御門先生と一般男性が恋愛を始めたようです (ヘル・レーベンシュタイン)
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第一話 出会い
初めて恋愛ジャンルに挑戦することになりましたが、しっかりと完結できるように頑張っていきたいと思います。
勇気と無謀は表裏一体だ、たった一つの行動が失敗したら身を滅ぼす可能性だってある。
「あ、あの....そこの方、ちょっと良いですか?」
「あら、私ですか?」
例えば、ただでさえ普段の生活で女性と関わることが少ない男が女性に声をかけるとしよう。話の最中で緊張のあまり不審な行動をすれば相手を不愉快にさせてしまうだろうし、最悪嫌悪感を抱かれてしまうと思い込んでしまう人は多いかもしれない。
少なくとも俺の場合はまさしくそれだ。女性と目を合わせるだけでもとても緊張する。
「えっと、よくここで見かけていて....すごく綺麗な方だなぁって思ってました。」
「あら、ふふふ....それはありがとうございます。それで、何か用ですか?」
「え、えっと、その....よければですけど、あの....」
ましてや今まさに呼びかけた女性はとても美人だ。スタイルも抜群で、モデルじゃないのかと思えるほどだ。だからちょっとでもいいから話ができたらと思ったが、やはり緊張してしまって声が出ない。
そんな感じで固まってしまってる俺を気にしてか、女性はクスッと笑って声を掛けた。
「もう、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。ちゃんと話は聞くから、用件を聞かせて頂戴。」
「あ、はい....ごめんなさい。」
ゆったりとした口調で、まさに大人の余裕を感じさせる言い回しだった。俺は緊張のあまりしっかりと話せなかった自分を恥じる。
しかしせっかく貰ったチャンスを無駄にはできない。一度呼吸を整え、激しく鳴る心臓の鼓動を抑え、しっかりと相手の目を見る。そして自分の言いたかった言葉を、勇気を振り絞って口に出す。
「よろしければ、ご一緒に食事なんていかがでしょうか!」
場所は変わって近くのカフェ。
「ふふふ、本当に驚いたわ。あまりの声の大きさで周りの人達が注目してたわよ。」
「本当に、ご迷惑をおかけしました....」
結論から言うと、俺のお誘いはOKを貰えた。ただし俺のはまた緊張のあまりでかい声を出し過ぎて、周りの人たちの注目を集めてしまった。女性の方も少し恥ずかしそうだったため、罪悪感を覚えてしまう。
「良いわよ、その勇気に免じて忘れることにするから。そうね、まずは名前を教えてもらえる?私は御門涼子、高校の保険医をやっているわ。」
「あ、失礼しました。俺は藤田龍弥、会社員をやっています。」
気を取り直してお互い自己紹介をする。どうやら俺が声を掛けた女性、御門さんは学校の保険医をやっているようだ。これほど綺麗な保険医なら、男子生徒なら眼福目的で用がなくても保健室に来そうなものだ。
「高校の保険医ですか....御門さんほどキレイな人が保険医なら、男子生徒が列を作って保健室に訪れそうですね。」
「あら、そんなことないわよ。校内で怪我した子や、相談したいことがある生徒が来るくらいだわ。後は....そうね、校長先生がたまに来たりとかね。」
「え、校長先生が?」
「そう、結構ハレンチな人でね。何が目的かは察して欲しいのだけど....あ、ちなみに私は一度も被害は遭ってないわよ?」
「ひ、被害って....大変な学校なのですね。御門さんも多忙なのでは?」
「ふふふ、けど楽しくて素敵な場所よ。」
話を聞いてて思わず俺は苦笑してしまった。最初は怪我をするほど多忙な校長先生なのかと思ったが、御門さんの話でただのスケベな人だと察した。そんな人がトップだなんて、どんな高校なのだろうか.....しかし冷静に考えてみると、話を聞く限りでは保健室はまともに機能しているようだ。そう考えると、そこの生徒達は真面目な子が多い印象を感じた。話をしている御門さんも苦労や悩みを抱えている様子もない。寧ろ良い笑顔で話をしていたから、本当に良い学校なのかもしれない。そう考えると、その校長先生はスケベなだけで実は優秀だったりするのだろうか?
「そう言うあなたは、会社ではどんな仕事をしてるのかしら?」
「俺はそんな....大した仕事はしてませんよ。地味な事務職をやってるだけで....」
「へぇ、事務職ね....確かに派手な仕事じゃないかもしれないわ。けど、事務職は同じ場所で高い集中力を求められる仕事だと思うわ。それって、とても素敵なことよ?」
「あ、ありがとうございます....けど、医者である御門さんもかなり集中力を求められる仕事なんじゃ....」
「私は私で、ちゃんと適度に息抜きしてるから大丈夫。」
クスッと微笑みながら御門さんはそう返した。俺は社交辞令と分かっていながらも、褒められてしまい顔を赤くしてしまう。微笑みながら話をしている御門さんがとても色気があって綺麗で、思わず見惚れてしまう。我ながらよく声を掛けたものだと思ってしまった。
「あ、そうそう。もう敬語は良いと思うわ。お互い歳の差はそこまで激しくないでしょうし。私の事を他人だと意識しないで、もっとソフトな雰囲気でお話しをしましょう。」
「え、でもそんな急に....」
「それとも.....敢えて『他人の関係』を維持したまま、もっと私の事を観察したい?」
御門さんは小悪魔なような雰囲気を出しながら、その様な台詞を言い放つ。思わず色気にやれてイヤらしいことを頭なの中で思い浮かべてしまうが、自分の内側で燃える劣情をグッと堪える。
「.....ご好意に甘えて敬語は控えます。」
「ふふ、お約束ね。」
「あ....恥ずかしい。」
「けど嬉しいわ、男性のお友達って私なかなかできたことがなくてね....」
「え、御門さんが?」
「ええ、親しい男子生徒や女性の友人は居るんだけどね。」
御門さんの意外な事実に驚いてしまう。俺の中では両手の指じゃ数え切れないほどの男性の知人がいると勝手に思い込んでいたが、どうやらそれは誤解なようだ。
「だから、これからよろしくね私の初めてのボーイフレンドさん。」
「ボ、ボーイフレンド!?」
「そうね、まずはお互いの連絡先を交換しましょう。一緒に色んなところへ遊びに行きましょうね。ふふ、楽しみだわ....」
「は、はい.....こちらこそよろしく。」
こんな感じで俺は御門さんの連絡先をゲットした。まさか彼女から連絡先の交換を施されるなんて夢にも思ってなかった。しかも冗談まじりとはいえボーイフレンドとまで呼んでもらった。
俺は果たして、この人と一緒に居られる男になることはできるのだろうか?
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第二話 デート
とても励みになるので、頑張って更新のペースを上げて行こうと思います。
今回は早速ですが御門先生とデートを始めるという話になります。
御門涼子の自宅にて。
「ええー、ボーイフレンドができたんですか!?」
「そうよ、今日はその人とお出かけする予定なの。」
彼女の助手であるお静(本名:村雨静)は驚きのあまり声をあげた。シャワーを浴び終え、体を拭いている御門は体を拭きながらそう答えた。そして近くで話を聞いていた同居人であるティアーユも感嘆の声をあげる。
「凄いわねその人も....最近では女性に声をかけるって簡単にできることじゃないでしょうし。けど、ミカドはとても綺麗だし本当だったらそういう人1人はいてもおかしくなかったわよね....」
「あら、それはティアーユだって言えることでしょ。まあお互い、研究に夢中でそういうことに気を向ける余裕がなかったんでしょけどね。」
「あ、あははは....それで、どんな人なの?」
「そうですね、どんな殿方なのか気になります。」
ティアーユとお静は彼女の相手である男性へと興味を示した。特にお静は強く興味を持っているようで、目を輝かして聞いてくる。
一方で御門は困ったように言葉を返す。
「そんな期待を込めた顔で見られたら困るわよ....確かに顔は整ってるけど清潔感のある人だけど、テレビで出るほどの美形な人ではないわ。一般的な社会人の男性よ。」
「そ、そうなのですね....それでもやはり、どんな殿方か見てみたいですね。」
「それはまた後々ね、まずはもう少しお互いの時間を深めてからよ。」
そう言いながら御門は着替えを終えた。普段着ている服とは違った、白いTシャツとピンクのスカートという清楚な雰囲気のある服を着ている。
それをみてティアーユは驚いた声をあげる。
「ミカド、そんな感じの服持っていたのね...」
「あら、私が着てると違和感あるかしら?」
「いいえ、普段と違うミカドの雰囲気が出てとても良いわ!」
「はい、普段と違った先生もとても素敵です!」
「ふふ、ありがとう....自信が付いたわ。」
微笑みながら御門はそう返し、ブーツを靴の中へと入れていく。少しずつ高鳴る心臓の鼓動、身体中に巡る緊張の波動がより鼓動を早くする。だけどそれは決して不快ではなく、むしろ好奇心が高まっていくのを彼女は実感している。
「それじゃあ行ってくるわ。夕方ごろには帰ってくるから。」
「はい、行ってらっしゃいませ!」
「楽しんでいってね、ミカド。」
場所は変わって街中、藤田は駅前の場所で待っていた。時間は午後の13時前、10分前に待ち合わせ場所についており、缶コーヒーを飲みながら彼女が到着するのを待っていた。
(女性とショッピングは初めてだなぁ....あーやばい、緊張してきた。心臓がドクンドクンとうるせぇ、どうにかならないかなぁこれ。)
緊張のあまり早鳴りする心臓を抑えようとコーヒーを再び飲むが、それでもやはり治らない。やむを得ず、コンビニで漫画でも立ち読みしようとしたその時だった。
「ごめんなさい藤田さん、先に着いていた様ね。」
「あ、御門さん。俺も今来たばかりだから....」
背後から駆け足気味でこちらへと来ていた。即座に方向を変えて彼女へと向き合う。
服装を見てみると、前のようにピンクと黒のミニスカートではなく、白のTシャツに青色の膝丈ほどのスカートだった。前よりも色気はあまり感じないものの、元々の特徴的な体がより主張されていて、龍弥的にはこれはこれで色気を感じさせる。
「それじゃあそろそろ行きましょうか。何処に行こうかしら?」
「えっと、定番だけど近くデパートにでも....」
「えて、了解したわ。」
そう行って近くのデパートへと指を指して向かおうとした。同様に御門もその方向へと体を向けるが、同時に龍弥の手を握った。
「え、御門さん!?」
「あら、ボーイフレンドとのデートと言ったらこれが定番でしょ?」
「確かにそうだけど....」
「ふふ、私こういうのにも憧れていたのよね。さあ、行きましょうか。」
「は、はぁ.....まあ良いか。」
龍弥は言いつつも、反面内心では『いや良くねぇよ!』と自分自身にツッコミを入れてしまう。ただでさえ普段の生活で女性との密着は皆無なのでこのような形での肌の密着も当然未経験である。そのためより緊張が加速してしまう。加えて.....
(うわぁやっぱ見てるよ視線が刺さる....やっぱこういうの精神的に堪えるなぁ。)
周囲にいる男性の視線が龍弥達へと向けられ、それが龍弥にとってとてつもなく大きなプレッシャーになるが....
「〜♪」
(....けど、御門さんがこんなに良い笑顔をしてるんだ、こんなプレッシャーなんかに負けられねぇな。)
と、気持ちを改めて周りの空気に負けじと心を強く持つ。更にネガティブな気持ちを一掃しそうと一歩大きく踏み出す。
「御門さんって甘いもの好きかな?」
「甘いもの....ええ、食べられるわよ。」
「御門さん、イオンについたらランチを食べようか。デザートは俺が奢りで問題ないよ。」
「あら、良いの?気持ちは嬉しいけど、なんだか悪いわ....」
「大丈夫、御門さんと一緒に食事ができるだけでも俺は嬉しいから。」
「そ、そう....なら、そうね。今回はそのご好意に甘えさせてもらうわ。」
(よし、よく言った俺!)
龍弥は内心ガッツポーズをした。少々強引にだが、食事に誘うことで少しでもお互いの距離を近くすることにした。了承を得たことで安心し、緊張も少しほぐすかとができた。
数分後、2人は近くのデパートへと入って中のフードコートで昼食をとることにした。
「ありがとう藤田さん、ご馳走になったわ。」
「いやいや、御門さんが満足ならなによりだよ。」
食後、2人はケーキとコーヒーのセットを食べていた。龍弥はケーキを食べている彼女に見惚れてしまう。
(御門さん、ケーキ食べてる時とても良い笑顔を浮かべていたなぁ。やっぱ女性って甘いものが好きなのかな?)
「そうだ、食事が終わったあとゲームセンターに寄ってみない?」
「ゲ、ゲームセンターに!?」
御門の提案に龍弥は驚いてしまう。あまりにも彼女のイメージとはかけ離れていた場所なので、訪れた居場所として提案することは全く考えられなかった。
「ええ、一度も行ったことがない場所だから興味あるのよね。」
「は、はぁ....なるほど、行ったことないのか。ちなみに、何かやりたいゲームとかは?」
「そうね、やはり定番のクレーンゲームはやりたいわね。あとはレースゲームや、コインゲームとかも....」
「コ、コインゲームも!?あれは子供向けがほとんどだと思うけど....」
などど、2人は他愛をない会話をしながら食事の会計を済ませ、ゲームコーナーへと向かっていった。
今回はここまでです。次回もまたデートのお話なのでお楽しみに。
近々主人公のプロフィールも公開して行こうと思います。
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第三話 ゲームセンター
今年中の投稿は今回で終わりになるかもしれません。
「うーん、なかなか取れないわねぇ」
上階にあるゲーセン内へと移動すると、御門さんはクレーンゲームのある方へと向かった。クレーンゲームは俺も何回かやったことはあるが、成功したことはほとんどない。せいぜいがミニカーくらいのものを偶然ゲットできた程度だ。そして、御門さんが狙っているものは、意外にも美少女フィギュアである。
「えっと御門さん....なんでこのフィギュアを狙ってるの?正直御門さんが欲しがるようなイメージはあまりないのだけど....」
「そういうイメージを持ってたのね....まあ、そう思ってしまうのは仕方ないかもしれないけど、実際はそうでもないのよ。」
俺がそう疑問を投げかけると、御門さんはクレーンゲーム内のフィギュアを見つめながらそう答えた。よほど熱心に取ろうとしていることが伝わってくる。
「実は最近スマホのあるゲームに熱中していてね、そのストーリーで出てくる女の子のことを気にいってしまったのよ。」
「え、そんなことが....てことは....」
「ふふ....おそらく想像の通りよ。」
まるで察したかのように、御門さんは少し小悪魔的な微笑みをした。間違いなく、目の前のフィギュアの美少女は、御門さんがハマっているソシャゲーの女の子なんだと。
確かに気持ちはよくわかる。俺は基本的にアドベンチャー系のゲームをよくプレイするが、主人公やラスボスなどのビジュアルや戦闘、そして思想などがカッコいいと、そのキャラが男女だろうと関係なく魅了されてしまう。そしてそのキャラクターのグッズがフィギュアなどさまざまな形で販売されたらそりゃ欲しくもなる。だからこそ、俺は御門さんもそんな心境でゲットしようとしているのだろうと思えた。
「だけど御門さん、もう千円近く入れてるからもうやめた方がいいんじゃ....」
「そうね、つい夢中になってやってしまったわ。今日はこのくらいで....」
「え、御門先生?」
不意に背後から若い女性の声が聞こえた。振り返ると、長い黒髪をした女の子がいた。加えて御門さんのことを先生て呼んでいたので、彼女が働いている学校の生徒であることが窺える。
「あら、古手川さんじゃない。ここで会うなんてなんだか珍しいわね。」
「御門先生こそ、ゲームセンターだなんてイメージとかけ離れている感じが気がするのですけど....」
「それは貴女もでしょ、風紀委員長なんですから。」
「へぇ、風紀委員長か....」
学生の割になんだか少しだけ大人びてると感じたが、そういうことかと納得した。確かに風紀委員長は真面目で大人っぽさのある落ち着いた生徒の方が適任だろう。
「ところで、そちらの方は?」
「ああどうも、俺は藤田龍弥といいます。」
「藤田さんは最近知り合った方なのよ。」
「はあ、そうですか....こちらこそはじめまして、古手川唯です。」
古手川さんはそう自己紹介をしてお辞儀をした。俺もお返しにとお辞儀を返した。ゲームセンターで律儀にやるのもなんだがシュールな気もするが、それが最低限の礼儀なのだから仕方ない。
「ところで古手川さん、貴女もゲームセンターに来たということは、何か遊びに来たのよね?」
「あ、えっとそれは....」
御門さんが古手川さんにそう聞くと、彼女はビクッと反応して気まずそうに目線を逸らしていた。その一瞬の間でチラッとクレーンゲームの方へと移していたのを、俺見てしまった。
「....もしかして、御門さんが取ろうとしてフィギュアが欲しかったか?」
「っ!?」
「あらぁ、そうなの?」
「ち、違います!私はそんな....」
古手川さんは明らかに俺の言葉に反応して体を震わせてた。どうやら図星だったようだ。彼女は必死に否定するが、顔が真っ赤になっているので恥ずかしがっていることが伝わってくる。
「まあまあ、そんな顔をしないで古手川さん。私もこの娘が出てくるゲームやってるから、少し欲しいなーって思ってやってたのよ。」
「え、御門先生もですか?」
「そうよ。だから古手川さんが欲しいのなら、やってみたら?大丈夫、誰かに言いふらすとか、そんなことはしないから。」
「は、はい....ありがとうございます。」
古手川さんはそう言いながらUFOキャッチャーの前に立ち、コインを入れて操作をする。そしてフィギュアの真上にUFOがピタッと止まり、ゆっくりと降りてフィギュアをガッシリと掴む。
「え?」
「あっ....」
そしてフィギュアはずり落ちることなく、UFOに取り出し口へと続く穴まで運ばれ
、穴へと落とされていった。
あまりにもあっさりとフィギュアがゲットされてしまい、俺と古手川さんは唖然としてしまった。
「あら、一発でゲットできるなんて古手川さん凄いわねぇ。」
「いやこれ、御門先生が撮り続けたお陰なんじゃ....」
「そんな事ないわよ、こういうのは早い者勝ちだから。ほら、この袋に入れて持って帰って。これなら持ち運びに困らないでしょ?」
「は、はい!ありがとうございます!」
古手川さんは嬉しそうに御門さんにそうお礼を言い、手に入れたフィギュアを渡された袋へと入れてその場から離れていった。実際、渡された袋は中のものが透けないようになっているので確かにフィギュアを持ち帰るのに便利なタイプの袋だった。
「良かったの、御門さん?」
「ええ、古手川さんも欲しそうだったし...それに、生徒の気持ちを優先するのは教師の務めでしょ?」
御門さんはニッコリと微笑みながらそう言葉を返した。俺はその御門さんの顔を見て、本当にこの人は学校の生徒達のことが好きなんだなってことが伝わり、改めて素敵な女性だなと思えた。
しかし一方で、一つ気になったことを俺は御門さんに聞いてみることにした。
「ところで御門さん、あのタイプの袋を持参していたってことはもしかして.....」
「ふふふ.....何が言いたいのかしら?」
「あ、いえ....何でもありません。」
改めて聞いた俺の質問に対し、同じように笑顔で御門さんは返答する。しかし無意識に感じる圧が全く違うので、俺は質問を撤回することにした。
「さて、そろそろ食材でも買って帰ろうかしら。良かったら、手伝ってくれる?」
「うん、もちろん!」
こうして俺と御門さんの初めてのデートは何事もなく終わった。特に大きな進展があったわけではないが、お互い楽しめたから良いデートになったと、俺は思った。
今回の話では御門先生と唯ちゃんがフィギュア好きって描写を入れました。
原作ではそのような描写はありませんが、御門先生とのこんな絡みがあれば良いなーって思いで書いてみました。
何卒、ご了承お願いします。
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第四話 急な雨
今回の話は今までと比べて少しだけ刺激の強い内容となっています。
「うわぁ、これは酷い!」
「はぁ、はぁ....今日の天気予報は外れね。雨が降るなんて言ってなかったのに....」
初デートから数日が経ったある日、俺は街の中で歩いているところ御門さんと出会った。そのまま2人でお喋りをしつつ買い物をし、帰ろうとしたところ大雨が降ってきた。
御門さんの言う通り、天気予報では雨と予報されてなかったため、お互い傘は持っていなかった。幸い俺の住んでいるマンションは近くにあるため、一旦一緒にそこまで走ることにした。
「けど、どうにか家までつくことができたわ....」
「そ、そう....だね。」
俺は一瞬御門さんの方へ顔を向けようとしたが、すぐに逸らした。何故なら全身が濡れて服が身体にピッタリとついてボディラインがはっきりと見えてしまっているからだ。男の本能としてまだ見たいと言う感情が浮かび上がる。だか俺は、ジロジロと見るのは御門さんに対して失礼だと考えてその煩悩を抑えた。
「あら、ごめんなさいね。濡れてしまってはしたない格好になってしまったわ。」
「い、いや....仕方ないよ。とりあえず俺のうちに入ろうか?そのままだと風邪を引いてしまうし、まずは体を拭こう。」
「ええ、そうね。お願いするわ。」
そう言って御門さんは俺と一緒にマンションの中へと進んでいった。はっきり言って自分の住まいに女性を入れるなんて初めてのことだ。緊張しないわけがない。
「あの....念のために言っておくけど、絶対やましいことはしないよ、約束する。」
「....ええ、その言葉を信じてるわ。」
その言葉を聞き、俺は覚悟を決めて自分の部屋の鍵を開けた。そして扉を開き、御門さんを中へと招き入れる。俺はすぐさまタオル置き場へと向かい、自分と彼女の分のタオルを引っ張り出した。
「はい御門さん、これで身体を拭いて良いよ。」
「ありがとう.....助かるわ。」
「えっと、お風呂沸かすね。あと、着替えはジャージと男用の服しか無いけど大丈夫かな?」
「あら、そこまでしなくても....」
「いやいやダメだよ、御門さんに風邪を引かせるわけにはいかないから。」
「そ、そう....なら、遠慮なく」
そう言いながら御門さんは申し訳なさそうに浴室へと向かった。俺はその間に簡単に身体を拭いて服を着替えた。そして買ってきたものを確認する。
「やべぇ、よりによってスープ買ってねぇ.....」
何か温かいものでも与えないと、そう考えた俺は傘を片手にコンビニへ向かうことにした。自分の部屋に彼女を1人置いて置くことに不安はよぎったが、鍵もかけたし歩いて1分もかからない場所にコンビニがあるのですぐに戻れば良いと考えて行動してしまったのだ。冷静に考えれば安易な行動だと思ったが、それほど俺は気が動転していのかもしれない。
そして数分後。
「まさか混雑してたとは.....」
コンビニ内はややレジが混雑していた。おそらく傘を買う人たちがたくさん来ていたからだろう。だから、あくまで体感時間だから少し遅くなってしまった気がする。俺は駆け足で自分の部屋へと戻る。部屋の前に到着し、扉を開く。
「ごめん、御門さ.....あっ」
「あら、お帰りなさい。」
部屋の中を見ると、すぐに御門さんがいることがわかった。俺は何も言わずに飛び出したことを謝ろうとしたが、彼女の姿に言葉を失ってしまった。
何故なら身につけているのはタオル一枚、それだけ。少なくとも俺の目にはそれだけしか確認できなかった。
「み、御門さん....その姿は?」
「ああ.....ごめんなさいね。ドライヤーがどこにあるのか聞きたかったの。勝手に部屋を探るのも悪いですし....」
「え、あっドライヤーか!それなら洗面台の棚の中に....」
「ありがとう。けど、私を部屋に置いたまま外に出るなんて危ないわよ?私が悪い女だったら、何か盗まれてたかもしれないじゃない。」
「そ、それは....」
やや悪どい笑みを浮かべながら指摘する御門さんの言葉に、おれは詰まらせてしまった。実際必死だったとはいえ無用心な行動だったのは我ながら反省しているつもりだ。
だがそれを察した御門さんは、ごめんなさいと苦笑しながら謝った。
「なんて、濡れた姿で男の人の部屋に上がった私がそんなことを言う資格はないわね。無用心だったのはお互い様よ。」
「いやそれは、急な雨だったし....そのまま帰らせるわけにもいかないでしょう。」
「だとしてもよ.....お風呂まで入ってしまったんですもの。だから、お互い様なんだから気落ちすることはないわ。」
「そ、そうか....わかった。とりあえずドライヤーで髪を乾かしてきなよ。」
「ええ、ありがとう....そうさせてもらうわ。」
そう言って御門さんは再び浴室に戻り、ドライヤーで髪を乾かし始めた。その間に俺はキッチンに立ってスープを作り出す。脳裏に浮かぶ御門さんのバスタオル姿を悶々と思い出すも、グッと欲情を堪えながら。
そして
「まさかここまでしてもらえるなんて....本当、ごめんなさいね。」
「いやいや、俺がそうやりたいからそうしてるだけだよ。」
そして暫くして、俺は着替え終わった御門さんにスープを出した。御門さんは驚きつつも嬉しそうに微笑んでスープを口に運ぶ。
「それにしても....貴方は本当にやましいことはしなかったわね。そこは本当に嬉しくて、安心したわ。」
「そ、それは当たり前でしょう。そんなことをしたら男の恥だ。」
「けど、そこは据え膳食わねば男の恥って考えるものじゃないの?もちろん、責任は取ってもらわないと困るんだけどね。」
「そうだとしても....俺はそういうやり方は好きじゃない。もっとお互いが信頼し合い、愛し合えるくらいじゃないと....」
「あら.....ふふ、貴方はとてもロマンチストなのね」
俺がつい口に出した主張を聞いて、御門さんはクスクスと微笑ましそうに笑みを浮かべる。それを見て俺は顔に熱を感じて赤くなってしまう。
「や、やっぱ大人っぽくないかな?こう言う価値観は...」
「いいえ、とても素敵だと思うわ。そう言う理想をお互い思い浮かべながら、一緒に恋愛していくことも良いかもね....」
「.....えっ、それって」
「はい、ごちそうさまでした。食器はこっちに置いとくわね。」
俺がもっと詳しく話を聞こうとすると、御門さんはそれを遮るように立ち上がって食器をシンクへと持ち運んでいった。もしかして照れ隠しなのかなと思ったが、それが分かるのは本人のみだ。
俺も自分の分のスープを飲もうとした時、机に置かれてた御門さんのケータイにバイブが走る。
「あら、私のだわ.....迎えが来たみたいね。」
「御門さんのお友達?いつのまにが呼んでたんだ。」
「ええ、けど混雑してたみたいだからすぐに来れなかったのよ。」
「あー、なるほど。雨が降るとやっぱそうなるよね。」
「ええ....今日は本当に助かったわ、ありがとう。このお礼は必ずするから。」
「うん、御門さんも帰りは気をつけてね。」
俺は御門さんが外に出るのを見送った。窓から外を見下ろすと、一台の車がこちらに向かってきていた。おそらく御門さんの友達なんだろうと思う。
それにしても御門さんはあんな格好でも余裕のある表情だったから、まだまだ彼女には敵わない。俺はそう感じてしまうのであった。
一方で.....
「はぁ、ちょっと私らしくなかったかも...」
マンションの階段を降りながら、御門涼子はそう独り言を呟いていた。
御門先生なら、もしかしたらこんな風になるんじゃないかなぁと思って書きまし
今後の話も、こんな感じで少し色気のある描写が増えてくるかもしれません。
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第五話 隠し事
「....それで、ドクターミカドはそんな姿になっていたのですか。」
「ええ、そういうことよ。」
龍弥の自宅から出た後、御門はティアーユの運転した車に乗って自宅へと帰宅した。そしてシャワーを浴びて着替えると、ティアーユ達にさっきまでの出来事を説明した。
聞き終えた後、ティアーユと一緒にいた金色の闇が厳しい視線を送る。
「....信じられませんがそんな姿のドクターミカドと2人きりで、本当にその男性はエッチなことはしなかったのですね。」
「ええ、私も少し予想外だったわ。彼はちゃんと約束を守れる誠実な人だったのよ。」
「ところで、その男の人にはドクターが宇宙人であることは伝えているのですか?」
「えっ?」
「そのまま関係が進展して、恋人同士になったらその男性はドクターが宇宙人である事実とも向き合うことになると思うのですが.....」
「そ、そうね....確かにその通りだわ。」
金色の闇の言葉を聞いて、思わず御門は動揺しまった。確かに自分が宇宙人であることは彼には伝えていない。その事を何処かで明かさないといけないだろう。
そしてもう一つ、御門の頭では恋人という言葉が焼き付いていた。
(恋人.....藤田さんとは、そういう関係になってるのかしら?)
恋人、聞き慣れた単語だが自分がそれに当てはまるのか考え込んでしまう。そもそも恋人の定義とは?どのくらい異性と付き合えば当てはまるのか、そういう関係になったら、秘密は明かさないといけないのか....などなど、色々な疑問が脳内をかき回していく。
「あ、あのミカド?難しそうな顔してるけど、大丈夫?」
「え?あ、ごめんなさいね。あまり慣れない事だったからつい....」
ティアーユの声を聞いて、ようやく御門は我にかえった。その様子を見ていた闇とお静は感嘆の声を上げる。
「....ドクターミカドがここまで頭を悩ませるなんて、珍しいですね。」
「そうですねぇ、普段の御門先生ならサラッと答えが出てくるはずなのですが。」
2人の話が耳に入り、御門は我ながら呆れてしまった。確かに彼女たちのいう通り、答えの出せてない自分に少し恥じらいを覚えてしまう。自分はここまで恋愛ごとに関して無知だったのだろうか?
ふと気になって、スマホで恋の意味について調べてみた。
(恋.....それは特定の人物のことを好きだと感じ、一緒にいたいと思うこと、か。)
確かに好きか嫌いのどちらかと聞かれたら、充分好きだと言えるだろう。それに一緒にいると不快感どころか、話も合うので居心地だっていいと感じ始めていたのだ。
(確かに一緒に居たいとなったら、当然この屋敷に彼を連れて来たいとは思ってるけど....宇宙人ってバレたらやはり忌避感とか生まれるのかしら?)
確かに意味としてはピッタリと当てはまるのかもしれない。しかし人との関係は論理性だけで成立するとは限らない。時には人の大きな感情が論理を凌駕することだってあり得るのだから。
「ねぇティアーユ、貴方にもし気になる異性がいたとして、どのくらい付き合ったら恋同棲とか始めるのかしら?」
「えぇ!?きゅ、急にそんなことを聞かれても....えっと、一週間、いや一ヶ月、それとも一年かしら?ご、ごめんなさい分からないわ....」
「いえ私もごめんなさい、急に聞かれても困るわよね....」
急な御門の質問に対し、ティアーユはあたふたと慌ててしまう。恋愛経験のない女性に聞いても質問された側は困るのが当たり前だ。であれば.....
「お静ちゃん、貴方はどう思うかしら?」
「え、私ですか?えっと、そうですね....」
今度はお静へと質問をしてみた。御門は仮にも400年幽霊をしているので、その経験から何か良いヒントが聞けないかと考えたのだ。しかし実際のところ、彼女自身は恐らく恋愛経験はないかもしれないが.....
(西連寺さんは、どうなんだろう?)
ふと、西連寺春菜に取り憑いた時の事を思い出す。その時に結城リトヘ恋心を抱いていることに気づき、もしも2人が結ばれた事を想像してみた。そして.....
「....正直なところ、あまり分かりません。けど、その2人がきっと本気なら、どんなタイミングで恋人として同棲しても大丈夫だと思いますよ。」
「お静ちゃん....」
お静は微笑みながらその答えを口に出した。その真摯な返答と微笑みに、思わず御門達は感心してしまう。
「なるほど、参考になったわ。ありがとう、お静ちゃん。」
「そ、そうですか?力になったようで何よりです。」
そうして女子同士の話が終わり、各々ベッドに入って就寝することとなった。しかし、御門はベッドに入り、無意識に考えてしまう。
(あの人は、私が宇宙人だとわかったらどうするのだろう?)
現状、あくまで1人の医師として見られている。御門は見た目からして普通の人間として溶け込んでおり、誰も宇宙人だと説明されない限り分からないだろう。
だがしかし、それは裏を返せば分かってしまえば対応を変えてしまう可能性もあるのだ。人間は慣れてしまう生き物だが、未知を恐れてしまう生物でもある。もし藤田が御門のことを宇宙人だと分かってしまったら、対応を変えてしまう可能性だってあるのだ。
(それは多分、好きな相手だったとして忌避するかもしれない.....)
そんな未来が訪れることは覚悟している。だけど反面、どこか不安を感じて胸が疼いてしまう。そんなジレンマに頭を悩ませていた時、ふと龍弥との初めての出会った時のことを思い出した。
顔を赤くしながら、勇気を振り絞って自分へと声を掛けていた。不安もあっただろうし、決して余裕さなんて感じられなかった。ただ精一杯に勇気を振り絞って想いを伝えることに専念していた。
(そうね....彼も勇気を出したのだから、今度は私が出す番よね。)
そう思いながら覚悟を決めて、御門は目を閉じて就寝した。
数日後。
御門さんからメッセージが届き、またデートをすることになった。待ち合わせ場所は彼女の初めて出会ったあの街だ。
「お待たせ、御門さん。」
「こんにちは藤田さん、待っていたわ。」
「ここって、俺たちが初めて出会った場所だよね。」
「ええ、もっともあなたはその前から私に注目してたみたいだけど?」
「うっ、我ながら恥ずかしいな....」
「ふふ、大丈夫よ。別に私は迷惑だったなんて思ってないから。」
御門さんはそう言いながら微笑みを浮かべ、俺の手を握った。急に握られてしまい、俺の心臓が跳ね上がる。
「え、御門さん?」
「ちょっと寄りたいところがあるの、付いてきて。」
「え、勿論良いけど....」
普段と何か様子が違う、そう思いながらも俺は御門さんに何処かへと連れて行かれる。しかしすぐに目的の場所についたようだ。
そこは、なんの変哲もない公園だった。だけど中にはほとんど人がいない。
「ここって、公園だよね?」
「ええ、そうよ。ちょっと話をするのに良い場所かなって思って。」
「話、一体どんな話を....」
「それは....歩きながら話すわ。」
御門さんはそう言って手を離し、ゆっくりと歩きながら公園へと入った。俺は御門さんの後についていく形で彼女の後を追う。
「先に結論から話すと、私は宇宙人なのよ。」
「えっ....御門さん宇宙人だったの?」
「フフ、驚いた?実は貴方が知らないだけで、結構宇宙人ってたくさんいるのよ。そして、そんな彼らの病気を私が治しているの。死んでいなければ、大抵の病気は治すことができるわ。」
「す、凄い....というか、宇宙人でも病気はするんだ。」
と、俺はつい感心してそんな感想を漏らしてしまう。しかし御門さんは、意外そうな表情を浮かべていた。
「あら、驚くポイントそこなの?私が宇宙人だと言うことには驚かないの?」
「それは驚いたけど....ああ、もしかして御門さんが実は宇宙人だったから、俺が避けるかもって思った?」
「.....ええ、その通りよ。この事実を知って、貴方がどう感じるのか確かめたかったの。」
そう言う御門さんの表情に、少し陰りを感じた。なるほど、だから人気のいない公園に俺を呼んだわけか、と俺は納得した。確かに人によっては宇宙人との接触は避けたいと感じる人もいるのかもしれない。けど俺は、御門さんの目を見据えてしっかりと俺の思いを伝える。
「御門さん、ありがとうちゃんと話してくれて。けど、俺の気持ちは変わらない。」
「えっ?」
「俺は人間としての御門さんが好きじゃなくて、あくまで御門さんの事が好きでお付き合いがしたいんだ。そこに宇宙人だから差別するとか、そんな理屈は無いよ。」
「.....藤田さん。本当に大丈夫なの?私で良いの?」
「ああ、何度だって言うよ。俺は御門さんと一緒に居たいんだ。」
俺の言葉を聞いた御門さんは、どこか安心したように微笑みを浮かべた。俺も御門さんのそのような顔見て、良かったと思えた。自分の判断に間違いはなかったのだと、改めて実感できた。
「ありがとう藤田さん....あと、今まで隠していてごめんなさい。」
「いや仕方ないよ、御門さんなりに気を使ってたんだろうし謝るような事じゃ無いよ。」
「.....少し喉乾いたんじゃ無い?そこのベンチで待ってて、買ってくるわ。」
「え?あ、行っちゃった....」
御門さんは、少し離れた場所にある自販機へと向かっていった。俺は言われた通り、すぐそばにあるベンチに腰を下ろした。
「御門さんが来たら、買ってもらった分のお金は渡すか....」
そう呟きつつ、俺はさっきまで御門さんと話してたことの内容を少し振り返る。
彼女は元宇宙人で、学校の保険医だけでなく、宇宙人の治療もしているとのこと.....宇宙人の治療にどれだけのスキルが必要かは分からない。だが死んでなければ大抵は治せると言ってる辺り、とにかく彼女のスペックの高いと言わざるを得ない。
(....俺、釣り合ってるのかなぁ?)
彼女は宇宙人として忌避される事を不安に思っていたようだが、俺個人としてはそんな不安の方が大きかった。何せ平凡なサラリーマンなのだから、彼女ほどの大きな実績をあげた事なんてまず無い。
(なんてネガティブなこと考えてられるか。自分で選んだんだ、気合入れて付いていくしかないだろえ。)
そう考えながら気を引き締めていると、御門さんが俺のところへと向かっている姿が見えた。そして缶ジュースを両手に持って俺の前へと来た。
「お待たせ藤田さん、はいこれ。」
「あ、来た来た。ありがとう御門さん....」
そう言いつつ俺はベンチから腰を上げ、差し出された缶ジュースを受け取った。そして顔を上げて御門さんと目を合わせようとした瞬間だった。
「えっ」
急に感じた女性特有の甘い香りと同時に、頬に柔らかい感触がきた。急な出来事で脳が一瞬凍りつくが、すぐさま何をされたのか理解し、恥ずかしさと衝撃、それと同時に喜びの感情が一気にきてどうにかなってしまいそうだ。
御門さんは今、俺の頬にキスをしたんだ。
「こんな私を受け入れてくれたお礼よ、ありがとう....私の優しいボーイフレンドさん。」
「あ、あ.....ありがとう。」
俺は思考停止した状態でどうにか振り絞ってありきたりな言葉を返した。だって仕方ない、今の俺は喜びでいっぱいなのだから、もっとかっこいい返事とかそんな事をする余裕なんてない。
けど....
「これからも、恋人としてのお付き合いをよろしくね。」
「ああ....勿論だよ。」
彼女もまた、こんな俺を選んでくれたことには変わりはない。だから俺は、彼女が安心にて笑っていられるように、一緒に歩み続けていこうと決意したのだった。
というわけで、今回の話で2人は晴れて恋仲となりました。ちょっと早いかもしれませんが、2人の信頼関係も深まった気がするので、2人の距離を縮めることにしました。
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第六話 お返し
告白を受けてから一週間ほど経った。
ある日、俺は昼食を済ませてベッドに横たわり、天井を見上げる。そして御門さんにキスされた頬を触れてなぞる。あの時感じた感触が脳裏に今も尚、焼き付いていた。思い出すだけで心臓の鼓動が早くなってしまう。
「恋人、かぁ.....」
腕で目を覆いながら照れ臭さを感じた。当然嬉しいし頑張って声を掛けた甲斐があった思えた。しかし一方で新たな悩みも一つあり、それで頭を悩ませていた。それは、あの日以降特に大きな進展が全くないことだ。
「お互い仕事で忙しいのは無理はないかもしれないが、俺も特にパッとしたようなイベントが思いつかないんだよなぁ....何をしたらいいのやら。」
もちろん今まで通り、一緒に色々な場所に回って遊ぶのも大いに良いことだろう。しかし何度も同じことばかりでは飽きてしまうことも充分に考えられる。だからこそ、何か特別なことをしたい....と考えていた時だった。急にケータイのバイブが鳴っていた。
「あ、御門さんからだ....はい、もしもし?」
「藤田くん、御門ですけど....今日の午後、時間あるかしら?」
「午後?特に問題はないけど....」
「良かったらウチに来ないかしら?この前雨宿りさせてもらったお返しとして、お食事でも振る舞おうと思って....」
「え、本当に!?嬉しいな....もちろん行かせてもらいます。」
まさか御門さんから自宅へのお誘いだけでなく、食事まで振る舞われるなんて思ってもいなかった。当然、それを承諾する以外の選択なんて思ってもみなかった。
「ありがとう、嬉しいわ。あ、あと私の友人も一緒にいるので、その時に貴方のことを紹介したいのだけど....」
「もちろん、問題ないよ。」
そのくらいのことはすでに覚悟はしていた。恋人として関係を続けていく以上、彼女の知人達との顔合わせは避けられない。正直見知らぬ誰かと顔を合わせて会話することは少し苦手だが、ここは男のとして覚悟しないといけないだろう。
「了解したわ、じゃあ夕方くらいに迎えにいくわ。」
「わかった、じゃあ待ち合わせ場所は....」
そう言って俺たちは待ち合わせ場所を決めて、電話を切った。そして俺は起き上がっていつも通りの生活をしつつ御門さんとの待ち合わせの準備を始めたのであった。
そして夕方頃、俺は待ち合わせ場所で御門さんと合流した。彼女の服装は良く見る白衣と胸元が開いたピンクの服だった。
「こんばんは御門さん、もしかして今日は仕事だった。」
「ええ、休みの日になると診察に来るお客さんが多くてね。けど、今日の仕事は全部終わらせてきたわ。」
「そうか....この時間までやってるってなると凄い数の宇宙人が来てるんだね。」
「そういうことよ。」
御門さんがそう肯定している様子から、明らかに数多くの宇宙人が近所にいることが察しられる。もしかしたら俺が今まで見てきた人たちの中にも、宇宙人が化けていたのではないかと思えた。
(案外顔見知りな人が実は宇宙人だったなんてことが....)
「あ、着いたわ。」
御門さんの視線の先には、古風な雰囲気のある大きな洋風の屋敷があった。どうやらここが彼女の自宅のようだ。
「驚いた....てっきり高級な一軒家なのかと」
「ふふ、予想とは違ってた?」
御門さんはそう微笑みながら言い、扉を開けた。中も同様に少々古い雰囲気はあるが、綺麗な雰囲気を感じる。そして僅かにだが病院でも良く感じる薬品の匂いも感じた。
「前にも話したけど、私は学校の保険医と同時に宇宙人の専門医もやっているの。だからここで診察も行っているわ。」
「なるほどな....なんとなく病院っぽい雰囲気も感じるわけだ。」
そう感心しながら御門さんの後をついていくと、大きな広間へと誘導された。
そこには女性が3人いた。パッとみた感じ、大人が1人、そしてまだ学生と思われる少女が2人いた。全員とても容姿が綺麗で少し驚いてしまう。
「みんな、こちらが最近知り合った藤田龍弥さんよ。」
「どうも初めまして、御門さんとお付き合いさせて頂いている藤田龍弥と申します。今日は、よろしくお願いします。」
御門さんに紹介されると、全員の視線が集まって俺は思わず緊張してしまう。そしてなんとか最低限の自己紹介をしたものの、なんだか会社の面接みたいな挨拶をしてしまう。なんだか場違いな挨拶をしてしまった気分になる。
さりげなく横目で御門さんの顔を見てみると、少し呆れつつ笑っていた。緊張していたのが明らかにバレているので更に恥ずかしくなってしまった。と、そう思っていた時だった。
「は、はじめまして!私は御門先生の助手を務めさせて頂いてるお静です!こ、こちらこそよろしくお願いします!」
黒髪の少女が俺以上に更にガチガチな挨拶をしてきた。どうやら彼女の名前はお静で、御門さんの助手のようだ。みた感じまだ学生だのに医者の助手をしているんだなぁ、と感心した。
「お、お静ちゃん....そんなガチガチにならないでも。あ、私はティアーユと申します。ミカドとは学生時代からの付き合いで、彼女と同じ学校の副担任をしています。」
そしてお静ちゃんの隣にいる眼鏡をつけた金髪の美女は、どうやら御門さんとは長い付き合いのようだ。更にパッとスタイルも御門さんと同様にかなりグラマラスのようだ。
加えて御門さんと同じ学校の副担任をしているらしい。そこにいる男子生徒は結構幸せな思いをしているのではないのだろうかと思ってしまった。
そう考えていると、今度はティアーユさんと容姿がよく似ている少女が俺に向かって声を掛けてきた。ただ、妙にその視線がかなり厳しく見えるのは気のせいだろうか。
「どうも、藤田龍弥。私の事はヤミとお呼びください。」
「あ、どうも....」
「私はドクターミカドにはよくお世話になっています。だから、もし彼女にハレンチなことをしたら容赦はしませんのでその事はしっかりと覚えておくように....」
「か、髪が刃物に!?」
ヤミという少女の髪が急に鋭利に変化し、明らかに刃物になっていた。明らかな敵意に俺は思わず後退りする。
「だ、だめよヤミちゃんお客さんを脅したりなんてしたら!」
「そうよ、今日はあくまで食事に来ただけなんだから。それに、前にも話した通りこの人はそういう事はしない人なんだから、そこは信頼して欲しいわ。」
「....良いでしょう、前科がないのなら一応信用します。」
ティアーユさんと御門さんの説得でどうにかヤミという子の敵意が収まった。俺は安堵しつつも、僅かでも下心を見せれば彼女に始末されてしまう可能性があると感じた。
しかし、あの様子を見るに彼女も宇宙人なのだろうか。あの髪の変形は明らかに人間のものではない。更に御門さんも特に驚いた様子もないので見慣れた光景なのがなんとなく読み取れた。俺も御門さんとの関係を続けるのならば、こういった光景にも慣れないといけないかもしれない。
(ただ、やっぱ怖いから慣れるのには時間がかかりそうだな....)
「さて、自己紹介も済んだようだしそろそろ食事を始めましょうか。私は準備してくるから、待っててね。」
「あ、じゃあ私も手伝うわ!」
御門さんとティアーユさんはそう言ってこの場を後にした。準備ということはまだ食事まで時間がかかるかもしれない。
(なら、あの2人から御門さんのことを聞いてみるのも良いかもしれないな。)
おまけ 主人公のプロフィール
名前:藤田 龍弥(ふじた りゅうや)
イメージcv:小西克幸
性別:男
年齢:20代前半
血液型:A型
身長:178cm
体重:62kg
趣味:読書(漫画、小説がメイン。どちらもフィクションを中心に選んで読んでいる)
ゲーム(ADV、格闘、RPG)
職業:会社員
好きな食べ物:寿司(特にウニが好き)
髪型:黒のパーマ(戦神館シリーズの大杉栄光が黒髪になったイメージ)
おまけのプロフィールは、もっと必要な情報があれば追加して更新していきたいと思います。
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第七話 アクシデント
これほど多くの方々に自分の作品を読んでくれて本当に嬉しく思います。これからも満足できる作品作りに励んでいこうと思います!
「ねぇ、2人から御門さんのことについて聞いても良い?」
開口一番、俺はお静ちゃんと闇ちゃんにそう言った。すると闇ちゃんはジトッとした目線をしながら口を開く、
「あなた、ドクターミカドの事を知らずに口説いたのですか?」
「あ、あはははは....そうだね、俺は勢いで御門さんに近付いたよ。だけど、友達になってもっとお互いについて知ろうと思ったんだ。」
「そうですね、御門先生もそんな感じで付き合ってると聞きました。」
「....なるほど、なら彼女のことを詳しく知らないのも無理はないですね。」
すると、闇ちゃんの視線が険しくなる。もしかして何か恐ろしいことでも話すのだろうかと思った。そしてその予感は的中した。
「私もドクターミカドにはよくお世話になってましたが、実は彼女は過去のソルゲムという評判の悪い組織との関わりがありました。」
「わ、悪い組織って....けど、過去形になっているということは....」
「ええ、一時はその組織から圧力に屈しそうになりましたが私も彼女には借りがあったので手助けをするのにしました。」
「そ、そうだったのか....俺はその時には関わりすらなかったけど、御門さんのことを助けてくれてありがとうね。」
「....別に、あなたに感謝されるいわれはないです。ただ、彼女にはあんな組織は似合わないと思っただけです.....あと、私1人の力だけでもないですし。」
闇ちゃんは俺から視線を逸らしながらそう呟いていた。詳しいことはわからないが、かなり厳しい過去があったことを察した。そして闇ちゃん達の助力があってその組織との関係は決裂したそうだ。それを聞いた俺は闇ちゃんに感謝しざるを得なかった。
なぜなら、もし彼女達の助力がなければ今の御門さんは居なかったのかもしれない。当然俺が彼女と出会える可能性なんて皆無だろう。
「そうか、御門さんは昔はそんな危ない組織と関わりがあったんだな....」
「はい、ですが今はそんな危ない研究なんてしてませんよ。それにほら、幽霊だった私にちゃんとぴったりな体だって作ってくれたんですから!」
「ゆ、幽霊だって!?」
「は、はい。もしかして藤田さんは幽霊の存在を信じてないとか?ほら、こんな風に....」
「お、おぉ....凄い」
唐突な真実を明かされて俺は戸惑ってしまった。どうやらお静ちゃんは幽霊だったようだ。実際に目の前で霊体の姿を見せたのだから、信じるしかない。俺は昔から幽霊の存在は半信半疑だったが、このような形でお目にかかれるとは思わなかった。
「しかし、御門さんがこの体を作ったんだね....これも凄いな。」
「はい。おかげで現代の学校にも通えるようになって、私もとても嬉しかったです!」
そう言いながらお静ちゃんは満面の笑みを浮かべていた。このような技術を使って誰かを喜ばせる、御門さんにはそう言う力があるのだなと俺は感じた。改めて彼女への敬意が強くなった。
「お待たせ、食事の用意ができたわ。」
「ティアーユ、貴方料理ができたのですか?」
「わ、私はあくまでちょっとしたお手伝いをしただけだから....」
そう考えていると、御門さんとティアーユさんが食事を運んできた。どれも高級そうな料理でとても美味しいそうだ。一方で闇ちゃんは少し微妙そうな視線をティアーユさんへ送った。どうやら彼女はあまり料理は得意ではないらしい。
「さ、細かいことは抜きで今日は食事会を楽しみましょう。もちろん、藤田さんの歓迎会も兼ねて、ね?」
「あ、ありがとう.....ございます。」
「うふふ、また敬語が出てしまったわね。」
御門さんは小悪魔っぽく微笑みながら俺に向かってそう言ってきた。それが可愛く見えて、照れてしまう。そしてそれを見てみた周りの女子達が興味深そうにみていた。
「おお、お二人はそんな風に普段話しているのですね....」
「これは、ドクターミカドの方がなんだか優勢ですね。尻に敷かれそうな未来が見えました、」
「ま、まだ付き合いが短いからそうかもしれないわよ?」
と、女子達は俺たちの様子を見て喋り始めた。これもこれで俺からしたら照れ臭いが、決して悪い空気ではなかった。むしろ微笑ましく見えて、俺も自然と笑みが浮かび上がった。
「ところで、さっきはなんの話をしてたのかしら?」
「ああ、それは....」
御門さんがそう聞いてきたので、俺はさっき闇ちゃんとお静ちゃんと話してた内容を御門さんに伝えた。
「なるほど、ソルゲムとの関係をね....我ながら恥ずかしい過去だわ。」
「あはは....でも、もう関係は切ったんでしょ?だったらもう大丈夫なんじゃないかな?」
「ええ、もう二度と関わりたくないわ。」
「そうだよね....ところで御門さんお酒飲んでる?」
「ええ、ワインよ。」
ふと御門さんの顔を見てみると、顔がほんのりと赤くなっていた。普段とは違った色っぽさを感じる。
「よければ貴方も飲む?」
「....そうだね、折角の機会だし。」
そう言って俺はグラスにワインを注いだ。俺はお酒の類は基本的にビールで、友達との付き添いでたまに日本酒を飲むくらいだ。ワインは飲んだことはないが、前から飲んでみたいなとは思っていた。
「....なんか、不思議な味だな。」
「ふふ、けど後から癖になるかもしれないわよ?」
確かに御門さんの言う通り、自然と無意識に口に運んでしまうような味わいだった。
それからはと言うと、色々と楽しんだ気はするが、酔いが回りすぎて記憶が曖昧になる程飲んでじまったのだった。
そして
「んん?」
俺はふと目覚めた、どうやら酒を飲んで酔いに負けて寝入ってしまったようだ。僅かに頭から感じる痛みを抑えつつ体を起こす。どうやら俺は御門さんの家のソファーで寝ていたようだ。
ボーッとする頭の喉の渇きが我慢できない。そして俺は、食事会でワインを飲んでいたいた事を思い出す。
(ああ、そういえばワインを飲んでたな.....酔いが回って眠ってしまったんだな....まずは顔を洗ってからにするか....)
そう思いつつ俺は洗面台のありそうな浴場場所へと向かっていった。まだ残っている眠気に耐えつつ、俺は浴場のドアの部を掴んで開いた。
「....え?」
「....へ?」
だがそこには、俺の予想外の光景が目に広がっていた。俺の目に映ったのは、真っ裸な御門さんの姿だったのだ。髪や体には水気が纏われており、そして衣服を着ていればまず目に映らないようデリケートな部分まで見えてしまった。はっきり言って、さっきまで感じていた眠気なんて無くなっていた。しかし、数秒の沈黙の後、俺は今置かれている状況があまりに不味いことに気付き、すぐさま謝ることにした。
「え、いやそのごめっ」
「し、静かにして!騒いじゃだめよ....」
だが俺が謝ろうとした瞬間、御門さんは手を俺の口に押しつけて開いていたドアを閉めた。あまりに急な出来事で俺は呆気取られてしまう。すると、御門さんは小声で俺に向かって呟いてきた。
「落ち着いて、大声なんてあげてしまったら闇ちゃんが反応して大変なことになるわ。だから、お互い大きな音を出さないことを心がけましょう。良いわね?」
「.....」
御門さんの言葉を聞いて俺はうなずいた。そして御門さんは俺の口から手を離し、タオルを体に巻き付かせた。
「...ごめんなさいね、ここの屋敷には女の子しか住んでないからつい鍵をかけることを忘れてしまってたわ。」
「いや、それだとしても俺もごめんなさい。酔いが残っていたとはいえ、誰かが中にいるとも確認しないで開けてしまって....」
「はぁ....こんな事になるなら、やはり鍵をかける習慣をつけないとね。みんな女子だから鍵をかける事あまりなかったのよ....」
「ああ....」
俺は少しだけ納得した。男同士はともかく、女子同士の間ならば確かなわざわざ警戒して風呂に入る必要もあまりないのだろう。場合によっては風呂好きな女子同士で一緒に入るなんてこともあるのかもしれない。もっとも、これはあくまで俺の推測に過ぎず、その限りではない人もいるのかもしれないが、
「と、とりあえず俺は外に....」
「....ドクターミカド、大丈夫ですか?」
俺はそそくさと室内から出ようとした瞬間、突如ドアの向こうから闇ちゃんの声が聞こえた。俺は思わず叫びそうになるが、背後から御門さんの手が伸びて口を塞いだ。
「落ち着いて、暫くこの中で隠れていて。」
俺は頷いて御門さんの指差す掃除用具入れの中に入った。呼吸を抑えるが、高鳴る心臓音は止まらない。
「....ドクター?」
「ヤミちゃん、どうしたの?」
俺は掃除道具入れの隙間からその様子を覗き込んだ。御門さんはタオル姿のままドアを開け、闇ちゃんと話をする。
「いえ、少し物音があったので気になったのです。何かありましたか?まさか、あの男が何か変なことを....」
「そんなことないわよ、少し物を落としただけだから安心して。」
御門さんは決して動揺するような表情を浮かべず、あくまでいつも通りの笑顔を浮かべながら言葉を返す。しかしそれで闇ちゃんの警戒心は無くならないようだ。
「そうですか、では念のために中を確認させてください。すぐに済みますから。」
「ヤ、ヤミちゃん?貴女今日は結構強引ね.....何か気になることでもあるの?」
「.....僅かですが、男の匂いが感じるのです。もしかしたらあの男か、もしくは侵入者かと思うのです。」
闇ちゃんの言葉を聞いて、俺の心臓は跳ね上がりそうになる。俺は必死に口を手で抑えて呼吸でバレないようにする。
「もう、それは考えすぎよ。貴女も眠たそうな顔をしてるし、無理はしちゃダメ。」
「ですが、私はドクターのことが心配で....」
「ヤミちゃん。」
すると御門さんは闇ちゃんの頬に手を添えて、微笑みながら言葉を発した。
「ヤミちゃん、本当に危なかったらちゃんと貴女達のことは頼るわよ。自分1人で背追い込むような真似はしないから、そこは信じて欲しいわ。」
「ドクター....わかりました。そこまで言うのなら私は戻るとします。それでは....おやすみなさい。」
「ええ、お休みなさい。」
闇ちゃんはどこか納得した表情を浮かべながらこの部屋を後にした。そして御門さんが清掃用具入れへと近付きドアを開けてくれた。
「どうにかヤミちゃんは行ってくれたわ。顔を洗ったらバレないように慎重に戻ってね。」
「あ、うん....ありがとう。すごく助かりました。」
「良いのよ、貴方が疑われると私も困るもの。困ったときはお互い様よ。」
「わかった、本当にありがとうね。」
そう言いながら御門さんは微笑みを浮かべてくれた。俺はゆっくりと扉を開けて、周りをしっかりと確認しながら廊下へと出た。最初は闇ちゃんが居るかと思ったが、特に誰かがいる様子はなさそうだ。
(み、見てしまったな.....)
俺は闇ちゃんに見つかりそうな恐怖よりも、着替え中の御門さんの姿を見てしまったことが強く記憶に残っていた。前にはバスタオル姿を見たが、あれとは見た瞬間の威力が全然違った。
加えて、普段落ち着きのある御門さんが明らかに動揺していたのもまた新鮮だった。あの人もあんなふうに驚くことがあるのだなと思ってしまった。
「....ひとまず寝ようか。」
俺は水を一杯飲み、高鳴っていた鼓動を落ち着かせる。まだ先程の出来事が脳裏に残っているが、それ以上に再び襲いかかってきた眠気に耐えきれなくなっていた。そして俺はソファーへと身を沈めたのだった。
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第八話 翌朝
「おはよう、藤田さん。」
「おはよう、御門さん。」
翌朝、俺達は何気なく挨拶をした。もちろん俺は夜中の出来事は覚えているが、普段通りの振る舞いを意識している。
「もうすぐ朝ごはん出来るから待っててね。」
「まさかそこまでしてもらえるとは....なんだか申し訳ない。」
「気にしないで。呼んだのは私だし、お酒を飲ましてそのまま返すわけにもいかないもの。」
そう言って御門さんはエプロン姿になり台所へと入っていった。話していた内容もそうだが、御門さんのエプロン姿がとても新鮮だった。
(凄い可愛いし、なんだか新婚のお嫁さんみたいだったな....)
「....おはようございます。」
「あ、おはよう闇ちゃん。」
などと見惚れていると、闇ちゃんが少し眠たそうな顔をしながら現れた。夜での出来事を思い出してまうが、顔に出さないようにする。
「昨日はかなりアルコールを摂取して眠っていたようですね。体調はいかがですか?」
「そうだね、正直頭を重く感じるよ。朝ごはん食べたら、少し外を歩こうかなって。」
「....そうですか、私は貴方が吐き気に耐えきれずトイレから出られない状態になるのではと思っていました。」
「そ、そうならないようにちゃんと調整して飲んでいるよ。」
俺はそう苦笑しながら闇ちゃんに返事を返してた。まさか彼女からそのような話を仕掛けてくるとは思わなかった。すると、目の前に料理が並べられていく。
「おはよう闇ちゃん、昨日はありがとうね。」
「いいえ、ドクターが無事なら何よりです。」
「ええ、ちゃんとぐっすりと眠れたわ。」
二人はそんなふうに他愛のない会話をしていく。俺は最初は会話を合わせようとしたが、あえて黙っておく事にした。下手に突っ込むと闇ちゃんに鋭く突っ込まれそうな気がしたからだ。
「そういえば、ティアーユはまだ寝ているの?」
「ええ、彼女もお酒を飲んでいましたからね。とはいえそろそろ起きてくるでしょう。」
闇ちゃんはそう言いながらパンにバターを塗り、流れるようにあっさりと食べ終えた。そしてテーブルから立ち上がった。
「あら、もう行くの?これだけで大丈夫?」
「はい、今日は新刊の発売日なので本屋で読みに行こうかと。残ったものは藤田さんが食べてください。では....」
そう言い残して闇ちゃんは外へと出て行った。まだ朝早いのに空いている本屋があるのだろうか、と疑問に感じたが気にしない事にする。
「えっと、ごめん藤田さん。闇ちゃんの残した分食べれそう?」
「うん、大丈夫だよ。」
俺は朝はそこまで食べない方だが、そこまで多くない量だからそこまで問題ではない。寧ろ昨日のことを深く突っ込まれないだけ幸いだろう。
「全くあの子ったら....急なんだから。」
「ははは、深く聞いてこなかったから俺としてはホッとしたけど.....」
「ふふ、それもそうね。それにしても昨日といいあの子たちと仲良くやってくれてるようで良かった。」
「え、闇ちゃんたちとのこと?まだ親しく話せてる気はしないけど....」
「ちゃんと自然と会話できてるわよ。闇ちゃんは警戒心が強くて仲良く出来るかわからなかったけど、その様子なら安心したわ。自宅に招待した甲斐があったというものよ。」
御門さんがそう微笑みながら言う。確かにお互い嫌々ながら話をしていた様子もないし、ある程度の信頼は得られたのかもしれない。まだ警戒心のほうが強いかもしれないが....
「そういえば、近いうちにお祭りがあるみたいね。」
「え、そうなんだ。もうそんな時期なんだな....」
「よかったら一緒に行かない?ティアーユ達とも一緒にね。」
「そうだね、良いと思う。」
「ふぁ、おはようミカド....」
「おはようございます、御門先生!」
「おはようティアーユ、お静ちゃん。丁度良かったわ、今ね....」
などとこんな調子で俺たちは朝食を食べ終えた。二人からはOKの返事をもらい、後は闇ちゃんに聞くだけだ。
「はいよ、毎度あり!」
「....つい気まずく飛び出してしまいました。鯛焼きでも食べて忘れますか。」
一方で外に出た闇は鯛焼きを買い込み、食べながら街を歩いていた。同時に彼女は頭の中を思考で巡らせる。。
(確かにあの場で感じた男性の香りは彼のものでした。ですが、特にドクターに対して何かハレンチな事や害を与えた様子もないので本当に無害な男だったのですね.....警戒していた私がまるで馬鹿みたいでした。)
胸の中では巣に落ちない感情が湧きつつも、闇はひとまずそう結論付けた。しかしまだ警戒の種はあるのか、険しい表情を浮かびあげる。
(ですがまだ安心できませんね。いくら大人といえど、もしかしたら結城リトみたいに物理法則を無視したハレンチ行為を成してしまうかもしれません。もしそうだったら....流石のドクターも、そんなことが毎日起きたら大変です。)
曰くハレンチスパイラル。彼女の脳裏に浮かび上がった結城リトは、その物理を無視した不思議な現象で彼女達を困らせてきた。リトには悪意は決してなく、寧ろリト本人にとっても、悩みの種となっているのだ。
「....考えても仕方ありませんね。ひとまず今は様子見ということで、今後は彼の行動をしっかりと注目しておきましょう。」
そう呟きながら闇は帰路へと歩いていった。その後、御門に祭りのことを聞かれると参加すると返事した。
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第九話 お祭り 前編
「おっと、そろそろ時間だな。」
時計を見ると身支度を済ませて外出した。前回御門さん達と約束した時間に近くなったため、待ち合わせ場所である祭りの会場へと向かっていく。
今日は予定していた祭りの日、俺は楽しさを胸に踊らせながら待ち合わせの場所へと向かっていった。
「あ、藤田さーん!こっちですこっち!」
暫くすると、お静ちゃんの声が聞こえてきた。ピョンピョンと跳ねながら手を振り、俺を誘導してくれている。俺は少し駆け足をしてその場へと向かっていった。
到着するとお静ちゃんとティアーユさん、そして闇ちゃんと御門さんが待っていた。みんな浴衣を着ていてとても似合っている。
「ごめんなさい、遅れてしまいました。」
「大丈夫よ、私達も来たばかりですし。早速行きましょう。」
そう言いながら御門さんは俺の手を引いて祭り会場の中へと連れて行ってくれた。中には大勢の人が立ち並んでいるが、充分歩くことが出来る程の密度だった。
「それにしてもみんな、浴衣姿が似合っているね。」
「あら、ふふ....ありがとう。男の人から言われるとなんだか新鮮ね。ねぇ、ティアーユ?」
「え?あ、そうね....なんだかとても照れるわ。」
「狼狽すぎですティアーユ....まあ、褒め言葉をもらうこと自体、悪い気はしませんが。」
「えへへ、ありがとうございます、藤田さん。」
などと彼女達は嬉しそうな表情を浮かべた。闇ちゃんはまだドライな反応をしているものの、強く否定しないあたり少し受け入れている気はする。
「あ、あそこのお菓子美味しそうですね!御門先生、買ってきて良いですか?」
「そうね、折角だし好きに買ってきて良いわよ。闇ちゃんもどうかしら?」
「....そうですね、少しお静と同行しようと思います。」
「あ、待って闇ちゃん!ごめんミカド、私あの子達と一緒に行ってくるわ。」
そう言い残して3人は食べ物が並んでいる屋台の方へと進んでいった。それを見て御門さんはクスッと笑った。
「ふふ、あの子達は気分が昂っちゃてたわね。」
「そうだね、けどせっかくの祭りだし楽しまないと損だよ。俺達も少し回ってみようか?」
「ええ、そうね。私もこう言うイベントに参加するのはなんだか久しぶりな気がするわ。」
そう言って俺と御門さんは手を繋いで進んでいった。僅かに感じるひんやりとした感触に胸を少し弾ませながらもグッと堪える。もう何度目かの手繋ぎなんだからそろそろ慣れないと.....
「よぉそこのカップルさんよ、良かったらウチのたこ焼き買っていかないかい?」
「....え、もしかして俺たちの事?」
「おうよ、丁度今出来立てのがあるんだ。今なら美味しく食べられるぜ?」
ふと視界の端から大きな男性の声が耳に入った。声のする方向に顔を向けると、厳つい顔をした男性と目が合ってたこ焼きを勧めてきた。どうやら本当に俺たちに向けた言葉だったらしい。
「たこ焼きか....俺は食べれるけど御門さんはどう?」
「ええ、私も食べる分には問題ないのだけど....」
「....?どうかした?」
「....貴方達、どこかで会った事ない?」
御門さんは屋台の人達に向かってそのような言葉を投げかけた。それを聞いてもしかして御門さんと顔馴染みなのだろうかと思ったが、男は笑い声を上げた。
「だぁっはははは!そりゃ無ぇよ、姉ちゃんみたいな美人さんが知り合いにいるんなら、俺は忘れるもんか。きっと勘違いだぜ。」
「だな、旦那は美人に目がないもんなぁ。即口説いて玉砕するのが日常茶飯事な男ですぜ!」
「んだとゴラァ!」
「....そのようね、ごめんなさい。私の勘違いだったみたい。」
「.....とりあえずお金出しておきますね。」
俺はそう言いながら屋台の人達へたこ焼きの代金を出した。そして袋に入れられたタコ焼きを受け取る。
「はいよどうぞ、ソースとマヨネーズをちと多めに入れたから味わってくれよな!」
「あ、ありがとうございます。」
「さっきは本当にごめんなさいね、少し知り合いに似てたもので....」
「良いってことよ、こんな美人な姉ちゃんと話せたんだ。寧ろ心身共に保養になったものよ。祭り、楽しんでいってな!」
「ええ、それでは....」
そして俺たちはその場を後にした。俺と御門さんは少し離れた場所に座り、たこ焼きを食べることにした。実際味は確かなもので、美味しく食べることができた。
一方、たこ焼き屋では。
「....行ったか。」
「みたいですね。はぁ....一瞬疑われた時はヒヤッとしましたよ。」
「全くだ....おい、誰か代わってくれ。少し休憩する。」
「あ、了解です。」
たこ焼きの店主らしき男は部下の男と場所を変え、客の見えない場所へと座り込む。そして顔に手を掛ける。すると.....
「ふぅ.....ドクターミカドの勘も鋭い。この地球人に化ける高性能の覆面がなければバレてたかもしれないな。」
なんとこの男、覆面をかぶっていたのだ。男の正体は、かつて御門を自身の組織であるソルゲムへと誘い込もうとしたケイズとその仲間達だったのだ。
「金色の闇が離れたことが幸いですね、彼女がいたら....」
「そうだな、どのみち我々にはもう力はない。俺達は組織から弾かれ、そしてソルゲムも気が付けば潰れていた。今はこうやって日銭を稼ぐのに手一杯だ。」
ケイズはそう呟きながら水を口に運ぶ。かつて御門を脅していたような威圧感は無く、荒事を企てているような雰囲気もない。荒事からもう身を引いたのだろう。
「しかしドクターミカドに男が出来ていたのは意外でしたね。上玉ではあるのですが、医学の事以外には殆ど興味なさそうな女でしたが....」
「しかもあいては地球人か....デビルークのプリンセスといい、最近は地球人と関係を持つのが主流なのか?」
「いや流石にそれは無いかと....あの2人が例外なのだと思いますよ?」
「それもそうか....良しお前達、気合い入れて商品を売りまくるぞ!」
ケイズは覆面を被り直し、部下達に向かってそう声を張りながら再びたこ焼きを作る作業へと戻った。そして.....
(....何やってるんですかね、あの人達。まあ、何か危害を加える様子もなさそうですし、別に良いですか。)
「闇ちゃん、次はあそこに行きましょう!」
「はい、わかりました。」
少し離れた場所にいた闇がその様子を見つめていた。そして案の定、彼女には彼らの正体があっさりと看破されていたことは本人達の知る由もないのであった。
そして龍弥達は.....
「ふぅ、美味しかった。」
「ごちそうさま、お祭りのたこ焼きって美味しく感じるわよね。」
「そうだよね、やっぱ祭りの雰囲気でそう感じやすくなるのかな?」
「ふふ、そうかもしれないわね.....」
俺達は買ったたこ焼きを食べ終え、少しお喋りをしていた。そして話しつつ少し御門さんの浴衣姿を改めて見てみる。
全体的にピンク色で花柄の浴衣を着ており、そして普段とは違って清楚な雰囲気が強く感じた。そんな彼女を俺はより魅力的に感じていた。
「あら藤田さん、少し目つきがイヤらしいわね。」
「え、いや俺はそんな嫌らしい目的で見てたわけじゃなくて....」
「なんて、冗談よ。浴衣を着ることなんて滅多にないしね、ちゃんと見てもらえて嬉しいわ。けど....」
「え、どうしたの?」
「....貴方に、他の子達よりも一番綺麗だと言われたい、なんて思ってしまったわ。」
彼女にしては珍しく、顔を赤く染めながら、そして少々よく深い気がする言葉を発した。それを聞いて俺はどう答えるのか、躊躇う必要なんかどこにも無い。人目を気にせず俺は彼女と目を合わせながら口にする。
「誰よりも綺麗だ、御門さん。俺だけが独占したいと思うほどに。」
「.....えっ」
一瞬の静寂、そして見つめ合いながらお互い言葉を失っていた。そして祭り会場のザワつきが聞こえると、俺は自分が勢いで何を言ったのか自覚し、そして恥ずかしさが込み上がってきた。
(....何言ってるんだ俺!?こんな人前で口説くか普通?あり得ない、せめて人の少ない場所で言うべきだろうに.....)
あまりの愚かしさに自分を殴ってしまいそうになる。その前に御門さんに謝らないと、と思ったらその時だった。
「....ずるいわよ。」
「え、御門さん?」
「冗談のつもりだったのに.....そんな風に真っ直ぐと真面目な顔で言われるなんて.....予想外だったわ。」
御門さんは顔を真っ赤に、そして目線を逸らしながらそう言った。どうやら本当に俺がそんな言葉を言うなんて考えてなかったらしく、予想位上に良い意味で堪えていたらしい。
というわけで原作に出ていたケイズ達を出して見ました。ダークネスではソルゲムは壊滅されたらしいので、取り敢えずこの話ではケイズ達は足を洗ったという扱いにしてみました。
一応御門先生と面識のあるキャラなので、彼らからみたらこんな風に見えてたのかもなって思いながら書きました。
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第十話 お祭り 後編
俺と御門さんは何処となく祭りの会場を歩き回っていた。屋台のゲームを楽しむ子供達やデートを頼む学生などが目に映る。誰も彼もが楽しそうな顔を浮かべている。
「.....」
「.....」
俺たちはお互い口を閉ざしていた。しかしこの沈黙は決して気まずさや不快感は無く、お互い心地良さを感じていたからこその沈黙だった。共に歩けるだけの喜び、それを実感しているからこそ一緒に歩いている。
「藤田さん、少し来て欲しいの。」
「ん?あ、ああ....」
沈黙を破った御門さんは人がほとんどいない場所へと誘導する。俺はされるがまま彼女の進む方向へと同行した。
そこは湖の広がっている場所、湖面が夜空と繋がっているかと錯覚するほど広かった。そして俺達は近くの茂みへと腰を下ろした。
「綺麗な場所だね....」
「ええ、そうね....」
そう言いながら御門さんは少しだけ身体を俺の方へと傾けた。身体の密着には少し慣れてきたものの、少し胸の鼓動が早くなる。
「御門、さん?」
「....お願い、貴方からも寄り添って欲しいの。」
少し目線を逸らしつつも、御門さんは俺の手を掴み自分の腰へと当てた。不意な出来事で俺は驚くが、同時に御門さんの鼓動が少し早くなっているのも感じた。
(この人も緊張していたんだ.....)
普段から余裕な表情を浮かべ、多少のアクシデントにも対応できる人だったか緊張なんてあまりしない印象が強かった。だがそれは俺の一方的なイメージなのだと理解した。
(けど、だったらなんで急に体の密着を?)
「ねぇ、藤田さん。私、もっと貴方に甘えたいと思っているの.....」
「....えっ?」
御門さんの急な発言に俺は戸惑ってしまう。そして彼女のいった甘えたいと言う言葉、それは一体どういった意味が込められているのだろうか?
「甘えたいって、それはどういう....」
「別に難しく考える事はないわ、要は私は貴方に身を委ねたいと思っているの.....少しだけでもそうする事で、心が落ち着くのよ。」
「....心が、落ち着く。」
「ええ....不思議と貴方と居るとそんな気持ちになれるのよ。」
何となく御門さんの言いたいことが分かった気がする。要は精神的にリラックスしたいということだ。騒がしい場所や忙しい場所、そういった場所が落ち着けるって人は決してそう多くはないだろう。寧ろストレスや不快感を感じてマイナスの感情が強くなってしまう人の方が多いはずだ。
「貴方と話したり、手を繋いだり、そして色々な場所に行くと、なんだかとても心のホッとするのよ。だから、いつでもとは言わないけど、もっと私は貴方に甘えたい....寄り添って過ごしたいと思うのよ。」
「御門さん....」
それは俺が彼女に抱いていたイメージとは違った一面だ。だが、同時にそれは尊いと思う。公の場でも、プライベードでも余裕のメンタルを保ち、カリスマ全開の超人的な人間というのは、世界中探しても極僅かな人数しかいないだろうと俺は思う。その中にも御門さんも入っているのかもしれないと思ったが、実際はそんな事はない。大人の色っぽさや医学に対して強い熱意を持っている宇宙人、そして俺と一緒にいる地球人のごく普通な女性だったんだ。
「....変かしら、私がそういう欲を出してしまうのは?」
「そんな事はない、幾ら大人でも誰かに甘えたくなるものだよ。俺だって仕事は全力で取り組むけど、休み時間や休日は結構寝てしまうし。」
「あらあら、それは健康的ね。けど眠り過ぎは夜更かしの原因になるから程々にしないとダメよ?」
「あ、はい....気を付けます。」
御門さんは俺の口に人差し指をつけながら、そう注意を施した。そんな彼女を俺は可愛いと感じて照れてしまう。そういうところで俺は敵わないなぁと思ってしまった。
「けど、お昼寝もいいわね。休みの日は貴方を抱き枕にしながら眠るのもいいかもしれないわね。」
「え、マジで?」
「ボーイフレンド相手なら、そういうのもアリだと私は思うけど?」
御門さんと一緒にお昼寝をする。それはとても魅力的な提案だが、彼女の体勢次第でその豊満な胸が当たってしまう。そうなると俺は眠っていられないのですが....などと邪な事を考えてしまう。
「ふふ、変な顔しちゃってるわ。何を考えてるのかしら?」
「な、なんでもないよ.....ただ、御門さんがどんな形であれ甘えたいというなら、俺は大歓迎だよ。頑張るのも大事だけど、心も身体も休めるのも大事な事だし。」
「藤田さん....ありがとう、その言葉を聞けただけでも気が楽になったわ。もちろん、貴方に甘えすぎて堕落しすぎないように私も気をつけるわ。」
彼女は微笑みを浮かべながらそういった。そして同時に、夜空に花火が打ち上げられた。轟音と同時に夜空に花のように広がる花火、三角さんと俺の視線が夜空へと向かう。
「あら、綺麗ね....」
「そうだね....花火なんていつ頃だろう。」
社会人になり、目まぐるしい毎日でこういう祭りに参加する機会もほとんど無くなった。それに、1人で祭りに参加したところで花火にも関心を向けることもなかったかもしれない。だが......
「また来年も、こうして来てみたいわね....」
御門さんの方へと俺は視線を移す。今の彼女はまるで子どものように純粋な表情を浮かべて花火を見ていた。またこの人の純粋に楽しんでいる顔を観れるのなら、祭りに行くのも良いかもしれない、俺はそう思った。
「....龍弥さん。」
「え、御門さ....」
俺も花火を見ようと夜空へと視線を移そうとした時、御門さんに不意に名前を呼ばれた。それも下の名前で呼ばれたのだから俺は驚いてしまった。そして目があった瞬間、彼女の柔らかい掌が俺の頬を包み、そして顔が近づき....過去最高に柔らかく心地良い感触が俺の唇から感じた。
「.....はぁ、龍弥さん。私....」
「.....ッ!」
御門さんは唇を離し、蕩けたような表情をしていた。それを見て俺は我慢できず、彼女を強く抱き寄せて、今度は俺がキスを返した。
好きだ、御門さんのことが大好きだ。俺の脳内ではその言葉だけで埋め尽くされ、その気持ちとシンクロするようにキスをし続ける。そしてその気持ちが満たされると同時に口を離した。
「はぁ....ふふ、キスって、こんなに心が満たされるものなのね。」
「あ、ああ.....俺も、初めてだけどそう思うよ。」
「初めてね.....私もそうよ。」
「これも、御門さんなりの甘え方の一つかな?」
「.....ええ、それも特別な人にだけに絶対やらないことよ。」
御門さんはそう言いながら手をからめるように握ってきた。俺も握り返す。もう緊張してされるがままなんて事はない。
「私、貴方のことが大好きよ.....これからも一緒にこういった日々を過ごしていきたいわ。」
「御門さん....」
「だから、私のことを名前で呼んで欲しい....さっきみたいに私もそう呼ぶから。」
「.....涼子、さん。」
「....ふふ、なんだかこそばゆいわね。けど、ありがとう....」
少し照れ臭そうな表情をしながら彼女は微笑みを浮かべていた。俺は自分で言っておきながらすごく照れ臭いが、とても彼女との距離感が近くなったことを実感した。今日一日で大きく進歩しただろう。
「龍弥さん、あの日に私に声をかけてくれてありがとう。貴方に出会えて本当に良かったと思えたわ。」
「こちらこそ、涼子さん。こんなありきたりな俺にここまで良くしてくれて。これからもよろしくね。」
こうした俺達はみんなと合流してお祭りの会場を後にした。この日は俺にとってかけがいのない一日となり、とても大きな思い出となった。きっと涼子さんにとっても、そんな一日になっただろう。
これでお祭り編は終了となります。めちゃくちゃ2人のターンとなりましたが、この小説における主人公とメインヒロインなのでこんな感じで良いかなーと思いながら書きました。一方でせっかくのお祭り系の話なんだから他にもスポットライトを当てて良いだろうと思いましたが....自分の手腕不足を改めて実感しました。
次回からはまた日常系に戻ろうと思います。
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第十一話 お家デートその1
知ってる方もいるでしょうが、新しく投稿した新作は自分がやってみたかったことの一つで、同時更新していこうかと思います。恋愛系も好きですが、元はバトル系一本だったもので....もちろんこっちを疎かにするつもりはありません。
ひとまず今回はまた御門先生とのイチャイチャ回ですので、どうぞお楽しみください。
祭りの日から数日が経過した。あの後俺達は合流して、そのまま何事もなく帰宅した。ただ、俺自身は御門....涼子さんとの距離を一気に縮めることが出来たため、暫く眠ることはできなかったが。
そして金曜日となり、仕事を終えて帰宅する。そしてご飯を食べながら先週のお祭りでの出来事を思い出す。
(....これ、涼子さんと恋仲って解釈して良いんだよな?)
俺は俺自身にそう問いかける。正直まだ実感できてないことだからだ。涼子さんと出会うまで彼女いない歴史=年齢だった俺が、女性、それも超美人と恋仲になるなんて夢のような話だからだ。だが、これは夢ではない。ちゃんとした現実なのだから、まずは自覚して行動しなければならない。
「とは言え、何をすれば良いものか。うーん....」
そう呟くも何も思い浮かばず悩んでいた時だった。机に落ちていたスマホが震え出す。誰かメッセージが届いた。
「あ、涼子さんから.....え?」
『明日、龍弥さんの自宅に遊びに行っていいかしら?』
涼子さんからそうメッセージが送られ、俺は脳内が一瞬フリーズする。過去に一度涼子さんを自宅に招き入れたことがあるが、あれは突然豪雨でやむを得ずにだった。
だが今回は涼子さん自らが俺の自宅に遊びに来る。所謂お家デートというやつだ。勿論俺としては大歓迎、直ぐにOKの返事をする。
『涼子さんがきてくれるのなら、大歓迎だよ。』
『ありがとう。それじゃあ明日のお昼12時ごろに行くわ、お昼ご飯も作るから、楽しみに待っていてね♪』
なんと手作り料理も振る舞ってくれるようだ。ああ、これが男女の恋愛というものか....俺はそうしみじみと実感した。我ながら俗で単純な男だと思った。だが俗で何が悪い。こちとら生まれて初めての恋愛なのだから、全力で楽しまねば損だ。
「だが、その前にしっかりと整理しないとな。」
俺は自分の部屋を見渡しながらそう呟く。時々軽い掃除をしてるから決して汚い部屋というではない。だが置きっぱなしの漫画やゲーム、床やテレビに埃が被っていたりなど、少し目に入る汚れが見られた。流石に見られると結構恥ずかしい。
食事を終えると俺は部屋の整理と掃除をキッチリと済ませた。例え男といえど、女性を招き入れるなら部屋は清潔にしないとな。
「さて、初めてのお家デートになるのか.....」
はっきり言って、すごく緊張している。重ねて言うが、幾ら一度部屋に入れたと言っても、アレは事故みたいなものだ。今回はデートという目的があってのことだ。祭りの一環で一気に距離を縮めたんだから、涼子さんに男としてとても信頼されてるはずだ。それに、恋人として付き合いも長くなれば、その先も......
「....いかんいかん、あくまで紳士的にだ。変なこと考えるんじゃねぇぞ。」
俺の中で芽生えそうな欲望は抑える。それもまた男らしいとは思うが、その流れに乗せられてはいけない。
そして翌日の昼頃になる。
インターホンの音が部屋に鳴り響き、モニターで確認すると、ドアの前に涼子さんが立っていた。俺はドアを開けて迎え入れる。
「こんにちは、龍弥さん。待たせちゃったかしら?」
「いやいや、涼子さんが来てくれるだけで嬉しいよ。上がって、あまり面白い部屋じゃないだろうけど....」
「ふふ、お邪魔します。キッチン借りるわね。」
「うん、自由に使って良いよ。」
涼子さんは部屋に入ると、真っ直ぐにキッチンへと向かった。そして手に持ってたビニールを置く。中を少しみると、結構野菜が多めだ。やはり医者らしく健康的な料理をするのだろうか。
「そういえば先週大変だったわよ。」
「大変って、何が?」
「お静ちゃん達よ。あの子達ったら、あなたが帰った後とても質問攻めしてきたもの。普段はこういう話題には疎いのに....」
「あー、なるほど.....」
などと涼子さんは何かを料理しながらそう話をしてきた。ティアーユさんもお静ちゃんも女の子だから、そういう話題になんだかんだ興味あるんだろうなぁ。
「逆に闇ちゃんはいつも通りだったわね。まあ、あの子も恋してるしね。」
「へぇ、そうなんだ。同級生の子?」
「ふふ、そこは敢えてノーコメントにするわ。生徒のプライベートはあまり明かせないもの。」
少し意地悪な笑みを浮かべながら、涼子さんはそう言葉を返す。しかし闇ちゃんも恋をしているのか、物静かな子だのに意外に進んでいて驚いた。俺自身学生の頃は自分の事で手一杯だったから恋愛に首を突っ込むことはほとんどできなかった。
「しかしやっぱ保険医って、そういった相談事も受けることがあるんだね。」
「ええ、ほぼ無関係な第三者だからこそ、聞いて欲しい話とかってあるのよ。例え若い学生でも、例外じゃないわ。」
「確かにな....」
その学校の教員らしい口調は、どこか凛々しさを感じた。ちゃんと生徒一人一人と真剣に向き合っているんだなと思えた。
女性ながらもカッコいい、素直にそう敬意を抱いてしまった。
「なんて、堅苦しいことを言ったけど、実際のところは私自身興味もあるから、聞いてしまうのよね。だって、恋する女の子って可愛いでしょ?」
「そういう言葉はよく聞くけど....」
「ええ、恋に夢中な子を見るとね、応援したくなるわ。媚薬とか使って、一線超えてもらったりとかね♪」
「ちょっ、学生に媚薬を使わせるとか!?」
「ふふ、貴方も興味ある?」
「え、遠慮させていただきます....」
小悪魔みたいな笑みを浮かべながら、涼子さんは作った料理を俺の元へと持ってきた。ご飯と味噌汁、そして八宝菜を作った様だ。
しかし媚薬とか勘弁してくれ、ただでさえさっき紳士的な対応するって誓ったんだから....まさかこの料理にも媚薬とか入ってないよな?薬品を使った様子はなかったけど....
「もう、顔に出てるわよ。料理媚薬は使ってないから安心して頂戴。新鮮な野菜を使った八宝菜よ。」
「え、顔に出てた!?ご、ごめんなさい折角作ってもらったのに.....それじゃ、頂きます。」
「ええ、どうぞ召し上がれ♪」
俺は八宝菜を口に含みつつ、苦笑を浮かべながらそう返した。涼子さんの作ったご飯はとてもヘルシーで箸が止まらないほど美味しい。爽やかな風味で実に口に運びやすい。
「うん、とても美味しいよ。」
「そう....それなら良かったわ。」
少し照れ臭そうに、涼子さんは微笑みながらそう言葉を返した。そして窓の景色を見ながら、御門さんはポツリと呟いた。
「.....毎日こんな風に、楽しく穏やかに過ごしたいわね.....」
俺は言葉に出さないながらも、心の中で同意していた。涼子さんと毎日そんな風に過ごせるなら、それ以上の幸せはないと思えたのだから。
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第十二話 お家デートその2
今回でお家デートは一旦終了です、少々短めとなっていますが是非お楽しみください。
「ふう、ごちそうさまでした。」
「お粗末様です。」
涼子さんの手料理を平らげて俺はそう呟いた。涼子さんは柔らかな笑みを浮かべながら平らになった食器をまとめてくれている。しかし涼子さんの手料理は本当に美味しかった。我ながら、久々に満腹になるまで食べ尽くしたものだ。
しかし、これから何をしようか....
「龍弥さん。」
「あ、はい?」
そう考えていると背後から涼子さんが俺に呼びかけてきた。振り返ると、彼女の手にはDVDのディスクがあった。よく見ると、少し前にネットでかなり怖いと定評のあったホラー映画のDVDだった。
「よかったら、一緒に見てみない?ホラー系の映画なんだけど。」
「勿論あるけど、涼子さんもそういうの見るんだね。」
「ええ、非日常的で刺激的ですもの。それに学校でも割と話題になっていたのよ。」
それはまた意外だった。何となくだけど、医者なんだから根拠の無いものはバッサリと否定して関わらないようなイメージを抱いていたからだ。
しかしよく考えれば幽霊であるお静ちゃんを助手にしているんだから、そんな訳ないか。
「それじゃ、折角だし俺も見ようかな。」
「じゃあ一緒に見ましょう。」
こうして俺と涼子さんは2人でホラー映画を見ることにした。DVDを受け取ってテレビへと差し込む。
内容はどうやら日本の学校にまつわる怪談のようだ。俺の印象的に日本のホラーはひっそりと恐怖感を煽ってくるから、油断していると一気に突き込まれるイメージが強い。
「ほら、お菓子も持ってきたわ。」
「あ、ありがとう.....」
涼子さんが差し出したビニール袋の中を見てみた。中にはチョコやクッキー、そしてポップコーン等が入っていた。完全にホラー映画を見る気で来ていたようだ。
(もしかして、俺がビビる様子を見るために来たとか?)
だとしたら、その予想は裏切らせてもらおう。何故なら俺はこれでも動画とかでホラー系のものをよく見ている。所謂怖いもの見たさに釣られてって奴だが、それでも一定の耐性は付いていると自負している。だから、余程の演出でもない限り、そうそうビビるなんて事はないだろう。
「ほら、そろそろ始まるわよ。」
そう言いながら涼子さんが俺の隣へと座り込む。丁度お互いの肩がぶつかる程の距離で、フワッと香水の香りが漂い、俺の鼻を刺激する。その香りが、ホラーを見るという緊張感を少し和らげてくれる。
恋人と一緒に映画を見る。そんな初のイベントに胸を弾ませながら、俺たちの映画鑑賞が始まった。
映画を見始めてから数十分後。
『ガアァァァァッ!』
「〜〜〜〜〜ッ!?」
ドアップで迫る幽霊の顔がテレビに映る。その予想外、或いは予想を超えた恐怖演出が俺の恐怖心を煽り立てる。悲鳴をあげそうになるも、唾を飲み込むように抑え込む。
なんだこれは.....動画で見る迫力と全然違うじゃないか。まるで物語の一つになったように、本当に自分が幽霊と邂逅してるかのように錯覚してしまう。恐怖演出と同時に体が本能的にゾワゾワとしてしまう。ダメだ、中盤の時点でこんな様じゃ終盤で悲鳴をあげてしまうかもしれない。
そんな焦りを感じてた時だった、手からヒンヤリと心地良い感触がした。手元を見てみると、涼子さんの細い手が俺の手を握っていた。
「涼子さん?」
「....」
涼子さんの顔を見ると、ゆっくり微笑んで俺の方を見ていた。すると、その微笑みを見た事で焦っていた心も落ち着いてきた。そして再び2人で映画を再びみ始めた。
そしてエンディングを迎え、映画を見終えた。
涼子さんと手を繋ぎながら見ていたものの、やはりどうしても怖い部分があり、何度心臓が跳ね上がったか俺自身分からなかった。
(我ながらカッコ悪いなぁ.....)
そう心の中で思っていると、涼子さんのクスッと笑った声が聞こえた。涼子さんの方へと視線を移すと、困ったように苦笑を浮かべていた。
「ふふ.....もう、そんなに無理して我慢しなくて良いのに.....ホラー映画が怖いなんて、当たり前でしょ?」
「い、いや.....でもほら、俺も良い歳をした大人だし。」
「確かに赤ちゃんみたいに不恰好に泣き喚いたりしてるとカッコ悪いと私も思うわ。けど、大人でも結局は人なんだから、人並みに怖いと思う部分はあると思うし、そこは無理して我慢する事はないわ。得体の知れない存在に恐怖心を抱く事は、人として当たり前の感情なんだから....ね?」
「....ありがとう、涼子さん。」
「別にお礼だなんて....元々付き合ってもらってるのは、私の方なんだし。」
涼子さんは俺の手を両手で握り、自分の胸元に寄せながらそう宥めてくれた。手を握ってくれたことといい、本当にこの人と付き合えて良かったと思えた。
「それにしても、涼子さんはほとんど驚かなかったよね....もしかして、お静ちゃんと一緒にいる事で耐性がついたとか?」
「いや、それはどうかしら.....あの子はすごく純粋だから、悪霊とは良い意味で比較にならないとは思うわよ。」
「た、確かに....」
お静ちゃんは幽霊だが、そう感じさせないほど純粋で優しい女の子だ。あんなにホラー映画で恐怖してた俺ですら、何日か顔合わせしただけであっさりと慣れてしまえるほど、彼女は良い子だ。もはや1人の人間としてみてしまっているのだろう。そしてそれは、多分涼子さんも同じだ。
「そうね....強いていうなら、色々と経験してきたから、かしら。」
「は、はぁ....なるほど、経験かぁ。」
(実は、本当は私も要所要所で驚いていたのだけどね.....龍弥さんの手を握って誤魔化していただけなんだけど。)
ホラーになれる経験って、いったい何をしたのだろうか。めちゃくちゃ見まくってたのかな?無論、俺に涼子さんの心の内が分かるわけもなく、明確な答えを導き出すことができなかった。
なんて考えていたら、もうかなり暗い時間になろうとしていた。
「あ、もうこんな時間になっていたね。」
「あら、そうね。流石にそろそろ戻らないと....」
そういって涼子さんは帰宅の準備をして、玄関へと向かった。少々名残惜しく感じるものの、今日はここでお別れだ。一緒に暮らすことができれば良いのだが.....などと考えてしまう。
「それじゃ....あ、いけない。忘れ物をしてたわ。」
「え、ケータイとか?」
「いいえ、それは....」
そう言いながら涼子さんは俺の頬に手を添えて、ゆっくりと口を重ねた。その瞬間、俺の口から甘く蕩ける感触が広がる。
そして俺からも涼子さんの頭に手を添えて、更に深く口を絡める。互いに熱くキスを交え終えると、ゆっくりと口を離した。
「それじゃ改めて、さようなら。また一緒に楽しみましょう。」
「うん....じゃあまた。」
そう言って彼女は俺の部屋から立ち去っていった。俺は口に残った幸せな心地と、今日楽しんだ出来事を思い返しながら、今日一日を終えたのであった。
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第十三話 アクシデント
別作品の執筆ばかり集中してすみませんでした。どうにもイメージが中々思い浮かばなかったもので……これをきっかけに更新ペースを可能な限り上げていきたいものです。仕事とか色々あって難しいかもしれませんが。
ある日、俺が仕事を終えて本屋に行った時だった。
(お、あの漫画新刊出てたんだな。web版で更新のたび見てるけど、おまけ漫画が気になってつい買ってしまうんだよな。折角だし、買って家でじっくり読むか……ん?)
そう考えながら漫画の新刊を手に取り、レジへ持っていこうと思ったその時だった。
「ふひ、ふひひひひ……」
「………」
そのあまりに衝撃的な光景に、俺は一瞬にして頭の中が真っ白になった。何故ならレジから少し離れたアダルト雑誌コーナーに、メタボ体型でどこぞの国の総統閣下風なチョビ髭、そして全裸の中年男性が鼻息を荒げながらエロ本を読んでいたのだから。
俺は男がエロ本読むのは悪い事じゃないと思ってるし、何歳になっても男性にはガキンチョみたいなバカをやりたくなることも、まあ分かるつもりだ。けど全裸で、尚且つ公共の場所でエロ本を読むのは流石にアウト。どうやっても援護しようがない。
「……もしもし、警察ですか?」
無心な状態のまま俺はスマホを取り出し、そして110番を選んだ後、電話に出た人に向かってそういった。
そして数分後、例の男は警察に連行された。その後に警察の人に事情聴取されたが、どうやらあの人は涼子さんの学校の校長らしい。その変人さは聞いていたが、それを直にお目にかかるなんて夢にも思ってなかった。
(いつかあの学校、廃校になったりしないよな?)
俺はそう心配せずにはいられなかった。まあ、涼子さんの場合なら仮に学校がなくなっても宇宙人専門の医者としてやっていけるだろうけど……と考えていると、先の方が何やら騒がしかった。
「何だ?妙に騒がしいような……」
「うわあぁぁぁっ!た、助けてくれぇぇッ!!」
「な、なんだあの学生は!?」
「アダっ!?」
「コケた!?」
学生服を着た少年が、必死の形相でこちらの方へと疾走してきて、そして俺の目の前で転倒した。あまりに急な出来事で俺は思わず歩みを止めて身構えてしまった。そしたら今度は、少年の後ろから見覚えのある人物が近付いてきた。
「結城、リト……またやってくれましたねッ!」
なんと、金色の闇ちゃんが、何やら顔を赤らめつつ、特徴的な金髪を巨大な拳に変形させながら接近してきた。あれ?もしかして俺、巻き込まれるのでは?そう考えた瞬間、物凄い悪寒が全身を巡る。しかしそれをどうにか抑えて、いつも通りの雰囲気を可能な限り出しながら声をかけた。
「こ、こんにちは闇ちゃん……物凄い剣幕だけど何かあったの?」
「……貴方には関係ありません、そこの結城リトに用があります。」
「ほ、本当にごめんなさい!わ、ワザとじゃ……」
「……もうそのセリフは、聞き飽きました。」
(……なんだ?何か違和感が……)
少年は結城リト、という名前らしい。どうやら闇ちゃんと顔見知りのようだが、何かトラブルがあったようだ。しかし不思議と闇ちゃんからは怒りは感じても『殺意』は感じられなかった。
俺は前に涼子さんの家で寝泊まりして、つい隠れてしまった時があった。戦闘に関してはど素人な俺ですら、その時の闇ちゃんからは明確な殺意と敵意を感じたことがあるし今でも覚えている。だが今の闇ちゃんからはどうにもそれを感じられない。そこに一抹の不安と疑問が絡み合って、ますます関心を引き立てる。つい俺は2人の間を割って入ろうとしてしまったが、それが最悪な一手へと進めてしまうとは、俺は夢にも思わなかった。
「ま、まあ2人とも落ち着こうよ。とりあえず何があったのか俺に聞かせ……」
「ッ!だから、貴方には関係ないと……」
「お、おい闇!やめ……」
「……え?」
すると闇ちゃんは声を荒げながら俺を拒絶しようと、物凄い剣幕で俺の方へと向き合った。それをまずいと感じたのか、リトくんは急いで立ち上がって闇ちゃんを止めようとする。その時、偶然にも俺の持ってた鞄の隙間から紙が一枚飛び出してしまい、そして奇跡のようなタイミングでリトくんの足元へと滑り込み、踏んでしまった。
「なっ!?」
「きゃっ!?」
「だぁっ!?」
その結果、足を滑らせてしまった彼は闇ちゃんと俺に衝突してしまった。俺は腹に強い衝撃を受け、しりもちをしてしまった。
「いたた……って、2人ともだいじょ……」
そして俺は例の校長に続き、再び衝撃的な光景を目の当たりにした。それはもう、言葉にすることも憚れるような……
「あっ……」
「うっ……」
端的にいうのならば、転んだ拍子に結城リトくんが闇ちゃんに絡まってしまった。それも、いくら転倒したからといってそんなエロい風になる?と思えるほどの。俺自身多少アダルトチックな知識はあるが、それでもなかなか刺激の強い光景だ。
「うわぁ、ご、ごめんなさいィッ!?」
「結城、リト……貴方って人はッ!」
「や、闇ちゃん落ち着いて!俺も謝るから!」
瞬間、リトくんが闇ちゃんから離れるが時すでに遅し。闇ちゃんの全身から怒気が溢れていた。俺はどうにか彼女を落ち着かせようとそういうが、焼け石に水というやつだ。
彼女が俺を拒絶したのも、おそらくこうなることを考慮してたからだろう。しかし結果としてこうなったのだから、仕方ない。だがしかしこの状況、どうしたらいいのか……
「貴方達、何やってるの?」
その時、俺の背後から聞きなれた声が聞こえた。そこには涼子さんが少し驚いた表情で俺たちを見ていた。
暫くして、俺たちは涼子さんの自宅へと移動した。
「すみません、騒ぎを大きくしてしまいました……」
「まあ、あんな目に遭えば冷静さも失うよね……」
移動している間に闇ちゃんは落ち着いたのか、闇ちゃんは申し訳無さそうにそう言った。ちなみにリトくんは涼子さんの検査を受けている。一体何の検査なのかわからないが……そう考えていると、涼子さんが入ってきた。
「涼子さん、なんの検査をしてたの?リトくんって何か持病でも?」
「ええ、健康面では至って普通だけど、ちょっと彼の場合特殊でね……」
「特殊……あっ」
「……」
その時俺は思い出した、俺を突き飛ばして不自然に闇ちゃんと絡まったあの現象を。闇ちゃんも思い出したのか、顔を少し赤らめていた。
「……やはり貴方も見たのね。」
「た、確かに色々とおかしいと思ったけど……あれが?」
「ええ……私はこの現象を『ハレンチスパイラル』と名付けてるわ。過去に色々と手を施したけど、解決することはなかったわ……」
(な、なんて名前だ……)
リトくんの体質の名前を聞いて、俺はそう思わずにいられなかった。まるで必殺技のような名前だが、発生する現象がアレななのだから。
だがその時、俺はある事を思いついた。
「過去に色々と手を施したって言ったけど、もしかして涼子さんが?」
「あっ……え、ええまあ……お察しの通りよ。重ねていうけど、解決しなかったわ。」
「ああいや、別段怒ってるとかそういうわけじゃないよ。ただ、確認したかっただけで……」
「ごめんなさい、助かるわ……」
涼子さんの顔が少し赤くなっていた。やはり予想の通り、涼子さんも『ハレンチスパイラル』とやらに巻き込まれたようだ。確かに彼女と恋人関係の男として、感じるところはある。だがその時には俺と出会ってなかったわけだし、涼子さんだって元々善意で問題解決に挑んだはずだし、俺だってそれを尊重したい。
そしてリトくんだって悪意を元にハレンチスパイラルとやらを起こしてるわけじゃない。これらの点を踏まえて、この件について俺が怒りを示すようなことはしない事にした。
「寧ろ、俺が出来ることって何かあるのかな?」
「……そうね、歳上の男性として彼と色々話してみると良いかもしれないわ。思えば、彼の周りに同性の知人が少なかった気がするし。」
「え、リトくんの人間関係ってそんなに女性ばかりなのか?」
「別に同性の知人や友人皆無って訳じゃないらしいけど……そうね、女性の比率が多そうなイメージだわ。」
「一応猿山というお友達もいるみたいですけど、彼もエッチな感じのする人でした。」
それはまた何とも世の男達から恨まれそうな人間関係だ……だけど出会って数分の関係だが、人柄自体は決して悪く無さそうな人物だと思う。ひとまず話してみない事にはわからないな。
「了解、ひとまずちょっとだけ話してみるよ。」
「ええ、お願いね。」
俺は涼子さんに頷き返して、リトくんのいる部屋へと入っていった。
というんけで、原作主人公であるリトとの初接触です。66話の出来事をどう落とし込むか悩みましたが、大体こんな感じですね。
原作のテーマである、誰も不幸にならないというスタンスは必ず守りたいと思ってるので、これがベストかなと思いました。
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第十四話 打ち解け
部屋に入ると、リトくんがベッドの上に座っていた。俺は彼の元へと近づき声をかける。
「やあ、リトくんだったかな?気分はどうだい。」
「あ、どうも……はい、特に問題はないですよ。えっと……」
「俺の名前か?藤田龍弥だ、気軽に龍弥って呼んでくれ。」
「は、はい……わかりました、龍弥さん。俺の名前は結城リトです、どうぞよろしくお願いします。」
「うん、よろしくリトくん。それで……」
こうして俺はリトくんの身の回りの話について、世間話をするように聞いていった。そして話しているうちに、俺にとって衝撃の真実を知ることとなる。
「な、父親があの漫画家の結城才培先生なのか!?」
「いやぁははは……そんなに驚かなくても。」
「な、なんというか……図々しく話しかけて、すみません。」
「いやいやとんでもない!別にそんな親父を盾に鼻に掛けるつもりないし!」
「す、すまん……あまりの事実に動揺してしまった。」
事実いまだに心臓がドクドクと鳴っている。だってあの売り手漫画家の結城先生の息子さんがこんな近くにいたなんて思わなかった。とはいえ、涼子さん曰く男友達と接する機会を増やし、彼の持病を抑えることが今回の目的だ。俺はあくまでラフな感じ話を続けていこう。
「ところでさっき闇ちゃんに追いかけられてたけど、君と彼女はもしかしてそういう関係なのか?」
「えっ!?い、いや、闇とはそういう関係じゃ……」
「そうか……じゃあリトくんは、恋愛経験は無いのか?」
「えっ……それは……」
「?」
リトくんは俺のそのセリフを聞いた瞬間、赤くなって固まってしまった。どうやら心当たりがあるようだが……
「……ずっと片想いしてる女の子がいます。」
「そうなんだ、その女の子とは同じ学校?」
「はい、だから何度も告白しようと思ったこともあって……」
「おお、良いじゃないか!その子とは話したことは?」
「何度かあります。結構緊張しますけど……」
どうやら片想いしてる女の子がいて、その子とも何度かお喋りしているようだ。まだ俺はその子のことをちゃんと見てるわけではないが、何度か話せるんなら決して悪い関係ではないだろう。ここまでリトくんと話していて、個人的には誠実でとても良い男の子だから純粋に応援したくなる。
「良いじゃないか、好きな子の事を一途に思えるなんて。いっその事、卒業までに告白したらどうだ?」
「そ、それなんですけど……実は。」
「……どうした?」
「その……同居してる女の子が居まして。」
「……えっ?」
彼のその言葉を聞いた瞬間、頭の中がフリーズした。同居、つまり同じ屋根の下で生活している女の子が居ると。あくまで推測だが、1ヶ月どころではない期間同居しているように感じるのだが……落ち着け、落ち着け俺。俺が慌てたらリトくんまで動揺させてしまう。
「そ、そうか……君は女の子とも同居してるのだな。」
「は、はい……」
「ちなみに、その子も同年代だったりするのか?」
「はい、それに一緒の学校も通ってます……」
「……ちなみにその子とはどんな関係なんだ?」
「その……もの凄く好かれています。」
「マジか……」
もしかしてこれ、俺が思ってる以上に責任の大きな話なのでは?と感じ始めてきた。片想いしてる反面、同居している女の子から好意を寄せられている。男として状況を見るなら、なんとも羨ましいと感じざるを得ない。しかもその上、涼子さんの言ってたハレンチ病とやらを持っているのだから……だが、今の段階では彼の事を十全に理解したわけじゃない。だから安易な意見を言うのは違うだろう。
「……とりあえず、とても大変な状況に置かれてるのは理解したよ。なんと言うか、災難だったな。」
「察してくれて、ありがとうございます。けど、悪いことばかりじゃないですよ。その、同居してる女の子はララって言うんですけど、確かにトラブルに巻き込まれることもあったけど、同時に助けられることだってたくさんありました。そして、そんな俺を必要としてくれてるから、大変かもしれないけど、苦しいとは思わないですよ。」
「……そうか、それなら良かったよ。」
その言葉を聞いて、俺は思わず感心した。まだ学生であろうに今の状況を逃げ出そうとせず、寧ろ寛容さと誠実さを持って向き合っていた。
「龍弥さんと話していたら、少し気も楽になった気もします。ありがとうございます。」
「それなら良かったよ、君からも色々貴重な話も聞けたしね。」
「あはは……そういえば、龍弥さんは恋人いるんですか?」
「え?あー……うん、いるよ。多分、君も知ってる人。」
「知ってる人?あっ……もしかして、御門先生!?」
「その通り。」
照れ隠しに誤魔化そうと思ったが、流石にそれは彼に対して不誠実だと思って明かした。思えば同年代ではないとはいえ、同姓相手にこの様な色事の話をするのは初めてで、なんだか照れくさかった。
「そ、そうか……御門先生に彼氏出来てたんだ。しかし龍弥さんもすごい、あんな綺麗な人をパートナーにできるなんて。」
「正直俺も身に余るなと思ってるが、そんな俺を彼女が受け入れてくれた。だから俺も、相応しくあるよう色々頑張ろうと思ってるよ。」
「そうなんですね、俺も影ながら応援してますよ!」
「あはは、ありがとう」
リトくんにそう言われて、俺も少し心が満たされた気がした。こうやって男同士で気楽に話せるのも、実に良いものだ。
「しかし驚いたな。俺たちが知らない間にそこまで進んでたなんて。ララ達が聞いたらどうなるんだろう……」
「ララって、もしかして同居してる女の子の名前?」
「あ、はいそうです。」
なんだか名前からして外国の女の子っぽいな。もしかしてホームステイとかそんな関係で知り合ったのか?リトくんが英語が上手いのか、それともララって子が日本語に長けているのか、そのどちらかかもしれないな。その辺り聞いてみるか。
「そのララって子とはどう知り合ったんだ。もしかして結城先生の人脈?」
「あ、いやそれがなんですけど……あの笑わないで聞いて欲しいんですけど。」
「なんだろう?」
「ララは、宇宙人なんです……しかも、とある星の王女でして。」
「あっ……なるほど。」
俺は彼のセリフでなんとなく察した。どうやら思ってた以上にハードな事情だったようだ。詳しい経緯は知らないものの、何かしらの事情でララという異星の王女がリトくんの自宅に訪れ、そして実生活や学生生活もしていくようになった。そして同居していくうちに、王女が彼に恋意を抱くようになったのだろう。
加えて王女もまた生活させてもらってる恩返しとして、リトくんへ何かしらの形で恩返しをしている。そんな彼女見て、リトくんも女性として意識するようになった、というところだろう。しかも相手は異星の王女、一般人が安易に断れるはずもなく……こんな恋愛の板挟み、普通の人なら耐えられないだろうに。しかも彼の場合ハレンチ病とやらもが暴走して、それに王女も巻き込まれるであろうと考えると、非常に心苦しい。そう考えてると、リトくんの口が開く。
「あはは、すみませんこんな話をして……いきなりすぎて飲み込むのなんて無理ですよね。」
「……いいや、そんな事はないよ。俺も涼子さんが宇宙人だと聞いた時は驚いたけど、それでも好きだという気持ちが無くなることはなかった。」
「えっ、という事は宇宙人の存在も?」
「ああ、受け入れることにしたよ。と言っても、見た目がほとんど人間と変わりない涼子さんや、闇ちゃん達としか会ったことないんだけどね……」
俺が苦笑しながらそう応えると、リトくんの表情もだいぶ解れて明るくなっていった。
「それなら安心しました、一般の人にこう言った話受け入れらるかどうかやっぱ不安で……」
「まあそりゃ、脈略も無くいきなり突きつけられたら驚くだろうけどさ。俺の場合は、好きな人が実は宇宙人だったからね。」
「学校では御門先生そういった話一切してる様子はなかったですね。まあ、話したら色々と騒ぎになるだろうし……」
「やっぱ、男子生徒の人気は高いの?」
「ま、まあそれなりに……」
まあ、あんなスタイル抜群の美人保健医を、思春期真っ盛りな男子生徒が注目しないわけないよな。俺も学生なら目が奪われるだろうし……とはいえ、色々と複雑な心境になるが、ここはグッと堪えよう。
「さて、そろそろ良い時間だし戻ろうか?」
「あ、そうですね。俺もそろそろ家に帰らないと。」
「さっきも言ったけど、悩み事があるなら遠慮なく連絡してくれ。話くらいなら聞くからさ。」
「ありがとうございます。俺の方も龍弥さんと気兼ねなくお話しできればなと思います。」
「ああ、色々と相談に乗ってくれると俺も嬉しいよ。」
俺とリトくんは、そんな感じで話をしながら部屋から出たのであった。
こんな感じで、原作リトさんとまったりと話す回でした。一般人視点で見れば、リトってこんな感じに見えるんじゃないかなーと思いながら書きました。正直常人であればプレッシャーに押し潰されそうだなと思って(笑)
次回から、またToLoveらしい日常のストーリーを展開していこうかなと思います。
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第十五話 海水浴 その1
「あー疲れたなぁ……」
今日も俺は、仕事を終わらして帰路に立っていた。仕事上、月末月初が特に忙しいため早めの出社となっていた。
そして無事に終わらせて、帰宅してご飯を食べて寝たくて堪らない気分である。
(こんな時、涼子さんがご飯でも作って待ってくれたらなぁ……)
と、つい交際相手を連想してそんな甘い妄想をしてしまう。頼めばもしかしたら承諾してくれるかもしれないが、彼女を医者として求めている人達は多い。
「まあ、休日とかに色々話してみるか……ん?」
自宅に到着し、鍵を開けた直後にスマホからバイブを感じ取る。画面を見てみると、誰かからメッセージがきていた。
「リトくんから……」
【よかったら今週末、一緒に海に行きませんか?】
海……思えば学生の頃に友達と一緒に遊びに行ったきり、ほとんど行くこともなくなってた。水着はまだタンスの奥にある。ならば行けないことはない。
そう考えると、俺は涼子さんに誘いのメッセージを送った。すると思いのほか早く返信が来たのだった。
【分かりました、私も一緒に行きます♪】
その返信を確認すれば、俺はリトくんに了承の返事を送った。今週、俺は何年振りかの海水浴へと向かうのだった。
そして週末となり、ビーチへ到着した。
俺は涼子さん、そしてリトくん達と一緒に向かう事となった。どうやらリトくんとララちゃんが一緒に行くことになったらしい。俗に言う、ダブルデートというものをしたくなったとか。確かに俺としても、今までやったことないから興味も湧いていた。実際のところ、到着したビーチには幸いあまり人が見られないから多少はしゃいでも問題無さそうだ。
「うわぁ、暑いなぁ……子供の頃より日差しが強くなってる気がする。」
「ですね……飲み物は大量に持ち込んでて正解でした。」
俺達は男だからと言うこともあり、着替えを手早く終えて場所を取って荷物を下ろした。
無論、女子達も着替えに行ってる。男と違って色々と準備がある以上、遅くなるのも必然である。
「お待たせ、待たせてごめんなさい。」
「リトー、終わったよ。一緒に海入ろう!」
声のする方を振り向けば、水着に着替えた涼子さんとララちゃんがいた。ララちゃんはビキニを着ており、涼子さんはビキニとパレオを来ていた。何はともあれ、すごく目の補養となる光景だった。
「どうかしら?初めてこういうのを買って着てみたのだけど……あまり自然じゃないかしら?」
「い、いやいや……凄く似合って、ますよ。」
我ながら、久々の海ということのためかどうにもドギマギした返答をしてしまった。何となく、リトくん達がどうなっているのか気になって視線を移した。
「ねぇねぇリト、早く一緒に泳ごう。私端まで泳いでみたーい!」
「ま、待てよララ!」
どうやら彼女は、遊びたくて仕方ないようだ。なんとなくだが、そんな2人の姿を見て微笑ましく思えてきた。
ふと隣を見てみると、涼子さんも優しく微笑みをあげていた。
「ふふ、2人とも元気いっぱいね。」
「そうだね、見ていて微笑ましく思えるよ。だけど俺も学生の頃はあんなだったかもなぁ……」
「あら、そうなの?」
「まあね、俺だって昔は友達とよくバカやってたよ。」
そう言いながら、学生だった頃の自分を思い出す。大してあまり泳ぎが得意じゃないくせに、ちょっと遠いところまで泳いで溺れかけたり、漫画みたいなでかい砂の城を作ろうとしたりなんてことをしていた。
と、考えていたら不意に右手から柔らかい感触がした。視線を移すと、涼子さんが手を握って海に向かって引いていた。
「なら、今日は私と一緒にそんなことをやりましょうか。」
「え、涼子さん?」
「ほらほら、早く行きましょう。私もこういうの初めてだもの。」
と、涼子さんがまるで無邪気な少女のような笑みを浮かべながら砂浜へと駆け出そうとしている。思えば、この人のこういう表情は初めて気がする。
「ほら龍弥さん、冷たいわよホラッ!」
「ちょっ、プハッ!やったな、お返しだ!」
「きゃっ、もう大人気ないわよ……うふふ」
などと、突如海水を顔面に掛けられたことでつい我ながら子どものように返してしまった。しかし、こんな大人らしくない雑な遊びでも不思議と楽しくなってきた。
普段なら俯瞰的に見て何も感じないと思うのだが、大好きな人が純粋に楽しんでいるのをみると、まるで共鳴するように自然と心が弾んでくる。
「ねぇ、折角だし端まで泳いで競争してみない?」
「そうだな……久々だけど、やってみるか。」
さて、俺だって昔は部活だってやっていた、泳ぎだって昔から最低限はできてた。ならちょっと足を伸ばす程度に、少し遠めに泳ぐことはできるはずだ。さて、涼子さんにカッコいいところを見せてやるぞ!
「だ、大丈夫?龍弥さん?」
「ハァ、ハァ……だ、大丈、夫……」
あ、危なかった……溺れるところ、いや一瞬溺れた。唐突に身体の重みが増した時は、心臓が跳ね上がった。幸いどうにか海岸に戻ってこれたが、長時間筋トレした時くらいにヘトヘトになった。
思い返せば、当たり前のことだった。俺は普段はデスクワーカー、長年座る時間が多くなって体が鈍って運動が下手くそになってるのは当然じゃないか。テンションが上がってたとはいえ、それくらい自分で気付くべきだった。
「ほら、これ飲んで。海で泳ぐのって見た目以上に疲れやすくて海の中にいても想像以上に発汗して、脱水症状になりやすいんだから。」
「は、はい……面目ない。」
涼子さんから飲み物を受け取り、それを口へ含んでいく。言われた通り、失ってた水分が身体の中を巡っている実感が湧いてくる。
やれやれ、カッコいいところを見せるどころか情けない醜態を晒してしまった。
「ふふふ、だけど意固地になって泳いでいる龍弥さんは見応えあったわね。」
「見えてたんだ……涼子さんはなんか、静かに泳いでたから落ち着いて見れたんだね。」
「なんてことは無いわ、マイペースに泳いでただけよ。実際のところ、私も戻ってくる時結構厳しかったし。」
「そうなんだ……そんな表情には見えなかったけど。」
「思ったけどなんだかこれ、プールを終わった後の生徒みたいな会話ね。」
「あはは、言われてみれば。」
砂浜で腰掛けながら、2人でそう笑い声を挙げた。すると涼子さんが、俺の顔を覗き込むように見つめながら口を開く。
「もし、私達が同じ学校にいたら、こんな風に話すことあったのかしら?」
「そ、それは……あった、のかな?」
その儚く問いかける表情を見て、自分の心臓が殴られたように跳ね上がった。学生時代に出会っていれば、こんな風に一緒に遊べる時間を作ることができたのだろうか?
無意識、かつ真剣にそう考えてるとそれを遮るように涼子さんが笑い声を上げる。
「うふふ、そんな真面目な表情で受け止めなくても……そもそも学生の頃の私はこの星に居ないから確率はほぼ無いわよ。」
「あっ……そうか。」
そういえば忘れがちだが、涼子さんは地球人ではなかったんだった。あまりに人間として違和感のない振る舞いと、見惚れるような美貌でそんな雰囲気を一切感じさせないが。だが、そんな彼女も学生時代はあったんだなと思った。
「御門先生と龍弥さん、大丈夫ですか?なんか表情が曇ってるんですけど……」
「2人とも大丈夫ー?」
すると、リトくん達が駆け寄ってきてくれた。2人とも休憩で戻ってきたのかもしれない、飲み物を手に取って渡しながら言葉を返す。
「いや何、ちょっとはしゃぎ過ぎて疲れただけだよ。やっぱ運動不足だったみたいでね……」
「あ、ありがとうございます……何事もなかったようなら、良かったです。」
「ふふ、だけど本当に私達も学生の頃ならまだまだ遊べたのかしらね……」
「そこは、出来るものだと思いたいなぁ……」
と、なんとなくボヤいていたら、ララちゃんが突然声をあげた。
「じゃあさ、2人とも若返ってみようよ!」
「えっ」
「ララさん……もしかして?」
「お、おいララ!」
なんだろう、ちょっと嫌な予感がする。しかも涼子さんもなんだか、薄々勘づいてるような雰囲気をしているし。
リトくんの静止の言葉よりも早く、ララちゃんは持ってきた鞄の中を物色してきた。すると奇妙な拳銃型の機械を取り出す。
「じゃーん!これは、かちかちモドールくん。えっと、大体10年前の設定でいいかな?これで若返えられるよ、えい!」
「ちょっ!?」
「あら」
瞬間、その機械から奇妙な光線が発射され俺と涼子さんが巻き込まれる。すると土煙が舞い上がり、周りが見えなくなる。
「ゲホッ……大丈夫?涼子、さん……」
「……」
土煙が晴れると、隣にいたのは身体が大人の時よりも小さくなり、何処となくあどけなさがある表情をしている涼子さんがそこにいた。
というわけで、中々強引ですが御門先生を若返らせてみることにしました。ララの発明品に関しては、ご都合主義そのものみたく見えますが目を瞑ってもらえると助かります。
学生だった頃の御門先生が、同年代の男子とどんな絡みをするのかと考えて見たので、ちょっと挑戦してみようかなと思います。
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