空に憑かれた者たちへ (砂岩改(やや復活))
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プロローグ






 

 

 端的に言えば自分という存在は主観的に見ても宙ぶらりんで、不安定な存在だった。思想、宗教、価値観、それが欠陥していると言うのは自分でも分かっていた。

 

 でもそれを求める必要性も大切さも私には分からなかった。

 

「ーーーーーっ!」

 

 そんな自分を化け物でも見るかのような顔で両親はこちらを見続けていた。学校のクラスメイトからも私を日本人形(Japanese doll)と読んで怖がっていた。

 

 怒られても、泣かれても、殴られても私は一言も話さずに、表情すら変えずにただ見つめるだけ。必要がないからだ、言葉を放つ必要さえも、表情を変える事さえも必要ないと思っていた。

 

 そんな時だった、私は学校の行事で空を飛んだ。実際に生身で飛んだ訳じゃない。飛行機という乗り物で空の旅を楽しんだのだ。この時、私は高校(high school)の修学旅行での一瞬の出来事。その時だった、自分の中に《無》以外の感情が芽生えたのは。

 

 こんな空を何にも縛られずに飛べたならどれだけ楽しいだろうか。そんな夢や願望に似た感情を得た私は高校を卒業後にオーシアが運営する防衛学校に入った。幸い、成績はトップを維持していたため楽に入れた。

 

 防衛大学で四年を過ごしている間もずっと一人だった。友人など必要ない、ここにはパイロットになるために来ているのだ。この頃は飛行機さえ操縦できればそれで良かった。戦闘機とか輸送機とはそんなこだわりは一切なかった。

 

 それからは勧められるがままに幹部候補生学校に行きついにオーシア空軍の訓練学校に入ることになった。この時、すでに彼女は戦闘機のパイロット候補生となっていた。

 

ーー

 

 思い出すのも億劫だが訓練学校での生活は地獄であった。思いつきで空軍の門を叩いたのは早計だったと言える。オーシア空軍は他の軍とは違い扱っている戦闘機は多種多様だ。F-16CやA-10CにF-22A、Su-57とめちゃくちゃ。それを全て問題なく扱わなければならない。配属される部隊にどの機が配備されているか分からない。

 

 本当にゼロからのスタートでの生活は本当に厳しかった。でも私は初めて実機で空を駆けた瞬間感じたのだ。

 

 

 私は生まれて初めて感情が昂るの感覚を。

 

 

 空を駆ける快感を得ながらも厳しい訓練に耐え抜く私は弱音も愚痴も吐かないし表情も変えない。

 

「お前のような奴は初めてだよ」

 

 教官の言葉と共に訓練はさらに厳しいものになった。他の同僚より遥かに多いノルマを課せられながら同じ時間に終わらせなければならない。それが辛かった。

 

 それに愛想もない私に関わる物好きは居なかった。だから私はいつも通りに一人であった。

 

「少しは愛想良くしたらどうだ?」

 

 そんな時に私に声をかけた…と言うより突っかかって来たのは同期のブラウニーだった。この時期の成績は私が一位でブラウニーが二位だった。彼女とは何度も訓練で戦って落としてきた。

 

「やめなって…ブラウニー」

 

「こいつ、訓練以外、一切話さないんだぞ。こっちをバカにしてんのか!?」

 

 他の同期も止めるがブラウニーは今まで我慢してきた鬱憤を吐き出すのを止めない。

 

「………」

 

「ふざけるな!」

 

 ブラウニーとの初の出会いは最悪だった。

 

 同期だからと言って同じ部隊に配属される可能性はほぼ皆無だ。だからこんないざこざも全く意味がないとその時、私は思っていた。

 

「おい、待てよ!」

 

 

「ここに居たのか」

 

 

「そんな所で油売ってるなよ…」

 

 正直に言おう、ブラウニーはしつこかった。ことある毎にこちらを探しだしては引っ付いてくる。こちらは一言も発さずに無漂白だというのに彼女はコバンザメのごとく私から離れなかった。

 

「しつこい…」

 

「やっと話したな!」

 

 必要に感じたので言葉を放つ。明確かつ明瞭に言葉を放つがブラウニーは逆に喜んだ。

 今までの人生でこんなにしつこい人間は初めてだ。いつも周りの人間は半年も無視されれば諦める。だが彼女は一年もずっとこちらに付きまとった。おのずと寝食を共にすることになるのだがこんな経験は初めてだった。

 

 

 

ーー

 

 それからはあっという間だった。訓練期間を終えると私はオーシア国防空軍第508戦術戦闘飛行隊《メイジ隊》に配属されることとなった。

 

 フォートグレイス基地に所属する航空隊であるメイジ隊。フォートグレイスに向かうための便に乗り込む時、私は見知った顔が目の前に居ることに気づく。

 

「まさか、お前と私が同じ基地とはな…」

 

「………」

 

 ブラウニーは特に思惑もなくそんな言葉を良い放った。彼女にとって素直な感想だったのだろう。そんな彼女もフォートグレイス基地所属のオーシア国防空軍第506戦術戦闘飛行隊《ゴーレム隊》に配属されていたのだった。

 

ーー

 

「奇遇というか、因果というか…」

 

「……」

 

「何か言ったらどうなんだ?」

 

 フォートグレイスに向かう連絡機の中では私の隣に座りながら言葉をを漏らすブラウニー。空席が目立つ連絡機の機内、ブラウニーはわざわざ自分の隣に座りながら空の光景を眺める。

 

「……よろしく」

 

「っ!?」

 

 同じ基地に所属されるのなら付き合いは長くなるだろうだから最低限の挨拶はする。これが不足か十分かは分からないが。

 

「……あぁ。よろしくな」

 

 こうして二人はフォートグレイス基地に向かうのだった。

 

ーー

 

 フォートグレイス基地にたどり着くとそこからは怒濤の流れだった。あっという間にF-16Cを与えられ訓練を重ねた。個人的にはSu系が好きだがそうも言ってられないのが現状だ。

 

 だがファイティング・ファルコンは低速かつ低空でも良好な運動性能を誇る戦闘機だ。こいつと慣熟飛行として飛び回った空は本当に自由で清々しかった。

 

 多少の制限こそあるが自由に駆けれる空。彼女はそれを手に入れて満足だった。それ以上のものはないし、求めない。なにより自由な空にいる時間こそが彼女が解放される瞬間だった。

 

 ただ空を駆ける。それだけが望みだった、だが世界情勢という奴はこんな自由な世界も汚していったのだ。

 

 第二次大陸戦争、通称《灯台戦争》が幕を開けたのだった。

 

 

 



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2話


捏造設定などが酷いですがご容赦ください



 

 

 

 訓練学校で有名人が一人いる。いつでもどこにも有名人は居るものだが彼女は異質だった。話さず、表情を変えない彼女は雰囲気も相まってまるでロボットのような人間だった。

 

 彼女は訓練中もそのスタイルを貫き、無言で訓練相手たちを叩き落とす。実技、学力、全ての科目でダントツのトップを貫いた彼女を見た同期があだ名を着けた。命じられるままに敵を追い回し、撃ち落とす。まるで《引き金(トリガー)》だと。

 

 それから同期も教官までもが彼女をトリガーというあだ名で呼ぶようになった。そうして彼女自身もトリガーだと名乗るようになった。

 

(本当に大丈夫なのか、こいつ?)

 

 およそ人間離れしている彼女を心配したのはブラウニーであった。彼女は総合成績二位の座に君臨していたがトリガーとの差は圧倒的だった。

 そう思い至ったのは彼女が一人で勉学に励んでいるとき。おそらく目の錯覚だろう、彼女が酷く寂しがっているように見えたのだった。

 

(しょうがねぇ…)

 

 そんな姿にどうしても放って置けなかった彼女はこうしてストーカーまがいの事を始めてしまったのだった。だがしばらく付き合っているとトリガーは逃げるのを止めてブラウニーが側に居てもなにも言わなくなった。

 

 一方的にブラウニーが話しているのは変わりないがこの状況の好転に彼女は密かに喜んだのだった。

 

ーーーー

 

 そんなくだらないような日々が続いていつかはトリガーと仲良くなれる。そんな事を思っていたブラウニーだったが長い平和が続くはずもなかった。なんの因果か知らないが実戦が始まってしまったのだった。

 

「諸君らは国際停戦監視軍として今日までこのユージア大陸の平和を維持してきた。今回までは…」

 

 突然、召集をかけられた一同は隊長であるノッカーの言葉に耳を傾ける。

 

「先程、我が国際停戦監視軍のレーダーサイトが接近する所属不明郡を通報してきた。直後、当該レーダーサイトからの通信が一切途絶えた。所属不明機による攻撃を受けたものと判断する」

 

 重い雰囲気の中。ノッカーの言葉は明瞭に聞こえてくる。そして現在の状況が最悪だという事も。それを察したブラウニーは戦慄する。実戦など経験したことがない、それどころかスクランブルすらかからなかった昨今の平和的な状況のおかげで訓練以外で空を駆けるのも初めて。自分達は考えうる限り、最悪な状況に置かれていた。

 

「任務を伝える。このユージア大陸における停戦協定が10数年ぶりに破られた可能性がある」

 

 そんな状況でもトリガーは眉ひとつ動かさずにブリーフィングに耳を傾ける。そこからは焦燥も不安も一切感じられなかった。

 

「国際停戦監視軍フォートグレイス基地飛行隊は本日を持って重警戒序列に移行」

 

「……?」

 

「トリガー?」

 

 そんなトリガーを見ていたブラウニーは急に首を動かす彼女を見て疑問を口にする。

 

「なんだ、爆発か?」

 

「おい、煙が上がっているぞ」

 

「攻撃を受けています。複数の所属不明機を確認!」

 

「北部のタンクファームが爆撃を受けました!」

 

 直後の被害報告にブラウニーは戦慄する。まさか、この事を察知して反応したのか?

 

(いや、あり得ない…)

 

 流石に馬鹿げた発想だとブラウニーは少し前の自分を笑うのだった。

 

ーー

 

 今までに感じた事のないざわざわした感覚にふと視線を上げた。あるのは天井だけだだがその上に何か居ることは分かった。本能的な知覚であったが。

 

「スクランブルだ!各機は直ちに離陸し当基地に攻撃を行う所属不明機を排除せよ!」

 

 あぁ、また空に行けるんだ。それは嬉しいことだ。そんな考えがあたまに過り席を立つ、それと同時に他の人たちも急いで準備を開始する。

 そんな中、トリガーの中には本当に焦燥も不安も一切無かったのだった。

 

「ハンガーが!?」

 

 吹き飛んだアラートハンガーにはメイジ4の戦闘機があり、彼は発進準備の最中であった。彼は見事に発信準備中を狙われそのまま吹き飛んだ。

 

「くっ、メイジ4…」

 

 メイジ3とクラウンが吹き飛んだメイジ4を悔しそうに見つめる中、トリガーは黙々と作業を続ける。

 

「ラダー、フラップ、スラット、全ての計器異常なし」

 

 待機していたガロン隊は真っ先に上がり敵機の迎撃に当たっているが護衛機に邪魔され本命の爆撃機に迫れずにいた。それに加え、残り一機と数を減らし絶体絶命に陥っていた。

 

「レーダーサイトは依然沈黙!」

 

「スクランブルだ、早く空に上がれ狙い撃ちにされるぞ!」

 

 メイジ1のクラウンに続いて滑走路に向かうメイジ3も同様にトリガーに続いて向かう。

 

「なにが起きた!」

 

「爆撃機が飛来。機数は不明」

 

「出るぞ、滑走路を開けろ」

 

「メイジ隊、滑走路に向かえ」

 

「ゴーレム隊テイクオフ。スカイキーパーとのリンクは完了。メイジ隊の離陸を急げ」

 

 基地のレーダー、タンクファーム、停泊中の空母までもが損傷し基地に大きな被害が広がる。

 

「トリガー。君のコールサインはメイジ2だ、確認し復唱せよ」

 

「こちらメイジ2。了解」

 

「メイジ2、離陸を許可する。事態は逼迫している。着任したばかりですまないが、君の確かな腕が必要だ、頼んだぞ」

 

「管制塔、悪いがさっさとそいつを上げてくれ」

 

 ノッカーの言葉が無線越しに流れてくるのを待たずにトリガーは離陸する。控えめにいって完璧な離陸だった。訓練の時と変わらない機動にノッカーも感嘆する。

 

「良い度胸だ」

 

「メイジ2、高度制限を解除。グッドラック」

 

 離陸の瞬間を狙っていたかのように所属不明機が背後に迫る。

 

「メイジ2、ミサイルだ!」

 

「……」

 

 ミサイル警報がコックピット内で鳴り響くがトリガーが一切の表情を変えることなく着弾の寸前で宙返りそのままの機動で敵機の背後に回る。

 

「なんだと!?」

 

「……」

 

 敵のパイロットが驚き、回避行動を取る前にミサイルを一発当てると機関銃で蜂の巣にする。無駄のない徹底した動きに援護に来たクラウンは言葉を失う。

 

「隊長、メイジ2は…」

 

「あぁ、もしかするかもな…」

 

 環太平洋戦争のブレイズ、伝説と化したメビウス1。いつの時代も戦争は英雄を産み出してきた。

 

「だがまだひょっこなのは変わりない。俺たちがケツを護るぞ」

 

「了解です」

 

 目標を捉えたらミサイルを撃ち込む。可能であれば機関銃を使う。より長く、多く空に居られるための努力は惜しまない。

 ただ空に居るために空に居る敵を落とす。それがここに居るための条件なら喜んで叩き落とそう。

 

「……」

 

 最後の爆撃機を落とす。これが最後だ…だがこれで地上に戻らなければならないのだと思うと少し気が重い。

 

「メイジ2、お手柄だ。編隊長、トリガーは使えますよ」

 

「たった一度の出撃で実力など分からん。それに手柄などと考えるな。ただ生きて帰れば良いんだ」

 

「隊長の意見に賛成です」

 

 トリガーの訓練と全く変わらない動きに戦慄したのはメイジ隊だけではない。ブラウニーもノッカーも同じであった。

 

(もしかしたらとんだ暴れ馬かもしれんな)

 

 ノッカーは改めて気を引き締めると無線から声が聞こえてくる。

 

「南の海、ガンター湾のエメラルドの水を乱したその上に」

 

「なんだ?」

 

「声?」

 

 どこからか混線してきた声が全員の耳に届く。

 

「エルジア王国王女、ローザ・コゼット・ド・エルーゼです」

 

「……」

 

「国民のみなさん」

 

 途切れ途切れ聞こえてくる声にトリガーは静かに耳を傾ける。心なしか安心を感じる純粋無垢な声、トリガーはそれをただ聞き入るだけであった。

 

 

 






 最後まで読んでいただいてありがとうございます。
 ではみなさん、よいお年を!


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3話

 

「オーシア連邦大統領府は非常事態権限法を発令。ユージア大陸派遣停戦監視軍含むオーシア陸海空軍に対し、ただちに反撃準備に移るよう命令を下しました。国民の皆さん、我が国は戦争状態に入りました。繰り返します」

 

 フォートグレイス基地の食堂に設置されたテレビに生き残ったものたちは食い付きニュースを耳にする。改めての宣言に固まるものもいれば緊張で喉に食事が通らない者たちもいる。

 

(戦争が始まった…)

 

 ブラウニーもその中の一人であったがトリガーは相変わらず黙々と食事を口に放り込み関係ないとばかりに食事を続けていた。

 

(次の出撃は何時だろう…)

 

 彼女にとって空を飛べるか飛べないか。それだけが重要だった。そこに戦争もなにも関係ない。相変わらず彼女は変わっていなかった。

 

ーー

 

「今回の目的はレーダー車両だが対空兵器や軍用車両も存在している」

 

 トリガーたちの次の任務は言葉通りすぐやって来た。軌道エレベーター奪還作戦の先遣隊に加わったのだった。

 スコフィールド高原に展開する敵部隊を退け進撃する味方の援護をすると言うのが今回の任務だった。

 

「目標を破壊せよ。ただしHQからは民間人、民間設備に対する損害は絶対に出さないように申し付けられている」

 

「しかし…撃墜された機体が民間区域に落ちる可能性もありえます」

 

「ゴーレム2、つべこべ言うなこれが今の戦争だ」

 

 ブラウニーやノッカーたちがなにか話しているがトリガーにとってはどうでも良いこと。目の前の敵を落とし任務を忠実に実行する。それが空を駆けられる唯一の手段だ。

 

(また飛べた…)

 

 そんな感慨と共にトリガーは地上に展開しているレーダー車両を黙々と破壊していく。

 

「全てのレーダー車両を破壊。良くやった」

 

(いた…)

 

 レーダー車両を破壊と同時に敵の前線基地に差し掛かったトリガーはミサイルと機関銃でタキシング中の輸送機を破壊。先頭でタキシングしていた輸送機が火の玉になったおかげで他の輸送機が足止めされる。

 

「流石だなメイジ2、手が速い」

 

「どうも…」

 

「相変わらず可愛げかないのも相変わらずだな」

 

 メイジ3の軽口を流しつつ迎撃に上がったMig-21の後ろに陣取る。

 

「くそっ、後ろに着かれた!ブレイクする!」

 

(遅い…)

 

 Mig-21が回避行動を取る前に落としそのままの軌道を取り立ち往生している輸送機を片っ端から破壊する。

 

「良いぞ、メイジ2…っ!?」

 

「!?」

 

 トリガーが破壊した輸送機から巨大な爆発が発生、その余波で機体が揺れる。突然の出来事に彼女も二度見する。

 

「射出準備完了。ロックボルト解除、いつでもどうぞ」

 

「よし、15メートル離れろ」

 

「UAV射出用意、射出!」

 

 基地の端に展開していたトラックから飛翔体が射出。猛スピードでこちらに迫ってきた。

 

「状況報告!」

 

「不明機が複数出現。近いぞ!」

 

「何かから発進。いや、射出された模様」

 

「交戦せよ。敵機である可能性が高い」

 

 ヘッドオンで仕留めるために加速したトリガーだがロックオンしたはずの敵機は猛スピードを維持しながら急激な軌道を取りあっという間にロックオン範囲どころか視界からも一瞬で消える。

 

(速い…)

 

 シミュレーションでも体験しなかった圧倒的な機動性にトリガーは息を飲んでさらに加速する。

 

「あの戦闘機の機影。あの動き、あいつら無人機じゃないのか?」

 

「目が良いなクラウン。間違いない、UAVだ」

 

 無人戦闘機。エルジアが戦力として採用した切り札。その力は凄まじく、ゴーレム、メイジ共々その機体の圧倒的な機動性に翻弄される。

 

「だがやる事は変わらん。多少賢いデコイのような物だと思え、全機撃ち落とすぞ!」

 

「後ろに着かれた!」

 

 UAVに後ろに張り付かれ雲の中を逃げ回るブラウニー。他の機も他のUAVの相手に手一杯だ。

 

「このままだと!」

 

 最悪の考えが頭をよぎった瞬間。F-16CがブラウニーとUAVの間に割り込みながら機関銃で牽制、二機を引き剥がす。

 

「トリガー!」

 

 助けたファルコンは尾翼に銃を咥えた犬のマークが描かれていた。ブラウニーは歓喜の声を上げながらも彼女の後ろに追随していたUAVに向けてミサイルを撃ち込む。

 

「かわされた!?」

 

「UAVは機動性が高い。ハイGターンをうまく使え!」

 

 完璧な位置取りからのミサイルを軽軽と避けられて驚くブラウニーをよそ目にトリガーは宙返りで背後に回り込み至近距離で機関銃をお見舞いし撃ち落とす。

 

「す、凄い…」

 

「敵TAVを撃墜、良くやったな。ゴーレム隊、メイジに手柄を全部持っていかれるぞ!」

 

「良くやったぞ、メイジ2!」

 

「メイジ3、ミサイルだ!」

 

「っ!?」

 

 一瞬の隙を突いた無人機がメイジ3にミサイルを直撃させる。ファルコンは耐えきれずにそのまま爆散、パイロットも絶命する。

 

「メイジ3!」

 

 クラウンの叫びと共に爆炎から飛び出す無人機。それを見逃さないトリガーはそのままヘッドオンで撃ち落とす。

 

「トリガー…」

 

 味方が撃ち落とされたと言うのに動揺すら見せないトリガー。むしろその爆炎を利用して無人機を落とす行動は一種の恐怖すら感じさせられる。

 

「トリガー、メイジ3が殺られた…」

 

「…はい」

 

 一切の感情が乗せられていない返事にクラウンは密かに戦慄する。その一方、トリガーは微かな怒りを感じていた。

 

(狭い…)

 

 無人機に追いかけ回され周りの奴等は群がってやっと無人機と戦っている。必然的に無人機を数機、トリガーが掛け持つ形になってしまった。

 

(狭い狭い狭い!)

 

 完全に行動を制限されたトリガーは初めてこの大空を狭いと感じさせられた。大きくて自由な空を汚されたトリガーの心中は穏やかではなかった。

 

ーー

 

「あのバイパー、動きがいいな」

 

「あぁ、無人機2機相手に粘ってやがる」

 

「俺は奴を仕留める。お前たちは無人機に群がっている奴等を殺れ」

 

「了解しました!」

 

 基地守備隊のMig-21、3機は隊長機がトリガーの元に向かい他の機はゴーレムとクラウンが戦っている戦域に向かう。

 

「もう一機…」

 

「無人機相手に疲れているだろうが。これも戦争だ」

 

 無人機相手にドックファイトをしていたトリガーは意識外からの攻撃に周囲を見渡す。ミサイルはなんとか回避したが機関銃の攻撃を少し貰う。

 

「流石に3機相手じゃ辛かろう」

 

「メイジ2!…くっ!?」

 

 トリガーの危機に駆けつけようとするクラウンだが他のMigに阻まれ近づけない。

 それと同時にトリガーは機主を起こして急上昇、雲に突っ込む。それを追う3機。

 

「悪あがきを…うお!?」

 

 雲から出た瞬間ファルコンが目の前に迫ってきていた。それを避けるMigと無人機。

 

「特攻か…違う!」

 

 視界が開けた瞬間に失速したファルコン3機の後ろに回った瞬間加速して姿勢を維持、その瞬間にMigからは警告が鳴り響く。

 

「実践で木の葉落としだと!?」

 

「……」

 

 3機をロックオンしたトリガーは4AAMを発射。3機は避けられずにミサイルが直撃、3機同時に撃墜されるのだった。厳密には違うのだが隊長がそう錯覚してしまうほどのマニューバに流石の無人機も対応できなかった。

 

「ナイスキルトリガー!敵機の全滅を確認!」

 

「ピクチャークリア、各隊良くやった!ミッションコンプリート RTB」

 

 メイジ3が撃墜されたが無人機の奇襲を掻い潜った者たちは安堵の表情を見せる。

 

「認めるよ、クラウン」

 

「ノッカー…」

 

「アイツは化け物だ。とんでもない逸材が来たものだ」

 

とんでもない活躍を見せたトリガー、二人は先程と変わって静かに飛んでいる彼女を見つめることしか出来なかった。

 

 

 



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