ウルトラマンネクサスover10yearsT (柏葉大樹)
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ウルトラマンネクサスover10yearsT 第1話

 それまでに出現したビーストの能力を持つ最強のスペースビースト=異生獣であるイズマエル、スペースビーストを地球にもたらした暗黒破壊神ダークザギが倒れてから10年の月日が流れた。その間、一時は鎮まる気配のなかったビーストの襲撃も減少していった。だが、近年になり新たに確認された新種のビーストが続々と発見されており、TLT各支部もその対処に追われていた。

 

 「TLT日本支部でも事態の対処のために解散したナイトレイダーを再結成することになった。」

 

 かつて、TLTの対ビースト迎撃チーム=ナイトレイダーに所属し、そのAユニット隊長として部下を率いていた和倉英輔はかつての部下である孤門一輝と西条凪を呼び出していた。ビーストの減少に伴いナイトレイダーも縮小され、現在ではすでにその機能の大半を失っていた。新種のビーストの調査、これらの殲滅に日本支部上層部はナイトレイダー復活に期待をかけた。

 

 「それでなぜ僕たちを?」

 

 今回の招集に疑問を持った孤門は和倉に訪ねた。

 

 「孤門と凪にはそれぞれ隊長、副隊長として所属してもらう。さらには新たに創設されるナイトレイダーの隊員の選出も行ってもらう。」

 「それ自体は和倉さんが行えばよろしいのでは?私達にそれを行わせるのは上層部としてはよろしいのですか。」

 

 和倉が言ったことに凪も質問をぶつけた。彼らがいた当時のナイトレイダーはTLT上層部が隊員の選出を行っていたために実働部隊に関わる自分たちの独断が関わるのは組織として問題がある可能性がある。

 

 「俺が何とか認めさせた。それに二人が選んだ人間ならば俺も信頼する。」

 

 かつての戦いで構築された信頼関係は強く、和倉は新たな事態に対処できるであろう二人に期待を寄せていた。

 

 「一応、現在の訓練生から一定数選出してくれ。他に眼の引く人材が居ればスカウトもしても構わない。」

 「了解。」

 

 和倉の話を聞いた孤門と凪は部屋から退出する。

 孤門と凪はTLT日本支部の訓練生たちの元へ向かう。現在、TLTの各支部では一定の能力を持つ人材を各分野から集め、訓練生として経験を積ませていた。だが、ビーストの減少に伴い、訓練生の質も低下してきており現在の上層部が求める人材が居る可能性も低くなっている。

 

 「ほら~、そこ油断しない!」

 

 TLT日本支部訓練生訓練施設では孤門と凪と共にかつてビースト頻出期において戦線に出ていた元ナイトレイダー隊員の平木詩織が教官として訓練生たちに檄を飛ばしていた。

 

 「詩織隊員。」

 「あら、孤門君に副隊長。どうしたの?」

 

 孤門は詩織に声を掛けると詩織もすぐに反応を返した。久しぶりに会ったということもあり、孤門と凪は昔話の他に今回のナイトレイダーの再結成の話をした。

 

 「確かに、新種の話は私も聞いていたわよ。なるほどね、隊長が新しくナイトレイダーを作るって。」

 「詩織、能力のある若い訓練生はいるかしら。」

 「毎年、似たような子たちばかり。」

 

 詩織の話に孤門も凪も予想していたことが的中したと思った。

 

 「ああ、能力がある子なら今年は3人いるわよ。」

 「本当ですか!?彼らの会わせてくれませんか?」

 「良いけど。孤門君も副隊長も期待はしないでよ。能力は確かに高いし、昔のAユニットに居てもおかしくないけど。」

 

 見どころのある訓練生について詩織の歯切れが悪くなる。

 

 「何か問題でも?」

 

 そのことに凪が詩織に聞いた。それに対して詩織は苦笑いをしながら口を開いた。

 

 「性格に難があるからよ。チームとして動くには問題があるわね。」

 

 詩織が紹介する3人はそれぞれの経歴が他の訓練生とは違う点が多かった。孤門と凪は詩織から渡された資料に目を通していく中で頭を抱えるのではなく、明るい表情でいた。

 

 「この3人、ぜひ入隊させてほしいです。」

 「私も同感ね。」

 

 資料を見せた詩織は意外な表情でいた。

 

 「本気?扱いにくいことこの上ないわよ。それでも良いなら、ってそう言う顔なら言っても無駄ね。分かったわ。訓練ももうすぐで終わるからこの3人を呼び出すわね。」

 

 詩織は孤門と凪の表情を見て、この3人に決定だと分かり、二人が会えるようにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、東京都と千葉県を結ぶアクアライン。多くの人が利用するこの道路に異変が起きた。

 

 「なんだ?」

 

 運転している男性がアクアライン天井に走る亀裂に気付いたのだった。その次の瞬間には亀裂から大量の水が入り込んできた。そして、入り込んできたのは水以外にもあった。

 

 キシャアアアア!!

 

 亀裂からぶよぶよとした巨大な軟体生物、ブロブタイプビースト=ペドレオンの幼体が複数出現した。トンネル内はパニックとなり、多くの人々が出口へと向かおうと逃げ出す。だが、逃げ遅れていく人々は瞬く間にペドレオンの餌食となってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ここが君たちが所属するナイトレイダーのブリーフィングルーム、ビーストの出現に備えて待機する場でもある。」

 

 孤門が新たに入隊することになった3人の若者に施設の説明をしていた。

 

 「へえ、正しく特務部隊ってことか。」

 

 口を開いたのは自衛隊から引き抜かれてきた反町弾(ソリマチダン)である。一方で設備ではなく手持ちのスマホを見ているのは警視庁サイバー犯罪対策課から来た菊池数馬(キクチカズマ)である。弾と同じく室内を見ているのは鳳鈴音(オオトリスズネ)である。

 

 「君達が正式にここを使うのはまだ先だ。君たちのことを上層部に伝えて正式にナイトレイダーに入隊するまでは君たちはまだ訓練生だ。」

 

 孤門の説明に弾と数馬は納得する反応を見せた。ただ一人、鈴音は孤門と凪を見据えて口を開いた。

 

 「今日から所属させてくださいませんか。」

 「いや、今日からいきなりということは出来ないんだ。」

 

 鋭い視線を投げかける鈴音。その時だった。孤門と凪のパルスブレイカーに通信が入ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクアラインの入り口、海ほたるでは規制線が貼られていた。現地へと到着した孤門と凪は警備を行っている警察から許可を得て規制線の内側へと入っていった。

 

 「確認された情報から出現したビーストはブロブタイプ、種名はペドレオンよ。」

 「頻出しているビーストですね。でも、どうしてここに。」

 

 孤門と凪は事前に入手した情報からすでに検討を着けていた。紀勢線の内側へと進むもそこから先は海水が入り込んでおり先へは進めなかった。

 

 「孤門隊長。持ってきた水中用ドローンを使いましょう。そうすれば、この先の状況も分かるし、なにより海から出てきた理由にも何か手掛かりがあるかもしれない。」

 「僕が周囲を警戒している間、ドローンでの調査をお願いします。」

 

 凪は持ってきた装備から水中用ドローンを使い、水没しているアクアラインの内部の調査を始めた。その間、孤門は持ってきた小型銃ディバイドシューターを持ち、いつでも撃てるようにする。

 凪が操作する水中用ドローンは順調に水中を進んでいった。

 

 「副隊長、何かわかりましたか。」

 「まだ、何も見えないわね。もう少し深くまで行ってみるわ。」

 

 凪はさらにドローンを深くまで進めていく。水没したトンネルの内部には捨てられた乗用車ばかりでペドレオンの痕跡は見つからなかった。

 

 「たぶん残っていた痕跡は亀裂から外へ流されたようね。他に付着していそうな場所はないわね。」

 「待ってください。亀裂の方に何かありませんか。」

 

 孤門の言葉に凪は亀裂の方を注視する。ごくわずかにだが何か破片が亀裂に挟まっていたのだ。

 

 「あったわ。ドローンで採取して回収しましょう。」

 

 凪はドローンを巧みに捜査して破片を回収する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京都に住む青年剣崎大紀(ケンザキヒロキ)は不思議な夢を見ていた。

 

 (一体、なんなんだ。)

 

 地球とは思えない、そんな荒涼たる風景には数々の巨大な異形がありとあらゆるものを捕食していた。だが、その異形と対峙する白銀に輝く巨人が現れ、次々と異形を倒していく。気付けば数多くいた異形は全て倒されていた。全ての異形を倒した巨人は大紀の方へと向いた。

 

 (なんだ?俺に何か語り掛けているのか?)

 

 

 巨人を見て大紀はなぜだか巨人が自分に語り掛けているように感じたのだった。そして、巨人が大紀の方へと手を伸ばして,,,

 

 「まじか、夢だったのか。」

 

 大紀が目を覚ますとそこは見慣れたアパートの天井だった。体を起こして額に手をやる大紀はベッドの横の目覚まし時計を見た。

 

 「やべえ!遅刻する!」

 

 時間を見て慌てた大紀は寝間着にしていたタンクトップとパンツを脱ぎ捨てて、仕事用のジャージに着替えて家を飛び出した。

 大紀の職場は都内にある児童通所デイサービスであり、大紀は数年前からそこの職員として働いていた。

 

 「それにしても剣崎先生が遅刻なんて珍しいじゃない。」

 「いや、変な夢を見てて。」

 「二度寝をしてたの?」

 「違いますよ。」

 

 同僚の職員から今朝の遅刻について言われていた。子ども達からの人気もあり、勤務態度も真面目。急な欠勤にも連絡を入れ、他の職員の手伝いもする大紀の評判は職場内においては悪くなかった。

 

 「剣崎先生、無理がたたっているんじゃないのか?」

 

 大紀の上司に当たる初老の男性職員が言った。大紀は今の職場で働きつつ教員の勉強をしていた。現在は免許所得のために通信の大学に通っている大紀は帰ってきてからも熱心に勉強をしていた。

 

 「いや、俺まだ25ですよ。大丈夫ですよ。」

 「そう言ってこないだ風邪で休んだじゃない。」

 

 職場内ではもっとも年下ということでまわりの職員も気に掛けていたのだ。

 

 「大紀。今日は早めに帰って病院に行きな。今日は人も足りてるし、ついこないだ風邪を引いたから念のためにね。」

 

 その場に居た所長からもそう言われ大紀は早めに仕事を切り上げて帰ることにした。その後は自宅付近の病院で診てもらい、何もないことを確認して家路に着いた。

 

 (あの夢、一体何だったんだろうな。夢の中に出てきた巨人は10年前に現れたウルトラマンに似てたよな。それと怪物はまるでスペースビースト、そのものに見えた。)

 

 家路に戻る中で大紀は今朝見た夢について考えを巡らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、孤門と凪はビーストが放つ固有の振動=ビースト振動波をキャッチして新宿へと訪れており調査をしていた。

 

 「複数の振動波を感知、たぶん地下ね。」

 「市民の避難を関係各所に要請しましょう。このまま地上に出ると大惨事になる。」

 

 孤門と凪は市民の避難を要請しようとパルスブレイカーの通信機能を使おうとした時だった。突如、車が走る道路に亀裂が走り、次の瞬間には道路が陥没したのだった。

 陥没した道路からは無数のペドレオンが出現し、獲物を探すべく動き始めたのだった。

 

 

 

 同じ頃、大紀は午後からの勤務ということでちょうど出勤途中だったのだ。自転車を走らせる中でなぜか人々が自分の進む方向とは逆、来た道を進んでいることに違和感を抱いた。その大紀の視線には地下から大量に出現したペドレオンたちが人々に襲い掛かっている場面だった。

 

 「おいおい、マジかよ。」

 

 そう言ってきた道を引き返そうとした大紀だっが歩道の端で泣いている子供の姿を捉えたのだった。

 

 「っ!」

 

 大紀は急いでその子を抱きかかえる全速力でペドレオンたちから逃げ始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 大紀が逃げ始めた頃、孤門と凪はたった二人で大量のペドレオンを相手に奮戦していた。所持していた装備であるディバイドランチャーで次々とペドレオンたちを霧散させていた。だが、二人だけで対処するにはあまりにもペドレオンの数が多かった。

 

 「まさか、こんなことになるなんて。」

 「副隊長、どうします?」

 「今から自衛隊に連絡を入れても無駄でしょうね。完全にチームが発足する前にこんな事態になるなんて。」

 

 いくらビースト頻出期に前線に出ていた孤門と凪でも完全に駆除しきることは出来ないほどの数であった。さらにはパルスブレイカーにはさらに大きなビースト振動波の反応があった。

 現状に為すすべがないと思われた時だった。

 

 

 

 

 

 

 逃げる人々と一緒に逃げていた大紀。避難所まで来た時に子供を他の大人に保護してもらった時だった。

 

 キシャアアアア!!

 

 避難所の近くまでペドレオンが迫っていたのだった。多くの人が逃げ惑う中で大紀は避難所にあった鉄パイプを持つ、無謀にもペドレオンに殴り掛かったのだ。

 

 「人間を舐めるな!」

 

 そう言ってパイプを振り下ろそうとしたがペドレオンの触手に拘束されてしまう。

 

 「グアアア!!」

 

 触手に拘束された大紀を捕食しようとするペドレオン。もはや、ここまでかと誰もが思った時だった。大紀に左手に急に光が集まっていき、それが白い鞘に収められた短剣=エボルトラスターとなった。さらにエボルトラスターから光が溢れ、大紀を包み込んでいった。すると、避難所に集まっていたペドレオンたちが次々と消滅していく。大紀を包み込んだ光は空高くへと飛び上がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラグラグラグラ!

 

 孤門と凪がいる場所が激しく揺れた。ペドレオンたちが出現した割れ目から双頭を有する巨大ペドレオン、ブロブタイプビーストペドレオングローラーが現れたのだった。ペドレオングローラーは触覚の先端から火球を生成し、周囲のビル群に次々と放っていく。瞬く間に破壊されていくビル群を見て、孤門と凪が撤退を決めた時だった。

 

 キシャアアアア!

 

 空から眩い光が高速で飛んで来て、ペドレオングローラーを吹っ飛ばしたのだった。

 

 「あれは。」

 

 その光を見ていた孤門は胸中にある種の懐かしさを覚えた。あの光はかつて自分が受け継いだ光そのものだと直感したのだった。

 光の輝きが収まるにつれて光の中にいた存在が姿を見せた。銀色の体表と兜のような頭部、光り輝く両目に、深紅のエナジーコア。

 10年の時を経て、再来した銀色の巨人。

 

 「ウルトラマン、ネクサス」

 

 その名を孤門が口にした。

 

 シャア!

 

 ネクサスはファイティングポーズを決め、ペドレオングローラーを見据える。ネクサスによってフッ飛ばされたペドレオングローラーは立ち上がり自身を倒した不届き者を見て怒りの咆哮を上げた。

 

 キシャアアアア!!

 

 ペドレオングローラーは両手の触手を振り回し、ネクサスに叩きつけようとする。

 ネクサスはペドレオングローラーの攻撃を躱しながら腹部にストレートキックを放ち、ペドレオングローラーを後退させた。

 ペドレオングローラーは次に火球をネクサスに放つ。それに対して、ネクサスは両腕で次々と向かって来る火球を打ち消していく。その中で右手を強く握りしめ、両腕のアームドネクサスから青白い光を放ちペドレオングローラーを殴りつけたのだった。その瞬間に光が弾け、黄金の光となってネクサスとペドレオングローラーを包み込み消えてしまった。

 

 「孤門君。パルスブレイカーでメタフィールドの内部をサーチして。」

 「はい。」

 

 凪が孤門にそう言った時、メタフィールドの内部では激しい戦いが繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂漠とも荒地とも言えるような時空連続亜空間、メタフィールド。ネクサスがこのフィールドを展開したことで周囲の被害が出ることは無くなり、さらにはビーストの弱体化も出来るのだ。だが、この空間はネクサスの肉体から生成されており、その維持時間は3分間である。諸刃の剣であるこの能力は戦闘を有利にするだけではなく、ネクサスの命に関わるのだ。

 ネクサスは市街地とは違い、いきなりペドレオングローラーに向かって走り出した。その勢いのままにタックルをかまし、さらにはパンチ、キックと激しいファイトスタイルでペドレオングローラーを追い詰めていく。

 

 キシャアアアア!!

 

 ペドレオングローラーもただでやれらまいと全身の触手を伸ばしてネクサスを拘束する。

 

 ディア!!

 

 ネクサスは触手を振りほどこうとするがペドレオングローラーの力の強さに振りほどけないでいた。その時、ネクサスのエナジーコアが明滅を始めた。ネクサスのエネルギーが減少し、危険域に近づいていることを告げていたのだ。

 ネクサスは右腕のアームドネクサスに深紅の光を宿した。その次の瞬間、ネクサスの姿は銀色のアンファンスから深紅の剛力形態ジュネッスストロングへと変化したのだった。ネクサスは全身にみなぎる力のままにペドレオングローラーの触手を引きちぎったのだ。

 

 キシャアアアア!!

 

 全身の触手が無残に引きちぎられて、痛みの咆哮を上げるペドレオングローラー。その隙を逃さずにネクサスはペドレオングローラーの二つの頭部に強烈なパンチを浴びせていく。それだけにとどまらずペドレオングローラーの腰のあたりからがっちりとホールドをすると力任せにジャーマンスープレックスをかけるネクサス。

 頭部から肩のあたりまでメタフィールドの地面に埋まり込んだペドレオングローラーは身動きが取れずにもがき苦しむ。

 ネクサスは両腕を腰だめに引き、硬く握りしめた右手から拳大のオレンジ色のエネルギー弾を作り出した。ネクサスは右ストレートからエネルギー弾を撃ち出した。

 ナックルレイ・シュトローム、ジュネッスストロングの必殺光線がペドレオングローラーに当たり、消滅させた。

 この戦いから10年の長きにわたるビーストとの戦いがまた激化し始める。そして、それに呼応するかのように新たな闇の勢力も動き始めるのだった。




ブロブタイプビースト ぺドレオングローラー

 過去に出現したぺドレオンの上位個体で二つの頭部を持っている。これまでに出現したぺドレオンの例に漏れず、高い学習能力とエタノールを常食としていること、体内のエタノールを利用した火球を放つことが出来る。新宿の地下から出現したことからビーストの出現が減少した頃から都市部の地下に潜んでいたと考えられる。


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ウルトラマンネクサスover10yearsT 第2話

 ペドレオングローラーの出現から数日、新宿は甚大な被害を被ってしまいその復興に人手も資金も足りない状況になっていた。その中でも人々の関心は10年ぶりに現れた光の巨人についてだった。

 

 

 

 フォートレスフリーダム、かつてはTLT日本支部の基地であったそこは10年の時の中で機能の縮小や人員削減によりその機能の大半を眠らせていた。

 

 「君達は本日よりナイトレイダーAユニットの隊員だ。これから君たちが従事するのはビーストの調査、分析、殲滅だ。非常に危険が伴うことをしっかりと理解してほしい。」

 

 ナイトレイダーAユニットのブリーフィングルームでは孤門が新たに入隊し、ナイトレイダーの紺色の制服を身に纏った弾、数馬、鈴音に話をしていた。

 

 「それでは早速だが副隊長から先日新宿に出現したビースト、ペドレオングローラーについてと出現したウルトラマンに関することを話してもらう。」

 

 孤門がそう言うと凪がデスクに備えられている機器を操作してブリーフィングルームの液晶ヴィジョンにペドレオングローラーの画像を出した。

 

 「新宿に出現したブロブタイプビーストペドレオングローラーはこれまでに出現したペドレオンの別個体と違って二つの頭部を有していたわ。この個体は新宿の地下から出現して周囲に甚大な被害をもたらした。」

 

 画面にはペドレオングローラーが火球を次々と放ち、新宿の街を破壊する様子が出ていた。

 

 「その後、まばゆい光が出現。その光の中からウルトラマンが出現してペドレオングローラーと戦闘を始めた。戦闘を始めた直後2体は光に包まれて消えたわ。」

 

 そして、画面にはウルトラマンネクサスが映し出された。ネクサスとペドレオングローラーの戦いとなり、映像はメタフィールドにネクサスとペドレオングローラーが消えたところで終わった。

 

 「ナイトレイダー最初の任務はペドレオンとウルトラマンの調査だ。」

 

 新生ナイトレイダーの始動、この時を持って始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、大紀は職場のデイサービスにいた。

 

 (一体、何なんだ。俺に何が起きたんだ。)

 

 現在、書類作成の仕事をしている中で大紀は自分に起きたことを考えていた。突然出現したビーストに気付いたらビルを超える程の目線になっていた自分。体が勝手に動いているようなそんな感覚だったのだ。

 

 「大紀先生!遊ぼう!!」

 「おう、もうすぐで切りの良いところになるからな。すぐに行くぞ。」

 

 悩んでいてもどうにもならない、大紀は仕事を一旦辞めて子どもたちの遊び相手となった。それでも、大紀には数日前のことが頭から離れなかった。子ども達の笑顔を見ても、胸に立ち込める暗雲のようなものは全く晴れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京湾の海底、太陽の光も届かないこの場所には奇怪な姿をした深海魚が泳いでいた。そこに深海魚以外も存在した。

 

 キシャア

 

 ペドレオンの幼体が何体も海底のいたのだ。ペドレオンたちは数日前にウルトラマンネクサスに倒されたペドレオングローラーの同族であり、アクアラインで多くの人に被害を出したあの群れであった。

 ペドレオンは個体同士で情報伝達を行い外敵への防衛策を発展させる特性を持っている。過去に出現したペドレオンはそれで得た情報から人間を人質に取るといった高度な行動を見せた。その特性はこれらのペドレオンたちも持っていた。そして、ウルトラマンネクサスとの戦いを学習したペドレオンたちはネクサスに対抗するために海底で新たな特性を獲得するために集まっていた。

 海中でドロドロと溶け出していくペドレオンたち。ドロドロの粘性を持った液体となったペドレオンたちは一か所に集まり、一体となった自分たちを体をより大きく強く変化させていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 孤門は弾を連れてアクアラインの調査をしていた。以前に回収したサンプルに、新宿で出現したペドレオンのサンプルを分析した結果、まだアクアラインに出現したペドレオンたちが生存している可能性が出てきたのだ。今、現在の東京湾の海底で起きていることを孤門は知らないが過去に対峙した数多くのビーストたちとの戦いの経験からここに何かの手掛かりが存在する可能性も有ることを知っていた。

 

 「隊長と副隊長はすでに調べたんすよね。なら、何もないんじゃあないですか。」

 「いや、ここに出現したビーストと新宿に現れたビーストは別の個体だ。ここに現れたビーストたちがまだ生きている可能性が高い以上はここもまだ調べる必要がある。」

 

 孤門の言葉に弾は反論するのではなくその表情や立ち姿を見ていた。そして、弾は口を開いた。

 

 「隊長、あんたのことを信用するぜ。」

 「どういう意味だい。」

 

 弾の言葉に孤門が聞き返したのだ。

 

 「俺が自衛隊からTLTの訓練施設に居た理由、分かるだろ。信用できない上官に当たっちまって問題を起こした。その時にビーストどもが俺のいた基地を襲ったんだ。幸い事なきを得たけど俺は追い出された。それ以来、上官になるような奴を値踏みしてた。」

 

 弾の話を黙って聞く孤門。それを見て弾は話を続ける。

 

 「問題ありな経歴を俺を引き抜いてくれて感謝してるんす。そして、今回のビーストの件に対する姿勢を見ればあんたは信頼できる人だって。失礼だと思いますがあんたは信頼できる。」

 

 過去の経験から苦いものを抱いていた弾。その弾が孤門のことを信頼すると言ったのだ。それに孤門も答えることにした。

 

 「僕は最初ナイトレイダーの隊員の中では一番新参者だった。それまではレスキュー隊に居たけど人を助ける仕事だって思って頑張った。僕が居た10年前のTLTの体制は今では考えられないようなことが普通に行われていたんだ。それでも、精一杯にやってきたんだ。」

 

 10年前、ビースト被害を隠蔽し、さらには事件に巻き込まれた人間の記憶を消していたTLT。現在までの戦力の縮小には10年間におけるビーストの出現の変位に他にも10年前の体制による非人道的とも言えるような行為への賠償もあったのだ。今でも賠償は続いており、ビースト頻出地であった日本ではいまだにそのことでワイドショーでも取り上げられることが多い。

 

 「その結果なのか、今では隊長をしてる。周りの人達のおかげで僕も戦い続けることが出来たんだ。僕は君のことを見捨てることはしないよ。」

 

 10年もの間、孤門はビーストと戦いをずっと続けていた。孤門もかつての戦いでTLTが行って来たことの現実を突きつけられ、さらには大切な人を亡くした。それだけのことを体験しながらずっと前線で戦っていられるのはかつて肩を並べて戦った仲間たち、自身も受け継いだ光を宿して戦った戦友の存在が大きい。だからこそ、弾にそのように言葉を掛けたのだった。

 

 「さあ、早く調査を終わらせよう。この先にまだ手掛かりがあるかもしれない。」

 

 孤門と弾は水中活動用の装備を装着してアクアラインの水没したトンネルへと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、凪は鈴音と共にクロムチェスターγ機に乗り込み空からペドレオンの痕跡、ウルトラマンの手掛かりを探していた。

 

 「鈴音隊員、何か分かったかしら?」

 「いえ、特には。目視でも確認できませんしスキャナーにも反応なし。」

 「それなら他のエリアに移動するわ。」

 

 凪が操縦桿を操作しようとした時に突如スキャナーが何か巨大な物に反応した。

 

 「副隊長。東京湾の海底から何かが都市に向かって移動を始めてます。」

 「どこにいるの。」

 「このまま直進すればそいつと合流します。」

 

 鈴音が言う場所へ操縦桿を操作する凪。クロムチェスターγ機が東京湾海上へ差し掛かると海中に巨大な影があるのを目視で確認した。

 

 「あれは何。」

 「副隊長、ビーストスキャナーに反応。あの巨大な影はビーストです。」

 

 鈴音が凪にそう伝えると海から巨大な水しぶきを上げてビーストがその姿を現した。海の色に溶け込めるような深い藍色の体色に全身には無数の触手、ウミウシのようでありながら海中を泳ぐのに適したヒレを持つ巨大ビースト。海中で一体となったペドレオンたちはネクサスに対抗するべく新たな姿となった。

 ブロブタイプビースト=ブロブスター、後にそう呼称される巨大ビーストはそのまま東京湾を北上し、都市部を目指して進んでいく。

 

 「鳳隊員。ターゲットをあのビーストにロック。迎撃するわよ。」

 

 凪が鈴音に命令を下す。後ろで聞いていた鈴音はこの場合における必要な手続きについて凪に進言しようとしたが事態が事態なので凪の命令に従うことにした。

 

 「了解。」

 

 クロムチェスターγ機はブロブスターに接近。搭載されているミサイルをブロブスターに照準を合わせて発射した。

 ミサイルはブロブスターに着弾するも本来であれば即座に爆発し、ビーストの体表に大きなダメージを与えるのだがブロブスターの肉体は非常に柔軟性が高くミサイルは爆発せずにその肉体からはじき返されてしまった。弾かれたミサイルは海中に落ち、そのまま爆発していく。

 

 「全弾、命中後に弾かれて爆発しました。」

 「鳳隊員。攻撃を速射砲に切り替えて。あいつの注意を引き付けて上陸を阻止するわよ。」

 

 凪と鈴音はクロムチェスターγ機でそのままブロブスターを攻撃していく。だが、クロムチェスターγ機に搭載されている装備群はことごとく弾かれてしまい効果は薄かった。幸い、その攻撃を煩わしく思ったのかブロブスターは二人の乗るクロムチェスターγ機を標的に定めて火炎弾を次々と放っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アクアラインの水没部分に潜っている孤門と弾はアクアスーツ、ボンベを装着して亀裂の入った場所にたどり着いた。辺りをライトで照らし痕跡を探す二人。すでに残されている手掛かりのほとんどが流されてしまっている以上、期待した成果を得られる望みは薄い。

 亀裂の外を見る弾。かつて、自衛隊にいた彼は周囲の状況をよく観察する。亀裂の周囲からそこから見える東京湾の海中を見る弾は亀裂の外側、東京湾に面している部分に自然には出来ないものがあるのに気が付いた。

 

 (これは、削岩機か何かで削ったのか?隊長たちの話じゃあペドレオンはアルコールを燃やした火球を吐くって話だ。あんな柔らかい体でどうやってコンクリートを破壊できる?)

 

 削岩機を当てたかのような跡。それを確認した弾は孤門にその痕跡を見せた。その時に二人のパルスブレイカーに通信が入った。孤門と弾はそれを確認すると急いできた道を戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大紀にも東京湾に現れたビースト、ブロブスターに関しての知らせが入っていた。子ども達の様子を見ていた職員から書類作成の仕事をしていた職員までの全員のケータイに東京都から避難勧告を出されたのだった。それよりも前に大紀は懐に入れていたエボルトラスターから何かを感じていたのだ。

 

 (一体、何なんだ。)

 

 そう思った大紀は子どもたちの避難をしている他の職員から周囲の状況を把握するために動くと言い、事業所から出た。

 誰も周囲に居ないことを確認した大紀は懐からエボルトラスターを取り出す。エボルトラスターはドクンドクンと鼓動を撃つかのように発光していた。

 

 「あのビーストのことなのか。俺にどうしろと。」

 

 エボルトラスターにそう問いかけるも何も返ってこない。だが、大紀は意を決してエボルトラスターを抜き、天に掲げた。天に掲げられたエボルトラスターから光が放たれ、大紀を包み込みウルトラマンネクサスへと変えていく。

 変身を終えたネクサスは東京湾の方へと飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京湾では凪と鈴音が乗るクロムチェスターγ機に加え、弾が操縦するα機と孤門が操縦するδ機がブロブスターを攻撃していた。3機とも攻撃をミサイルからレーザー主体のもので行っておりブロブスターの体表を焼いていく。ブロブスターは3機のクロムチェスターに対して全身の触手を高速振動させて一気に伸ばした。長い間、ビーストと戦って来た孤門と凪は瞬時に回避行動を取った。その動きを見た弾は自分が見たアクアラインの痕跡を思い出した。

 

 「もしかして、あの亀裂を作ったのはこれか?」

 

 弾がそう言った時、ブロブスターが伸ばした触手がα機へと一直線へとのびてきたのだ。慌てて旋回しようした弾だが間に合いそうもなかった。だが、α機と触手の間に割って入った存在があった。全身を赤いオーラで包み込み、触手の動きを制限したネクサスだった。

 ネクサスはそのまま手裏剣型光線パーティクル・フェザーを放ち、ブロブスターを攻撃した。放たれたパーティクル・フェザーはブロブスターの背中に当たり、大きく爆発した。

 

 ピシャアアアアアアアアア!!

 

 ブロブスターは痛みの咆哮を上げた。ネクサスはブロブスターの前に降り立ち、ファイティングポーズを決める。

 

 シャア!

 

 ブロブスターは全身を大きくしならせ高速で泳ぎ始める。ネクサスは向かってくるブロブスター目掛けてメタフィールドを生成しようとストレートパンチを放とうとした。

 ブロブスターは全身の触手を高速振動させてそれをネクサスに突き出した。

 

 ディアアアア!!

 

 ネクサスは突進してくるブロブスターの重量に態勢が崩れ、さらには高速振動する無数の触手によって大きなダメージを受けてしまった。ネクサスは海中に倒れてしまい、そこをブロブスターがのしかかってきたのだ。

 

 

 「ウルトラマンを援護する!」

 

 状況を見ていた孤門が隊員たちに命令を下す。クロムチェスター各機は空中からブロブスターの背中に次々とレーザー光線を浴びせる。そんな中、弾が他のクロムチェスターに通信を入れた。

 

 「隊長。アクアラインを破壊したのは奴の触手です。奴の触手を破壊すれば攻撃手段を奪えます。」

 

 弾のその言葉に孤門たちはブロブスターの触手にターゲットを合わせた。先程とは違い集中して攻撃が来たためにブロブスターの触手が容易く破壊することが出来た。

 

 ピシャアアア!

 

 痛みのあまりにブロブスターはネクサスからその巨体をどけてしまう。

 解放されたネクサスは左腕のアームドネクサスを青く輝かせた。次の瞬間、ネクサスの身体は鮮やかな青色に変化、空中での活動に長けた高速形態であるジュネッススピードへと変わったのた。

 痛みから立ち直ったブロブスターはネクサスに火球の放つがネクサスはそのスピードで高速移動し、火球を避けながらブロブスターに一気に近づいた。

 

 ディヤ!

 

 ネクサスはアームドネクサスにエネルギーを集め、その刃でブロブスターの肉体を切り裂いていく。ブロブスターの肉体は非常に弾力性に富んでいるがアームドネクサスの強化された刃での斬撃には非常に弱かった。

 

 ピシャアア!!

 

 ブロブスターは反撃をするべくネクサスにのしかかろうとする体を大きく起こした。その瞬間にネクサスは空中へと飛び上がった。

 空中で静止したネクサスは両腕にエネルギーを集めてクロスさせる。その両腕を一気に振り下ろすとX字の光の斬撃が放たれた。

 ジュネッススピードの必殺技であるスラッシュレイ・シュトロームはブロブスターを切り裂き、切断した部分から身体の細胞を消滅させていった。

 ブロブスターの消滅を見届けたネクサスはそのまま空へ向かって飛び去った。




ブロブタイプビースト ブロブスター
 東京湾の海底でウルトラマンネクサスの戦力を学習した複数のぺドレオンたちが合体して誕生したビースト。名前の由来は世界中の海岸に打ち上げられている謎の腐乱死体ブロブスターから取られている。ネクサスをも押し潰す巨体に高速振動することでコンクリートも粉砕する全身の触手が武器。海中にいたためにぺドレオン特有の体内のエタノールはほとんど存在しない。また、その巨体は弾力性に富んでおり、ネクサスジュネッスストロングのパワーでも粉砕できない。


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ウルトラマンネクサスover10yearsT 第3話

 東京都から離れた富士山付近の樹海。そこに入っていた散策客である男が森の中を必死な形相で全力疾走をしていた。

 

 「はあ!はあ!はあ!何なんだよ、あれは!?」

 

 男は何かに追われているらしく必死で走っていた。だが、慣れない森の中を速度を落とさずに走り続けるのは非常に困難で躓いて転んでしまい、その場に倒れてしまった。

 男は後ろからやって来る何かを見て恐怖の表情を出した。

 

 「来るな!来るな!来るな!あああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 森に男の恐怖の叫び声が響いた。その次には何かが肉を食べる咀嚼音が森の中を終わりなどが無いように響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何なのよ。」

 

 同じ頃、フォートレスフリーダムのブリーフィングルームではでは鈴音が何度もウルトラマンの映像を見ていた。その動き、ビーストとの戦い振りを何度も繰り返し見ていた。その動きになぜだか脳裏に今では連絡をほとんど取っていない幼馴染が浮かんだのだ。

 

 「どうして、あいつと被るのよ。」

 「鈴音、まだいたの?」

 

 そんな時に凪が入って来たのだ。

 

 「警戒態勢は解かれているのよ。何をしていたのよ。」

 「実は、ウルトラマンの映像を何度も見てました。」

 

 鈴音の答えを聞いて凪は3日前のブロブスターとウルトラマンネクサスの映像を見る。

 

 「何か気になることがあるのかしら。」

 「いえ、特には。」

 

 自身の中にあった違和感を凪に伝えなかった鈴音。凪は鈴音を表情を見て、ただ一言無理をしないようにと掛けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 「どうして、俺だったんだ。」

 

 自宅のベッドの上でエボルトラスターを見る大紀。

 かつて、10年前に新宿で出現したウルトラマンと漆黒の巨人の戦いを見た大紀。そして、それからも続いたビーストの襲撃の中でナイトレイダーに助けられた過去。それがあっても平凡な人生を送ると思っていた矢先に起きた出来事。適応者に選ばれた大紀はその意味を見出そうとしていた。だが、誰に対してではないその言葉の答えが返ってくることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「行方不明者?」

 「ああ。この3日間で富士周辺の青木ヶ原樹海で10名近くの行方不明者が出ている。捜索に出た警察からも行方不明者が出てきた。そこで僕たちに調査が依頼された。」

 

 フォートレスフリーダムのブリーフィングルームではここ数日で起きている行方不明者の捜索について話されていた。

 

 「ただ、散策ルートから外れたってだけじゃないですか?他には自殺で入った可能性だって。」

 

 弾が考えられる可能性について話をし始めた。

 

 「樹海に入る人が注意書きを無視してルートから外れた結果、場所が分からずに戻れないケースはあります。森に入ったってヘリからじゃあ確認も難しいですけど。」

 

 弾の話を聞いてタブレットを操作していた数馬がタブレットを置いた。

 

 「それだけで俺達に調査を依頼する警察じゃない。警察内で行方不明に、なおかつ捜索中になったならそれは重大な問題がある。だから、俺達に調査が来たんだろう。」

 

 数馬の意見を聞いて弾が納得した表情になる。

 

 「これから現地に向かって調査を開始する。」

 

 そう言うと孤門はその場に居る全員を見渡す。

 

 「ナイトレイダー、シュート!」

 

 かつてはここで和倉が言っていた掛け声を自分が言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、仕事が休みになっていた大紀は実家周辺を歩いていた。

 東京から離れ、見慣れた街並みを見る大紀はある場所で足を止めた。

 

 「ここも閉まってから長いよな。」

 

 その場所には鳳飯店と看板が掲げられた建物があった。かつてはここに足を運んでいた大紀。ここには幼少のころから遊んでいた幼馴染の父親が鍋を振るっていたのだ。だが、高校から大学と音信も途絶え、大樹が働くようになってからこの店も閉まってしまった。

 

 「おじさんもおばさんも連絡が着かないし、スズも何をしてんだか。」

 

 しばらくは店の外観を見ていたが大紀はまた歩き出した。

 大都会である東京と比べ人や車の通りはそこまで多くは無く、建物も高層ビルは何一つない関東地方の田舎ほどではないが都会でもない場所。大紀が育った場所はそういう場所だった。そして、10年前のビーストの事件が頻出していた地域にもほど近い場所でもある。この街ではかつての事件を覚えている人間は、正確には詳細に覚えている人間はいなかった、大紀を除いて。

 かつて、この町の近くに出現したビーストは岩石のような体表を持ち背中には巨大な結晶を複数持っていた四つ足で歩行するタイプであった。インビンシブルタイプビースト=ゴルゴレム、大紀はこのビーストが出現した当時のことをよく覚えていた。山奥で煌めく火花に町まで届いた獣の声、この町の郊外に出現した巨大な怪物のことを大紀はよく覚えていた。だが、当時は情報規制が敷かれていたために幼かったが口に出していけない程度は感じ取っていた大紀は当時のことは話さなかった。

 

 「あの人は、俺に諦めるなって言ってたナイトレイダーのあの人って今もナイトレイダーに居るのか。あの後のことが怖くて父さんにも母さんにも話さなかったしな。」

 

 10年近く前、東京に家族で行った時、運悪くというべきかビースト=ペドレオンの大群が出現した時に大紀は巻き込まれていた。その時にナイトレイダーに助けられた大紀はその姿にあこがれを持った。だが、それからはかつてのことで叩く世間の動きを見て自然とそのあこがれも口にしなくなった。

 

 (はあ、昔のことを思い出していい気がしねえな。てか、こんな俺がウルトラマンなんて。)

 

 そう思ってエボルトラスターを出した大紀。よく見るとエボルトラスターの発光体が明滅していた。

 

 (どっかにいるのか?でも、こないだのでかいやつの時よりも明滅が弱い。何か理由でもあるのか。)

 

 大紀は一度実家へ戻り、実家の物置にあったバイクを出してエボルトラスターの反応を探してバイクを走らせ始めた。

 

 

 

 

 

 青木ヶ原樹海に到着したナイトレイダー。各々が装備を整え樹海の散策道へと入っていく。

 

 「二手に分かれて捜索をしよう。弾と数馬は散策道から僕と副隊長、鈴音で森に入る。」

 「了解。」

 

 孤門たちは二手に分かれる。散策道から捜索を始める弾と数馬はパルスブレイカーの反応を逐一確認しながら進んでいく。

 孤門と凪、鈴音は弾と数馬と別れて森の中へ入っていった。

 森の中は何か際立った異常を見せることは無かった。元々、自殺の名所でもあるこの樹海一帯は人が居なくなることはそう珍しいことではない。鬱蒼とした森の中は確かに人生に生きる意味を見いだせない者たちを誘惑する何かがあるようにも感じられた。

 

 「ビースト振動波は今の所は検知されないわね。」

 「以前に出現したビーストにビースト振動波を打ち消す煙を発生させる能力を持った者もいました。もしかすると何かしらの能力でビースト振動波を消せるのかもしれないです。」

 

 凪の言葉にかつて出現したビーストのことから予想されることを話す孤門。

 

 「でも、本当に何もないってこともあり得ますよね。」

 

 孤門の言葉にそう言った鈴音。その鈴音の表情を見て凪が口を開いた。

 

 「ええ。でも、この森の中に何もないっていう証拠にはならないわ。ビースト振動波だけを頼りにするのは危険よ。」

 「私はただそういうことも考えられるっていうことを言いたいだけです。」

 

 鈴音はそう言った。彼女のその言葉はナイトレイダーにおいて持ち得るべきのある資質が欠如しているように見えた。特に凪はそれを鋭敏に感じ取っており、ある種の危機感を抱いていた。鈴音は睨みつけるように孤門と凪を見ていたが向きを変えて歩き出した。

 

 「鈴音隊員。待ちなさい。」

 

 凪はそう言うと鈴音を追い始めた。孤門も凪と共に鈴音を追おうとした時だった。

 

 

 ジジジジジジジジジジジジジジジジジ。

 

 

 辺り一面に何かの音が響いた。それはまるで虫の羽音のようだった。

 

 「何、この音。」

 

 そう言った鈴音が音の方向を探そうとした時だった。羽をはばたかせながらこちらに向かう巨大なバッタの大群が見えたのだった。孤門と凪は迷わずにディバイドランチャーを構えた。鈴音も遅れてディバイドランチャーを構えて引き金を引こうとした時だった。

 

 バシュン!バシュン!

 

 バッタの群れに向かって波動弾が2発放たれた。波動弾に当たったバッタは青白く光り消滅し、生き残っていた他のバッタはどこかへ飛び去った。

 孤門たちが光弾が放たれた方向を見るとそこには適応者が持つ武器、ブラストショットを持っていた大紀がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は孤門たちが二手に分かれた時まで戻る。

 

 「ここか。」

 

 大紀はエボルトラスターの反応が樹海の散策道の入り口から強くなっていることを突き止めバイクを止めた。散策道に入った大紀はエボルトラスターの反応を見てそれが散策道から外れた森の方角に強く反応していることに気付く。

 大紀はエボルトラスターと同じくいつの間にか手にしていたブラストショットを持ち、森の中へ入っていった。森の奥深くへと入っていくにつれてエボルトラスターの反応が強くなっていった。

 

 (この奥に何がいるんだ。見たところは何も変わり映えはしないのに。)

 

 奥へと進んでいく大紀の前に濃紺色の制服を着ている3人組=孤門たちの姿が見えた。その段階で孤門たちの前方から無数の虫の羽音が響いてくるのに気付いた。大紀が見ると無数の巨大なバッタらしき怪物が飛んでくる姿だった。大紀はそのままブラストショットを構えて、2回は波動弾を放った。放たれた波動弾はバッタの怪物に当たり消滅させることに成功した。だが、生き残っていた他のバッタの怪物の逃亡を許してしまった。

 

 「あいつらなのか。」

 

 飛び去ったバッタの怪物を見てそう呟く大紀。その大紀に孤門、凪、鈴音が歩み寄って来た。

 

 「あんた、ヒロ?」

 「もしかして、スズか。」

 

 鈴音は大紀のことにいち早く気付いた。それは声を掛けられた大紀も同じだった。

 

 「鈴音隊員、彼は?」

 「ああ、副隊長。彼は私の古い知り合いの剣崎大紀です。」

 

 鈴音は凪に大樹のことを聞かれそう答えた。

 

 「ありがとう。君のおかげで助かったよ。」

 

 そう孤門が大樹に声を掛けると大樹はその顔を見てかつて出会ったナイトレイダーの隊員が彼だということに気付いた。

 

 「あなたは、あの時、俺を助けてくれた。」

 「あなた、どこかで会ったかしら。」

 「7年前、新宿でビーストの大群が出た時に助けてもらいました。あの時はありがとうございました。」

 

 当時のことを思い出して孤門に礼を言う大紀。その孤門も当時のことを思い出したようで。

 

 「あの時の子か。立派に育って良かった。」

 

 と笑顔で言った。そこで鈴音は大紀の手にある物を見て大樹に尋ねた。

 

 「ねえ、あんたの手にあるのは何。それでさっきのビーストを倒したの。」

 「いや、これは、、、。」

 

 詳しい経緯を話そうかと悩む大紀。だが、その手にあるブラストショットを見た孤門と凪はそれの意味することを即座に理解していた。そう、かつて自分たちが使っていたものだから。

 

 「君が新しいウルトラマンなんだね。」

 

 孤門がそう言うと大紀がなぜという表情を浮かべた。

 

 「詳しい話はあとで聞くよ。それに今はあのビーストたちを何とかするのが先だ。」

 

 孤門は今はビーストの捜索を優先させることをはっきりと言い、なおかつ大紀の同行を言外に認めたのであった。

 孤門たちのパルスブレイカーは一向に何の反応も示さないのに対して森の奥へと進むにつれて大紀が持つエボルトラスターの反応が強くなっていった。

 

 「この先か。」

 

 大紀が先行するなかで孤門たちも後を追う。森の奥には何やら何かの動物のものだったと思われる骨の破片や腐った肉の塊や臓器、そして行方不明になっている多くの人々の荷物と思われるものの残骸が数多くあった。

 この光景には大紀も鈴音も顔をしかめ、視線をそらした。一方の孤門と凪はその場にあった骨片などをよく観察する。

 

 「ここで殺されたのは間違いないわね。」

 「それにしてもこんな捕食を行うビーストなんて今まで確認されていない。さっきのビーストの仕業なのか。」

 「そう見るべきね。それに彼のエボルトラスターを見ればもう出てもおかしくないわよ。」

 

 孤門も凪も警戒を強めるなかで先程にも聞いた無数の羽音がまた響いてきた。それは今度は彼らのいる全方向から響いていた。

 

 「ここが巣なのか。副隊長は弾隊員と数馬隊員に連絡を。一点突破でここを脱出する。」

 

 そう言って孤門はディバイドランチャーを構え、遠くからやって来るビーストに次々と光弾を撃っていく。それに習い鈴音もディバイドランチャーを構えた。大紀はブラストショットをより強力なエアバーストモードへと変形させ、強化された波動弾を放っていく。

 無数のバッタたちは次々と消滅していく。だが、数が減っているはずなのにその勢いは衰えなかった。その理由はすぐに判明した。森の中から巨大なバッタ型のビーストが出現しており、その腹部から小型のバッタたちを次々と生み出していたからである。

 インセクトタイプビースト=アトラクトム、新たに出現した新種のビーストである。

 アトラクトムは鋭い刺を有する足で次々と森の木々をなぎ倒して大紀たちに迫って来た。

 

 「嘘...。」

 

 ナイトレイダーの入隊して間もない鈴音はアトラクトムの巨大な姿を見て恐怖の感情を出だしてしまった。そこに無数の小型のアトラクトムが襲い掛かった。

 

 「スズ!!」

 

 大紀はブラストショットの波動弾でバリアーを作り鈴音を守った。その鈴音を凪が腕をつかみ引っ張って安全な場所へ連れていった。

 

 「僕たちは森の外から奴を攻撃する。君はウルトラマンになって奴を食い止めて欲しい。」

 

 孤門が大紀にそう言った。その孤門の表情を見た大紀は面食らっていたが意を決してエボルトラスターを引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森の中からネクサスがその姿を現した。姿を現したネクサスはアトラクトムと対峙してファイティングポーズを取った。

 アトラクトムは腹部から無数の小型アトラクトムを出してネクサスを牽制、そこに口から毒液を吐いた。

 ネクサスはアトラクトムの攻撃にバリアーを展開して防いでいく。それを見たアトラクトムは足を深く曲げて突如大ジャンプをした。そのままアトラクトムはネクサスの周囲をジャンプしながら翻弄、小型アトラクトムの対処に追われていたネクサスは突如背後から来たアトラクトムの強烈なキックを躱すことが出来なかった。地面に倒れ込むネクサスを踏みつけるアトラクトム。そこにクロムチェスターα、β、γの3機が到着した。

 

 「ウルトラマンを援護する。」

 「「「「「了解!」」」」

 

 クロムチェスター3機は次々と搭載された装備群を放っていく。アトラクトムは自身に迫るミサイルや速射砲を小型アトラクトムの群れを盾にすることで防いだ。

 ナイトレイダーの攻撃にアトラクトムの注意がそれた。その隙を逃さずにネクサスはアトラクトムの足を掴み引きずり倒した。ネクサスはそこでメタフィールドを展開した。それを見たナイトレイダーもメタフィールドが形成されるその瞬間にメタフィールドの内部に入った。

 メタフィールド内で果敢にアトラクトムに攻撃をしていくネクサス。アトラクトムはカウンターで噛みつき攻撃、毒液、強力なキックを放っていく。ネクサスを援護するナイトレイダーは様々な方向からアトラクトムを攻撃していく。

 アトラクトムは小型アトラクトムを次々と生み出してはナイトレイダーへ攻撃させていた。

 ネクサスはアトラクトムの強固な甲殻で十分なダメージが入っていないことからその甲殻の上から強烈な攻撃を繰り出せるジュネッスストロングに姿を変えた。ネクサスはアトラクトムに剛力を生かした強烈無比なパンチを何度も何度も頭部に浴びせていく。

 メタフィールド内に鈍い音が響き、小型アトラクトムがクロムチェスター3機の攻撃でどんどんと燃えていく。

 アトラクトムはジュネッスストロングの剛力による強烈な攻撃に既に息も絶え絶えだった。

 ネクサスはアトラクトムの頭部を掴み、そのまま力任せに投げ飛ばした。空中に浮かんだアトラクトムに必殺技のナックルレイ・シュトロームが炸裂。空中で爆発を起こしてアトラクトムは消滅した。




インセクトタイプビースト アトラクトム
 容姿はウルトラマングレートに登場した昆虫怪獣マジャバのバッタ版。名前の由来はオンブバッタの学名より。
 主な能力は植物を砕く強靭な顎、バッタ由来の強力な脚力、口から吐く毒液、脚についた鋭い刺、腹部から小型のアトラクトムを放出する。
 人間を捕食する際は小型アトラクトムの群れに襲わせ、じわじわとなぶるように捕食する。


 今回のビーストは銀色の怪獣さんからアイデアを頂きました。この場を借りてお礼を申し上げます。他にオリジナルビーストのアイデアをくださる方はぜひ僕の方へメッセージを送ってください。これからもよろしくお願いします。


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ウルトラマンネクサスover10yearsT 第4話

 アトラクトムが撃破されてから1週間が経ったある日、大紀は職場のデイサービスに居た。

 その時は子ども達と一緒に遊んでいた大紀。その表情はビーストとの戦いで見せていた険しい表情ではなく非常に柔らかな笑顔を浮かべていた。

 

 「大紀!大紀!」

 「先生な。で、どうした。」

 「ぷっ!」

 「なっ!唾を吐くな!」

 「アヒャハハハハ!」(゚∀゚)アヒャ

 「おい、待てえ!!」(# ゚Д゚)

 

 なんと大紀に唾を吐く悪戯をした子どもと大紀が猫とネズミの追いかけっこのような追いかけっこを始めた。そんな追いかけっこはアニメの様に猫が痛い目を逢うかのような(この場合の猫は大紀だろうが)結末にはならなかった。

 

 「大紀先生。お客さんよ。」

 「へ!?」

 「良いから、行きなさい。先方がどうしても会いたいみたいよ。」

 

 主任の職員の言葉に追いかけっこを中断した大紀。追いかけっこは終わり、大紀は来客の対応をすることに。

 

 「ああ、お待たせしました。」

 

 玄関へ行くとそこには私服姿の孤門と凪が居た。

 

 「やあ。あの時以来だね。」

 「え、いや、どうして。」

 「仕事が終わったら良いかしら。その時に詳しい話をするわ。」

 

 突然の来訪に驚く大紀。挨拶もほどほどに孤門と凪はその場を後にしていった。首をかしげながら仕事に戻った大紀。言うまでもなくその後も子ども達から呼び捨てにされる、パンチやキックを受ける、唾を吐かれるなどの悪戯を子どもたちが帰るその時まで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大紀が仕事を終えた時と同じ頃、東京都をめぐる下水道では何か巨大な物が蠢いていた。

 

 「はあ、全く。よりによってもうすぐで仕事が終わるってのによ。」

 

 下水道の異変を聞いた水道局員が下水道の様子を見に来たのだ。彼はライトを手に先へ先へ進んでいく。

 

 「全然、先が見えねえな。」

 

 そう言いながら進んでいると急に歩いていた下水道の感触が変わったのだ。コンクリートで作られたことを示す硬いものからまるで何かの生物の体内の様に柔らかい感触になっていたのだ。

 

 「なんだ?」

 

 そう言って天井を見上げたその次の瞬間、彼が居た場所が勢いよく閉じたのだ。それはそのまま下水道の中をその巨体で切り崩しながら進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それで話というのは?」

 

 大紀は孤門と凪と共に近くのファミレスに入っていた。

 

 「君が良ければ、だけどナイトレイダーに、僕たちが指揮する部隊に入って欲しいんだ。」

 「え?」

 

 突然の申し出に大紀は疑問の声を出した。それもそのはず、彼は適応者とは言えその仕事は児童発達支援の事業を行っている事業所の職員である。ビースト関係、それも実戦での活躍を期待されているナイトレイダーに入ることはそこまで考えていなかったのだ。

 

 「それは。」

 「当然、私達もいきなり入りなさいと言っている訳じゃないわ。適応者になったことも含めてあなたには考える時間が必要でしょ。」

 

 大紀が返事をしようとすると凪がそれを制した。当然ながら、孤門も凪もかつては適応者であった。まだ、光に選ばれて間もない大紀にはまだまだ時間が必要なのは分かっている。

 

 「あの。」

 「どうしたんだい?」

 

 大紀の問いかけに孤門が気付いた。

 

 「あなたがたもそうだったんですか。」

 

 大紀の問いに対して二人は頷いた。

 

 「なら、この力の意味とか、どうして俺だったのか。」

 「それは、私達が言えることじゃないわ。一つ言えるのはあなたは確かにその力を受け継いだ。そこに意味があるかどうかはこれから先、あなた自身で見つけることよ。」

 

 かつて、怒りに囚われ闇に堕ちかけた凪。その凪も実のところは光が自らを選んだ理由ははっきりとは分かっていない。だが、その光を受け継ぐことに意味があり、その受け継いだ光を真なる力を手にするべき人物=孤門へとつないだことに意味があるのだと今は考えている。その凪も、凪から光を受け継いだ孤門も同じなのだ。

 二人の姿を見た大紀は自分が欲しがっている答えは二人から得られるものではないというのを知って、内心は肩を落としていた。

 

 「連絡があれば、ここに。」

 

 孤門が大紀にケータイの番号が書かれた紙を渡す。孤門と凪はそのまま店を後にした。それから一人で考えていた大紀だったがいつの間にやら頼んでいない料理が来たり、その会計がとっくに終わっていたりでナイトレイダーに入るか入らないかに関わらず二人に会わなければならない要件が出来てしまったことを店を出るころにはしっかりと頭の中の予定に入れることになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、フォートレスフリーダム内のブリーフィングルームにナイトレイダーの面々が集まっていた。

 

 「昨日、東京都内でビースト振動波が検知って都内に出現したのって俺達が入隊する前に出現したペドレオンがまだ残ってたんすか?」

 

 今回のブリーフィングにあるビースト振動波の話を聞いて弾が口を開いた。そこへブリーフィングルームに入った来た人物が居た。

 

 「いや、ビースト振動波を調べた結果、新種のビーストであることが判明した。」

 

 彼の名は吉良沢優。かつてはTLT日本支部の作戦参謀であり現在はビーストの減少に伴い、TLTから離れて鳥類学者として研究をしていた。

 

 「イラストレーター、戻っていたんですか。」

 「本日付でナイトレイダーの作戦参謀になる吉良沢です。孤門隊長、西条副隊長、改めてよろしく。」

 

 そう、吉良沢も今回のビーストの活性化から日本支部に戻っていたのだ。

 

 「吉良沢優。かつての上層部の人間が現場に入るんですね。」

 「君の話を聞いていると菊池隊員。僕の話を聞いて良い印象を抱いていないは分かる。それでもビーストに被害を抑えるために協力して欲しい。」

 

 数馬の言葉にそう答えた吉良沢。数馬はすぐにタブレットに視線を戻した。

 

 「それでは、今回確認されたビーストについて僕の方から分かったことを伝えよう。」

 

 吉良沢は10年前とは違いナイトレイダーの面々と同じテーブルに着く。その中で吉良沢はタブレットを手に今回出現したビーストの情報を提示する。

 

 「今回確認されたビーストはコードネームをプリガノティタスと認定している。このビーストは現在判明しているのは東京の地下に潜伏していることとスキャンした結果がかなりの体躯を誇る爬虫類型、レプタイルタイプであるということだけです。。既にプリガノティタスによるものと思われる行方不明者も出ています。」

 

 タブレットからは空中から地中をスキャンしたことで判明したと思われる画像が出てきた。

 

 「ただ、現在では相手の能力も正体も分かっていません。そのため、今回はクロムチェスターα機、β機、γ機によるディグフォーメーションをメインに作戦を行います。地上ではδ機が待機、ディグチェスターで地底に居るプリガノティタスを攻撃、地上へ追いやり、地上にて集中砲火という流れです。ですが今回はあくまで相手の正体を探り、可能であれば撃退に留めてください。」

 

 テーブルの上に出ている画像では今回の作戦概要が出ている。その中で吉良沢は今回の作戦ではあくまで調査と撃退が目的であることを強く言った。

 

 「あの、撃退ってのは分かるんすけど倒すのはアウトですか?」

 「殲滅を目的としている部隊である以上は殲滅が優先では?」

 

 今回の作戦で殲滅ではないことに疑問を呈した弾と鈴音。二人に対しても吉良沢は答えを返した。

 

 「過去に出現したビーストであれば情報も多く、出現が確認されれば即座に殲滅します。ですが、今回は新種ということでむやみに殲滅しようとすれば市街地に居るということもあり、無用な被害が出てしまう可能性があります。被害を最小限にする為に今回は可能であれば撃退としています。」

 

 以前とは違い、民間人に被害が出るような作戦ではないことに孤門と凪は吉良沢の変化を感じた。吉良沢も10年という月日の中で変わっており、それは10年前から旧知の中である孤門と凪は容易に感じ取れた。

 

 「作戦開始は明日の明朝からです。皆さん、英気を養っておいてください。」

 

 

 

 

 

 

 

 ブリーフィングルームから弾、数馬、鈴音が退室すると残ったのは孤門と凪、吉良沢だけになった。

 

 「お久しぶりです。」

 「まさか、日本に戻っていたなんて。」

 「いや、研究の拠点は日本だったんで時折戻ってきてはいました。」

 

 孤門が日本に戻っていたことに驚いていると吉良沢は研究に関することを話した。

 

 「あの彼はどうしているの?」

 「憐なら元気にしています。今もあそこの遊園地で働いています。」

 

 彼らの共通の話題でもあるとある青年、その彼が今も元気にしていることを知ると凪の表情が和らいだ。

 

 「どうして作戦参謀に?それもナイトレイダー直属なんて。」

 「実はかねてから和倉さんからアドバイザーとしての要請があり、今回はナイトレイダーが正式に動き始めたということとお二人が居るということから作戦参謀として入隊を伝えました。」

 

 10年という月日の中で吉良沢も孤門たち同様にビーストとの戦いに完全に離れたわけでは無かった。だが、それについて吉良沢は以前の様には考えていなかった。

 

 「今も出現が続くビーストの生態を解明していく必要があります。その点では私の戦いも終わっていません。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「全然、出ねえ。」

 

 大紀は孤門から受け取った電話番号に電話をかけていた。だが、この日は新たに確認された新種のビースト、プリガノティタスへの作戦ですでに出動していた孤門。電話をかけても出てくるわけがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それでは作戦を開始してください。」

 

 フォートレスフリーダムでは吉良沢がブリーフィングルームから指示を出していた。都心から離れた場所から孤門が搭乗するクロムチェスターδ機が上空で待機、弾が操縦するα機に凪が操縦するβ機、鈴音と数馬が搭乗するγ機が準備に入った。

 

 「ディグフォーメーション、開始。」

 

 凪がマニュアルでの合体を始めた。空中でα機、β機、γ機が合体してドリル戦車型のチェスターであるディグチェスターが完成した。ディグチェスターはそのままロケット噴射で地面に突入する準備を整えた。

 

 「メタルコンバーダ稼働。ドリル動作開始。」

 

 主な操縦を担当するα機のコックピットに居る弾が操縦する。ディグチェスターはそのまま地中に大きな穴をあけて東京都の地下へと進んでいった。

 

 「こちらフォートレスフリーダム。ディグチェスター、応答してください。」

 「こちらディグチェスター。フォートレスフリーダム、どうぞ。」

 「ディグチェスター、そのまま進んでください。クロムチェスターδ機は上空でビーストスキャナーでプリガノティタスを探し続けてください。発見次第、ディグチェスターに案内してください。」

 「了解。」

 

 上空を高速で飛行するクロムチェスターδ機が地中に眠っているプリガノティタスを探す。その進行に合わせてディグチェスターは地中を掘り進んでいく。

 

 「前方に巨大な空間を発見、突入します。」

 「ディグチェスター、前方の巨大空間からビースト振動波を探知。厳重に警戒して行動を開始。」

 「了解。」

 

 進んでいく中で地下に巨大な空間があることが分かり、ディグチェスターはそのままその中へ突入した。巨大な空間は街一つがすっぽりと覆えるほどの巨大な空間でその中心で侵入者に気付いたビーストが目覚めた。

 発達した両脚に地面を掘削するために硬く鋭い爪を有する巨大な腕、全身を覆う鱗は重なり合ってまるで岩のような甲殻となっている。胴体には剣山のような鋭い甲羅に覆われていた。その顔は元になった生物のワニガメの特徴を色濃く残しながらそのくちばしはまるで肉を切り裂くような形状でありながら長く発達した牙があった。侵入者のディグチェスターを睨むその両目は血の様に赤く染まっていた。レプタイルタイプビースト=プリガノティタス、この地下巨大空間の主である。

 

 「ターゲット確認。攻撃に移る。」

 「ホーミングミサイル、発射!」

 

 凪の号令の下で弾がミサイルを発射。ミサイルは寸分違わずにプリガノティタスに命中した。

 

 「副隊長、以前ターゲットは健在。来ます。」

 

 周囲を警戒していた数馬がプリガノティタスが健在であることを伝える。その言葉の通りに煙の中から出てきたプリガノティタスは全くの無傷だった。

 プリガノティタスは自身を攻撃した不届き者を見つけると口を開けて舌を伸ばしてディグチェスターをからめとった。

 

 「装甲損傷!引っ張られます!」

 「弾隊員、メタルコンバーダを稼働。ドリルで舌を攻撃して脱出するわ。」

 「了解!メタルコンバーダ、フルパワー!これでも喰らえ!」

 

 ディグチェスターはドリルを高速回転させてプリガノティタスの舌を破砕した。

 

 ギシャアアアアアア!

 

 痛みのあまり、プリガノティタスは地下空間から脱出。地上へと逃げた。

 

 「孤門隊長。ターゲットが地上へ。迎撃を開始して。」

 「了解。」

 

 凪は上空で待機していた孤門に通信を入れる。ディグチェスターはそのままプリガノティタスを追って地上へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドクン、ドクン!

 

 勤務が終わり自宅へ戻る途中の大紀がエボルトラスターの鼓動に気付く。すぐさま、人通りの少ない路地へ入りウルトラマンネクサスへと変身する。

 ネクサスはその場から飛び去り、ビーストのいる場所へ向かう。

 

 

 プリガノティタスが出たのはまだ開発が進んでいない地下トンネルの入り口だった。その入り口を破壊して地上に出たプリガノティタスは傷を癒そうと人口密集地である都心部へと進みだした。それを空中からクロムチェスターδ機がレーザー攻撃で阻止しようとする。

 

 「攻撃が一切通じていない。前に出現したグランテラと同じくらいの甲殻なのか。」

 

 クロムチェスターδ機の装備でも十分な傷を付けれないことから以前に出現したクラスシティアンタイプ、グランテラを思い出す孤門。地中から出たディグチェスターも分離してクロムチェスター各機で攻撃を続ける。だが、それに意を介さず進撃を続けるプリガノティタス。それを見た孤門はそれを阻止するためにクロムチェスター4機の合体=ハイパーストライクフォーメーションを始動しようとした。その瞬間だった。

 

 ディアアアア!!

 

 空中から高速でネクサスが飛来、進んでくるプリガノティタスの頭部にキックを放った。

 

 ギシャアアアアアア!!

 

 プリガノティタスの頭部から火花が散り、プリガノティタスが地面に倒れる。

 キックをしたネクサスはその場で回転、メタフィールドを展開した。メタフィールドの形成が終わるとネクサスはジュネッスストロングへタイプチェンジした。

 プリガノティタスは爪を振るいネクサスを攻撃するがネクサスはプリガノティタスの両腕を受け止め腹部に強烈なキックを放った。ミサイルもレーザーも通さないプリガノティタスの甲羅もジュネッスストロングのパワーには敵わないらしくキックを受けた場所の甲殻が欠けていたのだ。

 

 ギシャアア!!

 

 だが、プリガノティタスは両腕を広げて腹部を大きく見せると腹部の甲羅が開き、中から次々と岩石を吐き出していく。ジュネッスストロングは両腕をクロスしてクロスシールドを展開、岩石を防いでいく。ジュネッスストロングの動きが止まった瞬間にプリガノティタス地面に両手をついて4足歩行となる。そして、頭部をジュネッスストロングの方へ向けるとその顎を大きく開けた。プリガノティタスの顎は首まで開き、ジュネッスストロングを飲み込むほどの大きな口となった。プリガノティタスはそのまま大あごにジュネッスストロングを捉え、勢いよく顎を閉じたのだ。

 プリガノティタスは自身を攻撃した敵を自らの胃袋に収めて満足そうにした。だが、プリガノティタスの体の内部からミシミシという音が響く。プリガノティタスは音を出所はどこかと辺りを探そうとした時だった。

 

 ミシミシミシミシ、バキャアアアアン!!

 ギシャアアアアアア!!

 

 プリガノティタスの甲羅が内側からひび割れ爆ぜたのだった。立派な甲羅は見る影もなく大きな穴を開けていた。中から飛び出したのはネクサスジュネッスストロングだった。プリガノティタスの内部から力づくで突き破ったのだ。地面に着地したジュネッスストロングは両手からエネルギーを激しくスパークさせる。スパークしたエネルギーを集中して右腕の拳を突き出すと同時に紅蓮の光線としてプリガノティタスに放った。ジュネッスストロングの数少ない光線技の一つであるオーバーフレアシュートである。

 オーバーフレアシュートを受けたプリガノティタスは爆発を起こし、微粒子レベルで完全に消滅した。




レプタイルタイプビースト プリガノティタス
 東京の地下に潜んでいた新種のビーストでペットで飼われていたワニガメがビースト化した存在。長く伸びる舌に、地面を容易く砕く鉤爪、腹部の第二の口から高速で吐き出す爆発岩石が武器。普段は二足歩行だが四足歩行の体型に変化すると首まで大きく開く大顎で相手を補食する。全身の甲殻が岩石のように硬く、クロムチェスターのミサイルやレーザー兵器が大きな効果を与えることは出来なかった。


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ウルトラマンネクサスover10yearsT 第5話

 アフリカ大陸中央部。90年代よりそこでは伝説の魔獣ジーナフォイロの目撃が多発していた。人が混じったような顔をした巨大コウモリのうわさはたちまち広まった。ジーナフォイロに遭遇した者はその赤く光り輝くその眼に魅入られた者は激しい動悸を覚え、立っていられないほどになる。遭遇した者はその後に軽い体調不良を覚え病院へ受診したが軽度の被曝が見られたと言う。このジーナフォイロ、アフリカの他にもアメリカでも目撃例があり、噂ではUFOと共に現れたとも。ただし、ジーナフォイロは2000年に入る頃には目撃例も出ておらず、現地ではその存在がまことしやかに語られるもののほとんどの人々がその存在を忘れるようになっていた。

 

 「それでこんな仕事をするのかよ。」

 「まあ、ジャパンでは頻出しているビーストもこっちではそもそも現れている奴が少ないし、現れた奴も俺達で楽に対処できる奴らばかりだからな。楽な仕事だし、給料もそこらの仕事よりはるかに良いからな。」

 

 夜のぬかるむ道でも走るジープに乗っているのはTLTアフリカ支部の調査員である。これまでTLTアフリカ支部では激戦区であるTLT日本支部と比べるとビーストの発見数が少なかった。確認されたビーストも現地の動物が巨大化、と言っても精々が10メートル未満のものでほとんどが目立った被害を出す前に殲滅できていた。

 

 「まあ、どうせ今回も多少でかくなったゾウとかだろ。新人のお前には手厳しいだろうがすぐに終わるさ。」

 

 そう言ってジープを運転する調査員。助手席に座る新人の調査員はこれなら保護区のレンジャーとなんら変わりないと思っていた。

 

 「さて、そろそろお目当てのビーストがいる地域のはずだ。気を引き締めろよ。」

 

 そんな中でジープはある地点で止まった調査員は周囲を警戒する。そんな中で森の奥から何やら赤い光が見えてきた。

 

 「来た来た。さあ、その姿を見せろよ。」

 

 調査員は支給されているディバイドシューターを構え、光の方へと向けて徐々にその光の方へと歩いていく。彼らがその直後に見たのは彼らがこれまでに遭遇したビーストとは比べ物にならない怪物だった。彼らの行方はその直後から分からなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 「さてと。」

 

 その日、大紀はいつものように勤務を終えて帰る途中だった。その大紀の前に知り合いが居たからだ。

 

 「スズ。」

 

 幼馴染の鈴音が私服姿でいたのだ。

 

 「ちょっと付き合いなさいよ。」

 

 ぶっきらぼうにそう言った鈴音。それに大紀は驚きながらも鈴音に付き合うことに。二人は近くの喫茶店に入ると二人はそれぞれコーヒーを注文した。その後はどことなくお互いによそよそしい雰囲気で黙ったままだった。

 

 「久しぶりね。」

 「まあ、中学を卒業してから会ってないからな。」

 

 そう言ってまたお互いに黙ってしまう。

 

 「なあ、なんで店を閉めてんの?」

 

 その中で大紀はずっと疑問に思っていたことを鈴音に尋ねた。

 

 「色々あるのよ。」

 「ラクロスは?今も続けてんの?」

 「そもそも、ナイトレイダーに居るんだからしているはずが無いでしょ。」

 「そうだよな。」

 

 そう言われ大紀は注文したコーヒーを飲む。それを見た鈴音は

 

 「フフ、話題が無くなるといつも困った顔をするわよね。」

 

 と言った。

 

 「やっぱり、あんたは変わってないわね。」

 「それ、ほめてんの?」

 「ほめてるわよ、ヒロが変わらずにいい奴ってことよ。」

 「どうだか。」

 「すねないでよ。」

 

 やっと二人の間の空気が柔らかくなった。すねている大紀はそのままコーヒーを飲む。

 

 「それで隊長と副隊長のスカウトを受けるの?」

 「え、ああ。受けるかどうかともかく前におごってくれた飯の礼を言わないと行けなくて。」

 「入隊するの?」

 「いや、まだ。」

 

 鈴音は大紀に入隊の件を聞くが大樹自身はまだそれ自体を完全に決めてはいなかった。

 

 「今、世話になっているところで子どもたちを見ているんだ、ようは児童通所デイサービス。流石にいきなり消えるのは子供たちに悪いって思ってて。」

 「学校の先生になるんじゃなかったの?」

 「いや、大学で免許はとったけど別の教員免許を所得したくて。それにいろいろと子どもに関わる仕事の資格が取れれば、ほら就職に有利になったりするだろ。」

 「ああ、やっているうちにそっちよりもそこで正社員になる方が速いんじゃないの?」

 「まあ。だから、スズの上司の二人には悪いけどまだ入隊は決めれないな。」

 「そう。まあ、いいんじゃない。」

 

 そう話をする二人。そこで鈴音があることを大紀に尋ねる。

 

 「ねえ、なんであんたがウルトラマンに?」

 「分かんねえ。」

 「心当たりは?」

 「一切ないよ。」

 「そう。」

 

 だが、それもすぐに会話が終わる。まだ、大紀自身も自身が選ばれた理由を求めていた。

 

 「いつか、見つかると良いわね。」

 

 鈴音はそう言うと一人で店を出る。大紀はそのまま店で空っぽのコーヒーカップを見つめていただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アフリカ、TLTアフリカ支部ではビーストの調査中に行方不明になった調査員の行方を捜していた。

 

 「一体、どこへ消えたんだ。」

 

 TLTアフリカ支部に基地がある南アフリカ共和国出身の白人系の隊員はクロムチェスターα機で空中から調査員が行方不明になった森の地域を捜索していた。

 

 「ただ、カバに襲われたっていうのもあり得るだろうが。」

 

 そう言っていた時、クロムチェスターの計器から近くから強大なビースト振動波が放たれていることに気付いた。

 

 「なんだ、この反応は。」

 

 その次の瞬間、森の中から巨大なコウモリの羽が出てきたのだ。そのままコウモリの羽からその体が出てくる。その見た目は正しく巨大なコウモリであり、その顔はまるで人間とコウモリを無理矢理混ぜ合わせたかのような風貌であった。

 

 「なんだよ、あいつは。」

 

 驚く隊員を尻目に巨大コウモリは翼を広げてそのままアフリカの大地から飛び立った。

 

 「アフリカ支部!こちらは行方不明の調査員の捜索の中、新種の巨大ビーストを確認。迎撃を行う。」

 

 隊員はそのままクロムチェスターα機を操り、巨大コウモリを攻撃する。だが、巨大コウモリはそれを意に介することなく、そのまま翼をはばたかせて夜空へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「先日、TLTアフリカ支部で巨大ビーストが確認されました。」

 

 フォートレスフリーダムでは吉良沢が先日アフリカで確認された新種のビーストについてナイトレイダーの面々に話していた。

 

 「現地にて何度も目撃情報が報告されている未確認生物、ジーナフォイロと身体的特徴が一致していることから今回確認された新種のビーストはこれまでに目撃されたジーナフォイロそのものであると断定した。さらにはその他の特徴から過去の出現したフィンディッシュタイプに分類されるビーストとの類似性が見られたことからジーナフォイロもフィンディッシュタイプに分類されました。」

 

 吉良沢はブリーフィングルームのデスクの上にTLTアフリカ支部から得られた画像から作成した画像データを投影する。

 

 「こいつ、気持悪い見た目してんな。」

 「ぱっと見はコウモリだけどな。」

 

 画像を見る弾と数馬はそうジーナフォイロを評する。一方、画像を見ていた鈴音は吉良沢に声を掛ける。

 

 「どうして、アフリカに出現したビーストの情報を?基本的にはそれぞれの支部で対応するのではないのですか?」

 「それはアフリカ支部の管轄であるアフリカ大陸からこの日本に進んでいることが判明したからだ。」

 

 その時に鈴音の問いに答えたのは門倉だった。日本支部上層部の重鎮がいることに弾と鈴音は姿勢を正す。

 

 「そう硬くならないでくれ。私も元はナイトレイダーの隊長だ。そうかしこまらなくていい。」

 

 そう言うと門倉はそのまま空いている椅子に座る。

 

 「アフリカ支部ではこれまでに判明しているジーナフォイロの関する資料を送ってくれた。目を通してもらいたい。」

 

 そう言うと門倉は紙の束を孤門に渡す。

 

 「門倉さんは今回のジーナフォイロに関してはどうお考えで。」

 「では、イラストレーターの考えは?」

 

 吉良沢は門倉に質問を掛けるが返って来たのは門倉の質問だった。これには吉良沢も一瞬面食らったがすぐに気を取り直す。

 

 「アフリカ支部によるとこのジーナフォイロは新たな生息地を探すために現れたと見ています。それに関しては私も同意見です。」

 「そのターゲットが日本、か。」

 「断言はできません。ただ、なぜアフリカの人口密集地を狙わなかったのかは分かりませんが。」

 「ここにウルトラマンがいるから、でしょうか。」

 

 吉良沢と門倉の会話に鈴音が入って来た。

 

 「どうして、ウルトラマンが関係していると。」

 「ここまでのビーストはまるでウルトラマンと戦うことを想定しているかのようになっています。過去のビースト以上に力を付けているとしか。」

 

 その鈴音の意見を聞いた門倉は孤門、凪、吉良沢の順に視線を移した。

 

 「なるほど、それも言えるかもしれん。そのことについては今後の調査にも反映させよう。本題に戻すがジーナフォイロの侵攻ルートは依然として判明していない。くれぐれも警戒を緩めないようにしてくれ。」

 

 そう言うと門倉は若いメンバーを見る。

 

 「君達、若い世代がこの仕事に就いてくれて本当に感謝している。くれぐれも君達の光を見失うことが無いようにして欲しい。我々の仕事はきれいごとばかりではない。私もそこにいる孤門隊長と西条副隊長と共にナイトレイダーに居た時はそれを重々承知で勤めていた。当然、私もそこにる2人もやりきれないことが数多くあった。だが、今もこうしてTLTにいるのは私たち自身が出来ることをする為に、かつての過ちを決して繰り返さないためにここにいる。」

 

 そう言って門倉は席を立った。

 

 「何かあれば私に言ってくれ。現場のことはしっかりと上にも通さないとな。」

 

 そう言ってブリーフィングルームを後にする門倉。その姿を見て、若いナイトレイダーのメンバーはいまだに彼も前線で戦い続ける人物なのだと分かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、ナイトレイダーの面々が眠りにつこうとした時だった。フォートレスフリーダム内で緊急を告げるサイレンがそかしこに鳴り響く。

 ナイトレイダーの面々は急いでブリーフィングルームへと集まる。

 

 「コードネーム、ジーナフォイロ出現。」

 

 先にブリーフィングルームに居た吉良沢がタブレットを操作する。そこに数馬も加わり、ジーナフォイロを居場所を探す。

 

 「東京湾海上にジーナフォイロをビースト振動波を探知。このままでは東京の市街地に到達します。」

 「副隊長はβ機、鈴音隊員と弾隊員はγ機に搭乗してくれ。僕はα機に乗る。数馬隊員はここでイラストレーターと共にジーナフォイロの分析を頼む。」

 

 孤門はナイトレイダーの面々に指示を出す。全員がブリーフィングルームにて装備を整えて、クロムチェスターに乗り込む準備を整えた。

 

 「ナイトレイダー、シュート!!」

 

 孤門の掛け声でブリーフィングルームから格納庫へ一気に移動する。そして、フォートレスフリーダムから3機のクロムチェスターが夜空の中、東京湾上空に出現したジーナフォイロの元へ飛んでいく。

 

 

 

 

 ドクン!ドクン!

 

 その夜、ジーナフォイロが出てきた時間と同じ頃にベッドの上で眠り始めようとしていた大紀にもそれを告げるエボルトラスターの鼓動が聞えた。大紀はすぐにエボルトラスターを掴んで外へ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の東京湾お台場上空。そこではフィンディッシュタイプビースト=ジーナフォイロとクロムチェスター3機による苛烈なドッグファイトが繰り広げられていた。

 クロムチェスターα機は高速でジーナフォイロを後を追い機関銃を連射するもジーナフォイロは巨体からは考えられないほどの身のこなしで機関銃の弾丸を躱していく。さらに上空からクロムチェスターβ機も機関銃を発射するも不規則な動きからジーナフォイロはこれも躱していく。

 

 「弾隊員、行きなさい!」

 「おうら、ミサイルをたらふく喰らえ!!」

 

 だが、それはクロムチェスターβ機を操縦する凪の作戦だった。空中で動いているジーナフォイロはクロムチェスターγ機の大量のミサイルの餌食となったのだ。ミサイルはそのままジーナフォイロに向かって不規則な動きで空中を飛び交いジーナフォイロの当たるかと思われた。だが、無数のミサイルはそのままジーナフォイロの体を通り抜けてしまい、ミサイル同士で激突して爆発した。

 

 「何、あれ。」

 「ミサイルが通り抜けやがった。」

 

 目の前で起きたことが全く理解できない弾と鈴音。爆発に巻き込まれながらもジーナフォイロはものともせず翼をはばたかせる。

 

 「孤門隊長、見た?」

 「しっかりと確認した。」

 

 その様子は孤門も凪も確認していた。ナイトレイダーの面々がジーナフォイロの能力に面食らっている中、赤い光が現れた。

 

 「ウルトラマン!」

 

 お台場の上空に現れた銀色の巨人、ウルトラマンネクサス。それを見るジーナフォイロは醜悪なその顔を歪ませて咆哮した。

 

 ジュア!!

 

 ネクサスはパーティカルフェザーをジーナフォイロに発射。だが、ジーナフォイロはいきなりその姿を透明にしてその場から消えてしまった。

 

 「いきなり消えたぞ!」

 「ビースト振動波も消えてる。」

 

 クロムチェスターでジーナフォイロを探す弾と鈴音だが一向に見つからなかった。それはネクサスも同様で、空中に浮かびながら周囲を警戒していた。そこにいきなりジーナフォイロが出現して足の爪でネクサスを攻撃した。

 

 ディヤアアア!!

 キシャアアアアオオン!!

 

 ジーナフォイロは透明化からの攻撃でネクサスを翻弄する。さらにはかなりのスピードを保ったまま飛行しており何度も何度もヒットアンドアウェイを繰り返す。

 

 「ウルトラマンを援護だ。」

 「「「了解!!」」」

 

 それを見ていたナイトレイダーの面々はジーナフォイロの動きを見て、散開する。そして、ジーナフォイロが幾度目かの透明化の後にネクサスの背後に出現した。

 

 「そこだ!!」

 

 その瞬間をナイトレイダーの面々は逃しはしなかった。クロムチェスター三機の一斉攻撃は見事ジーナフォイロに命中した。

 

 キシャアアオン!!

 

 どうやら、ジーナフォイロの通り抜けは攻撃中は出来ないらしい。ジーナフォイロが怯んだところをネクサスは逃さずにその飛行スピードに対抗するためにジュネッススピードにタイプチェンジした。

 ジーナフォイロは夜空を高速で飛ぶもそれを上回る速さでネクサスは飛行する。さらにすれ違いざまにネクサスはアームドネクサスの刃でジーナフォイロを切り裂いていく。時折、透明化と透過で攻撃をやり過ごそうとするジーナフォイロだったがネクサスの援護をするナイトレイダーの攻撃もあってそれを使う暇が無かった。

 ネクサスは両腕を振るい、三日月形のカッター光線であるラムダ・スラッシャーでジーナフォイロの翼を切断する。

 

 キシャアアアア!!

 

 痛みの悲鳴を上げて落下するジーナフォイロ。ネクサスは両腕をクロスして発射する必殺光線であるスラッシュレイ・シュトロームをジーナフォイロに浴びせた。

 ジーナフォイロは胴体にX字に輝く光を浴びて全身を青白い粒子となって消滅した。




フィンディッシュタイプビースト ジーナフォイロ
 アフリカで確認されたビースト。古い目撃情報では90年代より存在が確認されていた。現地で噂される未確認生物UMAのジーナフォイロそのものである。
 能力は赤く光る眼で対象の動きを硬直させる、透明化、物質の透過である。大量の動きを硬直させるのは両目から強力な放射線を照射して対象の動きを止めるのである。現地でジーナフォイロに遭遇した者達が放射能被曝と診断されるのはこれが所以である。森の中で姿を隠して人間を待ち伏せして捕食していたと考えられており、実際にはかなりの犠牲者を出したと考えられる。
 生息地のアフリカから日本に移動した理由は判明できていない。また、過去に出現したフィンディッシュタイプビーストと同様に高い再生能力を有しているが元々飛行するための肉体構造であるために肉体の強度は低く通常兵器でも十分なダメージを与えることが出来る。


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ウルトラマンネクサスover10yearsT 第6話

 フォートレスフリーダム、TLT日本支部の本部であるそこは首都圏から離れたとある山中のダム湖の湖底に建造されたそこは10年前より対ビースト特殊部隊でありナイトレイダーの本拠地である。そこに大紀は訪れていたのだ。

 

 「ここか。」

 

 ぱっと見は完全にダムであるフォートレスフリーダムを見ている大紀。手土産を片手に入り口を探す。そこにナイトレイダーの制服を着た鈴音が姿を見せた。

 

 「時間通りね。その手のは?」

 「粗品、一応奢ってもらった礼。」

 

 大紀はそう言って右手に持っている袋を掲げる。

 

 「それじゃあ、私についてきて。」

 

 鈴音の後を追ってフォートレスフリーダムの内部へと入る大紀。内部は10年の月日を感じさせない程度には管理が行き届いていた。

 

 「あのさ、軽く来たもんだけど大丈夫なの?俺、民間人だし。」

 「隊長と副隊長がぜひって言っているのよ。それと他にもあって欲しい人たちがいるみたいよ。」

 

 案内される中で大紀はその人物が誰なのかを考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビキ、ビキ、ビシッ!ビキビキビキビキッ!

 

 「ああ!!あああああああああああ!!」

 

 東京都八王子市にあるボロアパート。そこの一室に居る青年は床に伏せて痛みに悶えていた。さらに、彼の体は常に筋肉があらぬ方向に蠢き、その下にある骨すらも元ある形状が大きく逸脱しようとしていたのだった。部屋中に響き渡る音は肉体がその主の意思を無視して変貌しようとしている音だったのだ。

 

 「グウウウ!ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 痛みによる叫びは人とは思えない獣そのものの咆哮へと変わった。途中からその叫びはプツリと途切れ当たりに静寂が満ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナイトレイダーのブリーフィングルームへと案内された大紀。そこには以前に出会った孤門と凪に加えて、イラストレーターこと吉良沢、そして現在はTLT日本支部の管理官になっているナイトレイダーの元隊長の和倉がいた。

 

 「鳳隊員、案内ご苦労。剣崎君と共に座ってくれ。」

 

 和倉がそう言うと鈴音は近くの椅子に座った。大紀もすすめられるままに椅子に座った。

 

 「既に剣崎君はナイトレイダー隊長の孤門と副隊長の西条のことは知っているな。」

 「ええ、はい。以前に食事をごちそうしてもらって。」

 「そうか。私はTLT日本支部の管理官をしている和倉だ。私自身、かつてはナイトレイダーの隊長をしていた。孤門と西条はかつての部下だ。」

 

 和倉の言葉に大紀はそこではっとした表情となる。

 

 「もしかして、10年前の新宿の時の隊長ですか?その後のビースト襲撃で孤門さんたちと一緒に居た。」

 「あの場に居た少年だったか。その様子を見ると平和に過ごしていただろう。」

 「最近はそうは言えませんが。あの時は助けてくださってありがとうございます。」

 

 大紀はそこで頭を下げようとするがそれを和倉が止めた。

 

 「いや、頭を下げなくて良い。我々は当然のことをしただけだ。そして、そこにいる彼も我々の仲間だ。」

 「ナイトレイダーの作戦参謀をしている吉良沢です。よろしく、剣崎君。」

 「ああ、はい。」

 

 吉良沢に会釈する大紀。そこで全員の自己紹介が終わり、和倉が口を開いた。

 

 「剣崎大紀君。新たな適応者である君にこれまでのビーストの動きとTLTの変遷、過去にウルトラマンとなった適応者たちについて話そう。」

 

 その言葉に大紀の求める答えのヒントになり得るものがあることを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今から10年前に暗黒破壊神ダーグザキが新宿を襲い、それを銀色の巨人ウルトラマンネクサスが立ち向かった。

 

 「あの時のウルトラマンが孤門さん!?」

 「隊長がウルトラマンだったんですか!?」

 

 その話を聞いた大紀と鈴音はひどく驚いた。二人は当時、新宿で起きた事件のことは知っていたがその詳細を初めて知ったのだ。それもかつてのウルトラマンが目の前に居たのだ。大紀にとっては過去に助けてもらった恩人が先代の適応者だったのだ。驚かない方が無理だろう。

 

 「孤門隊長の前、正確にはあの時ダークザギが新宿を襲う直前までは私が適応者だったわ。」

 「副隊長もですか!?」

 

 続く凪の言葉に鈴音が大きな声を出して驚く。

 

 「西条副隊長の前は私の幼馴染みの千樹憐がウルトラマンになっていた。コードネーム・イズマエルというビーストを撃破したのは彼だ。」

 

 吉良沢の言葉に最早言葉を失う大紀と鈴音。ここに孤門も新たな情報を出した。

 

 「憐の前の適応者とは僕も親しくて。」

 「ああ、いや。はあ、世間って狭いなぁ。ああ、待ってください。俺の前のウルトラマンって何人いるんですか?」

 

 ここまでの話を聞いて大紀が和倉に問い掛ける。

 

 「我々が把握している過去の適応者は姫矢准、千樹憐、副隊長の西条と隊長の孤門の4人だ。そして現在までに確認されたのは剣崎大紀君の5名だ。」

 

 和倉は隠したりせずに大紀に正直に答えた。

 

 「5名って結構いるんですね。」

 

 鈴音のその言葉に大紀も同意する。そう、20年近く間に5人ものウルトラマンが居た。この事実に大紀も鈴音も安心よりもある不安がよぎる。

 

 「俺を含めて5人、それだけずっとビーストたちがいるってことですよね。」

 「一概には言えない。だが、それは日本支部上層部も同意見だ。」

 

 20年近くの間、光の巨人が居るということはそれだけ激しい戦いが続ていたということである。そして、20年近くという短い期間に5人の適応者ということはそれだけ激しい戦いが続いていたということを示唆していた。

 

 「僕が初めて出会った適応者、姫矢さんは既にその肉体が限界に近づいていた。」

 「姫矢准の次に適応者となった千樹憐は私の古い友人で彼は激しい戦闘に加えて肉体に問題を抱えていた。適応者は変身した後のダメージを負い、それが徐々に蓄積されていく。今の君もその危険性が高い。」

 

 孤門と吉良沢の言葉に大紀は以前の戦いで攻撃を受けた場所を不意に抑える。

 

 「我々、ナイトレイダーもウルトラマンである君に全てを背負わせるつもりはない。君がどうあろうと我々は君を全力でサポートしよう。」

 

 和倉の言葉に大紀は一瞬怪訝そうに表情をしかめたがこの場に居る全員が自分にとっての味方であるということは彼らの話でよく分かった。

 

 「気持は本当にありがたいです。でも、俺自身はそこまで高尚な正義感なんて無いですし。この力の意味も全く分からなくて。」

 「それは僕が初めて出会った適応者の姫矢さんも同じだった。でも、それでも彼は戦った。君も同じだろう?」

 

 大紀の言葉に今度は孤門が問い掛けた。その言葉に即座に答えるということはしなかったがここまでの戦いを振り返って大紀はただ頷いた。

 

 「君が最終的に我々の申し出を受けるかはこれから話すことを聞いて決めてくれ。勿論、鳳隊員と相談して良い。鳳隊員も入隊を進めてもいい。だが、君が勧めないなら我々も強引に勧めることは一切しない。」

 「はい。」

 

 和倉がそう話すと鈴音も答えた。そして、和倉は深く深呼吸をして話し始めた。

 

 「私がまだナイトレイダーの隊長をしていた頃からだ。それまでの情報隠蔽措置などからTLT全体への非難が高まりだした。その当時には孤門が入隊したころと比べてビーストの出現も穏やかになりだしていた。それもあってかビースト被害者遺族からの訴訟が始まった。当然だが全てのビースト被害者がそれをしたわけではない。一部の利潤を狙った者達が正義とうたって被害者の一部を抱き込んだのだ。TLTは全世界に支部があり、その頃には国連の管理下にあった。国連の管理する組織でそのような訴訟が始まったことで国連からの監査も頻繁に入るようになっていた。さらには各国でもTLTを管理下に置こうという動きもあった。近年でのワイドショーなどの報道はそれが大きな要因の一つだ。ビーストの出現が穏やかになればこれまでに配備されていた様々な装備も廃棄せざるを得なかった。日本支部では活動資金の大幅な減少と装備の破棄で終わったが外国ではTLTから接収した技術を用いて兵器を製造しているという始末になってしまった。

 今から5年前にTLT日本支部への訴訟は終わった。その為に今年まではここ、フォートレスフリーダムを稼働させることも出来なかった。だが、今年から奇妙な動きがみられだした。最初はTLTの北米本部だった。アメリカ合衆国ウィスコンシン州にあるン・ガイの森にこれまでに存在が確認されたことのない新種のビーストが出現した。そのビーストは北米のナイトレイダーが対処したのだが有効なダメージを与えることは出来ずに消失、行方が分からなくなった。その頃から日本にも新種のビーストが出現し始めた。最初は北海道、自衛隊の駐屯地の付近に出現したブルートタイプに分類されたウルズス、四国近辺に出現したクラスシティアンタイプに分類されたカルギニオン、長野県で確認されたアウェスタイプに分類されたエンピードがその時に確認されたビーストたちだ。この3体はナイトレイダーの機能も停止していた時期に出現し、自衛隊が対処したが初動の遅さもあって多数の被害者を出してしまった。その後から、私は関係各所から協力を求めてナイトレイダーの復活をするべきと提言した。当然だが、ここまでの情勢で難色を示す幹部がほとんどだった。だが、私の一存で行うことを条件で機能が凍結していたフォートレスフリーダムと現存していたチェスターシリーズのα機からδ機の再開を決定した。それから私は孤門と凪にナイトレイダーの再結成を任せた。」

 

 和倉の説明通り、この10年の間でTLTは大幅な弱体化をしていた。現在は頻出期に比べるとビーストの出現は穏やかではあるがこれまでのビースト以上の知性と凶暴性、攻撃性を有していることが多くなっている。それ故に以前のTLTに戻る必要があると思われた。だが、

 

 「だが、私は以前のTLTに戻る必要はないと考えている。人命を優先する以上は未然に被害を防ぐことが重要だ。そのために戦力も設備も必要だ。それ以上に善戦で戦う人間も必要だ。この10年の間で本当の意味で職務に専念しようとする者は少なくなってしまっていた。だからこそ、孤門と凪に任せた。そして、二人が受け継いだ光を、それを受け継いだ君が現れた。それはきっと我々の戦いに意味がある問うことなんだ。今すぐにとは言わない、君が決心したときに改めて連絡してくれ。」

 

 そう和倉は言った。その後はそのまま大紀は鈴音に連れられフォートレスフリーダムを後にした。




ブルートタイプビースト ウルズス
 クマにビースト細胞が憑依したことで誕生したビースト。北海道にある自衛隊駐屯地付近の山林で確認された。北海道に生息する日本最大級の肉食獣であるヒグマがビースト化したもの。元々のヒグマに備わっていた腕力などが強化され、その体躯も通常のヒグマよりもはるかに大型化している。自衛隊の駐屯地に複数体が襲撃、多数の死傷者を出した。その場に居た一人の自衛官が上官の命令を無視して重火器を使用したことで何とか撃退したと記録に残されている。

クラスシティアンタイプビースト ガルギニオン
 ヤドカリなどの海藻や貝殻を甲殻に付着させる甲殻類がビースト化した。人間を捕食する際に自動車や自転車などの乗り物に乗っている人間を優先して捕食する性質がある。そうやって取り込んだ金属を自身の甲殻を生成するために使用している。そのために過去に出現した同タイプのビースト、グランテラ以上の防御力を持つ。こちらは四国の海岸部に出現、多数の被害を出して上陸し、自衛隊がトラックに搭載した爆弾を食わせることで何とか撃退した。

アウェスタイプビースト エンピード
 燕がビースト化した存在。超高速で飛行するビーストであり、その飛行能力を生かして捕食を行う。長野県で原因不明の行方不明者が続出した中で警察が捜査をする中で確認された。捜査に関わっていた警察を含めて20人以上を捕食。自衛隊の戦闘機が出動するもののこれらを撃墜させさらに犠牲者を出した。その後、自衛隊からTLT日本支部へ協力が依頼され、まだナイトレイダーを再結成する前の孤門と凪がクロムチェスターδ機で撃墜した。






 今回、和倉元隊長の話に出てきたビーストは普段からもやり取りをさせていただいている銀色の怪獣さんからアイデアを頂いたものです。今回登場したガルギニオンとエンピードは銀色の怪獣さんの小説「巨影都市オブ・ジ・エンド」のエピソードで登場しています。そちらの方が詳しい情報を載っていますので是非お読みください。


 銀色の怪獣さん、以前に頂いたアイデアを使わせていただきました。この場を借りてお礼申し上げます。
 また、ビーストのアイデアは随時受け付けています。それではよろしくお願いいたします。


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ウルトラマンネクサスover10yearsT 第7話

 八王子市、東京都の中でも中心部である23区から離れたそこである人物に関することでとある人物がそのアパートへと訪ねていた。

 

 「おい、矢車。居るんなら返事をしろ。」

 

 その人物は警察官であり、その人物とも関係が深かった。日下部ソウジ、彼はこの後に自身が巻き込まれるであろう事件のことを何ら予測していなかった。

 

 

 

 

 

 

 大紀(ヒロキ)は事業所で子供たちの面倒を見ていた。その中のある一人と一緒にブロックで遊んでいた。

 

 「へえ、ところでヒナタのお父さんさ。今度休みなの?」

 「うん!父さん、今度の休みに一緒にゲームをするって!!」

 

 ヒロキが話している子は日下部ヒナタ。大紀がここで勤め出してから2年目の時にこの事業所へ来たのだ。ヒロキによく懐いており普段からよく話すのである。

 

 「先生の親戚も警察だけどすごく忙しいって聞いているけど。」

 「でも、父さんね、しばらく休むって。」

 「へえ、そういう時もあるんだ。」

 

 大紀はそう聞くと自分で作っていたブロックの恐竜をその場に置いた。

 

 「それじゃ、先生さ。他の先生とお仕事、交代してくるから。」

 「うん。行って。」

 「本当、毎回さっぱり言うよねぇ。」

 

 大紀はこのようにして日常を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日前、フォートレスフリーダムから大紀の自宅に戻った時だった。

 

 「スズ、俺やっぱ入隊はしねえわ。」

 「そう。」

 「やっぱりさ、今いる場所でさ、子供たちが可愛いんだ。いきなり消えるのは出来ねえし、俺はそこまでして戦おうとは思えない。」

 「一応、入隊しないってことは隊長たちに伝えておくわ。」

 「ありがと。」

 「ええ、それじゃ。」

 

 そう鈴音とやり取りをしたのだ。大紀の中では決心はついていなかった、というよりも今の自分が居る場所では無いという気持ちが強かったからであり、自分の中の戦う理由もいまだに定まっていなかったからである。それに関してはスズネも言及することは無く、そのまま二人は別れた。

 そんなやり取りがあってからの初めての週末、後30分ほどで就業時間が終了するという時だった。

 

 「ヒナタ君!お母さんがお迎えに来ました!」

 

 玄関の方から他の職員が奥まで聞こえる声で言ったことを聞いた大紀は記録を書く手を止めて、近くの部屋で遊んでいるヒナタに声を掛けた。

 

 「ヒナタ、お母さんが迎えに来たよ。」

 「ええ、もう!?」

 「うん。準備は?」

 「出来てるけど。」

 

 当のヒナタ本人は帰る時間が来たということでやや不満気であった。だが、特にごねることもなくヒナタは迎えに来た母親と共に帰った。なお、去り際に色々な諸々な作業が残っていることに大紀は気付き、翌日が休みということもあって残業をすることを決心したそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 ヒロキが残業に追われている中、フォートレスフリーダムのブリーフィングルームではナイトレイダーの面々が集まっていた。

 

 「それでは都内に新たな反応が出たと。」

 「はい。しかし、今回の反応はごく短い時間のみに探知され、数秒後には消失しました。」

 

 彼らは今数日前に出たビースト振動波についてブリーフィングを行っていた。デスクの上のホログラムには東京都の地図が出されており、反応が出た地点が赤く表示されていた。

 

 「東京都八王子市まで反応は絞れました。しかし、そこからの詳しい地点の判明は出来ていません。この数日までに反応が確認することが出来たのはそこまでです。現地で調査を行いますが住民の混乱を防ぐために今回は軽装でお願いします。」

 

 吉良沢の指示で今回は孤門と鈴音が現地で調査を行うことになった。他のメンバーはフォートレスフリーダムで待機することになった。

 

 

 

 

 その翌日、大紀はエボルトラスターがビーストの出現を検知したのを感じてビーストを探していた。流石にナイトレイダーに入らないと伝えたとは言え、ビーストをそのまま野放しにするということは出来なかった。

 

 「一体、どこなんだよ。」

 

 そう言ってエボルトラスターを見ると既に反応は無くなっていた。

 

 「ここ最近はずっとこうだな。いったい、どこに居るんだよ。」

 

 そうエボルトラスターを見て言う大紀。ここ数日の間に大紀もエボルトラスターの反応には気付いていた。だが、どれも即座に反応が消えていたのだ。

 

 「やっぱり、入るべきか。」

 

 そう言う大紀は自身の手にあるとある連絡先が書かれたメモに視線を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さっきの反応はこの区域からだった。」

 「それにしてもそんな短い間って何なんでしょうか。」

 

 時同じく調査を行っていた孤門と鈴音はビースト振動波が検知された区域の調査を行っていた。そこは住宅街であり、特におかしい点があるというわけでは無かった。

 

 「こんな住宅地にビーストが出現したことってあるんですか?」

 「いや、過去のビースト被害に直接住宅街を襲ったというものは無いよ。どういうわけ、こういった住宅地を狙った個体は少なかった。工場内を巣にしていたビーストもいたけど周辺に被害が出る前にどれも駆除できたんだ。」

 

 鈴音の問いに孤門が答えた。二人はそのまま歩きながら調査をしていたがそこに激しいノック音が響いて来た。二人はノック音が響いている場所へ向かう。そこにはボロアパートの一室を何度もノックする男がいた。

 

 「矢車!また、来るからな!」

 

 男はそう言って扉から離れた。男が下ってくる階段の下で孤門と鈴音は待っていた。

 

 「あんたたちは?」

 「僕らはナイトレイダーです。少し、お話を伺っても?」

 

 この男は日下部ソウジ、このアパートの住人を何度も訪ねているヒナタの父親だった。

 

 「それで、バケモン退治をしている奴らがどうしてこんなところに?」

 「それはビ「パトロールですよ。何か変わったことはありませんでしたか?」

 

 鈴音の言葉を遮って孤門がソウジにそう尋ねた。

 

 「先週から、さっきのアパートに住んでいる知り合いの矢車が音沙汰なしになっていて。それぐらいだな。なんだ、最近この辺りにバケモンが出たのか?」

 「そう言うわけではないです。ありがとうございました。」

 

 孤門と鈴音はそこから離れた。

 

 「あの、隊長。どうして?」

 「ビーストの調査なんて言えば相手がどういう反応をするか分からないんだ。今はまだ完全に出てきたわけじゃない。無用に不安を掻き立てるわけにもいかない。それに。」

 「それに?」

 「あの人の言った矢車っていう人を調べた方が良いかもしれない。」

 

 孤門と鈴音はそのままフォートレスフリーダムに戻った。その後に孤門と鈴音は他のメンバーと共に矢車についての調査を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休日が明けてからの月曜日、大紀はその日もヒナタの面倒を見ていた。理由は来所した時からあまりにも不機嫌で意気消沈した様子だったからだ。

 大紀はヒナタが来た瞬間にこれは何かあったと即座にわかった。だが、特に聞き出そうするのではなく活動場所のプレイルームへ入った時にただ隣に座っただけだった。そうしているうちにヒナタの方から話し出した。

 

 「先生。」

 「どしたのさ、ヒナタ。今日、ずっと元気ないじゃん。何かあった?」

 「うん。父さんね、お休みだったけどお仕事あるって。」

 「ああ、がっかりだったな。」

 

 そう聞く大紀の表情はとても優しいものだった。

 

 「怒ったの?」

 「うんうん。」

 「そうか、偉かったな。ちゃんと我慢出来て偉かったぞ。」

 「うん。」

 

 そう言って大紀はヒナタのことを褒める。だが、それを言われてもなおヒナタの表情は明るくならなかった。それに対して大紀は内心ではそうだよなと苦笑いをしていた。

 この時の大紀はまさかこの後に起きるであろう事件でヒナタたち家族とより深く関わることになるとは思っていなかった。

 

 「おし、じゃあ、今日は何をして遊ぶ?」

 「う~ん、先生のケータイで音楽聞きたい。」

 「じゃあ、友達と他の先生たちがいないときにな。今なら大丈夫だけど、どう?」

 「うん、する。」

 「じゃあ、シールを張って。熱を測ったらすぐにやるか。」

 「は~い。」

 「って言った瞬間にふざけてシール帳じゃないものを出さない。てか、それは幼稚園のお便り帳でしょ!!」

 

 そのようなやり取りのなかで大紀は自分のスマホに入っている音楽を流し始めた。それを聞いたヒナタはすぐに見てわかるように上機嫌になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それで調査の進捗はどうだい。」

 

 その同じ頃にフォートレスフリーダムではナイトレイダーの面々が矢車について調査をしていた。

 孤門の言葉にすぐに反応を返したのは数馬だった。

 

 「矢車という男は隊長が鳳隊員とともに調査していた地域に住んでいる警察官でした。矢車ソウ、35歳で先月に警視庁を自主退職しています。」

 

 そう言ってタブレットを操作する数馬。ブリーフィングルームのテーブルの上のディスプレイには矢車ソウのプロフィールが映し出された。

 

 「理由は体調の悪化により。警視庁を辞めてからは一切動きが分かりません。周囲の量販店を利用した記録も先月を境に一切ありません。」

 「普通、そんなのあり得ねえぞ。他には何かねえのか。」

 

 数馬の情報に弾がそう言う。だが、数馬が調べた情報は提示されているもの以上のことは分からなかった。

 

 「それじゃあ、分からないでしょ。この矢車って人、こないだ私達が殲滅したビーストの現場を調査していたらしいのよ。」

 

 鈴音が今度は新たに警視庁が行っていたビースト出現地の調査の概要を提示する。

 

 「私達が現場に来るまで規制線を張っていたでしょ。その時にどうも怪しい動きをしていたのが目に付いたのよ。その時はそこにいるビーストの殲滅が優先だったから私も隊長に言った後は知らなかったけど。」

 「孤門隊長、そのことについて警視庁には?」

 「僕の方から厳重注意をしてもらうように言った。ただ、その後のことはそっちでするとしか聞いていない。」

 

 今から3か月前、プリガノティタス討伐の直後である。八王子市から秩父方面へ向かうトンネルにビースト出現が確認されたのだ。確認されたビーストは小型だったもののビースト頻出期から存在が確認されているフィンディッシュタイプビースト=ノスフェルだったのだ。現地の警察が出現時に対応したのだが小型とはいえ10メートル近くのビーストの対処には手を焼いたのだった。警察からの要請を受けたナイトレイダーはノスフェルの殲滅を行った。いくら再生能力を有するノスフェルでも小型の個体で弱点を破壊する手段もあったためにそう苦戦することは無かった。その際に、規制線を張っていた警察官の何人かがノスフェルと接触したのだった。後の検査で幸いにもビースト細胞に侵された警察官はいなかった。そう、その時の検査では誰一人としてビースト細胞に侵されているはずがないのだ。

 

 「あの時の検査では誰もビースト細胞の反応は無かった。それなのにその時の対応を行った警察官に変化があった。」

 

 孤門の言葉にナイトレイダーの面々が脳裏にあるストーリーが浮かび上がっていた。

 

 「その時の検査で反応が無かったのは殲滅した直後でビースト細胞そのものが不活性化していたと思う。それが時間を掛けて活性化していった。すぐに調査班にも連絡をしよう。明日には彼の身元を保護しないと。」

 

 孤門の中にあった懸念はその翌日に分かることになる。それもかつて彼の前で起きた最悪の形を彷彿させるような、そんな形で分かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝だった。出勤してきた大紀の目に飛び込んだのは職員が慌ただしく動いている姿だった。

 

 「あの、どうしたんですか?」

 「ヒナタ君が誘拐されたって。大紀先生も手伝って!!」

 「ヒナタが!?」

 

 大紀がそれを聞くと即座に事業所を出たのだ。

 そのことを聞いて必死に走る大紀。そして、大紀の懐にしまってあるエボルトラスターはこれまでにない程に強い反応を示していた。

 

 

 

 

 同じ頃、ナイトレイダーの面々はバンに乗って八王子へと来ていた。全員が装備を整えており、これから向かう場所は住宅地ということもあって周辺に住んでいる住民の避難も進められており、町は完全に封鎖状態となっていた。

 

 「ターゲットはアパート内に潜伏中。抵抗する場合は状況を見て電気ショック弾で動きを止める。ビースト化していなければ身柄を保護。ビースト化していれば殲滅対象だ。気を引き締めてくれ。」

 

 バンに乗っているナイトレイダーの面々にそう孤門。

 孤門の言葉を受けて装備の確認をするメンバー。そうする中でついに目的地へと来たのだ。

 

 「おい、矢車!辞めろ!!」

 

 到着したナイトレイダーの面々の目に飛び込んできたのは人質を取る矢車に呼び掛ける日下部ソウジだった。

 

 「ウルサイ!お前の息子がどうなっても良いのか!!」

 「お父さん!!」

 「辞めろ!!」

 

 人質になっていたのはヒナタだった。ナイトレイダーの面々はソウジと矢車の間に割って入る。

 

 「おい、あんたら!」

 「ナイトレイダーです!下がってください!!」

 「おい!何をしやがるんだ!ガキがどうなっても良いのか!!」

 

 孤門たちはソウジを守るように並び矢車を囲む。だが、当の矢車は興奮状態にありとても説得に応じるような状態では無かった。

 

 「どいつもこいつもバカにしやがって!!」

 

 興奮状態の矢車。そして、その顔は血管が膨張して蜘蛛の巣のような文様を描いており、目は爛々と光っていた。その様子からはただ事では無いことを察知したナイトレイダーの面々。だが、人質を取られている以上は対処できる方法は無いかに見えた。

 

 「おい。」

 「ああ!?ギャッ!!」

 

 そんな矢車に背後から声を掛けていきなり殴りつけた人物が居た。

 

 「ヒロ!」

 

 鈴音が気付いた人物は事業所からヒナタの行方を捜すために方々を走っていた大紀だった。だが、東京都内、それも二十三区から八王子市に来るのは不可能だった、普通の方法では。

 

 「先生!」

 「ヒナタ!平気か?」

 

 すぐにヒナタを抱きかかえて矢車から距離を取る大紀。その間、ヒナタは大紀に強くしがみついていた。

 

 「ヒナタ君のお父さん、ですよね。」

 「あなたは確か。」

 「説明は後でします。今は逃げましょう。」

 

 大紀はヒナタを抱えてソウジの元へ。人質が居なくなったことでナイトレイダーの面々もディバイドランチャーを矢車に向ける。

 

 「鳳隊員。彼らを安全な場所に。」

 「了解!」

 

 鈴音は孤門の指示に従い、大紀たちを安全な場所へ連れていく。

 

 「待て!」

 「動くな!!」

 

 自身を攻撃した不届き者を追おうとする矢車だが、その前を孤門たちが立ちふさがる。

 

 「ふっ、ふっ、フー、フー!ふざけるな、クソが!」

 

 矢車はより興奮した状態になり、右腕をナイトレイダーの面々に向かって突き出した。その瞬間、矢車の右腕は鋭い爪を持った禍々しいものへと変貌してあろうことか伸びたのだった。

 

 「なっ!」

 「全員散開!」

 

 それに弾が驚くも凪の指示でその場に居た4人は散らばった。

 

 「この野郎!」

 

 弾は倒れながらもディバイドランチャーの光弾を矢車に撃ちだす。

 撃ちだされた光弾は変化した右腕にかき消され、矢車本人には当たらなかった。

 

 「隊長、彼からビースト振動波を探知。徐々に反応が強くなっています。」

 「総員、対象をビーストと認定。殲滅する。」

 「「「了解!」」」

 

 数馬が孤門に矢車からビースト振動波の反応があることを伝えると孤門はその場に居る3人に矢車を攻撃する旨を伝えた。

 ナイトレイダーの面々は四方から矢車を囲み、ディバイドランチャーの引き金を引き続ける。

 撃ちだされた光弾は次々と矢車に直撃する。

 

 「ガアッ!!」

 

 光弾が当たると矢車の衣服が破れ、その下の彼の体を傷付けていく。傷を負うにしたがって人間としての形を保っていた矢車の姿も徐々に彼の肉体を蝕んていった物の影響を受けたものへと変わって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は移り、ナイトレイダーの面々が乗って来たバンの所へ。

 鈴音はヒナタとソウジをバンに乗せており、大紀は鈴音の隣に立っていた。

 

 「私達から指示があるまでここで待っていてください。私は隊長たちの所へ戻ります。」

 

 鈴音はそう言って装備を確かめる。

 

 「あの、矢車はどうなるんですか。」

 

 そして、ソウジが鈴音に声を掛けた。

 鈴音はソウジの質問に僅かばかりに考え込む。

 

 「お父さん、あの様子だと既に説得はあまり期待できないと思います。」

 「殺すのか。」

 「それは...。」

 

 ソウジの言葉に鈴音が言いよどむ。そこで大紀が助け舟を出した。

 

 「それはそうと、良いのか?俺が近くに居るからスズは行けよ。」

 「ああ、まだ良いわよ。殺すかどうかはまだ分かりません。ですが、ビースト細胞に侵されているのならば最悪は。」

 

 それでも鈴音がそう言った。それに対してソウジはただ一言「そうか」とだけ言った。

 

 「あいつは馬の合わないことばかりだった。正直なことを言えば警官としてはあまりいいやつでは無かった。だが、それでも、そうなるのはあまりいい気はしない。」

 

 その言葉に鈴音は表情を硬くする。

 

 「だけど、これ以上他の人間に危害を加える前に止めて欲しい。頼む。」

 

 ソウジがそう言って頭を下げた。鈴音はそれを受けて孤門たちの元へ急いだ。

 鈴音がその場を立ち去った時、ソウジが大紀に視線を移した。

 

 「あの、もしかしてヒナタが通っている...。」

 「ああ、見学の時以来ですね。職員の剣崎です。」

 「ああ、ヒナタがヒロ先生って言っているのはもしかして。」

 「そうだよ!先生がヒロ先生だよ!」

 「ヒナ、先生のこと、そう呼んでたの?」

 「ヒナタが誘拐されたことを聞いてですか。」

 「ああ、まあ。警察官であるお父さんからすれば褒められたことでは無いのは分かりますが、動かずにいられなくて。」

 「先生、どうやって来たの?」

 「え!?ああ、ちょっと、言えない、かな。」

 「え~。」

 

 ソウジと大紀の会話に入るヒナタの様子を見て二人は自然と笑い合う。

 

 「お父さん、ヒナタ君、ゲームが一緒に出来なくて残念がってました。帰ったら、一緒にしてください。」

 「ああ、はい。普段、忙しいから中々出来なくて。」

 「じゃあ、ヒナタ。先生は他の先生たちに電話するからお父さんと一緒にここに居るんだぞ。」

 「うん!」

 「そしたら、お父さん。俺はすぐ近くに居るので安心してください。それにきっとすぐに終わるので。」

 

 そう言って大紀はバンから距離を取った。そして、懐に仕舞っていたエボルトラスターを取り出した。エボルトラスターからビーストがいることを知らせる鼓動が強く脈打っていた。

 

 「ああ、意味を探すより目の前の守りたいものを守る。」

 

 そう言って大紀はエボルトラスターを強く握った。その瞬間、鈴音が向かった先から巨大なビーストが出現した。

 

 「うおおおおお!!」

 

 強く叫ぶと同時にエボルトラスターを引き抜いた。光が溢れ、大紀はウルトラマンネクサスへと変身した。

 

 シャアアアッ!

 

 ネクサスはそのままビーストに向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 時間は少し遡って鈴音が孤門たちの元へ戻った時だった。

 

 「遅れてすみません!」

 「鳳隊員!すぐに攻撃に入りなさい!」

 「了解!」

 

 鈴音も凪の指示に従って矢車を攻撃する。

 矢車の姿は既にそのほとんどが人間のものでは無かった。

 元になったビーストであるフィンディッシュタイプビースト=ノスフェルを思わせるものになっていた。

 

 「ふ、ふざけるな!うああああああああ、ゴギュアアアアアア!!」

 

 矢車がそう叫んだん瞬間、矢車の肉体が肥大化したのだ。ノスフェルの体色である薄桃色からくすんだ灰色の体色へと変化し、両腕には手首から巨大な爪が2本伸びたのだ。さらに背中には2対の巨大な角に、無数の小さな刺が生えてきた。臀部にから骨が突き出て、筋肉に覆われ先端が二股に分かれた長大な尻尾へと変化した。そして、最後まで人間のものだった顔は醜悪な悪魔そのものの顔となった。巨大化が完了すると同時に両肩から元になったビースト細胞の持ち主であるノスフェルの頭部が出現したのだ。

 フィンディッシュタイプビースト=ザ・ワン・アナザーと後に呼称されるビーストは一際大きな咆哮を発した。それからザ・ワン・アナザーの眼前にネクサスが出現、走り出してきたのだ。

 

 ジュアア!!

 

 ネクサスはそのままザ・ワン・オルタナティブの胴にストレートパンチを放った。それを受けてザ・ワン・アナザー、ネクサスを両腕で掴むと近距離から青色破壊火炎を放ち、ネクサスに浴びせた。

 ネクサスは全身を赤く発光させてビーストの動きを封じるオーラミラージュでザ・ワン・アナザーの攻撃を防ぐ。そこから、ザ・ワン・アナザーの胴に蹴りを入れて距離を離した。

 ザ・ワン・アナザーはそこから何度も青色破壊火炎を放つがネクサスはそれをアームドネクサスで次々と霧散させていく。

 

 ゴギュアアアアアア!

 

 ザ・ワン・アナザーは両腕の爪を鋭く伸ばし、ネクサスに大きく振りまわす。

 ネクサスは右腕のアームドネクサスを赤く発光させ、ジュネッスストロングにタイプチェンジした。

 強靭な肉体を持つネクサスジュネッスストロングはザ・ワン・アナザーの爪を真っ向から殴り、根元から叩き負ったのだ。

 

 ゴギュアアアアアア!!

 

 痛みに叫ぶザ・ワン・アナザー。その顔面にジュネッスストロングの容赦ないロシアンフックが炸裂する。

 

 ジュアッ!

 

 何度も何度も顔面を殴り飛ばしていくジュネッスストロング。一際、強烈なストレートパンチがザ・ワン・アナザーの顔面に深々と刺さった。

 

 ピア、ギュアア!!

 

 痛みから小さな鳴き声を上げるザ・ワン・アナザー。さらに追撃の手を緩めないジュネッスストロングはザ・ワン・アナザーの尻尾を掴み、なんとその場で大きく振りまわし始めた。ザ・ワン・アナザーの巨体が宙を舞い、というよりは力任せに振り回される。俗に言うジャイアントスイングだが、その効果は覿面であまりの遠心力にザ・ワン・アナザーも戦意を喪失していた。

 

 ジュアアアアッ!!

 

 ジュネッスストロングがひときわ大きな声でザ・ワン・アナザーを放り投げた。そのままの勢いでザ・ワン・アナザーは何もない平地に叩きつけられた。

 ジュネッスストロングは両腕を腰だめに引き、アームドネクサスから拳大の光球を2つ生み出した。2つの光球は合体してジュネッスストロングの胴を隠すほどの巨大な光球へと変わったのだ。

 

 ジュアアアア!!

 

 巨大になった光球をジュネッスストロングは右腕で殴りつけてザ・ワン・アナザーに向けて発射した。たとえ、不死身の生命力を持つフィンディッシュタイプビーストですらその細胞の一片も残さないほどの威力を持つジュネッスストロング最強技、オーバーナックルレイシュトロームがザ・ワン・アナザーに命中、大爆発!文字通り、ザ・ワン・アナザーは消滅したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後、フォートレスフリーダムにて。

 

 「紹介しよう、彼が今日から新しく配属される剣崎大紀君。」

 「剣崎大紀です。よろしくお願いします。」

 

 そこには孤門に紹介され、ナイトレイダーの制服に身を包んだ大紀の姿があった。




フィンディッシュタイプビースト=ザ・ワン・アナザー
 ノスフェルのビースト細胞に侵された矢車がビースト化した姿で、その姿かたちはかつて新宿で最初に発見されたスペースビーストであるザ・ワンの第3形態であるベルゼブアに酷似している。通常、ビースト細胞に侵された人間はビーストヒューマンと呼ばれるビーストの傀儡になるのだがどういうわけかこのような変化を遂げた。
 ザ・ワン・ベルゼブアと違い、両肩のネズミの顔がノスフェルのものとなっている。基本的な能力は口から青色破壊火炎を放つことと両腕の爪を展開することが出来る、怪力を有する程度。劇中ではジュネッスストロングのオーバーナックルレイシュトロームを受けて消滅したがフィンディッシュタイプビーストに共通の不死身の生命力を有している。なお、なぜノスフェルのビースト細胞が最初のビーストであるザ・ワンに酷似した姿を取ったのか不明だが人間の細胞と融合したことが何かしらの影響を与えたのではないかと考えられっる。


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ウルトラマンネクサスover10yearsT 第8話

 こちらではお久しぶりです。長らくお待たせしました。今回の話は前後編の前編となります。それでは、どうぞ。


 北海道白老町、つい最近国立の民族学博物館が設立されたことで有名であり、自然が残る山々に太平洋を望むこの場所に限らず、北海道では古くから野生のヒグマが人里に現れることが多かった。かつて、北海道には三毛別という地で凄惨なヒグマによる獣害事件があった。他にも凄惨な結末を迎えた事件があり、それらの事件の記憶から道民は山に入った時にはヒグマに気を付けることを心にしていた。それだけではなく、ヒグマと出会った時には決してヒグマに背を向けてはならない、ヒグマに食われた食料を取り返さないといったことを学んでいた。

 

 「今回は随分とデカいな。」

 

 白老町の道有林(北海道が管理してる林。林と言えど山の中なので森みたいな場所。)に地元の猟友会に所属している老ハンターが入っていた。つい数日前に町の付近にある山でクマの目撃情報があったのだ。それも日にちが経つほどに町へ近づいており、昨夜には今までに確認されたことがない程の大きさのヒグマらしき生物が街と山の境で目撃されたのだった。

 老ハンターはヒグマが目撃された場所に今までに確認されたことがない程の大きさの足跡を見つけた。

 老ハンターはそのまま山の奥へ奥へ入っていった。

 山の奥へ入るにつれてどこから異臭が漂ってくる。

 老ハンターはそれをクマが食べた獲物の腐敗臭だと結論付けた。この時点でその結論の正解が出ていなかった。だが、その結論自体は間違っていなかった。彼はこの時点でシカか何かと考えていたからだ。当然、この時の答えは彼の常識の範囲内には無かったのだが。

 

 「な、なんだこれは!?」

 

 老ハンターが見つけたのは地面に埋められた複数の人間の遺体だった。そのどれもが無残な殺され方をしていた。

 

 「これは、俺だけの手に負えないな。」

 

 そう言って彼が山を下ろうとした時だった。彼の背後の木々がなぎ倒れる音がした。その音が鳴った方向に振り向くとそこには彼の身長を大幅に超える、体長はざっと20mを超えるヒグマに似た怪物がいた。

 

 「っ!」

 

 彼は咄嗟に長年のハンターとしての直感で怪物に猟銃を向けて弾丸を撃ち込んだ。

 

 「ブモオオオオオオオオオオ!!」

 

 怪物は雄たけびを上げると弾丸を物ともせず、その巨大な右手で老ハンターを叩き殺したのだった。怪物は殺した老ハンターの死体を咥えるとそのまま山の奥へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はあ、里帰りも久しぶりだな。」

 

 北海道の空の玄関口の一つ、道央圏にある新千歳空港に弾の姿があった。今の弾の姿は私服で休暇を取って地元に戻っていたのだ。スーツケースを持って弾は新千歳空港から故郷、白老町へ向かう快速電車に乗り込んだ。期しくも弾は今その地で起きている事件に関わることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「休暇ねえ。」

 「反町隊員って地元が北海道、だったっけ。」

 

 東京では大紀と鈴音がナイトレイダーに新しく配備される予定のパトロール車、ナイト

クルーザーのテストを行っていた。今はパトロールの中で車の性能テストを行っていた。

 

 「それにしても、ヒロ。もっとスピード上げられないの?」

 「何言ってんのさ、警察や消防とは違うんだぞ。それに今回のは最終配備のための走行テストだ。スピードを出す必要はない。」

 「真面目か。」

 

 なお、車内の会話はフォートレスフリーダムのブリーフィングルームにも聞こえていた。

 

 「鳳隊員、スピードを出したいならフォートレスフリーダムに戻ってからにしなさい。」

 「もうデータも十分だ。後は戻ってくれ。」

 

 ブリーフィングルームにいた凪が鈴音に注意をし、孤門がナイトクルーザーに乗る大紀と鈴音に指示を出す。

 

 「了解。予定ルートを通って戻ります。」

 

 そう言うと運転をしている大紀が通信を切る。

 通信が切れるのを確認すると鈴音がつまらなそうに外を見る。

 

 「あまり、つまらなそうにしないでくれ。そもそも、スズは前の試運転で運転しただろ。」

 「分かってないわね。男ならもっと飛ばしなさいよ。」

 「ビーストが出てらな。生憎、今は出ていないようだから、このまま安全運転でフォートレスフリーダムに戻るぞ。」

 「はいはい。」

 

 会話を終えて大紀が信号を曲がる。ナイトクルーザーはそのまま都心からフォートレスフリーダムへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「変わんねえな、ここも。」

 

 弾は故郷白老町へと到着した。

 荷物を持って駅を出た彼は歩きながら街の風景を見る。そこには近年出来た民俗学博物館の建物が見えた。

 

 「いや、あの建物は無かったな。民族共生なんて聞こえは良いけどな。」

 

 そう独り言を言って弾はその場を後にする。

 街のいたるところを見る彼はある一軒家に立ち止まる。そこの家の表札には反町の文字があった。

 弾はその家のインターホンを押す。

 インターホンが鳴った後に家から誰かが出てきた。

 

 「は~い、え、お兄ちゃん!?」

 「久しぶり、蘭。」

 

 中から出てきたのは眼鏡をかけた弾と同世代の女性、妹で大学院生の蘭である。

 

 「お父さん、お母さん!お兄ちゃん、帰って来たよ!」

 「ああ、蘭。親父とお袋には言ってある。」

 

 そのまま、玄関へ入る弾。久方ぶりに家族と共に過ごすのだ。

 

 「弾、しばらくぶりね。」

 「急に来てゴメン、お袋。」

 「良いのよ。ささ、入っちゃいなさい。」

 

 出迎えた弾の母が家に入るように催促する。

 スーツケースを持って弾は実家へと入っていった。

 

 その夜、弾は家族と共に食卓を囲んでいた。テーブルの上に上がるのは北海道を代表するジンギスカンである。鉄なべの上で肉を焼いていき、焼き上がったそばから肉を食べていく弾。

 

 「それで、今の仕事はどうだ?上手くいっているのか?」

 「ああ。親父が心配するようなことは無いよ。ビーストが出てきた時が緊張するけど、上司や入隊した動機は信頼できるよ。」

 「そうか。それは良かった。」

 「でも、お兄ちゃん。私はまだ心配だよ。すごく危険な仕事じゃない。」

 「まあ、それを承知でやるのを決めたんだ。蘭が心配するようなこと、それを起こさないようにもしてるよ。」

 

 食卓を囲みながら話す弾と家族。危険なのは承知だが、弾も家族が心配しているのはよく分かっている。その夜は久方ぶりの家族で囲んだ食卓でジンギスカンを焼く音が響いていた。

 

 

 

 

 

 翌日、弾は蘭が行っている研究の手伝いに付き添っていた。

 

 「最近、山に入っていった人の行方不明が多いの。それも、ヒグマの目撃情報が多い山で。」

 「それで、ヒグマの研究をしている蘭の所に協力をくれってか。警察は?」

 「流石に警察も探してるよ。ただ、私は大学の研究でヒグマを対象にしていて、教授から調査を進められたってだけ。」

 

 ここ最近頻発しているヒグマの被害調査を行っている蘭。弾は休暇を取っているため普段装備している武器を携行していなかった。念のために二人はクマよけのための鈴、クマ撃退用のスプレーを装備している。

 

 「なあ、兄ちゃんがいる必要はあるのか?」

 「お兄ちゃんならヒグマは余裕でしょ?」

 「こんな装備じゃあ無理だって。せめて、猟銃くらいは。」

 「って言うと思ったから今日はハンターの人も呼んでる。」

 「俺、いらねえじゃん。」

 「良いから、良いから。」

 

 二人はハンターが待っている山道の入り口へ到着する。そこにはオレンジの帽子にジャンパーを来た弾と同年代の若い男性がいた。

 

 「谷垣さん、こんにちは。今日はよろしくお願いします。」

 「ああ、反町さん。準備は出来ていますので行きますか。そちらの方は?」

 「兄です。今回、同行させていただきます。」

 「兄の反町弾です。よろしくお願いします。」

 「反町弾、あの反町弾か。」

 「どこかで会いましたか?」

 

 ハンターの青年、谷垣源二は弾に対してこう言った。

 

 「ビーストを撃退するために危険行為をした君を知らない人間は自衛隊にはいないぞ。」

 

 谷垣源治は弾とは別の駐屯所に居た元自衛官である。彼は元々、東北の出身で、彼の家系はハンター、マタギをしていた。自衛隊を辞めてから彼は北海道白老で熊撃ちをしている老ハンターに弟子入りしていた。 

 弾のことは北海道の自衛隊の中では怪物退治のために暴走した違反者として名が知られていた。だが、

 

 「俺でも、その状況ならそうするくらいは考えるが。」

 

 山道を共に進む源二はそうでは無かった。

 

 「お兄ちゃん、自衛隊辞めたって言うのは首にされたの?」

 「まあ、そういうこと。実際には依願退職扱いだけどな。」

 

 弾は昔のことは流しつつ、今回の同行について源二に話をする。

 

 「それで、なぜ一大学院生の研究に同行するんだ?猟友会がそう簡単には同行を許可しないだろ。」

 「あんたの妹さんがいる研究室とは付き合いがあるんだ。教授を通じて今回は入るんだ。それに、今回は俺の師匠がやるはずだったんだが。」

 

 源二の言ったことに弾は疑問に思い、聞いた。

 

 「急用なのか?」

 「熊撃ちの二瓶って白老に居れば聞いたことがあるだろ。」

 

 熊撃ちの二瓶と言われて、弾は地元で有名な猟師のことを思い出した。

 

 「ああ、有名な猟師の爺さんだ。谷垣は二瓶さんの弟子で師匠の代わりに引き受けたのか?」

 「違う。」

 

 弾の問いに即座に源二は違うと言った。

 

 「二瓶さんは三日前にヒグマの調査をしたのを最後に行方が分からなくなっている。二瓶さんが使っているルートは俺も知っていた。そこに、調査の依頼もあって同行することにしたんだ。」

 

 ここまでの話で弾は事の経緯を聞く中で過去のある出来事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今から3年前、弾は北海道千歳市にある自衛隊駐屯地に配属されていた。

 

 「反町、速くしろ。」

 

 弾は上官から重火器の運搬を命令されていた。この上官とはこの駐屯地に来てから衝突が何度かあり、今ではこのようなことを無理難題として言われることが多かった。

 

 「今に見てろよ、クソ上官。」

 

 一人、愚痴をこぼしながら作業する弾。そんなある日、弾が所属する駐屯地にビースト、後にブルートタイプウルズスと呼称されるビーストが複数体で襲撃してきた。

 装備が比較的整っていた自衛隊の駐屯地にそのような襲撃が起こり、ビースト相手に訓練をしていない自衛官たちは何とか対処をするものの徐々に犠牲者を出してしまっていった。

 弾は避難を進めながら、上官に押し付けられた重火器の運搬により知った保管場所へ向かっていた。弾は本来であれば上官に許可を得る必要がある重火器の使用を、個人で行い、ウルズスの一体の左目を撃ちぬくことで撤退に追い込んだ。この時の行動を上官によって重大違反として自衛隊を辞めることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (あの時のビーストのことを思い出すなんて...。まさか、だよな。)

 

 当時のことを思い出していた弾は現実へと意識を切り替えて先へ行く蘭と源二の後ろを歩いていく。

 弾が山へ入っている頃、東京のフォートレスフリーダムではナイトレイダーの面々がブリーフィングルームに集まっていた。

 

 「北海道にビースト振動波が?」

 

 ブリーフィングルームに集まっている面々はデスクの上に投影された北海道の地図、そこに赤い点で表示された点を見て鈴音が言った。

 

 「ああ。この数日に急激に反応が強くなっていた。」

 

 吉良沢がタブレットにある資料をデスクの上に投影する。

 

 「過去に北海道ではブルートタイプビースト=ウルズスが確認されている。」

 「和倉さんが言っていた奴、ですか。」

 

 吉良沢の言葉に以前にここで話に出たウルズスのことを思い出す孤門。大紀も思い出して話題に出す。

 

 「恐らくは、過去に自衛隊で弾隊員が撃退した個体の可能性があります。調査のために現地へ行く必要があるのでクロムチェスターの準備が出来ています。準備が出来次第、現地へ向かってください。」

 

 それからほどなく、彼らはクロムチェスターで北海道へ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 クロムチェスターが北海道へ向かう中、弾たちは山の中腹に当たる場所へ来ていた。

 道中の痕跡を見ると、ヒグマの研究をしている蘭がそこにあった痕跡、正確には尋常ではない大きさの足跡を見ていた。

 

 「こんなに大きい足跡、見たことない。」

 

 源二は周囲を警戒しており、弾は蘭が見ている足跡を見てすぐに周囲を警戒した。

 

 「蘭、谷垣。ここから逃げるぞ。」

 「どうしたんだ、急に。」

 

 弾の言葉に谷垣が疑問をぶつける。

 

 「ここに居るのはヒグマじゃない。恐らくは俺が前に,,,。」

 

 弾が言葉をつづける前に森の奥がざわざわと大きく音を響かせたのだった。

 

 「走れ!」

 

 弾の言葉に蘭も谷垣もその場から走り出した。

 

 弾たちが走り出した後、森の木々がバキバキと音を立てて倒れていく。

 そこから姿を見せたのが巨大なビルほどの大きさのヒグマ、その腹部には骨でできた第2の頭部があり、ヒグマの頭部にある左目は古傷によって塞がれていた。さらに、その両手は棘を有する甲殻で覆われており、鋭い爪がぎらついていた。

 ブルートタイプビースト=ウルズス、その歴戦の個体であり北海道の先住民アイヌの言葉からキムンカムイの名を冠するキムンウルズスがその姿を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「隊長。ビースト振動波が増大。」

 「菊池隊員、位置は?」

 「白老町、その山林ですね。」

 「鳳隊員と剣崎隊員、準備は?」

 「いつでも良いです。」

 

 キムンウルズスが出てきたことでクロムチェスターに乗るナイトレイダーのメンバーは現場へ急行する。

 彼らが見たのは巨大なキムンウルズスのその姿だった。

 

 「周囲に逃げ遅れた人は?」

 

 α機に乗る孤門はβ機の数馬と凪に聞く。

 

 「キムンウルズスの前に走っている民間人が3人。」

 「鳳隊員と剣崎隊員は民間人を保護。副隊長と菊池隊員はそのまま僕と一緒にビーストを攻撃。」

 「「「「了解。」」」」

 

 クロムチェスターα機とβ機がキムンウルズスを攻撃する。

 自身へ攻撃するクロムチェスターに敵意を向けるキムンウルズス。四足歩行から後ろ足でたちが上がり、両腕を大きく振るう。

 弾たちの近くに着陸したγ機。そこから大紀と鈴音は弾たちと保護する。

 

 「反町隊員!」

 「いや、悪い。この二人を含めて民間人は居ない。」

 「ヒロ、私は3人を安全な場所に移す。」

 「分かった。俺は地上から援護する。」

 

 民間人を乗せる以上、大紀は地上に残る。鈴音が3人をγ機へ誘導する中、大紀はディバイドランチャーを構えて、キムンウルズスに向かって行く。

 大紀は森の中に入り、エボルトラスターを取り出した。

 大紀はウルトラマンネクサスに変身、キムンウルズスと対峙する。

 

 デェア!

 

 キムンウルズスは新たに現れたウルトラマンネクサスに敵意をむき出しにする。

 

 グルルルル

 

 敵意を露にした唸り声を響かせるキムンウルズス。

 キムンウルズスはウルトラマンネクサスに向かって突進する。

 ネクサスはメタフィールドを展開しようとするがキムンウルズスの突進の方が速かった。

 

 デェヤアア!!

 

 圧倒的な重量から繰り出される突進にネクサスがフッ飛ばされた。

 キムンウルズスの巨体は強靭な筋肉でできており、鈍重そうな見た目に反して瞬発力があった。その他に、鋭い爪を備えた両腕から繰り出される一撃はネクサスの体を容易く傷つける。

 

 「ウルトラマンを援護だ!」

 

 孤門の指示で2機のクロムチェスターがキムンウルズスに攻撃をするが強靭な筋肉の鎧を持つキムンウルズスに効果は薄かった。

 強大なパワーを持つキムンウルズスを前にネクサスは窮地に陥る。



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ウルトラマンネクサスover10yearsT 第9話

 ご愛読していただいていた皆さん、1年近くお待たせして申し訳ございませんでした。今回の話にてキムンウルズス戦は終了です。それでは、どうぞ!


 ブルートタイプビースト=キムンウルズスのパワーに窮地に陥るウルトラマンネクサス。

 

 「ウルトラマンを援護だ!。」

 

 クロムチェスターα機を操る孤門がβ機を操縦する凪、数馬に指示を出す。

 2機のクロムチェスターはキムンウルズスを攻撃するが強靭な筋肉の鎧には効果は薄かった。

 ネクサスに迫るキムンウルズスはその剛腕をネクサスに向けて叩きつけようとした。

 ネクサスは咄嗟にアームドネクサスからシールドを張ることで対処する。

 シールドに遮られ、攻撃が通らないことに苛立つキムンウルズスはさらに力を込めるべく右の剛腕を大きく横に引いた。

 その瞬間を狙ってネクサスはクロスレイ・シュトロームを撃った。

 放たれた光線はキムンウルズスの胸部に当たり、爆発を起こした。

 

 ギシャアアアオオン!!

 

 痛みからキムンウルズスは胸部を抑える。

 ネクサスは畳みかけるべくメタフィールドを展開しようとするが、キムンウルズスが地面を掘り始めた。瞬く間に地中へ姿を消したキムンウルズス。

 ネクサスは一時その場で変身を解いた。

 

 

 

 

 変身を解除した大紀はキムンウルズスの攻撃を受けた場所を抑えていた。

 

 「なんつうパワーだよ。っ、ああ。これは厳しい相手だな。」

 

 先程の戦いで今回の相手が今迄に戦ったビーストたちよりも格上と言わざるを得ないことを大紀は気付いていた。

 キムンウルズスが地中へ潜ったことでナイトレイダーの面々は現場近くの公民館にて弾たちから情報を聞いた。

 

 「あれは依然に俺が撃退したビーストです。その時よりもはるかに巨大になっています。」

 

 弾からの説明で今回確認されたキムンウルズスは依然に自衛隊を襲った個体であること。弾が撃退した時に付けた左目の傷がその証拠であること、恐らく傷を治す中で多く人々を捕食して成長したのだろう。

 

 「あのビースト、ウルズスにこちらの攻撃はあまり効果が無かった。」

 「恐らく元になったヒグマの特性を引き継いでいると思います。」

 

 孤門の言葉に蘭が口を開いた。

 

 「野生のヒグマもまさに筋肉で出来た鎧を纏っていると言っても過言ではないです。ヒグマを銃で射殺するには頭か心臓を正確に狙う必要があるんです。」

 

 蘭の説明を聞いて、ナイトレイダーの面々の表情が暗くなる。

 ナイトレイダーの装備は正確にビーストの弱点を狙い撃つ装備は無かったのだ。

 

 「隊長、ストライクチェスターのあれなら。」

 

 数馬が孤門にあれと言った。

 

 「ストライクチェスターに装備されているストライクバニッシャーのことだね。」

 

 ストライクバニッシャー、クロムチェスター3機が合体したメタフィールド突入の機体ストライクチェスターが装備する高火力兵装である。ストライクバニッシャーであれば有効打になり得るかもしれない、そう数馬は言いたかったのだ。

 

 「あれだけのビーストに高火力兵器を使って効果があるか。ウルトラマンの光線を受けてもあまりダメージを受けたようには見えなかったぞ。」

 

 だが、戦いの様子を見ていた弾はネクサスの光線があまり効いていないことから、現時点の最強火力であるストライクバニッシャーがキムンウルズスに効果があるのか疑わしいことを告げた。

 弾の言葉に大紀の脳裏にキムンウルズスとの戦いが浮かび上がった。

 ネクサスに変身した大紀は先程の戦いの中で分かった情報を思い浮かべる。

 確かに、蘭が言ったようにキムンウルズスの肉体は言葉の通りに強靭な筋肉で覆われた屈強なものだった。

 ここまでに戦ったビーストたちは人間よりも強靭な肉体を持っているものの、ウルトラマンの力を持ってすれば大なり小なりの傷が付いた。だが、今回のキムンウルズスはそれこそ鍛え上げた肉体による頑強さが際立っており、戦っている時の手ごたえは硬いゴムに覆われた岩を叩いているようだった。

 そのことを思い出す大紀は今だに痺れが残る手を握りしめる。

 

 「いや、そう言っても奴もビーストよ。倒せない道理は無いわ。」

 

 空気が重々しいものになる中で凪が鼓舞する。今、対峙しているキムンウルズスも彼らがこれまでに戦ってきたビーストの一体である。必ず、攻略する手段はある。

 

 「まず、今日は休もう。それに合わせて、キムンウルズスを攻撃しよう。」

 

 孤門のその言葉に一同は明日に備えて休むことにした。

 

 

 

 

 

 その夜、地下に潜っていたキムンウルズスは深い森の奥に身を隠していた。

 捕食本能によって生きるビースト、その1体であるキムンウルズスは捕食本能とは別のある感情に動かされていた。それは、復讐心。キムンウルズスは自分に傷を付けた人間のことを覚えていた。

 キムンウルズス、ウルズスの元となったヒグマは知能も高い。高所にある餌をとるために工夫をしたり、エサが良く取れる場所についても記憶していることがある。その知能を高さをビーストとなっても引き継いでいるのだ。

 キムンウルズスは左目の古傷が自身の殺意によって激しく疼くのを感じた。

 ネクサスと対峙する前に銛で感じた匂い、その匂いが自身の左目を奪った相手であることに気付いていたのだ。

 血の匂いが混じるその吐息は激しく、全身の筋肉が戦慄いていた。

 

 キシャアアアア!!

 

 森に木霊するその咆哮は業火の如き憤怒と刃の如き殺意を帯びていた。

 街明かりの見るキムンウルズス、その心境は人間の言葉に表すのならば「決して、楽には殺さない。存分に苦しませてやる。」だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、大紀は公民館の外へ出ていた

 キムンウルズスの叫びが遠くから響いていることからやすむことをせずに警戒に当たっていた。そこへ、鈴音が水の入ったペットボトルを持って来た。

 

 「お、サンキュ。」

 「少しは休みなさいよ。まあ、すぐ近くにいるのに休むも無いか。」

 

 そう言って鈴音は自身が買ったペットボトルのふたを開け、中身を飲み始める。それを見て、大紀も水を飲み始める。

 一口飲み終わった鈴音は大紀がペットボトルの中身を飲み干すのを待った。

 大紀が飲み終わり、鈴音が口を開いた。

 

 「今日、あんたが戦った奴。弾隊員が昔撃退した奴だって聞いた時に、まさかそんなビーストがいるの?って思った。そんな奴が居たら、人間なんて本当に無力じゃないって、この仕事を選んだって言うのに弱気になっちゃって。」

 

 鈴音の言葉に黙って聞く大紀。他に人が居ないことを確認してエボルトラスターを取り出す。

 エボルトラスターは微弱ながらもキムンウルズスのビースト振動波を感知していた。

 まだ、自身が手にした力の意味を知らない大紀。それでも、隣で弱音を吐きだす鈴音に励ましの言葉を口にする。

 

 「弱気になるのもおかしくないって。ナイトレイダーの仕事は危険なことが多いだろ。今日の奴を見て弱気になるのも分かる。俺もどうやって戦えば良いのか分からなくて、正直ここまでの自信みたいなものが吹き飛んだよ。でも、逃げ出さないのがスズの強いところだと思う。弱気になってもここにいるのがさ。」

 「そんなことを言ったら、ヒロだって。ウルトラマンになって戦っていることを考えたら、私達よりもずっと強いじゃない。」

 「ありがとう。なんか、行けそうな気がしてきたな。」

 

 お互いに話をしたことで胸中の整理が着いた二人。その表情はとても晴れやかでありながら強いものだった。

 

 「明日、あいつを倒そう。」

 「ええ。明日は、私達でやるわよ。」

 

 お互いの拳を突き合わせる大紀と鈴音。

 二人が互いの決意を確認している頃、一人公民館の床の上で大の字になっていた弾。

 今回のビーストは自身と因縁深い相手である。そんな相手との戦いに他の隊員を巻き込むわけには行かないと考えていた。

 妹の蘭と谷垣の二人は既に帰っている。前線から離れたものの故郷が戦いの場となってしまったことにどこか罪悪感のようなものを抱いていた。

 

 「俺の手で必ず終わらせてやる。」

 

 一人決意する弾。

 そうする中で時間が経っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 動きがあったのはそれからほどなくだった。

 

 「山中からビースト振動波が強大化。ウルズスの活動が活発化!」

 

 モニターを確認していた数馬がビースト振動波の増大を確認した。そのことを聞いたナイトレイダーの面々は急いで公民館から出た。

 公民館から出たないとレイダーの面々が目撃したのは山を粉砕しながらキムンウルズスがその姿を見せた瞬間だった。

 

 「僕はα機に、副隊長と菊池隊員はβ機へ。弾隊員はγ機に乗ってビーストを攻撃。市街地への進行を食い止める。鳳隊員と剣崎隊員は自衛隊、警察等と連携して住民の避難を。」

 「「「「「了解!」」」」」

 

 孤門の指示の元に各自で行動を開始するナイトレイダー。

 まだ、朝焼け前の空にクロムチェスターが飛び立つ。

 住民の避難を急ぐ大紀と鈴音。

 各々がそれぞれの役目を全うするべく迅速に行動を開始する。

 出現したキムンウルズスは遠くにいる弾の匂いを鋭敏にとらえていた。そして、弾の乗ったクロムチェスターγ機に狙いを付けていた。

 

 「各機、攻撃開始!」

 

 孤門の指示によって一斉に攻撃を開始するクロムチェスター。

 攻撃が始まった瞬間、γ機に向かって突進するキムンウルズス。

 

 「なっ!?クソっ!!」

 

 弾は操縦桿を思い切り引き、キムンウルズスの突進を躱す。

 空中へ逃げたクロムチェスターγ機に対して、腹部の第二の口を開いてそこから舌を伸ばす。

 

 「弾隊員を援護!」

 

 孤門の乗るα機、凪と数馬の乗るβ機が弾の乗るγ機を援護する。

 キムンウルズスの舌は攻撃を潜り抜け遂にクロムチェスターγ機をとらえた。

 

 「くおっ!俺ばっかり狙いやがって!!」

 

 弾は何とかして拘束から逃げようともがくがキムンウルズスの舌はメタルコンバーダを内蔵したγ機のパワーでも振り切れなかった。

 同じ頃、町で避難を進める大紀と鈴音。自衛隊と警察、消防の協力により住民の避難が迅速に行われた。

 

 「スズ。こっちのブロックの避難は完了。」

 「OK.じゃあ、私達も行きましょ!」

 

 避難が完了したことでキムンウルズスの元へ向かおうとする二人。その二人の視界にキムンウルズスの舌に囚われているγ機の姿が入って来た。

 

 「ヒロ、先に行ってて。後で私も行くから。」

 

 鈴音の言葉に強くうなずく大紀。大紀はそのまま走り出し、エボルトラスターを取り出す。

 エボルトラスターを鞘から抜き放ち、ウルトラマンネクサスへ姿が変わった。

 

 デヤッ!!

 

 ネクサスはアームドネクサスにエネルギーを集中、キムンウルズスの舌を切り裂いた。

 

 ギシャアアア!!

 

 痛みで呻くキムンウルズス。その憎悪を瞳に滾らせ、ネクサスを睨みつける。

 対するネクサスは前回の反省からキムンウルズスが怯んでいた隙に剛力形態ジュネッスストロングに姿を変えていた。

 真正面から互いに組み合ったネクサスとキムンウルズス。

 パワーとパワーのぶつかり合い、優勢はキムンウルズスだった。

 

 「赤い姿でも押されています。」

 「なんて力なの。」

 

 ネクサスとキムンウルズスの戦いを見る二人。孤門も弾もその様子を見ていた。

 

 「隊長、あの姿でも押されてます。」

 「弾隊員、左目の傷は確か君が付けたんだよね。」

 「ええ、まあ。それが?」

 

 力に特化しているジュネッスストロングでも押されるキムンウルズスのパワー。そこで孤門はネクサス=大紀を援護するためにある作戦を思いつく。そんな中、クロムチェスターに通信が入る。

 

 「すみません、今よろしいですか?」

 

 通信をしてきたのは鈴音だった。そして、その隣には避難しているはずの蘭だった。

 

 「蘭!お前、避難してなかったのか!!」

 「お兄ちゃん、ごめん!ただ、一個アドバイスがあって!!」

 「隊長、よろしいでしょうか?」

 「手短にお願いします。」

 

 孤門の言葉に蘭が話し始める。

 

 「今暴れているビースト、ヒグマの特性を色濃く引き継いでいますよね。それだったら、弱点も同じだと思うんです。つまり、心臓の部分を狙い撃つ以外にヒグマの弱い部分を狙うんです!!」

 「それはつまり、どこを?」

 

 孤門の言葉に蘭が自信をもって言う。

 

 「鼻です!!神経が集中しているから弱いんです!それにお兄ちゃんが昔付けた傷も狙うと効果的です!」

 

 蘭の言葉に孤門が笑みを浮かべた。

 

 「ありがとう、蘭さん。弾君、聞いていたよね。」

 「もう一度あの熊公の左目をやれってことすよね。後は鼻か。」

 

 ここまでの話で完全に動きが決まったナイトレイダー。その行動は速かった。

 

 「各機、キムンウルズスの左目を狙って攻撃!その後は鼻にターゲットを集中!」

 「「「了解!!」」」

 

 クロムチェスター各機はキムンウルズスに向かって急降下、その左目に雨のようにレーザー攻撃を行った。そして、古傷に命中して傷が露出した。

 

 ギシャアアア!!

 

 左目をまたもつぶされたキムンウルズスはネクサスを放してしまう。

 解放されたネクサスはがら空きになった胴体に零距離でナックルレイ・シュトロームを当てた。

 大ダメージを受けても、まだ健在のキムンウルズス。ネクサスは再度ナックルレイ・シュトロームを胴体に当てる。二発目のナックルレイ・シュトロームを受けて腹部の傷ができる。そこにネクサスは最大出力のオーバーナックルレイ・シュトロームを至近距離でぶち当てた。

 三度の最大攻撃によりやっとキムンウルズスが消滅した。

 

 

 

 

 

 

 「終わった。じゃあな、熊公。」

 

 消滅したキムンウルズスを見てそう言った弾。そして、他のクロムチェスターや通信で写る鈴音と蘭。遅れて通信をした大紀の声を聞きながら弾は海を見た。

 新たな始まりを迎えるように朝焼けが海を染めていった。

 




 長らくお待たせして申し訳ございません。
 今回の敵であったキムンウルズスは銀色の怪獣さんのアイデアから頂きました。僕の方での設定は下の通りです。


 ウルズス
 ヒグマがビースト化した存在。群れで動くビーストでヒグマと同じく強力な腕力と爪、キバが武器。自衛隊時代の弾の攻撃を受けた個体はエサを喰らい、大きく成長した。キムンウルズスと名付けられたこの個体は強化体のビーストとは違い、元のヒグマのように強く大きく成長したことでこれまでのビーストとは一線を画す存在となっている。そのパワーはジュネッスストロングを大きく上回り、ナックルレイ・シュトローム2発とオーバーナックルレイ・シュトロームを受けてやっと撃破できたほどの防御力を有していた。


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ウルトラマンネクサスover10yearsT 第10話

 この世界とは別の位相にある世界、その世界に巨大な異形が潜んでいた。

 それの姿はまるで地獄の番犬であるケルベロスそのものだった。

 フィンディッシュタイプビースト、ガルベロス。ビースト頻出期にも出現したビーストであり、ビーストたちのオリジンであるザ・ワンに近い存在でもある。

 ここにいるガルベロスはこれまでに確認されたガルベロスと体色が異なっていた。通常のガルベロスは茶色を主とした体色だが、このガルベロスは漆黒の体色だった。

 ダークファウストとダークメフィスト、暗黒破壊神ダークザギが生み出した暗黒巨人たち。ウルトラマンネクサスに撃破された彼らの残滓、暗黒の力を喰らい強化したのがこのガルベロスだった。

 ダークガルベロス、暗黒巨人の力を受け継ぐ魔獣がこの世界に居た。

 身動き一つしないダークガルベロスに変化が起きる。その肉体から小型のビーストが続々と誕生し始めたのだった。

 ダークガルベロスは無数に誕生した小型のビーストたちに咆哮した。

 その咆哮は、ダークガルベロスから自身の分身である小型ビーストたちへの指示だった。自分たちの餌となる恐怖を、知的生命体を喰らえという指示だった。

 小型のビーストたちはダークガルベロスの指示を受けて別の位相=現実世界へと向かっていく。これがこの後に起きる大事件の前触れであることはまだ誰も知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フォートレスフリーダム、ナイトレイダーの基地であるそこは10年前に有していた機能の大半を取り戻していた。

 

 「いよいよ、ナイトレイダーの正式運用だな。」

 

 フォートレスフリーダムの格納庫では、クロムチェスターα機の整備をしていた弾が整備を終えて言った。

 整備を手伝っていた大紀もその言葉に同意する。

 

 「ここまで、和倉さんや隊長たちの尽力があったから何とか来れたんだと思います。俺たちも頑張らないといけないですね。」

 

 大紀の言葉に、弾が近づいて肩を組む。

 

 「そうだな、大紀の言う通りだ。ただ、同僚にいつまで敬語なんだ?かれこれ、色々な任務をこなしてきたのに、敬語は無いだろう。俺と話すときはタメ口で良いぞ。」

 「いや、そうは行かないですよ。だって、弾隊員は俺よりも先輩ですし。」

 「別に礼儀正しいのは悪いことじゃない。だが、ここまで何度も背中を預けているんだ。もうそろそろ、堅苦しいのは抜きにしようぜ。」

 

 キムンウルズス討伐から半年、その間にも多くのビーストが出現した。新宿に出現したペドレオンの別個体、クラスシティアンタイプビーストのグランテラ、ブルームタイプビーストのラフレイア、インセクトタイプビーストのバグバズンといった巨大ビーストを始め、10m級の小型ビーストなど多くのビーストの討伐を行った。

 頻出期を潜り抜けた隊長と副隊長の元、若い隊員の尽力によりここまでに出現したビーストの討伐は成功してきた。当然、その中にはウルトラマンネクサスの活躍もあった。

 かなりの激務を訓練していない一般人、ましてや児童通所デイサービスに努めていた大紀がこなすのは並大抵の苦労ではなかった。

 その激務を乗り越えられたのは、幼馴染みの鈴音や過去にウルトラマンになった孤門と凪の存在があった。そして、その3人の他に助けになったのは今肩を組んでいる弾だった。

 この半年は大紀と弾はコンビを組むことが多かった。それは、ナイトレイダーとしての基本的な仕事を教える他にも、年の近いメンバーの交流を深めようとした孤門の考えがあった。

 大紀から見た弾は自身より少しばかり年上で、元自衛隊ということで初対面の時は少しばかりの恐怖心があった。だが、キムンウルズスの討伐後からコンビを組むようになったことで弾の人柄も分かるようになってきた。

 弾の方はというと、元々は一般人だという大紀のことを当初は心配をしていた。自分たちのように訓練をしているならいざ知らず、入ってきた大紀は戦闘訓練を受けたことのない人物だった。元自衛官だからこそ戦闘任務の過酷さを理解している弾は大紀がそれに耐えられるかを心配していた。

 そんな弾の心配をよそに、というわけではないが普段の訓練に加えて自主トレも行う大紀。そうやって努力している大紀の姿を、弾はコンビを組む相手として好ましく思っていた。

 

 「まあ、今すぐにとは言わねえから。」

 「はい。」

 

 そんな時、二人のパルスブレイカーに通信が入る。

 

 「はい、こちら剣崎。」

 「剣崎隊員、反町隊員。至急ブリーフィングルームへ来てください。」

 

 通信の主はナイトレイダー参謀の吉良沢であった。

 

 「了解。行きましょう。」

 「そうだな。参謀が通信を入れたってことは緊急だろうな。」

 

 大紀と弾はブリーフィングルームへ急ぐ。

 大紀と弾がブリーフィングルームに入った時には、吉良沢を除く他のメンバーが既に準備を始めていた。

 

 「弾、大紀。二人も急いで準備を!」

 「「了解。」」

 

 既に準備を終えていた孤門の指示から二人は即座に準備をする。

 

 「孤門隊長。出現した地点を全員のパルスブレイカーに送信しました。」

 「ありがとうございます。今回はあまりにも出現地点が多いので自衛隊への協力要請も。」

 「TLT日本支部で戦闘に従事できる者全てに出撃準備を通達しています。」

 

 孤門と吉良沢の会話から今回の出動がかなり大掛かりなものであることが分かる。

 

 「隊長、何があったんですか。」

 

 大紀が準備を進める中で孤門に質問する。

 

 「東京のいたるところにビースト反応が確認された。それと同時に新種のビーストの被害が次々と連絡されるようになった。」

 

 大紀の質問に孤門が答える。今までにないレベルでのビーストの出現、ナイトレイダーというよりTLT日本支部へ協力要請が出たのだ。

 

 「確認されたビーストは体長1mから1.5m程度です。過去に出現したガルベロスと類似した特徴が見られます。私はここでビーストの解析を行います。皆さんは複数のチームに分かれて、ビーストの制圧をお願いします。」

 

 吉良沢の指示を聞き、ナイトレイダーの面々は今回の作戦が大規模なものであることを理解する。

 

 「今回の作戦は非常に大規模です。TLTのみではなく、自衛隊など他の機関と連携することが必須です。私はここから指示をしますが、現場での皆さんの判断を最優先にします。」

 「よし、行こう。ナイトレイダー出動!」

 

 これまでにないレベルの大規模襲撃。そこから始まる一連の事件はザ・ワン、イズマエル、ダークザギと言った最大級の被害を出した過去のビースト事件と同列に扱われるようになる。この時の大紀たちはそれを知らずに、現場へと急行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新宿、東京都庁。そこでは、既に自衛隊が作戦本部として準備を進めていた。関係各所への連絡と同時に、自衛隊が有する戦力の準備も行っていた。

 新宿を除いた東京各所では、警察と自衛隊、消防による避難誘導が進められていた。その中で、至る所で爆発音が響く。戦うすべを持たない一般市民は辺り一帯で起こる爆発音、異質な鳴き声に怯えパニックになる。

 パニックになる人々の前に、ビーストたちが姿を見せる。

 ダークガルベロスが生み出した分身、後にその特徴がアメリカウィスコンシン州のン・ガイの森で確認された小型ビーストと一致した。地獄の猟犬から名前が取られ、ヘルハウンドと呼称されるようになるこのビーストは圧倒的な数で多くの人々を死に至らしめることとなる。

 

 ヴアアアアアアアアアア!

 

 異質な咆哮を上げてヘルハウンドたちは多くの一般市民に襲いかかる。人々の悲鳴と肉や骨が引きちぎられる音が東京各所で響き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 都庁で自衛隊と合流したナイトレイダー。各地から通達される被害から孤門が迅速に指示を出す。

 

 「副隊長は本部で自衛隊と協力して各地へ指示を出してください。鳳隊員と菊池隊員は自衛隊と協力して市民の避難の補助を。僕と反町隊員、剣崎隊員は実働部隊と一緒に各地に出現したビーストの殲滅。今回は自衛隊、警察、消防とも情報を共有して作戦行動を取る。解散後、行動開始。」

 「「「「了解。」」」」

 

 自衛隊と合流したナイトレイダーは孤門の指示に従い、各地へ散らばった。

 各地では被害を出し続けるヘルハウンド、避難が遅れている地区へ鈴音と数馬は市民の避難を誘導する。

 

 「落ち着いて避難してください!この先の避難所まで自衛隊の指示に従ってください!」

 「こちらです。鳳隊員、俺はこのまま市民先頭で避難を誘導する。ビーストが出てきたら、連絡する。」

 「了解。気をつけて。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 都庁に残る凪は東京の地図を見ながら、各地からもたらされる情報を元に各地に指示を出す。

 

 「すぐに、情報をください。被害が大きい霞が関周辺へ戦力を集めてください。通常兵器でもダメージが出るので、牽制してください。隊長、反町隊員、剣崎隊員は3チームに分かれて行動して。」

 

 

 

 

 凪の指示を聞いた大紀たちは3チームに分かれて、各地に出現したヘルハウンドの殲滅に動く。

 3チームに分かれて、ヘルハウンドと接敵する大紀たち。ビーストとの戦闘を初めて行う自衛隊と動きを確認する。

 

 「俺が主にビーストを攻撃します。皆さんはとにかく攻撃して牽制をしてください。」

 「他にはどう動く?」

 「皆さんは建物に、逃げ遅れた市民が居ないか確認をお願いします。それでは、行きます。」

 

 大紀はヘルハウンドたちがいる方向へ向くとディバイドランチャーの引き金を引く。

 ディバイドランチャーから発射された光弾は次々とヘルハウンドたちを青白く発光させて消滅させていく。

 ヘルハウンドたちは同族が死んだことで大紀たちの方を向く。

 複数のヘルハウンドが次々と襲いかかる。

 先頭に立つ大紀は襲いかかるヘルハウンドたちを撃ち抜く。背後の自衛官たちもヘルハウンドを牽制するべく持っている機銃の引き金を引き続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別の位相の世界にいるダークガルベロス。現実世界にいるヘルハウンドたちが知覚するもの全てを共有していた。その中に、ダークガルベロスの気を引いたものがあった。

 迷彩柄の自衛官たちを率いる紺色の姿。その顔を見た時に、ダークガルベロスはその世界で咆哮した。

 ダークガルベロスの咆哮に明確な殺意があった。

 

 (やっと見つけたぞ、適応者!かつて、我々を滅ぼした忌まわしき光め!!)

 

 その意思は現実世界のヘルハウンドたちへ伝わる。ダークガルベロスの意思を受けたヘルハウンドたちはある一点を狙い始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が沈み始めた頃、大紀はヘルハウンドたちの突然の行動に驚きを隠せなかった。

 

 「急にどうしたんだ。」

 

 先程まで自分たちを襲っていたヘルハウンドたちが別の場所を目指して走り出したのだ。そのまま追いかけか考えた時、パルスブレイカーに凪からの通信が入る。

 

 「至急、隊長の援護に行って。ビーストたちが隊長のチームに殺到し始めた。」

 

 凪からの情報で大紀、弾はすぐに行動した。

 2つのチームが動いて、孤門のところへ向かうのだった。

 

 

 

 

 「撤退します!援護しながら建物に!!」

 

 ヘルハウンドたちが殺到し始めた孤門のチーム。多くなったヘルハウンドたちにより多くの自衛官が負傷した。

 孤門は自衛官たちに指示を出しながらヘルハウンドたちを攻撃する。なぜ、多くのヘルハウンドがここに集中したのか、その理由をこの時の孤門は分からなかった。絶体絶命と思われたその時、別働隊で動いていた大紀と弾のチームが加わった。

 

 「これだけ集まれば殲滅も楽だ!隊長、助けに来ましたよ!!」

 「隊長、もう少し耐えてください!」

 

 大紀と弾のチームが加わり、ヘルハウンドたちは三方向からの攻撃に怒り狂い反撃する。

 無数のヘルハウンドたちが大紀、弾、孤門のところへ殺到した。

 

 「うおっ!」

 「なっ!」

 「反町隊員!剣崎隊員!くっ!」

 

 殺到するヘルハウンドに埋もれる3人。

 大紀は咄嗟にエボルトラスターを引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘルハウンドたちは衝撃を受けて吹き飛んだ。

 そこに、ウルトラマンネクサスが居た。ネクサスの姿を見て、弾は一息つく。孤門はネクサスを見て、安心する。

 ネクサスは二人と自衛官たちの無事を確認する。そこに、時空の裂け目が現れ中からダークガルベロスが現れる。

 

 ジュアッ!

 

 ダークガルベロスを見るやいなやネクサスはファイティングポーズを取る。

 ダークガルベロスはネクサスを確認すると、その眼を赤く輝かせる。

 夕焼けに染まる街は瞬く間に漆黒の闇に包まれる。

 ネクサスは漆黒の闇の中、ダークガルベロスめがけて走り出した。

 

 デアッ!

 

 ダークガルベロスに向かって飛びかかり、チョップでダークガルベロスの頭部を狙う。

 ネクサスのチョップが当たると思われた次の瞬間、ネクサスのチョップは空を切った。

 ネクサスが着地して、その場を見るとダークガルベロスの姿は既になかった。そして、ネクサスの背後から突如火球が当たり、爆発した。

 

 ディアア!!

 

 背中の衝撃から背後を確認するネクサス。そこには、先程までネクサスの正面に居たダークガルベロスが居た。

 ネクサスはダークガルベロスに向かって、パーティカルフェザーを放つ。

 ダークガルベロスはその場を動かず、漆黒の闇と同化するとその場から消えてしまった。

 姿を消したダークガルベロスは次の瞬間にはネクサスの真横に居た。

 ネクサスはダークガルベロスに気付き、そこを向くがダークガルベロスの爪が振るわれ攻撃を受けてしまう。

 

 「隊長。あのビースト、なんかおかしいっすよ。」

 「闇に隠れて移動する能力があるんだろう。今のままだとウルトラマンが危ない。」

 「次に現れた瞬間に撃ちますか。」

 

 戦いを見ていた孤門と弾。敵の能力を前にネクサスが不利であることから援護することを決める。

 二人はダークガルベロスを狙い、ディバイドランチャーを撃つ。

 放たれる光弾に気付いたダークガルベロスは闇に溶け込んで消える。消えたダークガルベロスはネクサスの背後に移動していた。

 ネクサスは背後に移動したダークガルベロスにパンチを繰り出す。

 それを再び闇に同化して回避しようとするダークガルベロスに孤門と弾が放った光弾が直撃した。

 

 キシャアアアアアアアア!!!

 

 光弾が直撃して怯んだ瞬間、ダークガルベロスの眼のない頭部にネクサスのパンチが炸裂した。

 ネクサスはそのままジュネッスストロングに変身、怯んだダークガルベロスに強烈なパンチを叩き込む。

 パワー形態のジュネッスストロングのパンチに大きなダメージを受けたダークガルベロス。ダークガルベロスは闇の中から2体の分身を召喚、三方向から火球を放った。

 ダークガルベロスの攻撃を見て、ネクサスはナックルレイ・シュトロームを3連続で放った。

 ネクサスのナックルレイ・シュトロームはダークガルベロスの火球を打ち消し、3体のダークガルベロスを爆散した。

 

 「よしっ!」

 

 弾はダークガルベロスが撃破され、ガッツポーズする。

 孤門もそれを見て、凪たちに通信をしようとした時だった。

 

 撃破されたダークガルベロスの体にどこからか現れたヘルハウンドたちが群がり始めた。

 ヘルハウンドとダークガルベロスの肉体は融合、新たな姿となる。

 

 「あれは、暗黒巨人。」

 

 その姿を見た孤門はかつての暗黒巨人たちを連想した。

 ヘルハウンドとダークガルベロスが融合したビーストは、人間と同じ体型の2足歩行で両手に巨大な爪を持っていた。胸部には漆黒のカラータイマー、眼のない頭部は後方に伸び、両肩にはガルベロスの犬の頭部があった。

 

 「忌まわしき光の巨人め。お前を倒して、この星を食い尽くしてやる!」

 

 新たに誕生したビーストは流暢に言葉を喋った。それはここまでに出現したどのビーストとも違うことの証明だった。

 ネクサスは新たに現れたビースト、フィンディッシュタイプビースト=ティンダロスに向かってファイティングポーズを取る。




フィンディッシュタイプビースト=ダークガルベロス
 初登場はウルトラマンギンガ。闇の力で強化されたガルベロスで、本作では暗黒巨人たちの残滓を取り込んで強化したガルベロスである。
 闇に隠れて瞬間移動する能力と複数の分身を生み出す能力を持つ。

フィンディッシュタイプビースト=ヘルハウンド
 ダークガルベロスが生み出した小型ビーストで、その風貌は犬のような姿のビーストである。群れで行動するビーストであるため、人間を捕食する時は群れで追い詰めてから捕食する。


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ウルトラマンネクサスover10yearsT 第11話

 ご愛読している皆様、お待たせしました。当初、この第11話で終了の予定でしたが、話が長くなったため、次回第12話を最終話とします。
 いましばらくお付き合いください。
 それでは、どうぞ。


 新たに出現したスペースビースト、一度は平穏を取り戻したかに見えたが新たに現れたスペースビーストたちはその平穏を脅かす。それらに対抗するため再結成したナイトレイダー。その中で、かつてこの星を守った光は剣崎大紀という若者に宿った。

 大紀はウルトラマンネクサスとなり、スペースビーストの戦いに身を投じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京に出現したフィンディッシュタイプビースト=ダークガルベロス。かつて、この星に現れた暗黒巨人の残滓を取り込み進化したガルベロスである。

 ウルトラマンネクサスはジュネッスストロングに変身、東京に出現したダークガルベロスを撃破した。だが、撃破されたダークガルベロスはヘルハウンドたちと一体化、暗黒巨人の力を受け継いだ獣人フィンディッシュタイプビースト=ティンダロスに進化した。

 

 

 

 

 ダークガルベロスが放出した漆黒の闇が晴れ、夕闇の空が現れる。

 夕闇の空の下、ウルトラマンネクサスジュネッスストロングとティンダロスが向かい合う。

 銀色と深紅の巨人と漆黒の獣人、睨み合った両者が動き始めたのはほぼ同時だった

 ネクサスは一歩前に踏み出すと同時に右手を大きく引く。

 ティンダロスは右腕の爪を大きく伸ばし、それでネクサスを切り裂こうとする。

 ネクサスの拳とティンダロスの爪がぶつかり合う。

 激突する拳と爪、ぶつかりあったその瞬間に衝撃波が広がる。

 拮抗する両者。ティンダロスは憎々しげに口を開く。

 

 「忌まわしい。忌まわしいぞ!お前さえ居なければ、全てを喰らうことが出来た!」

 

 放たれる言葉はビーストとは思えないほどの恨みの言葉。全てを喰らうという捕食本能しか持たないビーストとは思えないほどの意思を感じられた。

 ネクサスはさらに左腕を引き、再度パンチを放つ。

 ネクサスの攻撃を見た、ティンダロスはすぐさま距離を取った。

 距離を取ったティンダロスは右腕にエネルギーを集め、爪型の手裏剣光線をネクサスに放つ。

 ネクサスはアームドネクサスからバリアーを張り、ティンダロスの光線を防ぐ。

 ティンダロスはネクサスが光線を防御した瞬間に、ネクサスの背後へ瞬間移動した。がら空きの背中に向かって右腕の爪を振り下ろした。

 

 ディアアア!!

 

 背後からの攻撃に倒れるネクサス。そこへ追撃をしようとティンダロスが右腕を引き、その爪を突き立てようとした。

 ネクサスは即座に反転、両手でティンダロスの爪を何とか止めるのだった。

 

 「あの日、貴様によって無数の断片へと変えられた俺は何とか元に戻ろうとした。一向に元に戻らない体に苛立ちもした。だが、俺をこの星に差し向けたザギの力の残滓を見つけた。その力を取り込んだ俺はかつての俺を上回る姿になった。今度こそ、俺はお前を殺して、この星の全てを食らってやる!」

 

 ティンダロスの言葉、地球に出現する全てのビーストの起源であるザ・ワンしか知り得ないことを意味していた。

 今のネクサス、現在の適応者である大紀は知らないが全てのビーストはザ・ワンに戻ろうとした結果地球の生物と同化した存在である。

 誕生したビーストたちの捕食本能とは別の本能、それはビースト細胞がザ・ワンに戻るべく足りないものを補うためのものだった。そのビースト細胞は、暗黒破壊神ダークザギの力を持った暗黒巨人の力を取り込んだ結果、進化したのがティンダロスだった。

 暗黒巨人の力を取り込み、本能の他に明確な意思を獲得したティンダロスはかつてのザ・ワンの記憶を取り戻していた。

 ティンダロスは左腕を振り上げ、その爪を振り下ろそうとする。

 ネクサスは咄嗟にティンダロスを蹴り、よろめかせる。

 距離が離れた瞬間、ネクサスは膝立ちのまま両腕にエネルギーを集める。そのまま両手からオーバーフレアシュートをティンダロスに放つ。

 ティンダロスは放たれたオーバーフレアシュートに対し、右腕を突き出して防御した。

 オーバーフレアシュートはそのままティンダロスの右腕に当たり、爆発を起こした。

 ティンダロスの右腕はオーバーフレアシュートを受けて、爆散していた。肘から先が消失しており、その断面が生々しく焼け焦げていた。

 「なるほど。完全な姿ではなくとも、これほどの力があるか。」

 

 そう言うとティンダロスは左腕を振るい、時空の裂け目を開けた。

 ティンダロスは時空の裂け目の中へ入り、姿を消した。

 ここまでの激戦でエナジーコアが明滅を始めていたネクサス。肩を大きく上下させていた。そのままネクサスは膝をついたまま姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダークガルベロスの出現と撃破、ダークガルベロスとヘルハウンドが合体したティンダロス。

 新たに出現したビーストの対抗を立てるべく、ナイトレイダーの面々はフォートレスフリーダムに戻っていた。

 

 「新たに現れたビースト、これまでに確認されていたガルベロスと特徴が一致しました。」

 

 吉良沢がタブレットを操作して出現したビーストについて分かったことをナイトレイダーの面々に話していた。

 

 「最初に確認されたビーストをコードネームヘルハウンドに決定しました。そして、その後に現れたガルベロスはこれまでに確認されたガルベロスと違い、闇の巨人と同じ反応を発していました。」

 

 ダークガルベロスから確認されたビースト振動波、それには暗黒巨人と同様の数値が現れていた。

 

 「じゃあ、昔現れたやつの生き残りがそのビーストってことか。」

 「いや、反町隊員。あくまで、あのガルベロスは闇の巨人とは別の存在だ。何かしらの理由で闇の巨人の力を取り込んだ、と考えるのが自然だろう。今回現れたガルベロスをダークガルベロスと呼称しました。そして、最後に現れたあのビースト。」

 

 ブリーフィングルームのスクリーンにティンダロスの姿が映し出される。

 

 「ダークガルベロスの遺体、ヘルハウンドたちが合体して誕生したこのビーストはかつて出現した闇の巨人、コードネーム=ダークメフィストと同様の特徴がいくつか見られた。」

 

 映し出されたティンダロスの体の各部を、過去に出現したダークメフィストと比較する吉良沢。その結果をナイトレイダーのメンバーは見る。

 

 「このビースト、ダークガルベロスは闇の巨人へと進化したビーストになったと言っていいでしょう。ダークガルベロス改めティンダロス、時空を渡り歩く狩人というべき存在でしょう。以後、我々はティンダロスの撃破を最優先目標とします。」

 

 ブリーフィングルームでの会議を終え、大紀は自室に居た。その体にはこれまでのビーストとの戦いで刻まれた傷があった。先のティンダロス戦での傷と思われる真新しいものもあった。

 

 「ティンダロス、あいつはこれまでのビーストと全く違った。」

 

 傷の手当をしながら、ティンダロスのことを思い出す大紀。

 これまでのビーストと違い、明確な意思を持ったビースト。それだけではない、計り知れないものを感じた。

 大紀は傷の手当をしながら、ティンダロスとの戦いを思い返していた。

 

 「赤い姿の光線で右腕を破壊するのが限界だった。どうやって倒す。」

 

 ダークガルベロスと違い、肉体の強度も段違いに上昇していたティンダロス。さらには、それ以外にあるだろうその力を、戦いの中で大紀は察していた。

 

 「ヒロ、入るわよ。」

 

 大紀の部屋の扉をノックする音に続き、鈴音の声が響いた。

 

 「ああ、待って!、、、おし、良いよ。」

 

 大紀は急いで上着を着る。

 大紀の答えを聞き、鈴音が扉を開けて中へ入ってきた。

 

 「大丈夫?襲われたんでしょ。」

 「ああ、まあ。ヘルハウンドの方は大したことないよ。」

 「他は?本当に大丈夫?」

 

 鈴音の心配そうな表情に大紀は正直に話す。

 

 「背中に何箇所か。多分、ティンダロスにやられた傷。」

 「ちょっと見せて。」

 

 鈴音に言われ、体の傷を見せる大紀。

 

 「結構、多いわね。処置が甘い場所があるから、応急グッズ貸して。」

 「分かった。頼む。」

 

 鈴音は応急グッズを受け取り、大紀の傷を手当していく。

 

 「あのビースト、ティンダロスってやつだけど。大丈夫?」

 「今までのやつと全く違った。正直、驚いた。あんなにも自分の意志が明確なビーストは居なかったから。」

 

 手当をする中で、鈴音は大紀にティンダロスのことについて聞く。

 大紀は正直にティンダロスと戦った時のことを話し始めた。

 

 「明確に敵意を剥き出しにして、襲ってくる奴らばかりだったけど、ティンダロスは違った。敵意は同じだけど、その敵意の質が全く違った。まるで、人間を相手に戦っているようだった。」

 

 人間に近い意思を持ったティンダロスの異質さを大紀は先程の戦いで鋭敏に感じ取っていた。

 

 「赤い姿の光線、前にプリガノティタスに使った光線でも右腕だけを吹っ飛ばすので精一杯だった。」

 「不安、なの。」

 「初めての相手だから、余計に。」

 「初めての相手は、初めてじゃないでしょ。」

 

 手当を終えた鈴音は応急グッズをしまい始める。

 

 「ヒロ一人で戦っていない。私達もいるんだから。」

 

 そう言って鈴音は部屋の扉を開ける。

 

 「不安な顔をしたら、皆心配するからやめなさいよ。」

 「大丈夫だよ。手当、ありがとう。」

 「じゃあ、ゆっくり休んで。」

 

 やり取りを終えて自分の部屋へ戻る鈴音。

 大紀は少しでも戦えるようにベッドの上で横になり、瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異空間にいるティンダロス。ネクサスのオーバーフレアシュートを受けた右腕は再生を果たしていた。

 

 「やっと治ったか。これで全てを破壊することができる。」

 

 そう言ってティンダロスは異空間内で眠りについていたビーストの方へ向く。

 

 「さあ、起きろ。遂に、あの星を喰らい尽くすことができるのだ。」

 

 ティンダロスの呼びかけにそのビーストは体を起こす。青みがかった灰色の体色に、赤く染まった瞳。その体型は恐竜を思わせながら強靭な後ろ足で立っていた。レプタイルタイプビースト、リザリアス。強力な上級ビーストである。

 

 「行くぞ。まずは手始めに、忌まわしき光を宿した者たちのいる場所へ。」

 

 そう言ってティンダロスは時空の裂け目を開く。裂け目の向こう側へとティンダロスとリザリアスは躍り出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フォートレスフリーダム内にサイレンが鳴り響く。

 自室で眠っていた大紀もサイレンを聞き、急いでブリーフィングルームへ向かう。

 同じく、それぞれの自室で休んでいた鈴音と弾も大紀と同じ通路を走る。

 

 「一体、なにがあったんだよ!!」

 「とにかく、ブリーフィングルームに行かないと。」

 

 弾の言葉に、まずはブリーフィングルームに行くように言う大紀。

 3人がブリーフィングルームへ入ると、そのスクリーンには、ティンダロスとリザリアスの姿が写っていた。

 

 「まさか、こんなに早くに来るなんて。」

 「どうせ、やり合うんだ。早い方が断然良い。」

 

 目標となるビーストの出現に驚く鈴音と色めき立つ弾。

 吉良沢と数馬はタブレットを使い、ティンダロスとリザリアスの出現場所を確認していた。

 

 「隊長、ティンダロスともう一体のビーストはフォートレスフリーダム付近の森林に出現。このまま、ここに向かって進んでいます。」

 「ここに到達するまでの時間は。」

 「今の速度なら、15分後にはここに到達してしまいます。」

 

 数馬がティンダロスとリザリアスの正確な場所を割り出した。

 孤門が数馬に2体がフォートレスフリーダムに到達する時間を聞くと数馬からはかなり厳しい時間が出た。

 

 「門倉管理官からは既に避難指示が出ています。基地内の人員、特に戦闘に関わらない人員は避難を始めていますが、どこまでできるか。」

 

 吉良沢から基地内の人員の避難が始まっていることを吉良沢が言うが、到達すると予想される時間から考えてもかなり難しいのは分かった。

 

 「よし、菊池隊員とイラストレーターはここでビーストの分析を続けてください。その間に基地内の避難を進めるのもお願いします。剣崎隊員は基地内で避難の誘導をするように。万が一は、対処もお願いします。他のメンバーは僕と一緒にクロムチェスターでティンダロスとリザリアスへ攻撃を開始します。とにかく、基地への到達は阻止します。」

 

 孤門の指示を聞き、それぞれが動き始める。

 大紀は基地内の避難を進める。その中で、誰もいないことを確認するとエボルトラスターを取り出す。

 大紀はエボルトラスターを鞘から引き抜き、掲げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フォートレスフリーダムからαからγまでのクロムチェスター3機が出撃、そのままティンダロスとリザリアスのいる場所へ向かい戦闘を開始していた。そこへ、大紀が変身したネクサスが駆けつけた。

 

 ディヤ!!

 

 ネクサスはティンダロスとリザリアスに向かい合い、ファイティングポーズを取る。

 

 「来たか。さあ、闇の力を受けて死ぬが良い!!」

 

 ティンダロスはネクサスが来たことでより殺気をにじませる。

 全身から紫色の光を放ち、空へと放射する。

 空へ打ち上げられた光線は周囲を包み込むドームを形成する。

 そのドームは発生者のティンダロスとリザリアス、ネクサスとクロムチェスターを飲み込んだ。

 ダークフィールドG、暗黒巨人が生み出すスペースビーストと暗黒巨人を強化する暗黒異空間ダークフィールドの強化版である。それを、ティンダロスは自らの力で発生させたのだった。

 ティンダロスは引き連れていたレプタイルタイプビースト、リザリアスはダークフィールドGにより強化される。

 ダークフィールドGのエネルギーを受けてリザリアスは、リザリアスグローラーに進化した。

 2体のビーストを相手にネクサスはファイティングポーズを構える。

 ダークフィールドGの上空で、クロムチェスター3機が飛行する。

 

 「隊長。ここは!?」

 「闇の巨人が生み出すダークフィールドだ。ここでは、ビーストと闇の巨人が強化される。」

 「ウルトラマンへの援護は必須、ってことですね。」

 

 クロムチェスターγ機を操縦する弾がα機を操縦する孤門に聞く。弾の質問に孤門が答え、それを同様にγ機内で通信で聞いていた鈴音がネクサスへの援護が必要であることを理解する。

 

 「隊長、私達はリザリアスの方へ攻撃を集中しましょう。少しでも不利な状況を変えないと。」

 「これから僕たちは目標をリザリアスに変更。リザリアスを撃破後にウルトラマンの援護を行う。」

 「「「「了解!」」」」

 

 クロムチェスター4機はリザリアスグローラーへと高速で向かう。

 ネクサスはティンダロスと向かい合い、互いに相手の動きを伺う。

 ネクサスとティンダロスは同時に動き出した。両者は共に相手に向かって走り出したのだった。

 ティンダロスはその両腕の爪を大きく広げ、ネクサスに振りかざす。対するネクサスはティンダロスの爪を掻い潜り、前転でティンダロスの背後に回った。

 ネクサスはそのままジュネッススピードへタイプチェンジ、そのスピードを活かしてティンダロスを翻弄する。

 

 リザリアスグローラーは胸部にできた口と元々あった口から次々と火球を放つ。

 4機のクロムチェスターはリザリアスグローラーからの火球を躱していく。

 

 「このまま3方向からビーストを攻撃。ウルトラマンの方へ向かわせないようにするわよ。」

 

 β機を操縦する凪が他のクロムチェスターへ通信する。凪を指示を聞き、クロムチェスター3機は右左上からリザリアスグローラーを補足、3方向からの集中攻撃を浴びせる。

 クロムチェスターの攻撃を煩わしいと感じているのか、リザリアスグローラーは四方八方に火球を放ち続ける。

 ジュネッススピードに変わったネクサスとティンダロスは目で追うのもやっとの高速戦闘を繰り広げていた。

 ジュネッススピードは眼にも止まらぬスピードで次々とパーティカルフェザーを放つ。

 ティンダロスは闇に包まれて、瞬間移動をして攻撃を回避する。攻撃を回避したティンダロスはネクサスの前に瞬間移動してその両腕の鉤爪を振るう。

 繰り出される鍵爪を躱し、ネクサスはダークフィールドの赤黒い空へと飛ぶ。

 ネクサスは空中からスラッシュレイ・シュトロームを放ち続ける。

 四方八方から襲い来る必殺の光刃、それをティンダロスは躱しながら空中にいるネクサスに鉤爪状の光線を放つ。

 放たれた光線は空中でぶつかり合う。放たれた光線の中にはネクサスとティンダロスに向かっていくものもあった。

 ネクサスは自身を狙うティンダロスの光線を空中で躱す。さらに、自身に直撃する光線についてはバリアーを作って防御する。

 ティンダロスは空中から自身に向かってくるスラッシュレイ・シュトロームに対して、瞬間移動を駆使して回避する。

 ネクサスとティンダロスの戦いはかつてのネクサスと闇の巨人の戦いを思い起こさせるものだった。

 

 

 リザリアスグローラーは自身を絶え間なく攻撃するクロムチェスターに苛立ちを覚えていた。火球が当たれば容易く消し飛ぶ羽虫のような存在が、一向に撃ち落とされることなく自身を攻撃し続ける状況にリザリアスグローラーは怒りを燃やしていた。

 対するクロムチェスターを操縦するナイトレイダー、リザリアスグローラーの火球を掻い潜り攻撃を当ては距離を取るというヒットアンドアウェイ戦法で攻撃を繰り返す。

 かつて、出現したリザリアスグローラーと戦った孤門と凪。二人はその当時の戦闘を覚えており、それを他のメンバーにも話していた。

 

 「なるほど、こんなエグい火球を吐きまくって攻撃するわけか!!」

 

 γ機を操る弾は果敢にリザリアスグローラーを攻撃する。

 

 「だからって吐きすぎじゃない!躱すのも限界だっての!!」

 

 γ機の後部座席に乗る鈴音は愚痴をこぼしながらもリザリアスグローラーを目標にしている。

 

 「隊長、弾隊員、鈴音隊員。今から私の言う作戦を実行して。隊長はやつの注意を引き続けて。無防備になった胸の口に弾隊員と鈴音隊員はミサイルを当てるようにして。流石に口内のミサイル攻撃にはやつも弱いはず。援護は私に任せて。」

 

 現状、攻撃して有利にはなっているものの硬直状態である。そこで凪は現状を打破するための作戦を伝えた。それは火球の嵐を掻い潜り、敵の攻撃を眼前にミサイルを当てるという非常に危険な作戦である。だが、それをためらうナイトレイダーの面々ではない。

 

 「了解。弾隊員と鈴音隊員は僕が注意を引き付けた後に、γ機のミサイルを発射するんだ。」

 「「了解!」」

 

 孤門が操るα機が高速でリザリアスグローラーに向かっていく。

 孤門のα機が来るのを察知したリザリアスグローラーは今度こそ撃ち落とすべく火球を絶え間なく吐き出す。

 リザリアスグローラーの攻撃をβ機に乗る凪はα機に向かってくる火球を次々と撃ち落とす。

 α機のあとに続くγ機もα機を援護する。

 迫りくるクロムチェスターにリザリアスグローラーは次々と火球を放つ。

 α機は火球を掻い潜り、リザリアスグローラーの眼前を横切る。

 リザリアスグローラーはα機を追って火球を放とうと口を大きく開けた。その瞬間を狙って、γ機は搭載されているミサイルを発射、複数のミサイルはリザリアスグローラーの口内に着弾した。着弾したミサイルは次々に爆破、リザリアスグローラーの口は吹き飛んでいた。

 光線の応酬から地上戦での戦いに移っていたネクサスとティンダロス。ネクサスは両腕にエネルギーを集めて、巨大な光刃を作り出した。ジュネッススピードが持つ最強技オーバースラッシュレイ・シュトロームがティンダロスに向かって放たれた。

 ティンダロスは自身に向かって放たれたオーバースラッシュレイ・シュトロームに対して、偶然近くまで来ていたリザリアスグローラーを盾にした。

 ティンダロスによって盾にされたリザリアスグローラーはネクサスのオーバースラッシュレイ・シュトロームを受けて完全に消滅した。

 ネクサスは肩を大きく上下させており、エナジーコアが赤く点滅していた。ダークフィールドでの戦闘、光線技を多用したことなどから大きく消耗していた。

 そのネクサスの隙をティンダロスは狙っていた、ネクサスが大きく消耗するこの瞬間を。

 「これで終わりだ!」

 

 ティンダロスは両腕にエネルギーを集中、両腕を十字に組んだ。

 

 「これでも喰らえ!ノア!!」

 

 ティンダロスの両腕からは禍々しい赤色の光線、ダークレイ・シュトロームを放った。

 かつての暗黒巨人、ダークメフィストの技。その脅威はネクサス=ノアの記憶に残っていた。

 ネクサスは咄嗟に両腕を合わせてバリアーを張り、防御する。だが、バリアーは一瞬の内に砕け散ってしまった。

 バリアーを破ったダークレイ・シュトロームはネクサスに直撃する。

 

 ディアアアアアアア!

 

 ダークフィールドの影響下、更には防御力の低いジュネッススピードだったこともあり、ネクサスは大きなダメージを受けてしまった。

 

 ディッ、ディヤ....

 

 その弱々しい声と合わせてか胸のエナジーコアの輝きも失われた。エナジーコアの輝きと共にネクサスの瞳からも光が失われた。




 リザリアス
 レプタイルタイプビースト。巨大なトカゲのようなビーストで、過去に現れた個体と能力は酷似していた。ティンダロスが作ったダークフィールドGによりリザリアスグローラーに強化されるも、ナイトレイダーにより口内をミサイルで破壊される。弱ったところをティンダロスによりネクサスジュネッススピードのオーバースラッシュレイ・シュトロームの盾にされて消滅した。


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ウルトラマンネクサスover10yearsT 最終話

 どこだ、ここ。

 俺は、俺はどうなった?

 目を開けるとそこには漆黒の闇しかなかった。

 声を出しているのかもわからない。口を動かしている気もするが、自分の声すらも分からない。

 俺は死んだのか?

 直前までの記憶を思い出す。

 確か、俺はウルトラマンになって、ビーストと戦って、、、

 

 「皆は!」

 

 意識がはっきりと覚醒する。何も感じることの出来なかったと思っていたのは、俺がウルトラマンの中に居たからだった。

 俺は視線を上の方へと向ける。そこには赤黒い空が写っていた。

 思い出したのは、トカゲのようなビーストを撃破したこと。そして、ティンダロスの光線を受けたことだ。

 

 「隊長、副隊長、弾隊員、鈴音。」

 

 俺はその場で見つめることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダークフィールドG、そこではナイトレイダーの面々とウルトラマンネクサスがティンダロスとリザリアスグローラーを相手に戦った。

 激闘の末、ネクサスはリザリアスグローラーを撃破する。だが、ダークフィールドGの影響もあり激しく消耗していた。その隙を狙い、ティンダロスはダークレイ・シュトロームを放った。

 ティンダロスのダークレイ・シュトロームを受けて、ネクサスは敗北。その瞳とエナジーコアから輝きが失われてしまった。

 

 「ウルトラマンが、負けた。」

 

 その衝撃的な光景にクロムチェスターγ機を操縦する弾がかすれた声でそう言った。後部に座っている鈴音は眼の前の光景がただただ信じられなかった。

 クロムチェスターα機を操縦する孤門、β機を操縦する凪は過去のネクサスが敗北した時のことを思い出していた。

 ここまでの戦いで勝利してきたネクサスの敗北はナイトレイダーの面々に衝撃を走らせた。

 

 「遂に、遂にノアを。これで、邪魔者は居ない。」

 

 ティンダロスはネクサスが動かないことを確認するとダークフィールドGを解除した。

 

 「今度こそ、この星の全てを喰らい尽くす。さあ、恐怖しろ!!」

 

 ティンダロスは新たに次元の穴を開けると、そこから同族であるガルベロス2体が出現する。ティンダロスはガルベロスが出現したのを確認するとその視線をフォートレスフリーダムではなく、民間人が集中する市街地の方へと向けた。

 

 「行け。」

 

 ティンダロスの命令を聞き、2体のガルベロスは市街地へ歩き出した。

 その様子を見ていた孤門は他のメンバーに通信を入れる。

 

 「総員、新たに出現したビーストを迎撃。市街地への侵攻を少しでも食い止める。」

 「待ってください、隊長!ウルトラマンがやられてんすよ!放って置くんすか!!」

 

 孤門の命令に反発する弾。ここまでの戦いを共に戦い抜いたウルトラマンを放っておけない気持ち自体はこの場にいる全員が持っていた。だが、その気持ちよりも今は人命を優先しなければならなかった。

 

 「今は、僕たちが奴らに対抗するしかないんだ。それに、倒れた彼だって僕たちに戦うように言うと思うよ。」

 

 弾の言葉に孤門が返す。それに、この場で最も動揺しているはずの人物が即座に同意した。

 

 「私も隊長の意見に賛成です。今は迷っている時間はない。」

 

 鈴音は気丈に振る舞っていた。倒れたネクサスは彼女の幼馴染みである大紀。それでありながらも、彼女は守るべき人々を守るために戦うことを選択した。

 鈴音の言葉に弾は歯を食いしばりながらも、操縦桿を動かす。

 クロムチェスター3機はガルベロスへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なんで、動けないんだよ。頼むから、動いてくれ!今、動かないとヤバいんだよ!!」

 

 大紀はネクサスの中でネクサスに呼びかけていた。

 ティンダロスのダークレイ・シュトロームを受けたネクサスはそのエネルギーが既に失っていた。それにより戦うことはおろか、動くとさえ出来なかった。

 大紀の呼びかけにネクサスは一切答えなかった。先程までの激戦のダメージが大きいことが原因である。

 

 「皆が戦っているんだ!頼むよ!」

 

 必死の呼びかけに返事が返ってくることはなかった。大紀はそのままその場で座り込んでしまう。

 

 「ここで何もしないわけには行かないんだよ。ボロボロなのは分かる。でも、でも今行かないと、行かないといけないのに。」

 

 大紀はネクサスに呼びかけ続ける。返事が来ないことを承知の上で。

 

 「なあ、なんで俺だったんだよ。隊長や副隊長じゃなくて、全く関係のない俺をなんで選んだんだよ。」

 

 その中で、適応者となってからずっと考えた疑問が口に出る。歴戦の英雄ではない、ただの一般人だった自分がなぜ選ばれたのか。その答えは新宿で初めてネクサスになったその日から出ることは無かった。

 ペドレオングローラー、ブロブスター、アトラクトム、、プリガノティタス、ジーナフォイロ、ザ・ワンアナザー、キムンウルズス、ダークガルベロス、様々なビーストと戦い続けたがそれでも答えは出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 市街地に進撃するティンダロスと2体のガルベロス。3機のクロムチェスターは人々を守るべく、決死の攻撃を続けていた。

 3体の大型ビースト、最初のビーストであるザ・ワンに近しい存在であるガルベロスが2体に、暗黒巨人の力を持つティンダロス。かつて、新宿に壊滅的被害をもたらした暗黒破壊神ダークザギ、ダークザギが全てのビーストを融合して誕生したイズマエルを彷彿させるほどの猛威が暴れていた。

 3機のクロムチェスターを操縦する孤門たちはなんとか攻撃するも、ティンダロスは自身を狙うクロムチェスターに対して何度も鈎爪状の手裏剣光線を放ってきた。2体のガルベロスも火球を何度も放っており、攻撃するよりも回避することに専念しなければならないほどにナイトレイダーの面々も追い詰められていた。

 

 「だあ、ちくしょう!!鬱陶しいっての!!しつこく遠距離攻撃をしやがって!!」

 「弾隊員、操縦に集中して!!」

 

 γ機を操縦する弾は次から次へと来る攻撃に対して愚痴をこぼす。後部席にいる鈴音は弾に対して集中するように発破をかける。

 

 「このままだと埒が明かない。」

 「隊長、もうすぐで弾薬も尽きるわ!これ以上戦闘を続けるのは困難よ!一度撤退しないと!」

 

 α機を操縦する孤門へβ機を操縦する凪が撤退を進言する。

 

 「いや、ここで撤退してもこいつらは侵攻を止めない。できる限り、ここで攻撃を続けます。」

 「でも。」

 「分かってます。でも、彼はきっと戻って来る。だから、僕たちはここでできることを続けるんです。」

 

 撤退をしないと言った孤門。たしかに現状厳しいものである。だが、それでも孤門は彼を、ネクサスに選ばれた大紀のことを信じていた。必ず彼は戻ってくると、そう信じていた。かつて、同じ光に選ばれてダークザギを退けた孤門だからこそ、同じ光に選ばれた大紀のことを信じていた。

 同じように、ネクサスに選ばれた凪は孤門のその言葉が決して楽観的観測から来ているのではないことを分かっていた。

 

 「ええ、そうね。でも、本当に無理になったら撤退は必要よ。そうなったら、全員で一度帰投する。良いかしら?」

 「はい、まずはここをなんとしても。」

 

 この場で戦っている誰一人として諦めていなかった。そして、それはフォートレスフリーダムにいる数馬と吉良沢も同じだった。

 

 「イラストレーター、警察と自衛隊への協力要請は完了。即座に市民の避難誘導を進めている。さらに、自衛隊の戦力も隊長たちの方へ回してもらっています。」

 「よし、私も基地内に残っている別ユニットに出撃を指示しています。何とかして3体のビーストを止めます。」

 

 基地内に残っていた二人は関係各所への協力要請、基地内に残っていた隊員への出動指示など自分たちのできることをやっていた。この戦いに関わる全ての人間が誰一人として諦めていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネクサスの中で打ちひしがれていた大紀。その脳裏に、外で戦っている仲間たちの声が響いてきた。

 

 「皆、まだ戦っているのか。」

 

 駆けつけた自衛隊の協力で3体のビーストたちと戦う孤門たち。基地に残りながら的確な指示を伝え続ける数馬と吉良沢。その要請を受けて、自衛隊の戦車部隊がティンダロスとガルベロスに向けて砲撃を始める。

 自衛隊の支援を受け、クロムチェスターはティンダロスたちを攻撃する。

 

 「ナイトレイダー、要請を受けて協力に来た。」

 「ありがとうございます!危険を感じたら、迷いなく撤退してください!」

 

 自衛隊の戦車部隊の指揮官が孤門に通信する。孤門は協力に感謝した。

 さらには、自衛隊の航空部隊も駆けつける。窮地だったナイトレイダーの元に数多くの戦力が集まる。そこへ、フォートレスフリーダムの方向からはクロムチェスターδ機が飛来する。

 

 「孤門隊長。こちら、菊池。支援に来ました。」

 

 δ機には数馬が乗っていた。

 

 「よし、クロムチェスター各機へ。これより、ハイパーストライクフォーメーションに入る。」

 「「「「了解!」」」」

 

 数馬が加わったことで、ナイトレイダーが要する最強戦力であるハイパーストライクチェスターへ合体する。

 人間たちの反撃に煩わしさを見せるティンダロス。

 

 「鬱陶しい。脆弱な人間どもが!!」

 

 ティンダロスは怒りから爪状の手裏剣攻撃を放とうとする。ガルベロスたちも口内に火球を生成して放とうとする。

 ビーストたちの攻撃にひるまずに立ち向かうナイトレイダーたち。

 

 「こんなところで諦めるかよ!」

 「ここまで戦力が揃っているんだ。そう簡単に負けることはない。」

 「彼が戦った。ずっと戦い続けている私達が諦めるわけには行かない。」

 「あいつが頑張っていたのに、私が折れるわけには行かないのよ。」

 「僕たちは決して諦めない!」

 

 

 

 

 

 

 ネクサスの中にいる大紀の元へ仲間たちの声が響いてきた。

 

 「皆。」

 

 仲間たちの声が、戦う姿が折れかけていた大紀の心に火を灯す。

 

 「そうだ、ずっと諦めずに戦い続けてきたんだ。明日を掴むために、誰かの未来を守るために!」

 

 大紀の眼差しは先程までのような弱いものではなかった。

 立ち上がり、拳を握りしめるその姿は先程までの弱々しさはない。

 

 「なんで選ばれたのか、俺だった理由は分からない。だけど、諦めずに戦うことに迷いはない!!」

 

 大紀の右手に光が集まる。その光は形となり、エボルトラスターとなる。

 大紀はエボルトラスターの柄を握り、鞘から引き抜く。これまでにないほどの輝きを放つエボルトラスター。第きは湧き上がる感情のままに叫んだ。

 

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 翳されたエボルトラスターから眩い光が溢れ出す。そのまま、大紀は光に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地面に倒れたネクサスのエナジーコアから光が溢れ出す。そして、その光はネクサスを包み込み、赤い光球へと変化して激しい戦いが繰り広げられている場所へ高速で向かっていく。

 自衛隊の攻撃を受けるティンダロス。ハイパーストライクチェスターを狙い、光線を放ち続ける。ガルベロスたちも次々と火球を放ち続ける。

 そこへ、赤い光球がハイパーストライクチェスターと自衛隊を守るように降り立った。

 光球は火球と光線を受けて爆散、そこには復活したウルトラマンネクサスジュネッススピードがいた。

 

 「ウルトラマン!」

 

 誰が発したか、眼の前に倒れたネクサスが復活した。その事実にナイトレイダーも自衛隊も歓喜の声を上げる者が数多くいた。

 

 「馬鹿な!確実に光は消えたはず!なのに、なぜ!!」

 

 ティンダロスは眼前の光景に驚愕する。

 ネクサスはそのままファイティングポーズを取る。

 

 ジュア!!

 

 「総員、ウルトラマンを援護!」

 

 孤門の指示がこの場にいる者たち全員に届く。

 復活したネクサスはティンダロスとガルベロスに向かって走り出す。

 ガルベロスが火球を放つ。ティンダロスは爪をギラつかせて、ネクサスに爪を振るう。

 ネクサスはアームドネクサスの刃にエネルギーを集める。ティンダロスの振るう爪に対して、光の刃でリーチを伸ばしたアームドネクサスで攻撃する。

 ガルベロスたちは得意の幻影で自衛隊とナイトレイダーを翻弄しようとするも、圧倒的な物量の前では意味をなしていなかった。

 自衛隊の攻撃を受けて攻撃がまともにできないガルベロスを2体同時に狙いを定める孤門。

 

 「エネルギー充填100%、ハイパーストライクバニッシャー発射準備完了。」

 

 δ機のコックピットにいる数馬がハイパーストライクチェスター最強の装備が準備できたことを伝える。

 数馬から準備が完了したことを聞いた孤門は冷静にガルベロス2体を見据える。

 

 「ターゲットロック、ハイパーストライクバニッシャー発射!!」

 

 操縦桿のボタンを押した孤門。その直後、ハイパーストライクチェスターの2つの砲門からスペースビーストを消滅させる最強兵器であるハイパーストライクバニッシャーが発射される。

 青白い光線はそのまま2体のガルベロスを貫いた。

 2体のガルベロスは断末魔の咆哮を上げることなく、地面に後ろから倒れて消滅した。

 

 「よし、ウルトラマンの援護へ向かうぞ。」

 「「「「了解!」」」」

 

 ガルベロスを撃破したナイトレイダーは、ネクサスとティンダロスが戦っている場所へ向かう。

 ネクサスとティンダロスは激しい高速戦を繰り広げる。ティンダロスは再びダークフィールドGを展開しようとするが、ネクサスはジュネッススピードの特性である敏捷性を活かしてそれを阻止する。

 

 「グッ、死ねえ!!」

 

 ティンダロスはネクサスを一度は撃破したダークレイ・シュトロームを放つ。一方のネクサスはオーバースラッシュレイ・シュトロームを放った。

 青白い巨大な光刃と紫と黒の光線がぶつかり合う。だが、ティンダロスが放ったダークレイ・シュトロームはネクサスのオーバースラッシュレイ・シュトロームに切り裂かれ、霧散する。

 光刃はティンダロスへと向かい、ティンダロスの胸に大きな一筋の切り傷を付けた。

 ティンダロスは体にできた傷を抑える。その顔は怒りと憎しみに満ちていた。

 

 「殺す、殺す!コンドコソコロス、ノア!!」

 

 傷ついたティンダロスはその身に宿る暗黒巨人の力と原初のビーストであるザ・ワンの本能を開放。その肉体をより禍々しく変化させた。

 胸の傷はふさがり、痕となる。肉体はより頑強になり、獣人から獣へと変化する。長大な尻尾が生え、背部には二対の巨大なトゲが生える。そして、眼球のなかった顔には爛々と輝く白目が出現する。

 その姿はザ・ワンに酷似していた。変化を終えたティンダロスはネクサスに向かって咆哮する。

 

 ぎしゃあああああああああああああああああああああああ!!

 

 ティンダロス・ディアブロ。原初のビーストへと戻ろうとしながらも異質の進化を遂げたびーすとである。

 ティンダロス・ディアブロはネクサスに向かって突進、その巨大な肉体をネクサスにぶつける。

 

 ディヤアアア!!

 

 ネクサスはそのまま吹き飛ばされ、地面に倒れる。

 ティンダロス・ディアブロは巨大になった両腕をネクサスに何度も振り下ろす。

 ネクサスはアームドネクサスからバリアーを張って、ティンダロス・ディアブロの攻撃を防御し続ける。

 ティンダロス・ディアブロは両腕による叩きつけを何度も繰り返す。

 ガルベロスを撃破したハイパーストライクチェスター、自衛隊の戦車部隊と航空部隊がティンダロス・ディアブロを攻撃する。

 ザ・ワンへ限りなく近づいたティンダロス・ディアブロはハイパーストライクチェスター、戦車部隊と航空部隊からの集中砲火をすべて無視していた。

 

 「隊長、こちらの攻撃を全て意に介していません。」

 「もういっちょ、デカいのをぶち込んだほうが早くないですか?」

 

 数馬の分析から弾がハイパーストライクバニッシャーの使用を提案する。

 

 「さっきの攻撃から時間をおいていない。放熱の時間を考えれば、先程の6割の威力しか撃てないわ。」

 

 それに対して凪が答えた。ガルベロス2体を撃破したハイパーストライクバニッシャー、かなりの高出力で放たれたそれはハイパーストライクチェスターの砲門に多大な負担をかけていた。

 

 「それでも、ウルトラマンの助けになるはずです。試す価値はあると思います。」

 

 復活したネクサス=大紀の助けになるならばと鈴音が進言する。その言葉に、全員の気持ちが一つになる。

 

 「よし、ハイパーストライクバニッシャー発射準備。」

 

 孤門の命令で再度ハイパーストライクチェスターの砲門にエネルギーが集まる。

 ティンダロス・ディアブロは口内に青白い炎をため始める。

 ナイトレイダーの援護射撃が速いか、ティンダロス・ディアブロの滅殺破壊火炎が速いか。その答えはすぐに訪れた。

 

 「ハイパーストライクバニッシャー、エネルギー充填60%。」

 「ハイパーストライクバニッシャー発射!」

 

 ハイパーストライクチェスターから放たれた2度目のハイパーストライクバニッシャー。それは1度目よりも威力は下がっているが、ティンダロス・ディアブロへと向かって飛んでいく。

 ティンダロス・ディアブロは口内に貯めていた滅殺破壊火炎をネクサスに向かって放とうとする。その瞬間、ハイパーストライクバニッシャーがティンダロス・ディアブロの横面へと炸裂した。

 ハイパーストライクバニッシャーを受けると同時に連鎖的に口内の滅殺破壊火炎が暴発する。

 

 ギヤアアアアアアアアアア!!

 

 ティンダロス・ディアブロは顔面と口内で起きた爆発によりネクサスから離れた。

 ネクサスは自由になった瞬間に、アームドネクサスを赤く輝かせる。

 ネクサスはジュネッススピードからジュネッスストロングへタイプチェンジ、力強く拳を握りファイティングポーズを取る。

 ネクサスはダメージを受けて呻くティンダロス・ディアブロの顔面に剛力を込めたパンチをお見舞いする。

 鈍い音が響き、ネクサスは何度もパンチをティンダロス・ディアブロに浴びせる。

 よろめくティンダロス・ディアブロの懐にネクサスは潜り込むと、腰から持ち上げて地面へ叩き落とす。地面へ叩き落としたティンダロス・ディアブロを持ち上げて再度地面へ叩き落とす。さらに、持ち上げて山の方へ投げ飛ばす。

 ハイパーストライクバニッシャーに強烈なパンチと投げ技、いくらザ・ワンへ限りなく近づいたとはいえ決して少なくないダメージを受けたティンダロス・ディアブロ。反撃と言わんばかりに口内で青白い滅殺破壊火炎を貯める。

 ネクサスは2つの光球をアームドネクサスから生み出し、オーバーナックルレイ・シュトロームの準備をする。

 ティンダロス・ディアブロは火球として滅殺破壊火炎をネクサスに向かって放った。

 ネクサスはオーバーナックルレイ・シュトロームを放つ。

 巨大な光弾は火球を一瞬で消し飛ばし、ティンダロス・ディアブロを消滅させた。

 激闘の末、ネクサスの勝利に終わった。ネクサスはそのまま空へ飛び立ち、姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティンダロス撃破から1ヶ月後、フォートレスフリーダムの中ではサイレンが鳴り響いた。

 大紀は装備を整え、チャンバーに立った。

 

 (なぜ、俺が選ばれたのか。俺が選ばれた理由は分からずだけど、なんとなく俺だから選ばれたというのは感じた。)

 

 ティンダロスの戦いの中で、ネクサス=ノアの意思に触れた大紀。ここまでの戦いで、大紀は答えを自身で見つけていた。

 

 (なら、未来を守るために戦い続けるさ。)

 

 その表情はどこか明るく精悍なものだった。

 




フィンディッシュタイプビースト=ティンダロス
 ダークガルベロスが無数のヘルハウンドと融合して誕生したビースト。暗黒巨人ダークメフィストの力の残滓を取り込んでおり、ダークメフィストの戦力を使うことができる。暗黒巨人の力を取り込んだことで高い知性を有する。異空間へ移動する能力とダークレイ・シュトロームを始めとした光線技、ダークフィールドGを展開する能力を有する。

フィンディッシュタイプビースト=ティンダロス・ディアブロ
 復活したネクサスジュネッススピードのオーバースラッシュレイ・シュトロームを受けたティンダロスが体内の暗黒巨人の力とビーストザ・ワンの本能を開放したことで変化した姿は限りなくザ・ワンに近づいた存在であり、巨大な両腕と青白い滅殺破壊火炎が武器。高い知性は失われ、ビーストが持つ殺戮本能で暴れまわる。


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