GSG‐9、作戦行動に移…らない。 (御簾)
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GSG‐9、異世界へ?

持病の悪化と急激な忙しさ。
忙しさに押し潰された作者の心に光を灯したのは…


『もうすぐ部隊と合流だ。気を引き締めろ。』

 

各国の特殊部隊から引き抜かれた精鋭達によって構成された対テロ部隊、レインボー。

ドイツのGSG‐9も4人が招集を受けた。

そして、そのレインボー部隊に合流する為、ヘリで移動している時の事だ。

 

『…?計器が正常に作動してない…?』

 

ヘリの計器が異常を示す。

突然高度が下がったのだ。

そして、ヘリの機内にアラートが鳴り響いた。

 

『どうした!』

『…!……』

『おい!返事をしろ!』

 

男が覗き込んだ操縦席には誰も座っていなかった。

このままでは墜落する。

そう思い、操縦席に滑り込む。

彼の名はイェーガー。

GSG‐9の一員にして、元ヘリパイロットの男だ。

 

『俺が操縦する!』

 

なんとか高度を持ち直し、鳴り響くアラートの中、仲間に向けて通信する。

アラートの原因はエンジンの不調だ。

 

『おい!IQ!バンディット!ブリッツ!乗ってるな!』

『居るわよちゃんと!』

『あぁ。』

『乗ってるよ!ついでに言うならこのクソッタレた霧を抜けてくれないか!』

 

いつしかヘリは霧の中を飛行していた。

周りに何も見えない程の濃霧だ。

イェーガーは一時的に着陸する事を皆に伝え、徐々に高度を下げていく。念の為にパラシュートパックを背負わせる。いつエンジンから火を噴いて墜落してもおかしくないからだ。

高度計が400メートルを示した所で霧が晴れた。

晴れた視界に広がっていたのは機械の残骸。

苔むした物から煙を上げている物まで…見渡す限りの惨劇だ。

 

『なんだこりゃ!?おいイェーガー!操縦出来てんのかこれ!』

『出来てるよ!でなきゃ墜ちてるだろ!』

『なら、なんで紛争地域に迷い込んでる!』

『知らないわよブリッツ!黙って周りを警戒して!ミサイルでも飛んできたら…』

『全員まとめて火だるまだけは勘弁してくれ。』

『おい!あれ!』

 

ブリッツと呼ばれた男が示したのはヘリ右後方。

地上からこちらを狙う自走砲。

背筋を冷たいものが伝う感触と共にイェーガーは叫んでいた。

 

『全員飛べッ!』

 

全員がヘリから飛び出した瞬間、ヘリが爆散した。

爆風で揉みくちゃにされながら各自パラシュートを開く。

 

『全員見えるな!あの廃屋付近に各自着陸しろ!直ぐに合流だ!』

『『『了解!』』』

 

各々がパラシュートを操り降下していく。

着陸した後、廃屋に身を隠す。

 

「なんとか無事か…」

「でも武器も何も持ってないわよ?」

「俺の盾ならあるぞ。」

「なんで持ってんだよ!」

「大事だからな。俺の盾。」

「それが本体だろブリッツ?」

「喧しいわ黙れバンディット!」

 

ぎゃあぎゃあと喚くブリッツに静かに反撃するバンディット。

そんな2人を眺めつつ、IQはイェーガーに作戦を尋ねる。

 

「どうしようもない。護身用の拳銃も無いから…」

「あるのはブリッツの盾、私のスキャナーだけよ。」

「何とかするしか無いな。見た感じ武器も落ちてそうだ。探してくる。」

 

そして戻ってきたイェーガーが持っていたのは…

 

「…HK416?私のAUGとか、バンディットのMP7は?」

「いやいや、俺のじゃない!そこに倒れていた女性が渡してくれたんだ!」

 

イェーガーが示す先には腹部に赤い染みを作った銀髪の女性が座っていた。

 

「ちょ、イェーガー!手当てぐらいは…」

「…俺にこれを渡してから、眠っちまったよ。」

 

思わず黙り込んだIQの横を通り、イェーガーは廃屋から出る。

恐らく彼女に合わせてカスタムされたであろう416を持って3人を先導する…前に、416をIQに渡した。

 

「なんで私に?あなたの方が使い慣れているんしゃない?」

「俺はこいつを連れていく。」

 

イェーガーが背負ったのは銀髪の女性だ。

まだ息があるらしく、背負われた時に少し身動きをする。

 

「急ぐぞ。いつまで保つか分からん。早く手当てをしてやろう。」

 

盾を持つブリッツが先頭に立ち、その後ろをイェーガー、バンディット、IQと進んでいく。

手馴れた動きで廃屋外の荒地を進んでいくと、彼らはとある部隊に遭遇する。

 

「あなた達一体どこから!?ここは戦場ですわ!早く逃げて!」

 

手にAUGを抱えた女性が走り寄ってきた。

少し離れた所にはハンドガンを持った少女が居た。

迫ってくる兵に顔を歪ませながらハンドガンを連射している。

どうやら戦場に駆り出された女性らしい。

そう判断したIQは416をイェーガーに放り投げてAUGを奪い取る。

 

「それを言うのはこっち側よ!どうしてあなた達みたいなのが戦場に居るの!」

 

言うより早くAUGを撃つ。

敵兵士の頭に次々と風穴を空けていく。

 

「IQ!退くぞ!敵も退いてる!今がチャンスだ!」

 

イェーガーの声で我に返り、IQは周辺を見回す。

敵は散発的に発砲しながら後退している。腹いせに1発鉛玉をぶち込んでIQとブリッツを殿として彼らは撤退する。

全員で戦域より離脱し、回収のヘリに乗った時、4人は無言になっていた。

 

◇◇

 

基地に戻ったヘリから降りて、銀髪の女性を基地のスタッフ、整備班に預けた後。

彼らは先程のAUGを持っていた女性に先導され、司令室へ向かっていた。

 

「君達が416を助けてくれたのか?本当に感謝するよ。」

 

持っている武器全てを没収され、この基地の指揮官と面会したGSG~9のメンバー達。

貼り付けたような笑顔を向ける指揮官を見ながら彼らは周りを観察し続けていた。

表面上は清潔に保たれているが、染み付いた血の跡を隠し切れていない。

そんな視線を知ってか知らずか、指揮官は下卑た笑いを浮かべながら話し続ける。

 

「ああ、コレ(・・)ですか?巷では戦術人形と呼ばれる、アンドロイドのような物でして。私達人間の代わりに戦場に立って戦ってくれるんですよ。」

 

指揮官の話から彼らは1つの結論に至る。

『ここは自分達の知っている戦場ではない』と。

年端もいかない少女を前線に立たせるほど彼らの戦場は腐っていない。

だんだんと苛立ちを募らせていくバンディット、ブリッツ、そしてIQ。

彼らのそんな様子にも気付かず、指揮官は更に続ける。

彼の人形に対する扱いの酷さが垣間見える話になってきた。

今が2061年になっている事を彼らが知った瞬間、指揮官が凶行に及ぶ。

自分の横に立つ人形の腕を持って折ったのだ。

 

「人形ですから幾らでも代えは利きます。私の言う通りになる”人形"ですよ。」

 

更に千切る。

腕をもがれた人形は痛みに悶絶し、床に倒れ込む。

血溜まりに沈む人形を容赦なく踏みつけ、指揮官は続ける。

 

「立て人形。…申し訳ない。教育が行き届いていないようで。しかしご覧下さい。やはり内部はアンドロイドですから…」

 

手に持った腕から血液を撒き散らしながら指揮官は笑う。

しかし、既に3人は限界だった。

彼らは特殊部隊だ。

一瞬のうちにバンディットが指揮官を殴りつけていた。

すぐさまブリッツが指揮官にCQC。

倒れかける指揮官へIQが追撃のパンチング。

ふらつく指揮官へ、またバンディットの拳が唸る。

それから、指揮官はただのサンドバッグにされ続けていた。

イェーガーは彼らに交わらず、血に塗れる人形を抱えて司令室を飛び出していた。

走る先は整備棟。

駆け込んできたイェーガーを見て整備班の面々が顔を見合わせるが、抱えた人形を見て顔色を変えた。

 

また(・・)か!」

 

奥からの声に整備員が応える。

 

また(・・)です!」

 

その声に怪訝さを抱きながら彼らに人形を預ける。

1人の整備員がイェーガーに近付く。

 

「あの…もしかして彼女は指揮官に…?」

「ああ。いきなりすぎて止められなかった。すまない…」

「いえ、こちらこそ。助けてくださってありがとうございます…指揮官は?」

 

尋ねられたイェーガーは少し笑って返す。

 

「今頃、俺の仲間がサンドバッグにしてるよ。」

 

◇◇

 

その後のことを簡単に記す。

指揮官は顔の原型を留めないほどに殴られ続けた。

上層部から直接派遣された人員によって指揮官は連行された。

私達3人はお咎めを受けるどころか、むしろやって来た人形に感謝された。どうやらあのクズ、人形の扱いに関して、以前から問題を起こし続けてきたらしく、その度に莫大な金で揉み消していたそうだ。その金もまた、人形を売春の道具として使うという人間の風上にも置けない行為で荒稼ぎした物だとか。まぁ今回の件で社会的に始末されるらしいが。

その間、イェーガーは整備棟から帰って来なかった。むしろ私が呼ばれている。

どういう事だ。

…やはり三人称で記録するのは難しいな。

次からはしっかりと私目線で記録しよう。

ああそれと。

あのクズに関してだが、私が殴りすぎたせいで腕が折れていたらしい。

自業自得だ。

 

P.S.

私はあのクズから人形を解放した訳では無い。

私は私の良心に従っただけなのだ。




選ばれたのは、ドルフロでした。
そんな訳でガバガバでも許してくださいなんでm…


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416、ジャムる。

お久しぶりです。胃腸炎って辛いですよね。



前任指揮官を基地から叩き出したその日の夜、イェーガーは一人司令室に立っていた。

窓の外に映るのは最低限の灯りを残して静まったこの基地、R06基地。

彼は装備を全て脱ぎ、最低限の服装で窓から外を見つめる。

 

(本当に、違う世界なんだな。)

 

一人になる前、GSG-9の面子で閲覧したデータベースからも、裏付けは取れた。確かにドイツは存在する。しかし、その機能は自分達の知るドイツとは比べ物にならないほど衰退していた。

第三次世界大戦の発生など、自分達の生きた時代ではありえなかった事ではないが、核の多用はここまで地球をズタボロにするのか。

四人は声を失った。

そうして一人、また一人と司令室を去り、残ったのはイェーガーの一人だけだった。

 

「…そりゃ、皆ショックだよな。」

『ショックなのはこっちなんだけど?なんでウチの人形が娼婦みたいな扱い受けてたんだか。』

 

突然通信が入る。

卓上の通信機からはいつか聞いた女の声がした。

 

「あんたは?」

『I.O.P.の16Lab主任、ペルシカ。まあ人形達の開発とかしてる。』

「そんなお偉いさんが、俺にどんなご用で?」

『ああ、君に伝言だ。…自分で言えば良いのに。』

「伝言?」

『えーと、君を臨時指揮官として任命するんだって。本部が。』

「な、なんで俺が?」

『さあ?私にも分からない。あー待って、なになに…うん。古参だからだって。』

「おい本部!」

『じゃ。話す事話したし。後は報告書見てね。』

「あ、おい待て!娼婦って…」

 

一連の通信が終わった時、いつしか外では酷い雨が降っていた。

ペルシカの気まぐれ具合に振り回され、さらに報告書に目を通して少し疲れたイェーガーが時計を見ると、日付が変わる瞬間だった。

 

「…416、か。」

 

その時、ざあざあと鳴り響く雨の音に混じり、司令室にノックの音が響く。

 

「誰だ?」

 

ゆっくりと開く扉の向こう側に立っていたのは416。その表情は少し優れない。まるで、何かに怯えているような…

ただならない雰囲気を感じたイェーガーが416を中に入れ、ソファに座らせる。

素顔の彼を見て、416は少し驚いた表情をする。そうか、初対面は装備越しだったな、と思い返しながら、イェーガーは彼女を見つめる。

なかなか口を開かない彼女を見て、イェーガーが話し始める。

 

「どうした?気分が優れないのか?もしかして、まだ傷が…」

「…いえ。違います。修復は終わってて…ただ…前の指揮官の時はこの時間にシテたので(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)…」

 

その意味をイェーガーが理解するまで時間は必要なかった。

ようやく解放されたのに、同じことを目の前の男にもするのかと、またあんな思いをするのかと、小刻みに震える416を静かに見つめるイェーガー。

全人形へ向けられていた所業を一身に受け続けた416は、その恥辱に塗れた日々を思い出し、俯き、目尻に涙を浮かべた。

 

「416…だったか、少し目を瞑ってろ。いいな?」

 

言われたまま416は目を固く閉じる。いつしか震えは激しくなり、彼女は歯を鳴らしながら涙を流していた。

しかし、彼女が感じたのは胸や尻を掴まれる乱暴さではなく、身体を包まれる暖かさだった。

気付けば彼女は、イェーガーに抱きしめられていた。

 

「…そんなことをする必要は無い。もうお前にとっての地獄は過ぎた。少なくとも、俺達がここに居る間はそんな事させない。」

 

言いながら背中をさするイェーガーの腕の中で、416は縮こまって頷いた。

上辺だけでは無い、心からの言葉なのだと、彼女は感じたのだ。

 

「何があったか、なんて事は聞かん。」

 

優しさに満ちた彼の言葉に、416の中で何かが崩れそうになる。

 

「報告書にあったさ。…よく耐えたな。」

 

限界だった。

嗚咽を漏らしながら、その目から大粒の涙を流して416は泣いた。

その細い体を、イェーガーは抱きしめ続けた。彼女が疲れて眠ってしまうまで…

 

 

 

 

______________

 

 

 

 

 

翌朝。

割り当てられた部屋から出て、司令室にやって来たIQ達が見たのは、ソファで抱き合いながら眠る二人の姿だった。…正確には、416が眠ったイェーガーに抱きついているだけなのだが。

扉を開け、ブリッツとIQがフリーズした瞬間、バンディットが声を絞り出す。

 

「イッ…イェーガーお前…」

 

その後、GSG-9の隊員に正座させられて説教されているイェーガーが見つかった。

その間も416はイェーガーの腕の中から眠ったまま、離れようとしなかったとか。

 

<昼過ぎ>

 

「…なあ、いい加減、離れないか?416…ちょっと飯が食べづらい…」

「嫌よ。私、あなたの側に居続けるって決めたもの。」

 

食堂で、イェーガーからくっついて離れようとしない416が目撃された。

些かイェーガーとの距離が近い以外は本来の416の性格に戻り、仲間達がほっと胸を撫で下ろしたその瞬間。

 

「だから…私を一人にはしないでね?でないと私…寂しくて寂しくて堪らなくなっちゃうから…」

 

スタッフや人形関係なく、時が一瞬凍りついたように感じるレベルの衝撃が食堂中を走り抜けた。

まだイェーガーと出会って二日目にも関わらず、あの(・・)416が!頰を赤く染めて上目遣いでイェーガーを見つめたのだ。それも、冷静沈着ないつもの声ですら無い、年相応の…恋する少女のような声で。

食堂の至る所で混乱が起こる。

 

「…あの416が?ウッソでしょ…?」

「45姉!コーヒー溢れてる!…もう、仕方ないんだから…」

「9、それハンカチじゃなくて報告書。」

 

「…信じられません信じられません信じられませんシンジラレマセン…」

「ああっ!?FAMASが壊れた!?だ、誰か!」

 

416の性格を知るものは、手にした物を落としたり、思考ルーチンがエラーを吐いたり。

知らないものでも、そのデレっぷりに暫しフリーズし、GSG-9の三人でさえも奇行に走り出した。

バンディットは無言でパンをパン屑へと変貌させ、IQは見えないにも関わらずスペクターで自分の頭をスキャンし始め、ブリッツに至っては前後左右に高速で頭を降り続けている。

いつしか食堂には、足を踏み入れただけで空気酔いするレベルのピンク色の空気が充満していた。

 

「…なんだ、周りが騒がしいな…むぐっ」

「ダメよ。私が食べさせるの。」

 

当の本人は気付かず食事を続けていたのだが。




このくらいデレてくれても良いのよ416ちゃん…
評価を頂きました。凄く…嬉しいです。こんな拙作を評価して頂けるとは…
ちなみに、今作では私の基地に在籍する人形が登場します。こんな人形出して!的な要望があれば、なるべく反映させていきたい…んですが、キャラ描写など不十分になる可能性があります。申し訳ありません。
報告書風のアレは何だったんだい?前回の私よ…
感想、評価などなど、お待ちしています。(豆腐メンタルですが…)


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閃光のガーディアン

え?また評価をいただいている?…そんなまっsウッソでしょ!?


416のデレリミッターがいい感じに吹き飛んだ次の日。

街に隣接するR06基地は、ある対応に追われていた。

 

『人形達を許すなー!』

『人間に人間らしい生活をー!』

 

人類人権団体である。

自分達の職を人形が奪っている、人形は人形らしく道具として扱うべきである、エトセトラ、エトセトラ…人形に対する不満をぶつけたい人間の集まりだ、とも、正しい世界を作ろうとしている者達だ、とも言われているが、結局のところ何かと武力に任せて解決するので国によってはテロリスト指定されていたりする。

とにかく、そんな彼らであるが、抗議運動を起こしているのだ。R06基地の入り口前で。

イェーガーが416から聞いた話によると、前任指揮官は親人類人権団体派だったらしく、彼らと友好的な関係(・・・・・・)を築いており、前任が居た間は彼らの活動も沈静化していたらしい。…それも、昨日までの話だが。

事の発端は、定期会合の為の連絡係が我が物顔で基地に入り、手近に歩いていた人形に指揮官への取り次ぎを求めた事だ。しかし、その手段がマズかった。

その人形を蹴りつけたのだ。

イェーガーの臨時指揮官着任により、人類人権団体との関わりが絶たれたと思っていた人形は、突然の事に驚き、座り込みながらも連絡係の要求を拒否した。

それに逆上した連絡係が人形を殴り付けようとした瞬間、連絡係は突然目の前が真っ白になり、次の瞬間には殴られる感覚と浮遊感、地面に叩きつけられる衝撃が一気に彼を襲う。

 

「…へ?」

 

頭を抱えてしゃがみこんだ人形は、そこに男を見た。

 

「テメェ、なんて事しやがる!」

 

視界がクリアになり、立ち上がった連絡係も、そこに男を見た。

 

「それはこちらのセリフだぜ、兄ちゃんよ…機密満載の基地に我が物顔で入り込んで、女の子を蹴り付けて、今度は逆ギレかい?おいおい!なんてジョークだ!吐き気がするぜ!人類人権団体ってのはこんなのしかいねえのか!」

 

連絡係に大股で近寄った男は、彼の顔に己の顔を寄せ、背筋が凍らんばかりの眼光と地獄の底から響くような低音で言った。

 

「今度同じ事してみろ。テメェを不能にした上で(コーラップス)にブチ込んでやる。」

 

その後、逃げ帰った連絡係がどうしたのかは、現在の状況を見れば分かるのだが。

 

「すまんなイェーガー。少しばかり頭に来ちまったもんでよ。」

『いや、次からはもっとやれ。恐らくこういう手の輩は何をされたとしても反省しないだろうしな。』

 

イェーガーと通信しながらも、男…ブリッツはゲートを睨み続けている。人類人権団体も、彼の後ろに控える人形達は元より、ブリッツを警戒してか、ゲートの中に雪崩れ込んでくる事はしていない。まあほぼ全ての人形がゲート内に入ってすぐの場所に居るのだから、迂闊に入れないのが実情だ。その間に人形達はブリッツの指示に従って有刺鉄線を設置して行く。

 

「しかし…ざっと100人位か?よくこんな人数集めたな。」

「この街にはもっといますよ。非武装の構成員だけで最低500人は居るかもしれないです。」

「おいおい、非武装でそれかよ…よく何も起きてねえな今まで…」

 

ブリッツが話すのはGr USPコンパクト。連絡係に殴られそうになってから、ブリッツが側を離れない。

本人曰く、『犯人は必ず戻ってくる』。その言葉の意味を理解できた者は居なかった。

 

「何をぼさっとして居る!さっさと行け!奴らに我々を撃つことは出来んのだからな!」

「…ほら来た。」

 

ブリッツがニヤリと笑う。

彼の視線の先には、先ほど彼が殴り飛ばした連絡係が部下を怒鳴りつけた光景があった。

その声に反応してか、構成員達が自分達の武器を構え始める。

 

「おいおいまずいぜイェーガー。そろそろ来るぞ。」

『やっぱりか。一つしかできていないんだが…』

 

イェーガーがゲート前に走って来るのと同時に、構成員達が銃を構える。その種類はバラバラだが、訓練され慣れた動きで照準を合わせる。

 

「試作品、間に合わせだが使えるはずだ!416にも手伝ってもらった!」

 

イェーガーがゲート前の死角に設置するのはアクティブディフェンスシステム、通称ADSだ。

ある一定の範囲に入った投擲物を自動迎撃する優れもので、いくつあっても困る事はないだろう。

IQ、バンディットも合流し、GSG-9が勢揃いした所に、連絡係の怒号が響く。

 

「スモーク!」

「視界を奪ってサーモセンサーで確認しつつ突入か。まあ素人目にしちゃ良くできてるんじゃないか?」

「まあ壊せばいいでしょ?見えなきゃ何も出来ないんだから。その後はバンディットに任せるわよ。」

 

IQが腕を軽く振ると備え付けられた小さな機械が目を覚ます。

電子機器をスキャンするデバイスだ。彼女が腕をかざせば、構成員の構えた銃に装備されているサーモセンサーが表示される。この世界に来てからこのデバイスは少し改良され、探知範囲を拡張されている。あっという間にほとんど全てのセンサーの在り処が丸裸にされた。

彼女が合図すれば、彼女のデバイスと同期しつつ控えていた人形達が狙撃を開始。敵の『目』を確実に砕く。訓練され、構えに一分の乱れすらない構成員達は、その銃を隠すよりも先にその『目』を潰されていく。

慌てて後退しようとするが、既にスモークは投げられてしまった。構成員達には前に進む事という選択肢しか残されていない。この作戦には人類人権団体の威信が賭けられている。後退などありえないのだ。

故に彼らは愚直に進む。その頭上高くをスモークグレネードが飛んでいく。が…

 

「残念。その軌道なら、十分だ。」

 

ゴーグルの下で笑みを浮かべるイェーガー。

一つずつ、順番に空中で炸裂していく。それも突然に、だ。

これがADSの真価。味方に被害が及ぶ前に投擲物を無効化し、安全を確保する。

予想よりも高い位置で炸裂したスモークグレネードだったが、それでもいくつかは一つしかないADSを潜り抜け、その煙は地上に撒き散らされる。

 

「バンディット!」

「任せろ。」

 

今にも突破されんとするゲート前には、複数の有刺鉄線が散らしてあった。

遂にゲート内に数人が入り後続が有刺鉄線を踏んだその時、バンディットが腰を屈めて何かを有刺鉄線の端に接続する。

その瞬間、有刺鉄線に触れた者が悲鳴を上げて倒れこむ。有刺鉄線は紫電を散らして次々と哀れな犠牲者達を沈めていく。

彼が行った事は非常に簡単で、『高圧電流を鉄線に流した』だけである。

単純故に強力。ADSの隣、やはりゲート外からは死角になる位置にショックワイヤーを設置し、構成員達に気付かれないようにしていた。そのため、

 

「なんだ!?あがぁ!?」

「おいどうし…ぎゃあ!」

「しびびびびびびび」

 

運よくゲート内に入れた者達以外はスモークの煙による視界不良と高圧電流に苦しむ事となった。

しかし、人類人権団体も阿呆の集まりではない。すぐさまEMPグレネードを投げ込む。ADSが迎撃するが、爆発に巻き込まれてその機能をショックワイヤー諸共停止させる。

 

「スモーーーーク!!!」

 

追加のスモークグレネードが炸裂し、ゲート内の一帯は煙に包まれる。

 

「側に居ろよお嬢ちゃん!」

「はっ、はいぃ!」

 

USPコンパクトがブリッツにぴったりと寄り添い、ブリッツは辺りを警戒し続ける。

煙だらけで何も見えないが、聴覚からの情報のみを頼りに人形達が暴徒鎮圧用ゴム弾で構成員達を沈めているのだ。さすが人形、といったところか。

 

『残りは撤退するらしい。こっちにいる奴らを捕縛するぞ。』

 

イェーガーの声に安堵するUSPコンパクトとは対照的に、ブリッツは未だ煙の晴れない周囲を静かに警戒し続ける。

その瞬間を、USPは忘れない。

後ろから突然現れた連絡係の銃弾を、ブリッツは見向きもせずに盾で防いだのだ。

潰れた鉛玉が落ちる音と共にブリッツが連絡係へと向きを変える。その動きは緩慢であり、連絡係はダメージを与えたという確信を持ってブリッツへと突撃する。

 

「死ね!人形を擁護する人類の敵め!幾多もの人形を屠ったこの私の裁きを受けろ!!そしてその人形も、私の輝かしい経歴の一つとしてやる!」

「なん、だと…?」

 

閃光、閃光、また閃光。

 

「な、なんだ!」

「お前さん、今、人形を何人も殺したみたいな事、言ったな?」

 

閃光。

衝撃。

 

「あ、あああああ!腕が!私の腕が!」

「喧しい!」

 

衝撃。

 

「なん…で…この…」

「もう喋るな。クズめ。」

 

煙が晴れた時、そこには気絶した連絡係と座り込んだUSP、そしてブリッツがUSPを守る騎士のように仁王立ちしていた。

倒れ伏してもなお、怒りに歪んだ顔を上げブリッツを睨む連絡係に向かって彼は盾を構えた。

 

「テメエは俺を、怒らせたのさ。」

 

そして、閃光。




というわけでブリッツさんのお話。
なぜ人形達が人間を撃てたのか?そんなもんイェーガーが許可したに決まってるでしょ(白目)

感想、評価お待ちしています。


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416の奇妙な1日 その1

今回の416ちゃんは…ふはは

2020年1月20日 追記:タイトルを変更


午前7時、起床。

人形用にあつらえられた、寮とは名ばかりの収容所の中の狭苦しい一室が416の居室だ。

最低限、一人につき一室が与えられているものの、その広さなどたかが知れている。

ベッドを置こうものならば部屋の半分強が占領されてしまうのだ。

そのため、殆どの人形が仕方なくスペースの確保が容易な布団を敷いている。64式自などは喜んでいたそうだが。

無論部屋に洗面所など存在せず、洗面所、風呂に関しては大人数で利用可能なものが二箇所存在するだけである。しかし、人形の数はそう多くない。…多く所属していた時はあったものの、新たに赴任してきた前任指揮官の指揮下で何人もの人形が戦死していったからだ。

少ない人形達の中でも416は比較的朝は早い部類に入る。夜間哨戒組が風呂に入る中、テキパキと朝の雑事を済ませ、とある人物の下へ向かう。

静かにノックし、扉を開けると中からは寝息が聞こえてくる。

 

「起きて。朝よ。」

「…ああ、416か。おはよう。」

 

布団の横に座り、体を揺すれば程なくして彼は目覚める。

このR06基地の臨時司令官…コードネーム、イェーガーである。

特殊部隊員として鍛えられた彼の朝は本来早いはずなのだが、このところの一連の出来事に疲れ果てていた。

そのため、見かねた416が彼のモーニングコールを担当している…

 

「とりあえず着替えるから外に「嫌よ。」…ええ…」

 

のだが、いかんせん416のイェーガーに対する依存具合が尋常ではなく、片時もイェーガーから離れようとしない。おはようからおやすみまでイェーガーにべったりだ。部屋が別になっているため、夜は会えないのが416目下の悩みである。

さらに、着替えの時でさえも一緒にいようとする為、イェーガーからしてみればたまったものではない。

 

「いや、頼む…」

 

イェーガーの必死のお願いに渋々頷いて部屋の外に出てから約2分。

 

「すまん、待たせた。」

「ええ。1分53秒待ったわ。」

「細かっ!?」

「いいえ。2分と言ったのに7秒も縮めるなんて、そんなに私を思ってくれていたのね?」

「あー、いや、そのー、なんだ…うん…」

「さすが指揮官ね♪…そんなところも含めて大好きよ。」

 

朝から胸焼けしそうな空気を(416が)周囲に振りまきながら二人は食堂へ足を進める。すれ違う人形の何人かが砂糖を口に突っ込まれたような顔をしていたのは、また別の話。

 

 

午前7時30分、朝食。

 

 

「はい、指揮官。あーん。」

「え?」

「食べて。ほら。あーーーん!」

 

桃色オーラを(416が)周りに垂れ流し、周囲の人間のブラックコーヒーすらも砂糖入りへと変貌させんばかりの熱烈な『あーん』をイェーガーに迫る。

最近は作戦行動も無く、ヘルメットなどを脱いだ身軽な姿でいるGSG-9だが、イェーガーはその身軽さが仇となり、416からのアピールに対する赤面を衆目の下に晒している。

抵抗すると416が涙目になるため、仕方なし、と覚悟を決めたイェーガーが口を開くと、416がスプーンを彼の口に差し込む。

相変わらず不味い飯だ、と彼は思う。そう、不味いのだ。決定的に。初めて食べた時、唯一感想を述べたIQの感想は、

 

『消しゴムに電解液ぶっかけてオイルで煮たらこうなるのかしら。』

 

だった。

それからの食堂の課題は、『いかにしてこの不味い飯を改善するか』となり、スプリングフィールドを筆頭とした料理班が血眼になって農産を推し進めている。

そちらの進捗は兎も角、最も大きな課題は…生活環境の改善だった。戦術人形とはいえ彼女達は女性である。彼女達をあんな収容所に押し込めてはいられない!とIQが強く主張し、IQ主導で寮の新設が行われている。

しかし、この基地の予算を見てみればその残高はすっからかん、基地としての最低限の機能を維持する資金以外の全てを人類人権団体に横流しし続けた結果がこの有様だ。

GSG-9の四人だけでなく、その時偶然繋がっていた通信機越しのヘリアンという女性すらも言葉を失っていた。

 

「…どうしようkむぐっ」

「あーーーーーーん♪」

 

とりあえず今はこのクソ不味い飯を処理してしまおうと思い、イェーガーは416に全てを委ねたのだった。

 

 

午前8時30分。

 

 

「で、指揮官はどうしてこんな工房に?」

「ああ、俺のガジェットを作ってしまおうと思ってな。」

 

人類人権団体の襲撃から早3日。イェーガーは執務(と言ってもほとんど何もせずに座っているだけ)の合間を縫って自身のガジェット、「マグパイ」を開発しようと試行錯誤し続けていた。そのため、研究棟に篭ったまま夜まで出てこない日も有り、416が泣き出してしまう『イェーガーレス』になって手が付けられない状態になった事もある。

それからは、416もイェーガーの付き添いで研究棟に出入りする事が増えた。

 

そして、遂にその時が訪れた。

 

「誰もが無理だと言った…」

 

男が、試射用のグレネードランチャーから少し離れた所に、そのデバイスを設置する。

 

「これは戦車向けだと言われた…」

 

設置した後は、グレネードランチャーに背を向け、ゆっくりと歩き出す。

設置されたデバイスは、カシャカシャと忙しなくその目標を探し続ける。

 

「小型化も精度向上も無理だと言われた…」

 

背に向けられるのは『実弾の』グレネード。

無機質な装填音が鳴る。

 

射撃。

 

 

「だが違った。」

 

 

グレネードは直撃どころか爆発すらしないまま地に落ちる。

カラン、と音を立てたのはグレネードだったモノ。

 

「416。完成だ。」

 

彼は、この世界でも作り上げた。

間に合わせで作り上げた急造の試作品ではない。

 

「でも、まだ射撃プログラムが…!」

 

更に複数のグレネードランチャーが彼に照準を合わせる。

無慈悲な装填音。

 

「問題無い。」

 

多方面から飛んできたグレネードは、全て同時に一つのデバイスによって(・・・・・・・・・・・・・・・・)破壊される。

 

「こいつは、俺とお前の最高傑作だからな。」

 

進歩した技術による多面同時迎撃システムや、EMP攻撃に対する強固な耐性の構築。

そして、途中から開発に携わった416からのアイデアと彼女のサポート。

更にイェーガーの熱意が合わさった、文字通り"二人の最高傑作“。

『マグパイMk-Ⅱ』の完成である。

 

「指揮官と、私の…」

「ああ。お前と俺の二人で作り上げたんだ。」

 

この時、イェーガーは416の気持ちに気付けなかった。

 

貴方と(・・・)私の…二人の、共同作業…?」

「ああ。初めての、な。」

「…二人の…はうっ…(ブシャッ)」

「416!?鼻血が!?どうした!やっぱり疲れが溜まってて…!」

「ああ…そんな抱え方されたら…私…もう…らめ、かも…しあわせ、いっぱい…あふん…」

「416!?416!!気をしっかり持つんだ!今医務室に連れていくからな!」

「しゅき…」

「416ーーー!!!」

 

気付くのは、まだ先のようだ。




いや、ここまでするつもりは無かったんです。でもね?気付いたら416が尊みで爆発してたんですよ。
ちなみに進化したADSの仕組みは作者は考えてません。
未来のトンデモ技術力の結晶なんだなー、とかそういう感じで。


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416の奇妙な1日 その2

今回は短め。


正午、食堂。

 

赤い顔をしてもじもじする416と、そんな彼女を心配し、手ずから昼食を食べさせるイェーガーという、朝とは逆の立場になったR06基地(ほぼ)公認カップルが目撃される。

なお、この事態は極めて異常であり、その証拠として、この光景を発見したAUGが半日の間、上の空で行動していた事が挙げられる。

 

 

午後3時、寮前

 

 

「良い?期限は1週間よ。その間に、この収容所を取り壊してから再建までを行うわ。幸い、そこまで人数は多くないから材料さえあれば何とかなるの。分かった?」

「流石に厳しいのでは…」

「厳しいとかじゃないの。『やる』のよ。」

 

寮の前ではIQ主導の下、1週間で寮を新説する工事が始まろうとしていた。

 

「既に業者とはバンディットが話を付けてるわ。後は貴女達の意地の見せ所ね。」

 

資材を買う資金すらも満足に存在しないR06基地だが、バンディットの熱心な交渉によってギリギリ寮が一棟建設できるだけの資材は集まった。

 

「いや、でもこれ…木材ですよね?」

「そうよ。木造建築。」

 

集まったのは木材。

人手を雇う余裕など無い為、人形達が寮を新設する事になっているが、この基地に所属する人形は20人ほど。そう難しい話ではない。

現在の収容所を取り壊した跡地に建設する予定であり、水道、ガスなどを新規に敷設する必要は無いからだ。

 

「とりあえずPPsh呼んできたよ。」

「呼ばれて飛び出てPPshです!」

「じゃあ始めるわ。さっさと済ませてしまいましょう。」

「え?設計図とかは?」

「これ。私が書いたから。ほら!見たらさっさと動く!時間が無いのよ!」

 

IQの書いた設計図を見た人形達が忙しなく動き始める。

既存の収容所は取り壊す予定なのだが…

 

「はい点火。」

 

IQは容赦なく爆破した。

絶え間なく上がる爆炎と吹き付ける暴風の中、IQは仁王立ちして集まった人形達に背中を向け続ける。

 

「これは、貴女達の過去の営みの証でもある。壊してしまうのは少し残念ね。もう少し期間があれば改装で良かったのだけれど。」

 

人形達が見た彼女の背中は、大きく見えた。

 

「瓦礫の撤去は流石に重機が要るわね。…なにボサっとしてるの!働く!スプリングフィールド達の食糧が完成してもあの非常食食べさせるわよ!」

 

言われた人形達はそそくさと立ち上がり、PPshの操る重機の手伝いを始める。

 

新しい寮が完成するまで、あと一週間。

 

 

_____________

 

 

 

 

午後6時。

 

 

イェーガーからの指示でバンディットはR06地区へ繰り出していた。装備も何も付けていない、ラフな格好だ。

スパイとしてのキャリアもあるバンディットは、初めて街に出た時、すぐさまその構造を把握していた。

 

(この街、基地を中心に発展していたのか。)

 

基地の正面側、ゲート前に広がる繁華街から始まり、郊外の住宅街と、なかなかに発展したR06地区だが、基地の裏手にも街は広がっていた。一足踏み入れた瞬間に異質と分かる街並み、全くと言っていいほど感じられない人の気配。

朽ち果てた木造建築の家屋や錆び付いたシャッターの広がる商店街。

生き物が存在しない死の街。

活気に満ち溢れた繁華街。

その二面性を抱えた居住区が、R06地区だ。

繁華街の住民から『廃棄区画』と呼ばれる地域にバンディットは足を踏み入れる。

その目的は、『人類人権団体の拠点を発見する』事だ。

繁華街に存在するならば話は簡単だった。

しかし、前回の襲撃の生き残りは繁華街ではなく、廃棄区画へと逃げ帰ったのだ。

そこから、廃棄区画に何かがあると見たイェーガーは、バンディットに単独での捜索を要請した。

 

(とは言っても…本当に誰か居るのか?気配すら感じないが…)

 

その時、基地との通信が途切れていた事にバンディットは気付いていなかった。

廃棄区画を彷徨うバンディットに気付くこと無く、数人の人間が建物の陰から現れる。

 

「首尾は?」

「上々だ。」

 

話は、少し前に遡る――




ううむ…なかなか体調が安定しない…このままでは執筆に影響が…


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416の奇妙な1日 その3

お久しぶりですー。
腹痛に悩まされる毎日ですな。


午後3時。

 

特にする事もなく、イェーガーは司令室でのんびりしていた。

 

「バンディットは街に行ってるし、IQは寮建ててるし、ブリッツは…何してるんだろうか。まぁ、争いが無いのは良いことだ。うん。」

「そうね。私も指揮官の膝でぬくぬくできているのだし。」

 

その声に驚いて膝を見れば、自身の頭をイェーガーの膝の上に乗せて彼の顔を見詰めている416がいた。自分が全く気付かなかった事に416の技量を見た。後にイェーガーはそう語る。

 

「いくら俺がのんびりしてるからって、もうちょっと緊張感をだな…敵がいつ来るか分からないんだぞ?」

「いつもピリピリしてたら気疲れしちゃうし、いざって時は指揮官に守ってもらうからいいもの。…ね?」

 

正直、その上目遣いは反則だと思う。

 

「ね、って…あ、そうだ。俺達も武器を用意しとかないと…いざって時の為に。」

 

自分の言葉をまるっと返された416は少し不満そうに頬を膨らませる。

少し見とれたイェーガーは、頭を振って思考を整理する。

 

「あー、416?武器庫とか、あるか?出来れば案内して欲しい。俺達の武器は墜落しちまって全部パーなんだ。」

「仕方ないわね。後で膝の上に座らせてくれるならいいわよ。」

「良いのか!?ありがとう!じゃ、早速行こう!」

 

予想外の反応に少し驚きながら416は武器庫へとイェーガーを案内する。膝の上に座る件を彼が否定しなかった事で、彼女のテンションは爆上がりしていたのだが、イェーガーにそれが分かる筈も無かった。

416がイェーガーと(一方的に)腕を組んでやってきた武器庫には、万が一人形達が武器を損失した時の予備武装が存在している。

 

「416に…おぉっ、これはボルトアクション式じゃないか!」

「だって、予備武装だからね。ライフル持ってる人形だって沢山居たのよ。」

 

武器庫に潜り込んでいくようなイェーガーに着いて行く416は、イェーガーがくるりと回って戻ってくるのを見た。

 

「どうしたの?」

「ああ。色々あるけど、結局俺は…」

 

最初に反応した銃の下へ向かう。

 

「こいつかな。」

 

その手に持つのは416。目の前に立つ少女の持つ武装。

 

「それでいいの?」

「ああ。最高の相棒みたいなもんだからな。」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

声にならない歓声を上げて416がイェーガーに抱きつく。彼女は、イェーガーの胸に頬を擦り寄せながら満面の笑みを浮かべて彼の耳元で囁く。

 

「やっぱり私は貴方が大好き。愛しているわ、指揮官。」

「えっ?早くない?」

「好きになるのに時間なんて関係無いのよ!」

 

武器庫の前を通りかかった、あるSMG人形は後にこう語る。

 

『もしかしたら、あれは416の皮を被った偽物なのかもね〜。416があんな…うっ、考えただけで胸焼けしてきた。』

 

暫くして、若干疲れ気味のイェーガーと満面の笑みを浮かべてハートを飛ばしている416が武器庫から出てきた。イェーガーは、本来の性格から変わり果てた彼女を見て呆れ気味に頭を掻くだけだった。

 

 

__________________

 

 

 

「…まぁ、確かに言ったけどさ。」

 

416との約束を守って、彼女を膝の上に乗せたイェーガーは、若い女の子特有の甘い匂いに包まれている。

一度UMP9が司令室に来たが、彼らの様子を見るとすぐさま踵を返して帰っていった。イェーガーは気まずそうに、416は少しドヤ顔で9を見送った。その後、9は食堂で不味いコーヒーをブラックで飲んでいたそうだ。

 

『あー、聞こえるかね、R06基地指揮官。私だ。ヘリアンだ。』

「あ、ああ。こちら指揮官代理のイェーガーだ。急にどうした?…緊急の連絡か。」

 

苦虫を噛み潰したような顔で通信を繋げてきた相手は、只事ではないと佇まいを正したイェーガーの言葉に頷きながら続ける。

 

『手短に言おう。I.O.P.の新型戦術人形を輸送する車両が人類人権団体の襲撃に遭ってしまい、現在消息を絶っている。貴君らにはその救出と保護を依頼したい。どうやら、奴らの拠点はR06地区のようでな。』

「なるほど、新型の人形、ですか。…了解しました。早速準備に取り掛かります。」

『ああ。頼む。』

 

イェーガーが通信を切ろうとした時、膝の上の416をヘリアンが羨ましそうに見詰めていたのに気付いた者は居なかった。

 

 

_______________

 

 

 

午後5時30分。

 

R06地区で消息を絶った新型戦術人形の捜索の為、バンディットが緊急通信で廃棄区画へ向かった。

それと時を同じくして、救出の為のチームが編成される。

隊長をブリッツとし、IQ、イェーガー、416の四人だ。

無論、GSG-9の三人は人質救出のスペシャリストであり、イェーガーにベッタリな416は仕方無しにイェーガー自身が許可した。

また、現地では通信が妨害されていると予測されている為、通信の中継ドローンを飛ばす。その操作役は人形を代表してPPsh。

基地の防御を人形達に任せる形になるが、まとめ役は9と45が請け負っている。

 

「さて、どうするか…バンディットと通信が繋がらない今、彼からの情報は頼りに出来ないから…」

「目星はある。」

 

やって来たのはT-5000。

人類人権団体へ『奉仕活動』をさせられていた経歴がある。勿論、前任の指示で、だ。GSG-9が着任したその日に帰還したが、精神的な苦痛が残っているのは誰の目にも明らかで、前線に立つのは当分先になるだろう、とIQが語っていた。

 

「大丈夫なのか?」

「前線に出るわけじゃないからな。」

 

T-5000は精一杯の強がりとして、陰の残る笑みを浮かべた。

 

「目星って、思い当たる場所があるのかい?」

 

ブリッツが努めて優しく促すと、彼女は少し身震いしてから頷く。

彼女が語ったのは、廃棄区画内のとある建物。

そこは、嘗てI.O.P.が研究施設として用い、発展した今は打ち捨てられた廃屋と化している建物だ。

幸い、基地から極端に離れている訳では無い。十分に徒歩圏内だ。

 

「そうか。」

 

語り終えたT-5000は、嫌な思い出があるのか少し震えていた。

ブリッツが目配せして、9が連れていく。

 

「そういえば、IQ。寮を建設している間は皆どこに寝泊まりしてるんだ?」

「え?司令棟の多目的室。」

「…風呂とかは?」

「司令棟。」

「もうそれ司令棟だけで良くない?」

 

 

《間》

 

 

「…で、今から件の建物へ行くわけですが。」

「今すぐに。早く。」

 

イェーガーが取り纏めようと頑張るが、IQが急かして止まない。

ブリッツがIQを宥めている間にイェーガーが『ある物』を取り出す。

それは、元の世界で使われていた物だ。

 

「先にこのドローンで建物内の偵察を行う。…武器庫で見つけたんだ。どうやら、俺達の端末で遠隔操作出来るらしい。各自接続しておけ。416は…」

 

416が掲げた端末を見て、イェーガーが頷く。

 

「同じように頼む。…時間との勝負だ。一気に叩く。一気に救出する。必要最低限の人員のみ排除だ。殲滅するよりも先に救出作戦を完遂させる。」

 

彼と、彼を見詰めるGSG-9の目はいつになく真剣そのものだった。

幾多もの修羅場を潜り抜けた彼らこそ、この場では誰よりも『強かった』。人間と人形の差ではない。経験から来る、差。

各自、装備をチェックする。

皆、頷きを一つ。

 

「良いな?よし。GSG-9…と民間協力者一名。これよりグリフィン新型戦術人形の救出作戦を、開始する!」

 

今まで開かなかった、裏側のゲートが軋みながら開いていく。




気力が…持たない…
あ、あれは!まさか41ろk…


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416の奇妙な1日 その4

お久しぶりです。
休み無し、時間無し、体力なしの三拍子揃った地獄の日々から解放されました。


午後6時。

 

バンディットが廃棄区画を彷徨っている間、ブリッツ率いる『救出部隊』が旧I.O.P.研究施設に向けて進行中であった。

 

「…まだ捕まったって決まったわけじゃないんだろ?救出部隊なんて大層な名前付けなくても…」

「いや、あの辺りは人類人権団体の巣窟だっていう情報はあったんだよ。そこに、新型戦術人形が転がり込んで来たら…どうなるだろうな。」

 

常に最悪を想定して動くべきだ。万が一、その人形が拿捕されていた場合、人類人権団体がどんな事をするか分からないのだから。

それは、人形を『機械』として扱う彼らだからこそ、自分達に想像もつかないような残虐行為を行える可能性があるのだと、暗にイェーガーはブリッツに応える。

ヘリアンから送られたデータにあったのは、新型戦術人形の簡単なスペック、そして個体名。

その名は、『MP7』。

 

「バンディットがいれば、確実に突撃していただろうな…」

 

彼の使用する武器を想起しつつ、イェーガーは額を抑える。

ははは、と笑って視界の端に光る物を察知したブリッツがそちらを見ると、路地裏には人の影があった。慌てて駆け寄ろうとするブリッツだが、向き直ってすぐ顔を背けた。

そこに転がっていたのは、人形だったモノ(・・・・・・・)の残骸だ。

光った物は、身に付けたボロ布の隙間から露出したフレームだった。

そのボロ布の下にどんな惨状が広がっているのか、少し想像してしまったIQは、物言わぬ鉄屑と化した人形達に視線を向けて、悲しそうな顔をする。

 

「人の都合で作られて、最後はゴミのように扱われて死ぬ、か…」

 

イェーガーは技術者だが、その前に人間だ。

人形達にもっと良い待遇をしてやらねばなるまい、と彼は決意する。

自分の基地からあんな顔をした人形を出してはならない。

惨めな格好で逃げ続けて、人に絶望し切った、虚ろな目をしながら死んでいく人形を。

それでも一行は進む。

途中、同じような人形を何人か見つけ、その数が両手の指では足りなくなったところで416がしゃがみこんだ。

 

「…少し、待って。」

「…分かった。この先の事で、ブリッツと話しておく。IQ、任せる。」

 

男二人が去っていくと、416は嘔吐した。

見るも無残に手足を引きちぎられた人形、腹に大きな穴を空けた人形、エトセトラ、エトセトラ…

イェーガーに依存する事で、辛うじてバランスを保っていた416の精神が悲鳴を上げるのも、時間の問題だった。

そんな416の隣にIQがしゃがみ込む。

416が落ち着いたのを見計らって、彼女はボトルに入った水を渡す。

 

「…ありがとう。」

 

少し青い顔を上げた416は、IQの顔が凄まじい事になっているのに気付いた。

それは、怒りや悔しさ、あらゆる負の感情が入り交じった顔。

 

「貴女、顔、見たら?凄いことになってるわよ。」

「…ありがとう。416。でもね。私は大丈夫よ。」

 

少しよろめいて立った416を支えながら、IQは近くに見える研究施設を睨む。

嘗ての研究施設は、もっと白かったのだろう。所々に見える外壁はくすんだ白をしていた。だが、外壁の大部分は蔦に覆われたり、または黒く変色したりと無残な有様だ。

まるで、中で行われている事を暗示するかのように。

 

「行きましょう。指揮官が待ってるわ。」

「ええ、そうね。」

 

また四人は歩き出す。

 

 

午後6時30分。

 

 

偶然バンディットと四人が遭遇した。

手短な会話を交わして、バンディットは基地へ戻っていく。

去り際に、マッピングデータを手渡し、イェーガーの肩を叩いて。

 

「そろそろだな。全員、ドローンを使ってターゲットを捜索するぞ。」

 

取り出して投げるのは遠隔操作式のドローン。

各々、身を隠しながらドローンを操作する。

 

 

__________________

 

 

 

探し始めて数十分。

 

「見つけた。やっぱり捕まってるわ。地下よ。」

 

416がターゲットを視認する。

幸いにも地下一階の、階段に近い小部屋に監禁されているようだ。

 

「…指揮官、私のドローンの映像、見たかしら?」

 

端末を仕舞いながら416が静かに話す。

無言で頷いたイェーガーが見たのは、MP7の凄惨な扱われ方だった。

窓や明かりなどない物置のような、トイレだけが備え付けられた部屋の中でたった一人、両手を鎖で縛られていた。

身に付けているのは布切れと言っても遜色ないほどにズタボロになった彼女の制服だ。

おおよそ感情というものが消え去った、仮面のような表情で一人、部屋の隅に座り込んでいる。

人類人権団体が何をしたのか、想像に難くない。

 

「…行くぞ。」

 

ブリッツの号令で、四人は突入を開始する。

侵入経路は至ってシンプル。正面から、堂々と。

錆びついて開閉ができないと思われる正面の扉に向けてIQがブリーチングチャージを設置し、すぐさま起爆、ブリッツを先陣として突入する。

幸運にも(・・・・)ブリッツの前にいた戦闘員は、眩い光を知覚すると共に絶命する。

早速一人殴って処理したブリッツの後ろから、イェーガーと416が射撃。ヘッドショットで確実に戦闘員を処理していく。

施設に入って数分後、

 

「イェーガー、あんたいつの間にアサルトライフルなんか手に入れてるの!?」

「416に教えてもらって武器庫まで遠足した時の土産だよ!」

「どうでもいいけどお二人さん!地下への道のり、把握してるな!?」

「ああ。そこを右だ!階段がある!」

 

彼らは地下への階段を発見。ここでイェーガーが基地に通信を繋ぐ。

 

『バンディット。タクシーを頼む。』

『了解だ。10分で行ってやる。』

「416。バンディットの護衛だ。上まで行ってやってくれ。」

「…分かった。」

 

416が玄関まで戻ったのを確認し、三人は階段を下って行く。

階下からは慌ただしい空気が漏れ出ている。突然の銃声に、構成員が慌てふためいているのだ。

 

「IQ。念の為、お前に救出を任せる。幾らアンドロイドといったって、ターゲットは女性なんだ。」

「分かったわ。…二人は?」

「俺達はお前の援護だ。」

『ブリッツはIQの前で壁役だな。』

「ああ。…って、お前かよバンディット。」

 

打ち合わせを最低限にして、地下に到達した三人は逃げ惑う白衣姿の構成員を目撃する。

 

「おい!あの人形を連れてこ…」

「邪魔だ。」

 

ブリッツが殴りつけて道を確保。イェーガーが416で威嚇射撃を行う。

 

「IQ!行くぞ!」

 

頷きと共にIQが走り出し、野郎二人がその援護に回る。

IQの狙いが自分達の捕まえた人形である事に気付かない者は居なかった。何せ彼らGSG-9はR06地区の新しい指揮官として有名なのだから。

IQの進路に立ち塞がり、拳銃などの武器を構える研究員らしき男達は、迷いなく突っ込む彼女に向けて射撃…出来なかった。

 

「はいはい!俺の相手もしてくれよな!」

「俺達の前に立つには、三年早いんだよ!」

 

IQの前をブリッツが、また彼女の後ろをイェーガーが、それぞれ護衛していたからだ。当然ながら銃を構えるのは素人同然の研究員達。真っ直ぐ突撃するブリッツに銃弾を当てられる者は無く、または銃を構える前にイェーガーに撃ち抜かれる。

目的の部屋へ辿り着く。

乱戦ついでに何人かの男を蹴り倒しながら走り抜けてきたIQ達の息は、一切乱れていなかった。

 

「鍵なんて…ッ!」

 

バガァン!と大きな音と共に鍵を蹴り壊し、扉を開けたIQは思い切り顔を顰めた。

酷い臭いだ。

慰み者にされていた形跡を隠すつもりなどなかったらしい。

 

「…おい。」

 

修羅の表情と化したIQが手近な研究員をひっ捕まえて尋問を開始する。もちろん、イェーガーの416がオマケだ。

 

「他に何人いる?」

「え、」

「早くしろ。」

「地上以外には地下だけです!」

「シャワー室は?」

「そこの角を曲がったところに…」

「おっけ。じゃ。」

「くぁwせdrftgyふじこlp…」

 

尋問した研究員を軽くオトしてからIQはMP7を抱え、角の向こう側に消えて行った。

 

「…IQを怒らせないようにしような。」

「…おう。」

 

男同士の密約が交わされた瞬間だった。




まさかこの話を書いている途中に実装されるとは…
なおドロップはしていない模様。
時間が空いて文章力がガバガバなのは許してくだs(殴


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416の奇妙な1日 その5

2週間連勤。合間を縫って執筆。


午後6時30分。

 

爆散する研究施設をバックに爆走する一両の車両があった。

 

「おいおい!やり過ぎじゃないか!?」

「「「ビューティフォー…」」」

「指揮官♪指揮官♪」

「……」

 

六人を乗せた高機動車は、バンディットの運転で基地に帰還していた。

あの研究施設はこの地域一帯の人類人権団体の根城だったらしいことが、シャワー室に消えたIQとMP7を待つ、男二人の手によって暴かれた。

見つかったのは、路地裏に倒れていた人形達を使った残虐非道な実験のデータと、大量の電子部品。

そして、完成間近と思われる戦術人形(・・・・)と、大量の爆薬。

I.O.P.の人形からデータを抜き取り独力で開発した人形だが、肝心のメンタルモデルが搭載されておらず起動試験の段階で計画は頓挫していたようだ。

ブリッツが研究室を調べ終わった時、データベースを漁っていたイェーガーが無言で端末の電源を落とした。

 

「イェーガー?どうし…」

「火薬庫に行ってパーティーだ。」

「は?一体どういう…おいちょっと待て…」

 

途中から来たIQも加わって黙々と爆薬をセットし、バンディットと合流、今に至る。

 

「結局、お前は何のデータを見つけたんだ?」

「…実験の途中報告書なんだがな、メンタルモデルを使い潰していたらしいんだよ。それも、二十を超えた数のな。」

 

車内に電撃が走った。そう錯覚するほどに衝撃は大きかった。

人形達の魂とも言えるメンタルモデルを使い潰す。それ即ち、人間を用いた生体実験と何ら変わりが無い。命を奪うことに変わりは無いのだから。

 

「…意外と、あっけなかったな。」

『皆さん、お疲れ様でした。スプリングフィールドさんがご飯を作って待ってますよ。』

「ああ、有難う。」

 

静かに呟いたイェーガーは、PPShの通信に疲れ切った声で返答する。

そのまま窓の外を見つめるが、片腕に重さを感じてイェーガーはそちらを向く。

416だ。

潤んだ目でイェーガーを見つめている。

 

「どうした416…」

「寂しかったわ。」

「いや、危ないから、ほら…」

「私じゃ不満なの?」

「あ、いや、そういうのじゃなくてな?」

「じゃあ私も連れて行ってよー!」

「暴れるな416!!」

 

サスペンションが壊れかけて二人が怒られたのは別の話。

 

 

 

午後7時30分。

 

 

 

「え?なにこれ…」

「私が作りました。」

 

どや、と胸を張るスプリングフィールドが作り上げたのは、ステーキだ。

合成食料であるものの、それを感じさせない程に洗練された『ステーキ』がそこにはあった。

話によれば、以前食料事情の改善を計画した時、いの一番に賛成し、今なお主導しているのが彼女だとか。

彼女の努力の甲斐あってか、今回のステーキが完成したのだ。彼女によれば、かなり前から計画とアイデアは存在したらしいが、許可が降りなかったらしい。

そうして溜まった鬱憤を彼女はエネルギーに変え、ついに彼女は完成させたのだ。

作戦で疲れ切った皆は我先にと食べ始める。

 

「いただきまー…むが。」

「わ!た!し!が!…食べさせるの!」

 

…約一名を除いて。

 

 

________________________

 

 

 

「…それじゃ、自己紹介…なんだが。えー、MP7だ。」

「…よろしくお願いします。」

 

まだ暗い表情のMP7を傍らに、久し振りに美味い(と思えた)飯を終えたGSG-9は今後について話し始めた。

 

「あー、まずな。コイツは色々あってメンタルモデルに不具合を起こしてる。そこんとこ承知してやってくれ。」

「今手空きなのはバンディットだな。頼ん「は?」…そういう事で。で、「おい」次なんだが、「聞けよ」俺の処遇が決まった。今時刻を以て「なぁ」正式にR06基地の司令官として「あのな」着任する事になった。よろしく頼む。…なんだよバンディット。さっきから。」

「いやお前が話聞いてねぇだけだろう!?」

 

そんな喧騒を背に416は静かに食堂を出ていく。

後ろからは皆の笑い声が聞こえてくるが、416にそんな物は届かない。彼女の背中に漂う雰囲気は、まるで一人ぼっちの子供。群れから外れた動物のように、一人で基地を歩き回る。

 

(…指揮官、か。あんなにも甘えてしまうなんて…私は…壊れたのかしらね。あの人の温もりに甘えてしまっている自分を、私は許せない…)

 

司令棟に向かう。

 

(私達は道具。鉄血の人形と戦うための消耗品…)

 

前任からの言葉が416の頭の中をぐるぐると回る。

いくらでも替えの利く消耗品、使い捨てのアンドロイド。いつ人類人権団体(クズ共)の下に送られるのかと怯え、指揮官に奉仕し続ける日々。

完璧であるはずの自分ですらも、ミスをする。ミスをすれば処罰される。当たり前だったそんな日常は、突然現れた人間達によって変わってしまった。

自らを特殊部隊員だと言い、道具であるはずの人形達にも分け隔てなく接する彼らは、いつしかこの基地に馴染んでいた。

技術者としても一流のイェーガー。

天才的な頭脳と高い身体能力を併せ持つIQ。

目立たないながらも影で皆を支えるバンディット。

誰かを守るという強い意志を持つブリッツ。

今まで接してきた人間は、どれもこれもクズとしか言得なくなる程に、彼らは人形に優しかった。

 

『IQ!?仕事の再開とか、お前正気か!?』

『後少しなのよ!!』

 

寮の建設も終盤のようだ。…些か早すぎる気がするが。

 

『一体どうやって…』

『残念だったわね。トリックよ。』

『いや、一日で完成しねえよ普通。』

 

(皆、楽しそう。)

 

GSG-9の四人を囲んで笑う人形達。

日が暮れて、暗くなっているのに彼らはまだ作業するつもりのようだ。

 

(私は…行かない方が良いわね。)

 

416は、ああいう雰囲気が苦手なのだ。

司令棟に到着し、司令室の扉を開けて、ソファに座る。

 

「ふわあ…少し、疲れた、わ…むにゃ…」

 

深い水の底に沈むような、そんな感覚と共に416は眠る。

 

 

午後8時30分。

 

 

「ん?416…全く、こんな所で寝たら風邪引くぞ…」

「マリウス…さん…置いて、行かないで…」

「…ったく…」

 

扉を開ける音、人を抱える音。

 

「おやすみ、416。良い夢を。」

 

扉が閉まる。




文体が安定しません。しばらくはグチャグチャですが、どうかご容赦を。


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新築マイホーム

時間は作るものだって聞いた事がある。


MP7救出作戦から1週間後。

 

「…すまん。確かに寮の建設は任せた。だがな。何もログハウスを建てろとは言ってないんだよ!!」

 

基地の一角に立派なログハウスが完成していた。

この基地に所属する人形はそう多くない。全員が居住可能なサイズに仕上がっている。

IQ自慢の作品らしく、疲労困憊な人形達を背に、彼女は腕を組んで仁王立ちしていた。どこからか引っ張り出した作業着の上着を腰に巻き付け、タンクトップの上半身を露わにしながらも彼女は満足げだ。

汗を拭いながら水を呷るIQに近寄ってきたのはAUG。IQに差し入れを持ってきたらしい。

 

「お疲れ様ですわ。…あなた。」

『あなた!?』

「ありがとAUG。…さすが、気が利くわね。(チュ)」

『キスゥ!?』

 

どうやら一同の知らない場所で彼女達は深い関係を持っていたらしい。

 

「どどどどどどういう事だIQ!?」

「どういうって…挨拶よ。ねえ?」

「ええ。モニカとはよくこうしていますわ。」

『モニカ!?』

「待て待て待て待て、お前らそういう所まで進んでるのかよ…?」

「そういうって何よ。」

「待てよ、IQでさえこれなんだ、イェーガー、お前まさk」

「おう、ブリッツや。ちょっとこっち来いよ。」

「…目が、据わっている…!ブリッツ、地雷を踏み抜いたな…」

「なになになに!?あ、イェーガー、それはダメだ!416を構えるな!」

「指揮官…肌身離さず私を持ってくれているのね…そんなの…んっ…」

「どこから出て来た416ーーー!?」

「…AUG、皆に中の案内でもしてあげましょ。」

「………?、???(くいくい)」

「MP7か。気にするな。あいつの自業自得だ。」

「……(こくり)」

 

コントを繰り広げる三人と、オロオロしながらブリッツを助けに入っているUSPを尻目に、皆はログハウスに入っていく。

内装はシンプルにまとめられている。暖炉とソファの存在するリビングと遊戯室、一人一人の寝室に大きな浴室。そして一通り見回った一同は、IQの先導で図書室に入っていく。

 

「なに、これ。」

 

そう呟いたUMP45の目の前にはテーブルに並んだアタッチメントの数々。

壁際には外骨格や防弾ベストが勢揃いだ。

皆が怪訝な顔をIQに向けると、遅れてやって来た416も同じ反応をする。

イェーガーとブリッツ(若干煤けている)がやって来たら、図書室は満員だ。

IQに促されてイェーガーが頬を掻きながら説明を始める。

 

「まあ、なんだ。着任祝い、的な?皆アタッチメントも何も装備していなかったしな。このままじゃまずいだろうと、バンディットとブリッツの二人が頑張ってくれたんだ。」

「なんだかんだで一番苦労してたのはイェーガーなんだがな。」

「そうそう!自分の給料は要らんからアタッチメントを掻き集めてこい!って俺らに怒鳴って来やがんの!」

「私はこっち(建築)で忙しかったからほとんど何もしてないけど、イェーガーなんて外骨格運ぶのにヘリなんか持ち出してたのよ?」

「おいこら。それは言わない約束だろう。」

 

そこから始まったGSG-9の大人達(ダメ人間共)の取っ組み合いなんぞどこ吹く風、初めてみるアタッチメントの輝きに人形達は目を輝かせる。

 

「これは…防弾ベスト?ショットガンの人形しか装備は許可されていないんじゃ…」

「それもイェーガー。グリフィンの偉いさん並んでる所にカチコミかけてたのよ。」

「あれは傑作だったな。」

「なんだっけ?『あいつらは俺のむs』」

「ブリッツァ!」

 

人形達は唖然として声も出ない。

今までこんなに自分たちの事を思ってくれた指揮官はいただろうかと。

アタッチメントの装備も許されない部隊運用に疲れ切った人形達にとって、目の前に広がる光景は夢にまで見た光景なのだから。

 

「あの、指揮官…これは…」

「これは…グレネードランチャーだな。もしかして欲しいのか?416?構わないが…って、皆どうした?自分達の武器持って来ないのか?今からアタッチメント装備の講習会を…って416!?」

 

言い終わるよりも早く、416がイェーガーに飛びついて頬擦りし始める。その瞬間、その場にいた全員が416にネコミミと尻尾を幻視した。

満開の花のように満面の笑みを浮かべて416はイェーガーにキスをする。

 

「んっ…ぷっ…ふはっ…」

「ちょ、416やm…」

「オァァァァァァァ!?イェェェェェェガァァァァァァァ!!!」

「黙れ。」

「ふぐぁ?」

「ブ、ブリッツさん!?」

 

床に沈んだブリッツの介抱をUSPが行う。

そんな事は些細な事であるかのように416はイェーガーの唇を啄み続ける。

ようやく離れた時、イェーガーは酸欠で、416は別の理由で、顔を真っ赤に染めていた。

もう一度416がイェーガーに抱き着いて、

 

「指揮官!」

「お、おう。」

「ありがとう。」

「…ああ。」

 

ふわりと416の髪を撫で、まるで猫のように目を細める彼女を見つめ、イェーガーはようやく我に帰った。

 

「…そんな訳で、各自、自由行動な?」

『できるか!』

「アタッチメント、装備するわよー。ほらほら皆あんな奴放っときましょー。」

 

皆弾かれたように動き出す。

武器庫に走り出す者、アタッチメントを眺める者、早速自分の武器に装備する者。

各々が自分の思うように動き出し、そして自由に武器をカスタムできる喜びを享受していた。

これはまだまだ序の口だ。

GSG-9の四人が取り出したのは情報端末、しかも最新式の物。

 

「各員にこれを支給する。見ての通り情報端末だが、16Labの最新式だ。以後こちらを使うように。旧式の物は回収するぞー。」

 

度重なるサプライズで人形達の処理能力はオーバー気味だ。

 

「これ、どうやって使うんです?」

「…よし皆座れ!このイェーガーが基礎から使い方を叩き込んでやろう!」

『やったー!』

 

たまにはこんな、GSG-9。

特殊部隊ではなく、少女達を見守る大人として。

 

「指揮官…ちょっと…いいかしら…?ここ、お腹が疼いて…」

「あーあーきーこーえーなーいー!!!」

「ねえ指揮官…」

 

…あくまで、紳士淑女的に、人形達に接している。

 

「あなた。このサイレンサーの取り付けは…」

「これは…こうね。」

 

「ハンドガンにもアタッチメントがあるんですね!」

「ああ!おすすめはレーザーサイトだな!集弾率が上がるからだ!」

 

「……(くいくい)」

「ん?…ああ、お前にバーティカルグリップは要らん。ここを…こうして…え?違う?サイトの違い?」

 

「…指揮官。」

「ん?」

「これ、どうかしら?」

「ふむ。なかなか良いカスタムだな。実用性も考えているのか。」

「褒めても良いのよ?私は完璧なんだから。」

「…うん。凄いな。さすが416だ。(頭を撫でる)」

「ムフフフフフフフフフ。」

「え、笑顔が、眩しい…!」

 

この日は一日中ログハウスに籠りっきりだったそうな。

ちなみに、夜にFAMASが416の部屋に招かれる影を見たとか見ていないとか…




夜に416の部屋に入る影。
何も起きない筈が無く。


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ショタイェーガーなんて無かった。

お久しぶりです(喀血)


ある日の朝。基地に甲高い叫び声が響き渡った。

 

「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!?」

 

そして戦術人形達は思い出した。

 

『『『あのバカ(ペルシカ)やりやがった。』』』

 

I.O.P.の自由奔放さを。

 

 

 

___________________________

 

 

 

ログハウス紹介の翌日。ログハウスリビングにて。

 

「…という訳で実験台として(御都合主義で)青年化したイェーガーだ。よろしk「マリウス。式場はどこがいいかしら。」よしよし分かったから人の話は最後まで聞こうな416。」

「あぁぁぁぁぁマリウスに撫で撫でされるの最高…もう私幸せすぎて幸せ…」

「「「結構な仲良しさで。」」」

「お前らまで!?」(まだ撫でている)

 

きっかけは、ログハウス紹介の後だった。

ペルシカから送られた謎の薬(416リクエスト)を混ぜ込んだコーヒーをイェーガーが飲んだのだ。

そして、416が自分の部屋にイェーガーを招待、一夜を明かした(イェーガーは神に誓って手を出していないらしい)所、翌朝には若返っていた…

 

「いや信じられる訳ないでしょう!?」

「イェーガーお前、随分若くなってまぁ…」

「………??」

「いや、本人だぞMP7。」

「「なんで分かるんだ」」

「いや、だって…」

「だってもダッチも無いわよ!なんでよりにもよってあんたなのよ!私だって…私だってぇ!」

「痛い痛い!殴るなIQ!416!助けてくれ!」(まだ撫でている)

「ふわぁぁぁぁぁぁぁぁ…」

「私にも、よこし、なさい、よっ!」

「あぶるぁっ!?」

 

IQのストレートでイェーガーが昏倒するが、416は花びらのオーラを撒き散らしており全く役に立たない。

仕方なし、とブリッツが動き出した所で通信が入った。

 

『うーん、実験は成功したみたいだね。やあ。16Labのペルシk』

「私にも寄越しなさい早くしないとそっちに爆薬持って行くからね分かったかしら返事はァ!!!」

『ハイハイ。分かった分かった。他の二人の分も送っておくよ。』

「ようし!」

 

ガッツポーズを一つして、IQは上機嫌になる。

 

「…そんな訳でしばらくはこんな姿だが、どうかよろしく頼む。」

 

時は変わって昼食時。

 

「今日のオススメはなんだスプリングフィールド?」

「あら?あなたは…」

 

若返ったイェーガーを見て一瞬戸惑う彼女に416が説明する。

 

「あら、そう。指揮官だったのですね。…随分若くなって…416、頑張れ!」

「うん。自慢の………よ。」

「ん?どうした二人とも?」

 

小声のガールズトークが繰り広げられ、イェーガーがその朴念仁っぷりを発揮する。

 

「なんでも無いですよ指揮官。さ、今日のおすすめでしたね。」

 

カウンターに背を向け、彼女が持ってきたのは香ばしい匂いを漂わせながら程よく焼けた鳥肉だった。

焼きたてなのか油の弾ける音が耳に心地良い。

ここでイェーガーは昼食を摂りに来た事を思い出した。

 

「おっとそうだ。飯だ飯。こいつを貰っても?」

「ええ。…と言いたい所ですが…」

 

スプリングフィールドの視線の先には物欲しそうな顔をした416が立っていた。

そのお腹からは空腹の音が聞こえないが、空腹そうなのは確かだった。

それを見て少し微笑んだイェーガーは少し顔が赤い416に話しかけた。

 

「416は何にするんだ?ほら、半分分けてやるから早く決めろよ。」

「えっ?」

「席は取っておくからなー。」

 

片手で盆を持ったまま、もう片方の手を振ってイェーガーは416の席も確保しに歩いて行く。

若返っても変わらない、自分を安心させてくれるその背中を見ながら、416は深い溜息を一つ。

 

「どうしたの416?」

「…いえ。やっぱり私の(・・)マリウスは最高だなって、改めて思ったからよ。」

「やっぱりお熱いですね。はい、いつものサンドイッチ。」

 

少し浮かれたまま自分の昼食を受け取った416は少し分量が多い事に気付いた。

 

「あれ?少し多いわよ。」

 

既に別の人形の相手をするスプリングフィールドが顔を向けること無く416に返事する。

 

「早く行ってあげてくださいな。彼のお昼ご飯が冷めてしまいます。…半分こするんでしょう?」

「…そうね。ありがと。」

 

イェーガーの元へ小走りに駆ける416を横目に、スプリングフィールドは思案する。

 

(416も指揮官もお互いの思いに気付いていない…訳ではない筈。それなのに指揮官からのアプローチが無いのは…どうして…)

 

 

 

__________________________________

 

 

 

 

その日の夜。イェーガーが司令室で仕事を処理していると、ノックの音が静かな部屋に響いた。

 

『指揮官。私よ。416。』

「416か。どうした?」

 

椅子から立ち上がってイェーガーは扉を開けた。

 

「指揮官…少し、話がしたくて。」

「そうか。入れ。立ち話ってのもな。」

 

そうして416はソファにちょこんと腰掛けた。

 

「コーヒー…ってのもなんだ。紅茶でも淹れるか。」

「いいの?」

「ああ。ちょうど休憩しようとしてた所だったからな。」

 

しばらくして、司令室には紅茶の匂いが満ちた。

御茶請けのクッキーを食べながら416は静かにイェーガーを見つめていた。

その視線に気付いたイェーガーが首を傾げると、416は顔を赤く染めて俯いてしまった。

それを見たイェーガーは慌てて立ち上がる。

 

「ど、どうした416?体調が悪いのか?」

「ううん。若いあなたがカッコよかったから…照れてしまって…」

「そ、そうか。」

 

少し安心したようにソファに座り直したイェーガーは、佇まいを改めて416に尋ねる。

 

「それで、話って?」

 

対する416もカップを置いてイェーガーの瞳を見つめる。

 

「うん…」

 

少し覚悟を決めた様子で416は口を開いた。

 

「あのね、指揮官。」

 

 

◇◇◇

 

 

前任の指揮官と違って、私たちを道具と見ないでいてくれる優しいひと。

初対面だったのに、憔悴しきった私を何も言わずに慰めてくれた。

そんなあなたに、私は何かを思ったのかしら。

初めての感情で、私にも分からなかったけれど、あなたと一緒に居ると嬉しかった。

完璧を求めてひたすら訓練に明け暮れた日々が馬鹿らしくなった。

そうしていつしか、私はあなたの隣にいるようになった。その方が安心するから。

…おかしいわよね。人形がこんなことを言い始めるなんて。

ええ。そうね。私はあなたに、マリウス・シュトライヒャーに、恋心を抱いているのね。

これが、恋心だったのね。

ようやく理解したわ。

あなたに名前を呼ばれると胸が締め付けられる。

頭を撫でられれば胸の内側が暖かくなる。

あなたと一緒に居るだけで、私は『幸せ』だったの。

 

 

◇◇◇

 

 

「…あなたはいつか、どこか手の届かない場所へ行ってしまうような気がしたの。だから、この思いを伝えたかった。」

 

「でも、所詮私達は人を模した作り物。認められる訳はないと思ってる、だけど…」

 

無言で416を抱きしめる。彼女自身が作り物だと卑下していても、イェーガーにとっては一つの命だった。

 

「ああ、認められないだろうな。」

 

「だけど、それは俺の世界での話だ。」

 

「すまんな。俺は心の何処かで、お前のことを避けていたのかもしれない。人間と人形だからじゃないんだ。」

 

それは。

 

「俺自身が臆病だったからなのかもな。いつか元の世界に帰るその時、初めて出会った時一番怯えていたお前がどんな反応をするのか…」

 

「私は…多分、命を絶ってしまうかも。あなたが居ない世界に生きて行きたくないもの。」

 

「ははは、じゃあ、そうならないようにしないとな。」

 

その日、二人がログハウスに戻ることはなかった。




自分自身書いてて砂糖吐きそう。

末長く爆発しやがれこのやろう。


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転換期

前半の糖度のキツさ。吐きそう。


皆さんこんにちは。USPコンパクトです。

今朝もいつも通りR06基地の皆さんは元気…なのですが、なんだかGSG-9の方々がそわそわしておられます。…あれ、指揮官は?

 

 

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…やってしまった…

いや、あの雰囲気でこうなるのは分かっていたはずなんだが…ああも求められると、なあ…

 

「えへへ、マリウスー。ぎゅー。」

 

とても満足気な416を見てそんな事も些細に思えてくる。抱きしめながら頭を撫でると嬉しそうに顔を綻ばせ、頰をすり寄せてくる。

試しに喉下をさすって見ると変な声を上げて驚いたが、気持ち良さそうに身を任せている。…猫みたいだな。後でI.O.P.に猫耳でも発注しておくか。

さて、そろそろ起きr「ねえマリウス〜」もうちょっと遅くても良いよな!!

 

『指揮官?そろそろ起きないとこの扉爆破するよ?』

 

この声は、UMP9だな。

………うん?

隣を見る。一糸まとわぬ姿に毛布を被っただけの416。

自分を見る。半裸だ。Tシャツだけでも着ておく事にする。

…俺はともかく、416はこのままだとまずいな。とりあえず俺のシャツでも着せておこう。

 

「ほーれ416。これを着ておくんだぞー。」

「わーい。」

『入っ…たわよ指揮官。って416!?そんな格好やめなさいよ恥ずかしい!指揮官も注意してよもう!」

 

やれやれ、どうにかバレずに済んだか。

今日の予定は何だろうな。工廠でADSの改良でもするかな。あれの生産が出来れば他のグリフィンの基地に卸売でもしたいと考えている。収入源にもできるしな。それに、個人携行用にして小隊に一つ配備するだけで大分損害も減ると思うんだが。後で報告書にまとめてグリフィン本部に送っておこう。

そんな考えを巡らせていると、背中に豊かな双丘が押し付けられる暖かい感覚。416か。UMP9もいるから、少し抑えてほしいんだが…そんな所も可愛いんだよなあ。なかなか良い物を持っているしな。何を、とは言わんが。

 

「指揮官。今日の予定は何かしら?」

「ん?気になるか?」

「当然でしょう?私も一緒なんだもの。」

 

…さて、外出許可でも取ってくるかな。買い物ができる場所はあるだろうか…ああ、隣町に大きなショッピングモールがあった筈だな。さて、いくら持って行くべきか…

 

 

<<<<

 

 

なんだか指揮官と416さんの距離が以前より近くなったような気がするんです。今日も上機嫌でお買い物に行かれるそうですし。あ、二人で車なんですね。軍用車なのが玉に瑕ですけれど。

私も、気になっている御仁はいるんですが、何かと苦労人体質のようでして。今日も今日とて仲良しげな指揮官と416さんを見て怒り出したIQさんを宥めるとジャーマンスープレックスを食らっていました。頭から落ちたのにどうしてピンピンしてられるのか疑問です。いつもはバンディットさんが煽るのですが、彼は今MP7さんと二人でどこかに行ってしまいました。

そんなあの人ですが、今日は野外で講義しているようですので、少し覗きに行こうかな、と。…決してやましいものではないですよ!?

 

「ようし!今日は君達にサブウェポンの大切さを教えようと思う!」

「サブウェポン、ですか?」

 

不思議そうに首を傾げるFAMASさんにあの人はうむ、と頷いて説明を始めた。

 

「たとえばハンドガンだな。俺達はこいつでの射撃訓練も欠かさない。100パーセントとまではいかないが、皆99.9パーセントぐらいは余裕だ。」

 

彼の目の前に並んだHG人形を除いた一部の手隙の人形達。

その多くがサブウェポンとしてハンドガンを携行しているが、自分から進んで使用する人形は少ないのです。

どうしてなのでしょう。私からするといつもの相棒なので全く違和感を感じないのですが。

あ、やっぱり使用武器の違いでしょうか。彼女達はSMGやRF、ARに果てはMGが主兵装ですから、そもそも使用する機会がないのでしょう。

私達にとっての主戦場は主に市街地や荒野など様々ですが、やはりHGでは射程距離が一番のネックでしょうか。あと威力。

どうしても交戦距離が長くなってしまうような場所では私達ではなくSMG人形の方々の方がよく動員されます。

如何せんHGは緊急時のセーフウェポンという立ち位置が彼女達の中での認識のようです。

ですが、GSG-9の皆さんはHGもよく使うそうなのです。

その理由は、『取り回しが良い』事だそうな。

あの人達は室内戦において言及すると、我々戦術人形よりも優れておられるのではないでしょうか。さすがテロリスト対策の部隊に呼ばれるだけの事はあります。一度だけ射撃訓練の様子を見せてもらいましたが、人間とは思えないほどの命中率で皆の顔が青くなっていました。あ、でも。

 

「はい。」

「お、君は…MP5だったな。どうした?」

「え、えっと、皆、と言われましたが、あなたはその…」

「ああ、俺だけ命中率が低いって事か?」

 

あの人は少し事情が違うみたいです。片手は重い盾で塞がっているのが基本だそうで、実戦での命中率は高いものの訓練での命中率は多少劣るらしいです。それでも命中率9割超は十分すぎるほど高いと思うんですが。

 

「俺にはこの盾があるしな。HGよりもこいつの方が安心してしまうんだ。」

 

そう言って取り出すのはあの人の上半身を覆うほどの盾。

私を守ってくれた時に構えていたあの盾です。

 

「こいつは前面から閃光を発して敵の視界を奪うんだ。だから、多少あいつらよりも命中率が低くても問題ない。まあ、もう一つは俺自身の技量の問題だな。いつもレーザーサイトを装備していたし。」

 

そう言って一回光らせました。

皆さん驚いた様子ですが、当然ですよね。

さて、私は部屋の掃除でもしに行きますか。あのお話も気になりますが、私にとってハンドガンは半身のようなものですから。私達HG人形が日常的に感じている事をあの人形達に教えるだけです。難しいものではないはずです。

 

 

_______________

 

 

 

『…………!』

 

気付けば私は、自室の掃除を忘れてあの人の指導を受ける人形達を見ていました。

…羨ましい!!

私だってあんな風に後ろから抱かれるように指導してもらいたいのに〜!

以前それとなく言ってみたら、

 

『え!?あー、その、なんだ。お、お前はHGの人形なんだから大丈夫だろうと思ってな!うん。その技術を信頼してるからな!』

 

と返されまして。

 

「…はぁ。私にもあんな大人な身体があったらもっと違うのかなぁ。」

 

そう呟いて胸を見る。

そして外の人形達を見る。

ああ、格差社会は解消されていないのですね…一部のSMG人形を除いて。

その時、端末に何か送られてきたようです。短い着信音が鳴りました。メール…のようですが、送ってくる相手なんてそういませんし…

そこまで考えて、私はハッと気付きました。

I.O.P.です。

急いで端末を起動させると、短い文面が。

 

『新型駆体のテスト人員募集。テスト終了後は駆体の優先配備権が付与される。締め切りは本日23時59分。』

 

中でもこんな一文が。

 

『駆体は当人の希望するスペックに応じて自由にカスタム可能。』

 

私は急いで司令室に駆け出そうとして思いとどまりました。

指揮官は今お買い物中です。

ならばとメールで許可を取ったところ、快諾を頂きました。それも是非と。戦力の向上はありがたいらしいです。

すぐさま希望する旨の返信をI.O.P.に送ったところ、一時間後には迎えが来るそうです。素早い対応ですね。

一連の出来事を、指揮官代理のモニカさん…IQさんにお伝えしてヘリポートへ向かいます。AUGさんとの時間を邪魔してしまったようなので、急いで退出してきました。…仲、良さそうでしたね。お二人とも。

しばらく待っているとI.O.P.のヘリコプターが降りてきました。中からペルシカさんが手を振っていますが…大丈夫でしょうか。少し心配になってきました。

 

(ええい、覚悟を決めるのよ。もしうまく行ったらあの人に…えへへ。)

 

そんなUSPを乗せてヘリは上昇していく。

 

「へっくし!」

「どうしたんです?」

「いや、なんだか嫌な予感がしてな。」

 

果たして、その悪寒は当たるのか。




はてさてどうなるのか。


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416とお買い物。前編

ちょっとヨレ気味なのに、いつもより長めです。


USPコンパクトがI.O.P.の技術部に向かう日の事だった。

 

「そんな訳で416。何が欲しい?ある程度なら叶えられるが。」

「あなた。」

「それはもう叶ってるだろう?」

 

車に揺られながら嫁に伝えると、それはもうありがたい返事が帰ってきた。…あの目、今夜も覚悟する必要がありそうだな。昨日の今日だが。

さて、今俺達は隣町のショッピングモールに向かっている。416との初デートだな。416も分かっているのか、少し化粧もしてきているらしく、元々整っている顔立ちが余計に美しくなっている。

 

「綺麗だな。さすが416だ。」

 

ハンドル片手に喉元に軽く指を添わせると、くすぐったそうに身を捩る。やっぱり猫みたいなんだが…そんな物とは比べられんな。神秘的であり、だからこそ美しいのだから。うむ。やはり嫁は最高だ。

 

「マリウス?どうしたの?私の顔に何か…?」

「ああ、いや。持つべき物は綺麗な嫁だな、と思ってな。」

「はふん…」

 

笑いながら言うと、一瞬で顔を赤くして俯いてしまった。やはり気取りすぎたか?

隣町までそう遠くない。中心部のモールにそろそろ到着だ。

到着したら、416が気になる店を適当に冷やかしつつ散策、だろうな。

なかなか大きいらしい。楽しみだな。

 

「…確かに大規模だとは事前に知っていたが、これほどとは…」

 

目の前に広がっていたのは軍事基地もかくやという大きさの大規模商業施設だ。その大きさに圧倒されながら、車を駐車させようとパーキングスペースに移動するが、そのパーキングスペースの段階で十分広い。なんだここは。

駐車してから店内に入るとどうだ。もはや鉄血との戦争なんて忘れてしまいそうになる。

見渡す限りの絢爛な装飾に彩られた店内には、様々な人間がショッピングに訪れているらしい。様々な小売店がそこかしこに並んでいる。服飾店や雑貨店、さらには銃器専門店まで選り取り見取りだ。

今日はそんなに混み合っていないのだろうか。喧騒も大きくない。

 

「さて、どこから回る?」

「…私の予想よりも広いからどうすればいいのか分からないわ。」

 

成程な、と頷いてフロアマップを見に行くが、これもなかなか恐ろしい。

一つのフロアにぎっしりと詰まった店、店、店。

これが4フロアもあるのだから驚きだ。一体どれほどの財力があればこんなに大きなショッピングモールを建設、運営できるんだ。

 

「…今、どこなんだ?」

「ここよ。…届かないわね。」

「ん?ほれ。」

「うっひゃあ!?」

 

軽い気持ちで持ち上げただけなんだが。ほら、周りのお客様も笑っ…てない。なんだあの微笑は。そしてあそこにいる東洋人は何だ。こちらを見ながら青筋を浮かべているぞ。何か呟いたらしいが…すまんな。日本語は守備範囲外だ。

ようやく現在位置を確認できたので、416を下ろす。

 

「…急にそんな事されたらびっくりしちゃうじゃない…もう、ばか…

「ん?何か言ったか?」

「何でもないわ。ほら、行きましょ。」

 

顔が真っ赤だったんだが…あれ、もしかして俺、カップルのように見えてたのか?

自分の行動を思い返し、己の手を引く真っ赤な顔の416を見て、自分でも顔が赤くなってきたのが分かった。

 

「あー、その、何だ。次からは気をつける、うん。」

「いいえ、むしろもっとしてくれて構わないわ。」

「あ、そうなのか。だったら…」

「えっ?」

 

416の横に並んでその手を握る。

ようやく元の顔色に戻った416の顔がまた真っ赤になる。いや、俺だっていい歳してこんな事したく…あ、若返ってたんだった。

もしかして、と思い、過ぎて行く店のショーウインドウに映る俺たちの姿を見る。

 

「…なかなかクレイジーだな。」

「確かに、レディが来る場所じゃないかもしれないわね。」

 

気づけば俺達は件の銃器店にやって来ていた。

 

「ん?ここでいいのか?」

「うん。」

 

416は躊躇なく入店し…

 

「ここはお嬢ちゃんの来るところじゃないから帰りなさいって言われたわ…」

 

ものの数秒で心底心外だと言わんばかりの表情で出て来た。

 

「仕方ないだろう。ほら、お前に似合う服でも買ってやるから、行こう。」

「…うん。」

 

しょんぼりした表情で俺と手を繋ぐ416。ぺたりと垂れた猫耳と尻尾が見える。…そういえばアレの到着は明日だっけか。

余計な事を考えていると、目の前には煌びやかな服飾店があった。

 

「随分と大きいな。」

「そうね。」

 

やはり女性という事か、416は少し元気になったようだ。そんなに銃器店に行きたかったのだろうか。不思議なものだな。

416に連れられて入ると、そこには女性用の服がズラリと並んでいた。あ、これ場違いだよな俺。でも416が嬉しそうだからなあ…ま、4万までなら許すか。給料も溜まっていくばかりだし、使い道ができて良かった。

 

「ね、こんなのはどうかしら?」

「あー、うん。いいと思うぞ。」

「むー…」

 

あ、語彙力が足りない。だがこうして頰を膨らませる416も良いな。

だが、その反応が416の何かに火を点けたらしい。一心不乱に服を選び始めてしまった。

 

「416、あー…なあ、そんなに必死にならなくても大丈夫だぞ?」

「ダメ!指揮官が言葉を忘れるくらい似合ってる服を探すんだから!」

 

あーウチの嫁最高。結婚式も指輪もまだだが、もはやこれは嫁と言っても過言ではないほどの関係ではないだろうか。

しかし…外でもこんな呼び合い方は嫌だな。416に名前をあげたいんだが…こんな場所じゃあなあ。

 

「指揮官!これならどうかしら!」

「ふむ…」

「ダメみたいね。もっと、もっとよ!」

 

ああ…美しい。

俺が416に見惚れていると、何か聞きつけたのだろうか、店員がニコニコ顔でやって来た。

 

「お客様、どうなさいました?」

「あ、ええっと…」

 

416が助けを求めるような顔でこちらを見ている。

 

「 (お前の欲しい物を選ぶと良い。)」

「(なるほど…完璧に頼む、ね。分かったわ指揮官。)」

 

よし、416も察したようだ。

 

 

<<<<

 

 

指揮官がああ言ってるんだもの、絶対に良いものを選んでみせr…

 

「なかなかお似合いですよ。彼氏さんですか?」

「ひああああああっっ!?そそそそそんな関係じゃ…ない、です…」

 

唐突な店員のセリフに驚いて素っ頓狂な声をあげてしまったわ。

顔を真っ赤にして俯く私に向けて店員達は生暖かい視線を向けている。恥ずかしい…穴があったら入りたいわ…

 

「そうですね、そこまでお暑いのでしたら…いっそ彼氏さんとお揃いのコーデなんていかがでしょう?」

「お揃い!?」

 

指揮官とお揃いだなんて、ああ…考えただけで体が熱くなってしまう…最高ね。

指揮官も連れて移動した先には試着室が。

 

「さて、手早く集めましたので、こちらを試着してみてはいかがでしょうか?」

 

そう言って手渡された服に着替える。

 

 

<<<<

 

 

416と店員に連れられて試着室まで来たんだが…どうやら着替え中のようだな。ん?

 

「USPから?ああ、新型ボディのテストね…うん。戦力向上にも繋がるなら万々歳だな。是非とも行って欲しいものだ。」

 

あのUSPが…珍しいな。いつもブリッツにくっついてるおとなしい娘だと思っていたんだが。

承諾するメールを送ってからしばらくすると、試着室の中から416が出て来た。

 

「おう416着替え終わった、か…」

 

そこに立っていたのは俺と同じような格好をした416だった。

まあ、似せているだけなんだが…妙に似合っているな。

ベージュのパーカーにデニム地のミニスカート、青いタイツとスニーカー…

 

「おう、俺みたいじゃないか。ペアルックみたいで…なんか照れるな。」

 

あ、416の顔が真っ赤になった。

 

「こいつを貰おうかな。いくらだ?」

 

さて、そんなに高くないことを祈ろうか。

 

 

______

 

 

 

ま、許容範囲だったな。

予想の半分もいってないし、どこか別の所に…あ、そろそろ昼か。

 

「416、昼、どこかで食べようか。」

「そうね。どうせならお洒落なカフェにでも行きたいわ。」

「かしこまりましたお嬢様。」

「エスコートをお願いね。」

 

俺が少しおどけて言うと、416も便乗してくる。

さて、どこか良い所はないものか。

 

「…なあ、」

「あー、やっぱり?言わなくても分かるわ。」

「「あそこだな(ね)」」

 

どうやら416も同じ場所を見つけたようだ。

モールの喧騒と少し離れた場所にある、小ぢんまりとした喫茶店。外に面しているのか、入口の反対側には陽光が煌めくテラスに通じている。

壁際に並んだ本棚や、カウンターの後ろに並べられたカップの数々。店内の雰囲気は最高だ。ちょうど人も少ないようだし、行くなら今か。

 

「いらっしゃいませ。お二人ですか?」

「あ、はい。」

「ではこちらへ。」

 

入って店員に案内されるまま、外のテラス席に座る。

カウンターに穏やかそうな老店主が一人コーヒーカップを磨いており、店員は気弱そうな少年と活発そうな高校生らしき少女の二人。バックヤードから出て来た男性の手には何かの袋が幾重にも積まれており、それがコーヒー豆であることが分かる。

良い店だ。この場所を狙ったのだろうか、店内にモールの喧騒は響いてこない。煩くない程度の音楽が、場のムードを整えている。

店員もバイトというわけではなさそうだ。皆生き生きとしている。

 

「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください。」

「有難う。」

 

ぱたぱたと次の客の対応に向かう少女。青年も駆り出されたな。やはり早く来て正解だったらしく、タッチの差で客がやって来た。

叔父と甥なのだろうか、無邪気な少年に少し困りながらも笑って相手をする、やたらガタイの良い男。

大学生のカップルらしい、金髪の青年に付き添う茶髪の女性。少年の方の店員に絡んでいるが、常連なのだろう。

仕事中の上司と部下二人…か?部下二人は妙に距離が近いし、上司の方も笑いながらそれを見ている。…あ、目がマジだ。

 

「ふむ、なかなか良い店だと思わないか?」

「そうね。良い雰囲気だわ。…で、指揮官はどうするの?」

「俺はコーヒーとサンドイッチだが。」

「じゃあ私も同じものにしようかしら。」

 

注文して間も無く、それらが運ばれてくる。

おや、店主自ら配膳とは。

 

「有難うございます。」

「いえ。人手が足りないものでして。私も店主だというのに、このようにこき使われております。」

 

なかなか面白い店主だな。見た目に違わず穏やかな笑みだ。常連客ができるのも納得だな。

俺の目の前に置かれた、湯気を上げているコーヒーを口に運ぶ。

どうやらコーヒーは店主が淹れるらしい。カウンターに戻った後でも、他の客へのコーヒーを淹れていた。

 

「うん、うまいな。」

「ええ。…あら?」

「どうした416?」

「いえ、このサンドイッチ、同じものを頼んだはずなのに…指揮官のと具が違うわ。」

 

なぜだろうか、と首を傾げる416を横目に店主を見ると、こちらに向けて笑みを一つ。…ああ、そういう事か。

 

「ほら、半分ずつにしよう。そうしたらお得だろう?」

「え?ええ、そうね。」

 

昼食を食べ終わった後、コーヒーをお代わりしてから店を出る。

 

「ありがとうございました…って、お客様!お釣りは…」

「良いよ。美味いコーヒーの礼さ。また来るよ。」

「またのお越しを、お待ちしております。」

 

ああ。また来るよ。

今度もまた、二人でな。




あの店主に店員、それに客の皆さん…

お分り頂けただろうか…

いや、喫茶店だから、ね?


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416とお買い物。後編

大陸版で416c実装ってホンマかいな工藤!


一通りランチを楽しんで、二人はモールの喧騒に分け入る。

どうやら人が増えたらしい。人の騒めきは喫茶店に入る前よりも大きくなっていた。

周りの空気に当てられたのか、はたまた調子が上がって来たのか、朝よりもやや高めのテンションで二人はウィンドウショッピングを楽しんだ。

 

「指揮官、これ…どう?」

「お、おいちょっと待て、その下着…っていうか、俺に聞く事かよ?」

「だってこれを着る時…ね?」

「っあー、そういう事か…」

 

「おい!見ろ416!このマグカップどう思う!」

「へ?どんなの…ってなによ、ただのマグカップ…これは!?」

「気付いてしまったか…そう、このマグカップ…」

「「名前が入れられる!」」

 

「おっと、三時か。416、次はどうする?」

「コーヒー飲みたい…」

「うーん、じゃあもう一回あの店に行くか。」

 

「おや、いらっしゃいませ。」

「「コーヒー二つ!ミルク抜きで!」」

「はっはっは。良いでしょう。腕によりを掛けて淹れましょうか。…ところで、お二人はお付き合いなさっておられるのですかな?」

「っっっっっ!?」

「いやあ…ははは…あ、そうだ416、少し待っててくれるか?ちょっと買い忘れた物があるんだ。」

「え?ええ…良いわよ?」

 

「…ああ、やっぱりあの店主のコーヒーは美味いな。」

「ええ。手つきが只者ではないわ。…私も修行しに行こうかしら…」

「どうした?」

「何でもない。行きましょ。」

 

「あー、そろそろ帰らにゃならんか…って416?寂しそうだな。」

「当たり前よ。もっとあなたと一緒に居たいのに…」

「明日の昼までに外出申請を伸ばした。この後どうする?」

「最高よ指揮官。じゃあ…」

 

文字通り、日が暮れるまでショッピングを楽しみ、迎えた夕飯時。子連れの家族や、スーツ姿で笑顔で電話する男性が次々と帰って行く中、二人は車に乗っていた。

元々軍用だったこの車で優雅にドライブとは行かないが、それでも風景を楽しむ事はできる。

分厚い防弾ガラスを開け放ち、特徴的な銀髪を風にはためかせて外を流し見る彼女の金の瞳は、人間の営みを映して淡く光っているような錯覚をイェーガーに与えた。

彼のポケットの中と後部座席に積まれた荷物の中にそれぞれ一つずつ、416に向けたプレゼントがあるのだが、イェーガーの恋愛経験の乏しさから、渡すチャンスを見つけられず、こうしてドライブするに相成った。そして、イェーガーは遂に覚悟を決めた。

 

「よし、到着だ。」

「ここなのね。」

「ああ。」

 

ここは街から少し離れた丘の上にある一階から八階までを宿泊施設、最上階をレストランとしたホテル。

その名を、古い作家の名前から取り『ドストエフスキー』と言う。

慣れた手付きで車を停車させ、大量の荷物を抱えてカウンターへと向かい手早くチェックインを済ませ、八階の部屋に入る。

 

「凄い。こんなに眺めが良いなんて。」

「ああ。予想外だよ。」

 

荷物を置いてすぐさま一つ上の階、レストランへ向かう。

あまり遅い時間でもないが、客は一人もいなかった。どうやら二人が最後の客だったらしく、優雅な音楽が流れる中、二人は席に着いてオーダーした料理を待つ。

 

「なあ、416。」

「なぁに指揮官。」

 

料理も片付け、後は支払いだけというその時になってイェーガーが話を切り出した。

彼の見た目は未だ二十代のままで、中身は四十歳近いベテラン兵というイエーガーだが、現在の彼の心境はまさしく新兵。未だかつてない挑戦にイェーガーの内心は冷や汗で一杯だ。

 

「…あー…そのぅ、なんだ。今日は、ありがとうな。」

「そんな。私の方こそ。貴方と楽しい時間が過ごせたのだから。」

 

これから始まる会話を予想し、スタッフは全員静かにバックヤードに姿を消す。デキるスタッフは引き際も弁えているのだ。そんなスタッフばかりだからなのだろうか。この店、巷では『閉店間際に二人っきりで告白できる店』として名を馳せている。実際、オーナーからは『そういう雰囲気になったら時間を気にせず店を開け続けろ』という指示があったりする。

そんな評判を知ってか知らずか、イェーガーは静かな店内で416に向かい合っていた。

 

(改めて見ると、416ってスタイル良いよな…美人だし。正直、俺なんかが好きになって(・・・・・・)良いんだろうか…)

 

この男、自分が416に好意を寄せているにも関わらずそれを認知できていないという泣く子も黙る朴念仁っぷりを発揮している。もはやここまでくると狙っているのかと錯覚しそうなレベルである。

そんな矛盾を抱えてイェーガーは今まで過ごしていたのだ。416からの(・・・)好意は理解できても、自分からの(・・・)好意は理解せぬまま。

そんな彼だが、今日一日416と過ごし、ようやく自分の気持ちに気が付いた。

この気持ち、まさしく愛だ、と。

別に特別な出会いをしたわけでも無し、それなのにイェーガーと416の間には深い愛情があった。

それは、彼自身の無意識の不安。いつ帰る事ができるのか、という終わりの見えない課題への恐怖心。今までのどんな作戦よりも遥かに恐ろしいそれから逃げるように、イェーガーはこの世界に馴染もうとした。それは、他の三人も同じである。だから、拠り所を求めた。

そんな彼に最も近かったのは416だった。彼女の抱える闇を少しでも払ったのは他ならないイェーガーだったのだから。彼女からのイェーガーへの関係は、言うなれば依存だ。彼が離れると、自身の闇に飲み込まれそうになる。だから、離れない。

そしてイェーガーからの416への関係もまた、ある種の依存であり、愛娘に向けるような愛情であった。

そんな歪な二人だったが、お互いに丸一日一緒に行動したのだ。思うところが無い訳では無い。

 

「そう、か。なら…よかった。」

「ええ。」

 

会話が途切れる。

しかし、今日のイェーガーは一味、いやそれ以上に違った。ポケットの中から小さな箱を取り出して、416の顔を真っ直ぐ見詰める。

 

「ところで、な。お前に…いや、貴女に、伝えたい事があるんだ。」

「…はい。」

 

 

そして、

 

 

「俺と、」

 

 

彼は、

 

 

「付き合って…ください。」

 

 

一世一代の大勝負に出る。

 

 

「………ぃ。」

「…え?」

 

 

その時の彼女は、いつもの気品ある堂々としたものではなく。

 

 

「はい。」

 

 

幸せに包まれて、笑顔で涙を流す、外見相応の、少女であった。

 

 

「…有難う。」

「…いいえ。」

 

 

二人は、互いの薬指に銀に輝くリングを嵌める。

そして同時にそれを見、また同時に顔を見合わせて笑い、そのまま唇を合わせる。

ほんの軽い、一瞬だけのキス。

それなのに、まるで悠久のように思えて。

また二人は笑い合った。

 

 

 

____________

 

 

 

 

代金を払って部屋に戻る。

 

「416に、もう二つ。プレゼントがある。」

 

イェーガーが取り出したのは、紫と白のドレスだった。

 

「これは?」

「ああ、服を買った店で一緒に買ってたんだ。似合うかな、と思ってな。」

 

一拍。

 

「そして、もう一つ。」

 

 

「貴女に、名前を。416っていうのも何だか変だろうと思ってな。」

「なま、え?」

「ああ。」

 

 

イェーガーはそこで言葉を区切る。

少し躊躇うように、そして恥ずかしそうに。

416は静かに続きを待つ。

 

 

「ルクス…なんて、どうだろうか。」

「ルクス…」

 

 

彼女は噛みしめるようにその言葉を繰り返す。

 

 

「なんだか、小っ恥ずかしい理由なんだが…猫みたいだな、って思ったし、それに綺麗だから…っておい?」

「ルクス…ルクス、ルクス!」

「おーい?聞こえt」

 

 

416改め、ルクスは我慢の限界だった。

ベッドの上、自身の隣に腰掛けているイェーガーを容赦無く押し倒した。

 

 

「あのー、41「ルクス!」…ルクス、どうした?」

「ねえ、私もう限界なのよ。だからね…」

 

 

自身の中でせめぎ合う気持ちを乗せて、精一杯我慢して、顔を赤らめて。

 

 

「今夜はいっぱい…シて?マリウス(・・・・)?」

 

 

そんな二人の行く先は、まだ分からない。

だが、決して簡単な物では無いだろう。

 

月下、愛銃と共に立ち尽くす男。

 

煤に塗れた銀髪の少女。

 

そして、何よりも。

 

 

 

「ねえ…こども、ほしいなぁ…」

「ああ、そうだ…な。」

 

 

ヒトと戦術人形。

超えられない壁があった。

 

 

でも、きっと大丈夫だろう。

 

 

誰もが無理だと言っても尚、諦めなかった男が、彼女の側に立っているのだから。




でもこの作品では416がヒロインなんや!

絶対に譲らん!


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帰還

「ただいまー。何か変わった事とか無かったか?」

「あらイェーガー。特に無いわ。強いて言うならバンディットとMP7が新しい食料の仕入先を見つけてくれたぐらいかしら。」

「おお!すごい成果だな!」

「………(ぶい)」

「ああ、明日には初回の食材が届くはずだ。」

 

イェーガーと416…ルクスが帰還すると、昼食を摂っているIQとブリッツ、バンディットが固まって座っていた。どうやら簡単なミーティングを行っていたらしい。

彼が席に着くと、非常にのんびりとした空気と共に彼は話を切り出した。

それは、昨日で変化した二人の関係の事だった。

 

「「「は?」」」

「は?って…そんなに揃うか普通。」

「そりゃ、なあ…俺らの中でバンディットと並ぶ朴念仁イェーガーがそんな事するなんて思わんだろう。」

「よし、ブリッツ。お前とは雌雄を決する時が来たらしいな。…それはそうと、祝ってやれば良いのか?」

「え?あー、どうなんだろうな。そこんとこよく分かってないし…」

 

男二人の反応は非常に平凡だった。

詳しい事も追求しない、まさしく『仲間』と言えるものだった。が。

 

「その話、詳しく聞かせなさい。」

 

たった一人、反応した女がいた。

 

「え?」

「いやだって気になるでしょ?」

 

ここから、イェーガーに対するIQの尋問が開始された。

その姿をとあるブラジル人が目撃したならば、こう言っただろう。

『ある意味私よりえげつないわ。』と。

 

 

<<<<

 

 

「で、指揮官とはどうなったの416〜?」

「まさか何にもとか無いよね!」

「あら、UMP姉妹じゃない。こんにちは。」(満開の笑み)

「こ、これはっ!」

「45姉!なんだか416の反応が変だよ!」

「あっ!FAMASが何かを察して倒れている!?」

「あら、5000。大丈夫?」

「えっ…」

「45姉、これは…」

「何かあったわね、吐きなさい416!」

 

帰って来てからどこかテンションがおかしい416を見て卒倒していく人形達。

45が見ると服装もどこか見覚えのあるものに変化していたが、それに気付くのはもう少し後だった。

ともあれ、明らかに変化を遂げている416に不信感を抱くUMP姉妹だったが、実際は全くの別物。幸せゲージが限界突破、メーターぶっちぎりでキャラすら若干変わり始めているのが今の416だった。…若干感づいた人形がいるようだが。

 

「え?…えへへ…」

「「っっっ!?」」

 

理由を聞いたらこの反応だ。慌てて指揮官を見れば、GSG-9の三人に囲まれて同じように事情聴取されているようだ。あちらからの支援は期待できない。…無論、情報源としての、だが。

ならばこの416に全て聞くしかない。心なしかピンク色の空気を自分から撒き散らしているように思える。いや、いつもの事だったか。

混乱している9を余所に、45は油断なく416を観察する。

グリフィンの制服ではなく、新しい私服のようだ。…そういえば今試作中の416タイプの新型戦術人形が似たような格好の制服デザインだったような気がする。

特徴的な銀髪はそのままに、軽く化粧を施したその顔は、416の雰囲気と相まって主人に甘える気品高い猫のようだった。

だがしかし、それとは別に45には決定的に何かが違うように思われた。その時。

 

『『『指輪ぁ!?』』』

 

聞こえて来た声に顔を振り向かせる必要もない。間違いなくGSG-9の三人だ。そして照れたように笑っているのは指揮官だろう。

ならば、まさか!?

 

「416!ちょっと両手を見せてくれない?」

「45姉、どうしたの?」

「まさか、ね。」

「いいけれど、触らないでよね。」

 

すんなりと見せられたその両手に、UMP姉妹は息を呑む。

白磁のような、ほっそりした指に一つ、シルバーのリングが嵌っていた。

決して派手なものではないが、416自身が左手を素早く引き戻したところから、それが彼女にとって掛け替えのないものであることは明白だった。

UMP姉妹は静かに顔を見合わせる。いつしか周りにやって来ていた人形達も黙り込んでいる(FAMASは床でノビていたが)。

そして、45が代表して416に尋ねる。

 

「…どこまで行ったの?」

「……………」

「416っ!」

 

俯いた416の耳は真っ赤に染まっていた。

そして、核爆弾が投下さ(真実が告げら)れる。

 

 

 

「えっと、あの、ね…名前、貰って…その…夜に、いっぱい…きゅう…」

 

 

 

ついに416は両手で顔を覆い、机に突っ伏してしまった。彼女の反応とその変貌っぷりに何人かの人形が絶句する(FAMASは一瞬だけビクンッと跳ねた)。

頼みの45が顔を覆って天井を見上げてしまったため、9が恐る恐る416に追加の質問を投げかける。

 

「えっと、お名前は…?」

 

もはや誘爆は止まらない。加速する。

 

 

 

「ルクス・シュトライヒャー…と言います…ふつつか者ですぅぅぅぅぅ…」

 

 

 

さらに何人かの人形が膝から崩れ落ちる(FAMASは床を転がり始めた)。

もはや瀕死、息も絶え絶えだったが、最後の力を振り絞って質問する。

 

「夜の方は…どうでしたか…?」

 

そして、最後の引き金が引かれた。

 

 

 

「幸せって…ああいう事を言うのね…あぁ…あふんっ…」

 

 

 

最早立っていられた人形など居ない。9ですら片膝立ちがやっとで、椅子に捕まらなければ床に昏倒していただろう(FAMASはそのまま廊下に転がり出て壁にぶつかった)。

戦術人形といえども、中身はお年頃のオンナノコ。こういった話の時には自然と集まってしまうようで、後に残されたのは戦場の如き惨状。

床に昏倒する人形達に囲まれ、たった一人416…ルクスだけが真っ赤な顔を両手で覆って椅子に座っていた。

ようやくこの事態に気付いたのか、GSG-9の面子がやって来た。ただしイェーガーはルクスとは違い、机に突っ伏していたのだが。

 

「どうしt…え?」

「MP7…!大丈夫か!」

「おい、皆!何があった…」

 

三人はルクスを見つけるとフリーズした。たった今この状況を引き起こした話を聞いてきたのだから。

 

「え、えーとルクス…ちゃん?イェー…マリウス(・・・・)と一緒に部屋に戻ったらどうかしら?ちょっと疲れてるでしょ?」

「…そうしますぅ…」

 

真っ赤な二人が食堂を出て行ったその瞬間。

崩れ落ちる音が三つ、静かな食堂に響いた。

 

「あ、あいつやりやがった…」

「責任取るんでしょうね…」

「…もう、何も考えられん…」

 

 

 

その瞬間、

 

 

 

「あら?皆さん大丈夫ですか?」

 

 

 

さらに核爆弾が投下されるのであった。

 

 

 

________________

 

 

 

 

「なあ、ルクス。」

「なあに?あなた。」

 

二人、昼間からベッドに並んで布団を被っていた。

マリウスは猫のようにじゃれついてくるルクスを撫でる。

そんなマリウスの胸に顔を埋めるルクス。

 

「…やっちまったな。」

「そうね…」

 

それはまさしく、一夜のあやまち。

途中から二人共ヒートアップしてきて記憶があやふやになっている。

それでも、とマリウスはルクスを抱きしめる。

 

「でも、あなたと結ばれるなら…んむっ」

 

続く言葉は出てこなかった。

そのまま、お互いの柔らかい感触だけを貪り合う。

 

「っぷはぁ…あなた?」

「俺は、今人生で最高の時を過ごしているよ、ルクス。」

「〜〜〜〜〜っ大好き!愛してるわマリウス!」

「ああ、俺もだ。」

 

耳元で囁かれる甘い言葉に、脳が蕩けそうになる。

お互いの身体を一つにせんとばかりに抱き合いながら、互いに互いの体温を感じながら、二人は眠りに就く。

やはり朝方まではキツかったか…とそんな事を考えながらマリウスは意識を手放す。後に感じるのはパートナーの体温だけだ。

 

「本当に、愛している。」

 

そう、呟いて。




不定期にも程がありますな。
タグ追加しておきますね。

感想、指摘等ありがとうございます。
細々と書いている拙作を評価し、乾燥まで書いて頂けるなんて、本当にありがたい事です。
こうじゃないの?等の指摘もありがたいです。
感謝の嵐です。

それではまた次回。いつになるかな(汗)


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隔日投稿が限界だったか…


すっかり日も落ちて、マリウスとルクスがベッドから這い出ると、マリウスの端末に何件もの着信があった事に気付く。

 

「あれ、俺の携帯鳴ってたか?」

「鳴ってなかったけど…」

「あれー?」

 

この世にはマナーモードと言うものが存在する。

 

「まあいいや。とにかく掛け直して…」

「もう直接行った方が早くない?」

 

自身の携帯にも着信があった事を確認し、ルクスが腰を上げる。

続いてマリウスも立ち上がり、二人並んで本館(ルクス命名)に向かう。

夜の帳に包まれたR06基地に賑やかな声が響いていた。それも、訓練場から。

怪訝な顔を見合わせた二人が訓練場に入ると、そこには見慣れない人物がブリッツと並んで立っていた。どこか見覚えのある雰囲気を纏っているその女性は、ブリッツと並んで人形達に拳銃射撃の指導を行っている。

 

「え、誰だ?」

「知らないわ。」

 

困ったような反応を見せる二人を見、肩を震わせるIQ。背中しか見えていないがブリッツの顔は真っ赤で、そんな彼の反応を楽しむように女性はブリッツに近寄って行く。ちなみにバンディットは娘のようなMP7が射撃訓練中で、付きっ切りで指導している。

一歩ずつ離れていくブリッツに対して、嬉しそうなオーラを撒き散らしながら近寄っていく女性を見かねて、イェーガーが声を掛ける。

 

「ブリッツ、皆の腕前は如何かな?」

 

そんなイェーガーに勢いよく振り向き、ブリッツは立て板に水の如く話し始める。

無論、タダでやられっぱなしの女性ではないのか、無音で近づいてくるとブリッツを後ろから抱きしめた。

 

「ねぇ、何話してるの?」

「いや、皆の腕前についてだな…って近い近い!離れろUSP(・・・)!」

「「は?」」

 

ハモった。決して偶然というわけではないのかもしれないが、イェーガーとルクスの声が綺麗に重なった。

そんな二人は目の前に立つ女性をまじまじと見つめる。

言われてみればそんな雰囲気がある。

まるで大人の女性のように抜群のスタイルを持ちながら、服装は以前と変わっていないからだ。

ただボディを変えただけの筈なのに、纏う雰囲気、立ち振る舞い、どれを取っても名家のお嬢様と言っても差し支えないレベルへと変化していた。

言葉遣いからするとどちらかというと歳の近い友人か。

 

「…あ、そうか。新型躯体のテスター…」

「あれ、USPだったの?随分様変わりしたわね。」

「いや、それだけじゃない。見ろ。」

 

そう言ってブリッツが差し出したのは自分達(GSG-9)にとって見慣れた武器。

 

「これは…おい、タクティカルじゃないか。」

「ああ。どうやらボディと共にメインアームも更新されたらしい。」

 

手に取ったイェーガーが驚いた声を出すと、ブリッツが呆れたように肩をすくめて見せる。

そんな彼の反応に、未だ抱きついたままのUSPが不満げに声を漏らす。

 

「えー、だってこの体にはコンパクトじゃ小さかったし…」

「いや、あれはあれでちゃんとした理由があるからな?」

「それよりも、どうしてこんな時間に訓練を?」

 

預かったハンドガンをUSPに返しながらイェーガーは尋ねる。隣にいたルクスはいつの間にか自分も混ざっている。その手にはMk23。

本人が隣に立ってるのによくやるなー、と思い見ていたイェーガーだが、ふと気付いた事がある。ルクスのホルスターにもMk23が収まっている筈で、今ルクスのホルスターは空っぽになっていなければおかしいのだ。しかし、彼女のホルスターにはしっかりとMk23が収まっている。そしてそれを使用するのは現状、戦術人形のMk23、ルクス、そしてイェーガーの三人だ。つまり今ルクスが使っているのはイェーガーの物という事になる。

 

「えっとね、私が帰ってきてからこの人が急に訓練するとか言い出してー…って、聞いてます?」

「あぁ…効いてる。」

 

しっかりと。

寸分違わず頭に全弾命中させたルクスは周りの視線など気にせず、その銃に頰を擦り付け、挙句匂いを嗅ぎだした。それもにっこり笑顔で。

その様子を見てイェーガーは顔を赤くして額に手を当てる。

 

「でもそろそろ終わりだ。もう飯の時間すら過ぎてるぞ。」

 

イェーガーが示した時間は、午後十時。そろそろ就寝準備を始める人形も居る。

そんなイェーガーの指示に、他の三人も従う。

 

「そうね。疲労も溜まって…あ、そうだイェーガー。荷物、届いてたわよ。そんで二人。これ。」

 

IQからイェーガーに渡されたのは大きめの箱、残りの二人には小瓶。

イェーガーはそれを受け取ると、まだ射撃をしようとしていたルクスに耳打ちしに行く。たったそれだけでルクスはイェーガーにくっついて離れなくなった。

また、ブリッツとバンディットは複雑な表情をしていた。何を隠そう、手渡された小瓶は例の『若返りの薬(仮)』なのだから。

 

「ほら、寝る前に飲みなさい。」

 

そういってIQは手早く身支度を整え、人形達に声を掛けて去っていく。彼女に気付いた人形は、時間を確認して自身の部屋に去っていく。もちろん、片付けはセルフサービスだ。特にAUGの行動は素早かった。予め片付けをしていたのか、それとも要領が良いのか。

各々が就寝準備に向けて動き出す中、USPとブリッツは最後まで残っていた。

 

「さて、俺も少しは訓練しておくか。」

「なら私も。」

 

しばらく、乾いた銃声と薬莢の立てる甲高い音だけが訓練場に響く。

弾倉が空になった瞬間、その弾倉を引き抜き新しい弾倉を叩き込む。

音が静まった時、少し荒い息を整えるブリッツと、USPが優雅に彼のレーンへ歩く足音が新しく響き始める。

 

「お疲れ様です。」

「ああ、ありがとう。」

 

そう言いながらブリッツは弾痕の確認。外れなし、四肢に数発。他は胴体と頭に集中していた。

少し不満げなブリッツに、USPがその理由を尋ねようとして、やめた。彼の目が見ているのは自身の使っていたレーンだったからだ。

七割近い弾痕は頭に集中しており、他も心臓などの急所を穿っている。その結果を、ブリッツは食い入るように見つめていた。

 

「…指導する立場である俺が、指導される立場の人間よりも劣っているってのは、なあ…」

 

USPは一瞬、迷った。ここは慰めるべきなのだろうか。安い同情の言葉を投げかけた所で、それはただの自己満足なのだろう。であれば…

 

「ふっふっふ…私はHGの戦術人形ですから!もしろ私が負けてたら戦術人形として恥です。ここだけは譲りませんよ!」

 

ふんす、とアピールすると、ブリッツは困ったように頭を掻く。

 

「そうなんだが…USP、少し抑えろ。シャツの耐久値が限界だ。」

 

へ?と情けない声を上げた瞬間、シャツのボタンが弾け飛ぶ。急速に変化した躯体に対して、新しい制服の支給はまだ先のようだ。

顔を真っ赤に染めるUSPに対して、目をそらしたブリッツが自分のジャケットを渡す。

慌てて袖を通して前を留める。

 

「…見ました?」

「見てない。」

 

初々しいそんな二人の会話を聞いていたのは、煌々と輝く月だけだった。




書き溜め中…
だが今日は調子が良かった!二話投稿だ!紅蓮華の力は偉大なのだ!

…あれ?『今日』?


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5000UA &お気に入り登録者100件突破特別回

ぬわははは!(深夜テンション)


「次の配達先は…グリフィンのR06基地か。最近新しい指揮官が着任したって噂だが…」

「店長、積み込み終わったわ。他の皆は残って仕事ですって。」

「ああ、ありがとう。早速出発だ。昼過ぎ頃には到着できるだろう。」

 

 

_________

 

 

 

さて、何かと変化の多かったR06基地だが、ここ最近はそれが顕著だった。

MP7を受領し、416がイェーガーと結ばれ、新型躯体のテスターであったUSPが大人になって帰ってくる…などなど。

そんな基地も少し落ち着き、人形達も日々訓練に励んでいた。

本館一階、食堂にて。

 

「あ、新しい仕入先からの配達はお昼過ぎでしたね。」

 

わいわい好き勝手に騒ぐ人形達は、よく食堂に集まりに来る。食堂というより、小洒落たカフェのような雰囲気の食堂は、かつて前任指揮官の命令で人形達の使用が禁止されていた。それを見かねたIQのアイデアで、ここを人形達の食堂としたのだ。配属数の少ないこの基地ならではの措置だが、その日から人形達は何かと食堂に集うようになった。…呼び名は未だ『食堂』であるが。

そんな食堂にて、料理担当のスプリングフィールドが冷蔵庫に貼られた仕入れ表を見て思い出したように声を上げる。

バンディットが見つけてきた新しい仕入先。

それがどんな物を運んで来るのか自分には分からないが、品質は保証できる、との評判だそうだ。

バンディットに渡したリストのうちどれ程が手に入れられるのか…今はそれだけが心配である。

 

「ねーねーフィー。」

「フ、フィー?」

「あ、スプリングフィールドだから、フィー。」

「安直ですね。…それで、どうしました?軽食ならありませんよ。」

 

そっかー、と天を仰ぐのはMk23。軽食をねだりに来たのだろうというスプリングフィールドの予想は当たったらしい。なら昼にしっかり食えと思ってしまう。

席に戻るMk23を見詰めながら、スプリングフィールドは今日のシフト表を見る。

そこに書かれていたのは、『Mk23』の文字。

 

(そういう事ですか!)

 

去っていくMk23の背中はどこか勝ち誇っているように見えた。夕飯の仕込みがもうすぐ始まる。その時余った食材で何か拵えようという計画なのだろう。

仕込み自体に時間は掛からないからこその行動。しかしスプリングフィールドは咎めるつもりは無い。彼女の作る軽食は好評なのだから。

席に戻り、ルクスやUSPと共に語らう彼女を見ながら手早く昼食後の後片付けを終えると、スプリングフィールドは時計を見る。

 

「さて、そろそろ到着する頃でしょうか。」

 

身につけていたエプロンを脱ぎ、手鏡で化粧を確認。異常なし。

スプリングフィールドが正面ゲートに着いた時、同じように停車した車があった。

ロシア語で(・・・・・)書かれた店名は『スペツナズ』。バンディットの言った店名と同じだ。

後ろからバンディットとMP7がやって来るのを確認、ゲートを解放。滑るように入って来たその車を食堂の近くまで誘導し、停車させる。

 

「こんにちは。あなたが料理係のスプリングフィールドさんかしら?」

 

凛と響くその声に反応し、スプリングフィールドが車の側面まで回ると、助手席から金髪を一つに結び、『スペツナズ』と刺繍された緑色の前掛けを身につけた女性が降りて来るところだった。やはり特筆すべきはスタイルの良さだろう。恵まれていると自負するスプリングフィールドに比肩するほどに盛り上がったシャツの主張が激しい。狙っているわけでは無いのだろうが、この場にUMP45が居れば血涙を流していた筈だ。…それで済めば良いのだが。

 

「ええ。あなたは?」

「私は…うん。あなたにはこう言った方が良いかしら。私はDP28。よろしくね。」

「!?…よろしくお願いします。…"元"ですか?」

「ええ。もう引退したわ。」

 

引退したとはいえ、DP28がこんな所で食材屋を営んでいるとはスプリングフィールドにとって予想外であった。

そんな二人の後ろからバンディットがやって来る。親子のようにくっつくMP7がDP28を見つけて目を輝かせる。

彼の説明によれば、二人が店を訪れた際、MP7がDP28にえらく懐いたらしい。理由は分からないが、その前にDP28がMP7に菓子を与えていたような…と考え込むバンディットが少しだけおかしく見えた。

 

「おい、DP?積み降ろすぞ?」

「あら、そう?分かったわ。」

 

運転席からそんな声がした。

 

「?君が店長では無いのか?」

「ええ。…この人が店長。」

「やあ、どうも。今後とも『スペツナズ』をよろしく。」

「ああ、こちらこそよろしく…」

 

片手を上げた状態でバンディットがフリーズする。何事かとスプリングフィールドが振り向くと、そこには特徴的なヘルメットを被った男性が立っていた。

少し特徴的すぎて、理解ができていないのだろうか。人形達はそう思った。

だが実際はもっと異なる事情があった。

 

「え、は?」

「ん?ああ、このヘルメットかい?こいつは俺のトレードマークみたいなもんさ。」

「…いや、違う。違うんだ…済まない、アダ名とか、コードネーム(・・・・・・)みたいなもの、持ってないか?」

 

苦し紛れに絞り出したバンディットの言葉に、男は変な質問するんだな、と首を傾げる。

そして、挨拶するような勢いでその名を口にする。

 

「ああ、あるぞ。タチャンカ。」

 

その瞬間、バンディットの体がコンクリートの地面に崩れ落ちた。

 

 

______________

 

 

 

「よし、これで最後だったな。それじゃ、今後ともご贔屓に!」

「またね。」

 

そう言って二人は帰って行った。

後に残されたのは、食材の運び込みで若干疲れたスプリングフィールドとMP7、そして崩れ落ちたまま動かないバンディットの姿があった。

一体何があったのだろうと言わんばかりに首を傾げながら、拾った木の棒でバンディットを突くMP7。

それを見ながらスプリングフィールドは手に持つ物を見下ろして疑問符を浮かべる。

 

「あの人、このヘルメットどうするんでしょう…」

 

言った瞬間、先ほどの車が引き返して来た。

慌てたように運転席から飛び出す男とそれを見て微笑んでいるDP28を見て、スプリングフィールドはこう思った。

(ああ、この人は人気投票で一位に輝きそうだな。)と。

 

「済まん!ヘルメットを預けっぱなしだったな!」

「い、いえ…」

「ほら、次の仕事があるわよ。坊や。」

「だから坊やじゃない!…ありがとうな!」

 

ヘルメットを受け取って戻る男だったが、突然立ち止まった。何事かと疑問に思うスプリングフィールド。

 

「あ、何か危ない事があったら(・・・・・・・・・・・)俺たちに知らせてくれ。すぐ駆けつけてやる。」

「え、は、はぁ…あなたは一体…」

 

突然そんなことを言い始めた男に向けたDP28の顔は、フロントガラス越しでも分かる呆れ笑い。しかしどこか、彼に向けた信頼の念が感じられるものだった。

困惑するスプリングフィールドに向けて、ヘルメットを被り直した男は少し振り向いて言う。

 

俺達(・・)は、スペツナズ(・・・・・)だ。」

 

片手を振りながら車に乗り込み、華麗にドリフト。そのままスピードを上げて走り去る『スペツナズ』の配達車。

そんな車を、スプリングフィールドはずっと見つめていた。

運転席から腕を出し、サムズアップしながら走り去っていく男。

その立ち振る舞い、まさしく『戦士』であった。

 

「………………(つんつん)」

「MP7…そろそろ起こしてあげましょう。」

 

 

 

______________

 

 

 

 

「「「スペツナズぅ!?」」」

「こら!指揮官達!もう少し声量を落としてください!」

「まあまあ。ダーリ…指揮官も驚く事だってあるから…」

 

GSG-9の驚いた声が食堂に響く。その大声を咎めるスプリングフィールドだったが、Mk23の指摘に成程、と頷く。

ちなみにこの基地のMk23は指揮官の事をダーリン呼びに出来ない理由がある。理由は…ルクスの殺気だったりする。彼女がイェーガーの事をダーリン呼びしたその瞬間、身の毛もよだたんばかりの殺気が辺り構わず振りまかれるからだ。

そんな訳で、若干気を遣いながらの会話になるが、Mk23はGSG-9の面々を見やる。

そこには、いつになく真剣な表情で額を合わせる四人が居た。

 

「指揮官は何て言ってたの?あ、もしくはバンディットさんでもいいけど?」

「それが、バンディットさんは名前を聞いた瞬間崩れ落ちてしまって…」

 

あの冷静沈着なバンディットでもそんな反応をすることがあるのか、と一人驚きながら、スプリングフィールドに続きを促す。

 

「それで、指揮官は?」

「えっと、妙に納得していましたね。ブツブツ呟いてましたよ?…あ、Mk23はお皿洗いしておいて。」

「りょーかーい。…そんなに珍しいんだね、『スペツナズ』なんて。」

「なんでも指揮官達の時代に存在した特殊部隊だとか。」

「ほえー。」

 

そんな会話を続ける二人を他所に、GSG-9の四人は緊急会議を開いていた。食堂で。

 

「さて、『スペツナズ』か。俺達が貰った資料にもあったな。「ねえマリウス〜構ってよ〜」あちらさんも四人招集だった筈だ。」

「そうみたいね。スプリングフィールドとバンディットが聞いたコードネームにも「あらモニカ。お口に汚れが。」…間違いは無い…はずよ。」

「そうなのか。俺達の仲間、って事に「明日はどうしますか?ブリッツさん?」なるのかね。」

「ふむ、そうだな。「……(ぎゅー)」コードネームは確かに聞いたよ。」

 

「「「「タチャンカか…」」」」

 

確か自身でレストアしたDP28(・・・・)を機銃として使用できる、優れたオペレーターだった筈。

それに付随して、他のスペツナズのオペレーターの情報も整理しておく。

 

「えーと、カプカン!侵入阻止デバイスを設置する奴だった!…と思う。」

「思う、か。信用ならんな。…グラズ。サーモ機能付きのスコープを使う狙撃手だ。」

「あとはー…あ、そうそうフューズ!壁越しに爆弾バラ撒くデバイスね。」

「それに、タチャンカを加えた四人だったか。」

 

「「「「すごい尖ってるよな(わね)。」」」」

 

 

______________

 

 

 

 

「っくしゅん!…風邪かな。」

「あらあら坊や、大丈夫?私のコートでも使う?」

「大丈夫だよ。…お前を拾った時も同じセリフ吐いたろ。」

「それはそうね。雪に埋もれて死んでいく筈だった私を拾って皆で修理した後にも一回、こんな会話したわね。」

「…詳しいな。」

「命が繋ぎ止められた日の事を忘れられる人が居て?」

「ま、それもそうか。」




作者 の 語彙力 が 尽きた!
日付こそ変わりましたが、二話投稿です。
テンション上がってしまいました…
次は…明後日かなぁ…


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もう疲れたよパトラ○シュ…
花粉、歯の痛み、睡眠不足…
極め付けはスランプ…
書き直しを繰り返していたらこんな事に…
申し訳ありません…


『Luchs &Marius』

ログハウス内でも比較的大きな角部屋の扉にぶら下がるプレート。夫婦となった二人の強い要望によって相部屋となったのだが、よく部屋の中から聞こえてくるルクスの甘い嬌声や、ベッドの軋む音は、プレートを見る者が胸焼けを起こすには十分すぎるほどの効果を持っていた。

現時刻、0600。今朝も本来ならいつもと同じように暖かな光が差し込み、コーヒーの香りが漂う二人の愛の巣だった筈なのだが…

 

「ルクス、緊急招集だ。人形達には0800に食堂に集合するよう伝達。」

「了解したわ。マリウ…指揮官は?」

他の三人(GSG-9)で先に話し合いだ。」

 

今日に限っては、なにやら不穏な空気が漂っていた。

 

 

____________________

 

 

 

「こんな風に集まってもらったのは他でもない、グリフィンからの指令が下ったからだ。」

 

その言葉を聞き、食堂に集まった人形達の表情が一変する。今までのような和気藹々とした物ではなく、戦術人形として指揮官の指令を待っているのだ。

一度も実戦を経験していない者もいる中、イェーガーの合図で指揮官補佐、416改めルクス・シュトライヒャーが全員の携帯にデータを転送、ホログラムを交えての説明となる。

 

「作戦の内容から伝えよう。」

 

そう言いながらホログラムを表示させる。

 

「ここから南東に20キロ、今はゴーストタウンとなっている街に鉄血の勢力が集結しているのが確認されたそうだ。」

 

言いながら街の一角を示す。

嘗ては一大都市だった街らしく、巨大なビルの残骸が残る地帯に赤い点が打たれる。

街から見てR06基地は北西に存在するが、その街の南東部、つまり基地から最も離れた場所に鉄血が集結しているのだ。一抹の不安を抱えつつ、イェーガーは続ける。

 

「俺たちの目的は、こいつらの殲滅だ。」

 

殲滅、つまり敵の一掃。戦力拡張もままならないこの基地に回されるような任務ではない。

だがグリフィンはR06基地を指名してきた。やれと言われた以上、やらねばならない。内容を聞いた時、イェーガーには一つのアイデアが浮かんだ。

 

「めちゃくちゃな話だが、俺が操縦するヘリで敵陣の奥深くに空挺降下し、司令部を制圧してしまえば終わりだ。」

 

あっけらかんと言ってのけるイェーガーに、人形達は唖然とする。指揮官は何を言っているのか、と。

彼女達にとっては初耳の話であり、当然反発する人形も出てくる。今にもイェーガーに掴みかからんとするルクスは、その例だろう。

イェーガーへの強い依存が認められるルクスが、そんな事を聞いて許すはずがなかった。

対空砲火に晒されるのは確実だ。万が一、撃墜などされてしまえば…ルクスは文字通り発狂するかもしれない。

となると、ともう一つの案をブリッツが提示する。

 

「街に潜入して地道に進んで司令部を叩く、っていうのもある。ただ見つかったときのリスクが…」

「正直なところ、『よく分からない』んだ。ヘリアンから伝えられたのは作戦内容だけ、戦力も何も分かっちゃいない。」

 

そう言って嘆息する、自身のパートナーを見てルクスは無力感に打ちのめされた。目の前で愛しの人がこんなにも悩んでいるのに自分は何一つ手助けできないのが、今はただただ辛かった。

自分にも(・・・・)何かできないかーそう考えた時、ある情報が脳裏を走り抜ける。

それは、わたし(ルクス)ではないわたし(416)。非公式に設けられた部隊に、同じ416が所属しているなんていう話。

根も葉も無い、ただの噂に…ルクスは賭けてみる事にした。

 

 

<<<<

 

 

「416〜?新しいお仕事だって〜。」

「…なるほど、ね。」

「行くの?」

「ええ。それが新しいわたしたち(404小隊)の仕事でしょ?」

「…そうみたいね。」

「ならさっさと行くわよ。私は完璧なんだから。」

「…まだ、眠い…」

「起きなさい。」

「痛い…」

 

 

<<<<

 

 

数日後、食堂でサンドイッチを食していたルクスの下に一通の電子メールが届く。

内容を確認。

 

「…ありがとう、わたし(416)。」

 

最後の一切れを口に放り込み、ルクスは司令室へ向かう。

ここ数日、人形達やGSG-9がイェーガーと共に日替わりで会議を行っているからだ。珍しい時には、奇妙なヘルメットを被った男を先頭に、屈強な男四人(見た事がない)と民生人形となったDP28が訪れた事もある。

はてさて、今日は誰がいるのやらと少しワクワクしながらルクスは扉を叩く。

 

「指揮官、ルクスです。」

 

へんじ が ない。

 

少し疑問に思ったルクスは、扉をそっと開く。隙間から覗いた司令室の中には、

 

「誰、も、いない…?」

 

開かれた窓、風に煽られる白いカーテン、そして、机の上の紙片。

不審に思いルクスが近づくと、廊下から人が走ってくる音。多い。五人以上はいるだろう。

ソファに座りながらその気配を待っていると、壊れんばかりの勢いで司令室の扉が開かれた。

 

「ひゃっ!?」

 

あまりの音に驚いたルクスが小さく悲鳴を上げる。

現れたのは、GSG-9と奇妙なヘルメットの男、そして見慣れない別の男。

その男が、いつかやって来た男達だという事を思い出す。

 

「ん!?あ、ルクスか…驚かせたか。悪いな。」

「いいえ、大丈夫…それよりどうしたの?」

 

イェーガーの代わりに答えたのは奇妙なヘルメットの男。

タチャンカと名乗った男は、声色に少し焦りを滲ませながら言った。

 

「始まったのさ。鉄血の侵攻がな。」

「…やっぱり…」

 

てっきり慌てると思ったイェーガーだが、正反対に冷静なルクスを見て驚く。

 

「驚かないんだな。」

「ええ。別の『わたし』から教えてもらったから。」

「…噂の404小隊か。」

「どうかしら。ヘリアンさんを介して連絡をしていたから分からないわ。それよりも聞いて指揮官。敵戦力の事が分かったわ。」

 

その一言で目の前の六人に電撃が走る様を、ルクスは幻視した。

 

「…どうなんだ?」

「ほとんどが機械型。対空砲火なんてできっこないでしょうし、ヘリでの空挺降下もできるかもしれない。それに、定期巡回のルートも貰ったから潜入もできる。」

 

そう言いながらルクスは携帯を起動。必要な情報のみをピックアップして説明する。

空路と陸路。選択肢が二つに増えるという事は、意見も二つに割れるという事。これからの議論を考えると頭が痛くなりそうだとルクスは思った。

しかし意外にも、彼らの意見は一致した。

 

『行きは地上、帰りはヘリ。』

「やっぱりな。…しかしこの作戦、俺が操縦するヘリが墜落して皆に救出されそうなんだよな…ん?今俺は何を…」

 

若干変な電波を受信したイェーガーをよそに、作戦が組み立てられて行く。

 

「巡回コース通りならすんなり行けるな。ついでに弾薬庫も吹っ飛ばしたいな。」

「そうだな。俺が行けたら、帰りしなにズドン、と。」

「なら帰りはこのポイントで…」

「いや待て、指揮系統の乱れた鉄血がどんな動きをするか…」

「ならこうして…このルートなら…」

「そもそも誰が…」

 

人形よりも効率は悪い。しかし、いかなる可能性も考慮しながら確実に作戦を構築していく。指揮官用の机を占領する姿を見ながら、イェーガーはルクスの隣に腰掛ける。ルクスが口を開くよりも先に、イェーガーが彼女を引き寄せて抱きしめる。

漂う甘い香り。しっかり洗濯されたグリフィンの制服を着たイェーガーも良いが、ルクスはGSG-9の姿が一番好きだ。

制服がしわになるのも構わず、ルクスはイェーガーに抱きつく。

 

「ねえ、指揮官。」

「どうした?」

「熱心に考えてるその作戦、一体誰が行くの?」

 

しまった。考えていなかった…そんな顔をするイェーガーに少し微笑んで、ルクスは彼の頰に唇を触れさせる。

 

「な、ルクス…」

「そんな事だろうと思って、ほらこれ。選んでおいたわ。彼女達の了承は取ってあるから、指示すれば直ぐにでも行くわよ。」

 

渡されたメモには、数人の人形の名。

SMGが一人、ARが二人。そして、HGが一人。

明らかにイェーガー…というかGSG-9を意識した編成に、流石の彼も笑いを禁じ得ない。

こんなにもルクスが、自分達の事を考えてくれている。それを感じられただけで、今のイェーガーは全ラウンドオールキル完封勝利する気力十分だった。

褒めて欲しいのか、顔を少し赤らめたルクスの唇を奪う。呆然とした彼女の頭を撫で、彼は会議に参加する。

もはや負ける気はしない。

作戦を立案するイェーガーの声は、心なしか弾んでいた。




「ところでマリウス。」
「どうしたルクス?」
「あなたがこの世界に来た時乗っていヘリ、もしかしてCAPC○M製なんじゃないかしら?」
「伏せ字、伏せ字!意味がないだろそれ!」
「あっ…」
「ん?どうしt…」

『味方が全滅。ミッション失敗だ。』


偏頭痛と花粉症のダブルパンチ…キツイですが、なんとかやっていこうと思います。

感想、評価感謝です。どっちかというとほのぼのを書きたい…でも虹6要素も出したい…でも戦わせたい…
体が闘争を求めているのでしょうか…難しいところですね…


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ちょっと調子が出てきました。

やっぱり体調って大事ですね。皆様、体調管理はしっかりなさってくださいね。


日が暮れる。暗闇に包まれたゴーストタウンに、人の気配は無い。

静けさばかりが存在する街に、金属同士が擦れる不協和音が響く。

ライトも何も点けず、暗闇の中淡々と資材を貯蔵しているのは、鉄血の人形だ。下される命令にただ従うだけの『人形』…それがJaegerの役目だ。

彼女に個体としての意識は無い。工廠の製造レーンから吐き出された、大量生産品の内の一つ。

製造番号35654444362番という名称こそあれど、固有名詞ではなくシリーズ名で呼ばれる。

 

35654444362番ー定期巡回、移動後交代:30486695864番

30486695864番ー了解

 

そう、あくまで彼女達は大量生産品。消耗品なのだ。

故に、基本的に個体差は現れない。基本的に。

 

35654444362番ー30486695864番

30486695864番ー他機反応…無し

35654444362番ーよし。これで私は自由の身だー。

30486695864番ー軽っ。もっと警戒しながら…

35654444362番ーいいじゃないそんな事。だいたいここ、基地の外周だし。誰も来ないって。

30486695864番ーそういう事でもなくて…

42737220234番ーお、なになに?何の話?

43618135246番ー面白そうな話ー?

 

…極々稀に、自我を持っている者が居たりする…らしい。

 

 

 

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「…何だかあの辺りの警備が薄そう。」

『ならそこから潜入だ。行けるか?』

「準備万端ですわ。」

『よし、作戦開始だ。』

「了解。…行くわよ。会話は最小限に。」

 

USPを先頭に、街の外れまでやって来た四人の戦術人形が暗闇の裏道を進む。

しっかり夜戦装備も持って来ている。イェーガーが16Lab製の夜戦装備をペルシカからぶんどって来た為、視界は良好だ。

巡回ルートを確認し、その合間を縫って走る。

先頭はUSP、最後尾はMP7、その間にAUGとルクス。

USPからの通信。『この先、幹線道路。』

 

了解の意を示すハンドサインと共に、ルクス達は静かにUSPと合流する。

息の詰まるような行進だが、着実に近づいている。その時だった。

まるで地震のような振動が四人を襲う。バランスを崩し、尻餅をつく四人だったが、幸いにも敵に気付かれた様子はない。

USPが取り出したのは、イェーガー達が使っていたドローンだ。

裏路地の物陰に隠れ、USPはドローンを操作する。

 

(…これは、何?)

 

静かに携帯を仕舞い、USPは味方にありのままを伝える。

 

「…鉄血の人形兵が、弾薬でキャンプファイヤーを…」

「「「!?!?!?」」」

 

危うく大声を出しそうになった三人が、慌てて口を塞ぐ。キャンプファイヤーなんて言葉を聞くのは、キャンプ場ぐらいのものだろうに。

三人も携帯を取り出し、USPのドローンのカメラを見る。

確かに見える。大きな火が。

 

「違うわUSP。これは弾薬庫の爆発よ。一体どうして…?」

「……(コクリ)」

 

冷や汗をかきながら携帯を仕舞い、意識を切り替える。ここで立ち止まる余裕は無いのだ。

とりあえず目の前の幹線道路を越える必要がある。幅は四車線分。渡っていれば巡回兵に見つかるだろう。

何か方法は無い物か…そう考え込む四人だが、イェーガーからの通信が入る。

 

『少しいいか。そこにマンホールがあるはずだ。その中から基地の内部に入れるかもしれない。』

『…とっっっっても嫌だけどそれしかないわ。道案内お願いね。』

『…ああ。データを送った。基地に接近した後は、そのデータ通りに進んでくれ。』

 

了解、と返し、ルクスはマンホールの蓋を開ける。

幸運にも中身は通信ケーブルが通る地下道で、USPを先頭に降りて行く。

最後尾のMP7が降り、再び進行を開始する。

 

「…明かりも灯っている…どうやらこの通信ケーブル、生きているみたいですわ。」

「………(コクリ)」

『そこを右。…の……は……に進n……』

 

突然の通信障害。警戒レベルを引き上げるルクス達だったが、慌てず騒がず進む。

ほとんど何も起こる事なく、目的のマンホールの下に辿り着き、出口を見上げる。

USPが携帯を取り出し、ドローンを操作する。敵影なし。その報告をすると、AUGが持っていた巨大な箱(・・・・・・・・・)を開く。

中から出てくるのはUSPコンパクト(・・・・・)の躯体。ダミー人形としてではなく、USPが動かせる人型ドローンと言ったところか。

コンパクトのボディに意識を移し、マンホールを上がる。万が一破壊されても、すぐさま今の躯体に意識を戻せる優れもの…なのだが、なぜかこのシステムはUSPにしか扱えないブラックボックスとなってしまった。

 

 

 

<<<<

 

 

 

35654444362番は、その時目を覆うゴーグルを外していた。

大欠伸をしながら伸びをして歩いていたら、目の前が真っ赤に燃える。驚いた彼女の前に、弾薬トバせと輝き叫びながら吹っ飛んで来たのはダイナゲート…をハッキングした404小隊のUMP45。黒焦げになりながらも地面を三回転して止まる。

 

そんな事など知らず、ただただダイナゲートが吹っ飛んで来た事に困惑する35654444362番だった…

 

 

 

<<<<

 

 

 

「…敵影無し。」

 

USPの報告に頷き、地上に上がる。まず感じたのは熱さ。弾薬庫の大爆発が各所で起こっており、その度に付近にいた鉄血兵が豪快に吹き飛ぶ。

静寂に包まれていた鉄血の司令部付近が、一瞬で地獄絵図と化した。

呆然とした三人の意識を戻すために、ルクスは小さいながらも声を出す。

 

「…行きましょう。」

『ちょっと待ってよー。どこへ行くつもりなの?』

 

どこからともなく聞こえた電子音声に、一行は動きを止める。

MP7が後ろを向くと、黒焦げになり関節から煙を上げるダイナゲートが。どうやら声の主はそれらしい。

警戒しながらルクスが近づくと、ダイナゲートは驚いたように声を出す。

 

『あれ?416?どうしてここに?』

「残念、私はルクスよ。あなたの(・・・・)416とは別人ね。」

『あっそう。じゃ、ついて来て。目的地まで一直線よ。』

 

ルクスの話はいとも容易く流される。あくまでもマイペースに事を進める謎のダイナゲートだが、ルクス曰く信用できるらしい。

怪訝に思いながらも一同は司令部に近づく。

 

『ルクス。聞こえるか。そろそろ目標地点だ。気を引き締めろ。』

 

了解、と短く返してルクス達は進む。BGMは、弾薬庫が上げる爆発音だ。

煙が漂い、数メートル先もはっきりしない中、先頭のダイナゲートが突如動きを止める。

 

『あー、ごめん。この辺でお別れよ。後はよろしくねー。』

 

そう言い残して崩れ落ちる。どうやら動く気配は無いらしい。

USPを先頭にして再び進もうとした時。

 

「よう。俺の基地をこんなにしたのはテメェ等か?」

 

爆発を背に佇む黒い人影。大型の剣と拳銃を携えたその人形は、鉄血兵とは比べものにならない程の威圧感を放っていた。

明らかにワンオフの人形であるその敵は、その剣をルクス達に向ける。

 

「違うって顔してるが…ま、グリフィンなら潰すだけだしな。」

 

言うや否や、その姿が掻き消える。

 

「ルクスさんっ!」

 

USPがルクスを突き飛ばしていなければ、ルクスは真っ二つになっていただろう。

それならばUSPは?

思い返してほしい。彼女が誰に付き添っているかを。そしてその()が、一体どんな獲物を構えているかを。

 

「何!?」

「この程度ですか…っ!」

 

ブリッツから借りたG52タクティカルシールド。前方数メートル限定だが、強烈な閃光を放つ。

USPは、敵の凶刃を防ぎながら閃光を放つ。これで視界を奪ったはず…そう安堵して気持ちが緩んだ瞬間を、敵は逃さない。

 

一閃。

 

USPの身体が、斜めにズレる。

 

「まず、一人。」

 

一際大きな爆炎が上がる。まるで、これからが本番だと言わんばかりに。

 

「テメェ等全員ここで死にな。」

 

そう言って敵は剣を振る。三人を順番に見て、ある一人の所で視線を止めた。

何を思ったか、突然笑い出した敵にルクス達は油断なく銃を向ける。一挙手一投足を見逃さないように。

 

「はははは!こいつは傑作だ!獲物自らやって来てくれるとはな!」

 

まだ戦いは、始まったばかりだ。




ちょっと描写不足な気がします。
私の能力ではこれが限界でした…すみません…

最初に想定していたバージョンだと、この戦闘にタチャンカがいたんですよ。
しかし!あまりにもグダッてしまったのでボツになりました…タチャンカ愛好家の皆様、申し訳ない…

そんな技量不足も露呈してしまいました。


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受け継ぐものたち

不 定 期 更 新


「その程度かぁ!このボンクラ共!」

 

戦いは、ルクス達に不利であった。開幕早々USPがダウン、敵の狙いはMP7。

加えて濃くなる煙。ルクス達の動きが制限されていく。一度退却しようにも、その隙を敵が見逃さない筈がない。片手の拳銃を乱射し、退路を塞いでくる。

狙いを定めるよりも先に敵が動く。いつしか戦いの場は、ヘリポートへと移動していた。

 

「チッ。まぁた逃げやがる。」

 

ルクスと向かい合う敵は舌打ちをしながら、片手の拳銃を的確に操る。恐ろしい程正確に放たれた弾丸は、MP7の右肩を貫通する。

構えていた自分の武器が炎に飲まれるのを見たMP7は、ホルスターから拳銃を抜いて速射。敵はその弾丸を見切っているかのように剣で弾きながら、ルクスに肉薄する。その手の剣を一閃、ルクスが右手に構える416を切り捨てた。

機関部を斜めに切り裂かれた416を投げ捨て、ルクスは慌ててMk23を引き抜こうとする。さらにルクスに近づく敵に向け、AUGが射撃。

 

「やらせませんわ!」

「面倒だな!」

 

視線の交錯は一瞬。敵の動きを見切ったAUGが続けて射撃。黄色い光が数度瞬き、その間に敵はAUGの懐に潜り込んだ。

 

「MP7さん!」

 

AUGが上半身を大きく後ろに傾けるのと、MP7が拳銃を発車するのは同時。

その奇襲すらも、敵は見切って見せた。構えた剣の腹で弾丸を防ぎ、AUGをMP7に向けて蹴り飛ばす。

体勢を立て直したルクスがMk23を構えると、その気配だけで敵は宙に飛び上がる。誤射を恐れたルクスが若干戸惑うと、彼女に向けた鉛玉が降り注ぐ。

 

「しまっ…」

「死になァ!」

 

咄嗟に両手で頭を防ぐも、いくつもの命中弾を食らう。片膝をつき左手をだらりと下げ、服の至る所が赤く滲むルクスに向けた投擲物。

ニヤリを笑う敵が投げたのはグレネードだ。

 

「ルクスさん!」

「これで…二つ目ぇ!」

 

だが、ルクスの表情は余裕そのもの。片目を血で赤く染めながら、敵の姿を真っ直ぐに見据えている。

遂に、グレネードが爆発するーその瞬間。

 

Pi!

 

この場には似つかない軽い音がルクスの制服から響く。

白い線がグレネードに向けて走ったと思うと、グレネードが爆ぜる事なく地に落ちる。

カランカラン、と虚しい音と共に転がる残骸を凝視する敵に向けて、ルクスはMk23を撃ち放つ。

 

「なっ…ぐあっ!?」

「あなたの運もそこまでね。」

 

ニヤリと笑うルクスが構えるのは、彼女の持てる最大火力ーグレネードランチャー(・・・・・・・・・・)

416とは別に、彼女の装備する必殺武器。そして、足を負傷したらしい敵に向けて撃ち放つ。

 

「まだだ…ぐおっ!」

 

MP7とAUGが牽制射撃。動く事のできない敵に向けて、容赦なく榴弾は突き進む。

 

「…なーんて、」

 

その手の剣が瞬く。

 

「言うと思ったか?このポンコツ人形共!」

 

榴弾を切り裂き、大きく跳躍した敵に向け、弾丸が殺到する。

それらに構う事なく、敵は物陰に隠れてしまう。

 

「な…逃げ「る訳ねーだろが!」

 

叫びながら飛び出してきた敵が携えるのはミニガン。装備保管庫からではなく、その辺にいた鉄血兵からぶんどったらしい。

敵はハイテンションな笑いを響かせ、ミニガンはその砲身が高速回転し始める。

ルクス達の周りに、身を隠せる場所は無い。覚悟を決めたルクス。

 

(ごめんなさい…マリウス…)

「今度こそ全員まとめてお陀仏だ!!!このエクスキューショナー様を手こずらせた事、後悔するんだな!」

 

鉛玉を吐き出すミニガン。

土煙が広がっていく。逃げるそぶりも無かったルクス達の生存は絶望的、確実に死んだだろう。

そう判断した敵ーエクスキューショナーはミニガンを放り投げる。その辺にいた鉄血兵がいてっ、と喚いた気がするが放置。

 

土煙に背を向けて歩き出そうとしたエクスキューショナーだったが、後ろに四つの(・・・・)気配を察知。

すぐさま振り返り、片手の拳銃を弾切れになるまで乱射。そのいくつかは、金属音を響かせる(・・・・・・・・)

 

 

「おいおい、まさか…」

 

 

土煙が晴れる。

 

 

「まさか…!」

 

 

爆炎に囲まれたヘリポート。

互いを守るようにして抱き合うルクス達の前に立っていたのは…

 

 

 

「こっそり…なんて言いません。しっかり活躍しちゃいましょう♪」

 

 

 

憧れの人の盾を携えた、ルクス達にとってつい最近見慣れた…あの人形。

 

 

 

「Gr USP…ただいま参上です!」

「…なんで…テメェが生きてる!」

 

答えは簡単。切り裂かれ転がったのは、USP『コンパクト』の躯体だからだ。

USPの本体は、地下道の中に放置されていた。

急ごうにも、盾をコンパクトの躯体に装備させていて、かつ敵兵の行動が予測できず、慎重にならざるを得なかった事があり、遅くなってしまった。

その結果がこれだ。

 

「遅くなりました。」

 

ガシャ、と盾を構え、己の名を持つ拳銃をホルスターから引き抜く。

自分の合流が遅れたせいで、仲間が傷ついてしまった。ならば…

 

「私が守ります!」

 

ダンッと地を蹴る。

盾を構えたまま突っ込んでくるUSPだったが、破裂音と共にエクスキューショナーの視界が白く染まり、彼女の身動きが止まる。

スモークグレネードだと理解した時には、彼女の右腕と剣は穴だらけになっていた。

 

「な、に?」

 

エクスキューショナーからは見えなかった煙幕の外側。AUGが呟く。

 

「貴方に死を差し上げますわ。」

 

時は一瞬だけ遡る。USPが走り出す直前の事だ。

空のマガジンの代わりに叩き込むのは、特注のドラムマガジン。

一瞬にして消費される全弾を、全てエクスキューショナーに当てることができたのはIQの貸してくれたデバイス探知機のお陰だ。

煙幕の中でも、エクスキューショナーの姿がはっきり見えた。

 

「クッソォォォォォ!!」

 

USPの閃光に対しては、片目を瞑る事で対応。左目が使い物にならなくなったが、USPの突撃を躱す。

AUGとルクスの射撃に対して、右腕と剣を盾にする。右腕が剣ごと千切れ飛ぶが、二人の頭上を飛び越えるだけの余裕ができた。

こうなった瞬間、エクスキューショナーは勝ちを確信する。

 

「テメェを殺せってな!エージェントがうるせえんだよ!」

 

へたり込んだMP7の胸ぐらを掴み上げる。

既にボディは傷だらけ、右腕も失っているが、MP7を持ち上げるだけの力は残っていた。

 

「どうして、MP7を…」

「知るか!」

 

掴み上げたMP7を三人に向けた盾にしながら、エクスキューショナーは燃え盛る弾薬庫に近付く。

 

「ガキの使いじゃあるめえし…テメェだけは…ここで殺してやるよ!」

 

そう言いながら弾薬庫に向けてMP7を振りかぶるエクスキューショナーだったが、突然左腕の感覚が消失する。

持ち上げられていたMP7が地面に崩れ落ちる。

 

「なん、で…なら、蹴り飛ばしてでm…」

 

片足の感覚も消失する。いや、そうではない。

身体が動かない(・・・・・・・)

 

「………(ケホケホ)」

 

目の前には、無防備な獲物が居るというのに…何故!?

辛うじて動く眼球が捉えたのは、紫電を纏うMP7だった。

接近戦が苦手なMP7の為にバンディットが作り上げた、彼女専用の外骨格。

IOP CED-1外骨格ーー通常の外骨格に小型ショックワイヤーを装備し、短時間ながら接近する敵に対して高圧電流を流すものだ。

絶縁処理に手間取ったバンディットが、あらゆる伝手を用いて完成させたそれは、今この瞬間、MP7の命を救ったのだ。

 

「ったく、手間取らせてくれたわね…」

 

血塗れのルクスが、USPに肩を借りながら歩いてくる。

一番傷の多い彼女だったが、その目に宿る想いは誰よりも大きかった。

指揮官(マリウス)の所に帰る。その想いは。

 

「…っつ…ボロボロじゃない…」

「ごめんなさい…私のせいで…」

「貴女が気に病む事ではありませんわ。貴女のお陰で皆生きているのですから。」

「………(ぐっじょぶ)」

 

動けないエクスキューショナーを放置し、傷の手当を始める四人。

彼女の意識は、まだ存在していた。動くことすらままならない状況で、彼女は四人を睨みつけていた。

そんな彼女に気付いたのか、ルクスはゆっくりと立ち上がる。

 

「待ってください!まだ…」

「まだ、仕事が残ってる…」

 

震える手でMk23を引き抜き、エクスキューショナーの頭に照準を合わせる。

ピタリと合わされた照準。圧倒的強者であるはずの自分が、見下されている?しかも、武器を突きつけられながら?

 

(ありえない…!)

 

(こんな奴らに?このオレが?無様に地面に這い蹲っているのか?)

 

(ふざけるな!オレは…まだ負けてねえ!クソッ…動けよ!動けよ!このっ…!)

 

エクスキューショナーは最後まで、生きる事を諦めず、小さく身じろぎしていた。否。人はこれを…

 

 

 

「往生際が悪い、と言うのよ。そういうの。」

 

 

 

乾いた銃声が、鳴り響く。

 

 

 

 

「…勝った、のかしら?」

『そうだね〜。』

「「「「っ!?」」」」

 

またしても黒焦げのダイナゲートがやってくる。

中身は分かっているのだが、外見が敵の機体(しかも黒焦げ)なのだ。少しぐらい驚いても問題はあるまい。

 

「そう。なら…良かった。」

『あー、でも少し残念なお知らせ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『R06基地の司令官の操縦するヘリ、こっちにくる途中で行方不明になったってさ。』

 

そこから先の事を、ルクスは覚えていない。




ここで第一部、完!

としたい感じですね。
いや、そんな計画は当初無かったんです。でも、感想とか評価とか…色んな物が有難すぎて…

はい。つい調子に乗りました。誠に申し訳ありません。

さて、作戦を完遂したルクス達に降りかかる凶報。彼女達はどう乗り越えていくのでしょうか。
次回より『戦闘○流』…もとい、第二部(のようなもの)、開始となります。


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壊れる人形

調子良さげな作者であった。

今回は長めです。


「どういう事!?マリウスが行方不明だなんて…MIAだなんて!信じられない…!」

 

ルクスが気づいた時には、作戦部隊は既にR06基地に帰還していた。あの後、帰りの足を失ったルクス達に対して接触してきた鉄血兵がいたらしい。

妙に感情豊かな四体の計らいで四輪駆動の軍用車を得た作戦部隊は、比較的損害の少ないAUGの運転で帰還した。

ちょうど帰還した段階で、気絶していたルクスが目を覚ました…という訳だ。

 

修復もロクに行わないまま司令室に押しかけたルクスの姿を見てIQが目を剥いたが、その剣幕に気圧されてしまった。

血の滲む制服から着替えることも無く、戦場での応急手当の姿のままだ。

ルクスの内心は、グチャグチャだった。

 

何故、何故、何故。

 

どうして彼のヘリのGPSが故障していたのか(・・・・・・・・・・・・)

どうして彼が行方不明にならなければならなかったのか。

どうして私は作戦部隊に志願したのか。

どうして彼の側についていなかったのか。

どうしt「ルクス!」

 

「…何かしら?私は大丈夫。大丈夫よ。私は完璧なんだから。こんな事で動揺したりしないわ至って冷静よ今は指揮官を助ける事だけを考え…」

「まずは休みなさい。そんなボロッボロの身体で、彼を迎えるつもり?」

「…そうね指揮官を迎えるにはこの損傷を直してからじゃないとダメねこんな情けない姿をm「ルクス、すまん!」

 

IQとの会話に見え隠れする異常感を見かねたブリッツがルクスを気絶させる。

ぐったりと倒れ伏したルクスを、あたふたしながら見ていたAUG達三人に任せ、ブリッツ達は司令室に残る。

三人共、仲間が消息不明であるという事に動揺を隠せない。何を話し合うまでもなく、司令室を沈黙が支配する。

 

「…あいつが、なあ。」

 

沈黙を破ったのはブリッツだった。

GSG-9で一番若いブリッツだが、イェーガーの経歴は聞いていた。

ヘリパイロットとしての経歴を持っている、と聞いた時、素直に感心したのを覚えている。

彼の腕前を疑うわけではないが、こんな事になるとは思わなかった。

 

「とにかく、捜索部隊を編成しなきゃね。」

「…ああ。指揮は俺とMP7で執る。」

 

IQとバンディットの切り替えの早さに、ブリッツは何とも言えない気持ちになる。

仲間を失って、こうも平然としていられるのか。

驚きと恐れ、そして若干の…怒り。

 

「どうして、そこまで冷静なんだよ?仲間が…ウチ(GSG-9)の古参が、行方不明なんだぞ?それなのに…」

 

ダァン!と大きな音とミシリ、という静かな音が司令室に響く。

バンディットは無言で机を叩き、IQはその手に握るタブレットにヒビを走らせていた。

 

「…何も思っていない訳じゃ、ないんだ。」

「今そんな事を言った所で何も変わらないでしょう?」

 

二人共、外見こそペルシカの薬で若返っているものの、中身はGSG-9のベテランだ。ブリッツのように感情を表に出さないだけで、悔しい、やるせない気持ちで一杯だ。むしろ、軍人として、特殊部隊員としては、切り替えの早い二人の反応の方が好ましいのかもしれない。ただ、ブリッツの反応は至極真っ当だ。仲間を想う気持ちに、貴賤は無いのだから。

 

再びの沈黙だが、今度はブリッツの方も割り切ったのか、落ち着いて口を開く。

 

「…どうしてあいつのヘリだけ、GPSがイってたんだろうな。グリフィンのヘリなんだろ?」

「そうね。ヒューマンエラーだなんて事、無いわよね?」

「…それは無いだろう。念のためヘリアンに聞いたのだが、整備のチェックは厳しいらしいからな。」

 

うーん、と考えこむ。何かあるはずだ。見落としているはずの何かが…

 

「…いや違う。GPSが故障してたんじゃない。」

 

ふと何かを思ったのか、IQからタブレットを奪い取り、改めてデータを見直していたブリッツが不審な点を発見する。

彼が示すのは、ヒビの入ったタブレットに映された写真だ。基地から合流ポイントまでの航空写真なのだが、そこには赤い線が引かれていた。

基地からスタートし、合流ポイントに向かうと思われたその線は、とある山中でプッツリと途切れている。

言うまでもなく、イェーガーのヘリの辿ったルートだ。

 

途切れたポイントの直前を拡大表示、ホログラムでの3D表示に切り替える。

飛行ルートが基地のサーバーとリンクしていると言うヘリは、その飛行高度すらもサーバーとリンクしていた。

そうして発見したのは、ある一つのデータ。

 

信号消失の直前、高度が急激に減少しているのだ。しかも、その進路はフラフラと覚束ない。

さらに致命的なのが、高度減少の反応でさえも途中で途切れている事だ。これではどこに墜ちたのかが分からない。

だがこれは、縮尺調整で判明した重要な証拠。その存在に喜んだ三人だったが、イェーガーが行方不明だという事に変わりはない。

 

「…とにかく、このデータだけが頼りだ。何とか捜索範囲を狭められないかやってみよう。」

 

ああ。そうね。

あまりにも小さすぎる光明を前に、返す事のできる言葉は少なかった。

新生したR06基地にとって最初の任務は一応の成功を収めるものの、その代償はあまりにも大きすぎた。

そう…あまりにも。

 

 

 

____________________

 

 

 

 

「モニカ、ルクスの様子は?」

「ああ、エリアス。…ダメね。完全に閉じ籠ってる。呼び掛けにも応じないから…」

「…恐らくスリープしている、とMP7が言っていた。」

 

一夜明けたR06基地。

イェーガーが行方不明であるという情報が伝わったのは一瞬だった。

最も深刻な状態なのがルクスだ。昨晩、修復を終えた途端に部屋に直行し、そのまま引き籠ってしまった。

他の人形も、ある程度の差はあれどショックを受けていた。

 

『指揮官が行方不明、か…』

 

通信機越しのヘリアンの声色も硬い。

彼女は、イェーガーが消息不明という知らせを今朝突然聞いたのだ。彼女との直接的な関わりは無くとも、彼の指揮官としての能力、人柄は高く評価していた。

基地の面々は与り知らぬ事だが、その報を受けたヘリアンはグリフィン上層部にR06基地『待機』の申請を叩き付けた。その行動に、グリフィン上層部に激震が走ったのは言うまでもない。

 

『しばらくR06基地には待機命令が出ている。この意味は分かるな?…頼んだぞ。優秀な指揮官を失うわけにはいかない。』

 

信頼を寄せてくれている上司に報いない部下などいるものか。

GSG-9の三人は一糸乱れぬ敬礼をペルシカに返す。

通信機から彼女の顔が消え去った途端、三人は慌ただしく動き始める。

 

「モニカ!指揮官代理としての指揮は任せたぞ!俺は捜索部隊を率いて現場に向かう!」

「ちょ、エリアス!?…ああもう!ドミニク、悪いけどこの基地の防衛体制の見直しをしておいて。この隙を狙う不逞の輩がいないとも限らないわ。」

「分かった。信頼できる奴ら(・・・・・・・)を呼び出そう。」

 

コードネームの如く、閃光のように司令室を飛び出したエリアス。残された二人は、『彼』の帰る場所を守るべく動き出す。

いつしか本名で呼び合う三人の姿は、今までの緊張感だけでなく一種の信頼感で結ばれていた。

モニカとドミニクが基地を守ってくれる。そう信頼しながらエリアスは食堂へ走る。

 

「皆揃ってるな!これから指揮官(マリウス)捜索隊の編成を行う!立候補する者はいるか!」

 

聞くまでもない。その場にいた殆どの人形が立ち上がる。事情は理解していた。現状持ちえる手掛かりが絶望的に少ないのも理解していた。それでもなお、彼女達は捜索隊に志願しているのだ。強制などでも呪縛などでもない。この基地を変えてくれた恩人達の一人、尊敬し、信頼したひとが消息不明なのだから。

そんな中、ルクスだけは目を閉じ眠っていた。心配したUMP45が声を掛けようと近付くが、エリアスがそれを静止した。

彼は無言でルクスに近付くと、深く深呼吸をする。

あ、やばいと感じた人形達は即座に耳を塞ぐ。

その判断は間違っていなかった。

 

「何をしているッ!起きろォ!!」

 

食堂の全てを震わせる大声に、人形達は身を震わせる。

そして彼の顔を見た人形達は、何とも言えない気持ちになった。

泣きそうで、それでいてその目には激しい怒りが宿っていたのだから。

仲間の消息が分からなくて不安なのは、彼も、モニカも、ドミニクも一緒だ。だが彼らはそれを乗り越えてここにいる。諦める事なく、その目に強い意志を宿らせ、蜘蛛の糸のように不確かな手掛かりを頼りに動こうとしているのだ。

 

彼の目の前で死んだように目を閉じるのは、指揮官(マリウス)の愛した戦術人形(ルクス)

今、彼女は逃げている。最愛の人が死んでしまったと…勝手にそう決めつけて、その現実から。

可哀想だと同情するのは至って簡単だ。

だが、そうしても何も変わらない(それに向かい合って前に進め)と、エリアスはルクスに伝えようとしている。

ルクスのスリープが解除される気配はない。

エリアスは歯を噛み締めた。言ってやりたい事は山ほどある。彼女にも、アイツにも。

 

だからこそ、彼はここでルクスに相対していた。

 

「お前が一番ショックなのは理解してンだ!こいつらだって同じなのも分かってンだよ!だがこいつらは、夜に泣いても、喚いても、それでもここに来た!お前はどうだ!辛いことから目を背けて、一人で閉じこもって、全部キッパリ忘れちまおうってか!冗談じゃねえ!お前が愛したアイツは、そんな程度で諦められる男だったのか!だったらそんな恋なんぞ捨てちまえ!聞いてんだろ!なあ!」

 

 

 

「ルクス・シュトライヒャー!!!」

 

 

 

ぱちり、と金の瞳が顕になる。

彼が綺麗だと、そう言った瞳。いつも見惚れていた銀髪。気高い大山猫(Luchs)のようだと感じたその立ち振る舞い。

そんな彼女の姿は、ここには無かった。

ここに座っていたのは、最愛のひとを無くして怯える…一人の少女だった。

 

そんな彼女を一瞥し、彼は人形達の前へと踵を返す。

目を閉じ、腕を組み、再び静かに問いかけた。

 

「もう一度問う。」

 

その目を開き、ニヤリと口の端を釣り上げながら彼は言い放つ。

 

「恋人を泣かせっぱなしの馬鹿野郎を探しに行くぞ。着いて来られるか?」

 

質問が変わっている。そう思った人形達だが、そんな野暮な事は言わない。

エリアスに向け、静かに親指を立てる者。掌と拳を打ち付ける者。はい!と大きな返事をする者。

返し方はそれぞれだったが、皆の意志は変わらない。

ルクスは…小さく震えながら俯いていた。

これ以上は無駄か。そう考え、エリアスが人形達と共に食堂を出ようとし、ルクスを運ぼうとUMP45、UMP9姉妹が彼女に近寄った時だ。

 

「待ち…なさいよ…」

 

小さく震えていながらも、その声はエリアスに届いた。ギョッとしたエリアスが振り返ると、声色と同様に震えながらもその足で立ち上がるルクスがいた。

恐怖と怯えに苛まれながら、震える体を無理やり動かしてルクスはエリアスに詰め寄り、その胸ぐらを掴み上げた。

 

 

 

「アンタなんかに言われなくても、あの人への愛は不滅なのよ!このバカ!!!」

 

 

 

あまりの声量にフリーズするエリアスと人形達に、ルクスはその金の瞳を向ける。

そこに宿っていたのは恐怖でも怯えでも何でもない。

純粋な怒りだった(・・・・・・・・)

 

「いい!?私の愛は、アンタなんかに語れないんだからね!」

 

「私の…」

 

 

「あの人への…」

 

 

 

「愛は…!」

 

 

 

 

「無限大なのよーーーーーー!!!」

 

 

 

 

その瞬間、彼女の姿に変化が起こる。

現実世界では有り得ない筈の変化。

まさしく奇跡としか言いようのない光に包まれたルクスは、その姿を変えた。

 

人工的に作られたその銀髪は、透き通るような美しさと神秘さを兼ね備えた銀髪に。

小さくセンサーが動く金の瞳は、本物の大山猫の如き輝きを持つ金色に。

人工の皮膚だったものは、真っ白できめ細かい素肌に。

 

GSG-9がこの時代にやって来た事…それが神の悪戯なのだとしたら、これは一体何なのだろうか。

 

否。これこそ真の、神の悪戯である。

 

 

『何じゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

この日、元HK416、現ルクス・シュトライヒャーは…

 

人間となった(・・・・・・)




終盤の展開ですが、意見が別れると思います。
ルクスには、人としての人生を歩んで欲しい…私はそう考え、このような展開に致しました。どうかご理解頂きますようお願い致します。

こうなってしまった原因はもう一つありまして。
こちらは完全に私のテンションに関係するんですけれども。

ブリッツ「あろうことかこの作者、原作も何も知らないくせに『檄!帝国華撃団』をヘビリピしていてな。」

そんな訳で、テンション爆上がりだったんですね。後半は特に。
…私事は置いておきましょう。どうでも良いので。



さて次回、復活したルクスはどうするのか。そして、イェーガーの安否はいかに?

どうか気長にお待ちください。


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回り始める歯車

さあどうなる…


FGOアニメッ!!


消息を絶った指揮官、マリウス・シュトライヒャーの捜索部隊だが、所属する人形全員が参加する流れとなった。

だが思い出して欲しい。R06基地の人形保有数を。

 

僅か十二人しかいないのである。

 

ローテーションを組んで部隊を指揮しようにも、明らかに人手が足りないのだ。

しかも、ここに来てルクスが人間となったとかいう意味不明な事態を受けて、R06基地はとある決断を下す。

それは新しい人形を製造する事だった。

なぜか大量に隠されていた資材をバンディットとMP7が発見した事で可能になったのだが。

その結果やって来たのは…

 

「指揮官、あなた様の期待に必ず応えてみせます!」

「指揮官、引き取ってくれてありがとうございます。美味しいパン焼いて頑張ります!」

「指揮官のご指示であれば、イングラムM10は喜んでお受けしますよ。」

「こんにちは、指揮官さん。G3と呼んでください。」

「『運命』とか『偶然』とか・・・どんな言葉がワタシたちの出会いに相応しいと思いますか、指揮官さん?」

 

この五人である。

戦力増強はR06基地にとって望むべき事だった。だったのだが。

製造に立ち会ったルクスを除いたGSG-9の三人はその場に崩れ落ちた。

 

五人中三人は皆様どこかで見たことがあるだろこれは!!

後半三人組ぃ!あなた達の所属はこの部隊ではないわ!

SASとスペツナズじゃないか…

 

自分達の姿を見るなり崩れ落ちた三人を見てオロオロする五人。

そんな五人の視線を、手を叩く事で自分に集中させたルクスは、彼女達に向けて最初の任務を言い渡した。

 

「ハイハイ、早速だけどあなた達に任務を与えます。しっかり聞いて頂戴。」

 

配属早々の任務。一体どんな戦場なのか、と身構えた五人だったが、ルクスの口から出たのは信じられない言葉だった。

 

 

<<<<

 

 

「…まさか基地で待機とは…」

 

イングラムは、眠気覚ましにと手渡されたコーヒーを両手で包みながら啜る。

季節は本格的に冬へと移行しているのか、身を刺すような寒さがイングラムを襲う。

そんな寒さから少しでも逃れようと、肩に掛けた毛布を羽織り直す。彼女を含めた五人は、第三部隊として正式にR06基地に編入された。

 

待機を命じられた時、五人は少なからず驚いた。

だが、指揮官が行方不明で、その指揮官を捜索するための人員を捻出すれば基地の防備が疎かになってしまう。人手不足の解消かつ戦力増強が急務だった…などと言われては、頷かざるを得ない。

今、R06基地にいるのは指揮官代理のモニカ、緊急時対応にドミニク、そして新規にやって来た五人。

基地の運営はまだしも、人形達の修復はどうしていたのかと尋ねると、指揮官代理が気まずそうに視線をずらした。

 

『…実はこの基地、作戦を行ったのが一回だけで…私達が着任した時には整備士とかもいなくてね…』

 

この基地の前任は、相当酷い事をやらかして来たらしい。その行いに反対した整備士達は悉くクビ。

いつしかこの基地の人間は、前任指揮官だけになっていたようだ。

 

ともかく、彼女達の仕事は指揮官の捜索部隊が帰ってくる場所を守る事。

そう決意し、基地外周部での見張りを交代で行っていたのだが…

 

「何、あの車。」

 

基地に向かって爆走してくる一台のトラック。

運転席から片手を出してこちらに振る男の姿に、イングラムは見覚えが無い。

警戒しながら指揮官代理に無線を繋げようとしたその時、彼女の後ろにはドミニクが立っていた。

 

「来たか。」

「うぇぇ!?誰…ってなんだ…ドミニクさんじゃないですか。」

「そんなに驚かれてもな…」

 

そうこうしているうちに、そのトラックは基地の前のゲートの前で急停止する。

助手席から現れた女性は、元戦術人形のDP28だ。

その姿にイングラムが少し気を緩めた瞬間。運転席から現れた男の姿を見て彼女は気を失った。

 

 

 

____________________

 

 

 

 

「よし、この場所を野営地として、周辺の調査に当たる!…と言いたいんだが…」

 

エリアスのプランでは、事前に定めて置いたポイントまではトラックに分乗して移動、ポイントに到着し次第野営地を作成、そこから調査を始める…そんな手筈だったのだが。今目の前に広がっているのはそんなプランを全て打ち壊すような光景だった。

一体何の偶然か、ちょうど野営地に定めていたポイントにマリウスのヘリが墜落していた。機体に大きな損傷は無いが、ローターは吹き飛び、ランディングソリッドはひしゃげている。しかし本体は無事である点に、彼の操縦技術が垣間見える。

 

「…っ、すぐ調査にかかる!現場周辺に野営地を設営する!急げ!」

 

日の入りまで猶予は無い。頭を振って思考をアジャスト、エリアスは人形達に指示を出して行く。そんな中、戦術人形ではなくなり、以前のような無茶ができないルクスは静かに現場に近寄る。まるで何かに引き寄せられているように。

Mk23が静止しようとするが、それを振り切り彼女はヘリに近付く。

 

「…このヘリ、電装系が死んでるわ。」

 

そんな呟きと共に、ルクスは操縦席に乗り込んだ。ギョッとする一同だったが、いつになく真剣なルクスの表情に気づいた。

彼女は慣れた手つきでヘリのフライトレコーダーを取り出し、外に放り投げる。

そのまま操縦席から降りると、今の彼女には重いのだろうか、フライトレコーダーを引きずりながらエリアスの所までやって来た。

 

「ふぅ…私はこれの解析をしなきゃいけないわね。」

「お、おう。そうだな…誰か!ルクスと一緒に解析を頼めるか!後は野営地の設営を続行!」

「じゃあ私が!」

 

Mk23が名乗りを上げると、それに触発されたのかUMP姉妹も解析に加わる。

仮設テントの中に消えていった四人を見送って、エリアスは基地と通信を繋げる。

 

「R06基地、聞こえるか。こちらブリッツ。指揮官の搭乗していたヘリを発見。繰り返す。ヘリを発見。」

『そりゃ良かった!』

 

通信機越しの声は、エリアスの予想に反して男の声だった。驚いて言葉が出ないエリアスを察したのか、通信機越しの男はおっと、と呟いてエリアスに話しかける。

 

『俺の名前は…そうだな、タチャンカだ。そっちの方が良いだろ?』

「!!あんたが…IQは居るか?」

『ハイハイ、聞いてたわよ。機体の状態は?』

「至って良好だ。…ただ、ルクスが電装系が死んでるって言ってたが…」

『ふむ…一度基地に持って帰った方が良いかもしれないな…』

「そりゃそうした方が良いのかもしれないが、現実的なのはこっちで解析する事だ。任せてもらえるか?」

『…分かった。任せるわ。それじゃ、定時報告、忘れないでね。』

 

ブツリ、と切れた通信に、いつもと変わらないモニカを感じたエリアスは、意識を切り替えて補佐のUSPに尋ねる。

 

「設営の進捗は?」

「あ、エ…ブリッツさん。テントは全て張り終わりました。後はトラックの機材を下ろして設置するだけですね。」

「早いな!?…じゃあ最後まで終わらせて今日は一旦休もう。」

 

はい、と答えて走り去るUSPの背中を見ながら、エリアスはヘリに近付いた。

操縦席を覗き込んだ彼は、後部座席の扉がロックされている事に気付く。

何か変だ、と感じたエリアスはロックを解除しようとするが、ボタンを押してもロックが解除される気配は無かった。

詳しく調べていると、ある事実に辿り着く。それは、このヘリにとって致命的なダメージだった。

 

(電装系が死んでいる、とは…こういう事か…!)

 

全ての機器が死んだように動かない。

否。全てEMP攻撃を受けて破壊されているのだ。

ならばマリウスはパラシュートを使わなかったのか?その疑問が頭をよぎる。パラシュートが使われた形跡は…無い。それどころかパラシュート自体が存在しない。まるで備え付けられていなかったかのように。

 

なら彼は墜落の瞬間も操縦を続けていた事になる。機体が大破、炎上していないのがその証拠だ。

よくよく見れば、平地に墜落してはいるものの、山の方には薙ぎ倒された木々が存在している。イェーガーも必死だったのだろうか。

こんな現場検証は明日にしよう、そう思って立ち上がった時だ。

 

「ブリッツさ〜ん!設営完了しましたよ〜!晩御飯にしましょ〜う!」

「いや早くねぇ!?」

 

人形達の仕事の早さに改めて驚きながらも、彼は一際大きいテントに向かう。

だが彼は最後まで気付かなかった。

 

ルクスも入った操縦席の反対側、その地面には…

 

 

山へと続く足跡が二つ(・・)存在していた事に。

 

 

 

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「…良いんです、か?」

「ああ。…少し気は引けるがな。」

「では、ついて来て下さい。」

 

 

 

 

 

 

「私達の…『避難所』へ。」




遂に、あの男がやってくる…!
という訳で、タチャンカが堂々登場です。今後、彼は一体どんな活躍を見せてくれるのか!タチャンカ愛好家の皆様…今しばらくお待ちくださいね!

劇中に出て来た五人ですが、実際に製造して出て来た娘達です。こんなことあるんですね。
一応調べたので間違ってない!…はず。間違っていたらニトロセルを投げつけて下さい。

あ、後、飛行機とかそういう方面には詳しく無いので、こちらも間違っていたらごめんなさい。


さて、想定外の幸運に見舞われたエリアス達。最後に交わされた会話とは一体?
そして本土版の情報によって雲行きが怪しくなって来たこの先の登場人物…作者は無事に続きを書くことが出来るのか!?

次回もどうか、よろしくお願いします!


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雨音

感想待ってます(直球)

USP「…でも作者はチキンだから感想が来るとビクビクしているんですよ。」

全くもってその通り。私はチキンだ。少なくともラスト一人になった時、角ガン待ちプレイをするぐらいには。


「これ、は…」

 

野営地を設営した翌日、手早く朝食を摂ったエリアス達は早速調査を始める。何とも不幸な事に今日は雨だ。鬱屈とした空気を吹き飛ばすようにエリアスは寝坊している人形達を叩き起こして行く。寝ぼけ眼を擦る人形達は既に起床している人形に任せ、エリアスは現場へと急ぐ。

少しプランを修正する必要が出て来たが、当分はこのヘリの周辺を捜索する予定…だったのだが、またしてもエリアスのプランをブチ壊してくる物が見つかった。それは、ルクスをエリアスが乗り込んだヘリの操縦席…の反対側の扉から続く二つの足跡だった。

 

今日は雨だ。急がなければこの足跡が消えてしまう。そう考えたエリアスは手隙の人形達を率いて足跡を追う。

だが気づくのが少し遅かったため、山を登る途中で足跡が消えてしまっていた。

雨足が強まり、視界が悪くなって来た。これ以上の追跡は無理だと判断したエリアスは、一度野営地へ帰還する。

 

「すまない。もっと早くに気付いていれば…」

「…今更そんな事言ったって何も変わらないわ。それよりもこれ。」

 

手がかりが一つ失われたというのに、ルクスは至って冷静だった。…いや、彼女も本心では残念なのだろうが、今はそれどころでは無いと切り替えている。彼女の言動からすると、どうやらフライトレコーダーの解析が終了したらしい。UMP姉妹も一緒だ。

会議用テントに入り、椅子に座ったエリアスに彼女が示すのは一つのデータ。

ホログラムディスプレイに映されているのは、基地で見た筈の、マリウスのヘリが辿ったルートだ。ヘリの細かい動きすらも再現されているそれは、フライトレコーダーから引っ張り出したデータなのだろう。しかし残念な事に、このデータも途中で途切れている。

 

「…基地で見たデータとほとんど変わらないな…」

「違うわ。ここ。ブリッツさん、しっかり見てます?」

「45姉の言う通り。ここ!」

 

UMP姉妹が示すのは、記録が途切れる直前。

拡大表示すると、有り得ないほどのノイズが走る。縮小していては見辛いが、それでもデータの揺らぎは確認できた。

聞けば、フライトレコーダーの回路は半分無事だったそうだ。そこからデータのサルベージ、修復を行ったと言うが…

ルクスはUMP姉妹に片手を上げて宿泊用テントの中に消えた。そのUMP姉妹は、ルクスの後を追ってテントに入り、しばらくしてもう一度出て来た。

疲労の色が見えないUMP姉妹。回収からここまで持ってくるのは、戦術人形だとしても大変だっただろう。

だが…

 

「早くね?」

「そりゃそうよ。ルクスだって眠いの我慢して今まで頑張ってたんだから〜…」

「なら私たちも頑張らなきゃって思ってね。あ、ルクスは今から寝るから起こしちゃダメよ?」

 

はいはい、と答えながらも、エリアスはデータから目を離せなかった。

急にノイズが走り出したということは、その空域でEMP攻撃を受けたということ。

幸い、あまり遠い場所ではない。今から移動しても十分に調査ができそうな距離だ。

幾人かの人形に声を掛け、現場の指揮を任せようとエリアスは腰を上げた所で、はたと思い止まる。一刻も早くマリウスを捜索したいという気持ちに突き動かされているが、今は雨だ。ここで自分が動いてしまって何かあれば困る。しばらくは続きそうな天気に内心毒づきながらも彼はデータの精査に入るのだった。

 

 

 

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「ここ、が…避難所?」

 

男が連れられて来たのは、雨が降りしきるゴーストタウンの一角。廃ビルにしか見えないそれの中に、件の『避難所』は存在した。

そこに居たのは…傷付いた戦術人形達。無傷の者はほとんど居ない。

片手が無い者、両足を失っている者、両手が無い者。男を案内した少女も、どこか見覚えのある姿をしている筈なのに違和感を感じる。

その正体は、動作のぎこちなさでも、話し方のたどたどしさでも無い。

右目、右耳、右腕、右足が欠損している。要するに、右半身がズタボロなのだ(・・・・・・・・・・・)。顔の右側を覆うように垂らした銀髪、風に揺れる右の袖、引きずっているような右足。それでも動けているのは、戦術人形だからなのだろうか。

 

「君達は…小隊、なのか?五人組なら…後一人いる筈だ。」

「私の事でしょうか…」

「うお!?」

 

後ろからの声に男が驚いて振り向くと、そこには小柄な、猫耳と尻尾を生やした少女が立って居た。彼女は男の声に驚いたのか、小さく肩を竦めると、走って銀髪の少女の後ろに隠れてしまった。雨音だけが響くこの廃ビルだが、ある程度の居住性はあるらしい。銀髪の少女は手近な椅子に腰掛けると、猫耳の少女の頭を撫で始めた。怖がらせてしまったかと少し後ろめたくなりながら、男は差し出されたパイプ椅子に腰掛ける。

 

椅子がギシ、と軋む音が虚しく響く。コンクリートむき出しの一室に、ベッドが五つに椅子が二つ。寒さを凌ぐ為か、部屋の真ん中にはドラム缶に火が焚かれ、人形達は毛布に包まっている。

 

「これらは…この街で?」

「ええ。なんとか探し出したのだけれど…これ以上は私の身体が保たなさそうで、諦めてしまったの。」

「その代わり、私が探しに出ているの。…私だけが、無傷なんだしね。」

「ううん。いいの。あなたが居たから…みんな生きていられるの。」

 

そういって二人は静かに抱き合う。

他の三人はどうしているのかと見れば、目を閉じて眠っていた。

 

「…他の三人は?」

「みんな今は眠っているわ。損傷が激しいから…」

「そう、か。」

 

自己紹介がまだだったわね、と銀髪の少女は男に向き直った。

 

「私達は…」

 

 

 

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「ダメだ。これ以上はなんともできない。」

 

テントの中で、人形達とエリアスは頭を抱えた。その原因は、ヘリのフライトレコーダー…その内部に残されていたはずのマリウスの音声データが復旧できない事だ。

ヘリに関するデータは残っているが、音声データだけがごっそり吹き飛んでしまっている。

 

「無理無理。これ以上の復旧は不可能よ。」

 

UMP45がキーボードを放り投げた。

 

「復旧できたのはこれだけ、か…」

 

エリアスが確認のために再生する。

 

『……ソッ!…いつh ………て長距離……』

 

これだけだ。

手がかりになりそうなのは。

 

「長距離、だって…?」

 

途切れる間際に聞こえた『長距離』というワード。

これが一体何を示すのか…今はまだ、分からなかった。

雨音が激しくなり、落雷の音が響く。

 

「…とにかく、今はなんとも…」

 

エリアスのその言葉が発されるよりも先に、電子機器が沈黙する。

一瞬にして光を失った機械群だったが、それに付随して人形達がフラフラと倒れ始めた。

 

「おい!大丈夫か!」

「なんとか、ね…これは、EMP攻撃…?」

 

人間で言うところの立ちくらみ。戦術人形にもそんな事があるのかと不審に思うエリアスだったが、そんな些事よりも目の前の事に集中する。

耐えきれず倒れ込んでしまった人形達を一人一人抱え、宿泊用テントへ運んで行く。

なんとか復帰した人形達も、念の為休息させる事にした。

 

「どうしたの?」

 

皆がテントに入り、エリアスが宿泊用テントに入ろうとした時、中からルクスが出てきた。

 

「ああ、人形達が突然倒れちまってな。しかも機械は突然イカれやがるし…あまり良くないかもな。」

「そのようね。基地と連絡は取れるかしら?」

 

エリアスは無言で通信機を起動させるが、動作する気配は無い。

やれやれと頭を振り、ルクスは人形達の様子を見にテントの中へ消えた。

 

「雨が、強いな…」

 

次第に強くなって行く雨足は、嵐を予感させるには十分だった、




眠い…おのれ花粉…

というわけで、少しグダグダしてしまった『雨音』をお届けいたします。いやほんと、自分の力量不足が滲み出てますよね…もっと文才が欲しい…

さて、皆様の大半が気付いているだろう『男』の正体とは?傷付いた人形達の名前は一体何なのか?EMP攻撃を受けた野営地に迫る魔の手。彼らの命運は一体ーー?

次回も皆様の暇潰しになれば幸いです。


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逆襲への序章

体調管理大事ですね。
いやホントに。


雨音が大きくなり、次第に気温も下がってくる。銀髪の人形は無言でドラム缶に火を起こす。

彼女の後ろに隠れていた金髪の人形は、他の三人同様毛布を被って眠ってしまった。起きているのは、銀髪の人形と男のみ。

焚き木が爆ぜる音が何度か響いた時、口を開いたのは男の方だった。

 

「416…と言ったな。間違いないのか?」

 

男の前に立つ416と呼ばれた銀髪の少女は静かに頷いた。男は深い溜め息をつくと、椅子から立ち上がった。

ヒビ割れていながらも辛うじて形を保っている窓ガラスから、彼は外を見る。降りしきる雨がガラスを叩く。荒れそうだと感じた男は、落ち着いた口調で416に話しかけた。

 

「…TMP達を別の部屋に連れて行こう。このままじゃガラスが割れそうだ。まだマシな部屋があるかもしれないしな。」

 

その提案に416は首を振る事で否定を示す。他にいくらでも部屋はあるだろうに、どうして…そう考えた男は、416からの返答を待つ。

やがて彼女は、その理由を話し始めた。

 

「TMPと私はともかく…79式にJS 9、88式はマトモに動かしてはいけないの。」

 

何故?と無言のうちに問いかけるような男の視線。彼女の真意を探らんとするかのような視線にたじろぎながら、なんとか言葉を振り絞る。

 

「それは…損傷が激しすぎて…もう動かせるような身体じゃ無いからよ…」

 

それだけ言うと416は顔を逸らしてしまった。少し問い詰めすぎたかな、と頭を掻きながら男は三人の様子を窺った。眠っているが、起きる気配は無い。

あまりにも深い眠り。スリープモードかと考えるが、その可能性は低いと思い当たる。彼女達は時々小さく身動きするからだ。

戦術人形は夢を見ない。分かり切った事なのだが、夢を見ているかのように顔を顰めるのはどうしてなのだろうか…

その時、TMPが突然立ち上がった。

 

「一つだけ、アイデアがある。」

「それは…?」

「鉄血どもからパーツを失敬する事。」

 

彼女の口から飛び出たアイデアに、416と男はあんぐりと口を開けた。それほどに荒唐無稽なアイデアだったのだ。

 

「そんな事…!敵のパーツなんて、どんな悪影響があるか…!」

「だがやってみる価値はある。そうだな?」

 

TMPに噛み付かんばかりの剣幕で416は怒鳴る。彼女にしてみれば、相容れない敵のパーツを奪って改造すると言うアイデア自体受け入れられないのだから。完璧さを求める416の典型的な例だ。彼女(・・)はそうじゃなかったんだがな…と男は遠い目をしながらTMPに助け舟を出すことにした。

それに、少し違和感も感じる。これほどの重傷を負っているにも関わらず、基地から救援部隊がやってこない…その理由を確かめるためにも、男はここで口を開くことにした。

 

「今ここに隠れていたって何も変わらんだろう?お前さん達への救援(・・・・・・・・・)が来るという確証も無いしな。」

 

男の言葉に、二人は動揺する。

 

「救援が…来ないかも、しれないって事…?」

「…まさか…」

「さあな。言った通り確証は無い。だが、この街には鉄血の勢力が潜んでいるんだ。おちおち手も出せんだろうな。」

 

頼りにしていた救援が来ない。そうなると自分達はどうなるんだろうか…そう考え出した416に対し、男は無慈悲にも現実を突きつけた。

 

「ま、見捨てられたって考えるのが一番手っ取り早い。」

 

416は今までの自分達の動きを思い返し、そんな筈はないと断言…できなかった。

自分達は所詮替えの利く道具でしかないからだ。

それに、一ヶ月以上も救援が来ない事も考えると、見捨てられたと言うのが最もしっくりくる。

 

だが、そこにどこか安心している自分がいた。

こんな苦しい生活を続けながら救援を待つ必要は無くなった…もう、自分の役目は終わりなのだと。

動かない身体を無理やり引きずって鉄血の人形を倒し、バッテリーを引き抜く必要もない。

そう…

 

「だからって生きるのを諦めるなんて事、あり得ない。」

 

「まだ生きているなら、精一杯足掻いてみろ。」

 

「もしダメなら、ウチで面倒を見よう。」

 

 

 

「だから、もう少しだけ耐えてくれ。」

 

 

 

それだけ言って、男は背中を向けた。

 

「どこに…行くの?」

「鉄血の人形を何人分か持って来たらいいんだろ?簡単な仕事だ。」

 

 

「俺は、Jaeger(狩人)だからな。」

 

 

 

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雨が降りしきるゴーストタウン。

哨戒任務を務めていたヴェスピド、リッパーの混成部隊が一つ消息不明になったが、鉄血はそんな事など気にも留めなかった。

 

 

 

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「これで十分か?」

 

男が戻って来た時、416とTMPは自分の銃の手入れをしていた。

そこに鉄血の人形を何体も放り込まれれば誰だって驚くだろう。

 

「きゃーーー!?」

「あ、スマン。」

「…すごい、これだけあれば…十分かも。」

 

TMPは静かに目を輝かせ、人形の腕と足をもぎ取って行く。

非常に慣れた手つきで六体分の両手足を取り外し、そこからさらに分解して行く。

部屋の隅で埃を被っていた大きめのテーブルを引っ張り出し、細かいパーツごとにふるい分ける。

まるで経験者のような手つきに感心した男は、TMPの頭の猫耳と尻尾の正体を見破る。

 

「なるほど、躯体の改造もお手の物ってか。」

「…分かるの?」

「ああ。俺も一応メカニックだったしな。」

「なら、手伝ってください。」

「え、え?」

 

どこからともなく取り出した工具を男に握らせ、TMPは腕や足を部品にバラしていく。

やれやれと諦めたように、男も作業に加わった。

 

 

____________________

 

 

 

「違う。そこはこのパーツです。」

「だが彼女の武器はマシンガンなのだろう?だったらただ組み上げるだけじゃなくて、少し改良もしてやらんと負担が大きくなってしまう。」

「…むう。でも腕にまでそのアブソーバーを組み込む事はないと思いますが。」

「あれ?」

 

やいのやいの、あーだこーだ言い合う二人だが、416は男の持つ知識に舌を巻く。

整備士でもなんでもなかった、と話す割には彼は的確な改造を繰り返している。そのアイデアに、TMPも驚いていた。

あっという間に右腕が完成する。

 

「これでどうだろうか…取り付けは任せた。あと、彼女の損傷部位に合わせて余ったパーツで簡易処置しておけ。これとこれと…」

「了解。」

 

いや、待ってほしい。

彼らが材料としているのは鉄血の人形だ。そんなもの使って大丈夫なのか?

ハラハラしながら見守る416だが、そんな彼女の内心になど気づくはずもなく79式の処置が完了する。

 

「…うう、ん…」

「気がついた?」

「ここは…?」

「説明は少し待ってほしいの。他の二人も直してしまうから。」

 

そう言ってTMPは作業に戻る。

黙々と作業を進める二人。

そんな二人を見ていると、416は急激な眠気に襲われる。眠ってはいけないと思いながら、彼女の意識はブラックアウトする。

 

「…よし、できた。」

「これは…」

「88式用の外骨格だ。あくまで応急的な補修だからな。念のため、ってやつさ。」

 

流石に取り付けまではできないのか、男は額に浮いた汗を拭う。

思えば、今まで何も口にしていないな…と思い返しながら彼はTMPの作業を見守るのだった。

 

 

 

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「おはよう、ございます。88式、起動しました…」

「…再起動、確認。よかった…生きている…」

 

取り付けと共に、残りの二人も目覚める。失われた腕や足が修復されているのが意外だったのか、しばらくは腕を回したり歩いたり忙しそうだった。

416が目覚めた時、目の前には79式の顔があった。

 

「直った、のね。…ごめんなさい、眠ってしまっていたわ。」

「いいえ、大丈夫ですよ。私以外はセルフチェック中ですから。」

 

特に問題なく動けているとはいえ、鉄血の部品を使っているのだ。どんな問題が潜んでいるか分からない。そう言った男は、人形達にセルフチェックを勧めた。

 

「…彼は、どうして私達にこんなにも良くしてくれるのでしょうか。」

「確かに。」

 

そう話していた時だ。

 

「それは、君が『416』だから、かな?」

 

男が部屋の扉を開けて入ってきた。

自分達の会話を聞かれていた事への後ろめたさが416を襲うが、男は気にも留めていない様子で続けた。

 

「それに、俺は基地に帰らにゃならんし…」

 

言いにくそうにしている男に、79式が首を傾げる。

 

「何か、あるんですか?」

「ああ…基地に妻を残していてな。君達を見捨てて帰った日にはどんな顔されるか…」

 

意外だった。

何か目的があって自分達を修復したのでは、と勘ぐっていた416は、その理由に毒気を抜かれてしまった。

 

「じゃあ私達の面倒を見るって…」

 

ああ、と言って彼は416を見る。

 

「俺達の基地に迎え入れるって事だ。…不満か?」

「いえ!…ですが…」

 

その続きの言葉は出てこなかった。

 

突如、ゴーストタウンを揺れが襲う。

何事かと窓に駆け寄った男は、街の中で存在感を放つ巨大な砲を視認する。

 

「あれは…!」

 

何事かと駆け寄った416と79式が顔を青ざめさせる。

 

「あれは…鉄血の!」

「あれが?」

 

 

「ええ。あれ一つに…私達は負けたの。一撃で皆やられてしまったのよ。」

 

自分の基地のある方向に向いた要塞砲を見て、男の頰を冷や汗が伝う。アレだ。アレの狙撃を受けたのだと、本能が叫んでいる。

ならば…基地も安全ではないかもしれない。ともすれば墜落現場に直撃している可能性も…

 

(どうか…無事でいてくれよ…)

 

 

 

 

ルクス(・・・)…!)




最近妙に眠たいんですよね…
睡眠時間しっかり取りましょうと、俺の中の何かが言っている…!

さて、男の正体…もう分かりましたかね笑
不穏な空気漂うゴーストタウンに現れた要塞砲…その正体とは!?

次回も読んでいただければ幸いです。


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波乱万丈の男

ちょっと予定がありまして。ははは!



…すみませんでした(土下座)


遥か遠くに現れた要塞砲。

男の記憶では、そんなものはこの街に存在しない。

目の前に広がっている光景を受け入れられず、彼はゆっくりと後ろに振り返る。

 

「…アレについて、何か知らないか?」

「「「「「知りません」」」」」

「そうか…はぁ…」

 

男よりも長い期間この街にいるだろう五人に尋ねるが、帰って来る返事は虚しいものだ。

彼は思わず頭を抱えたくなるが、その気持ちを押し込めて416に向き合った。その目的は、彼女達が何者であるかを尋ねる為。

 

「…話してくれないか?君達が何者であるのかを。」

 

小隊長らしい416は、彼の言葉に居住まいを正す。男の言葉の意味が分からないような人形ではない。

考えこみ、俯いていたその顔をあげると、覚悟を決めたように彼女は口を開こうとした。

 

「私達は…「駄目。」」

 

その声を遮ったのはTMP。416を見つめる視線は、いつになく鋭い。まるで、射殺さんばかりにーー

彼女の眼光に男は身構え、残りの416は身を竦ませた。重症だった三人に至っては、身体を震わせている。

自分の発言で凍ってしまった空気。TMPは少しバツが悪そうに男に向き直る。

 

「ごめんなさい。でもあなたが何者か分からない以上は、何も言えません。」

「あー、皆まだ知らないのか…そう言えば何も言ってなかったな。」

 

痛いところを突かれたとばかりに苦笑する男。その姿に若干の警戒を見せながらTMPは続きを促した。

 

「じゃ、改めて…俺はR06基地の指揮官…『イェーガー』だ。」

 

その一言で、男…イェーガーは空気が一気に氷点下まで冷え込んだ…ように感じた。

それほどまでに彼に注がれる視線は冷たいものだったからだ。416は疲れ切っているのか、妙に脱力している。その目だけは、イェーガーを睨んでいるが。

TMPの視線はより一層厳しくなり、残りの三人、79式、88式、JS 9は三人で抱き合って涙目だ。

 

「え、ちょっとどうs」

 

イェーガーは急に変化した皆の態度に困惑し、五人に近寄ろうとする。

その額に、TMP(サブマシンガン)が突き付けられた。

 

「…騙していたんですか?」

 

有無を言わせぬ口調。

イェーガーは肩の力を抜いて、自然体で話す。

 

「騙していた訳じゃない。」

「何も言わなかった。」

「それについては…すまない。」

 

だが、と前置きし、下げた頭を上げながら彼はTMPを見る。

 

「君達にも何か事情があるのかと思ってな。」

「…もういいです。さっさと「待って。」…416?」

 

TMPのトリガーに掛けた力を緩めたのは、紛れもない416。

力なく座り込みながらも、彼女はイェーガーの事を眺めていた。

 

「…もしかしたら、貴方は…」

 

416が話そうとしたその時だ。

耳をつんざく轟音と、全てをなぎ倒す衝撃波を伴って要塞砲が咆哮した。二度目の射撃だ。

明らかに大きすぎる図体と、コンテナ一つを撃ち出せるだけの口径が唸りを上げて、三度目に向けて角度調整を行う。

その時、イェーガーは窓際に立っていた。そして、要塞砲の衝撃波は彼らの居る廃ビルまで到達した。

つまり、だ。

 

「うああっ!?」

 

飛び散った窓ガラスを一身に浴び、イェーガーは思わずバランスを崩す。

そうして倒れるまでの刹那、彼に奇跡が起こる。

 

『R06…』

 

壊れてしまったはずの通信機が一瞬だけ息を吹き返し、何処とも知れぬ通信を傍受したのだ。

 

『損害…』

 

断片的な情報だけでも、彼には十分なショックだった。

 

「基地が…!」

 

素早く立ち上がり、彼は扉へと駆け出した。

 

「何処へ行くんです?」

「俺の基地だ。攻撃を受けて居るみたいなんだ。今すぐにでも…」

 

そう言いながら振り向いた彼は、涙を流す416を見た。

 

「怖いよ…また、失ってしまうの…?また、また…!」

 

(今行うべきは基地への合流だ。幸い携帯は無事だ。足だけでも確保すれば今すぐにでも移動できる。)

 

「…どうした、416。」

「この娘、昔作戦で仲間を失ったの。しかも砲撃で。」

 

(今すべき事は何だ。)

 

「しかも、帰還してからは指揮官に虐待されっぱなしだった。…今までずっと、ね。」

 

(すぐに基地に帰れ。)

 

「…違う。」

 

(こうして居る間にも基地は危険に晒されている。)

ー違う。

 

「皆…どこ?また、私のせいなの…?」

 

(これは…)

 

 

「違うっ!」

 

 

「!?」

「お前のせいじゃない、大丈夫だ。今は生き延びる事を考えろ。」

 

努めて優しい口調で、彼女を刺激せぬように、イェーガーは目線を合わせて416に話しかける。

その肩は、震えていた。涙目だった。それでも416は、頷いてくれた。

どうしてなのか、イェーガーにも、そして416本人にもわからない。

だけど、どこか暖かいものを彼から感じた。

 

「全て終われば…俺達がカタをつける。」

「嫌。貴方を…指揮官を、信じる事は出来ない。」

 

TMPが怯えながらも銃口をこちらに向ける。自分達を一緒に居る男が指揮官だ、という事実を今更ながら理解しながらも、416を守ろうと必死なのだろう。

そんな彼女を見て、抱き合って震える三人を見て、イェーガーは立ち上がった。

 

「そう、か。だけど今はそんな事言ってる場合じゃないぞ。」

 

イェーガーが示したのは砕け散った窓の外。

鉄血の人形の小隊がここに向かって近づいているからだ。

その黒い姿はいくつか見られる。

 

「囲まれる…?」

「その前に脱出する。皆武器は持っているか?」

 

その声で各々の武器を取り出す。

弾薬が不足気味だが、十分に使える事を確認し、イェーガーは外を見る。

 

「…あの道なら突破できそうだ。動けるか?」

「何とか。」

「走るのは…どうなんでしょうか…」

「行けます。」

 

今も怯えている三人の返事を聞き、イェーガーはTMPと416に向き直る。

 

「できれば着いてきてほしい。大丈夫か?」

「何を…まだ貴方を信じることなんて…」

「行く。」

 

416の返事を聞き、TMPは取り乱す。

 

「どうして…あいつは…」

「大丈夫…そんな気がするの。あの人なら、大丈夫。」

 

TMPではなくどこか自分に向けた言葉になっているが、416はイェーガーに着いて行くらしい。

そんな友人の顔を見て、TMPは渋々といった様子で銃を下ろす。

 

「分かり、ました。だったら早く行きましょう。」

「ああ。そのつもり…伏せろ!」

 

言いながらイェーガーは416を抱えて床に伏せる。

慌てて伏せる四人だったが、その言葉の意味を痛感することになる。

 

直後、爆発。

廃ビルに向けた一斉射撃だ。

榴弾を投げ込まれたのだろうか、至る所で爆発が起こる。

 

「脱出するぞ!先頭からTMP、88式、79式、JS 9!416は俺が背負う!行け行け行け!」

 

無駄口を叩く暇など与えんと言わんばかりに銃弾が撃ち込まれ、絶え間ない爆発が彼らを襲う。

彼らが廃ビルを飛び出した瞬間、ビルの崩落が始まった。

 

「そこ右…だ!」

 

先頭のTMPに指示しつつイェーガーはMk23を引き抜く。

そのまま追ってくる鉄血の人形を牽制しながら進む。

 

「このままどこに行くの!?」

「さっき見た時、その先にトラックが止まってた!そいつを拝借させてもらおう!」

 

TMPが飛び出した先は、幹線道路。目の前のトラックを見て、TMPは自身の相棒を構える。

イェーガーが追いつくと、416を降ろして運転席に走って行く。

 

「何で覚えてるの…?」

「うわああああ!?」

 

聞こえた悲鳴はイェーガーのもの。見れば、彼は運転席を覗き込んでいた。

何事かと歩みを進める五人だが、尻餅をついたイェーガーが見上げる先、そこには…

 

「およ、人間じゃん。」

「え、ちょ、待っ!?」

「えー。」

「終わりだ…」

 

広い運転席にぎっしりと詰まった…

 

 

 

 

 

四人の喋る鉄血の人形の姿があった。




久しぶりに執筆しました。ガバが多いのは許してください何でm(殴

低気圧による偏頭痛に加えて睡眠不足。あれ、これ作者ヤバいのでは?

次回もお楽しみに!


…頭痛いです。何も思いつかない…体調管理、本当にしっかりしましょうね。


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ランナーズハイ(運転手が)



間を置きすぎた馬鹿野郎が通りますよっと。




「…おい、動くなよ。」

 

動揺は一瞬、すぐさま立ち上がったイェーガーはその手に握るアサルトライフルを鉄血の人形に突き付けた。動けない416から拝借したものだ。

対する鉄血人形の反応は一瞬だった。

 

「「「「サー、イエッサー。」」」」

「早っ。」

 

互いに顔を見合わせ、示し合わせたかのように両手を上げる。一糸乱れぬその動きに毒気を抜かれるイェーガーだが、それとは裏腹に手早く四人を拘束していく。

運転席に押し込め合いながら…と言う訳でもなく、前後2列に並んだ座席に分かれて座っていたようだ。

周辺へしきりに目を向ける人形達に荷台に隠れるよう指示し、イェーガーは運転席から引きずり下ろした鉄血兵に銃を突きつける。

 

「いくつか質問に答えてもらおう。無抵抗な相手を撃つような真似はさせないでくれ。」

 

「まず一つ。お前達の目的は何だ?」

 

「35654444362番が応答。:正直知らないんですよねー。私達下っ端には何も言ってくれませんでしたしー。」

 

シリアルナンバーらしき番号を唱えたと思いきや突然饒舌になったJaeger型の一機。驚いたように身を震わせるイェーガーだったが、驚きはそれだけでは終わらない。

 

「30486695864番が叱責。:こら!初対面の人に対してそんな対応したらダメでしょ!…すみません妹が…」

「42737220234番が反論。:初対面であっても砕けた口調というものは存在する。」

「43618135246番が補足。:…何も知らないのは事実。」

 

矢継ぎ早に繰り出される口撃に頭がオーバーヒートしそうになりながらも、イェーガーは敵意がない事だけは確認する。

幸いなことに誰も敵対するような素振りは見せていない。

少し安心しながら、彼は次の行動を開始する。目的はもちろん、味方との合流。手早くハンドルを握り、エンジンをかけ、アクセルを踏み込もう…とした矢先。

 

「35654444362番が懇願。:ちょっと待ってくださいよ!置いてかないで!」

「え、お前ら鉄血だろう?」

「35654444362番が肯定、そして懇願。:そうですけど!乗せて行ってくださいお願いします何でもしますから!」

「ん?今何でもするって…」

「35654444362番が肯定、そして説明。:言いました言いましたから!私達ネットワークから切り離されたんで!害のない綺麗な人形ですから!」

「…本当に?」

 

答えの代わりに飛んできたのは鉛玉だった。

イェーガーの頭を掠めたものと、3565(ry番の足元に弾痕を残したものの二つ。

二人は無言で顔を見合わせ、銃弾の飛来した方向へギギギ、と音でも立てんばかりにゆっくりと振り向いた。

そこに立っていたのはサブマシンガンを構えt「逃げるぞ!全員乗れ!」

 

「35654444362番が肯定。:了解しました!ほら全員乗っt …乗ってる!?早いね!?」

「よし乗ったな行くぞ!」

 

今度は本当にアクセルを踏み込んだ。トラックとは思えないほどの加速性能を発揮し、イェーガー達を乗せたトラックは道を爆走する。メーターが示す数字は、時速120キロ。もはやトラックという名のナニカである。軽い気持ちでアクセルを踏み込んだが最後、壁に衝突して爆発四散するモンスターマシンだ。

そんな暴れ馬をイェーガーは冷や汗を流しながらも何とか制御し続けていた。後ろの荷台では幌の中から楽しげな笑い声が聞こえてくる。お前らいい加減にしろ。

 

今まで感じた恐怖とは別物の緊張感を持ちながらイェーガーはトラックを制御していた。が、曲がり角から勢いよく飛び出した先には鉄血の人形達が防衛線を組んで待ち構えていた。先回りしていたらしく、ミニガンを持った個体まで参戦している。後ろからも銃声、前には鉄血兵。鍛えられた状況判断能力を遺憾なく発揮したイェーガーは、さらにアクセルを踏み込んだ。そして彼は、メーターを見る事をやめた。

 

「突っ込むぞ!全員掴まれ!」

『きゃああああああ!?』

 

ズガガガガガガガミシミシベキバキと聞こえてはいけない音を置き去りにして、トラックは防衛線を強引に突破した。

迫る後方の敵は健在だが、彼らはもう街を脱出した。後は基地までまっしぐらだ。

 

「…さて、無事だろうか。」

 

イェーガーは言いようのない不安感を抱いていた。ついでにガソリンについても。

 

 

 

____________________

 

 

 

 

「被害状況!知らせ!」

「皆無事、とは言えないわ。EMP攻撃がかなり強力だったみたい。」

「動ける者からトラックに乗せろ。基地に戻るぞ。…いいな、ルクス。」

「…そうね。今は皆を逃がさなきゃ。幸い、トラックは生きてるから…」

「よし。行くぞ。一刻も早く撤退しなければ…」

 

ブウウウウウウウウウン…

 

「…今、ナニカが通り過ぎたような気がするのだけれど。しかも運転席にはマリウスが座っていたように見えたわ。」

「奇遇だなルクス。俺もだよ。」

「「…………」」

 

 

 

 

『全員!あの車を追えええええええ!!!』

 

 

 

____________________

 

 

 

「…ん?今何か聞こえたような…」

 

そんな事はつゆ知らず。イェーガーはトラックを爆走させ、R06基地へと向かっていた。ちなみにガス欠寸前である。

道端に見えるはずのガソリンスタンドを探して走行中。たった今通り過ぎたのが何なのか、彼は気付く事はなかった。

荷台ではガールズトークが繰り広げられているのだが、それにも彼は気づかない、

 

「ま、いいか!」

 

この男、いつにも増して頭のネジが吹き飛んでいた。理由は簡単。今乗っているトラックがとんでもないモンスターマシンであり、最高速度がちょっとしたレーシングカー並みだからだ。誰もいない直線の一本道で最高速度までぶっちぎり、ここまでやってきたと考えてもらおう。彼が変なテンションで運転している理由が分からないでもないだろう。

 

「よーしおじさんちょっと張り切ってスピード上げちゃうぞー!」

 

ちなみに言うが、今の彼の肉体年齢は20代である。

 

「アクセル全開!ヒャッハアアアア!」

 

もう一度言おう。いつにも増して頭のネジが吹き飛んでいた。

だから、こんな事になっても仕方ないのである。

 

「あれ、ガス欠?」

 

現実は、そう甘くはなかった。

この後、彼らを追いかけてきたルクス達に見つかるまで、あと三時間ーー






体調が芳しくないです。でも書きたいんです。

気付いたら午後ずっと寝てるんです。

おのれ偏頭痛。


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