インフィニット・ストラトス 黒龍伝説 (ユキアン)
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再会した蛇

オレは何でまた生きてるんだろうな。セラが逝き、ソーナが逝き、留流子が逝き、イッセー達が逝き、子供や孫が逝き、地球が逝き、とうとう世界にはオレとオーフィスとグレードレッドだけになり、そして世界が逝くのと一緒にオレ達も逝ったはずだった。

 

なのにオレはこうして再び生を得ている。平行世界で再び生を得てしまった。この世界には、思い出の場所も人も何もない。ただ生きているだけだ。何の因果か力だけは世界が逝った時と変わらない。過剰すぎる力を持ってしまった。

 

今、世界で最強と言われているIS。それすらも片手で捻り潰せるだけの力をオレは持っている。そもそも、オレの知識にはISを超えるだけの力を持つ機動兵器の存在がある。そしてそれを作るだけの技術と経験もだ。オレにとっては玩具に過ぎない。女にしか使えない理由も知っている。だから、それをすり抜ける方法もだ。

 

だから放っておいた。その放っておいた過去の自分を殴り飛ばしたい。まさかオレも扱えるとはな。

 

 

 

 

 

「匙元士郎だ。好きな動物は蛇、好きな食物は手作りのベーコン、趣味は登山と紅茶だ。見ての通り男なんでな、色々と皆とは扱いが変わるだろうが、よろしく頼む」

 

簡単な自己紹介を終えて席に座る。もう一人の男である織斑一夏のような無様な自己紹介にはならない。と言うより、あんなのは自己紹介でもなんでもない。なんというか、芯のない男だ。

 

その後の休み時間や授業の態度などを見て、いい加減で信用を置けない男だと判断する。あれは何も考えていない男だ。オレの最も嫌悪するタイプの男だ。交流は最低限でいいだろう。そう決めて荷物をまとめて家に帰ろうとする。廊下に出たところで副担任の山田先生が駆け寄ってきた。

 

「よかった。まだ残ってたんですね」

 

「どうかしましたか?」

 

「実は、政府の方からのお達しがあって、匙君と織斑君には今日から寮生活を送るようにと」

 

「ですが、部屋が空いていなかったのでは?」

 

「そこはなんとか調整して女子と相部屋になってしまうのですが、それも1ヶ月ほどのことですから」

 

「う~ん、相部屋ですか。オレは遠慮しておきます。家から登山に使っているテントとか寝袋を持ち込んでなんとかしますよ」

 

「えっ、ですが、1ヶ月もですよ?」

 

「シャワーはアリーナの更衣室のものがありますし、食堂も使えるんでしょう?それなら何の問題もありません。気を使ったり、使わせたりするぐらいなら寝起きをテントで過ごすぐらい何ともありませんよ」

 

「えっと、とりあえず上には確認を取ってみます。それから荷物の方が届いていますので事務室の方に行ってください」

 

「分かりました。わざわざすみません」

 

「いいえ、こちらの都合ですから。それじゃあ確認を取ってきます」

 

「分かりました。事務室の方でお待ちしておきます」

 

う~ん、教師としては良い人なんだけど、発展途上だよな。自分に自信を持てれば一気に化ける。長年教師をやってきたからよくわかる。惜しい、実に惜しい。オレがいる3年の間に化けてほしいな。

 

 

 

 

 

 

 

「鈍い、遅い、脆い」

 

優先的に貸し出してもらっているラファール・リヴァイブを動かした後に整備室に持ち込んで整備を行いながらデータに目を通して出した結論だ。

 

「鈍いのは部分展開でウィングユニットだけを展開することで誤魔化そう。遅いのは、なんとか馴れよう。問題は脆いことか。こればっかりは手のつけようがないぞ」

 

関節部分を分解して新しいパーツに取り変えながら愚痴る。魔力で強引にもたせてもいいが記録に残るしな。PICで優先的に保護するしかないか?Gは鍛えてるから大丈夫だとか言い切って。

 

「むっ、匙か。こんなところで何をやっている」

 

「ああ、織斑先生ですか。見ての通り、整備ですよ。軽く本気を出したら関節部分が許容できない消耗を起こしましてね。パーツを取り替えてるんですよ。あと、今までの生徒が使ってきて付いている変な癖の調整も並行して」

 

「変な癖?」

 

「右利きばかりが乗ってたせいで右手の方に微妙にエネルギーを回しすぎているのとかですよ。両利きのオレの邪魔になってるんで。まあ、他にも色々と」

 

「入学したばかりのお前にそんなことができるのか?」

 

「ISって言ったところで所詮は機械でしょう。基本は変わらないですよ。キメラを弄ってるんじゃないんですからこれぐらいはね」

 

関節部分のパーツの取り替えを終えて工具を片付ける。そのままカートを動かして元の位置にラファールを戻す。

 

「おっと、そうだ。織斑先生」

 

「なんだ?」

 

「たぶん、パーツをガンガン磨り潰すと思うんで先に発注をかけてもらいたいんですけど、大丈夫ですか?」

 

「……どれだけ潰す気だ」

 

「とりあえず毎日乗って、毎日オーバーホールするつもりで磨り潰します。データを大量に取れって政府の方から言われてるんで」

 

「分かった。上に通しておいてやる」

 

「ありがとうございます。あと、それとは別にお願いがありまして。こっちは時間がかかってもいいので許可を取ってもらいたいんですが」

 

「何の許可だ?」

 

「手作りのベーコンを作るのに燻製を行う許可を。道具は自分で用意しますし、ベーコン以外にも作ったような気がしないでもないですね」

 

「……賄賂のつもりか」

 

「酒好きに燻製嫌いは居ないでしょ。今日、香水でごまかしてましたけどビールの臭いが染み付いてましたよ。まあ、昨日だけで織斑の奴は色々やらかしてましたからね。肝臓を悪くしないでください」

 

「そんなに匂っていたか?」

 

「鼻、結構いいもので」

 

「ハァ~、あまり他の者に迷惑をかけないようにするのが最低限だろうな」

 

「当然ですね。出来上がり次第、差し入れます」

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方、ふざけていますの!!」

 

「ふざけてなんかいないさ。これが最も戦いやすいのさ。それにここ数日で予備パーツを全て磨り潰してな、他の部分を展開すればただの重りになる」

 

今のオレはラファールのウィングユニットだけを展開し、右手にIS用の実体剣を持っているだけだ。こんな格好で試合を行うのはオレが初めてだろうな。

 

「なあに、気にくわない男を合法的に殺せるチャンスだ。ほれ、喜べよ」

 

「もう頭にきましたわ!!お望み通り殺して差し上げますわ!!」

 

そして試合開始のブザーが鳴る前にオルコットがレーザーライフルのトリガーを引く。

 

「まあ、お前ごときでは触れることもできないがな」

 

トリガーを引いてからレーザーが発射される前にオレの姿はオルコットの背後から囁ける位置にいる。

 

「っ!?ブルー・ティアーズ!!」

 

オルコットのISの各部から6つのパーツが外れ、6つのパーツがされに2つずつに分かれて地面に落ちる。

 

「近距離では銃よりも刃物の方が有利だ習わなかったか?」

 

オルコットの背後からゆっくりと正面に移動しながら剣を手放して見せる。それを最後のチャンスと思ったのかレーザーライフルを構えるが、そいつは既に切ってある。構える動作の最中でバラバラに砕けていくレーザーライフルを見て唖然としているオルコットに踵落としで地面に叩きつける。

 

「で、何時になったらオレを殺してくれるんだ?時間がかかりすぎで欠伸が出そうだぜ」

 

とか言いながらもウィングユニットの負荷を見て頭を悩ませる。騙し騙しで使ったが、瞬時加速は1回が限度だろう。距離を短く、連続して使用したためにパーツの磨耗が激しいのが原因だ。最悪、二次移行に見せかけて自前のを使おう。

 

「ひぃっ、こないで!!」

 

だが、オルコットの戦意は完全に失われていた。この程度で心が折れるとはな。

 

「興ざめだ。とっとと尻尾を巻いて逃げ帰れ」

 

慌てて逃げ帰るオルコットの背中を見てイライラが増す。オレの周りには、あんな情けない女はいなかった。態度がでかければ、態度がでかいままで派手に散っていく。そういう貴族の誇りを持っている奴らばかりだった。たとえ、怯えて足が震えていてもだ。その点で言えばオルコットは最低だった。

 

「チッ」

 

苛立ちを誤魔化すようにオルコットのISを破片を細切れにする。同時に一番頑丈だった剣が砕け散り、さらに苛立ちが増す。頭を掻き毟り、深く息を吸い込み、吐き出す。とりあえず切り替えは終わった。戻ったところで修理はできない以上、このまま連戦する方がいいだろうな。管制室に通信を繋ぐ。

 

『織斑先生、このまま連戦します』

 

『いいのか?こちらのモニターでは機体が限界に近いようだが』

 

『どうせ部品がないんで修理できませんので。それにもう少しで届きそうなんでね』

 

『届きそう?』

 

『こっちの話ですよ』

 

しばらくすると織斑が搬入された時とは違う姿のISを纏ってやってきた。

 

「なるほど。一次移行は済んだようだな。どれ、一つ練習に付き合ってやろう」

 

「そうさせてもらうぜ!!」

 

気持ちいいぐらいまっすぐに織斑が突っ込んできて、教本のような剣道の構えで剣を振る。そういえば、ずっと剣道の練習をさせられてたんだっけ?まあ、少しは身についたのだろうが、所詮は剣道だ。剣術にすら達せず、腕もそこそこ。見切って躱すのは容易い。

 

「くそっ、なんで当たらないんだ!!」

 

「まあ、格の差って奴だ。あと、慣れ。お前よりももっと鋭い剣を使う奴と戦りあった経験があるし、剣筋が綺麗すぎて当たる気がしないな」

 

PICすら切って、自らの足で躱していく。こうやって挑発しても剣以外に持ち替えようとしない、格闘技が混ざることもない、空を飛ぼうともしない。出会ったばかりのイッセーみたいだな。まあ、似ても似つかないがな。待っていたものがようやく終わったので仕切りなおすためにみぞおちを蹴り飛ばして距離を作る。

 

「さて、こちらの準備も整った」

 

「準備?」

 

「そっちが一次移行ならこっちは二次移行だよ」

 

ラファールを取り込み、コアをネットワークから遮断。コアを鎧に接続してISだと誤認させる。声に出す必要も思考する必要もないのだが、あえてその名を告げる。

 

「禁手化」

 

何万年と使用していなかったオレの鎧が一瞬にして現れる。蛇龍を模した黒紫の全身鎧に汚れを見せない純白のマント、マントに隠れるように悪魔と天使と堕天使と龍の翼が生え、腰には長い付き合いの二振りの聖魔剣。オレが一番よく使う戦闘態勢の一つだ。

 

「さて、どれだけ耐えられるかな?」

 

ISのハイパーセンサーですら捉えられない速度で詰め寄り、アッパーの拳圧だけで織斑を空高く吹き飛ばす。その際に取りこぼした織斑の剣を2丁拳銃の連射で粉々に破壊してから、聖魔剣を引き抜いて飛翔。すれ違いざまに外部装甲だけを削ぎ落として納刀する。誰もが何が起こったのか分からないだろう。ただ、結果だけがそこに残る。

 

「実に良い仕上がりだ。オレによく付いてきてくれる。織斑先生、オレの勝ちで良いでしょう?これ以上は怪我をするかもしれませんよ」

 

試合終了のブザーが鳴ると同時に織斑がよろけながら、地面に降りていく。

 

 

 

 

 

 

 

私は生まれた時から何かが足りないと思っていた。それは成長するにつれてどんどんと明確に感じられた。私の隣に誰か、男の子がいない。その男の子は時に強くて、時に優しくて、時に賢くて、時に弱くて、時に厳しくて、時に馬鹿で、目を離せない存在。そんな男の子を私は知らない。知らないけど、知っている気がする。

 

そして隣にその男の子がいないことがとても悲しいと感じる。それは日常のふとした時に感じる。紅茶を飲む時、料理をする時、勉強を教える時、お姉ちゃんと会話をする時、朝目が覚めた時、夜星を眺める時。知らず知らずのうちに私は涙を流す。

 

その理由が今日はっきりと分かった。あの黒紫の騎士を見て。全てを思い出す。私に足りなかったものを。時間がかかるどころか世界が変わってしまったけど、また、巡り会えた。私の最愛の人、私の騎士、天を覆う黒蛇龍帝、匙元士郎。

 

試合が終わると同時に駆け出そうとして、踏みとどまる。私の勘違いだったらどうしようと、もし勘違いだったら、もし忘れられていたら、もし信じてもらえなければ。そう思うと足が動かなくなる。けれど、思い出す。試合中のあのイライラした顔を。

 

多分、私と同じ。足りなくて、感情がコントロールできていない。若かった頃の私と同じだ。いや、前世で若かったころよ。今はもっと若いし。

 

とにかく、会ってみないと始まらないと決心して寮の屋上に向かう。部屋の都合で屋上にテントを張っているのは周知の事実だし、土曜日にはベーコンの燻製をやっていた。相変わらず、趣味は変わっていないようだ。

 

屋上のドアを開けると、そこには紅茶を入れるためにカセットコンロでお湯を沸かしている元士郎がいた。向こうも私に気づいたのか、顔を向けて傍にずっといたからこそ分かる程度に驚いていた。

 

「あ~、オレはお邪魔になるか?」

 

「ううん。貴方に用があって、いえ、そうじゃなくて、その、■■■■■」

 

その言葉に劇的に反応が返ってくる。

 

「ま、さか、ソーナ、なのか」

 

「そうです。元士郎」

 

元士郎に名前を呼ばれて、涙がこぼれる。元士郎も涙をこぼしている。

 

「ま、また、会えるなんて、おも、思わなかった」

 

「わた、しも、です」

 

次の瞬間には二人で抱きしめあって、互いがそこにいることを確かめ合うように、強く、強く、抱きしめる。

 

しばらく抱きしめあった後、元士郎が結界を張って、誰にも邪魔をされない環境を作り上げてからテントに移動する。それから、元士郎が私が亡くなってからどうしていたのかを語ってくれた。その話を聞いて、悲しくなる。私と一緒にいた期間よりも、ずっと長い間生き続けてきた元士郎に、あの言葉を残すべきではなかったと。

 

『生きられるだけ生きて』

 

その言葉を守って、本当に生きられるだけ生き続けたのだ。

 

「ごめんなさい。辛かったでしょう?」

 

「いいさ。こうしてまた出会えたから。また、オレと共に歩んでくれるか?」

 

「ええ。ですが、今度はずっと一緒です。貴方を一人にしないで済む力を私にもください」

 

「いいのか?」

 

「構いません。こうして死すらも私たちを割くことはできなかったのですから」

 

「分かった。だが、段階的にだ。まずは転生悪魔にしよう。それから、『無限』の力を」

 

「ええ、それで構いません」

 

そう答えると、見慣れた駒が現れる。悪魔の駒、それの変異の女王。それを受け取り、体に入れる。なるほど、こんな風に変化するのですか。元士郎とパスがつながることで、魔力もかなりのものです。すぐにでも全盛期の強さを取り戻せるでしょう。

 

「それにしてもIS、どうするんですか?今はラファールを借りていると聞いていますが」

 

「それだが、二次移行に見せかけて取り込んだ。今は抜け殻を学園に回収されたが、どうなるか分からない」

 

「う~ん、確か明確な後ろ盾ってありませんでしたよね」

 

「こっちからお断りしてるからな。おかげで今も家族を守るために分体が暗闘中だ。学園に来てからも2回ほど襲われた」

 

「私の実家が後ろ盾になりましょう。そうした方が色々と楽になりますでしょうし、元士郎ならデメリットも粉砕できるでしょう」

 

「仰せのままに。助かるよ」

 

「ええ。話すべきことは、ああ、今の私はソーナではありませんから」

 

「ああ、名前を聞いていなかったな。オレは変わってない。匙元士郎。■■■■■の方はご先祖さんに居たわ」

 

「そうですか。私は更式簪です。あと、二人きりの時以外は今までのキャラを作りますので笑わないように」

 

「了解」

 

「それじゃあ、今のところ、話すことはこれぐらいですね」

 

「……なんで服を脱ぎ始める?」

 

「いや、ですか?」

 

「……正直に言って、止まれる自信がない。壊しても治せるからいいだろうとか本能が囁いているんだが」

 

「構いません。むしろ、壊してでも愛してください」

 

「分かった。止まらないぞ!!」

 

そのまま朝日が昇るまで元士郎は止まらなかった。体はボロボロだったけど、まあ、昔はよくあったことなので慣れたものだ。完全に疲れ切った体も元士郎にお風呂に入れてもらいながら治療魔法とフェニックスの涙を原材料に使用した栄養ドリンクで完全回復です。

 

とりあえず、面倒ごとをどんどんと回収していきましょうか。午前中の授業を終えた後に元士郎と生徒会室前で合流する。生徒会室に入るとお姉ちゃんと空さんが揃ってお茶を飲んでいた。

 

「どうしたの簪ちゃん。噂の黒騎士と一緒で」

 

お姉ちゃんがお茶を口に含んだタイミングで

 

「お姉ちゃん、私、元士郎と結婚する」

 

お姉ちゃんが吹き出したお茶を元士郎が私を横抱きにして回避させてくれる。

 

「ゲホッ、ゴホッ、ちょっ、ちょっと待って。せ、説明プリーズ」

 

ちょっと人にはお見せできない顔をしているお姉ちゃんが顔を伏せながらも説明を要求してくる。

 

「運命の出会いって今なら信じられる。それだけだよ」

 

「いやいやいやいや、そんな一言で済ませないで!?」

 

「本当に運命の出会いなんだよ。元士郎しか伴侶として考えられない。元士郎もそう思ってる」

 

「ああ、簪の言う通りだ。オレも一生の伴侶は簪しか考えられない。義理を通すためにこうして正面から挨拶に伺っているが、反対するというのなら磨り潰す」

 

「……ISを持たないっていうのに?」

 

ああ、元士郎に対して一番ダメな返し方だ。そう思うと同時に全てに決着がついている。元士郎がボールペンを投擲してお姉ちゃんが使っていた湯飲みが砕け散って机に半分ほど減り込む。

 

「展開より先に心臓を貫くぞ」

 

元士郎が冷たく殺気を放つ。ついでに魔力がちょっとだけ漏れてガラスが揺れる。お姉ちゃんたちが過呼吸気味になったところで殺気を収める。

 

「ISなど玩具だ。展開されようが磨り潰す」

 

それだけを告げて生徒会室を後にする。えっと、あとは、そうだ、織斑先生のところに行って元士郎と同じ部屋で暮らせるようにしないと。それから実家の方に連絡して元士郎の後ろ盾になることと、結婚のことを報告して、忙しくなりますね。物理でごり押しも簡単ですし、元士郎が生きた未来の産物を再現するのもいいでしょう。むしろ、それらを使って打鉄弐式を改造しましょうか。そもそも元士郎がラファールを磨り潰してしまったということは私でもそういう可能性がありますしね。ふふっ、楽しくなってきましたね。

 



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楽しむ蛇

元士郎が打鉄弐式に使えるというか、今後人類が宇宙に進出して手にする有用な物質を回収、加工できる会社を用意してあるらしく、そこにネジ一本から開発することになった。その際、デザインだけは私が再設計をし直して渡したのが元士郎に抱いてもらった翌日。そして今日は金曜日。

 

「早いですね」

 

「ダミー会社で従業員はオレの分体50人だからな。とりあえず説明するけど、装甲は地球種が初めてワープ航法に適した装甲材で、絶滅するまで加工のしやすさと採掘量で民間の宇宙船では最後まで発展系が使われたコスモナイト製。ミサイルとエネルギー火器には大抵の宇宙人や宇宙怪獣を吹き飛ばしてきたスペシウム。推進が一番困ったが、とりあえずはマキシマ式光圧推進システム。それらとは別に地球種が誇った武装や推進、装甲に魔力を増幅して纏わせる魔術炉心を搭載だな。あと、コアの方も弄ってネットワークからは分離しているから通信系統は別に積みなおしてある」

 

「なるほど。すごいということ以外はさっぱりわかりませんね」

 

「簡単に説明すれば装甲を抜ける武器がない。火力がクリーンですごい。推進剤がいらない。魔術で簡単に強化可能」

 

「オーパーツですか」

 

「オーパーツだ」

 

「どこまでそんな鉱石を取りに行っていたんですか」

 

「スペシウムは火星、コスモナイトは土星の衛星のタイタン。光圧推進システムと魔術炉心は地球。太陽圏内で揃えた」

 

「とりあえずは試乗ですね。付き合ってもらえますか?」

 

「もちろん。夜間のアリーナ利用の許可も取ってある。納得のいくまで付き合おう」

 

「ええ、お願いしますね」

 

そして、夜間にアリーナに向かい、記録機器を全てカットしてから結界を張って試乗を行う。予想以上に魔術炉心が強力だったために急遽リミッターを用意してもらった。他にもスペシウム弾頭弾ミサイル、スペシウムライフルもエネルギー効率を考えると威力が大分高い。コスモナイト製の装甲も普通のラファールなどが使用するライフルではシールドエネルギーが減らない。光圧推進システムはPICと組み合わさることで爆発的な加速力と速度を生み出せるようになった。

 

「結論から言って、一機で世界にケンカを売れますね。魔力が続く限り稼働するんですから、元士郎とパスがつながっていれば文字どおり無敵ですね」

 

「むしろパスが繋がっていることを前提の機体に仕上げたからな。コピーしても欠陥ではない欠陥でコピーが無意味になる。元から欠陥品なんだからな」

 

「意地悪にもほどがありますね。そういえば、聞き忘れていたのですが、この世界に神秘は?」

 

「ほとんどないな。三流魔術師とか、なんとなくで気を扱っているのとか位だな。不自然な位に聖剣や魔剣からも神秘が失せている。世界の根幹的な部分で致命的なことでも起こったっぽいな」

 

「そうですか」

 

「まあ、オレたちには何の問題もない。それよりも試運転はもういいのか?」

 

「ええ。確認できましたから。そろそろ上がりましょう。消灯時間が近づいてますから」

 

「そうだな。明日は久しぶりのデートだしな」

 

「楽しみですね。前世の最後の方は寝たきり生活でしたから、庭に出る程度しかできませんでしたからね」

 

「オレはそれでも充分幸せだったんだけどな。ソーナからは色々と貰い過ぎだったから」

 

「私だって元士郎から色々な物を貰いましたよ。まちがいなく、私の一生は幸せでした」

 

 

 

 

 

 

 

 

休み明け、朝一に職員室に呼び出されオレのISに関しての処遇についての通達が行われた。

 

「匙、一応だがあの変化したラファールはお前の専用機として当てられることとなった。バックアップを希望する企業のリストがこれだけある。だが、どこを選んでも満足なバックアップを得られるとは思えん。最悪、稼働不良を起こす可能性すらある。慎重に選ぶように」

 

大量の資料と共に元ラファールの待機形態のブレスレットを受け取る。

 

「ああ、大丈夫です。簪と同じ企業から直接バックアップしたいと。休み中に見学にも行かせてもらったのですが、そこなら十分な整備を行えると判断したので。まあ、簪のISを見て決めたんですけどね」

 

「4組の更識ということは倉持か」

 

「いえ、D×Dです。倉持が開発を凍結した打鉄弐式を破棄してD×Dで新規製造を行った物を見せてもらいました。現状、オレのに付いてこれる唯一のISでしょう」

 

「D×D、聞いたことがないな」

 

「ISの製造許可を持ってはいても製造を一切していなかったらしいです。元は宇宙開発のためのシャトルから道具まで作ってたらしいです。ISが発表された最初期から宇宙開発が進むだろうと思ってたらしいですけど、こんな状況でやる気が削がれ、自分達の技術を使いこなせるような者が現れるまで作る気は無かったそうです」

 

「ほう、そこまで言うか。姉に比べればパッとしなかったと思うが」

 

「能ある鷹は爪を隠すものなんでしょう?羽ばたこうとしなかっただけだ。誰もついてこれないから。だけど、今はオレがいる。簪よりも高く、速く飛べるオレが」

 

「大した自信だな」

 

「事実です。現役時代の織斑先生が相手でも負ける気がしませんから。まっ、世間体からそんなカードは組まれないでしょうけど」

 

言うだけ言って職員室から退室する。殺気を感じるが温い温い。殺気っていうのはさ、世間体を気にしていたら出せない。狂気こそが殺気を鋭くする。こういう風にさ。

 

その日、職員室にいた教職員が集団で倒れる事件が起こる。テロの可能性から調査されるも被害らしきものが一切なく、教職員に異常も見られなかったため調査は打ち切られ迷宮入となる。

 

 

 

 

 

 

 

「この時期に転校生ねぇ。明らかにオレと織斑目当てだな」

 

「詳しい資料を見る限りだと織斑君の友人みたいだよ」

 

ソーナだが、今世の影響に引っ張られるのか簪としての話し方の方が楽だと言っているので二人きりでも話し方がそのままだ。オレとしては新鮮でいいと思っている。呼び方も基本は簪だ。

 

「ふ~ん、なるほどね。まともなのは期待しない方がいいか。織斑の周り、目が曇っている奴らばかりだからな」

 

「そうだね。類は友を呼ぶって感じだね」

 

「篠ノ之なんてやばいな。心が幼すぎる。成長する気もないしな。一回だけ剣を見たことがあるが、酷いもんだ。技量はあるが、身体能力任せの醜い剣だった。泥っどろの思いが纏わり付いている剣だ。剣道よりも剣術、しかも人斬りの剣術が一番相性がいいだろうな」

 

「元士郎にそこまで言わせるんだ」

 

「まあ、思いの反転なんて切欠一つで起こるものだ。才能や素質は変わらないから剣術、薩摩示現流が一番だろうな」

 

「ああ、戦闘民族薩摩人の?」

 

「『薩摩の首切りマシーン』とか『妖怪首置いてけ』の薩摩示現流」

 

他の大名が戦場に向かうのに兵を集めて最低限の訓練を行うのに3~5日、さらに移動に1~2日かかるとすると現地に向かいながら軍勢を整えて1~2日で相手に襲いかかる戦闘民族っぷりに、豊臣秀吉が超大多数で戦わずに勝ちを拾いに行く必要があったと歴史が証明している戦闘民族の剣技だ。宇宙戦国時代でも白兵戦を行う海兵隊に使い手が多く残っていたぐらいだ。戦闘民族の末裔のみで構成された第37空間騎兵隊による惑星メンデルス攻略戦は映画やゲームにもなるほどの活躍ぶりだった。

 

学園のコンピュータへのハッキングを終了して、学園の一年の予定を確認しながら新たな設計図を引く。要所ごとに追加の装備が必要になりそうなタイミングがあるからな。先に鉱物の回収やらをすませるだけで大分楽になり、さらに先に設計図を引いておけば前倒しで開発できる。

 

「合体機構付きの可変型バイク。合体時は背中に翼として装着。これはやっぱり自前の翼が使えない分?」

 

「そうだな。どうしても運動性に難がある。それを少しでも補うためだな。必要ないとは思うが、後悔はしたくないからな」

 

以前にわずかな脅威を見逃して手痛いしっぺ返しを食らったからな。あれは、苦い思い出だ。その所為で自分の半身を失ってしまった。今でも後悔していることだ。だから、できることはできる時にしておく。それがオレの信条だ。

 

 

 

 

 

 

クラス代表戦で2組の代表を瞬殺し、簪も3組の代表を瞬殺して決勝戦。この世界に生まれて初めてまともに力を振るうことができる。

 

「全力でいくよ、元士郎!!」

 

「ああ、来い!!」

 

試合開始のブザーが鳴ると同時に互いに牽制射撃で始める。オレは2丁拳銃を、簪はスペシウム弾頭のサブマシンガンで撃ち合う。外れた弾がアリーナを削り、シールドに負荷を与えすぎているのを見て撃ち合いを止めて接近戦に移る。

 

オレはおなじみのアロンダイトを引き抜き、簪は水を刃にする魔道具・閻水に刃を纏わせる。水の魔術を得意とした簪に一番馴染む魔道具であり、形見として取り込んでいたために返却したものだ。刀身の長さは決まっている分しか変化させれないが、水の吸収量に際限はない。やろうと思えば海を枯らすことすらできる。また、水の量によって硬度が増すので聖魔剣と打ち合うことも可能だ。

 

アロンダイトと閻水が打ち合う音がアリーナのあちこちから鳴り響く。音速を軽く超えた速度での機動戦を肉眼で追えている者は少ないだろう。だが、打ち合う音の多さとあちこちから聞こえることにオレ達の力の凄さが明確に伝わる。

 

シールドの負荷が減ったところで簪がスペシウム弾頭弾ミサイルが6発詰まったランチャーを2機呼び出して一斉に放つ。アロンダイトを簪に向かって投げ、2丁拳銃に持ち替えて全て撃ち墜とし、爆炎と爆風をマントで裁く。黒は全てを受け入れ、白は全てを拒絶する。オレのマントに触れた爆炎と爆風が弾かれる。

 

簪が右手に閻水、左手にアロンダイトを構えて再び突っ込んでくるので、こちらもグラムを呼び出してエクスカリバーとの2刀流で応戦する。

 

アリーナに倍になった打ち合う音の中、突如空からのビームとシールドが崩壊する音と非常事態を宣言する警報が鳴り響く。そして、おそらくはビームを撃ってきたISらしき存在がアリーナに降ってきた。

 

「「邪魔!!」」

 

生命反応が感じられないと同時に武装、スラスター、四肢を二人で切り落とす。そして装甲を引きちぎり、コアを引き抜く。

 

「チッ、折角のお楽しみがパーだ」

 

「だね。まだまだやれるのに」

 

アロンダイトを投げ返してもらい。グラムを体内に戻す。警戒を解かないまま終息宣言が出されるまで待機する。

 

 

 

 

 

玩具だったとはいえ、何もできなかった。威圧のためにセンサーが発光するプログラムが走るよりも早くバラバラに分解されてコアを引き抜かれた。遠巻きに覗いていた映像を解析しても分からないことだらけだ。黒騎士なんて呼ばれている方もそうだけど、もう一人の方も装甲からビーム兵器にミサイル、果ては水の剣。全てが未知の解析データが表示されている。

 

特にあの水の剣だ。ナノマシンを利用して水を操るなんて子供騙しなことを一切していない。何らかの力で水を刃上に固めてある上に、どこからか水が生成されている。無から有を生み出す。そんなことは私にすらできない。

 

そして黒騎士も取り出した2本目の剣。拡張領域からコールされた際の反応がない。私の知らない何らかの方法で取り出したのか、無から有を生み出したのか。更にはあの2丁拳銃から放たれる弾。レーザーでもビームでもないエネルギー弾。

 

止めにISとは、ううん、科学とは全く別の何かの力が存在している。でないとあんな出力や反応速度が出るわけがない。

 

私にとって未知の存在だ。ISコアに干渉してネットワークから完全に分離している。私が干渉してくることを最初から知った上で分離してきた。多分、量産すらできるぐらいに解析されている。その上で知らない顔をしている。

 

私なんて気にかける必要すらないって、そう態度で示している。悔しい。

 

悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!!

 

絶対に私の方が上だって証明してみせる!!匙元士郎と更織簪。その名前覚えたよ。

 

 

 

 

勝てない。あの二人に私は勝てない。機体云々の話ではない。私自身の力が及ばない。射撃の腕が下回るのはまだいい。だが、あの剣戟の領域に私は届かない。あの速度で動き回りながら斬り合うなど、したことがない。

 

今までは、現役当時は一撃だった。最速で踏み込んで斬り払う。ただそれだけ二の太刀要らず。引退してからは他人に教えるために剣道をしていた頃を思い出しながら必死に練習をした。

 

それらが全く通用しない相手に恐怖した。生身でも二人は圧倒的に強い。それこそ、ISすら凌駕するかもしれない。空を飛べないハンデすら何事もなかったかのように乗り越えられそうで怖い。

 

何より、一夏との相性が悪い。匙は、世間に揉まれてきたリアリストの目をしている。甘さなど等に抜け、成熟し切っている。唯一、更識の妹の前だけでは甘さが見れるが、それだけだ。厳しいというわけでもない。一夏よりもクラスに溶け込み、クラス代表の仕事を立派にこなしている。むしろ、一夏の周囲にいる者どもの所為で煙たがられている。それに馬鹿共は気づいていない。

 

私も一夏を庇いすぎだと上から釘を刺された。もし、匙がいなければ比較する対象がいないことから釘を刺されることもなかっただろう。だが、比較対象の匙は優秀だった。公私の切り分けがしっかりとしていて、周りが異性ばかりだというストレスから許される程度の我儘の許可を取る位の手のかからない生徒だからだ。強さも今回の件で知らしめた。生徒会長の座を奪い取ることすら可能だ。社交性だってあるし、清濁を飲むこともできる。

 

なぜ一夏と同じ年代で現れた。一夏と別の年代なら、私だってここまで悩む必要はなかった。優秀な生徒として歓迎しただろう。このまま行けば、恐怖が憎しむに変わる。そしてそうなれば、私はどう動くだろう?

 

 

 

 

 

 

「39.2度。まだ体が完全じゃなかったみたいだな。すまん、オレのミスだ」

 

熱にうなされている簪の体温を測って落ち込む。クラス代表選の翌日。臨時休校となっていたのが幸いだ。

 

「ごめんね、迷惑かけちゃう」

 

「構わないさ。責任の一端はオレにもある。久しぶりに楽しめたからな」

 

氷嚢を用意してベッドに寝ている簪の額に乗せる。さてと、燻製は分体にやらせるとして本体のオレは暇になる。まっ、前世を思い出すみたいで好きなんだけどな。

 

「昔を、思い出すね」

 

「そうだな」

 

若い頃の無理が祟ったのか、ソーナは同年代に比べると早く老衰した学園も成果を出し、満足してしまっていたのも老衰を早めた。痴呆は来ていなかったが、体は衰え、ベッドに寝たきりだった。その頃にはオレも領地や教師としての仕事を全て子に任せていたので付きっきりで介護をしていた。

 

「私は、あの頃が嫌いだった。自分では何も出来ずに、ただ元士郎の負担になるだけで、自分に縛り付けているみたいで。見た目も20代のままの元士郎にはまだまだやれること、やりたいことがあるはずなのにって。だから、生きれるだけ生きて欲しいと願った。結局はその言葉が鎖となっちゃったけど」

 

「結果よければ全て良しだ。生き続けたからこそ、また出会えた。それでいいさ。惰性で生きていたけど、それでもある程度は楽しんでいたさ。特に惑星グルメなんて面白いぞ」

 

「グルメ?」

 

「食材が溢れる奇跡の星。あの星の食物以上に美味い物はないってぐらいの星だ。その分、危険も多かった。動物自体はともかく、環境が殺しにかかってくるからな」

 

「楽しそう」

 

「ああ、楽しかった。一緒に旅をしていたオーフィスとはそこで一度別れたしな。気に入ったらしくてその星が死ぬまで残り続けた。ああ、惑星グルメで思い出した」

 

体内の食の記憶からそいつを引きずり出して再現する。

 

「それは?」

 

「スノーアップル。惑星グルメで見つけた果物だ。簪が好きそうだったからな」

 

包丁で半分に切り、半分をウサギに、もう半分を摩り下ろす。摩り下ろすと勝手にシャーベット状になるのがスノーアップルの特徴だ。

 

「摩り下ろすのが一番だが、簪はウサギりんごが好きだからな」

 

フォークで突き刺して口元に運ぶ。

 

「甘い。それも上品な甘さ」

 

「市場じゃあそこそこの人気だったな。そんでもってこいつが一番メジャーで美味しい摩り下ろし。摩擦で逆に温度が下がってシャーベットになる」

 

摩り下ろした方をスプーンで掬って口元に運ぶ。

 

「甘さ控えめになったけど、こっちの方がこの旨味が深い。けど、もっと美味しい食べ方があると思うんだ」

 

「ほう、どうやるんだ?」

 

「ん」

 

簪が人差し指で唇に触れる。何が言いたいか分かった。摩り下ろしたスノーアップルを口に含み、唇を重ねて口移しで食べさせる。口に含んだスノーアップルが無くなっても舌を絡め続けたままでいる。5分ほど経ち、ようやく離れる。

 

「うん。美味しい」

 

「まだまだ残ってるぞ」

 

「食べさせて。一番美味しい食べ方で」

 

「もちろんだ」

 

溶けてしまったスノーアップルをスプーンで掻き混ぜて冷やしてから口に含み、何度も唇を重ねる。愛した人が傍にいて肌を重ねられる。それだけで幸せだ。

 



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導く蛇

 

やっぱり自前の宇宙船が欲しいなぁと思い、最終期型波動エンジンを作らせながら設計図を引いている。ベースは宇宙海賊王時代にしつこく追いかけ続けてきた改ヤマト級8番艦韋駄天をベースに選択。武装類はオレの船、改デスシャドウ級4番艦ヴリトラの物と交換する。韋駄天は武装が少なかったからな。その分、波動防壁の硬さと足の速さはやばかった。逆にヴリトラは武装とステルスに全部をつぎ込んでたからな。後、魔術炉心のでかさだな。防御と機動力は全部オレの魔力頼みの船だったからなぁ。

 

「船の設計図?」

 

「宇宙海賊王時代のライバルみたいな船がベースだな。分厚いバリアと高機動力で敵艦に接舷して白兵戦を仕掛けてくる銀河連邦最凶部隊”薩摩”の母艦。武装が航路を塞ぐ小隕石を破壊するためのもの以外一切付いていない船だ。中には陸戦隊が半数を占める変態部隊だ」

 

「薩摩って時点で分かってた」

 

「接舷されたら終わりのチキンレースだったからな。最終的には何で沈んだったか。どっかの恒星のフレアに巻かれて沈んだったかな?ハーロックのラムで沈んだったか?マイクロブラックホールの直撃だったか?」

 

「結局は沈むんだ」

 

「まあな。ヴリトラだって50年ほどで老朽艦として廃艦したしな。ああ、ちなみに後継艦なんかは存在しない。この後は宇宙のすべてが衰退していき、大戦争時代に突入。緩やかに宇宙が死を迎える。オレの最後の晴れ舞台さ」

 

そこから2000年程で宇宙が滅んだ。そしてオレはこの世界に生まれ落ちた。

 

「不老だからな。住み難くなったら宇宙に出て、ある程度したら帰ってきてもいいし、帰ってこなくてもいい。完全な異世界があることも分かった。色々と世界を旅をしてもいいな。退屈することはないだろう」

 

「旅か、いいね。楽しそう」

 

「前世じゃあ、あまりそういうゆっくりとした時間を一緒に過ごせなかったからな」

 

「そうだね。結婚してからしばらくと、子供を産んでからしばらく位だったかな。後は、最後だね」

 

それ位だな。オレは平行世界に飛ばされたこともあったけど。

 

 

 

 

 

 

 

シャルル・デュノアねぇ。どこからどう見ても女だな。面倒ごとは速攻で摘み取らないとな。ええっと、あった、この便だな。到着はまだ先か。なら先にお義姉さんに下呂らせるか。簪にも協力してもらってお義姉さんを生徒会室の椅子に拘束する。

 

「ちょっ、何でこんなに手慣れて、と言うかガムテープはともかく手錠なんて何で持ってるの!?」

 

「プレイの一環」

 

「ぷ、プレイ!?」

 

簪の言葉に顔を赤らめるお義姉さん。意外と初心だな。簪は最近拘束してのプレイがお気に入りだからな。あと、その手錠は未使用品だ。この前、壊したからな。

 

「まあ、そんなことはどうでもいい。シャルル・デュノアについてだ」

 

「ど、どうしてその名前を?」

 

「面倒ごとは大嫌いだからだ。それで、シャルル・デュノアが女だというのを知った上で受け入れているのか、学園としてはどう考えているのか、とっとと下呂った方がいいぞ。簪が暴走する前に」

 

簪がお義姉さんにカバンの中身を見せてSっ気の笑顔を見せている。中身はプレイに使う小道具だったと思うが、確かこれはないなと除外したものばかりだった気がする。案の定、お義姉さんの顔が引きつる。

 

「さらにこれ」

 

ビデオカメラを取り出してお義姉さんの全身が映るようにセットする。

 

「じょ、冗談よね、簪ちゃん?」

 

「冗談で済むといいね」

 

そう言いながら、ゲームで出てくるような殺傷能力が高そうな鞭を取り出す。

 

「ちょっ、ストップストップ!!話す、話すから!!」

 

そうしてお義姉さんは全てを下呂った。この件に関与しているのはIS学園の学園長、女性権利団体、フランス政府、そしてデュノア社。

 

シャルル・デュノア、本名シャルロット・デュノアはデュノア社の社長の愛人の子供で母親は死去。その後父親に引き取られるも腫れもの扱い。本妻に不当な扱いを受ける。デュノア社は経営が傾きつつあり、早ければ今年中にISの製造権を取り上げられる予定となっている。

 

女性権利団体はオレと織斑の奴のスキャンダルを欲していて、ハニートラップを強要しているのか。女性の権利を主張しておいて少女を生贄にしようとする真性のクズの集まりのババア共か。まとめて沈めてやろう。

 

フランス政府はデュノア社と女性権利団体に便宜を図り、戸籍を改竄。見返りに金銭と国内の女性権利団体の過激派を抑えさせるように要請。IS学園の学園長は金を受け取り、無理矢理捻じ込んできたと。なるほどなるほど。お義姉さんを解放して部屋に戻って簪と会議を始める。

 

「全部沈めるか」

 

「沈めよう。特にデュノア社と女性権利団体は。フランス政府は女性権利団体を潰せば大人しくなるね。いくらかトカゲの尻尾切りをする必要があるけど。IS学園の学園長も小悪党だけど、裏口入学なんて探せばいくらでもいるよ。まあ、見逃すのは今回だけだけどね」

 

「まずはシャルロット・デュノアを拉致するか。その後は悲劇のヒロインを演じてもらって、役目が済んだら希望通りの未来を歩ませてあげればいいだろう」

 

「まあ、それもすべて説得がちゃんと済めばの話だけどね」

 

「じゃあ、空港まで拉致しに行きますか」

 

簪と共に姿を変化させる。オレはレオの20代頃の姿に、簪はソーナの姿に変化してから影のゲートを開き、空港まで飛ぶ。遠目から様子を伺うが、歩きからして女性らしさが出ている。あと、トイレを間違えかけた。

 

「あの程度で騙せると本気で思ってるのか?」

 

「酷過ぎるよね。口に出しちゃってるし、僕は男って」

 

「こんなんでどうにかなると思ってるのかデュノア社。本気で頭が腐ってるぞ、女性権利団体。フランス政府はご愁傷様」

 

「とっとと拉致ろう。これ以上はこっちの頭と胃が心配」

 

トイレに局所的な結界を張ってシャルロット・デュノア以外誰も居ない状況を作り出し、個室から出て来た所で気絶させてから記憶を漁り予約してあるホテルに連れ込む。ISを回収し、椅子に拘束する。それから気付けを行う。

 

「目が覚めたかね、シャルル・デュノア君。いや、シャルロット・デュノア君と呼んだほうがいいかね」

 

「なっ、何を言っているんだい?」

 

「まずは君を連れ去ったことと君の事情は全て調べさせてもらったことを詫びておこう。そして我々は女性権利団体が邪魔な者達とだけ言っておこう。あの矛盾した老害どもは排除する必要がある。そのためには君に悲劇のヒロインを演じてもらう必要がある。その下手な演技は徹底的に指導することになるだろうが」

 

「……そんなに下手だった?」

 

「まだ子供の方がマシだな」

 

落ち込むが放置だ。

 

「それにこの件を蹴ってハニートラップを仕掛けると君の命の保証はない」

 

「命の保証!?」

 

「まずはこの映像を見たまえ」

 

デュノアに見せるのは先日のオレと簪の試合だ。映像を見始めると最初は驚いた顔をするだけだったが、徐々に顔が引きつり始めた。

 

「ちなみにこの二人は結婚を前提に付き合っている。何が言いたいか分かるな」

 

「十分に分かったよ」

 

「そして織斑の方だが、奴は今孤立している」

 

「孤立?」

 

「織斑に懸想している、意味はわかるか?」

 

「ええっと、微妙です」

 

「織斑のことが好きな奴らが非常識な行為を繰り返して、それに対して有耶無耶な対応しかできていないことで孤立しているのだ。比較対象の匙元士郎はちょっと好みや趣味が変わっているが優等生で社交性もあるからな。だが、孤立していることすら気づいていない。その上で聞くが、心が耐えられるか?」

 

「そんなに酷い?」

 

「報告書を読む限りでは酷いな」

 

本当は傍で見ていてなんだけどな。あれは、酷いな。イッセーより酷い。

 

「無理そうです」

 

「だろうな。そこで君にはデュノア社と女性権利団体の非道を世界に知らしめる役目を負って欲しいのだよ。無論、それが済み次第、君の希望通りになれる道を用意しよう。そのまま学園に通ってもらっても構わないし、戸籍の改竄、亡命だろうと何でも請け負おう。無論生活に必要な金も用意する。働きたいというのなら職を紹介しよう」

 

少しだけ考えさせて欲しいというので仮の住居をD×Dに移し、世間では行方不明となってもらうことにした。どういう答えを出すかはわからないが、是非とも協力してもらいたいものだ。

 

 

 

 

 

数日後、シャルロットとは別に転校生が現れた。こっちもすでに調査済みだ。ラウラ・ボーデヴィッヒ。よくこの技術力で作れたよなと思うデザインベビー。つまりは遺伝子操作で生まれた子供だ。軍で育ったために一般常識に欠け、扱いにくいという評価だ。また、織斑先生を神聖視している。ただ単に努力が実っただけなのにな。そんなことよりもっと人間性を教育してやれよ。

 

そんなことを考えているとラウラ・ボーデヴィッヒがオレの方にやってきて、頬を叩いてきた。オレはつい癖で魔力をヒットする面に集めてしまい、いい音が鳴ると同時にラウラ・ボーデヴィッヒが叩いた手を抱え込んで蹲る。

 

「いきなりのビンタは横に置いておいて、大丈夫か?」

 

「わ、私は貴様が教官の弟だと認めないからな!!」

 

涙目でそんなことを言うが、哀れだ。

 

「オレ、匙元士郎って名前でな、織斑はそっち」

 

ラウラ・ボーデヴィッヒはオレと織斑の顔を交互に見てから織斑先生の顔を見てから、顔を赤くする。

 

「あ、う、その、すまん」

 

「くくっ、構わんよ。改めて、匙元士郎だ。クラス代表を務めている。男ゆえにフォロー出来ることと出来ないこととあるが、困りごとがあれば相談に乗ろう。とりあえずは空いている席に座るといい。一度冷静に、頭を冷やした方がいい。こういう場合は一度仕切り直した方が被害は少ない」

 

「あ、ああ、そうだな。そうしよう」

 

空いている席に座ると恥ずかしそうに顔を伏せている。くくっ、なんだ、感性は普通だ。ただの子供だ。可愛らしいものだ。クラスのみんなも微笑ましそうに見ている。慣れていない環境にテンパっているだけだな。これぐらいなら十分フォローしてやれる。一限目が終わって休み時間に入ると同時にこちらから話しかけに行く。

 

「ボーデヴィッヒさん、少し良いかな?」

 

「むっ、何か用か?」

 

「なんとなくだが、こういう学園の雰囲気に慣れていないと感じてな。朝のような失敗を他にも犯さないで済むように軽くレクチャーした方が良いと思うのだが、どうかな?」

 

「どれ位の時間がかかる?」

 

「とりあえずは、昼休みと放課後を使うつもりだ。取り返しのつかないような失態を犯す前に聞いておいた方が良いと思うんだが」

 

「それは、そうだな。だが、私はやらねばならないことがあってだな」

 

「そうか。なら、そのやらねばならないことを先にこの時間で失態になるかどうかを、次の休み時間に修正案を説明しよう。ここはドイツとは全く違う法律や決まりで運用されているからな。オレは男だからか、その辺を詳しく説明されているからな」

 

「なるほど。確かに任せた方がいいだろうな。よろしく頼む。だが、ここではな」

 

「ああ、任された。話しにくいのなら筆談で、それもドイツ語で構わん。『ドイツ語で話してもいい』」

 

「『ほう、中々流暢な話し方だな。予想外だったよ』」

 

「『なあに、いずれは世界を旅したいと思っているからな。話せない言語の方が少ないさ。それで、何がやりたいんだ?』」

 

「『うむ、教官を我がドイツへと戻って来て頂きたいのだ。こんな場所は教官にはふさわしくない』」

 

「『あ~、正直に言って厳しいな。というより色々と危険だな』」

 

「『なんだと!?』」

 

「『まず、IS学園は他国の干渉を受け付けない一種の独立国だ。これは理解できるな?で、国が職員を引き抜く、つまり勧誘は勧誘と受け取られる。これがただの一般人ならそこまで過剰に反応することはないだろうが、ボーデヴィッヒさんは軍人で代表候補生でもある。つまりはドイツそのものが勧誘を行ったと取られてもおかしくない。これは非常に危ない。理解できるな』」

 

「『くっ、そんなことになるのか』」

 

「『でだ、どう危ないかを説明すると、まずはドイツがIS学園の創立に関わっているすべての国から批難されるだろう。それに対して何らかの決着をつけるためにボーデヴィッヒさんが生贄、まあ、責任を取らされる。それだけならいいのだが、過去に織斑先生から指導を受けていたんだろう?その縁を利用したとか言われれば織斑先生にも迷惑がかかる』」

 

「『何だと!?』」

 

「『かなりデリケートな問題だ。簡単にどうこうすることはできないな』」

 

「『くっ、だが、私は諦めるつもりはないぞ!!』」

 

「『だから厳しいと言っている。まあ、方法がないわけでもない。ただし、時間が掛かる』」

 

「『時間が掛かるのか』」

 

どこか残念そうにしているが、真の目的を見抜いているから問題ない。

 

「『心配ない。時間はたっぷりあるんだ』」

 

「『時間がある?』」

 

「『分からないのなら、次の休み時間までの宿題だな』」

 

休み時間が終わる1分前になったので席に戻る。ボーデヴィッヒさんが悩んでいるが、自分で考えて自分なりの答えを出すことが成長の第一歩だ。親離れができていない子供だな。留流子との間に生まれた娘に似てるなぁ。成人してもオレにべったりだったなぁ。

 

 

 




やったねシャルちゃん、生き残れるよ。寝ぼけて書いたおかげだね。

ラウラは最初から生き残る予定でした。簪と一緒に一人前のレディーへと教育し直しです。何処ぞの大尉の影響でポンコツになんてなりません。それにしても仕事はまともにできるのに微妙にズレてて微妙に意志が固いのって何処かで見たことがあるような。



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誓う蛇

 

2限目が終わり、宿題の確認のためにボーデヴィッヒさんの元に向かう。

 

「さて、答えは出たか?」

 

「分からん」

 

「じゃあ答えの発表だ。簡単だ、『これから3年は学園にいるんだ。その間にプライベートで口説き落とせばいいんだよ』」

 

「『なるほど。そういう考えもあるのか』」

 

「『そうだ。それに実際に自分で確かめないと此処にいるのが無駄かどうかなどわからないだろう。それも主観的だけでなく客観的に、そして政治面でのことも考えなければならない。そこらを考えたことはあるか?』」

 

「『むっ、私は軍人だからな。政治には関わらないつもりでいる』」

 

「『いや、軍人である以上政治とは切っても切り離せない。なぜなら戦争とは政治の一つだからだ。交渉に武力というカードを切る行為だからな。積極的に政治に関わろうとするのは問題だが、あまり無関心でいるのは問題だ。知っておくというのは重要だ』」

 

「『なるほど。確かにその通りだ』」

 

「『理解してくれたようで助かる。これが理解できないと手の貸しようがないからな。では、3年かけて口説く方向で話を進めよう。まずは、優等生であることが最低条件だな。話を聞いてもらうには相手側にもメリットがなければならない。この場合、縁や情は使わない方がいい。なぜなら、織斑先生は出来るだけ公平な目で生徒を見る。肉親だろうとそうだ。まあ、男である分を鑑みてある程度は違うだろうがな。つまり、縁や情で頼ればマイナス評価だな』」

 

「『うむ、教官ならそうだろうな』」

 

「『なら、少しでも口説く材料として優等生でいるということで心象を良くしておくのは間違いではない。むしろ、これが有効打と言える。こうすることで心象を良くした状態で接触する機会を増やし、口説き落とす。これが唯一の道とも言える。口説き方は時間をたっぷり摂らないとな。相手に合わせた口説き方というものがある。その口説くための材料を集めるためにも優等生である必要がある』」

 

「『理解できた。だが、優等生とはどういう状態のことをいうんだ?』」

 

「『細かい部分に関してはオレが適切にフォローしよう。なので大事な部分だけを覚えろ。まず一つ、余計な迷惑をかけるな。授業で分からない部分を質問したりするのは迷惑ではない。それが仕事だからな。だが、他人への暴力行為や規則を破るような行動、これらを起こしてはならない』」

 

「『ふむふむ』」

 

「『悪い例は事欠かない。織斑の周りの女共の行動は最悪だ。2、3日観察すればそれがどういう行動なのかがよく分かる。ああ、織斑自身も問題児だ。よ~く覚えた上で近づくな。巻き込まれると評価が下がるぞ』」

 

「『了解した』」

 

「『あとは、ここは軍隊ではない。学園には学園のルールがあるし、他人との付き合い方も覚える必要がある。煩わしいと思うこともあるが、それが織斑先生を口説くヒントになるかもしれない。まずは、周りに合わせることから始めてみよう。出来る限りフォローはする』」

 

「『分かった』」

 

うむ、やはり根は素直な子供のままだな。これぐらいなら十分矯正可能だ。簪と協力して一人前のレディに育ててみせよう。

 

 

 

 

 

「それでは実習に移る。まずは専用機持ちを班長としてグループを分ける。織斑、オルコット、匙、凰、ボーデヴィッヒの5名は各生徒の補助を行え」

 

織斑先生がそう言うと同時にほとんどの生徒がオレに駆け寄ってくる。

 

「「「「匙君、手取り足取り教えて」」」」

 

「まあ全員の面倒を見ようと思えば見れるけど、織斑先生が呆れた顔をしてるから出席番号順に分かれたほうがいいな。出席番号の1番が織斑、2番がオルコット、3番がオレ、4番が凰、5番がボーデヴィッヒであとは順繰りだな」

 

さっさとメンバーを分けて実習に移る。練習機はラファールが2機に打鉄が3機か。とりあえずはラファールだな。あれは使い潰すほど乗り回したからな。待機状態でカートに乗っているラファールを押して一番遠い場所まで移動する。それからボーデヴィッヒさんの班を呼び寄せる。

 

「彼女なんだが、軍人でな。こういう学園生活に不慣れなところがある。加減なんかが分からないといったところだな。だから、手本を見せるためにちょっとだけ協力してもらいたいんだが、構わないか?」

 

そうオレの所とボーデヴィッヒさんの所の班員達に尋ねると快諾してくれた。

 

「さて、それじゃあ始めようか。起動と歩行を行っていくんだが、とりあえず一言。ケガだけには注意しような。それじゃあ、出席番号順でいいか」

 

「井川佳恵だよ。よろしくね」

 

「ああ、よろしく。それじゃあ、まずは搭乗しようか。腰のアシスト部分に足を乗せて、そのまま腕部分に手をかける。それからコクピット部分に搭乗だ」

 

井川さんがラファールに搭乗し、起動させるのを確認する。

 

「まずはゆっくり立ち上がろう。倒れそうになれば支えるから怖がらなくていい」

 

ゆっくりと立ち上がったところでオレも足の部分だけを展開して宙に浮かび、目の高さを合わせる。

 

「それじゃあ次は歩行だ。いつもと目の高さが違うし、反応も若干鈍いと違和感を感じるはずだ。まずは一歩、踏み出してみよう」

 

井川さんが一歩踏み出し、違和感に首をかしげる。

 

「違和感を感じたみたいだな。それに注意しながらもう少し歩いてみよう」

 

隣を飛びながら、倒れそうになるときは支えてやり、ある程度歩かせてから元の位置に戻らせる。

 

「よし、それじゃあ次の子に交代しよう。最初のように屈んだ状態で降りようか。ラファールは重心が後ろにあるから気をつけよう」

 

そう言ったのだが、予想以上に重心が後ろだったのか倒れそうになるので籠手の部分を追加で展開して全身を支える。そのまま屈んだ状態になるように補助を行う。

 

「初めてなら仕方のないことだ。次からは注意しような」

 

「う、うん」

 

「それじゃあ、交代だな。電源を落として乗った時とは逆順で降りようか」

 

井川さんがちゃんと降りたのを確認してからボーデヴィッヒさんに話を振る。

 

「こんな感じだ。温いと思うかもしれないけど、学園ではこの程度でいい」

 

「そうか。だが、本当にその程度でいいのか?」

 

「良いんだよ。学園では平均的な能力になるように指導しているみたいだからな。簡単に言えば極端な落ちこぼれを出さないようにするのが目的だ。だから、この程度で良いんだ。めんどくさいが、政治が絡んでくるからな」

 

「ここでもか。面倒だがわかった。なんとかやってみよう」

 

面倒だよな、政治ってやつは。ないと問題だが、人を腐らせやすいし、目立たない罠が多いし。ボーデヴィッヒさんの指導の補助をしながら、班員の指導を行っていく。魔術の指導に比べれば簡単だったこともあり、時間がそこそこ余ってしまった。

 

「さて、時間が余っちまったな。どうするかな」

 

「はいは~い、出来れば匙君のISをじっくり見てみたいんだけど」

 

「構わないぞ」

 

全身を展開して翼だけは隠しておく。

 

「へぇ~、改めてよく見ると竜を模してるんだ」

 

「そういえば名前は?」

 

「一応、ヴリトラで登録している。ヴリトラってのはリグ・ヴェーダなんかに出てくる蛇の怪物で何度でも蘇る不死身の存在なんだ。あとは宇宙を塞ぐものなんて名があってな、乾季を司ったりもしている。で、それを討滅するインドラが雨季を司り、ヴリトラを討滅することで雨季がやってくると信じられてた。不死身って所と、インド系の神に一度は勝っているって所が重要だな」

 

戦闘になると生き生きしやがるからな。大規模殲滅攻撃とかも多いし、相手をするのが面倒なんだよ。そんなインド系の神、しかもインドラに勝ってるからな。

 

「剣とかも見せてもらってもいい?」

 

「見た目より重いから気をつけろ。あと、刃には絶対触るな。指なんか簡単に落ちるぞ」

 

エクスカリバーとアロンダイト、それにグラムを地面に突き刺す。見えないようにラインで地面に固定しておく。

 

「装飾もないシンプルな作りなんだね。それなのに何処か惹かれる」

 

「なんだろう。これが名剣とかって奴なのかな?」

 

聖魔剣だからな、魔剣の人を魅了する部分が聖剣の力で中和されてちょっと惹かれる程度にまで落ち着いているのだ。

 

「気になったのだが、その鎧がISなのか?」

 

ボーデヴィッヒさんが当然の疑問を投げかけてきた。

 

「変わってるだろう?だが、こいつにだって利点はある。視線の高さや四肢の長さが変わるわけじゃないからな。感覚的に扱いやすい」

 

「なるほど、そういう利点があったか。小さいから力は弱いのか?」

 

「そんなこともないな。まあ、オレは生身でも怪力だからな。力不足だと感じることはないな」

 

「そんなものか」

 

そう返すと興味を失ったのか静かに授業が終わるのを待つようだ。まあ、少しは硬さが取れているから問題ないな。焦る必要はない。

 

 

 

 

 

 

昼休みになり、ボーデヴィッヒさんを連れて簪と合流する。

 

「元士郎、その子は?」

 

念話ですでに詳細は伝えてあるが今まで接触をしていないのに知っていれば不自然なために演技として簪に説明する。

 

「オレに相談しにくいことは簪にするといい。とりあえずは食事だな。ここの食堂は中々美味いぞ」

 

まあ、中々止まりなんだよな。種類が多すぎるから仕方ない。せめて方向性が似ていれば腕も上がりやすいんだけどな。やっぱり弁当を作った方がいいだろうな。今度の休みは調理器具と調味料を揃えに行こう。

 

「さてと、何を食うかな?バーガー類には手を出してなかったな。今日はそっちにしておくか」

 

適当なバーガーとポテトとコーヒーのセットを食券機で購入する。ボーデヴィッヒさんも適当に日替わりランチを注文している。簪は今日はきつねうどんにするみたいだな。昼食を受け取って、そのままほぼ指定席になっている窓際の4人掛けのテーブルに向かう。

 

食事を終えてからボーデヴィッヒさんに学園での生活を分かりやすいように軍隊に例えながら丁寧に説明していく。子供に教えるようにやっていけば、乾いたスポンジのごとく知識を増やしていってくれる。優秀で純粋だな。

 

子育てか。随分遠ざかったよな。セラの3人目以降はそういうのは一切してなかったからな。子供を育てると昔のことを思い出しやすいからって、基本子供は遠ざけていたな。伊達に8人も育てていない。子供、どうするかな。作って育てるのはいいんだが、同族がいないから辛い思いをさせちまうしな。頑張って何人も作るっていうのも有りといえば有りだけどな。

 

「あっ、そういえば今度あるタッグ戦、私たち出場停止だって。理由は言わなくてもわかるよね」

 

「まあな。やりすぎたからだろう。タッグ戦は生徒の今の実力を確認するイベントだからな。そんな中にオレ達が混ざるわけにはいかないからな」

 

微妙な味のブレンドコーヒーに顔をしかめながら答える。

 

「アリーナの貸し切りはまだ先だし、それに合わせて告知とかしないとね」

 

「見学とか来ても捉えきれないと思うんだけどな。まあ、やっておいたほうがいいな」

 

また襲撃があるかもしれないから分体に索敵行動はさせておく必要もあったな。結界を張ったほうが早いか?文字魔法による結界が一番確実だろうな。

 

「何の話をしている?」

 

「ああ、オレと簪の本気の試合の話。貸し切りにして使わないと周りの被害が大変なことになるからな」

 

「なんだ、銃の腕が下手なのか?」

 

「いや、超高速機動戦によるソニックブームの被害だ。それを利用した飛ぶ斬撃とか普通に使いまくるからアリーナのシールドの負荷もでかくてな」

 

「はあ?一体何を言っているんだ?」

 

「まあ、流れ弾による負荷も大きいんだけどね。ええっと、あの件のデータは閲覧不可だから、試し撃ちのデータでいいかな。これ、学園のサーバーにアクセスすれば見れるデータだから」

 

「オレもラファールの時のデータが残ってたはずだな。確か、こいつだな」

 

ラファールを磨り潰していた頃のデータが残っていたのでそれのアドレスをボーデヴィッヒさんに渡す。そのデータを見て目を大きく見開いて、オレと簪さんのことを見てくるボーデヴィッヒさんは可愛いと思う。

 

 

 

 

 

まるで前世の高2の頃のような忙しさだな。場違いだろうが、そう思ってしまう。タッグトーナメントの一回戦第3試合、ボーデヴィッヒさんと井川さんのチーム対織斑と篠ノ之さんのチームの試合にそれは起こった。

 

動きが拙い井川さんをボーデヴィッヒさんが援護して篠ノ之さんを倒し、織斑を一騎打ちで情け容赦なく撃破した後、急にボーデヴィッヒさんのISが液状化し、ボーデヴィッヒさんが取り込まれる。そして液体金属は暮桜らしき姿を取る。

 

この非常事態に待機していた教師2名が突入し、一瞬にして落とされる。速度的にはこの前のオレ達程度は出ている。それは問題ではない。問題なのは、搭乗者の保護をあまり行っていないのだろう。ボーデヴィッヒさんの気配が弱まった。こいつはオレ達への挑戦と受け取っていいのだろう。

 

「行くか、簪」

 

「うん」

 

鎧を展開して観客席からアリーナのシールドを破って突入する。同時にオレに向かって暮桜が突撃してくる。好都合だ。

 

「甘い!!」

 

真正面から組み付いて動きを封じ、そこを簪が閻水で装甲だけを切り捨ててボーデヴィッヒさんを救い出す。簪から閻水を受け取り、再生しようとする液体金属を、液体を刃にする閻水で吸収する。その際、ISコアだけは取り出しておく。

 

「液体金属のロボット相手のお約束は溶鉱炉だが、貴様には並大抵の火力では済まさん!!」

 

アリーナから上昇し、成層圏を突破して宇宙にまで飛び出し、太陽に向かって進む。そして、そのまま太陽に突っ込む。

 

「死にさらせい!!」

 

閻水の刃を太陽に突き刺し、完全に蒸発したのを確認してから学園への帰路につく。態々単身で宇宙にまで出たついでに、途中で浮遊系の能力を全てカットしてスカイダイビングを楽しむ。

 

 

 

 

 

 

 

学園に戻ると先生たちに捕まり、前回同様保健室で検査を受けさせられる。結果が出るまで待機しているのだが、ついでに一番の重傷者であるボーデヴィッヒさんの体調をラインで調べて前世から使っているカルテに書き示す。

 

「やはり速攻で救出して正解だったな。高Gの影響で臓器の一部が弱っているな」

 

「けど、平均よりは頑丈な体みたいだね。あっ、ナノマシンの反応もあるんだ」

 

「強引すぎる改造にも程があるな。ちょっと調整したほうが良さそうだな」

 

ラインでナノマシンを改良しておく。体への負担を最小限にまで抑えておけばいいだろう。

 

「こんなもんだな。それにしても、液体金属のISか。中々トリッキーでコスパに合わない物を投入してきたな」

 

「そんなにコスパに合わないの?」

 

「液体金属だから強度は低いし、再生できると言ってもエネルギーは大量に必要だし、高温に晒せば液体金属を操っているコア部分が先にダメになるからな。そんなことをするぐらいならEG合金を使ったほうがいいな」

 

「EG合金?」

 

「形状記憶修復合金。時間さえかければ再生可能な特殊合金だ。形状を覚えさせた状態に修復しようとするからな、エネルギーを溜め込んだ状態を記憶させておけばエネルギーまで生成する」

 

「なに、その理不尽な装甲」

 

「一時期は流行ったんだけどな。反中間子砲がメインになってくると廃れた。再生速度を大きく上回る武器の前にEG合金なんて使ってられないからな」

 

「ものすごく嫌な名前の砲だよね」

 

「名の通り中間子の反物質砲だ。エネルギーフィールドなんかで防がないと装甲での防御は不可能だ。廃れはしなかったが副砲扱いにする船が多かったな」

 

ちなみに主砲はヤマト型戦艦の主砲が製造当初からベストセラーだった。整備が簡単、エネルギー弾も実弾も発射可能、拡張性が高いなどの評価で破壊力にも申し分なかった。最終的には波動砲をぶちかましたり、拡散させたり、ホーミングさせたり、普通の実弾に発射時に波動エネルギーを挿入したりとやりたい放題だった。無論、魔術炉心対応砲でもある。

 

「っと、話が逸れまくったな。まあ、コスト度外視であんなことができるのは篠ノ之束だけだろうな」

 

「人命を無視しているあたりもね」

 

「まあ、好きにさせてやればいいさ。アレのアドバンテージはオレにはない発想ができることだけだ。だが、オレはそれらを知識として閲覧することができる」

 

「……なんか嫌な言い回しなんだけど。何を隠しているの?」

 

「あ~、いや、そのな、簡単に説明すると、アカシック・レコードって面白いな」

 

「その一言で分かった。常にリンクしてる形?」

 

「いや、一番近いのが近くにあるデカイ図書館だな。自分で探して回る感じ。なんとなくソッチの方にこんな感じのものがあるようなってのが分かるぐらいだな」

 

「そう」

 

「それにあれは見ても面白く無い。いや、面白くなくなる。全てが知れてしまう。世の中がつまらなくなる。オーディンの爺以上に冷めた存在になっちまう」

 

「そうだね。40位の時には、女性に対しても興味を失って置物みたいになってたっけ」

 

「ああはなりたくないからな」

 

そんな話をしているとボーデヴィッヒさんが意識を取り戻す。

 

「こ、ここは?」

 

起き上がろうとするのを簪が抑え、それから水差しで水を飲ませて落ち着かせる。

 

「ここは保健室だ。どこまで覚えている?」

 

「……教官の弟を倒した所まで。何があった?」

 

「こっちもよく分かっていない。ただ、急にボーデヴィッヒさんのISが溶けて、全く別の姿をとった。それで暴走みたいなことになって、オレと簪で救出した。その後も暴れようとしたから太陽まで投棄してきた。ISコアは無事だ。今はドイツと今後どうするかを交渉中だ」

 

「それから色々と臓器が弱ってるから1週間は安静にすること。無理をする必要はないからね」

 

「とりあえず、今はもう一度眠るといい。なに、何かあってもオレ達が守ってやるし、助けてやる。安心して眠るといい」

 

「……うん」

 

簪が子供を寝かしつけるように一定の間隔で軽く叩きながら、子守唄を歌う。昔、オレが作った魔術的にリラックスと睡眠導入が行われる子守唄だ。一曲丸々聞ける子は一人もいなかった。同じようにボーデヴィッヒさんもすぐに眠りについた。

 

「ふふっ、寝顔はやっぱり可愛いね」

 

「寝顔以外にも可愛いところなんていっぱいあったさ。慣れないことに戸惑っている姿なんて特にな」

 

「私も見てみたかったな~」

 

それから簪と他愛のない話をして、検査の結果を聞いて保健室から釈放されて、そのまま織斑先生に捕まり詳しい事情聴取が行われた。太陽まで短時間で行ってきたことに驚いていたが、そもそも量産機でも宇宙までは軽く飛べるし、宇宙に出てしまえば一度加速すれば後は慣性で移動できるんだから太陽に行くぐらいなら余裕だ。

 

行くのはな。重力圏に捕まれば戻るのにエネルギーを大量に消費するし、そもそも一度ブレーキをかけるのにどれだけのエネルギーを消費することになるやら。遠いから孤独にも耐えないといけないし、生命維持をISに完全に任せられる信頼がなければそんなことはできない。

 

それに対してオレは、そもそも真空に適応してしまっているので生命維持なんかは関係ない。孤独には慣れてるし、光速以上で飛ぶこともできる。というか、飛んだ。転移なんかだと軌跡が消えるから態と光速以上での飛行で太陽まで行ったんだからな。あとは、普通のブラックホール位なら重力崩壊面に達しようが抜け出せる位のパワーもある。熱に関しても超新星爆発に巻き込まれれば流石にボロボロにはなるがそれだけだ。黄色系恒星の太陽ごときの熱では日焼けすらしない。むしろ低温サウナだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のパパとママになってくれ!!」

 

「おい、誰だ!!ボーデヴィッヒさんに変なことを教えこんだ奴は!?」

 

明日から授業に復帰する予定のボーデヴィッヒさんが食堂で馬鹿な話を上げたので、つい大声で周りに問いただしてしまった。

 

「よし、とりあえず一から話そうな。どうしてそうなってほしいと思ったんだ?」

 

「……私は、軍で、優秀な軍人を作り出すために試験管から生み出されたデザインベビーだ。記憶にあるかぎりでは、その、世間一般で言う親子の情と呼べるものに触れたことなんてない。一時期は落ちこぼれになり、誰からも必要とされなくなったこともある。いや、一人だけ気にかけてくれていたか。それから、教官に出会って、特訓を付けてもらって、皆に認められるようになった。それが嬉しかった。だから、教官がドイツからいなくなってからはモヤモヤしたものが胸の奥にあった。元士郎にはこれがなんなのか分かっていたのだろう?」

 

「まあな。そいつはな、寂しいって感情だ。軽く話を聞いただけで分かった。軍人としてのスキルは確かに高いんだろうが、人としてはまだまだ子供なんだってな」

 

「そう真正面から言われると恥ずかしいな。まあ、それが分かるようになったのが、あの保健室の後だ。眠る直前までの暖かさがなくて、一人闇の中にいて、教官がドイツから去った時よりも胸のモヤモヤが大きくて、保健室にいた教師に尋ねた。そこで初めて寂しいということを知って、やっと分かったんだ。私は、家族のぬくもりを求めていたんだって。そして、教官よりも二人に求めてるんだと」

 

「なるほどな。話は分かった。結論から言おう。オレ達はボーデヴィッヒさんの両親になってやることはできない。政治的な面でもそうだし、オレ達は未成年だからな。法的に家族になることはできないし、同い年の子供なんてものはおかしいからな」

 

「……そうだな。すまない。この話は忘れてくれ」

 

落ち込んで去ろうとするボーデヴィッヒさんを簪と一緒に抱きしめて止める。

 

「が、家族の真似事程度なら出来る。もっとも、この歳で父親は勘弁してほしいから兄だけどな」

 

「私もお母さんはまだ早いからお姉ちゃんならいいよ」

 

背後から抱きしめているボーデヴィッヒさんが一度離してほしいというので、離してやるとオレ達に向かい合う。

 

「ほ、本当に良いのか。自分でも無茶を言ってるとは思ってるんだぞ」

 

「じゃあ止めようか?」

 

「い、いや、やめなくていい!!」

 

ボーデヴィッヒさんが顔を隠そうと抱きついてくるのを受け止めてしばらくしてから離す。甘やかせてやりたいが、その前に聞いておくことがいくつかある。

 

「ボーデヴィッヒさん、家族の真似事の第一歩だ。名前で呼ばせてもらうよ。無論、オレのことも名前で呼べばいい。できるか、ラウラ?」

 

「私も名前で呼んだらいいからね、ラウラ」

 

「元士郎お兄ちゃん、簪お姉ちゃん」

 

「ああ」

「うん」

 

オレ達が答えてやるとラウラが嬉しそうに抱きついてくる。今度は満足するまで抱きつかせておく。この後に怖がらせてしまうからな。

 

「話は変わるが、一番最初の言い回し、誰に教わった?」

 

純粋なラウラを汚している輩にお灸を据えてやらないとな。若干漏れた殺気に反応してラウラが硬直する。

 

「ドイツにいる副官の、クラリッサ・ハルフォーフ大尉です!!」

 

「ちょっとそれとお話ししないといけないから電話番号を教えてもらえる?」

 

「直通の通信機があります!!使用に制限はありません!!」

 

「ありがとう。それからごめんな、怖がらせて」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「謝罪は謝罪で受け取れ。何かして欲しいことはあるか?」

 

「えっと、それなら、一つ質問が」

 

「なんだ?」

 

「あの、子守唄はどこで?それとも有名なのですか?」

 

「……何?」

 

あの歌を知っているだと?馬鹿な、あれを知っているのは前世の家族のみ。

 

「誰が、知っていたんだ」

 

「えっと、副官のクラリッサです。私の教育係でもあって昔、歌ってくれたんです。昔からなんとなく知っている歌だと」

 

いや、まさか、あり得るのか?簪の方を見ると簪も思い至ったのか首を縦にふる。これは、直接会って確かめる必要がある。そう決心してラウラの質問に答える。

 

「あれはちょっとマニアックなものでな、知る人ぞ知るって奴だ」

 

「そうだったのか」

 

そこでちょうどよくチャイムが鳴る。授業に遅れるから急がないとな。

 

「それじゃあ、ゆっくりしてろよ、ラウラ」

 

「また夕食の時にね、ラウラ」

 

「うん、待ってるからな」

 

食堂から移動する途中で簪と先ほどの件を話す。

 

「簪みたいなことがあり得るのかな」

 

「分からない。でも、ありえたとしたらクラリッサの前世はたぶん」

 

「セラだろうな。仕事はできるんだけどどこかずれてるところが」

 

「にぎやかになりそうだね」

 

「だな。もし、セラだったら、留流子もいるのかもな」

 

「いるといいね。また、楽しい日々を過ごしたいね」

 

「ああ、絶対に過ごそう」

 



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遊ぶ蛇

目覚ましを止めて、隣で寝ているお姫様を起こす。

 

「う~ん、抱っこ」

 

「はいはい、仰せのままにお姫様」

 

横抱きにして風呂場にまで連れて行き、全身を綺麗に洗いあげる。洗いながらもイチャイチャしないと機嫌が悪くなるお姫様にリップサービスに加えて延長戦にまで縺れ込み、落ち着いた頃には既に昼過ぎとなっていた。

 

「いやぁ~、ご無沙汰すぎて堪能し過ぎちゃいましたね」

 

「全くだ。まあ、簪、ソーナの時も似たようなものだったからな。改めて、またあえて嬉しいよ、セラ」

 

「うん、また出会えて、本当に嬉しい」

 

そう言ってセラフォルー、クラリッサ・ハルフォーフがオレに抱きつく。

 

「はいはい、そろそろ仕事に戻るぞ」

 

「そうだった。とはいっても、隊長の新しい機体の確認はする必要もない気がするのだが」

 

「仕事をしましたって対外的に知らせないといけないだろうが。報告書も上げる必要があるんだろう」

 

「それで、機体の名前は?」

 

「自分のネーミングセンスが致命的なのは分かってるからな。前世の機動兵器のデルタ系列機を参考にしているからデルタの名で登録してある第三世代機だ。魔術炉心は積んでないが、装甲なんかは簪の物と変わらない。現行の機体では相手にならんだろうな。ちょっと特殊な装置も積んでるが問題はないはずだ」

 

「特殊な装置?」

 

「なんと説明すればいいかな。こう、感受性を高めて敵意に敏感になるというか、最終的な答えが出なかった人種に改造するというか」

 

「危険なのでは?」

 

「最初期の頃はヤバかったな。システムに適合していないと性格がドンドン凶暴的になっていくし、別にそういう機能があるわけでもないのに機体の関節部分から青白い炎が上がったりしてな。技術者を皮肉って、本来の人格を燃料に燃え上がってるなんて揶揄されていた。デルタに搭載しているのはそれの最終期型で特に副作用がないタイプだ。システムを起動している時だけ感受性を高めてくれる事もできるものだ。イギリスが開発したBT兵器よりも使いやすいBT兵器を使うのにその能力が必要なんでな」

 

「どこがそのBT兵器なんだ?」

 

「4対8枚の翼。そこが分離してビーム砲台と、何機かでビームを連結させてバリアを張れる。本当は斬撃機能も付けたかったんだけど、エネルギー不足でな。機動の方にエネルギーを回しすぎた。とりあえずは試乗するんだろう?上に報告するために」

 

「いいので?」

 

「知られても痛くも痒くもないからな。武装の説明だが、まずはBT兵器、それから携行武器としてオーソドックスにビームライフルとビームサーベルにマシンガンと腕にグレネードを仕込んである。それからちょっと変わりどころでシールドが2種類だな」

 

「シールドが?」

 

「片方は裏側にマイクロミサイルを4発仕込んである。もう片方はシールドとは名ばかりのハイメガランチャーの外側にシールドっぽい装甲が追加されているだけだな。シールドが破損すると高確率で発射できなくなる」

 

「明らかに欠陥ですね」

 

「仕方ないだろうが。本来は20mの可変機体をこのサイズにまで落としたんだから。シールドは戦闘機形態の際に必須だったんだよ。変形機構はオミットしたが使えないこともないから通常のシールドと一緒にランチャーも作った。威力は折り紙つきだ」

 

「なるほど。シンプルな作りですね」

 

「BT兵器が使いやすいからな。まあ、乗ってみろ」

 

クラリッサがデルタに乗り込み起動させて簡単に手足を動かす。

 

「反応が過敏だな。それになんだろう、感覚がいつもより鋭くなっているような?これが特殊な装置の力か?えっと、ナイトロVer4.87か。Verは消しておいたほうがいいな。隊長が疑問に思うかもしれない」

 

「了解」

 

「ターゲットを出してもらえるか」

 

「数は?」

 

「とりあえず10で」

 

「分かった」

 

ターゲットドローンを10機投入し、クラリッサがビームライフルの速射で次々落としていく。

 

「FCSも問題なし。命中性に連射力に減衰率も問題なし。追加で10、機動性を高めて」

 

指示通りに前世での平均的な能力のBT兵器と同じぐらいの機動性でドローンを飛ばす。それらをグレネードとシールド裏のマイクロミサイルで誘導してビームライフルの速射で撃ち落とす。

 

「お見事。次はBT兵器の方を頼む、深く考える必要はない。ただドローンを敵だと認識して、敵を撃つと考えるだけでいい。あとは、ナイトロによって思念が増幅されてBT兵器、フィン・ファンネルが反応して自動で攻撃してくれる」

 

「そんなに楽なのか?」

 

「AIが自動で最適なパターンを選択してくれるからな。軌道イメージを想像すればそのとおりにも動いてくれるが、あまり意味は無いな。死角に隠しておくとかそういうの以外は。まあ、使ってみれば分かるさ」

 

「わかった、試してみよう」

 

「ターゲットは30出すぞ」

 

先ほどと同じ移動するターゲットを30飛ばす。それがある程度広がったところでウィングバインダーからフィン・ファンネルが飛び立つ。

 

「行け、フィン・ファンネル!!」

 

8機のフィン・ファンネルが縦横無尽に飛び回り、ビームを放って次々とターゲットを撃ち落とす。その様子を見ながら、クラリッサの死角から魔力弾を放つ。

 

「っ!?」

 

クラリッサがそれに気づくのと同時に2機のフィン・ファンネルが面状のバリアを張って魔力弾を防ぐ。その後、エネルギー切れなのかウィングバインダーに戻っていく。

 

「バリアの方も問題なく作動を確認した。中々使えるだろう?」

 

「だからと言って不意打ちですか」

 

「それは悪かったとは思う。だが、性能をはっきりと理解できただろう?」

 

「それは、まあ」

 

「このために悪魔に転生させていないんだ。不意打ちのためにな」

 

「むぅ~、じゃあこれが終わったということは」

 

「ああ、悪魔に転生させよう。体が慣れた頃に無限の力も与えるさ。宇宙が終わるその時まで、オレの隣にいてくれ」

 

「ムードがないけど、それでもストレートに求めてくれたから及第点」

 

「ムードが出るまでお預けの方が良かったか?卒業まで待ってもらうことになるぞ」

 

「それはそれでちょっとなぁ」

 

拗ねたクラリッサがデルタから降りて傍にやってくるので抱きしめて頭をなでて軽いキスをしてと、本番にまで行かない程度にご機嫌取りをする。この後は簪とラウラに合流して買い物に行かないといけないからな。

 

「続きは夜に」

 

「仕方ありませんね。着替えてきます」

 

「おう、こっちはデルタを待機形態にする作業をやっておく。あんな訳のわからないものじゃなくてドッグタグ状にしておく」

 

 

 

 

 

 

 

「隊長、次はこちらの服を」

 

「こっちも良いと思うよ、ラウラ」

 

「敢えてこういうのはどうだ?」

 

「ま、待て待て!!」

 

ラウラの訴えを無視して色々と服を試着させていく。ラウラの私服が問題だったのだ。軍服と学園の制服や体操服しか持っていなかったのだ。そんなイジメの対象になるような格好をさせる訳にはいかない。幸い簪とサイズが似ていたのでそれを着せて買い物に連れ出してきてもらった。あとはオレと簪とクラリッサでラウラを着せ替え人形にしながらとりあえず夏物と秋物を揃えていく。

 

「とりあえずはこんな物でしょう。隊長、これからはちゃんとおしゃれにも気を使ってくださいね」

 

「眼帯も元士郎がいろいろ用意してくれたから、毎日変えてみようね。あと、カラコンも2種類用意してくれてるから」

 

「う、うむ。だが、大変そうだな」

 

「おしゃれが面倒に感じると女としての終わりです。注意してください、隊長」

 

「いつまでも綺麗でいたいと思うのは女の子として当然だよ、ラウラ」

 

年をとっても若く見えると他人に言われると嬉しそうだったよな。オレはずっと綺麗だと思ってたんだけど。ソーナは女として終わるより先に体に限界が来てたし、セラも病気で女を捨てざるを得なかったっけ。

 

「ちょっとだけホームセンターに寄らせてもらうぞ」

 

「何か、ああ、スモークチップ」

 

「家から送ってもらった分を切らしたからな。ハーブ類のストックは山ほどあるんだけどな。数少ない趣味が出来ないのは意外とストレスが溜まって体に悪いからな」

 

極端に暑からず寒からず飢えず乾かず多少の娯楽があれば人は生きていける。実体験済みだ。嫁三人が逝ってから表舞台から完全に降りたからな。未開地の奥でただ生きているだけの生活をそこそこ長い年数過ごしたから。

 

「さてと、時間も余ってるし次はどうする?」

 

「遊びに行きましょう。そして初めてのことに困惑する隊長を眺めるのが楽しいので」

 

「ならゲーセンだな。格ゲーで混乱するだろう」

 

ゲーセンまで皆で行ってみると、格ゲーコーナーの端っこに超次元世紀末バスケを発見した。ちょうどいいな。この世の理不尽を思い知るが良い。

 

ジョインジョイントキィ 

デデデデザタイムオブレトビューションバトーワンデッサイダデステニー 

ナギッペシペシナギッペシペシハァーンナギッハァーンテンショーヒャクレツナギッカクゴォゲキリュウデハカテヌナギッナギッゲキリュウニゲキリュウニミヲマカセドウカナギッカクゴーハァーンテンショウヒャクレツケンナギッハアアアアキィーンホクトウジョウダンジンケンK.O.イノチハナゲステルモノ 

 

「はぁ?いや、まてまてまて!!」

 

バトートゥーデッサイダデステニー 

セッカッコーハアアアアキィーンテーレッテーホクトウジョーハガンケンハァーンFATALK.O.セメテイタミヲシラズニヤスラカニシヌガヨイ 

ウィーントキィ(パーフェクト) 

 

「唖然としている隊長も慌てている隊長もかわいいですね~」

 

「いやいや、まてまて、一体何だ!?」

 

「何って、基本コンボ?」

 

「何処がだ!?10割丸々持って行かれたぞ!!」

 

「大丈夫だ。全キャラに10割コンボが存在しているから。ワンチャンあれば勝てるから」

 

「明らかに設計ミスだろう!?」

 

「ああ、開発者が設定ミスった結果に生み出された10割コンボだからな。これが特定キャラにしか使えないならクソゲーだったが、修羅共によって基本的な10割コンボが全キャラで発見されてしまったからな。評価が一周して神ゲーになった」

 

「それを初めてやる私にやらせたのか!?」

 

「何事もチャレンジだな。さて、ラウラでも簡単にできそうなのは、おっ、クライシスが空いてるな」

 

ガンシューティングなら最初の説明を受ければ問題ないだろう。普通ならな。今度は簪とラウラが二人プレイで始めるのだが、1-2終了時点でのスコア差がひどい。なにせラウラが銃弾を叩き込めたのは耐久力がそこそこある中ボスとボスだけでそれ以外は簪が全てヘッドショットで撃ち抜いている。しかもハンドガン縛りでだ。

 

1-2終了後にラウラが落ちこんで銃を置いてしまったのでオレが代わりにプレイする。銃の扱いはオレの方が上なので7割ほどの敵を撃ち抜いて最後まで突き進む。

 

「ハイスコア更新っと。G・Sでいいか」

 

「私はK・Sっと」

 

クライシスを終わらせてからラウラとクラリッサを探すと若干ヤサグレ気味のラウラがスロットをやっていた。スロット特有の滑りに苦戦しながらも目押しでそこそこ増やしているようだ。たまに演出に見入って手が止まっていることがあるが、あれ?あの作品ってこっちの世界にもあったんだな。前世じゃ映像化は無理だった漫画のはず。演出が控えめになっているが、内容は同じ臭いな。高田さんの変身に目が死んだようになったな。アニキィ・ベルは初見ではきついよな。あっ、ダブルバイセップスが決まった。続いてエリちゃんと極左の担任の先生との討論会が始まったな。さすがロジカル魔法少女。ラウラが完全に圧倒されてるな。

 

クラリッサはその後ろでパチンコをやってる。げっ、ループ物の魔法少女が魔女と戦ってるやつじゃないか。まさかのお供が元凶とかいう最悪の作品じゃないか。お菓子の魔女は帰れ。

 

「ラウラ、大丈夫か?」

 

「大丈夫じゃない。なんなのだ、この作品は」

 

「見ての通りだ。アニキィ・ベルだから仕方ない。基本的にキャラが濃い奴しかいないぞ。モブも基本的にキャラが濃い。大人が多い作品の所為か、ガチの時の気迫は中々の物だ」

 

「いや、あの格好とか」

 

「お笑い芸人みたいなものでいずれ慣れる。女装や男装なんて本人が意識しなければ恥ずかしくもなんともない」

 

「ほう、ではしてもらいましょうか」

 

いつの間にかクラリッサがパチンコをやめて話を聞いていたようだ。

 

「別に構わんぞ。なんなら夏のイベントにでも参加するか?」

 

「衣装はこっちで指定するから、それでお願いね。ラウラも何かコスプレしよっか」

 

「わ、私がか!?」

 

「ラウラなら可愛く着飾れるよ。なんなら今やってるプリベルのコスプレでもしてみる?」

 

「じゃあオレ、桜の全力モード」

 

「「却下」」

 

「ええ~、じゃあ何よ?」

 

「そりゃあ、プリベルでしょう」

 

クラリッサが即答する。

 

「中途半端に似合って失笑物だろうな」

 

「そこはお化粧とか詰め物でなんとかなるって」

 

簪がフォローなのかどうか分からない発言をする。別に女装のコスプレぐらい構わないけどな。

 

「まあ、なんとかするけどよ。2代目でいいよな」

 

「仕方ないね」

 

「いや、私もやるのか?」

 

「大丈夫、私もクラリッサも一緒だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お行きなさい、ブルー・ティアーズ!!』

 

『行け、フィン・ファンネル!!』

 

6機のブルー・ティアーズと8機のフィン・ファンネルが空を飛び、ブルー・ティアーズが一方的に叩き落され、オルコット自身もビームライフルの連射を受けて落ちる。そのまま凰へと向かい見えないはずの弾丸を事前に察知して1発も当たらず、すれ違いざまのビームサーベルとグレネードを受けて終わる。そして織斑はハイメガランチャーの直撃を食らってアリーナのシールドに叩きつけられて気絶した。篠ノ之は訓練機ということで手加減したのか武器は使わずに格闘だけで倒した。全員が落ちたところを簪が拘束してオレがいるピットとは逆のピットに投げ捨てている。

 

「ラウラ、お疲れ様。こっちで見る限り問題はないみたいだけど、何か問題はあったか?」

 

『いや、特に問題は見当たらない』

 

「それじゃあ、本来行う予定だった航続距離のテストだ。一度補給に戻ってくれ」

 

補給に戻ってくるラウラとデルタを眺めながらどうしてこうなったのかと頭を痛める。

 

ことの始まりは寮の屋上で燻製の準備をしていた所にクラスメイトの吉野さんがやってきたことから始まる。アリーナで織斑一行が痴話喧嘩で暴れていて同じアリーナで訓練中の春野さんが流れ弾で落ちて気を失っていると連絡が入ったのだ。春野さんはすぐに回収されて保健室に運ばれたそうだが、一度織斑たちにはお灸をすえる必要があると思い現場に向かった。

 

そこではデルタの航続距離のテストのために準備していたラウラが他の生徒をかばいながら避難させているところだった。簪も同じようにクラスメイトに聞いたのかアリーナへとやってきた。オレと簪は状況を確認してラウラに織斑たちを無力化するように指示を出した。結果、4対1にも関わらず速攻で片がついた。向こう側の被害は胸部周りの装甲と武装が中破程度だろうな。まあ、それぐらいは許容範囲だ。

 

「こっち、終わったよ。全員先生に預けておいた」

 

簪が作業を終わらせて傍にやってくる。

 

「全員反省文の提出みたいだけど、絶対に懲りてない。同じことを繰り返し続けるようなら」

 

「ほっとけ。勝手に孤立していくだろう。排斥はその後で良い」

 

あれはもう手遅れだ。イッセーよりも物事を考えていない。あいつは性欲が全面に押し出ていたが、時と場合をわきまえるし、周りに被害が出そうなら自分に向けてどうにかしていたからな。

 

補給が終わったラウラと簪で航続距離のテストに入る。学園から南東方向に飛べるだけ飛ぶ。出来る限り手を施してあるとは言え、ISでは2000kmに届かず1800kmでエネルギーが切れる。その後は簪と二人で抱えながら更に200km程飛び、海に浮かぶ1隻の船に着艦する。

 

「万能航行艦オーフィスへようこそ。案内役のシャルロット・エアです」

 

「隊長、お疲れ様です」

 

オレ達を出迎えてくれたのはクラリッサと、元シャルル・デュノア、現シャルロット・エアだ。シャルロットは先日、フランス政府と調整が済んだために大暴露会見を行い、デュノア社及び、女性権利保護団体とそれに関わっていた者たちへ致命的なダメージを与えた。フランス政府は他に脅されていたと言う形に持っていったためにそこまで批難は行っていないが多少のダメージを受けている。その分の補填としてジェガンタイプの装備一式の設計図とガンダリウムγ、プラスシャルロットがD×Dで働きたいというからインコムを追加で裏から回してある。これで世界で唯一の量産型の第3世代機保有国になれるだろう。そんなことがありシャルロットには雑用と秘書業を任せることになっている。

 

「大山さん、整備と補給をお願いします」

 

「お~う、任せておけ。もう少ししたら航宙テストに移るから艦橋に上がってるといいぞ~」

 

大山敏郎の姿に化けている分体にISの整備を任せてロッカールームに向かう。

 

「オレは何回か来ているから案内はいらない。先に艦橋に上がっておくからな」

 

女性陣と分かれて男性用のロッカールームでISスーツの上にジャケットとズボンを履いてからロッカールームを出て艦橋に上がる。

 

「う~っす、調子はどうだ?」

 

「前世のヴリトラと違って小さいから軽いな。それでもさすがは改大和級。硬いにも程がある」

 

航海長を務めるのは宇宙海賊時代の友人だったブレス・アーカディアンの姿に化けている分体だ。良い年したおっさんだったが、家族思いの男だった。息子を救うために盾になって散ったと噂で聞いたが、その時は隣の銀河に居たために何もしてやれなかった。

 

「大気圏離脱位は問題ないだろうが、チェックだけは確実にな。この世界じゃ初めての万能航行艦だからな」

 

「戦艦の間違いだろう?武装は隠してあるだけで」

 

「うるさい奴らが多いだろうからな。隠しておけばいい」

 

「まっ、そうだな。気軽に宇宙にまで上がれる船だからな」

 

「万能航行艦位、ISが宇宙開発方面で使われればすぐにでも作られていたはずなんだけどな。コアを使ってPICを発生させて外部供給で出力を上げれば浮かばせるぐらいなら簡単だ。その後に別に推進機関を取り付けるだけだ。しかも、ジャンボジェットのエンジンだけで大気圏離脱ぐらい簡単にできる。で、宇宙にまで行けば、あとはPICだけで十分だ」

 

「あとは気密や装備なんかの問題もあるが、それだけだな」

 

「大気圏突破なんてシールドで簡単にできるしな」

 

そこまで話したところでシャルロットが他の三人を連れて艦橋に上がってきた。それと同時に艦長室から椅子ごとサコミズ・シンゴの姿に化けている分体が降りてくる。

 

「ようこそ、万能航行艦オーフィスへ。私が艦長のサコミズだ。早速だけど、これより航宙テストに入る。空いている席に座ってもらえるかな?」

 

「航宙テスト?」

 

「ボーデヴィッヒさんだったか?君はオレの左の席に座ると良い。一番眺めがいいからな。何をやるのかすぐに分かる。簪は念のためにレーダー席に、元士郎は機関制御席、クラリッサは艦内制御席、シャルロットは通信制御席でいいだろう」

 

ブレスの指示通りに席に座る。久しぶりに発進シークエンスをちゃんと踏んでみるか。

 

「錨をあげろ」

 

「錨をあげます」

 

「補助エンジン、動力接続」

 

「補助エンジン、動力接続。補助エンジン低速回転1600、両舷バランス正常」

 

「微速前進0.5」

 

「微速前進0.5」

 

「波動エンジン内、エネルギー注入」

 

「補助エンジン第2戦速へ」

 

「波動エンジン内圧力上昇、エネルギー充填90%」

 

「補助エンジン最大戦速へ」

 

「エネルギー充填100%」

 

「現在補助エンジン最大戦速」

 

「エネルギー充填120%フライホイール始動」

 

「第1から第4フライホイール始動」

 

「波動エンジン点火まで5、4、3、2、1」

 

「接続」

 

「点火」

 

「オーフィス、発進」

 

波動エンジン点火と同時に艦首が上がり、徐々に高度を上げていく。

 

「船が空を飛ぶのか!?」

 

「万能航行艦の名は伊達じゃないんでね。上げ舵45、大気圏内飛行用主翼展開」

 

そして30秒ほどで大気圏を離脱して宇宙にまで上がる。

 

「大気圏の離脱を確認。主翼収容」

 

「補助エンジン、メインエンジン共に異常なし」

 

「艦内及び艦外に異常ありません」

 

「短距離レーダーに登録されていない人工衛星を確認」

 

「スクリーンに投影して」

 

スクリーンに投影された人工衛星を見て失笑する。なんだよあのデザインは?

 

「人参?」

 

ラウラの疑問にサコミズ艦長が答える。

 

「十中八九、篠ノ之博士の物だろうね。宇宙に関する法律は曖昧なことが多いし、確認も難しいから勝手においてるんだろうね。マーキングだけはしておいて、テストを進めよう」

 

「了解」

 

「頼むね。それじゃあ、当初の予定通りこのまま月軌道まで向かおう。第2戦速」

 

「了解、第2戦速。月軌道到着まで30分ってところでしょうな」

 

「そうか。さて、それじゃあ皆、今のうちに船外服に着替えておいで」

 

「「船外服?」」

 

ラウラとシャルロットが首を傾げている。まあ、わからんだろうな。

 

「宇宙服のことだ。折角来たんだ、宇宙遊泳を楽しむと良い。オレ達大人は色々と点検があるからな」

 

サコミズ艦長とブレスに勧められたこともあり、全員が船外服に着替えに再びロッカールームに向かう。着替え終われば空間汎用輸送機輸送機コスモシーガルが格納されている左舷格納庫で待機する。他の皆が来る前に先に月軌道に到着したとアナウンスが流れる。

 

「お待たせ」

 

月軌道に到着してから5分ほどで皆がやってきてシーガルに乗り込む。操縦するのはクラリッサだ。

 

「いつの間に操縦なんて覚えたんだ」

 

「隊長が学園にいる間は基本的に暇なのでD×D所属の機体の操縦を習っているんですよ。これでよしっと。こちらシーガル、発進準備完了」

 

『サコミズだ。何かあってもすぐに動けるように短距離レーダーの範囲から離れないようにね。それじゃあ、楽しんでくると良いよ』

 

ハッチが開き、格納庫内のクレーンがシーガルを宇宙へと出す。

 

「シーガル、発艦します」

 

クレーンのロックが外れ、シーガルがゆっくりとオーフィスから離れる。何か事故があっても大丈夫なように艦橋からも肉眼で見える位置に移動してシーガルが止まる。

 

「それじゃあ最終確認だ。メットとかの不調、接触不良は?」

 

「問題なし」

 

「メーターの見方なんかは」

 

「大丈夫」

 

「最後に安全帯の装着」

 

「準備よし」

 

「ハッチを開けるぞ。心の準備は良いな?」

 

と確認を取りながらハッチを開ける。

 

「ちょっ、心の準備が!?」

 

「呼吸が苦しいやつ挙手。よし問題なし」

 

そのまま全員を引っ張るように宇宙へと飛び出す。

 

「ようこそ宇宙へ。楽しんでいけよ」

 

「これが、宇宙なのか。なんだろうな、とても、そう、寂しい場所に感じる。どこまでも大きいのに、受け入れようという感じがしない。海とは全く別だ」

 

ラウラの感性はなかなか良いな。宇宙は優しい存在じゃない。生物が生きられないからじゃない。宇宙は何も産み出していないからだ。ただそこにあるだけの空間。それが宇宙。暫くの間宇宙遊泳を楽しんだ後に月に降りることになる。そこでもラウラは何かを感じ取ったみたいだ。子供の感受性ってやつはすごいものだな。ラウラのニュータイプへの覚醒は近いだろうな。

 

 



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決める蛇

 

 

 

やはり艦長席は落ち着くな。長い間、色々な艦の艦長席に座ってきたからか妙に落ち着く。

 

「目標地点を視認。これより着水する」

 

おっ、あのバス群がIS学園御一行様だな。今頃バスの中は荒れてるだろうな。

 

「結構水深が深いな。まあ、このあたりでいいだろう。機関逆進、機関停止、錨を下ろすぞ」

 

『お~い、追加装備のクロスラーの整備と調整は終わったぞ。それから打鉄弐式とデルタの共有武装のコンテナの準備も終わったからな。テープで分かりやすいようにしてあるからな。オレはもう酒飲んで寝るから起こすなよ』

 

「おう、お疲れさん」

 

「ボートの準備ができたよ。早く行かないと織斑先生がうるさいんでしょう?」

 

「そうだな。艦はいつでも出せるようにしておけ。短距離レーダーに移動する人参を確認したんだろう?絶対何か起こすはずだ。武装の準備も頼むぞ」

 

「了解。火器管制システムのテストも兼ねよう。今日、仕掛けてくると思うかい?」

 

「それはないな。明日からテストを行うんだ。今日は遊ぶだけだから多少のちょっかい程度だろう。というわけで半舷休息で」

 

「了解。楽しんでくると良いよ」

 

完全に独立した分体のためにこういう会話が違和感なく行えるのだ。まあ、分体の分、核となっている武器が減るのだが、大した問題ではない。

 

IS学園御一行様に合流後、すぐに織斑先生拘束されて事情聴取を受けることになった。

 

「匙、あの艦は一体何だ?」

 

「D✕D所有の万能航行艦オーフィスです。艦首を超巨大回転鋭角に換装すれば文字通り何処だろうと、いや、さすがにブラックホールとか白色恒星の重力圏内とかは無理ですけど、大抵の場所は航行可能の艦ですね。ちなみにISの技術は量子格納しか使われてません。公開情報はこれだけです。これ以上はオレ自身も聞いていません」

 

オレが魔術炉心に魔力を叩き込めば文字通り万能だけどな。

 

「あんなものを乗り付けて何を考えている」

 

「それはオレじゃなくて社長に言ってください。オレは前日からオーバーホールに付き合ってただけなんですから。時間がかかってるなと思ったらこのまま乗り付けるとか言われたんですから」

 

「……それもそうか。すまなかったな」

 

「いえ。あっ、艦に行くなら連絡さえ入れればボートで迎えに来てくれるはずですから。これ、艦への番号です」

 

普通ならありえない20桁の電話番号だが、それで繋がるようにしてある。

 

「それではオレはこれで」

 

「ああ、女ばかりでゆっくりできるかはわからんが、少しは羽目をはずしてくると良い」

 

「ええ。失礼します」

 

職員用の部屋から出て割り振られた部屋に向かう。織斑との二人部屋だが、まあ、問題はないだろう。所詮は2泊3日だからな。それぐらいは我慢してやるさ。荷物をおいて水着に着替え、アロハシャツとサングラス装備で浜辺に出る、前に岩陰に隠しておいた銛と網にバーベキューセットと調理器具一式を引っ張り出す。それらを持って浜辺に行けばラウラに泳ぎを教えていた簪がまたかと言った風に頭を振る。それを無視してバーベキューセットを組み立てて火を熾してからアロハとサングラスを置いて銛と網を装備して海に突撃する。物の20分ほどで網が一杯になるほどいい海なようで伊勢海老まで見つかった。

 

「ここはやっぱり残酷焼だよな」

 

伊勢海老を生きたまま網に乗せて焼き殺す。中々エグい行為だが、これがうまい。焼きあがった伊勢海老を解体して醤油を垂らして、自分達の分だけを確保して周りで見ていた奴らに配る。いや~、サバイバルもどきは楽しいな。サバイバルはサバイバルで楽しいけどな。このぬるい感じも嫌いではない。

 

「中々のサバイバル術だな」

 

ラウラがオレの腕に感心しているがこの程度は序の口だ。

 

「飲水がある程度確保できて獲物が豊富な山とか島ならテレビの企画みたいな装備が豊富な状態じゃなくても10人ぐらいなら10年単位で普通に養える自信があるな。一人なら寿命が来るまで生きれるな」

 

「装備が豊富?」

 

「今からこの格好で無人島に送り込まれても結構余裕。石器とかなら簡単に作れるし、なくてもイノシシぐらいなら素手で狩れるからな。昆虫食も普通にできるし、動物の生き血を飲むのも出来なくはないな。きのこには手が出せないが、野草ならどれがどう食えるのかは完璧だ」

 

ラウラに説明しながらも足元に落ちていた石を打ち付けあって適当に石包丁を作り上げる。それを使って海中で絞めておいたタコを刺し身にする。出来れば茹でダコにしたかったのだが、湯を沸かすのが面倒だった。おそらく初めて食べるであろうラウラは躊躇なくフォークでタコの刺身を口にする。

 

「くにくにしてあまり美味しくないな」

 

「茹でてから締めればもっとうまいんだけどな」

 

醤油を付けてタコの刺身を食うが、微妙だな。というか、収穫物がなくなったな。もう一度、潜るか。

 

「はいはい、もう海産物を取りに行かなくていいから」

 

簪に止められたので諦める。海産物がなくなった所でバーベキューセットを処理する。バケツに海水を張り、炭を一つ一つトングで丁寧に突っ込んでいく。更にトングで炭を砕き、完全に火が消えたのを確認してから離れた場所に流す。バーベキューセットにも海水を流し、大雑把に洗ってから真水の濡れ拭きで塩分をしっかりと落としておく。それが終われば解体して収納しなおせば終了だ。

 

その後は簪に付き合ってラウラに泳ぎを教えたり、皆に混じってビーチバレーに参加したりと十分に充実した休暇となった。織斑たちは無視だ無視。関わり合いたくない。ISを展開しそうになったときだけはビーチボールを叩きつけて阻止して織斑先生に任せた。

 

夕食も織斑の周りはうるさかったが無視だ無視。席も周りの皆と協力して端に追いやったからな。簪とオレの間に座っているラウラが箸に苦戦しているので適当に口に放り込んでやる。おっ、本わさびを使ってる。結構良いもの使ってるな。

 

夕食が終わり、オレと織斑に割り当てられた大浴場の利用時間になったので風呂に向かう。織斑も付いて来るが、まあ、普通のことだ。向こうは物凄く話したそうにそわそわしている。どうするか、ここらで一度じっくりと話すか?イッセーとも突っ込んだ話をしてから多少は落ち着いたからな。一度ぐらいはチャンスをやってもいいだろう。

 

汚れを洗い落としてから露天風呂に浸かり、織斑と対面する形を取り、織斑が口を開く直前に今までのぬるい空気を脱ぎ捨て、大魔王であった頃の空気を纏う。

 

「さて、織斑よ。こうやって時間に余裕がある状態で二人きりになったのは初めてだな」

 

「あ、ああ。そうだ、ですね」

 

「変な敬語になっているぞ。気にすることはない。普段通りに話せ」

 

「い、いや、その」

 

「ならばそのままで構わん。それで、オレに話したいことがあるのだろう。今までは関わりを持ちたいとは思わなかったが、今は機嫌が良い。オレのお前に対する印象を変えれるチャンスをやろう」

 

「あ、えっと、その、だな、今まで、あまり話せなかったし、少しは仲良く出来たらなって。それに、ほら、男ってオレ達だけじゃないか。お互い苦労しているから」

 

「話しにならんな。お互いに苦労している?オレの苦労の大半はお前とお前の回りにいるバカどもが原因だ」

 

「オレ達が?」

 

「何も分かっていないのか。お前たちがクラスで孤立していることも気づいていないのか?最近、篠ノ之とオルコット以外のクラスメイトと挨拶や連絡事項とか事務事項以外の会話をした覚えはあるか?」

 

「それ、は」

 

「気づいていなかったか。はっきり言っておこう。何人かに相談もされた、お前たちが迷惑でどうにかならないかと?それに対する返答はこれしかない、政治的な都合でどうすることも出来ない。辛いのは分かるが、どうすることもできない。力になれなくてすまない。頼ってきてくれた子にこんな返答しかできない惨めさが分かるか。わからないだろう?今日なんて分かりやすいぐらいに孤立していたのに」

 

バーベキューの時にも傍に居らず、ビーチバレーにも誘われていなかったのだ。それにもかかわらずこいつらは気づいていないのだ。

 

「織斑、お前の目はガラス玉で脳みそはメロンパンか?現状をちゃんと見ろ。それが理解できないなら、オレは仲良くするつもりはない。それからお前の周りの奴らにもそれを理解させろ。出来ないのなら排除するだけだ」

 

「箒たちに何をするつもりだ!!」

 

「事実を外に流すだけだ。教師陣が今は押さえつけているが、直訴するか生徒会長の座を奪って公表する。知っていると思うが、生徒は校則で守られるが、それはIS学園の生徒としてだけだ。帰国命令を拒否することもできるが、それをすれば祖国での立場は最悪な物になる。社会的にも経済的にも追い込まれ、代表候補生からも降ろされる。代表候補生から降ろされれば専用機も回収される。元々専用機は国の物を借用しているだけだ。これを拒否すれば国際犯罪者として国は訴えることもできる。それらを無視しても良い。最長でも学園には留年含めて5年しか居られない。国際犯罪者であれば亡命も不可能。世界を敵に回せるか?」

 

「回してみっ!?」

 

最後まで言い切らせずに織斑の顔面を掴んで力をかける。

 

「いつまでも子供でいられると思うな、この糞ガキが!!世界はお前が思っているよりも複雑で汚いんだよ!!自分の立場も分かっていないガキが調子乗ってんじゃねえよ!!お前が得たと思っている力も所詮は借り物!!中身が伴っていない力が何になる!!周囲への迷惑を考えたか?織斑先生を犯罪者の姉と呼ばせる覚悟は?ないんだろうが!!感情で喋ってるんじゃねえよ!!」

 

怒鳴りつけて、怪我だけはしないように湯の中に放り込む。全く、イッセーとは大違いのただの馬鹿だったか。念のためにテントと寝袋を隠しておいてよかった。浴衣から私服に着替えて隠しておいたテントと寝袋で一夜を過ごす。

 

 

 

 

 

 

 

 

元士郎の機嫌がかなり悪い。昨夜の露天風呂での怒鳴り声は殆どの者が聞いている。だから、皆何も言わずにそっとしている。聞いていないのは一番聞かせたかった織斑一夏の周りの者達だけ。織斑先生は聞いていたのか、苦虫を噛み潰したような顔をしている。それにあの4人は気づいていない。そのことに元士郎の堪忍袋の尾が切れた。完全に無視することに決めたのだろう。怒りが一気に霧散する。路端の石ですら利用価値を見つけ出す元士郎が完全に無視することに決めた。ろくなことにならないだろうなぁ。

 

専用機持ちじゃないのに篠ノ之箒がいることに騒いでいた二人を割くように空から篠ノ之博士の人参型のロケットが降ってきた。それを見て篠ノ之箒がいる理由がわかった。姉に強請ったのだろう。人の力を借りて男を得て何になるというのだろう。私の中で篠ノ之箒の評価が大きく下がる。そんなことを考えていると篠ノ之博士がこちらにやってくる。一体どういうこと?

 

「やあやあやあ、君達が匙元士郎と更識簪とラウラ・ボーデヴィッヒだね。私のことは知っているだろうから別に話す必要はないよね。私がこうやって君達に話しかけているのは君達のISが特殊だからだ。コアネットワークから切断され、態々別系統の通信装置なんかを積んでまでそれを隠そうとしているからだ。なんで知っているかなんて聞くなよ。なぜなら私は篠ノ之束だからさ。そんな束さんだけど君達が使うISの武装やシステムなんかには興味津々さ。だけど私から見ればまだまだ調整が甘いように見える。今ならこの束さんが見てあげようじゃないか」

 

「調整できるものならどうぞ。貴女には絶対無理でしょうが」

 

一気にまくし立てて喋る篠ノ之博士に元士郎はただそう告げて銃を、私は予備の閻水を渡す。それを怒りの表情を浮かべながら掻っ攫う篠ノ之博士だが元士郎の言ったことは本当だ。そもそも銃の方はイミテーションで、ただ元士郎がイメージしやすいからエクソシストたちが使っていた銃を持っているだけなのだ。閻水に至っては魔力が使えなければどうすることも出来ない。このまま取られたままでも問題はない。

 

それよりはコンテナ詰めにされた新しい武器の調整のほうが大事だ。ラウラも使うことになるんだから、ちゃんと相手を殺さない程度でラウラにも扱える程度であることを確認しないとね。

 

ターゲット代わりに元士郎が新たに追加された翼、クロスラーで飛翔する。翼を得たことで滑空ができるようになり消耗が減るらしいけど、気分の問題なんだろう。節約が大好きだから。

 

幾つかのライフルやバズーカを試していると向こうの方でもミサイルを撃ったり、それを迎撃する音が聞こえてくる。その後、クラリッサから連絡が入る。

 

『ハワイで演習中だったアメリカとイスラエルが合同で開発していた無人のISが暴走を開始。日本への進路を取っています。これよりD✕Dはヨルムンガンド級の売り込みも兼ねて、これの鹵獲、または撃破に向かいます。三人は非常事態の対応班としてオーフィスへ搭乗してください』

 

「「「了解」」」

 

織斑先生が勝手に行動するなと言っているが問題ない。校則上、教師も生徒を拘束する権限はない。明確の理由が存在するから。就職先はちゃんと守らないとね。

 

「ところで、オーフィスを足代わりにするんだよな?」

 

ラウラがそう尋ねてくるが元士郎が否定する。

 

「ラウラ、お前が前に座っていたあの席、火器管制統括席だ。見てみな」

 

オーフィスは既に補助エンジンを始動して発進しながら艤装を施している最中だった。最終型48センチ3連装衝撃砲3基9門に20センチ3連装衝撃砲2基6門、12.7センチ4連装高角速射反中間子砲32基が量子展開され、隠れていた艦首および艦尾魚雷発射管24門、両舷短魚雷発射管16門、煙突に偽装されている8連装ミサイル発射塔、艦底ミサイル発射管8門が起動する。カタログスペックしか見たことがなかったけど、これはすごい。

 

「あれが万能戦闘空母オーフィスの真の姿だ」

 

「空母?ということは艦載機を積んでいるのか?」

 

「ああ、2個航空隊を積んでいるらしい。対IS戦闘の訓練も行っているそうだ。ちょうど1機発進するところだな。おそらくは偵察だろう」

 

RF(リファイン)ゼロとRF(リファイン)パルサーならカタログスペック上は大気圏内モードでもIS以上の性能を発揮できる。

 

「とりあえず話は後だな。そろそろ波動エンジンに火が入る。その前に着艦するぞ」

 

RF(リファイン)ゼロ用の発進口からオーフィスの艦内に入る。

 

「さてと、とりあえずは艦橋に上がるか。いざという時の直掩らしいが、この艦がいざということになることはないな」

 

そしてISを解除したのを確認してからポツリと呟く。

 

「伊達に地球を何度も外敵から救ってきた艦の直系じゃないからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レーダーに目標を確認。実体弾の射程に捉えました」

 

「全艦第3種戦闘態勢。第1第2主砲に九式自己鍛造弾装填、第1副砲に三式融合弾装填、第3主砲第2副砲は最低戦闘出力の衝撃砲を充填、艦首魚雷発射管に対艦魚雷、艦尾魚雷発射管にバリア魚雷、両舷魚雷発射管に対空散弾魚雷を装填、8連装ミサイル発射塔に対空ミサイル、底部ミサイル発射管に対空散弾ミサイルを装填。全部近接信管で。反中間子砲はいつでも発射できるようにだけはしておいて。鹵獲が無理な時に撃墜する準備を」

 

「測距よし、軸線よし、天候・空気抵抗の計算終わりました。いつでもいけます」

 

「IS部隊の着艦を確認。波動防壁展開できます」

 

「艦長、いつでもいけます」

 

「よし、高度50まで上昇後、第1第2主砲斉射。その後、防壁を展開。皆、普通のISとの交戦はこれが初めてだ。やりすぎないように注意しよう」

 

『『『了解』』』

 

「撃ち方始め!!」

 

主砲から九式自己鍛造弾が発射される。

 

「先行しているRFゼロから映像が来ています」

 

「メインパネルに投影して」

 

メインパネルに投影されると同時に九式自己鍛造弾が敵ISからの攻撃で迎撃され、散弾がばら撒かれ、被弾する。装甲の一部が破損しているようだが、殆どはシールドで守られたようだ。

 

「第2射、撃て!!今の攻撃は?」

 

「解析中ですが、おそらくはホーミングレーザーと思われます。ロックオンではなく、あくまでカメラで捉えた物体を物理計算することでホーミングさせているようです」

 

「つまりはロックオン警報を出させないためか」

 

2射目を迎撃せずに居た所を近接信管が作動して再び散弾が撒かれて被弾する。

 

「九式自己鍛造弾から三式融合弾に変更。副砲と合わせて撃て」

 

「はっきり言えばあのISは対ISではなく対軍用と考えられます。昔から好きですから、アメリカは」

 

今度は一気に砲弾よりも上空に上がって回避するが、再び近接信管で三式融合弾が起爆し、爆発に飲み込まれるのを確認する。今度はそこそこシールドを抜いたようでホーミングレーザーの発振器である翼が半分以上損壊している。もう1射と行きたいところだけど、流石に対応されて潜行してこちらに向かってきている。

 

「敵IS、エネルギー値が急激に上昇。おそらくは第二移行と思われます」

 

「第1第2主砲、第1副砲を衝撃砲に切り替えて。こちらも潜行し、面舵90、照準を合わせて。鹵獲にはどれだけ削ればいいか計算」

 

「下げ舵15、面舵90。潜航モードに切り替える」

 

「計算出ました。収束モードで主砲2発分の直撃です」

 

「収束モードでロックが完了」

 

「確実に1発ずつ当てて行こう。主砲1~3番を5秒毎に順に撃て。副砲は収束させずに敵の回避を妨げるようにばら撒いて。左舷バーニア点火、敵との距離を維持。撃て!!」

 

そこから2分ほどで敵ISの停止を確認。本体に回収に向かってもらい、最後の悪あがきを躱してコアを引き抜いて終了した。その後、機体とコアを収容してハワイまで飛行することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの二人の武器を解析して、いや、解析なんてものじゃない。あんなのは観察だ。この私が観察程度のことしかわからなかったのだ。むしろ、銃の方はともかく、水の剣の方はもとに戻すことが出来ないぐらいにバラバラにしたのにも関わらずだ。

 

更に、箒ちゃんといっくんのために用意したISもあの艦に撃墜されてしまった。最新型のISが艦に負けた。それどころか売り込みの一環で、デモンストレーションに使われてしまった。

 

そして何より、私の独壇場である電脳空間ですら完全敗北。データを奪おうとハッキングを仕掛けると同時に逆ハッキングを受けて外部へのアクセスを全てロックされた。ハード自体を交換するしか出来ることがなかった。

 

すべてが私の思い描いていたものとは真逆の結果で終わった。認めたくなくとも、事実が目の前に置いてあるのだ。

 

「あは、はは、あははははははは。ふざけるな!!この束さんが見下されるなんてありえないありえないありえない!!」

 

絶対に、私は負けない。世界は私のおもちゃなんだから!!

 

 

 

 

 



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揃う蛇の番

 

 

臨海学校が終わり、D×Dはおびただしい数の問い合わせを受けている。無論、万能航行艦オーフィスの問い合わせだ。人類初の万能航行艦であり、ISをIS以外で撃破した兵器でもある。アメリカやロシアなどからの購入したいやライセンス契約をしたいという話はまだ分かるが、お隣の国から意味がわからない要求や日本人からの武装解除しろという意味の分からない問い合わせなど、様々な問い合わせが続いている。とりあえず、うるさい日本人を黙らせるために本社、並びに工場を撤去。会社自体も解体し、アメリカ企業として再建。本社をアラスカに置くことにする。現在、アメリカ政府と交渉し終え、超大型ドッグを建造中だ。それとは別に宇宙にもドッグを建設し、既に廉価版の万能航行艦を製造中だ。

 

それに加え、ISの欠点を完全に取り払ったパワードスーツの量産も始める。ISコアと同じサイズにまでサイズダウンさせたプラズマリアクターを搭載した全身装甲のパワードスーツだ。これも前世の機動兵器を模して作ってある。パーソナル・トルーパー、略してPTだ。

 

ISに比べれば生存性は低いが戦車よりは高く、単独飛行距離・稼働可能時間は現行機を大きく上回る。コアをプラズマリアクターに交換して少し弄れば転用も可能だが、バリア系統や絶対防御は使用できないので意味はないだろう。また、ISの武装はエネルギー兵装以外はそのまま流用でき、PICも使用可能だ。PTにはPIC以外の推進システムとしてテスラドライブを搭載してある。

 

本来ならこんなものを世に出すつもりはなかったのだが、潰すと決めた以上はきっちり潰す。社会的にもだ。徹底的に擂り潰してくれる。そのための尖兵がゲシュペンストだ。前世に合わせればゲシュペンストMK-Ⅱ改・タイプNだが、つけるとややこしいのでゲシュペンストだ。

 

既にテストも済んで量産中だ。売り込みはまだ先で良い。篠ノ之束が何か大きなことを起こした際に颯爽と登場して華々しいデビューを飾らせる。そしてISを駆逐する。絶対にだ。

 

 

 

 

 

 

お姉ちゃん達の部屋で一般常識の勉強をしている横でお姉ちゃんがカタログを私の方に広げて見せてきた。

 

「ラウラ、浴衣と帯の生地はどれが良い?」

 

「浴衣?」

 

「日本の夏場の伝統衣装だよ。週末に夏祭りがあるからそれに一緒に来て行こう」

 

「お兄ちゃんも着ていくのか?」

 

「そうだよ。クラリッサさんも用意しているみたいだからラウラもね」

 

カタログには赤やらピンクやらの派手な色の生地が多い。

 

「どれが良いのかさっぱり分からん。流行りはどんな感じなんだ?」

 

「今年はピンクに金で柄を入れたもので、帯は白と言うか、シルクでレースをあしらった物かな。こんな感じのやつ」

 

そう言ってカタログを何ページかめくって見せられた流行りの浴衣を見たのだが、何と言うか下品だと思う。お兄ちゃんやお姉ちゃんに教えられた日本の侘寂を溝に捨てたような感じだな。

 

「お姉ちゃんはどんな感じ?」

 

「私のは、元士郎が染め上げて刺繍を施してるから。最近のは下品だからね。老舗のは週末までに間に合わせるのが大変だから」

 

「そんな簡単に作れるものなのか?」

 

「普通は無理だけど、元士郎、そんじょそこらの職人より職人気質だから洒落にならない品質で仕上げてくれるよ」

 

ちょうどタイミングよくドアがノックされ、お兄ちゃんが帰ってくる。

 

「出来上がったぞ」

 

「ちょうどよかった。ラウラに見せてあげたいんだけど大丈夫かな?」

 

「問題ないな」

 

浴衣を預かったお姉ちゃんは脱衣所に向かい、お兄ちゃんはカタログを見て顔を顰める。

 

「相変わらず派手で下品で値段も高いな。風流も理解していないしな」

 

「やはりそう思うのか?」

 

「ISが登場してからはずっとこんな感じだ。別に悪いというわけではないが、金色を使いすぎだ。生地も原色に近いのを使ってるからな。もっと淡い色を使った方が良いのにな。簪の浴衣はこれらの対極を行くから目立つぞ」

 

「そんなにか?」

 

「赤系の中に青系が混ざるんだからな。それも淡い色で柄もワンポイント。帯も同様に単色の紺色に正面にワンポイントが見える程度だ。渾身の出来だからな、これぞ真の浴衣だ」

 

お兄ちゃんがそこまで言うのなら本当にすごい出来なのだろう。楽しみにしながら待つこと10分ほど、お姉ちゃんが脱衣所から出てきて声を失う。カタログのものとは違い、淡い水色の生地に左足辺りにが描かれていて、深い紺色の帯には金色の蝶が水仙に誘われるように舞っている。

 

「綺麗」

 

「ありがとう、ラウラ」

 

「サイズの方も大丈夫みたいだったな。やっぱり浴衣は涼しげじゃないとな」

 

「相変わらずセンスが良いよね、元士郎。大変だったでしょう?」

 

「簪を綺麗にするためなら苦労でも何でもないさ」

 

「ありがとう。とっても気に入ったよ。それで、ラウラの分も頼んでいいかな?」

 

「そう言うと思って用意しておいた。着付けをしてやってくれ。あと、眼帯はこれね」

 

「それじゃあ着替えてみようか、ラウラ」

 

「うん」

 

脱衣所に連れて行かれ、着替えさせてもらいながら着付け方を教わる。

 

「へぇ~、なるほどね。眼帯も衣装の一部なんだ。なら、髪は結い上げたほうが良いね」

 

後のお楽しみだと鏡を見せてもらえずにいるが、お姉ちゃんの言葉から中々すごい柄なのだろう。

 

「はい、出来上がり」

 

そう言って鏡を隠していたタオルを取り払ってくれて、綺麗だと思える私が立っている。黒地に右足あたりには淡い赤色の紫陽花の隣には緩やかな川が流れ、蛍が舞っている。そして眼帯には風鈴が描かれている。夏の風物詩をこれでもかと盛り込んでいるが、夜を表現する黒地の面のほうが大きいからか、自然と一枚の絵を見ているような感じに囚われる。

 

「うん、ラウラも綺麗だよ」

 

「うん」

 

「やっぱり浴衣はこういうのが華美じゃない方が良いよね。着物はまた別だけど」

 

「違うのか?」

 

「着物って一言で纏めてあるけど、やっぱり目的別に避けた方が良い色とか装飾とか柄があるからね。そこは元士郎が詳しいから任せても良いし、一緒に選んだりすると良いよ。今回は急遽用意したからこんな感じだけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『座の貴方、運命の人に出会えるチャンス。今週のラッキーアイテムは浴衣と草履』

 

「蘭、運命の人に出会えるチャンスですって。ちょうど週末は夏祭りがあることだし、行ってきなさいな」

 

お母さんがテレビを見ながらそんなことを言うけど、あまり出歩きたくないかな。

 

「う~ん、生徒会長なのに休み前から謹慎を貰っている身としては自粛した方が良い気がするんだけど。あと、占いってあまり気にしたこと無いんだけど」

 

「だけど蘭、貴方は間違ったことはしてないと思ってるんでしょう?」

 

「やりすぎた感はあると思ってるけどね。綺麗に入りすぎて左腕と肋骨を4本も折っちゃったし。いくら相手が強盗でも、ちょっとは罪悪感が」

 

昔から、蹴りには自信があってお兄を蹴る時は気を使ってたんだけど、相手は強盗で刃物を持っていたから、ついつい本気で蹴っちゃったんだよね。おかげで学校からは無茶をしたことと、一歩間違えれば傷害罪だったことから謹慎処分を受けてしまった。

 

「ほら、弾。貴方も何か言いなさいよ」

 

「まあ、確かにやりすぎだとは思うけどよ、お前の学校の子達、皆心配してたぜ。その子達にも大丈夫だって顔を見せてやれよ」

 

「そこまで言うのなら」

 

「それにほら、一夏の奴とか鈴も来るらしいしさ」

 

「ああ、織斑先輩と鈴さんか」

 

鈴さん、なんであんな男のことが好きなんだろう。

 

「そういやお前、一夏のことはそんなに好きじゃなかったっけ、今まで聞いたことがなかったけどなんでだ?」

 

お兄が私の機嫌が悪くなったことに気付いたのだろう。親友を悪く言われるのは嫌なのだろう。男同士でもよくつるめるよね。

 

「まず、私の個人的な好き嫌い。軽くて何も考えてなさそうな所が大っ嫌い。それから他人に興味を持っているのかが怪しい所も嫌い。鈴さんとか、他にも色んな女の子たちがアタックしてるのに、誰に対しても同じ対応なんだよ。相手が誰でも一緒って公平に見えるけど、相手のことを評価しないってことだよ。優しくしているようで、機械的に捌いているだけ。お兄とは兄妹だからこその近親的な嫌悪とかあるけどさ、織斑先輩にはそれ以上の生物的な嫌悪感があるの。一度冷静に考え直してみてよ。感情なんかは全部捨てて、織斑先輩がやってることを紙に書いてみてよ。気持ち悪い人物像にしかならないから」

 

「お前、そこまで言うか普通!?」

 

お兄がドン引きするだろうから今まで言わなかっただけ。

 

「お兄が聞きたいって言うから話してあげたんでしょ」

 

「じゃあ、逆にどんな奴が好きなんだよ」

 

「まあ、最低条件として私をちゃんと見てくれる人。物理的に見るじゃなくて心を私に向けてくれる人だよ。他に誰か好きな人が居ても別にかまわないかな。皆まとめて多少の差はあれど愛してくれれば。あと、他の女の子同士でも仲が良ければね。それからしっかりとした現実を見て、将来も見据えていて頼れる人。私も女の子だし、男の人には甘えたいし頼りたいから。容姿は特にどうでもいいや。いや、チャラいのはパス。そんな感じかな。具体的にこれって人は居ないや」

 

「ハードルが高いような、低いような、良く分かんねえや」

 

「蘭ならもっと上を狙ってもいいと思うのに」

 

「お兄がお兄じゃなくて、今よりちょっと真面目になって、私を一人の女の子としてみてくれてればOKかな」

 

「ハードル低いな!!ってか、オレってそんなふうに見られてたの!?」

 

「まあ兄妹だからフラグは絶対建たないけどね。残念でした」

 

「お前をそんな風に見たことねえわ!!」

 

「あはは、そんな風に見てたら今頃蹴り潰してるって。さてと、折角ラッキーアイテムが浴衣と草履ならちゃんと用意しようかな」

 

「なんだ、買いに行くのか?」

 

「お母さんのお古でいいよ。最近のデザインは趣味じゃないの。多少裾を上げたりする必要はあるだろうけどね。あっ、おじいちゃん、物置のアレ、持っていってもいいかな?」

 

「アレ?ああ、アレか。構わねえが、大分草臥れてるぞ」

 

「多少の手入れぐらいなら出来そうだから大丈夫だよ。この前見つけてから気に入ってたんだ。こんな時ぐらいじゃないと着けれないしね」

 

占いって今まであまり信じてなかったけど、今回だけは信じて良いと思うなんて、謹慎でちょっと疲れちゃったのかな?一番良いのを準備してるなんて、普段の私なら考えられないや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うむ、簪とラウラの浴衣が目立っているな。自分の作品が評価されるのはやはり良い。

 

「いや、目立っているのは元士郎の腰のそれだと思うよ」

 

「からからと良い音が鳴っているが、何故よりにもよってそのチョイスなのだ?」

 

そう言ってラウラが指を差す先にはオレの浴衣の帯に紐で括り付けられている般若面、泣き崩れている翁面、狐面の3つだ。ちなみに頭には珍しい蛇面を斜めに着けている。

 

「魔除け。霊感が強い所為でよく群がられるからな。雑魚霊が近づけないように威嚇の意味で着けてる。神社とか墓地で写真を取ると必ず写ってるからな。周りの迷惑にならないようにしてる」

 

「はい?」

 

「口で説明するより体験するほうが早いな」

 

3つの面をISに収納するように見せて影の中にしまい込み、自前の携帯で自撮りしてラウラに見せる。

 

「ほれ、こことかこれがそうだな。動物霊だけど写ってるだろう」

 

「……早く着けなおせ!!そんな簡単に写すな!!」

 

「勝手に寄って来るんだよ」

 

面を着けなおして再び自撮りして見せれば何も写っていない。

 

「いいか、絶対に外すなよ!!フリじゃないからな!!」

 

「分かってるって。おっ、珍しいな。飴屋があるぞ」

 

「飴?珍しくも何ともな、何だあれ!?」

 

「固まる前の飴をああやってハサミで加工して形を作るんだよ。動物が多いな。まだ残ってるんだな」

 

「おう、坊主。両手に、花ってわけじゃねえな。親子にも見えねえが、眼鏡の嬢ちゃんと夫婦で雰囲気は親子そのものだな」

 

「よく言われるよ。弟子はいるのか?」

 

「いいや、儂の代で終わりだな。まあ、最近は洋菓子なんかでも飴の加工は流行っているみたいでな、完全に廃れることはなかろうよ。最も、オレ達飴職人が手先の器用さじゃ負けることはねえよ」

 

「そうだな。まだまだ頑張ってくれ。3つ貰おう」

 

「1500円だ」

 

「ラウラも簪も好きなのを選びな」

 

代金を支払いながら鷲の形の飴を取る。ラウラは兎で簪は鯉の飴を取る。

 

「う~む、これで500円は安いな。こんな芸術品が廃れていくのか」

 

「完全に廃れることはないさ。日本の伝統文化のしぶとさは折り紙付きだ。民族性も特異だしな。国内に入ってきた食べ物は全部原型が壊れるぐらいにアレンジしたり、他国じゃ考えられないような耐久度の工業品を職人技で作ったりする国だからな。あと、宗教観が他国じゃ考えられない。仲の悪い宗教の教徒が同じ飯屋で相席して笑っていても違和感がない国だからな」

 

「それはそれでちょっと怖いな」

 

「気楽な国だと思えばいいさ。武器と核以外に関しては寛容な国だ」

 

「そんなものか、おっ、クラリッサ」

 

「こちらに居ましたか、隊長方」

 

「何処に行っていたんだ」

 

「それはもちろん初めての事をして色々と慌てる隊長の姿を記録に残そうと屋台を見回っていました」

 

「くっ、またゲームセンターの時みたいに笑い者にする気か」

 

「まあ、あまり楽しめそうなものはありませんでしたけどね。精々が金魚すくいです」

 

「ああ、金魚すくいか。風情があっていいなんて言われているが、虐待物だからな。狭い空間で水中の酸素が少なくて追い掛け回され続けて弱っている奴からすくい上げられて、今まで以上に狭い上に酸素の薄い袋に入れられ、挙句の果てに振り回される。そして止めに知識もなく水道水にぶち込まれて死んでいく」

 

「おい馬鹿止めろ!!なんでそんなことを説明するんだ!!」

 

「救いとは一体何なんだろうな」

 

「よりにもよって店の目の前でやるなよ!!子供がドン引きして、店員が睨んでるだろうが」

 

「業界の方じゃ、弱った奴から押し付けるのが常識でな。あと、この店は不良店だ。ポイの紙が5号しか見当たらん」

 

「5号?」

 

「紙の厚さだ。5号が一番薄くて破れやすい。普通は子供や女性用に4号も用意するのが普通だ。それを誤魔化すために普通はポイを背中に隠すんだよ。客によって振り分けているのを気づかれないように。けど、この店、裏に5号のダンボールしか見当たらない。他の店を使ったほうが良いな」

 

店員の顔が驚愕に染まっていく。

 

「金魚さん死んじゃうの?」

 

周りにいた幼い女の子が泣きそうな顔でオレの浴衣を引っ張って問いかけてきた。

 

「大丈夫だよ。ちゃんと勉強して環境を、お家を作ってあげてお世話をしてあげたら長生きするよ。お父さんかお母さんに調べてもらって、大事に育ててあげるんだよ」

 

「うん」

 

女の子が何処かへと行くのを見送るとラウラが訪ねてくる。

 

「長生きってどれぐらいだ?」

 

「まずは最初の3日ほどが山場だ。そこをなんとか超えれば5年は余裕だな。あと、水槽のサイズで何故かサイズが変わってくる。サイズ差が大きいと共食いもするからな。2匹ぐらいが手間もかからずに育ててれる」

 

「結構な数が入っていなかったか?」

 

「半分生き残ればラッキーだな。一番難しいのが袋から水槽に移すときだ。水道水の場合はカルキ抜きのために中和剤を入れるか、一日ほど汲み置いておく必要がある。あとは水温も同じ温度になるように調整してやる必要があるし、エアサーキュレーターの調整も結構面倒だ。酸素は薄くても濃くても駄目だからな。駄目だと3日で全滅だろうな」

 

「たかが金魚なのにか」

 

「弱ってるのが一番の問題なんだよ。普通にペットショップなんかで売ってるのは元気だからそこまで気を使わなくても安定して飼える」

 

って、金魚談義はもういいや。とりあえず、この店はパスだなパス。

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりに会った皆は元気そうでよかった。まあ、注目は頭に斜めにかけてる白蛇のお面に集まってるけど。物置を掃除している時に見つけた物で、昔っから家においてあったそうだ。曰く有りげな雰囲気から捨てられずに、たまに綺麗にされてたみたいだけど、私はそれを気に入った。何処に惹かれたのはわからないけど、綺麗に埃と汚れを落として、禿げた塗装を塗り直して頭に着けて来ている。縁起物の白蛇だから疑問には思われても受け入れられている。

 

「そう言えば向こうの方で蘭みたいに凝ったお面を着けてる男の人がいたよ。腰にも3つぐらい着けてたけど」

 

「そうなんだ。珍しい人ね」

 

「それに女の子二人と来てるみたいなんだけど、一人は眼帯なんて着けてるんだ。けど、それが浴衣の柄に合わせられてて綺麗だし、もう一人の女の子の浴衣も物凄く綺麗だったな」

 

「ふ~ん、それって今の流行りとは全く別物だよね」

 

「そうだけど、今のってほら、派手すぎだし、なんかこれじゃないって感じがね」

 

「分かる分かる。成金趣味っぽくて可愛いって感じじゃないものね」

 

「それに高いから、手を出そうとも思わないしね。有名人とかが着て宣伝してるけど、あれって浴衣じゃないよね」

 

「おかげでお古なんだよね。はぁ~、幼い感じで嫌だけど、成金趣味よりはマシかな」

 

「う~ん、さっきの子達に何処で買ったのか聞いとけば良かったかな」

 

そんな話をしながら適当にぶらつきながら出店を冷やかす。そんな風に祭りを楽しんでいると怒鳴り声と女の子の泣いている声が聞こえてきた。そっちに向かって走ると酔っぱらっているおばさんが女の子に向かって怒鳴っていた。よく見てみれば、足元が濡れていて金魚が踏み潰されていた。女の子のお母さんが慌ててやってきて酔っ払っているおばさんに謝っているけど罵詈雑言を浴びせている。そして、遂には女の子のお母さんを殴り飛ばして、女の子を蹴り飛ばした。更にはビール瓶を持って振りかぶる。

 

「流石にそれはやり過ぎでっしょっと!!」

 

ビール瓶を握るところを見た時点で走り出していた私は倒れている女の子を庇うように覆い被さる。次の瞬間、背中に強い衝撃と瓶が割れる音とビールが私に掛かる。今のはシャレになってないって。この子の命が本気で危なかった。

 

「何よアンタは!!私の邪魔をして!!」

 

「うるさいわよ、おばさん!!こんな小さな子供相手に暴力を振るうどころか、命を奪うようなことまでして!!おばさんこそ皆の邪魔よ!!」

 

「ただの小娘が!!私を誰だと思っているのよ!!私は女性権利保護団体の理事なのよ!!誰のお陰で今の世の中を暮らせてると思ってるのよ!!」

 

こんな奴らがいるから女性権利保護団体は嫌いなんだ。あんたらが居なくても女性は強いのよ。

 

「酔っぱらいのおばさんでしょうが!!おばさんなんかの世話になるなんて人として恥ずかしくてまっぴらゴメンよ!!それにおばさんたちが強気になれるのはISがあるからでしょうが!!なら、今の世の中を作ったのは篠ノ之束で、おばさんたちは虎の威を借る狐でしょうが!!この前もデュノア社の件で不祥事を起こしておいて、小さなことかもしれないけどこんな不祥事を起こして、ただ単に弱い立場の者を食い物にして好き勝手に偉そうにしたいだけじゃない!!おばさんたちが言う傲慢な男たちと一緒じゃない!!」

 

「何の苦労も知らない小娘が!!」

 

そして、ものすごい速度で二本目のビール瓶を投げつけてくる。後で絶対に仕返ししてやる。そう思いながら女の子を守るために覆い被さろうとする前に、誰かが私とおばさんの間に立ちふさがり、ビール瓶を掴み取る。

 

「中々の啖呵だ。まだまだ世の中、捨てたもんじゃない」

 

その声に心臓が跳ねる。後ろ姿しか見えない上にお面を着けているはずなのに、その顔が見えるような気さえする。私はこの人を知っている?

 

「簪、ラウラ、二人を頼むぞ」

 

「此処を離れるよ。あとは元士郎に任せておけば大丈夫」

 

いつの間にか傍にやってきていたメガネを掛けた女の子と銀髪で眼帯をした女の子が私と倒れている女の子を連れてあの場から離れさせられる。待って、あの人の傍に居させて。抵抗しようにも背中が結構痛いのと草履で踏ん張りが効かせにくい所為で抵抗が難しい。だから、少しでもその姿を見ようと首だけでもそちらに向ける。そこには割れて殺傷力が上がったビール瓶を持つおばさんに剣を突きつける黒い騎士の姿があった。

 

「あれは」

 

その姿に胸が張り裂けそうになる。その背中を、白いマントとそれに刺繍された紋章を何度も見てきた。いつも前に立って私達を守り、誰にも知られない場所で一人孤独に戦い、周りの重圧に耐えながら私達に笑顔を見せ続けてきた騎士。私が、私達が愛した人。黒蛇龍帝、匙元士郎。最後に見た顔は希望が見えずに絶望しきった顔だった。背中しか見えなかったけど、今は笑えているのだろうか?笑えているのなら、私もその隣で一緒に笑いたい。笑えていないのなら、私が笑わせたい。どっちですか、アナタ?

 

 

 

 

 

 

男性適合者の保護条約に基づき、ISを展開してババアを完全に無力化させてから警察に引き渡し、証拠の動画を撮影していた人たちにネット上に掲載してもらって完全に手出しができない状況にする。祭りの参加者には報道関係者も混じっていたらしく、後日インタビューを受けることで正しく報道してくれると保証してくれた。後片付けを祭りのケツ持ちに任せて社務所の方で手当を受けている親子と子供を庇っていた娘の所へと向かう。

 

「ラウラ、そっちはどうだ」

 

「クラリッサ達が簡単に診察しているが問題はなさそうです。一応蹴られた子供は念の為に病院でちゃんと検査をした方が良いかも知れないと。そちらは?」

 

「わざと態度だけで挑発して武器をもたせた。おかげでオレがISを使っても問題ないなかったからな。それでも逆上して襲ってきたから無力化して警察に引き渡した。証人も大量にいるし、既にネット上で証拠の動画が拡散中だ」

 

「またもや大失態ですね」

 

「そうだな。中、入っても大丈夫か確認してもらえるか」

 

「むっ、ああ、そうか」

 

社務所内に入っていくラウラを見送りながら、まだ微妙に男と女という境界を理解しきれていないのか悩んだのかと頭を抱える。まあ、この調子なら大丈夫だろう。たぶん。

 

「大丈夫だそうだ。子供の母親と庇っていた子が礼を言いたいそうだ」

 

「そうか」

 

社務所の中へと入り、襖をノックする。

 

「はい」

 

「オレだ。入っても大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ」

 

簪に招かれて入った部屋には簪の他に母親とその膝で眠っている少女とその少女を庇っていた娘がバスタオルを羽織って座っていた。

 

「そっちは大丈夫だった?」

 

「それを説明しようと思ってね。とりあえず、あの酔っぱらっていたおばさんは傷害罪に器物破損罪で警察に捕まりました。少し前なら女性権利保護団体の圧力がかかる所ですが、そちらは以前のデュノア社の失態で影響力を減らしていますし、周りの皆さんの協力もありまして動画をアップロードしたりして情報を拡散してもらっています。直接的に手を出されるようなことにはならないでしょうし、狙いは私の方に移ったでしょう」

 

「大丈夫なのでしょうか?」

 

「何、これでも腕に自信はありますし、2番目の男性適合者ってことで色々と法に守って貰えるので大丈夫ですよ」

 

「あなたが!?」

 

「ええ。ですので、私の心配は無用です。お子さんの方は大丈夫でしょうか?」

 

「え、ええ。クラリッサさんが見てくれましたが、たぶん問題はないだろうと。一応、病院で検査した方がいいからと車で送ってくださるそうで」

 

「そうですね。ああ、それと、この子が起きたらこれを」

 

近くで見ていた金魚すくいの屋台の兄ちゃんが持たせてくれた金魚が入ったビニール袋を渡す。

 

「これは?」

 

「この子とは金魚すくいの屋台の前で会っていましてね。嬉しそうにしていたのにあんなことがあってかわいそうだと思っていた所に、あの近くに居た屋台の人が持たせてくれまして。ちょっとだけ悪い夢を見ていたんだと。この子にはそれで十分でしょう」

 

「ありがとうございます」

 

「私よりも礼はあの娘に。あの娘が居なかったら、もっと酷いことになっていた。怪我はなかったか?」

 

「うぇぁ!?だ、大丈夫です!!」

 

「流行物よりは薄いけど生地が若干厚めだったおかげで割れたガラスは薄皮までしか届かなかったみたい。あとは多少の打撲だけど、2日ほどで治ると思う」

 

「そうか、よかった。もう少し早く駆けつけられれば良かったのだがな」

 

「いえ、助けていただいてありがとうございます、先輩」

 

「うん?何処かで会ったことがあったか?」

 

おかしいな、記憶には引っかからない。

 

「えっと、その、駒王で」

 

「「えっ?」」

 

「えっ?」

 

少女を庇った娘も驚いているが、これは簪が驚いたことに関してだ。念の為に確認だ。

 

「黒髪ショート眼鏡をかけた生徒会長にあった時?」

 

「そ、そうです!!支取生徒会長と会った時です!!」

 

「そうか。あの時のか。懐かしいな」

 

丁度タイミングよくクラリッサが入ってきて、少女と母親を部屋から連れ出す。それに合わせて簪も部屋から出ていく。気を使わせてしまったな。念の為に結界も張っておく。

 

「これ、結界?じゃあ、やっぱり、アナタなの?」

 

「留流子で間違いないな?」

 

「はい!!」

 

留流子が涙を流しながらオレに抱きついてくる。それを優しく抱きしめて髪を手ですいてやる。

 

「よかった。今年に入ってから運は完全にオレに味方しているようだ。皆とまた出会えた」

 

「皆、じゃあ、さっきの眼鏡をかけた娘は」

 

「ソーナだ。今は更識簪であの親子を送ったのはセラ、今はクラリッサ・ハルフォーフだ。そして、オレは今も変わらず匙元士郎」

 

「ソーナもセラさんも一緒なんだ。だから、アナタは笑えてるんだ」

 

「そうだな。皆が居なくなった後も長い時間を生きた。辛いことや苦しいことが多かったがそれでもいくらかの楽しみもあった。それでも、何事にも終わりがあって、それなのに何故か続きが存在しているんだ。まだまだ苦しむ必要があるのかと思っていたが、それも15年で済んだ。また、オレの傍にいてくれるか?」

 

「アナタが望む限りずっと」

 

「ありがとう。今度は死が別つことすら出来ない力を与えることも出来る。世界の終わりまで共に居て欲しい」

 

 

 

 

 

 




当初の予定(キャノンボール・ファスト)より早いけど留流子も合流です。高機動で蹴り技主体の専用機も用意します。ついでにエタりそうになってきたので時系列を多少変更して次回は夏休み後半と言う名の留流子専用機紹介、キャノンボール・ファストの準備、本番。その次に学園祭の準備と生徒会主催の劇、大乱闘スマッシュIS。その次にオリジナルの兎狩りでエピローグまで一気に走ります。


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駆け抜ける光

 

8月24日、日本のIS用スタジアムにおいて新型ISの専用登場者の選定が始まろうとしていた。条件はただ一つ、日本の国籍を持つ適合率A以上。それ以外は一切の条件がなく、一番性能を引き出せた者が専用登場者となる。そして、スポンサーには今世界で一番注目を集めている会社であり、新型ISもその会社が開発した機体だ。一体どんなISなのだろうと期待していた者達はそのぶっ飛んだ説明に興味を失い、去る者も少なくなかった。

 

現行のどの機体よりも速く動く。会社の方針である全身装甲以外は、コンセプトの為に機能を削ぎ落とせるだけ削ぎ落とされ、拡張空間も固有武装も何もない格闘戦機という実体に嫌悪感を持って、あるいは格闘技に自信がないなどで会場を後にしたのが4割。そして残った6割の中に意外な人物が紛れていた。

 

 

 

 

 

匙元士郎と更識簪、あの二人を抑えるためにもと束に専用機の開発を頼んだのだが、出来ればD×Dの機体を精密に解析しないと無理だと言われた。困り果てた所にこの試験だ。都合がいい気もするが、私はこれに乗った。そして改めてD×Dの機体性能に舌を巻く。迅雷と名付けられたこの機体、現行どころか私専用に調整された暮桜よりも性能が上だ。

 

その分、クセのあるインターフェイスとPICに最初は苦戦するがそれもすぐに慣れる。他はここまで動かせていない。これならなんとかなる、そう思っていた。

 

そいつは私が教えているひよっこ共と同じぐらいの年頃だったが、纏う雰囲気が匙や更識の妹と同じ物だった。私は嫌な予感がした。そしてそれが間違っていなかったことにすぐに分かる。最初は確認するかのように数歩歩き、ゆっくり走り出し、どんどん加速していき、急停止と急加速、空中を蹴り上がり、そこに実際に壁があるように空間を蹴って跳ねる。更にはフィッティングが終了したのか姿が変わる。黒一色だった装甲が銀色をベースに金色のラインの入った黒い具足を纏う形になり、全身を覆っていたマントはマフラーへと変わり、色も黒から赤へと変化している。

 

フィッティング後、一度データの収集のためにピットへ戻るが、10分ほどで再び戻ってきてテストが開始される。先程までとは違い、高速で飛び回るターゲットが用意される。大きさはオルコットのBT兵器の半分ぐらいで、速さはラウラの使う物に近い速度だ。数は40、いや50だな。

 

これを全て落とすとなるとそこそこ苦労するだろう。だが、その予想の上を行かれる。両足の側面がスパークしたかと思えば、次の瞬間には姿が見えなくなり連続した爆発音が50回鳴り響く。何が起こったのか、理解できたが、認めたくなかった。やった行為自体は単純だ。瞬時加速でターゲットへ近づき、加速が切れると同時にスパークした足でターゲットを蹴り、次のターゲットへと瞬時加速。これを50回繰り返すだけだ。

 

やったことは単純だ。だがそれが異常性を醸し出している。あの機体はPICで機動するのではなく、PICで足場を作り、そこを走るという今までにない機動だ。瞬時加速の際は大きく踏み込んで、一歩で一気に距離を詰める感じに近い。それを50回、片足毎に25回だとしても、負担は危険域を遥かに超えるだろう。にも関わら普通に立つことが出来、腕を組んでいる姿には王者の風格すら感じられる。

 

その後、今までテストを受けた者も、もう一度テストを受け直すことが出来るとD×D側が発表しても誰一人、再テストを行う者は現れず、まだテストを受けていない者も殆どが棄権した。こうして、私はD×Dの機体を手にすることはできなかった。だが、束に用意してもらっていた特別製ISスーツのおかげである程度のデータは回収することが出来た。あとは、束に任せるしか無い。その間に私も自分を鍛えなおさねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャノンボール・ファスト?」

 

「簡単に説明するとIS学園専用機持ち最速一位は誰だ。妨害もあり。ちょうど、このマリカーみたいにな」

 

「元士郎、今すぐ会いたい」

 

「そんな嫌な音を出しながら来るな!!アイテムは、またバナナかよ!!って、いやああ、来んな!!」

 

「ドッスン先輩邪魔」

 

「よし、逃げきっ、この音は、トゲゾー!?直撃した」

 

「今のうちにっと、やった、3連キノコ。これで安泰だね」

 

「ちぃ、順位が落ちたがこれでアイテムがマシなものに、5連バナナ。違うそうじゃないって、またスター音が!?ラウラか」

 

「バナナ処理!!」

 

「バナナを全部処理された上で轢かれた。ドンキー先輩しっかりしてくれ」

 

ラスト1週でビリまで落ちながら3位にまで戻ったが負けた。まあ、別に良いけどな。所詮はゲームだし。

 

「まあ、そのキャノンボール・ファストなんだが、今回はオレ達に加え、蘭も雷王で参戦することになった。年齢も近いからってな。ついでに2年と3年も合同で行われる。と言うわけで休み明けからは各自で高機動型への調整な。一応、競争だからオレ達の間でもどんな調整をしたのかは内緒だ。その調整のためにオーフィスが航海上まで接近する。ポイントは後で送る。第1格納庫はラウラが、第2格納庫は簪が、第3格納庫は蘭が、第4格納庫はオレが使用することになっている。それぞれ専属のメ蟹ックが付く」

 

オレは調整も何もないんだけどな。まあ、マントを外す程度とクロスラーの調整か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~む、しっくりこないな」

 

高機動化の調整を始めて5日になるが、どうもデルタに合う高機動化の答えが出ない。最初はフィン・ファンネルを取り外してみたのだが旋回性能が大幅に落ちた。隙ができれば容赦なく撃ち落とされる可能性が高い。何かヒントが欲しい。きっかけさえ掴めれば。

 

「ええい、考えていても埒が明かん!!」

 

整備が終わっているデルタに乗り込み、ハッチを開けてもらい外へと飛び出す。デルタに乗っている時の方が考えがまとまりやすい。集中力がそうさせるのか、物事の本質を捉えやすくなるというか、なんとなく予知っぽい物が出来る気がするのだ。だから教えてくれデルタ。お前をどうすれば良いのかを。オーフィスから真っ直ぐに飛び続ける中、ふと、センサーに反応が現れる。

 

「これは格納庫にあった戦闘機か?」

 

戦闘機、飛行機、航空力学、飛ぶために特化した形か。行けるか?このまま何も出来ないよりはマシだろうな。アストナージに相談してみるか。オーフィスに帰還する途中、蘭の雷王とすれ違った。雷王は最高速度はともかく、それを持続させることが難しいのだろう。それでも初日よりは速くなっている。うかうかしてられない。

 

「アストナージ、かなり無茶なことかもしれんが念の為に確認したい」

 

「どうした?」

 

「デルタを戦闘機のように出来るか?」

 

「……何処でそれを知った」

 

「どういうことだ?」

 

「そう返すってことは知らずに答えを出したのか。う~ん、まあいいか。設計図の見方は知っているか」

 

「簡単なものなら」

 

「ならこいつを見てみな。これがデルタの元になった設計図だ」

 

渡された端末に移る設計図に目を通す。結構変更点が多いな。フィン・ファンネルは更に大型で腰の左右に1機ずつ、背中はバインダーで機動性を高めているのか。顔も若干違うな。うん?

 

「おい、大きさが間違ってないか?全高が22mもあるが」

 

「あってるよ。元々そのサイズの機動兵器として設計されてたんだよ。だから、こんな機能も組み込んであった」

 

端末を操作して表示されたのは人型から飛行機形態への可変機構だった。

 

「見ての通り、可変機能は元の方にはあるんだよ。だけど、ISだからな。搭乗者がすごいことになる」

 

「そうか」

 

さて、次なる手を考えなければな。

 

「まあ、待てって。話はこれからだ。それでもこっちの戦闘機形態がおしいって話は前からあったんだよ。そんで設計だけはしてあるんだよ。外付けパーツと合体して戦闘機形態を再現しようってのがこいつだ」

 

そう言って更に新しい設計図を見せてくる。

 

「なるほど。だが、これだとフィン・ファンネルを外す必要があるな。出来れば外さずにすむとありがたいのだが」

 

「何もこのままとは言わないさ。それで、この方向のプランで良いか?製造を考えるとテストがギリギリだ」

 

「ああ、この方向で進めてほしい。攻撃の殆どはフィン・ファンネルに任せる形で速度優先で進めて欲しい」

 

「はいよ。すぐに再設計に移る。今日の所はどうする」

 

「補給が済んだら少し自由に飛んでくる。ちょっとでも飛んでいたい気分なんでな」

 

「了解。こっちはこっちで再設計しとくから」

 

アストナージが他のメカニックと共に再設計を始め、補給が済み次第私はもう一度空へと飛び出す。一応練習っぽく、海面と並行になるようにして飛ぶ。有視界ではなくセンサーだよりの飛行は初めてのことだ。何もない空のはずなのに速度を上げる気になれない。おっと、センサーに反応だな。これはさっきすれ違った戦闘機か。なんだ?微妙にぶれているような反応があるな。気になって体勢を起こし、望遠で確認すると

 

「キャノピーにカバーを掛けたままだと!?しかもあんな低空を!?」

 

海面ギリギリを飛び、水飛沫を巻き上げている。明らかにISよりも速い。さすがに瞬時加速中には負けるだろうが、航続距離が長ければ長いほどあの戦闘機、確かRFゼロだったか?ソッチのほうが速いだろうな。やはり航空力学を参考にしようと思ったのは間違いではなかったようだ。しばらく練習を続けた後、オーフィスに戻るとお兄ちゃんが釣りをしていた。

 

「おう、ラウラか」

 

「釣れてるのか?」

 

「いいや。だが、たまにはこんな風にのんびりする時間も欲しくなる時がある」

 

「そうか」

 

「ラウラもどうだ。隣でぼうっとするだけだが」

 

「ぼうっとか」

 

「そうだ。別に釣りでなくても良いんだがな。何かやりたいことでもあるのか?」

 

「そうだな。宇宙にまた行ってみたいかな。何をするでなく、宇宙でぼうっとしてみるのも楽しそうだ」

 

「宇宙か。ふむ、上がってみるか?」

 

「私だけでか?」

 

「RFゼロの調整で大気圏離脱と宙間機動と大気圏突破までのテストがあったはずだから乗っけてもらうか?」

 

「そんな簡単に許してもらえるのか?」

 

「ゼロのパイロットの指示に従うなら良いってさ。補給を済ませたら第2格納庫に集合だと」

 

簡単に許可が降りたので補給を行ってから第2格納庫に向かう。お姉ちゃんは練習に出ているのか、ゼロがアイドリング状態で待機していた。

 

「それじゃあ、お二人さん、翼に捕まって腕をロックしていてくれ。結構キツイけど我慢してくれ」

 

ゼロのパイロットの指示に従い翼に捕まりオーフィスから発艦する。以前、オーフィスで宇宙に上がったときとは異なり、かなりのGを感じる。PICでの軽減は最小限だからだろう。それでも10分も経たずに私はもう一度宇宙へと上がった。

 

『それじゃあ、この宙域には近づかないように。テストが終わり次第戻ってくるから。エネルギーの残量だけは注意しろよ』

 

ゼロから離れて慣性を一度止める。

 

『それじゃあ、オレはオレで過ごす。何かあったら連絡をくれ』

 

お兄ちゃんも離れていき、世界が私だけになったような恐怖のようで万能感のような不思議な感覚に戸惑う一面、安らぎも得ていた。それらに身を任せて、体の力を抜き、全てを宇宙とデルタに預けて目を瞑る。何も考えずに、ただ感じる。なるほど、確かにたまにはぼうっとするのも悪くないことなのだろう。

 

宇宙は、広いな。無限に広がる大宇宙とはよく言ったものだ。この宇宙に進出するために作られたISがあんな狭いアリーナを飛び回るだけの存在になってしまうとはな。うん?宇宙進出にIS?待て、何かがおかしい。目を開き、周囲を見渡す。見逃している何かのヒントはないか。ゆっくりと見渡していると衛星軌道上で最も大きな人工物が視界に入る。ISS、国際宇宙ステーション。ちょうど打ち上げられた物資が搭載されたカプセルとドッキングするところだ。

 

そうか。見落としていたのはソレか。ISだけでは足りない。整備・補給を行う拠点もなく、そこに行くまでの足が旧世代の産物に頼る必要がある。ISだけでは駄目なんだ。オーフィスのような万能性はともかく、量産型のミドガルズオルム級位の性能は欲しい。あれなら物資を満載した上で600人を宇宙に上げれる。しかも燃料はほぼタダ。推進剤は掛かるだろうが、従来のシャトルなどと同じ量で物資込みで1000倍以上差が発生する。

 

宇宙開発があまり進まないのはコストが掛かりすぎるからだ。そのコストを大幅に削減できるのがミドガルズオルム級なのだ。作業服は従来の宇宙服でも十分対応できる。むしろ、シャトルの技術などに使っていた資金を宇宙服や工作機械に回せれば宇宙開発は進む。

 

ああ、そうか。篠ノ之束博士は何も分かっていなかったんだ。誰もが万能ではないということを。だからその道の専門家を集めて、チームを組んで作業を行うということを。寂しい人なんだな、篠ノ之束博士は。

 

お兄ちゃんやお姉ちゃんのお陰で今ならはっきりと分かる。人というのは一人でも二人でも生きていけない。最低でも三人居て、初めて人としてのコミュニティが完成する。三人いれば派閥ができて対立が生まれるが、それで他者との付き合い方を学んでいく。お兄ちゃんとお姉ちゃんとクラリッサと蘭は皆仲が良いように見えるが、お兄ちゃんはちゃんと順位付けている。お姉ちゃんが一番で次が蘭で最後がクラリッサだ。三人もそれが分かっていて、その上で譲り合ったりしている。あれも一種の派閥だ。対立する時は私をおもちゃにする際の方向性位だな、腹が立つが。

 

そういう人とのつながりをしてこなかったんだろうな。私もそうだった。だから色々失敗したし、今もしている。この感覚は、多分間違いではない。篠ノ之束博士は今も失敗をし続けているんだ。それが今の私には分かる。世間は篠ノ之束博士を誤解している。この誤解が争いの元となるのか。

 

お兄ちゃん達のように、他人と誤解なく分かり合えることが出来ないというのは、こんなにも悲しいことなのか。いつの間にか涙が零れている。こんな悲しいことが世界中にありふれている。宇宙全体から見ればちっぽけな地球なのに、悲しみが詰まり過ぎている。

 

初めて宇宙に出た時に美しいと思った地球を、今は美しいとは思えない。地球は青かったと言うが、それは悲しみで出来ている様にしか見えなくなってしまった。

 

『ラウラ、どうかしたのか』

 

「……人と人が正しく理解し合えないことがどれだけ悲しいことなのかが分かってしまった」

 

お兄ちゃんはそれに何も答えてくれなかったけど、何かを考えている。それも私を心配してくれているのが伝わってくる。そして、かなり遠い場所から敵意を感じる。嫌悪ではなく憎悪で彩られた敵意。それが私たちの方に向かって放たれている。デルタではそこまでたどり着くことは出来ないだろう。だから、今は放っておくしか出来ない。

 

『ラウラ、そろそろ帰るか』

 

「うん」

 

お兄ちゃんの誘導に従って再びゼロの翼に掴まり大気圏に突入する。視界が赤く染まっていく。普通のISだとシールドに守られているとは言え、直接目の前が真っ赤に染まるんだよな。かなり怖いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャノンボール・ファスト当日、天気は快晴、体調・機体共に万全。全員がISを展開してスタートを待っている。お姉ちゃんの打鉄弐式と蘭の雷王は今までと見た目は変わらないが、中身は相当いじってありそうだ。お兄ちゃんはマントを外してクロスラーまで外している。一体何を考えているのだろうか。

 

私は左腕にハイメガランチャー付きのシールドを右手に大型シールドに見える拡張パーツ、BWSを持っている。この拡張パーツを背中から被るように合体して左腕のシールドを前面に抱え込むようにして擬似的な可変を行う。武装はシールドのハイメガランチャーとBWSに内蔵されているビームライフルが2門、デルタのフィン・ファンネル8機と追加で開発してもらったキャリア・ファンネル2機とキャリア・ファンネルに搭載されたリチャージ出来ないファンネルが各12機。ビームライフルもビームサーベルもグレネードも今回は外した。

 

スタートが近づくに連れ、緊張が高まっているのが手に取るように分かる。この前、宇宙に上がってからは特に人の感情が手に取るように分かる。だから気づけた。スタート直前の1秒で3人の殺気が膨れ上がったのを。スタートと同時に真上に飛ぶ。次の瞬間、お兄ちゃんとお姉ちゃんと蘭が牙を剥いた。

 

スタートと同時に隣の選手のISに瞬間最大火力を叩き込み、まとめて行動不能に陥れた。関わればまずいと本能が訴える。瞬時加速で前に出ながらBWSを纏ってとにかく前に出る。フィン・ファンネルを切り離してシールドを張り、攻撃を後回しにする。多少落ち着いたところで後ろの様子を探れば、今も三人が高速機動戦を行いながらこちらに向かってくる。正確にはお姉ちゃんと蘭が私を守るように、お兄ちゃんが私を落とそうとしている。

 

たぶん、私には内緒でそういうルールを決めたのだろう。問題ないと言いたいのだが、微妙に距離が詰まってきている上に最初のカーブが差し迫っている。練習はしてきたが、この最高速で何処までロスを少なく曲がれるか。それによってこのレースの勝敗が決る。

 

防御に使っていたフィン・ファンネルを戻し、使い捨てのファンネルを2機ずつ飛ばして牽制に使う。そのまま減速せずにPICと姿勢制御用バーニアで強引に機動を変更して、プレッシャーを感じ、翼の右側にマウントされているキャリア・ファンネルを切り離してバランスを崩すことで機体をロールさせ、切り離したキャリア・ファンネルからファンネルを全て飛ばす。次の瞬間、キャリア・ファンネルが撃ち抜かれて爆散する。

 

お姉ちゃんと蘭に両側から襲われて二刀流で鍔迫り合いになっていたはずなのに、何が起こった!?視界を後方に向けると、お兄ちゃんから蛇が生えていて、それがお姉ちゃんたちに襲いかかって両手がフリーになっていた。

 

「何だあれ!?」

 

『これぞ、ヴリトラの単一使用能力。見ての通り、自由自在に動かせるだけでなくISに接続することでエネルギーの吸収なども行える』

 

『そっちがその気なら!!氷紋剣・水成る蛇!!』

 

『静動轟一!!その名に恥じるな、雷王!!』

 

お姉ちゃんと蘭も隠していた札を切ったのか、お姉ちゃんは閻水から水の蛇を作り出してそれを操ってお兄ちゃんの蛇と喰らいあい、蘭の雷王は全身がスパークし始め速度がまだ上がる。また二人がお兄ちゃんを押さえてくれているうちに機体のチェックを行う。バランスが崩れる以上、左側のキャリア・ファンネルも切り離し、既に飛ばしてしまったファンネルは全てお兄ちゃんに差し向ける。この序盤でブースター代わりにも成るキャリア・ファンネルを失ったのは痛い。だが、それだけの被害で隠していた札を切らせることができたんだと思い直す。

 

『ふむ、このままでは若干キツイか。あまり好きではないが、弾幕を張らせてもらおう!!』

 

お兄ちゃんが蛇にガトリングを持たせて、濃厚な弾幕を張ってきた。二人がある程度弾いてくれるが、それでも大量の弾が飛んでくる。

 

「くっ、フィン・ファンネルを、いや、ファンネル自体が。これでどうだ!!」

 

弾幕によって被弾しそうになっているファンネルをそのままミサイル代わりにお兄ちゃんにぶつけて爆発させる。多少は効いたのか、弾幕が散らばり、多少の回避できるスペースが生まれそこにデルタを潜らせる。

 

当初の予想とは異なり、私がトップを飛んでいる現在、後方に対して使える武装はキャリア・ファンネルを失ってしまったためにフィン・ファンネルだけになってしまった。それも今使うと撃ち落とされてしまう。くっ、どうすればいいんだ。

 

『隊長、落ち着いて下さい』

 

「クラリッサか。今忙しい」

 

弾幕が薄い部分に機体を滑り込ませながらフィン・ファンネルのリチャージだけは行っておく。

 

『焦りはそのまま隙に繋がります。デルタは、隊長の全てを表現してくれるマシンです』

 

「意味が分からんぞ!!」

 

『そのままの意味です。デルタにはそれが出来るだけの力が備わっています。力や技、そして心すらもデルタは表現してくれます』

 

「心を表現する?なんだ、話しかけてくるとでも言うのか?」

 

『元士郎から聞きました。この前、宇宙に上がった時、隊長は一皮むけたと。キャノンボール・ファストのことは置いておいてもいいでしょう。元から勝ち目は薄いのですから』

 

「……私はな、教官の指導で負けず嫌いなんだ。デルタが私を表現するマシンだというのなら、私に応えてみせろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私に応えてみせろ!!』

 

ラウラのその言葉と同時に、BWSとデルタの関節部から緑色の炎が吹き上がり、バリアを張っているフィン・ファンネルが緑色に発光する。

 

「バカな、サイコフレームの共振現象だと!?」

 

驚いた所に蘭の蹴りがクリーンヒットし、距離を離される。その隙にBWSと分離し、その上に乗って反転する。所謂バック走だな。これでハイメガランチャーとBWS内臓のビームライフルが使用可能になったか。

 

『行け、フィン・ファンネル!!』

 

通常ならコの字型のフィン・ファンネルがIの字でビームを発振させて高速回転し、円状のシールドビットへと姿を変え、弾幕を完全にシャットダウンする。

 

「くっ、まさかここまでの素養を備えていたとは」

 

ラウラの成長は速いと思っていたが、まさか高レベルなニュータイプに覚醒するとはな。作られた命でありながら、それでも世界を恨まず、優しくて純粋な心を持つ一人の人間として巣立ったか。ちょっとだけ寂しいな。まあ、これからも構ってやるけどな。巣立っても、オレ達の家族も同然なのだから。

 

「まあ、まだ負けてやるつもりはない!!見せてもらおうか、デルタの想定以上のパワーを!!」

 

再び簪と蘭の猛攻を掻い潜り、シールドビットと化したフィン・ファンネルの隙間から狙撃を行い、サイコ・フィールドに完全に防がれ、ハイメガランチャーで反撃される。

 

「ちょっ!?そいつは想定外過ぎる」

 

開発したオレの想像以上のビームの出力に慌ててマントでガードする。ハイメガランチャーが融けていてもおかしくないのだが、排熱による蒸気すら見受けられない。これが高レベルニュータイプとサイコフレームの共振による力か。まさかこれほどまでとは。カーブでの減速の際に再び狙撃をやってみたがサイコ・フィールドを抜けない。仕方ない、もう一段本気を出そう。使う気はなかった呪印を開放して出力を上げる。

 

『行かせない!!』

 

簪と蘭も魔術炉心に魔力を追加で投入し出力を上げてくる。だが、ISと言うオモリを纏う以上こちらの方が上だ。地面を蹴り、一気に二人を引き離してラウラに肉薄する。エクスカリバーとアロンダイトを引き抜き、斬りかかる。ラウラが取れる手は、ハイメガランチャーかBWSのビームライフルをサーベル状に固定しての防御。どちらか、もしくは両方、どちらで来る。

 

 

 

 

 

 

 

まずい、距離を詰められた。射撃戦ならこのフィールドが守ってくれるが、あの剣はまずい。どうする、ハイメガランチャー、いや、ビームライフルをサーベルに。違う、自分の感覚を信じろ!!

 

足場にしていたBWSを蹴り出してぶつけ、BWSを撃ち抜くようにハイメガランチャーのトリガーを引く。今度は収束するように、全てのエネルギーを撃ち出す!!

 

ハイメガランチャーに撃ち抜かれたBWSが爆発し、吹き飛んでいくビームライフルをフィン・ファンネルに回収させる。よし、1つは壊れているが、もう1つは使える。壊れている方もカートリッジを抜き、エネルギーが切れたハイメガランチャーと共に破棄する。無論、シールドから引き剥がしてだ。シールドがないと次に接近された時に切り捨てられる可能性が高いからな。

 

先程の一撃でお兄ちゃんとの距離が大分離れた。最も、ハイメガランチャーは身体を隠せるほどの大きさの大剣で防いでいた。お姉ちゃんと蘭が追撃に入り、お兄ちゃんとの距離がぐんぐん離れていく。このままなら余裕でゴールできる。

 

そして最後のカーブを曲ったところで敵意に反応してフィン・ファンネルがシールドを張る。後ろではなく前に。意識を向ければ応急処置だけ施した他の参加者がコースを逆走しながら襲い掛かってくる。

 

「なるほど。逆走して襲ってはならないなんてルールはなかったな。だが、負ける訳にはいかない!!」

 

フィン・ファンネルを全機飛ばし、ビームライフルと共に連射で飛んでくるビームやレーザーや鉛玉を撃ち落とし、余裕があれば顔面を撃ち抜く。一番最初に篠ノ之箒が落ち、次に凰、オルコットが落ち、エネルギーが切れたビームライフルのカートリッジを織斑一夏の顔面に投げつけて手放した刀を引っ掴んで駆け抜ける。そして腕だけ後ろに向けてライフルを乱射する。

 

振り返る暇はない。暴風が既にそこまで近づいているのだから。先輩たちが振り返った瞬間、真空の刃が、水の龍が、レールガンが全てを飲み込んでいく。

 

「逃がすか!!」

 

再び追いついたお兄ちゃんが切りかかってきたのを奪った刀で受けて押し返し、砕けた。ちょっ、待て待て待て!?脆いにも程が有るわ!!武器は、エネルギーが切れたビームライフルだけ。フィン・ファンネルはさっきのに巻き込まれて全部落ちた。シールドはレールガンらしきものががかすって手を放してしまった。何か手は、ってこれしかないわ!!ビームライフルで殴りかかり、押し返す。

 

まさか銃剣術なんて使う羽目になるとは思っても見なかったわ!!というか、刀より堅いな、このライフル!!受け止め、打ち返し、防御主体で時間を稼ぐ。だが、ライフルも限界を迎えて真っ二つにされる。どうする?どうすればいい。そうだ!!

 

「ありがとう、マリカー!!」

 

お兄ちゃんに真正面から組み付き、そのままゴールに向かって突っ込む。今思い出したが、先にゴールしたほうが勝ちなんだ!!これで勝ったと本気で思った。油断しかなかった。反転されて先にゴールされた。

 

 

 

 

 

 

ラウラの落ち込み方が半端ない。まあ、オレも簪も蘭もクラリッサも笑いを我慢しようとして漏れてるからな。

 

「笑わば笑え!!我慢しきれてないんだよ!!」

 

「そうか、じゃあ遠慮なく」

 

四人で大笑いする。そしてラウラは再び落ち込む。

 

「はぁ~っ、笑った笑った。まあ、最後はともかく、いや、最後も想定外だったが、今日は本当に驚かされた。体に異常はないか、ラウラ」

 

「ふん、私の心はボロボロだ。悪い大人達に虐められてるからな」

 

「いや、結構真面目な話。ラウラ自身は分かってなかったんだろうけど、途中から全身火だるまだったから」

 

「何!?」

 

「映像あるよ」

 

簪から全身緑色の火だるま状態のデルタを見せられて慌てて身体を調べ始める。

 

「たぶん、大丈夫」

 

「一応検査してもらおうな。クラリッサ」

 

「手配してあります。隊長、こちらへ」

 

クラリッサに連れられて会場を後にするラウラを見送る。こっちはこっちで後始末があるからな。

 

「で、何か用かな?」

 

廊下の角から現れたのは織斑一夏の回りにいる奴らだ。

 

「お前達、一夏に何の恨みがあるんだ!!」

 

「恨み?」

 

意味が分からんぞ。スタートの時の不意打ちだと思っていたのだが。

 

「雪片参型を壊しただろう!!弐型もお前が壊して、どこまで一夏を傷つけるんだ!!」

 

「武器が破損することは普通だろうが。何を言ってやがる。そんなに大事なら使わずにしまっておけ。あと、恨みなんかはない。路端に落ちている小石に恨みなんてもたないだろう?」

 

「貴様!!」

 

「蘭、アンタ、なんでそんな男の所にいるのよ!!」

 

「織斑先輩よりも元士郎先輩の方が格好良くて頼りがいがあって私を愛してくれるからですが何か?それよりも皆さんISの修理をしなくて良いんですか?ほぼ大破でしたよね。授業に支障をきたしますよ」

 

「あんな不意打ちをしておいてなんて口を!!」

 

「ラウラは普通に対応してたよ。先輩方もガードしてたから中破だしね。ルール的にも問題なし。腕の差がもろに出た形。や~い、下手くそ」

 

「まあ、そういうことだな。それと1つ宣言しておく」

 

「調子に乗ってんじゃねえぞ、小娘共」

「調子に乗るのも此処までよ、小娘共」

「調子に乗ってんじゃないわよ、小娘共」

 

三人で殺気を気絶しないギリギリで浴びせる。全員の顔が恐怖に染まり、床に座り込み、廊下をアンモニア臭の液体で濡らしていく。

 

「敵対してないだけマシだと思え」

 

そう言い捨てて、その場を離れる。これだけしてまだバカな対応をするなら。摘み取るだけだ。

 

 

 



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動き出す時代

 

 

 

「えっ、部活動に所属するのって義務だったんですか?」

 

生徒会長から明かされる衝撃の真実。というか、初耳。でも、邪な感覚がする。回避するのが一番だな。

 

「そうなのよ。だから、このままだとちょっと問題がね」

 

「じゃあ、調理部に入部届けだしてきます」

 

スポーツ関係に男が混ざるのはアレだからな。そう言えば織斑の奴は何処に所属してるんだ?同じ部活はパスだな。

 

「ちなみに私もまだ入部してない」

 

「私もだな」

 

「なら三人で入部届を出しに行くか。だけど、簪はお菓子を作るな」

 

「大丈夫。もうあんな過ちは繰り返さないはず」

 

「いや、絶対に繰り返す。なあ、止めとこう。お菓子以外なら大丈夫なんだから」

 

簪からすっと渡されるのはフィルムに包まれたクッキーだ。いつの間に作ったのかはしらないが、オレ以外無事に完食できた奴をオレは知らない。いや、グルメに居た奴らなら大丈夫かもしれないが。とりあえず、一枚を口に放り込む。うむ、攻撃力が上がってるな。

 

「ヤバイな、これは。進化、いや、退化?とりあえず攻撃力は上がってるな」

 

危険物を取り上げて全部口に流し込んでおく。

 

「食べ物に攻撃力ってどういうことだ?」

 

「そのままの意味だ。攻撃されてるんだよ、食い物に。と言うわけでお菓子作りは駄目」

 

「ちぇっ」

 

話は終わったとばかりに生徒会室から出ていこうとすると会長に止められる。

 

「ちょちょちょ、ちょっと待って」

 

「なんですか?他にも要件が?」

 

「えっとね、出来れば、可能な限り、学園祭で生徒会の出し物に協力してほしいなって」

 

「内容にもよりますけど」

 

「一応、劇なんだけどね。内容はともかく人数が足りなくて」

 

「オレと簪メインで外から何人か協力してもらって即興劇なら良いですよ」

 

「えっと、一応準備している分とかあるんだけど」

 

リストを受けとってざっと設定と配役を弄って簪に見せる。多少の修正の後にラウラに渡す。オフレッサーの名前の横に誰?とコメントが入ったので似顔絵を書いてやれば納得したようだ。その後、会長にリストを返す。

 

「そんな感じでよろしくお願いします」

 

「知らない名前が二人か。それ位ならなんとか。けど、この似顔絵の人をこの役で入れるってどうなの?」

 

「楽しいでしょう?即興劇ですから自由に動いて下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄、IS学園の学園祭のチケットが何枚か余ってるから欲しかったらくれるって元士郎先輩が言ってるけど?」

 

「一応、オレも一夏から貰ったけど。それにしても蘭、本気であの匙って奴がいいのか?」

 

「恋人の条件を全部満たしてるけど?この前の土曜もデートだったし。何かお兄に迷惑でもかけてた?」

 

「いや、色々変わっちまったなって。この前のキャノンボール・ファストの時から特に。容赦とかなくなってるし、何やってるのか全然わからなかったし」

 

「ああ~、お母さんも言ってたっけ。ISに乗るとアレぐらいは余裕とは言わないけど出来るんだ。容赦がないのは相手がISだから。手加減の必要がないって楽。元士郎先輩も簪先輩も手加減なんてしたら追いつけないぐらい強いし、楽しいんだ」

 

「いつからそんな路上で殴り合いしてる奴らみたいな事になってるんだよ」

 

「私より強い人に出会っちゃった」

 

「はいはい。ちぇっ、オレも彼女が欲しいや」

 

「そもそもお兄の好みは?」

 

「そりゃあ、ほら、まずは話が合わねえと付き合いづらいだろう?努力だけじゃあどうにもならないこともあるし、趣味を曲げるってのも何処か違うだろう?見た目とかがどんなに良くても女性至上主義者は絶対勘弁。それ位か?」

 

「私より範囲が広いような気がするんだけど」

 

「いや、まあ、そうかもしれないけど、話が合わなかったりとか、周囲に邪魔されたりして中々な。ちょっと話そうとするだけで関係ない女共に冤罪着せられそうになるから。雑誌とかでも草食系が増えたって言うけど、そうしないと犯罪者にされるんだぜ。積極的に作ろうとするオレは少数派だ」

 

「私、女子校だからそこら辺は分からないや」

 

「そうだよな。普通に付き合ってる奴らですら、関係ない奴らの所為で別れなきゃならなくなったりしてるからな。おかしい世の中だぜ」

 

「ISの所為だよね。やっぱり」

 

「あんまり言いたくないけどな。男どころかISに関係のない女にまで疎まれてるよ。それ以上に女性権利保護団体とそれに傾倒してる奴らは嫌悪すらされてるけどな」

 

「大丈夫だよ、お兄。世界はもうすぐ変わるって。万能航行艦の話は知ってるでしょ?」

 

「軍用ISを完封したって奴だよな」

 

「重要なのはそこじゃないんだけどね。万能航行艦の良い所はね、簡単に宇宙にまで行けるってこと。私も1回だけ連れて行ってもらったけど、訓練とか何もいらないんだよ」

 

「簡単に宇宙にか。どれ位簡単なんだ?」

 

「う~ん、又聞きだけど、スペースシャトル作って使い捨ての大気圏離脱用のロケット作って宇宙飛行士6人を養成して物資や機材を500kg積載して宇宙ステーションに送り込む。これだけのことに3年位の準備期間が必要なんだって。で、実はこの6人って何十人といる中の6人、残りの人は任命されるまでずっと共通訓練を受け続けるの。その何十人が毎年入れ替わってるんだって。それもふるい落としってさ、相手を信用できるかどうかの訓練とかだったりするわけ。全員が道連れになるから。だから信頼できる人としかチームを組めないの。人数が少ないから一人一人の負担も大きくて、とっさにサポートできるわけじゃないからこそだね」

 

「命をかける以上はそうだよな」

 

「それに対して万能航行艦なら数百人単位、動かすだけなら10人ほどでも大丈夫なんだけど、とにかく大量の人員を運べるの。通常の定員が600人だし、積載量も200万tまでならほとんど問題ないし、初期コストはこっちの方が高いんだけどランニングコストを考えると3回で同じぐらい。だけど、運んだ量で比べるとその差は一目瞭然でしょ?」

 

「人数は100倍、運んだ物資が400倍じゃあ話しにならないな」

 

「それで、元々D×Dって宇宙開発の企業だから宇宙服とかもちゃんとあるし、細かい部品とかもちゃんと規格どおりに作ってるし、むしろ自分達で月を開拓するんだって準備を始めてるよ」

 

「一企業がすることじゃねえな!?」

 

「今なら月は誰の物でもないから丸儲けだとか悪い笑顔の社長が言ってた」

 

「そんな簡単に開拓なんて出来るのか?」

 

「出来るからこそ準備してるんでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は群雄割拠、幾つもの弱国が強国に潰され飲み込まれていく中、東西を強国に挟まれた小さな水の国。その国の王は潰される前にと東の国の王と姫を結婚させ、属国として生き延びようとしました。ところがそれを知った第1王女は城から抜け出し、西の国へと逃げ出してしまいました。しかし、王は焦ることはありませんでした。姫はもう一人居り、今度は逃げられないように牢に入れたのでした。

 

「二人共絶対に許さない」

 

牢に入れられた姫は見張りが居なくなると同時にブローチを壊し、破片を使って器用に鍵を開けて脱獄します。

 

「とりあえずは武器と金目の物を回収しないと。父はこのまま処刑なりされるだろうけど、私のために生贄になってもらおう。お姉ちゃんはその後に引き渡して民だけは許してもらえばいいでしょう」

 

脱獄した姫のもとに専属侍女が飛び込んできました。

 

「姫、助けにって、なんで開いてるの!?」

 

「ラウラ、ちょうどよかった。武器は持ってる?」

 

「サバイバルナイフなら」

 

「ナイフか。仕方ない。兵士から奪い取ろう」

 

「えっと、王様狩りを?」

 

「ううん、とりあえず宝物庫に行くよ。東の国の王に渡すのは勿体無いものを回収したりしないといけないから」

 

「国を捨てるので?」

 

「王を捨てるだけ」

 

二人して場内の見張りの兵士を気絶させながら宝物庫に辿り着く。頑丈な宝物庫の扉を兵士から奪った剣を犠牲にして切り開く姫。

 

「ラウラは持ち運びしやすくて足が付きにくい宝石を集めて。私は貴重な品を集めるから」

 

宝物庫内で手分けして行動を開始し、すぐに姫が戻る。今までの動きにくいドレスを脱ぎ捨て、動きやすいというより、戦いのためだけに特化したような服を着て。

 

「姫、なんですかその格好?」

 

「この国を作り上げた女王が着ていた戦闘服(バトルドレス)、こっちは秘剣・閻水。初代様は剣の腕と閻水によって作り出した内海によってこの国周辺を人類の生存可能域にした聖人なの。さすがにこれは渡せないよ。それより、そっちの方は?」

 

「とりあえず、上等な宝石を邪魔にならない程度と当座の資金としてある程度の金貨を」

 

「上出来。それじゃあ、行こうか、お姉ちゃんを捕まえに」

 

こうして姫は国を旅立ちました。情報を集めながら順調に西へと向かい続けました。そんな姫の前に立ちはだかるものが現れました。

 

「第2王女で合ってるかしら?」

 

「貴女は?」

 

「第1王女に雇われた傭兵。恨みなんかは全然ないけど、此処から先を通す訳にはいかないの」

 

武器や鎧を持たず、手甲と脚甲のみで立ちふさがる傭兵。

 

「ラウラ、Cの袋」

 

「ええっと、Cの袋、これか」

 

侍女から受け取った袋をそのまま傭兵に投げ渡す。

 

「えっ、この感触と重さ、えっ、まじ!?」

 

「退いてもらえますか。時間が惜しいので」

 

「いや、でも、一応前金を貰っちゃってるし」

 

「ラウラ、倍プッシュ。それから水を」

 

「持ってけドロボー」

 

侍女が直接袋を投げつけ、水を取り出し王女へと渡す。水を受け取った王女はそれを秘剣・閻水にかけ、水の刃を形成する。

 

「どうする?やるなら相手になるけど」

 

「え~っと、この後も継続して雇ってくれるとありがたいです。私の実力を売るためにも一手、手合わせをお願いしたくはあります」

 

「いいよ。手合わせしてあげる」

 

「姫、お待ちを。怪我をされると困りますので、私が相手をします」

 

「ラウラが?まあ良いよ」

 

侍女はナイフを片手に傭兵に躍りかかる。傭兵はナイフを手甲、脚甲で防ぎながら手刀、脚刀を主体に攻める。徐々に侍女が押され始め、とうとう体勢が崩れ、傭兵が止めを刺そうとした所で

 

「この瞬間を待っていた!!」

 

ナイフを投げたと思えば細いワイヤーが括り付けられていたのか、それを操り、傭兵の上半身の動きを封じ込める。ナイフ自体は真剣白歯取り(誤字にあらず)で防がれてしまう。そして、二本目のナイフを取り出して飛びかかり、巴投げの要領で投げ飛ばされて顔面から落下する。

 

「だ、大丈夫、ラウラ?」

 

「あんまり大丈夫じゃない。鼻を思いっきり打った」

 

こうして姫は傭兵を仲間に加えて更に西へと向かいます。そして、とうとう第1王女に追いつきました。第1王女は西の国と水の国の最前線の砦にいることまではわかりました。

 

「噂では、西の国の皇太子が出張ってきているそうですけど、どうしますか?」

 

「正面から行くよ」

 

「三人で砦攻めは無謀だけど」

 

「そんなことしないよ。まずは、正面からお姉ちゃんに対しての勧告、その次に西の国に対しての勧告、最後に強行突入してお姉ちゃんを拉致って逃げるよ」

 

即断即決が第2王女の性格でした。真正面から砦に向かい、堂々と名乗りあげる。

 

「私は水の国の第2王女、こちらに水の国の第1王女が尋ねてきたと聞いた。第1王女は東の国に嫁ぐことになっている。これは決定事項である。今この時も、水の国の民が危険にさらされている。王族の責務を果たさぬなら、全てを捨てろ。名誉も富も、その命すらも捨てろ。気に食わぬことには己が力で持って道を切り開き、原因を打ち払え。初代様の言葉を守れ!!」

 

「くくっ、どう聞いても水のイメージに似つかわぬ過激な言葉ではあるが好ましくある。水の国の初代は天地開闢とは言わんが、内海を作り出すほどの偉人であったな。ウチの国と似ている。上に立つものは誰よりも多くをその手で切り捨てろってな」

 

苦笑と共に黒紫の鎧を着た男が砦から現れる。

 

「貴殿は?」

 

「分かりやすく言えば西の国の皇太子。今は東の国の進行に備えてこの砦に詰めている」

 

「水の国が侵略されるのは想定内ということですか」

 

「そのとおりだな。オレと貴殿か姉君との政略結婚の話も出ていたが、水の国の王は東の国を選んだ。それが全てだ」

 

「そうでしたか。それで、姉はどうしていますか」

 

「一応はまだ賓客ではあるが、人質に使えるかもしれないんでな」

 

「それは困りましたね、姉は東の国への贄ですから」

 

「ならば」

 

皇太子が腰の剣を抜く。

 

「やることは」

 

第2王女が侍女から水を受取り刃を形成する。

 

「「ひとつ!!」」

 

二人が同時に踏み込み、一度の交差で数度の剣が弾きあう。それだけで互いに相手の力量を見切ったのか口角が上がる。

 

「くっ、くくくく」

「ふっ、ふふふふ」

 

二人が笑いながら舞うように剣を交わす。円舞が如く立ち位置を常に変えながら剣舞が続く。それも次第に第2王女が押され始める。

 

「来て!!」

「来い!!」

「よっしゃあ!!」

 

第2王女の声に合わせて傭兵が躍りかかり、皇太子が二本目の剣を抜く。水と剣の円舞に、剣と手甲・脚甲の円舞が加わり激しくなる。二次元だった動きが三次元へと移り変わる。そして、それを邪魔するように人の身長よりも大きなトマホークが三人の間に飛んでくる。

 

「ぐはははは、何やら楽しそうではないか」

 

「東の国の王か。人の楽しみを邪魔してくれるとはどういう了見だ」

 

「何、花嫁がさらわれたと水の国の王が言うのでな。ちょっくら足を伸ばしたまでよ。そこの嬢ちゃんがそうか?」

 

「自分で逃げ出した花嫁とやらなら保護しているがな。欲しけりゃ持っていけ。こっちはお楽しみ中なんでな、邪魔をす」

 

突如天井が壊れる音と共に黒い塊が複数降ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

感知結界に反応があったために来るとは分かってはいたが、その姿には少しだけ驚かされた。

 

「迅雷を模したか。ウチに罪を擦り付けようとする気か。だが、甘いな」

 

「学園中にこれと同じ反応がある。どうする、元士郎?」

 

「予定を繰り上げる。PTを解禁する」

 

「ならばこの場は任せておけぃ」

 

「頼んだ。散開するぞ、ラウラは会長と動け」

 

体育館から飛び出して一番敵の数が多い第1アリーナに向かう。敵の数は約300。一人頭で6機潰せばお釣りが来るが、オーフィスの運行に20人ほど取られるから、狩れるだけ狩らせてもらおう。量産型迅雷らしきISが投げる爆発する苦無をプラズマカッターで切り落とす2機のPTの間に降り立ち、迅雷を切り捨てる。

 

「シールドを張って避難区画にするぞ。近くの一般人を誘導、防衛陣を敷く。オレは周辺の安全の確保に向かう」

 

「「了解」」

 

ラインを伸ばしてアリーナ周辺の迅雷を縛り上げて、そのまま捻り切る。そしてコアを摘出して集めておく。シリアルナンバーは付いていないな。これで証拠にはなるな。

 

「一般人への被害を許すな、行くぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

体育館から飛び出していく本体達を見送り、一般人に攻撃しようとする木偶人形にトマホークを投げつけて頭部を破壊する。

 

「貴様らはオレの獲物だ!!コール、ゲシュペンスト!!」

 

待機形態である腕時計に向けて大声で起動を呼びかける。地球連邦軍装甲擲弾兵の標準装備。開発されてから地球種が滅びるまでマイナーチェンジを繰り返して、最後の最後まで地球の勇者達を支え続けた、先に散った勇者達の亡霊。忍者もどきに負ける謂れはない。

 

「我が名はオフレッサー、勇者の中の勇者である!!血も通わぬ木偶人形の忍者もどき共よ、勇者を恐れぬならかかってこいっと言っとろうが!!」

 

無視して一般人を襲おうとする木偶人形を両腕のプラズマバックラーを起動させて殴りぬき、最初に投げたトマホークと、木偶人形に投げつけたトマホークの二刀流で壁に叩きつけていく。さすがゾル・オリハルコニウム製だ。全く欠けんな。

 

「第1アリーナでオレの仲間たちが防衛陣を敷いている!!一番戦力が集中してるから安全だ!!死にたくなければ急げ!!」

 

壁から抜け出そうとする迅雷に再びトマホークを投げつけて破壊する。

 

「流行遅れが。時代はアサシンなんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

最初こそ気配が読めなかったが、所詮はプログラムだ。一度見切り、製作者の思考が読み取れれば

 

「撃ち抜け、フィン・ファンネル!!」

 

フィン・ファンネルが次々と迅雷にビームを浴びせて押し込んでいき、まとめてハイメガランチャーで撃ち抜く。

 

「ラウラちゃん、いつの間にそんなに強く」

 

「キャノンボール・ファストから調子がいい。読みが冴えるし、対面すれば相手が私をどう思っているのか、大体が分かる」

 

ビームライフルを連射して苦無を撃ち落とす。忍者刀で切りかかってきたのを紙一重で躱してグレネードをカウンターで叩き込む。

 

「ちっ、世話の掛かる」

 

止めを刺されそうになっている4人と6機の迅雷の間にビームライフルを連射して距離を開けさせる。

 

「邪魔だから第1アリーナまで引いてろ!!ここは私達だけで十分だ」

 

ビームサーベルを引き抜き、迅雷の手首を切り落として攻撃手段を喪失させる。

 

「私達が邪魔だと!!」

 

「エネルギーも切れかけで武器を全部壊されてるだろうが!!素手で倒せる力量もないだろうが」

 

手首がなくなっても襲ってくる迅雷を蹴り飛ばしてビームライフルを直撃させる。

 

「そこのゲシュペンスト、こいつらを連れて行ってくれ」

 

「分かった。ほら、暴れるな。邪魔すれば一般人への被害が広がるだろうが」

 

ゲシュペンストに抱えられて第1アリーナに連れて行かれるクラスメートの専用機持ちを無視して新たに接近してくる迅雷に向き直る。

 

「はぁ、あの子達の機体なら問題ないはずなのに」

 

「連携のれの字も無くて、仲間割れのわまであるような連中だ。邪魔にしかならん」

 

「厳しいけど現実よね。エネルギーの方は大丈夫なの?」

 

「余裕だ」

 

「それじゃあ、行こっか」

 

 

 

 

 

 

戦闘を始めて1時間、あらかたの迅雷の破壊が終わった所で万能航行艦オーフィスが姿をあらわす。もちろんガワを似せただけの偽物で、それを作ったのは篠ノ之束だろう。そのオーフィスから実弾が放たれ、海に潜んでいた本物のオーフィスのショックカノンに撃ち落とされる。そこからは一方的だった。オーフィスと30機のゲシュペンストに有効打を与えることが出来ず、完全に鹵獲され、エンジン部に巨大なISコアが設置されているのを全世界に公開した。

 

その上でD×D社長、暁流が全世界に生放送で発表を行う。

 

「世界中の皆さん、僕がD×Dの代表取締役社長暁流です。この放送はIS学園第1アリーナ前から全世界に向けて放送させていただいております。さて、早い所には既に情報が入っていると思われますが、改めて現在、我々D×DがIS学園にてこの放送を行っている経緯をご説明させていただきます。今から約1時間前、IS学園に多数の、約300機の無人ISが襲撃を行い、学園祭が行われていた為に多くの一般人に死傷者が出ています。IS学園に所属する社員と学園祭に参加している社員の安全を確保するために現場に駆けつけた次第です。襲撃を行ったISは我が社の社員達が鎮圧したのですが、私どもが現場に到着した時には、我が社の万能航行艦を姿を模した艦がIS学園を襲撃していました。こちらは完全に武装を破壊し、鹵獲し、中を確かめると無人艦であり、エンジンルームには巨大なISコアが設置されていました。これがその証拠映像です」

 

暁の背後に空間ディスプレイが展開され、量産型迅雷とゲシュペンストの戦闘、偽オーフィスとオーフィスの対艦戦の映像が流される。そしてどちらからもコアが摘出されるシーンが流れる。

 

「篠ノ之束博士は、我々に罪を着せようと態々量産を行ったようですが、我々は既に独自のパワードスーツの開発に成功しています。今回の件でも自衛のために使用し、多くの方が実際に目にしているでしょう。性能面では現行のISとほぼ変わりませんが、ISコアの代わりに搭載しているプラズマジェネレーターによって、男女制限、さらには適正による操縦の難度は存在しておりません。ちなみに販売予定は半年ほど先を予定していたのですが、公開してしまった以上は近日中に販売させていただきますが、ラインを増やしても数がしれてるので販売制限はさせて頂きます。基本的には国ごとに販売という形になるでしょう。無論、数が増え次第制限は解除していく予定です。さて、商売の話は置いておきましょう。私がこの放送を行った理由はただ一つ」

 

そこで一度会話を切り、今までの柔和な顔を脱ぎ捨てて憤怒に染まった顔で怒鳴る。

 

「宣戦布告だ、この女郎!!オレ達に濡れ衣を着せるのはまだいいがな。何の関係もない一般人を巻き込んで死傷者を出しやがって!!ガキかテメエは!!火星と木星の間のアステロイドベルトに基地を作ってるのは分かってんだよ!!貴様の全部を否定してやるよ!!ISの技術を全部オレたちの会社の技術で駆逐して、テメエには罪だけが残るようにな!!というわけで大々的な社員募集だ!!万能航行艦の製造工場、パワードスーツPTの製造工場の作業員を大々的にな!!履歴は一切問わない!!工場の建設から作業員寮での作業でも仕事はいくらでもある!!条件はやる気のみ!!詳しくはホームページを見ろ!!以上だ」

 

さあ、全面戦争だ。先に引き金を引いたのはそっちだ。一切容赦しない。

 

 




スパロボを優先してまだヤマトを観に行けてません。
というか、スパロボのヤマトが強すぎてシャレになってないです。戦艦の単騎特攻でパルスレーザーだけで大抵の敵が沈む強力すぎる戦艦です。戦艦をフル改造する日が来るとは思っていませんでした。
スパロボWの史上最強の家?知らない子ですね。

2202序盤の公開部分だけで大戦艦が強くなりすぎててびっくりしました。大雑把な名前の通り旧作では目立った活躍をしていなかったのに。


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巡り不変の世界

これにてIS編終了。


 

 

「案外爆発するのが早かったな」

 

「普通に考えるなら戦力が整う前に一気に潰すと考えるのが一番なんだろうけど」

 

「子供の考えで言うならムカついたからの一言で片付いちゃうね」

 

学園祭から2週間、IS学園が物理的に休校になってしまったので住処をオーフィスに移しているオレと簪、安全と弾君の治療のために別口として蘭とその家族御一行、あと、オレの家族もオーフィスに移って貰っている。ラウラとクラリッサは帰国してしまったが、その前にISコアをプラズマジェネレーターへの換装は済ませてある。

 

世間はあの事件からISを忌避する方向に一気に流れた。死者14名、重軽傷者167名の大事件だ。IS学園の学園祭には基本的に生徒の保護者、あるいはIS関連の大企業の関係者、政府関係者しか参加できない。そして死者の中には大物も混じり、重軽傷者にも混じっている。

 

D×Dの社員募集は今も増え続け、生産速度も徐々に右肩上がりになっている。ミドガルズオルム級はドッグを拡張しながらの建造のために時間がかかっているが、艤装を除けば月産2隻にまで上り詰めている。PTに関してはプラズマジェネレーターの生産の方に力を入れ、パワードスーツとしては各国のISにプラズマジェネレーターを搭載する形のほうが数を揃えやすいと説明してある。それでもジェネレーターが週産で46、ゲシュペンストが週産で3という状況だ。

 

このタイミングで篠ノ之束は、火星と木星の間のアステロイドベルトからそこそこデカイ資源衛星を基地として改造し、それを地球圏まで引っ張ってきているのが確認された。月あたりまで来るのは3日後ぐらいだ。ついでに面白い声明文も出している。

 

『ふ~んだ、地球なんて滅んじゃえばいいよ』

 

あれには笑った。大した自信だ。閻水やらオーフィスやらPTでボロボロにしてやったのに、まだ自分の思い通りになると思っている辺りが笑える。

 

「それで、どうするの?」

 

「とりあえずは国連の動き待ち。裏で迎撃の打診はされてるから確実に迎撃には出るけど、それはD×Dとしてだけ。実際に出るかは家族と話し合って、それからだな。ちなみに能力は完全解禁でいい。誤認結界を地球圏内全体に張るから」

 

オレの言葉に簪と蘭が驚いているが、これぐらいの範囲は狭いぐらいだったりする。それだけ宇宙はデカイってことだな。

 

「私は多分、国からも家からも出ろって言われるかな」

 

「簪はそうだろうな。蘭は」

 

「ちょっと家族が許さないかな。出来れば家族の傍にいてあげたいし」

 

「それが良いさ。弾君の怪我の方は?」

 

「近くにいた女性を庇って背中に爆発をモロに受けて火傷と大量の破片が埋まってたんだけど、どっちも手術は終わってる。あとは、自然治癒を促しながら安静にしてれば問題ないらしいよ。庇った女性が御見舞に来た時に良い雰囲気みたいだったし、連絡先もちゃんと交換してたみたい」

 

「くくっ、この草食系男子じゃないとまともに世の中を歩けない中でそこまで積極的に動けるとわな。中々肝の座ってる奴だな。織斑よりよっぽど信頼できる」

 

「うん、自慢のお兄だよ。ところで元士郎はどうするの?」

 

蘭から視線を反らす。

 

「元士郎、もしかして」

 

「家族と仲が悪いんじゃあ」

 

「いや、その、なぁ、何回か親はやっても、子であったことなんてないからさ、どう接すれば良いのかがな。普通に笑えるようになったのも、ソーナと再会してからだし、夏休みも戻ってなかったし」

 

「そう言えば学園祭の時に微妙に目的地を反らしてたりしてたのって」

 

「まあ、なんだ、うん、逃げてたな」

 

「趣味の登山も逃げるためなんだね」

 

「うぅ、その通りです」

 

「もしかして、家族をオーフィスに乗せてからも?」

 

「行ってないはずだよ」

 

簪と蘭に揃ってため息をつかれる。

 

「ほら、元士郎のご家族に挨拶に行くよ」

 

「お付き合いさせてもらってますってね」

 

リトルグレイのように二人に両手を持たれて引きずられる。せめてもの抵抗が自分で歩かないというのが情けない。それでも二人が言いたいことは分かるんだよ。だから全力では抵抗していないのだ。それもオーフィスに乗り込んでいる一般人に開放されている食堂の前までだ。ここまで来れば覚悟も決まるさ。

 

身だしなみを整えて二人と一緒に食堂に入る。そのまま一直線に親父とお袋の所に向かう。

 

「あ~、久しぶり、親父、お袋」

 

「元士郎、貴方ね!!こんな素敵な娘達を引っ掛けたんならちゃんと紹介しに来なさいよ!!」

 

「え、いや、ごめん」

 

予想外の方向に怒られて素直に謝ってしまった。というか、簪達はお袋達に会ってたのかよ。

 

「昔からあっちへフラフラ、こっちへフラフラと、家にも帰らないで山に篭ったりして甲斐性がないし、女の子にも興味が無いみたいだから孫を抱けるのか心配で心配で。それが急に三人も引っ掛けて本人たちも納得してるし、幸せそうな顔をしてるし、D×Dの社長さんからはデータ取りに最適な人材だから直ぐにでも引っ張りたいって言ってくださるし、もう嬉しくて嬉しくて」

 

そう言って泣き出すお袋に罪悪感が苛まれる。こう、胃の辺りがきゅっとなる。

 

「母さんも言っているが、まあ、なんだ、あまり親らしいことをしてやってないが、お前の将来を心配しててな。ふらっと居なくなってそのまま見つからないんじゃないかと思うことがあった。だから、お前が、この際三股なのは置いておいて、急に居なくなったりはしないと安心したよ」

 

簪と蘭から冷たい視線を向けられてるのが背中越しに分かる。いや、まあ、確かに死体を偽装する準備もしてたから何も言い返せないんだけど。

 

「いや、まあ、なんと言うか、そうだな、ガキの頃から、早く大人になりたかった。で、子供だったから大人は油断して汚い裏側を散々見せて、ISの登場で更に人の汚い部分を見せつけられて、嫌になってたのは事実だよ」

 

実際、この世界の分だけでヒドイものだったからな。前世は更に酷いのを見てきたけど。

 

「自分以外の誰か、大人と女を本当に信じて良いのか、それが分からなくなった。それどころか、自分もそんな大人達のようになってしまったのではないかと思った。それが嫌になった。だから、人との接触が少なくてすむ山に籠もるようになった。その内、他人の信じ方を忘れた。親父とお袋の間にすら線を引かないと駄目なぐらいに。そんなオレに他人の信じ方を思い出させてくれたのがこっちの更識簪。オレの一番大切な人だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり大人のケツは大人が拭かないとね。子供達に拭かせる訳にはいかない」

 

「本体の肉体年齢は子供だけどね。まあ、精神的には神に近いか」

 

「神様が直接手を出すと大抵酷い結果にしかならないがな」

 

艦橋では出撃の最終チェックが行われている。オーフィスの整備は万全だ。あとは、各国から派遣されてきた兵士達の乗艦を待つだけだ。

 

『こちら、技術班だ。エンジンのリミッターを半分ほど外した。これでショックカノンの威力はざっと10倍だ。最も、それでも本来の30%の威力だけどな。今回のだって過剰過ぎると思うぞ』

 

「それだけ本体も本気だってことさ。篠ノ之束に本気で怒っているし、本気で家族も守りたいと思っている。だからリミッターをある程度外した。なによりこれで波動砲が使える」

 

『地球種の伝家の宝刀、本体が宇宙海賊として地球連邦軍に対して反旗を翻すことを決めた悪魔の兵器。存在を否定するために何度も真正面から受けきったよな』

 

「地球連邦のメンツを徹底的に叩き潰すにはあれが一番有効さ。なんせ、3個艦隊が1隻の艦を落とせないんだ。艦の見た目も劣等人種と見下している種族の艦をモデルにして設計思想まで踏襲しているんだ。それはもう、しつこく追い詰めようとするさ。で、こっちにかかりきりになって他の戦線が疎かになって各地で独立運動が活発にもなった」

 

「あとは、独立運動を起こしている星系の支援を繰り返して、何時の間にやら大海賊だ。悪巫山戯でドクロの旗も用意したっけ」

 

「おっと、搭乗が始まったね。部屋を割り振って、艦内を案内してから発進だから、あと6時間ほどだね。その後は軌道上で1日の慣熟訓練の後に決戦だ」

 

「どういう戦術を取るつもりだ、艦長」

 

「この艦のモデルになった艦を覚えているだろう?」

 

「なるほど白兵戦か。だが、あの移動要塞には居ない。どうするつもりだ?」

 

「見せ場は作ってあげないと。装甲擲弾兵は狭い空間でこそ強さを発揮する。広い空間では反中間子対空機銃をばら撒くほうが強い」

 

「誤射を気にする必要が無いからな。クラスターミサイルも撃ち放題だ。なんなら波動ミサイルもばら撒くか?」

 

「必要があればね。必要はないと思うけどね」

 

 

 

 

 

 

 

目標の資源衛星が間もなく射程範囲に入る。一応、最終勧告をしておく必要がある。オープンチャンネルで勧告を行う。

 

「私は地球代表として今回の件の全てを任された迫水慎吾です。篠ノ之束博士、貴方にはIS学園の襲撃犯の容疑者として指名手配されている。今ならまだ穏便にことを運べるし、弁護士を付ける権利が与えられる。抵抗するようなら可能な限りの捕獲、無理なら殺害命令も出ている。その協力者たちも同じだ。分かりやすく言おう、たった数人で世界に戦争をする覚悟はあるかい?」

 

答えはビームの雨と展開される無人ISと無人艦だった。通信をオープンチャンネルから艦内通信に切り替える。

 

「篠ノ之束博士はこちらの要求を拒否した。よって、事前の作戦通り要塞を占拠する。要塞までの道はこの艦が切り開く。総員対空・対艦・対要塞戦用意!!」

 

「主砲・副砲は艦を機銃とミサイルはISを優先的に狙え!!」

 

「機関、リミッター限界まで上げろ。真正面から突っ込むぞ!!波動防壁展開!!」

 

「突入部隊、第1第2格納庫に集結しました!!」

 

「よし、各砲座撃ち方始め!!」

 

主砲・副砲からショックカノンが、機銃からは反中間子レーザーが、ミサイル発射管からはクラスターミサイルが放たれ、次々と無人艦とISが為す術もなく沈んでいく。

 

「あ~あ~、資源が勿体無いな」

 

「レアメタルをふんだんに使いまくっているな。だが、これは、ふむ」

 

「どうかしたのか?」

 

「あの資源衛星、コスモナイトが結構な割合で含まれているんだが、精製したあとがない。気付いてないようだな。あれを使われていると多少は面倒だったはずだ」

 

「使われていないならそれでいいさ。波動防壁を艦首に集中、火力を前方に集中させて。最大火力で要塞に風穴を開ける」

 

「波動カートリッジ弾、波動ミサイル、波動魚雷、連続装填。照準固定、進路固定、撃ちまくれ!!」

 

波動砲を除く全ての火力が要塞の一角を崩し、侵入口を作り上げる。

 

「機関最大。装甲擲弾兵出撃」

 

「カタパルト開放、トリガーを向こうに任せます」

 

「本体から念話だ。本命が向こうにかかった」

 

「やっぱりね。予想通りだ。それでは僕らは僕らで仕事をきっちりこなそう。侵入口に横付けして迎撃する。手の空いている者は直掩に回れ」

 

 

 

 

 

 

「やっぱりこっちに来たか。予想通りすぎてつまらんな。天災とか言われているが、所詮はその程度。10歳未満の子供に力をもたせただけ。それが心理学的に見たお前だ、篠ノ之束」

 

学園祭の時から閉鎖されているIS学園。その第1アリーナにオレは一人で待っていた。ある意味で礼を果たすために。ISがあったからこそ、オレは妻達と再会できた。そのことに関しては感謝している。だからオレ達に対しての無礼なんかは我慢した。だが、関係のない一般人の多くに被害を出したのは許せない。だから餌をまいてやった。戦力のほとんどを囮の要塞に差し向けて、未成年という理由でオレ達は日本にいることを、そしてオレだけがIS学園にいることを態と漏らした。すぐに食いつかなかったのは傍に彼女が居たからだろう。

 

「篠ノ之箒、そして織斑千冬、織斑一夏。お前達は篠ノ之束の協力者と見て良いのか?はっきり宣言してくれよ。宙ぶらりんだと面倒だからな」

 

三人は何も答えずに各々のISに武器を構えさせる。

 

「それが答えね。OKだ。これで堂々と殺せる。そして宣言しておこう。もう終わった」

 

「「「「なっ!?」」」」

 

指を鳴らすと同時に4人のISからエネルギーが完全になくなり、ただの拘束具となる。更には全身をオレのラインが覆っている。抵抗できないように筋力なんかも奪っておいて、記憶にもロックを仕込んでっと。よし、これで無力化は出来た。

 

「まあ、そういう訳だ。オレじゃなくて蘭の所に行っていれば戦うことは出来ただろうよ。簪の所なら静かに綺麗に殺してもらえただろう。運が悪いよ、お前達は。このまま、生きたままバラバラに解体してやる。そこで世にも不思議な体験をさせてやる。冥土の土産に持っていけ」

 

メスを取り出して、まずは篠ノ之箒の元に向かう。

 

「くっ、離せ!!私に触れるな!!」

 

そんなことを叫ぶ篠ノ之箒を無視して他の三人に見やすい位置に移動する。

 

「ではこれより生物学の授業を始める。内容は人体の仕組みについてだ」

 

麻酔無しでラインによる生命維持を続けながら篠ノ之箒を完全に解剖し終える。完全にばらばらになってなお、篠ノ之箒は生きている。全てを元の位置に戻して綺麗に縫合しなおせばまた普通に生きれる。まあ、精神は壊れているがな。眼球を引き抜いても神経系をラインで補ってばらばらにされていく自分を見せつけたのだからな。

 

「さて、次は男女での差を見るために織斑一夏、お前の番だ」

 

「お、オレたちが何をしたっていうんだ」

 

この期に及んでこいつは何を言っているんだ?

 

「馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、お前は自分で考えるという事ができないのか?まあ、最後だからな、優しく説明してやる。篠ノ之束は人類を抹殺するって言ったんだよ。冗談じゃなくて本気でな。今、月よりも少し先、そこでは篠ノ之束が用意した巨大な資源衛星を改造して作った要塞と各国の精鋭部隊を乗せたオーフィスが戦闘を行っている。そして要塞内部から大量の核が存在していた。衛星をそのまま地球に落とせば、恐竜が滅んだ原因と言われている巨大隕石の衝突よりも酷い結果が待っている。世界中に放射性物質がばら撒かれるんだからな。地球を滅ぼそうとする相手を人類は決して許さない。世界中が篠ノ之束とそれに協力する者を殺せと言っている。さあ、疑問は晴れただろう。まずは叫ばれてもうるさいから声帯からだ」

 

織斑一夏も解剖し終えたあと、肉片や骨を片付ける。そして、まだ敵意を持つ二人のために特別ゲストを招待する。ぞろぞろとやってきた人たちは全部で80人と言ったところだろう。

 

「この人たちが誰だか分かる?ISで人生を狂わされた中でもかなりひどい部類に当たる人たちだ。本当はもっと多かったんだけど、殺されたり自殺した人も居て今の人数になった。紹介はそれぐらいで十分だろう。それじゃあ皆さん、先ほど説明したとおりです。今から2時間後までは絶対に殺さないでくださいね。ちょっとしたイベントのあと好きにしていいですから。では、ごゆっくり」

 

二人の悲鳴や人生を狂わされた人々の怒声や歓声を聞きながらポケモンの厳選を始める。時間つぶしにはちょうどいいのだ。ラウラを弄るためにも頑張らないとな。そして2時間後、己のリアルラックの低さを最近忘れていたオレは逆6Vだらけのボックスを見て若干落ち込みながら止めを準備する。

 

「はい、皆さん、注も~く。未だに心が折れていない二人ですが、その心の拠り所はもうすぐ世界を滅ぼせるから。そんなところでしょうが、そんなのは夢幻であることを社長達が証明してくれるようです。空を見てください。あの月よりは小さく見えるのが、二人の希望。それが」

 

天体に影響の出ない角度で波動砲が衛星を飲み込み、跡形もなく消滅させる。うぅ~む、いつも向けられていた側からするとなんか微妙に印象が違うな。もっとしょぼい感じがしてたんだけど、弄ったのか?

 

まあどっちでもいいだろう。篠ノ之束の心が完全に折れる音が聞こえた。織斑千冬もそんな篠ノ之束を見て少しずつ心が折れていっている。

 

「いやぁ~、最高の花火でしたね。それじゃあ、あとはお好きにどうぞ。死んだ時だけはD×Dまで連絡を入れてくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの四人が死んで10年、最後の情けに名を隠して戒名のみを刻んだ墓を参ってやる。世は大開拓時代であり、大惨事、もとい、第三次世界大戦の真っ只中。地球上での武器の制限を行ったために戦場自体は月と火星に集中しているが、徴兵されて宇宙に上がる者達が多い。

 

IS学園は学園祭の後、正式に閉鎖されることが決まった。だが、そのままでは生徒たちのこともあるためPTの専門学校に残りの二年半だけ運営することとなった。基本は同じなためPT関係の企業に路線変更などが行われ、卒業後はそちらの方へと就職していった。ISと違い、PTの数には制限がないために受け皿を大きくすることが容易だったのだろう。だが、身体や心に傷を追って学園を去った者も少なくはなかった。

 

ラウラも軍人として学園を去った口だ。それを補佐するためにクラリッサもドイツへと帰っていった。まあ、長期休暇の度にドイツに遊びに行ったり、クラリッサに至っては普通の休日どころか平日でも夜に転移でこっちに来ることすらあった。

 

オレや簪、蘭は普通に大学に進学、前世では出来なかったキャンパスライフを楽しみ、卒業後はD×Dに就職。その一年後に簪と籍を入れ、結婚式は三人全員とした。

 

D×Dは万能航行艦やプラズマジェネレーターを量産する傍らで事業を拡大し、レスキュー用のロボットや培養治療や没入型VRゲームなど様々な分野に手を出していった。こっちには世界の終わりまでの技術がある。これらをきっかけに産まれた新たな技術を掬い上げるのが昔からのオレのやり方だ。

 

そして火星の領土を求めて始まった第三次世界大戦についてだが、日本はやはりノータッチだ。中立国として動いているというより、関わるなと言われている感じだし、関われないのが実情だ。何故なら地球以外での領土を一切持っていないからだ。精々が傷病人を受け入れたりする程度が限界だ。国としては情けない限り、いや、そうでもなかったな。お隣さんは大事故を何度も起こして国民を殺しまくってるからな。

 

それから国としては情けないが、国民単体で見るとこの戦争で活躍しているのは日本人が多い。好意的に言えば職人気質、それ以外だと変態気質とでも言えば良いのか、二次元を三次元に作り上げたと言えば良いのか。PTを元にMSを作り上げて、新たな合金を作り上げてスーパーロボットまで作り上げたり。日本の職人に十分な資金と中途半端な資材を与えると碌なことにならないな。中途半端な資材を十分な資金を持ってして捏ね繰り回して技術革新を起こす。日本ではよくある光景だ。最先端の機械よりも超一流職人が手作業で作り出した方が精度が高い変態の国だからな。この戦争の兵器の六割が日本人の作った物だ。手作りというわけではないが、マザーマシンの開発は日本の職人の手作業だ。

 

そんな第三次世界大戦も開戦から半年で決着が付こうとしている。何事もなければ、中国・韓国・インド連合とそれを支持していたイスラム圏の国々が敗れ、EU連合が勝利するだろう。それと同じぐらいにアメリカとロシアの月の鉱山を廻る戦争がロシアの勝利で終わる。

 

「元士郎、そろそろ行こうか」

 

「だな。まあ、近況は報告したからな。ソーナ達と再び巡り合わせてくれた恩は絶対に忘れないからな」

 

墓への報告を済ませて立ち去る。世界は変わったが今日も争いに満ちている。

 




本来なら拷問シーンが入っていたのですが、あまりにやばすぎて容量が半分以下になりました。お酒って怖い。

それは置いておいて前書きの通り、IS編終了です。うん、IS編。ちょっとオーフィスを拾ってその先、if編まで持っていきたいと思ってます。


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