指名手配犯ヒーローズ (詩亞呂)
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Beginning-1

ぴくしぶにて完結済み(しかし無修正&ちょっとだけ腐女子向け)の同じものが投稿されております。
大まかな流れをさっさと知りたいんじゃ!!って方はそちらをどうぞ。


それは、流星群のように流れ込んできた。

数多の記憶が脳裏に火花を散らし、前の『僕』と今の僕とが融合する。

 

『見えるか!!?もう100人以上は救い出してる!やべーって!まだ10分も経ってねーってやべーって!!』

地震によって引き起こされた、何百人もの人が生き埋めになった倒壊事件。

その一部始終を撮影した映像に突如として現れた人影は、まさに誰もが思い描くヒーロー像そのものだった。

 

 

『もう大丈夫、何故って? 』

 

『私がきた 』

 

 

その懐かしくも頼もしい声に、閉じていた記憶の蓋が突如開け放たれたのだ。

 

 

「……あ」

 

矢のように緑谷出久という男の一生の記憶が溢れ、処理落ちしたかのように固まる。

これは、『僕』の記憶。

前世の『僕』だ。

 

オールマイトから個性を授かり、雄英で過ごした日々のこと。

プロヒーローとして華々しくデビューをし、無理を推してオールマイトの次世代を築いたこと。

随分と早くに身体に限界を感じ、信用出来る弟子に個性を託したこと。

 

……死柄木弔との一騎打ちで命を落としたこと。

 

 

プロヒーロー時代の傷の名残りすらない艶々とした滑らかな肌を見て、前世と今世の記憶が混ざり合うのを感じる。

まだ幼い身体は、初めてオールマイトを知った3歳の頃のものだ。

 

それならこれは、生まれ変わりというものなのか。

転生なんてまるでコミックみたいな事が本当にあるなんて。

でも僕がやりたいことは変わらない、オールマイトみたいなヒーローになりたい。笑顔でカッコいい、最高のヒーローに!

 

 

 

「出久ー?またそんな動画見てるの?」

「おかあさん!」

 

カチ、と勝手にブラウザを閉じられてしまう。

前世での記憶が溢れている今、お母さんを見るととても懐かしさを感じる。

 

「あのね、僕ヒーローになるんだ!」

まだ若いお母さんに無邪気に告げる。

 

前世では無個性に産んでごめんと涙を流したお母さん。

ストレスで太ってしまったけど、今世ではあんなに泣かせたりしない。身体を壊さず、お母さんの心配性にもカラリと笑って心配し過ぎだよと言えるような、そんなヒーロー……

 

「あのね、出久。ヒーローなんてカッコいい言葉に騙されちゃだめなんだよ。あのオールマイトって人は犯罪者なんだから」

 

 

 

 

……え、?

 

「お父さんの書斎、やっぱり鍵を付けるべきね……。出久が勝手に見ちゃうわ、この違法動画」

はぁ、とため息と共に抱き上げられ、出久の言葉も聞かず書斎から追い出されてしまった。

 

オールマイトが犯罪者?

何だか様子がおかしい。生まれ変わって、お母さんもオールマイトも変わらず存在していたから無意識に前世と変わらない世界を想像してしまっていた。

 

ここが、元プロヒーローにとって無慈悲な程冷たい世界だと言う事を知ったのはそれからすぐ後。

 

 

 

事の始まりは中国軽慶市。「発光する赤児」が生まれたというニュースだった。

以後、各地で超常が発見され、理由も判然としないまま時は流れる。

 

世界人口の約8割が何らかの特異体質である超人社会となった現在、しかし法というものは意固地に「個性」の使用を禁止し続けた。

 

人命救助のための個性使用ですら例外は無いと犯罪者扱いされ続けた民衆は巨大デモを決行し、その結果個性の使用は特殊訓練を受けた警察や自衛隊、国の許可した一部の半国営企業……医療機関、研究所などのみ許可されることになる。

 

しかしこの個性飽和社会において敵(ヴィラン)の犯罪数や不満は鰻登りに増えつつあり、無許可で個性を使いまるでヒーローのように振る舞う不法自衛団組織(ヴィジランテ)も次々と粛清対象になる世の中は大混乱を極めた。

 

それを憂いた警察の1部上層部と自称正義の味方達は手を組み、秘密結社を発足させる。

 

名前は『UA』。

オールマイトを始めとしたS級犯罪者やその予備軍のみが名を連ねるとされているその秘密結社は、正しくヒーローであり民衆の憧れだった。

事実上の解体かと言わしめる、ある大事件が起こるまでは。

 

 

これは、僕緑谷出久が最高のヒーローになるまでの物語だ。

 

 

「出久は女の子なんだから、ケーキ屋さんとかには興味ないの?」

「へっ!!?無いっ!!」

「そっかぁ……」

 

 

お、女の子として。

……嘘だろ。

 

 

 

*




お前連載はどうしたのかって?ははは(棒)
とりあえずこの数ヶ月更新が途絶えてしまったことお詫び申し上げます。クリスマスにお正月、スマホを見る機会も増えましょう。過去作ではありますが少しばかり手直ししておりますので、暇つぶしによろしければ。


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Beginning-2

 

 

女の子に転生してしまった今世は、前世とは違いヒーローという職が存在しない世界だった。

ヒーローと敵の区別は付けられておらず、個性を使った個人、自衛団組織は全て取り締まりの対象。階段を転げ落ちた老人を個性を使って助けた場合、助けた人は犯罪者になるというのだ。なんてことだ。

 

前世ではヒーローという職が一般的になる前から人助けや周りに迷惑をかけない個性の使い方は黙認されてきた。言うなれば車通りの少ない横断歩道を赤信号でつい渡ってしまうようなもの。

法に当てはめれば良い事では無いけど、捕まえて前科者にするような事でもない。見つけ次第大事故にならないよう注意を促す、そんな程度。

 

それが今世では一切許されていない。

物に向けての個性使用は器物破損、人に向けての個性使用は傷害罪や殺人未遂と少々複雑な分岐はあるが、そこは割愛する。現在の法だと現行犯逮捕しか出来ないため他人に見つからないような使用がギリギリ黙認されている程度だ。

 

個性使用の許可証を持っているのは取り締まる側である警察組織、自衛隊、国が運営する一部の病院や研究機関、警備会社だけ。

 

オールマイトはそんな世の中を憂いて秘密結社を組織。率先して輝かしいヒーロー像にふさわしい超パワーを使い、非公認ながらファンクラブすら存在するその存在は大きく、個性使用の緩和に世論が大きく動きつつある。犯罪者であるにも関わらずだ。ひとえにオールマイトの人柄と個性の使い方がどこまでもヒーロー然としているお陰だろう。

 

それに比べ僕は。

 

「女の子かぁ……」

 

正直たった3歳では見た目で男女の違いは判断しづらい。だから言われるまで気付かなかった。今世で僕は出久くんでは無く出久ちゃんだったのだ。世知辛い。

 

「おいデク!早く来いよ」

「あっ!まってかっちゃん!」

 

遊んでいる相手も親同士が仲がいいということで男の子ばかりなのも影響されているのかもしれない。シンプルなスカートから入り込む開放的な風には慣れつつあるものの、フリフリふわふわしたものはどうしても受け入れられそうに無い。

 

「ほんとデクはどんくさいな」

 

驚きと言えば、このかっちゃんだ。

ガキ大将なのは変わらずだが、僕の2つ年上だった。無個性がイジメの対象になることも無く、年下の女の子をからかうのもみみっちい性格故に気が咎めたのか前世と比べてかなりマイルドだ。年齢も違うから勿論前世みたいに同じクラスになることは一生無い。ヒーローの育成機関だって存在しないから、雄英のみんなとも会えるかどうか定かではないのだ。

様変わりしてしまった環境に、僕の心は正直付いていけない。

 

感情に素直に反応する幼い身体は、すぐにじわりと涙腺を緩ませてしまう。唐突に涙を滲ませた僕にぎょっとするかっちゃん。

 

「ど、どっかぶつけたのかよ」

「……かっちゃん」

「おう」

「ヒーローをかっこいいなぁっておもうのは、いけないことなの?」

「……またおばさんに叱られたのか」

 

かっちゃんの口振りから推測するに、記憶が戻る前の僕も何度か似たようなことをやらかしていたらしい。さすが僕。

個性が悪のようにして扱われているこの世界では、僕のような考え方は忌むべきものなんだろう。前世では誰よりも貪欲にヒーローを目指していたかっちゃんも、きっと……。

 

「大人はヒーローなんてって嫌な顔ばっかするけどな!

ピンチに駆けつけて人助け出来るヒーローはカッコいいに決まってんだろ!」

 

 

俯いていた視界に、ぱっと光が差した。

強烈な光を放つ赤い瞳は、前も今もギラギラと未来への希望で満ち溢れている。

 

「かっけーもんをかっけーからって憧れて何がわりーんだよ」

「かっちゃ……」

「見とけ出久、俺はいつかオールマイトをも越えるヒーローになる!そしたら俺は世界一かっけー男だ!」

「っうん……!!」

 

 

かっちゃんは、かっちゃんだった。

世界が変わっても、常識も何もかもが違っても。

一番身近で一番最初に強さを教えてくれた、僕の大切なヒーローだ。

 

「かっちゃんはぜったいカッコいいヒーローになれるよ!」

「あああ当たり前だっ!!!!そ、それで、かっけーヒーローになったら、その時は、お、」

 

 

「お前のこと、迎えにいくから!!」

唐突に顔を真っ赤にしてそう叫んだかっちゃんに、目をぱちくりとさせる。

 

「お迎え?」

 

首を捻ると、

「3歳じゃまだわかんねーか、クソ」

と小さく呟かれた。しつれーな。僕の精神年齢は君よりうんと上だよ。昔からかっちゃんは何を考えてるかよく分からないったら。

 

「……まぁ、いいや。デカくなったら嫌でもわかるだろ。ほら、いくぞ」

「……?うん!」

 

 

しかし2歳の差というのは残酷なもので、この後すぐに始まった新学期でかっちゃんは小学校へ進学。生活環境も時間帯も変わってしまった僕らは徐々にすれ違った。

ようやく1年生として僕が入学する頃には、男女が一緒にいるだけでからかいの対象になるからと避けられるように。

 

いつも隣にいた怒鳴り声が聞こえないのも、寂しいものなんだね。かっちゃん。

 

気付けば幼馴染みとは名ばかりの、空虚な存在でしか無くなってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

時は進み、僕は高校2年生になった。

家から通える範囲の普通の高校に進学し、部活も入らず自主トレーニングと勉強をするだけの毎日。

前世でオールマイトに出会えたのは中3の頃だったため淡い期待を抱いてはいたものの、ヘドロと遭遇することも無く平穏にここまで来てしまった。

犯罪数が爆発的に増え続ける現代では、義務教育終了までに何かしらの事件に巻き込まれない方が稀なほどだと言うのに。

 

でもあのヘドロ事件の際オールマイトが駆けつけてくれたのは雄英の教師になるためこちらに来ていたからだ。秘密結社UAの根城も知らない今、敵には遭遇出来てもオールマイトと遭遇出来る可能性は殆ど無いのかもしれない。

 

そんな考えを巡らせていると、向こう側から小さく怒声のようなものが聞こえた。

 

「……なに?」

 

のんびりと綺麗な夕焼けを背に帰宅していたが、普段のこの場には似つかわしくない荒々しさだ。

学校近くはショッピングモールや飲み屋もあるため比較的うるさいけれど、帰路にあるこの閑静な住宅街では普段こんな怒声は聞こえない。

まさか事件……?と声の方向へそっと近付く。

 

 

「オラおっさん、痛い目見たくなきゃ金出せや」

「いや、だから私はそれどころじゃ……」

「グダグダうるせぇ!!」

 

細身の男性に蹴りを入れ、更に殴り掛かる素振りをするヤクザのような風貌の男。

古典的なカツアゲに遭遇してしまったようだ。警察!しかし最寄りの交番からここまで約10分、そんなに待てない。今この場で殴りかかっても良いけど、無個性女の腕力が通用するかどうか……!

しかしゲホ、と細身の男性が吐血した所で僕の短い導火線は爆発した。

 

 

「お巡りさん、こっちです!こっちで人が襲われています!!」

「っげ……!!」

 

勿論警察など呼ぶほど悠長なことはしていない。ハッタリだ。しかしそれで充分だったのか、バタバタと慌てて逃走していく男。

血を吐く男性に慌てて駆け寄った。

 

「あの、大丈夫ですかっ……!、えっ」

「あぁ、ありが……、」

 

 

そこに居たのは、げっそりと頬を痩けさせ腹を庇う

 

「オールマイト……」

「緑谷……少年……」

 

 

 

オールマイトが、蹲っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、の」

 

10年以上ずっと探し続けていたオールマイトだったのに、色々と衝撃的で声が出ない。

 

「……緑谷少年。いや、少女なんだね、今回は」

「オールマイトっ……貴方も、その」

 

そう、オールマイトは今世で僕と会うのは初めてだ。

それなのに名前を呼び、尚且つ『少年』と言った。高校の女子生徒用の制服を着た、僕を。

そして彼も気付いたのだろう。話題のオールマイトとは似ても似つかない骸骨のように痩せ細った姿を見て、躊躇いも無く『オールマイト』と呟いた僕に、前世の記憶があることを。

 

「探しました、オールマイト……。あの、今世は色々とヒーローには厳しい世界で!それでも活動を続けていた貴方を、僕ずっと探していたんです。僕も、また貴方みたいなヒーローになりたくて!あっでもなんで記憶があるのに僕に声かけてくれなかったんですか?あ、あとさっきのチンピラに絡まれてたのも、」

「ストップ、ストップだ少年。順番に話すから」

「すみません癖でついっ!」

 

 

オールマイト、オールマイトだ。

ようやく会えた。嬉しい。

オールマイトは血で染まった口元を拭き、ふうと一呼吸ついた。

 

「私は、今世では君に個性譲渡をするつもりは無かった」

「……っそれは」

「いや、勘違いしないで欲しい。君が力不足だとか、そういう意味では断じて無い。

……ヒーローと敵の区別の存在しない今世で、君にわざわざ犯罪者になるよう誘いをかけるのは、元教育者としてどうなんだと思ってしまったんだ。

前世での記憶があるのが私ら以外いないと思っていたのもあるが。まさか君にも記憶があったなんてね」

 

舞い上がっていた気持ちがすっと冷えたのが分かった。オールマイトは、先生だ。

例え授業がカンペ必須な程下手でも教え方が感覚頼りでも、僕らを育成するため尽力してきた前世での記憶がある。

そんな中で非社会的なヒーロー活動に元教え子参加させるのには良心が痛んだのだろう。たとえ僕に教え子としての記憶がなかったとしても。

 

「……この前、活動限界が来てトゥルーフォームに戻った所を運悪く警察に見られた。この姿でも捕まるのは時間の問題だろう。

……そう思ったら、つい君の家のある方へ足が向かっていた。遠目で良い、君を……幸せに生きている君を一目見てから、と」

 

前と変わらず強い意志を持った瞳。

かつて平和の象徴と呼ばれた男がそこにいた。

 

「緑谷少年、いや……緑谷少女。君は本当に今世でもヒーローになりたいのかい」

「はい。僕は、貴方みたいな最高のヒーローになりたい。それは前と変わらず、ずっとずっと僕の目標です」

「即答……知ってたけどね。君がそういう奴だって。でも、犯罪者だよ。捕まったらヒーローどころか前科者だ」

「……オールマイト、僕。人助けが犯罪になるなんて常識、こっちから願い下げですから」

「個性を使用した場合、ね。君は今無個性だ。そのままでいたら余計ないざこざには関わらなくて済む」

「オールマイトだって分かるでしょう!!」

 

地べたに座ったままのオールマイトの両腕をぐいっと引き上げ、高まった感情と一緒に涙が溢れ出てくる。

 

「僕らはヒーローですッ!!

命を賭して人を助けるお仕事やってた僕が、自分の保身のために逃げ出すなんて死んでも死にきれないッッ!」

 

 

だから貴方もまた、こうしてヒーローをしているんでしょう。

 

そう言えば、げっそりと窪んだそのから覗く瞳がきらりと輝いて見えた気がした。

夕闇に照らされた金髪が風に誘われ、直ぐに隠れてしまったが。

 

「全く君は……」

 

頭を抱え、くっと少しだけ笑みを零すオールマイト。すぐに真剣な顔をし、マッスルフォームへと変化した。

すっと立ち上がった彼は、少しだけ悲しげに微笑む。

 

「オールマイト、こんな所でっ……」

「緑谷出久、君はヒーローになれる。

……私はいずれ捕まるだろう。その時はUAを、ヒーローを、頼む」

 

プチ、といつかの日のように髪を引き抜き、オールマイトは僕へとそれを差し出した。

 

「すまない……私は今回、君の師匠にはなれないだろう。君の決心が付いたらで良い。この個性が君の力になってくれるなら」

「オール……マイト……?」

 

 

ぐりぐり、と頭を乱暴に撫でられる。

 

「最後に会えてよかった。……元気で」

「え、ちょ……わっ!!」

 

 

そう言い残し、突風と共にオールマイトは飛び去っていってしまった。

最後の言葉が心残りで、何となく僕は貰った髪を口に含むこと無くそっと保管する。

 

「オールマイト……」

 

捕まるのは時間の問題、そう彼は言った。

けれど、あの超パワーで警察の包囲網を抜けるのは造作もないことだ。懸念材料としては活動限界。

前世同様げっそりと痩せこけたトゥルーフォームに、前と同じかそれに相当するような大怪我を負ったのかもしれないと邪推する。

 

ヒーローが、人助けが犯罪になる世の中なんて間違っている。

 

何としてもオールマイトが捕まるような事態にしてやるものか。

決意を新たに帰路についた。

 

 

 

「もしもし相澤くん?今良いかな」

『……なんです』

「私の力の継承者を見つけた。名前は緑谷出久。高校生くらいかな。女の子だ。住んでいる所は……」

『ち、ちょっと待って下さい。いきなり何を』

「……私は直に逮捕される。彼女は希望だ。何かあった場合は保護してくれ、頼む」

『……死ぬつもりですか』

「捕まれば私はほぼ確実に死刑になるだろうしね。あの子が後継として生きる覚悟を決めるまでは足掻こうとは思うよ」

 

この力を絶やしてはならない。奴を討つまでは、絶対に。

無いとは思うが直前で緑谷少女が心変わりをして平穏に生きる選択をするならば、それはそれで良い。

その時はUA創始者の片割れであり警察組織の人間でもある塚内君に一時的に力を託し、新たな後継者探しをお願いしよう。

 

『ちょっと待て!あんたが死んだら有象無象の大混乱が起きる、そんな簡単に』

「ごめんね、相澤くん。後は頼んだ」

 

一方的に通話を終了させ、握力でスマホを粉々に破壊する。

 

ヒーローといった自衛団組織の存在しない現在、増加する犯罪数に警察の対応は全く追い付いていないのが現状だ。今は辛うじて保ってはいるが、直に内戦状態の如く犯罪発生が日常化し治安は悪化するだろう。

 

「不甲斐ない……」

 

秘密結社を立ち上げた時、平和の象徴が存在することでヒーローという職への肯定的な意見を増やし世論を傾け、いずれ合法化してみせようと意気込んでいた。

しかし結果はこれだ。変化を恐れる余り、人間が進化したのに法は百年前となんら変わらない。仮初の平和が訪れたせいで、下手に安心感を持たせてしまっただけだったように思える。

 

「私がやってきたことは、無駄だったのかもしれないな。

緑谷少年……いや、少女。君も転生者なら、どうかヒーローを……」

 

 

ざり、と背後に人影が現れた。

いるのは分かっていた、しかしオールマイトは逃げることもせず、穏やかに目を瞑る。

 

「───八木俊典……オールマイトだな。警察だ」

 

終わりへのカウントダウンが、始まった。

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜」

 

まだ若干ふわふわとする気分のまま、リビングに入る。すると出迎えの言葉すら掛けず一心にテレビに食い入る母の姿があった。

「?おかあさ、」

 

 

 

『───緊急速報です。たった今、コードネームオールマイトが個性違法使用殺人未遂及び建造物損壊の容疑で逮捕されました。

本名は八木俊典、無職の30代。変身系の個性持ちと推測され、普段は骸骨のような風貌の……』

 

 

ぼと。

 

持っていた鞄が落ちる。

 

嘘。

 

嘘、嘘。オールマイトが、逮捕……?

え、嘘だ。だって、さっきまで僕と、僕と話してて。

 

 

『最後に会えてよかった。……元気で』

 

『───また、罪が立証された場合死刑は確実だと専門家の太田さんは言います……』

 

 

嫌だ。

あれっきりだなんて嫌だよ、オールマイト……!

 

「出久おかえり、大丈夫だった?オールマイトが逮捕されたの、ここの近所だってニュースで」

「……うん……」

 

「良かったわ。あっもうこんな時間。ご飯作らなきゃ」

「うん……」

 

全く回らない頭で自室に戻り、呆然とオールマイトのポスターを眺めた。

 

オールマイトが逮捕された。

今の法じゃ、人に向けての個性違法使用は殺人未遂罪に問われる。オールマイトの検挙率は一警察官の数十倍以上とも言われている中、死亡例が無かったとしても良くて無期懲役、自衛団に対し見せしめのように扱われるなら死刑も充分有り得る。

 

オールマイトが死ぬ?犯罪者として、ヒーローとしてのプライドも尊厳も、何もかも奪われたまま……?

 

「そんなの、許して良い訳ない」

 

『最後に会えてよかった』

 

「良くない」

 

『───元気で』

 

「良くないッッ!!」

 

机に隠していたヒーロー分析ノートを猛スピードで取り出し、真っ白なページを開く。

 

「まず最優先はオールマイトの死刑回避だ。ヒーロー逮捕の過去の判例は?オールマイトの超パワーで壊れた建造物は?無罪には出来なくても減刑は可能かもしれない。本当は法律そのものを変えたいけど、今それをしている時間は……」

 

ガリガリとノートにペンを走らせる中、思考を邪魔する玄関のチャイムが鳴った。

 

 

「はーい?」

『警察です。こちらのお嬢さん、緑谷出久さんがオールマイトと接触していたと近隣住民からの目撃証言がありましたので、ご同行をお願いします』

「はっ……?い、出久がですか……?」

 

嘘嘘嘘。

オールマイトと話していた所を誰かに見られていた!?

まずい、非常にまずい。

このまま僕が任意同行に応じればオールマイトは僕を助けようとするだろう、仲間だと思われないように。

もしそれで僕だけ誤魔化せても、その後も重要人物として監視が付く可能性だってあるし今後僕がヒーロー活動していく場合その誤魔化しが枷になるだろう。

似たような増強型個性を持つ女ヒーロー、背格好が重要参考人の緑谷出久に似ている。

……僕まで捕まったらその時、オールマイトは本当に逃げ場がなくなってしまう。

 

 

『───その時はUAを、ヒーローを、頼む』

 

オールマイトから托された、ヒーローという存在そのものの未来。

象徴的なオールマイトが居なくなった今、ヒーロー組織は間違いなく弱体化するだろう。

 

オールマイトから托されたものを守りたい。

オールマイトを救いたい。

ヒーローになりたい。

困っている人を、救いたい。

 

 

「……逃げよう」

 

今、僕まで捕まっては駄目だ。

逃げて、UAヒーローと合流する方法を考えなきゃ。本当は行き当たりばったりな行動をする前に対策を立てたかったけど、もう時間が無い。

びり、とノートの端を破きペンを走らせる。

 

『お母さんへ

少し長く外出します。必ず帰ってくるから、心配しないでね。後で連絡します

出久より』

 

 

必要最低限の荷物を鞄に詰め込み、位置を特定されてしまう心配のあるスマホは机に置いていく。

肝心の脱出経路だが、玄関はもう警察がいるし、ベランダの下は道路があるため4階のこの部屋から飛び降りればただの自殺志願者だ。

あとはここ……自室の窓を開ければ、下には植木が生い茂っていた。

 

「ラッキー。……植木の上に上手く落ちれればクッションになって軽傷ワンチャンある、かな」

 

死ぬためじゃない。

生きて、最高のヒーローになるために。

 

僕はそのまま躊躇わず、窓から飛び降りた。

 

 

 

*




八木俊典
転生者。秘密結社『UA』のリーダー。前世とは違い悪と正義がごちゃまぜになった世界を憂い学生時代の友人塚内と共に発足させた。
結社内では破格の露出度を誇り、広く周りに認知されている。コードネーム「オールマイト」。
活動限界を迎えた所を警察に見つかり逮捕。


緑谷出久
転生者。無個性で普通の女の子。幼少期オールマイトの違法動画を見て記憶を取り戻し、以来彼をずっと探していた。
もしこの身体のままで個性を譲渡されたら四肢が爆散するなと踏んでトレーニング三昧の日々。豊満ボディの内側には素でゴリラ並の体力と筋力を誇る。


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Reunion-1

勝己side

 

 

その日はちょうど、実家に置いてあった私物を取りに行っていた。

 

引越しするにも結構な金がかかる今、大学に入ったばかりではあるものの親の援助ばかり受けていられないと自力で荷物を運び出し、優先度の低い荷物はこうして後から少しずつ運び出しているのだった。

 

一人暮らしは初めてだし、クソババアも何だかんだ言いつつ心配しているのはわかっている。丁度いい顔見せの機会だ。

 

黙々と荷物を梱包していれば、ふと思い出すのは幼い頃一緒にいた幼馴染み。緑谷出久だ。

無個性の癖にやたらと正義感が強く、意志の強い瞳を見ると何故か胸がざわついた。

『かっちゃんすごーい!』と無邪気に後を付いてくる姿は純粋に可愛いかった。……初恋、だったと思う。

学年も性別も違うことが邪魔をして、生活のリズムがお互いズレて疎遠になってしまったけれど。

 

そう、昔はここの自室の窓から見上げた所にデクの部屋があって、いつも窓を全開にして大声で会話していた。うるさい!と何度もババアから叱咤が飛んできたのを覚えている。

 

何となく昔のように窓からデクの部屋を見上げれば、今年でおそらく高校2年になったデクが丁度自室の窓を開けた所だった。

 

 

「……見ないうちに」

 

色々と成長してやがる。主に胸とか、胸とか。学生服のブレザーから溢れんばかりのその質量ははっきり言って目に毒だ。垢抜けないのは相変わらずのため、どこか隙のある雰囲気を醸し出している。

 

デクはこちらに気付いていないようだった。

下の植木を確認し、意を決したような表情。そのまま窓枠に足をかけた。

 

 

 

……っておい、おいおい!

待て待て、お前の部屋は4階だぞ!!?まさか死ぬ気かッッ!!?

 

こちらの焦りも気にせず、デクは勢い良く窓から飛び降りた。

 

 

「クッソ……!!」

 

荷物の整理で埃を逃がすため窓を開けていたのが幸いした。個性を使い猛スピードでそこから飛び出し、空中でデクをキャッチする。

 

「えっ!!?かっ……」

 

驚愕で元々大きな瞳をさらにまんまるにし、突如として現れた俺に混乱しているようだった。

小爆発を繰り返し、なるべく低刺激で地面に降り立ってやる。ほ、と抱えたデクの肩が弛緩するのが感じ取れた。

 

「っっこの死ぬ気かクソデク!!!!」

「ごごごごめ……っ!往来でかっちゃんに個性使わせちゃって……!!大丈夫かな、見てた人とかっ!」

「んなこたァどうでもいい!!なんであんな事した……!!」

「い、色々と事情がありまして……。あ、自殺とかじゃないよ!合理的かつ最短距離の……だ、脱出?そんな感じ!!」

「それで死にかけてちゃざまぁねぇだろうが!!」

「う……植木に着地してれば死にゃしないかなと……」

「打ち所悪けりゃ普通に重傷だアホ!!」

「ご、ごめんなさい……」

「あとスカート!めくれあがってんぞ痴女!!」

「うひゃあぁっっ!!?」

 

とりあえず自殺では無いことが知れて人知れずほっとする。

顔を真っ赤にしてあわあわとスカートを直すデクはぱんぱんに膨らんだスクールバッグを持っていて、なるほど脱出は嘘では無いのだろう。

しかし、4階の窓から飛び降りるほどの事情……?

一体何が、と問おうとすれば、空気を読まないスマホが着信を告げた。

「かっちゃん?出ていいよ?」

「あ?今それどころじゃ……」

 

しかし着信元の名前を確認し、今一番連絡が欲しかった相手だと分かり舌打ちする。

ったくタイミング考えろや……!

 

「……ハイ、爆豪」

『お前に任務だ、爆豪。自宅の場所がお前の実家と非常に近かったためお前に任せることにした。なるべく短時間で緑谷出久という少女を奪取、保護しろ。そのまま事務所に連れてこい。くれぐれも警察に見られるなよ、以上』

「はっ……!?」

 

デクを奪取、保護だと……?

まず何故電話の相手がデクの名前を知っている?デクは無個性で、俺らみたいなのと関わりは一切無かったはずだ。 一体何が起こって……。

 

信じられないような目でデクを見ていたのに気付いたのか、すぐ隣でデクは小首を傾げてきょとんとしていた。

 

 

 

*



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Reunion-2

出久side

 

 

僕にはこれからやることが!と拒否しても「良いから着いてこい」の一点張りで手を引かれてやってきたのは古ぼけたビルの一室。

『株式会社ウルトラ警備』とシンプルな表札が掛かっている。

なんなんだ、かっちゃん。久しぶりに会ったと思ったらいきなり幼馴染みが飛び降り自殺もどきをしていて動揺しているんだろうけど……。

「ここは?」

「……バイト先」

 

全くもって分からない。なんで僕がかっちゃんのバイト先に行かなきゃならないんだ?

 

「ねぇ、かっちゃん。そろそろ教えてよ。なんで僕こんな所に連れてこられてんの?」

「知るかよ。所長がお前を連れてこいってんだよ、知り合いかよ」

「僕に初めて来る警備会社の所長さんのツテがある訳ないじゃんか……」

 

どうやらかっちゃんも先程の電話越しで言われるがまま、よく分からない中僕を連れてきたらしい。

お互い頭上にクエスチョンマークを浮かべているため、これ以上の情報は得られそうにないだろう。

 

ギイ、と錆びた音のする扉を開けると、「爆豪か、早かったな」と懐かしい声が聞こえた。

 

……そこに居たのは、前世の僕の担任でもありプロヒーローの相澤消太……イレイザーヘッドだった。

 

「お前が緑谷出久か」

「へっ、あ、はいっ」

 

 

まさかの再会に頭がパンクしていると、訝しげに相澤先生は僕を見てきた。

その反応に、彼には前世の記憶が無いのだなと悟る。オールマイトの言い様だと、前世の記憶持ちは僕とオールマイトと他にも居るのだろうけど。一体誰なんだろうな。

 

「まぁ座れ。事情は分かってるか?」

「いえ、さっぱり……」

 

通されたソファに腰掛けつつ答えれば、

「あの人は……」

と深いため息を零された。

 

「俺の名前は相澤消太。

UAヒーロー、イレイザーヘッドだ。この事務所の所長もやってる。よろしくね」

「なっ!!?何正体明かしてんだよイレイザー!!」

 

隣のかっちゃんが食い気味に吠える。

UAヒーロー……相澤先生が……。

 

オールマイトの人選に、なるほどと驚きよりも納得が勝ってしまうのは仕方の無いことだろう。相澤先生とオールマイトの相性は良いという程では無いけれど、二人共相手の領分をきちんと理解して尊重する度量がある。

それを知っての采配だろう。

 

「こいつはヒーロー爆心地。……とは言え、新米な上に個性が派手過ぎるのと性格がクソ過ぎるせいで実働経験はほぼ無い」

「かっちゃんもUAヒーロー!?」

「だから部外者に……ッ!!」

「部外者じゃないんだよ」

怒りと動揺で混乱しているかっちゃんを無理矢理座らせ、逆に落ち着いた僕に相澤先生……相澤さんは話しかける。

 

「事情は何となく理解出来たか」

「はい。……オールマイトは、僕について何か言っていましたか」

「は……!?なん」

「爆豪は黙っとけ、話が進まないから」

 

特殊合金が編み込まれた捕縛武器で器用にかっちゃんの口元と腕を拘束する相澤さん。うっわかっちゃん凄い顔。

しばらく捕縛武器から逃れようと頑張っていたみたいだけれど、途中から面倒になったのか大人しくなった。

 

「そうだ。逮捕直前俺が聞いたのはお前さんを保護すること、譲渡はまだ完了していないこと、オールマイトさんが死ぬかもしれないこと。これだけだ」

「……オールマイト……」

「情報が足りない。お前は一体何でオールマイトさんと接点を持った。お前は一体なんなんだ」

 

……オールマイトとの接点?そんなの、人に言って理解してもらえる内容じゃない。

咄嗟に前世での出会いを語る。

 

「……僕が事件に巻き込まれた時、オールマイトに助けてもらったんです。僕はずっとオールマイトに憧れてて……無個性の僕でも貴方みたいなヒーローになれますかって聞いたんです。もちろんオールマイトは否定的でした」

「無個性……」

「はい。その後、近くで僕を襲った敵がオールマイトの手を逃れて暴れ回りました。……知り合いが、僕と同じように襲われていたんです。僕、我慢出来なくて。何も出来ないくせに、気付いたら飛び出してました」

「……その時、オールマイトさんは」

「活動限界だったんです。けれど、無理を推してオールマイトは僕らを助けてくれた。無個性でありながらもあの場で君は誰よりもヒーローだった、君はヒーローになれるって言葉をくれた」

「……非合理的だな。でもあの人が好きそうな展開だ」

 

馴れ初めは簡単に理解して貰えたようだった。僕は今世ではこの人と初対面、助けて貰うには信頼を得なければ。

 

 

「オールマイトとは少しだけ話をしました。UAを、ヒーローを頼むと。会えてよかった、そう言って去っていってしまって……。あとは、すみません」

「……なるほどな。事情は分かった」

 

ぐるぐる巻きになっていたかっちゃんを解放し、相澤さんは深いため息を付いた。

 

「現状、オールマイトさんが居なくなったのはUAにとってかなりの痛手だ。事実上の解体か、なんて世間じゃ騒がれてる。

象徴的存在がいない、更にこれを機に警察側は違法自衛団組織……まぁ俺らみたいなのの芋づる式一斉検挙を狙って本格的に行動し始めた」

「……僕の家にも、警察が来ました。おそらく僕は今オールマイトが最後に話した人物として警察にマークされています」

「間一髪だったな」

「はい……」

 

逃げてきてしまったけれど、お母さんは大丈夫だろうか。心配しないでと書いたけれど、きっとお母さんのことだ、死ぬほど心配してる。

……泣いてないといいな。

ごめんね、お母さん。

 

 

「僕には今、住む場所どころか身を隠す場所もありません。どうか力を借して下さい」

「……爆豪、紅茶買ってこい」

「は?紅茶ァ?」

「早く」

 

そうかっちゃんを無理矢理追い出すと、相澤さんはぼさぼさの髪を乱暴に掻いた。

……なんだろう。かっちゃんには話せない、機密事項なんだろう事は想像出来るけれど。

 

完全にかっちゃんの気配が消えてから、相澤さんは再度口を開いた。

 

 

「……手は貸そう。お前を保護しろとのリーダーからのお達しだ。緑谷、お前個性の継承はどうした」

「ありがとうございます。

まだ、です。去り際のオールマイトの様子が気になって、何となく躊躇ってて」

 

ワンフォーオールの継承。

前世でこのことについて相澤先生は知らなかったと思う。勿論、弱体化や活動限界について教師陣やプロヒーローは事情説明されていただろう。

 

今世でのそれがどこまで広がっているのか分からない。UAという組織はオールマイトが創始者でありリーダーだけれど、それに手を貸したとされている警察組織の人間は?ここの所長扱いの相澤さんが実質のNo.2なのだろうか。

 

「お前的にはすぐ継承を完了させて、ヒーロー活動に取り組みたい所だと思う……が、ちょっと待ってくれ」

「理由をお聞きしても?」

「あぁ。まずひとつ。先程言ったように今警察側の監視が強くなっている。ずぶの素人が超パワーを手に入れただけで上手く立ち回れるとは思えない。そのまますぐ捕まる」

「……」

 

 

ぶっちゃければプロヒーローとして活動してきた前世での記憶があるため、その点はいらない心配としか言いようが無い。

しかし前とは違い筋肉が少なく脂肪が多い身体では立ち回り方にも変化があるだろうことは確実。一応鍛えてはいるけれど、何をするにも胸の脂肪とかお尻の脂肪とかが邪魔だ。男の時のようにとまではいかない。

継承を終えてすぐさま本格的に活動というのには自分も否定的な意見だ。

 

「ふたつめ。……オールマイトさんが、死ぬかもしれない」

「え、それは死刑が云々ってやつ……ですよね?それが一体」

「違う。オールマイトさんは電話口でこう言ってたんだ、“あの子が後継としての覚悟を決めるまでは足掻こうと思う”と」

「っ……それって」

 

「現在の法整備下では、個性の違法使用は現行犯逮捕が基本だ。

個性使用中を誰かに見られたり映像が残っていたり、自白でもしない限りは証拠不十分になるんだよ。つまり犯人や現場にヒーローの痕跡が付着してない場合は殺人未遂どころか傷害罪、暴行罪にすらならない、なれないんだ」

 

今世でのヒーロー活動は時間との戦いだ。

警察よりも早く現場に駆けつけ、敵を倒し、無力化・拘束。影から通報し、警察の到着と共にそっと現場を離れる。これがセオリーだ。

SNSが発展した現代、しかし一般市民も弁えているのか証拠となるような写真、動画データは警察寄りの考えの人以外撮ることもしないため、警察がいない状況下で起こったことに対する罪を見つけるのは中々骨の折れる作業だ。

 

「だからオールマイトさんは“足掻く”って言ってんだな。あそこまで派手な活動だ、全部の活動を1から洗い出して突けば刑の最終決定を遅らせることくらいは出来る。

でも逆に考えてみろ、お前が後継としての覚悟……つまりヒーロー活動を開始すること、だな。一度でもオールマイトの再来だなんだと騒がれてみろ。自分の役目は終わったとその足掻きすら止めて、最悪自供なんてことにでもなったら」

「……オールマイトは、死にたがってるんですか」

「わからない。……わからないが、俺は死なせたくない」

「そんなの皆同じですっ!!」

 

だよな、と息を吐く相澤さんは、かなり参っているようだった。

 

「……でも仮に僕のヒーロー活動の開始を遅らせたとして、それは根本的解決にはなりませんよね。

オールマイトは捕まったままだし余りにも音沙汰が無ければ僕を諦めて別の後継を用意するかもしれない。

ヒーローはこの厳戒体勢でどんどん逮捕者が出るでしょう。戦力も象徴も失いつつあるUAを初めとした自衛団組織は事実上の解体とすら言われつつあると先程相澤さんもおっしゃいましたし」

 

「……分かってる」

「八方塞がりですよね」

「だからと言って諦める訳にもいかんだろう。更に向こうへ、plus ultra。かの英雄ナポレオン・ボナパルトの言葉だ。うちのUAはこれをモットーに掲げててね。

それに、策が無い訳じゃない」

「それって……」

 

 

コンコンコン、と律儀にドアがノックされる音が響いた。かっちゃんだろう。

聞かれたく無い話をしている事に気付いてわざわざノックをしてくる所、変なところで真面目なのは昔からだ。

 

「爆豪にはオールマイトの個性譲渡のこと、言うなよ。あいつはオールマイトに憧れてここまで来たんだ。無個性の知り合いがいきなり憧れてた力を手に入れたなんて知られたら多分、暴れ回るから」

「あぁ……はい」

 

確かになぁ。

前世での僕達も色々とその件について拗れた記憶がある。その時僕はもう個性の譲渡は済んでいたからこそかっちゃんは自分の力を高める方向に意識を持っていけた面もあるんじゃないかと思う。

それが無い今世。しかもヒーローと一般人で無個性の女、幼馴染みとはいえ長くご近所さんレベルの付き合いしかしてこなかった相手に憧れのオールマイトの個性の譲渡権があるとしたら。……まぁ普通にお前には不釣り合いだって暴れるよな。

 

 

「爆豪、入れ」

「紅茶、アールグレイで良いか」

「構わん。俺はコーヒー派だ」

 

軽口を叩きながら戻ってきたかっちゃんは、じゃあこの紅茶誰が飲むんだよと結構な数のティーパックを見て眉間にしわを寄せた。

紅茶なんてただ席を外してもらうための口実だなんてことかっちゃんなら理解しているはずだろうに、律儀にちゃんと買ってきてくれたんだな。しかも結構いいやつ。

 

「爆豪、お前確か一人暮らしだったな?」

「あ?そうだけど」

「よし」

 

何が『よし』?と二人で首を傾げると、相澤さんは首に巻いていた捕縛武器を外し鞄に仕舞いはじめた。……まるで、帰宅の準備をするように。

 

「緑谷、お前はしばらく爆豪の家に身を寄せろ。爆豪、お前は緑谷の護衛を任命する。緑谷はオールマイト関連の重要な証拠を託されている。捕まる訳にはいかないんでね」

「「ハァッ!!?」」

 

「とりあえず緑谷の名前と顔は警察のリストに上がってるだろう。顔は仕方無いにしても偽名は考えとけ。決まったらこちらで高校の編入手続きを取ってやる」

 

「ええええちょっと待ってください相澤さん!?高校!?なんでッ!!?」

「違うだろお前まず男の家に女を住まわせる所で疑問の声を上げろよアホデク!!」

 

わっちゃわっちゃと二人で騒ぎ立てれば、相澤さんは不機嫌そうに鞄を担いだ。

待って!帰らないで!

 

「……まず住居。こちらに関しては今手隙のヒーローがうちにはあんまりいない。名の知れてるヒーローには自宅待機を命じているしな。その点爆豪は認知度が著しく低く、そして暇だ。護衛にもピッタリだな」

「認知度低い言うなッ!暇言うなッ!」

 

「護衛……仕事として住まわせてる対象に手を出す奴でも無いのも分かってる。無問題だな」

わぁ、さすが相澤さん。そんな言われ方したらかっちゃんのみみっちい性格故に言い返せないだろう。っていうか、かっちゃんが僕に〜とか無いですから。

前世での拗れに拗れた関係では無いものの、幼馴染みで年下の女の子に木偶の坊のデクとか呼んじゃう人だよ?

 

「そして高校だが……。UA自体派手な活動は暫く控えるし、だからと言って爆豪の家に軟禁状態も酷だろう。幸いお前の顔は世間に割れてないし、教員にUA構成員のいる高校が近くにある。そこに話を付けておく」

「あ、ありがとうございます……」

「爆豪が大学で側に居れない昼間に代わりに護衛してくれる奴がいる学校のが都合が良いって話だ、気にするな。日中勝手に出歩かれるよりも安全だしな」

 

質問は、とそれこそ授業中の教師のように僕らを見渡し、咄嗟に何も言えなくなったのを見て

「なら解散。俺は用事があるから帰るぞ」

とさっさと出ていってしまった。

気まずい空気で固まるかっちゃん。

 

「……かっちゃん?」

「……」

「おーい」

「……いくぞ」

「あっちょっと待ってよ」

 

 

どうにか再起動したかっちゃんは、言われた通り僕の護衛に徹することにしたらしい。

要人みたいでなんだか申し訳ないけど、実際要人なんだろうなぁと感情が現実に追いつかない。

 

「かっちゃん、ヒーローなんだよね」

「……外ではその話すんなよ」

「うん、分かってる。でも凄いや。さすがかっちゃんだ!」

 

この社会でヒーローとして生きるのは前世よりも難易度が高く困難で危険も伴う。

小さい頃からの目標を18歳という年齢で夢を実現しつつあるかっちゃんは前も今も凄い奴だ。

 

しかしかっちゃんはボリボリと頭を掻き居心地悪そうに

「……まだ名ばかりもいい所だ。

いよいよ本格的に活動開始するって時にオールマイトの騒ぎがあったからな」

と言った。大した成果も出せていないうちからヒーローを名乗るのが嫌なんだそうだ。相変わらずである。

 

「でも凄いよ!コードネームはなんで爆心地にしたの!?何かこだわりある!?ヒーロースーツはどんな感じ!?爆破の個性を有効に使うにはやっぱり手に工夫があるやつだよね、僕的には」

「うるっせぇわクソナード!!」

「うぎゃ」

 

顔を物理的に掴まれた。強制的に口が開けなくされる。……前世じゃこのまま爆破確実だったし、まだマシなんだろうけどさ……。

 

 

「……俺の家は空き部屋なんざねーぞ」

「へ、部屋貰えるとは思ってないよ。大学生だしきっとワンルームでしょ?」

「1DK」

「わぁこの都心でぜーたくな……」

「るせぇ自腹だ」

 

マジかかっちゃん。大学生だよね?その資金は一体どこから。

 

「……セキュリティ面と防音にこだわってたらワンルームなんざねぇんだよ」

「成程、盗聴と個性対策……」

「そういうこった」

 

そんな雑談をしているうちに、かなり綺麗なマンションのエントランスに到着した。

……マジかかっちゃん。大学生の生活水準じゃないぞ。

ぽかんとしていれば、かっちゃんは今日初めて少しだけ表情を和らげた。

 

「……アホ面」

 

そんなこんなで、僕とかっちゃんの二人暮らしが開始されたのだった。

 

 

*




爆豪勝己
Not転生者。普段は医学部の学生。近所の無個性の幼馴染みを保護したらとんでもないことに巻き込まれていた。
『UA』の構成員。コードネーム「爆心地」。


相澤消太
Not転生者。『UA』構成員。実質のNo.2で、脳筋のリーダーに代わり内部の処理はほぼ相澤の担当。オールマイトが抜け大幅な戦力ダウンだが活動は細々と続ける予定。
コードネーム「イレイザーヘッド」。


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Hero-1

「初めまして、編入生の赤谷海雲です。よろしくお願いします」

 

かっちゃんら秘密結社UAに保護された僕は、数週間後赤谷海雲という名前で新しい高校生活を始めた。

 

僕は恐る恐るかっちゃんの家にお邪魔させて貰うことになったけど、思いの外快適だ。

日常的に怒鳴り散らすのは疲れるのか予想外に静かだし、僕が家事でミスをやらかしても「次気ぃつけろ」と思いの外優しい。

ご飯や家事は居る方がやると決めたものの、自分のテリトリーを荒らされたくないらしいかっちゃんは僕が色々(特に掃除と洗濯)するのを嫌がる。

まぁ、数年ぶりに会ったばかりの異性の幼馴染みにパンツとか触られたくないよね……と心は思春期の娘を持つパパ気分だ。

言ったらぶっ殺される自信がある。

 

医大生は忙しいだろうに、僕の学校が始まるまではかなり無理して護衛の任にあたってくれた。迷惑かけたくないと言えば、お前は気にするなの一点張り。しかしそれもようやく終わるのだ、僕の新しい高校生活が始まったのだから!

どことなく雄英の制服を彷彿とさせるデザインに懐かしさがこみ上げる。まぁ僕が着てるの男子用じゃなくて女子の制服だけれど。

 

偽名は遠い親戚の苗字である赤谷を、海雲は僕の前に生まれるはずだったお兄ちゃんの名前を貰った。女が名乗っても違和感の無い名前で良かった。

 

前から勉強に苦を感じるタイプでは無かったし、凝り性なのが幸いして特待生としての地位も得た。新しい制服も教材も全部相澤さん……というかUA活動費?から出してもらってしまったんだ、学費くらいは自分の脳で賄います!

 

「じゃあ、赤谷さんの席はあそこで」

「はい」

 

指された場所に近付くと、隣の席にいる女子生徒の丸い頭にどこか見覚えがあった。

ぱっと目が合った瞬間、頬をにこっと緩ませる彼女。

 

「よろしく、赤谷さん!」

「……よろしくね」

 

前世での友人、麗日お茶子だった。

 

 

 

 

びっくりしたなぁ。

今世では全員では無いとはいえ、前世での関係者に思いがけず出会うことがちょくちょく存在する。

かっちゃん然り相澤さん然り、記憶が無くともヒーローめいた心は変わっていないのかもしれない。

ちなみに相澤さんの言うこの学校のUAヒーロー兼教師はなんとびっくり拳藤一佳さんだった。僕のクラスの副担任でもある。前はクラスも違ったせいであまり関わりは無かったけれど、教師向きな性格なんだと思う。

彼女も前世の記憶は持っていなかったが、気さくになんでも相談しろよな、と頼もしいお言葉を頂けた。

 

無事授業が終わり、早速麗日さんに話かけてみることにした。

 

 

「あの、初めまして。赤谷海雲です。よろしくね?えーと」

「よろしく、私麗日お茶子!えーと、海雲ちゃんって呼んでええ?」

「うんっ、ありがとう麗日さん」

 

デクくん、じゃないのは少し寂しいけれど今の偽名にデク要素は無いため仕方が無い。

 

「海雲ちゃんは前どこの学校にいたの?」

「あっと……実家のあった○○の近く」

「え、以外と近い!なんでわざわざ転校?」

 

『赤谷海雲』のプロフィール設定は既にかっちゃんと綿密に対策済だ。万一綻びを見つけられてボロが出たら大変だしね。

赤谷海雲、17歳。実家はこの学校から電車で2時間程の距離にあり、近所の高校に通っていたが学級崩壊がありいい機会だと幼馴染みの家の近くで生活することにした。

 

───ちなみに今時学級崩壊はかなりな確率で頻発している。個性を暴発させ他の生徒が怖がり集団不登校に陥るケース、強い個性を持つ生徒を抑え切れなかった教師陣に歯向かい授業が成り立たないケースなど理由は様々だ。生徒を犯罪者にしないため大体は内々で『学級崩壊』として処理されるが、その闇は根が深い。

 

───ということでそこまで珍しくも無い理由で引越したことにしつつ、さらに真実も絡め嘘がバレにくいようにした。

完璧である。

 

「幼馴染みって男!?」

「え、そうだけ……」

「彼氏!?同棲やん!!」

「はっ!!?」

 

……おや?てっきり転校のことを聞かれるものかと、

 

「かっちゃんは彼氏じゃなくてただの幼馴染みで、」

「かっちゃんさん!幼馴染みだけに許した呼び名!いいねぇ!親御さんがわざわざ娘の同居認めるくらいだよ、よっぽどの仲だと見たね!年上っ?」

「大学生……」

「きゃーー!!」

 

頬を赤く染めてきゃいきゃいと騒ぐ麗日さんを見て、女子高生のテンションを思い出し始めた。前の学校は地元の小中からの持ち上がりが多く、今更そういう雰囲気にもねぇ……と割とドライだったので忘れていた。

雄英での女子達は女子会と称して集まって、こんなテンションで楽しげに会話している様子を寮生活で何度か見たことがあった。

個性の圧制された環境下での学級崩壊……なんて堅苦しい話題よりも、幼馴染みとの同居の方が食いつきが良いのもなるほど納得だ。

相談相手がかっちゃんだったせいで女子向けの対策には一切役に立たなかったぞ。

 

しっかり聞き耳を立てていたらしい周囲には、それから数時間でクラス中に彼氏持ちの赤谷さんとして知れ渡っていた。

……一体全体どうしてこんなことに。高校生の情報ネットワーク凄い。

 

目まぐるしく一日を終えれば、帰宅の準備中待ってましたとばかりにかっちゃんから連絡が入る。探知不可の特殊な端末には幾重にもロックが掛かっており、UAヒーローへ直通の連絡先が目白押しだ。

『あと3分だけ待ってやる』

 

……ム○カか。

 

 

 

 

女子高生らしい会話に慣れず悪戦苦闘の日々だったけれど、ある程度コツを掴めばよく居る女子高生に紛れ込むことは可能だった。

共感、同調、少しの話題提供。

……どうしてもシステマチックに物事を考えてしまうのは思考回路が男だからだろうか。女の子という生き物はお揃いや平均を好み、極端に秀でたものや異物を嫌い、自分の悩みや考えに同調してくれるものに懐く。

別に女の子の友達が欲しい訳では無いけれど、この閉された社会でなるべく存在感を消して生きるには必要なテクニックだ。一匹狼は逆に目立つ。

 

そしてこのクラスの中で一匹狼的存在だったのは意外や意外、麗日さんだった。

一匹狼というのは言い過ぎか、広く浅くの交流はある。しかし特定のグループに所属することは無い。そんな感じ。

前世でも学生時代女子と群れるよりも僕と飯田くんと居ることのほうが多かったし、あまり女子高生のグループというものに興味が無いのかもしれない。

 

「麗日さんは行かないの?」

 

そう声をかけたのは、クラスの女子で僕の歓迎会をやろうと盛り上がっていた中帰宅の準備をする麗日さんを見たからだ。

 

「あー……私は」

「駄目だよぉ海雲ちゃん。麗日さんちはお金無いから、あんまりこういうの誘っちゃ失礼だよ」

「そうそう」

「……」

 

……歓迎会、と言っても学校近くのファミレスでせいぜい数百円のデザートとドリンクバーを頼む程度のものだ。

人数も人数だし、元より長時間居ることはかっちゃんからのお許しが出なかった。

多分、普段一緒にいないメンバーを入れることで場の空気感が微妙なものになるのを阻止するためだろう。『失礼だよ』とこちらを窘めつつも排除の意思がはっきりと分かる言葉に、女子の面倒臭さを感じる。

でもまぁ、僕は女の子でもあり男でもあるので。

 

「そうなんだ?僕、麗日さんともお話してみたかったな。残念」

「っあ……ごめんね?私、今日予定もあって……」

「ぜんぜん!もっと安いとこ見つけたら次付き合ってくれる?」

「う、ん」

 

ほっとしたように麗日さんは帰っていった。居心地悪かっただろうに、無理させてしまって悪かったなぁ。

 

「もー、海雲ちゃんお人好し〜」

「えぇ?お話したいと思ったのは本当だし。僕、早く皆の顔と名前覚えたいんだ!」

 

あぁ、女子って本当面倒臭い。

あの乱暴なかっちゃんの傍にいる時の方がまだ楽だなんて考えてしまう僕は、やっぱり『女の子』にはなれそうもない。

スカートをはいて胸には肩こりの元がぶら下がっていようとも、本質的なそれは男だ。

多分僕には、この目の前の集団を完璧に理解出来る日は来ない。

 

 

 

 

数時間後、迎えに来てくれたかっちゃんは予想外に疲れた表情の僕に少し驚いたようだった。

「……つまらなかったんか」

「ううん。皆いい子だったよ」

 

そう、悪い子達では無いのだ。ただちょっと、黒い部分を知ってしまっただけ。

 

「でも、やっぱりかっちゃんと一緒にいる時の方が落ち着くや」

「……は、」

「なんでだろうね。僕達、幼馴染みとはいえ一緒にいた時間ってそう長くないはずなのに」

「……知るか」

 

ふい、とそっぽを向くかっちゃんは静かだ。

変わったなぁと思う。前世の僕らの間に、こんな気の抜けた空気は終ぞ漂うことは無かった。どこか緊張感のある、そう、さっきまでいた空間のような居心地の悪さ。

ある程度大人になれば顔を見合わせただけで大喧嘩、なんてことはしなくなっていったけれど、どこか気まずい空気は消えないままだった。

 

「そうだかっちゃん。僕、明日もちょっと遅くなる」

「あ?歓迎会とやらは終わっただろーが」

「ちょっとね」

 

 

 

*



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Hero-2

 

「おはよう麗日さんっ!」

 

僕は別に今世、麗日さんと同じように友情を築きたいとは思っていない。僕の存在は表の世界に住む彼女達にとって害悪になり得るだろうから。

けれど、別にクラスメイトとして最低限仲良くしたいなって思うくらいは許して欲しい。

 

「お、はよう海雲ちゃん……どしたん?」

「ん?昨日言ってた安いお店、見つけたんだ。今日空いてない?」

「……本気だったんだ」

 

ぼそりと呟かれた本音。

……なんとなく麗日さんが女子と群れない理由が分かった。

言葉とは裏腹な感情を空気から読み取らなければならなかったり、お世辞と本気をニュアンスで感じ取らなきゃだったり……そういう煩わしさが苦手なんだろう。

良くも悪くも素直で嘘が付けない僕や飯田くんの傍は麗日さんにとって楽だっただろうし、雄英の確固たる目標が存在する校風も、それに惹かれて集まる人種も彼女に向いていたのだろう。

こういう答えも出口も無いふわふわした意地の探り合いは僕も嫌いだ。

 

「もちろん。ね、だめ?今日も予定あるかな」

「……大丈夫だよ」

 

だから、ちょっとだけ。

言葉の裏を考えなくて済むような時間を麗日さんに。かつての友人との束の間の時間を僕に。

……それくらいは、許して欲しい。

 

 

 

 

 

「え、お金に困ってるのが嘘?」

「う、嘘ちゃうよ。ちょっと大袈裟なだけ」

 

誘ったのは、大通りから少し外れにある寂れた公園にキッチンカーを出しているお店だ。

学生に優しい値段設定なのに人が全然いなくて、内緒話にはうってつけ。

冷えたドリンクを飲みながら、僕は麗日さんの告白に目を丸くした。

 

「……じゃあなんであんなにクラスで」

「四六時中同じ人と一緒に行動するのが苦手なだけだよ。……まぁお金ないのも本当やけど、そんな放課後の買い食い節約しないと生きていけない程じゃないし。苦手なんだよねぇ、ああいうグループでずっと行動するの。トイレまで一緒とか訳わからんよ」

 

だからお金無いって何度か断ってたらあぁなったのと言われれば、やっぱり僕の予想は当たっていたのだなと納得した。

苛められている訳では無い。友達未満知り合い以上みたいなよそよそしさ。やっぱりもう少し気軽でドライな関係が楽なタイプなんだろう。

「それ、僕もだよ」

「えぇ?ほんと?」

「前の学校と毛色違ってびっくりしてる。溶け込もうと思って頑張ってるけど、やっぱりちょっと疲れるよね」

「そう、嫌な訳じゃないし仲良くしたくない訳でもないんやけどね。難しい!」

 

人間関係は複雑だ。特に女子は。男の頃は全く考えたことも無かった問題に悩む麗日さんは、男だった僕には見つけることの出来なかった一面だ。

 

「そういえば、海雲ちゃんは学級崩壊で転校してきたんだよね。……やっぱ個性関連?あ、ごめん嫌なら答えなくていいんやけど」

「ううん。そう個性が暴発しちゃってね、ちょっと」

「そっかー

……私さ、今の個性使用絶対禁止って、なんか違うと思うんよね」

「麗日さん……?」

 

いつの間にか飲み終えたドリンクをゴミ箱へと投げ入れる麗日さんは、苦笑いを浮かべた。

「私の実家、建築やっててさ。私の個性が使えたら皆楽になるし今みたいな苦しい生活しなくて良くなると思うんよ。でも建築業界に個性の使用って認められてない。

海雲ちゃんの前の学校の子だって、個性使用が駄目じゃなくて暴発した時の対応がしっかり出来れば別に禁止にする必要なくない?せっかくの便利なものを無理矢理規制して使えば犯罪者扱い。なんで?って思っちゃうんだ」

 

なんて、私が何か言って変わるとも思えないんだけどと頭を搔く麗日さん。

 

……あぁ、一緒だ。ご両親の役に立ちたくてヒーローを目指していた前世の麗日さんと、根っこの部分は全然変わらない。

 

「……そうだね。僕も、」

 

ガァァアアアン!!!!

 

突如としてけたたましい金属音が響き渡る。次いで、悲鳴。

いきなりぶわりと風が吹き荒れ、ただ事では無いぞと慌てて周囲を見渡す。

 

「なにっ!!?」

「麗日さん、アレ……!」

 

そこに居たのは、木々や電柱をなぎ倒しながらこちらに向かってくる巨大な敵だった。

 

コミックさながらの典型的な巨大化個性持ちは、ただ大きいだけで純粋な恐怖を周囲に与える。敵も混乱しているようで、足元に構う様子は無い。

このまま逃げなきゃ潰される。

麗日さんは足を竦ませながらもパン!と頬を叩き気合いを入れた。

 

「こっちへ!!」

腰を抜かしたキッチンカーのお姉さんの腕を無理矢理引っ張り、倒れるものの少ない公園の中心部へと逃げる。

 

「麗日さんはお姉さんとここにいて!」

「はっ!?海雲ちゃんは!!」

「僕は避難誘導してくる!あんな巨大な敵、歩くだけで大被害だよ!なるべく被害者を減らさないと!」

「な、なんで海雲ちゃんがそんなことせんといかんのや!運悪かったら死んじゃうんだよ!?」

 

「そんなの、僕がやりたいからに決まってる!」

 

確かに一般人の僕に避難誘導する義務は何も無い。

……義務が無いからやらない?否。

報酬が無ければ、仕事じゃなければ動かない?否!

 

僕が目指すヒーローは、そんなんじゃないんだよ!

「人助けが犯罪になる世の中なんて真っ平ごめんだ!!」

 

 

「海雲ちゃ……!」

 

絹を裂くような呼び声を背に、僕は大通りへと飛び出した。

かなりの人がもう逃げてはいる。しかしまだちらほらと逃げ遅れた人や転んでしまい半分諦めたような老人、目が悪いのか全く状況を分かっておらず杖を持ちオロオロとする女性がいるのを見つけ、瞬時に要救助者を見分ける。

 

「おばあちゃん!歩ける!?」

「もうダメだよ……」

「じゃあ乗って!はやく!」

 

幼い頃から鍛えていた僕にとって、老人1人抱えて全力疾走なんて屁でもない。

個性を使ったとんでもないパワーは無くとも、身体能力は鍛えたことも無い一般人とは程遠い。

 

おばあちゃんを背負うと、声を大にして周囲へ避難を勧告する。

「交差点を右へ曲がったすぐそこに大きな公園があります!広場は倒れるものが少ないです、逃げ遅れた方はそちらへ早く!!」

 

わっと人が交差点へ向かい始める。

その中から目の不自由なのだろう女性を見つけだし、「触ります」と声をかけた。

 

「あの、私、何がなんだか」

「巨大な敵が暴れています。このままだと潰されかねない。僕が手を引きます、走れますか!?」

「は、はい……!」

 

集団で公園の入口に到着すれば、麗日さんがそこに立っていた。

「うららかさ……」

「1人で飛び出して……バカ!!うちも手伝うからッ!!」

「!!……ありがとうっ」

 

涙を浮かべ、怖いだろうに。前世と違い、今の彼女には敵と対峙するための訓練も覚悟も存在していない。普通の女の子だ。

なのに飛び出した僕を叱咤し手助けしに一歩踏み出してくれた。

 

「こっちです!!」

 

 

 

 

「平太……平太がいないわ……!」

公園の広場でパニックになっているのは、若い母親だった。

「手を、手を繋いでいたのに……!」

気の毒そうに周囲は彼女を見るものの、この非常事態で子供を探しに歩き回ろうとする大人は誰もいない。

可哀想に、はぐれたのか。そんな囁き声に母親は打ちひしがれる。

 

「平太……!」

「平太くん、ですか?服装は?髪型や特徴的なものはありますか?」

 

そんな状況下で、全く気負わずにそう出久は声をかけた。

 

「あぁ……ぁ……!5歳くらいの男の子で、オールマイトの人形を手に持っている……あの、髪型は坊主の、」

「ありがとう、探してきます。お母さんはもし平太くんが戻ってきた場合に備えてここに居てください。きっと無事ですよ」

「ちょ、海雲ちゃん!」

 

 

お茶子の制止を振り切り公園から飛び出した出久は、交差点付近から聞こえた泣き声に気付いた。

「!いたっ」

 

5歳くらいの男の子、坊主頭でオールマイトの人形を持っている。

おかあさん、と泣く彼にパッと見外傷は無いようだ。良かったと安堵し駆け出す出久。

「平太くん!こっち!」

「……っ?」

 

 

ガアアアン!!

 

刹那、あまりに近くで聞こえた轟音に出久は慌てて大通りに目を向けると、暴れる敵は子供のすぐ手前まで迫っていた。

 

「危ないッッッ!!!!」

 

───こんな時、個性があれば!!

 

 

ワンフォーオール使用時とは比べ物にならない程遅い。守りたいものが、守れない!

 

子供をぎゅっと抱きしめた時、大型敵の足はもう退避不可能な距離に迫っていた。

 

 

「、や、ば」

「ッ海雲ちゃんッッッ!!」

 

突っ込んできたお茶子に目を白黒させる暇も無く、キィン、と軽い個性発動音。

 

これは、この発動音は。

 

 

ふわ、と巨大な敵が僅か数センチだけ浮く。唐突な浮遊感に慌てた敵は途端に慌て、バランスを崩した。

 

「解ッ除!」

 

轟音を立て仰向けに倒れる敵。浮かせたのはほんの数センチ、至近距離にいた出久ら以外にはただバランスを崩して転んだだけに見えただろう。

 

「敵が倒れた!確保だ!!」

 

スピーカー越しで会話する警察の声。

すぐそこまでもう警察らは来ていたらしい。

……助かった。

 

 

「どうしよう……わた、私、個性使っちゃった……」

青い顔をし、ガタガタと震えるお茶子。近隣の人間の避難が完了していて、尚且つ敵が大きすぎたせいで誰にも見つからなくて済んだ。

しかしそれはただの結果論でしかない。すぐそこまで警察が迫っていた状況下、お茶子も個性の不正使用で現行犯逮捕される可能性は充分にあったのだから。

 

「麗日さん……」

「わた、私、なんにも考えてなかった。すぐそこに警察いるのにとか、そんなの、考える前に」

 

海雲ちゃん達が、死んじゃうって。

ぼろ、と大粒の涙を零したお茶子を子供ごとぎゅっと抱きしめる出久。

 

「麗日さんは僕らのヒーローだよ!!

自分の保身より僕らのために飛び出してくれたんだ……ありがとう……!」

「ありがとうおねぇちゃん!!」

「平太くんだね?今のこと、僕達だけの内緒にしてね」

「うん!」

 

ありがとう、僕らのヒーロー。

そう出久がまた呟けば、うわぁああんと大泣きしてしまったお茶子。

 

こうして転校早々の大事件は幕を閉じ、お茶子と出久は図らずも友情を深めていくことになった。

勿論出久はこの後勝手に行動した件についてお茶子に責められ、迎えに来た勝己には烈火のごとく怒鳴られた。が、長くなるのでそこは割愛することとする。

 

 

*




麗日お茶子
Not転生者。『赤谷海雲』のクラスメイト兼友達。
女子特有の群れがあまり得意では無くクラスでは浮き気味。


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Demonstration-1

 

 

 

『どうしよう……わた、私、個性使っちゃった……』

 

あの時麗日さんが咄嗟に僕と子供を守って個性を使った時、不正使用をしてしまったことに酷く怯えていた。

 

僕には前世のこともあり個性使用にそこまでマイナスのイメージを持つことは難しい。けれども今世での個性に対しての規制は度を超えているのだ。それまで気丈だった麗日さんが震え涙を流す程にその罪は重い。

 

 

例えば、災害時の正当防衛の個性使用は命に関わる場合のみ特別措置として無罪になる。これは人災では無く自然災害のみという所がミソだ。

 

人災に巻き込まれた際の自衛使用は情状酌量の余地はあれど不正使用の前科は付く。

人に……例え相手が敵であっても被害者が加害者に殺傷性のある個性を向けた場合は、その時点で最悪殺人未遂罪に問われる可能性があるのだ。今回麗日さんが恐れたのがこれに当たる。

個性の不正使用は事実確認が難しいため現行犯逮捕が原則。そのため敵に隠れて個性使用が警察に見えなかった事や証言する可能性のある住人らの避難誘導が済んでいた事が幸いした。

例え転ばせただけであってもそこに『個性を使って』が付けばたちまち犯罪者扱いだ。

 

オールマイトが死刑すら有り得るとされるのはそのせいでもある。彼にはなまじファンも多く、ネットに敵と対峙する動画や写真、アンチからのタレコミ等誤魔化しの効かない証拠が多過ぎる。未遂とはいえ数が多すぎる上に影響力が強い。ヴィジランテ集団を叩くのに見せしめとしての死刑は最も効果的だろう。

 

しかしここまではまだマシなのだ。これでもマシなのだ。

そう、こんなガチガチな法整備下で、異形型の個性持ちはどうなるのかという話。

 

異形型の中には勿論、普通に生きているだけで個性使用と同等の『普通の人間には無い』ものが常時発動している人だって存在する。

麗日さんの手のひらにある肉球やかっちゃんから香るニトロの匂い等だって『普通の人間には無い』ものではあるものの、異形型のそれはある程度の許容範囲(見て見ぬふり)を超えるのだ。

顔が動物や魚なもの、体の一部が動物のように発達したもの。人間と動物とがミックスされたような個性持ちはその最もたる例だ。

 

彼らは生きているだけでその個性を使わざるを得ない。ならばどうするか。

このくそったれな世界では、異形型個性を持つ人達は「個性障害者カード」が配布されるのだ。

 

異形型……お国の定めた言葉で言えば『個性障害者』。彼らはありとあらゆる場面において、個性の不正使用の面に関してだけある程度の配慮を求めることが出来る。生まれ持っただけの個性が障害に分類されるという何とも胸糞悪い話だ。

 

……個性を使うだけで犯罪者呼ばわりされるこの世の中で、個性を使わないと生きていけない人達にとって個性は正しく人生の「障害」足り得るのかもしれないけれど。

 

そんなものがあるせいで異形型は依怙贔屓だ、犯罪予備軍だと騒ぎ立てられ何かと社会的弱者になりやすい。

差別の的を積極的に作り出しているのは国だけれど、この差別を無くせば結果的に個性使用の緩和が始まるため手が出せない。

臭いものに蓋をされ、犯罪者にしない代わりに生きにくい一生を強制される異形型。

 

あぁ……この世界は、今日もこんなにも歪んでる。

 

 

 

 

「聞いてんのかクソデクァ!てめぇ自分が無個性だっつーこと忘れてんのか!!

金輪際敵前へ無鉄砲に飛び出さない!復唱!!」

「テキゼンへムテッポウニトビダサナイ」

「再度復唱ォ!!」

 

僕は帰宅後、かっちゃんにみっっっっっちりお説教を食らった。

……たしかに寄り道をお知らせしてはいたけれど。その周辺で敵が暴れてるニュース速報があって迎えに行けば、顔を真っ青にしてマーライオンしてる女の子抱えた僕がいればそりゃあ目が点になることだろう。

麗日さんが泣きながらもうあんな無茶はしないでと縋り付いてきたのにも参った。

 

「なんでてめぇはその便利な文明の利器を使って俺を呼ばねぇ!!」

「……忘れてました」

「……ッッッ」

 

スマホを指さして固まるかっちゃんは怒りで声も無くなってしまったようだ。申し訳ない。

護衛対象が勝手なことをして、さぞかっちゃんも相澤さんから怒られたことだろう。お説教はごもっともだ、甘んじて受け入れる。

「あの丸顔女がてめぇを守ってなきゃ今頃死んでたぞ。一般人に迷惑かけんなクソが!」

「う……。あの子は麗日さん。丸顔じゃないし……それにね。あの子ヒーローに向いてると思うんだ」

「あ?」

唐突な推薦に目を丸くするかっちゃん。

 

「ヒーローらしい正義感、自己犠牲の精神、何より今の個性使用の規制に強い不満がある。個性も強力で根性もある」

麗日さんは記憶が無くともヒーローの器足り得るものを持っていた。UAヒーローに名を連ねるのにも相応し───

 

「やめとけ」

 

静かにかっちゃんは否定した。

「あまり一般人を巻き込むな。

お前は仕方が無かったとはいえ、俺らは世間からみたら敵と同等の犯罪者だ」

オールマイトが僕に声をかけるのを足踏みした理由と一緒だ。

昔、ヒーローになりたいと口走った僕をどうにか考え直させようとお母さんが言葉を尽くしていたのを思い出す。

 

「UAの規則でもある。勧誘は、絶対にしない」

過去に何かあったのだろう。

前世ではあんなに脚光を浴びていたヒーローが、今やただの犯罪者。

 

「本人が本当にヒーローになりたがって、行動を起こし始めるようだったら考えてやる。だからそれまでは何も話は振るな。どこから話が漏れるかわからない」

「……わかった」

 

やろうとしていることは人助けなのに、身の振り方は正しく犯罪者のそれであるのが、なんともやるせなかった。

 

 

 

 

 

「『表』の依頼?」

『そうだ。警備会社のバイトスタッフとして話を聞いてやれ。今日は相談だけとのことだ、お前でも出来るだろ。俺は遅れて到着する』

「……デクを1人にする訳には」

『なら彼女も連れていけ。というかお前1人よかマシだろう』

 

そんな相澤さんからの連絡があったのは、巨大敵の襲撃事件から数日後の休日だ。

一応会社として名前があるため、仕事が入ればきちんと対応するらしい。ボロボロのビルにある胡散臭い警備会社なせいか、常に閑古鳥が鳴いている状態らしいが。

完全にUAのためのハリボテ事務所だと思い込んでいたため、一応会社として機能していたことにびっくりだ。

 

「聞き役として一番使っちゃダメな人に連絡寄越すとか、UAって人手足りてないんだね」

「ふざけんな余裕だわ!……今は色々あんだよ」

 

含むような表情のかっちゃんはそれ以上言う気は無いようで、「行くぞ」と準備を始めたのだった。

 

 

 

 

「今日は休日にわざわざありがとう、私達平日は学校があるから難しかったの。私、蛙吹梅雨。よろしく」

「万偶数羽生子です」

 

寂れた事務所にやってきたのは、中学校のセーラー服を着たかつての級友蛙吹さんとその友達の万偶数さんだった。

少し驚いたけれど、こうして昔の知り合いと遭遇する機会はままある。それよりもまだ中学生だという彼女らがこんな怪しい警備会社に相談に来る方が衝撃だ。

養ってもらっている身としてはあまり悪いことは言えないけれど、所長である相澤さんの合理的主義から観葉植物の一つも置いていない事務所は酷く殺風景で、おそらくオールマイトの趣味であろう無駄に豪華なソファとラグに恐ろしく合っていない。

 

「……中学生?用件は」

訝しげに相手を睨むかっちゃん。

お茶を淹れ終えたおぼんでガンッとぶん殴る。

「ッッッて!!何しやがる!!」

「相談者にガンつけないの!それとまずこっちも名乗るのが普通でしょ!

───ごめんね、僕は赤谷海雲。こちらこそよろしくお願いします」

「……爆豪勝己」

 

遠慮を止めた僕は横からとんでもない殺気を感じながら自己紹介を進める。一応反論しない所、態度がアレな自覚はあったらしい。ならやるな。相澤さんの予想が綺麗に当たっちゃってるじゃないか。

 

「赤谷ちゃんに爆豪ちゃんね。それで、私達が来たのは他でもないわ。私達の警備をお願いしたいのよ」

「……なにかあったの?」

「というより、あるかもしれないのが言葉として正解かしら」

 

す、とプリントを差し出される。

 

「……『異形型個性の規制緩和に対するデモンストレーション活動』?これは……?」

 

「言葉のままよ。私達異形型個性が一般人と同じ生活が出来るような規制緩和を求めてのデモ行進が近々行われるの。オールマイト逮捕に触発された幹部が、自分で自分の身を守ろうと発案したことがきっかけ。私達もそれに参加することになってる。その警備隊をお願いしたいのよ」

 

オールマイトが逮捕されたことで危機感を覚えた一般人が、長く変化を恐れて縛られつつもなあなあで済ませていた一般人がついに重い腰を上げた。

人権団体が疎らに活動しているのは見たことはあれど、デモ行進なんて規模の大きなものは初めての試みだそうだ。

 

「変わりたいのよ、みんな」

「蛙吹さん……」

「……で、なんでウチなんだ。デモとなりゃ警察も警備に動員される。

ウチみたいな人手の足りてねぇクソ寂れた警備会社にわざわざ声かけなんてする必要性ねぇだろ」

「そこなのよ」

 

かっちゃんの人を選ぶだろう粗野な態度に全く動じない蛙吹さんはにこりと微笑んだ。

 

「まず警察の件ね。

あまり誉められた事では無いのだけれど、今警察は敵及びヴィジランテ集団の大量検挙に力を注いでるらしいの。だからそこまで大掛かりに動員出来ないとの回答よ。あとは民間で補え、とね」

「クソかよ」

 

オールマイトに触発されて動き始めたデモ活動が、オールマイトの逮捕で活気付いた警察に阻まれるとは。なんとも因果なものだ。

 

「それを聞いて、大人達は警備体制の薄い中自由にやらかしてしまおうと考える人が少なからずいるらしいの。暴動にでも発展してしまえば事だわ。だから私達がこうしてお願いに回っているのだけど……」

「中学生だと知ってもそのまま話を聞いてくれたの、ここが初めてよ」

 

蛙吹さんの言葉尻を受け継いだ万偶数さんは軽くため息をついた。

「いたずらなんじゃ、報酬は本当に払えるのか、まず親御さんの了承は?そんなのばかり。だからまずお話をきちんと聞いてくれる所に頼もうって梅雨ちゃんと話していたの」

「……なるほど、だからお休みの日なのにわざわざ制服で」

「そうよ」

 

逆説的に言えば、こんな寂れた怪しい警備会社に縋らなければならないくらいには蛙吹さん達も切羽詰まっていたということだ。

 

「……酷い話だよね。

個性は名前の通りただの個性なのに、病気と一緒くたにして障害者だなんて。本当に病気で苦しんでる人にも失礼だ」

歪んだこの国に蔓延る歪んだ法律に、真正面から異議を唱えるのはこれまでオールマイト率いるヴィジランテ集団ばかりだった。

それに甘えず、個性では無く対話で解決しようと立ち上がる人が増えたのは変わろうとする人が増えたから。

僕はその勇気に賞賛の拍手を送りたい。蛙吹さん、万偶数さん。君たちもまた、この理不尽と戦おうとする正義感と意思の強さは前世で目指していたヒーローの心意気そのものだ。

己の個性を障害に分類され、これまで差別に苦しんだだろうにしっかりと前を向いて歩いている。

 

「……そう、そうなんです。私達は身体が悪い訳じゃない。同情も配慮も差別もいらない、ただ普通の人間として生きたい」

 

「……大丈夫。力になるよ」

 

僕は優しく手を握った。

また勝手に決めやがって、とかっちゃんが小さくため息をつくのが聞こえたけれど、表立って否定はしなかった。

中学生ながらこんな所まで来て自分達の活動の手伝いをして欲しいと真摯に頼む女の子を、警備会社のアルバイトという立場から断る言葉を見つけ出せなかったらしい。

 

 

 

「悪いけど」

 

……相澤さんが、来るまでは。

 

「うちじゃ無理だよ」

 

 

 

空気を切り替えるように登場早々今までの会話を全て無にするような発言をする相澤さん。

唐突に現れた不審者の代表例みたいな出で立ちの相澤さんに、蛙吹さんらは少し身体を固くする。

 

「どうも。ここの所長の相澤です。

お嬢さん方の話は大体廊下で聞かせてもらったよ」

 

よろしく、と飄々と告げた相澤さんは空いていた下座のソファにゆったりと腰掛ける。

「相澤さん、無理ってどういうことですか!?」

「言葉のままだよ。お前ら話聞くだけっつったのに勝手に了承すんなバイト」

「うぐ」

 

痛い所を突かれて固まっていると、相澤さんは「すまんが」と前置きをした。

「今うちの職員の大半が別任務に当たっていて、実働可能なのが俺と……あと1人くらいしかいないんだ。警備隊なんぞ物理的に組めないから、今は簡単な個人警護の依頼しか引き受けてない。悪いな」

「……そこの爆豪ちゃんと赤谷ちゃんは?」

「赤谷は事務方のバイトだ。爆豪は別件の仕事がある」

 

は、と我に返る。

そう言えばUAにお世話になる際言っていた。良くも悪くも目立つUAヒーローが警察の一斉捜査で芋づる式に捕まらないよう、自宅待機を命じているヒーローがいると。

それもあってかっちゃんが僕の護衛に当たることになったのだ。

少ない人数とはいえ警察と一緒に仕事をするとなるとかなり条件は厳しい。依頼人を警護するだけでは無く近くにいる警察から自分の身も隠さなければならないのだから僕らにとって非常に難易度の高いミッションだ。

人がいないことを理由に断っている相澤さんだけれど、理由はもっと深刻な所にある。

簡単に了承してしまっていたけれど、こちらにも深刻な事情というものがあることに気が付いた。

 

 

「……なら私と羽生子ちゃんの個人警護ならどうかしら。デモ隊全体じゃなくて、私達だけについて欲しいの」

「は……?」

 

しかし、蛙吹さんからの妥協案はこちらの予想を超えてくる。もう話は終わりだと思っていた相澤さんは目を丸くした。

 

「……理由を聞いても?」

「えぇ。まず一つは抑圧が激しい今、非常に攻撃的な人もいてかなり危ない状態なの。だから一人でも止めてくれる人が多い方がいい。

もう一つは学生と大人じゃ同じ前科でも意味が変わってくるからよ。

……個性事故も多い今時、手に職がある人に前科が付いても即解雇なんてことは無いわ。

でも私達学生に前科がついた場合就職に必ず支障が出る、未来を狭めたくないのよ。未来を広げたい、そのためのデモ参加でもあるのだし」

 

異形型はもう存在しているだけで個性を発動しているのだと過激な人間は言う。

万が一軽い喧嘩が発生した場合でも、個性制御が出来ていなかったとクレームを付けられれば終わりだ。

 

「依頼は私達2人。それなら可能?」

「……わかったよ、可能だ。俺が警護につこう」

 

結果は蛙吹さん達の粘り勝ちだった。

相澤さんから了承を得てからは、詳しく当日の動きを詰め始めた。

僕らはこれで完全に蚊帳の外になってしまったため、新しくお茶でも淹れ直そうかなと席を立つ。

「ありがとう、赤谷ちゃん」

「ん?あ、紅茶?今アールグレイしかないんだけど……」

「お茶じゃないわ、相談に最初に乗ってくれたのは赤谷ちゃんと爆豪ちゃんだから。

私達のお話、ちゃんと聞いてくれたの嬉しかったの。ありがとう」

「蛙吹さん……」

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

ケロケロ、と楽しげに笑う蛙吹さん、ううん。

「……うん、梅雨ちゃん」

 

 

 

 

 

話を詰め終わった彼女らが帰った後、僕はそっと相澤さんに声をかけた。

「あの、良かったんですか?」

「何がだ」

「護衛の了承の件ですよ。1人でなんて、かなり難しい案件になるんじゃ……」

「一番真っ先に了承した奴が何を言う。

……あいつらは万が一を考えて、まず相談実績だけでも作っておきたかったんだそうだ。相当頭が良い。

表向きの断る理由は完封されちゃあ仕方が無いだろう」

 

そう相澤さんは嘯くが、こちらとしては人数不足云々を言うまでもなく『別件で仕事が』とさえ言ってしまえば内情を知らない蛙吹さん達は引き下がるしかなかったはずだ。

わざと選択の余地を残してやったのは、蛙吹さん達のヒーロー然とした行動力を相澤さんも好ましく感じたからかもしれない。

 

……なんて、聞いても絶対答えてなんてくれないだろうけど。でも、そうだと良いな。

 

「でも、相澤さんの個性じゃ異形型の個性に対抗する手段は無いんじゃないですか?」

「……俺はまだお前に個性名を言ってないが」

 

あ、やばい。

 

……と思ったが最初にイレイザーヘッドとしての紹介は受けていたことを思い出した。アングラ系のため世間的認知は酷く薄い。言わずして個性を当てられたことなんてないのだろう。

 

「知ってますよ、アングラ系イレイザーヘッド。僕ヒーローオタクなんで!抹消ヒーロー、カッコイイです!」

 

一瞬うわ……という顔をされたが引かない。傷付いてもいないぞ!

「まぁ……なら話が早い。

俺の個性は異形型には効かない、その通り。けど暴動が起こったとしても俺達は決して個性を使っちゃならない。ウチは個性使用の許可を得ていない民間会社だからな。表は」

 

警備会社で個性の使用許諾を得ているのは国営の、それこそ国家レベルの要人を警護するような所だけだ。しがない民間の会社には存在しない。

 

だから別に誰が行こうが変わらないんだよ。とりあえずタッパがあって体力があるやつ。まぁ、俺でいいだろう、と。

 

「あぁそうだ緑谷。わかってると思うがデモの様子を見にいこうとかするなよ。

お前は別に犯罪を犯した訳では無いから世間に顔は割れずに済んでるが、オールマイトさんの件に関してのキーマンとして警官に顔はとっくに割れている。少ないとはいえ警官が配置されているんだから……わかるな」

「う」

 

釘を刺されてしまった。この短期間で面倒ごとにも困って居る人がいたら率先して突っ込んでいきがちな性格を既に見抜かれてる。

 

「その通りだクソデク。当日は俺がガッチリ見張ってやる。くれぐれも余計な手間かけさせんな」

「よろしく頼む」

「うぅ……」

 

全く信用されてない上に影からこっそり見守ろうと内心で計画を立てていたことがバレバレだったことに歯噛みする。

 

 

そして勝己は、これだけ言ったにも関わらず胸騒ぎがして仕方が無かった。

言葉だけで納得するだけなら、再会早々自殺紛いの大ジャンプも、いきなりUAに自分を保護しろと交渉してくることも、オールマイトと関わりを持つことも、転校早々事件に巻き込まれもしないはずだ。

その悪い予感が的中してしまうのはすぐの話なのだが───。

 

 

*




・「個性障害者カード」
異形型個性を持った子どもが小学校入学前に個性制御の特別訓練を受けた人のみ与えられるカード。のみ、と言っても国策のためほぼ強制的に受けさせられる。
これを提示すると、個性使用時に限り配慮を受けることが出来る。勿論『配慮』なだけで、実際殺人を犯したりした場合減刑は有り得ても無罪放免になるような魔法のカードでは無い。
現代におけるあらゆる差別を個性に置き換えたようなもの。


蛙吹梅雨
万偶数羽生子
Not転生者。同じ中学の同級生。元々異形型ということで苛められていた2人、進級と同時に同じクラスになり友情を深める。
ちなみに羽生子は正確的に言えば発動型の個性持ち。彼女が異形型と見なされたのは頭部が人間とかけ離れたような外見の子供で、発動型としてだけでは無くハブ蛇のような頭部も持つ混合異形型個性との見方をされたため。


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Demonstration-2

映画見てきました。朝からTLが賑わってて仕事どころじゃ無かったです。あと5億回通う。


 

 

デモ行進当日。

僕の再三に渡る考え無しな行動のせいで警戒心をマックスにしたかっちゃんは、ガッチリと玄関のドアを締めバッチリ朝から監視の体制を整えていた。

 

「アノ……」

「なんだ」

「……ナンデモナイデス」

 

あの後一応僕も相談を受けた身、無責任に投げ出すのは気が引けたため譲歩を引き出そうと尽力はした。

時間を決めて遠くから見守るだとか、変装するだとか。全部却下されたけども。僕の変装テクを知らないなオラ。かっちゃんの真似なら得意だぞオラオラ。

 

「……お前、依頼人からあんな感謝されちゃ自分も何かやらなきゃとか思ってんだろ」

「うぐ」

 

全く持ってその通りだ。

僕はUAに身を寄せてから、何一つ成せてない。

衣食住を保証してもらい、かっちゃんという警備をつけ、学校にすら通わせて貰ってる身なのに何も返すものがないのだ。

 

「お前が今、一番やりたいことはなんなんだよ」

「一番やりたいこと?」

「デモ隊を見守るだとかはここに来てから出来たやりたいことだろうが。なんであの日、お前は窓から飛び降りてまでしてUAに助けを求めた」

 

かっちゃんとの久しぶりの再会を果たした、自殺紛いの大ジャンプ。

あれはそう、逃げるため。何故?何故かって───決まってる。

 

 

「オールマイトを、救うため」

 

オールマイトを、この歪んだ世界の法律によって罰せられそうになっている平和の象徴をこの手で救い出す。

それは、もう折れない。

 

こんな状況下でも個性OFAを継いでいないのは、ただ単にオールマイトを救うためだ。彼に安心して自白をさせないため。

死ぬ覚悟をしていたオールマイトにとって、いい迷惑かもしれない。

けれど、余計なお世話はヒーローの本質だ。僕は結局、僕がオールマイトに死んで欲しくないからこの選択をした。ただそれだけの自己満足。

 

「───じゃあ、てめぇはそれを死ぬ気で達成すればいいだろ。うちに居る理由なんぞそれで充分だ。別のことに目を向けてる暇、あんのかよ」

 

優先順位を考えろ、とその見た目とは裏腹に頭脳派なかっちゃんはそう言い放ちキッチンへと姿を消した。

……簡単に言うよなぁ、もう。

僕だって、そんな風に理性的に考えられたらどんなに良かったか。

困っている人を見ると考える前に勝手に身体が動いてしまうんだよ。

……それでも『無個性のくせに』と頭から否定せず背中を押してくれるその姿に、変わったなぁと独りごちる。何だかんだで前世と一番変わったのは目の前にいるこの幼馴染みなのかもしれない。

 

 

 

ニュースでは連日オールマイトについての答えのない妄想ばかりの議論が交わされるだけであまり有用性は無い。

かっちゃん特製のなんか黄色くて美味しい朝食を食べ終え(エッグベネディクトだクソがと罵声が聞こえた気がする。名前を聞いても分からない)、やる事も無しにぼーっとテレビを見る。

 

『オールマイトの逮捕後、犯罪発生率が急上昇しました。今や街の治安は個性発現の始まった超常黎明期頃にまで悪化したと言われています』

『大物敵の逮捕を受け、その座に成り代わろうとするものや志しを同じくする敵の暴動、組織だったヴィジランテ集団の一斉検挙を掲げた警察の目が無いうちにと行動し始めた新たな敵……。キリがありませんね』

『要のヴィジランテ集団の一斉検挙も、まだ目立った成果は得られていないようです。オールマイトという背骨を失った彼らは雲隠れをするかのように存在を消してしまいました』

『警察には一刻も早く街の治安回復を……』

 

ブチ、とテレビの電源が切れる。かっちゃんは無表情に手に持っていたリモコンを下ろした。

「……面白いかよ」

「全然」

 

街の治安が悪化したのはオールマイトの件もあるけれど、雲隠れしたヴィジランテ集団に善意の逮捕助力をする力が残ってないせいだ。話題に登らない程の細かい事件を地道に解決してきた彼らを逮捕せんと動く世間は、自分で自分の首を締めているのと同義だ。

 

「……治安がどんどん悪くなるね。UAはいつまで活動休止状態なの?」

「知らねぇ。イレイザーには何か考えがあるみてーだけどよ。詳しくは全くだ。

元々瀬戸際でどうにか耐えてたようなもんをオールマイトの件で決壊したんだ。人や国が変わるなりしねーといつか内戦状態になるかもな」

「内戦……」

 

そう、それ程までに治安は悪化しつつある。

犯罪発生率に対して全く足りていない警察、それに便乗するかのように増える犯罪者。個性発現前までは存在していた銃火器の取り締まりも、個性で何でも作ることの出来る今では形骸化した法律だ。

いつランドセルに通話端末ならぬ拳銃を忍ばせる親が出てきても可笑しくない状況なのだ。

 

「……」

僕は生きていないけど、前世のヒーローという職を国が認めたその前まではこのような荒れようだったのだろうか。

国が変われば、本当にこの混乱が全て無くなるのか。

……いや、ヴィジランテ集団の取り締まりが無くなるだけだ。犯罪数はヒーローの存在していた前世でも上昇傾向だった。個性使用の解禁とヒーローの容認が問題の根本的解決策では、きっとないのだろう。

 

「難しいね。みんな無個性になったら問題解決なのかな」

「バカ言え。そしたら武器が出てくるだけだ。人間が個性を持ってなかった時代だって、犯罪が無くなることは無かった」

「……そう、だね」

 

犯罪は無くならない。個性だって無かったことにはもう出来ない。

個性が無ければ銃を、銃が無ければ刃物を、刃が無ければ棒を、石を、歯を使うのが人間だ。肌の色が違うだけで争いを起こすような種族が争い無く過ごす未来は、永劫来ないのかもしれない。

 

 

その時、マンションの外が俄に騒がしくなった。

「……何?喧嘩?」

大通りに面しているとはいえ付近には閑静な住宅街のため、怒鳴り声に近い人の声など普段は聞こえない。

やべ、と顔を歪ませたかっちゃんに何かあるなとベランダから下を見やると、『異形型個性持ちの差別反対』等の看板を持ちながら歩くデモ行進の人だかりが。蛙吹さん達の姿もそこにあった。

 

「デモ隊ここも通るんだ!教えてよかっちゃん!」

「言ったらこうなるだろうが……クッソしくじった」

 

まぁベランダからとはいえ警察との距離はいつもよりも比べ物にならないほど近い。デモをベランダからじっと見つめる不審者に警察が万が一でも気付かないよう、万全を期すために僕には隠し通すつもりだったんだろう。隠せてないけど。

 

「……それよりなんか、様子が」

おかしい。

予定で聞いていたよりもデモ隊の人数がかなり多い。それなのに警察が2、3人しかいない。警護には相澤さんと、他にちらほらとのみ。明らかに人数不足だ。

声を張り上げて興奮している大人のうち数人は酒を手に持っていた。先ほどの怒鳴り声は彼らのようだ。

 

「……マナーもなにもねぇな」

「やばそうだね。相澤さんも流石に対応しきれてない……」

「いくらなんでも個性も武器も無しに群勢相手に1人はな」

相澤さんの得意とする戦法は一対多だ。しかしそれは個性や捕縛武器があってこそのものだし、相澤さんの個性は異形型には効果がない。警察が間近にいるあの状況下で飛び回ることも出来ない。

八方塞がりだ。

 

 

そう危惧していれば、すぐに恐れていたことが起こる。酒を片手にしたデモ隊の一人が警備隊に殴り掛かったのだ。

場がにわかに騒がしくなる。

 

『私達は身体が悪い訳じゃない。同情も配慮も差別もいらない、ただ普通の人間として生きたい』

そう涙ながらに語った蛙吹さん達。未来を広げたいがための、そのためのデモ活動なのだと。

けれどこのままだと、デモが中止になるどころか本当に逮捕者が出てしまう……!

 

 

「……まずいな、俺は加勢に向かう。

お前は動くなよ、良いな」

「……」

「動くなよ!」

返事を聞かず玄関から出ていくかっちゃん。

ガチャガチャ、ジャラリと普段聞こえない鎖のような音に違和感を覚え、玄関の扉を開けてみる。……あかない。

 

「……かっちゃんのやろー、外から南京錠掛けやがった……」

僕のことを何一つ信用していないかっちゃんは最後の手段として物理的な軟禁に打って出たようだ。

「……ばかっちゃん。出口は一つじゃないんだよ」

 

僕は先ほどの『動くなよ』に、返事をした覚えは無い。

物事の優先順位?自分の重要性?

わかってるよ、そんなこと。……それで?

 

目の前に助けを求めてる人がいるのに、助けない理由にはならない!

もし僕がここで捕まったとしても、大人しく部屋の中で守られたままじっとやり過ごす選択肢を取れば良かったなんて、微塵も後悔しないのが今からでも分かる。

 

行動しない安寧より、行動した末の逮捕なら僕は喜んで受け入れよう!

何より───

 

「オールマイトに、顔向け出来ないじゃないかッ!!」

 

僕はベランダに足をかけ、そのまま下へダイブした。

 

 

 

 

 

 

ダン、と前世で散々実践してきた力の逃し方を応用しつつ確かに地面に着地する。

 

「……よしっ」

 

色々と危機一髪だった自殺紛い・窓から大ジャンプとは違い、ここは2階で地面は花壇用の柔らかい土だ。小さかった窓とは違い広いベランダのため落ち方も安定させることが出来る。変な着地をしてしまうような素人でも無いし、怪我なくマンションの一室から逃げ出す算段は付いていた。

足先に少しだけじんとした痛みを感じながら、すぐそこの騒ぎの元へ駆け出す。

 

上から眺めているより、事態はかなり切迫していた。

まず酒で暴れる大人の人数に対し取り押さえる側の警官の人数が全く足りておらず、数人が野放し状態だ。

大半のデモ隊はただただオロオロとするだけだが、中には暴動を止めようとする人も。しかし大混乱した現場で暴れる人もそれを止めようとする人もごちゃごちゃに見えるのか、一体誰をどう止めたら良いのか警察が全くわかっていない。

全く暴れていない関係の無い人すら手頃なところに居たら適当にパトカーへと投げ入れ始める始末だ。いくら場が混乱しているとはいえ、余りにもこれは酷い。

 

「は、なしてっ……!私はなにもしていないわ!」

「分かった分かった、とりあえず言い訳は署でね!」

聞こえてきたのは、取り押さえられそうになっている蛙吹さんの声。

相澤さんは酔っ払いに絡まれる万偶数さんを助けるのにいっぱいいっぱいで、蛙吹さんの方にまで意識がいっていない。

……かっちゃんは見える範囲にはまだいない!

 

 

 

迷うことなく警官から蛙吹さんを庇うようにして間に割って入った。

 

「僕の友達に何してるんですか!彼女は暴れていない、何をしたって言うんだ!」

「何なんだ君は!いきなり入ってこないでくれるかな!!」

「この子より先に捕まえるべき人が他にいるだろって話だ!!」

 

反対側からかっちゃんが走ってくるのが見えた。かっちゃんも僕を見つけたのだろう、警官と真っ向から対面している僕を見て顔色がさっと変わったのがわかった。

 

「はいはい、言い訳はだから署で聞くから、とりあえず車乗って!君もだよ、警察のお仕事の妨害するのは立派な犯罪だからね!」

「そんな、赤谷ちゃんは私をッ」

 

まずい……場の混乱に乗じてデモ隊全員逮捕でもし出すつもりか。

そんなことになればせっかくの個性使用を促す風が台無しになるどころかデモ隊全員に威力業務妨害の前科が付けられる可能性だって出てくる。

こんなことが起こらないように相澤さんを付けたのに、これじゃ全て水の泡に───!!

 

 

「ったく、忙しいってのに。おい、新人!こっち来い、手伝え!!」

 

不味い、何か策はと頭の中をぐるぐるさせていると、特徴的な紅白の髪をした男の子がやって来た。

 

 

……どくんと、心臓が跳ねる。

 

「こいつらうるさいから先に連れていけ。大型だしパトカーにあと数人入るだろ。ついでに応援呼んでこい」

「……わかりました。でも」

 

瞬間、パキッと音を立て彼の氷が辺り一面に広がる。

薄く広範囲に敷かれた氷は、酒を煽り暴れていた大人数人だけを確保し、身動きが出来ないようにしていた。

 

「うるさいの、この人達だけですよ」

「お、……おう」

 

余りの早業に、辺りがしんと静まりかえった。

警察の個性使用は、法的に認められている。

しかしここまで見事な個性の制御が出来るのは、相応に訓練を積んだからであろう。見るからに若く上司だろう警官に『新人』と呼ばれる彼には不釣り合いな程透けて見える研鑽の証。

 

 

……まさかここで前世での知り合いに出会うとは。

 

轟焦凍。

前世では学生時代からトップを張る実力者で、複雑な家庭環境に苦労した努力の人。

 

キロリと冷たい目を向ける轟くんに、ぞっと寒気がした。

そこに前世で向けられていた穏やかな温度感は一切存在せず、凍てつく視線に神経が麻痺しそうになる。

 

前世でのヒーロー仲間はみんな正義感が強い人ばかりだ。そしてその傾向は今世に置いても顕著な場合が多い。

ヒーローになったかっちゃんや相澤さん然り、僕を守ろうとした麗日さん、世論を変えようと立ち上がった蛙吹さん万偶数さん然り。

その人達がヒーローが悪という世界において警察やそれに準じた職を希望する可能性はとても高いだろう。目の前の彼のように。

 

酔っ払いに絡まれ腕に痣を作った万偶数さんも事情を聞くからと問答無用でパトカーに乗せられてしまった。

険しい表情を浮かべる相澤さんとかっちゃんを背に、僕と蛙吹さん、万偶数さんは轟くんの運転する車に乗り込む。

 

かつての同士と刃を交えなければならないのか、と正義が分散し混乱する世に心の中で唾を吐きかける。

 

パトカーに乗せられ小さく震える梅雨ちゃんの手を、安心させるようぎゅっと握った。

 

 

 

*




・個性使用許可証
警察官と自衛隊、一部個性の有用性が認められた医者や看護師等にのみ許可される個性の限定使用許可証。仕事に有用と判断された場合のみ使用許可の試験への参加資格が与えられる。
仕事以外での使用は認められない、警察組織と自衛隊以外は管理の効く半国営機関以外での使用は禁止(開業医や個人経営等)と色々制約が多い。
勝己が医大生なのはこの許可証狙いのため。
発行には個性制御のための厳しい訓練と試験があり、毎年その合格率は1割程度。



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Game start

 

 

 

異形型個性の差別を無くすためのデモ活動は暴動により警察に差し押さえられるという、ある種最悪のパターンでの失敗を迎えてしまった。

どんよりと息苦しい程の沈黙を保つ車内。

轟くんが運転するパトカーは一般車とは違い広々としたワゴン車で、狭い空間に蛙吹さん万偶数さん僕3人の他に4人が同乗していた。

 

「で?ここから一番家が近いやつは誰だ」

 

「……え?」

違う意味でぽかんと固まる面々は、轟くんの放った言葉の意味を理解出来ずにいる。

「家まで送って……いや、それは嫌か。最寄り駅まで送ってやるよ」

 

なんで、警察に行くんじゃと誰かが零す。全員が全員、連行され何かしら自分の経歴に傷が付くことを覚悟していた。

 

「お?先輩はあの場にいたら色々不味いことになるだろうから先に逃がすために罪のないお前らだけ隔離したんじゃないのか。

『うるさい』奴らにここにいるお前ら関与していなかったのは俺も見ていた。

そいつらはもう俺の個性で捕獲済だし、あとは署に連れてくための応援の車が何台かあれば充分だろ」

 

なんと、あの人の話を聞かない警官が発した『先に連れてけ、応援呼んでこい』を『ここは危ないから関係ない人は先に連れ出せ、逮捕者確保用の応援を呼んでこい』に聞き取ったらしい。

……がっつり警官の前に素顔を晒している僕ですら、全くお咎めなしで返されそうとしている。

 

 

平和な勘違いをしている轟くんの誤解を解くメリットも無いため、全員が駅前の道路脇で下ろしてもらうことになった。助かったとあからさまにほっとした顔の集団。蛙吹さんと万偶数さんは轟くんに向け深くお辞儀をした。

 

しかし僕だけが車内に残っていることに、轟くんは少しだけ首を傾げた。

「お前はここから遠いのか?」

「……なんでですか」

 

なんでとは、とまた首を傾げる彼に向かって、ほぼ確信じみた考えの元問いただす。

「あの状況下で彼らを勝手に返すなんて、普通しませんよね。暴力沙汰は引き起こしていないとはいえ、立派な関係者です。なんでわざわざ嘘を?」

「嘘?なぜ嘘だと言える?」

「……貴方、初めて僕の顔見た時一瞬だけど驚いた顔したよね。そして睨んだ。……僕のこと、知ってるんでしょう。

分かってて一緒に逃がそうとした」

 

そう、あの場にいた警官の中で唯一僕の顔を見て反応したのは轟くんだった。

今一番捜査に力を入れている案件の重要人物を間近で見て気付けないのはそれって警官としてどうなんだとは思うものの、あの混乱した状況下じゃある程度は仕方が無い。

実際そのうっかりに命拾いした訳だし、そこについて何か言うことはあるまい。

しかし、轟くんは違う。彼は僕をきちんと認識していた。冷たい目で、確かに僕を視ていた。認識した上でなにも聞かず帰そうとするなら、すなわち───

 

 

 

「……お前はいらないことに首を突っ込むのは止めたらどうだ、緑谷出久」

 

……やっぱり。

「……いらないことじゃないよ。少なくとも、勝率がゼロならこんなこと言い出すつもりは無かった」

「お前は……」

はぁ、と深いため息を付かれる。

───予感が確信に変わった。

 

 

「……UA構成員、轟焦凍だ。

オールマイトの件のすぐ後だ、やたらに警官の前に顔を出すんじゃない。今回は運が良かっただけだぞ」

 

 

轟くんはこっち側の人間だった。

警察の皮を被りヒーロー側にも通じる、いわばスパイ的立ち位置。新人と呼ばれていたし、まだ重要な情報が耳に入るとは思えない。が、それでもかなりの危険性を孕む役回りだろう。

 

「……それに関しては、ごめんなさい。警察官にもUA構成員って多いの?」

「俺と創立者の1人でもある塚内さんが主立って。

他に数人いるが地方勤務なせいであまり動けない。今回のようなラッキーは今後無いと思えよ、ギリギリだったんだぞ。

緊急時の対応でイレイザーにデモ隊警備メンバーに紛れ込めと言われていたが、本当に頭が上がらないな」

「うぅ……」

 

相澤さんはこうなることを予期していたかのようだった。……結局僕が飛び出した意味はほぼ無く、いたずらに警官に顔を見られ危うく逮捕者を増やす所だった危険な行為。

……情けない。守るために飛び出したのに、逆に助けられることになるとは。

 

「今回ばかりは爆豪に同情する。護衛対象がこんなじゃじゃ馬だとはな。なんのためのボディガードだ。大人しく守られてるのがお前の仕事だろ」

「うぅ……」

 

今現在無力な僕が何をしても周りに迷惑をかけてしまっている。

かっちゃん然り、麗日さん然り。

 

僕が男だった頃、周りを見ずに一人で突っ走る事を何度も色々な人から注意されたのを思い出す。あの頃はまだ個性もあり守る力もあったからギリギリ結果を出せていたけれど、今はそれすら存在しない。ただの、木偶の坊だ。

 

「今回は、その……ありがとう。僕と蛙吹さん達を助けてくれて。轟くんは僕達のヒーローだよ」

「ヒーロー、か。

……俺にはお前みたいな事情もオールマイトみたいな崇高な理由も何も無い」

「?それってどういう」

「……別に。ほら、騎士様がお待ちだぞ」

 

指差された先には、肩で息をしつつも般若のような形相で僕をにらむかっちゃんが。マジかかっちゃん。車に追いついたのか、足で。……こんな往来でまさか個性、使ってないよね……?

 

「き、今日はありがとう轟くん!今度事務所に来てね、何か今日のお礼させて!」

 

そう言い返事も聞かず車内から飛び出した。かっちゃんに首根っこを掴まれるものの、逃げ仰せられる訳も無く大人しく連行された。

 

 

「……頭はよく回る、けど無個性で無力の正義感が強い女、か。

なんでオールマイトはあんなのにUAを託したんだか。血縁者か何かか?」

 

 

 

 

 

 

「ったくお前は本当に!!」

 

5度目である。

帰宅後烈火の勢いで正座させられ説教を受けている最中であるが、この台詞5度目である。あと3時間は開放されない未来しか見えない。

 

「自覚が足りてないようだがなぁ!

お前は今大犯罪者八木俊典が最後に会話した人物として名前が上がってるんだよ!

ただのファン、ただの通行人としてならまだ良かったが、お前は警察の捜査を振り切り逃亡。思いっきり関係者ですって言ったようなもんだ!

今はまだお前の前科が洗えてないからキーパーソンとしての域は出てないが、対応は指名手配犯そのもの!

捕まったら最後、洗脳系の個性で洗いざらいなんてことも覚悟しとけッ!!」

「……せ、洗脳系……」

 

そんな非人道的な捜査方法を警察が使うとは。自白剤もびっくりだ、犯罪者ですらない一般市民に対して黙秘権すら使わせて貰えないなんて。

 

「……お前に見せるか迷ってたんだけどよ」

 

机の上にどさどさ、と置かれた紙束。表紙は白く、クリップで止めてあるだけのそれは3束程あった。

 

「これは?」

「警察内の要注意個性持ちのリストだ、見ただけで犯罪者。超トップシークレットの敵からしたら涎ものの資料だな。

正直お前をクリーンなまま保護するかと散々悩んだが、どうせこのままならまた勝手に突っ走っていつか捕まるだろう。

捕まったら最後、オールマイト関連をペラペラ喋ってジ・エンドだ。なら自衛しろ、そのために相手を知れ」

 

と、言いたい所だがとかっちゃんは資料の上にすっと手を置いた。ニトロの香りが漂う。

 

「犯罪者の仲間入りする覚悟はあるか、木偶の坊」

「僕は犯罪者にはなるつもりないよ。僕がなりたいのはヒーローだ。

……でも確かに、内部資料を勝手に見るのは良くない、良くないね」

「即答かよ……何が言いたい」

 

訝しげに睨んでくるかっちゃんの腕を押しやり、僕はその紙束をひったくる。爆破されてたまるか。

 

「かっちゃんはうっかり机の上に盗んだ資料を放置した。

興味本意で僕が覗いちゃっても仕方が無いよね?反抗する手立ても予定も無い無個性で善良な一般市民の僕には、それを見たとしても実行に移す気も手段が無いんだから」

 

 

「……良い性格してやがるじゃねえか」「そ?」

 

歪に口元を歪ませたかっちゃん。

正義と悪の定義が曖昧なこの世界でヒーローとして生きるには、自分の確固たる意思が最重要だ。僕の意思?僕の意思なんて決まってる。

 

───人助けなんて正しい事した人間が、捕まってたまるかって話だよ。

 

 

「……まぁ覚悟があんなら良い。勝手に使え。それと、これ」

チャリ、と手渡されたのはネックレスと小さな鍵。

鎖の先には小さなボトルのような形をした銀色の物体。全くデザイン性は皆無で可愛くもお洒落でも無い。女性用にしては武骨で男性用にしては少し小振りだ。

 

「これ……?」

「お前、オールマイトからなんか預かってんだってな?随分小さいがイレイザーは最重要機密だっつって教えてくれなかったけどよ。

指紋認証、音声認識、暗証番号にアナログの鍵の4段構え特殊合金構造。個性持ちの職人が作った一点物だ。勿論非合法だがな。

実弾レーザー果てには核でも破壊不可能。預かりモンそん中入れて肌身離さず付けとけ」

「何その最強なネックレス……ありがたいけど……」

……僕が暗証番号忘れたらどうなるんだろう。鍵ってこの小さいの?無くしそうで怖い。

地球が滅んでもこのネックレスだけは無傷で日々を過ごしそうだ。

 

「……お前、今まではどうやって保管してたんだ」

「え、普通にジップロック……」

「アホか!!」

 

別に常に持ち歩くものでも無いため、今は僕の生活用品の置かれている隅の方にある小物入れにジップロックも一緒にぺぺっと入れてあった。勿論ちゃんと毎日無事を確認している。

かっちゃんに見つかったらキモがって確実に捨てられるだろうからちょっぴりハラハラしてたんだぞ、説明する訳にもいかないし。

 

事情を知らないかっちゃんには後ろを向いてもらいつつ、とんでも性能のネックレスにオールマイトの髪の毛をそっと移し替えた。認証系があまりに複雑なのもそうだけれど、暗証番号が16桁なのには目眩がした。覚えられる気がしない。

苦戦しつつもようやく無事髪の毛を移動させロックすることに成功し、ネックレスを首元に持ってくる。

……やっぱり女の子が付けるにはちょっぴり武骨すぎる気がするな。普段は服の下に隠しておいて、もし見つかったら彼氏が私物をくれたとでも言っておこう。いつの間にか定着してしまったかっちゃんの彼氏設定が役立つし、かっちゃんがくれたのは事実だ。

 

「よし」

もさもさの髪に若干苦戦しつつも鈍く光るそれをきちんと付け、見て見てとかっちゃんを呼んだ。

 

「どう?」

「……機密資料にどうもクソもあるか。見た目気にするなんて随分女みてぇじゃねぇかよ?」

「……一応僕、女なんだけど」

「忘れとったわ」

 

 

見た目もさることながら、仕草や口調が男の子みたいとは麗日さんからも実は指摘されていた。

ボサボサのくせっ毛に化粧気の無いそばかすの散った肌。凹凸はあれど女性らしい身体のラインが出るのが嫌で、いつも大きめなメンズものを着ている。

 

女性の身体に違和感はもう無いけども、今からいきなり色々女子っぽくするのは抵抗がある。

自分が今女である事を受け入れはしたが、可愛い女の子を目指したい訳でも無かったのだ。制服のスカートは良くても私服でまでふわふわさせる意味はないと思う。

 

……でも、かっちゃんからあんな風に言われ続けるのは何か癪だな。

 

むーと唸りながら万年床化しつつある布団へとダイブ。かっちゃんは布団を出しっぱなしにするのが嫌いのようで、ケッと軽く悪態をついてキッチンへと消えていった。

 

なんで癪なのかは自分でもよく分からない。女の子扱いして欲しいとか?

───まさか。

 

 

手持ち無沙汰に持ってきた資料をぱらぱら捲る。

資料には顔写真、名前、生年月日に階級、個性の事細かな情報と1人ずつ丁寧に記載されていた。個性使用に必須となる試験には、各個性を上手く使うためそれぞれに合った試験が用意される。一人一人その試験内容はがらりと変わってくるため、このように周到な情報収集が必要なのだろう。

……その情報がこちら側に漏れてるとなれば、危機管理意識大丈夫?と言いたくなるが。

 

ふむ、索敵能力に筋力増強、飛行能力に暗視の個性。どれも強力そうだ、顔は覚えておいて損は無い。

 

「……えっ」

見覚えのある顔にページを捲る手が止まる。

……取り調べで成果を上げまくっている敏腕刑事として注意者表記がしてあった。

……洗脳、彼のことだったのか。

心操人使。

確かに彼の個性は初見殺しもいい所だ。

 

 

再度ぱらりとページを捲れば、前世で見覚えのある姿よりもかなり大人しめ……というか、燃え盛る諸々を抜いた強面な男の顔が出てきた。

 

「エンデヴァー……」

警察にはヒーローと違いコードネームは存在しない。

そのため本名である轟炎司と記載されていたが、強力な個性持ちの警察大幹部、次期警視総監だと言われている超大物な人物だった。

表立って個性を使ってはい解決、とは行かないのが今世の警察職だ。あくまで個性は最終手段の拳銃。それを抜く時は相応の覚悟を持ってしなければならない。

ヒーローじゃない彼がそれでもここまで上り詰めたのはその才能と努力故だろう。

……個性について抑圧の厳しい今世、個性婚なんて言葉は存在しない。

前世では子育てに苦戦してしまった彼だけど、今はそんなすれ違いが無かったら良いな。……ね、轟くん。

 

 

ぱらりと最後のページを捲る。

ぎく、と身体が硬直するのが自分でも分かった。

 

「……うそ……」

 

余りにも見覚えのあり過ぎる、禍々しい顔。

その男の名は全田一郎。……言いたく無いが偽名だろう。

オールマイトとの直接戦闘後、大怪我を追い現場から離れたが相談役として未だに強い権力を持つ大幹部。

 

間違い無い、───オールフォーワン。

 

なんで、あの悪意の塊みたいな人が警察組織に。

……今世で改心でもしたか?いや、しかし今まで出会ってきた前世での知り合いは皆生き方は違えどその志だったり根っこの部分は変わらないという共通点があった。

彼だけが例外なんてことがあるのか?

しかし無かったとしてもこの、警察組織にいる今の現状は一体……?

 

 

頭がぐちゃぐちゃになり、一旦資料を閉じた。わからない、不確定要素が多すぎる。

 

「オールマイト……」

あなたが僕に個性を託そうと思ったのは、彼がいるからですか。彼への対抗手段を持つために、後継が必要なんですか。

───悪とは何で、正義とは何なんでしょう。

僕は、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いい加減にしてくれ、全田さん」

 

警察内、とある会議室にて。

炎司はバン、と力任せに机を叩いた。

 

「私達はあなたに恩義がある、力を貸せと言うなら貸そう。

だから勝手に警察外の人間で私設部隊を組織するなど、敵と変わらん事はいい加減辞めて欲しい」

 

「硬いねぇ轟炎司くん。わかった、わかったよ。組織は解散させる。近いうちね」

「……約束だぞ」

 

バン、と部屋を出ていく炎司。備品を壊しそうなその勢いに、言葉にせずとも強い憤りを抱えている様は実に全田の愉悦を誘う。

 

 

 

「楽しい、楽しいなぁオールマイト。

前世では平和の象徴だったお前は今やただの敵で、敵だった私達は正義の味方と言うわけだ。

思想が変わった訳でも目的が変わった訳でもない。世の中の仕組みが違う、ただそれだけ」

 

さぁ、と椅子をきいっと鳴らす。

オールマイトはもう既に手中に収めた。後は、彼の駒である残りカスのようなヒーロー達だけ。

 

「君の駒をズタズタにして、君の前に肉塊を置いてやろう。どんな顔をするだろう。楽しみだなぁ」

 

ゲーム・スタートだ。

 

 

 

 

*




轟焦凍
幹部の轟炎司のご子息として鳴り物入りのエリート新人23歳。まだまだ下っ端だけどもその仕事ぶりに信頼は厚い。UAヒーローとしての側面も持ち合わせている。

轟炎司
轟焦凍の父親。警察組織の大幹部。

心操人使
彼以外にも警察勤務の元デクの知り合いは数人在籍している。

全田一郎
前世、オール(全)フォーワン(一)。オールマイトの言う「もう1人の前世の記憶持ち」。
オールマイトとの過去の激戦で顔の造形がほぼ焼け爛れたかのようになった。その影響で第一線は退いたものの、警察内部の崇拝者は多い。


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Raid

 

 

 

「えっ、彼氏さんをドキドキさせたい!!?」

「何故そうなる!?」

 

 

デモが終わった事、轟くんから助けてもらったこと、オールフォーワンの事……。

ここ数日、色々と衝撃的なことが多すぎて頭が若干パンク気味だった。

ぼーっとする私を心配したのか麗日さんはいつもの公園で最近発売した流行遅れ気味のタピオカ入りドリンクをズルズルしつつ、遠慮がちに「何かあったの?」と聞いてきた。

 

全てぶちまけてしまいたい気持ちが無いわけでは無い。しかし無関係な麗日さんに何もかもを言う訳にもいかず、捻り出した答えが『かっちゃんの僕を女とも思っていないような発言ヤバいよね』というもの。自分で言ってこれは失敗だったなと苦笑した。

 

元々僕は女扱いを望んでいる訳でも無ければ女の子らしさを追求したい訳でも無い。

だからかっちゃんの評価は妥当だとは思うものの、実際突きつけられればイラッとするのは僕の身体が女性だからなのか。

 

「だって女の子じゃない的な発言されてもやっとしたんでしょ?」

「う……でもそれは、別に私が可愛くなりたいとかそう言うんじゃなくて」

「わかるよ海雲ちゃん!

今までおしゃれになんか気を使って来なかったのにいきなりそういう気持ちが芽生えてモヤモヤして気恥しくてでもちょっと興味があるんだよね!!思春期!!」

 

しかもきっかけが彼氏!!と見悶える麗日さん。

何だか盛大な勘違いをされているようだけれど、楽しそうだし黙っておこう。

 

思春期……思春期ねぇ。

彼女の言うこの気持ちは、本当に思春期のそれなんだろうか。

精神年齢的に見ればとうの昔に過ぎ去った若かりし頃。身体年齢に精神も引っ張られつつあるのは自覚があるが、そんな甘酸っぱい経験が前世にあった訳でもなく良くわからない。

……男にも女にもなり損なった、木偶の坊の僕が。そんな普通の女の子みたいな。

 

「……でも、やっぱり僕の全部を女の子らしくすることは出来ない。それは僕じゃないし、嫌だ……」

そう、男の僕が言う。

「それでも、なんかかっちゃんに舐められたままなのも、ムカつくんだ」

と女の僕が言う。

もうぐちゃぐちゃだ。

 

「海雲ちゃんはさ、どうせ大人になったらお化粧はビジネスマナーとして覚えなきゃだよね。抵抗ある?」

「……ちょっと。

でも、おしゃれって意識じゃなくてマナーとしてなら、まだ我慢できる、かも」

「そかそか。じゃあボーイッシュな海雲ちゃんも恋する乙女な海雲ちゃんも両方納得できる綺麗を探してこうよ。それでもなんか文句言ってきたら、そんな彼氏捨ててやれ!」

「だから恋とかじゃ、」

 

違うと言いかけて、一応かっちゃんが彼氏設定なのをすんでのところで思い出す。

……恋してないし乙女でもないけども!!

 

両方が納得できる綺麗。ちょっとだけ気持ちが楽になった。

……そっか、男の僕も女の僕も、両方僕だ。どちらかを抑えつける必要なんか、無いのかもしれない。

物事に絶対的な正答なんて分からないなんてこと、この世界に来て嫌ほど思い知らされたのは他でもないこの僕なんだから。

 

 

「とりあえず買い物だ!ごめんだけど私はあんまり美容に割いてるお金は無いからほんと基本的なアドバイスしかできへんけど」

「ううん、ありがとう」

 

今日は放課後寄り道する旨をかっちゃんに連絡すると、『俺も用事が出来た。別の奴を遠めに護衛に置いておく。気付いても接近はしなくていい』とのお言葉があった。

僕が一人で行動することを何よりも嫌うかっちゃんは、行く先々でおそらく尾行し迎えに来た体でドナドナ連れて帰られる僕の姿はもう友人達の間で有名だ。そんなかっちゃんが、僕を置いて用事。

珍しい事もあるものだとカラになったボトルをゴミ箱へ投げ入れ、麗日さんと一緒に市街地へと向かった。

 

 

着いた先のドラッグストアはかなりの敷地面積で、いつも栄養ドリンクや日用品しか買わない僕にとって独特の匂いのする化粧品コーナーは未知の領域だ。ちょっと緊張する。

「とりあえず海雲ちゃん、洗顔とスキンケアとムダ毛のお手入れから始めよ」

「せんがんとすきんけあとむだげのおていれ……」

復唱するものの洗顔までしか頭に入ってこなかった。

 

「お化粧はとりあえず置いておこ。まだ抵抗あるだろうし、高校生でそれが必要な場面って限られてくるし。デートとか」

「しません」

「即答ってそれはそれでやばない……?」

 

だって本当にしないんだもん。

荷物持ちしろやオラァ!と首根っこ掴まれて行ったショッピングセンターや私服が壊滅的にダセェ!!と首根っこ掴まれて出かけた先でオールマイトグッズの闇市を見つけ二人で思わず散財したりしたのがデートと言えるなら別だけども。

なんか違うなと言うのは経験が湯葉のように薄く浅い僕にすらわかるぞ。

 

そんなこんなで洗顔用石鹸から始まりありとあらゆる基礎化粧品を買っていった。

肌のキメと眉毛を整えるだけで印象ガラッと変わるから!というのは麗日さんからのみことのり言葉だ。

今まで意識していなかったけれど、本当に女子って男子が思いもよらなかった所まで努力をしているなと驚かされる。知識の無い僕には眉毛を剃って抜いて化粧で書き足す意味がわからない。え、形が違う?平行、アーチ……何語?

 

「あとは可愛い髪ゴムとか欲しいんだけど……さすがにドラッグストアには無さそうだね。残念」

「も、もうお腹いっぱいです……」

 

そんなこんなで麗日さんとのショッピングは幕を閉じた。色々言われはしたものの、いつもの洗顔と保湿に加えムダ毛のお手入れをする項目が追加されただけだ。これでまだ化粧の前段階。まだまだ道のりは長い。

頑張ろうね!と無駄にキラキラしている麗日さんに否定的なことは言えなかったけれど。

 

かっちゃんのせいで色々大変なことになってきたのだと一言文句でも言ってやりたい所ではあった。

 

しかしその日かっちゃんが帰宅することは終ぞ無かったのだ。

 

 

 

 

 

週末、また相澤さんから事務所の番を頼まれた僕は久しぶりにかっちゃんと対面した。

あれからかっちゃんは週末までほぼ家に帰らず、帰ったとしても僕が学校に居る間だったり夜中だったりですれ違いの生活が続いていた。

心なしかかっちゃんがやつれて見える。

 

「……大丈夫?大学、忙しいの?レポートとか?」

「あ?……これはちげえ。仕事だ」

「仕事……って、UAのヒーロー活動再開したのっ!?」

 

聞いてないんだけどと思わず立ち上がれば、

「それもちげえ」

と制止させられた。

 

「じゃあ何さ。夜もほとんど寝てないじゃないか。いつか倒れるよ」

「うっせーな、今は仕方が無えんだよ」

いくら聞いても『うるせえ』しか言わないかっちゃんに全くとため息をつく。

仕事……かっちゃんは今バイト等は何もしていない筈だ。UAの活動再開がいつになるか分からない今、新しく仕事を探すとは考えにくい。

ならば、やはりUA関連の任務中だと見て良いだろう。僕に何も話してくれないのは激しく不満だが。

 

 

それから暫くすると、蛙吹さんと万偶数さんがやってきた。

元々契約終了のために一度顔合わせをしようと言っていたため、この訪問はこちらも把握済みだ。

「今回はありがとうございました。結果は残念だったけれど、ここを頼った甲斐はあったわ」

あれからデモ隊は逮捕者を出し、マイナスの印象がどうしても拭えない結果となった。しかし轟くんのおかげで被害は最小限に留められ、蛙吹さん達の経歴に傷が付くことにもならなかった。そこだけは幸いだ。

 

「いや……デモ隊を抑えられなかったこっちの不手際だ。悪かった」

珍しく素直に謝罪するかっちゃんに、とんでもないと蛙吹さんらは首を横に振った。

 

「私達、デモ隊の警備を頼んだ覚えは無いわ。あくまで私達の身の安全のためにお願いしたのよ」

「……」

「だから赤谷ちゃんが助けに来てくれたこと、凄く嬉しかったの」

「そんな……僕何も出来なかったし」

「それでもよ。

赤谷ちゃんは本来事務員なのでしょう?なのに身体を張って私達を守ろうとしてくれた。まるでヒーローみたいだったわ」

 

だからありがとうと、僕の考え無しの短絡的な行動に意味をくれる蛙吹さんの一言にじんときた。

「……とにかく警察がうまく誤解してくれて良かった。今後何か調査が入った場合は下手に反抗せずこちらの連絡先を伝えて欲しい。相澤からそれくらいのことはさせて欲しいとの言伝だ」

「ぜひそうさせて貰うわ」

 

轟くんの睨みが効いている今そんな事にはなり得ないと分かってはいるものの、これは依頼者は知らなくて良い情報だ。当たり障りの無い事務連絡を告げ報告を終える。

 

「また何か困ったことがあったら相談乗るからね」

「ありがとう……あのね、」

「ん?」

「私達、赤谷ちゃんとお友達になりたいの。ダメかしら?」

「!!!!ダメじゃないよ……!!」

 

梅雨ちゃんと呼んでとケロケロ笑う梅雨ちゃんに嬉しくなる。早速メアドを交換し、連絡先に新たに加わった名前に頬を緩ませた。

見て!とかっちゃんにスマホ画面を印籠のように差し出せば、ふんと目をそらされてしまった。

 

「……ま、積もる話はあるだろうがそれはまた今度だ。下まで送る」

いつもの如く冷たいかっちゃんにも、機嫌の良かった僕はスルーすることが出来たのだ。

そう、このあとにやってきた一人の訪問客に会うまでは。

 

 

 

 

「失礼!」

頼まれていた事務所の番の時間にも終わりが近付いていたため、そろそろ帰り支度をと思っていた所だった。

無駄に威勢のいい声と共にドアが大きく開閉する。

そこにいたのは、近くの名門高校の制服を身にまとったガタイのいい男の子……そして僕にとっては見覚えのあり過ぎる男の子だった。

 

「君たちはUAのヒーローなのでしょうかっ!!?」

「ッ!?」

唐突にそう言い放った彼に殺気を隠しもせず

「……なんだてめぇ」

と呟くかっちゃん。

一般人に向かってその目つきはヤバいよと思いつつも、警察にすら一切漏れていないはずの事務所の正体を当てた男の子に僕も思わず身構えた。

一瞬彼もUAヒーローなのではと思ったが、かっちゃんの顔を見ればそれも違うことが伺える。

 

「申し訳ない。そうだな、警戒されるのも当たり前だ。俺の名前は飯田天哉。

……UAヒーロー、インゲニウムの弟だ」

 

学生証を礼儀正しく提示してくる飯田くんに毒気を抜かれる。

……UAヒーローの、家族。

 

そういえば、ヒーローインゲニウムは今世でもかなりネームバリューのあるヒーローの1人だ。

その弟である飯田くんが、この事務所に一体……?ヒーローの活動は、それこそインゲニウムのように名の知れたヒーローは身を隠しているはず。

学生証とお兄さんそっくりな顔を見て、警戒心は解いていないものの納得はした様子のかっちゃんは顎でソファをさした。

 

「……それで、ヒーローのご家族サマが一体なんの用件で」

自らをヒーローだと言質を取られないようにはしているが、一応話を聞く気になったらしい。向かいのソファへと飯田くんを案内した。

 

「……兄さんが行方不明なんだ。連絡も取れずに心配している。兄さんはヒーローであることを隠していたようだけれど、あんなに目立つターボエンジンを搭載したヒーロー、家族ならすぐにピンときた。

だから警察に捜索届を出すことも出来ず……。自分になにかあった時にとここの住所だけ記載された兄さんの手帳を見つけたから、何か知らないかと訪ねさせて貰ったんだ。だから、君らが兄さんの仲間なのかと」

「……インゲニウムか」

 

呟きつつ黙り込んでしまうかっちゃん。

どうやらここがUAの事務所だと確信があって訪れたと言うよりも、手がかりを求めて書いてあった住所を頼りにきたようなものだったらしい。

事務所の場所が露呈した訳では無い事に少なからずホッとするが、インゲニウムが行方不明というのに引っかかった。

 

「心配ですね……」

「あぁ……。どうしても安否が知りたくて、アポイントも取らず不躾にこちらを訪ねてきてしまった。どうやら会社のようだが……仕事中に申し訳ない」

「いえ、気にしないで下さい」

 

眼鏡の奥にはうっすらと隈が見え、憔悴している様がありありと伝わってくる。

どうしよう。力になりたいけど、こっちには情報も戦力も……。

 

 

「……最近、ヒーローばかりを襲う敵があちこちで発生してやがる。インゲニウムはうちのツテがある病院で療養中だ。病院には指名手配犯がゴロゴロいるせいで、今連絡は一切遮断してる」

 

 

かっちゃんは静かにそう言った。

……ヒーローを襲う、敵……?

そんなの、僕、知らない。

 

聞いてないん、だけど。

 

 

 

「そうか……生きて、いるのか」

と小さく呟いた飯田くん。

 

「……襲った犯人については、まだ捜索中だ。全く足取りは掴めていない。

……インゲニウムは隠していたんだろ、ヒーローだってこと。反対しないのか」

「もちろん、危ないことはして欲しくない。けれど兄さんは昔から正義感の強いひとだった。兄さんのやろうとしていることは……反社会的かもしれないが俺は立派だと思うし、尊敬しているよ」

 

とりあえず、とすくりと席を立つ飯田くん。

目に覇気が戻り、口元にはうすく笑みを浮かべていた。

「教えてくれてありがとう。恩に着ます。このお礼は必ず」

「こっちは事実を伝えたまでだ、もう来んな」

 

しかしニコ、と無言で拒否の意をしめし飯田くんは礼儀正しく礼をし帰っていった。

 

 

 

 

 

「……かっちゃん、どうしてヒーローが襲われてること、僕に言ってくれなかったの」

 

飯田くんの手前怒りを抑えていた。静かに問う。

知らない情報だ。回答を一瞬渋ったのは僕に知られたくなかったことだからだろう。何故、何故隠すんだ。

 

「最近帰りが遅いのって、ヒーロー襲撃事件の調査に駆り出されてたから?害されたのがヒーローだから、警察組織の捜査能力には頼れない。

それ、UAにとって一大事だよね。なんで言ってくれなかったの」

 

「必要無いからだ」

「はぁ!?あるだろッ!!僕は言われたんだ、オールマイトにUAを頼むって!!」

「無個性で何も出来ないお前が?」

「っ……!」

 

冷たい瞳でかっちゃんは睨みつけてきた。

「俺が護衛に付かなきゃ自己防衛すら出来ないお前が、勘違いすんなよ。

お前はUAヒーローじゃねぇしオールマイトの後継者でもねぇ。ただの守られるだけの、弱っちい一般市民の1人だ」

「そんな言い方っ……!」

「そうだろうが。正義感だけ一丁前で、なんの力も無い。お前が今ここにいる理由はその脳ミソん中の重要機密とそのペンダント。それだけだ」

 

 

……仕方が無い。正義感だけで突っ走る僕は、かっちゃん達にとって危なっかしいだけの存在なんだろう。

今の僕には、どうしようもなく力が無い。こんな僕がなにを言っても、かっちゃんには響かない。

 

「……ごめん。頭、冷やしてくるね」

「あ、だから1人で……っ!」

 

僕は、無力だ。

 

 

 

 

 

 

出ていく出久とすれ違いに、事務所へと戻ってきた相澤。懐には登山用の寝袋があり、今日も事務所に素泊まりする気満々の様子だ。

1人むっつりと黙り込む爆豪に、面倒くさそうに声をかけた。

 

「なんだ、喧嘩か」

「……ちげーよ。アイツがヒーロー気取りでなんでも口出してくんのが悪ぃんだ」

 

それを喧嘩って言うんだろうが、とため息をつく相澤。2人の言い争いは廊下にまで聞こえていた。

 

今回のヒーロー襲撃事件の調査員を勝己に頼んだのは、出久という最重要の仕事相手が傍にいることでストッパーになると踏んだからだ。

 

元々襲撃されたヒーローは捕まる前にこちらが保護と治癒に乗り出せているため、幸い表沙汰にはなっていない。しかしただでさえ前に進まないオールマイト逮捕の件と合わさりヒーロー自体の命が脅かされる状況下では、勝己のストレスも相当だろう。

名の割れていない彼なら、出久というストッパーがいる彼ならと気を紛らわす意味で頼んだ仕事だったが、勝己の焦燥は予想以上だったようだ。

 

まさか、一番近くにいる出久に相談どころか仕事内容すら一切口に出していなかったとは。

拗れに拗れている。

 

「……緑谷は良く我慢してる。あんなに猪突猛進なのにヒーロー活動をしないのは、ひとえにオールマイトのためだ」

「……オールマイト……?」

 

そういえば言っていなかったな、と自分の迂闊さを恨む相澤。重要な話をしている最中はずっと勝己には席を外させていたのだった。事後説明も無く。

「緑谷はオールマイトさんからUAを託されている。ヒーローとして、後継者としてやっていくための手段も実はもう整っている。

けれど緑谷の活躍が公になれば、旧平和の象徴はもういらないと生きる気力を無くしかねない」

「!!?オールマイトがそう言ってたのかッ!」

 

ガタンと大きな音を立て立ち上がる勝己。

初耳だろうその情報に、目を大きく見開き脂汗を浮かべている。

 

「そう取られてもなんら不思議は無いくらいの言葉は零していた。

だから俺はオールマイトさんの気力が尽きる前にどうにか釈放出来るような証拠を秘密裏に集めている。

だから緑谷は、個性を使う以外の方法でオールマイトさんの救出を目論んでいる、らしい。

言動はまだまだ幼稚で危なっかしくて仕方が無いが、それはオールマイトさんの件でまだ大した貢献も出来てない俺達がどうこう言えるもんでも無いしな。まぁ、警察の前に突っ込んでいくような無茶は金輪際して欲しくは無いが。

お前のその発言は、それを知った上でのものか?……なんて、愚問だったな。

事前に教えてなかったことは悪かったが、俺の予想以上にお前らは対話をしないらしい」

 

 

拳を握って俯く勝己。

出久のこと、事件のこと、そしてオールマイトのこと。

 

どれも出口の無い大きな問題だが、そのタフネスさに甘えてしまっていた面もあったのかもしれない。

まだ成人すらしてない、社会経験も無いヒヨッコだ。

考え込むようにして立ち竦む勝己の肩をポンと軽く叩き、寝袋をずるずると席の横にある定位置に置きに行く。

 

「早いとこ仲直りしろよ」

「……るせぇよ」

 

 

 

 

頭を冷やすと事務所から出ていった出久は、とあるところに電話をかけていた。

「もしもし、初めまして。緑谷出久です」

『〜〜……』

「そうです、はい……う。反省してます……。それで、ちょっとお願いしたいことがありまして」

『〜〜……』

「ありがとうございます、塚内さん」

 

 

 

 

*



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Justice

ついに評価に色が!ありがとうございます。次回ラストです。


 

あれから会話も無く家に戻った僕らの間は、まるで前世の僕らのようにギスギスとした険悪なムードが漂っていた。

今までどちらかが2人分用意していたごはんも完全別、掃除洗濯も各自で会話無し。かっちゃんの家にいる時間は縮まる所かむしろ延び、数日家を空けることすら出てきた。まるで家庭内別居だ。

唯一かっちゃんが口を開いていたのは「仕事行ってくる」と「護衛は付けた」のみ。仕事の概要は未だ一切洩らさない。

それがついに今日、それすらも無く無言で出ていった。

 

「気まずいのはわかるけど、あんまりだろ」

 

僕は歩み寄ろうと努力したのだ、一応。

でも話しかければ無視をされ、家事をやればもう結構とばかりに手にしていたものを奪われる。あんまりにもあんまりなその態度に、早々に僕は音を上げた。

 

「今日出かけるよって言おうと思ってたのに。もう知らないぞバカっちゃん」

何も言ってないし、護衛なんぞ全く考えてなんかないだろう。でも勝手にいなくなったかっちゃんが悪いんだからな。

 

……書き置きくらいは、残しておこうか。

「いやいや!今日行くところ別に危なくないし!!逆に安全だし!!」

 

これ幸i……心を鬼にして!

どうせいつも夜中に帰ってくるんだし、日中僕が居なくても気付かれまい。

そう判断して、僕は紺のスニーカーに足を通したのだった。

 

 

 

ヒーローを襲う敵。

その敵は一体なにが目的でそんなことをしているのだろう?

ヒーローの……反社会的勢力の排除?でもそれなら襲撃直後真っ先に警察に通報するはずだ。

あの時、かっちゃんはヒーローを保護・治癒していると言った。事件が表面化していないことを見ても、この件について警察は把握していない。

 

愉快犯?ならヒーローだけを狙う理由が弱い。一般人よりも戦闘慣れしている相手だ。前世でのマスキュラーのような、強い相手に勝つことに快楽を感じる類いの犯行だろうか。

……いや、それなら全員生きてる理由も分からない。殺さないのは一体何故だ。

 

……考えられるのは、前世にて似たようなことを繰り返していたヒーロー殺しステイン。

しかしステインには快楽殺人とは違う明確な目的意識があった。

この善悪入り乱れた世の中で、ヒーローのみ狙うのは彼の意思とは違うような気がする。何かがおかしい……。

 

 

と、考えに耽りながら到着したのは大学病院だ。半国営化されており、有用な個性を持つ医師や看護師達はその使用を許可されている。個性使用が許可されている機関の中では、一番一般人が立ち入りやすい場所でもあるだろう。

 

「えーと……確かエントランスホールに」

 

今回ここに来たのは僕に何か病気がある訳でも検査をする訳でもない。人に会いに来たのだ。

 

 

「君かい、緑谷さん」

 

キョロキョロと辺りを見渡していると、目線より下から懐かしい声が聞こえた。

 

「……ここでは赤谷でお願いします。

はじめまして、修善寺さん」

 

そこに居たのは修善寺治与───前世でリカバリーガールと呼ばれた人だ。

この大学病院の医師として名を馳せており、その有用な個性故にこの病院の外科手術の成功度は群を抜いている。

 

そして、UA設立から居る最も古いメンバーの一人だ。

ヒーロー活動というより、ヒーロー活動で傷付いたヒーロー達を治癒する専門。そのため世間に顔や名前を知られずに済んでいる。

外部から『狙われにくい』とされているヒーローだ。お仕事が忙しくて中々事務所に顔出しは出来ていないらしい。

 

「あぁそうだね、赤谷さん。初めまして、話は彼から聞いてるよ」

「はい、お世話になります」

 

 

関係者パスを渡され、普段はキーロックされている一般人は立ち入ることの出来ないエリアに入っていく。

リカバリーガールの個性は『癒し』。対象者の体力を使い治癒力の活性化を図る個性だ。

しかし病院に入院している患者の中にはその個性使用に耐えられないほど衰弱している人も山ほどいる。どうしても体力のある若い人の方が完治率が高くなるのだ。

隣のベッドのあいつは立ち所に治ったのに、なんで自分だけ……。

そんなストレスから病院側へと苦情がいくつか来たらしい。

今ではリカバリーガールの治癒に耐えられるとされる患者はこのキーロックされた別棟に隔離されるようになったという。

 

 

「……ま、気持ちもわかるがね。倒れたヒーローも匿いやすいってことさ」

「……そう、ですか」

「まぁ元々私の個性じゃ救えないような患者は沢山入院してるさね。───ここだよ」

 

迷路のような道を進んだ先には、病室が立ち並んでいるフロアが。

見た目は普通だが、看護師や他の医師は見当たらない。リカバリーガール一人で切り盛りしている病棟らしい。

 

「きっかり30分。それ以上は許可出来ないよ」

「充分です、ありがとうございます」

「なんの」

 

案内された病室の扉をそっと開くと、病院特有の消毒の匂いと薬品の匂い。

今日僕がこの病院に来たのは、他でもないこの病室にいる一人のヒーローに会うためだ。

 

ヒーロー襲撃事件。

かっちゃんが毎日のように遅くまで駆けずり回っても進展が無い所を見ると、おそらく難航している。

前世の記憶を持つ僕になら、決定的な証拠が無くともその手口から前世で似たような犯行をしていた犯人を割り出すことが出来るのでは無いかと踏んだのだった。

前世での僕らと今世での僕ら、記憶保持の有無に差はあれど志というか、心の根っこの部分に相違点は少ない。

勿論育った環境等で更生どころか犯罪とは無縁の生活を送る元敵なんかも存在するかもしれない。でも、可能性があるのなら。オールマイトのいない今、僕だけがそれを知っているのだから。

 

そして僕がその襲撃事件の被害者として知っている唯一のヒーロー……インゲニウム。

 

調子はもうだいぶ良さそうにしているものの、身体中に巻かれた包帯が痛々しい姿で彼は出迎えてくれた。

「初めまして、インゲニウムさん。僕が赤谷……いえ、緑谷出久です」

「あぁ、塚内さんと修善寺さんから話は聞いてるよ、よろしく。飯田天晴……インゲニウムだ。

それで、ご要件はなにかな?」

 

かっちゃんとの言い争いの際、かっちゃんの言い分も最もだと思っていた。

守られるだけで何もUAのために行動出来ていない自分。これじゃあ何の為にここに来たか分からないじゃないかと。

そのために一人、行動を起こすことに決めたのだった。

僕は、ヒーローになるためにここにいるんだからと。

 

「はい。襲われた時見た犯人の特徴とか教えて欲しいんです。覚えていること、なんでも」

「……塚内さんにも言ったけど、殆ど覚えていないんだ。一瞬だったし、まずマスクで人相もわからなかったし」

「マスク……そうですか。一瞬、とは?」

「言葉通り一瞬さ。

普通に道を歩いていたらいきなり後ろから腕を掴まれ、転がされた。相手の顔を見る前に突如腕に激痛が走って、そしたら」

 

包帯でぐるぐるになった両腕を見せてきた。

 

「……ターボ部分が全損した。まるで元から無かったかのように。もう右腕は治らないそうだ、左も元通りにはならない。

本当、何が起こったのか俺もまだよく分かっていないくらいだ。

ヒーローももう、廃業かな」

「そんなっ!修繕寺さんの個性ならっ……」「ダメらしい。普通の怪我は治癒出来る。でも治癒力を上げても骨組そのものが失われちゃ戻しようがないだろう?折れた骨をくっつけることは出来ても無い骨を生やすことは出来ない。そういうことだ。

痛みで意識を無くしかけた時、辛うじて見えたのは犯人の靴と黒い……靄のようなものだけ。だからごめんな、あんまり力になれそうにない」

 

彼が言うには、他の襲撃されたヒーローの証言も大体似たようなものらしい。

違うのは掴まれた箇所がそれぞれの個性の核となるような場所という点。触られた隙に何かをされたと考えるのが普通だが、手口が余りにも鮮やかで隙が無く、また人通りの少ない所での犯行のため目撃者もいない。捜査はかなり難航しているらしかった。

 

「貴重なお話ありがとうございました、インゲニウムさん。

あと、弟さんが心配していましたよ」

「……天哉が?」

「危ないことはして欲しくないし、反社会的かもしれないけれど。立派だと思うし、尊敬しているって弟さん、おっしゃってました。……早く連絡、取れると良いですね」

 

片腕でだってヒーローはやれる、なんて気休めは言えなかった。

だってそれを決めるのは僕じゃない。

襲われた恐怖だってあるだろう、もうヒーローなんてこりごりかもしれない。一生懸命に頑張ってきた人にさらに頑張れなんて、言えない。

 

「ありがとう。……正直、こんな腕でなんて家族に顔向けしたら良いか途方に暮れていたんだ。

俺、退院したら天哉と話すよ。機会をくれてありがとう、緑谷さん」

 

憂いの晴れた笑顔を見て、少しだけ救われた。にこりと笑い返し、病室を出る。

 

 

───犯人が、わかったかもしれない。

 

そっと電話可能なスペースへと移動し、塚内さんへと電話をかけた。

 

『……はい、もしもし。赤谷くん、この時間に電話ってことは彼と会えたかな?』

「はい、インゲニウムさんには会えました。修善寺さんへのアポ取りありがとうございました。

それで、話を聞いてヒーロー達を襲った犯人かもしれない人物に心当たりがあるんです。調べてください」

 

確証は無いんですけど、と頭を掻きながら言えば、少しの間を置いて塚内さんが驚いたような声をあげた。

『……凄いな、君は。僕らが一体どれだけ調べたと思っている?全く証拠も無かったと言うのに』

「心当たりのある個性を知っていたので。

死柄……いえ、志村転弧、若い男性です」

『……身体的特徴は』

「病的な細身でグレーの髪、赤い眼に不健康そうに皺だらけの顔をしています」

『ありがとう。調べてみるよ』

「よろしくお願いします」

 

電話を切る。

インゲニウムを襲ったのは、きっと死柄木弔で間違い無いだろう。

触れた部分が修復不可能な程に欠損するのは個性『崩壊』の特徴だ。

腕を掴まれて、と言っていたインゲニウムの証言とも合致する。そして黒い靄……おそらく、ワープゲートの個性を持つ黒霧。この二人はタッグを組んでいると見て良い。

この世界でも彼らは敵として動いている……。

しかし何故、ヒーローのみを狙う。

ヒーロー社会を憎がっていた前世とは違い、今世は警察社会だ。正義が憎いのなら、相手は警察でもおかしく無いはず。

 

 

 

……待て、前世死柄木のバックに居たのはオールフォーワンだ。今世もそうだとしたら?

オールフォーワン……警察組織の人間が、逮捕もせずただ傷付けるだけ傷付け放置するか……?

そんな敵紛いなこと、普通は有り得ない。

 

途端に、恐ろしい推測が頭をよぎった。

 

 

……オールフォーワンに、前世の記憶があったとしたら?

 

オールマイトを逮捕し、彼の大事にしているUA組織のヒーロー達を、歯痒い思いをする彼の目の前でいたぶりたいがためのパフォーマンスだったとしたら?

オールマイトに対する嫌がらせを生き甲斐にしているような愉快犯だ。有り得ない話じゃ、ない。

 

───オールマイトは『私ら以外に前世の記憶があるものがいないと思っていた』と言っていた。

 

あの不健康な骸骨のような見た目の影に、過去オールフォーワンとの戦闘がまた繰り返されていたとしたら。

神野の悪夢の続きを。

 

その時、互いに前世の記憶があると知るだろう。そしたら……。

 

 

 

そこまで考え、ぶんぶんと頭を振った。

憶測、全て憶測だ。証拠は何も無い。

例え死柄木とオールフォーワンが繋がっていたとしても、僕がやることは変わらない。

 

───オールマイトを、ヒーローを助け出すんだ。

 

 

 

 

 

修善寺さんに見送られ決意を新たに帰宅すると、焦ったような顔のかっちゃんがいた。

もう帰ってたんだ、今日は早いな。

「お前ッ!!出かけるなら護衛付けろよ!連絡しろって何度も言ってんだろうがッ」

「……ごめん」

 

……そもそも無言で出ていったかっちゃんだってどうなのさ。言わないけど。半分仕返しじみた行動だった自覚はある。

 

「お前がまた無茶やらかしたかと思ったじゃねーかッ!!

俺の、俺のせいで……」

「……かっちゃん?」

 

俯くかっちゃん。

なんだか様子がおかしい。

「……この間は、その……言い過ぎ……くそっ悪かったな!!」

「……ぶは、」

 

なんだそれ。思わず噴き出してしまう。

普通に謝ることすら出来ないのか、さすがだな。

「あぁ!!?なに笑ってんだよクソが!!」

「ふっ……な、なんでもない。

それにね、かっちゃんの言ってたこと確かになって僕思ったんだ」

「……相澤に聞いた。オールマイトの自決を止めるためにお前は木偶の坊のままなんだって」

「……」

「無個性のお前が何をどうやってオールマイトの後釜出来んのか、それは俺にはわかんねぇ。教えるつもりもねぇんだろうが」

「……うん、ごめんね」

 

 

罪悪感に近い色々な感情が混じり合って秘密を打ち明けてしまった前世。

あれがあったからかっちゃんに随分と助けられ、沢山迷惑もかけた。今回教える気は、今は無い。

 

「別に謝罪が欲しい訳じゃねぇ。

ただ、取り消す。お前はヒーローでも無く守られてばっかな奴じゃねえ。

……だから、あの時言ったのは、取り消す」

 

相澤さんは、説教でもしたのだろうか。

もしくはこの極限まで動いても何も証拠が掴めない現状に、『オールマイトのためになれていない自分』に嫌気がさしたのだろうか。

……馬鹿だなぁ。

 

 

「かっちゃん、確かに僕にはまだ力が無いし、守られてばかりだ。でも僕はオールマイトを助け出したいと思ってる。無個性の僕でも、何か出来ることがあると思うんだ。

無個性の僕がオールマイトの心を揺さぶることが出来たように、何か出来ること。

もし。もしさ、僕がそれを成せたら。

 

───いつか、僕を認めてほしいな」

 

にかっと笑い、かっちゃんをまっすぐに見やる。

僕にとっては複雑な人物に当たるかっちゃん。前世ではなんだかんだ言いながらも僕を助けてくれた。

……認めてくれていたんだと、思う。

だから、今世でも、いつか。

 

 

「……そこは守れ、だろうが。俺は護衛なんだからよ」

「いやぁ、あんまり頼ってばっかりじゃ悪いし」

「……それが仕事だ」

 

一瞬見とれたように固まったかっちゃんに、首を傾げながら。

 

───その強い意志を込めた瞳こそが昔勝己が出久に惚れた理由そのものなのだが、2人が自覚するのはまだ先の話だ。

 

 

「……っ?」

一応仲直り、になるのだろうか。

ほっとしていたら反応が遅れた。もす、と押し付けられたのは、どことなくオールマイトを彷彿させる黄色いリボンがピンと立った可愛らしい髪ゴムだった。

「……これは?」

 

「そのモサモサ髪を、その……どうにかした方がいいと思ってな。安心しろ、GPS付きだ」

「その一言のどこに安心要素が!!?」

「外すなよ、常に身につけてろ。何かあった時はリボンを解け、緊急通知がヒーローに行く」

「うひゃあ……」

「うひゃあじゃねぇ。毎度毎度勝手にうろちょろしやがって。俺が買い物してる間くらいじっとしてやがれ」

 

……買い物している間くらい?

その言葉に引っかかった。かっちゃんはここしばらくそんな時間は取れなかった筈だ。

「買い物?そんなの……って今日の?

仕事じゃ無かったんだ……?」

 

わざわざ僕のために髪ゴムを買ってきてくれたんだね、とくすりと笑う。かっちゃんは今更自分が失言した事に気付いたみたいで耳を赤くしていた。

 

……もう、悪かったよ。

仲直りのために色々考えて用意してくれたんだろ。それで帰宅したら僕が居なくて、さぞ肝が冷えただろう。

ごめんね。

 

「ありがとう、かっちゃん。大切にするね」

 

 

 

 

 

その後、セキュリティ万全な特殊端末からならと実家に連絡する許可を貰った僕は、久しぶりにお母さんに電話をかけていた。

飯田くん達を間近で見て、まだ連絡一つ寄越さない娘をずっと心配しているだろうお母さんに一言大丈夫と言いたくなったのだ。

 

……泣いてないかな。

元気、かな。

 

「……もしもし、お母さん?」

『もしも……いいい出久!!?無事なのね!!?』

「うん、大丈夫。……まだ帰れそうにないけど、ごめんね。

僕、こっちで頑張ってるから。詳しくは、言えないけど」

『……事情はよくわからないけど、それはほんとうに大事な事なのね?』

「そう。僕がやらなきゃ、いけないんだ」『……わかったわ。警察から捜索願を出したらと勧められていたけれど、お母さん出久を信じる。

その代わり、これからもきちんと電話を寄越しなさい』

「ありがとう。わかったよ」

 

許された時間はここまで。束の間の親子の会話だった。

 

……やっぱりお母さんは強いや。

あんな夜逃げみたいに消えた娘が一体何をしているのか、絶対に心配していた筈だ。その理由を誰よりも知りたかった筈だ。

なのに無事なら良いと、涙を飲んでくれた。信じて待つと言ってくれた。

 

僕はそれに、報いなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変だよ弔、君の存在がバレた。しかも本名のほうでだ」

 

警察内部、とある会議室にて。

全田はかかってきた電話を切り、ため息混じりにそう零した。

あぁ、面倒なことになったなと。

 

「はぁ?戸籍の無い俺の本名知ってるのなんか先生くらいだ。外では死柄木で通ってる俺の情報なんて漏れようが無いだろ」

「……普通はそうだね」

 

全田はスマホの画面を消し、卓上の資料を手に取る。

そこには赤谷海雲───本名緑谷出久の無邪気に笑う写真がクリップで停められていた。

 

全田───オールフォーワンは違法の私設部隊を抱えていた。

その人員は無作為に選んだ敵予備軍達。前世の記憶を持って集めうる限りの悪を『正義』のハリボテの名の元に集結させたのだ。

その一人がここにいる彼、元志村転孤。

轟には私設部隊は解散させると嘯いたものの、そんな気はさらさら無かった。

 

「オールマイトの逮捕直前に出会ってたという緑谷出久……この子は取り逃してる。あちらに……ヒーローに取られたようだね。

そしてその後捜査の手が入った、誰も知らない筈の弔……。

 

……はは、オールマイト。君は本当に面白い置き土産を残してくれた」

 

ぐしゃり、と出久の写真を握りしめた。

なるほど、なるほどオールマイト。

逮捕された最後の最後になって大きな爆弾を残してくれたものだ。彼……いや、彼女が野放しになれば証拠など無くとも目を付けられるだろう。

 

───緑谷出久。

その子にも、記憶があるんだろう?オールマイト。

 

 

「邪魔物にはご退場願おうか。今回は正義の味方らしく、この世界のルールとやらに則って」

 

正義に扮した悪が、活動を始める。

 

 

 

*



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Wanted Hero

 

 

大きな事件も無く平和な日常が過ぎたある日。

 

「おはよぉ、かっちゃん」

「おう」

 

身元が割れたせいなのか、あれからヒーローが襲撃されることが無くなった。まだ死柄木の足取りは掴めないままだが、ここまであからさまなら黒だったと見ていいだろう。

あとの搜索はそれに優れた個性持ちと警察内通者達とに任せてくれと、かっちゃんの仕事は一旦の終了を迎えた。

ようやくかっちゃんの目元の隈も消え、ほんの少しイライラも収まったようだ。寝不足によるストレスもあり怒りやすくなっていたようだったし、睡眠は大切だ。

 

「あれ、かっちゃん大学は?」

「休講。お前は」

「創立記念日」

 

珍しく平日に2人の休みが重なったようだ。

なんとなく特別な感じのする食卓に付き、いつもより少し遅めの朝食を取る。

日課となっているニュース番組を惰性で付け味噌汁を口に運んでいると、耳の端からとんでもない情報が飛んで来た。

 

 

『───次のニュースです。

コードネームオールマイトを名乗る個性不正使用の罪で逮捕された八木俊典が、警察の調べで戸籍上無個性だったと判明しました。現段階で発動系個性所持の有無を科学的に調べる手段は存在していないため、───』

 

思わずかっちゃんの服を掴む。

そうだ、彼は元々無個性で僕と同じく譲渡された人間。

今持っている個性を見破られる……それこそラグドールの強化版のような個性持ちが警察側にいなければ誰もオールマイトの個性持ちを立証出来ない。

科学的に全人類の個性数値を知る手段が確立されたのは、オールマイトと手を組んだ天才科学者の生み出したサポートアイテムの副産物だ。この世界には現存しない。

 

今の技術で可能なのは個性の有る無しを足の骨から推測すること、発動型の発動時の個性数値を瞬間的に計測すること、それだけだ。発動は本人の意思でのみ引き起こされるため、通常時をいくら調べたところで変わらない。

例え人間離れしたパワーを持っていたとしても、それを個性だと言い切ることはこの世界では不可能なのだ。

 

「これだ……これだよ、かっちゃん!」

ここから反撃が出来る。

オールマイトを無罪で釈放……とまではいかなくとも軽犯罪にすら持っていくことが出来るかもしれない!

 

「相澤と塚内が動いてたのは、これだったのか。……中々やるじゃねぇか」

珍しく上機嫌に相手を褒めるかっちゃん。

どうやらかっちゃんにも知らされていなかったことのようだ。嬉しさ半分で

「相澤さん達も劣らず秘密主義じゃないか」

と零せば、

 

「当たり前だろ。警察側にも漏れたらヤバイ情報を扱う守秘義務ってのがあるんだ。俺ら一般人に漏らしちゃなんねぇ情報、ヒーローには横流ししたい情報、それを精査してスパイやって貰ってんだから」

「う……」

確かにそれもそうだ。

戸籍の情報なんてデリケートな情報、迂闊に扱えば諸刃の剣だ。

 

そんな話をしていた時、かっちゃんのつうしん相澤さんからの電話が来た。オールマイトの件だろう、ハンズフリーにして貰う。

 

『お前ら、すぐ事務所に来い』

「オールマイトの件だろ、ニュース見たぞ」『違う。いや……まぁそれもあるが。

緑谷、お前の事だ』

 

……僕?

 

 

 

 

言われるがまま事務所に集まれば、深刻な表情の相澤さんが鎮座していた。

オールマイト奪還に大きく近付いたというのに、なんて表情だ。何かしら想定外の出来事があったのだと、知らずにこちらの表情も固くなる。

 

「オールマイトの無個性が証明できたと、今朝塚内さんから電話があった。お前らもニュース見ただろう」

「はい、良いニュース……ですよね……?」

「それだけならな。

───緑谷、お前は行方不明者として全国に顔と名前が公開されることになった。もう計画を止められる段階では無く、決定事項らしい」

 

「……は?」

僕が、行方不明者……?

確かにこの前お母さんに連絡した時、捜索願を勧められたと言っていた。しかし、信じて待つと言ってくれたのだ。お母さんが暴走したとは、どうしても考えにくい。

 

「警察側も必死だ。オールマイトは無個性と判明し誤認逮捕説すら浮上しつつあり、力を入れているヴィジランテやヒーローの検挙もヒーロー側が活動を縮小したせいで中々捕まらない。

内部じゃもう対ヒーロー捜査を減員しつつあるんだそうだ 」

「じゃあなんで僕が……」

「だからだよ。

後がない奴らは最後の手がかりのお前をどうにかして捕まえたいんだろう。しかしお前に前科も個性も無いせいで逮捕は不可能。

犯罪者として晒し首には出来ない。なら行方不明者として晒しちまえって魂胆らしい。

かなりの警察上部でしか回っていなかった話らしく、対応が遅れたと塚内さんから詫びの伝言だ」

 

じゃあなんだ。

お母さんの許可も得ず、勝手に僕を行方不明者に仕立て上げて目撃情報を募り僕を手に入れようとしてるってことか。

……なんだ、それ。

正義の皮を被っただけの、ただの敵じゃないか。やってることは誘拐犯と、さほど変わりが無いじゃないか……ッ!!?

 

嫌な予感がする。

警察上部……まさか。

 

「それって……全田っていう幹部の発案だったりしますか」

「……良く分かったな。そうだ」

 

 

───やっぱり。

全田……いや、オールフォーワンはおそらく前世の記憶を持っている。

そして秘匿されていた死柄木の存在をオールマイトがいないにも関わらず探し当てられたことによって、おそらくオールフォーワンも僕の存在に気付いた。

だから奴は邪魔な僕を消そうとしているんだ。

 

「……それじゃ僕がここにいるの、まずいじゃないですか。最悪事務所もバレてUA自体が……」

「どうせお前が捕まればジ・エンドだ。警察にとっても俺達にとってもお前は最後の希望なんだよ。大人しく守られてろ」

「そんなっ……」

 

どうしようどうしよう。学校なんて行けない。外にも出れない。

行方不明者なんて言って、扱いは犯罪者のそれだ。相手もきっと本気で搜索にかかる。

そんなの、勝ち目なんか……っ。

 

「落ち着け、行方不明者の捜索なんて数ヶ月もすれば世間から忘れられる。

警察からの追手はあるだろうが、そんなもん今までと変わらんだろうが」

「でも……!」

コソコソと世間から隠れるような生活をしなければならないのか?何も悪いことなんてしていないのに!

活動を自粛せざるを得なかったヒーロー達だってそうだ、なんで、なんでなんで───!

 

 

「落ち着けよ」

ぱんっと軽く背中を叩かれ、はっと我に返った。

「かっちゃ……」

「目的を忘れんな。お前の一番やりたいことはなんだ」

「……おーる、まいとを、」

「助けるんだろ。多少のハンデがなんだ、オールマイトの件に関しては間違い無く前進してる。オールマイトが釈放されればお前は晴れて用済みだ」

 

言外に、それまでは耐えて見せろと発破をかけてくれたように感じた。

……励まして、くれてるのかな。

 

まるで珍しいものを見たかのように相澤さんは目を丸くし、こほんと軽く咳払いした。

 

「まぁそういうこった。

それがUA構成員として、反社会的勢力UAヒーローとして生きていくって事だ。受け入れろ」

 

 

 

 

 

『次のニュースです。〇月〇日から行方が分からないとされている緑谷出久さんの大捜索に警察が乗り出しました。緑谷出久さんは珍しい無個性の少女で、その珍しさに目をつけられたのではと言われています。

警察は彼女の目撃情報を随時受け付けています、電話番号は ───』

「……あほらし」

 

僕の名前と顔が全国に掲載されたのは、塚内さんからの忠告からたった2日後だった。

名前を偽っていたとはいえ顔はそのまま僕だ。同じ学校に通っていた人はすぐに気付くだろう。幸いなのは出回った写真が中学の卒業アルバムだったくらいか。無個性なことすら大公開されてしまった。

2年以上前の写真のため、麗日さんの手入れが入っていない頃のそれはオタクちっくな男っぽさに磨きがかかっている。え、これ女子?ってな具合だ。身体の二次性徴もまだだったから、胸もまな板でますます男子。

 

そして意外なことに制限付きではあるものの学校には行き続けている。テレビ離れの進む現代で、自分の見たいニュースをピックアップ出来る今ネットの行方不明者欄をわざわざ読み漁る若者は少ないだろうとの相澤さんの考えだったけれど、それが的中した形だ。

まずそもそもクラスメイトが偽名で生活しているとは考えないだろうし、通報前に僕に聞くだろう。

逆にコソコソと休み出したら、それこそ因果関係を疑われる要因になるとのお言葉だ。

 

一番困ったのは、善意の一般人達。

僕の目撃情報はとんちんかんなものからかなり的を得たものまで様々な情報が警察に集まっているらしく、その情報を元に虱潰しに捜索中だそうだ。

捜索範囲に僕の生活スペースが含まれている時は情報を前流ししてもらい、引きこもる。最近は頬に散ったそばかすを化粧で隠し、メガネかマスクで変装なんてこともしばしばだ。

 

……こんなにも早く化粧が必要になるなんてなぁ。

人間、必要に迫られればあんなに悩んでいたのが嘘のように吹っ切れるものだ。麗日さん曰く僕は『化粧映え』する顔立ちだったようで、ぱっと見ただけでは世に写真が出回っている緑谷出久と気付けない程垢抜けたそうだ。

こんな色気も何も無い理由で綺麗といわれても、微塵も嬉しくないけれど。

 

 

 

「───はぁッ!?犯人見つかったんじゃねーのかよ!!」

『〜〜……』

「……あぁ、あぁ。わかった、すぐ行く」

 

ぼんやりと宙を漂っていた思考を現実に戻したのは、かっちゃんの怒鳴り声だった。

「な、何……?」

「……ヒーローの襲撃が、再開したらしい。1人重症で運ばれた。現場にまだ痕跡があるかもしれない、行ってくる」

 

……一体どこまでやれば気が済むの、オールフォーワン。

僕の事といいヒーローの事といい、本格的にオールマイトを潰す気らしい。しかしこちらには国家権力に相当するような力も人脈も無い。八方塞がりもいいところだ。

 

「……現場にはなにも残ってないのが常なんでしょ?今わざわざかっちゃんが動かなきゃならない理由って何だよ」

 

こんな状況下だ。万が一死柄木達が現場に残っていて対面したとしたら、顔が割れていないかっちゃんすらも被害対象になり得る。今動くのはあまりにもデメリットが多い。

 

「……退院したばっかのインゲニウムが、重症のヒーローを逃がし一人で交戦してる。現場から今一番近いのが、俺なんだよッ」

 

───そうか……生きて、いるのか

 

───兄さんのやろうとしていることは……俺は立派だと思うし、尊敬しているよ

 

 

───俺、退院したら天哉と話すよ。機会をくれてありがとう

 

 

……駄目だ。駄目だ!

こんなの罠に決まってる、きっとかっちゃんも分かってる!ヒーローを人質に、僕の存在を炙りだそうとしているだけだ、かっちゃんが飛び込む必要なんて無い!!

───ッッでも!!

 

「行くしかねぇだろ。……ヒーローなんだから」

 

 

そう飛び出していくかっちゃんに、僕は何も言えなかった。

 

……その日かっちゃんが帰宅することは無く、漸く来た電話は『爆豪が重症で病院に運ばれた』という事後連絡だけだった。

 

僕は、また。

なにも、何も出来なかった。

 

ただの木偶の坊だ。

 

 

 

 

 

 

 

かっちゃんの情報が、敵にバレた。

オールフォーワンのことだ、かっちゃんがこちら側に居ると知れば僕も自ずと近くにいるのではと考えるだろう。元々幼馴染みなのは出回った情報だし、マンションに追手が来るのも既に時間の問題だ。

 

リカバリーガールによれば、かっちゃんの存在も個性も知らなかった相手は警戒してあまり必要以上に踏み込んで来なかったおかげで命にも個性にも別状は無いそうだ。

……しかし、それまで耐えていたインゲニウムは前と比べ物にならないほどの怪我を負い危険な状態、らしい。

 

……僕のせいで……!

 

インゲニウムを、ヒーローをダシに使われた。かっちゃんだって生かして泳がせた方が僕の動きがわかりやすいからだろう。完全に後手に回ってしまっている。

 

『緑谷、なるべく早めに事務所に向かえ』

「相澤さ……」

 

いつの間にか、僕は電話を取っていたらしい。コール音が聞こえなかった。

『もう聞いただろう、爆豪が怪我をした。今お前を護衛出来る人材が少ない。爆豪が退院するまで暫く事務所から学校に通え』

「そ……れは」

 

塚内さんに死柄木を調べろとは言ったものの、まだUAは警察組織とヒーロー襲撃犯との関連性には気付いていない。言えば必ず理由を問われるため、上手い言い訳の思いつかない僕はそれを打ち明けられない。

だから相澤さんはまだ、今のこの状況の差し迫り具合が分からないのだ。

 

……でも、このままこの部屋に引きこもっていてもいずれ見つかる。

 

「わかり、ました」

 

ここで腐っててどうする。

僕は戦うんだ。守ってくれていたかっちゃんは今傍にいない。なら、僕が。

机の上に置かれた黄色のリボンを力強く握り、乱雑に顔を覆っていた髪をぎゅっと後ろに一括りにする。

荷物はあの日、窓から飛び降りたあの時と同じだ。スクールバッグに入るだけの荷物と自分、それだけ。

でもあの時の僕と今の僕は違う。

 

鏡に映った自分がよし、と喝を入れる。意志の強い瞳が自分を見ていた。

 

「正念場だぞ、緑谷出久」

僕は、ヒーローになる。

 

 

 

 

 

 

僕が事務所に身を寄せて3日目。

ついに恐れていたことが起きた。

 

「まずいぞ緑谷……ここにお前がいる目撃情報がついに出た。近々警察が来る」

 

塚内さんからの電話内容を苦々しげにこちらに告げる相澤さん。

仕方が無いだろう、元々この事務所への出入りに気を使っていたことはあまり無かった。寂れたビルに若い僕らが頻繁に出入りしているのは近隣住民から見たらそれなりに目立つ存在だった事だろうし。

 

逃げることをやめ戦う覚悟が出来ていた僕には想定内の出来事だ。ビジョンは既にある。

 

「この場所に警察が立ち入ったらやばいですか」

「……やばい、どころじゃないな。機密資料は分散させてはあるものの、この事務所内にもいくつかはある。PCの履歴を辿られればこちら側のヒーローの居場所も全部バレる。UAが終わる」

「……それは。僕、ここから出たほうが」

「やめておけ、……もう遅い」

 

……遅い?とオウム返しに首を傾げれば、窓の外がにわかに騒がしくなった。

「……え、もしかして」

「塚内は数日前から上の指示で地方に出向させられた。……情報の伝達が遅くなってすまないと」

 

かっちゃんに続いて塚内さんまで!

そっと窓から外を見ると、警察車両と野次馬、テレビ局すら集まり始めていた。

どんどんと増えていく人に、軽くパニックになる。警察はまだしもテレビ局!?

 

「な、なんでこんな……って、テレビ!」

 

乱暴に事務所のテレビを付ければ、今僕らのいる寂れたビルを全面に生中継が始まっていた。

 

『───こちらのビルに、先月から行方不明の緑谷出久さんがヤクザのような男に連れていかれるのを見たという目撃情報がありました。

ビルの中には3階に警備会社が入ってはいますが人影は薄く、空いたスペースに違法組織が占拠しているものと思われます。

それと同時に当テレビ局に脅しめいた脅迫文が届きました。捜査の中止をしなければ彼女の命は無いとの書面に、厳戒態勢の中今突入舞台が準備を進めています。近隣住民の方は万が一を考え避難を───』

 

「き、脅迫文……!?」

「……警察の自作自演だろうな。騒ぎを大きくしたいんだろう」

 

……あわよくば事務所内にいるヒーローも一斉に、ってとこか。全く考えることが敵みたいだ。前世敵だけども!

的確に逃げ道を塞がれていく感覚に目眩がある。

 

「緑谷は包囲される前に裏口から出ろ」

「はぁっ!!?相澤さんは!!」

「内部資料とPCの証拠隠滅をしてから行く。大丈夫だ」

 

大丈夫じゃない。一体僕のためにどれだけの人を犠牲にすればいいんだ。

もう外は人が数え切れない程集まり、包囲もされているだろう。冷静を装っている相澤さんだけど、この状況下で僕も相澤さんも逃げ果せるのはほぼ不可能。

───なら。

 

「相澤さんは、隠れててください」

 

部屋の隅に積まれたダンボールの中から備品の拡声器を取り出した。

あー、あー。うん、使える。

 

「……?一体何をするつもりだ、緑谷」

「僕、ずっとずっとオールマイトを助けるために考えてました。

僕には力も、人脈も、カリスマ性も何も無い。

でも、それでも僕は最高のヒーローになりたいんだ」

 

 

僕は相澤さんの制止を振り切り窓を大きく開けた。

 

 

 

突如ガラッとそう高くもないビルの窓が空き、視線が僕に集中したのが分かる。

あは、あの警察のぽかん顔。なんで今突入しようとしてたのに人質が出てくるのって顔だ。

 

僕は身を乗り出すようにして高らかに叫んだ。

 

「私は緑谷出久!

訳あってこの警備会社の事務所の方に保護して頂いていました!

脅迫されてもいませんので人質でもありませんし行方不明者でも無い。親にも連絡はしていましたのでそんな言われを受ける筋合いは無い!!」

 

そこでマスコミを含めた野次馬がざわついた。一体どう言うことだと疑念の声が上がる。

ここまで僕は本当のことしか言っていないのだ。警察諸君は良くおわかりだろう。

 

『ご覧下さい!人質とされていた少女が現れました!!犯人を庇っているのでしょうか───』

「おい警察!」

「脅されてんだろ」

「親に連絡してたんかよ」

「学生を警備会社が保護とか何事w」

 

現場が混沌とし、警察の判断が鈍る。そして僕の声に様々な憶測が生まれる。それで良い。

喧騒を遮る。

 

「なぜ私が保護して貰っていたのか、それはオールマイト逮捕から始まります」

 

ただの行方不明者事件にオールマイトとの関連性?とマスコミが食いつく。場が俄に静かになる。

ここから始まるのは、この数日間僕が作り上げた嘘と本当が入り交じる物語。

 

 

「私はオールマイト逮捕直前にたわいもない事件の被害者として、彼を見ていました。

その後警察が私と話をしたがっていることを知った。

───話すことなんてない、私はただ彼に助けられ、ほんの少し声をかけただけなのだから。有力な情報なんて持っているはずもないただの目撃者に血眼になって追ってくる警察に疑問を抱きました」

 

 

「不思議でした。

何故無個性と判明したはずの八木俊典さんを個性使用の罪で逮捕、拘束し続けているのか。

オールマイトの姿を見た警官が居たというのは本当なのでしょう、誤認逮捕には気を使っていたはずです。 しかし戸籍は無個性……。

であるならば、真実は一つ。

───彼は無個性のままヒーロー活動をしていた!!」

 

 

ざわ、と喧騒が大きくなる。

嘘はほんの少しの真実でとたんに不明瞭なものになる。オールマイトはワンフォーオールという個性を持ってたし、僕だって警察に疑問があって逃げ出した訳じゃない。

けれど世間的にオールマイトは無個性だと発表されているのだ、指名手配犯呼ばわりされているヒーロー達に代わって、僕も敵らしく世論を欺いてやる。

 

これが、今僕に出来る僕を守ってくれていた人を守るためのヒーローとしての在り方だ。

 

 

「彼がしたことは個性不使用で人助けをし、個性不使用で犯人逮捕に助力した!

なら彼の罪状は多少の器物破損。その勇気ある行動は讃えられこそすれ、犯罪者呼ばわりされる言われはない!

なのに私はオールマイトの個性使用逮捕のため有りもしない証言をと警察官に追われました。無いものをあるとは言えません、次に冤罪を被せられるのは私かもしれない。その間違った情報で敵から逆恨みされるかもしれない。

だから民間の警備会社に身を寄せていました」

 

デタラメ、詐称、嘘八百だ。

でも辻褄は合う。梅雨ちゃん達の件でもきちんと警備会社として働いてみせた実績がある。相談者達の傍に、僕がいた裏付けも取れる。

何も事情を知らない人から見れば親にもきちんと連絡を取り身の安全のため隠れて暮らす少女と、オールマイトの刑確定のため無関係な未成年すら見世物にしようとする警察の図だ。

 

 

「言わせて欲しい!

功績や結果が変わらないのに個性を使った使わないで何故罪の重さが変わる!?今の法じゃ人助けは罪?そんなのおかしい。個性を使ったら犯罪?何故!犯罪なのは個性を悪用することであって個性使用そのものじゃない。

 

個性とは元々備わった、君たち自身の力だッッ!!」

 

 

 

───しん、と辺りは静まり返る。

今にも突入しようとしていた重装備の警察部隊は力無く武器を下ろし、うるさかったマスコミやサイレンの音もいつの間にか聞き入るように静かだった。

ビリビリと熱を持った拡声器は熱く、じわりと涙腺が緩む。

 

 

「個性の民間使用を……ヒーローを肯定するばかりが世論ではないでしょう。無論規制や統率は必要です。

けれど、無実の人間の罪を作り上げることに躍起になり突入部隊まで出すのはいかがなものかと思います。

私は行方不明者扱いの取り下げを要求しま す。警察の皆様、お帰りください」

 

 

 

 

───その演説は生放送で途切れることなく放映され、暫くお茶の間を賑わせた。

警察から母親への謝罪はあったものの、今の法のあり方や警察への不信感、そしてオールマイトの扱いと物議を呼ぶ結果となる。

 

こうして緑谷出久という力無き力有るヒーローが、一夜にして世論を一気に傾けることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

───数ヶ月後。

個性使用の証拠不十分として八木俊典が罰金刑で釈放されたことが大々的に発表された。

 

これでナチュラルボーンヒーローオールマイトの復活だと声高に叫ぶ者、いやいや警察からのマークが外れた訳じゃない、活動は縮小するだろうと持論を振りかざす者、様々だ。

 

しかし追い詰められていた状況が一転、オールマイトの個性使用を認める証拠も僕の確保の計画も失敗に終わり、ヒーロー側の全面勝利に終わったのだ。残された爪痕は決して小さくなかったが、限られた時間の中では一番良い結果になったと思う。

 

ピンポーン

 

かっちゃんも無事退院し、荷物の整理をしていた所おもむろにチャイムが鳴った。

……宅配?と玄関に向かえば、予想外の人物がそこにいた。

 

 

「「オールマイトっ!!?」」

「やぁ、緑谷しょうね……少女。爆豪少年も久しぶり。2人で住んでるってマジなんだね。おじさんちょっとびっくり」

 

 

何故か話題の中心であるトゥルーフォームのオールマイトが唐突にマンションを訪れてきたのだった。

無事を喜ぶ電話をし、それでも今はマスコミや警察からの監視が激しいから外で会うのは控えようと決めたばかり。

 

「一応そうですけどオールマイトはおじさんじゃないです!」

「ただの護衛だ」

 

あれから色々あった。

僕の顔は下手なヒーローよりも世間に知れ渡り、高校でも賞賛と同じくらい批判も多く、日常生活を送ることが難しくなってしまった。

そして報道陣各位に晒されてしまったUA事務所も、このまま話題に晒されていればボロが出るのも時間の問題だ。

お母さんにも了承を得て、飽き性な国民達が僕を放っておいてくれるまで事務所共々引越しだ。せっかく仲良くなった麗日さんと離れるのは悲しいが、珍しくかっちゃんから連絡先を交換するお許しも頂けたことだしあまり気にしていない。

かっちゃんの通学がかなり不便になってしまうのだけが申し訳ないが、本人はあまり気にしていないようだ。

 

部屋の中はダンボールがいくつも転がっていて、殺風景になりつつある。

 

 

「そうか……。あぁ、なんでこんな時に会いに来たか、だったね。これだけは君に直接言いたくて、相澤くんに無理言ったんだ」

 

とりあえず玄関先でというのもとオールマイトを引越し準備でダンボールだらけになった部屋に通す。

僕の役目になりつつあるお茶を淹れ3人分テーブルに置いた。

 

「それで、直接言いたい事とは?」

「あぁ。君は、私を助けるために個性も使わず言葉だけで世間の風向きを変えてみせた。私には出来なかったことだ」

 

……それはただの僕の自己満足でしかない。それに付随して価値のようなものが付いただけだ。オールマイトが当初望んでいたものとは違う。

 

「ありがとう」

「……え」

「私は言ったね、UAを、ヒーローを頼むと」

 

にこり、と暗く窪んだ眼窩の奥で光る蒼の瞳は酷く優しい色をしていた。

 

「元々私と塚内くんが立ち上げたこのUAは、一般市民がヒーロー活動をすることで世間の風向きを変え、個性使用についての規制緩和を訴えるためのものだったんだ」

 

曰く、ヒーローという職業を認めさせることもそうだが、その前にまず国の重要機関のみが個性使用を認められている現状をどうにかしなければと思ったらしい。

現在敷かれている規制は規制では無く差別に近い。元々持っているものを雁字搦めに規制し、個性をまるで武力のように扱う。

違うだろう。

個性とはもっと、人々の生活に寄り添えるものだろう。その名前の通りただの個性を、まるで使うことが悪かのように扱うのは違うだろうと。

 

「しかし我々が派手に活躍すればするほど闇もまたざわめいた。確かに私のようなヒーローを支持する人々も現れたが、私に感化された犯罪者、名声が欲しいだけの強欲者もまた現れた。

……正直、自分のやっていることは本当に正しいのか分からなくなっていた」

「そんなことっ」

「わかってる。確かにUAヒーローが現れてからの犯罪発生率は減っていた。けどね、少女。

 

……どうせヒーローがどうにかしてくれると、みんな思考が停滞していたんだ」

 

 

本当は居てはいけないはずのヒーローだけど、彼らがいるから治安が良い。

そんな国の在り方に疑問は持てど、自分に危機が迫らないから真剣に考えることを放棄し、仮初の安寧に甘えてしまう。

 

「考え、変わることはとても難しい。苦しい。力が必要だ。

私はその着火材になるつもりが、ただ皆に甘い汁を与えるだけの存在になっていた」

 

 

そう言われ、身が竦んだ。

確かにそうだ。僕だってこんな状況下に置かれなかったら、国を、法律をどうこうしようなんて気にならなかった。

だって1人1人の声は凄く小さく、弱い。

 

「私が逮捕された後、個性緩和を求めるデモが起きたと知った。……正直悔しかったなぁ。私の存在が消えてから、ようやくかってね」

 

梅雨ちゃん達は言っていた。

オールマイトがいなくなった今、自分の身は自分で守りたい。そう思ったと。

 

 

「私はもういなくて良い存在なんだと、そのまま犯罪者として死んでいく覚悟がその時の私にはあった」

 

ギ、と静かに隣に座っていたかっちゃんが不自然に動きを止めた。

……当たり前だろう。

僕らはオールマイトは生きることを諦めてしまうかもしれない、という体でここまでやってきた。実際に本人の口から死ぬつもりだったと聞かされるのとではショックが段違いだ。

 

「そんな中、君が……緑谷少女が個性も使わず何かやろうとしているらしいと、塚内くんから言われた。

一体何を、と思えばあの生中継の演説!見たよ、録画だったけどね。凄く、凄く嬉しかった」

 

オールマイトはHAHAHA!!とここに来て初めて快活に笑った。独特のアメリカンな笑い声に、少しだけ光るものが混ざる。

 

「私の一番訴えたかったことを君が言ってくれた。私と違い、個性も使わず言葉だけで世間の風向きを変えたんだ。

あの場で1人、無個性で力の無いはずの君の言葉が。

あの場で君は、誰よりもヒーローだった。

 

ありがとう、緑谷少女。

───これから、一緒に頑張ろうな」

 

「おーるま、いとっ……」

 

ボロボロと溢れてくる涙で前が見えなくなる。

オールマイトも、たくさん悩んでもがいていた。どこか晴れ晴れとした様子の彼に、もう死の気配は微塵も感じられない。

その泣き虫なおそうって言ったじゃないかと笑われる。

……今日のは嬉し泣きだ、許してよオールマイト。

 

「さぁ、私達の活動はここからが正念場だ。爆豪少年、緑谷少女。覚悟はいいかな?きっとつらい場面もあるだろう」

「それこそ今更だぜ」

「上等です!」

「即答……そう来てくれると思ったぜ。

君たちはもっともっと強くなる。現状に満足するな、更に向こうへ、Plus ultraだ!」

 

 

 

課題はまだまだ山積み。ようやく入り口の蜃気楼がうっすらと見えてきた程度だ。しかしその最初の1歩をこの時、僕緑谷出久は確かに歩みはじめたんだ。

 

僕が最高のヒーローになるまでの、最高の物語の第1歩を。

 

 

End

 




後書き。

まずは最後まで見てくださった方に感謝を。
この作品は中々重苦しいテーマなせいもありあまり閲覧数も伸びなかった経緯があります。でも個人的には結構お気に入りの1作なので、加筆修正し短期連載させて頂きました。

感想でも突っ込まれましたが去年の夏頃完成させたものなので、解放軍ネタが入れられなかったのが勿体ない所です。続編……いつか書けたらいいなぁ。

それでは!

追伸。
もう1つの連載放置ごめんなさい。書きます、書きますヨ……。


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