始まりの鬼が無惨ではなかったら (園崎礼瑠)
しおりを挟む

始まりの鬼

何となく思い付いてしまっただけの物なのですが、試しに書いてみました。無惨様は無惨様なので多分改心とかはしないです。


 

大正時代と呼ばれる現在から千年は前の時代にその男はいた。貴族の身の上で生まれた男は、幼少の頃より体が弱く常に寝たきりでの生活を余儀なくされていた。

 

「がぁっ…!!」

 

また血を吐いた。体が弱いのは元からだが、六尺の頃から輪をかけて酷くなるばかりだ。幾人もの医師に見せているというのに一向に良くならない。憎らしい。

 

「……嫡嗣殿はもう駄目か?旦那様も諦めておられる」

 

私の体調を治すために尽力すべき付き人ですらも、こちらに聞こえぬように陰口を叩く始末だ。使えない。

 

「母御殿も鬼籍に入られたからな、後妻を貰うのだろうよ」

 

そんな無駄な事をしている暇があれば医者を探してこい!この病を治せる医者を国中で、この国に居ないのならば、唐からでも呼び寄せろ無能共めッ!!

 

「ぐぅっ…!!」

 

どんなに心の中で叫んだ所で体は動かない。何故私がこんな目に合わなくてはならない?理不尽だ。このような禍はそこらの下人にでも降されるべきであり、高貴な家柄である私が受けて良い屈辱ではないのだ!

 

─────────────────────

 

「保って一両日でしょうな、今夜が峠です」

 

私をそう診断した医者の事は生涯忘れることはないだろう。ふざけるな私が死ぬ訳がない、使えない薮医者め。父親もだ、私の産みの親となる名誉を授かりながら医者の見識に立ち会った後の笑みは許される事ではない。

 

「…………」

 

最早、血を吐く事すらなくただ浅く呼吸を続けている。全身が腐り堕ちるかのような痛みに絶え間なく晒され続けて、意識を失うことすらできない。いや、そうではない。自身の死を認めない為に、ただ残された意思のみで繋ぎ止めているに過ぎない。自分が死ぬことは絶対にないのだと強固に信じ続けている。

 

「…………」

 

月明かりが開け放たれた縁側から注がれている。死病を患い余命の幾ばくもない物に最後に外を見せてやれという命令らしいが、忌々しい。どうせ見せるのならば、日光が出ている時にするべきだ。いつも閉じ籠っているのだからな。

 

「可哀想になぁ」

 

憎々しい気持ちを込めて月を睨み付けていれば、そんな軽薄で感情も籠っていないような声が聞こえた。

 

「このままでは死ぬだろう。憐れだな、死病で苦しみ果てながら息絶えるのは無念だろう?」

 

その男はまるで唐から伝わった絵巻物に現れる閻魔のごとき烏帽子を冠り、頭髪は登頂部付近のみが、血のごとき赤に染め上げられていた。

上等な召し物を着ており、何よりも目を引くのが、縦に割れた瞳孔と牙は人間ではなく、物ノ怪の類いであると一目で分かるものだった。

 

「……ッ誰が……!」

 

だが、そんな者を目の当たりにして私に浮かんだのは激情だった。

 

「ん?」

 

男が、声を上げた事に驚いたように首を傾げたその瞬間に私は

 

「死ぬものかッ!私は不滅だ!私は絶対だ!」

 

父か、付き人か、医者か苛立ちを晴らすべく誰かに突き立てようと考えていた手斧を、全力を以て男の頭蓋へと叩き付けた。直撃した男の頭からは、脳漿と血が滝のように溢れ出した。

 

「はあッ…はあッ…!」

 

これだけの行為で全身に倦怠感が走り、痛みは輪をかけて広がる。そんな肉体に産んだ親へ憎しみを募らせるが、少しだけ気分が晴れた。そう思った時だった。

 

「いやぁ、素晴らしいな、まさか攻撃されるとは思わなかった。正しく執念の結果だ!俺も嬉しいよ」

 

()()()()()()()()()()。バカな、あり得ない。頭蓋を叩き割ったのだ。間違いなく死んでいなくてはおかしい。だというのに、まるで男は私が殺したことすら無かったかのように、潰れた顔も元に戻っている。しかし、部屋と服に残る血液だけが、私の行為が現実であったという事を告げていた。

 

「お前ッ…!お前は…なんだ…?」

 

血を吐きながら問い掛けた私の質問に男は事もなげに答えた。

 

 

「俺は童磨。始まりの鬼だよ、産屋敷殿。

貴方も鬼にならないか?」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

俺と私

感想をいただけるとは有難いです。評価も励みになります。
文才も無い身ですがそれなりに頑張ろうと思います。



 

 

その男は生まれた頃より、特別な人間として育てられてきた。唐から流れ込んできた幾つもの学問や、宗教。彼の家はそうした物を学んで出来た倭国独自の教えを家業としていた。

 

『万世極楽教』

 

当時では珍しく、貴族ではなく平民が中心の団体であり、懺悔によって罪を許される事で、神の慈悲が与えられ天国へと迎えられる。そういった教えからか、信者の数はそれほど多くも無かったが、熱心な者達が多く童磨の両親も、そこの長と信者という関係性であった。

 

そこで生まれた童磨は瞳の虹彩が、虹色をしていた。それを見た両親は、この子は神の御子に違いない。そう思い込み、八つになる頃には教祖として祭り上げられていた。

 

──────────────────────

 

「と、まあそんな風に育てられたのは良いんだけどね。残念ながら俺には神の声なんて物は一度も聞こえなかったんだよ」

 

信者も両親も頭が悪い。神なんて物は存在しないし、極楽も地獄も無い。人は死んだら意識も何もなくなるだけなのに、そんな事すら理解出来ないなんて可哀想で仕方がない。

 

「頭の悪い信者達は、そんな俺にどうか助けて欲しいと頭を下げて懺悔するんだ。まだ八つの子供にさ」

 

そんな惨めな存在が可哀想で泣いてしまったよ、と過去の事を思い出してこの男は嘯いている。下らない。私はそんな事には欠片も興味が湧かない。

 

「それでは、貴方はどうやって鬼になったのですか?その方法にはとても興味があります」

 

この私が死に掛けていたのは認めよう。だが、憐れみを以て、こんな薄ら笑みを浮かべた阿呆のような男に救われた等我慢ならない。この男の秘密を得たなら直ぐにでも殺してやる。

 

「ああ、それはやめた方が良いと思うよ。無惨殿」

 

俺を殺したら、無惨殿も死んでしまうからなぁ。と事も無げにこの男はそう言った。

 

「……なんだと?貴様は言った筈だ。私もまた鬼となったのだと。人を遥かに越えた身体能力に、再生力。日光を浴びれない事と、人肉を喰らわなくてはならない事を除いて不都合はないと!お前は私に嘘を付いたのか!」

 

激昂した私の言葉にも、奴はさして気にした様子もなく答えた。

 

「仕方がないだろう?俺も初めてやったことなのだから。どうやら俺が同族を増やすと、相手の思考や位置などを感知できるらしい。そして俺が死ねば無惨殿も死ぬ、これらは感覚として今分かったのだ!」

 

伝えていなかった事は申し訳ないが諦めてくれ!と奴は何が面白いのか、また笑い声を上げている。それが再び私に怒りを呼び起こすので、苛立ちを込めて奴の頭蓋を蹴り飛ばす。が、腐った柿の如く飛び散った肉片も、辺り一面へと撒き散らされた墨のような血液も、数秒もすれば再生する。忌々しい、今の私ではあれほどの速度での再生は不可能だ。今は奴を殺すことは出来ないだろう。

 

「そう怒らなくても良いじゃないか。俺達は今のところは二人しかいない同族なのだから、仲良くしよう!それに、無惨殿が考えている通り、今は弱すぎるからな。鬼としてもっと力を蓄えないと俺には勝てまいよ」

 

………一時的に、怒りを抑える必要がある。最早私の肉体は死病を患ってなどいない。この肉体は限りなく完璧に近い。日光を克服し、童磨()を越えて私こそが、完璧な生物に登り詰めるにはその必要があるのだから…!

 

「期待しているよ。無惨殿」

 

俺は優しいからな。強くなりたいというなら喜んで力を貸してあげよう。その代わり、無惨殿にも俺の肉体を調べることに協力してもらおう。そう言って嗤う奴を私はただ睨み付けていた。

 

………いつかは殺してやるぞ。童磨(気狂い)め…!!

 

 

 




無惨様が知りたがっていた鬼になった方法は
童磨殿が風邪を引いた事で善かれと思った信者が善良な医者を連れてきました。万病に効く薬になりうる物として、薬を投与した所で体の変化で童磨が苦しんだので、信者に医者は殺されてしまい、鬼になっています。
信者からは毒を盛られた後遺症で日光に当たれなくなったと考えられています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

月華会議

キャラが掴めているか疑わしい。今回は割と書きたい事だけ楽しく書きました。



ベベン

琵琶の音が鳴り響く。

 

ベベン

歪んだ空間に人の影が増えていく。

 

ベベン

その場所は上下やあるいは高低がバラバラになっていた。

 

ベベン

共通しているのは和風の中に西洋式の気風が散りばめられている事だろうか。

 

ベベン

畳の上に流行りのガス灯が無造作に設置されている。

 

ベベン

障子戸の取っ手にはドアノブが嵌め込まれている。

 

ベベン

桐箪笥とクローゼットが並べられている。

 

ベベン

灯りも虫のような青と、血のような赤のみで照らされている。

 

ベベン

明るいのに暗い。

 

ベベン

新しいのに古臭い。

 

ベベン

そこに現れた鬼の数は十三。

 

ベベン

『十二鬼月』と呼ばれる最高位の鬼達と、彼等の首魁[童磨]である。

 

──────────────────────

 

「やぁ待っていたよ。俺の子供達」

 

朗らかな笑みを浮かべる童磨。鬼の長として千年もの間君臨し続けている男であり、彼こそが全ての鬼の始祖であった。

 

「何を平然と突っ立っている?私と、この方の前だ。頭を垂れて平伏するのが常であろう。

そんなだから、貴様らは簡単に鬼狩り等に敗北するのだ」

 

上弦の壱 鬼舞辻無惨

童磨と同様に千年前から生き続ける最古参の鬼であり、鬼の統括を行う。数多の人を、鬼を喰らい続ける。真性の悪鬼である。

 

「……は。肝に…命じましょう…」

 

上弦の弐 黒死牟

元は鬼殺隊の剣士であった裏切りの鬼。呼吸法を極め、至高の領域を越えて、永遠に高みを目指し、日輪を降さんとする剣鬼。

 

「仰る通りです。我々の不徳お詫び申し上げます」

 

上弦の参 猗窩座

10尺を越える規格外な巨躯と、三つ首を備えた殴殺の鬼。上弦の弐へと追随しようとする、心・技・体を備えた殺戮の化身。戦闘は徒手空拳を基本とした拳鬼である。

 

「……………」

 

上弦の肆 珠世

鬼でありながら、最も多くの同族の肉体を破壊した鬼。常に愁いを帯びた表情を浮かべる女鬼だが、鬼と人の肉体を知り尽くしており、血鬼術と合わせての大量殺傷を得意とする、學鬼。

 

「ひぃぃ。お許しくだされお許しくだされ…」

 

上弦の伍 半天狗

世に存在する、あらゆる物に怯えている鬼。上弦の鬼や童磨から不快を買わずに、自身が脅かされないよう他の者に助けを乞う様は弱者の様相を帯びるが、百年以上を生き延び、人を喰らう泣鬼だ。

 

「俺達も更に多くの鬼狩りを殺せるように、努力し続けます」

「どうかお任せください」

 

上弦の陸 妓夫太郎・堕姫

兄妹で鬼となり、童磨に絶対の忠誠を誓う鬼。麗しい美貌の堕姫が普段は表に出ており、堕姫が勝てない敵を醜悪な見た目の妓夫太郎が、担当する。二者合一の双鬼。

 

「うんうん。流石は上弦の皆だ、けど無惨殿。俺は別に気にしてないから良いよ。上に立つ者はそう目くじらを立てるのも良くないからね」

 

朗らかに童磨は笑っていた。平伏すのが遅れた下弦の者達は、それを赦しを得たと判断して、気持ちを弛緩させた。その時

 

「ところで、無惨殿。残念ながら下弦の皆の内に、鬼狩りの柱から逃げ出したり、或いは十二鬼月に入れたことで最低限すら人喰いをしなくなってしまった者が居るようなのだ!俺は悲しい…!」

 

先程の表情から一転して、童磨は滝のように涙を流し始めた。下弦はある者は驚愕し、ある者は恐れを露にした。

 

「零余子に釜鵺、君達の事を俺は期待してたんだ。力を高めてきた君達なら必ず鬼狩りを倒して、上弦に登り詰め何れは無惨殿や俺を殺すかも知れないってね!」

 

何を…何を…言っておられるのだこの方は…?

釜鵺は驚きを隠せなかった。だってそうだろう。先代の下弦の陸が鬼狩りに殺されて、俺が下弦に任命されてから「まだ三日しか経っていないね。その通りだ」

 

!?し、思考が読めるのか不味い!

 

「釜鵺。君は今まで人を沢山喰らってきた。そして力を蓄えることに尽力してきたのを俺は知ってるよ。だけど、俺に数字を刻まれて安堵しただろう?それはダメだよ。例えば下弦の弐である響凱のように人を喰えなくなってきた者だっているんだぜ?稀血を狙うわけでもないのに最低限しか、人を喰わないなんて単なる怠惰でしかない」

 

下弦の陸という数字には責任が必要なんだ。微笑みを浮かべながら童磨様が言葉を放たれる。

 

「零余子」

 

ビクッと体を震わせた下弦の肆は可哀想な程に震えているのに、童磨はいつも通りに声を掛ける。

 

「怖いだろう。可哀想になぁ、俺は皆の事をちゃんと見てるから分かるよ」

 

お前は弱い人や、鬼狩りを相手にするのは平気なのに柱と見るや直ぐに逃げてしまうから。残酷な迄の真実を童磨様は優しく語り掛ける

 

「いいえ!私は…私は鬼狩りと戦えます!柱だって殺せます…!どうか慈悲を…!」

 

涙を流して頭を垂れて、必死になって助命を懇願する下弦の肆(零余子)

 

「お、俺だってもっと人を喰います!血鬼術にも磨きを掛けて鬼狩りを殺して見せます!!」

 

放心状態から慌てて土下座の態勢へと移して、同じく頭を下げる下弦の陸(釜鵺)

 

それを見ながら童磨は

 

「うーん。しかしなぁ、俺はきちんと二人の事を見ていたから、何度も同じことをしたと知っているし、三日間休んでいたのは事実だろう?それに

皆の統括は無惨殿に一任しているからな」

 

後の事は無惨殿に任せるよ、と残酷な迄にあっさりと彼は上弦の壱(死神)に後の事を放り投げた。

 

「えぇ。任されましたとも、このような下らん鬼には存在する価値すらない」

 

裂けたような笑みを浮かべた上弦の壱(無惨)が腕を振るうと、一瞬で肉体の変化は完了する。両腕が変貌した、口の着いた化け物に捕食され、十二鬼月の末席はあっさりと、その数を減らした。後には血溜まりだけが残っていた。

 

「うう…二人も家族が減ってしまうなんて、とっても悲しいよ。もっと沢山鬼を増やさないと…

さて、それじゃ月華会議を始めようか。皆、報告をお願い」

 

涙を流したかと思えば、一瞬でその涙を引っ込めて、いつもの如く童磨(始祖)が嗤う。そうして、人喰い鬼の上位者達は今宵も、悍ましい話し合いを始めていく。

 

 

 

 




所々、変わった鬼やらも居ます。壺は犠牲になったのだ…
好きなキャラではあるんですけどね、玉壺。
パワハラ会議じゃ流石に不味いので、オリジナル設定で名前を付けてみました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

むちの結末

思い付きの捏造ばかり…何でお前さんは妄想ばかりするんだ。
(原作者)が許したとしても私が許せぬ。これから愈史郎に告げ口しにいく!


 

童磨は人を鬼へと変える際、制限を掛けることは殆んどない。彼にとって鬼とは血を分け与えた同族であるし、何より難しい事を教えようにも、鬼になったばかりの者は知能が低下し、理性を無くして痴愚同然の獣となるからだ。

 

鬼となった者は本能的に日光を避けながら、人を喰らう。そうして満足した所で、自意識を取り戻す。だが、血を注がれ肉体が変異した事によって、大半の鬼は人間だった記憶が曖昧となり、精々嗜好程度が残るのみとなる。

 

そんな鬼達であるが不可思議な事に、鬼の中でも強者と言える実力を持つ者。十二鬼月に選ばれる者達は、特に生前の記憶を強固に残している兆候が存在した。

上弦の肆である珠世もまた、人であった頃の記憶を克明に覚えた鬼である。

 

──────────────────────

 

人であった頃に珠世は薬師であった。家業として受け継いだ仕事だったが、女である事が原因で嫌がらせを受ける事も有った。女が仕事をするなど言語道断。男から甲斐性を奪うつもりなのか、といった風潮が過分に存在したのである。しかし、そんな世間の声も珠世が作った薬の存在を知ると掌を返して、皆が珠世を褒め称えた。

 

「どうか、私と結婚して欲しい」

 

そんな珠世も祝言を挙げる事になった。相手は珠世の家が、代々薬を卸してきた華族の次男で、見知った相手というのも縁となって結ばれた。

 

子供にも恵まれ、薬師としての仕事も夫婦で取り組み、穏やかな日々を過ごしていた頃に、それは起こった。

 

都で病が流行して、町民や華族がどんどん倒れていった。国の命令によって医者も薬師も、過剰な労働を余儀無くされていた。

 

「年の瀬迄に百以上の注文だなんて…幾らなんでも無茶苦茶だ!」

 

夫が悲歎を顕にする。だが、それでも苦しむ人々の為にも出来ることをしなくてはならない。

 

「流行り病ですから…私達も気を付けて励みましょう。……こほっ…」

 

時間は有限であり、寝食を削りながら私達は仕事をやり遂げた。終わった時には体が火照り、疲れが体に溜まっていたのを今でも覚えている。

 

「私は薬を届けてくる。日が落ちるまでには戻ろう」

 

夫がそう言い残し、私も何か言葉を返した。それを最後に私の記憶は途切れている。次に目を覚ました時には薬を完成させてから二晩が経っており、私は蒲団へ寝かされていて側には目を赤くした、夫と息子の姿があった。

 

無理が祟り、私もまた流行り病に罹患したらしかった。夫と私で煎じた薬も、掛かってしまった後では効き目は薄く、医者に見せても一向に良くならなかった。

 

「嫌…死にたくない…この子もまだこんなに幼いのに…」

 

幼い息子を抱き締めて、私は必死に祈っていた。夫と共に、息子の成長する姿を見たい。夫とこの子を残して、死んでしまうなんて堪えられない。

 

「…?かか様、どこか痛いの?」

 

嗚咽を溢す私の背を、不器用にゆっくりと撫でてくれる小さな掌。暖かくて、ふわふわとしたその手は、神様が私達に授けてくれた宝物だ。離れ離れになるなんて…

自身の行く末と、遺される夫と子供を思って、私の瞳からは涙が絶え間なく流れ落ち、そんな私を心配して自身も涙を流しながら息子が私の背を、いつまでもいつまでも撫ぜてくれていた。

 

──────────────────────

 

「聞いてくれ…!お前の体が治るかも知れないんだ…!!」

 

数日後、必死に都の家族や医者等に頭を下げて、私の病を治す方法を探してくれていた夫が這う這うの体で戻ってきた。

夫によれば、病を治すことを謳い、金子を奪おうとする宗派が余りにも多い都で、口伝のみで伝わる本物が有るのだという。不老長寿で、神の声を聞くことの出来る教祖が、人々を極楽へと導いてくれるのだ。

 

「私も初めは信じられなかったが、私が都へ居た頃に死病と判断されていた方が話してくださったのだ!」

 

その方は後遺症から御簾の外に出て日を浴びることは出来なくなったが、今でも生きて屋敷に住んでいるのだという。医者にも見棄てられている私達はその話に縋るしかなかった。私は重い体を引き摺り必死になって、夫と子供の三人で『万世極楽教』の門戸を叩いた。

 

「流行り病とは可哀想になぁ、医者も神様も酷な事をする。けれど心配しなくて良い。()は優しいから君の事を放っては置かないよ」

 

そこで私は人を食ったような笑みを浮かべ、こちらの話を聞いて嗤う教祖。童磨(鬼の始祖)と出会う事になったのである。

 

 




ここまで書いた所でちょっと長いので、分けますね。続きはまたいつか


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

柘榴の味

~もしも鬼岡さんだったら~

「無惨様も退出されたようなので失礼する」

「おい待てェ失礼すんじゃねぇ頸を切られても死なねえようにする方法の事を話し合わなきゃならねぇだろうが」

「俺はお前達とは違う。話し合いがしたいならお前達だけで勝手にするが良い」

俺は十二鬼月じゃない。下弦の伍だった錆兎に守ってもらっていただけだ。錆兎が柱に討たれた時、俺は何も出来なかった。十二鬼月に相応しいのは錆兎だった。
錆兎なら今頃上弦の壱となって、鬼殺隊も全滅させていたし、青い彼岸花も見付けて無惨様に捧げていた。


その時感じていたのは原初の喜びだった。あれほど弱っていた身体は嘘のように健康(強靭)になり、白湯を僅かに口にする程度であった私の肉体は酷い空腹を(飢餓)訴えていた。

 

近くにはとても良い匂いのする御馳走が二つ並んでいた。私の方へと転がって来たので手近に有った、大きい方に齧り付くと、何の調理もしていないのに今まで感じたことのない程の、美味が私の口へ飛び込んできた。

 

少し筋張った所のある、その食べ物()は驚くほどすんなりと歯で噛み千切る事が出来た。一口食べるともう止まらなくなり、直ぐに二口目を口にする。口の中で跳ね回るそれは新鮮な兎肉のようでありながら、いつまでも噛み続けたい。どこか懐かしい味がしていた。

 

あ、待て!そうやって夢中で大きい方を食べていると、手が当たりでもしたのか、小さい方の食べ物()がついと転がって行ってしまいそうになる。

 

「ふふ。ダメですよ、逃げ出したりしては」

 

動かなくなってしまったけど、大きい方はあんなにも美味しかったのだから、こっちの小さい方はどんなに美味しいのだろう。(はした)ないけれど、涎が出てきてしまう。小さい方を優しく抱き締めて、思わず零れた唾液()が小さな食べ物を汚してしまうと、暖かなその食べ物が私の方へとふわっと浮かび上がってくる。

 

「いただきます」

 

まるで天の恵みのような、それを私はパクりと口に運んだ。暖かくて、ふわふわとしたその食べ物は噛むと、とても瑞々しい。力を少し籠めただけでプチっと潰れてしまいそうで、中からとても甘美な汁が溢れてくるので、口を付けて赤子のように啜っている。美味しい。美味しい。美味しい。

 

「こんな美味しい物を食べられるなんて…あの人と、あの子にも食べさせてあげないと」

 

噛んで、啜って、噛んで、啜ってを繰り返して、とっても幸せな気分に浸っていた。こんなのを独り占めにしては罰が当たってしまう、そうだ…私だけではなく、皆で食べなければ…考えたその時に、男の声が浮き足立っていた私の脳内に、まるで冷や水を浴びせかける様に轟いた。

 

「不思議な事を言うんだね?その旦那(大きい肉)子供(小さい肉)ならたった今、君が美味しく食べているというのに」

 

自分で自分の肉を食べても、苦しいだけで美味しくはないと思うけどなぁ…と、何でもない様に、言われて、私は漸く部屋の惨状を認識した。

 

「あ、ああ、ああああああああああ!!」

 

私が与えられた部屋は、至る所に夫と息子の血と、肉片が飛び散り、逃げ出そうとした二人の足は私の左手に握られ、まるで紙屑の様に潰されていた。

 

私を優しく抱き締めて、夫婦で力を合わせて薬を作っていた旦那の腕も

泣き喚く私を抱き締め、子供であるのに優しく撫でてくれた子供の手も

 

残骸には遺されていなかった。何故?決まっている。私が食べたからだ、口許は真っ赤に染まって今でも、血と涎が止めどなく溢れている。二人は手を千切られ、足を潰されて、全身の肉を喰いちらされて、血を啜られているのにまだ息が有った。まるで最後の最後まで新鮮に食事をしようとするかのような、その悪趣味な所業に我が事であるのに私は…吐き気が止まらなかった。何よりも、その二人に今でも食欲が沸き上がって、止まらなかったからだ。

 

「こらこら、美味しく食べたご飯なのに吐き気を催すなんて失礼だろう。

もう食べないのだとしても、きちんと御馳走様と感謝を述べるべきだ」

 

残すのも勿体無いから、食べないのなら俺が食べておくけれど

なんてさっきまでと、変わらないように言われて怒るよりも、ただ涙が零れて、私は必死に懇願していた。

 

「お願いします…どうか、どうか私の子と旦那を救って下さい!

貴方の不老長寿の力なら、二人を治す事だって…!!」 

 

私の死病を治して、救ってくれたのだから、きっと二人の事だって…!

 

「うーん。困ったなぁ助けてあげたいのは山々だけど、死んでしまった後では俺の血を分け与えても意味がなかったんだよ。半死人とも言えるような状態だし、部位も色々と足りないから耐えられるだろうか」

 

まあ、無惨殿にも色々と試して見るように言われているし、やってみようか。

そう言って教祖(童磨)は自分の腕を大きく切り裂くと、夫と息子の身体へと血を振り掛けた。半死半生だった二人の身体に鬼の始祖の血が吸い込まれて、肉体の変貌を始めていく。引き千切れた肉片が寄り集まって、一つの肉を形成しようとした時に、それは起こった。

 

二つの肉体が混じり合いだしたのだ。

近くに置かれた子と旦那の肉片は互いが互いを喰い合うように混ざり、潰れて、最後には鬼でも人でもなく、不気味に脈動のみを繰り返す肉塊が残るのみであった。

 

「そんな…そんな…」

 

肉塊に手を触れても、何の反応もない。暖かさも感じられず、脈打つ事でしか生命活動を感じられないそれは、最早生きているとすら言えな「いやいや、素晴らしい結果だよこれは!

貴女の旦那と息子は今も生きているし、どうやら意識だって残ってるようだ。ただ、ひたすらに苦しみ嘆いているよ!」

 

凄いなぁ。こんな結果になるなんて、初めてだよ。凄いなぁ!

嬉しそうに笑って私の旦那と息子(肉塊)を徐に切り裂き始めた。

 

「やめてください!何をするんですか!!」

 

傷付けられた状態から、肉塊(旦那と息子)は直ぐに元に戻ったが、そんなことは関係ない。男に掴みかかるが、彼は笑いながら言う。

 

「心配しなくても大丈夫だよ!どうやら、この状態で生きている事その物が彼等にとって一番の苦しみらしいね。切り裂いても、思考に全く変化がない。

それに中を見てみたけど、臓器どころか首も見当たらないし、鬼狩りに殺されることも無いだろうね!

ほら、望み通りに日光を浴びない限りは絶対に死ななくなったんだから嬉しいだろう?」

 

この結果を一緒に喜ぼうじゃないか。なんて、それを良いことの様に笑って、嗤われて、そんな願いをこの男にしてしまった事に絶望して、私は

 

「ああ、でもそれは困るなぁ。無惨殿にはどんどん使うべきだって言われてるけど、あまりやりたくないんだけどな俺は。思考を縛るだなんて、幸せに生きられなくなりそうだし、正しく鬼の所業みたいだろう?」

 

だけど、死にたくないって願った結果、家族揃って自害しようだなんて、そんな思考を赦してあげたら、死病を治したのに報われないだろう?

 

「だから、貴女の望みを叶えるために自死する事を禁止するよ!

辛く悲しい気持ちが続くかもしれないけれど大丈夫!長生きすれば幸せになれるさ!

貴女には珠の様に美しき容貌もあるし、広い世界を見て回ると良い。俺が名前をあげるよ

珠世殿」

 

何だったら新しい旦那を見付けるのも良いんじゃないかな?彼は年上だったようだし、年下で探してみてはどうだろう?別れていないから姦通になってしまうかも知れないけれど。

 

その鬼はまるで自分が神であるというかのように、私へ向かって嗤いながら、呪い(祝福)を与えた。

この時に決めたのだ。私は絶対にこの()を殺す。いつの日か私と、旦那と、息子と、全員が人間へ戻り、死を迎える事。鬼となった私はこれから、どんな手を使ってでも成し遂げてみせると。

 

 




前の話のサブタイトル変えました。内容は変わってませんが、気になったので。

書きたいことが増えてくると嬉しいけど大変ですね。読み専だった身には辛いです。作者様達の凄さが分かります


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

落日

縁壱「こんな弱そうな鬼なら、他の柱だって殺れるぜ!私は皆と安全に鬼狩りがしたいんだ!」

無残「…!」


 

鬼舞辻無惨()は考える。何故こんな状況に陥っているのかを。

 

「何が楽しい?何が面白い?」

 

数百年前に鬼になってから、今まで数多くの人間を喰らってきた。(童磨)を除いて、()()()()()()()()()()()()()()()。私は限りなく完璧に近い生物。否、私の存在は最早生き物という括りではなく、災害と呼ぶに等しいものだ。鬼狩りが束になって向かって来ようが、一国の城主が軍を揃えようが、私はその悉くを残さず喰い殺してきた。そんな、私が

 

「命を何だと思っているんだ」

 

こんな…たった一人の鬼狩り(異常者)に見下されている。

 

 

 

──────────────────────

 

 

童磨からの命令もあって、私は鬼狩り共を探していた。

 

嘗て、鬼に家族を殺された事を理由に、復讐するために命を自ら投げ捨てる集団。特殊な刀と剣術を用いて、鬼の頸を切る事で復讐を遂げようとするが、所詮は人間であり強い鬼を相手にすれば簡単に命を落としている。そんな愚か者達を警戒する必要もないと捨て置いていたが、ここ数年になって鬼の数が減ることが増えてきた。

 

勿論、鬼の数は童磨が血を分け与える事で簡単に増やすことが出来る。しかし、ここ数年では鬼狩りによって、成長して、血鬼術を使う鬼ですら殺されるようになったという。以前であれば、柱と呼ばれる奴等の中でも、それなりの力量を持つ剣士程度にしか殺せなかった鬼が、普通の鬼狩りに殺される。この異常を探るべく私が派遣された。

 

「がぁッ!」

 

私を鬼だと認識して、殺そうと刀を振るう鬼狩り。だが、その程度では避ける必要すらなく、鬼狩りの刀は私に当たると甲高い音を響かせて折れていた。私はそのまま爪を突き立てて、鬼狩りの喉を突き刺すと、痙攣して血が溢れ出す。

 

「所詮はこの程度か、確かに身体能力は上がっている。だが、私を切れないならば奴に手が届く事も有るまい」

 

態々、直接確認しに来たというのに無意味な行いだったようだ。いっそ、このまま柱を含めた鬼狩り共を私一人で殲滅するのも良いかもしれない。奴の命令というのは癪に障るが…

 

「ヒュ…ヒュ…必ず…!仲間だちがお前らを…!」

 

致命傷を負わせても恨み言を続けようとする鬼狩りの頭を潰して、息の根を止める。

どうやら、特殊な呼吸を用いて身体操作を行うようだが、鬼にも劣る僅かな延命と身体能力の上昇。何の意味もない馬鹿げた行為に精を出す知能の低さ。徒に死人を増やすだけで、これを産み出したのも所詮は塵に過ぎないだろう。

 

「さて…鬼狩りの居所を奴に再び探させるとするか」

 

持っていた(鬼狩り)を喰いながら、報告を待とうとした時、

月光に照らされながらその男は私にも捉えきれない程の速度で、目前へと迫って…

いや、()()()()()()()()()()()()()()()。単に意識を死体と童磨への報告のために割いていたに過ぎない。だが、私の意識の隙間に入り込む事その物が赦しがたい。

 

「…お前が擂蔵を殺したのか?鬼、何の為だ」

 

黒髪を頂点の辺りで結った鬼狩りが私に尋ねてくる。耳には花札に似た飾りを付けており、額には炎のような形をした痣が浮かんでいる。手に持った刀は、光を吸い込むような漆黒に染まっていた。その男はまるで能面のように表情を変えずに、淡々と問い掛けてくる。その姿が不気味に(恐ろしく)感じられた。それを振り払う様に私は(鬼狩り)に答えた。

 

「何故だと?決まっているだろう、その鬼狩りが私を狙ってきたから返り討ちにしたに過ぎない。それに小腹が空いていたから、ついでに満たそうと考えただけの事だ」

 

そういって手に持った肉を見せ付けるように喰らおうした。

その時、私の腕は存在していなかった。

 

「は…?何…」

が、と続けようとした時には私の視界は傾いていた。私の頚は鬼狩りによって容易く切り離されており、胴と泣き別れになっていた。そして、私の胴と頚はそのまま殺した鬼狩りの血が染み込む、地面へと叩き付けられていた。

 

 

──────────────────────

 

 

 

「擂蔵、すまない。遅くなってしまった」

 

事切れた擂蔵の体を気遣うように声を掛ける。

鳴柱である彼だが、呼吸法を会得した他の柱と同様に、痣を出そうと必死になっていた。しかし、他の柱と違い痣が出なかった。その事に焦った彼は、鬼の始祖かも知れない鬼の噂を聞き付けて、兄達が止める間もなく、出掛けてしまっていた。

 

「私の助けが遅かったばかりに、間に合わなかった」

 

山を二つ越えた先の小さな村で、鬼が出ると聞いた私は朝早くに出掛けてしまっていた。三匹の鬼は直ぐに狩り、戻った時には夜の帳が降りようとしていた。兄上から擂蔵も、私が出てから程無くしてで出ていったと聞いたので、急いで向かったが、辿り着いた時には既に終わってしまっていた。

始末した鬼の強さは()()()()()()()()()()()。つまり、擂蔵は焦る余りに、疲労が残った状態で鬼と戦ってしまったのだ。本来なら簡単に倒せた筈の鬼を相手にして負けてしまった。私が呼吸を教えたばかりに、痣者になった他の柱への焦燥がこの結果をもたらしてしまった。

せめて弔いの為にと遺体を抱えようとした時、反射的に私は刀を後ろへと振り抜いていた。

 

「ぐっ…一度ならず二度までも…絶対に許さんぞ!鬼狩りがぁッ!!」

 

()()()()()()()()()()()を頭から、再び両断していた刀を見て、ようやく私はまだこの鬼(鬼舞辻無惨)が死んでいないことに気付いたのだった。

 

 

 

夜はまだ終わらない。

 

 




擂蔵さんは夕方頃に着いてから、夜まで体を休めてから戦いました。
無残と戦い雷ノ呼吸の型を全部見られて、呼吸の存在が知られた後に殺されています。戦っていたのは五分程でしょうか。

月曜日になる前に急いで投稿。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

邂逅

少し短か目。感想や評価いただけると励みになります。


鬼舞辻無惨()継国縁壱()

二人の怪物の戦いは終始、縁壱が無残を圧倒する結果になっていた。

 

「…!」

  

目を血走らせ、屈辱と憎悪を込め、無残は腕を変形させると鞭のように振り回して、縁壱を傷付けようとする。【血鬼術・禍毒業延(かどくごうえん)】によって、猛毒へと変化された血液は、たとえ掠り傷でも致命傷となって、人間の身を葬る事になるだろう。普通であれば、鬼狩りの柱であろうと長くは避けられずに被弾するが、縁壱には通用しなかった。

 

「コオォ…」

 

生まれた時より常に行い続ける全集中の呼吸、これを少しだけ深く行う。日輪刀を振るう際に多少の力を込めて、普段鬼を狩る際よりも勢いを増す。これによって、常人よりも高い体温と、空気との摩擦が相乗して黒い刀身を、赫く染め上げる。太陽その物が宿ったような、この刀に切られた無残の肉体は再生を行うことが不可能であった。

 

「ぎぃッ…!おのれ…!!」

 

無残は切り落とされる度に腕を新たに生やして、網の目の様にして縁壱へと振るう。硬度も更に高められ、柱であっても刀を折られる程の一撃も、武人としての頂で有る至高の領域。相手の肉体が透き通り、手に取るように動きを予測可能な【透明な世界】。そこに生まれつき到達していた縁壱は、最小限の動きでそれらを切り捨て、そのままの勢いで無残の肉体を、両腕、頚、胴体で切断した。

 

──────────────────────

 

「…何が楽しい?何が面白い?命を何だと思っているんだ」 

 

動けないと判断して鬼に問い掛ける。頚を切り落としても、やはり死なない。今まで出会った鬼の中で、恐らく最強の存在だ。人間を喰らう事にどのような意図を持って行っているのか、あの惨状を目撃してからは、ずっと疑問だった事を聞いてみるが、男は答えることなく、充血して真っ黒になる程に憎しみを込めた顔でこちらを睨み付け、歯を喰い縛っていた。

 

「ぐぅッ!」

 

私は男の筋肉が動こうとしたのを察して、更に全身を切り刻む。膨張しようとした筋肉は解体されて、身動きも取れずに地へと這いつくばり、再生できずに鬼は苦しみ続けていた。

 

「哀れだ」

 

言葉が口を衝いて漏れ出る。そうだ、鬼とは哀れで空しい生き物だ。こんな姿になっても死ねずに苦しんでいる。人を喰らう怪物と成り果てても、生きたいと望む本能を持っているのだ。これ以上、苦しませる事もない。そう思い、肉片を残さず破壊しようとした。その時、耳朶を軽薄な声が震わせた。

 

「いやぁ無残殿も可哀想になぁ!まるで出会った当初のようじゃないか。病床に臥せって起き上がれない姿を思い出すよ!」

 

白髪が登頂部付近で赤く染まった男だった。明るい笑みを浮かべ、瞳は虹色に輝いていた。まるで閻魔のような帽を被っている。直感的に感じた。こいつだ、この男こそが私が生まれた意味、打倒するべき宿敵である。

 

「さあ、あとは俺に任せると良いよ。無残殿」

 

男に意識を集中させている間に肉片は再生不可能な部位を切り捨てて、弾け飛び、逃走していた。それでも私は男から目を反らせず、男は愉しそうに笑っていた。

 

 




無残「さぁ来い!縁壱!私は頚を切られても死なないぞ!」

縁壱「赫刀スラーッシュ!」

無残「ぐぁああああああ!」

童磨「無残殿が殺られたか。奴は所詮、鬼の中で二番目の強さ。鬼界の実質トップよ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

天魔

今回今までで一番長くなったかも知れません。


 

 

日輪刀を構える縁壱だったが、それを見ても童磨は動じなかった。にこぉっと微笑んだまま近くの塀へと腰掛けると、横に座るように促した。

 

 

 

「そう殺気立たなくても良いじゃないか。殺し合うにしても、その前に少しお喋りしてくれよ」

 

童磨にそう言われたので、縁壱も刀を納めると無表情で横に座ることにした。そのまま半刻、童磨は笑い、縁壱は無表情でただ座っていた。

 

「…何か私に聞きたい事が有るのか…?」

 

座り始めて一刻して、ようやく縁壱から童磨に話しを振った。それに対して童磨は

 

「てっきり、何か聞きたいのは君の方かと思ってたけど」

 

無惨殿にも話し掛けていたようだし、と言われてこの男が先のやり取りを見ていた事に気付いて納得した。

 

「何故鬼を増やす?鬼は人の営みを破壊し、罪もない命を奪っている。それに何の意味がある?」

 

常に疑問だった。人を喰らわなければ生きられない怪物へと人を変えて、それを私が生まれる以前から延々と繰り返す。そんな行為の何が楽しくて、笑っているのか。鬼の始祖に私はどうしても聞いてみたかった。

 

「別に楽しいとは思っていないよ。俺は可哀想な人々を救っているだけなんだ」

 

鬼になる事は悪い事である。家族の事ですらも餌としか見られなくなり、二度と陽光を浴びることなく、永遠に暗闇を彷徨う生き物となる。そう考えていた。だからこそ、鬼になる事が救いであると謳うこの男を凝視してしまった。

 

「鬼になれば人であった頃の病や怪我は治る。人間とは比較にならない身体能力も得られるんだ」

 

それは確かに喜ばしい事のようにも聞こえる。

 

「体の弱い子や、病床に臥せる子、戦で怪我を負った子なんかは、どんな対価を払ってでも救われたいと思ってるんだよ」

 

本来ならそのまま死んでいく筈の人々を対価もなく助ける。

 

「それとも、俺が助けた(鬼にした)()は、そのまま死んだ方が良かったかな?人を殺してたとしても、それでも彼等だって生きているんだ」

 

それを殺そうだなんて、それこそ悪いことだろう?

 

まるで私達(鬼殺隊)がしている事こそが、己という神の決定に逆らう悪逆無道であるように、奴が言っているが私の心に響くことはなかった。

 

「なぜ、そんな心にも無いことを言う?」

 

私からの返答を聞いて初めて男は、それまでの話で多様に変化させていた表情を止めた。

 

「心にもない?そんなことはないよ、俺は可哀想な子達を救ってあげている。そんな子達が鬼狩りに殺されるのが嫌だから、こうして君と話をしてるんだぜ」

 

それは一瞬の事だからこそ、恐らく今まで指摘したのは私だけだったのだろう。そこまで隠し通してきた奴の内心すらも、私は見透かしていた。

 

()()()()()()()()()()()。心臓の拍動も変わらなければ、脳からの分泌物の変化さえもない。表情の変化も、話の中で流した涙でさえも、お前が意図的に筋肉を操作して行ったまやかしに過ぎない」

 

お前は表情と声の調子を変える事によって、人の感情を再現しようと努力しているだけだ。

 

「本当は鬼にした人間の事も、鬼に殺される人間の事も何とも思っていないのだろう?」

 

救いの手を差し伸べるのも、人を殺して喰らうのも、自分に出来ることだからやっているだけ。本当の意味でお前にやりたいことなど何もない。()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「この問答ですら時間の無駄だった。お前にとって命の価値とは()()()に過ぎない」

 

私が表情を変えずに言い放った言葉に、(童磨)は感情の籠らない顔で答えた。

 

「…信者達は俺に自分を理解してもらいたいと思っていた。逆に鬼の皆は俺に心を読まれることを恐れていたけど、なるほどね。自分を理解されるというのはこういう気持ちなのか」

 

気持ちが良い(気持ちが悪い)

 

「一つ学んだよ。どうやら、俺にも嫌いな人間っていうのは居るみたいだ」

 

君の事は好きにはなれないかもしれない。そう言って童磨(鬼の始祖)が立ち上がった。

 

 

「そうか。私も一つの疑問に答えが出た。結局のところ、鬼とはお前という存在が生み出した哀れな被害者でしかない」

 

惡鬼滅殺

 

「長き戦いの決着を付けよう」

 

お前は討ち滅ぼさねばならない存在だ。そう言って縁壱(始まりの剣士)が立ち上がった。

 

白み始める空を前にして、原点にして頂点の二人がぶつかり合う。

 

──────────────────────

血鬼術・粉凍り

 

先手を取ったのは童磨である。手に持った二つの扇子を振るって細やかな凍らせた血液を撒き散らす。吸い込めば、肺が壊死する程の温度の氷だが、それも

 

【日の呼吸・円舞】

 

縁壱が赫刀を振るえばその剣圧によって、氷は吹いて飛び、融解して地を濡らす。その勢いのままに縁壱は更に詰め寄って、童磨の頚を狩らんとする。横一線に振るわれた()()()()()を、扇で受け止めて童磨が言う。

 

「無惨殿との戦いを見ていて分かった。その赫い刀は熱によって産み出されている」

 

余りにも振るわれる速度が速い日輪刀は空気との摩擦で、()()()()()()()()()()。加えて、持ち手本人の高い体温もまた刀身へと伝わる事で、猩々緋砂鉄の太陽としての特性が引き出されている。

 

「だったら、まずは温度を奪おう」

 

微笑みながら再び童磨が扇を振るう。

 

【血鬼術・散り蓮華】

 

そこから放たれた二つの蓮華の花が、強力な冷気を広範囲に放っていく。長くいれば、それだけで人の身は凍り死に至るが

 

「……」

 

【日の呼吸・碧羅の天】

 

常人よりも遥かに温度の高い縁壱の肉体は、温度差で湯気を発し、振るわれた三度の斬撃は例え日輪刀のままでも威力を変えずに、蓮華の花を裂いて、童磨の体を薙がんとする。童磨が逃げる方向すらも、予測した上で振るわれる斬撃も、来ることが分かっていたように童磨は致命傷を避ける。

 

「聞いていた通りだ。その目も恐ろしい代物だね」

 

今度はそれを封じよう。と言って、童磨は新たに技を繰り出す。

 

【血鬼術・凍て曇】

 

視界を潰さんと迫る煙のような氷、余りにも低い温度を続けて数度送り込まれて、目を潰そうとされたのにも関わらず縁壱の心には一切の動揺はなかった。むしろ、その煙と体から発せられた湯気で、視界が閉ざされた事こそが童磨にとって最大の隙になったのだった。

 

「終わりだ」

 

【日の呼吸・幻日虹】

 

特殊な捻りと回転を加えられた、斬撃は童磨にとって無惨との戦闘中にも見せられてはいなかった物だ。それによってまるで、分身したかのように縁壱の残像が浮かび上がり、迫り来る日輪刀を避けることも出来ずに、頚を飛ばされた。

 

 

──────────────────────

 

首を切った。間違いなく。始祖の鬼である男の体は塵のように崩壊していく。首を切られた刹那に、最大威力の技なのか巨大な氷で出来た仏像をぶつけても来たが、それも切り捨てた。東の空から浮かび上がった太陽が、崩れゆく氷を照らして、綺羅びやかに輝いていた。

 

朝日の差し込む太陽の元、男がそこに立っていた。先程まで会話をしていた男と同じ顔で、柏手をしながらこちらへ向けた笑みを浮かべている。

 

「いやぁ、負けちゃったね!中々に良く出来ていただろう?俺にそっくりだし、俺の技もちゃんと使えるんだよ!」

 

最初から私が戦っていたのは鬼の祖ではなかった。鬼の祖は既に太陽を克服していた。奴が姿を表したのは

 

「鬼食いは鬼にならない。最初はそう思ってたんだけどね、そうじゃない事が分かったんだ。そもそも受け入れられる血の量が多いせいで、少しでは足りなかったんだ」

 

だから限界まで血を与えた上で、影武者として利用した。俺の記憶を与えて、前の記憶を消して、血鬼術も覚えさせた。

 

「それでも出来上がった鬼は、結局のところ縁壱殿には勝てなかったようだ!人格も少しは残ってしまったのかも知れないな。可哀想に」

 

そんな言葉と共に涙を流し、一転して笑顔に戻ってから再び童磨は言った。

 

「まあ、そんな事はどうでも良いか。それよりも縁壱殿」

 

貴方も鬼にならないか?厳勝殿も待っているよ。

 

鬼が不吉を運んできた。

 

「二十五迄に死んでしまうだなんて可哀想で、優しいおれは耐えられない‼️どうか俺に救わせておくれよ」

 

私は…俺は始めて憎悪を込めて刃を振るった。

 

その姿を見ても童磨はやはり、何の感情も込めずに嗤っていた。

 

 

 




童磨「何か知りたい事は有りますか?」

鬼殺隊&鬼柱&今日も美しい珠世様「「「お前を消す方法」」」」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

選択

まさか日刊ランキングに乗れるとは思いませんでした。
感想や評価、お気に入りに登録してくださった皆様のお陰です。
これからも不定期なるかも知れませんが、思い付けば投稿していきたいと思います。

誤字報告もいつもありがとうございます。助かります


『鬼殺隊』人喰い鬼を滅ぼす剣士の集団。政府非公認の組織でありながら歴史は古く、数百年前から鬼を殺してきた。強さに応じた階級で分けられており、最初の階級である『癸』から『甲』の十段階。そして、剣士の中で最高峰の実力を持った『柱』に分類される。

 

現在の水柱である『冨岡義勇』もまた、その使命に従って鬼を狩る為に動いていた。

 

''炭焼きの家で瞳に数字を入れた男を見た''

 

そんな報せが有ったと親方様から仰せ遣った。本来であれば俺よりも相応しい柱が行くべきだが、生憎と皆が任務に出ていた。俺には見合わない仕事だが、親方様に言われて向かうことになった。

 

「…ここか」

 

山間部に有る村は田舎という言葉が似合う様子で、余所者である俺を見ると疑わしい目線を向けてくる者もいた。それから数時間掛けて人に聞いてみたが、一向に教えてくれる人物が見付からない。凍えそうな程に吹雪く雪の中で、ようやく辿り着いた家では既に全てが終わっていた(始まっていた)

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

妹が熱を出した。長女として家事を熱心に行って、家を母さんと一緒に支えてくれていたけれど、まだ小さいから無理が祟ってしまったようだ。本当なら、俺も看病をしていたかったけど、今日は町に炭を売りに行かなくてはいけなかったんだ。

 

いつもは出来る限り町の人を手伝うけれど、禰豆子が風邪を引いた為に余り手伝えなかった。むしろ、栄養を付けてやれと野菜や、肉なんかを貰ってしまった。勿論お礼はきちんと伝えたけれど、今度きちんと手伝えなかった分まで手伝わないといけない。

 

「もうすぐ日暮れだ…夜までには帰れそうだな」

 

夕暮れが近付く町から出て、家へ帰ろうとする。三郎じいさんの住んでる家の近くを通ろうという時、声を掛けられた。

 

「君、もしかして炭焼きをしてる一家の子かな?神楽を伝えてる」

 

不思議だった。その人は、こっちを見ているのに()()()()()()()()意識を向けているはずなのに匂いがしないなんて初めてで、俺に話し掛けているのか一瞬分からなかった位だ。

 

「え、ええ。そうです。炭焼きをしてる炭十郎の息子の炭治郎です。神楽の事まで知ってるんですか?」

 

日ノ本の言葉で話し掛けて来なかったら異人だと思ったかもしれない。背丈も俺や町の人よりずっと高いし、洋服を着て髪も白と赤が混じっていたから。この人は何が可笑しいんだろう?愛想笑いなのかずっと笑顔を浮かべてる。

 

「うん。そうか!ここで会ったのも何かの縁かも知れないし、伝えておこう。今日は家に帰らない方が良いよ?」

 

その言葉を聞いたときに俺の背筋に言い様のない寒気がした。まるで、気付かない内に体が氷付けにされてしまったようだった。男は言葉を続けた

 

「知ってるかい?夜になると人を喰らう鬼が出るかも知れないんだ。もうすぐ日暮れだ、そんな時に山を通るなんて俺はしない方が良いと思うし、良かったら町で仲良くお喋りでもしないかな?」

 

男は愉しそうに笑って言うが、その言葉にも一切感情の匂いは乗っていなかった。本気で言っている訳ではないことが明白だった。だから、俺は

 

「いえ!家族が熱を出しているので帰ります!

お兄さんは気を付けて下さい。心配してくれてありがとうございます!!」

 

心配してくれた事には感謝をしてから足早にそこを去った。山を登る途中で振り向くと夕暮れに照らされながら男がずっとこちらを見ているのが分かった。男から離れても、しばらくは寒気は収まらなかった。

 

「…やれやれ。行ってしまったな。俺は悲しいよ、お兄さんだなんて言われたのは久し振りだし、あんなに良い子が死んでしまうのは可哀想だ。…そうだ!()()()()()()()()()()()()家族と離れるのは可哀想だけど、俺の子供達もお腹を空かせてるに違いないからな」

 

だから、あとはお前に任せるよ。病葉(わくらば)

お前には俺の血を預けるから、あの子は鬼にするんだよ。その代わり、他の家族は食べて良い。それが済んだら戻っておいで。出来たら無惨殿も黒死牟殿も喜ぶからね。

 

「御意。童磨様のご命令と有らば」

 

瞳に数字が刻まれた十二鬼月の一人、下弦の陸である病葉はそう言い残して童磨の元を去った。

 

「楽しみだ。あの子は素直そうだし、きっと猗窩座殿の様に良い子に育ってくれるだろう!終わったら病葉にも血を分けてあげることにしよう。きっと、どんどん強くなるだろう。百年近く入れ替わってない上弦だけど、もしかしたら越えてくれるかも知れないからなぁ!無惨殿を越える鬼になったら凄いぞ」

 

楽しみだなぁと言って鬼の始祖である童磨は、すっかり日が暮れた夜の森にて、月明かりを背に受けていつまでも嗤っていた。

 

 

──────────────────────

 

「ただいま!皆無事か!?母さん!禰豆子!竹雄!花子!茂!六太!」

 

全力で走ることで何とか夜までに辿り着いた。息を切らして皆を呼ぶと、禰豆子以外は出てきてくれた。

 

「どうしたんだよ兄ちゃん汗だくだぞ?」

 

「禰豆子お姉ちゃんは寝てるよー!」

 

「にいちゃんだいじょうぶ?」

 

「炭治郎どうかしたの?」

 

良かった…少し不安になっていたけど、皆普段と何も変わらない。禰豆子も寝てるだけなら、きっと栄養を付ければ治ってくれる筈だ!

 

「何でもないんだ。それより!町で色々食べ物を貰ってきたから今日はご馳走だぞ!」

 

わーい。とその言葉を聞いて皆、喜んで準備をしてくれた。母さんは俺の事を心配そうにしていたけど大丈夫!俺は長男だし、例え鬼が来たところで皆の事は俺が守ってみせる!

 

──夕食を食べ終えた後の事だ。禰豆子も具合が悪くても夕食はたっぷりと食べた。汗も吹いてあげたし、この分ならきっと明日には良くなる。そう思って寝床の準備をしている時だ。

 

コンコン

 

「?今何か…」

 

コンコン

 

「誰か…来た…?」

 

玄関から戸を叩く音が響いていた。夜中だというのに、こんな所に来客が来るなんて…それに今の時期は雪だってある。わざわざ登ってくる人が居るわけがない

 

コンコン

 

変わらずに響いてくる音に竹雄が出ようとするのを止めて、俺は念のためにと玄関の斧を確認して、慎重に戸に近付く。近くにいくと鼻を付く匂いがする。おぞましい血の匂い。こんなのは普通じゃない…!これは…!

 

コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン

 

「皆ぁ!逃げろぉ!!」

 

俺が声を張り上げると同時に、ノックは鳴り止んで俺ごと玄関が吹き飛んだ。体を強かに打ち付け、血を吐いた。霞む目を凝らして、玄関を見る。そこには

 

おにがたっていた

 

 

 




童磨「坊や。俺と一緒にお茶しない?」

炭治郎「とっととくたばれ糞野郎」

童磨「きゅんと来たわ。あの子鬼にして!」

病葉「うぃっす」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

天照

新年明けましておめでとうございます。
ゆっくりでは有りますが、今年も投稿して参りますのでよろしくお願いいたします。


 

『十二鬼月』鬼の始祖である童磨から血を分け与えられて生まれる鬼の中でも、更に強力な力を持った十二体の鬼である。その末席に位置する下弦の陸・病葉は歓喜していた。

 

「あの方直々のご命令を賜れるなんて思わなかった!それも鬼狩りでもなんでもない一家を殺すだけなんてなぁ」

 

まあ長男は鬼にしてやったけど。そう言って病葉は手に持っていた赤子の肉を貪る。柔らかい肉は簡単に千切れて旨い。母乳で育てられているので甘味が強い肉だ。大人と違って量が少ないのは残念だが。

 

「ぐッ…ああああああ…!!」

 

あの方の血を与えた長男は変化に苦しんでる。かなりの量だったからな。俺達でさえも最初にあれだけの量を入れられていたら死んでしまったかもしれない。

 

「うるさい母親も喰ったし、ガキ共も不味そうな男から喰ったからなぁ。後は…最後に残しておいた女だけだなぁ」

 

舌なめずりをして、一番肉付きが良い若い娘を喰らおうと病葉は寝床へと歩を進めた。その脳内には既に成功した自分しか映っては居なかった。童磨に誉めていただき、更に血を与えられ、行く行くは自分も上弦の月へと登り詰める。その未来は決して皮算用等ではなく、本来ならばそうなってしかるべき結果だった筈だ。

 

「おやぁ?居ないなぁ…何処へ逃げたんだ?」

 

娘は熱を出していたようだった。家もボロボロになっている。外も雪が積もっており、時間からしてそう遠くへは行っていない。簡単な事でしかない。

 

「子とろ子とろのつもりかぁ?鬼が行くぞぉ…」

 

敢えて娘に聞こえるように声を上げて娘を探す。若い娘の汗と血の匂いを嗅ぐことすら鬼には容易いことだ。どうやら玄関の方へと向かっているらしいが、逃がすはずもない。近くに転がっている亡骸を蹴り上げ、娘へと飛ばす。さぁもうすぐ食えるぞ、そう思って笑みを深める。

すると、娘は振り向き様に拾っていたらしき斧で、亡骸を()()()()()()()()()()

 

 

──────────────────────

 

 

全部聞こえていた。お兄ちゃんが叫んで、母さんが、弟や妹が鬼にバラバラにされて、一人一人食べられてる。噎せ返る程の血の臭いが家中に広がっている。自分の家だとは思えないような状態だ。熱のせいか、ふらふらと浮いたような感覚で立ち上がる。生きているのはお兄ちゃんと、私と、皆を殺した鬼だけ。六太を食べる鬼の横をすり抜ける。倒れる兄と、体が欠けた母を乗り越えて玄関だった所に向かう。

 

兄が拾おうとした斧が、近くに落ちている。何となく拾って外へ出る。吹雪いていた雪は止んで、月明かりが雪原と私と、家を照らしてる。その月が綺麗で、外でぼおっと眺めていたら、鬼の声が聞こえた。そうだ、家の中には鬼がいるんだった。冷たい空気を深く、深く肺へと吸い込む。熱は更に体を熱くしているのか、外に出ても全く寒さを感じない。家の方を振り向くと、母さんの体が飛んできた。

 

とてもゆっくりに見えている母さんに、そうっと斧を合わせる。力を入れなくても、体の柔らかい所が分かる。するりと、豆腐のように母さんの体は分かれて、血が雪を真っ赤に染め上げた。その奥から鬼がこちらへと走ってくる。母さん程ではないけど、やっぱりゆっくりだ。

 

「………ふう」

 

と、もう一度深呼吸をする。昔、小さい頃の事を思い出す。お兄ちゃんと一緒にお父さんから神楽を教えてもらったときの事を。お兄ちゃんは、型を教えてもらって、私はそれを見ていた。お父さんとお兄ちゃん。肺が大きくなって、常にしっかりと呼吸をしていたお父さんと、中々呼吸できてなかったお兄ちゃん。二人の真似をしようとして出来なかったけど、今なら出来る。

 

「な、なんだと!?」

 

さっきと同じように斧を合わせると、こちらに伸ばした腕を切られた鬼は凄く動揺している。心臓がさっきまでより強く拍動して、息が荒くなっているのが見える。膨れ上がった足が今にも飛び上がろうとしているように見えたので、少し早足で斧を通す。それだけで、鬼は雪へと倒れ込んでしまった。

 

「ぐあッ!そ、そんな訳がない…!俺は…俺は十二鬼月なんだぞ!?」

 

何か鬼が言ってる。今度は全身を鞠のように跳ね上げようとしてる。少し困るので、見様見真似で斧を振るう。

【ヒノカミ神楽 円舞】

そうだ。こんな風に二人は踊っていて、私もやりたいと思ってたんだ。そう思いながら、私は鬼の体と、斧を使って雪の中で朝まで神楽を続けていた。

 

 

──────────────────────

 

 

悲鳴が聞こえた。雪の中を必死に進んで、たどり着いた炭売りの屋敷では、既に全てが終わっているのを冨岡義勇は目撃した。

白く積もるはずの雪は膨大な血で、真っ赤に染まりきって、その返り血を大量に浴びた少女が中心に立っていた。体からは高い体温で湯気が上がっており、額には火の様な形状の黒い痣を浮かび上がらせて、手に持った斧を振るい、下弦の陸(病葉)を叩き潰した。

 

朝日を浴びて、バラバラにされた体が蒸発していく中で、病葉は心底安堵していた。これで、もうあんな苦しみを味合わなくて済むのだと。転がった顔が雪道を歩いてきた鬼狩りを見付ける。殺される。こいつも同じように、そう病葉は最後に思い、何十回も味わったのと同じく、頭を叩き潰されて、絶命した。

 

 

 




病葉「勝ったッ!始まりの鬼が無惨ではなかったら完!」
冨岡義勇「禰豆子ーッ!」
禰豆子「ほーおそれでだれがこの竈門禰豆子のかわりをつとめるんだ?」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

暗昼

童磨殿エミュレート難しい。この人何をどう考えるか分かりにくい。


ああ、体が痛い…全身がバラバラに引き裂かれてるようだ。頭が割れるように痛くて、痛みはドンドン増していく。お腹が空いた…晩御飯は食べたのに、凄く良い匂いがする。何がどうなったんだ…?俺の、俺の家族は…俺は長男なんだから皆を守らないと…!

 

だらだらと口から涎を溢しながら、唸り続ける一体の鬼。変異を遂げたばかりだというのに周囲にある家族の亡骸へと手を伸ばそうとしない。長く伸びた爪で、牙で、自身の身体を引き裂き、噛み締めて、必死になって堪えている。それの前へ琵琶の音と共に一人の男が現れた。

 

「やっぱり優秀だ。これだけ意識を残した鬼なら、きっと強くなるぞ。十年…いや、もしかしたら、五年もしたら十二鬼月まで登り詰めるかも知れないな!」

 

始祖の鬼である童磨が、その様子を見て笑い続ける。ここまでの才能の持ち主はそれこそ、百年振りだ、そう言って笑いながら炭治郎へと手を伸ばすが

 

うるさい、うるさい、うるさい!笑い続ける童磨の声が常に頭の中に鳴り響く。その声が不愉快で、お腹が空いていたのも相俟って、思わず炭治郎は童磨の腕を喰い千切った。

 

「があっ!?…っ!っ!」

 

大量の血液が体内へと侵入し、炭治郎の肉体を更に侵していく。どくどくと全身から血が溢れ出しては、再生を繰り返す。痙攣を繰り返し、喉は潰れて声もまともに出せなくなって、それでも死んではいなかった。

 

「一度にこれだけの血を受け入れるなんて、他には居なかったなぁ。炭治郎、君がそうなのかな?」

 

既に再生を終えていた童磨はそれを見て、さらに笑う。そして、炭治郎を小脇に抱えると扇を一振りして、外へと歩いていった。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

冨岡義勇は警戒していた。目の前の少女に対してだ。間違いなく彼女は人間で、だからこそあり得なかった。

 

普通の人間が鬼を殺す、それ自体は有り得ることだ。現、岩柱の悲鳴嶼行冥や、風柱の不死川実弥等のようにそういう例は確かに存在する。

 

しかし、それはあくまでも通常の鬼に対しての話だ。普通の人間は十二鬼月を倒せるようには出来ていない。例え下弦の鬼でも、人知を越えた実力を持っているのだ。

 

それなのに、この娘は下弦の鬼を圧倒していた。異常だ。紛れもなく普通ではない存在だ。故に冨岡は警戒していたのだが

 

「おはようございます」

 

「ああ、おはよう」

 

ペコリと少女がお辞儀をしてきたので、冨岡も思わずお辞儀を返した。

 

「違う。そうじゃないだろう」

 

我に帰った冨岡は思わず少女、竈門禰豆子に突っ込んだ。そして尋ねた。

 

「どうやってあの鬼を倒した?お前は何者だ?」

 

そんな冨岡の焦った質問に対しても禰豆子は淡々と答えた。

 

「鬼の事なら、何となく動きが見えたので、それに合わせて夢中でした。私は竈門禰豆子です。炭十郎の娘です」

 

見当違いの答えが帰ってきた。それに対して更に深く、聞き返そうとするが、禰豆子は

 

「ごめんなさい。家にお兄ちゃんが残っているので、戻ります」

 

といって踵を返した。それを追い掛けようとする義勇だったが、動き出す前に禰豆子は止まった。

 

「どうした?何が…」

 

唐突に空が曇り、太陽が覆い隠されていく。天候は吹雪に変わり、日光が通らない暗い世界。その中心に存在する竈門家の屋根の上に男が立っていた。

 

「禰豆子ちゃんだっけ?悪いけど、お兄ちゃんは俺が貰うね」

 

諸悪の根源。鬼殺隊が血眼になって追い掛ける悪鬼。童磨が立っていた。冨岡は即座に抜刀しようとするが

 

「君は邪魔だね」

 

一瞬で目の前にまで迫っていた童磨が刀を抑えて、冨岡を蹴り飛ばす。咄嗟に後ろに飛ぶが、それでも肋が折れて、内臓にダメージが入ったのを感じる。

 

「…!?一瞬で…!」

 

息が止まる。吹き飛んで動けなくなった冨岡に止めを刺そうとする童磨だが、禰豆子が一瞬で目の前に移動する。雪が禰豆子の体に当たって蒸気を上げる。その状態で禰豆子は童磨の腕を切り落とし、更に冨岡を遠くへと蹴り飛ばした。

 

「やっぱり、君も縁壱殿と同じみたいだ。でも、斧は折れてしまってるね」

 

禰豆子の持つ斧は刀身がへし折れて、使い物にならなくなってしまっていた。

 

「お兄ちゃんを…返して!」

 

「うーん。よし!なら禰豆子ちゃん、君が鬼になるならお兄ちゃんと一緒に居られるようにしてあげよう!」

 

さも名案を思い付いたように言う童磨に対して残っていた斧の柄を投げ付けるが、簡単に弾かれてしまう。

 

「残念だ。可哀想だけど、離ればなれになるのが嫌なら一足先に死んでいる方が幸せなのかな?」

 

武器もないなら彼ほど強くはないだろうし、片付けておくのも悪いことではないかな?そう言って扇を向けてくる童磨だったが、遠方から抜き身の青い刀が禰豆子に向けて飛んできた。

 

「使え!」

 

【ヒノカミ神楽・円舞】

 

「その技はもう見たよ!」

 

童磨が対応しようと扇を振り、血鬼術を使おうとした時に抱えていた炭治郎が暴れだす。

 

「オレの…家族(ガゾグ)!!」

 

炭治郎の手から出た焔が顔と扇へと当たり、日輪刀によって扇が破壊される。急速に空が晴れていき、陽光が顔を覗かせる。そのまま刀は童磨の首へと向かっていき、半ばまで切り込みを入れるが

 

「鳴女殿」

 

ベベペンと響く琵琶と共に一瞬で姿が消える。次の瞬間には再び屋根の上に、障子の戸から覗くように童磨が立っていた。

 

「悪いけど今回は逃げることにするよ。次に会えたらその時は炭治郎も一緒にお茶でもしよう」

 

火傷がゆっくりと治りながら童磨が言う。その顔は未だに黒く爛れており、首には折れた日輪刀が刺さる。そして、背後から日が後光の如く降り注ぐが、それでも童磨は嗤っていた。

 

 

 




やめて!炭治郎の血鬼術の特殊能力で、全身を焼き払われたら、日光を克服して鬼全員と繋がってる童磨の精神まで燃え尽きちゃう!

お願い、死なないで童磨!

あんたが今ここで倒れたら、珠世さんや無惨との約束はどうなっちゃうの?

扇はまだ残ってる。ここを耐えれば、禰豆子に勝てるんだから!


次回「童磨死す」デュエルスタンバイ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

敗走

今回とても難産でした。どうするべきか考えてみたんですが、こうなってしまいました。



 

 

浅草

東京府の中でも栄えた場所であり、夜間であっても光が絶えない眠らない町。そこに竈門禰豆子は居た。

 

水柱である冨岡義勇からの推薦で、育手である鱗滝左近次を紹介された禰豆子は、最終選別を生き残って鬼殺隊の隊士としての任務に当たっていた。

 

鬼に連れ去られた兄、竈門炭治郎を救い出し、家族を殺した鬼達を滅ぼす為に。

 

本来であれば何年も掛けて会得するべき呼吸法を既に覚えていた禰豆子だが、鱗滝から水の呼吸も伝授されていた。現在では常に全集中の呼吸を行う常中(じょうちゅう)も行えるようになっていた。

 

余談ではあるが優秀な隊士の多かった最終選別により、現在の藤襲山には鬼が一匹も残っていない。

 

そんな禰豆子は浅草にて、二人組を追い掛けていた。

 

一人は白い帽子を被り、松毬模様の洋装の男。

一人は後髪に簪を差し、花柄模様の和装の女。

 

睦まじい様子の男女に見える二人であったが、禰豆子の目は、二人が人間ではない事を見抜いていた。そして、大量の人間に囲まれた状況でも食欲に惑わされずに、人間の振りを続ける事から強力な鬼であることは明白だった。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

鬼舞辻無惨と珠世は浅草の町を歩いていた。近くには珠世の屋敷があり、そこでの研究の傍らの情報交換が目的である。

 

「それで?太陽を克服する方法、または鬼を人間に戻す薬とやらは見付かったのか?」

 

洋装の男、鬼舞辻無惨がゆっくりと歩きながら周囲の人間には聞こえない程度の声量で話しかける。

 

「確かに、貴方の血で研究は随分と進みました。ですが、それらの完成にはもっと多くのサンプルが必要です」

 

それに答える和装の女、珠世も同じ程度の声量で答える。この二人は共に人間ではない為に、その程度の声量であっても容易に聞き取ることが出来た。

 

「より多くの十二鬼月、それも上弦の血が必要か。だが」

 

無惨と珠世も十二鬼月の上弦であるからこそ分かる。強さはもとより、上弦の鬼は()()()()のだから。

 

「ええ。彼等、一人一人ならば私達で十分に倒せても全員を相手にすれば、敗北は必至です」

 

珠世の言葉に無惨は鼻を鳴らす。苛立ちを交えて言葉を続けた。

 

「では、どうする?童磨は何も言わない。私達では不可能だと思っているからだ」

 

「やはり、鬼殺隊を利用することが一番でしょう」

 

珠世は目を伏せた上で、悲しげな口調で言う。

 

「私と貴方の悲願、童磨を殺すこと。それには鬼殺隊と上弦の鬼をぶつける事。それこそが必要不可欠です」

 

無惨もまたその考えに同意を示していた。二人の間で共通の認識として、童磨と鬼殺隊をぶつけ合わせる事が必然であった。

 

「下弦の鬼が幾ら葬られた所で、何の価値もない。だが、上弦は違う」

 

「私達の間で入れ替わりが起こらなくなって百年。上弦の意識は停滞している」

 

「ああ。奴等を使って、私達が至高の存在へとなるのだ」

 

「…」

 

無惨は笑顔を、珠世は暗い顔をして明るい街を歩いていく。その二人が人気の少ない路地裏へと侵入した所で、近付いてくる者がいた。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

追っていた鬼二人は人気の少ない路地裏に向かった。好都合だと思った。お兄ちゃんの事と、童磨の事を吐かせよう。そう思って追った先で二人は待ち構えていた。直ぐに日輪刀を抜いた。

 

「貴様は…そうか。竈門禰豆子だな?」

 

男の方の鬼が不機嫌極まりないとでも言うように顔をしかめて、こちらを睨み付けてくる。

 

「私を知っているの?」

 

油断せずに日輪刀を構える。男の体は臓器が複数に増やされており、明らかに人間ではない。だが、最も危険なのは恐らく

 

「貴女の事は、あの男が伝えています。かつて存在した日の呼吸を継ぐ女と」

 

こちらの女鬼の方だ。見た目は人間の形をしているのに、中身がない。大量の液体で肉体の全てを満たしている。

 

「そう。それよりも、あなた達に聞きたいことがある竈門炭治郎という名前は知っている?」

 

鬼達に質問を投げ掛ける。答えが返ってくるとは思っていなかったが、予想外に奴等は話した。

 

「あの小僧か。童磨がお気に入りだと言って、奴の拠点に直々に連れていくといっていた」

 

「あの男のお気に入りになるなど…さぞかし不運な星の元で生まれたのでしょうね」

 

その口振りで分かる。こいつらは正しく奴等の居場所を知る鬼だ。

 

瞳に入った数字は上弦の肆、上弦の壱

 

十二鬼月の上弦が二人もこの場にいる。

 

「お前達から童磨の居場所を吐かせる。そして、お兄ちゃんを取り戻す!」

 

そうして、私が奴等に型を放とうとした時だった。

 

「なんだぁ?男が女二人連れてこんな所で、突っ立ってんじゃねえよ!」

 

「あの女、刀を持ってる!修羅場ですぜ」

 

「顔色の悪い男が、浮気でもしたのかい?」

 

都合が悪い酔っ払いが、この場に入ってきてしまっていた。一般人に見られた!そう思った時

 

惑血・膚忸の魔香(わくち じくじのまこう)

 

血鬼術・毒血棘幕(けっきじゅつ どっけつきょくばく)

 

鬼の二人が血鬼術を既に放っていた。咄嗟に切り払った私だったが、問題なのは奴等の放ったものが毒だった事だ。

 

「う、うわぁあああああああ!?」

 

「な、なんだぁ?このにお…」

 

「ひ、ひいいいいいい!?兄貴と奥さんが!」

 

香りを吸い込んだだけで、全身が溶け崩れる程の猛毒。地面に吸い込まれて、範囲内を犯す。どちらもおぞましい血鬼術!この人達を守りながら、戦うわけには…!

 

「私達を追ってこようと言うのであれば、これを先程の人混みで放つことになります。夥しい人が死ぬでしょう」

 

「それでも、私達を狙うというなら来るが良い。お前達鬼狩りの答えは決まっているだろうが」

 

そう言い残して、こちらに歪んだ笑みを浮かべながら街中へ去っていく鬼達を私は見逃すしかなかった。

 

「ごめんなさい…!」

 

匂いを吸った人は助からない。けれど、男の方の毒なら可能性はある。毒が回ってしまった足を日輪刀で切り落とす。重い物を切り落とした音、男の人の絶叫と、悲鳴が上がるけど命には変えられない。持っていた包帯できつく患部を縛る。

 

「すぐに医者に見せてください!この人の命は助かります!」

 

「あ、兄貴の足が…そ、そうだ姉御は…?」

 

「残念ですが…助けられませんでした。ごめんなさい」

 

呆然とした風な男の人を手早く立ち上がらせる。たとえ、どんなに辛い出来事が起きていても、彼にはやってもらわなくてはならないのだから。

 

「早く!この人も直ぐに医者に見せないと死んでしまいます!私は、着いていく事が出来ないんです。お願いします…!!」

 

「わ、分かった…兄貴、しっかり…」

 

「う、うう…」

 

男性達の様子を最後まで見守ることが出来ない。それを申し訳なく思いながらも、官権に見付かる前に手早くその場を離れる。しばらく、近くを探してみたが、あの二人の鬼は影も形も見付からなかった。

 

 

 




禰豆子「ところで見てくれ、こいつ(兄貴の足)をどう思う?」

舎弟「凄く…大きいです」

お詫び
禰豆子が強くなった関係上、時系列に変化が起きるはずなのに浅草にて登場させて、無惨様に襲われた酔っ払い三人についてお詫びいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。