けいおん!卒業旅行REMIX (ふとん王)
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Extra Cassette
Extra Cassette1 人物紹介1


人物紹介

 

人物紹介です。小説説明の欄にもありますが、一部の設定をHighschol、Collegeから引き継いでいます。どうしようもないことですが、一部原作ネタバレを含むのでそれが嫌な人はブラウザバック推奨です。なお、ここにある情報だけでも小説が読めるようにはがんばっています。お楽しみいただけると幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<大学一年生組>

 

---平沢唯---

 

桜高軽音部OG。現在N女子大学一年。パートはギター。自分のギターをギー太と名付ける。天然でアホの子な言動が多い。高校時代は、妹の憂に頼りきりであり、ダメな姉としての側面が強かった。大学進学後もアホの子ではあるが、時折頼れる感じになったりする。また、音楽の才能はずば抜けており、絶対音感、相対音感が備わっている。その他にも集中するととことんやる典型例である。元軽音部の三人と同じ寮に一人暮らししている。その寮は電車で実家から一時間くらい。

元放課後ティータイムであり、現在は別名義で四人の軽音活動を行っている。

 

 

---田井中律---

 

桜高軽音部OG。現在N女子大学一年。パートはドラム。細かいことが苦手であり、雑な性格。高校時代は天然ではないものの、成績は低かった。後述の秋山澪と幼なじみである。現在大学での単位はギリギリ。

元放課後ティータイムであり、現在は別名義で四人の軽音活動を行っている。

 

 

---秋山澪---

 

桜高軽音部OG。現在N女子大学一年。パートはベース。自らのベースをエリザベスと名付ける。真面目な性格であり、成績も良い。かなり克服したものの未だに恥ずかしがりやである。田井中律と幼なじみ。

元放課後ティータイムであり、現在は別名義で四人の軽音活動を行っている。

 

 

---琴吹紬---

 

桜高軽音部OG。現在N女子大学一年。パートはキーボード。眉毛がたくあんである。実家がすごいリッチ。おっとりとした性格であり、物腰やわらか。幼少期からピアノを習っており、とても上手。庶民というものに憧れを抱いている。

元放課後ティータイムであり、現在は別名義で四人の軽音活動を行っている。

 

 

 

<高校三年生組>

 

 

---中野梓---

 

桜高軽音部三年。パートはギター。通称あずにゃん。ツインテ。かわいい。ねこ。自分のギターにむったんと名付けている。由来は「ムスタング」というギターの名前から。しっかり者だが、先輩たちの前だとペースを崩されがち。両親がジャズ奏者。

 

大学生一年生組卒業後、軽音部の廃部が危惧されたが、平沢憂、鈴木純が入部したことに加え、さわ子先生が直接職員会議で三人での軽音部の活動は可能であると他の先生を納得させ、廃部を免れた。わかばガールズという名義でスリーピースバンド活動を行っている。ドラムがいないのて普段は打ち込み音源。

 

 

---平沢憂---

 

桜高軽音部三年。パートはギター。面倒見がよく、完璧人間。姉のことを溺愛している。普段は髪を後ろを結んでポニーテールにしているが、髪を下ろすと姉と瓜二つである。料理全般、家事が得意。三年生進級時に軽音部に入部した。ギターを本格的に始めたのはそのときだが、飲み込みが異様に早く、上達している。わかばガールズのメンバー。

 

 

---鈴木純---

 

桜高軽音部三年。パートはベース。天然パーマであり、特技は朝の髪の爆発具合でその日の天気がわかること。もともとはジャズ研所属だったが三年への進級時に軽音部へ移籍した。秋山澪に憧れを抱いている。わかばガールズのメンバー。

 

 

<大人組>

 

 

---山中さわ子---

 

桜高軽音部顧問であり、OG。DEATH DEVILというワイルドなバンドをやっていた。その頃のイメージを払拭すべく、おしとやかな教師として振る舞うよう心がけている。その努力がみのり人気教師になっている。通称さわちゃん。独身。

 

 

---斎藤---

 

琴吹家執事。老紳士。やさしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---ここから下は「けいおん!」の放映時から時間が経ってしまい(十周年ですもんね!)、各キャラの話し方などの記憶が曖昧でどの台詞がどの登場人物のものかわからない人向けです。呼び名、話し方についての原作ネタバレが発生します。ご了承ください。---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唯:ぽわわ~とした話し方。「~」を多用しやすい。「!」も時々使用。

 

梓のことを「あずにゃん」

憂のことを「憂」

律のことを「りっちゃん」

紬のことを「ムギちゃん」

さわ子先生を「さわちゃん」

 

と呼ぶ。他の人は「名前+ちゃん」で呼称。

 

 

------

 

 

梓:本小説のメイン語り手。しっかりとした話し方で先輩、先生には敬語。「……」を時に使う。

 

唯、澪、律は「名前+先輩」

紬は「ムギ先輩」

さわ子先生は「さわちゃん」と「さわ子先生」

憂と純は名前のみ。

 

 

------

 

 

律:男っぽい話し方。「!」を多用する。

 

さわ子先生を「さわちゃん」、フォーマルな場所では「さわ子先生」

憂、純は「名前+ちゃん」 

紬は「ムギ」

 

他の人については名前のみで呼称する。

 

 

------

 

 

澪:しっかりした話し方。律と会話文がややこしくなりやすい。先輩サイドの語り手。苦労人で「……」を多用。

 

さわ子先生を「さわちゃん」、フォーマルな場所では「さわちゃん」

憂、純は「名前+ちゃん」

紬は「ムギ」

 

他の人については名前のみで呼称する。

 

 

------

 

 

紬:ぽわ~っとした話し方。「~」を唯以上に多用する。

 

さわ子先生を「さわちゃん」、フォーマルな場所では「さわ子先生」

 

他の人については「名前+ちゃん」

 

斎藤(執事)は「斎藤」

 

 

------

 

 

憂:しっかりした話し方。

 

唯を「お姉ちゃん」

律と澪を「名前+先輩」

紬を「ムギ先輩」

梓と純は「名前+ちゃん」

さわ子先生は「さわ子先生」

 

 

------

 

 

純:律ほどではないが男っぽい話し方をたまにする。

 

唯、律、澪を「名前+先輩」

紬を「ムギ先輩」

梓と純は名前のみ

さわこ先生は「さわちゃん」、フォーマルな場所では「さわ子先生」

 

 

------

 

さわ子先生:基本的に丁寧語、ゆるふわを目指した話し方をする。

 

紬を「ムギちゃん」

それ以外の全員を「名前+ちゃん」で呼称 

 

 

 




文字数は平均3000文字以上にするべきという話をネットで見かけたので、がんばります。ただ、この人物紹介、2500文字もないんだよな…

話を読んでいて、「どこどこの呼び名がおかしい」などあったらコメントしていただけると幸いです。

では、お楽しみください。


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Cassette Series1 準備編
プロローグ


初めまして。けいおんの鬱SSが多すぎて、つらくなったので自分で書き始めました。コメントなどでアドバイス、感想など頂けると幸いです。


 今日は先輩たちといつものファストフードでお茶です。かれこれ会うのは何か月ぶりだから楽しみです。

 

 先輩たち、受験の時は私のことを気遣ったのか知らないけど、メールばっかりで全然会ってくれないんですよ? ひどいです。でもこうして会えて本当に良かった。でもなんで今日、突然みんなで集まるなんて言い始めたんだろう? 

 

 

「あっ、先輩」

 

「おー梓」「こんにちは」「元気にしてたか~?」「あっずにゃああああ」

 

 

 先輩たちだ。なんだか大人になっちゃった気がするなあ……一人を除いてだけど……。

 

 

「梓、身長少し伸びたんじゃないのか? もう私のエリザベスよりも大きくなったんじゃないのか?」

 

「もともと大きいですっ!」

 

 なんか澪先輩は変な方向に成長してる気がする。でも、

 

 

「それにしても今日は突然どうしたんですか? 先輩方も忙しいでしょうし」

 

「何を隠そう、今日は……」

 

 

 何をもったいつけているんだろう。やっぱり律先輩もあんまり変わっていないんじゃ……

 

 

「今日は?」

 

「梓の卒業記念旅行だぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 自分のことなのに忘れちゃってた。てへっ☆。いや違う、こんなの私のキャラじゃない。落ち着け私。

 

 

「私の卒業旅行って……先輩たち本気だったんですか?」

 

「もしかしてあずにゃん、留年しちゃった?」

 

「律先輩とか唯先輩じゃないんだからそんなことあるわけないじゃないですか」(してませんって)

 

「ん? 梓、お前今なんて言った?」

 

 あっ、やば。心の声と逆だ。これは……やばい……。

 

 

 小休止。

 

 

「本気に決まってるじゃない。梓ちゃんのために今日は集まったのよ?」

 

「そうだぞ梓。去年言っただろ? 来年も行くって」

 

 

 言ってた。すっごい言ってた。まさか本気だったなんて……。その行動力はどこから来るんだろう。

 

 

「卒業旅行って言ったって、そんなお金……」

 

「どれだけ出せる? 梓」

 

 

 貯金はしてるけども、海外旅行行くには足りないかも。

 

 

「十万弱ですかね」

 

「金持ちっ!」

 

「唯……お前大学生だろ……?」

 

「どうせりっちゃんもだし~」

 

「失礼なっ。私の貯金はマイナス四桁円だぞ!」

 

「借金してるじゃないですか……早く返してあげてください」

 

 

 だめだ。この人たちとじゃ話が進まない。何とかしなきゃ……。

 

 

「でも十万じゃ足らないですよね?」

 

 

 どうしよう。親から前借しなきゃいけないかな……? 

 

 

 [ふっふっふ~。なんと! 今回は往復航空券は紬がくれるぞおおおおお」

 

 いや、往復航空券5人分っていくらすると思ってるんですか。場所によっては百万くらいかかると思うんですけど……。

 

「いや、悪いですよそんな。いくらかかると思ってるんですか。いくらなんでもそんなには頼れないですよ」

 

「問題な~い! ムギ! 説明ヨロシクゥ!!」

 

「は~い! 私の家の系列がニューヨークで新しく支社を開くんだけど、そこのオーナーさんが、社長の娘がバンドやってたって話を聞いたんだって。そしたらオープニングセレモニーにバンドで演奏してほしいって言われたの。だからもしも梓ちゃんが空いてたらみんなで行こうかなあって」

 

 

 なんと……規模がでかすぎる……なんてワールドワイドなんだ琴吹家……。

 

 

「じゃあニューヨークに行くんですか?」

 

「ああ、まあ東海岸ならいろんなところに行けるぞ。クリーブランドのロックの殿堂とか行ってみたいよな」

 

 

 すごい……すごすぎる……。

 

 

「滞在期間はそのオープニングセレモニーに重なってればいつでもいいらしいから、梓ちゃんが合えば行こうかなって。オープニングセレモニーは3月13日よ」

 

「ちょっと待ってください。今調べますね……」

 

 

 カタカタとケータイのカレンダーを調べると……空いてる。卒業式後だ。

 

 

「空いてますっ。全然いけます!」

 

「あずにゃんさすが~~」

 

「でも先輩たちはいいんですか? 大学って忙しいんじゃ……」

 

「大学生はもう授業ないのよ。長い春休みなの」

 

 

 おぉ、自由だ。いいなぁ。

 

 

「でも、あずにゃんも春からは私たちと同じ大学だもんね!」

 

 

 そう、なんと私はN女大学に合格したのです。春からはキラキラ大学生! 

 

 

「いろいろ教えてあげるぞぉ~~」

 

「律先輩にはあんまり教わりたくないかも」(ぜひぜひ!)

 

 

 あっ……またやっちゃった。これは死んじゃうかも……。

 

 

「あ、あははははははは……はぁ……」

 

「あれ? 律先輩どうしたんですか?」

 

「このバカ律、大学で単位をギリギリでとったら、いくつか落としそうで昨日まで教務科でずっと相談してたんだ。まあ結局何とかなったらしいけど」

 

 

 ああ、涙目の律先輩が目に浮かぶ。

 

 

「もういいっ。そんな過去の話は置いておいて、いろいろ決めようぜ!」

 

「そうだねりっちゃん!」

 

「待ってろ~ニューヨーク~!」

 

 




難しい...そこそこの分量ですが次も書いていこうと思います。評価を宜しくお願いします。


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Cassette1 相談

書き始めたら止まらないものですね。

基本的には映画けいおん!に沿った感じでやっていこうと思います。


「そういえば今回は航空券はとらなくていいからツアーはとらなくていいな」

 

「ホテルですか。ニューヨークとかって物価高いって聞きますもんね」

 

 

 一泊一人何万とかもするらしいし。私まだ高校生だしそんなには……。

 

 

「ニューヨークにいる間は大丈夫よ? うちの系列がホテルやってるからそこでホテルを安く取ってもらえるの。たしか五人で泊まれるスイートがあったはずだけど……」

 

 なんだと……。ホテル業までやってるとは……恐ろしきかな琴吹家よ……。じゃあホテルはいいとして、移動手段はどうしようかな。大きい町にいる間は電車とはバスを使えばよさそうだけど。そういえば先輩たちはもう十八歳だから車の免許とかどうなんだろう? 

 

 

「先輩方ってもう車の免許取ってたりしますか?」

 

「もっちろんだよあずにゃん」「当たり前だろ?」

 

 

 うぅ……。唯先輩と律先輩の車は乗りたくないかも……。

 

 

「ほら、梓の顔がシートベルトなしジェットコースターに乗らされる直前みたいになってるだろうが。心配するな梓、ムギと私も取ってるから。というよりむしろ一緒にとりに行ったんだよ」

 

 

 う、うらやましい。いやいや私も憂とか純とかと取りに行けばいいし。全然さみしくない。さみしくないったらさみしくない。

 

 

「それなら安心ですね」

 

「でも二十五歳以下ってレンタカー高いのよ。なんか事故率が高いらしくて。あんまりたくさんは乗れなさそうね。車、うちのを借りられたらよかったんだけど、そうすると運転手もつけるって言ってきかなさそうだから」

 

「基本的には電車移動になるだろうからな。問題ないだろう」

 

 

 そしたらとりあえずどこに行くかを決めなくちゃ。一年前にイギリスに行ったときみたいに行きたいところを先輩たちに聞こうかな。あ、でもその前に、

 

 

「ごめんなさい、親に行っていいか聞いてきますね」

 

 

 そういって私は一度席を立って店のドアの外で親に電話をかける。

 

「もしもし? お母さん? 先輩たちと卒業旅行にアメリカに行こうと思うんだけど、行ってもいい?」

 

「いやいやハワイとかグアムじゃないって。ニューヨークだよニューヨーク。東海岸を回るの。危なくないかって? ほかの先輩方と一緒だし。そうそう、軽音部の先輩。だから大丈夫。いい? ありがとう! お母さん!」

 

 

 そういって電話を切ると、今度は着信がなった。

 

 

「どうしたのお母さん? なんか言い忘れてたっけ? うんうん。確かに! 憂とか純も誘ってもいいかも! 先輩たちと相談してからになるけど聞いてみるよ」

 

 

 そういって今度こそ電話を切って、私は先輩たちのところへ戻る。

 

 

「お待たせしました。いま親と話したんですけど、憂や純も誘ったらどうかって」

 

「いいんじゃないか? そういえばあの二人、軽音部に入部したんだってな。よかったな梓」

 

「私は全然オッケーだよ! というよりみんなさえよければ憂は私が後から誘おうと思ってたんだけど」

 

「ああ、軽音部の後輩だからな! 誘うわないわけにはいかないっしょ」

 

「いいと思うわ。席はまだ余裕があるみたいだし」

 

 

 そうしたら今すぐここに呼んじゃってもいいかな。二人とも相談しておきたいし。

 

 

「じゃあ今呼んじゃっていいですか? 二人も行けるならこの話し合いに参加した方がいいと思うので」

 

「おう、いいぞ~」

 

 

 ケータイを開いて話の概要を簡潔にまとめて二人に送る。来れると良いなあ。二人とのバンドは今年の学際で一緒に大盛況だったし。おっと、メールだ。えーと、憂だ。えとえと……? 

 

 

「憂は卒業旅行、ぜひともだそうです。ギター背負ってアメリカだ~って息巻いてますよ。いまからここに来るそうです」

 

 

 そういえばあの子、卒業した時の唯先輩とおんなじくらいにはうまいんだよな……。ギターやってたの唯先輩の三分の一くらいなのに……。憂、恐ろしい子。

 

 

「そうだ! 三人でもバンドやってるって話だし七人で演奏するのはどうだ? 絶対にすごいぞ~。なあ澪、そう思うだろ?」

 

「そういえば昔、大所帯のバンドを見てうらやんだっけな。まさか私たちにもできる日が来るとは……」

 

「おお……澪が感動のあまり泣いている。これは珍しい……。明日はベースが降ってくるな」

 

「レフティがいいなあ……」

 

 

 いや振ってきませんから。むしろ振ってきたら危ないですって。おっと、またメールだ。なになに……? 

 

 

「純も旅行に行きたいそうです。澪先輩と一緒に弾けるなんてって言って泣いてますよ」

 

「大げさだなあ」

 

「今から来るそうです。でも今日湿度高いから純、支度に時間かかりそうです」

 

「じゃあじゃあその間にさ! どこに行きたいかのリストアップをしようよ!」

 

 

 おお、唯先輩にしてはすごくまともな意見だ。成長したんですね……。

 

 

「じゃあ私ニューヨークアイ!」

 

「いやそんなんねえから……」

 

「えぇーりっちゃんひどい~」

 

「私に言うな私に。それじゃこのアホは置いておいて、どこ行きたい」

 

「まあベタにタイムズスクエアだよな、まずは」

 

「じゃあ私メモりますね」

 

 

 ニューヨークってステーキのイメージしかないけど……

 

 

「そういえばさっき澪先輩の言ってたロックの殿堂ってどこにあるんでしたっけ」

 

「クリーブランドだな」

 

 

 クリーブランドって確か東海岸ではなかったような気がする。

 

 

「なになに? クリームランド? そんな夢みたいな島があるの?」

 

「いやクリーブランドです、クリーブランド。唯先輩もうちょっとしっかりしてください……。でもクリーブランドって確かニューヨークから離れてたような気がします」

 

「ごめんな、私もよく覚えてないんだ」

 

「家帰ったら調べておきますね」

 

 

 帰りに本屋よってかなきゃ。どんな本買えばいいのなあ。

 

「ムギ先輩は行きたいとことか無いんですか?」

 

「私は……みんなと一緒ならどこでもいいわ。強いて言うなら温泉卓球がしてみたい!」

 

「いや無理ですって……」

 

 

 どうしてだろう。話が全然すすまない。いや理由はわかってるんだけど私じゃどうしようもない。

 

 

「梓~、私は本場のハンバーガーってやつが食べてみたい」

 

「あ、それは私も」

 

「私も食べてみたい~」

 

「じゃあどこか美味しいところ探しておきますね」

 

 

 携帯が震えるのを感じた私は電話に出ると憂だった。

 

 

「梓ちゃんどこ~?」

 

「二階のいつものとこ。うるさいからわかると思う」

 

「はーい、いま行くね~」

 

 

 そういい電話を切った。

 

 

 

「二人が来たみたいなので机、もう一個こっち持ってきますね」

 

「私も手伝うよあずにゃん。大事な後輩を一人では働かせられないよっ」

 

「いやこれくらい一人でできますから」

 




澪さんと律さんの書き分けが難しすぎる…話し方が似てるんだよなぁ。
今回も評価、お願いします。


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Cassette2 先輩と後輩

人が増えると…会話文の書き分けの難易度が爆上がりする。


「おーい、梓~来たぞ~」「おはようございます」

 

 

 純、案の定髪が……。時間かけてもダメだったか……。

 

 それに対して憂のきれいなこと。いつものポニーテールにパステルブルーを基調にしたふわふわの服でなんか……良い。完璧だ。 

 

 

「この机座って」

 

 

 二人が席に落ち着くのを舞って話を切り出す。

 

 

「卒業旅行の話ってメールでどこまでしたっけ」

 

「日程と必要そうな金額だけ」

 

「詳しく説明すると、かくかくしかじか……。って感じかな」

 

「これって私たちも行って良いやつなんてすか?」

 

「あたりまえじゃないか。相談始めるぞ」

 

 

 とりあえず、なによりもみんなの予定を聞いてからかな。

 

 

「みなさん、三月十二日前後ってどんな感じですか?」

 

 

 みんなが、各々の携帯のカレンダー、手帳で予定を確認するのをしばし待つ。一分くらいが経って、

 

 

「じゃあ先輩たちはどんな感じですか?」

 

「みんな、前後一週間は何も予定はいってないよ」

 

 

 よしよし、じゃあ、

 

 

「憂と純は?」

 

「私も前夜一週間ずっと空いてる」

 

「梓ちゃんごめん! 九日までは予定があって、時間があるのは十日からなの。でもそのあとはずっとフリーだよ」

 

 

 じゃあ日本を十日にでて四泊六日かな。そうすると、ついて二日目がライブだ。楽しみだなあ。

 

 

「じゃあ家帰ったら予定たてるんで、みんな行きたいところを私にメールしてください」

 

「はいよ」「はーい」「ほーい」

 

 

 日程と行くところは私が独断と偏見で決めるとして、あとは……

 

 

「先輩たちって大学でもバンド、続けてるんですよね」

 

「当たり前じゃないか。ほぼ毎日練習してる」

 

「じゃあ練習は合わせだけになりますかね」

 

 

 先輩たちが一緒だから学校の部室は使えないし……そうするとどこかしらでスタジオ取る感じかな。そういえば最後の学祭の前、教室使えなくなってスタジオに行ったんだっけ。ぼぼ練習しなかったけど。

 

 

「あと二週間くらいしかないから巻きで練習しなきゃですね」

 

「ティータイムは~?」

 

「無しですよ唯先輩。時間ないんですから」

 

「うぅ~」

 

「わかりましたよ……。ほんの少し、練習前にほんの少しだけですからね」

 

「梓が甘くなってる……」「成長したのね……」

 

 

 そしたら、スタジオは私が取っておくとして、あとはセットを決めなきゃ。

 

 

「セットはどうしますか?」

 

「とりあえずふわふわ時間だよなあ。憂と純弾ける?」

 

「ばっちりですよ」「それなりには……」

 

「こんなに人数いるから曲によって人を分けて最後は全員とかが良いじゃないか? ずっと私と純で二人ベースがいるってのも何だろ」

 

「いいね~。あずにゃんたちのバンドもオリジナルあるでしょ? それ聞きたいなあ~」

 

「良いですけど、うちのバンドはドラム打ち込みのスリーピースだし……」

 

「はいはい! 私がドラムどっちもやる!」

 

 

 律先輩がいればなんとかなるかな。

 

 

「ところでムギ先輩、私たちって何分くらい時間もらえるんてすか?」

 

「三十分くらいかしら」

 

 

 三十分もあればMC入れても結構弾けそうだ。

 

 

「そうすると七人で演奏するのが二曲で放課後ティータイムが二曲、わかばガールズで一曲で途中にメンバー紹介のMCいれるとちょうど良さそうですね」

 

「ああ、そうだな。それぞれの曲目は別々に後から話し合うとして、今は合同演奏の曲目と練習日程の確定かな。どうせ律と唯がだらけるから多めにとらなきゃ……」

 

 

 なんとも言えない表情してる……。苦労してるんですね……。

 

 

「じゃあ二曲、何がいいですか? 一曲はふわふわ時間で確定で良いと思うんですけど」

 

「私たちもふわふわ時間ライブで受け継いでるもんね~」「あれ、なんかところどころ難しいんだよなあ……」

 

 

 そしたらもう一曲は……あっ、なんか唯先輩が言いたそうにしてる。

 

「唯先輩、どの曲が良いと思いますか?」

 

「U&I! それしかない!」

 

「良いと思うわ」「それが良いんじゃないか?」

 

 

 早い……みんなの特にお気に入りの曲だからかな。

 

 

「ても憂と純弾ける? 私たち確か練習したことあんまりなかったけど……」

 

「私はこっそり練習してたから大丈夫」「私はお姉ちゃんが家で弾いてるの聞いて覚えちゃった」

 

 

 なん……だと……。天才ってこの子のことを言うのか……。

 

 

「次は練習日程ですね。とりあえず皆さんの空いてる日教えてください」

 ……

「じゃあこの三回に合同練習ですかね」

 

 

 思ったより練習が取れない……。いくら大学生が暇だと言ってもすることって思ったよりあるんだね。

 

 

「特に唯先輩と律先輩、ぜったいに遅れないでくださいね」

 

「やだなああずにゃん、私が遅れるわけないよ~。もう大学生だよ?」

 

「唯ちゃん、大学で遅刻しすぎて単位、結構危ないのよ? みんなが起こしても起きないから……」

 

「ムギちゃんがいじめる~」

 

 

 今日はこんなところでいいかな。まだ決めるところはあるけどこんなところで今日は十分。

 

 

「今日決めたいことはこんなものですかね」

 

「よーし! 今日は駅前に新しくできたケーキ&紅茶のお店に行こう!」

 

「唯先輩、昼食べたばっかりじゃないですか……」

 

「ティータイムとランチタイムは別だよあずにゃん!」

 

 

 本当に大丈夫かな……。

 

 




場面に出てくる人を必要以上に増やしてはいけない(戒め)。

なんなら必要なだけ出しても多すぎたりする。


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Cassette3 先輩

ほんとうに!律さんと!澪さんの!書き分けが!できない!口調が似てる感じが取れない…アドバイスや感想などお願いします。

始めたばっかでUAが200越えててなんかすごいモチベです。読んでいただいてありがとうございます。


 帰り道

 

 ケーキ屋からの帰り道、そのまま各々の家へ帰る高三組と別れて四人で寮への帰途につく。日は長くなってきたとはいえ、もう空は暗くなり始めている。街灯も少しずつ点灯し始めるくらいで、昼間暖かくなるからと思って比較的薄着にしたことが裏目にでてかなり寒い。

 

 

「いや~あずにゃんたちと話せて良かったよ~」

 

 確かにな。梓と話すのは二ヶ月ぶりくらいか。受験のときはみんなメールだけにしてたし。あの三人ともうちのN女に進学とは……またみんなでできると思うと嬉しいな。

 

 

 そういえば、家には……帰らなくていいや。たいした用事があるわけでもないし。

 

 

「唯は家に一回帰らなくていいのか? せっかく寮からこっちに来たんだから顔くらい出しといても良いと思うぞ」

 

「んー。お正月にいったしな~。それにお正月にいったら私の部屋、物置になってたよ……」

 

「あーわかるぞ唯。私の部屋も服の入った箱でいっぱいだったからなあ。母さんに聞いたら、『だって律、四年間は帰ってこないでしょ?』だってさ。冷たいよなあ」 

 

「それにしても、梓ちゃん、私たちが最後に会ったときからなんか大人になってたわね~」

 

「年寄りみたいだなムギ……」

 

「失礼なっ。でも、私たちよりも準備の手際が良くてなんか感動しちゃった」

 

「親目線かよ……」

 

「今回の卒業祝、どうしよっか。私たちも大学生になってある程度余裕もできたことだし、何かしら梓が金銭的に買いにくい物が良いと思うけど……」

 

 

 曲……にしてもいいけど前回は曲だったからな。今回も曲、というだけでは芸がないだろう。うーん……。

 

 

「あっ、ギターストラップはどう? みんなでお揃いの」

 

「えー、それじゃ私とかムギ、使い道ないじゃん」

 

「それなら私たちの分は同じデザインで別のものを作ってもらいましょうよ」

 

「別のものっていったってなあ……」

 

「キーホルダーとかが良いと思うわ」

 

 

 私、この前ギターストラップ新調したばっかりだしなあ。そういえば唯もじゃなかったっけ。年明けにギターストラップ新しくするみたいなことを言っていた気がする。

 

 

「私もストラップがいいかな、このまえギターストラップ新しくしたばっかりだし。唯はどう?」

 

「わたしもキーホルダーがいい。ギターストラップ、この前ちょっと奮発してギー太に合うかっこ良くてかわいいのを買ったんだよねえ」

 

 

 どう言うのだよ……。

 

 

「卒業組はみんな、ギターかベースだから、ストラップで問題ないな。デザインとかも早めに決めないと」

 

「いつ渡しましょうか。卒業式でも良いと思うけど、今からだと日数的に厳しいと思うわ」

 

「卒業式は別のことをしよう。渡すのは……そうだな……ニューヨークでのライブの前夜とかが良いんじゃないか?」

 

「良いと思う! あずにゃんも憂も純ちゃんも、絶対に喜ぶよ~」

 

「そしたら私の方で良い感じのデザインを見繕っておくよ。いくつか候補を出すから、みんなで決めよう」

 

「さんせ~い」「はいよ!」「良いと思う!」

 

──────

 

「今日は真面目な話があります!」

 

 

 突然の唯の宣言に三人ともびくっとする。

 

 

「唯……突然大きな声を出すもんじゃない……」

 

 

 おもわず言ってしまう。まあこっちもびっくりしたしドローってところだ。

 

 

「ごめんごめんって~えへへ。そうじゃなくって、私、憂が卒業するから、何かしてあげたいんだよ! ずっと憂に頼ってきたから、なにかしらしてあげたいんだよ!」

 

「そういうことか。なら……なら……これといって何も思い浮かばないな。あの子、完璧を全身で体現したような子だからなにをどうすれば良いのやら……」

 

「そうなんだよ澪ちゃん! 憂は、わたしよりもずっとすごいんだよ!」

 

「それでいいのかよお姉ちゃん……」

 

「りっちゃんよりもすごいよ!」

 

「やかましいわい!」

 

「料理作ってあげるなんてどうだ?」

 

「憂の仕事が増えるだけだよ……」

 

「じゃあ、なにかあげるとかは?」

 

「ギターストラップあげるのに被っちゃうし……」

「確かに……」

 

 

 でもそうすると唯ができることって……そうだ。

 

 

「唯ちゃんがアコースティックでU&Iを憂ちゃんに独唱するのはどうかしら?」

 

 

「先に言われた……。でもアコースティックギターなんてどこにあるんだ? ギー太であの音が出るとは思えないし……」

 

「それならうちのギターを貸してあげるわ。ねっ? 唯ちゃんどう?」

 

「良い……すっごくいいよそれ! でも、ギター、借りちゃって大丈夫なの?」

 

「大丈夫よ、家の父が昔使ってたやつで今は倉庫にしまってあるから」

 

「うへ~。それたぶんすっごく高いやつだぞ唯。そもそもギー太じゃないギター、弾けるのかよ」

 

「練習すれば! まだ時間はあるし~」

 

「一週間くらいしかないけどな」

 

「がんばる! 憂のためだもん!」

 

「じゃあ私と唯ちゃんでU&Iのアコースティックバージョンを作るところから始めなきゃね。基本的にはメロディに沿って作れば良いからそんなに難しくはならないわ」

 

「ありがとうムギちゃん~」

 

「明後日までにはなんとか作り終えましょうね」

 

──────

 

 話も一段落し、沈黙が訪れる。普段話してる時間も好きだけどこうして静かな時間をみんなで共有するのも実は好きだったりする。ぜったい律にからかわれるから言わないけど。

 すると、風がびゅうっと吹いて思わず私は首をすくめる。寒い。朝のぽわぽわマインドの私を恨めしくも思いながら私は一つの事に気づく。

 

「さわちゃん、どうしよう」

 

「あー……」「困ったな……」「誘っても良いのだけれど……」

 

「二年間顧問やってもらってるからな。今回の卒業旅行に来てもらいたいよな」

 

「でも誘おうよ! さわちゃんだって喜ぶよ!」

 

「じゃあ明日にでも高校に行ってみるか」

 

 

 さわ子先生、いるといいけど。卒業式前だから忙しかったりするのかな。

 

 そんなこんなで結構歩いていると私たちの寮についた。

 

 

「じゃあ明日、また詳しいことを決めるのと、放課後の時間にさわちゃんに会いに行こう。じゃ、また明日」

 

「じゃあおやすみー」「おやすみなさい」「また明日~」

 

 そういい私は自室に入った。楽しみだなあ、卒業旅行とライブ。

 




感想評価、よろしくお願いします。


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Cassette4 先生

逆評定・・・生徒が先生の単位のくれやすさ、授業のおもしろさ、レポートの頻度などをまとめた紙。鬼、仏などの総合評価がついている。基本的に入学シーズンになると門の前とかで売っていたりする。単位取得時に必需品。


今回もよろしくお願いします。
あと、プロローグからCassette3まで、読みやすいように調節しました。


From:中野梓

To:澪先輩

件名:卒業旅行についてなんですけど

 

本文:

卒業旅行、さわ子先生も呼びたいんですけど、どう思いますか? 

 

 

From:澪先輩

To:中野梓

件名:Re:卒業旅行についてなんですけど

 

本文:

それについてなんだけど、私たちでも呼ぼうって話になったから、先生誘うのお願いして良い? 最初は私たちでいこうと思ったけど遠くて。

 

 

From:中野梓

To:澪先輩

件名:Re:Re:卒業旅行についてなんですけど

 

本文:

おっけーです。日程とかはこの前話したので確定で良い感じですか? 

 

 

Fron:澪先輩

To:中野梓

件名:Re:Re:Re:卒業旅行についてなんですけど

 

本文:

うん。あれでよろしく。あと、ホテルについてなんだけど、ニューヨークにいる間は四部屋とる感じになりそう。本当はスイートで大きいのがあったんだけど、今改装工事中らしくて。

部屋分け、なんか希望ある? とりあえずさわちゃんが一部屋の予定だけど。

これも誘えたなら伝えといてほしい。

 

 

From:中野梓

To:澪先輩

件名:Re:Re:Re:Re:卒業旅行についてなんですけど

 

本文:

わかりました。部屋分けは特に希望はないです。じゃあ、明日結果報告しますね。おやすみなさい。

 

 

Fron:澪先輩

To:中野梓

件名Re:Re:Re:Re:Re:卒業旅行についてなんですけど

 

本文:

おやすみ。

 

 

──────

 

 メールでの会話が終わったことを確認してから、私は自室のベッドの上で転がる。

 

 さわちゃん、来れたらいいなあ。去年のロンドンも結局来てたし。あの人、こういうイベント絶対に大好きだよ。もうこんな時間だ。明日は授業ないから登校自体は自由だけどさわちゃんに話をしなきゃいけないから明日の放課後くらいに行こう。

 

 それにそろそろむったんのメンテナンスにも行かなきゃ。受験のせいであんまり弾けてなかったしちょうど良い機会だ。

 

──────

 

「よし! 行こう!」

 

 先生を卒業旅行に誘いに学校まで、そのあとはいつもの楽器のお店でむったんのメンテナンスだ。お金ならある……。きれいにしてもらわなくては……。だってアメリカデビューだよ! 

 

 ぼちぼち学校までの道のりを歩きがてら、私は春からの大学生生活に思いを馳せる。大学はご存知、単位制というやつでこの単位の決め方によって時間割りが変わるらしい。ついでにいうと、ムギ先輩と唯先輩が平均的、澪先輩がちょっと多めで律先輩が進級ギリギリだそうだ。もう四人からは所謂逆評定というものをもらっていて。わたしもそれに合わせて授業をとる予定だ。律先輩を反面教師にしなきゃ。

 

 そんなこんなで学校につく。もう部活は始まっているようで、グラウンドから運動部の声がする。

 

 

「さわ子先生いらっしゃいますか~っと。いたいた」

 

「どうしたの? 中野さん」

 

「卒業旅行の話なんですけど……」 

 

 

突然周囲をチラッとみたさわ子先生は安堵した表情で

 

 

「わかったわ~。後から部室に行くからそこてまっててちょつだい」

 

「……? わかりました。部室にいますね」

 

 

 突然挙動不審になったさわ子先生を不思議に思いながら部室への階段を登る。なんか部室に来るのも久しぶりな感じがするな~。今日は誰もいないけどさわちゃんが来るまでちょっと弾きたい気分。

 

 そう思ってジャカジャカとギターを鳴らしているとドアが突然開く。さわ子先生だ。 

 

 

「待たせちゃったわね~」

 

「いえいえ~。お茶でも入れましょうか。ケーキはないけど」

 

 

 そう、ムギ先輩が卒業後、軽音部部室からはティーセットが無くなることが危惧されていたのだけれど、先輩の寛大なるご厚意で必要な分+αだけ残してもらえたのだ。さすがに茶葉はないから自分達で持ってきてるし、ケーキから普通のお菓子に格下げにはなっちゃったけど。

 

 

「さっきはごめんね~。あんまり卒業旅行で海外に行くことを快く思ってない先生もいるから。で、卒業旅行がどうしたの? また今年も海外行くの?」

 

「はい。私たち、卒業旅行でニューヨーク行くんですけど、先生もどうかなって」

 

「もうちょっと詳しく聞かせてちょうだい」

 

 

おっ、食いついた。 

 

 

「えっと、三月十日から四泊六日で、途中でライブがあります。飛行機のチケットはムギ先輩が出してくれて、ホテルもムギ先輩経由で破格でとれます」

 

「なにそれ聞いてないんだけど? ライブやるなんて」

 

 

だって言ってないし。

 

 

「じゃあ先生も来ますか?」

 

「うーん。最近、そういうの厳しいのよ~。先生の公私混同なんじゃないかって。卒業生だから良いかもしれないけど……。そうだ。わたしもまたマイルで行くわ。ホテルだけは内緒でお願いしちゃうけど」

 

「じゃあ伝えときますね」

 

「待って待って……。ちょっとそこ、仕事が入ってて私だけ二泊四日にしてもらってもいい? 行く日は一緒で」

 

「りょうかいでーす。じゃあちょっと失礼しますね」

 

 

 そう言い携帯を開いて、今回行くメンバーにさわちゃんも行く事と、途中で帰国することをメールの一斉送信で送る。携帯をしまおうとすると、着信音が響いて、その内容をみて思わず笑みがこぼれる。

 

 

「唯先輩が、『やったー!!』ってすごい嬉しそうな文面のメール、送って来ましたよ」

 

「それは嬉しいわね。今日はこのあとどうするの?」

 

「このあとは……いつもの楽器店に行ってギターのメンテナンスですね。久しぶりなので」

 

「それはいいわね。唯ちゃんもいってるかしら……。前科持ちなだけに心配になってきたわ」

 

「たぶん……さすがに大学生ですし澪先輩も一緒ですし大丈夫ですよ」

 

「そうだといいわね……。じゃあ今日はこんなところかしら。いろいろ決まったら連絡ちょうだいね。気を付けて帰るのよ~」

 

 

 そう言ってさわちゃんは部室から出ていった。唯先輩……またヴィンテージギターもどきのギー太になってないか心配だな……。今日の夜メールしておこ。

 

──────

 

 無事にギターのメンテナンスも終え、家に帰ってきた。お風呂にも入ってもう寝ようか、というころにギターが目についた。そういえばギターのストラップ、けっこう使い古した感じになってきたから、大学入ってバイト始めたら新しいの買わなきゃ。

 

 ふと思い出して携帯をベッドの上で開く。

 

──────

 

From:中野梓

To:平沢憂&鈴木純

件名:明日と明後日

 

本文:

しあさってが一回目の合わせ練習だから、明日と明後日に学校で練習しよう? 

 

──────

 

 そう送って私は毛布の中に入る。横目に「はーい」という二件のメールをみたけれど、私はあまりに眠くなってしまったのでそのメールを開く気にはなれなかった。

 

 

 

──────

 

 

──-同じ日、N女大学にて──-

 

「ありがとう、斎藤。突然お願いして申し訳ないわ」

 

「いえいえ、これを持ってくることくらいお嬢様に喜んでいただけるなら些細なことですよ」

 

「父はこのことについてなにか言っていた?」

 

「いいえ、持っていって良いかお聞きしたら『自由にして良い』とのことでした」

 

「よかったわ。じゃあ斎藤、また今度」

 

「お帰りになられるのをお待ちしております。よい一日を」

 

 

 斎藤が屋敷に帰るのを見届けてから、私は唯ちゃんの部屋へ行く。

 

 

「唯ちゃ~ん、おはよう」

 

「ムギちゃんおはよう……。いま何時? えっと……十一時半くらいかしら」

 

「えっ! やばっ! 今日三限だけあるんだよ!」

 

 

 そう言って唯ちゃんはバタバタと用意をして大学へいってしまった。今日はもう期末も終わって、休講なのだけれど……。あまりに鬼気迫ってたから言いそびれちゃった。

 

 十分くらいすると完全に糸が切れた人形のような唯ちゃんがふらふらと戻ってくる。そのままベッドメイキングもされていないベッドにばたんと倒れ込む。

 

 

「ムギちゃん~。もう授業ないよ~、どうして言ってくれなかったの……。もう無理……ねる」

 

「ごめんね~。あまりに急いでたからなんか邪魔するのも悪いかと思って……」

 

「全然悪くないよ……。むしろ言ってくれない方が悪いよ……」

 

 

などとしゃべっているとベルが鳴る。とててっと唯ちゃんがドアを開けるとそこには澪ちゃんとりっちゃんがいた。

 

「おっはよー!」「おはよう」

 

「おはようございます。今日はギター、持ってきたのよ」

 

 

そう言って私はギターのハードケースを開ける。なんとそこには……。まあ普通にギターが入っていたわ。

 

 

「おい……ムギ……」

 

 

怯えたような顔で澪ちゃんがこっちを見る。

 

「これってメチャメチャ高いやつじゃないか!?」

 

「どのくらいするの? ギー太何人分?」

 

「人なのかよ……。定価のギー太一人と半分くらいじゃないか? どうなんだ? 澪」

 

「これ、希少なヴィンテージギターで安く見積もっても定価ギー太三人分は下らないやつだよ……」

 

「ムギちゃん、そんなの借りて大丈夫なの?」

 

「大丈夫。唯ちゃんの大事な憂ちゃんへのサプライズだもの。しっかりしなきゃ」

 

「あびがどう……。ムギちゃん」

 

「こらこらそんな簡単に泣くんじゃない……」

 

「それじゃ、U&I Acoustic.verの練習しましょうか。時間もないし、昨日のうちにわたしが楽譜も編集してきたわ」

 

「準備が良すぎる……」

 

「じゃあ練習を始めましょうか」

 

「ケーキは……?」

 

「とりあえず一時間練習してからよ?」

 

「スパルタだよ~。助けてりっちゃん!」

 

「これもお前のためだ。我慢しろ」

 

「律は自分の課題はやくやりなよ……。それ出さないと単位ないんでしょ?」

 

「あっそうだった。じゃあ後で聞きにくるよ。じゃあねー。よし! 澪! 行くぞ!」

 

「こんな感じだからじゃあまた後で~。期待して待ってるよ」

 

 

 そう言って二人は部屋から出ていった。りっちゃん、本当に単位大丈夫なのかしら。

 

 

「じゃあ練習するわよ! でも唯ちゃん、リードギターだしほぼ同じだけどね」

 

「さすがムギちゃん! 私もがんばるよ!」

 

 こうして練習が始まり、この次の日にはもう完璧だった。この調子なら本番も大丈夫そうね。

 

 明後日は梓ちゃんたちとの一緒の練習だから私たちもそれぞれ練習しなきゃ。そう思った私はみんなに連絡し、大学軽音部の部室へ向かった。




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Cassette5 練習

原作の雰囲気がなかなか持ってこれない…精進しなくては…


「おはようございます」

 

「うぃー」

 

 今日は合わせ練習第一回です。まずはみんなで一回駅前で集合です。先輩たち……まあ主に唯先輩と律先輩なんだけど……が時間通りくるか心配だったけど澪先輩がちゃんと届けてくれたみたい。律先輩は柱によっかかって寝てるけど……。

 

 

「律先輩どうしたんですか?」

 

「梓ぁ~。眠い~」

 

「りっちゃん、単位もらわなくちゃ進級できない! って言って昨日はほぼ徹夜でレポート書いてたんだよ~」

 

「それは……お疲れさまでした……」

 

「ねぎらえ~」

 

 

「それはそうと梓、7人で演奏する曲、ベースが二人とギターが三人いて、弾くパートがそれぞれ被っちゃうから少しずつ変えといた。見てくれ」

 

 

 そういって澪先輩は私にスコアを手渡す。ペラペラとめくったけど私たち三人がそれぞれメインを交代で担当するような感じだ。ギターが三人もいるってよく考えてみればすごいことなんじゃ……。

 

 

「ごっめーん! おくれたー!」

 

 

 そう言い最後にやって来たのは純だった。まあみんなが集合時間よりもはやく来たってだけで実際はまだ集合時間の5分前なんだけどね。

 

 

「私もいま来たようなものだから大丈夫だよ。それじゃ、どこかで軽くランチをとってからスタジオ入りましょうか」

 

「いっくぞ~」

 

「どこがいいかしら」

 

「このまえ良い感じのお店みつけたんでそのお店にしませんか?」

 

「さすが私の妹だよ憂~。えらいぞ~」

 

「お姉ちゃんの好きなものもたくさんあったよ!」

 

 

 まだ、この子は姉離れできていなさそうね……。

 

 憂おすすめの店にやってきた……けどすっごいおしゃれだ……。なんか普通にしてても入るのにちょっぴり気後れしちゃうくらいには。それなのにあの人たちと来たら……。

 

 

「唯ー! 昼だー! なんかすっごいおしゃれなとこだぞ!」

 

「ほんとだよりっちゃん! パフェあるかな!」

 

「あるある絶対ある! いくぞー!」

 

「おうよ! だよりっちゃん!」

 

「騒ぐんじゃない……お前たちよりも高三のほうが静かじゃないか……」

 

 

 どうしてこんなに元気なんでしょうか……。

 

 

──────

 

 

 

 一通り食事も終わって話を始める。

 

 

「憂~、純~。澪先輩が新しくスコア、二曲とも新しくしてくれたからそれ見て~」

 

「は~い」「ほいっ、と」

 

「で、あとはホテルの部屋決めなんだけど……。くじで決めない?」

 

「澪先輩、唯先輩が悪い顔してるのできちんと見張っておいてくださいね」

 

「やだなあ、あずにゃん。別にくじに細工をしようとだなんて全く全然神に誓って思ってないよ~」

 

 

 安い神様だな~。

 

 

「それじゃ、みんな、私に好きな数字を送ってくれ。それを小さい順にならべて二人、二人、三人で区切るから。相談はなしだからな~。私はみんなの数字の平均にするよ」

 

 

 みんな携帯を開いて他の人に見せないように数字だけ書いたメールを送る。ついでに私は「11」だ。誕生日だし。

 

 

「よ~し、全員集まったな~。えっと、唯が10、梓が11、ムギが78で律が……9999……子供かっ!」

 

「だって~大きいほうが良いと思ったし~」

 

「子供だった……。で、純が7で憂が10……。姉妹だな。うーん……そしたらじゃんけんしてくれ。買ったほうが10.1に変えるかんじで」

 

 

 そう言い二人はじゃんけんをした。勝ったのは……唯先輩だった。もしかして憂、唯先輩を私と同じ部屋にするための策略……? まさか……。

 

 

「部屋分けは1、律ムギ私 2、梓唯 3、純憂 だな」

 

「なんか普通な感じにまとまっちゃいましたね~」

 

「まあ寝るときとかだけで基本的には部屋を繋げるドア、開けとくから」

 

「三部屋もつなげられるんですか?」

 

「できるらしい。珍しいことだけど」

 

「そろそろ時間ですね。行きましょうか、スタジオ」

 

 

 ──────  

 

 

 スタジオについた。前回(高二の文化祭で部室が使えなかったとき)よりもずっと広いところでちょっと驚く。みんなで割り勘してスタジオの代金を払った後、(先輩たちが出すって言ったけどなんとか高三組で説得してきちんと1/7ずつ出した)防音

 

 室内にはいるとなんか少し緊張した気分になる。

 

「そしたら最初の三十分はそれぞれ個人でスコアの確認して、その後合わせよう」

 

「了解でーす」

 

 

 そういいみんな各々の個人練習に入る。唯先輩をみると相変わらずチューナーも使わずに完璧に音があってるしなんなら憂もチューナー使ってない。なんだあの姉妹。

 

 新しくもらったスコアだけど私たちは変わったところはどこかで弾いたようなフレーズになっていたようで思ったよりも簡単に弾けることに気づく。澪先輩の優しさに感謝しながら練習しているとあっという間に30分たってしまった。

 

 

「よーし30分たったし合わせるぞ~」

 

「澪ちゃん……ちょっとだけ休憩をください……。死んでしまいます」

 

「だーめーだ。今日は休憩なし! 終わったら十分に遊べるから」

 

「唯ちゃんのために今日はケーキも持ってきたから」

 

「わたしがんばるよ!」

 

 

 相変わらずだった……。

 

 

「じゃあ歌は基本的に私と唯、それに梓と憂のダブルボーカルをローテーションしていく感じで、きょうはとりあえず最初の半分は私と唯、曲の後の半分を梓と憂でやってみよう」

 

「じゃあふわふわ時間からですかね」

 

 

────-

 

 

「律先輩……ドラム走りすぎです……もうちょっと落ち着いてください」

 

「いやー久しぶりでさ~。最近課題のせいであんましドラム叩けてなかったし」

 

「自業自得じゃないですか……」

 

 

──────

 

 

「唯ちゃん、そこの歌詞違うわよ~」

 

「ごめんごめーん」

 

 

──────

 

 

「憂~うまくなったね~」

 

「本当に上手だな。唯よりも上手いんじゃないか?」

 

「そんなことは……そんなことはないよね澪ちゃん!!」

 

「あ、あはは……たぶんないと思うよ。(口が避けても本当のことは言えない)」

 

「梓は相変わらずうまいし、純のベースも安定してるしなんとかなりそうだな!」

 

 

──────

 

 

「あっそろそろ時間だ」

 

「あと10分てとこか」

 

「最後に二曲合わせてから帰りましょうか」

 

「よーしきばっていこー!」

 

 

 ──────

 

 

「ありがとうございましたー」

 

 

 私たちはそういってスタジオを出る。このあとどうしよう……? 

 

 

「先輩たち、このあとどうしますか?」

 

「うーん、ケーキもせっかく持ってきたしどこかて食べたいところだけど……」

 

「梓ちゃん、部室が良いんじゃないかな。先輩たちも卒業生のOGだから問題ないと思うんだけど」

 

「じゃあ学校に行きましょうか」

 

 

 先輩たちにとっては久しぶりの学校だ。私たちは昨日も練習で来てるからそこまで新鮮という訳ではないけど。まずは職員室に鍵を取りに行く。

 

 

「みんな先に部室行っててください。私、職員室に行って鍵をもらってくるので」

 

 

 職員室で鍵をもらい、さわ子先生に先輩たちが来たことを告げるととても嬉しそうな顔で「あとから行くわ~帰らないで待っててね~」と言っていた。たぶんムギ先輩のケーキが狙いだろうけど。

 

 

 

「鍵持ってきました~。待たせちゃったみたいですね」

 

「いや、私たちも少し回り道してここまで来たから大しては待ってないよ」

 

「それならよかった」

 

 

 そう言って、部室のドアを開ける。

 

 

「わあー懐かしいー! ドラム……は大学に持ってっちゃったからないや……」

 

「こっちにあったらここで練習できたんだけどね……」

 

「まだムギちゃんのティーセットおいてあるんだ!」

 

「さすがにムギ先輩が持ってきてたような葉っぱはないですけど、それなりのものなら常備してあるので今淹れますね」

 

「それなら私がやるわ~」

 

「いや、悪いですよ」

 

「なんか、ここに来るとそうしなきゃいけない気がして~」

 

「じゃあお願いします」

 

 

そういっているとさわ子先生が来た。

 

 

「みんな久しぶり~。私のケーキは~?」

 

「はいはい、ここにありますよ~」

 

「唯ちゃん~? きちんとギターのメンテナンスしてる~?」

 

「ばっちりだよさわちゃん! 二ヶ月前くらいに行ったばっかり!」

 

…………

 

 

 一年たっても、放課後のこの部屋の雰囲気は全く変わっていなかった。なんか安心。




今回も読んでいただき、ありがとうございます。
なんか終わりっぽい文末ですがまだまだ続くので応援よろしくお願いします。
今回も評価、お気に入りや感想などいただけると嬉しいです。

誤字指摘してくださった方、ありがとうございます。


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Cassette6 出発

──────N女大学寮唯の部屋──────

 

 

「おーい、唯~準備できたか~?」

 

「荷物チェックしに来たわよ~」

 

「なんで? 私だってもう大学生だしそのくらい余裕だよ」

 

「いや、梓と憂ちゃんが『おねがいします』って。私たちも心配だし」

 

「だって前のロンドン旅行の時だって全然忘れ物なかったよ!」

 

「それは憂ちゃんがほぼやってくれたからだろうが……」

 

「あっそうだった~」

 

 

 そう、時も経って、明日はもう出発の日です。ムギと私、律はもう準備万端で明日出るだけなんだけど、うちの問題児のことが心配で……。

 

 

「そういえば、このまえ話したギターストラップ受け取ってくれた?」

 

「ああ、昨日私とムギで受け取ってきてもうスーツケースにいれたよ。なかなかきれいに出来てた」

 

「写真ある?」

 

「写真は取ってないけど黒い本革に梓が緑、憂ちゃんが赤、純ちゃんが水色のクリスタルでアクセントつけてる感じ。ってこのまえ話し合ったときに見たでしょ?」

 

「いやー現物が見たくって~。でも、もう包んでもらっちゃったみたいだし、実物をみるのは渡すときのお楽しみだね」

 

「ストラップを渡すの、三日目の卒業記念パーティーのときだよな?」

 

「ええ、そこで唯ちゃんのU&Iも歌おうとおもって」

 

「どれくらい弾けるようになったんだ?」

 

「駅前で歌わせても恥ずかしくないくらいには」

 

「そりゃすごいな。でも、唯って今回はギー太持ってくだろ? アコースティックギターもってくのは大変なんじゃないのか?」

 

「さわ子先生がもっていってくださるそうよ? 事情を話したら『まかせときなさい! そういうの大好きよ!』って」

 

「あーさわちゃんこういうの好きそうだもんな~」

 

「そのギターはもう渡してあるから問題ないな」

 

「そしたらあとは唯のスーツケースの準備だけだな! 私はスティックしか持ってくものないけど……唯はギターのメンテやったのか?」

 

「もっちろんだよ~。弦もこの前張り替えたし」

 

「そしたら大丈夫か」

 

「服とかもきちんと入って……る……。唯、パスポートは?」

 

「え……? も、もしかして……入って……ない?」

 

「入ってないな」「入ってないわね」

 

「それは大変だよ澪ちゃん! 探さなきゃ」

 

「当たり前だ! 全員でいまから探すぞ! 他の荷物はみんなはいってるから」

 

 

 こうして唯のパスポートが見つかったのは探しはじめてから三十分後のことだった。あいつ、狭い部屋なのに(私たちと同じ)どうしてあんなに荷物があるんだ……。

 

 

「じゃあ明日の朝はやいからきちんと起きろよ」

 

「もうねるから大丈夫だよ~。おやすみ~」

 

 

──────

 

 

 

──────同日、梓の部屋──────

 

 明日出発です。最初は耳を疑っちゃうような提案だったけど、先輩たちは本気で、わたし一人をおいて卒業してしまったことを気にしてるのか知らないけどまるで一緒に卒業するようなノリで卒業旅行を計画してくれて、でもそれでいてきちんと私の回らないところはフォローしてくれて。本当に夢の中にいるような気持ち。

 

 スーツケースのパッキングも終えて一息つく。寝る前に一度むったんの調子を見るためにうちの防音室に行こうとすると、ふと軽音部の卒業アルバムが目にはいった。このアルバムは学校の卒業アルバムとは別に作ったもので、先輩方がとった写真をまとめたものだ。

 

 卒業式の日に五人で撮った写真を見ると、あのときの複雑な気持ちが思い起こされてちょっとセンチメンタルな気持ちになるけれど、四月からは先輩たちと同じ大学に行けるという事実が私の心を満たす。少なくとも喜びが表情としてあふれてくるくらいには。

 

「よし!」

 

 気合いを入れて、ギターを抱えて地下へ向かう。字面はカッコいいけど、単に防音室が地下にあるってだけの話だ。

 

──────

 

 一通り弾き終えて弦の調子を確認したらもう結構遅い時間になってしまっていた。たしか明日のフライトが11時出発なせいで確か……集合が朝の五時とかだった気がする。あとで確認しなくちゃ。そんなことを考えながら軽くシャワーを浴びて寝る準備をする。多少心配性であることを自他共に認める私は部屋に戻ってやっぱり今回も心配でスーツケースの中身を再チェックしてしまう。

 洋服よし、念のための替えの弦よし、充電器よし、……、とチェックをすすめ、全て入っていることを確認して私は部屋の電気を消してベッドに入る。

 

 明日が本当に楽しみだ。

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

──-翌日、桜高最寄り駅──-

 

 いつもの駅についた……けど誰もいない。さすがに三十分前につくのは早すぎたかな。まあ、遅刻するよりはいいし。それにしても今日は寒い。朝だからというのもあるのだろうけど今にも雪が降るんじゃないかって思う。寒さにカタカタと震えながら先輩たちと先生にメールを送ろうとすると、

 

 

「梓ちゃ~ん! おはよー!」

 

 

 と、小さな声が聞こえた。声を潜めながらも私に聞こえるように挨拶してきたのは憂だ。自分のギターを背中にかけて淡いピンクの大きめのスーツケースを引いている。

 

 

「憂、スーツケース大きくない?」

 

「お姉ちゃんが何か忘れてないか心配でちょっと多めに持ってきちゃった」

 

「そゆことね。変わらないね~憂は」

 

 

 こんな調子に他愛ない会話を十分くらい重ねていると今度はスーツケースの音と共に、靴の硬い音が響いてきた。音のする方向をみるとベージュのコートに、歩きやすそうだけどちょっと踵のあるヒールを履いたさわ子先生だ。スーツケースもワインレッド? みたいな深みのある赤でなんだかかっこいい。

 

 

「さわ子先生、おはようございます」

 

「ええ、おはよう。今日は一段と冷えるわね」

 

「はい、寒いですよね。ところでどうしたんですか? そのギター。さわ子先生も演奏を?」

 

「いやー、わたしはしないわよ。これはちょっと別の用事。向こうに着いて、機会があったら教えてあげるわ」

 

「ふーん。秘密ってわけですか。楽しみに待ってますね」

 

「ええ、そうしてちょうだい」

 

 

 あとは……純だけだ。集合時間自体を私たちが乗る電車の発車十分前にしておいたから遅れることはないと思うんだけど……。と、思っていたら軽く走るスニーカーの音と軽いスーツケースの音がする。モノトーンで構成したラフな服に濃くも薄くもない水色のスーツケースが映える。スーツケースやけに小さいけど。

 

 

「おっはよー! 五分前集合って思ってたらみんな早すぎだよー。先生もおはようございます。なんか服、かっこいいですね」

 

「おはよう。何年も見た生徒の晴れの舞台だもの、気合いも入るってものよ」

 

「純ちゃんおはよ~。電車まだこないからホームのベンチでゆっくりしてようか」

 

 

 そういって私たちはまだ無人の改札を抜け、ホームの中程にあるベンチに腰を下ろす。

 

「お姉ちゃんたちは途中の駅で乗ってくるんだよね」

 

「そう、確か……ここから一時間くらい行ったところのN女大学前駅ってところ」

 

「おっけー。私たちは時間通りだよってメールしとくね。それにしても梓ちゃん、四月からお姉ちゃんたちと同じ学校でしょ~いいなあ~」

 

「私だって自分の志望する分野のなかで一番いいところ近場で探したらあそこだったってだけだし。憂だってあそこに医学部あったら行ってたでしょ?」

 

「いやまあそうなんだけどね……」

 

「憂は優秀だし、優しいし、器用だし本当に医者向きだよなあー」

 

「突然ほめないでよ純ちゃん。あっ、電車来たよ! ここで結構長く停まるみたいだね。なかのほうが暖かいだろうからはやく乗っちゃおう!」

 

 

 こうして私たちは卒業旅行へと足を踏み出した。

 

 

 

──────

 

 

 

──-N女大学寮、共用スペース──-

 

「よーし唯も時間通りきたな。じゃあ行くぞー!」

 

 

 昨日から一夜明けて今日は出発日。梓たちは無事に予定してた電車に乗れたそうだから私たちもその電車に乗る。寮から駅までは大した距離ではなく、歩いて遅くても十分程度だから早めに出発した私たちはややのんきな気分だ。太陽はまだ上がってきていないけどだんだんと空が明るくなってきた。冬だから寒いことには変わりないけど。でも、あの冬特有のにおいがしてちょっと気分が盛り上がる。

 

 

「それにしてもアメリカ! 楽しみだねえ!」

 

「ああ、それに唯、憂ちゃんと旅行行くの久しぶりなんじゃないのか? ここ最近は大学忙しかったし」

 

「そうなんだよ! もうその事も嬉しくってね。もう昨日はぐっすり早くから眠れたよ」

 

「普通そこは眠れなくなるものなんじゃないのか……」

 

「細かいことはいいんだよりっちゃん! 今回は私もギー太もばっちりだよ!」

 

「そんなこと言って……怪我するなよ?」

 

「しないって~。そういえばさ、今回はムギちゃん、キーボード持ってきたんだね!」

 

「ええ、去年はわざわざ送ってもらっちゃったから。今年は自分の手で持ってこうと思って」

 

「健気ですなあ……」

 

「どこのおばあちゃんだよ……」

 

 

 話しながら歩いていると結構すぐ着いてしまうもので、私たちは駅についた。今の時間……から考えるともうホームに上がってて良さそう。あとたぶん五分もしたら梓たちの乗ってる電車がホームに入ってくるはずだ。念のため、いまならまだ戻ってもなんとかなるから唯に聞いておく。

 

 

「唯、パスポートとお金は持ったか?」

 

「あったりまえだよ! りっちゃんは大丈夫?」

 

「ん? 私? 一応見とくか」

 

 

 そういって唯は淡い赤のカバンの中身を、律は黄色のショルダーバッグの中を見る。なにも言わないところを見ると二人とも、しっかり入っていたのだろう。

 

 

「海外に着いたら引ったくりとかに遭わないように旅行用のポーチに入れとくんだぞ」

 

「それもばっちりだよ~。鞄のなかに入ってる」

 

「電車、きたわよ~」

 

「あ! あずにゃんだ! お~い!」

 

 

 電車のドアが空いたので私たちも乗り込む。高三三人組と先生が電車には既に乗っていて、これでメンバー全員がそろったことになる。それぞれが挨拶をし終えたころ、先生が

 

 

「そしたら空港線に乗り換えるまでまだちょっと時間あるから、みんな寝ていいわよ。私が起こしてあげるから。朝早かったでしょう」

 

「先生は大丈夫なの?」

 

「私は昨日はワクワクで寝たのは八時だからなんの問題もありません!」

 

「それは大人としてどうなんだ……」

 

 そう言ったものの、先生を除いたみんながうつらうつらとし始めた。やはり朝早かったのだろう。起きたら先生にお礼言わなきゃ、と半分くらいはもう眠っている頭で考えながら私は眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 




ちょっと読みやすくするために会話文と会話文の間に一行入れてみました。読みやすくなりましたかね。

今回も読んでいただきありがとうございます。お気に入り、感想などお待ちしております。


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Cassette7 旅の始まり

「先輩たち、つきますよ。起きてください。憂…は起きてるね。ほら、純、もうすぐ着くよ。起きて」

 

 

 東京国際空港駅まであと五分というアナウンスが流れたため、一足早く起きた私は先輩たちと憂、純を起こす。先生はどうやら約束通り起きていてくれたみたいだけど、私が起きたのを見ると目線で「任せた」と伝えてきた。先生は自分だけ別の飛行機だからかそれなりの準備が必要なようで書類の確認をしている。先輩たち、とくに律先輩を揺り起こしながら先生に聞いてみる

 

 

「ところで先生は何時発の便なんですか?」

 

「わたし? 十一時三十五分発のJALの飛行機だけど」

 

「あれ? 私たちも確かその時間でJALの飛行機だったような気が……もしかして先生、JAL505便だったりしますか?」

 

「ええ、確かそうだけど。じゃあ一緒の便なのね」

 

「偶然ってのもあるものですね~」

 

「さわちゃん、おはよ。偶然ってどうしたの?」

 

「おはよう。偶然って言うのは、唯ちゃんたちと私、同じ飛行機みたい。別々にとったけど一緒の飛行機になれるものなのね」

 

「それはすっごい偶然だね~さわちゃんはビジネス?」

 

「ちょうどビジネスがセール中で安かったから思いきってビジネス買っちゃった。人生初めてなのよ。唯ちゃんたちもビジネスなの?」

 

「いや、私たちはプレミアムエコノミーだよ? エコノミーよりは広いけどビジネスほどじゃないってやつ。ムギちゃんのお父さんが手配してくれたのそのチケットだったみたいで」

 

「それはまたすごいわね」

 

 

 駅が近づいてきたのか電車が減速を始めたようで体にちょっと前方向への力がかかる。

 

 

「そろそろ着くみたいなので降りる準備を……律先輩、二度寝しないでください。もう降りますよ」

 

「もう少し……もう少しだけ許して……」

 

「だめです。私が許しても電車が行っちゃいますから無駄ですよ」

 

 

 無事律先輩の目も覚め、私たちは電車から降りて、空港の国際線ターミナルへ向かう。建物の中は暖房が効いていてほっとする。今回もムギ先輩のすすめでチェックインと荷物預けを先にしてしまおう、ということになった。 

 

 

「次のお客様、どうぞ」

 

「こんにちは。えっと、荷物を預けたいんですけど」

 

「はい。お預けする荷物はそちらのスーツケースとギターでよろしいでしょうか」

 

「ギター、やっぱり預けないとだめですか?」

 

「少々お待ちください……。お客様の乗る便は比較的混雑していない便になりますので機内持ち込みも可能ですが……。かなり大きなお荷物ですのでやはりお預けされることをお勧めいたします」

 

「そしたら……みんなどうする? 私は預けてもいいと思うけど」

 

「私は預けます。結構スペースとっちゃいますしね」

 

「私も預けようかな……ギー太、またあとで会おうね」「私と純も機内預けでお願いします」「私のキーボードも機内預けでお願い~」

 

「じゃあ、全員なので六人分お願いします」

 

「わかりました。スーツケースはこちらでお預かりいたしますが、ギターなどはあちらの包装用カウンターで包んだ後、こちらのタグと一緒に係員にお渡しください」

 

「どうもありがとうございます」

 

「それでは、良いフライトを」

 

 

 そして私たちはカウンターの横にあるところでギターをしっかり包んだあと(唯先輩はほんとうに『しっかり』包んでた)、ギターを係員のひとに渡して朝御飯を食べに向かった。空港のなかでもしっかりと食べられるところは結構あったから迷ってしまったけど結局パスタとトーストの店になった。どうやらムギ先輩おすすめの店のひとつらしい。

 

 

「あずにゃんは何にする?」

 

「私は……このトマトソーススパゲッティで」

 

「じゃあ私はこのボロネーゼかな」

 

「お姉ちゃんがそれなら……私はカルボナーラにしようかな。お姉ちゃんにも少し分けてあげるね。好きでしょ?」

 

「ありがとう憂~。他のみんなは?」

 

「カルボナーラでおねがい~」

 

「私は……私はこのカニとトマトのスパゲッティで」

 

「純とかぶっちゃった。じゃあ……わたしはこのほうれん草とベーコンのやつ」

 

「私も澪とおなじやつ~」

 

「みんな決めたわね~。注文おねがいしまーす」

 

 

──────

 

 

 量がそんなにあったわけでもないので三十分もしたらみんな朝食を食べ終わった。搭乗開始時間を考えるともう出国審査をしなきゃいけない時間になっている。旅のガイドブック曰く、この時期、要するに三月の上旬は私たちみたいな旅行客が結構たくさんいるから早目に行った方がいいらしい。そのことをみんなに伝えると、

 

 

「先生、実はサファイア会員ってやつで、連れのひとも含めて出国審査を優先レーンで通れるのよ」

 

「あ、それわたしもです。いつもフィンランドとか行くときに使ってるから」

 

「人数とかは大丈夫なの?」

 

「確か、会員一人あたり三人までは同行者も優先レーンに入れるはずよ」

 

「じゃあ大丈夫そうだな。じゃあみんな、行こうか」

 

「待ってくれ~まだ唯と私がカブチーノ飲み終わってないから~」

 

「しょうがないやつだな……。まだ少し時間あるからゆっくりのんでていいぞ」

 

「澪先輩にしては優しいですね」

 

「ここで焦られてこぼしでもしたら……と思うとな」

 

「お姉ちゃんならやっちゃいそう……」

 

 二人が飲み終わるのを待って私たちは店を出る。出国審査には余裕の到着をしてロビーでみんなまったりする。

 

「みんなお土産買った~?」

 

「まだ出発すらしてないんだから、ここで買ってどうするんですか~」

 

「ほんとだよ~。でもなんか出発前なのにすごい疲れた感じがする~。今日はドラムのスティックすら持てる気がしない…。私たちももう年なのか~」

 

「あんたたちが年なら私はどうなるのよ!」

 

「なんかさわちゃんは別枠って感じ」

 

「なんかそれ……スッゴいよくわかります。さわ子先生、私たちがおばあちゃんになっても若いまま学校で先生やってそうですよね」

 

「なにそれこわっ」

 

「そういう純もきょうは一段と元気だよね」

 

「ま、まあ海外だしテンションも上がるでしょ。そんなことよりしっかり梓は計画たててきたの?」

 

「何を偉そうに……。でもばっちりだよ。有名どころはしっかり観られるようになってる」

 

「さすがだな~梓は、なんか丸投げしちゃってごめんな」

 

「これくらい大したことじゃないですしいいですよ。調べるのも楽しいし」

 

「そういってもらえるとありがたいな。私の行きたかったところ、結構入っててなかなか嬉しいよ。」

 

「そうそう!美味しそうなハンバーガーもあるし!」

 

「それはお前と唯だけだ。」

 

 だらだらしながら話しているとアナウンスが鳴った。どうやら搭乗が始まるようだ。私たちの搭乗は……番号的にもうすぐかな。どうやら先生は優先搭乗ってやつらしくて先に行ってしまった。私たちもできたら良かったんだけど、出国審査と違ってこっちは全生と別の予約だし、ムギ先輩ひとりじゃ全員はさすがにカバーしきれなかったらしい。遅かれ早かれ私たちの番は来るので準備していると順番が来た。 

 

 

──────

 

 

 飛行機に乗ってしまえば後は楽なもので機内食を除けば私たちがすることはほとんどない。十二時間ちょっと、椅子の上で過ごしてればもうそこは異国の地だ。よく考えるとすごいことだよね。しかし、わたしの友達はこの感慨を台無しにする勢いで喜んでいる。

 

 

「足下広っ。憂、プレミアムエコノミーってすごいんだな。わたしこれで十分だよ」

 

「純ちゃん落ち着いて……。でも足下広いね~。飛行機のイメージと全然違う。なんかもっと狭いものだと思ってた」

 

「ま、先生は私たちよりももっとプレミアムなビジネスにいるんだけね。後でトイレ行くときに見るといいよ。なんか個室みたいで豪華だから」

 

「へえー。十何時間もいるんだもんね。狭いところにずっといたら疲れちゃうよ。そういえば機内テレビとかあるけど寝なきゃダメだよ? 時差ボケ少しでも弱めたいなら」

 

「はいはいっと。お母さんじゃないんだから…。あっ、梓~、到着って現地時間で何時だっけ」

 

「確か……十時半くらいだった気がする」

 

「そしたらさっさと寝なきゃだ」

 

「その前に昼の機内食があるよ、そのあと寝たら?」

 

「それもそうだね。そんでさー……」

 

 

 純と憂が話し始めたので先輩たちに目を向けるとみんなでガイドブックを私が渡した行程表とつき合わせながら確認している。わたしも行く前になんか東海岸が舞台の映画でも見ようと思って機内エンターテイメントを検索していると飛行機のアナウンスが入る。

 

 

「本日はJAL505便にご搭乗いただきありがとうございます。本機は十一時三十五分、東京国際空港発、十時三十分ニューヨーク、JFK空港到着です。まもなく離陸いたします。シートベルトサイン点灯中はシートベルトを着用し、席をお立ちになることのないようにお願い致します」

 

「あずにゃんあずにゃん、JFKってなあに?」

 

「ジョン=F=ケネディのイニシャルですよ。アメリカの昔の大統領ですね」

 

「あずにゃん物知りだねえ」

 

「いや常識です……」

 

 

 唯先輩の気の抜ける質問に答えていたら既に機体は動き始めていた。どうやらもうすぐ滑走路に入るようで、得体の知れないワクワク感がある。飛行機のエンジン音が一瞬静かになったかと思ったら、飛行機は急に加速を始めた。隣の唯先輩なんか口開けたまま『おぉ~』って呟いてる。離陸すると同時に機体の振動は小さくなり、フワッとした感触に包まれる。あと二十分もしたら水平飛行に入るだろう。

 

 何はともあれ、取り敢えず飛行機には全員無事乗れたから旅の第一段階成功って感じ。

 

 前を見ると憂と純はまだおしゃべりしていて、その後ろではムギ先輩が本を読んでいる。その隣では澪先輩がヘッドホンで…あれゼンハイザーの高級なやつだ…音楽を聴いていて、その隣の律先輩は…寝てる。アイマスクもつけて完全装備だ。律先輩、今日は暇あれば寝てる気がする。そのまた後ろの、わたしの隣の唯先輩は既にヘッドホンをつけて映画鑑賞中。どんな映画見てたのか、ご飯の時に聞いてみよう。とりあえず、私も機内食の時間までは唯先輩みたいに映画でも見ることにした。

 




ちょっと地の文が多めになってきました。場面に動きが入るとどうしても、地の文が増えがちだなあと。

通算UAも無事450を超え、嬉しい限りです。ここまで読んでいただき、ありがとうございます。今回も誤字脱字の指摘やお気に入り、感想などお待ちしております。


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Cassette Series2 旅行本番編
Cassette8 到着


 ニューヨークのタイムゾーンに合わせて機内の電気がつき始めた。いまは現地時間だと8時くらいだろうか。いくら椅子が広いとは言え、ずっと座りっぱなしというのは体の節々が痛くなる。隣を見ると、唯先輩はアイマスク(いつもの目が描かれたやつ)をしたまま寝ている。

 体を動かしがてらトイレにでも行こうかと体を起こす。今回は窓側なので唯先輩を起こさないように気を付けながら(飛行機の真ん中くらいなのに二人席なの!)通路に出る。律先輩と澪先輩はまだ寝ているけれど、ムギ先輩はイヤホンで音楽を聴きながら小説を読んでいる。クラシック音楽とか聴いてそう。そのまえの二人もまだ寝てる。

 

 トイレから帰ってくると唯先輩が起きていた。自分の席に戻って、周りを起こさないように小声で話しかける。

 

 

「ごめんなさい、起こしちゃいましたか?」

 

「いやいや~あずにゃんのせいじゃないから大丈夫だよ~。アイマスクがずれて明るくなっちゃったから」

 

「それなら良かったです」

 

 

 でも、私は知っている。そもそもこのアイマスクはなかなかできるやつで簡単にとれたりはしないし、なにより唯先輩、座ってる間は寝相がいいから取れたりするはずがない。本当は私が前を通ったときに起きちゃったけど、私に気を使わせないようにしてくれたんだろう。でも、今はその優しさに甘えることにした。

 

 

「先輩はこれからどう……映画見るんですね……」

 

「こういうときじゃないと忙しくて映画見られないからね! 着陸まであと二時間ちょっとあるみたいだし」

 

「そうですね、わたしももう一本映画でも見ることにします」

 

 

 ──────

 

 

 突然、目の前のディスプレイが映画の表示をやめ、着陸時の案内をし始めた。私はもうエンドロールに入っていたから何てことはないけどどうやら唯先輩の映画はちょうどクライマックスだったようで涙目だ。

 CAさんが入国に必要な書類を必要な人に配っている。私たちは既にビザのようなものを日本でとってあるから必要ない、とのことだ。英語だから何言ってるか私は全然わからなかったけど、前の席からムギ先輩が教えてくれた。恐らく配るのが終わったら飛行機は着陸態勢に入るのだろう。

 

 

「今、一番盛り上がってるシーンだったのに……かなしい……」

 

「きちんと残りの飛行時間を見ておかないからですよ。でも、また帰りの飛行機でも見られますから。大丈夫ですよ」

 

「そ、そうだったね。よかったよ~。あっ、あずにゃん! 高いビルだよ! それにあの橋! よく映画で見るやつ!」

 

「落ち着いてください……。でも、本当に映画でみるやつですよ」

 

「なんか……すごいね」

 

「語彙力ないんですか……」

 

「でも、テレビのなかでしか見たことがない景色が目の前にあるって不思議だね~」

 

 

 空港が見えてきた。どうやらなかなか大きい空港のようでたくさんの飛行機が見える。私たちの乗る飛行機はだんだんと高度を下げ、着陸に入ろうとする。

 

 

「そういえばね、この前テレビでやってたんだけど、飛行機事故が一番多いのって着陸のときらしいよ?」

 

「やめてくださいよ……。心配になるじゃないですか……」

 

 

 私たちの心配をよそに飛行機はぐんぐん高度を下げていく。タイヤが地面に接地したときの音と振動を感じるとすぐに、飛行機が逆噴射するときの特徴的な音が聞こえる。このまえ読んだトリビアに『エンジン逆噴射は別に前にエンジンをふかしてるわけではない』みたいなのがあって驚いたっけ……。

 

 

「とおちゃーく! アメリカだよ~」

 

「落ち着いてくださいってば……」

 

「澪! 澪! アメリカだ! 自由の国だ! 女神だ!」

 

「こっからは見えないけどな」

 

 

 前からも律先輩のはしゃぐ声が聞こえる。心なしか澪先輩もテンション上がっている気がする。

 

 飛行機から降りるとそこは……日本人ばっかりだった。いや、日本から来た便だから日本人だらけなのは当たり前なんだけど……。そう思いながら空港と飛行機をつなぐトンネルみたいなやつを通ると、空港に入ってすぐのところにあるベンチでさわこ先生が待っていた。先生と一緒に入国審査に並ぶ。ここでは行きで使った会員特典は使えないらしい。

 

 

「あれだよな! 『さいとしーいんぐ、ふぉーでいず』って言えばいいんだよな。ところで「さいとしーいんぐ」ってなんだ? ふぉーでいずは四日間ってことだろ?」

 

「律……さすがにボケだよな。ボケだと言ってくれ」

 

 

 小声で律先輩に「観光ってことですよ」と教えてあげると慌てた様子でぶつぶつ言っていた。あれ、絶対に知らなかったやつだ……。

 

 

「そういえば私、去年のとき確か「サイドビジネス!」って言っちゃって向こうの人、困ってたんだよね~悪いことしちゃった~」

 

「私は『17? Really?』って、聞かれましたよ……」

 

「日本人は子供っぽくみえるって言われるからな……」

 

「ムギ先輩は雰囲気が大人っぽいから大丈夫そうですよね~」

 

「そんなことないわよ~。実際聞かれたことはないけど。梓ちゃんだって成長したんだし、今年は聞かれたりしないわ」

 

「そうだといいんですけどね……。うわっ、純、大丈夫? なんか顔色微妙だけど」

 

「いや、本当にアメリカ来ちゃったとおもうとなんか緊張して……」

 

「そういうときは手に人って書いて飲み込むんだよ!」

 

「今回はちょっと違うからそのおまじないは効かなさそうですね……。あっでも話してたらなんかよくなってきた気がする」

 

「そりゃよかった。最初も最初で体調崩したら残念だからね」

 

「澪ちゃんの言う通りよ。海外では日本にいるとき以上に気を付けないと! 私も何度も辛い目に遭ったことか……」

 

「先生の体験談なんですね……」

 

「そろそろ順番来そうじゃないですか? 結構並んでる気がしますけど」

 

「あっ、順番来たみたい。私からいくわね~」

 

「じゃあ、終わったらカウンターの向こうで待っててくれ」

 

「分かったわ」

 

 

 ムギ先輩が入国審査カウンターに行った。私はムギ先輩の後ろに並んでいたのでその次だ。ちょっと緊張した気分で待っていると、そんなに間隔を開けずに呼ばれた。

 

 

「Hey Nice to meet you」(やあ、こんにちは)

 

「Nice……Nice to meet you too」(ええ、こんにちは)

 

「What's for you come here?」(何をしにアメリカへ?)

 

「えっと……For sightseeing」(観光のために)

 

「OK. How long do you plan to stay here?」(どのくらいアメリカにいる予定?)

 

「For 4 days」(四日間)

 

「What about your company? Where's your parents」(一緒の人は? 両親はいないの?)

 

「カンパニー? 会社? いや違う……あっ、また子供だと思われてるんだ! えっと…… I am 17 years old and I come here with my friends」

(わたしは十七才で、友達と一緒に来ました)

 

「Really? 17? 」(本当に? 17歳?)

 

 

 そういってパスポートをじっと見つめる。ちょっとして、

 

 

「OK, I'm sorry to make a mistake about your age, that's all here, you may go. Enjoy your trip!!」(オーケー。年齢、間違えてごめん。もう終わりです。行っていいですよ。旅行を楽しんで!)

 

 

 そう言ってガシャン! とパスポートにスタンプを押してくれた。パスボートを受け取り、近場のベンチにいる澪先輩とムギ先輩のところへ行く。

 

 

「また年齢間違われました……」

 

「あはは……元気出せって」  

 

 他のみんなが来るのを待って入国ロビーを出る。そしたら荷物を受けとるため、あの回転寿司みたいなやつのところに行く。もう既に私たちの乗ってきた便の荷物は回り始めていたみたい。

 

 

「今回は回ってきますように……回ってきますように……」

 

「大丈夫だって、そんなこと早々何度も起こるわけがないだろ?」

 

「うー……。あっ! 私のエリザベス! よかった~。あとはスーツケーススーツケースっと……きたきた」

 

「な? 言っただろ? みんなは?」

 

「私と純ちゃんの分が来ない……」

 

「憂と純ちゃんのスーツケースが来てないみたい」

 

「もうちょっとまってみたら? そしたら来るかもよ?」

 

「梓はもう来てるのか~いいなあ~っと、憂、あれ、わたしたちのじゃない?」

 

「あっほんとだ! 私のギターもある」

 

「全員分が揃ったみたいですね。行きましょうか」

 

「よーしじゃあいくぞー!」

 

「えっと……まずはホテルに荷物を預けるんですけど、ここはムギ先輩が何とかするって……。どうやって行くんですか? 電車? タクシー?」

 

「今日泊まるところから送迎が来てるはずだから、みんなで探して? KOTOBUKI って書いてあるパネル持ってるはずだから」 

 

「えっと~どこにいるんだろう?」「本当にいるのか~?」「いないですね~」「もうちょっも向こうだったりして」

 

「あっ、あれじゃない? KOTOBUKIって書いてある!」

 

「でかしたぞ純ちゃん! たぶんあの人だ。えっと~そしたらムギ、頼む」

 

 

 そう言われて、ムギ先輩はその人のところへ向かった。カバンから何か紙をだして見せて二言三言話したあと、私たちを手招きする。

 

 

「この人についていくわ」

 

「はーい、今回泊まる……このMホテルってところですよね。電車の便も良くて、中心に近くて、一等地の五ツ星ホテルじゃないですか」

 

「そうそう、こっちにいる間はそこに泊まるから。ーそこまで車で行ってそこからは地下鉄とキャブで移動しましょ?」

 

「さんせーい」「さんせーい」「さんせーい」「キャブ?」

 

「黄色いタクシーのことですよ、唯先輩」

 

 

 てくてくと運転手の人に突いていくと空港ロータリーにマイクロバスが止まっていた。乗ろうとすると運転手の人がスーツケースを持ってくれるそうなのでお言葉に甘え(通訳byムギ先輩)、私たちはバスに乗り込む。今回はどうやら貸し切りのようだ。

 

 

「ここから一時間くらいみたい」

 

「じゃあなにする?」

 

「今日どこ見に行くかの予習するぞー!」

 

「おっ、りっちゃん気合い入ってていいねー」

 

「そしたらまずはセントラルパーク行ってですね……     

 ・・・

 

 

 こうして無事、ニューヨークに着いた。まだ着いたばっかりだけどワクワクが止まらない。なんかいいフレーズが浮かぶ予感がする。




会話文が駆けない…掻くこと多すぎるんじゃ…。風景と状況の説明で手一杯

今回も読んでいただき、ありがとうございます。UAが500を越えていてモチベ上がります。今回も感想、評価、お気に入りなどお願いします。


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Cassette9 一日目

「よし! フロントに荷物も預けたし、ニューヨーク観光いくぞ!」

 

「フロントが預かってくれた、というよりはホテルについたらボーイさんが全部持って行ってくれましたけどね」

 

「ちょっといいとこのお嬢様気分ですね。わたしホテルとかで荷物持ってもらうのちょっと夢だったりしたんですよ。映画でよく見るから」

 

「よかったね、憂。あずにゃん、まずはどこから?」

 

「セントラルパーク動物園ですね。ここから歩いていけます」

 

「セントラルパーク動物園っていうと、あのマダガスカルのセントラルパーク動物園か?」

 

「はい、映画の中の動物園、本物にそっくりらしいですよ」

 

「マダガスカルってあれか? 踊るのスキスキってやつ、私達が……何歳くらいの頃だっけ」

 

「えっと……私とお姉ちゃんで行ったときだから、私が小学……三年生のときだったはずです」

 

「そうすっともう十年前か〜。私、あれわざわざ映画館まで見に行ったんだよなあ~。な、澪?」

 

「律に連れられて行ったのよね。おもしろそうな映画がある〜って」

 

「ほらほら、ロビーで喋っていてもしょうがないでしょう? みんな、そろそろ行きましょ?」

 

「ほいほーい」

 

 

 そして我々一行はセントラルパークのそば(というより真横)にあるMホテルを出て、動物園に向かう。道路の標識がアルファベットだったり、通るタクシーがみんな黄色であったり、いろんな肌の色の人がいたりして、本当に外国なんだなあと深く思う。なにより周りで話されている言葉が英語だってことが一番大きいけど。事前に調べていた通り、ホテルから動物園は本当に近くて歩いて十数分だった。

 

 精算はその日の夜にまとめてやる、という話なので動物園の入場料、約二十ドルは私が全員分立て替えておく。まあ海外用のデビッドカードを持ってきてるからそれで払っちゃうんだけど。レシートをもらい、みんなにチケットを配って中に入る。

 

 

「あの鐘! マダガスカルで見たやつじゃない?」

 

「確かに、そっくりだな」

 

「ペンギンもいるそうよ? 隊長とか新人とかいるかしら」

 

「ジョークで名前がそうなってそうだな」

 

「見に行く前にお昼にしませんか? 私もうすぐ限界……」

 

「純が死ぬ前にはなんとかお昼にありつけるようにしよう……。えっと……マップによると、ホットドッグ食べながら見られるみたいです。とりあえずはホットドッグ買いに行って、また後から決めましょう」

 

「そりゃあいいな。よーし! まずはホットドッグ屋台いくぞ!」

 

「りっちゃん競争だよ! ……ところでどっちいけばいいの?」

 

「ついてきてください……迷子になられても困るので……」

 

 ──────

 

「でかっ」

 

「これが本場のホットドッグ……。なんか思ってたのよりやけに大きいね。憂、一人で食べきれそう? 私はお腹減ってるから余裕だけど」

 

「わたしも……たぶん食べられると思う。最後に食べたの、飛行機での朝の機内食だけだから」

 

「それじゃ、みんな買えたみたいだし行きましょうか」

 

「よ〜し! みんなムギちゃんに続けー!」

 

「わ、わたしもわからないから……さわ子先生に続け〜!」

 

「ええ? 私だってわからないわよ……。えっと、誰か地図持ってる?」

 

「さわちゃんここに地図あるよ〜」

 

「ありがとう唯ちゃん。で、えっと〜そしたら、とりあえずはこの道を行けばいいのね」

 

「それじゃ、気を取り直して〜、行くぞー!」

 

 ──────

 

 アシカのエリアに来た。動物までアメリカサイズなのかと思っていたけれどどうやらそんなことはないらしい。日本のアシカとあまり変わらない大きさだ。寒い中日光浴をしているのか、岩場の上でまったりと過ごしている。

 

 

「お姉ちゃん、お正月にこたつでダラダラしてる時、あんな感じだよ?」

 

「失礼な! 私はエネルギーを貯めてるんだよ!」

 

「おーい唯ー、それじゃあんまりあのアシカと変わらないぞー」

 

「そ、そういえばアシカって英語で Sea Lion なんだね〜全然ライオンっぽくないのに」

 

「あっ、話題露骨に逸らした」

 

「逸らすの下手すぎですよ……でも、確かにライオンのあの威厳はあんまり漂ってこないかも……」

 

「なんか見てると安心するどっしり感だよね」

 

 ──────

 

「レッサーパンダだー! かわいー!」

 

「ぬいぐるみみたい~」

 

 ──────

 

「あれ、チーターじゃない?」

 

「走ってるとこ見てみたいよなあ。すっごい早いんでしょ?」

 

「車と同じくらいの速度が出るらしいですよ」

 

「はやっ」

 

 ──────

 

「ペンギンいるー!」

 

「思ったよりいっぱいいるな」

 

「寝起きの唯、あんな感じじゃないか? フラフラしてて」

 

「私を動物に例えるのがはやってるの!?」

 

 ──────

 

 動物園をぐるっと一周してもといたところまで戻ってきた。小さい動物園だとおもってたからあまり時間かからないかと思ったけど、想像以上に時間がかかった。楽しいからいいけど。もう時間は三時半過ぎになってしまった。

 

「見終わりましたね~。おもったよりたくさん動物いましたよ」

 

「ここは動物たちの楽園だよ……」

 

「どの動物も大事にされてたね~」

 

「ショップありますけどどうしますか?」

 

「キーホルダーを買おう!」

 

「これからのことを考えるとあまり長居はできなさそうなので、早く決めちゃいましょう」

 

 私たちは動物園の売店(お土産物ショップ?)に行ってそれぞれ気に入ったキーホルダーを買う。9.98ドルなり。高い。聞いていた通りだけどアメリカはやっぱり物価が高い。私が何を買ったかって? もちろんペンギンのキーホルダーですよ。もう私にとってはこの動物園の顔だからね。

 

 最後までアライグマとアシカで迷っていた唯先輩を待って(ほぼ置いていく感じで決めさせたんだけど)、私たちはセントラルパークを出た。次はニューヨークの顔、タイムズ・スクエアだ。夜にディスプレイの光で明るくなった時のも行くけど、まずは昼の明るいうちの方を見に行こうっていう算段だ。

 

 

「梓~、次、タイムズ・スクエアだよね。どうやって行くの?」

 

「歩きでもいいけど電車がいいんじゃない? 地下鉄」

 

「そういえばさっき地下鉄の入り口みたいなのがあったよ」

 

「たぶんそれ。そこからなん駅か行くとタイムズ・スクエアにつくはず。それにのって……えっとそこにある楽器店に行くの」

 

「そうそう、私たち、軽音部だからな? やっぱり旅の思い出は音楽に関係したものがいいでしょ~」

 

「と、言うわけで地下鉄にのりましょう。そんなに入り口は遠くないはずです」

 

 セントラルパークを出て、すぐ横の通りにある地下鉄入り口に入る。券売機で全員分の 7 Days Limited Passを購入する。33ドルなり。7 Days Limited Pass っていうのは簡単に言えば七日間地下鉄乗り放題チケットのこと。 ほぼずっとニューヨークにいる予定だし、出国前に計算したら7 Days Limited Passの方が安かった。一人ずつ手渡しして失くさないようちょっと厳しく言う。名前が入っているわけではないから失くしたら二度と手元に帰ってくることはなく、最悪もう一度同じものを買わなければいけなくなってしまう。

 

 電車がもうすぐ来るみたいなので、その行き先を確認し、改札へ向かう。日本のPASMOとかSuicaみたいにピッってやる訳じゃなくて、カードをスキャンするときみたいに磁気読み取り機械にスライドさせるそうだ。よくわからないけど少なくとも周囲の人はそうしていた。私たちも一人ずつ機械に通して改札を通り抜ける。よく博物館とかにあるようなバーがくるくる回るタイプの改札でなかなか見慣れない。

 

 

「あたっ」

 

「純ちゃん大丈夫? おもいっきりぶつかったけど」

 

「いたた、大丈夫……。うまくスキャンできなかったみたい。もう一度っと」

 

 

「いてっ」

 

「澪~焦らなくていいぞ~電車もまだ来てないし~」

 

「ごめんごめん、もっかいやってみる」

 

「あだっ」

 

「またエラーだ」

 

「ゆっくり早すぎずやってみろって」

 

「わかってるよ……。よっと……まただめだ……」

 

「もしかして……これ、澪ちゃんの回る呪いじゃ……」

 

「ゆいー! ちょっと私も思ったけど言わない!」

 

「駅員さんのところ行く?」

 

「次やってダメだったら……。ダメだ……」

 

 

 ここの改札、読み取りがなかなかボ……古いようでさっきからエラーになるひとがそこそこいる。連続で弾かれてる人はいないけど。諦めた澪先輩は意を決したように駅員さんのところへ行く。

 

 

「Eh……Excuse me?」(すみませーん)

 

「Hi? What's the matter with you?」(どうかされましたか?)

 

「Ah…… I can't pass thorugh here with this card. I just have bought this」(このカードで改札、通れないんです。いま買ったばっかりなのに)

 

「OK, Please hand it to me. I'll check it out」(わかりました。私にください。確認してみます)

 

「This card is malfunctioning, so we will replace this with new one, Here you are」(このカード、故障していますね。なのでこれ、新しいカードと交換します)

 

「Thank you」(ありがとうございます)

 

 

 あたらしいカードを受け取った先輩は今度こそ無事、改札を通り抜けてきた。

 

 

「ごめんな、私のせいで電車行っちゃったな」

 

「いえいえ、またすぐに来るので大丈夫ですよ。そんなことより、今回の旅行でもまた、回るもの恐怖症やるんですか?」

 

「いや前回もわざとやってたわけじゃないし……」

 

「梓ちゃん、回るもの恐怖症って?」

 

「えっと~去年のイギリス旅行の時、空港のラゲージエリアで澪先輩の荷物が一時的に見つからなかったり、回転寿司で寿司食べられずに演奏するはめになったりと、何事回るものとの因縁が澪先輩にはあるんだよ……」

 

「そりゃまた運が悪いっすね。お祓いいきます?」

 

「どんなお祓いすんだよそれ……」

 

「それにしても澪ちゃん、英語うまくなったわね-」

 

「さすがに大学生ですからこれくらいは……」

 

「いや、唯ちゃんとかりっちゃんとかみてると……つい……ね?」

 

「どういう意味だよさわちゃん!」

 

「なんでもないわ」

 

「みんなー電車きたよー!」 

 

「はいはいいま行くよ」

 

 ちょっと古さを感じさせる電車に乗り、三駅移動する。フリーパスをもってるとこうして気軽に短距離を電車移動できるのが便利だ。Times Square Station なる名前の駅で降りる。間違えようがない。

 

 ちょっと広めの駅から地上に出る。そこには映画で何度も見た、あのタイムズスクエアの風景が広がっていた。あたりまえだけど。

 

 

「タイムズスクエアだ! 大きい通りだね~」

 

「えっと、私たちが行くのは……もうちょっと南の方なのでこの道をまっすぐ行く感じですね」

 

「はいはーい」

 

「人多いから迷子にならないようにするのよ~」

 

 二ブロックくらい歩くとお目当ての店があった。一目で楽器屋だとわかる外見、これ世界共通なんだろうか。東京でも京都でもロンドンでもニューヨークでも変わらない気がする。中にはいるとどうやらちょうど人が少ない時間帯のようで店のなかはそんなに混んではいなかった。人気店だと聞いていたからちょっと覚悟してはいたけれど。

 

 

「ムギーなに買うか決めた~?」

 

「私は……どうしようかしら。ギターやらないからピック買っても仕方ないし~」

 

「そしたら私とムギでなんかお揃いのもの買わないか? ギターはギター組で、ベースはベース組でお揃いのピックそれぞれ買うらしいからさ」

 

「りっちゃんいいわね! そうしましょ? でも私たちがどっちも使えるものとなると……」

 

「じゃあこのスコアケースとかどうだ? 二人とも使うし、なんかかっこいいし!」

 

「いいわね~そうしましょ!」

 

「私たちもレジに~っと、もうみんないるな」

 

 ──────

 

「律先輩はなに買ったんですか?」

 

「ふっふ~ん。私はこのオレンジのスコアケースだ! ムギと色ちがいでお揃い~」

 

「おおーなんかいい感じ。いいじゃないですか。あっ、ちょっとだけ失礼します」

 

 

 そういい私はレジの奥のカスタマーカウンターみたいなところに行ってある商品を受けとる。中身は内緒だ。

 

 

「梓ちゃんも戻ってきたしそろそろ行かない? 日もそろそろ落ちるんじゃない?」

 

「このあとはエンパイア・ステート・ビルだっけ?」

 

「はい。ニューヨーク一帯が見えるらしいですよ。そのビル自体もライトアップされてなかなかきれいだそうですけど」

 

「楽しみだな~」

 

「こっからどうやっていくの? 歩き?」

 

「純、歩くの好きだよね……。今回は電車でも歩いてもたいして変わらないし、基本的に大通りだから治安もまとまれば大して悪くないし……今回は歩きにしよっか」

 

「じゃ、梓、道案内よろしく~」

 

「人任せな……、唯先輩、ギー太の兄弟モデル見てないで行きますよ!」

 

 

 そう言って楽器店を出る。ここからエンパイア・ステート・ビルは本当に近くて歩いて十分くらい。地下鉄を使おうにもちょっと歩いて戻らないといけないから大して時間は変わらないのだ。さすが世界有数の高さを誇るビルというだけあってなかなか大きい。すぐに見えてきた。

 

「おーこれがエンパイア・ステート・ビルってやつか~?」

 

「昔からの憧れだったのよね~」 

 

「さわちゃん、来たことなかったんですか?」

 

「大人になるといろいろ忙しくて来れないものなのよ」

 

「そういうものなんですかね。大人にはなりたくないなあー」

 

「あら、りっちゃんだっていつかは大人になるのよ。いつまでその肌のハリとツヤが持つかしらね……」

 

「さわちゃんが不敵に笑い出した……こわっ」

 

 話ながら歩いていると時間が経つのは早いもので(十分も歩いてないけど)もうビルの入り口まできた。ここのチケット、本来は60ドルとかするんだけど、今回は琴吹家パワーにより割引チケットだ。先にムギ先輩から預かっておいたものをみんなに配る。最上階の102階までいけるチケットだ。

 チケットを係員の人に見せて、エレベーターで昇る。あのトンネル特有の耳のつまる感覚がする。102階についた。ドアが開く。降りると目の前に広がるのは落ちる太陽とニューヨークの街並み。すっごいきれいだ。時間ちょうどだったみたい。あぶないあぶない。

 

「おおー! すっごいきれい!」

 

「確かにこりゃすごいな……」

 

「車、たくさんいるんだな」

 

「太陽の光がきれいね~」

 

「あれ、セントラルパークじゃない? さっきまでいたところ」

 

「夕日と街並みっていいよね~」

 

 

 みんなが思い思いに感想を述べ合う。当の私は言葉がでないほど感動していた。だって本当にきれいだったし。ここから日が暮れ、ニューヨークはその眠らない街としての真価を発揮する、そうだ。まだ日が完全には暮れてないから私にはわからない。

 

 日が暮れた。超きれい。美しさを表すための語彙力が一瞬ですべて吹っ飛んじゃうくらいにはきれい。もう回りのみんなを見ても『うわーきれい~』としか言ってない。

 

「みんなで写真とりませんか? あそこに集合写真でカメラ置くための台ありますし」

 

「いいね~。このなかで、一番きれいにとれるカメラ持ってるのは……澪か。澪~おねがい~」

 

「お願いされなくても最初から出すつもりだったよ、ほら、いまとってる人たちがいなくなったら撮るからな」

 

 

 写真を撮られるからか、私を含めみんな、手鏡を出して身だしなみをチェックし始める。女の子だもんね。しょうがないよ。

 

「よーし、空いたぞ~!」  

 

「カメラを置いて、十秒タイマー、三枚撮影っと。じゃあいくぞー!」

 

 そう言って澪先輩はカメラの向きを確認してからシャッターボタンを押し、こちらへ戻ってくる。十秒もあるし余裕そうだ。タイマーが残り三秒を知らせる光が放たれ、そのきっかり三秒後、1秒間隔で三枚写真を撮った。澪先輩が満足げにカメラのディスプレイを見ているところを見ると、なかなかいい写りだったのだろう。少なくとも澪先輩は。

 

「そろそろ帰りましょうか。帰ってホテルで夕食を食べて、それに明後日のための練習もしなきゃいけないし」

 

「そうだぞ~。今回の旅の目的、卒業旅行もそうだけど、ムギの家の会社のセレモニーが目的だからな。忘れるなよ~」

 

「練習……ティータイム……」

 

「大丈夫よ唯ちゃん、先生が全員分のケーキ、ホテルに送っておくようさっき手配しておいたから」

 

「紅茶も部室で使ってるのと同じものを用意してあるわ~」

 

「私頑張るよ!!」  

 

「じゃあ帰りましょうか。帰りはどうするの? 梓ちゃん」

 

「普通に地下鉄かな……」

 

「ホテルにいまから帰るから荷物の用意お願いって言ったらここまで、車回してくれるそうよ?」

 

「なんとゴージャスな……」

 

「あと七八分で着くそうだからもうちょっと夜景をみて、そのあと下に行きましょうか」

 

 

 夜景を見終わり、ビルの入り口に行くとそこには……リムジンがいた。なんで。その他に止まっている車で私たち全員が入りそうな車はない。ってことは……

 

「あれね~。普通の車でいいっていったのに~」  

 

「リ、リムジンだと? 私あんなの乗るのはじめてなんだけど……」

 

「私たちの中で初めてじゃないの、ムギだけだろ……」

 

「じゃ、行きましょうか」

 

 

 私たちは初めてのリムジンに恐る恐る乗り込む。座り心地のとてもいい椅子が気持ちいい。ここからホテルまでは車で数分と言ったところか。

 

 ホテルのチェックイン自体は昼、ここについたときに終わっていたので私たちはカードキーを受け取り、この前決めた各々の部屋へ向かう。一流ホテルなだけあって部屋は困ってしまうくらいに広い。これ絶対二人分の広さじゃないよ。

 メールの着信音がなった。別の部屋にいるムギ先輩からメールがきたみたい。少し休憩して、30分後に夕食にいこうとのことだ。わかりました、と返事を出してから、私も唯先輩にならって荷物を広げる。二人がスーツケースを広げてもまだスペースがあるって何事。唯先輩とおしゃべりしながら荷物を出していたらもう30分過ぎていたようでノックの音が聞こえた。持ってくものは携帯電話位なので準備に大して時間もかからない。

 

 夕食を食べに階下のレストランに行くとそこには異様な光景が広がっていた。ごはんがおしゃれイタリアンなのである。普段から庶民を自称する私には驚きの光景であった。というより先輩方みんな驚いてる。

 

「たしかみんな、アレルギーとかないから今日のコースってメニューにしちゃった。大丈夫?」

 

「メニューは問題ないけど……私たちマナーとか全然わからないけどいいのか?」

 

「よっぽど変なことをせずに、普通に食べていれば問題ないわ? 心配なら私も少しくらいなら基本的なことを教えられるけど」

 

「お願いします」

 

 

 七人の声が重なった瞬間だった。さわちゃんもわからないんだ……。

 

 ──────

 

 その夕御飯は終始緊張感が漂っていた。失敗したら大恥をかくことくらいは流石に理解している私たちはいつにない真剣さでムギ先輩の話を聞いたのだった。そのお陰で私たちは無事お高いコース料理もそれなりのマナーをもって食べられたのだった。あと、よく『マナーなんか気にしてたら味がわからなくなる』というひとがいるけれど、あれば真っ赤な嘘。美味しいものはおいしい。世界の不変の真理だ。

 

 食事をしたら練習だ。とはいっても明日があるのでそんなには長くできないけど。一時間半くらいかな。後にティータイムを控えた唯先輩は上機嫌で練習へのモチベが過去最高。いつもこれくらい出してくれたらいいんだけど……。今回はさわちゃん指導のもと、それぞれの曲の最終調整第一回だ。最終とあるけど第二回を明日やる。

 

 ──────

 

「りっちゃんドラム走りすぎ~もうちょっと抑えて~」

 

「ごめんごめんついついテンションあがっちゃって~」 

 

「気を付けなさいよ~? リズム隊が大事なんだから!」

 

「はーい、じゃあもっかいさっきのところから」

 

 ──────

 

「憂ちゃん、そこ、もっと主張して大丈夫よ? そこはあなたがメインなんだからしっかりした感じで」

 

「は、はい!」

 

「おーさわちゃんが顧問っぽいことしてる」

 

「いつもしてるでしょうが」

 

「いつもは部室でまったりしてるけどな」

 

 ──────

 

「七人バンド、みんなしっかり音合ってるし、音に厚みがでてなかなかいいじゃない!」

 

「そりゃ嬉しいなあ」

 

「でもりっちゃんはドラム走りすぎ」

 

「気を付けます……」

 

「じゃあもう一回最初から。ギターだけで」

 

「はーい」

 

 ──────

 

「ふーう終わった終わった~」

 

 

 練習を終え、今は先輩たちの三人部屋でティータイムです。私たちの部屋も広いと思ったけどこの部屋はもっと広い。分割していいと思う。ここまで来たら。

 

 

「なんとかなりそうだな~明後日」

 

「ああ、よく噛み合ってたと思う」

 

「なんか、学校の外で演奏するのはじめてだから緊張しますね」

 

「自信持ちなさい! あなたたち、そこら辺に放り出してもたぶん音楽で生きていけるくらいにはうまくなってるから」

 

「さわちゃんが優しい…オーバーだけど……」

 

・・・・・

 

 ──────

 

 

 深夜とも言える時間帯になったため、ティーパーティーはお開きとなり、みんな自分の部屋に帰る。私たちもシャワーを浴び(大きなバスタブがあって、その横には入浴剤がおいてあった)(唯先輩が途中で入ってきたけど別のお話)、寝る用意をする。今回は唯先輩、200V対応のヘアアイロンを持ってきたようで去年みたいになることはなかった。

 

 

「あずにゃん、明日はどこいくんだっけ?」

 

「あしたはまず自由の女神ですね。あとはあの有名な橋を渡って向こう岸の有名なハンバーガー屋さんに行きますよ」

 

「楽しみだなあ」

 

「ええ、本当に楽しみです」

 

 

 携帯の充電をして、ベッドにはいる。なんとダブルベッドがツインなのだ。一人で寝るサイズじゃない。さすがアメリカン。

 

 唯先輩はベッドにはいるなり寝てしまったようだ。私も頭上灯を消し、完全な暗闇と静寂(唯先輩の寝息は聞こえるけど)を手に入れる。わたしも今日はどうやら疲れたみたいだ。明日の目覚ましを確認して、まぶたを閉じた。明日が本当に楽しみで仕方がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いつもの二倍以上書いた…。時間がかかりますね。
でも、描写するのとっても楽しい。
この調子でいくと更新の間隔が隔日とかになりそうです。
半日ごとにわけて話にしようかと。

今回も読んでいただきありがとうございます。UAも600を超え、嬉しい限りです。お気に入り登録、感想などお待ちしております。


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Cassette10 二日目午前

 目覚ましのアラーム音が聞こえる。ぼんやりとしたまま枕元の机においたはずの携帯電話を探す。ない。どうやら寝ている間に落としてしまったようで携帯は机の下にあった。アラームを止め、隣で寝ている唯先輩を起こす。

 

 

「唯先輩、朝です。おきてください」  

 

「ハンバーガーにステーキ入れたら噛みきれないよ~」

 

「どんな夢見てるんですか……。ほら、起きてください。そもそも朝、髪のセットとかいろいろあるから早く起こしてって言ったの唯先輩じゃないですか……」

 

「あと五分、あと五分だけ寝かせて憂~」

 

「私は梓だからだめです。そういって五分だけ寝られる人なんていないんですから。ほら、起きてください」

 

「わかったよ~ってあずにゃん? なんで?」

 

「なんでって同室じゃないですか……」

 

「はっ、そうだった! 旅行中だった!」

 

「目も覚めたみたいですし、さっさと準備しますよ。朝食まであと三十分くらいしかないんですから」

 

「りょーかい!」

 

 

 一人ずつシャワーを浴びて、出掛ける準備をする。まずは朝食だからそっちのための用意の方が先だけど。他の部屋のみんなにおはよーメールを出す。向こうも準備中だから返信には時間がかかるだろう。髪のセットをして、服が合うか最終チェックをする。その他もろもろの準備をして(これに時間がかかるのだ)、メールをチェックする。

 おかしい。朝食のために集合する時間の五分前なのに憂と純、先生からは返信があったけど隣の部屋からはなにも返信がない。まさか……。電話をかけながら廊下に出て、隣の部屋のドアを叩く。しまった……。澪先輩とムギ先輩がいるから安心してたけど、あの人たちもあの人たちで天然なところあるんだった。

 ドアをノックしていると電話に澪先輩が出た。

 

 

「はい。ふぁ~。秋山です。どちらさまですか」

 

「『どちらさまですか』じゃないですよ!! 朝です!! 寝坊です!!」

 

「梓の声……? 朝……? うわっやばっ。律! ムギ! 起きろ! 寝坊した!」

 

「とりあえず手伝うんで鍵開けてください……」

 

「いまムギが行った!」

 

 

 そう言い電話が切れる。数瞬後、ドアが開きムギ先輩が私を部屋にいれる。

 

 

「ごめんなさい! 三人とも目覚ましかけるの忘れてて……」

 

「わかったのではやくしましょう! 他の人たちはもう準備できてるんで」

 

「梓ほんとすまん! いま準備するから他のみんなにあと十五分待ってもらえるようにメールしてくれ」

 

「十分てす。十分で用意してください」

 

「梓がこわい……」

 

 

 先輩たちが準備し終わったのはその十三分後のことだった。そのあいだ準備がすでに終わった私たちは部屋が中央にある私と唯先輩の部屋に集まり、その日のすることを確認していた。 

 

 

「今日は自由の女神行くんだ。どこまで行くの? 中まで入れるって聞いたことあるけど」

 

「今回はなんとスペシャルなチケットが手に入ったからそれを使うんだよ」

 

「そりゃいいね~。その後は?」

 

「行程送ったでしょうが……。そのあとは海を渡ってハンバーガー食べに行こうと思って。人気の店らしくて日本にいる間に予約しちゃった」

 

「梓ちゃん、そういうとこまめだよね~」

 

「憂に言われるとなんかアレな気分だなあ」 

 

「みんなごめーん。準備できたわ~」

 

「じゃ、行こうか。昼がすっごい多いらしいから食べ過ぎないようにね」

 

「そうだよ? お姉ちゃん」

 

「やだなあ~いくら私でも朝からそんなにたくさんは食べないよ~」

 

 

 

 ──────

 

 

 

「うう……食べ過ぎた……」

 

「だから言ったじゃないですか……食べ過ぎないようにって」

 

「だって……あんなに美味しそうなものがたくさんあったら食べないわけにはいかないよ……」

 

「そういう人でしたね唯先輩って……」

 

「おーい梓~私たち出るのにあと十分くれ~。朝バタバタしてたせいで荷物が散らかってて」

 

「しょうがないですね……。わかりました。終わったら連絡してください」

 

「わたしも一度部屋に戻るわ。今日の準備がまだ終わってないの」

 

「さわちゃんも寝坊したの?」

 

「大人の女にはいろいろあるのよ」

 

「はいはいかっこいいよさわちゃん」

 

「棒読みなのがちょっと癪にさわるけど許してあげるわ」

 

「やっさし~い」

 

「じゃ、また十分後に私たちの部屋で」

 

 

 そう言って各々の部屋に入っていく。ついでに今回の部屋割りは

 先輩ルーム→私と唯先輩ルーム→後輩ルームの順につらなっていて、ちょっと離れて先生の部屋だ。

 

 

 

 ──────

 

 

 

 十分後、ドアのノックの音がするのでドアの穴から外を除くとさわちゃんがいた。ドアを開け迎え入れる。どうせすぐに出ることになるけど。開けっぱなしの部屋を繋げるためのドアからみんなに声をかける。

 

「用意できましたかー?」

 

「できたよー! 行こ!」

 

 

 部屋の鍵を閉め、全員で地下鉄チケットのチェックをする。これがないとどこにも行けないからね。みんな持ってるのを確認して、ホテルから出る。

 

 

「さむっ」

 

「最低気温2℃ですからね……」

 

「旅行するあったかさじゃないよこれは……」

 

「じゃあいつ卒業旅行するんですか……」

 

「でも正直去年のロンドンよりも寒いんじゃないのか?」

 

「ロンドンは同緯度の土地だと比較的あったかいですからね。それに対してここはやっぱり冷えますよ」

 

 

 ロンドンの時よりも圧倒的に寒い。私も去年のときより一枚多く服を着ている。唯先輩はオレンジのダウンを着ているからか比較的あったかそうだ。ほかの先輩はみんなコートを着ているからか寒そうだ。ダウンには勝てない。

 

 まずは昨日と同じようにホテルから徒歩五分くらいの地下鉄の駅に続く階段を降りる。今日はチケットを買う必要もなく、なれた手つきで皆、純と澪先輩も含め改札を通る。ここから十数駅はなれたマンハッタン島の南端の駅が今日の最初の目的地だ。そこからフェリーに乗って自由の女神の足元に行くのだ。フェリーのチケットとなんと一日限定数百人の自由の女神の王冠の中に入るチケットが人数分購入できた。また古い電車がホームに滑り込んでくる。運良く空いているスペースがあったのでそこにみんなで固まる。

 

 

「唯~自由の女神ってフランスからきたんだぞ~知ってた?」

 

「フランスから? あんな大きいのが? りっちゃん、私を騙そうったってそうはいかないよ。私だって大学生になってそれなりに知識を身に付けたからね」

 

「いやほんとだって……」

 

「憂、もしかしてほんとの話なの?」

 

「そうだよ。フランスとアメリカの友好のしるしとして贈られたとかそんな話だったと思う」

 

「なー言っただろー。ほんとだって」

 

「でもあんな大きいのどうやって運んだんだろうね~?」

 

「でっかいタンカーみたいなの繋いで運んだんじゃないのか?」

 

「そんなわけないだろ……。あれ、分解されて持ってきたんだよ」

 

「バラバラ殺人事件!!」

 

「人聞きの悪いことを言うんじゃない」

 

「じゃあここでクイズ!」

 

「じゃーじゃん!」

 

「唯ちゃん効果音ありがと~。では問題です。自由の女神はその足であるものを踏んでいます。何を踏んでいるでしょうか? さわちゃんは回答禁止ね~知ってるから~」

 

「ほんとに知ってるの~?」

 

「もう! 失礼ね! さすがに知ってるわよ。だからいーわない。でもたぶんわからないと思うからあと五分してもなにも出てこなかったらヒントあげる。いい? ムギちゃん」

 

「いいですよ~」

 

「はいっ」

 

「はい唯ちゃん」

 

「うどん!」

 

「ざんねーん、違いまーす」

 

「唯……おまえ踏むってだけでうどんだと思っただろう」

 

「はい!」

 

「はいりっちゃん」

 

「ホームベース」

 

「アメリカは野球で有名だものね~でも違うわ~」

 

「澪ちゃんは答えなくていいの?」

 

「私は知ってるから……」

 

「そうなの? さすが澪ちゃん、物知りだね~」

 

「はい!」

 

「はい純ちゃん!」

 

「アクセルとブレーキ!」

 

「ふせいか~い。ついでにアクセルとブレーキはどちらも右足で踏むのよ?」

 

「えっそうなの?」

 

「マニュアル車の名残みたい」

 

「へ~」

 

「じゃあそろそろヒントの時間かしらね。ヒント! 名前をよーく考えてみて。あとは……アメリカは自由の国よ」

 

「名前……自由の女神……わかった!」

 

「はい唯ちゃん!」

 

「手錠!」

 

「おしい! もっと古典的!」

 

「私わかった!」  

 

「はい憂ちゃん」

 

「鎖じゃないですか?」

 

「せいか~い。鎖を踏んでるのはアメリカの自由と平等を表してるそうよ。じゃあ憂ちゃんに十ポイント~」

 

「そのポイントが集まるとどうなるの? ムギちゃんがケーキくれるの?」

 

「いや? あげただけよ。楽しいでしょ? ポイント~」

 

「なにもないんですか……。ほかにクイズは……」

 

「その必要はなさそうよ?」

 

「へ?」

 

「だってむもう次の駅で降りるんでしょ? サウスフェリーって駅」

 

「そ、そうです。あっぶない忘れるとこだった」

 

「もう! あずにゃんがしっかりしないとだめなんだよ!」

 

「そうだぞ梓! 残念大学生なめるなよ!」

 

「威張ることじゃないでしょうが……」

 

 

 そうこうしているうちに目的の駅につき、電車から降りる。この地下鉄の駅から出て徒歩数分だ。ニューヨークも地下鉄網が発達してるおかげで歩く距離が少なくてもいいのは本当に助かる。何日も観光するから足の負担はできるだけ減らしておきたい。海辺に少し近くなったこともあり、さらに寒く感じる。海からの風が吹くとみんなで体を縮めてしまう。厳しい寒さに耐えながら歩いていると、フェリー乗り場の入り口までついた。私たちがなかなか早く来たことも相まってまだ人は少ない。

 

 

「あずさ~こっからどうすんの~? すぐに船乗ってあそこの島まで行くの?」

 

「まずは手荷物検査ですね。律先輩、なんか変なものもってきてたりしませんよね……」

 

「なんか持ってきてたら空港で入国できないっつーの……」

 

 私たちも他の人に倣って荷物検査の列に並ぶ。人が少ないとは言え、いやむしろそのせいかもしれないけど係員の人が少なくて人がはける速度が遅い。ただ、まだ予約したフェリーの出発まではまだ時間があるので余裕だ。

 

「あずにゃん~自由の女神さまってなんの本持ってるの? スコア?」

 

「私も知らないです……。スコアだけはないと思いますけど……」

 

「もしかしたら国歌の楽譜かもしれないじゃ~ん。ねえねえ、りっちゃん知ってる?」

 

「私が知ってるわけないと思って聞いてるだろ……。もちろん知らないけど。澪は?」

 

「私は来る前に調べたから知ってるけど……私が言っても面白くないでしょ?」

 

「そうだよね~やっぱりクイズだよな~」

 

「聖書……とか?」

 

「残念、純ちゃんちがーう。まあ惜しいといえば惜しいのかもしれないけど……」

 

「こればっかりは全然わからないな~。さわちゃんヒントちょうだい!」

 

「え~、じゃあ、1776年、かな」

 

「はい!」

 

「お? 唯わかるのか」

 

「1776年はね、アメリカが独立した年だよ! だからあれはアメリカの独立の紙? みたいなやつだと思う」

 

「みたいなの……というより独立宣言そのものね。でも唯ちゃんよく知ってたわね~」

 

「私はもう前の唯じゃないんだよ!」

 

「でもどうして知ってたんですか? 受験で勉強したわけでもないでしょうし……」

 

「やだなあ、こんなの常識だよ~」

 

「うちの大学の一般必修教養でちょうど世界史やってたとこなんだよ。唯もしらばっくれてないで正直に言え」

 

「やーん澪ちゃんなんで言っちゃうの~」

 

「ところで必修ってことは律先輩も唯先輩たちと世界史の授業受けてたんじゃ……」

 

「私はその授業休んでたかも~」

 

「わかりましたもう言わなくていいです大体わかりました……」

 

「梓、あと二三人したら私たちみたいだよ」

 

「ほんとだ」

 

 

 前の人達が終わったようなので前の先輩たちから順に荷物検査を受けていく。空港と同じように鞄の中から電子機器、要するにカメラとか携帯とかを出してトレイに乗せて、また別のトレイに鞄を入れてX線検査機を通す。それと℃叔父に私たちもどこでもドアみたいな金属検出器をくぐる。途中、前で唯先輩が金属検出器に引っかかってちょっとびっくりしたけど、どうやら腕時計を取り忘れただけらしい。

 

 

「あずにゃん~びっくりしたよ~」

 

「あそこに『腕時計なども反応することもございますのでお外しください』って書いてあるじゃないですか……」

 

「読めないよ~」

 

 

 全員荷物検査が終わったようなのでフェリー乗り場を散策する。乗船開始時間までまだあと三十分ほどあり結構暇なのだ。みんなで写真を撮ったりして時間をつぶしていたけどやっぱり時間があまる。みんなでベンチに座って一息ついていたらなんだか甘くておいしそうなにおいが漂ってきた。

 

 

「これってクレープのにおいじゃない? 食べようよ!」

 

「おっ、いいな~。私も食べる~」

 

「私も~」

 

 

 こんなノリで結局全員買うことになってしまった。え? 私? もちろん買いましたよ。ストロベリークリームってオーソドックスなやつを。

 

 クレープを食べ終わったころ(唯先輩は二つ目を買っていた。所持金大丈夫なのだろうか……結構値段するんだけど)時計を見るとフェリーの乗船開始時刻になっており、待機列にはそれなりの人がいた。私たちもその列に続く。フェリーを見ると私たちの想像の何倍も大きくて、こんなに必要なの? と思う。すると

 

 

「あずにゃん! うしろ! うしろ!」

 

「へ? 先輩どう……」

 

 

 その光景に私は目を見開いた。嘘です。でもそれくらいには驚いた。というのも私たちが来た時にはまだ人もどちらかといえば少なかったのが今は長蛇の列なのだ。たぶん私たちが来た時が荷物検査が混み始める直前だったのだろう。早く来ておいたことに心から安堵する。

 

 フェリーが桟橋に錨を下ろし、そのすぐ後にフェリーへの連絡路が接続された。列も前のロープがとられたようでゆっくりと前から進み始める。私たちも前の人たちが動き始めたのを見て歩き始める。比較的前の方に並んでいた私たちはフェリーで眺めがよい最上階の、海際の席をとれた。椅子に座って十分くらいたっただろうか、フェリーの汽笛が私たちの出航を知らせる。のっそりとどんちゃんみたいに海上を歩む。前方にもともと自由の女神自体は見えていたものの、やはり大きくなってくるとそれとは別種の感慨がわいてくる。私たちはフェリーに乗ってもやっぱり自由の女神をつまむ一種の遠近感を使った写真を撮ったりして遊んでいた。ついでにだけどこのトリックアートは陸上でやったほうが絶対にいい。なぜかって、地面が揺れているとうまくつまめた写真を撮るのに10テイクくらい必要だったからだ。

 

 船が減速し(もともとがゆっくりだから減速してるとかわからないけど)、自由の女神側の桟橋につく。やっぱり足元から見る自由の女神は遠くから見るのよりもぜんぜんおっきい。当たり前のことなんだけれども、百聞は一見に如かずってやつだ。船が完全に停泊し、連絡橋がのびる。いち早く船に乗った私たちはエレベーターと同じで結局降りるのは最後の方になってしまった。

 

 

「お~これが自由の女神か」

 

「さっきまでも見てたじゃないですか」

 

「近くで見るとなんか写真じゃないんだなって思うよな」

 

「りっちゃんそれすっごいよくわかる~」

 

「梓、たしか私たちは自由の女神の中、入れるんだよな。チケットある?」

 

「はい、ありますよ。でもこのチケットじゃ入れなくてあそこのインフォメーションセンターでリストバンドに変えてもらわないと」

 

「そっか。じゃあみんなあそこのインフォメーションセンター行くぞー」

 

「はーい」

 

 

 インフォメーションセンターに来た。受付の人にプリントアウトしたクラウンチケット(上に上るためのチケットをそう呼ぶらしい)をみせ、リストバンドをもらい、その紙にスタンプを押してもらう。またどうやら、『あの王冠の中に上るときはカメラと携帯、薬とメガネしか持っていけないのでそのセンターにあるロッカーにみんな預けてください』とのことだ。ゆっくり話してくれたのでムギ先輩なしでも結構聞き取れた……と思う。あってるかわからないからなんともいえないけど。

 

 みんなリュックだったりショルダーバッグだったりをまとめて二つのロッカーに預けておく。カギは澪先輩と私が一人ずつ持つ。

 

 

「よーしじゃあ自由の女神上るぞー!」

 

「いえーい!」

 

 

 

 ──────

 

 

 

 自由の女神の足元の台座のところまできた。前調べのとおり、この台座は博物館になってるらしい。先にクラウンまでの整理券みたいなもの(1時間ごとに何人まで、という制限があって私たち大所帯はあと20分くらい待つ必要があるらしい)を受け取った。20分はその博物館で時間をつぶそうと思うがいかんせん英文が読めないので写真を見るのにとどまってしまう。

 

「へー昔は自由の女神って銅色だったんだ」

 

「いまは青だよね」

 

「なんで色変わったんだろうね」

 

「酸化でもしたんじゃない?」

 

「ある意味あってるわね」

 

「というと?」

 

「あれも酸性雨で表面の銅が溶けちゃったのよ。そしたらもともともの金属の色が出てきちゃったの。授業でやったでしょ? 酸性雨」

 

「やったやった! 銅像溶けちゃうって話もそういえば聞きましたね……」

 

「さわこ先生さすが……」

 

「だてに高校教師やってないわよ!」

 

 

 

 ──────

 

 

 

「りっちゃん! 運ばれてる時の写真あるよ!」

 

「うわ! 細か! でもよく見たら一つ一つはなかなか大きいな」

 

「全部で214個に分けて運ばれたらしいぞ」

 

「細かっ。それにしても澪ちゃん、よく英語読めるね~」

 

「その部分だけなんとかって感じだ」

 

 

 

 ──────

 

 

 

「そろそろ時間じゃないか? もういけるだろ?」

 

「そうだな。梓呼んでくる」

 

 

 澪先輩が呼びに来たので私も純と憂、先生を連れて先輩たちと合流する。看板を見てその指示の通りに進む。ほんの少し歩くとさっき来た、広めの広場につく。さっきと同じ係員さんに整理券を人数分見せて手渡しすると、それぞれのリストバンドもそこで回収されるそうだ。一人ずつ階段への道を通してリストバンドを回収されていく。あまりスペースもないので、受付が終わった人から一方通行のらせん階段を一段一段、少し息を切らせながら上がっていく。普段は会談後こときで息を切らせるなんてことはないんだけどいかんせん階段が長い。本当に長い。まるで無間地獄だ。行ったことないけど。それにこのらせん階段、横幅が狭くてちょっとこわい。

 

 なんとかすべての階段を登り切ってクラウンに到着する。そこからは私たちの乗ってきたフェリーが見え、マンハッタン島が見えた。私に続いて先輩方、先生、純と憂の順であがってくる。唯先輩なんか息も絶え絶えだ。

 

 

「わあーこれは絶景だね~!」

 

「見ろよ! 私たちの乗ってきた船、めっちゃちっちゃいぞ!」

 

「なんか揺れてません……?」

 

「そんなことないと思うけど……でも高くてやっぱり怖いわね」

 

「写真撮ろーっと!」

 

「ストラップきちんと腕にかけとけよー! 落とすからなー!」

 

「はいはーい!」

 

 

 

 ──────

 

 

 

 一通り興奮した後、そこにいる係員の人が全員で記念写真でもいかがですか? と聞いてきたのでお言葉に甘える。一瞬観光地にありがちな写真サービスかと思ったけど周りに機械がないことを考えるとどうやら係員の人の善意らしい。とてもありがたい。

 

 

「Say "CHEESE"!」(はい、チーズ!)

 

 

 カメラのシャッター音が鳴り、そのまま何枚か撮る。やけにいい出来でみんな上機嫌だ。係員の人に感謝を伝え、今度は降りる専用の階段を下りる。

 

 

「英語でもチーズ! って写真撮る時言うんだね」

 

「確かに、それ私も思った。なんかチーズって日本語だけだと思ってたけどそもそもチーズって外国語だもんな~」

 

「昔の人なんて言ってたんだろう。最後がイ段で終わればいいんでしょ? サムライー! とかって言ってたのかな」

 

「そんなわけないだろ……。昔は写真一枚とるのになん十分もかかったからみんな口は結んだままならしいぞ」

 

「りっちゃんよく知ってるね~」

 

「この前『ドヤれる雑学集』って本に書いてあった」

 

「なんでそんな小学生みたいな本読んでるんだよ……」

 

「しかもあの写真ってとってる間、まったく動けないらしいですよ」

 

「なん十分も立ちっぱなし!? そんなの無理だよ……」

 

「そのためにみんな肘の高さくらいの台と一緒に写真撮ったらしいですよ。よっかかれるように」

 

「そういえば歴史の教科書もみんな立ってる写真は何かに寄りかかってる気がする!」

 

「純こそよくそんな雑学知ってるね~」

 

「この前小説読んでたらそんな話が合ったんだよ」

 

「それにしても階段長いね~降りるだけでも疲れちゃうよ~」

 

「このくらいだとたぶんいまひざの部分くらいじゃないかしら。もうすぐ足よ~」

 

「ぷっ、ひざって。ふふっ、膝のあたりってもうちょっといい表現あるでしょうに……」

 

「澪先輩がツボってる……珍しい……」

 

「そう珍しくもないぞ……澪、なんかたまに沸点おかしいから……」

 

 

 長い長いといえども階段には終わりがあるわけで、足元についた。やっぱりさっきと同じ係員さんが入り口に立っていて、みんな軽く会釈して通る。向こうも小さく手を振ってくれた。最後に自由の女神を背景に一枚集合写真をとったらこんどこそフェリー乗り場に向かう。道中、何か忘れているな~と思ったらみんなの鞄だった。危ない危ない。帰りのフェリーもそれなりに乗り場から混んでいる。ただ次の便で乗れそうだ。また「さっきと同じフェリーが停泊する。行きと同じように向きは逆だけども船に搭乗する。今回は入ったのが後ろの方なこともあり一階席だ。

 

 

「自由の女神みたね~」

 

「ああ、ニューヨークに来たら外せないからな!」

 

「そういえばあずにゃん、今日のお昼ご飯は?」

 

「あれだけ食べたのにもうおなか減ったのかよ……」

 

「橋を渡ってハンバーガーです。量も質もニューヨーク1らしいですよ」

 

「さっすが~」

 

 

 こう話しているとマンハッタン島から12時の時報の鐘が聞こえた。レストランの予約をした一時には間に合いそうだ。

 

 




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