魔法科高校の劣等生 達也×リーナ (エリュトロン)
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風間達也

第一高校一科生B組

トーラス・シルバー

戦略級魔法師 大黒竜也 准尉

分解

再成

精霊の眼

フラッシュ・キャスト

古式魔法

忍術

大陸古式魔法

オリジナルの魔法

分解や再成の応用魔法

分解再成複合魔法「生殺与奪(オーバーホール)

戦略級魔法「質量爆散(マテリアル・バースト)

6歳の頃に、四葉から危険と判断され、処分されそうになり、脱走する。その後、風間に拾われて、養子になる。12歳の時に沖縄防衛戦に参加。その一年後、佐渡侵攻事件でも大隊のメンバーとして参戦。九島烈に、魔法を教わり、魔法力は一科生で上から数えた方が早いレベルにまで成長する。四葉家にいた頃は訓練の時以外は離れの一室に監禁されていたも同然だったため深雪のことも知らなかった。沖縄で初めて会ったのに自分の兄だと言い張る変な子という認識。

 

司波深雪

第一高校一科生A組

原作通り 沖縄大戦で達也の存在を母から知らされて、達也を兄として慕う。達也を四葉に連れ戻そうとしている。リーナとの関係を知らない。リーナが達也といると魔法は勝手に発動しないがかなり嫉妬している。

 

桜井水波

第一高校一科生A組

深雪のガーディアンで深雪と同い年。

 

四葉真夜

四葉にいた頃よりも成長している達也を四葉に戻したいと思っている人物。達也が戻ってくることは彼女の中では決定事項であり、達也を次期当主候補に入れている。

 

九島アンジェリーナ

第一高校一科生A組

達也の婚約者。達也の四葉追放の前に日本に帰化した。最初は達也のことを警戒していたが、今は達也に惚れていて婚約できたことにしばらく浮き足立っていた。結構ポンコツ。達也と一緒に住んでいる(書類上は隣の住所)。戦略級魔法は持っていない。

 

その他改変部分

・沖縄防衛戦は、2091年8月に勃発し、達也の初陣となる。その翌年、佐渡進行事件が起こり、一条とともに数多の敵兵を屠る。

・トーラス・シルバーは独立魔装大隊の基地内部に専用の施設がある。

・独立魔装大隊は表向きでは十師族から独立した魔法戦力を備えることを目的としているが、実際の目的は達也に魔法戦闘の技術を学んでもらうために佐伯が作り上げた部隊。2091年の防衛戦後を設立。

・達也とリーナの関係を知っている有力な家は一条、九島、十文字の三つだけでそれ以外には公開はしていない。軍内部で知っているのは独立魔装大隊のメンバー全員と佐伯だけである。あと数名ほど個人的に知っている人物がいる。

・達也の魔法を知っているのは一条親子と四葉家と九島家と独立魔装大隊と九重八雲くらいで後は知らない。

 




取り敢えず、こんな感じでして行きたいと思います。後々設定を増やすかも知れませんがご了承を。


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入学編I

魔法。

それが伝説や御伽噺の産物ではなく、存在が確認され、現実の技術となってから1世紀が経とうとしていた。

 

 

2095年 4月 入学式の朝

 

達也は料理を完成させ、テーブルに置くといつまでも起きてこない同居人に少し呆れていた。

 

「さて、リーナを起こすとするか」

 

リーナの部屋の前に立ち、ドアをノックして返事を待つが、いつまでも反応はない。

 

「リーナ、朝だぞ。早く起きろ!」

 

「うぅん おはよ…タツヤ」

 

瞼をこすりながら、起き上がるリーナ。

 

「やっと起きたな。早く着替えて下に行くぞ。料理が冷めてしまう」

 

「わかったわ。すぐに行くわ」

 

そうやり取りをして、達也はリビングに戻っていった。しばらくしてリーナが降りてきた。

 

「どう? 変じゃない?」

 

と制服を見せて、不安げに聞いてくる。

 

「変じゃないさ。とても似合ってるよ」

 

達也がそう言うとリーナは嬉しそうに笑った。

 

「そう? ありがと。じゃあ早く朝食にしよ?」

 

座ってすぐに食べようとするリーナ

 

「俺は待たされている方なのだが?」

 

苦笑いしつつ、達也も食べ始める。

 

食べ終えて、後片付けをし終えると丁度良い時間になり、達也とリーナは学校へと向かい始める。

 

 

国立魔法大学付属第一高校

 

学校に着き、講堂へと向かっていると掲示板の前で困ってる男子生徒を見つけた。

 

「どうした? 道がわからないのか?」

 

「んぁ? あぁ端末を忘れてきて場所がわからなくてよ」

 

「じゃあ一緒に行くか? 目的地は一緒だからな」

 

「良いのか?じゃあ、お言葉に甘えて、そうだ自己紹介がまだだったな。俺は西城レオンハルトだ。レオって呼んでくれ」

 

「俺は風間達也だ。俺のことも達也で良いぞ」

 

「ワタシは九島アンジェリーナよ。リーナって呼んでね」

 

「OK、達也にリーナさん。よろしくな」

 

「あぁ、こちらこそよろしく頼む」

 

 

講堂

 

「これは…」

 

講堂に入り、まず目に入ったのは、一科が前に二科が後ろに別れて座っているところだった。

 

「入学して間もないのに何故こうも差別意識が芽生えているだろうな」

 

「達也、どこに座るんだ?」

 

「後ろで良いのではないか? 友人同士なのに態々離れて座る意味もないしな」

 

「それもそうだな、あっ、あそこの席が空いてるぜ」

 

達也たちは最後尾でリーナ 達也 レオの順で座った。

 

「まだ式まで時間があるな」

 

「あの、お隣は空いていますか?」

 

リーナは達也の方を見る。達也もそれが何を意味するかを察して、頷いた。

 

「えぇ、空いてるわ。どうぞ」

 

「ありがとうございます。ここ空いてるって」

 

と彼女が言うと4人の女子生徒がこっちに来て座った。

 

(なるほど全員で座れる場所を探していたわけか。)

 

「あの…私、柴田美月っていいます。よろしくお願いします」

 

「風間達也です。こちらこそよろしく」

 

「九島アンジェリーナよ。よろしくね」

 

「あたしは千葉エリカ。よろしくね、風間くん、九島さん」

 

(数字付きか?だか、あの千葉家に「エリカ」という名前の娘はいなかったはずだが?まぁ傍系の可能性もあるが…)

 

達也がそう考えているうちに残りの二人も自己紹介を終えていた。

 

「ところでなんで風間くんとリーナはこっちに座ってるの?」

 

唐突にエリカが理由を聞いてきた

 

「席は自由なんだろ? それにさっき知り合った友人と一緒に座っただけだ」

 

「そうね、達也の言う通りね。それにワタシたちは同じ新入生なんだから、仲良くしましょ」

 

「そうなんだ…、風間くんもリーナもほかの一科生とは違うんだね。ほかは二科ってだけで見下してくるいけ好かない奴らばっかりだったし」

 

「まぁそんなのは、気にするな。あぁそうだ、忘れていた。こっちが…」

 

と達也がレオの紹介をしようとそっちを向くとレオはぐっすりと眠っていた。

 

「って、いつのまに寝ていたんだ? おい、レオ。起きて自己紹介をしたらどうだ?」

 

ガタンと音を立てて落ちそうになりながら、レオは目を覚ました。

 

「イテテ、達也なんだ? もう終わったのか?」

 

どうやら式の最中は寝て過ごす気だったらしい

 

「ん、達也。そいつら誰?」

 

「うわっ、いきなりそいつら呼ばわり? 失礼なヤツ! モテない男はこれだから」

 

「なっ、失礼なのはテメーだろうがよ! 少しくらいツラが良いからって、調子こいてんじゃねーぞっ!」

 

「ルックスは大事なのよ? だらしなさとワイルドを取り違えているむさ男にはわからないかもしれないけど。」

 

「なっ、なっ…」

 

「エリカちゃん、もうやめて。少し言い過ぎよ」

 

「レオも、そこまでにしておけ、もうすぐ入学式も始まる。二人とも静かにしておけ」

 

「…美月がそう言うなら」

 

「…わかったぜ」

 

案外、似た者同士で気が合うのかもしれんな、と達也は思った。

 

 

「風間くんとリーナは何組?」

 

「俺はB組だ」

 

「ワタシはA組ね…」

 

と達也はいつも通りに、リーナは少し残念そうに答えた。

 

「やっぱり一科と二科は別のクラスか…」

 

「ちなみに俺はE組だったぜ」

 

「あんたには聞いてないし」

 

「なんだと!」

 

達也はよくこんな些細なことで喧嘩ができるなと呆れていた。

 

「まぁそこまでにしておけ、それにクラスが違っても休み時間や放課後は一緒にいることができるだろ?」

 

「それもそうね」

 

エリカは取り敢えず大人しくなり、達也の言葉に返答した。レオはまだ不服そうだったが…

 

「そうだ風間くんたちは今から暇?」

 

「あぁ特に用事はないがそれがどうした?」

 

「せっかく知り合ったんだし、一緒にお茶でもどうかなって思ったんだけど…」

 

「いいわね。タツヤ昼食はそこでとりましょ」

 

「それもいいかもな。なら俺たちも一緒に行かせてもらおう」

 

「そうこなくっちゃ! 美味しいケーキ屋さんがあるらしいんだ」

 

と5人は講堂を出て、ケーキ屋に向かおうとしていた。その時

 

「お兄様!」

 

とこちらに向かってきた。

 

「何度も言っているが、司波さん。俺は君の兄ではない。赤の他人だ」

 

と達也は振り返りながら答えた。

 

「いいえ、あなたは私の兄ですよお兄様。もう一度私たちの元に帰ってきてはいただけませんか?」

 

「何度も言わせないでくれ。俺は風間で貴女は司波だ。俺は司波ではないし、貴女も風間ではない。それに俺には司波という知り合いもいないし、君の所にいた事もないし、今は帰るべき場所がある。そこを勘違いしないでくれ。」

 

「すまない待たせたな。じゃあ行こうか」

 

と達也は深雪に背を向けて進み始めた。

 

「達也、彼女とはどんな関係だ?」

 

「沖縄で出会った赤の他人だな」

 

達也は冷たく言い放った。

 

「でもよ、それだけであそこまで執着されるか?」

 

「それは俺にもわからん。だが、俺の家族は義父だけだし、知り合いにも司波という名前の人はいないはずだ」

 

「ところでさ、風間くん。」

 

「どうした?」

 

と達也は訝しげに聞き返す。

 

「風間くんのお父さんって、もしかしてあの大天狗?」

 

「義父を知っているのか?」

 

「まあね。あの有名な大天狗なら軍に関わりのあるものなら知ってるよ」

 

「流石は『千葉』だな」

 

と二人はニヤリと笑いながら話していた。

 

「へ〜、親父さんがそんなに凄い軍人なら達也も軍人志望か?」

 

「いいや、俺は魔工師志望だ」

 

「なーる… 達也、頭良さそうだもんな」

 

「風間さんも魔工師志望何ですか? 私も何です」

 

「そうなのか? じゃあ共に頑張ろうな」

 

とみんなで話しているうちにケーキ屋に着いた。

 

その後、少なくない時間話をし続けて、夕方に帰路に着いた。

 

 

風間家 夜

 

「あの子、やっぱりタツヤに接触してきたわね」

 

「何故だろうな。俺は以前に彼女に出会った記憶はないし、沖縄で始めて会っただけの他人に何故あそこまで執着するのか甚だ疑問だ。まぁいい、考えたって仕方がない。関わりを持たなければいいだけの話だ」

 

「えぇそうね、それがいいわ。でも、達也はトラブルに愛されてるからそれは無理かもしれないわね」

 

「勘弁してくれ…」

 

達也は苦笑い気味に答えた。

 

「明日も早い。今日はもう寝ようか」

 

と達也は立ち上がりながら言った。

 

「おやすみ、リーナ」

 

「えぇおやすみ、タツヤ」

 

 

司波家

 

『やはり達也さんは否定しましたか…』

 

「はい、私としてはお兄様に一刻も早く帰ってきて欲しいのですが…」

 

『本人にその気はないという事でしょうね…(しかし、おかしいわね… 達也さんには妹に対する感情しかないはず… なのに何故、深雪さんの言葉に耳を傾けないのでしょう…)』

 

達也はそもそも深雪とは会ったこともない。それなのに妹と認識するのは無理があるだろう。

 

「はい… というよりも自分が四葉の血縁者であることすら知らないという節が見えます」

 

『あの子を隔離していた上、ガーディアンとして育てていたからそうなったのかしら… まぁいいわ。深雪さん引き続き、達也さんに帰ってきてもらうように説得を頼むわよ。あの子も四葉の血筋です。必ず帰って来るわよ』

 

真夜の中では達也が戻ってくることが決定事項であり、成長した達也を次期当主候補に入れるほどだ。

 

「はい、わかりました。叔母さま」

 

通話を終え、深雪は一息ついてから考えた。

 

達也をどうやって説得し、帰ってきてもらうか。考えていると気が滅入りそうになる。深雪としては帰ってきてほしいが、四葉が達也にしてきた事を考えるとそれはかなり難しい。深雪はリーナが羨ましい。もしリーナがいなければ自分があそこにいたかもしれないのに…

 

「深雪様、紅茶が入りました」

 

「えぇ、水波ちゃんすぐに行くわ」

 

(これ以上は止そう…)

 

深雪はすぐに切り替えて水波が待つリビングに向かった。

 

 




誤字、脱字がある場合コメントにてお知らせください。質問も受け付けます。悪口や文句は控えてください。


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入学編II

風間家の朝は早い。達也は5時半には目を覚まし、朝食の下準備をしていた。それを30分で済まし、6時に家を出た。もちろん学校に行くためではなく、修行に行くためだ。

 

九重寺

 

達也の修行場所である九重寺は達也の家からすぐに着くところにある。だから学校に遅刻したりする心配はない。

 

達也は山門をくぐるなり、手荒い出迎えを受けていた。

 

 

「いやぁ20人の総掛かりを易々とクリアできるとはねぇ。彼らも一応は中級レベルなのに。もう少しレベルを上げるべきかな。達也くん、やっぱり僕の後を継ぐ気はないかい?」

 

達也が全員を倒し終えたところで彼の師匠である九重八雲が後ろから現れた。

 

「いえ、俺もギリギリでしたよ。冗談を言っていないで、早く稽古をつけてください」

 

「冗談で言っているわけじゃないけどね。じゃあ、始めようか」

 

そう言った途端、二人は同時に動き出した。達也は体術のみで八雲は魔法と併用して互角に渡り合っていた。

 

対峙する二人を囲む人の輪ができており、見物人は例外なく手に汗を握っていた。

 

 

毎朝恒例の一騒動が終わり、境内は静けさを取り戻していた。

 

汗を流しながらもまだまだ表情に余裕の見られる八雲と土の上で大の字になって息を整える達也がいた。

 

「もう体術だけなら達也くんには敵わないかもしれないねぇ…」

 

「体術で互角なのに一方的にボコボコにされては喜べることではありませんが…」

 

「それは当然というものだよ、達也くん。僕は君の師匠で、さっきは僕の得意な土俵で組手をしていたのだから。まだ半人前の君に後れをとっては弟子に逃げられてしまうからね」

 

「それもそうですね。それはそうと忍術の方の修行はいつ伺えばよろしいでしょうか?」

 

「そうだね…、いつも通りの時間においでよ。そっちも鍛えてあげるから」

 

「はい、ではまた19時頃に伺います」

 

「うん、またおいで。あと達也くん、入学おめでとう。リーナくんにもよろしくね」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

 

 

学校に着き、達也たちは話しながらそれぞれの教室を目指していた。

 

「じゃあ、リーナ。俺はここだから。また後で一緒に授業を見学に行こうな」

 

「えぇそうね。また後でね」

 

というと達也はB組にリーナはA組に入っていった。

 

(さて、受講登録くらいはしておくか)

 

達也は端末にIDカードをセットし、インフォメーションのチェックを始めた。規則、イベント、案内、一学期のカリキュラムまで高速でスクロールしながら頭に叩き込み、キーボードオンリーで受講登録を一気に打ち込んだ。視線を感じてそっちに目を向けると手元を覗き込んでいる男子生徒と目が合った。

 

「あ、ごめんね。キーボードオンリーで入力する人を見るのが初めてで、珍しくてつい見てしまっていたよ」

 

「別に構わない。慣れればこっちの方が速いんだな」

 

「そうなんだね。あっ僕は十三束鋼。鋼って呼んでよ」

 

「俺は風間達也だ。達也で良い。よろしくな鋼」

 

「よろしくね、達也」

 

「まさか、あの射程距離(レンジ)ゼロと一緒の教室で学べるとは思っても見なかったよ」

 

「遠距離はあまり得意ではないんだ」

 

と鋼は目を伏せながらそう言った。

 

「自分の欠点とも言える特性を最大限に生かし、自分にとっての武器に変えた。その努力を俺は尊敬するよ。普通なら諦めるようなことをお前は成し遂げた。その結果が射程距離ゼロだ。そのことを誇っても良いと俺は思うぞ」

 

と達也が言い終えると鋼は驚いたように顔を上げてすぐに微笑んだ。

 

「ありがとう。そこまで褒められると少しくすぐったいな」

 

 

 

「オリエンテーションも終わったし、達也はどこの見学に行くの?」

 

「俺は工房かな」

 

「へぇ僕も工房に行く予定なんだ。一緒に行かないかい?」

 

「別に構わないが、闘技場じゃなくて良いのか?」

 

「そっちも後で行くよ」

 

と二人で話していると突然後ろから話しかけられた。

 

「ねぇ私も一緒に行っても良いかな?」

 

二人が振り向くと小柄な赤毛の少女がこっちを見ていた。

 

「良いよ。ところで君は?」

 

「私、明智英美。エイミィって呼んでね」

 

と彼女はニコって感じよりもにぱって感じて笑った。

 

「俺は風間達也だ。よろしくエイミィ」

 

「僕は十三束鋼。よろしくね明智さん」

 

「エイミィ」

 

「えっ」

 

「エイミィって呼んでって言ったじゃない」

 

「明智さんじゃダメかな」

 

「ちゃんとエイミィって呼んでよ」

 

「でも…」

 

と鋼は達也の方を見た

 

「呼んでやれば良いんじゃないか? 俺は先に行くからな。待ち合わせもあるし、早く行かないと時間がなくなるからな」

 

と達也は一人先に行こうとしていた

 

「あ、待ってよ、達也。明智さんこの話はまた今度しよう」

 

「うん、わかった。でも絶対に呼んでもらうからね」

 

と二人は達也を追いかけていった

 

 

 

「あっいたいた。おーい風間くん」

 

達也は呼ばれた方向を見るとエリカが手を振っていた

 

「みんなもこっちに来たのか。柴田さんは聞いていたからわかっていたが、レオと千葉さんは意外だったな」

 

「あぁ自分で使う武器の調整くらいは自分でできるようになっておきたくてよ」

 

「あたしは美月の付き添い」

 

「なるほどな、あぁ紹介が遅れたな。こっちがクラスメイトの十三束鋼と明智英美だ」

 

「あたしは千葉エリカ。よろしくね。十三束くん、明智さん」

 

「俺は西城レオンハルト。レオって呼んでくれ。よろしくな。十三束、明智さん」

 

「私は柴田美月と言います。よろしくお願いしますね。十三束さん、明智さん」

 

「僕は十三束鋼。僕も鋼で良いよ。よろしくね。千葉さん、レオ、柴田さん」

 

「私、明智英美。エイミィって呼んでね。よろしくね。千葉さん、西城くん、柴田さん」

 

と五人が自己紹介をしていると

 

「ハーイ、タツヤ。とても楽しそうね」

 

後ろからリーナが話しかけてきた。

 

「やぁ、リーナ。ホームルームは終わったのか?」

 

「えぇ、終わったわ。でもクラスメイトとは仲良くなれそうにないわね」

 

「何故だ?」

 

社交的なリーナにしては珍しい言いようだった

 

「だって高々テストの成績が良くて一科になっただけなのに自分が選ばれた存在であると信じて疑わない考え方なのよ。ほんとうんざりするわ。なんでワタシはタツヤと一緒のクラスじゃなかったんだろ」

 

「授業中は無理でも休み時間の間は出来るだけ一緒にいよう。それで我慢してくれ」

 

達也が頭を撫でながら言うと、えぇ、とリーナは嬉しそうに笑って頷いた。

 

 

 

第一幕は食堂で起こった。

 

食堂で達也たちは昼食をとっていると九島さんという声が聞こえたのでそっちを向くとA組の面子が集まっていた。

 

「九島さん、そこじゃあ狭いだろうからこっちで一緒に食べようよ」

 

と一番前にいた男子生徒がリーナに対して言った。

 

「いいえ、大丈夫よ。こっちはこっちで食べるからそっちはそっちで食べてちょうだい」

 

とリーナが言うとリーナとの相席を狙っていた男子生徒たちは二科との相席は相応しくないだの一科と二科のけじめだの食べ終えていたレオに席を空けろと言い出す始末。

 

「黙って聞いていれば…」

 

と爆発するレオを達也は手で制しながら、

 

「リーナの意思は関係なしなのか」

 

と達也がA組の面子に言い放つと

 

「ふん、九島さんも実際は僕たちといた方がいいと思っているに決まっている。お前がいるから気を使って言わないだけだ」

 

「ほう、じゃあリーナに聞いてみようかどっちと一緒にいたいかを」

 

と達也が言うや否や

 

「タツヤたちと一緒にいたいに決まっているわ」

 

「だ、そうだ。お引き取り願おうか。これ以上、無駄な時間を過ごしたくないんでな。それに少し周りを見てみろ」

 

と言われてA組は周りを見ると一科生も二科生も迷惑そうにA組を見ていた。A組たちは悔しそうに去っていった。

 

「ねぇ見た? あの一科生たちの顔。ほんと傑作だったわ」

 

「お前と意見が合うのは気に食わんが、傑作だったのは同感だぜ」

 

とエリカとレオは笑いながら話していた。

 

「どうしたの、タツヤ」

 

「あぁこれだけで済むとは思えなくてな」

 

と達也が答える。

 

 

 

第二幕は午後の専門課程見学中の出来事だった。

 

通称「射撃場」と呼ばれる遠隔魔法用実習室では、3年A組の実技が行われていた。

 

実技では七草真由美も参加しており、彼女の実技を見ようと、大勢の新入生が射撃場に詰め掛けたが、見学できる人数は限られており、一科生に遠慮してしまう二科生が多い中、一科と二科が混ざった達也たちのグループが堂々と最前列を陣取って、悪目立ちしていた。

 

 

 

そして第三幕は現在進行形で起きていた。

 

達也たちが帰宅をしようとしていた時、招かれざる客がやってきた。

 

「九島さん、僕たちと一緒に帰ろうよ。司波さんが来るのを待ってさ。相談したいこともあるし」

 

A組の生徒がまたしても懲りずにやってきた。

 

「遠慮するわ。ワタシはタツヤたちと帰るから。そっちはそっちで帰ってちょうだい」

 

「九島さんは昼休みにいなかったしさ、僕たちA組と親睦を深めようよ。おいそっちはそっちで親睦でも深めてろよ。ブルームの恥知らず共とウィードでな」

 

と一番前に立った男子生徒が達也たちを挑発してきた。それをA組の面子は笑っていた。そしてそれに耐えれるほどの精神を二科の3人は持ってはいなかった。

 

「言わせておけば…」

 

「ブルームやウィードって私たちは同じ新入生じゃないですか。今の時点でブルームが…「美月、少し落ち着け」」

 

と美月が言ったところを達也は止めた。美月は達也に謝罪し、少し俯いた。

 

「お前ら、俺が昼に言ったことを忘れたのか?」

 

「なんのことだ」

 

「忘れたのか? じゃあもう一度言ってやろう。そこにリーナの意思は関係ないのか?」

 

「九島さんも僕たちと同じでウィードとは関わりたくないと思っているに決まっているだろう。お前がいるからそこにいるだけだ。本来は僕たちといた方が相応しいんだ」

 

「二科生を舐めると後悔するぞ」

 

「ふん、僕らがウィードなんかに負けるわけがないだろ」

 

「そうか、じゃあ話すことは何もないな。リーナ、どうする? 俺たちと帰るかそいつらと帰るか、選ぶといい」

 

「そんなの決まってるでしょ。ワタシはタツヤたちと一緒に帰るから」

 

「決まりだな。みんな帰ろうか」

 

達也たちはA組たちを無視してさっさと帰ろうとした。その時、一番前にいた男子生徒が逆上して、CADを取り出し、達也に対して魔法を放った。が、それは達也の体を通り抜けた。達也たちはゆっくりと振り返った。

 

「まさか、本当に魔法を使うとはな」

 

「うわっ、ここまで愚かだとは思わなかったわ」

 

達也とエリカが言った言葉にレオたちは頷いていた。

 

「うるさい。おい、お前、今のをどうやって避けた」

 

「他人の術式を聞くのはマナー違反だろ? それに当たっていたら良くて傷害罪、最悪の場合、殺人罪だったんだが?」

 

「うるさい、お前らに僕たちの力を思い知らせてやる」

 

そう言って彼がもう一度魔法を放とうした。が、エリカがCADを弾くことで魔法の発動は阻まれた。

 

「この距離なら魔法よりも体を動かした方が早いのよね」

 

「く、ウィード如きが」

 

「舐めないでよ」

 

頭に血がのぼっているのか、良し悪しも考えずに彼の周りの殆どの生徒が魔法を展開し始めた。

 

「みんなダメ」

 

と女子生徒がA組を落ち着かせようと起動式を展開し始めた時、全員の魔法が発動する前に全て一瞬で消え去った。

 

「えっ、どういう…」

 

「もう、その辺にしておけ。下手すれば停学に、最悪の場合だと退学になる場合もあるのだぞ。そもそも、これは犯罪行為だからな」

 

「うるさい、このウィードの肩を持つブルームの恥晒しが覚悟しろ」

 

そのまま、いつのまにか拾っていたCADを達也に対して向けて、起動式を展開し始めたところで突然、魔法が未発のまま霧散した。

 

「止めなさい! 自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、校則違反である以前に、犯罪行為ですよ!」

 

「風紀委員だ。1-Aと1-Bと1-Eの生徒だな。事情を聞く。着いて来い」

 

と生徒会長と風紀委員長が立っていた。そこにいる生徒全員が固まっていた。一人を除いては

 

「拒否します」

 

「ほう、何故だ?」

 

「自分たちは巻き込まれただけだからです。それに貴女方が出てきた理由は魔法の不適正使用でしょう? でしたら自分たちは自衛目的以外では使っていませんよ。それは貴女方は知っているでしょう」

 

達也は言外に見ていたのはわかっているからなと告げた。

 

「ふむ、それもそうだな。じゃあ1-Aの生徒、着いて来い」

 

と罰悪そうに答えた。

 

「待ってください。魔法ならそいつも使っていました。それなのに僕たちだけ連行されるのはおかしいのではないでしょうか」

 

「何をおかしなことを言う? 彼の使ったのは森崎、お前たちの魔法から自分たちの身を守るためだ。それは立派な自衛目的だと思うが? それに彼が防いでいなければ、お前は犯罪者になっていたんだぞ?」

 

「当たっていないんだからいいじゃないですか」

 

「はぁ…、たしかに当たってはいなかった。だが、お前は一科、二科以前に魔法を扱う資格すら持っていないな」

 

「どういうことですか」

 

「なら何故、()()()()()()()からいいと言えた? お前は当たっていたらという、もしもを考えていなかったのか? そんな甘い考え方をしている時点でお前には魔法を扱う資格などない。確かお前は風紀委員に教師枠で推薦があったな。残念だが、私の方から取り消させてもらうからな。それに差別を助長するような輩はウチにはいらん。では1-Aの生徒さっさと着いて来い」

 

顔面蒼白になった森崎と1-Aを連行しようとすると

 

「待ってください。そこの二人は攻撃の目的があったわけではありません。ですから連行するまではないと思いますよ」

 

「何故、そう思う」

 

「彼女が発動しようとしたのはただの閃光魔法でしたよ。それも後遺症の残るようなものではないため、ただの目くらまし程度にしかなりません」

 

「ほう、お前は展開された起動式が読めるのか?」

 

風紀委員長の言葉に周りの生徒は驚いた顔をしていた。

 

「実技よりも分析の方が得意ですので」

 

「おもしろいやつだな。君はなんて名前だ?」

 

「1-B 風間達也です」

 

「うむ、覚えておこう。そこの二人、帰ってもいいぞ。だが、今後はこのようなことが起こらないように気をつけるように」

 

と言って、生徒会長と風紀委員長は戻っていった。

 

「帰ろうか」

 

と達也は面倒なことになったと思いながらもみんなに声をかけた。達也たちの前に先ほどの女子生徒二名が立ち塞がった。

 

「何よ、まだ文句があるわけ?」

 

エリカが少し苛立ちながら、二人に声をかけた。

 

「光井ほのかって言います。先程はすみませんでした」

 

「お兄さんが庇ってくれなければ、私たちは連行されてた。本当にありがとう」

 

「別に構わないさ。それに彼らを止めようとしていたのだろ? それはいいとして何故、お兄さんなんだい?」

 

「司波さんがお兄様って言っていたから、てっきりそうなんだと」

 

「俺は司波さんとは何の関係もないよ。沖縄で偶々会っただけの知り合い程度でしかないはずなんだけどね」

 

と達也は困ったように言った。

 

「では何とお呼びすれば…」

 

「風間でも達也でも自由に呼んでくれて構わないよ」

 

「あの、よろしければ、駅までご一緒してもいいですか?」

 

達也たちに拒む理由はなかったし、拒める道理もなかった。

 

 

 

「ねぇ、達也くん」

 

エリカが「風間くん」から「達也くん」に変わっているのはほのかたちが良いなら私たちもいいでしょという一方的な宣言によるものだった。まぁそれはさておき

 

「なんだ?」

 

「さっきの一科生の魔法が通り抜けたり、一科生たちの魔法を消したりした魔法って何?」

 

術式解体(グラム・デモリッション)だよね、達也」

 

「ほう、知っているのか? 鋼」

 

「まぁね。一応、僕も使えるしね」

 

本当は術式解体ではなく術式解散(グラム・ディスパージョン)だったが、鋼の勘違いは達也にとって好都合だった。

 

「鋼、それってどんな魔法なんだ?」

 

周りを見れば、レオだけでなくみんな興味津々であった。

 

「簡単に言えば、サイオンの塊をイデアを経由せずに対象にぶつけて、起動式や魔法式を吹き飛ばす魔法だね。僕の場合は飛ばしてぶつけることができないから、接触型だけどね」

 

「へぇ、そんなことができるのか。達也も鋼もすごいんだな」

 

「その魔法はわかったけど、もう一つの方の魔法はなんなの?」

 

エリカは再度尋ねてきた。

 

「あの魔法は本来は門外不出の技術でね。教えることができないんだ。本当はあの場でも使う気は無かったんだ。念には念をってことで使えば、ああなったってわけだ」

 

「そうなんだ…、じゃあこれ以上は聞かない」

 

「そうしてくれると助かる」

 

「おっと、電車が来たみたいだ。俺とリーナはこれに乗って帰るよ。じゃあまた明日」

 

「じゃあね。みんなまた明日」

 

と言って達也とリーナは電車に乗って帰路に着いた。その後みんなもそれぞれ別々に帰っていった

 

 

 

「なぁ、真由美」

 

「どうしたの摩利?」

 

「達也くんを風紀委員に推薦してくれないか? あれだけの実力者を使わないわけにはいかないだろ」

 

「そうね、摩利。私も賛成よ。早速、明日、学校に来たら呼び出しちゃお」

 

達也のあずかり知らぬところで良からぬ事(達也にとって)が計画されていた。




誤字、脱字がある場合はコメントにてお知らせください。質問も受け付けます。悪口や文句は控えてください。


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入学編III

達也はリーナといつも通り、学校に行き、教室で鋼たちと話していると

 

『1-A 九島アンジェリーナ 1-B 風間達也は昼休みに生徒会室まで。繰り返す…』

 

という放送が流れてきた。

 

「は?」

 

と達也は珍しく戸惑った様子を見せていた。

 

「達也、何やらかしたの?」

 

「鋼…俺が何かすると思うか?」

 

「するかはともかく達也なら何かやっても証拠は残しそうにないね」

 

「お前は俺をなんだと思っているんだ…」

 

達也はため息混じりにそう呟いた。

 

「まぁ昨日のことで何か聞きたいことがあるんじゃない?」

 

「解決したはずだがな。何かあったのだろうか?」

 

「案外、風紀委員会への誘いだったりして。風間くんとても強かったし」

 

「それはあるかもしれないね」

 

とエイミィが言ったことに鋼は同意した。

 

「勘弁してくれ…」

 

達也は本気で頭痛を感じ始めた。

 

 

 

昼休みはすぐに訪れ、達也はリーナを迎えに行き、生徒会室へ行ってしまった。

 

「朝の放送って結局なんだったんだろ?」

 

エリカが全員疑問に思っている事を口に出した。

 

「達也のことだから何かして呼び出されたわけじゃないと思うよ。九島さんも一緒だし」

 

「風紀委員に推薦されているかもな」

 

とレオが笑いながら言うとそこにいる全員が納得したかのように頷いた。

 

 

 

「1-B 風間達也と1-A 九島アンジェリーナです」

 

達也とリーナは生徒会室の扉の前にいた。扉の鍵が開き、2人が入ると

 

「いらっしゃい。遠慮しないで入って」

 

正面、奥の机から声を掛けられた。

何がそんなに楽しいのだろう、と訊いてみたくなる笑顔で、真由美が手招きしている。

 

「どうぞ掛けて。お話は、お食事をしながらにしましょう」

 

長机の方を見ると司波深雪が座っていた。リーナは深雪の隣に座り、達也はリーナの隣に座った。その時、深雪は残念そうな顔をしていた。

 

「お肉とお魚と精進、どれがいいですか?」

 

自配機があるのみならず、メニューも複数あるようだ。

 

達也は精進を選び、リーナは肉を頼んだ。それを受け、二年生が、壁際に据え付けられた和箪笥ほどの大きさの機械を操作した。

あとは待つだけだ。

 

「入学式で紹介しましたけど、念の為、もう一度紹介しておきますね。私の隣が会計の市原鈴音、通称リンちゃん」

 

「…私のことをそう呼ぶのは会長だけです」

 

整ってはいるが顔の各パーツがきつめの印象で、背も高く手足も長い鈴音は、美少女というより美人と表現するのが相応しい容姿の女の子だ。

「リンちゃん」より「鈴音さん」の方がイメージに合っているだろう。

 

「その隣は知ってますよね?風紀委員長の渡辺摩利」

 

会話が成り立っていない、が、誰も気にした様子がないのはいつもの事、だからだろうか。

 

「それから書記の中条あずさ、通称あーちゃん」

 

「会長…お願いですから下級生の前で『あーちゃん』は止めてください。わたしにも立場というものがあるんです」

 

彼女は真由美よりも更に小柄な上に童顔で、本人はそのつもりがなくても上目遣いの潤んだ瞳は、拗ねて今にも泣き出しそうな子供に見える。

なるほど、これは「あーちゃん」だろう、と達也は思った。本人には、気の毒だが。

 

「リーナさんの隣は知っているでしょう。書記の司波深雪」

 

「もう一人、副会長のはんぞーくんを加えたメンバーが、今期の生徒会役員です」

 

この人はネーミングセンスがあれなんだろう。と達也は思い、同時に自分は命名されないようにしようと考えた。

 

「私は違うがな」

 

「そうね。摩利は別だけど。あっ、準備ができたそうです」

 

料理がトレーに乗って出てきた。

合計六つ。

一つ足りない…と思い、どうするのかと達也は見ていると摩利はおもむろに弁当箱を取り出した。

 

「そのお弁当は、渡辺先輩が作ったのですか」

 

とリーナは気になったのか聞くと

 

「そうだ…意外か?」

 

と少し意地の悪い口調で摩利は答えにくい質問を返した。リーナが返答に困っていると

 

「いえ、少しも」

 

と達也は摩利の手元、正確には指を見ながら答えた。

 

「ねぇタツヤ、ワタシたちも明日からお弁当にしない?」

 

「いいとは思うが、その弁当は誰が作るんだ?」

 

「もちろん、タツヤに決まっているでしょ」

 

達也の問いにさも当然のごとくリーナは答えた

 

「ワタシがそんなに早く起きれると思う?」

 

というリーナに達也は呆れていた。

 

「俺は朝から忙しいんだが?」

 

「大丈夫よ。タツヤなら何とか出来るわ」

 

少々過剰なリーナの期待に達也は困っていた。結局、説得して週に三回でリーナに納得してもらった。

 

「すみません。自分たちだけ盛り上がってしまって…」

 

と達也は置いてきぼりになった役員たちに謝った。

 

「…えぇ構いませんよ」

 

「ところで何故、俺とリーナが呼ばれたのでしょうか」

 

と達也は最初の疑問を真由美にぶつける。

 

「それは私から話そう。一つは君たちを風紀委員会に入れたくて、ここに呼んだ」

 

奇しくも朝に友人が言っていたことが事実になってしまった。

 

「もう一つは昨日、森崎のやつがいつまでたっても食い下がってくるから、お前はどうしてほしいかを聞いたところ達也くん、君と正式に模擬戦をして勝ったら停学と風紀委員会除名を取り消してほしいということだ」

 

「嫌ですよ。俺にメリットがないじゃないですか」

 

「だがな、あまりにもしつこくてな。私たちもお手上げだったわけだ」

 

なるほど、さっきリーナをクラスまで迎えに行った時に停学になったはずな奴がいた理由がわかった。

 

「仕方がありません。今回だけですからね」

 

「助かるよ。じゃあまた放課後に生徒会室まで来てくれ」

 

「わかりました」

 

そろそろ昼休みが終わりそうなので達也とリーナは急いで教室に戻っていった。

 

 

 

1-Bは今、実習授業を受けていた。今日の授業内容は入門編中の入門編として、機械の操作を習得することはだった。事実上はガイダンスといっても、課題は出ている。監督している教師はいるものの、課題は提出しなければならない。

 

「達也、生徒会室でどんなこと言われたの?」

 

達也がCADの順番待ちをしていると後ろから、鋼とエイミィが興味津々といった様子で尋ねてきた。

 

「主に二つだな。風紀委員入りと模擬戦をしろというな」

 

「なんで?」

 

「森崎が昨日、あの後、会長と委員長の二人に食い下がったらしくてな。埒があかず、俺との模擬戦を認めたってわけだ」

 

「風間くん、大変だね…」

 

「本当にな。何故こうなったんだろうな…」

 

達也は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

「おっと、俺の番だな。ちょっといってくるよ」

 

 

 

放課後、達也は重い足を引きずって、生徒会室へ来ていた。

 

「失礼します」

 

そこには昼にはいなかった顔が一人

 

「副会長の服部刑部です。九島アンジェリーナさん、風紀委員の仕事を頑張ってください」

 

副会長もほかの一科と変わらないのかとリーナは思い、文句を言おうとした。その時、誰かがドアをノックする音が聞こえたあと、生徒会室のドアが開いた

 

「失礼します。1-Aの森崎駿です」

 

「ん?君は停学になったと聞いていたが?どうしてここに?」

 

服部は疑問を覚えたのか森崎に尋ねる。

 

「会長たちに頼んでそこの一科の恥知らずと模擬戦をすることを許可してもらい、勝てば停学は取り消しにしてもらえます」

 

それを聞いて服部は目を見開いて真由美と摩利にに詰め寄る。

 

「会長、渡辺先輩。私はこの二人の模擬戦は反対です。たかが高校生が実戦を経験している魔法師に勝てるはずがありません。自信を無くすだけです」

 

「副会長、僕をそれだけ評価してくれるのは有り難いですが、少し持ち上げすぎではありませんか?」

 

「ん?お前は何を言っている?俺はお前ではそこにいる風間には勝てないと言っているだけだが」

 

とさも当然のような口ぶりで服部は森崎に言った。

 

「えっ、はんぞーくんって達也くんと知り合いだったの?」

 

「はい、去年に桐原に誘われて軍の訓練の見学に行った時に風間と出会いました」

 

と達也との出会いを簡単にまとめて話す。

 

「どういうことですか!僕がそんな奴に負けるはずがないじゃないですか!」

 

勝てないと言われた辺りから固まっていた森崎が再起動を果たした。

 

「森崎、はっきり言って悪いがお前と風間では天と地ほどの差がある」

 

「そんなのやってみなければわからないじゃないですか!」

 

「だから…」と続けようとした時に

 

「いいじゃないですか、戦っても。大丈夫です服部先輩。あなたの心配しているようなことにはなりませんから」

 

「風間…」

 

「会長、いつ始めればよろしいですか?」

 

「えっと…、時間はこれより三十分後に第三演習室、試合は非公開とし、双方にCADの使用を認めます」

 

「質問があります」

 

「許可します」

 

「CAD以外の呪具の使用は可能でしょうか」

 

「はい、構いませんが? 何故ですか?」

 

「それは見てのお楽しみです。それに対戦相手がすぐそこにいるのに手の内をバラす程、愚かではありませんから」

 

と言って、達也はCADを取りに行くために事務室に向かっていった。リーナもその後を追って出て行った。

 

「…どうなっても知りませんよ」

 

服部はボソッと呟いた。

 

 

 

達也とリーナが第三演習室に着くと既に全員、揃っていた。服部は生徒会室に残り、事務作業を進めていたが。

 

「遅れてすみません」

 

と達也は取り敢えず、頭を下げた。

 

「大丈夫ですよ。五分前ですから」

 

「そうですか…」

 

と達也はすぐに準備に取り掛かった。

 

準備を終え、森崎の正面に立つ。

 

「少し早いが、ルールを説明する。直接攻撃、間接攻撃を問わず相手を死に至らしめる術式は禁止。回復不能な障碍を与える術式も禁止。相手の肉体を直接損壊する術式も禁止する。ただし、捻挫以上の負傷を与えない直接攻撃は許可する。武器の使用は禁止。素手による攻撃は許可する。蹴り技を使いたければ今ここで靴を脱いで、学校指定のソフトシューズに履き替えること。勝敗は一方が負けを認めるか、審判が続行不能と判断した場合に決する。双方開始線まで下がり、合図があるまでCADを起動しないこと。このルールに従わない場合はその時点で負けとする。私が力づくで止めさせるから覚悟しておけ。以上だ」

 

(開始と同時に奴を基礎単一系の加重魔法で地べたに這いつくばらせてやる。僕のクイック・ドロウなら奴よりも早く展開できる。それを見れば、九島さんも会長たちも目が醒めるだろう。ブルームが絶対であると)

 

と彼は確信していた。

 

「始め!」

 

森崎は達也より速く魔法式を展開し放とうとするが、達也はそれよりも速く魔法式を消し飛ばした。

 

「なっ!」

 

森崎は驚いたが、すぐに魔法を展開し始めた。達也はそれを見計らっていたかのようにさっき消した魔法式を()()()()()。次の瞬間、魔法が小さく爆発してCADを吹っ飛ばした。

 

「えっ?」

 

「固まっている場合か?」

 

と達也は言うとすぐさまポケットからゴルフボールくらいのサイズの鉄球を四個、取り出して想子(サイオン)を流し込み、加速系の魔法を使って軽く投げた。鉄球が動き出すと突然、達也が五人に増えた。

 

「えっ?」

 

リーナ以外全員、呆気に取られてしまっている。

 

「何アレ?」

 

真由美の疑問に誰も答えることができない。

 

「森崎、CADを拾わなくていいのか?このままだと一方的に負けることになるぞ?」

 

「卑怯だぞ!一対一で戦え!」

 

「何を言う? 本物以外はただの幻影。こんなのも見抜けないのでは半人前もいいところだな。それより待っていてやるからCADを拾ってこい」

 

「バカにしやがって」

 

森崎はCADを拾うとすぐに魔法を展開し、五人の達也目掛けてすぐに圧縮空気を選択し放つ。圧縮された空気が破裂して達也に襲いかかる。

 

「くっ、なんでだよ。何故当たらない」

 

森崎の空気弾は達也をすり抜け、不発に終わった。森崎は別の魔法に切り替え、何回も魔法を放つが全て不発に終わる。

 

「もう来ないのか? 来ないのならこっちから行くぞ」

 

と達也たちは突然消えた。よく見ると壁や天井、床を蹴って跳び回っている。誰も目で達也を追うことができなくなっていた。不意に鈍い音が聞こえてきたと思ったら、達也が元の位置に戻っていた。それと同時に森崎が倒れた。見ると鉄球が四つ森崎の腹に減り込んでいた。達也は摩利の方を見る。

 

「…勝者、風間達也」

 

達也はその言葉を聞くと摩利に一礼して、森崎の方に歩いて行き、鉄球を拾い上げ、ポケットに仕舞い、CADを片付けて帰り仕度をしていると

 

「待ってくれ。なんだ今の魔法は?」

 

「他人の術式の詮索はマナー違反ですよ」

 

「それはわかっているが…」

 

「タツヤは忍術使い・九重八雲の弟子よ」

 

摩利の疑問にリーナが胸を張りながら答えた。

 

「なるほど、ならアレが分身の術か。それにそれならあの身体能力の高さも頷ける」

 

実際は『分身』を模した『変化』の応用である。だがそれを教える気は達也にはない。

 

「くっ、こんな試合無効だ」

 

突然、森崎が起きて上がり叫んだ。

 

「何故だ? 達也くんは正々堂々と戦って勝ったが?」

 

「僕が負けたのはアイツが卑怯な真似をしたに決まっています。じゃなかったら僕があんなブルームの恥知らずに負けるはずがありません。それに僕は正々堂々と勝負していたのにアイツは卑怯な真似をしました。アイツの反則負けです」

 

森崎の言いようにこの場にいた全員、呆れ返っていた。

 

「なぁ森崎、俺がいつ卑怯な真似をした?」

 

「僕の知らない魔法を使って不意打ちをしたようなものだろ!この試合は無効だ!もう一回勝負しろ!次は絶対に負けない!」

 

「お前は本当にお気楽だな。相手が自分の知っている魔法だけで戦うと思うなよ。これが実戦ならお前はこの場で死んでいた。イヤ、その前に昨日、エリカに切られて死んでいたな。実戦に次なんてものがあるとは思うなよ。本番は一回きりだけだからな。戦場を舐めるなよ森崎」

 

達也は殺気を滲み出し、近づきながら森崎に言った。森崎は腰を抜かし、這って逃げようとしていたが、誰も彼を無様とは言えなかった。それだけの迫力が達也にはあった。

 

「渡辺先輩、もうすぐ閉門の時間ですが。どうしたらいいですか?」

 

「あぁ、そうだな。本当は色々したかったが、まぁいい明日にしよう」

 

気丈に振る舞っていたが、摩利の声は震えていた。

 

「はい、じゃあリーナ帰ろうか。ではお先に失礼致します」

 

「そうね。お先に失礼します」

 

と達也たちはその場にいたものに挨拶をして出て行った。

 

「なに今のは… 本当にアレがただの高校生に出来るの?」

 

「服部が最後まで渋っていた理由がわかった気がするな」

 

「そうですね」

 

仕事のため生徒会室に残った服部の最後まで渋っていた理由を知り、その場にいる全員は身を震わせていた。

 

 

 

「ねぇタツヤ、あの魔法ってどうやったの?」

 

「あの魔法か? あれは鉄球の動きに合わせて幻影を投影しただけの魔法だ。さらに動きが止まれば幻影も消える。しかも四つしか同時に使えないし、一対一の時くらいしか使えないから、正直言ってあまり使い勝手の良い魔法ではないがな」

 

達也は大まかにその魔法についてリーナに説明する。

 

「じゃあ魔法が達也の体を通り抜けたのは?」

 

「纏衣の逃げ水という忍術だ。リーナの使う仮装行列(パレード)の元になった魔法だな」

 

「あれがそうなのね。通りで誰も達也の居場所に気づかないわけね。ところでさっきの魔法、あれも忍術なの?」

 

「どうだろうな?あれは師匠に習った『印』と『変化』から俺なりに作ったものだからな… どうだろうな。一応は忍術に該当するんじゃないかな。でも、多分だけど『九』の魔法に近いんじゃないか?」

 

「そうなの?じゃあまた新しい魔法を作り出したってこと?」

 

「そうなるんじゃないかな」

 

「相変わらず非常識ね」

 

リーナは呆れ返っていた。

 

「今更だな」

 

「それもそうね」

 

達也たちはお互いに談笑しながら帰った。

 

 

 

その後、森崎は風紀委員の推薦を取り消し、二週間の停学処分を受けることとなった。達也は生徒会推薦枠、リーナは教師推薦枠で風紀委員入りを果たした。

 

 




次回の投稿は遅れる可能性がございます。ご了承下さい。


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入学編IV

お久しぶりです。


色々と特殊なところのある魔法科高校だが、基本的な制度は普通の学校と変わらない。ここ第一高校にも、クラブ活動はある。正規の部活動として学校に認められる為には、ある程度の人員と実績が必要である点も同じだ。

ただ魔法と密接な関わりを持つ、魔法科高校ならではのクラブ活動も多い。

メジャーな魔法競技では、第一から第九まである国立魔法大学の付属高校の時間で対抗戦も行われ、その成績が各校間の評価の高低にも反映される傾向がある。九校戦と呼ばれるこの対抗戦に優秀な成績を収めたクラブには、クラブの予算からそこに所属している生徒個人の評価に至るまで、様々な便宜が与えられている。

有力な新人部員の獲得競争は、各部の勢力図に直接影響をもたらす重要課題であり、学校もそれを公認、いや、むしろ後押ししている感がある。

かくして、この時期、各クラブの新人部員獲得合戦は、熾烈を極める。

 

「という訳で、この時期は各部間のトラブルが多発するんだよ」

 

場所は生徒会室。

 

ここにいるのは達也とリーナと深雪と摩利、真由美の五人だけで昨日いた二人は普段、クラスメイトとお昼を食べているらしい。

 

達也は弁当を食べながら摩利の説明に耳を傾けていた。

 

ちなみにリーナは達也に作ってもらった(作らせた)弁当を味わい、摩利の話はほとんど聞き流していた。

 

「勧誘が激しすぎて授業に支障を来たすことも。それで、新入生勧誘活動には一定の期間、具体的には今日から一週間という設定を設けてあるの」

 

一人だけダイニングサーバーの機械調理メニューを食べることになった真由美はかなりヘソを曲げていたが、ようやく機嫌が直ったらしい。明日から自分もお弁当を作ってくる、と張り切っていた。

 

「この期間は各部が一斉に勧誘のテントを出すからな。ちょっとどころじゃないお祭り騒ぎだ。入試の上位成績者や、競技実績のある新入生は各部で取り合いになる。無論、表向きはルールがあるし、違反したクラブには部員連帯責任の罰則もあるが、陰では殴り合いや魔法の撃ち合いになることも、残念ながら珍しくない」

 

摩利のセリフに達也は訝しげな表情を浮かべた。

 

「CADの携行は禁止されているのでは?」

 

この疑問に対する摩利の答えは、達也を呆れさせるものだった。

 

「新入生向けのデモンストレーション用に許可が出るんだよ。一応審査はあるんだが、事実上フリーパスでね。そのせいで余計にこの時期は、学内が無法地帯化してしまう」

 

そりゃあそうなるだろう、と達也は思った。

 

「学校側としても、九校戦の成績を上げてもらいたいから。新入生の入部率を高める為か、多少のルール破りは黙認状態なの」

 

「そういう事情でね。風紀委員会は今日から一週間、フル回転だ。二人には期待しているからな」

 

「放課後は巡回ですね」

 

「授業が終わり次第、本部に来てくれ」

 

「了解です」

 

「会長… 私たちも取り締まりに加わるのですか?」

 

「巡回の応援は、あーちゃんに行ってもらいます。何かあった時のために、はんぞーくんと私は部活連本部で待機していなければなりませんから、深雪さんはリンちゃんと一緒にお留守番をお願いしますね」

 

「わかりました」

 

深雪は神妙に頷いて見せたが、がっかりしていた。

 

(せっかく、お兄様と一緒に巡回できると思ったのに…)

 

リーナには深雪がガッカリしている理由が見て取れた。

 

「中条先輩が巡回ですか?」

 

達也はかなり心配だった。

 

「外見で不安になるのはわかるなぁ。でもね、達也くん人は見かけによらないのよ」

 

「それはわかりますが…」

 

達也は見かけよりも性格を問題視していた。

 

「気の弱いところが玉に瑕だけど、こういう時のあーちゃんの魔法は頼りになるわよ」

 

「そうだな。大勢が騒ぎ出して収拾がつかない、というようなシチュエーションにおける有効性ならば、彼女の『梓弓』の右に出る魔法は無いだろう」

 

「梓弓…? 正式な固有名称じゃありませんよね?系統外魔法ですか?」

 

非公式の術式も存在するが、大多数の術式は公開され、データベースに登録されているが、達也の知る限り公開されている魔法の中に『梓弓』という魔法は無い。非公式の術式には系統外のものが多いため、達也は訊ねてみた。

 

「…もしかして君は全ての魔法の固有名称を網羅しているのか?」

 

周りを見ると深雪も真由美も目を丸くしている。

 

「達也くんのお察しのとおり、あーちゃんの魔法は情動干渉系の系統外魔法よ。一定のエリア内にいる人間をある種のトランス状態に誘導する効果があるの」

 

「すごい魔法ですが、…それは第一級制限が課せられる魔法なのでは…?」

 

系統外魔法はその特殊性から、四系統魔法以上に厳しく使用が制限されている。中でも精神干渉系魔法は使用条件が特に厳しい。

 

「大丈夫よ。あーちゃんがそんなことできるわけないわ」

 

「無理矢理協力させられる、ということは…」

 

「それこそ無理ね。あの子、道端で小額カードを拾っても涙目になっちゃうくらいなんだから。そんな状況で魔法が使えるわけがないでしょう?」

 

「それに中条は学内に限ることを条件に、特例で許可を受けている」

 

「なら、大丈夫ですね」

 

達也は一抹の不安を抱きながらも納得することにした。

 

 

 

午後の授業も終わり、達也とリーナは真っ直ぐ風紀委員会本部に向かった。

 

「全員揃ったな?」

 

その後、二人の三年生が次々に入ってきて、室内の人数が九人になったところで、摩利が立ち上がった。

 

「そのままで聞いてくれ。今年もまた、あのバカ騒ぎの一週間がやってきた。風紀委員会にとっては新年度最初の山場となる。この中には去年、調子に乗って大騒ぎした者も、それを鎮めようとして更に騒ぎを大きくしてくれた者もいるが、今年こそは処分者を出さずに済むよう、気を引き締めて当たってもらいたい。いいか、くれぐれも風紀委員が率先して騒ぎを起こすような真似はするなよ」

 

何人も首をすくめるのを見て、同じ轍は踏むまいと自らを戒めた。

 

「今年は幸い、卒業生分の補充が間に合った。紹介しよう。立て」

 

事前の打ち合わせも予告もなかったが、二人ともすぐに立ち上がった。

二人の顔には緊張の色は見られない。それもそうだろう。達也は軍人として、リーナは十師族の分家の者として、このような場には慣れている。

 

「1-Aの九島アンジェリーナと1-Bの風間達也だ。今日から早速、パトロールに加わってもらう」

 

「誰と組ませるんですか?」

 

「前回も説明したとおり、部員争奪週間は各自単独で巡回する。新入りであっても例外じゃない」

 

「役に立つんですか?」

 

この言葉は一年で風紀委員に入ったことへの嫉妬が含まれている。

 

「あぁ、心配するな。二人と使えるヤツだ。九島は見ていない一年ではトップクラスの魔法力だし、風間の実力は心配いらない。おそらくだが、私たちと同等だぞ」

 

摩利の言った『私たち』の意味がわかり、それっきりその生徒は話さなくなった。

 

「他に言いたいことのあるヤツはいないな?」

 

喧嘩腰の口調に達也たちは少なからず驚いたが、他に気にしている者はいないようだ。日常的な光景、ということだろう。委員会内には根深い対立があるようだ。トップが対立を煽るのもどうかと思うが。

 

「これより、最終打ち合わせを行う。巡回要領については前回まで打ち合わせの通り。今更反対意見はないと思うが?」

 

異議なし、という雰囲気でもなかったが、積極的に反対意見を出す者もいない。

 

「よろしい。では早速行動に移ってくれ。レコーダーを忘れるなよ。風間、九島両名については私から説明する。他の者は出動!」

 

全員が出てて行ったのを確認して二人に声をかける。

 

「まず、これを渡しておこう」

 

「レコーダーは胸ポケットに入れておけ。ちょうどレンズの部分が外に出る大きさになっている。スイッチは右側面のボタンだ」

 

「巡回の時は常にレコーダーを携帯すること。違反行為を見つけたら、すぐにスイッチを入れろ。ただし、撮影を意識する必要はない。風紀委員の証言は原則としてそのまま証拠に採用される。念のため、くらいに考えて貰えば良い」

 

「委員会用の通信コードを送信するぞ…… よし、確認してくれ」

 

「報告の際は必ずこのコードを使用すること。こちらからの指示の際も、このコードを使うから必ず確認しろ。最後にCADについてだ。風紀委員はCADの学内携行を許可されている。使用についても、いちいち誰かの指示を仰ぐ必要はない。だが、不正使用が判明した場合は、委員会除名の上、一般生徒より厳重な罰が課せられる。一昨年はそれで退学になったやつもいるからな。甘く考えないことだ」

 

「質問はないか? では、出動!」

 

 

 

「ねぇ、タツヤ。どっちが違反者を多く捕まえるか勝負しない?」

 

リーナは好戦的な笑みを浮かべて達也に話しかける。

 

「やる気を出すのはいいが、流石に不謹慎ではないか?」

 

達也は少し困った顔をしてリーナに切り返す。

 

「いいじゃない、多分だけど委員長も許可すると思うわ」

 

あの人ならやりかねないな…、と達也は心の中でそう呟いた。

 

「するかどうかは別として頑張れよ。じゃあ、この辺で分かれて行こうか。俺はこっちに行くから」

 

「えぇ、ワタシはあっちを見て回るわ」

 

「あぁ、気をつけてな」

 

「タツヤの方こそね。なんてったって巻き込まれ体質なんだから」

 

リーナの物言いに不本意だ、と思いながらも否定をすることもできない、と考えながらも達也は歩いて行った。

 

 

 

「チョッ、どこ触ってるのっ? やっ、やめ……!」

 

巡回中に聞き覚えのある声が聞こえてきた。自分の友人の声らしい。何をしているのかと思ったが、エリカの争奪戦をしているようだ。どうやら、シャレにならない状況に至っているようだ。

 

達也はCADを操作し、振動系の魔法を人垣(正確には地面)に向かって放つ。それにより、足下から身体を揺さぶられ、人垣を作る生徒たちはふらつき、倒れそうになる。

達也は人垣の中に突っ込むと男女の区別無く押し退けて、それほど苦労することなく、達也は人垣の中心にたどり着いた。目指す相手の姿を見つけ、達也はその腕を掴み取った。

 

「走れ」

 

短くそれだけを告げて、達也はエリカの左手を引っ張り、走り出した。

 

 

 

人混みをかき分け、ではなく手品のようにすり抜け、達也は校舎の陰まで逃げ遂せた。

繋いだままだったエリカの手を離し、背後へと振り返って、達也は初めて彼女の惨状に気がついた。髪はひどく乱れ、ブレザーが片側に大きくずれ、真新しい制服にあちこち皺が寄り、完全に解けてしまったネクタイが右手に握られている。ネクタイの抜き取られた制服の胸元が、細く、はだけていた。走っている最中は手で押さえていたに違いなかったが、ちょうど服を直そうとしていたのか、軽く下を向いていたその姿勢が、偶然、達也の視線の通り道を作っていた。

 

「見るなっ!」

 

視界をかすめた足の向きで、達也が振り返ったことに気づいたのだろう。怒鳴りつけられる直前に達也はすでに身体ごと顔を背けていた。

 

「…見た?」

 

「……」

 

達也はすぐには答えをひねり出せなかった。

 

「見・た?」

 

「見えた。すまない」

 

エリカは上目遣いにジッと達也を睨んでいる。

 

「…ばかっ!」

 

手は飛んでこなかった。その代わり、脛に衝撃を受ける。

 

達也の脛は樫の木刀で打たれても耐えられるように鍛えてある。そのため、蹴ったエリカの足の方が痛かっただろう。

 

 

 

「ふーん… 魔法科高校なのに、剣道部があるんだ」

 

「どこの学校にも剣道部くらいあると思うが?」

 

「…なんだ?」

 

「…意外」

 

「何が?」

 

「達也くんでも知らないことがあったんだね。それも武道経験者なら大抵知っているようなことなのに」

 

「俺にもわかることもわからないこともある。それで何故、剣道部が珍しいんだ?」

 

「魔法師やそれを目指す者が高校生レベルで剣道をやることはほとんどないんだ。魔法師が使うのは『剣道』じゃなくて『剣術』、術式を併用した剣技だから。ほとんどが剣術に流れちゃうの」

 

「そうなのか? 同じものだと思っていたよ」

 

「本当に意外」

 

「達也くん、武器術の方もかなりのウデに見えるのに… あっ、そうか!」

 

「どうした?急に」

 

「達也くん、武器術に魔法を併用するのが当たり前だと思っているでしょ? ううん、魔法とは限らないかもだけど、闘気とか

プラーナとか、そんなので体術を補完するのは当たり前だと思ってるんじゃない?」

 

「それは当たり前なんじゃないか? 身体を動かしているのは筋肉だけじゃないぞ」

 

「達也くんにとっては当たり前かもしれないけど。普通の競技者にとってはそうじゃないのよね」

 

「なるほど、確かにそうかもな。俺の周りもそうだから、それが当たり前だと誤解していたよ」

 

「やっぱりね。達也くん、少しズレているからね」

 

エリカは満足げに達也に言った。

 

「ところでエリカ、君もそろそろ自分のズレに気がついたらどうだ?」

 

えっ、と呟いて後にエリカは周りを見渡してようやく気がついた。周りに愛想笑いを浮かべた後、達也をひと睨みしてからフロアに大人しく目線を向けた。

 

 

 

「お気に召さなかったようだな」

 

「え? えぇ…」

 

「…だって、つまらないじゃない。手の内のわかっている格下相手に、見栄えを意識した立ち回りで予定通りの一本なんて。試合じゃなくて殺陣だよ、これじゃ」

 

「確かにエリカの言う通りだが…」

 

「宣伝の為の演武だ、それは当然じゃないか? 本物の真剣勝負なんて、他人に見せられるものじゃないだろ? 武術の真剣勝負は、要するに殺し合いなんだから」

 

「…クールなのね」

 

「思い入れの違いじゃないか?」

 

不機嫌そうな顔でそっぽを向くエリカ。

 

「エリカ、そろそろ行こうか」

 

エリカを連れてその場を後にしようとしたその時、下から言い争いが聞こえてきた。

 

「何だろう? 行ってみようよ」

 

達也が返事をする前にエリカが達也を騒動の方へと引っ張る。中が見える位置まで辿り着いた二人が目撃したものは、対峙する男女の剣士の姿だった。

 

女の方はさっきまで試合に出ていた生徒だ。セミロングストレートの黒髪が印象的な、なかなかの美少女だ。あの技にこのルックス、新人勧誘にはうってつけだろう。

 

「ふ〜ん、達也くん、ああいうのが好み?」

 

「いや、エリカの方が可愛い」

 

「……棒読みで言われても少しも嬉しくないんですけど」

 

斜に睨みつけながらも、上目遣いの目元はほんのり紅に染まっている。

 

「慣れてないんでな」

 

「……もう!」

 

何やらぶつぶつ呟いていたが、取り敢えず絡むのは止めたようなので、今度は男の方へと目を移す。

 

(血の気の多い方ではあると思っていたが、自分から絡んでいくような人ではなかったはずだが…)

 

旧知の相手のことを考えてながら、何が起こっているのか、適当に見物人を捕まえて聞き出そうと思ったが、その必要はなかった。

 

「剣術部の順番まで、まだ一時間以上あるわよ、桐原君!どうしてそれまで待てないのっ?」

 

「心外だな、壬生。あんな未熟者相手じゃ、新入生に剣道部随一の実力が披露できないだろうから、協力してやろうって行ってんだぜ?」

 

「無理矢理勝負を吹っかけておいて!協力が聞いて呆れる。貴方が先輩相手に振るった暴力が風紀委員会にバレたら、貴方一人の問題じゃ済まないわよ」

 

「暴力だって? おいおい壬生、人聞きの悪いことを言うなよ。防具の上から竹刀で面を打っただけだぜ、俺は。仮にも剣道部のレギュラーが、その程度のことで泡を噴くなよ。しかも先に手を出してきたのはそっちじゃないか」

 

「桐原君が挑発したからじゃない!」

 

(切っ先を向けあっておいて、今更口論もなかろうに。だが、当事者が疑問に答えてくれるのは好都合だ。しかし、どうしたものか)

 

当事者がが怪我をするのは自業自得で済むが、戦って満足するなら、止める必要はないだろう。

 

「さっきの茶番より、ずっと面白そうな対戦だわ、こりゃ」

 

「あの二人を知っているのか?」

 

「直接の面識はないけどね」

 

「女子の方は試合で見たことあるのを今、思い出した。壬生紗耶香。一昨年の中等部剣道部大会女子部の全国二位よ。当時は美少女剣士とか剣道小町とか随分騒がれていた」

 

「…二位だろ?」

 

「チャンピオンは、その……ルックスが、ね」

 

「なるほどな」

 

マスコミなぞ、そんなものだろう

 

「男の方は桐原武明。こっちは一昨年の関東剣術大会中等部のチャンピオンよ。正真正銘、一位」

 

「あぁそうだったな」

 

「知ってるの?」

 

「昔にちょっとな」

 

「ふーん、あっ始まるみたいよ」

 

張り詰めた糸が限界に近づいているのは、達也にも感じた。万一に備えて、ポケットに入れていたの腕章を左腕につけた。

 

「心配するなよ、壬生。剣道部のデモだ、魔法は使わないでおいてやるよ」

 

「剣技だけであたしに敵うと思っているの? 魔法に頼り切りの剣術部の桐原君が、ただ剣技のみに磨きをかける剣道部の、このあたしに」

 

「大きく出たな、壬生。だったら見せてやるよ。身体能力の限界を超えた次元で競い合う、剣術の剣技をな!」

 

それが開始の合図となった。

いきなり、頭部目掛けて、竹刀を振り下ろす桐原。

竹刀と竹刀が激しく打ち鳴らされる。悲鳴は二泊ほど遅れて生じた。

見物人には何が起こったのかわからないだろう。

ただ、竹と竹が打ち鳴らされる音、時折金属的な響きすら帯びる音響の暴威から、二人が交える剣撃の激しさを想像するのみなのだろう。例外を除いてだが。

 

「女子の剣道ってレベルが高かったんだな。あれで二位なら、一位はどれだけ凄かったんだ?」

 

「違う…、あたしの見た壬生紗耶香とは、まるで別人。たった二年でこんなに腕を上げるなんて……」

 

鍔迫り合いで一旦動きの止まった両者が、同時に相手を突き放し後方に飛んで間合いを取った。

息をつく者と呑む者。見物人の反応は、二つに分かれた。

 

「どっちが勝つかな…」

 

息を潜めて達也に問いかける。

 

「壬生先輩が有利だろう」

 

囁くように達也が答える。

 

「理由は?」

 

「桐原さんは面を打つのを避けている。最初の一撃は受けられることを見越したブラフだ。魔法を使わないという制約を負った上に手を制限して勝てるほどの実力差はない。平手の勝負でも、竹刀さばきの技術だけなら壬生先輩に分があると思う」

 

「概ね賛成。でも、桐原先輩がこのまま我慢しきれるかな?」

 

「おおぉぉぉ!」

 

この立ち合いで初めて、雄叫びを上げて桐原が突進した。

両者、真っ向からの打ち下ろし。

 

「相討ち?」

 

「いや、互角じゃない」

 

桐原の竹刀は壬生の左上腕を捉え、壬生の竹刀は桐原の左肩に食い込んでいる。

 

「くっ」

 

左手一本で壬生竹刀を跳ね上げ、桐原は大きく跳び退いた。

 

「途中で狙いを変えようとした分、打ち負けたな」

 

「そっか、だから剣勢が鈍ったのね。完全に相討ちのタイミングだったのに……結局、非情にはなれなかったか」

 

「真剣なら致命傷よ。あたしの方は骨に届いていない。素直に負けを認めなさい」

 

「は、ははは……」

 

突如、桐原が虚ろな笑い声を漏らした。達也の中で危機感の水位が急上昇した。

 

「真剣なら? 俺の身体は斬れてないぜ? 壬生、お前、真剣勝負が望みか? だったら……お望み通り、真剣で相手をしてやるよ!」

 

桐原が竹刀から離れた右手で左手首の上を押さえた。

見物人の間から悲鳴が上がる。

ガラスを引っかいたような不快な騒音に耳を塞ぐ観衆。

青ざめた顔で膝をつく者もいる。

一足跳びで間合いを詰め、左手一本で竹刀を振り下ろす桐原。片手の打ち込みに、速さはあっても力強さはない。だが、壬生はその一撃を受けようとせず、大きく後方へ跳び退いた。

当たってはいない。せいぜいかすめただけだ。それなのに、壬生の胴には細い線が走っている。竹刀が掠って切れた痕だ。

振動系・関節戦闘用魔法『高周波ブレード』。

 

「どうだ壬生、これが真剣だ!」

 

再び壬生に向かって振り下ろされる片手剣。誰もが最悪の状況を想像した。突然、桐原の魔法が吹き飛ばされ、何も起こることはなかった。

 

「そこまでにしてください、桐原さん。流石にやり過ぎです。魔法の不適正使用によりご同行を願います」

 

達也は右手に持った大型拳銃形態CADを桐原に向けて、無表情のまま淡々と話す。

 

「達也…」

 

桐原も達也の言葉で冷静になったのか自分のした行動を思い返し、竹刀を捨て、悔やむように首を垂れて、達也の方に歩いて行った。

 

「賢明なご判断、感謝いたします」

 

桐原に一言かけてから、携帯端末の音声通信ユニットを取り出して、本部に告げた。

 

「こちら第二小体育館。逮捕者一名、連行いたします」

 

そのまま桐原を連れて本部に戻ろうとすると

 

「おい、どういうことだっ?」

 

桐原を連れて出て行こうとする達也に対して最前列にいた剣術部の一人が怒鳴りつけた。

 

「先程も言ったと思いますが、もう一度言った方がよろしいのですか? 桐原先輩には魔法の不適正使用により、同行を願います」

 

何故、同じことを二回も言わせるのか、と達也は内心そう思いながらも答える。

 

「おいっ、貴様っ!ふざけんなよ、一年の分際で!」

 

達也の胸倉を摑もうと手が伸びてくる。達也は軽く飛び退くように後退する。

桐原の方を見たり、時計を見て、相手のことを歯牙にもかけてないように見える態度に、剣術部員は苛立ちを隠せなくなり始めた。

 

「なんで桐原だけなんだよっ?剣道部の壬生だって同罪じゃないか。それが喧嘩両成敗ってもんだろ!」

 

人垣から達也に対してではなく、剣術部に対しての援護射撃が放たれる。

 

「魔法の不適正使用の為、と申し上げたはずですが? 何回も同じことを言わせないでください」

 

もういいだろう、という雰囲気を出している達也にエリカは律儀に反応せずに無視をすればいいのにと呆れている。

 

「ざけんな!」

 

完全に逆上した上級生が、再び達也に摑みかかる。達也も身を翻して躱す。

 

「お、おい、やめろ」

 

桐原の制止も聞かずに今度は拳を固めて殴り掛かる。

 

「それでいいのですね?」

 

達也がそう呟いた、と思うと周りの生徒には突然、消えたように見えた。次の瞬間、剣術部員が前屈みに倒れた。彼の後ろに達也がCADを構えた状態で立っていた。

 

「こちら第二小体育館。…公務執行妨害で逮捕者もう一名追加です」

 

携帯端末で淡々と報告している達也を見て、完全に頭に血が上った剣術部員が全員で襲いかかった。達也は剣術部に目を向けたまま、立っているだけだった。一人の部員が確実に捉えたと達也の顔面を目掛けて拳を振り抜く。達也は避けないが、拳は空を切る。戸惑った様子を見せたが、すぐに全員で囲い込んで、達也に殴るや蹴る等の攻撃を加えるも全てが体をすり抜けて当たらない。方法を変えて魔法を使うも即座に無力化される為、発動すらできない。

 

 

 

「訂正します。剣術部の全員を逮捕いたしました。全員、意識を失っていますので担架の用意もお願いします」

 

数分後、意識を失って倒れている剣術部員の中心で本部に報告をする達也の姿があった。あれだけのことがあったにも関わらず、顔色一つ変えない彼を見て、野次馬は全員、恐怖を感じたという……。

 




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