モンスターハンター 〜狩人の物語〜 (やべー奴)
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プロローグ

 皆さん初めましてやべー奴です! この話は昔に投稿した事があるのですが途中で展開がおかしな方向に進んでしまって消しちゃったやつです(笑)
 相変わらず小説は素人なもんで稚拙な文章が目立ちますが生暖かい目で見てもらえたら嬉しいです(笑)


 薄暗い夜の酒場。客も皆夜には寝静まりそこで働く者も片付けを終え店を後にする。先程までの熱気が嘘かと思えるくらいに冷えた静寂、それがいつもの日常。

だが今日は違った。中心にあるテーブル席だけが蝋燭に照らされ橙色の光がゆらゆらと煌めいていた。そこには一人の幼い子供と赤を基調とした鎧を着こんだ男がいた。赤い鎧はどこかの火竜を想像させる。

冷たい筈の夜の酒場···だが2人の居る席はほんのりと暖かっかた。

 

「あぁホントだぜ!溶岩に浸かろうが何しようがへっちゃらなモンスターがいるんだ!」

 

 赤色の鎧を着込んだ彫りの深い精悍な顔付きの男がビール瓶を片手に熱弁に語る。その深い緑色の瞳はキラキラと輝いたいた。

 

「さらにだ!そいつはとんでもなくゴツいビームを撃ってくる」

 

「ごついビーム!?」

 

 間入れず幼い子供が聞き返す。茶色の髪をした男の子だ。瞳の色はこの熱弁な男と比べると色素の薄い淡い緑色だが男と同じ様にキラキラと目を輝かせていた。この子供にとって彼のする話はとても魅力的でワクワクさせてくれるものだった。

 

「ああホントにヤバかったぜあれは。 ちょっとケツに掠っただけないのに酷い火傷の跡がまだ残ってるんだ。 まったくケツに傷のあるハンターだなんて格好がつかねぇな。 ハハハハッ!」

 

男は未練がましく自分のお尻を擦った。幼い子供は「わぁお!」と驚きの声を上げた後慌ただしく席から立ち上がり男の方へと駆け寄った。

 

「ねぇねぇ!俺にもそのモンスターに会わせてよ!」

 

 幼い子供は更に一層目をきらめかせて男に頼んだ。

 

「ハハッ! 残念だがそいつは俺には無理だな」

 

 

「えぇーなんでだよーー!」

 

 子供は口を尖らせ不機嫌そうに駄々をこねる。そんな落ち着きのない子供を男は「まぁ待て」と手で制した。そして少し咳払いをした後声を張り上げて男は言った。

 

「いいかぁ! よく聞け! これは俺の物語だからだ!お前もそのモンスターに会いたきゃ自分で自分の物語を作るんだな!」

 

それを聞いた子供は不思議そうに首を傾げる。

 

「んー物語?」

 

 男は子供の予想通りの反応に少し微笑みさらに熱弁に語りだす。

 

「ハハハッ! 皆そう言うぜ! まぁあれだあれ、よーするに人生って事だ。それを俺流に言い換えただけさ。 だって格好いいだろこっちの方が!」

 

「人生……?」

 

 子供はまだ理解出来ていないようで手で頭を掻きむしりながら難しい顔をする。男はやれやれと深いため息をつく。

 

「あんまし俺に難しい事言わせるなよな。いいかメル、とにかくお前はお前の物語を楽しめ! そうすりゃ何となく分かってくんだろハハハッ! おっとそろそろ寝るか、こんな時間までお前を起こしてるのバレたら姉さんにどやされちまう」

 

 男は手に持ったビール瓶を一口で空にしてそくさくとテーブルの片付けを始めた。メルと呼ばれた子供は揺れる蝋燭の光を見つめて考え耽る。

 

 俺の物語…? どんな…?

 

「ほら消すぞ、ぼーっとしてないでさっさと出なメル」

 

「あ! うん!」

 

 男は蝋燭に息を吹きかけ火を消しメルと共に店を後にした。再び夜の酒場にいつもの静寂戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第1話 始まりだ

 一話目という事もあり書くのに時間が掛かりました笑
けどやっぱり小説書くのは楽しいですね!


 大きな山々に囲まれたこの街はとても心地よい風を鳴らしていました。とても活気に満ちた暖かい風です。

 ここはドンドルマ、大陸で最も大きいと噂される街です。周りを取り囲む山々は豊富な資源を含み人々の助けになりました、時には強大なモンスターからこの街を守る大きな盾にもなりました。

 しかしこの大自然が広がる世界に絶対などありません。このドンドルマの街も例外ではありません。

 それは時に災害と恐れられ時に神と讃えられ人々の心を揺れ動かす存在、古龍種です。原因は不明ですが古龍達はドンドルマの長い長い歴史の中で何度もその姿を現してきました。一番新しい歴史を辿るど十二年前の老山龍ラオシャンロン襲来でしょうか。

 しかしそんな古龍種達の襲来をこの長い歴史の中で何度も受けてるにも関わらず未だに発展し続けるこの街を見ればこの地に暮らす人々の強さ、心の強さが推し量れますね。

 そして今日、長い時間を掛け紡いできた物語の風がこのドンドルマにたどり着きました。もう一つの風がこの街にやって来るのもそう遠くはありません。

 

 

 

 

 

 

 丁度ドンドルマの街全体が夕焼けのベールに包まれるこの時間帯に一台の竜車が石造りの大きな正門をくぐり抜け街の中央に位置する中央広場と呼ばれる場所に止まる。

 

「ドンドルマに到着ニャー」

 

 竜車を引く二頭のアプトノスの手綱を握った獣人族のアイルーが声をあげる。周りの賑わう生活音にアイルーの声はかき消されかけたが荷台に乗っている客には聞こえたはずだろう。

 ほんのしばらくの間を置いた後荷台に乗っていた人達が長旅で疲れた身体をほぐしながら外に出ていく。大きな背荷物を背負った商人に和気あいあいとした老人の夫婦――様々な人達が降りてくるなか一層目立つのが鎧を着込み身の丈程の大きな武器を背負ったハンターという者達だ。この竜車をモンスターの襲撃に備え同乗していたのだ。リーダ格の男が自分を含め四人揃ったのを確認して竜車のアイルーの方へ歩み寄る。それに気づいたアイルーはハンター達の方を向き一礼する。

 

「ハンターさんここまでの護衛ありがとうニャ!」

 

「なに、いいってことよ。 結局モンスターは来ないし俺達はタダ金貰ったみたいなもんだからよ」

 

 ハンターはどこか申し訳なさそうな苦笑いを浮かべた。

 

「ニャにハンターさんが居てくれただけでも僕も安心してここまで来れたニャ!――それよりあの兄ちゃんはどうだったかニャ?」

 

 アイルーは少し不安そうな表情を浮かべ竜車の後ろ側に立っている少年を見つめる。その少年は身なりからしてハンターだと一目瞭然だが護衛の四人組とは別グループのようだ。少年はうつむいて体を小刻みに震わせるだけで動かない。

 

「あぁ……あれからめっきりだ。 最初こそはうるさくて迷惑してたがドンドルマに近付くにつれ段々と大人しくなって行きやがった、今じゃ適当な相槌しか返してくれねぇよ。 まぁ見るに新米みたいだが緊張してるんじゃねぇか?」

 

 それからハンター達はしばらくアイルーと話し込んだ後「んじゃ」と言い立ち去っていった。ハンター達が見えなくなったのを確認したアイルーは振る手を止めもう一度少年のハンターを見る。少年の様子は先程と変わらず下を向いて小刻みに震えていた。

 

「……よしニャ!」

 

 アイルーは少年を少しでも元気づけようと顔を覇気に満ちた表情に変え鼻息を鳴らし少年に近づいた。

 

「ニャニャ! しっかりするニャ! ハンターさん」

 

 アイルーの声に少年はピクリと反応し更に一層体を震わせる。

 

「確かに初めてここに来て緊張する気持ちもわかるニャ。 だけどこの街のハンターになるんだったらそんな弱気じゃだめニャ! もっと気合い入れるニャ!」

 

 「……ウン」

 

 震えた少年の声は若干裏返っていた。

 

「……こ、これはかなりの重症だニャ……ほらまずは顔を上げるニャ」

 

 アイルーは丁度目の高さにある少年の足を急かす様に叩く。

 

 

 

 この震えている少年の名前はメル。今年ミナガルデの訓練所を卒業し遥々このドンドルマにやって来た新米ハンターだ。訓練所から卒業時に支給されたハンターシリーズの防具を着込み腰には片手剣のハンターナイフ。右手にはハンターナイフとセットの小盾を装備している。

 少し尖りのある茶色の髪をしており、その顔を下を向いている為あまり分からないがまだ幼い印象を受ける。

 

 

 

 そんなメルという少年の心は今激しく高揚していた。こうして夕焼けに照らされた地面を見ているだけなのに、周りの賑やかな生活音を聞いているだけなのに胸の奥から迫りくる感情に胸がはちきれそうになる。今顔を上げてこのドンドルマの街を見てしまったら自分はもう戻れないだろう。

 メルは緊張していた――これから始まる自分の物語に――だが物語を進める為には勇気を出さなければいけない、自分の心に正直になる勇気を。

 

「ほら、早く顔を上げるニャ!」

 

「……うん!」

 

 アイルーの言葉を受けメルは恐る恐る顔を上げる。顔を上げるとそこには夕焼けに照らされたドンドルマの街が映っていた。  

 

 まず一番最初に写ったのが中央に聳える大階段だ。その石造りの大階段は曲がりくねりながら上へ上へと伸びている。上へと続く大階段を目で追うと今度は一際大きな石造りの建物が頂上に鎮座していた。あれがかの有名なこの街の長、大長老の居る大老殿であろう。そして次に目に入ったのが大階段を中心に左右に広がる石造りの建造物達だ。大小様々な大きさの建物達はこのドンドルマの長い歴史を感じさせた。メルの淡い緑色の瞳に光が宿っていく。

 

 

「…………ッ!」

 

 空いた口が塞がらなかった、眼前に広がるこの景色に。メルの髪はまるで猫の毛の様に逆立つ、緑色の瞳がワクワクに輝かく。胸の中がワクワクで満ち溢れていく。メルは両手を固く握りしめ、力のこもった身体をさらにさらにと震わせる。そしてはちきれそうなこの感情を――ワクワクを全力で――力を込め――声にして――腹から思いっきり吐き出した。

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぁお!!!!」

 

「ニャ!? ニャ!?」  

 

周りの視線が一斉にメルに向く。アイルーはメルのいきなりの豹変に驚き尻餅をついてしまう。

 

 風が吹く、物語の始まりを告げる追い風だ。メルは追い風と共に全力で走り出す。

 

 

「じゃあね〜! ここまで送ってくれてありがとう!」

 

 メルはアイルーに手を振り満面の笑顔でお礼を言う。そしてそのまま大階段を走り抜けっていった。

 アイルーは驚きで空いた口が閉まらなかった。

 

「ニャ……げ、元気になったニャ……」

 

 

 

 大階段を走り抜けるメル。人混みの中を器用に避けながらとにかく走り続ける。

 

「もう我慢なんてやめだ! これは俺の物語! 全力で思いっきり楽しんでやる!」

 

 何処に向かおうとしていたのかなんて既に忘れていた。ただただ走り続ける、様々な方向に視線変え周りの景色を楽しむ。そんなメルの前に白黒の毛並みをしたアイルーが歩いていた。周りの景色に視線を奪われていたメルはそのアイルーの存在に気づかなかった。

 

「――んニャ? ニャニャニャ!?」

 

 なにやら背後に気配を感じたアイルーはすぐさま後ろに振り向く。そこにはもの凄い勢いでこちらに向かってくるメルの姿があった。このままではぶつかると思いアイルーは急いで避難しようと行動を起こしたが遅かった。

 

 ゴツンッ!

 

 鈍い音と共にメルとアイルーは衝突を起こす。メルは尻餅をつき、アイルーはおもいっきり横に弾き飛ばされ壁にぶつかってしまう。

 

「ニャハッ……!」

 

 掠れた悲鳴を上げてアイルーは痛みにうずくまる。

 

「ハハッごめんごめん! んじゃ!」

 

 ごめんとは言ったもののその言葉に気持ちなんて全くこもってなどいなかった、それどころか大して気にしていない様子だ。メルは直ぐに立ち上がりまた走り出そうと地面を蹴り出したその時だ。

 

「ちょっと待つニャァァーー!」

 

 怒りに顔を震わせたアイルーがメルにドロップキックをかました。

 

「おわっ!」

 

 突然のドロップキックにメルは驚くが防具を着ていたお陰で大したダメージは無かった。だがバランスを崩してしまいそのまま石で出来た地面に顔面をぶつけてしまう。ドロップキックよりこちらの方が痛そうだ。

 

「痛てて……うわぁ! 鼻血だ!」

 

 メルの鼻から鼻血が流れていた。滴る鼻血を止めようと強く鼻を擦るがそれはかえって逆効果のようで鼻血はさらに勢いを強くする。

そんなメルの前にアイルーが仁王立ちで立ち塞がる。

 

「ぶつかっといてなんニャその態度は! それに人が沢山いるなかで走ったら危ないニャ!」

 

 白黒のアイルーは怒り心頭だ。

 

「ご、ごめんね。ちょっと興奮してたよ」

 

 自分の鼻血を見て少し落ち着きを取り戻したメルは顔を上げてアイルーに謝る。今度は心を込めての謝罪だ。

 

「全くぶつかったのがオイラだったからよかったものの……もしオイラじゃなくて……うニャ!?」

 

 何かを言い掛けたところでアイルーの口が止まる。少し青ざめた顔をしたアイルーはメルの顔をまじまじと見る。メルの顔は鼻血だらけで汚れていた、雑に擦ったせいで鼻血は顔全体に広がっており、滴る鼻血は地面に染みをつけていた。メルは早く鼻血を止めんとまた強く鼻を擦ろうとする。

 

「ニャニャ! ちょっと待つニャ、待つニャ!」

 

 すかさずアイルーが止めに入る。青ざめたアイルーは今度は罪悪感で一杯だった。

 

「んニャ……取り敢えず布でも詰め込むニャ……その……さっきはオイラも悪かったニャ……」

 

 アイルーはそう言いメルの鼻に手持ちにあった布を小さくちぎりメルの鼻に詰める。

 

「いや俺の方こそごめんね。 あまりにもこの街が凄かったからさ……俺昔から興奮するとこうなんだ」

 

 そう言ってメルは笑みを浮かべる。鼻の奥にドロドロとした違和感が残るが大して気にしていない様子だ。

 

「ニャ? お前この街に来るの初めてかニャ?」

 

「うん! 今日来たんだ、ハンターになる為にね!」

 

 ハンターという単語を聞いたアイルーはピクリと耳を動かす。色々あって気に掛けていなかったが確かにメルが着ているのはハンターの防具だ。

 

「なるほどニャ。 その装備を見るに新米かニャ?」

 

 このアイルーは仕事柄少しではあるがハンターの知識に明るい。メルの装備しているハンターシリーズは新米の証みたいな物だ。

 

「うん! ミナガルテの訓練所を卒業して来たんだ!」

 

「でもなんでわざわざこの街に来たんだニャ?」

 

 ミナガルテといえばドンドルマ程では無いにしろそれなりに発展している街だ。わざわざここまで来なくてもハンターとしての出だしには悪くない街だ。アイルーは少し不思議だった。

 

「ずっとここに来るのが夢だったんだ! 大陸一の大都市……聞いただけでワクワクするよ!」

 

 随分と夢見がちな男だなと思ったアイルーはふと思い付く。

 

「それならこれから大衆酒場に向かうかニャ?」

 

 それは聞いたメルは何かを思い出したかの様に顔をハッとさせる。

 

「ああぁ! そうだ俺これから酒場に行かなくちゃいけないんだった!」

 

 実は正確に言うとメルはまだハンターでは無い。ハンターとしてクエストを受けるにはまずギルドに登録しなければならない。ドンドルマの場合受付が大衆酒場にある為メルはまず最初にそこに向かわなくては行けないのだが、この様子だとすっかり忘れていたようだ。

 

「それなら卒業証はちゃんと持ってきたかニャ?」

 

「うん! ほら!」

 

 メルは自分のポーチからボロボロになった手紙を取り出す。どうやら本物のようだ。

 

 ハンターになる為には二つの方法がある。一つはギルド公認の訓練所で一定の成績を収め卒業すること、二つ目がギルドの認めたハンターに弟子入りし認められる事、メルの場合は前者だ。

 

「大衆酒場の場所は分かっているかニャ?」

 

「いや全く分かんないや!」

 

 アイルーは疲れたため息をつく。うすうす思っていたがどうやらこの男はアホの類の者だろうと。だがこのアイルーからしたらそんなアホの方が親しみやすかった。

 

「鼻血のお詫びニャ。 大衆酒場まで案内してあげるニャ……」

 

 「ホント!? ハハッやったー! ありがとう……え〜と名前なんて言うの?」

 

 アイルーは少し気難しそうに答える。

 

「ニャ〜オイラに名前なんてないニャ。 オイラたちメラルーは人間と違って名前が無くてもコミニケーションに困らないのニャ。 ……んニャ? しまったニャ!」

 

「ん〜でも名前が無いってのもな〜。 ん、メラルー?」

 

 ついうっかりと口を滑らせてしまったこの獣人族、実はメラルーだったのだ。本来は普通に気づける筈なのだがメルは珍しい色だなと言う程度の認識で気づけなかった。このメラルー自身も隠す気は無かったがメルが気づかないのならできればそのまま気づかないでいてほしかったと思っていた。

 

 メラルーとは要するにアイルーの亜種に当たる存在で人に友好的なアイルーと違いこのメラルーという種族は人の物を盗んだりイタズラを仕掛けたりと、とにかく手グセが悪い事で有名である。このメラルーのように人里で暮らす者はごく稀であろう。

 

「……んニャ……」

 

 メラルーは後ずさりしながら気不味そうにメルを見る。それに対してメルはというと。

 

「うわぁーすげぇ! 俺人里で暮らすメラルーなんて初めて見たよ! 俺はメルよろしくな!」

 

 メラルーが人里に暮らしているという珍しい事実にまたしても興奮する。

 

 「メルかニャ。 よろしくニャ」

 

 メラルーはほっと胸を撫で下ろした。メルが自分をメラルーだと知っても危害を加えるつもりは無いと分かったからだ。 

 

「それじゃメル、大衆酒場まで案内するから着いてくるニャ。」

 

「オッケー!」

 

 メルとメラルーは大衆酒場を目指し歩き出す。

 

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 太陽も沈みもうすっかりと夜になっていた。篝火の橙色に照らされたドンドルマ街は夕方の時とは随分と違う雰囲気になっていた。この時間帯になっても人々の活動は止むことなくむしろ更に賑やかになってきていた。

 メルの鼻血もすっかり止まり、つい先程水場で顔についた血を洗い流してきたところだ。そしてメルとメラルーはようやく目的の場所にたどり着く。

 

 

「到着ニャ。 ここが大衆酒場なのニャ」

 

「おぉー! ここが酒場!」

 

 酒場の外見はどちらかと言うと地味であった。他の建造物の様に凝った彫刻が掘られている訳でもなくただ岩に穴をくり抜いただけのような外見だった。それでもメルの心が踊らない訳が無い。再びメルの心がワクワクに溢れてきていた。

 

「それじゃオイラはここでサヨナラするニャ」

 

「うん! ありがとう!」

 

 鼻血の借りを返したメラルーはこれ以上深入りする事も無く颯爽と立ち去ろうとする。別れにしては随分とあっさりしているがメルも対して気にしていない様子だ。

 

「あ、そうニャ」

 

 何かを思い出したメラルーは立ち止まりメルの方へと振り向く。

 

「オイラはハンターを狩場まで運ぶ仕事をやってるニャ。 オイラは嫌われ者のメラルーだから客も滅多に来ないし暇なのニャ。 だから来てくれると嬉しいのニャ」

 

 メラルーは自分が嫌われ者だと気にも留めず言う。このメルという男が自分をメラルーだと知っても態度を変えず普通に接してくれたからだ。

 

「へーそうなんだ! じゃあこれからよろしく!」

 

 メルは嬉しそうな笑顔を作る。それを見たメラルーはメルの事を変わった奴だなと思いながら手を振り人混みの中に消えていく。

メラルーが人混みの中に消えていくのを確認したメルは改めて大衆酒場の方に視線を戻す。

 

 「よし! 行くか!」

 

 メルはワクワクに胸を膨らませ大衆酒場へと足を進める。

 洞窟の様な薄暗い通路を進んでいくとそこには光の漏れた扉があった。そして扉の向こう側らは何やら賑やかな、活気に満ちた声が聞こえてきた。

その声を聞きメルはましても胸が高揚するのを感じた。

 メルは扉に手を当て押し開ける。木と木の擦れ合う音を鳴らし広がっていく扉の隙間からは光が漏れ薄暗い通路を橙の光が照らす。

 そしてメルは浮き立つ足で酒場に入る。

 

「うわぁぁ……」

 

 中はあの素朴な外観から思いつかない程豪華で広々としていた。大衆酒場というだけあって席が沢山置かれており、多くのハンターが賑やかに騒いでいた。

 

「おい兄ちゃん、あんまり見ねぇ顔だが新米か?」

 

 メルが周りに見惚れているといつの間にか一人のハンターが近づき声を掛けてきた。モンスターの素材を使った防具を着込み大剣と呼ばれる武器を背負ったハンターだ。

 メルはその声を聞き慌ててハンターの方に向き直る。またしてもメルは興奮を抑えられてない様子だ。

 

「うん! 今日からドンドルマでハンターやるんだ! にしても凄いな〜思ったより全然広いや!」

 

「ハハッ! 元気がいいなお前。 それよりハンター登録がまだなら早くしたほうがいいぜ。 これからもっと騒がしくなるからな」

 

 ハンター登録という単語にメルはまたしてもハッとする。どうやらまた忘れていたようだ。

 

「あぁ! そうだった! ねぇ何処に行けばいいの?」

 

「それならカウンターに行けばいいんだ。 ほらあそこに綺麗な受付嬢がいるだろ、あそこだ」

 

 男はカウンターの方に指をさし教える。

 

「分かった! ありがとう!」

 

 メルは急いでカウンターに向かう。 

 

「ハハッせっかちな奴だぜ」

 

 男は浮足立つメルにここに来たばかりの自分を似せ微笑ましい気持ちになっていた。

 カウンターの方へ向かうと確かにそこには質素なドレスを来た女性がいた。男の言うとおり整った顔をした美人の女性だ。

 場所を確認したメルはそのままカウンターに飛びつくように駆け込んだ。

 

「わぁっ! どうしたのキミ?」

 

 いきなり飛び込んできたメルに女性は驚いた。

 

「俺はメル! ハンター登録しに来たんだ!」

 

 女性はメルという名前を聞いて心当たりがあるのか少し苦笑いを浮かべた。

 

「メルくんね、ミナガルテから話は聞いていたわ。 私はフェル、ここの受付嬢よ。 ちょっと待ってね」

 

 フェルと名乗った女性はカウンターの下からあらかじめ用意していた一枚の紙を取り出しメルに渡した。

 

「はいこれ、メルくんのギルドカードよ」

 

「おぉ! これがギルドカード!」

 

 メルは一枚の洋紙を受け取った。それにはメルの名前と他にも色々な事が書いてあったがメルには意味が理解できなかった。なにやら特別な材質で作られており簡単には破れそうにない頑丈な洋紙だ。

 ギルドカードとは要するにハンターの身分証明書である。これがあれば街にあるハンターの為に用意された施設が使えるようになるのだ、例えばハンターの武器や防具を生産する鍛冶屋などだろう。

 

「ん〜でもあれは? あの〜色々書くやつ?」

 

 実はメルには内心楽しみにしていた事がある。それはハンター登録する際の筆記だ。そこに自分のこのワクワクを全部書き込んでやろうと思っていたのだ。

 

「あ〜それがね実は……」

 

 フェルは苦笑いを浮かべ視線を反らす。

 

「ミナガルテの訓練所の人がね、先に済ませてくれたのよ」

 

 実は昨日ミナガルテの訓練所から一通の手紙が届いていたのだ。その内容が要約すると、メルはバカだから筆記は無理。 代わりに自分達で済ましておくと。

 

「えー! 何だよそれ! 楽しみにしてたのに!」

 

 メルは不満を全開にさらけ出し騒ぎだす。

 

「まぁまぁいいじゃない。 面倒な事やらずにすんだんだから」

 

 フェルは何とかメルを落ち着かせるがメルはまだ不満が残ってる顔だった。

 何か適当な紙渡せば満足してくれるかしら? などと失礼な事を考えていたフェルは取り敢えずこのままでは話が進まないと無理矢理話を変える。

 

「……まぁこれからメルくんはこの街のハンターよ! これからよろしくね!」

 

 なんて雑な話の変え方なんだと心の中でフェルは自分にツッコミを入れる。しかしメルはハンターという単語にピクッと反応し目を輝かせた。

 

「俺がこの街のハンター……!」

 

 メルはもう一度店内を見回し改めてフェルの方に向き直る。今日から自分はハンター、その事実に嬉しさのあまりまた叫びそうになった。

 

「……ッ! よし、今日から俺はハンターだ! フェルさんありがとう、これからよろしく!」

 

「う、うん。 よろしくねメルくん」

 

 いきなり態度の変わったメルに戸惑いを感じながらフェルは言葉を返す。この様子だとあの手紙の内容も間違いでは無いようだと思いフェルはまた苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第2話 初めての狩り

 密林――ここがメルのハンターとしての初陣を飾る狩場だ。だが密林と言っても今回メルが赴くのは大型モンスターの出現も滅多に無く多くの新米がお世話になる場所だ――そう密林とはとても広大な場所だ。今回の狩場となる密林もその広大な地の一部にしか過ぎないのだ。

 

 

 メルは前回に街で出会った竜車乗りのメラルーに狩場まで送ってもらっている途中だ。鬱蒼と生い茂る木々達の間から差し込む光に照らされ竜車は狭い獣道を進んでいた。その竜車の荷台の上にはメルの姿があった。

 

「ねぇーねぇー密林ってどんな所なの?」

 

 メルは周りに生い茂る草木に目を輝かせながら言う。

 

「ニャー! ここはとにかく視界が悪いところニャ! 分かったらもう喋るなニャ!」

 

 メラルーは心身ともに疲弊していた――それもそのはず、このメルというハンターはドンドルマを出発してから何度も何度も同じような質問をメラルーに浴びせてきていたのだ。

 

 「ニャ〜もう勘弁してくれニャ〜……」

 

 安全な道を選んで進んではいるがいつモンスターに襲われるか分からないこの緊張感にかなり神経を使っているのにメルの嫌がらせかとも思える程の質問攻めは今のメラルーにかなり効く。メラルーは心の中でメルを乗せたことを後悔し泣いていた――いや、もはや今にも泣きそうな顔をしていた。

 

 

 ―――――

 

 

「ニャ……ニャ……と、到着ニャ……」

 

「おぉ! 遂に来たぞぉ!」

 

 ようやくベースキャンプにたどり着いた竜車。ようやくメルの質問攻めから開放されたメラルーは張り切れた糸のように竜車を引っ張ってきたアプトノスに倒れ込んでしまう。

 

「よっと! 到着と」

 

 メルは荷台の上から飛び降り、綺麗に着地を決める。辺りを見回すと小さな白い天幕のテントがあった。ギルドがハンターの為に用意した物だ。

 メルは早速テントの中に入り狩りの準備を始めた――とは言ってもただ持ち物を整理するだけの簡単な作業だ。

 

 

 「ニャ〜メルはランポスと戦った事あるニャ……?」

 

 アプトノスの背に疲れた表情で倒れ込んでいたメラルーがテントの中でゴソゴソと準備しているメルに聞く。

 

「うんあるよ! でも訓練所の時は仲間がいたからね!」

 

 「そっかニャ……今回は一人だから気をつけるニャよ……」

 

今回メルが受けたクエストはランポス五頭の狩猟というものだ。比較的簡単なクエストだがそれでも新米のメルには油断できないクエストだ。

 ランポスの狩猟経験はあるがあれは訓練所でパーティーを組んでいた頃の話だ。今は一人、自分のミスをカバーしてくれる仲間もいない。メルは自分の頬を叩き気合を入れ直した。

 

 一通りの準備を終えたメルはテントを後にし頭防具のハンターヘルムを深くかぶる。そしてキラキラと輝く瞳で鬱蒼と生い茂る密林の木々を見つめる。

 初めての狩りは緊張と恐怖で大変だったと良く聞く話だがメルにそれは当てはまらなかった――メルはいかに狩りを楽しくできるか、それだけを考えていた。

 

「よし! 行くか!」

 

 メルはこれから始まる未知なる世界にワクワクを抱き密林の緑の中へ消えていく。メラルーはけだるそうに手を振り、力尽きたかのように脱力して倒れた。

 

 

 

 ―――――

 

 

 

 ベースキャンプを出発しておよそ十分程、密林の道なき道を進んでいくメルはすっかりと周りの景色に心奪われていた。

 

 「うっわ〜〜すげぇ〜〜森が生きてる見たいだ」

 

 生い茂る木々の隙間から射し込む日の光がまるでベールのようにゆらゆらと風に揺られ辺りを照らしていた。

 メルは木々の隙間から顔を覗かせると空には蒼天の青空が広がっていた。今日は絶好の狩り日和だとメルは思う。

 

「……ッ! よーし、頑張るぞー!」

 

 何か大きな物に胸を埋め尽くされた気分になりさらに気合が入る。両手を大空に向け今にも喉から溢れ出そうとしている叫び声をなんとか抑え体を大きく伸ばす。

 青空に元気を貰い満足したメルは視線を空から地面に向けると何やら珍しい物がある事に気づく。

 

「おぉ! これってニトロダケ!」

 

 木の根本に森の緑とは不釣合いな赤いタケをしたキノコが生えていた。

 これはニトロダケと呼ばれるキノコでその特徴的な赤いタケには爆発性のある胞子を含んでいる。主に爆薬の材料などに使われハンター達もよくお世話になる代物だ。

 

「訓練所では食べさせてもらえ無かったからな〜〜」

 

 どうやらメルはこの爆発性のあるニトロダケを食べるつもりらしい。

 そう、彼はこう見えて重度のベジタリアンなのだ。訓練所にいた頃も何度かニトロダケを目にする機会はあったがその危険な性質の為、どんなに頼んでも食べさせて貰うことが無かった、それどころか「お前は触るな」とまで言われた始末だ。

 いつの間にか忘れていた――ハンターになったら絶対にニトロダケを食べてやるという気持ちを嬉しい事にまた思い出してしまった。

 

「へへっ今日のおやつゲットだ!」

 

 どうやら狩りを終えた後に食べるらしい。

 メルはニトロダケをアイテムポーチに乱暴に詰めると再びランポスを探す為歩き出す。

 

 

 

 ―――――

 

 

 

 更に歩く事およそ五分、目的のランポスは簡単に見つかった。青い鱗をしたランポス達は密林の中ではよく目立つ。もしランポスの鱗が保護色のような緑色だったらメルは間違い無く見逃していたであろう、それ程この密林の視界は悪かった。

 坂道のような地形でランポス達はその坂道の下で休憩をとっている様子だ。メルは急いで木の陰に隠れ坂道の上から見下ろす形でランポス達を観察する。

 

 「3頭か〜〜あと2頭足りないなぁ〜〜」

 

 確認にできるのは今くつろいでいる3頭、クエストを完了させるにはあと2頭足りない。

 メルは少し残念がるが直ぐに気持ちを切り替えランポス達の方を凝視する。ランポス達に気づかれる前に発見できたのだ、ここは慎重にとメルは何かいい手はないかと考えを巡らせる。

 

「…………いや」

 

 一応考えようとはしたが直ぐに止めた。頭なんかで考えるより早く体を動かしたい――ランポス達を前にじっと考えるなんてせっかちなメルには無理だった。

 

「よし、行くか!」

 

 メルは腰からハンターナイフを引き抜く。新品のハンターナイフには刃こぼれ一つ無くメルの気持ちに答えるかの様に日の光を浴び輝いていた。

 メルは大きく深呼吸した後、口角上げニカッと笑い力強く大地を蹴る。そしてそのまま坂道を走り更に勢いを付つける。ランポス達との距離が近付くにつれメルの胸の高揚感が高まる、それは遂に叫び声となってメルの喉から弾けだす。

 

「……ッ! うおぉぉぉぉぉ!!」

 

 ランポス達は直ぐに叫び声の聞こえる方向に向きを変える。そこにもの凄い勢いで接近してくるメルの姿を確認したランポス達は揃って威嚇の声を上げる。

 

『ギャォオ! ギャャォオ!』

 

 ランポス達が警戒態勢に入ったのもお構いなしにメルは坂道の勢いを利用しランポスに斬り掛かろうとハンターナイフは振り上げ攻撃の構えを取る……が。

 

「よっしゃゃぁ! 行くぞぉぉ――うわぁ! あわ!? ワワワワワ!?」

 

 なんとランポス達に気を取られていたせいで足元の木の根っこに足を引っ掛けてしまう。お陰で体制を崩したメルはそのまま転げ落ちるようにランポス達に向かっていく。

 こちらに転がって来るメルに一匹のランポスはタイミングを合わせ噛み付こうとしてくる。 

 

 「ギャォア!」

 

 「へへっ! 俺だって」

 

 転がりながらもランポスの動きを追っていたメルはランポスの牙が自分に届くよりも先に回転の勢い混ぜんこんだハンターナイフでランポスの首元をたたっ斬る。

 硬い骨に邪魔され両断は出来なかったがメルは確かな歯ごたえを感じた。ランポスの傷口からは大量の鮮血が飛び散る、ランポスは絶叫に近い悲鳴を上げた。

 メルはそのまま止まること無く転がりながら体制を立て直し走ってランポス達から距離を取る。

 そして直ぐにランポス達の方に視線を戻すと先程を斬りつけたランポスとは別の二匹が殺意を剥き出しにして直ぐにこちらとの距離を縮めてきた。

 

『ギャォオ! ギャォォオ!』

 

 二頭のランポスはそのまま地面を蹴り大きく飛び上がりメルに飛び込んできた。メルはランポス達が宙に浮いた瞬間を見逃さずに大きく前転しランポス達の股下を潜り抜けていく。

 

「まずはお前からだ!」

 

 メルは先程斬りつけたランポスに狙いを絞っていた。早く相手の数を減らす為弱ったランポスから狙う考えだ。

 先程首に切り傷を受けたランポスは未だ痛みにのたうち回っており、メルの接近に気づけなかった。

 

「うおぉぉおーー!」

 

 そのままハンターナイフを振りかざし全力でランポスの頭をたたっ斬る。メルは鈍い感触に顔を歪ませながらハンターナイフを振り切る。

 二度もメルの攻撃を受けたランポスは反撃する力すら残っておらずそのまま力無く地面に倒れ込み動かなくなった。

 

「よし! まず一匹だ!――うげぇ!?」

 

 ランポスを一匹仕留めた事に喜びを感じるのも束の間、あれから直ぐにメルの後を追ってきたランポス達がメルの背後から飛び掛かってきた。

 背中に大きな衝撃を感じたメルは咄嗟に重心を前にずらし前転して衝撃を逃がす。そして急いで走りランポス達から距離を取る。

 

「危ねぇ〜。 ――痛ッ!」

 

 メルは更に距離を取ろうと体を動かそうとするが背中に鋭い痛みを感じた。そしてじわじわと熱くなっていくのを感じた。

 ランポスの爪がメルのハンターシリーズを貫通し背中を薄く切り裂いていた。防具を着けていなかったらさらに深く切り裂かれていたであろう。

 しかしこの程度の痛みなら我慢できるメルは意識を傷口からランポス達に向け直す。

 

「よーし! 次は俺の番だ!」

 

 メルは片方のランポスに狙い定めハンターナイフを振り上げながら突っ込む。

 

「ギャォオ! ギャォォ!」

 

 丁度狙いを定めた方のランポスがメルを迎え討つかの様にメルに走り込んで来た。ランポスは顎を大きく広げ鋭利な牙を露わにしてメルの頭を噛み砕こうとする。

 しかしメルにとってランポスの動きはとても単調で避けやすい物だった。横にステップを踏みランポスの突撃を躱しそのまま体の向き変えランポスの胴体に斬り込む。

 急な体制からの攻撃の為、深い傷を与える事は出来なかったが皮と筋肉を切り裂く感触を感じた。

 

「ギャャァァ!」

 

 ランポスは痛みに悲鳴を上げ、直ちにバックスッテプを踏みメルから距離を取る。

 

 後ろに下がるランポスを横目にメルは口角を上げ勝利を確信した。メルからしたらランポスの攻撃は単調、動きは素早いが見切れない事も無い――負ける気が全くしなかった。複数ならまだどうなるか分からないが、二頭くらいなら同時に相手してもまだ余裕を感じるメル。

 

「へへっ、じゃそろそろ終わりにするか!」

 

 メルはこの戦いに終りを告げる為、ハンターナイフを構えランポス達と向き合う。ランポス達もこちらから動こうとはせずじっとメルの動きを待っていた。互いの睨み合いがしばらく続く。辺りは静まり、ランポスの威嚇声だけが響いていた。 長い様で短く感じる睨み合いの末、痺れを切らしたのは――メルだった。

 

「おぉぉし! じゃあこっちから行くぞぉぉ!」

 

 カウンターを狙っていたメルだったがせっかちな彼には無理だった様だ。そのまま雄叫びを上げながら二頭のランポス達へと突っ込んでいく。

 しかし一気に興奮した様子のメルは背後から迫り来る一頭の青い影に気づかなかった。

 

「うおぉぉぉ! ――んなぁ!? もう一匹!?」

 

 ようやく迫り来る影の存在に気づいたメル。だが気づいた時にはもう遅かった。背後から接近してきたランポスは体の向きを変え胴体をメルにぶつける様に体当たりしてきた。

 

「……ぐッ!」

 

 背後からランポスの小さな体からは予想出来ない程の重い体当たりを受けたメルは痛みに顔を歪め宙に浮いて吹っ飛んでしまう。

 丁度その先に居た二頭のランポス達はこちらに吹っ飛んでくるメルに追撃を仕掛けようとはせず、メルの横を走り過ぎ先程のランポスと合流する。

 メルは地面にそのまま叩きつけられ何回か転がった後に木にぶつかり止まる。

 

「くぅぅー! 痛ってぇーー!」

 

 メルは直ぐに立ち上がろうとするが、背中に大きな痛みを感じ地面にうずくまってしまう。

 メルは痛みに耐えながら視線を前へと移すとそこには自分のアイテムポーチから散乱した物が転がっていた。どうやら地面にふつかったと時の衝撃で散乱してしまったらしい。

 そして更に視線を奥へと移すと三頭のランポスがこちらにジリジリと近づいて来るのが見えた。

 

「へへっ……ちょっとヤバいかも」

 

 なんとか立ち上がるメルだったが背中に激しい痛みを感じ今の体制を維持するのがやっとだった。こちらにジリジリと近づいてくるランポス達を見つめ次の手段を考えるが、背中の痛みも相まってなかなかいい手が思い浮かばなかった。

 

「……ん?」

 

 つい先程、散乱したアイテム達に視線を向けると赤いタケをしたキノコが目に入った、先程採取したニトロダケだ。

 

「あぁ! そうだ!」

 

 メルは何かを思い付いたようで再び笑顔を見せる。

 

「試した事無いけど、やるしかないよね!」

 

 メルは地面に落ちたニトロダケを手に取り軽い力で握り潰すと微かに散る胞子が見えた。

 それを見たメルは満足げに笑みを浮かべ、もう一度ランポス達と向き合う。

 

『ギャャオ! ギャャォオ!』

 

 三頭のランポス達はこちらに笑みを浮かべるメルに苛立ったのか激しい声を上げて同時に突撃して来た。

 

「へへっ、じゃ行くよ!」

 

 メルは手に持ったニトロダケをランポス達とのタイミングを測り宙に投げ捨てる。

 そしてメルは右手に装備した盾を眼前に構えハンターナイフを盾に擦り付けるように固定させる。

 

『ギャャォォ!』

 

 十分に距離を縮めたランポス達は地面を蹴り上げメルを噛み砕こうと接近してくる。

 ランポス達の攻撃を前にメルは先程の構えを解かずじっとランポス達が来るのを待つ。

 ランポス達の牙があと少しで届きそうな所で、先程上に投げ捨てたニトロダケがメルの眼前に落ちてきた。

 

「今だ! いっけぇーー!」

 

 メルは盾に固定したハンターナイフを強く擦り合わせる。すると盾から小さな火花が上がり、ニトロダケにその火花が触れた瞬間――ボン!と大きな音を鳴らし小さな爆発が起きた。

 

「ギャャア!?」

 

 突然、眼前で起きた爆発にランポス達は驚きを隠せずびっくりしたかのように後ろに吹っ飛ぶ。

 メルもこれだけでランポス達を倒せるとは思っていない――ただ攻撃の隙を作る。それがメルの狙いだ。

 

 「しゃぁぁ! 行くぞぉぉ!」

 

 驚きで吹き飛ぶランポス達に追い打ちを掛けるようにメルは地面に強く蹴り、ランポス達に近づく。

 

「おおぉぉぉぉ!」

 

 ランポス達が地面に着く前にメルは一匹のランポスに攻撃を仕掛ける。

 三回程の全力でランポスを斬りつけた後そのランポスに足をつけ力強く蹴り出しランポスをどかす。斬られたランポスはそのまま絶命した。

 

「次だ!」

 

 メルは直ぐに頭を切り替え今度は地面で大きく暴れパニックになっているランポスに狙いを定める。

 メルはハンターナイフの尖端をランポスの首元に狙いを定め、全力で突き刺す。

 

「ギャャァア!?」

 

 首に激しい痛みを感じたランポスは痛みに更に暴れ狂うがメルはそれを抑え込むように更にランポスの首に深くハンターナイフを突き刺す。

 

「ギャァァ……」

 

 首に深い傷を負ったランポスはそのまま力無く鳴き、動かなくなった。

 メルはランポスの首からハンターナイフを引き抜き、最後の一匹に視線を向ける。最後の一匹はどうやらメルが他の二匹を相手している間になんとか落ち着きを取り戻し体制を直したようだ。

 

「よし! お前で最後だ!」

 

 メルは楽しげに笑みを浮かべハンターナイフを構える。

 

「ギャャオ! ギャャォオ!」

 

 しかしランポスは鳴き声を上げた後、直ぐに後ろに振り返り逃げ去っていった。

 

「あら?」

 

 メルはそれを呆然とした表情で眺める事しか出来なかった。そもそも走り去るランポスに追い付ける筈も無く、それよりもメルはとにかく休みたい気分だった。

 

「ふぅ〜疲れた〜〜」

 

 メルはそのまま地面に倒れたこんだ。すると体が一気に重くなる感覚を感じた。初めての狩りという事もあるのかメルの予想よりかなり身体に疲労が溜まっていた。

 疲れたメルはしばらくこうして身体を休める事にした。

 

「……あ、そうだ!」

 

 するとメルは何かを思い付いた様に上半身を上げる。そしてランポス達の亡骸を見つめると気難しそうな表情を浮かべる。

 

「すっかり忘れてた……」

 

 メルは疲れた体にムチをうちなんとか立ち上がるとランポスの亡骸へと近づく。

 何処か緊張した様子のメルはランポスの亡骸を見つめながら腰からハンターナイフとは別の剥ぎ取りナイフを取り出す。

 

「剥ぎ取り……」

 

 剥ぎ取りとは名前の通り、狩猟したモンスターから素材を剥ぎ取る行為の事を言うのだが、いかんせんメルはこの剥ぎ取りが大の大が付くほど苦手だ。

 動いているモンスターに武器を向ける事には抵抗が無いのだが、こうした息絶えたモンスターの亡骸に刃を突きつけ皮を剥ぎ解体するなんてメルにはとても気持ち悪くて出来なかった。

 しかし剥ぎ取りはハンターにとって必ず必要だ。何故なら武具を強化するモンスターの素材を入手する手段は主にこの剥ぎ取りがメインだからだ。

 

「……よし」

 

 メルは息を呑み剥ぎ取りナイフをランポスに突き付ける。そしてゆっくりと皮を切り裂くとまだ新鮮な血が流れ出てきた。そんなランポスの亡骸を見つめメルは冷や汗を流す。

 

「だぁぁぁ! 無理だ!」

 

 とうとう耐えきれなくなったメルは剥ぎ取りナイフを投げ捨てランポスの亡骸から逃げるように距離を取る。

 

 

「ハァ……ハァ……素材どうしよう……」

 

 このまま剥ぎ取らなければランポスの亡骸は微生物に分解されただ消えるだけだ。勿論それでは素材が手に入らない。しばらく考え込んだ後、メルは冷や汗を手で拭い苦笑いを浮かべた。

 

「……ま、いっか!」

 

 素材よりも剥ぎ取りへの嫌悪感の方が勝っていたメルはあっさりと諦めた。

 

「それより、あと二匹だ!」

 

 メルはランポスの亡骸に見向きもぜずクエストを完了させるため再びランポスを探しに歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 メルは以外にデリケートでした。


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第3話 母の風

 メルは現在、酒場の受付で受付嬢のフェルと話し込んでいた。丁度太陽が真上に差し掛かるお昼過ぎの時間、この時間帯はハンターの往来も少なくフェルにとっても暇な時間なのでこうしてメルと話し込んでいる訳だ。

 初めての狩りを無事成功させたメルはあれから何度か簡単なクエストを受けハンターとしてのスタートを順調にこなしていった。モンスターの素材を集めお金を貯め、装備を強化して更に強いモンスターに挑む、これがハンターのサイクルだ。しかしメルには一つ大きな問題があった。

 

「ねぇメルくん……やっぱり剥ぎ取りはしなきゃ駄目よ、このままじゃ装備も作れないし大変よ」

 

 フェルは両腕をカウンターに掛け、深刻そうな顔付きで話す。

 

「無理だよ剥ぎ取りなんて、気持ち悪いし」

 

 メルはいつもの健康的な小麦色の肌とは違い不健康な青白い肌をしていた。

 この話題になるとメルはいつもこうなる。それを知りながらもこの話題を振ったフェルは申し訳なさを感じるが、これはハンターにとって死活問題なのだ。フェルは心の中でメルに謝りながら話しを続ける。

 

「気持ち悪いって言っても、剥ぎ取りって言うのはね一応モンスターに対する礼儀でもあるのよ。訓練所でも聞いたでしょ」

 

「ん〜〜」

 

 メルは困り果てた表情でカウンターに顔をうづめる。確かに訓練所でも耳にタコができる程聞かされた話しだ。剥ぎ取りとはモンスターと自然に対する感謝と礼儀の行いだとか、だがメルにとって剥ぎ取りなど気持ち悪いだけであって感謝や礼儀などもイマイチ理解でき無かった。何故自分が殺めた相手に感謝などしなければならないのか不思議でしょうがなかった。

 ただ過去の経験上、これを人前で話すと必ずと言っていい程、頭に拳が降ってくるのだ。メルは頭にたんこぶを作りたくないし、何よりフェルの怒ったところなんて見たく無ないので黙る事にした。

 

「……ハァ、貴方って以外にデリケートなのね」

 

 嫌そうな表情を浮かべるメルを見て剥ぎ取りなんて彼には無理だなと思うフェル。どうしたものかと深いため息をつくと、ふとメルの後ろで食事をとっているハンター達のパーティーに目が入った。

 

「あぁ! そうだわ!」

 

 何かを思い付いたフェルは目を大きく見開きメルの方を見る。

 

「パーティーを組めばいいのよ! そうすれば自分で剥ぎ取りをする事も無いし、何より狩り一人の時よりも安全になるわ!」

 

 フェルは強くメルにパーティーを組む事を勧める。剥ぎ取りをせずに済むというのもあるがフェルにとって後者の理由の方が重要だった。

 

「おぉ! なるほど!」

 

 フェルの提案にメルは目を輝かせる。どうやら乗り気の様子だ。

 

「ただ一つ注意することが――あれ?」

 

 フェルが何かを言おうとカウンターの前に居るメルに視線を向けるが、そこに彼の姿は無かった。あれ?と思ったフェルはメルを探そうと顔を動かそうとしたが、その前にメルの大きな声が聞こえてきた。フェルはメルの声がする方向を見ると、なんとメルが早速酒場に居るハンター達に手当たり次第声を掛けていた。

 

「ハァ……せっかちすぎるわよ、ほんと……」

 

 フェルは積極的なのはいいがもう少し慎重に動けないかしらと呆れたため息をつく。大体の結果は予想がつくがフェルはあえて何も言わず見守る事にした。

 しばらくすると彼はフェルの予想通り、肩を落としてトボトボとカウンターの方へと戻ってきた。

 

「駄目だぁ〜全部断られちゃったよ」

 

メルは悲しい表情を浮かべ脱力した体でカウンターに掛ける。

 

「それはそうよ。貴方……まだ新米でしょ、足手まといって思われても仕方ないわ」

 

「えぇ……俺頑張るのに」

 

 メルは不機嫌そうに頬を膨らませる。

 

「だから同じ新米のハンターを見つけるのよ。それに同じ位の実力なら足並みも揃えやすいでしょ」

 

「おぉ! なるほど!」

 

 メルの表情は先程とうってかわり今度は元気に満ちた顔付きになった。

 

「よーし! んじゃ行くか!」

 

 メルは気合を入れ両腕にコブを作る。そんな元気な彼を見てフェルは微笑ましい気持ちになり思わず笑みがこぼれてしまう。

 

「フフッ、じゃあちょっと待っててね。 今パーティー募集用の紙を持ってくるから――って、えぇ!! 嘘でしょ!? ちょっと待ってよメルくん!」

 

「よっしゃー! 行くぞぉぉ!!」

 

 メルはフェルの静止も聞かずもの凄い勢いで酒場を出ていった。フェルはここまで落ち着きの無いのか、と驚愕すると同時に呆れ混じりの深いため息をついた。

 

 洞窟のような薄暗い通路を抜けメルは外に飛び出て、一度何かを思い出したかの様に止まる。

 

「ん? でも新米なんてどうやって見分ければいいんだ? ……ま、いっか! 話掛ければ一人くらいいるだろ!」

 

 メルは考える事を止め、ハンターを探す為再び走りだそうとすると、ふと少し前に居る黒白の見慣れた色をした獣人族が歩いているのに気づく。

 

「おぉ! メラルー!」

 

 メルの顔に笑顔が溢れ、嬉しそうにそのメラルーの元に駆け寄る。このメラルーというのもメルがいつも狩りの時にお世話になっている竜車乗りのメラルーだ。

 

「……ニャ? ニャ、メル!?」

 

 何やら背後から寒気を感じたメラルーは慌てて振り返るとそこにはメルの姿があった。メラルーはすぐさまメルから距離を取り後ずさりをしながら警戒態勢に入る。

 何故、これ程までに警戒するのかというと、このメラルーにとってこの男は今一番会いたく無い存在だったのだ。その原因は今自分が右手に抱えている本だ。彼の落ち着きの無さはこれまでの狩りで痛い程身にしみている。折角買ったこの新品の本もどうなるか分からない。

 

「ん……それって本?」

 

「ニャ!?」

 

 痛い所を突いてきたと、メラルーは冷や汗をかく。この新品の本を傷つけたく無いとメラルーは自然と本を背中に回し隠そうとした。

 

「ねぇねぇ、ちょっと見せてよ!」

 

 メルは目を輝かせながら更にメラルーに近づく。

 

「い、いやニャ! お前絶対に乱暴に扱うニャ!」

 

 警戒心をむき出しにメラルーは更にメルから距離を取る。

 

「大丈夫、乱暴に扱ったりしないよ! 俺も本好きだからね!」

 

 メルの言葉には何処か優しさが詰まっていた様に感じた。何故かこの時だけはメルが大人しく見えたのだ。

 

「……ニャ、少しだけニャ」

 

 メラルーは恐る恐るメルに本を渡す。

 

「へへっ、ありがとう!」

 

 メルはそれを丁寧に受け取り。好奇心に満ちた目で本の表紙を見る。

 

「……ん、なんだこれ?」

 

 メルは本の表紙を眺めながら不思議そうな表情を浮かべる。

 

「それは、医学の本なのニャ」

 

「え……小説じゃないの?」

 

 メルは先程とは一転して残念そうな表情を浮かべる。彼が想像していたのは物語を書いた小説だったのだが、今手に持っているのはどうやら小説では無いらしい。メルは本のページをめくって目を通すが何も理解出来なかった。

 

「駄目だぁ〜〜分かんないや」

 

 メルは渋々メラルーに本を返す。本を受け取り一息ついたメラルーはメルに尋ねる。

 

「なんニャ、本が好きじゃなかったのかニャ」

 

「うーん、小説はなんかワクワクするから好きなんだけど、そうゆうのは全く分かんないや」

 

「なんとなく、そんな気がしたニャ……」

 

 メラルーはよくよく考えてみると彼に医学など小難しい事を書いた本は無理だなと思ってしまう。だが逆に冒険談や物語などを書いた小説はこの夢見がちな彼にはピッタリだなとメラルーは思う。

 

「あ、そうだ! 一つ聞きたいんだけどさ」

 

「んニャ?」

 

「俺と同じ位のハンターってさ、どうやって見分けたらいいんだろう?」

 

 メルは本来の目的を思い出し、丁度良かったのでこのメラルーに聞いてみる事にした。

 

「何でそんな事聞くニャ?」

 

 メラルーは不思議そうな表情を浮かべ聞き返す。

 

「いやさ、今パーティーを組もうと仲間を探してるんだけどさ、俺と同じ位のハンターが良いって言うからさ」

 

「……なる程ニャ」

 

 ハンターならばパーティを組んだ方がメリットも大きいし新米ならなおさらか、とメラルーは思うが同時に不安な気持ちになる。ハンターならばそれ位分かって当然だと思うのだが。

 

「防具を見れば大体分かるニャ」

 

「へー防具か……じゃあ……うーん、どんな防具?」

 

 防具で分かると言われてもメルにはパッとしなかった。

 

「ニャ〜例えば今メルの着てるハンターシリーズとかニャ」

 

 メラルーは心の中でため息を付きながらメルの着ている防具を指差す。

 

「それは新米の装備みたいな物ニャ」

 

「あぁ、そっか!」

 

 メルは自分の防具を見て納得する。確かに訓練所でも聞いた事がある気がしたからだ。

 

「オッケー! んじゃね、ありがとう!」

 

 メルはメラルーに手を振り新米ハンターを探す為再び歩きだす。

 

「んニャ……」

 

 メルのそわそわとした背中を見るメラルーは嫌な予感しかしなかった。ただでさえ血の気の多いこのドンドルマのハンターにあんなナメた態度で話し掛けたら、どんな目にあうか……考えるだけで寒気がした。

 

「……ニャ、ちょっと待つニャ! オイラも手伝うニャ」

 

「おぉ! ありがとう!」

 

 メラルーは少し悩んだ末不服ながらも手伝う事にした。自分がなんとかしなければこの男はドンドルマでは生きて行けないと思ったからだ。

 

 

 あれからしばらくドンドルマの街を歩き回ったメルとメラルー。確かにハンターは沢山いたがどのハンターも上質な防具を着た者ばかりでメルが声を掛けようとする度にメラルーが慌てて止めるを繰り返し結局、目的の新米ハンターは見つからず途方に暮れたメルとメラルーは中央広場の石造りのベンチに腰掛け一休みしていた。

 

「ニャ……運が悪いニャ……新米一人見つからないニャんて……」

 

 メラルーは疲れ果てていた。このメルという男はメラルーの忠告も聞かずに目辺り次第見つけたハンターに声を掛けようとするのだ。その度にメラルーが全力で止めるのだが、それが何度も続きこのざまだ。

 

「居ないね〜」

 

 メルは隣で疲れ果てているメラルーの苦労も知らずに脳天気に空を見上げている。そんなメルの態度に苛立ちを覚えたメラルーは一発ぶん殴ってやろうかと思ったが更に疲れそうなのでやめた。

 

「やっぱり新米なんて居ないのかな〜」

 

「ニャ……普段は普通にいる筈ニャ……」

 

 メラルーは辺りを見渡すがやはり、新米ハンターらしき人影は見当たらなかった。

 

「よし! やっぱり片っ端から話し掛けるしか!」

 

「ニャ!? いい加減人の話を聞くニャ……ニャニャ!? 居たニャ!」

 

「え!? ホント!」

 

 メラルーは椅子から立ち上がり指を指す。メルもその指先と同じ方向に視線を移すと、人混みに隠れて見辛いが確かにそこにはメルと同じハンターシリーズを着込んだ一人のハンターが居た。遠目で顔までは確認出来ないが金色の髪をしたメルと同じ位の身長のハンターだった。

 

『「やった!」ニャー!』

 

 メルは純粋に喜びメラルーはこの疲労から開放された事に喜び互いの手を叩き合わせハイタッチする。

 

「よし! んじゃ行ってくる!」

 

「ニャー」

 

 メルは大喜びでそのハンター目掛けて走り出す。メラルーも笑顔でそんなメルに手を振る。

 

「おぉ! あれって弓矢だ!」

 

 メルはそのハンターが背中に背負う武器に興味を示す。メルが使っている接近武器の片手剣とは違う、弓矢も呼ばれるいわゆるガンナー武器という物だ。

 お互いの距離が縮まるがそのハンターはメルに背中を向けている為、メルの接近に気付かなかった。

 ようやく声が届く距離に近づいたメルはそのハンターに声を掛ける。

 

「ねぇねぇ! ちょっと待ってよ!」

 

「えっ!?」

 

 メルに声を掛けられたハンターは驚いてメルの方に振り向く。ほんのりと小さな風がメルの頬を叩いた気がした。

 

「…………ぁ」

 

 そのハンターの顔を見たメルは空いた口が塞がらなかった。なんとメルと同じ位の年の女の子だったのだ。肩まで伸びた金色の髪に少し緊張のこもった青い瞳。その整った顔立ちはとてもハンターには見えなかった。

 

 だがメルが驚いたのはそんな事では無かった。しかし何故自分がこんなにも困惑しているのかもメル自身にすら分からなかった。この底知れない不安……ただ頭が真っ白になっていくのを感じる。

 

「あ、あの……どうしたんですか?」

 

 その少女は何処かもどかしい口調でメルに話す。その声を聞きメルは我に返った。

 

「……ん、あぁ」

 

 先程まで真っ白になっていた頭の中が段々とスッキリしていく感じがした。そして本題を思い出したメルは笑顔を浮かべ少女に話し掛ける。

 

「ねぇねぇ、俺とパーティー組まない!」

 

「えぇ!? パ、パーティーですか?」

 

 突然の誘いに少女は驚き思わず聞き返してしまう。

 

「そ! 新米同士さ!」

 

 メルは少女に満面の笑みを浮かべる。

 

「え、えっと……でも……」

 

 少女は何処か申し訳なさそうに視線をそらす。するとメルの背後から大声が聞こえた。

 

「ニャーー! 不安になって来てみれば、何なのニャその誘い方は!」

 

「ん、どうしたのメラルー」

 

 メラルーは声を荒げてメルを叱る。メルは何故自分が叱られているのか分からない様子でキョトンとした表情を浮かべていた。そして完全に話す機会を失った少女はどうしていいのか分からずオロオロとしている。

 

「ニャ……いきなりゴメンなのニャ」

 

 メラルーはオロオロとしている少女を安心させる為メルに対する怒りを抑えできるだけ優しい声で話し掛けた。

 

「ねぇねぇ、それよりさ! どう一緒に――」

 

「黙るニャッ!!」

 

 突然大声を上げるメラルーにメルと少女の体はビクッと震える。メルが混ざると話が進まないと判断したメラルーはメルを置いて話を進める。

 

「こっちのアホがメル。 オイラが……ニャ、メラルーでいいニャ、あんたの名前はなんて言うニャ?」

 

「わ、私はリレン.ルフィーナっていいます……」

 

 少女は恥ずかしそうにリレンと名乗る。それを聞きメラルーは頷く。

 

「へぇ、リレンって言うんだ! 俺はメル! よろ――」

 

「黙るニャッ!!」

 

 またしても怒鳴るメラルーと体をビクッと震わせるメルとリレン。固まる二人を見てメラルーは少し言い過ぎたかなと申し訳ない気持ちになるが、メルが混ざると話が進まないので無理やり話を進める。

 

「ニャ……装備を見るにリレンは新米かニャ」

 

「は、はい。 今日この街に……」

 

「へぇ、じゃあ俺と一緒――あっ」

 

 メルは慌てて自分の口を両手で抑える。横目で下を見ると目を細く絞って自分を見上げるメラルーと目があった。

 

「ニャ……オイラも酷かったニャ、喋っていいニャよ……」

 

 いくら頭に血が登ったといえ流石に言い過ぎたかな、と思ったメラルーはため息を付きメルに謝る。

 

「ふぅ……。 ねぇねぇ、ハンター登録まだでしょ!」

 

「は、はい」  

 

 それを聞いたメルは少し得意気に鼻を鳴らす。

 

「じゃ、酒場まで案内するよ! ドンドルマって迷いやすいしね!」

 

 それを聞いたリレンは少し間を置いた後、思わず驚く。

 

「い、いいんですか!? ありがとうございます!」

 

 リレンはメルに対し不思議な人だなと思いながら好意に感謝する。

 

「んじゃ、こっちだよ! ついて来て!」

 

「は、はい!」

 

 メルは自信満々に指を指し、リレンを先導する。だがメラルーは動こうとしなかった。ただ目を細めてメルを見つめる。

 

「……メル、そっちは反対ニャ」

 

「あっ、そっちか!」

 

 メルは慌てて向き直りリレンにこっちだよ、と声を送り大階段を登っていく。

 

 

 メルが初めてここに来た時と同じ様にドンドルマの街は夕焼けのベールに包まれていた。酒場を目指す二人と一匹は目の前に影を作りながら酒場を目指し歩いて行く。

 

「それでさ! ランポスをニトロダケで――」

 

 酒場を目指しながら楽しげに何かを語るメル。どうやら初めての狩りの時の出来事を話しているようだ。

 リレンもメルのする話が興味深い様ですっかり聞き入っていた。メラルーはというと、耳にタコができる程聞いた話なので軽く受け流していた。

 

「で、でもやっぱりハンターは大変そうですね……」

 

 メルの体験談を聞きリレンは恐怖と不安な気持ちに駆られていた。メルの言い方で愉快な話に聞こえるが、実際は命と命のやり取りの話で、その内容はリレンを戦慄させる。

 そんなリレンを見てメルは一瞬困った表情を浮べた後すぐに表情を満面の笑みに戻す。

 

「へへっ、そんなんじゃ物語を楽しめないよ!」

 

「物語……ですか?」

 

 物語という単語に反応を示し少しだけ顔を明るくさせるリレン。しかし直ぐに暗い顔に戻ってしまう。

 リレンの顔に見かねたメルは階段を駆け上がりリレンとメラルーの前に立つ。

 

 

「そう、物語だよ! これは自分だけの物語なんだ、そんな暗い顔ばっかしてないでさ、もっと楽しもうよ!」

 

 メルは両手を上げ目を輝かせる。

 

「何、意味分かんない事言ってるニャ! 目立ってるニャ!」

 

 メラルーが慌てて周りを見渡すと、周りの視線がメルに集中していた。メラルーは恥ずかしくなって地面を見つめる。リレンは、驚いた表情でメルを見上げる。周りの視線に気づいていない様子だ。

 

「メルさんって凄いですね……私にはとても物語を楽しむ余裕なんて……」

 

 リレンはこんなにも明るいメルが羨ましかった。不安と恐怖で曇った今の自分の心ではメルのように物語を楽しめる自身が無かった。

 

「そんなの関係ないよ! 余裕とかそんなのどうでもいいんだ、俺もリレンも物語を楽しみたいって気持ちに変わりは無いんでしょ!」

 

「楽しむ……」

 

 メルの言葉はまるで物語のページを進める事に戸惑っている自分の背中を押してくれる追い風のように感じた。

 

「そうだ! 俺達でさ、一緒に物語を楽しもうよ!」

 

「……ッ」

 

 リレンはメルにかつて自分がハンターになりたいと思わせてくれた人物の影を見る。メルと一緒なら心から全力で物語を楽しめるような気がしてきた。

 勿論、根拠なんてある訳じゃない。ただ今は根拠なんてどうでもいい、今一番必要なのは物語のページをめくる勇気だ。

 リレンは拳を強く握りメルの目を見つめる。

 

「わ、私も……物語を楽しみたいです」

 

 リレンは笑顔を浮かべる。今までの暗い彼女からは想像出来ない程の明るい笑顔を。

 

「へへっ、やっと笑った! リレンはやっぱり笑ってた方がいいよ!」

 

 ようやく見せたリレンの笑顔にメルは心の底から安心する。リレンには笑っていて欲しい――彼女の見せる笑顔が何故これ程まで自分を安心させてくれるのか……理由は分からない……いや、まだ知らなくていいのかも知れない――ただ今一番必要なのは物語を進めるこの気持ち、この気持ちを忘れなければきっと楽しい物語を作れる……そんな気がした。

 

「ニャ〜……早く行くニャ……」

 

 互いに笑い合う二人を見てメラルーは少し照れ臭い気持ちになっていた。メルの事を最初はただのアホかと思っていたがこの光景を見てその気持ちを改める事した。

 よく考えればメラルーの日々もメルがこのドンドルマの街に来た事によって形はどうであれそれなりに充実した日々を過ごせているに違い無いのだから――ただそれを考えると耳が熱くなる感じがしてやはり照れ臭かった。

 

「メラルーも今日から俺達のパーティーだ! 今日から皆でさ!」

 

「ニャ!? オイラはオトモアイルーじゃ無いニャ!」

 

 メラルーは顔を赤くしてメルから離れる。そしてふとある事に気づく。

 

「……ニャ? メルとリレンはパーティーを組むのかニャ?」

 

「あっ……」

 

 リレンは一瞬固まるが直ぐにメルの方へと向き直り笑顔を向ける。

 

「リレン.ルフィーナです。 よろしくお願いします!」

 

「俺はメル! よろしくリレン!」

 

 メルは笑顔を向けて言葉を返す。

 

「ニャ……とりあえず良かったニャ」

 

 メラルーも頷き、新たなパーティーの誕生に喜ぶ。

 

 その時、大きな風がドンドルマの街に吹き付けた。風はメルとリレンの髪を揺らし頬を叩いた。

 

「か、風……?」

 

 リレンは自分の頬に手を当てる。その風は何処か暖かく、懐かしい感じのする風だった。

 リレンは何処か遠い目で空を見上げる。夕焼けに染まった緋色の空だ。

 

「よし! それじゃ酒場に行くか!」

 

「は、はい」

 

 メルは気合を入れ酒場に向かって歩き出す。リレンも慌ててその後を追う。

 

「ニャ……そっちじゃ無いニャ、反対ニャ……」

 

「ん? あぁ、そっちか!」

 

 メラルーは酒場の方向を指差しため息をつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 


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第4話 道を阻む青い影ランポス

メルとリレンはメラルーが操る竜車に送られ、いつもの密林に来ていた。今回の目的はブルファンゴを五頭狩猟するというものだ。ブルファンゴとは茶色の毛皮に覆われた猪型の小型モンスターで牙獣種に分類される。一対の大きな牙が特徴的だ。彼等にはランポスと同様に群れを作る習性があり、その中で最も強い雄の個体が中型モンスターのドスファンゴとして君臨するのだ。

 勿論、現在この密林ではドスファンゴの存在は確認されていない。あくまで群れから逸れたブルファンゴ達を狩猟するという形だ。

 そして今回がメルとリレン、二人で行う初めての狩りだ。息合わせという意味でも今回のクエストはピッタリであろう。

 

「よし! 準備完了っと!」

 

 準備を終えたメルはテントを後にし、アイテムポーチの栓がきっちり締まっているか確認する。

 

「リレンは大丈夫〜?」

 

 栓がきっちり締まっている事を確認したメルは笑顔を浮かべリレンの方に視線を移す。

 リレンは切り株に腰掛け弓矢のハンターボウに不備が無いか確認していた。緊張した様子のリレンはメルの声にビクッと肩を震わせ急いで立ち上がる。

 

「は、はい! 大丈夫です」

 

 リレンは背中にハンターボウを掛け頭防具をハンターキャップを深く被る。それを見たメルも笑みを浮べハンターヘルムを被る。

 

「よし、じゃあ行くか!」

 

「は、はい!」

 

 両者、準備を終えた事を確認しベースキャンプを後にしようとする。

 これからの狩りに、何よりリレンとする初めての狩りに胸を膨らませ何処か浮足立つメルに対し緊張とメルに迷惑を掛けないかというプレッシャーにリレンは肩をこわばらせていた。

 そんな二人の様子を眺めていたメラルー。メルはいつもの調子だし置いとくとして、それよりもリレンの様子が気になった。

 

「リレン、もっと肩の力を抜いた方がいいニャよ。 いざという時に力が出せないニャ」

 

「は、はい」

 

 メラルーの言葉を聞きリレンは気を落ち着かせる為ゆっくりと大きく深呼吸をした。体に溜め込んだ空気をゆっくりと吐き出していくとそれにつられ心に溜まっていた固い気持ちも一緒に吹き出ていく感じがして少し気が楽になった。

 

「……うん!」

 

 緊張をほぐし後は気合を入れるだけだとリレンは自分の頬を強く叩いて活を入れる。

 リレンは気力を込めた顔でメルの方を見て頷く。メルもそれに笑顔で返し、改めて二人で密林の緑に足を勧めていく。

 

「頑張るニャよ〜」

 

 メラルーは二人が無事に帰って来る事を祈りながら手を降って見送る。メルとリレンは振り向きながら手を振り緑の中に消えていった。

 

 

 密林を歩く事、数十分。二人は腐植土が目立つ幅の広い獣道を進んでいた。この道は地図にも記されており同じ景色が続くこの密林でも数少ない自分の現在位置を知る事のできる座標にもなる。勿論メルも過去の狩りで何度かこの道を通っているので自分が今何処に居るのかも理解できた。対してリレンは初めて訪れるこの密林の地に不安を抱き緊張の糸張り巡らせながら進んでいた。

 

「んーと、ブルファンゴが居るのはもっと先かな」

 

 メルは片手で地図を広げながら歩く。リレンも時々、地図に目を運ぶが大雑把に書かれた地図からは彼女の視点から見れば対した情報も得られる筈も無くただの気休めにしかならなかった。

 

「まだ先ですかね?」

 

「いや、もうちょいだと思うよ。」

 

 メルは地図を指差す。指の置かれた所には目印が書かれておりそこにブルファンゴが居るという事を意味する。ちなみにこの印はメラルーが書いたもので、この場所にはキノコが沢山自生しており、キノコが好物のブルファンゴを探すならまずここがいいという事らしい。

 

「でもキノコかぁ〜〜美味しそうなのあればいいなぁ〜」

 

 ベジタリアンのメルはキノコ、沢山、自生、の言葉でワクワクしていた。緊張するリレンを他所目に沢山のキノコを想像し顔が綻ぶメル。

 だが木影から聞こえる音にメルは直ぐに頭を切り替え反応する。

 

「リレン、何か居る」

 

 メルは立ち止まり手でリレンを制す。リレンも慌てて立ち止まり辺りに見回し耳を澄ます。微かに見えた青い影に草木を掻き分ける音、それも複数だ。リレンは心臓の鼓動がどんどん速くなっていくのを感じた。

 

「来た! ランポスだ!」

 

 突如、森の暗闇からランポスの青い影が飛び出る。それを合図に次から次へとランポス達が姿を現す。

 気付けば四匹、あっという間に周りを囲まれていた。

 

「そ、そんな!」

 

 思わず後ずさりしてしまうリレン。突然の強襲にすっかり頭が回らなくなっていた。メルは腰に掛けたハンターナイフの柄に手を掛け口角を上げる。

 

「よし! 行こうリレン!」

 

「……ッ! はい!」

 

 メルはハンターナイフを勢いよく引き抜き目の前に立ち塞がるランポスに突っ込んでいく。メルの声に今の状況を理解しリレンも一歩遅れてハンターボウを構え腰に掛けた矢筒に震える手を伸ばす。

 

『ギャァァ! ギャァァ!』

 

 ランポス達も掛け声を合図に一斉に動き出す。だが出だしの速さならメルが勝っていた。ランポス達が動き出す前より行動を起こしていたメルは既に一頭目のランポス目掛けてハンターナイフを振り上げていた。

 

「うおぉぉぉ!」

 

 ランポスの首に斜め一線、力強くハンターナイフを振り下げる。刃を受けたランポスを鮮血を流し痛みに悲鳴を上げ、バックステップしメルから距離を取る。だがその闘争心は傷を受けてなお失せる事なく、眼光を殺意に染まらせている。

 

「まだだぁ!」

 

 だがメルも、ランポスに反撃の暇を与えんばかりに直ぐに距離を縮める。

 一方リレンは、迫り来るランポスに狙いを定め高鳴る心臓の鼓動を抑えながら弦を引き絞る。だが一頭に狙いを定めていた為他のランポス達はリレンの視野に入らなかった。

 

「ギャァァ!」

 

「!?」

 

 リレンのすぐ横からもう一頭のランポスが飛び付いてきた。ランポスの鳴き声に反応し咄嗟に膝を降り姿勢を低くする。なんとか紙一重で避ける事に成功したが先程のランポスがすぐ目の前まで迫って来ていた。

 

「ギャァァァ!」

 

「うわっぁぁ!」

 

 リレンはランポスに押し倒され仰向けに倒れ込んでしまう。直ぐに立ち上がろうとするがランポスに胸元を踏まれ動けなくなってしまう。

 

「うぅぅっ……」

 

 リレンを押さえつけたままランポスは口を広げ牙を顕にしリレンの頭を噛み砕こうとする。顕になるランポスの牙を見てリレンは何も考える事ができず頭が真っ白になった。

 

「ッ!? リレン!」

 

 メルはリレンの悲鳴が耳に入りランポスを前に咄嗟に後ろに振り向く。メルの意識が離れた事をいい事に目の前にいたランポスは容赦なくメルの腹に噛み付く。

 ハンター防具に穴を空け、牙がメルの脇腹に刺さり込む。

 

「ぐっ!? ……うぉぉらぁ!」

 

 脇腹に鋭い痛みを感じ顔を歪めるが、自分の脇腹に噛み付き離そうとしないランポスの頭目掛けて思いっきりハンターナイフを突き刺す。

 

「ギィャァァァァ!!」

 

 メルの脇腹から牙を解き激しい痛みに悲鳴を上げるランポス。メルは直ぐさまハンターナイフをランポスから引き抜き左脚を軸に半回転し悲鳴を上げるランポスの胴体を横一文字に斬りつける。斬りつけられたランポスはそのまま声も上げずに事切れた。

 

「うおぉぉぉ!」

 

 それでもメルは止まらず、更に半回転し勢いをつけリレンを押さえつけ噛み付こうとしているランポス目掛けてハンターナイフを全力で投げつける。

 メルの手から投げられたハンターナイフは不規則な回転を加えながらリレンを押さえつけるランポス目掛けて飛んでいく。

 

「ギャァァ!?」

 

 メルの投げたハンターナイフはランポスの胴体にえぐり込む様に突き刺さる。意表をつかれたランポスはリレンを押さえる力を弱め悲鳴を上げる。

 ランポスの力が弱まる事を体で反射的に感じたリレンは体を暴れさせランポスの拘束を解き地面に落ちたハンターボウを拾い上げて逃げるようにランポスから距離を取る。だが別のランポスがリレンを逃さんと後を追う。リレンの額からは大粒の汗が流れ出ていた。

 

「リレン! 後ろから別の奴が来てる! 急いで逃げるんだ! ――うわぁ!?」

 

 しかしメルの方へも一頭のランポスが迫ってきた。ランポスはその鋭利な爪でメルを斬り裂こうとする。メルはとっさに盾でガードするが反撃するためのハンターナイフはあちらでのたうち回るランポスに突き刺さったままだ。

 

「あぁぁ! 忙しいよ!」

 

 メルは足でランポスを押し退け盾を使って思いっきりランポスの頭をぶん殴る。ランポスは悲鳴を上げ、スキを見せるが武器を持たないメルはそれ以上の追撃を仕掛ける事はせずハンターナイフが刺さったランポスに向かって走り出す。

 一方ランポスに追われるリレンは反撃しようにも弦引く暇さえ無くただ逃げる事しか出来ず、それ以前にリレンは恐怖に駆られ闘争心はもはや無に等しい状態だった。

 武器を取り戻すためランポスに近づくメル。メルの接近に気付いたランポスはハンターナイフが胴体に刺さったままにも関わらずメル目掛けて爪を振り上げる。

 

「当たんないよ!」

 

 メルはランポスの爪を横にステップを踏む事で楽々と避けそのままランポスの横に回り込む。さらにランポスの首に右手を回し首を締めるように固定させる。

 

「うおおぉぉ!!」 

 

 そしてランポスの体を支えに自分の体を浮かせる。メルの体重が乗り掛かる事により重心をずらしバランスを崩して転んでしまうランポス。メルはランポスを締め付けたまま左手で胴体に刺さったハンターナイフを引き抜きようやく武器を手にし、ランポスの喉元を深く掻っ切る。

 

「ギャァ……」

 

 喉に致命の一撃を受けたランポスはそのまま力尽きる。メルはランポスの首に回していた右手を解き立ち上がる。急いでリレンの方に視線を移すと彼女はまだランポスに追われていた。段々と距離が縮まり今にも捕まりそうだ。さらにメルの背後からも先程盾で殴ったランポスが殺意を剥き出しに迫って来ていた。

 頭が足りない、手が足りない……とにかく忙しかった。

 

「…………リレン!」

 

 メルは背後から迫るランポスに見向きもせずリレンを追い走り出す。

 またたく間にリレンに追いつくメル。リレンはメルの存在に気付かず、逃げるのに精一杯の様子だ。リレンを追うランポスもリレンに血眼の様で横にいるメルに気付かなかった。好機と見たメルは走りながら姿勢を低くしハンターナイフは構える。

 

「うおぉらぁ!」

 

 メルはできるだけ力が抜けない程度に手を伸ばしリレンを追うランポスの細い足首を斬り裂く。

 

「ギャァァ!?」

 

 足を斬られたランポスは驚きの声をあげ、力が入らなくなった足を起点に体勢を崩し派手に転げる。

 

「ハァ……ハァ……メルさん!」

 

 ようやくメルの存在に気付くリレン。息を切らしており疲れ切っていた。メルは視線を後ろに移し、自分を追うランポスを確認する。片手剣ではランポスを一撃で仕留めきれないだろう、もしそうなれば先程転んだランポスも体勢を立て直しさらに不利な状況になる。メルの考えは一つにまとまった。

 

「リレン! 後ろの奴お願い!」

 

 メルの声を聞き驚くリレン。背後から迫るランポスに視線を移す。確かにこの距離ならば弦を引き矢を射る時間も十分にある。でも、もしも一撃で仕留められなかったら……その不安がリレンの決断を鈍らせる。

 

「ハァ……ハァ…………ッ!」

 

 だがそれでいいのかとリレンは自問自答する。このままでは自分は何もせずただメルの足を引っ張っただけになる。それだけは嫌だった……メルと一緒に物語を楽しむと言ったのにこれでは彼の物語を邪魔している事になる……それだけは嫌だった。リレンは歯を噛み締める。

 

「ハァ……ハァ…や、やります!」

 

「お願い!」

 

 メルは笑顔で答える。リレンは彼の笑顔を見てこんな彼の笑顔を崩したくないと心から思う。

 リレンは振り向きハンターボウを構え迫り来るランポスと向き合う。ランポスとの距離はまだ十分ある、行ける!と確信したリレンは矢筒から大きな矢を一本抜き取る。そのまま矢を弓に掛け力強く弦を引く。 

 

「……いけぇぇ!」

 

 リレンは一瞬で狙いを定め、弦を引く手を離す。弦の振動音と共に放たれた矢は真っ直ぐブレること無くまるでランポスに吸い寄せられるかの様に飛んでいく。

 

「ギャァ!?」

 

 放たれた矢はそのままランポスの眉間を貫きランポスの体を吹き飛ばす。

 

「ギャァ……」

 

 ランポスはそのまま地面に倒れ力尽きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第5話 二人の力、一匹の知恵 

ランポス達に襲撃からなんとか抜け出したメルとリレンは沈んていく太陽を見て一度ベースキャンプに戻っていた。

 ブルファンゴを狩猟する筈がランポス達に阻まれ目的地にたどり着く事すら出来ない。そんな現実にメルは違和感をリレンは焦りをそれぞれ感じていた。

 

  

「ニャ……これで大丈夫ニャ。 どうかニャ?」

 

 メラルーは防具を脱ぎインナー姿のメルの脇腹に丁寧に包帯を巻く。ランポスから受けた傷の手当てをしてもらっていたのだ。

 

「うん! ありがとう!」

 

 メルは笑みを浮かべメラルーに礼を言う。薬草を挟んで巻かれた包帯は丁寧に、尚かつ動きを損ねぬ程の絶妙な固さで巻かれており、メルはメラルーの器用さに感心する。

 メルが脇腹の傷の具合を確かめていると心配のそうな顔を浮べたリレンがゆっくりと近づいて来た。

 

「大丈夫ですか……メルさん。 ……そ、その、私のせいで……」

 

 リレンは小刻みに体を震わせうつむく。申し訳なさでメルの顔を直視する事が出来なかった。

 メルはそんなリレンの肩を優しく叩き、大丈夫だよと笑顔を浮かべ颯爽と脱いだ防具を着込み始めた。

 

「ニャ? メル、今日は一旦休んだ方がいいニャよ」

 

「え……?」

 

 メルは慌ただしく動かしていた体を止めメラルーを見て何故?と問う様に首を傾げる。

 

「もうすぐ日が沈むニャ……ランポスも居るし危険ニャ」

 

「……そっかぁ」

 

 メルはメラルーの言葉を聞き気を落ち着かせる様に息を吐く。

 

「……あした行くか!」

 

「その方がいいニャ」

 

「………」

 

 メルもリレンも、分かっていた。今のままランポスに挑んでも勝ち目があるか……それどころかブルファンゴにすら勝つ自身すら無かった。そう思わせる程、先程の戦いは酷い物だったのだ。

 

 二人と一匹はベースキャンプで夜を過ごす為それぞれ準備を始めていた。大体の準備を終えたメルとリレンは焚き火の用意をするメラルーの横に並ぶ様に座り込む。

 

「んニャ……でもどうしてランポスなんかに……今までは普通に倒せてたのにニャ、それに今度はリレンも居たニャ」

 

メラルーは手に持った火打石を慣れた手付きで擦り合わせ用意していた焚き火に火をつける。ぼうぼうと燃え上がる火は、いつの間にか薄暗い闇に包まれていた辺りを橙色で照らす。例外はあるが、生き物は本能的に火を恐れるという。ベースキャンプの位置は基本的に肉食生物の居ない安全な場所に建てられるのだが、それでも念には念を押す必要がある。この焚き火は、冷える夜に温もりを与えるだけでは無くモンスターを寄せ付けない、獣避けの意味もあるのだ。

 メルとリレンはメラルーを挟む様に並び、焚き火の温もりを掌で感じとる。

 

「ん〜〜なんかね、動きづらかったんだよ、なんて言ったら良いのかな〜〜とにかく忙しかったんだ!」

 

 メルは頭を掻きむしりながら答える。自分の思う事がうまく言葉に表せず苦労している様子だ。

 要領を得ない大雑把な言いようだがリレンはそれに心当たりがあるとか何かを思い出した様に顔を上げる。しかしこの思いを言葉にして出す勇気が今の彼女には無かった。

 メラルーは「んニャ〜〜」と唸り声を上げて何かを考えている様子だ。しばらくするとメラルーは唸り声を止めメルとリレンの二人を交互に見る。

 

「もしかしたら二人とも立ち回りに問題があるかもしれないニャ」

 

「ん〜〜立ち回り?」

 

 何処かで聞いた事のあるような単語にメルは思わず聞き返す。対してリレンはその言葉の意味を理解したのか顔を上げメラルーの声を聞き漏らすまいと耳を集中させる。

 

「んニャ、まずランポスとの戦った時の事を教えて欲しいのニャ」

 

 二人はメラルーにランポス達と戦った頃の出来事を説明する。メルはどうも要領を得ない曖昧な説明で話す。リレンは恥ずかしながらその時の様子をパニックのあまり覚えておらず大した説明も出来なかった。

 それでもメラルーは二人の声に耳をピクピクと動かす。

 

「メルはガンナーとパーティーを組んだことがあるかニャ?」

 

 メルは目を上に配らして訓練所での頃を思い浮かべる。

 

「いや、無かったね」

 

 メルの答えにメラルーは納得したように頷き今度はリレンに同じ質問をかける。

 リレンはその問いに答え辛いのか、そわそわした様子で重い口をひらく。

 

「わ、私は、師匠と二人っきりでパーティーを組んだことは……」

 

 リレンは額に少し冷や汗を浮かべる。隠す気は無かったのだが、彼女はメルのような訓練所の出ではなく、師匠を持ち、その元で修行を積みハンターになった身だ。だがこの話は、彼女の口から人に話すのは少し気が引けた。

 リレンは横目でチラリとメルに一瞬視線を向ける。メルはリレンに師匠が居たという初耳情報に好奇心に目を輝かせていた。リレンは冷や汗を浮べる。

 

「へぇ、リレンって師匠がいたんだ! ねぇねぇ――」

 

「ちょっと待つニャ……」

 

 メルは興奮した様子でリレンに色々と聞こうとしたがメラルーに、話の本題が違うと遮られてしまう。

 リレンは安心した様子で息を吐く。

 

「なる程ニャ……もしかしたら二人ともガンナーと剣士で狩りをするのが初めてだから上手く連携が取れなかったかも知れないニャ」

 

「おぉ! そうか!」

 

 メルは自分の感じていた違和感に気づきスッキリした様子で笑顔を浮かべるが、一つに気になる事があった。

 

「ん……でも連携ってどうするの?」

 

「簡単な事ニャ。 二人ともお互いの距離を意識すればいいのニャ。 特にリレンはガンナーだからモンスターとの距離を中距離で維持する必要があるのニャ。 逆にメルはリレンにモンスターを近づけさせない様にとにかく近づいてモンスターの気を引く事が重要ニャ」

 

 メラルーは頷き納得する二人を尻目に更にと話を続ける。初めに――狩りに絶対など無い、一番重要なのは状況に応じて臨機応変に動ける柔軟さだ、と伝える。二人に今から話す、ハンターでも、オトモアイルーでもないただのメラルーの知識だけに囚われぬよう。

 それでもメラルーの話は二人を上の空にさせる程、説得力あるものだった。初めは雲のようなふわふわとしたイメージが頭の中に浮かぶだけだったが、メラルーのその丁寧な説明に加えた補足、次第にメラルーの話す、一言、一言が迷う間も無く頭の中にゆるやかに流れてきた。

 

 ――――  

 

「――で以上ニャ」

 

 ようやく二人に話し終え、一息つくメラルー。ふと空を見上げるとすっかり暗闇に染まっていた。メラルーは未だ消える様子の無い焚き火に木の枝を薪代わりに投げ込む。

 

「おぉ! なんか行けそうな気がしてきた!」

 

 メルはメラルーの話を聞き、頭の中には説明通り狩りを成功させ満足する自分の姿が浮かんでいた。無駄に根拠の無い自信がメルを奮い立たせる。

 

「ニャ……危ないニャ……リレンは大丈夫かニャ?」

 

 そんなメルの様子を呆れた目で眺めるメラルー。

 

「あっ!? はい、大丈夫です」

 

 何処か遠い目をしていたリレンはメラルーの言葉にビクッと驚いてから、先程の暗さを感じさせない微笑みを浮かべる。それから拳を強く握り口を固く閉じる。

 何故か妙に覇気が感じられるリレンを見て、メルと同じく危険かも知れないとメラルーは冷や汗を浮べる。

「そろそろ夕食にするかニャ」 

 

 メラルーはそう言うと、立ち上がり竜車の方へと歩き出す。メルとリレンもお腹が空いてきた頃合いの様で表情を柔らかくし喜ぶ。

 しばらくするとメラルーが竜車の中から出てきた。手には骨の芯が通った生肉ともう片方の手には小さな籠を持っていた。

 メラルーは「肉はオイラが焼くニャ」と何処か熱の籠もった言葉を放ち、メルに籠を渡す。籠を受け取ったメルは嬉しそうな笑顔を浮べる籠の中身を眺める。リレンはその籠の中身が何なのか気になり、その些細な好奇心の目で籠の中身を覗く。

 そこには、二種類の野菜が籠一杯に詰められていた。サツマイモにナナハクサイ、どちらも低価で手に入る野菜だ。

 

「メルさんって野菜が好きなんですか?」

 

 リレンの問いにメルは「うん! 大好き!」と満面の笑みで答える。リレンは野菜が好きでも嫌いでも無い訳なのだが彼のように野菜を大好きと豪語するのが珍しい様で感心した様子で「へぇ〜」と頷く。

 

「でも、肉は食べれないみたいニャ。」

 

 割り込む様にメラルーは言う。メラルーはそのまま生肉に刺さった太い骨を持ち焚き火の火に当てていく。パリパリと音をたて焼かれていく肉は香ばしい香りを漂わらさる。

 

「そ、それじゃ匂いが……」

 

 リレンは焦った様子でメラルーに話し掛ける。対してメラルーは特に焦った様子も無く落ち着き払った態度で肉を焼いていく。

 

「……匂いは大丈夫らしいニャ」

 

 メラルーは決して視線を焼かれる肉から逸らさず言う。

 

「うん! 匂いは大丈夫!」

 

 彼らの言葉にリレンはほっと息を吐き一安心する。もう一度メルの方へ視線を移すと彼はその香ばしい香りに不快感を示す様子も無く平然としていた。だが妙に鼻をピクピク動かしているメルに、本当に大丈夫なのかと怪しげに思うリレン。

 それからしばらく後、肉を焼くメラルーの目がキラリと輝く。

 

「んニャ! 上手に焼けたのニャー!」 

 

 メラルーはこんがりと焼けた肉を天高く持ち上げる。持ち上げられたこんがり肉は、匂いの煙をまとい二人の嗅覚を刺激する。肉嫌いの筈のメルまでもが本能でこれは美味いと感じてしまう程。

 

「んニャ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 リレンはメラルーからこんがり肉を受け取る。自分で焼いた物より遥かに美味しそうだった。

 

「よし! んじゃいただきまーす!」

 

 二人とも食事の準備ができた事を確認したメルは野菜の入った籠を抱きしめながら落ち着きのない声を上げる。メルの掛け声を聞いたリレンとメラルーも手を合わせ感謝の気持ちを込めいただきますと呟く。

 

 それから食事を終えた彼らは明日の為にと早めに眠る事にした。

 こうして狩場で過ごす初めての夜が明けた。

 

 ――――

 

 

 二人と一匹は朝早くから起き上がり、既に狩りの準備を終えていた。

 

「よし! リレンも大丈夫?」

 

 メルは相変わらずの笑顔を浮べ、リレンの方を見る。

 

「は、はい。 大丈夫です」

 

 リレンは緊張した様子で返事をする。メラルーの話しを聞き少しは安心し、自信もついてきたが昨日の様な事を繰り返してはいけないと思う度に緊張してしまう。

 

「大丈夫、大丈夫! リレン、楽しく行こうよ!」

 

 メルはリレンの背中を強く叩き、笑顔を浮べる。驚いたリレンは少し前のめりになる。

 

「んニャ、メルももっと慎重に行くニャよ」

 

 メラルーの呆れ混じりの声にメルは笑い声を上げながら、大丈夫と返事する。

 

「んニャ……あんな様子だから……リレン頼むニャよ」

 

 メラルーは呆れた顔でメルに聞こえないよう、リレンに耳打ちする。メラルーの言葉にリレンは反応に困り苦笑いを浮べて返事するしか出来なかった。

 

「よし! んじゃ行くか!」

 

「は、はい!」

 

 いよいよ狩りをする為ベースキャンプを後にしようとするメルとリレン。二人は頭防具を深く被る。

 

「頑張るニャよ〜〜」

 

 メラルーの声援を背に二人は昨日と同じ様にベースキャンプを後にする。

 

 ベースキャンプを後にしたメルとリレンはブルファンゴの居るとされる目的地に着くまでなるべくランポス達と遭遇しない様に昨日より一層慎重に歩を進める。

 そのお陰か、二人はランポスと遭遇すること無く目的地にたどり着く事ができた。

 

「見て、リレン! 居たよ!」

 

 メルは草むらに隠れ、指を指す。その場所は視界の悪い密林の割に太い木が数本生えているだけで草丈もそれ程高くなく、視界は良好な場所だ。リレンはメルの指差す先へと視線を向けると五頭のブルファンゴ達がうごめいていた。丁度目的の数と同じ数だ。

 

「……よし」

 

 リレンは背中に担いだハンターボウを手に取りそのハンターボウの柄をギュっと握る。メルも腰からハンターナイフを抜き取り戦闘態勢に入る。

 

「リレン、背中は任せたよ!」

 

「は、はい」

 

 メルの声にリレンは力強く頷く。

 

「よし! 行くか!」

 

 メルの声を合図に二人は一斉に草むらから飛び出てブルファンゴ達に向かっていく。リレンは自分の交戦距離を考え、途中で立ち止まり矢の入った矢筒に手を伸ばす。

 

「うおおぉぉぉ!!」

 

 叫び声を上げながら近づいてくるメルにブルファンゴ達は反応し「フギィィ」と唸り声を上げながら力を溜めるように地面を踏み鳴らす。

 ある程度ブルファンゴ達に近づいたメルはそのままブルファンゴに攻撃を仕掛けること無く今度は方向を変え横に全速力で駆け抜ける。自分に気を引かせブルファンゴの突進攻撃がリレンに向かないようにする為だ「」。

 ブルファンゴ達はメルの思惑通り、一斉にメルに向かって突進する。

 

「うぉ!?」

 

 予想よりも遥かに凄まじいブルファンゴの勢いにメルは驚きながらも思っきり前に飛び、突進は避ける。そのままのブルファンゴ達は止まりきることができずメルの横を走り過ぎてしまう。

 すると、一頭のブルファンゴが悲鳴を上げその場に転げてしまう。そのブルファンゴの胴体にはリレンの放った矢が突き刺さっていた。

 

「ナイス! リレン!」

 

「は、はい!」

 

 自分の攻撃が当たった事にリレンは確かな手応えを感じる。一方的にやられた昨日とは違い、自分でも役に立てると。

 メルはリレンが転ばせたブルファンゴに向かってハンターナイフを構え接近する。転んだブルファンゴは立ち上がるのに苦戦している様子で足を暴れさせている。

 

「うおぉぉぉ!」

 

 メルはブルファンゴの胴体に全力で斬りかかる。しかしハンターナイフの切れ味では厚い皮と毛皮に守られたブルファンゴに深い傷を与える事は出来なかった。だがそれでもメルは馴れぬ感触に苦戦しながらもブルファンゴにニ撃、三撃と次々へと攻撃を加える。立ち上が事すらままならない上に猛烈な連撃が加わればもはやブルファンゴに抵抗する手段など無かった。メルに斬り刻まれたブルファンゴはそのまま絶命した。

 

「よし!」

 

 ブルファンゴが絶命した事にメルは喜び笑顔を浮べる。

 

「メルさん! ブルファンゴが!」

 

 喜びもつかの間、リレンの荒い声にメルは驚いて振り返る。そこにはメルにもう一度狙いを定めたブルファンゴ四頭が土煙を上げ突進してきていた。

 それをリレンの注意のお陰で余裕をもって回避するメル。リレンはメルの横を走り過ぎる一頭のブルファンゴに狙いを定め矢を放つ。矢はブルファンゴの厚い皮と毛皮を貫通し見事、胴体に突き刺さる。先程の様に転ばせるまでには至らなかったがブルファンゴは「フコー……フコー」と鼻息を痛みで荒くさせる。ブルファンゴは怒りの眼光でリレンに狙いを定め、地面を強く鳴らす。

 

「……! 行かせるか!」

 

 メルはリレンを狙うブルファンゴを止める為、ハンターナイフを振り上げ、斬りかかる。だがメルの刃が届く前にブルファンゴは力強く地面を蹴り出し、リレン目掛けて突進してしまう。

 ブルファンゴは突進は単調で方向転換も聞かない。ましてやリレンとの距離を考えると避ける事など容易な筈……しかし目の前にして分かる、ブルファンゴのこの力強さ。リレンは体を動かす前に頭の中がパニックで真っ白になる。リレンとブルファンゴの距離が近づいていく。

 

「リレン!!」

 

 メルは全力の大声でリレンの名を叫ぶ。リレンはその声に我を取り戻す。

 

「……うわぁ!」

 

 リレンは間一髪でブルファンゴの突進を体ごと横に飛び込む事で避け、直ぐに立ち上がる。昨日の様には絶対になりたくない。リレンは気合を入れる為、自分の頬を強く叩く。

 メルは安心した様子で息を吐くが、先程の三頭のブルファンゴがメル目掛けて突進を仕掛けていた。

 メルはブルファンゴ達の突進を横にステップを踏み軽々と避ける。

 

「よっと! リレン! そっち奴は任せたよ!」

 

「……はい!」

 

 メルはリレンにそう言い残すと、三頭のブルファンゴを叫びながら追いかける。リレンも力強く返事を返し、自分の目の前で突進の準備をするブルファンゴと向き合う。

 

「フゴォォ!」

 

 ブルファンゴは鳴き声を上げリレンに突進する。いくらもう臆する事が無いとはいえ、ブルファンゴの速い突進に対し今のリレンではそれに咄嗟に反応する事ができない。リレンは紙一重でブルファンゴの突進を避ける。

 

「……うっ!」

 

 リレンは横を走り過ぎるブルファンゴを尻目に冷や汗を浮べる。そう何度も避けられない、早く決着をつけなきゃとリレンは心の中で思う。焦りが生じる中、ふとメラルーの言葉が頭をよぎる。

 

『ブルファンゴは突進するしか脳のない奴らニャ。 それを利用するして壁かなんかにぶつければ奴らはきっと空きを見せるはずニャ』

 

 メラルーの言葉を思い出し、辺りに何か使えそうな物は無いかと見回す。

 

「……あれだ」

 

 リレンはブルファンゴを背に走り出す。その先には幹の大きな木が一本生えていた。木の幹に手を当て硬さを確認する。

 

「……よし!」

 

 これなら行ける、と確信したリレンは木を背に再びブルファンゴと向き合う。対してブルファンゴも今度こそとばかりに力強く地面を踏み鳴らし力を溜める。

 リレンは矢筒から矢を一本抜き取り、いつでも動ける様身構える。

 

「フゴォォ!!」

 

 ブルファンゴは今までよりも更に大きな土煙を上げながら突進してくる。リレンは物凄い勢いで近づいてくるブルファンゴを目でしっかりと追う。

 今!リレンはそう確信し体を横に動かす。ブルファンゴはいきなり現れた大きな木に驚くが今更止まる事も出来ず、そのまま木の幹に重音を鳴らし激突する。

 

「フゴォォ〜〜!」

 

 頭を思っきりぶつけたブルファンゴは頭を回し悲鳴を上げ、動けなくなる。

 それを見たリレンはすぐさま弓に矢を掛け、力強く弦を引き、そのまま至近距離から矢を放つ。鋭い音と共に放たれた矢はブルファンゴの脳天を貫き、一撃で仕留める事に成功する。

 

「ハァ、ハァ、……や、やった」

 

 動かなくなったブルファンゴを前にリレンは確かな達成感を感じる。

 

「あ! そうだ、メルさん!」

 

 リレンはまだ狩りの途中だという事を思い出し、メルの方へ視線を移すと、そこにあった光景はリレンを驚愕させる物だった。丁度、メルが最後のブルファンゴにトドメを刺していた所だったのだ。メルの近くには他にも二頭のブルファンゴが息絶えていた。メルはブルファンゴに突き刺したハンターナイフを引き抜くと笑顔を浮べ、リレンに手を振る。

 

「メルさんってやっぱり凄いな……」

 

 リレンは震えた声でそう呟くと、ハンターボウを背中にしまい、駆け足でメルに駆け寄る。

 

「へへっ、上手くいったね!」

 

 メルはハンターナイフを腰に戻しリレンに向けて笑顔を浮べる。

 

「は、はい……」

 

リレンはから返事で返す。驚きでまともな返事を返す、暇も無かった。

 

「あっ! そうだ……」

 

 突然、何かを思い出したのかメルは顔色を青白くさせる。

 

「ねぇ、リレン……剥ぎ取りやってちょうだい……」

 

「え……あっ! 確か剥ぎ取りが……」

 

 リレンもメルの言葉に狩りに行く前、確かメルが剥ぎ取りが苦手とか呟いていた事を思い出す。

 

「わ、わかりました」

 

 リレンは、以外とデリケートな人なんだなと思いながら苦笑いを浮べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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