グルメ料理人が行く遠月学園 (でち公)
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グルメ料理人が行く遠月学園

気分転換に書きました

読む時は深く考えず読もうな!


 とある一室にて1人の青年が2人の女性に詰め寄られていた。

 

 1人は金髪に近い薄茶色のロングヘアーの容姿端麗であり、『神の舌』の異名を持つ薙切えりな。

 もう1人は同じく容姿端麗で、髪はツヤのある美しい銀色の北欧系の容姿をしている薙切アリス。

 

 その両名に詰め寄られている青年は顔を真っ青にしながら壁際へと追い詰められていた。

 

「やっと、やっと会えたわ。どれほど私がこの瞬間を待ち望んでいたか。もう絶対に離さないから覚悟しなさい」

 

「本当に探したのよ。家の権力使っても全然見つからないし、でももう逃がさないからね」

 

「新戸ちゃん、リョウ助けて!」

 

 壁際に追い詰められた青年は新戸緋沙子という女性と黒木場リョウという青年に助けを求めた。

 

「こうなったのも貴方のせいです。甘んじて受けてください松永さん」

 

「そうだぜ、兄貴が急に消えたせいでこっちも大変だったんだ。その罰をここで受けろ」

 

「そ、そんな━━ヒェッ……」

 

 呆気なく2人に見放された青年は何処か怖気の走る笑みを浮かべて此方に近づいてくる2人を見て遂に情けない声を上げてしまった。そしてついに恐怖がピークに達した時青年は懐からあるものを取りだした。

 

「この松永正秀(まつながまさひで)ッ! 捕まるくらいならば潔く自爆することを選ぶッ!」

 

 青年は2人がなにか言おうとする前に取りだした白く丸いものを思いっきり地面へと叩きつけた。

 

 そして爆発━━ではなく、白い煙が部屋一帯に充満し始めた。

 

「ゲボッゴホッ!」

 

 噎せ込む4人を他所に青年にその部屋に唯一あった窓の前に立ち高笑いを上げる。

 

「ハーッハッハッ! 爆死なんぞ今度こそごめんだっつーの! 俺は華麗に逃げさせてもらうぜ! あばよ、お前達━━ゲホッ……」

 

 最後に自分で発生させた煙に噎せてしまい、格好がつかないまま備え付けられていた窓から飛び降りて青年は逃げ出した。

 

 ◆

 

 

 日本にある孤児院にて1人の男の子が人目のつかないような階段の隅っこで手で顔を覆っていた。その男の子は子供が吐くようなものでは無いほど大きくため息を吐いていた。

 

「今回で2度目の転生。小松さんやののさん、節乃さん、大竹先生達には悪いことしちまったなぁ……」

 

 この世界に転生してはや6年。どうやら俺こと松永正秀はまたしても転生を果たした。そしてついでに5歳の誕生日の日に前世と前前世の記憶が蘇った。

 

 思えば随分と酷い死に方をしているものだと思う。

 

 1回目はごく普通の世界で爆破テロにより爆死。

 

 2回目はトリコが完結した後の世界に転生を果たし、GODが食べられる孤児院こと大竹先生が経営する料理店兼孤児院にいた。そこで大竹先生やそのご友人である小松さん、ののさん、果ては美食人間国宝の一人である節乃さん達の超有名な料理人の人達に料理を教わって生きていた。そりゃあもう色んな調理法や食義とかを教えてもらった。それで大竹先生達に一人前として認められたから、宇宙に旅立ったのだが、まさかのキャンピングモンスターが大爆発を引き起こし盛大に爆死した。

 

 二度あることは三度あるという今生も爆死してしまうんじゃなかろうか。そこまで考えたところで不意に脳裏にそこで自爆ですと笑顔で言いそうな軍師が浮かんできた。

 

 頭を左右に振りかぶりその妄想を打ち消す。

 

 今生ばかりは爆死してなるものか。

 

 そう言えばこの世界だが、どうやら『食戟のソーマ』の世界らしいことが分かった。というかこの前テレビで遠月学園のことが映っていた。またしても料理系の世界に来たということはどうやらこの世界でも料理人をやれという神様のお告げに違いない。

 

 幸いこの世界でも食義や調理技術も問題なく使えるみたいだし、食材の声も聞くことは出来た。あとどういう訳かこちらの世界の食材をグルメ食材に変化させることも出来るようだった。

 

 とは言え変化させるにはそれ相応のカロリーを消費してしまう。それも捕獲レベルが高ければ高いほど消費カロリーも増える。実際この前豚肉を宝石の肉(ジュエルミート)に変化させたところカロリー不足でオートファジーが発動して危うく死にかけた。

 

 この幼い体では大してカロリーも貯めておくことは出来ないし、食没しようにもこの孤児院は結構困窮しているから沢山食べることは出来ない。

 

 というわけで俺はこの孤児院から出ていこうと思う。まあ、食っていける手段はあるにはあるんだから一人でもこの孤児院からいなくなればその分他の子供達にお金を回せると思う。

 

 というわけで置き手紙だけ置いてさいなら。俺の分まで他の子供たちに食べさせてくれー。そんなことを思いながら孤児院から脱走する。多分色々と慌ただしくなるだろう事は間違いないだろうけど本当にごめんね! 

 

 取り敢えず孤児院から脱走を果たし、海辺近くへとやって来た。これから何をするかと言うと国外逃亡を図る。というのもこの日本じゃ狩猟がしにくい上に6歳の子供が真夜中に彷徨いているとなるとまず間違いなく児相や警察に連絡が行く。

 

 海外だってそうなる可能性は高いだろうが、それでも日本よりかは大分マシだろう。あと、狩猟がやりやすいというのもある。

 

 狩猟した生物の肉を使ってそれをグルメ食材へと変貌させて屋台料理や売り歩きなどをして日銭を稼いで生きていけばいい。ろくな調理器具は無いが一部のグルメ食材はそのまま食べれるものある。最初はそれを売って金を稼いだら調理器具を買うとしよう。

 

 さて、取り敢えずは北欧辺りに向かうか。あそこは魚が有名だし、それに準じたグルメ食材でも売り捌けばいいだろう。ついでにあちらに泳いで行くまでに何匹かカロリー摂取用の魚を取っていこうか。

 

 前世ならば海の上を走っていけたんだが、さすがにこの体では海の上を走ることは出来なかった。というわけで念入りにストレッチをして体をほぐすと海に向かって勢いよく飛び込んだ。

 

 いざ、北欧へ!




主人公は今生も爆死しますね、間違いない(名前を見ながら)


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北欧目指したらアメリカに着いた

ま、そうなるなっていう




 北欧目指した結果、何故かアメリカに着いた。思えばただ北へ向かって泳げばいいと考えたのが間違いだったんだ。クソ広い大海原に身一つで行くのはさすがに馬鹿だった。でも流石にアメリカ着くのは予想外だった。

 

 それはそうとしてアメリカについてはや1ヶ月経った。海に潜って捕まえた魚をグルメ食材へと変貌させ、山に行っては動物を狩猟してグルメ食材へと変貌させ、時にカロリー不足で死にかけたりと色々とあったが、無事に調理の基盤を整えることが出来た。

 

 最初期のホネナシサンマにはどれほど助けられたことか……。

 

 串に刺したホネナシサンマを海塩を振りかけて焼いただけのシンプルなものが飛ぶように売れたからなあ……。おかげで予定よりも早めに調理器具を買い揃えることが出来た。それから時間と金はかかったが、前世でも使っていた移動式屋台も完成させることが出来た。

 

 さてそろそろホネナシサンマではなく、本格的に調理したものを売っていく。つまりは屋台でその場で調理したものを販売するのだ。

 

 それじゃあ今回は……そうだな、ストライプサーモンとレッドチーズのホイル焼きで行こうか。味付けは醤油バッタからとれる醤油と七味酒を使うか。前世の方ではどれも安価で手に入るものだったから修行時代には良く使っていたな。

 

 主役のストライプサーモンとレッドチーズを目立たせたいからその他の食材はこのふたつの味を際立たせる調理にするか。

 

 醤油、七味酒、すりおろしニンニク、塩、胡椒を混ぜ合わせた特製のタレに切り分けたストライプサーモンの身を10分ほど漬け込む。

 

 その間に玉葱、人参を薄切りに、しめじはしっかりと一房ずつ分ける。ついでに食義を使って食材たちに一手間加えて……。

 

 後は人参、玉葱、しめじ、ストライプサーモンの順でアルミホイルの上に置いて、その上にレッドチーズを削ったものをかける。後はアルミホイルで器を作り、そこにストライプサーモンを漬け込んでいたタレを入れ込む。そして最後にバターを一欠片入れる。そうしたら後は中に空気を含めるように包む。

 

 後はこれを炭火で焼き上げる! 

 

 や、本当はオーブンがあればよかったんだけど流石にそこまでものを用意することは時間が足りずに出来なかった。まあ、仕方ないね。

 

 さてと、後は使い捨てできるフォークとナイフと紙皿。あとは追加で作るようの食材を用意して……。おし、準備完了。

 

 椅子と机がある広場に向かってイクゾー! 

 

 ◆

 

 いやあ、グルメ食材様々ですわ。

 

 前にここにホネナシサンマを売りに来た時に買ってくれた客がリピーターとしてまた買ってくれた。しかも売っているところの近くでアルミホイルを開封してくれたもんだから、ストライプサーモンとレッドチーズのホイル焼きの匂いが辺りに一気に拡がった。

 

 おかげでその匂いに吸い寄せられた人達が我先にへと買ってくれたぜ。かなりの量を作ってたけど1時間もしないで全て捌けた。元手もそんなにかかってないし、黒字も黒字。今日だけで3ヶ月は何もしなくてもいいだけの売上になった。

 

 まあそうは言っても戸籍を偽造しなきゃならんのでまだ稼ぐ必要がある。どうやって偽造するかと言うとまあ、あれだ。蛇の道は蛇って言うからな。賄賂の為にも金を稼ぐ必要がある。

 

 目標金額が貯まるまでこのアメリカのあちこちで販売するつもりだ。一箇所にとどまっていたら役所とマフィアの連中がやかましいんでな。

 

 そんな訳でこの区画も名残惜しいが移動するつもりだ。

 

 が、その前に調理してたらカロリーがガリガリ削れた。お腹が減りすぎて腹と背がくっ付くどころか腹部が消滅しそうだ。

 

 そんな訳で賄い飯を作る。ふふ、賄い分はきちんと確保済みだ。それに今日は今生で初めて屋台経営をしたという特別な日。つまりは贅沢が許されるのだ。そして贅沢というのはきっちりやらなければならない! 何処ぞの班長もそう言っていた。

 

 故に今日の賄い飯は宝石の肉(ジュエルミート)で作るメテオガーリックステーキだ! 

 

 油は勿論小松さんが発見したサラサラで油切れがよく、ゴマ油のような濃厚でコクのある風味を持つモルス油! そして宝石の肉には素材本来の旨味を増幅させるような繊細な塩分濃度を持つ寿司塩とあられこしょうを使う! 付け合わせにはベジタブルスカイ産の馬鈴薯、人参を使おう! 

 

 さあ、メテオガーリックステーキをつく━━

 

「すまんがここで売っているのは全て売り切れてしまったのかの?」

 

 思わずずっこけそうになった。せっかく人が気合い入れて作ろうとしている時にタイミングよく来たよ。ったく、誰だぁ? 

 

 踏み台に登って来た客の顔を見ると何とも個性が強いというかアクが強い人が立っていた。

 

 前髪を後ろに流し、特徴的なまろ眉が良く見える。その上容姿が素晴らしく整っている和服を着た美人が扇子を持って屋台の前に立っていた。

 

 流石自由の国アメリカ、こんな格好してる人もいるんだな。

 

 思わず感心していると目の前の女性が驚いた様に此方を見てきた。

 

「なんと、坊がこの屋台の店主だったか」

 

「いえいえ、俺はただの売り子ですよ。お父さんが作ったものを売ってるだけです」

 

 まあそういう設定なんですけど。

 

「ほお? そうは言うがこの辺りには坊の父らしきものは見当たらぬが?」

 

「や、今お父さんは所用で離れてるんです。お父さんに用があるなら帰ってくるのが遅くなるって言ってましたし、また後日お越し下さい」

 

「……ま、そういうことにしておいてやろうかの」

 

 あー、売り切れた時点でさっさとトンズラこくべきだったか。なんか厄介そうなのに目付けられた感あるぞ。これは明日移動しよーっと。

 

「それでこの屋台で売っていた鮭のホイル焼きは売り切れてしまったかの?」

 

「申し訳ございません。既に全て売り切れてしまいました」

 

「そうか、それはとても残念じゃの……」

 

 売り切れたことを伝えると女性は見ているこっちが気の毒になるほど落ち込んだ。まるで求めていたものがようやく手に入ると思った矢先に急に目の前から消えてしまった。そんなことを思わせるほどの落ち込みようだった。

 

「あの、お腹空いてるんですか?」

 

「ん、まあの」

 

 ……そうか、お腹減ってるのか。なら、うんそうだな。お腹が減ってるのであれば作らないとな。お腹を空かせたまま帰らせるのは料理人の恥だ。

 

「売り切れならば仕方あるまい。また後日来させてもらう━━」

 

「今から賄い用のご飯を作るつもりだったんです。良ければ食べませんか? もちろん賄い用ですからお代は要りません」

 

 お腹を空かせている人がいるならばお腹を満たして幸せにする。それは大竹先生達から教わった大切な教訓だ。

 

「む、良いのか?」

 

「ええ、勿論ですとも。それに幼いですけどこう見えて腕には自信があるんです。思わず笑顔になるくらいに美味しいものを作ってみせますから」

 

「ふふ、ならばお願いしようかの」

 

 女性はそう言って笑うと近くの椅子を持ってきて屋台の目の前に座った。何が出来るのか、まるで童のように楽しそうにこちらを見ながら待っていた。

 

 よし、食義も食運もカロリーも今まで培ってきた調理技術も俺が持つありったけのものを調理に注ぎ込むぞ。

 

 まずは最初に付け合わせの下拵えをしよう。ベイクドポテトと人参のグラッセを作るためにベジタブルスカイ産の馬鈴薯を綺麗に洗い皮ごと蒸す。そして人参のグラッセの方はオリーブ剥きにしてミルクジラからとれるミルクを加工したバターとほんのりとした甘みを持つ雪砂糖を入れたら人参がひたひたになるくらい美味なるウォーターを入れて煮込む。

 

 そしたら次に宝石の肉の下拵えをする。まずは今回のステーキを提供するべきに当たって宝石の肉からフィレ肉の部位━━その中でも最も希少な部位に該当するシャトーブリアンを見極めて切り出す。

 

「……ここか」

 

 ビンゴ。このキメ細やかな霜降り、けれどサーロインの部位のように脂肪分が多いわけでもなく、赤身が多いというのにサーロインに匹敵する柔らかさ。間違いなく此処がシャトーブリアンだ。

 

 切り出した宝石の肉をキッチンペーパーで包み、余分な水気を取る。そして水気をとったら寿司塩、あられこしょうを振りかけて宝石の肉に馴染ませる。

 

 上質なステーキは塩と胡椒だけでも十分美味い。だが、今回は宝石の肉のインパクトにも負けないメテオガーリックを風味付けに使う。

 

 とは言えメテオガーリックは味は一級品ではあるが別名ドーピングガーリックとも言われるほどのグルメ食材。食べれば一瞬で全身ムキムキになる。流石にそんなものをそのまま食べさせる訳にはいかないので、食材の声、食義、食運、そして今まで培ってきた調理技術を用いてドーピング作用をちょっと元気になるくらいにまで抑え、その分旨味を引き出す調理を施す。

 

 薄くスライスしたメテオガーリックとモルス油を厚手のフライパンに入れ、モルス油としっかり馴染ませたら弱火で温める。泡が出始めたらメテオガーリックがフライパンの底について焦げないように傾ける。こうすることでメテオガーリックに均一に火が入る。

 

「む、この香りはにんにくか。けれど今まで嗅いだどのにんにくとも異なる力強い香りじゃ。なんとも食欲を唆る香りじゃの」

 

 メテオガーリックがきつね色になったので、それを取りだす。そしたらメテオガーリックの香り付けが完了したモルス油を強火で一気に温める。

 

 そして180度前後まで熱したモルス油に厚めに切った宝石の肉を入れる。時間は約1分30秒ほどだ。これはあくまで目安なので自分の目で焼き色を見ることが大事だ。それもステーキならば尚更。

 

「……いい香りじゃ。これならば、これならば期待できるかもしれん」

 

 ……ここだ。

 

 厚めに切った宝石の肉の側面もしっかりと焼き上げてからひっくり返し、約2分弱火寄りの中火で焼き上げる。この時に先程取りだしたメテオガーリックを再度入れ込む。こうすることで更に強く香り付けすることが出来る。また、全面に焼き色をつけることで肉汁を封じ込めることが出来るのだ。

 

 よし、出来た。

 

 後は火を消してメテオガーリックを取り出してから落し蓋をして約2分蒸らす。蒸らし終えたら宝石の肉を取り出し、10分間休ませる。こうすることで旨味をきちんと閉じ込めることが出来るのだ。

 

 その間に付け合わせの仕上げをしよう。蒸した馬鈴薯を皮付きのままくし切りにカットしたらモルス油でカラッと揚げる。それが終わる頃にはちょうど人参のグラッセの方も煮汁が全て蒸発していい頃合いだ。これで付け合わせは完成だ。

 

 後は宝石の肉と付け合わせを盛り付けて、仕上げにキツネ色に焼けたメテオガーリックを散らせば完成だ。

 

「おまたせしまし……うおっはぁ……」

 

 料理に集中して気づかなかったが、なんとも酷い光景になっており、思わず変な声が出てしまった。宝石の肉が焼ける匂いに誘われたのか周辺にいた客が涎を垂らしながら屋台の周りを囲んでいた。

 

「ああ、ようやく完成か。ふふっ、この香りを嗅いでから何とも確信めいた予感があるのじゃ。きっとこの料理ならば私の舌を満たしてくれるという予感がの」

 

 なんか格好良さそうなこと言ってるけど涎が垂れてるせいで色々とアウトだよ。

 

「ええっと、こちらガーリックステーキになります」

 

「うむ、では実食させてもらおう」

 

 よーし、今絶賛オートファジー発動しちゃってやばいから俺も食べるぞー!

 

「それじゃあ、俺もいただきま━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━それは突然の事だった。

 

 俺が宝石の肉を頬張ろうとした瞬間、周りを囲んでいた民衆の服がパァンと破裂音を立てて盛大に弾け飛んだ。

 

「━━ぁー??」

 

 正確に言うのなら男はパンツを除き全て服が弾け飛び、女性は乱暴されたのかと疑いたくなるくらいに服がはだけていた。そして一番の問題なのは今実際に俺の料理を食べている女性だ。

 

「うぅ、ひぐっ、ぐすっ。ふふ、ふふふ」

 

 他の女性にも負けないくらい服をはだけさせた上に、泣いたと思ったら笑って、笑ったと思ったら怒ったような顔を覗かせ、かと思ったら童のように喜んだ姿を見せて、そしたらまた泣くを繰り返していた。

 

 まるで喜怒哀楽の感情が爆発してしまったかのようだった。

 

「あ、あのー、もしかして不味かったですかね……?」

 

「ぐすっ、いや、そんなことは、ふふふっ、ないぞ」

 

 やっべえ、此奴もしかしてシャブやってたのか? こんな反応前世含めて初めてなんですけど。あと周囲の奴らも色々とやばいでしょ。なんで急にみんなはだけたの? しかもそれだけじゃなくてなんで皆そんなに恍惚な表情してるんだろうか。

 

 えっ、なん、こわぁっ!? 

 

 あまりに異様な光景に戦々恐々としていると目の前にいた女性は涙を流しながらまるで一口一口噛み締めるようにゆっくりと咀嚼をして食べ進めていった。

 

「私は味に絶望していた。私の舌を満たしてくれるものは無いと。ああ、けれどそれは間違いじゃったんじゃな。私が知らないだけで私を満たしてくれる(希望)はあったんじゃな」

 

 な、なんか凄く感動してくれてる……のか? いや、これトリップしてるだけなのか? いかん、どっちだコレ。

 

「美味い。ああ、ただ美味い。それしか表現が出来ぬ。どれほどの言葉で着飾ろうともそのどれもが陳腐な言葉にしかならぬ。なればこそ、この料理には美味い。ただその言葉のみがふさわしかろう。ああ、この料理こそ私の希望。ふふっ、この料理が光り輝いて見えるよ」

 

 いや、実際に光ってますよそれ。なんなら提供した時から光ってましたよ。そんなことを考えていると此方をじっと見つめてきた。いかん、考えている事が読まれたか?

 

「お前の名を聞きたい」

 

「え、えーと松永正秀ですけど……」

 

 思わず本名バラしてしまったが大丈夫だろうか。

 

「松永正秀……。しかと覚えたぞ、その名前」

 

 ごめん、やっぱ忘れてくれない? だめ? 

 

「ご馳走様。とても美味しかったぞ。また食べに来させてもらうかの」

 

「あっ、はい。どうぞまたいらしてください」

 

 明日にはもう別の場所にいるけどな! それに何だかこいつから厄介事の匂いがプンプンするぜ! そんな奴とは関わり合いになるもんじゃあねえぜッ! 

 

 付け合わせまで綺麗に完食した女性は椅子から立ち上がり、こちらに一礼してから去ろうとして不意にもう一度此方に振り向いた。

 

「ああ、そうじゃった。正秀とはこれからも長い付き合いになりそうじゃから私の名前も言っておこう。私の名は━━」

 

 此方に振り向いた女性はまるで花の様な朗らかな笑みを浮かべて自身の名前を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━薙切真凪(なきりまな)じゃ」

 

 よーし、今日中に別の州に行くぞー!




アリスちゃんに絡ませようとしたら何故か真凪さんが絡んできた。(・3・)アルェー?

料理はまあ、素人の浅知恵なので優しめに見てくだせえ

というか、真凪さんの喋り方ってこれでいいんですかね?


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幻術か?

主人公の異能が開花しちゃった。




 おっかしいねぇ〜? 人目のつかない山道とか使って昨日販売した場所からかなり離れた州に来たって言うのになぁーんでここにいるですかねぇ! 

 

 ねー、ニコニコと微笑んでいる真凪さん? 

 

「して、正秀よ。今日は何を味わわせてくれるのじゃ?」

 

 開店して1時間もしない内にやってきた和服美人の薙切真凪さんはニコニコと大変素晴らしい笑みを浮かべて屋台の前に立っていた。

 

「えっと、今日販売してるのはハンバーガーです」

 

「ほほう、ハンバーガーか。先程から周りの者が幸せそうに頬張っていたものじゃの! ではそれを1つ、いや3つ貰おうかの」

 

「3つですか? 結構大きめですけど……」

 

「構わんよ」

 

「じゃあ少しお待ちを」

 

 屋台に備え付けていた冷蔵庫に休めておくことで全体に水分が回ったハンバーガーの特製パティを3つ取り出し、ネオトマト、羽衣レタス、ベジタブルスカイ産玉ねぎ、とろけるミネラルチーズも用意する。

 

 取り出した特製パティを熱したフライパンに入れる。すると、ジュウッと肉が焼ける音とともにスパイスが香り始める。

 

「んー! 何とも食欲をそそる良い香りじゃ」

 

 中火で表面をこんがりと焼き上げるとひっくり返して弱火でじっくり焼いていく。その際に落し蓋をして中まで火が通るようにする。

 

 そしたらパティが焼き上がるまでにバンズに挟む野菜達をカットしていく。

 

 ネオトマトと玉ねぎは輪切りに羽衣レタスは冷水で洗ってシャキシャキとした歯応えを際立たせる。輪切りにした玉ねぎは焼き目をつけて甘みを出す。

 

 フライパンから聞こえる肉のパチパチと焼ける音に耳を澄まし、最適なタイミングで取り出す。

 

 よし、ここだ。

 

 落し蓋を取った瞬間、最初に香っていたスパイスの匂いが比にならないほどの香りが周囲に炸裂した。

 

「はうっ! な、なんじゃこの香りは……。もはやまるで爆弾が爆発したかのような衝撃を脳髄が駆け巡ってしまう!」

 

「?????」

 

 なんで真凪さんははだけてるんですかね? 

 

 なんか周りにいる人たちもボタンが弾け飛んで胸元がガバッと空いたりしてどんどんはだけていってるんですけど。

 

 ラッコ鍋してるつもりないんだけどなあ? 

 

 ま、良いか……いや、良くはないけども。取り敢えず料理に集中しよう。

 

 焼き上げたパティをフライパンから取り出すと羽衣レタスで包み込む。それが出来たら盛り付けに入る。下から玉ねぎ、ネオトマト、羽衣レタス巻きパティ、とろけるミネラルチーズ、最後に特製のタレをかけてバンズで挟めば完成だ。あとは食べやすいように包装紙で包んで上げて2つは袋に入れてもう1つは真凪さんに直接手渡した。どうせすぐに食べるだろうからね。

 

「おまたせしました」

 

「うむ、では早速ひとつ……」

 

 真凪は包装紙を開けて、ハンバーガーから昇る香りをすうーっと深呼吸をするように嗅いだ。

 

「はぁー、スパイスの効いた良い香りじゃ。ナツメグ、ニンニク、エシャロット等のが入っておるのぅ……。では冷めないうちに1口いただくかの」

 

 あー、なんか嫌な予感がする。

 

 そんなことを思った正秀を他所に真凪は口をあーんと開き、ハンバーガーにかぶりついた。

 

 そして昨日と同じような地獄絵図が発生した。パァンと服が破裂した音が辺りから鳴り響き、周囲の人達が次々と露出魔に強制的に変貌されていく。なんと酷いテロだろうか。

 

「ん〜っ! この味! パティに混ぜてあるのは牛ホルモンじゃな! だが、ホルモンらしい歯ごたえはありつつも口の中にしつこく残ることはなくすっと消えていく! そして噛めば噛むほど味が染み出てくるのう!」

 

 そしてハンバーガーを食べている真凪さんは案の定、目の毒になるようなはだけ方をして涙を流していた。

 

 やっぱこの人シャブやってんのかな? 

 

「だが、それだけではない。このコリコリとした食感……鳥の軟骨か! 細かく砕かれた鳥の軟骨をパティに混ぜ込むことでこのクセになる歯ごたえを生み出しておるんじゃな! そして何よりもこのパティに混ぜ込まれておるマッシュルームが肉汁を吸って更に味が深く濃厚になっておるのう!」

 

「アッハイ」

 

「このトロトロととろけたチーズの濃厚な味わい、まろやかでクリーミーな味にこのトマトの瑞々しさとさわやかな酸味にフルーツのような極上の甘さを併せ持つ味にそれらを包み込んでくれるレタスの上品な味。そしてなによりもこのタレが全ての味を調和させておる!」

 

 真凪はそこまで言うとカッと目を見開き、残るハンバーガーをガツガツと一気に食べ進めていく。

 

「この食感と味の衝撃は正しく……」

 

 そして最後の一口を味わうようにゆっくりと咀嚼して、ゴクリと飲み込んだ。

 

「核爆弾級……!」

 

 その言葉とともに軍服を着た真凪さんが手に持ったスイッチを押すと大爆発が引き起こり、それを不敵な笑みを浮かべて見つめているという光景が見えた。

 

「!?」

 

 なんだ今のは? 幻術か? いや……幻術じゃない。……いや幻術か? また幻術なのか? ……いや━━

 

「なんだあれは?」

 

 いや、本当になんだあれ? 目をこすって再度見たら何も見えなかったし、やっぱ幻術だったのか? 

 

 あまりの出来事に混乱している正秀を他所に真凪は流れていた涙を拭いてほうっと息を吐いた。

 

「至福の時じゃった……。正秀よ、また来るからの」

 

「え、あぁ、はい、またいらしてください?」

 

 満足そうに残ったハンバーガーを持って帰る真凪さんの背中を手をひらひらと振って見送ると、近くにあった椅子に座って顔を覆った。

 

「俺、疲れてるのかな……」

 

 うん、もう今日は店仕舞いだ。気づかない内に疲れが溜まってたんだろう。うん、そうだ、そうに違いない。そうじゃないとあの光景の説明がつかねえよ。明日に備えて今日はもう休もう。

 

 ◆

 

 あれから1週間ほど経った。毎日いろんな州にいると言うのに開店して1時間もしない内に必ず真凪さんが現れる。逃げても逃げても必ず笑顔で屋台の前に現れる真凪さんにもはや恐怖しか湧かない。いくら何でもしつこすぎる。しかも何か色々と勘づかれてるっぽいし。

 

 これでも一応特定防止のためにメニューを毎日変えてみたり、屋台もちょこちょこ改造してみたりと色々と工夫していたというのに……。まるで意味を為していなかった。

 

 現に今日だって目の前で幸せそうな顔をして料理を頬張っている。

 

 なんなんだろうなこの人、暇人なのだろうか。や、でも暇人でもこの広いアメリカでこんな小さな屋台を確実に見つけられるわけないしな。もしかしてすごい人だったりするのだろうか。

 

「はあー……。毎日毎日私の知らぬ味が、私の舌を満たす料理を味わうことが出来るとは……。最高じゃ、私の人生は希望に溢れとるのう」

 

 ……この人が俺の飯を食べると毎回周囲の人達の服が弾け飛んでるし、ある意味すごい人ではあるか。絶対この人関与してるだろうし。それにこの人が料理を食べると謎世界に引き込んでくるし、やっぱこの人すごい人だわ。

 

 自分が出した結論に納得していると、いつもは食べたら直ぐにどこかに行く真凪さんが此方をじっと見つめていることに気がついた。

 

「どうかしましたか?」

 

「のう、正秀よ。お前、私の専属料理人にならぬか?」

 

「え、嫌です」

 

 専属料理人という言葉を聞いた瞬間、思わず即答で断ってしまった。

 

「……即答かの。一応理由を聞いても?」

 

「んーと、俺は誰か一人のお腹を満たすんじゃなくて、腹を空かせた皆のお腹を満たしたいんですよ。だから専属料理人のことは断らせてもらいます」

 

「それが毎日いろんな州にいた理由か……」

 

 いや、厄介事の匂いをプンプンさせてるあんたから逃げてただけです。

 

 とは流石に口が裂けても言えないのでそんな雰囲気を出しておこう。雰囲気を出しているだけであって嘘はついてないからへーきへーき。

 

「じゃが、私の専属料理人になったらお前の戸籍を用意してやるぞ? のう、アメリカに不法入国した松永正秀よ」

 

「……」

 

 何処で知ったんですかねえ!? やっぱ此奴ヤベー奴だ! 流石にそこまで知られてるとは思ってなかったんですけど!? 

 

「ふふ、沈黙は肯定として受け取るぞ?」

 

 アカン、どうしようか。冷や汗がダラダラ出てくるんじゃが。どう、解決すればいいんだ? や、いざとなったらアメリカから逃亡するか? この屋台を諦めれば別の国に泳いで行くことは出来るし……。でも愛着が湧いちゃって捨てたくねえ……。

 

「でもまあ、私はお前に救われたからのう。専属料理人にするのは止しておこう」

 

「……何がお望みで?」

 

「ふふ、察しがいいのう。その願いの代わりに正秀には私と一緒に日本に来てもらおう。会わせたい人がいるんでな」

 

 拒否権はないだろうな。俺も屋台は捨てたくないし、頷くしかないか……。

 

「分かりました。ただ此方からも1つお願いがあります」

 

「ん? 戸籍ならしっかりと用意してやるぞ?」

 

「いえ、その件ではなくこの屋台を持っていきたいんです。この屋台には結構愛着があるもので」

 

「……ふむ、それくらいなら別に良いじゃろう」

 

 良かった。もしダメだと言われたらこの屋台を担いで海を泳ぐ羽目になっていた。

 

「それでは明日お前を迎えに来るからの」

 

「ええ、分かりまし……明日!?」

 

「うむ、明日じゃ」

 

 何でもないように言っているが俺のパスポートとかはどうするつもりなんだろうか。流石に今日明日じゃ発行できるはずがないというのに。もしかして不法入国するのか? 

 

「あの、パスポートとかは……」

 

「ああ、それならば安心せい」

 

 そう言って彼女は懐から1つのパスポートを取り出すと此方に手渡してきた。一体なんだと思い、ペラリと捲ってみるとそのパスポートには俺の名前が書かれていた。

 

「は……?」

 

「ふふ、実を言うと既にお前の戸籍とパスポートは既に用意済みじゃ。ま、希望を見せてくれた礼と言うやつじゃの」

 

 まるで今から戸籍を用意すると言った様子だったのに、既に作られていたとは一体。いや、そもそもどれだけの権力と金持ってるんだこの人。

 

「真凪さん……貴方一体何者ですか?」

 

 ゴクリと生唾を飲み込み、目の前で不敵な笑みを浮かべる真凪さんに尋ねる。そして真凪さんの口から出たのは驚愕の真実だった。

 

「私はWGOの特等執行官であり、料理界で圧倒的な権威を持つ薙切家の者じゃよ」

 

「……」

 

「ふふ、驚いて声も出ないようじゃの?」

 

 ニィッ、といった様子で笑みを浮かべる真凪さんを他所に俺は何も言えなかった。

 

 なぜなら━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ━━WGOも特等執行官も薙切家も全く知らねえ! 

 

 だって遠月学園ってのしか知らないんだもん。しかも何? WGO? 特等執行官? ごめん全く分からん。なんかただ凄い人ってことしか分からん!

 

 そもそも食戟のソーマ読んだのだって相当昔だし、ほとんど読んでない! その上あれだぞ、年が経つにつれてほとんど忘れたから遠月学園=食戟のソーマくらいの認識しか持ってねえよ! 

 

「ふふ、それではまた明日会おうか」

 

「アッハイ」

 

 何故かドヤ顔しながら去っていく真凪さんに、混乱しつつも返事を返した。取り敢えずこの人はなんか凄い人くらいの認識でいいだろう。

 

 ……厄介事の匂いがプンプンしてたのはこれだったかぁ。

 

 今からでも逃げようかな……。

 




そう、食戟のソーマのリアクションが完全に見えるという異能がね。

……クソ要らねえ。


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脅されて来ました

何かいいな料理無いかなと結構漁ってるのでちょいちょい遅くなります


 帰ってきました日ノ本に。アメリカにいたの結局1ヶ月ちょっとだったし、ただ旅行しただけみたいだな……。

 

 しかしまあ、あれだな。真凪さん本当に金持ちなんだな。

 

 まさか日本に行くのに自家用ジェット機で行くとは思わなかった。しかも屋台が詰め込めるくらいには大きいやつ。それでジェットから降りたらクソ長リムジンに乗って移動ときた。ちなみに屋台は大型トラックで移動となった。

 

「真凪さん、これからどこに向かうんですかね」

 

「私の実家じゃ」

 

 実家帰りかよ! 1人で帰ればいいのに。

 

「あの、なんで俺も一緒に?」

 

「ふむ、実を言うと私はある理由があって家から飛び出してしまってな」

 

 家出かな? いい所のお嬢様っぽいのになんとまあ破天荒な。

 

「それで家には帰らないつもりじゃったんじゃが、私の悲願は達成されてのう」

 

「はあ……」

 

「私の悲願を叶えてくれた者を私の家族に紹介しようと考えたんじゃよ」

 

 なんかこの人の悲願を叶えたっけ? 何も思いつかないんですけど。そもそもこの真凪さんの悲願とは一体なんなんだろうか。この俺の屋台を必ず見つけては結構な量を食べていく健啖家なイメージしかないせいで全く分かんねえ。

 

 食事のことか? いや、でも金持ちだぞ? だったら食事の事なんて簡単に叶えられるだろうし……。うーん? なんだろう。

 

 そんなことを考えていると不意にリムジンが止まった。

 

「着いたぞ」

 

「あ、はい」

 

 リムジンから降りるとそこには近代和風建築による豪邸があった。

 

 でかい、凄いでかい。

 

 あほみたいな感想しか出ないがそれ位でかいのだ。洋風の建築なら前世で散々みていたがこういう和風建築は久しぶりに見るせいでとても新鮮だ。なんとも趣があっていいというか、日本人の心を揺さぶるノスタルジックな気持ちにされるって言うか……。

 

 ダメだ、表現が出来ねえ……。うぬぬ、自分の語彙力の無さが恨めしい。

 

「ほれこっちじゃ」

 

 真凪さんはそう言うと俺の手を握って屋敷の方へと向かった。真凪さんに手を引っ張られて移動している最中にこの豪邸を色々と見ていると日本庭園が目に入った。

 

「真凪……お主帰ってきたのか!?」

 

「2週間ぶりじゃの、お父様」

 

 侘び寂びを感じさせる日本庭園に目を奪われていたらいつの間にか和服を来たやたらガタイのいいお爺さんが驚いた顔でこちらを見ていた。いや、どちらかと言うと真凪さんをと言うべきか。

 

「今まで一体どこに……、いやそれは良い。とにかく良くぞ帰ってきてくれた」

 

 うーんこのお爺さん。和服によって分かりづらいけどかなり鍛え上げられた肉体してんなあ。前世でもそうだったけど、こういう人って大抵凄い人なんだよな。珍師範しかり、話で聞いた次郎さんしかり。

 

「む、その子供はなんじゃ?」

 

「ほれ、正秀よ。自己紹介をせい」

 

 ふーむ、自己紹介か。まあ、ありのままに伝えることが大事だよね! 

 

「真凪さんに脅されてこちらに来ました。松永正秀です」

 

「真凪……お主……」

 

 脅されて、という言葉を聞いたお爺さんは真凪さんをどうしようもないものを見る目で見つめた。その視線を受けた真凪さんは焦り始めた。

 

「んなっ! 正秀、何を言っとるんじゃ!」

 

「本当のことですしー?」

 

 ふっ、と鼻で笑って真凪さんから顔を背ける。この正秀、ただでは転ばんよ。脅されたことは忘れてないからな。

 

「真凪よ……」

 

「や、違うぞ!? 本当に違うのじゃお父様!」

 

 すっ、と剣呑な眼差しになったお爺さんを見て本当に焦ったようでこちらの肩を掴み思いっきり揺さぶってくる。

 

 まって、かなり強くゆさぶってくるんですけど! 頭がすごいガクガク揺れて気分悪くなってきた。やばいこのまま続けられたら口から虹が出ちゃう! 

 

「正秀! 早く、早く弁明するのじゃ!」

 

「まって、揺らさないで……」

 

 朝ごはん吐いちゃううううううう!! 

 

 ◆

 

 あの後真凪さんに思いっきり揺さぶられながらもここに来た経緯をそこそこ掻い摘んで、というか不法入国だとか無戸籍だとかの所を省略して話した。都合の悪いことは話さなくていいんですよ。

 

 するとお爺さん、仙左衛門さんは伸ばされた髭を撫でながらうーむ、と唸り何か考えると真凪さんと俺に付いてくるように行った。

 

 さて今度はどこに行くんだろうなーと思って付いていく。そしてしばらく歩いて着いたところは先程見ていた日本庭園が良く見えるであろう縁側に面した部屋だった。

 

 仙左衛門さんは襖をガラッと勢いよく開けて中に入っていった。それに続くように真凪さんと俺も入るとそこには幼い女の子と黒い髪に一房だけ白い髪をした男の人がこちらを潤んだ瞳で見つめていた。

 

「真凪……! 帰ってきてくれたんだね」

 

「お母様!」

 

「急に消えてすまなかったな、(あざみ)、えりな」

 

 真凪さんは泣きじゃくる女の子と安堵の息を吐く男の人をぎゅうっと抱きしめると2人の頭を愛おしそうに撫で始めた。なんだろう、俺はすっごい場違いなのでは無いだろうか。空気読んで退出するべきかこれ? 

 

「あのー、この人達は……?」

 

「む、真凪のやつ教えておらんかったのか。男の方は薙切薊、真凪の夫で泣いておる子は薙切えりなという儂の孫娘じゃ」

 

 仙左衛門さんにこっそりと耳打ちして聞くと、帰ってきたのは驚愕の返事だった。

 

 え、真凪さんあの見た目で子持ち? つか子供いるのに家出したのかよ。何してんだあの人。

 

 ええー、と思わず非難する様な目で見ていたらそれに気づいた仙左衛門さんが真凪さんを庇うような事を言ってきた。

 

「娘をあまり責めんでやってくれ。あの子はちと特殊な体質での。その体質に拒食症になるほど深く傷つけられたのじゃ」

 

 拒食症……? ハハハ、ナイスジョーク。あの何処に逃げても必ず見つけて現れてはやたら食べて帰る健啖家の真凪さんが拒食症だなんてあるわけないじゃないですか。

 

 その言葉を仙左衛門さんに伝えようとすると不意に泣きじゃっていた女の子と目が合った。

 

「あの、お母様。あの男の子は誰なのですか?」

 

 真っ赤に充血した瞳で真凪さんの影に隠れて此方を見る女の子に真凪さんはそうじゃったと言って俺のことを話し始めた。

 

「此奴の名は松永正秀、私がアメリカにいた時に見つけた子での。お主達に、特にえりなに紹介しようと思って連れてきたのじゃ」

 

「どうも、松永正秀です。真凪さんに脅さ━━むぐっ」

 

 仙左衛門さんに言った時と同じ自己紹介をしようとしたが、それに勘づいた真凪さんに口を塞がれて止められた。

 

(何するんですか)

 

(我が夫と娘の前でそのようなことを言うでないわ!)

 

 器用にも小声で怒鳴るということをする真凪さん。その光景を怪訝そうな顔で見る2人に気づいた真凪さんは俺の口からパッと手を離した。

 

「それで真凪、その正秀くんは何の用で連れてきたんだい?」

 

 うおっ、なんかすっげえ裏切りそうな声してんなこの人。見た目も相まって黒幕感あるわ。

 

「ふむ、では正秀を連れてきた理由を話すとするかの。が、その前にもう正午を回っておる事じゃし、昼餉といこうかの」

 

 二人に向けて理由を話そうとしたところで真凪さんはくるりと顔をこちらに向けてきた。

 

 ……作れと申すか。

 

「正秀よ、ちと昼餉を作ってきてくれんかの」

 

「えー作るの? まあ、いいですけど」

 

 やっぱり作れってことかよ、まったく……。

 

 だかまあ、家族で積もる話もあるだろう。ある意味ちょうど良かったのかもな。

 

 仙左衛門さんに調理場の場所を聞いて、教えてくれた場所に向かっていく。

 

 さてと、何作ろうかなあ。

 

 調理場へ向かう道中にあった美しい日本庭園を見ながら献立を考え始めた。

 

 ◆

 

 薊は自身の妻である真凪があの正秀という少年に言った言葉が信じられなかった。

 

「ま、真凪……君は拒食症だったはずじゃあ」

 

 そうだ、真凪は神の舌という呪いによって料理に、味に絶望してしまい、料理を食べることはおろか出汁の香りにすら耐えきれなくなった。その鋭すぎる舌は味を感じ取れすぎてしまった。常人には全く気づかないようなえぐみなど、そんな些細な味にすら過敏に反応してしまう。

 

 それ故に彼女は自身の舌を満足させる品を探したり、或いは自分自身で作り上げようと努力して……されどその努力は決して実ることなく、その果てに彼女は料理の地平に渦巻く嵐に呑まれて絶望した。

 

 最近の彼女は食事を全く受け付けず、ただ点滴によって栄養を摂ることで生き長らえていた。それこそ血の気が引き、頬は痩けている……はず……。

 

 痩けていない。いや寧ろとても健康そうな顔に戻っている。身体中に栄養が回りきっているかのような、2週間前の真凪からでは考えられない体をしていた。

 

 ということは考えられることは一つ。

 

「真凪、拒食症が治ったんだね」

 

「いや、治っておらんぞ」

 

「え?」

 

 僕の考えは真凪の一言によってあっさりと切り捨てられてしまった。

 

「相も変わらず私の舌はほとんどの料理を受け付けん」

 

「なら何故、あの少年に料理を頼んだんだ?」

 

「彼奴が作る料理は私の舌を満たす料理であったからよ。そしてそれこそが私が正秀をここに呼んだ理由でもあるのじゃ」

 

 真凪の舌を満たす……? 超一流のシェフやこの僕にさえ出来なかったことをあの少年が成し遂げたというのか。パッと見た限りでは5歳になったえりなと同い年に見える子が真凪の舌を満たす料理を作れるということに驚きを隠せなかった。

 

「真凪、あの子の歳は知っているのかい?」

 

「えりなの一つ上、6歳じゃな」

 

「6……」

 

 ありえない。

 

 その感情が私を支配していた。齢6にしてWGOの特等執行官を勤めるあの真凪の舌を満たす料理を作ることが出来るなどとあるはずがない。否、あってはいけないことだ。

 

「薊よ、お主が考えることは分かる。ならば食せば分かる事じゃろう。あの正秀という少年がそのような料理を本当に作れるのかを」

 

「仙左衛門殿……」

 

 確かに仙左衛門殿の言う通り、あの少年の料理を食せば分かることか。

 

 ならば見せてもらうとしよう、真凪を満たした料理を。

 

「ああ、そうじゃ。正秀の料理を食べるに当たって一つ忠告をしておこうかの」

 

 忠告……? 思わず怪訝な目で真凪を見つめると彼女は不適な笑みを浮かべて指を一本立てた。

 

「気を強く持つことじゃ。特に私と同じ味覚を持つえりなは尚更のう」

 

 そう言って愉快そうに喉を鳴らす真凪の言うことが正しく理解できたのはこの1時間後だった。




もしかして:メテオガーリック

次回、正秀くんに悲劇が襲いかかる。

ヒントはおさずけ


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料理も配膳したので失礼します

調理描写っていります?



 さて、案内された調理場に着いた。ここにあるものはなんでも使っていいとの事だったので思う存分使わせてもらおうじゃないかと思う。

 

「なんかいい食材は無いかなー……お?」

 

 ガサゴソと食材を漁っていると水桶に入れられた細長い生き物、(うなぎ)が目に入った。見ただけでも分かる質のいい鰻だ。

 

 鰻かあ……。蒲焼きにするのもいいし、白焼きにしてもいい。けど、この食材はそれじゃない方が美味しくなるだろう。何となくだがそう感じるのだ。

 

 よし決めた、今回は鰻を使わせてもらって『アレ』を作るとしよう。

 

 そうなると他に必要なのは……。

 

 おお、あるじゃないか。人参、玉ねぎ、牛蒡、白滝、青ネギ、せり、豆腐。『アレ』を作るにはこれがなくちゃ始まらないというものだ。

 

 にしてもこの食材達、どれも高品質なものばかりだ。手触り、色などどれをとっても大切に作られたというのがよく分かる。となればこんな良い物をグルメ食材へと変化させるのは愚の骨頂。こんないい食材を作ってくださった人達に対する冒涜だ。

 

 よし、ここは気合い入れて作るか。ここに来るまでに色々と食べてカロリーも十分に溜まってる。思う存分腕を振るわせてもらうとしよう。

 

 まずは鰻の下処理から始めよう。

 

 鰻を氷水に入れて〆る。動きが鈍くなったら氷水から取り出してまな板に置いて中骨を断ち、神経〆をする。そうしたら背を手前にして目打ちを行う。こうすることでとても切りやすくなるからな。

 

 そうしたら背の方から中骨の上を包丁を滑らせるように身を割く。身を割いた後は身を開いて内蔵を取り出す。そしたら今度は中骨と身の間に包丁を入れ、中骨を剥がして尾と一緒に断ち切る。

 

 そして血合いをしっかりと落とす。鰻の血は猛毒なのできちんと処理をしなければ駄目だ。綺麗に落とせたら頭を切り落とし、身だけの状態にする。後は腹骨に包丁を入れ、腹骨をしごく。

 

 蒲焼きなんかにする場合はここから串を打っていくんだが、今回は蒲焼をやらないのでさらにこの鰻の処理を進める。

 

 捌いた鰻の身に血合いが残っていないかを確認し、残っていた場合は布巾などを使ってしっかりと取り、それを取ったら軽く布巾を身に押し当てて身から血が滲み出してこないかを確認する。

 

 血を完全に取りきったら裏返しにして皮の方を上の方にする。そしたら今度は滑り取りの作業を行う。90~95℃に熱したお湯を何回かに分けて鰻にかけていく。全体的に身が白くなったら氷水に入れ、熱をとる。十分に冷えたら氷水から取り出して頭から尾の方へ包丁の背でしごくと滑りが綺麗に取れる。最後に水で洗い流す。

 

 さて、ここからは食感を良くさせるために邪魔な背鰭(せびれ)腹鰭(はらびれ)を削ぎ落とす。削ぎ落とすことが出来たら2~3mm程度のそぎ身にするために繊維に従って包丁を入れ、弾力を残すようにする。

 

 これでメインの鰻の下処理は完成だ。

 

 次は野菜の下処理をしよう。

 

 玉ねぎは繊維に従って切り、牛蒡、人参はささがきにし、牛蒡は水で浸してアク抜きを行う。3回ほど水を取り替えれば十分アク抜きできる。青ねぎ、せりはザク切りに、白滝と豆腐は食べやすいサイズにカットする。

 

「よし、次は味の決め手のタレ作りだ」

 

 酒、味醂(みりん)を同じ量くらい入れてアルコールを飛ばす。この時アルコールが完全に飛んだかを確認したければ火を近づけると揮発したアルコールに火がつく。これが完全に消えればアルコールが完全に飛んだことになる。

 

 但しこの時、着火された火がすごい上がるからやる時は気をつけないと大変なことになるので要注意だ。

 

 アルコールが完全に飛んだら火を止めて先程のものと同じ量のザラメ、濃口醤油を入れてゆっくりとかき混ぜる。ある程度混ざったら水を入れて薄めてから再度火をつけて残りのものを煮溶かす。

 

 水を入れるのは鰻を主体とした『アレ』の場合は濃すぎるからだ。さてこれで準備は完了した。

 

 ここからは食材への火入れに入る。

 

 俺が前世、トリコの世界で驚いたことは火入れ技術の発展具合だ。トリコの世界は数多のグルメ食材によりあらゆる調理法が無数にある。そしてその中でもやたら発展していると感じたのが火入れ技術だ。

 

 トリコの世界の食材は大きいものが多い。それと言うのも猛獣達が巨大なことが多いからだ。いや、猛獣だけでは無い。野菜や果物、果ては自然に生成された飲食物ですら巨大化していた。

 

 それ故に昔からどうやって食材に熱を均一に入れ込むのか、はたまたどうすれば素早く全体に火を通せるのか。

 

 そしてどう火を入れ込めば食材をより美味く調理できるのか。

 

 トリコの世界はそれが他と比較にならないくらい発展していた。だからこそ俺は火入れ技術を特に良く学んだ。大竹先生達から色々とアドバイスを求めたり、自分で新しい火入れ方法を考えてみたり様々なことを試した。

 

 俺の集大成とも言える火入れ技術。それをこの料理に叩き込み、この世界の食材達をグルメ食材にも負けないほどの食材へと昇華させようじゃないか。

 

 あの4人の舌に強烈なインパクトを与えてみせよう。

 

「絶頂させてやるよ、薙切一族」

 

 ◆

 

 正秀が調理場に行ってから1時間程立った頃だろうか、薊達は真凪が今までどのように過ごしていたのかを聞いていると不意に脳を直接揺さぶられたかのような衝撃を受けた。

 

「なん、だこの香りは……!?」

 

 薊が呟いた言葉、それはこの場にいる全員の気持ちだった。

 

 料理はまだ来てもいない。だと言うのに仄かに漂う香りを嗅いだ瞬間、溢れ出す涎を止めることが出来ない。食欲を、本能を直接刺激する香り。まだ来てもいないというのに仮にこれが目の前に現れたらどうなってしまうんだ。

 

 そんな料理を楽しみに思う感情と人を狂わせるような香りを出す料理に恐怖を抱くという背反した気持ちを彼らに抱かせた。

 

「ぬう……。この歳にもなって涎を垂らす事になるとは思わなんだ」

 

 溢れ出す涎を手拭いで拭く仙左衛門。されど拭いたそばから溢れ出し、もはや拭うことが意味を為していない。

 

「……」

 

 齢5歳にして、これほどの衝撃。あまりの情報量の多さに脳がパンクしたえりなは零れ落ちる涎を拭うことを忘れてしまったかのようにいずれその料理が来るであろう襖をただ茫然とした様子で眺めていた。

 

「この香ばしい香りは醤油を使った料理じゃな。ぐっ、今まで嗅いできた料理よりも惹き込まれるのぅ……!」

 

 今まで正秀の料理を食べてきたからか、他の3人よりも耐性はあるつもりであった真凪だったが、それでもこの襖の隙間から漂う香りに意識を奪われてしまう。

 

 強まる香りと共に上がっていくボルテージ。そしてついに料理を運んできた者の影が襖へと掛かった。

 

 ゴクリ、と無意識に誰かが喉を鳴らした。いや、もしかしたらこの場にいる全員が喉を鳴らしたのかもしれない。

 

 そしてついに襖に開かれた。

 

「お待たせしま━━ヒェッ……」

 

 流れ込む圧倒的なまでの芳醇な香り。誰かが変な声を上げたような気がするがそんな事など脳に1秒すら残ることは無かった。

 

 食いたい。

 

 ただそれだけが彼らの脳を支配していた。

 

 そして目の前に配膳される料理。火がついた固形燃料が目の前の一人前の土鍋を煮立たせる。そこには何とも美しく配置された野菜達が花を彩り、中央に置かれた鰻がまるで宝石の如く輝いて見えるほど、それは一種の芸術品のように感じた。

 

「鰻のすき焼きです。お好みで溶き卵、そして山葵(わさび)をどうぞ」

 

 正秀がそう言って差し出してきた溶き卵と小さく盛られた山葵、それを各自の前に配置した。ごくりと喉を鳴らし、震える手を合わせた。

 

「いただきます」

 

 無意識に行った動作。そして各自箸を鰻のすき焼き入れて食材を取り分けると溶き卵へと絡ませる。

 

「料理も配膳したので失礼します」

 

 誰かが何かを言った後に襖が閉じられた音がしたが、4人ともそれに気をかけるほどの余裕はなく、絡んだ溶き卵が垂れ落ちる其れをゆっくりと口に含んだ。

 

 そして━━

 

 ◆

 

 完成した鰻のすき焼きを使用人さんたちと一緒に運んでたんだが、襖を開いた瞬間血走った目でこちらを見る薙切一族に思わず変な声が出た。

 

 いくらなんでも瞬きもせずにこちらを凝視するのは怖すぎる。料理を配膳してる時も荒い息遣いと血走った目で見られる恐怖に襲われていたが、なんとか料理の配膳が完了した。

 

「鰻のすき焼きです。お好みで溶き卵、そして山葵をどうぞ」

 

 あらかじめ用意していた溶き卵と山葵を各自に配る。本来だったらすき焼きに入れようかと考えても見たんだが、まだ子供のえりなちゃんがいることを思い出して後入れで最も味が発揮されるような火入れ方法に変えた。山葵がダメで食べられないとかだとえりなちゃんが可哀想だしね。

 

「料理も配膳したので失礼します」

 

 配膳が終わり、こっそりと周りを見渡すと薙切一族が口に含む直前だった。その光景にいつもの悪寒がしたので部屋から出ていって目の前の縁側に腰かけた。どうせアレやろ? 服がまた弾けるだろ? 流石に真凪さんの露出テロを何度も見たから慣れたで。

 

 どうせ部屋の中の皆が裸同然の格好になってやばい絵面になることはもう分かってる。そんなもの身内だけでやってもらいたい。家族で一斉ストリップする最中に俺は居たくない。何の罰ゲームだと突っ込みたいしな。

 

 なので今回は襖をきっちりと閉めて完全に見えないようにした。完璧だな、これで薙切ワールドに引きずり込まれることも無く、彼らの裸体も見ずに済む。一石二鳥とはこのことよ。

 

「お、始まったか」

 

 そして思っていた通り、バァンと何かが弾けるような音が連続して鳴り始めた。

 

「ハハハ、外に出といて正解だったな。彼らが食べ終わるまで池でも眺め……ぶえっ!!!」

 

 突如として襖が弾け飛びその破片が頭に激突したことで池に頭から突っ込んでしまった。盛大な水飛沫と音を奏でながら池に突っ込んだ正秀は池の中で飼われていた錦鯉と奇跡的にぶちゅーとしてしまった。

 

 泣きたい。

 

 正秀はそんな虚しい感情に襲われて池の中で涙を流した。そして一体何が起きたんだと水面に上がって自分が元いた場所を見てみるとそこには最悪の絵面が広がっていた。

 

「ヴォエッ!!」

 

 そこには目が涙で潤み、熱に浮かされたような顔で5歳とは思えぬ程の色香を出す裸同然の姿になったえりなと同じく裸同然になった顔を赤く上気させて大人の色気を醸し出す真凪━━に目がいったのはほんの一瞬、しかもその横で発生した絵面の酷さで秒も記憶に残らなかった。

 

 そこにあったのはかつてミケランジェロが描いたアダムの創造という絵画をまるで再現したかのようなポーズを取った素っ裸のおっさんと爺があったのだ。

 

 脳がこんなの見たくないですと拒否反応を引き起こしていた。だと言うのにまるでトラウマの如く脳裏に強く焼き付けられてしまったのか、目を閉じても先程の光景がリフレインされてしまう。

 

「うおあああああ!!??」

 

 発狂したようにそこいらのものに額を激しくぶつける正秀。そして特殊な世界へとトリップして恍惚の表情を浮かべる薙切一族。それからこちらに料理を運ぶ際に手伝ってもらった使用人達が薙切の力によって強制的に真っ裸されるという正に地獄が広がっていた。

 




調べるのにちょっと時間がかかりました。

今回出したのは鰻のすき焼きこと鰻のじゅんじゅん。どうやら滋賀で食べられる料理のようです。鰻=蒲焼きか白焼きくらいの考えしか無かったので見つけた時は驚きました。

あと個人的な考えですけどトリコ世界は火入れ技術はマジで発展してそう。じゃないとあんなでかいのに火が中まで入らなさそう。

Q.すき焼きに山葵?
A.前話の詫び寂びを書いた時から山葵は絡めたいと思ってました。それから和食かつ火を使う料理を探した結果、すき焼きが出てきたんですよね。でまあ、後はトリコの技術でこう上手く具合に合致するやろと言う感じです。詫び寂び山葵(激ウマギャグ)これがしたかったがために遅くなったのはある。

正秀くんは踏んだり蹴ったりですね。今生のファーストキスは錦鯉になった上に爺とおっさんの素っ裸の絵画ごっこを見せつけられたんですから。

どういう絵画か知りたい人はアダムの創造で調べましょう!
あれを素っ裸の仙左衛門さんと薊さんがやってる思い浮かべてもらえば絵面の酷さが分かると思います。


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おい、待つのじゃ

あけましておめでとうございます



 

 あの最悪の食事会が終わって、そそくさと逃げようとしたらいち早く再起動した真凪さんに「おい、待つのじゃ。お主にはこれからやって欲しいことがある」と言ってこちらを掴んできたせいで逃げ切ることが出来なかった。いや、真凪さん1人だったらまだどうにか逃げきれたかもしれなかったけど、真凪さんに続くように仙左衛門さんと薊さんも来やがったんですよ。

 

 で、その後三人勝てるわけないだろ! と、まあされてしまって……。一応は抵抗したんだけどね。悲しいかな、この体6歳児なのでろくな抵抗が出来ずに囲まれた。

 

 その後なんだがあの露出テロ一族、俺をえりなちゃんの教育係にしやがったんですけど。俺、1歳違いぞ? しかもまだ6歳ですよ。や、ぶっちゃけ教えることは出来るけども常識的に考えたら無理だぞ。

 

 そのことを伝えたらえりなちゃんに教えて欲しいのは勉強の事ではなく、料理に関することとのことだった。

 

 じゃあそれなら……。なんて言う訳もなくそれとなく断ろうとしたら仙左衛門さんが教えてくれた場合、給金そして屋台販売にて何かあった場合薙切の名を使っても良いとの提案をしてきた。

 

 やー、勝てねぇわ……。悲しいけど金と権力には勝てねぇもんだな。

 

 仕方ないだろ。だって屋台の改造にも金もまだまだいるし……。特に後者、薙切の名は料理界隈では凄い有名らしいのでこれで屋台販売で何か言われても薙切の名でゴリ押し出来るようになったのがデカいわ。薙切って政治の方にも多少は顔が利くらしいしね。

 

 これでストレスフリーの屋台販売が出来るというものよ。まあ、えりなちゃんに料理を教え込む間は屋台販売は出来ないんだけど。

 

 ま、契約してる間は教えられるだけ教えていこう。

 

「つーわけでこれからよろしく頼むぜ、えりなちゃん」

 

「どういう訳か分からないのだけれど……でもこれからよろしく頼むわね」

 

 握手するために差し出した手をえりなちゃんは困惑した様子で握り返してくれたので上下に軽く振ってしっかりと握手をする。

 

「これからえりなちゃんに調理技術を教えていこうと思うんだが、その前にひとつ聞きたいことがあるんだ」

 

「何かしら?」

 

 これから調理技術を仕込むに当たってえりなちゃん自身がしっかりと認識する必要があること。それが無ければきっと俺の調理技術は身につくことはないだろうと確信が持てる。

 

「えりなちゃんは何のために料理を作りたいんだい?」

 

「それは……」

 

 明確な理由、要は上達するための支えがなければトリコの世界の調理技術を覚えることは不可能だ。明確な理由も無しにやったところであの世界の調理技術は生半可な気持ちで覚えられない。あの世界は特殊調理食材が無数にあったが故に特殊な工程、技術、それに伴う体捌きが異常なほど発展している。

 

 その膨大な量と修得難易度に心の支えとなるものがなければ簡単にへし折れて諦めてしまうことはよく分かるのだ。俺も一度折れかけたことがあったから尚更な。

 

 だからこそ聞きたい。えりなちゃんは心の支えとなるものがあるのかどうかを。まあ、ないならないであっちの技術は教えなければいいだけの話なんだが……。

 

 スっと目を細めてえりなちゃんを見据えると彼女は小さな手をぎゅっと握り締めて強い光を宿して此方を見返した。

 

「お母様に私の料理を美味しいと言ってもらいたい!」

 

「……そりゃあいい目標だな。真凪さんの度肝を抜かすくらい美味い料理を作れるように頑張っていこうな」

 

 誰かの為に料理を上手くなりたい、か。前世で俺がどうしても抱けなかったことだな。俺の調理技術は個人ではなく、腹を空かせた万人の為と目指して鍛えた調理技術だ。

 

 こういう目標ならばそう簡単に折れることは無いだろう。それに相手はあの真凪さんだ。実の娘であってもそう簡単には美味いとは言うまい。

 

 これなら、あっちの技術を教えてもいいかもしれない。

 

 ふむ、1度食材の声を聞くことでできる調理を見せてみるか。どんな反応をするのかも見てみたい。

 

「さてと、えりなちゃん。今回は最初だからちょっと面白いこと教えてやるよ」

 

「面白いこと……?」

 

 不思議そうな顔でこちらを見つめるえりなちゃんを他所に調理場から1つの林檎を取り出して半分に切ってから片方をえりなちゃんに手渡した。

 

「えりなちゃんは包丁は扱えるよな? その林檎を普通に切ってみてくれ」

 

「分かったわ」

 

 不思議そうな顔をしたままではあったがえりなちゃんは渡された林檎を4等分にして、皮も綺麗に剥いた。その間に俺も『あること』に気をつけて同じようにカットした。

 

「おー、綺麗に剥けてるなあ。凄いじゃないか」

 

「ふふん、このくらい当然です」

 

 ふんすと鼻を鳴らして小さな胸を張るえりなちゃんに思わずほっこりとしながらもカノジョが切ったものと俺が切ったものを2つの皿に分けた。彼女が真凪さんと同じ味覚を持つというのならきっと違いに気がつくだろう。

 

「えりなちゃんには今からこの同じ2つの林檎を食べてもらいたい。まずは自分が切ったものからな。その後に俺が切った林檎を食べてみるといい」

 

 俺の言う通りにえりなちゃんは自分で切った林檎をシャクシャクと子気味のいい音を立てて咀嚼する。

 

「この桃やバナナのような豊かな香りと洋梨のような甘さが特徴の林檎は青森県産の金星ね」

 

「へえ、食っただけでそこまでわかるのか。それじゃ次は俺の奴を食ってみてくれ」

 

「同じものを食べ比べる意味が分からないのだけれど……」

 

 そう言いながらも俺が切った林檎を手に取って一口齧った途端、えりなちゃんの身体はビクンと跳ね上がった。そして驚いたように俺が切ったものと自分が切ったものを何度も見比べていた。

 

「なんで、なんで貴方が切った方のが甘みが強くなってるの?」

 

 まあ、やっぱ驚くよなこの技術。俺も節乃さんにやって貰った時滅茶苦茶驚いたわ。全く同じものを切ったのに味が全然違うんだから。

 

「はは、そいつは切り方、正確に言うと包丁の入れ方が違うからだ」

 

「包丁の入れ方?」

 

「そう、俺がやったのは『この』林檎の味を最も引き出せる包丁の入れ方をしたんだ」

 

「同じ物が包丁の入れ方でここまで変わるものなの?」

 

 えりなちゃんから最もな質問がとんできた。確かに普通そう考えるだろう。但しそれは食材の声が聞こえていない者に限っての話だ。

 

「えりなちゃん、俺達は大きな分類で見ると同じ人間として括られるけど個人単位で見たら趣味も好みも色んなものが異なるだろ?」

 

「え、えーと?」

 

「要は、だ。俺とえりなちゃんも同じ人間。だけど好みも趣味も性別も違う。それはこの林檎にも当てはまるってことだ」

 

 そこまで言って自分で切ったものとえりなちゃんが切ったものを手に取って混乱した様子のえりなちゃんに見せる。

 

「俺とえりなちゃんのもので味が違うのは俺がこの林檎の特徴に合わせた切り方をしたからだ。えりなちゃんが切ったものよりほんの1mmずらして切ったのさ。それがこの林檎の好みだったからな」

 

 正秀がそこまで言ったところでえりなは漸く理解することが出来たと同時に彼がやった事の異常さが分かってしまった。

 

「まさか全ての食材一つ一つに異なる切り方があって、貴方はそれを見極めて切ったってこと?」

 

「正解。切り方一つでここまで味が変わるなんて結構面白いだろ?」

 

 そう言ってカラカラと笑う正秀にえりなは絶句していた。簡単そうに言っているがやっている事は難しい、なんて言うレベルのものじゃない。それどころか人間業と言っていいのかと疑問に思ってしまうほどだ。

 

 けれどこれがお母様を喜ばせるほどのあの味を引き出すための秘訣ならば決して諦めたりなんかしない。

 

「あ、別にこれを絶対に覚えろって訳じゃないぜ。勿論覚えるに越したことはないが、今のえりなちゃんじゃどう足掻いても無理だからな。なのでまずは簡単な味の引出し方から教えていくつもりだ」

 

 そんな風に決意したところで放たれた正秀の言葉で脱力してしまった。

 

「ええ……?」

 

「ははは、でもそうだな。早く上達したいって言うなら1つアドバイスだ」

 

 そういうと正秀は人差し指を立てて楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「食材と真摯に向き合って料理を楽しむことだ。そうすりゃきっと食材の方から歩み寄ってくれるぜ?」

 

「食材と真摯に向き合って料理を楽しむこと……」

 

 今は正秀が言っていることは分からないけれど、きっと他でもこの調理を施した彼が言うのだ。正秀の言う通りに料理を食材と向き合って料理を楽しんでいってみよう。

 

 そしていつかお母様にただ一言、「美味しい」と言ってもらいたい。

 

 まずはそのために━━

 

「貴方の調理技術を全て覚えてみせるわ。だ、だからこれからずっと私に色んなことを教えなさいよ!? いいわねっ!?」

 

「おうよ、俺が知る全ての技術をえりなちゃんに叩き込めるだけ叩き込んでやるさ。さあ、まずは簡単な包丁の入れ方から教えていこうか」

 

 それからは松永正秀の教える未知の調理技術に目を輝かせて学ぶ薙切えりなの姿とそれを見て苦笑を浮かべながらも様々な調理技術を教えていく正秀の二人が並んだ姿をよく調理場で見かけるようになったとの事だ。

 

 ……時折、知恵熱を出して倒れる薙切えりなの姿も見られるようになったらしいが。

 





えりなちゃんのトラウマ回避と強化フラグがおっ立ちました。

切り方については独自設定です。あのトリコの世界だしあってもええやろ的な。これからも多分トリコだからという免罪符を使ってバシバシ出していくと思います

ふふふこれから先が楽しくなりますね(一話冒頭を見て)


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つっこみどころが多すぎるッ……!


夜勤4連続とかいうクソ見たいなシフトで疲れたので遅くなりました。


 

月が妖しく輝く丑三つ時、人々が寝静まり、妖共が宴を始める時間に薙切家本邸にある調理室のドアからうっすらと光が零れていた。

 

「うーん……ダメだな。コクも旨味も深みも何もかもが足りない」

 

正秀はそう言いながらも用意していた食材を常人ならば目で追うことすら出来ないほどの速度で下処理を施してはぐつぐつと煮えたぎる鍋に投入していく。

 

ある程度かき混ぜて出汁が出たであろう頃合を見計らってはおたまで出汁をとって味見をする。

 

「……旨味は増えたがしつこくなったな。それにコクが薄まってる。もうちょい包丁の入れ方を変えるべきか?」

 

正秀はそう呟くと別の食材に対して一瞬で調理を施す。調理したそれを鍋に投入すると火加減を弄り始める。上手く調整するとまた先程と同じように出汁を取っては味見をするということを何回も繰り返していた。

 

「ベネ、少しは近づいた。けどまだまだだな」

 

正秀はぐつぐつと煮込んでいた鍋の火を止めると五層に分けた濾し器にとった出汁を入れていく。上から順にどんどん目が細くなっていく濾し器に出汁が投入する前の混沌とした様な色合いからどんどん綺麗に、そして透明になっていく。

 

最後まで濾された出汁は水と見間違う程の透明さを誇ってはいたが、それを見た正秀はため息をついた。

 

「濁ってるなあ……。出汁の取り方も旨みの引き出し方も食材の種類もまだまだってことか」

 

取り出された出汁をテーブルに置いてから椅子に座る正秀は膝に肘をついて顎に手をやって何かを考え始めた。

 

「センチュリースープはその世紀を代表する食材を煮込むことで完成するスープ。……だが、この世界の食材じゃあ圧倒的に旨味が足りない。その為に食材の味を引き出す調理を施してはみているがそれでもまだ足りない。だが、理論上はこの世界の食材でもセンチュリースープに昇華させることは出来るはずだ」

 

正秀はそこまで呟くと傍に山のように積んでいた料理本を手に取ってはペラペラと頁を捲り始めた。

 

「足りないのは俺の技術力と食材の種類か」

 

何かスープに使える食材や自分が知らない調理法はないかと薙切家から借り受けた料理本を目を皿のようにして読み込むがどれもこれもが自分が知っている調理法や既に試した食材ばかりだった。

 

正秀は本を閉じて本を元の場所に戻すとはぁ……、と1つため息を吐くと調理室に入る扉の方を見た。

 

「で、何か用ですか薙切さん方」

 

正秀がそう言うと調理室の扉がギィィ、と音を鳴らして開かれそこには少し涎を垂らしていた薙切一族、仙左衛門、薊、真凪、えりなが入ってきた。

 

「いや、すまんのぅ。何やらいい匂いがしてな。その匂いにつられて来てみたらお主が真剣な様子で何かを作っていたものでな。邪魔するのも悪いと思うて一段落着くまで待っておったんじゃが気づかれてしもうたか」

 

「そんなギラついた視線向けられれば嫌でも気づきますよ仙左衛門さん」

 

「それで正秀は何を作っていたんじゃ?」

 

興味津々といった様子で聞く真凪に正秀は先程濾したスープを指さした。

 

「それです」

 

「これは……?」

 

一見するとただの水にしか見えない物を前に薊は困惑した様子で正秀に尋ねた。

 

「スープですよ、失敗作ですけど」

 

そう言うと正秀は椅子から立ち上がってスープ用の皿を5つ用意すると透明なスープを注いで4人に渡した。

 

「はい、どうぞ。熱いから気をつけて下さいね」

 

「いいの?」

 

「別に構いはしないさ。それに飲みたいんだろ?」

 

えりなからの質問に答えると正秀は先程まで座っていた椅子に戻って座るとズズーっと先程作ったスープを飲み始めた。

 

それを見た4人は渡された水のようにしか見えないスープの匂いを嗅いだ。

 

瞬間、脳に痺れるような甘美な電流が走る。

 

「むうっ、なんと言う圧倒的な香り!」

 

「この高級感溢れる香りはまるで松茸を想起させるの。じゃがこの芳香の強さは松茸などの比ではない。カレー等のような香りに特化したものですらこのスープの香りの前では霞んでしまうの」

 

「水のように透明だというのにここまでの香りを醸し出すとは一体どんな調理を施せば……」

 

「すごい……香りだけでこんなにも楽しめるスープは初めてだわ!」

 

匂いだけで服がはだける4人の姿をげんなりした様子で見つめる正秀は4人がスープに口をつける前にさっさとスープを飲み干した。

 

空になった皿をテーブルに置くと正秀は目を瞑り、耳を塞いだ。まるでこれから起きる光景を認識したくないと言わんばかりの体勢だった。

 

香りを十分に堪能した4人は水のように透明なスープに口をつけた。そして正秀が予想していた通り、服が爆発四散するという何ともまあ珍妙な事が起きた。

 

「耳塞いでも服が弾ける音が聞こえるのかよ……」

 

愚痴を零す正秀を他所に4人はスープの圧倒的なまでの濃厚な味にほぅっと息を吐いて恍惚な表情を浮かべていた。

 

「まるで古今東西のあらゆる出汁を混ぜ合わせたかのように深く濃厚な味わい」

 

「これほど多種多様な出汁を混ぜ合わせれば出汁同士の喧嘩は必至じゃというのに、このスープは寧ろ互いに手を取り合ってお互いの旨味を高めていっておる」

 

「見た目からはまるで想像がつかない程、深く濃厚な味わいだ。きのこ、魚、海藻、鶏ガラ、豚骨などの様々な出汁達が代わる代わる顔を覗かせては舌を楽しませてくれる」

 

「けど不思議なのは其のどれもが後に残らずスっと引いていく。そのせいでこれだけ濃厚な味だというのにもっと飲みたくなってしまうわ」

 

「「「「この楽しさ、まるで━━」」」」

 

ほぼ全裸に等しい格好でスープを勢い良く飲んでいく4人。その光景を見ないように目を閉じていた正秀は不意に自分の胸元がやたらすーすーすることに気がついた。

 

うっすらと目を開けて自分の胸元を見てみると先程まではかっちりと全てのボタンが閉じられていたというのにまるで薙切一族の強制露出パルス攻撃を受けてしまったみたいに第二ボタンまでが弾け飛んでいた。

 

胸元がやけにすーすーしていたのはそれが原因だった。

 

「うっそぉ……!?」

 

驚愕に思わず目を見開いてしまった正秀。そう、ぱっちりと目を見開いてしまったのだ。

 

そしてぱっちりと開けた目で4人を視界に入れてしまったが故に問答無用で薙切一族が展開する謎ワールドに引き込まれてしまった。

 

「あ゛っ゛」

 

急いで目を閉じようとするがもう既に手遅れだ。薙切ワールドに引き込まれてしまった正秀は何故か遊園地のような場所に立っていた。

 

思わず頭を抱える正秀。だが、そんな正秀など知らんと言わんばかりに無常なる現実が襲いかかる。

 

愉快な音楽が辺りに鳴り響き、まるで某夢の国を彷彿とさせるパレードが始まった。

 

楽しげに踊るのは、正秀がセンチュリースープの失敗作を作るのに使った食材たち――を模した被り物を被った裸にブーメランパンツを履いたガチムチの男達。

 

そしてその中央にある船のような巨大な建築物に、これでもかと言わんばかりの肉体美を見せつけてくる褌一丁の爺とおっさんがネズ耳つけてマッスルポージングを取るという地獄のような光景と、その上の階でまるで神話に出てくる女神のような古代ギリシアの服を着て高らかに笑いながら手を振るネズ耳をつけた女性と幼女という天国のような光景。

 

「つっこみどころが多すぎるッ……!」

 

正秀の頭に過った言葉は混沌という言葉だった。あまりの情報量の多さにパンクしてしまったかのように正秀はその場に蹲ってしまった。

 

そんな政秀の肩に誰かがポンと手を置いた。

 

一体誰だと、そう思い顔を上げるとそこには黒く大きな丸い耳が特徴的なネズ━━

 

「ハハッ!」

 

「いやそれは流石にまずいだろおおおお!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━はっ!」

 

最後に出てきたものに思わず突っ込んだところで漸く薙切家の展開する薙切ワールドから戻ってこれた。辺りを見渡してもあの姿は見えない。

 

「よかった、戻ってこれたか……」

 

ホッと安堵の息を吐いて胸を撫で下ろす。そして顔を上げると目に飛び込んできたのは、ほぼ裸同然の姿で遊園地に行った子供のような楽しげな顔を浮かべて立ち尽くす4人の姿だった。

 

「……こっちもこっちで大概だったな」

 

えりなはまあ、まだ子供だからいいとしてだ。他3人の顔はどう見ても大人がしてはいけないほどに緩みきった顔をしている。しかもまだあっちの世界にトリップしているみたいでふへへと少しやばい笑い声を漏らしていた。

 

それを見た正秀はテーブルに突っ伏した。

 

「あっちの世界でもそこそこ面白い反応はする人達はいたけど、いくら何でもここまで酷い反応はなかったんだがなあ……。あっちじゃ精々が上裸程度なのに対してこっちはほぼ全裸、しかも周囲にまで強制してくる。その上謎ワールドに引き込んでくる。……一体なんなんだこの一族」

 

そうボヤく正秀は割と真面目に辛かった。

 

人が作った料理を食べる度にシャブでもやってんのかと疑うほどの反応とほぼ全裸になる上に周りにもそれを強いてくる。その上謎ワールドに引き込まれるという出来事を毎回やられている身としてはたまったもんではなかった。

 

美人の裸を見られるのだから嬉しいのではないかと思われるだろうが、いくら何でも人がやっちゃいけない表情を毎回浮かべる姿は美人と言えど全く嬉しくない。むしろなんと言うかげんなりしてしまう。

 

「スープ作りと並行してこの現象を抑える料理でも開発しようかなぁ……」

 

この現象を抑えたいだけならただ単に不味い料理を作れば良いだけの話なのだが、正秀の料理人としてのプライドがそれを許さない。

 

どうにかして美味い料理で、尚且つこの謎現象を引き起こさない料理か……。

 

そんな事を考えながら正秀は未だにあっちの世界にトリップしている4人を放って調理室から出ていった。目指す場所はバスローブが置いてある部屋、そしてそこにいる使用人の人達だ。

 

この動きも悲しいことに慣れたものである。

 

正秀は1つため息を吐いて、とぼとぼと重い足取りで部屋へと向かった。その後ろ姿は心做しか疲れきったサラリーマンのように煤けた背中をしていた。





Q.食材の被り物を被った男達って?
A.柿の種の妖精と同じ存在。詳しくはソーマの合宿編を見れば分かるよ


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