ボールがくれた出会い (御沢)
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新たな風が吹き・・・
新しい土地で・・・


私は、金田未雲(かねだみう)。今日からここ、雷門中学校に転校してきた。

学年は2年生。ここには、父の仕事の関係で引っ越してきた。

 

 

「ここが、雷門中学校かぁ・・・おっきい・・・」

そう、もうとにかくおっきい!その大きさはあっけにとられて、開いた口がふさがらない。そんな私を生徒たちは、不思議そうな目で見ている。

そんな私を見て、不思議に思ったのか、3人の女の子と3人の男の子が話しかけてきた。

「ねぇ、あなた、転校生?」

「え・・・あ、はい。えっと・・・」

「あ、ごめんなさい。私たちは、5人、2年生なんだけれど・・・」

「そ、そうなんですか?私、今日からここに転校してきた、金田未雲っていいます。今、2年です」

「転校生なんだ!2年なんだ!俺、松風天馬!天馬って呼んでね!」

「あ、はい。じゃあ、天馬・・・くん。あと・・・皆さんは?」

「私は、空野葵。葵でいいよ」

「私は、山吹楓。楓でいいわ」

「僕は西園信助!宜しくね!」

「俺は、剣城京介」

「私は、黒谷ちかです。私は1年なので、金田さんの方が先輩ですね!」

私は顔を赤らめた。前いた中学校は、かなり悪い中学校だったから、先輩のことも『~~ちゃん』とかと呼んでいたからだ。

「////そ、そんな、先輩だなんて・・・私、呼ばれたことがないので・・・」

「わっ!未雲ちゃん、かわいいっ!」

「そうだね、可愛い。あ、そうよ。先生のところまで私たちで連れて行きましょうよ」

「え、いいんですか?か、楓ちゃん、あ、葵ちゃん」

「もうっ!可愛すぎっ!いいに決まってるじゃん!あ、でも、私たちクラスが違ってるんだけど・・・どうする?楓?」

「いいんじゃない?だって、職員室なんだから」

「あ、そうか。なら、大丈夫だね!あ、でもちかちゃん・・・」

「私なら、今、純太くんを見つけたから大丈夫です」

「純太くんって、サードチームに入らず、ファーストチームに入れた天才1年生?後1人いたよね」

「はい。降森純太(ふるもりじゅんた)くんです。もう1人は、清原真男(きおはらまお)くん。2人とも1年生です。同じクラスです。あ、純太くんが行っちゃうので、もう行きます。また、放課後です」

「ばいばぁい!・・・じゃあ、いこっか」

「えぇ。ほら、天馬、信助、剣城、行くよ」

「「「はーい」」」

 

 

そして、私と5人で職員室に向かった。

 

 

職員室についても、私はあっけにとられた。とにかく広かった。そして、きれいだった。先生たちが、こんなに多人数できたから、不思議そうな顔でこっちを眺めていた。その後しばらくして、一緒に来てくれた皆はそれぞれのクラスに帰ってしまった。

それからまたしばらくして、頭に赤ぶち眼鏡を乗せたウェーブがかかった藍色の髪の女性が近付いてきた。

「あなたが、金田さん?」

「はっ、はい!」

私は、かなり緊張しながら答えた。その私の顔がおかしかったのか、赤ぶち眼鏡の女性はふっと微笑んだ。

「緊張しているのね。大丈夫よ。私は、音無春奈。2年1組の担任よ。さっき一緒に来てくれたこの中だったら、楓ちゃんや剣城くんの担任、つまり、この2人はあなたのクラスメイトってことよ」

「はぁ・・・あ、ありがとうございました」

「え・・・ふふっ、今から始まるのよ?」

「あ・・・す、すいませんでした」

「いいのよ。大丈夫。じゃあ、行きましょうか」

「はいっ!」

 

 

そして、私と音無先生は、2年1組の教室に向かった。行く途中で、1人の男の子にすれ違った。先生の後をついているから、もしかしたら転校生?なんて考えてたら、いつのまにか教室についていた。

音無先生が教室に入った途端、ざわめいていた教室が静かになった。だから、私は余計に入りにくかった。まぁ、楓ちゃんや剣城くんがいるんなら、大丈夫かなっておもったけど。

「皆にお知らせよ。今日は、転校生がいるの。入って来てくれる?」

「は、はい・・・」

そして、私のご登場。皆が何か言ってるけど、全然聞こえてこなかった。唯一聞こえてきたのは、音無先生の

「それじゃ、自己紹介してくれるかしら?」

だけ。だから、私は自己紹介をした。

「金田未雲です。金曜日の金に、田んぼの田で金田、未来の未に、雲っていう文字で未雲です。雷門中学校(ここ)には、父の仕事の関係で引っ越してきました。何部に入るかも決めていないし、その前に、稲妻町のこともまだ全然知らないので、宜しくお願いします」

私が自己紹介をした途端、拍手が起こった。まぁ、当たり前といえば当たり前だけれど、やっぱり恥ずかしかった。

「じゃあ、未雲ちゃんの席は・・・楓ちゃんの席の隣よ。楓ちゃん、案内してもらってもいい?」

「はい、分かりました」

そういうと、楓ちゃんは私の方に向かってきた。さっきはよく見なかったけれど、もう1度よく見ると、楓ちゃんはとても美人だった。、黄色を基にして、赤や茶色の混じったつやのあるきれいな色の髪の毛、燃えるようだが冷静にも見える赤い瞳、整った顔立ち、バランスのいい体系、同性の私でさえも、見とれてしまった。

「未雲ちゃん?どうしたの?」

「あ、え、う、ご、ごめん・・・なんでもない」

「そう?じゃあ、席について。ほら、ここよ」

「あ、ありがと、楓ちゃん」

「いえいえ。あ、後で私の席に来てね」

「う、うん」

「ほらほら、そういう約束は後にして、HR(ホームルーム)、始めるわよ~」

「「すいません・・・」」

 

 

そして、私の雷門中学校生活が始まった。

 

 



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部活かぁ・・・

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン。

ようやく1時間目の授業が終わった。私は、急いで楓ちゃんの席に行った。

 

 

「楓ちゃん!」

「未雲ちゃん、よかった。来れたのね」

「もう、未雲でいいよ。で、話ってなぁに?楓ちゃん」

「だったら、私のことも楓でいいわよ、未雲」

「/////なんか、照れる・・・」

「ふふっ。可愛い」

「もぅ・・・か、楓の・・・いじわるぅ~」

「・・・もう、可愛すぎ」

「////そ、それで、話は?」

「あ、そうそう、それよ。ねぇ、未雲はサッカーに興味ない?」

「サッカー?いいえ、全然。サッカー、したこともないもん」

「そうなんだ・・・」

「でも、それがどうかしたの?」

「いや、今日の朝会った皆は、サッカー部つながりなの。葵とちかちゃんはマネージャー、私と剣城、天馬と信助は部員よ」

「えっ・・・ご、ごめん。でも、楓、サッカー出来るの?すごい・・・」

「そう?ありがと。それでね、未雲部活決めてないって言ってたから、サッカー部のマネージャーやらないかなぁ・・・って思ったんだけれど・・・どう?」

「マネージャーかぁ・・・なんか、楽しそう!やってみたいかも!」

「じゃあ、決まりね。今日、見学に来て!」

「うんっ!」

 

 

・・・ということで、私は放課後、サッカー部の見学に行くことになった。

あぁ、楽しみ♪

 

 

そして、いよいよ放課後になった。

「わ・・・なに、これ・・・!?」

「サッカー塔。サッカー部専門の建物よ。中には、サッカー部部室はもちろん、ドリンクを作るキッチンや、仮眠室なども。あ、そうそう、後は合宿をするための部屋とかもあるし、極めつけはサッカーグラウンドも完全完備!どう?すごいでしょ?」

「うん・・・もう、驚きで声が出ないかも・・・」

「未雲、表現が面白いわ。さぁ、もう先輩たちが来ているかもしれないから、行きましょう」

「あ、はいっ。先輩かぁ・・・ドキドキするなぁ・・・」

「ふふっ、大丈夫。先輩たちは優しいから」

「そ、そう・・・じゃあ、楽しみだね」

「えぇ」

 

 

そして、私と楓はサッカー塔に入った。サッカー塔は、中もすごかった。今までのサッカー部がとったと思われる賞状や、トロフィー。その中に、私が幼いころ有名だった中学生たちも、飾られていた。でも、そこには触れなかった。いつか話してくれると思ったし。そして、部室についた。

「き、緊張するな・・・」

「大丈夫よ。じゃあ、入るわね」

「うんっ」

私は、顔をこわばらせたままサッカー部の部室に入った。皆の視線が、私に向けられているのがよくわかった。恥ずかしかった。しばらく無言の時間が続いた後、ウェーブのかかった栗色の髪の毛の男の子が、楓に質問してきた。

「楓、この人は・・・?」

「はい、この子は金田未雲ちゃん、2年1組でサッカー部マネージャー希望です」

「金田さんか・・・俺は、雷門中サッカー部キャプテンの神童拓人だ。宜しくな」

「あ、はい・・・神童先輩。あ、後の方は・・・」

神童先輩の後ろには、たくさんの人が並んでいた。右から、ピンクのお下げの人、青がみで左目が隠れている人、長い髪をポニテにしている人、横にオレンジ色の髪の毛が生えている人、やせ気味の黒髪の人、白い大きな眼鏡ツインテの人、変なゴーグルをしている人・・・という順番だった。

「あ、紹介しよう。右から、霧野、倉間、錦、一乃、青山、速水、浜野だ。後は・・・」

神童先輩が続けようとした瞬間だった。部室のドアが開いて、2人の男の子が入ってきた。

「すいません・・・って、新マネですか?」

「わぁ・・・マネージャーですか?」

「あぁ。あ、こいつらは、狩屋と輝。それで、こっちが・・・」

「あ、大丈夫です。知ってますから。ありがとうございます」

「そうか?ならいい。さぁ、ここからは天馬の番だ」

「それじゃあ、皆さん、まずは楓が帝国から鬼道コーチの練習メニューを持ち帰ってきたから、各自、それをやってください」

 

 

そして、いよいよ私が見学するサッカー部初練習が始まった。

わたしは、わくわくしていた。

 

 



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マネージャーのお仕事

「天馬っ!こっちにパスだ!」

「はい!神童キャプテン!」

「『神のタクト』!」

 

 

私は、雷門中学校のそのレベルの高さに驚いた。

前の中学校にもサッカー部はあったけれど、レベルが違いすぎだ。パスはおろか、必殺技なんて使うことすらできなかった。

「わぁ・・・すっごいなぁ・・・」

私が1人で呟いていると、そばに葵ちゃんと名前は知らないけれど、どうやらサッカー部のマネージャーらしい2人がやってきた。

「未雲ちゃんもビックリだよね。私も、最初見たとき驚いたもん。しかも、最初から化身出してきたりもう、驚いたなぁ・・・」

「葵ちゃんも?やっぱり凄いよね。あ、あと、私のことは未雲でいいよ」

「じゃあ、私も葵で宜しくね、未雲」

「う、うんっ」

「へぇ~、おまえ、未雲っていうのか。可愛い名前だな。なぁ、そう思うだろ?茜?」

「うん、そう思う。でもね、水鳥ちゃん、その前に自己紹介」

「おっと、わりぃな。あたしは、瀬戸水鳥。本当はマネージャーじゃなかったんだけど、気がついたらマネージャーになってたんだよなぁ。学年は3年。宜しくな」

「私は、山菜茜。シン様のコレクター?同じ3年生♪宜しくね」

私は、化身やシン様という言葉が理解できなかったけど、とりあえず挨拶をした。

「は、はい、瀬戸先輩、山菜先輩」

「先輩じゃなくって、水鳥でいいよ」

「私も茜でいい」

「じゃあ、水鳥さん、茜さん・・・宜しくお願いします」

「あぁ!」

「うん♪」

「じゃあ、皆が知り合いになったところで、ドリンク作りに行きますか」

「そうだな。未雲はついてきて見とくだけでいいよ。その代わり、ちゃんと覚えろよ?」

「はいっ!」

「ヤル気十分♪」

 

 

そして、私の初マネージャー仕事、ドリンク作りが始まった。

 

 

本当は見とくだけで良かったけど、私はやってみたかったから、無理言ってやらせてもらった。

でも、うまくいかなくって、すごく苦戦した。しばらくドリンク作りをしていたら、水鳥さんと茜さんは、音無先生(サッカー部の顧問らしい)に呼ばれて、外に行った。

 

 

「あれっ・・・オレンジ味にしたはずなのに、どっちかって言うとグリーンピースのような味・・・うぇっ・・・」

「最初はそんなもの・・・でしょっ?」

「葵・・・ありがとう。はぁ~、楓が部員になる道を選んだのも理解できるなぁ~。だって、こんなにマネージャーって大変なんだし」

「あ・・・うん、そうだね」

そのとき、葵の声が沈んだのが気になったけど、私はそんなに気にせず続けた。

「そういえば、練習って何時に終わるの?」

「えっと、今日は6時半・・・ってもう6時25分だっ!やばい、早く済ませちゃうから、未雲はそこにあるかごに詰めといて!」

「うん!分かった!」

そういった私は、葵の作ったドリンクをかごに詰めて、全部詰め終わったら、サッカーグラウンドに行った。

 

 

グラウンドに行ってみると、皆は時間も忘れて練習に打ち込んでいた。だから、私は大きな声で

「みなさーん!休憩です~!」

って叫んだ。そしたら、皆が一斉にこっちに向かってきて、

「やっとかぁ~」

とか

「疲れた~」

とかいいながら、こっちにやってきた。

私は、そんな皆になるべく笑顔でドリンクを渡した。そのドリンクを、美味しそうに飲んでくれると嬉しくなった。私がニコニコしていると、少し遅れて楓と剣城君がやってきた。

そういえば、あの2人、いっつも一緒にいるな~。楓も剣城君もFWだし。そんなことを考えてることが、2人にばれないように私は努めてドリンクを渡した。

「未雲、マネージャーはどう?」

「うん、楽しいよ!ありがとう」

「いえいえ。あ、皆の名前、覚えた?」

「ううん、皆さんの名前、覚えるの、難しくって・・・」

「だよね。私も1年の時そうだった」

「やっぱり!?皆さん、特徴的なんですけどね~」

「でも、しょうがないよ。あ、でも、キャプテンくらいは覚えとくのよ?ウチのサッカー部は、キャプテンが2人いるんだから」

「キャプテンが2人!?それって・・・どういう?」

「私が1年生になったばかりの時は、神童キャプテンだったの。でもね、キャプテン、大きな大会の準決勝戦の時、試合終了直後に倒れてしまって、緊急手術のおかげで一命は取り留めたけど、足を骨折してしまったの。だから、決勝戦にも出れなくて・・・」

「そんな・・・お気の毒・・・」

「だよね。だから、キャプテンがいない状態になってしまったから、新キャプテンを任命したの。それが天馬。それから、ずっと天馬がキャプテンだったんだけどね、なぜか今年に入ってから天馬が『神童先輩!俺と一緒にもう1度、キャプテンやってください!』って言って、それでキャプテンが2人という状況になったの。まぁ、神童キャプテン自身、キャプテンの立場は天馬に譲りたいみたい」

「まぁ、そうですよね。1度やめた仕事にもう1度就くなんて・・・しんどいですよね」

「そうよね・・・」

「おーい、楓、金田さん、グラウンド、閉めるよ~」

私が、楓としゃべっていたら、ドアの方から神童キャプテンの声が聞こえたため、私と楓は急いでグラウンドを後にした。

 

 

うんっ、これから楽しくやっていけそう♪

 

 



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新たな仲間

それは、突然のことだった。

 

 

私たちサッカー部は、急に円堂監督に呼び出され、部室に集まっていた。

「監督は、なぜ俺たちを呼び出したのか?なにか、理由がわかる人はいるか?霧野、どうだ?」

「いや、俺もわからないんだ。すまない、神童」

「いや、構わないが、本当に何なのだろう」

「「「・・・ん~・・・」」」

皆が頭を悩ませてしばらくたったころ、部室のドアが開いて円堂監督と知らない男性が2人は行ってきた。その2人の事を、皆は知っているようで目を見開いていた。

「鬼道コーチ、お久しぶりです!」

「あぁ、そうだな。皆、また上達したんだろうな」

「そうですよ、おに・・・鬼道コーチ、びっくりしますよ?」

「楓・・・言うじゃないか。なぁ、豪炎寺」

「あぁ。そうだな。でも、その前にこの子が鬼道の従妹の女の子か」

「はい。山吹楓です。私も、おそらく皆さんもあなたのことは存じています。豪炎寺修也さんですよね?天馬と葵は、会ったことがあるそうですが、私たちは初めてですよね?」

「あぁ。そうだ。ホーリーロードでは、大変申し訳なかった」

「そんなことありません!むしろ、あんなことがあってくれたから、俺たちはサッカーの大切さを知ることができましたし、感謝しています」

「そういってくれると、よかったと思える。それで、今日から俺も雷門中サッカー部のコーチになった。よろしくな」

「豪炎寺さんがコーチですか!嬉しいです!」

「うんうん!あ、じゃなくてはい!」

「よしっ!じゃあ、皆豪炎寺も宜しくだ!」

「「「はいっ!」」」

私は、この豪炎寺さんと鬼道さんいう人が誰かわからなかったから、近くにいたちかちゃんに質問した。

 

 

「ねぇ、ちかちゃん。この豪炎寺さんと鬼道さんって・・・?」

「え・・・未雲さん、知らないんですかぁ!?じゃあ、円堂監督のことも?」

「はぃ・・・え、そんなにすごい人なの?」

「はい!とっても!なんて言ったって、日本のサッカーの存在をこれほどまで大きくしたのは、円堂監督たちですよ!」

「えぇ!?それ、本当なの!?ってことは、この豪炎寺さんや鬼道さんも?」

「はいっ!3トップですよ!」

「そうなんだっ!私、サッカーの事、全然知らなかったし、えっ、でも、そんなすごい人がなんで雷門中学校(ここ)に?」

「だって、3人とも雷門中学校(ここ)の出身ですし」

「えぇっ!?もう、すごすぎじゃない!」

「何がすごいの?未雲?」

「だってだって・・・!」

そして、私はやっと気がついた。

みんながわたしのほうを、ガン見していることに・・・

「す、すいません!私、サッカーのこと全然知らなくって、すいません!でも、もう皆さんの事よくわかりましたし、もうすごいですね!」

「そうだな。うん、びっくりだよね」

そして、大騒ぎ(?)の自己紹介が終わって、もう解散かと思ったとき、円堂監督が私たちを引きとめた。

 

 

「もう1人、紹介する人がいる。入ってくれ!」

「はいっ!」

ドアの方から声が聞こえて、私たちは一斉に振り返った。

そこにいたのは、スポーツ刈りの緑色の髪の毛で真っ黒の瞳の男の子だった。一般的に言うとかっこいい・・・と思う。私は、その顔に見覚えがあった。

「・・・!あなたは!」

不思議に思ったらしい神童先輩が、私に質問してきた。

「金田さん、知り合いか?」

「いえ、転校してきたときに見たんです」

「あ、キミはあの時の女の子・・・!赤い髪の色をサイドで結んでいて、ピンク色の瞳・・・!やっぱりあの子だよね!?」

「はい。で、あなたのお名前は・・・?」

私は、皆が1番聞きたいであろう質問をした。

「あ、ごめんね。僕の名前は、龍田緑(たつたりょく)。宜しくね。サッカー部に入部したんだ。ポジションはGK以外ならどこでも出来ますが、DFが得意です」

その完璧さに、皆は息をのんだ。そして、神童先輩と霧野先輩が前に出てきた。

「俺は、キャプテンの神童拓人だ。ポジションはMF。宜しくな、緑」

「は、はいっ!」

「俺は霧野蘭丸。DFだ。緑にもDFをしてもらおうと思っている。宜しくな」

「DF・・・させてもらえるんですか!?」

「あぁ。じゃあ、宜しくな。次は、皆の自己紹介だ。右から霧野、倉間、速水、浜野、青山、一乃、錦。皆3年だ。そして2年生は、右からキャプテンの天馬、信助、狩屋、輝、剣城、楓だ。そして1年。純太と真男だ。これが、雷門中学校サッカー部ファーストチームのプレイヤーだ。そしてマネージャーは、3年は瀬戸さん、山菜さん、2年は空野さん、金田さん、1年はちかちゃん。これがファーストチームメンバーだ」

「ありがとうございます!で、すいませんが、ファーストチームって・・・?」

 

 

そう、それ!

実は、私もずっとそれが気になっていたのだった。

「あ、すまないな。ここ、雷門中学校はチームが3つにわかれていて、さっき紹介したのがファーストチーム・・・トップに立つチームだ。次がセカンドチーム。セカンドチームというのは、次にランクの高いチームだ。まぁ、部室がこことは違うから、会うことは少ないだろう。そしてサードチーム。ここは今年1年になった人たちで結成された。まぁ、ちかちゃんと真男と純太は例外だが。そしてここも、部室が違うから会うことは少ないだろう。2チームとも、部員はもちろんキャプテンも全く違う。」

「そうなんですか・・・ありがとうございます!すごいですね!」

「サッカーで有名な学校だからな」

 

 

そして、新たな仲間、龍田くんも加えてサッカーの練習が始まった。

 

 

 



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なんでいきなり・・・

「金田さん?ちょっといい?」

「ほえっ!?」

私は、龍田君に練習の後話しかけられて、変な声を出してしまった。

 

 

「ご、ごめんね」

「いや、大丈夫。で、私に何か用かな?」

「うん、練習終わった後、一緒にファミレスに行かないかな~って思って。お話したいしね」

「分かった。じゃあ、まだ仕事が残っているから、後でね。龍田くん」

「うん。またあとでね」

「未雲さーん!まだ、残ってますよ~」

「あ、はーい」

そして、私はマネージャーたちの方へとかけて行った。

 

 

そして放課後・・・

 

 

「ごめんね、待った・・・かな?」

「ううん、僕も今来たところ。さあ、行こうか」

「うん」

そして、2人で近くのファミレスへと向かった。その途中、龍田くんは数回こっちを見てきたが、話しかけてはこなかった。

 

 

しばらく歩いたら、あっというまにファミレスについた。

「龍田くんは、何を頼むの?」

「僕はね・・・チョコレートパフェかなぁ。イチゴが乗ってるおいしそうなの」

「へぇ・・・龍田くん、チョコレート、好きなの?」

「うん!美味しいじゃん!」

「そっかぁ~。じゃあ、私はレアチーズケーキ♪」

「金田さんらしいね。まぁ、僕の第一印象だけど」

「そう?私の大好物なんだよ♪あ、あと、未雲でいいよ?」

「そう?じゃあ未雲ちゃんで。じゃあ僕も緑でいいよ」

「じゃあ、緑くん。・・・で、お話って何?」

「実はね・・・僕、化身使いなんだよ。でも、化身使いってなかなかいないからさ・・・」

「・・・あの、『化身』・・・って何?ごめん、だけど、分らなくって・・・あと、なんで私に話したのかもわからない・・・教えて?」

「あ・・・まず『化身』は、サッカーが好き!という気持ちが極限まで高まった時に出てくるもの。化身は、文字の通り化けの身だよね。でも、化身使いって滅多にいなくって・・・あと、なんで未雲ちゃんに教えたのかってことだけどね・・・」

「うん・・・」

 

 

空気が重くなった。

 

 

「・・・それは、僕が未雲ちゃんのことが好きだからだよ」

「へっ!?い、今何て・・・!?」

「だから、未雲ちゃんが好きなんだよ。だから、僕の全てを知ってほしかった。それだけ」

「緑・・・くん・・・わ、私・・・そんな・・・急に言われても・・・」

「返事はいいよ。びっくりしてると思うし、今はまだいい。だから、返事が決まったら、僕のクラスの4組か、サッカーの練習が終わったら僕のところに来てね」

「う、うん・・・」

「じゃあ。あと、僕が化身使いってこと、誰にも口外しないでね。なにか、ピンチの時は話してもいいけど。いずれ、僕から話すから・・・」

「うん・・・じゃあね・・・」

「う・・・ん・・・」

そして、私と緑君は別れた。

私は、驚きのあまりしばらく席から立てなかった。

 

 

「そんな・・・出会ってすぐに、告白なんて・・・緑君・・・もう、どうしよう・・・」

 

 



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皆で登校して

私は、昨日、眠れなかった。

だって、緑君に告白されてしまったから。今日の私は、きっといつも以上に間抜けで、ドジで、見た目もクマがあって・・・もうやばいんだろうな~・・・って考えながら学校の制服に着替えた。

そういや、雷門中学校の制服を私はよく見たことがなかった。

 

 

真っ白なシャツ、おっきめのリボン。私たちは赤色のリボン。そして、水色のスカート。

その後、自分の容姿を見てみた。

腰くらいまである真っ赤な髪の毛を、サイドで結んでいる。そして、ピンク色の瞳。自分で言うのもなんだが、特別美人なわけでもなく、ブサイクなわけでもない。

でも、葵や水鳥さん、茜さんに比べたら全然敵わない。楓なんて、もう敵う要素が1つもない。

 

 

なんで、緑君は、私のことなんか好き・・・なのかな・・・

 

 

疑問が解けないまま、私は学校へと向かった。

行く途中、大きな豪邸があることに気がついた。その大きさは、宮殿・・・いや、お城みたいだった。よき見ると、庭もとてつもなく広い。端っこまで見えないくらいだった。

「おっきぃ~!なに、この建物・・・世界遺産!?」

人の家かもしれない、ということを忘れて私はその建物(家?)をまじまじと眺めた。すると、後ろから声が聞こえた。私は、一瞬びくっとしたが、振り返ってそれが誰かわかった瞬間、安堵の声が漏れた。

「なんだ、楓かぁ~。びっくりした・・・」

「何だとは何かしら?まぁ、いいわ。それより・・・」

私は、楓の声をさえぎって話を始めた。

「ねぇ、この建物何かな!?宮殿!?ってかお城!?ノイシュヴァインシュタイン城!?」

「そんなに高くないよ、ここ。5階くらいしかまでしかないし、それにね・・・」

「あと、世界遺産!もう、やばい!ベルサイユ宮殿並み!」

「いや、ベルサイユ宮殿よりは大きい・・・」

「マジでッ!?すっごーい!・・・ん?なんで、楓が知ってんの?」

「だって、ここは、私の家だから・・・」

「へえっ!?何ぃ!?か、楓の家ぇぇぇぇぇ!?」

私は、心底驚いた。こんな豪邸に住む人と、私は知り合いだったのだ。きっと、お嬢様だ。もう、びっくりだ。

「そ、そんなこと知らなかったから、私・・・」

「ふふっ、もう、いいよ。気にしないでほしいし」

「そ、そうなの・・・なら、いいや。うん、じゃあ、行こっか」

 

 

そして、私たちは雷門中学校へと向かった。

行く途中で、神童先輩と霧野先輩に出会った。私は、しばらく3人の会話に入り込めなかった。

「神童キャプテン、天馬にキャプテンを・・・という件、どうなりましたか?」

「あぁ、あれか・・・まだ、天馬が引いてくれなくてな・・・」

「俺も、神童の力になれればと思って、天馬に頼んでいるが、駄目なんだよな・・・」

「じゃあ、私も頼んでみましょうか?天馬に」

「・・・あぁ。宜しく頼む」

「はい。そういえば、もうすぐ体育祭ですね。6クラスあるから、きっと今年も6チームに分かれるんでしょうね」

「そうだな・・・そういえば、楓は1組だよな?」

「あ、はい。あと、未雲もです。先輩たちは何組ですか?」

「俺も霧野も1組だよ。あと錦も。だから、3人は同じチームだ。ついでだが、倉間は2組、青山と一乃は4組、速水と浜野は5組・・・だったかな。それで、マネージャーは山菜さんも瀬戸さんも1組だ」

「よく覚えてますね。えっと、2年生は・・・私と剣城と未雲が1組、天馬と輝が3組、信助と緑が4組、葵と狩谷が6組です・・・だったよね?未雲?」

「えっ・・・う、うん。そうだったと思うよ」

「ならよかった。それで1年生は、真男君、純太くん、ちかちゃん、皆1組だったと・・・」

「なんか、1組の割合多くないか?」

「そうだな・・・」

「まぁ、同じチームになれるんです。いいじゃないですか」

「「だな」」

そんな楽しそうな会話を聞き流しながら、私はずっと緑君のことを考えていた。

 

 

なんで、なんで私なの・・・?

 

 

楓たちの方が、ずっと美人なのに・・・

 

 

「・・・う・・・み・・ぅ・・・みう・・・未雲!」

「へっ!?」

「『へっ!?』じゃないわよ。何回よんだと思ってるの?」

「あ・・・ごめんね。って、いつの間に学校の前まで来てて・・・」

「・・・?全く、大丈夫かな?あ、じゃあ先輩たち、また放課後」

「「あぁ」」

そして、私たちは一緒に登校した、学校のアイドル2人組と別れて、一緒に2年1組まで行った。

 

 



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化身使い

ここは2年4組・・・

 

 

僕は龍田緑。つい2週間ほど前にここ、雷門中学校に転校してきた。

そして、昨日サッカー部ファーストチームに入部して、2年1組でサッカー部マネージャーの金田未雲ちゃんに告白した。

告白したとき、自分の中ではすっきりしたけど、未雲ちゃんが困った表情を浮かべたため、胸がしめつけられた。

「緑~!あとで部室、一緒にいこー!」

後ろから、唯一サッカー部で同じクラスの西園信助が話しかけてきた。

「あ・・・信助・・・うん、一緒に行こうね」

「よかった。でも、緑、怖い顔してたけど、大丈夫?」

「え・・・そんなに怖い顔・・・してたの・・・?僕」

「うん、もうすごかったよ?」

「そっかぁ・・・ねぇ、信助は『化身』・・・って信じる?」

僕は、信助に質問してみた。すると、予想外の答えが返ってきた。

「信じるよ!」

 

 

「えっ・・・なんで・・・?」

「だって、ホーリーロードで戦ったとき、たくさんの化身を見たし、その前に僕も化身使いだしね~」

「本当!?そうなんだ・・・えっ、じゃあ、雷門に化身使いってたくさんいるの?」

「たくさん・・・とまではいかないけど、神童キャプテン、天馬、僕、錦先輩、楓、剣城は使えるよ?」

「そうだったんだぁ・・・あのね、実は、僕も化身使いで・・・」

「ほんと!?やったぁ~!仲間が増えたね!」

「よかった・・・前の学校では化身使いだからって拒否されてたから、それで・・・」

「拒否!?そんなことしないよ!大丈夫!むしろ、みんな喜ぶよ!」

 

 

僕は、心底安心した。

化身使いを拒否しない・・・

 

 

そのあと、信助がつづけた。

「あ、でも、まだみんなに伝えてないんでしょ?」

「あ、うん」

「じゃあ、今日言うんだね!」

「そうしようかな・・・」

「うん!あ、化身、なんていうの?」

「『天の使いドラゴン』・・・っていうんだよ」

「緑にぴったり!」

「そう・・・?あ、ありがとう!じゃあ、信助はなんていうの?」

「僕はね、『護星神タイタニアス』っていうんだよ!ついでに神童キャプテンは『奏者マエストロ』、天馬は『魔神ペガサス』と、それの進化した『魔神ペガサスアーク』、錦先輩は『戦国武神ムサシ』、楓ちゃんは『大天使ミカファール』、剣城は『剣聖ランスロット』だよ。それで、天馬の『魔神ペガサスアーク』と神童キャプテンの『奏者マエストロ』、剣城の『剣聖ランスロット』が合体したのが『魔帝グリフォン』だよ」

「化身合体!?すっごい・・・」

「だよね~。しかも、女子まで出せちゃうし」

「楓ちゃんのこと?」

「うん、楓ちゃんのこと。あの子、剣城と一緒でフィフスセクターだったんだけどね・・・」

「フィフスセクター?なにそれ?」

「知らないの?フィフスセクターのこと」

「うん」

「そっか・・・なら、ごめん。このことは僕の口からは言えない。楓ちゃんに直接聞いたらいいと思うけど。本当にごめん」

「いいよ、きっと理由があるんだろうしね」

 

 

でも、僕は正直すごく興味を持った。

 

 

よし、今日の練習のとき、楓ちゃんと剣城に聞こう!

 



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僕の秘密

「楓ちゃん、剣城」

「何?緑」

「なんだよ、忙しいんだけど」

「まぁ、ちょっと聞きたいことがあって・・・」

 

 

僕は、昼休みのとき、信助が言っていた『フィフスセクター』が何なのか気になったから、楓ちゃんと剣城に聞くことにした。

「『フィフスセクター』ってなに?」

「!!」

「!っ、その名前を、どうして・・・」

「えっ・・・」

僕は、正直に言おうかと思ったけど、剣城がすごく怒っていたから、言わなかった。信助が悪いことになるのは嫌だったし。

「いや、話してたんだよ誰かが。それで、何かな~、と思って質問したら『おたくのサッカー部にいる、山吹楓や剣城京介に聞けば?』って言われて・・・」

「そうだったの・・・ごめんね」

「すまない」

「ううん、いいんだけど、何なの?話したくなかったら、いいんだけど・・・」

そういうと、剣城の顔がつらそうになった。それを見ていた楓ちゃんが、

「あ・・・私が話すから、練習が終わったら、ちょっと部室に残って」

といった。

きっと、剣城は『フィフスセクター』に、とても辛いことをされたか、つらい思いでしか残ってないのだろう。悪いこと、しちゃったな・・・

 

 

でも、練習が始まったら、こんなこと、考えていられなくなった。

今日は、僕が『化身使い』だと告白する日。

信助は

「大丈夫!」

って言ってくれたけど、やっぱり拒否されないか心配。

 

 

「緑!お前から何か言いたいことがあるんだろ?」

 円堂監督が、僕にふってきた。いよいよ告白だ。

「実は、僕、化身使いなんです。でも、前の学校ではそのせいで拒絶されてしまって、それで、皆さんにも拒否されるのではないかと思って隠していました。すいませんでした」

僕が、精いっぱいの気持ちで告白した後、一瞬沈黙の時間があったが、すぐに笑いがおこった。

僕は、何が起こったのか理解できなかった。

「え・・・み、皆さん!?」

「ははっ、緑、そんなこと、心配してたのか。大丈夫だ。ここにいる人たちは、みんな、化身使いにはなれている。現に、俺も化身使いだしな。だから、拒否なんてしないよ」

「ほ、本当ですか・・・?」

「ちゅーか、そんなこと心配してたわけ?」

「ひ、ひどいです!浜野先輩!」

「でも、その気持ち、分からなくもないよ」

「か、楓ちゃ~ん・・・」

「まぁ、私の場合は化身を出すほうが最初だったけどね。あ、そうよ!緑、化身だしてみてよ」

「えっ、今から?」

「はい、僕たちも見てみたいです。緑さんの化身!」

「はい!」

「なら決まりだな。1年生の期待には、答えなきゃな?」

「霧野先輩・・・はいっ、わかりました」

 

 

そして、僕たちはサッカーグラウンドへと急いだ。

僕は、心の底から安心した。雷門中学校(ここ)なら、自分のしたいサッカーが、目いっぱいできるかもしれない。

 

 

そして、僕は化身を出した。

「うぉぉぉぉぉぉ!!!『天の使いドラゴン』!!!!」

「わぁぁぁぁ!!!すごいっ!」

「緑、なかなかやるじゃんか!」

「へへっ、ありがとうございます。あ、じゃあ、先輩たちも見せてくださいよ?」

「えっ・・・」

「いいじゃないか、神童。見せつけてやれ!」

「あぁ!」

ということで、化身ショーが始まったのだった。

 

 

こんなに楽しいサッカー部なら、僕は、がんばれる!本気になれる!

 

 



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本当の気持ちに気づかせて

「わぁぁぁぁぁ!!!」

今日は緑君が化身を披露していた。でも、私はあまり集中できなかった。

だって、緑君が輝いていたから。

 

 

「緑・・・くん・・・」

「何?お前、緑のこと好きなのか?」

「水鳥・・・さん・・・いえ、そんなことは・・・」

「隠さなくていいよ。あたしと恋バナでもしようぜ?」

「あ・・・はい・・・実は・・・」

そして、私は昨日会った出来事を、水鳥さんに話した。

 

 

「そうだったのか・・・そりゃ、びっくりするよな」

「はい・・・本当はうれしいんですけど・・・」

「けど・・・?」

「私、前の学校で小学校の時から付き合っていた恋人がいて・・・」

「マジ!?すっげぇな」

「・・・でも、私の転校によって別れてしまったんです」

「えっ・・・」

「2人ともわかりあいました。でも、やっぱり忘れられなくって・・・」

「その気持ち、わかるな~」

「えっ!?水鳥さんが?」

「あのな、龍馬っているだろ?」

「あぁ、はい、錦先輩ですよね」

「あぁ。あいつ、中1が終わるころから、イタリアに留学してたんだよ。でも、正直言うとあたし、龍馬のこと好きだったから行ってほしくなかったんだよ」

「好き・・・って、付き合っていたんですか!?」

「いや、あたしの片思い。だから、そんな勝手、許されるわけなかったんだよ」

「・・・」

「でもな、中2のとき、帰ってきてくれた。それは、白恋中との試合の時だった。その登場の仕方がもうめちゃくちゃで・・・」

「どんな登場の仕方だったんですか?」

「遠くの空港から、暑いのにチャリで来たんだよ」

「えぇ!?」

「でも、その馬鹿な登場の仕方にひかれてな・・・やっぱり好きだと思ったよ」

ふと、水鳥さんの表情を見たら、優しそうな表情をしていた。

 

 

「ふふっ」

「何がおかしいんだよ?」

「いえ、水鳥さんは錦先輩のことを話すとき、とっても優しい表情をされるんですね」

「そ、そんなことねぇよ」

「いいえ、本当です。私は、そんな水鳥さんがうらやましい。もっと、緑君のことを話すとき、そんな優しい話し方をしたいな・・・」

「なんだよ、じゃあ、やっぱ、緑のこと、好きなんじゃねぇか」

「へっ!?緑君がのことを・・・私が・・・好きっ!?」

「あぁ!だって、すごく優しい顔をしてるよ?」

「そ、そうなの・・・かな・・・」

「あぁ、きっとそうだよ!なら、返事は決まっただろ?」

そう、返事は決まっていた。

 

 

私は、たった1日で緑君が好きになっていたのだ。

 

 

 

そして、私は思い出した。

「水鳥さん・・・」

「ん・・・?」

「水鳥さんも、錦先輩とお幸せに!」

「あぁ!?な、なんだよぉ~」

 

 

そう、まだ錦先輩と水鳥さんは付き合っていないのだ。

もう、相思相愛なのはわかりきっているのに。

 

 

そして、私は明日必ず返事すると決めたのだった。

 

 

 



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幼馴染のことは、幼馴染が1番理解してる

私は、山吹楓。

今日はサッカー部の練習に来ている。まぁ、サッカー部に所属しているんだから、当然だけど。

普通は集中してやるのだけれど、今日は集中できなかった。1年生からのボールでさえもちゃんと受けることができなかったし、やっと受けたボールもゴールすることができなかった。

そんな状態を心配したらしい先輩たちが、私のところに来た。

「楓?どうしたんだ?」

「いえ、大したことはないんですけど・・・」

「そうか?でもなぁ・・・ゴール出来ないなんておかしすぎる」

「・・・じゃあ、何かあったんです。すいません、聖地(グラウンド)にこんな気持ちを持ちこんでしまって・・・」

「いや、まぁ、大丈夫ならいいんだが・・・ちゃんとしろよ?今日は、剣城も調子が良くないらしいしなぁ・・・」

「つ、剣城も・・・?」

「あぁ。なにか、2人して隠してるのか?」

私は、心当たりがあった。

でも、そのことは先輩たちには言わなかった。

 

 

「いいえ、ただ、不思議に思って・・・いつもクールな剣城(あいつ)が、なぜ・・・と思ったんです」

「そうか・・・まぁ、2人とも頑張ってくれよ?チームの2トップなんだからな」

「はい・・・あ、もう練習が終わってしまうので、戻ってもらっていいですよ」

「あぁ、そうだな」

そういうと、先輩たちはそれぞれのポジションに戻って行った。

そして、私は剣城の方を見た。

 

 

きっと、剣城の調子が悪いのは、さっき緑に質問されたあのこと。

「『フィフスセクター』って何?」

フィフスセクター・・・

私と剣城(あいつ)にとって、いい思い出は残っていない、あの悪夢のような場所。特に剣城にとってはいい思い出なんか1つも残っていないだろう。私は、聖帝こと豪炎寺さんの真の目的によってサッカー部破壊という任務は受けなかったが、剣城(あいつ)は、ただお兄さんの手術代が欲しい・・・という気持ちだけだったのに、大好きなサッカーを、サッカーによって破壊するなんて辛かったに決まっている。

「剣城・・・」

私は、無意識のうちに剣城(あいつ)の名前をつぶやいていた。

 

 

そして、緑と約束した時間が来た。

 

 

サッカー部ファーストチームの部室に私と緑だけが残った。

部室の外で、剣城が盗み聞きをしようとしているらしいけど、私にはお見通しだった。だって、幼馴染なのだから。

「楓ちゃん・・・ごめんね。きっと、嫌な事、聞いちゃったんだろうね、僕」

「えぇ、私はもちろん剣城(あいつ)はもっと嫌なことね。でも、謝ることじゃないわ。いつか、話さなきゃいけないと思ってたし。あなたが、化身使いだと告白したように」

「楓ちゃん・・・」

「・・・話すわね。『フィフスセクター』というのは、1年ほど前に解散されたサッカー管理大型組織。この組織があった1年前まで、サッカーは自由なものではなかった」

「サッカーが・・・自由じゃない・・・!?」

「えぇ。そして、弱い学校のサッカーチームを破壊しはじめた。その破壊するためにその学校に送り込まれたものが、シード。そのシードだったのよ、私と剣城は・・・」

「2人が・・・シードっ!?そんなわけない!そんな悪い組織にいたなんて・・・嘘だよ!」

「嘘じゃないわ。しかし、私はフィフスセクターのトップに立つもの、聖帝の真の目的によってシードとして送り込まれた特別な存在だった。だけど、剣城(あいつ)は・・・サッカーぶ破壊の為だけに送り込まれたシード。でも、本当はお兄さんの手術代が欲しかっただけなのに・・・お兄さんを助けたかったのに・・・」

「そんな・・・辛すぎじゃないか・・・」

「っ・・・もう、いいかしら・・・話するのも、結構つらいもので・・・っ」

「か、楓ちゃん!?」

 

 

私は、ただ無意識で泣いていた。頬を、冷たい涙が伝う。

もう、暖かい思い出がたくさんできたのに、冷たい過去はそう簡単には消えない・・・そのことを痛感した。

 

 

「楓ちゃん・・・辛い事、思い出させちゃってごめんね。でも、話してくれてありがとう」

「なんで・・・そんな事、なんにも役立たないのに・・・」

「なんでもだよ。ただ、ありがとう」

「緑・・・ありがとう・・・」

また、私の頬を涙が伝う。

でも、その涙はさっきの涙よりも暖かかった。

 

 

緑が帰った後・・・

 

 

「剣城、盗み聞きしてばれてないとでも思ったの?幼馴染なのに」

私は、剣城にばれているということを話に行った。

「やっぱ、楓にはばれるよな。俺、ポーカーフェイス得意なんだけど」

「無意味よ。そういえば、1年の時にもあったわね。私の家の使用人に変装して・・・でも、なぜか雷門の制服着てて・・・」

「あれは、キャプテンが近くにいるってわかったからだよ。俺の制服、目立つからな」

「でも、今は普通の着ているじゃない。似合ってるけど?」

「楓もな。1年の時のロングも好きだったけど、2年になってのショートもいいと思うぜ?」

「・・・ねぇ、アンタ、性格丸くなったよね♪」

「お、お前もだ!優しくなったとおもうけど」

「ふふっ、そうかしら?でも剣城、そのまま優しくなったらもてるわよ?」

「・・・うるせぇ。お前も優しくなればいい。昔みたいに、もっと笑え。心の底から」

「剣城ぃ・・・」

「あと、俺の事、京介でいい・・・////」

「!・・・でも、昔、駄目って言ったじゃない?恥ずかしいって・・・」

「もういいよ。解禁」

「はぁい、京介・・・ふふっ、なんか変なのっ」

そして、私たちは久々に2人で帰った。昔の思い出話を、たくさんしながら・・・

 

 

 



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返事して

あぁ~っ、もう、なんで今日サッカー部、朝練ないのかなぁ~っ

私は、そんなことを考えながら前にいる楓のところへ走って行った。

 

 

あぁ・・・今日は告白の返事(へんじ)、返そうと思ってたのにぃ・・・

 

 

「未雲?早く行かなきゃ遅れるよ?」

「楓・・・うん、わかってる、ごめんね」

「ううん、いいけど・・・あ、もしかして緑がらみ?」

「へぇっ!?な、そ、そんなこと・・・」

「知ってるのよ?あなたが緑の事、好きなことくらい。もちろん葵も茜さんも水鳥さんもちかちゃんもね」

「な、なんで・・・」

「気付いてないの?未雲、ずっと緑のこと見てたよ?」

「そ、そんなこと・・・」

「嘘は?」

「・・・つきませんっ。はい、お話します」

ということで、私は昨日水鳥さんに話したことを、そのまんま話した。

 

 

「やっぱりね。大方予想はついてたわ」

「なら、聞かなくてもよかったんじゃないの・・・?」

「一応、事実を聞いておきたかったし」

「むぅ・・・」

「・・・ふふっ、大丈夫よ。未雲と緑、お似合いよ?」

「本当・・・?でも私、楓たちみたいに美人じゃないし・・・」

「私が美人っ!?どこがよぉ!?」

「全部だよっ!自覚、ないの?」

「自覚もなにも・・・そんなことないよ・・・それに、未雲の方が可愛くってうらやましいよ。女の子らしいから・・・」

「・・・でも、緑君、かっこいいから似合うかなぁ・・・」

「大丈夫よ。自信を持ちなさい」

「かっ、楓ぇ~」

「ふふっ、あ、あれって緑じゃない?」

「えっ・・・!?」

「・・・ほら、私のことはいいから行った行った!」

「・・・うんっ!」

 

 

そして、私は緑君のところまでかけて行った。

 

 

「緑君!」

「あ、未雲ちゃん。おはよ~」

「うん、おはよう。あ、あのね、返事・・・なんだけど・・・」

隣で、緑君が唾を呑む音が聞こえてきた。

「私・・・緑君のことが好き!」

「ほ、本当っ!?」

「うんっ!だぁいすき!」

「未雲ちゃん・・・ありがとう!僕も、大好きだよ!」

「はぁ・・・なんか、付き合うなんて、変なカンジっ・・・」

「僕も、相思相愛なんて初めてだよっ」

「へへっ。じゃあ、これからよろしくねっ」

「うんっ!」

 

 

私たちは、ここが皆が通る道路だということを忘れていちゃいちゃした。

でも、そんなこと気にならなかった。

 

 

だって、好きな人と一緒に入れるんだもの。

 

 

私は、その姿を楓と剣城くんと天馬君と葵がこっそり見ていたことは、知らない。

 

 

「よかったなぁ・・・未雲」

「えぇ、本当」

「ねぇ、剣城と楓が幼馴染って本当!?」

「え、天馬、それ、なんで知ってるの?」

「えっ、じゃあ本当なんだ!」

「えぇ。結構前から一緒にいるよ、京介とは」

「「京介・・・ねぇ・・・」」

「ん?何か変なこと言った?」

「「いやぁ・・・」」

(楓って、自分のこういうことに対しては鈍いんだな・・・)

「京介?私の顔に何かついてるの?」

「んっ!?い、いや・・・」

「?変なの」

その姿を見て天馬君と葵がにやついていたのは、また別の話・・・

 

 

 



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ちゃんと相談しろよ?

本文私は、今日から龍田緑くんと付き合うことになった。

そのことを知っているのは、楓、葵、天馬君、剣城君・・・くらい。まぁ、そのうちばれちゃうだろうけど。

今日はサッカー部の練習がなかったため、緑君と一緒に帰ることができなかった。だから、用事のある楓と神童キャプテン以外のメンバー(私、葵、天馬君、剣城君、霧野先輩、信助くん)で、帰ることになった。

 

 

「未雲ちゃん、今日の宿題ってなんだったっけ?」

「もう、信助くん忘れちゃったの?」

「信助って、意外と忘れやすいよね」

「うんうん」

「葵ちゃん、天馬~ひどいっ」

「でも、本当のことだろ?西園」

「そうじゃねぇの?」

「霧野先輩~剣城~」

「はいはい、そういえば、神童と楓は、今日2人してどこ行ったんだ?」

「そういえば・・・」

「誰か、知っている人っているの?」

「「「「・・・」」」」

 

 

 

そう、誰も神童先輩と楓がどこに行ったのか知らなかったのだ。

 

 

 

場所は変わって山吹邸・・・

 

 

「楓、俺の家でもよかったのに、よかったのか?」

「はい。構いません。それより、お兄さんに用があるそうですが」

「あぁ、すまないな。楓の家なのに」

「いえ、海外に3年勤務が決まった母の代わりに、今はお兄さんが私の世話をしてくれているんです。だから、大丈夫だと思いますよ。お兄さんも山吹邸(ここ)に住んでいますし」

「そう・・・だったのか・・・」

俺は、神童拓人。雷門中学校生徒会長で、雷門中学校3年1組の学級委員で、雷門中学校サッカー部のキャプテンだ。学校生活に不満はない。むしろ、満足している。

 

 

なら、何を楓のお兄さんに相談するのかって?

まず、話しておくが、楓のお兄さんというのは、楓の従兄のお兄さん、鬼道有人さんといって、11年前のFFIの日本代表のメンバーだった。しかも、チームのの司令塔であり、ナンバー2で3トップだった。

その鬼道さんは、昔、同じメンバーだった円堂さん(キャプテン)が、キャプテンを下されそうになったとき、何度もキャプテンに任命されたが、断ることができたらしい。

それなのに、俺はキャプテンはもう天馬に譲りたいのに、なかなか譲れないのだ。

だから、どうすればそんなに説得力があるのか知りたかったのだった。

 

 

「楓、俺に客とは誰なんだ?」

「あ、お兄さん。はい、お客さんとは神童キャプテンのことです」

「ほう、神童か。久しぶりだな」

「はい、鬼道さん。先日お渡しいただいた練習メニューは、みんなの力になりました。ありがとうございます」

「いや、構わない。それより、何の用なんだ?」

「えっと、それは・・・」

俺は、楓のほうをちらっと見た。それに気がついてくれた楓が、

「私は、席をはずしておきます。ついでに、人払いもしておきましょうか?」

と言って、席をはずしてくれた。

そして、俺は、悩み事を全て話した。

 

 

「・・・そうか」

「はい。俺って、やっぱり・・・説得力がないんでしょうか?」

「いや、そういうことではないと思う」

「なら、なぜっ」

「おまえには、天馬の気持ちがわかるか?」

「天馬(あいつ)の・・・気持ち?」

「あぁ、そうだ」

「いいえ、わかりません」

「天馬は・・・お前が大切なんだ。自分のせいで、キャプテンをやめる羽目になったんじゃないかと思っているんだ」

「なぜ、天馬のせいなんですか?」

「お前が雨宮に突っ込まなかったらキャプテンをやめることにはならなかっただろう?」

「えぇ、まあ。でも、そんなこと、俺は気にしていませんし・・・」

「お前が気にしていなくても、天馬は気にしているかもしれない。だから、一緒にさせたかったんじゃないか?」

「でもっ、俺はいいんです!一刻も早く譲たい!」

「神童!お前は焦りすぎている!冷静になって、ゆっくりと進んでいけ」

「・・・!そうですね。ありがとうございます」

「ならよかった。・・・でも、いつから聞いていたんだ?お前たち」

「えっ!?」

俺は、えっ!?と思った。

 

 

そして、大きなドアがぎぃぃぃ・・・とあいた。

「やっぱり、気づいていましたか。お兄さん」

「か、楓!?それに、霧野!?剣城!?」

そう、そこにいたのは楓、霧野、剣城だった。

「なんで、ここに・・・!?」

「いや、私が人払いをした直後、剣城と霧野先輩が来て、話を聞きたいと言って・・・」

「いや、剣城は楓に会いたかったのかもしれないけど、俺は図書館に来ただけだ」

「それって、剣城が本当に私に会いに来たとしても、もっと失礼なんじゃあ・・・」

「そうですよ、霧野先輩。それに、俺は楓に会いに来たわけではありません」

「そうなのか・・・?」

「あの、俺らの存在は忘れてないだろうな?」

「あ・・・はい、もちろんで・・・」

「「忘れてただろ!」」

「・・・はい。でも、キャプテンの悩み、聞けてよかったです」

「これからは、俺たちもキャプテンの悩み、協力しますよ?」

「そうだぞ、神童?」

「みんな・・・ありがとう」

そして、俺たちは天馬にキャプテンを譲ることを急がないことにした。

 

 

みんなが帰った後・・・

 

 

「お兄さん?」

「ん?何だ?」

「さっき、神童キャプテンに言ったことって・・・」

「ん?あぁ『お前は焦りすぎている!冷静になって、ゆっくりと進んでいけ』ってやつか?」

「はい、あれってテレス兄さんの受けよりですよね?」

「ん・・・そういえば・・・そんなこともあったな」

「私が、アルゼンチンに留学していたときに聞いたんです」

「テレスか・・・懐かしいな」

「また、会えますよ。イナズマジャパンの皆さんとも・・・ね?」

「あぁ、そうだな」

楓と鬼道は、思い出に浸ったのでした。

 

 

 



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変ったよ、ちょっとだけ

私は未雲。

今日は、サッカー部の練習に行った。そして、只今ドリンク作り中・・・

 

 

「あれっ?またグリーンピース・・・」

「未雲・・・だ、大丈夫よ!」

「そうかな・・・あ、そうだ。私、葵に謝らなきゃ」

「えっ!?何が?」

「私、前『楓が選手になったのもわかるな~』って言ったでしょ?あれ、だるいから選手になったんじゃなかったって知って、なんか謝りたくて・・・」

そう、私はつい先日、楓がサッカー管理大型組織『フィフスセクター』のシードだったと知ったのだった。とてもつらいことで、いい思い出などないことも知った。

 

 

だって、話している最中、楓が涙を流したから。

 

 

「そう、だったんだ・・・」

「うん・・・だから、そんなこと言った時、葵もつらかったでしょ?ごめんね」

「ううん、大丈夫」

「ありがとう・・・あ、さ、さぁ、ドリンクづくり、ガンバロー!」

「お~!」

「おはようございますっ!」

「あ、ちかちゃん!おはよう♪」

「おはようっ」

「あの、来て早々すいませんが、皆さんがグラウンドに集まれと・・・」

「グラウンドに?」

「なんでかな?」

そして、私たちはグラウンドへと急いだ。

 

 

グラウンドに行くと、もうみんなが集まっていた。前には、天馬君と、神童キャプテンがいた。天馬君は納得のいかないような顔、神童キャプテンは晴々したような顔をしていた。

「すいません、遅れてしまって・・・」

「いや、構わない」

「で、何の用なのでしょうか?」

「み、皆さんにお知らせすることがあります。今日から、キャプテンが俺だけになりました」

「えっ!?どういうこと?」

動揺しているみんなの前に、神童キャプテンが立って、また話し始めた。

「今日から、俺はキャプテンを降りる。そして、前通り天馬1人がキャプテンになった」

周りから、動揺の声が聞こえる。それを鎮めるように楓と霧野先輩が、話し始めた。

「このことは、神童先輩が2年生になり、キャプテンに再びついたときから考えていたことです」

「おそらく、そのことを知っているのは俺と楓と神童本人と剣城くらいだろう」

「えっ?剣城も知ってたわけ?」

「あぁ」

「だから、理解してあげてください。先輩は生徒会長や学級委員もされているんですよ?」

「!!」

楓の一言は、みんなを鎮めた。そして、みんなを納得させた。もちろん、私も納得した。

「じゃあ、今から天馬だけがキャプテンだ!がんばれよ!」

 

 

そして、今日の練習に入った。

その時、私は水鳥さんと錦先輩がいないことに気がついた。

「水鳥さん、どこにいったんだろ・・・」

「そういえば、錦もいない・・・」

「ほんとう・・・」

「霧野先輩、ちかちゃん・・・って、なんで霧野先輩、ここに!?練習はどうされたんですか?」

「いや、ちかの練習に付き合ってて・・・」

「ちかちゃんの練習?なんの練習ですか?」

「私、霧野先輩にサッカーを教えてもらっていたんです。私の兄はサッカーが大好きなんですが、ちょっと理由があってサッカーを学べないので、私が学んで教えてあげようと思って」

「へぇ・・・で、錦先輩と水鳥さん、どこに行ったんでしょうか?」

「瀬戸もいないのか?」

「はい」

「なら、決まりだ。デートにでも行ってんだよ」

「へっ!?デ、デート・・・ですか・・・////」

「デートかぁ・・・いいなっ、水鳥さんと錦先輩」

「なぁにぃがぁ、デェト・・・だぁってぇ(怒)」

「「み、水鳥さん・・・」」

「瀬戸・・・」

「まぁいいよ。そ、そのとおりだし、さ・・・///////」

「「「えっ!?」」」

「瀬戸と錦、付き合ってんのか!?」

「////」

 

 

そして、この日1日で水鳥さんと錦先輩がつき合っているということは、サッカー部内で知れ渡ったのでした。

 

 

その日の帰り道・・・

「あーあ、ばれちまったなぁ」

「本当のことやきに、いいと思うぜよ」

「まぁな・・・ってことで、よろしくな!龍馬!」

「水鳥・・・かわいいぜよぉ~」

「わぁっ!?な、い、いきなり何すんだよっ!?」

「べっぴんさんやね」

いちゃいちゃしている2人を、サッカー部部員がほほえましく眺めていることは、2人は知らない。

 

 

 

 



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雷門のcoolstudent

視点を変えて、楓×京介です♪
幼馴染もえってやつですかねww


今は、朝の10時半。

私の家に、来客があった。それが、誰なのかと思ったから、私は玄関に出た。

こんなに早く来るなんて、いったい誰なのかしら?

それは、京介だった。

「あ、楓」

「京介、おはよ。どうしたの、こんなに朝早くから」

「いや、兄さんのお見舞いが早く終わって、それで暇つぶし」

「何よそれ。まぁいいわ。あがって行って。あ、でもお兄さん、昨日遅くまで仕事していたみたいだから、寝かせておいてあげてね」

「仕事?帝国のか?」

「ううん、鬼道財閥のほう。経営ってつらいのよ。私も帝王学?というか女帝学?・・・学ばさせられているから」

「そうか。あ、すまねぇけど、バラ園のバラってもらってもいいか?」

「いいけれど・・・何に使うの?」

「兄さんにあげる」

「・・・ふふっ、本当、お兄さんのことが大好きなのね」

「だって、俺のせいで兄さんが・・・だから、兄さんの好きなバラがあげたいんだが・・・いいか?」

「いいえ、構わないわよ。そうだ、今度お兄さんもつれてきたら?うちのバラ園には、さまざまな色があるわ」

「そうか・・・なら、今度連れて行くよ」

「分かった。まぁ、今日はバラを好きなだけとっていってよ。もちろん、バラ以外もいいよ」

「ありがとう」

そして、私と剣城はバラ園に向かった。

 

 

「わ・・・すげぇ」

「ふふっ。好きなだけとっていって」

「ありがとう」

「いえいえ。あ、あれって神童先輩と霧野先輩じゃない?」

「あ、そうだな」

「神童先輩!霧野先輩!」

 

 

その頃、神童と霧野は・・・

 

 

「神童先輩!霧野先輩!」

「ん・・・?霧野、呼んだか?」

「いや、神童も呼んだか?」

「いいや、誰だ?」

「うん・・・あ、あれは・・・!」

「剣城と楓?」

「先輩!こっちに来てください!」

 

 

そして、また山吹邸・・・

 

 

私が、大声で霧野先輩と神童先輩を呼んだため、2人はすぐに気がついて、こっちに向かってきた。

「先輩、2人でどこかに行かれていたんですか?」

「いや、神童の家に・・・」

「神童先輩の家って、俺、行ったことありませんけど」

「私は、ありますよ。え、京介、行ったことなかったの?」

「あぁ」

「ちょー広いんだぜ?」

「そうなんですか?」

「まぁ、楓の家にはかなわないがな」

「そんなことありませんよ。私の家は、別館があるだけです」

「そんな、別館って・・・」

「楓は、意識が少し一般の人とずれている気が・・・」

「霧野先輩、そんなことないですよ。神童先輩なんか、コンビニのおにぎり、知らなかったんですよ?びっくりでしょ?」

「神童、知らなかったのか?」

「あぁ、意外とおいしかったから、全種類仕入れさせた思い出がある」

「ですよね、俺もハマりましたよ」

「私もです。もうおいしすぎたから、おにぎり製造会社を造らせました」

「「・・・」」

「そうなのか?俺も作ってもらおうか・・・」

「そうしてもらったらいいですよ!」

そして、ふと京介と霧野先輩をみると、そこにはあきれ返ったような顔をしている2人がいた。神童先輩をみると、私と同じで不思議そうな顔をしている。

 

 

「あの、私たち、何か変なこと言いましたか?」

「あぁ、何か言ったのか?」

「「言いました、すごく変なこと・・・」」

 

 

結局私たちは、謎が解けなかった。

 

 




最後のほう、楓×神童だったような気が・・・

私は、神童、剣城、霧野の3人、大好きですね❤



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やっぱ好き

「ねぇ、緑君ってなんでそんなにサッカーが上手なの?」

私は、恋人の緑君に質問した。

 

 

「へぇ?なに、それ」

「だって、私はサッカーの事、全く知らないでマネージャーになったんだけどね」

「そうだったの?」

「うん、楓の誘いで」

「へぇ・・・で、なに、サッカーに興味を持ったってわけ?」

「うん・・・まぁ、正確に言うとサッカーやってる緑君がかっこよかったから・・・」

「////未雲ちゃん、恥ずかしいこと真顔で言うよね」

「そう?本当のことだし・・・」

「へへっ、ありがとう」

「いいえ、全然・・・それで、質問に答えてよ?」

「あ、うん、ごめんね。僕は、サッカーが好きだから頑張っている・・それだけのことだよ?同じ2年でも、天馬や剣城の方が、ずっとうまいしね」

「そうかなぁ?天馬くんや剣城君には失礼だけど、私は緑君が1番だよ?」

「/////ありがと・・・」

「あっ、照れてるぅ~」

「う、うるさいよっ」

私たちは、しばらくいちゃいちゃしていた。でも、私たちはここが皆が来る前の部室だということを忘れていた。

 

 

しばらくいちゃいちゃしていて、私たちは、皆が来ていることに気がつかなかった。

 

 

「おい、あいつら付き合ってんのか?」

「倉間先輩、そんなにはっきりと・・・」

「葵、それ、ばらしているんじゃ・・・」

「あぁっ!ど、どうしよ・・・」

「まぁ、この光景を見てしまったら、しょうがないと思うが」

「京介の言うことにも、うなずける」

「確かに」

「うんうん」

 

 

「みっ、皆さん・・・!いつから・・・!?」

「結構前から」

「ついでに、1番乗りは倉間~」

「浜野っ!?うるさいっ!?」

「倉間、最初はどうだったのか?」

「えっとなぁ・・・」

「倉間先輩、そんなに言わないでくださいよ!霧野先輩も聞かないでください!」

「いいじゃなか、緑」

「緑くん、未雲とお似合いねっ」

「えぇ」

「葵ちゃん、楓ちゃん・・・ありがとう~!」

 

 

結局嬉しいと思えるように終わったため、よかった。

 

 

その後・・・

 

 

「天馬、剣城」

「なに?緑?」

「なんだ?」

「君たちも、それぞれの思い人に告白しないと!」

「「はぁっ!?」」

「な、なんだよそれっ////」

「うん、緑、からかわないでよ/////」

「でも、天馬は葵ちゃん、剣城は楓ちゃんの事、好きなんでしょ?」

「「そ、そんなこと・・・」」

「でも、2人とも可愛いから、とられちゃうよ?」

「ひどい・・・」

「ほら天馬、やっぱ好きなんじゃない!」

「そ、そんなこと・・・」

「幼馴染が好き・・・ということは、よくあるパターンじゃねぇの?」

「それ言うか!だったら、剣城と楓も幼馴染じゃない!」

「//////」

「何照れてんの?やっぱ好きなんじゃ・・・?」

「まぁ!」

「「ん?」」

「2人とも、いつかは告んなきゃね♪」

「「/////っ!!」」

 

 

2人もからかわれたため、顔を真っ赤っかにしたのであった。

 

 



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久々の再会♪(幻影学園編)

まほゆき中心にしたいんですけど・・・


「真帆路くんっ、待って」

「幸恵、そんなゆっくりじゃあ雷門につけないんだけど」

「でも、ちょっとペース、落としてよ?」

私は、香坂幸恵。幻影学園高等部1年生。そして、今隣にいる真帆路正くんの彼女でもあり、真帆路くんと雷門高校1年生の天城大地くんの幼馴染。

今は、真帆路くんと一緒に雷門高校に向かっている。

 

 

なぜ向かっているのかというと、雷門中学校の同窓会に呼んでもらったから。

 

 

「久しぶりよね、皆に会うのって」

「1年くらいあってなかったと思うけど」

「そうかな?まぁ、真帆路くんと天城くんが、また仲良くなれてよかった」

「幸恵のおかげかな」

「そんなことないよ、2人が頑張ったからだよ」

「そうなの・・・かな?さぁ、そろそろ着くころだよ」

「真帆路~!香坂~!」

「天城!」

「天城くん!」

私たちは、少し先に天城くんを見つけた。天城くんは、1年会わなかった間に、少し大人っぽくなっていた。まぁ、元気で体格がいいことは変わっていないけど。

 

 

「久しぶりだド」

「うん、元気だった?」

「あぁ、元気だったド」

「俺たちも、元気だったよな」

「うん。あ、後ね・・・」

「香坂と、真帆路は付き合っているんだド?」

「「///////」」

「2人とも、分かりやすいド」

「うるさいな・・・でも、本当のことだけど」

「やっぱり。幸せになるんだド!」

「天城・・・」

「天城くん・・・」

「さぁ、皆、パーティーを始めるド~!」

「「えっ!?」」

私たちは、驚いた。

なんとそこには、現高1以外にもたくさんの雷門メンバーが来ていた。中には、見たことのない新しい顔をあった。

 

 

「幸恵さん、お久しぶりです」

「楓ちゃん!またプレイヤーとしても腕をあげていると高校サッカーでも有名よ」

最初に私のところに来たのは、女子天才プレイヤーとして有名な楓ちゃんと、雷門中学校サッカー部マネージャーの葵ちゃん、後は知らない顔が2つあった。

「楓ちゃん、葵ちゃん、そこの2人は誰?」

「あっ、ここにいるのは未雲とちかちゃんです。未雲は中2のマネージャー、ちかちゃんは中1のマネージャーです」

「がんばっているのね。なんだか、昔を思い出すなぁ・・・」

「そういえば、幸恵さんも幻影学園サッカー部のマネージャーだったんですよね?」

「うん、1人だけだったんだよ。でも、やりがいがあって楽しかったよ」

「分かりますっ!すっごいマネージャーって楽しいですよね!」

「えっと、あなたは・・・ちかちゃん・・・だったっけ?」

「はいっ!雷門中学校1年1組、黒谷ちかです。雷門中学校サッカー部ファーストチームマネージャーです!」

「ちかちゃんか・・・これからよろしくね♪」

「はいっ!」

「あ、あの!私は2年1組金田未雲です!サッカー部ファーストチームのマネージャーやってます!宜しくお願いします!」

「うん、宜しくね」

そして、私たちはガールズトークを楽しんだ。

 

 

そのころ、男子達は・・・

 

 

「おい、真帆路。香坂とられているド?」

「う、うるさぃ・・・」

「真帆路さん、照れてるんですかぁ~?」

「か、狩屋!」

「可愛いですね」

「/////」

(輝、天然すぎだろ)

「輝、天然すぎだ」

「霧野センパイ、俺の心を読まないでくださいよ」

「よんでねぇ!」

「何が天然なんだ?」

「「三国さん!」」

「いや、輝が真帆路さんの事を可愛いって・・・」

「ん・・・本当なんじゃないのか?」

「三国さん・・・聞かない方がよかったかもしれません。すいません」

「おぅ!あ、皆!こっち来いよ!」

「「「はーい!」」」

 

 

こっちはボーイズトーク(?)を楽しんでいたのでした♪

 

 

 




真帆路くんのしゃべり方って・・・?


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私の過去

「楓って、幼いころ、どんな子供だったの?」

「私・・・ショックを受けないでね?」

「「うん・・・」」

私は、葵と未雲に自分の過去について聞かれたため、隠さず話すことにした。

 

 

11年前、私はまだ「山吹楓」ではなく「光山楓」だった。実の父親は、実の母が私を宿した時に逃げたらしい。兄1人だったら養えたらしかったけど。だから私は、幼少期を辛い気持ちで過ごした。でも、母と兄と私の3人で過ごした時間は、大切なものだった。

 

 

でも、楽しい時間は、そんなに長くは続かなかった。

 

 

母が、海外勤務の帰りの飛行機で事故に会い、亡くなったのだ。

私が3歳、兄の翔が4歳の時だった。

私は、近くにあった「お日様園」というところに兄と2人で預けられていた。だから、大ぜいの子供たちと遊んでいたため、ニュースで聞いた名前にお姉ちゃんが、顔を真っ青にしているのにも気がつかなかった。それに気がついたのは、お姉ちゃんが泣いている時だった。

 

 

―11年前―

「おねえちゃん?なんでないているのぉ?」

「楓・・・ちゃん・・・お母さんが・・・」

「ママぁ?どおしたのぉ?」

「大丈夫・・・私が翔くんも楓ちゃんも守ってあげるから・・・」

「おねえちゃん・・・?まもるって・・・?」

私は、理解できなかった。理解しようとも思わなかった。でも、兄は理解できたらしく、泣き始めた。私は、兄にも訪ねた。

「おにいちゃん・・?」

「楓っ!俺たち、別れてしまうかもしれないっ・・・」

「おにいちゃん・・・ママは?おかあさんは?」

「し、し、死んだ・・・」

「しんだ・・・?ウソだよ!おかあさん、わたしたちをおいていかないもん!ぜったいにおいていったりしない!おにいちゃん、うそつかないでよ!」

「嘘じゃない!本当に、死んじゃったんだよ、お母さんは・・・」

「うそだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!わぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

私がそれを理解したのは、兄が理解した2時間も後のことだった。

 

 

それから私は、大人になろうと努力した。

そして、私は落ち着きのある子供らしくない子供に育っていった。

 

 

―母の死から3年―

そのころ、兄はもう「お日様園」にいなかった。引き取られたのだ。兄が引き取られて、もう1年半が過ぎていた。

「瞳子さん、何かお手伝いすることがあるでしょうか?」

「楓ちゃん、いいのよ?無理しないで幼稚園の友達と遊んでも」

「いいえ、遊んでいる暇があるのなら手伝いをしたいんです」

「ごめんなさいね、いつも」

私は、よく「お日様園」に来ていた吉良瞳子さんの手伝いをしていた。そして、それだけで1日1日とあっという間に過ぎて行った。

そんな毎日が終わる日が、突然やってきた。

 

 

私は、瞳子さんに突然呼ばれて、個室に行った。そこには、美しい35~40歳くらいの女性がいた。「あの、どちらさまでしょうか?私に何か用でも?」

「楓ちゃん、よく聞いてね。あなたは、今日からこの山吹さんの家の子供になるの」

「?どういうことですか?」

「つまり、『光山楓』から『山吹楓』になるの」

「・・・えぇ!?山吹・・・楓!?」

「そうよ、楓ちゃん。じゃあ、私は少し席をはずすから、養母(おかあ)さんとお話してみたら?」

「あ、はい」

そう、私が引き取られることになった。しかも、山吹さん・・・今の母に当たる人は、世界3大財閥の1つに数えられる超巨大財閥、山吹財閥の女性総帥だった。でも、私はそんなこと知らなかった。だけど、養母(おかあ)さんは、私の大好きなサッカーを好きだと言ってくれた。だから、山吹家の養子(こども)になると決めた。

 

 

「・・・そして、今に至るわ」

「楓・・・辛い人生だね」

「うん・・・聞いちゃってごめんね」

「いいのよ、別に。私は母の記憶もほとんど覚えていなかったし、ときどき思い出してあげないと、可哀そうよ」

「それで、お兄さんとは会っているの?」

「ううん、全然。去年まで雷門にいたけど、今年転校しちゃったし・・・」

「そっか・・・」

「でも、いいのよ」

私の顔には、自然と笑顔があふれていた。

 

 



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サッカーに対する考え

「じゃあ、未雲は幼いころ、どんな子供だったの?葵も」

「私は、とにかく普通の子供だったよ?未雲は?」

「私は・・・」

 

 

そして、私は今度は自分の過去について話し始めた。

 

 

私は7年前、北海道に住んでいた。

お父さんは、白恋中・・・そう、あのイナズマジャパンの吹雪士郎さんの出身校の教師だった。だから、私もよく白恋中に行っていた。

 

 

―7年前―

「お父さん~!迎えに来たよ~!」

「未雲!勝手に入ってこない!もう小学校1年生なんだから、わかるだろ?」

「・・・ごめんなさい・・・でも、会いたかったんだもん」

「わかったから、校庭にでもいなさい。といっても、誰もいないか・・・」

「・・・うん。でも、校庭に行っている」

私は、そういうと白恋中の校庭に行った。すると、いつもは誰もいない校庭に、人影が見えた。私は、それがだれかすぐに分かった。

「士郎お兄ちゃん!なんでここにいるの?高校は?」

そう、そこにいたのはイナズマジャパンのメンバーだった吹雪士郎さんだった。私のお父さんは、士郎お兄ちゃんが、まだ中学生だった時から先生をしていたから、私と士郎お兄ちゃんも知り合い。

「今日は、『創立記念日』って言って、学校ないんだよ」

「そっかぁ~!じゃあ、みんなに会いに来たんだ?」

「そうだよ。そうだ、未雲ちゃん、サッカー教えてあげようか?」

「う・・・もうっ!士郎お兄ちゃん、私がサッカー苦手って知ってるくせに・・・」

「でも、やらなきゃうまくならないよ?」

「う・・・でもっ!今日はいいのぉ・・・」

「わかってるよ、そのうち好きになってくれるよね」

「がんばるよ・・・じゃあ、またねっ!士郎お兄ちゃん!」

 

 

そして、私は士郎お兄ちゃんと別れた。

 

 

その次の日、急にお父さんが離任することになり、北海道を私は離れ、沖縄に行った。

そして、私はサッカーから離れた。4年もの間。普通に沖縄の小学生として過ごした。

そして、私が小5になったとき、再びサッカーとであった。通っていた小学校に、ある先生が転任してきたのだ。その先生の名前は、綱海先生。

今となってはわかるけれど、その時は知らなかった。その綱海先生がイナズマジャパンのメンバーだったってことに。だったら当然、サッカーが好きに決まってるのに、私は先生に反発した。

 

 

―3年前―

「ほら、未雲もやってみろよ?」

「いやです・・・サッカー嫌いなので」

「嫌いって・・・その言葉、俺の知り合いが聞いたら悲しむな」

「先生の知り合いのことなんて、知りませんっ!私は、ボールがけれないんです!」

「・・・ったく、下手でもいいから蹴ってみろよっ?」

「いや!もういやです!」

そして、私はサッカーの授業がある日は学校を休むようになった。なぜ、サッカーが苦手なだけでそんなに嫌がるのか、みんなは不思議に思った。

その理由は、サッカーは昔お父さんもやってて、一度だけお父さんがサッカーやってて骨折したって聞いたことがあったから。だから、私の中にはサッカーをプレイする=骨折(怪我)をする・・・というイメージができていたからだ。

 

 

そして、またお父さんが離任になった。そして来たのが、ここ、稲妻町。

ここに来るのは、本当に乗り気じゃなかった。稲妻町は、サッカーの名門・雷門中学校があるから。その前に、ここから比較的近いところにある帝国学園や木戸川清修もサッカーの名門。

何処に行っても、サッカーとは縁が切れない。だったら、雷門中学校に行ってやろうじゃない!

・・・ということで、私はここ、雷門中学校に来た。

 

 

そして、今に至る。

 

 

「サッカー嫌い、だったの?」

「うん。あ、でも、今はその間違った考え方も正されたから、サッカー大好きになったよ?」

「よかったぁ~」

「うんっ!みんな、ありがとね」

私の顔にも、笑顔があふれていた。

 

 

 



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合宿しようぜ!・・・的な
呼びだされて・・・


未雲視線です♪


「「「て、帝国学園!?」」」

「あぁ!鬼道からの申し出だ。対帝国学園は、来週の土曜日だ!いいな!」

突然円堂監督から告げられた練習試合。豪炎寺コーチもびっくりしている。とにかく急だった。

 

 

最初に発言したのは、キャプテンの天馬君だった。

「急・・・ですね・・・」

「あぁ。急だ」

「円堂監督、選手たちの調整がまだ終わっていませんが・・・」

「それは、あっちも同じことだ」

「でもですね・・・」

「でも行くんだ!みんなだ!いいなっ!」

「はぁい」

私は、その時不思議に思った。いつもならもっと選手のことを考えてくれている円堂監督が、こんな乱暴な事をするなんて・・・ふと横を見ると、葵も不思議そうな顔をしていた。そして、また円堂監督の顔を見た。それは、何か企んでいるような顔に見えた。

 

 

そして、土曜日。

 

 

「豪炎寺、円堂。久しぶりだな」

「あぁ、鬼道。今日は、他の奴らも来ているんだろ?」

「あぁ、ちゃんと呼んである。大丈夫だ」

何やら、円堂監督と鬼道コーチと豪炎寺コーチが何か話していた。その姿を見ていた楓が、つらそうな表情を浮かべていたらしく、そのことに気付いた神童先輩が楓に話しかけた。

「楓は、今日なぜ呼ばれたか知っているんだな?」

「・・・そんなこと・・・ありません」

「ったく、うそつくの相変わらず下手」

「京介!なによ、それ」

「顔に書いてあるよ、『私、知ってまーす』って」

剣城くんが裏声を出して、楓に突っかかった。すると、楓は一瞬口をとがらせたが、すぐにやめて、諦めたように監督たちのところへといった。

すると、監督たちは驚いた顔をしたが、また何か楓に言うと、今度は一緒にこっちにやってきた。そして、円堂監督が口を開いた。

「今日の『帝国学園』との練習試合は、口実だ。本当は、『ホーリーロードインターナショナル日本代表』の親睦を深めるためだ!」

「「「「『ホーリーロードインターナショナル』??」」」」

みんなが不思議そうな表情を浮かべた。もちろん私もだ。不思議な顔をしていないのは、監督たち3人と、楓、あとは帝国学園からただ1人だけ来ている雅野麗一くんという人だけだ。

 

 

「・・・あの、その『ホーリーロードインターナショナル』って、なんですか?」

天馬君が、みんなが思っていることを代弁した。すると、楓が話し始めた。

「私が説明します。『ホーリーロードインターナショナル』とは、11年前の『フットボールフロンティアインターナショナル』と同じことよ。『フットボールフロンティア』が11年後の今、『ホーリーロード』になったのと同じことで、名前も変わったの。ついでに、今年は日本が主催することになっている。まぁ、それは置いておいて、当然のことながら日本も代表選手を出さなくてはいけないの。このような少年サッカー世界大会が開かれるのは、4年ぶりよ。そんな代表選手に、ここにいる人たちは選ばれました」

「「「「・・・えぇっ!?」」」」

「そして、みんなの親睦を深めるため、今から30分ほどのところにある、私の家の大型別荘で4班に分かれて合宿をしてもらいます」

「「「えぇ!!??」」」

 

 

なんだかんだで、30分・・・

 

 

楓の家の、大型別荘についた。その別荘は、誰もが息をのむような大きさだった。

楓の家(本家)は、とても大きいことは、東京に住んでいる人なら誰でも知っている。宮殿ほどの大きさなのだから。しかも5階建てで、お城といっても過言ではない。

そんな山吹家の別荘だ。神童先輩によると、自分の家(神童家)と同じくらいの大きさらしい。

「楓・・・この家、どうなってるの?」

「家の中が、大きく分けて4つにわかれているの。そこの大きな玄関をはいって、右にあるドアが、A班の部屋。左は、B班。少し廊下を進んだところに、大きなドアがあるんだけれど、そこの右側野ドアがC班、左側のドアがD班よ。ドアの中は、寝室が1部屋、キッチンがあって、大きなテーブル、あとはシャワールーム・・・トイレ・・・くらいかしら?」

「・・・お風呂は?」

「C、D班のドアの奥にある大きなドア、あそこを入ったらお風呂があるわ。温泉や露天風呂よ。悪いけど、男女混浴だから、水着を着て頂戴ね」

「///////こ、混浴ぅ!?」

私の大きな声に、みんなが反応した。

 

 

そして、大波乱の合宿がはじまったのでした。

 



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合宿開始!・・・なA班

「それじゃあ、合宿開始ですっ!」

私のなるべく明るくした声が、山の中に響く。

 

 

私は、山吹楓。今日は、『ホーリーロードインターナショナル』の親睦を深める合宿に来ている。

私はくじ引きの結果、A~D班の中のA班になった。班員には、私、山吹楓(雷門中2年)、神童先輩(雷門中3年)、霧野先輩(雷門中3年)、錦先輩(雷門中3年)、京介(雷門中2年)、純太(雷門中1年)、喜多先輩(天河原中3年)、雅野君(帝国学園2年)、それとあと1人。雷門中学校の2年生の川口紫音(かわぐちしおん)ちゃん。紫音ちゃんは、元から雷門中にいる中2の女の子。ただ、紫音ちゃんのお母さんは『ホーリーロードインターナショナル』の、日本運営委員長。だから、日本代表『真イナズマジャパン』のマネージャーになった。私も、選手としてプレイすることもあるけれど、半分マネージャーとなることになっている。しかし、そのことはまだ円堂監督、お兄さん・・・鬼道コーチ、豪炎寺コーチ、新しくコーチになった吹雪コーチ、不動コーチ、風丸コーチしか知らない。

ついでだが、この『真イナズマジャパン』は、11年前の『イナズマジャパン』の豪華なメンツが監督、コーチをやるという世界でも注目のチームだ。優勝候補の1つでもある。

 

 

そして、いつの間にか男子たちがベットの整理を終えて、私を呼んでいた。

「おーい、楓~!早くみんなの集合場所へ行くぞ!」

「あ、すいません、神童先輩」

「いいよ、別に。ほら、早く行くぞ!」

このA班の班長は神童先輩。だから、神童先輩がまとめることが多い。ちなみに副班長は私と霧野先輩。だから、私もまとめ役に近い。

そして、みんなの集合場所へと行った。まだ、他の班は来ていなかった。ちなみに今は、まだ紫音ちゃんは合流していない。

 

 

「みんな、遅いな・・・」

「俺たちの班が早く着きすぎたんだよ。そういや神童、錦は?」

「錦・・・?そういや、純太もいない・・・喜多、知ってるか?雅野くんも、剣城も、楓も」

「俺は知らないんだ、すまないな、神童くん」

「いや、喜多は悪くない。雅野くんは?」

「僕も知りません、すいません」

「いいや、じゃあ剣城」

「俺もです。すいません」

「そうか・・・じゃあ楓は?」

「私も知りませんが、おそらく錦先輩は水鳥さんに、純太は真男にでも会いに行ったんじゃないんですか?」

「「「「「なるほど!!」」」」」

「楓、頭いい!」

「天才!」

「楓ちゃんすごいな!」

「楓さん、すごいですよ!」

「意外と頭いい!」

「京介、それほめてるの・・・?」

「一応」

「あっそう」

そして、噂の2人がやってきた。錦先輩と純太だ。

 

 

そして、かくかくしかじか・・・

 

 

「じゃあ、やっぱり瀬戸さんと真男に会いに行ってたんだな」

「あぁ、そうぜよ」

「はい、そうです」

「ったく、錦はともかく純太はだめだ!」

「なんで、錦先輩だけ・・・あ、そういうことですね、はい、なら素直に謝ります!」

「なぜ、わしだけ許されるのか、ようわからんぜよ」

「錦先輩・・・鈍くないですか?」

「楓、本当のことを言うな」

「京介それフォローになってないわよ?」

「あぁ?そうか?」

「?まぁ、気にしなー!」

「「錦・・・」」

 

 

そして、私と京介の言い合いが始まった。

 

 

「大体京介は、いつも一言多いのよ!」

「なんだよそれ!お前も多いだろう!」

「私は、必要なことしか述べてないわよっ!」

「それは楓にとってだろ!俺たちには必要ないと思ってんだよ!」

「うるさいわよ!いつもあなたは・・・!」

「また言うか!もうあきたー!いつもの冷静な楓はどこだー?」

「あなたほどムカつく人、居ないわっ!もう、嫌いっ!」

「はぁっ!?幼馴染捨てるのかよ!?」

「捨ててなんかないわよっ!」

「じゃあ、『嫌いっ』なんだよっ!」

「嫌いなんかじゃないわよっ!」

「じゃあなんだよ!」

あれっ、これ、喧嘩じゃなくなってないかしら?意見のぶつけ合い、幼稚園児の言い合い・・・しっかりしなさい私!これでも山吹財閥の跡取りよ!神童先輩みたいに冷静でいなくては・・・!

 

 

それでも、結局言い合いは収まらず、霧野先輩が傷だらけになってとめたことを知ったのは、次の日のことだった。

 

 

 



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B班合宿開始~!!

私は、葵。空野葵!

今日から、『ホーリーロードインターナショナル』という、少年サッカーの世界大会の日本代表『真イナズマジャパン』の合宿に来ています。私は、マネージャー。

 

 

くじ引きの結果、私はB班になった。B班のメンバーは、私(葵、雷門中2年)、天馬(雷門中2年)、信助(雷門中2年)、倉間先輩(雷門中3年)、輝(雷門中2年)、ちかちゃん(雷門中1年)、佐田さん(新雲学園3年)、雛乃さん(新雲学園3年)、太陽君(新雲学園2年)の9人。

なんか、すっごく楽しくなりそうな予感がする!

特に、太陽君と天馬は、久々の再会だし、うれしいんだろうなぁ・・・もう、太陽君も手術が終わって健康になったらしいから、思いっきりサッカーができるらしい。

そうなると、確かに楽しいかもしれないけど、ちょっとやんちゃな班かも・・・まぁ、なんとかなるよね!楽しいと思うし!よしっ、がんばろっ!

 

 

・・・と、まぁ気合入れたものの、やっぱり大変だぁ・・・

 

 

今は、B班の部屋で布団にシーツをかぶせている真っ最中。

 

 

なのに・・・やってることは遊びに近い。

天馬は、布団のシーツをマントのように羽織って

「見てみて、中学校時代の鬼道コーチ(笑)」

とかやってるし、雛乃さんは

「アフロディさんだ。どうだ、美しい・・・」

なんて言っている。先輩だけど、正直あきれる。天馬も、鬼道コーチに見つかったらどうなる事やら・・・ふと、窓の外を見ると、楓たちが外に出てきていた。あそこはA班。神童先輩を班長に置くエリート班。もうシーツ敷きが終わったとみた。

・・・そして、ここはB班。やんちゃ坊主の集まる元気のいい班。しかし、やることをきちんとしない。私は、ため息をつき、息を吸って、大きな声で叫んだ。

 

 

「遊んでないで、早くやりなさーいっ!」

 

 

A班に遅れること、約25分。

私たちの班も、ギリギリみんなの集合時間に間に合うことができた。

私は、ふぅ・・・とため息を1つついた。

本当、ギリギリ。私の髪の毛が、ぐっしゃぐしゃになっていた。それを見た楓が話しかけてくる。

 

 

「葵、何の罰ゲームよ」

「罰ゲームじゃないよ、もうみんながやってくれなくって・・・」

「ほう、そりゃあ、疲れたわね」

「もう、『疲れた』どころじゃないよっ!天馬なんか、シーツをはおって『見てみて、中学校時代の鬼道コーチ(笑)』とか言ってるし、雛乃さんなんか『アフロディさんだ。どうだ、美しい・・・』なんか言ってるのよ」

「シーツでお兄さんか・・・それしたくなるのって子供よね。あと、照美さんをしたくなるのも」

「でしょ!?もう、こっちは疲れて疲れて・・・」

「お疲れ様」

「うん・・・で、楓のところ、えらい早かったみたいだけど」

「あぁ、あれは私がぼけーっとしている間に、いつの間にかシーツがひかれてたから、知らないんだけど・・・」

「『いつの間にか』!?さすが、エリート班は違うね」

「エリート班って・・・それやってたのって神童先輩、霧野先輩、喜多先輩、雅野くん、京介の5人よ?私はやっていないし、錦先輩と純太なんて、別の班に行ってたの」

「そうなんだ・・・でも、楓は違うよ。楓が、無意味にぼけーっとするはずないし」

「そうね・・・無意味ではなかったわ」

「やっぱりね。まぁ、これから先がB班は思いやられるよ」

「がんばって!さぁ、みんなに置いていかれるわよ?」

そう楓が言うから、私は前を向いた。すると、もうみんなが進んでいた。

 

 

やばいっ、置いていかれる・・・!

 

 

そう思った私は、全速力で天馬たちのところへと向かった。

「急がなきゃ・・・!」

 

 

 



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C班、合宿開始です。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

私は、自分でも驚くほどの悲鳴を上げた。それはなぜか。

その理由は、この合宿場所が超山の中だったから!私は、山が大嫌い。昔、幼稚園のお泊まり保育で、山の中に泊って、毛虫の大群や、他にもグロテスクな虫たちをたくさん目撃したから。極めつけは、1人で歩いているとき、蛇と遭遇してしまったから!しかも、1度に2匹も!もう、嫌だよぉ・・・

 

 

私は、未雲。『ホーリーロードインターナショナル』とか言う、少年サッカー世界大会の、日本代表の親睦を深める合宿に参加している。なぜ、私がそんなものに参加しているか。

それは、私がマネージャーだから。

 

 

合宿・・・私は、その響きに心を躍らせた。

 

 

合宿って言えば、皆で料理作ったり、お泊まりしたり、お話したり・・・!

 

 

しかし、私はそれが間違いだと分かった。

私の予想、それは『合宿』ではなく、『お泊まり会』なのだ。

まずは、班決め。

女子でできるかな~♪恋バナしたいな~♪って思っていたけど、それは違った。これは『合宿』。だから、女子は女子で・・・というものではなかった。男女混合。

私は、くじ引きの結果C班になった。メンバーは、リーダーが黒裂真命さん(聖堂山中3年)、副リーダーが堤美智さん(聖堂山中3年)と貴志部大河さん(木戸川清修3年)、班員が青山俊介先輩(雷門中3年)、速水鶴正先輩(雷門中3年)、龍田緑(雷門中2年)、それとマネージャーの金田未雲(私、雷門中2年)・・・そしてあと2人。

 

 

1人目は、若林浩一くん。『真イナズマジャパン』のメンバーに新しくなった男の子。すごく元気がいい。豪炎寺コーチいわく、11年前の虎丸さんという人にそっくりらしい。まぁ、私は虎丸さんという人に会ったことがないので、よくわからないけど。

 

 

2人目は、マネージャーの桃瀬和葉ちゃん。お父さんが、運営委員会の上方部にいる女の子。天河原中の1年生だから、A班の喜多一番さんとはちょっと知りあいらしい。すっごく素直でかわいい子。

 

 

そんなメンバーのことを考えていたら、憂鬱な気持ちもいつの間にか、消え去っていた。

葵も、楓も、水鳥さんも、茜さんも、ちかちゃんもみんながんばってるんだ。だから、私も頑張ろうっ!

 

 

そして、最初はシーツ敷き。

C班の部屋は、結構おとなしい人が多いから、地味に早く終わった。だから、親睦を深めるためまずは自己紹介をした。

「僕は、黒裂真命。聖堂山中3年生だ。よろしくな」

「僕は、堤美智。聖堂山中3年だ」

「俺は木戸川清修3年貴志部大河。よろしくな」

「俺は、青山俊介。雷門中3年。よろしくね」

「僕は、速水鶴正です。よろしくお願いします」

「僕は雷門中2年の龍田緑です。よろしくお願いします!」

「俺は、若林浩一です。よろしくお願いしますっ!」

「私は雷門中2年の金田未雲です。マネージャーがんばります!」

「私、桃瀬和葉です。金田さんのサポート、がんばります!」

 

 

・・・と、一通り自己紹介は終わったが、やっぱり静かになってしまう。それが、C班。

 

 

沈黙を破ったのは、黒裂さんだった。

「皆で、呼び方を統一しないか?」

「「「へ?」」」

「いや、呼び方を決めておいたほうが呼びやすいだろう?」

「そう・・・ですね!」

「はい!」

「じゃあ、僕は真命で」

「僕は智で」

「俺は大河でも貴志部でも」

「僕は青山とかでいいです」

「僕も速水でいいですよ」

「僕は・・・緑でお願いします!」

「俺は、浩一ですね!」

「私は、未雲でよろしくお願いします」

「私・・・和葉です!」

「じゃあ、年上には『さん』とかつけますね」

「そうしよう!」

「あっ!もう集合時間になる!行こう!」

「「「「「はいっ!!」」」」」

 

 

C班も、結構明るくなってきました♪

 

 

 



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合宿開始だぜ!・・・D班の

あたしは、瀬戸水鳥。

雷門中学校サッカー部のマネージャー。そして、今日から『真イナズマジャパン』のマネージャーでもある。

 

 

そして、早速楓の提案で合宿になった。

 

 

あたしの班は、D班。

メンバーは、大和(聖堂山中、ドラゴンリンク)、雪村(白恋中)、一乃(雷門中)、浜野(雷門中)、狩屋(雷門中)、真男(雷門中)、茜(マネージャー、雷門中)、あたし水鳥(マネージャー、雷門中)の8人と、新しく入った豪炎寺大地。

 

 

名前を聞いてわかるように、豪炎寺コーチの血縁者。

豪炎寺コーチの従兄弟の息子(?)らしい。まぁ、そんなこと言われてもあたしにはわかんなかったけど。

 

 

そして、合宿の場所についた。

まずはびっくり。とにかく大きい。神童が横で、

「俺の家と同じくらいか・・・」

とか言っていた。神童の家といえば、ここら辺では知らない人がいないくらいの大豪邸。そんな大豪邸くらいの建物が、こんな超山奥にある。しかも、山吹家の別荘だと!?これを別荘と呼ぶのか!?家でもない、これこそ『大豪邸』なんじゃ・・・?

そんなことを考えたのは、私だけではないようで、皆が唖然としていた。持ち主の楓はというと、

「皆さん、嫌でしたか?だったら、ここから45分くらいのところにある山『猛蘭山(もうらんざん)』という山に、ケビンくらいの大きさのコテージが6つほどあるので、そっちに行きますか?」

など言っている。

別のところにもあるのかよ!?しかも、6つもケビンだと!?その現実離れした感覚に、皆がまた唖然とした。

あたしは、ふと不思議に思ったことがあったから、楓に質問した。

「なぁ、その、さっきの『猛蘭山』とか言う山も、この今いる山も、もしかしてお前の家の所有地か?」

「はい・・・といいますか、ここらへんの山は全て山吹家の所有地ですが・・・それが、どうか致しましたか?あっ、でも、神童家と鬼道家も所有していますよね?」

「あぁ、神童財閥は4つほど・・・」

「鬼道財閥は、3つほど・・・でも、山吹財閥は、11個ほど所有していただろう?」

「はい」

「「「「はぁ!?」」」」

私たちは、合宿が始まる前から驚いていた。

 

 

そして、時はたち今は部屋でシーツ敷きの真っ最中。

 

 

だが!D班は全く進まない。

大和や浜野や狩屋が遊びまくり。

しかも、なぜかA班の龍馬や純太までやってきた。そして、遊び放題・・・

シーツ敷きを真面目にやっていたのは、雪村と一乃とあたしだけだった。あたしも、龍馬に留められそうだったが、茜が神童の事を聞きまくっていてくれたから、真面目にすることができた。

 

 

しかし、3人でやるのは大変だった。

 

 

あたしは、途中で円堂監督に呼び出された。

「瀬戸、普通の制服を着ろ」

「はぁ!?なんで!?・・・で、ですか?」

「雷門の代表で、この山吹家の敷地に入っているんだ。正装くらいしておけ。後で活動する時も、ちゃんとジャージを着るんだぞ?いいな?」

「はい・・・で、あたしは何色ですか?」

「水色だ。体育の時、着ないのか?ちなみに1年が黄緑、2年がピンク、3年が水色だろ?リボンの色と同じで」

「サボってるんで・・・ハハ・・・」

「ハハ・・・じゃないぞ。まぁ、俺もさぼってたけどな。さぁ、部屋に戻っていいぞ」

「ありがとうございまーすっ!」

 

 

そして、また部屋に戻った。

すると、まだ遊び中だったが、仕事は2人によって終わっていた。

「わりぃ、雪村、一乃」

「いや、円堂監督、何の用だったんだ?」

「制服をちゃんと着ろ・・・だと」

「そういうことか・・・で、制服あるのか?」

「一応・・・でも、1年の1学期以来着てない」

「そうか・・・じゃあ、もう着替えに行ったら?」

「あぁ、わりぃな」

 

 

そして、あたしは着替えた。

久々に着た制服を、まじまじと見つめる。結構可愛いと思った。

・・・って、そうじゃなくてぇ!超恥ずかしい!

でも、時間は止まらず、皆の集合時間になっていくと、皆がこっちを見てきて恥ずかしかった。

 

 

「な、なんだよ!」

「いや、水鳥さん、似合ってるよ?」

「へ!?」

そして、ちょっと嬉しかった。

 

 

 



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衝撃の告白

私たちが皆集合し終わった後、皆でサッカー練習場へと向かった。

 

 

「じゃあ、皆で練習だ!」

円堂監督が、始まって早々指示を出す。・・・とても、アバウトな指示。しかし、それは早く話し合いをしたいということを表していた。指示の最後に

「楓は、ちょっとこっちに来い!」

と指示されたから。

だから、私は急いで監督、コーチ達のところへといった。

 

 

「円堂監督、やはりあのことでしょうか?マネージャーになるという件ですか?」

「そうだ。本当に、あれでいいのか?少し決まりがあるが・・・」

「いいんです。私自身が、そうしたことです」

「心の底からか?」

今度は豪炎寺コーチが質問してくる。フィフスセクターにいたころから、この人の瞳を見ていると、やはり隠し事は出来なかった。

「・・・いいえ、心の底から・・・ではありません」

「なら、なぜ?俺が、提案したからか?」

今度は鬼道コーチが質問してくる。

「いいえ、そういうことではありません。それに、試合に全く出ないというわけではありません」

「でも、大半をマネージャーとして過ごすというのはな・・・」

「いいんです、私も試合には出ますから。ただ、少し出る機会が減る・・・というだけです」

「そうなんだ・・・でも、不公平だよね、このルール。女子は1試合を前半と後半、2つに分ける。そうしたら、2試合を4つにわけることになる。その4つのうち3つしか、女子は試合出れない・・・なんてルール」

「確かにな・・・酷いさ」

「だなぁ」

このルール、と呼ばれるものに対して、吹雪コーチ、不動コーチ、風丸コーチが反論する。

 

 

そう、この『ホーリーロードインターナショナル』のルールの中に、女子は2試合を4つに分けて、3つしか出ることができないのだ。

女子に対する差別だ、という声が世界中で出ている。

しかし、11年前は女子は試合にさえ出れなかったというのだから、皆しぶしぶ了承している。もちろん私も、しぶしぶ了承した1人だ。でも、私はマネージャーとして仕事をすることにした。

まぁ、化身が出せる人間は、戦力になるから試合には出てほしいに決まっているから、周りの人間には反対されている。

 

 

「まぁいい。でも楓、ちゃんと試合に出てくれるか?」

「それはもちろん、当り前です」

「よかった!なら、皆をいったん集めて報告するぞ!準備はいいか、楓?」

「はい」

そして、私は皆の前に出て、話しをすることにした。

 

 

「円堂監督、話とは・・・?」

「俺ではないんだ。楓からだ」

「楓から・・・?」

「はい」

「なんなの?」

「私は、この『ホーリーロードインターナショナル』では、私は選手ではなく、マネージャーとしての活動を主にします」

「「「「えぇっ!?」」」」

皆が動揺した。しばらく、話し声が聞こえ、私に対して最初に質問してきたのは、神童先輩だった。

「なんでだ?4分の3しか出れなくても、選手になればいいじゃないか」

「ですから、『主に』マネージャーなだけです。選手としても活動します」

「本当か?」

「はい。本当です」

「でも・・・!」

すると、京介が話した。

「お前ら、楓がいっつも頑張ってるんだ。分かってやれよ!」

「・・・ということだ。皆、分かってあげてくれ」

「「「「はい」」」」

皆は分かってくれた。私は、心の底からほっとした。

 

 

その後、私は京介と話した。

 

 

「ねぇ、何であのとき、私をかばってくれたの?」

「何でって言われても・・・」

 

 

 



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幼き頃の思い出 ~楓×京介~

「ねぇ、何であのとき、私をかばってくれたの?」

「何でって言われても・・・」

 

 

私は、あの告白の後京介と話した。

 

 

「ねぇ、何でなの?」

「お、思いだしたんだよ!あの時のこと・・・」

「『あの時のこと』?」

「あぁ」

 

 

―今から4年前―

 

 

俺は剣城京介。

フィフスセクターのシードの卵。今10歳だ。

そんな俺は、俺の蹴ったボールのせいでサッカーができなくなってしまった兄さんの為に、このフィフスセクターに入った。だから、この『フィフスセクター』というもの自体を理解していない。

だから俺は、フィフスの中でも浮いていた。

 

 

そんな俺に、なぜか構う女がいた。

 

 

名前は山吹楓。俺と同じ年で、同じチーム。

本当は、構ってくれてうれしかったけど、わざとうっとおしいというような態度をとってしまっていた。だけど、こいつは変な奴だから、ずっと俺にかまっていた。

そんな俺とこいつは、同じ小学校。こいつは、家が大金持ちなのに公立の小学校に通っていた。で、しかも同じクラス。だから、俺たちはずっと一緒にいた。

 

 

そんなある日の帰り道だった。

 

 

珍しく楓が呼び出しくらっていたから、俺は1人で帰っていた。

その帰り道、隣の小学校のガラの悪い連中が俺に突っかかってきた。しかも、俺たちより1歳上の5年生。

「おい、お前『剣城京介』だろ?稲妻小学校の」

「そうですけど、何か用ですか?」

「俺、雷門小学校の5年なんだよ。お前、結構悪いんだってな」

「なぁ、俺たちの仲間にならない?」

それは、仲間にならないかという誘いだった。でも、俺はそんなつまらないことをするほど暇じゃない。だから、断ることにした。

「いや、遠慮します」

「あぁ?今なんつった?」

「え・・・いや、断りますって・・・」

「自分の立場、わきまえてんのか?」

「えぇ、もちろん」

「なら、ちょっと顔貸せよ」

「えっ・・・なにを・・・」

そして、俺は人通りの少ない路地に連れて行かれた。そして、顔や体やあちこちを、グーやパーで殴られた。1歳しか違わないのに、そのパワーはすごくて、からだじゅうが痛かった。もう、死ぬんじゃないかと思った。

やばい・・・!顔面殴られる・・・!そう思って、目をつぶった瞬間だった。

 

 

痛みを感じなかった。

 

 

おそるおそる目を開けると、そこには俺より少し背の低い女の子がいた。

 

 

―楓だった。

 

 

小5男子の腕を、精一杯の力で握って、俺が殴られるのをやめさせようとしていた。しかし、もう限界ぽかった。

「何やってんだ、てめぇ、殴られに来たのか!?」

「何よ、あんたを助けに来たんでしょうがっ!」

「お前、誰だよ。剣城京介(こいつ)の友達?」

「えぇ、そうよ」

「分かったから、手を離せよ」

そう言われた楓は、小5男子の手を離した。そして、両手をいっぱいに広げて、叫んだ。

 

 

「京介をいじめる奴は、私が許さないっ!私の大事な友達を、絶対に傷つけんなっ!」

 

 

そこにいた楓は、今まで見たことのないような怖い顔をしているが、恐怖で涙が今にもあふれてきそうな顔をして、精一杯叫んでいた。

その顔を見て、小5男子は逃げて行った。

 

 

あいつらが逃げて行くと、楓はその場にへなへなと座り込んで少し涙をこぼしたが、すぐに立ち上がって、俺に対して手を差し出してきた。

そして、俺と楓は一緒に帰った。

 

 

「・・・あ~、そういうこともあったわね」

「うろ覚えかよ」

「でも、だから今日、助けてくれたの?」

「うん、恩返ししてなかったし」

「そっか・・・ありがとう」

「//////」

「そんなことがあったのか?」

「「し、神童先輩っ!」」

私たちが話し終わったとき、後ろから声がして振り返ると、そこには神童先輩がいた。後ろを見ると、霧野先輩もいた。

 

 

「そういや、俺たちにもあったよな。似たことが」

「そういえば・・・」

 

 

そして、神童先輩と霧野先輩が語ってくれた。

 

 

 



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幼き頃の思い出 ~神童×霧野~

「えっ?先輩たちにもあったんですか?」

「あぁ」

 

 

そして、俺たちは楓と剣城に、あの日のことを語った。

 

 

―6年前―

 

 

俺の名前は神童拓人。

俺は、神童財閥の御曹司。だけど、お父様の考えで、公立の小学校に通っている。今は、小学3年生。

そんな俺には、少し中がいい友達がいる。別に、親友とかじゃない。ただ、少し中がいいだけの友達。そいつの名前は、霧野蘭丸。男の子だけど、ピンク色の髪の毛で、ツインテール。別に似合わなくもないけど、女の子みたい・・・そういつも思っている。

 

 

でも、俺がどうこう言うことではない。だから、口出しはしていない。

 

 

そんなある日、俺は家に帰る途中、変な奴らにからまれた。

「おまえ、かわいい~」

「女の子みたい~」

俺は、だんだん悲しくなって、涙が出てきた。

「うぅ・・・わぁ・・・ひっく・・・」

「何ぃ?こいつ、泣き始めたよぉ?」

「やばっ、どうすんのよ」

俺は、涙が止まらなくなって、どうすればいいかわからなかった。

 

 

その時、目の前に手をいっぱいに広げたピンクの髪の毛の奴がいた。

 

 

見間違えるわけがない、それは霧野だった。俺は、無意識に霧野の肩を、力強く握っていた。

「き、霧野ぉ・・・」

「誰だよっ、お前」

「神童拓人(こいつ)の親友だよっ!」

「っ!」

その霧野の顔を見たあいつらは、逃げて行った。

 

 

「き、霧野・・・」

「神童、大丈夫か?」

「うん・・・助けてくれてありがとう・・・」

「いや、だって俺たち『親友』だろ?」

「親友・・・」

「違うのか?」

「・・・ううん、そうだよ!俺たち、親友だよ!」

「「へへっ」」

 

 

そして、俺と霧野は親友になったんだ。

 

 

「・・・素敵です・・・」

「はい・・・」

「そうか?」

「はいっ、親友になるまでの過程に、これほどまでに感動的な事があったなんて・・・私、これからは先輩たちの事、少し違う目で見ます」

「今までどういう目で見ていたわけ!?」

「普通の親友・・・」

「あっ、そういうこと・・・」

「はい」

「先輩たち、なんか悪いことを考えましたよね?」

「つ、剣城!」

 

 

「そういえば、なんで先輩、座っていないんですか?」

 

 

私は、ふと不思議に思ったから、質問した。

そう、私と京介は普通に座っている。神童先輩も私の隣に。なのに、なぜか霧野先輩は京介と私の間に顔を乗っけているのだ。

「確かに、霧野、普通に座れば?」

「そ、う、だな」

「気が付いていなかったんですね」

「・・・あぁ」

 

 

私たちは、心の底から笑った。

 

 

 



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新たな第一歩

親睦を深める合宿・・・というのはただの建前で、今日から本格的に真の目的である『強化合宿』が始まった。

 

 

私は、C班の金田未雲。

この強化合宿に参加している『真イナズマジャパン』のマネージャー。今日は、オリエンテーリングみたいで、何かと色々決めることがあるらしい。

 

 

まず初めに決めるのは、キャプテン。

私の予想では、天馬くん。この真イナズマジャパンの中の大半を占める雷門中学校サッカー部のキャプテンだから。きっと断らないと思うし。でも、もしかしたら神童先輩とか、貴志部さんとか、真命さんとか、喜多さんとかキャプテン候補の3年生はたくさんいるから、分らない。

 

 

いよいよ、キャプテンを決める時が来た。

 

 

皆が固唾をのんで見守る中、円堂監督の口からキャプテンとなる人物の名前が呼ばれた。

「色々考えたが、やっぱりここは天馬、お前だ」

「お、俺ですか!?」

「あぁ!」

パチパチパチ・・・皆が拍手を天馬君に送る。予想内のことだったから、皆比較的真顔だ。

 

 

そして、次に副キャプテンを決める時が来た。今度は、鬼道コーチから発表される。

「副キャプテンは、4人いる。1人目、神童拓人。2人目、貴志部大河。3人目、黒裂真命。4人目、喜多一番。この4人だ。この4人は、天馬が行き届かないところをしっかりサポートしてくれ」

「「「「はいっ」」」」

副キャプテンにふさわしい4人の3年生が、大きな返事をした。そして、キャプテン、副キャプテンが前に出る。意気込みを一言語るのだ。

「キャプテンの松風天馬です。えっと、と、とりあえず頑張りますっ!」

「しまらないよぉ~」

「き、緊張して・・・つ、次、どうぞっ」

「天馬・・・じゃあ、改めて副キャプテンの神童拓人だ。宜しくな」

「「「「はいっ」」」」

「俺も、副キャプテンの貴志部大河だ。宜しく」

「「「「はいっ」」」」

「同じく副キャプテンの、黒裂真命だ。仲良くしてくれ」

「「「「はいっ」」」」

「最後になったが、副キャプテンの喜多一番だ。一緒にがんばろうな」

「「「「はいっ」」」」

そして、一通りの流れが終わった。

 

 

就任式が終わった後、私はある女性と会った。

深い青色のウェーブのかかったショート・・・神童副キャプテンくらいの長さで、少し垂れ目で澄んだ水色の瞳をしている。

「えっと・・・あなたは?」

「私は、白井海帆(しらいみほ)。高校1年生よ。真イナズマジャパンのマネージャー・・・なんだけど・・・」

「えっ!?わ、私は真イナズマジャパンのマネージャーの金田未雲です。でも、昨日まではいませんでしたよね?」

「うん、急に知り合いに呼ばれてね。今日からマネージャーをすることになったのよ」

「へぇ・・・え、でも海帆さん、高校生って・・・」

「うん。でも、特別にOKしてもらったの」

「へぇ・・・」

その時、後ろから声が聞こえた。

 

 

「海帆さん!来て下さったんですね!」

「拓人君!久しぶりね」

「え!?神童副キャプテンと海帆さん・・・知り合いですか!?」

「あぁ。海帆さんのお父様がウチの会社に勤めていてな」

「そうだったんですか・・・」

「拓人君、元気そうで何よりだわ」

「そう見えますか?結構疲れているんですけど」

「そうなの?あら、ごめんなさい」

「いえ、そう見えるんならよかったです」

私は目を見張った。神童副キャプテンが、こんなに人と楽しそうに話すのは、始めてみた気がする。いや、楓と剣城君と霧野先輩にはこんな顔で接しているが、その3人以来だ。

 

 

この白井海帆(ひと)が、真イナズマジャパンを強くしていくことになるとは、誰が予想しただろう。

 

 

 



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知りたい・・・

「ほらぁ!楓ちゃんの考えたメニュー、こなせていないわよぉ~!」

「「「は、はいぃ~っ」」」

 

 

地獄の強化合宿が、本格的に始まった。

私は、びっくりしている。昨日出会った海帆さんが、鬼と化して選手たちをびしばし鍛え上げている。マネージャーはもちろん、他の選手たちも唖然としている。

「海帆さん、すごいですね・・・」

「未雲もそう思う?だよね」

「私、こんなに厳しくメニュー、組んでいないのよ・・・」

「すっごいですね・・・私、そんなにできないです」

「私もだよ・・・」

「私・・・も・・・」

「すげぇな、あの人」

「うん、すごい。シン様も唖然」

私をはじめとしたマネージャー軍が、海帆さんのすごい鍛え方に対しての考えを、つぶやいていた。

 

 

「なに?皆、どうしちゃったの?」

「海帆さん・・・尊敬致します」

「やだぁっ!いくら高校生だからって・・・もう・・・」

「いや、そうではなく・・・」

「じゃあ、何かしら?」

「・・・全てを尊敬するわ」

「もう、何なの?」

練習が終わった後、私と葵と楓が海帆さんと話をした。もちろん、海帆さんの鍛え方についてだ。しかし、海帆さん、意外と天然なわけで・・・

 

 

そんな話をしていた時、海帆さんがふと誰かを探し始めた。

 

 

「誰を探しているんですか?」

私は尋ねた。

「えっとね、拓人君」

「神童・・・先輩ですか?」

「うん、今日の練習の成果について報告しようかなぁ・・・と思ったんだけど・・・」

「え?何で神童先輩なんですか?天馬じゃないんですか?」

「えっ・・・そ、そうね、天馬くんかしらね」

「そうだと思いますよ、キャプテンですし」

私たちは、その時気がついた。

 

 

海帆さんは、神童先輩の事が好きなのだ・・・と。

 

 

しかし、私たちは茜さんの手前、海帆さんの恋を応援することができない・・・私たちは、顔をゆがめた。幸い、海帆さんは気が付いていないらしい。

「あっ、拓人君!今日の報告するわね」

「えっ・・・天馬にしてくれればいいのに・・・」

「いいえ、天馬君にするよりよっぽど伝わりやすいわ。今日の練習を見ていて感じたの。天馬くん、確かにまとめる力、リーダーシップはあるわ。でも、きっと報告したところでまたマネージャーに戻ってくれだけよ?」

「そ、そうですね・・・」

「でしょ?じゃあ、私、健康管理をしてくるから、またね」

「はい、また・・・」

そして、海帆さんは遠くの方へとかけて行った。そのあと、私たちは神童先輩のところへと行った。そして、話を聞いた。私と葵は乗り気だが、楓は乗り気じゃないようだ。どうやら、事情を知っているらしい。まぁ、そのことには触れないでおいた。

「海帆さん、絶対神童先輩の事、気になっていますよね?」

「そうか?まぁ、しょうがないとは思うが・・・」

「なんでですか?」

「そ、それはだな・・・」

「先輩と海帆さんが、昔、付き合っていたから・・・ですよね?」

「あ、あぁ・・・」

「「えぇっ!?」」

「先輩たち、付き合っていたんですか?!」

「いつですか?」

「俺が中学校に上がった年、中1の時だ。まぁ、2人とも前の関係の方がよくなったから、2ヶ月で別れたが。俺も、『付き合う』ということがまだ分かっていなかったしな」

「へぇ・・・」

「そうなんだぁ・・・」

私と葵は、顔を赤らめた。そして、私はふと気がついた。

 

 

「ねぇ、何で楓は2人の関係、知ってるの?」

「えっ?」

「あ、そうそう、私も不思議だった」

「そりゃ知ってるに決まってるじゃない。先輩と海帆さん、よくウチの庭に来ていたから。お父様たちの仕事についてきたらしいんだけれど」

「へぇ・・・じゃあ、面識あったんだ」

「一応ね。でも、もうかれこれ2年くらい会っていなかったわ」

「何で?」

「それは・・・」

私たちは、見逃さなかった。楓が、おどおどとしながら、神童先輩の方を向いていることに。

 

 

「・・・言っても、いいんでしょうか・・・」

「・・・さぁ・・・海帆さんが、自分から言うだろう・・・」

私たちは、2人の表情をうかがって、それ以上追及しないことにした。

 

 

 



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白井海帆の父親

「拓人君、楓ちゃん、葵ちゃん、未雲ちゃん、どうしたの?」

「「「「海帆さんっ!」」」」

私たちが、楓と神童先輩に、聞くことをあきらめた時だった。海帆さんが、こちらに向かって駆けてきた。私は、もう、その楓と神童先輩が隠していることについて追及する気はなかったのだけど、葵はまだあきらめていなかったらしく、海帆さんに尋ねた。

「海帆さん!海帆さんって、楓と神童先輩と面識があったんですね!」

「え、うん・・・って、言ってなかったかな?」

「はいっ!びっくりです!でも、2年くらい会っていなかったって・・・どうしてですか?」

私は、ふと楓と神童先輩の方を向いた。2人は、顔をひきつらせて、怖い顔をして立っていた。きっと、2人が隠したかったわけがわかるのだろう。しかし、海帆さんは顔色1つ変えずに話を続けた。

 

 

「それは、私のお父さんが死んだからよ」

「えっ・・・」

「・・・っ!」

「「・・・」」

葵は絶句、私も絶句、楓と神童先輩は怖い顔をしたまま俯いた。でも、海帆さんはまだ話を続ける。

「でも、気にしないでね?だって、あのお父さんは、継父で、確かに慕っていなかったわけでもないけれど、すごく大好きだったわけでもないの。ウチは、母の方の祖父母の家が、血筋を大切にする代々続く名家でね、やっぱり私も、血筋を第一に考えるようちっちゃいころから言われていたから。だから、大丈夫だよ?それに、そもそもお父さんが死んだのは、お母さんと離婚した後だったし」

「離婚・・・!?聞いてませんよ、海帆さんっ!」

「はいっ」

「ごめんねぇ~。楓ちゃんと拓人君には言ってなかったのね」

「はいっ!・・・って、でも、海帆さんが気にしていなくってよかったです」

「はい、本当にそうです」

「何で?」

「気分を悪くされたら、失礼なので・・・」

「だぁいじょぶよっ!さぁっ!練習練習!」

「・・・はいっ!」

 

 

皆が、海帆さんの事を理解して、再び地獄の練習が始まった。

 

 

その後、グラウンドから遠くのベンチにて・・・

 

 

「海帆さん、思っていたよりもずっと元気そうで安心しました・・・」

「そうだな。でも、楓は知っていたんじゃないか?離婚の事」

「いえ、全く・・・だって、本当に2年ぶりで・・・」

「そうだったのか。まぁ、俺も知らなかったんだから、当然か」

「そうですね・・・」

「お、こんなとこにいたのか、神童、楓」

「霧野!」

「霧野先輩・・・」

「何やってんだ?」

「剣城」

「京介・・・」

「いや、少し海帆さんのことについて話していてな。2人とも、共通の昔の知り合いだから」

「えぇ・・・」

「そうだったのか」

「へぇ・・・ん?楓?」

「・・・介・・・け・・・」

 

 

バタンッ

 

 

「「「楓っ!?」」」

「ハァ・・・ハァ・・・」

 

 

それは、新たな事の始まりだった。

 

 

 



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事件が事件を呼び・・・
緊急事態


「楓が熱っ!?」

「あぁ・・・」

 

 

今は、緊急ミーティングの途中。それは、トレーニングを考えてきたある意味チームの中心だった楓が、高熱で倒れたからだった。前には、楓が倒れた時一緒にいた神童先輩と霧野先輩がいる。

 

 

「今は、剣城がA班の部屋で看病をしている。しかし・・・」

場の空気が張り詰める。

「今、楓はとても危険な状態なんだ。こじらせれば、命が危ないかもしれない。だから、絶対安静が必要だ」

皆がただ、呆然とする。

そして、明日からの練習メニューを霧野先輩から配られた。私たち、マネージャーにも配られたその内容は、楓の考えたものとはジャンルの違うものだった。

「神童先輩、まさかこのメニューは・・・」

「あぁ、そうだ。去年から雷門中サッカー部にいる人は分かると思うが、これは鬼道コーチが考えて下さったものだ」

「やっぱり・・・」

「俺が考えたものは、おそらく楓のより皆に合っていないと思うが、勘弁してくれるか?すまないが」

「そんな!コーチのメニュー、久々にできてうれしいですっ!」

「はいっ!」

「そうですっ!」

「皆・・・ありがとう。しかし・・・いや、何でもない。続けてくれ」

「・・・はい。では、皆、天馬の指示に従い、各自メニューをこなすように!開始っ!」

「「「「はいっ」」」」

そして、皆が一斉にグラウンドへと出た。私は、先輩たちに楓の容体を聞きたかったのだけど、何しろ30人以上の男子の波に飲み込まれたら、もう逆らえない。そして、そのまま外へ出てしまった。

よし、楓の分まで頑張るぞ!

 

 

そのころ、A班の部屋では・・・

 

 

「はぁ・・・うぅ・・・はぁ・・・はぁ・・・うぅ・・・ん・・・ん・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「楓・・・頑張れ・・・辛いだろうけど」

楓は、いつもならあり得ないくらい顔を真っ赤にして、唸り声をあげたりうなされているかのように、ベットに汗びっしょりで横たわっていた。

 

 

しばらくすると、神童先輩と霧野先輩が部屋に帰ってきた。

「先輩・・・」

「剣城、お疲れ。ありがとう。それで、楓の様子はどうだ?」

「ずっとうなされています。汗もびっしょりかいていて、シーツは交換しなくてはいけないかもしれません」

「そうか・・・分かった。じゃあ、これからはA班ローテーションで看病だ」

「はい。でも、今日は俺が看病します」

「・・・分かった。任せたぞ」

「あぁ」

「分かりました」

「じゃあ、俺たちはメニューをしてくる。剣城は今日はいい」

「分かりました」

「じゃあな」

「よろしく」

「はい」

そして、先輩たちは出て行った。

 

 

看病し始めて、どれくらいかたったころ、楓が目を覚ました。

 

 

「京・・・介・・・?」

「楓っ!大丈夫か!?」

「ううん・・・大丈夫じゃないと・・・思う・・・体じゅうが・・・熱くて・・・だるくて・・・痛い・・・」

「ゴメン、もっと早くに気がつけばよかった」

「京介の・・・せいじゃない・・・言わなかった・・・私が・・・悪いの・・・」

「いやっ、違う・・・って言っても、お前はきかねぇだろうから、分かったって言っとく」

「ありがと・・・」

「いや、いいんだ。そうだ、何かいるものとかあるか?欲しいものとか」

「ううん・・・今は・・・いい・・・しんどいから・・・何も・・・する気にならないし・・・食べたり・・・飲んだり・・・する気には・・・ならない・・・ごめんね・・・」

「いや、いいんだ。じゃあ、もう寝るか?」

「うん・・・そうする・・・」

そういった途端、楓はすぐに眠りに落ちた。

 

 

楓、お願いだ。また、元気になってくれ。

 

 

 



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自信を持って!

「・・・はぁ・・・はぁ・・・あれ・・・私・・・寝て・・・」

どれくらい寝たのだろう・・・

私は、うっすらと目を開けた。そこがどこかしばらく分からなかったが、次に聞こえてきた声で、ここがA班の部屋だということがわかった。

 

 

「お、楓、起きたか。大丈夫か?」

「神童・・・先輩・・・何で・・・」

「お前の看病だ」

「看病・・・あ・・・私・・・熱で・・・練習は・・・!?」

「何言っているんだ!?自分の状況を理解しているのか!?命の危機と隣り合わせなんだぞ!?」

「へ・・・そうなんですか・・・すいません・・・でも・・・先輩の・・・練習は・・・どうされるんですか・・・?・・・私の・・・看病してたら・・・出来ないんじゃ・・・?」

「阿呆っ!楓の体の方がずっと大事だ!仲間が、ピンチの時は助け合うものだ!」

「先・・・輩・・・」

私は、神童先輩が本気で怒っているところを、あまり見たことがなかったため、驚いた。しかし、その驚きよりも、しんどさが勝った。

 

 

「先輩・・・?」

「ん?何だ?」

「すいません・・・体温計・・・とっていただけ・・・ますか?」

「体温計だな、分かった」

私は、神童先輩から体温計をもらい、熱を測る。

ピピピッ、ピピピッ・・・

すぐに脇から出して、体温を見る。しかし、視界がぼやけて、何度かわからない。それに気がついた神童先輩が、体温計を見て、そして声をあげた。

「うわっ、高すぎるな・・・」

「何度・・・ですか・・・?」

「40・3℃・・・」

「嘘・・・やば・・・しんどい・・・わけだ・・・」

「しんどいか?薬、飲むか?」

「飲みたいけど・・・今飲んだら・・・戻しそうで・・・」

「そうか・・・なら、また寝ておいたらいい。次起きたときにも、誰かいると思うから、大丈夫だ。その時いた人に頼めばいい」

「ありがと・・・ございます・・・」

そして、再び眠りについた。

 

 

楓が眠りについてから、約2時間・・・

 

 

「神童くん」

「喜多・・・もう交代か?」

「あぁ。楓の様子はどうだ?」

「一度起きたが、また寝てからもう・・・もう2時間も経つのか」

「神童君も、疲れているんじゃないのか?」

「そうだろうな・・・なんだろうか、チームを支える柱が、1本無くなった感じだ。今、チームは不安定な状態だ」

「神童君が怪我したときの雷門イレブンが、こんな感じだったんだろう」

「喜多・・・あ、じゃあ、楓の事、宜しく頼む」

「あぁ。何かあったら、剣城が許さないだろうしな」

「だな」

そして、交代となった。そして、楓の面倒見役が、神童から喜多になった。

 

 

そのころ、練習グラウンドでは・・・

 

 

「ほら、皆頑張って・・・」

「はい・・・」

「やっぱり、皆元気がありませんね・・・」

「しょうがないよね・・・」

私は、そんなことを葵と話していた。

 

 

私は、未雲。

今は、サッカー部の練習の最中。でも、皆元気がない。それは、やっぱり楓の熱と関係があると思う。今まで、ずっとチームを支えてきた柱が1本急に抜けたんだから、しょうがないことはしょうがないけど、こっちは見ていて恥ずかしい。

だって、こういう時こそ、皆頑張るものでしょ!?

私は、ついに耐えかねて叫んだ。

 

 

「何よ、皆!ヤル気出して下さい!柱が抜けてしまっている・・・楓が抜けてしまっている今だからこそ!皆、しっかりするんじゃないんですかっ!?」

私に続いて、葵、紫音ちゃん、ちかちゃん、海帆さん、和葉ちゃん、水鳥さん、茜さんと続く。

もちろん、選手たちは目を見開いている。しかし、すぐに天馬君が、指示を出す。

「そうですよ!皆さん!元気を出しましょう!ヤル気を出しましょう!そして、楓が帰ってきたとき、胸を張れるようにしましょう!」

「「「「はいっ!キャプテンっ!!」」」」

 

 

それから、皆の調子が戻って行った。

 

 

楓、待っててね!

皆、強くなってるよ!絶対に!

 

 

 



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とても大切で大事にしたい人

「ちっか~」

「何ぃ?真男くん」

「いやぁな、俺がこのチームに入ってよかったのかなぁ・・・って思ってな」

 

 

ある日突然、そんなことを私に真男くんが言ってきた。

私は、心の底から驚いた。自分の事を、真男がそんな風に思ってたなんて・・・私は、どう答えればいいかわからず、しばらくおどおどしていたが、息を吸って返事を返した。

「当たり前じゃん」

「へ・・・!?」

「だぁかぁらぁ、当たりぃ前じゃん!って言ってるんだよ?」

「・・・でも、俺、サッカー好きだけど、下手だし・・・純太の方が、ずっとうまいし・・・」

「そんなの関係ないって。まだ真男くんも純太くんも唯一の1年だから、試合に出れることも多くないと思うけど、2人とも・・・もちろん真男君もだよ?絶対、チームに必要なの!」

「ちか・・・」

「分かった?なら、練習行ってらっしゃい!」

「うんっ!」

 

 

その、グラウンドにかけていく後ろ姿を、私は見えなくなるまで見つめていた。

真男君・・・あんな悩み、抱えてたんだ・・・気付いて上がられなかった私って、マネージャーとしてもだけど、その前に真男君の友達失格かもなぁ・・・

「はぁ・・・」

私は、大きなため息をついた。

「幸せが、逃げてくぞ~?」

ため息をついた後、ふと後ろから声が聞こえた。はっ、として振り返ると、

「なぁんだ、先輩ですか・・・」

「『なぁんだ』とはなんだ・・・」

そこにいたのは、霧野蘭丸先輩だった。

 

 

「何で、こんな山奥にいるんだ?」

「先輩こそ・・・神童先輩と一緒なんですか?」

「いや、俺1人。で、俺の質問に答えて」

「えっと・・・実は、真男君から相談を受けてて・・・」

「真男から?どんな内容だ?」

私は、少しためらいながら相談の内容を霧野先輩に話した。話し終わった後に先輩の表情は、なんとも言えない表情だった。

「そんな事、考えていたのか・・・」

「そうだったみたいで・・・私、その悩みに気がついてあげられてなくて、マネージャーとしてもだけど、真男くんの友達としても失格だなぁ・・・って思って・・・それで・・・」

「ため息をついた・・・と」

「・・・はい」

「でもな、ちかが友達やマネージャー失格なわけはないな。これは、俺が保証する」

「えっ・・・で、でもっ、私、ずっと真男君に辛い思いさせちゃって・・・やっぱり、失格なんじゃっ・・・」

私は、いつの間にか涙声になっていた。それを隠そうとしたが、霧野先輩に気付かれないようにする方が無理だった。だから、なるべく迷惑かけないように・・・と、声を押し殺して泣いた。

 

 

すると、上から暖かいものがかぶさった。

 

 

何かと頭をあげてみて、びっくりした。

―――上にかぶさっていたのは、霧野先輩だった。

 

 

「えっ・・・じぇ、じぇんぱい・・・?」

「なんだよ、『じぇんぱい』って。先輩くらいちゃんと言ってくれよ・・・」

「す、すいませしぇん・・・ぐずっ・・・」

「・・・ほら、泣きやめ」

「えっ・・・」

「泣きやむまで、こうやっておいといてやるから、好きなだけ泣いて、早く泣きやめ」

「せ、せんぱっ・・・うぅ・・・わぁん・・・うぇぇぇぇん・・・」

先輩は、私が泣き終わるまで、ずっとこうして包んでくれていた。私は、その安心感で素直にたくさん泣けたし、すぐに泣きやめた。私が泣きやむと、霧野先輩は私と目線を合わせてしゃがみ、私の肩に手を置いた。

「先輩・・・ごめんなさい・・・」

「いや・・・落ち着いたか?」

「はい」

「ならよかった・・・ちか?」

「はいっ」

「これからは、辛いこととかあったら、オレに相談しろよ?俺は・・・俺は、ちかを公私ともに支えられる、そんな存在になりたい」

「へっ・・・!?それって、どういう・・・」

「つ、つまりだ・・・俺は、ちかが・・・す、す、好きだ・・・!」

 

 

突然の告白・・・

最初はすごく驚いた。でも、冷静になると、すぐに分かった。

 

 

「今まで、私は先輩にたくさん支えてもらったし、たくさん楽しい思い出も作ってもらいました。これからも先輩に支えてほしいし、先輩とたくさんの思い出を作りたいです。つ、つまり・・・私も、霧野先輩が・・・好きですっ」

 

 

今日から、私にとても大切で大事にしたい人ができました。

 

 



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事件が事件を呼ぶ

楓が、高熱を出して早1週間。

楓の熱も、37度台まで下がり、(といっても、まだ熱はあるが)うなされることもなくなって来ていた。そして、話すこともとぎれとぎれではなく、すらすらとしゃべれるようになっていた。

しかし、専属の医師に診てもらってとりあえず明日まで断食する(つまり点滴で栄養を取る)ようになっている。

今は、俺が楓の看病の担当。

 

 

「京介・・・練習、どう?」

「練習か?いい感じだな。皆、確実に強くなってるしな。楓の方は、辛くないか?」

「う~ん・・・辛くないって言うと、ウソになるかな・・・って感じかな」

「・・・お前、熱があると素直だな」

「何よ?でも、そうかも。だって、反抗する気力、残ってないしね」

「そうだろうな。まぁ、いつもの楓じゃないのは、時たまでいいんだけど。やっぱ、ちっちぇころからの付き合いだから、変なカンジ・・・って感じだな」

「ふふっ・・・ねぇ、私、いつから練習に参加していのかしら?」

「またそれかよ・・・ったく、少しぐらい体の心配しろってーの。それに、まだ一応熱あんだぞ?」

「そうだった・・・じゃあ、体温計、とって」

「はいはい」

そして、俺は体温計をとる。

後ろを振り向くと、やっぱり熱があるからかしんどそうな顔をしている。まぁ、初めて楓に会った人は分からないと思う。普通の顔をしているけど、心の底ではしんどい・・・って顔だし。

「ほら、やっぱりしんどいんじゃねぇのかよ」

「そんなことないわ・・・ほ、ほら!早く体温計っ!」

「はいはい・・・」

そして、俺は楓に体温計を渡す。

 

 

測り始めて約1分後・・・

 

 

ピピピッ、ピピピッ

「あ・・・終わった」

「・・・で、何度?」

「37度7分・・・」

「やっぱ熱あるじゃねぇかよ」

「でもぉ・・・下がった方よ?前ほどしんどくないしぃ・・・」

「そうむきになるとこ、フィフスにいたころから変わんねぇよなー」

「京介、もうフィフスのこと話しても辛くないの?」

「あぁ。白竜とも和解できたし、今ではメールとかよくしてるけど」

「本当!?なんか、すごい進展ね」

「俺、マジで嬉しかったんだよな。そして、本当に楽しかったんだよ」

「京介って、白竜のこと話すとき、優しい顔するわ。実はね、私がゴットエデンにいたとき、白竜ってよく京介のこと話してくれて・・・私もその時はもう京介と知り合っていたし、よく2人で話したものよ。今、どうしているんだろう・・・元気かしら・・・ってね」

「そうだったんだ・・・知らなかった」

「・・・でもね、私がごうえ・・・聖帝によってゴットエデンから出たときから、私に嫉妬(?)したのか知らないけど、ああなっちゃって・・・」

俺は、そんな話を懐かしむように聞いていた。

すごく楽しい気持ちになれた。

 

 

しかし、その雰囲気はすぐに消え去った。

 

 

しばらく俺と楓が話していると、ドアが開いた。

「楓・・・ちょっといいか?」

「神童先輩・・・どうかされましたか?」

「山吹総帥からお電話だ」

「お母さんから・・・?代わっていただけます?」

「あぁ」

楓は、少し外に出てお母さんと話し始めた。

 

 

しばらく静かだったが、急に大きな叫び声が聞こえてきた。

一緒に部屋にいた俺、神童先輩、霧野先輩、雅野、喜多先輩が駆けて行ってみると、そこには電話がもう終わり、青い顔をしてたたずんでいる楓がいた。

「楓・・・?」

「・・・ち・・・どし・・・」

「何だ?何があったんだ?」

「母のところに、電話があったんです。今、逃走中の犯罪組織・ZSKS(ジーエスケーエス)から・・・」

「ZSKS・・・!?」

「何だ?それ」

「ZSKS・・・財閥資産家脅迫組織の略称だ。あらゆる財閥、資産家の息子や娘を誘拐し、多額の身代金を要求し、警察が現場に到着したときには、何事もなかったかのように消え失せている・・・そんな恐ろしく手ごわい組織だ」

「そんな組織から楓の家・・・山吹財閥に電話があったってことは・・・まさかっ!?」

「わ、私を・・・誘拐するために、今、どこにいるか教えろ・・・今日じゅうに教えなければ、母はもちろん、娘である私や使用人の皆さん、血縁関係のある鬼道財閥の皆さんまで・・・こ、殺す・・・と」

「「「「「!!!!!」」」」」

 

 

その事件と、楓の治りきっていない熱・・・この2つが、大変な事態を起こすなど、誰がこのとき予想しただろう・・・

 

 

 



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最悪の決断

脅迫電話から、2時間・・・

 

 

今日が終わるまで、あと約7時間だ。

2時間前の電話により、楓の体調は再び壊れ、今はまた39℃くらいの熱で寝込んでいる。そのことを伝えるため、急遽ミーティングが開かれた。

「楓の熱だが・・・」

「それなら聞きました!もう治りかけているって」

「それが・・・またぶり返した」

「「「えぇっ!?」」」

「どうしてだ!?」

「何で・・・!?」

「ZSKS・・・知っているか?」

「はい・・・財閥資産家脅迫組織・・・ですよね?それがどうかしましたか?」

「その組織から、楓の家に電話がかかってきた。楓の場所を教えろ・・・と」

「「「!!!」」」

「それってつまり・・・楓さんを誘拐させろ・・・って言ってるもんじゃないのっ!教えなくってもいいんですよっ」

「ちか・・・落ち着け」

「でも、霧野先輩っ・・・!ちかちゃんが興奮するのもわかりますよっ!」

「未雲ちゃん、落ち着いて」

「緑君は黙ってっ!」

「皆、落ち着け」

「「「「鬼道コーチ・・・」」」」

「「「鬼道・・・」」」

皆が、鬼道コーチの一言によりいったん落ち着いた。

しかし、次に俺の発した言葉により、鬼道コーチも動揺したようだった。

 

 

「今日中に教えねぇと、山吹財閥の総帥であり楓の母親である桜子さんや楓本人をはじめとする山吹家使用人の皆さん、それに山吹財閥に勤める人たちや・・・山吹財閥と血縁関係のある鬼道財閥の総帥である鬼道コーチ、鬼道家、鬼道財閥の使用人、勤める人までを・・・殺すって言ってたぜ・・・犯人たちが・・・」

「「「「!!」」」」

「理不尽じゃないっ!酷いっ!」

「でも、こうなってくると楓の居場所・・・つまりこの合宿所を教えることしか方法は無くなってくる・・・」

「でもっ・・・」

「神童先輩の言うとおりだ。おそらく犯人たちは、身代金を要求することが目的だと思う。だから教えるということもありだと思うぜ・・・けどっ、そんなことすると、楓の命がより一層危険にさらされる・・・しかし、大量殺人を防ぐためには・・・っ!」

「剣城っ、落ち着けっ」

「っ!・・・はい、すいませんでした。でも、どうすれば・・・」

 

 

「・・・はぁ・・・犯人に・・・私の・・・居場所を・・・教えて・・・ください・・・って・・・母に・・・伝えて・・・ください・・・はぁ・・・」

 

 

「「「「楓っ!!」」」」

その声がする方には、いまにも倒れてしまいそうな楓がいた。俺は、いつのまにか叫んでいた。

「何言ってんだっ!お前、自分の体の事を理解してんのか!?」

「京・・・介・・・ありがとう・・・でも・・・皆を守る・・・ためには・・・っ!」

ガクッ

楓がその場に倒れこむ。俺は一目散に駆け寄り、楓を抱き寄せる。そして、額を触ってみる。

――――熱は、さっき測った時よりも上がっているようだった。

 

 

「楓、大丈夫だ。俺たちが何とかする」

「あぁ。だから、心配ない」

「京介・・・神童・・・先輩・・・でも・・・私の考えは・・・変わりませんっ!」

「「楓っ!!」」

「だって・・・それ以外・・・方法・・・ありませんよ?」

「だからってな・・・!」

「いいんです・・・私は・・・だから・・・お母さんと・・・お兄さんと・・・皆さんを・・・助けたい・・・っ!」

「楓・・・伯母さんは、それを望んでいないと思うぞ」

「お兄さん・・・でも・・・私も・・・母や・・・お兄さんが・・・殺されること・・・望んで・・・いません・・・」

「・・・っ!伯母さん・・・すいません・・・俺、楓を伯母さんに代わって守ることができないかもしれません・・・」

「「「鬼道コーチっ!」」」

「お兄さん・・・いいんです・・・では・・・携帯を・・・貸してください・・・」

「・・・あぁ」

 

 

そして、楓は何のためらいもなくZSKSに電話をした。

そして、電話が終わった直後に、その場に倒れこんでしまった。

 

 

 



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あってしまった最悪の事態

楓は、あのミーティングの後、剣城に抱かれてベットに寝かされた。

そして、今は俺が看病をしている。

そして、今のところうなされているが一度も起きていない。いや、目が覚めることはあったのかもしれない。しかし、目が覚めたところであんなことを言ってしまったのだ、俺と話すのははばかられたのだろう。

 

 

そして、楓はその日のうちには目を覚まさなかった。

 

 

―――次の日

 

 

「楓、目を覚ましませんね・・・」

「あぁ・・・もうそろそろ、犯人(やつら)が来ると思うが・・・」

その時だった。天馬と信助があわてた様子で飛び込んできた。

「神童先輩っ!鬼道コーチっ!」

「静かにしろ!楓が寝ているんだぞ」

「大変なんですっ!葵が・・・葵がどこにもいないんですっ!」

「何っ!?」

「それは、本当なのか!?」

「はいっ!もしかしたら・・・葵が、さらわれてしまったのかも・・・」

「そんなことはないと思う!第一、楓と空野さんでは髪の色、瞳の色など違いすぎるんじゃないか!?」

「・・・いや、犯人が『山吹財閥の娘はショートカットで、赤いリボンの制服を着ている』という情報しか知らなかったとしたらどうだ?」

「「「!!!」」」

「葵ちゃんも楓ちゃんも同じくらいの髪の長さだし、瞳の色は知らなかったとして、制服も同級生だから同じ色だし・・・」

「そんな・・・」

俺たちは、ただ唖然とした。

そして、俺が横を見ると、はっとした。

 

 

楓が、生気のない顔でこっちを見つめていた。

 

 

「楓・・・」

「葵が・・・いなくなったって・・・本当・・・ですか・・・?」

「いや、まだどこかにいるかもしれないし・・・」

「でも・・・いないのは・・・本当・・・ですよね・・・」

「楓、きっと葵は大丈夫だ・・・」

「私のせいよ・・・私が、サッカー部に入ったから・・・雷門中に入ったから・・・あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「楓落ち付けっ!」

「いやぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

真イナズマジャパン、最大のピンチだ。

 

 

それに追い打ちをかけるように、新たな事件が起こった。

 

 

それは、剣城が楓の看病の時、少しだけトイレに立ったときにおこった。

楓が、どこかへ消えてしまったのだ。

ただ1つ、置き手紙だけが残っていた。

 

 

『葵を取り戻し、私が本来のように人質になります。母には伝えないでください。もし、私の身にもしものことや最悪の事が起こった場合は、お兄さん、宜しくお願いします。楓』

 

 

「楓っ!」

「楓・・・」

「楓ちゃん・・・」

「楓さん・・・」

「楓ちゃんっ!」

「なんと言うことだ・・・」

「アイツ、バカな真似を・・・一応女なのに・・・」

「鬼道・・・不動・・・」

「円堂、どうする」

「豪炎寺・・・どうするもなにも・・・っ!」

真イナズマジャパンは、大混乱に陥った。

 

 

そのころ、楓は・・・

 

 

「葵・・・どこっ・・・はぁ・・・」

葵を、38℃以上の熱がある体で、探し回っていた。そこに、全身黒スーツの怪しい男性がやってきた。

「君、ここに何の用だ?」

「私は・・・山吹楓・・・私の代わりに・・・誘拐された・・・友達を返して・・・!」

「山吹・・・楓っ!?じゃあ、あの子は・・・!?」

「きっとその子は・・・空野葵・・・私と・・・間違えた・・・女の子よ・・・だから・・・私と・・・かえて・・・!」

「ふん・・・わかった。じゃあ、ついてこい」

「・・・分かったわ・・・」

 

 

事件は、一刻と進んでいた。

 

 

 



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人質交換

「むぐっ・・・んん!・・・むん・・・っ・・・!」

「こらっ!大人しくしろっ!」

私は今、薄暗い倉庫に監禁されている。

なぜそんなことになってしまったかというと・・・

 

 

今から約3時間前・・・

 

 

私は合宿所から外に出て、少し歩いていた。

すると、突然意識がふっととんだ。そして、気がついた時にはここにいた。どうやら、この人たちは楓を誘拐しようとした組織の人らしい。だから、私は楓を守ろうと自分が『山吹楓』として、監禁されることにした。

しかし、もう限界になってきたからわめいている。

その時、私を監視していた人の携帯が鳴った。その人は、私から少し離れて電話に出た。そして、「なにっ!?それ、本当かっ!?」とどなる声が聞こえたかと思うと、こっちにすごい剣幕でやってきた。

 

 

「お前、山吹楓じゃないだろっ!」

「っ!・・・今更気付いたんだっ!おっそ~いっ!」

「てめぇ・・・!まぁいい。本物の山吹楓がもうすぐ来るからな・・・」

「何っ!?楓がっ!?」

「あぁ。自分から名乗り出たらしいな。そして、自分からお前と代わって・・・いや、本来のように自分が人質になると言っている。だから、お前を解放してやる」

「そんなことしないでっ!楓にはかえってって言って!」

「いや、お前を人質にしたって山吹財閥から金は取れないからな・・・はははっ!」

「あんたっ!・・・いやよっ!私が、そのままのこっ・・・!」

私は、『残る』と言おうとして、また口をふさがれた。そして、そのまままた意識が飛び、次に起きたのは合宿所からさほど遠くないとある公園の女子トイレの一室だった。

 

 

「皆に・・・伝えなきゃっ!」

 

 

そして、私は急いで合宿所へと駆けた。

 

 

「皆さんっ!大変ですっ!」

「葵っ!」

「葵さんっ!」

「空野ッ!」

私が帰ってきたと同時に、皆が私に近寄ってくる。きっと心配してくれたんだろう。でも、今はそんなこと何でもない。

「大変なんですっ!楓が・・・!楓が、自分から人質になるって言ったらしくって・・・!それで、私は・・・どうなったかわかんなくって・・・でも、もう人質になってしまってると思うんですっ!私、意識が戻った時、近くの公園のトイレにいたんですっ!」

「落ち着いて、葵。でも、ありがとう」

「あぁ。君には感謝している。よく頑張ってくれたな」

「天馬・・・神童先輩・・・ありがとうございます。それで、楓は・・・楓は、どうすればッ・・・!」

「そうだ、そこが問題だ・・・」

 

 

その時、1本の電話がかかってきた。

その電話には、ためらわず剣城くんが出た。

 

 

「はい・・・てめぇらか!?楓はどうなんだっ!?」

皆が一斉に静かになった。そして、犯人の声も聞こえてきた。

「山吹楓を拉致した。返してほしければ、今から2時間で5000万用意しろ」

「・・・分かった。楓は、無事か!?」

「あぁ。お譲様は無事だ。そうしておかなくては、金が入ってこないからな」

「てめぇ・・・!もう、切るっ!」

「剣城・・・5000万だな」

「5000万なんて大金、どこにあるんだ・・・!?」

「俺の家から出せるが、お父様たちに知らせるのはどうか・・・」

「神童・・・先輩・・・」

「俺の家も、出せるが・・・桜子さんに知られたら楓の意思を尊重できない・・・」

「鬼道コーチ・・・でも、この際しょうがないと思います」

「天馬・・・」

「そうですっ!もうしょうがないですっ!今は、楓の命が最優先ですっ!」

「空野・・・そうだな。じゃあ、伯母さん・・・山吹財閥に電話するぞ!あそこなら、俺が言うのもなんだが5000万なんてすぐに用意できる!」

 

 

皆が、驚きとともに、少し落ち着いた瞬間だった。

このまま、事件が落ち着いてくれたらいいのだけど・・・

 

 

 



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最凶最悪

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「なんだよ、もうへたばったのかぁ?」

「いえ・・・違うわ・・・はぁ・・・」

「じゃあなんだよぉ?あ、もしかしてぇ熱か?」

「ちがっ・・・はぁ・・・」

私は、おそらく39度は越えたであろう熱のあるからだで、薄暗い部屋に監禁されていた。犯人たちは、どうやら自分たちの犯行にすごい自信があるらしく、覆面マスクもしていなければ、声も変えていない。ここから解放されたら絶対警察に言ってやる・・・そんなことをやっと考えて、今はとにかく記憶が飛ばないようにとにかく一生懸命。

 

 

そして、チャンスは突然やってきた。

 

 

犯人たちが、いなくなったと思ったら、次に帰ってきたときには目測で5000万くらいのお金が目の前に現れた。きっと、お兄さんか神童先輩の家・・・もしくはお母さんが出してくれたのだろう。でも、私は5000万くらいじゃ動揺も興奮もしない。いつも家には1億以上はあることは確実だし、5000万なんてすぐ用意しようと思えばすぐに用意できるからだ。

「何・・・これ・・・だけ・・・?」

「何ぃ?強がりぃ?」

「・・・いいえ・・・本当に・・・これだけ・・・って・・・思って・・・」

「・・・強がりだろぉ?まぁいい。お前は約束通り開放する。その代わり、警察(サツ)には知らせるなよ?」

「・・・」

私は気がついた。

財閥や資産家の令嬢や御曹司はきっとこういう脅しに弱いものなんだ、普通。だから、警察には見つからなかったんだろう。しかし、私はそんなかわいいお譲さまじゃない。縄をほどかれた瞬間、警察に通報しようと携帯を出す。そして、外に出てみると・・・

 

 

そこには、たくさんのパトカーがいた。

私は、ただ安心した。

 

 

「っ!・・・な・・・なぜ・・・っ・・・!?」

「・・・ってめっ!嘘ついたなっ!くらえっ!」

「うぉーっ!」

しかし、警察がこちらに着く前に、最悪の事が起こってしまった。

 

 

―――――バンッ、バンッ、バンッ・・・

 

 

「イタッ・・・!」

私は最初、何が起こったかわからなかった。

そして、自分のお腹を押さえていた掌を見て理解した。

――――私、銃で撃たれたんだ。

理解した瞬間、痛みが全身から襲ってくる。自分でわかるだけでも、お腹は3発、肩に1発、足や腕には数えきれないほどの傷が入っている。やがて、立っていることすらままならなくなり、おまけに熱があったということも重なり私は、その場に倒れこみ、そのまま意識を失った。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁ!!!!楓ぇぇぇぇぇ!!!!」

「イヤァァァァァァ!!!!」

マネージャーたちが、声にならない大声で叫んでいる。

俺は、ただその風景を呆然と見つめていた。

―――楓が、銃で撃たれた・・・

「か・・・え・・・で・・・」

俺の足が、カクンと折れ、そのままその場に座り込む。そんな俺の周りに、神童先輩、緑、浩一、鬼道コーチが近寄ってくる。

「剣城っ!」

「剣城っ!しっかりして!」

「剣城さんっ!」

「剣城っ!大丈夫かっ!?」

そんな皆の顔も、その場で起きたことが理解できず、青白くなっている。いつも冷静なコーチたちでさえも、動揺を隠せていない。

そして、その真っ赤に染まった少女のいる方を見てみると、そこにはすでに救急隊員たちがいて、もう楓は救急車に乗せられていた。その顔は、青白く、でもからだは真っ赤で生気がなかった。

その救急車の方に、円堂監督と鬼道コーチと豪炎寺コーチが走っていく。俺は、周りの事など見ないでその3人の方にかけて行った。後ろの方から、神童先輩と霧野先輩が追ってくる。

しかし、先輩2人が追いつく前に俺は監督たち3人のところに着いた。そして、いつもの冷静さなど嘘のような興奮状態で問いただす。

「楓はっ!?どうなってんですか!?」

「剣城・・・今は、どうとも言えないんだ・・・神童、霧野・・・お前たち3人も救急車に乗れ。後の部員たちは、不動たちに任せている。そのうち・・・病院につくだろう・・・」

いつも元気な円堂監督でさえも、少しの事では動揺しないコーチ2人も動揺を隠せていない。

その様子を見れば、今楓はとても危険だということがわかった。しばらく間をおいた後、俺は質問に答える。

「・・・はい。俺は乗ります」

続いて先輩たちも「乗る」と返事をした。

 

 

そして、俺たちを乗せた救急車が大きな音を出し、赤い光を発しながら進み始めた。

 

 



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守れなかった少女

ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ・・・

規則正しい音が、静かな部屋に響く。

 

 

俺は間に合わなかった。

 

 

楓が、ZSKSに誘拐されて、奴らの基地を見つけ、それを警察に知らせたまではよかったのだ。しかし、そこで予想外の事態が発生した。―――楓が、奴らに全身を拳銃で、撃たれてしまったのだった。

 

 

楓は、病院に着くと一息つく間もなく緊急手術室に運ばれていった。そして、4時間もの間手術され、全身にあった弾丸を摘出した。弾丸は全部で9つ。腹部に5つ、肩に2つ、腰のあたりに1つ、腕に1つだった。そのほかにも、足や腕を少なくとも11発ほどの弾丸がかすめた跡があった。その全ての傷口から大量に出血し、大量出血で死に至るところまで来ていた。しかし、それは俺や神童先輩たちをはじめとする多くの部員、マネージャーたちのの血液型が、楓と同じO型だったため、なんとかまぬがれることができた。

しかし、その後に襲ってきたのは今までの疲れと、高熱・・・命の危機は、なかなかなくならなかった。

皆が、円堂監督に先導され合宿所へ戻った後も、俺と神童先輩、霧野先輩と鬼道コーチは病院から帰らなかった。同じ班の班長、副班長、親しいメンバー、それに血縁者・・・皆、それぞれ楓とは結構かかわっていた。だから、皆がのこった。

しばらく、鬼道コーチが消えていた。それは、楓のお母さんである桜子さんに電話をしていたからであった。鬼道コーチは、帰ってきたときに暗い表情をしていた。そして、

「伯母さんに・・・怒られた。まぁ、当然だ。俺は、従妹(かえで)を守れなかったんだからな。怒鳴るに・・・泣くに決まっているか・・・」

と、それだけ言い残して、楓の病室に入って行った。それに続くように俺たち3人も楓の病室に入った。

 

 

楓の病室は、俺たち4人の仮眠室でもあった。6つベットがあり、1つには楓がたくさんの機械や点滴につながれて眠っている。残りの5つのベットのうち、1つ以外全てカーテンを取り払った。1つだけ残したのは、1人になりたい時用だった。

皆、努めて顔には出さないようにしているが、ショックは大きかった。いつも一緒に戦っている少女が、突然目の前で真っ赤に染まったのだ。ショックじゃない方がおかしい。あの時のことはもう忘れようとするが、忘れようとするたびに、涙がこみ上げてくる。そういう時に、1つだけ残ったベットを部屋として使うのだ。

 

 

部屋に入ると、真っ先に目に飛び込んでくるのは、楓である。

たくさんの機械につながれ、腕には大量の点滴。他にも全身を包帯でぐるぐる巻きにしている。そんな姿を見るのが痛々しくて、3人でそろって目をそらす。

そして、各自の仮眠用ベットに入り込む。しかし、皆なかなか眠れなかった。そして、霧野先輩と鬼道コーチが寝たころ、俺は神童先輩に呼ばれ、2人で屋上へといった。

 

 

「剣城。大丈夫か?」

「はい・・・というとウソになります。本当は、隠しきれないほどつらいです」

「そうだな。俺も辛い。しかし、幼いころから楓を見てきた剣城はもっと辛いんだろうな」

「そうかもしれません・・・しかし、皆さんもそれくらい辛いはずです。仲間ですから、楓は」

「そうだな・・・もし」

「もし・・・?」

「もし、警察に知らせていなかったらこんなことにはならなかったんだろうか?」

「・・・分かりません。でも、もう終わったことです」

「剣城・・・そうだな。悪かった」

「いいえ。気がおかしくなったり、過去を悔やむことはあってもおかしくありませんから」

「すまない。じゃあ、もう寝るか・・・」

「・・・はい」

 

 

俺たちは、話し終わって屋上を後にした。

そして、今度こそ自分の仮眠用ベットで眠りに就いた。

 

 

楓と再び出会った1年前から感じるこの気持ち・・・

 

 

楓が笑っていたら、俺も嬉しい。

楓が泣いていたら、俺も悲しい。

楓がほかの男子(ヤツ)と話していたら、なぜか悔しく、その男子に怒りを覚える。

楓が危険にさらされそうになったら、守ってやりたい。―――守れなかったが

楓を幸せにさせてあげたい。

 

 

この感じ、何なんだろう・・・

俺は、ずっと昔の夢を見ながら考えていた。

 

 



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皆が辛いんです

私たちは、元気がなかった。

それは、やはり楓の大怪我が関係していると思う。

 

 

「楓・・・」

私は、誰もいないことを確認してその少女の名前をつぶやいた。

 

 

1日前に見たときは、熱があったが自身に満ち溢れるかっこ可愛い美しすぎる笑顔で、私たちに接していた。しかし、半日前に起こったあの忌まわしい事件により、あの笑顔は消えてしまった。次に私が楓を見たときには、楓はもう青白い顔で真っ赤に染まっていた。

私と葵をはじめとするマネージャーたち、いつもは冷静な部員たち・監督・コーチたちも声にならない悲鳴を上げていた。

現実を受け入れたときには、楓はすでに救急車に運ばれていた。その救急車に、円堂監督、鬼道コーチ、豪炎寺コーチ、剣城君、神童先輩、霧野先輩が向かっている。私も、救急車の方へ行こうと思った。しかし、足がすくんで動かなかった。楓のことは、本当に心配している。しかし、あの真っ赤に染まった姿を見れる自信がなかった。

次に楓に会ったのは、手術が終わり包帯に包まれて、機械や点滴につながれて病室に運ばれる一瞬だった。

「楓っ!いやっ!どうしちゃったのっ!?」

「緑君っ・・・!」

私は、緑君に抱きつく。そして涙を流した。周りを見ると、葵は天馬君に、ちかちゃんは霧野先輩に、水鳥さんは錦先輩に・・・という様に、付き合っている付き合っていない関係なしに、女子は男子に抱きついて必死に涙を堪えようとしていた。

 

 

そのことを思い出し、私はまた涙を流してしまった。

 

 

「っ・・・うっ・・・」

泣いている声が聞こえないように、私は泣き声を必死にこらえる。

「未雲ちゃん?」

「りょ・・・緑君・・・っ・・・!」

「大丈夫?辛かったんだね・・・」

「うっ・・・わぁぁぁぁぁんっ!!!!!」

私は、緑君にばれた瞬間、声をこらえず大泣きした。そんな私を、緑君は少し震える手でさすってくれていた。

 

 

「・・・落ち着いたかな?」

「・・・うん・・・もう・・・大丈夫・・・」

「辛かったんだよね・・・」

「うん・・・だって・・・いつも・・・元気なのに・・・」

「分かるよ、分かる。皆、辛いもんね。特に、未雲ちゃんと・・・楓は・・・仲いいしね・・・」

「そう・・・だから、見たことないし・・・もういやっ・・・」

「大丈夫。泣きたかったら泣いていいから・・・」

「・・・大丈夫・・・ごめんねっ・・・さぁ!私たちが元気出さなきゃっ!練習するよ~!」

「未雲・・・ちゃん・・・そうだね!頑張ろう!」

私たちは、元気を無理やりにでも出して、表へ出て行った。

 

 

「みなさぁんっ!頑張れぇ~!」

「未雲ちゃん・・・何でこんな時に・・・」

「今だからだよ!元気出さないと!だって・・・こんな事、楓も望んでない!じゃないの?紫音ちゃん?」

「未雲ちゃん・・・」

私は、一緒にいた紫音ちゃんに問いかける。

その問いかけに対して、紫音ちゃんは笑顔で答えてくれた。

 

 

「そうだね!楓ちゃんも、そんな事、望んでないよね!」

 

 

私たちは、本調子は出なかったが、でも、今出せる最高の調子で頑張って練習をした。

―――――いつか必ず元気になる、楓の為に。

 

 

HRI(ホーリーロードインターナショナル)まで、あと5カ月・・・

 

 



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喜びの日

「皆さんっ!楓ちゃんが、目を覚ましましたっ!」

 

 

そんなニュースが合宿所に入ってきたのは、あの事件が起こってから2週間もたったころだった。

皆が手をとりあって喜び合い、中には涙を流している人もいた。私も、大泣きして前が見えなくなってしまっていた。

「音無先生!それ、本当なんですか!?」

「天馬君・・・えぇ、本当よっ!今さっき、病院から連絡が入ったって、兄さんから電話があったわよ!」

「「「「わぁぁぁぁぁ!!!!」」」」

「神童先輩、霧野先輩、剣城君は、病院にいるんですかっ!?」

「そうよ、未雲ちゃん。3人が、今楓ちゃんに付き添っているわ」

「楓っ・・・よかったぁ・・・」

「葵・・・うんっ!」

「未雲・・・だよねっ!」

皆が、『安心』この2文字に包まれた。

 

 

そのころ、病院では・・・

 

 

楓が、病院の一室で2週間ぶりに目を覚ました。

「楓っ!大丈夫かっ!?」

「京・・・介ぇ・・・?」

「楓っ!」

「楓、聞こえてるかっ!?」

「霧野・・・先輩ぃ・・・神童・・・先輩ぃ・・・」

「楓、お母さんには連絡しておいたから、もう大丈夫だ」

「お兄さん・・・はぁ・・・もう・・・終わったんですね・・・」

「なんだよ、HRI出ないつもりかよ?」

「あ・・・そうじゃないけど・・・」

「だろ?だったら、早くもっと元気になれよ。2週間、長かったんだぞ?」

「2週間・・・!?私・・・そんなに・・・寝てたの・・・?」

「全く、大変だったんだぞ?」

「練・・・習・・・練習はっ!?」

その言葉を発した後、楓は無理矢理体を起そうとした。しかし、唸り声をあげて、体をくねらせ、過ぎにベットに横になった。傷口がいたんだらしい。

「楓っ!傷口が開くっ!安静にしろよっ!お前、9つも弾丸が体に入っていたんだぞ!?」

「そうだ。絶対安静だ。しかし、もう合宿所に移っていい。ただし、使っていない2階を病室として使う。大丈夫だ、2階には円堂、コーチ、春奈がいるからな」

「お兄さん・・・京介・・・ありがとうございますっ!」

そして、楓はその日のうちに病院を退院し、別荘(合宿所)へと移ることになった。

 

 

楓が合宿所に帰って来てから・・・

 

 

「楓っ!」

「楓ちゃんっ!」

「楓さん!!」

「皆・・・ごめんなさい・・・」

「なんだよ、帰って来ての第一声が『ごめんなさい』って・・・(笑)」

「きょ、京介っ・・・!」

「ははっ。でも、本当にそうだぞ?皆、心配してたんだ。ここは、『ありがとう』じゃないのか?」

「先輩・・・はいっ!ありがとうございますっ!」

「楓・・・大丈夫だった・・・?」

「葵・・・うん、大丈夫よ。こっちこそ、ごめんなさい。あなたにも、危険な目にあわせてしまったし・・・私、こんなことになってもしょうがなかったのよね」

「そんなことないっ!私・・・い、いい経験になった!」

「葵・・・ふふっ、ありがとう」

その笑顔は、2週間前に見た笑顔と同じだった。

皆が、その笑顔に思わずホッとし、笑みをこぼす。

 

 

楓が、2階に上がってベットに入った後・・・

 

 

「鬼道コーチ、お話とは・・・?」

俺は、鬼道コーチと話していた。

「剣城・・・今回のことで、俺は楓を守ることができなかった。保護者代わりだったのにな・・・今までも、たくさん危険な事をさせてきていた。思えば、楓はいつも命の危険にさらされていた。そんなことに気が付けないなんて、情けないだろう」

「そんなこと・・・」

「だが、お前ならこの先、楓を守れるだろう」

「えっ・・・!?」

「剣城、楓を頼むぞ」

「鬼道コーチ、どういうことですか・・・?」

すると、鬼道コーチは苦笑した。

「分からないのか・・・全く、楓と剣城(おまえら)は似たもの同士だな・・・まぁ、そのうちわかるだろう。とにかく、頼むぞ」

「はいぃ!?」

俺が、再び質問する前に、鬼道コーチは優しげな笑みを浮かべて去って行った。

 

 

俺は、目をぱちくりさせた。

 

 

 



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戻ってきた日常、しかしそれが最高の幸せで・・・
楓の血縁者


皆の調子が、楓が目を覚まして合宿所に帰って来てから戻り、とても調子がよくなった。そのことは、私だけでなくマネージャーをはじめとするたくさんの人、選手の皆までもわかっていた。

そして、皆の顔に笑顔が戻った。

 

 

あとHRIまで4カ月に迫ったころだった。

合宿所に、どこかわからない学校の制服を着た男子がやってきた。その時、監督・コーチたちは買い出しなど用事があり皆留守だった。選手の皆は練習中だし、マネージャーの皆だって仕事中・・・私は、判断に迷った。そんな私を見て、少し微笑んだその男の子は私に話しかけてきた。

「ごめん、急に訪れてしまって・・・」

「あ・・・いいえ、こっちこそ黙り込んでしまってスイマセン・・・」

「いや、大丈夫だ。君、名前と年は?」

「えっと・・・金田未雲、今中2です」

「ってことは、楓と一緒だな・・・」

「楓の知り合いですか?その前に、あなたのお名前と年を教えていただけますか?」

「俺は、河原翔(かわはらしょう)。今中3だ」

「じゃあ年上っ!?あ・・・す、すいませんっ!」

「いや、気にしてねぇけど・・・なぁ、今楓居るか?」

「楓・・・ですか?はい、いますけど・・・」

「じゃあ、会わせてくれないか?5分だけでもいいから」

「5分・・・ですか?・・・ちょっと待ってていただけますか?」

「あぁ」

そして、私は一旦その男子―――翔さんを待たせて、グラウンドの方へ駆けて行った。

 

 

「楓に面会者?」

「はい・・・」

私は、グラウンドにかけて行って神童先輩に相談した。天馬君に相談しようと思ったけれど、天馬君が、神童先輩に相談してって言ったからだ。

「面会者か・・・分かった、金田さんの直感に任せる」

「えぇっ!?そんな、先輩にしては珍しい・・・」

「ほら、任せたんだから、お客は待たせてはいけないぞ」

「あ・・・はぁ・・・」

私は、肩を落としながら再び翔さんのところへと戻って行った。

 

 

しばらく、私はじろじろと翔さんを見まわした。そんな私を見て、翔さんは苦笑していたが私はそんなこと知らず、見まわした。

「あのぉ・・・」

「ん・・・?あっ!すいませんっ!すいませんっ!あっ、でもっ!楓の面会、OKですっ!」

「そうか。じゃ、早速だが・・・」

「はいっ、入ってください」

そういうと私は、翔さんを2階の楓の部屋に案内した。

 

 

「楓~、起きてる~?」

私は、楓の部屋のドアの前から話しかけた。

「えぇ、その声は・・・未雲?」

「うんっ。でね、楓に面会者なんだけどぉ・・・」

「面会者?」

「うん」

「誰?雷門の人?」

「ううん・・・なんか、先輩だし・・・」

「先輩・・・?中3とかってことかしら?」

「そう、中3」

「へぇ・・・まぁ、入っていいわよ」

「うんっ!」

楓の許可を得て、私たちは楓の部屋に入った。部屋に翔さんが入った瞬間、楓の目が大きく見開かれた。そして、想像もしていなかった一言が、楓の口からつぶやかれた。

 

 

 

「お兄ちゃん・・・!?」

 

 

 

「えっ!?お兄ちゃん・・・!?」

「・・・」

「っ・・・!!ごめん、未雲、忘れて・・・」

「いやっ!聞けないまま、あんなことになっちゃったら・・・もう嫌だもんっ!」

「未雲・・・分かった。話すわ。でも、話したことあったはずだけど・・・」

「触れた程度よっ!ちゃんと、話して・・・」

「分かった。いいな、楓」

「・・・えぇ」

 

 

そして、楓は静かに話し始めた。

 

 



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懐かしき日々~兄妹の和解~

「私が翔・・・お兄ちゃんと離れ離れになったのは、私が3歳のころだったわ」

 

 

楓は、訪ねてきた男子・翔さんとの関係について話し始めた。

 

 

「私は、本名を・・・光山楓(ひかりやまかえで)というの。私は、母とお兄ちゃんと3人で住んでいた。でも・・・お母さんが海外勤務の帰りに、飛行機墜落事故にあい、亡くなった・・・」

「っ・・・!」

「その日、私たちは近くにあった『お日さま園』に預けられていた。しかし、私とお兄ちゃんは孤児院に預けられた。しかし、お兄ちゃんはすぐに引き取られた。そして、私はたまたまやってきた『お日さま園』からやってきた女性・吉良瞳子さんによって、再びお日さま園に引き取られたわ。そして、そのまま3年の歳月が過ぎた―――」

そういうと、一旦楓は間をおいて、懐かしむ優しい目をして、どこか遠くを眺めた。私は、もう事情が理解できた(思い出した)ため、

「ありがとう!もういいよっ!じゃあ、後は2人で~」

といって、部屋から出た。

 

 

楓は、間を置いている間から懐かしい思い出に浸っていた。

そう、あれは今から7年も前のことだ・・・

 

 

―――7年前―――

 

 

「楓ちゃん?何してるの?」

「瞳子さん・・・えっとね、外を眺めていたんです」

「外・・・?桜とかかしら?今なら咲いているわよね」

「それもあるけど・・・あそこにいる人を見てたんです」

「人・・・?あら、本当・・・ちょっと外に出てくるね」

「はぁい」

そう私に言ってから、瞳子さんは外に出て行った。それから、しばらくしてから再び瞳子さんが、私の事を呼びにきた。

「楓ちゃん、あの女の人が呼んでるわ」

「私・・・ですか?」

「えぇ」

そして、私が外に出ると、そこには窓から見えた女性がいた。淡いきれいなピンク色の若干パーマのかかったロングの髪の毛、透き通るような茶色の瞳・・・私は、一目見ただけでその女性のとりことなった。

「うわぁ・・・すごい美人・・・」

「ふふっ、ありがとう。それで、あなたが楓さんかしら?」

「はい」

「私は、山吹桜子(やまぶきさくらこ)。自分で言うのもなんだけれどね、世界三大財閥・・・知っているかしら?」

「えっと・・・イギリスのホンビルド財閥、アメリカのトニー財閥、あとは、日本の山吹財閥・・・あっ!!」

「そうよ、その山吹財閥の山吹よ。私は、その山吹財閥の総帥よ」

「すっごぉい・・・でも、何でその桜子さんが?」

「・・・あなたを、養子にしようと思ってね」

「ようし?」

「あら、分らなかったかしらね・・・」

「すいません・・・」

「いいのよ。まぁ、養子というものを簡単に説明するとね、あなたが私の子供になるってことかしら?そうよね、瞳子ちゃん?」

「はい」

「瞳子ちゃん・・・?瞳子さんと桜子さん、知り合いなんですか?」

「うん、私のお父さんとね、桜子さんが知り合いだったのよ」

私は、瞳子さんが少しさみしそうな目をしたのに気がついた。でも、私はそれに触れていいのかわからなかったから、触れなかった。

「でも・・・私が桜子さんの子供って・・・なってもいいんですか?」

「なりたいかしら?」

「はいっ!」

「なら決まりよ。あなたは、今日から『光山楓』から『山吹楓』になるのよ?分かったかしら?楓ちゃん?」

「はい・・・お、お、お、お母さんっ!」

「じゃあ、宜しくね?楓」

ぱぁぁぁぁぁぁ・・・!自分の表情が、明るくなるのが自分でも判った。そして、私は自分でもびっくりするくらい明るい声で返事をした。

 

 

「うんっ!お母さんっ!」

 

 

―――現在―――

 

 

「お母さん・・・たくさん心配かけたわね・・・」

「そんな事、分ってたんじゃないのか?」

「おにいちゃ・・・翔・・・」

「別にいいよ。もう、『お兄ちゃん』でも。もう、同級生じゃないしな。俺、昔は乱暴な言葉使いしてたけど、本来の中3として稲妻中学校に通うようになってから、ちゃんとした言葉使いをするようにした・・・楓に、恥ずかしくない兄になれるように・・・」

「お兄ちゃん・・・」

「だって、お前、中学サッカー界で革命を起こしたチームの女性エースストライカーだぞ?公にできないにしても、俺が心の中で恥ずかしい」

「ふふっ、ありがとう」

「あ・・・じゃ、もう帰るな。しばらく来れないと思うけど、HRI頑張れよ。その前に、その大怪我・・・治せよ」

「えぇ、じゃあね」

 

 

そして、お兄ちゃんは帰って行った。

私の顔は、あのときと同じように明るく笑っていたに違いない。

 

 

 



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新必殺技の完成・・・?

「いっくよ~、天馬~!」

「うん!信助~、こいっ!」

 

 

今日もグラウンドに明るい声が響く。

楓が帰って来てから、今日は初めての楓も見学の練習だった。その為、皆いつも以上に頑張っている・・・ような気がする。

楓は、車いすを葵に押してもらってきている。その顔は、すごく優しそうな顔をしている。私は、そんな楓の右横に座った。左隣には紫音ちゃん、後ろには水鳥さん、茜さん、海帆さんがいて、少し前には大きな声を張り上げているちかちゃんと和葉ちゃんがいる。

「皆、仕事しにくいでしょ?いいのよ、ここにいなくても」

「いいんだよっ!私たちがここにいたくているんだもんっ!ねっ?」

「「「「「うんっ!!」」」」」

「ありがとう。じゃあ、私も少し皆のところへ行ってもいいかしら?大丈夫、ひとりで行けるから」

「でもっ・・・うん、分かった。じゃ、気を付けてね~」

「はぁい」

そして、私たちは楓をおいて、キッチンへと走った。

 

 

皆が去った後、私(楓)は、車いすを押して皆のいるベンチへと向かった。

だんだん近くに行くにつれて、皆の技やプレイが見えてきた。

「天馬っ!こっちにパスだっ!」

「はいっ!・・・と見せかけて、剣城っ!」

「ああっ!神童先輩、天馬、行くぞ!」

「「あぁ!!」」

「「「魔帝グリフォン!!」」」

そして、鮮やかにシュート。久々に見た、3人の合体化身。美しい光に包まれる『グリフォン』は、本当に神々しかった。私は思わず笑みがこぼれた。

「ふふっ・・・あんなことがあっても、変わらないものってあるのね。なんか、安心したわ」

そして、また皆の方へと向き直る。そして、自分がサッカーが好きだということを改めて実感する。その時、グラウンドの方からすごい光が光った。私は、とっさに目を細めてその光を見た。そこには、京介、天馬、神童先輩、霧野先輩が包まれていた。そして、2年生陣が上に飛び上がり、すごいパワーでボールを下にけり、3年生陣が横から蹴りゴールっ!皆が、その技に見入っていた。私も、目を見開いて思わずつぶやいた。

「すごい・・・」

その声が聞こえたらしい雪村君が

「楓!いつの間に来てたんだ!?」

と叫ぶ。その声につられて、皆が一斉にこっちを振り向いた。そして、私の名前を皆がそれぞれに叫ぶ。私は、それが恥ずかしくて思わず顔をそむける。

 

 

その声も収まったころ、皆が私を中心に大きな円を描いて座った。私は京介と神童先輩の隣だった。最初に話し始めたのは、天馬だった。

「まずは、ちゃんと言えてなかったから言うけど、楓!おかえりなさいっ!」

「「「「おかえりっ!!!」」」」

「ふふっ、ありがとうっ」

「それでね、早速だけどさっきの技・・・みてたでしょ?」

「うん。凄かったわね」

「ありがとう!でもね、あれ、完成じゃないんだよ」

「何で?すごい威力だったし、技の威力は強いのに、1人1人の負担は少なくていい技よ?」

そこで、神童先輩が口を開いた。

「それをもっといい技にするんだ。楓、お前の力もプラスしてな」

「私の・・・力?」

「あぁ。さっき、天馬たちがボールを下に蹴っただろ?あれを真下で楓が受けて、楓が蹴ったボールを俺たちが蹴るんだ。これで完成だ」

「そうなんですか・・・すごい技ですね。私も、早く怪我を治します」

「後もう1つ・・・この技、名前が決まっていないんだ」

「名前・・・ですか?」

「あぁ。何か、いい考えとかないか?」

「ん~・・・名前名前・・・3段階・・・光・・・ちょ、ちょっと狩屋並みにださいですが・・・」

そこで口をはさんだ狩屋。

「オレに失礼だろ!」

しかし、私は無視し続けて話す。

「スリーステップスパーク・・・なんてどうでしょうか・・・/////」

「おぉ!それいいんじゃないか?」

「京介・・・」

「あぁ。それに決定だ!」

「えっ!?」

・・・ということで、あの素晴らしき技の名前は『スリーステップスパーク』になりました。

 

 

そして、私は早くサッカーがしたくなりました♪

あぁっ、早く治んないかしら・・・

 




あぁ・・・ネーミングセンスがほしい・・・

自分で書いていて、吹き出しました『スリーステップスパーク』ww
そのまんまじゃないかよww

よし、次の必殺技は『流星ボーイ』か『本気ボンバー』にでも・・・ww



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憂鬱と優越

よく晴れた日曜日・・・

私たちは、練習合宿をいったん中止して、雷門中学校に戻ってきました。・・・そう、地獄の中間テストである。教科は、中間だから国語、数学、理科、社会、英語の5教科。しかし、5教科だけでも合宿中だったメンバーたちには辛い・・・もちろん、雷門中以外の帝国などの学校も、今週の木曜日から2日間にわたってテスト開始だから、自分たちの故郷へと帰っている。

 

 

そんなテスト期間中にもかかわらず、くつろいでいるメンバーが数人・・・

 

 

「ね~、サッカーしようよ?」

「楓、今は一応テスト期間中だが・・・」

「いいじゃない、京介。一応・・・でしょ?」

そう、1人目は楓。そして、2人目は剣城君。この2人は、2年生の勉強がほとんど頭の中に入りきっているため、くつろいで、挙句の果てにはサッカーをしよう・・・などといっている。

さらに、他には・・・

「なぁ、神童。今日はアイスでも食べに行くか~?」

「霧野・・・俺たちだけで行くのは・・・速水はどうだ?」

「俺は、浜野君を教えなきゃいけませんから・・・」

「ってことでーす!」

3年生陣は、神童先輩、霧野先輩、速水先輩の3人が、もう完璧といっていいほどの学力を備えている。

 

 

一方、勉強しても危うい他のメンバーたちはというと・・・

 

 

「あ~っ!もう嫌だっ!」

「まぁまぁ、未雲ちゃん。がんばろうよ?」

私は、緑君に愚痴をもらす。それがいつもは嬉しいのだが、今回はちょっと違う。だって・・・

「緑君・・・でも、緑君もどっちかって言うと余裕な方でしょ?」

そう、緑君も余裕な方なのだ。

「楓ちゃんと剣城君ほどではないし・・・」

「でも余裕なんでしょ?」

「・・・まぁ・・・で、でも、天馬もじゃないの?」

「俺は、微妙なんだよね・・・葵の方が頭いいしね~」

「天馬よりは頭いいって感じかな。・・・なーんてねっ」

「・・・でも、そんなこと言ったって、頭良くならないんだよね・・・」

「何、ネガティブになってんだよ」

「狩屋!」

「俺も一応いるけど・・・」

「俺らも・・・」

「倉間先輩!錦先輩!一乃先輩!青山先輩!」

「おっ!がんばっとるきに」

「ありがとうございますー」

「でも、俺らもあぶねぇんだよな~」

「うん」

「あぁ、そうだな」

「先輩たちも?やっぱりそうですよね」

「でもさ、俺ら少し有利なんじゃね?」

「浜野・・・きた・・・」

「だってさ~・・・今回の中間テスト、去年のホーリーロードで雷門はどこと闘ったか、とかちょっと普通じゃない問題が出るらしいし~。ちゅーか、今年度の入試でも出たらしいし~」

「まじっ!?」

「本当ですかっ!?」

嫌がられた浜野先輩が、一気に皆に迎え入れられた。私は、その光景に思わず顔をしかめる。まぁ、浜野先輩本人は気にしていないみたいだけど。

その後も、部室ではこんな話が続いていたのでした。

 

 

そして、結局皆勉強ができずに終わったのでした。

 

 

その帰り道・・・

 

 

「あ~っ!もう・・・全然できなかったぁ・・・」

「未雲ちゃん・・・」

「ねぇ・・・この後どっか行きたいな~・・・って、無理だよね~」

「じゃ、僕の家おいでよ・・・」

「へっ・・・!?そ、それって・・・」

「あ・・・どっか行きたいって未雲ちゃんいったから・・・」

「そ、そうだよね・・・ごめっ・・・!」

私は、唇に柔らかいものが当たるのがわかった。―――――緑君の唇だった。

「んっ・・・!むぅ・・・っ!」

「・・・っぱっ!」

「りょ、緑君・・・」

「未雲ちゃん・・・いや・・・だったかな?ほら・・・もう僕たち、付き合って2カ月になるわけだし・・・もうそろそろ・・・って思って・・・」

「緑君・・・ありがとう・・・うん・・・嬉しかったよ・・・/////」

「よかった・・・/////」

 

 

今日は、疲れたけど、とっても思い出に残る日にもなりました♪

 

 



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練習の後のお楽しみ

「ほらぁ!京介ぇ・・・腕、いや、脚が落ちたわね」

「なんだとっ!?・・・じゃなくて、楓!今はテスト期間中だぞ!?それに、いくら怪我が治ったからって・・・まだ無理しちゃいけねえんだぞ!?」

「ふふっ。大丈夫よっ!だって、サッカーやらなきゃ自分じゃないみたいなんだものっ!それっ、パスよっ!」

「うわっ!?」

 

 

俺は、今雷門中のグラウンドで、楓と中間テスト期間なのにもかかわらずサッカーをしている。楓は、あの大怪我が治りきり、体を動かしたくて仕方がなかったらしい。・・・しかし、まだ完ぺきに治りきったわけではないから、俺は心配でならない。でも、きれいで細くて長い人差し指を立てて、とてつもなくきれいにウインクしながら

「お願いよっ?」

って言ってきたら、反対する気が一気に失せて・・・気がついたときには、一緒にサッカーをやってしまっていた。本当は止めなきゃいけないのは分かっている。しかし、久しぶりにみた楓の生き生きしている顔を見ると、止められない。そして、またサッカーをし始めてしまう。それの繰り返しで、もう2時間ほど経ってしまっていた。

 

 

もうすぐサッカーをし始めて、3時間たつころだった。

ふと空を見上げると、もう空は真っ暗になりかけていた。けっこう明るく感じていたのは、明るすぎるくらいの照明灯が、グラウンドを照らしていたからだった。そして時計を見ると、もうすぐ7時半になろうとしていた。俺は、楓を呼び止めた。

「おい、もう7時半になるぞ?」

「えっ!?もうそんなに経つのかしら?じゃあ、もうやめようかしら・・・」

「あぁ。っていうか、3時間ほど前からやめとかなくちゃいけねえんだが・・・」

「いいのよ、楽しかったんだから」

そういう楓の顔は、本当に楽しかったらしく、満面の笑顔だった。その笑顔は、この暗闇さえもぱっと明るくしてしまいそうなくらい輝くものだった。

「・・・ならよかった。じゃあ、帰るか」

そういった途端、楓は猛反対し始めた。最近・・・というか、フィフスがなくなってから、楓は性格が丸くなった。もちろん、大人っぽくて知識も豊富・・・などという点は変わっていない。しかし、もっと・・・明るくなったと思う。まぁ、それは置いておいて、楓が反対し始めるのはとても珍しいことだった。

「いやよ・・・その・・・まだ帰りたくない・・・その・・・あの・・・えっと・・・その・・・だから・・・あれよ・・・」

「なんだよ・・・怪我のことで、まだお母さんと対立中か?」

「うぅん・・・それもあるっちゃあ、あるけどぉ・・・その・・・」

その時、俺のお腹がぐぅぅぅ・・・となった。最初は、俺は恥ずかしくなって、顔を真っ赤にしたが、楓はそれを待っていたかのようにこっちを見つめていた。

「・・・もしかして・・・腹、減ったのか?」

「//////」

楓は、その質問に答えず、顔をさっきの俺よりも、ずっと真っ赤にした。俺はというと、やっと納得して、俺より少し背の低い楓を見つめる。そして、吹き出した。

「ひ、ひどいわっ!」

「だって・・・ぶっ!腹減ったんなら、はっきり言えばいいのに・・・ぶっ!」

「そんな事、言えるわけがないわよ・・・一緒に食べに行きたいなんて・・・」

「・・・ったく、昔っから変なところでためるよな~。いいぜ、一緒にどっかいくか?」

「本当?あのね、ファミレス・・・行ってみたいの・・・」

「ファミレス・・・!?なんでだよ?」

「い、行ったことが・・・ないのよっ!お母さんったら、高級レストランとかしか、連れてってくれないのよ・・・」

「そっか・・・お前の家、そういう家だったな・・・じゃ、行くか、ファミレス」

「本当!?やったっ!」

そういう楓の顔は、本当に子供みたいだった。

――――複雑な生い立ちで、昔から本当の自分を出すことができない場所にいたであろう少女。そんな少女が、ようやく本当の自分を出すことができるようになったのだ・・・と、心の底から思った。

 

 

そして、ファミレス

 

 

「へぇ・・・ここが・・・ファミレス・・・すっごい・・・その・・・ね?」

「・・・あぁ、いいたいことは分かった。・・・じゃあ、何頼むんだ?」

「私は・・・この『ブルーベリーチーズケーキ』かしら?」

「じゃ、俺は『ショートケーキ』」

「イチゴ・・・好きだったわね」

「///////・・・わ、悪いか?」

「いいえ、全然。むしろ、いいことよ。自分の気持ちを出せているんだもの」

「そうか・・・ありがとう。じゃあ、頼むぞ」

「えぇ」

そして、すぐに頼んだ2人分のケーキは、早くきて、美味しく食べたのでした。

 

 

「はぁ・・・意外とおいしいわね」

「俺たちも、昔は一緒に来てたな・・・兄さんとか・・・」

俺がもらしてしまった声を聞かなかったかのように、でも楓は話を続けた。

「ねぇ、また来ようね?」

「あぁ」

「約束よ?」

「あぁ、約束だ」

 

 

俺たちは、幼かったころのようにそれぞれの最高の笑顔で、小指を絡めて『指きり』をした。

 

 

「さぁ、中間テストも頑張れよ?」

「・・・京介もよ?」

「はいはい・・・ははっ」

「ふふっ」

 

 

 




指きりって・・・w

こいつら、一応中2ですが・・・wまぁ、可愛いから私がさせたかっただけですwwうん、かわいい~❤


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たわいのない日常

私たちは、勉強の合間に、皆がまだ1年生だったころのアルバムを見ていた。

その当時、私はまだ雷門中に来ていなかったから、すごく興味深々だった。それは、私と同時期に転校してきた、緑君も同じようだった。

 

 

「わぁ・・・可愛いっ!皆、今より幼い感じだね~」

「ん・・・?剣城の学ラン・・・今と違うよね・・・?」

「あ、ホント!昭和のヤンキー?今の方がいいよね~」

「そうよね。私もそう思うわ。あら、京介の後ろにいるのって・・・天馬?」

「あっ!俺だ~!うわ~!小さい気がする~!」

「ホントっ。天馬って幼い感じだよね。あ、こっちのページに移ってるのって、楓じゃない?」

「えっ!?どこ?葵~?」

「ほらほら、ここ、ここ」

「ん・・・?あッ!これっ!?髪長かったんだ~!」

「本当だぁ!」

「ふふっ。まぁ、2人は知らないわよね」

「楓、本気になること滅多になかったけどね、本気になったらポニーテールにしてたんだよ。まぁ、2回くらいしか見たことなかったけどね~」

「そうなんだ~!私も見てみたかったな~・・・あっ、これは葵っ!?」

「えぇ。今は後ろで少しくくっているけど、昔はショートでくくってもなかったわね」

「そうだったね。あ~・・・ホーリーロードの頃が懐かしいな~」

「「ホーリーロード?なに、それ?」」

私と緑君は、その聞き覚えのない言葉に頭を傾けた。その言葉をさえぎるように、楓が話が話し始める。

「さてさて、皆さんは、テスト勉強、大丈夫なのかしら?」

「「「「「あ・・・」」」」」

 

 

そして、私たちは再びテスト勉強を始めたのでした。

 

 

「ん~・・・ここ、何だろ~?中1の復習なのに分からない私って・・・バカ?」

「いや、そんなことないよ。ここはね~・・・『-1、-4、-9、-16、-25・・・と並んでいる数で、m(番目)の数。』か・・・多分・・・わかんないかも・・・」

「緑君もぉ?じゃあ、葵や天馬君や信助君は?」

私は、この難問(?)を、一緒にいた残りの3人に投げかける。しかし、3人とも答えは分からなかった。

「えぇ・・・なんなんだろ~?」

5人そろって頭を抱えているところに、楓が忘れ物を取りに帰って来てくれた。

「あっ、楓~!この問題、分かる~?」

「どの問題?・・・あぁ、これね。答えは『-mの2乗』よ。意味がわかる?」

「「「「「・・・いえ」」」」」

「えっと・・・つまり、カッコを付けていない-(マイナス)は、数だけに指数をかけるでしょ?」

「「「「「はい」」」」」

「だから、-はそのまま。そして・・・例えば3番目の数である『-9』を例にしてみると、3番目の数だから3で、全てに2乗を付けるの。すると、3の2乗になって、その答えは3×3で9になる。ここまではOKかしら?」

「はいっ!」

そう元気よく返事したのは、緑君だけだったが、楓は気が付いていなかったらしく、そのまま続けた。

「そして最後に-を付けると・・・?」

「あっ!そういうことかぁ!」

「分かったかしら?もちろん、他の数でも同じことよ。だから、答えは・・・」

「『-mの2乗』・・・ってことだね!」

「そうよ!分かったかしら?」

「「「「・・・ん・・・」」」」

「あ・・・後は僕が教えておくから・・・じゃあね、楓ちゃん。ありがとう!」

「いいえ、いいのよ。じゃあね」

そういうと、楓は華やかに去って行った。

 

 

その後、たった1問の問題だけで2時間もかかったのでした。

そして、皆で緑君にそれぞれお礼をしました。

 

 

疲れたけど、楽しかった勉強会でした♪

 

 

 




小説内で出てきた問題は、私の通う中学校で中1で出てきた問題ですww


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テストが終わって・・・喜びV2!!

雷門中学校では、昨日と今日で、中間テストが行われています。

その為、すごく静かなのです。

 

 

しかし、テストが終わった瞬間、一気に騒がしくなりました。

 

 

そのことを、私はもちろん他の人も悟って(悟るほどの事でもないけど)、今は、そんな話をしています。

「皆、騒ぎ始めたね」

「うん。あ~・・・でも・・・テストの点がぁ・・・」

「俺は、結構いいと思う♪」

「狩屋君はいいな~。私も、それくらいあればいいのにな~」

「紫音ちゃん、頭いいじゃん?」

「でも、葵ちゃんにはかなわないよ~?」

「またまたぁ~っ!紫音ちゃんの方が絶対頭いいよ~っ!」

盛り上がりかかったところに、3年生陣がやってきた。まぁ、2年生と同じく頭のいい試験勉強もしていなかった3人(2年と合わせて計5人)は来ていなかったけど。

「どうだった?テスト」

「もう、最悪ですよ~・・・」

「輝君、落ち込まないで?」

「未雲ちゃん、ありがとう」

「いえいえ・・・あ、でも、緑君はよかったみたいですよ?」

「そうなのか?」

「いえ・・・それほどでも・・・」

「でも、この前の課題、楓の説明理解できたみたいだしぃ~・・・」

「なんなんだ?その・・・課題ってやつはよ」

「えっとですね・・・『-1、-4、-9、-16、-25・・・と並んでいる数で、m(番目)の数。』・・・って問題です」

「うわぁ・・・解くのも嫌になるな」

「水鳥ちゃん、私たち、もう3年だよ?」

「わ、分かってるよっ!さ、そんじゃあ、久々の部活、やるかっ!」

「そうですねっ!」

「はいっ!・・・あ、でも、あの5人がいませんよ?」

「速水は、トイレだって」

「そうだったんだ・・・てっきり、家に帰ったかと・・・」

「そんなことしませんよ」

「速水ぃ~!」

「わっ!は、浜野君っ!?ちょっとやめて下さいよ」

「わりぃわりぃ・・・で、やっぱあの4人はどっかいったんだろうな」

「ですね・・・」

あの4人とは、楓、剣城君、神童先輩、霧野先輩の4人である。あの4人の頭の良さは、もはや超次元なの。試験週間中は遊び歩くし、サッカーをしていたといううわさもある(←本当だったが)。そして、何より謎に包まれているのである。

 

 

「まぁ、部活、始めましょうかっ!」

私のそのふっきれた声によって、皆が練習を始めた。

 

 

「波乗りピエロっ!ほっ、ほらよっ!」

「ゼロヨンっ!」

「はぁ!?ちゅーか、速水、強くなってね?」

「僕だって、少しは努力しているんですよ」

「速水先輩、すごいですっ!」

「天馬君・・・じゃあ、キャプテンはどうなんですかぁ?」

「お、俺ですか!?俺だって・・・イナズマスパークっ!」

天馬君がそう叫んだ瞬間、天馬君の周りをまばゆい光が包み、次にボールを見たのはゴールの中だった。

「「「「うぉぉぉぉ!!!」」」」

「天馬ぁ~!やったねっ!練習してたんでしょ?」

「葵、知ってたの?」

「あったりまえじゃんっ!それよりッ!本当にすごいっ!」

「お前、いつの間に・・・」

「へへっ、練習のかいがありました」

練習中に、天馬君が新たな必殺技『イナズマスパーク』を完成させた。上にあげたボールの回転が速いままの時に、四方から蹴りを入れて威力を増強させる。そして、威力が最高まで高まった瞬間、下に蹴ってゴールっ!・・・という順番だった。この威力なら、世界の強豪たちも倒せるかもしれない。私たちは、それぞれ顔を見合わせて力ずよくうなずいた。

 

 

HRIまで、あと4カ月。

 

 

 



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理解できない2人・・・

「・・・豪炎寺コーチ、ちょっといいですか」

「・・・いつかは来ると思っていたから、大丈夫だ」

 

 

私は、楓と豪炎寺コーチが何やら約束を敷いているところを見てしまった。本当は、見なかったことにしようと思ったけど、やっぱり好奇心には勝てなかった。

「ちょっとだけ・・・いいよね?」

そして、私は2人の後を追った。

 

 

2人は、サッカーグラウンドのある河川敷に来てとまった。そして、河原に腰を下ろす。そんな2人をしばらく沈黙を包んだ。―――あの2人は、どういう関係?―――部員とコーチだけの関係じゃないの?いろんな思いが私の心の中で渦巻く中、重い沈黙を豪炎寺コーチが破った。

「すまない・・・」

私は、なぜコーチが楓に謝っているかが理解できなかった。その理由は、きっと話の中に隠されているだろうと思ったから、黙って聞いていた。

 

 

「もう、怒ってはいませんし、謝るのはこちらの方です」

「だが、俺は許しがたいことをしてしまったんだ」

「たとえそれが、そうだったとしても、私は大丈夫です。豪炎寺さん」

「・・・ありがとう。楓のその優しさに、あの頃は何度も救われたな。昔の仲間のことも、より詳しく知れていたし、辛い日常の中での楽しみだった」

「聖て・・・っ!すいません・・・」

「いや、今だけなら構わない。あの頃のように『聖帝』でも・・・な」

楓の顔が一瞬動揺の色を見せた。私は私で、『聖帝』という言葉が何か理解できないでいたけど。

「聖帝・・・こう呼ぶのは、久しぶりですね」

「そうだな・・・この名前には、様々な思い出がある。まぁ、大半が辛いものだがな」

「・・・それは、私は否定できないです。私も確かにつらかったので。でも、京介や白竜やシュウ・・・様々なシードたちは、私とは違いました」

「あいつらには、一生謝り続ける覚悟だ。そして、一生許されるつもりもない」

「そう・・・ですか・・・そういえば、聖帝は、私たちと『雷門』で初めて会ったとき、私とは初対面として接しましたよね。あれは、もう1度やり直したかったからなのではありませんか?」

「・・・そうなのかもしれないな」

「『かもしれない』?」

「俺も、あのときは無意識だった。楓のことは、よく知っていたのに、なぜか知らないふりをしていた」

「じゃあ、また新しいスタートを切った・・・ってことですよ。だから、もう私は『聖帝』とは呼びません。『豪炎寺コーチ』」

「楓、ありがとう。そうだ、何か食べて帰るか。俺の行きつけのカレー店があるんだが」

「いいんですか?なら、お言葉に甘えて」

そういうと、2人は河原から腰を上げて、ご飯を食べに行った。ん~・・・やっぱり話の内容が理解できなかったけど、もう昔のことだって見たいだから、それでいいや!よしっ、私も家に帰ってご飯たーべよっ!

 

 

そして、私も1人で家へと帰った。

その帰り道、見覚えのある顔と会った。

「あれっ?海帆さん・・・?」

「未雲ちゃんっ!久しぶりね~!」

そう、真イナズマジャパン(通称イナズマジャパン(笑))のマネージャーの白井海帆さん。海帆さんは、中間テスト期間いっぱいでマネージャーをやめた。だから、もう会えないと思っていたから嬉しかった。

「わぁっ!久しぶりですっ!」

「本当っ!元気だったぁ?」

「はいっ!あのぉ・・・その子はぁ・・・」

「あぁ、この子?」

私は海帆さんの後ろにいた女の子を指差した。その子は見たところ、外国人のようだった。柔らかそうなベビーピンクの長い髪。髪の長さはお尻くらいまである超ロング。瞳は柔らかい金色の澄んだ色だった。

「この子はね、エリザベス・バチルナス。見た目は外国人だけど、ハーフなのよ。明日から、雷門中学校に転校するの。年は・・・中1だったかな?」

「へぇ・・・じゃ、ちかちゃんとおんなじですね」

「そうね。でも、未雲ちゃんも仲良くしてあげてね?この子、一応留学生だから。日本語は喋れるけど、分らないものもあると思うから」

「はいっ!じゃあ、宜しくね?エリザベスちゃん」

「はい!えっと・・・私のことは『ベス』って呼んでください。未雲さん」

「うん、じゃあ・・・ベスちゃんで」

「はいっ!」

その笑顔は、外国人特有の美しい笑顔だった。やっぱりベスちゃん、可愛いっ!しかし、海帆さんが衝撃発言をした。

 

 

「この子、住むところがないのよね・・・未雲ちゃん、どこかないかしら?」

「・・・えぇっ!?」

 

 

 



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転校生の少女

「今日から新しく仲間になる、エリザベス・バルチナスさんだ。宜しくな」

「エリザベス・バチルナスです。ベスって呼んでください。宜しくお願いします」

「「「「はぁい!」」」」

 

 

私はちか。今日から、私たち1年1組に留学生が来た。名前は、エリザベス・バチルナスちゃん。もう、とにかくかわいい子。こんな子は、サッカー部のマネージャーにするほかないでしょ!・・・ということで、私は秘かに計画を練っていた。

 

 

そして、チャンスが来た。

 

 

ベスちゃんが、1人で席にいのだ。私は、即座にベスちゃんの席へ行った。

「ベスちゃん!はじめまして」

「えっと・・・ごめんなさい・・・名前、覚えていなくて・・・」

「いいよっ!私は、黒谷ちか。サッカー部のマネージャーなんだ」

「サッカー!お兄ちゃんと一緒だっ!」

「お兄ちゃん?お兄さんがいるの?」

「うんっ!まぁ、ママが違うんだけどね。でも、お兄ちゃん、わたしにたいしてすっごくやさしいんだよ。それでね、すっごくサッカーが上手!」

「へぇ~。お兄さんのお名前は?」

「エドガー!エドガー・バチルナス。11年前のFFIで、我が母国・イギリスの代表として参戦した『ナイツオブクィーン』のキャプテンだったんだよ!」

『ナイツオブクィーン』――――その名前は、聞いたことがある。

 

 

―――2週間前―――

 

 

「ねぇ、ちかは『ナイツオブクィーン』って知ってる?」

ある日の帰り道、一緒に帰っていた純太くんが質問してきた。

「『ナイツオブクィーン』?なに、それ?」

「11年前のFFIで、イギリス代表として参戦したチームだよ。俺、そのチームのキャプテンのエドガーが好きでさぁ~」

「ふ~ん・・・」

私は、早く帰って蘭丸くんと出かける予定だったから、ずっと純太くんの話を聞き流していた。

まさか、2週間後にそのエドガーの妹が来るなんて、予想もしていなかったから。

 

 

―――現在―――

 

 

(あぁ、純太くんが好きな選手だな・・・え、えぇ~!?)

「!!!!・・・」

「ちか・・・ちゃん?」

「・・・へっ!?」

「だ、大丈夫?」

「うん、大丈夫」

しかし、私の心の中は大丈夫じゃなかった。そんなすごい人の妹だったんだ・・・私の気持ちはもう限界を超えようとしていたが、何とか抑えた。

「ね、ねぇ・・・サッカー部のマネージャー・・・やる気はない?」

「ん~・・・ごめんなさい・・・私、ちょっと用事があって・・・転校してきたはいいけど、半年ほど学校を休むの。だから・・・」

「そっかぁ・・・じゃ、残念だね・・・そういえば、ベスちゃん、どこに住んでるの?」

「えっとね~・・・『木枯らし壮』って言うアパート」

「木枯らし壮!?それって、キャプテンの住んでいるアパートだよっ!」

「そうなんだっ!あ、もしかして松風さん?昨日あいさつしに行ったときに、管理人さんの部屋にいた人・・・?」

「多分そうだよ!じゃ、木枯らし壮に行けば会えるんだねっ!」

「そうかな。あ、本当にごめんね?」

「ううん、全然!」

でも、正直、マネージャーが駄目だったのは悲しかった。でも、ベスちゃんと仲良くなれて本当に良かった!それに、ベスちゃんが休んでいる間、私たちもHRIで休むからあんまり関係ないしね。

 

 

そうだ、明後日からまた学校休学になるんだった。

 

 

 



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それぞれの思い

ベスちゃんが転校してきて2日後・・・

 

 

私たちは、HRIの予選が始まる3カ月後に控えて、学校を休学し、再び合宿所へと戻った。

しかし、ここからが悪夢の時間だった。予選から『真イナズマジャパン』として参加できるのは、選手は17人まで。だから、29人(楓も入れて)から17人を選抜するの。皆がドキドキしている。この選抜は、化身が使えるから、とか、HRで頑張ったからなどというものは通用しない。1人1人が実技のテストを受けるのだ。

 

 

「今日はテストだね、緑君」

「そうだね・・・はぁ・・・なんか、ドキドキするよ」

「でも・・・っ。それは、緑君だけじゃないみたいだよ?」

私のその言葉に、はっと顔をあげた緑君と一緒に周りを見回した。そこには、様々な人の思いがあった。

 

 

――楓と剣城――

 

 

「・・・」

「・・・」

「な、なぁ・・・何かしゃべんない?」

「そ、そうね・・・でも、緊張しているんでしょ?」

「まぁ、そうだな・・・」

京介は、少しひきつった顔で、私に返事をした。その顔を見た私は、笑ってしまった。

「私は、落ちてもマネージャーだし大丈夫なんだけれどね」

「だから、いつもの落ち着きがあるんだな」

「でもね、そんなに落ち着いているわけでもないわよ?やっぱり、緊張はしているもの」

「それはそうか」

京介は、やはりひきつった笑顔をこちらへ向けた。私は、少し哀しくなった。だって、いつもは自信に満ち溢れている京介が、こんな顔をしているのだ。私は、息を大きくすって、渇を入れた。

「そんな顔、しないでっ!私の、知っている京介は、もっと自信に満ち溢れていたわっ!大丈夫っ!あなたなら、絶対に代表入りできるわ!私が保証・・・っていっても、頼りないわね・・・でも、絶対に京介ならっ・・・!」

私がヒートアップしていることに気がついた京介が、私の口を無理やりふさいだ。そして、その雪のように白い肌を真っ赤に染めた。

「ありがとう・・・/////俺もがんばるから、楓も頑張れよ?」

「!!・・・えぇっ!」

そして、私たちは各自それぞれの練習に励んだ。

 

 

――ちかと霧野――

 

 

「蘭丸・・・くん?」

「・・・」

「蘭丸くぅん?」

「あ・・・ご、ごめん」

「別にいいけど・・・大丈夫??ドキドキしているの?」

「う、うん・・・」

そういうと、蘭丸くんはまた俯いた。私は、頭を悩ませた結果、葵さんに教えてもらったあることを実践見てみた。

「うわっ!?」

ツンツンツンツン・・・私は、蘭丸くんの腰を人差し指でつついてみた。案の定、蘭丸くんには効いたらしい。

「わっ!?はははっ、や、やめっ、ははっ、ちかっ!?」

「・・・蘭丸くん、元気、ないんだもん。だから・・・ごめんなさい」

「そういうことだったのか・・・ありがとな、ちか」

「!!・・・う、うんっ!頑張ってねっ!」

私は、心の底からの笑顔で応援した。

 

 

そして、実技テストはあっという間に終わった。

 

 

――1時間後――

 

 

円堂監督から、選抜メンバーが発表された。

「選抜メンバーを、発表するっ!豪炎寺大地、降森純太、清原真男、雪村豹牙、若林浩一、貴志部大河、龍田緑、西園信助、雨宮太陽、霧野蘭丸、錦龍馬、雅野麗一、喜多一番、山吹楓、神童拓人、剣城京介、そして、キャプテン・松風天馬っ!以上17人だっ!尚、楓に関してはマネージャーでの参加も決まっている。そして、マネージャーの空野葵、瀬戸水鳥、山菜茜、金田未雲、黒谷ちか、川口紫音、桃瀬和葉だ!これが、本戦に参加する『真イナズマジャパン』のメンバーだっ!」

円堂監督の声に、喜ぶ者、落ち込むもの・・・様々な人がいた。何にせよ、このメンバーで戦うのだ。

 

 

世界への戦いの歯車が、回り始めた!!

 

 



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世界への挑戦・・・主には予選だが
世界へレッツゴー!!


「楓ぇ~!」

「うわっ!?み、未雲っ!?どうしたのっ!?」

「受かれて・・・よかったねぇ~っ!」

「あ、そういうことね」

 

 

私は、本戦参加メンバーが決まってから、ずっとこの調子。

自分でも可笑しいと思うけど、嬉しいから、皆にすっごい笑顔で『おめでとう』と伝えている。特に、楓と合格と緑君の合格は、とっても嬉しかった。だって、ずっと一緒にいられるから!

そのことをくわしく楓に伝えたら、楓は思わず見とれてしまうような笑顔で、私に言ってくれた。

「そんなの、私だって同じよ?」

 

 

そして、それから2日後・・・

 

 

「さて、アジア予選は第一回戦が対韓国だ!その為、明日から前々から準備してもらっていたように、韓国に行く!これが、世界への第一歩だ!気合を入れていくように!」

「「「「「「はいっ!!」」」」」」

今は、ミィーティングの途中。なんと、明日から韓国へ行くのです!そのことを、円堂監督が本格的に話している。もちろん、マネージャーである私たちも一緒だ。

一緒に行くのは、本戦参加メンバーの17人と、マネージャーの7人、顧問の音無先生、円堂監督、鬼道コーチ、豪炎寺コーチ、不動コーチ、風丸コーチ、吹雪コーチの計31人。その31人が、イナズマジェットで韓国へ行くのだ。

 

 

そして、当日・・・

今は、イナズマジェットの中・・・

 

 

「韓国かぁ~っ!私、海外行くの、初めてっ!」

「未雲、初めてなの?」

「うんっ!」

私は、3人席の一番右端に座っている。その隣には、今話している相手・楓が、その隣には剣城君が座っている。

「ねぇ、楓は初めてじゃないの?」

「えぇ。私は、母の計らいで、養子に引き取られてすぐにお兄さん関係で11年前のFFIでの本選や予選で日本代表と仲良かったチームの国に、留学していたのよ?」

「えぇっ!?」

「俺も初耳・・・」

剣城君も、驚いたようにぼそっとつぶやいた。

「剣城くんも!?だよね~、普通、そんなに留学とかしないよ~。ねぇ、どこに留学してたの?」

「えっと・・・最初がアルゼンチン、次がアメリカ、そしてイギリス、韓国、カタール、オーストラリア、ブラジル、それから・・・イタリアもあった!後は・・・忘れちゃいけないわね、コトアールは。まぁ、これくらいかしら?」

「これくらいって・・・9つもあるよっ!どんだけっ!?」

「でも、記憶に残っているのは、アルゼンチンのテレス兄さん、アメリカの・・・一兄(かずにぃ)、飛鳥さん、イギリスのエドガーさん、韓国のアフロディさん・・・今は分からないけど、去年は木戸川清修のサッカー部の監督だった人よ。あとは・・・やっぱりフィディオお兄ちゃんとロココ兄ちゃんね。あの2人は、思い出深いわ・・・」

「思い出・・・?どんな思い出があるの?」

「そうね・・・例えば・・・何が聞きたい?」

「はぁいっ!俺、一兄の話~!」

ふと後ろから声が聞こえた。ふりかえると、いつの間にか話に天馬君が参加していた。そして、大きな声で皆に聞こえるように言った。

「だって、秋姉(あきねぇ)と出会う前の一兄の話、聞きたいもん!」

その言葉に、監督、コーチ、先生陣が一斉にこちらへやってきた。

「そうか、一兄って一之瀬のことか!」

「そういえば、そんなこともあったな」

「一之瀬か・・・ということは、さっきの飛鳥さんは、土門のことだな」

「でもっ、私は一之瀬さんと秋さんが出会う前の話、聞きたいですっ!」

「僕も聞きたいな」

「俺も」

「俺もだ」

「じゃあ、お話しましょうか?他の方の話も後でしますけど・・・」

「あぁっ!頼むっ!」

 

 

そして、楓が懐かしむような顔でアメリカ時代の事を話し始めた。

 

 

 



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恋のキューピット

「一兄のところに、私が留学していたのは、今から7年前。私が、7歳だったころよ」

「そんな小さいころだったか?」

「はい。っていいますか、お兄さんがアメリカへの留学を勧めたんですよ?」

「そうだったか?」

「そうですよ。あれは、まだ一兄が秋さんと再会する前の話・・・」

 

 

――7年前――

 

 

「一兄~!飛鳥さんのとこ、行こぉ」

「いいよ、土門のとこ、行くかっ!」

「うんっ!」

私は、今、一之瀬一哉さんという人の家に、ホームステイ中。

一之瀬さんこと一兄は、4年前のFFIで優勝した日本代表『イナズマジャパン』のライバルで優勝候補だった『ユニコーン』に日本人ながら所属していた天才サッカープレイヤー。その為、『フィールドの魔術師』という異名も持つ。しかし、ある事情(教えてくれないけど)で手術をした。まぁ、それで元気になったけど、私がホームステイしに来たから、プロとしてはプレイしていない。

今日は、飛鳥さんこと土門飛鳥さんの家に遊びに行く日。飛鳥さんも、サッカーが上手だから、会える日が楽しみ。

「あぁ~っ、サッカー、サッカー♪」

「そんなに楓は、サッカーが好き?」

「うんっ!だって、サッカーって面白いし、かっこいいし、それから・・・」

「ははっ、もうわかってるよ。だって、俺もサッカー大好きだからねっ☆」

「はいっ!あっ!メグさんだっ!」

「土門もいるよ。やっと着いたね」

そうサッカーの事を話している間に、いつの間にか飛鳥さんの家に着いた。飛鳥さんには、彼女がいる。今、同棲中。名前は、マーガレット・グリーンさん。飛鳥さんや一兄と同い年の、かわいらしい健康的な女性。皆は、メグさんって呼んでる。

「一之瀬、楓!やっと来たか~」

「オォッ!Mr.Ichinose & Miss.Yamabuki!ヤットキマシタネ!」

「土門、遅くなってごめん」

「いや、いいよ。・・・楓、久しぶりだな~!」

「うんっ!飛鳥さん、サッカーしようっ!」

「そうだな!メグ、ごめんな。じゃ、一之瀬、行くかっ!」

「あぁ☆」

そして、私はまだうまく蹴ることのできないボールを、一生懸命目を輝かせて追った。その光景を、飛鳥さんと一兄が微笑んでみていたことは、私は知らない。

 

 

そして、しばらくボールをけっていた私は、息を切らしながら休憩に入った。

 

 

「やっぱ、サッカー面白ぉいっ!」

「だねっ☆楓、本当に楽しかったんだね」

「そうだな」

「うんっ!あ、そうそう、前、一兄のアルバムに乗っていたあの女の子、えぇっと・・・あ、あ、あ・・・?」

「秋のことか?」

「そうです、飛鳥さんっ!秋さんですっ!」

「秋がどうかしたの?」

「秋さんって、お兄さんのアルバムにも載っていたんですっ!それで、昨日、電話したら『木野なら、今はアパートの管理人をしているらしいぞ?まぁ、まだお母さんの手伝いくらいらしいがな』って言ってたんですっ!」

「秋、なかなか家庭的だな」

「そうだね」

そういった一兄の少しさみしそうな表情を、私は見逃さなかった。

「ねぇ、今度、電話してみようよ?一兄、声、聞きたいでしょ?」

「楓・・・でもなぁ・・・」

「いいんじゃないか?」

「イエス!!」

「土門、メグさん・・・」

「さぁ、なら電話電話~!」

そして、私はすぐに携帯を取り出して、前お兄さんに聞いた秋さんの電話番号に電話をした。

 

 

プルルルルルルルル・・・プルルルルルルルル・・・

 

 

「はい、木野ですが」

「あ、秋さんですかぁ?」

「はい、そうですが。えっと・・・どちら様かな?」

「私、鬼道有人の従妹の山吹楓っていいます」

「まぁ、鬼道君の?楓ちゃんが、私に何かお話でもあるの?」

「私じゃないんです!ちょっと待って下さいね・・・」

そういうと、私は素早く携帯を一兄に渡した。後ろで、飛鳥さんとメグさんがにやけているのが丸わかりだったけど。

「あ、秋?」

「・・・一之瀬・・・くん・・・?」

「あぁ、俺だよ」

「わぁ・・・久しぶりね。元気かな?楓ちゃんとは、何で?」

「ちょっと待ってよ、秋。えっと、元気だよ。それで・・・楓は今、うちにホームステイしているんだよ」

「そうだったの。へぇ~・・・」

それからしばらく、秋さんと一兄は話し続けた。電話を切った後の一兄の表情は、とても優しいものだったのをよく覚えている。

 

 

「・・・って、一兄と秋姉の出会いを作ったのって・・・楓だったのぉ!?」

「・・・そうなるわね。あの時が懐かしいわ・・・」

「じゃ、次はイタリアかコ、コ、コ・・・?」

「コトアール・・・かしら?」

「そう、それ!それを話してっ!」

「いいわよ。でも、あれは2つで1つ見たいな感じだったのよ」

そして、私はあの思い出を話し始めた。

 

 

 



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何気なかった日常だけど・・・

「私は、本当はコトアールには留学はしていなかったの。でも、ロココ兄ちゃんとは知り合いなの」

「何でだ?なんで、ロココと楓は知り合いなんだ?」

「フィディオお兄ちゃんのところに、ロココ兄ちゃんが来ていたんです」

「へぇ~。でも、それでも思い出深くないんじゃないの?」

「確かに吹雪コーチの言うこともわかるな」

「ふふっ、そうかもしれませんね。でも、私にとってはすごく思い出深いものなんです」

 

 

――6年前――

 

 

「もぉ・・・なんで、お兄ちゃんはこんな格好、させるのぉ?ぐずんっ・・・」

「楓、可愛いんだから泣かないでよ」

「でもっ・・・私には似合わなっ・・・わぁぁぁぁんっ」

私は、フィディオお兄ちゃんの前で、大きな声をあげて泣いていた。なぜ泣いていたかというと、お兄ちゃんが私に似合わない『ゴスロリ』の服を着せていたからだ。

今、私はサイドを編み込まれた黒と白を基調にした袖とが膨らんでいて、パニエのような裾のワンピース、薄いレースの付いた黒タイツに、こげ茶色のロングブーツをはいている。胸元とブーツの横には、大きな紅のバラがついている。しまいに、茶色や赤の混ざっている金髪を、左上で巻いた髪の毛をくくり、大きな黒白チェッカー柄のリボンを頭につけている。

「ぐずんっ・・・いやだぁ・・・私、ドレスが好きぃ・・・」

「でも、似合ってるよ?」

「お兄ちゃん、ひどいもんっ!私、もう知らないっ!」

「あっ、か、楓っ!」

私は、その服のまま外に出た。フィディオお兄ちゃんの家は、きれいな石畳の通りにあるところの集団住宅。日本で言う、アパートみたいな所。そこに一人暮らしをしている。まぁ、今は私との2人暮らしだけど。

そして、私はあの目立つ衣装のままどこかあてのないところに、走って行った。

 

 

しばらく走ったところで、私は足を止め、そしておぼつかない足で歩いた。

「ひどいもん・・・お兄ちゃんなんて・・・知らないっ・・・」

そうお兄ちゃんのことを愚痴りながら、歩いていたら、誰かとぶつかった。

 

 

「す、すいませんっ」

「いいや、いいよ。あれ、君、日本人?」

「うっ・・・は、い・・・ぐずん・・・」

「泣いているの?」

「そんなんじゃないっ!お兄ちゃんが悪いのっ!フィディオお兄ちゃんが・・・悪いの・・・多分・・・」

「フィディオ?君、フィディオって、フィディオ・アルデナかな?」

「うん・・・あなた・・・お兄ちゃんと・・・しり、あい・・・?」

「そうだよ。その前に、君のお名前は?」

「お名前って・・・私、8歳だもんっ!・・・まぁいいわ。私は、山吹楓」

「楓か・・・山吹・・・って、まさかあの財閥の山吹・・・じゃないよね」

「そう、だよ・・・山吹財閥の・・・山吹・・・」

「へぇ・・・じゃ、僕の名前だね。僕は、ロココ・ウルパ。ロココでいいよ。コトアール出身なんだよ。楓の身近に、さっかーがすきなひと、いるかな?」

「じゃ、ロココ兄ちゃん。いる・・・よ?」

「じゃあ、『リトルギガント』って知ってるか聞いてみて?」

「FFIの関係チーム?」

「!!・・・そう、だよ?なんで、君みたいな小さい子が、FFIを・・・?」

「私の従兄のお兄さんが、日本代表だったの」

「『イナズマジャパン』っ!?だれっ!?」

「きっ、鬼道、有人・・・さん・・・」

「鬼道君の!?すごいね、君!じゃ、サッカー好きかな?」

「うんっ!」

「じゃ、やる?あ・・・でも、その格好じゃ・・・」

そうロココ兄ちゃんに言われて気がついた。私は、今、とてつもない格好をしているのだと。

でも、そんなこと気にしなかった。だって、サッカーがしたかったから。

「気にしないで!サッカーやろっ!」

その時、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。それは、フィディオお兄ちゃんだった。私は、機嫌も直っていたため、一緒にサッカーをやろう、と大声で叫んだ。そして、お兄ちゃんは、ロココ兄ちゃんと会った瞬間、目を見開いた。

「ロココ・・・!?」

「あ・・・!やっぱり、フィディオだったんだね!」

「うんっ!久しぶりっ!楓と、仲良くなったんだね」

「そうだよ。さぁ、3人でサッカーやろうか!」

「そうだね。でも、楓、この格好だよ・・・?フィディオがさせたらしいね」

「/////・・・でも、ジャージ、持ってきたから大丈夫!さぁ、やろうっ!」

「やったぁっ!サッカー、サッカー♪」

「「ははっ」」

 

 

そして、私はイタリアにいた3か月を、このメンバーで過ごした。

あったことは、全て何げないことだったけど、すごく楽しかった。

 

 

「・・・だから、一番・・・か」

「はい。本当、楽しかった・・・」

「本当に、楽しかったんだね♪」

「えぇ。そして、今回の大会で、また会えるわ!本戦に進めれば、本戦があるのは、コトアールだもの」

「そうだったな。ということは、俺たちがコーチ、監督をしているんだから、あいつらも色々関連しているんじゃないのか?」

「そうかもしれないな」

話し終わったころ、イナズマジェットが韓国についた。

 

 

さぁ、いよいよ始まる・・・!!

 

 

 



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私たちの、韓国観光

「アニョハセヨ~!韓国、キター!」

「ねぇ、天馬っ!すっごいね、海外って!」

「そうだね、葵!だよね、信助、緑、未雲ちゃん!」

「「「うんっ!」」」

 

 

私たちは、長い時間をかけてやっと韓国に来ました!

来た初日は、自由行動!・・・ということで、私は緑君、天馬君、葵、信助君の5人で町中に出かけている。

そして、私たちは『ドレスアップ館』と書かれた館に入った。

 

 

中には、韓国の民族衣装みたいなものや、世界共通のドレスなど様々な衣装があった。皆で悩んだ結果、私は民族衣装、緑君も民族衣装、葵、天馬君はドレス&タキシードになった。そして信助君は、なんと袴!様々な国の衣装が、同じ場所に集まるという不思議なものになった。

「へへっ、なんか、変なカンジ・・・はずかしぃ・・・////」

「でも、可愛いよ?未雲ちゃん」

「緑君も、かっこいい・・・よ//////」

「ありがと。あ、天馬と葵ちゃんだ」

「あっ、2人とも超似合ってる!」

「未雲、緑君、ど、どうかなぁ・・・////」

「超可愛いっ!」

「天馬もね」

「うんうん!」

「ありがとう、信助!緑!2人とも似合ってるよ!」

「特に信助!かっこいいけど、可愛い!」

「ありがとうっ!」

「お~い、坊やたち、写真、とるよ~?」

私は、盛り上がり始めた男の子たちを、ふざけた口調でおさめて、こちらへとやってこさせた。

 

 

「ジャ、トリマスネ!ハイ、チーズ!」

 

 

カメラマンさんの、頑張って発した日本語によってカメラのシャッターが切られた。

カシャッ・・・!

 

 

「わぁっ!超キレー!」

「ホントっ!」

私たちは、1時間弱待って、写真をもらった。そこには、いつもの私たちの姿は無く、様々な色とりどりの衣装に身にまとった、見たこともない異色の組み合わせの写真だった。

「葵、超美人っ!」

「えー?未雲も可愛いけどなぁ・・・いつもの、赤いリボンの制服も似合ってるけどね?」

「葵も、制服も似合ってるよ?」

「・・・俺たちにも、なんかちょうだいよ?」

「・・・ごめん、天馬。でも、天馬も似合ってるよっ!?」

「それを待ってました!ありがとう、葵!」

「僕たちは?」

「うんうん」

「緑君も信助君も、似合ってるよ?」

「それそれ!」

「ありがとうっ!」

 

 

写真館を出た後、私たちは食事を撮るため、レストランに入った。

しかし、食べたものはなぜか「ラーメン」だった。

 

 

そして、皆が泊まっている宿に帰ったのでした。

 

 

楽しい楽しい韓国初日、元気なメイン2年生組パート1でした♪

 

 

 



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プレゼント♪

「楓、どうしたの?その、髪留め!」

「あ・・・これね」

 

 

私は、宿に帰って来て真っ先に未雲に朝はつけてなかった『髪留め』について突っ込まれた。その髪留めは、小さくてきれいな紅の紅葉のついた繊細なものだった。

未雲が突っ込んだことにより、私の周りにたくさんの人がやってきた。その中で、来ない人が数人いた。今日、一緒に行動していた神童先輩、霧野先輩、ちかちゃん、そして京介だ。私の髪留めの理由を知る神童先輩、霧野先輩、ちかちゃんは、京介をニヤニヤしながら見つめている。そして京介は、顔を真っ赤にして、先輩たちのいないこちらを見ている。

 

 

これは、今日の昼、観光中の出来事だった。

 

 

「やっと来た!in 韓国!」

「ったく、ちかはテンション高いな」

「だって、初めての海外だもんっ!それに、ここにいる人たちは、私と蘭丸君が付き合ってるって知ってる人たちだもんっ♪」

「・・・そうだったな。じゃ、盛り上がるぞ!」

私と京介と神童先輩と霧野先輩とちかちゃんで、私たちは韓国観光をすることになった。

しかし、私は韓国にも留学経験ありなため、あまり盛り上がらない。そんな私の気持ちになって、気がつく人はいるはずがない。でも、それに気が付いている人がいたらしい。

―――京介だ。ずっと私の顔を覗き込んでいる。

「・・・京介、私の顔に何かついているの?」

「別に。ただ、何かあったんだろうなと思ったんだ。楽しくないとかか?」

私は驚きを隠しつつ、京介にだけは、小声で本音をぶちまけた。

「だって、韓国は一番長い4カ月も留学していたんだもの。しょうがないわ」

「でも、このメンバーで来たのは、初めてだろ?だったら、楽しいんじゃねぇのか?」

「!!」

京介の口から出た、その言葉に私は考えさせられ、そして最高の笑顔だと思う顔で

「そうね」

と返した。その会話が終わったころ、少し前を歩いていた3人が、私たちを呼んだ。どうやら、ちかちゃんが可愛いアクセサリーショップを見つけたから、入りたいらしい。私たちもOKを出して、5人でそのアクセサリーショップへと入った。

 

 

ショップの中は、結構質素だった。しかし、全てが手作りの品らしく、1つ1つが繊細だった。それはまるで、1つ1つの形の違う雪の結晶のよう・・・。その中に、私の目を引くものがあった。決して派手とは言えないそのアクセサリーは、きれいな赤い紅葉のついた髪留めだった。

でも、私は特別ほしかったわけでもなかったから、そのままスルーしようとした。

その時だった。京介が、私の肩を掴んで、こっちに振り向かせたのだった。私は驚いて、目を見開いた。しかし、京介は何かを私の頭に当てているらしく、こっちを見ていない。

「な、何しているの?」

「・・・」

「ちょっと、京介!?」

「よし、これだな」

そして、京介は私の頭から何かをはずした。―――それは、私の目に留まっていた紅葉の髪留めだった。私が驚いている間にも、京介はその髪留めをレジに持って行き、軽いラッピングを済ませてもらっていた。そして数分後、再び私のところへ戻って来て、私にそのラッピングされた包みを渡した。

「はい、これ」

「えっ・・・?」

「これ、気になってたんだろ?」

「そ、そうだけど・・・」

「実は俺も、楓に似合うと思ってた。だから、俺からのプレゼントってことで」

「で、でも・・・悪いよ」

「いいんだ。俺があげたかったんだ」

戸惑っている私の手をとった京介は、その手に包みを握らせた。そして、

「絶対返すんじゃねぇぞ?」

とだけ言った。その光景を、ただ黙って見ていたらしい3人は、京介がそう言った後、冷やかしの口笛を吹いた。でも、私はすごくうれしかった。だから、すぐに包みから出して、髪につけた。その髪留めは、私の金髪に映えているように思った。

 

 

私は、そのことを思い出して、1人でくすっと笑った。

今日は、なんか、楽しい1日だったわ♪

 

 

 



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急展開

対韓国戦まで、あと1日となった今日。

イナズマジャパンのメンバーたちは、最終調整へと入っていた。昨日の観光の疲れが出ていないか、それ以前に、ここまで来る長旅の疲れが出ていないかなど、自分の体のことも気にしつつ、特訓にも励むメンバーたちの姿が、そこにはあった。

 

 

「皆、頑張ってるね」

「そうだね。だって、世界への第一歩だもん」

「でも、ほどほどにしておかないと、明日体調を崩しでもしたら、元も子もないわよ」

「確かに、楓ちゃんの言うことはうなずかるカモ・・・」

「そうですね、紫音さんの言うとおりです。葵さんや、未雲さんの『頑張ってほしい』という気持ちもありますけど、楓さんや紫音さんの『無理はしてほしくない』っていう気持ちも、分からなくもないし・・・難しいところですよね・・・」

「でも、ちかちゃん。皆、特訓するなって言う方が、難しいみたいだよ?」

「うん、そうみたい」

「だな」

「和葉ちゃん、茜さん、水鳥さん・・・確かにそうかもしれませんね」

私たちマネージャーも、様々な思いを抱え、明日への練習を眺めていた。

私は、そんな姿を見ながら、ふと、雷門中学校に転校してきた日のことを思い出していた。

 

 

―――全ての始まりは、あの転校初日だった。

 

 

不安と期待、半々の気持ちで転校してきた私は、後ろからかけられた声に正直ドキッとした。恐る恐る振り返ると、そこにいたのは藍色の髪の毛の女の子と、金髪っぽい茶髪(赤髪?)の女の子、葵髪の毛の男の子、茶色い巻き髪の毛の男の子、茶色い髪の毛で、水色のバンダナを付けている男の子、黒髪をお団子にしている女の子がいた。この6人が、空野葵、山吹楓、剣城京介、松風天馬、西園信助、黒谷ちかという名前だなんて、その時はまだ知らなかった。

その後、6人は私を職員室へと連れて行ってくれて、音無先生と会った。そして、楓と剣城君が、クラスメイトだと知った。

そして、ドキドキのあいさつ。私は、長い赤毛のツインテールを揺らしながら頭を下げて、決して堂々しているとは言えない小さな声で、「宜しくお願いします」と言った。みんながその後拍手をしてくれて、とっても恥ずかしかったっけ。

 

 

そして、休憩時間に楓に「サッカー部のマネージャーにならない?」って言われた。

私は最初、本当にサッカーなんて興味もなかった。むしろ、私たち家族を・・・いや、なんでもない、だから、平気で『サッカーなんて興味ない』って言ってしまった。今、そんな事を言っている人がいたら、私、怒っちゃうなぁ。それくらい、また、サッカーが大好きになった。

楓の話すことは、すごく楽しそうなことばかりだった。その話を聞いているうちに、私は、サッカーに少し興味を持ち直した。そして、サッカー部のマネージャーになることにした。

サッカー部の部員の人たちは、皆面白くて個性豊かな人達だった。私は、ますますサッカーに興味を持ち直せた。・・・でも、今思えば、あのときは『サッカー』に興味を持ったんじゃなくって、『雷門中学校サッカー部の部員』に興味を持ったのかな・・・?

 

 

そして、私はたくさんのことを知った。昔は知らなかったようなこと。それは、必殺技や、必殺タクティクス、そして化身。全てがサッカーのことだけど、覚えていてすごく楽しかった。皆が、やっているのを見ていても楽しかった。だって、皆がきらきらしていたから。

そして、緑君とも出会った。彼は、やがて、私の『大切な人』になった。そして今日までが、ずっと夢のような日々。こんな日々が、ずっと続けばいいのに・・・

 

 

そう願い続けて、早半年。

今は、もう10月の終わりにさしかかっていた。HRIアジア予選まであと1日、本戦まであと1カ月にさしかかっている。

本当に、この半年間、楽しかったな~♪

 

 

私が1人で思い出に浸っていると、ポケットに入っている携帯が鳴った。

ディスプレイを見ると、そこにはお父さんの名前があった。

 

 

「なぁに、お父さん?」

私がいつもの調子で出たのに、お父さんの声は沈んでいた。そして、次にお父さんの発した言葉によって、私は呆然とした。

 

 

「すまない、未雲。本当に急なんだが、今週の日曜日をもって、我々は日本から離れることとなった。移転先は・・・イギリスだ」

「・・・ウソ・・・なんで、そんな急に・・・」

「未雲・・・」

「私、嫌だからっ!」

思わず張り上げてしまった私の声に、マネージャーのみんなも、選手のみんなも、私に注目する。

それでも、私は自分を止められなかった。―――いやだ!絶対に、日本を離れたくないっ!皆と一緒にいて、日本代表の一員として、戦いたいっ・・・!

「未雲、よく聞いてくれ!」

「お父さん1人で・・・行ってよっ!私、嫌だっ!絶対に嫌だっ!・・・そんな、イギリスなんて・・・あそこには、私たちをおいて行った人たちがいるんだよっ!?お父さんは・・・お母さんや、最愛の息子に置いて行かれて、悲しくなかったのっ!?悲しかったんでしょっ!?だから・・・あんなに泣いてたんでしょっ!?毎日、毎日・・・っ!」

「っ!!」

「・・・私は、絶対にあの2人を許さないっ!だから、イギリスになっていかないっ!」

私はそういうと、無理矢理お父さんからの電話を切った。そして、皆の目線が私に向いていることに改めて気がつき、固まった。その皆の気持ちを代弁するかのように、楓が前に出て、私に問いかけた。

 

 

「未雲・・・イギリスって・・・?お母さんって・・・?最愛の息子って・・・?」

「・・・」

私はただ、黙りこくって、その場に立ち尽くした。

 

 

 




未雲の秘密とは・・・?


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母と兄の裏切り

「未雲・・・イギリスって・・・?お母さんって・・・?最愛の息子って・・・?」

「・・・」

 

 

そう楓に質問されたのは、今からほんの数分前。

その数分が、私にとってはとてつもなく長い時間に思えた。そして、自分の心落ち着かせて、大きく息を吸い、皆の方をしっかりと見据え、話し始めることにした。

「・・・私には、お父さんとお母さんと・・・お兄ちゃんがいるの。でも・・・今は、お父さんとの2人暮らし。なぜかというとね・・・お母さんとお兄ちゃんが、私たちを裏切って、イギリスへといったからよ」

「裏切った・・・?」

今度は葵が、か細い声で聞いてきた。私は、自分の怒りを抑えながら、答える。

「お兄ちゃんは・・・サッカーが・・・上手だった・・・だから、サッカー留学として、イギリスへ行く話が持ち上がっていた。もう、7年も前の話しだけどね・・・誰か、『フィールドの魔神』って聞いたことないかな?」

その声に反応したのは、以外にも剣城君だった。

「兄さんが気になっているといっていた。現役中校生でありながら、イギリスのサッカー界では名前を知らない人はいないほど有名なサッカープレイヤーだ・・・そうだな、金田?」

「うん・・・そう人の名前は・・・そ、空(そら)・・・金田(かねだ)・・・空(そら)・・・」

皆が、目を見開いた。

その反対に、私は俯いて目を細めた。その目が、どんどん小さくなっていき、とうとう私は目をつぶってしまった。再び開いた私の瞳は、いつものピンク色ではなく、髪の色と同じ、燃えるような赤色になっているはずだ。―――あのときもそうだったから。

皆が黙りこくる中、私は再び口を開いた。

「そう、その金田空(かねだそら)こそ、私のお兄ちゃん。このお兄ちゃんが、私たち家族の誇りだった。家では、家事も手伝うし、勉強もできる。スポーツもできて、妹である私の面倒もよく見てくれる。私は・・・私は、そんなお兄ちゃんが大好きだったっ!だから、私たちはお兄ちゃんの留学を、心の底から応援した」

「じゃあ、なんで裏切りもの・・・っ」

もう、どれが誰の声かなど、私にはわからなかった。

「お兄ちゃんが留学するにあたって、私たち家族も、本当はイギリスに行くはずだった。でもね、お父さんが、国会で大きな権力をゆだねる人になりつつあったから、ついていけなかった!そしたら、お母さんもお兄ちゃんも『しょうがないよ。大丈夫だよ』って言って、留学しないことになった。でもっ・・・!その、3カ月後、お母さんとお兄ちゃんは、突然姿を消した。家に唯一置いてあった置き手紙には、こう書いてあった」

皆が、私の方をじっと見据えている。

 

 

「『実は、未雲を産んですぐある人と出会って、私はその人と恋に落ちた。お父さんと空と未雲には「仕事」と偽って、お母さんはイギリスへ約2年間いたわ。そして、そこで娘を産みおとした。名前は言えない。そして、空のサッカー留学の話が持ち上がった時、その愛人の人の連れ子が、サッカー関係の仕事をしていることを思い出した。だから、この3ヶ月間秘かに計画を練っていたわ。そして、空には十分事情を理解してもらった。これからの人生を、私と空は、イギリスのその彼と彼の連れ子・・・今は、1人暮らしをしているみたいだけれど・・・そして・・・実娘と暮らしていきます。さようなら』・・・というものだった。私は怒りに震えたっ!今まで、ずっと隠し事をされていたのよっ!私は、お父さんは・・・っ!」

「でも、前に未雲が自分の過去について話してくれたじゃないっ!」

「あんなの全部うそっ!親がサッカーやってたとか、教師とか・・・だって、こんなこと知ったら、皆、私を軽蔑するでしょっ!?」

「み、う・・・」

 

 

私は、息を荒らげて、真っ赤な瞳で皆をにらみつけた。

そして、だんだんと自分の瞳がピンクに戻って行くのがわかった。それと同時に、自分が関係のない皆(なかま)達に八つ当たりをしてしまっていたことにも、気がついた。

 

 

完全にピンクに戻った瞳に、私は涙をためて皆から遠ざかった。

 

 

「皆っ・・・ごめっ・・・!!」

そう今更つぶやいても、誰も聞いてはいなかった。

今、皆がどんな表情をしているのかさえも分からなかった。

 

 

 



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幼馴染×幼馴染

「未雲・・・大丈夫かしら・・・」

私は、未雲が駆けて行った方を見て目ながらつぶやいた。

 

 

私、未雲のあんな顔を見たことがなかった。―――怒りに震え、透き通るようなピンク色の瞳は、私と同じ赤色・・・しかし、それは怒りと憎しみに満ちた鮮血のような赤色・・・そんな赤色に変化し、その瞳には大粒の涙を浮かべていた。

ふと、よこにいる仲間(みんな)の方を見た。よく考えれば、イナズマジャパンにメンバーたちの生い立ちについて、私はよく知らない。知っているのは、ごくわずか。その中にも、京介のように兄に取り返しのつかないような怪我をさせてしまい、日々負い目を感じている者、神童先輩のように大型財閥の跡取り息子として、日々やりたくもないような勉強に励む者、天馬のように幼いころから親戚に預けられ、親と一緒に過ごした時間の少ないもの、そして、私のように父は生まれたときから居ず、母も幼いころになくなり、兄妹とも引き離され、超巨大財閥の跡取りに引き取られた者・・・というような複雑な事情を抱えるものはたくさんいる。

 

 

そして、未雲もその1人だった―――。

 

 

そのことに気がついてやれず、未雲が必死に考えた嘘を信じ切ってしまっていた自分が恥ずかしい・・・気付いてやれなかった自分が情けない・・・ずっと、あの優しい瞳の奥に、あんな憎しみに満ちた感情が眠っていたなんて、知らなかった・・・

 

 

「ごめんなさいっ・・・」

「か、えで・・・」

そう隣にいた京介が呟いて、私の頬をなでた。京介の雪のように白い指先には、私が流したのであろう涙がついていた。そして、自分でも頬に触れる・・・涙が、流れていた。その涙は、かつて私が緑の前で流した、あの『冷たい涙』だった。その涙は最初、頬伝うように流れていたのに、いつの間にかボロボロ・・・とあふれてしまっていた。そんな私を気遣ってか、京介は皆にばれないように

「じゃ、俺たちはちょっと・・・散歩してきます」

とだけ言い残して、私を連れていってくれた。皆、この状況だから各自の思いは自分たちの思いと同じだと思ったのだろう。だから、だれも止めなかった。

 

 

「ひっく・・・ひっく・・・ひっく・・・」

「大丈夫か?」

「きょ、京介・・・あ、りが、と・・・ひっく・・・」

「あの状態じゃ、楓、ヤバかっただろ?」

「う、ん・・・た、ぶん・・・」

私は、何でも見透かされたような気持ちになって、なぜか恥ずかしくなった。そして、気がついた。―――私、京介の前だったら、自分に似合わないようなこと・・・思いっきりの笑顔で笑ったり、こういう風に泣きじゃくったり、すぐ怒っちゃったり・・・全部、出来るんだ・・・

「ねぇ・・・京介?」

私は、嗚咽のとまった声で、静かに話した。

「私、アンタの前でなら、何でもできる見たい。皆に見せているのは、自分でもかっこよく見せようとする笑顔―――それが偽りの笑顔だとは言えないけど・・・や、こんな風に自分らしくないくらい泣きじゃくったり、すぐにカチンってきて、怒っちゃったり・・・とにかく、何でもできるみたいなの。だから、お願い。もう少しだけ、一緒にいて・・・」

京介の白い肌が、少しだけ赤くなったように感じた。私の肩に回している手が、少し熱くなっているように感じた。私は、熱でもあるのかと心配になって、

「大丈夫?熱でもあるの?」

と聞いた。すると京介は、意表を突かれたように眼を見開いて、それからいつものような顔に戻った。そして、

「ちげぇよ。ったく、楓は自分のことになるとすっごい鈍くなるよな」

「へっ・・・?そうなの?」

「そういうところが、鈍いって言ってるんだ。まぁ、これもオレにしか見せられない一面なのか?」

「ん~・・・そうかもね」

「なら」

京介がまわしていた腕の力が、少し強くなった。

「もう少しと言わず、ずっと一緒にいてやるよ。お前が死ぬまでな」

言ったあとで、京介は顔を真っ赤にした。でも、私にはその理由が理解できない。やっぱり熱があるのかと心配になり、

「ほらっ!やっぱ、顔が赤いよっ?熱がないにしても、なんか疲れがたまってるんだよっ!明日、大切な試合なんだから、もう私は落ち着いたし、旅館に帰ろっ?」

というと、京介はまた驚いたように目を見開いた。

「え・・・あ・・・うん・・・」

そう返してくれた京介は、少し落ち込んだような顔をしていたけど、私は気にせず、京介の手を取って旅館へと走った。

 

 

「ったく、楓はいつまでたってもかわんねぇな」

「へっ?なんか言った?」

「・・・いや、何も言ってねぇよ」

「そうっ?ほら、急ごっ!」

 

 

私が、京介の言った言葉を理解するのは、もう数年後の話・・・

 

 

 




京介の言ったあの言葉・・・

「もう少しと言わず、ずっと一緒にいてやるよ。お前が死ぬまでな」

の意味・・・❤いやぁ~っ、言わせてみたかったんですよね~ww

鈍感な楓ちゃんと、ちょっと背伸びしたい京介君・・・この2人の気持ちは、果たして実るのでしょうか?

・・・実らせますっ!!絶対っ!!!



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深く、強く、確かな『絆』

「未雲ちゃん・・・」

僕は、ただ、未雲ちゃんの走って行った方を、無言で見つめていることしかできなかった。僕が未雲ちゃんに近付いた本当の理由・・・それは、彼女の父親の権力を、身近に置いておきたかったからだった。正直、最初は「あんな子、僕の好みじゃないし~、でも、お父さんの力になれるんなら~」という軽いノリで近づいた。僕の父親も、権力者だったから。

 

 

しかし、そんな考えはすぐになくなった。

 

 

「緑君?しんどいの?ファイトだよっ!」

「大丈夫っ!?緑君っ!」

「ぶぅ・・・いいじゃん、教えてくれたってぇ・・・緑君のケチぃ・・・」

「もうっ・・・ぜっ、た、い・・・いな、く・・・な、らない、で、よ・・・っ・・・りょく、くんっ!!」

 

 

未雲ちゃんの、僕に対する暖かい数々の言葉達・・・

その1つ1つに、暖かさがこもっている。その暖かさは、優しさ、愛しさ、友情、愛情・・・などの、美しきものばかりだと思っていた。

しかし、そんなことはなかった。どんなに優しいウサギにだって、オオカミのようになってしまうことだってあるのだろう。―――あの手、あの足、あの顔、あの髪、あの瞳。全てが、今までの未雲ちゃんではないようだった。特にショックを受けたのは、あの瞳だった。その瞳は、いつもの愛情のこもったピンクではなく、怒りや憎悪に満ちた紅だった。その赤みは、同じ赤色の楓や鬼道コーチのものとは違う赤。2人の赤は、優しさや冷静さ、そんな感情のこもった赤なんだ。

 

 

―――そういえば、今、僕は何をしているのだろう。

 

 

今、僕がしていることは、ただ、未雲ちゃんに求めることばかりだ。・・・自分が変わらなくちゃ、何も変わらないんだ。

 

 

「すいませんっ!僕っ、未雲ちゃんを探してきますっ!!」

僕は、皆にそうとだけ告げると、ただ一目散に走った。

いつもの彼女に戻ってほしい、そうなるように手伝ってあげたい・・・!

ただ、その一心で、僕は疲れることも忘れて走りまくった。この際、どうでもいいやと女子トイレの中まで確認した。それほど、今は早く、彼女に会いたかった。

 

 

「未雲っ・・・ちゃんっ・・・!はぁっ・・・はぁっ・・・」

「りょ、く・・・く、ん・・・」

僕が未雲ちゃんを見つけたのは、旅館の屋上だった。たくさん干してあるお客様用の浴衣の影に、未雲ちゃんは隠れていた。僕が見つけた彼女は、いつものピンク色の瞳だった。―――その瞳には、優しさなどの美しき感情どころか、憎しみなどの醜い感情までもなかったが。その大きな目に、大粒の涙をためて、こちらを見つめていた。いつもはきれいに巻いている大きなツインテールも、今はぐしゃぐしゃだった。

「未雲ちゃん・・・ここにいたんだ」

「・・・うん」

「大丈夫?下に降りよう?」

「いやっ!」

間をおいて反応していた未雲ちゃんが、素早く反応した。

「なんで?皆、もう大丈夫だよ?」

「私が・・・自分を許せないの・・・」

そういう未雲ちゃんの顔は、恐怖におびえているようだった。そんな彼女の手を、僕はなるべく優しくとって、そして抱きしめた。

「大丈夫。今は許せなくっても、そのうち、許せるようになるから・・・ね?だから、もう大丈夫。それどころか、下に降りてあげなかったら、皆が悲しむんだよ?」

「なんでっ・・・緑君はっ・・・そんなっ・・・優しいっ・・・言葉をっ・・・かけてくれるのっ!?」

「それは、僕をはじめとする皆が、君のことが好きだからだよ。未雲」

僕はその時初めて、彼女の事を呼び捨てにした。彼女―――未雲は、感情のない瞳を大きく見開いて、こっちを見つめている。そして、一度瞼を閉じて、そしてまた開いた。その瞳には、優しさ、愛しさ、友情、愛情などの美しいものが宿っていた。その瞳を、ゆっくりと細めて柔らかな微笑みを作った彼女は、僕に向かってこう言った。

「うん、ありがとう。緑―――/////」

言った後で顔を真っ赤に染める彼女が可愛くて、僕は強く、しかし弱く優しく未雲を再び抱きしめて、2人で手をつないで下へと降りた。

 

 

その光景を見ていたのは、僕と未雲と、そんな2人を照らす赤く優しい光を発する夕日だけだった。

 

 

さぁ、いよいよ明日は世界への第一歩―――

たとえ彼女が、このアジア予選しか日本代表として参加できないとしても、僕たちの思いは変わらない。それは、かつての日本代表がやり遂げたように、世界一になること―――!!

 

 

 



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START

「今日のスタメンを発表する。FWは剣城、太陽、そして楓の3トップだ。楓、今回は試合には出てもらう。前半はベンチだ。続いてMF。神童、天馬、貴志部の3人と、本来はFWだが人数の関係で、喜多の計4人だ。続いてDF。霧野、人数の関係で錦、雪村の3人だ。そしてGKは、信助、お前だ!・・・以上が、今回のスタメンだ!」

対韓国戦の今日、朝イチでスタメンが発表された。

世界への第一歩が今日、踏み出されるんだ。だから、皆が緊張している。もちろんそれは、マネージャーである私たちも同じことだ。

 

 

「緊張するなぁ・・・」

「天馬らしくないよっ?」

「でも葵ぃ~・・・」

私の隣では、葵と天馬君が、お互いに励まし合っていた。

この2人が付き合っていないなんて、本当か?・・・と思うくらいにお似合いのカップルに見えた。そんな2人の事を、これまたその葵と天馬君以上に、付き合っていないのがうそのような2人が話していた。―――剣城君と楓だ。

「あの2人は、お互い励まし合っているのね」

「そうだな」

「ごめん、京介。私、アンタを励ます余裕がないわ」

「そんなこと、俺だって同じだ。なんていったって、世界への第一歩だからな。俺らも頑張ろうぜ?あ、あと太陽もな」

「そうね」

そんな軽ーい会話の後で、2人は私と・・・緑(本当は、まだ呼びなれない////)のところへやってきた。やっぱりこの2人、美男美女だ。剣城くんも、鋭く男らしくでも、優しさがありそうなかっこいい顔。藍色の髪をポニーテールにしていて、オレンジ色の瞳は燃えるような美しい夕陽を連想させる。おまけに、性格までクールで冷静でかっこいい。

楓も楓で、とにかく美しすぎる整った顔立ちだし、スタイルも抜群!絹のような金髪や、燃えるようで冷静にも見える透き通った赤い瞳、夢のようなバラ色の頬や、チェリーのような優しいピンクの潤いのある唇、パールのような優しい輝きのある白い歯は、見るものすべてを虜にするような美しさ。

そんな2人にしばし見とれながら、相槌ちを打っていた。

 

 

「未雲、緊張するわね」

「うん、マネージャーの私でも緊張するのに、楓はどんくらい緊張するんだろ・・・」

「ふふっ、でもね、楽しみもあるわよ?」

私はその一言に少し驚いた。緊張じゃなくて、楽しみがあるなんて普通は考えないからだ。私は目を見開いて質問した。

「た、楽しみぃ!?何、それっ!?」

「未雲は驚きすぎだよ」

「でも・・・緑ぅ」

「それが楓なんだ」

私は少しふくれっ面になった。剣城君が、楓のことをこれほど知っているのは当たり前だと思うけど、やっぱり少し焼けたからだ。

 

 

その時、私の携帯が鳴った。

―――お父さんからの着信だった。

 

 

実はあれから、お父さんからの電話に出れないでいる。

お父さんは、旅館や監督・コーチたちの電話番号は知らないから、電話してくるとしたら私の携帯くらい。だから、人にはあんまり知られていない。・・・だけど、今は出るほかない。

私は3人から少し離れて、電話に出た。

 

 

「もしもし、未雲です」

「未雲・・・やっと出てくれたな。まぁ、拒否されても仕方ないか・・・理由は、楓さんから聞いた。」

「楓っ!?お父さん、楓と知り合いなの?」

私は、初耳のことに少し驚きながら、質問した。

「あぁ。楓さんの養母である桜子さんとは、私は幼馴染でな」

「そうだったの!知らなかったぁ~!それで、楓とも知り合い・・・と」

「そうだ。・・・本当にすまないな」

「・・・いいんだよ、お父さん。父子二人三脚で頑張ってきたんだから。私、イギリスに行くよ。お父さんと一緒に」

「未雲・・・ありがとう」

「ううん。でも、1つだけ。このアジア予選が終わるまで・・・あと1カ月待って」

「・・・わかった。じゃあ、先に行っておくな」

「わかった。じゃあ、ね」

「あぁ」

そして私はお父さんからの電話を切った。

私はこのアジア予選が終わってから、イナズマジャパンから抜けることにした。そして、お父さんと一緒にイギリスへ行く。そして、お母さんとお兄ちゃんを探す。

 

 

今日の代表選は、私のタイムリミットのスタートでもあるんだ。

あと1カ月、なるべくたくさんの思い出を作ろう。

 

 

 



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攻略方法は・・・!?

「さぁ、世界への第一歩となるアジア予選の第一戦が今、始まろうとしています!解説は私、角馬王将でお送りいたします!」

 

 

日本対韓国の試合が、もう間もなく始まろうとしていた。

選手たちは、アップをして体を慣らしている。マネージャーたちは、自分たちがじたばたしても意味がないとわかっていながら、興奮と緊張する気持ちを抑えきれずにいる。もちろんそれは、私も例外じゃないわけで・・・

試合まであと10分のところで、円堂監督が選手たちを呼んだ。

 

 

「これが第一歩だ。これから先に進むのに重要になってくる、大事な一戦だ。気合入れて行けっ!」

そうたった一言言っただけで、選手の皆の表情が和らいだ。そして、キャプテンの天馬君が掛け声をかけた。

「皆、行くぞっ!!」

「「「「「おぉっ―――!!!」」」」」

円陣を組んだ背中が、妙にまぶしかった。皆は、さっき楓が言ったように『緊張』より『楽しみ』の方が多いみたいだ。

 

 

ピピ―――っ!!!!

 

 

ホイッスルが鳴って、試合が開始された。

韓国代表『ファイアドラゴン』の監督は、かつて円堂監督たちと戦った『龍を操る者』の異名を持つ、チェ・チャンスウさん。それは、あの世界一のゲームメーカーとの呼び声高い、鬼道コーチに匹敵するほどの天才ゲームメーカー。コーチとして、これもかつてイナズマジャパンと戦った、10年前の『ファイアドラゴン』のメンバーだった南雲晴矢さんと涼野風介さんもいる。

 

 

まず初めに攻撃をしたのは、日本。

剣城くんが蹴ると見せかけて、楓にパス!・・・と見せかけて、太陽君へのパス!そのフェイントに、ファイアドラゴンのメンバーは、少し戸惑ったみたいだ。その太陽君の持っているボールが、速いパスによって天馬君にわたった。そして、天馬君が化身を出してアームドした。魔神ペガサスがアームドした姿は、純白に包まれる神々しいもの。そのままジャスティスウィングでシュート!と誰もが思った。しかし、天馬君が叫んだ。

「楓っ!シュートチェインだっ!」

「えぇっ!分かったわっ!」

そう、それは超強力なシュートチェインだったのだ。皆が唖然とする中、その強力なボールを、楓が鮮やかに受けた。―――パスが通ったのだ。そして、楓もアームドをした。楓の大天使ミカファールは、天使の羽のように美しい羽根のついたティアラのような物が頭に乗っていて、背中にも柔らかそうな美しい羽根がある。その他の鎧は、美しく気高いミカファールと楓を表しているようなデザインだ。色はおもに黄色とオレンジと白で出来ている。そのミカファールをアームドした楓が、化身シュートである『クールハニー』でゴールをした。あわてた様子で、相手のGKも化身を出したけれど、アームドは出来ないらしく、あっさりとゴールを決めた。

 

 

わぁぁぁぁぁっ!!!!!

 

 

スタジアムが、興奮に包まれた。

「はぁ・・・はぁ・・・」

「楓っ!ナイスだったよっ!」

「天馬のパスも、よかったわよ」

「楓、ナイスだ。天馬も、ナイスアシスト」

「本当だ。先制点は大きいぞ」

「ありがと、京介。ありがとうございます、神童先輩」

選手たちが、グラウンドのあちらこちらで喜びの声をあげていた。

 

 

しかし、ファイアドラゴンもなかなか手ごわい監督のチームだ。

それから前半戦は、全く得点が入らなかった。しかし、相手も得点を決めることは出来なかった。お互いのチームが、頭を悩ませてどう攻略するのか・・・ということを、皆が見守っていた。イナズマジャパンの選手のゲームメークは、神童先輩が行っている。ファイアドラゴンは、チェ監督の親戚筋に当たるチェ・ソンリンというキャプテンが行っている。

この2人が、かつての天才ゲームメーカーである監督、コーチたちの力を借りて、どうチームを動かしてゆくのか・・・これが、後半戦を大きく左右しそうだ。

 

 

ピピっ―――!!!!

そして、前半戦が終わった。

 

 




化身を持ってる人、全員勝手にアームドしちゃいますw(クロストは1年生の頃の話だけど、これはもう2年生になってからの話なのでw)

・・・あぁ、霧野くん、忘れていた・・・ブリュンヒルデ、ごめんなさい・・・


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フィールドの戦士

「うむ・・・予想はしていたが、さすが、チェ・チャンスウ。攻略は難しそうだな・・・」

 

 

前半戦が終わって、まず発せられたのは、鬼道コーチのそんな言葉だった。その顔は、とても深刻そうに歪んでいた。そんな顔を見ていると、私の顔まで歪んできた。

そんな顔を皆がしたまま、しばらく沈黙の時間が流れた。

その雰囲気を変えようと、楓がまた話し始めた。

「でも、こちらが先取点をとっていますし、相手も同じような雰囲気ですから、おそらくこちらが少しは有利だと思いますよ?」

その声に皆がのった。あちらこちらから、「そうだな!」「そうですよ!」などの声が聞こえてくる。私も、近くにいた葵に

「そうだよね?」

といった。その声に、葵は

「もちろんだよっ!!」

と、びっくりするくらい大きな声で答えた。それが、やはり興奮が冷めていないことを物語っていた。

 

 

ピピ―――っ!!

後半戦が始まる笛の音が、今鳴った。

 

 

「皆ー!!気合い、入れていきましょー!!」

天馬君が、皆に気合の掛け声をかけた。その声が消えた瞬間、楓がボールをちょこんと剣城君に蹴った。そして、皆が一斉に動き始めた。

チェ・ソンリンをはじめとする『ファイアドラゴン』のDF達が、なぜか一斉に楓をマークした。理解できない私たちと違って、選手の皆が、一斉に顔をゆがめる。そして、剣城君がボールをキープし始めた。どうやら、楓にパスを出すつもりだったらしい。

その瞬間だった。一気に楓に集まっていたDFたちが、剣城君に集まって行った。なかなかパスが通らない日本代表。そして、「『パーフェクトファイアプレス』!!」と誰かが叫んだ。そしてから、何かが剣城君と楓を囲んだ。その光景を見ていた監督・コーチたちが叫んだ。

「あれは・・・パーフェクトゾーンプレス!?」

「いや、違う・・・!威力が、何倍にもなっている!」

その『パーフェクトファイアプレス』に囲まれた楓と剣城君は、しばらくの間戸惑った表情を浮かべていた。そして、その油断に入りこんだファイアドラゴンは、ボールを奪った。虚を突かれたような表情を浮かべた2人は、しばらく動きが停止したが、すぐにボールを奪おうと動いた。

 

 

それからしばらく、ボールの攻防戦が続いた。

 

 

―――やっとの思いでボールを奪った日本は、化身が出せる人が皆化身を出して、アームドをした。そして、GKの信助君以外の化身が使える人たちが前に出て、錦先輩、緑、神童先輩、楓、剣城君、天馬君の順番でボールを上に蹴りあげた。蹴りあげるたびにボールの威力は増していき、最後の天馬君が蹴るときには虹色に輝いていた。最後に天馬君が蹴りあげたボールを、上で錦先輩と緑が蹴った。そして、いつの間にかゴール前にまできていた楓、剣城君、神童先輩が最高威力でボールをける。当然そのボールの行き先は、韓国のゴールへと突き刺さる。

 

 

しばしの沈黙・・・

 

 

そして、会場中で大歓声が沸き起こる。

私たちも、大声をあげて喜ぶ。そのさなか、化身アームドをした6人の荒い息が聞こえてくる。

このシュートを受けた韓国代表は唖然。監督のチェ・チャンスウも、唖然としている。

一方日本ベンチでは、鬼道コーチがドヤ顔を受かべてグラウンドを眺めている。その顔に気がついた豪炎寺コーチが、鬼道コーチに質問する。

「鬼道・・・お前、知っていたのか?」

「・・・あぁ。名付けて『キラースター』だ。名付け親は、狩屋だ」

「・・・まぁ、アイツにしてはかっこいいんじゃないのか?」

「そうだろう?だから、そのまま使用した」

その会話を聞きながら、私は興奮していた。―――まばゆい虹色の光―――ものすごい威力―――完成度の高さ・・・そんな技をいつの間に作っていたのか、不思議に思いながらも、やはり興奮は抑えられなかった。

 

 

ピッピ―――っ!!

試合終了のホイッスルが鳴った。

試合の結果は、2対0で日本代表の勝ちだった。日本側のスタンドからは、大きな歓声・拍手が沸き起こる。選手たちも、手を取り合って喜ぶ。

 

 

そう、真イナズマジャパンは、世界への第一歩を踏み出したのだった。

 

 

 



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マーメイド界の魔女

日本代表は、次の対戦相手のオーストラリア代表『ビッグウェイブス』に呼ばれて、なぜか沖縄に来ていた。

 

 

「なぜ、沖縄なのかしら?」

「そうだな。稲妻町に戻ってはいけないのか?」

私は京介に質問する。

そんな質問が、チームのあちらこちらから聞こえてくる。皆、謎が解けていないみたいだ。それは、監督・コーチたちも同じらしい。

「何の用なんだ?」

「さぁ、俺もわかんないんだよな~」

その時だった。後ろから、キキィィィィ・・・という大きな音が聞こえてきた。皆が一斉に振り向く。そこには、眩しいくらいに輝く、黄色のオープンカーがあった。その車が止まった時、その車の中から、誰かが降りてきた。黄土色の肌で金髪、グリーンの瞳のその人に、私は見覚えがあった。

 

 

「イルカお兄ちゃん・・・っ!?」

「あぁ、そうだよ。やっぱりメイプルは日本代表だったか」

「えぇ、久しぶりだね」

「楓、その人は・・・?」

私は、未雲に聞かれてその人のことを紹介することにした。―――といっても、かつてのイナズマジャパンである、監督・コーチ達は分かっているみたいだけど。

「彼は、イルカお兄ちゃんことニース・ドルフィンさん。私が、7歳だったころに留学していたオーストラリアで、私の面倒を見てくれていたお兄さんです。なぜイルカお兄ちゃんかというと、お兄ちゃんが通称ドルフィンって呼ばれているからです。だから、私もお兄ちゃんには私の『楓』から、サトウカエデなどの樹液を濃縮した甘味料であるメイプルシロップの『メイプル』を取って、メイプルって呼ばれているの。そして、監督たちは分かると思いますが、11年前の『ビッグウェイブス』のキャプテンでした」

そう、お兄ちゃんはそんなすごい人なのだ。私は、オーストラリアには1ヶ月半しかいなかったから、あまり特別な思い出は無いけれど、青い海、白い砂浜など、美しい風景が今でも目に焼き付いている、そんなところなの。

「そっか~、楓はやっぱりドルフィンとも知り合いだったのか」

「はい、監督。・・・それにしてもイルカお兄ちゃん、何で沖縄になんか呼び出したの?」

私は、最初の疑問を解くべく、質問をする。

「あぁ、それはね・・・俺の住んでいるオーストラリアの地域が、今、大変なことになっているんだよ、メイプル―――」

「大変な・・・事?」

「あぁ・・・」

お兄ちゃんの美しいグリーンの瞳が、悲しげに曇る。私の大好きなそのグリーンが曇るのが、私はいやだった。

「お兄ちゃん!!私、手伝うわ!だから、私にも相談して!!ドルフィンお兄ちゃん!」

「メイプル・・・楓・・・」

きれいなグリーンが、再び晴れてきた。私は、より一層力が入る。

 

 

「ちょっと待った」

 

 

気合が入ってきたころに、京介が私を呼び止める。

「何よ、京介」

「楓1人じゃさせないぜ?俺も手伝う」

その京介の言葉に、私はポカァンとした。その間に、他の人たちも口々に

「そうだよ!」

とか

「僕もする!!」

「手伝いますっ!」

など、口々に言う。私はイルカお兄ちゃん―――ドルフィンお兄ちゃんの方を振り向く。お兄ちゃんも、唖然としている。

「どうする?お兄ちゃん・・・?」

「どうするって・・・」

私は、お兄ちゃんのその美しいグリーンの瞳を見つめながら、しばらくだまって、それから息を吸って、皆に向かって言った。

 

 

「皆、お願いしてもいいかしらっ!!」

「いいに決まってるじゃん!!」

「当たり前だよ」

「no program(ノープログラム)・・・って言うんだよな?」

皆が、快く引き受けてくれて私は嬉しかった。そして、本題に入る。

「じゃあ、お兄ちゃん。その、大変なことって・・・?」

「それは・・・オーストラリアの海が、消えたんだよ。とある少女・青山楓(あおやまかえで)が引っ越してきてからね・・・彼女は、別名『マーメイド界の魔女』と呼ばれているらしい」

「青山・・・」

 

 

「「「「「楓っ!?」」」」」

 

 

 



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伝説の真実

「楓・・・か・・・私と同じ名前ね」

「そうだな。そして・・・『マーメイド界の魔女』」

沖縄の白いビーチに立つ私たちの雰囲気は、暗く沈んでいた。

私達は、楓の旧知のニース・ドルフィンさんに呼ばれて、急遽日本の南の沖縄に来ていた。そこで知らされたのは、『マーメイド界の魔女』と呼ばれる少女・青山楓の存在だった。―――楓。その名前は、私が転校初日から知っている名前―――山吹楓と同じ名前。皆は、青山楓の別名『マーメイド界の魔女』という名前を知らされてから、彼女は怪しい人だと思っている。もちろん、私も例外ではない。

 

 

そんな空気を変えたのは、噂の彼女・青山楓の登場だった。

ドルフィンさんが、少し困ったような表情を浮かべながら、しかし努めて明るく彼女を呼んだ。

「楓ちゃん、こっちだよ。俺の友達さ」

「えっと、あの、こちらの方々は・・・?」

青山楓の印象は、予想とはだいぶ違った。

エメラルドグリーンの美しいストレートロングの髪の毛。髪の色と同じエメラルドグリーンの大きく美しい瞳。透明な美しい異国の海を思わせる白い肌。その容姿はまるで、おとぎ話の絵本の中から飛び出してきた本物の人魚(マーメイド)のようだった。

「あなたが・・・楓さんかしら?」

戸惑いを隠しつつ、楓が自分と同じ名前を持つその少女―――青山楓に質問する。

「はい。えっと・・・あなた方は?」

「私たちは、日本代表『真イナズマジャパン』。私はそのメンバーの1人、山吹・・・山吹楓です」

「楓!?私と同じ名前ですねっ!!」

とたんに、青山楓の表情が明るくなった。その表情だけを見ていると、ただのかわいらしい女の子にしか見えなかった。その顔を、楓を中心とする皆に向けて、青山楓は話し始めた。

「えっと・・・山吹さん。私、山吹さんと知り合えてすっごく嬉しいです。だから・・・その・・・これは、皆さんにも言いたいんですけど、男の子はどっちでもいいんですが、女の子は私のことを『楓』って呼んでいただけませんか?あ、山吹さんが『楓』って呼ばれているのならば、さんとかちゃんとか付けてください。それでえっと・・・私も、皆さんの事、名前で呼んでもいいですか?」

照れくさそうな顔で青山楓―――楓ちゃんは話す。もう、皆の中にはあの異名のイメージは無かった。皆が、純粋に彼女を受け入れようとした。でも、私は気がついてしまった。―――彼女を受け入れながらも、どこか警戒する楓の姿を。

そのことは、私は黙っていようと思った。そして、後でこっそり聞こうと思った。

 

 

楓ちゃんは、すぐに皆と打ち解けていた。葵のケータイの早打ちに驚いたり、和葉ちゃんの制服(天河原中)の制服の可愛さに魅入っていたり、普通の女の子だった。しかし、楓はただ静かに目を光らせる。そのことがやっぱり気になった私は、楓と一緒にいた剣城君、天馬君と神童先輩のところへといった。私に遅れて、緑もやってきた。

 

 

「ねぇ、楓。楓は楓ちゃんのこと―――なんか変な感じだけど―――気に入らないの?」

「あ、それ、僕も気になった。ずっと、目を光らせているもんね、楓」

「別に気に入らないわけではないわ。ただ、あの子はもしかすると・・・この小さな南の島に伝わる伝説の魔女、『ブロワ=マサガール』と何か関係があるのじゃないかと思ったの」

「「「『ブロワ=マサガール』???」」」

私たちは、楓ちゃんに聞こえないくらいの声で、質問をした。楓は、自分のケータイをいじり、ある人からのメールを見せた。

「これは、私の旧知であるエドガー・バルチナスさんの、通われていた大学の考古学の教授であるエルシャール・レイトン教授から、頂いたメールです。教授には、私がイギリスに留学していた時に何度かお会いしたことがあります。主には、ヨーロッパの方の考古学についての研究ですが、教授は日本にも大変興味を持たれていて、この島の『魔法使い伝説』と『人魚伝説』の関係についても調べられているんです。そのことについて今わかっていることを教えていただきました」

「すっごい・・・楓、大学教授とも知り合いだったんだ・・・」

「えぇ」

楓が、すました表情で、短く受け答える。その表情は、天才的な頭脳を働かせ、メールの内容をまとめていることを物語っていた。その表情が、1分もせずにまとめ終わった表情になるのだから、また驚きだ。

「『魔法使い伝説』と『人魚伝説』というのは、この島に古くから伝わる2つの伝説です。最初の『魔法使い伝説』は、この島には、最教の力を持つと恐れられていた、本当は心優しいブロワ=マサガールという魔女がいたということです。ブロワは、とある魔法使い、ガン・バールと結婚し、子宝にも恵まれ、たくさんの子孫を残しました。2つ目の『人魚伝説』ですが、この島のすぐ下の海には、古代から今現在でも人魚が住んでいるというものです。その証拠かどうかは分かりませんが、砂浜には、この世に存在しないような魚のうろこ―――すなわち、人魚のうろことみられるものがよく打ちあがっているそうです。そして、ここ10年程前にできた伝説ですが、この島に伝わる2つの伝説、魔法使いと人魚が出会ってしまい、子を作ったというものもあります。その子供は、今でも行方不明ですが、生きているとしたら、14歳になります。性別は女、髪の色、瞳の色はともにエメラルドグリーン、そして、海に近付くと水が引いてしまう、という力を持っている、そうこの島の人たちは語っています。そして、魔法使いの末裔とされる、父親である男性の名字は・・・青山・・・」

この場にいる6人の周りの空気が一気に張り詰め、視線は、今なお楽しげに会話をしているその末裔と思われる少女―――青山楓に向けられていた。

 

 

楓ちゃんは・・・伝説同士が交じり合ってしまった、『生まれてはいけない存在』だったのだ。

 

 

 




そして、今回はレベルファイブつながりで、レイトン教授に登場していただきましたぁwお疲れ様です。

「これくらい当然さ、英国紳士としてはね。」


・・・はい、ありがとうございましたっww


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本当に重い『力』

「でも・・・楓ちゃんがそんな存在なんて・・・」

私たちは、楓の話を聞いてただただ唖然とした。交じり合ってはいけない存在同士が交じり合うなんてことが、この世の中にあるとは到底思えなかった。それがあんな聡明そうなかわいらしい少女ならばなおさらだった。

 

 

「・・・それ、本当のことなのか?楓」

「!!お、お兄さんっ・・・!」

はっとして振り返ると、そこには鬼道コーチがいた。その言い方からすると、今までの楓の話を聞いていたようだった。緑色のサングラスから、コーチの鋭い眼が見えるようだった。その瞳を直接見るかのように、楓も自分の瞳で鬼道コーチの瞳を見上げる。そして、その状態がしばらく続いた。どれくらいかたったころ、楓の方が観念したかのように瞳をコーチからそらして、つぶやく。

「そうです。教授から教えてもらいました・・・」

ふぅ・・・鬼道コーチが、軽くため息をついた。そして、苦虫をつぶしたような顔をした。

「教授というと、あのレイトンとか言う教授か」

「はい・・・まだ、あのことを・・・?」

「あぁ。どうも、あの助手は苦手でな」

今度は楓が、困ったような顔をした。苦虫をかみつぶしたような顔をするコーチと、その顔を見てあきれたような困ったような顔をする楓の2人を私たちは見比べながら、とうとう耐えかねたかのように天馬くんが質問した。

「えっと・・・助手・・・とは?」

あ・・・と言いたげな顔をいた2人が、顔を見合わせて苦笑いをした。そして、楓が話し始めた。どうも、鬼道コーチの口からは話しにくい内容らしい。

「その助手というのは・・・レミ・アルタワさんというアジア系の美女のことです。そして、先ほどお話したエルシャール・レイトン教授の助手です。そのレミさんとお兄さんは、1度だけあったことがあって、その時に・・・」

ふっと楓が口を紡ぐ。その顔は、今にも吹き出しそうなものだった。一方の鬼道コーチはというと、今にも顔を真っ赤にしそうな顔をして、今はただひたすら耐えている。

「・・・その時に、レミさんったら・・・お兄さんを不審者と勘違いして・・・ド、ド、ドロップキックをくらわせたんですよっ!でも、それが1回目は大当たりだったのに、2回目はするんって外れてしまって、床にドテンってこけて、スカートがめくれてしまってっ・・・!!」

「か、楓?」

説明している楓の顔は、もうとにかくやばかった。それは、もはやあの超美人の顔の原形をとどめていないようなものだった。鬼道コーチはというと、恥ずかしさのあまり後ろを向いてしまっている。横を向くと、その後の展開が読めたらしい私以外の人たちが、必死に赤い顔で笑いをこらえていた。

「え?何、この後、何が・・・?」

「未雲、スカートがめくれたら何が普通は見える?」

「えっと・・・パン、あっ!!そういう・・・ぎゃはははっ!!!」

ようやく理解できた私は、一番大きな声で笑ってしまっていた。

 

 

「・・・んで、教授からこの島の伝説を聞いて、楓が推理したんだな?」

あの笑いの惨劇から数分後・・・。

皆は、普通の落ち着きを取り戻していた。

「はい。でも、これはあくまでも推理です。正しいとは限りませんから」

そう楓は言いつつも、自分の推測がほぼあっていることを分かっているのだろう。いつもは美しいさくらんぼのような唇を震わせて、私たちの方を見ている。そして、楓ちゃんの方を辛そうな瞳で見つめた。

「楓・・・」

「・・・大丈夫よ。でも、自分の生い立ちもよくわからないような少女が、なぜそんな酷な運命を背負わなければいけないのかと思うの。まだあの子は言っても14歳よ?自分がどういう人間で、どういうものを持っているのか・・・まだ、無垢な時代よ?なのに、なぜ、酷な力をもつが故、行く先々で恐れられてしまって・・・こんなことを言うことは、失礼に値するだろうけれど・・・かわいそうな子だわ、楓ちゃんは」

顔色を少し変えながら、瞳を潤わせて楓は彼女―――楓ちゃんを見つめた。

 

 

私も、楓の言葉を聞きながら、瞳を潤わせていた。そして、自分の背負うものの軽さと、楓ちゃんの背負うものの重さの違いを、痛感していた。

 

 

 



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共存

楓ちゃんと出会って1日後・・・

突然、楓ちゃんが自分の生い立ちについて話し始めた。何がきっかけか、何が起こったのかは誰にもわからないが、話そうとしてくれたから、聞くことにした。

 

 

「皆さん、私は、皆さんに話しておかないといけないことがあります。私は・・・実は・・・」

楓ちゃんの肩がふるえている。瞳は、少し涙腺が緩むと、すぐに涙があふれてきそうなくらいに潤っていた。

「私は・・・実は・・・交わってはいけない存在なんです。そして・・・生まれてきてはいけない存在だったんです」

楓から話を聞いていた人たちは、暗い顔のままうつむく。知らなかった人は、目を見開いて、楓ちゃんを見つめる。でも、今は質問してはいけないし、話し終わっても質問してはいけない、という雰囲気を皆、感じとっているのだろう。誰も口をはさまなかった。

「私の父は・・・この島に伝わる魔女伝説の主であるブロワ=マサガールの子孫、青山豪(あおやまごう)です。そして、私の母は、名もなきマーメードでした。でも・・・」

間が一瞬あく。皆、真剣な目でその空気に耐える。

 

 

「母は、私を産んですぐに父に殺されました。その後、この島の島民の皆さんの話によると、父は不治の病に冒されて、魔法の力も役に立たず、呆気なく亡くなったそうです。そして、私もこの島から島流しにされました。でも、私は海の底で生きる美しき民、マーメードの娘です。だから、水の中でも息ができ、ドルフィンさんの住む、オーストラリアに流れ着いたのです。しかし、私は海に近寄ると、全ての水が引いてしまうという恐ろしい魔力を持ってしまっていた。だから、流れ着いたオーストラリアの地でも、様々なうわさが飛び交いました。そして、とうとうこの地についてしまった・・・それが、私の『始まり』でもあって、『終わり』・・・」

「え・・・!?」

今まで保たれていた沈黙を破ったのは、意外にも楓だった。

「どういうこと、楓ちゃん?この地が、あなたの『始まり』であって『終わり』・・・って・・・まさか、あなたは、この島に伝わる伝説のブロワ=マサガールと、同じ『終わり』方をするわけじゃあ・・・ないわよ、ね・・・?」

「・・・そのまさか・・・だよ・・・」

「いやっ!やめてっ!!あなたが、こんなとこで終っていいはずはないっ!!まだ、あなたの未来は無垢よ!何色にも染まっていない白だわ!今からなら、何色にだって染められるわ!!だから、考え直してっ!!」

今までにないほど、楓は大声で何か私たちには理解できないことを、楓ちゃんに向かって叫ぶ。

「どういうことだ?楓」

剣城君が、楓に何を叫んでいるのか聞く。振り向いた楓の瞳は、あせっていることを物語っていた。

 

 

「楓ちゃん、この島の伝説の魔女であって、楓ちゃんの祖先でもあるブロワ=マサガールのように、自分の手首を切って、海に身を投げるつもりだわ!!」

「「「えぇっ!?」」」

皆が絶句した。天馬君が、その続きを聞こうと質問をした。楓は、その質問にも答えた。

「マーメードの血は、海に混じると海の栄養素となるの。それに、いくら海の中で息ができるからといっても、血が出ていたら、おぼれ死んで、海の泡となって消えてしまうの!!・・・そう、おとぎ話の『人魚姫』のように・・・楓ちゃんっ!!」

また楓が叫ぶ。ふと、楓ちゃんの方を見ると、私も大声で叫んでしまった。―――彼女は、すでに片手に刃物を持って、崖のある岩のところまで行っていた。私たちは、ただひたすら楓ちゃんの名前を叫びながら、その方向へと向かって走った。

 

 

そして、楓が腕をつかんだ。そのすきに、すぐ後からついてきていた剣城君が、刃物を振り落とす。きゃ、と短い悲鳴が響いた。そして、パァァァァンッ・・・乾いた音も響いた。―――楓ちゃんが、葵にしばかれた音だった。瞳から涙を流して、しばかれた左ほほを抑える楓ちゃんに向かって、静かに楓が言い放った。

「あなたは確かに『交わってはいけない存在』だったかもしれない。でも、『生まれてきてはいけない存在』じゃないの。そして、もちろん『消えてもいい存在』でもないの。あなたは今、ここにいる。今、ここで生きている。大丈夫、あなたの運命を受け入れてくれる人はいる。そんな人が見つかる、それまでは、ドルフィンお兄ちゃんが面倒を見てくれるわ。あなたは、もう『孤独(ひとり)』じゃない。私たちも、ついているから」

わぁぁぁぁぁぁんっ・・・!!!楓ちゃんが、へなへなと座り込んで、大泣きをした。その背中を、私がさする。その瞬間、皆が分かりあえた。どんないきものも、共存していかないといけないんだ。

 

 

それから数日後・・・

 

 

「見てみて、皆ぁ!!」

雷門中学校、HRI日本代表部室にて。楓が、ケータイの画面を開いたまま、部室に入ってきた。オーストラリア対日本のサッカーの試合は、昨日終わったところだ。

「なんだ、楓」

「見て頂戴、ドルフィンお兄ちゃんからのメールよ!でも、送ってきたのは・・・楓ちゃん!」

皆の表情が、緩んだ。

「読むわね。・・・日本代表の皆さん、お久しぶりです。青山楓です。昨日のオーストラリア対日本の試合、見ていました。私としては少し複雑だけど、勝利おめでとう!私を助けてくれた、皆の勝利、やっぱり心から喜びます。次は、いよいよ決勝・カタール代表との試合だね。頑張って!!青山楓」

自然と、私たちは顔を見合わせて、また微笑んだ。

さぁ、次はいよいよ決勝、カタール代表『デザートライオン』との試合。

 

 

そして、私の最後の試合(ラストゲーム)。

 

 

 



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お兄ちゃん~ちか×楓~

「じゃあな、ちか。元気でやれよ?」

「もう、分ってるってばぁ。じゃあね、お兄ちゃん」

私は、雷門中学校の裏庭で、とある人―――お兄ちゃん、黒谷拓也(くろたにたくや)とケータイで話していた。お兄ちゃんは、高校3年生で、とっても明るくて、サッカーが大好き!男女ともに好かれる、いわば私の自慢のお兄ちゃん!・・・でも、お兄ちゃんには少し『普通ではないところ』がある。

 

 

「ちかちゃん?何をしているの?」

「あわわっ!!・・・か、楓さんでしたかぁ・・・びっくりしたぁ・・・」

「あらら、驚かせてしまったのね。ごめんね」

そこにいたのは、2年生の先輩、山吹楓さんだった。楓さんは、いつもと違って一般に言う『お嬢さま結び』をしていた。だから、少し雰囲気がお姉さんぽかった。

「いいえ、ただお兄ちゃんと話していたんです。・・・楓さんは、知っていますよね?」

「・・・えぇ、拓也さんのことよね。両目の視力がないのよね・・・」

「はい・・・」

 

 

そう、私のお兄ちゃんは、視力がない。

 

 

簡単に言うと、盲目なんだ。

 

 

だから、サッカーもできないし、サッカーどころか勉強を普通にすることでさえもままならない。そんな姿を見ていると、少し辛かったりもする。私がサッカー部のマネージャーになったのも、実はお兄ちゃんの為でもあった。

 

 

「・・・私にもね」

「はい?」

楓さんが、ふと話し始めた。

「私にも、1歳年上のお兄ちゃんがいるのよ」

「初耳ですっ!?」

私は、衝撃の真実を知った。楓さんにも、お兄さんがいたのだ。

「ほ、本当ですかぁ?」

「えぇ、本当。でもね、母親が幼いころになくなったから、私と兄は別々の親に引き取られ、育ってきた。だから、名字も違うのよ」

楓さんの実のお母さんが、飛行機事故で亡くなっていたのは、噂くらいで聞いたことはあった。でも、それが真実だと知ったのは初めてだった。

「でもね、お兄ちゃんったら、私が大けがした時も合宿所に会いに来てくれたの。それで思ったわ。あぁ、別々に生きてても、やっぱりお兄ちゃんなんだ・・・って。それからよ。ずっと、連絡なんか取り合っていなかったのに、最近はちょくちょくとるわ」

「そうなんですか」

「あ・・・ごめんね」

「えっ・・・!?」

楓さんが、急に謝り始めた。理由は分かっていたけれど、そこはあえて言わなかった。そして、

「いいえ、いいんです」

とだけ言った。

 

 

私と楓さん・・・

 

 

両方とも、家族に複雑な事情を抱えているけれど、それでも毎日が幸せなんだと思う。私は私で、お兄ちゃんが盲目でも、毎日電話で、イナズマジャパンのことを話してあげると、お兄ちゃんは喜んでくれるし、目が見えていたころからの優しい性格は変わっていないから、やっぱり私の大好きで、自慢のお兄ちゃんなんだ。

 

 

楓さんの、ちょっといい話も聞けたし、なんだかこの数分が楽しかったな♪

 

 

よしっ!明日から、本格的に決勝戦へ向けての練習が始まる。

頑張っていこうっ!!そして・・・世界への切符をつかむんだっ!!

 

 

ん・・・?そういや、剣城先輩や未雲さんにもお兄さんがいるんだよね?未雲さんは聞きにくいから、剣城先輩に、今度聞いてみようっ!

 

 

 



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お兄ちゃん~ちか×剣城~

「つっるぎ先輩っ?」

「ん?なんだ、黒谷」

「いやぁ・・・先輩、お兄さんがいましたよね?」

「あぁ、でも、急に何だ?」

 

 

楓さんとのお話から、しばらくたったころ。私は、剣城先輩を見つけて、お兄さんの話について聞くことにした。でも、剣城先輩は、なぜそんな事を私がきくのかわからないから、怪訝そうな顔をして、私の方を見ている。

「えっと、さっき楓さんとお兄さんの話をしていたんです。そしたら、そういや剣城先輩にもお兄さんがいたなぁ・・・って思ってですねぇ・・・」

「なるほどな。まぁ、いい。でも、何で楓と話したんだ?それも、お兄さんのことについて」

「えっ?先輩、知りませんかぁ?楓さんに、お兄さんがいることを・・・」

「!!・・・初耳だ・・・」

「へぇ・・・まぁ、そのことについては、あとで聞いてください、楓さんに。・・・で、先輩のことを教えてくださぁいっ!!」

私の、甲高い響く声にびっくりしたのか、オレンジ色の瞳を見開いて、私のことを見つめる。そして、しばらくそのまま止まってしまったが、また優しい顔をして話し始めてくれた。

 

 

「俺の兄さんは、入院しているんだ」

 

 

「えっ・・・ご、ごめんなさい・・・先輩・・・」

「いいんだ。でも、聞け」

「あ、はい」

悪いこと、聞いちゃったな・・・そんな気持ちのまま、剣城先輩は私に向かって話し始めた。その顔は、なぜか優しいものだった。―――なぜ、お兄さんのことを話すのに、辛くないの?先輩は、私と違って、強いから・・・?

 

 

「兄さんが入院したのは・・・俺のせいなんだ」

 

 

私は絶句。

自分が、大好きなお兄さんの未来を・・・その・・・奪ってしまったのにもかかわらず、そんなに優しい顔をすることができるのは、なぜ・・・?

そのことを悟ったのか、剣城先輩は少し苦笑に似た笑みを漏らした。

「最初は俺も辛かった。だから、中1―――今の、黒谷たちのころだな―――そのころは、間違った道へと進んでいた。でもな、それを正してくれたのは、他でもない兄さんだった。まぁ、兄さんだけだとは言い切れないが、やっぱり大方が兄さんだった。そして、俺に対して憎むどころか、むしろ俺を応援してくれた。だから、俺は兄さんがとても大切だ」

「先輩・・・」

 

 

「あらっ、ちかちゃんと京介じゃないの。何を話しているの、珍しいメンツだし」

「楓さん!」

「楓、いや、自分たちの兄について話していたんだ。って、お前、兄さんいたんだってな」

「えぇ、って、言ってなかったかしら?」

「あぁ」

そこにやってきたのは、この会話を始めるきっかけとなった、楓さんだった。さっきまでは『お嬢さま結び』をしていたのに、いつの間にか『ポニーテール』になっている髪の毛を、軽く揺らしながら、私たちの近くにやってきた。そして、どうやら事情を知っているらしい楓さんは、剣城先輩の方を少しだけ心配するような視線で見つめた。

そんなことはもうわかっているのだろう。剣城先輩は楓さんの方を見もせず、ただ

「大丈夫だ」

とだけ言った。

 

 

あぁ、やっぱりこの2人は信頼や、友情や・・・全てのものを共有しているんだ・・・私も、いつか蘭丸君と・・・

 

 

「ちかぁ~、探したぞぉ~?」

「蘭丸くんっ!」

その時、私の頭の中を埋め尽くしていた本人が、私の目の前にやって来てくれた。私の顔は、花がパッと咲いたように明るくなった。その顔を見て、楓さんと剣城先輩は顔を見合せて笑った。

 

 

私達、お兄さんに対しては、何かしらの複雑な事情を抱えてる・・・

 

 

でも、それに負けないくらいそれぞれの兄弟に『愛情』を持っている。だから、なんてこともないんだ。

 

 

それに、それと同じくらい大切な人もいるから・・・!!

 

 

 



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ラストゲーム

時はたち、いよいよ明日はアジア予選決勝戦、対カタール代表『デザートライオン』との最終決戦の日になった。そして、その次の日は、いよいよ私が、イギリスへと旅立つ日。

 

 

「はぁ・・・なんかやっぱり緊張してきたなぁ・・・」

「未雲・・・大丈夫かい?」

ふっと気がついたら、横にいたのは緑だった。緑は、私が明後日引っ越さなくてはいけないことを知っている。緑の表情は、私以上に辛いようなものだった。私は、努めて明るくふるまった。でも、それは逆効果だったみたいで、緑の顔はさらに暗く沈む。

「無理、しないでよ。僕は・・・僕には、ちゃんと本当の心で接してよ」

あぁ、何で緑はこんなに優しいの・・・?彼の優しさに、私はもう何度も救われた。本当に孤独に感じて辛かった時、先が真っ暗でわからなくなってしまいそうになった時、私を支えてくれた、とても愛しい人。そんな彼とも、もう明日でお別れ。私たちは、明日でこの関係を終わらせる。どんなに好きでも、別れなくてはいけない時がある、それは、まさにこの事なのだと思った。

すぅ・・・頬を何かが伝った。それは、私の流してしまった涙だった。―――涙なんか、絶対に見せないって決めていたのに、私、なんでっ・・・!

 

 

ぎゅっ・・・!!

 

 

緑が、私のことをきついくらいに抱き締める。いつもは、ちゃんと手加減してくれていたのに、今日は別れを惜しむように、ただ抱いてくれた。その瞬間、私の瞳から、あふれんばかりの涙がこぼれおちて行った。

「わぁぁぁぁんっ・・・ひっく・・・うぅ・・・ぐずっ・・・」

「・・・」

無言でただ、私の背中をさすってくれる緑。愛しい、あぁ、別れたくない。もっと、ずっと一緒に日々を過ごしたい・・・!しかし、時は過ぎて行ってしまう。

 

 

対デザートライオン戦、当日。

 

 

「よし、皆!気合入れていけっ!!」

「「「「はいっ、監督っ!!」」」」

円堂監督と、選手皆の声が響く。そして、今日は楓はマネージャー。上はピンク色のジャージ。中には、紅のTシャツを着ていて、下にも同じくピンクのジャージを着ている。腰には、ベージュや赤の混じった、美しいウエストポーチを付けている。

 

 

ピピぃ―――!!!

 

 

試合開始のホイッスルが鳴った。

「神童先輩っ!!フォルテッシモですっ!」

「あぁっ!『フォルテッシモ』!」

ピィ―――!!あっという間に、1点を日本代表が取る。あっという間のこと過ぎて、皆が、ただ呆然とした。また、緑の『グリーンリーフズ』という技も決まり、日本代表は、前半だけで2点も取ってしまっていた。もう、ただあっという間のことで、驚く暇さえもなかった。

 

 

ただ今、休憩中・・・

 

 

「はぁい、皆ぁ~!!お疲れぇ~!!」

私が、頑張って大きな明るい声で、皆を励ます。

「あ~っ!意外と簡単に2点取れたけど・・・」

「まだ油断はできないな」

「そうだな。まだ油断は禁物だ」

皆の、気を抜かない姿勢。あぁ、こんなところが日本代表『真イナズマジャパン』なんだ。私の惚れた、ほれなおしたサッカーは、イナズマジャパンの美しいサッカーなんだ。

「ほら、未雲!まだドリンクあるぅ?」

「えっ、あ、うん、大丈夫だよっ、楓!」

楓が、気を聞かせてくれる。そんな優しさにも、私は惚れているんだと、また思った。だから、私もそれにあう様に、明るく返事をした。

 

 

そして、いよいよ後半が始まる。

いよいよ、本当の最終対決(ラストゲーム)だ・・・!

 

 



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世界への切符を手に入れろ!

さぁ、いよいよ後半戦―――私の最後の試合(ラストゲーム)―――が始まる。

今、試合は2対0で、日本代表が有利に進んでいる。きっと・・・ううん、絶対に日本代表は、世界への切符を手にすることができるはず!

 

 

ピピぃ―――!!!

 

 

いつもより、ひときわ大きいように聞こえたホイッスルが鳴って、後半戦が始まった。

始まってしばらくは、ボールの攻防戦だった。その名の通り、両チームが奪っては守り、とられては攻め・・・その繰り返しだった。その時間は、灼熱の太陽の下で過ぎてゆき、確実に、じりじりと選手たちの体力を奪っていた。この日は、もう11月の半ばだというのにもかかわらず、まるで真夏が戻ってきたかのように、とにかく暑かった。だから、両チームの選手たちにも、少しずつ変化があった。

イナズマジャパンで最初に変化があったのは、中1の真男君だった。DFとして、『防』に全力を注いでいた真男君が、突然フィールドの真ん中で、倒れこんでしまったのだ。ピッピぃー!と、短い笛が鳴り、ちかちゃんや和葉ちゃんたちがフィールドへ出て行った。

「真男君っ!?大丈夫っ??」

「ちかっ、清原君、どうっ?」

「和葉っ、真男君、もしかしたら熱中症かもしれないっ・・・!だから、えぇっと・・・キャプテンを呼んでっ!!」

その声は、呼びに行かなくても天馬君の耳に届いたらしく、神童先輩に

「円堂監督に、伝えておいてください」

とだけ言って、真男君のところへと走り寄った。はぁはぁはぁ・・・苦しそうな真男君の声が、ベンチにいる私たちの耳にまで聞こえてきた。そして、しばらくして真男君は、円堂監督に付き添われて、担架で保健室へと運ばれていった。

しかし、だからといって試合が終わるわけではない。それからも、試合は続く。

 

 

試合に大きな変化が起こったのは、相手チームのパスが通った瞬間だった。

「今だっ!!」

カタール代表の監督である、ビヨン・カイル監督の声が響いた。にたぁぁ・・・今にもそんな音が聞こえてきそうな、そんなドヤ顔で、ビヨン監督は選手1人1人と何かジェスチャーを交わしていた。

「ビヨンお兄さん・・・?」

横では、もうおなじみの楓が、おそらく留学した時にお世話になったのであろうビヨン監督の名前を、つぶやいていた。そのビヨン監督のジェスチャーの後から、カタール代表の攻撃が変わった。『防』は薄くなったが、その代わり攻撃が強くなっていた。

そして、さすが決勝まで進んできただけのことはあり、化身を選手全員が出すことができていた。そんなチーム全員の化身のパワーを、『化身ドローイング』と呼ばれるものによって、半永久的に持続していた。そのパワーは、キャプテンであるマルコル・サーの化身に注がれる。その化身で、

「『グランドキラー』!!」

そんなシュートが、日本代表のゴールへと向かう。

「信助っ!!」

「っ!・・・任せてっ!!」

信助君が、頑張って力を振り絞って、化身を出してアームドする。しかし・・・

「あぁっ!!」

 

 

ピピぃ―――!!!

 

 

日本代表が、この予選大会、初失点をした。

皆の表情が、一瞬暗くなる。しかし、それが皆のばねとなった。今までにないほど情熱のこもった声で、天馬君がさけぶ。

「まだ1点あるし、もっと差を広げるぞっ!!」

「「「「おぉ―――っ!!」」」」

この1点は、皆にとってどうやら『未来へのパワー』になったようだった。そこからの、日本代表の巻き返しはすごかった。パスだって普通に通り始めたし、シュートも頻繁に打つ。相手だって、アームドが出来る人はいなかったらしく、アームドをすれば点が入る・・・そんな感じになった。そして・・・

 

 

ピピぃ―――!!!

 

 

「試合終了、試合終了ですっ!!勝ったのは・・・4対1で、日本代表『真イナズマジャパン』ですっ!!」

 

 

わぁぁぁぁぁ!!!!

大きな歓声が、スタジアム中を包む。―――あぁ、終わったんだ。皆が、世界への切符を手にできた。そして、私の最後の試合(ラストゲーム)も・・・終わったんだ。

 

 

プルルルル・・・プルルルル・・・

私のケータイが鳴る。ディスプレイには、『お父さん』。

 

 

あぁ、ついに時は来たのね・・・

あふれそうな涙をこらえて、私は電話に出た。でも、私はお父さんの第一声によって、脱力してしまい、その場に座り込んでしまった。そんな私に気がついた楓が、心配そうに私の顔を覗き込む。

「未雲?どうしたの?」

「・・・し、・・・った・・・」

「へっ?何、もう1度言ってちょうだい?」

「引っ越し、無くなった・・・」

「そう・・・って、えぇっ!?」

 

 

「引っ越し、無くなったのぉ!!」

 

 

 



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正念場

「じゃあね~、また明日」

「楓、家を使わせてもらってありがとう!」

皆が口々に言いながら、私の家から帰っていく。楽しい楽しいパーティーが終わり、私の家―――山吹邸―――も、さっきのドンチャン騒ぎがうそのように、しぃぃん・・・と、静まり返った。母が主催していたパーティーも終わったらしく、いよいよ家の中は静かだった。それに、母が主催した、といっても、母は今、外国にいるから実際には、私が主催者のようなものだった。

今家にいるのは、私とお兄さんだけ。・・・そう思っていた。でも、実際は違った。いや、半分あっていて、半分違った。私の家の庭に、誰かがいた。私は、その気配に気が付き、ドレスのまま外へと出た。

 

 

「なんだ、京介だったの」

そこにいたのは、京介だった。前に来た時に気に入ったらしいバラ園のベンチに腰掛けて、私の方を見ている。京介の顔が、変に赤いように私はその時感じた。

「京介ぇ?ここで何をしてるの?」

「・・・」

返事はなかった。私は、むっとした。だから、もっと近づいて真下から京介の顔を眺めた。その顔を、間近で見て、私ははっとした。―――その顔は、何か覚悟したように輝いていて、オレンジの瞳は、何かに燃えるようだった。

なにか、知らない人を見たようで、私はドキドキした。体が硬直したようだった。11月の冷たい風が、羽織っているだけのボレロカーディガンをすりぬけ、急に震えた。そんな震える体を、京介が優しく抱きよせた。その行動に、私の体はさらに硬直する。

「きょ、京介・・・?」

「・・・だ」

ぼそっと京介が、何かをつぶやいた。でも、私は聞こえなかったから、聞き返そうとした。でも、その前に京介に手をひかれたから、聞き返せなかった。

 

 

一緒にバラ園を歩くことなんて、今までに何度もあったのに、なぜか今日は雰囲気が重かった。言葉も、一言も交わさずにただひたすら庭の中を歩いた。時折、ひゅぅぅぅぅ・・・と、昼間の暑さがうそのような冷たい風が、ボレロカーディガンをすり抜けて吹いてきた。

私たちがついたのは、庭の隅の方にあるもう枯れかけてしまっている『金木犀』の木だった。

「この木・・・」

「あぁ、そうだ。俺たちが、初めてであったところだ」

「えぇ」

ようやく交わせた会話の喜びをかみしめながら、私たちは思い出に浸った。

 

 

―――7年前。

私は、この金木犀の木の下で、帝国学園に通う家の使用人たちとかくれんぼをしていた。でも、家は広いから、家の隅っこなんてなかなか探しに来ない。暇だから、隣のクスノキの上にある『ツリーハウス』に登った。そして、見つけた。何かに落ち込んでいる、少年を。少年は、木の上にいる私―――もっとも、木の上にあるツリーハウスにいる私だが―――に気がついて、目を見開いた。私は、その少年が家の近くにやってきた途端、腕をめいっぱい伸ばして、その少年を家の敷地内へと連れ込んだ。そして、金木犀の木の下で、その少年の名前を知った。

「私は、山吹楓。7歳よ。あなたは・・・?」

「俺は、剣城京介。同じ7歳だ」

 

 

「懐かしいわ・・・それで一旦別れたけれど、同じ小学校だったり、同じようにフィフスに所属していたり、何かと再会したのよね」

「そして、中学校でも再び楓を見つけた。まぁ、関係はぎくしゃくしていたけどな」

「ふふっ。でも、今は和解できたからいいんじゃないの?」

「・・・だな」

ふと京介の顔を見る。そこにあったのは、いつものような優しくて強そうな、私の見慣れた京介の顔だった。そんな私の視線に気がついたのか、京介は、ゆっくりとこちらに向きなおした。そして、私のことを見降ろす。私も、京介のことを見上げた。京介の顔は、私の瞳よりも真っ赤に染まっているんじゃないの?というくらい、真っ赤に染まっていた。本当は、いつもは「熱があるんじゃない?」と聞く。でも、今は京介の手で口をふさがれて、何も言えなかった。

そして、京介が静かに話し始めた。

 

 

「楓は、『運命』って信じるか?きっと、どっちとも言えないだろうけど、俺は案外信じる。だって、この場所でたった一度だけあった少女―――楓と、今日ここまでで、何度偶然の再会を果たしたか?普通に考えたら、びっくりすることだって、今、気がついた。そして、ここ数カ月、ずっと意味のわからない気持ちに苦しんだ。楓が、先輩達とか、空野たちと話す時でさえ、胸が苦しくなった。ずっとずっと考えた結果、俺は1つの結論にたどり着いた。―――俺、剣城京介は、山吹楓が好きだ。出会ってから、7年間、ずっと・・・」

 

 

私の眼は、ゆっくり大きく見開かれた。はっきり言うと、信じられなかった。幼馴染で同級生の男の子の、好きな人が自分なんて、普通は信じられる?ずっと、そんな気持ち分らなかったから、尚更驚いたし、ドキドキもした。ひゅぅぅぅ・・・また、冷たい風が吹いた。

戸惑う私を見て、京介は優しく微笑んだ。

「いいよ、返事は後で。ちゃんと自分の頭の中を整理して、返事を返してくれ。じゃあな、おやすみ、楓」

そして、京介は自分の家に帰って行った。

 

 

私は、ただ呆然として、その場に立ち尽くしていた。

 

 

 



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企画会議

「はぁ・・・整理・・・ねぇ・・・」

山吹邸、楓の部屋にて。

私は、対数十分前に言われた言葉について整理していた。さっき言われた言葉―――思い出しただけでも、頭から足の先まで真っ赤っかになってしまいそうな、あの言葉。

 

 

『「楓は、『運命』って信じるか?きっと、どっちとも言えないだろうけど、俺は案外信じる。だって、この場所でたった一度だけあった少女―――楓と、今日ここまでで、何度偶然の再会を果たしたか?普通に考えたら、びっくりすることだって、今、気がついた。そして、ここ数カ月、ずっと意味のわからない気持ちに苦しんだ。楓が、先輩達とか、空野たちと話す時でさえ、胸が苦しくなった。ずっとずっと考えた結果、俺は1つの結論にたどり着いた。―――俺、剣城京介は、山吹楓が好きだ。出会ってから、7年間、ずっと・・・」』

 

 

あぁ・・・////もう、嫌になっちゃうわ・・・。

1人ドレスのまま、私は天蓋付きのベッドに横たわって、ベットに置いてあるクッションを天蓋に投げていた。その時、部屋のドアがコンコンッ、となった。

「はいっ?」

「俺だ。入るぞ?」

それは、お兄さん―――鬼道有人さんだった。私が返事をするとすぐに、お兄さんは部屋に入ってきた。そして、私の恰好を見た瞬間、顔をしかめた。

「楓、何を、していたんだ・・・?」

まぁ、そんな疑問を持たれても仕方がないだろう。ベットに横たわっているのは、ドレスのままで、髪の毛もセットされたままで、アクセサリーも付けたままの女の子だ。変に見られても仕方がないだろう。

「お、お兄さんこそ、何か御用ですか?」

私は、ただ話をそらしたくて、話を戻した。お兄さんは、そうそう、と言いながら、部屋の端にあるソファに腰掛けながら、話し始めた。

「明日なんだが、もうすぐ3年生は引退の時期だろう?だからな、引退式でもしようかと思ってな。今から、円堂達をよんでいるから、楓も話し合いに参加してほしいんだ。もしかしたら、この山吹邸を使うかもしれないしな」

「あぁ、そういうことですか。分かりました」

そして、しばらくして監督、コーチ陣全員が来た。私は、話し合いに感謝した。―――何かをしておかなければ、私は絶対おかしくなってしまっていると思ったから。

 

 

そして、話し合いが始まった。

 

 

「さぁ、じゃあ始めるか!」

円堂監督が、もう23時過ぎだというのに明るい声で、話し始めた。その明るさに、皆は苦笑した。私も、ばれないようにこっそり苦笑した。本題を話し始めたのは、豪炎寺コーチだった。

「・・・それじゃあ、明日の引退式だが、まずは何をするかだが・・・円堂、鬼道、不動、吹雪、風丸、楓の順番で、考えを述べてくれ」

「じゃあ俺だなっ!!」

と、豪炎寺コーチが話し終わる前に、円堂監督が話し始めた。

「俺は、やっぱりプレゼントがいいだろうな~」

続いてお兄さん。

「俺は、プレゼントなどももちろんだが、引退式の形式について考えたい。俺としては、厳かな雰囲気を最初と最後に持ってきて、あとはパーティー形式がいいだろうな」

さすが鬼道クン、と言いながら、不動コーチが話し始めた。

「俺は、ん~・・・場所だな。楓の家、使えるか?」

「え、あ、はい。大丈夫です」

「じゃあ、場所は楓の家で。あとはお任せ~」

ははは・・・、と苦笑いしながら、吹雪コーチが話す。

「僕は、アドバイスとかしてあげたいね。日本代表の子はこれからも戦うし、じゃない子でも高校からの役に立ててほしい」

風丸コーチが、髪の毛をくくりなおしながら話した。

「俺はだな・・・雰囲気全体だ。楽しくてでも、面白い感じにしたら喜ぶだろう。また、プレゼントなどはくじなどで決めたらどうだろうか?」

コーチたち皆が、話し終わった。皆さんの好奇心があふれる瞳が、私をただ見つめる。私は何を言えばいいのか・・・そう思ったから、結局皆さんの考えをまとめることにした。

「じゃあ、私は皆さんの考えをまとめさせていただきます。形式としては、お兄さんの言われた通り、最初と最後には挨拶を入れ、あとはパーティーのようにすればいいでしょう。場所は、私の家の6階の屋上広場を使えばいいです。雨が降れば、3階の中世ヨーロッパ大広間を使用してください。吹雪コーチの『アドバイス』ですが、パーティーは自由移動にして、その最中にでもしたらどうでしょうか?そして、プレゼントですが、確かにくじなどで決めたら面白いでしょう。あ、プレゼントは私が、明日の夕方までに決めておきます。開会時刻は、PM7時より・・・で、いいでしょうか?」

「「「「「「いいんじゃないか??」」」」」」

 

 

皆さんの意見をまとめ終わった私は、あとは皆に明日伝える、という仕事を受けた。そして、監督、コーチたちは、会場の飾り付けを使用人の皆さんと始めた。私はというと、もう24時だから、パジャマに着替えて、今度こそベッドで深い眠りについた。

 

 



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アイツの存在って・・・私の中で、どれくらいのもの・・・?

私は話し合いの後、深い眠りについた。そして、久々に夢を見た。

それは、今までの私と京介の思い出だった。

 

 

―――幼い春のある日。菜の花が一面に咲き乱れる、とある公園。私は、レモン色のワンピースを着て、編み上げの茶色のブーツをはいている。そんな私を追いかける京介。あたりには、私たちのように追いかけっこをする、黄色や白の美しい蝶たちがいた。

―――小学校中学年の頃の夏の日。私と京介は、親に見つからないように2人でこっそり海へ行った。そこで食べた、かき氷。キーンと頭が痛くなって、もう食べられなくなってしまった私のかき氷を、京介はいやな顔1つせずに、全て食べてくれた。

―――数年前の秋。イチョウの葉が散るゴットエデンのとある1本道。道路全面を隠してしまうくらい大量に散ったイチョウを、ふわりふわりとまいあげながら、2人で「もう秋だね、寒いね」と笑いあったあの日。

―――小学校卒業の年の冬。珍しく大量に積もった雪で、私と京介は雪だるまを作った。私が鼻にしようと持ってきたのは、1本200円もする人参だった。その人参を雪だるまの鼻につけ、写真をとったら一緒に煮込んで食べた。

 

 

あぁ、私、京介との思い出は、全部楽しいものばっかりだわ・・・

きっと中には、楽しくないようなものもあったのかもしれない。でも、それは京介に対する気持ちの方が大きくって、全然気にならなかったのね。

 

 

分かった、私・・・私も、剣城京介が好き。出会ってから今までも、これからもずっと。

 

 

「ん・・・ふわぁぁぁぁぁ・・・」

気がつくと、もう柔らかな陽が窓から部屋に差し込んで来ていた。―――もう朝だ。そして、今日は忙しい。プレゼントを用意したり、飾り付けを手伝ったり、皆に知らせたり・・・京介に返事をしたり。もう、返事は決まっている。揺らぐことはない。

ベットから出て、天蓋からぶら下がるカーテンをめくって、ウォークインクローゼットの中に入る。クローゼットの中は、カジュアルな服からドレスまで何十着という服が干してある。私はその中から、黒のタンクトップと、麻で出来た肩だしトップス、下の棚からはカーキの先が広がっているショートパンツを出してあわせ、ニーハイの黒のソックスをはいた。それらの上から、グレーの毛糸の編み込みのニットを羽織り、そして部屋の外へと出る。

「おはよう、皆さん」

私は、いつもよりもすがすがしい気持ちで挨拶をした。それにこたえるかのように、使用人、執事、メイドの皆さんも、爽やかな挨拶を返す。そして、リビングルームへとしばらく歩く。

リビングルームの大きなドアをぎぃぃ・・・と開けて、目に入ってきた光景に私は驚いた。そこにいたのは、監督、コーチたちだった。皆、身を投げ出してすやすやと寝ている。きっと、昨日も夜遅くまで準備をしていらっしゃったのだろう。そんなみなさんを起こさぬよう、私は忍び足差し足でダイニングルームへと向かった。

「おはようございます、お嬢さま」

「おはようございます、料理長」

ダイニングルームには、清楚なコック服をきれいに着こなす美青年がいた。山吹邸の若き料理長こと髙橋翔太(たかはししょうた)さん。年は30歳くらいで、この家には住み込みで働いている。私はこの料理長の料理を、この家に養子に来てからずっと食べ続けている、いわば私にとっての『家庭の味』。そんな料理長の見た目も美しく味も抜群の料理を食べながら、私は料理長と話す。

「お兄さんたち、昨日は一体いつまで起きていらっしゃったの?」

「はい、確か4時くらいかと・・・」

「えっ!?今が8時だから、ちょっと前じゃないの。全く、円堂監督も、コーチたちも無理をするんだから。選手たちの気持ちも、考えてほしいものね」

「でも、そのおかげで飾り付けは終わられたようですよ。まぁ、有人さんたちにとっては可愛い教え子の引退式なんですから、少しの無理くらいどうってことはなかったのでしょう」

なるほど、と私は1人で納得しながら、ケチャップで楓の葉が描かれているオムレツを口に運んだ。

「・・・それもそうね。もぐもぐ・・・まぁ、このオムレツ、とっても美味しいわ!さすが料理長、料理の見た目もいいし、尊敬するわ」

「ありがたき幸せ。しかしお嬢さま、お嬢さまにはまだ仕事が残っていらっしゃるのでは?それに、この髙橋の記憶が正しければ、今日は9時から空野様たちとお遊びに行かれるとか・・・」

料理長の言葉で思い出した、親友との約束。壁にはまっている大時計の針は、8時30分を指していた。

「あぁっ!!そうだった!ありがとう、料理長!では、よい1日をっ!」

「はい、お嬢さま。それでは行ってらっしゃいませ」

「行ってきますっ」

 

 

私は、こげ茶色のピンヒールの編み上げのブーツを履くと、急いで家の大きな門をくぐった。

―――実は、今日は葵との約束ではなく、京介との約束なの。

 

 

 



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ある意味『病』の、心を豊かにする感情

朝からずっと、わくわくが止まらない。

料理長や執事たちにも内緒で、私は京介と出かける。でも、それは今までにないくらいドキドキしていて、それと同じくらいわくわくが止まらない。

 

 

鉄塔広場の見晴らしがようところで、京介が待っていた。赤い無地のロンTに茶色のダッフルコート、ダメージジーンズをはいて、こげ茶のブーツをはいている。

「きょ、京介っ、きゃあっ!!」

私は京介のところへと走ろうとして、つまずいた。きゃあ、と短い悲鳴をあげて倒れ込んだ私を、おっと、と言いながら、京介は私を支えた。

「ったく、大丈夫か?」

「う、うん・・・っごめんね・・・」

その後、京介は顔を真っ赤にして首を振った。そして、私を見つめる。―――分かっている。京介が待っているのは、私の返事・・・。私は歯を食いしばって、上目遣いに京介を見上げる。いつの間にか肩くらいまでのびていた髪の毛が、さらさら・・・と風に揺れた。おそるおそるゆっくり、私は口を開く。そしてギュッと目を閉じて、小さいでもはっきりした声で言った。

「私は・・・私も好きです」

その瞬間、京介がぎゅう・・・と、私のことを抱き寄せた。私もほっぺたが、見る見るうちに赤く染まってゆくのがわかった。お互いに真っ赤な顔を見つめあって、そして―――

 

 

―――私と京介の、影が重なった。

 

 

唇を離した後、また見つめ合い、2人で微笑んだ。

「・・・じゃあ、行くか」

「・・・うん、行きましょう」

私たちは、手を強く握ったまま町に向かって歩き出した。しばらく歩いたころ、前の方に見慣れた顔が2つ見えた。しかし、その2人はどういう関係かわからなかった。―――その2人とは、神童先輩と茜さんだったのだ。2人は、お互いにどうすればいいのかわからないような顔をして、ただ並んで歩いていた。

「あの2人・・・なんだろう?」

私たちは2人でそろって、首をかしげた。ふっと目の前にいた神童先輩の表情を見てみると、困ったような嬉しいような表情をして、横を向いている。先輩の頬は、さっきの私のように紅に染まっている。そして、私たちを見つけたのか、あ・・・という表情でこっちを眺めている。

「楓、剣城・・・」

「先輩、こんなところでお会いするとは・・・」

「楓ちゃん、偶然だね♪剣城君も」

「あ、はい」

・・・ということで、私たち4人は近くのカフェに入った。まぁもっとも、京介は残念でならないような表情を浮かべていたけれど。

 

 

その途中で、霧野先輩とちかちゃんが偶然やってきた。そのタイミングで、神童先輩が私と京介を呼んで、 別の席に着いた。茜さんはというと、さほど気にした様子はなく、笑顔でちかちゃんとはなしている。まぁ、霧野先輩の顔が恐ろしかったが。

 

 

「それで?先輩、どんなお話でしょうか?」

私が問いかけると、先輩は顔を真っ赤にし始めた。京介は、なぜか席をはずした。私にはわからない、この先輩が顔を真っ赤にした理由を、いち早く察したのだろう。

「じ、実はだな・・・俺は、最近山菜さんを見るとドキドキするんだ。目があって微笑みかけられると、やばい・・・」

「・・・えっ?」

それって・・・先輩・・・まさか・・・茜さんに・・・?

「えええええぇ――――!!!」

1人で驚いている私をよそに、先輩は「俺は、どこかが悪いんだろうか」などとつぶやいている。神童先輩って、意外と鈍いのね・・・。まぁ、私に言われたくないでしょうけれど。私は、熟したリンゴのような神童先輩に対して、ただ一言だけ発した。

「・・・それは、ある意味では病ですが、毎日を豊かにする感情ですよ。決して悪いものではありませんから大丈夫です」

目を点にしている先輩をよそに、今度は私がいつの間にか京介まで加わっている4人のいる机に、駆けて行った。

 

 

結局その日はそれで終ってしまったけれど、また今度は京介と2人で行きたいな・・・♪

 

 

その後、朝、京介との待ち合わせに向かっていたときに手配したプレゼントを整理して、監督たちと最終確認をして、引退式の電話を皆にかけた。―――もちろん、皆が参加することになった。

 

 

 



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美しき友情

分かりにくいと思いますが、葵ちゃん目線です。


「ただいまより、雷門中学校サッカー部3年生引退式を開会致します!」

楓の美しい声が会場いっぱいに響いて、引退式が始まった。

 

 

引退式・・・といっても、形式はほとんどパーティー。昨日と同じくビュッフェがあったり、スイーツバーがあったり、ドリンクバーもあったり・・・楽しくって面白い思い出に残るパーティーになりそうだった。

そんな中、私はお手洗いに行きたくなった。やばい・・・もう我慢できないかも・・・まるでミミズのようにぐにゃぐにゃする私を見て、楓が気がついてくれたみたいだった。

「葵、もしかして・・・その・・・アレ?」

「/////う、うん・・・その、ごめんけど・・・いい?」

ゆでダコのように真っ赤な私を見て、楓が小さく吹き出した。むぅ・・・と反抗すると、楓は小さな子供をなだめるような口調で話した。

「ご、ごめんなさい。でも、葵・・・可愛いんだもの。だから、許してくれる?」

「もう・・・絶対、相手にしてないでしょ?いいですよー、どうせ私は楓と違って、子供っぽいですよーだっ」

「まぁまぁ、そんなに怒らないでちょうだい?それに、それが葵の魅力よ?あ、そうそう、お手洗いだったわね。付いてきて」

急にしたかったのを思い出したら、またぐにゃぐにゃ・・・となってしまった私。でも、今度は楓に見つからなかったみたい。―――いや、気がつかないふりをしてくれたのかな?

 

 

・・・で、楓について行ったけれど、楓の家ってやっぱり広い・・・!!

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・屋上から1階に下りるだけでも5階から1階まで降りることと同じなんだから、疲れるなぁ~」

息を切らしてゼェゼェ言っている私を横目で見ながら、楓は軽い足取りで美しく歩いている。それはまるで、モデルさんのようだった。

「まぁしょうがないかしらね。別にもう慣れっこよ。そうだわ!お手洗いに行った後、私の部屋に少しだけ来ないかしら?」

えっ?私、そういえば楓の部屋に来たこと、去年1回くらいしかないかも・・・この1年の間に、薄れてしまっているあの豪奢な部屋をもう一度見たくなった私は、その誘いにすぐに乗った。

 

 

お手洗いの後・・・

私と楓は、あの天国のような美しい空間へと足を踏み入れた。

 

 

部屋の内部は、1年前と少しだけ違っていた。

柔らかなベビーピンクと純粋な白と桜のような少し濃いピンクのグラデーションがきれいな天蓋付きベットは、壁のコーナーにはまるように取りつけてあった。ベットのマットレスはふかふかで、上に乗っている掛け布団も様々な形のクッションもふわふわだ。そンなベットの横にはドアがあり、そのさらに奥はウォークインクローゼットになっていた。壁に取り付けてある棚には、ミニサイズの観葉植物や、ビスクドール、テディベアなどのかわいらしいナチュラルな小物が並んでいる。部屋の中心には、コーナー付きの長くてふかふかの草原を思わせる美しい緑色のソファーと、長ソファーとセットだったらしい1人掛けの同じくふかふかの緑色のソファー。その前には、木でできたようなナチュラルなテーブル。テーブルの上には、繊細なレースのテーブルクロスがかけられている。その目の前には、超巨大な映画館のスクリーンのようなはめ込み式のTV。入口の横には、少しだけ個室らしいものがあって、その入り口となっているテーブルクロスと同じ繊細なレースの暖簾をくぐるとそこには、超薄型の最新式のパソコンやタブレットが置いてあった。大きな窓は、まるで物語から飛び出してきたかのようなロマンチックなもので、ピンクとグリーンのグラデーションがきれいなカーテンとレースのカーテンで飾られている。それは、何もかも現実離れしていることだけが、1年前と変わっていないことだった。

「わぁ・・・!!きっれ~っ!!」

思わずあげてしまった声に、楓が優しげに微笑む。そして、2人でソファーに腰掛けて話し始めた。その時、ドアが鳴った。楓は威厳のあるようなでも謙遜するような声で、

「どうぞ、入ってください」

といった。―――楓の部屋に入ってきたのは、30歳くらいの若い男の人だった。楓はその人のことを「料理長」と呼び、その「料理長」さんは、美味しそうな料理をたくさん持ってきた。

「ありがとう、料理長。話がわかるわね」

「ありがとうございます、お嬢さま。しかし、やはり戻られた方がよいのでは・・・?」

「・・・いいのよ。ここでしか話せないことだもの。・・・本当にありがとう」

「はい、では失礼いたします」

そして、その「料理長」さんは部屋を出て行った。その瞬間、私は楓に食らいつく。

 

 

「ねぇ、もう会場に戻らないの?そして、ここでしか話せないことって!?」

 

 

 



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親友は一生もの・・・

私はただひたすら楓を見つめていた。

ここでしか話せないことって・・・?皆には話せないことなの・・・?様々な疑問が私の中を渦巻く中、ふっと楓は天使のような微笑みを見せた。そして、ようやく気がついた。楓の雰囲気、昨日までとはちょっと違う・・・?なんというか、その・・・楓は前から美人だけれど、もっと美人になったというか・・・。

 

 

「楓・・・?」

美しい楓の金髪が、サラサラ・・・と窓から吹いてくる風によって、カーテンとともに揺れる。顔を一瞬赤らめて、楓は急に真面目な顔になって、私を見つめた。

「私は・・・その・・・京介と・・・付き合うことになって・・・ね?」

「ええええ――――!!!!!!」

私の大きな声が、広い部屋に響いた。それと同時に、口に含んでいた紅茶を噴水のごとく楓にぶっかけてしまった。まぁ当然、その紅茶は楓にかかってしまった。

「あわわわわ・・・っ!ごっ、ごめんっ!!」

目を力いっぱいにつぶった私は、ただ驚きの為、力任せに謝った。そんなことは気にしていないかのように楓は、自分の体をハンカチで拭いていた。そして、こういった。

「・・・続きは、お風呂で話そうか?」

「・・・ごめんなさい」

 

 

そして私たちはお風呂場へといった。

猫足のバスタブが4つ並んでいて、端にはサウナ。外には露天風呂や中にも大浴場、ジェットバスなど様々な種類のお風呂があって、私は息をのんだ。そんな中から、私たちは露天風呂を選んで2人で入った。そして、話の続きを始めた。

「ほ、本当にごめん。でも・・・その・・・本当なの?つ、剣城君とつ、付き合ってるって・・・?」

私は楓よりも真っ赤な顔で、その当の本人に質問をする。その本人は、凄みのある整ったすました顔で、こちらを振り向く。その体は、健康的な肌の色で手や足がすらりと伸びている。楓の象徴ともいえる美しい金髪は今は、1つに束ねてお団子にしてある。

「えぇ、本当。それでね、私、気がついたの。私は出会ってからずっと、ずっと、ずっと・・・京介が好きだったんだわ・・・って。幼いころから、気がつけばそばにいてくれた存在だった京介。去年は少し溝があったけれど、やっぱり私にとっては大切な存在だった。そして、今はとっても大切にされたいし・・・とっても大切にしたい」

優しくて美しい春の木漏れ日のような笑みを見せる楓は、幸せに包まれていものそのままだった。あぁ・・・楓と剣城君が分かりあえて、本当に良かった。

そして、楓がこの事を私に話したのは、ほかにも理由があるんだろう。薄々は感づいていた。力のこもった瞳をこちらに向けて、何か企むようなそんな瞳で私を見つめる。そして、予想していた一言を言われた。

 

 

「次は、葵の番よ?」

 

 

顔を真っ赤にする私をよそに、楓はもう自分が終わったからというようなさわやかな顔をしている。そう、私も幼馴染―――天馬のことが好き。一緒にサッカーについて話してたり、勉強してたりするととても楽しい。でも、いざ告白は出来ない。きっと告白されたとしても、素直にはなれない。

「楓・・・私には・・・その・・・やっぱりぃ・・・無理・・・だよぉ・・・ねぇ・・・楓ぇ・・・聞いてるぅ・・・?」

とぎれとぎれに言う私に対して、楓はまだ冷静に言葉を放つ。

「でも、私も素直になったわ。・・・ふふっ、大丈夫よ。京介よりも天馬の方が気は長いわ?だから、絶対に大丈夫よ」

大きな瞳に、少し涙をためた私は、反抗しようと頑張るが・・・

 

 

やはり無駄だった。

 

 

そして、告白の計画を勝手にたてられてしまった。

あぁ、こういうところ、楓の好きなところだなぁ~。楓―――私の美しくて、可愛い大切で大事にしたい・・・親友。いつも、ありがとう。

私、素直になりたいな・・・!

 

 

 



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それぞれの幸せっ!
超!急展開の2人


・・・と、素直になりたい!と思ったはいいが・・・

しばらく・・・いや、かなぁぁぁり時間がかかり・・・その間にもHRI本戦は始まり、それでもまだ素直になれず、とうとう明日はHRI決勝となってしまった。日本代表、真イナズマジャパンは楽々勝ち進んでいった。

 

 

試合形式は、11年前と同じ。AとB、2つのブロックに分かれて勝利数の多い上位2チームが本戦に参加できるというもの。日本代表は、Bブロックだった。

 

 

第一回戦、イギリス代表『ナイツオブクィーン』楓の旧知であるエルシャール・レイトン教授の考えた必殺タクティクスを発揮さたが、6-3で日本の勝利。

第二回戦、コトアール代表『リトルギガント』あの11年前のような大接戦を見せ、3-2で日本の勝利。

第三回戦、アメリカ代表『ユニコーン』マーク監督とディランコーチの陽気な考え方が表れているのびのびとしたチームだった。その為選手1人1人の力が最大限にいかされていて、なかなか手ごわかったが、1-0で日本の勝利。

第四回戦、フランス代表『ローズグリフォン』11年前は当たらなかったチームで、実力は未知数。それが影響し、2-4で初めての敗北。

第5回戦、ドイツ代表『ブロッケンボーグ』フランス戦の悔しさをばねにし、たくさん研究を重ね、練習を重ねた結果、3-1で日本勝利。

 

 

そして、日本代表は本戦への切符も手に入れることができた。

 

 

本戦はトーナメント式。

Aブロックの1位とBブロックの1位が対戦、Aブロックの2位とBブロックの2位が対戦、両方の勝者同士が決勝戦となる。

 

 

イナズマジャパンはBブロックの1位だったため、Aブロックの1位であったブラジル代表『ザ・キングダム』との試合だった。

超超超超・・・超大熱戦の末、1-0で日本の勝利!一方、2位ブロックではイタリア代表『オルフェウス』が勝利して、明日の決勝戦はイタリア対日本になった。

 

 

でも、私が気になるのはやっぱり『自分の気持ち』・・・。

私は天馬が好き。でも、自分から言う勇気はない。でも・・・楓は剣城君と付き合い始めて、あんまり関係とかは前とは変っていないみたいだけど、日に日に美人になっているってわかる。だって親友だから。雰囲気も柔らかくなったし、本当にうらやましい。私も幸せになりたい。

ずっとそんな気持ちが頭の中で渦巻く。私は楓とは反対で、日に日にやつれて行ってしまっている。そして、親友に心配をかけてしまう。あぁ・・・早く頭の中の整理と、自分の決意を固めないと・・・。

「あ、葵?なぜ、私の部屋に・・・っ?」

聞きなれた声がしてはっとした。そこにいたのは私の第二の親友といっても過言ではない友達、未雲だった。未雲にも、心の通った恋人がいる。今日の未雲はいつもと違った。―――髪を、ショートカットにしていたのだ。少し外ハネの赤毛がかわいらしい。頭にはジーンズ素材のリボン付きのカチューシャを付けている。

「未雲・・・!?あ、え?ここ、私の部屋じゃ・・・!?」

「なにいってんの?私の部屋だよぉ?葵、最近大丈夫ぅ?」

不安げな顔で未雲が私を覗いてきた。私は微笑みながら「大丈夫」とだけ言った。そして、ホテルのテラスに出た。

「はぁ・・・未雲の部屋には言っちゃうなんて、私、どうかしてるなぁ・・・」

暗闇でも輝く海を眺めながら、私は1人ため息をついた。ガシッ・・・!私の肩を、誰かが力強くつかんだ。はっ、と振り返るとそこにいたのは、今考えていた本人―――天馬だった。

 

 

「て、天馬っ!」

「葵、何してるの?風邪ひくよ?・・・まぁ、ここは常夏の国なんだけどね、はははっ」

能天気に話しかけてきた天馬に思わずキュン・・・としてしまった自分。そんな自分に私は赤面した。そんな私の気持ちもがかるはずない天馬は、また笑い始める・・・と思ったら、私のことを見つめた。そして発した言葉に、私は目を見開く。

「あ、葵っ!す、す、す、す・・・好きですっ!!」

「はぁっ!?」

びっくりしていること丸だしの声をあげた私を、それでも天馬はまじめにただ見つめ続ける。そして、ようやく気がついた。

天馬は・・・天馬も、私のことが好きだったんだ・・・!

うれし涙を流す私をおどおどしながら天馬が見つめる。「あぁ・・・」とか「えぇ・・・」とか唸っている。私は嗚咽しながら一生懸命に声を発した。

「ち、違うの・・・っ!わ、私もねっ、天馬のことがねっ、好きなんだよっ!」

 

 

今日このときから、私にも大切な人ができました♪

あの時の楓の気持ち、今ならすごくよくわかるよ・・・!そう強く思いながら抱き合う私と天馬を、窓の端からこっそり楓と剣城君が眺めていたのを私たちは知らない。

 

 



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あの日、私は・・・

戻って未雲視点です♪(・・・まぁ、すぐに変わっちゃいますがw)


今日はいよいよ決勝戦当日。皆がコンディションの最終チェックをしている中、楓の姿が見当たらない。今日は試合に出るはずだから、コンディションチェックをしていてもおかしくないのに・・・一体どこに・・・?

そしてようやく見つけた。楓はイタリア側のベンチで、監督であるフィディオ監督と話していた。紅の瞳を輝かせながら、ウキウキしながら話している。

そうだった・・・楓は、フィディオ監督とは旧知なんだった。だから、久々の再会を喜んでいるのだろう。だから、私はそっとしておいた。

 

 

その楓たちは・・・

 

 

私は、久々の再会をただ喜んでいた。

フィディオお兄ちゃんは、最近になっても絵葉書とかを送って来てくれていたから、どんな暮らしをしているのかなどは知っていた。でも、再会は6年ぶり。

「お兄ちゃん、お久しぶりっ!楓です」

「か、楓ぇ!?すごく美人さんになったね。まぁ、6年前から凄みのある顔立ちだったけどさ、予想をはるかに超えてきたよ」

お兄ちゃんの陽気な発言が、はじめっから飛び出してきた。思わず苦笑しながら、私はこの6年間のことを話した。でも主には、中学校に入ってからのことが多かった。

「・・・私は、ゴットエデンで皆が戦っていたのに、牙山の命令―――逆らったら、親友たちの命が危なかった―――によって、皆が危険な地・ゴットエデンスタジアムに入ってゆくのを高い電柱から見ていて、皆が通り過ぎてから、祈ることしかできなかった・・・あの時が、一番つらかった」

今私が話しているのは、1年前のゴットエデンでの戦いの時のこと。

 

 

あのとき、私は天馬たちとも葵たちとも一緒ではなかった。

―――私はただ1人だけ無事に確保され、牙山と一緒にいた。牙山が初めて雷門イレブンと会ったとき私は、大量の車のうちの1台の中にいた。そして、皆がアンリミテッドシャイニングと戦っていた時も、車の中に・・・。でも、後ろには拳銃を構える男たちがいたから、思うように動けなかった。

そしてゼロ戦の前日、私は私だけを無事にして置いた理由を聞かされた。それは、私もゼロに入れ・・・というものだった。当然断った。しかし皆のところへは行くな、行ったら、今なお人質となっている青い髪の女児―――葵の命はない、と言われた。その窮地を脱出するには、私が聖帝のところへ行き、一緒に試合を観戦しておけ・・・つまり、私は絶対に試合には出れないし、いい方向へと進めば、再び私はフィフスセクターに戻ることとなる・・・ということだった。

私は、葵の命が大切だった。だから、皆には悪いと思ったけど、皆がゴットエデンスタジアムに入ってゆくのを止められなかった。ただ、高い電柱のようなものから皆が入ってゆくのを眺めることしかできなかった。皆が通り過ぎた後、私はただ皆の勝利を祈って、聖帝のいる部屋へと1人で向かった。

しばらくは聖帝の横で試合を見ていた。何も言わなかったし、何も言われなかった。しばらくしたころ、聖帝がふっと口を開いて私に言った。

「山吹。我が美しきしもべよ」

「私は、もうあなたのしもべではない。イシドシュウジ」

凄い形相で、私は聖帝―――イシドシュウジをにらみつけた。しかし、イシドシュウジは動揺さえもしない。そして、ふっと笑って牙山に電話をした。

それからしばらくして、牙山がピッチへと出た。私はイシドシュウジをにらみつけた。そして叫んだ。

「あなたは、こんなことをして、何がしたいんですかっ!?あなたが本当に取り戻したかったサッカーは、こんなものなんですか!?聖帝・イシドシュウジ・・・いや、ご」

『豪炎寺修也さん』―――そう言いかけようとして、イシドシュウジ―――豪炎寺さんに口を押さえられた。その顔をサングラス越しにのぞく。そこにあったのは、辛い顔をする1人の男性だった。思わず私は退く。

ふっ、と笑った豪炎寺さんは、私に向かってこう言った。

「君は、最初から俺に心から仕えてはいなかった。なぜなら、それは君の本当の主人は、鬼道だったからだ。しかし、私はそれでも・・・それがわかっていても君を使った。―――私の本当の目的を調べてもらうスパイとして。なぜだかわかるか?それは、鬼道と同じだ。・・・私も楓、お前を信頼していたのだ」

私は目を見開く。そして、一粒の涙があふれてきた。その顔をまた吊り上げて、そして優しい表情になって私は豪炎寺さんに言った。

「私も心のどこかであなたを信頼していたのかもしれません。じゃないと、あんなことはできませんでした。ですが、あなたのやっていることは間違っています。お願いです、千宮路大悟のいいなりになる、操り人形にはならないでください」

そういうのが精いっぱいだった。そして、また豪炎寺さんはつぶやく。

「みてみろ、楓、今の試合を。ゼロはもう負けている。丸で、今の俺とお前のようだ。すまない、本当にすまない。この大人たちがいる状況はただす。本来のゼロ対雷門の試合に戻す。だから楓、お前ももう戻っていい」

私は微笑んで、

「ありがとうございます」

といった。そして、皆の元へといった。

 

 

そのことを話し終えたとき、フィディオお兄ちゃんの瞳はうるんでいた。

 

 

そして、私は自国のベンチへと戻った。

そう、いよいよ世界の頂上が決まるのだ・・・!

 

 

 




ゴットエデンの回想は、勝手に書いてみたかっただけですww


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最終決戦っ!

「試合開始でございます!」

わぁぁぁぁぁ・・・!スタジアム中、いや、世界のサッカーファン、いや、世界中が熱狂した瞬間だった。そう、世界一を決める試合が始まったのだった。日本の対戦相手は、イタリア代表『オルフェウス』。監督は、円堂監督の友達であるフィディオ・アルデナさん。

 

 

試合は、日本のボールで始まった。

始まって早々、オルフェウスのキャプテン・マグル・ローズが化身アームドをした。輝くその化身の名は『天の才能・アルキメデス』なんて名前。実は、彼は出身はギリシャらしい。

「うおぉぉぉぉ!!!『ステンドスター』」

怪しげにしかし美しく輝くボールが、信助君の守るゴールに向かう。天馬君が、何かを信助君に叫ぶ。天馬も剣城君も楓も神童先輩も・・・皆の気持ちが、一筋の光となって信助君に届く。

「任せてっ!『護星神タイタニアス』、アームドっ!!おぉぉぉぉぉ!!『マジン・ザ・ハンド』!!」

しゅるるるるる・・・見事に、信助君はボールをキャッチした。そう、そうでなくっちゃ!世界一を決める試合は・・・!

 

 

 

ボールが再びピッチ内をあっちやこっちに動きまわる。

化身アームドを使いこなしたり、様々な必殺技、チームの団結力を表す必殺タクティクス・・・中々『1点』が取れなかった。輝く汗を散らし、試合がヒートアップしてきたころに前半戦が終了した。

 

 

「みっなさぁん!お疲れ様ぁ!!」

「頑張ってくださいねぇ~!」

私と葵の大きな明るい声が、日本ベンチに響く。しばらくして落ち着いたころ、私は緑のところへといった。葵は天馬君のところへとかけて行った。私は、緑と一緒に楓と剣城君のところへといった。

「お疲れ様ぁ。頑張ってるなぁ、すごいよぉ~」

すっかり感心してしまった私を笑いながら、楓が思いもよらないことを言い始めた。

「そうそう、天馬と葵も付き合い始めたのよ?」

しばしの沈黙。・・・悲鳴を上げたのは、私と緑だった。どうやら、剣城君は知っていたらしい。

「ほ、ホントっ!?そっかそっか・・・ようやくひっ付けたんだなぁ・・・よかったなぁ・・・」

「うんうんっ!よしっ!僕たちもガンバローっ!!」

気合が入りなおしたころに、後半戦が始まった。

 

 

ピピぃ―――っ!!

後半戦―――ラストステージが始まった。

 

 

始まって早々から、白熱した試合だった。

ボールが取られては取り返す、技が出たら技で対抗する・・・全世界がかたずをのんでピッチを、テレビ画面を眺める。

試合に急展開が訪れたのは、ラスト5分になってからだった。

『スリーステップスパーク』が、今大会初めて使われたのだ。そして、光のように早く天馬君、剣城君、神童先輩が前に移動、神々しい友情のあかし『魔帝グリフォン』が現れた。『スリーステップスパーク』のボールが、3人の『ソード・オブ・ファイア』によってさらに強い力となった。その最大威力のボールが、イタリアのゴールに向かう。ゴールキーパーは目を見開いて、そしてすぐにすばやく移動する。しかし、日本代表の強い意志の詰まったボールはゴールに突き刺さる。

 

 

そして・・・

ピッピ―――っ!!!

 

 

世界中が、沈黙に包まれる。そして・・・

 

 

「わぁぁぁぁぁ!!!」

「イナズマ!ジャパンっ!!」

大きすぎる歓声に包まれる。そう、日本代表『真イナズマジャパン』は、世界の頂点についに立ったのだった・・・!!

 

 

この後、日本代表のメンバーたちは、私たちマネージャーたちも含め、様々なお祝いをしてもらった。皆が、ただ喜んだ。

 

 

―――それから、メンバーたちはどうなったのだろうか。

 

 

 



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天馬×葵のその後・・・

私たちは、ともに雷門高校に進み、交際も順調に進んでいた。別の高校へといった親友―――楓とも会うことがよくあって、毎日が楽しかった。

 

 

そして高校も卒業し、私たちは内部進学で雷門大学に進学した。

 

 

そして、19歳のとあるある日。

私達は今、レストランでディナー中。久々の外食を2人で楽しんでいるつもりでけど、天馬の表情は暗い。いや、何か思いつめたような顔をしている。

 

 

それがなんなのかがわかったのは、デザートを食べている時だった。

さらにそわそわし始めた天馬を横目で見ながら、デザートのケーキを一口口に含んだ。しゃり・・・何かが舌に触れた。あわてて口から出してみると、それは指輪だった。

「天馬、これ・・・って・・・?」

「そ、そうだよ、葵。お、俺と、結婚してくださいっ!!」

「!!」

そう、それは『天馬からのプロポーズ』だった。

見る見るうちに私の瞳には、うれし涙があふれてくる。その光景を見ている天馬が、またおどおどし始めた。―――私たちが付き合い始めた時も、こんな感じだったな・・・。

「あ、葵・・・?」

不安が隠し切れていない声で、私の名前を震えながら呼ぶ。私はそんな天馬が可愛くて、ふっと微笑んだ。そして、天馬に抱きつく。

「天馬ぁ・・・こ、こんな私で良かったら・・・お願いしますっ!!」

「ほ、本当っ!?」

「はいっ!」

その途端、周りからパチパチパチ・・・という盛大な拍手が起こった。私たちは、2人して顔を赤らめて頭を下げた。そして、鉄塔広場へと直行した。

 

 

「天馬・・・私、天馬のお嫁さんになってもいいの・・・?」

「いいに決まってるじゃんか!なってくれないといやだよ?」

美しい夜景を2人で眺めながら、私たちは初めてここで名前を教え合ったんだな・・・ということを思い出していた。

「ねぇ、私たちって最初はサッカーだけでつながっていたのかな?」

「そうだね。そういえば、ここ・・・だったよね」

「うん・・・」

あの日、天馬があの公園でサッカーをしていなかったら・・・私があの公園を通らなかったら・・・私たちは出会うことがなかったんだろうか。同じ小学校だったからであっていたかもしれないけど、こんな仲良くはなれなかっただろう。きっとこれが『運命』ってやつだ、と私は心の中で思っていた。

 

 

私の青春の全ての始まりをたどれば、天馬につながる。

私の青春は、サッカー一色だった。でも、そのサッカーと出会ったのも天馬と出会ったから。そして、サッカーと出会えたから、信助、剣城君、神童先輩、錦先輩、霧野先輩、狩屋君、緑君、未雲、ちかちゃん・・・などの雷門中学校サッカー部のみんなとは出会えなかった。そして、大切な仲間であって、私以上に私のことを知っている一生の『心友(しんゆう)』の楓とも出会えた。

私が素直になろう・・・と決断したのも、楓の一言があったからだった。

きっと結婚すれば会う機会は少なくなる―――それが、結果離れ離れになったとしても、何年たっても、ずっと変わらないこと。それは、私と楓が『心友(ベストフレンド)』だということ。―――大好きだよ、ずっと大好きだよ。

 

 

「ねぇ、葵?」

「ん?何ぃ?」

天馬が、少し不安げな声を漏らした。

「俺は、剣城のことを親友・・・心友だと思ってるんだけど、剣城はどうだと思ってるのかな・・・。きっと結婚すれば、しばらくは会う機会も減ると思うんだけど、剣城はさみしいと思うのかな・・・俺は、もちろんさみしいけどさ・・・」

天馬のその言葉に、私は驚いた。―――だって、天馬と私が考えていたことは、ほとんど同じことだったから。私は嬉しくなって、ふふっと笑った。

「何がおかしいの?」

むっとした様子で天馬が聞いてきた。私は優しい表情をしながら答えた。

「だって、私も楓のことで、天馬と全く同じことを考えていたんだもん。本当に、びっくりしたぁ~っ。大丈夫、剣城君は天馬の親友だし、きっとさみしいと思ってくれるはず。あ、でも、心友の幸せを祝ってくれるかもなぁ。だって、あの楓の彼氏だもん」

それを聞くと、天馬も驚いたようだった。そして、

「そうだね」

といって、笑った。

 

 

私と天馬、楓と剣城君・・・これから先も、ずっといい仲間でいたいな・・・!

 

 

「あれっ?あれって・・・」

天馬が急にどこかを指差した。その方向を見ると、そこにいたのは・・・

 

 

深刻そうな表情をした楓と剣城君だった。

 

 

 



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楓×京介のその後・・・

私は京介と今、鉄塔広場にいる。

理由はよくわからないけど、京介は深刻そうな顔をしている。

 

 

私と京介は、名門・稲妻高校に通っていた。まぁ、私は高校2年生の時、フィディオお兄さんの誘いでイタリアに1年間くらい留学をしていた。でも、私たちの交際は順調だった。

ラスト1年間は私も日本で過ごして、稲妻高校を卒業した。そして、そのまま市立稲妻大学へ。心友の葵ともずっと仲良くなれて、毎日が順調だった。

でも今から1週間くらい前に、そんな生活が一転した。そのことは、京介も海外にいるお母さんも、お兄さんも知らない。私本人しか知らないとても重大なことだった。

そのことも伝えたくて、私は京介の誘いにも乗った。

 

 

ふっと急に京介が口を開いた。

私はこぶしを握り締めて、ただただ京介の顔を見つめた。そして、京介が言った言葉は、予想もしていないことだった。

「楓、名字を変えるつもりはないか?」

私は驚いて、思ったことを口にした。

「何、私の名前をまた変えるの?影山楓から光山楓、そして山吹楓から何に変わるのよ?」

京介は、ポカンとした表情をした。そして、しばらくして苦笑し始めたが、だんだんそれが大笑いへと変わっていった。

「な、何よぉ?」

「い、いやぁ・・・相変わらず天然だよな、楓。俺が言ったのはな、山吹楓を剣城楓に変えるつもりはないか?ってことだよ・・・//////」

今度は私はポカンとする。そして、ようやく理解できたその言葉の意味。―――剣城京介と結婚してください、に、私は驚く。きっと本来なら、泣いて喜んで、「はい、私でよければ・・・っ」とか言うのだろう。でも、今の私にはそんなことは言えない。重大な秘密があるからだ。

「えっと・・・きょ、京介・・・その・・・すごくうれしいけど・・・でも・・・私は・・・あの・・・」

私は涙目になりながら、京介に訴える。その返事―――NO―――だと分かってくれた京介は、私の考えもしなかったことを言う。

「そうか、すまないな・・・俺はお前の夫にはふさわしくないんだな・・・」

「違うっ!でもねっ・・・!」

私は必死で反論する。でも、そう聞こえてしまったとしても仕方がない。だって、今結婚すれば、京介の負担はものすごく多くなる。私の心の中の葛藤を知らない京介は、私に背を向けて立ち去ろうとする。

「待って、京介ぇ!」

「もうこれ以上、えぐらないでくれ!」

私は、ただ誤解してほしくなかった。それだけで、あの重大な秘密をばらしてしまった。

「違うのっ!私は京介が大好きっ!出来ることなら一緒になりたい!でも・・・」

京介もこちらを向いて、真剣なまなざしで私を見つめる。そして、私はとうとう言ってしまった。

「・・・私、子供ができたみたいなの・・・だから、今結婚すれは京介の負担が大きくなってしまう・・・まだ19歳だし、未来は真っ白だもの・・・私は、京介に有意義な人生を過ごしてほしい・・・っ!」

これ以上ないと言わんばかりに驚いた京介が、私を見降ろす。私は、自分のお腹を押さえてぎゅう・・・っと目をつぶる。―――そう、私には京介との子供ができていたのだ。私だって、ずっと悩んだ。この子を下ろせば、京介と一緒になれる。でも、この子はとても愛しい・・・。究極の選択だった。

その時、京介は私の頭をなでた。ぽろり・・・私の瞳から、涙が流れる。京介は、優しい顔をしてこっちを見つめる。そして、思ってもみなかったことを言った。

「なんだ、そういうことか・・・なぁ、自分の子供を愛しくないと思う男が、この世にいると思うか?少なくとも、俺は違う。もし楓たちと別れて、どんなに有意義な人生を過ごせたとしても、俺は一生幸せにはなれない。だったら、どんなにつらい道でも楓と我が子と一緒に生きる道を選ぶ。楓、お前には『俺と子供と一緒に生きる』という選択肢はなかったのか?俺は、楓がどんなことを言っても、一緒に生きる」

ポロポロ・・・と、今までこらえていた涙があふれてきて、私は大泣きをした。こんなに泣いたのは初めてだった。そして、分かった―――あぁ、これが『幸せ』なんだな・・・。

嗚咽しながら、私は言った。

「京介っ、私とっ・・・この子とっ、一緒にっ、生きてっ、くれるのっ?」

すると京介は、私の惚れた笑顔で言った。

「当たり前だ。昔言っただろ?『もう少しと言わず、ずっと一緒にいてやるよ。お前が死ぬまでな』って」

私はあの日のことを思い出した。―――あぁ、あの言葉はそういう意味だったんだ。今、ようやく理解できた。そして、私たちは強く、でも優しく抱き合った。

 

 

・・・と、そばで誰かの泣く声が聞こえた。その方向を向いてみると・・・

「あ、葵っ!?い、いつから聞いて・・・」

―――私の心友の葵がいた。そばには天馬がいて、2人の手には指輪がはめられている―――左手の薬指に。

「楓っ、幸せな家庭を築いてねっ!そして、これからもよろしくねっ!」

「葵・・・えぇ、もちろんよ!あなたたちも、幸せな家庭を築いてね!」

そして、私たちは強く抱き合った。すると京介が、

「子供がいるんだけど」

と言ったら、葵は優しく抱きしめてくれた。―――大好きだよ、ずっと大好きだよ、心友(ベストフレンド)。

 

 

それから、さらに時はたって、私は元気な子供を産んだ。―――名前は、剣城剣聖(つるぎけんせい)。私たちの愛しい愛しい命。

そして、葵と天馬にも『愛しい命』ができた。

 

 

―――そこからさらに、私たちはたくさんの人たちと再会を果たす。

 

 

 



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「子」から「親」へ・・・

時がたつこと、私たちの中学校卒業から8年後・・・。

 

 

私達には剣聖に続き、1年後に長女、みかを出産した。

一方葵たちは、剣聖と同い年の健大(けんた)くんと、今1歳の優(ゆう)ちゃんを産んだ。

少し前まで、私は精神的不安定な状況だった。でも、今はとても幸せ。そして、色々な人とも再会を果たした。そしてみかを出産後、私は自らの意思で『山吹財閥』を継いで、山吹財閥の総帥となった

 

 

まずは、円堂監督、豪炎寺コーチ、鬼道コーチ(お兄さん)と、それぞれの奥さん。豪炎寺さんは春奈さんと、お兄さんは冬花さんと結婚をして、円堂家には5歳の娘、夏帆(かほ)ちゃんが、豪炎寺家と鬼道家には4歳の息子がそれぞれ生まれた。豪炎寺家は浩(こう)くん、鬼道家は暖(ひなた)くんという名前だ。

 

 

次は神童先輩と茜さん。この2人は、神童先輩が稲妻高校、茜さんが雷門高校と違う高校に進んだが、神童先輩が霧野先輩の手助けもあり、自分の気持ちに気がついて、茜さんに告白をした。神童先輩は、私たち稲妻高校サッカー部のキャプテンでもあった。

そして、今から4年前に奏(かなで)君という長男が生まれたのをきっかけに結婚。その1年後、桃(もも)ちゃんも生まれた。そして昨年、神童財閥の総帥となった。

 

 

それと同じころに再会したのは、錦先輩と水鳥さん。中学時代から付き合っていた2人は、なんと2人して中学卒業と同時にイギリスへと留学。つい1年ほど前に帰ってきたらしいけれど、その間に2人は結婚、ただ今4歳の息子、響(きょう)くんと1歳の娘、龍菜(りゅうな)ちゃんにも恵まれた。

錦夫婦と再会した時、その2人がもらってきた手紙に、書いてあった電話番号に電話をすると、その先には・・・

 

 

―――未雲と緑がいた。

未雲は、中学卒業と同時にお父様の事情でやっぱりイギリスへと転勤になってしまったのだった。しかし、それになんと緑もついて行ったのだった。

そして未雲は、自分の実母の不倫相手は実は、エドガーお兄さんのお父様だったという衝撃の事実と、未雲の異父妹はあのベスちゃんだったということを教えてくれた。

未雲は、最初はベスちゃんが憎かったけど、今ではベスちゃんが大好きらしい。そして、緑とも結婚。ただ今2歳の娘、杏(あん)ちゃんも生まれたらしい。

今は家族3人で幸せに暮らしているらしい。

 

 

最後は霧野先輩とちかちゃん。

2人はともに稲妻高校へと進学し、ちかちゃん20歳、霧野先輩22歳のときに娘をもうけた。

名前は蘭愛(らあ)ちゃん。おてんばでかわいい女の子らしい。

霧野先輩は、親ばからしい。

 

 

・・・私は、今日ちかちゃんと葵と会う。

8年前は『友達』だった私たちも、現在は『ママ友』なんだ。

 

 

「あっ!楓さんっ!」

「おっそ~い、楓!」

待ち合わせの場所へ行くと、もう2人は来ていた。

葵は美しい藍色の髪がすっかりロングとなり、そのロングヘアーを無防備に垂らしている。

一方のちかちゃんは、ロングだった髪を一気にショートにして、美しい黒髪を揺らしている。

私はというと、セミロングの金髪を斜め横で結っている。

―――そして、3人とも子供を連れている。

 

 

子供たち計5人をキッズパークのようなところに預けて、私たちはお茶をした。

 

 

「最近はどう?」

「もう、蘭愛が言うこと聞いてくれなくって・・・しんどいんですぅ~」

ちかちゃんは私の質問に、ぐったりした様子で答える。そんな姿を見ながら葵は、微笑んだ。

「私は幸せかな~。天馬も、剣城君と仲良くできてすっごく嬉しいって!」

「天馬と京介、仲がいいものね」

優しげな笑みを見せた葵に対して、私も笑みを見せた。それに続くかのようにちかちゃんが

「蘭丸くんも、神童さんと仲いいですもんっ!すっごく、嬉しそうです!」

と嬉しそうに言う。そして、3人で見つめ合ってふふっ、と笑った。

 

 

―――同時間、イギリスの首都、ロンドン―――

 

 

「あっ、杏っ!ベスお姉さんからまた何かもらったの?」

「うんっ!ベスお姉ちゃんがね、クッキーくれたの!・・・ママもほしいの?」

この地では珍しい日本語が、とある家から聞こえてきた。

 

 

 



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それぞれの『最高の幸せ』!(終)

「あっ、杏っ!ベスお姉さんからまた何かもらったの?」

「うんっ!ベスお姉ちゃんがね、クッキーくれたの!・・・ママもほしいの?」

 

 

イギリスの首都ロンドンのとある一角から、この地では珍しい日本語が聞こえてきた。その家の名前は『龍田』―――。

 

 

「ママにもくれるの?」

私は少し期待のこもった瞳で、目の前にいる女の子―――娘の杏を見つめた。しかし杏は、無邪気に微笑んで、そのまま手に持っていたクッキーを口に含んで、全て食べてしまった。

「あっ、ごめんね、ママぁ。食べちゃったよぉ。でも、またいつかあげるからね?」

娘は、きらきらと輝く瞳をこちらに向けて、また無邪気に言った。その瞳の色は、私―――未雲にも夫―――緑も持っていない瞳の色―――私の友達、楓と同じ紅だった。髪の色は私の別の友達、葵と同じ藍色で、でも、全体の雰囲気はどことなく夫であり、この子の父親である緑と似ている。

私の大好きなこの3人のいいとこどりをしたこの娘は、私のとても愛しい娘。そして・・・

 

 

「ただいまぁ、杏~、未雲~」

「あっ!パパぁ~!おかえり~!」

 

 

もう1人の愛しい人、緑も帰ってきた。

私たちは3人で、この家に3年前から住んでいる。近くには異父妹のベスちゃんとその旦那さんであるデイビットさんが住んでいる。親戚同士、私たちはとても仲が良い。

「ほらほらぁ、未雲、腰掛けて?」

「あ、うん、分ってるけど・・・」

「ママ、ポンポンがどうかしたの?」

ポンポン・・・そう言われて、私は自分の腹に目を落とす。

そこには、新たな愛しい命があった。この子ができてから、緑は過保護になったし、杏も2歳なのに手伝えることはよく手伝ってくれる。近くに住んでいるワトソン夫妻(ベスちゃんとデイビットさんのこと)も、よく手伝いに来てくれる。

私はそんな日々を過ごして、日々幸せを実感している。

 

 

夕食も食べ終わり、今は自分の部屋にいる。

 

 

「一人で何をしようかな・・・暇だなぁ・・・」

本を読もうか、音楽を聞こうか・・・色々考えたけれど、いい案は浮かんでこなかった。しかし、途中で突然いい案が浮かんできた。

「そうだっ!楓たちに電話しよっ!」

そう思いついた途端、私は受話器を取った。

 

 

プルルルルルル・・・・

 

 

―――同時刻、日本のとあるカフェにて―――

 

 

「あら、電話・・・未雲っ!?」

私は突然の出来事に、とにかく驚いた。そして、急いで携帯に出る。

「もしもし、未雲っ?」

「楓ぇ~!久しぶりっ!!」

それは紛れもなく、あの未雲―――金田、いや龍田未雲のものだった。

「どうしたの?急に」

「いやね、私最初に言っとくとぉ、第2子を妊娠したの。・・・で、緑が過保護になりすぎちゃって今は、自分の部屋待機・・・ってところなんだ」

私たち3人は、友人のおめでたい話に顔をほころばせて、3人でそろって

「「「おめでとうっ!!」」」

といった。案の定未雲は、驚いたようにしばらく黙りこくった。そして、つぶやいた。

「え・・・あ、葵?ちかちゃん?」

私はさすが、と感心しながら

「正解よ。今、一緒にいるの」

といった。

 

 

それからは、4人でいろいろ話をした。子育て、それぞれの夫のこと・・・幸せな時を4人で過ごした。

別れ際(電話を切るとき)、未雲はこうつぶやいた。

「私たちって、すっごくサッカーに愛されてたんだね。そして、すっごく幸せだね!」

「・・・そうね」

「・・・うん、そうだよね!」

「・・・はいっ!」

 

 

雷門中学校サッカー部だった皆は、それぞれの運命共同体(パートナー)のところへと戻って行った。そう、私たちはそれぞれの『最高の幸せ』を皆でつかめたのだ。―――色々なことがあった。別れなくてはいけないこともあった。でも、全てを乗り越えた私たちだからこそ、『最高の幸せ』がつかめたのだ・・・!

 

 

雷門中・・・雷門中学校サッカー部、私たちに『最高の幸せ』をくれてありがとう!

 

 

 




祝!『ボールがくれた出会い』完結ですっ!

今まで読んで下さった方々、ありがとうございました!


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