敷からの持ち出しは出来ない様に細工をしてありますから注意して下さい」

 

「何故ですか?」

 

「長期間保管出来て破損し辛い物で作ってありますから貴重品なんです。中の記録は僕の暇つぶしで行ってきた事ばかりですので、何か別の紙に書き出して持ち出すのは構いません」

 

「……やっぱり変わってますよね」

 

「昔からです。それが原因で教会を逐われたのですが、あまり治そうとも思っていませんからね。そうそう、これが件の対堕天使用の術式の基礎理論が納められているファイルですね。それからこっちが対天使用の術式の基礎理論です。これから必要になってくるでしょうから早めに読んでおいた方が良いですよ」

 

「いえいえいえ、可能性の問題だけで追放された対天使用の術式なんて、とてもじゃないですけど使えませんよ!?」

 

「どうせ転生天使を作るトランプも禍の団に流れるでしょうから必要になってきますから読んでおいて下さい。使える物は何でも使わないと周囲を巻き込んでしまうかもしれませんからね」

 

「ですが」

 

「最低でも対堕天使用は読んでおいて下さい。対天使用も根っこの部分は同じですから、戦場で必要になった際にすぐに構築出来る様にしておいてください。僕達『断罪の剣(ジャッジメント)』はあらゆる勢力と敵対する可能性があるのですから」

 

「分かってはいましたが、改めて言われるとやっぱり辛いですね」

 

「それでも僕は逃げずに戦いますよ。僕が戦う事によって誰かを救えるのなら」

 

「……そうですね。確かにそれは素晴らしい事ですよね」

 

納得してくれたのかグリゼルダさんは2冊のファイルを受け取ってくれました。地下に来たのですからついでに案内してしまいましょう。どんどん地下に向かいながら案内して行き、格納庫でデモンベインを見せた後に立ち入り禁止区画の入り口まで案内する。

 

「ここからは僕とルゥ以外は立ち入り禁止区画だからね。入ったら死ぬより酷い目に会うから」

 

まあ普通の人は言わなくても近づかないけどね。現に三人とも立ち入り禁止区画に降りるための階段を見た途端、バックステップで距離を取ったから。

 

「この奥では、この世で上から数えた方が早い位の危険で凶悪な物を取り扱ってるから気をつけてね。この前捕虜にしたカテレアもこれを使って心をボロボロにして情報を引き出したりして、そのまま楽にしてあげる位だったから」

 

「近づかないわよ!!というか、なんでそんな平気な顔してるのよ」

 

紫藤さんが怒鳴っていますが仕方ないのでスルーします。

 

「僕は慣れてしまったからね。それでも気を抜くと一瞬で魂を喰い散らかされるけどね」

 

このままではまともに話も出来ないだろうと最後の施設に案内する。向かうのは訓練場だ。何も無い広いだけの空間をレーティングゲームの会場を作る技術を使って好きな空間を用意出来る場所だ。先程通りかかったときは白音さん達がページモンスター相手に戦っていたのでスルーしたのだ。そろそろ終わった頃だろうと紹介も兼ねて向かっている。

 

「白音さん」

 

ちょうどページモンスターを倒し終わった所なのか、白音さん達三人が呼吸を整えていました。

 

「あっ、イリナおねえちゃんとゼノヴィアおねえちゃんだ」

 

一番最初にルゥが気付き紫藤さん達に飛びつく。

 

「祐斗さん。そちらの方達は、もしかして」

 

「はい。彼女達は天界側から派遣された『断罪の剣(ジャッジメント)』の一員です。今日から一緒に暮らす事になります」

 

「そうですか。あの、そちらのお二人はコカビエルの時に派遣されてきたエクソシストの方ですか?」

 

「ああ、そうだ。そう言えばあの時校庭に居た一人か。ケルベロスごときに手こずっていたようだが、そんなのでこれから大丈夫なのか?」

 

「あれは部長を庇って出来た物です。自分でやると言っておいてピンチになっていたからキャスリングで庇ったんです。直撃だったのでちょっと防御を抜かれて足をやられてしまって、エクソシストの使う光剣も威力が大きかったので傷を負いすぎましたけどアレ位なら問題無いです」

 

「あれは部長のミスですよ。僕は彼女とは一番長い付き合いですが、普段の彼女ならまったく問題ありませんよ」

 

「そうか。なら、明日にでも手合わせを願おうか」

 

「望む所です」

 

「殺さない様にだけは気をつけて下さいよ。怪我ならいくらでも治しますから。死んでも10秒以内なら簡単に蘇生も出来るので。あっ、でも頭がトマトを潰したみたいになってると蘇生出来ないので頭だけは、正確に言うと脳だけは死んでも守って下さいよ」

 

「首を切り落とされたり、心臓を潰されたりするのは大丈夫なの?」

 

「酸素供給が無くなって1分程で脳へのダメージが確定になりますから、その1分以内に間に合う様に身体を修復するために必要なのが最大で45秒程なので10秒以内に駆けつけれれば後遺症もなく蘇生出来ます。まああまりにバラバラにされるとパズルを解くみたいにしないといけないので、できるだけ綺麗な死体の方が良いんですけどね」

 

時間操作も含めればもう少し猶予はあるでしょうが、代価無しではそこまでしたくはないですね。数日は戦えない位に消耗しますし。戦闘ならともかく、訓練でそんなことはしたくないです。

 

 

 

 

 

 

翌日、白音さんとゼノヴィアさんの模擬戦は調子に乗りすぎて白音さんを殺しかけた所をグリゼルダさんが背後から殴り飛ばして無効試合になりました。結果はあれでしたが、それでも二人の間に変なしこりは残ってはいないので良いでしょう。それにこの一件で仲が良くなったのでマイナスどころかプラスですね。

 

二人の治療を終えてから昼食にうどんを打っている時にアザゼル様から連絡が入りました。

 

「どうかしましたか?」

 

『ようやく人員の選定が終わってな。これからそっちに向かうんだが、受け入れの方は大丈夫か?』

 

「問題無いですよ。ですが、予定よりも早かったですね」

 

『最終手段を使ったからな。それより、三十分程でそっちに着くからな』

 

「分かりました」

 

さてと、四人分追加で打ちますか。本当は一晩寝かせる所ですが、そこは時間操作で省略です。具の天麩羅は揚げる準備だけしておけば良いですね。あとは、『断罪の剣(ジャッジメント)』の体制などの説明を行いますから、皆さんを呼んでおきましょう。

 

昼食前ということで皆さんはすぐに集られ、コーヒーと紅茶とクッキーを用意して雑談をしながら待っていると結界に堕天使が3人触れたみたいなので不思議に思った。まあそれはアザゼル様に直接聞けば良いでしょう。

 

呼び鈴が鳴らされたのでルゥと一緒に出迎えに向かう。玄関ホールまで出向き、魔法で扉を開く。

 

「ようこそ、アザゼル様。後ろの二人が……」

 

「どうかしたか?」

 

アザゼル様の後ろに控えているのは二人の女性で力はかなり弱いみたいですね。一人は白音さん位の背丈でゴシックドレスを身に纏っています。もう一人で見た目は十分美人で腰まである黒髪が特徴的なのですが、問題なのは眠っている才能の貴重さです。

 

「ルゥ」

 

「うん、久郎お兄ちゃんよりすこしひくいぐらい。属性は風?」

 

見事に教授が捜している人材ですね。偶然とは言え運が良い。

 

「なんだ、さっきからレイナーレをじっと見つめて?さては惚れたか?」

 

「いえいえ、僕の師の一人が求めている才能を有しているみたいでしたから驚いているだけですよ」

 

「私に才能が?」

 

「ええ。それに関しては後で話しましょう。とりあえずは中へ」

 

三人を連れてリビングに戻ると先程と席が替わっていました。入って左手にグリゼルダさん達が、右手に白音さん達、奥に僕とルゥの席があり、手前にイスが4つ置かれている。それを見て各々が自分の席に着いた所で話し始める。

 

「改めてだけど、ようこそ『断罪の剣(ジャッジメント)』へ。僕は君たちを歓迎するよ。まず最初に確認しておきたいんだけどアザゼル様、後ろの二人が『断罪の剣(ジャッジメント)』に派遣する事になった者ですか?」

 

「おうよ。小さい方がミッテルトでもう一人の方がレイナーレだ。それに加えてオレ自身も『断罪の剣(ジャッジメント)』に加入する。これからよろしく頼むわ」

 

その言葉に全員が驚く。というか、堕天使の二人も驚いている。

 

「確認しておきますが『断罪の剣(ジャッジメント)』に加入する以上、意図的に内部の情報を流せばカテレアの二の舞にしますよ。それを分かっている上での発言ですか?」

 

「当たり前だ。引き継ぎも済ませてある。というか、引退するほか道が無かったんだよ」

 

「ああ、なるほど。依然と比べるとどうなっていますか?」

 

「そうだな、とりあえずは我慢弱くなったな。すぐに頭に血が上って当たり散らしそうになってる。あと地味に光力が弱くなってる」

 

「寝ている時に魘されたり、幻視や幻聴や幻痛は?」

 

「たまに幻聴が聞こえるな。まあ何を言われてるのかはさっぱりだけどな」

 

「汚染の初期段階です。治療出来るかは不明ですが、組織の上に立つのは辞めておいた方が懸命ですね。とりあえず専門家の方に連絡を入れておきますから」

 

「専門家なんて居るのかよ?」

 

「居ますよ。邪神ハンターでミスカトニック大学の教授をやってるラバン・シュリュズベリィ教授です。僕の師の一人ですね。まあ治療出来るかは不明ですけど」

 

「期待せずに待っておくわ」

 

「ええ。さて、では改めて『断罪の剣(ジャッジメント)』の体制に付いての話を始めます。『断罪の剣(ジャッジメント)』は三勢力間での平和状況を維持するために設立された独立部隊です。目下の所、戦う相手は『禍の団(カオス・ブリゲード)』と呼ばれるテロリスト集団ですね。

 

それから基本的に誰からの命令も受けずに行動出来ますが、要請を受けて行動するのが基本になります。設立されたばかりなので古株の皆さんからは基本舐められてるので、それをなんとかするためにサーゼクス・ルシファー様の要請を受けて近々行われる若手上級悪魔のレーティングゲームの大会に参加する事になりました」

 

「それは私達が参加しても大丈夫なのですか?」

 

グリゼルダさんが質問をしてくる。それに関する答えはちゃんと確認してあります。

 

「転生天使と転生堕天使を作るトランプは悪魔の駒と性質が違うだけで性能は同じなので参加は可能、むしろそれを確認するために参加しろとアジュカ・ベルゼブブ様からも要請が来ていますので問題ありません。

 

話が反れましたが基本的には自分たちを鍛えながら何か事件が起これば急行して解決するのが仕事となります。拠点はこの屋敷と冥界の僕の領地となります。立ち入り禁止区域と他人のプライベートルーム以外は好きに使ってもらって構いません。それから給与明細はこんな感じで残業手当と危険手当てはでません。危険なのは最初から確定していますし、治療費に関しては経費と名ばかりに僕の基本給与の中に紛れているので」

 

皆に給与明細を配ってみると声に出さないまでも驚いているみたいですね。そんなに多かったですかね?白音さん達は領地をグレモリー家に返還していますからその分の補填を加えていて、それを基準にしてするんですが。まあ『断罪の剣(ジャッジメント)』の経費の一部は僕の懐から出ていますから問題無いでしょう。組織のトップも僕ですし、誰も文句は言って来ないので良いでしょう。もちろん経費の削減はしていますよ。僕は大抵の怪我を治せますから僕が治療してあげれば良いだけですからね。

 

「それから保険の方は各種取り揃えてありますから個々人で入って下さいね」

 

グレモリー家に居た時の物を参考に安くて保証は手堅くしてあります。お金だけはありますから。収入も凄いですしね。

 

「ついでに覇道財閥系列での買い物の際には3割引になる様に臨時総帥に直接交渉してありますので」

 

血の怪異の時に出来た貸し借りやその後にチラシを渡したりしてそこそこの縁がありますから対価の一部として3割引を勝ち取ってきました。貴重品であるフェニックスの涙を2個も取られてしまいましたが必要経費と割り切りましょう。まだ20個程残ってますから。

 

「最後に、希望する魔剣、聖剣、名剣を年間で20本支給します。申請書類はこちらです」

 

普通の依頼書よりも更に詳細な設定を依頼出来る様にしてあるそれを一人20枚ずつ

配る。

 

「なんだこの高待遇は?悪魔はこれが普通なのか?」

 

「いえ、グレモリー家に居た時よりももの凄く良いです。」

 

アザゼルさんが疑問を呟き、白音さんがそれに答えます。

 

「組織の性質上、強者との殺し合いが基本になりますからこれ位の待遇は普通だと思うんですけど。予算上も問題無いですし」

 

僕の眷属が全て揃ったとしても大丈夫な様に予算は組んでありますから、現状は余っている位です。

 

「待遇の方は以上ですが、設立されたばかりの組織の上に小規模ですので細々と変更して行くでしょう。何かあれば相談に応じますので、いつでもどうぞ。何か質問はありますか?」

 

しばらく待っても誰も動かないので次に移る。

 

「では、いよいよ契約と移りましょうか」

 

テーブルの上に悪魔の駒と転生天使を作るトランプと転生堕天使を作るトランプを置く。悪魔の駒が入っているケースから変異の駒(ミューテーション・ピース)である僧侶2個をギャスパーとヴァレリーさんに、普通の戦車1個を白音さんに、転生天使を作るトランプの内、Aを紫藤さんに、7をゼノヴィアさんに、Jをグリゼルダさんに、転生堕天使を作るトランプの内、3をミッテルトさんに渡した所で一度区切る。

 

「さて、レイナーレさん。先程伝えた貴方の才能についての話です。貴女のその才能を開花させれば、貴方は断罪の剣(ジャッジメント)で2番目に強い存在になれます」

 

「私が、2番!?」

 

「ええ。ですが、その才能を開花させれるかどうかは貴女次第になります。才能が有っても挫折した者も何人も居る、そんな修行に貴女は挑戦してみようと思いますか?」

 

「……少し、考えさせて下さい」

 

「ええ、もちろんです。挫折から立ち直れる人の方が少ないですから。よく考えて下さい」

 

「分かりました」

 

「最後にアザゼルさん、保留です」

 

「おいおいそりゃあねえだろう」

 

「一応冥界側と天界側の意見も聞いておかないと面倒になりますからね。それまでは保留です。それでも一応身内として扱いますので」

 

「まあそうなるか。分かったよ」

 

理解してくれたようで何よりです。悪魔の駒とトランプを配り終わり、アザゼルさんとレイナーレさん以外がそれを体内に入れる。グリゼルダさん達が転生し、全員とパスが繋がるのを感じる。

 

「これは?」

 

「どうかしましたか、白音さん?」

 

「ギャスパー君達はどうですか?」

 

「白音ちゃんもですか?」

 

「なんだ、何が起こってるんだ?」

 

白音さん達が困惑しながらも答えてくれたのは予想外の言葉でした。

 

「部長とのパスが切れたみたいなんです。ですが、部長の悪魔の駒の力自体は残っているみたいで」

 

アジュカ様が用意した隠し機能が発動でもしたのでしょうか?連絡しておきましょう。しかし、パスが切れたと言う事はグレモリーの魔法陣での転移が出来なくなってしまったと言う事ですね。お得意様の所には新しく僕の魔法陣が書かれたチラシを配る必要がありますね。

 

ちなみに僕の魔法陣は幾何学式的な物ではなく紋章的な物で本の表紙に歯車と剣で作った十字架が描かれた物です。僕を表すのにぴったりな紋章です。

 

「パスに関してはアジュカ様に問い合わせておきます。他に異変はありますか?」

 

「いえ、ただ祐斗さんの駒の力が強いのか若干感覚が鋭くなっている気がします」

 

「そうですか。では、数日の間は大人しくしていて下さいね。何か異常があるかもしれませんから」

 

「「「はい」」」

 

「他の皆さんはどうです?」

 

他に異常がある人が居ないかを確認してみます。

 

「問題は無いと思うぞ。とは言っても自分では分からないだけかもしれないが」

 

「強くなってるのは分かるんだけどね」

 

「私もそうですね。今の所は大丈夫だと思います」

 

「なんかめちゃくちゃ強くなってる気がするんっすけど、大丈夫ですよね?」

 

「ミッテルトさんは、こう言っては悪いですが元が弱過ぎた所為ですね。他人から見れば上がり幅は他の人と変わっていませんから大丈夫なはずです」

 

「それはそれでへこむんっすけど」

 

「これから頑張って鍛えて下さい。僕の剣をちゃんと注文すれば大丈夫ですから」

 

「うぃ〜っす」

 

「それでは3日程は身体の確認を行っていて下さい。皆さん無理だけはしないでいて下さいね。アザゼルさん達は食事の後に屋敷の案内をしますので」

 

「おう、悪いな」

 

「気にしないで下さい。基本的に朝食と夕食は僕が作ってますから。休みの日には昼食を作る事もありますので。ああ、キッチンの冷蔵庫の中身は好きに消費してくれて構いませんから。ただ、大量に何かを消費したらメモで構いませんから残しておいて下さいね。それから特売に付き合ってもらう事もありますがご了承ください」

 

「なんか急に所帯染みた言葉が出て来たな。特売とか」

 

「えっ?普通じゃないですか。安くて良い物を求めるのは」

 

イスから立ち上がり、収納の魔法陣から三毛猫のアップリケが付いたエプロンを取り出してキッチンに向かいます。

 

「お昼は天麩羅うどんですけど、アレルギーとかは大丈夫ですね?」

 

「あっ、手伝いますね」

 

グリゼルダさんが立ち上がり一緒にキッチンまで付いてきます。グリゼルダさんにうどんの方を任せて、用意しておいた天麩羅をどんどんと揚げていきます。それを大皿に山の様に盛り上げて持っていきます。うどんの方は各個人用のどんぶりに入れて持っていきます。まあ白音さんの分だけが特大サイズなだけで他の人の分は通常サイズなんですけどね。

 

天界側の三人と廊下で祈りを済ませてからテーブルに着いて食事を始めます。むっ、うどんが少々茹だり過ぎていますね。まあ僕の好みが固めなだけですから問題無いのでしょう。皆さんおいしそうに食べてますから。天麩羅の方はどんどんと減っていきますが、皆さんの個性がよく出ていますね。

 

白音さんとゼノヴィアさんはうどんの汁に少しだけ浸けて、紫藤さんとレイナーレさんとミッテルトさんはどっぷりと浸けて食べています。グリゼルダさんはあまり脂っこい物が駄目なのか天麩羅に箸を伸ばさずにいます。意外なのがアザゼルさんです。小皿に塩を盛って、それに付けて食べています。ちなみに僕とルゥは小食なのでうどんだけで精一杯です。

 

昼食が終わってから片付けを任せてアザゼルさん達に屋敷の中を案内します。デモンベインを紹介した時のアザゼルさんの興奮は激しい物でしたが、一応魔導書関係の代物だと言う事を理解しているのか遠巻きに見るだけで済ませてくれました。そして最後に立ち入り禁止区画に案内したのですが、アザゼルさんとミッテルトさんはゼノヴィアさん達と同様にバックステップで距離を離しましたが、レイナーレさんは眉を顰めるだけです。

 

「おい、まさかこの先にあるのは」

 

アザゼルさんはこの先にある物が何なのか気付いたようですね。

 

「ご想像の通りですよ。ですからこの先は立ち入り禁止なんです。わざと結界を緩めて危険だと分かりやすい様にしているんです」

 

「ちっ、まさか本当にあの時の物が最低クラスだったとはな。いや待て」

 

アザゼルさんは一度レイナーレさんの方を見て、ミッテルトさんと見比べてそれに気付きます。

 

「レイナーレの才能ってのはまさか」

 

「ええ、その通りですよ。それも僕以上の、最高クラスの才能を有しています」

 

「そこまでかよ。おいレイナーレ、修行を受けてきた方がお前のためになるぞ。こいつが言った2番目になれるってのは嘘でも何でもねえ。全て事実だ。潰れる可能性は会っても、このまま燻るよりはマシな人生を送れるぞ」

 

「アザゼルさん、こういうのは本人の意思を尊重しないといけません。特に力ある魔導書に関わるのならね」

 

「確かにそうかもしれんが、レイナーレとミッテルトの力は大体予想が付いてるだろう?いくら魔剣で強化しても上級の中堅位にしか成れない。相手には最上級がごろごろ来る可能性がある以上はリスクを承知で手を出す方が長生き出来る」

 

「ですが、綺麗に死ねるだけ幸せかもしれません。もう僕もアザゼルさんも、まともな死が訪れる事は無いんですから」

 

「死んだ後の事なんか気にするかよ」

 

無知と言うのは悲しい事ですね。甘く見過ぎたのがアザゼル様の失敗です。まあそれも仕方ないのですがね。

 

「レイナーレさん、貴女が力を望むのならそこの線を踏み越えて下さい」

 

「結界を踏み越えろ、か。オレには無理だな」

 

「殆どの人が無理ですよ。それが資格なのですから」

 

「一つだけ聞かせて下さい」

 

「僕に答えられるなら」

 

「踏み越えれば、私は変われますか?」

 

「変わってしまうのがこちらの業界です。変わらないのは生まれながらの狂人のみです」

 

レイナーレさんは少しだけ考えてから言葉を紡ぎました。

 

「……ミッテルト、今までの私の事を覚えていて頂戴ね」

 

「お姉様」

 

「私は変わりたい。だけど根本が歪んだのなら、私が私でなくなるのならその時は私を消して。その判断は貴女に任せるわ、ミッテルト」

 

そう言ってレイナーレさんは結界を踏み越えて来ました。

 

「ようこそ、この世の邪悪が蔓延る世界へ。僕は貴女を歓迎しますよ」

 

転生堕天使を作るトランプのQを差し出す。それを受け取ったレイナーレさんは自分の胸に差し込み、僕との間に深いパスが産まれる。これで多少は気休めになるでしょう。

 

「では、早速ですが貴女の師となる人を紹介しに行きましょうか。しばらくの間はその人の元で生活する事になるでしょう。頑張って生き延びて下さい」

 

アザゼルさん達に、屋敷の案内はここで終了だと伝えて個室の鍵を渡し、レイナーレさんを連れてミスカトニック大学まで転移し、ラバン・シュリュズベリィ教授にレイナーレさんを預ける事に成功しました。

 

その後、覇道財閥の方にレイナーレさんの面倒を頼み、念のために魔導探偵に事情の説明と気が向いた時で良いのでフォローをお願いしておきました。

 

レイナーレさんと再び出会える事を信じて僕は冥界に転移します。面倒ですけど、色々と調整が必要になりましたからね。ああ、忙しい忙しい。タイムセールがある夕方までには帰りたいですね。一応、グリゼルダさんに伝えてあるので大丈夫だとは思いますが、やっぱり自分の目で見て商品を買いたいですからね。

 

 



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第21話

レイナーレさんをミスカトニック大学に預けてから数日が経ちました。アザゼルさんの『断罪の剣(ジャッジメント)』への加入は少しもめましたが、なんとか認められる事になり、改めてJを渡してパスを繋ぎました。

 

次に白音さんとギャスパーのリアス・グレモリーへのパスが切れた事に関しては直接確かめたいと言うことなので修行も兼ねて全員で冥界入りする事になった。

 

冥界に行くのにあたり、正規の方法で一度は訪れていないと警備の悪魔がやってくるので僕達は手ぶらで駅にやってきている。そのままエレベーターまで向かい、悪魔勢とグループを組んであるはずの無い地下へと降りて行く。

 

降りた先で後続を待ってから皆でホームに向かう。

 

「そう言えば祐斗さん、今まではグレモリー家の列車で冥界に行ってましたけど、今回からはどうするんですか?」

 

白音さんがここに来てようやくその疑問を尋ねてくれました。

 

「もちろん列車を新しく用意してあるんですけどね、用意してくれた人がちょっとアレな人なんで仕様書とかまだ見てないんですよ。というか、怖くて見れません」

 

「「「「「ちょっ!?」」」」」

 

「あっ、名前だけは聞いてるから。『暁のスーパーウェスト無敵ロボ28號ターボXニトロ改~注意一秒怪我なんて生温い事は言わないので奈落へGO~』だって」

 

皆の脚が止まり静寂が場を支配した。そして一番最初に動き出したのはミッテルトさんだった。

 

「色々と突っ込みたい所はあるけど、ウチはまだ死にたくないっす!!」

 

「ははは、逃がしませんよ。大丈夫、死んでもちゃんと蘇生させてあげますから」

 

逃げ出そうとするミッテルトさんの首を掴んで引きずって行きます。

 

「まあ確かに突っ込みどころは満載だったな。何だよ『暁のスーパーウェスト無敵ロボ28號ターボXニトロ改~注意一秒怪我なんて生温い事は言わないので奈落へGO~』って、1號から27號はどうしたんだよ」

 

「あの人が作る物は大抵が28號ですから気にしないで下さい。最初は移動式のライブステージだったんですけど、邪魔者を排除する装置を積んで行くうちにこんな感じのロボットになってしまいましてね」

 

蒼穹のスーパーウェスト無敵ロボ28號DESTINY~その力を見せつけろガグ!~の写真をアザゼルさんに見せる。

 

「こいつはまたイカしてるメカだな。実に良いセンスだ。特にこのドリルが」

 

「まあ分からないでも無いんですが、ちょっとね、アレな人なんで名前のセンスなんかは気にしないで下さい。とりあえず、こっちのファイルが『暁のスーパーウェスト無敵ロボ28號ターボXニトロ改~注意一秒怪我なんて生温い事は言わないので奈落へGO~』の仕様書なんですが、一人だと怖いんでちょっと一緒に見てもらえません?」

 

「良いぜ、見せてみろよ」

 

ミッテルトさんを白音さんに預けてアザゼルさんと一緒に仕様書を確認する。

 

「ええ~っと、なんだこれ?大半の物の意味が分からん」

 

「デモンベインやハンティングホラーに使われてる魔術機構で大半が構成されてますね。動力は、核融合炉ですね」

 

「ほう、武装も満載だな。うん、まさかこのデザインは!?」

 

『暁のスーパーウェスト無敵ロボ28號ターボXニトロ改~注意一秒怪我なんて生温い事は言わないので奈落へGO~』のデザイン画を見たアザゼルさんがダッシュでホームに向かって駆け出して行く。

 

「ふむ、何かがアザゼルさんの箏線に触れたみたいですね。ああ、仕様書を見る限り大抵の障害の方が奈落へ送り込まれる仕様でしたから安心して下さい。というか、正面からこれを破壊出来そうなのが一握りしか居なさそうなので。デモンベインと同じヒヒイロカネをふんだんに使ってますから、砕ける物なら砕いてみて下さいよ」

 

「ほう、そこまで言うのなら試してみようか」

 

「乗る前に壊さないで下さい。やるなら冥界に着いてからです」

 

ゼノヴィアさんが破壊の名剣を取り出そうとするので言葉で止めておきます。しばらく歩いて到着したホームに停められている『暁のスーパーウェスト無敵ロボ28號ターボXニトロ改~注意一秒怪我なんて生温い事は言わないので奈落へGO~』は意外とまともな見た目をしていた。

 

見た目は少し古いSL列車なのだが、全体的に落ち着いた雰囲気を醸し出している。ただ、何処かで見た事がある気がする。少し気になり、機関車のナンバーを調べる。そこに書かれていたナンバーを見てモデルが何なのかが分かる。

 

「C62 48、そしてデフレクターには999。銀河超特急999号か。本当に良いセンスをしているね」

 

「うわぁ、懐かしいねぇ」

 

紫藤さんは幼い頃は日本に居たのでギリギリ知っていたみたいですね。アザゼルさんは機関車内のコンピュータを弄って色々と調べているみたいです。まあそれは置いておいて良いでしょう。その内飽きるでしょうから。

 

 

 

 

 

「生きてるって素晴らしいっす」

 

「大げさですね。高だが10G程でしょうに。普通の人間でも鍛えれば何とかなる程度で済むレベルですよ」

 

冥界に到着して999から降りたミッテルトさんが地面に倒れ込みそうになるのを、抱えて止めて背中に担ぎ上げます。

 

「だからって急発進、ターボ、急ブレーキしか無かったんすよ!?あんなのが事故ったら名前通り、注意一秒怪我なんて生温い事は言わないので奈落へGOだったっす!!」

 

「あの程度なら普通に耐えれますね。白音さん達も耐えれますよね?」

 

「打撲位にはなると思います。あと、ギャー君はギリギリアウト」

 

「変化すればなんとかなるはず」

 

「ゼノヴィアさん達は?」

 

「転生天使になって耐久力が上がっているはずだからな、普通に耐えられるだろうな。まあ骨の一本や二本は覚悟する必要があるだろうが」

 

「なら今回の修行で問題無くなりますね。それじゃあ入国審査を行いますので右手を出して下さい」

 

初めて冥界に正式に訪れた4人の右手を携帯式の機械を使って登録を行い、駅から歩いて屋敷に向かいます。

 

「うわぁ~、人間界のとまったく変わらないっすね」

 

屋敷を見たミッテルトさんが呟いた言葉に全員が首を縦に振ります。

 

「まあ中は繋げてありますから9割以上一緒ですからね」

 

「ああ、荷物は何も要らないと言っていたのはそういうことか。だが、どうやって場所を特定しているんだ?」

 

「屋敷の敷地内に入った時に特殊なマーキングを施しているんですよ。それによって冥界側の屋敷に入ったのか、人間界側の屋敷に入ったのかを判別しています。もちろん特定の手順を辿れば扉一つで行き来は可能です」

 

全員が屋敷に入った後に扉を一度閉めて、一定量以上の魔力をドアノブに通してから開くと人間界に繋がる。

 

「こんな感じです。今回はゼノヴィアさん達の登録を行う為に正規ルートで来ましたけど、今度からはこちらを使ってもらっても構いません。一定量以上の魔力をドアノブに通せばそれで繋がりますので」

 

「便利と言えば便利だが、安全面の方は大丈夫なのか?こうやって全員が片方に集っている時にもう片方の屋敷を占拠されて利用されると面倒な事になるぞ」

 

アザゼルさんがそう尋ねてきますが、問題なんてありません。

 

「簡単にあの屋敷が抜かれると思っているんですか?魔王様達の攻撃にも耐えれる様に作ってあるんですよ。もちろん呪いとかもふんだんに用意してありますからただでは済みませんよ」

 

「呪いか、どんな物かは聞かないでおこう」

 

「そうして下さい。さて、そろそろ本来の目的である特訓を始めますよ。まずは説明がありますので食堂まで移動して下さい」

 

食堂に移動してからホワイトボードを用意してペンを走らせる。

 

「さて、皆さんに説明するのは僕の無限の剣製の仕様についてです。先日お渡しした発注書だけでは伝わっていない部分の説明です」

 

「おい、オレは既に全部発注し終わってるんだぞ!?」

 

「ええ、そうですね。ちなみに全部作り終わっているので後で取りに来て下さいね。それにこの中で戦闘力は明らかに上位に入るんですから1年位我慢して下さい」

 

ホワイトボードに仕様を書き終えたのでペンを置いて説明に入る。

 

「分かりやすい様にそれらしい言葉で書いてあるけど僕が無限の剣製で剣を作る方法は2種類ある。一つは見た事のある剣を僕が再現出来る範囲で再現する方法、もう一つはこのホワイトボードの説明を読んで貰えれば分かる通り基本の剣をカスタマイズして作る方法です」

 

ホワイトボードの一番上には

 

鉄の剣 攻撃力50 剣の容量300

 

と書いてあります。

 

「これが基本のベースです。この内、剣の容量を消費して」

 

鉄の剣(炎の聖剣) 攻撃力50+(100×3) 剣の容量0 特性 切れ味UP(10×3)、耐久性UP(10)、炎熱(20)、対堕天使(200)、聖剣(20)、肉体強化(20)

 

「こんな風に強化していきます。()内の数値はコストですね。対堕天使のコストが凄い事になっていますが、効果的には攻撃力を5倍にして継続ダメージ付きだと考えてもらうのが一番ですね。聖剣と化してもいますから悪魔に対しても同様です」

 

「そうなると対堕天使の特性の効率が悪すぎるな」

 

「そこは僕の慣れ次第でコストが下がるのですが、対堕天使用を使う機会が殆どありませんでしたので。慣れれば10分の1位までは減らせるんですけどね。まあ今は置いておきましょう。次は剣そのものについてです」

 

一般的なサイズの片手で使うタイプの剣を一通り産み出して並べる。その隣には半分位のサイズの物を用意する。

 

「先程の説明の中にあった攻撃力と剣の容量ですが、ここにあるもの全て同じ攻撃力と容量の物です。つまりは剣の種類や大きさは剣自体の強さとは関係ありません。もちろん使い手によって威力は変わってきますので。また、大きさと剣の容量のが関係ない事を限界まで活用したのが僕の強さの秘密です」

 

新たにナイフを一本産み出し、それを持って右の脇腹に突き刺す。驚いている皆さんを無視して、傷口に指を入れて奥の方にある小指の爪のサイズの肉体強化の魔剣を取り出す。

 

「っぅ、これが剣の容量を減らさずに作れる一番小さなサイズの物です。これは容量の全てを肉体強化に当てています。手に取って魔力を通せばそれが分かります」

 

魔剣の血を拭き取り、魔術の火で軽くあぶって消毒してから皆さんに確認してもらう。その間に軽く止血だけして傷口は開いたままにする。後で元に戻さないといけないので。

 

「こう言った魔剣や聖剣を体中に埋め込んで強化しているのが僕の強さの秘密です」

 

「なるほどな。強化の効率がかなり、というかオレが知る限りで赤龍帝の篭手の倍化の次に良いな。こう言った物を複数装備していれば確かにアレだけの強さを持っていてもおかしくはないな。それに簡単に強くも成れる」

 

「まあ欠点もありますよ。自分の限界以上に強化すると酷い目に会いますし、取り替える時は先程みたいに身体を切って埋め込んだり取り出したりする必要がありますから」

 

説明を続けながら返された魔剣を再び埋め込んでから治癒する。

 

「と言う訳で、基本的に僕に発注する刀剣類はこういう強化系の物を体内に埋め込むのを前提にした物が一番効率がいい方法です。今なら特別サービスで埋め込む作業も手伝いますよ」

 

「いやいやいや埋め込む以外の選択肢はどこにいったんっすか!?」

 

「埋め込まなくてもアクセサリーとして身につければ強化出来るんですけど、戦闘中に外れると致命傷になりますからね。埋め込むのが一番安全なんですよ。切り落とされたりしても肉体の一部と認識していれば強化が外れる事は無いですから。聖剣事件の際にバラバラにされても平気だったのもそのおかげですから」

 

治癒とか痛覚遮断の聖剣は両手両足の甲と喉の奥辺りに埋め込んで十字を作れる様にしてますから。半分以下の性能だと聖剣の十字架に身体を焼かれて死んでしまいますからね。今は問題無いですけど。

 

「ちゃんと麻酔をかけて痛くない様にしますから安心して下さい。これでもバラっ、こほん、解た、もとい、切開は得意ですから」

 

「何で言い直そうとして諦めてるんっすか!?」

 

「いえいえ、ちゃんと意味は変わっていますよ」

 

「けど言い直したって事はどれも得意なんすっよね?」

 

「もちろんです。これでも幼い頃より色々と経験してきていますからね。何事も経験を積めば得意になりますよ。一番多くバラっ、解た、捌いた数が多いのは堕天使ですね」

 

「捌いたって言った!!今、捌いたって」

 

「研究の為の尊い犠牲です。無論、そこらに居た堕天使ではなく指名手配されている堕天使ですから安心して下さい。さすがに擁護出来ない様な事をしていた様な奴らですから簡単に殺さずに捌かせてもらいましたよ」

 

あまり思い返す事すらしたくない位の悪逆を行っていた堕天使を捌いたことを思い出す。あれは教会から逃げ出して死霊秘法(ネクロノミコン)を見つける少し前の頃でしたね。

 

ギリギリ村と呼べる場所に立ち寄った際に出会った三体の堕天使、いえ、あれはただのゴミですね。村の住民は全員殺されていました。それも無惨にもバラバラに引き千切られたりして。

 

それ位なら別にここまでキレたりしませんよ。ただそいつらはただでさえバラバラになっている死体を弄び、魂すらも玩具にして遊んでいたのだ。力ある魔導書に触れる前だった事もあり、その行為は邪神に弄ばれる者達と感じた僕の怒りは無限の剣製を禁手化させ、その感情のままに力を振るった。

 

その結果に残ったのは虚しさと、ゴミの処分に時間をかけ過ぎてどうする事も出来なくなった村の人達の魂と、ゴミだけだった。

 

「過去話は面白くもないので止めにして、とりあえず20枚の内5枚は強化系を埋め込む方向にして下さいね。アザゼルさんは十分に強いので1年間は今のままで頑張って下さい。剣に付けれる特性はリストを用意してありますのでそれを見て考えて下さいね。今日はそれだけです」

 

収納の魔法陣からリストを取り出して配布します。

 

「僕はこの後、少し用事で出て来ます。昼食と夕食は下ごしらえを終えていますので後は簡単な調理で済みますので」

 

「用事ってなんだ?」

 

「アザゼルさんも一緒に来ますか?手伝ってくれるのなら注文書をもう一枚用意しますけど」

 

「用事の内容にもよるな」

 

「ただのゴミ掃除(ハンティング)ですよ」

 



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第22話

 

「ちっ、シャルバ・ベルゼブブには逃げられてしまいましたか。意外とやりますね」

 

「おい、これのどこがちょっとしたゴミ掃除だよ!?」

 

「禍の団の旧魔王派全員が集った所で僕とルゥで過剰戦力ですから。そこにアザゼルさんが加わった所で大した違いはありませんから。あっ、ルゥ、頭だけは残しておいて下さいね。それ以外は食べさせて良いですよ。残しておいて腐ったりしたら嫌ですからね」

 

「は~い。おいで、ダンセイニ。頭以外は食べていいって」

 

頭の上に乗っているちびルゥに召還されたショゴスのダンセイニが禍の団・旧魔王派のメンバー約3000人の死体を体内に取り込んでいく。周囲は屋敷が建っていたと思わせる柱が幾つか残ってはいるけど焼け野原の様な状況である。

 

情報屋からの情報を頼りに旧魔王派の集会を襲撃したんだけど、トップを殺し損ねてしまいました。幹部クラスの何人かも集会に参加していなかったので多少残っています。まあ実行部隊の内の強い部類に入るのは大抵殺せたので問題無いですね。

 

「ますたー、なんか変なのがいるってダンセイニが」

 

「変なの?」

 

「ダンセイニ」

 

ルゥに言われてダンセイニが吐き出した物は真っ黒な蛇だった。

 

「ほう、初めて見ますがおそらくはオーフィスの力の一部である『蛇』でしょうね。何人かが貰っていたのでしょう。実験用に一匹確保しておきましょうか」

 

ダンセイニから逃れようとする一匹を試験管に入れて厳重に封印を施してから収納の魔法陣の中に放り込んでおく。

 

「オレも貰っといていいか」

 

「どうぞ。取り扱いにだけは注意して下さい。たぶん、体内に入れる事で肉体に変化を起こすタイプです。絶対に口や鼻、傷口に近づけないで下さい」

 

「分かってるよ」

 

アザゼルさんも僕と同じ様に試験管に蛇を入れて封印している。

 

「そろそろ引き上げましょう。サーゼクス様に連絡も入れないといけませんから」

 

アザゼルさんを引き連れてアスタロト家の別邸を後にする。もちろん残った頭は殺した証拠として持ち帰る。変装系の魔法で成り代わられても面倒ですから。まあ旧魔王派であった証拠は既に確保済みですので成り代わろうなんて思う物は少ないでしょうが。

 

今回の件で幾つかの家が潰れる事になるだろうな。特にアスタロト家は致命傷を負った。次期当主のディオドラが旧魔王派の中でも上の方に属し、先程死にましたから。

 

「それにしても一方的な戦いだったな。いや、戦いにすらなってないか」

 

「結界を張って逃げれない様にしてからそこそこ質の良い魔導書を放り込んで精神汚染を行ってからの襲撃ですからね。アザゼルさんの方は大丈夫ですか?」

 

「ああ、事前に貰った魔剣のおかげだろうな。特に問題はねえ」

 

「それは良かった」

 

転移の魔剣を取り出してサーゼクス様の屋敷にまで転移する。アザゼルさんも付いて来ていますが問題無いでしょう。門で訪問理由を告げるとすぐに屋敷に通され、執務室に案内されます。

 

「早速動いたようだね」

 

「ええ、反乱分子なんて物は早めに潰すのが一番です。情報を集める為に泳がす必要も無い程に情報は集っていますから。それで、確認用に頭だけは回収してるんですが」

 

「大物の分だけで良いよ。あとで部下に確認させる」

 

「人数を用意しておいた方が良いぞ。今日だけで3000も殺ってるからな」

 

失礼ですねアザゼルさん。2700程ですよ。

 

「分かりました。それから、まだシャルバを仕留めれていないので旧魔王派は再起する可能性もありますので公表は保留しておいて下さい」

 

「ふむ、そうだね。君がそう判断するならそうしておこう。ああ、それからアジュカから連絡があってね。明日、例のパスが切れた二人を連れてきて欲しいと言って来ている」

 

「分かりました。それではそろそろ帰らせてもらいます。タイムセールが始まりますので」

 

お一人様1パック限り鶏ムネ肉が1kg380円なんですから大量に買い込まないといけないんですから。白音さんやヴァレリーさんやグリゼルダさんやミッテルトさんも引き連れて買いに行かなければならないんですから。ギャスパーや紫藤さんがあの戦場を生き残れるか分かりませんし、ゼノヴィアさんは力の加減を間違えそうですから連れて行けません。逆にミッテルトさんは意外と強かなのでちゃっかり確保してくれますので重宝しています。と言う訳でとっとと帰りましょう。

 

 

 

 

 

 

 

旧魔王派の首をサーゼクス様の部下に引き渡した翌日、僕と白音さんとギャスパーはアジュカ様の研究所で色々と検査をされました。基本的な健康診断的な物も含めて本当に様々な検査が行われましたので朝から夜遅くまでかかった。

 

「とりあえず結論から言わせてもらおう」

 

アジュカ様がカルテから目を離して検査結果を簡潔に言い切る。

 

「多少のバグは認められるが概ねは正常だな。リアス・グレモリーの駒はお前の駒に吸収された」

 

「吸収ですか?」

 

「そうだ。悪魔の駒に搭載してある隠し機能の吸収が発動している。だが、本来ならお前の駒が吸収されるはずだったんだがな」

 

「どういうことですか?」

 

「本来、この機能は相手の眷属を無理矢理奪おうとした際の防御機能として搭載していた物だ。推測だが、リアス・グレモリーの駒がお前の駒を吸収しようとしたんだろうが、力負けして逆に完全に吸収されたんだろうな。結果としてリアス・グレモリーとのパスが完全に切れたんだろう」

 

「そんなことありえるのですか?」

 

「起こってるんだから事実として受け止めるしか無いだろう。それにしても平均の倍近い太さのパスが繋がってるな。普通ならありえないんだが、パスが太い分能力が上がっているだろう」

 

「はい、部長の時とは比べ物になりません」

 

「僕も停止世界の邪眼の力を完全に押さえ込める様になってます」

 

「ということだ。それ以外におかしな部分は無いな。だが、何かあればすぐに報告に来て検査を受ける様に。お前は特に貴重なケースだからな」

 

「そうですか?」

 

「他の奴でも試してみたんだが、複数の種族を受け入れれる者は極僅かだった。そして3種族全てを受け入れれたのはお前一人だ。普通なら拒絶反応を起こして死にかけるはずなんだがな。実に興味深い存在だ」

 

まあ魂は三つが混ざった物ですし、前世の記録もありますからね。話す気は全くありませんけど。

 

「そちらの方の原因は分かりますか?推測でも構わないのですが」

 

「幾つか考えられる。一つは相性の問題、一つは魂か肉体の容量の問題、一つはあの魔導書の影響、とりあえず有り得そうなのはそんな所だ」

 

「調べるのは難しそうですね。今回の検査の結果をコピーさせて頂けますか?自分でも調べてみようと思います」

 

「構わないが、何か分かればこちらにも報告する様に」

 

「もちろんですよ」

 

三人分の検査結果のコピーを貰い、僕達はアジュカ様の研究所をあとにします。

 

「それにしても部長の眷属から完全に離れちゃいましたね。すみません」

 

「祐斗さんが謝る必要は無いです。それに祐斗さんの傍に居れば今まで通り襲われる事はないんでしょう?」

 

白音さんの質問にある襲ってくる相手とは初めて出会った時の様な悪魔達の事でしょう。

 

「はい、その点は大丈夫です。というか『断罪の剣』に喧嘩を売る事になりますから以前よりも安全です。魔王様の保護は確かに強力ですけど、魔王様自身の腰は本人の意志に反して重いですから。逆に『断罪の剣』はフットワークの軽さが売りです。手を出したら次の日には滅んでいても不思議ではありませんよ」

 

その返答に白音さんは嬉しそうにしています。

 

「それなら良いです。今までと生活が変わらないのなら。それに今の方が私の目標を達成しやすいですし」

 

「お姉さんの事ですか」

 

「はい。今でも悩んでいるんです。姉様は、本当に悪意に飲まれてしまったのか。少しだけ調べれたんですけど、私達を拾った悪魔は悪い噂が絶えないんです。むしろ、姉様に殺されたあとに騒いでいたのが個人的に友好のあった者達だけだったらしいんです。だから、姉様がはぐれになったのも何か訳があるはずなんです。それを私は知りたいんです」

 

ああ、もうそこまで辿り着いたんですね。う~ん、黒歌さんの情報は僕も持ってるんですけどもう少し隠しておきましょう。まさかヴァーリチームに居るから処刑対象なんて話し辛いですし。まあ白音さんが望むのならなんとか処刑せずに引き抜きますけどね。かなり荒っぽい上に強引にですけど。

 

「ギャスパーはどうです?」

 

「僕も大丈夫です。今までと変わらないですから」

 

まあそうですね。サーゼクス様から僕が面倒を見る様に言われてましたから悪魔の活動以外は全く変わらないんですよね。悪魔の仕事も場所が変わるだけですし。

 

あれ?二人合わせても部長の眷属から離れるデメリットがほとんど無い様な。いえ、世間体は……悪くなるのは部長の方だけですね。僕達は三勢力のトップの要請で創設された部隊ですから、そこに配属されると言う事は名誉なことです。ですが、眷属だけが配属されて主が配属されないと言う事は、まあ言わなくても良いですね。分からないとは言わせません。

 

まあこれ以上考えるのは止めておきましょう。考えても無駄ですから。そんなことより明日から本格的に始める訓練の事を考えましょう。アザゼルさんとも話し合って各個人のお題は考えてありますから、あとは僕自身の強化を考えませんと。魔導書の写本の情報が回ってきていますし、回収して研究でもしますか。

 



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第23話

「木場、オレを鍛えてくれ!!」

 

検査が終わった翌日、冥界側の屋敷にイッセー君がやってきて、そう言ってきた。

 

「無理です」

 

即答してミッテルトさんの戦闘服の加工を続ける。ミッテルトさんはウチで一番弱いですから色々と優遇して底上げしないと行けませんから。もちろん、特訓はスペシャルコースです。甘やかすだけではいけませんからね。

 

「えええええ!?いや、代価はちゃんと払うから」

 

「うん、無理。イッセー君が代価を払えないとか以前の問題なんだよ」

 

なお食い付くイッセー君に事情を説明する。

 

「僕、戦闘職じゃなくて研究職の人間だから鍛え方なんて知らないんだ」

 

笑いながら説明するとイッセー君がぷるぷると震えだした。まあお約束のアレだろうから遮音結界を張ってと。

 

「―――――」

 

何を言っているのか分からないけど、たぶん『嘘だ!!』的な事を言ってるんだろうね。

 

「――――――――――」

 

聞こえていないのに気付いたのか身振り手振りで何かを伝えようとしていたので遮音結界を解除する。

 

「あっ、やっと聞こえる様になった」

 

「今はルゥがお昼寝してますからね。機嫌が悪いとちょっと大変な事になりますから。それで、話の続きをしましょうか。長くなるので覚悟して下さい。僕は研究職の人間ですけど確かに強いです。正確に言えば『戦闘が巧い』と言うのが正しい表現です」

 

「『戦闘が巧い』?」

 

「孫子にもあるでしょう。『敵を知り己を知れば百戦危うからず』って。僕は自分が出来る事を完璧に研究し尽くしています。聖剣事件の時が良い例ですね」

 

「ああ、片腕以外切り落とされてたアレか」

 

「あれだけボロボロになっても問題無いって言うのは既に知っていますから。ゲームで言えばあの状態でもHPは4割程残ってますから。ついでですからゲームに例えて説明すると僕は自分のステータスから消費魔力とか格ゲーのコンボとか運用方法が攻略wiki並に詳しく分かってると考えて下さい」

 

「ほうほう」

 

「だけど、それら全てを無視する位に無限の剣製の汎用性と威力が強すぎるんです」

 

「おいこら、さっきの前振りは何なんだよ?」

 

「それも後で話すから。さて、無限の剣製だけど簡単な説明をしようか。まずはイメージ通りの剣を作れる。これにイメージだけでなく詳細な設計図を用意すると性能がかなり上がるんだ。詳しい詳細は秘密だよ。それから強力な剣を作る程魔力を消費する。当然の事だよね。次は、一度作った剣を再度調整する事は出来ないんだ。一度能力とかを決めて作るとそれで固定されるんだ。後は、ある程度破損すると消滅するんだ。これは見せた方が早いね」

 

適当に一本の剣を作って剣先を少しだけ折る。

 

「これ位の欠けや刃こぼれなら問題無いんだけど」

 

剣先から10cm程の所で再度剣を折ると魔力となって霧散していく。

 

「これ位で駄目になる。もっと強力な剣ならもう少しは耐えれるんだけどね。次は、いつも僕は手元に剣を作ってるけど別に手元にしか作れない訳じゃないんだ。僕が認識出来る位置なら何処にでも作れる事が出来るんだ」

 

「それって意味があるのか?」

 

「これだけだとあまり意味がないんだけど、無限の剣製で作った剣はその内包した魔力を使って僕の意思一つで爆破出来るんだ。バルパーは僕の作ったエクスカリバーを芯にして統合してたから不純物が混じっていても凄い爆発を起こしたんだ。さて、何処が凄いと思いますか?」

 

「何処でも爆破出来る?」

 

「そうですね。より詳しく言うなら、どんなに警備を厚くしても場所を知られれば爆破され、対峙すればあの時のケルベロスの様に体内に爆弾を仕掛けられるということです。あと、僕はあちこちに顔を出しているので天界、冥界両方の重要拠点の位置も知っていますから」

 

その言葉で無限の剣製のチート具合に気付いたイッセー君が青ざめます。

 

「この時点で僕はそれほど接近戦を鍛える必要がないんですよ。剣の精製速度と爆破速度を上げれば完封出来ますから」

 

「ああ、うん、そうだな」

 

「それでも接近戦が弱いのかと言われればそうでもありません。まあイッセー君が考えている様な強さではありませんけどね。少しだけ見せてあげましょう。付いてきて下さい」

 

イッセー君を地下にある訓練場に案内します。

 

「おや、祐斗じゃないか。どうしたんだ?確かミッテルトの服に術式を編み込んでるんじゃなかったか?」

 

訓練場に着いた僕達に気付いたゼノヴィアさんが声をかけてきます。

 

「ゼノヴィアさん、紫藤さん。少しだけ剣に付き合ってもらえますか」

 

「ほう、祐斗がそんな事を言うなんて初めてだな。イリナ、聞こえていたか」

 

「聞こえてるよ。でも今ミッテちゃんを鍛えるのに忙しいし」

 

イリナさんは擬態の聖剣を鞭の様に撓らせてミッテルトさんを追いかけながら答える。

 

「これの何処が鍛えてるって言うんっすか!?って、うわっ、掠った!?ちょっ、痛い痛い痛い!!」

 

「はいはい、今回復薬をかけてあげるから大人しくしてね」

 

イリナさんが側に置いてある回復薬を傷口にかけていく。若干爛れていたミッテルトさんの肌が元に戻っていく。

 

「そんなに時間は取らせませんよ。ミッテルトさんはその間は休憩と言う事で」

 

「武器はどうするの?」

 

「そのままで構いませんよ。こちらは寸止めをしますから、そちらは頭以外を狙って下さい」

 

「OK、それじゃあ」

 

「行かせて貰う!!」

 

傍に居たゼノヴィアさんの破壊の聖剣の一撃を躱してから跳躍して距離を取り、両手に白と黒の夫婦剣を精製する。そして、アーチャーの記録をその身に宿す。

 

「全力で来ると良い」

 

無防備に立ち、攻撃を誘う。斬り掛かってくる二人の聖剣を流し、反らし、弾く。破壊の聖剣を受ければこちらの剣が砕かれるのは確定している。擬態の聖剣を受ければそこから形を変えて斬られる。ならば、流して反らして弾いてリズムを覚える。

 

どれほど続けたのかは分からないけど、服の至る所が小さく破れて血に染まっている。傷の方は既に塞がっているけど、それだけの攻撃を掠らせてしまったと言う事だ。だが、それだけの価値はある。既に二人のリズムは身体に刻んだ。ここからが本番だ。

 

わざと攻撃しやすい位置に隙を作り、そこを突いてきた攻撃にカウンターを合わせる。驚いてバランスを崩す二人に畳み掛ける。わざと隙を作り、カウンターを合わせてリズムを崩し、少しずつ消耗させていく。機械的に作業を繰り返し、二人の戦う意思を削っていく。そして完全に消耗しきった所でその首に剣を突きつける。

 

「はい、それじゃあ問題点の洗い出しを各自でしておいてね」

 

夫婦剣を互いに折って消滅させる。

 

「これが僕の接近戦の強さだよ。イッセー君とは真逆の戦いだから、真似はしない方が良いよ。というか、出来ないと思うけど」

 

「ああ、うん、オレには無理そうだけど、接近戦も十分強いじゃねえかよ!?」

 

「強いんじゃないよ、巧いだけだよ。今の僕の戦いを見て何か感じた事はないかい?」

 

「えっ?そうだな、こうなんて言えば良いのか分からないけど、なんだろう、違和感があるはずなのに何がおかしいのかが分からない。何かがおかしいはずなのに」

 

「その違和感の正体が僕の接近戦の強さの秘密です。さて、これで分かっただろうけど僕がイッセー君を鍛えることが出来ない理由の説明にはなったでしょ?」

 

「だけど、イリナとゼノヴィアは鍛えれたんだろう?」

 

「あれは聖剣の力の引き出し方とエクソシストとしての基本の術を教えて、あとはライザー様とのレーティングゲームの前に行った合宿の時に戦ったページモンスターと戦わせたりしただけですから。というか、僕に弟子入りするよりドライグに直接鍛え方を教わった方が良いんじゃないですか?」

 

「もちろんドライグにも手伝ってもらってるんだけど、相手が居なくて」

 

「まあ、ルゥが暇な時にページモンスターと戦うぐらいならしても構いませんし、この訓練場も使って貰って構いませんけど、研究室とか地上部分のプライベート部分には入らないでくださいよ。特に研究室と資料室と立ち入り禁止区画は絶対です。立ち入った場合、イッセー君でも殺しますから」

 

宣言通り、イッセー君が許可をしていない場所に足を踏み入れれば殺します。そうしなければ『断罪の剣(ジャッジメント)』の中立性が保たれませんから。

 

「……冗談じゃなさそうだな」

 

「ええ、たとえ相手が部長だろうが魔王様であろうが、許可無く入れば消します。鬼械神を持ち出してでも消します。それだけは覚悟していてください」

 

「分かった。気をつける」

 

「そう言えば、イッセー君はマナーを習っていますか?それからダンスや悪魔の一般教養は?」

 

「一応グレモリー家の執事さん達に習ってるよ。そう言う木場達は?」

 

「僕は教会時代から習っていたからほとんど問題なかったね。白音さんは眷属入りした時に習得したし、ルゥもミリキャス様と一緒に習ってるから最低限のマナーは出来ているよ。アザゼルさんはあんなのでも元総督だから問題ないね。グリゼルダさんも問題は無いしミッテルトさんも飲み込みが早いんだけど、問題はゼノヴィアさんと紫藤さんでね」

 

「ああ、納得」

 

「なんとか教え込みますけどね。ルーキーが集まるパーティーまでには」

 

「木場も呼ばれてるんだな」

 

「一応ね。この前、掃除がすんだから余裕があるならちょっと顔見せに来てほしいと言われてね。新興組織だからまだ広く知られてないから宣伝に使えそうだから参加するんだ」

 

「けど、大丈夫なのか?天使とか堕天使も居るのに」

 

「大丈夫ですよ。喧嘩を売ってくれば最高値で買い取らせてもらいますから。死なない程度に痛めつけてあげますよ」

 

「……木場って、結構あくどかったんだな」

 

「そうですか?」

 

ああ、汚染が進んでいるみたいですね。後でちゃんと処置を施さなければなりませんね。自覚症状が無いのが汚染の一番厄介な所なんですよね。

 

 

 

 

 

 

お昼寝から起きてきたルゥにイッセー君が鍛えるのにちょうどいいレベルのページモンスターを呼んでもらっている間に人間界の屋敷の特殊なポストに届いている郵便物を確認する。このポストに届くのは人間の裏の業界からか、僕個人と友好のある人物たちから送られてくる物ばかりなので立ち入り禁止区域の研究室に持っていってから広げる。

 

ふむ、マスケレイタさんは復讐を為し遂げれたみたいですね。これからは復讐の旅の間に保護した子供たちを一人でも生きていけるように鍛えていくのですか。何か協力できることがあれば遠慮なく言って来てほしいと返信しておきましょう。

 

こっちはレイナーレさんの経過報告ですね。実戦にはまだ遠いみたいですけど順調に過ごしているみたいですね。実戦の機会は幾らでもありますからじっくりと鍛えてもらいましょう。

 

こちらはドクターからの資金援助の申し込みですか。色々とお世話になっているので僕のポケットマネーから出しておきましょう。

 

最後の一つは、情報屋からです。内容は、2年前から頼んでいた件についての詳細な報告。この報告を待っていたんですよ。これと以前から集めていた情報を使えば。ふふふ、さあ交渉を終わらせておきましょう。そうすれば多少の無茶を押し通せますから。情報屋にもボーナスを渡しておかなくてはいけませんね。

 



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第24話

久しぶりに文字数が6000を超えた。
今回のお話は内容をちょっと詰め込んでます。
だけど、話が殆ど進んでないのってどういう事なんでしょう(´・ω・`)


「これで皆さん揃いましたね」

 

食堂に眷属の皆が揃ったのを確認して声を上げる。

 

「今回集ってもらったのは僕達『断罪の剣(ジャッジメント)』のお披露目と若手悪魔に喧嘩を売りにいく打ち合わせです」

 

「おいおい、喧嘩を売りにいくのかよ」

 

アザゼルさんが呆れながら答えますが理由があるんですよ。

 

「ちなみに天使と教会の方でも堕天使の方でも同じ事をします。理由なんですが、前者の方は僕達の存在の公表と宣伝の為です。領地に無断で侵入する事もありますから存在を知られていないと面倒ごとが起きますからね」

 

「ああ、そうれは分かる。それで、後者の理由は?」

 

「後者の理由なんですが、天狗になっている若手の鼻を折る為です。血気盛んで感情で動く若手は何処の勢力にも存在しますから余計な被害を出さない様にする為の篩にかける為に喧嘩を売ります。それはもう実戦の様に汚い手を使いまくりますよ。まあ、レーティングゲームになるでしょうから反則行為も視野に入れた戦略で戦っていきますのでそのつもりで」

 

僕の言葉にルゥ以外の全員が引いていますが仕事と割り切ってもらいます。

 

「まあそれでも無理矢理戦おうとするのもいると思いますので先手を打って残党狩りを目的とした下位部隊を設立する許可をとってます。まあ既に僕の中でリストアップは済んでいるんですけど、本番に強い人もいるかもしれないのでそれをレーティングゲームで確認します」

 

出来ればサイラオーグ・バアルだけは確保したいんですよね。それからソーナ・シトリーと真羅椿姫、それからレグルスとアリヴィアンも確保出来れば安心して活動を独自に任せられるんですけどね。

 

「と言う訳で打ち合わせなんですけど、基本は僕が挑発しますから話を合わせたりたまにアドリブで煽って下さい。攻撃してきたら殺さない程度に反撃は許可します。沸点が低そうなのはリストアップして簡単なプロフィールもまとめてありますから参考にして下さい」

 

リストを皆に配ってしばらくした後、何人かが吹いて笑いを堪えていた。

 

「ゆ、祐斗さん、ふふっ、結構、根に持ってたんですね」

 

白音さんが笑いを堪えながらリストのとあるページを見せてきました。そこに書かれているのは、リアス・グレモリー。僕の元主だ。挑発するネタが多過ぎて逆に困る存在だ。まあ傍に居たからこそ分かることなんだけどね。

 

「客観的に箇条書きしているだけです。ええ、私情なんて一切入っていませんよ」

 

「私情が入ってないのにこれだけの事が上がる方が問題だぞ」

 

「色ボケに子供みたいな性格って、王としてどうなの?」

 

「紫藤さん達は人の事言えないでしょう。僕がガブリエル様に手紙を出していなかったら絶対に二人だけでコカビエルに挑んでいたでしょう?」

 

「さあ、なんのことやら」

 

「全然分からんな」

 

「棒読みありがとうございます。『断罪の剣(ジャッジメント)』に居る限りそんな事はさせませんから。それはさておき何か質問はありますか?」

 

「オレから一つあるな。レーティングゲームに関する事だが、オレも出るのか?明らかに過剰戦力だが」

 

「もちろんです。僕も王として必ず出る必要がありますから。まあ基本的には陣地で僕と留守番になるはずです。場合によっては司令官みたいな役はやってもらいます。少なくとも僕よりは適正があるでしょう」

 

「まあな。これでも大戦を生き抜いてないぞ」

 

「僕は単独行動が基本でしたからね。傍で勉強させてもらいますよ」

 

「オレからはそれ位だな。ああそうだ、報告が遅れたが赤龍帝に元竜王のタンニーンを紹介した。今頃は龍同士で鍛えられてるはずだ」

 

「なるほど。なら、若干イッセー君の戦力予想を上方修正しておきますか」

 

軽く様子も見ておきましょうか。どういう鍛え方をしているのか気になりますしね。

 

「他に報告が無いようなら解散ですが」

 

特に誰も言うことが無いようですので解散します。さあて、今日の夕食は何を作りましょうかね。野菜の幾つかが痛みそうですから使い切らないといけないのですが、そのまま出すと紫藤さん達が押し付け合いをするのが目に見えていますから、この際冷蔵庫の整理の為に天麩羅にでもしますか。豚肉もこの前ブロックで購入したからかなり分厚いカツも作れる。確か明後日の特売で油も安かったはずですから反対する理由は無いですね。

 

「祐斗さん、手紙が届いてますよ」

 

下ごしらえを終えた頃、白音さんがキッチンにやってきてA3サイズの封筒とは別に持っている普通の便せんを僕に渡して来た。差出人を確認するとF・Sとなっている。

 

「おや?珍しい人からの手紙ですね」

 

中身を読んでみる。

 

「祐斗さん?」

 

「……すみませんが用事が出来ました。夕食なんですが、グリゼルダさんと一緒に天麩羅を用意して下さい。下ごしらえは済んでいるので後は、揚げるだけですので」

 

「何かあったんですか。その、もの凄く悲しそうな顔してますけど」

 

「……エクソシスト時代の知り合いの訃報です。顔、見てきます」

 

白音さんから逃げる様にキッチンから飛び出し、指定された場所に転移する。

 

 

 

指定された場所は寂れた港の一角にある倉庫だった。倉庫の中に入ると、積み上げられたドラム缶に背中を預けているフリードを見つける。

 

「……やぁ、鍛冶屋さんか。やっと来て、グゥッ!?アアアアアアッ!!」

 

急に苦しみだしたフリードに駆け寄ろうとする。

 

「フリード!!」

 

「来るな!!来ないでくれ!!もう時間がない!!」

 

だが、それを

 

「……分かった。だが、痛覚遮断の魔剣を受け取るんだ。正確な報告が欲しいから」

 

何かに苦しむフリードに痛覚遮断の魔剣を投げ渡す。魔剣を受け取ったフリードの呼吸が少しずつだが整っていく。

 

「すまねぇ、世話かけて」

 

「気にする必要は無いよ。さてフリード、君が手に入れた『禍の団』の情報を報告してくれ」

 

「『禍の団』は、戦力を欲してる。その為にかなりの規模の実験を行ってる。オレッちが掴めたのは、神器の強制禁手化と、人や天使や堕天使や悪魔を使ったキメラ製造、そして教会がやっている聖剣を扱う為の因子の移植。戦力として聖剣創造は少なくとも二人、内一人は禁手化している。それから魔獣創造が居る。オレッちが掴めたのは此所までで、不意打ちで身体をこんな風にされちまった」

 

フリードが神父服を魔剣で切り裂く。その下から現れたのは人でも悪魔でも天使でも堕天使でもない、何かの身体としか言えなかった。

 

「変なもんを植え付けられてから、そいつにこんな風に少しずつ浸食されて、自我を食い尽くされればキメラの完成さ。オレッちもそろそろ限界さ。だから、オレが人間であるうちに殺してくれ。化け物になんかになるなんてまっぴらご免さ!!」

 

「……それが望みなら、僕は友として君を殺そう、フリード・セルゼン」

 

苦しまない様に、一撃で楽にする為にカリバーンを作り出す。

 

「最後に聞いておくよ。何処に埋葬して欲しい?」

 

「……もう滅んじまったオレッちの故郷に、村の皆の墓があるのさ。ちょくちょく手入れはしてるから、今も綺麗に残ってる。家族の墓の、妹の墓の隣に。両親とはあまり仲が良くなかったから」

 

「分かった。必ず、そこに埋葬しよう。神への祈りは捧げないよね」

 

「オレッちからすれば神も化け物さ」

 

「ああ、そうだね」

 

カリバーンに魔力を通し、心臓に狙いをつける。

 

「さようなら、フリード・セルゼン。エクソシストの中で、最も人間を愛した者よ」

 

「さよならさ、木場祐斗。エクソシストの中でも最も変わり者で、己だけの神を信じる強い男」

 

別れの言葉と共にカリバーンをフリードの心臓に突き立てる。突き立てた瞬間に一度だけ身体が跳ね、そのままゆっくりと瞳から光が消えていく。

 

「おやすみ、フリード」

 

目を閉じさせて抱き上げる。昔、資料で見た事があるからフリードの故郷が何処にあるかは知っている。転移で故郷にまで跳ぶ。フリードの故郷は、一面に墓が広がる寂しい場所だった。あとで知ったのだがフリードの故郷は悪魔と天使の小競り合いに巻き込まれて滅んだようだ。

 

「フリードの人外嫌いはこの風景の所為なのでしょうね」

 

フリードの手作りと思われる墓を一つ一つ確認し、ようやく見つけたフリードの家族の墓は、他の人の物と同じ墓だった。フリードの妹の物と思われる墓の隣には丁度一人分のスペースが空いていた。そこに穴を掘り、収納の魔法陣から棺桶を取り出してフリードを寝かせる。あの世でも化け物と渡り合える様に聖剣と対魔弾の入った銃を持たせる。棺桶の蓋をして穴に棺桶を降ろして土を被せる。最後は十字を切る事もせずに他の墓と同じ様に近くに落ちていた石を墓石に見立てて名前を刻み込む。

 

フリードの埋葬を終えた僕はそのまま墓場を覆う様に結界を幾重にも張る。この地が二度と荒らされない様に、念入りに。全てが終わった頃には既に深夜の時刻であった。まあ、時差の関係上でまだ太陽が見えるけど。最後にフリードの墓に挨拶をしてから帰ろうと思う。

 

「フリード、君の仇は必ずそっちに送るから。仇は自分で取る方が良いでしょ?」

 

付き合いなんて殆どなかったけど、フリードならこういう風な挨拶が一番だと思う。

 

 

 

帰宅してとりあえずシャワーだけでも浴びようと思い門を潜ると、屋根の上で白音さんが膝を抱えているのが見えた。たぶん、手紙を渡してくれていた時に持っていた封筒、中身はたぶん情報屋からの黒歌に関しての報告で、それを読んだのが原因だろう。僕は翼を広げて白音さんの隣に降り立ちます。

 

「夏場とは言え、風邪を引きますよ」

 

僕の言葉に白音さんが驚き、距離を取ろうとして足を滑らせて、身体が宙に浮く。

 

「あっ」

 

「危ない!!」

 

いくら悪魔で戦車だとは言え、この高さから落ちれば怪我はする。打ち所が悪ければ最悪死さえ覚悟しなければならない。咄嗟に手を伸ばして白音さんを抱きとめて屋根から降り立つ。

 

「大丈夫ですか?」

 

「……はい」

 

抱きとめていた白音さんを放すと、白音さんはいつもより若干距離を離した位置に立つ。これは確実に僕が黒歌を殺すと思われてますね。まあ殺しますけど。

 

「何かありましたか?」

 

「…………祐斗さんにも言えない事です。これは私が自分で出さないといけない答えですから」

 

「……そうですか」

 

そう言われてしまえば僕が口出し出来る事ではありませんね。ですが、これだけは言っておきましょう。

 

「白音さんが何を悩んでいるのかは知りません。ですが、後悔する様な答えだけは出さない様に。僕が力を貸せるなら、いくらでも頼ってくれて構いません。昔から言っていますが、僕は聖職者です。それだけは忘れないで下さい」

 

これで伝わってくれれば良いんですけどね。この言葉の裏に隠された言葉が伝わっていれば、いえ、伝わっていて欲しいです。その答えは直前になった時に分かる。翌日からも白音さんとの距離が若干離れている。正確には白音さんが皆と距離をとっている。皆が心配しているが僕は白音さんの意思を尊重する様にとだけ告げる。

 

 

 

今日は若手悪魔達の会合の日。僕達は先にサーゼクス様達の席の後ろに待機している。登場の機会だが、それはすぐに訪れた。

 

「我々もいずれ『禍の団』との戦に投入されるのですね?」

 

「いいや、その可能性は低いよ」

 

その言葉と共にサーゼクス様の後ろから姿を現す。

 

「誰だ、貴様は?」

 

「はじめまして、サイラオーグ・バアル。僕は木場祐斗、悪魔と天使と堕天使、この三勢力の平和維持を目的として設立された独立部隊『断罪の剣』の王さ。『禍の団』は基本的に僕らが対処する事になっている。君たちが出る幕はほぼ無い」

 

「ああん?いきなり出て来てなんだ偉そうに」

 

「偉そうなんじゃない。偉いわけでもない。君との間に上下関係は一切無いだけだ。僕に命令出来るのは四大魔王の過半数の意思か、天使長か、神の子を見張る者(グリゴリ)総督のみだ。それ以外の命令を聞く必要も無いし、僕らに干渉する事は出来ない。君がグラシャラボラスの次期当主だとしても意味は一切無い。それこそ誰かの眷属でもない下級悪魔と同じ位にしかね」

 

「てめえ、なめんじゃねえ!!」

 

「舐めないよ。汚いじゃないか」

 

僕の挑発に耐えられなくなったゼファードル・グラシャラボラスが魔力弾を撃ってきた。おいおい、僕の傍にはサーゼクス様も居るのに、そんなに大きな魔力弾を撃ったら危ないよ。僕は空間接続の魔剣を産み出して放たれた魔力弾をゼファードル・グラシャラボラスの真後ろの空間に繋げる。魔力弾が消えた瞬間に背後からその魔力弾の直撃を受けたゼファードル・グラシャラボラスの両手両足にエクスカリパーを投げつけて床に縫い止める。

 

「サーゼクス様、ゼファードル・グラシャラボラスは失格でお願いします。この程度の挑発で周りが見えなくなるようなら邪魔にしかなりません」

 

「それは構わないが状況についていけていないようだ。説明をしてくれるかな」

 

「分かりました。それじゃあ説明するからちゃんと聞いてね。先程も言ったけど『禍の団』との戦には僕と僕の眷属で構成される『断罪の剣』が投入される。だけど見ての通り人数は少ないんだ。すでに『禍の団』を結構狩ってるんだけど、減った分だけ無理矢理戦力を増やす研究をやっているみたいでね。ならこっちも腰を据えて対処する為に予備部隊を作る事にしたんだ」

 

もちろん許可は取っている。まあ予算は殆ど回さないので使えそうな新人を集めてチームとして動ける様にしただけの部隊だ。

 

「将来的には残党狩りを任せる事になる。部隊を作って調子を見て、早ければ半年程で戦場に投入する事になるよ。ちなみに悪魔は悪魔で、天使は天使で、堕天使は堕天使で部隊を組む。その方がお互いやりやすいでしょう。活動区域なんかも種族ごとに分けてあります。その部隊の候補として今回は皆さんに集ってもらったのですが、早々に一人というか一組がリタイアです。此所までで何か質問はありますか?」

 

「質問良いだろうか?」

 

「どうぞ、サイラオーグ・バアル。ああ、敬語なんかは必要無いですよ」

 

「分かった。では、その下位部隊に入ると身分などはどうなる?」

 

「基本的には下位部隊所属と言う肩書きが増えるだけですね。この肩書きを政治に利用しようとしても殆ど意味を持ちません。勝手に勘違いする人はいるでしょうが、法的に力を持つ事はありません」

 

「なら、下位部隊に所属する意味は?」

 

「残党とは言え『禍の団』との戦闘が出来て、それが戦果として上層部に評価されます。ちなみに下位部隊に所属していない状態で、偶発的、自発的に『禍の団』と戦闘を行っても逆評価を受ける事がありますので覚えておいて下さい。特にリアス・グレモリーとソーナ・シトリー及びその眷属の方々は」

 

「私達が名指しなのは何故なのかしら?」

 

「色々と巻き込まれる要因があります。一つ目は赤龍帝が居ると言う事。昔から赤龍帝の周りは争いが絶えませんから。二つ目は駒王は今注目されている土地です。良い意味でも悪い意味でも」

 

「悪い意味?」

 

「良い意味は、三勢力での和平がなった土地です。後の歴史書にも記されるでしょう。悪い意味ですが、そんな土地で魔王様の妹が居ながらも一度は未然に防ぎましたが、既に大きな動きが二度も起こっています。その為に御しやすいと思っている輩が多いと言う事ですね。簡単に言えば管理不足です」

 

「なっ!?」

 

「最後、三つ目は僕達の人間界での拠点が駒王にあります。というか、僕の屋敷ですね。隠す気も無いので襲撃される可能性があります。まあ簡単に壊されたり占拠出来る様な代物じゃないですけどね。そこら辺はアザゼル元総督のお墨付きです」

 

「あの結界を抜いて屋敷に使われてる建材を傷つけれそうなのはサーゼクス位だな。最も傷ついても自己修復しやがるからやるなら結界の中枢ごとまとめて吹き飛ばす必要がある。それには大戦期の赤龍帝の一撃がいる。しかも結界の中枢とかをぶち抜いて占拠しようとしたら、別系統でコントロールされている防衛機構としてあの魔導書がバラまかれて一瞬にして廃人だ。オレなら絶対に敵にしたくないね」

 

「まあそういうことです。話を戻しまして、駒王は狙われやすいのでそこに住む以上巻き込まれるのを前提に動いて欲しいんですよね。変なことに巻き込まれたらすぐに退いて連絡、これが出来ないなら駒王から離れてもらった方が楽です。何時の時代も何かを守るのは難しいですからね。負担は出来るだけ軽い方が良いんですよ」

 

「つまり私達は足手まといと言いたいのね」

 

「ハッキリ言えばそうです。それは僕の眷属にも言える事です。足手まといにならない最低限のラインが鬼戒神を所有する事です。鬼戒神を所有すると言う事は外なる神々共に対抗する為の邪法を身につけると言う事です。その邪法を身につけるには素質が必要です。努力などでは絶対に覆す事は出来ません。ちなみに僕は素質的には最低ラインです。おかげで髪がこんな風に白くなってます。昔は綺麗な金色だったんですけどねぇ」

 

「待て、素質が最低ラインと言うことはそれほど強くないと言う事か?」

 

「いえいえ、邪法の力にどれだけ耐えれるかと言うだけです。威力に変化は無いです。威力が変化するのは扱う魔導書の質によります。僕の持つ魔導書はかなり質の高い物です。質が高いおかげで逆に何とかなっていると言っても過言ではないです」

 

「ちなみに耐えられないとどうなる?」

 

「廃人確定ですね。ですから、手を出そうなどと考えない様に。此所に居る皆さんに素質が無い事は分かっていますから。素質を持っていても精神的にねじ曲がる事が多い物です。触れないのが正解です。ねぇ、アザゼル元総督」

 

「うるせえな。とりあえず素質が無いのにちょっと足を突っ込んだ結果を説明するぞ。短気になって幻聴とかが聞こえてきてついでに光力も1割ちょい落ちた。現在治療中、完治に半年と言った所だ。ちなみに治療が可能なくらいの軽傷だったからこんな物だ」

 

「ちなみに僕は治療が不可能な軽傷です。元から力の無い人間でしたので髪の毛が変色しただけで能力や精神に異常は見られません。まあ、自覚症状が無いだけかもしれませんが。この話はこれ位にしておきましょう。詳しく話すには時間が足りませんから。話を続けます。この下位部隊ですが、若手の中からメンバーを選出します。これは悪魔の勢力が王とその眷属を一つの部隊として見立てて活動する事が多く、部隊のメンバーが異なると本来の力を発揮出来ない事があるからです。その為にまだ戦術などが確立されていない若手だけでの混成部隊を作ることになっています。そしてこの下位部隊へのメンバーの選出は既に終わっているのですが、あくまで書類上の情報だけで決めた物です。納得出来ない者も多いでしょう。なので此所に居る者達でのレーティングゲームの大会を開催します」

 

僕の宣言に若手の皆さんが驚く。

 

「今回のレーティングゲームの大会ですが、少し変わっています。まあ僕との試合の時だけです。僕との試合に関しては公式の勝敗には関係しません。大会的にはそれだけですが、僕との試合は下位部隊への入隊試験でもあります。他のプレイヤーとの対戦でどれほど活躍してもそれを評価する事はありません。一度限りのアピール会場、それが僕との対戦です」

 

「少し気になってのですが、よろしいですか?」

 

説明の最中にソーナ・シトリーが挙手をして許可をとってきた。

 

「どうぞ」

 

「先程、入隊試験と言いましたが強制なのですか?」

 

「いいえ、入隊の許可は出しますが、最終的には個人の判断で入隊します。もう一度言いますが個人の判断です。眷属へ入隊の許可を出さないと言う事は出来ません。まあ説得されて折れる程度なら入隊しない方が良いです」

 

「……分かりました」

 

「他に質問はありますか?無いようならくじ引きを行います。僕とのゲームを行う順番です。運も実力の内です。逸早く戦場に立つ為に早い番号を願うのか、それとも合格ラインを超える為の修行時間を得る為に遅い番号を願うのか。自分の願う番号を引き抜く強運は英雄の必須技能です」

 

普通のトランプを取り出して、それをよくシャッフルを行い、王達にカットしてもらう。それが終わればテーブルの上に置く。

 

「僕が引いたトランプに近い順番で試合を行います」

 

そして何の気重ねもなく一番上のトランプを引く。

 

「おや、ジョーカーでしたか。これは番外ですね。ですので引き直しですね」

 

ジョーカーを山の隣に置いて、今度は一番下を引き抜く。

 

「ダイヤの4ですね。さて、次は誰が引きますか」

 

「オレが引こう」

 

僕が尋ねるとすぐにサイラオーグ・バアルが答えた。僕はダイヤの4を持ったまま少し離れる。

 

「こんな物は変に考えない方が良い。引く、それだけだ」

 

サイラオーグ・バアルは山の一番上を引く。

 

「スペードの2だ」

 

続いてリアス・グレモリーが山の上からハートのJを、シーグヴァイラ・アガレスが山の中程からダイヤのKを引く。そして、最後にソーナ・シトリーがトランプへと近づく。

 

「木場祐斗君、いえ、君付けは失礼でしたか」

 

「構いませんよ。その程度の事は。何かありましたか」

 

「これを引かないと言う事は許される事ではないでしょう」

 

「そうですね。試合の順番を決めるくじですから、大会に出ないと言うのなら引かなくても良いでしょう。まあ、大会に参加する為のチケットがこのトランプです」

 

「私の夢を叶える為には大会に出ないと言うのは選べません。だけど、私の意志を示しておこうと思います」

 

そう言ってソーナ・シトリーは山の隣に置いておいたジョーカーを手に取る。

 

「私は、眷属の皆を戦場にはまだ立たせたくはありません。平和の維持に戦力が足りていない訳でもないのに私の眷属を危険にさせたくありません。番外であるジョーカー、これが私個人の答えです」

 

「ふ、ふふふ、ふははははは、いいね、凄く良い答えだ。大会に参加する為のチケットを得た上で僕のダイヤの4との距離が無い唯一のカードであるジョーカーを手に取る。だけど、さすがにそれを認めてあげるわけにはいかない。総当たり戦の大会だから試合をしないと言うのは認められない」

 

「ええ、だから意思を示しておきたかっただけです。ちゃんと引かせてもらいます。少しでも私の眷属が戦場に立つ確率を減らして」

 

そう言って今度はトランプの山を手に取って、そのまま表面を見ながらハートの4を選び出した。

 

「ハートの4、私達が一番最初ですね」

 

「それも良い答えだ。誰も表面を見てはいけないなんて言ってないからね」

 

つくづく、この人の元でなら僕は未だにただの悪魔でいられただろうと思う。柔軟な物の考えをする上で自分の矜持の見せ方を間違えない。同じ王として尊敬出来る数少ない悪魔だ。

 

「だけど、認められるのはここまでだよ。試合でわざと負けるなんてことやリザインなんて真似は許さないよ」

 

「分かっています。わざと負けるなんてありえません。むしろ勝ってみせます。私達ならそれが出来ると信じています」

 

力強く答えるソーナ・シトリーに眷属達の士気が上がる。これは引き抜けないでしょうね。残念ではありますが諦めておきましょう。

 

「正式な日付は後ほど知らされるでしょう。試合を楽しみにしていますよ」

 

用事は済んだので僕達はサーゼクス様達の後ろから退出させてもらう。他の皆さんはまだ何かあるらしいのですが、僕達はノータッチです。巻き込まれると天界とかでも似た様な事をしなければならなくなるので。

さて、次は白音さんのことを解決しないといけませんね。時間も少ないので急いで情報を精査しなければ。

 




次回、久々にまともな戦闘をやります。
場所はどこかの貴族が行ってるパーティー会場のお隣です。


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第25話

いやぁ〜、今回はかなりの難産でした。
白音さんの行動があらぬ方向に走ってしまい、三回程書き直しを行ったりしました。
それでもなんとか当初のプロット通りの方向に持って行けました。


「さて、今日集ってもらったのは皆さんの力を借りる必要が出て来たからです」

 

「オレ達の力を借りる?過剰戦力だったんじゃないのか?」

 

アザゼルさんが首を傾げながら聞いてきました。

 

「確かに僕とルゥだけで過剰戦力です。ですが、僕とルゥでは2箇所までしか同時に処理出来ないんですよ」

 

「つまり、複数の拠点を攻めるのか」

 

「いえ、『禍の団』の次の行動を起こす日は分かったのですが、どこを襲うのかが絞りきれていないんです。ですので、確率の高い順に戦力を割り振って対処します」

 

「大丈夫なのか?」

 

「大丈夫です。絞りきれていないと言っても本命と次点ともしかしたらあるかもしれないのと、大穴です。まず、本命には僕とアザゼルさんそれから白音さんです」

 

「あいよ」

 

「……分かりました」

 

まあ、この本命が正解ですけど目撃者は少ない方が良いですからね。

白音さんは何かを覚悟した顔で返事をしてくれました。どうか、僕の手にかかる様な答えは出さないで下さいね。

 

「次点の場所、ルゥとヴァレリーさんと紫藤さん。指揮はヴァレリーさんが取って下さい。ルゥ、あまりやりすぎない様に。力を解放するときはヴァレリーさん達を逃がしてからですよ。ヴァレリーさんと紫藤さんも危ないと思ったら全力で逃げて下さいよ」

 

「「は~い」」

 

「分かりました」

 

「もしかしたらあるかもしれない場所、グリゼルダさんとゼノヴィアさんとギャスパー。指揮はグリゼルダさんに任せます。たぶん、大丈夫でしょうけど一応気をつけて下さいね」

 

「お任せください」

 

「任せておけ」

 

「頑張ります」

 

「最後、大穴はミッテルトさん」

 

「うええええぇぇぇ!?なんで一番弱いウチが一人なんすか!?」

 

「とりあえず、昨日までの修行結果からミッテルトさんの運用方法を決定しましたから。この後、研究室まで来て下さいね。色々とミッテルトさんには覚えてもらう必要がありますから」

 

「危なくないっすか?」

 

「危険は少ないですね」

 

「とりあえずやれるだけやってみます」

 

「はい、頑張って下さい」

 

「それで、編成が終わったみたいだが何時頃テロリストが来るんだ?」

 

「明日」

 

「はあああああああ!?なんでそんな急に言うんだよ!!」

 

「候補を絞るのにギリギリまで待っていましたからね。拠点の奇襲を繰り返していた所為で奴らの行動パターンが変化してきたんですよ。やれやれ、殺りすぎましたね」

 

「全部お前の所為じゃねえかよ!!」

 

首を振る僕にアザゼルさんからツッコミとハリセンが飛んで来ます。連絡事項は済んだので解散してミッテルトさんを研究室に連れて行きます。とりあえずイスを勧めてから話を始める。

 

「正直に話しますが、ミッテルトさんは僕が望む戦力のラインに達するまで時間がかかり過ぎます。ですので逆にその弱さを利用させてもらいます」

 

「弱いのを利用っすか?」

 

「ミッテルトさんが弱いのは力の総量が少ないからです。逆に言えば隠れる際に簡単に隠れれると言う事です。なのでミッテルトさんには隠密系統の魔剣を特別に支給します。持っているだけで存在感が薄くなる物と、魔力を通している限り周囲の気配に溶け込む物と、魔力を通している限り景色を歪めて姿を見えない様にする物です」

 

最小サイズの三本の魔剣を作ってそれをミッテルトさんに渡します。

 

「つまり、奇襲要員っすか?」

 

「いいえ、違います。ミッテルトさんには結界士になってもらいます」

 

「結界士?」

 

「その名の通り結界のスペシャリストです」

 

「でも、結界なんてそれほど役に立つもんじゃないでしょ?」

 

「それは悪魔や天使、堕天使が結界に関しての研究を怠っているからです。僕から言わせてもらえばあんな物は結界の初歩の初歩の初歩です。結界の基本を抑えれていませんから」

 

「結界の基本ですか?」

 

「そうです。結界の基本、そこに結界があると感じさせない。これが全く出来ていません。少しでも力を感じれる者なら誰でも気付いてしまいます。それに隔離結界ばかりでほとんど発展もしていませんしね」

 

「えっ、結界ってそういうもんじゃないんすか?」

 

「違いますね。隔離結界は初歩の初歩の結界ですサイズや強度にもよりますけどね。初歩には浄化結界が来ます。中級には防御結界、増幅結界辺りですね。そして上級は攻性結界と反転結界、最上級は結界同士を組み合わせて作り上げる工房です。例外も幾つかありますが、何かの儀式を行う為に特殊な空間を用意する為に使う結界とかですね。ミッテルトさんには1年以内に最低でも攻性結界まで完璧に取得してもらいます。これがその教材です」

 

広辞苑並の厚さの本を棚から取り出してミッテルトさんに手渡します。

 

「なんすか、これ?」

 

「『下級でも使える結界全集』です。僕が執筆している魔術書です。冥界の書店でも購入出来ますが、あまり売れてないんですよね。攻性結界まで使える様になれば下級の子供でもケルベロス位簡単に処理出来るんですけどね。増幅結界の回復系だって悪魔でも恩恵が受けられる様に調整してるんですけど知られていないのか売れないんです。これに関しては大赤字を出しているので黒字になる様にミッテルトさんに結界で活躍してもらおうなんて全く思っていませんから」

 

「いやいやいや、明らかに思ってるでしょう!?」

 

「赤字は気にしませんよ。魔剣販売で、最近は天界の方でもやってるんで聖剣販売もですが、とにかくお金には困っていませんから。あまり溜め込みすぎるのも経済に悪影響を及ぼすので使わないといけないので赤字は気にしていませんよ」

 

「つまり赤字以外は気にしていると」

 

「まあ、これでも研究者の端くれですから」

 

「ダウトっす」

 

「失礼な。その結界全集の八割は僕が新規製造した結界ですよ。とにかく自分の研究成果が認められないと言うのは結構くるものなんですよ。性能は僕が自分自身で試していますから」

 

「いや、まあ、分からないでも無いっすけど、どれだけ効くんっすか?」

 

「攻性結界の中で中級位の結界で上級が抜け出せずに死ぬ位ですね」

 

「えっ?それってウチでもやれるんっすか?」

 

「出来ます。基本的に空気中と地脈に流れる力を使って発動する結界ですので、結界を書く時に多少の魔力を使う以外は一切の魔力を使いません。その分結界が大型で複雑になっています。その運用方法を新しく開発したりもしていますからこちらの本も読んで下さいね」

 

『下級でも使える結界全集』の半分位の厚さの本を渡す。タイトルは『実戦で使える結界運用・基礎編』だ。応用編は現在執筆中です。

 

「つまりウチは今の所は嫌がらせ要員でおk?」

 

「そうなります。今の所は。まあ、回避能力と体力を付ける為に今の訓練も並行して続けないと命が簡単に無くなりますね」

 

「うぅ、やっぱりアレは続けるんっすね」

 

「死んでも良いのならやらなくても良いですけど」

 

「やらせていただきます」

 

「頑張って下さい」

 

「はぁ〜、やる事が多いっすね。まあ、あのまま下っ端をやってるよりは断然良いんすけど」

 

二冊の本を持って立ち去るミッテルトさんを見送ってから、明日の準備を始める。体内の聖剣を抜き出して新たに魔剣を埋め込んでいき、稼働するかを確認する。問題はなさそうですね。最後に、理論しか完成していない術式を搭載した二本の魔剣を体内の無限の剣製に近い位置に埋め込む。これが上手く稼働してくれなければ明日が僕の命日ですかね。一応、十字架を普通の物に変えておきましょう。後は神頼みですね。死なない事を祈っておきましょう。ああ、念のために遺言状も書いておきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、冥界のグレモリー領の外れにある高級ホテルの屋上に僕は居る。白音さんはホテルの入り口付近に、アザゼルさんはパーティ会場で警備を頼んでいる。サーゼクス様には話を通してあるのでアザゼルさんを中に配置するのは簡単だった。

 

先程、竜王のタンニーンの背中にイッセー君が乗っていたのが見えた。遠目からだったけど、かなり成長したみたいだ。あの成長率は羨ましい。僕はほぼ完成しきってしまっているから、後は魔剣や聖剣の性能を上げて機械的な強化しか出来ないからね。

 

そんな事を考えながらしばらく待っていると、僕の感知結界を操作された感覚がした。どうやら来たみたいですね。体内の魔剣に魔力を充填しながら待っていると、白音さんが森に向かって移動を始める。屋上から飛び降りて着地する間に白音さんの気配が結界に遮られる。見たことのない結界ですね。これが仙術の結界ですか。この目で見れたのは幸運です。体内の魔剣の術式を少し書き換える。これで生存率がかなり上がりました。そして、辿り着いた結界に対結界用の魔剣で切り裂いて中に入る。

 

「あちゃ〜、やっぱり抜かれちゃったにゃ〜」

 

白音さんと対峙する様に黒い着物を着崩している女性が僕を見ながらやれやれといった風に首を振る。

 

「ヴァーリチームの黒歌ですか」

 

「そこまで知ってるなんて反則臭い諜報能力にゃ。それで、私に何か用?」

 

「知っているでしょう、僕達は三勢力の平和維持の為に力を振るうと。討伐対象に含まれていないとでも?」

 

聖剣を両手に産み出して構える。

 

「祐斗さん、少しだけ待って下さい。話がしたいんです」

 

「……逃げられない様に結界を張らせてもらいます」

 

仙術での結界の内側に聖剣を楔にした結界を張り直す。これで逃げられる事は無い。

 

「良いですよ。少しと言わず、納得出来るまで。僕はそこで隠れている猿の相手をしますから」

 

「ばれてたのか。今日はヴァーリを半殺しにした時の姿じゃないようだな」

 

「あの姿はあまり取りたくないのですよ。それに今日はあの姿にも成れませんし、鬼戒神も呼び出せないのでね。今日の僕が基本ですから。それから白音さんの話が終わるまで、存分にやりあってあげますよ」

 

孫悟空である美猴と共に空へと駆け上がる。どうやら二人の話し合いを邪魔するつもりは無いようですね。さて、十八番の持久戦と行きますか。

 

 

 

 

side 塔城白音

 

 

祐斗さんと新しく現れた男の人が空で戦っている。目の前にはお姉ちゃんが、SS級のはぐれ悪魔で私達『断罪の剣』のターゲットに入ってしまっている黒歌お姉ちゃんが居る。力に溺れて主を殺して、私を置いて何処かへ行ってしまったお姉ちゃん。目の前に居るお姉ちゃんを見て、力に溺れて主を殺したんじゃないのは分かる。祐斗さんに紹介して貰った情報屋に頼んで、お姉ちゃんの事やお姉ちゃんが殺した主の事などを調べてもらい、その情報を元に導きだされた答えは私を守る為にお姉ちゃんが主を殺したと言う事。だけど、それならなんで

 

「お姉ちゃん、どうして私を置いていったんですか」

 

自然と涙が零れる。私を守る為ならどうして置いていったんですか。私が急に涙を流した事にお姉ちゃんが動揺する。

 

「お姉ちゃんが居なくなって、私は、悪魔に追われて、私達が拾われる前の生活よりも辛くて、痛いことがあって。理解出来ない悪意をぶつけられて、必死に逃げて、本当にもう駄目だと思った時に、たまたま祐斗さんに出会えたから私は今ここに居るんです」

 

涙を拭い、まっすぐにお姉ちゃんを見据える。

 

「本当に偶然が重なった結果なんです。当時はまだ人間ではぐれエクソシストだった祐斗さんがたまたま私が力つきた場所に居てくれたから。あの屋敷には、S級はぐれ悪魔が居て、邪神と戦う為に作られた外法の一部があって、その外法の力に祐斗さんが耐える事が出来て、弱っていても上級間近の悪魔3人を倒せるだけの力を持っていて、祐斗さんに取っての隣人ではない者とは罪を償おうともしない犯罪者と祐斗さんに襲いかかって来る者なんて考えを持っている。これがどれだけ幸運な、奇跡な事か、お姉ちゃんに分かりますか」

 

「……白音」

 

「誰も信じられなくなっていた私に祐斗さんは道を示せるだけ示してくれました。神は試練しか与えてくれないけど、自分たちは手を貸す事が出来る。それは素晴らしい事だからって、たまたま出会っただけの猫魈の私に出来る限りの事をしてくれて」

 

思えば祐斗さんにはお世話に、助けて貰ってばかりだ。いつも笑って手を差し伸べてくれて、迷った時には背中を押してくれた。間違っている事はちゃんと間違っていると言ってくれて、たまに喧嘩みたいなこともして家族みたいに過ごしてきた。

 

だけど、本当の家族じゃない。ギャー君もヴァレリーもルゥと一緒に暮らすのも楽しい。だけど、血の繋がりは無い。私と血の繋がりがあるのはお姉ちゃんだけ。私はお姉ちゃんと一緒に暮らしたい。

 

「一人なのは、もう嫌。嫌なの、置いていかないで」

 

「駄目。白音は弱いまんまだし、アレを相手に出来るの?」

 

お姉ちゃんが指を指した先には傷だらけの男の人といつも通り魔剣の治療に任せたゾンビアタックを続けている。頭だけは守って、他は無視して腕が千切れようがお腹に大穴が開こうがおかまいなしの戦闘スタイルに男の人が押されています。千切れた腕もすぐに繋ぎ直し、お腹の大穴も気付いた時には塞がっていく姿は恐怖するしかありません。

 

「戦えないでしょう。それに私と一緒に行くって言えば、いの一番に白音を殺しにくるよ。裏切るんだから」

 

それにこの場で一番弱いから。だけど、他にも道はある。

 

「お姉ちゃんを捕まえる。そして傍に置く。祐斗さんも皆も説得してみせる」

 

祐斗さんに埋め込んでもらった魔剣に魔力を通して身体を強化する。

 

「行きます!!」

 

最短距離を真直ぐに突き進んで最速の突きを放つ。私が祐斗さんの元で覚えた事の一つ、敵と認識したなら躊躇わない。それを実行する。酷い怪我をさせてしまうかもしれないけど、今は考えない。私の速度に追い付けなかったお姉ちゃんにリバーブローを叩き込む。だけど、捉えたと思った一撃に感触はなく、離れた位置にお姉ちゃんが現れる。これは妖術?

 

「そう、白音がその気なら、死ね!!」

 

離れた所に現れたお姉ちゃんから霧の様な物が発生する。今までの経験から危険な物と判断して対応する。魔法は得意じゃないし、それほど強くもないけど祐斗さんに勧められるまま簡単な炎や水、それと風と光源を作る魔法だけは使える様になった。以前、毒の霧を扱うはぐれ悪魔に対して祐斗さんが対処した方法は水の魔剣で霧ごとまとめて押し流すと言う方法だった。毒なら薄めてしまえば良いらしい。霧なら水の塊をぶつければ全て吸収されるとも言っていた。

 

だけど、私にはそこまでの事は出来ない。だから迫ってくる霧の目の前に水のカーテンを発生させて霧を吸収させながら自分の周りに風を纏わせて防御する。これで多少はマシなはず。

 

「へぇ〜、意外と経験を積んでるみたいね。なら、直接叩き込む」

 

お姉ちゃんは霧を発生させるのを止めて爪を伸ばして飛びかかってくる。早いけど、無駄の多い動きだ。見切って、少し多めに距離を取って躱す。案の定、爪の長さが変わっていた。直接叩き込むと言っている以上、攻撃を喰らうわけにはいかない。

 

悪魔や人外にとって人間は神器位しか取り柄の無い種族かもしれない。普通の動物と比べてみても、力などは劣るだろう。だけど、その人間は成長し、受け継いでいく生物だ。長い時をかけて研鑽されていった技術は悪魔や人外のそれを超える物が多い。達人級と呼ばれる人間は下手な上級悪魔よりも強い。

 

何が言いたいのかと言えば、お姉ちゃんの動きは本能や経験に任せた動きばかりで技術と言った物は見受けられない。だから攻撃を躱すのは難しい事ではない。爪の長さが変化する位なら最初からそれを想定した上で距離を離すか向きを考えれば簡単に躱せる。だけど、こちらの攻撃も当たらない。慌てて躱しているようだから技術ではないし余裕がある訳でもない。なのになぜか当たらない。

 

一度距離を取って攻撃方法を変える。私が使える魔法の中で唯一攻撃力を持った魔法である水の弾丸を右手を銃の形にして連射する。お姉ちゃんはそれを簡単に回避するけど、それで良い。お姉ちゃんを観察して明らかにこちらの動きを先読みして回避しているのが分かった。だけど、読心ではない。たぶん、魔力や身体の流れを読まれているんだと思う。

 

これは、ますい。持久戦になったら魔剣の維持を行わないといけない私の方が不利だ。お姉ちゃんには魔法以外に仙術も使えるから余裕はある。ここは限界以上に力を発揮して流れを先読みされても反応出来ない位早く動いて仕留めるしかない。

 

水弾を撃ちながら魔力を集めて魔剣に一気に流し込み、瞬歩の要領でお姉ちゃんの懐に飛び込んで拳を振り抜く。しかし、またしても空を切る感覚だけが残る。そして今度は完全にお姉ちゃんを見失ってしまった。直感で前方に転がると背後で風を切る音がした。後ろに回り込まれていたんだ。驚いて術の制御が甘くなったのか一瞬だけ姿が見えたけど、また姿が見えなくなってしまった。

 

どうすれば良い?森の中で木を背にするのは危険しかない。自分で逃げ道を一つ潰す上に真上にも注意を払わなければならない。なら少しでも開けている場所の方が良い。移動しようと動き出そうとした瞬間、横から突き飛ばされ、私を庇う様に祐斗さんがお姉ちゃんの爪で袈裟懸けに切り裂かれた。

 

「ぐっ、馬鹿な、魔力の流れが!?」

 

いつもならすぐに塞がっているはずの傷が塞がらずに手で押さえている。それどころか十字架と聖剣に身体を焼かれている。悪魔に転生した直後にしかそんな事なかったのに。

 

「弱点みっけ〜。なるほどにゃ〜、魔力を断てば回復もしないし力も落ちるみたいね。仙術には流れを変える力もあるからメチャクチャにしてみたんだけど、まさかここまであるなんてね。肉体強化の魔剣とかは見た事もあったけど、痛覚遮断とかの魔剣とかも作れるんじゃない?それに魔力を通せなくなって苦しんでる」

 

「ふふふ、知られてしまった以上余計に逃がすわけにはいかなくなりましたね」

 

身体をふらつかせながらも祐斗さんは立ち上がる。

 

「やせ我慢なんかしちゃって。本当は死ぬ程辛いんでしょう?こっちも美猴がやられてるみたいだからここで手打ちにして上げても良いよ」

 

祐斗さんが戦っていた男の人を指差しながらお姉ちゃんが提案する。

 

「そうもいかないのが僕の立場なんですよ。それにまだ僕は戦える!!」

 

そう言うと祐斗さんは両手の聖剣を自らに突き刺した。同時に悪魔が聖なる物に触れた時に出る煙をあげながら、傷が塞がっていく。そして、新たに魔剣を作り出してそれを身体に突き刺す。

 

「魔力の経路がメチャクチャにされたのなら、新しく経路を作ってやれば良いだけです」

 

祐斗さんはかなり苦しそうな顔をしながらも武器として使う聖剣を手にする。今まで見た事もないその表情に、本当に余裕がないのが分かる。新しく魔力の経路を作ったと言っても、完全に戻った訳じゃない。たぶん、3割。それだけしか魔剣や聖剣に魔力を送れていない。お姉ちゃんに斬り掛かるスピードはいつもより遅く、傷が治る速度も遅い。そしてお姉ちゃんに接触する度にスピードが下がり続ける。そしてとうとう聖剣を握れなくなる。身体から流れる血の量も明らかに危険域だ。

 

「祐斗さん、もう止めて下さい!!」

 

私は倒れそうになる祐斗さんを抱きとめる。

 

「ここまで来たら、もう見逃せないよ。二人まとめてころころしてあげる」

 

「くっ」

 

祐斗さんが辺りに魔剣を大量に産み出して爆破させ、短距離転移でお姉ちゃんから距離を取る。

 

「ごほ……お姉さんとは話が尽きましたか?」

 

血を吐きながら祐斗さんが尋ねてくる。

 

「そんなこと今はいいです。早く手当てをしないと!!」

 

「なら、質問を変えましょう。白音さんはどうしたいんですか?」

 

「だから」

 

「重要な事です。その答えで僕の行動は変わりますから。白音さんはどうしたいんですか。どんな未来が最高の未来ですか?」

 

祐斗さんはボロボロのはずなのに、その目はもの凄く力強く、全てを委ねたくなるような慈愛に満ちていました。だから、はっきりと自分が望む最高の未来を語る。

 

「お姉ちゃんが傍に居て、祐斗さんが傍に居て、『断罪の剣』の皆が居る日常」

 

お姉ちゃんと一緒に暮らしたい。だけど、祐斗さん達とも一緒にいたい。それが私の偽らない本音だ。

 

「なら、これから僕がやることを信じて下さい。絶対にその未来を作ってみせますから」

 

そう言って立ち上がる祐斗さんは、何時になく男らしい姿だった。その姿に私は全てを委ねる決心をする。

 

「お願いします。(キング)

 

 

side out

 

 

 

 

黒歌に接触する度に魔力の経路をメチャクチャにされたせいでこれ以上は無限の剣製以外の維持が難しい状態にまで追い込まれてしまいました。ですが、こちらにはまだ切り札があります。というか切り札を切らないと殺されちゃいますね。

 

「そんなところに隠れてたのかにゃ〜。そろそろ諦めてくれるとお姉さん嬉しいんだけど」

 

「諦めるって言葉、僕は大嫌いなんでね。仙術がここまで厄介だとは知りませんでしたよ」

 

「そうでしょ。仙術は極めれば出来ない事なんてほとんど無いもの。それだけ強力な力だけど扱うのも難しいから廃れていっちゃった」

 

「僕も色々と仙術に関しては調べましたけど、色々と情報が錯綜していましてね。ほとんど分かりませんでしたけど、少しだけ分かった事もあります。仙術で扱う気の中で自然から取り込む外気、これには良い気と悪い気、陽と陰に分かれていると言う事です」

 

「確かにそれは基本中の基本だけど、それを知ったからって意味なんかないでしょ」

 

「いえいえ、僕達研究者からすれば別の答えがあるんですよ。陽と陰に分かれているだけで純粋なエネルギーとしては性質が逆なだけと言う答えが出て来ます」

 

「それで?」

 

「極論で言ってしまえば、性質を取り除けばこれほど莫大なエネルギーは無いってことですよ」

 

周囲から気をまとめて回収して無限の剣製に一番近い所にある魔剣に通していく。

 

「あんた、まさか」

 

「ええ、机上の上では陽と陰を取り除く術式は完成しています。そしてお披露目と行きましょうか」

 

気を通した魔剣は濾過装置の様な物であり、これによって自然の気を純粋なエネルギーに変換する。ここまでは問題無い。問題なのはもう一つの魔剣。こちらは純粋なエネルギーを通す為の経路を作り出す魔剣。経路を造るのは問題ない。問題なのは純粋なエネルギーをちゃんと魔剣に流し込めるか。もし何処かが純粋なエネルギーに耐えられなければ僕の身体は弾け飛ぶ。

 

「そんな、馬鹿な。出来る訳が無い!!」

 

「出来る訳が無いと言う言葉に挑戦し続けてきたのが人間だ。羽や魔力がなくても空を飛び、宇宙にまで出れる様になった。今度は僕がその出来る訳が無いと言う言葉に挑戦し、打ち勝とう!!」

 

経路を生成し、エネルギーを魔剣に流し込む。経路が崩壊しそうになるのを必死に繋ぎ止め、魔剣をフル稼働させる。傷が今まで以上に早く塞がり、力も今まで以上に強くなっていると感じる。

 

「成功です。しかも魔力よりも強力ですね。今ならアレも出来そうですね」

 

「くっ、なら今度は気の流れをメチャクチャにするだけ!!」

 

「いいえ、ここからはずっと僕のターンですよ」

 

右手に産み出すは空間接続の魔剣とエクソシストに支給される銃を構える。そして空間接続の魔剣を振り、黒歌の周囲に幾つもの穴を開け、銃を連射する。銃弾は周囲の穴へと吸い込まれ、別の穴から姿を現す。

 

「にゃ!?」

 

十分な量の銃弾を撃ち放った後、僕は楽団の指揮者の様に空間接続の魔剣を振る。黒歌を取り囲む穴が魔剣を振るたびに、閉じては別の場所で開き、また閉じては開くのを繰り返す。

 

今までの魔力ではなく純粋なエネルギーによって空間を開閉するので空間自体にダメージが残り難い。空間にダメージが残っていると変な空間に繋がる可能性もあるのでこれまで多用して来なかった。だが、今このとき限りはあまり心配しなくて済む。

 

「これでチェックメイトです」

 

銃弾で弱らせ、体勢が崩れた所に僕自身も穴をくぐり抜けて目の前に飛び出す。左手には何の能力も持たない聖剣を持ち、黒歌に深く突き刺す。目の前に居るのは仙術で作った幻でもない本物の黒歌。その黒歌の身体から力が抜けていく。僕の様な力が無い限り、確実に致命傷になる傷を与えた。

 

「お姉ちゃん!!!!」

 

白音さんが倒れ行く黒歌を抱きとめ、最後の言葉を交わしていく。それと同時に結界内に穴が開き、強大な力を持つ聖剣を携えた男が姿を見せる。もちろん、僕はその男を知っています。

 

「コールブランドですか。さすがにそのクラスの聖剣になると破られますか。アーサー・ペンドラゴン」

 

「おや、僕の事もご存知でしたかって、黒歌!?」

 

「見ての通り、殺らせて貰ったよ。今は姉妹の最後の別れなんだ、邪魔をする様なら覚悟するが良い。大人しく帰るのなら、美猴は返してあげよう」

 

気絶している美猴を指差して選択を迫る。

 

「……退かせてもらいましょう。ですが、僕は貴方を許しません」

 

「許さなくて結構。最初からこの身は平和の為に投げ捨てると決めているんでね」

 

美猴を担いでアーサー・ペンドラゴンが姿を消すのを見送ってから結界を解除する。僕の莫大なエネルギーに気付いた悪魔とアザゼルさんがすぐに駆けつけてきた。その中にサーゼクス様が居られたので目で合図を送る。

 

「どうやら戦闘が行われたみたいだけど、私の記憶に間違いが無ければ、そこに居るのはSS級はぐれ悪魔の黒歌だったと思うのだが」

 

「ええ、こちらではヴァーリチームの一員だと言う情報も得ていますし、本人の自供も取れています。ですので処理しました」

 

「グレイフィア、一応確認を頼む」

 

グレイフィアさんが白音さんと黒歌に近づいて黒歌の死亡を魔法で確認する。

 

「間違いありません。死亡を確認しました」

 

「そうか。もう安全だと思うかい?」

 

「おそらくは大丈夫でしょう。一緒に居た孫悟空美猴も重傷を負わせました。念のためにアザゼルさんを置いておきますが、大丈夫でしょう。僕と白音さんは黒歌を供養しますのでこれで」

 

白音さんの傍まで移動して転移の魔剣を振り屋敷の庭にまで転移し、素早く強固な隠蔽結界を敷く。時間との勝負ですからね。

 

「白音さん、黒歌を蘇生しますから手伝って!!」

 

「ええっ!?けど、お姉ちゃんはもう悪魔に転生していて」

 

黒歌に抱きついて泣いていた白音さんが驚きながらも顔を上げてくれました。

 

「そういう妖刀があるんですよ」

 

そう説明しながらエネルギーと魔力を無限の剣製に叩き込み、とある妖刀を作り出そうとするのだが恐ろしい勢いでエネルギーと魔力を持っていかれる。エネルギーはすぐに底を尽き、僕の魔力も8割程持って行かれた所でようやく妖刀が産み出される。

 

「ぜぇ、ぜぇ、こ、これが、一度だけ死者を蘇生させる、ことの、ぜぇ、出来る妖刀、はぁ〜、天生牙です。白音さん、貴方の手でお姉さんに纏わり付く、死を切り払うんです」

 

消耗しきった僕では刀を振れそうにありませんから。それにやはり自分の手で救いたいと思っているでしょうから。地面に突き刺さっている天生牙を白音さんが抜き取り、黒歌を見る。その目には黒歌に纏わり付く死が見えているのでしょう。天生牙を何度か振り、そして手放す。そこに僕はフェニックスの涙を投げつける。死から逃れられても、致命傷を治さないとまた死んでしまいますから。

 

しばらくすると黒歌が目を覚まし、白音さんがまた泣きながら抱きつく。黒歌は何が起こったのか分からずにぽかんとしていた。このまま感動の再会を邪魔したくはないのですが時間がありませんからね。

 

「簡単にですが説明してあげますよ、黒歌。貴方は一度死にました。これにより貴方の罪はほとんどが償われました。ですが、ヴァーリチームに所属していたことにより僕達『断罪の剣』ターゲットのままです。ですので僕の眷属に、『断罪の剣』に所属すると言うのなら、ある程度の自由を与えましょう」

 

「私が断ると言えば」

 

「言い方を変えましょうか?敗者は黙って勝者の言うことを聞きなさい。ちなみに勝者の権利は白音さんに譲渡しますよ。白音さん、どうしたいですか?」

 

僕の言葉に白音さんが涙を拭き、泣きながらも笑顔を作ってはっきりと自分の願いを告げる。

 

「……私は、お姉ちゃんが傍に居て、祐斗さんが傍に居て、『断罪の剣』の皆が居る。そんな風に暮らしていきたいです。痛い目に会うのも、怖い目に会うのも耐えれます。だけど、寂しいのは耐えられないんです」

 

そう言って、もう黒歌を離さないとばかりに強く抱きつく。

 

「……白音、ごめんね。寂しいのは辛かったよね」

 

黒歌は抱きついている白音をあやす様に頭を撫でる。

 

「一つだけ条件がある。これでもヴァーリ達には恩義があるにゃ。だから、出来れば戦いたくない」

 

「良いでしょう。ヴァーリチーム相手に限り戦場を放棄する権利をあげましょう。代わりに黒歌と言う名を捨ててもらいます。さすがに黒歌と言う名は三勢力で悪い意味で有名過ぎますから」

 

「分かったにゃ。名前は貴方が決めて。私を縛り付ける意味でも」

 

「そうですね。白音さんの名ともじって黒音では安直過ぎますから読みを変えて漢字も変えて“久遠”。親戚の姉とでもしておきましょうか。苗字はそのまま塔城で良いでしょう」

 

「塔城久遠、か。まあまあかにゃ」

 

「それとちょっとした細工をしておきましょうか」

 

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を作って黒歌、じゃない久遠に突き刺して悪魔の駒を取り除く。それを見て久遠が驚いていますが、説明は後です。時間が本格的に少なくなってきました。収納の魔法陣から堕天使に転生させるトランプのAを取り出して久遠に渡します。

 

「こいつは堕天使に転生させる事が出来るトランプです。悪魔のままだと面倒事が多いのでこれで堕天使になれば別人と判断されます。それとも天使の方が良かったですか?」

 

「呆れて物が言えにゃいけど、とりあえず堕天使で良い。すぐに堕天しちゃいそうだし」

 

そう言って久遠はトランプを身体に入れて堕天使へと転生しました。なんとか最低限の説明は終わりましたね。おっと、十字架は外しておきましょうか。

 

「さて、それじゃあ最初の指示です」

 

「猫使いがあらいにゃ。それで、何をすれば良いの?」

 

「僕の治療お願いしますね」

 

「「へっ?」」

 

次の瞬間、全身から血が噴き出す感覚を最後に僕の意識は途絶えた。

 

 




ちなみに白音さんが取ろうとした行動は黒歌に付いていってしまいそうになったり、拉致られそうになったり、寝ぼけてて書いていた所為で木場君?が白音さんをころころしちゃったり、かなりフリーダムになってました。僕の中では白音さんはメインヒロインのつもりだったんですけど、勝手に暴走してましたよ。全く歯止めがかかりませんでした。ちなみに僕はロリコンではありません。好きになったキャラがロリ枠な場合が多いだけです。

次回は冒頭に今回の作戦の反省会を行ってから会長とのレーティングゲームですね。匙君には頑張って貰いたいのですが、かなり厳しいです。簡単にやられる様な人材がミッテルトさんオンリーです。そのミッテルトさん、こそこそ隠れて工作してるので発見する事も難しいと言う非情な現実が待ってます。





一つ皆さんに質問なんですが、原作8巻でありました300イッセーって時系列的にはどの辺りになるんですかね?
原作の方では番外的な扱いになっていますが、この作品では超重要な役割を持たせたい話となっております。このイベントはこの作品において原作12巻での打ち切りエンドを回避するのに必須のフラグとなっております。

タイトルは「神父と学者と弓兵、時々こいつだれ?」

この話が書けない場合、12巻で木場君?死亡により打ち切りです。


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第26話

思ったよりも長くなったので会長とのレーティングゲームは次回になります。


目が覚めると全身を包帯で巻かれて固定した状態で自室のベッドに寝かされていた。傍には白音さんがイスに座ったまま眠っている。とりあえず、僕は生き延びたみたいだね。身体の方は表面上の傷は塞いであるみたいだけど、経路の方はねじ曲がったりしたままだ。いや、多少は元に戻ってるのかな?最後の方は色々と我慢していたから正確な状態を把握していなかったからよく分からないや。しばらく待っていると扉が開かれて久遠さんが入ってくる。

 

「気の覚醒を感じて見に来たけど本当に目覚めてるなんて」

 

「どうも。とりあえず現状を教えて貰えますか?」

 

「倒れてから4時間って所。身体の傷は塞いでおいたけど魔力の流れの方は外から弄ると逆にねじ曲がる可能性があるから自然治癒に任せる方が安全だから手を出してないにゃ。あと、全身が重度の筋肉痛に骨の殆どが折れてたり罅が入ってるから動かない様に麻酔をかけてあるから」

 

「なるほど。だから身体が動かないのですか」

 

「と言うか回復が早すぎるにゃ。二、三日は意識を取り戻さないと思ってたのに」

 

「怪我の治りが早くなるおまじないを知ってましてね」

 

無意識下においても残留魔力を治癒促進の魔剣に送り込んでいたおかげでしょうね。そんな話をしていると白音さんが目を覚ましたようです。

 

「祐斗さん!?大丈夫ですか!!」

 

「御覧の通りですよ。まあ軽く調べた限りでは命に別状はないですね」

 

「でも、急に血が噴き出して倒れて」

 

「あれが才能も無い者が仙術を無理矢理使った結果ですよ。暴走以前の問題です。身体の方が持たないんですよ」

 

経路の生成はともかく、気が身体に馴染まずに拒絶反応を起こした結果が僕の今の現状です。

 

「まあそう言う訳ですので仙術に関しては久遠さんに習って下さい」

 

「……無理です。だって私には」

 

「白音さんには拒絶反応が起こらなかった。それだけで才能はあります。今回の件で新たなデータも取れましたから暴走してもすぐに停めれます。それに今度はちゃんとした師もいますしね」

 

「ちょっと待って!?話についていけてないんだけど、一回暴走したの?悪い気を取り込んで?」

 

「一年位前ですけど見事に暴走しましたよ。情報不足の為に処置するのに時間がかかりましたが治療もしましたから」

 

僕の言葉に慌てて久遠さんが白音さんの身体を調べ始めます。出来れば他の部屋でやって欲しいんですけど。急に服を捲りあげたりするので白音さんが恥ずかしそうにしていますから。僕はすぐに視線をそらしましたが、こんな時ばかりは鍛えている自分の身体能力の高さが仇になります。しっかりと見えていました。何がって?言わせないで下さい。

 

「……本当に使った痕跡がある。それで暴走したのに元に戻ってる。常識がどんどん崩されていく」

 

落ち込んでる久遠さんに一言かけておきましょう。

 

「常識を破壊するのが僕達研究者です」

 

「「ダウト」」

 

「なんで皆さんそんな事を言うんですかね?僕は研究者寄りですから。戦闘も出来ますけど基本は研究者ですから。それよりも久遠さん、そこの机の引き出しを開けて下さい」

 

「ここ?」

 

「そこです。久遠さんに必要な書類が入ってますから」

 

久遠さんが引き出しを開けて書類を取り出して目を通し始めてすぐに驚きの声を上げる。

 

「ちょっと、これはどういうことにゃ!?」

 

「くろk、久遠お姉ちゃんどうしたの?」

 

白音さんも久遠さんの持つ書類に目を通して驚いている。

 

「見ての通り、公式にはぐれ悪魔黒歌の無罪を三勢力に認めさせた書類です。根回しとか証拠を調整したりとか色々大変でしたけど、ちょっと前に通ったんですよね。それで大手を振って自由に行動出来ますよ」

 

「えっ?じゃあなに?私って死に損?」

 

「白音さんが事前に久遠さんをどうしたいのか言ってくれてればもっと穏便に事を運べたとだけ言っておきましょうか」

 

そう言うと白音さんは申し訳なさと羞恥心から顔を真っ赤にして

 

「祐斗さんの、馬鹿!!」

 

キツい一撃を僕に食らわせて部屋から出ていってしまった。

 

「麻酔で何も感じないけど、たぶん酷い事になってるよね、これ」

 

「女の子の照れ隠しなんだから我慢する事にゃ。まあそれはさておき」

 

久遠さんは真面目な顔をして頭を下げる。

 

「この度は命を助けて頂き、伏してお礼を申し上げます。また、妹の白音を救って頂きありがとうございます」

 

「気にする必要はありませんよ。なんだかんだで、僕も白音さんにはお世話になっていますからね」

 

「それでもお礼は言っておかないといけないにゃ。ひとりぼっちなのは」

 

「寂しいのは辛いですよね」

 

「知ってるの?」

 

「ええ。僕も教会を追われて一人でしたから」

 

「教会から追われたのに十字架も捨てないんだ」

 

「教会から追われても破門を食らった訳ではありませんからね。信仰は僕の欲ですから、認めさせるのも簡単でしたよ。すぐに根を上げると思われてましたし」

 

まあ転生直後は死にかけましたが。と内心で囁いておく。

 

「白音にも聞いていたけど随分変わってるにゃ」

 

「まあ色々と複雑な事情もありますからね。だからこそ『断罪の剣』の王をやれているんですけどね」

 

「確かにね。それにしてもどうして私を助けてくれたの?」

 

「白音さんが望んでいた事ですからね。白音さんは自力で何とかしようとしていたみたいですけど力不足は感じていましたから、裏でこっそりとその書類を用意したり、対話が出来る環境を作ったりと色々やらせて貰いました」

 

「なんでそこまでするの?」

 

「白音さんは僕の大事な人ですからね」

 

その言葉に久遠さんが顔を赤くしてますけど、何かありましたか?

 

「あ〜、うん、そっか、なら仕方ないよね」

 

何かを納得したようですが、本当に何かありましたか?

 

「ああ、とりあえず久遠さんの部屋は準備が出来ていないので、今日の所はこの部屋を出て左の突き当たりの部屋か白音さんの部屋で過ごして下さい。明日には使える様に準備しますから」

 

「えっ?まさかその身体で動く気なの?」

 

「さすがに僕も魔力の経路を乱されている状態では無茶は出来ませんから他の人に頼みますよ」

 

「そう、一応私の見立てでは3ヶ月は安静にする必要があるから動かないでくれる方がありがたいんだけど。あと、魔法を使うのは絶対に厳禁だから」

 

「分かりました。大人しくしていますよ。では、もう一眠りさせてもらいますね」

 

眠る体勢に入るとすぐに睡魔が襲ってくる。やはり身体に無理をさせ過ぎていたようですね。

 

「お休み、祐斗」

 

最後に久遠さんの声が聞こえてきた気がする。ちゃんと僕の名前を呼んで。

 

 

 

 

 

「こんな姿ですみませんが報告の方をお願いしますね」

 

翌日、久遠さんと白音さんに支えられながら皆が集っているリビングに移動する。

 

「ちょっと待て!?なんでそんな重傷を負ってるんだよ!!昨日別れた時は服がボロボロだっただけだろうが!!それとなんで殺したはずの黒歌が居るんだよ!!」

 

アザゼルさんが席から立ち上がって大声を出しています。他の皆さんも包帯でグルグル巻きにされている僕を見て驚いています。

 

「え〜、詳しく話しますと面倒ですしちょっと話せない内容もありますので簡単に説明しますと、怪我の方は戦闘中に無茶をし過ぎてオーバーロードした結果で、ちょっと魔力の経路も壊れてしまったので自然治癒に任せるしかないんですよ。それからこちらに居るのはSS級はぐれ悪魔の黒歌ではなく、白音さんの親戚の久遠さんですね。今日から堕天使として『断罪の剣』入りです」

 

「いやいやいやいや、そんな簡単に流す様な事じゃないぞ!!」

 

「そうとしか説明出来ないので諦めて受け入れて下さいね。それに黒歌の死亡はアザゼルさんも確認したでしょう。それに久遠さんが悪魔じゃないのは感覚的に分かるでしょう?」

 

「いや、まあ確かにそうだろうけど」

 

「はい、それじゃあこの話はここまでです。怪我の方は出来る限り早く治療しますので心配しなくて構いませんので。と言う訳で、各部隊のリーダーの人、報告をお願いします」

 

「特に問題ありませんでした」

 

「こちらも何もありませんでした」

 

「ウチの所にはなんかヤバそうなのが来てたんで、とりあえず隠れて相手の確認だけしてたんっすけどいいっすよね!!」

 

うわぁ〜、大穴に誰か来てたんですか。危なかったですね。

 

「ええ、まさか僕も大穴に来るとは思っていませんでしたから。それで相手の詳細は?」

 

「それが、気配を読む限りじゃあ人間の集団なんすよね。誰かと待ち合わせの様な感じでいました。ただ、ヤバそうな気配を感じてたんでこっそりとその場を離れたんで詳しい事はあんまり」

 

「その中で一番危険そうだったのはどんな人でしたか?」

 

「漢服を着てて、黒髪でそこそこ背は高かったかな。あと、何も持ってなかったのに光力っぽいのを感じたかな?」

 

「逃げて正解です。そいつは曹操。禍の団、英雄派の筆頭で神滅具『黄昏の聖槍』の所有者です」

 

「『黄昏の聖槍』だと!?一番ヤバい神滅具じゃねえかよ!!」

 

「げぇー、直感頼りに逃げ出して正解だったっす。と言うか気付かれなくて良かった〜〜」

 

ミッテルトさんが脱力してテーブルにもたれかかりますが、無理もありませんね。よくぞ逃げ帰ってくれました。

 

「今の所はスルーするしかありませんね。さすがにアレの一撃を喰らっては全快時の僕でも消滅を免れませんから。入念に準備をして気付かれないうちに罠で仕留めるのが一番ですね。ちなみに英雄派は自分たち英雄が活躍出来る戦場を求めて世界に混乱を求めていますので殲滅対象です。巨大な力を持って生まれたからってそれを振り回したいなんて子供みたいな奴らですね」

 

「なんだ?珍しく嫌悪感を明確に示すんだな」

 

「嫌いですよ。英雄の意味をはき違えて穢しているんですから。英雄なんてね、殆どの者が戦いの先にある平和の、誰かの笑顔の為に戦っていたんですよ。それを忘れて自分たちが戦いたいだけで戦争を起こそうとするんですよ。大嫌いに決まっているじゃないですか」

 

あんなのが英雄だなんて認めない。認めれば僕自身をも穢す事になる。だから殺します。一の為に九を殺そうなんて考え、絶対に認めません。まあ元からそういう英雄なら多少は許容しますよ。殺しますけど。

 

「まあ良いです。情報屋に更に資金を積んで調べさせていますから今年度中には仕留めます。この話もここまででいいでしょう。次はいよいよ間近に迫ったソーナ・シトリーとのレーティングゲームです。皆さん、準備の方は良いですか?」

 

「木場が一番準備が間に合ってそうにないんだが」

 

「問題無いですね。前にも言いましたが基本的に僕とアザゼルさんが戦う事はありませんから。それとルゥも本陣でお留守番です。通信用の術式を用意すれば僕とアザゼルさんで指揮を執るだけですから。あっ、二日前に皆さんがレーティングゲームに持ち込む品をリストにして提出して下さいね。足りない分の指示を出したりしますから」

 

「普通不要な物を指摘するんじゃないのか?」

 

「カード型の収納の魔法陣を配布しますので、50m×50m×50mに収まるなら幾らでも持ち込んでもらって構いませんよ。詠唱とかタイムラグなしで出し入れが出来ますので。ああ、フェニックスの涙は僕が管理しますので持ち込まない様にしてくださいね」

 

「えっ、何その便利すぎるカード?」

 

「えっ?普通じゃないんですか?」

 

「「「「「「えっ?」」」」」」

 

「「「「えっ?」」」」

 

最初の方は堕天使勢と天使勢の皆さんで後の方は悪魔勢です。場の空気が凍ってしまいました。ここは僕から動くべきでしょうね。

 

「収納の魔法陣って一般的でしょ?教会にあった本で覚えた物ですから」

 

僕の問いにゼノヴィアさんが答える。

 

「確かに教会の本に書かれてあるが、閲覧制限があって大司教か3名の司教の許可がなければ閲覧は許されない。隠していた訳ではないが、デュランダルの使い手でもあるから特例として幼少期に閲覧させて貰えたが」

 

「あ〜、やっぱり僕の論文は燃やされたか禁書庫行きになったんですか。僕もガブリエル様の許可を得て閲覧させてもらってから簡易版や改良版とかの論文を提出してたんですけどね。悪魔側でも見た事ないですから。堕天使側は?」

 

「確かに収納の魔法陣はあるが魔力コストの問題と収納量の問題から転移が基本だ」

 

「なるほど。理解出来ました。それじゃあ配布しますね」

 

「だから流すんじゃない!!」

 

「僕にとっては普通に公開している技術ですから文句を言われても困るんですけど。便利の一言で済ませましょうよ。無限の剣製に比べれば至って普通なんですから」

 

「なんでそんなやる気がないんだ?」

 

「いえね、これでも僕は研究者ですか「「「「「「「ダウト」」」」」」」何度も言いますけど僕は研究職の方が肌に合ってるんですから!!ごほん、失礼。とにかく自分の成果が日の目を見ないのは虚しいんです。最近、そう言うのが多くてね。ちょっと気持ちがブルーなだけですから。あと、疲れも出ているのかもしれませんからしばらく寝込みます。ゲームまでにはある程度動ける様にはなっておきますので心配しないで下さい。何かありましたら部屋まで来ていただいて構いませんので。あと、これが収納のカードです」

 

ポケットから人数分のカードを取り出してまわして行く。

 

「それじゃあ何も無ければ解散ですが何かありますか?無い様ですので解散です」

 

リビングに来た時と同じ様に久遠さんと白音さんに支えられて自室に戻りベッドに身体を預けます。こんなことなら自然治癒強化の魔法陣を布にでも刻み込んでおけば良かったですかね?とりあえず指先までの魔力の経路が回復したらすぐに作成しましょう。

 

「女の子の一撃で動けなくなるなんて案外もやしなのね」

 

久遠さんが薬草の調合を再開しながら溜息をついていますが、魔力強化も魔剣や聖剣による強化も無しに上級悪魔でも致命傷を負う様な一撃を貰って支えられながらでも動けるのは日頃の訓練の賜物ですよ!!あと、全身の筋肉痛がシャレになりません。

 

「あの、その、すみませんでした」

 

白音さんが肩と耳と尻尾を落としながら謝ってきますが、それに答えられるだけの体力がありません。先程は虚勢を張っていましたが、限界です。魔力が使えないので念話すら使えません。一言発するのにもかなりの体力が必要です。ですが、ここで無理をしないでどうします。

 

「大丈夫です。二日もあれば復帰出来ますから」

 

昨夜からの経路の回復率を見る限り、それだけあれば自然治癒強化の魔剣に十分な魔力を遅れるだけの経路が回復する。そうなれば一週間もあれば全快するだろう。

 

「ですが」

 

「気にしなくて良いですよ。これ位は昔から良くある事です」

 

「ほら、祐斗がそう言ってるんだから白音もそこまでにしておきなさい。とりあえず白音はこれを祐斗に塗ってあげて。量的には上半身の分しか作れなかったから、他に効きそうな物を捜して来るから」

 

そう言って久遠さんが部屋から出ていきます。はて?確か使っていた薬草類は研究室に十分なストックがあったはずなんですが?誰かが使ったんでしょうか?補充しておかなければなりませんね。

 

「あの、それじゃあ、失礼します」

 

「すみませんね」

 

身体を起こされて服を脱がされる。そして背中から薬草を調合した軟膏を塗られていきます。背中が終われば腕へと移り、前面を塗る時は恥ずかしいのか、顔を赤くしていましたので目を閉じておきます。塗り終わると次は包帯を巻かれていきます。

 

「終わりました」

 

「ありがとうございます」

 

白音さんはあまり包帯を巻き慣れていないので時間はかかってしまいましたが、それでもある程度身体を固定させながら綺麗に巻けています。練習でもしていたのでしょうか?いえ、違いますね。『断罪の剣』結成前の時は治癒の魔剣や回復薬をそこまで用意していませんでしたから自分で手当てをしていたのでしょう。

 

「……本当にごめんなさい。最初から祐斗さんに説明していれば、こんな怪我もしないで済んだのに」

 

「気にしないで下さい、と言っても気にしてしまいますよね。だから、身体が治るまでの間、生活の補助をお願いします。僕の油断が招いた結果でもありますからその程度で十分でしょう」

 

「祐斗さんがそういうなら」

 

一応納得してくれたのか、白音さんはそれ以上は後ろ向きな意見を言う事は無くなりましたが、内心では落ち込んでいるのが簡単に分かります。今の様な状況は身に覚えがありますね。なら、同じ様に対処しましょうか。

 

「それじゃあ、僕は少し深い眠りに着きますね。なので傍で何かあっても気付かないでしょうし、寝言も言うかもしれません。あまり気にしないで下さいね」

 

目を瞑って寝ない様に気をつけながら待ち続けます。10分位経った後、ようやく白音さんが口を開きます。

 

「……私は祐斗さんの傍に居ない方が良いのでしょうか?」

 

「どうしてそう思ったんですか?」

 

「私は、祐斗さんに迷惑ばかりかけて、足を引っ張って、傷つけて、恩も返せないで。ギャー君やヴァレリーみたいに強力な神器や神滅具を持っていなくて、ゼノヴィアさんやイリナさんやレイナーレさんの様に特別な資質が有る訳でもなくて、黒歌お姉ちゃんやグリゼルダさんの様に多くの術が使える訳でもなくて、ルゥやアザゼルさんみたいに祐斗さんの隣に立てるだけの力が無い。私には、何も無いんです。私は本当にここに居て良いんでしょうか?」

 

白音さんの心の内を聞いて、そこまで抱え込んでいたとは思ってもいませんでした。これは慰めの言葉などでは無理ですね。ですから、本音を話しましょう。

 

「居ても良いんですよ。いえ、傍に居て下さい。白音さんは、僕の恩人で大切な人なんです」

 

「恩、人?」

 

「白音さんに出会った当時の僕は、見た目以上に精神的な限界が近かったんです。僕は、初めて魔剣創造を発動させる直前に、僕とは違う二人の魂と混ざり合ってしまいました。原因は分かりません。そして、その二人の魂は並行世界から渡ってきた魂でした。一人は人外も魔法も本の中にしか存在しない世界の、研究職の男の魂です。そしてもう一人は、最初の男の世界の物語の中に登場する正義の味方を夢見て、九の為に一を殺し続けるしかなくなった男の魂です。つまり普通ではない上に非情に不安定でもありました」

 

白音さんはじっと話を聞いてくれています。

 

「不安定になった僕は、そのままバチカンに留まり、聖剣を作り続けながら書物を漁り、聖職者としての教育を受ける日々でした。そして、教会から追われました。ここからは以前にも話した通り1年程の放浪をする事になるのですが、その放浪で更に精神的に不安定になりました」

 

「今まで信じていた物に裏切られたからですか?」

 

「いいえ。僕の信仰は裏切られていません。裏切るのはいつも人ですから。僕を不安定にさせたのは自分の言葉です。『神は試練しか与えてくれないけど、僕らは手の届く範囲で救いを与えることも出来る。それは素晴らしいこと』覚えていますか?」

 

「はい。良い言葉だと思います」

 

「そうですね。でもね、僕は誰一人救いを与える事が出来たのかを知る事が出来なかった。いつも僕が辿り着いた時には手遅れで、教会時代の時も研究室や書庫に籠っていて、エクソシストとして外に出ていたときも被害が既に出ている所に行って原因を排除して去って。本当に僕は誰かに救いを与える事が出来ているのか分からなくなっていたんです。だけどあの日、白音さんに、初めて誰かにありがとうと言われて、僕は間違えていなかったんだって。それだけで僕は救われたんです」

 

「たったそれだけの事で」

 

「白音さんにとってはそれだけの事だったのかもしれません。ですが、僕にとってはとても重要なことだったんです。僕に混ざった二人は特に信仰厚い人物ではありませんでしたから。もし白音さんにありがとうと言われてなければ、僕は聖職者を辞めていたかもしれません。それ位、僕にとっては重要だったんです。最悪、二人の魂に引っ張られて僕の魂が消えてしまう可能性がありますから」

 

その場合はおそらく研究者の方の魂が前面に出て来ていたでしょうね。

 

「僕が僕のままでいられたのは、白音さんのおかげなんです。だから最初は、出来る限りの望みは叶えてあげたいと思っていたんです。転生直後は危険な魔導書を回収するのが忙しかったですが、その後は出来るだけ傍に居て、それが当たり前の様になって、家族と言える様な間柄にまでなって。いつの間にか傍に居て欲しいと思う様になっていました」

 

「祐斗さん」

 

「教会に居た頃も放浪していた頃も孤独と向き合わないで逃げていました。白音さんに出会ってから、僕は寂しいと思う事はありませんでした。もう寂しいのは、自分や隣人が寂しいと感じるのは嫌なんです。白音さんが居ても良いと思うのなら、僕の傍に居て下さい」

 

「本当に良いんですか?また、迷惑をかけるかもしれませんよ」

 

「構いません。僕も迷惑な事に巻き込んでしまうかもしれませんから」

 

「怪我させちゃうかもしれません」

 

「いつものことですね」

 

「本当に傍に居ても良いんですか?」

 

「ええ、傍に居て下さい」

 

「祐斗さん!!」

 

白音さんが僕に抱きついて泣いている様ですが、それを慰める余裕はありません。凄い力で抱きしめられているので体中が悲鳴を上げています。それでもそれを表面に出す訳にはいかない。流れそうになる脂汗も無理矢理押さえ込んで、歯を食いしばって時が過ぎるのを待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「更に一ヶ月は安静にするように」

 

「ごめんなさい、祐斗さん」

 

久遠さんに呆れられながら診断結果を告げられる。隣では白音さんが顔を真っ赤にして謝っている。レーティングゲームに間に合うでしょうか?

 

 



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第27話

久々の更新〜

レーティングゲーム終了まで一気に行きます。


とうとう始まるソーナ・シトリーとのレーティングゲーム。会場入まで後数分と言った所で僕と白音さんが一番最後に会場の入り口になる魔法陣が設置されている部屋に到着する。そしてそんな僕達を見て眷属の皆が驚き唖然としている。そんな中で一番復帰が早かったアザゼルさんが一歩進み出る。

 

「あ~、とりあえず全員が言いたい事があると思うからオレが代表して聞く事にする。なんで前よりも重傷でミイラみたいに包帯でグルグル巻きな上に車いすで運ばれてるんだよ!!」

 

「あ~、若さ故の過ちと言った所でしょうか。無理矢理治療しようとして失敗してより重傷を負いました。見ての通り自分で動けません。短時間、2分程度なら回避位は出来ると思いますけど期待しないで下さい。魔法も殆ど使えません」

 

「相変わらず無茶をしやがって。お前が倒れると色々と面倒な事になるんだぞ。それを分かっているのか?」

 

「分かっていますよ。ゴミがまた色々と活動している情報が上がって来ているので出来るだけ速く復帰しようとしたんですよ。とりあえず、重傷は負いましたがむしろ自然治癒力は向上してますから最終的には若干のプラスですので問題ありません」

 

魔力の経路の一部が正常な形に戻りましたからね。実際はかなりプラスなんですよ。左腕でなら色々と細工も出来る様になりましたから。

 

そして間もなく転移の魔法陣が光だし、レーティングゲームの会場に転移する。周囲を見渡すと数多くのテーブルとイスが並べられている。ここは、確か駒王にあるデパートのフードコートでしたっけ?

 

『皆様、このたびは断罪の剣とシトリー家のレーティングゲームの審判役を仰せつかりました、ルシファー眷属の女王グレイフィアでございます。今回のフィールドは駒王学園の近隣に存在するデパートを用意させて頂きました』

 

グレイフィアさんの話を聞き流しながら眷属の皆に指示を出していく。フードコートを調べさせて何処まで再現されているのかを確認する。

 

「水も電気も通ってるし、ガスボンベも中身が入ってますね」

 

「レジの中身もしっかりあるな。材質も変わらんが、これって偽造になるのか?」

 

「冷蔵庫とかの中身もしっかりありました。個人的なメモみたいな物も」

 

ふむ、中々芸が細かいですね。白音さんが壁に掛けてあった館内案内図を外して持って来てくれたのでそれを見ながら作戦を組み立てる。

 

『本陣は、断罪の剣の本陣は二階東側、ソーナ様の本陣は一階西側となっております。また、フェニックスの涙を各陣営に一つずつ支給させて頂きます。なお、今回は特別ルールが設けられております。ご確認を忘れない様に。作戦を立てる時間は30分です。この間、相手チームとの接触は両者退場となります。それでは、ゲームスタートです』

 

どうしようかな?一瞬でゲームを終わらせる奇策があるんだけど。まあ、今回は止めておこう。下部組織として使えるかどうかを確認するゲームだからね。それから特別ルールね。えっと、一定以上の器物破損で退場か。大したことは無いね。全員に特別ルールのことを説明してから詳しい作戦について話し始める。

 

「案内図から見てもらえば分かる通り、侵攻ルートは屋上、立体駐車場、中央の吹き抜けの三方面になります」

 

「なら私は屋上だな。細かい事など考えずに戦えそうなのは屋上だけだからな」

 

ゼノヴィアさんがそう発言しますが、却下します。

 

「ゼノヴィアさんには他に役目があるので却下です。屋上には白音さんとギャスパーとグリゼルダさんとルゥが向かって下さい。ルゥは攻撃禁止ですよ、あと、ページモンスターの召還もです。グリゼルダさんの言うことを聞いて下さいね。基本的には足止めで構いませんので。中央の吹き抜けには紫藤さんとヴァレリーさんと久遠さんが向かって下さい。ただし、吹き抜けになっている場所だけで戦って下さい。店内に逃げ込まれた場合は放置で構いません」

 

「どうして?」

 

「それはこの後説明します。最後、ゼノヴィアさんとミッテルトさんと僕は立体駐車場と店内にトラップの巣を作ります。立体駐車場には分かりやすい上に近づきたくない様に思わせる罠を大量に、店内には分かり難い様な罠を仕掛けて回ります。ゲーム中も隠密行動をとりながら積極的に罠を作っていきます。ゲームの進行具合では追加で指示を飛ばしますので通信のラインだけは絶対に開いておいて下さいね。迷えばすぐに確認をとってください。そして最後にアザゼルさんには最も重要な役目を与えます」

 

「おいおい、オレはゲームに参加しないんじゃなかったのか?」

 

「ええ、戦闘に使う気はありませんよ。アザゼルさんは、今からこの本陣付近を破壊してください」

 

「はぁ?」

 

「どの程度の器物破損で退場になるのかを確認します。これを知っているのと知らないのでは戦術に大きな差が出て来ます。最初から戦闘に使えないのなら確認の為の捨て石にするのが有効ですからね」

 

「理屈は分かるが、ずいぶんはっきりと捨て石扱いにするんだな」

 

「実戦ならこんな事はしないんですけどね。あくまでこれはゲームですから」

 

「分かったよ。それじゃあ、壊し始めるぞ」

 

「ああ、ちょっと待って下さい。白音さん、ちょっと宝石店まで行って高価な宝石を幾つか持って来て下さい。面積ではなく被害総額の可能性もありますから」

 

「分かりました」

 

しばらく待ち、白音さんが持って来た宝石をアザゼルさんに壊してもらってからフードコートの壁を光の槍で壊してもらう。お店一軒ほどの壁を破壊した所でアザゼルさんだけに警告が送られ、更にテーブルとイスを5組程壊した所でアザゼルさんが退場になる。

 

『断罪の剣、スペードのJ、規定によりリタイア』

 

ああ、そういう風に放送されるんですか。個人の特定が楽ですね、それ。別に構いませんが。

 

「これで色々と分かりましたね。被害総額ではなく面積と言うか量ですかね?とりあえず一定以上の破壊でリタイア。警告もあり。何より一番知りたかった物も知れました。これで僕達の勝ちは揺るぎませんね」

 

「一番知りたかった事かにゃ?」

 

「ええ、これのおかげでゼノヴィアさんが活躍出来ます。ゲーム的に言わせてもらうなら変則的なサクリファイスですね。屋上で戦う人達には後で追加指示を行いますので覚えておいて下さい。それでは開始時間になるまで各自解散です。ミッテルトさんとゼノヴィアさんはこれから罠を仕掛けにいきますよ」

 

「了解ッス」

 

「うむ、分かった」

 

ゼノヴィアさんに車いすを押してもらいながら立体駐車場に移動して分かりやすい様にワイヤーと簡単な爆弾を柱と言う柱、車と言う車にセットしていく。たまに飾りとして時間が減っていく時計も置いておく。更に結界内を光力で満たす結界をミッテルトさんのテストの為に仕掛けさせておく。

 

「まだまだ結界を張るのに時間がかかっていますが効力の方は十分ですね。ちゃんと勉強しているようで安心しました」

 

「さすがに命がかかってるっすから。それにレイナーレお姉様の方が命がけらしいっすからウチも負けていられないっす」

 

「ああ、教授から手紙が来ていましたね。そろそろこちらに戻して実際に戦えるか試す様に言われてますから近いうちに会えるでしょう」

 

立体駐車場から移動しながら店内にワイヤーを使ったトラップをミッテルトさんに指示を出して仕掛けていく。こういう知識を持っているアーチャーの記録はかなり便利です。

 

「ところで一つ気になったんっすけど」

 

「どうかしましたか?」

 

「立体駐車場に仕掛けた爆弾で立体駐車場が吹き飛んだ場合、どっちがリタイアになるんっすか?」

 

「さあ?罠を仕掛けたミッテルトさんか、引っかかった相手か分からないからこそ相手も迂闊に手を出せないでしょう。そういう意味があるんですよ、あれは。ワイヤーを切って移動出来ない様に通電が途切れると爆発する物が一番最初に触れる場所に仕掛けてあるのはその為です」

 

「うげぇ、えげつない。と言うかウチが生け贄っすか!?」

 

「生け贄とは失礼な。尊い犠牲ですよ。アザゼルさんみたいな」

 

散っていったアザゼルさんの為に十字を切って祈りを捧げる。

 

「いやいや、死んでないっすから」

 

ミッテルトさんからツッコミが入るが無視する。

 

「そろそろ時間ですね。最後にちょっとだけネタのトラップを仕掛けにいきましょうか」

 

準備に少し時間がかかりますが普通に進撃して来るなら間に合うでしょう。

 

 

 

side ソーナ・シトリー

 

 

いよいよ始まったレーティングゲーム。作戦時間中に向こう側が一人リタイアしたことで数の上ではほぼ互角になった。だが、規定によりリタイアしたということはおそらく一定以上の器物破損を行ったのだろう。どこまで壊せばリタイアになるのかを確認する為に。そしてリタイアしたのはおそらくアザゼル様。戦闘に参加出来ないのならと割り切って捨て駒にしたのだろう。匙は笑っていたが、私としては余計に油断できなくなった。

 

木場君は私達を格下だと思っていない。敵としか見ていない、いや、敵として見てくれていると言った方が良いか。それを嬉しいと思っている私が居る。本気で私達の相手をしてくれる。お姉様の妹だと言う見方じゃない、純粋に敵として相手をしてくれる。なら、それに応えてみせないといけない。

 

私達は敢えて戦力を分散させる事無く固まって敵本陣に向けて移動を開始する。先日、木場君は眷属を分散させていましたからそれが出来る位の練度はあるのでしょう。なら、分散させている可能性が、いえ、普通に考えるなら分散させているでしょう。ですからこちらは全員で固まって移動する事にした。

 

目指すは立体駐車場。ここは他の場所に比べて隠れる場所が多く、屋上程広くはないが、いざ戦うとなれば十分に広い箇所も存在する。車も動かそうと思えば動かせる。そう思っていたのだが、これは

 

「大量のワイヤーに、先端は分かりやすい位の爆弾らしき物体」

 

「ここまで分かりやすいと簡単に除去出来そうだけど」

 

「会長、とりあえず一つ除去してみますか?」

 

巡がワイヤーを切って除去するか尋ねてくる。ここまで分かりやすい罠を仕掛けているのが気になります。ここは触れない方が良いでしょう。

 

「いえ、おそらく相手もここでの戦闘を考慮していないでしょうからここを抜ければ裏をかけるでしょうが、怪し過ぎます。あの木場君がこんな分かりやすいだけの罠を仕掛けている以上、他に本命があるはずです」

 

「心配のし過ぎですよ、会長」

 

そう言って匙がワイヤーを引き千切った途端、仕掛けられていた爆弾が爆発して破片が匙を襲う。匙も素早く退いたおかげで大した怪我は負っていないが、幾らかのかすり傷が

 

「ぐあああああ!?」

 

「どうしたのですか、匙!?」

 

かすり傷で済んでいるはずなのに匙が酷く苦しんでいる。よく見れば傷口が爛れている。光力は一切感じなかったはずなのに。

 

 

 

side out

 

 

「おっ、爆発音が聞こえてきましたね。法儀式を施してある爆弾ですからかすり傷でも傷口が爛れてきますよ」

 

本屋に罠をしかけている最中に立体駐車場の方から微かな爆発音が聞こえてきた。

 

「法儀式ってなんすか?」

 

「昔、光剣が無い頃にエクソシストが武器に施していたエンチャントですよ。今は廃れてしまって滅多に見かけませんけど」

 

「なぜ廃れたんだ?」

 

「儀式が面倒なのが一つ、光剣や対魔弾の方が威力があるのが一つ、コストがかなりかかるのが一つですね。メリットは全く力を感じられないので痛い目を見させる事が出来るのと、どんな物にでも施せるってことですかね。ゼノヴィアさん、線が歪んでますよ」

 

「意外と難しいな。もっと楽な物は無いのか?」

 

「じゃあ、はい」

 

収納のカードから直径10cm程の判子を取り出す。

 

「これに魔力を込めたインクを付けて押すとそれだけで魔法陣の完成です」

 

「ちょっ!?そんな便利な物があるならウチにも最初からくれても良いじゃないんすか!?」

 

「だめです。魔法陣やそれを使った結界は時と場合によって大きさを変える必要があります。ですので魔法陣は自分で書けないといけません。それから自分で道具を産み出してそれを活用出来る知識を持って初めて一人前だと僕は考えています。ゼノヴィアさんは結界士にするつもりはありませんから、こういった道具を貸しますが、ミッテルトさんはそうではありません」

 

そこで一度区切り溜めを作る。

 

「僕はミッテルトさんがが裏で努力しているのを知っています。先程から仕掛けている結界が、時間がかかっているとは言え張れる様になっているだけで、どれだけ練習してきたのかが分かります。僕の魔法陣に必要なのは正確さのみ。それを様々なサイズで書けるようになるには、ひたすらに書き続けるしかありません。その努力の結果が今、僕の目の前にあります。誇って下さい、ミッテルトさん」

 

「いや、でもウチはまだまだで」

 

「確かにまだまだかも知れませんが、僕の想定よりも上を行っています。それだけミッテルトさんが頑張った証拠です。だから、これからも努力を続けてください」

 

「う、うっす」

 

何故かミッテルトさんの顔が赤くなっていますが何故でしょうか?ゼノヴィアさんの方を見て、視線だけで尋ねても首を捻るだけですし。

 

しばらくの間、無言で罠を仕掛けていき、予定の店の全てに罠を仕掛け終えてから警備室に向かいます。電源を入れてデパート中に仕掛けられている監視カメラを使って会長達の様子を覗かせてもらいます。途中、食料品売り場でおやつと飲み物を調達してきているのでちょっと休憩しながらですけど問題無いですよね。

 

「ふ~ん、罠に引っかかったのは匙君ですか。包帯を巻いている所を見るとフェニックスの涙は使ってないみたいですね」

 

髭が似合うダンディなおじさんがイメージキャラの缶コーヒーを飲みながら関係のないモニターに録画されていた爆発シーンを映し出します。

 

「ありゃ~、迂回しようとしているのに高を括って迂闊に千切って破片をモロに浴びて、あ~あ~、爛れまくりッスね。やっぱりタケノコは美味いっすね」

 

「威力はそこそこだな。何にでも付加出来るのなら価値はあるな。キノコの方が美味いに決まっているだろうが」

 

「タケノコっす」

 

「キノコだ」

 

「はいはい、キノコタケノコ戦争は個人の好みですぐに停戦してくださいよ。答えなんてでないんですから。ちなみに僕はコアラ派ですから勧誘はお断りですよ」

 

飲み終わった缶コーヒーを握りつぶしてゴミ箱に投げ捨てる。この間もモニターから目を外さない。モニターの中では傷の手当てを終えた会長達が再び移動を開始する所です。

 

「戦力は分けずにそのまま吹き抜けをまっすぐ突き抜けるみたいですね。ミッテルトさん、久遠さんに念話を送って下さい。内容は『プレッシャーをかけながら削れるだけ削って屋上に追い込んで下さい。手段は問いません』です。秘匿用の念話を使って下さいよ」

 

「了解っす。もしもし久遠さんっすか、ボスがプレッシャーかけながらボコって屋上に追いつめろって。うん、煮るなり焼くなり好きにしても良いそうっすよ。うぃ~、頑張るっすよ~」

 

「……内容は伝わっているので今回は見逃しますが、実戦でやったら本気で怒りますよ」

 

「すいませんした」

 

土下座をするミッテルトさんをゼノヴィアさんがぐりぐりと頭を踏んでいますが見なかった事にしましょう。

 

「おっ、戦闘が始まりましたね。真羅さんの追憶の鏡(ミラー・アリス)を盾にしながら接近戦に持ち込むつもりの様ですが、相手が悪かったですね」

 

「ヴァレリーはともかく、黒歌じゃない、久遠は技術的に上手いし、イリナの擬態の聖剣なら鏡を避けるのも簡単だからな」

 

「あ~、あの二人から逃げるのは一番大変っすからねぇ~。全く鏡に当たらないっすね」

 

土下座を止めて正座のままオレンジジュースを取り出して飲み始めるミッテルトさん。

 

「匙君の黒い龍脈(アブソーブション・ライン)も真正面から飛ばしていては怖くもありませんね。もう少し頭を使えば良いのに」

 

僕も新しい缶コーヒーを取り出して飲み始めます。

 

「そもそも黒い龍脈(アブソーブション・ライン)とはどういう物なのだ?」

 

ゼノヴィアさんは紅茶のペットボトルを開けて飲み始めます。

 

「あ~、簡単に言えば、あの線をつないだ対象から色々な物を吸い上げる事が出来る神器です。研究した事ないので何とも言えませんが、限界以上に使いこなせば劣化版の白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)になりますかね?」

 

「ほう、中々凄い物だな。だが、見る限り」

 

「使いこなせているとは言い難いですね。文献ではラインを複数に分ける事も出来たはずですし、そもそも不視化が出来ていませんから。それに真直ぐ追いかけてもねぇ。せめて周りの人と連携するとか物陰に潜ませるとかすれば良いのに」

 

「あれなら延々と逃げられそうっすね。あれって硬いんすか?」

 

今度は煎餅の袋を開けて食べ始めるミッテルトさん。

 

「それもやっぱり所有者の熟練度次第ですね。たぶん、量産型の光剣なら一本駄目にする気で使えば切れそうですね。一枚貰えますか?」

 

ミッテルトさんに煎餅を貰って齧ります。おや、味が変わっていますね。僕は前の方が好きですね。

 

「つまりあそこに居る三人からすれば」

 

「紙とまでは言いませんが、まあ簡単に、切れましたね。と言うか細切れにされて苦しんでますね」

 

「痛覚はあるのか。身体の一部と言う扱いか?私にも寄越せ」

 

ゼノヴィアさんも煎餅を齧り始めます。

 

「たぶん、そうみたいっすね。こう、腕がもう一本生えてるとかそういう感じっぽいっす」

 

「その感覚で合っていると思いますよ。それにしても勿体ない。真羅さんも匙君も神器を全然使いこなせていませんね。ああ、勿体ない。色々と使い道が思いついてイライラしてきます」

 

「興味があるな。どんな使い道なんだ?」

 

追憶の鏡(ミラー・アリス)なら合わせ鏡の要領で威力を保持しつつ、タイミングを合わせて自分でも鏡を割ってどんどん積み重ねたり、2枚に半分ずつ衝撃を与えて数を増やしたり、それを鏡から鏡に反射させながらのオールレンジ攻撃。黒い龍脈(アブソーブション・ライン)はラインの数を増やす方面に鍛えるのは当然として、見えるラインと見えないラインを組み合わせるのが基本かな。あとは、遊びでラインを編んで魔獣を作り上げたりするのも楽しそうだね」

 

「うわぁ、普通じゃ考えない様な使い方っすね」

 

「考えるのを止めたらそこで終了です。色々と小細工をして格上に立ち向かうのが人間です。それを忘れてしまったようで残念極まりないです。そろそろゼノヴィアさんは移動を始めて下さい」

 

「何処に移動するんだ?」

 

『ソーナ・シトリー様の騎士1名リタイア』

 

「吹き抜け部分の中央に移動して下さい。追って指示を出しますので。あと、この符で隠れておいて下さい」

 

聖剣のオーラを隠す事が出来る府をゼノヴィアさんに渡しておきます。これで奇襲が出来ますからね。

 

「分かった」

 

お菓子のゴミをゴミ箱に捨ててからゼノヴィアさんが警備室から出て行く。

 

「ミッテルトさんは他の皆さんに連絡を。屋上で包囲しながら逃がさない様にして下さいと」

 

「了解っす」

 

『ソーナ・シトリー様の僧侶1名、兵士1名リタイア』

 

「そこそこ脱落しましたね。匙君も限界に近いですし、ゼノヴィアさんに指示を出す頃には半分残ってれば良い方ですかね?」

 

「そうっすか。そう言えば、さっきの神器の話でちょっと気になったんっすけど」

 

「何ですか?」

 

「ボスは神器を完全に扱えてるんっすか?」

 

「まだまだですよ。常に成長を続けていますし、どこまで成長するのか分からないのが現状ですね。もうちょっと頑張れば剣以外も産み出せそうなんですけどね。槍とか弓とかなら。消耗は激しいでしょうし、別の方法で産み出せるので意味はないんですけど何処でどう成長するのか分かりませんから鍛えれる限り鍛え続けようとは思ってますよ」

 

そんな話をしていると、屋上のカメラにシトリー眷属を僕の眷属達が囲んでいる様子が映し出された。

 

「さて、このままでは会長に勝ち目は完全にありませんので、少しだけ手を貸してあげましょう。特撮の悪役みたいに」

 

「そして殺られるんっすね、分かります」

 

「頑張って下さいね、ミッテルトさん。僕は戦えませんから」

 

「ちょっ、勘弁して下さいよ!?」

 

慌てるミッテルトさんをわざと放置して放送機器のスイッチを入れる。

 

「これでチェックです、会長。まだ続けますか?」

 

『木場君、ですか。確かに状況的にはチェックでしょうが、まだチェックメイトではありません』

 

会長が相手を指定しない念話で返答してきてくれる。

 

「ええ、そうですね。では、最後の一手を打たせてもらいましょう」

 

そこでマイクのスイッチを切り、ミッテルトさんに指示を出す。

 

「ゼノヴィアさんに最大出力での聖剣砲を真上に撃つ様に、砲撃のタイミングで屋上に居る皆に屋上から飛び降りる様に連絡を入れて下さい。飛び降りる際、建物から離れすぎない様に壁面を滑る様にとも」

 

「了解っす!!」

 

ミッテルトさんが秘匿回線の念話で全員に指示を飛ばし、絶妙なタイミングで逃走させる事に成功する。全員が屋上から飛び降りた次の瞬間、ゼノヴィアさんの本来の愛用武器であるデュランダルから放たれた光力を固めた斬撃がデパートの屋上を吹き飛ばす。

 

『断罪の剣、ハートの7、規定によりリタイア。ソーナ・シトリー様の騎士1名、戦車1名、僧侶1名、兵士1名リタイア』

 

「今のでまだ生きてるんっすか!?」

 

リタイアした中に会長と真羅さんが居ない事にミッテルトさんが驚いていますが、僕はモニターを見渡してその姿を確認しています。追憶の鏡(ミラー・アリス)をただの鏡として扱って、出来る限り姿を隠しながらこの警備室に向かって真直ぐに突き進んで来ています。

 

「真下からの砲撃を見切られていましたか」

 

先程の砲撃の際、僕の眷属達が屋上から逃げ出した時には会長と真羅さんが一箇所に集り、足下に追憶の鏡(ミラー・アリス)と障壁をかき集めていました。そして真直ぐにこちらに向かってくると言う事はここを抑える事は考えていたのでしょうね。

 

「ミッテルトさん、戦闘準備を。すぐにでもここに辿り着きますよ」

 

「せ、戦闘準備っすか!?しょぼい光弾とか光槍しかないっすよ」

 

「そう言えば攻撃方面は後回しにしていましたね。なら、僕が隙を作りますから担いで逃げてくれますか?部屋を出て左に曲がって吹き抜け部分に出たら右です」

 

「防御もお願いします。回避も諦めてスピード第一に考えますから」

 

「構いませんよ。今日は一番頑丈な服を着てきてますから、このまま盾にしてくれて構いませんよ」

 

「いや、それはさすがに遠慮したいんすけど」

 

「仕方ありませんね。適当に捌きますから頑張って逃げて下さい」

 

そろそろ話し合う時間も惜しくなってきた。車いすから降りて収納のカードから符と試験管を取り出します。その後、ミッテルトさんに後ろ向きに担ぎ上げられて準備完了です。

 

「合図を出しましたら扉を蹴り開けて下さい。出鼻を挫きます」

 

「了解っす」

 

モニターを見ながら鏡像と本物を確実に見分け、タイミングを計り

 

「今です!!」

 

「うおっしゃああああああ!!」

 

ミッテルトさんが体内の魔剣に力を流し込み、全力で扉を蹴り開けると同時に走り出します。会長と真羅さんはもくろみ通り驚いて足を止めてしまっていますから逃げ切れれば良いんですが。

 

とりあえず用意しておいた試験管を通路に放り投げて煙幕を張る。特別製の魔力感知をジャミング出来る物ですから少しは戸惑ってくれるでしょう。そう思っていたのですが、煙幕を無視する様に通路一杯の大きさの水で作られた蛇が襲いかかってくる。

 

「ぎゃあああああ、ヤバいっす!?」

 

「ほらほら頑張って。よっと」

 

用意しておいた符を蛇に向かって投げつけて起動させる。蛇を構成する水の半分程を吸収して符は流されていく。

 

「見た目よりも魔力を込めてあるみたいだね。ほぼ全ての魔力を使って作ったかな?」

 

更に続けて2枚の符を投げて蛇を無力化する。これで符は品切れですね。新たに収納のカードから魔力が込められたルビーを4つ取り出して右手に握り込んでおく。僕が会長の立場ならここで札を全て切りますからね。ここがこの勝負の正念場です。間違いなくフェニックスの涙で魔力を回復させています。そしてその魔力で全ての決着を付けるはず。それを凌げば僕らの勝ち、凌げなければやはり僕らの勝ちです。先程の蛇程度なら僕の神父服は抜けません。

 

そう思っていたのですが突然虫の知らせと言いましょうか、悪寒が走り、僅かにだけ使える魔力を使ってミッテルトさんの足を引っかけて転ばせます。次の瞬間、頭の上を何かが通過した様です。

 

「あべし!!」

 

いきなり転けたミッテルトさんが受け身も取れずに顔面から床に突っ込んで滑っていき、変な声を出していますが実際は大したことは無いでしょう。なので先程の魔法に対する対応が先ですね。握り込んでいたルビーをバラまき、起動コードを告げる。

 

「四連炎城壁」

 

4つのルビーに込められた魔力とルビーそのものが分厚い炎の壁を作り出す。その炎の壁を貫いてくる物を横に転がって躱す。床に当たったそれは床を貫通していて、縁が濡れていた。

 

「なるほど、ウォーターカッターと同じ原理と言う事ですか」

 

これはちょっとだけまずい。これだけの威力なら神父服を貫通する。当たり所が悪ければリタイアは確実だ。高圧を掛けるのに集中力がいるのか連射力はないが、速度はかなり速い。万全の状態なら問題無いのだが、今は2分しか逃げ回れない。体内の魔剣も殆どが使用不能だ。追いつめたつもりが追いつめられていますね。これぞゲームでしか味わえない楽しみと言う奴ですね。

 

「あててて、大丈夫っすか?」

 

「ええ、それよりも感覚を尖らせて下さい。来ますよ」

 

「へっ?」

 

状況が分かっていないミッテルトさんを突き飛ばし、その反動で僕もミッテルトさんとは逆方向に飛ぶ。再び撃ち込まれたウォーターカッターを回避しながらどうするかを考える。

 

「なんっすか、今の!?」

 

「ウォーターカッターみたいな物ですよ。直撃だと僕の神父服も貫通します」

 

「げぇ!?ってまた来た!!」

 

ミッテルトさんが転がりながらウォーターカッターを回避し、突如現れた追憶の鏡(ミラー・アリス)によって衝撃をモロに食らって気を失ってしまう。

 

「ちっ、そういう事か」

 

収納のカードから光剣を取り出して通路に仕掛けてあった監視カメラを破壊する。こちらの居場所を知っている種は簡単だ。僕と同じく、警備室のモニターで覗いていたからだ。それだけなら誰にでも出来るのだが、今僕達がいる場所は警備室から一度角を曲がっているのだ。つまり、あのウォーターカッターを一度無理矢理曲げているのだ。想像以上に会長は魔法の扱いに長けている。僕やアザゼルさんや久遠さんでもここまでの事は出来ない。ますます下部組織に欲しくなってしまった。

 

「さて、何処まで耐えれますかね」

 

四連炎城壁の維持は30秒が限界だろう。警備室からここまで15秒程だから、15秒は役に立つ。そこから2分弱で誰かがここまで辿り着いてくれないと僕が負ける確率が高くなる。警備室はデパートの入り口から一番離れた上に少し分かり難い位置にある。間に合うかどうかは賭けです。反撃が出来れば僕一人でも何とかなったんですけどね。やれやれ、自らに枷を用意しなければ良かったね。

 

「まっ、やれるだけやりますか」

 

四連炎城壁が解除されると同時に、再び水の蛇が襲いかかってくる。素早く収納のカードから魔法陣をかき込んであるカードを取り出して障壁を張る。そのまま後ろに下がりたいんだけど追憶の鏡(ミラー・アリス)で壁を作られてしまっているので下がる事も出来ない。

 

続いて、曲がり角の無効から水で出来た蜂が大量に飛んでくる。曲がり角から手鏡だけが姿を見せている。こちらからの攻撃を警戒しての事だろう。水の蜂を収納のカードから新たに光剣をもう一本取り出して二刀流で切り払っていく。光剣を振っているうちに一番傷が深かった右脇腹の傷が開いたようで血が床に落ちる。

 

それを見て更に攻勢が激しくなる。蜂に加え、蝙蝠と鼠が追加される。捌ききれる量とは言え、激しく動かなければならないので傷口が更に開いていく。思っていたよりも余裕はありませんね。指先の感覚が少しずつなくなっていく。会長の魔力残量は支給されたフェニックスの涙以外に回復薬を持ち込んでいなかったと想定して4割と言った所ですかね。このままなら僕が先に耐えられませんね。

 

そう思っていた矢先に右手に持っていた光剣を落とし、体勢まで崩してしまう。そして、ここぞとばかりに曲がり角から会長が飛び出してきて最初のウォーターカッターを同時に3発同時に放ってくる。あっ、詰んだかも。

 

「祐斗さん!!」

 

後ろから鏡が割れる音が聞こえ、次に白音さんの声が聞こえると同時に背中から押し倒されて、先程足を引っかけたミッテルトさんの様に床を滑る羽目になります。おかげで傷口が更に開きましたがウォーターカッターを回避出来たので良しとします。顔も打っていませんし。

 

続いて、壁を壊す音が曲がり角の向こうから聞こえてくると同時に

 

『ソーナ・シトリー様の女王、リタイア』

 

グレイフィアさんのアナウンスが流れる。残るは会長だけで挟み撃ちの形になる。白音さんの助けを借りて立ち上がる頃には久遠さんとヴァレリーさんとルゥが僕達の壁になってくれる。

 

「ここまでのようですね。リザインを宣言します」

 

「ええ、予想以上に手こずりました。全力だったのを認めます」

 

『ソーナ・シトリー様のリザインを確認。このゲーム、断罪の剣の勝利です』

 

勝ちましたが、反省点は多いですね。特に僕の反省点が。少し、アザゼルさんに相談して色々と考えてみましょうか。

 

 

 

 

 

後日、会長と真羅さんに下部組織への加入許可を送りましたが断られてしまいました。残念です。

 




匙君の冥福を祈ります。

この作品において、赤龍帝であるイッセーがそこまで活躍していない為に匙君がイッセーに対して嫉妬と言いますか、ライバル心と言いますか、とにかく頑張ると言う要素が薄い為にかなり迂闊な行動をとってしまいます。能力的には主人公やれるはずなんですけどね。磨かなければ石ころのままです。今回のゲームで匙君も修行に励んでくれるでしょう。(ネタ倉庫の方に匙君にひょういした物でも書こうかな。今話で木場君がやってみたいと言っていた使い方で)

逆に会長は原作以上に力を入れて修行に取り組んでいるので原作以上に強いです。(あと、作者が好きなキャラなので色々と優ぐ、げふんげふん)
あっ、ちなみに原作で匙君が貰っていた賞は会長が貰っています。木場君からも推薦が上がっています。

本来はもう少しレーティングゲームの会場を利用した戦闘を書きたかったのですが、あまりに外道な戦いになってしまいましたのでボツとなりました。ちなみに今話で木場君が奇策、分かった人は感想までお願いします。正解者には、どうしましょうか?次回のアンケート時に優遇しちゃいましょうか?


珍しく明日も更新します。
次回、『神父と学者と弓兵、時々こいつだれ?』
おたのしみに〜


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第28話

 

会長とのレーティングゲームから現実時間で一週間の時が流れました。僕の体感時間は一ヶ月経ってますけどね。ちょっと結界を応用して僕の部屋だけ時間の流れを速くしてましたから。おかげで全快とは行かなくても8割程回復しました。更にその一ヶ月の間にアザゼルさんの研究を応用して、とある実験に成功しました。謎も少し発生してしまいましたが、かなり便利にはなりましたよ。そのお知らせの為に眷属の皆さんをいつも通りリビングに招集します。

 

「毎度毎度思うんだが、招集がある度に突っ込みどころが発生するよな。今回は何をしたんだ。ただのイメチェンだと良いんだが、そうじゃないんだろう?」

 

アザゼルさんが僕を見て頭を抱えながら質問してきます。ちなみに今の僕は昔の様に綺麗な金髪になっています。

 

「アザゼルさんが研究していたドッペルゲンガーのちょっとした応用とだけ言っておきましょうか。まあ、見てもらった方が早いですね。二人とも、入ってきて下さい」

 

僕の言葉と共に褐色の肌に白い髪をした赤いコートを着た僕と棒付きの飴を銜えて黒い髪に白衣を着た僕がリビングにやってくる。二人を見て皆さんが困惑していますが、紹介だけ先に済ませてしまいましょう。

 

「え~、話した人も話していない人もいるので簡単に説明しますと、僕が初めて神器を発動させた時に流れ込んで来た二人の魂をドッペルゲンガーを生成する技術を応用して、ちょっとあれこれした結果、完全に分離させる事に成功しました。もちろん、一人にも戻れます」

 

「まあ、そういうことらしい。本来私達は既に死人だ。よって名を持たない。とりあえずの所、アーチャーと名乗らせてもらおう」

 

「オレはプロフェッサーだな。よろしく頼むわ」

 

そう言ってアーチャーは堕天使の、プロフェッサーは悪魔の、そして僕は天使の翼を出す。さて、耳を塞いでっと

 

「「「「「「「えええええええええええええええええええええ!!??」」」」」」」

 

うん、予想通り。

 

 

 

 

 

 

 

皆さんが落ち着いてからアーチャーが入れてくれたお茶を飲みながら僕らについて説明していきます。

 

「先程も言ったのをさらに詳しく説明しますと、彼らはドッペルゲンガーの技術を応用してホムンクルスの肉体を与えた木場祐斗の一部です。今までも微妙に一部分だけ表面に出ていたりしました。一番分かりやすいのが皆さんにダウト発言されて感情的になっていた時とかですね」

 

「オレも研究者の端くれだからな。プライドってもんがある。それを否定されるのは腹が立つからな。かなり感情的になってもあの程度の事しか言えなかったから今言わせてもらうぞ。オレは研究職の人間、ああ、人間じゃなかったな悪魔か。とりあえず研究とかがメインだから覚えていてくれ。基本は共同研究室か格納庫か立ち入り禁止区域にいる」

 

「それから戦闘の際はゾンビアタックをするとき以外はアーチャーに身体を渡していますね。無意識にでしたけど」

 

「他にも料理や掃除などの時もだな。基本的に私は屋敷の管理を行う事になる。時間が空けば訓練場の方にも顔を出すつもりだ」

 

「ちなみに僕は外交方面と情報整理が基本になりますね。これからは三人に分かれている事の方が多いと思いますので覚えておいて下さいね」

 

「戦力の方はどうなっているんだ?」

 

ゼノヴィアさんが真面目な顔で質問してきます。その質問にプロフェッサーが答えます。

 

「肉体スペックは一人の時とほぼ一緒だ。そういう風にホムンクルスを調整したからな。魔力や光力の方は見事に三分割された。オレは光力を扱えないが膨大な魔力を、オリジナルが光力の大半を、アーチャーは雀の涙程の光力とこいつの世界独自の魔力を持っている。まあ、魔力の方もそれほど多いとは言えないな。ミッテルトより若干多い位だ。それから神器はオリジナルが持っている。あと、先程見て分かっていると思うが、オレが悪魔でアーチャーが堕天使、オリジナルが天使で、元に戻ると3種3対の翼を持つ事になる」

 

「戦闘スタイルは私は武器を使ってどの距離でも対応出来る。特に銃火器を使った遠距離戦なら負ける気はしないな。プロフェッサーは完全な後衛だ。接近戦のセンスはほとんど無い。オリジナルは一般的なエクソシストの戦い方とゾンビアタックが基本だろう。技量はそこまで高くない」

 

「僕達の評定では三人で連携をとれば一人で戦うよりも強いです。鬼戒神は除きますが。ただ僕とプロフェッサーだけだと若干不安が残ります。戦闘経験がそれほど多くありませんから。アーチャーは単独でもかなり強いです。手段を選ばなければ此所に居る全員で戦っても殺されますね。生前が生前ですから」

 

「あと、アーチャーは神器を持っていないが神器とほぼ同じ能力を持つ魔術が使える。というか、こっちが原型だな。応用で、槍とか斧とか盾とか神話に出て来そうな武器や防具も出せる。代わりに剣以外だと魔力の消費量が5倍以上とかシャレにならん。アーチャーの世界の魔力とオレ達が使える魔力は物が違うのか代用出来ないのがかなり痛い」

 

「まあ、私としては問題無い。十分なバックアップが無くとも、一人でどうとでも出来る。生前よりは良い環境でもあるしな」

 

「とまあ、そんな感じで戦力的には2倍ちょっとかな?仕事の分担が出来る様になったので僕的にはかなり楽になります」

 

「なるほどな。持久力は下がった代わりに戦力はかなり上がったと考えれば良いか。他に気になる事があるんだが、いいか?」

 

「どうぞ」

 

「記憶の方はどうなってるんだ?」

 

「一人の時の記憶は全員で共有しています。三人に分かれている時は一人に戻った時に共有しても良いと思う物だけを共有します。同一人物とは言え魂は別ですのでプライベートはしっかりと確保しています」

 

「それなら記憶の共有による堕天の可能性はないか」

 

「そもそも堕天の条件ってなんなんでしょう?」

 

「……考えた事がなかったな。結構バラバラだったはずだ。初期幹部の大半は人間とエロイ事をして堕ちてたはずだ」

 

「……そんなのが幹部で大丈夫なんですか?」

 

「実際どうにかなってるだろうが。一番新しい幹部のバラキエルなんか真面目な癖してSMプレイで堕天してるんだぞ。しかも、M側でだ。オレなんて乳を突ついて揉んだだけだぞ。ミッテルトは?」

 

あれ、確かバラキエルさんの奥さんって姫島さんのお母さんで、S側って……

深く考えるのは止めておきましょう。

 

「ウチはそんなんじゃないっすよ。ウチは……物欲、だと思うんっすけどね。たぶん。人間界で人間に変装して調査してたら、気付いた時には堕天してましたし。人間界って娯楽が多いっすから、それに釣られて」

 

「ああ、それも良く聞く堕天のパターンだな。珍しいのはレイナーレだっけ。世間一般のイメージからほど遠いだろうが、天使の中でもいじめとか嫌がらせがあってな。被害者側が力を求めると堕天する可能性が高いらしい」

 

「被害者側がですか?加害者側は堕天しないのですか」

 

「愛の鞭と捉えられるんじゃないのか?まあ聖書の神が死んでからのことだからバグかもしれんが」

 

「一度調査しておく必要があるな。オリジナルは絶対に堕天するわけにはいかないからな。オレ達の説明ついでに少し話し合う必要が出て来たな」

 

プロフェッサーがめんどくさそうに言っているけど、内心では喜んでいるだろうね。

 

「私からも質問があるんだけどいいかにゃ?」

 

「どうぞ」

 

「その、分裂?私達も出来るのかにゃ?」

 

「結論から言わせてもらえば、今の所はNOだ。と言うか、割ると能力が割った分減ると思うのが一番早い。肉体はホムンクルスで誤摩化せるが、それ以外の全てが割った分だけ下がる。たぶん、オレ達以外がやると記憶とかも割れると思うからオススメ出来ないな。割った時にある程度欠ける可能性もある」

 

「あ~、それは怖くて手が出せにゃいか」

 

「そういうことだな。あと、ホムンクルスを作るのがめんどくさい。時間をかけてじっくりと作るのならそうでもないが、今回は時間短縮の為に色々と手を加えまくったから死ぬ程めんどうだった」

 

「ホムンクルスの生成を外部から手を加えて早めるとか、無茶をやりやがるな。と言うか、よく二体も作れたな」

 

「そこら辺は死ぬ程頑張ったで終わらせてくれ。あんな細かい作業、二度とやりたくない」

 

「他に質問はありますか?」

 

「ますたー、わたしの(・・・・)ますたーは?」

 

「この状態ではアーチャーの言うことを聞いて下さい。全力を出す際は一人に戻りますので」

 

「は~い」

 

ルゥの質問を最後にとりあえずの疑問は晴れたのか、この場はお開きとなりました。無論、何か質問があれば気軽に聞いて下さいと最後に言っておきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side プロフェッサー

 

 

オリジナルでは堕天する可能性がある為に立ち入る事をオレ達で禁止した屋敷の最も地下にある研究室でアーチャーと共に人が一人丸々入るシリンダーに向かい合う。

 

「プロフェッサー、調査の具合は?」

 

「少しだけ進んだ。ルゥの質問のおかげでな。詳細は未だに分からん」

 

「分かっている限りで構わない。予測でもな」

 

「そうだな、色々と予想出来るんだが、今までの調査の結果から言えば、こいつが最もオリジナルに近いんだろうな」

 

「私達三人が合わさった、真なるオリジナルにか?」

 

「ああ、そうだ」

 

シリンダー内にはオレ達三人が合わさっている時の姿の木場祐斗が培養液の中に浮かんでいる。

 

「だが、私達が元に戻る際にこいつは必要ではない。じゃあ、こいつは何なのだと言う原点に戻ってしまう。考えられるのは、死霊秘法(ネクロノミコン)に犯された魂と肉体の一部というのが一番有力だな」

 

「なるほど。だが、それでは一人に戻った時に髪が白いままなのはどう説明する」

 

「それはオレ達の魂の一部も汚染されていてそれが現れているのかもしれん。調査は必須だ」

 

「オリジナルにはこの事は伝えなくても良いのか?」

 

「伝えた所で何の意味がある。オレ達はオリジナルに寄生する事で新たな人生を歩んでいる。だが、それ自体がアクシデントだ。もしかすれば、断罪の剣は結成されないどころか、今でも教会に属していたのかもしれない」

 

「だが、それを知る方法は存在しない」

 

「その通りだ。だが、その僅かな可能性を否定するわけにはいかない。そしてアーチャー、お前はそれを否定する権利はない。僅かな可能性に賭けて、己が師であり、マスターであった遠坂凛を裏切ったお前には、な」

 

「……くっ、知られていると言うのは中々に辛いものだな」

 

「ふん、言葉が過ぎたな。悪いとは思っているさ。だが、今のオレ達は木場祐斗の一部なんだ。ならば木場祐斗の為にこの命を使う義務があるとオレは考えている。その考えに同調してもらいたいとも思っている。それが出来ない、やり難いと思うのならオレが無理矢理縛ってやる」

 

「ふん、私だって分かってはいるさ。だが、知っての通り私は日常と言う物を忘れ過ぎてしまっている。精々出来るのは降り掛かる火の粉を払うだけだ」

 

「それで構わんさ。細かい所はオレが裏から手を回す。今までと同じだ。違うのは自由度がかなり高くなった事だけだ。暇な時間は好きに過ごせば良いだろう。一番に考えるのは木場祐斗の為になることだろうが、オレ達も今を生きているからな」

 

「そんなものか?」

 

「道をそれだけだと決めつけた末路は分かっているだろう?真ん中に一本芯を用意してそれだけを曲げなければ何とかなるもんだ」

 

オレはシリンダーに追加で魔法陣を描く。

 

「とりあえず、オレは当面の間、天界に行く時に堕天に関する情報を得てから堕天せずにエロイ事が出来るようにする結界を準備するのと並行してこいつの調査、それからミッテルトの方を鍛える。魔法関連の方はオレが担当するから近接戦闘組みは任せるぞ。急がないとオリジナルが襲われる可能性が久遠から示唆されちまったからな。発情期なんてあるんだな」

 

「そちら方面は全て任せる。私は手が出せないからな。訓練の件は構わないが、私は二流の戦士だぞ」

 

「才能云々はともかく、実戦経験は一番だろうが。それを模擬戦で叩き込んでやれば良い。幸い、治療の方は簡単だからな」

 

「それもそうか。では、研究の方は任せたぞ」

 

赤いコートを翻してアーチャーが研究室から出て行くのを見送る。それからシリンダーにもたれて中にいる木場祐斗を眺める。

 

「お前は誰なんだろうな。出来ればオレの予想の中で一番最悪な形じゃない事を祈ってるぞ」

 

最悪な予想を振り払い、オレも研究室から出て行く。それにしても、身体を作り替えたってのにタバコが吸いたくなるとは、魂にまでニコチン中毒に犯されたのかよ?ああ、もう未成年が多い中でタバコなんて吸えるかよ。というか、オレの身体も未成年じゃねえかよ。チュッパチョップスでいつまで我慢出来るかな。

 



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第29話

おかしいな、オリジナルと白音のデートのはずなのにどうしてこうなった?


 

side プロフェッサー

 

 

「あ〜、暑いっす」

 

「あ〜、暑いにゃ」

 

「ほれ、自分の周囲を一定の気温に保つ符だ」

 

魔剣の効力内に無理矢理三人で入っている為に暑苦しいので白衣の内ポケットから符を取り出してミッテと久遠に渡す。

 

「はぁ〜、何が悲しくて人のデートを覗かなくちゃいけないんっすか?」

 

「説明しただろうが。猫魈にも発情期があって、誰かに恋をしてると発情する可能性が高くなって、白音がオリジナルを襲う可能性が微レ存だと」

 

「それのフォローを隠れてするのに私の仙術だけだと不安だからミッテルトに特別支給された魔剣の力が必要なんだにゃ」

 

「オレも隠密は基本的に聖剣の性能頼りだったからな。一応結界で隠密行動も取れなくないが準備が不十分なんだよ。くそっ、白音の奴め、行動が早いにも程があるぞ」

 

苛立を紛らわす為にチュッパチョップスを収納のカードから取り出して銜える。

 

事の始まりは昨日の夜の事だ。デモンベインの調整をしていた所にオリジナルがやってきて、明日白音と買い物に出かけるから留守を任せると言われた。すぐに確認の為に久遠に白音の様子を伺うと何処かそわそわと浮かれているそうだ。この時点でオレ達二人の意見は一致した。

 

オリジナルはただの買い物に付き合うだけだと考えているが、白音からすればデートのつもりなのだと。その涙ぐましい対応に応援したくなるのだが、オリジナルの堕天だけは確実に防がなければならない。堕天を防ぐ結界は既に完成しているのだが縮小するのに手こずっている。今の所建物の屋根にでも魔法陣を描けばその建物全体をカバー出来る様にはなった。だが、固定式だ。せめてA4サイズに収まる位にまで縮小したい。

 

白音の恋を応援する為にオレと久遠はその日の内に『断罪の剣』で海に遊びに行く事に決め、日程を組んで速攻で全員に通達した。無論、全員強制参加だ。名目はより高度な連携を取るために背を預けれる位に仲良くなろうと言う物だ。あと、強制的に休ませないと休まないのがオレを含めて数名いるのでそれをなんとかする為でもある。

 

この身体を得て1週間、飯とトイレとシャワーを浴びる以外は休憩らしい休憩をとっていないオレにアーチャーが五月蝿いのだ。元に戻った時に精神的疲労を押し付けようとしているだろうと。勘のいい奴は嫌いなんだよな。

 

だが、オレは戦闘前の準備がそのまま戦闘力に変わる戦闘スタイルなのだ。手持ちが少ない今は多少の無茶が必要なのだ。

 

 

 

「それにしても同じ屋敷にすんでいるのに現地集合なことの意味に全く気付いていないとは」

 

「ちょっと考えれば分かりそうなもんなんっすけどね」

 

「それでも15分前に到着して待つのは合格にゃ。私服は初めて見たけど中々良いセンスしてるにゃ」

 

「オレが服をコーディネートした。神父服で行こうとしやがったから。時間もオレが注意しといた」

 

「……苦労してるみたいにゃね」

 

「アーチャーもこっち方面では全く役に立たないからな。なんだかんだでバランスが取れてたんだな、オレ達。泣けてくる。オレごときが一番の常識人ってどうなのよ」

 

「「あ〜〜、どんまいにゃ」っす」

 

二人が肩を叩いて慰めてくれる。本気で涙が出そう。その5分後に白音がやってくる。あまり見たことのない白いワンピース姿だ。気合い入ってるな。

 

何か会話をしているようだが、まあお決まりのセリフだろう。アーチャーなら読唇で何を言っているのか正確に把握出来たんだろうがな。並んで移動を始める二人を追ってオレ達も移動する。目的地は会長とのゲームの会場となったデパートだ。

 

「一番最初に水着を買いに行くのか」

 

「まあ荷物はカードに納められれるもんね」

 

水着売り場に到着したオレ達は監視を続けながら自分たちの分も選ぶ。オレは普通に迷彩柄のトランクスタイプの物だ。一番近くに有ったからそれにした。男物の水着など大して変わらんからな。ついでにアーチャーの分も色違いで購入しておく。

 

ちなみに久遠とミッテは別行動中だ。結界はどうしたのだと思うだろうが、どうにかなるのだ。誰かを尾行しているのは怪しいが、水着売り場で水着を探すのは怪しい行為ではないだろう?つまりは結界による認識をそらす必要が減るのだ。これ位なら個人ごとに使える隠密系統でどうにでもなるのだ。

 

「ねぇねぇ、プロフェッサー、どう?」

 

久遠に呼ばれてそちらの方を見る。そこには布が申し訳ない程度にしか無く、大事な部分だけを隠す様なデザインの水着姿で大胆なポーズをとる久遠の姿が有った。

 

「似合っているとは思うが、喜ぶのはアザゼルだけだぞ。アーチャーは前世が前世だから情を完全に殺すし、オリジナルもオレもそういう水着は、理由が違うが苦手だからな」

 

「ちぇっ、おもしろくないにゃ。少しは顔を赤くしても良いのに」

 

「残念だったな。前世ならともかく、今世では枯れた生を送る気だからな。そういう暗示をかけてある」

 

「本当につまんにゃい。折角新しい人生を送ってるんだから楽しめば良いのに」

 

「そう考えられれば楽なんだろうが、あくまでオレとアーチャーはオリジナルのおまけだ。おまけらしく多少は新しい人生を楽しむが、女はな。あと、ぶっちゃけるとホムンクルスだから生殖機能はないし」

 

「うわぁ〜、ぶっちゃけすぎ」

 

「まっ、そう言う訳で誘惑してもムダだな。やるならオリジナルを相手に姉妹で取り合ってくれ」

 

「さすがにそんなことはしないにゃ。ただでさえ、白音には酷い事をしてきたのに、また啀み合いになるのは嫌」

 

「そうだよな。とりあえずアザゼルを狙わないのなら水着は変えておく事を薦めておこう」

 

「は〜い。まあ、一緒に持って来てるんだけどね」

 

そう言って似た様なデザインで布面積が増えた水着とセットのパレオを見せてくる。

 

「そちらの方が好みだな。オレには意味がないが」

 

「ぶ〜ぶ〜、もうちょっと盛り上げてくれても良いんじゃにゃいの?」

 

「だが断る。というか、ミッテはどうした?尾行を続けないといけないから出来るだけ早めに決めてもらいたいんだが」

 

「隣に入ってたはずだけど、会話にも参加しないなんて、あっ、察し」

 

「何をって、あっ、なるほど。大体分かった。ちょっとオレはもう少しオリジナル達に接近してくるから、後で合流するぞ」

 

「はいは〜い、また後で」

 

そそくさと試着室の前から離れる。後ろでミッテがからかわれているようだが気にしないでやるのが紳士の対応だろう。オレはまっすぐオリジナル達が居る方に進み、柱を盾にして会話を盗み聞きする。

 

「どっちの方が良いと思いますか?」

 

「……右の水色の方かな」

 

あのオリジナルの消耗具合を見るに、延々とどっちが良いのかと比べられたのだろうな。白音が右手に持つ腰回りにフリルが付いたツーピースの水色の水着は、オリジナルの好みにかなり近いものだからな。

 

ここはオリジナルに助け舟を出すとしようか。携帯を取り出してオリジナルの番号を打ち込む。オリジナルの懐から初期設定の着信音が流れる。白音に断わりを入れてからオリジナルが携帯に出る。

 

『もしもし』

 

「白音との買い物は楽しんでるか?」

 

『まあね。けど、何かあったのかい?』

 

「おそらく楽しんでいるが苦労もしているだろうオリジナルに助言と加護を与えようと思ってな。欲しいか?常識がズレている自覚はあるのだろう?このままだと知らないうちに白音を傷つけてしまうかもしれないぞ」

 

『それは、困るね。何故と聞かれても分からないとしか言えないけど』

 

成る程、白音にも脈はあるようだな。良かった良かった。

 

「くっくっく、その答えは自分で見つけるしかないな。さて、本題に戻るがオレとお前は一心同体と言っても過言ではないが、今は個々に存在する。そしてオレは悪魔だ。当然対価は貰う」

 

『何を望むんだい?』

 

「とりあえず注意事項をメールで送るから速攻で頭に叩き込んで扱え。そして後日でかまわんからどれだけの価値があったかをオリジナルの気持ち分でチュッパチョップスを包んでくれれば良い」

 

『分かったよ』

 

「まいどあり」

 

昨日の内に久遠の監修の元に作成したマニュアルと簡単な暗示の掛け方を送りつける。次は白音の方だ。

 

『はい』

 

「オリジナルの好みとかの詳細データって欲しくない」

 

『対価は?』

 

「オレは甘い物好きでな」

 

『後日、送ります』

 

「まいどあり」

 

白音の携帯に記憶共有によって得ているオリジナルのデータと先程得たオリジナルが白音の事をちょっと意識しているという情報を送る。それを確認した白音が少し頬を赤く染めているのを確認する。うんうん、初々しいなぁ。

 

 

side out

 

 

 

side オリジナル

 

 

水着を買い終わった後、プロフェッサーからのメールの内容を叩き込む為に一度トイレに向かう。個室に入り内容を速読して頭に叩き込む。かなり細かい内容だった上に、僕の考えと大分違っていたので苦労したがそれでも不審に思われない程度の時間ですんだ。

 

トイレから出るとちょうど白音さんも出てくる所でした。そのまま最初の予定だった秋物の服を買いに行きます。ふっ、先程はあそこまで選ばされるとは思っていませんでしたが、今度は大丈夫です。暗示もかけてありますから疲れを見せる様な事もありませんよ。

 

白音さんも先程より服を選ぶ時間が短く、本当に最後の選択だけを聞いてきた。おかげで楽しく買い物が出来ている。それに、こうやって二人だけでのんびりしているのも随分と久しぶりのことだな。屋敷の整備や工作に研究に鍛錬。他にもやる事が多過ぎた。

 

プロフェッサーとアーチャーのおかげで随分と楽が出来る様になった。仕事を押し付けるようで心苦しかったのだが、二人とも一人の時では時間の都合で出来なかった事を出来る様になったから問題無いって言ってくれた。実際、二人とも楽しそうに屋敷やデモンベインの整備、料理に掃除に裁縫をやっている。まあ、プロフェッサーの裁縫は白衣に白い糸で魔法陣を刻み込む作業なんだけどね。

 

店から出る際、白音さんが控えめに左手を握ってきたので、軽く握り返すと少し顔を赤くしながら嬉しそうな顔をしてくれた。その笑顔を見ていると、こう、胸の奥が温かくなる。この気持ちは一体なんと言えば良いのだろうか?

 

 

side out

 

 

 

 

side プロフェッサー

 

 

「これは監視する必要もなかったかな?何処の小学生のカップルだよ」

 

「見てるこっちの方が恥ずかしくなるっす」

 

「にゃ〜、もう少し突っ込んでも良いと思うのに奥手と言うか恥ずかしがりと言うか。もどかしいにゃ〜」

 

物陰に隠れながら監視を続けているオレ達は、半分監視を投げっぱにしながらオレ達はオレ達で楽しんでいる。今はゲーセンで二人がダンスゲームをやっているのを見ながら、ミッテと二人ですぐ近くのドラム型洗濯機みたいな筐体の音ゲーをやっている。知っている曲と知らない曲と微妙に知っている曲と微妙に知らない曲とかなんかカオス。こんな所で前世と違う文化に触れる事になるとわな。

 

「プロフェッサーとオリジナルって本当に別人なんっすね。普通にゲームに慣れてるっす」

 

「大学の同期との付き合い上な。そこそこ得意だ。久しぶりにやるが、身体は覚えているみたいだな」

 

ミッテと二人で最高ランクのパーフェクトを出し終えてオリジナルの方を見る。オリジナルは照れがあるのか動きにキレがないな。白音は慣れているのか照れはないようだ。

 

「肉体スペック的には簡単なはずにゃのにね。あと、はい、頼まれたの」

 

「サンキュー」

 

「ありがとうっす」

 

音ゲーの前にやっていたエアホッケーで負けた久遠が自動販売機でオレ達のジュースを買ってきてもらったのだ。手渡されたペットボトルの蓋を開けながら適当に曲を流し見ていき、腕が止まる。画面に映し出されているのは、とあるアニメのOPでアニメのタイトルは『Fate/Zero』

 

「どうかしたっすか?」

 

「ちょっと待ってくれ」

 

検索をかけてみると『Fate/Stay night』の方もある。しかも『エミヤ』が入ってた。誰だ、こんなピンポイントな選曲しやがったのは。アーチャーの素性がバレたら、おもしろいだろうが。

 

迷わず選択してプレイする。一緒に流れる映像はバーサーカー戦か。先程までと同じ様にプレイしていたミッテだったが、固有結界を見て動きが止まりミスを重ねる。何か言いたそうだったがゲームの方に集中するようだ。

 

「あの〜、今のってアザゼル様から聞いたんっすけど、コカビエルの時の」

 

「同じ様な魔法を使うなら行き付く先も同じだろう?」

 

明確な肯定はせずに若干ぼかす。オレが直接バラしたと知られるとオレがアーチャーにお仕置きされてしまうからな。

 

「どう見てもアーチャーと一緒じゃないっすか!!肌の色とか、武器の構え方とか、その他諸々が!!今wiki見たっすけど、同じじゃないですか!!」

 

「じゃあ、同じと言う事にしとけ。正しいかどうかは本人に直接聞くと良い。オレはオススメしないがな」

 

「おっと、二人が移動するみたいっすよ。追いかけるっす」

 

露骨に会話を切って逃げ出すミッテを久遠と二人で苦笑しながら追いかける。ああ言う小物っぽい所を見せても不快に感じさせない所がミッテの魅力だろうな。

 

結局、この日は白音がオリジナルを襲う様な事は無く、見てるこっちが精神を削る監視になった。うん、公共の場でクレープの食べさせ合いなんてオレには出来んよ。いくら甘い物好きのオレでも勘弁して欲しくなった。久遠も同じようだが、ミッテは羨ましそうにしていた。

 

これからも二人がデートをするたびに監視なんてしたくないので、戦力の拡充よりも先に堕天しないですむ結界の携帯性の向上に勤めないとな。

 

 

side out

 



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第30話

長くなりそうだったので前後編に分けます。今年中に木場君をもう一話投稿したい。


side プロフェッサー

 

 

「え~、本日はお日柄も良く「挨拶は面倒だから早くするにゃ~」オレも面倒だと思うからカットするか。それじゃあ、今回の趣旨と注意事項と簡単な予定だけ伝えるぞ。質問は最後だ。今回の趣旨だが、とりあえず『断罪の剣』で種族関係なく仲良く遊んで楽しもうぜ、戦場で助けを求めたりするのを躊躇わないですむ位に。ちょっとヤバそうな相手と戦う事になっていきそうだからな。普段話さない様な相手とも積極的に話さないといけない状況に持ち込むからそのつもりで」

 

「「「「ちょっと待ったーー!!」」」」

 

何人からか抗議の声が上がるが無視だ無視。

 

「別に危険な事はしないから落ち着け。ただ単にペアを作ってレクリエーションをするだけだ。ちゃんと商品も用意しているから頑張れ。注意事項だが、特に無いんだよな。まあ、海は危ない所だから、危険を感じたら大声を出すなり、魔力や光力を解放して危険を知らす事。準備運動を忘れない事。アーチャーがライフセイバーの免許持っているから指示に従う事位か。予定としては昼前にペアを決めて、その後昼食、少し休みを挟んでからレクリエーションを開始する。それからこの周辺はオレの契約者の一人の私有地で特に誰も居ない。あそこのコテージは好きに使ってかまわないそうだ。どうせオレが契約の対価にされるだけだからな。それでも設備を壊したりはするなよ。はい、質問のある奴挙手、いないな。良し、各自解散!!」

 

「「「わ~い!!」」」

 

解散を告げると同時にミッテとイリナとルゥが着替える為にコテージに走っていくのを生暖かい目で見送りながら、男性陣でパラソルやらレジャーシートなどの重い荷物を持って浜辺に移動する。まあ、下に水着を着ているからな。男はそこら辺が楽で良い。というか、オレとアザゼルはアロハにサングラスと泳ぐ気ゼロである。レクリエーションで強制的に泳ぐけどな。

 

パラソルを立てて、その下にレジャーシートを敷き、クーラーボックスを置く。アーチャーは折りたたみ式のテーブルの上で肉や野菜を切り始めている。パラソル一式を四箇所用意してからバーベーキューセットの準備を終え、オレはレジャーシートの上に寝転がり、そのまま眠りにつく。この日の為に色々と準備をして疲れたのだ。堕天しないですむ様になる魔法陣の縮小に自分の戦闘用の小道具類の調達、屋敷の結界やデモンベインの調整及び改修作業などを不眠不休で行っていたのだ。

 

さすがにクスリや術式でも疲労を誤摩化すのが限界になっていたのだ。それでも効率のいい休息を取る為に睡眠による休息を強化する魔法陣を新規に製造した。昼前まで寝ればほぼ全快の予定だ。ついでに快適に過ごせる様に遮音結界と気温調整の結界を張っておこう。それじゃあお休み。

 

 

side out

 

 

 

 

side ミッテルト

 

 

先日買った水着に着替えて砂浜にまでやってくるとアーチャーさんが昼食の下準備をしたり、祐斗さんがそれの手伝いをしている中、パラソルの下で早速酒を飲んでいるアザゼル様と爆睡している師匠が目に入る。しかも、師匠は何かの結界を張った上でだ。

 

今日まで色々と急がしそうにしていたのは分かるっすけど、それでも女性陣を完全に無視する様に寝ている師匠にちょっとイラッと来たっす。とりあえず日頃の恨みも込めて埋めるっす。

 

ルゥが何かの遊びと勘違いしたのか一緒に師匠を埋め始め、他にもイリナとかゼノヴィアも手伝い始める。何でもコカビエル討伐の折に色々と酷い目に会わされたそうっす。その時は分離出来なかったそうっすけど、表面に出ていたのをアーチャーさんに確認したそうっす。あとは、久遠もおもしろそうだからって手伝ってくれたっす。

 

いやぁ~、久遠とは相性が良いと言うか付き合いやすいっす。白音とは違って本当に猫そのものと言うか、野良猫らしい自由さが目立つっす。まあ、野良猫みたいな生活を送っていたらしいっすから間違いじゃないんっすけどね。別にウチはそんなこと気にしないっすよ。妹の為に主を殺して、生きる為に色々な組織を転々とするのは悪い事だとは思えないっすから。

 

話が反れたっすね。師匠がある程度埋まった後、練習を兼ねて結界を敷いて封印してみる。空間固定を軸にした結界っすから更に上に砂を積んで城を作る事にするっす。途中からアザゼル様が参加した所為かもの凄く立派な城になったっすから勿体ないと思い、城の方にも空間固定を施しておく事にするっす。

 

そして、これだけの事をしたにも関わらず相変わらず師匠は寝たまんまだったっす。かなり間抜けな姿だったっすから記念に写真も撮っておくっす。ネタにしたらどんなお仕置きを受けるか知れた物じゃないっすけど。

 

「なんか予想以上に凄いのが出来たっすね」

 

「そうね。それ以上に凄いのがこれだけの事をされて全く起きる気配がないプロフェッサーも凄いわね」

 

イリナの意見に殆どの人が同意したっす。もちろんウチもっす。

 

「あれ、プロフェッサーはまだ寝てるんだ」

 

白音と二人で遊んでいた祐斗さんがやってきたっす。意外と鍛えられた身体をしてるっすね。同じ身体を作ってるはずっすから師匠もあんな感じっすかね?全然想像出来ないっす。明らかに研究職の生活してるっすから。あっ、でも資材とかをまとめて担いでたりしてたっすね。

 

「やっぱり無理をさせていたのかな?」

 

「楽しそうに色々とやってたっすから問題無いっすよ。それに一段落着いたらしいっすから」

 

「ミカエルから頼まれてる奴が仕上がったんだったか?よくあんな物を作れたな」

 

「いやいや、それはとっくの昔に完成してるっす。堕天の仕組みを聞いてから三日程で。それを縮小するのに時間がかかってただけっすから」

 

「……こいつ、意外と有能なんだな。今まで誰も出来なかったのに。立ち入り禁止区域の研究室に籠ってるからあまり話した事がなかったが」

 

アザゼル様の発言で師匠に注目が集る。まあ、著書を読む限りもの凄く有能なのは分かるんっすけどね。ただ人に直接教えるのは向いていない。課題の量が半端じゃないのだ。その課題以上のことをこなしているので文句も言えない。だから今回みたいな悪ふざけ位許して欲しいっす。

 

「ルゥ、蟹を捕りにいくっすよ。周りにバラまいたらおもしろそうっす」

 

「は~い」

 

ルゥと一緒に蟹を求めて岩場の方に走るっす。

 

 

side out

 

 

 

 

 

side プロフェッサー

 

 

 

「ぎゃああ~~~、ウチが悪かったっす!!お助けをおおお~~~~!!」

 

オレの安眠を妨害したミッテを棒に括り付けて火あぶりの刑の処す。一応、火傷などは負わない様にしてやっているが、熱は感じる。オレを埋めるだけならまだしも蟹を放って目を傷つけられそうになったのは許せん。

 

オレがミッテを火あぶりにかけている横ではアーチャーが昼食のバーベーキューの準備を始めている。魚を持って来た覚えはないのでアーチャーが釣ってきたのだろう。

 

「すまんが火をくれ。有り余っているだろう」

 

「好きなだけ持っていけ。その分追加するだけだからな」

 

「ちょっ、まじで許して!!そろそろヤバいっすから!!」

 

「ほれほれ、頑張って結界を張れ。魔法陣を書く程度は出来る様に縛ってあるんだから」

 

「妙に手枷が緩いのにがっちりと解けそうにないのはそう言う意味っすか!?」

 

「お仕置きを兼ねた訓練だ。早くしないと火力調整が面倒になって燃料を全部突っ込むぞ」

 

「ぎゃあああああ!!スパルタにも程があるっす!!この人でなし!!鬼!!悪魔!!」

 

「だって悪魔だからな」

 

ぎゃあぎゃあと文句を言いながらもミッテは必死に魔法陣を書こうと努力している。今更ながらミッテが着ている水着を見る。久遠から教えられた最初に選んでいた水着とは違い、ルゥが着ている様なフリルが大量に使われている物でミッテに良く似合っているな」

 

「うぇ!?な、何を急にって、げっ、線がずれた!!」

 

うん?最後の部分が声に出ていたか。裏に回って魔法陣を確認すると8割程書けていたが、重要な線がずれている為に効力を発揮出来なくなっている。ついでに修正も難しいな。仕方ない、火力をアップさせるか。

 

「ちょっ、普通火力を下げるんじゃないんっすか!?」

 

「早くしないと昼食にミッテの丸焼きが増える事になるのか」

 

「なんっすか、その明日にでも屠殺場に連れて行かれる豚を見る様な目は!?」

 

「形が崩れない様に更に縛り上げておくか」

 

「タンマタンマっす!!頑張るっすよ、ウチ!!簡易版の魔法陣を!!」

 

オレの脅しが効いたのか、次々と効力が限定されている魔法陣を書き上げていき、最後に光力で作り出した槍で縄を解いて脱出に成功した。

 

「ヤバかったっす。今のは本気でヤバかったっす」

 

「これに懲りたらオレの安眠を妨害するんじゃない」

 

「ちなみに埋めるだけならどうなってたっすか?」

 

「そうだな。ただ埋めるだけなら課題の量を増やしていたが、上に立派な城を建てていたからな。中に空間固定系の魔法陣を書いていたようだし、構成の甘い部分の解説をする位か」

 

「基準が分かり難いっす」

 

それだけ言ってミッテが倒れたので近くのパラソルの下まで抱きかかえて運んでやる。昼食まで休ませてやるか。オレは、そうだな、あの砂の城を改造するか。

 

 

side out

 

 

 

 

side アーチャー

 

 

隣で火あぶりにされていたミッテルトをプロフェッサーが連れて行った為にようやく静かになった。暴れられたりすると食材にゴミが入ってしまう可能性があるから火を調整する事しか出来なかったが、今なら問題無いだろう。下ごしらえをしておいた食材に串を通して焼き上げていく。

 

本来、このやり方は食材に火を通す時間が同じになってしまい、串に通した食材に火を通し過ぎてしまうか逆に火が通っていない物が混ざってしまうのだが、堕天使として手に入れた光力を上手く扱えば火力を部分的に調整する事も可能だ。集中力が必要になるがいつもと変わらんな。

 

しばらくすると臭いに釣られてイリナとルゥがふらふらとやってくる。予測出来ていた事なので予めつまみ食い用に用意しておいた肉の切れ端を口に放り込んでやる。

 

「そろそろ焼き上がるから皆を呼んで来てくれ」

 

「はいは~い」「は~い」

 

つまみ食いの対価に簡単なお使いを頼んでおく。ミッテルトはまだ動けないだろうから後でいいだろう。プロフェッサーも城の改造をするから最後の方で良いと言ってきていたな。二人の分は白音に回せば良いだろう。ちょうど焼き上がる頃に皆が集ってくる。

 

「どんどん焼いていくから好きに食べろ。私とプロフェッサーとミッテルトは後で頂く」

 

『断罪の剣』のメンバー分を一斉に焼くには私でも焼く事だけに集中せねばならない。プロフェッサーは味覚はしっかりとしているが食えない程不味くなければ気にしない男だからな。私とミッテルトの分位なら食べながらでも焼ける。

 

大半のメンバーが食べ終えた頃にプロフェッサーがミッテルトを連れてくる。

 

「う~っす、残ってるか?」

 

「無論だ。もう少し待て」

 

「あ〜、丸焼きにされかけた後でのバーベキューって変な感じがするっす」

 

やってきた二人に少しだけ待つ様に伝える。

 

「そう言えば、城の方はどうしたんだ」

 

「原形が残らなかった」

 

言われて砂の城の方に視線を向けると、そこには冬木のアインツベルン城かと思う程に増築された日本式の城がそびえ立っていた。魔法陣もかなりの数を仕込まれているのか工房の一歩手前まで行っている。地盤も強化されているのか崩せそうもない。

 

「少しは自重したまえ。何処の敵と戦うつもりだ」

 

「つい興が乗ってな。帰る時には崩すから心配するな。攻性結界も脅し様みたいな威力しかないからただのアスレチックだと思え」

 

見れば既に何人かが天守閣まで登ろうとして罠にかかって城の外に放り出されている。楽しそうにしているみたいだが、水着が脱げかかっているのも居るな。

 

「アレは不可抗力だ。どうしようもない」

 

「まあ、そうだな。それより、焼けたぞ」

 

「おいしそうっすね」

 

プロフェッサーとミッテルトが食べ始めたので私も食べさせてもらおう。

 

 

side out

 

 

 

side 木場祐斗

 

 

「危ない!!」

 

床の模様に巧妙に隠された魔法陣を踏んだ白音さんを抱えて横に飛ぶと同時に強力な斥力が発生する。グラビティコアを作り出して床に突き刺して踏ん張る。5秒程で斥力が止まるが油断は出来ない。他にも罠が連動している可能性がある。

 

プロフェッサーが改造した城を攻略し始めて既に1時間経っているが、未だに天守閣に辿り着く事が出来ない。この階層を昇れば天守閣なんだけど、プロフェッサーとアーチャーとミッテルトさん以外の全員で登っていたのに、既に僕と白音さん以外が一番下まで送り返されている。

 

「随分苦労しているようだな」

 

後ろを振り返るとアーチャーが立っていた。

 

「登るの早くない?」

 

「私は解析が使えるからな。罠や魔法陣の位置は分かっている」

 

なるほどと思う。アーチャーの使える数少ない魔術を使えば確かに簡単だろう。

 

「待つっすよ。ウチの休暇がかかってるんっすから!!」

 

下からの階段からミッテルトさんが飛び出してくる。階段の最上段で一度止まり、じっくりと床と壁を見つめ始める。

 

「休暇って?」

 

「私より先に天守閣に辿り着いたら一日だけ課題を無しにするそうだ。私は普通に歩くのが条件だ」

 

「よし、行けるっす!!」

 

ミッテルトさんが何かを避ける様にジグザグに走ったり、飛び込んだりして通路を抜けていく。

 

「やったっす、これでああああああああ〜〜〜〜〜〜!?」

 

通路の奥の階段に足を掛けた途端、下へと落ちていってしまった。

 

「くっくっく、実はあの階段、下から3段がフェイクで固定されていないのだよ。そして、その下には固定を解除する魔法陣が仕込まれている。今頃は下の階層の入り口だ。所謂初見殺しだ」

 

アーチャーが意地悪そうに笑っている。知ってたから立ち止まって僕らと話していたんだろう。するすると通路を抜けて横から階段の4段目に飛び上がる。

 

「それでは頑張りたまえ。プロフェッサーも皆を連れて登ってきているからな。私は少し準備があるのでな、失礼させてもらおう」

 

そのままアーチャーは階段を上って姿を消す。さて、僕達も追わないとね。アーチャーとミッテルトさんが通った道は異なる。二人の足跡が残されているのでそれを観察する。ミッテルトさんは休暇を得る為に多少無理に駆け抜けたのか、つま先、または踵部分しか踏んでいない部分がある。その周囲には魔法陣の一部があるのだろう。

 

アーチャーの通った経路は少し複雑だ。右に曲がったと思ったら一歩だけ進んでバックしたり、多少の跳躍も含まれる。だけど、しっかりと足下を踏んでも大丈夫なのだろう。しっかりと足跡を残してくれているからそれを辿れば問題無い。だけど、それで良いのだろうか?二人の足跡を見ると、もう一つ位ルートが隠されていそうだ。

 

そもそもプロフェッサーが全員を連れてきているのだから、普通に歩いて通れるルートが絶対に存在しているはずだ。ええっと、あそことあそこが魔法陣だから、構成を維持する為に補助をそこに書く必要があって、それからそこにも罠が有って、白音さんが踏んだ罠がそこだから、ミッテルトさんが踏みかけてるそれがこれと干渉してて、いや、そっちにも干渉してるのか。つまりこことそことそれで合同で一つの魔法陣と個々の魔法陣を描いているのか。その上で床の模様に見せかけているのか。

 

こうしてみると、かなり手間隙掛けて作られているんだね。大雑把に見えても細かい気配りと言うか管理と言うか、ミッテルトさんを見ているとよく分かる。ミッテルトさん本人は気付いていないのかもしれないだろうけど、僕達が分離出来る様になってから急激に力を付けている。もう中級どころか上級に指が引っかかっている位に力が付いているのに今まで以上に力を使い方が上手くなっている。魔法陣もかなりの数を書ける様になっているみたいだ。急激にそれだけの力を付けたのに本人に気付かせず、オーバーワークにもさせない細かい管理をプロフェッサーは行っているのだ。自分は色々とオーバーワーク気味に活動しているのにね。

 

さて、ルートは把握出来た。ここからは特に問題もないね。白音さんを横抱き、所謂お姫様抱っこをしたまま通路を歩く。残っているルートはそこそこ分かり難い上に危険そうな魔法陣のすぐ傍も通る。このままの方が進みやすい。白音さんも嫌がっていませんからこのままでいいでしょう。

 




ミッテルトとプロフェッサーが異常に動かしやすい。特にミッテルト。小物役から落ちまで何でもこなせそう。


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第31話

年内更新、ギリギリ間に合わなかったorz

新年あけましておめでとうございます。今年も私、ユキアンの作品を楽しんで頂ければ幸いです。


side 木場祐斗

 

 

天守閣に到着してから5分程でプロフェッサーが他の皆を連れて天守閣にまでやってきた。態々用意したのか『断罪の剣 御一行様』と書かれた小さな旗を持って。

 

「は~い、こちらが天守閣になります。この城唯一の安全地帯、魔法陣も固定化しか存在せずに罠も一つしかない上に分かりやすく、ドクロマークのスイッチ式。ちなみに中身は自爆スイッチとなっておりま~す」

 

「なんで自爆スイッチなんて付けたんっすか!?」

 

「ロマンだからだ!!」

 

「ロマンなら仕方ないにゃ~」

 

「ロマンだからって仕方なくないっすよ」

 

「まあ、実利面で見ると帰りに元に戻す必要がある以上、自壊させる必要があるからな。爆発も殆ど起こらんようにしてある。それよりもアーチャー、準備は出来てるか?」

 

「無論だ。カードから取り出すだけだからな」

 

隅の方で何かを取り出していたアーチャーが福引きに使う、そう言えばあれって正式名称ってなんなんだろう?まあガラガラで良いか。ガラガラとホワイトボードを持って来る。

 

「中に色の付いた球を入れてある。引いた色でチームを組んでレクリエーションを行う。優勝したチームには豪華賞品を、ビリのチームには罰ゲームを用意してある。各員、本気で挑む様に」

 

そして順番に皆が引いた結果が以下の通りになる。

 

 

赤:木場祐斗、塔城白音、ゼノヴィア

 

青:アーチャー、紫藤イリナ、ミッテルト

 

緑:アザゼル、グリゼルダ、ルゥ、ヴァレリー・ツェペシュ

 

黄:プロフェッサー、ギャスパー、久遠

 

 

「と言う訳でチーム分けが終わったな。それではレクリエーションを始めるぞ。まず最初はリレーだ。あそこに見えるブイまで行って帰ってくる。往復で70m程だな。飛行と転移以外の魔法は使っても良し。直接攻撃は失格。緑チームは三人選んでやるように」

 

プロフェッサーと久遠さんが同じチームか。絶対搦め手で来るだろうね。今も二人でにやにやしてるし。白音さんも泳げるのは最低限ですしね。これは厳しいでしょうね。

 

「それじゃあ、下まで行くか。適当に罠に引っかかれば下まで一直線だからな」

 

そう言ってプロフェッサーが階段を下りていき、何らかの罠が稼働する音が聞こえてくる。窓から下を見てみると、プロフェッサーが勢い良く飛び出して着地に失敗して転がっていた。本当に運動が下手なんだね。単純な力仕事とかは大丈夫みたいだけど。

 

「それじゃあ、ウチらも行くッスよ」

 

ミッテルトさんが窓から飛び出して堕天使の羽を広げるも飛ぶ事が出来ずにプロフェッサーの真上に落ちる。城の中だけでなくて外も飛行不能の結界の範囲内だったみたいだね。

 

「ミッテ~~~、貴様ーーーーー!!オレに恨みでもあるのか!!」

 

「不可抗力、不可抗力っす!!あと、恨みはありまくりっすよ!!」

 

砂浜で鬼ごっこが始まる。仲の良い男女が砂浜でおいかけっこをしてるのに甘い空気にならないのはあの二人らしい。

 

「はぁ、イリナ、付いて来い。このままだとミッテルトが使い物にならなくなる」

 

「はいは~い」

 

アーチャーが擬態の聖剣を産み出して、それをロープの様に使って城の壁を降りていく。紫藤さんもそれを真似して下まで降りていく。

 

「器用な事をするな、あいつら。まあ、オレらは普通に降りれば良いだろう。どうせ全員揃わねえと始まらないんだからな」

 

アザゼルさんがもっともな意見を言って普通に降りていく。僕達もそれに続いて降りると、床に白線が引かれていて、全員がその上を通る様に歩いていく。なるほど、ああやって案内してきたのか。

 

 

 

 

 

「え~、それではレースを始める。各員準備は大丈夫か?」

 

「一番良い装備を頼むっす」

 

「お前は別チームだろうが。自分で準備しろ」

 

「うぃ~っす」

 

お約束の様にミッテが茶々を入れて場を和ませる。分離出来る様になってからの基本パターンだ。

 

「さて、今度こそ大丈夫だな」

 

僕らのチームの一番手はゼノヴィアさんで他はアーチャー、アザゼルさん、ギャスパーだ。アザゼルさんはめんどくさそうにしているけど、普通にやるみたいだ。アーチャーは何か考え事をしている。一番気になるのはギャスパーだ。サンダルを履いたままでいる。何かあると確信する。

 

ゼノヴィアさんが戻ってくるまでに色々と対応しなければ勝利は難しいだろう。おそらくだけど、アーチャーも何かを仕掛けてくるはずだ。皮肉屋だけど負けず嫌いでもあるから。

 

「ようい、スタート!!」

 

合図と同時にアザゼルさんとアーチャーが肉体強化を施して駆ける。ゼノヴィアさんも一歩送れて飛び出す。そして一番最後尾はギャスパーだ。

 

「って、あんなのありなの!?」

 

最後尾を走っていたギャスパーは未だに走っている。だが、最後尾ではなく今は先頭だ。先頭を走っているのだ。

 

「ふはははは、結界のちょっとした応用だ。海水と反発する結界の魔法陣をサンダルの裏に仕込んでおいたのだ。そして」

 

戻ってきたギャスパーと代わり、今度はプロフェッサーが走り出す。そして収納のカードからサーフボードを取り出す。そのサーフボードは海水に触れると同時に勝手に滑り始める。プロフェッサーがその上に乗り、魔力を流し込む事でスピードが上がる。

 

「このオレ、プロフェッサーはスポーツの中で板に乗る物だけは得意中の得意なのだよ」

 

自分で得意と言うだけあって、波に攫われることなくブイまで到達して折り返し始めた瞬間、海面下からの爆発に飲み込まれて海の藻くずへと変化していった。たぶん、アーチャーが泳ぎながら無限の剣製で無銘の剣をバラまいていたんだろうね。

 

「ぶはっ、アーチャー、テメエの仕業だな!!」

 

「ふっ、ルール上問題あるまい。直接攻撃ではないのだからな」

 

「無論、問題無い。だが、オレのボードを粉砕しやがって。覚えてやがれ!!」

 

ボードを壊されたプロフェッサーが泳ぎだし、再び爆発に飲み込まれる。

 

「覚えておくのは面倒だからな。障害はここで排除させてもらおう」

 

次々と海面が爆発していく中、プロフェッサーが沈んだ場所から少し離れた場所が赤く染まる。

 

「くっくっく、これでアーチャーは直接攻撃をかましたことになる」

 

海面が赤く染まった部分からプロフェッサーが浮かび上がってくる。その顔は痛みによって引きつっている。海中の剣を抱き込んだのか、胴回りから大量の出血を伴っている。それに左腕も殆ど動かしていない。

 

「げぇ、師匠があそこまでなり振り構わないってことは賞品がかなり惜しいのか、それとも罰ゲームがヤバいのかの二択っすね。もしくは両方っすか?」

 

ボロボロの身体を引きずって戻ってきたプロフェッサーが自分の治療を施しているのを見ながらミッテルトさんが顔を青ざめています。これは、僕達も本気を出した方が良さそうですね。

 

 

 

 

結局、遠泳対決は僅差で緑チームが1位、2位に僕達赤チーム、そして3位に黄チームで青チームが失格で4位と言う形になった。

 

「次はビーチバレーだな。見ての通りコートは準備済みだ。ルールは11点2セット先取。メンバーは二人だがサーブ前ならいつでも交代可能だ。それから引き続き飛行と転移と直接攻撃の禁止。それに追加してボールを破壊した場合は失点扱いだな」

 

治療の為なのか鏡を見ながら自分の身体を縫合しているプロフェッサーがルールを説明する。その姿に大半がどん引きしている。僕もどん引きだ。

 

「とりあえず聞きたいんだけど、なんで治癒魔法をかけないの?」

 

「良い質問だな。簡単に説明するとオレの身体は日々改造を加えていてな、現在の所、ホムンクルスよりはゴーレムよりの身体になっていて治癒魔法が効き難い。代わりにこんな適当な処置であとはパテでも当てれば修理完了だ」

 

そう言って本当にパテを塗り込んで乾かしてしまった。さらに皆が引く。幾ら何でも生物を辞め過ぎだ。

 

「自分の身体すら研究材料にするとかイカレすぎっすよ」

 

「何を言っている。ミッテも、おっと」

 

「ちょっ!?ウチも改造したんっすか!?何をしたんっすか!?吐け、吐くっすよ!!」

 

「こう拳と拳を合わせてチェンジサイボーグと叫ぶとだな」

 

「よりによって鋼鉄ジーグ!?」

 

「特に何ともないな」

 

「焦らせるのも大概にするっすよ!!」

 

「さすがのオレでもそこまで時間がなかったからな」

 

「時間があったらしてたんっすか!?」

 

「だってミッテは弱いからな。死ぬ位ならそっちの方が良いかなと思わないでもない」

 

「マジで鍛えてるんで止めて下さい、ウチの精神が死んでしまいます」

 

「ちぇっ、残念」

 

二人の漫才が終わりいよいよ試合が始まる。先程の遠泳と違い、緊張感が張りつめる。ミッテルトさんが言った賞品が凄いか罰ゲームが酷いのかどっちかわからないと言う言葉に全員が遊びであると言う考えを捨てた。罰ゲーム、改造手術じゃないよね?

 

そして始まったビーチバレー。トーナメント戦らしく最初は赤チーム対青チームとなる。ゼノヴィアさんがルールに不安があると申告してきたので先鋒は僕と白音さんで、相手はアーチャーと紫藤さんのコンビだ。コイントスでサーブ権を得て試合が始まる。

 

序盤は確認の為か全員が肉体強化を抑えめにしていたが、確認が終了してからが本番だ。アーチャー以外の全員が肉体強化をボールが耐えれる限界まであげる。アーチャーの行為に何故という疑問が浮かぶが、考えれば魔力が足りなくなるのだと理解する。2試合だけとは言え途中で魔力を切らすわけにはいかない。その為かアーチャーは最低限の肉体強化と目の良さ、そして経験を活かしたフェイントを多用して試合のペースを掴む。

 

それに対抗する為に僕達も戦法を変える。アーチャーの魔力を削る為の消耗戦だ。白音さんの全力のアタックに耐えれる様にボール自体を強化してアーチャーに向かって叩き込む。躱せばこちらの点になる様に打ち込む位置も調整しながら強引に流れを変える。

 

だが、敵も然ることながら対抗策をすぐに打ち出してくる。紫藤さんに変わってミッテルトさんがコートに入り、アーチャーの強化を一手に引き受けたのだ。ミッテルトさんは既に上級に指先がかかる程の光力の量とプロフェッサーが徹底的に追い込んで得た高速陣形成と各種補助魔法と結界、そしてゼノヴィアさん達前衛組に追いかけ回されて鍛え上げた高い耐久力とスタミナと瞬発力に回避能力を身に付けている。直接攻撃が出来ない現状、ここまで厄介な相手は数少ない。本人は気付いていないけどね。

 

結局、ミッテルトさんに強化されたアーチャーに押し切られる形で僕達は負けた。続く緑チーム対黄チームはアザゼルさんの力押しに久遠さんとギャスパーが耐えられない形となった。プロフェッサーはまだ身体の調整中らしく試合に出て来なかった。

 

そして3位決定戦、相手は久遠さんとギャスパー、プロフェッサーは再び出て来ない。こちらはゼノヴィアさんと白音さんだ。プロフェッサーの行動に合わせて僕が対策を用意することになっている。

 

注目はコートの外に集っている。

 

現在、1セット目が終了した所で久遠さん達に取られてしまった。プロフェッサーは未だに動いていない。ただし、ここぞと言う所で魔力を高めたり、全く魔力を感じない状況から突如の強風が吹いたりと、こちらの集中力を切らせに来ている。久遠さんとギャスパーも動揺したりしているので、本当に偶然が重なって強風が吹いているのだろう。

 

さて、僕はこれにどう対処すれば良いのだろう?

 

 

side out

 

 

 

side プロフェッサー

 

 

よし、意識が外れたな。今の内に久遠と打ち合わせをするか。まあ、単語の羅列なんだけどな。おかげでちょっと指示がずれることがあって久遠が動揺することもあったが、逆にあれで警戒が解けた。まだまだ甘いな。この場を支配しているのはオレと久遠の二人だと気付けば、またはオレの運動神経が全く無いことに気付けば少しは展開が変わったのだろうがな。

 

オレがコートに入った途端、負けが確定すると言っても過言ではないからな。うん、スポーツでまともに出来るのは短距離走位しかないからな。ボールを扱う競技は特に駄目だ。真直ぐに飛ばせないし、投げれないし、蹴れないし、味方に被害を出す可能性の方が高い。自分の運動音痴に絶望してしまう。

 

結局試合はオリジナルが入るも流れを変えられずに久遠とギャスパーが勝利した。そして決勝はアザゼルさんの力押しでなんとかした結果緑チームが優勝した。

 

その後もオレが用意したゲームを全員が持ち前の能力と、コンビネーションを発揮し、死力を尽くして戦い抜いた。その結果は

 

「優勝は青チームで、残りが同着か。こいつは少し予定外だな」

 

仕方ないな。ここは先に優勝賞品を渡そう。

 

「では、優勝賞品を渡そう」

 

収納のカードからトランクを3つ取り出して青チームの三人に差し出す。トランクを開けて中を確認した三人から驚きの声が上がる。中にはびっしりと大粒の宝石が敷き詰められているからな。しかも限界まで魔力を込めてある宝石だ。

 

「すぐにでも宝石魔術で最上級魔術を使える宝石セットだ。宝石だけで20億円程使っている。そこに限界まで魔力を込めてある。宝石魔術で限界まで魔力を込められた宝石はそれだけで神秘的な魅力を発する様になる。買い集めるのに20億程かかったが、売り払えば50億は硬いな」

 

オレに宝石の価値は分からんが、一流の宝石商がそう言ってた。

 

「ほ、本当に良いんっすか?これ、貰っちゃって」

 

「賞品として用意した物だからな、好きに使えば良い。売り払うのも加工するのも自由だ。宝石魔術の使い方が分からないなら研究室の棚に魔術書を置いてあるからそれを参考にすれば良い。加工してアクセサリーにするなら、腕の良い職人を紹介しよう」

 

「ありがとうございます」

 

「で、罰ゲームだが、青以外から各チーム生け贄を1名出せ。言い出しっぺの法則で黄からはオレが出る」

 

「赤からは私が行こう。あまり活躍出来なかったからな」

 

「緑からはオレだな。嫌な予感がするからな」

 

「それじゃあ、罰ゲームの発表だ。城の爆破スイッチを押しにいくぞ」

 

「「えええええええ!?」」

 

「爆破スイッチを押すと同時に魔力と光力が完全に使えなくなるから急いで駆け下りる必要がある。遅くなるとそのまま飲み込まれるからな」

 

逃げ出そうとしたアザゼルを仕込んでおいた結界で捕縛して連行する。ゼノヴィアさんも逃げようとしたが、アザゼルの状態を見て諦めたようだ。三人で天守閣まで登り、アザゼルの拘束を解く。

 

「良いか、計算ではスイッチを押してから2分45秒で完全に城は崩れる。そしてスイッチを押すと同時に魔力と光力が使えなくなる。つまり罠も一緒で作動しない。ただし、自爆スイッチは城の中に居る生命反応が全て天守閣に居ないと作動しないようにもなっている」

 

「ならお前が押せ。オレとゼノヴィアは階段の手前に居るからな」

 

「いいだろう。準備は良いか」

 

アザゼルとゼノヴィアが階段の前にまで移動する。

 

「良いぞ」

 

「やれ」

 

二人の準備が整うと同時にスイッチを乱暴に叩く。二人は階段を駆け下りていき、オレは窓から屋根へと登る。オレの足の早さだと逃げ切れないのは分かっているからな。砂の中からすぐに這い出せる様に出来るだけ上にいる必要があるのだ。さて、二人は逃げ切れてないだろうな。魔力や光力を使った罠は作動しないだけで、普通の落とし穴は作動するから。どっちかが引っかかってるだろうな。

 

足場が崩れ、宙に舞いながら目を閉じて深く息を吸い込んで埋まる覚悟をする。この身体なら多少の無茶が出来るからな。

 

そして砂に埋もれながら面白いアイデアが思い浮かぶ。それをなんとか形にする為にもとっとと這い出るか。

 

 

 

side out

 




次はサイラオーグとのレーティングゲームですね。どういう風に試合を組み立てるのか悩みますね。

その前に雷帝の方と、ネタ倉庫にプリニーと匙君のを更新かな。

最近感想が無くて若干寂しいです。このまま突き進んで良いのか悩みます。


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第32話

とりあえずプロフェッサーの話でお茶を濁すしかなかった。
次回からはサイラオーグとのレーティングゲームになるはずです。


 

side オリジナル

 

 

夏休みが明け、プロフェッサーに今までの様に魔術で髪を白く染めてもらい学校に登校する。夏休み前と違うのは、僕と白音さんとギャスパーとヴァレリーさんの四人だった登校風景が紫藤さんとゼノヴィアさんが増えた事と、白音さんとの距離が近くなった事だろう。

 

今日は始業式と言う事もあり、午前中だけで終わったのだが、プロフェッサーからの頼み事があったので生徒会室に向かう。扉にノックして返事を待ってから開ける。

 

「失礼するよ。シトリーさんは居るかい?」

 

「どうかしましたか、木場君?」

 

「うん。冥界で若手が集った時に将来の目標を語ったんだよね」

 

「ええ、それがどうかしましたか?」

 

「シトリーさんのその夢を、手伝えるかもしれないと言っている人がいます。出来れば、会って話がしたいとも。どれだけ明確なヴィジョンが見えているかでどれだけ知識を貸すかを決めるとも言ってたよ」

 

「……もしかして、あの宝石を使った魔術を作った方なのですか?」

 

「あの宝石魔術は元から在った物を使いやすくしただけらしいけど、独自に色々な物を開発しているね。魔術に魔道具に魔法工学に錬金術、最近はゴーレムとかキメラにも手を伸ばしてるみたいだよ」

 

「そんな人が何故私の夢を手伝いたいと?」

 

「それは僕には分かりません。直接本人に聞いてください」

 

「……分かりました。何時、何処でならお会い出来ますか?」

 

「今日これからでもご案内出来ますよ。あまり遅いと忙しくなっている可能性もありますから」

 

「そうですか。皆を連れて行っても構いませんか?」

 

「大丈夫ですよ」

 

「分かりました。今日の所はたまっている仕事の確認だけを行いますので、そうですね、30分程待ってもらえますか」

 

「分かりました。では校門でお待ちしていますので」

 

 

 

 

 

 

 

side プロフェッサー

 

 

魂の器の精製がこのラインに存在するんだから、流し込むルートがこういう風になって、相対的に発動位置が此所になり、炉心がこうなるな。もう少しコンパクトにまとめたいな。さすがに魔法陣が173も必要では困る。

 

「それでもこいつが雛形になるか。一応保存だな」

 

専用の紙に描いた魔法陣をラミネート加工してから展開用の術式を刻み込んで束ねておく。新しい紙を用意して新たな魔法陣作成に移る。

 

「師匠、増幅結界の応用8でなんで安定の3と減少の2を加えるんすか?省けば時間と労力の短縮になると思うんっすけど」

 

「そこは遊びだ。増幅する対象によっては遊びがない場合耐えきれない事も在るからな。どれでも増幅可能と言う点に重視しているのが応用の8だ」

 

ミッテの質問に答えながらも魔法陣の基礎部分を書き上げる。

 

「なるほど〜。でもそれなら安定の3を清浄の2でも良い気がするんすけど」

 

「それだと加速の4との組み合わせが悪くなる。ある程度の妥協は許さなければならない。増幅率が足りなくなるのは分かりきっているから、そこに増幅結界の基礎2を中心に添えて応用の6と組み合わせて立体陣を組むんだ」

 

「その場合は、立体陣で発動させるんっすか?それとも立体陣に発動させるんっすか?」

 

「立体陣上で発動させれば良いタイプだ。多少範囲が小さいから回避しながらというのは難しい。だが、カードにでもしておけばシングルアクションで火力が倍近く上がる」

 

「簡単にシングルアクションって言うっすけど投擲技術も磨かないといけないじゃないっすか。展開用の魔術はコストが悪いし」

 

「そこは工夫次第だ。何もそれ一つだけを展開する必要はないだろうが。複数の立体陣を戦場の至る所に張り巡らせば良いだけだ」

 

「それもそうっすね。ありがとうっす」

 

「うむ、頑張れよ」

 

ミッテの質問が終わると同時に扉がノックされる。

 

「誰だ?」

 

「僕だよ。シトリーさんと眷属の方をお連れしたよ」

 

「少し待て」

 

見られては不味い物をバインダーに収納して傍らに置いておく。

 

「もう良いぞ」

 

「失礼しま、木場君?」

 

オレを見てソーナ・シトリー達が困惑する。

 

「くくっ、ある程度正解である程度ハズレだ。そちらの話も簡単にではあるが説明しよう。まずは席に着くと良い」

 

部屋に入って来た人数分の魔法陣が書かれたカードを投げてイスを作る。

 

「これは?」

 

「結界を利用して作ったイスだ。魔力を感じれば分かるだろう?」

 

「確かにイスらしい形の魔力は分かりますが、大丈夫なのですか?」

 

「ふむ、やはりそこからか。ならこれで分かりやすくなるだろう」

 

処分予定の紙を飛ばしてイスを覆わせる。

 

「お手数をおかけします」

 

「気にするな。世間で普及していない技術だからな」

 

全員が席に着いた所で自己紹介に入る。

 

「この姿では初めてになるな。オレは名はプロフェッサー。『断罪の剣』の魔術技術全般を取り扱う者であり、木場祐斗の細胞から作り出したホムンクルスの身体に魂の欠片を入れたものだ」

 

「魂の欠片?」

 

「木場祐斗の来歴は知っているか?」

 

「ええ、簡単には。昔は教会に所属していて、対堕天使用の術式を作り上げた事で教会を逐われ、サーゼクス・ルシファー様に保護された」

 

「そうだ。そして、戦闘面において常人から掛け離れた思考をするのは?」

 

「リアスに聞いた事があります。異常な程に自分を顧みない特攻と自分を囮にしたカウンター主体なのに傷一つ付かない技巧派だと」

 

「そしてそれらに共通するのが自分を顧みないと言う事だ。木場祐斗という人格のほとんどはそれで出来ていて、研究者としての面と技巧派である面が混ざっていると言える。それを抽出して別の身体に入れたのがオレともう一人居るアーチャーと言う存在だ」

 

「と言う事は、貴方も木場君と言う事ですか?」

 

「近いが違う。そうだな、少し強引ではあるが木場祐斗の可能性だとでも言っておこうか。抽出したとは言え、完全に分ける事など不可能だからな。魂の割合が変わったと見る方が良い」

 

「可能性ですか」

 

「そう、可能性。完全に別人の様に見えるが、どうなるかなんて簡単には分からんだろう?もしかしたらあの姉に毒されて軽いノリで魔法少女をやっているソーナ・シトリーが居てもおかしくはないだろう?小さい頃からべったりと引っ付いて育てばたぶんそうなっている可能性は大だ」

 

「……この話は此所までにしましょう」

 

ふむ、若干そっちに落ちかけた事があるな。まあ、本当に子供の頃の若気の至りだろう。子供がヒーローに憧れるみたいに。オレも昭和ライダーみたいな改造人間になりたかった。あっ、今は改造人間か。夢が叶ってたな。思考がずれたな。

 

「では本題に移ろう。下級や中級を対象にしたレーティングゲームの学校を作りたいとの事だが、負の面をしっかりと捉えているか?」

 

「負の面ですか?」

 

「そうだ。夢を叶えた事で不利益になる奴は必ず出てくる。これは社会として当然だ。幸福には絶対値が存在し、それを分配するのが社会だからだ。無論、絶対値を多少増やす事は出来る。出来るが、それが下の者に届くかは分からない。その絶対条件の元で問おう。夢を叶えた事で発生する不利益を周囲を納得させるだけの材料をどれだけ持ち合わせている」

 

「…………」

 

「ふむ、分からないか。ならもう少しヒントを出そう。オレが思いついた不利益の中で一番デカイと思ったのは冥界の法律だ」

 

「冥界の法律ですか?」

 

「そう、その法律の中にとてつもない落とし穴が潜んでいる。よく考えてみろ。ここに人数分の法律書がある。夢を手伝いたいと思うのなら、一緒になって考えろ。おまけでもう一つヒントを出すなら、人だろうと悪魔だろうと天使だろうと堕天使だろうと、醜い物を持ってるってことだな。ちなみに実体験だ」

 

懐からチュッパチョップスを取り出して銜える。口の中に苦みが広がり、包み紙を見て納得する。青汁味とか何を考えてやがるんだ?そしてこれを買って来たのはミッテだな。後で絞める。他にも変なフレーバーが在りそうだな。

 

ちっ、本当に在りやがった。牛タン塩味にクリームシチュー味、本場インドカリー味にフィッシュ&チップス味。まだ行けそうなのがカルピス原液ストレートとコーヒー豆。意味が分からんのがフラッシュメンとビーストの二つだ。何処で買って来たんだ?

 

青汁味を舐め終わり、カルピス原液ストレートを銜えた所で何かの答えに気付いたようだ。

 

「これがプロフェッサーの予想する未来なのかは分かりませんが、おそらくはこれも有り得るはずの未来です」

 

「聞かせてもらおう」

 

「……下級・中級悪魔による犯罪行為の増加。それも私の作った学校関係者からの」

 

「些か甘いが正解だ。ちなみに最悪まで辿り着けば内乱まで行くぞ。はっはっはっ、その場合処理が簡単な上も下もまとめて皆殺しで処分する事になっている。魔王様達にはそう伝えてあるから、内乱までは行かないはずだ。改革って言うのは何時の世も荒れに荒れるからな」

 

「……やはりそうなりますか」

 

「なるな」

 

「……私は何も見えていなかったのですね」

 

「まあ、若いし経験も少ないからな。こればっかりは時間がいる」

 

「…………」

 

「では、新たに問おう。夢を諦めるか?」

 

「…………」

 

「人生とは後悔の連続だ。高々100年であってもそう言われている。それの10倍以上を生きる事になるオレ達はさらに後悔し続ける事になる。組織のトップに立つのなら更に酷くなるだろう。それでも、理不尽を、事故を、裏切りを、悪意を、堕落を、嫌悪を、不条理を、挫折を、自己満足を、受け入れて飲み込み消化出来るか?」

 

ソーナ・シトリー達が怯えた目でオレを見てくる。それも仕方在るまい。魔導書の汚染はオレとアーチャーが分けて受け入れている。そして、アーチャーはその強靭な精神で普通に耐えている。オレは受け入れて同化し欲望に昇華させた。簡単に言えば精神を蝕む汚染を全てオレに適合する知識欲に変えて、マッドサイエンティストになった。自分の身体をも研究の材料の一つとしか見ないような。そんなオレの狂気に曝されているのだからな。

 

「オレは受け入れて飲み込み昇華したぞ。理不尽を、事故を、裏切りを、悪意を、堕落を、嫌悪を、不条理を、挫折を、自己満足を、愛おしい物と同じ様に抱きしめられるか?」

 

しばらく待ってみても恐怖からどうする事も出来ないソーナ・シトリー達を見て狂気を引っ込める。

 

「どうやら急ぎ過ぎたようだな。今日の所はここまでにしておこう。この部屋にはいつでも来ると良い。先程の問いの答えを出せば、答えに合わせて力と知識を貸そう。焦る必要はない。周りに相談してみるのも良いだろう。オレはお前の夢を否定しない。いつまでも成長を待っていよう」

 

なんとか部屋からソーナ・シトリー達が出て行き、魔導書の上で丸まっていた久遠が声をかけてくる。

 

「協力してやるって言っておきながら言葉でフルボッコとか良い趣味してるにゃ」

 

「失礼な。手痛い失敗をする前に対策を練らせてやっているだろうが。それにあながち間違いでもないんだぜ。人間の歴史がそれを証明している。人間だからって侮るなよ。人間の恐ろしい所は他の種族と比べると異常な程に道具を進化させる所だ。伊達に世界に君臨してねえんだよ。どの種族でも核兵器を防げるのは神クラスのみ、その後の放射能汚染の影響からは逃れる術はあるにはあるが効率は最悪。道ずれなら結構簡単に全ての種族が簡単に葬られるぞ」

 

「それは」

 

「あっ、あと、他の種族に比べると変人も生まれる。悪魔で言う超越者って奴。ネットでリアルチートって調べれば分かるけど、変人の一言でしか表せれない様なのがごろごろ出てくる。しかも全員が魔力とかを持ってるって訳じゃない。何人かは魔力持ちだったみたいだが、WWⅡの変人どもは全員普通の人間だからよ」

 

「ふぅ〜ん、そこまで?」

 

「そこまで。空の悪魔とか特にヤバいな。意味が分からん。話がそれ過ぎたな。ええっと、そうそう、犯罪の増加までは確実にあるな。どうしても力を手に入れると試してみたくなる。だから、それを試せる場を用意する必要がある。まあ、簡易版のレーティングゲームを用意するのが一番だな。これにはメリットが多い。娯楽の一種になるだろうし、レーティングゲームよりは身近に感じられる。そこがポイントだ。競技人口は比べ物にならないだろう。そこで活躍すれば眷属悪魔にもなりやすいだろう。神器持ちの人間を眷属悪魔にするのが流行っているみたいだが、ギャンブル性が高いし本人の向き不向きがある。経験を積んでいる奴を見繕う方が戦力の強化に繋がる。更には天使や堕天使の方でもレーティングゲームに似た様なことをしようと計画しているからな。それのテストケースとして一枚噛む。さらには公式の賭けを行い、胴元で金を稼いで学園と競技場を拡大させながら警備会社みたいな物を作る。これによって少しでも増加するであろう犯罪に対応する。そして、この金の流れに上級悪魔を殆ど関わらせない。特にソーナ・シトリーの夢を笑った奴らには絶対に関わらせない。此所までは既に計画済みだ」

 

説明しながら携帯を取り出してアドレスからとある人物を選ぶ。

 

「幾ら何でも手が早過ぎだと思うんだけ」

 

「そりゃあ協力者が居るからな。やっほ〜、レヴィアたん。今大丈夫?」

 

『やっほ〜、大丈夫だよ』

 

「計画通り思考誘導含めて現状と将来に発生しうる最悪の未来についての説明、及び協力者の存在を明かした。更に精神的にもかなり負荷をかけたからな。思考誘導も相まってレヴィアたんにも助言を求めるはずだ。そこで真面目に、仕事の時の様な態度で接すれば、ソーナ・シトリーからの評価はうなぎ上り」

 

『後々面倒になりそうな発言を避けてるのが丸分かりだねぇ〜。間違ってないけど』

 

「正直、他人の心なんて分からんから。自分自身ですら持て余すのが普通だし」

 

『まあねぇ。まっ、そこら辺はお互い適当に折り合いをつけて生きる物だから。とりあえず、ありがと♡』

 

「こっちにも思惑が在ったからな。この件に関しては幾らでも協力するさ。それじゃあ、また動きがあったら」

 

『こっちはこっちで話を進めておくから上手い事誘導してね、ばいば〜い☆』

 

「汚いにゃ〜、さすが魔王とプロフェッサー汚い」

 

「世の中そんなもんだ。誰も損をしていないwin-winな関係だ」

 

「プロフェッサーにも得があるのかにゃ?」

 

「無論だ。この計画が順調に進めばオレの名は歴史に刻まれてもおかしくはない。一人の男としての憧れを叶えられるかもしれん!!」

 

「にゃ〜、本当に三人の中で普通な思考持ってるんだ」

 

「まあ欲望には忠実だな。外道にまで落ちて名を残そうとは思わんが、この程度で名が残せるなら進んで残そうとは思うな」

 

久遠の質問に答えながら再び研究に戻る。

 




けど次に何時更新するかはさっぱり不明です。
あとは、雷帝の方も更新してネタ倉庫の方も幾つか上げるから夏休みまでにはなんとかって感じですね。


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第33話

久しぶりの投稿で書き方が微妙に変わったかもしれません。ちょっとずつ戻ればいいなぁ〜


side プロフェッサー

 

「そろそろ開始か。それじゃあ、打ち合わせ通りにな」

 

「うぃ~っす」

 

「りょ~か~い」

 

「それじゃあ、ゆるく軽く捻くれて行くぞ~。とっとと終わらせて寝たい」

 

時間となったので転移魔法陣をくぐってゲーム会場へと転移する。今回のゲーム会場は古代遺跡のような感じで余計に都合が良かった。ルール説明が終了した後に回線をジャックしてサイラオーグ・バアルたちに声を届かせる。

 

「ふはははは、今回のゲームは先ほどのルール通りではあるが、こちらは『断罪の剣』魔導技術開発班の3人での参加だ。そして、君たちには追加で指令を与える。今回のゲーム会場内に3つの書類を配置する。分かりやすいところにファイルを置いておく。それを全て回収するまで我々をリタイアさせてもすぐに復帰する。君たちの強さは十分に把握しているからな。だが、強さだけではどうにもならない相手というのは存在するし、ただ倒すだけで情報を回収できないというのも問題だ。それを確認するためにこのようなルールを追加させてもらった。では、頑張りたまえ」

 

放送ジャックを終えてすぐさま散開して各自で迎撃の準備をする。くはははは、深夜テンションって怖いよな。

 

 

 

 

 

side サイラオーグ

 

 

相手は三人だが、油断はできない。慎重に全員で固まって移動する。そして、最初の小部屋に木場祐斗らしき白衣を着た男が大きな釜の中身をかき混ぜている。

 

「サイラオーグ様、ここは私が!!」

 

ベルーガが小部屋へと飛び込み

 

「私は主君サイラああああああ!?」

 

名乗りあげようとした瞬間、床が崩れて落下する。落とし穴だと!?助けようと部屋に突入するがそれよりも先に相手が動く。

 

「喰らえ、聖水で練ったコンクリートだ!!」

 

ベルーガが落ちた穴に木場祐斗らしき男が釜の中身をぶちまける。

 

「ぐわあああああ!!!!」

 

穴の底からベルーガの叫び声が聞こえ、唐突に聞こえなくなる。

 

『サイラオーグ・バアル様の騎士1名リタイア』

 

「撤収!!」

 

木場祐斗らしき男が何かを足元に投げつけると同時に煙幕が発生する。吸い込むと激しい痛みと涙が出ることから催涙ガスだと判断して部屋から飛び出す。ガスが晴れた後には釜も木場祐斗らしき男の姿も消えてしまっていた。念のために部屋を漁ってみたが、ファイルらしきものは見つからなかった。

 

罠が満載である前提で動くことを決め、さらに捜索を続ける。次は大広間のような場所で割烹着にエプロンを付け、黒いフードを被った女性が釜の中身をかき混ぜている。

 

「そっちから来たってことは、プロフェッサーの落とし穴+聖水コンクリートのコンボを食らって来たかな?にゅふふふふ、私も一人ぐらいはリタイアさせるかな?」

 

また似たような罠があると思い身構えるが、予想外の行動に出られた。

 

「出でよ、龍牙兵!!」

 

釜を蹴り飛ばして中身の液体が周囲に散らばり、液体から骨でできた兵士が少なくとも300は現れる。

 

「ありゃ?数が少ないような?おかしいな~、レシピ通りにやったはずなんだけど、素材の質?仕方ない、私も出張るか」

 

そう言いながら背中に背負った風呂敷からいくつかの試験管やフラスコを投擲してくる。割れると爆発したり、ガスが発生するので割らないように何人かでキャッチする。むっ、どこに行った?

 

「はい、隙あり」

 

いつの間にか骨の兵士に紛れて仕込み箒ですれ違いざまに切りつけて広間から逃げ出していく。追おうにも、追撃の際の罠や置いてあるファイルの回収を考えれば迂闊に追うことができない。骨の兵士を殲滅する頃には無傷の者は一人もいなかった。

 

「くっ、まんまと手のひらで踊らされている!!」

 

「まともにこちらと戦うつもりはないのでしょう」

 

初めてだ。ここまで正面から戦おうとしない相手と戦うのは。相手は3人と言っていた。残りの一人は一体どんな手で襲ってくるんだ。最低限の治療を終えて、さらに遺跡を探索していく。通路にも罠が仕掛けられており、リタイアまでは行かないまでも消耗はしていく。そして最後の一人を見つけた。露出の高いレオタードなのかドレスなのかわかりにくい服を着た金髪の女がオレ達が来た方とは逆の入り口の方を見ながら釜を掻き混ぜている。

 

「ぐ~るぐ~るぐるぐるぐる~のぐ~るぐるっと。よし、会心の出来ッス!!」

 

ちょうど何かが完成したようだ。リタイアはさせられないが奇襲で倒しておくべきだ。

 

「超最高品質のたるの完成ッス!!」

 

金髪の女ではなく釜から取り出した樽に向かって全員が遠距離攻撃を放ったのも無理はない。

 

「た、たるーー!?お前ら、たるになんの恨みがあるんっすか!?」

 

「残りの二人にろくな目にあわされてないからだ!!」

 

「結局は師匠が原因ッスか!?もう、行け、生きているナワ、箒、ノコギリ、クワ、台車、つるはし、スコップ、戦う魔剣!!たるの仇を討つッスよ!!」

 

腰につけているポーチから様々な物が飛び交い、襲いかかってくる。どれもが意外と攻撃力があり、油断できない。その上、また新たに釜を掻き混ぜ始めている。オレはダメージを無視して釜に突撃する。だが、あと一歩というところで間に合わず、何かを取り出す。

 

「3時のおやつにロシアンルーレットパイ」

 

パイを蹴り飛ばしたオレは悪くないと思う。

 

「パ、パイーー!?3時のおやつに恨みでもあるんっすか!?」

 

「レーティングゲーム中におやつを作ってる方が悪い!!」

 

「何処がッスか!!どうみても武器っしょ!!」

 

「3時のおやつと言いつつ武器と言い切ったな!?」

 

「バカみたいに強い師匠に仕返しできるのがこれぐらいだからッスよ!!喰らえ、微妙なアイスフレーバー!!」

 

ポーチから新たに色々なアイスが袋ごと投げつけられる。焼きそば、たこ焼き、お好み焼き、生ハム、半熟卵、ゴーヤ抹茶、ドリアンミックス、トロピカルすぎた、カレーは飲み物、などなど途中から本当にフレーバーの名前なのか疑うような物が多かった。

 

「続いて、あれっ、弾切れ!?まさか先に捨てられた!?ちょっとタンマ!!すぐに用意するから待つッス!!」

 

釜に適当に材料らしき物を放り込んで掻き混ぜ始めたので待たずに全力で殴り飛ばす。そのまま吹き飛び通路の壁にぶつかる。

 

「あべし!?ぐぅおおおおっ、例えウチが滅びようとも、第2第3のウチが現れて「くたばれ!!」ふぎゃ!?」

 

普通のレーティングゲームのように退場するがアナウンスが流れない。破壊した生きている台車の残骸からファイルの回収する。次の瞬間、釜が大爆発を起こす。

 

『サイラオーグ・バアル様の騎士1名、僧侶1名、女王リタイア』

 

迂闊だった。ふざけているようにしか見えなかったから大したことはないと思い込んでいた。釜を見てみると黒焦げの何かが落ちていた。近づいて確認してみると、原型は

 

「パイかよ!!というか、どういう原理で釜をかき混ぜるだけでパイとか樽とかを作ってるんだ!!おかしいだろう!!」

 

残骸を叩きつけて壁を殴り壊して叫ぶ。眷属に無様な姿を見せるが構う物か。ここでガス抜きをしなければもっとひどいミスをする。だから、一度全てを吐き出してリセットする。

 

「行くぞ!!これ以上茶番に付き合ってられるか!!」

 

探索を続け、最後のファイルを手に入れ、遺跡内の捜索が終わる。どういうことだ?これ以上部屋はなかったはず。もう一度捜索をし直そうと振り返ると何食わぬ顔で一番後ろに三人が揃っていた。

 

「逃げろ!!」

 

「「アイアイサー!!」」

 

「逃がすな!!」

 

逃げる三人を追いかけて、割烹着の女がいた広間に誘導される。そこには再び釜が3つ置かれている。だが、三人は釜の前で反転して釜を背にする。

 

 

 

 

 

side プロフェッサー

 

 

「楽しんでもらえたかな、サイラオーグ・バアル」

 

「貴様、何者だ」

 

「『断罪の剣』魔導技術開発主任、プロフェッサーだ。どうだ?オレ流錬金術は?」

 

「ふざけているのか!!」

 

「ふざけてなんていないさ。まあ、最初の聖水で練ったコンクリはふざけてたが。オレ流錬金術は冥界に新たな風をもたらす。既存の錬金術とは違い、難易度はそれほど高くない。5年もあれば一流を名乗れる。材料があればの話だが。まあそこは頑張って栽培なり養殖なりしろ。そして何より魔力をほとんど使わないのも特徴か。魔力は多少あれば、それこそ一般的な平民の悪魔の魔力があれば十分だ。で、こいつがまともに作ったアイテム。N/A!!」

 

品質120、特性は『特性で強化・大』『少ない敵に大効果』『小さな敵に超有効』『最後の一撃・大』『初心者でも大丈夫』こいつを作るためにここ数日寝てないんだよ。N/Aの連鎖爆発に何人かが巻き込まれてリタイアしているが音が激しくてアナウンスがわからない。そんな爆発の中をサイラオーグは突き抜けてオレに殴りかかってきた。無論、運動神経が皆無なオレにそれが躱せるわけもなく直撃を喰らう。ふむ、これを使わせられるはめになるとわな。

 

「ししょ~、無事ッスか?うわちゃ~、ミンチよりはマシとかお茶の間に見せられないじゃないッスか」

 

「あちゃ~、無事なら返事しなさいよ~」

 

『たかが肉体が壊れただけだ。既に新たな器に移動したわ』

 

釜の中から起き下がり、左右の釜から武器を取り出す。

 

「このキラーマジンガが相手だ、傷付いたお前がどこまで耐えられるかな、サイラオーグ・バアル?」

 

「規格外にも程があるだろうが!?」

 

「ラスボスの倒したと思ったら2段変身とか最終兵器が起動するなんて当たり前だろう?」

 

「どこの当たり前だ!!」

 

「「「変態国家日本のサブカル」」」

 

変態とは言っても良い意味での変態だ。世界中を見ても珍しい民族だぞ、日本人は。職人気質なくせに妙なこだわりや遊び心を忘れない所や、恐ろしいぐらいに様々なことに寛容であり怖いもの知らずな所とか。

 

「ふざけるなあああ!!」

 

「結果が全てじゃボケ!!」

 

サイラオーグ・バアルの拳をキラーマジンガのボディで受け止める。結果はキラーマジンガのボディにはキズやヘコミもつかず、逆にサイラオーグ・バアルの拳の皮膚が裂けるだけに終わった。

 

「さすがキラーマジンガ、何ともないな。今度はこっちの、ってあれ?よっ、ほっ、はっ、おいおいマジかよ。動かし方がわかんねえ」

 

「だっせ~」

 

「ミッテルト、後でショッカーも真っ青な改造を施してやるからな」

 

「ちょっ、事実っしょ!?」

 

「うるせえ、改造されたくなかったらブルーメタルでキラーマシーンを作れ!!」

 

「横暴ッス!!眷属虐待ッス!!」

 

「師匠からの愛の鞭、ってこうか!!」

 

ミッテルトと漫才をやっているうちに動かし方を掴む。移動を翼での飛行、4本ある腕はマリオネットを操るように両指を動かす感覚なのか。それさえわかればこっちのものだ。

 

「剣の舞!!」

 

「くっ、動かし方が分かったばかりなのにこの精密さだと!?」

 

「火炎斬り、マヒャド斬り、真空斬り、稲妻斬り!!」

 

まあ、それっぽく見せてるだけのただの斬撃だけどな。それでも吹き飛んだので良しとする。だが動きにくい。

 

「もういい!!飽きた!!」

 

手に持っていた武器を投げつけて、ぐちゃぐちゃになったさっきまでの肉体を釜に突っ込んで再錬成して元に戻る。ただ、材料が足りなかったのか体が縮んだ。ミッテルトと同じぐらいに。服もそれに合わせて再錬成して着替えてから釜をよじ登る。

 

「見下ろさないだけでなんか新鮮だな」

 

「そう簡単にころころ体を代えて大丈夫なんッスか?」

 

「オレ自身もモルモットなんだよ。それにしてもキラーマジンガは失敗だったな。というか、オレの持ち味を殺すほどのメリットがない。倉庫行きだな」

 

「結構貴重な金属を大量に使ってそれッスか。ま~た徹夜で作成する必要があるッスねー」

 

「プロフェッサー、ミッテー、おやつできたよ」

 

「「うぇ~い」」

 

テーブルと椅子を取り出してブレイクタイム。お茶請けは錬金釜で作った普通のアップルパイだ。無論、周辺には結界を張って守りは完璧だがな。なんだかんだでN/Aは全員に耐えられるか逃げられるかしたからな。オレの投擲が下手なせいで。まあ、既に勝敗は決しているがな。

 

「な、なんだ、体が痺れて、眩暈に吐き気まで!?」

 

「毒だよ。気づいてないだけでこの部屋には毒ガスが充満してたんだよ。ちなみにオレ達は毒を無効化する術式を刻み込んだ衣装をまとっているのでな。伊達でこんな服装で戦ってないんだよ。まあ、白衣はオレの戦闘服だがな。久遠のいかにもなフードはともかく、ミッテの改造レオタードはどうかと思うけどな」

 

「これを錬金術士の正式衣装にしたら面白そうっしょ?」

 

「えっ、男にその格好をさせるとかミッテってそっちの住人?うわぁ~、引くわぁ~」

 

「誰が野郎にこんな服を着せるか!!女の子限定に決まってるッス!!」

 

「つまり百合の住人か。レイナーレをお姉さまとか呼んでたっけ。アーシアに近づかないように注意しとかないとな」

 

「白音も近づかないように言っとかなきゃ」

 

「ちょっ!?誤解ッスよ、誤解!!」

 

そんなグダグダな会話を5分ほど続けたところでサイラオーグ・バアル達全員がリタイアする。やれやれ、やっと寝れるな。ゲーム会場から転送され、さらに転移魔術で研究室まで戻る。

 

「それで、サイラオーグ・バアル達の誰を下部に入れるんすか?」

 

「全員。実力はあるからな。後は、今回みたいな搦め手の対処法を叩き込めば使えるだろう。まあ、誰も入らなかったら入らなかったで構わないんだけどな。利益分配として下部組織を作ったんだから。それを向こうから蹴るならそれまでの話だ」

 

「そんなものでいいの?」

 

「いいのいいの。悪魔より堕天使の方がオレ寄りの考えの奴が多いから扱いやすいし、天使も術式を刻み込むのが得意なのが多いから搦め手に強いし。本当にソーナ・シトリーが拒否したのが痛いわ~」

 

「まあ、あれはあれで師匠寄りの考えッスもんね。大多数の下を底上げしようと考えるのは」

 

「底上げされた本人が一番よくわかるだろ?」

 

「どうよ、若手上級悪魔で一番強いとされるサイラオーグ・バアルのパンチを受けて?」

 

「意外と効かなかったッス。ウチ、強くなってたんッスね」

 

そりゃあ戦闘班にあれだけ追い回されてボコられてれば素の能力も上がるし、何よりその改造レオタードを作ったのは三日前。つまりはミッテが今使える全ての術式を好きに刻み込んで作った一品だからな。なんだかんだで、上級の中位までは完全に覚えきってるからな。

 

「素質はまあ、悪くはなかったからな。あとは、努力の結果だ。これからも精進しろ」

 

「ウッス、頑張るッス」

 

「それじゃあ、褒美ってわけじゃないが明日と明後日は完全休養だ。存分に羽を伸ばせ」

 

「よっしゃああ~~、久々の完全休養ッス!!しかも二日も!!何をしようっかな~?」

 

スキップしながら研究室から出て行くミッテを生暖かい目で見送り、白衣を脱いでソファーをベッド代わりに寝転び、白衣を毛布代わりにかける。久遠はそんなオレの上に猫の姿で飛び乗って丸くなる。

 

「久遠、寝苦しいから降りろ。もしくはもう少し上に移動しろ」

 

降りる気はないらしく、白衣に潜り込んで胸元から顔を出して眠り始める。まあこれぐらいなら構わんだろう。さて、半日ぐらい寝るか。

 




次は、聖女マニアがすでにご臨終なされてるのでわんわんおとスケベジジイとエロゲに出てきそうな見た目だけど中身がちょっと、いやかなり残念なヴァルキリーさんかな?個人的にはあのポンコツ具合は好きですよ。面倒を見てあげないと簡単に騙されて落ちぶれちゃいそうな残念さが。けど、そのおばあちゃんも大好きです。あと40若かったらなぁ。


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第34話

side プロフェッサー

 

 

「こんなものだな。ミッテ、そっちはどうだ?」

 

「いつも通りのものは抑えたっすよ。あと、変わり種も」

 

ミッテと二人で大量のお菓子を抱えて卸問屋から出る。かなり特殊なフレーバーや海外から特殊なルートで輸入している品も取り扱っているためか一般人が立ち入りづらい歓楽街近くに店を構えているために昼間からミッテを連れて歩いていると注目されるが気にしない。

 

「相変わらずだな。作る奴も作る奴だな」

 

「たまにあたりがあるっすからねー。楽しみなのが、んまい棒青春シリーズ、甘酸っぱい青春、灰色の青春時代、血湧き肉躍る青春、リア充爆発しろっすね」

 

「なんだよ、それ?開発者は青春に恨みでもあるのか?明らかに女に振られてるだろう、これ」

 

「さあ?味は、名前の通りな感じがしてすごいっすけどね」

 

ミッテが投げ渡してきた灰色の青春時代を受け取って一口齧ってみる。

 

「ああ、うん、灰色の青春ってこんな感じになりそうな味。苦くて渋いのに止められそうにない味だな」

 

「一念発起して大ゴケして灰色から真っ黒になったのも出そうで怖いっすね」

 

「よくこんな味を再現できたよ。いろんな意味で天才だな、この開発者」

 

「師匠に天才と言わせるとはすごいっすね。ところで師匠はどんなのを?」

 

「オレか?オレはなつかしの再販品、きのことたけのこの兄弟、すぎのこを発見したな。それからアイスで在庫になってた発売最初期のガリガリ野郎とか果物の里、版権問題で回収されたはずのたい焼きボーイのアイスだな。お隣の国で未だに製造されてるらしい」

 

「相変わらず変わった物を探し当てれるっすねー。ウチとは別の方向のネタっぷりっす」

 

「こんなのは楽しんだ物勝ちだ。うん?おい、あそこにいるのは兵藤と姫島じゃないか?」

 

「本当っすね、二人してこんな時間にこんな場所を歩いてるなんてやっぱあれなんすかね?ウチらみたいに変わったお菓子目当てって訳じゃなさそうっす」

 

「面白そうだから付けるぞ。遮断結界を起動させろ」

 

「遮断結界、起動っす」

 

遮断結界で完全に隠れたオレ達は二人の後を付ける。二人はどんどんとホテル街の方へと歩いていく。これはやっぱりそういうことか?オレとしてはグレモリーとの方が先だと思ってたんだがな。何かのネタにできるだろうと携帯のカメラを構えていたのだが、突然堕天使が二人に怒鳴り込んできたために場が混乱し始めた。とりあえず様子を伺いながら耳をすますと、怒鳴り込んできたのはバラキエルという堕天使で姫島の父親なようだ。さらにそこにアザゼルとオリジナル、かなり強い力を持ったスケベジジイに銀髪の苦労人みたいな女が集まって混沌と化していった。

 

「誰っすか?あの爺さん」

 

「オーディンらしいな。ヤバイな、情報屋から爺さんに狙われてるから気をつけろって忠告されてんだけど」

 

「後ろの?」

 

「さすがにあの体で勃つのか?いや、受けだったとしてもホモはNG。じゃなくてだな。聞いたことがあるだろ、あのジジイ、左目を代償に世界の全てを知ったって」

 

「有名っすね」

 

「その知識に俺の術式はほとんど存在しない。全てを知って女以外に興味を失ったジジイだぞ。関わればおもちゃにされるのが目に見えてやがる。だから逃げるぞ」

 

「それってウチもヤバイってことっすよね?」

 

「オレよりはマシだろうが、久遠よりはヤバイだろうな。なんだかんだでオレの劣化版みたいな存在だから」

 

「げぇ、大人しく逃げるっす」

 

「そうするぞ。楽しいのは好きだが転がされるのは大っ嫌いだからな。痕跡を残さないように走って逃げるぞ」

 

「すたこらさっさっす」

 

気づかれないうちにその場から逃げ出して屋敷まで走って帰る。

 

 

side out

 

 

 

side オリジナル

 

 

プロフェッサーが露骨にオーディン殿を避けているが、万全を期すためにはプロフェッサーがいてくれた方が確実だ。嫌がるプロフェッサーとミッテルトさんを簀巻きにして連れてきたんだけど失敗だったかな?

 

「寄るなクソジジイ!!オレのケツはやらんぞ!!」

 

「何処からそんな話に飛躍した!?」

 

「ジジイがオレに興味津々だって裏じゃ有名だぞコラ!!セクハラとか視察という名の女遊びは擬態だったか!!」

 

「オーディン様、まさかそこまで堕ちて」

 

「嫌がるオレを何度も何度も指名して金とかルーン魔術を積んできやがったんだぞ!!身の危険しか感じない!!助けてくれ!!」

 

「擬態のためにウチまで狙われてるんっす!!まだ処女散らしたくないっす!!助けてほしいっす!!」

 

こんな感じでオーディン殿を煙に巻き続けているのだ。本気で言っている感じはしないが拒絶の意思だけは明確だ。何がそこまでオーディン殿を拒否するのだろう?そんな時、馬車が激しく揺れて急停止し、プロフェッサーがドアを突き破って車外に飛び出した。

 

「あら~~!?」

 

「置いてかないで~~!!」

 

それを追ってミッテルトさんまで車外に飛び出していった。簀巻きにされたままで。敵襲だったら不味くないかな?慌てて外を見てみると、簀巻きにされているくせに綺麗な五接地転回法で着地している。ミッテルトさんも同様だ。あの二人、変なところも器用だよね。

 

「アザゼルさん、敵は見あたりますか?見つけ次第殲滅の方向で」

 

「おいおい、話を聞かないのか?」

 

「いらないです。敵対した時点で殲滅ですよ。証拠は適当に人偏師に揃えさせますから」

 

「はっきりと不正宣言すんなよ」

 

「どうせ相手はロキでしょうし、プロフェッサーも対策を積んで来てますから」

 

「それは、簀巻きにされてる状態でなんとかなるのか?」

 

予想通りロキを挑発している所を見るとたぶん大丈夫でしょう。とりあえず様子を見るために人数分の双眼鏡を準備して手渡します。

 

「……生半可な殺し方じゃあ死にませんから」

 

「まあ、簀巻きの状態でロキ相手にケンカ売ってるからな。おい、フェンリルに上半身丸々食われたぞ!?」

 

「でもフェンリルが血を吐いてのたうち回ってるってことは食われるのを前提にして毒を用意しておいたんでしょうね。たぶんそろそろ何事もなかったかのように何処からともかくやってきてミッテルトさんと一緒に微妙なフレーバーのアイスを投げ始めますから。というか、ミッテルトさん縄抜けとか出来るんだ。久遠さんもいつの間にか混ざってるし」

 

フェンリルは完全に動かなくなっているところを見ると完全に死んだみたいだね。久遠さんが剥ぎ取りを始めてるけど、ロキは完全にミッテルトさんしか見えてないみたいだね。ミッテルトさんは既に結界を張って領域を確保してプロフェッサーの下半身を釜に放り込んで材料を追加してかき混ぜ、すぐにプロフェッサーが復帰する。そしてプロフェサーがバインダーから術式を書き込んだ紙を飛ばして簡易魔術工房を組み立て始めた。

 

完全に籠城戦をするつもりだ。新しく釜とか、実験器具を次々取り出してるし。既に調合を始めている。ミッテルトさんはいつの間にか魔術工房から抜け出してフェンリルの死体を簡易魔術工房で覆っていく。挑発を兼ねるのか大工みたいに金槌を振り回して家を建てるように作っていく。

 

「あいつらの余裕はどこから出てくるんだよな?」

 

「それだけの努力と準備を怠っていないという自信からでしょう。解体が終わったフェンリルの肉でバーベキューなんか始めてますよ。変な煙が出て咳き込んでますけど」

 

「ロキの野郎、更に頭に血が上ってるな。完全にオレ達のことを忘れてやがる。一口食って捨ててるけど、あれってあいつが仕込んだ毒のせいじゃないのか?」

 

「それ以外に気づいてます?ロキを逃さないようにビル丸ごとを覆う結界を片手間に構築してるのを。外からは入れるけど、中からは逃げ出せないタイプの結界ですね。さあ、どうなんでしょうね?元気そうにしているので毒の所為ではないと思いますが」

 

「あやつ、ふざけていた割には用意周到じゃな。ロスヴァイセ、今のお主であのスピードであれだけのことをやれるか?あの金髪の小娘の方をだ」

 

「……無理です。一度に複数のことを並行して行っています。どれか一つだけならあの速度には達せるでしょうが」

 

「ふぅむ、実に興味深い。才は感じられなかった。つまりあれは適切な指導と努力の成果ということか。いや、煽りは天性の物じゃな。あの男は演じておるが、小娘にはそれが感じられん。小物っぽさがそのまま煽りの才になっておるのぅ」

 

「あの、オーディン様。それって実力が足りなかったら一番最初に死んでいくってことですよね」

 

「それを見極める目をあの男は持っておる。曲者じゃな。時間をかければかけるほど、奴に隙は無くなっていく。成長性という意味ではあの男は化け物じゃろう。存在そのものが神滅具と言っても良いな」

 

「まあ、僕もプロフェッサーもアーチャーも頭のネジが何本か抜けてるような存在だからね。アーチャーも存在そのものが神滅具のような存在だしね。存在としては僕が一番普通かな?」

 

「あの二人を取り込める器を持っている時点でお前も普通とは言えねえよ」

 

「あまりそういうのを気にしないだけなんですけどね。それとオーディン殿、このままどうされますか?放っておいてもプロフェッサーが適切に処理してくれますけど」

 

「ふむ、このままでも安全なら見ておきたいのだが」

 

「いや、あれは見せても問題のない物で時間稼ぎをしているだけですよ。オーディン殿から逃げたい一心でしょうね。そうじゃなかったらもっと派手にやってる筈ですから」

 

「ほう、さらに派手にか」

 

「魔術関連以外にも錬金術に科学、魔術と科学を合わせた魔科学、研究できる物は片っ端から研究していますから。屋敷の防衛機構の管理は全てプロフェッサーに任せていますからね。僕らの中で唯一、邪悪に対する一振りの剣の領域にまで足を踏み込める存在なんですから」

 

僕とアーチャーではルゥの力を引き出すことはできない。扱う才能はプロフェッサーが全て持っている。そして、その負荷をも全てその身に引き受けている。あの吐き気を催す黒い何かに頭の中をめちゃくちゃに掻き回されながらもそれを表に見せずに笑って戯けて少し変わった変人程度に見せる。それが出来るだけの何らかの強固な信念を持つ男。それがプロフェッサーだ。

 

欲望に対する理性が働きにくいのは汚染の影響だ。だから、やりたいことは何でもやるし、自分の成果を評価してもらいたくて色々と派手な演出を行う。それをしないということはとことんオーディン殿から逃げたいのだろう。

 

「あ~あ~、ミドガルズオルムっぽいのが一撃でやられて工房内に転移で取り込まれて蒲焼にされ始めたぞ。やっぱり変な煙が出て咳き込んでるけどよ」

 

「不味かったみたいですね。ミッテルトさんが買っている微妙な味のアイスとかお菓子を食べている時以上になんとも言えない顔をしてますから」

 

「釜に突っ込んで、あれは、カレー粉か?やっぱりダメみたいだな」

 

「日本のカレー粉が負けるなんて食べ物じゃない判定を下すしかないですね。あっ、ようやくロキが逃げられないことに気づいたみたいですね」

 

「さて、巻き返せるといいな。本格的に籠城戦をするつもりなのか居住性を整え始めたぞ」

 

「2階部分を作って個室を作り始めましたね。ちゃんと壁紙やカーペットでプライバシーの保護をやってますね。ああ、念話で完全に持久戦をやるから帰れ、オーディン殿が帰った後ぐらいに決着がつくように調整するからだって」

 

「とことん嫌われてるな爺。ほれ、馬車を出せ。あそこまでやると梃子でも動かないぞ」

 

「完全に休養モードに入りましたね。はまっているカードゲームの制限が改定される直前で新しいデッキを作り始めましたね」

 

「仕方あるまいな。まああれだけの物が観れたのだ。今日のところはこれぐらいでよかろう」

 

 

 

 

 

 

 

side プロフェッサー

 

 

「スタンバイにマジエク、ライフチェンジャーでチェーンは?」

 

「ないっすね。チェンジャーで3000になってマジエクで4800で死んだっす。やっぱり永久投獄っすね。7割の確率で1キルっすから」

 

「ちぇっ、クソ猿も禁止行きになったから良しとするが辛いな。次は何を組むか」

 

「映画のおかげで強化決定の青眼か、潰すために破壊竜にするか、ナンバーズハンターお兄ちゃん混合ネタデッキも楽しそうっすね」

 

「お前もネタが大好きだよな。今だにメインがアロマ幼女デッキなんだろう?思い切って超量子なんてどうだ?」

 

「いやいや、ここはいつか新規が来るはずのD-HEROも捨てがたいっす。サイバー・ガール?知らない子ですね」

 

「機械天使はそろそろ来てもいいよな。コロシアム張ってブレイダーを立てる。フュージョン・ウェポンを装備でガン伏せ」

 

「サタンクロースで」

 

「サレンダーいいっすか?」

 

「なぶり殺しっす。便乗発動」

 

「さて、ズシンの運用法を考えるか」

 

「アンチ、ブレイクスルー、禁じられた三種、ズシンをサーチできそうなのは無いっすね。やりくりに強謙積んで無理やり引っ張ってくるしかないっすか」

 

「キツイな。キツイがロマン溢れるカードだ。なんとかして使いたいな」

 

「ハイランダーレベル1フルモンもロマンだらけっすよ」

 

「さっきから二人とも何を話してるのか理解できないんだけど」

 

久遠がコーヒーを持ってきてくれたのでテーブルの一部を整理してスペースを空ける。

 

「見ての通りカードゲームの話だ。TCGとしては古株に当たるものでな、莫大な量のカードが存在し、今も増え続けているし、年に何度か使用制限が変わる。その度にプレイヤーを失意のどん底に突き落としてくれる。また、世界一難読な言語、通称コンマイ語を習得する必要がある」

 

「世界大会でジャッジが効果の裁定を判断することがある恐ろしい言語っすよ。おかげで迷言が続出っすよ。『ルールは一見複雑そうに見えて複雑だぜ』とか特にそうっすね。ライフコスト系のカードにチェーンを組んでライフゲイン系が乗った時の最終ライフとか、薔薇とルートを立てた時の攻撃力計算とか」

 

「初心者が陥りやすいミスはカードを破壊するだけではカードの効果は発動したままとか、後出しと先出しの際の判定の違い、レベルとランクの違い、対象をとるとらないの違い、効果とコストの違い」

 

「『なにぃ!?発動したカードをサイクロンで破壊したのだから効果は不発ではないのか!?』『なにぃ!?アルティメット・ファルコンは他のカードの効果を受け付けないのだからスキドレ発動下で出しても効果を使えるのではないのか!?』『なにぃ!?レベルがないのだからレベルは0ではないのか!?』『なにぃ!?トリシューラはカードを選択しているのだから対象をとる効果ではないのか!?』『なにぃ!?カードガンナーの効果は無効になっているのだからデッキからカードを墓地に送ることはできないのではないのか!?』」

 

「今のが初心者が間違えやすいミスの例だな。セリフから分かる通り『ルールは一見複雑そうに見えて複雑だぜ』だな。小学生だと混乱必須。大人でも間違えることが多々有る。公式サイトよりもwikiを見ろが常識だからな」

 

受け取ったコーヒーをすすりながらロキたちの様子を見る。既に4日経過しているが、諦めずに頑張っている。だが、絶対に攻撃がこちらまで届くことはない。なにせ、籠城してると見せかけて既に逃げ出してるからな。今は、屋敷に戻ってオレの部屋に篭っている。オーディンの糞爺は早く帰って欲しいものだ。テレビの向こう側で頑張っているロキたちのスタミナに呆れる。

 

「そういえば、白音から聞いたんだけど、あのお付きの戦乙女、研究室の本の写本をやってるみたいだけどいいの?」

 

「見られて困るようなものは片付けてあるから問題はないな。というか、冥界の本屋で普通に買えるのにな」

 

「売れてないんだっけ?」

 

「これがもうほとんど売れなくて。自費出版だけど懐に痛くも痒くもないから次々出してるしな。ソーナ・シトリーの学校に協力した際には教材に指定してやる」

 

「考えがセコイにゃ~」

 

「勝てば官軍、負ければ賊軍、最終的に勝てばいいんだよ」

 

「後ろに向かって全速前進っす。相手が隙を見せたら回れ右」

 

「トリックだよ」

 

「もっかい回れ右っす」

 

「ふはは、弾幕だ」

 

「弾幕濃いっすよ、なにやってんすか」

 

「はいはい、ネタの応酬合戦はそこまで。そろそろロキを処理しちゃいなさいよ」

 

久遠に止められたので渋々ロキを仕留めにかかる。

 

「ミッテ、よく見ておけ。この領域が超一流だ。術式変換、狂乱屈折!!」

 

次の瞬間、画面の向こうでロキたちが一瞬にして粉々のバラバラの無残な姿に成り果てる。それを見て、ミッテと久遠が唖然とする。しばらくしてようやくミッテが復帰する。

 

「し、師匠、何を、やったんすか?」

 

「簡単に説明すれば、藁人形の呪いを知っているだろう?」

 

「丑の刻に呪いたい相手の髪を編んだ藁人形を神社の木に打ち付けるって奴っすよね」

 

「そうだな。藁人形を相手に見立て、屈折させて重ねる。それが藁人形の呪いだ。さっきのはそれの応用だな。あの結界内の全てを屈折させて重ね合わせる。つまりは一は全であり、全は一である。そういう結界だ」

 

「取り込まれたら、どうすることもできないっすよね、それ。術式そのものを解除すれば、それは自分の存在の否定に繋がるっすから」

 

ミッテの質問に口角を上げて応えてやる。

 

「強引な世界改変。それが超一流だ」

 

コーヒーを飲み干して席を立つ。さてと、後片付けに向かうか。

 



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