それぞれの事情 (神谷涼)
しおりを挟む

1:ヘロヘロよお前もか!

 ふと思いついて……というか昨夜夢で見て。
 そのまま勢いで書き始めたら一気にここまで書いてしまったので……。
 今書いてる連載が終わってませんが、書いた内に投稿しときます。



 

「いやー、まさかモモンガさんが女の子だったなんて知らなかったよー」

 

 サマードレスの黒髪少女――幼女が、儚げに笑う。

 ボイスフィルターを外した声は、ぶくぶく茶釜にも劣らぬロリ声だ。

 ただしこちらはガチな天然モノである。

 

「ヘロヘロさんこそ、まさかですよ!」

 

 ピンク髪の少女が疲れた目で、それでもにこやかに笑って答えた。

 ふわりとしたロリータファッションのドレスは、育ちのよさを思わせる。

 声もまた幼げな中に、凛とした貴族的なものを感じさせた。

 

「もう素顔見せちゃったし、モモンガさんも普通にしゃべってくれていいのに」

「私は基本でもこの口調ですので……」

 

 幼女と少女の語らいは、いつもより円卓の間を華やかに見せていた。

 異形種ギルド、アインズ・ウール・ゴウン。

 思えば外見からして、人外オブ人外といった容姿のメンバーばかりだったこのギルドで……この円卓の間にメイド以外の幼女や少女がいたことなどないのだ。

 

 

 

 

 久しぶりの『ユグドラシル』。

 サービス最終日、ギルドマスターたるモモンガからの「大事な話がある」というメールに。

 大きな隠し事をしていたヘロヘロは、敢えていつもと違うアバターでログインした。

 

 『ユグドラシル』に限らず、DMMO系コンテンツには、リアルの己に近い姿が基本設定となっている。

 いくらかの美化は可能だが、体型や色彩やパーツはリアルの姿から大きく変えはできない。

 一度ログインした後で乗り換えたりはできないが、最初からログインは可能だ。

 キャラクターデータも変わらない。

 もっとも、『ユグドラシル』のようなファンタジーRPGで、リアルの容姿をわざわざ好む者などいない。

 よほどリアルの己に自信があるナルシストでなければ、苦しいリアルから離れたゲームの中に、そんな姿は持ち込むまい。そして、そんなナルシストはそもそも、こんなゲームをしない。

 リアル基準の姿は外見が人間種に見えるため、異形種PCが時折、擬態の裏技に使う程度である。

 それでも戦闘中に変われはせず、町にも入れないため、およそ意味はなかった。

 

 ヘロヘロは、長らく性別や生活を偽ってきた。

 モモンガのメールを見て、最後の最後くらい、本当の己で向き合おうと考えたのだ。

 それが、ヘロヘロ自身の“大事な話”である。

 こうして、最終日――ヘロヘロは、敢えてリアルの己をベースとしたアバターでログインした。

 そして、円卓の間で、見知らぬピンク髪の少女に出会いNPCと勘違いしたのが、数分前である。

 少女の正体は己と変わらぬ事情を持った、ギルドマスターだった。

 彼女――モモンガの名を冠した世界級(ワールド)アイテムは、奇妙な触手ともコードともつかぬもので、ちょうど胸のあたりにつながっている。

 

 幸か不幸か、他のギルドメンバーは誰も……来なかった。

 

 

 

 

「それにしても、同じような二人だけ来るなんて運命を感じますね」

「えー、モモンガさんひょっとして口説いてる?」

 

 くすくすと笑うヘロヘロ。

 

「違いますよ! 第一ぺロロンチーノさんとかいたら、騒いで落ち着いて話せなかったじゃないですか」

「あー、言えてる。わたしもだけど、モモンガさんも変な目で見られちゃったかな?」

「私は――あー、でもそうですね、外見はそうですし」

 

 二人とも十分にロリに分類できる姿である。

 ターゲッティングされること間違いない。

 そして、たっち・みー、やまいこのようなメンバーなら……もっと面倒な話になっただろう。

 

「それにしても、この姿であっちのスライムの名前はちょっと変だね。フルネームはさすがにダメでも……んー。名前ならいいよね? わたしは沙耶。あとちょっとの時間だけど、素の友達ってことでさ」

「あ――あ、はい。私は、さとりと呼んでください」

 

 ここではお互い、スライムと骸骨で思い出を築いてきた。

 今はオフ会気分だ。

 本名を……一部名乗るくらいいいだろう。

 

「それにしても、沙耶さん……私より幼い姿ってことは……体、相当まずいんですか?」

 

 モモンガ――さとりが、心配そうに言う。

 会った時から思っていたが、敢えて避けた話題だ。

 

「うん……お互い様だけどね。さとりさんも、かなり弄られてる?」

「これは……母と離婚した父の趣味で……」

「あー、そっち」

 

 二人とも、俯いてしまう。

 リアルはつらく、厳しい。

 二人の女性を、どこまでも貪り尽くしてくる。

 だから、どちらも男性と詐称してここに来ていたのだ。

 同じ女性のメンバーにも打ち明けられず。

 モモンガは、ギルドマスターにまでなってしまった。

 

「……もう、時間が近づいてきましたね」

「眠いし、本当はすぐログアウトするつもりだっんだけどね。モモンガさんの正体知ったら、目が覚めちゃったよ」

 

 嘘だ。

 沙耶の肉体はもうずっと眠っていて――夢を見ているだけ。

 それでも労働をさせられる現代社会だが……。

 限界も近づきつつあるのだろう。昏睡時間は増えつつある。

 

「はは、最後は玉座の間にでもいきましょうか。この姿で、スクリーンショットを撮るのはナシですけどね」

「……そうだね」

 

 リアルについて考えると、二人とも重い空気になってしまう。

 どちらも少なからず……ろくでもない現実を抱えている。

 だから、女性メンバーにも己の正体を明かさずいたのだ。

 同情されても、空気が重くなるだけだったから……。

 それでも、長年の思い出を共にした相手が、己とわかりあえると知ったのだ。

 少しでも時間を共有したい。

 肉体や神経の休息よりも……精神の休息を優先したい。

 互いにそう思い、傷をなめ合うように席を立った。

 

「ギルド武器――スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンも持って行こうよ」

「そうですね。これもみんなで、がんばって作った……え?」

 

 玉座の間に行く前に……と、さとりは己の背後に安置されていた杖に手を伸ばす、が。

 止まる。

 

「ええええええ!?」

「ど、どうしたんです、さとりさん! リアルで何かあったんですか!」

 

 すわ外部干渉かと、今までの空気から連想するヘロヘロだが。

 

「これ、レプリカーーー!!」

「はぁ? さとりさん、今日はずっとここにいたんでしょ?」

 

 目をしばたたかせ、勘違いじゃないかなと首をかしげるが。

 

「見てください、彫刻はそっくりですが宝石が明らかにニセモノですよ!」

「いや、わたし鑑定系スキル持ってないよ」

「こんなことするのは――」

 

 というか、レプリカを持っているのはギルドマスターと……造形を担当した……。

 さとりが杖を掴み取る。

 と。

 

『フフフ、ようやく気づいたかギルドマスター! スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンと、玉座はいただいた! サービス終了まで、アインズ・ウール・ゴウンはオレのものだ!』

 

 懐かしくも、聞きたくない声だった。

 

「るし★ふぁー、あのやぁろぉう!」

「ちょ、さとりさん、女の子がしちゃダメな顔になってる!」

「玉座の間です! 行きますよ!」

「えっ、ちょ! ちょっと待ってー!」

 

 リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使い、二人は急ぎ転移する。

 もっとも、玉座の間の手前までしか転移では行けない。

 

「あっ、レメゲトン全部そろってる」

「最終日を会いにも来ず、こんなことしてたんですか!」

 

 玉座の間の手前、この張本人が途中で飽きて67体だったレメゲトンの悪魔像が72体そろっている。

 5つ、目立つ場所にあった空白が埋まっていた。

 72体そろったらできる戦闘ギミックとかあるんだろな……とうんざりする二人。

 

『さっさと来なかったから、そいつらを動かすのは勘弁してやろう! さあ来い、元ギルドマスターよ! 真ギルドマスターるし★ふぁー様の前にな!』

 

 サービス終了まで、残り時間は5分程度。

 さすがに二人でゴーレム72体を殲滅するにはギリギリだ。

 追加ギミックまであればなおさらに。

 さすがの問題児も、顔も合わせず終わらせたくはないのだろう。

 玉座の間へと続く、重厚な扉が開かれる。

 

 その奥には世界級(ワールド)アイテムでもある諸王の玉座。

 左右には守護者統括アルベド、第一第二第三階層守護者シャルティア。

 手前には他の各階層守護者、執事セバス、戦闘メイドプレアデス。

 玉座の背後にはモモンガ――さとりの黒歴史たるパンドラズ・アクター。

 そして玉座に座らず、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを掲げて凶悪な笑みで立つのは……。

 軍服のような衣装、剣士じみた眼帯、そして豊かに育った肉体を持つ――初対面の女性だった。 

 

「誰だよお前ら」

「「そっちこそ誰!?」」

 

 

 

 

「はー……このギルド、思ってたより女性人口多かったんだな」

「本当ですよ! 私なんか今日はすごく悩んで来たのに!」

「いや、わたしも本当に悩んだんだよ」

「沙耶さんに言ってるわけじゃありません!」

 

 るし★ふぁーも女性だった。

 本当はこのまま、正体に驚くメンバー相手にPVPを始める予定だったらしい。

 守護者を集めているのも、ギルドメンバーの人数に合わせて参戦させるつもりだったようだが。

 互いの姿への衝撃で吹き飛んでしまう。

 

「お、なんだお前ら名前で呼びあってるのかよ。オレも混ぜろよー」

「名乗ってから言ってくださいよ、って、あんまりくっついたら女同士でもR18で垢BANされちゃいますよ!」

「どうせ、最後の最後で、そこまで弾いてらんないんじゃない? 残り2分きっちゃったよ」

 

 さっきまでの重苦しい空気もどこかに行ってしまった。

 三人で玉座の前に集まり、

 

「モモンガがさとり、ヘロヘロが沙耶か。女の子らしー名前じゃん。オレの名は天龍。フフフ、かっこいいだろう」 

「はいはい、偽名乙」

「偽名じゃねーよ!」

「だいたいその恰好なんですか。わざわざコスプレして初期登録したんです?」

「あー、これな、時間なくて制服のままだったからよ」

「えっ、あの言動で警察官?」

「あー……いや、その……企業軍の方な」

 

 最後の1分も切った中、空気が重くなってしまった。

 

「悪い、言わなきゃよかったな」

「るし――天龍さん、素だとマトモな人なんですね」

「うん、ちゃんと大人じゃない」

「うるせー、ゲームくらいはっちゃけたいんだよ! お前らこそ、最後は暴れて終わるつもりだったのに、痛ましいもん見せやがって!」

「……ごめんなさい」

「……ごめん」

「謝るなバカ、ほんとリアルは、ままならねーよな」

 

 あと15秒。

 

「――これが、たっち・みーのヤツなら、お前らの居場所聞いていろいろ動くんだろけどよ。オレには……教えない方がいいぜ」

「いいですよ。最後で二人も来てくれて、満足です。別のゲームででも会いたいですね」

「次のゲームに……わたしはちょっと無理みたい」

「……」

「そっか……ここの戦友とも、ここまでか」

「沙耶さん、天龍さん、さようなら」

「……さよなら」

 

 あと0秒。

 

「……ん? オレの時計ズレてんのか?」

「いえ、私の時計でももう過ぎてます」

「運営、最後までしまらないねー」

 

 5秒経過。

 

「GMコール……つながりません」

「〈伝言(メッセージ)〉――知り合いのプレイヤーに投げたけど全滅したぜ」

「戦闘職はやることないなー。GMコールはこっちもダメ」

 

 3分経過。

 あれこれとしてみるが、どうにもならない。

 

「あの――」

 

 四人目の声がする。

 

「あれ? 他にも誰か……ってアルベドですか。ちょっと待ってくださいね」

「はい」

 

 しばし間が空く。

 答えたさとりが硬直する。

 天龍がぎょっとした顔で、彼女の名を呼んだ。

 

「アルベド?」

「なんでしょう、るし★ふぁー様。いえ、先ほどの会話からすると天龍様とお呼びするべきでしょうか」

「え、なんで……?」 

 

 アルベドが、心配そうに三人を見ている。

 さとりは硬直したままだ。

 沙耶はおろおろと困惑するばかり。

 

「御三方が女性だったとはびっくりでありんすが、このシャルティア・ブラッドフォールン。つい先ほどるし★ふぁー様に――」

「あんたは黙ってなさい!」

「どうやら至高の御方は、不測の事態に巻き込まれている様子。今は指示を待つべきですよ」

「前衛ノ身デハ役立テヌ様子。我ガ剣ヲ必要トナサレレバドウカ、ゴ用命ヲ」

「ヘロヘロ様……」

 

 階層守護者らが、ヘロヘロに造られたソリュシャンが。

 それぞれに言葉を紡ぐ。

 三人は呆然とした顔で彼らを見て。

 そして互いの顔を見た。

 

「NPCだよな」

「NPCですよ」

「うん、NPCが……」

「「NPCがしゃべってるううううう!!!!」」

 





 つづくか不明。

 鈴木悟=古明地さとり(ぼっち系)、ありじゃない?と思った流れです。
 各原作の設定や能力は、さほど関係ないです。
 あくまで外見を示すまあAAみたいなものと思ってください。
 原作設定を大きく乖離してますが、こういうものと思って許容いただけると幸い。

 どうして10年前後、ゲームしてた彼女らがこの外見年齢なのかは……天龍以外、胸糞な理由なので細かく言及はしません。
 断片的に出て来るかな程度。
 三人だけですがおさらい。
 それぞれ、リアルにおける姿を美化してログインしてます。
 外見が人間種なだけで、データ上はそれぞれの能力スキル呪文を持ってます。
 あと、装備は初期アバターに合わせて三人とも大半を外してます。モモンガ玉のみです。

・モモンガ:古明地さとり(東方地霊殿)
   「私~です」
   リアル事情アリ、読心能力なし、ぼっち
   サードアイはモモンガ玉

・ヘロヘロ:沙耶(沙耶の唄)
   「わたし~だよ」
   リアルではいろいろ事情アリ、外見は幼女
   能力はゲーム内と同じなのである意味で原作通り

・るし★ふぁー:天龍(艦隊これくしょん)
   「オレ~だ」
   企業私設軍兵、かなり汚い仕事もしている、艤装はない
   戦闘センス高いがゲーム内は生産メイン

 るし★ふぁー役は最初は、束(IS)とかダヴィンチ(FGO)とかマユリ(BLEACH)も候補でしたが、転移後に無双どころじゃないので止めました……技術職はチートすぎる。作者の知識も追いつかないし。一方で、行いから正邪(東方)も候補でしたが、原作の違う沙耶が浮くかなと、それぞれ別作品にしました。
 天龍を選んだのは、素で男性的な話し方ができ、子供っぽい悪戯をしそうなキャラというセレクトです。あと、他二人の正体知ったら、普通に親身で守ってくれそう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2:るし★ふぁーは二度裏切る

 ありがとうございます。
 アルベドさんの話の方が、ちょっと暗い流れなんでこちら書きました。
 こちらは第一話よりかなり明るいです。
 ていうか、がらっと空気が変わっていつもの自作品のノリになるので注意ください。
 (一応前話から伏線は引いてたつもりなんですが……)
 空気は変わっても、三人の重い過去自体はちょいちょい触れていきます。

 それと、ヘロヘロさんってカタカナだったんですね……。
 勘違いしてたので前話含め修正してます。



「「NPCがしゃべってるううううう!!!!」」

 

 三人は困惑と不安でぴったりと身を寄せ合い、叫んだ。

 NPCたちは、何か粗相があったかと、取り乱すしかない。

 だが、その場の混乱は次の瞬間におさまる。

 

「痛っ!」

「溶ける溶ける!」

「ちょ、オレ両方喰らってる!」

 

 モモンガ――さとりのパッシヴスキル〈負の接触(ネガティブ・タッチ)〉。

 ヘロヘロ――沙耶のパッシヴスキル〈原初の溶解〉。

 特に、沙耶のそれはダメージを与えつつ伝説級以下の装備も溶かす。

 生産職のるし★ふぁー――天龍が両方を喰らえば、痛いのは当然だ。

 天龍とさとりの衣服は無惨に半ば溶け。

 肌こそダメージは見えないが、服は半裸状態である。

 

「ごごごごめん! えーと、えーと、あれ? パッシヴ止められる?」

「本当ですね……それにしても、どうしてフレンドリーファイアが……」

 

 相互ダメージを与えうる状況は、範囲魔法でまずいことになる。

 攻勢防壁なども、解除すべきかと悩むが。

 その前に、さとりと沙耶は、目の前でゆれる、かろうじて先端の隠された果実に気づいた。 

 

「……あれ?」

「あれ~?」

 

 不思議そうに首をかしげ、手を伸ばす。

 

「お、おい、お前ら何してやがる」

 

 天龍としては取り乱さずにいられない。

 バストの平坦な二人が、豊満な彼女のそれを揉み始めたのだ。

 

「いや、るし――天龍さん。今、悲鳴あげた時に、私たち思いっきりくっついたでしょう?」

「わたしなんか、思いっきり天龍さんのおっぱいに顔埋めてたんだけど……」

 

 二人の言わんとすることがわかった。

 『ユグドラシル』において、R18行為の基準は厳しい。

 アカウントの性別や年齢で行為にOKが出たりしない。

 

「確かに変だな……」

 

 天龍も両手で、二人の尻を掴んでみる。

 

「ちょ、なにお尻掴んでるんですか!」

「天龍さんのチカン! パッシヴ戻すよ!」

「お前らが先にオレの胸揉んだんだろが!」

「さ、沙耶さんまでお尻、揉まないでっ」

 

 怒鳴り合いつつも、三人とも離さない。

 しばし、じゃれ合いを兼ねた状況確認が続く。

 だが、ここには他の多くの目もあるのだ。

 

「ああ~、目の毒でありんす。この身も混ぜていただければぁ♥」

「あの腰の動かしよう……二人とも下着が食い込んできているわね」

「もうちょっと近くで匂いを嗅がせてほしいっすよねぇ」

「へろへ――沙耶様にそんなことしないでよ!」

「あんた達ねぇ……」

 

 再び最初に我に返ったのは、さとりである。

 己の体とつながった世界級(ワールド)アイテム――真紅の宝珠は今、第三の目の如く周囲の状況を知覚していた。

 NPCたちのアレな会話も、はっきり見え、聞こえているのだ。

 

「……あの、天龍さん。一部のNPCの視線がなんかアレなんですが」

「ほ、ほんとだ視線以外も……アレだよね。っていうか、アレってアレでしょ……?」

 

 手を止め、ジト目で天龍を見るさとり。胸元から伸びる紅い玉にも瞳のような裂け目ができ、目が睨みつけている。

 沙耶は背後のNPC……の一部に、怯えてすらいた。

 天龍が目をそらした。

 

「何かしたんでしょう、天龍さん」

「この状況もまさか……」

 

 この姿と、一見頼もし気な態度で忘れていたが。

 目の前にいるのは、るし★ふぁー。

 アインズ・ウール・ゴウン最大の問題児であり。

 ついさっきまで、謀反PVPをするつもり満々だったのだ。

 

「バカ! こんなこと起きるって思うわけねーだろ!」

「それはそうかもしれませんが……何かしたんですよね?」

「ソリュシャンはマトモ……みたいだけど、アレはアレだよね?」

 

 再び、天龍が目をそらす。

 そらした先に……さとりの紅い玉と、沙耶の顔があった。

 

「アバターこそリアル寄りですけど、スペックはオーバーロード時と同じですから」

「そうそう、こう見えても沙耶は古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)なんだからね!」  

 

 さとりの胸から触手じみたものでつながった世界級(ワールド)アイテムが。

 沙耶は肩あたりから形がくずれ、無理やり首が伸びている。

 ゴーレムクラフターだった天龍は、いかにリアルで戦闘経験豊富でも……ゲーム上では生産職メイン。

 戦闘参加も少ない。

 反応速度も含め、実戦で最凶級だった二人に勝てるはずがないのだ。

 

「うぐ……」

 

 ぐぬぬ顔で追い詰められてしまっていた。

 

 

 

 

 NPCから距離を取り、玉座の影で三人、ぼそぼそと話をする。

 

「オレはな、今日は休暇とったから朝から階層守護者とプレアデス全員、ここに集めてたんだよ」

「ギルド乗っ取りのためにですか」

「いーじゃねーか、最後だしよ」

「まあ、そこはいいですよ。お祭りとして悪くないと思いますし」

「だろ?」

「じゃあ、ソリュシャンについてるアレ何?」

 

 沙耶は真顔である。

 怒りに合わせてどろどろと体が変容したり泡立ったり触手が生える幼女の様子は、かなり怖い。

 

「ほ、ほら、オレ、レメゲトンの悪魔像配置した後も、ずっと時間切れ寸前まで待ってたわけじゃん」

「そうだね」

「ヒマだったから、NPCの設定テキストとか読んでたんだよ」

「……まさか」

「ぎょ、玉座にいるじゃん? ギルド武器持ってるじゃん? だからちょっとな、一部のキャラだけ……その」

「設定書き換えてたの?」

「書き換えてないって! すぐ消せるように最後に付け足しただけだよ! タブラさんのアルベドの設定が面白かったから、マネして……」

「え? アルベドってどんな設定ついてたんです?」

「最後に『ちなみにビッチである』って」

「うわぁ……タブラさん……」

「……で、わたしのソリュシャンに、なんて書き足したの?」

 

 笑顔とは本来……。

 

「ソリュシャン以外もですよね? 少なくともアルベドとルプスレギナは間違いありませんよね? 他は誰を書き換えたんです?」

 

 さとりが冷静に言うが、視線は冷たい。

 ほんの少し、黙秘を望んだ沈黙が流れるが。

 二人の視線は、天龍を容赦なく貫く。

 やがて観念し、元凶たる彼女は口を開いた。

 

「アルベドと、シャルティアと、アウラと、プレアデス6人に……『実は両性具有で目上の女性に欲情する』って」

「「はぁぁぁ!?」」

「長年のパートナーが男とくっついて寂しかったし……ハーレム気分とか味わいたいじゃん……」

「天龍さんそっちの趣味だったんですか?」

「だからさっきも、いやらしい手つきで……」

「うるせーな! オレの趣味に口出しすんなよ!」

「じゃあ、わたしのソリュシャンに変な設定足さないでよ!」

「だって……こんなことなるって思わなかったし……」

 

 さすがに天龍も本気で凹んでいた。

 調子に乗りやすく、トラブルメーカーだったが、本気で取り返しのつかないことは……彼女視点ではしてこなかった……つもりなのだ。

 

「けど実際、あの子たち思いっきり股間にテント作ってますよね……欲情って言っても節度なさすぎでしょう」

 

 そう、スカートのガードが甘いアルベドとルプスレギナ、ソリュシャンには。

 股間に屹立が浮き彫りになっている。

 特にアルベドの白ドレスは、隆々としたものを浮き上がらせ。

 先端に沁みまでできつつある。

 

 アウラのスラックスもよく見れば膨らんでいた。

 言動からすれば、シャルティアや他のプレアデスもスカートの中は同様なのだろう。

 

「あそこまで欲情してくるとはなぁ」

「天龍さんよだれ……ああ、わたしのソリュシャンにあんなものがついちゃうなんて……」

「どうせなら、パンドラズ・アクターの設定変えて欲しかったんですけど」

 

 己の造ったNPCをチラと見て。

 さとりは大きくため息をつく。

 彼は今も、変なポーズをとっていた。

 

「しゃべれるようになったし、話し合いたいけど……近づくの怖い……」

「敵対する様子はねーし、なんならオレがあいつらに体を……」

「ただの願望じゃないですか……とりあえず地上で他のプレイヤー探しましょうよ」

 

 こそこそと三人で話し。

 一応の方針をまとめていく。

 

 

 

 

 一応ギルドマスターとして、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手に、さとりが玉座に座る。

 沙耶と天龍は左右に立った。

 ささっと、NPCらが整列する。

 だが、三人の脚線……何より半裸のさとりと天龍は際どい衣装のままである。

 そんな二人を見上げる状況ゆえ、女性陣の股間は未だ屹立したままだ。

 

(うっ……シュール)

 

 何とかスルーして、さとりはNPCたちに声をかける。

 

「るし★ふぁーこと天龍さんが、あなたたちを呼んだそうですね。状況は覚えていますか?」

「はっ、天龍様がギルドマスターの地位を簒奪すべく、我々を戦力として集められました。その際に私やシャルティア、アウラ、プレアデスは、天龍様の欲望に奉仕すべく在り様を変えております」

 

 軽く頭を下げつつ、アルベドが報告する。

 体が動くごと、ドレスの白いスカートに擦れ、アレが脈打っているのが丸見えである。

   

(そんな堂々と突き出してないで、少しは前屈みにでも、なってなさいよ……)

 

 さとりとて、夜の営業職として、さんざん体中を老人に舐めまわされ弄られてきた身なのだが。真面目な顔でそんな風にされると、反応に困る。見ている方が羞恥プレイであった。

 NPCでなければ、アルベドが露出嗜好者になったと思ったろう。

 変な笑いがこみ上げるのを噛み殺し、眉間にしわをよせてNPCらを見下す。

 そして、自身のすべき操作を繰り返しつつ。

 適当にそれっぽい言葉を続ける。

 

「そうですか。天龍さんによる簒奪は失敗に終わりました。このギルドの主は、引き続きこのモモンガ――いえ、さとりが行います。我々三人の名前変更は他のNPCにも伝えてください。異議のある者はいますか?」

 

 全員が跪き、深々と頭を下げ……ほぼ土下座に近しい姿勢となる。

 やたら長くて太いアルベドは、先端が顔につかないかと心配になるほどだ。

 

「ないようですね。引き続き――」

 

 とりあえず解散させてナザリックを守らせておこうとするが。

 

「お待ちください」

 

 冷たい男の声が遮った。

 女性陣が性的な目を向けてくるため、相対的に信頼性の上がったデミウルゴスである。

 

「至高の御方たる天龍様が、処罰を得ぬのは仕方ありますまい。しかし我らは、命令であろうとさとり様への謀反に加担した身。然るべき処罰をいただきとうございます」

 

 他のNPCも頷いた。

 

「……そうですか」

 

 さとりが首をかしげる。

 胸からつながる紅いサードアイも蠢き、睨むように瞳を開く。

 デミウルゴスの言葉に対する反応ではない。

 先刻から何度も、設定変更のウインドウを開こうとしているが、できないのだ。

 

「天龍さん、代わってください」

 

 書き換えた者でなければいけないのだろうかと、天龍と玉座を代わる。

 

「天龍さんの簒奪を、成功と認めましょう。これで処罰は必要ありませんね」

「「さとり様!?」」

 

 NPC全員が愕然とする。

 まさか己らを処罰させぬためだけに、ギルドの支配者を降りると言うのか。

 己の言葉が、慈悲深いさとりにこのような行動をとらせたかと、デミウルゴスは自害せんばかりの形相だ。

 

 さとりとしては、面倒なので適当に言いつつ、本来の作業をしているだけである。

 天龍がやる気なさそうに玉座に深々と座り。

 スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを握り。

 何度か軽く振って見せた。

 設定を変えられた女性陣は、何かまた変更が……と息を飲むが。

 

「はー……ダメだな。さっきはできたのによ。オレにゃ、そんな権限はねぇらしい」

 

 すぐに天龍が肩をすくめた。 

 さとりにギルド武器を渡し。

 玉座をゆずる。

 

「そうですか……残念です」

 

 要するに、天龍も設定書き換えができなかったのだ。

 が――NPCはそうは受け取らない。

 

「我々のためにあのような……なんと慈悲深い!」

「まさに互いを信頼し合うがゆえの……!」

「素晴ラシイ光景ダ!」

 

 NPCは全員感涙し、深く(こうべ)を垂れる。

 これでナザリックの主が変わったなら、さとりの行動の責任を取るべく自害せんとしていたデミウルゴスの感動は特に大きい。

 そして。

 付け加えられた設定が『目上の女性に』であるため、相手が偉大で格上と証明すればするだけ――女性陣の欲情は昂ぶる。

 下げた頭に反比例して、彼女らの肉竿は上を向き、激しく脈打っていたのだ。

 

「……さとりさんってすごいんだね」

 

 明らかに偶然と天然でNPCを感涙させるギルドマスターに。

 第三者視点で眺めていた沙耶は、別の溜息をついていた。

 問題は、設定を戻せそうにないこと……いや。

 それ以上のもっと大きな問題がある。

 

「やたら見せつけられたアレのせいで忘れてたけど、今の状況は本当に何なのかな? 触感とかリアル過ぎておかしいよ。電脳誘拐とは思えないし……わたし、活動限界ギリギリだったはずなのに、なんだかすごく体調いいんだけど」

 

 思い出させるように、沙耶がさとりの耳元に囁きかける。

 

「そういえば私も、昨夜は腕を入れられて、外れた股関節を無理やり戻した状態でしたが……下半身何ともありませんね」

「……お前ら生々しいこというなよ。さっきのダメージの痛みはちょっとあるんだよな」

「それは私もありますね……リアルの肉体はどうなってるんでしょう」

「もしかして昔、アーカイブで見た娯楽小説みたいな状況なのかな」

「現実を捨てて異世界にって類ですか? それなら願ったり叶ったりですが」

「……一人なら夢かなって思うけどな」

「三人いるもんねー。わたしが一番そゆ夢見そうな立場だけど」

「私だって首絞めプレイで見たことありますよ」

「オレも熱線銃で撃ち抜かれて……って、こゆ話やめようぜ」

「そう、ですね」

「オレが言うことじゃないけど、あいつら何とかしてやるべきじゃねーか?」

 

 チラ、と天龍がNPCらを見る。

 三人が小声で話す間も、NPCらはひれ伏している。

 アルベドは自分の先端の匂いを嗅いでいるようにしか見えない姿勢だが……。

 

「こほん……あなたたちNPCは、私たちの命令を絶対と受け取っているようですね」

 

 玉座に座ったさとりが言う。

 

「はい! 無論です! 御方の命令に背く者など、ナザリックにはおりません!」

 

 食いつき気味に涙声で叫ぶデミウルゴスに。

 他の守護者、メイドらも顔を上げ、口々に賛同する。

 

「けっこう。あなたたちのおかげで、私たちの日々は楽しく、また素晴らしく彩られていました。心から礼を言いましょう」

 

 これは、さとりだけでなく……沙耶、天龍も同意するところだ。

 三人で深々と、NPCらに頭を下げる。

 

「その上で知りなさい。私たちは今、未曽有の問題に巻き込まれている。だからこそ、天龍さんも……ほんの戯れとしての謀反をとりやめ、私と協調することとなりました。沙耶さんも、この状況に困惑しています」

 

 二人が深く頷く。

 

「戯れ……だったのですか?」

 

 唖然とした様子で、デミウルゴスが口を開いた。

 

「ああ。悪ぃな。オレがギルドマスターになっても、最後はさとりに返すつもりだったんだ。これは、ちょっとした祭り、イベントとしてのものだったんだよ。お前ら全員を集めたのも、何人のメンバーが来るかわからなかったからだしな」

 

 天龍が補うように言った。

 

「もう、そのためにわたしのソリュシャンに変なのつけて! どうせ返す前に、さとりさんと私にエッチなことさせるつもりだったんでしょ!」

「ふふ、違いありませんね」

「その時は、オレも混ざってやるつもりだったがな!」

 

 軽く冗談めかして、沙耶が言った。

 深刻な謀反ではなかったと示すように、さとりも軽く応じ。

 天龍も会話に混ざったが。

 

「「……うっ」」

 

 いくつかの小さな呻き声がした。

 アルベド、シャルティア、ルプスレギナ、ナーベラルが、びくんびくんと身を震わせている。

 謀反が成功した時を想像して、彼女らは思わず射精してしまったのだ。

 

「え……えーと。セバスとコキュートスは……ナザリックから出られますか? ちょっと地上を調べてきてください。すぐ〈伝言(メッセージ)〉つなぎます」

「は、ははっ」

「仰セノ通リニ」

 

 気まずそうに、さとりが男性二人に指令を出す。

 

「マーレ、パンドラズ・アクターは第一階層に待機しつつ、モンスターを召喚して地上をさらに遠方まで調べてください。他のプレイヤーを見かけたら魔法で報告を。攻撃はしないように。外敵が来た場合、プレイヤー如何を問わず防衛戦に入ってください。その際には外に出たセバスやコキュートスも呼び戻すよう、お願いします」

「わ、わかりました」

「偉大なるン~御方の姿ッ! お借りいたしますッ!」

 

 ぷにっと萌えほどではないが、さとりは指揮官として有能だ。

 今いる三人では、さとりが指揮をせざるをえないとも言えるが……。

 

「デミウルゴスは、ナザリック内に侵入者がいないか、問題発生していないか、点検をお願いします。終わったら、マーレたちに合流してください」

「承知いたしました」

 

 それぞれが背を向け、玉座の間を退出した。

 

「……沙耶さん。ソリュシャンと二人で自室待機。問題なさそうなら一般メイドたちの様子を見ておいてください。あと、食堂で私たちのご飯の用意もしておいてください」

「ん。いいけど……えと、さとりさん大丈夫?」

「大丈夫ですよ。慣れてますし」

 

 今も、彼女らの視線が全身に絡みつくのを感じる。

 

「……アルベド、シャルティア、ルプスレギナ、ナーベラルは私と来なさい。他は天龍さんが責任を持って処理してあげてくださいね」

「悪いな」

 

 女性NPCが反応する前に、天龍が口を挟む。

 

「悪いと思うなら今度から変なことしないでくださいよ。設定を決めたみんなに示しがつきません」

「オレが言ってるのは、お前になんだがな……まあ、きつかったらその四人もオレが何とかするから」

「はいはい。じゃあ行きますよ。この部屋の床にこぼさないようしてくださいね。さすがにここで、そういうことは許しませんよ」

 

 そして三人は……ナザリックの女性陣を連れ、各自の部屋に向かった。 

 




 ふたなり化は予定してた流れですが、思ってた以上に汚い流れになってしまった……。
 本編が明るかった間に、今回触れた彼女らのリアル状況整理。

 天龍はディルド派で、長年同棲してた子が男とくっついて別れました。
 やさぐれてた時に、さとりんからメール受けて今回の謀反イベント起こしてます。
 女性陣ふたなり化は、最後だし誰も見ないし、ぼっちでいるのは寂しいからとやったことですね。
 さとりんが来なかったら、リアルに戻った後リストカットしよっかなってくらいネガってました。

 さとりんは、原作ツアレに近い職業です。一応の人権はありますが。
 営業職(夜)。
 無茶なプレイを受ける代わり、体壊したので一日休暇ゲットして、最終日一日中ダイブ。翌日は四時起きして夜勤明けカチグミ・サラリマン相手のシフトに入ってました。
 バイオウェアとサイバネティックのおかげで、病気はありませんし粘膜損傷もありません。ピンク色です。

 沙耶は寿命削ってユグドラシル最後の時間を共有してくれてました。
 脳と言う名の生体AIですが、肉体はほぼ休眠状態で、脳による情報処理だけしてます。
 長年の稼働でニューロン限界は近く、24時直前のはしゃいでた時にもかなり焼き切れかけてます。
 粘体PCになった理由は、自身が情報処理の道具で手足の動かし方をろくに知らないから。
 プログラムのようにスライムボディで任意に体を動かす方がラクだから、ですね。
 なので他プレイヤーよりスライムボディの変形は反射的にできます。

 ガバい設定なので、穴や矛盾が生じる場合もあると思います。

 あ、あと二話目で気づいてる方もいるでしょうが、本シリーズのサブタイはウルトラファイトから。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3:モモンガの眼が問題だ!

 じわじわ続いてます。

 当初は「モモンガ暁に死す」をタイトルにするつもりでしたが、アレってウルトラファイトじゃなかったんですね……。
 ここまでギルメンの名前使って来たので、初回三回は彼らの名前で固めたく。
 このタイトルにしました。
 ウルトラファイトご存知の方は知ってる通り、もっと露骨に今回向けのタイトルもあるんで迷ったんですけどね。

 事前に申し上げますが、今回は内容が特にひどいです。
 読み進める方はご注意ください。



 モモンガ――さとりに案内されるように。

 アルベド、シャルティア、ルプスレギナ、ナーベラルが、その私室に入る。

 彼女ら全員が、初めて入る至高の御方のプライベート領域。

 その栄誉に感動し。

 その空気に興奮し。

 

「「……っ……はぁ……」」

 

 四人はそれぞれ身を震わせ。

 下半身を脈打たせた。

 特にアルベドは、ぬふぅとか変な鼻息まで発している。

 

(…………また、出してる)

 

 さとりは内心で溜息をついた。

 天龍に触れた後から感じた妙な落ち着き――アンデッドの特性たる精神抑制効果がなければ、パニックに陥っていただろう。

 

(すごい……におい……)

 

 四人が入ると、室内の空気は生臭く、ぬめったものになる。

 特に白い衣装に浮き上がらせたアルベドのそれは、噴き出すそれに合わせて内側から跳ね上げられんばかりである。

 また、ルプスレギナのそれは他に比べ液状なのか、手で押さえて外に噴き出ないようしている。黒いスカートの前面が、より黒く濡れていた。

 シャルティアやナーベラルのスカートの中も、大差ないのだろう。

 

(……四人の共通点は……そういうこと、なんでしょうね)

 

 四人の製作者。

 そして他の製作者。

 比較すればすぐわかる。

 アウラの作者、ぶくぶく茶釜は女性だ。

 ユリの作者、やまいこも女性。

 ソリュシャンの作者、ヘロヘロも女性だった。

 エントマの作者、源次郎は上辺でなく根っからの非リアル愛好者だった。エントマの異形性はその表れであり、生々しい欲求や人間関係は好まなかったと記憶している。

 シズは情動的に幼く設定されていたはずだ。作者のガーネットの性癖はともかく、シズ自身は純真無垢な愛らしさを求められていたはず。

 そして今、さとりの前にいる四人の作者。

 タブラ・スマラグディナ、ぺロロンチーノ、獣王メコン川、弐式炎雷――この四人は、わかりやすい童貞だった。

 年季の入ったソロプレイヤーで。男の多い(と思われていた)ギルド内では、猥談じみた雑談をよくしていた。さとりもプロとして、童貞看破には自信がある。その目から見ても、明確な童貞組が、彼の四人なのだ。

 特にぺロロンチーノはさとりの客として訪れ、何もせず時間いっぱいまで会話だけして帰った筋金入りである。ユグドラシルでランキングに入ったギルドメンバー、姉が声優――などと話すから、知りたくもない正体を知ってしまった。

 もっとも、そんな彼だからこそ、さとりは変わらぬ友情を抱けたわけだが。今回のサービス終了時、さとりのサプライズへの反応を最も見たかったのも……彼、ぺロロンチーノだった。

 

(まあ来なかったんですけれど。と……そんな場合じゃありませんね)

 

 妙なことで仲間の顔ぶれと様子を思い出してしまった。

 深々と……今度はわざと顔に出して、溜息をつく。

 四人に呆れ、失望した様子も明らかに。

 

「待機」

 

 冷たい声で、“今まで通りに”扱う。

 今度は怯えたように身を震わせ、四人が等間隔に整列するが。

 上下関係を思い知らされるだけで興奮するのか、下半身は違う反応を示していた。

 

「はぁ……四人とも、どうなっているか見せてみなさい。アルベドも、そんなに浮かび上がらせるなら、露出させた方がまだましでしょう」

 

 命令して、露出させてみる。

 

「さ、さとり様が私のものを見て……♡」

「ああ、み、見られてしまうでありんす♡」

「このような臭いを、申し訳ありません♡」

「……っ」

 

 三人が下着をおろし、スカートをたくしあげる中。

 メイド服の構造上、ナーベラルは衣装を解除して裸体を晒すしかない。

 

「なるほど……アルベドのは既に見えていましたが。シャルティアもすごいですね。ルプスレギナが長いのは人狼(ワーウルフ)だからでしょうか? ナーベラルはかわいいですね。少し安心しました」

 

 冷たい目……というより、作業的な目で検分する。

 全員が既に出したものでどろどろに汚れている。

 肉体がモモンガのデータ通りなら、形状が何であれ、問題はないはずだ。物理無効だから、巨人やドラゴンの相手をしてもダメージを受けまい。したくはないけれど。

 とはいえ、リアルの経験からいって、アルベドとシャルティアは危険なサイズだ。

 ルプスレギナも相応の覚悟が必要である。

 ナーベラルは、ありがたい息抜きだった。

 

(製作者のものと関連付けては、弐式炎雷さんに失礼ですね。そういえばぺロロンチーノさん、恥ずかしがって下着から脱がなかったのでしたか。彼のサイズを知っていれば検証材料にもなったのでしょうが……)

 

 内心で考えつつ。

 

「ふぅ……私はセバスと連絡を取ります。しばらく情報のやりとりをしますので。その間、貴方たちは可能な限り、自身で処理をしておきなさい」

 

 さとりは、自ら、登録時のロリータ風衣装を脱ぎはじめ。

 着くずし、肌を晒して、煽情的なポーズをとりながら。

 未だ鎮まらぬ四つの肉塊から目をそらし。

 胸から触手でつながる世界級(ワールド)アイテム、サードアイで見下すと。

 通信を始めた。

 

「〈伝言(メッセージ)〉――セバス、様子はどうです。危険があるなら……」

(それが、さとり様。外は沼地ではなく平原になっております。空は第六層以上に満開の星空です。周囲にモンスターや会話可能な存在は確認できておりません。戦闘力の無い小動物がいくらかいるのみかと)

 

 ヘルヘイムではない。

 あの世界にそんな場所はないはずだ。

 

「えっ? わかりました。引き続き調査をお願いします。コキュートスと離れず、別行動は――ぶぎゃっ」

 

 餅の塊のような熱いものを顔にぶつけられ、さとりはのけぞった。

 今まで装甲付きスカートの中で出されていたナーベラルの白濁――いや、黄濁が、モモンガを襲ったのだ。

 

(さとり様!?)

 

 セバスが何事かと焦って問いただしてくる。

 

「あなたたち、顔にかけるのはやめなさい!――ああ、ごめんなさい。今……ちょっ、天井もやめなさいっ!」

 

 アルベドとルプスレギナが天井に当てると、そのままさとりの頭上から降り注ぐのだ。

 体に直接かけてくるシャルティアが一番マシであった。

 

(さとり様、大丈夫でございますか?)

 

「だ、大丈夫。とりあえず一時間ほど調べて問題なければ入り口のマーレたちに合流してください。デミウルゴスからナザリック内の報告も来て……おぶっ……き、来ているはずですからっ。問題なければマーレの情報を元に外部調査お願いしますっ」

 

 一方的に言って、通信を切った。

 既にさとりは、カスタード&フレッシュクリームデコレーション状態である。

 いや、頭から粥をかぶった状態と言うべきか。

 真紅のサードアイが巨大な白玉団子と化している。

 しかも四人ともまだまだ自己処理の最中だ。

 

「何回出すんですか……顔はダメですよ。天井もダメです。ここになら、かけていいですから。情報伝達の邪魔はしないでくださいよ。終わったら、きちんと満足させてあげますから」

 

 本気で溜息をつきつつ無表情で四人に言い、下着を脱ぎ。

 さとりは脚を開き。

 その奥も開いて見せる。

 四人が血走った目を向けてくるのがわかった。

 

(タブラさん、ぺロロンチーノさん、メコン川さん、炎雷さん……童貞すぎるでしょう……)

 

 嫌な物悲しさを感じながら。

 さとりは死んだ魚のような目で淡々と、マーレ、デミウルゴス、沙耶、天龍へと〈伝言(メッセージ)〉をつなぎ。情報共有をしていった。

 下半身に着弾衝撃が断続的に来る。

 彼女らは萎える気配すらない。

 下半身どころか上半身も含め、脱いだはずが白い衣装――のような粘液。

 

(ふふ……ホワイトドレスですね……)

 

 通信が全て終わったら相手せざるを得ないのかなと思うと。

 現実逃避気味に渇いた笑いを浮かべるしかない、さとりだった。

 

「あ、全員への通信終わりましたね!」

 

 食い気味にいうアルベドの言葉も耳に入るようで入らない。

 

「ここは第一階層守護者として、私が行かせてもらいなんし!」

「あの、私小さいので、できれば先に」

「あー、確かにナーちゃんは……」

「そうね。早そうだし先を譲りましょうか?」

 

 確かにシャルティアやアルベドの後では、拡がってしまうだろう。

 これからの行為について勝手に話が進むが。

 さとりとしては、いろいろ逃避したい。

 

「いや、ここはナーベラルに違う穴を使ってもらうべきでありんす。ぺロロンチーノ様曰く、三人同時相手は普通とのこと。百戦錬磨のさとり様なら、四人くらい問題ありんせん」

 

(問題ありますよ)

 

 だが、逃避すべきではなかった。

 他人事のように内心でツッコミを入れつつ。

 現実味を感じられなくて。

 さとりは、すばやく反応できなかった。

 

「なるほど。では私はファーストキス()をいただくわ」

「ぐへへ、前はいただくでありんす」

「じゃあ、私は後ろを使わせていただきますね」

「仕方ありませんね――ナーちゃん、早く代わってほしいっす! さとり様、それまで手でお願いします!」

 

 完全に順番まで決められていく。

 目の前に迫るそれに、はっと気づき言葉を発さんとする。

 

「いえ、お願いしますじゃ……んぶぅ!?」

 

 もう遅かった。

 口はふさがれ。

 解き放たれた四匹の獣は、先のさとりの言葉を都合よく解釈し。

 至高の躰を貪り始めたのだ。

 

 それでも、さとりには余裕があった。

 四人が己を目上として敬っていること、間違いないのだ。

 壊されはすまい。

 何より物理耐性と精神完全耐性がある。

 面倒な作業かもしれないが、慣れた行為。

 問題はない。

 

 なかったはずだった。

 

 さとりが知らないのも無理はない。

 ユグドラシルでR18行為は禁止されている。

 サキュバスだって設定のみで、そんな攻撃はしない。

 また、リアルのさとりは、行為に慣れていたが、それは“一方的にされる立場”に慣れていたにすぎない。

 それは待っていれば終わる。

 高齢の客なら時間をかけて味わい尽くした後、一度すれば終わる。

 若い客は乱暴に勝手にして、終わる。

 だが、彼女らは違う。

 違うのだ。

 再生能力や回復魔法、種族補正と言ったファンタジー(チート)を持つ、恋愛経験皆無の童貞の夢の結晶。しかも、色に飢えた女の欲望が上書きされて、無限発情している文字通りのセックスモンスターである。

 そして何より。

 性的ダメージは、物理でも精神でもないらしかった。それを受ける器官の無い骨やゴーレムなら別だったかもしれないが……今のさとりは、肉体上はほぼ人間と同様の器官を持つ。データとしてのみの、死の支配者(オーバーロード)

 いつものように、終わるまで耐えているつもりだったさとりは、膨大な未知のダメージ、未知の状態異常を送り込まれてしまう。

 もはや、彼女には無様に痙攣するしかできない。

 

 

「た、たいへんです、さとり様の呼吸が……脈もありません!」

「何言ってるっすかナーちゃん。さとり様はアンデッドっすよ」

「一見動かなくなっていても、ちゃんと奥を叩けば反応してるでありんす……っ、んんんっ!」

「〈負の接触(ネガティブタッチ)〉も使っておられない以上、まだまだ好きにしていいということ。いや、私たちの一方的な行為に呆れておられるのかしら。さとり様を失望させないよう、しっかり楽しんでいただかないといただかない、と……うっ♡」

「そうでしたか。では、頑張らせていただきます……っ、あっ♡」

 

 

 

「反応が悪くなった気がします」

「ナーちゃん小さいっすから……」

「シャルティア、モモンガ様を回復させて」

「じゃあ〈大致死(グレーター・リーサル)〉……って、さとり様すごい跳ねてるでありんす!」

「あっ、モモンガ様、その喉動かすの、いいですっ♡」

「何か言いたいんじゃないっすかね」

「とりあえず一段落、してからお聞き、しますのでっ♡」

 

 

 

「さとり様が、白い塊になってしまいなんし」

「揚げる前の天ぷらみたいっすねー」

「量から言うと、チーズホンデュ鍋に思えます」

「顔が泡立ってるからまだ、満足なされていないと思うのだけど」

「しかし、これではさとり様の偉大さも台無しでありんす」

「なんか萎えちゃうっすよね」

「そうだわ。至高の御方の部屋にはそれぞれ浴室もあられるはず! 私たちの手でさとり様を清め洗ってさしあげましょう!」

「モモンガ様とお風呂……まさに憧れのシチュでありんす!」

「さすがアルベド様……天才……」

「私なら、長いから奥までしっかり洗えるっすよ!」

 

 

 

「やっぱり御姿を現されると、モモンガ様は偉大すぎて……!」

「わ、私はさすがに、もう、体力が」

「大丈夫っすか、ナーちゃん。回復は任せるっす! 〈大治癒(ヒール)〉!」

「自動回復がないとたいへんでありんすね」

「私もサキュバスでよかったわ。とりあえず汚れたらすぐ流しつつ、このまましっかり楽しんでいただきましょう」

「はい! がんばってさとり様に奉仕いたします」

 

 

 

「いや……もう……やめ」

「さとり様が拒んでいるように聞こえますが」

「いや、これはぺロロンチーノ様がおっしゃっていた、おかわり要求! まだまだ手ぬるいってことでありんすよ!」

「さすが至高の御方……わたし達ではまだまだ満足いただけていないのね!」

「さとり様ぱねーっす! ナーちゃんも量と勢いはすごいっすから、回復して流し込むっすよ!」

「はいっ……さとり様に満足いただけるように……っ!」

 

 

 

「ぴくりとも動かなくなりなんし」

「アンデッドなら寝食不要のはずですが。お疲れだったのでしょうか」

「あれ? アルベド様なにしてるっすか?」

「マッサージよ。お疲れならなおのことしっかりしないと。幸いマッサージ棒もあるし」

「さすが守護者統括! その発想はなかったでありんす!」

「マッサージ中に入ってしまってもしかたないっすよね!」

「いえ、最も酷使なされた場所を、サイズ的に余裕ある私がマッサージすべきかと」

「ナーベラル、けっこう根に持ってたのね……」

 

 

 

 こうして、天龍と沙耶が様子を見に来るまで、さとりへの奉仕は終わらなかった。

 




 開幕びくんびくんからにしようかと思いましたが、四人の掛け合いが先にできたので、こんな流れに。

 第一話からけっこう取り乱してた感ありますが、モモンガさんは三人の中で一人だけ精神抑制が働いてます。
 第二話でやたら落ち着いてたのはその流れ。
 そして原作モモンガさんは骨だったから関係ないけど、同じ精神耐性持ちのシャルティアがああも状態異常同然に陥ってる以上、性的ダメージ()は各種耐性を貫通する、全年齢向けのユグドラシルでは未知のダメージ&状態異常と考えます。
 それぞれのいろんなアレコレ。

・アルベド(タブラ・スマラグディナ)
  エロ知識は偏ったサブカル系、変態プレイにやたら詳しい、恋愛経験なし
  性欲は強く、妄想癖も強い、暇さえあればソロプレイ
  追加設定で得たのはギンヌンガププ(つよい)
  さとりに容赦ない攻撃を続けている

・シャルティア(ぺロロンチーノ)
  エロ知識はもちろんエロゲ準拠、1リットルくらい出るのは当たり前
  レイプや監禁から始まる恋愛が普通
  追加設定で得たのはスポイトランス(つよい)
  さとりのHPをドレインしまくっている

・ルプスレギナ(獣王メコン川)
  エロ知識はAV準拠、凌辱モノ好き、女優よりシチュで買う派
  多彩なジャンルに手を出し、道具にも挑戦、フロンティアスピリット旺盛
  追加設定で得たのは犬のアレ(放出が10分くらい続く)
  ルプーの独占時間が長いせいで、ナーベラルのさとり使用時間は最も短い

・ナーベラル(弐式炎雷)
  ストイックなヘビーゲーマーとして己を抑制していたむっつり
  ギルメンの猥談にもっとも聞き耳を立てていた、ニンジャだしね
  追加設定で得たのはワンド系(小さい、放出エネルギー量のみ最大)
  実戦に入った途端自動解除される保護装甲のせいで、すぐ交代しがち

 至高の御方の性的なアレコレは(言うまでもなく)捏造設定です。
 軽い気持ちで流してください。
 いろいろ変な設定つけたぺロロンチーノさんにはホントすみません


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。