虹の橋がかかるまで―女神となった強面青年の勘違い冒険譚― (一二三 四五八)
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1)勘違い転生

下に地の文についてのアンケートあります。
もし一人称視点の方がいい方が多かったら今なら治せますんでちょっと協力お願いします。



「あぁ。今日も生きる活力を貰ったぜ……」

 

(まったくお猫様ってのは、なんであんなに愛らしいんだろうかねぇ。今日は黒いのにも会えたし大満足だ。うむ。やはり可愛いは正義だな!)

 

 それはある春の日の週末の昼下がり。

 

その高校生、依里朱(イリス) 神那(カミナ)はご機嫌だった。今彼は日課の街の猫への餌やりを済ませてきたのだが、なんとその中に普段めったに会えないレア猫の姿があったのである。もうそれだけでこの可愛いもの好きな男の気分は一日中快晴なのだ。

 

 それから彼が路地裏を抜け人気の少ない公園のそばを差し掛かった時。

そんな気分が吹っ飛んだ。

 

「むぅ!?」

 

 そこでは幼児が車道に飛び出して、向かい側の母親の所に駆け出していて。まさに今スピードを緩めないダンプか、その子へと噛みつこうとしていた。

 

刹那。

 

 カミナはおもむろに飛び出した。今にもはねられそうな幼児に向かって駆け出した彼の強靭すぎる肉体は、瞬く間にその距離をつめ、

 

「おかぁさー、っん!?」

 

 嬉しそうに母に呼びかけるその子を素早く抱き上げると、もうダンプは目の前だ。だれもが諦めを抱く光景。だがこの青年は諦めない。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!」

(ま、に、あ、えぇぇぇぇぇっっっ!!)

 

 雄叫びを挙げてそのままダンプのヘッドを斜めに蹴り飛ばし、激突の衝撃で足から嫌な音を響かせながらも僅かな距離を稼ぐと、衝撃により大きく回転する身体の流れを利用して、その横っ腹にパンチ!!

 

どぉぉぉぉぉぉぉっっっっん!

 

砲弾を打ち込んだような轟音を響かせて、まんまと我が身を歩道へ撃ち出した彼は、荒ぶる身体を抑えつけて着地。そのまま後ろの低い街路樹の中に倒れこむと、背負われていたリュックがその衝撃を吸い込んだ。

 

(へっ、やりゃあできんじゃねぇか俺。……上等だ。)

 

 こうして幼少の時からお山の中で身体を鍛えて続けてきた彼の、その人の域を超えた力が発揮された救出劇は、見事に子供と彼の命を救い上げる結果に終わった。

 

(頑張ったな坊主。

もう大丈夫だ。見たトコ傷もねぇ。……でも早く病院にゃ行かせてやりてぇ所だな)

 

まさかの主人公、転生回避である。

 

 カミナは幼児の無事を確認した後に抱えたその子の頭を撫でると、思わずニッコリ。誰からみても大団円。まさに感動的な光景と言えるだろう。

 

だが彼の場合は(・・・・・)そうはならない。

 

「いやぁぁぁぁぁぁっっっっ、化け物ぉっっっ!!

私の子供を返してよぉっっっっっ!!」

 

その時突然、幼児の母親が悲鳴にも似た叫び声をカミナに向けてきた。

 

(ああ。今のでサングラスとマスク、……とれちまったんだな)

 

 この場面。幼児を命懸けで助けたカミナの行いは彼女の目からは違って見えた。

 

子供の声を聞いて道路へ振り向いた彼女が見たものはダンプではなく、サングラスとマスクをつけた異常に筋骨隆々なタンクトップ姿の恐ろしい不審者の姿であり。

それを見た時、彼女からはそれ以外の情報が吹き飛んだ。

 

 しかも直後、不審者がよくわからない速さで我が子に飛びかかると、その動きの激しさからサングラスとマスクが弾け飛んだから大変だ。

 

「きゃぁぁぁっっっっっっっっっっっっっ!!」

 

その下には、とてもこの世の者とは思えないおぞましい顔が隠されていたのだから。

 

 説明が難しいが、言うなればそれは鬼と般若、なまはげと修羅、餓鬼と羅刹と、何かその様な造形のモノをありったけ混ぜ合わせ、さらに邪悪な何かで丁寧に煮詰めこんだ上で、奇跡的にその醜悪さとおぞましさのみを抽出しまとめ上げたような顔であり。

 

むしろ実際はそれらの表現すら生ぬるいもっと恐ろしい人外の、ナニカであった。

 

(あ、あ、ウチの子が、化け物にさらわれるっ!!)

 

これが彼女の結論である。

 

 そして彼が街路樹に沈みこんだ後見た。

そのぼさついた黒髪の奥に光る、仄暗い死の色を思わせる濁った紫の瞳が、娘を抱えたまま邪悪に嗤う不気味な大きすぎるその口が、温厚な母親の心から完全に正気を奪いさった。

 

結果。そこには娘の為に化け物に立ち向かう強く優しき母の姿だけが残ってしまう。

 

「放せぇ!! 放しなさいよ!!」

「……落ち着いて下さい、奥さん。俺は別に怪しいモノじゃありません」

「そんなワケ、ないじゃない!!」

 

 同じく異形の影を見て思わず走り去ってしまったダンプはもはや見る影もなく、そこには助けた筈の幼児の母から、決死の覚悟でハンドバックで殴られ続ける哀れな青年の姿。こうなると彼を恐れた人には何を言っても無駄である。

 

 これこの通り、この青年はいつも極端に間が悪い。その見た目と相まって、それはいつでも彼を傷つける凶器となってその身へと突き刺さるのだ。通う学校ではその姿から陰ながら魔神やら鬼神と恐れられ続ける彼の、生涯の苦悩である。

 

 そんな中、本人は至って冷静で。

 

(ああ。俺見てぇな強面相手にでも子供の為なら立ち向かえるってか。……やっぱ、母親ってのはすげぇモンだな。悪い事をしちまった。……俺は笑った顔が一等怖いらしいんだ)

 

むしろこの母親の行動に感心し、逆になんとなく申し訳なさすら抱いている所であった。

 

 彼にとってこんな事は日常の一部。今更騒ぐ気にもならない事だ。どこに行こうが泣く、喚く、騒ぐ、怒る、殴る、警察を呼ぶ、気絶する、心臓発作などが付き纏うのが自分だともう自覚している。そんな事より必死に子を守ろうとする母親の姿が、捨て子であり、育ての親すら失った彼にはどこまでも眩く思えた。

 

(……早く息子さん(・・・・)を彼女に返して安心させないとな。それにこの子の身体も心配だ。なんもねぇとは思うが、大事に越した事はねぇ)

 

「おい坊主。もう大丈夫だ。

……お母さん心配してるぞ?

ほら、お母さんの所に言ってやりな?」

「うああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 そう思った彼が幼児を母親の元に返そうと頭を静かに撫でながら声をかけるも、幼児は大きく泣き叫んで自分の身体へと力強く抱きつくばかりでどうにもいけない。仕方なく母親から叩かれながらそんな子供の頭を優しく撫で続けてやるカミナ。

 

 しかしそんな事をしていればいくら田舎の人気の少ない通りでもいくらか人が集まってくるもので。

 

「誰かぁっ、誰か助けてぇっっ、ウチの子が化け物にぃっっっ!!」

「どうしたんですか!?」

「ひぃっっ、ば、化け物ぉっっ!!」

「誰か警察、警察呼べぇっ!!」

「ど、動画、動画とらないと……」

 

 彼にとってはまさに、いつも通りのひどい流れだ。まぁこの後警察が来てくれれば大概解決する。伊達に怖い顔はしていないのだ。些細な勘違いから誤認逮捕を続けた彼は、この辺りの警官の中ではもう割と有名だった。後少しの辛抱。そう思ってカミナは痛みをこらえ続ける。

 

 大きな傷にもそこそこ慣れてるカミナは、自分の傷の具合をよく理解していた。いろんな所が折れてるが別に命を落とす程じゃない。ならば問題ないとこの男は思うのである。日常から事故に会いやすい男の、悲しい達観だった。

 

 しかしこの日ばかりは、どうも勝手が違うらしい。

 

(む、いかんな。流石に気が抜けたのか、どうにも、こう……、気が遠のく、ぞ)

 

「テメェっ、俺の子を放せっ!!」

 

朦朧とする意識の中でカミナは誰かに殴られた。その衝撃がきっかけとなり、微睡むようにカミナの意識はさらに薄くなっていく。その時カミナは1人物思いにふけるのだ。

 

(ああ、いつも通り。俺は化け物扱いか。……いつかこんな思いから抜け出せる日はくんのかねぇ。……どうも神様ってのは今日も寝てるらしいぜ。神那(こんな)名前なのに皮肉なこった。

まったくいつも通り、いつも通りだ。ま、諦めねぇよ。少なくとも誰かは分かってくれるんだ。そん為にバカになって人におせっかい焼き続けるって、俺ぁあの人に誓ったんだから)

 

思うのは遠い日の約束で。

 

「なんで殴るのパパぁ! お兄ちゃんはボクを助けてくれたのにぃ!!」

 

聞こえてきたのは届いた思い。

 

(ああ、そっか。はは。オメェは分かってくれてたか坊主。なら、ま、上等だ)

 

 なんとも報われた気分になったカミナは静かにそのまま目を閉じた。そう。こんな風にちゃんと伝わる事もあるのだと、最後にその子の頭を1つ撫でて、前のめりに倒れ込む。

 

(……少し、眠る。足が1本折れただけなんだ。こんな傷じゃ死んだりはしねぇよ俺は。だからオメェも早く泣き止んで、家族を安心させてやりな坊主?

……ああ、佐藤さんにまた迷惑かけちまいそうだなコレ。……親子共々いつも迷惑かけちまってホント、すんません)

 

 カミナは何かと自分に目をかけてくれる頼れるお巡りさんと、その娘の仕事熱心な自分のクラスの委員長の事を思い出しながら心の中で頭を下げると、程なく意識を手放した。近くで何故か猫の鳴き声が、聞こえた気がした。

 

 

その後、彼は不思議な夢を見た。それは夜空のような色をした紫色の蝶の夢。羽ばたくたびに星屑のような煌めきを振りまきながら翔ぶソレがあまりに綺麗だったから。カミナは暗闇の中、ソレを夢中で追いかけた。

 

その果てに光が見える。

 

見たこともない程に美しい虹色の、光が。

 

 

 そこはまるでギリシャの古い時代の神殿のような場所だった。現実のそれと違う所は大きく3つ。その部屋は古ぼけ朽ちたものでなく、部屋の所々には幾多学模様の不思議な虹彩が浮かび上がり、そこらじゅうに神秘的な光の珠がシャポンのように立ち込めている事。

 

それらを見ていると、どうにもそこが地上のどこかとは思えない。

つまりここは天界などと呼ばれるのが相応しい場所なのである。

 

 その神殿の祭壇の前で、背中から白い羽を生やした美しい女性が1人、堪えきれぬとその喜びを形のよい唇から零している。その身に包んだ古代ギリシャ風の衣装が、彼女の身体に張り付いて妙に細かいシワを作り出し、彼女の見事な肢体の形を際立たせていた。

 

 この気の強そうな切れ長の碧眼に、長く美しい金糸の髪を真っ直ぐ降ろした整った容姿の女性の名はアルメリア。多元時空に数多に浮かぶ世界の一つを統べる新米の女神である。

 

 彼女は今、自らが手にした幸運を思い出しながらその時を今か今かと待ち続け、その心を踊らせていた。すなわち新たな勇者が召喚される、その時を。

 

(ふふ、依里朱(イリス) 神那(カミナ)。魂の価値の薄い現代のコモンの存在で在りながら、まるでレアクラスのような能力を持つ男。完全に生まれる時代と世界を間違った優れた魂。有象無象のステータス郡の中から彼を見つけられたのは本当に幸運だったわ。お買い得過ぎるんだもの)

 

 彼女の言うお買い得とは、異世界から魂を召喚するのにかかる費用の事を指す。こうして異世界から魂はそれらを時代ごと、立場ごとの区分で分けて、示された神力をその世界の神へと支払う事でトレードがなされていた。

 

 特に地球はその魂が多く管理がずさんで、探せば今回のようなお買い得な魂が見つかる場所なのだ。その為まだまだ世界の総力が足りない若い世界の神などはこぞって地球からお得な魂をよりすぐり、自分の世界へと買い集めていく。

 

地球側は溢れすぎた魂が減り嬉しい。弱小世界は世界が強くなって嬉しい。まさにwinwinの関係だ。どうやらまだまだ神々の世界では異世界転生・転移のブームは終わりそうにないらしい。

 

 そんな女神の目的の魂は本日死亡予定の魂である。

名を依里朱(イリス) 神那(カミナ)という。彼の者の運命予測にダンプによる接触事故を見つけた時、彼女は思わず笑ってしまった。

 

はいはい、アレねと。

 

 異世界から召喚されるようなレアな魂はなぜかダンプという物に轢かれやすく、その後は流れで速やかに死亡して神々の元へとやってくる。もはや彼ら異界の神の中ではあまりに常識的な事柄であり、彼女の反応も無理はない。

 

 そして先程ようやくそのイベントが起こる時刻となり、彼女はここでその魂の到着を待ち構えている所なのたが、ここで思わぬ事態が起こる。

 

「……こないわね?」

 

そう、待てども待てどもカミナが召喚されないのだ。普通ならイベント終了と共に現れる筈なのに。こんな事は女神には始めての経験だった。

 

 次第に女神の中にイライラしたモノが貯まり出す。多くの世界の神が傲慢であるように、この女神にもまたその気があった。若干以上にSっ気が強く我儘な気質のあるこの女神は、元より誰かに待たされることが大のニガテなのである。人間に待たされるなど論外だった。

 

 どうにも現れない目的の魂に、ついにその女神はある覚悟(ぷっつん)を決めた(した)

 

(……もういい。よく考えれば当然よね。彼のステータスは英雄並なんだもの。どうせその強靭過ぎる肉体が災いして長く死の苦しみを味わっている所なのでしょう。

ならば私がその苦しみから貴方を開放してあげるわ。感謝しなさい人間風情。……少し追加で神力はかかるけど、彼の場合はそれでも大幅な黒字だから問題ないわ。

 

何よりこれ以上待ってられないわよ!!)

 

……とてもよくない決断である。この時の女神の思いが最後の心情に集約されていた。

 

 言うが早いが女神は勇者を召喚する為の神言を唱え始める。神殿の紋章が輝き、光珠が配列を変え、女神のその薄絹のような衣装がその風圧ではためいて、その術の強大さを指し示す。

 

「苦しみ足掻く哀れな異界の魂よ! 我が名アルメリアの命により汝に救いの道を差し伸べん。光輝に従い、汝の魂を我が前へ。汝はここで生まれ変わり、その理を変えるモノなり。標に従い迷うことなく疾く疾く来たれ、栄光の担い手よ!!」

 

 主神権限による魂の強制召喚。

瞬時に強力なゲートがその場に開き、彼の者の魂をこの世界に誘わんと純白に輝き始める。

 

 だがこの神言とて万能ではない。最初に述べた条件を満たす魂でなければ、道は開かれるものの召喚はなされないのである。

 

この場合は”苦しみ足掻く”。女神はコレを今現在事故によって生死の境をさまよっているだろうカミナを思って唱えあげた。

 

 しかし彼はその時、別に生死の間にいるわけではなかった。

 

だが同時に彼は苦しみ足掻いていた。いつまでも周りに化け物呼ばわりされ続ける自分自身に。そしてその現実に。それでもいつか人に分かって貰える筈だと決して諦める事なく、誰かへと手を差し伸ばし続ける道を選んだ彼は。

 

苦悩の中で、いつも足掻き続けていたのだから。

 

 だからこそ噛み合ってしまう。

召喚が成立する。

 

祭壇の前に新たに刻まれた魔法陣がうっすらと輝き始め……。

次第に彼が姿を現す。

 

 うつ伏せに眠るその姿をみた女神は途端に機嫌がよくなった。彼女はカミナの想像以上のその肉体を見て、自分の選択した魂の価値に改めて心踊らせたのだ。

 

 身の丈こそ180の後半だが、その身に宿すこの筋肉の凄まじさはどうだ。腕など女の腰より遥かに太く、足などもはや大樹のそれだ。戦神の中にだってここまでの肉体を持つものは多くない。女神の彼女でさえ、思わず背筋に冷たいものが落ちそうな程に異常な体躯。

 

(……もしかしたらレアクラスにすら収まらないのかもしれないわね♪)

 

自分の選んだ商品に確かな価値が見られれば誰だって嬉しくなるものだ。今の女神はまさにその心境だった。

 

 ほんの少し、いつもより優しい声音でその男に声をかける彼女。うまく手駒に出来るならこれほど使いやすそうなコマはない。その声にはそんな心胆が込められていた。

 

「苦しみ足掻いた哀れな魂よ。非業の死を遂げた汝の前に新たな道を指し示しましょう。

目覚めなさい、イリス カミナ」

 

(なんだ、ここは?)

 

 その声を聞きカミナは静かに目を覚ます。

目を開けて見えたのは見たこともない石材で出来た石畳で。その所々には幻想的な虹彩を放つ不思議な文様が描かれていた。目端にはフワフワと宙に浮くたくさんの光の珠。

 

そしてなにより自分に声をかけた人物から放たれる()を感じた時、彼はそこが死後の世界であると直感する。

 

(そ、うか。俺は、死んだのか……)

 

 その事実に気づいた彼の胸中に浮かぶのは。

 

(ふがいねぇ、鍛え方が足りんかった!!

じいちゃんの言いつけ、あの人の教えてくれた事、全部守れんまま死んじまうなんざ、俺はなんて軟弱な男だ!!)

 

自分へ激しいの怒り。

 

 彼には守るべき指標があった。自分を拾い育ててくれたじいちゃんの遺言となった口癖と、世間の風に自分がとうとうグレてしまった時に自分の全てを受け止めて、道を示してくれた恩師、名も知らぬあの言葉。それが彼の目標であり、生き様だった。

 

1つ、弱くちゃなんも護れん。護るならテメェも護れ。

1つ、真っ当に生きろ。そういうヤツが一番えれぇ。

1つ、親から貰ったモンは大事にしろ、親がなくともそりゃ忘れんな。

 

じいちゃんの口癖を、彼は1つ1つ思い出し。

 

バカになって人を助け続けてたら、いつか絶対幸せになれるから。絶対分かってくれる人がいる。だから自分も、助けてやりなさい。

 

恩師の言葉を反芻する。

 

(そんな生き方をずっと続けてきた人だった。そんな人に俺もなりたかったのに。死んじまったら、なんも護れねぇだろうが!!)

 

 大きな怒りが彼の心を震わせる。だがその時彼はふと思い出す。自分の目の前には神様、きっと女神様がいる事に。

 

(……いつまでも男が下を向いてちゃなんねぇ。後悔は、1人の時でも出来るだろ)

 

 カミナは立ち上がった。怒りを胸に抑え込んで。その表情はいつもより険しいが、この男は不屈の魂を持つ。立ち上がるべきなら、立ち上がるのだ。そうしてずっと生きてきた。

それはこれかも変わらない。

 

「っっっっっっっっっっっっっっっ!!」

(俺を見ても声1つ上げねぇか。流石は女神様って所なんだろうな)

 

 しかしその怒りを抑え込んだ鬼の形相を向けられた女神は溜まったものではない。その顔は本来の彼の顔など比べ物にならない程に恐ろしく、多くの異形を見てきた女神の目から見ても口にするのもはばかられる代物だった。

あまりのその恐ろしさに完全に言葉を失ってしまう女神様。

 

ちょっといい気分になったわがまま女神、まさかの奈落への転落である。

 

 もっとも面倒事を部下に放り投げる事に関しては定評のある女である。本当に気持ち悪いモノやおぞましいモノをあまり見た事がない事も、この恐怖の大きな原因といえる。

 

怒れる魔神の静かな歩みは、女神となって捨てたハズの生物として本能を、今アストレアに思い出させ彼女から自由を奪う。

 

 悲鳴を上げなかったのは最後の意地で。

 

(ナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレナニコレ!!)

 

もはや決壊は目の前である。

 

(しかし、神様っていたんだな。今までさんざん疑って悪い事をしちまった。こういう所が俺に足らん部分だったのかもしれん。……ちっ、また自分に怒りが湧いてきたぜ)

 

 カミナは知らない

今この時カミナが怒りを抑え込んだその気迫が女神からはもはや可視化して感じられている事を。それが名状しがたい恐怖であったカミナの顔を、さらに高次元な領域まで引き上げてしまった事を。

 

つまり断罪の(そして決壊)の時である。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!! あ(ぷつん)」

「!?」

 

 程なく限界を迎えた女神はもはや最後には高周波の域に達した悲鳴を皮切りに、糸が切れたかのようにその場に倒れ込む。

とっさにカミナは飛び込んでそれを受け止めるも。

 

「……そっか。俺の顔ってのは女神様なんかも気絶させちまう程に、ひでぇのか」

 

彼が受けた心の傷は、決して小さいものではなかった。

これがこの後、彼に思わぬ決断を選ばせる事になる。

 

 

こうして18年間。人から恐れられ続けた心優しき青年の苦悩の時は終わりを告げ。

 

《世界主神の戦闘不能を確認。依里朱 神那の勝利判定を獲得申請。成功。獲得しました。ステータス情報を更新。ステータスは現在未整備の為、経験を初期ステータスに反映します。

称号スキルの獲得を申請。成功。【主神を倒せし者】【最速世界制覇者】を獲得しました。

 

ようこそ。

どこまでもお人好しな転生者。

世界はきっと貴方の事を望んでいます》

 

ここからは、伝説が始まる。

 




閲覧ありがとうございます。

前作のリメイクとなります。前作にあったようなつらい展開がなくなります。
こんな作品ですがどうかよろしくお願いします。


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2)仮面の下で願うモノ

「……というワケなんです」

「あ、はい」

 

 現在女神は魔神?改めカミナから彼の身の上の話と、これまでの経緯を聞き取っていた。目覚めるとファンシーな仮面を被った大筋肉ダルマがいた事にはびっくりしたが、自分を介抱していた形跡と一応ながら対話に歩み寄るその姿勢を読み取って、おっかなびっくりカミナの話を聞くことに決めたのだ。

 そして現在。

 

(こ、コイツ死んでないじゃない。や、やらかしたわぁ……)

 

彼女はひどく後悔していた。彼女は気づいてしまったのだ。カミナに死を追いやったのが自分自身であるという事に。

 

 アルメリアの女神としての権能の中に制約というモノがある。この権能は自他共に全ての嘘を許さない力で、彼女が若くして主神まで至った原動力の一つであり、もっとも女神の信頼する能力だ。その権能をもって話を聞けば誰にも真実は隠せない。

 

 だからこそ対話に挑んだ女神なのだが。そこで知れた事はあまりに彼女にとって都合の悪い事だった。

 

(まずいわね。自分の死の運命にすら打ち勝ってしまった男を他の世界から奪ったなんて知れたら、それこそ世界間の戦争になる。相手はあの極限世界。弱小のウチじゃ死あるのみ。だめじゃない。凄くだめじゃないの!!)

 

 これは大問題である。実は異世界転生や転移にもルールがあって、なんでも好きにやっていいワケではない。死ぬ事が未だ確定していない存在を、本人の同意なく異世界から奪ってはならないし、もちろん故意にそんな状況を作る事も禁止されているからだ。

 

(せ、制約の権能のせいで私はルールを破れない。私はコイツを接待召喚に切り替えなくちゃならなくなった!)

 

 接待召喚。つまり召喚された人間の方が権利を有する召喚の事である。

死ぬ事が未だ確定していない存在を、本人の同意なく異世界から奪ってはならない。このルールが彼女を縛る。彼女はもう彼の命を奪っている以上、もう契約はもはや破棄できない。女神でさえ異界の命の蘇生は不可能である。

 

この契約を彼の意思で承諾されなければ女神の不成約が成立し、自分の権能に従ってそれを異世界に申告するハメになる。……そうなれば世界の死だ。

 

 つまりカミナはここでごねればごねるだけ女神に力を貰えるチャンスを得ている。それを成立出来なければ女神とその世界に待っているのは絶対の破滅である。

 

まさに接待。

未曾有のチートフィーバーが来ていた。

 

(く、まずはそれなりに好条件を提示してコイツをいい気にさせてやらないと。そこからごねられたら事だわ。乗り切るのよアストレア。貴方なら出来る!

制約を乗りこなす私の力、とくと知るがいいわイリス カミナ!!)

 

 制約により嘘をつけず、ルールを破れない彼女だがそれは他者を騙せない事と繋がらない。彼女はその隙間をぬって他者を翻弄する天性の詐欺師である。

 

こうして女神が交渉の決意を固めた時。

 

(ああ、やはり女神様ともなると懐が広いもんだな。出合い頭に気絶までさせちまった俺の話を親身に聞いてくれるなんて人間が、いや神様が出来た御方だ。

もし俺にやれる事があれば出来る限り尽力しよう)

 

 カミナもまた決意を固めている。彼は自分の話をきちんと聞いてくれた女神様を高く評価していた。女神は彼の人となりを判断する材料としてしっかり聞き込みをしていただけなのだが、そんな事は極度に対人スキルが低いこの男にはわかるハズもない。

 

 むしろこの男の中では”ちゃんと話を聞いてくれる人”というだけで、恐ろしく評価が高い。だってそんな人10人もいないもの。だからお願いされたら大概何でもしてやれる。知らない子供にさえ命をかける男の何でもだ。割とホントになんでもなのである。

 

人の道から外れない範囲ならOK。やるよ?

……本当に心配になる男だ。

 

こうしてちょろすぎ男と、後がない女神の、世にも噛み合わない交渉劇が幕を明けた。

 

 

「実は貴方にここに来て頂いたのは他でもありません。貴方にはこれから私の世界に転生へと貰いたいと思っているのです」

「転生、女神様の世界に?」

 

(命令口調は使えなくなったわ。あくまでこれは私側からのお願いだもの。それにコイツが死んだ原因を想像させるような言葉も使えない。うまく情報を与えて誘導する)

(夢半ばで散った軟弱なこの俺に、女神様はチャンスを与えてくれるのか!)

 

「はい。私の世界は未だ幼く、またまだ不安定な状況なのです。剣と魔法の力を秩序とし、人々は多くの魔物達に怯えて暮らし、さまざまな争いが絶えないそんな危険な場所です。

文明も貴方の世界でいう古代ローマ時代を魔法の力で少し栄えさせた位でしょうか。

 

私の世界は未だ1人でも多くの力ある者を望んでいるのです。その装備など貴方の生活が不自由無きように配慮させて頂きます。どうか貴方の力を貸して下さいませんか?」

「なるほど……」

 

(くっ、沈黙。やっぱそりゃ嫌でしょうねぇ。私だって嫌だものこんな条件でいちいち危ない世界で暮らすなんて。はいはいわかりました。あげますよチート。それでいいでしょ?)

(……ふむ。二度目の人生を送れるだけでもありがたいのに、至れり尽くせりだな。ありがたい事だ。なんと慈悲深い女神様だろうか(感動中))

 

「もちろん。それだけで唯貴方にそこに迎えと言うのではありません。貴方の望む力を1つ、なんでも仰ってみて下さい。無茶なモノでなければそれを差し上げましょう」

「そのような事までして下さるのですか?」

 

(はい喰い付いた。ええ。それですむならね。この条件じゃ2つも3つも要求されてもおかしくないもの。それにコイツ身の上を聞くとお人好しっぽいから変な願いはしないでしょ)

(……本当に言葉もないな。これからは決して神様を無下にしたりはすまい。しかし望む力か。ふむ。今一番したい事……。ああ、アレがある。)

 

「では自分の知り合い達に、自分が別の世界で生きている事を伝えて欲しいです。こんな俺でも少しばかりは、それの死を悲しんでくれてる人がいると思うんで。俺はその人達を安心させたいと思います。手紙でもなんでもいいんでお願いします」

 

(くっ、コイツ。未死召喚の権利に触れてきた! まだ死んでない魂を召喚した私には確かにそれを求められたら従わなきゃならない義務がある。面倒な事を。権利なんて知らなきゃないと同然なのに。ここはコレね)

 

「それでは手紙でなく、貴方の知り合いに霊体のままお会いして来てはどうでしょう? 1日時間を差し上げますわ。存分に挨拶をしてきて下さい。ついでにその方々に少ないながら祝福を授けましょうか。その人生に幸あらん事を祈ります。

それとこれらは貴方の願いとは別です。貴方を招いた私の当然の義務ですからね」

「なんと、女神様感謝します」

 

(印象操作。これでもっと面倒くさい疑似実体化や痕跡の残る手紙の配送は避けられる上、さも私がこの男に配慮したように見えた筈よ。

他は面倒だけど譲歩したげる。そこからこの男の死因を突っつかれらアレだしね。)

 

(……ありがたい。俺としてはそれが叶えば他に望む事なんてないんだが、せっかくのお心遣いだ。きちんと考えてみよう)

 

「なんでも構いませんよ。伝説の英雄の装備や、貴方の世界の品物を取り寄せる力など、貴方の望む事を仰ってみて下さい。例えば、貴方のその容姿を変えてみるとか」

「……出来れば姿はこのままでいたいです。死んだじいさんの口癖なんです。親から貰ったモンは大切にしろって。ソイツを俺は裏切りたくない」

「……そうですか」

 

(そんなモン大切にすんじゃないわよ!(張り付いた愛想笑い))

 

(嗤われてもおかしくないんだがな。ああ、この人どっかあの人に似てるんだ。全部受け止めてくれる感じとか。そりゃあすげぇや。どうやら俺の恩人は神様級だったらしい。

 

さて。……まぁ、俺の願いなんざ唯一つ。今も昔も家族だよなぁ。誰かを愛して、愛されたい。唯それだけだ。でも家族なんざ願って手に入れるのも違うと思う。そういうのは直接望んじゃいけねぇ気がする。だったらどうする。それ以外で考えるか。

 

努力すりゃ俺でもいつか掴めるか、家族。

いや、待て。

 

俺はこんな人にさえ引かれちまうような男だ。今はこの◯ンパンマンマスクがあるから会話できるが、これを外したらどうだ。こんな懐の広ぇ女神様にさえ怯えられる俺が、自力でそんなモン手に入れれるのか?

 

……まったく想像が出来ねぇ。

 

そんなら、アレだ。家族じゃなくて、なんかそれに近いモン手に入れれるような。そんな力を貰えりゃ、どうだ。それだって相当人の道に外れそうな力だが、目の前を女神様を見ていると、これがどうも俺に与えられた最後のチャンスのような気がしてくる。

 

だったら、そうだ。要は俺が愛されればいいんだから、そうだ!)

 

この時、普段考え込まない男が考えた超理論が、彼のこれからの人生を決定づけた。

 

「女神様決めました。俺は愛されたい(モテたい)です。

多くの人から愛されるように(モテるように)なりたいです」

「……なるほど」

 

(人から愛されたいって事だから、ようはモテたいって事だろう。着地点として上々かな)

(嘘がない。ああそう。コイツクズね。ゴミクズ。女神の前でこんな願い望む男なんて虫ほどの価値もない。腹ただしいわ。不敬が過ぎる。こんな願いこのまま叶えてやったら私の世界がぐちゃぐちゃになる。そんな事認められない。何か揚げ足を取れる言質を取らないと)

 

「もっと具体的に聞いていいかしら、貴方はどんな人の()を望むの?」

 

(……女神様はお見通しか。流石だな。なら無理にモテたいなんて言うことはねぇか。)

 

「はい。そうですね。自分は男ですのでやはり女の人から愛されたいです。出来れば醜くない人から。年は上でも下でも同年代でも構いませんが。

誰でも等しく愛したいと思います」

「なるほど。他にもありますか?

出来るならば全て仰ってみて下さい」

 

(俺は顔じゃあ散々苦労してきたからなぁ。出来りゃあ家族にこんな辛さ背負わせたくないし、ばあちゃんだろうが子供だろうが家族に違いなんてねぇ。どっちも尊いもんさ。

ああ、そうだな。あとは……)

(ふん、典型的なハーレム願望ね。醜くないってようは顔のいい女の事じゃない。年上だけでなく幼女まで手を出したいって?

死ねばいいのに)

 

「では。そうですね。その人達が身も心も健やかであれば嬉しいですね。飢えて痩せ細っているような事も、荒んだ言葉を使うような事もなければ言うことは有りません」

「(頷きながら)なるほど?」

 

(そんな家族の姿、見たくねぇもんなぁ)

(随分望みのお高いことね。世界中の極上の女を貴方のモノにしたいのかしら?)

 

「まぁ極論はどんな人でも、いいんです。気が強くて、回りに噛み付く事しか知らない人でも、陰のある人でもね。どんな人でも、愛し会えれば、それで、いいんです(ぽたり)」

 

 その時、仮面の下から雫が落ちた。それは心の底から誰かに愛されたいと思い続けた男の涙。自身も気付かずに流れた祈りの雫。震えそうな身体を必死にこらえる。

 

(どんな人だっていい。お互いに思い会えればそれだけで充分なんだ)

(結局ヤレればどんな女でも良いって事? なんて節操のない。しかもアレヨダレが仮面から垂れてるのかしら。ああ、今スグコイツ殺したい。でも手が出せない。……ストレスだわぁ)

 

「出来る事なら多くの人を愛したいし、愛されたい。そうして多くの幸せを、共に掴みたい。そしてその(幸せ)全部、掴み取れるようなそんな、そんな力が欲しいと思います」

 

(そうだ。そんな家族の幸せ全部、掴み取れるようなそんな大きな男に、俺はなりたい。そんな力が俺は欲しい。……まったく自分で言ってても呆れる程に都合のいい事ばっかいってんな。こんな望み、無理だよなぁ)

(ふふ、ついに掴んだわ。貴方の言葉尻。そうね。強欲な貴方にピッタリの方法で貴方の願いを全て聞き届けましょう)

 

「ええ、分かりましたイリス カミナ。喜びなさい。貴方の望みはきっと叶います」

「本当ですか!?」

「ええ、もちろん」

 

(まさかこんな望みが通っちまうとは……、この女神様の懐の広さは一体どれほどのモンだって言うんだ。すげぇな、神様ってのは!)

(それが貴方の望む形とは、言わないけれどね)

 

「それでは貴方の願いを叶えた上で、貴方は私の世界に転生して頂けますね?」

「もちろんです、こちらこそお願いします!」

 

(そっか、俺、家族、出来るかもしれねぇ。ありがてぇ話だ。無念に死んだ俺を引き止めて下さったばかりか、俺の悩みまで解決させて下さるとは。もう女神様には足を向けて寝られないな。向こうについたらさっそく神棚か仏像(間違い)かなんか作ってお祈りしないと)

(よし、言質とった。契約完了。なんとか無茶じゃない範囲内で契約まとめられたわ。こうして私の世界は救われましたと。……後は貴方の処分だけよね?

成長した貴方の魂を私の世界の力にしたかったけど、もういいわ。こいつ死んだほうがいいもの。幸いそのまま殺しても黒字だし。問題ないわね)

 

「それでは貴方に親しいモノの元に貴方の魂を送る準備をするので貴方は一度眠りにつきなさい。貴方との絆の糸が、彼らの元に貴方の魂を導くでしょう。

そしてそれが終われば貴方は私の世界で目覚めます。私はいつでも貴方を見ていますよ?」

「はい、本当に色々とありがとうございました。この御恩は生涯忘れません!!」

 

(ええ、見ててあげるわ。貴方が破滅するまで、ね?)

 

 こうしてちょろすぎ男と、狡猾な女神の、噛み合わない交渉劇が幕を閉じた。

結果、女神の警戒と勘ぐりは、別に取り付けなくともさっくり転生してくれた筈のカミナに多くのモノを与え、彼をその地に送り出す事になる。

 

 そして幕間で女神は1人、舞台に立った名優の如く言葉を綴る。

 

「ええ、貴方の望みどおり。

掴み取った全部、女に変わる力をあげるわ。これから貴方の掴んだモノは衣服も食事も何もかも貴方の望みどおり美しくて健康的な女に変わるでしょう。

そして貴方自身もね。

 

満足でしょう。

だって貴方が望んだ事ですものね?

 

それら全てから貴方は愛される。

でもその時には、きっと貴方も女になっている事でしょう。

それはとても楽しいと思わない?

 

汚らわしい不敬の獣!!

 

ああ、でも。その結果貴方が自分を愛しすぎて変な考えを持ってしまってはいけないから、そこは当然考えてあげましょう。

 

そうねぇ。貴方だけもっと、それで代わりに美しくなってしまうなんてのはどうかしら? そして貴方は多くの男から狙われるようになるの。そしてそのゴミどもまで女に変えるの。それはとても素敵な劇になると思わない?

 

悍ましい化け物め!!

 

でも、足りないわ。

だから私が貴方に、試練を与えてあげるわね。きっと気に入ってくれると思うわ。

貴方が冷たくなってから、ね?

 

楽しみねイリス カミナ!!」

 

 

そうして物語は巡り始める。

その世界で転生を表す流星を見て、動き出す者達がいる。

 

 

「……見えたかスティングレイ?」

『ええ、誰かがまたこの世界に転生するみたいね?

行くのかしらレイブン」

「ああ、転生者ってのはみなオレらの世界に大きな災いをもたらす。どんなヤツか見極めて、必要ならば早めに潰すさ」

『熱心だこと。では行きましょうか我が竜騎士殿?』

「ああ、もちろんだ棘持つ者の王よ。魔物達の平穏はこの俺が護ってみせる!」

『星は西に落ちた。あそこならアデルの森って所かしら?』

「お前ならこの南の果てから2日もかからん

飛ばすぞスティンレイ!!』

『仰せのままに我等が騎士よ』

 

 

それは険しき山脈に囲まれた魔物達の王国を守る異端の竜騎士であり。

 

 

「お父様、神託が降りたというのは本当かしら?」

「ああ本当だミリア。また神の威光を汚した者が誤って世界に降り立ったらしい」

「それは大変ね。ねぇお父様。その者の討伐、私に譲ってくださらない?」

「ほう、どうしてだね愛しい娘よ」

「私ももうすぐ王都の学園にあがる頃でしょう? 誇らしい功績の1つも欲しいじゃない。領民達の献身のおかげで立派な服も宝石も揃ったけれど、それだけじゃ足りないの。

ねぇ良いでしょお父様?」

「ほほ、仕方ないなミリアは。わかったわかった。好きにしなさい」

「やったぁ。……あら場所はリーヴァイの近くなのねぇ。ならついでにリザイア男爵の所で所で新しい宝石でもおねだりしてみようかしら?」

「彼もきっと喜ぶよ。ははは、私はいい寄子を持った!」

「うふふ、楽しみね♪」

 

 

領民の血で出来たワインを飲み干す悪徳公爵の娘であり。

 

 

「おお、なんという事だ!」

「どうされたのですか学園長?」

「光が見える。全てを束ねる優しい光が降臨なされる」

「まぁ、予知が見えたのですね!」

「同時に光を覆わんとする嵐も見える。いけない。

そうなれば世界は変わらず暗がりのまま。

このままでは世界は希望を失うかも知れぬ」

「その方はどこに降りて、どのような方なのです?」

「虹だ。虹を形にしたような御方

西の深き森の中、世界に虹の橋が架かり始める」

「調和の象徴……。

アデルの森にそのような方が」

「マリアベル。星詠みの目を持つ我が弟子よ」

「はい。私が参りますベリル様。

叡智の塔の賢者たる貴方の弟子に相応しき働きをしてみせます」

 

 

予言の賢者とその心優しきその愛弟子であり。

 

 

そして現代。

 とても女性の部屋とは思えないどこかの研究室のような部屋の中で、端に置かれた飾り気のないベットの上に寝そべりながら1人愉快そうに笑う少女。

 

「はは! なんだ、やっぱり生きてたじゃないか依里朱くん?」

 

(世界を全て数字でしか見られない私が唯一認識出来たようなデタラメな男が、あの程度の状況で死ぬわけがないだろうさ。そして彼の認識をこの私が出来なくなる筈がない。

わかっていたさ。だがうれしくはある。けどな)

 

「あれだな君、流石にダメだぞ。あれだ。父の後に私って順番だけは頂けない」

 

 そういって肩に架かる程の綺麗な黒髪を頭の後ろで結んだ少女は、つけていた眼鏡を外す。そうするだけで委員長然としたその真面目そうな容姿が、整いすぎて恐ろしい程の、清楚さと妖艶さを混ぜ合わせたモノに変化する。

 

彼女は親指の根本に挟んだフレームの端に唇を当てながら、少しだけ頬を膨らませた。

 

「さて、忙しくなるな」

 

目を閉じながら先程見たものの数値を思い浮かべる。

 

 彼女は生まれついての異能者であり、破綻者である。長らく彼女の世界は数字のみだった。彼女は人間を識別できるが、それはそれぞれの顔や姿を認識しての事ではない。その人それぞれの数的差異を見ての事である。

 

 彼女は自分の異常を偽装してきた。面倒が嫌いな彼女は自分の異常性を騒がれる事をよしとしなかったし、世の事全てを数値で知れる彼女にとってそれを行うのは簡単な事だった。人の感情すらも、彼女にとっては数値の集合体でしかない。

 

 その為彼女は長らく人を人と思えなかった。父や親族も同様に。唯の数値が動いている世界で孤独のままに生きてきた少女は、ある日父から話に聞いた不可思議な少年に合いに行く。

 

その時少女は始めて数値以外のモノがこの世にある事を知る。

 

「君が生きているなら話は早い」

 

(その核はきっとこの先にあるのだろう? 君の残した痕跡の、このおかしな力量偏位の先に。ならば後はそれを追う方法を探るだけの話だ。女神とやらにも挨拶(・・)せなばな。

……異世界帰りなどというお祖父様の与太話がどうやら役に立ちそうだ。思えば失踪した私の母とやらも、それを追ったのかも知れんな?)

 

「さて、生まれて始めて全力とやらを尽くすとしようか」

 

ベットから身を起こしながら、どこまでも冷淡な魔女は呟く。

 

(依里朱くん。いやカミナ。

君は学園で私が君に接していた事を責任感の強い委員長だからだ、などと思っていたようだけどね。いやいや違う。それはひどい勘違いだ。私は君が学園に訪れると聞いたから委員長になっただけなのさ。その方が君との時間を作るのに、効率がいいだろう?

 

なに。それと今回も同じさ)

 

「……舐めるなよ魔神殿。学園でお前の巫女などと言われた女は、必ず君にたどり着くぞ」

 

 

真性の魔神である。

 

 

流星が1つ落ちた。落ちた先は深き森。数多の命が生まれ、死にゆく天然の大迷宮。

 

アデルと呼ばれる大森林で、男は女神へと生まれ変わる事になる。

 




閲覧ありがとうございます。

黒のアリス様誤字報告ありがとうございます。
毎度ながら本当に助かっておりますm(_ _)m

エーテルハリネズミ様も誤字報告ありがとうございますヽ(´▽`)/
相変わらずガバガバやなぁ……


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3)目覚めたら全部美少女になった

 その時、カミナは目を覚ました。

 

何かがおかしい。

未だに微睡み続けるカミナはまぶたを降ろしたまま、その違和感を探ってみた。

 

 まず最初に柔らかい手でもってずっと誰かに頭を優しく撫でられているような感触が伝わり、その下では人肌の温もりを持った何かが彼の枕になっている。

 そしてカミナのその大きな腕の中にそれぞれ、同じく人肌ぐらいの温もりの何かを感じる。そしてそれらも、どうやらカミナの身体に優しく抱きついているようだ。

 

(ああ、すごい、幸せな夢だなぁ……)

 

 生来、人から恐れられて生きてきたカミナは、それらのあまりの現実味のなさから思わずそれを夢だと思った。改めて気を落ち着けるべく彼が大きく息を吸い込むと、強い草木の匂いに包まれて女の子特有の、甘い香りが彼の鼻孔をくすぐった。

 

(あれ、夢なのにどうして……)

 

 未だに覚めぬ夢心地のままカミナが少しだけ手を動かすと、その先になんだか柔らかいものがある。もにもにふわふわ。もにもにふわふわ。なんだかすごく癒やされる。

するとどうだろう。

 

「きゃあ、くすぐたぁっい♪」

「……こしょばゆい。」

「あはは、イタズラ好きなお手々さんだね~。」

 

自分の周囲で女の子達がはしゃぎ合う声が聞こえてくるのだ。

 

(……ふむ。)

 

 彼はしばらく固まった後。

 

(もしかして夢じゃないのか!!)

 

「っっ!?」

 

大きく目を見開いて、飛び起きる。

 

「わぁ、起きた!!」

「……カミサマ起きたね。」

 

「おっはよーご主人さま。いい夢見れたかにゃ?」

 

 起きざまのカミナにあらためて嬉しそうに抱きついてくる腕の中の幼気な女の子たち。さらに後ろから少女がふざけた感じで親しげに尋ねてくる。

 

 抱きついてきた少女たちはどちらもすごく可愛らしい。

 

右腕には花の妖精のような服をきた緑の髪を右でくくった、同じく緑のぱっちりおめめの表情豊かな女の子が。左腕には白と黒が砂利のように入り混じって灰色に見える、独特の柄の前開きのローブを身に着けた白い髪を左でくくった、半開きの綺麗な銀色の目をした落ち着いた雰囲気の女の子。どちらも年の頃は小学生の中学年位だろうか。

 

そんな子達が自分を恐れず嬉しそうに抱きついてくる。

 

 もちろん見覚えなんてまるでない。後ろから聞こえる少女の声にもだ。ついでにいうと彼の目に飛び込んできた周りの景色にも当然彼は覚えがなかった。

 

 そこは深い深い森の中。乱雑に所狭しと木々が競うように生えており、余りに密集したそれはそこに木漏れ日すら容易に届かせず、辺りは一面薄暗い。そこには幼き頃より山の中で身体を鍛えたカミナにもわからない植物達が多く見受けら、ここが異世界だと実感できた。

 

 そして森の中には軽自動車が通れそうな程の幅の林道が造られており、その辺りだけ少しだけ他の場所よりも日が差している。その脇でどうやらカミナは眠っていたらしい。身体には立派な紅い布が毛布代わりにかけられていた。……彼女達がかけてくれたのだろう。

 

 

 しかし彼にとって今の大事はそんな事ではない。目の前にいる少女達が何よりの大事だ。いまだ混乱したままの脳みそから、カミナは今の素直な気持ちが口につく。

 

「ああ、おかげ様で。……最高の気分だった」

「ふっふーん。私のお膝様を貸してあげたんだから当然だよねぇ♪」

 

「!?」

 

 心の底からそう答えたカミナへ、後ろから少女が思いっきり抱きついてきた。とたん、柔らかな感触が彼の背中へと伝わってくる。とっさの事で言葉を失うカミナ。

 

 同時に彼の顔の横、すごく近くに少女の顔が現れた。そのショートボブの茶髪を揺らし、黒い、どこか猫みたいな瞳をした同い年位のその女の子は、そのままカミナの顔にその整った顔をくっつけてきた。それがどこか甘え上手でイタズラ好きな猫の姿を連想させる。

 

そんな彼を見て幼い少女たちもまた、前から笑いながら抱きついてくる。

 

「ワタシもいっぱいぎゅーってしてたんだよ?」

「……ワタシもいっぱいぎゅーてしたよ?」

「「ぎゅー」」

 

 無邪気な少女たちの声が、その優しさと共に彼に届いた。自分の姿を恐れない誰かに優しく抱きしめられる。それがずっと望んでいた事だったから。

 

恐る恐るに、彼は少女を抱きしめ返した。

 

「わぁ、ワタシカミサマに抱きしめられてるよ!」

「……ぎゅーってされてる」

「「わぁい♪」」

 

「……」

 

 カミナの心に温かいモノが溢れる。この温もりが、ずっと欲しかった。誰かから愛されたくて、でも愛されなくて。愛したくて、でも受け入れられなくて。ずっと空回りを続けた彼の、求めていたものが腕の中にあった。その少女たちのキラキラした瞳の輝きは、彼にはどんな宝石のソレよりも遥かに綺麗な宝物に見える。

 

「お、よかったねぇアンタ達ぃ。ほら、カミナくん優しかったでしょ?」

「うん!!」

「……すごく優しい」

 

「ぎゅーってされるとぽわぽわするの!」

「……ぎゅーてされたらふわふわするわ」

「「ぎゅーってされたら幸せなんだね!」」

 

「そう、だな。本当に、そう、思う」

 

 大きな幸福感の中、その時のカミナは考えていた。この少女達はきっと彼が女神に望んだ力によって彼に好意を抱いてくれているんだろうと。

 

 とたん、受けていた温もりは恐ろしい罪悪感となって彼の心を責め立てる。彼は人の心を歪める力を女神へと望んだ。どうしても自分の夢を、家族の温もりを手に入れたいが為に。だがこんなに無差別に、少女達の心を歪めるものだとは考えていたかった。

 

 この優しい少女達が、自分の手によって歪められてしまったのだと思うと、自然と涙が溢れた。それでもこの温もりを手放せない自分を思えば、さらに。

そんな彼をどこまでも少女達は優しく気遣う。

 

「お、もうしょうがないなぁカミナくんは。ほらほら落ち着いて。……よっぽど嬉しかったんだねぇキミは」

 

「……ああ、ありがとう。本当にありがとう」

 

 後ろから抱きついている少女が、言葉通りとは裏腹に嬉しくてしょうがないと言った風な顔で、カミナの頭を優しく撫でた。その時カミナは動転していて、少女が自分の名前を知っている事に気付かなかった。

 

 カミナは知らない。

少女が元は彼の下着であった事を。女神に彼が与えられた力によって形を変えた美少女であることを。彼女は彼の下着として彼の姿を見てきた。だからこそ誰からも恐れられたカミナがこうして誰かに抱きしめられる事を、誰よりも望んでいた事を知っている。

 

今まで辛い思いをしてきた事も、それでも誰かの為に頑張り続けた彼の努力も。少なからず彼女の心に焼き付いていて、いつか報われて欲しいと願っていたから。

だからこそ、誰よりもこの光景を下着の少女は喜んでいた。

 

「カミサマ泣いてる!」

「どうしたのカミサマ、どこか痛いの?」

 

「いや、違うんだ。君らが抱きついてくれたのがあまりに嬉しくて、嬉しくてな。情けない事に、涙が出た。求めてたモンが腕の中に有るんだって思うとな、みっともねぇな」

 

 カミナは素直に自分を心配してくれている女の子たちに、とっさに本当の事が言えなかった。だからもう一つの本当を伝えた。それが偽り無くまったくの真実だったから

 

「「わぁ!」」

「はいはい。別にみっともなくないよ。ほら、ワカバもコイシももっとギューとしたげてよ。コレめっちゃ嬉しがってるからさ」

 

「「うん、ギュー!」」

「アタシもギューってね♪」

 

 カミナは知らない。

この幼い少女達が、彼が女神に彼が与えられた力によって形を変えた美少女であることを。下着の少女に呼ばれた通り、共にカミナのそばにあった若葉と小石が変わったモノだ。

 

 彼女達は嬉しかった。自由に見えず、自由に聞こえず、自由に動けなかったハズの自分が、何故か動けるようになっていたから。人として目覚めた時、世界の全てが少女達には美しく目新しく感じられた。だからこそ自分を変えたカミナを神様だと本気で信じている。

 

 唯の石や草を人に変える力を持つモノが、ヒトだなんて彼女達には思えなかった。大きな身体のすごく強そうな神様は、唯の草の事も、唯の石の事も、宝物のように抱きしめてくれたから。彼女達はこの神様が大好きだった。抱きつくと温かくて、さらに幸せな気分になれた。

 

唯抱きしめ合うだけで神様も嬉しくて、私たちも嬉しい。彼女達にはこれがとてつもなくすごい事に思えていた。神様のおっきな身体に抱きつくと、なにより安心できた。

 

 元々モノである彼女達に、ヒトの美醜は分からない。だからこそ彼女達にとって神様は、只々頼りになる大っきな大っきな神様なのだ。

 

 その優しさが、カミナにはたまらなく嬉しくて、悲しいのだ。彼は彼女達をこの辺りに住む少女だと思っているから。心優しい少女を、これからも自分はこうして無差別に歪めていくのだと思うと、そんなものを手に入れようとした自分の愚かさが呪わしかった。

 

「……すまない、少し耐えられん」

 

 簡潔に、それだけいって彼はその大きな右手でもって目を覆い隠した。大きな身体の自分が泣いている所をあまり彼女達に見せたくなかったし、何よりそんな顔を誰にも見て欲しくなかった。

 

「あ、カミナくん、そんなに顔抑えちゃったら!!」

「にゃ?」

「……?」

 

 下着の少女がそれを見てたまらずに声を上げる。彼女は彼の力をなんとなく理解していた。手に触れたものが女の子になっちゃうんだろうなぁ、と。

 

 カミナにはその言葉がただ自分を気遣って出た言葉だと思った。そんな風に顔を隠しながら泣くことはないと、言ってくれている風に。

そんな風にそこまでも気遣ってくれる少女の姿が、自分への静かな怒りと変わる。自然と手に力が込められ、こめかみを親指で抑え、顔を掴むように閉じられた。

 

「すまねぇ。本当に、少しだけ勘弁してくれ」

「いや、そういうことじゃ!!」

 

ピカ!!

 

「わぁ!!」

「……神様のピカピカ」

 

 次の瞬間、辺りは眩く1つ輝き。そこから現れたのはすっかり小さくなったカミナの姿。今の彼はもはや世にも悍ましい顔の大巨漢などではない。女性にしては少し高い位の身長の。

……絶世の美少女である。

 

 眩い夜明けの金星の輝きで編み上げたかのような金彩の御髪、深い宵闇の姿を写し込んだかのような紫水晶(アメジスト)の瞳、真昼の太陽の白光を透かした最上級のシルクの如き艷やかな肌艶に、春の華花が姿を変えたかのような淡く瑞々しい唇。その全てが奇跡的に組み合ってその美しさを創り上げている。

 

 体格差から少女達と一瞬だけ距離をおいたその身から、かけられていた赤い布がするりと落ちた。そこからは女性の象徴である、美しく豊かな胸がこぼれだしその一点の隙もないボディラインがあらわとなって、自然とそこに少女たちがまた抱きつく形に収まった。

 

 カミナの美しい裸体を少女達が包み込むその光景は、まるで優美を世に知らしめる一枚の名画のようで。それは至高の芸術すらも霞ませる事だろう。

 

しかしカミナにはもちろんそんな事はわからない。わかった事などただ1つ。

 

「な、な、あ!」

 

「わぁ、カミサマ女の人になった!」

「……カミサマ、綺麗」

「ああ、やっちゃったかぁ……」

 

「お祖父様ごめんなさい。ワタクシ女性になってしまいましたわぁ!!」

 

 自分が育ての親の言いつけの、親から貰った身体を大事にしろと言う言葉を今大幅に破った事だけだった。そんな彼の悲鳴を聞きつけて、そこへと駆けてくる者がいる。

 

「どうかしたのか!!」

「……神様の御姿が変わって、一体何が?」

 

 その声を聞いて駆けつけたサムライのような袴姿の出で立ちの刀の如き剣を帯びた乙女と、立派な鎧を身に着けた騎士のような出で立ちの美女。

 

 未だ混乱を続けるカミナに5人の少女達が自分の正体を明かし、彼が落ち着きを取り戻すまで、どうやらもう少しだけ時間が必要であるらしい。

 




閲覧ありがとうございます。



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4)神様と家族とお着替え

1・2話が1話にまとまり、
3話が差し替わっております。
未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです。


4)神様と家族とお着替え

 

あれからお互いの事を説明しあった彼らは現在。

 

 現在木陰の中でカミナは座りこんでその身にかけていた赤い布、マントに身をくるませており、それを取り囲むように美女、美少女に囲まれていた。

その小脇には未だに抱きついたままの幼き二人の姿が見える。

 

 彼女達から説明を受けたカミナはようやく状況を理解した。どうやら彼女達は全部自分の力で女の子にした元は装備だったモノらしい。

 

 それで自分も女の子になったのかとカミナはやっと理解した。

 

そうなったのは自分の責任である。カミナはそれで誰を恨む事なく、素直にその現実を受け入れた。元々耐える事に慣れている彼はそれこそあっさりとそれを飲み干し、むしろ多くの女性の心を歪めずにすんだ事を女神に感謝して今へと至る。

 

唯一染めていた髪の毛の色が落ちていたのが気になったが元々のくすんで色褪せたような色から綺麗なった金色になっていたので問題があるならまた染めればいい。

 

そんな事を考えるばかりだ。

 

「神様、落ち着かれましたか?」

「ありがとう。おかげさまで落ち着いたわ」

 

 そう言って尋ねてきたのは騎士のような出で立ちをした美女。金髪の美しい髪を真っ直ぐに降ろし、その碧眼は糸のように細く、浮かべた微笑みがどこまでも優しい人だ。

彼女は元はカミナの着ていた鎧だったらしく、何かと気遣い上手で頼りになる女性だった。

今も自分の頬に手を添えながらカミナの事を心配げに見つめてくれている。

 

「いやぁ、ワタシもびっくりしたよぉ」

「「ワタシもぉ」」

「辺りの探索から戻ってみれば、あのご立派な御姿がそのような麗しい御姿に変わられていていささか驚きましたぞ?」

 

 こちらの武士のような着物姿の出で立ちの黒髪黒目で髪を頭の後ろで束ねた凛々しい乙女は、元はカミナの持たされていた剣が形を変えた姿らしい。

快活そうで、どこか古めかしい言葉を使うその少女を見ると彼女の元となった刀のような形の剣の姿が連想できる。カミナの前でその片膝をつき、礼の形をとっている彼女の瞳にはどこまでも純粋な忠誠の心が宿っている。

 

 彼女達から自己紹介を受けたカミナは自分の力がどのようなモノかなんとなく理解した。そして彼は今彼女達に謝りたかった。自分が勝手に人の姿へと変えてしまった彼女達の事を思うと、それは絶対におろそかにしてはいけないケジメだと彼は考える。

 

「多分私の力を使ってしまったせいでしょうね。驚かしてごめんなさいね?

貴方達の姿も勝手に変えてしまった。本当に申し訳ないわ……」

 

 カミナの口から出る言葉はどうやら自動的に女性のものに変換されてしまうらしい。正直違和感しかないが、本人は意味が伝わればいいとそれをあまり気にしていない。

ちなみに原文は「多分俺の力のせいだ。騒がせてすまん。君等の事も、本当にすまない」である。口数の少ない男の言葉をだいぶ補完してくれている辺り、翻訳さんは仕事をしている。

 

「そんな事はございませぬ!」

「どうかお気になさらないで下さいませカミサマ」

「ワタシね。神様がこの姿を与えてくれてとってもうれしいの!」

「……動けるってすごいの。カミサマありがとう」

「またそんなの気にしてぇ。カミナくんは考えすぎだぞぉ」

 

 カミナが頭を下げて言った言葉を聞いて女性達はみな一様に驚いた。彼女達はみなカミナに姿を変えられた事に深い感謝を抱いていたし、神様が下の者に謝罪するなどこの世界の常識ではありえない事だった。なによりカミナの変化を、

 

(たぶん我々に姿をお与えになる為に、力を使いすぎてあの雄々しい姿を維持できなくなってしまわれたのだろう。おいたわしい)

(お美しい御姿。鎧は貴方様をこの身にかけてお守りしますわ)

 

みながこのように受け取っていた。

 

 彼女達は神様であるカミナ自身が間抜けにも自分に力を使って女になって戻れなくなってしまったなんて欠片も思っていないのだ。

誰もが自分達を変えてしまった代償か何かだと、考えている。

 

おかげで彼女達の神様の評価は爆上げ中だ。

 

 なお彼女達の好感度が恋愛感情だけでなく、友愛や信仰にも影響しているのは女神アルメリアのずさんな仕事のせいであるのだが、その話は別の機会に。

 

「カミサマ美人になった~♪」

「……でもワタシ元の姿のカミサマの方が好き」

「ワタシもぉ~。大っきいお手々できゅっとされるの好き!」

「アタシも違和感しかないなぁ。カミナくんっていったらあのごっつい方だもん」

 

「それならば某も雄々しき姿の神様の方が望ましいぞ。あの力強い御姿。さぞ力ある武神の神格をお持ちだったのでしょう!」

「あら、ワタクシは神様の麗しい御姿も素晴らしいと思いますわ。だってどのような御姿も本当に絵になる御方なのですもの」

 

「……ありがとう、みなさん」

 

 ここで意外な事だが彼女達の中で、カミナの元の姿の評価はすごぶる良かった。

ぶっちゃけみんな元々器物である。人の美醜はそれほど気にならない。好みはあれどそこまでのこだわりがないのである。大っきくて頼りになりそう。彼女達にはこれが重要だった。

 

 それでも今のカミナの姿はそんな元器物の彼女達の目で見ても綺麗だと分かる程の異常な美を備えている。これはこのまま人前に出ると、元の姿とは別の意味で凄いことになるのだが、もちろんこの時のカミナも彼女達もそんな事には気づいていない。

 

 カミナは続けて彼女達にどうしても言いたかった言葉を伝えた。彼は家族を望んでいる。だからこそ、もっと彼女達には気安い関係を望んでいるのだ。

 

「それでね、みんな。出来ればその神様と言う呼び方もやめて貰えないかしら。私は貴方達と家族になりたいと思っているわ。だからどうかそんな呼び方じゃなくてカミナと私の名前で読んで貰えないかしら。そしてもっと隔たり無くお話しましょう?」

 

「そのような事、恐れ多いです!」

「もったいないお言葉ですわ。……本当によろしいのでしょうか?」

「カミサマのカミナサマ?」

「……カミナサマのカミサマ?」

「アタシはもう呼んでるけどね?」

 

 反面、彼女達は神であるカミナがそのような関係を求めるとは露ほど思っていなかった。神とは天上の存在。崇めるのが普通であり、それを怠ったものには破滅をもたらすと言うのが、この世界の器物ですら知っている常識である。

 

「そうしたいの。みんなで助け合って、みんなで支え合って、みんなで励ましあって、みんなで一緒に笑いたいのよ。そこには上の下も必要ないの。私もアナタも。みんな一緒よ。私は家族をそういうモノだと思っているのよ。だからね、みなさん。

お願いします。どうかそんな私の家族になって頂けませんか。」

 

「家族、我々が、貴方さ、……貴方の?」

「お優しい御方なのですね……」

 

 物言わぬ器物であった自分たちに、戦う為に存在しながら自分では何も成せず、何も守れずに悔しい思いをしてきた自分達に自由を与えてくれた神様は、さらに共に生きたい等と言ってくれる。彼女らにとってそれは夢のような話であった。

二人共涙ぐんでそれに答える。

 

 なんと優しい御方だろう。物言わぬモノまでその愛を分け隔てなく注いでくださる。慈愛に満ちた素晴らしい神様。そんな思いが彼女らの心に溢れた。自然と神様への好感度は大幅に上昇する。神への好感度。すなわち信仰心である。

 

親愛と信仰が増大した。

 

「わぁ、ワタシ達家族?」

「……ワタシ達も家族」

 

 草と石の少女に至ってはなおひどい。彼女達は未だ自分と他の草木、石土の区別がついていないのだ。種として存在する彼らはその境界が曖昧で、カミナの言葉が自分たちだけに、向けられた言葉とはそもそも考えていなかった。彼女たちの言葉を正確に表せば。

 

(草木達がカミサマの家族?)

(石土達もカミサマの家族)

 

と、次のようになる。もちろん周囲の草土達と石土達も、しっかりとこの光景を眺めている。カミナの言葉に期待を込めて。

 

「うんうんおねーさん分かったわ♪」

 

たった1人、下着の少女だけが素直に頷く。

 

「みんな家族よ!

これからよろしくね♪」

 

「「ええ」」

「「わかったぁ!」」

「おっけぇ♪」

 

こうして彼女たちは家族となった。

カミナが彼女達の内面に気づく事はきっとない。

 

「あ、それならみんな名前ないと困るわよね。どうしようかしら?」

 

「それでしたら是非、カミナさ、んがお名前を考えて頂けませんか?」

「ええ、某もカミナさ、殿につけて貰いたいで、貰いたい」

「私ワカバだよカミサマ!」

「……私コイシだよカミサマ」

「あらあら、それ気に入っちゃったんだねぇアンタ達、あ、アタシもよろで!」

 

「ええ、わかったわ。それと、その無理そうならその、無理しなくていいからね、みんな?この子達ももう、カミサマで覚えちゃったみたいだし。あながち間違いでもないから」

 

「カミナサマだからカミサマ!」

「……カミサマのカミナサマ」

 

「っ、ありがとうございますカミナ様!」

「正直いきなり親しくは、……精進します」

 

「テキトーでいんだよ、テキトーで?」

 

「しかしなぁ」

「カミナ様の所作を見ていると、どうしても敬いたくなるのですよ?」

 

「私の所作?」

「貴方様のそれは一分の隙もない貴婦人として完成された見事な振る舞いなのです。」

「はい。あのような武人の如き御姿からはとても考えられないような見事な優雅さでして、まさに女神に相応しい佇まいなんですよ」

 

「ああ、それはわかるわぁ。なんかもう雰囲気あるのよね。なんか高貴な感じの」

「カミサマ綺麗!」

「……カミサマ凄い」

 

「自分では自覚がないのだけれど」

 

「無自覚でその様な振る舞いができるとは」

「素晴らしい事ですわ」

 

 カミナはアルメリアの手によってその姿をより美しく見えるべく変えられている。それはなにも言葉遣いだけでなく、身のこなしにも現れていた。なにげなく佇まう姿1つとっても完璧な貴婦人のソレを思わせる動き、そうなるべく彼の身体の動きは自然と調整されているのである。結果上級貴族も顔負けの完璧な高貴な女性の所作がそこに完成していた。

 

「そうですか。

ではお互いゆっくり距離を測っていきましょう。これからはずっと一緒なんですから」

 

「はい!」

「ええ、よろしくお願いしますねカミナ様」

 

 自然と礼の姿をとる剣と鎧の乙女たち。彼女達にとってそれはどこまでも使えるべき理想の主君の姿として映っていた。彼の理想は未だに遠い場所にあるようだ。

 

 

「あ、それじゃアタシカミナくんが名前考えてる間、カミナくんの着るもの用意するから。皆の着てるものちょっとずつ分けてよ。カミナくんってアタシらの持ってるものなら女の子に変えられないみたいだし、アタシそういうの調整できるから。

さっきステータスでわかったの♪」

 

「もちろん。某はそうですね。この和服と某自身を差し出しましょう」

「あら。それでしたらワタクシはこのマントとワタクシを差し出しますわ」

「ワタシこのマント!」

「ワタシはこのスカーフあげる」

「へっへっへぇ、アタシはアタシをあげるよご主人様♪」

 

「いや、衣服は助かるけれど、みんな自分はもっと大切にしなさい!!」

 

 カミナは戦慄した。自分を差し出すとか云われても。そういうのは本当に大切な誰かにあげなさい。彼は強くそう思った。女の子が自分を安売りするような事は彼にとってNGである。迷わずみんなに言って聞かすと、彼女達は少しばかり顔を見わわせて微笑んだ後、その理由を教えてくれる。

 

「ああ、神様違うのですよ。我等元々器物のモノはその核になったアイテムが本体となっているのです。某の場合はこの剣ですね」

「ワタクシの場合は鎧です」

「アタシはパンツ! カミナくんのだから男モノだよ?」

「そ、そうなの。 ……剣とか鎧って貰ってしまって大丈夫なのかしら?」

 

「我等器人はその元となるモノの性質を持ちますからなぁ。某は十分手足でも切ったり刺したりできますよ?」

「ワタクシも身体を硬くできますので。うふふ、それに神様に直接ワタクシ達を使って頂けると思うと、ワタクシ達皆それだけで喜ばしいのですよ?」

 

「そうそう。だからアタシちょっと今からパンツ脱いでくるね!」

 

「え!?」

 

 さっそうと下着の子が草陰に隠れてごそごそし始める。カミナはあわてて視線をそらした。

 

 

「はい、じゃあアタシをあげるね♥」

 

 そうして現在カミナには彼女の手から脱ぎたての男性用パンツが渡されようとしていた。正直彼は複雑すぎる気分だった。

 

(落ち着け俺。これは元々俺の下着。彼女が脱いですぐの、俺の下着。なぜメンズの下着を手にするのに、こんなに抵抗感があるのだろう)

 

 女の子の脱ぎたてパンツ。その言霊は今現在確実に童貞青年の精神を削り取った。その姿を楽しそうに正面で見ながら、彼女はイタズラ心も含んだ嬉しそうな顔で微笑んでいた。

カミナは若干以上にビビりながら、その下着へと手を伸ばす。

 

その時だ。

 

「ふにゃぁ♥」

「え?」

 

「うん?」

「「どうしたの下着のおねぇさん?」」

「あらあらぁ?」

「「ねぇねぇなんでおめめ押さえるのぉ!」」

「じばらく辛抱してくださいましね。お耳も塞いでいてくれますか?」

「「はーい!」」

 

 彼女の下着にそっとカミナが触れた瞬間。下着の子から妙に色っぽい声が聞こえてきた。え、なんで。カミナの頭は混乱している。とたん彼女は自分の下着を握りしめて何かに耐えるようにプルプルと小刻みに震えていた。

 

「にゃ、にゃんか、カミナくんに下着触られたらすっごいアツいのが流れてきてね………。身体の奥がぴゅくぴゅくするのぉ」

「な、なんですって?」

「すみませぬ神様。試しにこちらに触れていただけますか?」

 

 神妙な顔で剣の少女に差し出されたのは一振りの刀のような形の剣である。カミナはもう嫌な予感しかしなかったが、目の前で彼女に強く頷かれると触るほかない。

 

「じゃあ、ちょっとだけ」

「あ、あぅ♥」

 

ほんの少し、カミナの指が触れただけで凛々しい彼女から考えられない艶っぽい声が溢れでる。これ以上はいけない。カミナの本能が訴えていた。

 

「これは少し、問題がありますわね……」

「申し訳有りませぬ。神様の指が触れるとその、自分を抑えられませぬ……」

「えー、カミナくんがアタシ以外の子、はくのやだなぁ……」

「「ねぇねぇ、もういいーー!?」」

「あらもう大丈夫ですよぉ」

 

 すごく悔しそうな顔で剣の少女が、嫌そうな顔で下着の少女が不満を漏らす。同時に鎧さんのナイスセーブのおかげで幼い少女達の純真は護られた。彼女は気遣いの人である。

カミナには流石に女性をエロっぽくしてしまう身体で持ってそれらを扱う勇気はなかった。素直に二人にその事を伝えると。

 

「いや、ありがとう。流石にこれは無理よ。ごめんなさいね。2人とも……」

「何をおっしゃいます。これは神様のお力に耐えられぬ某の落ち度。何を謝られる事がありましょう!」

「じゃあ特訓しなきゃだね♪ 今度時間がある時アタシを履いてよカミナくん♥」

「もちろん某も挑みます!」

「あらあら。でしたらワタクシも時間がある時にお願いしますね?」

 

「え!?」

 

「「いいなぁ、いいなぁ!」」

「あなた達はもう少し大きくなったら頑張りましょうね?」

「わぁい!」

「……いっぱいがんばる」

 

「え?」

 

「「「「「おねがいしますね神様」」」」」

 

「えーーーーーーー!!」

 

みんなの意外すぎる反応が返ってくる。彼女達はカミナの持ち物としてみな彼に自分を使ってもらいたい願望がある。神様のゴットハンドなんかで、そのアツい心を止めることは出来ないのだ。

 

 なんでこんな事になったのかカミナにはさっぱりわからない。

 

 衣服の調整が終わるまで、あらためてカミナのリュックサックに入っていた予備の下着に剣さんが履き替えて、複雑な気分で彼女の脱いだそれを受け取ると、彼は早々に自分の力を調べなければと決意を固めた。

 




閲覧ありがとうございます。

エーテルはりねずみ様毎度誤字報告感謝です。
ホント助かりますm(_ _)m


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5)蝶の少女は女神を導く

 現在、先に仕上がった若草色のスカートと、キラキラ光る銀色の布を胸に巻き、肩からマントを羽織る事でとりあえずの仮衣装を手にしたカミナは、最後の名付けに挑んでいた。

 

「えっと、じゃあ下着だからアンダーと、ランジェリーのラン。どちらがいいかしら?」

「うーんアンダーかなぁ。そっちの方が下着っぽい♪」

「あ、判断基準そのなのね……」

 

これでようやく全員に名前をつけ終わったカミナは1人そこで安堵する。満足そうに微笑む彼女達の姿が、カミナのつけた名前が受け入れられた事を教えてくれる。

 

「カミナくんの衣服もうちょっとかかりそうかなー。その間カミナくんステータスでも確認してなよ?」

「ふむ、では某はメイルと一緒に周辺の警戒だな」

「はい、ツルギさんと一緒に少し出かけて参りますね?」

 

 お互いに名前を呼びながら立ち上がる二人。どうにもカミナに名前を貰ったことがうれしい二人は、お互いを見つめあって1つ笑顔をこぼれさせた。

 

「ありがとうメイルさん、ツルギさん。気をつけてね?」

「ええ、ふふ。では行ってまいりますね」

「何かあったら叫んで知らせて下さい。すぐに帰ってまいります」

 

 颯爽と歩きだす二人の姿を見送ったカミナその両脇で既にオプションの如くくっついたままのワカバとコイシが、カミナの事を抱きしめながら元気よく話かけてくる。

 

「じゃあワタシ神様にステータスの説明するぅ!」

「……ワタシもワカバ一緒に頑張る」

 

「ええ、二人ともお願いね」

「微笑ましいにゃあ~」

 

やる気は十分。きらきらお目々のなんとも可愛いらしい先生2人を得たカムイは、彼女達の身振り手振りを説明を聞きながら、微笑まずにはいられなかった。

元より可愛いモノが好きな彼にとって、この二人の姿は特に魅力的に映るのだ。

 

「ステータスって唱えるだけで、ぱぁって出るの」

「……知りたい事指で突っつくと、詳しくわかるよ」

 

「へぇ。ステータス。なんか凄いわね!」

 

 カミナがそう唱えると、自分の目の前にRPG等で見かける画面が浮かび上がってくる。それを見るとなんだか自分が物語の中の世界に飛び込んでしまったみたいで、一気に彼のテンションが上がる。ステータスすごい。

 

「ステータスが見えるのは自分のだけなの!」

「……ステータスはこまめに調べたほうがいいよ?」

 

「そっか。ありがとう2人とも」

 

「えへへぇワカバが神様に教えるの面白い♪」

「……コイシ役にたててうれしい」

 

パタパタと愛らしい動きで教えてくれた小さな先生達の優しく頭をなでると、カミナは改めてステータスへと向き合った。

 

中空に浮かぶ半透明の不思議な板。そこにはそんなモノが浮かんでいて。

 

「おお、すごいわね!」

 

 カミナは思わず感動の声を漏らしそれを凝視した。異世界の謎の技術は、しっかりこのピュアな青年の心を掴んでしまったようだ。支えもないのに宙に浮かぶそれがなんとも不思議に思えてその辺りで手をぱたぱたさせると、感触はあるが、通過する。うむ、不思議。

 

 ついついそのまま手をグーパーやってカミナがその感触を確かめた瞬間。辺りが閃光に包まれた。予測していなかったまさかの展開にカミナはキョドる。

 

「え、え、どういう事かしら?」

「ステータスさんも家族になるの!?」

「……カミサマすごい」

「わっ、これって、カミナくん何やったの!」

 

『始めましてイリス カミナ。当機は貴方のステータス表示システム。これより貴方専用の支援システムとしてそのサポートに努めます。よろしいですね?』

 

「え、あ、ありがとう?」

 

 閃光が覚めたその場所には、手のひらに乗る程の大きさでディフォルメされた女の子の姿があった。その背中には紫色の綺麗な蝶の羽が生えており、それと同じ色のコンパクトボブの髪の毛がその肩の上で揺れている。全体的にどこかクールな雰囲気のねんどろいどの様な姿の少女。それが彼女をもっとも端的に表す言葉だろう。

 

小さい少女の言葉にとっさにお礼で返したカミナはどこか上の空である。それは彼女のその愛らしい姿に問題があった。

 

(うわぁ、手のひらに乗るサイズの漫画とかに出てきそうな女の子。かっわいいなぁ)

 

 その小柄な姿と誇張されたその造形は可愛いモノ好きの青年の心をものの見事に掴み上げてしまったのである。控えめに言って最高です。それが今のカミナの心境だ。

 

「わぁ、ステータスさん可愛い!」

「うん、かわいい」

「……綺麗な羽」

「おお、ここまで来るとなんでもありだねキミ♪」

 

 彼女はその光のこもらない紅い瞳で静かにカミナを見据えながら、ひらひらとその羽で翔び始めると、その道筋に星屑のような光が振りまかれては消えていく。

そして彼女は彼の肩に降り立つと、そこへちょこんと座り込んで言葉を続けた。

 

『貴方に感謝をイリス カミナ。

貴方のおかげで当機は実体を得れたようです。これからよろしくお願いしますね?』

「は、はい、もちろん、もちろんですとも!」

 

耳元でその鈴のような、抑揚のない声が聞こえてくる。しかしその表情はうっすらと緩んでおり、彼への好意を周囲に伝える。

 

(うわぁ、俺の肩に止まって、うわぁ!)

 

「わぁ、わぁ!」

「……妖精さん、きらきら」

「はいはい、落ち着きなアンタ達ぃ」

 

 必然的にカミナの周囲に座る少女達にとってその光景はとても魅力的に映った。ふわふわ、ちっちゃい、きらきら、きれい。小さな女のコの好きそう要素を全て兼ね備えたまさに期待の新人である。並んで座る3人のお目々はもうキラキラが止まらなかった。

何か1人混じっている。

 

『それではイリス カミナ。早速ステータスの確認を始めますか?』

 

 その小さな小首をかしげながら彼女はカミナへと訪ねてくる。しかしカミナにはそれよりも先に済ませたい事が出来ていた。先程みんなの名前とつけてたんだから、この素敵な少女とも早く名前で呼び合いたい。彼にとってはそれは重要な事だった。

 

「あ、うん。それもだけど、ステータスさんって名前ないのよね、やっぱり?」

「お名前、ワタシ、ワカバ!」

「……ワタシコイシ」

「あはは、そうねぇ。ついでにアタシ、アンダーって言うの。よろしくね♪」

 

 名前と聞いてワカバが大きく手を伸ばして、コイシが胸の上で指を組んで、それぞれに自己紹介を始めてしまう。自分の名前がある事がうれしくてしょうがないといった風だ。仕方ないのでアンダーも名乗った。

 

なんのかんのみんな自分についた名前を誰かに聞いて貰いたかったし、そんな名前を目の前の少女にも手にして欲しいと思っていたのだ。

 

そんな目の前の光景を見て蝶の少女はあまり変化しない顔をまた1つ、少しだけ緩める。

 

『ええ、みなさんよろしく。……そうですね。そうなりますね。ふふ、でしたら貴方が当機に名前を贈って下さいますか?』

「ええ、もちろん! えっとぉ……、じゃあステ、ラ。ステラなんてどうかしら? ステータスをもじった感じだけど、こうキラキラしてる貴方にぴったりじゃない?」

 

 カミナが考えた名前には、星とか星の光とかいう意味がある。以前同名の大型車につけられれたソレの不思議な響きが気になって調べた時に知ったソレは、星の光を纏いながら翔ぶ少女にとても似合っていると、カミナには思えたのだ。

 

どうやら彼女もそう思ってくれたらしく、瞳を閉じ満足げに頷くと、軽くお辞儀をしながらカミナへと笑いかけた。表情こそあまり変わらなかったが、優しくなった瞳の色がそれをみなに分からせてくれた。

 

『……ええ、そうですね。当機にはそれが好ましい。貴方に感謝を、カミナ。どうやらステラは貴方と、いえ貴方達といい関係が築けそうですね』

 

「そう、ふふ。こちらこそよろしく!」

 

「ステラちゃんよろしく。ステラちゃんも一緒にカミサマの家族だよね?」

「ステラさんも家族。ステラさんもみんな一緒なんだよねカミサマ?」

「あっはっはぁ、どうもそういう事らしいよ」

 

「ええ、貴方にもぜひ私の家族になってもらいたいわ!」

『肯定。ステラも貴方達とソレを望みます』

 

「やったぁ」「……家族、増えた」

「ええ、うれしいわ♪」

「もう、はしゃいじゃってこの子らは」

 

『ふふ、随分楽しい家族のようですね? ステラも好ましく思います』

 

 互いに笑い合う姿を見てステラは幸せそうに羽を少しだけはためかせると、改めてカミナに向かって確認をとる。

 

『それではカミナ。改めてステータスの確認を。貴方の能力は一度に展開すると分かりづらいかも知れませんから、区切りながらお見せしましょう。なにか不明な点があれば指摘を。ステラがそのつど説明します』

 

「ええ、お願いね!」

 

 思わぬ所で増えたその家族は、どうやらとても頼りになりそうである。カミナは彼女を肩に乗せながら彼女がカミナの目の前に見やすく展開してくれたステータスを、初めて眺めることになる。

 

 

 

名前 依里朱 神那(イリス カミナ)

種族 ヒト族

性別 女

職業 未選択 職業選択可【タッチで表示】

レベル 15

BS(バットステータス):なし

信仰:アストレア

 

 

「あれ、レベルって1レベルが最初じゃないのかしら?」

『貴方の場合、地球での戦闘行為による経験値だけはレベルに変換されているようですね。あの場所はレベル制を廃止して久しい。普通はそのような経験などあまり得られないものなのですが。日常生活の中でどうやってここまで多量の経験値を稼いだのです?』

 

「覚えがないわね。

しいていえばお山で身体を鍛えている時に猪を仕留めて食べたり、たまに熊とかを退けたり、あとは不良の子達とやりあったりが、ほぼ毎日色々あったくらいかしら?」

『……なるほど。理解しました。それにしてもアストレアを信仰、ですか?』

「ええっと、女神様の事よね?」

 

(ああ、彼女また名乗り忘れましたね)

 

『ええ、そうです。この世界の主神の女神です』

「ええ。女神様にはすっかりお世話になったから。これからお祈りだけでも続けるつもりよ。こんなにもよくして貰ったんだもの。決しておろそかには出来ないわ」

『……そうですか。』

 

 彼にとってアストレアはどこまでも大恩人であり、崇めるべき偉大な女神様だった。ここに自分の信者を貶めようとする女神と、そんな女神をひたすら崇める男の、奇妙な関係が成り立ってしまう。カミナはきっとこれからもアストレアの悪意に気づく事はない。

 

裏側事情を知るステラにはなんとも複雑な事だった。

 

「あ、職業が選べるのね?」

『現在最高レア度を含めた多くの職業条件を達成しています。先に選びますか? そうすれば他の数値を見返す手間はなくなりますね』

「そう、それならお願いできるかしら?」

 

『肯定。職業欄を表示します』

 

以下の職業に転職可能です。

 

コモンクラス

村人

戦士 槍使い 格闘家 斥候

神官 護衛者 

 

レアクラス

神官戦士 重戦士 狂戦士

調教師 剣闘士 護衛闘士

 

ダブルレアクラス

戦闘強者 野獣闘士 聖闘士

拳闘強者 肉弾王者 超戦士

 

トリプルレアクラス【トップレアリティ】

女神見習い

 

各クラス説明表示可【ここをタッチで表示】

各クラスタッチで初期スキルを見る。

 

 

「女神?」

 

 先程話題に出たモノが自分の職業候補にあった事で、カミナは思わず呟いた。おおよそ本来の自分からかけ離れすぎたそれが選択にある事がどうしてもおかしく思える。

 

『そうですね。貴方は今いまだ職業につかない状態で複数の者から神として信仰を得ている状態です。それがこのクラスの発生条件です』

 

 ステラが話す理由を聞くと、彼はなんだか納得してしまう。なるほど。確かに呼ばれていた。一度事態を飲み込めば単純な男はあっさりとその事実を受け入れてしまう。

 

「そっか。他にも色々凄そうなモノがたくさんあるけど、これが一番すごいのかしら?」

『ええ、最終的には他とはかなり差がつきますね。神見習いと並んで同率一位の強力なクラスです。詳しく情報をご覧になりますか?』

 

「いいえ、これにするわ」

『……たしかにこのクラスは強力ですが、貴方はいずれ神として人の時の流れから外れる事になります。それでも構いませんか?』

「いいの。……これを選ばなかった事で、いつか家族の誰かを助けられなかったら、その方がずっと怖いわ。だからコレにする」

 

 詳細を詳しく知る事なく迷いなく女神を選ぶ彼の心中には、もちろん家族のことが第一だが、どうせ女性になってしまったのだからという開き直りと、一度は死んだ自分にチャンス与えてくれるだけでなく、色々と気遣ってくれていたあの女神様みたいに自分も多くを助けるスゴイ人になりたいという考えがあった。

 

それならば人じゃなくなってもじいちゃんも文句を言わないだろう。そんな風に考える。

 

『なるほど。……貴方は迷わないのですねカミナ』

「ただ怖いだけよ。迷って掴んだモノを手放すのが恐ろしいだけ」

 

もっともそんな内面は彼の胸の内にのみ存在する。迷いや後悔は1人の時にすればいい。長年孤独の中にいた彼の、悪い癖の1つである。

 

ステラは少しだけそんなカミナを心配に思ったが、結局彼の選択を受け入れた。彼の選択の先にあるだろう多くの優しい未来を思いながら彼女は自分の使命を果たす。

 

『……そうですか。では女神見習いをセットした上で、再計算した能力値を表示します』

 

「おねがいね」

 

 その時、カミナの放つ雰囲気が明らかに切り替った。そばにいるだけで大きく神聖な何かを感じる、神の放つ神々しいオーラを、彼が身につけたからである。

とたん、はねとぶ様にそれを喜ぶ二人の少女達。

 

「わぁ、カミサマ変わった!」

「……カミサマ、世界に認められて今カミサマになってくれた!」

「えぇ、そうなの?」

 

 1人アンダーだけがなんか空気清浄機のそばに居るみたいなんて思っていた。現代生まれの彼女には神々しいとかよくわからないらしい。

 

「ええ、さっき職業で選んだの。よくわかったわね?」

 

「うん♪」

「信仰のとこカミサマの名前になったもん」

「ああ、確かにあったわね?」

 

「うわぁ、なんか加速度的に男の子やめてるにゃあカミナくん」

『いまさらですよ』

 

 はしゃぎあう少女達の横で1人遠い目をしてカミナを見つめるアンダーに。短い言葉でざっくりと切り捨てるように言い放つステラ。

 

この中で彼女だけが、カミナのその人外なステータスの続きを知っていた。それを知ってしまえばもはや彼が色々と人間を辞めた存在であることが嫌でも感じられ、ステラだけは今更彼が女神化したくらいで、騒ぐ気にならなかったのだ。

 

カミナのステータス確認は続く。

 




閲覧ありがとうございます

うっかり仲間を増やしていくスタイル。

どどんこ様、前作の感想で頂いたステータスの美少女化今作でも使わせて頂きます。
素敵なアイデア、大感謝!

黒のアリス様誤字報告ありがとうございます。
毎度のこと助かります!


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6)風と大地とせせらぎの歌

『さて、では続きの確認を』

「ええ、ありがとう」

『まずはユニークと職業スキル以外のデータを表示しましょう』

 

能力値

 

パワー  1100

スピード 1400

イント  6

マジック 1800

 

HP 1200

MP 1500

 

神属性:優美

 

【ヒトの能力平均の目安は10、レベルにより変動】

 

【Rはレアアイテム/スキル。RRはダブルレア、RRRはトリプルレア、EXは上限レア】

【スキルランクはⅡで熟練、Ⅲで達人。Ⅳ以上は人の領域外ランクとなる。】

 

スキル

【RR:力技Ⅳ】【運動Ⅲ】【サバイバルⅡ】

【知覚Ⅲ】【散策Ⅱ】【EX:自己鍛錬Ⅴ】

【RRR:野生の直感Ⅳ】【動物使役】

【説得/無法者】【裁縫】【料理】【木彫り】

 

戦闘スキル

【喧嘩殺法Ⅳ】【古流武術Ⅲ】【EX:不屈Ⅳ】

【RRR:抵抗Ⅳ】【RRR:金剛身Ⅱ】

【R:手加減Ⅲ】【RR:肉弾見切りⅡ】

【RRR:射撃見切りⅢ】

 

 

「……頭が、ひどいわ」

『いえ違います。

他が凄すぎるのです。貴方はもう80レベルの優れた戦士と並ぶ驚異的な能力を持っている。本来このレベルなら能力値は50もあれば天才と呼ばれます。スキルの数だって10を超えることはない。

まったくどういう事なのでしょうね?』

 

「そんなのこっちが聞きたいわよ。せいぜい子供の頃にお祖父様にしごかれて、お山でひたすら駆け回っていただけですもの。どうしてなのかしら?」

『……きっとそれです、ね』

 

 カミナはせいぜいなどと言っているが実は違う。

それは見るものが見ればもはや虐待としか思われない凄まじい修行だった。長いこと極道の世界で武闘派と名を馳せた1人の老人が彼に勝ち残る為の全てを教えた。

 

 カミナがどんな無茶な訓練でも耐えてしまうモノだからその老人が面白がってだんだんとエスカレートしていったソレは、最終的に漫画や小説の中に出てくるまるで現実味のない特訓へと至り、彼はそれすらこなしてきている。

 

それがお山の化け物と思われ猟師から狙われ続けた彼を身を助けたし、その経験がまたさらに彼を鍛え上げた。

 

 そんな下地に支えられ、さらにレベルの適応と、主神討伐の経験ブーストがかかった結果、出来上がったのがこの能力だ。だがそれでもステラは納得できない。

 

(まさか次元の谷にすまう古龍種か、極限世界の上位神格並の成長率になってしまうとは。スキルだってもはや英雄以上だ。……完全に本来かかるべきストッパーが機能していない。規格外なんだ、文字通り。

イジられていますね絶対。他にどんなトラップが仕掛けられているか、警戒が必要です)

 

彼女は彼の異常な能力が何者かの作為によって造られたモノだと確信しており、ある事を後悔していた。

 

(主神の討伐判定はカミナのこれからを考えれば必要だと考えて取得しましたがどうも早まった感がいなめません。彼の元々優れた素質が、馬鹿げたレベルで跳ね上がってしまった。果たして私が対応しきれるかどうか)

 

 大きな力は同じく大きな力を引き寄せる。ステラは少しだけ彼のサポートとして上手くやっていけるか、不安になっていた。

 

 そんな彼女の悩みなど一切知らない男は現在着替え中である。先程ようやく仕立て終わった衣装に少女達に手伝ってもらって着替えているのだ。着替え終わったカミナは、実に満足そうな顔で言い放った。

 

「布地が多いって素晴らしいわ!」

 

 袖周り以外を少し絞ってひらりとさせた水色の和服に、若草色のスカート、石銀のストールを腰帯の様に巻きつけて、紅い貴族が着るような豪華なマントを羽織った姿は不思議とカミナに似合っていた。しかしどうにも足元のみ、長い包帯をぐるぐると巻き硬め、靴の変わりにしている辺りは間に合わせた感じが否めない。

 

「カミサマ可愛くなった!」「カミサマ綺麗になった」

「ほんとは穴あきの手袋とかも用意したかったんだけどにゃあ……」

「アンダーのタンクトップを切り詰めて、おへそを出すような格好にするならいらない!」

「だもの」

「当然です。布地は大事よ!」

「アタシは別にいいんだけどなぁ……」

 

(女の子が自分を安売りするような格好しちゃいけねぇ!)

 

 彼は女性にはちゃんと身体を隠してほしいピュア太郎なので、もちろんアンダーのへそだしルックには猛反対した。むしろそれは、もはや娘に対して厳しく接する昔ながらの親父さんか頑固なおじいちゃんの価値観だという事にカミナは全然気付いてくれない。

 

『変な事をこだわりますね貴方。では続きを見ましょうか?』

「ええ、お願いするわ」

『次は残りのスキル郡ですね』

 

 

職業スキル:ランクⅠ《ランクは信徒の数によって増減》

【R:信者との絆】:信者のステータスを確認でき、信者に信仰度による能力修正を与える。

【RR:使徒】:最大3人の使徒が持つことができる。対象は最低ラインを超えたお互いの好感度の合計値がもっとも高いものから自動選択される。使徒にはそれぞれに役割と権限が与えられ、

 

ユニークスキル

【EX:栄光の手】:手で掴みとった対象に【女神の祝福】を与え、その姿を元の姿に基づくたヒト系種族に変化、ソレに類ずる専用衣裳を与える。この時ダメージ判定を含んだあらゆるバットステータスが解除される。専用衣裳はこのスキルの効果を弾く。

 

付加スキル

【RR:女神の祝福Ⅲ】:自身を美しい女性の姿へと変える。ランクはその度合。

自身の言葉は聞き苦しくない言葉へと自動的に変換される。また自身にこのスキルを付加したモノの好感度が上昇する。自身に付加した時のみランク値へと変換される。

ランクⅡ:立ち振舞が自動補正され、キレイな動作となる。

ランクⅢ:種を超絶した美しさを得る。言動補正がさらに強化され、言語補完が強まる。

 

【理を変えられし者】:苦しみ足掻く者に与えられた主神権限による運命防壁。少しでも可能性があれば幸福な結果を手繰り寄せる強力な幸運補正を得る。

 

【XXX:魔神の刻印】:成長率を含む、あらゆる成長限界を持たない。悪行以外の行動を行う限り、破滅の運命を引き寄せる。このスキル保有者が強くなればなるほど、破滅の運命は大きくなる。悪行値が一定以上に達した時、このスキルの保持者は魔神化し終末装置へと変化する。このスキルはこれを読む貴方にしか知覚できない。

 

 

「なるほと。確かに私の言った事をまとめてしまえばこの【栄光の手】(スキル)になるわね!」

 

(流石女神様だ。きっと俺の願いを聞いて、俺が人の心を歪めちまう事で苦悩を受けるって見抜いて、こんな形で力を与えて下さったのだろう。本当に感謝してもしきれない。

 

下の【理を変えられし者】なんてこの俺のひどい人生を見かねた女神様が何も言わすに幸運を授けて下さっているじゃないか。言葉もでない。女神とはこうあるべきなんだ。

 

俺もこれからは女神。その名を汚さぬよう精進せねばならん)

 

 カミナは改めて自分などの為に多くの配慮をしてくれていた女神様の優しさに感動し、自分もそんな風に多くの人を救いあげる立派な女神になろうと決意する。

 

 もちろんそんなわけはないのだが。彼女は彼の苦痛こそ望んでいるし、多くの下々の者の幸福になど興味がない。

 

 これはこの青年を召喚する際、女神が唱えた主神権限による召喚術を原因としたものだ。あの術には対象の苦しみ足掻く状態を変える効果がある。本来ならこれは死ぬ直前の苦しみに向けられるわけなのだが、彼の場合は今まで受けてきた理不尽な運命が反転した。

 

こうして彼は世界主神の加護を得た超幸運の持ち主になったのだ。これから散々彼に都合のいい展開が起こるのは、大体女神の自業自得といえる。

 

時を同じくステラもまた考えていた。

 

(ああ、なるほど。彼の好感度が方向性なく無差別に上昇している現象はこの【女神の祝福】の文面の問題ですね。ただ好感度などと表記してはどんな感情が強まるかわからないでしょうに。

 

戦闘狂にとっては強い対抗心(ライバル)となるでしょうし、異常な性癖を持つものにとっては、……ひどい結果もありえます。そうなればモテたいからと能力を受け取った彼との契約不履行すら発生する事に気づいていないのでしょうね、あの駄女神は。

 

ま、そんな娘だからあんな気絶程度で討伐申請を通せてしまうわけですが。ふむ。しばらくこの2つのスキルの存在はカミナには隠しておきましょう。

 

彼を混乱させてしまうだけですし。彼、アストレアに信仰を抱えていますしね。ステータスがあの娘に筒抜けな事も考えて隠蔽は重要です。ま、確認しないでしょうけど)

 

 ステラが言った2つのスキルとは下の2つの事である。

 

 

《シークレット:現在、ステラにより情報が隠蔽されています》

【主神を倒せし者】:討伐スキル。アレクトリア世界の万物に対する強力な発言権を得る。

【最速世界制覇者】:レコードスキル。多元時空最速の証。極限世界への挑戦が可能となる。

 

 

ステラがこれらを隠すのにはワケがある。上のスキルをカミナが知れば優しい彼はその影響力から行動を控えるようになりかねないし、下のスキルは論外すぎるからだ。

 

 ステラがそんな思惑など知らないカミナは1人その場に立ち上がり、その場で女神に誓いをたてる。

 

「改めてありがとうございます女神様。私もいずれ必ずアストレア様のように、素敵な女神になってみせます!」

 

「カミナくん、変な宗教にハマっちゃだめだよ?」

『……いちおう、この世界の主神です』

 

「ええ!?」「そうなの?」

 

そんなカミナに思わずちゃちゃを入れるアンダーたが、同時にカミナのその言葉に大きな衝撃を受けたものがいた。

 

ワカバとコイシの2人である。次第に彼女達はぐずり始め、その可愛らしい瞳にいっぱいの涙を溜めながら必死な面持ちで女神の胸元へと縋り付いた。

 

「アストレア様と同じになるのやだぁ」

「……カミサマワタシ達見捨てないでぇ」

 

「……(ちょいちょい)」

「……(ふわふわ~)」

 

 これにはカミナも驚いた。どうして二人がこんなに泣き出してしまうのか、彼には理由が思い浮かばない。彼は未だに泣き止もうとしない二人の少女を力いっぱい抱きしめて、その身体をさすりながら彼女たちに理由を訪ねる。

 

「どうしてそんな事思ったの。私は絶対貴方達を見捨てたりしないわよ?」

 

「アストレア様、ね。ワタシも知ってる」

「大地母神サマ。ワタシたちを作ったカミサマなの……」

 

「まぁ。そうなのね。だったらどうして泣く必要があるのかしら。貴方達もアストレア様がお優しい事は知っているんじゃない?」

 

 カミナの当然だと言わんばかりのこの言葉に、ワカバとコイシは彼の腕の中で必死にいやいやと首を振りながら訴えはじめた。

 

「でも、アストレア様ワタシたちには優しくないよ?」

「……作ったまんまほったらかしなの」

「大地母神サマはワタシ達の事見捨てたんだって、ワタシたち思ってる」

「……ワタシたちが困ってるって言ってもずっと聞きいれてくれないの」

 

 その口から語られたのは、女神アストレアの彼らへの態度であった。

彼女達の言うワタシとはそれぞれに草木と、石土達。すなわちあわせて大地の事を指している。大地達は女神に不満を持っていた。

 

彼らはこれまで耐えてきたのだ。その加護を得られずに荒れ果てた地や、砂に呑みこまれ朽ちていく草木達の事を。

 

そして神の手によるおかしな力で繁殖力を歪められ、その後も管理をされずに乱雑に増え続けた結果、いずれはやせ細り朽ちるであろうこの大森林の事を。

 

 彼らはなんども大地母神に願いを請うたが、それは一向に聞き届けてもらえなかった。いちいちモノ言わぬ何かの願いなど叶えない。その傲慢が神々の基準だ。

 

 彼女達は大好きなカミサマが、そんなアストレアのようになりたいというので涙を流した。それは大地達にとって希望を失うことに等しかった。唯の若葉と小石の事を本気で愛してくれる、初めて彼らに目を向けてくれたカミサマが、自分達を見捨てた女神のようになりたいと言い出したのだ。その衝撃は彼女達の小さな胸を締めつけた。

 

 だがカミナはアストレアの事をどこまでも信じている。だからこそ、すれ違いがおきる。彼にとって彼女達の言うワタシとは普通に2人の事を指す言葉である。

 

 彼は彼女達の言葉を聞いた後、(そりゃあ世界の全部を統べる女神様が、若葉1つと小石1つに目を向ける余裕はないだろう。そういうのは俺の役目だ。この子らの家族の俺の役目だ)などと思って言葉を続ける。

 

「そんな事あるわけないわ。お優しい方ですもの。きっと他にもたくさんのやるべき事があるものだから手が回らないだけなのよ。

ふふ、それなら私が代わりに貴方達の悩みを聞いてあげるわ。お忙しい女神様の代わりに、私が貴方達の手助けをする。それではだめかしら?」

 

「「わぁ、いいのぉ!」」

 

「もちろん。家族が困ってるのを助けるのは当然だもの」

 

「「わぁ!」」

「……よかった」

「カミサマは優しいカミサマ!」

 

 この言葉には大満足て笑顔を浮かべるワカバとコイシ。2人は当然貴方達とは大地の全ての事なんだと思っていた。これからはアストレア様の代わりにカミサマが大地達の事を考えてくれるんだ。

そう思うと笑顔が溢れた。

 

 もしかしたらと彼女達はカミサマに自分の友達の事も聞いてみた。もしかしたらカミサマはワタシ達だけじゃなく友達だって助けてくれるのかもと思う、素直な心で。

 

「ワタシ達の友達も困ってるの。その子達の悩みも聞いてくれる?」

「ワタシ達の友達も困ってるの。その子の事も助けてくれる?」

 

 カミナはこの時こう考えた。

元々若葉と小石だったこの子達の友達なら、せいぜい近くの石や草、はたまた動物たちや昆虫辺りって事だろう。可愛い二人の願いならそいつらを助けるなんて当然だし、そもそも俺は女神様に頼まれてるんだ。誰かに手を貸すなんざ当然だぜ、と。

 

そうして彼はそのお人好しの本領を発揮して、力いっぱい安請け合いをぶちまけ始める。

 

「もちろん。貴方達の友達だって助けちゃうわよ。それに、ふふ。これでも私アストレア様にこの世界を良くする為に力を貸して欲しいって言われてここに来たんだから。」

 

「わぁ、そうなの!?」

「カミサマ、アストレア様にお願いされて来てくれたの」

 

 カミナの答えに2人はそのおめめとお口をまん丸にして驚いた。驚いて、喜んだ。アストレア様はやっとワタシ達の思いに答えてくれたんだ。自分が忙しいものだから、こんなにも優しいカミサマにワタシ達を助けてくれるようにお願いしてくれたんだと。

 

「ええ、ふふ。それに私も新米って言っても女神なんだから、困ってる子達を助けるなんて当然でしょう。わたしに出来る事なんて多くないけれど、みんなで一緒に考えて、みんなで一緒に頑張ったらきっと、みんなで一緒に幸せになれるもの!」

 

「うん、みんな一緒に幸せ!」

「うん。一緒に頑張る。カミサマも一緒」

 

 どこまでもお人好しなカミナの言葉。聞いた2人は大興奮だ。

このカミサマは、みんなみんな助けてくれる気なんだと。そしてみんなと一緒に頑張って、幸せにしてくれるカミサマなんだと分かって、ただただはしゃいだ。

 

つまりそれは草木の友達である水たちの事であり、石土の友達である風たちも一緒。きっと乱暴だけど温かい炎たちや、ピカピカ怖い雷たちでさえ、カミサマのみんなには入ってるんだと、2人は期待に胸を踊らせた。

ワタシたちと、みんなと、カミサマで。

みんな幸せになるんだと。

 

「もちろん、ワタシも一緒。私はね。そんな困ってる誰かをみんな助けちゃう優しくて素敵な女神になりたいの。アストレア様だってそうなんだから!」

 

「そうなんだぁ!」

「アストレア様、忙しいだけだったの?」

 

 素直に自分の言葉に喜んでくれた2人を見て改めて自分の夢を語り始めるカミナ。彼はカミナにとってのアストレアを、2人に知って貰いたくて力強く言い切る。

 

「ええ、きっとそうよ。だって貴方達を変えたこの力はアストレア様が下さったんだもの。私に幸せになってほしいって、下さったのよ」

 

「すごい!」

「……アストレア様、優しかった」

 

 その思いの源を彼女達に伝えると、そこには自らの母たる女神を疑う大地の子達はもういない。その瞳には既に自分達に希望を与えてくれた、優しき女神アストレアの姿が思い浮かんでいる。

 

「だからそんな力を貰った分だけ、私がアストレア様の分まで貴方達を幸せにしてみせるわ。きっとこの手で、みんなの幸せだって掴んでみせるもの!」

 

 カミナは普段無口な男だが、夢に関してはアツい男だ。夢、目標、希望。そんなモノに思いを馳せる時、彼の言葉は少しだけ解放され自由になる。

そのアツさは、時に奇跡すら掴むことがあるらしい。

 

《【栄光の手】により概念”幸せ”を掴みました。概念枠を大幅に消費、以降は【栄光の手】の概念使用が制限されます。このログはこれを読む貴方にしか知覚できません》

 

 彼のスキル【主神を倒せし者】の効果てある、この世界における万物に対する発言権が彼の言葉を聞くそこにある大地と、そこを流れる風と、地の底を走る水に女神の言葉を信じさせた。すなわちこの女神こそ、アストレアが我等に遣わした再生の使者であると。

 

何より価値なき若葉と、意味なき小石を、何よりも大切な宝であると抱きしめ続けるその女神の在り方が、その身に秘めた大きな力が、かの女神の発言を信じたいと思わせた。

 

 集え、集え。女神は我等に再生を望んでいる。

 届け、届け。それは新たな女神に託された。

 

風の乙女が喜びを伝えるために舞えば、草木は颯爽と調べを奏でる。

水の乙女が大地の翁と共にダンスを踊れば、歓喜の涙は泉として森に湧くのだ。

 

いずれ彼らはその女神の名を知るだろう。その時が再生の時。それまでに世界に広がる我等は心を繋ぎ1つの群れへと纏まるだろう。

母なる女神に再生を託された新たな女神へ捧げるために。

 

「わぁ!」

「みんなよろこんでる」

 

「ふふ、そうだったらうれしいわね。確かに歌ってくれてるみたい」

「ふふ、そういうトコだぞ!」

『人たらし、いえ自然たらしの気があるのかも知れませんね』

 

いつの間にか戻ってきたアンダーとステラは共に訳知り顔で茶化し合う。2人の距離は確実に縮まっていた。その時、カミナの力で家族達のステータスを常時確認していたステラが異常に気づく。

 

(いえ、ツルギとメイルのhp減少。これは!)

 

『カミナ、どうやら現在貴方の家族が交戦中です。HPの減少を確認』

 

「なんですって!」

「え!」「大変!」「……探さないと」

『継続して微量ながらHPが減少し続けています。流石に場所まではわからない。捜索を強く推奨』

 

「ええ!」

 

みなが頷きあい、森が1つざわめいたその時である。

 

「誰かぁ、誰か助けてくれぇ!!」

「ワシらの代わりに嬢ちゃん達が大変なんだっ!」

 

走り込んできたのは2人の冒険者達。

どうやら、彼らはツルギとメイルの居場所を知っているようだった。

 




閲覧ありがとうございます。

アンケート次回で締め切りです。
どうやら三人称で、このまま進める感じですかね。
協力感謝です。

黒のアリス様誤字報告ありがとうございます。
凄いところ見つけてくれなさる。感謝です!


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