この素晴らしい世界に舞い降りた超能力者 (Freedom Sirou)
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ep.1 僕は…鉄雄
何もない空間で鉄雄は何を思うのか?
あの日…ネオ東京崩壊を引き起こした超能力少年鉄雄の物語。
僕は……鉄雄……
いや……俺だったっけ?……
そもそも自分は本当に鉄雄なのか?……
いや……そんなこと今ではどうでもいいことだ。
何もない黒い空間で一人ぼっちになってから一体何年経ったのかもわからない。体は動かず、喋ることもできない。まるで宙に浮いているかのような感覚がしている。そもそも体がちゃんとあるのかすら暗くてわからねぇけど。
辛うじて頭を使って何かを考えるくらいのことはできるが、それでも今の状態じゃあ何の意味も持たない。
今じゃあんときのように力は使えねーし、話し相手もいねぇ。
でも……あの日の出来事だけは忘れることができず、こんな状況下でも何故か頭から離れないでいた。
………彼奴らは今どうしてるんだろう?
もう俺のことなんて忘れてんだろうけど。元気してんのかなぁ。
………このことを考えるのはやめておこう。気が滅入る。
俺が力に目覚めたことで、町は崩壊したんだろうから、彼奴らもどうせ俺を恨んで街を出たに決まってる。
………何でこんなことになっちまったんだろう。
俺があいつに嫉妬してたせいか?それとも俺があの軍にいたガキと接触したからか?それとも俺が力をむやみやたらに使ったからか?
………いや違う……全部だ。全部俺のせいだ。
俺が勝手にムカついて、勝手にぶつかって、勝手に無茶苦茶やらかして、勝手にいろいろ苦しんで、全部俺が勝手に…勝手に。
………俺の勝手で色んな奴を苦しめた。
謝って許されることじゃないことぐらいわかってる。多分そうしたことで何かが良くなることも、彼奴が許してくれるはずもない。
俺ができる罪滅ぼしはこの空間で永遠と死ぬまで自分の愚かさを罵倒し続けるくらいしかないんだ。
………そう……….それしか………
………でも、できれば………
もう一回彼奴とあいたかったな………もう一度彼奴と馬鹿騒ぎしてバイクを乗り回したかったな………そしてできるなら………
アイツに……金田に言ってやりたかったな……
………「ごめん」って………
ん?何だこの感覚?
今までの浮いた感覚とは違う、まるで掃除機に吸い込まれていくようなそんな感覚が俺を襲った。
それと同時にまた別に不思議と感じたことがあった。
時が戻っている。
実際に目で確認しているわけじゃない。ただただそう感じるんだ。
何だこれ?!俺の中で何がおこってるんだ?!
その感覚はどんどん強くなっている。まるで俺の全てを覆い隠すかのごとくとどまることを知らない。
すると突然目の前に星くらいの小さな光が現れた。
その光は俺の感覚が強まっていくと共にどんどん大きくなっていく。どんどんどん大きくなっていって、俺よりも大きくなっている。
俺は気づいた。光が大きくなっているんじゃない。俺がでかい光に近づいている、いや「吸い込まれている」ことに。
まるで、あの時のように………
「うわぁーーー!…………………あれ?」
そして俺はその光に飲み込まれると同時に前みたいに喋ることができることに気づいた。自分の手を見て、体がちゃんと動くかを確認する…………動かせる!久しぶりに感じる地に足ついた感覚。俺は一瞬困惑したが、それと同時に泣きそうになるくらいの安心感と嬉しさが俺を包み込んだ。
「……よかった……よかったぁ〜〜ッ!」
俺はその感覚を噛みしめながらその場に泣き崩れた。
俺はその後一度落ち着いて周りを見渡すと、さっきまでいた暗い空間とは違う場所にいた。
周りは暗く先が見えないが、上から差している謎の光のおかげで自分がモノクロの床の上にいることがわかった。さらに目の前にはまるで昔の貴族の王様が座るようなデカイ椅子が一つあった。
俺は椅子にそっと近づき触れてみる。少し冷たい感触が俺の心を揺さぶる。
そして俺は椅子にドサッと座り込んだ。
……なんかあの時みたいだ……
俺はまた昔のことを思い出した。あの日、俺は今みたいに椅子に座って王様気分になっていたっけなぁ……今では忌まわしい思い出だ。
俺は椅子にもたれかかると、突然の疲労感に襲われた。
だんだんと…意識が遠のいて…………………
ep.1 終わり
次回「ep.2 俺の進む道」
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