はぐれ悪魔と二匹の旅絵巻 (エイセイゼア-)
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1:その目が最後に見たもの

「凶れ」

 

追ってきた悪魔をアイツらが俺に付けた目玉の力を使って周りの地面ごと抉ることで一網打尽にする。

 

「……クソが」

 

抉られた地面を一瞥し俺の目的を思い出す。

 

※※※

 

むさくるしい夏の日。

俺は叔父の家で腐れ縁の幼馴染二人と縁側で涼んでいた。

 

「やっぱ三河のおじさん家って夏休み過ごすのにうってつけだよな〜」

「うっせ、おじさんが許可とってくれたから泊まりに来てるだけで絶対に迷惑かけんなよ?」

「それはもちろん。アキちゃんの迷惑にはならないつもりでいるよ」

「へーへー」

 

そこにおじさんが4人分に切り分けられたスイカを持ってきた。

 

「お待ちどうさま。秋杜(アキモリ)くんそんなに気にしなくてもいいよ。僕がいいって言ったんだから」

「そうは言っても……」

「夏寿さんの言う通りだー、そんなに気負うなー」

「そーだそーだ」

「子どもは子どもらしくしろー」

「おじさんも一緒になって遊ぶのやめない!?」

「ははっ、ごめんごめん。じゃあスイカを食べようか。お塩いるかい?」

 

毎年、俺は夏寿(ナツヒサ)おじさんの家に夏休みと春休みは泊まりで遊びに来ていた。両親は2人揃って多忙なようで小さい頃から俺の面倒は夏寿おじさんが見てくれた。おじさんは俺にとってもう1人の父親みたいなものだ。

 

「私は大丈夫ですー」

 

ホワホワしてるのは腐れ縁Aの安堂(アンドウ)雪羽(ユキハ)。まだ話が通じる方の腐れ縁。

 

「俺は頼みます」

 

そしてこっちが話が通じない方の腐れ縁。向井(ムカイ)白梅(シラツメ)。女っぽい名前のことをいじると怒るので要注意。

 

「秋杜くんはどうする?」

「んー……ならなしで」

「うん。わかった」

 

さてと……スイカを食べたあとは夏休みの宿題でも……

俺は呑気にそう思った。そんな時だった。

おじさんのお腹に大きな穴が空いたのは……

 

「……え?」

 

おじさんは俺の方に倒れるふし穴から血をドバドバと出している。

 

「素養のない人間は要らねぇーなぁ。ただ、そこのガキンチョ3人は確保だ。主は強大な力を持つやつを眷属に欲している。それがまだ自分意識が浸透してない子どもなら尚更だぁ……」

 

すぅと突然現れたそれは大きな筒をポンポンと叩きながらそういった。

 

「というわけだ。主のための奴隷になってくれや」

「……いや」

 

雪羽が俺の手を握る。白梅はそいつはギリッと睨んでいた。

 

「……あい……にく、怪しい大人にはついて行くなって散々言われてるからな。断る」

 

俺は何とか言葉を絞り出す。

 

「そ、そうだ!それに人殺しておいてこのまま無事で済むと思うなよ!」

「無事ですんじまうんだわ、それが」

 

それは背中からコウモリのような黒い羽を出現させた。

 

「俺は悪魔様だからなぁ?人間のケーサツなんかじゃ俺一人捕まえることなんざ出来ねぇ。それにお前たちも呆気なく俺に攫われてお終いだ」

 

ジリジリと近寄ってくる。

近寄っちゃいけないと何故か考えてしまう。だけど体は思うように動かない。

それは隣にいる雪羽も同じだった。

だが

白梅は違った。

 

「近寄るな犯罪者!」

 

白梅はあろう事か悪魔に体当たりをした。まだまだ子どもの俺たちの体当たり程度では微塵も悪魔の体は動かなかった。

だけど、その行動で俺たちの体は意識を取り戻したかのように動けるようになった。

 

「あぁん?」

「俺がこいつを食止める!三河と安堂は逃げろ!」

「邪魔すんなよジャリガキ!」

 

悪魔は白梅の頭をつかみ無造作に投げた。

 

「見るな!」

 

俺は咄嗟に雪羽の視界を覆った。次の瞬間。

 

白梅は庭に猛烈な勢いで飛んでいき、赤いラインを地面に引きながら壁に激突した。

 

「あーあー。やっちまった。死んだなありゃ。あの様子だと粗挽きミンチってところか?悪魔の駒(イーヴィル・ピース)でも蘇生は無理そうだな?」

 

まるで宿題の問題を間違えたような軽さで悪魔はそういった。

 

「お前……なんなんだよ……何がしたいんだよ!」

「あーはいはい。俺はお前らを誘拐したいでちゅよ」

 

悪魔がそう言うと視界が暗転した。

 

そして視界に色がすぐ様戻る。するとそこには宙に浮かぶチェスの駒と無数の宝石。それと銀のトレイの上には

 

俺の眼球が置かれていた。



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2:新しい守りたいもの

「おぉ……虹色の虹彩を持つ魔眼……《虹》の魔眼となると……」

「俺の目……返せ……」

「おぉん?あー、脳と連動してないとダメな魔眼タイプ……なるほど彼が使用して初めて《虹》のランクを持つ魔眼に……」

「返せ……」

 

白衣の男が液体が詰まった筒に浮かべられてる俺の眼球を光悦とした表情で見る。

 

「あぁ、いいですよ。いい加減にうるさかった頃合ですからね。ただ……」

 

男がそう言うと俺の眼球が2つとも液体に溶けるかのように消え去った。

 

「あ……あぁ……」

「もう少し傀儡として調整してからね」

 

※※※

 

あの日、俺が誘拐されてから一年が経った。

両目には作り直された眼球が埋め込まれセイクリッド・ギアとやらの機能を十全に活かすために体のあちこちを弄られた。

眼球を失ってからは殺意に耐え従順なモルモットを演じ続けた。

だけど、それも今日で終わる。

俺の中に眠っていた力。

神器(セイクリッド・ギア)虚栄なる真似事(ファンシーアクター)

この力は俺の体を作りかえ他人を演じることが出来るのが本来の用途。だが、あいつらは俺の魔眼、『全能の魔眼』を作り替えることで他の魔眼、それも最高クラスの『虹』の出力のものを再現した。ただ、魔眼として特化した眼球にされたため何も見えない。魔眼の力を発現させた時のみ視界が開ける。

そしてようやく制御が自由自在になるようになった。

これで歪曲全振りの虹魔眼でクソったれの首を凶げるだけで俺は解放される。

心残りは未だに雪羽と遭遇してないことだが正直今すぐにでもここから飛び出したい。

だから、俺は躊躇なく。

 

邸ごと俺を転生させた悪魔を凶げた。

 

「ふふっ……アハハ!!なんだ!この程度かよ!飼い主に首を噛まれた気分はどうだ?あ、もう死んでるか。あはは!」

 

とてつもなく簡単に凶げることができた。

ひとしきり笑い、そして複数名の悪魔が向かってくるのがわかった。魔法の才能を索敵特化にしておいて助かった。

 

「さすがに領主の邸がいきなり全壊したらそうなるか……とりあえず、逃げるか」

 

目には一瞬間に束縛の魔眼に切り替えれば済む話ではあるが……

ここで余分な時間をくうよりも追って来れないように歪曲で道を凶げた方が……いや、俺の駒はたしか騎士(ナイト)だったはず。スピードとかに補正がかかってるらしいし逃げた方がいいか。

いざとなれば視界に入れて対応すればいいし。

 

「命を懸けた逃亡劇の始まり始まりっと」

 

※※※

 

面倒くせぇ……殺すタイミングもう少し見計らったほうがよかったか?

よくよくかんがえたらどこに何があるかわからない冥界で逃亡劇もくそもない。

だって右に何があるかどっちに町があるか、どの生物が食べられるかとか全然わからん。

というか腹が減った。よくよくかんがえたらこんなにハードなことを一応小学三年生の俺がやろうとしていること自体がおかしいのだろう。

それに魔力もそれほど残ってないから何も見えない暗闇同然のところを敵襲が来た時だけ適時凶げているだけだ。

うーん、いよいよ木の枝にでもかぶりついてやろうか。

そんな時だった。

逃亡劇を開始して初めて敵意以外の感情を感じさせる()を見た。

 

「姉さま、だれか倒れてます」

「そうね。かなり衰弱してる……男の子?」

 

別に弱っているわけじゃない。ただ腹がすいてたまらないだけだ。

うん、そうに違いない。

だからさっきから鳴っているこのグーグーという腹の音も幻聴に違いないのだ。

……どっちにしろやばかったか。

 

「おなかすいてるんですか?」

「そう……なるかな」

「仕方にゃいからごはん分けてあげるにゃ」

 

※※※

 

「ふぃー、ごちそうさま。おかげで生き返ったよ」

「さすがに年が近い子が空腹で倒れそうになってたらさすがに助けるかにゃ」

 

髪が黒いほうの女の子がそういう。

 

「助けてもらったところ悪いけど、そういえば俺、指名手配とかされてないの?」

「指名手配?」

「いやまあ、されてないはずはないんだけど……」

 

今の俺ははぐれ悪魔という立ち位置にいる。本来の主を殺して逃亡しているわけだしな。

そうでなくとも十数人は殺しているだろうから人間世界なら凶悪殺人犯ってところだ。

現時点でも追っ手をかなりの数殺してるからフツーに指名手配されてると思う。

 

「というかさっきからどこ見て話してるんですか?」

「あー……うん、俺は目が不自由だからな」

「そんな子が一人でなにしてたのかにゃ?」

「逃亡生活」

「家出?」

「いや、文字通りの逃亡生活」

 

やっぱり。というべきか。

追ってがやって来る気配がする。

 

「……君たちは逃げた方がいい。俺の同類だと思われるぞ?」

 

といい気配のする方に向き直る。

……まだ視界には入らない。

環境をあんまり破壊したくはないから炎焼は使えない。

……この場なら歪曲を使ったとしたら視界がふさがるかもしれない。

なら……

掠取だな。

一目見るだけで対象の概念的エネルギー全てを掠め取る魔眼。

 

勝てるかじゃない。

一方的な蹂躙を始め……

 

と考えているところでグイと首を引っ張られる。

 

「こっちくるにゃ!」

「え?なに!?」

 

これが俺の人生のターニングポイント。

目が見えない

男の子の首根っこをつかむというありえない行為によって生まれた。

俺の新しい繋がり。

 

黒歌と白音。

無限の名を冠する龍神の少女(?)に拾われるまで

俺たちは三人ボッチで逃げ続けた。

あてもなく。

ただ生き残るために。



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