BEYOND 〜時空を超えた会合〜 (通りすがりの魔術師)
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知らない火星

発想は公式から出されたBEYONDの写真より。バルバトスルプスの前で銃を持って立つミカに白い花を持つ刹那が印象的なアレです。(まだ見てない、覚えてない人は調べてみてください)
これはそんな1枚から着想を得て、下書きに埋まっていた作品です。


 

化石燃料から太陽光へとエネルギー獲得を移した人々はそれぞれの国を3つの経済圏に集中させ、世界の統合化を図った。しかし、それは形だけで、実際には3つの軌道エレベーターを作り、それぞれが武力を抱えまるで牽制し合うかのような冷戦状態に陥っていた。そんな世の中で私設武装組織ソレスタルビーイングはあらゆる闘争に対して武力で介入することを宣言。それは恒久和平実現のため、さらには来たるべき対話のためにイオリア・シュヘンベルグが数世紀前から計画していたことであった。

 

 

イオリアは各経済圏への武力介入のために人類を新たなステージへと導く存在イノベイド。世界の情勢、それに基づく行動予測を行う量子型演算システム『ヴェーダ』。無限可動エネルギー発生機関GNドライヴ。GNドライヴを搭載したモビルスーツ『ガンダム』。そして、そのガンダムを操るべくヴェーダにより選ばれたガンダムマイスター達。ソレスタルビーイングはこれらを用いて幾度も武力介入を行い、世界からの嫌われ者となるも彼らは世界平和のため、紛争根絶のために戦いを続けた。

 

 

時に仲間を失い、家族を失い、愛する人を失った。

けれども、新たな仲間を得、探していた者と出会い、分かり合う気持ちを育み、人の素晴らしさを彼らは知っていった。

 

 

やがて、戦いを続ける中で彼らの理想は現実となった。それは彼らの望んだような形ではなかったのだが、戦争の醜さ、凄惨さを身に染みさせ心に浸透させた人々は恒久平和実現のために新政府軍を立ち上げ、少しずつではあるが平和の道を歩んでいた。

 

 

しかし、イオリア・シュヘンベルグの予想よりも早く異星人、外宇宙の生物との接触があった。地球外変異性金属体、ELSと名付けられた生命体は人と同化することによって分かり合おうとしていた。しかし、群ではなく個として生きる人々にはELSのやり方は合わず、互いにファーストコンタクトを誤った人類とELSは戦うこととなる。

だが、イノベイターとして覚醒した刹那・F・セイエイは彼らとの対話を得て、ELSの母星へと向かった。彼と共にティエリア・アーデはELSと人々との共存を目指すも、やはり人類の中にはELSの存在を看過できない者がいる。

新たな火種を抱えた地球を離れる2人は新たなガンダムマイスターを選定した後、ELSと共に彼らの母性の代わりとなる惑星を探していた。GN粒子によるワープを繰り返すうちにティエリアはとある星を見つける。

 

 

「刹那」

 

 

「なんだティエリア」

 

 

「あの星は火星じゃないか?」

 

 

言われて刹那はヴェーダを通して方向を示すティエリアの言う『火星』を見る。確かにそこにあったのは火星だ。刹那は予想外だと思いながらも、こういうこともあるかとコンソールを操作して再び粒子ワープへと移ろうとする。

 

 

「どうやら遠くへ行くはずが近くに来てしまったらしい」

 

 

太陽系の外へと飛び出すつもりが誤って戻ってきてしまったと勘違いした刹那にティエリアは首を横に振り、粒子ワープを待つように進言した。

 

 

「いや刹那、アレを見ろ」

 

 

ティエリアに言われてその先を見やる。すると、そこには見慣れない白い宇宙ステーションらしきモノが浮かんでいる。艦艇や航空艦を多数在中させれそうな大きさを誇るその宇宙ステーションに刹那とティエリアは当惑した。

 

 

「なんだアレは…?」

 

 

刹那が呟いてる間にティエリアはヴェーダで、人類が火星へと進出したかどうかを検索するも該当するような項目はない。木星探査へ出た宇宙船はあれど、火星に宇宙ステーションを浮かばせるプロジェクトなどありはしない。

 

 

「行ってみよう。何か僕達の知らない何かが動いてるのかもしれない」

 

 

「ああ」

 

 

若しかするとELSとはまた別の知的生命体が火星に拠点を構えている可能性もあるため、刹那とティエリアはELSクアンタで火星へと接近。

 

 

「なんだこの火星は…」

 

 

近づいて大気、水分を分析するとヴェーダから得た火星の情報と不一致した。火星とよく似て非なるその星にティエリアは首を傾げた。また刹那も異質な空気、そしてイノベイター故の直感なのかパイロットとしての勘なのか、刹那は何かがやってくることを察知した。

 

 

「ティエリア、何かくる」

 

 

「なに?」

 

 

謎の火星について詳細なデータが得られていないというのに、レーダーにはこちらもモビルスーツ1機よりも少しばかり大きい飛行物体が火星へと急速に近づいていた。

 

 

「GN粒子の反応はない」

 

 

「旧世代のエネルギー反応も見られない」

 

 

ならばアレは何を動力源にしている。2人にそんな疑問が浮かぶ。分からないのなら直接確かめようと刹那はその接近する機体が見える場所へと移動する。

 

 

「……輸送機か?」

 

 

「いや、中に何かいる」

 

 

イノベイターの刹那でも抽象的で漠然とした物言いしか出来ないほど接近する飛行物体は謎であった。すると飛行物体は火星の大気圏へと突入。スピードを殺さず徐々に重力に引かれていく飛行物体は、大気圏を抜けきる前に白い外装を開く。その中から現れたシルエットに見覚えのあるティエリアはふと呟いた。

 

 

「アレはモビルスーツか…?」

 

 

15メートルは軽く超える巨大な鋼の塊に、力強い胴から伸びる2本の腕と腰から伸びた2本の脚部。頭部は黄色い外に開いたアンテナと緑色に光るツインアイ。そして鋼の骨格に白と青のアーマーが付けられたその姿に刹那は無意識にある言葉が思い浮かぶ。

 

 

 

「ガン……ダム…?」

 

 

獣のような細く尖った白い爪のついた手には剣の形を模したようなメイスが握られており、さらに腕に取り付けられた銃砲が回転すると地面へと放たれる。

 

 

「まさか」

 

 

「行こう」

 

 

ティエリアが言い終えるよりも早く、刹那はELSクアンタで火星に突入する。ELSの力を借り、大気圏を難なく抜けたELSクアンタ越しに地表を見渡す。すると、地上では戦闘が行われておりチラホラと破壊されたモビルスーツや地上用の戦闘機の残骸が散見される。空に滞空したままそれらを見ていると装甲の分厚い砂のよう機体色が特徴的なモビルスーツがこちらを見上げる。

 

 

 

「やはり我々の知るモビルスーツとは違うようだ」

 

 

「ああ」

 

 

周囲を見渡して状況の把握を行おうとするティエリアと違い、刹那はガンダムと思わしき機体を見つめていた。あの重厚なる装甲を持つ機体をソードメイスの一撃で叩き潰したパワー、火星の大気圏を抜けても燃え尽きていない上に稼働している装甲やフレームの強靭さに刹那は強く引かれた。

 

 

「どうする刹那」

 

 

「……」

 

 

沈黙する刹那にティエリアは訝しむも、介入行動に移る前に何やら重装甲のモビルスーツ達が撤退していく。恐らく、刹那達をガンダムらしきモビルスーツの増援と勘違いしたらしい。離れていく機影を追うことなく、小豆色の外装をした量産機のようなデザインのモビルスーツ達は重装甲機に向けていた敵意をこちらへと向けてくる。

しかし、刹那達に敵意はなく、むしろコンタクトを取って少しでも情報が欲しい。

 

 

「パイロットと通信をとる」

 

 

「……わかった。慎重にな」

 

 

「わかっている」

 

 

回線を開こうとするが、火星が使用している回線が分からないと刹那はマイクを通しての通信を試みる。

 

 

『俺達は敵じゃない』

 

 

手を大きく広げ何も持ってないこと、戦闘の意思がないことを伝えるも突然現れたELSクアンタに向かい合ったパイロット達は未だに構えを解かない。しかし、一番の殺気を放ちあの中で最も手練であろうモビルスーツが装甲の隙間から煙を吐き出す。

 

 

『……あれ?なんか、バルバトス動かなくなった』

 

 

『はぁ!?』

 

 

『こんな時に!?』

 

 

緊張感のない言葉に彼の仲間と思わしき量産機に乗るパイロット達が驚きの声を上げる。その様子を刹那とティエリアは無言で見守っていると、量産機の中でピンクに塗られた機体のパイロットから通信を受ける。

 

 

『…ほんとに敵じゃねぇんだな?』

 

 

『ああ』

 

 

しばし間が空く。恐らくあちらは何らかの武装組織で、その大将に連絡を取って確認をしているのだろう。刹那を敵と見なすか、あるいは中立の立場と見るか。

 

 

『オーケーだ。信じるぜ……命令を聞いてくれたらな』

 

 

その言葉に刹那達は身構えるも、ピンクの機体は膝をついて未だに白い煙を吐き出すガンダムらしきモビルスーツを指差すとこう言った。

 

 

『団長からの命令だ。アレを運ぶのを手伝ってくれたら信用するってよ』

 

 

男の言葉に刹那はティエリアを見つめる。静かに首肯したのを見て、刹那は『了解した』と返すとELSクアンタを動かした。



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#2 面合わせ

こんな突拍子もない作品に評価してくださり誠にありがとうございます。戦場を糧にする彼らと、戦争根絶を目指す彼らの歪な関係を少しでも上手く書いて皆様を楽しませることが出来れば幸いです。


 

 

夜明けの地平線団の襲撃を退けた鉄華団団長オルガ・イツカはノルバ・シノより所属不明の機体がいることを聞かされ、まだ眠れそうにないなと目頭を抑える。戦闘が終わり、事後処理を行う団員達とすれ違いながら、オルガはモビルスーツ格納庫へ向かう。

 

 

ノアキスの七月会議にて革命の乙女と謳われたクーデリア・藍那・バーンスタインを地球に送り届けるという仕事から始まった鉄華団はタービンズと義兄弟の盃を交わし、ギャラルホルンの介入があったにもかかわらず見事仕事を成し遂げた。その成果は各経済圏、各企業へと名を知らしめす結果となり、タービンズの親会社テイワズの直系団体となった鉄華団は一躍急成長企業へとなった。その裏には鉄華団の武力が大きく買われており、ガンダム・バルバトスのパイロットでありオルガの相棒である三日月・オーガスや多くの団員の支えがあってのものである。

子供だとバカにされ、迫害されてきた彼らからすれば今の立場は過去と比べると月とスッポンであり、毎日温かい食事が出て温かい寝床で睡眠をとることが出来る。人として当たり前の小さな幸せを手にした鉄華団だが、それでも彼らはまだ止まらない。

ここではないどこか。死んでいった者たちのためにも、今を生きている者たちのためにも、みんなが安心して幸せに暮らせるようになるまではオルガ・イツカの戦いは終わらないのだ。

 

 

「おやっさーん」

 

 

モビルスーツ格納庫へと着いたオルガは鉄華団になる前の組織CGSの頃から"おやっさん"と慕っている雪之丞へと声をかけた。

 

 

「おう来たか」

 

 

片手にタブレットを持ち、今回の戦闘を終えて運ばれてくるモビルスーツやモビルワーカーを眺めていた雪之丞の隣にオルガは立つと白き装甲を持った鎧の巨人を見上げた。

 

 

「これが新しくなったバルバトスか」

 

 

「あぁ。名前はバルバトスルプスってテイワズの整備長がつけてた」

 

 

バルバトスの改修と受け取りのためにパイロットと共にテイワズへ行っていた雪之丞は先程バルバトスルプスと共に火星まで飛んできた。そして、今しがたその輸送機から降りてバルバトスルプスや他の損傷した機体のチェックに当たろうとしていたのだが。

ちらりと動かなくなったモビルワーカーや敵モビルスーツの残骸を運んでいる見慣れないモビルスーツにオルガは目を細めた。

 

 

「で、あれが…」

 

 

「シノ達が言ってた突然現れたっていう機体だ」

 

 

バルバトスと同じく白い装甲を持ちながら身体や肩には青が用いられており、角張っていたり流線的でどこか神秘的なデザインを感じさせる。ガンダム・フレームやグレイズタイプのモビルスーツのフレームとは違った体躯や背中の羽根のようなものといい、オルガや雪之丞が今まで見てきたモビルスーツとは異なるデザインをしている。

 

 

「あれを見て夜明けの地平線団のやつらは撤退したんだよな?」

 

 

「さぁな」

 

 

今帰ってきたばかりで戦闘は見てねぇからなと知らん顔をする雪之丞にオルガは苦笑した。

 

 

「そっか。じゃあパイロットに直接聞くとするか」

 

 

頭をボリボリと掻きながら格納庫を出る前にオルガはキョロキョロと辺りを見渡す。まるで誰かを探しているような様を見た雪之丞は口を開く。

 

 

「三日月なら食堂で飯食ってるぞ」

 

 

雪之丞はそう伝えると整備班の面々と合流し、各モビルスーツ、モビルワーカーの点検作業へと入る。用がある人物の場所を聞いたオルガはその人物に会おうとまた足を進めた。

 

 

 

###

 

 

 

「……じゃあ、アンタが何者なのか聞かせてもらおうか?」

 

 

そう口火を切ったのは団長室でソファにどしりとヤクザのような形相で目の前の男に最大の警戒心を向けるオルガで、その隣にはいつでも動けるように三日月が立っており、さらにその後ろには副団長であるユージン・セブンスタークや昭弘・アルトランドらも背中の後ろで手を組んで立っている。

その顔にはオルガのように警戒心を向ける一方で男の得体の知れない雰囲気に動揺に似たナニカも現れている。

 

 

「刹那・F・セイエイ。私設武装組織ソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ」

 

 

「ソレスタルビーイング?」

 

 

淡々とした口調で発した刹那に対し、オルガは聞き慣れない組織に首を傾げる。すぐさまユージンが調べるも、該当する名前はない。

 

 

「やはりか」

 

 

「やはり?」

 

 

その結果に納得する刹那に、オルガは説明を求めようとするがそれは突如現れた別の人物によって遮られる。

 

 

『その話は僕からしよう』

 

 

「うおっ!?なんか出やがった!?」

 

 

ユージンの持っていたタブレットからこの場の誰でもない声が響き、メガネをかけた長髪の男にも女にも見える中性的な人物が投影される。

 

 

「ティエリア、成功したのか」

 

 

刹那の問いかけに首肯したティエリアは驚く鉄華団の面々に向き直る。

 

 

『僕の名前はティエリア・アーデ。刹那と同じくソレスタルビーイングでガンダムマイスターをしていた』

 

 

無感情であまりにも淡白に話すからか、あるいはタブレットから人が現れて話していることに動揺しているのか、僅かに上擦った声でユージンが尋ねる。

 

 

「な、なんなんだよ、そのガンダムマイスターってのは」

 

 

『そうだな。僕たちが理解し合うためにはまずは僕らの話からさせてもらおう』

 

 

そこからティエリアは語った。戦争根絶のために自分たちがモビルスーツ・ガンダムで介入行動を行っていたこと。ソレスタルビーイングはそのための組織であること。ガンダムマイスターとは、ガンダムに乗ることを許されたヴェーダによって選ばれたパイロットであること。さらには、自分たちが戦ってきた者たちのことを。

 

 

「軌道エレベーターに独立治安組織?」

 

 

「イ、イノベイターにイノベイド?な、なんだそりゃ」

 

 

「さっぱりわからん…」

 

 

副団長に任命されてるだけあって頭の回るユージンはティエリアの言うことを大体は理解したものの、シノや昭弘のような脳みそが筋肉で出来てそうな輩にはちんぷんかんぷんであった。

 

 

 

「……あんたらのことは大体分かったが、地球には軌道エレベーターなんてものはねぇし、連邦議会とやらも存在しねぇぞ」

 

 

『あぁ。こちらは我々の文明よりも進んでいるようだ』

 

 

ヴェーダと自らの力でどうにか鉄華団のシステムに侵入したティエリアは、火星のネットワークシステムからこの世界の情報の大凡を把握していた。エイハブリアクター。ガンダム・フレーム。厄災戦。ギャラルホルンなど。どれもこれも聞いたことの無いワードばかりだ。それにオルガの言葉と合わせるとこれらの齟齬の理由は自ずと見えてくる。

 

 

『どうやらここは僕たちのいる世界線とは別の世界線らしい』

 

 

「あんた正気か?」

 

 

そんなお伽噺のようなことがあるわけが無いだろうと言うオルガにティエリアは『それしかないだろう』と首を横には振らなかった。

意見を変えることはないであろうティエリアの様子にオルガはため息をつくと瞑目した。

 

 

「まぁ…アンタらが言ってることがホントだとしてよ…俺らがこれからまた戦うってなったらどうするんだ?」

 

 

戦争を根絶するという思想を持つソレスタルビーイングの一員という話が事実なら、鉄華団が夜明けの地平線団と衝突し合っている現状に対して何かしらの行動を起こしてくる可能性がある。それが鉄華団の利益になるのならばよしだが、不利益になるのならば。

 

 

「もちろん、俺たちは止める」

 

 

今まで口を閉ざしていた刹那が口を開き、それと同時に三日月は持っている銃を彼に向けた。

 

 

「どうやって?」

 

 

銃口を突き付けながら尋ねる三日月に周りの目線が刹那と三日月に集まる。そして刹那の出した答えは、彼とティエリアにとっては言い慣れ、聞き慣れた言葉であった。

 

 

「ガンダムによる武力介入を行う」

 

 



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#3 開戦前

 

 

 

異世界人を名乗る男がガンダムによる武力介入を行うと断言したその後、展開は彼らの望むように夜明けの地平線団との正面衝突となった。その過程には鉄華団の能力を非常によく買っているギャラルホルン地球外縁軌道統制統合艦隊を統べるセブンスターズの一派であるマクギリス・ファリドの要請があってのものであった。

鉄華団の戦力だけでは敵の規模には届かないが、ギャラルホルンの力を借りられるとなれば五分に届くというくらいにはなった。おかげで重い腰を上げることができ、今は戦いに備えて準備を推し進めている。

この戦いに勝利すれば、宇宙の航路を荒らす海賊団を排除、あるいは衰退させることが出来る。それは義兄弟で輸送業を主にする名瀬・タービンやテイワズの親玉マクマード・バリストンに利益をもたらすことが出来る。軍資金は鉄華団を攻撃するように支持した活動家に払わせることができるし、なにより宇宙に名を轟かせる大海賊団に目を付けられたとなれば将来どこかしらで戦闘になることは予見されていたので、オルガはマクギリスからの要請を受諾した。

それに彼らの力を見定める場としても使えるとオルガはホタルビのモビルスーツデッキに立つ GNT-0000 ダブルオークアンタと言われていた機体を見上げる。彼らいわく本来の姿とはかなり変化しており、ELSと同化し"ELSクアンタ"と名乗るのが適切ではないかというほどに外見が変わっているのだが、元の姿を知らないオルガからすれば知ったことではない。しかし、何度見てもガンダム・フレームとは異なる内部構造に青と白の流線型な装甲や背中の触手のような羽根も何やら神秘的なものを感じさせる。

 

 

「にしても、なんでこいつの周りはキンキンうるせぇんだ…?」

 

 

その音の正体はELSが発しているものであるが、一応の説明を受けたものの、彼らが相互理解のために合体したり、模造品を作り今は自分たちが安全に住める星を探しているという情報しか知らず、ELSが発する特有の音に関しては聞かされていなかった。脳量子派を持たないオルガでも少し気に触る音はずっと続いており、ELSからのメッセージが叫びのように聞こえたというティエリアからの話を考えると正気を保っていられるかも怪しい。

 

 

「そういえば、鉄の人の近くでも鳴ってたよ」

 

 

そのつぶやきに反応したのはオルガの隣で火星ヤシをつまむ三日月であった。

 

 

「鉄の人? 刹那のことか?」

 

 

「うん」

 

 

鉄の人、というのは髪や肌がやや銀色に見えるからであろうか。三日月のネーミングセンスは独特というか当人の心境を考えていないものが多い。鉄の人というのも刹那が聞けばどういった反応をするかは分からないが、オルガにとっては彼を表した単純明快でわかりやすいあだ名という印象であった。これからしばらく共に戦う者として名を覚えたオルガであるが、三日月に至ってはあまり興味が無いらしい。

 

 

「そういやイノベイターの因子を持つやつに優先的に近付くとか言ってたな」

 

 

「イノベイター?」

 

 

「平たく言えば新人類ってやつだな」

 

 

「へー」

 

 

勘がよくなったり、寿命が今までの人類の2倍だったり、身体能力が高かったり、脳の処理速度が早いなどの特徴があるとティエリアが話していたが、そんな人種が存在しないこの世界ではピンと来ない話である。

 

 

「まぁとりあえず戦争根絶を掲げる奴らのお手並み拝見ってとこだな」

 

 

とは言ったものの、平和主義を謳いながらも暴力による解決を望むというのはなんとも矛盾しているではないかとオルガは思ったが、それは幸せを掴むために戦いに積極的に身を投じていく自分たちも同じことかとオルガは自嘲するように笑った。

 

 

 

一方、自分たちの本来の世界に帰る方法が今のところ不明瞭な刹那たちは鉄華団に身を置くこととした。粒子ワープも量子間移動をしてもオルガたちの火星に戻ってきてしまう以上、何かこの世界でやることがあるのかもしれないと結論付けた2人は夜明けの地平線団との戦いまでの日々を過ごしていた。

 

 

「…本当に子供ばかりなんだな」

 

 

 

しかし、素性を吐かせたとはいえそれが真実か分からない鉄華団にとって刹那を自由に歩かせることは出来ず、彼の移動の際には必ず監視を付けることとなった。CGS時代からのメンバーに限定されており、今日は副団長であるユージンが担当していた。

 

 

「あぁ、成人してるのは事務方とおやっさんくらいじゃねぇのか」

 

 

自分やオルガも酒は飲んだが成人はしていない。他のメンバーに関しても同じくであり、年齢的なことを言われれば自分たちはまだまだ子供である。

 

 

「けどよ、俺たちは多くの修羅場を超えてこうして一躍急成長企業にまでなったんだ」

 

 

それはユージンにとって誇らしいことであり、オルガについてきてよかったと思える結果であった。失った仲間は決して少なくないが、だからこそ死んでいった彼らのためにも今を未来を懸命に生きなければならないのだとユージンは思う。

 

 

「そうか」

 

 

そして、それを聞いた刹那も思う。もし自分がリボンズ・アルマークに目をかけられソレスタルビーイングのガンダムマイスターになっていなかったら、こういう境遇に陥っていたのではないかと。

鉄華団の面々を見ていれば不満もなく、それこそ楽しそうにしているように見えるが、ここは寿命的な死は訪れず戦場での死と隣り合わせの職場なのだ。その悲惨とともとれる死から逃れることは武闘派企業の体制から脱却するか戦いのない日々が訪れない限りは出来ないだろう。

 

 

「お前たちの戦いに意味はあるのか」

 

 

「意味? 知るかよんなの。売られた喧嘩は買うのが礼儀だろ」

 

 

ただ牙を向けられたから刃を突き立てる。それだけのことだとユージンは言ってのける。

 

 

「そうか」

 

 

刹那は彼らを理解するのには時間がかかるものだとその答えから感じとった。ELSの反応からこちらにはイノベイターに成りうる人間はいない。いたとしてもそれは彼らにとっては戦争に対する大きなアドバンテージとなりうるだけで相互理解のために使うかどうかは別の話になるだろう。そもそも、イノベイターとは純GN粒子で脳構造が遺伝子レベルで改変された人類とされているため、GN粒子のないこの世界では無理な話なのだ。

 

 

「そういや、今日はティエリアとかいうのはいねぇのか?」

 

 

「彼ならブリッジの管制システムにいると言っていたが」

 

 

自由に動ける身体が欲しいと嘆いていたティエリアであったが、ヴェーダのシステムの一部を鉄華団のネットワークシステムに取り付けたことでイサリビやホタルビのシステムへと行き来することができるようになっていた。さらには地球の鉄華団へも足を伸ばすことが可能であり、もしどちらかが非常事態に陥れば彼を介して交信ができるようになったわけだ。

 

 

「マジかよ。そんじゃあ俺らあいつに裏切られたら終わりじゃねぇか」

 

 

「そんなことはしないと思うが」

 

 

それに行き来ができるだけでシステムのハッキングができる訳では無いため、ユージンの危惧しているようなことは起こらない。それでも副団長としてそういう不測の事態に備えるのは責任感の強い彼らしいと言える。

 

 

艦内をあらかた見て周り、あとはモビルスーツデッキだけとなったところでユージンは足を止めると刹那を見た。

 

 

「明後日には敵とかち合う。あんたにも出てもらうことになるが」

 

 

「大丈夫だ問題ない」

 

 

「いやそういうことじゃねぇ」

 

 

「いや、わかっている」

 

 

刹那の言葉にユージンは「じゃあ言ってみろよ」と試すように言葉を返す。

 

 

「期待はしていないが、仲間に危害を加えたらタダではおかない…こんなところか?」

 

 

「…そうだよ。わかってんならいい」

 

 

ホントに新人類なのかよ…と小さく呟いたユージンが背を向けて再び歩きだし、刹那はそれに続く。しかし、刹那がユージンの思惑、いや鉄華団の総意に気付けたのはもし自分と彼の立場が逆ならどう思うかを考えたに過ぎない。それくらいにソレスタルビーイングのメンバーが大切な存在になっていることに新人類のくせして鈍感と言われる刹那は気付かずユージンの背中を追いかけるのであった。




鉄血って一期は1話からぶっ通してみても辛くないのに、二期は途中からやめようとなっちゃうから不思議ですよね。OOはそんなことなかったんだけど。


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