古明地さん家の執事さん (シノグ)
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いつもの朝
ごゆるりとどうぞ。
「
「はい。おはようございますさとり様」
朝ごはんの支度をしながらさとり様と挨拶を交わす。
さとり様は早朝でもキリッとしている……ように見えて寝癖がある。さとり様はちょっとだけ抜けているのが可愛いところだ。
地霊殿の朝は早い。
まず最初に執事である僕が起きる。その後にさとり様、お空とお燐、そして最後にこいし様だ。
僕はみんなが起きてくる前に食事の準備を済ませなくてはならない。朝ごはんを食べたその後に
「蒼輝くんおっは〜」
「おっは〜」
「うん。おっは〜」
「こら、お空もお燐もちゃんと挨拶しなさい。蒼輝ものらない」
「「はーい」」
「はい。申し訳ありません」
お空とお燐が目を擦りながら食卓につく。地霊殿では主もペットも関係なく、みんなでご飯を食べるのがルールだ。さとり様は僕たちを従者としてではなく家族として接してくださる。とても寛大な方だ。
「よし、ご飯出来ましたよ」
「うにゅー、眠いー」
お空はふらふらと立ち上がり、お盆を運ぼうとしてくれる。眠たきゃ座ってりゃいいのに、律儀な子だ。流石さとり様のペットだ。まあ、お燐は机に突っ伏してるけど、お燐も普段はいい子だからこのくらいはね。
「おっはよー!」
「こいし、遅いわよ。早く食卓に着きなさい」
「はーい」
こいし様が元気にドアを開け、さとり様の注意を聞きながらも僕に抱きついてくる。お盆を落としそうになるが、これぐらい受け止めなくては執事の名が廃るというものだ。
こいし様は嬉しそうに顔を僕のお腹に擦り付ける。最近のこいし様は僕を見つけるとこのように顔を擦り付けてくる。まあ、嬉しいから止めはしない。さとり様は呆れているけど。
「いい匂いだねー。今日の朝ごはん何ー?」
「味噌汁と焼き鮭とえのきとほうれんそうの和え物です」
「おー、the和食ゥ」
こいし様は献立を聞くと嬉しそうに口笛を吹く。
地霊殿の朝ごはんはいつも和食なんですけどね。
こいし様が抱きついたまんまお盆を運び終え、茶を入れ、席に着く。
こいし様もすごすごと自分の席に着く。こいし様はちょっぴり残念そうだ。いっそ、僕の膝に招こうか。そんなことしたらさとり様に怒られるからやらないけど。
全員が席ついたのを確認して、手を合わせる。
そして声をそろえて、
「「「「「いただきます」」」」」
こうして、地霊殿のいつもの1日がスタートするのだった。
(≧∇≦)/
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蒼輝が執事になるまで 前編
ごゆるりとどうぞ。
目が覚めるとそこは薄暗い洞窟の中だった。
頭が働かない。まるでモヤがかかったような意識のまま起き上がる。
自分の服装を確認してみると、ボロボロの薄い着流しだけだった。
「イタッ…」
硬い地面に転がっていたせいか全身が痛む。
なぜ自分はこんな所にいるのか。考えてみるもまったく思い出せない。とにかく、他に人がいないか探さなくては。
そう思い至りよろよろと歩き出した。
洞窟の壁に手をつきながら歩く。目眩がする。頬には汗が伝い、吐き気もしてきた。いっそ、倒れてしまいたいほどだった。
「川……?」
開けた場所に出る。
そこには幅3メートルくらいの川が流れていた。遠くには橋も見え、その近くに家らしきものも見つけた。
その家の明かりにつられるようにまた歩き出す。
何はともあれ、これで助かった。
これが、僕が地霊殿に行くことになる数時間前の話だ。
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地霊殿 玄関前
「ねぇさとり様?」
「どうしたのお燐」
「いやどうしたはこちらのセリフです。こんなお昼に外に出ようだなんて、珍しいじゃないですか」
「たまにはいいじゃない。そんな日があったって。ペット達に心配されたのよ。そんなに出不精で大丈夫かって」
「あ〜……」
お燐は納得したようにポンと手を打った。
私は普段、外に出ない。嫌われ者の自覚があるからだ。だけどお空の起こした異変以降、この幻想郷に多少は受け入れてもらえた。ような気がする。これが勘違いか否か、確かめるために外出するに至ったのである。ペット達に心配されたのも本当だけど。
私の能力、「心を読む程度の能力」なら周りの人間や妖怪が私をどう思っているのかすぐに解る。さっさと確認して、本当に受け入れてもらえたのであれば素直に喜ぼう。勘違いであれば次は私が異変を起こしてやろうかしら。
そんなことを考えつつ、私は地霊殿を後にした。
「さて、まずはどこへ行こうかしら」
勢いで出てきたはいいものの、行き先を決めていなかった。
「ま、確かめるだけだしさらっと地上に出るだけでいいかな」
旧都の街並みを眺めながら、すれ違う鬼達の心を読み取る。
皆、私のことなぞ気にも留めない様子だった。その事が、私にはなぜか嬉しかった。
誰も、私を怖がらない。私をここの住人として認めてくれているように感じた。
「うん。大丈夫。人間もきっと私を受け入れてくれる」
そう自分に言い聞かせて、橋姫のいる川へと歩き出した。
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橋の近くの家
「人間?そこで何をしているの?」
橋の近くに寄ってみると、女性の声が上から聞こえた。
……上から?
「こっちよこっち」
声のする方へと顔を向けると、金髪碧眼の女の子が宙に浮いていた。って、
「浮いてる?」
そう、その女の子は宙に浮いていたのだ。普通なら有り得ないであろうその光景に頭が追いつかなかった。
「そうよ、見てわからない?妬ましいわね」
金髪碧眼の女の子はゆっくりと降りてきて、僕の目の前に着地した。
「貴方、名前は?」
「え、えと……」
女の子は不機嫌そうに名を尋ねる。
僕の名前か、…………ん?あれ?
「どうしたの?早く答えてほしいんだけど」
「いや、えっと……その」
おかしい。いくら思い出そうとしても、まったく思い出せない。まさか、自分の名前すら忘れていたとは。
その事実に気づいた途端、急激に恐怖が押し寄せてきた。僕自身が一体何者なのか、なぜここにいるのか、それすらわからないのだ。
「……?」
女の子は怪訝そうに僕の顔を覗き込む。
「名前が、わかりません」
声を絞り出し、事実を伝える。
女の子は少し驚いたように目を丸くし、ため息をつく。
「あー、妬まし。じゃあ何?自分がなんでこんな所にいるかもわからないの?」
「はい……。すんません……」
女の子はもう一度、ため息をついた。
「じゃ、一旦私の家に来なさい。私は水橋パルスィ。ここの番人をしているわ」
お言葉に甘え、お邪魔させてもらうことにした。
「で?洞窟の中で目を覚まして、ここまで歩いて来たと?よく野良の妖怪に襲われなかったわね」
パルスィさんの家にお邪魔させてもらい、お茶まで頂いた。言葉遣いの割に優しい女の子だ。
事情を説明すると、落ち着くまでここに居てもいいとも言ってくれた。有難いことだ。
「貴方は、ここがどんな場所かわかってる?」
「いや、全然……」
記憶が無いと言っても、言葉や妖怪のことは覚えていた。が、自分に関する記憶がまるっと無い。自分が住んでいた場所、親についても覚えていない。
パルスィさんはまたため息をつき、それでも丁寧に説明してくれた。
「ここは地底。地獄の跡地ね。ここには鬼とか強い妖怪がうろついているわ。だから、貴方みたいなただの人間がいるはずないのだけど」
「そ、そうなのか」
自分の置かれていた状況を改めて実感する。相当、運が良かったのだな。
「パルスィー?いるー?」
「ん?この声は」
玄関の方からパルスィさんを呼ぶ声がする。
スタスタと廊下を歩く音が近づいてくる。
「パルスィー。ん?誰その人間」
これが、僕とさとり様の出会いである。
あれ、日常どこいったし。(蒼輝くんが執事になったらちゃんと日常になります
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