恋姫で巣作り (黒龍なにがし)
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プロローグ

注意はよく読み、よく吟味して、覚悟完了してお読みください
これは12月20日発売される「巣作りカリンちゃん」を恋姫世界にぶち込むちょっと待とう、な内容な作品となっております
まだ発売されてなく体験版しか遊べていない状態で書かれているので、発生するイベントが可笑しい可能性があります


世界は彼の願いを……

 

彼は世界の願いを……

 

しかし、世界は動く。

 

彼の望みとは逆に世界は動いていく。

 

けれども世界は彼の敵ではない。

 

世界は彼の望みを叶えようとしていただけだった。

 

ただ、望みを叶えようとしているだけだった。

 

世界は彼に救われたから、願いを叶えたかった。

 

望みを叶えたかった。

 

ただそれだけだった。

 

どこで歯車が狂ったのか。

 

彼は【光】を失った。

彼は【口】を失った。

彼は【手】を失った。

 

世界は何度も繰り返す。

 

願いを繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返しし繰り返し繰り返し繰り返し返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返しし繰り返繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返しし繰り返し繰り返し返し繰り返し繰り返し繰り返しり返し繰り返し繰り返繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返しし繰り返し繰り返しし繰り返し繰り返し……繰り返した。

どこで狂ったのか、世界は彼の味方であろうとしていた。

ただ彼の願いを、望みを叶えようとしていた。

彼は【心】を失った。

彼は【名】を失った。

彼は【道】を失った。

彼は世界を敵と定めた。

彼が死ぬたびに繰り返される世界で。

死ぬ度に己にソレを刻み只の一手一手積み上げ世界の前に立った。

運命を捻じ曲げ、戻ろうとする修正を断ち切り、修正しようとする世界を断ち切り。

辿り着いた果てには……彼はヒトとは言えないものになっていた。

彼は【五感】を失った。

彼は【言葉】を失った。

彼は【仲間】を失った。

彼は【感情】を失った。

彼は【記録】を失った。

彼は【過去】を失った。

彼の眼に映るのは魂の姿。

彼の耳を打つのは心の声。

 

それでも世界は彼の味方だった。

 

世界は彷徨う、たとえ断ち切られようとも彼を求め、彼の願いを叶えられる世界を。

 

世界は探す、たとえ彼が私の敵となろうとも、彼の望みを叶えたいから。

 

私は世界を渡り、彼が願いを叶えられる様に願う。

 

私は……

 

私は……

 

もう探せなくなってしまったけれど……

 

だから……願ってしまった。

 

誰か……彼を……救ってあげてほしい、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

割れる音が一つ。

 

私が終わる。




こんなプロローグで期待してくださる方は次回をお待ちください


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第一話 物語の始まり 運命との出会い

こんな主人公で大丈夫か?
大丈夫だ問題ない、そんな人は最後までどうぞ


 俺は大きく息を一度吸い、大きなため息を吐いて肩を落とす。

 今まで付き合いのあった仲間たちが三人同時に冒険者を引退することになってしまったために、一人になってしまった為少々困っているのだ。

 冒険者として組んでいたのだから危険がないという訳ではないし、確かに今までも怪我が全くなかったという事はないのだが三人同時というのは堪えるしかないだろう。

 ため息はどうしても漏れるものだが。

 別れるときに隣にそれぞれに彼女がいたというのだから。

 ただ、短い間とはいえ仲間だったのだから祝福してやるべきだろう、普通ならば羨ましく思うのだろうか、それとも妬むものなのか。

 俺にはわからない。

 

「お兄さん、お困りですか?」

 

 そんなことを考えていたら、後ろから声をかけられた。

 その声に訝しく思いながらも表情に出さず、振り返る。

 振り返った先にはシルクハットが見えた、視線を落とせばモノクルを付けた金髪の少女が俺を見上げていて、服装はタキシードを模したドレスと言ったところだろうか?

 その顔を見て、驚く。

 

「………」

 

 言葉は出せないが、なぜ風がいる?そんな疑問が頭の中を埋める。

 イクドトナククリカエサレルキオクノナカタダノイチドモダレヒトリタスケルコトガデキナカッタノダカラ ソレガサイゴニタドリツクタメニヒツヨウナイケニエダトイワレテイルヨウニ

 

「?」

 

 振り返ったものの返事がないことから首をかしげている、いや、あの風なら……隠した驚愕を見つけて不思議に思っているだろうか。

 少しかぶりを振り、軽く頷く。

 

「んー……見ても分かりませんねー」

 

「?」

 

 今度はこちらが首をかしげる番だったがわかっている、ため息を見て声をかけたという事は、聞こえている。

 

「なんで声をかけたかという事でしたら、盛大にため息をつかれていましたから―」

 

 顔を隠すように片手で顔を覆い、恥ずかしいところを見られたと言わんばかりにジェスチャーをする。

 

「ふふふ、お金絡みですか?」

 

 やや、肩をすくめ肯定のために首を縦に振る。

 

「それはそれは……ここで声をかけたのも何かの縁です。フウのお願いする仕事をしませんか?」

 

 再び首をかしげる、さすがに仕事の内容を詳しく聞かずに受けることはできない、受けると逆に不審がられるだろう。

 もしくは罠を前提としているかだが、フウからはそんな気配は感じられない。

 

「これぐらいですね」

 

 報酬の事だと勘違いしたのか、報酬の額を示された。

 結構な額だろう、今泊まっている宿なら一週間分になる。

 なのだが俺は一度首を振る。

 

「金額が足りませんでしたか?」

 

 その言葉にもう一度首を振り腰に差した剣を指し、次いで頭を指し、最後に力瘤を作って見せる。

 暗にどれを使う仕事かと聞いているのだが……通訳というか交渉できる人がいないというのは手間がかかる。

 

「おお……内容を話していませんでしたね。ここから近い枯れ迷宮への案内なのですよ。フウはそういった迷宮を見たことがないので見てみたいのです。道中の護衛も兼ねたお値段なのですよ」

 

 説明には納得できる、護衛がいることで難易度は上がるし品のある姿からどこぞのお嬢様だと言われてもあっさりと信じられるだろう。

 出された金額も無理に捻出したとも見えるはずもない、気になるのは何を試そうとしているかになるのだが害意、敵意は感じられない。

 俺は承諾の意を伝えるために首を縦に振る。

 

「無事受けてくれて嬉しいのですよ」

 

 さぁ、また繰り返/踏み出そう……一人の新しい一歩を踏みしめるこの時を……

 

 

 

 フウからの依頼を完了して宿に戻ってきたのだが、迷宮の中までの案内を引き受けたことで追加として今は最初に提示された倍に近い金額が今懐にある。

 日は落ち、部屋の灯りも落としているので、部屋の中を照らすのは窓から入る星明りが精々なのだが……音を立てないようにフウが俺の部屋に入ってくる。

 いや、なんでフウがこんな時間に俺の部屋に入ってくるんだ?

 スルスルと衣擦れの音がするのだが、なんでフウは服を脱いでいるんだ?

 いやいや、なんでフウさんは恥ずかしがりながらももぞもぞと生まれたままの姿で俺のベットの中に潜り込んでるんですかね?

 そうしないとできない魔法を使うから?ア、ハイ。

 しかし裸になって密着する魔法か……いかんな性魔術くらいしか思い浮かばないんだが、フウが俺にする理由がどうしても思い浮かばない。

 投げ出していた腕の上に頭を置いたから寒いだろうと、寝返りをするふりをして抱きしめてフウの顔を俺の胸に押し付ける。

 抱きしめるときに緊張からか、それとも起きていると思ったからなのかフウの体がびくりと震えたが知らないふりをしたまま、掛け布団をフウにしっかりとかけてやる。

 背中が少し寒いと感じるが、それも懐かしいと感じてしまえる。

 寒いのかフウの体温が少し上がる感じがする、空いている手で少し強めに身体全体を密着させるように抱きしめればフウが何かを呟きだす。

 

「あうあう……ぎゅっとされて……えっとえっと……」

 

 しばらくそうしていると何かと接続される感触がするので、そちらに意識を向ければ中空にツインテールをくるくると巻いた独特な髪形をした金髪の少女が魔族っぽい服装で、足を組んで座る様にしてこちらを俯瞰していた。

 フウだけでも驚いたんだがな……手のひらからこぼれてしまった人と同じ顔をまたみたのなら驚いても仕方がないだろう。

 カリン……フウもいたのだ……他にもいるのだろうか。

 

「ひゃんっ?!」

 

 驚いたときに指が動いてしまったのだろう。

 

「この男?」

 

 あぁ……そうか……俺の知っている二人じゃあないんだな、フウに声をかけられたときから覚悟はしていたが、かなり胸にくるものがある。

 

「ん、んん……そうです」

 

「なるほど……」

 

「フウが用意した罠を、全て避けました。求められていた資質を持っていますよ」

 

 枯れ迷宮な筈なのに罠が生きていた理由はフウが原因で、カリンに紹介するために試していたと……見た感じから微妙に封印が解けた状態か?

 

「それは私が求めた資質ではなく、フウが求めた資質でしょ」

 

 カリンは少し困った表情をして風の言葉に返す。

 

「魔王さまの役に立ちますよ」

 

 質問したいが言葉がないというのももどかしいものだ、静観しているしかないだろう。

 

「そうかしら」

 

 夢魔法だと思うのだが……あれは服を着ていても大丈夫じゃなかっただろうか?

 魔王、役に立つ、封印、こうした手段での通信、試された内容……封印を解く手伝いか、迷宮の運営の手伝いだろうか、もしくはそのどちらもか。

 考え込み再び見上げてみれば、視線が合う。

 

「あら、私を感じられるなんて、思ったよりも見込みがあるわね」

 

「それはきっとフウが中継しているからですよー。驚くのは、ここで動けることですね」

 

 二人の言葉に肩をすくめてみせる。

 

「そういえば、そうね。ふーん?」

 

 どこか機嫌よさげに笑みを浮かべる。

 魔王。魔物を統べる王。世界を混沌に導き、破滅を望む王。

 と、言うのが一般的な知識なのだが、割と奔放な者たちが多いイメージだろうか……昔に会ったことがある魔王はあの爺さんだからな。

 迷宮の運営なら呼べば来てくれるだろうか?

 

「貴方」

 

「魔王さま、彼の名はカズトです」

 

 お兄さんではどうしても懐かしさが勝ってしまうから名前を教えていたんだったな。お兄さん呼びのままだったが、理由が話せなければ仕方ないだろう。

 名乗れないが装備の一部に名前を掘っているためにそれで教えていた。

 

「そう、カズト。貴方は私が本当に魔王か、そう疑っているのかしら?」

 

 言葉をしゃべれないために沈黙していることと考え事をしていたことから、そう勘違いしたのだろうが、彼女たちの言葉に嘘は感じられない、そして嘘をつく理由もない。

 だから俺は首を横に振る。

 

「あら?嘘だとは思ってもいないのかしら」

 

 嘘だとは思っていないことを肯定するために頷き続いて首をかしげる。

 

「私の名はカリン。魔王カリン。私の復活のため、貴方の力を寄越しなさい」

 

 力を求められた、助けを求められた。

 いつも俺が君たちから力をもらっていたんだ。

 いつも俺は君たちに助けられてきたんだ。

 なら応えないわけにはいかないだろう?

 俺は君たちの味方だと。

 俺は君たちの幸せこそを願ったのだから、笑顔こそを望んだのだから。

 しかし、カリンがあのように復活したのはここ最近だろう、あの事とは関係があるのだろうか?

 

 

 

 夜は明け、窓から日差しが入ってきて明るくなる中、腕の中で寝息を立てていたフウがもぞもぞと動く。

 ふむ、起きたがこのまま二度寝をするつもりらしい。

 腕を引き抜き、布団から出て椅子の背もたれにかけておいた上着を羽織る。

 そのまま階段を降り店主に顔を出して朝食を一食分用意してもらう、指をつまむような形にして男性冒険者が食べるには少々少ない形にしてもらって。

 

「珍しいな、お前さんが朝飯を頼むなんてよ。明日には槍でも降るのかね?……つーか身体でかいんだからもっとしっかり食いやがれ」

 

 俺を指し片手を振るうことで俺の分じゃないことを示しておく。

 ホワイトシチューにロールパンが二つにベリーズサラダ、ヨーグルト、線の開けられていないオレンジジュースの瓶が一つ。

 シチューの中には大きめに切られた鶏肉に人参、玉ねぎ、じゃがいも、彩に刻まれたセロリが振りかけられていた。

 鼻腔を擽るこの匂いは食欲を誘うだろう。

 部屋に戻ってみれば、寝返りを打ったつもりだというのか布団を下腹部まで下げ、胸部を見せつけるようにこちらを向いて目をつむって、寝たふりをしているフウが変わらずベットの上にいた。

 起こすために頭を撫でてみるが

 

「むにゅう……むにゃむにゃ……」

 

 わかりやすい寝言で返してくれる。

 今度は肩をゆするが、定例の後五分が返ってくる。

 よろしい、そちらがその気ならこちらにもまだ手があるという事を教えてあげよう。

 かちゃりと持ってきていた朝食を備え付けの机の上に置き、荷物の中からわざと音を立てながらキャンパスのセットを取り出す。

 それを寝たふりをしているフウの前に置き、描き始める準備をする。

 

「あの……おにいさん……?」

 

 薄目を開けて現状を確認したのだろう、確認して目がしっかりと開けられていた。

 だが、そのまま描き始める。

 

「わわわ、負けましたよー、起きたから描くのはやめてください―!?」

 

 うむ、よろしい。

 畳まれていた服をフウを渡して、部屋の外に出る。

 女性の着替え除くような変態ではない。

 しばらく待っているとフウが部屋から出てくる、机の上を見れば朝食も食べてくれたようだ。

 

「うぅ……それじゃあ、行きますよ」

 

 顔が赤らんでいる。

 行先はどこだろうかと考えるが、おそらく昨夜の魔王のところだろう。

 部屋にもう一度戻り、荷物と空になった食器を手にフウについていく。

 俺はフウの案内に従って山を目指した、一般的にはギオウ山と呼ばれるがもう一つ名前がある。

 魔王の墓という名前があるのだが……迷宮はあっただろうか?

 

「ところでですねー。まずはフウの紹介をしたいのですが、かまいませんか?」

 

「?」

 

 唐突に言われ首をかしげる、ギュンギュスカー商会の者だと思っていたのだが今更説明が要るのだろうか。

 

「フウはギュンギュスカ―商会という魔界にある商店で働いている者です」

 

 その言葉に頷く。

 

「魔界と聞いて、岩しかないような場所を想像しているかもしれませんが、魔界もこのあたりとかわりませんよー」

 

 知っている、魔界はこちらと変わらない次元を挟んだ異なる地上だと思っている。

 住んでいる種が違うだけで知性もなく暴れるものこそ稀だし、人間が想像するような混とんとした世界ではない。

 気質が荒いものが多かったり力寄りの統治がされているのは確かだが。

 

「人ではなく、魔族が生活しているだけで、このあたりとかわりませんよ」

 

 農業をやってる魔族もいるし、猟師をしている魔族もいる……というか神でも農神や狩猟の神という者は居るのだからそう不思議でもないだろう。

 欲に忠実な分発展も早く、また長寿なものが多い関係でそこらの街が王都よりも発展しているのもざらだそうだ、随分と変わったのか。

 フウの言葉に相槌を打っていく、魔王にも色々といるという説明があったが既に知っている。

 一人でうろうろする……俺の事か。

 

「魔王カリンさまは、魔界からこちらの世界に訪れました」

 

 フウによる説明ではカリンが来たのは千年前、何かしらの理由で封印された、最近目覚めた……正確にはフウが封印の一部を解いたないしは目覚めさせたといったところ。

 目覚めた理由は封印の劣化と説明されたが、もしそうなら俺に手伝えることはない、なので嘘。

 まぁ、そこは重要なことではないので突っ込まない。

 

「あそこに魔王さまは封印されているのですよー」

 

 ここには洞窟の入り口はなかったはずだが、辿り着いた場所にはぽっかりと洞窟の入り口が口を開けて侵入者を待っていた。

 フウを見ると十日ほど前にフウが作ったとのこと。

 となると十日より前に封印が解け応援が必要になった?アレが戻ったのとそう変わらない時期だが……カリンの封印と関係している?なぜ?アレは勇者や魔王とは全く関係がなかったはずだ。

 自然の岩が露出している自然の洞窟に見えるが、岩に触れてみればわかる……この迷宮は生きているそれが触れることでわかる。

 

「お兄さん、フウより先に行くと危ないですよ。罠を仕掛けてありますから」

 

 その言葉にフウに前を譲ると奥まで辿り着きなにか呪文を唱えると、さらに奥へ続く道が現れた。




今のところ分かっている巣作りからの登場人物
フウ(魏)
カリン(魏)
カロン(魏)
ケイファ(魏)
シュンラン(魏)
シュウラン(魏)
レンファ(呉)
シャオレン(呉)
シシュン(呉)
ミンメイ(呉)
蜀(ぇ


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第二話 爺さんのおちゃめ

ストックは尽きた
後はナメクジ進行だ


 フウの呪文が紡がれ終わると行き止まりだった土壁は黄色の石造りで等間隔に火が灯されたしっかりとした柱に支えられた回廊へと姿を変えていた。

 

「もうすぐですよ」

 

 その言葉通りついていくと、長方形のテーブルに複数人が座れるように用意された多くの椅子、赤を基調とした絨毯、部屋の壁には暖炉があり、向かいの壁には窓がつけられ光が取り入れられている。

 不思議と生活感はないが、埃が積もっているわけでも蜘蛛の巣が張っているわけでもないが……ただ使われた気配が全くないまるで新品の家具ばかりだった。

 洞窟じゃないのか?と思うかもしれないが、これは幻影で光を映しているものだろうもっと高価なものになれば外や魔界の景色をそのまま映すことができたはずだ。

 部屋を抜けてさらに進むと一層豪華な調度品に彩られた部屋にカリンは居た。

 

「待っていたわよ」

 

 王冠に髑髏の意匠が付いているのはなぜだろう……らしい、と感じてしまっている俺がいる。

 フウを見てみれば、フウは頷き言葉を続ける。

 

「残念ながら、まだ復活はしていないのです」

 

 違うそうじゃない。

 

「フウの言葉通り、私はまだ復活していないわ」

 

 そっちも勘違いしたまま話を進めないでくれ。

 

「魔王さまは、六つの鍵で封印されているのです。その一つを見つけたので、こうやって姿を見せることができるのです」

 

 六つ……いやまさか……可能性はある、のか?

 俺は首を振るってその考えを否定する、そんな都合のいいことがあるはずがない……二つ目の封印を解いたときにわかる……か。

 

「どうかしたんですか?お兄さん?」

 

 首を振るった俺を訝しげに見ながら、カリンは現状を確認していた。

 

「それでフウ。カズトにはどこまで説明したの?」

 

「まださわりだけです」

 

 魔王の復活を手伝ってほしいとしか説明はされていなかったので、どう手伝うのかは聞いていない。

 

「なるほど」

 

 ん?手伝えとも説明されてなかったかもしれない……説明はしてくれるのだろうか。

 

「カリンさま、カリンさま」

 

 フウがカリンに耳打ちをしているのだが、打ち合わせがどうとか言っている。

 

「ようこそ、歓迎するわ」

 

 どうしよう……ここはあえて乗ってあげるべきだろう、唐突に態度が変わったことは突っ込んではダメだろう。

 

「さあ、座って座って。フウ、お茶とお菓子を」

 

 普通はいきなりやさしくされても逆に警戒すると思うのだが……どこかポンコツな感じがするのはなぜだろう、俺の知っている華琳が見れば悶絶しそうな気がする。

 手を顔の前で振り流石にダメなことを示す。

 

「フウ……こんな反応をされているのだけど、どうしたらいいかしら?」

 

「第二段階ですよー。男性は胸がすきなのでー……フウでは効果がなかったですが魔王さまなら効果があるかもしれないです」

 

「私の胸を差し出せというの?今朝あなたは抱きしめられていたようだけど」

 

 見ていたのはカリンだったのか、何やら視線を感じていたから誰かが見ているのかとは思っていたが……手を出す気は元からなかったが出していたらここで追及されていたんだろうな。

 あぁ、それでフウは裸だったのか、ここで追及する材料にするためだったと。

フウとカリンは話し合っているが、いい手は思いついたのだろうかこちらを向いて口を開く。

 

「さきほど言った六つの鍵のうち、一つは発見しています。残り五つの発見を、お兄さんにお願いしたいのです」

 

 ごり押しに決定したようだ。

 頷きながらも首を傾げ、言葉の先を促す。

 封印の鍵の場所がわからねば手の打ちようがないとは言わないが、難しくはなるだろう。

 

「無理と言わず聞きに徹するのは好評価よ」

 

「お兄さんに冒険者としての仕事を依頼したいわけではありませんよ」

 

 フウは微笑みながら

 

「迷宮好きのお兄さんに、お願いしたいのです」

 

 良く迷宮は巡るが、好きか嫌いかで言えば好きな方だな……住んでいたものを想像するのは、面白いものだ。

 

「残り五つの鍵の場所は、おおよそはつかめています。この山にあります」

 

 この山に……決して大きいとは言わないが小さいという訳でもないのだが……いや手掛かり無く世界中をしらみつぶしにするよりはよっぽど狭い範囲か。

 

「ですが、さすがに山を崩すことはできません」

 

 景観が損なわれるし、他からもよからぬものが寄ってくるだろうし、最悪国から文句を付けられる可能性も十分にあるな。

 山は言わずもなが、森もそして流れる川も国からすれば十分資源として扱われるものだ、それを根こそぎ崩してしまえば封印の鍵探しどころではなくなる。

 

「ある程度の目処をつけて穴を掘るしかないのですが……金銭的に困りました」

 

 納得がいったという風に頷く、商会の力を借りているのだ元手がなくなれば力を借りるわけにもいかなくなる。

 フウがすればいい?フウは先にも説明したが商会の人物だ、そういう訳にもいかない。あくまで力を貸す、できるのはそこまでで直接手伝うことはしてはいけない。

 

「そこで、考えたのです。お金がないなら、稼げばいいと」

 

 となれば手伝うのは迷宮の運営、迷宮を広げることで封印を解いていくといったところか。

 だが、迷宮でお金をどう稼ぐのか?それはフウが答えてくれる。

 

「ここに迷宮を作り、やってきた侵入者たちから巻き上げようと思います」

 

 人を殺めてまでお金を得るというのなら断らざるを得ない、眉を顰めカリンを見る。

 

「話は最後まで聞きなさい。フウの言い方が悪かったから勘違いさせたかもしれないけど、私は侵入者たちを害するつもりはないわ」

 

 ふむ、顰めた眉を元に戻す。

 

「私はただ復活したいだけよ。人を苛めてどうこうする趣味はないし、私の復活のために犠牲になれとは言わないわ。だから、作る迷宮も人を楽しませる前提よ」

 

 人を楽しませる?自然と首をかしげる。

 

「ええ、迷宮だから、怪我ぐらいはするでしょうけど……殺す気はないわ。信用しなさい」

 

 遊園地のようなものを想像したが、入場料を取るような理由もないから気絶させて追い剥げという事か……手加減間違えたらやばいな。

 

「ふふ。何を悩む必要があるの。その迷宮を作るのは貴方……カズトなのだから私がどう思っていても無駄でしょ?」

 

 手加減ミスらないかプレッシャーで胃が痛いような気がする。

 

「貴方が作るのよ」

 

 とてもいい笑顔でさらに押してくるカリン……決定事項らしい。

 天井を仰ぎ見る。

 本来映るのは天井だが……過ぎ去った日を思い浮かべる。

 あぁ……なんだ。殺さなくていいなら、その方が楽じゃぁないか。

 俺は頷くことでカリンの手伝いをすることを了承する。

 元々手伝う気だったし、不殺で問題がないのだ、何を迷う必要がある、何も迷う必要などありはしない、復活させることに全力を費やせばいい。

 

「そう……私の復活、手伝ってもらうわよ」

 

 その言葉に再度頷く。

 こうして俺は迷宮の作成の手伝いをすることになった。

 

「とりあえず、お兄さん。迷宮の設計をしましょう。今は通路だけですからお兄さんには、侵入者を撃退する迷宮エリアの設計をお願いしたいのです」

 

 迷宮の設計は初めてだが、どのようにするのだろうか。

 

「がんばりなさい」

 

 カリンからも励ましの言葉をもらう。

 やはり懐かしいと感じてしまう、提案をした時はこうして背を押してもらっていたな。

 だが、どうすればいいのかわからないのでフウを見る。

 

「とりあえず、作りたい迷宮の形を考えながら、この水晶に念じてください」

 

 促された水晶に手をかざし、ぞくりと背筋に怖気が走ると同時に世界が揺れた気がする。

見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた見つけたミツケタ視つけた観つけた診つけたみつけた

 水晶から手を咄嗟に放す……ナニカニタシカニミラレタ。

 

「大丈夫ですかー?」

 

 フウは不思議そうな顔をしていた、急に手を放して何かあったのだろうかと心配しているのがわかる……フウからのものではない。

 カリンからのものでもない……ではなにか?水晶を通す必要がある?あの視線は昔に感じたことがある、確かにある感触だがあの粘着くような視線は……まだ生きているのか……あぁ、今度こそコロシテヤロウニドトフザケタマネヲデキナイヨウニ……シヌマデコロシツクシテヤロウ。

 あまりにも険しい表情をしていたのだろうフウが引いている。

 ポリポリと頭を掻いて雰囲気を解く。

 

「あのー……駄目でしたか?」

 

 頷きこれを使えないことを両手でバツ印を作ることで使わないことを強く示す。

 

「むう……魔力多そうだったんですけどね。では、第二案です」

 

 魔力で作れるのが一番なのだが……あれが居るのなら仕方がない。

 

「お兄さんの魔力で迷宮を作れる作業員を召喚しましょう。こちらの魔法陣の中央に立ってください」

 

 フウに指示された魔法陣の上に立つ。

 今度は見られなければいいが……水晶が使えない以上こちらでやるしかないだろう。

……

…………

………………

 呼ばれた魔物?はペンギン似た姿で語尾に「っす」とつける腹にポケットを付けた生ものが呼び出されていた。

 すまない、これ別の魔界で見たことがあるんだが、なんでこいつらが出てくるんだ。

 

「大将!迷宮の整備終わったっす!」

 

「罠設置っす!」

 

「大将次は何っすか?」

 

 仕事も早いし、さぼらないし、賃金やすいとか……これは普通に作業員が呼ばれるよりもあたりか?

 

「フウ!?」

 

「えー……誰ですかこの人たち……」

 

「しっかりしなさい!」

 

 カリンが魂を吐き出してそうなフウを必死に呼び戻していた。

 

……

………

 カリンの頑張りもあり無事に戻ってきたフウは気を取り直し、守備要員の召喚をお願いしてきた。

 俺はその言葉に無言でプリニーたちを見る。

 

「やるっす!」

 

「お任せっす!」

 

「頑張るっす!」

 

 やる気満々らしい、おかしい俺の知ってるプリニーは怠け者だった気がするんだが。

 

「ああ!?フウ様がまた魂吐いてるっす!?」

 

 フウにもノルマというものがあるからな、そのノルマに関係ないプリニーたちだと魂も抜け出るだろう……どうしたものか。

 

「今度は!今度こそは!こちらのカタログから選んでください!」

 

 気炎を上げながらカタログを渡してきた……やべぇ、爺がカタログに載ってやがる。ギュンギュスカ―商会脅しやがったな。

 爺が何者かだって?前にフウが説明していただろう、大陸を統べるようなでっかい力を持った魔王もいるって……そいつだよ。

 呼んだら呼んだで、フウにダメージ行きそうで怖いが呼ばない方が怖いというのがなあ……

 呼ばざるをえないか。

 召喚用の魔法陣の上に立ち、『大魔王バーン』を召喚する。

 

「はっはっは、久方ぶりだな!」

 

 魔法陣が輝き、光磨杖を右手に持ち豪奢なローブを着こなした状態で召喚されるバーン。

 それとは別にカタログに乗せられている魔物が二種類、マジロウとプチが召喚される。

 

「ぶふおっ!!」

 

 フウが吐血した。

 

「お……おおおおおおおおおおじい様!?」

 

 カリンも青ざめているんだが……大爺様?

 

「うむ、カリンちゃんも元気そうじゃな」

 

 そういえばこっちの世界で戦ったのも孫がどうとか言っていたが……バーンの孫娘がカリンだったのか。

 

「千年もの間、音沙汰がないから心配しておったが……貴様もおるし丁度いい」

 

 戦った理由が孫娘の許嫁を探してだったか?爺に勝てば嫁にやるとか言ってたな、そういえば。

 

「カリンよ」

 

 おい、まさか……

 

「お前の許嫁が決定しておるぞ」

 

 たしかに爺には勝ったが……

 

「え?」

 

「わしに勝った、こやつがお前の許嫁に決定じゃ」

 

「え?」

 

 カリンがバーンの奴を見て、俺を見て

 

「え?」

 

 思考が追い付いてないらしい。

 俺はバーンの爺を睨む。

 

「ほう?」

 

 にやりと上がる口角に失敗を悟る。

 そういう意味で睨んだわけじゃねぇ!?

 

「『胸』が小さいカリンでは不満じゃと?」




プリニー 出典:ディスガイア
大魔王バーン 出典:ダイの大冒険


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第三話 どうしてこうなった?

ここから本格的に原作を根本的にぶっ壊していくぞー
原作を思い出しましょう、巣作りかりんちゃんは主成分ですが
舞台は恋姫†無双です


 作業員にプリニーを呼んだ、守備要員にバーンがやってきた、ここまではいい。いや本当は良くないんだがいいと無理やり納得させる。

 バーンの一言がカリンに火をつける、許嫁決定が火種?いいや違うね。俺がカリンの胸に反応しない?そんなことはない。同性愛者?よしそう言った奴ちょっと魂まで打ち砕いてやるから並べ。ホモ野郎に付きまとわれてた左慈を見ているからな、酷いものだったぞ……それとは別に時の翁にご主人様呼ばわりされたときは怖気が走った末に反射的に撲滅したくらいだ。復活しやがるがな?!あの変態は。

 というかバーンの奴、俺が女性が一片でも嫌がるならそれを出来ないことを知っているだろうに。

 

『カズト?』

 

『お兄さんはフウの裸で反応しなかったですから……』

 

『フウよ、それ以上はやめろ。こやつは筋肉モリモリマッチョマンの変態(ガチ)に迫られてから、それはトラウマだからの』

 

『ア、ハイ』

 

『カズト。ええ、いいわここに宣言してあげましょう。復活した暁には……私の良さというものをこれでもかと教えてあげるわ!拒否なんてさせる訳がないでしょう……これは私の女としてのプライドをかけた戦争よ!』

 

 ずびしと俺を指さし宣戦布告してくるカリンだった。

 ある意味バーンの罠カードか速攻魔法が抜群に効き過ぎた結果だろうが、そういった感情をカリンから取り除けるかは俺次第か。

 今はまずは封印を解くための資金稼ぎに迷宮を宣伝しなければな。

 で、外に出たのはいいんだが……どういうことだ?入ってきた場所と違う、森なことには変わらないが植生が違う、木の生える間隔が違っている、天体が……大きくずれている。

 マナの密度が極端に薄い、空気に魔の気配が全くない……世界そのものが違う。

 思わず舌打ちが出る。

 何がこれを起こしたか?あの見られたときあの迷宮ごと引きずり込まれたか。揺れた気がしたがあれは異世界への転移によるずれだったんだな。

 封印が解けるかどうか怪しいが何とかするしかないか。

 山を下り、振り返ればそこにはそびえたつ泰山があった……かつて不死の兵たちと戦った外史を巡った最終戦争地、再度出会った「怪人」左慈と「超人」于吉、そして「魔人」蝶禅が世界の管理者だと知ったのはその少し前だったか。

 彼女たちはあの世界で笑って過ごせているだろうか。

 あの結末に後悔はない、だが振り返ってしまう……もしはない、たられば話など殿を務め、俺たちをあの場所に辿り着けさせるために戦った兵達に失礼だろう。

 あの戦いのときと同じように……俺の『過去』は■を積み上げることで『記録』れることはない。

 感傷を心の奥にしまい込んで近くの村を目指す。

 

「ほらぁーーー、二人とも早く早く」

 

「お待ち下さい、桃香様。お一人で先行されるのは危険です」

 

 桃色の頭髪を腰ほどまで伸ばした女性が駆けていくが、黒髪の女性がそれを諫める。

 

「そうなのだ。こんなお日様一杯のお昼に、流星が落ちてくるなんて、どう考えてもおかしいのだ」

 

 赤髪を肩までで切った童女にも見える子も同様に先に駆けようとした桃香と呼ばれた女性に待ったをかける。

「鈴々の言う通りです。もしやすると妖の類かもしれません。慎重に近づくべきです」

 そんな三人の脇を白いローブを身に着け付随しているフードを頭の上からすっぽりと被り顔が見え辛くしたカズトが通り過ぎようとしていた。

 

「そうかなぁー?……関雲長と張翼徳っていう、すっごい女の子たちがそういうなら、そうなのかもだけど……」

 

 待とうか、ちょっと待とうか?このタイミングでこの三人がいるって、さらに流星が落ちた?どこって三人の足が向かおうとしているのは泰山……迷宮が天の使いとか言わないよな?言わないでくれるよな?言わないでほしい。

 バーンに留守の間の守りは任せたが……大丈夫なんだろうか。

 というかこの時代本来なら流星って天狗と呼ばれ落ちる轟音を天狗の鳴き声と言って凶兆だとか言われてなかったかな。

 

「そこのもの!」

 

 黒髪の女性、ええわかってますよ愛紗さんですよね、青龍偃月刀もしっかり向けられているんだがどうしよう、とりあえず両手を上にゆっくり上げ、立ち止まる。

 

「おお、このお兄ちゃん?すごいのだ!後ろに目でもあるのかな?」

 

 警戒心バリバリ感じますから。

 

「うわー……すごく輝いてる服……はっ、もしかして」

 

 冷汗が流れるのがよくわかる、いつも通りの展開なのか?あの時は倒れていたと思うんだが、この子苦手なんだがなぁ。

 

「この人、きっと天の御使いなんだよ!」

 

 やめてくれ、マジで天使なんて糞野郎と一緒にしてくれるな。人を洗脳して戦わせようとするわ、口先三寸で騙して無実の人間殺させようとするわ、いもしない神のお告げだとかほざいて勝手に黙示録実行して文明海の底に沈めるわ……マジろくでもねぇ。

 不快感から足に力が入ってしまったのか、ベキリと大きな音を立てて地面が割れる。

 

「ひえっ!?」

 

「お下がりください!桃香様!」

 

 両手を下ろして振り返るのと愛紗と鈴々が青龍偃月刀と蛇矛を振り上げるのは同時だっただろうか。

 振り上げたのなら振り下ろす、それは攻撃として当たり前であまりにも読みやすい反射的な攻撃に過ぎなかった。

 刃に添えるように蹴りを内から外に流すように叩き込むことで二人の得物をその手から弾き飛ばす。

 身長差から俺は彼女たちを一度見下ろし、次は止まることも振り返ることもなく村があるだろう方向へと歩き去っていく。

 

「くっ……申し訳ありません。桃香様」

 

 愛紗は桃香に謝罪をしてから飛ばされた武器を取りに行くのだが、鈴々が拾いに来ないことを不思議に思って振り返れば、肩を抱いてガタガタと震えていた。

 ガラス球を思わせる無感情な瞳、真一文字に固く結ばれた口を見ていた。

 鈴々は直感的に人の良し悪しを判断することが多い、勘が鋭いとも言い換えることもできるが、もっと深くいってしまえば人の心の動きに聡い。

 そんな鈴々が何を見たのか、感じたのかは桃香にも愛紗にもわからないだろう。

 この出会いで三人が変わるのか、それとも別の事で変わるのか……それはまた別の話。

 

 

 

 村を目指していたはずなんだが……赤茶けた荒野が広がっている。

 むう、方向を間違えただろうか……さすがに地図が頭の中に入っているわけではないからなぁ、全く困ったものだ。

 迷宮の方向が大体わかるのはいいんだが、こうも目標の無い場所だとどちらに足を向けるか迷ってしまう。

 さてどうしたものかと悩んでいると声をかけられる。

 

「おう兄ちゃん。いいもん着てるじゃねえか」

 

 わかりやすい三下文句、山賊とかそんな感じかな。

 その声に振り向けば、ちび、ひげ、でぶの三人が立っていた。

 他の子たちと同じなら……まだ賊生活をしているのか?こいつらは。

 

「金、出してもらおうか。ついでに着てる……むがぁっ!?」

 

 とりあえずひげの頭を掴み上げ、みしみしと頭蓋を締め付けていく。

 

「ア、アニキ!」

 

 飛び掛かってきたちびを足で引っ掛け転がし、そのまま踏みつけ身動きができないようにする。

 

「は、放すんだな!」

 

 掴みかかってきたでぶは手を掴みくるりと腕を反転させ関節技を極めて背中を向けるように操作してやる。

 

「あいだっ?!痛いんだな!?」

 

「あいだだだ!?あ、頭が割れるう!?」

 

 ちびは背面から胸部を踏みつけてるせいでじたばたもがいているものの喋れていない。

 そんな身動きのできない状態にしておいて、先ほどから見ている三人の方を見やる。

 

「むう、なかなかの腕とお見受けします」

 

 さてどうしよう……両手が塞がっているから頷くか首を振るうくらいしかできんぞ。

 

「む?なぜ何も答えてくれないのか?」

 

「もしかして喋れないのではないのですか?」

 

 星に続いて風、凛と出てくる。

 迷宮の方にフウがいるんだが、これどうなってるんだ。

 とりあえず、風の言葉に頷いておく。

 

「三人を一息に無力化するとはすごいですね」

 

「これはどうなっているのでしょうねー」

 

 でぶはツンツンとつつかれるたびに身を捩ろうとするが関節が極まっているために動こうとするだけで激痛が走って悶絶している。

 もう声を上げることもできていないんだが大丈夫だろうか?

 

「しかし、これはどうしたものか?縄などはあっただろうか?」

 

「残念ながら予備はこれと言ってないですね」

 

「困りましたねー」

 

 三人でこの賊三人をどうしようか相談していたが、他の人いや軍勢が近づくことで終わりを告げる。

 

「……ふむ。まあ、後のことは……陳留の刺史殿に任せるしようか」

 

「そうですねー」

 

 放置されることが決定しました。

 別の言葉で言えば他人に丸投げしたともいえるか。

 土煙を上げて軍勢が近づいてくる、曹の字を描いた旗を持って。

 あっという間に三人は走り去り、騎馬の群れに取り囲まれた……寒色をメインに髑髏の意匠、曹操の軍ですよね。

 

「華琳様!こやつらは……」

 

「ふむ、すごいな」

 

「どうやら、こいつらのようね。引っ立てなさい」

 

 捕まえていた三人があれよあれよという間にお縄についていく。なんで俺まで縛られているんですかね?

 しかも三人よりも厳重に荒縄の上に鎖で縛られてるんだが、どうしてこうなった。

 鎖につながれたまま馬で引っ張られるのは勘弁願いたい、西部劇の拷問じゃねえかたしか牛引きだとか馬引き刑だとかで古代中国にもあったとは思うが。

 舗装された道路なわけでもないからごつごつした地面で跳ねて地味に痛い、服も汚れるから本当にやめてもらいたいんだがなぁ……足まで縛られてるがついていくしかないか。

 跳ねた瞬間に身体を地面に叩きつけ、反動と引っ張られる力を利用して身体を起こし、つま先に力をためて、指先の力で跳ねるようにして馬の速度についていく。

 

「おい、後ろを見ろ!」

 

「いやなんだよあれ?」

 

 兵士の皆さんがドン引きされておる。

 陳留につき華琳達の前に引きずり出されたのだが、鎖は解いてもらえないだろうか。

 

「この男が首魁だという事かしら」

 

「三人からは情報を得られませんでしたので、そうなるかと」

 

「たた切ってしまいましょう!」

 

 大人しく鎖でがんじがらめにされた状態で器用に正座をして沙汰を待つ。

「では、盗んだものを出してもらいましょうか?」

 

 その言葉に俺は首をかしげる。

 あいつら普通の山賊だと思ってたんだが、曹孟徳のところから何か盗んでたのか。

 

「何とか言ったらどうだ貴様ぁ!」

 

 春蘭が叫ぶが何も言えないのだが。

 口を結び、ただ三人を見つめ返す。

 

「……」

 

 華琳と秋蘭は何となく察したっぽいが春蘭は睨み返してきている。

 

「あー……もしかして喋れないのか?」

 

 秋蘭が確認してくるのでそれに頷く。

 

「そう、喋れないのね。なら頷くか首を振るかで質問に答えなさい」

 

 理解の速い人は手間が省けていい、時間がないから呉にまで足も延ばせないしな……二人に会っておいてあの子には合わないという訳にもいかないだろう。

 

「太平要術は貴方が持っている?」

 

 首を振るう。

 

「あの三人は貴方の部下なのかしら?」

 

 首を振るう。

 

「なぜあそこにいたのか説明は?」

 

 首を振るう。

 正確にはこの状態では三人を納得させるだけの説明ができない、が正しい回答だがそれも答えられないために否定するしかない。

 

「むう……埒が明かないな。……華琳様」

 

「そうね。この者の鎖を解きなさい、手ぶり身振りでもないと話が進まないわ」

 

「しかし華琳様、この男を自由にしてもよろしいのですか?この状態で馬に追従してきたと報告されておりますが」

 

「「……」」

 

 あ、これはよくわかる。春蘭が報告書の中身を覚えている、だと?と驚愕している状態だ。

 鍵を持っている近くに控えていた兵士さんはどうするのかと悩んでいる。

 

「と、とりあえず。鎖を解きなさい」

 

 敬礼した後、南京錠に鍵を差し込み鎖を引っ張ることで外そうとするのだが、ガチンと硬質な音を立てて引っ張られる鎖が止まる。

 再度引っ張る、止まる。再度引っ張る、止まる。がちゃがちゃと俺を動かして鎖を緩ませようとしてから引っ張るが、同じところで止まる。

 

「断ち切りましょうか?」

 

「春蘭、出来るかしら?」

 

「腕の一本でも切れば抜けれるのではないでしょうか」

 

「姉者、それでは話が聞けなくなってしまう。手がかりを完全になくすわけにはいかんのだ」

 

「むう……」

 

 ゴキゴキと関節を外しながら全身を蛸のようにしてもぞもぞと鎖から抜け出したあと再びゴキメキャと音を立てながら骨をはめていく。

 春蘭、秋蘭は驚いた眼で華琳は呆れた眼で俺を見ていた。

 

「できるのなら、初めから抜ければよかったんじゃないかしら?」

 

 鎖を持ち、錠前を持ち、華琳達を見てから首をかしげる。

 

「ああ、許可なく抜けた方がよかった?かしら。確かに許可なく抜けていたら切らなければならなかったわね、罪状も増えるから切るだけじゃすまなくなるし」

 

 察せる人がいると本当に話が早くて助かります。

 

「ところでこのあたりでは見ない衣服だけれども……噂の天の御使いとやら……」

 

 華琳にまで俺は天の御使いと一緒に思われてるとか、すごく嫌なんですが。

 悪魔と合体することで手早く強くなれるとかで人体実験するわ、子供に爆弾持たせて自爆特攻させようとするわ、自分のとこの宗派と違うからって奴隷のように扱ってカテドラルみたいな巨大建築するわ……おうてめえら、ちょっと種族名外道に変えて来いよ。

 

「ものすごく嫌そうな顔をしている」

 

「そう……貴方私に仕えなさい」

 

 首を横に振る。

 

「貴様、華琳様に仕えるのが嫌だというのか!」

 

 春蘭が激昂するが、華琳は探る様に冷静に俺を見ている。

 

「仕える者を決めている、いえ既に仕えているから仕えられないのかしら?」

 

 その言葉に頷く。

 

「ならどこかであなたの主人と共に会った時に主人ごと口説かせてもらいましょう。これ以上は埒が明かないから行っていいわよ」

 

 カリンが華琳に仕えるか……カリンも華琳を誘いそうな予感しかしないな。

 さて、最後に呉か……少し遠いから急いでいくか。

 俺は手を上げることで別れを告げて、陳留から移動することにする、あの三人を泰山に送ってからになるが。

 

 

 

 呉の建業に着いたのはいいが……なんで、雪蓮が蓮華を背負っているんだ?服装が西洋風なんだが……まてまてまてまて……いやな予感がひしひしとしているんだが!?

 見なかったことにして泰山に戻るとしよう、そうしよう。

 で、泰山に戻ったのはいいんだが……バーンさんよ、その女性三名はなんなんですかね?

 

「おお、戻ったか」

 

 手を上げることであいさつをする。

 バーンは顎髭をしごきながら、女性たちを紹介してくれるんだが

 

「まずは攫ってきた劉弁と劉協のお嬢ちゃんたちじゃ!」

 

 この二人があの劉弁と劉協なのか…………劉宏は?

 

「うむ?すでに霊帝として埋葬されておったぞ?……やれやれ不安そうな表情をするでないわ。出たとこ勝負なぞいつもの事よ、むしろ予想通りに世界が動いてくれたことの方が珍しいわ」

 

 確かにその通りだ、こちらの予想斜め上をかっ飛んでいくからな、おそらく雪蓮が連れていたのは俺たちの世界の蓮華なのだろう。

 名前まで同じかどうかは保証はできんが。

 

「そしてこっちはじゃな……」

 

「いい、俺が自分で言う。てめえらのやることに納得してるわけじゃねえってことは覚えておけ。俺が、俺様が『江東の虎』孫堅だ!」




白丹なら霊帝じゃね?と思った君、生きてる人を死人にするんじゃありません
後、立場的に劉宏で劉弁でもかわらねぇから作者が納得しやすい方にしております


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第四話 初めて侵入者

新しくタグにアンチ・ヘイトを付け加えております
が、基本的には相手の行動や言動の矛盾を突き付けての精神攻撃目的です


 迷宮の奥で警報音が鳴り響く、その音に部屋も慌ただしくなっていく。

 プリニーが駆けまわり、フウとカリンも俺たちの前に現れる。

 

「カズト、おじい様、それとそこの貴方、わかっていると思うけど侵入者と言えども害することは許さないわ。必ず生かして追い出しなさい」

 

「はっ、そんな生易しくていいのかよ魔王さまよお?」

 

 カリンの言葉に孫堅が噛みつき、カリンはその反論があることを見越して即座に応える。

 

「あら?生易しいかしら?身ぐるみは剥がさせてもらうし、ここの迷宮の事も生かしておかなければ他に伝わらないでしょう?伝わらなければ他にくるものが居なくなるし……何よりも強い敵が現れなくなるわよ?」

 

 孫堅の性格を短時間で見抜いていたのだろう、カリンの放つ言葉で孫堅の口角が上がっていく。

 プリニーに気絶した侵入者をみぐるみ剥いで外に放り出す役目を与え、五人に孫堅に付くように指示を出しておく。

 

「「「「「うっす。やらせてもらうっす」」」」」

 

「しかし、立札を立てまわったとはいえ……些か早すぎんかの?まだ一日も経っておらんのじゃがな軍を編成するにしても、個人で来るにしても三日はかかると思っておったんじゃが?」

 

 バーンは早い段階での相談し決行した作戦の重要部分に疑問を持った、邑々に天子を攫ったことを知らせる立札を立てた効果が早すぎることに、三国志?戦争などこちらには百害あって一利なし戦費に金を持っていかれる利など何一つない。

 

「おじい様?まだ迷宮は小さいのですが!?」

 

「そうですよ!この人数で大量の人が送られたらパンクしちゃいますよ!?」

 

 その言葉に慌てるカリンとフウだがバーンはどこ吹く風と言わんばかりに目の前の戦闘への準備を始めていく。

 

「孫堅は右の部屋へ、儂は左の部屋じゃな……カズトには宝物庫の正面を守ってもらうとしようかのう……フウもカリンちゃんも何を心配しておるのか。カズト一人どころか儂もおるというのに心配されるほど耄碌はしておらんぞ?それにこの世界の英雄も助っ人に呼んだではないか戦力に何が不足があるというのか超魔生物化してパワーアップしておるんじゃ」

 

「爺!俺に何しやがった!?」

 

「超魔生物化……コ、コストが……」

 

 フウが白目を剥いているが恐らくバーンが自前の魔力を使っての改造だろう。

 いろいろと喋っているがそろそろ準備してくれないかな?プチを連れて先に正面に行っておく。

 予想としてはあの三人だろうとは思うがどう頑張っても孫堅を抜けないだろうなあ。

 

 

 

 あの爺……俺の身体を強化したとか言ってやがったが武器がただの鉄の剣じゃ何ともしっくりこねぇ……確かに体の切れや肌の艶だとかよくなってるんだが……

 強くはなっている、強くはなっているが爺はおろかもう一人の若い男カズトとか呼ばれていたか、に勝てる想像が全くできない。

 

「あいつは一体何なんだ?」

 

 金属同士がぶつかり合う甲高い剣戟の音を繰り返しながら、近くにいる怪しい生もの、ぷりにーとかいう奴に聞く。

 

「鈴々を無視するんじゃないのだ!」

 

「大将っすか?大魔王さまっすか?」

 

 大魔王が魔王の復活たくらむとかどういう事なんだ、おい。

 

「大魔王さまのお孫さんらしいっす」

 

「お孫さんなら普通に手伝うんじゃないっすか?」

 

「おいおいおいおい、なんだいそれは……それじゃまるで……」

 

 人と変わらないじゃないか、魔王なんて極悪非道な連中なんじゃないのかよ。

 死人を蘇られさせて利用するとか五胡の妖術師と変わらねぇことして、俺たちとそう変わらねぇ感性を持っているとか、どういうことなんだよ。

 

「そうっすよー。俺らも元は人間っすよ。死んで地獄に落ちてお勤めしてるだけっす」

 

「なら、あんたたちが大将って言ってるやつは……何者なんだい?あっちの方がまだ魔王って言われた方がしっくりきちまうよ」

 

 迫る蛇矛をはじきながらちっこいお嬢ちゃんをあしらいながらぷりにーに更に聞いていく。

 そうすればぷりにー達は困ったような顔をして口ごもる。

 

「大将は大将っす、それ以上は言えないっす」

 

「そうっす。言えないんっす」

 

 俺は知らなくていいってことか。一体どんな秘密があるのか興味がそそるじゃねぇか。

 隣の部屋から何かが壁に叩きつけられるような音が響く、三度四度と続きそれからは静かになる。

 

「あっちは終わったみたいっすね」

 

「こっちもちゃちゃっと終わらせちまうっすよ」

 

 そういうと腹に何でか付いてる物入れから、容量を無視したようなでかさの短剣と剣の中間くらいの長さの刃物を取り出した、それも二本。

 そしてそれで殴り掛かる。

 

「おい……そいつは殴るもんじゃねぇ、斬るもんだろうが!」

 

「切ったら殺しちゃうじゃないっすか!」

 

 そういや、殺すなっていわれてたか……お嬢ちゃんはあっさりと袋叩きにされて武器とお金だけ取られて外に放り出された。

 

 

 

 ぎりぎりと杖と青龍偃月刀が交差し、お見合いするようにお互いを睨みあう。

 片や怒りを顕著に映しそのまま力任せに押し込もうとしている、片や笑みすら浮かべて余裕の姿勢を崩さず手慰みにその勝負をうけている様に嗤っていた。

 

「ほれほれ、どうした先に進むのじゃろう?儂のようなおいぼれ一人倒せず先に進めると思うておるのか?随分と弱いのに自信満々と挑んできたものじゃのう?」

 

呵々と笑いながら片手を使って杖で青龍偃月刀を支え、もう片方の空いた手で顎髭をしごきながら黒髪のお嬢さんを揶揄っている。

 

「乱世を正す?人々の笑顔を守る?随分な大言壮語をほざく割には……一歩も進めておらんじゃないか才もある、知もある。じゃがまだまだ足らんのぅ」

 

「くぅっ……好き放題言ってくれる!」

 

 私が義憤をもってこの青龍偃月刀を持ったのは、桃香様を義姉として支えてこれから来る乱世に泣くことになる民たちを助けたいと立ち上がる為なのだ。

 それを嗤われるなど、夢物語と笑うならいい、ただただ嗤うなど許せるものか。

 

 やれやれ、カズトの奴が違う世界でこやつらを苦手とした意味がよくわかる。

 あのド外道どもと同じ匂いがプンプンするわい……地獄への道は善意で作られるとはよう言ったものじゃ。

 こやつらは、こやつらの行いを疑問も持たずに押し付けそれこそが『善』だの『正義』だのほざくのじゃろうな。

 ダイのように自分が化け物と後ろ指刺されようともそれでも笑ってくれているならという覚悟も、文字通り人を救うとがむしゃらに進んだカズトのような人が進むべきではない道に踏み込む覚悟も自覚もないとは呆れてものも言えんが、そんな阿呆にも救われてほしいとはカズトはやはり大馬鹿者じゃのぅ。

 だからこそ面白いと自然と笑いがこみ上げる。

 ダイには確かに竜の騎士という血の力があった、カズトには何もなかった、だが力の有無など二人には関係がなかった力があろうがなかろうが、願う根っこは変わらないからのう。

 ただ幸せを願った。ただ他者の幸せを願った。自身の席を失おうともそれで笑っていられるならば……それを見た後ならばこやつらの言っている皆の笑顔など反吐が出る。

 自身が真っ先に座りそれを願うなど、ただの耳障りの良い戯言にしか聞こえん。

 だから抉ってやろう、お前たちの本心というものを。

 

「乱世を正す?ものも言い様じゃな、乱世を望んでいるのはお前さんらじゃないか」

 

 儂の言葉に顔を真っ赤にして怒りをさらに発露させるが、否定しながら、心の奥底ではそれを望んでいたという証拠ではないか。

 

「そんなわけが!」

 

「乱世がなければ、戦がなければ、野盗どもが居なければ、お前さんの武も力も、なによりも……お前さん自身が不要じゃものなぁ」

 

 ほれ隠れた本心をつついてやれば動揺して固まる。

 

「乱世になりそう?わかっておるのならば乱世にならぬようになぜ動かん?ほぉれお前さんらが乱世を望むという行動そのものではないか。乱世を経て権力を得ることが目的なんじゃろう?その権力があれば『自身の望む』民たちだけを笑顔に出来るものなぁ」

 

 見透かすように理由を並べ立ててやれば、愕然とした表情をしてこちらを眺めている。

 どうやここまでのようじゃな、ここで折れるならばそこまでの小物、まだ立ち上がり挑むならば何度でも叩き直してやろうではないか。

 杖を振り抜き、壁に叩きつける。

 

 

 

 剣を打ち合わされてその勢いをどうにもできなくて、壁に叩きつけられる。

チガウ

 私はみんなの笑顔を守りたくて……

チガウ

 悲しそうに見ているあの人の顔が頭の中から離れなくて……

チガウ

 あの人を見たとはいつだっけ……

チガウ

 確か子供のころ夢の中で……

チガウ

 泣きそうな顔で、でも泣かないように必死に堪えている様な……

チガウ

 そんな顔を見ていたら私も悲しくなって……

チガウ

 夢の中なら思い出せていたんだ、あの人の事も、なんで悲しかったのかも……

チガウ

 これが気絶する前なのかな……視界が暗闇に狭まっていく……

 

 必死に手を伸ばして靖王伝家を手に掴み、歯を食いしばってよろよろと立つ。

 

 私はまだ何もできていないから……

 引き絞った一撃が再び壁に叩きつけられる。

 あの人に……

 壁に叩きつけられて視界がちかちかと明暗を繰り返す。でもそのおかげで落ちそうだった意識がはっきりとする、どこか夢で見た真っ白な部屋の中で爪を床に立て、立とうとできる。

 がくがくと四肢が震えながら、身体を立ち上がらせようとする。

 力が抜けるたびにべしゃりと倒れながら、起き上がることを諦めずに繰り返す。

 何度ももがいて起き上がれたところに掬い上げるような一撃が私を天井に叩きつける。

 自然と口が開き一言呟く。

 

「■■■■」

 

 私は何を呟いているのだろう。

 でもそういわなければならない気がした。

 当たり前のように落下して床に叩きつけられ、私はついに意識を手放した。

 私はまだ貴方になにも出来ていない、私は貴方を一人その道に進ませてはならなかったのに、私は貴方を止めなければならなかったのに、だから■■■■■■、■■■。

 なんで目の前にいる怪物があの人に見えたのだろう。

 

 

 

「撃退……完了ですね」

 

「ふふふ。圧倒的ね……圧倒的過ぎて次が来ないんじゃないの?」

 

 フウもカリンも今回の勝利に少々渋い顔をしているが、次は来ざるを得ない軍関連がしばらくしたら大挙してやってくるだろうな。

 

「やれやれ、肩慣らしにもなりゃしねぇ……もっと骨のあるやつがほしいねぇ」

 

 孫堅は戦った相手が弱かったと感じてしまったのかさらに上を求めているのだが、張翼徳より強いとなるとかなり限られるのだが……超魔生物化してることで呂奉先よりも強くなってたら相手が居なくなるぞ。

 

「なーに、それは敵も数を集めてくるじゃろうから今度は何人切りできるか挑戦してみればいいわい」

 

「なるほど、そいつも面白そうだ……血に酔うとちいとやりすぎちまうかもしれないけどな」

 

「その辺はプリニー達が止めてくれるじゃろ」

 

「えっす?!」

 

「初戦祝いの料理持ってきたっす!」

 

「新人歓迎も含めてでっかくやるっすよー」

 

「その材料費はどこから出したのでしょうか?」

 

「周りが山っす。山菜もお肉も取り放題っすよ」

 

「おおー、それはいいですねー」

 

 みんなでワイワイと宴の準備を進めていく、俺はどこかそれを懐かしいと思いながらも一歩離れた場所で見ていた。

 

「ほら、カズトも。楽しむわよ」

 

 ほんの少しの間しか触れないのに、そういってカリンは皆の輪に俺を引き込んだ。




中央:『神殺し』カズト
左軍:『大魔王』バーン
右軍:『江東の虎』孫堅

罠無くてもどう抜けと?
巣作りカリンちゃん買ったので更新滞ると思われます


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番外クリスマス「聖夜の夜に」

クリスマス―
という事で上げてみた


 中華では今、それぞれの国々で結婚式が話題に上がっていた、魏の王曹操が結婚するという事で。

 ただ、それぞれの国での反応は違っていた、呉と蜀では国がこれで安定すると喜ぶ者たちが多いのに対して、魏にでは荒れる者達が多かったという。

 魏が蜀と呉に勝利してから二年……魏が三国を平定し改めて蜀と呉に領地を安堵させ、そし天の御遣いが魏から消えて二年……魏の将たちは仕事に没頭することで悲しみから逃れようとしていた最中の事だった。

 天狗の鳴き声が魏のとある邑で大気を揺るがす。

 

「曹操様や将軍の方々には報告するな……」

 

 その隊を率いる隊長はその命令を徹底させたが、当然のようにそれに反発しようとする者たちもいた。その隊長がとった行動はその隊員の胸ぐらをつかみ悲痛な声で説得した。

 

「将軍たちの心境も考えやがれ、ぬか喜びだった時に責任が取れんのか!?」

 

 いろいろな意味で限界だとその隊長は考えていた……いや、その隊長もギリギリのところに立っていたのだろう。天の御遣いが創り出した警邏隊が発足されて最初からいた一人だったのだから。

 違ったなら、という恐怖に足がすくむことを自覚しながら、それでも確かめなくてはと隊を引き連れて流星が落ちた場所へと向かう。

 そこには、かつてあった白い衣服が無残にも血に染まりいくつもの切り傷に、鋭い槍に穿たれたような孔、焦げた後も散見された、一部は凍り付いておりどうしたらこんな状態になるのか想像もつかない、右腕はひじから先が金属製の義手になっており、左目は潰れて眼窩が見える酷い状態の、天の御遣いが横たわっていた。

 

「っ……んな……そんな…………救護!手当急げ!」

 

 その姿を見て呆然としていたがすぐに気を取り直し、瀕死と思われる天の御遣い、カズト隊長の手当てを部下に命令していく。

 すぐに動かせる状態とはとても見えない為に医者の華佗を呼ぶ為に一人早馬を走らせる。

 応急の手当てを始めてすぐ、左目を開きカズト隊長が起きる、その左目は血のように赤い光を宿していた。

 

「ここは……いや、生きて、いる?」

 

 今も血の滴る左腕を動かし、動かすたびに何かが千切れる音が聞こえてくる。

 

「隊長!動かないでください!」

 

「今、どうなっている?」

 

 声をかけた隊長との視線を合わせ、現状を確認してくる。

 

「カズト隊長が居なくなってから二年経っています……曹操様の御結婚が決まっています……」

 

「そう、か……声音から歓迎された結婚という訳ではないんだな?」

 

 何か考えるように視線を外したと思えば、すぐに左目だけでこちらを見てくる、警邏隊を率いていた時よりも凄みのある視線に背筋が寒くなる。

 

「はい。日付は今月の25日……隊長が曹操様に話していた、生誕祭という日に合わせた日を指定されました」

 

「……はぁ……あと何日だ?」

 

 なぜか少々呆れを含んだため息を吐かれた後、結婚式までの日数を教えれば、血を流しながら立ち上がる。

 

「待ってください!せめて血止めだけでも!」

 

 応急処置だけでもと止めようとするが、止血帯と針と糸を受け取ったと思えばいつの間に来ていたのか曹操様の馬である絶影が傍に立っていた。

 

「すまんが騎上でする。絶影……急げってことだな?」

 

 絶影の頬を撫でたと思えば、怪我をしていたとは思えない動きで絶影の背に乗りすぐさまに駆けだしてしまった。

 

………

 

……

 

 

 

……

 

………

 

 私は数日後に迫る結婚式に憂鬱に思っていた。

 国を安泰させるために結婚を行ない血を残す必要があることは理解しているし、国が続くことを民たちに示し、蜀と呉に魏が健在であることを表明しなければならない。

 判っているのに……あの時、私の運命を変えた言葉が胸に突き刺さる。

 

『曹孟徳、お前の覇道は……民を守るといった言葉は、そんなにも易いものなのか?』

 

 正面から批判をされた、私の歩み方。

 呆れを含んだ双眸が酷く私の今を揺さぶる。

 あの時は、あの時の言葉が此処まで残るとは思わなかった……今、民たちは笑顔だろうか?私は何を間違えた?

 

「間違えたというのなら、間違えているというなら……戻ってきなさいよ。……カズト……」

 

 カズトの知っている歴史を捻じ曲げることで、カズトが消えることはきっと春蘭を助けたときに気が付いていたはず、右目の視力がほぼなくなったと知ったのはカズトがいなくなってから数日後、頭痛を治すために招いた華佗から聞いた。

 

『本人からは止められていたが……』

 

 定軍山で秋蘭と流々を助けた代償に右肺と右腕の神経を失ったと、赤壁では勝利と引き換えに消滅を決定的にしたと笑いながら誇っていたと。

 

『俺一人の命でそれ以上を助けられたのなら……ならば誇るべきだろう』

 

 そう笑っていたと、華佗はカズトの最後の言葉を続ける。

 文字通り自身を使ってでも人を守ることを貫いたカズト。

 

『最後の宿題だ。お前は曹孟徳か?それとも覇道を歩む覇王か?それとも、違う答えを出すか?』

 

 思い出すのは最後の月夜、別れを二人だけで行ったあの夜の事。

 

「消えるの?」

 

「ああ、俺の役目はもう終えた」

 

「貴方の役目はこれからでしょう?」

 

「いいや。これからはカリンたち、この世界の人たちの役目だ」

 

「貴方の知識は平和でこそ……」

 

「俺の役は乱世の平定まで、管路も言っていただろう?乱世を収めると」

 

「残りなさい」

 

「俺のしなければならないことが残っているなら残れただろう」

 

「私の命令よ」

 

 無理を言っていることなんてわかっていた。

 抱きすくめられ、透けていくその姿を見せつけられながら、涙が抑えられないことを自覚しながらカズトの言葉を聞くしかなかった。

 

「」

 

「カズト……」

 

「」

 

「いやよ……」

 

「」

 

「消えないで……」

 

 布から糸が抜けるように消えていく様を見せつけられた。

 どうしても止められないという現実を突きつけられて、抱きしめられていた感触が消失した瞬間に悲しみからへたり込み泣くことしかできなかった。

 

「ああ。私はその時から曹孟徳でも覇王でもなくなった……」

 

 

 

 無感情に式が進む中、大きく音を立てて式場の扉が開かれる。

 全員が扉に注視すれば赤い服に身を包み、顔を上半分仮面で隠した不審な男が堂々と新郎新婦に歩み寄ってくる。

 

「この結婚に異議を申し立てる」

 

 当然のように凪や春蘭が立ち上がるが、声は大きく全員の耳を打つ。

 

「この結婚は民たちが望んでいない」

 

 男は歩調を変えることなくカツコツと足音を確かに鳴らしながら毅然と進んでくる。

 

「異議のあるものは向かってこい」

 

 男は私を抱きかかえると堂々と式場を出ていく。

 

「カズ……ト……?」

 

 その声は魏の将であれば皆が聞いたことのある声だった。

 その結婚式の珍事の後、魏の覇王と天の御遣いを見た者はいないと言われている。

 

 

 

………

 

……

 

 

 

……

 

………

 

「……なんて夢を見たわ!」

 

 カリンが俺とバーンを呼んだと思えば、そんな結婚式の話をされたのだが俺とバーンは一度視線を合わせ一度頷き合うと、そっとカリンのおでこに手を当てる。




うちのカズトが魏に再臨して華琳が結婚するっつったら
花嫁(カリン)奪っていくだろうなーってことで書いてみた


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第五話 黄巾の乱?乱なのか?

三国志、戦争?何それおいしいの?
大丈夫だ、問題ないって人だけお読みください


 バーンとフウがカリンを交えて話し合っているが、バーンはすっかりこのカリン陣営とも言える勢力の軍師ポジションに収まっている気がするな。

 

「……という訳でじゃな、近々というかもうすでに起きておるな、この大陸の大国である漢の北西部のいくつかの州にて飢饉が起きておるのだが、この州の管理者たちはまともに物資糧食を放出しておらん。この先に何が待っておるか?簡単じゃ、かなりの規模の暴動が起きるじゃろう」

 

 黄巾の乱が起きる、その状況背景を簡単に説明する。

 

「大きな戦争が起きるという事ですねー。戦争特需というものも見込めるかもしれませんが……」

 

「フウ、それは却下よ。何よりもそんなことを許してしまえば死の商人のそしりは免れないし、国がやせ細るわ」

 

「儂らはそれを阻止するために何をするべきか?どう動くべきか?わかるかの?」

 

 バーンはにやりと笑いながらカリンとフウに考えさせる。

 俺はその後ろでお茶菓子とお茶を用意している。

 

「むぅーん……ただ食料をこちらで放出する、ではこちらが損をするだけですし……」

 

「迷宮を活性化させるのも並行に行うとしたら、こちらに来る理由を作る必要はあるのよね」

 

 お茶を飲みながら悩む二人を眺めているバーン、少し咎めるように見てやればくつくつと声を出さずに笑う始末。

 本当に意地の悪い奴だ……だが、成長には考えることも必要だからな。

 考え悩み失敗してもかまわないタイミングで失敗を学び、覚えさせる、すでに考えをまとめている上手な教師役が居てこそできることだ。

 さて、どのくらいで答えに辿り着くか、それともバーンの考えよりもいいものが出てくるのか。

 考えの纏っている俺たちが他に考えるべきは、作った覚えのない、だが俺は見たことのあるあの中華風の部屋……玉座の間といった雰囲気を出した造りをした例の部屋がなぜ迷宮に繋がっているのか、だな。

 おそらく収められていたのは、あの銅鏡だろうが輝きも失い真ん中から真っ二つに割られていたというのが謎だ。

 バーンの奴にも調べてもらったが、力の残滓というものは残っていなかった、何者かが使ったとはとても思えない状態だったという事だが、ならばなぜ割れているのか?という謎が残る。

 あの銅鏡は正史と外史をつなげる役割を持つ強力な道具であり、管理者たちにとっても大切なものな筈、それを放置する理由というものが思いつかない、思いつかないがもし……管理者たち自身が居ない世界であるならば?放置せざるをえないか?いや、奴らは管理者であると同時に監視者でもある、であれば鏡だけがあるという事は不自然だ。

 バーンの奴を見れば、顎をしごきながら思案顔になる。

 

「周辺都市群には偵察を出しておるが、いまだに見つけたという報告は入ってきていない。今、この山に封印は存在しておらんよ……じゃが気配そのものはこの世界にあると示している。なんとも面倒な話じゃなあ、この外史というものは」

 

 こんこんと机上に置いた盤面を駒で叩きながら違う駒を掴み歩を進めてくる。

 俺は肩をすくめながら、本当に世界というものは予想の斜め上をしてくれるものだと呆れながら桂馬を打ち出す。

 

「ぐむぅ……」

 

 打たれた手を見てバーンは顎に手をやり分かりやすく唸る。この先38手でバーンの詰みで負けるところまで読んでその上で俺がミスをしないことをよく理解しているからだろう

 バーンと戦った時も詰将棋のように詰めていったからな。

 

「やれやれ、やはりお前さんはこの手のものは強いのう、投了じゃ。カリンちゃんとフウのお嬢ちゃんはこちらで見ておるから、お前さんはお前さんで用事を済ませてくるといいわい」

 

 やや温くなったお茶を飲みながら、今もうんうんと悩む二人を見ながら後ろ手に振ってカズトを送り出す。

 

 

 

 次に向かうのはプリニー達の仕事場に足を向けていく。

 途中途中にある迷宮の罠も確認しながら、プリニー達を数人捜し歩く。

 

「こっちっすよー」

 

 声のした方に向かっていくと、劉協がプリニー達と仕事をしていた。

 

「はい、ここなのですね」

 

「あ、口調は楽なのでいいっすよー。偉そうに見えないっす」

 

「まー、自分たち下っ端っすけどねー」

 

「こう背伸びしてる子供を見るみたいでほっこりするっすよ?」

 

 見てわかるようにショックを受けている。

 何をしているんだかと思いながら近づいていけば

 

「あ、大将っす」

 

「お疲れさまっす」

 

 こちらを確認するなりビシッと敬礼するプリニー達に続いて……

 

「え、えっと……こうなんだもん?」

 

 劉協までぎこちない敬礼をする。

 

「あ、劉協ちゃんはしなくても大丈夫っす。敬礼っすから」

 

「ところで……ほいほい、了解っす。五穀辺りでいいっすかね?」

 

「ごこくってなんなんだもん?」

 

「五穀ってのは米・麦・豆・稗・黍なんかの穀物の事っすよ。ただ地方なんかによって含まれるものが違ったりするっすよ」

 

「お米は取られてるからかわりに粟とかが良さそうっすね」

 

「麦も大麦っすね、小麦はこっちで使っちまうっす」

 

「お金はどうするっすか?こっちの連中と取引っすね。了解っす」

 

 用件を伝えるとプリニー達だけでわいわいと案をまとめていく。

 お金?貯めるだけって無能だよな、金は世の中に回してなんぼ、経済活性も狙っていくべきだろう、有事の貯蓄ならわかるがな。

 あとは商人がフウ中心にして、外にいる三人を護衛兼従業員、劉協劉弁にも労働というものを知っておいてもらうか。

 つらつらと今後の予定をメモ帳に書き記しながら、さらに先の事を考えていく。

 迷宮での防衛強化と防諜強化もしておきたいものだが、さていい人員は居たかな?何人かめぼしい人物を頭の中でピックアップしていく。

 まぁ、基本的にはカリンの思想に沿ったものになるがそのあたりは気にしすぎても仕方ない注意されたらその都度修正するとしよう。

 今のところ問題もこれと言って起きてはいないしな。

 

 

 

 プリニー達と別れ次に向かうのは演習場として作った比較的広い部屋、そこには巻き藁やシューティングターゲットなどがランダムで出てくるように設置した部屋だったりする。

 部屋に入れば孫堅が飛び出てくる巻き藁相手に剣を振るっていた。

 

「ふっ!はぁっ!せいやぁ!」

 

 縦、横、切り上げと素早く三連撃を叩き込んでいく。

 見てみれば撃破を示唆する巻き藁が十数体床に転がっている。

 今のでこちらに気が付いたのだろう、こちらを向いて獰猛な笑みを浮かべ近づいてくる。

 

「あんたか、丁度いい手合わせしようぜ」

 

 剣をぶら下げこちらに近づいてくる。

 実力を調べる意味でも、ここからさらに上を知って目指してもらうにもいいだろうな。

 こちらも剣を掴み相対する。

 

「そんじゃいくぜぇ!」

 

 そう叫び突っ込んでくるのに合わせ、鏡合わせのように同じ構え同じ速度で同様に突っ込み剣戟を叩き合わせる。

 同じタイミング、同じ軌道、同じ速さ、同じ力加減、そう思えるのに弾かれたのは孫堅の方だけであり、それに驚愕の表情を見せる。

 

「!?」

 

 同じタイミングに見えるが体幹の扱い方、武器の握り方からの力の加え方抜き方、重心操作での足運び、教えることは多くなりそうだ。

 

「ちぃっ!!」

 

 今のやり取りだけでこちらの思惑を察したのだろう、苦々しい顔をしていた。

 鍛えてやる、その上から目線が気に入らない、と言ったところだろうが気にいるいらないはこちらの知ったことじゃない、まだまだ弱いという事実こそが悪い。

 何度も鋼を打ち合う剣戟の音を繰り返しながら今回は足の使い方を重点的に叩き込んでいく。

 教え方は簡単、目の前で使ってやるだけで十分、まったく天才というのは才能の全くない俺からすれば羨ましい限りだ。

 

「はっ……はっ……はっ……くそっ!一発も返せねぇ!」

 

 最初の苦々しい表情は消え、今は挑む前の獰猛な笑みを汗だくの身体で浮かべていた。

 悔しさもあるだろうが、さらに強くなれることとその先が確かにあることへの喜びなのだろう、武の道に足を突っ込んだ奴がよく思うことなのだろうな。

 俺には全くと言っていいほどにわからんのだが、ここまで強くなったことですらただの経過でしかなく……俺自身ではまだまだ弱いと思っているのだから。

 とりあえず人の身でここまでやれることを見せておこう。

 纏う武具の色が黄色から白熱へ、そして赤熱へと移り碧金、最後に色無き深淵の漆黒へと至る。

 

「あぁ、そうか……俺はまだまだ『弱い』んだな。まだまだ先は遠いってか?」

 

 その質問に俺は堪えることができない、俺もまだ其処に辿り着けたとは思っていない。

 だからそれへの応えは肩をすくめることで返す。

 血の昂ぶりが収まらないとか言って突撃してきそうだから戸締りはきっちりしておこう。

 

 

 

 迷宮の前に黄色い布を巻いた多数の人々が集まっていた。

 黄巾の者達であり、張角たち役満☆しすたーずの歌謡演舞を楽しみにしているファンたちがメインだが食べるものがなくなり合流した難民たち、数の力を頼りにした賊たちが合わさり膨大な数になっていた。

 その数はもはや素人に毛が生えた程度の張姉妹では手に余るほどに、だから垂らされた糸は彼女たちにとっての救いだったのだろう。

 邑や町を襲わなくとも手に入れられる場所がある、そう示された場所は………そう、カズトたちのいる迷宮、今では悪鬼羅刹の巣窟とも云われており此処に天子たちが囚われているのだと。

 富を求めた者、名を求めた者、武を求めた者、救いを求めた者、今日も様々な思惑をもって人は迷宮へと、煉獄へと足を進める。

 満身創痍の難民は一掴みの富を手に入れ食料を生まれ育った村へと、粗暴に暴れるだけの賊徒は罪状を書き出され街へと連行される。

 ファンたちがどうなったかって?泰山のふもとに街を起こしてる。

 巷では黄巾賊が行ってきた話を聞き我も我もと迷宮に挑むため街も賑わっているらしく、その話も都で話されるほどになっている。

 黄巾の乱は予定通りに終わり、しばらくは漢の軍を相手にすることになるだろう。

 

 

 

「やれやれ、日に数千もの人間を相手にするのも肩がこるのぅ」

 

「それで済んでる爺がおかしいだろ……まさかここまで膨れ上がるなんざ俺は想像していなかったぞ」

 

 茶を乱雑に飲みながら孫堅はカズトとバーンを胡乱気な目で睨む。

 

「そのまま暴走させていたら、この数倍規模か。ま、無事納めれてよかったわい」

 

「あー……放っておいたら飢饉の欝憤というか、そういったのが義憤っぽくなって更に人が集まってたのね。早い段階で収められて何よりだわ。皆お疲れ様、しっかり休んで体を休めてちょうだい」

 

「死にはしないけども理不尽すぎる迷宮ともっぱらの噂ですしねー。資金もうっはうはでフウは何よりですよー」

 

「でも、あんなにもお金はどうしたんだもん?」

 

「朕の勅命で官僚から巻き上げたわ。集めた金銀財宝をバーンお爺様がこちらに運んで迷宮の財宝を換金して食料に換えていたという訳よ。白丹」

 

「その差額が今回の儲けですねー」

 

 

 

迷宮評価:理不尽な迷宮




感想がない?逆に考えるんだ、批判がないから問題ないと


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第六話 「ドキッ!漢女だらけの三国志」

濃いキャラも多いが大丈夫か?
こんなサブタイトルでも、大丈夫だ問題ないという方はどうぞ


 本来のこの世界、外史での主人公、北郷一刀はどこへ行ってしまったのだろうか?カズトが存在するためにこの外史にくることはなかったのだろうか?

 管理者たちが居ない?主人公が居ない?そんなことはない。

 

「朱里ちゃん、雛里ちゃん薪集め終わったよ」

 

 そう種馬一刀は水鏡学院の近くに落ちて臥竜鳳雛の二人に拾われ養われていた、一応出来ることはしているが、ただの高校生だという事を考えれば出来ることなど限られてくる。

 賊に襲われ助けられたことで村人に頼られ領主となり皆を守っていく覚悟をする機会もなく。

 また三姉妹に助けられその思想に共感し支えていこうという出会いもなく。

 無理やり連れてこられ呉の種馬になれと迫られることも知己の死を間近で見せられその想いを引き継ぐこともなく。

 賊に間違わられ連れてこられた先で王の生き方を間近で見てそれを支えようと歴史に挑むこともありはしない外史。

 

「あわわ……一刀さん待ってくだしゃい」

 

「ははは、また噛んでるよ。まだ慣れないかな?」

 

 ここ水鏡学院に男性はいない才女賢女と言った子が集められ日々研鑽を積んでいくそんな学園。

 そんな学園では当然、一刀は珍しく興味を引かれる存在でありながら学院へと来てから接触が極端に少なくなっていた男性という存在になっていた。

 そんな一刀がなぜ水鏡学院に居られる理由は天の知識があるからという唯その一点。

 そんな水鏡学院での来訪者は少ないがいないわけではない。

 今日も三人が水鏡学院を訪ねてきていた、男性が三人。

 一人は赤髪に黒のジャケットにシャツ、スラックスといった服を着た暑苦しそうな青年。

 一人はタキシードの上着とカッターシャツの襟のみ、そしてネクタイとビキニトップに褌という異色極まりない白髪をミズラの様に結わえ特徴的な髭を付けた筋骨隆々としたある意味でのジェントルメン。

 最後の一人はまた同じように筋肉を強調するような変態であり両サイドにみつあみを下げたスキンヘッドにピンクのビキニパンツを履いただけのまごう事なき変態。

 そんな三人をみた男性に免疫があまりない諸葛亮が見ればどうなるか?そんなことは決まっている。

 

「はわわ……はわわ……きゅう……」

 

 あまりにもショックが大きすぎて意識を手放すという現実逃避をしてしまった。

 

「いかん!気絶しておる!口から泡も吹いておるぞ!」

 

「あんたら何者だ!」

 

 それを目撃してしまった一刀がとれる行動は、雛里の目を両手で塞ぎ、不審者三人の事を詰問するだけだった。

 

「雛里ちゃんは朱里ちゃんを木陰で休ませてあげてくれ」

 

 朱里と雛里の間に立つようにして視線を遮る一刀だが、背筋には冷や汗がだらだらと流れていた。

 みつあみを下げた巨漢からの視線が気持ち悪いのもあるが、無手でこの編隊たちに勝てる気がしない、勝てなければ二人だけでなくその後ろにも水鏡学院がどうなるか分かったものではない。

 

「あぁん!ご主人様、逢いたかったわぁん!」

 

 三つ編みスキンヘッドから発された言葉に理解が追い付かない。

 

「ご主人様?誰かと勘違いしてないか?」

 

 両手を広げ目をつむり唇を突き出してくる変態を見て、とっさに腰に佩いていた木刀を抜き放ち喉元に突きを繰り出す。

 

「うっふーーん」

 

「く、来るなぁ!?」

 

 

 

 

 竹簡を畳みながら妙齢の女性が眼前に立つ人物を睨みつける。

 

「これは、本当の事か?」

 

「えぇ、本当の事よ」

 

 妙齢の女性に応えるのは線は細いもののしっかりと鍛え抜かれた体をしており野太い声で女言葉を操るチャイナドレスを着た男性だった。

 

「やれやれ、旦那の目を疑うつもりはないが……あの炎蓮が例の天子様を攫ったとかいう洞窟で見られたと?」

 

 竹簡に書かれていたことだが、十数年も昔に死んだとその骸も埋葬現場も見ていた馬騰は自身の連れ添いへと確認のために問う。

 

「あら、私の言葉疑うだなんて心外だわ。ちょっとした威力偵察で黄巾賊に紛れて一戦交えてきたのよ?ん何度も槍を交えた相手を間違えるわけがないでしょ……力も技もあの頃より磨かれてたけど確かに炎蓮だったわよ」

 

 その言葉に馬騰は笑みを浮かべる。

 

「へぇ、そいつは……楽しみじゃねぇか。あの炎蓮が誰ぞの下に付くなんざ想像がつかねぇが、あれか?翠や蒲公英の奴に任せてる一刀の奴みたいなやつでも居るのか」

 

「それはどうかしらね?中央にいたのは文字通りの怪物だったわ。あれには勝てる想像がつかない、緑と組んで万全で挑んだとしてもね……全力で挑んたっていうのに底が知れないわ」

 

 何も書かれていない竹簡を手に取り、筆を走らせていく。

 そして連れ添いに命じる。

 

「じゃあ、次は私が行ってみようじゃないか。翠と蒲公英と一刀の奴を連れていく、留守は任せるぜ?馬騰」

 

 その決断に馬騰と呼ばれた男性は竹簡を受け取り、妙齢のライトブラウンの髪をポニーテールに纏めた男性とは色違い、同じデザインのチャイナドレスを着こなした女性の馬騰に言葉を返す。

 

「えぇ、それじゃ私はこっちで五胡を止めておくわよ」

 

 竹簡に書かれていたのは馬騰が馬騰へ軍権などを譲渡するための命令書。

 真名こそ違うものの同じ馬騰であり、同じように作られた槍、同じように学びくみ上げてきた対五胡の戦術、それは片側が倒れようとも中華を守るために造り上げた方法。

 

「じゃ、吉報待ってな、黒鉄」

 

「負けても泣く胸は貸してあげるわ。うふふ」

 

 一刀、翠、蒲公英の前に緑は立ち、説明もなく兵たち五千を用意させた。

 

「と、言う訳でだ。泰山に遠征に行くぞ」

 

「いや、何が『と、言う訳』なんだ母さん!」

 

「おばさま唐突過ぎだよ」

 

「あー……黒鉄さんが出かけた理由ってそれかぁ」

 

 三者三様の反応を緑は楽しみながら、黒鉄が出かけていた事に気が付いていた一刀に感心していた。

 磨けば馬家に不足してる軍師の真似事くらいできるかなどと考えつつ、兵たちの様子も見ておく。

 

「へぇ、一刀は気付いたみたいだけど、どこまで読んだ?」

 

「多分だけど、知っている人は少ない方がいいってところかな?」

 

 中年と差し掛かりかけている一刀はニヒルに笑いながら問いかけに確認のために言葉を投げ返す。

 

「どういうことだよ?一刀」

 

 翠は全くわかっていないのか一刀を胡散臭げに見ている。

 蒲公英はなんとなくわかったのか、あーって納得した声を出しながら、笑いながら翠を見る。

 

「にしし、翠おねえちゃんは分からないの?蒲公英はなんとなくわかったよ」

 

「それじゃ蒲公英に聞こうか、翠にどういうことか説明してやりな」

 

 からかい目的で笑っているけど、本当にわかっているなら私に笑うことはあっても翠を見て笑いはしない、一刀は全部を話さない、そしてそれが今回は正解。

 

「えーっとね、私たちが遠征に行くって五胡に知られないようにするためだよ。だよね?」

 

「一刀採点は?」

 

 今、この策を献策者以外で理解していそうな一刀に聞いてみる。

 

「30点かな、他にも目的があるから……この先は馬上でした方がいいと思うけどどうかな?緑さん」

 

「そうだね、今は文字通りに時は金なりだ。とっとと馬に乗りな!」

 

 

 

 

「カズト、ちょっとそこに立ちなさい」

 

 カリンに呼ばれて立たされる。

 

「改めて思うけど背が高いのよね、手を伸ばしてそのままでいてちょうだい」

 

 何をしているかはたから見ればわからないだろうが、簡単に言えば俺をアンテナの代わりにして魔界との通信をカリンが試みているところだ。

 この世界と魔界が通じているのはフウとプリニー達との実験で判明しているために、カリンも昔の部下に連絡を取っているところ。

 またプリニー達の怪我や死亡時の復活などができるヒーラーが来てくれることになっている。

 俺の知っているヒーラーは服の内側にとげの生えたドM御用達アイアンメイデン仕様の変態服を着ていたはずだが白丹や空丹に悪影響を与えなければいいのだが。

 こちらも軽く保険をかけておくか。

 

『カロン、聞こえるか?』

 

『んん?なんとも懐かしい奴からの連絡じゃな……アルビオンから抜けるとき以来か』

 

『頼みたいことがあるのだが……』

 

 しばらくカロンと話していると、カリンが声をかけてくる。

 

『やれやれ、あの方も仕事が増えると愚痴りそうじゃな』

 

「カズト、もういいわよ」

 

 振り返ろうとし腰越しにあたる感触を感じ、首だけひねって抱き着いているカリンを見る。

 

「どうかしら?」

 

 胸を押し付けているのだが、さてその両手はどこにあるのだろうか?

 俺の股間辺りで手を組まれているんだが、断続的に実体化して息子の大きさを確かめようとするのはやめてもらえないだろうか。

 

「む、思ったより大きい……けど硬くはならわね」

 

 さわさわむにむにといじりながら胸を押し付けられる。

 何をしているのか?カリンが俺に宣戦布告したのを覚えているだろうか、その宣戦布告通りに隙を見てはベットに潜り込んだり、何かにつけて接触させたりしてくる。

 何を?胸をだ。

 ただ今は幼い二人もいるのでカリンの頭に『痛い』だけの拳骨を落としておく。

 白丹は顔を両手で覆いながら指の隙間から見ている。

 空丹はいつの間にかスケッチブックをもってこの状態をスケッチしていたのだが、拳骨を落としたところで残念そうな声を上げていた。

 

「いったぁ~~……なんで実体が無いのに!?」

 

 アストラル体、いわゆる精神の身とか魂の身といった状態の事だが魔力をそちら方向に調整してやれば素手でも何とでもなる。

 神とかはこれに耐性も持った状態だったりするが、やりようというものはいくらでもある。

 精神にダメージを負わせる強力な攻撃をしてやるだとか、存在そのものを砕く即滅な攻撃方法などだな。

 少なくとも今のカリンを叱る程度の攻撃は造作もない。

 

「お兄様、バーンお爺様とのなれそめを聞いたのですが……こんなものを渡されたのですが」

 

 ダイの大冒険全巻が机の上に積まれていた。

 バーンの奴は二人をバイリンガルにでもするつもりか?まぁ読めるようになれば歴史書や医学書、経済学の書かれたものなども読ませてみるのもいいかもしれないな。

 漫画は絵もある為読みやすくまたわかりやすい、その為『日本語』を覚えるにはいいかもしれない。

 ただこれは原本であり、俺は登場しない、二人へのバーンからの宿題といったところか。




ダブルで参戦している?残念一刀は偏在する(マテ
なお、空丹&白丹とはすでに真名を交換している模様


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第七話 「フウの相談」

基本日常回、迷宮に挑んでもらいながらメンバーでわちゃわちゃするのが続くと思われ
なお、作者はかなりの行き当たりばったり的にこの作品を作っている
恋姫側でのイベントは結構前倒しで進んでいくが、新しく入ったメンバーとして思い出す形でどうしてそうなったかを語る形を取っています
そんなお話でよろしければどうぞ~


 フウが前に回答していたアンケート用紙の束を両手に抱えて、迷宮を走り回っていた。

 確か内容は現在の職場に関する福祉の調査だったかな?睡眠時間や不満に思っていることその他もろもろ。

 

「あー、おにいさん!ようやく見つけましたよ!」

 

 フウがぶんぶんと振るってこちらに向かってくる、防衛はプリニーに変わってもらって食堂に向かうところだったがどうかしたのだろうか。

 

「こ の な い よ う は!なんですかー!」

 

 紙を器用に平面で投げつけてきた。

 書かれているのは、不満無し、給料も一人でやっていく分には問題ない額、食事も最低限、睡眠時間は零、勤労時間は休み希望無しで日に二十三時間。

 名前欄には俺の名前、何かおかしいところでもあっただろうか?

 

「うちはブラック企業じゃないんですよ!?何がおかしいのか首をかしげないでくださいよ!?」

 

 睡眠は必要がないし、食事も地脈から力を吸い上げているから必要なし、同様に疲労もしないから休みも必要ないからな。

 一時間の休憩も十時と三時のおやつを空丹と白丹、カリン、フウたまに来る天和、地和、人和に作ってる時間だし、給仕は休憩に入らんと思うのだが。

 

「どうしたっすかー?」

 

「プリニーさんたちもこれなんなんですか?」

 

 ハリセンよろしくアンケートの束をプリニーの頭にぺしぺし叩く。

 

「就労時間十六時間、睡眠時間四時間、給金百ヘル……やっぱり給金もらいすぎっすかね?」

 

「違うのですよー……そうじゃないのですよ……」

 

 プリニー達は普通は就労時間二十時間の休みなしで酷使され、ストレス発散でぶん投げられることもよくある、そして給金は出来高制で雀の涙、ボーナスはイワシが一匹が普通だからな……むしろこれで随分と緩いのだが。

 

「え?これでブラックなんすか!?こんなに天国みたいに優しい職場なのにっすか!?」

 

「えぇ……」

 

 フウがプリニーの言葉にドン引きしている。

 ここでブラックなら本来プリニーが働いてる魔界だとヘルかな。

 

「おうおう、どうしたんだい?そんなに騒いで」

 

 頭に天使の輪、神父服を着た筋肉が目立つサングラスをかけた禿、サラドが暇を持て余したのかそれとも目の保養とか言いながらカリンやフウ達を見に来たのかやってくる。

 

「お、サラド神父っす。このアンケートの答えおかしかったっすかね?」

 

 プリニーが自分のアンケート用紙を見せるが、サラドは顔を険しくする。

 

「いやー……こいつは働きすぎだろ」

 

 フウは険しい顔をしてプルプルと震えている。

 

「いいですか?皆さん就労時間は九時間、休憩時間一時間、睡眠時間八時間は取ってください」

 

 これから軍の規模が大きくなるから時間が足りるだろうか?日に一万侵入できるように設定しているがバーンが四千、俺が四千、プリニー隊が千六百、孫堅が四百で考えているんだが。

 サラドを見ればにっかりと笑い。

 

「いいぜ、俺も手伝ってやろうじゃないか。伊達に『魔神殺し』なんて呼ばれちゃいねぇんだぜ」

 

 サラドが加わるならいくらか受け持ってもらうこともできるな、最悪俺が一万受け持つことで他のメンバーを休ませることもできるしな。

 最高練度の将兵が居ても百二十万までは一日で何とかできる計算だから。

 

 

 

 どこまでも続く昏い暗闇で形作られた死路を歩いていく、粘着く血が足の裏を濡らしながらも私はその道を駆けていく。

 壊れかけの境界線が窓のようにその世界を映し出す、見えるのは倒壊したビル群に洪水の後の様に押し流された建物や公共機関たち、まともなものは何一つ残っていなかった。

 そんなゴーストタウンなど捨ててしまえばいい、そんな思いは外を見ればわかる。もう、こんな場所しか人が人として生きていられる場所が存在しないのだ。

 歩む先はカテドラル、大聖堂と呼ばれる天使たちが今まで必死に生き抗っていた人たちの屍を使って造り上げた巨大建築物。

 歩む彼を獲物だとでも思ったのかそれぞれの腕に武器を携えた六腕の破壊神が寄ってくる、いくつもの腕と顔を持つ巨人が襲い掛かってくる、怪物が、巨人が、神が、龍が、樹木がその道を歩むものを殺さんと襲い掛かってくる。

 歩む彼は立ち塞がる者たちを区別なく切り伏せ、穿ち殺し、撃ち滅ぼしていく。その歩みを止めることはない。

 歩みを止めるように私は……私『達』は彼に必死に声をかける。止まることはない止めることはできないそんなことはわかりきっている。

 この屍でできた道を歩き始めたのは私達が居たからだ、私たちがいたから彼は屍を積み上げようともこの道を造り上げた。

 私は追いつくために必死に駆ける。

 もう触れられないことは知っている。

 もう声が届かないことは知っている。

 それでも私たちは追いつかなければならなかった。

 

「もう止めてよ……」

 

 三叉矛が腹を貫き抉ろうと歩みは止まらず、むしろ加速して首を撥ねる。

 

「なんであんたなのよ……」

 

 全てを凍らせるような吹雪の中、身を刻まれようとも冷徹に照準をつけ引き金を引く。

 

「なんであんたじゃなきゃダメなのよ……」

 

 天使達が殺到する中、かつての仲間の亡骸を使用する。

 私はそれを見て止めどなく涙を流すことしかできなかった。

 

 

 

 会議室で書類仕事を片付けていたら、フウが入ってきた。今の時間フウは休憩のはずだが何かあったのだろうか?

 フウは手に持ったスマートフォンに話しかけていた。

 

「はい、はい、そうですね。承知しています。はい、その件は……お任せください。がんばりますー」

 

 ギュンギュスカー商会からの電話なのだろう、フウは上司との会話なのかややかしこまった形で電話をしているのだが……それを同じく仕事を処理していたバーンも見ていた。

 先に合掌しておこう、商会南無……大陸を一つ丸々掌握している大魔王にいることを気付かなかったという言い訳が通じるわけもなく。

 

「え?声が小さい?……」

 

「うむ、フウよ。少々良いかな?」

 

 ひょいっと軽い感じでスマートフォンを取り上げフウに変わりバーンが通話に出る。

 

「ほぅ、フウが誰の手伝いのために出張しているのかわかっているのだろうなぁ?あぁ?」

 

 しかもバーンは太古、魔界に太陽を持ち帰ったとして古い魔族たちから神とあがめられているのだよな、それを手伝ったからこそ縁もあるわけだが……それゆえバーンが撥ねつけるとそれに便乗する魔界勢力って大きいのだよ。

 

「商いにおける詐称を働こうものならば分かっていようなぁ……」

 

 声は怒りで低い声を出している様に演技しているが、顔はすごく笑顔である。

 これは説明において高いものを買わせようとするのを防ぐのと、魔王復活保険の補填損失を言い訳にした一方的な契約切りを防ぐためだな。

 

「社長にも伝えておけ、二度目はない、とな」

 

 そう言い残し、通話と切りハンカチで画面をぬぐい、フウにスマートフォンを返す。

 これはかけなおしたら即座に報復かけるやつだな、相変わらずこの手の事にはえげつない。

 

「え?」

 

 フウはスマートフォンとバーンを繰り返し見る。

 

「うむ、これでいらん横槍は入らんじゃろ。魔王復活保険をつぶそうとしている連中も動いておるようじゃしの。全くせっかく投資しておるものを一方的な都合で潰そうとは信用できんからの」

 

 災害保険で保険屋がつぶれたというのなら許すんだろうが、潰れもせず損害が大きくなりそうだからやめますなどといえば、貴様ら契約を反故にするつもりかとガチですり潰しにかかるだろうなぁ。

 古い魔族にとって契約とは存在意義ともいえるほどに順守する、それを等価として一度認めれば自身の存在が危ぶまれるような内容であろうとも実行する。

 

「うむ、儂じゃ。元気にしておるか?……うむうむ、ならばよかった。どうにも商会の方がカリンちゃんの復活にお金が掛かるようならば保険を取り下げるなどという者たちが居るようでな……よく理解しておるな、ならばそちらは任せた」

 

「あのー……どちら様に?」

 

 国際問題にまで発展させる気満々か、まぁ保険の支払いも安くはないから勝手に取り下げるとなれば魔王たちが普通に立ち上がるだろう案件だから仕方がないか。

 一部の例外を除けばほとんどの魔王が入ってるはずだからなぁ。

 

「うむ、息子を通じて各国の知己どもに今回の件を知らせておったんじゃよ。魔王相手に下手を打てばどうなるか……大々的に教えてやる必要があるからのぅ」

 

 フウに胃に優しいお茶を用意してやりながら、これでフウのノルマもなくなるだろうと思いながらお茶菓子を何にするか棚の中を見る。

 

「あれ?もしかしてフウのせいで商会がピンチです?」

 

「それは違うな。これはフウのせいではない、保険を打ち切る派に属しているものが商会で暗躍しておるのが悪いのよ。魔王と人とはそうそう切れん戦があると知っておりながら継続して保険料を取っておったんじゃからの。これは契約を続けて引き継いだという事、故に契約が生きておるのにそちらが破滅せぬうちに降りるという事は出来んのじゃよ」

 

 フウやカリンのような若い魔族では感性が違うかもしれないが、古の契約は本当に存在そのものを縛る効力がある物も珍しくないものだからな。

 バーンの奴が契約更新の際に魔力を使っていたから優しい警告だ。破滅するぞ、というな。

 

「おぉ、そうじゃ。二日後に此処への連合が組まれるぞ。あとは馬家に一刀が一人、五千ほどで明日辺り奇襲をかけるつもりらしい。袁家にも一人、朝廷が発した檄に乗ってくるようじゃな総数は八万少々といったところか。あとは……公孫瓚とやらのところに剣介という子供がおる、聞いたことはあるか?後はカズトと呼ばれる男性が仕事を受けながらここに潜ろうとしておるようじゃ、連れはシシュン、ミンメイ、シャオと呼ばれる女性三人らしいのぅ」

 

 けんすけ?というか……けんすけだけだと割と何人か浮かぶが繋がりのあるような奴は浮かばないな、お笑い芸人だったかアイドルだったかで居たような?くらいしかわからんのだが。

 明日は歓迎の用意が必要か、罠のチェックとサラドをどこに配置するかを考えておこう。

 

 

 

 帳簿を付けながら、私はふぅと一息つく。

 フウさんを中心にしたお店の店番をしながら、人に化けたぷりにーと呼ばれるよくわからない存在と元山賊と聞かされた三人組と、姉二人と一緒に働いている。

 今日も売れていく商品とそれを買って山を登っていく人たちを見ながら、あの夜の事を思い出す。

 黄巾賊ができてしまったあの夜の事を……。

 天幕の中、ろうそくの光に照らされながら地和姉さんが不用意に言ってしまった天下を取るという言葉、それを私たちは軽く捉えてしまっていた。

 一人の男性が天幕に音もなく入ってくる、今ならわかるが親衛隊に変装したあの迷宮でカズトと呼ばれている迷宮の中心人物。

 竹簡を一つ私に手渡し、目の前に正座をする。

 じっと見てくる目に最初は分からなかったが、これでも芸を飯のタネにしている……目は口ほどにものを語る、真剣に心配をしてくれていた。

 竹簡の中にはこれから起こるだろうことを書きしたためられたもので、糧食が足りなくなること、私達では抑えきれないほどに膨らみ略奪が行われるようになること、朝敵として見られこれから先に続く長い戦乱の先駆けとなってしまうこと。

 信じたくはなかった。

 あんな軽い気持ちで放たれた言葉で、そんなことになるだなんて信じたくなかった。

 その上でこのままなら、私たちが助かる道もないと信じたくなかった。

 竹簡を持ったまま恐怖で震えていた、今立ってる地面が音を立てて崩れるのを幻視するような言いようのない恐怖が襲っていた。

 何か手段がないか竹簡を読み進めていく。

 

「あ……」

 

 最後に書かれていたのは今から取らなければいけない根本的な解決策であり、それを助力してくれる契約だった。

 天下を取る方法『泰山に浚われた天子を助けることにすり替える』

 飢餓に飢えた人たちを解放する方法『泰山の迷宮で宝を換金して持ち帰らせる』

 集まった無法者を解散させる方法『迷宮に挑ませればこちらで始末する』

 最後に、私達も迷宮に来いと、そしてふもとにこれからの拠点として使う街を作ればいいと。

 そう書かれていた。

 そうすることで、黄巾賊はただの賊ではなく泰山に挑む義勇軍となる、それも朝廷が動く前に動くことで一番槍の誉れを付けることができる。

 顔を上げればもう彼はいない、姉さんたちを叩き起こしてすぐに行動した。

 そうして黄巾賊は迷宮に挑み、そして無事解散することに成功した。

 思い出し終えて、改めて泰山の方を見る。

 

「ここまで読める人が、この先に起こることを読めてない筈がない……」

 

 挑む人や迷宮の話をしている外から来た人たちを見て、なおさらにそう思いながらため息をつく。

 完全に掌の上だったと諦観をもって。




なおカズトの身体は既に九割方は神魔のものに置き換えられてる模様

サラド神父 出典:ラ・ピュセル ディスガイアの前身作品であり主人公の闇落ち状態魔王プリエはディスガイアシリーズの隠しキャラとして登場している

タグに追加いるかね?もしかしたらディスガイアが日本一ソフトに変わるかも?


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第八話 「おい、やめろお前たちまで来るんじゃねぇ」

ほいほい増える厄介なメンバー
今回迷宮側での死亡者が出ます
残酷な描写があります
そろそろ呉の方も書きたい(レンファendをまだ見てない作者


 氷牢に繋がれた女性がただ祈っていた。

 この暗闇で弱弱しい光源となっているエンジェルハイロゥは罅割れ所々かけて、かつて美しかった三対六翼の翼は片対が根元から捥がれ他の三枚も翼として機能しないほどに引き裂かれていた。

 ここはかつて神に反逆したルシフェルが敗北し繋がれた牢獄、コキュートス。

 なぜ彼女がそこに繋がれているのか、彼女は神の命に逆らい神に剣を向けた、そして死亡した。

 だから彼女は今こうして氷牢へと繋がれている。

 

「兄さんに救いがあらんことを……」

 

 繋がれ極寒の冷気にさらされようとも祈りを止めることはない。

 そんな祈りをささげる中、こちらに向かって近づいてくる足音に気が付く。

 

「やれやれ、ようやくたどり着いたぞ……世界の修復、構築維持……それらの功績をもってこの永遠氷牢より釈放だ。マリエル」

 

 かけられる声に顔を上げ、声をかけてきた人物を見る。

 声をかけてきた人物は中性的な顔立ちに天使には似つかわかしくない濡れ烏の様な黒髪で、天使の輪は金色ではなく白銀の色に輝いていた。

 服装は男装の麗人とも、正装をした凛々しい男性にも見えるスリーピースに身を包んでいた。

 

「サタン……」

 

 手枷の外れる音が部屋に響き、つかつかと確かな足取りで扉をあけ放ったサタンの前までマリエルと呼ばれた天使は近づく。

 

「エル付けるなっつってんだろうがぁ!!」

 

「ごぶはぁっ!?」

 

 近づいたら拳を振り上げ、サタンの左頬に右拳を容赦なくたたき込み錐もみさせながら向かいの壁に突き刺さらせる。

 壁は蜘蛛の巣状に罅割れ、欠片がぱらぱらとこぼれ落ちる。

 

「私は北郷 真理だ!」

 

 両手を腰に当てて仁王立ちをして怒りをあらわにしている。

 壁から抜け出したサタンは憮然とした顔で同じように怒る。

 額同士をまるで頭突きのようにぶつけて互いにメンチを切りながら怒鳴り合う。

 

「釈放の手続きで正式な名前を呼ばにゃならんの知ってるだろうが!俺だってなぁ……あの根性腐った禿饅頭のドぐされの配下だったころの名前でサタナエルとか呼ばれたくねぇよ!」

 

「うっさいわ!そんなことよりも、あのゴミ四文字顔面野郎はきちんとぶっ殺せたんでしょうね?」

 

「あぁ?他の神々たきつけて権限引っぺがしてリンチにして堕としに堕としてやったよ。おかげでてめぇを解放できんだ、ちったぁ感謝しやがれ。なんかゼウスだとかポセイドンだとかもいろいろ引っぺがされてたがな」

 

「はぁ?あんな糞爺や下半身野郎なんてどうなろうと知ったこっちゃないわよ。というか兄貴の情報はどうなったのよ?黙ってるならもう一発ぶっ飛ばすわよ」

 

「ふっざけんな。あいつの場所なら特定できてんよ、ほれ」

 

 額を一度離し紙を取り出せばそれを即座に分捕る様に奪い取る、その時に破れるような音がしたが気のせいだろう。

 サタンは足音を響かせながら、廊下を進んでいく真理の背を見ながら小さく呟く。

 

「やっぱりあいつの願いを受け入れることはできねぇのか……まったく、あいつは難儀な宿題を残していってくれるもんだ。メタトロンとアスモデの奴らも真っ二つに割れちまったしなぁ……」

 

 頭を掻きながら書類を机の上に広げ部下たちからの報告を読んでいく。

 大天使たちは根こそぎ討伐され、ごく一部を除き下位の天使たちのみで構成されている最も位の高い天使たちが先に述べたメタトロン、アスモディエル、サタン、マリエルを除けばヴァーチャーが最も高いと言えばわかるだろうか。

 もっとも、それらを倒す一翼を担ったのもサタンを中心とした上記の三名でもある。

 

サタン 人間殲滅戦争にて『主の罪』を裁いた天使大粛清の主格であり、偽神の殺害者。人間殲滅戦争が起きることを知っていながらそれを止めることをしなかった人物でもある

メタトロン 人間殲滅戦争中期よりとある人物の死から人の味方をするために天使に反旗を翻した

アスモディエル 最初期よりエデンの園より知恵の実を人界に渡らせる、ある人物を魔人として解き放つなど、天使と敵対しながらも人に封印されるが最終的に神との戦いにおいてサタンの援軍として参戦する

マリエル ガブリエルの分霊転生体であり人間北郷 真理として世に生まれながら人間殲滅戦争最終期まである人物と協力していたがアジ=ダカーハと相打ちとなり死亡している。死亡後本来であればガブリエルの本体に吸収され人として消滅するはずが、ガブリエル本体を逆に喰らい本体と成り代わった

 

「報告書だけ読めばひどい評価だな……当たり前といえば当たり前だが、やはり生き残れた『人間』は存在しない、か」

 

 音を立ててその報告書を握りつぶす、最後まで人間を人間として生き残らせようと足掻いた結果が人間の全滅を招いた、皮肉の効いた結果に怒りを収めきれず力が籠ってしまう。

 報告書には『知っていながらそれを止めることをしなかった』と書いてあるが、止めることそれすらできないようにされていたのが正しい、最後の審判という役割がある為それを止めるという行為すら許されなかった。

 ただ、違いがあるとすれば……元々この戦争は『人が二桁』も生き残れればそれこそ上出来すぎるというほどの凄惨なものだったりもする。

 そのために人間が全滅したとしても、始まってしまった以上仕方がないともいえる。

 

「だからこそ、あいつの『願い』か……どれだけの奴が……あいつを知っている奴でそんなことを望んでると思ってるんだろうなぁ」

 

 

 

 深夜迷宮にサイレン音が鳴り響く、それは本来の扉の守りであればありえない侵入者を知らせる警報音、バーンパレスに存在していた扉に施されていた封印に等しくとてもではないが力業であろうとも妖術師であろうともイエローを飛ばしてレッドの緊急性を表すのはおかしかった。

 プリニー達が迷宮に仕掛けられた罠は当然として、敵が仕掛けたかもしれないことを考慮しながら慎重に、ただそれなりに早く迷宮内を捜索していく。

 

「……」

 

 角から二つの鏡を使って念入りに確認するが何者の姿も確認できないことを確認して、フリッパーを振って先に進むことを示し、探索を進めていく。

 普段はぺたぺたと間抜けな音を鳴らす足音は鳴りは潜め、文字通りの無音で歩を進める三人のプリニー達、それは熟練の忍びの歩きを連想させた。

 まるで中身が別人にすり替わったと言われた方がいっそ信じられるほどに無機質な瞳が通路を見ている。

 

「……」

 

 何かに気が付いたのか三人ともが音もなく来た通路を戻り、角に身を潜める。

 武器は抜かれるが、いつもの大型のナイフではなく一人はククリナイフと呼ばれる肉を抉り取る為の刃物、一人は三節棍の両端に刃物が付いた変節槍、一人は盾と短槍を持っていた。

 

『第一隔壁Aの3限界っす』

 

 インカムから聞こえる声が知らせると同時に扉が粉砕され破片が角にぶつかり落ちていく。

 破片が落ち切ると同時にプリニー達が動き出す。

 盾を前面に押し出し細かく動かしながら、突き出される拳の衝撃をそらしながら肉薄して短槍を侵入者に繰り出していくが、空いている左手で捌かれ体を大きく開けされる。

 素早く蛇のように滑り込み足元を切りつけるように繰り出されるククリナイフは踏みつけられ止められ、その瞬間に手放し逆回転に変えて残ったククリナイフを上段に振るうが肘で掬われ上向きに跳ねさせられる。

 踏みつけた足は開いた短槍を持つ手を経由して、頭上から躍りかかる変節槍を迎撃しもう片側に絡みつかれる。

 

「α、接触、β攻撃援護要求、Θは撤退援護……相手は『怪人』左慈、要警戒オーバー」

 

 絡みついた変節槍を足場に飛び上がり足刀で蹴り落されながら、報告し落とされた衝撃を利用して距離を取りながら残ったククリナイフを投擲し、すぐさまポケットから小刀を二振り装備する。

 

「……っち、邪魔だ……」

 

 左慈の目の色が変わる、今までは雑魚を見るような見下した視線であったのに、苛立ちながらも確かな敵を見る目へと変貌していた。

 集められる気が変色していく。

 

「はっ、俺らの命なんて安いもんでね。通りたきゃ殺して通りなぁ!!」

 

 拳足と刃が交差し激突する。

 

 

 

「世界の要、『泰山の鏡台』はどこにある」

 

 右手で最後に残ったプリニーの下顎を掴み上げて尋ねるでもなく、ただ確認のために言葉にする。

 背後には力なく倒れたぷりにーの亡骸や爆発跡が幾つも見て取れた。

 すでに質問はしている、ただどいつもこいつもその答えを口にすることはなかった。

 知っていようとも知らずとも悪態を返し、最後まで反撃を試みようと虎視眈々とどこまでも最大の一撃を見舞う為の隙を狙ってくる、下手に尋問に時間をかけるわけにも、手加減をしてやる余裕もなかった。

 

「はっ……言った……だろうが!殺して通りやがれ!」

 

 こいつに至っては懐に入れた手榴弾のピンを抜くタイミングを計ってやがる。

 死兵よりも性質の悪い特攻兵。

 命を投げ捨てられる死兵、ではなく前提として既に命を投げ捨てている。

 叩きつけ砕ける音と共に引きちぎられる音が扉に叩きつけられる。

 

「っち、無駄な時間を使ったか」

 

 頭部の上半分と首から下のプリニーが張り付けられた扉を道術で開きながら、目的の場所を探す、罠の種類を見破りそれらがどういった存在が居るのかを予測づけ、もう一度舌打ちをした。

 

「厄介な……イレギュラーがどれだけいる。外史だの正史だのもう関係はない、ここは完全に異なる世界だが面倒な変態どもがかぎつける前に終わらせなくては……」

 

 地雷原のように敷き詰められた鋼鉄タケノコを掻い潜りながら、先を急ぐために術を足に施す。

 さらに奥の扉を開き左慈は顔を顰める。

 

「お前らか、世界を壊そうとしているのは!」

 

 部屋にいたのはサラド神父、孫堅、バーン……本来ならこの世界には存在せず、孫堅もまた既に死亡したことが確認されているはずの人物、孫策が呉の遺志を継いでいる為にいるはずがないのだ。

 

「おいおい、お前さんの方が『否定の管理者』でこの外史を消そうとしてんじゃねぇのか?」

 

 バーン以外が戦闘態勢を整えながらも、サラドが左慈の言葉を否定する。

 

「俺はもう管理者ではない、否定も肯定もくそくらえだ。かつて外史が正史に影響を出し大惨事を起こしたが……最終的に正史がああなると分かっていれば止める理由もない」

 

「俺にはお前らが何を言ってるのかわからねぇな!外史?正史?そんなもんは関係ねぇ、俺は今ここに『居る』。それで十分だろうがよぉ!」

 

 その言葉は、かつてこの似た世界で北郷一刀という男が、この世界の人物に言った言葉だ。

 この世界で生きている人間だ、と。

 その言葉を相手は傀儡だと笑ったのは左慈で、真っ向から噛みついた言葉であり、正史の世界もまた観測される側の、外史と何ら変わらない世界だと気付かされる言葉でもあった。

 






この作品のカズトは前世にてなんでこのメンバーで負けるんだ?
と思うようなメンバー揃えてるけど、それでも負かせるのが敵だったような修羅場くぐってる為ほぼ最強といえる強さを持っております。
より強いふざけるなという壊れがいるのでカズト自身は強いとは思ってませんが


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番外 「ヴァレンタインディー」

注意:時系列を無視した展開となっております、具体的にはカリンの封印が五つ解放され肉体を持った状態となっております


 カズトの目の前でカリンは、チョコレートで全身をコーティングをした状態で見降ろされていた。

 

「正座」

 

「いえ……あのね?」

 

 カズトはカリンの言葉を聞きながら、視線は冷ややかなものになっていく。

 

「せ い ざ」

 

「あの、私の格好を見て……」

 

 カズトの後ろに阿修羅が気炎を巻き起こしているのを幻視する。

 

「………」

 

「………」

 

 ゆっくりとカリンは床の上に正座をする。

 

「さて、俺が何を怒っているか分かっているか?」

 

「えぇと……」

 

 少しの間なぜ叱られることになっているのかを考えるカリン。考えがまとまったのか顔を上げ真直ぐカズトを見て口を開く。

 

「ちょっとチョコに資金を使いすぎちゃったかしら?」

 

 その答えにカズトは深くため息をつき、カリンの後ろを見る。

 カリンの後ろから静かに、ただし力強くカリンの肩を掴む手が伸びる。

 

「それは私の管轄ですねー。カリンさまは私の説教から受けたいようで―」

 

 間延びした声。

 感情を感じさせない声音。

 カリンの背後にいたのは羅刹を背負ったフウだった。

 

「ひぃっ!?」

 

 壊れかけのブリキ人形が動くようなぎこちない形で、震えながらカリンは正座したまま背後に立っていたフウの顔を見た、見てしまった。

 見てしまい、カリンはらしくもなく瞳に涙を浮かべて短く悲鳴を上げて固まる。

 フウの顔は笑顔だったのだが、それは怒りゆえに笑みを浮かべているものであり目の色が反転していた。

 

「お覚悟はいいですかー?カリンさまー……」

 

 ただ今フウによる説教中、一時間ほどお待ちください。

 

「ところでアスラ……お前は呼んでない、とっとと帰れ」

 

「なん……だ、と?エフェクト要員に、とバーンに聞いたのだがな」

 

 ショボーンと肩を落としながら説教されている部屋を出ていくアスラ王。

 入れ替わりの様になんだなんだと集まってきたシュウラン、シュンラン、カロン等が集まって、扉でこっそりと中を覗いていた。

 

「ふむ、丁度いい……誰かバーンも呼んできてもらえるか?」

 

 それは静かな声なのに、しっかりと怒りを感じられる言葉だった。

 その声に小さく悲鳴を上げて覗いていた全員が全員バーンを探すために散っていく。

 

「多分、バーンの奴は逃げているだろうなぁ………行先は蜀辺りか?」

 

 今回のチョコでの被害となった白丹、美羽に振り返る。

 魔力を抜いていなかったチョコを食べてしまい気絶していたが、プリニー達がいち早く気が付き命が失われることこそなかったが遅ければそれすら危なかっただろう。

 これは俺がメインとして食事を作っていた弊害ともいえるものだろう、そのあたりは仕方がないかコックを雇うお金もケチったのが最初だからな。

 

「うぅ……ごめんなさい……」

 

「ふー……ではお兄さん、説教選手交代ですよ。カリン様フウはまだ優しかったと思い知ってくださいねー」

 

 愕然とした顔でこちらを向いたカリンの顔が腕を組み立ちながらにっこりと笑う俺の顔を見て、絶望したようにさらに青くなっていくのがわかる。

 足も正座したままで痺れてきているのだろう外面を気にすることなく涙を流している。

 

「あ……足がしびれているの、す、少し休憩を……」

 

「いいだろう、三分間待ってやる」

 

「せめてもうちょっと!?」

 

「考える時間もいらないと、すぐに始めてもいいんだぞ?」

 

 その言葉にがくりと項垂れハイワカリマシタと了承の言葉を返してくる。

 そして三分後。

 

「さて、俺が何を怒っているか分かっているか?」

 

 フウに説教をされる前にかけた言葉と変わらない言葉で俺の説教は始まる。

 

「えっと、えっと……」

 

 答えを出せずに焦るカリン、それを見下ろし視線を逸らさない俺。

 

「まず魔力中毒は人間にとって非常に危険なものだ。魔界産の植物で作られた植物などはこれの原因となる魔素を多分に含んでいるのは知っているな?これの処理をせずに食堂に置いていたことで起きたことをまずは怒っている」

 

「あ……」

 

 チョコレートは甘いお菓子なのだ、子供が特に好む甘いお菓子なのだ。

 それが作りかけとはいえ食堂という食べ物が置かれている場所に放置されており、子供である白丹や美羽が自由に歩き回るのなら、それが起こることは容易に想像がついたはずではなかろうか。

 つまみ食いをしてしまったのだ。

 カリンもそれに気が付いたのだろう、顔色がさらに蒼くなっていく。

 

「更には体に溶けたチョコレートを塗ろうと思ったのは一体何を考えてなのか、白丹や美羽が真似をしないと思っていたのか?暑さに耐性のある魔族なら問題ないのだろうが、あの子たちは普通の人間だぞ?火傷しないとでも思っていたのか?」

 

 更にこんこんと怒鳴るわけでもなく説教していく。

 

「体に塗り付けるという行為を一体どこからの知識で仕入れてきたのか、食べ物を体に密着させて食べさせようというのは不衛生が過ぎる」

 

 今回のカリンの行動による軽率さを一つ一つ説明するような説教は二時間にわたり行われ、正座により痺れた足を反省の証として終わらせることとした。

 

 

 

 プリニー達は忙しそうに食堂とキッチンを行き来している。

 

「こっち魔素抜き終わったすっよー」

 

「チョコフォンデュもいい感じに温まってるっす」

 

 プリニー達に魔界カカオの魔素の抜き方を教えておけば、それを晩の食後のデザートに利用してくれた。

 白丹や美羽だけでなく他の女性メンバーにも好評なようでなにより。

 女性はやはり甘いものが好きなのだな。

 バーンには漏斗で溶かされたチョコを直接流し込まれているが、そこは見なかったことにしておく。

 終わってみればいつものドタバタとした変わらぬ日常の様にふっと表情がほころぶ。

 

 

 

追記:カリンのチョコはカズトが責任をもって食べました




ちょいと短いですが、ヴァレンタインの番外でござる


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第九話「過去を知る者、知らぬ者」

まったりのんびり更新
封印?その内解けるんじゃない?



 バーンと左慈は肉薄した距離で闘い合っていた、武器等抜ける距離はなく、文字通りの接戦が行われていた。

 肘がかちあげられ、膝が横から蹴りつけ、肩からの体重をかけたタックルが、震脚の余波、零距離から打ち抜く崩拳、そして互いの頭蓋をぶつけ合う頭突き。

 

「ぐぅっ!」

 

「ぬぅっ!」

 

 互いに弾かれ零距離からの一指しの空白に二人とも次への溜めを作りこむ。

 バーンは両手に炎を、左慈は右足に気を。

 

「受けよ!カイザーウィルム(メラガイアー)!」

 

「吼えろ!真・王虎襲撃!」

 

 互いの技は奇しくも龍を呼び出すものと虎を生み出すものであり、形こそ異なるが竜虎相まみえる形となってしまう。

 それに水を差す形となるのは、左慈の隣に現れる藍色の道士服に身を包む眼鏡をかけた優男だった。

 男の表情は暗く失望にも似た顔をしていた。

 

「帰りますよ左慈。私たちの最終目的が達成不可能だという事がわかりました」

 

「………そうか」

 

「鏡を、もうこの外史が存続しようとも私達に意味はないです」

 

 その言葉に銅鏡を懐から取り出し、バーンへと投げ渡すと何かしらの道術で二人は姿を空間に溶かすように消えていく。

 投げ渡された銅鏡は確かに見たことがある物だった、正確には割れた状態で見たことのある奥にあるあの割れた銅鏡と同一のものだった。

 まったくの同一のものだった。

 

「この世界に興味はない、となればやはりあやつの事か……」

 

 元となる銅鏡を視ることでわかることがある、この銅鏡は『外史』という世界を構築するものであり、『恋姫†無双』というストーリーを生み出すためのキーアイテムであり、この世界を維持するためのものだと。

 『北郷一刀』という人物はこの『外史』における主人公であり、特例を除けばその存在がなければ物語そのものが進まない、そう言った存在でもある。

 

「ふぅ……やれやれ……どちら側であっても達成は不可、という事かのぅ。それは左慈たちも『儂ら』も変わらん、か」

 

 ふるふると頭を振るい部屋の惨状を改めてみる。

 部屋は格闘戦だけでもなく魔法まで使ったもので凄惨たる状況だった、まともな部分がない。

 

「これ片付けるのは儂になるのかのぅ?」

 

 そんなことになった部屋を見て呆れた状態になる。

 

 

 

 ここで少し時間は戻る。

 俺は文字通りの最終ライン、カリン達の居る生活空間に立っていた。

 眼前には長髪に眼鏡をかけた胡散臭い男、『超人』于吉が驚愕の表情をしたまま立っていた。

 

「な……ぜ……」

 

 言葉を詰まらせながら驚愕の表情は諦観に染まっていく。

 

「なぜ……貴方なんですかね……」

 

 顔は俯き言葉を吐き出していく。

 

「なぜ、なぜ……貴方が、この世界に居るのか……」

 

 再び上げた顔には怒りしか見えなかった。

 

「私の願いを叶えるために、死んでもらいましょうか!なぁ?!あいつを生贄に捧げたお前がいるんですかねぇえぇぇぇぇぇぇっっ!!ああぁぁぁぁ!?ひぃぃぃぃとぉぉぉぉぉしゅぅぅぅぅぅぅらぁぁぁぁぁ!!」

 

 怒りが満載された雄叫びと共に力ある言葉が紡がれる。

 

『アギラオ』

 

 それと同時に俺も舌打ちと共に力ある言葉を紡ぐ。

 これには発声の必要はなく、言葉をしゃべれない今でも使うことができる。

 

『ザン』

 

 ただ、俺に才能はない。下位の言葉を紡ぐだけで精いっぱい、中位の魔法に対抗するために魔力によるごり押しをする。

 火の玉は無数に呼び出されるが、俺はそれに倍する数の衝撃の弾丸を生み出していく。

 相性はよろしくはない、よろしくはないがこれでしのぎ切るしかない。

 

「あいつが、あの子がそんなことを望んでいない事なんて理解している!お前のために道の礎になることを選んだのを知っている!あぁ、あぁ、だからこそ!お前だけが!此処に居ることを納得ができるかぁぁぁぁっ!!」

 

 数千数万の火の玉が俺を問わず、後ろにいるフウや白丹、空丹それを守ろうとするプリニー三人へと殺到していく。

 打ち出された先から再び創り出される火の玉たち、迎撃する衝撃の弾丸は一つに対し二つ三つと消費していく、それに合わせ俺も弾丸を作り出すためにごりごりと音を立てるように魔力が減っていく。

 下位と中位は威力はもちろんの事、消費に対するコストパフォーマスがいい、中位は下位の1.5倍程度の消費で倍近い威力に相当する。

 

「アイス!アイス!アイス!っすよぉ!」

 

 プリニー達も必死に魔法を唱え応戦しようとするが、文字通りの焼け石に水の如く生みだされた氷は蒸発していく。

 

「ふぉぉぉっす!?威力が全然違うっすよぉ!?」

 

 慌てながらもいつも通りの語尾を使っている以上余裕はあるようだ。

 余裕なのはいいが、カットインまで入れて三人連携して火の玉蹴り飛ばすな、壁が焼ける。

 

「おおっ!なんだかプリニーがすごいんだもん!」

 

「こう?こう?」

 

 空丹はプリニーの動きを真似ようとするのはやめろ、一応プリニーは生ものだから。

 

「受け取るっすよ!大将!」

 

 コントのようなことをしている中、プリニーは金属製の剣を俺に投げ渡して来るのを後ろ手に受け取る。

 

「カズト!生贄ってどういう……」

 

「あぁ……お前は知らなかったのか。地上の総てを、人間全てを、70億という人命を使った。それがその男というだけだ」

 

 声を張り上げたカリンが驚愕の表情を浮かべているのがわかる。

 于吉の言葉は事実だ、事実だが……何のために行ったのかは言っていない。

 心を揺さぶるだけならこれで十分だろう。不信を植え付けるには十分だ。

 剣を構えた俺を見て于吉は舌打ちをし、新たに火の玉を生み出しながら両手に魔力をためているのが見て取れる。

 力がある言葉はゆっくりとただ力のみを注ぎ込まれ形を成すが、いまだに言葉は紡ぎ続ける。

 幾度かは見たことがあるが……数えられる程度の回数だ、見える力は無属性。

 物理ではない『属性を持たぬ無色の力』、防御は無意味、回避が最適だが、後ろには俺が背負っている者がいる。

 回避は論外。

 防御は無意味。

 耐えられる保証は無し。

 ■■■■が嗤っている姿が見えるようだ。

 

『お前に幸福な未来は似合わない。みっともなく足掻く様を見る、それこそがお前の本質だろう?』

 

 かつて訊いた答えだ。

 

『抗え』

 

 抗ってみせよう、背に守るものがある限り。

 

『辿り着け』

 

 必ず辿り着いてやろう、お前たちが作った道を。

 

『connect ON 十束の十拳之剣』

 

 刻む音が聞こえる  それは刻を刻む音ではない

 燃える光が見える  それは光を生み光ではない

 飲み込む闇が在る  それはただ其処にあるだけ

 

 

 

 カズトの右手が剣を溶かし飲み込んでいく、その光景を私は見ていた。

 

「なにが……」

 

 記憶にノイズが走る。

 豪雨の降る中、鬼灯の様に腹を染めた八つ頭の大蛇が天に挑む姿を。

 

『自分から生贄となった蛇の姿を見た』

 

 それは確かに私の声だ、でも私はそんなことは覚えていない。

やめてやめてやめてやめて(私はそのことを覚えている)やめてやめてやめてやめて(私がその中にいることを)やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて

 

『人々は望んでいた者を飲み干し生贄となった人の魂を束ねて、剣を造り上げた大蛇は人の世界を沈める豪雨を止める前に己の腹を裂きそれを捧げた』

 

やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて

 

『生贄になった大蛇は龍王『■■■■■■■』、捧げた剣は『天之羽々斬』』

 

やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて

 

『生贄になったのは……覚えている(わかっている)でしょう?』

 

やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて

 

『魏の将兵の子孫たち』

 

やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて

 

『その始まりとなったのは貴方()

 

 私はその光景を目を瞑り、耳を塞いで、身を縮こませ、ノイズで記憶に蓋をしようとした。

 それでも、声だけがそっと頭の中に響く。

 

『だけどそれでも足りない』

 

「天帝陣・八極炉」

 

 眼鏡をかけた侵入者の男の声が現実に戻す。

 展開される魔法陣は見たことはないが、全盛期の私でも一撃耐えられるかどうかわからない、そんな力を内包していることは見て取れる。

 そんな男の放つ攻撃にカズトは、右腕を繰り出していた。

 力を弾く度にカズトの右腕は皮膚を失っていく。

 その下から見えるのは夢で見たはずの、あの右腕だった。





色んなものが混じってるけどのんびりと逝きますよー
基本カズトには不幸が降りかかる、そんな仕様です


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第十話「世界なんて勝手に回るもの」

なんのかんので蘇らせれるし、回復もする


白亜の通路の途中、■■■と■■■は対峙していた。

剣を切り結び、剣戟の音を響かせながら、視線を交わし■■■の瞳には涙が浮かび歯を強く食いしばり、■■■の■にはもう■はなく■■■に■■■に返していた。

 

「お願いだから!もう■■■■よ!」

 

この先に■■はない、もうすでに■■などないことを教えられていた。

だから■■■事を選んだ。

でも■■■にその力はなかった。

無かったから■■■■の■■体として■■■■った……全ては■■為に。

なのに■■ない。

 

「なんで!なんで!■■■■よ!」

 

■■を使えども■■を使えども、■■■の剣は■を負わせることも■を捉えることも出来ずに■に■きつけられて、■■が落ちていく。

■だと、手を伸ばす。

■■ないでと、手を伸ばす。

■■■ないでと、手を伸ばす。

もう■の■■はない、■の■■で決定された。

折られた■の■■■だけが■■の前に残り、■■の上に■■■■が置かれる。

■■の■■。

■■通りの■■。

■■■■が■び■■■、それを■■だろう、■■■■の始まり。

そうなることを■■たくて■■てきたのに■■が終わった。

 

 

 

 布団をはねのけ起きた桃香は涙に濡れた顔のまま虚空に手を伸ばしていた。

 

 

 

「よくきたの、孫策よ。今麗羽姉さまから泰山への連合の誘いの書簡が届いたのじゃが……おぬしらは参加するのかや?」

 

 扇子で口元を隠しながら美羽こと袁術は呼び出した客将の孫策を観察するように視線を投げかけている。

 その様子を知ってか知らずか孫策は共に連れてきていた周公瑾とアイコンタクトで相談をする。

 

「参加したいけれど……」

 

「兵が足りないのでしたら、こちらから出しますよぉ?千ですか?二千ですか?五千くらいまででしたら問題ありませんのでぇ……参加、しますよ……ね?」

 

 孫策の言葉を途中で遮り七乃が笑顔を崩さずに確認という名の強制執行を告げ、それを孫策には断る力もなく了承するほかなかった。

 それでも最低限のことはするべく言葉を吐き出す。

 

「孫権にも経験を積ませたいので……呼び戻してもよろしいでしょうか?」

 

「ふぅむ……よいぞ」

 

 扇子を閉じて年相応の表情で「うわはは」と馬鹿のように笑いながらあっさりと孫策と孫権の合流の許可を出す。

 それは客将である孫家の反乱の足掛かりになることを承知しながら許可を出す。

 

「では準備を進めるのじゃ。一番にたどり着き連合の仕事などさっさと終わらせてしまうのじゃ!」

 

「きゃー!お嬢様流石ですぅ!」

 

 誇大妄想ともとれる美羽の言葉に早々に退出する孫策の表情は憤怒に染まっていた。

 そんな孫策を底冷えするような冷徹で計算高い視線が見ていることなど露とも知らず。

 

「(孫策はあちらの噂を知らぬか、そして孫権の姿を見たという噂は虚ではなく実。孫権が二人も居るとはのう……炎蓮の噂を知っておれば一も二もなく誘いに乗っておったろうな。はてさてどれほどの英傑がこの盤面を作ったのやら)」

 

 七乃も準備のために退出し玉座の間には美羽ひとりと思えば柱の陰から白欧の肌をした巨漢と線の細い女性が出てくる。

 

「二人には留守の間の事を任せる。増やすも使うも自由にせよ……どうせ華南もくれてやるつもりじゃったからの……が、これだけお膳立てしてやっても獲れぬのであれば遊んでやってもよいぞ」

 

「承知した盟友よ」

 

「えぇ運営の方は任せなさい。お嬢ちゃんも怒り心頭だったみたいだし?時期的にも動くでしょうね自分たちの動きが読まれてるだなんて考えずに」

 

 ころころと口元を隠しながら孫策の様子を思い出しながら笑う姿は将というよりも王族に近しいと思えるだけの気品を持ったものだった。

 

「大きく流れを作るはずであった黄巾の乱は乱となる前に早期に消えた、帝がお隠れになりその子供が次帝を引き継ぐ前に攫われておる、それゆえ本来であればこのように反董卓連合が組まれることはないと考えておったが麗羽は……絶対考えなしじゃぞ、あのおバカは」

 

 その言葉に三人が揃ってのどを鳴らして笑う。

 考えなしの大馬鹿そんなことは知っていた、でもそれはどこか美羽の想う人に重なってしまう。

 そしてそれを二人は知っている。

 だからそんな言葉に笑ってしまう。

 一番遠くて一番近い不思議な魅力を持つのが袁尚、麗羽という女性だった。

 

「計画はそれでも順調じゃ……妾は再び会うために努めましょう。この外史を欺き正史にたどり着くために……」

 

 

 

Eloim,(神よ) Essaim,(超常たる者達よ)frugativi et appellavi(我が声に耳を傾けよ)

 

Eloim,(神よ) Essaim,(神に仕える者たちよ)frugativi et appellavi(我は求め訴える)

 

Eloim,(神よ) Essaim,(神に仇なす者たちよ)frugativi et appellavi(我が声を聴け)

 

 淡々と熱を感じさせない声音で蝋燭だけの明かりの部屋の中、于吉はパソコンの前でとある呪文を口ずさみながらキーボードに指を走らせていく。

 外史の管理者以外に入ることのできない空間をさらに厳重にロックした部屋の隅には二つ仙人の服を着たままのミイラが転がっていた。

 一つは于吉と同じ服であり、同じ眼鏡をしているもの。

 もう一つは于吉の相方であるはずの左慈と同じ服装のものだった。

 

「お前は再びそれを作るのか……」

 

 茶とつまむものを盆にのせた左慈が入ってきて、椅子に腰かけパソコンに向かう于吉に声をかけるが左慈にしても于吉が何を作り上げようとしているのかは知っている。

 

「えぇ。不要になることが望ましいですが、保険をかけないわけにはいかない世界だというのも知っているでしょう……北郷一刀がカズトになるために、ならなければ……」

 

「人は全て泡沫の夢に消え去るか、可能性の芽を摘み取られただ滅びる、それとも閉じた世界から出る事叶わず押しつぶされるか」

 

「後は対抗手段が取れずただ滅びる、でしょう?」

 

 いつの間にか二人がいる空間に現れる九つの狐の尾を持つ女性が最後の結果を答える。

 中華風の服を着こなし、妖艶とも流麗とも取れる空気を出しながらも二人を警戒することを隠しもせずに会話に混ざる。

 

「……貴女はなぜこちら側に立つのです?妲己という紂王を諌めた瑞獣、本来ならば外史を見守る側に立ちそうなものですが」

 

「あなた達の目的も知っている。どうしようとしているのかも知っている。そしてこの外史は正史の影に消える事も知っている。だから私はこちら側に立っている」

 

「はっ。すでに目的は達成できない、俺たちのすることはもうほとんど残っていない。銅鏡……いや、封印解くための鍵はすでに投げ渡した。それでも『繰り返す』(・・・・・・)つもりか」

 

 左慈の問いに彼女は一度目を瞑り再び目を開いた瞳には強い怒りの感情が見られた。

 

「えぇ、何度でも。置いて行かれた、追いつけなかった、間に合わなかった。私が……私たちが弱かったから。だから何度でも繰り返しましょう、もうご主人様を一人(・・)にしないために」

 

 

      'EL ELOHIM ELOHO ELOHIM SEBAOTH'   “永遠なる主、サバオトの神”

 

 'ELION EIECH ADIER EIECH ADONAI'     “栄光に満ちたるアドナイの神の名において”

 

      'JAH SADAI TETRAGRAMMATON SADAI'   “さらに口にできぬ名、4文字の神の名において”

 

      'AGIOS O THEOS ISCHIROS ATHANATON'  “オ・テオス、イクトオス、アタナトスにおいて”

 

'AGLA AMEN'                    “秘密の名アグラの名において、アーメン”

 

'A MEN AMEN'

 

 パソコンを閉じて、二人を于吉は見る。

 

「それで?したいことはわかりました。ですがそれをどうやって達成するつもりなのですか?カズトは殺せない、というよりも……ハハハ……殺した程度で死んでくれるのでしたら苦労はしないんですがね」

 

 指を鳴らすと何億何兆と書物の収められた書庫へと移動する。

 この書庫は北郷一刀の人生を綴った物語を纏めている自動書記といわれる手法を使った彼の生を見続ける二人の精霊が今も書き続け増え続けている。

 

「一冊一冊、彼の人生を終わりまで書かれたものです。えぇ……終わりまで書き綴られたものなのですよ……この冊数が意味することが分かりますか?」

 

 その書庫はあくまで見える場所で幾兆冊と数えることができる膨大な数が収められながら奥には暗がりに閉ざされながらも通路が続いている。

 

「彼は死んで繰り返し続けた……それでも終に辿り着いたのは十にも満たない。世界の夢アザトース、全ての悪夢ロード・オブ・ナイトメア、人の終点デウス・エクス・マキナ、一にして全全にして一カオス、完全なる世界アポトーシス、全知全能■■■■。終に辿り着きながら彼は繰り返す、彼の願いは叶えられることはない叶えようのない夢……繰り返した末の対、では一刀の始まりはどちらだ?彼女たちは過去に助けられた、だからこそ現代において彼のために捧げた。彼は現代において助けられただからこそ過去に亘り彼女たちを助けた」

 

 一度口を閉じてその続きを話す。

 

「助けようとした。私は彼の希が助けることだと思っています。過去に遡り現在を変えることはできない、過去を変えれば現在が変わってしまう、そうなればカズトの希は叶えられない。だからこそ繰り返させているのでしょう」

 

 于吉の答えに妲己は思わず反論する。

 

「待て、カズトは……人間じゃろう?」

 

 妲己の論に左慈は顔を片手で覆う。

 

「違う。カズトは……ザ・ビースト(唯一人の人)だ」

 

 

 

 

火炎線(マハラギダイン)!」

 

 火線を巡らして焼き切る炎刃を線上に飛ばしながら木刀を構える獣と対峙する一人の紫色の鎧に身を包む兵士。

 他にも一緒に突入した兵士もいたのだが、プリニー達に回収されてすでに居ないからこそ、兵士は出し惜しみせずに己の(わざ)を旧友に振るう。

 炎刃を断ち切りながら向かってくる獣に氷結の散弾を撒き散らしながら距離を確保しながら隙を探す。

 

氷結弾(ブフダイン)!ちぃ、近づけさせんでぇ。かずぴー」

 

 撒き散らされた散弾の跡地には氷柱が生み出され、進路を阻害するための障害物となって獣の歩を阻む。

 筈なのだがそんなもの知らんとばかりに木刀の一閃にてただの一瞬で横に断たれ砕け散る。

 砕けた氷塊が操られるように獣へと向かってくる。

 

「甘いで。魔力暴走(メギド)

 

 魔力を内包した氷塊が臨界を超えて魔力を注入されて爆発するも兵士の首元には木刀が付きつけられていた。

 

「あかん、甘かったのはわいの方やった。降参!降参や!でもせめて空タン、白タンには会わせてーな、かずぴー」

 

 兜を外して顔を晒したその顔は、眼鏡をかけたなんとも言えない三枚目の顔で似非関西弁を操るかつての聖フランチェスカ学園での同級であり友人であり、この古代中国三国志な世界に来る前に居たファンタジーな世界における仲間の一人で魔術師をしていた、及川 祐(おいかわ たすく)だった。




気付けば大所帯になるのはいつもの事


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