雁夜が直死の魔眼使いでそれなりに強かったら (ワカメの味噌汁)
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一話
「その面、二度と見せるでないぞ」
五百年以上に渡り間桐を支配し続ける男、間桐臓硯は己の戸籍上の息子に投げ捨てる様に言った。
親が子にかけるにしてはあまりにも冷たすぎる言葉であったが、それを受けた男、間桐雁夜は嬉々として言った。
「ああ、こんな家、誰が戻ってくるか。」
実は雁夜のこの言葉には嘘が含まれていた。
いつか絶対に殺してやる。
強い決意と共に雁夜は呪われた家、間桐家から出奔した。
さて、間桐の家から逃げ出すことに成功したのは良いが何処に行けば良いのやら。
雁夜の所持金は出奔前に必死に貯めた10万円のみ。半月ほどならやりくりしていける金額であるが、半月という期間はいささか短すぎる。
まず最初に冬木の地から離れなければならない。何時までも冬木に留まっていては蔵硯が気を変えて忌々しい使い魔-蟲-を放ち自分を殺すかもしれない。
また、臓硯を殺す為には魔術師に弟子入りしなければならない。間桐の魔術を習うという手もなかったわけではないが、それで蔵硯を倒せるとは考えにくい。さらに、冬木の地に根付く魔術師は間桐と間桐と不可侵誓いあっていて冬木のセカンドオーナーである遠坂しかいない。
したがって冬木に留まっていても魔術師になることは出来ないのだ。
「とりあえず東京まで行けば住み込みで雇ってくれる職場も見つかるだろ。」
そう呟き、駅に向かった。
駅に着いて切符を買い、10分程ホームで電車の到着を待った。
「間も無く、二番線に電車が参ります。黄色い線の内側までお下がりください。」
電車の到着を告げるアナウンスが流れ、座っていたベンチから立ち上がり、電車が視界の隅に入ってきたその時。
背中を押された。
無警戒であった雁夜の身体は勢い良く線路に飛び出して行く。
ああ、俺、死ぬのか。臓硯を殺してから死にたかった。
雁夜はそう思いながら、目を閉じ、死を覚悟した。
「危ない」
そんな声が聞こえた気がしたが、既に雁夜は「死」に触れかけていた。
深い、深い、闇の中に落ちて行く。
それはとても不思議な感覚であった。
これが「死」か。
雁夜は理解した。自分は死ぬんだと。
しかしその闇の中に一筋の光が見えた。
その光が何だかはわからない。
しかし、その光を掴まなければならない気がした。手を必死で伸ばし、それを掴んだ.....
知らない部屋で目が覚めた。
ここは何処だ。それに、そこら中に見えるこの線は何だ。
雁夜がそういったことを考えていると、女性の声が聞こえた。
「起きたのか。私は蒼崎橙子。何処から話始めて良いのかわからないが、とりあえず名前を教えてくれないか。」
「間桐雁夜。」
蒼崎と名乗った女の質問に答える。
「そうか。魔術回路があるし、その苗字からして一般人ではないと思うが、何故殺されそうになったか心当たりはあるかね。」
「家の支配者に逆らい、家から逃げ出したらです。あの妖怪は、俺の出奔が気に入らなかったらしい。」
「そうか。何故出奔したんだ。」
女は尋ねる。
「あの妖怪を斃すため、その為に魔術を身に付けるためです。」
質問に素直に答える
「魔術なら家に残ったとしても習えたんじゃないか?」
「ダメなんです。あの家の魔術では妖怪の思うつぼだ。あの家の魔術で戦おうとしても、負けるだけだ。」
女は成る程。というように頷いた。
「魔術なら私が教えよう。こう見えても私も魔術師でな、死にかけのお前の身体を治したのも私何だ。」
その言葉を聞き雁夜は歓喜する。
「本当ですか!?ありがとうございます。」
女は頷く
「ああ。勿論だ。だがしかし、今は身体の疲労がまだ癒しきれてはいないだろう。もう少し寝ていると良い。」
「それもそうですね。寝る前に一つだけ聞いて良いですか?」
雁夜は尋ねる。
「この、そこら中にある線は何なんですか?」
初めまして。
2chの方でssを書いていたんですが二次創作に挑戦したくなり、とりあえず物は試しと書いてみることにしてみました。
やっぱり難しいですね…
キャラの口調とかが全然あってません。最初は雁夜かウェイバーで迷ったんですが、ウェイバーが強くなってしまうと、イスカンダルとの絡みが面白くなくなってしまうかな?と思ったので雁夜になりました。
橙子の方はオリキャラにしょうかとも考えたんですが、魔眼封じを作れるし橙子にしました。
感想、批評、アイディア等なんでも待ってます。駄文を読んでくれてありがとうございました。
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第二話
「線だと?そんな物は何処にもないが」
橙子は雁夜の言っている事が全くわからないといった感じで答える
「はい、線と言うかほつれというか」
「疲れ過ぎ何じゃないか?」
橙子は雁夜の言っていることを信じようとはしない
「違います。ほら、こことか」
そう言って近くにあった生花に絡みついている様に見える線を指でなぞった時、指に今まで感じたことのない衝撃を感じた。
衝撃を感じたことに驚きつつ生花を見てみるとそれは真っ二つになっていた。
「なんだと…」
橙子はそれを見て驚きを隠せない様子だ。雁夜にいたっては驚きで声すらでない。
未だに目の前でおこった現象が理解出来ない。
何がおきたのか?
静寂の中雁夜が考えていると橙子が口を開いた。
「魔術を使ったわけではないんだよな?」
雁夜は当然だというように答える
「違います…元々魔術の修行は基礎中の基礎しかやっていないので、こんなことはできません。」
「まさかな。『ほつれ』を指でなぞった瞬間に真っ二つに切れるとは…」
橙子には心当たりがあるようだ。
そう思い雁夜は聞いた
「もしかして何か心当たりがあるんですか?」
「お前、まさかとは思うが自分の身体や私の身体にそのほつれが見えたりしないか?」
橙子は尋ねる
雁夜は当たり前だと言わんばかりに答える
「ええ、そうですが…それがどうかしたんですか?」
そうか。噂に聞いたことがあるが、お前の言うほつれとその青い瞳からしてそうなんだろうな。お前の眼は、『直死の魔眼』と呼ばれる物になっている。」
橙子は答える。
「『直死の魔眼』?それは何なんですか?」
雁夜には橙子の言っていることが理解出来ない。
「全ての物には、死期、いわば存在の寿命がある。お前のその眼はその寿命を線や点として見る事が出来る魔眼だ。厳密には脳と眼のセットだが、まあそういう認識でも問題はないだろう。」
橙子が出来るだけわかりやすく説明する
橙子の説明を一応理解したらしい雁夜が更に質問する。
「でもなんでそんな魔眼が俺に?」
「お前が電車に轢かれて死にかけた時、お前の脳は『死』を理解したらしい。」
雁夜はああ、そんなこともあった気がする。と納得する。
雁夜のそんな様子を見て、橙子は言う
「まあ今日は休んでなさい。詳しいことは明日お前が起きてから説明する。あと、お前が明日起きるまでに魔眼封じを作っておく。それをかければ、無闇やたらに周りにある物や生き物を殺したりしないですむようになるだろう。」
「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて。」
そう言うと雁夜は疲れていたこともあり、すぐ眠りについた。
雁夜が眠りについたのを確認した橙子は、魔眼封じの制作というタスクに取り組むべく、雁夜の眠っているソファーから離れた。
「さあ、始めるかな」
第二話です。
やっぱり難しいですね。
週に一回か二回のペースで更新して行こうかと思ってます。
予定としては、第四話か五話当たりに大きな進展があるかもしれません。
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第三話
夢を見ていた。
周りは薄暗かったが、雁夜には自分が何処に居るのかが直ぐにわかった。
蟲蔵
間桐の魔術工房であるそこは五百年にもわたる間桐臓硯の間桐支配の象徴であり、彼の絶対的な力の象徴でもあった。
雁夜は臓硯の蟲に蹂躙されていき、肉片になって行く母の死体を泣きながら見つめていた。
その泣き顔を見ながら「次はお前だ」というようにニヤニヤ笑っている臓硯。
雁夜が復讐を、臓硯を斃すと誓ったの記憶であった。
「…おい、起きろ」
橙子のそんな呼び掛けで雁夜は起こされた。
「随分うなされていたようだが、大丈夫か?」
橙子は心配そうに尋ねる
「はい…大丈夫です。少し昔の夢を見ただけです」
雁夜は答え、身体を起こす。
「そうか…」
橙子はそれ以上聞かなかった。
聞いてはいけないと察したのである。
「とりあえず昨晩約束した魔眼封じだ。」
そう言って、一見普通の眼鏡にしか見えないものを雁夜に渡した
「それを掛けている間はお前の魔眼は作動しない。ほら、掛けてみろ。」
橙子のそんな促しに答えて、魔眼封じを掛ける
「本当だ…線が、ほつれが見えない。」
そんな雁夜の様子を見て、橙子は満足気だ。
「まあいい。朝食があるから、ちょっと待ってなさい。」
雁夜が言われたとおり素直に待っていると、橙子が朝食を持ってきた。
「昨日の昼から倒れていたから、半日ぐらい何も食べていないだろう。」
そういえばそうだ、と思う。
昨日は色々な事があり過ぎた。
間桐からの出奔、臨死体験、橙子との出会い、そして「直死の魔眼」の発眼。
濃厚過ぎる一日を改めて振り返りつつ、橙子から朝食を受け取る。
「ありがとうございます。」
感謝の言葉を言い、雁夜は半日ぶりの食事を始める
メニューはサンドウィッチとスープという、極めてシンプルなものであったが、半日ぶりの食事は身体にとても美味しかった。
「食べ終わったらシャワーを浴びてこい。見たところ最低限の衣類とかは持っているようだから、特に問題はないな。」
そう言われた雁夜は朝食を頬張りつつ、橙子に質問する。
「蒼崎さんは、俺に魔術を、あの妖怪を斃す術を教えてくれるんですか?」
「ああ、勿論だ。だがその前にお前の言う妖怪の魔術がどのような物なのか教えてくれないか?それを知らなければ対策のしようもない。」
雁夜は自身の家の魔術が蟲と呼ばれるおぞましい使い魔を使ったものであること、臓硯は身体を蟲で作り変えることによって五百年もの時を生きながらえていることを説明した。
「ふむ。全く世の中には色々な魔術があるものだな。お前の言う妖怪の使う魔術は厄介だが、お前が真面目に修行すればいつか斃すことができるだろう。なんせお前には『直死の魔眼』があるのだからな」
そんな橙子の言葉に、雁夜は喜びを隠せない。
「本当ですか!?」
「ああ、本当だとも。だがその魔眼を使いこなすには強靭な肉体が必要不可欠だ。今日からお前には基本的な魔術を教えるから、肉体強化は自分で励むように。」
橙子のそんな言葉を聞き、雁夜は自分の未来が希望を感じた。いつか臓硯を殺せるようになると思うと、不思議とやる気が満ち溢れてきた。
第三話です。
型月世界では肉体強化、あるいは肉体改造と言えばあの人ですよね。あの人自体はストーリーには出てくる予定はありませんが(笑)
読んでくれている方々、本当にありがとうございます。
楽しんでいただければ幸いです。
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第四話
走る、走る。雁夜は走る。
あの日-雁夜が橙子と出会い魔術を教えてもらう変わりに肉体強化を自分ですると約束したあの日-から二ヶ月間が経とうとしていた。
この二ヶ月間、毎日15Kmのコースを走っている。
最初の数日間はとても辛かった。
辛くて投げ出そうと思ったことも何度かあった。
しかしその度、蔵硯を斃すという目標を思い出し、自分を鼓舞してきた。
タイムも二ヶ月前と比べると随分と早くなった。
そろそろ距離を15kmから20kmまでに延ばしてもいいかな?とも考えることができる様になるほど、雁夜はランニングに慣れてきたのである。
ランニングが終わった後は、筋トレである。
これも二ヶ月間、一日として欠かさずにやっている。
内容は
腹筋50回、腕立て50回、スクワット50回、懸垂50回
これら全てを5セットずつやる。
これらもやはり最初は辛かった。
特に懸垂が大変で、10回するのですら一苦労であった。
だが、今は違う。
これらを二ヶ月間続けてきたお陰で、雁夜は二ヶ月間と比べものにならない程逞しくなっていた。
まさに「継続は力なり」である。
身体トレーニングが終わり、シャワーを浴びて休憩したあと、雁夜は橙子から魔術の手ほどきを受ける。
二ヶ月前は魔術回路を起動させるので精一杯だった雁夜
も、根気強く努力した結果、目に見えて進歩した。
まだ一人前には程遠いが、
基本的な治癒魔術、肉体強化魔術を使えるようになった。
師匠が橙子ということもあり、簡単なルーン、人形魔術を教わり始めている。もっともまだまだ使いこなせてはいないが。
魔術の手ほどきが終わったあとは橙子の仕事の手伝いをする。基本的には茶くみや書類整理であるが、何か力になれれば、程度の意気込みでやっているし、橙子も助かっていると言っているので、問題ないだろう。
こんな生活に雁夜は充実感を感じていた。
冬木に、あの家にいた頃では考えられない程充実している。
日に日に肉体的にも魔術的にも強くなってくるのを実感できるし、強くなれば成る程あの妖怪-間桐蔵硯-を殺すという目標に近づいている。
「あと少ししたら、基礎魔術の習得が終わるって師匠が言っていたな」
一日を終え、さあ寝ようかという時、雁夜はふと思い出した様に呟いた。
「でも、基礎魔術が終わったら何を習うんだろう。ルーンは便利だけど、ルーンだけで蔵硯を倒せるとは思えないし、俺は師匠の様に圧倒的な人形魔術の才があるわけでもない。魔眼の修行使い方も練習しているけど、それだけじゃ足りないかもしれない。どちらかと言えば筋力強化魔術とかの肉体改造魔術の方が向いてるって言われたしな。」
その様なことを考えながら、雁夜は眠りにつくのであった。
第四話です
前に書いた大きな進展は次になりそうです。
楽しみにしてくれてたら幸いです。
今日も駄文に付き合ってくれてありがとうございました。
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第五話
それから数日がたったある日、雁夜は橙子に呼び出された。
「今日の指導をもってお前は魔術師としての基礎課程を修め終わったことになる。」
橙子は切り出した。
「雁夜、これから暫らくの間は、実戦経験を積んでもらう。まあわかりやすく言えば、私に来た依頼のいくつかをお前の力で解決してもらうってことだ。」
橙子は続ける
「まあできるだけお前にあった依頼をこなしてもらうから安心しろ。」
その要請に雁夜は答える
「わかりました。頑張ってみます。
「お前ならそういってくれると思ったよ。ありがとう。実戦経験を積ませながらも、人形やルーンの訓練は続けて行くから、そのつもりでいるように。」
橙子は素直に感謝した。
一歩、また一歩と蔵硯を殺すという目標に近づいている。
雁夜はそう実感し力強く返事をした。
「はい!」
「そうか。では早速だが最初の依頼に取り組んでもらう。」
橙子が急過ぎるタイミングで切り出す。
「今からですか⁉」
あまりにも急過ぎて、雁夜は驚いた。
「ああ、そうだ。依頼内容は郊外の墓地に現れたグール一体を無力化してこいというものだ。大したことはない依頼だが、油断せずに行ってこい。」
その依頼内容を聞いて、雁夜は答える
「わかりました。」
その依頼を受けた雁夜は郊外の墓地に来ていた。
初めての実戦。相手はグール、死徒にすらなり来れていないリビングデッド。楽に終わる筈であるというのに何故か緊張してしまう。
そんな緊張を胸に墓地の奥に進んで行くと、今回のターゲットらしき物が見えてきた。
その姿を確認した雁夜は、魔眼封じを外し、右手にナイフを強く握る。
相手のグールも雁夜の存在に気がついた様で、奇声をあげながら近づいてくる。
雁夜は筋力強化魔術を使い、脚力と腕力を強化すると、グールに向かって行った。
勝負は一瞬であった。
雁夜は強化した脚で強力な一歩を踏みだし、一気にグールの間合いに入った。それに気がついたグールは、その腕を乱暴に振り下ろして雁夜を吹き飛ばそうとするが、時既に遅し。すでに雁夜はグールの胴体に見えた死の線をナイフで切り裂いた後であった。
死の線を切られたグールは奇声をあげながら消滅した。
一方雁夜は無傷で初陣を終えることが出来たのである。
雁夜は初陣が無事成功したという安堵感と喜びを噛み締めながら、橙子に報告に向かうのであった。
「よくやった。まあお前の実力なら大したことなかっただろうがな。」
橙子は言う
「凄く緊張しました。」
と雁夜が言うと、橙子は笑いながら言う
「誰でも初陣は緊張するものだ。兎に角良く頑張ったな。今日はゆっくり休むと良い。」
そう言われた雁夜は、身体を癒すべく、風呂に向かった。
雁夜、初陣をするの巻でした。
戦闘描写は難しいですね。
本当は五話と六話は一つにまとめようかと思っていたんですが、戦闘描写が終わったところで物語的にキリが良いところに来てしまったので、二つに分けることにしました。
残念ながら前予告した大幅な進展は六話の内容なんで、楽しみにしてくれていた読者の方々すみませんでした。
今日も駄文に付き合ってくださいありがとうございました。また、お気に入り登録してくださった方々、ありがとうございました。
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第六話
橙子の依頼を手伝い始めてから七月半、つまり、呪われた間桐の家から出奔し、橙子の弟子になってから
一年という時が過ぎた。
この一年間を振り返ってみて、雁夜は自分が信じられないほど強くなったことに気がついた。
まずなんと言っても魔術であろう。
一年前は魔術回路を起動させるので精一杯だった雁夜だが、今では治癒魔術、筋力強化魔術、暗示などといった基礎魔術は全て使いこなせるし、ルーンや人形魔術といったハイレベルな魔術も、師匠の橙子程ではないにしろ、戦闘で十分活用できるまでになった。
次は肉体である。
雁夜は一年間、毎日の様にトレーニングを行い、肉体強化に務めてきた。その結果、雁夜の筋力は筋力強化魔術を行使しなくても十分強いというレベルまで上がった。更に毎日の長距離ランニングの結果、持久力もついた。
最後に、実戦経験である。
雁夜が橙子に師事してから二月半にグール討伐という初陣を成功させた雁夜は、それからも一週間に一度程度のペースで、実戦経験を積んできており、最近では一人で死徒二体を相手どって戦う事もできる様になった。
そんな事を考えながら感心していると、橙子が話しかけてきた。
「雁夜、お前は一年で随分と進歩したな。」
橙子も雁夜の進歩に感心しているようだった。しかしそれは橙子という優秀過ぎる師無しに出来た事ではない。故に雁夜は答える
「師匠がいなかったらこんなに進歩してませんよ。優秀な師抜きで優秀な弟子は育たないんです。」
「ほ〜う。嬉しい事を言ってくれるじゃないか。」
橙子がいたずら気に、しかし嬉しそうに言う。
「まあ本題に入らせてもらうとしよう。雁夜、お前、ちょっと海外まで勉強しに行く気はないか?」
橙子がさりげなく切り出す
「勉強って、勿論魔術の勉強ですよね?」
雁夜が当たり前のことを確認する。
「ああ、勿論だ。お前はさっき言った様に、この一年で信じられないほど強くなった。そろそろ魔術協会三大部門の一角に入学してもない年齢だし、実力は十分過ぎる程ある。どうだ?やってみないか?」
「魔術協会に在籍となると…イギリスの時計塔ですか?」
雁夜が聞く
「いや、お前に在籍してもらうのは時計塔ではない。北欧の彷徨海だ。お前はルーンや人形魔術を扱えるとはいえ、直死の魔眼の使用と肉体強化魔術に戦いの重点を置いている。だから肉体改造を主軸としている彷徨海の方が良いだろう。」
「確かにそうですね。」
雁夜は納得した様に言う。
「ああ、それに彷徨海に在籍したからってルーンや人形魔術が習えないわけではないしな。」
しかし、雁夜は気がついてしまった。
「彷徨海に在籍するのは良いんですが、有力な魔術師からの推薦がなければいけないのでは?」
橙子はそんな事か、とでも言う風に答える
「それは大丈夫だ。私と交流のある魔術師にピザ煎餅を交換条件に頼んだら快諾してくれた。」
「ピザ煎餅ですか⁈」
雁夜は驚きを隠せない。
「ああ、変わった奴でね。だがそいつも名家の出でだから推薦者としては問題ないだろう。あと向こうでは蒼崎雁夜と名乗りなさい。封印指定の魔術師と魔法使いを輩出した家の縁者となれば、権威主義の魔術協会でも問題なくやっていけるだろう。」
「師匠って封印指定の魔術師だったんですか⁉」
突然告げられた事実に驚く雁夜
「ああ、そうだとも。だからあっちではくれぐれも私の居場所を言うんじゃないぞ。」
橙子は釘を刺す。
「はい。勿論です。」
雁夜は答える
「あと、一月に一回は手紙を出して、一年に一回は顔を見せるように。潜伏先を変える時はあらかじめ手紙に書いておく。」
「わかりました。師匠には本当にお世話になりましたし、これからも多分、お世話になると思います。」
雁夜は同意する
「当たり前だ。師の世話にならない弟子はいない。まあ私からは以上だ。荷物をまとめたら、直ぐに出発だからな。」
その言葉を聞いた雁夜は、荷造りを始めた。
これから経験するだろう新たなる生活に期待を溢れさせながら。
第六話です。
予告していた大きな進展は雁夜の彷徨海への留学でした。
インパクト的にはあまり大きくないかもしれませんが、これで第一章が終わり、第二章に移ります。
あと、赤ザコはピザ煎餅が好きという設定を昨日知って驚きました。
第二章では雁夜の彷徨海での生活を書いて行く予定です。もしかしたら聖杯戦争参加マスターの誰かと絡ませるかもしれませんがまだ未定です。
読んでくださっている方々、ありがとうございます。
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第七話
保存日時:2014年01月29日(水) 02:01
「ここが彷徨海か。」
橙子のアジトからの長旅を終え、目的地に到着した雁夜は感心したように呟く
彷徨海
北欧における魔術の中心であるそれは言わずとも名の知れ渡った魔術協会三大部門の一角であり、主に肉体改造系の魔術を研究している事で知られる。
かの有名な死徒二十七祖の一人、ネロ•カオスも「彷徨海の鬼子」の二つ名で知られた彷徨海出身魔術師である事は、一部の聖堂教会もしくは魔術協会関係者の中では常識となっている。
その「海を彷徨する山脈」には多重の結界が施されており、外部からは視認するのはおろか、存在を知る事すらできない。
成る程、魔術協会の三大部門の一つに数えられるだけある。
雁夜は感心しながら、自分に充てがわられた部屋に向かう。その道中、彷徨海所属の魔術師と思わしき男女数人とすれちがったが、それ以外には特に変わった事なく、部屋に着くことができた。
これからの数年間自室の成るだろう部屋に着いた雁夜は、荷物を広げることすら後回しにして、魔術工房の製作に取り掛かり始めた。
「まずはここを異界化させて…ここに番犬変わりの人形を置いて…」
工房作りは初めてだった雁夜だが、創作意欲を刺激されるのか、とても楽しそうに工房製作を行っていた。
二時間後、
「これで終わりかな。」
そう呟いて、雁夜は初めての工房製作を終えた。
我ながら中々の出来栄えだと思う。
「そう言えば日本を出てからトレーニングとランニングしてないな…それに、到着報告も兼ねて師匠に手紙書かなきゃな。」
意外にもやらなければならない事が山積みなのに気がついた雁夜は、急いで作業を開始するのであった。
そんな慌ただしい初日を過ごした翌日、雁夜は彷徨海にきて最初の講義を受けるべくして、肉体改造科の講堂に向かっていた。中学校に在籍していた、つまり、間桐の家に住んでいたころ以来となる学生生活に期待しながら。
講堂は広く、どの列の席に座るか迷ったが四列目、中心となる六列目より少し前よりの列に座る事にした。雁夜が講堂に入ったときには生徒と思わしき魔術師が何人かすでに着席しており、雁夜が入室してからも数人入室してきた。
そして最後に、講師が入室してきた。
「こんにちは。私は肉体改造科の一級講師をしている…だ。…家七代目当主といえばわかるだろうが、私の家は歴史が深い。諸君達には…」
という権威主義を隠そうともしない自己紹介をしたあと、講義を始めた。
「…がであり、…がであるからして…」
橙子の下で一年間魔術を学んでいた雁夜にとって、講義の内容はとてもシンプルだった。
「今日はここまでとする。次回の講義までに、参考資料AからDまでに目を通しておくこと。」
そう言って講義は終わり、雁夜は荷物をまとめ始めた。
第七話です。
彷徨海の情報が少ないのでほとんど想像で書いてますが難しいですね。予定としては彷徨海編を何話かやったあと、聖杯戦争編に入ります。
投稿のスタイルについてなんですが、昨日試験的にやってみたようにまとめて何話か投稿したほうが良いのでしょうか?(その場合二日に一度、もしくは三日に一度の投稿になってしまいますが…)
今日も駄文に付き合っていただき、ありがとうございました。
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第八話
「ちょっと君、良いかね?」
講義終了後、荷物をまとめていた雁夜は講師に呼び止められた。
「何でしょうか?」
雁夜は無礼のない様に答える。
「君が昨日付けで学生になった、蒼崎雁夜君かね?」
講師が雁夜に質問をぶつける。
雁夜は何故それを聞かれたのかはわかっていたが、あえてとぼける。
「そうですが…僕が何か問題を起こしてしまいましたか?」
それを聞いた講師は慌てて否定する
「いやいや、そういう事では無いんだよ。ただ君のファミリーネームについてちょっとね。」
やはり雁夜は思った通りだった。
「君は『蒼崎』というファミリーネームで封印指定の魔術師と魔法使いを輩出した優秀過ぎる家系が存在するのは知っているね?君はその『蒼崎』出身、もしくは関係のある魔術師なのかね?」
講師は尋ねる。
さて、どう答えようか。雁夜は少し考えて、答えた。
「結論から言うと、『蒼崎』出身の魔術師ではありません。この苗字は魔術師としての基礎教育とある程度の高等魔術教育を終えたとき、師から頂いたものです。」
それを聞いた講師は少し落胆したようだ。
「そうか。引き留めて悪かったな。因みにその師とは誰なのかね?」
興味本意で聞いた。
雁夜は仕方なく答える
「蒼崎橙子です。」
その名前を聞いた講師は驚きに目を大きく開き聞く。
「それはあの蒼崎橙子かね?」
まあ橙子も厄介払いのために蒼崎を名乗れと言っていたし、言ってしまっても良いかと思った雁夜は答える。
「ええ、そうです。貴方の言う、『蒼崎』出身の封印指定の魔術師である蒼崎橙子です。」
それを聞いた講師は内なる喜びと期待を隠せず、にやけてながら言った。
「封印指定にまで上り詰めたという人形魔術に興味があってね、蒼崎橙子直伝の魔術を少しでも良いから見せてくれないかね?」
流石の雁夜もこれ以上さらけ出すのは不味いと思い嘘をつく。
「師は俺に人形魔術を教えてはくれませんでした。」
「そうか…」
講師の声のトーンが落ちる。
雁夜はこれで終わった。と思ったが講師はまだ希望を捨てていなかったようだ。
「君の師、蒼崎橙子の居場所はわかるかね?」
橙子の言いつけを守り雁夜は再び嘘をつく。
「すみませんが、わかりません。師は俺が彷徨海に向けて出発した直後に潜伏先を変えたそうなので。」
それを聞いて講師はやっと諦めた様だ。
「そうか。引き留めて悪かったな。何かあったら頼ってくれたまえ。力になる事を約束しよう。」
そういうと講師は去って行った。
講師が去っていく姿を見て雁夜は安堵で身体中の力が抜けてしまいそうになる。
雁夜にとって、彷徨海の授業初日は学生生活の懐かしいさ、そして自分の師がいかに魔術界で有名な存在かということを思いしらされた一日であった。
第八話です。
実は良い展開が思いつかなかったのですがいきなり第九話の内容に入ってしまうと彷徨海編が短くなり過ぎてしまうと思ったのでクッションとして第七話と第九話の間に挟んでみました。
予告としては第十話か第十一話でマスターの誰かと絡ませます。誰かはわかってしまうかもしれませんが、楽しみにしていてくれると嬉しいです。
今日も駄文に付き合ってくださりありがとうございました。あと、最近観覧数が増えて嬉しいです。読んでくださった方々、お気に入り登録してくださった方々、そして感想をくださった方々、ありがとうございます。
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第九話
雁夜の彷徨海での生活が始まってしばらくたったある時、
雁夜は自室の机に座り一枚の紙を前に悩みこんでいた。
成績優秀で、既に天才と認知されている雁夜が何を悩んでいるのか。
その紙は彷徨海在籍一年目の魔術師全員に提出義務がある、研究分野調査用紙である。
肉体改造魔術を研究すると決めていた雁夜であったが、一口に肉体改造と言っても一つではないため直ぐに決めることができない。そう、肉体改造魔術は大まかに二つのカテゴリーに分けられるのだ。
一つ目は筋力強化魔術。主に封印指定執行人志望や何らかの理由で戦闘向きの魔術を行使する魔術師に好まれるこの魔術はその名の通り、純粋に筋力強化魔術に特化している。本来ならば基礎魔術の一つである筋力強化であるが、研究するとなると基礎魔術の域を遙かに超え、高等魔術の一部となる。その効果は勿論基礎魔術としての筋力強化を凌駕し、使用者に莫大な力をもたらす。また、この分野を研究する魔術師は筋力強化をサポートするために筋肉自体を改造することもできる。
二つ目は神経系強化魔術。この魔術は神経系を魔術または肉体改造によって強化するという物である。主に神経系の情報伝達速度を格段に速めたり、脳の情報処理能力を高めたり、本来はあり得ない反射-例えば特定の音に魔術回路が反射して隆起する-などを可能とする魔術もしくは肉体改造を専門的に研究したい魔術師に人気の分野である。
さて、どちらにしようか。
どちらを研究してももう一つの分野を学ぶことができないわけではないが、どうしても分野した方には劣ってしまう。
雁夜の成績を持ってすればどちらの分野を希望しても間違いなく希望通りの研究をすることができる。だが、それも雁夜を悩ませている要因の一つでもあった。
かれこれ一時間以上机に向かって悩んでいた雁夜は、気晴らしにでもするかと思い、その日に届いたが未開封のままであった橙子からの手紙の封を切った。
「雁夜へ
元気にしていますか?彷徨海での生活には慣れましたか?
私は元気にしていますが、貴方が居なくて寂しいです。とても寂しいです。早く貴方の一時帰国の時が来てほしいです。早く貴方に会いたいです。早く貴方と話たいです。早く貴方と…
(中略)
さて、そろそろ本題に入りましょう。
恐らくそろそろ研究選択があると思います。
貴方のことですから色々学びたい事があるのでしょうが、神経系強化魔術を選択してください。前に説明した様に貴方のその魔眼は脳とセットです。ですから脳の処理能力を上げることで魔眼をより効果的に運用する事が出来るはずです。
蒼崎橙子より」
とても寂しいらしい橙子からの手紙には神経系強化を選択しろと書いてあった。
師が言うならばそうなのだろうと思い、雁夜は研究分野調査用紙に神経系強化魔術と記入し、一時間以上も苦しんだ悩みから解放されたのであった。
第九話です。
彷徨海についての設定は全て妄想です。
前に直死の魔眼についてのご指摘を頂いたのですが、本作では、雁夜の母が浄眼持ちの家系出身で雁夜も無意識だったが、浄眼持ちであった。その浄眼が臨死体験によって直死の魔眼に変化した。という設定にすることに決めました。(正直深く考えないで書き始めてしまったんで、この点に関しては見逃してくれると助かります。)理由は後ほどの展開でわかると思います。
これに限らず質問、ご指摘等がありましたら遠慮せずにしてくださると嬉しいです。
今日も駄文にお付き合い頂いたき、ありがとうございました。
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第十話
よく言われる事ではあるが時の流れは速い
雁夜はそう感じていた。
雁夜が彷徨海に在籍し始めてから数年の時がたった。数年という時間は短かったが、色々な事を経験する事が出来た。
まずは魔術である。橙子の指示どおりに神経系強化魔術を研究する事にした雁夜は、脳の改造に重きを起き研究した。その結果、脳のキャパシティを大幅に拡大させる事に成功していた。その功績は彷徨海の肉体改造魔術に大きな進歩をもたらした。
研究以外でも成績優秀であったし、ある魔術師が暴走した時にはその魔術師の鎮圧に大きく貢献した。また、教授のアシスタントも務めた雁夜は、彷徨海の天才としてその名を馳せていた。
そんな彷徨海での経験を懐かしく思いつつも、明日が彷徨海での学生生活最後の日だと思うと、不思議と寂しさが込み上げてくる。
感傷に浸りながら、最後に彷徨海の街並みを見て回るかと、いつもより長めの距離をジュギングする。
やっぱり良いところたったな。
そう雁夜が考えてながら走っていると、ある男に呼び止められた。
「蒼崎雁夜君。」
その男、雁夜が彷徨海に来て最初に受けた講義の講師だった男、は続ける
「君の才能は素晴らしい。七代続く名家の当主であるこの私が認める程にな。」
「ありがとうございます。」
賞賛を受けた雁夜は礼を言うが、男の意図がいまいちわからず、困惑する。
そんな雁夜の心情を知ってか知らずか、男は提案する。
「蒼崎雁夜君、君は彷徨海で講師をする事に興味はないかね?」
その提案に雁夜は驚きを隠せない。
「これは私の個人的な提案ではない。彷徨海上層部の意向だ。まあ無論私も賛成しているがな。」
男は言う。
雁夜はまだ驚きで何も言う事ができない。
男は続ける。
「君は日本に帰っても行く当てがないのだろう?ならば講師になれば生活は保証されるし、魔術師としての地位も確立されるだろう。それに彷徨海で講師をするとなれば、魔術協会本部から研究資金が出る。」
男が提示したメリットを聞き、雁夜は考える。
行く当てがないという一点を除けば男の言っている事は事実であるし、受けてもこれと言って悪いことはない。
「どうだね?引き受けてくれないだろうか?」
男の提案に雁夜は決心し答える。
「わかりました。引き受けましょう。」
「本当か⁉良かった。じゃあ早速上層部に報告に行こう。」
男は嬉しそうに言う。
しかし雁夜には一つだけ聞かなければならないことがあった。
「講師を始める前に日本の知り合いやお世話になった人達に挨拶に行っても良いですか?」
実のところ橙子に会いに行くだけなのであるが、橙子は封印指定の魔術師である。魔術協会所属の、ましてや彷徨海の講師にそう言うわけにはいかず、嘘をつく。
男はその嘘を疑いともせずに言う
「おお、そうか。勿論だとも。だが絶対に帰ってくるんだぞ?あともし君の師に会うことがあったなら、是非とも私の分まで挨拶してくれたまえ。」
そう言われた雁夜は、どう橙子を説得するかを考えつつ、男とともに講師になる為の書類を取りに行くのであった。
第十話です。
雁夜は講師になりました。
もしかしたら講師生活は次の一話だけかもしれませんが笑
その後はいよいよ蔵硯との対峙と聖杯戦争です。
雁夜の彷徨海での学生生活についてもう少し書きたかったのですが、いまいち良い展開が思いつかなかっので纏めてしまいました。
次話では遂に聖杯戦争マスターの一人が登場します。まあ予想はついていると思いますが、そのマスターが雁夜とどのように絡むかを楽しみにしていてくれると嬉しいです。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第十一話
時計塔が魔術協会の総本部となって以来絶たれていた魔術協会三大部門間の交流を復活させる試みの一部として行われる時計塔と彷徨海間の合同講義に関する資料を読んでいたケイネス•アーチボルト•エルメロイは資料に記載されていた一つの名前に興味を覚えた。
蒼崎雁夜
資料によるとこの蒼崎雁夜なる人物は数年前にコルネリウス•アルバの推薦で入学し、神経系強化魔術を研究した。自身の脳を使ったその研究で脳のキャパシティを大幅に強化することに成功した功績や成績の良さを認められて彷徨海の講師に抜擢されたらしい。
若い年齢から天才と呼ばれたところには共感を受けるし、何よりその蒼崎雁夜の師は封印指定の魔術師である蒼崎橙子である。
会って話してみたい。
そう思ったケイネスは時計塔のロードの内誰かが派遣されることになっていた合同講義の講師役に自ら名乗り出るのであった。
一方雁夜は自室で合同講義の資料を作っていた。
合同講義は時計塔代表の講師、つまりケイネスが一時間半の講義を先に行い、その次に彷徨海代表の講師である雁夜が同様に一時間半の講義を行うという形を取る。なのでなるべく講義の内容を時計塔の講師のそれに関連するものにしようと思ったが、時計塔代表の講師は降霊科の魔術師。肉体改造とは無縁の魔術であるので、仕方がなくやり易い内容を教える事にした。
そんな事を二人が思っている間にも時は着々と流れ、遂に合同講義の朝を迎えた。
前日の夜に倫敦入りした雁夜は一晩過ごしたホテルからチェックアウトして、時計塔に向けて出発した。雁夜はその道中倫敦の街並みを見て歴史を感じさせる綺麗な街だと思う。だがやはり至る所に魔術の痕跡があるのは流石としか言いようがない。
そんな事を考えている内に目的地である時計塔に着いた。
魔術協会の総本部であるそこに着くと、貴族然とした男に話し掛けられた。
「貴方が彷徨海代表講師の蒼崎雁夜殿で間違いないか?」
その質問に雁夜は答える。
「はい。そういう貴方は時計塔代表講師のケイネス•エルメロイ•アーチボルト殿ですか?」
「ああそうだ。何はともあれ長旅ご苦労であった。今日の講堂まで案内するから、着いてきたまえ。」
そう言われた雁夜はケイネスの後に案内され専用講堂に入った。
講堂は既に講義を聞きに来た学生で埋め尽くされていて、学生達が合同講義に強い関心を持っていることが良くわかった。
「諸君。今日は合同講義を受けに来てくれて感謝する。」
ケイネスが話し始める。
「まあ知っているだろうが私はケイネス•エルメロイ•アーチボルト。今代のロードエルメロイである。今日は時計塔代表講師として講義をする。」
ケイネスは自己紹介をした。
「そしてこちらは彷徨海代表講師の蒼崎雁夜殿だ。彼はあの蒼崎橙子の弟子であり、彷徨海では肉体改造科の若き天才として知られている。」
それを聞いた学生たちの間にざわめきが起こる。
雁夜はケイネスからの紹介を受けたあと、自分でも自己紹介する。
「皆さんこんにちは。彷徨海代表講師の蒼崎雁夜です。今日は肉体改造の基礎について講義したいと思っています。」
雁夜が自己紹介を終えた直後、ケイネスの講義が始まった。
第十一話です。
雁夜の講師編は十一話のみと書きましたが、次話も雁夜の講師編になりました笑
もしかしたらですが、次話にもう一人マスターが出るかもしれません。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第十二話
この時点で
雁夜は20歳。
時臣は22歳。この作品では時臣は高校卒業した直後に時計塔に渡り四年間過ごすという設定です。
時計塔と彷徨海の合同講義を受けながら、遠坂時臣は彷徨海代表の講師に感銘を受けていた。
蒼崎雁夜という名のその講師は自分と同じ日本出身で、自分よりも二歳も若いのにも関わらず、魔術協会三大部門の一つである彷徨海の代表講師を任されるという才能溢れる魔術師である。
自分にも「雁夜」という名の幼馴染がいたが、その幼馴染は魔術から逃げ出した落伍者であり、目の前にいる「雁夜」とは大違いである。
だが時臣は知らない、二人の雁夜は同一人物であるということを。
さて、時臣がそんな事を考えている間に合同講義は終わり、講堂から退出した雁夜はケイネスに話し掛けられた。
「素晴らしい講義であった。流石彷徨海にその名を馳せる天才は素晴らしいな。」
その言葉に嘘は無く、ケイネスは本心から感心していた。まだ講師になって一年経ってすらいない雁夜が合同講義を成功させたからである。
その言葉に雁夜は謙遜しながら答える。
「いえいえ、自分などロード=エルメロイの足元にも及びませんよ。」
「ところで蒼崎雁夜殿、貴方の予定が空いていればの話しなのだがこれから合同講義の成功を祝して夕食と行かないかね?」
ケイネスは提案する。元々彷徨海の天才と呼ばれる雁夜には興味があったのだが、今回の合同講義を経て、雁夜の話を聞いてみたいと思っていたのだ。
「俺の予定は空いていますから、是非とも行きましょう。」
雁夜も答える。今こそ蒼崎を名乗っている雁夜であるが、本来は「間桐」の生まれ、聖杯戦争にマスターの一人として参加しなければならなくなるかもしれない。勿論、聖杯戦争の存在をケイネスに知らせるつもりはないが、時計塔の降霊学の権威であるケイネスの話しを聞いておいても損はないと思ったのである。
夕食の場で雁夜とケイネスは魔術についての議論を交わし合った。主に降霊や実戦(雁夜は聖杯戦争の名を出さなかったが)についてであった。
後の第四次聖杯戦争のマスターである二人はお互いこの議論から多くを学んだ。特にケイネスは魔術師の殺し合いである実戦は礼儀作法の整った決闘とは違い、如何なる手段を用いても勝った物が正義であるということを学び、後の聖杯戦争で活かす知識を得ることが出来た。
夕食を終えたケイネスは感心していた。
彷徨海の天才である蒼崎雁夜はただ単に魔術の才能があるだけでは無く、実戦に関する知識も深かったからだ。下劣な手段を用いる魔術師がいるというのは気に入らないが、事実ではあるのだろう。
また雁夜も感心していた。
ケイネスの降霊学についての知識は流石としか言い様が無く、サーヴァントの召喚•運用に役立つかもしれない知識を学ぶことが出来たからである。
雁夜はもう一時間程議論を続けたいとも思ったが生憎フライトの時間が迫っていたので、ケイネスと連絡先を交換した後ヒースロー空港に向けて出発するのであった。
第十二話です。
純粋な魔術師としてのケイネスが好きな方々すみません。聖杯戦争で活躍するかっこいいケイネス先生が見てみたくてやってしまいました。(実は雁夜が強くなり過ぎているかもしれないので、パワーバランスを保つ目的もあります。)実戦についての知識を得たケイネス先生が聖杯戦争でどの様に活躍するか楽しみにしてくれると嬉しいです。
あと、次話では雁夜に令呪が宿ります。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第十三話
時計塔と彷徨海の合同講義が行われてから何年かの時が経ったある日、何時もの様に講義を終えた雁夜が自身の研究室に籠って魔術の考察をしていると、手の甲に鋭い、焼ける様な痛みを感じた。
薄々感づいていたが見てみると、やはり思った通りであった。
令呪—
それは雁夜が聖杯戦争のマスターとして選ばれた動かぬ証しであり、同時に雁夜が「間桐」の血を継ぐ物である証しでもある。
やはり血には抗えない。
だが聖杯戦争に参加するとなると、なるべく早く冬木入りしなければならないし、何よりも雁夜には冬木でやらなければならないことがあった。
そう考えた雁夜の行動は早かった。
直ぐに荷物を纏めた—と言っても必要な物だけであるが—後上層部に故郷でやらなければならないことがある、と説明し二年間の休暇を得た雁夜は、日本に向けて出発するのであった。
日本に着いた雁夜はまず最初に師である橙子に会いに行った。まだ一時帰国の時期ではないのにも関わらず会いに来た雁夜を見て橙子は質問した。
「まだ一時帰国の時期じゃないぞ雁夜。どうした?寂しくなっちゃったのか?んん?」
冗談半分の質問であったが、雁夜は冷静に答えた。
「こっちに外せない用事ができちゃいまして。」
そう言って、令呪が宿った手の甲を見せる。
それを見た橙子は一気に真剣になる。
「そうか…忘れかけていたがお前は『間桐』の血を引いてたんだったな。」
やはり橙子も知っている様であった。
「周期から見て、今回の聖杯戦争は二年後です。彷徨海からは既に休暇を貰っています。」
雁夜は知っている限りの情報を橙子に話していく。
「ふむ。そうか。現時点で判明しているマスターは?」
橙子は聞く。
「聖杯戦争が始まるまでは確証を持って言うことは出来ませんが、恐らく『遠坂』からは遠坂時臣、アインツベルンは外部の魔術師を宿ったとの噂を耳にしましたからその魔術師が参戦するのだと思います。」
「あのアインツベルンが純血を破るとはな…その魔術師が誰だかはわかっているのか?」
橙子が驚きながらも聞く。
橙子の質問に雁夜は答える。
「衛宮切嗣、魔術師殺しの二つ名で知られる魔術師です。」
「また厄介な奴だな。」
橙子は言う。
「まあ大丈夫だ。お前は実力のある魔術師だ。それに私も力の限りサポートしよう。」
雁夜は感謝する。
「ありがとうございます。」
「なあに、可愛い弟子のためだ。ところで雁夜、お前、聖杯戦争の為だけに帰って来た訳ではないんだろう?」
やはり橙子には見透かされていた。
橙子に隠すことではないので雁夜は正直に答える。
「はい。あの妖怪を、間桐臓硯を殺しに来ました。」
間桐臓硯—
橙子が雁夜を蒼崎家の養子(と、言っても橙子以外の蒼崎一族とは面識がなく、雁夜が養子になった事にすら気がついていない様だが)になるまで雁夜の戸籍上の父親だった男であり、500年以上も生き続けている妖怪である。
そしてその妖怪こそ雁夜の両親を目の前でその蟲の餌にした張本人であり、雁夜の復讐の対象である。
遂に殺せる。そう雁夜が考えていると橙子が言った。
「よろしい。では早速準備に取り掛かるとしよう。」
第十三話です。
幾つか補足させて頂きます
•雁夜は聖杯戦争二年前に臓硯と対峙するため、桜はまだ遠坂桜です。(臓硯との戦い方が桜がいると出来ない物なのでこうしました。)
•彷徨海に出発する前に橙子が雁夜に蒼崎を名乗れと命じましたがその時点で橙子は雁夜を蒼崎家の養子にしています。
•この作品で雁夜は幼少時代を臓硯を殺す事だけを考えていたため葵さんと時臣に興味がありません。
以上です。
次話は聖杯戦争の下準備編です。
聖杯戦争と蔵硯対峙用の下準備や冬木入り、そして蔵硯との戦闘まで書くつもりだったのですが、下準備編が長くなりそうなので下準備編と冬木入りの以降蔵硯との対峙をわけさせて頂きます。
期待していた方、すみませんでした
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第十四話
書いてて思いました。
橙子がそう言った後、橙子と共に聖杯戦争と臓硯対峙用の準備を始めた雁夜であったが、今まで決定的な点を見逃していた事に気が付いてしまった。
雁夜の戦闘手段は直死の魔眼と筋力強化魔術を改造してキャパシティを上げた脳で運用するという物である。これはとても強力な戦闘手段と呼べる物であり、殆ど弱点はない。
そう、"殆ど"弱点は無いのだが、臓硯の蟲の大量使役という魔術はその"殆ど"に含まれないものなのである。雁夜の直死の魔眼は生物を殺すのには優れている物で、脳のキャパシティ増加により生きていない物でもある程度殺すことができるが、蔵硯の様に小さくかつ強力な使い魔を大量使役するタイプとの相性が悪い。
さて、どうしたものか。
橙子ならわかるかもしれないと思って雁夜が尋ねると、橙子は質問で返してきた。
「雁夜、私が何故お前に人形とルーンを教えたかわかるか?」
その質問に雁夜は答える
「師匠の得意な分野だからじゃないんですか?」
「まあそれもあるが、お前の復讐を成功させるために一番都合の良い魔術だからってのが大きい。」
橙子は答える。
「はあ、ですが人形とルーンでどうやって使い魔の大量使役に対抗するんですか?」
雁夜にはわからない様子だ。
「何だ、わからないのか。人形ってのは便利な魔術でな、見た目は人と変わらないが中身は全然違う物でも魔力さえあれば意識をシンクロさせて人形越しに会話や戦闘をすることが出来るんだ。」
橙子は人形魔術の基本中の基本を言う。
「それは知っていますが…」
雁夜は答える。
「まあ人形師としては当たり前だよな。雁夜、わかるか?人形の中身は関係がないんだ。」
橙子はわかりやすく言う。
「ですが中身を変えたところで…そういう事ですか!」
雁夜は橙子の意図を察し、感心した様に言う。
「ああそうだ。早速製作に取り掛かるぞ。」
橙子がそういった後、橙子と雁夜は人形製作に取り掛かるのであった。
一日掛かった人形製作が終わった後、雁夜は出来上がった人形を見て感心していた。
確かにパーカーを着せられたそれは雁夜にしか見えない。
しかしその人形の血管には血液の代わりに爆薬が詰められており、それ自体が爆弾として機能する様になっている。
しかしそれ以上に恐ろしいのは服で隠された人形の肌である。橙子の発案であるがこの人形の服を着ても露出する顔、首、手以外の肌には隙間なく炎のルーンの刺青がしてあり、魔力を注げば直ぐに燃え出す様になっている。
雁夜が人形の恐ろしさを再確認していると、橙子が話しかけてきた。
「我ながら凄い物を作ってしまったな。」
橙子も感心する程の物であるらしい。
「はい。これを奴の魔術工房で爆発させれば、臓硯を奴の蟲ごと吹き飛ばす事ができますね。」
雁夜が言う。
「ああ。だがその魔術工房に入るまでが勝負だ。上手くやるんだぞ。」
橙子が答える
「はい。」
雁夜は同意する。
「さて、臓硯用の人形は作り終わったな。では早速、聖杯戦争用の人形を作り始めるか。」
橙子が切り出す。
「どんな人形を作るんですか?」
雁夜が聞く。
「そうだな、聖杯戦争には工房防衛用の人形の他に特別な二体人形が必要になるだろう。その内一つは私が作るからもう一つはお前に作ってくもらう。お前が作るのは魔術回路がギリギリサーバントを使役することができる程度しか開いていないお前自身だ。恐らく聖杯戦争のマスター達はお前を魔術から逃げ出した落伍者として見ているだろうから、それを利用する。」
橙子が説明する。
「わかりました。じゃあ作り始めますね。」
雁夜がそう言い人形を作り出したのを見てから橙子も人形を作り始める。
可愛い弟子を失う訳にはいかない。
その決意を胸に人形を作るのであった。
第十四話です。
臓硯との対峙まで行こうとかと思っていたんですが、予想以上に聖杯戦争下準備編が長かったため、一旦ここで区切らせて頂きます。
期待していた方、すみませんでした。
切継「ビルごと爆破した。」
雁夜「蟲蔵ごと爆破した。」
って感じですかね笑
やっぱり人形とルーンの組み合わせはチートとしか言い様がありませんね笑
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第十五話
「こんなものかな。」
雁夜はそう言って長かった人形作りを終える。
聖杯戦争で重要な役割りを果たすであろうその人形の製作には普段の工房防衛用人形作製とは比べ物にはならない時間が掛かった。
だが雁夜はその人形の出来に満足していた。
人形の見た目は雁夜と全くと言って良い程変わらず、恐らく橙子と雁夜以外の人間は人形が雁夜だと信じて疑わないだろう。勿論製作工程で一番時間が掛かった魔術回路の製作にも成功し、全く疑い様がない。
雁夜がそんな事を考えていると、橙子が話しかけてきた
「そっちも終わったみたいだな。」
「はい。ついに終わりましたね。」
雁夜が答える。
「ああ、明日の朝には全ての準備が整い出発できるだろう。ところで、工房の位置はもう決めたのか?」
魔術工房—
それは魔術師のテリトリーであり、活動の拠点である。
聖杯戦争に置いてはそれの所在は重要な戦略的要素の一つであるため、簡単に決められる事ではない。
そう、雁夜も日本に帰ってきてから工房の位置を決めるためだけに冬木の地形や街並みを勉強し直していた。
「はい。冬木の中心街から離れた山の麓に今は使われていない二階建て廃墟があります。その廃墟とその周りを工房にしようと思っています。」
雁夜は説明する。
「そうか。良いところを見つけたな。」
橙子はそう言い、切り出した。
「では準備の最終工程を始めようか。」
翌朝、雁夜は橙子の運転する車で、魔術工房の予定地である廃墟を目指していた。
十数年前に出奔した冬木に帰るという行為は雁夜にとって聖杯戦争を除いても特別な意味を持つ。
間桐臓硯に対する復讐
出奔した時に己に硬く誓った目標。
それを今、遂に達成しようとしている。
雁夜はその心に宿した高揚感を抑えきれずにいた。
そして、遂に廃墟に着いた。
雁夜が橙子に礼を言うと、忠告が返ってきた。
「雁夜。お前が死ぬことは恐らくないだろう。だが、気を付けろよ。」
「はい。わかっています。師匠にここまでして貰って負ける訳にはいきませんから。聖杯戦争が終わったらまた訪ねます。」
雁夜は橙子に約束した。
「楽しみにしてるよ。じゃあな。」
雁夜の勝利と無事を願いながら、橙子は自身の拠点に帰るのであった。
橙子が去ったのを見守った後、雁夜は廃墟の掃除を始めた。意外に最近までは人が住んでいたらしかった事が幸いして、あまり風化していなかったのであまり手間は掛からなかった。
掃除が終わった後は工房作成である。
結界を何重にも張り、至る所に罠を仕掛け、防衛用の人形を配置する。
つい今朝までは廃墟だったそれは、敵の侵入を拒む立派な要塞と化していた。
そして遂に対臓硯用の人形の出番だ。
一日活動できる程度の魔力を溜めてあるそれに意識をシンクロさせて、起動させる。
タバコ程度の火で周囲25m程度を焼け野原にしてしまうそれの扱いには細心の注意が必要であることを肝に銘じた。動作に問題がない事を確認した雁夜は、記憶を頼りに間桐邸に向かい出発した。
間桐邸に着いた雁夜を察知した臓硯は意外にも間桐邸の結界を解き、雁夜の来訪を許した。
「その面、二度と見せるでないと申したはずだが。」
臓硯は言う。
その言葉を無視して、雁夜は言う。
「取引をしろ妖怪。俺が二年後の聖杯戦争で間桐に聖杯を持ち帰ったら、間桐をお前の呪縛から解放しろ。」
「カカカッ。十数年も出奔していて魔術の修行もしていないお前が何を言う。」
臓硯はあまりに馬鹿げた話しだと嘲笑した。
「俺に刻印蟲を植え付けろ。」
雁夜は本来なら自殺行為である筈の提案をする。
それを聞いた臓硯は驚いた様子だったが、冷静に返す
「雁夜、お主死ぬ気か?」
雁夜は続ける
「ああ、俺がこの呪われた家の最後の被害者になるのなら本望だ。」
雁夜の英雄的自己犠牲に多大なる嫌悪感を感じた臓硯はそれを承諾した。雁夜が苦しみ抜いて死ぬことを望みながら
「良いだろう。早速蟲蔵に行くからついて来い。」
蟲蔵に着いた直後、臓硯は雁夜を蟲の海に蹴り落とし、指示を出そうとしたが、雁夜の笑い声に遮られてしまった。
「まずはそこで一週間「ハハハハハハッ、ハーハッハハハハハハッ」
蟲の海の中で雁夜は爆笑していた。
「なんだ?何が可笑しい。」
臓硯にはわからなかった。これから地獄の苦痛を味わうというのに、何が面白いのか。
「間桐臓硯、お前の負けだ。」
雁夜はそう言い、人形の中に残っていた魔力を全て肌のルーンに集中させた。
その瞬間、人形は炎に包まれた。
炎は血管内の爆薬にも瞬時に引火して、蟲蔵を灼熱地獄に変え、臓硯と蟲を全て焼き殺した。
人形が発火時点で魔術工房の本体に意識を戻していた雁夜は、復讐を成功させたこと、つまり臓硯を殺した喜びを味わった。
第十五話です。
雁夜は遂に復讐を達成しました。
ここまで長かったです。
次からは遂に聖杯戦争編です。楽しみにていてくれると嬉しいです。
聖杯戦争編の第一話として、次はマスターの戦力解説をする予定です
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第十六話
この話に出てくる人形は雁夜が作った、魔術回路がギリギリ開いている雁夜です。
蔵硯を殺した後、雁夜は間桐邸に爆発の被害状況を調べるために自身の使い魔を放った。外見は全くと言って良い程変わっていなかったのには驚いたが、恐らく蔵硯が蟲蔵に結界を張っていたので蟲蔵以外には被害が出なかったのだろうと、納得する。
鶴夜を除けばまさに蟲一匹もいないその家に使い魔を侵入させる事は比較的容易だったので、調査は楽に終わった。
調査の結果として、雁夜は以下の三点を確認した。
・蔵硯とその蟲は全て爆発と炎で死滅した。
・間桐邸自体は蔵硯が蟲蔵に張っていた結界のお陰でそれ程被害が出ていないこと。
・間桐邸自体は使用可能だが、爆発の衝撃が強過ぎたため、蟲蔵はもう使い物にならないこと
さて、どうしようかと雁夜は考える。
間桐邸に移っても良いがそれでは他のマスター達に自分の居場所を知らせることになってしまう。だが、間桐邸に残された結界やトラップは有効利用可能である。
長考の結果間桐邸は聖杯戦争中盤、つまり雁夜の作った人形が破壊されるまで拠点にすると決めた雁夜は、自身の作った人形に意識をシンクロさせ、間桐邸に向かい出発するのであった。
雁夜が間桐邸に向かって歩いている時、衛宮切嗣はアインツベルン邸で聖杯戦争に関する情報の整理をしていた。
「集めた情報を整理してみよう。アイリ。」
切嗣はプリンターが吐き出した資料を眺めながら言う。
「聖杯が選ぶ七人のマスターの内、現在判明しているマスターは四人。まず一人目は遠坂時臣。遠坂家当主。火の属性で宝石魔術を使う手強い奴だ。御三家の内の一人でホームアドバンテージがあるこいつは魔術工房に穴熊を決め込んで出てこないだろう。」
切嗣は続ける。
「二人目は間桐雁夜。十数年前に当主を継ぐのを拒否して出奔した落伍者だ。出奔から現在に至るまでの足取りが一切掴めなかったのは奇妙だが、所詮は落伍者。そこまで警戒する必要はないだろう。」
「三人目はケイネス・エルメロイ・アーチボルト。時計塔で一級講師をしているこいつは水と風の二重属性を使う魔術師で、今回のマスターの中での魔術の実力は間違いなく一番だ。しかもこいつは、数年前から実戦経験を積んでいて、中々の成功を修めている。間違いなく強敵になるだろう。
切嗣は説明を続けようとした。
「そして四人目のマスターは「衛宮切嗣。アインツベルンが招いた最強のマスター。」
アイリスフィールが遮った。
「はは…」
切嗣は優しく微笑む。
恐らく人生最後の戦いになるだろう聖杯戦争に臨むための決意を胸にしながら。
第十六話です。
聖杯戦争ね前にマスターの戦力を確認する為に書いたのですが、切嗣の説明では明らかに足りませんから、後書きに各マスターの戦力を書かせて頂きます。
衛宮切嗣
セイバーのマスター。「魔術師殺し」の異名で知られるフリーランスの暗殺者で、手榴弾やキャレコM950などの現代兵器を使う。また魔術師でもある切嗣は固有時制御も用いて戦う。切り札は起源弾。舞弥をサポーターとして従えている。
ケイネス・エルメロイ・アーチボルト
ランサーのマスター。名門アーチボルト家の九代目当主で時計塔で一級講師を務める。魔術師としての能力はとても高く、礼装の月霊髄液を用いて戦う。雁夜に感化されて実戦経験も積んでいたため、戦場での常識がある。その為、人質に取られる可能性があるソラウはイギリスに残して一人で参戦。
遠坂時臣
アーチャーのマスター。時坂家当主で才能は平凡の域を出ないが努力で優秀な魔術師になる。火の属性の宝石魔術を使い戦う。ホームアドバンテージがある為、基本的には工房から一歩も出ない。
ウェイバー・ベルベット
ライダーのマスター。魔術師としての家系が浅く、魔術師としての才能はない。戦闘はライダー頼り。
雨生龍之介
キャスターのマスター。偶然回路が開いた一般人。冬木を騒がせる連続殺人事件の犯人
言峰綺麗
アサシンのマスター。教会の元代行者で、暗殺拳にまで昇華した八極拳と黒鍵を用いて戦う。魔術師としては初等魔術を修めている。
蒼崎雁夜
バーサーカーのマスター。彷徨海で講師をする魔術師。魔術回路の数、質ともに中の中程度だが、肉体改造魔術との相性がとても良い。脳を改造しているため、脳のキャパシティが高い。基本の戦闘スタイルは直死の魔眼と筋力強化魔術の併用をルーンでサポートするというもの。人形二体を用いる。
雁夜人形について。
雁夜人形には魔術回路がついていて、ある程度は開いていますが雁夜は魔術師であることを隠す為にこの人形とシンクロしている間は魔術を使いません。
主な戦闘手段はナイフで、強さは舞弥ぐらいです。
あとは原作とほとんど変わりませんが、変わる時はその時に補足させて頂きます。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第十七話
雁夜が蔵硯を殺害してから一年弱あまりの時がたったある日、間桐邸に遠坂家当主−遠坂時臣からの使い魔が一通の手紙を持ってやって来た。
その手紙には遠坂家次女である遠坂桜が架空元素の属性を持つこと、またその属性の為に養子先を探していて、間桐を養子先の候補に考えて入ると書いてあった。
雁夜はその手紙に断る旨の手紙を返して、使い魔に持たせて送り出した。
雁夜が冬木入りして二年程度の時がたち、遂に雁夜が英霊を召喚する日が訪れた。
思えば短かった二年間を使って雁夜は間桐邸を人形の拠点としたり、他のマスターの潜伏先と思われる場所に使い魔を放つなどとして、着々と聖杯戦争に向けて準備をしていた。
勿論、聖杯戦争に向けて準備をしていたのは雁夜だけではない。他のマスター達も続々と冬木入り−元々冬木に根付いている遠坂とその弟子をしていた言峰綺麗を除くが−していた。更にそのマスター達も各々が選んだ場所に魔術工房を作製したり、御三家の邸宅に偵察用の使い魔を放ったりして確実に準備を整えていた。
セイバーのクラスで呼び出せると良いんだけどな
英霊召喚用の魔法陣を描き終わった雁夜はそう思い彷徨海の知り合いから譲り受けた聖遺物を祭壇に置く。円卓の騎士のなかでも随一と呼ばれた騎士、サー・ランスロットをセイバーのクラスで呼び出せれば、聖杯戦争に置いて大きなアドバンテージとなるだろう。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
「閉じよ(みたせ)。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」
「――――――告げる」
「――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
魔法陣が光り、その中心に漆黒の鎧を身につけた騎士が現れた。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
狂戦士のクラスで現界したその騎士は言うが、狂化されているため言葉になっていない。
クソッ、よりにもよって魔力消費が馬鹿にならないバーサーカーのクラスで現界するだと
雁夜は思う。
雁夜は天才と言われる魔術師であるがそれは肉体改造魔術との異様なまでの好相性による物であり、魔術回路は数、質共に平凡の域を出ない。
魔術回路を改造魔術で改造するか?
雁夜にそんな案が浮かぶがリスクが高過ぎる。しかし魔力が枯渇しそうになる可能性が高いので、最終手段として残しておくには悪い手ではない。
いつまでもバーサーカーで現界した事を嘆いている訳にはいかない。雁夜は戦略を立てる為にバーサーカーのステータスを確認した雁夜は、驚いてしまった。
強い。
純粋にそう思う。
さて、この強力なサーヴァントをどう運用しようか。
雁夜は考えるのであった。
〜おまけ〜
クラス:バーサーカー
真名:サー・ランスロット
身長:191cm
体重:81kg
属性:秩序・狂
ステータス
筋力A+
耐久A+
俊敏:A+
幸運B
魔力C
宝具A
クラス別能力
狂化:C
保有スキル
対魔力:E
精霊の加護:A
無窮の武練:A+
宝具
騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)
ランク:A++
種別:対人宝具
レンジ:1
最大捕捉:30人
己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)
ランク:B
種別:対人宝具
レンジ:0
最大捕捉:1人
無毀なる湖光(アロンダイト)
ランク:A++
種別:対人宝具
レンジ:1〜2
最大捕捉:1人
第十七話です。
ランスロットが強過ぎですね。
魔術師として三流以下の雁夜が召喚してあれだったら、一流の魔術師が召喚したらどうなるんでしょうか?
今作ではとりあえず筋力と耐久をAからA+にしました。
対軍宝具がないのでパワーバランス的には大丈夫だと思います。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第十八話
バーサーカーは強い
間違えなく強い。
雁夜は確信していた。
筋力、耐久、俊敏のステータスが全てA+ランクである事から見て、一対一の戦闘ではまず負ける事は無いと言って良いだろう。
宝具が全て対人宝具なのはネックだが、対軍もしくは対城宝具を発動出来ない環境下で戦えば良いだけの話である。
「それにしてもこの組み合わせは強烈だな…」
雁夜は呟く。
その組み合わせとはスキル「無窮の武練」と宝具「騎士は徒手にて死せず」の組み合わせである。如何なる精神状態に置いてもその実力を十全に発揮するそのスキルと手にした武器を何でも自身の宝具にする能力の組み合わせは狂戦士のクラスのランスロットが使えば強力な戦力である。
「騎士は徒手にて死せず」の効果的な運用の為に持っている武器を整理したところ、幾つかバーサーカーに持たせられそうな武器を見つける事が出来た。雁夜が持っていた武器であるダガー三本、拳銃一丁、日本刀一本、バリスティック・ナイフ三本の内、ダガー二本と拳銃をバーサーカーに渡し、宝具化させた。
願わくば他のサーヴァントの宝具を奪わせたいが、その可能性はあまりにも低い為、考慮には入れないでおく。
さて、次に考慮するべきは第二の宝具「己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)」である。本来は変身宝具であったこの宝具は、バーサーカーのクラス別スキルである狂化により己の姿を隠蔽する黒い霧になっている。
このままでも十分優秀な宝具だが、何とかして本来の能力を取り戻せないものか。
雁夜は考える。
他人に変身出来る宝具を使えば敵マスターを殺害する事が圧倒的に簡単になるからだ。
これを使えばできるかもしれない。
そう思いながら手の甲に宿った令呪眺める。
次に考えるべきは戦場の問題だ。
対人宝具しか持っていないバーサーカーが河川敷など、対軍宝具の使用が可能な場所で戦うのは不利だ。従って地下駐車場などの対人宝具しか使えない場所に誘き出して戦うべきであろう。
大まかな戦略を立て終わった雁夜は翌日からの戦いに備えるため、少し早めに眠りにつくのであった。
数日後、最後のサーヴァントであるキャスターの現界を告げられた後、敵マスターの潜伏先を監視させていた使い魔の一つが動きを察知した。それを知った雁夜は遠坂邸に放っていた使い魔であるそれが記録した映像を見るのであった。
「早速だがお前にはこれから、遠坂邸に向かってもらおう。」
アサシンのマスター、言峰綺礼は切り出す。
「と、申しますと?」
アサシンは尋ねる
「お前の前ではあの遠坂邸の要塞の様な結界も恐るるに足りぬだろう。」
綺礼は続ける
「ヘッヘッヘ、宜しいのですか?遠坂時臣とは同盟関係にあると聞きいておりましたが。」
アサシンはニヤけながら尋ねる
「それは考慮しなくて良い。たとえアーチャーと対決することになろうとも、恐れるに必要はない。」
「三大騎士クラスのアーチャーを恐れる必要はないと。おっしゃるとは。」
「任せたぞ。速やかに遠坂時臣を……抹殺せよ。」
綺礼は冷酷な命令を下す。
その命令を受けたアサシンは、遠坂邸に向けて駆け出す。
遠坂邸の庭に侵入したアサシンは次々に結界を破壊して行く。
手際良く破壊して行く様を持ってすれば遠坂邸に侵入するのも時間の問題だと思われた。
事実、もう残す結界は一つとなっている。
「他愛ない」
そう言ってその結界を破壊しようとしたその時
アーチャーと思われる遠坂時臣のサーヴァントに一瞬で撃破された。
一連の動向を見た雁夜は、疑問を抱かずにいられなかった。アーチャーのアサシン発見のタイミングが早過ぎた様に見えたからだ。
たが、アーチャーの宝具が、大量の剣や槍を射出する物だとわかっただけで大きな収穫なので、良しとすることにした。
第十八話です。
遂に聖杯戦争が始まりました。
雁夜がどう戦って行くのかを楽しみにしていてくれると嬉しいです。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第十九話
アサシンが撃破された日の午後、雁夜は使い魔である烏に冬木を上空から探索させながら、考えていた。
「アーチャーの宝具は大量の剣や槍を射出する能力か…」
雁夜は呟く。
その内容は勿論使い魔が記録したアサシンとアーチャーの戦闘に関する物である。
果たしてあの剣や槍自体が宝具なのか。それとも剣や槍を大量のに射出する能力だけが宝具なのか。
雁夜は考える。
だが何方にせよ掴んだ物を何でも自身の宝具にする事ができるバーサーカーにとっては都合の良い能力である。
一つや二つぐらい奪えると良いんだけどな…
雁夜はそう思う。
現在バーサーカーの武装は切り札のアロンダイトを除けば雁夜が渡した拳銃一丁とダガー二本のみ。拳銃は警官に暗示を掛ければ幾らでも盗み出す事が出来る為、武器が無くなるという事はない。だがやはりランスロット本来の武器である剣を持たせたいところである。
まあそれはアーチャーと実際に戦った時に考える問題であるか。
そう思い雁夜は次の考察に移る
勿論その考察とはサーヴァントを失ったアサシンのマスターに関してである。
教会からの報告によるとアサシンのマスターは保護されたらしい。少し疑惑の残る一連の戦闘であったがアサシンのマスターが保護されたということは、アサシン陣営は脱落したということなのだろう。
だが、それは同時にアサシンのマスターが聖杯戦争に復帰する可能性があるということを意味している。
教会の代行者を務めたことすらある強力なマスターがまたマスターに成りうるというのは、警戒するべきことである。
丁度雁夜がアサシンのマスターについての考察を終えた頃、使い魔の烏が倉庫街にてセイバーと思わしきサーヴァントとランサーと思わしきサーヴァントが戦闘をしている所を発見したので、即座に視覚を共有する。
セイバーの繰り出す激しい剣戟を捌くランサー。もしくは逆の展開が続けられ、勝負はセイバーが少し優勢なものの、ほぼ均衡を保っていた。
そんな戦いを見つつも、雁夜は冷静に分析する
セイバーの宝具はあの不可視の剣。
ランサーの宝具は二つの槍の内どちらか、もしくは両方。
ステータスはセイバーがランサーを圧倒的に上回っているが、それでもバーサーカーには及ばない。
そして、別の角度から見ようと使い魔を移動させると、更に興味深い物を見つけた。
アサシン。
脱落したはずのサーヴァントが偵察を行っているではないか。
やはり裏があったか。
雁夜は思う。
アーチャーの異様な早さでのアサシン発見とこれでアーチャー陣営とアサシン陣営は繋がっている事が確定した。
さて、どうしようか。
アーチャーが強力なサーヴァントであることは先日の一件で明らかになっているし、それにアサシンが加わるとなると、間違いなく狂戦士一体では厳しいだろう。
そう考えていると、セイバーとランサーの戦いに動きがあった。
「宝具の開帳を許す。」
聞いたこのあるその声での命令とともにランサーが宝具を開帳したランサーが、赤い長槍を開帳し、黄色の短槍を地面に置いた。
「そういう訳だセイバー。ここからは取りに行かせて貰う。」
ランサーはそう言うと戦闘を再開した。
それを見た雁夜は呟く
「赤い長槍が宝具か…開帳した以上、能力を知ることも出来ると思うんだけど…」
ランサーはその開帳した宝具でセイバーの剣を覆っている風の魔力を削っていく。
そして、その時は来た。
ランサーの宝具がセイバーの魔力で編んだ鎧を貫通したのだ。
「あの槍は魔力の流れを遮断するのか…」
雁夜は呟く
「マズイな…アレはバーサーカーの宝具との相性が悪い。」
そう雁夜が呟いている間にも、戦闘は続いていった。
第十九話です。
倉庫街の戦いが始まりました。
いよいよ聖杯戦争の本番ですね。
次回は雁夜が秘策を使います。楽しみにしていてくれると嬉しいです。
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第二十話
雁夜は聖杯戦争前のリサーチによりウェイバー、龍之介以外の全てのマスターを知っています。
セイバーもランサーのその宝具の能力に気がついたらしく、纏っていた鎧を捨てた。
「防ぎえぬ槍ならば、防ぐより先に切るだけのこと。覚悟してもらおう、ランサー」
セイバーはそう言って構えを取る。
「思い切った物だな。乾坤一擲、ときたか。鎧を奪われた事の不利を鎧を捨てることの利点で覆す。その勇敢さ、潔い決断。決して嫌いではないがな。この場に限って言わせてもらえば、それは失策だったぞ。セイバー。」
ランサーは忠告する。
それを受けたセイバーは答える
「さてどうだか。諫言は、次の撃ち込みを受けてからにして貰おうか。」
そう言って、セイバーは剣に纏わせていた魔力を一気に放出した。その勢いで、セイバーは一気に間合いを詰める。
セイバーがまさにランサーを切り捨てようとした時であった。ランサーは地面に落ちていた短槍を蹴り上げ、開帳する。
ランサーはセイバーからの切り込みを受けたが、マスターの治癒魔術によって直ぐ回復した。セイバーは直撃さえ逃れたものの、腱を切られたらしい。
「アイリスフィール、私にも治癒を。」
セイバーは白人の女に尋ねる。
「掛けたわ…掛けたのに…そんな…」
アイリスフィールと呼ばれた女は理解出来ない、という風に言う。
「治癒は、間違いなく効いているはずよ。セイバー、貴方は今の状態で完治している筈なの。」
「我がゲイ・ジャルグを前にして、鎧が無意だと悟ったまでは良かったがな。が、鎧を捨てたのは早計だった。そうでなければ、ゲイ・ボウは防げていたものを。」
嬉しい事にランサーが自身の宝具についての解説を始めた。
雁夜は持っていたメモに
「黄色の短槍、ゲイ・ボウ。与えた傷を治癒不可」
「赤い長槍、ゲイ・ジャルグ。魔力の流れを遮断」
と書き込む。
更に幸運な事にセイバーとランサーはお互いの真名を名乗りあった為、雁夜は自身のメモに
「セイバー。真名アーサー王。宝具はエクスカリバー。詳細な能力は不明。
「ランサー。真名ディルムッド・オディナ。」
を付け加える事が出来た。
だがアーサー王なら尚更バーサーカーが有利だ。ランスロットのは円卓随一と言われた言われた剣士であり、剣技ではアーサー王を遥かに上回る。
雁夜はそう考えた。
そして、ランサーのマスターの位置を探すために、使い魔の位置を変える。
「クソッ、流石ロード=エルメロイだ…」
ランサーのマスター、ロード=エルメロイが魔術でその身を隠していた事に事に苛立つ雁夜であった。
ふとその時、雁夜は興味深い物を見つけた。
「セイバーのマスター、衛宮切嗣とそのサポーターか。」
「こいつは使えるな…」
そう呟やいた雁夜の口角が釣り上がる。
そして、遂にそのタイミングは来た。
ライダーとそのマスターが乱入して来たのである。
ライダーは大声で自身の真名をイスカンダルと名乗り、セイバーとランサーを部下に勧誘し、隠れていたアーチャーを挑発し実体化させるなど、場を混乱させた。
こうも事が上手くいくと、雁夜はもう笑みを隠す事が出来ない。
にやけながら、雁夜は秘策を使う。
「蒼崎雁夜が令呪を持って命ずる。バーサーカーよ、第二の宝具、『己の栄光のためでなく(フォー・サムワンス・グロウリー)』の真の能力を解放、アサシンに擬態し、衛宮切嗣のサポーターの女の武器を奪ってこい。決して殺すなよ」
第二十話です。
雁夜が秘策を使いました。
令呪を使ってまで舞弥の武器を奪うのは何故なのか、楽しみにしていてくれると嬉しいです。
今日も駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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21話
衛宮切嗣は焦っていた。
「マズイな…」
そんな言葉が無意識に発してしまう程に。
だが、倉庫街での戦いは焦ってしまうのも無理はない程、セイバー陣営に不利な展開を見せていた。
ランサーの宝具の槍の呪いでセイバーは腱に治癒不可能の傷を負ってしまった。対城宝具であるエクスカリバーの真名解放が出来なくなってしまっていた。その呪いを解するためにランサーを撃破しようにもライダー、そしてアーチャーの乱入により場はあっという間に四騎のサーヴァントによる睨み合いになってしまった。勿論そんな展開でランサーを攻撃しようものなら、ライダーかアーチャーの格好の的になるだけだ。
ランサーを撃破出来ないなら近くで観戦している筈のランサーのマスターを殺せば良い。そう思いランサーのマスターを探して見ると、魔術で身を隠していたもののワルサーWA2000の熱探知スコープで発見する事が出来た。そこまでは良いのだが、ランサーのマスターであるケイネスは奇襲を警戒してか自身の礼装を展開しており、狙撃しようにも出来ない。
更にはアーチャー陣営本拠地である遠坂邸に奇襲を掛け、アーチャーに撃退され、聖杯戦闘から脱落した筈のアサシンが戦闘を観戦しているではないか。
基本的にサーヴァントに対抗するにはサーヴァントを用いるしかない。いかに正面からの戦闘でキャスターと並び最弱と称されるアサシンでも、魔術礼装すら持って来ていないこの装備で戦いを挑むのは分が悪過ぎる。
この状態で狙撃可能なマスターがいないか。
そう思い探して見ると、ライダーのマスターが自分のポイントからでは無理だが、舞弥のいるポイントからならギリギリ狙撃可能かもしれないことに気がついた。
「舞弥、君のいるポイントからライダーのマスターを狙撃出来ないかな?」
切嗣は聞く。
しかし返答はない。
マズイ。切嗣は思う。
舞弥が自分からの連絡に返答しないのは何者かと交戦中か、または返答出来ない時−つまり敵にやられた時ののみである。
「マズイな…」
切嗣はそう呟やいた。
切嗣が展開に頭を抱えている時、アサシンと視覚共有して戦局を観察していた言峰綺礼は、あるものを発見した。
自身のサーヴァントである筈のアサシンが、衛宮切嗣のサポーターの女を攻撃しているのだ。
おかしい。
自分はそんな命令を下していないし、そもそも倉庫街に送ったアサシンは一体だけの筈である。
そう思い、パスを繋いで攻撃をしないように命令使用としたが、パスを繋ぐ事が出来ない。
アレは自身のアサシンではないのか。
そんな疑問すら抱いてしまう。
とりあえず自身の魔術の師であり同盟関係にあるアーチャーのマスター、遠坂時臣に報告した。
「師よ、アサシンと思わしきサーヴァントがセイバー陣営関係者を攻撃しています。止めようと思いパスを繋ごうとしても繋げません。」
「成る程、それは奇妙だね。だがそれは恐らく、キャスターが何らかの魔術を行使してアサシンに擬態しているのだろう。」
時臣は言う。
「キャスター…ですか?」
綺礼は納得がいかないのか、説明を求める
「ああ。今倉庫街にいないサーヴァントはバーサーカーとキャスターの二騎のみ。そのうち、バーサーカーは理性を失っているので擬態などという高度な芸当は出来ないだろう?つまり、キャスターの仕業としか考えられない。」
時臣は説明した。
「成る程。そういう事でしたか。」
綺礼は答えた。
「そうなると、キャスターには特別な警戒が必要ですね。」
綺礼は言う。
「ああ。擬態能力は暗殺に向いている能力だ。直ぐに消さなければいけない敵だろう。」
時臣も同意する。
だが、その時にはキャスターと思わしきサーヴァントは、その姿を消していた。
その時、狙撃可能な対象がいなくなってしまった切嗣は舞弥の元に向かった。
「舞弥、大丈夫か?」
武装を全て奪われた舞弥に聞く。
「…はい…アサシンに攻撃されましたが…命までは奪われませんでした…今回のミス…すみませんでした…」
舞弥は弱々しい声で言う。
「それは問題ない。サーヴァントに攻撃されたんなら仕方がない。」
そう言いながらも、言峰綺礼は何故アサシンに舞弥を攻撃させ、しかも武器だけ奪って殺さなかったのかを考える。
挑発しているのか…
クソッ、言峰綺礼め。
切嗣は綺礼に対する警戒を強めるのであった。
第二十一話
雁夜の戦略はアーチャー、アサシン同盟にキャスターを警戒させ、討伐させるとともにセイバー陣営のアーチャー、アサシン同盟に対する敵対心を煽る目的でした。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第二十二話
聖杯戦争は、いや、全ての闘争と言った方が正しいか、は情報戦だ。
いかに他陣営の情報を集め、いかに敵陣営の動向をコントロールするかが勝敗を決める。
これは雁夜の持論だった。
倉庫街の戦いはバーサーカーが衛宮切嗣のサポーターを襲撃してから暫くして特に進展もなく解散となった。
「帰って来たか。ご苦労だった。霊体化して休んでいてくれ。」
雁夜の与えた任務を見事果たし、衛宮切嗣のサポーターから武器を奪って来たバーサーカーに労いの言葉を与える。果たして理性を失っているバーサーカーがその言葉を理解出来たのかどうかはわからないが、バーサーカーは霊体化したので良しとしよう。
そして雁夜は今回の作戦についての考察を始める。
マスターの中でも特に強力な衛宮切嗣と言峰綺礼を潰し合わせる為に行った作戦はまだ確かではないが、恐らく成功した。
まず、第一のターゲットであるセイバー陣営だが、今頃あのサポーターが衛宮切嗣にアサシンと思われるサーヴァントに襲撃され、武装を全て奪われた事を報告しているだろう。これによって衛宮切嗣は間違いなくアサシン、アーチャー同盟から狙われていると勘違いし、同盟を優先的に攻撃して行くだろう。
次に、第二のターゲットであるアーチャー、アサシン同盟である。アサシンを使って一連の動向を観戦していただろうアサシンのマスターは恐らくパスを繋いで止めよう試みた筈である。だがしかしそのサーヴァントはバーサーカー、パスなど繋げる筈がない。アサシンのマスターはそれを疑問に思い、少し考えた後、他サーヴァントの擬態能力であると気が付く筈だ。倉庫街にいたサーヴァントはセイバー、ランサー、ライダー、アーチャー、そしてアサシンの五騎のみ。つまりアサシンに擬態してサポーターの女を襲撃し得たサーヴァントはバーサーカーとキャスターの二騎だけである。そして、バーサーカーはその特性上理性を失っているので、必然的にキャスターが犯人だと考える。そしてその情報は同盟関係にあるアーチャー陣営にも伝わり、同盟はキャスターを優先的に排除しようとする筈だ。
最後に、サポーターの女を襲撃して奪い取った兵器を確認した。
ワルサーWA2000一丁
手榴弾二個
ダガー一本
拳銃一丁
「凄いな…」
サポーターの女が持っていた現代兵器の量に雁夜は思わず驚いてしまう。
勿論これが全てと言うわけではないだろうし、サポーターがこれだけ持っているのなら、衛宮切嗣はどれだけの武器を持っているのだろうか。
やはり「魔術師殺し」は強敵だな…
雁夜は改めて認識して、次の考察に移動するのであった。
その頃、ランサーのマスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは高級ホテルの最上階を貸し切ってまで作成した魔術工房の中で、自身のサーヴァントと倉庫街での戦いについての考察をしていた。
まずは労いの言葉で始めようと、
「今回の戦いではセイバーに引けを取らずに戦い、その真名を看破、更には腱に治癒不可の傷を負わせるなど、素晴らしい働きであったぞ。ランサー。」
と言う
主のそんな言葉を聞き、ランサーは感激したようだった。
「自分にはもったきお言葉。感謝します。」
「ふむ。ランサーよ。お前から見て、セイバー、ランサー、そしてアーチャーはどうなのだ?」
ケイネスはサーヴァントの意見を求める。
「セイバーは名高き騎士王。強敵ではありますが、ゲイ・ボウで負わせた傷もあります。勝てない相手では無いかと。」
「ライダーとアーチャーはどちらも実際に戦っていないため詳しくはわかりませんが、どちらも強敵に思えました。」
ケイネスとランサーは考察を続けた。
危険が迫っている事も知らずに。
第二十二話です。
綺麗なケイネスです。
次回は爆破されますが笑
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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23話
最強のサーヴァントではないが、優秀なサーヴァントを召喚することが出来たものだ。
ケイネスはランサーと今後の聖杯戦争の作戦を考えながらそう思う。
ランサーのサーヴァントとして現界したディルムッド・オディナは、二本の槍−ゲイ・ボウとゲイ・ジャルグ−を宝具として装備している。対人宝具ではあるものの、その槍の力は強力だ。事実、セイバーとの戦いでは腱に治癒不可の傷を負わせた。また、ステータスも悪くはなく、もちろん槍技は言わずもがな。戦略的に使えば聖杯戦争を勝ち抜くことも夢ではないだろう。
そんな事を考えていると、火災探知機のベルが鳴った。
「主よ、敵陣営からの襲撃かと。」
ランサーは言う。
「ああ、恐らくセイバー陣営だろう。奴ら今直ぐにでも槍の呪いを消したいらしい。」
ケイネスは同意し、冷静にランサーに指示をだす。
「一回に降りてセイバーを向かい撃て。私はセイバーのマスターをやる。」
「主よ、了解した。」
指示をランサーは霊体化し、一階に向かった。
それを見たケイネスも、セイバーのマスターとの戦闘に備えるべくして、自身の魔術礼装である月霊髄液を展開する。
「お互いの秘術を尽くしあっての競い合いができるというものだ。」
ケイネスがそう呟いた瞬間、冬木ハイアットホテルは爆破解体された。
爆破の様子を使い魔越しに見ていた雁夜は、あまりにも常識離れした行動に感心にすら近いものを感じていた。
ビルごと爆破だと…噂には聞いていたが凄まじいな。
雁夜は思う。
流石のロード=エルメロイでも、ここまで常軌を逸した攻撃を受けるとは思っていなかっただろう。
やはり警戒するべき敵だ。
雁夜は衛宮切嗣に対する警戒を強める。
だが、雁夜にはもう一つ考えなければならない事があった。
それは勿論ランサーのマスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの生死である。
ビルの最上階からの落下となると地上百数メートルの高さからの自由落下であるが、ロード=エルメロイクラスの魔術師になると、それすら耐えてしまうかもしれない。いや、生き残っている可能性の方が高いだろう。
だが、まだ真相はわからない。雁夜はランサー陣営の安否がはっきりするまで、ランサー陣営に対する警戒を緩めないようにすると決めるのであった。
翌朝
最上階に魔術工房を作成し、行動の拠点としていたホテルを爆破されたケイネスは、郊外の廃墟に拠点を移していた。そこに一から魔術工房を組み直すのは癪だが、ビルごと破壊されてしまっては仕方ない。
「それにしてもビルごと爆破とは。噂には聞いていたが衛宮切嗣はやはり魔術師からぬ殺し方を用いるのだな。」
ケイネスはランサーに話し掛ける。
「はい。卑怯な輩…許せません。」
ランサーは切嗣の外道な戦法に怒りを隠せない。
「いや、良い。これは私の失態だ。」
「勿論奴の行動は許される物ではないが、実戦では褒められるべき事なのだろう。」
ケイネスは冷静に賞賛を送る。
「さて、ランサーよ。魔術工房の作成が終わった。作戦会議の続きをしようではないか。」
ケイネスとランサーは戦略を練り直すのだった。
第二十三話です。
切嗣がケイネスの工房をビルごと爆破しました。
ここまでは原作通りなんですが、この二次創作ねケイネス先生は一味違います。ランサー陣営はどんな戦略を取るのでしょうか?
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第二十四話
「アサシンに詳しく捜査させましたところ、キャスターとそのマスターは宮間町から隣町をまたに掛け、就寝中の児童を次から次へ、夜明けまでに十五人を誘拐。恐らく今、世間を騒がしている連続殺人犯と同一人物ではないかと。彼等は何の配慮も無く魔術を行使し、その痕跡の秘匿を一切行っていません。最早聖杯戦争その物が全く眼中に無いのでは無いのかと。」
綺礼はアサシンに調べさせた情報を時臣に報告する。
「いや、聖杯に興味がないという事はないだろう。それではキャスターがセイバー陣営の関係者を襲撃したことと辻褄が合わない。」
時臣は否定する
「ですがそれでは何故児童を誘拐、殺すのですか?」
綺礼は尋ねる
「恐らくキャスターは誘拐殺人というエサを使って、自身の工房におびき出すつもりなのだろう。」
時臣は答える。
「と、言いますと?」
綺礼は再び聞く。
「キャスターのサーヴァントは最弱のサーヴァントと呼ばれている。だがそれは一対一で面と向かって戦った時の話しでしかない。」
時臣は説明する。
「キャスターのサーヴァントは魔術師のサーヴァント。即ち、工房の中で戦うこととなれば、最早最弱などではなく、かなり強力なサーヴァントになる。」
時臣は続ける。
「恐らくキャスターは、魔術を使った児童の連続誘拐殺人という聖杯戦争その物すら破綻させかねない行動を意図的に起こし、聖杯戦争の破綻を恐れる陣営を工房におびき出して優位に戦うつもりなのだろう。」
時臣は終えた。
「それはマズイですね…」
綺礼は言う。
「監督役の権限を使って、多少のルール変更は出来ますが…」
綺礼の父であり、聖杯戦争の監督役である言峰璃正が言う。
「よろしくお願いします。」
時臣は言う。
今回の聖杯戦争のダークホースであるキャスターを確実に消す。そんな強い思いとともに、時臣は通話を終えるのであった。
翌朝、聖堂教会の末端として聖杯戦争の監督役を務めている言峰教会から、全陣営に向けて、集合を伝える信号弾が上げられた。
それを見た雁夜は悩んでいた。
使い魔の烏を送るべきか、自分は−と言っても人形であるが−で行くべきか。
本来なら前者一択の悩みであるが、雁夜には策があった。
「全マスターが使い魔越しに見ている前で言峰綺礼の手の甲を改める…」
雁夜は試したかった。
倉庫街での戦いで得た情報から、アサシンがまだ現界している事はわかっている。全マスターが見ている前でそれを証明すれば全陣営がアサシン討伐に向かい、そのマスターを保護していた教会は信用を失うだろう。
アサシン・アーチャー同盟を壊滅させる手にはなる。
一見完璧に見える雁夜のこの策であるが、二つのリスクがあった。
一つ目は聖杯戦争が混戦化である。雁夜がアサシン陣営と教会の不正を証明すれば、全陣営は教会に対する信頼を失うだろう。そこで、アサシン陣営を消した後、教会の定めるルールさえも無視して、如何なる手段をも用いる輩が出るかもしれない。
二つの内雁夜が最も恐れる二つの目は、人形の消失である。教会に実際に出向けば、他マスターに自分の居場所を伝えている事になり、衛宮切嗣の様に手段を選ばないマスターに狙われる可能性が無視出来なくなる。人形を用いている以上、雁夜が死ぬという事はないが、まだ一騎のサーヴァントも脱落していないこの時点で人形を失うのは痛すぎる。
どうしようか。雁夜は悩むのであった。
第二十四話です。
そろそろキャスター討伐編に入ります。
原作ではここら辺でキャスター陣営とランサー陣営が危なくなってきますよね。
次回、悩んだ末に雁夜が決めた結論とは!?
楽しみにしていてくれると嬉しいです。
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第二十五話
雁夜は−いや、人形と言った方が正しいか−は言峰教会に向かって歩いていた。
そう、自身はキャスターと並び一度も姿を表していないバーサーカーのマスター。バーサーカーという強力な事がほぼ確定している上に情報が謎に包まれているサーヴァントを従えている自分は他陣営から見れば最も消したいマスターの一人であろう。
だが上手く行けばアサシン陣営を倒し、現時点で優勝候補筆頭のアサシン・アーチャー同盟に大打撃を与える事が出来る。
悩みに悩んだが結局、勝負は多少のリスクを取れなければ勝てない、という考えからこの決断に至ったのである。
その光景をその男は見ていた。
その手にワルサーWA2000を構えながら。
「奴が、バーサーカーのマスター。間桐雁夜か。」
その男−衛宮切嗣−は呟く。銃の照準を雁夜の頭に定めながら。
「しかし妙だな…今まで間桐邸に引き込もっていてバーサーカーに戦闘すらさせていない慎重な男が、ここに来て何故…」
切嗣は疑問を感じずにいられない。
「出奔していたため魔術師としては三流以下だろうが、使い魔すら使えないという事はないだろう…」
「そこまでのリスクを負ってまで試したい策があるのか…?」
その策が自身のメリットに繋がるかもしれない。
切嗣は見送る事に決めた。
「キャスターのマスターは、昨今の冬木市を騒がせている、連続誘拐事件の犯人である事が判明した。」
璃正は雁夜と使い魔を前に話し始めた。
「よって私は、非常時における監督権限をここに発動し、暫定的ルール変更を設定する。」
璃正は続ける。
「全てのマスターは、直ちに互いの戦闘行動を中断し、各々キャスター殲滅に尽力せよ。」
璃正は提案する。
「そして、見事キャスターとそのマスターを討ち取った者には、特例措置として追加の令呪を寄贈する。」
そう言って璃正は自身の腕にびっしりと刻まれた余剰令呪を見せる。
「これは、過去の聖杯戦争で脱落したマスター達が、使い残した令呪である。」
「諸君らにとってこれらの刻印は貴重極まりない価値を持つはずだ。」
璃正は言うまでもない事実を再確認し、続ける。
「キャスターの消滅が確認された時点で、改めて聖杯戦争を再開するものとする。」
璃正は言った。
「さて、質問がある者は今この場で申し出るが良い。」
璃正は雁夜の待っていた台詞を言う。
「最も、人語を発音出来るのはバーサーカーのマスター以外居ないがね。」
璃正は皮肉る。
質問出来ない使い魔達が去ろうとした時、雁夜はその口を開いた。
「二つ程、質問がある。」
それを聞いた使い魔達は去るのを辞めた。
そして璃正は言う。
「申してみるが良い。バーサーカーのマスターよ。」
「まず、現時点でキャスターとそのマスターに関してわかっている全て教えてほしい。」
雁夜は聞く。
耐魔力のスキルがあるもののランクEと低いバーサーカーをキャスターに挑ませて返り討ちに合うわけにはいかないからだ。
「現時点では魔術を行使しして児童を誘拐している、という事しかわかっていない。」
璃正は正直に答える。
「そうか…もう一つの質問はキャスターとそのマスターに関係しないがそれでもよろしいか?」
雁夜は念を押す。
「構わない。申してみよ」
雁夜が次に発する言葉を知らない璃正は許可する。
「ありがたい。」
「では、この教会で保護されている脱落したアサシンのマスター、言峰綺礼の手の甲を確認させてほしい。」
第二十五話です。
切嗣が雁夜のことを意図的に見逃し、雁夜はアーチャー・アサシン同盟への打撃となる質問をしました。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第二十六話
「…なっ、何故アサシンのマスターの手の甲を確認しなければならないのかね?」
璃正は雁夜の質問に動揺を隠せない。
クソッ、こいつ気が付いてやがるな…
だからリスクを負ってまでここに来たのか。
心の中で悪態をつきながらも、雁夜の次の言葉を待つ。
「使い魔を通じて先日の倉庫街での戦いを監視していたところ、こんな物を見つけたのでね。」
そう言って雁夜は、使い魔に取らせたアサシンの写真を見せる。勿論、璃正だけにではなく、全マスターの使い魔たちにもだ。
「俺にはこれがどうしても脱落した筈のアサシンのサーヴァントに見えてならない。」
雁夜はわかり切っている事を説明する。
「そこで、脱落したアサシンがまだ現界しているのではないか。という疑問を抱いてしまった。」
わざわざ全マスターが使い魔を通じて見ている前でアサシン陣営と教会の不正を証明するだと…
クソッ、どうやったら防げる。
などと思いながら璃正は表向きは平然を装いつつも、内心は追い詰められているのだろう。
その光景を使い魔越しに見ていた切嗣は考えた。
しかし璃正は気が付いていない。
雁夜が綺礼の令呪の有無を確認しようがしまいが、もう既に取り返しのつかない状況になってしまっていることに。
人は疑り深い生き物で、その猜疑心に一度火をつけてしまうと確証がでるまで疑ってしまう。
その猜疑心に火をつけ、アサシン陣営を確実に潰す。
これが間桐雁夜の狙いか。
切嗣は自身の先程の判断は間違っていなかったことを確認した。マスターの暗殺に特化したサーヴァントであるアサシンと教会の元代行者である言峰綺礼は自身にとっても恐るべき敵。疑いに駆られた他のマスター達が始末してくれるならとてもありがたい。
「確認させてもらえますかね?」
雁夜は尋ねる。
璃正は焦りを隠せない。表情こそ冷静なものであるが、額を流れる汗が何よりの証拠だ。
「言峰綺礼は、今外出中にて…」
璃正は苦しまみれの嘘をつくが、それは状況を雁夜にとって有利な物にするだけである。
「サーヴァントを失った元マスターは他陣営が最も排除したい存在の一人。何故なら再び令呪が宿り、マスターとして聖杯戦争に再び参戦する可能性が高いからだ。」
雁夜は聖杯戦争における鉄則を言い、続ける。
「サーヴァントを失ったマスターを教会の保護を求めるのも、教会が保護するのもそのため。そんな状況下にある言峰綺礼が外出中とは、少し可笑しな話ですな。何故外出を許したのか、いつ外出したのか、何処に向かったのかを教えて欲しい。」
雁夜はそう言い、パーカーのポケットから拳銃を二丁取り出す。
「外出中なら殺しても構わないのですよね?」
これはブラフだ。元々拳銃二丁で教会の代行者を殺せるなどと思っていない。
「それは…その…」
璃正はもう嘘を突き通す事ができない。
その光景を見ていた誰もが思ったその時、別の男の声がした。
「父上、もう良いではありませんか」
第二十六話です。
遂に綺礼登場です。
次回、令呪を隠せないアーチャー・アサシン同盟が取る行動とは?
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第二十七話
遂にお出ましか、言峰綺礼。
雁夜は現れた男を見て思う。
聖堂教会の元代行者にして、アサシンのマスター。衛宮切嗣と並び今聖杯戦争において雁夜が最も危険視するマスターだ。
「やはり外出中などではないではないじゃないですか。早速手の甲を改めてさせて頂くが、それでもよろしいな?」
雁夜は言う。
「クッ…」
璃正はアーチャーのマスターである遠坂時臣と組み立てた聖杯戦争の構想が崩れて行くのを防げない悔しやから、言葉を発する事すら出来ない。
対する綺礼は落ち着いている。恐らく代行者としての経験から無駄に引き下がっても意味が無い事を察したのであろう。
「ああ。こうなっては仕方が無い。」
そう言って綺礼は、ゆっくりと両手を挙げる。
その手を確認すると、矢張り令呪はあった。
「やっぱりあるじゃないか。璃正殿、貴方は聖杯戦争監督役の権限を乱用し、アサシンのマスターと結託。アサシンのマスターとその同盟者に不正なアドバンテージを与えていたという事で間違いありませんね?」
雁夜は告げる。
「うむ…反論したいところだが、綺礼の令呪という動かぬ証拠がある限り出来まい。」
璃正は悔しさを隠し切れず、拳を強く握っている。
「とりあえずアサシンのマスターの保護は解くのは確定として、貴方自身はどのように責任をお取りになられるつもりかお教え頂きたい。」
雁夜は非難をやめない。ここで出来るだけアーチャー・アサシン同盟にダメージを与えておきたいからだ。
「うむ…それについては後ほど連絡する。」
璃正は口ごもる。
雁夜の非難を止めようとしてかしてまいか、綺礼が二人の会話に割り込んだ。
「それで、私のアサシンがまだ現界している事がわかったところでどうするのかね?」
綺礼は聞く。恐らく本能的な雁夜が最も聞かれたくないことを察したのだろう。
「何なら今ここで私と戦うかね?見たところさっき取り出した二丁の拳銃の他に、複数のナイフを持って来ているようだが?」
やはりこいつは一筋縄ではいかない。
雁夜は思う。
見せてすらいない武装を見抜くとは、流石元代行者と言ったところであろう。
「いや、それはキャスターとそのマスターの討伐の後だ。」
雁夜は綺礼の一手を別のカードを切る事によって躱した。
「ほお…そうであったな。今は聖杯戦争存続の為にキャスターとそのマスターを狩るのが先であったな。」
綺礼は言葉では納得した様だが、内心、キャスターとそのマスターなどには関心がないのであろう。
「まあ良い。俺の質問はこれで終わりだ。」
雁夜は自身の用が終わった事を宣言した。
「よってこれにて帰らせて頂く。」
そう言って雁夜は教会の出口に向かう。
これをずっと待っていた男がいた。
間桐雁夜は素晴らしい働きをした。
雁夜の想像以上のその働きにその男、衛宮切嗣は感心していた。
しかしそれだけの働きが出来るという事は、強敵に成り得る敵であるという事。
最早あいつはただの落伍者ではない、ここで始末する。
衛宮切嗣はワルサーWA2000の照準を教会の出口に向けるのであった。
第二十七話です。
教会での心理戦を終えた雁夜に新たなる脅威、衛宮切嗣が現れます。
次回、狙撃の危機に瀕した雁夜の運命はいかに⁈
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第二十八話
少しでも頭の回るマスターなら、俺が直接教会に出向いたのには何か理由があったからだと気が付いていただろう。
そのマスターが教会に出向く途中のマスターを攻撃するような奴なら尚更だ。
また、教会は表面上は中立地帯。今回の雁夜の策でその信用は凋落しただろうが、教会を出て直ぐ攻撃してくる程非常識な事はしてこないだろう。
つまり遠距離からの攻撃を仕掛けられるとしたら、俺の教会での用事が終わったあと。言うなれば教会から出て少し歩いた時だ。
雁夜は確信していた。
しかしどのマスターが攻撃を仕掛けて来るかがわからない。
魔術師としての才能が無く、勿論実戦経験のないライダーのマスターや、工房に引き篭って出て来ないアーチャーのマスター、先程説明のあったキャスターのマスターが攻撃を仕掛けてくる可能性はほぼ無いと考えて良いだろう。
問題なのは実戦経験のあるセイバーのマスターとランサーのマスターである。本聖杯戦争の優勝候補の二人は、汚い手も使うかもしれない。
また、可能性は低いが言峰綺礼が攻撃を仕掛けてこないとも言えない。奴は先程のやり取りで納得した様な素振りを見せていたものの、恐らくそれは表面上だけだ。
そう考えつつ教会のドアまで後3メートル程の位置まで歩いた雁夜は、バーサーカーにパスを使い何時でも霊体化を解き戦闘を開始出来るように準備させる。
雁夜の予想通りに、教会から出た直後に攻撃してくる輩はいなかった。
しかし、それは衛宮切嗣の計画の内でもあった。
奴が教会から100メートル離れた時点で狙撃する。
切嗣はワルサーWA2000を構え、狙撃準備をした。
狙撃タイミングを計る為のカウントダウンを始める
「3...」
「2...」
「1...」
切嗣はそのカウントダウンを終えるのと同時にトリガーを引いた。
勢い良く発射された銃弾が雁夜に向かって行く。
切嗣がその銃弾が雁夜の頭にヒットするのを確信した時、雁夜の隣に黒い霧が立ち、雁夜が押される様にして倒れた。
なんだと…⁈
切嗣が驚いていると、その黒い霧の中の何かは、二丁の拳銃らしき物を取り出し、切嗣の方に向かって発砲した。
固有時制御−二倍速−(タイムアルター・ダブルアクセル)
黒い霧と切嗣の間には通常の拳銃の射程距離以上の距離があったが、得体のしれない黒い霧を警戒すべきと判断した切嗣は固有時制御を使い。射線上から逃れる。
その予想は正に的中していた。
黒い霧の中何かが発砲した銃弾は、切嗣の回避前の地点の地面を抉り取っていた。
そうか。アレが間桐雁夜のサーヴァント、バーサーカーか。ステータスが一切見えなかったが、恐らくスキルか宝具の能力なのだろう。
サーヴァントには、サーヴァントをもって対抗するしかない。
切嗣は撤退した。
「ありがとな、バーサーカー。」
雁夜は人形の損壊を防いでくれたバーサーカーに礼を言う。
理性を失っているバーサーカーに理解出来たのかはわからない。だがバーサーカーが霊体化したということは、敵マスターは去ったのであろう。
そう考えた雁夜はひとまず安心し、間桐邸に向かって再び歩き出した。
しかし、更に200メートル程歩き終わった時、鈍い音が響き渡った。
第二十八話です。
切嗣の雁夜は射殺計画はバーサーカーの活躍により、未遂に終わりました。
補足させて頂くと、バーサーカーが拳銃を取り出したと書きましたが、実はそれは切嗣視点から見たもので実は雁夜が渡してます。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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二十九話
時は少し前に遡る。
間桐雁夜が言峰教会から出発したのを確認した言峰綺礼と璃正は、今後の戦略に関しての打ち合わせをするために同盟関係にある遠坂時臣との連絡を始める。
「師よ、これからの戦略についてご意見を。」
綺礼は聞く。
「ふむ。アサシンがまだ脱落していないことが全マスターに知れ渡ってしまった以上、キャスター陣営討伐後はほぼ全ての陣営がアサシン狩りに動き出すだろう。」
時臣はそう言い、続ける。
「なに、簡単な事だよ。キャスター陣営討伐の前に出来るだけ多くの情報を集め、出来るだけ多くのマスターを暗殺するれば良いんだ。」
時臣は更に続ける
「今現在、サーヴァントについての情報があまり無いのはライダー陣営とバーサーカー陣営だ。この二つの陣営は共にマスターが未熟者だから、アサシンを使って殺すか、サーヴァントの能力を確認すればよい。」
「他の陣営には二体ずつアサシンを送り、マスターを暗殺させると良い。だが、ランサー陣営のマスター、ロード=エルメロイは強力だ。念を押して倍の四体送ってくれ。」
時臣は言い終えた。
「師よ、了解しました。」
綺礼は答えた。
クソッ、今度は何だ。
背後で響き渡った鈍い音を聞いた雁夜は瞬時に振り返る。
するとそこには、腹部を強打され無残にも血塗れに成りながら倒れているアサシンと、アサシンを殴り殺した自身のサーヴァント、バーサーカーが佇んでいた。
恐らくアサシンが俺を攻撃しようとした時、気配遮断が解け、それに気が付いたバーサーカーがアサシンを倒したのであろう。
助かった…
雁夜は安堵する。
バーサーカーがいなかったら今頃この人形は損壊していただろう。
「ありがとな、バーサーカー。」
雁夜は本日二度目の礼をバーサーカーに言う。
雁夜がそれを言い終わると同時にバーサーカーは再び霊体化した。
別のアサシンを通じて一連の動向を見ていた綺礼は戦慄した。
分体化して戦闘能力が格段に落ちているとはいえ、雁夜を襲ったアサシンもサーヴァントであり、其れなりの戦闘能力を有している。
バーサーカーはそのアサシンを宝具はおろか武器さえ使わずに一撃で撃破したのである。
あらかじめ綺礼から間桐雁夜暗殺計画の報告を受けていた遠坂時臣も、使い魔越しに観戦していた。バーサーカーの異様なまでの戦闘力を目の当たりにした時臣は、焦っていた。弱体化しているとはいえ、サーヴァントであるアサシンを素手で殴り殺したバーサーカーのステータスは恐らく最優のサーヴァントと言われるセイバーすら軽くあしらう程のものであろう。つまり、あのバーサーカーを近距離での戦闘で倒せるサーヴァントはいないと考えて間違い無いだろう。そんな強力なサーヴァントに守られていては、いかに落伍者とはいえ、間桐雁夜を暗殺するのは不可能。
さて、どうしようか。
時臣は考えるのであった。
同刻
自身工房とかした郊外の廃墟でランサーと情報の整理をしていたケイネスは、自分達のいる部屋の四隅に黒い影が立ち上がるのを確認した。
その影から現れたアサシンの一人がいう。
「我らアサシン。ランサーのサーヴァントとそのマスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの命を貰いにきた。」
「ほお。そうか。」
ケイネスは言う。
「それだけの戦力で私とランサーを倒せるとは思わんがな。」
月髄霊液を展開し、ランサーに合図を送る。
「ランサー、背中は任せたぞ。」
それを聞いたランサーはとても嬉しそうに言う。
「了解した。我が主よ。」
二十九話です。
筋力、俊敏A+は化け物ですよね。
後、ランサー陣営が綺麗過ぎて。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第三十話
月霊髄液の詠唱が原作より長いのは原作にはなかった分裂を付け加えるためです。
ケイネスが礼装を展開し、ランサーが戦闘体制に入ったのを確認したアサシンは、ランサーに三人、ケイネスに一人ずつに別れる。
最初からアサシン、それも分体化して弱体化している自分達が三大騎士クラスの一つとして現界したランサーを倒せるとは思っていない。
そう、別にランサーを倒す必要はないのだ。
三人でランサーの足止めをしている内に、マスターのケイネスを殺してしまえば良いのだ。
そう考えたアサシン三騎は、ランサーを囲む。
「クッ…卑怯な。」
ランサーは悔しそうに言う。
そんなランサーの声を聞いたケイネスは言う。
「私は背中を預けると言ったんだ、ランサー。私を信頼できないのか?私がこの程度の敵に負ける筈はないだろう。安心して戦え。」
そう言われたランサーは気が付いた。ケイネスは自分を騎士として信頼しているからこそ「背中を預ける」と言ったのだ。
「…!了解した主よ。ご武運を。」
「ああ、お前もな。」
ランサーとの短いやり取りを終えたケイネスは、再び目の前のアサシンに集中する。
「ふむ…マスター相手という圧倒的有利な闘いであるというのにかかってこないのかね?」
ケイネスはアサシンを挑発するが、アサシンもやはり「山の翁」として暗殺教団を率いた英霊。そう簡単にはいかない。
「そちらから来ないなら、私から行かせてもらう。」
そう言ってケイネスは月霊髄液に魔力を込める。
「Automatoportum defensio: Automatoportum quaerere: Dilectus inscrisio:Dilectus dissensio 」
初期設定を終えると、ケイネスは直ぐさま攻撃に移る。
「Scalp」
ケイネスがそう唱えるのと同時に、水銀は如何なる物を切り裂く刃と成りアサシンに襲いかかる。
だが、ここまではアサシンの計画の内であった。
事前にマスターの言峰綺礼から月霊髄液についての情報を聞かされていたアサシンは、ケイネスが攻撃に移った瞬間に出来る一瞬の隙をついたダークの投擲を行おうとしていた。
「…死ね。」
アサシンがそう呟きながらダークを投げつけるために手を離したその時、
「Scindo」
ケイネスがそう詠唱した。
するとアサシンを攻撃するべく刃の様な形状になっていたが二つに分裂し、その内の一つがケイネスの前に戻り盾となる。
当然の事ながらアサシンのなげたダークはその水銀に防がれた。
勿論その間にも水銀の攻撃は止まらない。
先程ケイネスの前に戻らなかった半分の水銀は、ついにアサシンを捉えた。
「グハッ…」
身体を切り裂かれたアサシンは、哀れにもなす術無くして水銀の刃に切り刻まれる。
「宝具の能力で分体しているがその分戦闘能力も落ちている。といったところか。」
ケイネスは冷静に分析する。
「そこまでのことはないのだな。」
呆気なかった戦闘にケイネスは少し残念そうだ。
「そちらも終わったようだな。ランサー。」
ケイネスは言う。
「はい。主よ、素晴らしい闘いでした。」
「ご苦労であった。早速考察に移るぞ。」
そう言ったケイネスとランサーはアサシンとの考察を始めたのであった。
第三十話
今回はランサー陣営回でした。
次話からは本格的にキャスター討伐が始まります。(アインツベルンの森の戦いからだと思います。)
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第三十一話
雁夜とケイネスがアサシンと戦った数時間後、遂にキャスター討伐に向けて幾つかの陣営が動き出した。
キャスターとそのマスター殲滅のための暫定的ルール変更の知らせを教会からの報告を受けたセイバー陣営は、戦略会議を行っていた。
「切嗣、他のマスターも全員がキャスターを狙うと見ていいかしら?」
その女、アイリスフィールは確認する。
「まあ間違いないだろうね。」
尋ねられた切嗣は答え、続ける。
「だがキャスターに関しては、僕らに揺るぎないアドバンテージがある。何を血迷ったか、奴はセイバーをジャンヌダルクと勘違いしてつけ狙っているんだから。こいつは好都合だ。」
「僕らは待ち構えているだけで良い。」
「マスター、それでは足りない。奴の悪行は容認しがたい。これ以上被害が広がる前に、此方から打って出るべきです。」
切嗣の考えに賛同しないセイバーは、素直に提案した。
「…」
しかし切嗣はそれを無視する。まるでセイバーがそこに存在しなかったように。
切嗣のその態度に、セイバーは不快感を露わにするが、切嗣は構わず続ける。
「アイリ、この森の術式の結界は、もう把握出来たかい?」
「ええ、それは大丈夫。それよりも問題は、セイバーの左手の呪いよ。」
アイリスフィールは答え、更に重大な問題を提起する。
「貴方がケイネスを仕留めて十八時間経つけれど、セイバーの腕は、完治しないままよ。」
「ランサーはまだ健在なんだわ。キャスターを万全の体制で迎撃する為にも、まずはランサーを倒すべきじゃないのかしら?」
アイリスフィールは提案した。しかし切嗣は否定する。
「それには及ばないし、ランサーとそのマスターが何処を新たな拠点にしたのかが分からない時点で、まずそれはできない。それにたとえ潜伏先を発見出来たとしてもランサー陣営は強敵だ。十分な対策なしで槍の呪いを受けたままで対峙すれば、更に治癒不可能の怪我を負わされる可能性もある。」
「だから君には地の利を最大限に活かして、セイバーを逃げ回らせ、敵を撹乱して貰う。」
切嗣のその作戦を聞いたセイバーは、怒りを少しでも静めるたもに拳を強く握る。
「キャスターと、戦わせないの⁉」
アイリスフィールは理解できない様子だ。
「キャスターは放っておいても誰かが始末してくれるさ。なんせ令呪一角がかかっているのだからね。むしろキャスターを仕留めようと血眼になっている連中こそ、格好の獲物なんだよ。」
「僕はそいつらを側面から襲って叩く。」
切嗣の卑怯な戦略を自身に対する侮辱と感じ怒りを隠しきれなくなったセイバーは、声を上げる。
「マスター、貴方という人は、一体どこまで卑劣に成り果てる気だ!貴方は英霊を侮辱している!何故戦いを私に委ねてくれない!貴方は、自身のサーヴァントである私を信用出来ないと言うのか!」
「キャスター以外とは休戦の筈でしょ?」
アイリスフィールも切嗣の作戦に異を唱える。
「構わないよ。先刻バーサーカーのマスター、間桐雁夜が証明した様に、今回の監督役は平気で不正を冒す様な奴だ。遠坂ともグルかも知れない。」
「信用する必要などないだろう。キャスターとそのマスターの討伐が終わったら、真っ先に狙われるのも奴とアサシン陣営だろうしね。」
切嗣の意見に反論出来ず、アイリスフィールは黙り込んでしまう。
更に、無視されたセイバーは遣る瀬無さで唇を噛みしめる。
「解散としよう。」
切嗣のその言葉と共に、戦略会議は終わった。
一方雁夜は、キャスター討伐の為に動くか動かないか決めかねていた。
「余剰令呪一角か…」
雁夜は呟く。
そう、雁夜は令呪を一角使ってしまっているため、出来ることなら補充したい。
「でもこれ以上バーサーカーについての情報を漏らすのもな…」
そう、現時点でバーサーカーに関する情報はほぼ完全に伏せられたままだ。
セイバー陣営は黒い霧に包まれてステータスが見えなく、拳銃の様な宝具を使うサーヴァントとしか認識出来なかっただろうし、アサシン陣営は黒い霧に包まれた強力なサーヴァント程度の情報しか持っていない筈だ。
それ以外の陣営はバーサーカーについて何も知らないといっても過言ではないだろう。
しかしそれがキャスターと戦闘するとなれば、バーサーカーについての情報はどんどん漏れていくだろう。
いかにバーサーカーが強力なサーヴァントとはいえ、情報さえ手に入れば対策の仕様など幾らでもある。
「どうしようか。」
雁夜はそう呟くのだった。
第三十一話です。
原作でもセイバーは不憫ですがマスターとの相性が最悪なので仕方が無いですよね。
しかもこの二次創作では原作で同じ不憫組だったランサーも報われているという…
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第三十二話
セイバー陣営が会議を終えてから少し経った時、アイリスフィールは自身の夫、切嗣が一人悲しげに佇んでいるのを見つけた。
「切嗣…」
そんな夫をアイリスフィールは放っておけない。
そんな妻の優しさに、切嗣も弱音を吐いてしまう。
「もし…もし僕が、僕が今ここで何もかも放うり投げて逃げ出すときめたら…アイリ、君は一緒に来てくれるか?」
「イリヤは、城にいるあの子はどうするの⁉」
アイリスフィールは、切嗣を引き止める為に言う。
そんなアイリスフィールの問いかけに、切嗣は答える。
「戻って連れ出す。邪魔する奴は殺す。それから先は…!」
「僕は僕の全てを、君とイリヤのためだけに費やす!」
「逃げられるの?私達」
切嗣の言葉を聞いたアイリスフィールは、冷静に尋ねる。
「逃げられる‼今ならばまだ‼」
切嗣は溜まっていた感情を爆発させて、声を荒げてしまう。
アイリスフィールはそんな切嗣を抱きしめ、優しく言う。
「嘘…それは嘘よ。」
「貴方は決して逃げられない。聖杯を捨てた自分を,世界を救えなかった自分を…貴方は決して許せない。」
「きっと貴方自身が、最初で最後の断罪者として衛宮切嗣を殺してしまう。」
アイリスフィールはその瞳に涙を浮かべながら終えた。
そんな妻の愛情に、切嗣は心の底にある恐怖を語りだす。
「怖いんだ。奴が、言峰綺礼が僕を狙っている。」
「倉庫街の戦いの時、アサシンを使って射撃ポイントから戦局を監視していた舞弥を襲わせて持っていた武器を全て奪ったんだ。」
「奴は何時でも攻撃出来ると僕を揶揄しているんだ…!」
「君を犠牲にして戦うのに!イリヤを残したままなのに!一番危険な奴がもう僕に狙いを定めている!決して会いたくなかったあいつが‼」
切嗣は言峰綺礼に対する恐怖から再び声を荒げてしまう。
「貴方一人を戦わせはしない。私が守る。セイバーが守る。それに、舞弥さんもいる。」
「…⁉切嗣」
「敵襲か。舞弥が経つ前で良かった。今なら総出で迎撃出来る。」
「アイリ、遠見の水晶玉を用意してくれ」
敵襲に、切嗣は戦う覚悟をしたようだ。
同刻、ケイネスはランサーとキャスター討伐について議論していた。
「キャスター討伐の件について、ランサー、お前はどう見る?」
ケイネスは尋ねる。英霊として、一人の武人としてのランサーを尊敬するケイネスは、その意見を出来る限り尊重しようと思っているからだ。
その問いにランサーは自分の意見を素直に述べる。
「キャスターとそのマスターの所業は到底許せる物ではありませぬ。今すぐ狩るのが良いかと。」
「ふむ…そうだな。お前の言う通りキャスターの所業は許せる物ではない。」
ケイネスはランサーに同意し、続ける。
「それにお前のゲイ・ジャルグは魔術を扱うキャスターとの相性が抜群だ。」
そう、ランサーは対キャスター戦においては魔力の流れを断ち切る槍というアドバンテージがある。
「使い魔に調べさせてわかったことだが、キャスターはアインツベルンの森に襲撃を掛けている様だ。早速、討伐に出向くと良いだろう。」
「ケイネス殿はここに残られるのですか?」
ランサーは問う。
「ああ。本来なら私も出向きたいが、アインツベルンの森はあの衛宮切嗣率いるセイバー陣営の本拠地だ。ビルごと爆発などと言った非常識な戦い方をする奴はキャスター討伐中の休戦など気にしないだろう。恐らく奴はまだ何か隠している奴と現時点での戦闘は控えたい。」
ケイネスは直感していた。切嗣がまだ何か隠している事を。
ケイネスの説明に納得したランサーは言う。
「そうですか。では、ディルムッド・オディナ、出陣します。」
「ランサー、お前はとても忠義深いサーヴァントだ。私はそこまで令呪を必要としていない。危険を感じたら直ぐに戻ってこい。」
ケイネスは言う。
「ありがたきお気づかい」
ランサーはそう言って、アインツベルンの森に向かった。
ランサーが出発する数時間前、冬木市内のある民家で、小柄な男が二メートルははあろうかという巨漢に声を荒げていた。
「お前、二階から出るなって言っただろ!」
「家主も外出中、貴様も使い魔にかまけているとなれば、余が代わりに出るしかあるまい?」
小柄な男に比べ巨漢、ライダーは冷静だ。
「仕方が無いだろ。聖堂教会からの呼び出しなんて異例なんだから。」
小柄な男、ウェイバー・ベルベットは言う。
「まあ良いではないか。昨夜のセイバーを見てな、余も当代風の衣装を着れば実体化したまま街を出歩けると確信したのだ。」
ライダーは言う。
「おい、待て!外に出る前にズボンぐらい履け!」
ズボンを履かずに外に出ようとするライダーを見てウェイバーは言う。
「うん?ああ、脚絆か。そういえばこの国では皆が履いておったな。ありゃ必須か?」
ライダーは聞く。
「必要不可欠だ!先に断っておくが、僕はお前のために街まで出向いて特大ズボンを買ってくるなんてことは、絶対しないからな。」
ウェイバーは言う。
「なんだと⁉坊主、貴様余の覇道に異を唱えると申すか!」
ライダーは少し慌てる。
「覇道とお前のズボンとは一切合切関係ない!外を遊び歩く算段なんかする前に、キャスターを討ち取れ!」
ウェイバーはいう。
「つまりキャスターを討ち取れば、余にズボンを履かすと誓う訳だな⁉」
ライダーは真剣に言った。
第三十二話です。
次は遂にキャスターが登場します。
戦いの内容も原作とは異なりますので、楽しみにしてくれると嬉しいです。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第三十三話
「…いたわ」
遠見用の水晶玉で侵入者、つまりキャスターを索敵していたアイリスフィールは、遂にキャスターを捕捉した。
「アイリスフィール、敵は誘いを掛けています。」
アイリスフィールの隣で共に水晶玉を覗いていたセイバーは言う。
「人質…でしょうね。きっと。」
アイリスフィールは、キャスターが連れて来ている児童たちについて触れる。
「私が直に出向いて救い出すしかありません。」
セイバーがそう言った時だった、キャスターが水晶玉越しにセイバーとアイリスフィールの方を向いて微笑んだのだ。
「…⁉千里眼を見破られている!」
アイリスフィールは酷く驚いた。
そんなアイリスフィールの心境を知ってか知らないでか、キャスターは語り始める。
「昨夜の約定通り、ジル・ド・レイ、まかりこしてございます。我が麗しの聖処女ジャンヌに今一度、お目に掛かりたい。」
そう言ったキャスターは、丁寧に頭を下げる。
それを見たセイバーは、焦り出す。
「アイリスフィール!」
「まあ取次ぎはごゆるりと。私も気長に待たせて頂くつもりです。」
そんなセイバーの焦りを見透かした様にキャスターは言う。
「それなりの準備をして参りましたからね。」
そう言ったキャスターが指を鳴らすと、キャスターの周りにいた子供たちが正気を取り戻した。
「さあさあ坊や達、鬼ごっこを始めますよ。」
「ルールは簡単。この私から逃げ切れば良いのです。」
「さもなくば…」
そう言ったキャスターは、連れていた子供たちの一人の頭を鷲掴みにして、強引に持ち上げた。
キャスターが何をしようとしているかわかったセイバーは叫ばずにはいられない。
「辞めろ!」
そんなセイバーの叫びも関係なしに、キャスターは子供の頭を握り潰した。
その動向を見ていた子供たちは一斉に逃げ出す。
「さあお逃げなさい。100を数えたら追いかけますよ。」
キャスターは呑気に宣言した。
「ねえジャンヌ、私が全員捕まるまでにどのぐらい掛かりますかね?」
それを聞いたアイリスフィールは、言う。
「セイバー、キャスターを倒して。」
勿論セイバーも同意した。
「はい!」
騎士としてあんな暴挙を許すわけにはいかない。
そんな決意と共にセイバーはキャスターの元へと走る。
絶対に止めてみせる。
セイバーがそう考えたとき、キャスターの声が響き渡った。
「ようこそジャンヌ。」
セイバーとの対面に、キャスターは嬉しそうだ。
「いかがですか?この惨状は?」
「痛ましいでしょう?」
キャスターの言葉を聞いたセイバーは、その惨劇を起こしたキャスターと、それを止められなかった自分に腹が立ち、歯を食いしばる。
「私が憎いですか?ええ、憎いでしょうね。神の愛に背いた私が断じて許せないはずだ。」
セイバーはキャスターより子供に気を取られる。
「その子を離せ、外道。」
セイバーのその言葉を聞いたキャスターは子供を解放した。
解放されたその子供はセイバーに駆け寄り、抱きつく。
しかしそれすらキャスターの計算の内。
子供の身体を突き破って海魔が出現し、セイバーを拘束した。
「⁉」
あまりのショックと怒りで、セイバーは言葉を発することが出来ない。
その間にもキャスターはセイバーを包囲すべくして海魔を召喚する。
正気を取り戻したセイバーは自分を拘束していた海魔を風の魔力で粉砕すると、剣を構え、戦いに備えるのであった。
第三十三話です。
遂に戦闘開始しました。
原作通りの展開は次話の前半で終わりで、次話の後半からは、オリジナル展開がはじまります。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第三十四話
セイバーは鋭い剣劇で自身を囲み包囲している海魔を斬り続けていた。しかし、斬っても斬っても海魔は再生し、増え続ける一方である。
「クッ、キリがない…」
そんな不利な状況に置かれたセイバーは嘆く。
「左手さえ使えれば…」
そう、ランサーのゲイ・ボウで負わされた治癒不可能の傷さえなければ、セイバーはエクスカリバーの真名解放によって海魔共々キャスターを消し飛ばす事が出来る。
しかし、現実は非情だ。
遠見の水晶玉越しにセイバーの苦戦の様子を見ていたアイリスフィールは耐えきれなくなり、切嗣に尋ねる、わ
「キャスターの魔力も無限じゃないはず。枯渇するまで持ちこたえれば、セイバーに勝機があるわよね?切嗣?」
しかし切嗣はセイバーの苦戦など気にも留めず、聞く。
「それより、まだ他のマスターが森に入って来た反応はないのか?舞弥。」
そう、切嗣は自分達の事でいっぱいでセイバーの事を考えている余裕は無いのだ。
「アイリを連れて城から逃げてくれ。セイバー達とは逆方向に。」
その指示を聞いたアイリスフィールは、すかさず尋ねる。
「ここにいては、駄目なの?」
アイリスフィールの質問に、切嗣は冷静に答える。
「セイバーが離れた場所で戦っている以上安全ではない。
僕と同じ事を考えている奴だって、いるだろうからね。」
それを聞いたアイリスフィールは少し悲しそうに従う。
「わかったわ。」
そう言った直後、アイリスフィールが顔を歪めた。
「⁉」
それを見た切嗣は尋ねる。
「どうした?アイリ」
「どうやら、新手がやって来たみたい。」
アイリスフィールは答えた。
「何故だ。奴の魔力は底無しだと言うのか?」
無限再生を続ける海魔達に痺れを切らしたセイバーは言う。
「まさか、奴の魔力の源は…」
「その本が貴様の宝具か。」
セイバーは気がつく。
「ええ。我が盟友が残した魔書により、私は悪魔の軍勢を使える力をえたのです。いかがですかジャンヌ、懐かしいですね。何もかもが昔のままだ。その気高き闘争心は、貴方がジャンヌ・ダルクである事の証。」
「それなのに何故だ⁉何故目覚めてくれないのです⁉未だ神のご加護を信じておいでか?」
「この窮地にも奇跡が貴方を救うと?嘆かわしい…」
キャスターが言い終わるのを待たずにセイバーは海魔に斬り掛かる。
しかしこの時点ではセイバー、キャスターの両者は知り得なかった。セイバーを救う「奇跡」は直ぐそこに迫っていることに。
同刻−
ランサーは深いアインツベルンの森を疾走していた。
勿論その理由は憎き敵、キャスターを見つけるためだ。
しかし現世ではとても良い主に恵まれたものだ。
ケイネス殿は賢く、確かな魔術の実力を備えていて、それでいて俺の意見を尊重してくださる。
ランサーは走りながら考えた。
まさに仕えるに値するお方。
ケイネス殿の為になら、キャスターなんぞ幾らでも殲滅して見せよう。
そんな事を考えていると、キャスターらしき男が使い魔の大軍でセイバーを包囲している姿が見えた。
セイバーは俺の倒すべき敵。キャスターなんぞには譲らん。そう考えたランサーは、そのスピードを更に速めるのであった。
ランサー以外にももう一人、その戦闘を監視していた男がいた。
使い魔である烏越しに戦いを観戦していた雁夜は呟く。
「キャスターのあの宝具、いいな。」
「どうにかして奪えないかな?」
そう、バーサーカーにキャスターの宝具を奪わせれば、対軍宝具を持たないというバーサーカー唯一の欠点を補えるのだ。
「どうしようかな?」
雁夜はそう呟くのであった。
第三十四話です。
最後の雁夜の登場はちょっと無理やり感が拭えないですね笑最近出番が無いもんですから。
次回、ケイネス先生の代わりにアインツベルン城に現れた人物とは?
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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35話
雁夜がそんな思考にふけっている時、セイバーは未だにキャスターの海魔による包囲から抜け出すことが出来ずに、焦りと苛立ちを募らせていた。
キャスターの戦法は自身の唯一の宝具である螺旋城教本(プレラーティーズスペルブック)を用いた海魔の無限召喚・無限再生というシンプルなものである。しかし、この戦法はランサーの槍の呪いによって本来の対城宝具を封印して戦う事を余儀無くさせられているセイバーにはとても効果的な戦略である。否、効果的過ぎると言ったほうがただしいか。仮にも対軍宝具である螺旋城教本(プレラーティーズスペルブック)の海魔の軍勢を対軍宝具もしくは対城宝具無しで倒すのは、優秀といえど常識の範囲内のステータスしか持たないセイバーには不可能である。
「どうですか?久しぶりに味わう絶望の味は?」
自身の優位を確信しているキャスターは、セイバーに言う。
「クッ、まだだ。」
セイバーは諦めない。
左手手さえ使えれば…
そうセイバーが考えたとき、第三のサーヴァントが乱入して来た。
「どうやら随分と苦戦している様ではないか。セイバー。」
第三のサーヴァント、ランサーは言う。
「ランサー!」
思わぬ援軍に、セイバーは驚きを隠せない。
「貴様、私とジャンヌの会合を邪魔するとは、許せん。殺す。殺す!殺す!殺す‼」
セイバーとは対照的だったのがキャスターで、キャスターはランサーの乱入に怒りを露わにし、発狂する。
「生憎だが、セイバーはこの俺との先約があってな。お前なんぞに倒させるわけにはいかないのだ。」
ランサーは言う。
「それのみならず、俺はお前の所行を許せない。我がマスターも同意見だ。」
ランサーは続ける。
「騎士の誇りに掛け、お前を倒す!」
ランサーは宣言した。
その宣言を聞いたセイバーも誓う。
「私もだ‼」
「そういうわけだ。キャスター。ここからは俺とセイバーの二人を相手にしてもらう。」
そう言ったランサーは、二本の槍、ゲイ・ボウとゲイ・ジャルグ構える。
「おのれおのれおのれおのれおのれ‼」
キャスターは相変わらず狂ったままだ。
だがそんな精神状況下でもキャスターは戦局の変化に対応し、新たな海魔を召喚する。
ランサーは、二本の槍で海魔を斬り始めた。
同刻、アインツベルンの森には、キャスターとランサーとは別の侵入者がい二人いた。
「流石はアインツベルンといったところか。魔術による霧と結界で並の魔術師なら森に入ったら最後、出られないだろう。」
その侵入者の内の一人。遠坂時臣は言った。
「ええ。私も数多くの魔術師を倒して来ましたが、これ程の結界はなかなか」
もう一人の侵入者、言峰綺礼は言った。
「ふむ。さっきから監視されているね。」
「ここで二手に別れよう。私はここに残り、私達を、監視している二人組みを倒す。」
「綺礼、君は城の方を確認して来てくれ。」
「わかりました。師よ。」
綺礼は言った。
第三十五話です。
騎士二人がキャスターを相手どっている時、アインツベルンの森に侵入したのは綺礼と時臣でした。
今日も駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました
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第三十六話
「ランサーが乱入して来たか。」
アインツベルンの森での戦いを使い魔越しに観戦していた雁夜は呟く。
「でもランサーのマスターであるロード=エルメロイは不在と。」
聡明なロード=エルメロイの事だ、きっと先日のビル爆破の一件から衛宮切嗣が並ならぬマスターである事を理解し警戒しているのだろう。
「流石だな。」
雁夜はロード=エルメロイのその洞察力と判断力に感心する。プライドの高い普通の魔術師であったなら今頃、工房爆破の報復行為としてアインツベルンの本拠地に攻め入っているだろう。
「で、ロード=エルメロイの代わりに言峰綺礼と遠坂時臣がアインツベルンを攻撃しているのか。」
冷静に分析するが、雁夜には理解出来ない事が一つあった。
キャスター討伐後、明らかに全陣営から袋叩きにされるだろうアサシン陣営のマスターである言峰綺礼が出来るだけ多くの陣営を排除したいがためにアインツベルンに攻め入るのは理解出来る。
でも何故今まで工房に篭っていた遠坂時臣までアインツベルンに攻め入っているのだ。いかにアサシン陣営と同盟関係にあるとしても、「魔術師殺し」の異名を持つ衛宮切嗣と対峙するのは割に合わない行動としか考えられない。
雁夜が悩みながら観察を続けていると、時臣が綺礼を先に行かせ、自身はその場に残った。
「そうか…遠坂時臣は言峰綺礼が衛宮切嗣と邪魔されずに戦うのを可能にする為のサポート役で、元から衛宮切嗣と戦うつもりは無いのか。」
雁夜は理解する。
良い策だ。雁夜は素直に感心した。魔術師の殺害に長けている衛宮切嗣は恐らく今回の聖杯戦争において一番警戒するべきマスターだ。その衛宮切嗣を抑えるには、同じく強力なマスターで、尚且つ魔術師としてではなく聖堂教会の代行者として強力な言峰綺礼をぶつける他ない。
そんな事を考えている内に、ランサーの乱入によって一時的な硬直状態にあったサーヴァントの戦いが再開された。
「さて、これで戦いの流れが変わるのかな?」
雁夜は呟くのだった。
さて、順調にセイバーとキャスター討伐の為の共闘関係を結び戦闘を開始したランサーであったが、キャスターの戦略、螺旋城教本(プレラーティーズスペルブック)による海魔の大量召喚及び使役といった戦法を前に苦戦していた。
「こいつはセイバーが苦戦する訳だ…」
ランサーは言う。
「斬っても斬ってもキリがない。」
そう、ゲイ・ボウの呪いで対城宝具を封印しているセイバー同様に、対軍もしくは対城宝具を持たないランサーにとって数の暴力は脅威なのだ。
「クッ!」
セイバーも同様に苦戦している様子だ。
「増援が来たと思ったらその程度ですか。神はつくづく貴方を見捨てていらっしゃるようですね。ジャンヌ。」
そんな戦局を見たキャスターは勝ち誇り言う。
「ああ、嘆かわしい。何と嘆かわしいのでしょう。」
キャスターは言う。
「こんな状況でも神のご加護を信じられてらっしゃるのですか⁉ジャンヌ‼」
キャスターがそう言った時だった。
激しい雷鳴と共に、もう一騎のサーヴァントが乱入してきたのは。
第三十六話です。
やっとライダー陣営を登場させる事ができました。
アインツベルンの森でのサーヴァントの戦いは、明日か明後日には終わるはずです。
今日も駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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第三十七話
雷鳴を唸らせる戦車型宝具、「神威の車輪」に乗って空中から地上に降りてきたそのサーヴァント、ライダーは普段通りの豪快なトーンで言った。
「また会ったな。セイバー、そしてランサーよ。」
「今度は何者です⁉」
話し掛けられたセイバーとランサーよりも早く反応したのはキャスターだった。
「我が名はイスカンダル。マケドニアの王にして、征服王の通り名を持っておる。今回の聖杯戦争に置いては、ライダーのクラスを得て現界した。」
ライダーは自身の真名を躊躇うことなく宣言すると、続けた。
「して、セイバーとランサーよ。貴様らには状況説明を頼みたい。」
それを聞いた二騎のサーヴァントはそれぞれ言う。
「おうとも。だが今はそこのキャスターに手一杯でな。」
セイバーがそう言ったのに続き、ランサーも
「ああ、キャスターが思ったほか強くてな。」
セイバーとランサーの状況説明を聞いたライダーは言う。
「ほう。二人して手こずっておるのか。」
「認めなくはないが…そうだ。」
セイバーは悔しいそうに言う。
「まあ安心せい。余がここに来たのもそこのキャスターを倒すためだ。」
セイバーの無念を感じとったライダーは言う。
「私はを倒す?私の悪魔の軍勢を見てもまだその様な妄言を吐くとは‼」
ライダーの言葉を聞いたらしいキャスターは怒りをぶちまける。
「ならばよろしい。三人纏めて教授差し上げてみましょう。」
キャスターはそう言うと、理解不可能な言語で呪文を唱える。その呪文に影響されたらしい螺旋城教本(プレラーティーズスペルブック)はその身に纏っている怪しげな光を増幅させた。
そして、その宝具−螺旋城教本(プレラーティーズスペルブック)−は更なる海魔の軍勢を呼び出した。
「成る程。奴はあの本を使いこの魔物の軍勢を召喚しているわけだな。」
ライダーは冷静に分析するが、その宝具の能力を行使したキャスターは気色の悪い笑みをその顔に浮かべながら言う
「どうですか?私の螺旋城教本(プレラーティーズスペルブック)は。一瞬であなた方三人を絶望へと陥れることが出来るんですよ。素晴らしいでしょう?」
しかし、ライダーはキャスターの台詞など気にも留めずに言う。
「成る程これは対軍宝具を持っていない無いサーヴァントには有効な宝具だな。」
「だが生憎、余の宝具は戦車でな。そんな気色の悪い魔物の軍団など無に等しいわ。」
ライダーはそう言うと、「神威の車輪」の手綱を握り宣言した。
「セイバー、そしてランサーよ。これからはキャスター討伐を再開する。」
そう言ったライダーは、「神威の車輪」の進行進路をキャスターの方向に向け、その戦車を走らせた。
雷鳴を上げながら走るその戦車は、キャスターが無制限に召喚する海魔を物ともせず、次々と轢き殺していく。
その光景を見たキャスターは、焦りを隠せず、叫ぶ
「おのれおのれおのれおのれおのれ‼」
「フハハッ、最後の人押しと行こうかの。」
「遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)」
真名解放されたA+ランクの対軍宝具は、そのスピードを一層増し、キャスターに向かって突進して行く。
その時、キャスターの危機をパスを通じて感じとっていた雨生龍之介は、無意識に令呪の力を行使した。
それを受けたキャスターは、自身と龍之介の潜伏先に瞬間移動する。
「なぬ?」
ライダーは呆気に取られた。
そう、ライダーが今にもキャスターを「遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)」で轢き殺そうと思われた時、キャスターの姿がいきなり消えたからだ。
「令呪による空間転移、もしくはキャスター自身の魔術だろう。」
ライダーは冷静かつ正確な分析を行った。
第三十七話です。
一応、アインツベルンの森でのサーヴァントの戦いは終わりました。
次はマスターとそのサポーター同士の戦いですね
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第三十八話
セイバー、ランサー、そしてライダーの三騎のサーヴァントがキャスターとの戦闘を終えた事を確認した雁夜は、今回の戦闘で新しく得られた情報を整理していた。
勿論、最初に考察するのはキャスターだ。
「キャスターの宝具はあの『螺旋城教本(プレラーティーズスペルブック)』とか言う魔道書。使用者の魔力を殆ど必要としない宝具の能力は、海魔と呼ばれる使い魔の一種を無制限に召喚し、それがダメージを負った場合には再生させるといったもの。宝具としての種類は対軍宝具。評価はA+ランク。」
「宝具こそ強力なものの、キャスター自体のステータスは全体的に見ても低く、恐らく宝具特化型のサーヴァントだと思われる。」
「バーサーカーに宝具を強奪させるには丁度良い相手だが、潜伏先が割り出せていないから、その案件はキャスターが次に姿を現す時か、キャスター陣営の潜伏先が判明するまで保留。」
キャスターについての考察を終えた雁夜は、他の情報の整理に移る。
「ライダーの宝具の『神威の車輪』は真名解放可能。その『遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)』はキャスターが宝具の力を何処まで解放したか解らない為、確かではないが、現時点では同じA+ランクの対軍宝具である『螺旋城教本(プレラーティーズスペルブック)』よりも強力な宝具だ。」
「次はランサー陣営だが、ランサーが特に問題なく現界・戦闘している事から、予想通り、マスターのロード=エルメロイはまだ健在だと考えられる。」
「まあ、こんなものかな。」
新情報全ての考察を終えた雁夜はそう言うと、使い魔の烏との視覚共有を再開した。
勿論、もう一つの戦いであるマスター同士の戦いを観戦するためだ。
その戦いの開戦の火蓋は、アーチャーのマスター、遠坂時臣により切って落とされた。
言峰綺礼を先に進ませた後、時臣は誰もいない−いや、そう見える−に向かって言った。
「出て来たまえ。そこから見ているんだろう。」
その返事として返って来たのは、言葉ではなく、鉛玉だった。しかしそんな事もあろうかと自身の魔術礼装であるルビーを埋め込んだステッキを構えていた時臣は、自身の目の前に炎の壁を作る事で余裕を持って優雅に対処する。
その炎の壁に飲み込まれた銃弾は、その融解熱を祐に上回る熱に耐えきれず、液化する。
「話し合いで解決出来ないとは...残念だよ。」
想定内の出来事であったが、それでも残念だった時臣は言った時臣に返って来たのは、更なる銃撃だった。
迫り来る銃弾を前にして時臣はまたもや炎の壁を展開する。
しかし、銃弾の射手である舞弥とて一度通用しなかった戦術を繰り返し持ちいるような馬鹿ではない。
そう、舞弥は炎の壁が一時的に時臣の視界を奪う事に気が付き、時臣がそれを展開している間に距離を詰め、近接戦に持ち込もうと考えたのだった。
これはまさに時臣の予想外の展開であった。
時臣が炎の壁を消したその瞬間、舞弥はダガーで時臣に斬りかかった。
第三十八話です。
時臣さんの優雅な戦いはどうなるのでしょうか。明日を楽しみにしてくれると嬉しいです。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第三十九話
しまった!
炎の壁を消した瞬間の隙をついての舞弥がダガーで斬りかかって来るのを視認した時臣は心中でそう叫ぶ。
そう、時臣は予期せぬ事を上手く対処するのを苦手としているのだ。
そんな事を考えているうちにも、舞弥は確実に時臣との間合いを詰めて来ていて、遂に両者間の距離は、1メートル程にまで詰まってしまった。
そんな危機的状況に焦って冷静な思考が出来なくなった時臣は、反射的に後ろに二歩下がり、目の前一帯の地面を覆っている草木に火を放つ。
全く考えも無しに行ったこの放火は、危機改正の一手となった。そう、目の前の草木に火を点けられた舞弥は、そのまま進行するわけにはいかず、左方向に回避する。
「クッ」
時臣の思わぬ一手で自身の策−距離を詰めて有利な接近戦に持ち込む−を妨げられてしまった舞弥は悔しさを露わにする。
しかし、そう思っている間にも戦闘は続行しているため、気を抜くわけにはいかない舞弥は時臣に向かってキュリコM950の掃射を行う。
しかし、それはまたもや時臣の作り出した炎の壁によって防がれてしまった。
冷静な判断を持って闘いを進めて行く舞弥であるが、状況は不利になる一方であった。先程時臣が反射的に放った炎は周囲の草木にすぐさま燃え移り、気が付けば辺りは火の海。そんな状況では時臣との距離を詰めることは出来ず、自身の持つ飛び道具も時臣の作り出す炎の壁を前にしては全く効果をなさない。
「そろそろ終わりにしようかね。」
自身の勝利を確信し、余裕と優雅さを取り戻した時臣はそう言い、魔術礼装のステッキに魔力を込める。
「Intensive Einascherung(我が敵の火葬は苛烈なるべし)
――」
そう詠唱した時臣が放った炎は、先程の物とは違い、確実に舞弥を捉える為に放たれた物であった。
舞弥それを避けきる事が出来ずに、炎に包まれる。
その様子を見て、自身の勝利を確認した時臣は、二人の戦闘をそばで見守っていたアイリスフィールに尋ねる。
「貴女も戦うのかね?」
「マダム、いけない...!」
その問いを聞いてアイリスフィールよりも先に反応したのは、全身に火傷を負い死にかけている舞弥だった。
舞弥のその忠告を聞いても、アイリスフィールの決心は揺るがない。
「私と舞弥さんは遠坂時臣、貴方を直ぐに排除して、言峰綺礼を止めなければいけません。奴を、衛宮切嗣に会わせるわけにはいかないのです!」
「成る程...」
アイリスフィールの固い決意の篭った言葉を聞いた時臣は、感嘆する。
「しかし、どうやって私を倒すつもりなのかね?」
時臣のその問いに、アイリスフィールは持っていた針金に魔力を通すことで答える。
「私が切嗣から教わったのは、車の運転だけではなくてよ。」
「生きること。そして、生き抜くこと!」
そう宣言したアイリスフィールは、針金を烏型の使い魔に変える。
アイリスフィールに使役されているそれは時臣を攻撃すべく、時臣に向けて飛び立った。
「その決意は素晴らしい物だが...それでは私を倒せない。」
そう言った時臣は炎を針金の使い魔ではなく。アイリスフィールに向けて放つ。
そう、時臣の作り出せる炎の最高温度では針金を構成している鉄を溶かす事が出来ないからだ。
それを見たアイリスフィールは、使い魔に自分を守らせ、炎の直撃さえ避けられた物の、腕に重大な火傷を負ってしまった。
「ふむ。私の勝利の様だね。」
そう言った時臣は、綺礼をサポートするべく、その場を離れるのであった。
第三十九話です。
調子に乗ってたらセイバー陣営が脱落しそうな展開になってしまいました…
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第四十話
「凄まじいな、これは...」
雁夜は時臣の作り出した惨状を使い魔越しに観測しながら呟く。
「あのアインツベルンの森が火の海だ...」
そう、時臣が衛宮切継のサポーターの女と交戦中に放った炎は、その威力こそ大した事がなかったものの、如何せん戦場が悪過ぎた。
「アインツベルンのホムンクルスとサポーターの女はそれぞれ重大な火傷を負い、燃え上がるアインツベルンの森の中に残されたか...」
雁夜は少し同情しながら呟く。
「まあ助けが無い限り死亡すると見て良いかな。」
「敵陣営同士で潰しあってくれるのは願ったり叶ったりなんだけど...あんなに盛大に燃やし尽くしてどうやって隠蔽工作するつもりなんだろう。」
そう、魔術師にとって魔術の隠蔽工作は何よりも先に重んじなければならない鉄則。そのルールは勿論、魔術師同士の殺し合いである聖杯戦争中にも守られなければならない。
「アインツベルンの森の炎上、衛宮切嗣が冬木ハイアットホテルを爆破、キャスター陣営の連続児童誘拐殺人など、今回の聖杯戦争は派手にやり過ぎだ...」
雁夜は愚痴るが、直ぐに本題に戻る。
「まあそれはさて置き、このままだとセイバー陣営の敗退は濃厚だな。」
しかし雁夜は予期していなかった、その敗退寸前のセイバー陣営が思わぬ援護を受けることを...
雁夜がそんな事を考えながら使い魔越しにアインツベルンの本丸での戦いを監視している時、衛宮切嗣は追い込まれていた。
そう、先程から戦っている言峰綺礼は元聖堂教会の代行者であり、今回の聖杯戦争に置いて最も警戒しなければならないマスター。
出来る事ならば戦争終盤まで対峙するのを避けたかった相手とまだ一騎のサーヴァントすら脱落していないこの時点で戦わなければならなくなってしまった。
矢張り強い。
切嗣は考える。
そう、先程から地の利を活かしつつ固有時制御(タイム・アルター)と現代兵器を用い闘っているのだが、一行に勝利は見えない。セイバーを呼ぼうにも、セイバーはアサシンの軍勢に上手く抑えこまれてしまっている。
マズイな…
切嗣は心の中でそう呟く。
その時だった。言峰綺礼が言葉が更なる悪展開を告げたのは。
「師よ、そちらは片付いたのですか。」
そう問われた時臣は答える。
「ああ、少々手こずってしまったがね。」
そう、舞弥とアイリスフィールを倒した時臣が綺礼をサポートしに来たのだ。これにより、元より悪かった状況は最悪の物とは化した。
マズイな…
そんな状況に置かれた切嗣は心の中で再び呟く。
誰か...助けてくれ....!
あまりにも絶望的な状況にもうそう祈る事しか出来ない。
切嗣の願いが通じた事は、第三者、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの声により確認された。
「二体一とは卑怯な事をする。遠坂家は名誉ある魔術師の家系だと聞き及んでいたのだがね。」
第四十話です。
切嗣の絶対絶命のピンチに現れたのは、ケイネス先生でした。
何故、ケイネスは自身の工房をビルごと爆破した切嗣を助けるのでしょうか?
次回を楽しみにしてくれると嬉しいです。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第四十話
第三者の介入により、切嗣、綺礼、時臣の闘いは一時的に中断された。
その第三者がかの魔術協会総本部、倫敦時計塔に名を馳せる魔術師のケイネス・エルメロイ・アーチボルトである事にいち早く気が付いた時臣は、ケイネスに言う。
「これはこれはロード=エルメロイ殿、お目に掛かる事が出来、光栄の極みでございます。」
まず挨拶を済ませた時臣は、本題に入る。
「先程、私が遠坂家の当主として不名誉な闘いをしているとのご指摘を受けましたが、そこの衛宮切嗣は卑怯な手段や現代兵器を用いて数多くの魔術師を暗殺してきた魔術師の面汚し。貴方の魔術工房をビルごと爆破した張本人でもあります。そう、これは闘いではなく駐罰なのです。」
時臣は弁明するが、ケイネスは最初からそんなことは気にもしていないので、答える。
「その件に関しては注目を集める為に言った故、特に深い意味はなかった。誤解させてしまい申し訳ない。」
ケイネスは続ける。
「それにしても駐罰か。遠坂殿、実戦に置いて幾ら卑怯な手段を使おうが、現代兵器を用いてビルごと爆破しようが関係ない。やられた方が悪いのです。」
ケイネスは自身の実戦経験から編み出した自論を述べ、続ける。
「しかも、今日私はそこの衛宮切嗣を援護する為にここに来た。」
ケイネスのその言葉に、一同は驚きを隠すことができない。そう、何故ケイネスは自分の工房をビルごと爆破した張本人を援護しようというのか。
三人の中でも一番驚いた切嗣は問う。
「何故だ、何故、僕を助ける?」
ケイネスは冷静に答える。
「此方には此方の事情があるのだ。」
そう、時は少し前−丁度時臣と綺礼がアインツベルンの森に侵入した頃−に遡る。
雁夜同様に使い魔越しにサーヴァント同士の戦闘及び時臣の舞弥とアイリスフィールとの闘いを観戦していたケイネスは、セイバー陣営が圧倒的不利な状況に陥ってしまっている事に気が付いた。
他陣営から見て、強力なマスター衛宮切嗣と最優のサーヴァントと呼ばれるセイバーがこの早い段階で脱落するのはとても都合の良い事だろう。
そう、他陣営から見れば、の話だ。ケイネスのサーヴァントであるランサーは、ゲイ・ボウによる治癒不可の傷という絶対的なアドヴァンテージをセイバーに対して持っている。
更に、ここでセイバー陣営が敗退してしまえば、パワーバランスは崩れ、アーチャー・アサシン同盟の聖杯戦争優勝がほぼ確実なものになってしまう。
ならば衛宮切嗣をサポートしてアーチャー・アサシン同盟を食い止めるしか有るまい。
ケイネスは考えた。それ故、わざわざ危険を冒してまで、アインツベルンの森まで自分自身で出向いたのである。
「まあ今、それはどうでも良い事では無いか。」
ケイネスは切嗣に言った。
「我々は今から戦闘をするのだ。私が遠坂時臣を倒すかららお前は言峰綺礼を頼んだぞ。」
ケイネスがそう言ったのを合図に、四人は戦闘に戻るのであった。
第四十話です。
ケイネス&切嗣対時臣&綺礼が遂に始まりましたね。
どうなるか楽しみにしていてくれると嬉しいです。
ところで最近リアルが忙しく…
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第四十二話
切嗣に自分が遠坂時臣を引き受けると言った後、ケイネスと時臣は先程の地点から少し離れた所へと場所を移していた。
「さて、遠坂殿、始めようでは無いか。」
「お互いの秘術を尽くしあった戦い、楽しませてもらおう。」
ケイネスはそう言うと、自身の礼装−月霊髄液−を展開する。
「Fervor,mei Sanguis」
展開した後、ケイネスは月霊髄液の初期設定を司る詠唱をする。
「Automatoportum defensio: Automatoportum quaerere: Dilectus inscrisio:Dilectus dissensio」
ケイネスがそう詠唱し、魔術礼装の展開を終えたのを見た時臣は、自身の魔術礼装であるステッキを構えて言う。
「遠坂家五代目当主、遠坂時臣。アーチボルト家九代目当主、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト殿に決闘を申し込む。」
時臣のその言葉を聞いたケイネスも応える。
「受けて立つ。」
ケイネスの承諾と共に、魔術師同士の戦いは始まった。
「いざ、参る」
そう言って最初に仕掛けたのは時臣だった。
魔術礼装のステッキに魔力を流し込み、ケイネスに向かって炎を放つ。
時臣にとっては軽いジャブの様なその攻撃は、勿論ケイネスの月霊髄液の自動防御によって防がれる。
「矢張りこの程度の攻撃ではダメか。」
時臣は最初からわかっていた事を呟く。
「ふむ、どうしたのかね?これで終わりか?」
ケイネスも時臣がこの程度の攻撃が全力の魔術師ではない事はわかっていたが、あえて挑発する。
それを聞いた時臣は答える。
「いえいえ、そんなことはございませんよ。」
そう言った時臣は、ステッキに更なる魔力を込める。
「Intensive Einascherung(我が敵の火葬は苛烈なるべし)」
そう詠唱した時臣が放った炎は、大きさ、勢い共に先程の物とは比べ物にならない。
事実、月霊髄液の一部を気化させている。
しかし、そんな炎ですら月霊髄液の自動防御を突破するには至らない。
「月霊髄液の一部を蒸発させるとは。その勢い、熱共に一流の魔術師では無ければ届かぬ域であろう。成る程、なかなかやる様だ。」
時臣の放った炎を見たケイネスは感心し、言う。
「だがしかし、相手が悪かったな。」
ケイネスはそう言うと、月霊髄液に命令を下す。
「Scalp(斬)」
如何になる物すら切り裂く水銀の刃が時臣を攻撃せんと、向かって襲いかかる。
時臣は防御用の炎の壁を作りだし水銀を蒸発させるが、それですら充分では無い。
「クッ...!」
時臣は言う。
その間にも炎の壁を突破した水銀の刃は、時臣に襲いかかる。直撃さえ免れたものの、時臣は両腕両足を水銀の刃に引き裂かれ、戦闘続行が不可能な状態になってしまった。
「私の勝ちの様だな。遠坂殿。」
ケイネスは自身勝利を宣言する。
時臣は未だに両腕両足を切り刻まれた痛みに悶え、言葉を発する事が出来ない状態だ。
「ふむ...今ここで殺しても構わないが、一つ条件を飲むのなら命は助けてやろうではないか。」
そんな時臣の状態など御構い無しに、ケイネスは取り引きを持ち掛ける。
そんなケイネスの言葉を聞いた時臣は苦痛に悶えながらも、顔を上げケイネスの方を見る。
「令呪を用いてアーチャーを自害させると言うのならば、命は助けてやろう。なんならギアスを用いても良い。」
ケイネスは簡単に言うが、時臣にとってその選択は、修羅の選択だ。
ここでアーチャーを自害させてしまえば、自分の聖杯戦争は終わってしまうし、逆にそうしなかった場合は、ケイネスに殺されて終わりだろう。
時臣は悩むのであった。
第四十二話です。
炎使いの時臣は水銀使いのケイネスとは相性が悪く、負けてしまいましたね。
相手が原作のケイネスだったら時臣ももう少し善戦するのですが、強化ケイネスは相手が悪かったです。
時臣をここで退場させるかどうか悩みます。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第四十三話
ケイネスに敗北した時臣が決断を迫られることになるその少し前、セイバーはアサシンの軍勢に包囲されていた。
「クッ、数が多い上に一騎一騎も決して弱くはない...」
セイバーがそう苦しい気に言ったのを聞いたアサシン達は、得意気に笑う。
「フフフフフッ」
他のサーヴァントとの直接の戦闘ではキャスターと並び最弱とも称されるアサシンのサーヴァントを相手に、全ステータスが軒並み高く、直接戦闘に置いてもかなり優秀なセイバーのサーヴァントが苦戦するというのは、奇妙な話かもしれない。
だが、セイバーはその左手をランサーのゲイ・ボウの呪いで蝕まれているため、かの聖剣の真名解放を使えないため、数の利があるアサシンとの戦闘ではどうしても不利になってしまうのだ。
「左手さえ使えれば...」
セイバーはキャスターとの戦闘中にも度々表した内なる悔しさを再び呟く。
セイバーがそんな事を呟いている間にも、アサシンの攻撃の手は緩まない。
セイバーの意識が左手に向いている一瞬の隙を突いた一人のアサシンが距離を詰めて切りかかってきたのと同時に、三体のアサシンが一斉にダークを投擲してきたのだ。
「風王結界(インビジブル・エア)」
全方位からの攻撃をセイバーは風の魔力をそれらに向けて放出する事で防ぐ。
しかし、セイバーの不利は変わらない。アサシン側もアサシン側で決めてを作る事ができない。
「再び苦戦している様だな、セイバー。」
その戦いに乱入してきたのは、またもやランサーだった。
ランサーの声を聞いたセイバーは、やりせなそうに答える。
「ああ、ランサー。貴方に再び不甲斐ないところを見せる事になろうとは...」
「セイバー、お前はこの俺が倒すべき敵だ。今はそんな事は気にせずに目の前の敵を倒す事に集中しようではないか。」
ランサーは気を使いながら言い、続けた。
「アサシンんよ。お前達にも再び会ったな。」
「此度こそは必ず仕留める...!」
そう言ったランサーは二本の宝槍−ゲイ・ジャルグとゲイ・ボウ−を構え、騎士として名乗りを挙げた。
「フィオナ騎士団が一番槍、ディルムッド・オディナ。我が主、ケイネス殿の為に、押して参る!」
セイバーとランサーがアサシンとの戦闘を再開させたその頃、もう一組みの男達が白熱した闘いを見せていた。
そう、切嗣と綺礼の闘いである。
一時は絶望的な窮地までに追い込まれた切嗣は、ケイネスの介入によりなんとか立て直した。
しかし綺礼が弱くなったと言うわけでもない
現に綺礼は、固有時制御(タイムアルター)を用いて加速する切嗣の移動速度に引けを取らないスピードで移動し、着実に切嗣との間合いを測っていた。
次の一撃で確実に仕留める。
綺礼はそう決心し構えを取るのだった。
だが誰も気がつかなかった。三組の闘いが行われているアインツベルン城に、更に新たな勢力が乱入しようとしている事に。
第四十三話です。
ちょっとスケールが大き過ぎて書き辛くなってきたので、次話で一組みの戦闘を終わらせます。
後、次回で時臣がどうなるかもはっきりさせる予定です。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第四十四話
ランサーの乱入後、セイバーはランサーと共闘し、アサシンの軍勢と戦っていた。
かの名高き円卓の騎士団の長、アーサー王とフィオナ騎士団が誇る一番槍、ディルムッド・オディナという、考えうる中でほぼ最強の騎士達は、勇猛にアサシンの軍勢を相手取り戦う。
それだけ聞けば、セイバーとランサーの圧勝に終わる戦いの様にも聞こえる。
だが、相手のアサシンも山の翁として暗殺教団の長を務めた英霊そう一筋縄には倒せない。具体的に言えば、セイバーとランサーの不利は二つの要因によって起こされていた。
一つ目はアサシンの数。単純に頭数で上回るアサシン達はその数の利を最大限に活かし、セイバーとランサーを苦しめていた。もとより対人宝具しか持っていないランサーと、ランサーの槍の呪いによって切り札の対城宝具を封じられているセイバーにとって、数の不利は、不快極まりないディスアドヴァンテージだ。
二つ目はアサシンの実力。頭数だけで考えるのなら、先程セイバーとランサーが同様に共闘して戦ったキャスターの召喚する海魔の方が多いだろう。しかし、分体化して一騎一騎の戦闘力が弱まっているとはいえ、アサシンもサーヴァントの端くれ。その強さは海魔とは比べものにならない。
以上の二つの理由から、セイバーとランサーは苦戦を強いられていた。
「クッ...!こいつら、数が多い上に一騎一騎がそれなりに強い。」
ランサーは嘆く。
そんな時、その戦場に新たなるサーヴァントが現れた。
金色の粒子が集合するかの様に霊体化を解いたそのサーヴァント−アーチャー−は、セイバーとランサーに言う。
「どうやら苦戦している様だな。雑種共。」
それを聞いたセイバーは言い返す。
「何をしに来た、アーチャー!」
アサシンを倒せない苛立ちから感情的になっているセイバーを見て、アーチャーは愉快そうだ。
「ふむ。時臣にアサシンを援護してお前らを倒せと命じられたのだが、そこのアサシン相手に苦戦しているのを見るのも一興かと思ってな。」
「アーチャー、いい加減にしろ‼」
セイバーは苛立ちを爆発させる。
「いや、手を出さないというのなら、良いではないか。」
セイバーと対照的に、ランサーは冷静さを保っている。
「だが、ランサー、アーチャーの態度は許し難い‼」
「クククッ、雑種共が戯れる姿はいつ見ても飽きぬ物よの」
アーチャーは相変わらずだ。
セイバーとランサーがそんなやり取りをしつつもアサシンとの戦闘を続けていると、更にもう一騎のサーヴァントが乱入してきた。
自身の宝具である「神威の車輪」に乗って現れたライダーは、言った。
「何だ、五騎ものサーヴァントが集まってドンパチやってるのか。」
「実に楽しそうではないか。」
「征服王!」
その乱入を見たセイバーは嬉しそうに言う。
「また新たな雑種か。」
しかし、そんなセイバーとは対照的にアーチャーは不満気だ。
「そう言えば、貴様とセイバーはこの我を差し置いて『王』を名乗っていたな。」
そう、アーチャーはライダーがセイバーとランサーの援護に向かう事だけではなく、他人が王を名乗っていることも気にいらないのだ。
「そう言われても余は王であるからな...」
そんなアーチャーの指摘に、ライダーは困ってしまう。
「何か余の『王道』を示せる方法はないかのう....そうだ! アレが有るではないか!」
「アーチャー、そこで見ているが良い。」
そう言ったライダーが何かの力を使ったと思われたその瞬間、五騎のサーヴァントとライダーのマスター、ウェイバーは日差しの照り尽くす砂丘にいた。
後方から聞こえる足音にウェイバーが振り向くと、そこには万を祐に超える軍勢があった。
「肉体は滅び、その魂は英霊として「世界」に召し上げられて、それでもなお余に忠義する伝説の勇者たち。時空を超えて我が召喚に応じる永遠の朋友たち。彼らとの絆こそ我が至宝!我が王道!イスカンダルたる余が誇る最強宝具『王の軍勢』なり!!」
ライダーが自慢気に言う。
しかし、それも納得できる。
ランクEX対軍宝具。独立サーヴァントの連続召喚。
軍神がいた。マハラジャがいた。以後に歴代を連ねる王朝の開祖がいた。そこに集う英雄の数だけ伝説があり、その誰もが掛け値なしの英霊だった。
「王とは、全ての臣民の羨望を集め、誰よりも鮮烈に生きる者。」
「「「然り、然り、然り」」」
「故に、王は孤独にあらず!」
「「「然り、然り、然り」」」
ライダーは、英霊たちに号令を掛ける
「蹂躙せよ!」
それを聞いた軍勢は、アサシンを蹂躙した。
第四十四話です。
ライダーが「王の軍勢」を発動した理由が無理矢理ですみません。
どうしてもここでアサシン退場させたかったんで。
この回で時臣の運命がわかる人にはわかる筈です。わかったら凄いですが笑
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第四十五話
後付けですが、ケイネスは時臣の礼装を破壊しています。
あと、この二次創作では魔術礼装の作成には多大な時間が掛かる設定です。
ライダーの切り札宝具である「王の軍勢」はアサシンの集団を完膚無きまでに叩きのめし、その壮絶な威力を他三騎(セイバー、ランサー、そしてアーチャー)に見せつけた。
だがしかし、この宝具がランサーを除く二騎のサーヴァント、いずれも王を名乗るサーヴァントであるアーチャーとセイバー、に与えた影響はそれだけでは無かった。
「王の軍勢」を見たアーチャーは、ライダーの王としての在り方に敬意を払い、ライダーは自分の最強宝具である乘離剣エアを用いて戦う価値のある敵として認めた。
また、アーチャー以上に影響されたのはセイバーである。王は孤高で在らなければならないという信条を元にブリテンを治め、結果としてランスロットなどの名高い騎士の裏切りを招き、円卓を崩壊させてしまったセイバーにとって、ライダーの臣下との信頼関係は自身の王道に疑問を抱かせる物であった。
私は...間違っていたのか...?
セイバーは複雑な心中で自分に問う。
しかしそんな自問に答えは返ってくる筈は無く、余計にネガティブな思考が増えるだけであった。
アーチャーがライダーの王道を認め、セイバーが自身の王道を疑い始めたその頃、言峰綺礼は衛宮切嗣との戦いの真っ只中だった。
防弾使用のキャソック服を着ていることや、体調の良さが幸いして比較的有利に戦いを進めてきた綺礼は、自身の手の甲から令呪が消えている事に気が付いた。
アサシンがやられたか...
師に報告せねばならぬ。
そう心の中で呟いた綺礼は、切嗣との戦闘を続けたい欲求を押さえ込んで、純に戦闘用の戦法を戦線離脱の為の戦法に切り替える。
切嗣との間合いを測り直し、八極拳特有の「活歩」を使い、一気にその間合いを潰す。
切嗣の反応が遅れたのを見た綺礼は、切嗣の腹部に数有る八極拳の技の一つである「冲垂」を叩き込んだ。
更に、切嗣が怯んだ隙を突き、切嗣の左足を本来はあまり攻撃には用いられない「震脚」を使って踏み潰した。
それによって左足の骨を粉々された切嗣がよろけて倒れたことによって、綺礼に逃走の隙が与えられた。
その計画通りの展開に内心安堵しながら綺礼は全速力で駆け出した。
綺礼が時臣とケイネスが戦っていた場所に着いた時には、時臣の敗北は既に確定していた状態だった。
両腕と両脚を切り刻まれ、更に魔術礼装のステッキをへし折られた時臣は、綺礼の存在に気が付き、弱々しい声で尋ねる。
「...衛宮切嗣を倒したのかね...?」
その質問に、綺礼はケイネスの存在に気を使いながら答える。
「いえ、それとは別の理由があって撤退して来ました。」
時臣への返答を終えた綺礼は、ケイネスを睨みながら言う。
「そちらが戦うというなら戦うが。」
ケイネスは時臣と戦って消耗した状態で元代行者の綺礼と戦うのは分が悪いと踏み、戦いの意思が無いことを告げる。
「いや、良い。」
礼装を破壊された時臣が再び戦う事はできない。と考えての結論である。
それを聞いた綺礼は、すぐさま時臣を担ぎ上げ、言峰教会へと向かった。
第四十五話です。
やっとアインツベルンの森での戦いが終わりましたね。
この二次創作ではなるべく雁夜視点で物語を進めようと思っているので、次あたりで雁夜が登場します。
あと多分近日中に設定集をアップロードします。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第四十六話
言峰教会に着いた綺礼は、父であり今回の聖杯戦争の監督役を務める璃正に出迎えられた。
「その様子だと上手く行かなかったようだな。」
璃正は綺礼にそう話かけるが、綺麗には璃正と悠長に話している余裕はなかった。そう、綺礼は時臣の治療をしなければならなかったからだ。
璃正もやはりそれを察したのか、それ以上のコミュニケーションを避け、自室へと戻った。
その様子を確認した綺礼は、時臣を床に寝かせ、酷く損傷している腕と脚に治癒魔術をかける。
基本的に魔術は見習い課程を修了した程度の知識しか持っていない綺礼であったが、唯一治癒魔術においては師である時臣にも肩を並べる程の才能があった。
その治癒魔術は確かに時臣の傷を癒し、完治させるまでに至った。
「...ありがとう。綺礼。」
傷を完治しても未だに身体の負担を癒し来れていない時臣は、弱々しく綺礼に礼を言う。
「師よ、傷は完治しましたがお身体の負担はまだ残ったままです。今日はお休みになり、お身体の疲れを取り除くのが宜しいかと。」
そんな時臣の礼に綺礼は気遣いで応える。
「そうさせて貰うよ...ハハッ、不甲斐ないな、私は。」
時臣は綺礼のその気遣いに甘える節を伝えると、深い眠りに着くのであった。
同刻、郊外にある魔術工房から使い魔を通じてアインツベルンの森での三つの戦いを観戦していた雁夜は、今回の戦いで得た新情報を纏めていた。
「まず一番大きいかったのはアサシンの脱落かな...」
雁夜はそう呟く。
「固有結界内に侵入させることができなかったからわからなかったけど、ライダーの宝具は最低でも対軍宝具の固有結界で、一度に七、八十程度のアサシンの軍勢を祐に潰すことが出来る物だな。」
そう、雁夜はアサシンが脱落した事こそ言峰綺礼の手の甲を視認したことでわかったが、肝心のアサシン脱落のその場を見ることができなかったのである。
「次は...マスター達の戦いだな。」
「参加者の中でも特に強力だと思われるマスター達の戦いだったが...やっぱりそのマスター達の中でも優劣があるみたいだな。」
雁夜は冷静に分析する。
「あの四人の中で闘いに勝利もしくは優勢に闘いを進めたのはロード=エルメロイと言峰綺礼の二人。」
「そのうち、言峰綺礼はサーヴァントを失って敗退したが、教会に生きたまま辿り着いたため、新たなサーヴァントを得て再参加する可能性もある。」
「もう一人の勝者であるロード=エルメロイは明らかに実戦慣れしている様子で、その礼装はとても強力。」
勝者達の分析を終えた雁夜は、敗者達の考察に移る。
「闘いに負けた、もしくは闘いおいて劣勢だったマスターは遠坂時臣と衛宮切嗣の二人。」
「遠坂時臣は、サーヴァントこそ健在なものの、両腕両脚をロード=エルメロイの魔術礼装によって切り刻まれ、更には魔術礼装を破壊された。言峰綺礼に救護されたため、怪我の治癒こそされるだろうが、礼装なしで今後どうするかは不明。」
「一方の衛宮切嗣は、言峰綺礼との戦闘でこそ劣勢に陥り、足に重傷を負ったが、銃器や刃物の扱いは流石としか言い表しようのないレベルで、まだ十分な警戒が必要な相手。」
四人のマスターに関する考察を終えた雁夜は、今後の戦略に着いての考察に移るのであった。
第四十六話です。
時臣が負った心の傷と、礼装の損壊、さらにアサシンの脱落により、アーチャー・アサシン同盟がどうなるか楽しみにしていてくれると嬉しいです。
あと、雁夜の戦略もアサシンの脱落により少し変わります。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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設定集
アインツベルンの森での戦いが終わりました。
良い機会だと思うので、現時点での設定集をアップロードしようと思います。
1:登場マスター&重要キャラクター
・蒼崎雁夜
本二次創作の主人公。蔵硯に復讐するために中学卒業と同時に間桐家から出奔する。出奔したその日に臨死体験をした事によって元々持っていた浄眼(母親の家が代々浄眼持ちの家系のため)が直死の魔眼へと変化する。橙子に拾われた雁夜は弟子として初歩魔術、人形術、そしてルーン魔術を習う。その後実戦経験を積み、アルバの推薦を受けて彷徨海に渡った雁夜は、優秀な成績を修める。神経系改造魔術の内、特に脳の改造に重きを置いて研究した雁夜は、神経系改造魔術の発展に多いに貢献。卒業と同時に彷徨海の講師職に就く。「彷徨海の天才」の異名で知られるように成った雁夜は時計塔と彷徨海での合同講義に彷徨海代表講師として参加、ケイネスと知り合い、友人となる。数年後、令呪が宿った雁夜は、日本に帰国、橙子のサポートを受けバーサーカーのマスターとして聖杯戦争に臨む。
聖杯戦争には二体の人形と多数の刃物、銃器を持って臨む。
・蒼崎橙子
出奔初日、死にかけていた雁夜を救い弟子にした魔術師。雁夜に基礎魔術、人形術、ルーン魔術を教え、更に実戦経験を積ませる。彷徨海に渡る直前に雁夜を蒼崎家の養子とする(橙子以外の蒼崎は誰も気が付いていない)。数年後、聖杯戦争のマスターとなる雁夜をに人形作りを始めとして様々なサポートをする。雁夜が長期間帰ってこないと寂しい。
・ケイネス・エルメロイ・アーチボルト
魔術協会総本部の倫敦時計塔に置いて、「ロード」地位を持つ若き天才魔術師。時計塔と彷徨海の合同講義によって知り合い、友人と成った雁夜の実戦経験の豊富さに影響され、自身も実戦経験を積む。その中で戦場での常識を学ぶ。聖杯戦争にはランサーのマスターとして参加し、遠坂時臣を撃破する。また、サーヴァントのランサーとの関係は良好。
・衛宮切嗣
「魔術師殺し」の異名で知られるフリーランスの暗殺者で、聖杯戦争数年前にアインツベルンに迎え入れられる。銃器や爆弾などの現代兵器を用いて戦闘を行い、やり方を選ばない。セイバーのマスターとして聖杯戦争に参加する。
・舞弥
切嗣のサポーター。倉庫街での戦いを監視中、「己の栄光の為でなく」を使いアサシンに擬態したバーサーカーに襲撃され、ワルサーを含む装備品を強奪される(因みに舞弥が持っている残りのアサルトライフルはステアーのみ)。また、アインツベルンの森での戦いで遠坂時臣と対峙し、全身に大火傷を負った状態で燃え盛る森に放置される。生死不明。
・アイリスフィール
アインツベルンの作り出した聖杯の器で、切嗣の妻。切嗣をサポートする。アインツベルンの森でね戦いでは舞弥と共に時臣を相手取って戦うが、敗北。大火傷を負った状態で燃え盛る森に放置される。生死不明。
・遠坂時臣
遠坂家五代目当主の秀才魔術師。火属性の宝石魔術を操り、『 』への到達を目指し、アーチャーのマスターとして聖杯戦争に参戦する。アインツベルンの森では、舞弥とアイリスフィールを蹴散らした後にケイネスと対峙するが、敗北。両腕両脚を切り刻まれ、魔術礼装を破壊される。その後、綺礼によって救出、治療されるが、魔術礼装が破壊され、精神的ダメージを受けたため、今後どうなるかは不明。
・言峰綺礼
アサシンのマスター。聖堂教会所属の元代行者で、アサシンのマスターとして時臣をサポートするべく聖杯戦争に参戦する。アインツベルンの森での戦いでは、切嗣を相手に優勢な戦いを繰り広げたり、時臣を救出したりして大活躍する。だが同時にアサシンを失ったため、今後どうなるかは不透明。
・ウェイバー・ベルベット
ライダーのマスター。魔術師としての歴史が浅い家系に生まれたため、魔術師としての才能はあまりない。ケイネスの触媒を盗んで聖杯戦争参加。
・雨竜龍之介
キャスターのマスター。冬木の自動連続誘拐殺人事件の犯人だが、一般人として生きてきたため、魔術師としては素人以下。アインツベルンの森の戦いではキャスターの危機をパスを通じて感じ取り、無意識に令呪を使い戦線離脱させる。
2 :サーヴァント
・バーサーカー
クラス:バーサーカー
真名:サー・ランスロット
身長:191cm
体重:81kg
属性:秩序・狂
ステータス
筋力A+
耐久A+
俊敏:A+
幸運B
魔力C
宝具A
クラス別能力
狂化:C
保有スキル
対魔力:E
精霊の加護:A
無窮の武練:A+
宝具
騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)
ランク:A++
種別:対人宝具
レンジ:1
最大捕捉:30人
己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)
ランク:B
種別:対人宝具
レンジ:0
最大捕捉:1人
無毀なる湖光(アロンダイト)
ランク:A++
種別:対人宝具
レンジ:1〜2
最大捕捉:1人
・ランサー
ステータスは原作と同じだが、ケイネスとの関係は良好で、騎士として主に仕えたいという願いがかなっている
・アサシン
アインツベルンの戦いでライダーの「王の軍勢」により脱落した
他のサーヴァントとは原作と変わらないため割愛
3:その他細かい設定
・雁夜は彷徨海で初めて脳を改造してからも脳の改造を続けており、現在の雁夜の脳のスペックは不明。
・雁夜の筋力強化魔術は極めて強力だが、令呪ブースト綺礼の筋力にはかなわない。
・雁夜は脳改造によって直死の使い過ぎでは病院行きにはならない。だが、雁夜の直死は式のそれと比べると劣る
・ケイネスは月霊髄液に「分裂」の機能を加えている。(攻撃中に半分だけ分裂させ「自動防御」をさせる事が可能で、攻撃の手を止める必要がない。その以外の使い方も可能。)
・綺礼は原作より筋力1.2倍増し
・セイバー陣営は、聖杯戦争開始時点でワルサーを二丁保有していた。
・礼装作成にはかなりの時間を要する。
ありがとうございました。
出来るだけ毎日更新しようと思いますが、今、海外にいるので、更新がない日があったらそのためだと考えてくれると嬉しいです。
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第四十七話
翌朝、聖杯戦争開始から取っていなかった長い睡眠から目覚めた時臣は、自分が遠坂邸の魔術工房ではなく、言峰教会にいる事を改めて認識し、それによって昨日の出来事が実際に起こったという事実を改めて認識させられた。
「師よ、お身体は休まりましたでしょうか?」
時臣が目覚めた事に気が付いた綺礼は切り出す。
「ああ、お陰様でね。」
綺礼のその問いに、時臣は穏やかな声調で答える。
時臣の答えを聞いて少し安堵したのか、綺礼はホッと溜息をつき、続ける。
「直ぐに朝食をお持ちしますので、もう少しお休みになられていて下さい。」
「ああ、わかった。ありがとう。」
綺礼のその提案に、時臣は感謝しつつ同意する。
時臣のそんな返答を聞いた綺礼は、奥の部屋に消えた。その様子を確認した時臣は再び横になり、一人思考に耽る。
私は...無力だ...
ロード=エルメロイの魔術礼装を前に何もする事が出来なかった...
考えるのは勿論、昨日のアインツベルン城でのロード=エルメロイとの戦いについてだ。
時臣はロード=エルメロイを倒す事は疎か一撃の攻撃すら与える事が出来なかった自分が情けなく、失意のどん底に叩き落とされていた。
それだけではない...
半年もの歳月を掛けて作った魔術礼装も破壊されてしまった。
あれなしでは他のマスター達と戦う事が出来ない...
考えれば考える程、時臣の絶望は深まって行く。
そんな負のスパイラルに時臣が陥り始めた時、綺礼が朝食を持って戻って来た。
「師よ、朝食をお持ちいたしました。お口に合えば良いのですが...」
綺礼はそう言い、朝食のパンとサラダとスープを時臣に手渡す。
「ありがとう。」
朝食を受け取った時臣は礼を言い、食事を始める。
「うん。美味しいよ。」
時臣は純粋な感想を言うが、その声は何処と無く弱々しく、まるで昨日までの時臣とは別人の様だ。
だが、ひとまず時臣が朝食を気に入った事に安堵した綺礼は、ホッと息をつき、言う。
「それは良かったです。」
綺礼のそんな言葉を聞いて少し安心したのか、時臣は一人でに語り始める。
「私は...私は、ロード=エルメロイの魔術礼装を前に一撃の攻撃すら当てる事が出来なかった...」
そう言う時臣の声には明らかな失意と絶望が含まれていた。
「それだげではない...半年掛けて作った魔術礼装も壊されてしまった。」
「もう、ダメだよ...綺礼。戦う希望が全く出てこない...」
時臣のそんな心内を聞いた綺礼だが、どんな言葉を掛けて良いのかわからなかった。
「ですが、師よ...」
綺礼が何を言うべきか迷っていると、時臣が質問をした。
「昨日言っていた...衛宮切嗣との戦闘を中断した理由は何だったんだい?」
その問いに、綺礼はアサシンが脱落した事を告げる。
「そうか...」
時臣はそう言い、続ける。
「綺礼。もし、もしよかったら...私の代わりにアーチャーのマスターとして聖杯戦争に復帰してくれないかな?」
時臣のその提案を聞いた綺礼は言う。
「ですが師よ、それでは師の聖杯戦争が終わってしまいます。」
しかし、時臣の決意は揺るがない
「もし嫌なら、一時でも良い。少し心の整理をしたいんだ...」
時臣の失意を目の当たりにした綺礼は渋々同意する。
「わかりました。ですが、心の整理がついたら直ぐに言って下さい。」
「ああ、わかった。」
時臣は答え、朝食を食べる事に集中するのであった。
第四十七話
ケイネスに一撃の攻撃すら当てられずに敗北し、おまけに魔術礼装まで破壊されてしまった時臣は、失意に耐えられずアーチャーのマスター権を綺礼に譲渡しました。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第四十八話
時臣がアーチャーのマスター権限を綺礼に譲渡したのとほぼ同刻−
衛宮切嗣は先の戦闘で負った怪我を治すべく自身に治癒魔術を掛けていた。
戦闘中に綺礼に踏み潰され骨を粉々にされた足を中心に、冲垂によって傷付つけられた内臓などにも治癒魔術を掛けていく。
治癒魔術の多用による身体への負担は無視できないが、今の切嗣にそんな事を気にしている場合ではない。
アイリ....舞役....
心の中で呟く。
そう、切嗣は遠坂時臣との戦闘に敗れ、燃え盛るアインツベルンの森に放置されたままの妻、アイリスフィールとサポーター、舞弥の事が心配でならなかったのだ。
「遠坂時臣と戦闘して敗北したということは、恐らく火の魔術を受けたということだろう。」
切嗣は冷静に分析し、呟く。
「そしてアインツベルン城に撤退して来ないとなれば...」
最悪のシナリオが切嗣の脳裏を過る
「時臣の火魔術で大火傷を負ったか死亡したかで移動不可能な状態にあるか...」
「もしくは戦闘終了後、何らかの方法で拉致されたかだ。」
切嗣はそう呟き、嘆く。
「クソ、遠坂時臣め....」
そう悪態をついている内にも、全身の治療がほぼ終わり、十分に動ける身体程にまで回復した。いや、本来ならば治癒魔術からくる身体の負担でまだ動くべきではないのだが。
だがそんな些細なことは、切嗣を引き止めえない。切嗣は直ぐさま燃え盛るアインツベルンの森へ向かって駆け出した。
同刻、雁夜−と言っても人形と意識をシンクロさせているだけであるが−は間桐邸の書斎にいた。つい最近までは蔵硯しか入ろうともしなかったし、そもそも入る事を禁止されていたその場所に雁夜が入ったのは、間桐の魔術に興味があったからだ。
間桐邸を出奔した時にはあれ程憎かった間桐の魔術も、良く考えてみれば間桐の魔術その物が悪いのではなく、それを悪用していた臓硯が悪い。
それにさえ気が付いてしまえば、魔術を研究する者として、興味が出ないわけがない。だから書斎に来たのだ。
書斎にある数々の書類に片っ端から目を通して行く雁夜は、間桐臓硯の間桐への貢献を思い知らされた。
「つい最近は狂っていたけど、若い頃は偉大な魔術師だったんだな...まあ、500年も生きられるんだ、唯の魔術師ではないか。」
雁夜は素直に呟き、続ける。
「蟲ってのは凄く便利な使い魔なんだな。」
「使い魔本来の監視と情報伝達は勿論、戦闘や治癒、拷問、そして肉体改造にも使えるとは。」
「大量使役ってのは手間がかかりそうだが、まあ間桐の血を引いているし、大丈夫だろう。
雁夜はそう呟くと、蟲魔術に関する資料を机の上にまとめ、詳しく調べ始めるのであった。
ケイネスには気掛かりな事があった。勿論それはバーサーカー陣営についてだ。
「マスターの間桐雁夜は一度使い魔越しに視認したが、肝心のバーサーカーは一度も見た事がない。」
そう、バーサーカーは強力なのがほぼ確定しているサーヴァント。そのバーサーカーに関する情報が何もなまま、聖杯戦争が続いていくのは不気味だ。
さて、どうやってバーサーカーに関する情報を得ようか...
ケイネスは考えるのであった。
第四十八話です。
時臣に燃やされたアイリスフィールと舞弥を探しに、切嗣はアインツベルンの森に向かいました。
雁夜は蟲魔術に興味を示し、学ぶことに決め、ケイネスはバーサーカー陣営に関する情報を集めようとします。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第四十九話
アイリスフィールの治癒魔術は、typemoon wikiのアイリスフィールのページを参照にしてください。
ケイネスがバーサーカー陣営の情報詮索をすると決めたのと同刻−
キャスター陣営の工房で、恐ろしい計画が始まろうとしていた。
「はぁー、俺たちあんまり楽しみ過ぎたせいで、もしかして、罰が当たったのかな。」
キャスターのマスター、雨生龍之介がそう言うと、キャスターは龍之介の肩を掴み言う。
「これだけは言っておきますよ、龍之介。神は決して人間を罰しない‼ただ愚弄するだけです‼」
キャスターの激しい口調に驚いた龍之介は動揺する。
「だ、旦那...?」
「かつて私は、地上で尽くせるかぎりの悪逆と篤信を積み重ねた。」
「しかし、私に下るはずの神罰はなく、私を滅ぼしたのは人間の欲望だった‼」
「でも、旦那。それでも神様はいるんだろ?」
龍之介は尋ねる。
しかし、キャスターは不思議がる。
「何故、信仰もなく奇跡も知らない貴方がそう思うのです?」
「だって、この世は退屈だらけの様に見えて、だけど探せば探す程、面白おかしい物が多すぎる。」
「昔から思ってたよ。この世界は最高のエンターテイメントだって。」
「きっと登場人物50億人の物語を書いているエンターティナーがいるんだ。」
「これはもう神様としか呼びようがない。」
「では龍之介、果たして神は人間を愛していますか?」」
「それはもうゾッコンに。」
「神様は勇気とか希望とかいった人間賛歌が大好きだし、それと同じくらいに血飛沫やら悲鳴やら絶望だって大好きなのさ。
でなけりゃぁ――生き物のハラワタが、あんなにも色鮮やかなわけがない。
だから旦那、きっとこの世界は神様の愛に満ちてるよ」
それを聞いたキャスターは、言う。
「心服しました龍之介、我がマスターよ。」
「しかし、貴方の宗教観によるならば、我が篤信も茶番に過ぎないのでしょうか...?」
キャスターのそんな問に、龍之介は答える。
「いやさあ、汚れ役だってきちっと引き受けて笑を取るのが真のエンターティナーだろ?旦那の容赦ないツッコミには、神様も大喜びさ。」
それを聞いたキャスターは歓喜し、宣言する。
「よろしい。ならば一際色鮮やかな絶望で、神の庭を染め上げてやろうではありませんか!」
燃え盛るアインツベルンの森を駆け巡ることおよそ15分、切嗣は遂にアイリスフィールと舞弥らしき二人組を発見した。
「アイリ、舞弥、大丈夫か?」
切嗣は二人が無事であることを切望しながら叫ぶ。
切嗣のその必死の叫びを聞いたアイリスフィールは涙声で答える。
「ええ、私は大丈夫よ...」
「でも、舞弥さんが...」
それを聞き、切嗣は二人に駆け寄る。
「なに⁈舞弥がどうしたんだ⁈」
殆ど察していた切嗣の声には、明らかな焦りが含まれていた。
「舞弥さんは...遠坂時臣の炎魔術を全身に受けて...魔術で燃やされた樹も舞弥さんの上に倒れて来て...」
「その樹を魔術でどかして今、治癒魔術で必死に治療しているのだけど....」
アイリスフィールは、涙声で答える。
そう、アイリスフィールの使う治癒魔術には舞弥を癒すのには致命的な欠点があった。彼女の治癒魔術は「体組織の代用物を錬成する」という錬金術。ホムンクルスのアイリスフィールやサーヴァントのセイバーを癒すのには適しているが、生身の人間である舞弥には些か身体的負担が大き過ぎる。
「舞弥!大丈夫か⁈」
「アイリ、どいてくれ。僕がやる。」
切嗣がそう言い、舞弥に治癒魔術を掛け始めると、今まで意識がなかった舞弥が目を開き、弱々しい声で話し始めた。
「切嗣...」
「舞弥!大丈夫か⁉意識が戻ったのか?」
舞弥の声を聞いた切嗣は叫ぶ。
「切嗣....駄目だよ...私はもう....」
舞弥は呟く。それが事実だとわかっていても認めたくない切嗣は叫ぶ。
「嘘だ‼そんな事ない‼」
切嗣が泣きそうになっているのに気が付いた舞弥は、その弱々しい声で言う。
「ダメだよ...泣いたら...」
「それは...奥さんのために...取っておいて。」
「ここで泣いたら...ダメ...あなた...弱いから。」
「今はまだ...壊れちゃ...ダメ...」
「僕は...!」
最も信頼する舞弥の言葉に耐え切れなくなった切嗣は言う
しかし舞弥は続ける
「こんな事で、壊れちゃ....ダメ。」
そんな舞弥の意思を尊重しようと、切嗣は必死に平静を装い、言う。
「安心しろ。舞弥...後は僕とセイバーとアイリ任せろ。舞弥、お前の役目は、終わりだ。」
それを聞いて安心したのか、舞弥は静かに息を引き取った。
燃え盛りつつも静かなアインツベルンの森には、切嗣の嗚咽だけが響き渡った。
第四十九話です。
舞弥の死亡シーンが好きなのは僕だけですか?
ついつい無理矢理突っ込んでしまいました。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第五十話
軍噛蟲と変臓蟲はオリジナルです。前者は軍隊蟻、後者はイトミミズの様な見た目です。
視蟲は他の二次創作の設定をお借りさせていただきました。(この蟲が登場する作品は数多くあると思います。どの二次創作がこの蟲の設定を考えたのかを明記出来ずすみません。)
雁夜の魔術の吸収が早いのは、脳機能を強化しているからです。
「対象の肉体に寄生し擬似回路として機能する刻印蟲、監視に使える視蟲、戦闘用の翅刃虫、魔術工房防衛と通常の戦闘にも用いる事が出来る軍噛蟲、損傷した身体に代わって機能する変臓蟲...」
「大分創り上げることができたな。」
蟲魔術に興味を持ち始めてからまだ数時間の時点で文献を参考に数々の蟲を創り上げる事に成功した雁夜は満足そうに言う。
臓硯が創り上だした蟲全てというわけではない(雁夜が独自に創り出した蟲の種類もあるし、意図的に創らなかった蟲もいる。)が、実戦で使うのには充分過ぎるその蟲々を間桐邸と郊外の魔術工房に配置し、雁夜は言う。
「これで更に攻めが鋭くなり、守りが硬くなったな....」
「蟲魔術を実戦で実験してみたいな。」
「今日は他マスターの詮索と行くか。」
そう呟いた雁夜は知らなかった。その実験体は直ぐに現れる事に。
雁夜(と言っても人形であるが)が間桐邸を出てから約一時間後。
遠坂家の長女にして時期遠坂家当主の筆頭候補である遠坂凛は、恐怖と後悔を同時に味わっていた。
そう、父に自分でも聖杯戦争で父の助けになるのだという事を証明するために冬木市内の河川敷までに来た。そこまでは良かったのだが、友人のコトネを含む複数人の子ども達が不気味な西洋人の男に連れ去られようとしていたので、止めようと声を掛けたのだが、その男が何かを唱えたかと思えば気色の悪い蛸の様な生物三匹に囲まれていたからである。
「うぁ....」
恐怖と後悔で声が出てしまう。
父の言いつけを守り、禅城家に残っていなければこんな事事にはならなかった筈だ。
以前、父から教わった事から推測するにこの蛸の様な生き物は使い魔だろう。
自分にはまだどうこうできる問題ではない。
「フフフッ、お嬢さん。私達と一緒に来ると言うのなら解放して差し上げますよ。」
その不気味な西洋人は言う。
しかし凛もその提案に乗ってはいけないという事がわからない程馬鹿ではない。
「誰がっ...!!」
恐怖に震える声で拒絶の意を告げる。
それを聞いた不気味な西洋人が
「そう言われては、仕方がありませんね...」
と言うと、蛸の様な生物は凛に襲いかかり、それを見た凛は恐怖で目を閉じる。
が、しかし、蛸の様な使い魔が凛に触れる事はなかった。
むしろ逆に、蛸の様な使い魔が甲高い悲鳴を上げている。
恐る恐る凛が目を開けると、蛸の様な使い魔達が、無数の蟻の様な蟲と、無数の鋭い羽と強力な顎を持った蟲に食われていた。
「キャスター、何をやっている!」
その蟲達を使役していると思われる男が現れ、不気味な西洋人を責めたてる。だがしかし、何故かその男は嬉しそうだ。
「貴様、何者?」
キャスターと呼ばれた西洋人は、尋ねる。
「俺はバーサーカーのマスター、間桐雁夜。キャスター、今直ぐにその子ども達を解放しろ!」
蟲達を使役していると思われる男は間桐雁夜と名乗り、子ども達の解放を求める。
凛には「間桐雁夜」という名前に心当たりがあった。以前父が話していた、間桐の落伍者。魔術師の面汚し。
しかし、今凛の目の前にいる「間桐雁夜」は明らかにしっかりと修行を積んだ魔術師だ。
凛がそんな事を疑問に思っている間にも雁夜とキャスターのやりとりは続いている。
「キサマキサマキサマキサマキサマキサマキサマッ‼」
キャスターは発狂して、更に海魔を召喚し、それに合わせて雁夜も更に無数の翅刃虫と軍噛蟲を召喚し、海魔を襲わせる。
キャスターのサーヴァントと魔術師の雁夜の戦い。それは一見、雁夜の圧倒的不利な様に見える。
だがしかし、キャスターの螺旋城教本の能力(海魔の無制限召喚、無限再生)は、雁夜の扱う蟲魔術との相性が最悪だった。
そう、海魔は無数の蟲達に捕食されるので再生する間も無く消えるし、その捕食は蟲達に魔力を与える為、雁夜の負担を劇的に減らしていた。更に無限召喚は蟲達の餌が増やすだけである。
「おのれおのれおのれおのれおのれ‼」
キャスターは更に発狂し、雁夜は蟲魔術の強力さにほくそ笑む。
しかし、サーヴァントと現代の魔術師の差は大きい。
蟲魔術のアドヴァンテージを持ってしても不十分と考えた雁夜は、バーサーカーを召喚する。
召喚された黒い霧をその身に纏う狂戦士は、二丁の拳銃らしき宝具を取り出し、キャスターを狙撃する。
それを受けキャスターは、銃弾の進路上に海魔を召喚して自身の身を守ろうとするが、それさえ充分ではない。
バーサーカーの放った銃弾は、海魔を貫通してキャスターを襲う。
「キャァァァァァァアアア‼」
キャスターは悲鳴を上げる。
「バーサーカー、そのまま殺せ‼」
雁夜の命令を受けたバーサーカーは、拳銃をキャスターの方に向けるが、キャスターは戦場から消える。
「また令呪による瞬間移動か...」
雁夜は呟き、バーサーカーを霊体化させた。
カッコイイ…
雁夜の戦いを見た凛が童心に憧れを抱いたのを知ってか知らないでか、雁夜は凛に話し掛ける。
「こんな時間に出歩いちゃだめじゃないか。今から警察を呼んであの子達を保護してもらうから、君も付いて行きなさい。」
しかし、凛は嫌がる。
「私は、遠坂の魔術師として、聖杯戦争に参加しているお父様を手伝いに来ました。」
「お父様を手伝うまで帰りません‼」
凛の頑固な態度に舌を巻いた雁夜は、なだめるために言う。
「そっか...じゃあ言峰教会まで行こうか。そこなら安全だし、そこの神父さんは君のお父さんのお友達だから、きっと何かお父さんの手伝いなれるよ。」
凛は何やら不満気だったが、雁夜に同意し、教会に向かった。
同刻−
その戦闘を使い魔越しに見ていたケイネスは、得る事が出来たバーサーカー陣営に関する情報を整理していた。
バーサーカーは何らかの隠蔽能力を持っており、ステータス等は確認出来ない。また、強力な二丁の拳銃の様な宝具を持っている。
昨日までの、いや、あの戦闘を見るまでのケイネスならば、ここで考察を終えていただろう。しかし、あの卓越した魔術を見せつけられて黙っていられるケイネスではない。
「あのレベル使い魔の使役は、急造魔術師に出来る物ではない...」
そう、ケイネスには心当たりがあった。
「ファーストネームが同じで、容赦も瓜二つ...いや、まさかな。大体、蒼崎殿の魔術は脳改造を始めとする肉体改造とルーン魔術じゃないか。」
「使い魔の大量使役とは全くと言って良い程縁がない。」
ケイネスは自己否定をしつつも、確信にいたれなかった。
第五十話です。
雁夜が更に強くなってしまいました。ケイネスと綺礼と切嗣を更に強化してパワーバランスを保つか迷っています。
凛は魔術師の雁夜に憧れを抱き、ケイネスは疑いを拭えません。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第五十一話
キャスターを撃退した後、雁夜と凛は言峰教会に向かって歩いていた。その道中、そういえば名前を聞いていなかったなと思った雁夜は凛に尋ねる。
「そういえば、なんて言う名前なのかな?」
「遠坂凛です。遠坂家五代目当主、遠坂時臣の長女です。」
凛は名乗り、誇らしそうに自身の父が時臣で有る事を宣言した。
「おじさんは...」
「間桐雁夜さんですよね。」
凛に自己紹介をさせた雁夜は、自身もしなければと思い言おうとするが、凛は雁夜の事を知っている様子だった。
しかし、雁夜は凛が遠坂の長女ならば知っていてもおかしくはないか、と納得する
「そっか、おじさんの事を知ってるんだね。」
「はい。前にお父様が話しておられました。」
凛は説明し、先ほど抱いた疑問を解消すべく質問する。
「でも、お父様は雁夜さんは十数年前に間桐から逃げ出して聖杯欲しさに間桐に帰ってきた魔道の落伍者だと仰っていましたが、さっきの雁夜さんは明らかに熟練の魔術師でした。どうしてなんですか?」
凛の質問にどう答えれば良いのか数秒悩んだ雁夜は、自身が出奔中にも魔術を学び研究していたと言う事実を嘘をつかずに隠しながら答える。
「えーっとね、おじさんは訳あって普通の人よりも要領が良いんだ。だから間桐に帰って来て直ぐに間桐の魔術をマスターする事が出来たんだよ。」
凛は雁夜のその答えに納得した様子だが、新たな質問をぶつけて来た。
「そうなんですか。でも、そんなに簡単に間桐の魔術をマスター出来るのなら、どうして間桐から逃げ出したんですか?」
子どもの純粋さとは怖いものだ。
凛の痛いところを突いてくるその質問に雁夜はそんな事を考えながら答える。
「ちょっと魔術に縛られない人生を体験してみたかったんだ。」
今回の回答は全くの嘘だったが、凛は信じ込み、反論する。
「でも、でもお父様は魔術師の家庭に生まれた者は魔道を極めなければいけないって仰っていました。」
これに対する回答は前の二つのそれよりも格段に簡単だった。
「さっき言ったように、訳あっておじさんは要領が良くて魔術を覚えられるから、聖杯戦争の数年前に帰ってくるなら良いって条件で外での生活を許してもらえたんだ。」
その答えに凛は納得したのか、満足気に言う。
「へぇー、そうなんですか。」
が、しかし凛にはもう一つ質問があった。
「雁夜さんはどうやって要領が良くなったんですか?私も魔術を学んでいるので、要領が良くなりたいです。」
この子はまた....
凛の再び聞かれたくない事を聞く質問に雁夜はどう答えるべきか悩み、時間稼ぎをする。
「ちょっと複雑なんだけどね...」
幸運な事に目的地の言峰教会が見えたため、雁夜は話題を変える。
「えっーとね。あ!教会が見えてきたよ。」
そう言い雁夜は言峰教会を指差す。
「本当だ!」
凛は年相応の反応を見せ、教会に向かって走りだした。
何とか誤魔化せたみたいだ。
雁夜らそう思いながらも凛を追うために小走りになる。
教会の入口まで辿り着いた雁夜と凛は璃正に迎えられ、凛は別れを告げる。
「バイバイ、雁夜さん。」
「お休み、凛ちゃん。」
雁夜が立ち去ろうと教会に背を向け歩きだしたその時、凛は言った。
「今度会った時に要領が良くなる方法教えて下さいね。」
「ああ、きっと教える。それはおじさんが約束してあげる。」
本当にこの子は...
雁夜はそう思いつつも、出発するのだった。
第五十一話です。
最近ずっと戦ってた感じがしたので平和な回を入れてみましたがいかがでしたか?
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第五十ニ話
呪術に関する情報は
Typemoon wikiの魔術のページを参考にしてください。
言峰教会を出発してから少しして、雁夜(人形)は間桐邸に辿り着いた。
帰路の途中、蟲の新たな使い道を思いついた雁夜は、一刻でも早くそれを試すべく間桐邸に着いて直ぐに準備を始めた。
蠱毒−
それは古くから東洋に伝わる呪術の一種であるそれは壺や箱などに様々な蟲を閉じ込めることによって強制的に共食いをさせ、最後まで生き残った生命力の強い一匹の蟲を使って行われる。
呪術はセイバー、ランサー、そしてアーチャーの三大騎士クラスとライダーのサーヴァントがクラス別スキルとして持つ対魔力を無視して効力を発揮する。だが生憎、雁夜にはその蠱毒を使って他人を呪い殺す術を知らないし、臓硯も一応は西洋魔術使いなのでそもそも呪術を学んでいないため、蠱毒に関する文献は残されていなかった。
だがしかし、それは雁夜の想定の範囲内。雁夜は蠱毒を使って選び抜いた蟲達を混ぜ合わせて出来るより強力な蟲達を使役しようと考えたのだ。そして何より、蠱毒で創り出した蟲は呪術的に創造された物であるから、それらを交配させて出来る蟲ももしかしたら対魔力を持つサーヴァントに対して有効かもしれない。
自身が先ほど創り出した蟲ではバラエティが足りない為、間桐邸の庭で百足、鋏虫、蜚蠊、そして蟷螂などを捕まえた雁夜は、五つの壺を用意し、それらに捕まえた蟲と創り出した刻印蟲、翅刃虫、視蟲、軍噛蟲、そして変臓蟲を入れ蓋をし、放置した。
「まあこんな物かな...」
全ての工程を終えた雁夜はそう呟き自室に戻る。
「どんな蟲が出来るか楽しみだな…」
「聖杯戦争が終わったら日本か中国、それか中東の魔術組織に行って呪術を学ぶのも良いかもな...」
そんな事を呟いていると、雁夜は流石に疲れて来たことに気がついたので仮眠を取ることにした。
雁夜の言峰教会からの帰宅から間桐邸庭での蟲取りまでの一連の動作を使い魔越しに見ていたケイネスは、疑問を感じられずにいられなかった。
...間桐邸に帰ったところまでは良い。特に問題はなかったからな...
ケイネスは心の中でそう呟く。
「だがしかし、間桐邸の庭で行っていたアレは何なんだ。」
「蟲を捕まえている様だったが、間桐雁夜が用いる蟲は野生の蟲ではなく魔術によって創り出された物の筈であろう。それとも、野生の蟲から新たな使い魔を創り出すのか...?」
ケイネスは悩む。
「主よ、私が聖杯から与えられた知識にアレを説明出来そうな物があります。」
主のケイネスが長考しているのを見たランサーが言う。
「ランサーよ、それは何だ?」
ケイネスは素直に尋ねる。
「恐らくですが...アレは東洋に伝わる『蠱毒』という呪術の準備をしているのではないかと。」
「呪術だと⁉」
ケイネスは驚きを隠せない。西洋魔術の総本院である魔術協会では呪術は魔術とされておらず、誰も研究しようとしない魔動であるからである。
ケイネスの驚きを見たランサーは続ける。
「はい。聖杯の知識によるとアレは壺や箱などの密閉空間に数々の蟲を閉じ込めて共食いをさせ、最後まで生き残った一匹を使って発動する禍々しい呪術だそうです。まだ確定したわけではありませんが、考慮に値するかと。」
「ふむ。確かに考えられなくもないな。だがもし本当に呪術であったなら、限りなく危険だ。」
ケイネスの言葉を聞いたランサーは尋ねる。
「何故ですか?」
「ランサー、お前の持つ対魔力は西洋魔術に対抗するスキルであって、呪術には対抗できないのだよ。」
ランサーは驚くが、ケイネスは冷静に答える。
「安心しろ、ランサー。まだ呪術の工程が全て終わった訳ではないのだろう?対抗策を考える時間はまだある。」
「そうでしたね、主よ。」
ランサーは言い、二人は対抗策を考え始めるのであった。
第五十ニ話です。
雁夜がどんどん蟲使いになって行きますね。
でもこれでやっと人形を壊すきっかけが出来ました。
今の雁夜人形を壊せるのは相性的にケイネス先生しか居ません。強さだけなら綺礼と切嗣も人形より上なんですが相性が…
明日からストーリーが進むと思います。
今回も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第五十三話
ケイネスとランサーが雁夜の行っている呪術の攻略法を考え出してから数時間が経過し、昼になってていた。魔術協会所属の魔術師と通信したり、ある限りの文献を読み漁ったりしたケイネスとランサーは、結論に達した。
「集まった情報によれば、一口に蠱術と言っても様々の物があり、間桐雁夜の行っている『蠱術』がその内のどれかわからない為、間桐雁夜を倒すのが一番手っ取り早い方法であろう。」
ケイネスの言葉にランサーも同意し、尋ねる。
「はい。いつバーサーカー陣営を襲撃しますか?」
ランサーの質問に、ケイネスは答える。
「蠱術がどのタイミングで発動するのかがわからない故、なるべく早い方が良いだろう。今夜中には仕掛けるぞ、ランサー。」
「了解しました、我が主よ。」
ケイネスとランサーは大まかな計画の方針を決定したが、二人はまだその夜キャスターが聖杯戦争を根本から脅かしかねない大儀式を行うことを知りようがなかった。
数時間後、午後の間桐邸魔術工房で雁夜は蠱術の最終工程を始めるべくして、五つの壺の蓋を開けた。
自分でやっといて何だけど...凄く禍々しいな。
雁夜はそう心の中で呟く。
だが、雁夜がそう思うのも無理はない。五つの壺の中はどれも無残にも殺された蟲達の死体と体液で溢れかえっていたからだ。
結局生き残ったのは...
雁夜は壺の中から最後生き残った五匹の蟲を取り出し、並べる。
翅刃虫が二匹と、百足が一匹、それに蜘蛛が一匹と、あとは軍噛蟲が一匹か。
生き残りの蟲達を全て並べ終えた雁夜は、蟲達を一つの壺に纏め、間桐の蟲を造る為の魔術と融合の魔術を掛ける。
うぇ....気持ち悪い。
そんな事を思いつつも、雁夜の蠱術は着々と完成に近づいて行く。
二つの魔術がそれらの効果を発揮し終えた時に残ったのは、実に奇妙な蟲であった。
具体的に説明するならば30センチメートル程の百足の身体の両端に蜘蛛の複眼と翅刃虫の顎がを持った頭があり、胴体には翅刃虫の羽が二対着いている蟲だ。
その蟲を使い魔にする魔術を掛け終わった雁夜は、一息つき、心の中で呟く。
まだどんな能力を持った蟲なのかはわからないけど...間違いなく強力な蟲だな。
そして雁夜は、蟲達の体液で汚れた手を洗いに行くのであった。
同刻、未遠川にてキャスターは数十分前から下準備をしていたある大儀式の最終工程を始め用としていた。
大海魔の召喚−
キャスターがその手に持つ螺旋城教本(プレラーティーズスペルブック)からは禍々しい紫色の魔力が流れ出し、その詠唱の長さから儀式が以下に強力な物かがわかる。
その儀式を止めるべく未遠川まで来たセイバーを見つけたキャスターは頭を下げ、言う。
「ようこそ、聖処女よ、再びお目に掛かる事ができ、喜びの極み。」
キャスターの言葉を聞いたセイバーは叫ぶ。
「性懲りも無く今度は何をしでかすつもりだ!キャスター‼」
しかし、キャスターは気にしていない。
「申し訳ないがジャンヌ、今晩の主賓は貴女ではない。」
「ですが、貴女もまた列席して頂けると言うなら、私としては至上の喜び。」
「私めが催す、死と頽廃の饗宴を、どうか心ゆくまで満喫されますように!」
そしてキャスターは、海魔に飲まれて行く。
「今再び、我らは救世の旗をかかげよう!!」
「見捨てられし者は集うが良い!私が率いる!私が統べる!我らの怨嗟は必ずや神にもとどく!」
そして大海魔がその全貌を現す。
「傲慢なる神を、我らは御座より引き摺り下ろす!」
セイバーとアイリスフィールが戸惑っていると、そこにランサーとライダーが現われ、セイバーに共闘を申し込み、それをセイバーは快諾した。
そして大海魔を倒すべく、セイバーとライダー、そしてランサーが集い戦いを挑むのであった。
第五十三話です。
やっとここまで来ました。
次回は大海魔戦と人形とケイネスの戦闘です。
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第五十四話
キャスターが未遠川にて大海魔召喚の儀式を成功させてから数分後、雁夜(人形)は未遠川沿岸にあるビルの屋上から大海魔とセイバー・ランサー・ライダー同盟の戦いを観戦していた。
セイバーとライダーも十分に戦ってるけど...あのサイズの無限再生を繰り返す化け物相手は厳しいかな...
雁夜は心の中で呟く。
あの化け物は今はキャスターからの魔力供給で現界してるんだろうけど...アレが上陸して捕食を開始したら聖杯戦争どころじゃないな...
そう、あの大海魔が未遠川の中でキャスターからの魔力供給によって現界を保っている内は、冬木に住む人々に見られるだけで済む故、後ほど暗示などで記憶を改ざんすれば良い。
だが、あの大海魔が上陸し、冬木の街を破壊しながら人々を捕食し始めてしまうと聖杯戦争どころではない。魔術の秘匿を保つのがとても難しくなってしまうし、更に大海魔自体の討伐もより難しくなってしまう。
さて...どうするべきか...
雁夜がそんな事を考えていると、雁夜の視界にケイネスが入ってきた。
「間桐雁夜殿でよろしいかな?」
ケイネスのそんな問いかけに、雁夜は答える。
「ああ、そうだが...」
雁夜の答えを確認したケイネスは、直ぐさま言う。
「アーチボルト家九代目当主、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト、間桐雁夜に決闘を申し込む。」
雁夜はケイネスの申し込みに少し驚きつつも冷静に尋ねる。
「それは今ではなければならないのか?」
キャスターの大海魔召喚による混乱の為、雁夜が決闘を後回しにしたいということは十分に理解出来るが、ケイネスには時間がなかった為、今しかないと答える。
雁夜は少し落胆したようだったが、承諾する。
「この間桐雁夜、その申し出を受けよう。」
そう宣言した雁夜は、人形が持っている限りの蟲達を現界させる。勿論、その蟲達には先刻蠱術で創り出した蟲も含まれている。
雁夜が蟲達を現界させたのに合わせてケイネスも月霊髄液を展開する。
「Fervor,mei Sanguis」(沸き立て、我が血潮)
そして、初期設定をする
「Automatoportum defensio: Automatoportum quaerere: Dilectus inscrisio:Dilectus dissensio 」
初期設定を終えたケイネスは、直ぐさま攻撃に移る。
「scalp」
ダイヤモンドさえ切り裂くその水銀の刃は高速で雁夜(人形)に迫り、その身体を楽々と切り刻む。
しかし、これで終わる蟲魔術は柔ではない。
「変臓蟲!」
雁夜がそう叫ぶと、イトミミズの様な蟲が雁夜(人形)の負傷し、失った皮膚や肉をとなる。
「ほお...使い魔を変体させて自身の肉体を補ったか。」
ケイネスは感心し、呟く。
「そういう事だ」
雁夜はそう言いつつも、蟲達にケイネスを襲わせ、その蟲達を拳銃で援護射撃する。
しかし勿論、月霊髄液の自動防御によって防がれる。
「クソッ!」
雁夜はそう言い、蟲達に更なる魔力を送り込む。
さらに、蠱術で創り出した一際大きく強力な蟲でケイネスを攻撃する。
その不気味な蟲を見たケイネスは言う。
「それが呪術で創り出した蟲か。」
「素晴らしい、だが...」
「Scindo」
ケイネスの詠唱に答えて、月霊髄液の一部が分裂し、
「scalp」
それに従い、雁夜が呪術で創り出した蟲を真っ二つに切断する。
だがその悍ましい蟲は身体を真っ二つにされた程度では止まらなかった。呪術の特性「負の感情の増大化」が蟲を影響し、憎悪や恨みなどの負の感情を溜め込んでいるからだ。更に蠱術で造られているため生への執着は普通の蟲とは比べ物にならない。蟲は甲高い鳴き声をあげると、傷口から体液を垂らしつつも、二体の蟲となってケイネスに向かって行く。
「何と...」
「しかしそれなら。」
ケイネスは攻撃に回していた一部でその蟲二体を包み、圧縮する。
流石の蟲もコレを耐え切る事が出来ない。潰された蟲はなす術も無く液体と化した。
「見事。」
雁夜は言う。
しかし、雁夜(人形)の変臓蟲が尽きない限り、ケイネスに雁夜(人形)を倒す事は出来ないし、雁夜(人形)も月霊髄液の自動防御を突破しなければならない。
戦いはまだまだ続くのであった。
第五十四話
人形とケイネスの戦いが始まりました。
明日は多分それの続きと大海魔処分だと思います。
今日も駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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第五十五話
雁夜とケイネスの戦いが泥沼化したのと同刻−
未遠川では、セイバーとライダーがキャスターの召喚した大海魔との戦闘を行っていた。
斬っても斬ってもキリがない...!!
セイバーは聖剣で大海魔の触手を斬りながら考える。
セイバーと同様に、ライダーも「神威の車輪」による攻撃を確実に大海魔に命中させていたが、大海魔は再生するばかりで、ライダーとセイバーは苛立ちを募らせていた。
「セイバー、貴様何かこう、このデカブツを一撃で消しとばせる様な隠し球を持っていないか?」
このまま攻撃を続けても無意味だと考えたライダーはセイバーに尋ねる。
勿論、セイバーはにはそれがある。対城宝具のエクスカリバーの真名解放だ。
しかし、それはランサーのゲイ・ボウによって負った治癒不可能の傷によって発動不可能なモノとなっていた。
故にセイバーは答える。
「ある事にはあるが...今は使える状況にない。」
セイバーの言葉を聞いたライダーは、落胆し、再び「神威の車輪」による攻撃に移る。
同刻−
切嗣は未遠川上のクルーザーから、キャスターのマスターである雨生龍之介を詮索し、発見した。
「奴が雨生龍之介か。」
切嗣はそう呟きつつも、愛銃ワルサーWA2000を構え、狙撃の準備をする。
「一見、何処にでもいる普通の青年にしか見えない。だが...」
「1」
「2」
「3」
「そんな事は関係がないか。」
切嗣はそう呟きながら、キャスターのマスターと思わしき男を射殺した。
しかし、それによってキャスターとその大海魔が消滅する事はない。キャスターは単に魔力元を龍之介から自身の宝具である「螺旋城教本」に移す事によって、現界を保つ。
「新たな魔力元を得たキャスターは現界し続ける。勿論、キャスターが召喚したあの化け物も消えないか...」
切嗣はそう呟き、自身手の甲に刻まれたマスターとしての証を見つめる。
「ランサーは対人宝具しか持たない。ライダーの対軍宝軍はあの怪物を一撃で消滅させるには火力不足。バーサーカーとアーチャーの宝具の詳細は不明だが、ここにいないという事はあの化け物と戦闘を行うつもりがないのだろう。」
「キャスターを倒せばもう一角貰えるんだ。令呪四角のアドヴァンテージを失うのは惜しいが、あの化け物に聖杯戦争その物に崩壊されては元も子もない。」
そう言い、切嗣は令呪に意識を向けて唱える。
「令呪をもって我が傀儡に命じる。セイバー、聖剣エクスカリバーの真名解放をもってキャスターを大海魔ごと消し飛ばせ。」
切嗣のその令呪を用いた命令を受け、セイバーは一時的に左手の怪我を無視して宝剣エクスカリバーの真名解放する。
「エクスッ、カリバー‼」
真名を解放された聖剣エクスカリバーが放った光は、大海魔を包み込み、キャスターもろとも消し飛ばした。
大海魔とキャスターがエクスカリバーの真名解放によって消しとばされたとのとほぼ同刻。
ケイネスと雁夜(人形)の戦いも決着の時に近づいていた。
「scalp!!」
ケイネスがそう唱えると、月霊髄液が飛行中の蟲たちを切り裂く。もう半時間以上にも及ぶケイネスのこの地道な努力は、やっと実を結び始めた。
残りの蟲も銃弾ももう少ない...
雁夜は心の中で呟く。
そろそろ潮時か。
雁夜のそんな心中を察したのか、ケイネスは攻撃の手を強め始めた。
「仕方が無い。」
雁夜はそう言うと、人形に残っていた魔力を全て込めて、人形の胴体に炎のルーンを刻み、言う。
「素晴らしい戦いであった。ロード=エルメロイ。
「さらばだ。」
それを言い終えた雁夜は人形との意識のシンクロを解いた。
第五十五話です。
原作で唯一納得出来ないのがここなんですよね。
幾らなんでも流石に宝具の破棄はないだろうって感じてしまって.,.
今日も駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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第五十六話
雁夜(と、言っても人形であるが)が自分自身に火を着けて身体を焼却のを見ていたケイネスは、ある結論へと達した。
「バーサーカーのマスター、間桐雁夜は間違い無く『彷徨海の天才』、蒼崎雁夜と同一人物だ。」
最早、そう考えるしかない。
先程の戦闘で自身の身体を焼却する際に間桐雁夜は強力な炎のルーンを身体に刻み込んでいた。
あのレベルのルーン魔術は、長い年月を掛けても到達出来るかわからない程のモノであり、幾ら才能が有ろうとも魔術から逃げ出して数年前に帰ってきただけの急増マスターが辿り着ける域ではない。
「しかし、何故身体を燃やす必要があったのだ」
ケイネスは長考する。
雁夜が仏教など、火葬を行う宗教を信仰していたというのなら話しは別だが、そんな話しは聞いたこともない。
「身体にそうしてまで隠したい何かがあったと考えるのが普通であろう。」
ケイネスはそう呟き、また考察に戻る。
「考えられるのは....身体の改造を解析させたくなかったという可能性と...」
そこまで考えたケイネス、湧き上がった閃きに感嘆する。
「いや、そうか!そうだ、それしかない!」
「蒼崎雁夜殿は蒼崎橙子から人形術の手解きを受けていて、さっきのは人形だったのか!」
「だから眼鏡を掛けておらず瞳の色も違ったのか!」
ケイネスは言う。
しかし、ここで新たな問題が浮上して来た。
「しかし、そうすると本体の所在は何処なんだ?」
「一番可能性が高いのは間桐邸だが...用心深い蒼崎殿の事だ、何処か別の場所に魔術工房を構えているのかもしれない。」
だが、それは今ケイネスにとってそれ程重要な問題ではなかった。
「まあそれはまた後で使い魔に探らせれば良いか。」
「それよりも重大なのはセイバーのあの宝具だ。」
そう、先程セイバーが行ったエクスカリバーの真名解放の威力に、ケイネスは驚きを隠せなかった。
「流石、ランクA++宝具ということか。」
だが、その驚嘆はケイネスを怯ませるモノではない。
「しかし、あれ程の大技はそう簡単に何度も撃てるモノではあるまい。」
「ならば攻略のしようもあろう。」
ケイネスはそういうと、パスでランサーを呼び寄せた。
数分して戻ってきたランサーに、ケイネスは尋ねる。
「ランサーよ、セイバーのあの宝具についてどう考える?」
ケイネスの質問に、ランサーは正直に感じたことを答える。
「とても強力な宝具かと。だが、セイバーは令呪の力抜きであの宝具を発動する事が出来ませんでした。つまり、ゲイ・ボウの効力が発揮されている間、セイバーはあれを殆ど撃てないに等しいです。」
ランサーの意見を聞いたケイネスは言う。
「そうか。ゲイ・ボウがあるうちは大丈夫なんだな。」
「ならばそれ程心配する必要がないだろう。」
ケイネスのランサーも同意し、二人の戦闘考察は終わった。
同刻−
キャスター陣営に次ぐ切嗣は次のターゲットを見つける事を始めていた。
「今晩は、大海魔戦の消耗からどの陣営ももう戦闘は行いたくないだろう。」
「だからこそ、このタイミングで仕掛ける。」
そう、切嗣は元来、暗殺者。敵の裏をかく戦法の方が性分にあっているのだ。
「戦闘に参加しなかったアーチャー陣営とバーサーカー陣営は避けたい。」
「つまり、ライダー陣営か、ランサー陣営だ。」
さて、どちらにしようか。
切嗣は悩むのであった。
第五十六話です。
ここからの展開は早いですよね。
でも、原作と異なる展開になる予定です。
楽しみにしていてくれると嬉しいです。
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第五十七話
大海魔戦後の静寂の中、切嗣のターゲット選定は続いていた。
「今回の戦いで全く消耗していないバーサーカー陣営とアーチャー陣営には攻撃を仕掛けない方が良いだろう。」
切嗣は呟く。
「よってバーサーカー陣営とアーチャー陣営、そして既に脱落済みのアサシン陣営とキャスター陣営を六陣営から除くと、ターゲットとなり得る陣営はランサー陣営かライダー陣営の二つに絞られる。」
更に切嗣は考察を続ける。
「ランサー陣営は、時計塔講師で更に実戦経験も豊富なケイネス・エルメロイ・アーチボルトが率いる強力な陣営だ。サーヴァントのランサー、ディルムッド・オディナは対人宝具を二本を主軸として闘う。一見、サーヴァントの方は簡単な相手に見えるが、中々強力だ。」
「ランサー陣営と闘うメリットは、ランサーを倒すことによってセイバーの左手の呪いが解消され、本来の宝具であるエクスカリバーの真名解放が可能になることだ。」
そう、ランサーを倒すことさえ出来ればゲイ・ボウによって負わされられた治癒不可能の傷を癒すことができ、今後の戦いに更なるアドヴァンテージが付け加わる。
「もう一つの陣営はライダー陣営だ。」
「魔術師としての才能に恵まれず、実戦経験も無に等しいマスター、ウェイバー・ベルベットが率いるこの陣営は、サーヴァントであるライダーの強力さに助けられている。」
「ライダーは現在確認できているだけでも二つの対軍宝具を持ち、そのうちの一つはランクEXだ。」
「また、ライダーは『神威の車輪』を使ってマスターごと移動するため、意外にも隙がない。」
二つの陣営の考察を終えた切嗣は、長考し、決断する。
「どちらも鬼門だが....アドヴァンテージを考えるとランサー陣営だろう。」
決断した切嗣の行動は早かった。
アイリスフィールにケイネスとランサーの潜伏先を伝え、そこにセイバーと共に向かうように指示し、自身も出発した。
一方その頃、ケイネスは魔術協会のコネを使って手に入れた切嗣に関する情報を洗っていた。
「ふむ...衛宮切嗣は封印指定の父から二割程度の魔術刻印を受け継いでおり、『固有時制御』を用いるのか。」
「それに付け加えて数々の現代兵器を用いる。」
現代兵器の使用は把握済みの情報であったため、驚きはしないが、資料には一つ気になることが記載されていた。
「起源弾。衛宮切嗣の魔術礼装で、魔術を使って防ぐと対象の魔術回路をズタズタに切り裂いて繋ぎなおすのか。」
厄介だな...
銃弾の威力も通常のモノとは比べものにならないため、魔術を使わない防御も難しいか...
「ランサー、どう見る?」
ケイネスとランサーは起源弾対策のための議論を始める−
その衛宮切嗣に狙いを定められたことを知らずに。
第五十七話です。
ランサー陣営vsセイバー陣営が次話から始まります。
舞弥もソラウもいない上にケイネス先生がチートな状況での戦いは、原作の物と百八十度異なる物となります。
楽しみにしてくれると嬉しいです。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第五十八話
ケイネスがランサーの考察が始まったのとほぼ同時に、雁夜も今後の戦略に関しての考察を始めた。
「あの人形が破壊されたから、次に戦闘を行う時は本気での戦いが出来るな...」
雁夜は呟く。
そう、ケイネスに破壊された人形は魔術回路も本体よりも劣っているし、何より直死の魔眼を持っていない。超一流の人形師である橙子ですら暗示、魅了、そして浄眼の作成が限度である故、人形師としての技術で劣る雁夜には直死の魔眼の作成は不可能だ。
だがしかし、今後はその魔眼が使える。そして筋力強化魔術やルーン魔術などの自身の持てる技術を限界まで用いて戦うことができるのは、素直に嬉しい。
「さて、どう戦って行こうかな。」
雁夜は考えるのであった。
ケイネスとランサーが切嗣の「起源弾」についてとそれに対する対抗策を考察し始めてから半時間程の時が経とうとしていた。
ランサーとの意見の交換でまだ確実ではないものの「起源弾」攻略への道のりが見え始めていた頃、魔術工房の一番外に貼られている結界−侵入者の存在を感知し、術者に伝えるための結界−が反応した。
「侵入者か...」
結界の反応に、ケイネスは冷静にそう言い、侵入者が誰なのかを確認する。
「侵入者はアインツベルンのホムンクルスで、今回の聖杯の器でもあるアイリスフィール・フォン・アインツベルンと、セイバーか。」
ケイネスの言葉を聞いたランサーは尋ねる。
「主よ、セイバーを迎え撃ちますか?」
「ああ、そうしてくれ。私はアインツベルンのホムンクルスと対峙してくる。」
「了解した、我が主よ。」
ケイネスの命を受けたランサーは魔術工房の中心部に位置する廃屋から駆け出し、セイバーとの戦いに向かった。
「さて...私も行くかな。」
ランサーが出陣したのを確認したケイネスは、そう言い、アイリスフィールの方に向かって出発した。
ランサーとケイネスが魔術工房の中心部である廃屋を出発してから数分と経たない内に、二人はセイバーとアイリスフィールと対峙していた。
いきなり戦いを仕掛けるのも不躾か思ったらしいアイリスフィールが、言う。
「今晩は。私とセイバーはランサー、そしてそのマスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト殿に戦いを挑みに来ました。」
アイリスフィールのイントロダクションを聞いたランサーは、言う。
「今晩は皆、キャスターとあの化け物との戦いから消耗していて、戦うことをしようとはしない。セイバー、お前だってあんな大技を放ったんだ。消耗しているだろう。」
しかし、ランサーの言葉にセイバーは反論で返す。
「ランサー、貴方の指摘は確かに正しい。だが、誰もが戦いを控えるこの夜だからこそ我々二人の決闘を誰にも邪魔されずに静かに行えると言うもの。」
「ふっ、それもそうだな。」
ランサーは歓喜に震えながら答える。
「素晴らしい主と、同じ騎士として刃を競い合えるライバル。ああ、俺はなんて幸せなのだろう!」
そう、生前果たすことの出来なかった騎士としての忠義 を、騎士としての幸せを今、噛み締めている。ただ一つの願いが叶ったランサーは至高の喜びを感じながら宣言する。
「我々の騎士道に誉れあれ!我が主、ケイネス殿にこの槍を捧ぐ!」
「フィオナ騎士が一番槍、ディルムッド・オディナ。押して参る!」
ランサーの宣戦にセイバーが応え、騎士戦いが始まりを告げた。
「応とも。ブリテン王、アルトリア・ペンドラゴンが受けてたつ。−いざッ!」
第五十八話です。
ランサーとセイバーの戦いが始まりました。
あと、今回の雁夜の考察はこの二次創作が終わった後に読むとちょっと面白いかもしれません。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第五十九話
セイバーの振るう聖剣エクスカリバーと、ランサーの二本の宝槍が激しくぶつかり合う。
アーサー・ペンドラゴンとディルムッド・オディナ。トップクラスの騎士二人が織り成す剣戟はどの一撃を取っても選び抜かれた絶妙な一太刀としか説明のしようがない。
矢張りランサーは強い...
ランサーの繰り出す一撃一撃を捌きながら、セイバーそれを実感する。
ランサーと肩を並べる程の騎士と剣を交える事が出来たのは戦乱の時代の真っ只中であった生前でも片手で足りる程しかないだろう。
況してや、ランサーを超える騎士と対峙した事などあっただろうか−?
その自問の答えとしてセイバーには一人の騎士を思い浮かべる。
いや、ランスロット卿は別格か。
彼の剣技は私のそれを遥かに上回っていた。ガウェイン卿の「聖者の数字」を持ってしても倒せなかったランスロット卿を倒せるものなどいないだろう。
結局、彼は円卓を去ってしまったがな...
いや、今は戦いに集中しよう。ランサーは考えた事をしながら闘える程柔な相手ではない。
セイバーは心の中でそう呟くと、再び集中を闘いに戻した。
セイバーと刃を交えながら、ランサーは幸せの絶頂にいた。
流石は騎士の王。セイバーは強い...
セイバーの繰り出す精巧な剣撃を二本の宝槍で受け止めながら考える。
そんなセイバーと闘えるのは騎士として誇らしく、何よりも嬉しい。
つくづく、俺も捨てたモノではないらしい...
ランサーはそんな事を考えながら、槍撃を続けるのであった。
数分前。そう、丁度セイバーとランサーの剣戟が始まったのと同じ頃、既に戦場と化していたランサー陣営の魔術工房にて、もう一つの戦いが始まろうとしていた。
「サーヴァント達は闘いを始めたわけであるが...我々もそろそろ始めるかね?」
セイバーとランサーが闘いを始めたのを確認したケイネスは、アイリスフィールに言い、月霊髄液を展開させる。
「Fervor,mei Sanguis」(沸き立て、我が血潮)
そして、初期設定をする
「Automatoportum defensio: Automatoportum quaerere: Dilectus inscrisio:Dilectus dissensio 」
月霊髄液の展開と初期設定を終えたケイネスは尋ねる。
「貴女は魔術礼装を持たないのかね?それとも、セイバーのマスター、衛宮切嗣が来るのかね?」
「!?」
アイリスフィールはケイネスが切嗣こそ真のセイバーのマスターであると知っていた事に驚くが直ぐに魔術礼装である針金を展開する。
その針金は錬金術によって烏型の使い魔に姿を変え、ケイネスに襲いかかっていった。
その光景を見ていた男がいた。
その男、衛宮切嗣は愛銃ワルサーWA2000でケイネスを狙う。
最初からアイリがケイネスを倒せるなどとは思っていない...
そう、全マスター中でも特に強力なケイネスを正面から戦って殺すのは骨が折れると考えた切嗣は、アイリスフィールを囮にケイネスを引き留め、背後から射殺しようと考えたのだ。
そろそろ撃てるな...
そう考えタイミングを見計らって、銃撃の準備に移った切嗣は背後からの穏やかな呼びかけられた
「こんにちは、魔術師殺しさん。」
第五十九話です。
地味にセイバー陣営がまたもや敗退の危機です。
今回は本当に敗退するかもしれません。まだ決めてないのでなんても言えませんが笑
とりあえず本気雁夜に戦闘の機会を与えたかったんです。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第六十話
切嗣が声をかけられる数分前、ケイネスはアイリスフィールとの戦闘を開始していた。
アイリスフィールは針金を錬金して作った烏型の使い魔をケイネスに向けて放つと、更にもう一つの使い魔を錬金し始める。
そう、アイリスフィールは先日の時臣との戦いから学んだのだ。烏型の使い魔一匹では魔術師と満足に戦い、勝利するのには十分ではないということを。
「ほお...」
アイリスフィールが錬金術を連続で行使しているのを見たケイネスは感心する。
二体目の烏型使い魔を錬金し終えたアイリスフィールは、その二体目を使役し、一体目と同様にケイネスに向けて放った。
この時点でアイリスフィールは新たな使い魔の錬金をする事を選ばずに、使役に集中する。
実際、アイリスフィールが錬金しようと思えばまだ何体もの烏型使い魔を錬金する事は出来る。
だがしかし、「間桐」の様に使い魔の使役を得意としている家に生まれたわけではないアイリスフィールは二体以上の烏型使い魔を十分に使役しきる事が出来ないから、二体目で止めたのである。
「その錬金術。流石は魔術協会でもその名を馳せる錬金術の大家、アインツベルンの作り出したホムンクルスだ。実に素晴らしい。だが...それでは月霊髄液を突破する事は出来ないな。」
ケイネスはアイリスフィールにそう言って、攻撃に移る。
「scalp!」
ケイネスがそう詠唱すると、月霊髄液はダイアモンドさえも切り裂く水銀の刃に姿を変え、二体の烏型使い魔を瞬く間に切り裂いた。
「なッ⁉」
アイリスフィールは自身の使い魔が瞬時に破壊された事に驚き、声を出してしまうが、直ぐに気を取り直して新たな烏型使い魔を錬金する。しかし、一度通じなかった戦法が通じる筈もなく、アイリスフィールの作り出した使い魔達は、またしても月霊髄液に切り裂かれてしまう。
「そんな...!!」
アイリスフィールは、自身の持つ魔術ではケイネスを倒す事が出来ないという非情な事実にやっと気付き、絶望する。
だがしかし、ケイネスにしてみればアイリスフィールの絶望など関係はない。
「さて、そろそろ終わりにしようかね。」
ケイネスはそう言うと、月霊髄液に魔力を込める。
「captis」
ケイネスがそう詠唱すると、月霊髄液は、アイリスフィールを拘束した。そう、アイリスフィールは聖杯の器。今ここで殺す訳にはいかないのである。
拘束されたアイリスフィールはなお抵抗の意思を見せるが、ケイネスは冷静に魔術でアイリスフィールを眠らせた。
自身の闘いが終わったケイネスは、セイバーとランサーの闘いに目を移した。
まさに芸術の域に達している断言できる剣戟。その一撃一撃に、騎士でないケイネスですら見惚れてしまう。
そう、かの騎士の王、アーサー・ペンドラゴンとフィオナ騎士団の一番槍、ディルムッド・オディナが刃を交えているのだ。
二人の英雄達は、それぞれの尽くせる技術と力を出し尽くし、闘いを進めて行く。
セイバーが撃ち込んだ一撃をランサーがゲイ・ボウで捌き、ゲイ・ジャルグで一撃を入れようとするが、その一撃はセイバーのエクスカリバーによって防がれる。
一見、単純に見えるそんな闘いの一場面にすら、精細な力のバランスがなければ成り立ない物であり、いかに二人の剣戟が繊細な物だとわかる。
そんな至高の剣戟をケイネスは暫らく感動しながら観戦していたが、突然、二人の内の一人、セイバーがその場から消えた。
第六十話です。
ケイネスがアイリスフィール捕縛に成功し、一つの闘いに終止符が打たれました。
セイバーが消えた理由は予想できると思いますが、逢えて伏せておきます。(わからなくても明日わかります。)
明日は雁夜と切嗣の闘いとその後です。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第六十一話
セイバーが突然ランサーの前から消えた数分前、ケイネスを背後から射殺しようとしていた切嗣は、ある男の呼びかられた。
「こんにちは。魔術師殺しさん。」
そんな穏やかな声調で話かけてきた男に向けて、切嗣は手榴弾を投げつけるが、その男は超人的な脚力で後ろに飛ぶことで、回避する。
手榴弾の爆煙が消え、その男が未だに攻撃をしてこないので、切嗣はその男の姿見を確認した。
間桐雁夜に瓜二つだが...瞳の色が日本人とは思えない程蒼い...いや、あの異様なまでの蒼さは西洋人でもいないだろう。
切嗣はそう考えると、男に尋ねる。
「お前は誰だ?」
「そんなことはどうでも良いではないか。」
切嗣の問い掛けに雁夜がそう答えると、切嗣はキャリコM950Aの掃射で返答してきたので、雁夜は氷のルーンと「防御」を意味するイチイの木のルーンを組み合わせて氷の防壁を発生させることによって銃弾の嵐から身を守る。
あの氷壁...どうやって作り出したかは詳しくはわからないが、厄介だな。
雁夜が作り出した氷壁にキャリコM950Aの放つ銃弾が防がれて行くのを見た切嗣は考える。
何らかの魔術であるのは確かだが...恐らく奴が魔力を使うのはあの氷壁を作成する一瞬のみ。起源弾はその効果を発揮しない...
そう、切嗣の切り札である起源弾は魔術に着弾した時のみに切嗣の起源を対象の魔術回路に発現させる。だがしかし、雁夜がルーン魔術で作り出す氷壁は作成された瞬間から魔力供給なしで物体として存在するため、その氷壁を撃っても起源弾の効果が発揮されることはないのだ。
だが、幸いあの氷壁は材質としての強度は対したことはない....
厚さはあるが撃ち続ければ破壊は容易だ...
しかし、材質の強度のなさは雁夜の承知の内。むしろ、それも戦略の内だ。
雁夜は筋力強化魔術で既に強化されている脚力を更に強化すると、氷壁の死の線を切り、キャリコM950Aの射線から離脱する。
雁夜が氷壁を一瞬で破壊することができると思っていなかったのであろう切嗣の反応が遅れのを確認した雁夜は、その強化した脚力で切嗣との間合いを瞬く間に詰める。
速い....ッ⁉
切嗣は雁夜の急接近及びナイフでの斬りつけを固有時制御(タイムアルター)・二重加速(ダブルアクセル)を使い回避しようとするが、些か遅過ぎた。
雁夜は切嗣の手首に絡みついている死の線を切り裂く事によって、手ごとキャリコM950Aを地面に落とさせたのだ。
クソッ!
切嗣は追撃こそ固有時制御で回避出来たが、キャリコを消失し、手を一つ奪われた事に悪態をつき、残った手で手榴弾を投げつけ、間合いと時間を稼ぐ。
しかし奴があの一瞬で手首を完全に切り取る事が出来たのは何故だ...?
幾ら魔術で斬れ味を強化したナイフでも、手首には骨が通っている以上、そんな簡単に切り落とせる物ではないだろう。
切嗣は悩む。
そう言えば奴があの氷壁を破壊した時もナイフで軽く切っただけだった...
しかし、そこまで考えれば結論に達するのは簡単だ。
そうか‼奴のナイフは触れた物を全て破壊するんだ‼
その結論は正確に言えば間違っているのだが、切嗣の戦略を変えるのには十分なインパクトがあった。
となれば近接戦は絶対に避けなければならない。
しかしキャリコ消失。その上、コンテンダーの発砲も回避される可能性が高い...
つまりこの闘い...僕だけで闘った場合こちらに勝機はない。
切嗣はそう結論づけると、幸い残された方の手にあった令呪に意識を集中させて、唱える。
「令呪を持って我が傀儡に命ずる。今直ぐにランサーとの戦闘を中断し、僕の援護をしろ。」
第六十一話です。
セイバーが消えた理由は、雁夜に手を切り落とされた切嗣が令呪で呼び出したからでした。
さて、セイバーの加入で闘いはどうなるのでしょうか。
楽しみにしていてくれると嬉しいです。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第六十二話
自身のマスターである切嗣の令呪の使用にともなう空間転移で雁夜と切嗣が闘っている戦場についたセイバーは、あの切嗣が令呪一角を使ってまでサーヴァントのサポートを得なければならないと判断した敵がどんな者なのかを確認する。
鍛えている東洋人といったところであろう...瞳が異様に蒼いのが少し気になるところであるが...それ以外に特にコレと言って変わったことはない。
得物はナイフか...あれ一本という訳ではあるまい。恐らく他の武装も持っているはずだ。
セイバーは冷静に雁夜を分析し、切嗣がどの程度のダメージを負ったのかを確認するべく、切嗣の方に目を向ける。
上半身、下半身共に問題はないが...!?手が一つないだと⁉
セイバーは驚く。あの切嗣の手を切り落とせるのなら、あの男は凄腕の戦士であろう。セイバーもまた切嗣同様に何故ナイフで手首を綺麗に切り落とせるのかが気になったが、その疑問は伏せておいた。
セイバーのサーヴァントを令呪による強制空間転移で援護として連れてきたのか...
セイバーが突然現れたのを見た雁夜は冷静に分析する。
コレでは分が悪いな…
仕方が無い、こちらもサーヴァントに頼るとしよう。
そう考えた雁夜は、直ぐ隣に霊体化し待機させていたバーサーカーにパスを使って現界せよとの命令を出す。
次の瞬間、雁夜の隣に黒い霧と共にバーサーカーが現界した。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■‼」
それを見たセイバーは驚き、言う。
「バーサーカー⁉」
そんなセイバーの驚きなどは無視して、雁夜はバーサーカーに命ずる。
「バーサーカー、そこのセイバーを殺せ。」
雁夜のその命を受けたバーサーカーの行動は素早かった。
先程与えられ、既に宝具化してあった日本刀を手にセイバーに斬りかかる。
「■■■■ッ!」
セイバーはバーサーカーのその斬撃をギリギリのところで躱すが、斬撃によって生じた風で負傷する。
「完全に躱してこれか...」
セイバーは言う。l
その間にも切嗣がセイバーに治癒魔術を掛けてその怪我を癒した。
しかし、バーサーカーの猛撃は止まらない。その斬撃は限りなく力強い物であるのと同時に、尚且つ限りなく洗練されている。
奴め、本当にバーサーカーなのか?
セイバーがそんな疑問を抱くのも無理がない斬撃が、セイバーを襲い、状況はバーサーカー圧倒的優位。セイバーは防戦一方だ。
奴のあの技量。私の遥か上を行っている...
セイバーは悩む。バーサーカーをどう倒せば良いのかを。
同刻。セイバーが突然目の前から消えた事によって倒すべき敵がいなくなったランサーとそのマスター、ケイネスは結界から得た情報セイバーがら魔術工房内にまだ残っていることを確認し、セイバーの元に向かっていた。
「結界から得た情報によると、セイバーの他に後三人いる。油断するなよ、ランサー」
ケイネスは自身サーヴァントがそう簡単に負けるとは思ってはいないが、警告する。
「あと三人とは...了解しました主よ。」
ランサーは答え、ケイネスとランサーは戦場へと急いだ。
第六十二話です。
この二次創作のランスロットのステータスって、十二の試練が無ければ白兵戦では五次バーサーカーよりも強いんですよね…今更気が付きましたが笑
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第六十三話
ケイネスとランサーがバーサーカー陣営とセイバー陣営が戦っている戦場に向かって歩き出したのとほぼ同刻。雁夜と切嗣の闘いは続いていた。
先程、セイバーとバーサーカーが戦って生じた混乱の内に愛銃キャリコM950Aを拾い、遠距離攻撃が再び可能となったことにより、切嗣はある程度の希望を得た。
これで少なくとも戦線離脱は可能になった…
切嗣はそう考えつつ、キャリコM950Aによる掃射を開始する。
またあの銃か...
雁夜は切嗣がキャリコM950Aによる掃射を再開したのを見て、またもや氷の防壁を作り、身を守りながら考え始める。
マシンガンってのはなかなか厄介な武器だな…弾が多過ぎて一つ一つ「殺す」わけにもいかないし…
さっきの奇襲とも言える攻撃方法は流石に警戒されていて、通用しないだろう…
雁夜は考える。
と、なると新たな戦略を使うしかないかな…
雁夜はそう考えると、自身の身体に硬化魔術をかけ、氷壁を「殺し」た。
来た…!
雁夜が氷壁を破壊して飛び出してくるのを待っていた切嗣は、直ぐにキャリコM950Aを投げ捨て、トンプソンコンテンダーを手にする。
そして、一瞬でも早く「起源弾」を装填するために、
固有時制御(タイムアルター)・二重加速(ダブルアクセル)を使い、加速する。
そう、切嗣は考えついたのだ。
いかに雁夜の身体能力が優れていたとしても、先程の手榴弾の回避やその他の移動は身体能力を何らかの魔術で強化していなければ出来ないもの。
つまり、雁夜自身に「起源弾」を撃ち込めば、雁夜の魔力回路を破壊する事ができる。
絶対に決める...!
切嗣は、高速で移動する雁夜に狙いを定めると、発砲した。
切嗣が発砲したのを確認した雁夜は、最近マスターした魔術の一つである高速思考を用いて考える。
奴の放った銃弾は一発のみだが、あのサイズから考えてその威力は間違いなく高い。
また、あの奴がわざわざ連射不可能な武器を使用してまで放ったということは、その威力以外にも何かがあるという考えて間違い…
だが、この距離からあの銃弾を避けることは不可能だ…
ならッ!
雁夜はそう考えると、ナイフを強く握り締める。
そして肉体強化魔術で動体視力と、筋力を強化すると、飛んできた「起源弾」を殺した。
起源弾がその効力を発揮せずに破壊されただと...
切嗣は驚きを隠せない。
おかしい...
あのナイフは触れた物全てを破壊するという効力を持つ「魔術」礼装なはずだ。
ならばそれに触れた起源弾はその効果を発揮し、奴の魔力回路をズタズタにしているはず。
だが、何故⁉
結局、切嗣のその戸惑いが命取りになった。
起源弾破壊後、切嗣が戸惑って急接近し、切嗣がトンプソンコンテンダーを持っている手−令呪のある残された手を雁夜は手首を殺すことで切り落とした。
第六十三話です。
最近、やっと直死の意味が出てきました。
あと20話ぐらいで終わると思います。
今日も駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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第六十四話
雁夜が切嗣の両手を切り落としたことによって二人の闘いの決着が付いたのとほぼ同刻。
セイバーはバーサーカーとの闘いの真っ只中にいた。
このスピード、この技術、それにこの力...
悔しいがどれを取っても私のそれらの数段上だ...
セイバーはバーサーカーの繰り出す斬撃を何とか受け流しつつも考える。
そう、セイバーは数分前の戦闘開始から、バーサーカーの力強く、そして精巧な剣技に苦戦し、防戦一方の闘いを強いられていた。
生前はブリテンの騎士王として円卓の騎士達を纏めた自分がただの一撃の攻撃も出来ない戦いを強いられているとは...
セイバーは思う。
一体バーサーカーは何者なのだ。
セイバーは考える。
聖杯から与えられた情報によると奴の得物はこの国の伝統的な武器である日本刀。しかし、奴の纏っている黒い霧の向こうにぼんやりと見えるはフルプレートだ。
この奇妙とも言える組み合わせには全く覚えがなく、手掛かりになりそうにない。
そんな事を考えながらふと、切嗣が戦っている方を見ると切嗣に残された方の手が切り落とされているのが見えた。
これで切嗣は両手を失い、戦闘不可能になったか...
そして、切嗣が令呪を失ったことで、私達の契約は実質上無効となった...
ハハッ、もう終わりだな。私達は。セイバーは余りにも辛辣な状況に、希望を失った。
せめて...せめて騎士としてランサーとの決闘の決着は付けてからがよかった...
セイバーが絶望の淵でそんな事を考えていると、聞き覚えのある声が聞きこえた。
「セイバー、なにをしている!」
そう、ランサーだ。
ランサーの隣には、ランサーのマスターらしき人物もいて、切嗣を倒した魔術師に何やら話しかけている様子だ。
二人の登場により、セイバーは失った希望を取り戻した。
ケイネスが自身のサーヴァント、ランサーと目的地の戦場に到着した時にはもう、蒼崎雁夜が衛宮切嗣の両手を切り落とし戦闘不能にした後であった。
蒼崎殿が武闘派なのは十分わかっていたつもりだが...
あの魔術師殺しを無傷で倒すとは...
雁夜の驚くべき戦闘能力に、ケイネスはただ驚き、感心するが、本来の目的を忘れてはいない。
「素晴らしい戦闘能力をお持ちのようですな、蒼崎殿。」
ケイネスは雁夜に話しかける。
「いや、それほどでもありません。して、ロード・エルメロイ、何用ですかな?ただそれを言いに来ただけではありますまい。」
雁夜は、ケイネスの目的が他にある事を察して尋ねる。
「いやいや、私自身は大した用にはありません。」
「ですが、蒼崎殿のバーサーカーが今相手にしているセイバーは私のランサーと決闘中でありまして。どうにかセイバーとの戦いを私達に譲ってはくれませんかな?」
そんなケイネスの申し出を聞いた雁夜は一瞬考える。
バーサーカーとセイバーの戦いは明らかにバーサーカーが優勢。このまま放置してもバーサーカーの勝ちは揺るがないだろう...
その点、もしランサーがセイバー討伐に失敗してセイバーの左手の呪いが解けても、バーサーカーが負けることは殆ど考えられない...
また、バーサーカーの使役は大量の魔力を要する...
ここはランサーに任せるが良いか。
「わかりました。この戦い、ランサーに譲りましょう。」
雁夜はそう言って、バーサーカーを霊体化させる。
「そういう訳だ。セイバー。始めようか。」
ランサーは嬉しそうに言う。
「ああ−いざッ!」
そして、セイバーとランサーの決闘が再開された。
第六十四話です。
大まかな流れ(セイバーとランサーが決闘を再開する)は決まっているのですが、なかなか展開が思いつかなく、大変でした。
今日も駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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第六十五話
雁夜がバーサーカーてセイバーの戦いを中止させてランサーにその場を譲った直後。
バーサーカーが霊体化し、セイバーのマスター衛宮切嗣(と、言っても契約は実質上無効になっているが)は両手を切り落とされたまま何処かに消えたため、雁夜、セイバー、ランサー、ケイネスの四人だけとなった戦場で、セイバーとランサーの決闘が始まった。
二人の騎士の精巧な剣戟。
開始直後、ランサーがゲイ・ジャルグでセイバーを突かんとする。
ランサーのゲイ・ジャルグは魔力の流れを断ち切るので魔力で編んだ私の甲冑では防げない...
だがしかし...
セイバーはそう考えつつ、エクスカリバーで受け流し、攻撃に移る。
バーサーカーの斬撃程ではないッ!
そう、先程まで自身とランサーの斬撃を威力と技術において数段上回るバーサーカーの剣技を受け続けていたため、スピードにおいては同レベルとはいえ、ランサーの槍技はまだ受け切り、更に攻撃もする事ができるのである。
セイバーがエクスカリバーをランサーを切り裂くべくして振るう。
バーサーカーのそれとは比べものにはならないものの、円卓の騎士を束ねる騎士王のものとして、技量の限りを尽くした十分な剣技を用いてランサーを攻撃してゆく。
セイバーのその剣技を、ランサーもまた、フィオナ騎士団の一番槍としての槍技で、巧みに捌いていく。
そんな具合で続いていくセイバーとランサーの剣戟を雁夜とケイネスを観戦していた。
「しかし...また騎士の決闘というのは素晴らしい物ですな。」
ランサーとセイバーの戦いを感心しながら見ていたケイネスは、雁夜に話かける。
「ええ、やはり伝承の中の騎士達が目の前で戦っているというのは、筆舌に尽くし難い素晴らしさがあります。」
ケイネスの言葉に、雁夜も同意し、続ける。
「情勢は...セイバーが少し優勢といったところでしょうか?」
「まあそんなところでしょうな。」
自身のサーヴァントであるランサーが少しとはいえ不利な状況下にあるにもかかわらず、ケイネスはそれ程気にしていない様子だったのを少し疑問に思った雁夜は尋ねる。
「お気にはなさらないのですか?」
そんな雁夜の問いに、ケイネスは答える。
「...ランサーの意思はできる限り尊重してやりたいと思っているのです。」
その回答に、雁夜は重ねて問う、
「それが貴方とランサーの聖杯戦争敗退に繋がるとしても、ですか?」
その質問に対するケイネスの回答は、意外なものであった。
「ええ。お恥ずかしながら、私は聖杯に願う願いなどありません。私が聖杯戦争に参加したのも、自分の実力を試したかったというのが理由です。」
「ランサーも生前叶えられなかった騎士としての幸せ、つまり主への忠義や好敵手との武の競い合いですな、を叶える為に現界したと言っていました。」
「つまり、ランサーにも私にも聖杯はさほど重要ではありません。」
ケイネスのその回答を聞き、雁夜は納得したようだった。
その時だった。ランサーの一瞬の隙をついたセイバーが、ランサーの心臓をエクスカリバーで突き刺したのは。
「素晴らしい戦いであった。ランサーよ。」
セイバーはランサーを褒め称える。
「そうか...騎士王にそう言われるとは...ゴフッ」
ランサーは弱々しい声で言う。
「ケイネス殿に...聖杯を捧げられなかったのは...心残りだな...」
ランサーは死に際にあっても騎士として主に仕えんとする。
「ランサー、お前の戦いは素晴らしいかった。」
ランサーのそんな言葉を聞いたケイネスも、最後の最期まで騎士として戦った自身のサーヴァントを褒め称える。
「ありがたき...お言葉....」
ランサーはそう言って感謝の意を表し、穏やかながらも嬉しいそうな表情をその顔に作ると、粒子となって消えていった。
第六十五話。
ランサーが脱落しました。
明日明らかになると思いますが、この二次創作このシーンは明日もう一つ重要な進展があって終わりです。
大分二次創作も終わりが近づいて来ましたね。
今日も駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました
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第六十六話
セイバーがエクスカリバーでランサーの心臓を貫き、二人の決闘に決着がついたことによってランサーが聖杯戦争から脱落した直後。その場に残されたのは雁夜、ケイネス、そしてセイバーだけになった。
ランサーの敗退を見ていた雁夜はケイネスに言う。
「最後の最期まで素晴らしい騎士道精神を見せてくれましたが...」
「ランサーは負けましたな...」
「真に残念ながら...ロード=エルメロイ。貴方とランサーの聖杯戦争は此処で終わりです。」
「本来ならば、聖杯戦争にのぞむ一マスターとしてバーサーカーを使ってでも貴方を殺すべきなのでしょうが...友人として、それは見送らせていただきます。」
雁夜のその提案を聞いたケイネスは語り出す。
「それはどうでしょうか。」
「確かにランサーはその忠義を全うし、立派な最期を迎えました。」
「だがしかし...私の聖杯戦争はまだ終わっていません。」
ケイネスはそう言って左手の手の甲を雁夜とセイバーに見せる。
それを見た雁夜は少し驚きながらも穏やかな口調で尋ねる。
「しかし、ロード=エルメロイ、貴方には聖杯に望む願いはなかった筈では?」
雁夜の問いにケイネスは答える。
「ええ...確かに私には聖杯に願う望みはありません。」
「だがしかし、私には『自分の実力を試したい』という願いがあります。」
「そう...」
「私は貴方に挑み、そして超えたいのです。」
ケイネスは宣言し、セイバーの方を見る。
「―――告げる!
汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に! 聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら―――」
「―――我に従え! ならばこの命運、汝が剣に預けよう……!」
「同意してくれるかな?セイバーよ。」
ケイネスのその問いかけに、セイバーは答える。
「セイバーの名に懸け誓いを受ける……!
貴方を我が主として認めよう、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト―――!」
セイバーとの再契約を終えたケイネスは、再びその視線を雁夜の方に戻す。
「これで私もサーヴァントを従えるマスターです。」
「どうですか?私の挑戦、受けてくれますかな?」
「と、言ってももう夜が明け始めているので後日になりますが。」
ケイネスの挑戦に、雁夜も答える。
「ええ、必ずや。」
ここに、二人の魔術師の決闘が約束された。
〜セイバーのステータス変化〜
切嗣マスター時 ケイネスマスター時
筋力:B -> 筋力:A
耐久:A -> 耐久:A
俊敏:A -> 俊敏:A
魔力:A -> 魔力:A
幸運:D -> 幸運:B
宝具: A++ -> 宝具:A++
スキル
対魔力:A. -> 対魔力:A
騎乗:A. -> 騎乗:B
直感:A. -> 直感:A
魔力放出:A. -> 魔力放出:A
カリスマ:B. -> カリスマ:B
第六十六話です。
普段より短くてすみません。
微妙なところから始めてしまったもので…
本当は昨日のと一緒に投稿すればよかったです。
セイバーのステータスは凛時のステータスと切嗣時のステータスを組み合わせて凛時のマイナスである身体能力系ステータスの低下を無くした感じです。
今日も駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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第六十七話
セイバーがケイネスのサーヴァントとなり、ケイネスと雁夜が決闘すると誓い合ってから約一時間後。雁夜が去ったことでセイバーと二人きりになったケイネスは、先程までの戦闘で損壊した魔術工房の再構築を行いながら、セイバーと話していた。
「もう既に知っていると思うが...一応、自己紹介をしておこう。」
ケイネスはそう切り出す。
「私はケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ。これからよろしく頼む。」
ケイネスが名乗ると、セイバーもそれに倣う。
「騎士として私も名乗らせて頂く。私はアルトリア・ペンドラゴンだ。、よろしくたのむ。」
自己紹介をしあった二人の会話は続く。
「ランサーが貴方について語っていました。貴方は素晴らしいマスターだ。」
セイバーは純粋に敬意を込めて言う。前マスターの切嗣とはロクに会話すらしなかった仲。
盟友であり好敵手であったランサーが褒め称えるケイネスが自身の新たなマスターになったのは純に嬉しい。
セイバーのその賞賛に、ケイネスは謙遜し、尋ねる。
「ははっ...それ程でもないよ。」
「私もからも質問して良いかね?」
「勿論です!何でも聞いてください。」
セイバーはマスターと会話らしい会話が出来ていることが嬉しく、興奮気味に言う。
そんなセイバーの様子を見て、その顔に微笑をうかべながらケイネスは尋ねる。
「そうだな...まずはバーサーカーと闘ってみてどう思った?」
「私はバーサーカーについての詳しい情報を持っているどころかバーサーカーを見た事すらない。」
「よってだ、セイバー。実際にバーサーカーと闘ったお前の意見が必要なのだ。」
マスターに頼りにされている...‼
セイバーはそんな当たり前の事に興奮を覚えながら答える。
「そうですね...私にも宝具の詳細などがあの戦闘ではわからなかったので能力の詳細まではわかりません。」
「ただ間違えなく言えるのは、バーサーカーが、強力なサーヴァントであるということです。」
セイバーの意見を聞いたケイネスは、さらに尋ねる。
「どのぐらい強力なのか、説明してくれるかね?」
セイバーは正直に答える。
「バーサーカーは筋力、スピード、そして技量の全てにおいて私を上回る物を持っています。」
「お恥ずかしながら、正面からの一対一での白兵戦においては、奴は私の遥か上を行くかと。」
セイバーの正直な回答を聞いたケイネスは驚き、答える。
「...!?」
「お前のそのステータスを持ってしても、かね?」
「はい。奴は素性はわかりませぬが、異様とも言える強さを誇っていました。」
「ならば対策をせねばならないな。」
「セイバー、バーサーカー早速攻略について話し合うぞ。」
「はい!」
セイバーが答える。そうして、新生セイバー陣営のバーサーカー対策会議が始まった。
セイバーとケイネスがバーサーカー攻略会議を始めてから約十数時間後、未遠川にかかる橋にて、王二人の決闘が始まろうとしていた。
約束の場に約束の時間に到着した両者は、盃を交わす。
「約定通り、完全な状態で来たようだな。」
ギルガメッシュは言い、ライダーはそれに同意する。
「ああ。戦車も軍勢も万全な状態だ。今宵のイスカンダルは完璧以上である。」
「確かにその充溢するオーラは、何時になく強壮だ。」
「どうやら何の勝算もなく我の前に立ったわけではないらしい。」
ギルガメッシュがそう言った直後、ライダーとギルガメッシュは乾杯をすると、酒を一気に飲む。
「バビロニアの王よ、最後に一つ尋ねる。」
「許す。述べよ。」
「例えばな、余の『王の軍勢』を貴様の『王の財宝』で武装させれば、間違えなく最強の兵団が出来上がる。」
「それで?」
「改めて余の盟友とならんか?」
「我ら二人が結べば、きっと天上の星すらも征服できるぞ。」
ギルガメッシュは高笑いすると、言う。
「つくづく愉快な奴よの。」
「生憎だがな、我が朋友は、ただ一人なのだ。」
「そして、お互いのたる者も二人は必要ない。」
「孤高なる王道か、そのあり方に、余は敬服を持って挑むとしよう。」
「良い。存分に己を示よ征服王。」
「お前はそれに値する賊だ。」
短い会話が終わった直後、二人は盃を天上に投げ、決闘が始まった。
第六十七話
本編に関係ないライダーvsギルガメッシュは好きなんで無理やり入れます。
ストーリーの続きが見たいな人すみません。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第六十八話
ライダーとギルガメッシュがそれぞれ杯を投げ、決闘を開始した直後。ライダーは自身の元マスター(ギルガメッシュとの決闘の前に令呪を三角使用したため、マスター権限を失った)ウェイバーに尋ねる。
「怖いか?坊主。」
ライダーのその問いかけを聞いたウェイバーは答える。
「ああ...怖いさ。」
「それとも、お前風に言うと胸が踊るな。」
「フハハハハッ」
「言うようになったではないか、坊主。」
ライダーは豪快に笑うと、ウェイバーの回答に感心しつつも言う。
しかし本当に成長したものだな...
ライダーはそう心の中で呟くと、
ギルガメッシュに意識を戻し、宣言する。
「さあ、始めようでは無いか英雄王!」
「来るがよい‼」
ライダーとギルガメッシュの戦闘が始まる数時間前。日が落ち始めて間もない冬木にて、ケイネスの彼の新たなサーヴァント、セイバーは未完成の冬木市民会館に来ていた。
勿論、聖杯降臨の儀式の工程の一つを行うためである。
ケイネスは魔術で意識を失わせている聖杯の器、アイリスフィールを壇上に寝かせると、彼女を安楽死させる為の魔術をかけた。
「マスター、どうにかしてアイリスフィールを殺さずに聖杯を取り出す方法は無いのですか?」
まだマスターが切嗣であった頃に、アイリスフィールと親密な関係になったセイバーは尋ねる。
「セイバー、お前の気持ちは良く分かる。だが、それは出来ない。」
「それにもしそれが出来たとしても、一時的とは言えランサー、アサシン、そしてキャスターの三騎のサーヴァントを一時的に留めていたんだ...身体への負担を考えると長くはないだろう。」
ケイネスがそう言うと、セイバーは悲しそうに答えた。
「そうですか...」
そんなセイバーを見たケイネスはせめてもの慰めとして安楽死させる旨を伝えると、術の最終工程に入る。
そして、遂に寝かされていたアイリスフィールがその息を引きとった。
「さて、セイバーよ。此処からの戦いはより厳しいものとなる。」
アイリスフィールを安楽死させたケイネスは、セイバーに言う。
「我々はただ単に敵サーヴァントを倒すだけでなく、聖杯を奪われぬようにせねばならないからな。」
「気を引き締めて行くぞ。」
「集えよ我が同朋。今宵我らは、最強の伝説に勇姿を記す。」
ライダーは号令すると、自身の誇る「王の軍勢」の固有結界を発動させる。
辺り一帯が砂漠になり、ライダーの戦友達が姿を現すと、ライダーは宣言する。
「敵は英雄王。」
「相手に取って不足なし。」
「いざ強者達よ、原初の英霊に我らが覇道を示そうぞ‼」
その宣言に英霊達は答え、雄叫びをあげる。
そして「王の軍勢」はライダーに先導され、ギルガメッシュに向かって駆け出した。
「来るがよい。覇軍の主よ。」
ライダーが「王の軍勢」を引き連れ自身に向かって来るのを見ながらギルガメッシュは呟く。
「今こそお前は真の王の姿を知るのだ。」
「夢を束ねて覇道を志す。」
「その意気込みは感服に値する。」
ギルガメッシュは穏やかな口調で呟き、宝物庫の鍵を出現させる。
「だが強者共よ、わきまえていたか?」
「夢とはやがてことごとく、覚めて消えるのが道理だと。」
そして、その鍵を起動し、自身を自身たらしめる最強宝具、「乘離剣エア」を取り出した。
「なればこそ、お前の行く先に我が立ちはだかるのは必然であったな、征服王。」
「さあ、その夢の結末を知るが良い。」
「この我が理を示そう。」
ギルガメッシュが「乘離剣エア」を起動させ始めたのを見たライダーは軍勢に警告する。
「来るぞ‼」
「さあ、目覚めよエアよ‼」
「お前に相応しい舞台が整った‼」
「いざ仰げ‼」
そして、ギルガメッシュは遂に乘離剣の真名を謳う。
「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!!」
第六十八話です。
着々と終わりが近づいて来ていますね。
あと十話あるかないかぐらいだと思います。
今日も駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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第六十九話
ライダーの「王の軍勢」に対してギルガメッシュが自身の能力の限界を尽くすべく乘離剣エアの真名を開放-天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)-したのとほぼ同刻。アイリスフィールの安楽死を行った数時間前から冬木市民会館にいたセイバーとケイネスは、侵入者が入ってきた事に気が付いた。
その侵入者−ギルガメッシュのマスター、言峰綺礼−がセイバーと自身の前にその姿を現したのを見たケイネスは言う。
「言峰綺礼、貴様は聖杯戦争から脱落し、聖堂教会の保護下にあるはず...」
「こんなところに何の用かね?」
ケイネスのその問いかけに、綺礼は答える。
「ふっ、簡単な事さ...」
そう言いながら綺礼は令呪の刻まれている左手の甲をケイネスとセイバーに見せる。
「聖杯戦争に参加する一マスターとして、聖杯を奪いに来たのだよ。」
綺礼の左手の甲に宿る令呪の存在を信じる事の出来ないセイバーは綺礼に言う。
「馬鹿な⁉言峰綺礼、貴様は自身のサーヴァントであるアサシンを失ったはず‼」
綺礼はセイバーのそんな驚嘆にも冷静に答える。
「聖杯は私に二度目のチャンスを与えたのだ。」
しかし、それだけではセイバーは納得出来ない。
「それでは、貴様のサーヴァントは何処にいるのだ⁉」
「私のサーヴァントなら今頃、冬木大橋でライダーと闘っているだろう。」
綺礼は答え、問い返す。
「ところでセイバー、貴様のマスター、衛宮切嗣は何処に行ったのだ?」
「そして、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトよ、貴様のサーヴァントはどうしたのだ?」
セイバーが綺礼のその質問に答える前に、ケイネスが回答する。
「衛宮切嗣はバーサーカーのマスター、蒼崎雁夜に倒されて何処かに消えた。」
「また、私のサーヴァント、ランサーはセイバーとの決闘の末聖杯戦争から脱落した。」
「故に私とセイバーが主従関係を結んだと言うわけだ。」
「衛宮切嗣が負けただと⁉」
これまで冷静だった綺礼は、宿敵衛宮切嗣の敗退にひどく驚き、問い返す。
「ああ、そうだ。それも蒼崎雁夜は無傷のまま衛宮切嗣を仕留めたのだ。」
綺礼の問いかけに、ケイネスは冷静な口調で答え、言う。
「噂をすれば何とやらだな...」
ケイネスがそう言ったのとほぼ同時に、ケイネス、セイバー、そして綺礼の前に新たな侵入者、蒼崎雁夜がその姿を現した。
綺礼は雁夜の来訪に驚くが、雁夜はそんなことは気にせずにケイネスに尋ねる。
「それが聖杯で間違っていませんよね?ロード=エルメロイ。」
雁夜の確認にケイネスは答える。
「ええ。これこそが聖杯です。」
「では...第四次聖杯戦争の最終局面を始めましょうか。ロード=エルメロイ、セイバー、そして言峰綺礼殿。」
ケイネスの回答を聞いた雁夜がそう宣言し、遂に第四次聖杯戦争最後の戦いの火蓋が切って落とされた。
同刻。冬木大橋では、「王の軍勢」を固有結界ごと破壊されたライダーが自身の元マスター、ウェイバーに最後の質問をしていた。
「そう言えば、一つ聞き忘れていたことがあったのだ。」
ライダーは切り出す。
「ウェイバー・ベルベットよ。臣下として余に仕える気はないか?」
ライダーのその問いに、ウェイバーは涙を流しながら答える。
「貴方こそ...貴方こそ僕の王だ。貴方に仕える、同じ夢を見させてほしい!」
ウェイバーの回答に、ライダーは満足気に頷くと、ウェイバーの主としての最初で最後の命令を下す。
「生きろ、ウェイバー。生きて貴様の王の生き様を語り継ぐのだ。」
そしてライダーは駆け出す。
自身最後の疾走へと。
第六十九話です。
ライダーの敗退シーンは最後まで書くか悩んだのですが、疾走を始めたところで終わるのが一番綺麗だと思ったのでここで終わりにしました。(要望があれば書きます。)
あと遂に聖杯戦争最後の戦いが始まりました。
今日も駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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第七十話
ウェイバーを臣下にした直後、ライダーは聖杯戦争最後の疾走を始めるべく、愛馬ブケファロスに語りかける。
「さあ、いざ行こうぞブケファロス‼」
ライダーのその合図にブケファロスも鳴き声をあげる事で同意すると、駆け出した。
彼方にこそ栄えあり。
届かぬからこそ挑むのだ。
覇道を謳い、覇道を示す。
この背中を見守る臣下の為に。
ライダーの勇姿を確認したギルガメッシュは、ライダーへの敬意を確信すると、微笑み、「王の財宝」を展開し、宝具を射出する。
しかしライダーは臆さない。
愛馬ブケファロスが宝具の嵐に倒れても、自身の身体を宝剣が貫いても。
遂にライダーがギルガメッシュに攻撃可能な距離まで迫る。そして、最後の力を振り絞り、キュプリオトを振り下ろす−
いや、ライダーの最後の攻撃は、ギルガメッシュが「天の鎖(エルキドゥ)」でライダーを拘束した事によって未遂に終わった。
「フンッ」
ギルガメッシュは満足気に鼻を鳴らす。
「全く貴様...次から次へと珍妙な物を...」
あと一歩のところで最後の攻撃が防がれたライダーは、悔しそうに言う。
そんなライダーにギルガメッシュは乘離剣エアを突き刺し、尋ねる。
「夢より覚めたか?征服王。」
「ああ...うむ、そうさな...此度の遠征も心踊ったのう...」
ギルガメッシュの問いにライダーがそう答えると、ギルガメッシュはライダーに言う。
「また幾度でも挑むと良いぞ、征服王。」
ギルガメッシュはそう言いながら、乘離剣エアを引き抜く。
「時の果てまで、この世は我の庭だ。故に我が保証しよう。ここは決して其方を飽きさせる事はないとな。」
ギルガメッシュのその言葉を聞いたライダーは呟きながら、最期の時を迎えた。
「ああ...そりゃ、いいのう...」
そうか...この胸の高鳴りこそ、オケアヌスの...
そしてライダーが消えたその場には、ウェイバーとギルガメッシュだけが残された。
ギルガメッシュはウェイバーに歩み寄りながら尋ねる。
「小僧、お前がライダーのマスターか?」
ギルガメッシュに怯え、声を震わせながらもウェイバーは答える。
「違う...僕はあの人の臣下だ。」
「そうか。」
「だが小僧、お前が真に忠臣であるのなら、亡き王の仇を討つべきでは?」
ギルガメッシュは尋ねる。
「お前に挑めば...僕は死ぬ。」
ウェイバーが当たり前の事を言うと、ギルガメッシュも同意した。
「当然だな。」
「それは出来ない...!」
「僕は生きろと命じられた!」
ウェイバーがそう言ったのを聞いたギルガメッシュは踵を返し言う。
「忠道大義である。 そのあり方を損ねるな。」
言い終えたギルガメッシュは、金色の粒子となってその場から消えた。
ウェイバーが一人残された冬木大橋には、彼の嗚咽だけが響き渡った。
第七十話です。
ORTさんのリクエストがあったので、明日の話のおまけ程度のつもりで書き始めたライダーの敗退シーンが思ったより全然長かったので、個別に投稿してみました。
明日はいよいよ最終決戦です。最終決戦はライダー敗退の少し前から始まるので、留意してくれると嬉しいです。
今日も駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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第七十一話
ギルガメッシュがライダーを乘離剣エアで貫き、二人の王の決闘に決着がつく数分前。雁夜、ケイネス、綺礼そしてセイバーが集った冬木市民会館では、既に三陣営による最終決戦が始まったところであった。
「さあ、始めようか。」
雁夜がケイネス、セイバー、そして綺礼に誘いをかける。勿論、誘いをかけるだけではなく、武装のバリステックナイフを取り出し、バーサーカーを現界させるのも忘れずに、だ。
「バーサーカー、セイバーを抑えてくれ。」
バーサーカーにそう命じると、雁夜は筋力強化魔術を行使し、全身の筋力を強化した。
雁夜が戦闘準備をしている間に、他のマスター達も同様の行為を行う。
「ああ。始めようではないか。」ケイネスはそう答えると、自身の魔術礼装、月霊髄液を展開する。
「Fervor,mei Sanguis」(沸き立て、我が血潮)
そして、初期設定をする
「Automatoportum defensio: Automatoportum quaerere: Dilectus inscrisio:Dilectus dissensio 」
また、綺礼も黒鍵に魔力を通して、刀身を編み出す。
いよいよ三人の戦闘準備が終わり、戦闘が始まった。
まず最初に動いたのは綺礼だった。
綺礼は、先程作り出した黒鍵の内の一本を雁夜に向けて投擲する。
予備動作からあらかじめ投擲を予測していた雁夜は、「防御」を意味するイチイの木のルーンと氷のルーンを組み合わせて氷の防壁を作り出す事で対処した。
しかし、その黒鍵が雁夜の作り出した氷壁に刺さったかと思うと、激しく燃え出した。
「火葬式典」。綺礼の投擲した黒鍵にあらかじめ施してあったそれには、突き刺さった対象を炎上させる効果がある。
切嗣の「起源弾」には絶大なアドヴァンテージであったルーン魔術の特性は、綺礼の「火葬式典」の前では仇となった。
そう、雁夜の作り出した氷壁は、作り出した瞬間から魔術の影響下にない物理的な氷壁として存在する。つまり、その氷壁の性質は通常の氷壁の物と変わらず、勿論燃やされれば溶けだす。
あの黒鍵...何らかの魔術を施してあるみたいだが、厄介だな...
雁夜はそう心の中で呟く。
だが...ルーンで作り出す氷壁は所詮、一時的な防壁だ...
もともと自分で「殺す」予定だった別にそれが壊されようが溶かされようが特に問題にはならない...
むしろ不意打ちがし易くなるため...こちらには好都合だ。
そこまで考えた雁夜は、バリステックナイフの刃の部分を綺礼に向けて射出し、更に拳銃で追加射撃を行う。
何だと...!?
綺礼は心中でそう呟くが、直に黒鍵を使ってバリステックナイフと銃弾の両方を弾き飛ばした。
二人が戦闘しているのを見ていたケイネスは言う。
「私の事も、忘れないでくれると嬉しいのだがね。」
「scalp!!」
ケイネスの命令を受けた月霊髄液は、ダイアモンドすらも容易に切り裂く水銀の刃となって雁夜と綺礼の襲いかかる。
雁夜と綺礼は、お互いに超人的な脚力で月霊髄液の攻撃を回避した。
雁夜、ケイネス、そして雁夜の戦いは続くのであった。
第七十一話です。
綺礼も原作より強化されているため、黒鍵に式典が付与されています。
今日も駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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第七十二話
雁夜と綺礼、そしてケイネスが第四次聖杯戦争においてマスター間最後のとなる戦闘を始めたのと同じ頃。セイバーとバーサーカーが戦闘を開始した。
戦闘開始直後から、バーサーカーは『騎士は徒手にて死せず』 (ナイト・オブ・オーナー)で自身の宝具化した日本刀を用いた鋭い斬撃でセイバーに斬りかかる。
「A――urrrrrrッ!!」
そんな理解不可能な咆哮と共に繰り出される精巧なバーサーカー斬撃に、セイバーはまたもや苦戦を余儀無くされる。
「クッ‼」
前回の戦闘同様、奴は純粋なスピード、筋力、そして何よりも技量で数段私を上回っている...
しかし、何故なのだ...!?先刻の戦闘からバーサーカーが私の剣技を知っている様に感じるのは?
奴は私に所縁のある騎士なのか...?
このまま闘っても負けるだけ...尋ねておいても問題にはならないだろう...
そう考えたセイバーは魔力放出を行い、バーサーカーとの間合いを取ると尋ねる。
「その武練、さぞや名のある騎士として問わせてもらう。」
「この私を、ブリテン王、アルトリア・ペンドラゴンとして弁えた上で挑むのなら、騎士たる者の誇りを持って来歴を明かすが良い。」
「素性を伏せたまま挑みかかるは、騙し討ちにも等しいぞ‼」
セイバーがそう尋ねると、バーサーカーは不気味な笑い声をあげる。そんなバーサーカーの様子を見たセイバーは、呟く。
「貴様...」
しかし、その直後、バーサーカーを覆っていた己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)による黒い霧が消え始める
バーサーカーの素姓が明かされていく様子を見ていたセイバーは、驚きを隠す事が出来なくなってしまい、自己否定をする。
「そんな...!?」
しかし、セイバーの自己否定など関係なしに、バーサーカーの素姓は明かされていく。遂には、バーサーカーが自身の真の宝具、無毀なる湖光(アロンダイト)を具現化した。
「ア、アロンダイト!?」
「まさか、貴方は⁉」
アロンダイトを見て、確信に至ってしまったセイバーは失意のどん底に落とされてしまう。
「……Ar……thur……‼」
バーサーカーがそう叫ぶと、兜が割れ、今まで不可視であった彼の顔が遂に露わになった。
「サー・ランスロット...!!」
一方その頃、雁夜はバーサーカーが真の宝具、無毀なる湖光(アロンダイト)を開放した事による魔力負担の倍増化を感じていた。
遂にバーサーカーが真の宝具を開放したか...
負担が増えるのは承知の上だったが...
まさかこれ程とはな...
だが、まだ大丈夫だ。聖杯戦争を通じてなるべくバーサーカーには戦闘を控えさせて来た...
恐らくこの戦闘が終わるまでは持つだろう...
しかし、雁夜がそんな事を考えた時、壇上の聖杯から泥が溢れ出て来て、雁夜、綺礼、ケイネス、バーサーカー、そしてセイバーの全員を飲み込んだ。
ランスロットのアロンダイト開放によるステータス変化
筋力A+ ->筋力A++
耐久A+. ->耐久A++
俊敏:A+ ->俊敏A++
幸運B ->幸運B+
魔力C ->魔力C+
宝具A ->宝具A
単純なステータス強化に加えて技量も格段に上がります。
第七十二話です。
ランスロットがアロンダイトを開放し、ステータスがと魔力消費が急激に増加したところで、聖杯から泥が漏れ出し始めました。
全員、泥に飲み込まれたのですが、さて、どうなるのでしょうか?楽しみにしてくれると嬉しいです。
今日も駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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第七十三話
聖杯から溢れ出した泥に飲み込まれた雁夜は、自身が見知らぬ南国の島にいることに気がついた。
これが...
聖杯の内部か...
聖杯から漏れ出し泥に飲み込まれたのは突然の出来事であったが、度重なる改造により既に人間の域を卓越している脳機能と高速思考を活用して、冷静に自身が置かれている状況を考察する。
細部までは考察しきれていないが、大まかな状況は把握しきれた頃、雁夜はある女に話し掛けられた。
「おめでとうございます、間桐雁夜。いえ、蒼崎雁夜と呼んだ方が正しいかしら。」
その女、アイリスフィールは雁夜に話し始めた。
「ここは聖杯の内部。貴方の願いが叶う場所。」
アイリスフィールは澄み渡る星空に浮かぶドス黒い物体を指差し、言う。
「あれが聖杯。」
「まだ形を得てはいないけど、もう器は十分に満たされています。」
「あとは祈りを告げるだけで良い。」
「そうする事で、アレは初めて外に出て行く事ができるのです。」
「さあ、お願いします。早くアレに形を与えて下さい。」
アイリスフィールは待ち切れない。と言う風に言う。
アイリスフィールの懇願を受けた雁夜は、尋ねる。
「一つ聞いて良いかな?」
アイリスフィールは快諾する。
「ええ。何なりと。」
「お前は...誰だ?」
「私はアイリスフィール。アイリスフィール・フォン・アインツベルン。」
雁夜は目の前の女がアイリスフィールであるかどうかを高速思考を使用し考え。結論にいたった。
「...いや、違うな。確かにアイリスフィール・フォン・アインツベルンは今回の聖杯の器ではある。」
「しかし、彼女は既に死んでいる。」
「それに、もし何らかの方法で意識を保っていたとしてもアサシン、キャスター、ランサー、そして通常のサーヴァント数騎分の魂の比重を持つライダーを取り込んで自我を保てるはずがない。」
「そうね。これが仮面である事は否定しないわ。」
「私は既存の人格を殻として被らなければ、他者との意思疎通が出来ない。」
女のその回答に、雁夜は納得し、言う。
「成る程、お前が聖杯の意思か。」
聖杯の意思は返答する。
「ええ。その解釈は間違っていない。私には意思があり願望がある。」
「この世に生まれ出たいという願望が。」
聖杯の意思の回答を聞いた雁夜は、言う。
「そうか...俺には聖杯に願う望みは無い。」
雁夜がそう言ったのを聞いた聖杯の意思は、酷く狼狽し、尋ねる。
「そんな...!?」
「私の唯一の願望を叶えてくれないと言うの⁉」
そんな聖杯の意思とは対照的に、雁夜は冷静だ。
「聖杯の内部に取り込まれたのは俺だけではないはず。」
「他の奴に頼めば良いだろ。」
「それもそうね...」
聖杯の意思がそう呟いたと思うと、雁夜の意識は冬木市民会館に戻っていた。
〜おまけ〜
ケイネス先生の場合。
「さあ、お願いします。早くアレに形を与えてあげてください。」
アイリスフィールは懇願する。
「いや...私には他人の力で叶えて貰いたい願望などないよ。」
アイリスフィールの頼みを否定して、ケイネスは答える。
しかし、アイリスフィールも諦めない。
「貴方には、蒼崎雁夜を超えたいという願いがあるはず‼」
「確かに蒼崎殿を倒すのは私の目標だが...」
「他人に叶えて貰いたいワケではないのだよ。」
ケイネスはそう答えると、続ける。
「私は...生まれ持った才能で、何をやっても上手く行った。」
「やっと...やっと、努力するべき目標が出来たんだ。」
「それを聖杯に潰させるなどあり得ないだろう?」
「わかりました。」
アイリスフィールがそう答えたかと思うと、ケイネスの意識は冬木市民会館に戻っていた。
第七十三話です。
聖杯の内側編でした。
雁夜には願いがなく、ケイネスには願いはあるが、自分で努力して達成したい夢なので聖杯の意識の申し出を拒否しました。
因みにこの二次創作での綺礼の願いは、自分の願望を知りたい、です。
今日も駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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第七十四話
聖杯の泥に飲み込まれ、聖杯の意識との会合を経て冬木市民会館に戻って来た雁夜は、今だ泥に溢れる冬木市民会館のホールで辺りを見渡し、ケイネスが自身とほぼ同時に意識を取り戻した事に気がついた。
「ロード=エルメロイ、貴方も意識を取り戻したようですな。」
雁夜はケイネスに話し掛ける。
「ええ。アレに祈る願いなど、私にはありませぬから。」
ケイネスは答え、尋ねる。
「蒼崎殿、貴方は何か願われたのですか?」
「いいえ。私にもありませんよ。」
「それに...本来は無色の願望機であるはずの聖杯があんな禍々しい魔力を帯びた物体に変貌しているとは。」
「願いがあったとしても願う気にも成りませんよ。」
ケイネスの問いに雁夜は答え、聖杯の内側で気がついた聖杯の変化についての懸念に関しての不安を伝える。
「確かに...アレが帯びていた魔力はとても無色の願望機が持つ物とは思えませんでしたな。」
「あのドス黒い魔力は何だったのですか?」
ケイネスも雁夜に同意し、尋ねる。
「私にもわかりません。」
雁夜はケイネス答え、持論を展開する。
「しかし、本来は万能の願望機として機能するはずの聖杯があの様な魔力を持ったままこの世に生まれ出れば、大惨事になるのは目に見えています。」
「でしょうな。」
ケイネスも同意し、続ける。
「私達の他にもセイバー、バーサーカー、そして言峰綺礼が聖杯の内側に取り込まれています。」
「早急に行動せねば、三人の内の誰かが祈りを捧げてしまうかもしれません。」
ケイネスの懸念に、雁夜は高速思考を使い考察を始める。
確かに...ロード=エルメロイの仰る様に、数分としない内にあの三人の内の誰かが祈りを捧げ、聖杯は生まれ落ちるだろう。
そうなれば...何が起こるか想像すら出来ない...
「殺」そうにも聖杯の死の線は見えない...
ロード=エルメロイと協力してアレを消滅させるだけの大魔術を行使する時間もない...
何か...何かないのか?...
....!
そうか、その手があったか...!!
「令呪を使って我々のサーヴァントの意識を強制的に取り戻させ、彼等の持てる最大の力を持って聖杯に攻撃させましょう。」
雁夜は考察の末の解決策をケイネスに提案する。
「早速、試してみましょう。」
ケイネスも同意し、二人はそれぞれの令呪に意識を集中させる。
「蒼崎雁夜が令呪を持って命じる。」
「バーサーカーよ、今直ぐ意識を取り戻せ。」
「ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが令呪を持って命じる。」
「セイバーよ、早速に意識を取り戻せ。」
二人がそう命じると、バーサーカーとセイバーが起き上がる。
「ケイネス、何事ですか⁈」
セイバーはあと一歩で願いが叶うというところで邪魔され、少し不満気に尋ねる。
「聖杯は汚染されている!」
ケイネスは答え、続ける
「重ねて令呪を持って命じる。セイバー、聖剣エクスカリバーの真名開放を持って聖杯を破壊せよ。」
「重ねて令呪を持って命じる。バーサーカーよ、己の持てる限界の力を持って、聖杯を破壊せよ。」
「第三の令呪を持って、重ねて命ずる。セイバーよ、聖杯を破壊せよ。」
令呪の力を受け、二騎のサーヴァントは持てる力を尽くし、聖杯に攻撃し、エクスカリバーの眩い光ぎ辺りを包み込む。
「やったか.....?」
雁夜はのそんな疑問は、天上に現れた聖杯の存在によって答えられた。
聖杯はその禍々しい身体から、先ほどのとは比べ物にならない量の泥を放出する。
「はは...こいつは俺の手には負える筈がない...」
眼前に迫る泥に雁夜はそう呟くと、残された魔力を全て使用して、自身の身体に炎のルーンを刻み、意識のシンクロを解いた。
第七十四話です。
雁夜は、橙子と雁夜が聖杯戦争のために用意した二体目の人形に聖杯戦争中ずっと意識をシンクロさせていました。(一体目使用時は違いますが。)
次回最終回、二体目の雁夜人形についての解説が入ります。(何故直死が使えたかなどの説明です。)
今日も駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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第七十五話
聖杯が放出した泥が眼前に迫り、その場に残るのは危険だと判断した雁夜が、聖杯戦争中ほぼ終始意識をシンクロさせていた第二の人形に炎のルーンを刻み、意識のシンクロを解いた直後。雁夜は橙子の魔術工房で目を覚ました。
「終わったみたいだね。」
雁夜が目覚めたのを確認した橙子は話しかける。
久しぶりに自分の本体に意識を戻した雁夜は、身体の一部一部の感覚を確認しながら答える。
「はい。結末は決して良いものではありませんでしたが。」
「まさか...お前が負けたのか⁉︎」
雁夜の返答に橙子は驚きを隠せず、声調に乱れを生じさせながら尋ねる。
「いえ、そういう事ではありませんよ。」
「ただ...冬木が壊滅的な状況になってしまいまして。」
雁夜は橙子にそう告げると、続ける。
「本来は『無色の願望機』であるはずの聖杯が何らかの力に汚染されたので、時計塔のロード=エルメロイと破壊を試みたのですが....」
「火力が足りなかったのか。」
橙子がそう言うと、雁夜も頷き、続ける。
「はい。ロード=エルメロイのセイバーの対城宝具エクスカリバーを持ってしても破壊し切る事が出来きませんでした。」
「で、どうなったのかね?」
橙子は続きを求める。
「汚染された聖杯は冬木の地に現界し、辺り一体に泥を巻き散らかしました。」
「その結果、冬木では街規模の大火災が発生しています。」
橙子の問いかけに雁夜は冬木の状況を説明する。
「そうか...」
橙子はそう呟くと、口調を変え、言う。
「だが幸い、お前は人形だったから無傷....私のお陰だな。」
橙子はそう言うと笑う。
「はい。本当に。」
雁夜は熟知していた。橙子の手助け無しでは自分に何が起きていたかわからないということを。
時は聖杯戦争前まで遡る。
雁夜が冬木に向けて出発する直前、橙子は完成したにたいの人形を雁夜に見せていた。
「どうだ?上手くできてるだろう?」
橙子はふざけ半分な口調で尋ねる。
「はい。本当に俺にそっくりです。」
雁夜が同意すると橙子は続ける。
「まあ冗談はさておき、こいつはただ一点を除けばお前と全く同一の存在だ。」
「その一点とは?」
雁夜は尋ねる。
「『直死の魔眼』は再現する事が出来なかったからな、代わりに浄眼が入っている。」
橙子が答えると、雁夜は再び尋ねる。
「何故浄眼なのですか?」
「前に『直死の魔眼』は眼と死を理解した脳の組み合わせだと話した事があったよな。」
「浄眼こそがその眼なんだ。」
橙子が説明すると、雁夜は納得し言う。
「成る程...つまり俺が死を理解した意識を持ったまま人形と意識をシンクロさせれば、魔眼はその効果を発揮するということですね!」
雁夜の考察に、橙子は頷くと言う。
「ああ。これを使えばお前は死ぬことはないだろう。」
「だが...気をつけて戦えよ。」
あれから一ヶ月の時が経った。
俺は彷徨海に第四次聖杯戦争についての資料を提出。師匠とロード=エルメロイと共に聖杯に起きた異常について調査・研究を進めている。
聖杯戦争に参加したマスター達は、キャスターのマスターであった雨生龍之介以外全員生存していて、言峰綺礼と衛宮切嗣を含む冬木に残ったマスター達にはたまに会う。
まあともあれ、俺の聖杯戦争はこれで終わった。
完。
第七十五話です。
遂に終わりました。
良い終わり方が思いつかずに無理矢理ですみません。
今まで駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
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おまけ
やっぱりこっちの設定のが好きです
凛との再会
聖杯戦争が終わって約一ヶ月経ったある日、間桐邸の整理をすべく冬木を訪れていた雁夜は、何やら聞き覚えのある声で呼び止められる。
「雁夜さん!!!」
雁夜を見つけたのがよほど嬉しかっ他のであろうその声の主、遠坂凛は雁夜のそばへと駆け寄ってくる。
「凛ちゃん、お久しぶり。」
そんな凛に対し、雁夜は穏やかでかつ落ち着いた口調で話しかける。
「お久しぶりです!」
やはり凛は嬉しそうだ。無理もない、自身の命を救ってくれた人に再会できたのだから。
しかし、この時、雁夜は思い出してしまった。凛との約束を。
…やばっ、まじかぁ。
雁夜が心中でそう呟いたのを知ってか否か、凛は雁夜に尋ねる。
「雁夜さん!以前仰っていた、容量が良くなる方法、伺っても良いですか?」
…この子は鋭いなぁ
雁夜はそう思いつつ、考える。そう、以前この話をしたとき、自身は海外にいた時は魔術に触れていない設定だったはず。いきなり脳機能を魔術で強化したなどと言って良いものなのだろうか。
…いや、本当のことを言っても良いだろう。
結局、そう考えるに至った雁夜は自身がどんな魔術を研究しているのかや、彷徨海で講師をしていることなどを、凛にもわかりやすく説明する。もちろん、橙子や直死の魔眼については伏せているが。
雁夜の話を聞いた凛は感激したのか、目を輝かせながら雁夜に問う。
「雁夜さん!私には魔術を教えてくれませんか?」
…そうくるか。
雁夜はそう思いつつも、想定外ではなかったため、あらかじめ考えておいてあった返答をする。
「うーん、そうしてあげたいんだけど、おじさんは彷徨海で仕事があるから、日本にいられる時間があまりないんだ…」
しかし、これが凛のやる気に火をつけてしまったようだ。
「じゃあ、私が将来、彷徨海に行ったら魔術を教えてくれますか⁉︎」
…またこの子は…
雁夜は思う。いや、凛の才能なら可能だろう。しかし、彷徨海は肉体改造を基調としている以上、凛にはあまり向かないだろう。
「凛ちゃんは、魔術の方向性からして、時計塔の方が良いかな?
…時計塔の一級講師に知り合いがいるから、紹介してあげるよ!」
「本当ですか!!!
でも、彷徨海にも行きますね!」
嬉々として凛は答える。
「ははっ…その時はよろしくね。」
雁夜は微笑みながら答える。数年後に凛が時計塔から彷徨海への留学をして、それが実現するとも知らずに。
・矛盾螺旋(戦闘シーンだけ)
(式は雁夜の弟子という設定です。)
「私を止められると……思っているのか?」
荒耶は問う。
無理もない。眼前の男、蒼崎雁夜が強力であることは疑う余地のない事実であろう。能力がどのようなものであるのかはわからないが、雁夜が非常に美しく、かつ繊細であり、芸術的とも言える殺意を発していることからその事実は明白極まりない。それでもここは自身の根城である魔術工房。荒耶の場所的アドヴァンテージは計り知れない。もちろん、蒼崎雁夜もその事実を十分すぎるほどに認識しているだろう。
しかし、雁夜は迷わず、荒耶をまっすぐに見て答える。
「…あぁ。危機に瀕した弟子を助けるのは師の務めだからな。」
そう言うと雁夜は、自身の魔眼封じを外し、魔術礼装である日本刀を構える。
「…貴様もその魔眼を持つか…」
雁夜が直死の魔眼を持っていることを認識した荒耶は、驚きを隠せない。
「あぁ、そうだとも…!!!」
そう言うと同時に雁夜は、蟲の軍勢を荒耶に向かい飛ばす。しかし、大量の蟲達は荒耶の空間圧縮によっていとも簡単に潰される。
だが、これは雁夜の計画通り。雁夜は魔術で全身の筋力を強化すると、荒耶に接近する。
速いッ…!!!
雁夜のスピードに荒耶は驚く。おそらく雁夜の身体能力の高さは、自身や死徒、そして聖堂教会の代行者すらをも上回るとだろう。そんなことを考えているうちに、あっと言う間に距離を詰められてしまう。
「粛」
荒耶は、雁夜の攻撃を止め、再び距離を取るべく空間圧縮を再び行うが、それが発動した時には既に自身の三重結界の内の一つが「殺された」ていた。
…奴に私の結界を全て破壊されるのも時間の問題であろう。ならば肉弾戦で倒すしかない…
幸い、自身の左手には両儀式対策の仏舎利を埋め込んである。ゆえに簡単に「殺される」ことはないだろう。
そこまで考えると、荒耶は肉弾戦を行うべく構えを取った。
荒耶の一連の動きを見た雁夜は、再び荒耶に一撃を加えるべく踏み出す。もともと、非常に高い身体能力を魔術でさらに強化している雁夜は、瞬く間に荒耶の眼前にまで移動し、荒耶に斬撃を加える。
しかし、荒耶もただ黙って攻撃を受けるわけではない。現に荒耶は、雁夜の斬撃を左手で防ぎ、右腕で雁夜に打撃を加えようとする。
荒耶の高い身体能力を持ってして繰り出されたその一撃は、恐るべき威力を持っているのだろう。しかし、その一撃が雁夜に届くことはなかった。というのも、先程よりもさらに筋力を強化した雁夜が、その右腕を切り落としたからだ。
「グッ…」
荒耶は一瞬ではあるものの、怯む。雁夜はその隙を逃さず、荒耶の鳩尾に強烈な蹴りを入れる。
…重い
雁夜の蹴りを受けて荒耶は思う。自身も魔術で身体を強化しているものの、あの威力の攻撃を何発も受ければ、もたないだろう。しかも、雁夜には直死の魔眼がある。
私には勝てない…
…今回も『 』には至れないか…
そう悟ったときには、雁夜が眼前で魔術礼装である日本刀を荒耶に振り下ろしていた。
駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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