強個性であり、万能的で無敵でもある。ただし、ストレス耐性と胃薬が必要である (サルスベリ)
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転生しました、何回目か覚えてないけど


 思いつきヒロアカの物語、始まりました。

 主人公は別作品の『田中・一郎』君。彼がもっとも操りやすいとか、やりやすいではなくて、彼の周りが面白そう。

 ヒロアカの世界とキャラで、色々やらかす話。裏側あるかも、ないかもしれない。頭空っぽして読んでね。

 こんなの違うって思う人は、速やかに退出を。ヒロアカファンの皆様、申し訳ありません。

 というわけで、どうぞ。






 

 

 皆さま、始めまして。あるいはお久しぶりって人もいるかもしれないけど、あえてはじめまして。

 

 どうも、『田中・一郎』と申します。

 

 最初に言っておくと転生者です。うん、たぶん転生者。記憶はあるし、神様に会った覚えもあるんだけど。

 

 こう、映像を見ている気分になるんだよね。うん、いろんな世界があって多次元世界とか、可能性の世界って言葉を信じたくなってきたよ。

 

 信じるしかないってこともあるけどね。

 

 あ、俺の転生特典は最初の転生から変わってないよ。いやぁ~~最初の転生ってさ周り中が転生者で、俺だけ普通に生まれてさ、困った困った。

 

 艦これって知ってる? 深海棲艦とかいる世界で提督として戦っていた、戦っていたって言っていいかな。書類と向き合っていたけど、まあそんな世界で生きてきて。気がついたら元帥までなったんだぜ。

 

 死んだ理由は聞かないでくれ。もうストレスマッハで吐血まで体験したからさ。

 

 ハハハハハハ・・・・はぁ。

 

 で、転生。次の世界でも同じ原因で転生、次も転生。

 

 神様に会うたびに、『え? またなの? 何してんの?』って顔で見られてさ。もう神様の世界に行くたびに、周り中が『え、また?』って顔で見てくるからさ。

 

 受付の天使と顔見知りだよ。

 

 うん、胃が痛くなってきた。

 

 過去を振り返るのは以上で終わり! さあ、今回の世界はどんなだ?!

 

「誰、お前?」

 

 聞いてください、皆さん。転生したって思ったら、目の前に五歳児が。

 

 え、いや待って、ちょっと待って。なにそれ。

 

「・・・・・・俺は田中・一郎!」

 

「そう」

 

 なんだろう、この子。元気ないな。元気ないのが悪いことじゃないのは解っているけど、元気がいい子のほうが子供らしいって考えが俺にはあるわけで。

 

「子供が何してるんだ?」

 

「そっちも子供じゃないか」

 

「はい?」

 

 え、ちょっと待って。俺も子供? 何言ってんの、こいつ。そんなバカなことあるわけがない。

 

 あ、目線が低い。

 

 俺子供じゃん!

 

「こ、子供でも俺のほうが年上だ!」

 

「はぁ・・・・・」

 

「とにかくここが何処か・・・」

 

 話しかけて相手に触ろうとしたら、相手がバって振り払った。

 

「触るな!」

 

「はい? いや、潔癖症なら触らないけど、そんな反応すると傷つくって」

 

「違う、僕の個性が・・・・」

 

「個性? いやいや潔癖症が個性ってなんだよ。ほら」

 

 嫌がる彼に触れて手をひっぱる。なんだかすごい怯えた顔したけど、何だろう。あ、やっぱ潔癖症か。人に触られるってそんなに嫌なのかな。

 

「・・・・なんで?」

 

「いやこっちこそなんでって言いたいよ。潔癖症は恥ずかしいことじゃない、立派な『個性』だ。人それぞれだって」

 

「なんで?!」

 

 なんだろ、凄い騒いでいるけど、手を離すつもりはない。

 

 だって泣いている子供を放っておけないから。今は五歳児くらいでも、中身は大人だし。

 

 よっし、頑張って生きるぞ。

 

 普通に、ごく普通に。

 

『世界総人口の8割が『個性』を持った超人社会は・・・』

 

 あれぇ~すでに普通の世界じゃない気がしてきたぞ。

 

 

 

 




 

 というわけで一話です、触りです。

 ちなみに、主人公はヒロアカの世界を知りません。

 ツッコミしないで、自分でもどうかなって思っているから。






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普通に生きたいって願うだけ無駄なのかな

 

 転生しました、ヒロアカ世界。

 最初に会ったのが五歳児で触るなって言われて。

 まあ、今では懐かしい思い出だよね。

 そうだったらいいなぁ






 

 

 さてさて、月日がたつのは早いっていうけど、あれは本当だね。

 

 毎日、毎日、必死に生きてきたけど。

 

「あれって何してるんだ?」

 

「さあ?」

 

 戸籍もないんだぜ。本当に生きるために頑張らないといけないって、必死になっていたんだけどさ。

 

「ふむ、今日も株価は上がっているな」

 

「おめぇ、今度は何処の会社を買ったんだよ?」

 

 忘れていたのさ、俺って転生者だから転生特典があるって。気づいたのは五歳児でもできる仕事やっていた時だってね。

 

 裏稼業ってあんな子供も鉄砲玉に使うんだぜ、本当に厳しい人たちだよ。でもおかげで資金はもらえた。子供でも働きには報酬を出すって、ある意味で表の人たちより筋が通っているよね。

 

 うん、俺ってなんで死んでないんだろ。

 

「そういえば、一郎さん。通知が来ていましたよ」

 

「え、なんて?」

 

 珍しいこともあるもんだ。俺のところに通知なんて久しぶりだな。

 

「個性テストのお知らせ?」

 

「あ~~~ついにか」

 

「ついに、ですね」

 

「え、ちょっと待って、何これ? 俺の個性ってあるわけないじゃん」

 

 ははははと笑っていると、室内にいた誰もがすっごいため息ついているし。

 

 え、どういうこと。

 

「俺の個性に耐えた一郎が無個性って」

 

「私の個性でも耐えたというのに」

 

 なんでそこで二人が呆れているかな。

 

「え、弔の個性って識別可能じゃなかったっけ?」

 

「はぁ」

 

 うわぁ~~~すっげぇムカつく。なんだよその、『おまえ、馬鹿って』顔は。泣いてた子供が今じゃいい大人してんじゃないの。

 

「今じゃ出来るけど、あの頃は無理だったんだよ。それで家族殺したの知ってるだろ?」

 

「まあ、それはまあ」

 

 悲しいことなのに、今は普通に話すんだよな。昔は思い出すたびにピーピー泣いてさ、いろんな奴にお世話になったのに。

 

「うっさいよ、馬鹿」

 

「人の思考を読むなよ、アホ。で、黒霧、誰からだって?」

 

 呆れた顔、顔でいいんだよね、今でも疑問を感じちゃうけど、うちの『店』の主戦力だから、あまり変なこと言わないけど。

 

「保健所か病院だろ? この個性社会で、テスト受けてないってだけで大騒ぎになるんじゃないか?」

 

「そうかそうか、ついに探知されたか。では我の愉悦が始まるというのだな」

 

 うっさいよ、そこの名探偵と英雄王。

 

 あ、ちなみにこいつらが俺の転生特典の一部でさ、最初の人生からズッとついてきてくれるいい奴らだ。

 

 時々、俺を追い詰めるけど(泣)。

 

 あれ今なんか、変なこと言ってなかったか?

 

「コナン、今なんて?」

 

「だから、テスト受けてないだろ、おまえ」

 

「・・・・・・・弔?」

 

「俺、一応あるぞ」

 

「私もありますよ」

 

「まさかの二人の裏切り?! え、だって二人とも偽名じゃん!」

 

「戸籍作ってもらっただろ」

 

 え、誰に? って聞くまでもないか。電子技術ならなんでもできますって、凄腕のハッカーがいるからな。

 

 あれも俺の転生特典なんだけどなぁ。

 

「コナンとギルは?!」

 

「全員、偽造済みだ、バーロ」

 

「チックショウ! てめぇ、名探偵! それでいいのかよ?!」

 

 正義とか法を護っていたおまえは何処に行った?!

 

「・・・プレデターとかエイリアンとか、『あいつら』がいるんだぞ。多少の嘘は許されるだろ?」

 

 ク、昔の綺麗なコナンはもういないのか。俺が転生した世界で『あ、こいつらがいたら白兵戦しなくていい』とかいって、貰ったのが悪かったのかな。

 

「人が殺されなきゃいいさ」

 

 遠い眼をするコナンに、そうだなぁっと思ってしまう。

 

 もう転生するたびに死ぬ思いをしたから、色々なところで色々な力を求めたのは、俺の若さ故の過ちってしたい。

 

 仕方ない、行くか。

 

「行ってくる」

 

「最速で帰ってこいよ。もうすぐディナータイムだ」

 

 何時も通りの服を着ながら、弔がそんなことを言っている。

 

 そうだなぁ、なんだろうな。『崩壊』って個性を持っているのに、なんでこいつはシェフって仕事についたんだろう。

 

「弔、今日はいい大根が入りましたよ」

 

「さすがだ、黒霧。今日は大根をメインに使ってみよう、最近はヘルシー料理が流行らしいからな」

 

「ヘルシーなら鶏肉もいいだろ?」

 

「名探偵の推理には恐れ入るな」

 

 なんだか、後ろでそんな会話しているけど、任せていいか。

 

「じゃ、行ってくる」

 

『キュシャ!!』

 

 店の入り口でエプロンと猫耳付けて、掃除をしているエイリアン『トッティ』君と、庭木の世話をしているプレデター『トルテ』君に声をかけて、俺はため息交じりに歩いていくのでした。

 

 あれがあるから、『モンスターレストラン』とか、『バー異世界』なんて言われているんだろうなぁ。

 

 あ、でも怖いっていうより、『面白おかしい』って感じなんだけど、この世界の感性っていかに?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普通はもっと小さい頃に受けるんだ、とか。なんでもっと速く来なかったとか、色々と文句を言われました。

 

 だってそんなのあるって知らなかったし。

 

 あれ、でも弔は知っていたし黒霧も知っていたよな。あれか、あの『先生』って言われているあいつが、色々と世話をしたのかな。

 

 やめよう、なんでかあの人のことを話すと弔も黒霧も殺気だらけになるし。

 

 コナンと英雄王なんてさ、フル装備で出ていこうとするから。

 

「うん、君の個性は『鎮守府』だね」

 

「あ、はい」

 

 うん、知ってた。それ俺の転生特典。最初の転生の時に貰った、艦これ世界での俺の鎮守府を呼び出せる能力だよね。

 

 あれのおかげで五歳児でも生きていけるし、食糧に困らないからいいんだけど、コナンとギルも『鎮守府にいたから』で呼び出せるし、他の艦娘達も呼び出せるんだけど。

 

 何度も転生して解る、俺の鎮守府の艦娘達の規格外さ。もう常識を投げ捨てたくなってくるくらいだよ。

 

「珍しい個性だが、どんな個性かまでは解らないね。どうだろう、雄英でも受けてみるかい?」

 

「いえ、遠慮します」

 

「学生ならばヒーローを目指すものだが、君は違うようだ」

 

 ヒーローね。

 

 俺には無理かな。だってあんなに傷だらけになりながらも、他人のために戦うなんて俺にはできないさ。

 

 病院を後にして俺は自分の家に戻る。

 

 今の俺は、こう目の前にいる人たちと馬鹿やるだけで十分だって。

 

「ただいま」

 

「いいところに戻った! 今すぐそいつを捕まえろ!」

 

「は?」

 

 店の入り口から入ったら、中が凄い惨状でした。

 

 テーブルやイスは崩壊。棚は砕け散っていて、食器類が宙を舞っている。

 

 なんでどうして、と視線を入口のところへ向けると、トッティ君とトルテ君が膝を抱えて天井を見ていた。

 

 泣いているんだね、解るよ、その気持ちはよく解る。

 

「ギュワァ!?」

 

「おまえは今日のディナーの食材になるんだ。摘み食いの罪は重い」

 

 弔、そのブレスレットを外すと個性の識別できないって言っていたよね、なんで外しているのさ。

 

「私のゲートから逃げられるとでも?」

 

 黒霧、普段の冷静で紳士的なおまえは何処に行ったんだよ。

 

「逃げんなおまえ!!」

 

「我のお気に入りの食器を壊した罪は重いぞ!」

 

「うわぁ~~~お」

 

 俺は暴れて店内を飛び回る『ギャオス』からそっと視線を外し、続いてトッティ君とトルテ君と共に店の外へ出た。

 

「私が来た!! おや、今日は店が随分と騒がしいようだが、どうしたのかね?」

 

 あ、うちの常連さんが来た、でも今日は駄目なんだよね。

 

「オールマイト、今日は臨時閉店です」

 

「そうなのか?」

 

「はい」

 

 俺がそう答えてそっとドアを開けると、噂のナンバーワンはそっと中を見た後に、店の隣にある地下への階段を指差す。

 

「こっちが早めにやるなんてことは?」

 

「どうでしょう?」

 

「そうかぁ。楽しみにしていたんだが」

 

 ハハハと二人で笑い、その後に深く俺達はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 弔がやっている店は、正式には『ラ・エンテル』って言う。名前からフランス料理って思う人が多いんだけど、実際には『街の食堂屋さん』が近い。

 

 その日に仕入れた食材を使って、弔自身が美味しいと思った料理を出す。メニューはあるけど、誰もがメニューじゃなく弔シェフのお勧めを頼むから、あってないようなものだけど。

 

 で、その店の隣には地下への階段があって、そっちにはバーがある。

 

 黒霧が五年ほどかけて各地のバーを巡って頑張って修行して、色々なカクテルを作れるようになったから出した店だ。

 

 バーの名前は、『ジェミニ』。黒霧以外でも、俺達が手伝ったりしているのは弔の店と同じなんだけどね。

 

 未成年が店員しているから、警察とかヒーローとか来たことあったけど、あの時は大変だったなぁ。

 

 弔の過去とか黒霧の過去とか、感のいい人は察してそうだけど、深く探りを入れてこなかったのは幸運だったな。

 

 後ろでコナンとギルが色々やっていたことは、俺も知っているけど、それだけで潜り抜けられるピンチじゃなかったし。

 

「ハハハハハ、なるほど。確かに摘み食いは罪だな」

 

 普通は20時くらいからの『ジェミニ』は、今日は18時からの営業となっています。

 

 理由、聞くなよ、解るだろ?

 

「あのチキンめ」

 

「こらこら、死柄木少年。そんな言い方はやめたまえ。おかげで私は、こうして」

 

 と、オールマイトがテーブルの上に置かれたポークソテーの乗った皿と、淡いブルーの液体の入ったグラスを持ち上げる。

 

「君と黒霧氏の料理とカクテルが楽しめている」

 

「上があんな惨状じゃなければ、やらないからな」

 

「解っているさ。君の信念は、料理はお酒で誤魔化さないだったな。確かに上手いが、アルコールが欲しい人もいるものさ」

 

「そんなもんか」

 

 弔はいまいち、解らないって顔しているな。

 

 まあ、酒を飲んだことないから、解らないか。料理と一緒に出すことは、弔が反対しているのでやってない。というより、未成年のシェフが作っている料理に、お酒を出すとなるとまた警察とかがうるさいから、できないってほうが大きいか。

 

 お酒を出さないから見逃して、って意味もあるけど。

 

「っていうか、いいのかよ、ナンバーワン・ヒーロー。酒なんて飲んで」

 

「私は大人だ。それに酒が入ったくらいで、ヒーロー活動に支障が出るようなことはない。飲み過ぎもないからな」

 

 自信満々に言うオールマイトだが、俺と黒霧は知っている。

 

 最初の頃、黒霧のカクテルのうまさに立てないほど泥酔した、どっかのナンバーワンがいたってことを。

 

「後で監視カメラを見てもいいか?」

 

「・・・・・・・・・ごめんなさい」

 

 うわぁ~~、ナンバーワンが頭を下げたよ。監視カメラなんてないのに、そんな口先だけで騙されていいのかよ、ナンバーワン。

 

「と、とにかくだ。上手い飯と上手い酒、それは人生を豊かにする、と昔の人は言っていたぞ」

 

「うまい飯は納得だな。俺もまだまだ作れない料理のほうが多い。もっと腕を磨かないと」

 

「え、まだ上を目指すの?」

 

 思わず洗い物をしながら聞いていた俺は、驚いて弔の顔を見た。

 

「三ツ星とか有名店なんかに、俺は料理で負けたくない」

 

「あ、そう」

 

 いや弔、なんでそこで背中に炎を背負っているみたいに燃えているのさ。何があったの、お前に。

 

「昔、何処かの馬鹿が『え、卵焼きも作れないの』と言っていたのは、我の記憶違いであったか?」

 

「バーロ、そのまえに『料理できなきゃ、人間じゃない』って煽った奴がいただろうが」

 

「はっはっはっは、誰だそんなひどい奴」

 

 俺が大笑いで手を振ってみると、全員が指さして叫んできた。

 

「おまえだよ!!」

 

「あ、すみません」

 

 昔のことなんて忘れたわ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある街のある場所に、変な店が二つあるって噂話。

 

 個性で人じゃない外見をした存在がいる中でも、異質のような姿形をした店員がいる場所は、多くの人の噂になった。

 

 血色の悪そうなシェフがいて、絶対に忘れないような店員がいて、そこで出される料理は千変万化、世界中の色と味がそこに集められたと言われている。

 

 その店の隣には夜限定のバーがあって、闇のようなバーテンダーが出すカクテルは、魂の底にまで響くと評判になっていた。

 

 その二つの店は同じ場所にありながら、時間と共にまったく違う顔を見せている。

 

 美味しい飯と、美味しいお酒がそこにはある。普段の日常に疲れたなら、楽しい時間が欲しいならば、どうぞここへ。

 

「・・・・・・・なあ、一郎、何してるんだ?」

 

「ネットの情報にさ、なんだか評判の店って書いてあるから探してるんだけど、中々、見つからなくてさ」

 

「なるほど、なるほど。ここはいい店のようですね、是非、敵情視察に行きましょうか」

 

「俺も食べてみたくなったな。何処なんだ?」

 

「うん、なんでか検索かけると『うち』が出てくるんだけど」

 

 どうして、なんだろうねと振り返って弔と黒霧を見ると、二人は呆れた顔で見ていた。

 

「おまえ、機械音痴だったか?」

 

「まったく貴方は、どうしてそう平凡なところでミスをするんですか」

 

「いやだってさ」

 

 その日、朝方までそんなことで俺と弔、黒霧はワイワイと騒いでいたのでした。

 

「知らぬが花か、こちらの花を愛でる趣味は我にはないな」

 

「バーロ、俺にだってないさ」

 

 遠くでギルとコナンが、そんなことを言っていたけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 二話目でございます。

 いや、何にも考えずに書くと筆が進む、進む。

 あれ、当初の予定だと一郎君の能力で『ヴィラン』連合を組んで、ヒーローたちをボコボコにするはずだったのに。

 気がついたら、飲食店になっていました。

 よっし、この勢いでヒーローの胃を掴んでボコボコにしよう。




 ちなみにサルスベリは料理ができません。


 お付き合いいただき、ありがとうございました。






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黙っていれば美形です、黙っていれば


 このお話は、何度も転生しながらも普通を求める田中・一郎と、彼に巻き込まれた形の転生特典の方々と、現地で巻き込まれた愉快な仲間達の、日々のランチキ騒ぎを描いたものです。

 プッと小さく笑える話であって欲しいなぁって思って、フワッとした感じで書いています。

 そんな気分です。






 

 近いからこそ、解らないことは世の中にはある。普段から当たり前のようにあるから、大切だってことに気づかない。

 

 そういうことってあるよね。

 

 どうも、田中・一郎です。現在朝の六時です、目が覚めました。もう条件反射のように体を起こして、気がついたら目覚ましを止めていました。

 

 うん、身にしみた軍人生活って、何度も転生しても抜けないんだよね。俺、元帥までなったから、軍隊生活がかなり長かったんだ。 

 

 もう一度、寝るか。

 

 寝れたら苦労しないって。

 

 仕方ないので起きて廊下を歩いて、階段を降りる。俺達の家って実は五階建てのビルにあります。一階部分と地下が店で、他は住居的な何か。

 

 時々、爆発したり怪しい匂いがしたりするけど、住居。本当に俺の同居人ってマッドがつく科学者とか技術者しかいないんじゃないかな。

 

 あ、弔と黒霧はまともだ。あの二人はすっごいまともだ。俺の転生特典で来た連中と比べると、すごい普通の連中なんだよな。

 

「・・・・・・」

 

 普通だよな、俺、自信がなくなってきたよ。なんだろ、なんでこいつは卵を見つめたまま、微動だにしないのかな。

 

「・・・・・・今日はスクランブルエッグだな」

 

「うぉい!」

 

 フッと笑った弔に、俺は思わずツッコミを入れてしまった。いや、俺は悪くない。キッチンで光を浴びえて、卵を持っていたこいつが悪いんだ。

 

 あっぶねぇ、なんか見た目は美形だから、どっかの芸能人って思うところだった。

 

「目玉焼きの方がいいのか?」

 

「いや、そこは任せるけど。なんで見つめてたのさ?」

 

「卵の声を聞いていた」

 

 はい?

 

 え、今こいつ、何を言ったのかな? え、真顔、真顔ですぜ皆様。冗談抜きの真面目百パーセントで、言い切りやがりましたよ。

 

「俺は今、卵の声を聞いていた。こいつがどんな料理になりたいか、聞いていただけだ」

 

「あ、そう」

 

「コーヒーでいいか?」

 

「もらうよ」

 

 反射的に答えると、すぐに俺の前にコーヒーカップが。うん、いい香りだ。

 

「あれ、何時の間に?」

 

「さっき淹れておいた」

 

「さようで」

 

 俺はコーヒーを口に運びながら、弔の背中を見つめる。うん、こいつのスーパーチート染みた料理スキル、そこから派生して未来予知を手に入れたんじゃないかな?

 

 料理限定の。

 

 いやだって、俺がコーヒー頼むってどうして解るのさ。昨日はココアを頼んだし、その前は水だったから。

 

「おまえの考えくらい読めるさ」

 

「え? いや、それは、あれか?」

 

「あれだな」

 

 え、どれ。どれのことだ。親友として同居人として、家族としてはこいつの場合ないだろうから。

 

「あ、ライク的な?」

 

「ラブ的だな」

 

 俺は右手に個性で出現させた艦娘の大和の艤装を握り締めていた!

 

「弔?! 俺は普通に女が好きだぞ!」

 

「俺もそうだ・・・・・・・ばぁか」

 

 てめぇ、そうやって振り返ってにやりと笑う弔は、すっごいいい絵になっていて、ちょっと悔しかったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いきなりだけど、俺の個性は鎮守府。そこにいるのは艦娘はもちろん、妖精もいる。でも、絶対にいるはずの大淀、間宮、明石はいない。俺の鎮守府は特殊だったから、あの三人の艦娘は着任したくないって拒否されたから。

 

 その変わり、珍獣みたいな二人と、もっと規格外な化け物がいるわけなんだけど、それはおいおい。

 

 朝食が終わった俺は、店の掃除を始めた。

 

 弔は厨房で鼻歌を歌いながら仕込みを最中だ。最初はディナーだけだったこの店も、今では小さいながらもランチをしている。

 

 評判いいらしいけど、俺としては信じられない気持で一杯だ。

 

「ふむ、いい音色だ」

 

 だってさ、ランチ時に店の片隅でギター弾いている奴がいるんだぜ。

 

「弔、今度はディナーで歌わないか?」

 

「止めておく。俺の歌は人に聞かせるものじゃない」

 

「もったいないな」

 

 笑いながらギターを鳴らすのは、白くて細い指。うん、本当に解らないよな、こんな奴がギターを奏でている姿を目当てに、この店に来るやつもいるって言うんだからさ。

 

「フフフ、弔と私の合唱が待ち遠しいな」

 

「俺は料理だけがしたいんだよ、アインズ」

 

「そう言うな」

 

 丁寧に断られているのに、このガイコツは諦めていないらしい。

 

 はい、俺の転生特典のおまけその三、のようなもの。ギルとコナンに続いて俺が鎮守府時代に拾ったガイコツ。

 

 アインズ・ウール・ゴウンって魔王みたいな奴なんだけど、何故かこいつは普段はギター片手に若大将スタイルで歌唱している。

 

 なんでか、最初に会った時からずっとなんだよな。

 

「どうしたマスター殿?」

 

「いや、マスターって呼ぶなよ。この店のマスターは弔なんだから」

 

「は?」

 

「え?」

 

 あれ、俺、間違ったこと言ったかな? え、だって料理を作っているのって弔じゃないか。俺は手伝ったことないし、ウェイターの真似ごとしかしてないよな。

 

「ふむ、私としてはサーヴァントがそう呼んでいたから、マスターと呼ぶ癖がついただけなんだが」

 

「俺はこの店のオーナーが一郎だから、マスターって呼ぶんだと思っていた」

 

「え? あれ、俺がオーナー?」

 

 あれぇ、弔が真面目に頷いている。え、俺の名義だったの? え、まっさかぁ。俺は書類を書いてないぜ。

 

「コナンがやっていた」

 

「あの名探偵!」

 

 思わず拳を握って立ち上がった俺だが、よくよく思い出してみれば鎮守府時代に書類仕事はあいつに丸投げ、俺はサインだけしていたから、俺のサインや筆跡を真似るなんてできて当然。

 

「悪いのはマスター殿だったな。昔の悪癖が今の自分の首を絞める」

 

「ク、昔の俺め。呪ってやる」

 

 アインズの正論に、俺はギュッと拳を握った。

 

「は?! 出来たぞ! 『呪われよ! 世界中を呪ってやろう! 過去の俺よ呪い殺されるがいい!』だ!」

 

「・・・・・・・・昼間のランチで歌う曲じゃないな」

 

「弔、そこは怒っていいと思うぞ」

 

「いやアインズが嬉しそうだからな」

 

「おまえ、なんでそんなに優しくて穏やかな性格になったんだよ」

 

 最初の頃、癇癪持ちだったじゃないか。

 

「人は変われるんだ、一郎」

 

「あ、そうだね、はい」

 

 穏やかに笑う弔に、何があったかは聞かない。俺がほとんど知っているし、もっと無茶苦茶な状況があったのも知っているから。

 

 超位魔法と次元回廊と崩壊と乖離剣の全力解放って、ぶつかると世界くらい軽く消し飛ぶんだぜ、知ってた?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁ」

 

 時間は少しだけ進んで、ランチから少し経ったくらい。今日も商売繁盛、お客様大勢。

 

 そんなわけない、ありえないくらいに入ることはないけど、誰も来ないって日はないのが、この店のおかしいところ。

 

 だってウェイターがプレデターとエイリアンと、時々の俺と真っ黒な黒霧って店だよ。普通に考えて誰も入りたくないでしょう、そんな中に来るって人の感性を疑うね。

 

 時々、店が忙しい時は全員が裏方に回って、表が艦娘の大和と吹雪に、電とかになるけど。エンタープライズやイオナやコンゴウとか入れて頑張っているけど。

 

 あ、アズレンやアルペジオも俺の鎮守府に配属になったことあるから、そっちの艦娘もいるんだよ。それだけじゃないけど。

 

 その時は店が異常な盛り上がりになるから、できれば使いたくないけどさ。

 

 とまあ、そんなことは置いといて。

 

「なんで溜息なんですか、オールマイト?」

 

「ああ、すまないね。実は来年から雄英の教師をすることになってね」

 

「え、ヒーロー引退?」

 

 オールマイトが現場を離れるなんて、どんな心境の変化なんだろ。一生、現場一筋って感じなのに。

 

「いや、ヒーローは続けるが、現場をよく知る教師が入ったほうが、いずれヒーローとして世の中に出る生徒達の励みになるとか、そういった話があって断れなかったんだよ」

 

「ああ、なるほど」

 

 へぇ~~世の中は色々と考えているんだ。なるほどなるほど。

 

 今の世界はヒーローとヴィランの二極化らしいし。

 

「・・・・まあ、そこに不確定勢力が入ってきたんだが、大丈夫だろう」

 

「まあ、暴れるつもりありませんから」

 

 オールマイトと弔が何か呟いているけど、なんだろう。まあ、いいか。俺に話が来ないってことは、俺には関係ないだろうし。

 

「個人で世界の総戦力を超えるか。夢幻だと信じたい」

 

「まあ、あいつですから」

 

「本当に頼むぞ、死柄木少年」

 

「あいつに何かない限りは全員が動くことはないですよ」

 

 あれれ~~なんだか危ない話してないかな? ちょっと聞き取れないところもあったけど、全員が動くとか言ってない?

 

 止めてくれよ、俺の鎮守府が最大稼働なんしたら、ヴィランとヒーローの両方から狙われるって。

 

「で、オールマイトは何をため息ついてるんですか?」

 

「あ、ああすまないね、田中少年。実は私に教師が出来るか不安があってね」

 

「見事に世界に教えを振りまいているのに?」

 

 グサっと何かがオールマイトに突き刺さったような気がした。

 

 あれ、俺は地雷を踏み抜いたかな?

 

「お、教えを振りまいているかね?」

 

「いやだってナンバーワンでしょ? その言葉の一つ一つが教えみたいに広まっているじゃないですか。それを見本にしてヒーローに憧れた子供たちが育ってるんだから、もう立派な教師じゃないですか?」

 

「ああ、確かに」

 

 お、弔の同意してくれた。そうだよな、誰もがオールマイトに憧れてヒーローになろうと頑張っているんだからさ。これはもう、知らないうちに誰かを教えているようなもんじゃんか。

 

「大丈夫ですって! 何時もみたいにやればいいですから」

 

「何時もみたいにかね?」

 

「はい! 『私が来た』って!」

 

 カッコイイよな。あのセリフを最初に聞いた時はビビっときたよ。誰もが悲しんでいる中、笑顔で駆け付けるヒーロー。

 

 うん、俺の知っているヒーローたちと同じだった。嵐のように現れて嵐のように去っていく。見返りを求めない、戦いの時だけ現われて、傷だらけになりながらも戦いを収めて去っていくなんて、すっごいヒーローらしいヒーローだったからな。

 

「そうか。そうだな。ありがとう、田中少年。私はやってみるよ」

 

「その意気ですよ、オールマイト」

 

 ちょっとだけ背筋が伸びた彼に、俺は精一杯に笑って見せた。

 

 ニカって笑うオールマイト、普段から気づかなかったけど、この人ってやっぱり美形だよな。ドラマになったら二枚目俳優が演じられるくらいに、美形だったんだよな。

 

 ははは、三枚目は俺だけか。

 

 俺はそっと店の隅で涙をぬぐったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランチが終わって店を閉めた後、俺は弔と一緒に買い出しに出ていた。

 

「牛肉が切れた」

 

「はい?」

 

「買い物に行くぞ」

 

「おうさ」

 

 なんて言葉で連れ出されまして、商店街へと歩いていくわけなんですけど。

 

 うん、解っていた。解っていたんだけど、弔って黙って歩いていると美形なんだよね。

 

 朝のことで再確認したけど、こいつって黙って歩いていると、芸能人クラスの美形なんだよ。

 

 色は白いし、シェフやっているから髪型にも気を使っているし、ちょっと目つきが悪いけど、そこは『鋭くて素敵』って言われているからさ。

 

「なんだ?」

 

「ちょっと俺のコンプレックスを味わっているだけ」

 

「坊主にするとか?」

 

「いや! そこが俺のコンプレックスじゃないし!」

 

 なんでだよ!? なんで俺が坊主になるんだよ! せめて七三くらいに収めてくれよ!

 

「田中・一郎って坊主じゃないのか?」

 

「どこのアイデンティティですかねそれ?! 世界中の田中・一郎に謝れ!」

 

「申し訳ない」

 

「直球で返すなよおまえ! なんで真っ直ぐに土下座に行くかな?!」

 

「おまえが『人間の謝意を示すには土下座が一番』だって言っていたからな」

 

 お、俺かぁ。昔の俺はもう弔に常識を教えるために、無茶苦茶やったからな。あの例の先生の影響か、『俺偉い、俺が最高』的な中二がかかる病気な時期もあったから、もう必死でしたよ。

 

「冗談だ」

 

「頼むから真顔で冗談を言うな、頼むから」

 

 ニカって笑う弔に、俺は全身で脱力した。

 

 はぁ、確かに黙っていれば美形なんだけど、話してみると親しみやすい奴なんだよな。

 

「あ、あの」

 

「あ?」

 

「何でもないです」

 

 初対面の人以外には。あのさ、女子高生が話しかけてきたんだから、もうちょっとフレンドリーに対応してあげて。

 

「善処する」

 

「どっから持ってきた、そのセリフ。なんでおまえ、敬礼しながら言った?」

 

「ギルがこう言えば一郎が喜ぶって言っていたからな」

 

「やっぱりおまえか愉悦王!!!」

 

 俺は力の限り叫んだのでした。

 

 

 

 

 

 




 

 弔って、傷がなければ美形だよね、って誰かに言われた。

 補足説明として、田中・一郎の鎮守府はできた当初からちょっと規格が外れていまして、艦これなのにアズレンと蒼き鋼のアルペジオだけじゃなくて、軍艦ならばなんでも建造可能となっていました。

 マクロスとかガンダムとか、艤装の中身も色々あったりします。

 例えば、電の艤装の中身がコロニーレーザーとかゴジラとか。

 大和の艤装スロットに『宇宙戦艦ヤマト』が入っていたりとか。

 そんな鎮守府が、彼の転生特典『手のひら鎮守府』です。






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朱に交わったら赤くなる前に真赤だった件


 皆さま、すっかり寒くなってきましたが、いかがお過ごしでしょうか?

 なんて挨拶から始まるのも、たまにはいいかな、と。

 ランチキ騒ぎが今回も始まります。

 個性の効果について、独自的な解釈が入りますのでご了承ください。

 といった感じでございます。







 

 

 俺は今、信じられないものを見ていた。

 

 どうしてだと叫びたくても、上手く言葉が出てこない。

 

 なんで、どうして、何故だ。言葉が俺の頭の中をぐるぐると回っている。こんなことあるわけがない。

 

 だって、そうだろ?

 

「弔、お前」

 

 俺の目の前で、弔が『何か』を崩壊させていた。飛び散った何かと、真っ赤になったあいつの両手が、俺には震えているように見えた。

 

「一郎、俺は。俺には無理だった」

 

「何言ってんだよ、しっかりしろよ」

 

「やはり俺には無理だったんだ。出来なかった」

 

 嘆くように両手を見つめる弔は、そのまま床に膝をついた。

 

「できるさ! おまえには出来る!」

 

 こいつ、やっぱり先生の影響が残っていたのか。今まで普通に過ごしていたのに、今になって衝動が抑えきれなかったのか?

 

 違う、まだ間に合う! 俺が抑えてやれば間に合うはずだ! 何があったか知らないけど、間に合わせる!! 

 

 俺には頼りになる仲間がいるから!

 

「コナン! 弔が!」

 

「ああ、やっぱり無理だったんだな」

 

 え、なんだよそれ、おまえまで諦めた目で見るなよ。

 

「ギル!!」

 

「道化はしょせん、道化か。おまえの努力、我が見届けたぞ。安心して逝くがよい」

 

 な、なんだって?! 最初は傲慢だったけど、今は賢王みたいに穏やかな性格になったギルが! 愉悦に走って俺を虐めるけど! 絶対に俺以外を見捨てないギルが!

 

 あ、ヤバい。俺が泣きたくなってきた。

 

「一郎、俺は・・・・・俺は!!」

 

 違う! 今は俺のことより弔だ! あいつを止めないと!

 

 あれ?

 

「俺はできないのか?」

 

 あれぇ~~~? 変だな、なんかおかしいことになってないかな?

 

 うん、弔の両手は赤い。赤いけど、あれって血じゃないのかな?

 

「俺は諦めるしかないのか?」

 

 え、でも弔の能力って人間を崩壊させたら、血だけが残る、とかないよな。全部、消えるはずじゃなかったか?

 

「でも俺はまだ」

 

「よせ弔! おまえは頑張った! 頑張ったんだ!!!」

 

 あ、コナンが叫んで弔を止めている。あれ、弔が何かダンボールから出したけど、あれって。

 

「よせ! 弔よ、おまえは十分に努力した。再び身を染めることはあるまい。その努力、この英雄王が認めてやろう」

 

 はい? なんだかギルが優しく語っているけど、弔の手は止まってない。なんかよく見たことある赤い物体を取り出して。

 

 あれれぇ~~俺がおかしいのかな?

 

「ダメなんだ、コナン、ギル。俺は諦めたくない。だから」

 

「よせぇぇぇぇ!!」

 

「このたわけがぁぁぁ!!!」

 

 そして、俺の目の前でグシャって音もせずに、トマトが崩れた、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?」

 

「俺の能力は『崩壊』だ」

 

 うん、それは知ってる。床一面に散乱したトマトの残骸とか、トマトケチャップになりかけた物体とかを掃除しながら、俺は半眼で弔を見つめていた。

 

「知っている。それで、何してどうしてそうなった?」

 

「物体を崩したり壊したりできるなら」

 

 モップをかけていた弔は、そこで顔を上げて汗をぬぐった。本当に清々しいほどの笑顔が、やけに頭に来るんだけど、俺は悪くないよね。

 

「崩壊を途中で止めたら、みじん切りになるんじゃないかって」

 

「・・・・・・・」

 

 はい、何だって? え、なに、そんな理由でこんな惨状になったわけ?

 

「それだけじゃない、自家製のトマトケチャップとか、あるいは生搾りのジュースができたりしないかって」

 

「あ、うん、解った。弔、おまえは疲れてるんだよ。最近、冬の新作料理ができなくて悩んでたんだよな」

 

「一郎、俺はまだやれる気がする。努力はいずれ報われる、必死にやれば人間はなんだってできるはずなんだ」

 

 うぉ?! なんでこいつはそんな言葉を真顔で言えるんだよ。なんだよ、どっかの熱血漫画の主人公みたいじゃないか。

 

 え、こいつってこんな性格だったっけ?

 

 違う、弔はもっと違う性格だったはずだけど、何があったのさ。

 

「俺はエルの魔法に負けない」

 

「あいつが原因か?!」

 

 あの女顔の馬鹿は何したのさ?!

 

 エルネスティってのは、俺の『手のひら鎮守府』のおまけその四かなって奴で、技術チートの片割れにして、魔法の天才。機械関係もお手の物なんで、ハッカーっぽいこともしている。

 

 エルともう一人の技術チート二人がいれば、地球中のコンピュータにハッキングして内部データを見放題、書き返し放題なんだけど。

 

「呼びまして?」

 

「出たな元凶!!」

 

 ピョコって音がしそうな勢いで、ドアから顔を出した馬鹿にモップを突き付ける。

 

「酷いですよ、僕が何をしたって言うんですか?」

 

「何をしたって・・・・・何してんの?」

 

 怒ろうと思った俺の視界に、エルの全身が入ってきた。

 

 猫耳メイド服を着た銀髪の少年。繰り返しますが、見た目は完全に美少女です、街を歩けば大抵の人が振り返る美少女ですが。

 

 性別、男。

 

「出来なかったんですか、弔クン?」

 

「ク」

 

 うわぁ、凄いいい笑顔でエルが笑ってる。

 

 弔、そんなに悔しがるなよ。こいつの魔法が繊細なコントロールできるの、皆が知っているんだから。

 

 威力と多様性重視のアインズに対して、エルの魔法って繊細かつ精密、一点突破型が多いからな。

 

 最大威力だとどっちもどっちだけど。

 

「フフフフ、出来なかったんですね? そうなんですね?!」

 

「あ、ああ、できなかったさ」

 

 悔しがるなよ、弔。この馬鹿エルは、ノリにノッてる時は、こう意地悪に見えるけど、基本はいい子だから。

 

 悪のりすると、ギルより性質が悪いけど。

 

「一郎、俺は賭けをした」

 

「・・・・はい?」

 

「ええ、賭けをしました」

 

「なんだって?」

 

 え、なに、何をしたの、この二人。俺の知らないところで、何をやろうとしているの? 

 

 待って、止めて。後になって『あの大事件が』とか言われる身にもなって、ねえまた警察に呼ばれて事情を説明されて『何とかして』と泣きつかれるの、俺はもう嫌だよ。

 

 オールマイトにも土下座させる寸前とか、もう二度といやなんですけど。

 

「さて、弔クン、出来なかった君に罰ゲームです」

 

「解った」

 

「潔いですね。では・・・・・このボクとおそろいの猫耳メイド服を着て店の宣伝に行きましょう!!」

 

「ちょっと待とうかエル!! 弔に何を着せるって?!」

 

 待て待て待て! それはいろんな方面から怒られる。ただでさえ、色々とやらかしているんだから!  

 

 そんなことしたら俺はまた呼び出しくらって!

 

「ちなみに、ソープも道連れにしました」

 

「やっほー」

 

「待てやこらぁぁぁ!!!」

 

 何普通に猫耳メイド服を着てるんだ、おまえ! 

 

 あ、こいつはレディオス・ソープって言って、エルと同じおまけで技術チートのもう一人。栗色の髪を三つ編みにしている、男性。

 

 もう一度だけ言うぞ、男性だ。見た目、完全に美少女。男物を着ていても、『男装ですか』って言われるけど、正真正銘の男。

 

 そんでもって、ギルが嫌わない『神様』。本当の名前は『天照』なんだけど、ソープって名乗っている変わり者。

 

 はい、紹介は終わり!

 

「おまえら三人で何してんだよ!?」

 

「店の宣伝に!」

 

 凄いいい笑顔のエルと。

 

「久しぶりにハッチャケたくて」

 

 微笑するソープと。

 

「行ってくる」

 

 何かを振り切った弔の三人は、こうして街を歩いてきたのでした。

 

 後日、俺は警察とオールマイトのダブルに呼び出しを食らいました。

 

 俺が悪いわけじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呼び出し、事情聴取、お説教の三連発を貰って、一郎は帰還しました!

 

 あいつらどっかに閉じ込めておくかな。いや、エルとソープは脱出するよな、アインズかギルに頼んで何か。あ、ダメだ。二人とも『楽しければそれでいい』とかいいそうだ。

 

 いっそのこと、俺の『手のひら鎮守府』に閉じ込めるか。いや、まった艦娘達が飛び出してきそうだ。

 

「お疲れのようですね」

 

「黒霧、頼むからおまえはそのままでいてくれ。おまえだけが俺の最後の良心だ」

 

「何があったか深くは聞かないことにしておきます」

 

 ああ、察してくれるのか。やっぱり、黒霧はいいやつだ。見た目、完全に宇宙怪獣だけど。

 

「ム、何やら不審な考えが」

 

「誰だ、そんな奴は」

 

 あっぶねぇぇぇぇ!! なんでこいつまで俺の心を読むのさ?! え、弔だけじゃないの、俺の考えって顔に出やすいの?

 

「そうですか。ちなみに、私は宇宙怪獣に例えると何ですかね?」

 

「え、そりゃ・・・・あ」

 

「ほう?」

 

「・・・・」

 

「そりゃ、なんですか、一郎さん?」

 

 ぐ、圧力が凄い。なんだか、すっごい睨まれているけど、ここで退いたら俺は確実に負ける。負けて何があるか解らないけど、負けたら逃げられない気がしてきた。

 

 気の迷いだろうけど!

 

「ぜ、ゼットン」

 

「・・・・・・・許しましょう。あの最強の怪獣ならば、本望です」

 

 それでいいのか黒霧!

 

「光栄です。私がゼットンに似ているなんて。そうですか、私はゼットンですか。ワープはできますが、火球はできません。ギルかアインズに相談すれば、私でも炎が出せるでしょうか」

 

 あれ、何時になく饒舌なんだけど、何があったの。え、黒霧って怪獣大好きだったっけ? 

 

「ええ、私はギル達に見せられた怪獣大戦争を、もう三百回は見ています」

 

「あ、そうですか」

 

「いい映画ですね」

 

 ははははは、そうね。そうだろうね。よし、俺は黙っていよう。俺は何も言わないし、言えない。

 

 あれが実際の出来事だったなんて、言いたくない。ゼットンにケンカを売ったエルが原因で、宇宙怪獣と激突することになったなんて。

 

 言えない、あの後にウルトラの方々に凄いお説教貰ったなんて、俺には口が裂けても言えない。

 

「ム、何やら楽しい気配が」

 

「気の所為だ、黒霧。頼むからそっち側に踏み込まないでくれ」

 

「しかし」

 

「しかし?」

 

「私は『愉悦部』に入ったので」

 

「おまえまでそっち側に行くなよ! 本当にやめてくれよ! 俺だけで突っ込み切れないんだよ!!」

 

 なんでおまえはそこに入ったのさ?! ギルか! ギルが暗躍したのか?! あの英雄王!! 普段は表側でやらかす癖に、裏側からジワジワを覚えやがって!

 

「いえ、私が入ったのはソープの勧めですが」

 

 瞬間、俺はゆっくりと崩れ落ちた。あいつだけは、どんなにふざけて馬鹿やっても、愉悦に塗れないって思ったのに。

 

 その日、最後の防壁が崩れ落ちたのを俺は知ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が今日も落ちた。夕日が沈んだ後の街は、ネオンの輝きが満ちてきたのだけれど、俺はもう背中に闇を背負っていた。

 

「やった」

 

「なんですと?!」

 

「素晴らしい!」

 

「やったじゃないか!!」

 

 なんだか後ろでエルとギルにコナンが騒いでいるけど、俺はもう振り返れない。最初に弔の小さい声がした気がするけど、もうどうでいいや。

 

「ごめんって、ちょっと悪のりしたくなっただけなんだから」

 

「ソープだけはソープだけはそっちに行かないって」

 

「だから、ごめんって。黒霧の愉悦は他の人に向いているから、大丈夫だよ」

 

「誰だよ?」

 

 は、そんな気休めなんて俺は信じないからな。

 

「『先生』に」

 

 え、あの人に。なんだかオールマイトを追い詰めて、けがさせようとしたから、横あいからアインズとギルの全力攻撃ぶつけて、その上に波動砲と超重力砲に侵食魚雷を雨のように降らせて。

 

 さらに追い打ちにコロニーレーザーとベクターキャノンをぶつけて、荷電粒子砲を打ち込んだのに、なんでか生きていたあの人に?

 

 光子魚雷と反応弾頭も使って、縮退砲とバスターランチャーも使ったのに、なんで生きているのかな? 

 

 後始末が凄い金額になったけど、オールマイトが無傷だったからって、目をつぶってもらったんだよな。

 

「うん、なんだかね、一郎に『何かした』からって、毎日のようにワープゲートを繋げて何かやっているよ」

 

「へぇ~~~」

 

 ご、ご愁傷様。今度、会ったら羊羹でも差し入れてあげようか。今じゃ会心しているって話だし。

 

「あいつが会心? ないよ、今だって一郎の個性を狙っているんだからさ」

 

「ん、ソープ、何か言ったか?」

 

「いやなんでもないよ」

 

 変な奴、なんでそんなに笑っているかな。

 

「一郎、俺はできたぞ」

 

「何が?」

 

「『崩壊』によるみじん切り」

 

 え? 

 

 俺の目の前で、弔が持っていた玉ねぎとニンジンがみじん切りになって、皿に載せられたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 





 巨悪は消えることはないのです。どんな攻撃も瀕死で生き延びるのが、ラスボスの宿命なのです。

 とある人曰く、『え、何度でも攻撃して殺せるってことだよね』。

 RPGだとラスボスをなぶって経験値を稼ぐって、当たり前にあるらしいね。

 現実だとかなり怖いけど、スパロボだと当たり前だよね。

 という風味な話でした。






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正直、何処へ向かっているのか不安です


 気の向くまま、その時のノリで進み続ける暴走特急。

 ネタに詰まったのではなく、ネタが多すぎて進まない。

 これが本当の赤信号! ドクターストップ?

 風味な話です。






 

 皆さま、年末年始、いかがお過ごしでしょうか?

 

 どうも田中・一郎です。

 

 こちらはね、休みなんてないんですよ、解ります?

 

 労働基準法ってなんだろうね、ないんだろうね。いやぁ~~ヒーローって職業がある世界で、労働基準法ってないんだよね。

 

 毎日毎日、ヴィランとヒーローは労働基準法などない日々を過ごしているのは、きっと世界平和が憎らしいからだ。

 

 そうに違いない!

 

「一郎、お疲れ様。明日も頑張ろうな」

 

「・・・・・・・」

 

 きっと世界平和なんてできないんだ。不可能だ。ギルもよく言っていた『フェイカー』の親父さんが求めた、恒久平和なんてないんだ。

 

 でも! ないと諦めて生きるより! あると信じて前のめりに倒れる! それこそが男! いや漢だ!!

 

「一郎、そうか、そうだな。俺も頑張らないとな。まだまだ子供たちの笑顔のためにクリスマスケーキを作らないとな」

 

 クリスマス! そんな単語は俺の辞書にはない! 俺達には休みなんてない、休みなんて惰弱な精神を持って社畜なんてできない! 

 

 軍人に休みはないんだ!

 

「今年はクリスマスが終わってしまったから、次は御節だな。正月も子供たちが笑顔で過ごすように頑張ろうな」

 

 くくくくく、俺を本気にさせたな、世界よ。いいだろう、我が鎮守府の総戦力がどれほどのものか、見せてやろう。

 

 神よ! 呪うなら呪うがいい! 俺を世界に落としたのは貴様なのだからなぁ!!

 

「やる気十分だな、一郎。俺も頑張らないと」

 

 ふふふふふふ!!

 

「なぁ、ギル」

 

「なんだ、コナン」

 

「あいつらって通じ合っていると思うか?」

 

「ふん、名探偵ともあろう者が、馬鹿なことを言うな。何時もの名推理はどうした?」

 

「だよなぁ。一郎の馬鹿は何時ものことだが、弔はなんであんなに晴れやかな顔で子供の笑顔なんて言ってるんだ?」

 

「至宝と我が教え込んだ」

 

「元凶はやっぱりてめぇかよ」

 

 ふはははははははは!! 

 

 世界よ、俺を恐れるがいい!

 

「さあ来年も頑張ろう」

 

「平和だなぁ」

 

「そうだな。我の愉悦は、今年も絶好調だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 改めまして、すみません、田中・一郎です。

 

 飲食店やってるから、年末年始は休みなし。クリスマス一週間前から働きっぱなしだったんだよ。

 

 理解して、休みなしでハイテンションだったんだから。ね、ほら誰だってナチュラル・ハイになったら、色々とやらかすじゃん。

 

 みんなも忘年会でやらかした経験くらいあるでしょう?

 

 そう、そんな感じ。

 

「なるほど。忘年会で酔い潰れたり、絡んだりしたのと同じってことだね」

 

「そうだよ、ソープ。頼むからそれ以上は止めてくれ」

 

「解ったから、正直に話してごらん? なんでボクとエルの二人が全力で情報操作しなくちゃいけないことになったのか?」

 

「ごめんなさい」

 

 俺は素直に土下座した。

 

 なんか知らないうちに鎮守府最大稼働したらしい。警報が鳴って艦娘達がフル装備で出撃して、さらにエイリアン部隊とプレデター部隊まで展開したから、もう世界が凄いことになりかけたとか。

 

「はい! 土下座はいいから教えてください!」

 

 あ、うん、エルもお疲れ様。いや、本当にごめんなさい。なんでやったか覚えてないんです。本当に。

 

「せっかく、新しいギミックを組みんだ『変形可能な移動基地型鎮守府』だったのに、試せなかったじゃないですか!」

 

「うん、エルは黙ろうか」

 

「イエッサー!」

 

 怖!? うわぁ、久し振りに見たよ、冷笑するソープ。さすが神様、その迫力が凄い頼もしくもあり、悲しくもあり。

 

「で?」

 

「はい、すみません」

 

 辛くあるんですよね、本当に。

 

「今回だけだからね。君がやらかして、『地球崩壊』なんて見たくないからさ」

 

「ごめん、本当に助かったよ、ソープ。でもさ、なんで俺ってそんなことしたのか、記憶にないんだよ」

 

 何でだったかな。あれ、かなり理不尽なことがあって、それに怒って拳を振り上げたのは覚えているんだけど、何だっけ?

 

「年末年始に休みがなかったからじゃないの?」

 

「いや、だってそれ軍人時代には当たり前だったから」

 

「え?」

 

「はい?」

 

「・・・・・・あれ?」

 

 あれぇ? なんでソープとエルが固まるかな。いやだって、俺って休んだ記憶がないんだけど。何時も執務室にいて、コナンとギルに挟まれて執務していた気がするし。

 

「労働基準法って知っている?」

 

「え? 軍人って適応外じゃないの?」

 

「・・・・エル、コナンを呼んできた方がいいね」

 

「そうですね。一郎さん、一応、軍人も適応内ですよ」

 

「え?」

 

 一郎ショック! 今になって知った驚愕の事実! え、休んでよかったの、だって深海棲艦が世界を脅かしているから、休んでいる時間なんてないって話じゃなかったの?

 

「というわけだよ、コナン」

 

「はぁ。マスターが怒ったのって、あれだろ? クリスマスのカップルへの嫉妬じゃなかったか?」

 

「ええ~~今更?」

 

 いや、ソープさん、なんでそこで呆れているのかな?

 

 思い出したよ、そうか、そうなんだ。彼女いない俺の前でよくも、あんなにいちゃいちゃと。

 

 いや待った、そんなことじゃなかった気がする。もっとこう、なんだか心の底から叫びたい気持ちになった、何かが。

 

「で、その嫉妬が溜まりにたまった時に、弔に言われたんだよ」

 

「へぇ~~彼が、なんて言ったのさ?」

 

「『俺がいるいじゃないか、一郎』って」

 

 あ、そっか、そうだったんだ。俺はその言葉で精神的な何かがブチっと逝ったんだ。俺は女の子が好きであって、同性が好きじゃないのを知っているのに、あんなこと言うんだもんな。

 

「で、本当にところは?」

 

「ああ、弔はな、『冗談だ。俺が結婚する時の笑い話にしてくれ』とか言ったんだよ」

 

「え? 結婚するの、彼?」

 

「本当ですか?!」

 

「いつか、な」

 

「あ~~~~」

 

 あいつ! 絶対に俺をからかうことを覚えやがったな! 後であいつを女の子がいる場所に連れ出して置き去りにしてやる!

 

「一郎って、その時の記憶がないの?」

 

「飛んだんだろ。まったく、便利な脳細胞をしているよ、あいつはさ」

 

 なんだろ、後ろでコナンが呆れた顔しているけど。ソープとエルがとても暖かい目をしているけど、何があったんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冗談だって教えられて、ホッと安心した一郎です。

 

 弔め、なんだかあいつは最近ギルに染まってないか? 俺を虐めて楽しんでいるような気がする。

 

 イキイキ楽しんでいるあいつに、ちょっと『良かった』と思うこともあるけど、出来ればもうちょっと抑えてほしいかな。

 

「一郎、俺は考えたんだ」

 

「あ、はい」

 

 そんなことを思いつつ、俺は今日も年末年始関係ない、弔の店の掃除をしている。今日のランチは問題なく終わり。

 

 終わり・・・・と思おうか。最近、よく笑うようになった弔目当ての女性客が増えたな、とか。ヒーロー関係者がよく来るようになって、『ヒーローにならないか』ってスカウトしてくるけど、気にしない気にしない。

 

 主に弔とギルとコナン目当てってのも、気にしない。俺に話を振る人はいないのは、気にしない。

 

 あれ、変だな、目から水が。後で目薬でもさしておこう、目が乾いたら大変だ。はははは、はぁ。

 

 で、そんなランチが終わってディナーの仕込みに入った弔が、また食材を持って考えていて。

 

「俺は思った。俺の能力『崩壊』はレベルアップして、今では食材の崩壊を途中で止められるから、千切りもみじん切りもできる。搾りたてのジュースも完ぺきだ」

 

 あ、うん、そうだね。なんだか毎日の努力の結果、弔の能力は識別だけじゃなくて能力の伝達とか、作用も自在になったらしい。

 

 まさに崩壊関係は万能。今では手に触れなくても目視で複数の目標を、別々の作用で効果発揮できる。

 

「だけど、これで満足しているのは、堕落じゃないか?」

 

「いや、弔、何を言っているのか解らないんだけど?」

 

「俺は能力を使いこなした。料理において、俺はこれ以上ないスキルを手に入れた」

 

「え、いや、待って。料理限定? え、料理だけにそれを使うつもりでいるの?」

 

「俺は時々、俺の両手には神が宿っているような気がする。料理の神が、俺の両手にいて、俺に囁いている」

 

「え、はい?」

 

 なんだか、変な方向に話が行ってないですか、俺の気のせいですか、そうだと誰か言って。

 

「もっと料理を作れ、と。俺の料理で万人を救うべきだ、と」

 

「ヤバい宗教ですか、弔クン。止めて、それ以上は駄目だ」

 

「ああ、解っている、一郎。こんな考えは危険だ。そんな考えを持って料理などしたら、味が劣化する。俺自身の包丁のスキルも落ちてしまう」

 

 いやそっちじゃなくて。神が宿るとか、そんな危ない考えを止めろって言うんだよ。神様なんて、宿ったら碌なことがない。

 

「ソープが、『まさに神だね!』と褒めてくれたが」

 

「リアル神様が何やってんだあいつは?!」

 

 おいおいおいおい! 何してくれてんの、あいつ! おまえはリアルに『天照』で日本神話の最高神だろうが! 話を聞く限りはもっと上らしいけど、神様に違いないでしょうが!

 

 なにを弔を洗脳しているんだよ、あいつ!

 

「違うんだ、一郎。俺は、そんなことは気にしない。俺は傲慢になってはいない。俺はごく普通の一般人だ。世界を救うとか、万人を救うなんてことはできない。大丈夫、俺はまだまだ調子に乗ってはいない」

 

 まだまだって、いつかはってツッコミ待ちですか、弔クン。いや、あの顔は本気でそう思っているだけだ。

 

 え、本気でまだまだ調子に乗ってないって思っているだけ、本当に?

 

「俺が気にしているのは、俺は能力を完全に把握したつもりで、達成感に浸っていたのではないか、ということだ」

 

「なんだって?」

 

「俺の能力ならば、分子レベルまで崩壊させられるはずだ。そうだ、出来ないはずがない。俺の能力は『崩壊』なのだから」

 

「え、いや、まあ可能性はあるんだけど、それをしてどうするんだよ?」

 

 俺はそこでこちらを向いた弔の、晴れやかだが何処か歪んだ笑顔を、死んでも忘れなかった。

 

「崩壊させられるなら、俺は『最高の生クリーム』を作れるはずじゃないか?」

 

「いや、なんでやねん」

 

 誰か俺に教えてください。

 

 

 

 

 

 

 うちの弔はいったい、何処へ向かおうとしているのでしょう?

 

 

 

 

「そうだろう!! 物質を分子レベルまで崩壊させられたら、すべての食材を完璧に混ぜ合わすことができる。そうだ、俺は完璧な黄金比率のクリームが作れるはずだ。クリスマスが終わった後に、この事実に気づいた俺は気が狂うくらいに嘆いた。だってそうだろう! 一郎! もうクリスマスは終わってしまった、終わってしまったんだ!! 完璧な生クリームが作れるはずだったのに、ケーキの時期を逃して能力を完璧に把握したと喜んでいた俺は! なんて愚かなんだ! どうしょうもないグズだ! 多くの人の笑顔を、もっと笑顔を増やせたはずなのに、どうしてその可能性ももっと速く辿り着かなかったのか。俺はもう悔やんでも悔やみきれない!」

 

「え、いや、あのさ、弔」

 

「なんだ?!」

 

 感情が天元突破しているような彼に、俺は残酷なことを告げなければならない。それによって、弔が崩れ落ちることになっても。

 

「分子レベルで崩壊したら、それって『食べ物』じゃないんじゃないか?」

 

「?!」

 

「その前にさ、崩壊したものを混ぜるってできるのか?」

 

「・・・・・一郎、俺は間違えたようだ」

 

 フッと寂しく笑った弔は、そのまま後ろ向きに倒れたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、死柄木少年が寝込んだのは、そういった理由か」

 

 夕方、久し振りにディナーを食べに来たオールマイトは、店が閉まっていたので心配になって俺に電話をくれた。

 

 事情を話すと、彼は弔の見舞いを申し出ててくれたんだけど、弔からは『俺は調子に乗った自分を戒めているところだ、放っておいてくれ』と言われたので、店のほうで簡単な食事を出した。

 

 作ったの、俺じゃないけど。

 

「任せてもらおうか!」

 

 歌だけじゃなく、料理もできるナイスなガイコツ魔王。

 

「デザートはお任せを!」

 

 で、ちっこい銀髪チートが甘いものを。

 

「今日は特別に、こちらをどうぞ」

 

 飲み物はラスボス系黒い存在が。

 

「これはこれで、特別なディナーを味わえて、私としてはラッキーだが」

 

 まあ、アインズとエルと黒霧の、たった一名様へのディナーですから。

 

「しかし、死柄木少年の努力は認めるが、今回の一件は少し張り切り過ぎた上に思いつめた結果の悪循環ではないかな?」

 

「俺もそう思うんですけどね。あいつは料理に関しては絶対に譲らないので」

 

「素晴らしい精神だ、と褒めるべきなのか。もっと自重せよ、と叱るべきなのか」

 

「まあ、弔は一度でも言い出すと止まりませんから」

 

「彼も難儀な性格をしているな」

 

 ちょっと呆れたような、けれど褒めるようなオールマイトの言葉に、俺は大きく頷いた。

 

 後日。

 

「一郎、俺は気づいた。食材を崩壊させた後」

 

「私のワープゲートを通せば混ざる、と」

 

「え?」

 

 なんだか清々しい顔で笑う弔と、誇らしげな黒霧と。

 

 めちゃくちゃ旨い生クリームの山がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 




 

 クリスマスの話とか、正月の話とか考えていたら、時間が過ぎてしまって。

 あれ、でもこいつらって飲食店をやっているから、どっちも稼ぎ時じゃないか。いいか、まとめて年始に出せば。

 ということで、今回はこんな感じです。

 的な風味の話になっています。






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彼の終わり、彼の始まり



 はっちゃけた話ばかり考えていると、凄く真面目な話を考えたくなる、そんな時があります。

 頭空っぽにしてのこの作品でございますが、当初はもっと真面目に考えていたんですよね。

 これがその片鱗ですので、ご容赦を。

 ちなみに、一郎視点ではなく第三者視点です。

 つまり、いつものサルスベリの書き方という風味でお送りします。






 

 

 昔を時々は思い出す。

 

 あの日、家族を崩壊させた時のことを。

 

 一郎に会った時のことを。

 

 『・・・・・』が崩れ去って、『死柄木・弔』が始まった日のことを。

 

「そうか、今年も終わるんだな」

 

 弔は窓から見える朝焼けを眺めながら、そう呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人生で最悪の日なんて言葉は、誰もが一度は使ったことがあるだろう。けれど、それが本当になってしまうことなんて、体験したことがある人は少ない。

 

 人生のどん底、世界中が黒く染まって、誰も信じれないような現実を、どうにか受け入れなくちゃいけない。 

 

 大人になった今ならどうにか向き合えることを、当時の『・・・』は受け入れきれず街中を走りまわって、そして路地裏で泣いていた。

 

 家族が目の前で崩れた、大切な何かを失った、心にぽっかりと穴が空いたような、それでいて何を失ったか解らない感覚が全身を貫く。

 

 小さな子供、世界を知らない幼子の当時の自分は、ただ泣くだけで何処へ行くか、何とかしないとなんてと打開策を考える頭なんてなくて。

 

 泣いて苦しんで悲しんで、叫んで鳴いて。

 

 顔を上げたら、あいつがいた。

 

 ごく普通の顔、何処にでもいるような子供が、きょとんとしたまま、手を伸ばして来て。

 

 触るなとか叫んだ気がした。でも、あいつは気にした様子もなく触ってきて、触れてきて、もう誰も傷つけたくなくて拒絶したのに、あいつは平然と俺に触れていた。

 

 手を握って引っ張ってくれて、暗い路地裏から連れ出してくれた。

 

 個性は無差別に使っているはずなのに、あいつが握っている間は何も崩壊しない。誰かに触れたり、ぶつかったりしても、相手が崩れることはなかった。

 

「よっし、ここにするか。さて、住む場所は確保」

 

「廃墟じゃんか」

 

「おう、廃墟だ。でも屋根があってドアがあって壁があるから、大丈夫!」

 

 胸を張って宣言したあいつは、本当に心の底から笑っていた。世間を憎むでもなく、悲しいと叫ぶでもなくだ。

 

 自分と同じ年齢の田中・一郎は、今も昔も変わらずに高らかに笑って自分の前を進んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五歳児が二人だけの生活。今になって思うと、バカなことしたなって思える生活が、長いこと続いていた。

 

 一郎は毎日、何処かに出かけては食料を仕入れてくる。洋服や日常に使う小物なんかを。

 

「これ何処から持ってくるんだ?」

 

「ん、色々なところから。気にすんな、俺は気にしない」

 

 ポーズを決める一郎は、自分で『決まったぜ』とか小さく呟いているが、まったく決まっていない。五歳児が精一杯に手を伸ばして、埠頭に足をかけた海の男らしい格好をしているが、背伸びしているだけのガキにしか見えない。

 

「アホらし」

 

「アホでもなんでも、男ってのは格好つけるもんなんだよ」

 

「そんなもんか」

 

「そんなもんだ。さて、食おうぜ」

 

 一郎は何時だって笑顔で多くを語らない。無視しても、返事をしなくても一人で大声で話しかけて、笑って、怒って、そして最後にはこっちの言葉を引き出していく。

 

 だから、ポツリポツリと語ってしまう。

 

「僕は家族を殺したんだ」

 

「・・・・おう、かなりヘビィな話題が出てきたな」

 

「僕の個性は『崩壊』だから、触った相手を壊しちゃう」

 

「え、俺は?」

 

 驚いて下がる一郎に、きょとんとした顔を返してしまう。何を言っているのか、当時の自分は解らなかったが、今の自分なら解る。

 

 あいつは素で、何の裏側もなく、『え、そんな能力だったの、怖?!』と。

 

「なんで個性がきかないのか解らないけど」

 

「へ、へぇ~~そっか、そっか。大丈夫ならいいや、さあ食べようぜ」

 

 無理やり話題を反らした感じがする一郎に、当時の自分は気づくことなく頷いた。

 

 そんな毎日が流れて行った。

 

 一郎は何時だって生きるのに必要なものを届けてくれた、一年が過ぎて、二年が過ぎても、生活に困らずに暮らせたのは一郎のおかげだ。

 

 笑顔で楽しそうに笑っている一郎に釣られて、自然と笑うようになった。毎日、一郎の話を聞きながら、自分も話せるようになっていった。

 

 笑顔だった、元気だった、だから当時の自分は気づかなかった。一郎が毎日、どうやって食材を持ってきていたのかを。

 

 裏稼業の人たち、命さえ安いものだと考える人たちの使いっパシリ。鉄砲玉のほうが高いような仕事と、自分の命を賭けにして生活に困らないものを手に入れてきてくれた。

 

 知ったのは、三年経ってから。

 

 傷だらけになって倒れるように戻ってきた一郎を見た時に。

 

「一郎!? 何があったんだよ?! どうしたんだよ?!」

 

「いや、ちょっとドジった。ははは、大丈夫、何とかなるさ」

 

「何とかって血がこんなに!」

 

 医者に連れて行かないと死ぬ。子供心に思った瞬間、一郎を支えて立とうとして、足を滑らせた。

 

 八歳の子供が、同じ八歳児を支えるなんて無理だった。生活に困らなかっただけで、体を鍛えられるようなものはなかったから、一郎を支えるなんて無理だった。

 

 どうしよう、何ができる、どうにかしないと。頭の中でグルグルと考えが回るだけで、一歩も動けずに立ち尽くす。

 

 そんな時だ、『あいつ』が来たのは。

 

「君かね、なるほど、二人ともかなり強い個性を持っているようだ」

 

「誰?」

 

「私かね? 私は『オール・フォー・ワン』とでも呼んでもらおうか? 彼を助けるために来た。二人とも辛かっただろう? 怖かっただろう? さあ、私と一緒に行こう」

 

 優しく手を差し伸べてくるあいつを、当時の自分は信じてしまった。一郎が必死に人の優しさを教えてくれたから、この人も信じてもいいのではと思ってしまった。

 

 今になって思えば、あの時に触れて壊したほうが、世界のためだった。あんな奴は存在してちゃいけない。あいつは殺しても足りない、魂さえ消して砕いて、地獄の底で苦しんだ方がいい。

 

 心の底から怒りが湧いてくるほど、憎らしいあいつをこの時の自分は信じてついていってしまった。

 

 『・・・』ではなく、『死柄木・弔』にとって、最初にして最大の罪だ、これが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『オール・フォー・ワン』に連れられて、とある場所に連れて来られて、名前を与えられて、すぐに気付いた。

 

 ここは異常だ。世間に対しての憎しみを植え付ける教育、不満を口にして打開する手段を、自分で生み出すのではなく、世界を壊すために使おうとしている。

 

 そして、何より、『徐々になくなっていく子供たち』。

 

 一郎とはあれっきり会えていない。あいつは『治療しているよ』と答えるだけで、会わせてくれない。

 

 日々、焦燥感が募る。あいつは本当に信じれるのか、何か裏側があるのじゃないか。周りの施設で訓練を重ねながら、次第に嫌な予感が膨れ上がる。

 

「・・・君がいなくなったの」

 

「昨日は・・・ちゃんが奥に連れて行かれたよ」

 

 小耳に挟む話に、ギリっと奥歯を噛んだ。やはり、あいつは信じられない、あいつは何か企んでいる。

 

 一郎を預けていたら、よくないことが起きる。

 

 探さないと。でもどうやって、施設の中を見回すと監視カメラや監視員の姿がある。明らかに外からの侵入者じゃなく、内側からの脱走を警戒している。

 

「一郎に教え込まれた、『簡単軍人マニュアル』役に立つな」

 

 ポツリと呟いて、さあ動くかと考えた瞬間だった。

 

 施設が揺れた。微細にじゃない、細かくじゃない。まるで施設ごと浮かびあがったかのように、吹き飛んだ。

 

「逃げるな! この変態がぁぁぁ!」

 

 叫び声と共に地面を割って出てきたのは恐竜だった。機械で作られた恐竜が両手を上げて何かを追っている。

 

 なんだ、あれは。本当に何が起きているのか。呆けてしまった視界に、三十メートルを超える恐竜の手に乗る、一郎の姿を入ってきた。

 

「子供達に悪戯して何するつもりだてめぇ!」

 

「い、一郎?」

 

「大和! いいから波動砲連射! あいつを消せ!」

 

「はい!」

 

 なんだろう、あの女性は。なんか鋼鉄の塊を纏った女性が、恐竜のいたる所に張り付いているんだけど。

 

 それに、なんだかすっごい異形って姿の連中が足元から湧いているけど、あれも一郎の仲間か。

 

「変態め! イエスロリータ! ノータッチ! この言葉を知らんのか?! イオナ! コンゴウ! 侵食弾頭一斉射! 資材を気にすんな!」

 

「了解」

 

「解った」

 

 なんだか、見える範囲がすべて黒く染まったけど。攻撃なのか、それとも幻なのか。

 

「ふ、ふふふ、いいね、実に興味深い個性だ。君から奪えなかったから、無個性かと思ったら」

 

「奪うってなんだよ!? てめぇは子供なら誰でもいいのかよ?!」

 

「なるほど、『オール・フォー・ワン』で奪えないわけだ。君の個性は、『君の中にない』。それが君の個性の大元か。なるほど、君の体は個性の『出力のみ』を行っているわけか」

 

「わけわかんないことを言うな! 土佐! 信濃! 艦載機発艦!」

 

「オッケー!」

 

「解りました!」

 

「誰が考えたか知らないけど、いい『防御策』だね。これなら、個性を無効化されることも、個性を奪うこともできない。何しろ、田中・一郎には個性がない、でも個性を使える。なるほど、興味深いね」

 

 なんだか、色々なことが起きているな。人間と同じサイズの航空機が、無数に飛び交って爆弾とミサイルを降らせているのを、遠い目で見てしまうくらいに現実離れしていた。

 

「おい」

 

「え?」

 

「おまえが、『・・・』だな」

 

 声を振り返ると、小学生がそこに立っていた。

 

 眼鏡をかけて半ズボンの少年は、見た目以上に落ち着いた雰囲気で、手を伸ばしてきた。

 

「初めましてだな、俺は江戸川・コナン。探偵だ。一郎から言われて、おまえを保護しにきた」

 

「一郎から?」

 

「ああ、詳しい話は後で話すぜ。ついてこいよ」

 

「あ・・・あれ?」

 

 コナンは自然と腕を握ってきた。でも、彼は崩れることなく不敵な笑みを浮かべていた。

 

「フ、この探偵に暴けない嘘や技術はないんだよ。おまえの個性は俺には効かないぜ。だから、遠慮なく掴めよ」

 

「なんで、だって一郎以外は触れられないって」

 

「なら、俺が二人目だな。安心しろよ、俺以外にも大勢がおまえに触れても崩れないって約束するぜ」

 

 コナンはそう言って、暴れている恐竜を親指で示す。

 

「あの、俺達の守護神に誓ってな」

 

 何処までも不敵で、何処までも高く、そして何処までも頼りになる顔でコナンはそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は、毎日が楽しかった。

 

「ふん、雑種が」

 

 ギルガメッシュに笑われて、怒られて、諭されて。

 

「初めまして、レディオス・ソープです。一応、男ね」

 

 ソープに技術とか教えられて。

 

「どうも、エルネスティです。ロボットって好きですか? 好きですよね? もちろんですよね?!」

 

 エルにロボット愛とパソコン関係の技術を教え込まれて。

 

「よし! 今日の気持ちを歌に込めるのだ!!」

 

 アインズに歌を教えられて。

 

「ふ、海は何処までも広い。さあ、行くぞ」

 

 エンタープライズや大和、イオナ、コンゴウ、土佐と信濃に連れられて海を進んで。

 

「にしし、何処見てるにゃしー?」

 

「もうまた迷子なの? けがしてない?」

 

「ぽいぽいぽい」

 

 睦月と如月と夕立に土地感と気配を読むことを教えられて。

 

「さあ行くわよ!」

 

「全力で頑張りましょう!」

 

 天津風と榛名に『がんばる』意味を教えられて。

 

「こっちですよ、こっち」

 

「なのです」

 

 ジャベリンと電に近接と遠距離攻撃の対処法を叩きこまれ。

 

「こっちで大丈夫」

 

「はぁ~~~い」

 

「さあ、参りましょうか」

 

 ユニコーン、エターナル、フロンティアにマッピングや乗り物を使うことを教えられて。

 

「ゆっくり歩く」

 

「後ろを見たらダメ」

 

 イムヤとゴーヤに尾行の仕方、尾行の撒き方を覚えさせられて。

 

「ぱんぱかぱ~~ん」

 

 愛宕に気合を入れて楽しくなる精神制御を叩きこまれ。

 

「さあ、行きましょうか?」

 

 吹雪に総合戦闘訓練をさせられて、個性の制御を教えられた。

 

「ほら、どうした?」

 

 コナンに事務仕事全般から、一般教養まで。学校で教えられることをすべて教えてもらった。

 

 そして、一郎に。

 

「ん、なんだよ、弔?」

 

「何でもない」

 

 常に前を向いて笑顔で生きることを、教えられた。自分の前を進んでいく背中に、『そうか』と何度も思えた。

 

 生きるって辛いことで、悲しいこともあって、苦しいこともあって。でも、笑顔でいられるなら大丈夫、楽しいと感じて進んでいけるなら生きていける。

 

 そんな強い心を、あの背中に教えられたから。

 

 だから・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プレデターとかエイリアンとか、妖精とかに囲まれても、俺は大丈夫だ」

 

「いや、弔、たまには拒否した方がいいって」

 

 異形とか小さい生き物とか、そんな連中に埋もれた弔に、一郎は心の底からそう呟いた。

 

「いや、一郎、俺はいいんだ。心地いい」 

 

「マジで? いや弔がそれでいいなら、いいんだけど。俺は止めたほうがいいって思うんだけど」

 

「大丈夫だ。俺は今、幸せだ」

 

「・・・あれ、弔? いや待った弔?! 返事しろ! 生きしてないだろおまえ?!」

 

 返事がない、まるで屍のようだ。

 

「弔ぁぁぁぁぁ!!」

 

「ああ、一郎、『刻が視える』」

 

「それは幻覚だからぁぁぁ!!」

 

 だから、死柄木・弔は今日も笑顔で元気で、毎日を楽しく生きている。

 

 時々、死にかけるけど。

 

 

 

 

 

 







 死柄木・弔始まりの物語。

 正直、この話ともう一つが浮かんだから、こんなハチャメチャな作品を書こうと思い至ったわけです。

 最高のヒーロー、その条件ってなんだろうってところで。

 という風味になっています。






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ヒーローの条件

 

 書きたかった話、その二です。

 反論怖いけど、死柄木・弔を始めて見た時に思ったことを、ギュッとつめてみました。

 ヴィランである彼は、もしかしてちょっとしたすれ違いとか、出会いがあったら、こうなっていたんじゃないかなって。

 妄想たんまり風味のお話です。






 

 

 年が過ぎ去って、新しい年が世界に広がって行った。

 

「弔、どうした?」

 

「何でもない」

 

 珍しく携帯電話を握りしめ、睨むように画面を見ていた彼に、一郎は問いかけるが、答えは素っ気なくて少しの拒絶があった。

 

「何でもないならいいけど」

 

「ああ、一郎、今日は店を休みにしたい」

 

「はい?」

 

 『え、おまえ何言ってんの、熱でも有るの』と顔中で語る一郎に、弔は悪いと小さく呟いて店を出ていく。

 

「看板、だしておいてくれ」

 

「解った、遅くなる前に帰れよ」

 

 背後から聞こえる一郎の声に、弔は小さく手を上げた。

 

 何事もないように、何時もと変わらない様子で手を振りながら、弔は真っ直ぐに前を睨みつける。

 

 おまえを今度こそ、殺してやる、と思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 懐かしいというべきか、あるいはもう二度と会いたくないというべきか。

 

 死柄木・弔にとって、彼は恩人であると同時に、復讐の対象でもあった。

 

 自分に名を与えてくれた人、自分に能力の自覚をくれた人、自分に憤りを植え付けた人。

 

 そして、自分の最大の理解者であり、道しるべを殺しかけた奴。

 

「先生」

 

 小さく名を呟き、弔は路地裏に入りこむ。

 

「やあ、死柄木・弔、会いたかったよ」

 

 闇を払うように、彼はゆっくりと歩いてくる。身に纏うのは、漆黒の鎧のような何か。前に会ったとき、一郎の個性『手のひら鎮守府』の総戦力を食らったにしては、随分と元気に歩くものだ。

 

「これかね? いやまったく、彼の個性には困ったものだ。最初に会ったときの巨大な機械の恐竜だけかと思ったら、隠し玉まであるとは」

 

 ガチャガチャと音がする。機械仕掛けの鎧は、あいつの声で動き続ける。まるで生きているように。

 

 弔は小さく睨みながら、ブレスレットを外す。同時に胸ポケットの『魔法鞄』から『それ』を取り出す。

 

 人の手を模した仮面。平べったいものではなく、人の手そのものといったそれを持ち、ゆっくりと顔につけていく。

 

「懐かしいね、それは私が最初に上げたものじゃないか」

 

「黙れ。おまえの気持ち悪いあれと一緒にするな」

 

 弔は一括で斬り捨てる。誰がおまえの道具など持つものか、これはあの後にエルとソープが作ってくれた、人の認識を阻害する道具だ。

 

 正体がバレてもいい、自分が犯した罪は自覚している、自分がどうなってもいい。弔は心の底からそう思っている、罪は裁かれてこそ世界は平穏でいられる。 

 

 けれど、今じゃない。今はまだその時じゃない、自分が犯した罪に対しての罰を受けるのは、もっと先の話でなければならない。

 

 これをつけるのは一郎に迷惑をかけないため。正体がバレて自分だけじゃなく、一郎にまで被害が及んでしまったら、弔はとても自分を保てそうにないから。

 

「つれないね。一時期は私の庇護下にあった、同士じゃないか」

 

「黙れよ、貴様。同士は否定しない、俺は一郎に『依存』している。おまえみたいにな」

 

「ふふふ、確かに私は彼の個性が欲しい。英雄王、名探偵、希代の発明家に、天照。艦娘もそうだ、あの魔王も欲しい。すべてが詰まった一つの世界、それが彼の個性なのだからな」

 

 うっとりとして語るあいつに、心の何処で同意してしまう。

 

 一郎の個性は、一つの世界だ。科学的な戦力、魔法的な戦力、あるいは超常的な戦力と十分にそろっているが、それが脅威ではない。確かに戦う力はあったほうがいいだろうが、彼の個性の強さはそこじゃない。

 

 彼の個性は、『補充がきく』こと。ミサイルや爆弾を使っても、一郎本人の体力が削られることはない。魔法を実行したとしても、一郎の精神力が削られることはない。

 

 すべてが、独立している。ギルが、コナンが、ソープが、エルが、アインズが、艦娘達が、それぞれに力を使ったとしても、一郎本人に影響はない。

 

 あの時、機械の恐竜を使った時も。一郎は、『魔改造の鎮守府だったもの』とか、『デスザウラー凶悪版』とか呼んでいたが、あれを最大稼働しても一郎は平然としているだろう。

 

 万能的で全能、最強無比。一つの国家並の戦力を保持しながら、一郎の体力も精神力も削られない、世界で初めての強個性。

 

 『オール・フォー・ワン』が目をつけたのは、そこだ。個性を複数持っていても、所詮は人間の体。いくら改造を重ねて、個性で強化しても限界が来る。

 

 けれど、一郎の個性ならば。いくら戦っても、いくら戦力を出しても、限界は来ない。個性の持ち主はあくまで、『命令者』であって、『発現者』ではないから。 

 

「だからこそ、僕の相応しい。そう思わないか、弔?」

 

「思わない。あの個性は一郎だから使えている。おまえみたいな性格破綻者に渡したら、世界が混乱するだけだ」

 

「言うね」

 

 何処か楽しそうに、あいつは笑う。かつて先生と呼んだあいつは、歪んだ笑顔を浮かべながら機械の手を動かす。 

 

「そうそう、彼の恐竜はデスザウラーという『ゾイド』らしいね」

 

「だから、何だ?」

 

「ふふふふ、弔。私はね、彼に感謝しているよ。彼のおかげで、私は見つけることができた。知ることができた」

 

 何の話だ、どうでもいいか。あいつの言葉など聞いてやる必要はない、さっさと終わらせて戻ろう。

 

 弔が右手を開いて、姿勢を低くし体中に力を入れた瞬間だった。

 

「転生者を、ね」

 

 小さく呟いた言葉と同時に、弔は反射的に飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一郎は店の中でボーと時計を見ていた。

 

 なんだか今日は暇だ。店を休んだから、予定が狂ってやることがない。普段なら趣味だとか、話相手だとか、あるいは大騒ぎする連中がいるはずなのに。

 

「今日はなんで誰もいないんだ?」

 

 チラリと店の入り口を見ると、『トッティ』と『トルテ』が立っていた。今日は店を休むって伝えたのに、律儀に店先にいるとは。

 

 彼らもサービス業の精神が宿ったのか、それはとてもいいことだ。

 

「弔も帰りが遅くなるのかな? 連絡もよこさないで」

 

 携帯電話を見ると着信はなし、メールもない。

 

 珍しく、コナンとギルからもない。何時も、うるさいぐらいにメールを送ってくるのに。

 

「はぁ、こんな日を世はこともなしって言うのかな?」

 

 小さく呟き、一郎は立ち上がる。誰か本でも持っていたかな、と思いながら。

 

 彼がいる店の先、トッティとトルテは店の入り口で直立不動で立っていた。一歩も動かず、一ミリも揺れることなく。

 

 目の前の戦いを見続けていた。

 

「あいつ、まだ諦めてなかったのかよ」

 

 嘆息交じりに答えながら、コナンがサッカーボールをけった。閃光を放ちながら空中を突き進むサッカーボールが、隣のビルの屋上から降ってきた黒い物体を弾き飛ばす。

 

「あの雑種が諦めるなど、ありえぬな。どうした、コナン、もう疲れたか?」

 

 黄金の波紋を浮かべながら、ギルは不敵に笑う。降り注ぐ宝具の雨は、迫っていた黒い物体を貫いて散らす。

 

「バーロ、そんなわけあるか。ご近所迷惑だって言ってんだよ」

 

「ならば良かろう。今この場は、結界の中だからな」

 

「それは感謝だな」

 

 コナンが見つめる先、豪華なローブをまとったガイコツが、同じく豪華な杖を突き出して天を睨んでいる。

 

「覚えておいて良かった、ミッドチルダ式魔法だな。封鎖結界はこれでいいだろう。さて」

 

 彼は動きだす。全身から黒いオーラを纏わせながら、ゆっくりと、一歩一歩と黒い物体に迫る。

 

「脳無と言ったか? あいつも無粋なことをする」

 

 死の気配をまき散らしながら、オーバーロードは嗤う。

 

「おっかねぇ」

 

「フ、不死王の本気か。これは我も気合を入れねばならんな」

 

「おいおい」

 

 呆れながらため息をついたコナンは、ハッとして身をひるがえす。先ほど吹き飛ばした脳無が、何事もなくそこにいた。

 

「おい、どういうことだ?」

 

「確かに奇妙だな」

 

 見れば、宝具に貫かれて消えてはずの脳無まで、その場に復活していた。

 

「フム、二人ともしばらく様子を見てくれないか? これはひょっとすると厄介事かもしれん」

 

 アインズが考え込み、杖を突き付ける。

 

 探査魔法開始。精密調査を。

 

「アインズ!」

 

 叫び声に、彼は空を仰ぐように振り返った。その視界に、腕を振り上げた脳無の姿が映る。

 

 そして、衝撃がガイコツを吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 右腕が鋭く刃のようになった脳無の一撃を避ける。僅かに避け損ねて洋服を斬られたが、気にせずに前に進む。

 

 右手へ触れる。刃に指先が切れたが、触れた以上は終わりだ。崩壊していく脳無は、やがて崩れ落ちて行った。

 

「昔と変わらないな。こんなもので俺を止められると思っているのか?」

 

「思っていないさ」

 

「じゃ、なん・・・・」

 

 弔はほとんど反射的に飛び退いた。脳無がまた出たか、今度も同じ両腕が刃のような形をした個性持ち。

 

 同じ手をと、弔が考えて掴んだ脳無は崩壊していく。その途中で、『戻った』。

 

「な?!」

 

「そうそう、言い忘れていたよ。その脳無は特別製でね。『DG細胞』というのを使っている」

 

「何だそれは?!」

 

 叫びながらも脳無の攻撃を回避しつつ、相手に触れて崩壊させていく。確かに崩れるが、崩れる速度が遅い。先ほどより明らかに、弔の個性が効いていない。

 

「『自己進化』『自己増殖』『自己再生』を持ったある機械の細胞だよ」

 

「機械がこんなにも再生するものか」 

 

 冷静に相手を観察する、あいつも視界に入れながら警戒して、周辺を観察していく。

 

 脳無の反応はある、複数の脳無がいる。けれど、それらはこっちに向かっていない。目的地は、別の場所。一郎の方じゃない、あちらではなく。

 

「デビル・ガンダムという機械の細胞を使ってみたんだがね、どういうわけかこちらの制御を受け付けなくてね」

 

「・・・・・・?!」

 

 瞬間、弔は『オール・フォー・ワン』を無視して走り出した。

 

「人を無差別に襲うようになっているんだよ」 

 

 背中に叩きつけられた言葉に、弔は答えなかった。全力で走る、前を塞ぐ物体は申し訳ないが崩壊させて移動ルートを確保した。

 

 急げ、急げ、もっと速く動け。全身で叫びながら、弔は走る。必死に走って、懸命に駆け抜けた先、市街地には『悲鳴が舞っていた』。

 

「おまえらぁぁぁぁ!!」

 

 街を破壊する脳無の一匹に食らいつき、全力で『崩壊』を使う。一瞬で崩れた脳無が、足元に崩れた原子レベルの細胞が、次第に蠢いて結合していく。

 

「崩れてろ!」

 

 細胞ごと崩壊させればいい。咄嗟に思いついたことに、能力の比重を重くする。さらに細く深く、もっと細かい場所に届くように伝播させた。

 

 脳無は再生途中で鳴動して、そのまま消え去った。

 

 これなら何とかなる。なんとかなるが、こちらの消耗が激しい。一体にこれだけの能力を使っていたら、時間が足りないのではないか。すべて倒すのに、どれだけの時間がかかる。

 

 無理じゃないか。心の何処かで思ったことを、弔は振り払うように走りだす。 

 

「うわぁぁぁぁ?!」

 

「なんだこいつら?!」

 

 悲鳴が聞こえる。そっちへ行けば脳無がいる、悲鳴が敵の位置を教えてくれるならば、悲鳴を追いかけていけばいい。

 

「邪魔だ!」

 

 通行人の男女に襲いかかろうとした脳無に右手を伸ばせたが、反対に攻撃を受けた。グサリと突き刺さる刃を崩壊させ、そのままこちらの能力を使う。個性の『崩壊』を徹底的に流して原子レベルで粉砕した後に、さらに追加も叩きつけた。

 

「お、おい、あんた」

 

「逃げろ」

 

 呼びかける声に、振り返ることなく告げる。右腹に突き刺さった刃は崩壊させたが、血が止まらない。足もとがふらつく、痛みで足が止まりそうになる。

 

 もう無理じゃないか、必死にやったじゃないか。一人が出来ることなんて、ここまでだ。

 

 弔はそう告げてくる自分を自覚し、足を止めかけた。

 

「誰か助けて!」

 

 足が動いた。理屈じゃない、理論なんて知ったことか。動く足がある、使える腕がある。個性もまだまだ使用可能だ。

 

 なら止まる理由はない、止まらない理由なら十分にある。

 

 悲鳴を追え、その先に元凶がいるのだから。

 

 弔は走る、傷を負いながら、血を流しながらも、脳無を崩壊させていく。一体、二体、三体と倒しながら進む。

 

 いくら倒しただろうか、もう数えていないから解らない。ただ悲鳴が上がれば全力で駆けつけて脳無を倒すだけ。

 

 後どのくらいだ、どれだけ経った。

 

 疑問と疲労から足を止めて周りを見れば、街の中心街にいた。

 

「素晴らしい。君がここまでやれるとは思っていなかったよ」

 

「『オール・フォー・ワン』」

 

 視界が揺れるが、あいつの存在は見落とさない。

 

 機械の手で拍手しながら、歪む笑顔を向けてくる。

 

「あれだけの脳無を一人で倒すとは、個性が強くなったようだね」

 

「余計な御世話だ。今度こそ、おまえを倒す」

 

「そうか、君の望みだったね。ならば、倒してみるがいい。この『脳無』を倒してからね」

 

 あいつの影から今までの倍以上の脳無が躍り出た。全身を鎧で覆ったような、奇妙な脳無だ。

 

 今の状況では、倒せないか。弔が一瞬でそう判断し、場所を移そうと思考している中へ、冷水のように冷たい声が突き刺さる。

 

「さあ、皆殺しにしなさい」

 

 瞬間、そいつは雄たけびを上げて、『一般人のほうへ向かっていった』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼はその背中を生涯、忘れなかった。

 

 傷だらけになりながら、必死に護る背中を。血を流し、ふらついた足で自らの三倍以上の敵に立ち向かう姿を、絶対に忘れなかった。

 

「どうしてそこまでするの?」

 

 呼びかける声は届かず、倒れて、殴られて、飛ばされても、足を止めることなく巨大な敵へと立ち向かっていく。

 

 小さな背中だった。ヴィランに比べたら、とても小さい背中。

 

 でも彼にとっては、とても大きな背中に見えた。

 

 言葉を話さない、無言でいる彼の背中は語る。

 

 目を合わせなかった、彼の顔は見えなくても、背中が吠える。

 

 『絶対に護り抜く』。

 

 無言の叫び声は、確かに彼らや彼女達に届いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正直、驚いているよ。どうしてそこまでするのか、私には理解できないな」

 

 傷だらけで倒れている弔に、『オール・フォー・ワン』は語りかける。

 

「俺も解らない」

 

 体に力が入らない。でも弔は立ち上がる。もうとっくに体力の限界は通り越した、けど弔は立ち上がるのをやめない。

 

「君はヒーローを嫌っているはずではないか?」

 

「嫌ってはいないな。憧れてもいない」

 

 口調はしっかりとしていた。でも、視界は歪んで霞んでいる。

 

「ふむ、理解できないな。今の君はヒーローのようじゃないか。多くを護る、ヒーローに見える」

 

「俺はヒーローじゃない。そんな上等なものじゃない。俺は罪人だ、家族を殺した俺に、誰かを救うヒーローなんて慣れるわけがない」

 

「ではなぜだ?」

 

「助けたいって思ったからだ」

 

 弔は笑う、力なく虚ろな微笑みだったが、その瞳は力を失っていない。

 

「理屈じゃない、理論じゃない。ただ、俺が助けたと思った。どうしょうもない絶望の中で、俺は一郎に救われた。あいつに世界は冷たいだけじゃないって教えてもらった。コナン達にいろんなことを教えてもらった」

 

 世界を憎んで絶望してた自分に、『世界ってあんがい、悪いもんじゃないだろ』と教えてくれた人たちがいた。

 

 毎日を楽しく過ごせるようにしてくれた。人の冷たさを教えてくれた、人の優しさを教えてくれた。

 

 人の卑屈さを知った、人の温かさを知った、優しい世界もあって、酷い世界もあると知った。

 

「解らないな。それはヒーロー姿じゃないかね?」

 

「さあな、俺はヒーローじゃないから解らない。でもな、一郎が昔に言っていたことがある」

 

 憧れのヒーローと質問されたとき、一郎はちょっと困った顔をした後に、こう答えた。

 

 彼らは悲劇があれば風と共に駆けつけて、嵐のように去っていく。

 

 戦いがあれば何処へでも向かい、戦いが終われば誰にも知られることなく姿を消す。

 

 アニメみたいな話だ。でも、そんなアニメが好きで、自分の悲劇を救ってくれるヒーローに憧れて、それを生み出した人たちがいた。

 

 そして、そんなヒーローが現実で戦っている世界を見たことがある。

 

「正義とか悪じゃない。一郎が憧れたヒーロー達はな、『人間の自由のために戦っている』って言っていた」

 

 正義の味方と呼ばれ、悪と戦い続けた人たち。時に人に知られずに世界を救って、時に世界中から恨まれようとも人々のために戦った人たち。

 

 誰からも称賛なんてされなくても、誰からも尊敬されなくても。

 

「誰かの『助けて』に答える。その人が絶望に囚われているなら、悲劇に束縛されているなら、その人の自由のために戦う。そんな人たちに憧れた一郎に」

 

 弔は足に力を入れ、全身の力を振り絞り、立ち上がった。

 

「そんなあいつに憧れた俺が、人達の自由が脅かされているのに、倒れるわけにいかないだろ?」

 

 不敵に笑う、おまえなんて敵じゃない。もしもこの人たちに何かしたいなら、先に倒すべきは自分だと告げるように。

 

「そうか、弔。君は染まってしまっているんだね、可哀そうに。殺せ、脳無」

 

 脅威が迫る。今まで以上の力を込めた脳無が、満身創痍の弔へ一撃を叩きこむために。

 

 人々の悲鳴が上がる。もうダメだ、逃げろと叫ぶ中に、小さな声が一つ。

 

「負けるな!」

 

 ピクリと弔の手が動いた。

 

「ヒーロー!!」

 

 轟音が周辺を揺らす。

 

「・・・・・・・ハ。俺も憧れていたんだな。たった一声でいい」

 

 脳無が崩れ落ちる、細胞が再生し増殖する中、さらに崩壊は脳無の全身を包み込む。

 

「大勢じゃなくていい、たった一声で立ちあがる、そんな存在に」

 

 霧が晴れるように、脳無は消えていく。

 

「そうか、俺はヒーローになりたかったのか」

 

 グッと手を天へと突き出す。

 

 そして歓声が彼を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、助勢は必要なかったか」

 

「そうだな。アインズ、盛大に飛ばされたみたいだったけど、大丈夫なのか?」

 

「私の物理防御は、レベル10に上がっている。あの程度、ダメージはない」

 

 興味なさそうに彼は足元に転がっている『脳無』だったものを見ていた。

 

 ダメージを与えたつもりが、自分がダメージを受けていたなんて、滑稽な話もあったものだ、と。

 

「コナン、全部、終わったよ」

 

 ソープが背後に立つ。栗色の髪が銀髪になっていて、纏う雰囲気が普段と違うが誰も気にしない。

 

「私のワープで全員が帰還済みです」

 

 黒霧の報告に、コナンはポケットに手を入れて歩きだした。

 

「事件解決だ。俺達をなめ過ぎなんだよ、『オール・フォー・ワン』」

 

 見下ろす先、彼は姿を消していた。

 

「追いかけないんですか?」

 

 エルの問いかけに、コナンは首を振った。

 

「俺達の『事件』じゃないからな。こっから先はオールマイトの事件だ。他人の事件に首を突っ込むのは、探偵にとって野暮だからな」

 

 そう告げて、コナンは最後に全員に伝える。

 

 撤収、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで弔は傷だらけで戻ってきたんだよ?」

 

「転んだ」

 

「いや明らかに刃物による傷じゃないか」

 

「包丁持って転んだ」

 

「お~~~い、それで俺が騙されるって思ってるのかよ?」

 

「俺はおまえを信じている」

 

「馬鹿にしてませんか弔クン!」

 

 何時も通りの家のリビングで、包帯塗れの弔に対して、一郎は盛大に溜息をついた。

 

「まったくさ」

 

「一郎、俺は解った気がする」

 

「何がだよ?」

 

「ヒーローが何かを」

 

 はいと一郎は顔を上げて弔を見つめた。

 

 彼は普段と変わらず、晴れやかな笑顔で笑っている。

 

 そっか、なら良かったな。一郎は無言で語りかけながら、微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、民衆の間でとある噂が流れた。

 

 嵐のように訪れて、悲劇を砕き絶望を払って、嵐のように去っていくヒーローがいると。 

 

 プロ・ヒーロー達は『そんな奴は見たことない』という。都市伝説だとネットで騒がれて、多くの人が『嘘やねつ造だ』と言い始める中。

 

 彼を知っている人たちは、その存在を信じ続けた。

 

 その名は、彼がしていた人の手のような仮面に因んで、『ザ・ハンズマン』。

 

 あるいは、

 

 

 

 

 

 

 

『傷だらけのヒーロー』

 

  

 

 




 

書きたかった話は以上です。真面目にやるのも今回限り。

 次回からまたはちゃめちゃな話に戻ります。

 ではこのあたりで。

 真面目にヒーローについて考えた、風味な話でした。






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ほうれんそうって知ってる? 報告、連絡、相談だよね。砲撃・連戦・騒動起こすじゃないよね?

 

 真面目な話が終わったので、これからはっちゃられる。もうキャラだけ使って世界観まるで違う話が、面白おかしくできればなと。

 ちょっとプっと笑える話であればいいなと考えます。 

 評価もらいました、低評価でしたが、『え、この話って評価貰えるほどの内容だったっけ?』とか考えこみました。

 評価なしで終わるって思っていたのに。

 そんな正月を超えた風味のお話です。







 

 

 どうも、田中・一郎です。年末年始、忙しかったです。でも、なんだか一日ほど誰もいなかった、暇な日があったのです。

 

「勘弁してくれと言うしかない」

 

 なんでだろう、そんな慌ただしい年明けが終わって、ちょっと正月気分が抜けた今日この頃、なんだかすっごい勢いのオールマイトに電話もらって。

 

 で、現在、警察署の一角で凄いオーラを纏ったオールマイトと、対面で向き合っています。 

 

 正直、『あ、この人って近所のおじさんっぽい』って思っていたの、謝らせてください。めちゃくちゃ怖いじゃん、この人。さすがナンバーワン。この人が平和の象徴だって信じられるよ。

 

 あの泥酔したおじさんと、今の姿がまったくの別人に見えるけど。

 

 見えるけど!

 

「え、あの、え?」

 

「正直な話。君のおかげで助けられた、と考えたい。思い込みたいのだが、被害を考えると素直に言えない」

 

「はい?」

 

 え? あれ、何かあったの?

 

 ええ、どうしてそんな殺気まみれの顔で見てくるのかな?

 

 ヴィランってこんな殺気を受けても、犯罪を止めないって、それは根性あるんじゃないかな。

 

「田中少年」

 

「はい?!」

 

「正直、私は今どうすればいいか悩んでいる。一言、そうだ一言! たった一言だけ伝えてくれたら、私はこんなにも悩まずに済んだ!」

 

「え、ええ~~~~」

 

 何が何やら、なんでオールマイトがこんなに怒っていて、しかも警察署の一番奥の一番機密性が高い場所で話をされているのか。

 

 これ、ヒーロー協会に呼び出されたほうが、いくらかマシなんじゃないかな。行ったことないけど。

 

「あの、オールマイト」

 

「何かね?」

 

 うわ、眼力凄すぎ。これがヒーローか、やっぱり俺には無理だよな。こんな眼力、出せるわけがないし。

 

 あ~~ぁ、仮面ライダーに憧れたことあったんだけどな。あんな人たちになりたいって思ったんだけど、無理だよな。

 

 俺は普通だし、普通でいいし。

 

 よっし、現実逃避完了。さて、本題を告げるか。怖いけど、本当に怖いけど。

 

「俺は何で呼ばれたか教えてください」

 

 怖?! なんでそこで眼力が上がるの!? 何したの俺?!

 

「本気で聞いているのかね?」

 

「はい」

 

 いやだって知らないし、解らないから。教えてもらわないと。

 

「・・・・・・先日、『オール・フォー・ワン』が襲撃を仕掛けてきた。新型脳無を引きつれてだが」

 

「ええ?! 先日って、何時の話ですか?」

 

「本当に知らないのかね?」

 

「え?」

 

 いや先日ってことは終わったってことだよな。でも、町の中って被害が出た様子はなさそうだし。いや、ないよな、俺が知らないだけか。

 

「すみません、知りません」

 

 正直に答えると、オールマイトは気配が一気に沈んでいき、何故か胃を抑えるように体を折った。

 

 え、何それ、どういうこと?

 

「そ、そうか。実は、『君のところが対応した』から、てっきり君が指示したのだと」

 

「はい?」

 

 え、今なんて。オールマイトはなんて言ったのかな? 

 

 はははは、最近は耳が悪くなったようだ。オールマイトがありえないことを言った気がしたけど、そんなバカな話があるか。

 

 だって、俺のところが対応したなんて、あり得ないだろう。報告もなかったし、連絡もない、相談さえなかったんだぜ。普通に、毎日と同じように過ごしていたのに。

 

 あれ、まった、弔が傷だらけになった時がなかったか。

 

「・・・・・オールマイト、すみません」

 

「うん、やはり知っていた・・・・」

 

「教えられてませんし、言われてません」

 

 ははは、もうなにしてんだよ、あいつは。まったく、どうして俺に相談しなかったんだ。

 

 胃が痛い。きっと弔のことだから、知らせずに解決したかったんだろうけど、その結果で俺が呼び出されてるんだよ。気遣いは嬉しいけど、後から知る身にもなってみろってんだ。

 

「そうか。君も大変だな」

 

「ええ、まあ。それにしても、弔の奴め」

 

 まったく水臭い。それなら俺に知らせてくれたら、コナン達と一緒に戦えたのに。

 

 いや、俺は戦えないけど、何かできたのにさ。

 

「死柄木少年? いや、彼だけじゃないが」

 

「え?」

 

「確かに、『ザ・ハンズマン』と呼ばれるヒーローを多くの人が見ているが、それ以外にも『結界』があったらしい話がある」

 

「・・・・・おうシット」

 

 つ、つまり、あれか。結界ってことは、アインズが出たってことか。まさか、あの温和になったギタースケルトンが、俺に内緒で動いた、と。

 

 待った、ちょっと待った。アインズが動いて、他の奴らが動かなかった。そんなわけあるか。

 

「オールマイト、ひょっとしてですけど」

 

「うん、田中少年。君が知らないはずがないと、私が思った理由がそこにある」

 

「あ、そうですか」

 

「巧妙に隠されていたが、様々な状況証拠が語っている」

 

 な、なるほど。確かにアインズの封鎖結界は内部の被害を外に出さないけど、その前に準備とか、魔法陣の展開とか色々あるからな。

 

 で、脳無が色々なところで暴れたらしいから、それを抑え込むこともあるだろうから。

 

 あ、その時に見られていたってことか。

 

「映像データはヒーロー協会と警察のほうで、対応した。政府からも色々と言われているからね」

 

 あ、これはもうダメなやつだ。色々って、『助かったから助けてやろう』じゃない。これはきっと、ギルが何かしたんだ。『いいから黙っていろ、もみ消せ』とか。

 

 いや、ギルだけじゃない、きっとソープとエルも加担している。

 

 となると、絶対にコナンが絡んでいないはずがない。

 

 コナンが脳無と『オール・フォー・ワン』が来たって知って、戦力を動かしたってことは。

 

「・・・・全軍かぁ」

 

 俺は思わず、胃を抑えながら膝をついたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コナンいるかぁぁぁぁ!!」

 

 オールマイトの前で胃を抑えながらの土下座をした帰り、俺は店の入り口を蹴破る勢いで突撃した。

 

「何してんだよおまえら?!」

 

「どうしたんだ、一郎?」

 

「弔ぁぁぁ! 脳無と『オール・フォー・ワン』が来たってどういうことだよ?!」

 

「何の話だ?」

 

 うわぁ、こいつ真顔で答えたよ。本当に知らないって顔しやがって、でも残念ながら俺とおまえの付き合いは長い。

 

 一瞬、目が泳いだのを俺は見逃していない。

 

「おまえが傷だらけで帰ってきたのは、そう言うことだったんだな」

 

「だから何の話だ? 一郎、とにかく落ち着かないか」

 

「これが落ち着いていられるか」

 

「いや、客の前だぞ」

 

「・・・・・・・・」

 

 そこでふと、俺は店内を見回した。

 

 あ、現在はランチタイムか。席がすべて埋まってないけど、お客さんがチラホラといる。

 

 不味い、これはサービス業として、かなり不味い。

 

「・・・・・いらっしゃいませ」

 

 精一杯の笑顔で対応するしかない!

 

「おまえ、それでごまかせるって思っているなら、サービス業舐めるなって言いたい」

 

「うるせぇ、弔。後で話があるからな」

 

「俺はないな」

 

「俺があるの」

 

 まったく、こいつは。内心で怒りを抑えながら、俺はカウンターの中へ入って手洗い、エプロン装着。

 

 さてと手伝いに入るか。今日のお客さんは、珍しい子が来ているみたいだし。

 

「お、ヒミコちゃんじゃん」

 

「こ、こんにちは一郎さん」

 

「こんちは」

 

 お~~本当に珍しい。二週間に一回くるか来ないかってくらいの、この店の癒しでございます。

 

 金髪にミニスカートの制服って、今どきの女子高生なんだけどさ。反応が初々しいといいますか、お淑やかって言うか。それに、仕草も可愛いんだよね。

 

「きょ、今日は遅かったんですね」

 

 ちょっとしゃべる時、遠慮するのも可愛いよね。うんうん、俺の周りにはいないタイプの子だよ。

 

「一郎、コナンなら裏にいるぞ」

 

「よっし弔、ちょっと行ってくる」

 

 なんだと、俺が怒りを秘めているのに、普通に裏にいるなんて。よっし、コナンめ、俺の怒りを思い知るがいい。

 

「え、でも、店はいいのか?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 そうなのか。まあ、トッティ君とトルテ君もいるし。いざって時はエルとソープも入るだろうし。

 

「じゃ、行ってくる」

 

「ああ。さっさと行ってこい」

 

 あれ、やけに追い立てるじゃないか。急がないといけない理由なんてないよな。まさか、俺がいるとダメな理由でも。

 

 あったわ。

 

 ヒミコちゃんが熱のこもった目線を、弔に向けているから。クッソ、あいつめ、なんでこの店の女性客は常にあいつに『お熱』なんだよ。傷があっても、イケメンなら許せるってのか。

 

「ちくしょうめ」

 

 この怒りはコナンにぶつけよう、そうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 店の奥に引っ込んでいく一郎の背中を見送り、弔は小さくため息をついた。

 

 ギリギリか。それとも、手遅れか。できれば間に合ってほしいのだが、手遅れかもしれないな。

 

 どうか、と弔が視線を向けた先、カウンターテーブルに突っ伏している人物が一人。

 

「無事か、ヒミコ?」

 

「は、はい~~~~」

 

 返事はあるが、顔はあげない。全身の力を使ってしまって、動くことさえできないらしい。

 

「今日は珍しく怒っていました」

 

「そうだな」

 

「怒った顔も迫力があって素敵でした。心の底から痺れました。あの殺意を受けて平然となんてできません。私のすべてが訴えています、もう『一郎君のものになっちゃいなヨ』って」

 

 何を言っているんだろう、この子は。弔は内心で呆れながらも、表に出さずに突っ伏したままのヒミコを見つめる。

 

「ああ、一郎君。あんなに素敵なのに、かっこいいのに、キザっぽくなくて何時も自然体で笑ってくれて。気さくに声をかけてくれるだけでも嬉しいのに、珍しいって言ってくれた。私が何時、来たか覚えていてくれるなんて、お客の来店を一つ一つ覚えていてくれるのね。本当に心優しくて、気遣いのできるいいと男。なのに飾らない、威張らない。なんて素敵な殿方なの」

 

 突っ伏したまま、スラスラと出てくる言葉に、さすがの弔も引いてしまう。確かに一郎は、かっこいいと思える。優しいともいえるのだが。

 

 ここまでべた褒めすることはない、優しい良い人ねで止まってしまうのが田中・一郎だ。

 

「珍しいって言っていたか?」

 

「目が語っていました。ああ、素敵な目ですね、一郎君って。まるで夜に輝く月のように、迷った私を導いてくれる。あの瞳でずっと見てほしい、私だけを見てほしいのに、あの瞳は色々な人を導くためのもの。誰か一人で独占するなんて世界の損失です、そんなのは許されるわけがない。でもでも、トガ・ヒミコは罪深い女なのです。あの瞳を独り占めしたい、私だけを見てほしいと願ってしまうのです」

 

 弔、今度は完全に引いてしまう。今まで様々な人間と相対してきた、異常な性癖を持つ者、特殊な趣味を持つ者もいた。

 

 しかし、だ。その中でもトガ・ヒミコはトップにくるほど、異常な存在だった。

 

 まず第一に、田中・一郎に惚れている。それも心の底からのぞっこん、彼を前にしたら上手く言葉でない、体が上手く動かないくらいに惚れこんでいるので、一郎から見たら『初々しい、お淑やか』に見えるらしい。

 

 最初はヒミコも『変に見られている』と頑張って改善していたのだが、一郎がそう思っていると気づいてからは、それでいいと直していない。

 

 それで押せればオッケーなんて打算ではなく、『一郎が良いと思っているなら私はそれで万事よろしい』と心の底から信じてのことだ。

 

「ああ、一郎君、一郎君、私はもっと一郎君を見ていたいのに。私の馬鹿、どうしてこう意気地がないの。もっと根性があれば、一郎君を見つめて、一郎君と語りあって、一郎君の香りを嗅いで、一郎君の温もりを感じられたのに。どうしてこんなに根性がないの」

 

 自己嫌悪に陥った彼女を見つめ、弔は思う。

 

 だったら、顔を上げて反省しろ、と。

 

「ヒミコ、気色悪いから止めろ」

 

「どうしてですか、弔君!」

 

 バッと顔を上げて睨みつけてくる彼女に、初々しいとかお淑やかって言葉は欠片も見当たらない。

 

 一郎の前のヒミコが子猫ならば、一郎がいないヒミコはトラか豹か。肉食獣が前にいるような、妙な感覚を弔は味わっていた。

 

「一郎君への真摯な想いを語っているのに! 私自身を変えようと努力しているのに! どうして気持ち悪いって話になるんですか?! 乙女の純情を貴方はどう考えているんですか?!」

 

「純情か。本人がいないところで本人の良さを語るのを純情というなら、俺はなくていいな」

 

 瞬間、ヒミコは雷に打たれたように固まった。

 

 確かにそうかもしれない。本人のいない場所での話など、陰口に等しい。相手のことをどう思っているか、どう考えて想いを口にしているかは違えど、意味合い的には同じことでしかない。

 

「わ、私は、一郎君になんてことを。私はぁ」

 

 一気に号泣し、今度は別の意味で突っ伏すヒミコに、弔は『え、そこまで』と完全に呆れていた。

 

 放っておくしかないか、元気づける理由もないから。完全放置を決めようとした弔の視界に、店にいた何人かの女性客からの視線が突き刺さる。

 

 『まさか、放っておきませんよね』と無言で語る目線に、小さくため息をついた。

 

 意外に、女性に人気があるのはヒミコの性格か、それとも一途さ故か。普段は図太い性格をしているのに、一郎の前では子猫化して可愛いからか。

 

 弔は不意に思い知る。これが世間でいうところの『ギャップ萌え』か。

 

「ヒミコ、俺が悪かった」

 

「ふぇ?」

 

「一郎のことを思うお前は確かに可愛い。きっと、その想いは一郎に届くだろう」

 

「え、はい!」

 

 涙が一転、すぐに笑顔を浮かべて拳を握ったヒミコは、立ち上がって宣言をした。

 

「私は必ず一郎君の心臓を手にいれます!」

 

「ああ」

 

 何時もと同じ宣言に、店内から盛大な拍手が巻き起こる。

 

 誰もが頑張れと声援を送る中、弔は何時も思うことを繰り返した。

 

 なんでそこで『心とかハートじゃなくて、心臓なんだろう』と。 

 

 もしかして、こいつは一郎に会わなければ殺人鬼になっていたのではないか、と。

 

「さすが一郎だな、知らないうちに人を助けるか」

 

「ええ、さすが一郎君ですね」

 

 弔とヒミコは、まったく違う理由から、同じ人をほめたたえるのでした。

 

 同じ頃、一郎はコナンから話を聞いている最中に襲ってきた寒気に、『俺、やっぱり鎮守府を稼働させてくる』と言いだして、周囲に盛大に止められていたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周りと被害と俺の精神的苦痛ってなると、俺の精神的な苦痛かなって思った一郎でございます。

 

 コナンの話を聞くと、仕方ないなって思うしかない。

 

 それにしても、脳無か。DG細胞なんて何処から手に入れたんだろう。あの人は本当に節操なしだな。

 

「転生者を見つけたって、弔は言われたんだと」

 

「そっちもバレたか。あの人は本当に、方々に手を伸ばして、何がしたいんだか」

 

「さてな。案外、世界征服でも考えてるんじゃないか?」

 

「ヴィランだけにか」

 

 間違いじゃなさそうだよな。コナンが、呆れ顔で言った内容に、俺は合っているように思えてきた。

 

「世界征服かぁ・・・・・あれって楽しいのかな?」

 

「さてな。世界とは元々、我のものであったからな、最初からあったものに対してどう思うかなど、考えたこともない」

 

 ギルはそうだよな。

 

「俺はごめんだね。世界を手にしたって苦労するだけだ」

 

 コナンは、呆れた顔してるけど、確かにそうだよな。

 

「世界を率いることは、自分以上の天才を従えることでしかない。心労で毎日、死にそうになる」

 

 意外に、アインズが重いこと言ってるな。何かあったのかな?

 

「面白みに欠けますね。僕はロボットがあればいいですよ」

 

 エルはブレないなぁ。

 

「世界は、多種多様な人が暮らしている場所だ。それを一人の存在が統括するなんて、不可能だ。独裁をして意見を封じ込めたら、最後には打ち取られて終わる。一個人がどうにかできるなんて、夢想でしかないよ」

 

 ソープもかなり重いこと言ってるし。神様の前に王様でもやっていたのかな?

 

「だよなぁ・・・・・本当に、何を目的にしているのかな?」

 

 理解できないから、放っておこう。

 

「で、俺に内緒で暴れたのって誰だったの? 艦娘は全員、出撃したってことは解るけど」

 

「ああ、全員だよ。マジで」

 

「え、マジで?」

 

「そうマジで。総戦力を動かしたんだよ」

 

 え、あ、そう。

 

 コナンの言葉に、俺は無意識に胃を辺りを抑えたのでした。

 

 今度、いい胃薬を買ってこよう。俺は不意にそんなことを考えていたのでした。

 

 

 

 

 

 

 





 最近、はっちゃけるの意味を見失っている自分がいる。

 楽しいことって何なのか解らないなぁと考えている中で、コメディアンの人たちって凄いと思います。

 次はもっとぶっとんでいる内容になればいいなと、初詣で祈ってしまう今日この頃な風味です。








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カレーは皆の大好物、そして皆のケンカの元

 

 皆さまの好きなものは何ですか?

 小さい頃、カレーはお好きでしたか?

 ちなみに、そのカレーは『何カレーでした』か?

 ケンカしませんでしたか?

 という風味な話になっています。








 

 

 昔、死柄木・弔はそれを食べて涙を流した。

 

 家族を失って、一郎と暮らすようになって、やっと食べられた、食べ物らしい食べ物。きちんと人の手が入った、ジャンクフードじゃない食事に、弔は涙を流して夢中になって食べた。

 

 それは彼にとって、大切な思い出の一つ。

 

 今でも大切にしている、とても重要な食べ物の思い出。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔、海軍さんは海上にいて曜日感覚を失わないように、決まって金曜日にカレーを出したそうな。

 

 カレーはスパイスが入っている、野菜も入っている。栄養もとれるし、大人数分が作りやすい、滋養強壮にいい。何より作り方が簡単。

 

 というわけで、うちも金曜日はカレーなんですよ。

 

 どうも、田中・一郎です。

 

「よっし、今日はカレーだ」

 

 うちのカレーは弔が拘るから、インスタントではなくてスパイスから作り上げているカレーなんですよね。

 

 常連さんの中には金曜日にカレーが出るのを知っていて、金曜日にしか来ない人達もいるくらいに、弔のカレーは美味しいものです。

 

「ム?! 弔よ、どういうことだ?」

 

 あれ、ギルの手が止まった。何時も美味しそうに食べるのに、何でか憤怒の形相なんですけど、何があったのかな?

 

「何がだ?」

 

 カレーをかけながら、弔は疑問を浮かべているけど、それは俺もだよ。

 

「何が、だと? この王の中の王に出すカレーが、これとは。我も舐められたものだな」 

 

「はい? いや、待った、ギルどうしたんだよ?」

 

「どうしたではないわ!」

 

 うひゃ?! こ、こっちに殺気が向いてきた。なんて威力だ、前のオールマイトを超えている。さすが王の中の王、カリスマ全開で怒るとこんなに怖いんだな。

 

「貴様ら! このカレーを食して何も思わんのか?!」

 

「え、カレー? え、今日のカレーって何時もと違うの?」

 

 そんなバカなと俺は口に運んで食べて、一瞬だけ止まった。 

 

 あれぇ~~なんだろ、俺は舌が馬鹿になったのかな? え、これを作ったの弔だよな。あの弔がこんなカレーを作るなんてこと。

 

「味見したのかよ?」

 

 コナンがスプーン持ったまま止まっている。さすが名探偵、何人か食べてから食べ始めるなんて、おまえはまさに洞察力の塊だな。

 

 いや、ギルが食べる前に止めてくれよ、お前。その洞察力、なんで自分を護ること全開で使ってんだよ。

 

「味見したな」

 

「ならばどういうことだ!? 貴様! この我に! こんな甘いカレーを食せというのか?!」

 

 あ、うん、そうなんだよね。何時も弔のカレーはちょっと辛い、大人向けのカレーなんだけど、今日のカレーはほんのり甘い子供向けなんだよね。

 

「味見した」

 

「まだ言うか貴様!!」

 

 ちょっとギル待った!

 

「おまえ『エア』を抜くほどか?!」

 

「止めろよギル! こんなところで宝具なんて使うなよ!!」

 

 コナンと俺で止めるのだが、ギルはもう鎧を纏っていて、絶対に許さないって顔している。これは一発くらいは覚悟しないとだめか?!

 

「味見はした。ユニコーンがな」

 

 ピタリと、ギルが固まるように止まって、そのまま自然な動作でイスに座りなおした。

 

「でかしたぞ、弔、お代りを持て」

 

「おいギル!!」

 

「おまえはそれでいいのかよ!?」

 

 すっげぇ清々しい顔で笑ってんじゃないよ! さっきまでの怒りは何処いったんだよおまえ?!

 

「何を言う、雑種ども。あのユニコーンが味見したカレーが不味いわけなかろう」

 

「甘いって怒ってなかったか?」

 

 俺が口を挟むと、ギルはフッと笑った。

 

「男には、いや王には退けぬこともある。故に、すべてを飲み込むものだ」

 

 いやそれ王様関係ないじゃん。ただ、ユニコーンが可愛いだけだろうが。

 

「てめぇ、やっぱりロリコン王って呼んでやろうか?」

 

 半眼のコナンの意見に、俺は大いに同意する。なんでか、最初からギルってユニコーン関係はマジになるんだよな。

 

 具体的には、ユニコーンが出撃するとエアを持ったギルが追従するくらいに。

 

 あれって、天と地を裂いた一撃じゃなかったかな、とか思ったものさ。

 

「ふ、名探偵よ、その侮蔑は万死に値するぞ。我はロリコンではない」

 

「じゃなんだよ? 幼女趣味じゃないって言うつもりか?」

 

「当然だ。我はユニコンだ」

 

 え、なんて? 今、なんておっしゃいました? 棒が抜けただけに聞こえたんだけど、なんて言ったのさ?

 

「おいおい、マジかよ」

 

 え、コナンは解ったの。なんで顔を抑えて蹲りそうなの?

 

「フ、我はユニコーン・コンプレックスだ。略してユニコンだ。フハハハハハハ!」

 

「・・・・・・誰か、精神科医紹介してあげて」

 

 なんだか、馬鹿げた話になってきた、もうこいつのユニコーン関係は放っておこう。

 

 そうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルが大人しくなって、やっと食事ができるって思っていました、俺はかなり甘いようです。

 

「やっぱりカレーは牛肉だね」

 

 ソープが凄い真面目な顔で言ったことに、空気が凍りついた。

 

「聞き捨てならんな、ソープ。今、カレーは何と言った?」

 

 え、アインズがそこに食いつくの? いやスケルトンでも、食べ物を食べられるって喜んでいたのは知っているけど、今そこで食いつくの?

 

「牛肉と言ったんだよ。僕はカレーの肉は牛肉が至高だと思っているって」

 

「ふ・・・・・・ふはははははは!! ギャグにしても笑えんぞ、ソープ」

 

 いや笑ってんじゃん。って、今度はアインズが怒りだしたんだけど、何でだよ。食事時なんだから、静かに食べられないのかよ。

 

「ギャグ? アインズこそ、何を言っているのか、解らないんだけど?」

 

「カレーは豚肉こそ至高であると、私は言わせてもらおう」

 

「な?! 正気なのかい? 豚肉なんて、そんなものは邪道だ」

 

「邪道ではない! あの深い味わい、油と肉と見事なハーモニー。歯ごたえがあり、噛むたびにうまみが出るのは豚肉だけだ」

 

 えっと~~あのさ、アインズ、なんでそんなに語るかな。え、今って食レポの時間だったっけ?

 

「ふう、まさかアインズともあろうものが、そんなバカな考えを持っているとはね。カレーは牛肉が入ってこそ、トロミが増す。牛肉をじっくり煮込み、カレーと混ざり合わせたうま味は、まさに天下一品」

 

 さあっと髪をかきあげ、言い切った顔でソープは最後に指をアインズにつきつけた。

 

「豚肉なんてものを入れたらカレーが脂っこくなる!」

 

「笑止!! 牛肉こそ脂の塊ではないか?!」

 

「君、少し味覚を鍛えた方がいよ?」

 

「それは貴様だろう、馬鹿舌が」

 

 バチリと二人の間で火花が散った。

 

 え、待って、カレーの肉の話でそこまで本気になるの。え、待ってアインズ、杖は持ち出さないようにしようよ。ソープも髪の色を戻して、封印解いてんじゃないよ。

 

 え、カレーの話題で二人が全力戦闘って。

 

「待ってください!!」 

 

「エル! おまえはさすがだ! おまえは止めてくれるって信じてた!!」

 

 よっし、エルが割って入った。これで止まる。

 

「カレーは鶏肉です! チキンカレーこそ至高に相応しいものです!」

 

「裏切り者ぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「ム! 一郎さんは、チキンカレーを冒涜するんですか!?」

 

「そうじゃない! いやそうでも有るけど! なんで火に油を注ぐようなことしてんだよ?!」

 

「譲れないからです!」

 

 燃える瞳で言い切るなよ! なんでおまえまで参戦してんだよ! 

 

「フ、これは勝負をつけねばならんか」

 

「そうだね。白黒はっきりさせた方がいい」

 

「当然の結論ですね」

 

 アインズ、ソープ、エルの三人が睨みあって、それぞれの右手が武器を持ち上げる。

 

 あ、ダメだこれ。もう止められない、こいつらを止めるためには俺も最終手段を使うしかない。

 

「ギルガメッシュ!」

 

「なんだ?」

 

「令呪を持って命じる!」

 

「待てマスター! こんなことで令呪を使って何をさせるつもりだ?!」

 

「宝具を」

 

「さらに待て!! 貴様、まさか我の至高の宝具を、カレー戦争を止めるために使用させるつもりか?!」

 

「し、仕方ないんだ、ギル。俺はもうどう止めていいか解らないんだ」 

 

 震えるように、絞り出すように伝えると、ギルは悔しそうに視線を反らした。

 

「そう、か。これも人の世の常か。無情だな、マスターよ」

 

「すまない、ギル。おまえの至高の宝具を、こんなことに使用させるなんて。俺を恨んでくれていいぞ」

 

「何を言う。あの時、我はおまえに言ったはずだ。最後まで付き合おう、マスター。我のマスターはおまえのみだ、と」

 

「ぎ、ギルぅ」

 

 慈愛のこもった瞳を向けてくる英雄王に、俺は思わず涙ぐんで俯いてしまった。その肩に、ギルが優しく手を置いてくれる。

 

「では行くぞ、マスターよ。我のマスターらしく、胸を張るがよい」

 

「ああ、ギル、おまえの雄姿は俺が見届ける」

 

「フ、ならば心してみるがいい! これが英雄王の戦いよ!」

 

 ああ、眩しいな、おまえは何時も眩しい奴だよ。

 

「・・・・・・コナン、俺はビーフもポークもチキンも作ったんだが、言った方がいいか?」 

 

「戻ってきたら教えてやればいいんじゃないか?」

 

「戻って来れるんだろうか?」

 

「さあ、な」

 

 後ろで弔とコナンが、そんなことを言っていたが、俺は聞かなかったことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さあ、て。馬鹿騒ぎは以上で終わりだな。もう誰も騒がないな、誰も騒がせないぞ、今度騒いだら鎮守府を動かしてやる。

 

「波動砲と縮退砲と超重力砲にバスターランチャーって一斉に撃ったことないな」

 

「待てマスター! 落ち着け!」

 

「そうだぞ! 我のマスターともあろうものが、短絡過ぎる!」

 

「悪い冗談だよね、止めた方がいいよ」

 

「そうです! ロマンの欠片もありませんよ!」

 

 コナン、ギル、ソープ、エル。おまえらさ、そんな必死になるんだったら、カレーの味やカレーに入っている肉の種類でマジになるなよ。

 

 まったくさぁ。

 

 あれ、アインズは何やってんだ? あいつだけ反省してない?

 

「出来たぞ!」

 

 え、なんでギターを持ち上げているのかな? あれ、カレーは食いきったみたいだけど、何ができたのか教えてくれ。

 

「『いざすすめカレー戦線! 我がカレー人生に一片の食い残しなし!』だ!」

 

「え?」

 

「『前に広がるは一面のカレー。我が退路はすでに乏しく、逃げるもカレーに阻まれて、進む足はカレーに取られてしまう。ああ、カレーは我が人生、カレーこそ我が運命。いつか、このカレーの世界を、私のこの手に掴みたい。ああ、カレー道、それは修羅の道。ああ、カレー道、私は一片の食い残しなし』。フ、今日も私は冴えた我が頭脳が恐ろしい」 

 

「俺はおまえのその即興で歌を作れる才能が恐ろしい」

 

 なんであの大騒ぎとマジギレの後に、そんなバカな歌が出来上がるの。どっかの歌姫もびっくりな美声で、めちゃくちゃ馬鹿げた歌詞を歌ってんだけど、どっから出てきたのそれ。

 

「さて、二番も作るか」

 

「いや待った! カレー食べている時に、その歌はキツイ! マジで止めてアインズ!」

 

「ふ、ふはははははは一郎、止めても無駄だ。我がギターと喉は今日の絶好調だ!」 

 

「いや喉ないでしょ!? おまえスケルトン! ガイコツで喉がないでしょうが!」

 

「ふむ、おかしなことを言う。ではなぜ、私は『食べられる』のかな?」

 

 あ、あれ。なんでアインズが食事ができることに、疑問を感じなかったのか。どうして毎日、同じ食卓にいたのに、疑問が浮かばなかったのか。

 

 ま、まさか、お前。

 

「ククククク、我が名はアインズ・ウール・ゴウン。ナザリック大墳墓の主にして」

 

「おまえ俺たちに精神系魔法を!」

 

「今は流しのギター若大将!」

 

「はい?」

 

「正直! 私も何故、喉があるか知らん! 食事が取れる理由など、考えたこともない!」

 

「なんだと!? じゃ、なんで今、俺にそんなことを言った?!」

 

「その方が面白いからだ!」

 

 おう、シット。納得してしまった。面白いってことで、俺の中で疑問が消えてしまったぜ。

 

「アインズよ、おまえもようやく愉悦が解ったようだな」

 

「英雄王に認めてもらえるとは。私もようやく一つ上の段階に進めたようだ」

 

「ようこそ、アインズ、愉悦部へ」

 

「歓迎しますよ」

 

「ありがとう、ソープ、エル」

 

 あ、あれ、俺の目の前で凄い同盟が結束されているんだけど、妨害したほうがいいかな、邪魔した方がいいよね。

 

 いやだって、あの四人が愉悦部を続けたら、確実に俺が死ぬよね。

 

 ダメだ、生贄になる自分しか予想できない。

 

「おまえら!」

 

 コナン! やっぱり俺の味方はお前だけだ! 絶対に俺を見捨てない、名探偵! おまえの観察力と洞察力で、俺をたった一つの真実に導いてくれ! 

 

「俺も、もちろん入れるよな?」

 

「裏切り者どもがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 もう泣いてやる! もう誰も信じてやらないからな!!

 

「一郎、俺はおまえの味方だ」

 

「弔ぁぁぁ」

 

「ああ、だから、食事時に騒ぐのは止めろ

 

「サーイエッサー!!」

 

 俺達は思わず直立不動で敬礼した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、そのようなことが?」

 

 お酒の仕入れで昼食は外食していた黒霧が戻ってきたので、騒動の顛末をお話しました。

 

「カレーは弔にとって、大切な料理ですからね」

 

「へぇ~~そうなんだ」

 

「ええ、自分の人間らしい生き方を教えてくれた人が、最初にふるまってくれた料理とか」

 

 え、そうなんだ。そんな凄い人がいたんだ。そっか、そっか。

 

「一郎さん、貴方は記憶喪失ですか?」

 

「え? そんなわけないじゃん。俺は今までの人生も転生したことも、きちんと覚えているぜ」

 

 カッコよくポーズ決めてやりました。

 

 でも、黒霧に深くため息をつかれたけど。

 

「やったほうは忘れているが、やられたほうは覚えている。この意味を、こんな時に実感するとは思いませんでした」

 

「え、何それ? 哲学?」

 

「はぁ」

 

 あれ、黒霧、なんでそんなに疲れてるのさ。え、俺が悪いの、何かしたの俺?

 

 その日、黒霧はなんで溜息をついたか、教えてくれませんでした。

 

 

 

 

 

 

「一郎、世の中には青いカレーがあるらしい」

 

「え?」

 

 後日、弔が作った蒼いカレーは見た目に反して、絶品でした。

 

 

 

 

 




 

 というわけで、カレーのお話です。

 一話丸々カレーになるとは思いませんでした。

 カレーは好きですか。

 三食カレーでもいいですか、一週間まで行けますか。

 カレーの好みは人それぞれ、そんな風味のお話でした。






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情熱は燃やすもの、理性は冷ますもの、感情は爆発させるもの?

 そろそろ、本編の主人公とか出さないとマズイかなと思う。

 でも、どうやって絡ませればいいか解らない。

 そんなとき、天啓を得た。

 『爆発させればいいだよ』と。

 じゃ、最初に爆豪だ。

 という風味な話になっています。





 

 

 音楽って、人を夢中にさせるものらしい。

 

「憧れよりも遠いものを求め、さらにその先に向かうために願い、僕らは旅に出た。もう届かないあの空を懐かしみ、何処までも遥か彼方を歩いていこう」

 

 ランチタイムが終わった店内にいるのは、俺と弔と、もう一人はギター片手にバラードを歌っているアインズ。

 

「・・・・・ムウ。今日の弦は乗らないな」

 

「珍しい、アインズが歌の途中で止めるなんて」

 

 なんていうか、何時も勢いで最後まで行くのに、歌詞も途中で投げ出した感じがする。

 

「たまにはそんな日もある。私も万能ではないのでな」

 

「え?」

 

 いや、おまえは十分に万能だよ。魔法使えて、料理できて、作曲作詞できて、医師免許だって持ってるじゃん、司法試験とか一発合格ってどんな頭脳しているんだよ。

 

 医学部、何時の間に卒業したんだよ。

 

「歌に比べたら人体など、物体があるだけ理解しやすいからな」

 

「確かに」

 

 え、何それ。え、待って。アインズはまだ解るけど、弔も頷いているってどういうこと。え、俺だけ。俺だけなの。飛び級ってあるの、医学部。

 

「一郎、世の中は進んでいる。きっと、そう言うことだ」

 

「あれ、俺って今、慰められてるの? え、なんで『解っている、おまえは素晴らしさはそこじゃない』って顔しているのかな、弔クン」

 

「解っているじゃないか。一郎の凄さは、その『ガンガン行こうぜ』だ」

 

「何時、俺がそんなこと言った?」

 

 言った覚えないぞ、そんなこと。

 

「なんだと?!」

 

 あれ、アインズ、なんでそんなに驚愕しているのさ?

 

「うそ、だよな?」

 

 弔、そんなこの世の終わりみたいな顔して、どうしたのさ?

 

 俺が悪いの、え、今の会話の何処に俺が悪い要素があった?  

 

「だっておまえ、追い詰められると『鎮守府』使うだろ?」

 

「追い詰められたら個性くらい使わないの?」

 

「デスザウラーを使うのか?」

 

「・・・・」

 

 納得しちまったぜ、チクショウ。

 

 なんでかなぁ、あれもエルの悪のりで魔改造が進んでるよな。最初の世界の時だって、鎮守府の建物じゃなく『敷地すべて』が変形してデスザウラーだろ。で、次の改造でデスザウラーが巨大ロボになって。

 

 現在、そのデスザウラー自体も巨大な翼をもっていたり、大砲を背負っていたりして、面影が消えかけているんだけど。

 

「・・・・・・は?! 出来たぞ!」

 

「え?」

 

「『ふるえよ我が魂! ロックだバックだドラフトだ! ファイヤー!』だ!」

 

「はい?」

 

「絶対におまえを殺す、潰してミンチだこの野郎、貴様が倒れりゃ俺が前に進める。誰も俺の前を走らせない、一番は俺の専売特許、潰せ、倒せ、ぶっ殺せヤハ!」

 

 いや、何だそれ。アインズがめちゃくちゃノリノリでギターをかき鳴らしているけど、完全にバラードじゃなくロックだよね。

 

 十六ビートとか言ってやればいいのか? 

 

 それともドラムでも出せばいいのか?

 

「いい曲だな」

 

「弔、おまえはちょっとは怒ることを覚えたほうがいいって。自分の店であんなに滅茶苦茶な歌を叫ばれて、怒りとか浮かんでこないのか?」

 

 俺が呆れた顔でそう告げると、弔はしばらくアインズを眺めた後、俺に視線を戻してから。

 

「浮かばない」

 

「お人よしって言われる前に、ちょっと人並みに怒りを学ぼうか、弔クン」

 

「アインズは俺の店を盛り上げてくれる。今もこうやって音楽が流れたら、楽しい店だと思って、ご新規さんが来てくれる。賑わっていた店の終わりに楽しい音楽が流れたら、少しの寂しさも薄れる」

 

「ごめんなさい、俺が間違っていました」

 

 真顔で語る弔に、俺は思いっきり土下座しました。

 

 うん、そうだね、アインズはいい奴だよ。

 

 俺が悪いんだよなぁ、はぁ。

 

「すみません!! 俺を弟子にしてください!!」

 

「え?」

 

 なんかいきなり、見知らぬ少年が隣で土下座しているんですけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 店だとなんだから、場所を移して居間に来てもらった。

 

「爆豪勝己です。雄英を志望しています」

 

「はぁ?」

 

「噂は聞いています! どうか俺を弟子にしてください!」

 

「えっと~~~」

 

 どういう状況なのでしょう、これ?

 

 アインズが何時も通りにランチタイムの終わりに、ロックを歌っていたら、この少年が弟子入り志願してきました。

 

 俺じゃないよ、弔でもないよ。

 

「フム、理由を聞いてもいいかな、少年?」

 

「はい! 昔、貴方の歌を聞いて惚れました!」

 

「昔か。なるほど、まだまだ青い頃の私の歌を。恥ずかしいかぎりだな」

 

「いいえ! あんな魂にガツンとくる歌はなかった! だから俺は貴方に弟子入りして戦って歌って勝てるヒーローになりたい!」

 

 お、ヒーロー志望の少年か。雄英ってのは、確かヒーロー目指す学生が入る学校だったよな。

 

 あれ、そこはオールマイトが教師することになってたんじゃ、なかったっけ。

 

「戦って歌って勝てるか、言うは容易いが行うは難しい。私でさえ、歌って勝ったことはない」

 

「貴方でも」

 

 なんか、悔しそうにしている爆豪君。アインズの実力は知らないけど、かなりの強者だってのは感じているのかもな。

 

「一郎、俺は正直に話したほうがいいと思う」

 

「そうだよな」

 

「彼は知らないだけだ。真実を話すべきだ」

 

「確かに知らないよな」

 

 うん、知らないんだよな。アインズが、歌って勝ったことがないのは本当のこと。戦いの中でも、誰かと敵対したとしても、アインズは歌いきって勝ったことは一度もない。

 

 だってさ、歌い始めて歌い終わるまでに戦闘終了だぜ。そもそも、魔法の詠唱を『脳内で出来る』アインズを前にして、最後までたっていることは奇跡だって。

 

「故に私から君に教えられることはない。申し訳ないが、君は君の道を自分で歩んでいくしかない」

 

 ギュッと唇を噛んで爆豪君が俯いている。あれって、きっとかなり長い時間をかけて探したんだろうな。

 

 え、でも、ガイコツでギターを背負っているなんて、解り易いと思うんだけど、今まで探せなかったってこと。

 

「だがしかしだ!」

 

 話は終わり、と思っていた俺がいました。

 

 なんかアインズが突然に叫んで立ち上がって、背負っていたギターを差し出していますよ。

 

 あれぇ~~~。

 

「君の情熱はよく解った! ならば私は同じ道を志すものとして、これを贈ることにしよう!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 あ~~爆豪君、泣いているよ。そんなにアインズに会いたかったのか、言ってくれたらいくらでも会わせてあげたのに。

 

 いや、知らなかったから言えないか。

 

「ところで君の個性を聞いてもいいかな?」

 

「はい! 俺の個性は『爆発』です!」

 

「な?!」

 

 アインズ驚愕。アゴが外れんじゃないかってくらい、口を大きく開いているけど、そんなに驚くことか。

 

「君の個性は爆発なのか?」

 

「はい!」

 

「なるほど、なるほど・・・・・これが運命か!」

 

 あれ、ちょっとアインズ。なんでガッツポーズ。なんか、ようやく勝てたボクサーみたいな見事なガッツポーズだけど。

 

「君に見せたいものがある」

 

「え?」

 

 ガッシリと爆豪君の肩に手をまわしたアインズは、そのまま家の中ではなく『鎮守府』の方へ連れて行ってしまった。

 

「俺は凄く嫌な予感がするんだけど、弔はどう思う?」

 

「奇遇だな、一郎。俺も凄く嫌な予感がする。具体的には、『おまえらなに爆豪を変な方向に向けてんだよ』と、方々から怒られるくらいに、な」

 

 あ、そう。いやそれはもう弔と黒霧で覚悟しているからいいけど。

 

 待った、本当に待った、アインズの奴は何をさせるつもりなんだ。『鎮守府』って何を見せる、っておい!!

 

「まてアインズ! おまえ並行世界の記録とか・・・」

 

「『感情を爆発させろ! おまえの歌はそんなものじゃない!』」

 

 時すでに遅し。俺はその日、過去の偉人達の偉大な言葉を実感しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼にとって、それはまさに理想の極致。

 

 何万の敵を体一つで叩き伏せ。向かってくる強敵にひるむことなく突き進み、どんな窮地も歌を相棒に駆け抜ける。

 

 止まらない、誰も止められない、歌い出したらもう止まらない。道を阻むものなど何もない。

 

 情熱を燃やし、理性を冷やし、そして感情の爆発のままに突き進む。

 

 彼にとって、その映像の人達はまさに理想そのもの。

 

 圧倒的強者。

 

 他者を寄せ付けない孤高の存在。

 

 仲間と前に進み、正義のために世界を救う。

 

「次だ」

 

 アインズの手は止まらない。なんだこれは、と爆豪は思う。この映像の人達は見たことがない。アニメか、あるいは特撮か。自分が知っているヒーローとはまったく違う。

 

 けれど、彼らはまさにヒーローだ。心の底から熱くさせてくれる、魂が震えるほどに魅せられる。

 

「では、最後だ」

 

 そして衝撃が、爆豪の心を揺さぶった。

 

 戦場を舞う戦闘機。幾つもの火線をくぐり抜けながら、一度の反撃もせずに歌い続ける。敵も味方も関係ない、命のやり取りを行う戦場にありながら、彼は常に自らの歌で周囲を魅了し続けた。

 

「私の理想だ。まさにロック、歌うものとして彼に並びたいと考えている」

 

 そして最後に爆発とともに、彼は叫んだ。

 

「ファイアー」

 

 自然と爆豪も同じ言葉と呟き、拳を握った。

 

「俺は目指す者を見つけた」

 

「ああ、君も理解してくれたか。そうだ、彼こそが我らが目指す者」

 

「そうか、そうかよ」

 

 沸々と心の中で何かが燃える、グツグツと音を立て始めた何かに突き動かされるように、爆豪は笑みを浮かべて拳をさらに強く握る。

 

「アインズさん! 俺は見えた! もう迷わねぇ!!」

 

「そうだ爆豪! 私はおまえに道を示した! 後は自らの考えで進むのみだ!」

 

「ああ!! ありがとうアインズさん! 俺はこの道を極める!」

 

「見事な決意だ! ならば私も負けぬように研鑽しよう! 目指すは!」

 

「歌って勝てるヒーローだ!」

 

「その意気だ!」

 

 グッと拳を突き出し、爆豪は宣誓した。

 

 その背をアインズは誇らしげに眺めながら、こう思う。

 

 『いつか、特撮ヒーローみたいな登場シーンをやってくれないかな』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日から、爆豪君はよく家に来ては、戦隊ものの映像を見てはポーズを決め、シンフォギアとマクロス見ては熱唱していった。

 

「一郎さん、俺は狭いを世界を見ていたんだな」

 

「そうだね~」

 

 もう適当に頷いとくしかない。彼が進んだ道が、彼自身に対して何かしないことを祈るしかない。

 

「情熱を燃やさないと、俺はまだまだ個性を使いこなせていない」

 

「そうだな。個性は磨けば磨くほどに高まる」

 

「弔さん、ありがとうございます」

 

「精進しろ、爆豪。おまえの努力は必ず個性を磨く」

 

「はい!」

 

 あれ、弔がなんだか応援しているんだけど、何で? 最初は『マズイことになった』って俺と一緒に考え込んでいたのに。

 

「そして、火力の調整を可能にして、俺の料理に磨きをかけてくれ」

 

「やっぱ、おまえってブレないよな」

 

 弔はやっぱり、弔でした。

 

 まったくこいつはアインズのやり方に乗っかって、爆豪君に何をさせるつもりだよ。爆発を使った料理って、何があったっけ?

 

「ステーキを瞬間火力で作ると、おいしくなるらしい」

 

「え、それって都市伝説じゃ?」

 

「ディナー用の火力が欲しかった」

 

「本当におまえは何をさせるつもりなんだよ?」

 

 半眼になって見つめる俺に、弔は清々しい顔で答えた。

 

「料理だ」

 

「あ、そうね」

 

 もう放っておこう。

 

 爆豪君に悪い影響が出ないように祈りながら、俺はこの問題を放っておくことにした。

 

「やってやったぜこのヤロー!」

 

 後日、爆豪君がギター片手に歌いながら、ノリノリで戦隊ものみたいな登場シーンをやっているのを見て、アインズって愉悦部よりは育成に向いているんじゃないかって思った。

 

 気の迷いだろうな。

 

 そして、その時の俺は知らなかった。爆豪君がここに染まったことで、もう一人の哀れな生贄が来ることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここかな、かっちゃん」

 

 

 

 




 というわけで、爆豪君、ロック歌手ヒーローになるでした。

 アイディアをまとめている間に、『あれ、爆豪の個性ってヒーローものの登場シーン再現できんじゃね?』とか思った私は悪くない。

 ロック歌手になれそうなヒーロー衣装だな、とか思った私は悪いと思う。

 という話です。

 気の迷いがなければ、次の話は『デク君、武器庫化計画』になります。

 的な風味の話でした!





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デク君がヒーローやりたいけど無個性だから武器庫化しようぜ

 

 よっし、爆豪が合流した。予想外の方向へかっとんで行ったけど、個性が爆発だから仕方ないよね。

 弾けて欠片も残らないよりはいいよね。

 というわけで、次はデク君の番だ!

 無個性でヒーローやりたい。よろしい、ならば変身だ!

 という風味で頑張ります。






 

 

 

 それはある日のことだった。

 

 どうも田中・一郎です。今日も騒がしい日々が始まるのかな、なんてちょっと乾いた笑みを浮かべてみました。

 

 速攻で、弔に病院に行くように言われたけど。

 

 さて、それでは今日の本題です。

 

「実は相談があるんだが」

 

「え、アインズが珍しいな、何があったんだ?」

 

「ああ、実はな。無個性の少年がヒーローになりたいと言っているので、『武器庫』にしたいんだが、どうだろうか?」

 

 

 

 

 

 

 みんな、聞いてくれ。誰か俺に教えてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 うちのアインズはついに、

 

 

 

 

 

 歌だけじゃなく改造人間を作りたいって言うようになったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 危ない、危ない、つい俺の精神がメビウスの輪を超えてしまうところだった。ふぅ、アムロとシャアに会う寸前で、『どこいくのさ、一郎』ってソープが連れ戻してくれたから助かった。

 

 なんか、駆逐艦に囲まれたシャアが、『やぁ、一郎、私はついにやり取りげたよ』とか言っていたけど、気のせいだよね。

 

 めっちゃ、アムロが精神科に通っていて。『俺のライバルがロリコンって病気なんだが』とか相談していたけど。

 

 現実逃避だよ、察してくれよ。

 

「よっし、戻った、戻せた」

 

「うむ、見事だぞ、ソープ。さすが我も認める神だな」

 

「煽てても愉悦情報しか渡さないよ、ギル」

 

「フフフフ、やはり貴様は見どころがあるな」

 

「君ほどじゃないさ」

 

 俺の後ろでなんか、黒い影が踊っているけど、忘れた方がいいよね。もう俺の精神は削りに削られているから、関わらない方がいいよね。

 

 触らぬ神にたたりなし。いや、無視する愉悦部の被害はなしだといいな。

 

「よぉぉぉし、アインズ、それでなんだって?」

 

「うむ、緑谷出久君という少年がヒーローをやりたいというので、武器庫にしなければいけないと私の何かが叫んでいる」

 

「・・・・え、待って。ちょっと待ってくれないかな? え、どういうことで何が目的で武器庫?」

 

「彼は無個性だ。この個性社会でヒーローをやるからには、武器庫くらいはないといけないのだろう?」

 

「冗談だよな、アインズ?」

 

「違うのか?」

 

 あ、これはマジだ。ボケとかジョークじゃなく、マジで武器庫にしなければ(使命感)に駆られている。

 

「いやヒーローをやるのに、武器は必要かもしれないけど、武器庫にまでしなくてもいいような」

 

「そういうものか。私はてっきり、最近の主流は『手数が多い、そんなの当たり前。今の時代は大量の武器でしょ』とばかりな」

 

 おう、これは情報源が危ないってことか。アインズは素直なところは素直だから、知った情報を頭から信じてしまうことがあるんだけど、今回はその情報源が間違っていたんだな。

 

「と、ギルが言っていたが?」

 

「ギルぅぅぅぅぅ!!!」

 

 おまえかやっぱり! なんでそう俺の周りをひっかきまわすんだよ! 愉悦部って言い訳ですべてが通ると思ったら、大間違いだからな!

 

「フ、マスターよ。我が間違えるとでも?」

 

「明らかに違うだろうが。ヒーローが武器を大量に持っているなんて、何時の時代の話だよ?」

 

「そうか、良かろう。一郎がそう言うのならば、これを見るがいい」

 

 バッとギルが手を振るうと何時もの鎧姿で、マントが翻ってその先に映像が流れてきた。

 

「これが仮面ライダー1号とウルトラマンだ」

 

「知っているけど」

 

 え、今になってこれ? 最初の二人だよね? 俺にこれを見せて何がしたいんだよ?

 

「そして、これが令和になっての仮面ライダーとウルトラマンだ」

 

 俺はその瞬間、ギルの前に土下座した。

 

「ごめんなさい」

 

「解ればいい。マスターよ、時代は今や『多数の武器と変身道具』。故に、これからヒーローを目指す者には、武器庫は必須のもの。その雑種にはふさわしい道具を与えねばな」

 

 そっか、そうか。俺は間違えていたのか。時代はそういったものか、大量の武器を持って戦場に現れて、敵を薙ぎ払って帰っていく。

 

 後にはペンペン草一本さえ生えない、無人の荒野が広がっていると。

 

 うん、ないわ。

 

「あのさ、ギル、本気で言っているのか? まあ、確かに最近の仮面ライダーとかウルトラマンって武器が豊富だけど、それってさぁ」

 

「なんだマスター? 我の決定に異論があると?」

 

 うぉ、鋭く細められた目が蛇のようじゃないか。昔は怖かったんだけど、今は平気だぜ。なんでって、もっと怖い状況は敵が一杯いたからな。

 

 泣けてくるぜ。

 

「大量破壊者って言わない?」

 

「・・・・・・フ、なるほど。貴様は我にこう言わせたいのだな?」

 

「え、何の話?」

 

「おのれディケイドぉぉぉぉぉぉ!! と」

 

 決め顔で言っても、意味不明なことに変わりないからさ。なんでそこでディケイドを叫ぶのさ。

 

 最近、うちのギルも愉悦のために体を張るようになりました。昔のギルはプライドが高くて迂闊に触れると死ぬけど、もっとカッコ良かった気がするなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぁ、どっと疲れた。

 

「一郎さん! 俺からもお願いします!」

 

 疲れたんだけど、なんでか俺は休めずに居間で土下座を見ていると。

 

「か、かっちゃん。なんでぼくのために」

 

「うるせぇ! てめぇも頭を下げろやデク! この人に頼みこめばおまえもどうにかなるんだよ!」

 

「かっちゃん!」

 

 なんだか感動して涙を流しているのが、デク君ね。で、なんだかすごい勢いで土下座しているのが爆豪君っと。

 

 あれ、君って確か、デク君のことを嫌っていたんじゃ。

 

「昔の俺なら、デクのことなんかどうでもよかった。こいつのことが鬱陶しくて、生意気で、言い負かしても反論して止めなかったことがイライラしていた」

 

「なのに、なんで今は力になりたいって思ったのさ?」

 

「それは・・・・・こいつの魂がロックだからです!」 

 

「よくぞ言った爆豪!!」

 

 え、はい? あれ、俺だけ。俺だけが理解していないの?

 

 アインズは立ち上がって大きく頷いているし、ソープとエルも腕組みして頷いているし。

 

 ギルに至っては凄く優しい笑顔で見つめている。

 

 あれ、コナン、俺が察しが悪いの、ねぇ?

 

「おめぇが察しが悪いんじゃなくてな、こいつらが感性で話を進め過ぎなんだよ」

 

「よかった。それで、何がどうなって?」

 

「はい! 俺がロックに目覚めて、熱い魂を知った。その想いを感じることを教えてもらった。だから解るんです! 今のデクの気持ちは半端なものじゃない!! こいつは死ぬことになっても、ヒーローになろうって思っている! なら俺は! 幼馴染として俺はこいつの夢を押してやりたい! こいつの魂が叫んでいるなら俺はその夢を一緒に追いかけたい! それが俺にとってロックだからです!!」

 

「見事だ! その心意気! その友を想う気持ち! まさにロック!!」

 

「はい! アインズさん!!」

 

「爆豪! おまえは今ロックの神に負けることない熱いハートを持ったぞ!」 

 

「おおおおしゃぁぁぁぁ!!」

 

 爆豪君、両手でガッツポーズ。なんだか、ボクサーが世界タイトルをとったように見えるんだけど、気のせいだよね。

 

「ちなみに、ロックの神って誰だろう?」

 

「なんでこんな時にそんなこと気にすんだよ。熱気バサラじゃないのか?」

 

 コナンってそっちなんだ。

 

「え、エル●ィス・プ●スリーじゃなくて?」

 

「この世界にもいるのか、あの人」

 

 いるんじゃないかなぁ。あの人って、何処の世界でもキング・オブ・ロックンロールだったよ。

 

「だからこそ! 皆の力を借りたい!」

 

「お、話が戻ってきた。いいけどさ、アインズ。俺の力ってないようなものじゃないか?」

 

 技術力ないし、資源力もないし。できることって少ないような。

 

「大丈夫だ。一郎が一言、『解った』と言ってくれたら皆が協力してくれる。我々の『マスター』だからな」 

 

「え、俺が? え、でもさ、俺に相談なく物事を何時も進めるよね? コナンとか率先して隠し事するよね?」

 

「やろうか、マスター!」

 

「何を焦ってんだよ、名探偵? え、何、おまえまた何か隠し事しているわけ?」

 

「バーロ、そんなんじゃねぇよ」

 

 ウソつけよ、お前。なんか隠してるんじゃないのか? それとも、すでに終わった後か? エルみたいに、『あ、終わりました、書類です』とかやるなよ、お前。

 

「となるとだが、そこの雑種の思考を探る必要があるな。武器を持たせたとしても、扱えなければただの重荷でしかない」

 

「え、ギル、おまえ乗り気なの?」

 

 うわ、珍しい。うちのギルが乗り気ですよ、雑種って呼んでいる相手に対して、そんなに優しく接することができたっけ?

 

「フ、今回ばかりは我も『宝物庫』を開けようではないか。大盤振る舞いだ」

 

「おいおいおい、明日はこの星が終わるんじゃないか?!」

 

 ちょっと待てよ、お前。なんでそんなにノリノリなんだよ、しかも自分の至高の財宝が入った宝物庫を開くって、どんだけ乗り気なんだか。

 

 うわ、明日で世界が終わりか。

 

「無礼だぞ、マスター。我はただな、アインズの意見に乗っただけだ」

 

「ふむ、そうだな。私もギルをあの一言で説得できるとは思わなったが、これも行幸だ」 

 

 ギルを一言で説得ぅ? え、なにその方法。俺もコナンもギルを乗せるって結構な労力を使うんだけどさ。

 

「あいつ、未だにギルが非協力的だって思ってるぜ」

 

「昔の我は随分とやんちゃだったからな。今は俗世に塗れて見せよう」

 

「おいおい」

 

 なんか、後ろでコナンとギルが言っているけど、放っていく。さあ、アインズ、俺にギルを乗せるその魔法の一言を!

 

「令呪があるの、忘れてないか?」

 

「我がマスターながら、どうしてあんなに忘れっぽいのか」

 

 うるせぇよ、お前ら。 

 

「教えてくれ、アインズ」

 

「ふむ、良かろう。我はただ、ギルにこう言っただけだ」

 

 そこでアインズは両手を盛大に広げ、声高らかに宣言した。

 

「そのほうが面白いだろう! と」

 

 ああ、なるほど。確かにそれはギルが動く。すっごく喜々として動き出す英雄王が見えるよ。

 

 ただし、それは俺に多大なダメージを与えるカウンタースペルだけどな。

 

 無意識に胃のあたりを抑えながら、俺はフッと笑って膝をついたのでした。   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一郎の許可は貰ったと判断した」

 

「なんで弔が仕切っているんだよ。え、おまえも愉悦のためにデク君を武器庫化したいの?」

 

 まさか、こいつもか。止めてくれよ、弔まであっちに染まったなんてことになったら、俺一人で突っ込みが追いつかないんだよ。

 

「俺もデクは武器を持つべきだと思う」

 

「おい弔ぁ!」

 

「あいつはな、ヒーロー気質だ。困っている人がいたら、考える前に体が動く。誰かの助けてに、条件反射で動いてしまうやつなんだよ」 

 

 あれぇ~~なんだろう、てっきりもっと滅茶苦茶な理由を言ってくると思ったのに、凄い真面目な顔で弔は語ってくるよ。

 

「自分が危険になるなんて考えは、頭から綺麗に消えてしまう。誰かが困っていたり、助けてって顔していたら、見て見ぬふりなんてできない。このままじゃ命を落とす。だから、あいつの手助けをしてやりたい」

 

「そうなんですか」

 

 ヤバい、弔が凄い真面目な顔で語ってくるから、俺の何かが削られていく。具体的には、『ごめん、邪推して』って邪な部分がガンガンと心を叩きつけてくるんですけど。

 

 え、おまえ、こんな純粋に考えている弔に対して、おまえもかとかそんな失礼なことを考えたの、なんて心の声が聞こえてくるようだぜ。

 

「あいつに人助けやめろなんて、死ねと言っているようなものだから。それにな」

 

「そ、それに」

 

 止めて弔! 俺のライフはゼロですわよ!

 

「あいつは俺に似ている。助けてって声が力になる奴だからな」

 

 フワッと笑う弔の笑顔と、その後ろにさす後光によって、俺の体は溶けていくのでした。

 

 ああ、もういいや、ララァさん、俺はそっちに行きますね。

 

「だから、何処に行くんだよ、一郎」

 

「は?! 危ない、危ない、サンキュ、ソープ」

 

 ふぅ、また次元の壁を越えてしまうところだった。もううちの弔は純粋で、人を疑うとか貶すってことしないんだから。

 

「まったくさ、疲れるからもう止めてくれないかな?」

 

「こ、今回だけだって」

 

 よっし、じゃあ気合を入れて。

 

「というわけで、デク君がヒーローになるために」 

 

「違う!!」

 

 ブ?! な、何かで頭を叩かれたんだけど。アインズかこら! 

 

「違うぞ! ここはこう言うのだ!」

 

「はい? え? 『第一回チキチキデク君魔改造武器庫化計画大討論』?」

 

 待って、なにこれ? 横断幕まで作ってあるんだけど、何がしたいの?

 

 あ、いつの間にか居間の中央が少し高くなって、そこにデク君が座っている。

 

「おいこら! 何時の間にこんなセット作った!」

 

「気合と根性だ」

 

 決め顔で止めろ、ガイコツ!

 

「フ、我に不可能はない」

 

 おまえは引っ込んでいろ、英雄王。

 

「それよりも! 僕としてはロボットと融合! ロボットと合体して巨大化を押したいのです!!」

 

「おまえはブレないなエル! え、待って何それ?! 何処から持ってきたそのアイディア!」

 

「なるほど! ではこの『ダグ●クター』を使って禁断の超火炎合体をデク君に!」

 

「おまえがそれを持ち出すなよ、アインズ! 何、鎮守府の倉庫から持ち出してくれちゃってるの?!」

 

 おいおいおい! それは宇宙警察機構の人が、『記念品にね』とくれたもんだろうが!  

 

「ダメだアインズ!」

 

「よし、よくぞ言った、コナン。もっとやれ」

 

「デク君は緑がパーソナルカラーだ! なら、ここは勇気を源にする石を渡して」

 

「なるほど! 最終的に金色の破壊神になる、と!」

 

「なるほどじゃねぇよ! コナン、おまえも何してんだよ! その石とライオンは使わないって決めただろ!」

 

 危ないことしてんなよ、なんだよそれは! 第一、あれを使ったら星が消えたの忘れたのかよ?!

 

「探偵の宿命みたいなもんだな。謎は解き明かしたいんだよ。具体的にはどうして勇気がエネルギーになるのかってことをな」

 

「解き明かしていい謎と解き明かしちゃダメな謎があると思います!」

 

 もうやめなさいよ! 本当にダメだから止めてくださいよ!

 

「なるほど。じゃ、アーマードにしてミサイルを多量に積むってことだね」

 

 違うって、ソープも頼むから真面目にやれよ。

 

「そうか、そうか、そういえば、メタトロンも緑色に発光するはずでは?」

 

 アインズぅ、どうしてそっちに話を飛ばした? というより、なんでみんながロボットに話が行くんだよ。

 

 あれか、エルのためか、最初にああいったのは、この時のためか。

 

「失礼な。僕も状況を選びますよ」

 

「本当か?」

 

「はい! ロボットのためなら手段を選びませんけど!」 

 

「自信を持って答えるものじゃない!!」

 

 ああ、もう俺一人がツッコミって、虐めじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も、デク君に改造計画、あるいは武器庫化計画は激論が続いた。

 

「やはりガンダム系がやりやすい!」

 

「却下です! 今さらそんなありふれたロボットなんて僕のロボット主義が許しません!」

 

「いや、ロボットから放れようぜ。武器庫だろ、武器庫」

 

 エルが絶対にロボットにしたいって考えて、そこに固執したり。

 

「ふむ、ならば変身させてはどうかね? ここは仮面ライダーのどれかを」

 

「変身はロマンなんだけどね。デク君との相性が問題かな」

 

 割と真面目なアインズと、それに真面目にシミュレートするソープがいたり。

 

「おい、ギル。おまえの『宝物庫』参考にした方がいいんじゃないか?」

 

「当初は我もそう考えたのだが、いかんせん、デク自身の『黄金律』が低すぎる」

 

「そっか」

 

 危なかった! もう少しで我様デク君爆誕するところだった会話が、コナンとギルの間でされたりとか。

 

 え、ギル、待って、『宝物庫』を参考にしてもいいの?

 

「いっそのこと、何かと混ぜますか?」

 

「そうだな、崩壊させるか」

 

 突拍子もないこと言いだす黒霧と、乗り気になりつつある弔を止めたりとか。

 

「かっちゃん、本当に大丈夫なの?」

 

「大丈夫だ、この人たちに任せておけば、おまえもロックだ」

 

「ええ~~」

 

 幼馴染のあまりの変わりように、なんだかデク君が涙目になっていたりして。

 

 あ、彼は俺と同類だ。周りに振り回されるタイプだ、なんてことを俺が思ったりしたのは内緒の話だけど。

 

「決まらんな」

 

「そりゃ、あんだけ好き勝手に言ったら決まらないでしょうが」

 

 決めるつもりあったんだ、アインズ。俺はてっきり、馬鹿騒ぎで終わりにしたかったのかって思ったよ。 

 

「こうなりゃ、本人に決めてもらうがいいんじゃないか?」

 

「は!! なるほど、それは盲点だったな」

 

「え、いや普通にそれが一番じゃないの?」

 

 コナンの提案に、アインズが頷いているけど、なんで最初にデク君の話を聞いてあげなかったのさ。

 

「というわけで、デク君、君はどんなヒーローがいい?」

 

「ぼ、僕は・・・・・」

 

 いきなり話を振られた彼は、ちょっとだけ周りを見て怯えた顔になった。あ、怖いよね、周りがこんな連中じゃ怖がって当たり前だけど、気のいい奴らだけだから。

 

 かなり、愉悦に染まって、楽しいことのためなら色々やるけど。

 

「僕はオールマイトみたいなヒーローになりたいです!」

 

 へぇ~~そうなんだ。そっか。

 

「つまり、『ハ●ク』になりたいと!!」

 

「おまえら全員! 頭を冷やしてこいよ!!」

 

 なんでオールマイトの名前の後に、アメリカのヒーローが出てくるかな?!

 

 まったく、どいつもこいつも。

 

「デクがオールマイトになりたいなら、体を鍛えないとな」

 

「はい! 鍛えます!!」

 

「そういえば、艦娘の艤装って重いんじゃなかったか?」

 

 え、弔、何を言っているのかな? 

 

 あれ、デク君、それってどんな顔。え、艦娘を知らない、見たことない。確かのこの世界にはないからね。

 

 艤装がかっこいい。いや、でもそれは男は装備できない。

 

 あ、出来た。え、君って『前世、艦娘』だったりします?

 

 しかも土佐型の奴を装備ってなんで?!

 

「というわけで、デク君です」

 

「ありがとうございました!!」

 

 こうして彼は見事にヒーローになったのでした。なんだか、緑色の輝きを放つ艦艇の艤装を纏ったヒーローの話が、世間で噂されるようになったのですが、俺はその話を聞くたびに遠い眼をするようになりました。

 

「そういえば、爆豪とデクは雄英を受験するそうだぞ」

 

「へぇ~~俺、逃げ出したい」

 

「無理だろうな」

 

 後日、俺はオールマイトに呼び出しを貰いましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

 デク君の武器庫化を考える、ガンダム、マクロス、ゾイドと色々と考えてロボットを纏わせてみるのもいいかな、と行きつきかけて。

 ハッと気づいた、この物語の田中・一郎は何処の世界からの転生者か。

 よし、最も絡ませやすくするために、デク君は艤装を纏ってもらおう。

 という風味なお話になりました。





 
 ちなみに、デク君艤装形態のイメージは、大和型をベースとして左右に二基ずつ主砲がついていて、飛行甲板が背中に二つ。足のブーツが丸々艦艇。コスチュームはテレビ版そのままです。

 殴る蹴るの時は艤装がウネウネと動いて、デク君の動きを妨害しないようになります。

 艦載機は飛行甲板にて発艦・着艦するタイプ。主砲も消化弾や粘着弾とか、デク君の考えた通りの弾種が揃っています。

 主砲は脅威の五十二センチ三連装です。飛行甲板は装甲化、脳無の一撃も防げます。

 ちなみに、この土佐型、『クライン・フィールド完備』の上に、重力子エンジン搭載型だったりします。

 ではでは。





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掛け声って大切だよね、気合いが入るよね

 


 デク君、艦娘化!

 いや違うか、デク君艤装装着形体誕生。これで彼は無個性じゃなくなったぞ、下手なヴィランなら叩き伏せるだけの戦力を手にしたわけです。

 力を手に入れたら、何をしますか。

 人に自慢しますか?

 異性にモテたいですか?

 世界征服しますか?

 ヒーローしましょうよ!

 その前に、大切なものがありますよね?

 といった風味な話になっていますよ。






 

 金属の心地いい音って、妙にカッコイイって思う瞬間って、ありませんか。え、ない? あ、そうですか。俺だけなのかなぁ。

 

 どうも、田中・一郎です。

 

 デク君、ついに無個性のまま個性を持った相手を下す。

 

 相手が何の個性を持っていても、けが一つなく傷一つなく圧倒。もうね、無双ですよ、無双。だって、艦娘の艤装って『艦艇と同じ』なんだぜ。

 

 人型サイズに縮小されているから、威力も装甲も落ちているんじゃないのって誰もが考えるよね。

 

 とんでもない。霊的な何かが重なった結果、軍艦時代の装甲と火力が倍加している場合のほうが多い。

 

 しかも、デク君が適合したのは土佐型。空母とか、戦艦じゃなくね、『超超超弩級戦艦空母・土佐』のだからね。

 

 七百メートル以上の船体に、五十二センチ三連装が二十四基。飛行甲板二つに魚雷まで搭載した、化け物軍艦。

 

 重力子機関の有り余るエネルギーがクライン・フィールドを強固にして、超重力砲の直撃を平然と受け流すって、もう何してんのこいつらって装備なんですよね。

 

 俺の昔の知り合いが、『てめぇ、超戦艦五隻分の装備じゃねぇかよ。ミラーリングどうした、おら?』とか言うくらい、キチガイな性能なんですよね。

 

 あ、ミラーリングって次元のはざまに攻撃を反らすことで、防御する『絶対防御』の一つらしいんだけど。

 

 デク君がいくら頭がよくでも、量子コンピュータには勝てないので搭載してないはず。

 

「超位魔法!」 

 

「ミラーリング・システム!」

 

 あれぇ~~~なんだか普通に使っているけど、何で?

 

 え、搭載してないのよね? 搭載したって話は知らないけど。

 

 俺だけ、俺だけがまた知らなかったの?!

 

「コナン!! どういうことだよ!?」

 

「あのな、マスター」

 

 そこで俺を見るコナンの目は、呆れていました。笑っているんだけど、眼は確実に『こいつは、またかよ』って言っていました。

 

「あいつら、霧の艦艇みたいなもんだろうが」

 

「だからってデク君じゃんか!」

 

「妖精さん達はいないと思ったのか?」 

 

「くあ?!」

 

 わ、忘れていたぜ。妖精さん達だよ。今もデク君の汗を拭ったり、艤装の中で整備したり、デク君のコスチュームのところどころにひっついて、補修している妖精さん達を忘れていたぜ。

 

「量子コンピュータ並らしいぜ。一人一人が」

 

「俺達、デク君に何をあげたんだっけ?」

 

「武器庫だな」

 

「そっか、そうだよなぁ」

 

 凄いいい顔で訓練しているデク君を見ながら、俺は笑うことにした。

 

 俺、オールマイトに殺されるかもしれないなぁ。あ、でも大丈夫か。あの人はヒーローだから、許してくれるさ。

 

 うん、きっとそうだ。

 

 フラグじゃないよ?! 本当にそう思っているだけだからな!

 

「マスター」

 

「な、なんだよ、コナン。なんで俺の肩を掴んで・・・・」 

 

 なんだか優しい声で俺の肩を掴んだコナンを見るために振り返ると、訓練場の入口に立っている金髪筋肉のヒーローがいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の個性、『手のひら鎮守府』は、かなり応用がきく能力だ。他の世界の知識を収めた資料室やら、作戦を考えるための会議室、それから資材倉庫や艤装の整備工廠。

 

 それにエルとソープの怪しい研究所や、アインズの野外ステージ。物資の精製場とか。

 

 簡単に言うと、皆が考える鎮守府、あるいは軍事基地みたいなものがそっくりそのまま異世界にあって、必要なものを必要な時に取り出せるってこと。

 

 逆に、目印をつけておけば、そこに『入っていける』から、よく弔とか黒霧は訓練場で個性訓練しているんだけど。

 

 たまぁに、外では被害が出るから訓練できないってヒーローが、訓練場を使っているんだけどね。

 

 そう、噂のナンバーワンとか。

 

「いいかね、田中少年?」

 

「もうちょっと待ってください、オールマイト」

 

 説明乙、現実逃避してんだよ。解ってるだろうが。

 

「私も、大人だから待つとしよう。しかし! 根気強い私でも、限度があるのを忘れないでくれないかな?」

 

「は、はい。もちろんです」

 

 ク、怖い。本当に怖い。こんな恐怖を最近は、何度も味わっていないだろうか。しかし、この怖さはあれだ。ギルを召喚して二年後、あいつが楽しそうに笑っている時に、『英雄王、俗世に染まる。プ』って笑った時以来だ。

 

 うん、あの時のギルは凄い残念そうな顔の後に、笑顔でエアを抜いたんだよな。本当、天地を切り裂いたとか、原初の地獄を作り出したって一撃は、凄い威力だったよ。

 

 俺、よく生きてたなぁ。

 

「田中少年?」

 

 ふぅ、そろそろ向かい合うとするか。

 

「どうぞ、オールマイト」

 

「よろしい・・・では」

 

 その日、俺は彼がナンバーワンだと改めて知ったのでした。っていうか、怖いよ、なんだよあれ。お説教だけなのに、死ぬ思いだよ。なんで俺ばっかりこんな目に合うんだよ。

 

 俺が悪いのか、俺がダメなのか。俺が罪深いからか、あれか何回も転生しているから幸運が逃げているのか。

 

「ギル~~~幸運を上げる宝具かして」

 

「マスター、幸運とは自分でつかみ取るものだ」

 

 お説教が終わった後、俺は速やかにギルに泣きついた。そろそろ、俺は限界かもしれない。

 

「解った」

 

「待て! 貴様は何をしようとしている!?」

 

「え、令呪を使って」

 

「令呪を思い出したと?! ま、待て話せば解る」

 

 フフフフ、ギルぅ。おまえの令呪への耐性が落ちているのを、俺は思い出したんだぜ。

 

 今のおまえは令呪の強制力に逆らえない。しかも、俺の令呪は神様特典で強化されている。

 

 『神様クラスでも大丈夫さ』と、いい笑顔で言った神様に、俺は感謝しているのさ!

 

「待て、待つんだ、マスター! 何をするつもりだぁぁ?!」

 

「令呪を持って命じる! ギルガメッシュよ!」

 

「貴様ぁぁぁぁ!!」

 

「俺に幸運くれ!」

 

「は?」

 

 何を呆けているんだよ、ギル。いいから俺に幸運くれよ、絶対にその手の宝具、持っているだろ。いいからよこせ、俺に幸運をくれよぉぉぉ!

 

「マスター、それは不可能だ」

 

「え、何で?」

 

「おまえの幸運は転生と我とコナンの召喚、アインズ達を招いたこと、鎮守府を強化し、絆を多くの者と結んだことで使い果たした。増加はしない」

 

「え?」

 

 あれ、なんだろ、ギルの姿が歪んでいる気がする。え、あれ、そうなの。俺ってもう幸運が上がらないの。

 

 は、はははは、おかしいな、俺は立っているはずなのにさ、今すぐに意識を失いそうだよ。眠いのかな?

 

 お休み。

 

「田中少年」

 

「はいオールマイト?!」

 

 怖?! な、なんだ俺は何をしていたんだ?! え、待った俺はギルに令呪を使って、使って。

 

「何があったんだろう?」

 

「戻ったか。ならばよろしい。では、話を続けよう」

 

「え、オールマイト。お説教は終わりなのでは?」

 

 続くの、止めてもうダメだよ。俺のライフをマイナスにするつもりですか? 

 

「いやお説教ではなくな。緑谷少年の装備のことだが、防御はかなり高いと聞いたが?」

 

「そりゃ、軍艦の装甲ですから」

 

「なるほど。では」

 

 ではって・・・・・・・はい?

 

「私の攻撃を受けられるかな、緑谷少年?」

 

「お、オールマイト?! もちろんです!」

 

「では行くぞ!」

 

「はい!!」

 

 え、あれ、何してんだろ、あの二人? え、待って、オールマイト。なんで初対面のデク君に攻撃、え、全力。

 

「ちょ!?」

 

 そして、俺は衝撃で弾き飛ばされたました。

 

 ここ、俺の個性の中なんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハーハッハッハッハ! いやすまないね。重装甲の防御と聞いて思わず試してしまったよ」

 

「いえ! 僕も憧れのオールマイトと試合できて嬉しかったです!」

 

「そうかそうか」

 

 目の前で笑い合う二人を見つめ、俺はそっと右手を握り締める。

 

「エル、俺は今ならデスザウラーを完全に使える気がする」

 

「え、はい。使うんですか?」

 

「ああ、使える気がする」

 

 沸々とわき上がるこの感情はなんだ。この全身を締め付けられるような、それでいて何もかも切り裂きたいようなこの気持ちは。

 

 俺は、そうか、そう言うことか。この感情は。

 

「まさに愛だ」

 

「ちっがぁぁぁう!! 弔おまえはなぁ?!」

 

「違うのか?」

 

 え、そこできょとんと見るの、弔クン?

 

「愛なのか?」

 

「あ、愛ですか?」

 

「そこ! オールマイトとデク君! 違うから俺は普通に女の子が好きな男の子だから!」 

 

「不純異性交遊はヒーローとして認められないな」

 

「オールマイト!! なんでそんなに真顔で問い詰めてくるんですか?!」

 

「いや、君の周りには美少女ばかりだからね」

 

 美少女? え、誰のこと?

 

 あれ、と周りを見回して俺はエルとソープが手を振っているのを見て、慌てて首を振った。

 

「あいつら男ですから!!」

 

「何を言っている、田中少年。もちろん知っているぞ」

 

「じゃ誰のことですか?!」

 

 艦娘か?! 彼女達ならば美少女ばかりだから納得だけど。

 

「彼女のことだよ」

 

 オールマイトが指さした先、何故か猫耳をつけた『トッティ』君が。 

 

「え?」

 

「彼女は女性だろう?」

 

 驚愕の事実、エイリアン『トッティ』君は、実は『トッティ』ちゃんでした。

 

「え?」

 

「マスター、おまえまさか知らなかったのか?」

 

 コナンが呆れた顔で見てくるので、俺は小さく頷いておいた。

 

「はぁ、あいつ『エイリアン・クィーン』だぜ」

 

 あ、確かに女性でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練が終わり、デク君は艤装を解除した。パッと光って艤装が消えて、彼の首元にペンダント形の船がぶら下がっているんだけど。

 

「完璧に使いこなしているな」

 

「ありがとうございます、弔さん」

 

「ああ、後はあの訓練だな」

 

 え、あれ、何か残っていたのか。 

 

「一郎、とても大切な訓練が残っているんだ」

 

「とても大切な? でも、艤装は使えてますし、展開も問題ないので。後となると」

 

 デク君も困惑しているな。俺もそうだよ。艤装が使えているんだから、問題ないんじゃないのか。

 

 あ、戦闘訓練か。あれは確かにまだまだ経験値を積まないとだめだよな。 

 

「一郎、戦闘訓練じゃないぞ。あんなのは戦っていれば自然と身につくものだ。実戦こそ訓練に相応しい」

 

「え? え?」

 

「死柄木少年は、時々かなり無茶なことを言うな」

 

「弔ぁ」

 

 真顔で言っているから、本気なんだよな。確かに弔って実際に戦って経験値を稼いで、実戦で成長するタイプなんだよな。

 

 だからって頭脳派のデク君にそれを押し付けるなよ。

 

「解んねぇのかよデク!!」

 

「かっちゃん?!」

 

 うぉ!? え、爆豪君、どっから来たの?

 

「駅前で歌っていました。俺のロックな魂が、今日は駅前で歌えと告げていたので」

 

 ビシッと決めた彼の横顔は、とてもかっこよかったです。

 

 でもさ、それってロック・シンガーとしてだよね、ヒーローとしてはどうなのさ。

 

「パトロールも兼ねていましたので」

 

「俺の心を読まないでくれないかな、爆豪君」

 

「一郎さんは顔に出やすいですよ」

 

 年下に断言されました、泣いていいよね。

 

「それで、だ。デク」

 

「う、うん、なにかっちゃん?」

 

「次の訓練って言ったら、決まってんだろうが。俺達がヒーローになるのに必須な」

 

 凄い気迫だ、爆豪君はこの訓練にすべてをかけているみたいだな。そんなに大切な訓練が残っていたのか。

 

「そうだな。君たちには雄英に入るための試験勉強を・・・」

 

「ヒーローに大切なのは『変身の掛け声』と登場ポーズだ!!!」

 

「しっかりと行って・・・・へ?」

 

 珍しいものを見てしまった。オールマイトが間抜けな顔しているけど、こんな状況に出会えるなんて。

 

 うんうん、そっか、掛け声と登場ポーズ、はい?

 

「かっちゃん」

 

 ほら、デク君も呆れているじゃないか。爆豪君の手を握って、キラキラした眼を向けて。あれぇ~?

 

「そうだよね! 変身と登場ってヒーローのだいご味だよね?!」

 

「解ってきたじゃねぇか、デク。そうだ。俺達に足りないのはそれだけだ」

 

「いや、ヒーローには資格があってね」

 

「そっか、そうなんだ。よし頑張って考えないと!」

 

「へ! 俺が先だデク!」

 

「負けないよかっちゃん!」

 

「だから、君たちね」

 

 気合の乗った少年二人を前に、いくらナンバーワンでも立ち向かえなかったみたいですね、オールマイト。

 

 俺はそっと彼の肩に手を置いたのでした。

 

「田中少年、最近の若者はどうしてこう人の話を聞かないのか」

 

「オールマイト、それを言ったら年寄りですよ」

 

「そうか、私も年をとったということか。後継者を探さないとな」

 

「だから雄英の教師をやるんでしょう?」

 

「そうだな。その通りだ」

 

 フッと遠い目をするオールマイトの背中は、何処か悲しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試行錯誤を繰り返した爆豪君とデク君は、その後に見事な変身の掛け声と登場ポーズを完成させることになった。

 

 うんうん、見事だって言っておくよ。なんだか、ソープが凄い興奮して食いついていたし、アインズも滅茶苦茶絶叫していたけど。

 

「マスター、我も久しぶりに考えてみたくなったぞ」

 

「俺もそろそろ新しくするか」

 

「え?」

 

 はい、なんでギルとコナンが乗っているのさ。

 

「私もやりましょう」

 

 黒霧、待っておまえは待ってくれ。

 

「俺もやろうかな」

 

 弔、なんで仮面を見つめて微笑んでるんだよ。なんだよ、何があったんだよ、お前ら。爆豪君とデク君に触発されたのか、え、待って。その全員で俺を見るのはやめてくれよ。

 

「一郎、共に決めポーズまで完成させよう。おまえならやれるさ」

 

「がんばりましょう、一郎君」

 

「ふ、二人して優しく言っても俺はやらないからな!」

 

 その後、俺の周囲にはいかにかっこよく変身の掛け声から登場、最後の決めポーズを決めるかまでが、ちょっとしたブームになったのでした。

 

「はっはっはっはっは! 私が来た!!」

 

「オールマイトまで。なんでそこまで染まったんですか?」

 

「いや、田中少年。私はプロ・ヒーローとして、このスタイルをずっとだね」

 

「はぁ、ずっと信じていたのに」

 

「待ちたまえ! 何か君は勘違いしていないかね!? 私はプロ・ヒーローだからこそ!」

 

「オールマイト」

 

「その憐れんだような瞳は止めてくれないか?!」

 

 ああ、今日も世界は平和みたいだねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄い暗闇に、光は灯されない。

 

「いい個性だ」

 

「か、返せよ、俺はそれを・・・・」

 

「フフフフ、君は転生者だね? この君の個性は私が使わせてもらよ」

 

 足元に転がった少年を見下ろし、彼はそれを握り締める。

 

「オールマイト、君に見せてあげよう。残酷なまでのヒーローという者をね」

 

 『オール・フォー・ワン』はそれを腰に巻き、手を添える。

 

『祝福の時、来たれり!!!』

 

「なるほど、これはいいものだ」

 

 闇の中、さらに深い闇が鼓動を始めた。

 

 

 

 

 

 






 転生特典は個性、ということは個性を奪われると、こうなる。


 主人公の力を使うヴィランって燃えますよね?

 という風味ですを。



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乙女の決意はどっかの超人を圧倒する、かもしれない

 

 転生者を狩り、転生特典の個性を奪っていくオール・フォー・ワン。

 変貌していくデクと爆豪に、巻き込まれるようにストレスを感じ始めたオールマイト。

 原作とかけ離れた物語の結末は、誰も知らない。

 だって、筋書きもプロットも、何も考えていない行き当たりばったりだから!

 原作崩壊タグがついているから大丈夫!

 あ、最終話は出来上がっていますのでご安心を。

 今回のお話は、暴走特急乙女がメインです。

 という風味の話でお送りします。







 

 

 彼女は考える。

 

 自分に足りないものは何かを。毎日、よく通う喫茶店の何時もの場所に座って、ジッと外を見つめながら手元のアイスティーをストローでかき混ぜていく。

 

 昔はもっと周りなんて関係ないって思っていたのに。

 

 自分以外は異質なんて切り捨てて、周りの戯言なんて気にしたことないのに。

 

 自分は自分。他のことなんて知らない。こんなのは、馬鹿げた話でしかない。普通に笑顔で好きに生きていただけだったのに。

 

 でも、出会ってしまった。見つめていたい、自分だけを見てほしいと心の底から願う人に。もう昔になんて戻れない、周りのことを気にせずにいられない。彼が自分をどう思っているのか、どう見ているのか、ずっと気になっているのに問いかけることはできない。

 

 ストローが渦を描くアイスティーに、一度も視線を向けない。ずっと目線は外に固定されて、小さくため息をつく。

 

 あの店、もっと言えば、田中・一郎が働いている店。

 

 どうすれば彼を真っ直ぐ見れるだろうか。どうすれば、彼とお話しても緊張せずに済むのか。

 

 グルグルと毎日、考える。いっそのこと彼の傍にいて、毎日のように店に通えば耐性がつくのではないか。

 

 よっしと気合を入れて立ち上がりかけて、一郎の顔を思い浮かべて座り直す。

 

 ダメだ。思い出しただけで顔が赤くなって、全身の力が抜けてしまう。もう立ち上がれない、あの声を思い出すだけなのに、自分の体じゃないように熱を持って、心臓がうるさいくらいに音をだしている。

 

「はぁ」

 

 小さくため息をついて、トガ・ヒミコは視線を店の方へと投げた。

 

 一郎君、一郎君と心の中で呟くだけで全身が熱くなって、胸の奥から暖かい気持ちが溢れてくる。前にはこんなことなかったのに、今ではこの気持ちが全身に満ちて、それが心地よくて楽しくて。

 

 でもとても苦しい。彼の傍にいたい、声を聞きたい、香りに包まれたい、彼の血に触れてみたい。全身で彼を感じたい。もっと近くで、もっと触れるくらいの距離で。

 

 願ってみても、体は動かない。こんな気持ちを知られたら、彼はどう思うだろうか。笑ってくれるだろうか、微笑んでくれるだろうか、照れてくれるだろうか。

 

 もしも、もしも彼に拒絶されたら。気持ち悪いと言われてしまったら。そう考えるだけで全身が震えてくる。そんなこと言われたら、生きている自信なんてない。速やかに首を落として死ぬ自身の方が強い。

 

 確かめたいのに、確かめたくない。

 

 もう少し前に出るべきなのに、どうしても一歩が踏み出せない。自分の個性を思い出して、自分の生い立ちを思い返して、彼の近くにいたら迷惑になるのではないかと考えてしまう。

 

 どうして何故、そんなこと関係ない。自分の心がそう呟く、彼を手に入れて彼を自分の傍において、逃げられないように四肢を斬って、体だけ持って帰ればいい。そうすれば、もう彼は自分のもの。

 

 絶対にダメ。彼は皆のもので、一人が独占していいわけがない。彼を独り占めするなんて世界に対しての損失だ。

 

 両極端な意見が自分の中でわきあがり、口論になって体を縛ってしまい、今日もヒミコは店に入ることなく、喫茶店で過ごしていた。

 

「はぁ」

 

 たまに零れる溜息が艶やかで、妙に色っぽい。女子高生の制服を纏いながら、大人の女性も負けるような色香を出す彼女は、近所では密かに噂になっていた。

 

 『ため息の天使』とか。

 

「ああ、一郎君」

 

 そして今日もヒミコは、うっとりした顔で彼の一日を観察するのでした。

 

 相手の感情も状況も関係なく、自らの愛ゆえに相手を追い求め、一時も忘れることなく思い続け、狙い続ける。

 

 人はそれを『ストーカー』という。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒィ?!

 

 な、なんだ? 今、妙な寒気がしたんだけど、何かあるのか。ここ最近、妙に寒気を感じることが多いんだけど、何があったのかな?

 

 今度、ソープあたりにお祓いしてもらうか。それか、ギルに宝具でも貰おうかな。

 

「一郎、具合でも悪いのか?」

 

「妙な寒気がしただけだから、大丈夫だ」

 

「そうか。もうそんな時間か」

 

 え、時間ってなんだよ。俺の寒気って時間で来るの、いやそんなことないだろうが。

 

「弔さ、何か知っているなら教えてくれないかな?」

 

「俺は知らないな」

 

「そっか。そうなんだ、と誤魔化されないからな」

 

 絶対に何か知っているだろ、お前。目線がちょっとそれたぞ、おまえが嘘つく時って、俺から目線を反らすんだよ。昔っからそうだろうが。

 

「気の所為だ。目にゴミが入っただけだ」

 

「俺の思考を読むなよな。まったく、本当に何か知ってるわけじゃないんだな?」

 

「ああ。ヒミコが見つめているだけだ」

 

 はい? えっと、何か言ったようだけど、声がそこだけ小さくて聞き取れないんだけど。

 

「何でもない」

 

「いや、だからさ」

 

 弔に質問しようとして、店のドアが開いた音がして顔を向けた。お客さんが来たから、弔への尋問は後にしよう。尋問だ、絶対に聞きだしてやる。

 

「ヒミコちゃん、いらっしゃい」

 

「お、お邪魔します、一郎さん」

 

 珍しいお客さんだね、今日も可愛いよね~~。これで弔狙いじゃなければ、なあと思うんだけどさ。仕方ないか。

 

 はにかんだ笑顔も可愛いし、頬がちょっと赤いのもいいね。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 はい? え、なんでヒミコちゃんにお礼言われたのかな? あれ、俺って何も言ってないはずなのにさ。

 

「どういたしまして」

 

「ご注文は?」

 

 おい、弔、俺の癒しの時間に割り込むなよ。まったくさ。

 

「おススメで」

 

「解った、大丈夫か?」

 

「私のライフは残り三です」

 

 なんか、二人してコソコソと話をしているけど、小さくて聞こえないんだよ。もっとはっきり喋りなさいよ、弔クン。

 

「一郎、テレビでもつけるか?」

 

「え、いいの? おまえ、店をやっている時はつけないって」

 

「特別だからな」

 

 珍しいこともあるもんだ。弔って食事の時には、味を妨害するなんて考えでテレビはつけさせないんだよな。アインズの歌はいいって理屈は分からないけど。どっちも音と映像で、料理に集中させないような気がするけど。

 

『私の歌を聞けぇ!』

 

「お、フロンティアだ。これ、何の映像?」

 

「街角で発見の歌姫じゃないか? アインズも映っているし、エターナルもいるからな」

 

「へぇ~~~そんな番組があるんだ。あれ、エルとソープもいない?」

 

「あいつらはギターもベースもできるからな」

 

 ウソ、そんな技能があったの。俺は知らないんだけど。

 

「ちなみに、ドラムはコナンだな」

 

「あ、本当だ。確か、『新一形体』だったっけ?」

 

「一日二時間限定のらしいが」

 

 本当に珍しい、コナンがあの形体を使っているってほとんど見たことないんだよな。子供の姿のほうがやりやすいとか、色々なところに紛れ込んでも『ごめんなさ~い』って子供っぽく答えれば、大抵のところは許されるらしいし。

 

 それに、フロンティアとエターナルは姿は『マクロスF』のシェリルと『ガンダムSEED』ラクスだから、歌っている姿は様になっているんだよな。

 

 これも、俺は知らなかったけど、引き当てた時に当時の知り合いが大騒ぎしていたんだけど、あの頃は『へぇ、そうなの』だけで終わってたんだよな。

 

 後になって、戦闘時に凄い焦ったけど。

 

「い、一郎君は、ああいうのが好み、ですか?」

 

「え、いやまあ」

 

 ヒミコちゃんから、珍しく声をかけてくれた。

 

 好みって言えば、どうなんだろう。可愛いとか綺麗とかって思うけど、はっきり言って自分の艦娘だからね。

 

 あの世界では全員と関係を持ったけど。襲われたけど、いい思い出だよ。

 

「・・・・そうですか」

 

「え、あれ、ごめん。まあ、アイドルには憧れるよね」

 

 男なら誰でもさ。

 

「馬鹿だな、一郎」

 

「へ?」

 

 何故か、弔が凄い呆れた顔で見てくるんだけど、何で?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇気を出した甲斐はあった。

 

 ヒミコは内心で狂喜乱舞しつつ、表に出さずにテレビを見ている一郎を盗み見ていた。

 

 ああいうのが好みか。アイドルに憧れるのか。つまり、自分を見てもらうためには、ああいった感じになればいいのか。

 

 そうときまったら、実行あるのみ。

 

「ご、ごちそうさまでした」

 

「うん、ありがとうね、ヒミコちゃん」

 

「は、はい、また、来ますね」

 

 笑顔で手を振る一郎に手を振り返し、ヒミコは店から出て、足を進めていく。次第に大きく足を出して、やがて早歩きになって、最後には走り出した。

 

 一郎の好みは知れた。可愛いと綺麗であり、アイドルのような女性がいいということだ。

 

 つまり、だ。

 

「一郎君に好きになってもらうためにはアイドルになるのが一番!」

 

 清々しい顔で、ヒミコは街を走り抜けた。

 

 目標は決まった、後は手段の選定と結果をもぎ取ってくるのみ。決意の決まったヒミコは、もう止まらない暴走状態。

 

 最後の『アイドルになる』に辿り着くまで、決して止まるつもりなんてない。誰も邪魔させない、邪魔するなら悉くを斬り捨てる。

 

 まずはどうすればいい。アイドルになるには事務所のスカウトに呼び止めら得っるのが一番の近道。

 

 携帯で検索した後、スカウトマンが多い場所へ行く。

 

 足を向けかけたヒミコは、鏡に映った自分を見て、足を止めた。

 

 ルックスは行ける気がする。見た目は上の方だ、と思い込みたい。かっこうは制服、これは駄目ではないか。

 

 いや平日に学生が制服も着ずにいるのは、他の方々にスカウトされてしまうからこのままで行こう。

 

 もし、警察の御厄介になってしまったら、あの一郎にどんな目で見られるか。もしも『え、そういう子』なんて思われた。

 

 想像した未来を思い浮かべ、ヒミコは蒼白になって首を振った。

 

 よし、このままで行こう。汗はかいているが、時間が惜しい。けど、ちょっとお化粧直しをした方がいいか。元々、そんなものはしていないが、身だしなみに気を使うのは乙女の必須。

 

 アイドルになろうとするなら、もっと重要なものになってくるのではないか。

 

 どうするか。お化粧道具はある。鞄の中に一式、そろってはいるが一郎はナチュラル・メイクのほうが反応がいいため、それほどの道具は揃っていない。

 

 何処かで購入するべきなのでは。目的地とは別方向へ足を向けかけて、ヒミコはハッと思いなおす。

 

 違う、目的は一郎に『好きになってもらう』ため。アイドルは最終目標に向かうための手段でしかない。目的を見誤ってはいけない。ここで化粧なんてしたら、アイドルになれたとしても一郎の好みから外れてしまう。

 

 このまま行けば、いや待った、このままではスカウトに捕まるか。決して美人ではない自分が、スカウトマンに認めてもらえるか解らない。

 

 ヒミコはショーウィンドウの鏡の前で百面相を繰り返す。通り過ぎる人たちが見ているのは気にしないし、意識の中に入ってこない。

 

 彼女の頭の中にあるのはアイドルになる、一郎が好きになる、一郎と付き合う、一郎と結婚して子供を産む、という過程だけ。

 

 全力で妄想して老後まで突っ走った後、いやんいやんと首を振って深呼吸をひとつ。もう見ているだけで危ない人、でも鏡に映る表情の二つか三つはちょっと可愛い笑顔のため、そのギャップのあまりに激しさに通行人は足を止めて『あ、可愛い』の後に『あ、猛獣だ』と思って通り過ぎていく。

 

「がんばるのよ、トガ・ヒミコ。貴方は誰のためにやるの、一郎君のため。一郎君のためじゃないの。さあ、行きなさい、羽ばたくのよ、ヒミコ!」

 

 自己暗示完了。鏡の自分に向かって話しかける危ない女子高生がいる、なんてネット上で話題になっているのだが、今の彼女いはまったく関係なかった。

 

 いざ出陣。

 

 ヒミコは決意を秘めて歩きだす。その背中には、ライオンとトラが浮かんでいるように、周囲の人には見えたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランチタイムが終わった俺は、手のひら鎮守府の訓練場にいた。

 

「おまえの絶望も、悲劇も、その苦しい檻も。俺が崩してやる。だからもう泣くな。『ザ・ハンズマン』ここに推参」

 

 スッと地面に降り立ち、回転するように立ち上がりながら、右手を前に突き出す。

 

 うん、何これ。え、弔ってそんなヒーロー名にしたの?

 

「すべての距離が私の前では無意味。悲劇も絶望も、暗黒の彼方へ飛ばしてあげましょう。『ゼットン・ザ・ブラック』参上しました」

 

 黒い霧が立ち込め、その中からゆっくり歩いてきて、名乗りと同時に一礼。右手を胸の前に持ってくる、まるで英国紳士のような一礼でした。

 

 あ、うん、黒霧がいいなら、それで俺は何も言わないよ。

 

「どんな事件も俺が解き明かし真実を救いだす。迷宮なしの名探偵!」 

 

 あ、うん、コナンはセリフが変わっただけで、ポーズは一緒なのね。 

 

「名乗るがいい。貴様の今生の最後の言葉を、高らかにな。特別に我が許してやろう」 

 

 おい、ギル、なんで抹殺前提で登場してんだよ。しかも、すっごいいい笑顔でさ。腕組みポーズは似合っているから、ちくしょうって言ってやるよ。

 

「君たちに恨みはないけど、僕の前に立つなら許しはしないからね」

 

 ウィンク添えても言葉は怖いんだけど、ソープ。しかも、腰を曲げて腰に手を当ててって、凄い色っぽいけど、おまえは自分が男だって自覚ありますか?

 

「ロボット魂に命を燃やして! 世界中にロボット愛を届けるために! 貴方の悲しみロボットで砕きます!」

 

 うん、エルは通常運転だ。やたらとロボットを誇張しているけど、普通だね。なんか『ガシン、ガシン』ってセリフの合間に音がなるけど、気にしちゃダメだよね。

 

「震えよ我が指先! 奏でよ我がソウル! 我のすべての感情のままに! 我が絶唱を聞け! 『ビート・スケルトン』ここにあり!」

 

 予想通り過ぎて、笑えないぜ、アインズ。なんだよ、そのギターを弾いたままのステップは。おまえの本業は、本当にギタリストになったんだな。

 

「ふむ。ではこちらはどうだ?」

 

 あ、アインズが豪華絢爛な魔王スタイルになった。

 

「絶望に染まるがいい! 貴様はこの私! アインズ・ウール・ゴウンの前にいるのだからな! さあ、無様に足掻くがいいぞ!」

 

 完全にラスボスのセリフですね、ありがとうございます。

 

「というわけだ。場を温めておいたぞ、二人とも!」

 

 うん、アインズ、その言い方だと二人が披露しにくいんじゃないかな。

 

 あれ、そうでもない?

 

「変身!!」

 

 おお、空中に飛び上がったデク君が、ペンダントを高らかに掲げて、艤装を纏って着地。左右の主砲塔と装甲が彼の体を隠して、そしてゆっくりと立ち上がると。

 

「誰も悲しませない。僕がいる限り、この世界中の人たちの『航路』は脅かさせない!」

 

 立ち上がったデク君の周囲の装甲が開いていき、右拳を握って突き出す彼が見えた。

 

「『デク』だ。僕の装甲を抜けるものなら抜いてみろ!」

 

「え、ヒーロー名ってそれにしたの?」

 

「はい! やっぱり、一番、これが合っているかなって」

 

 まあ、デク君がそれでいいならいいけど。

 

 そして、ラストが。

 

 爆音が響き渡る、赤、黄色、青、緑といった爆発と煙が流れる道を、彼はゆっくりと歩いてくる。

 

 右手にギターを持って、それを前に回し、弦を一回だけ鳴らす。

 

「俺の歌は嘆きに負けねぇ。俺の力は絶望も悲劇も爆殺してやる」

 

 そこで一際、大きい爆発が彼の背で起こって、煙が一気に天へと流れ出した。

 

「だからおまえらヴィランは俺のステージからとっとと消えやがれ! 『爆撃王』ここにありだ!!」

 

 ギターを持った手を高らかに上げる爆豪君をたたえるように、再びの爆発が周囲に鳴り響いた。

 

「いや、それはおかしい」

 

「な?!」

 

「やはり、爆撃王か」

 

「んだ?!」

 

「やっぱり、もっと違う名前にしようよ」

 

「とぉ?!」

 

 全員からのダメ出しを受けて、爆豪君が沈んでいく。

 

 うん、名乗りも演出も登場シーンもいいんだけど、ヒーロー名がなぁ。どうしても爆豪君のヒーロー名に『これだって』者がなくて。

 

 まあ、デク君のほうも全員が納得してないんだけど、彼は譲らないからな。

 

「という具合なんですけど、どうでしょう、オールマイト?」

 

 俺は隣で難しい顔で黙っているナンバーワンに話を振ってみたんだけど、黙ったままで考え込んでるんだよな。

 

「・・・・全員に言っておかないといけないことがある」

 

「はい?」

 

「ヒーローは免許が必要だ。無免許は犯罪に当たる」

 

 え、嘘。この世界ってヒーローするのに資格が必要なの? え、まさかぁと思って全員を見ると、『解ってます』と頷いているから、俺だけ知らなかったのかぁ。

 

 またかぁと思いました。

 

「プロ・ヒーローの『オールマイト』としては、認められない」

 

 そりゃ、そうでしょうね。

 

「しかしだ! 一人の男として! ヒーローとしてならば! 見事な名乗りだったと言わせてもらおう!」

 

「え、はい」

 

 なんか、凄い勢いで立ち上がって、笑顔で笑い始めたよ、この人。本当に大丈夫かな、どっかで頭でも打ったんじゃないの。

 

「ところで、皆は雄英を受けるつもりはないかね?」

 

 真顔で語るオールマイトに、デク君と爆豪君以外の全員が首を振ったのでした。

 

「そうか、有望なヒーローがいるのに、残念で仕方ないよ」

 

 ちょっと悲しそうに項垂れるオールマイトは、背中に哀愁が漂っていました。

 

 まあ、俺達は非合法でも、なんでも人助けするだけだし。いや、待った、ヒーロー活動しないから、これは爆豪君とデク君につき合ったノリだけだから。

 

 絶対にもう危ないことはしないし、させないからな。

 

 よっし、決意したぞ。

 

「そう言えば、一郎、こんな話を知っているか?」

 

「なんだよ、弔。また俺を苦しませる話か?」

 

「いや、違う。ヒミコがネットアイドルになった」

 

「え?」

 

 あれぇ~~ちょっと信じられない話を振られましたよ。え、誰が何になったって? え、あの純情で恥ずかしがり屋のヒミコちゃんが、何だって?

 

「対人恐怖症を克服したらしい。一郎限定の」

 

「え、そうなんだ」

 

 そっか、そうなんだ。最後に何か付け足しがあったみたいだけど、深くは聞かないでおこう。

 

 頑張れ、ヒミコちゃん。俺はここから応援しているぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、俺は彼女の配信を見ることになって。

 

『は~~い、こんにちは、ヒッミッコちゃんよ~~~』

 

 画面の中でミニスカの和服を着た、ウサ耳つけたヒミコちゃんが笑顔で手を振っていた。

 

 うん、なんだろう、応援してはいけない気がしてきたぞ。

 

 誰か俺に教えてください。

 

 清純のようなヒミコちゃんは、いったい誰がどうして、こんなことになっているのか。

 

 彼女は何処へ行こうとしているのでしょうか?

 

 

 

 

 

 




 

 今回の話の元ネタ、『ユー●ューバー・ヒミコ』って面白そうじゃね、という妄想から来ています。

 好きな相手に振り向いてもらうためならば、アイドルさえなってやろうと考える彼女の、明日はどっちだ。

 乙女は暴走機関車と同じでしょ、なんて昔の知り合いが言っていたので、そんな感じになりました、という風味でお届けしました。



 ちなみに、爆豪の登場シーンですが、最初の妄想の時は瓦解する世界の中を歩いてくるオーマジオウのような感じを想像して、『え、これはやり過ぎじゃ』とか思ったのでやめました。






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理性は大切なものですが、条件反射は止めてくれません

 

 デク君は今日も訓練しています。艤装を扱えるように頑張っています。妖精達も彼についていって嬉しそうです。

 爆豪君もギター片手に頑張っています。歌に爆発に、熱唱にと頑張っています。

 ところで、デク君ですが、無個性でも人助けに突撃していくのだから、艤装があるからもっと突撃していくって思いません?

 なんてことを考えた風味になっています。






 

 

 今更ですが、緑谷出久の艤装は『土佐型』となっているが、完全に同じものを使っているわけではない。

 

 通常の土佐型艤装の主砲は二十四基。艦娘が身に纏う分の主砲は八基ほど。残りは浮遊しながら艦娘と装甲の周囲を漂っている、自由機動兵装となっているのだが、出久の艤装にはついていない。 

 

 これはエルやソープが手を抜いたのではなく、緑谷出久自身に問題があったため艤装を削るしかなかった。

 

 彼が無個性だから、そこは関係ない。艤装の適合に必要なのは、その者の魂の中にあるもの。何故に彼が艤装に適合できたのかは、さすがのエルとソープも解らなかった。

 

 戦艦から駆逐艦まで、潜水艦や補給艦も含めたすべての艤装を確認したところ、緑谷出久に適合する艤装は『土佐型』ともう一つ。

 

 羅豪型潜水戦艦。回転衝撃角、つまりドリルを装備した海底軍艦だった。

 

 さすがにこれは無理じゃないか、とコナンの意見が挟まれ、出久には土佐型の艤装が与えられたが、彼の艤装知識の少なさ、艦載機などの知識の低さにより土佐型の艤装は三分の一にとどめた。

 

 その中でも、飛行甲板といった航空機はすべて搭載したのは、これから先のことを考えてから。

 

 ゼロから始めた子に、いきなり完全装備は難しい。彼が少しずつ学んでいき、艤装になれたら完全な形の土佐型を与えよう。

 

 コナンの判断に、エルとソープは特に反論なく、出久の艤装は土佐型の三分の一となった。

 

 しかし、だ。彼らは忘れていることがあった。

 

 一つ、妖精への親和性。艤装に適合できるのだから、出久の妖精への親和性はかなり高い。艦娘と変わりない数値を叩きだすくらいに。

 

 もう一つは我らの愉悦王が、その話を黙って聞いていたことだ。

 

 彼は話し合いが終わり、艤装が完成した後に、その倉庫へと入った。

 

「そうか、やはり貴様らもそう考えるか」

 

 ギルガメッシュが見下ろす先、資材と設計図を持った妖精たちが、わらわらと艤装に群がっていた。

 

「よかろう、この我が許す。存分にやるがいい」

 

 妖精達はピシッと敬礼して、出久の艤装に『裏設定』を施していく。

 

「後は、爆豪のものか。フフフ、あやつの歌は心地よい。王の感情を慰めた褒美だ。受け取るがいい」

 

 『爆豪君の』と書かれたコスチュームに、ギルガメッシュは『ある宝具』を取り付けて行った。

 

「さて、一郎、おまえは此度はどのような顔をするであろうな?」

 

 微笑する彼は、悪意などなく、善意も全くない。あるのはただ、『愉悦のため』のみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしても止められない時って、人間にはある。

 

 ダメだって解っていても。いやダメだと言われると、余計にやりたいって考えてしまうのが人間だ。

 

 でも、今回の話はまったく関係ないけどね!

 

『次のニュースです、最近、未登録の個性による事件が多発しています』

 

 物騒な世の中だな。

 

 どうも、田中・一郎です。最近さ、こういったニュースって多いんだよね。一日、三件くらいは確実に聞くんだけど。

 

 まさか、オール・フォー・ワンがまた何かやり出したのか。転生者を狩っているって話も聞くし、転生特典の個性を奪われたら厄介だな。

 

『先日、ヴィランを撃退したのは、この・・・・』

 

「あれぇ~~~」

 

 おかしいな、俺の目がおかしくなったのかな? いやいやまさか、そんなはずないよな。

 

「どうしたんだ、一郎?」

 

『噂話でしかなかった、『ザ・ハンズマン』と呼ばれているヒーローです』

 

「おい弔」

 

 俺が無言で親指でニュースを指差すと、朝食の味噌汁の入ったお鍋を持った弔は、笑顔のままゆっくりと後ろへ下がって行った。

 

「ちょっと待てコラぁ!」

 

「なんの話だ、一郎。世界は広い、同じ顔の人が三人はいるらしい。だから、同じ名前のヒーローも三人はいるだろう」

 

「おまえそれでいいわけしているつもり!? ねぇ、なんで、どうして? 何してんのおまえ」

 

「何と言われても」

 

 よぉぉぉし、何を言ってくるのかな。言い訳か、それとも誤魔化せる手段でも考えているのかな。

 

「助けてと言われたから、助けただけだ」

 

 う?! く、クソ、なんで弔はこんな真っ直ぐな顔で見てくるんだよ。俺は悪くないって心の底から思っている顔じゃないか。

 

 しかし! ここで俺が引き下がったら、弔はまたヒーロー活動をやる。本人はヒーローって思ってないかもしれないけど、こんなに頻繁に助けてに答えていたら、立派なヒーローだからな。 

 

 危ないこと禁止って言ってやろうか。

 

『それと、この『ザ・ハンズマン』の隣に必ずいるのが、こちら『ゼットン・ザ・ブラック』と名乗っている人物です』

 

「黒霧ぃぃぃぃ?!」

 

 おかしいと思ったんだよ、絶対に無理があるって。なんで弔の目撃情報が全国各地に散らばっているんだよって。

 

 おまえか! おまえが弔の考えに乗っかったのか?!

 

「一郎さん、私が何かしましたか?」

 

「何かっておまえもな! ヒーロー活動には資格がいるの!」

 

「はい、知っています。ですが、私達はヒーロー活動をしていません」

 

「なんだって?」

 

「私達は人助けをしています」

 

 胸を張って答える黒霧に、俺は思わず拳を握って天井へと突き上げた。

 

「それを世間じゃヒーロー活動って言うんだよ!」

 

 何を馬鹿なこと言ってんだよ。言い訳をするなら、もっと考えてからやれよ。おまえら馬鹿なの? 馬鹿にしてんの?

 

「なるほど。これは認識の違いというものです。いいですか、一郎さん、私達は善意で困っている人を助けている。確かに助けられたものからすれば私達はヒーローかもしれない。しかしですが、私達は完全に人助けのつもりで行っており、さらに助けた後に賃金が発生したこともない。現在の法律上、個性を使って人を助けた後、賃金の受け渡しがあればそれは『ヒーロー活動』になりますが、私達は相手にお礼も言われていなければ、素性を明かしてもいない。ただ通りすがりに人を助けた、これがヒーロー活動として問題があるならば、道に困っていた人に道を教えるのも、ヒーロー活動になりますね。これも違法となると、次に困るのは道に迷った人だ。困っている人を助けることがヒーロー活動というのならば、私たちは誰の力も借りずに、また誰かに力を貸すこともできない。そうなると、世間といったものがとても冷たい関係の身になります。すべてが賃金で成り立つ。いいえ、この場合、賃金が発生してのヒーロー活動といった考えを当てはめれば、あらゆる業務や仕事がヒーロー活動になってしまう。これを違法と考えるならば、現在社会が立ち行かなくなる。それでは人間が生きていくことはほぼ不可能になってしまう。世界人口の八割が個性を持った世界とはいえ、すべてを個人でどうにかできるほど世界は甘くはありません。そうすると、私達は誰かに賃金を払っての援助も許されない世界において、どのように生きていけばいいのか。まったく見通しのない世界を生きるしかなくなる私たちが、賃金と信頼と善意の助力を抜かれてしまった私たちが、どういった社会を形成していくのか、是非とも一郎さんの見解をお聞きしたい」

 

「すみません、俺が悪かったです」

 

「解っていただけましたか。では、これからも私と弔の善意を許して頂けますね?」 

 

 ク、今まで一番に重い善意だぜ。悪気があったとか、騙そうって気配が一欠片もない。あれは完全に黒霧にとっての、善意の人助けだ。

 

「わ、解ったよ」

 

 仕方ない。俺はそう思いたくなった。

 

『次ですが、中学生か高校生くらいの少年も、この活動をしているようなんですが』 

 

『これですね。船を纏っていることと緑色をしていることから、『グリーン・シップ』と呼ばれているヒーローですね』

 

 たらりと、全員に冷や汗が流れたのを、俺は感じた。

 

 さっきまで平然としていた黒霧は、ゆっくりと腰を折って机に突っ伏した。

 

 弔はにこやかな笑顔のまま、顔の向きを変えてあさっての方を見ている。 

 

『それにです。この覆面をつけたヒーローは歌で人々を元気にしたうえに、災害などには真っ先に飛び込んで爆発させて救助しているんです』

 

『ええ、彼はその両方のことから『シンガー・ボマー』と呼ばれているようですね』 

 

 あ、爆豪君のヒーローネームって、それでいいんじゃないかな、なんて場違いなことを俺は思いつつ、現実逃避していた。

 

「とりあえず、朝飯にしようぜ」

 

「そうだな」

 

「ええ、そうしましょう」

 

 今日は三人でのんびりとお食事。ギルもコナンも、エルもソープも、アインズもちょっと用事があるんだって。

 

 なんか、『ちょっと最強最善最高の魔王倒してくるから』って、いい顔して出かけて行ったな。

 

 なんか、艦娘全員にプレデター部隊とエイリアン部隊まで連れて。

 

 あれ、でもソープが『赤い十字架みたいな紋章』をつけた連中と一緒にいたけど、あんな奴らいたかな。

 

 後、アインズもいろんな魔物連れていたけど。

 

 あれぇ、まさか本当に総戦力を持って行ったの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時計の針は進む、ゆっくり少しずつ。忌々しいことに、それを止められる手段がない。 

 

 ただ進み、やがて時計の針は『十二』を示す。

 

 そして一面が白い砂に覆われた。 

 

「ふむ、見事だ。これを受けて立っていたのは、お前くらいなものだな。それが『オーマジオウ』の能力か」 

 

「クククク、君こそいい個性じゃないか。今のはすべてを強制的に死滅させる魔法かい?」

 

 男の問いに、アインズは答えずに杖を向ける。『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』と呼ばれるそれは、怪しく輝き複数の魔法を実行していく。

 

「なるほど。さすがに平成のすべてを司ると言われるライダーの力だ。しかしだ、それは本来の持ち主が扱ってこそ真価を発揮する。貴様程度では無理だな」

 

「言ってくれるね。まだ僕を倒せていないじゃないか?」

 

「倒せていないか・・・・」

 

 小さくアインズは苦笑した。まるで、それが『見当違いなこと』のように。

 

「脳無か。あれらもかなりの数を作ったものだ」

 

「気になるかい? 君らの仲間は今頃、その脳無に倒されているんじゃないかな?」

 

 あざ笑うように、囁くように、オール・フォー・ワンは語る。

 

 この場にいる脳無は、転生者から奪った個性を入れてある。どれも面白く二度と手に入らないような個性ばかりだった。

 

 仮面ライダー、ウルトラマン、あるいは戦隊のもの。SAO、アラガミ、ガンダム、マクロス、Fate、様々な世界がある、色々な創作物の世界の能力を持った脳無だ。

 

 恐らくこの世界のヒーロー達では、一撃で倒されることだろう。

 

 誰にも止められない。世界はこうして混乱の中、やがて。

 

「つまらん玩具だ」

 

 天井から脳無、だったものが降ってくる。

 

「結構、強かったと思うけどな」

 

「いうな、天照。『次元回廊』で残らずそぎ落としたのは、誰であったか?」

 

「そういう英雄王だって、最初の時に『天地開闢乖離の星』じゃないですか」

 

「よく言うぜ、エルだって原始分解やったじゃないか」

 

「名探偵が自分のことを棚に上げてるよ。自分だって『サッカーボール』の一撃で、脳無の能力無効化したくせに」

 

 何があった、何が起きた。

 

 オール・フォー・ワンの前で、個性を与えられた脳無が、残らず灰になって消えて行った。

 

「チェックメイトだ、オール・フォー・ワン。おまえはな、『やり過ぎた』んだよ」

 

 小学生くらいの少年が歩いてくる。いや、見た目に騙されてはいけない。彼こそが、この集団の『統括者』だ。

 

 まとまりのない、考え方や行動理念が違う存在達を束ねて、一つの勢力にまで拡大させた張本人。

 

 推察と洞察、状況分析に瞬時な判断。危機さえ自らの一手にして、逆転の一撃を見舞う者。

 

 騙されているわけではない。最初に会った時から最も警戒していたというのに、彼はその上を行く。

 

 名探偵とはよく言ったものだ。彼の『推理』は、常識の枠の中にはない。

 

「この世界の個性だけを奪っていたなら、俺達は動かなかった」

 

 恐怖を纏うガイコツの後ろに、異業種達が立ち並ぶ。

 

「この世界のことは、この世界のヒーローたちが決着をつけるはずだからな」

 

 銀髪に赤い瞳の女神のような人物の後ろ、赤い十字架を掲げた集団が剣を上げていた。

 

「けどな、他の世界から来た奴らの個性を奪うなら、それは『俺達の事件』だ」

 

 小さな銀髪の少年の後ろに、巨大な機械のロボットたちが整列していた。

 

「おまえはさ、天を望むあまりに、崩れ落ちるバベルの塔を築いちまったんだよ」

 

 少年と、金色の鎧を纏った青年の後ろ、不気味な集団が雄たけびをあげていた。生物のものもあれば、機械的な獣もいる。

 

「よく解っただろ? なら、おまえの『世界の中だけで暴れてろ』よ」

 

 気がつけば、周囲を船の武装を纏った少女たちが見下ろすように囲んでいた。

 

「警告はしたぜ、『ラスボス』」

 

「ということだ。貴様は巨悪であったが、『極悪』ではなかった」

 

 ガイコツが微笑む。その空洞のような瞳に、青白い炎を灯して。

 

 フワリとマントが翻り、そこには誰もいなかった。

 

「ふ、フフフ、私が恐怖を感じるとは。ますます、君が欲しくなったよ、田中・一郎君」

 

 彼は小さく呟き、空を見上げた。まるで届かない輝きに望むように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい、田中・一郎です。コナン達、まだ戻ってこないんだよな。それに、妙な寒気もまだ感じるし。

 

 あれかな、誰かに狙われているとか。恨みを買うようなこと、した覚えはあるけど、そんなに殺意を貰うほどのことしてない気が。

 

 は?! これが世の中でいう、やったほうは覚えてないけど、やられたほうは覚えているってことか?!

 

「いいかね、田中少年?」

 

「はい、オールマイト。気合を入れました、どうぞ」

 

「解った」

 

 今はね、また呼び出されたのよ。もうね、なんか、警察だけじゃなくて雄英の校長先生までいる場所にね。

 

 根津さんって言うんだって。ネズミみたいに可愛い人。

 

「何かな?」

 

「すみません」

 

 可愛いの、外見だけ。もうさっきからすっごく睨んでくるのよ、俺が何したって言うのさ。何もしてないじゃないの。

 

 ごめんなさい、嘘つきました。してます、もうばっちり色々としていたりします。

 

 仲間が。俺って、あいつらの『提督』だからさ、あいつらがしたことは俺が責任取らないと。戦えない俺があいつらに命令して戦わせるから、そこはせめて俺がはっきりと責任取らないと、あいつらに顔向けできないじゃないか。

 

 って、言っておくと女の子にモテないかな?

 

「聞いているのかね?!」

 

「はいもちろんです!!」

 

「ではなぜ! 死柄木少年と黒霧青年だけじゃなく! 爆豪少年と緑谷少年までやっているのかね?! 君は二人にダメだと教えなかったと?!」

 

「いや無理でしょうそこ」

 

 素直に俺は答えることにした。

 

「あいつらのしたことは、俺が責任取りますけど、あいつらを止めるなんて無理ですよ」

 

「責任転嫁のつもりかい?」

 

 根津校長が、少し非難のこもった眼を向けてくるけど、俺は首を振った。

 

「いいえ、責任は俺にあります。そこだけは間違いなく」

 

「では何だというんだ?」

 

 オールマイトの凄味にある顔にも、今は一歩も怯まずに俺は真っ直ぐに見詰めた。

 

 ちょっと怖いけど、しょうがないよね、俺は提督なんだからさ。

 

「あいつらは、それが『条件反射』なんですよ」

 

 ピクッとオールマイトと根津校長が反応した。

 

「誰かの助けてを見過ごせないんです。誰かが困っていたら助ける、手を差し伸べて救い出す。それがあいつらなんですから」

 

「しかしだね!」

 

「それを取ったら、もうあいつらじゃない。オールマイトは、ナンバーワン・ヒーローは人の『性質』も否定するんですか?」

 

 グッと言葉に詰まったね、オールマイト。そりゃ、これはどう答えても人でなしか冷たい人、あるいは冷静な戦略家だろうからね。

 

「なるほど。しかし、無免許でヒーローをやっていい理由にはならないよ」

 

 へぇ、根津さんって凄い知能指数高いだろうね。戦略も見事なものを組みそうだけど、俺とは合わないね。

 

 俺って戦術も戦略も平凡だからさ、冷静に状況を分析したことないんだ。

 

「ヒーロー活動は人を助けてお金を貰っている。でもあいつらは賃金をもらうことも物資を貰うこともしてない」

 

 よっし、前に黒霧に話を振っておいて良かった。

 

 確かに弔達は、個性を使っている。でも、それは日常的に個性を使っている人たちと比べたら、三十分の一でしかない。

 

「あいつらは人助けをしたくて、助けてを見逃せないから動いている、たったそれだけですよ」

 

「詭弁だ!!」

 

「詭弁だろうと、曲解だろうと、俺たちにとってはそれで充分なんですよ」

 

「だからと言って・・・・」

 

「いいだろう、今回の件は多めに見よう」

 

「根津校長!?」

 

 あれぇ、意外だね。もっと食いついてくると思ったのに、そこで折れるんだ。勝ち目がないって思ったかな?

 

「ただし、あまり無茶しないでくれよ。ヒーローが職業になった今、それで食べている人もいることを忘れないでほしい」

 

「解りました」

 

 それはもちろん、俺だって自営業でお金を稼ぐ難しさは知っているから。

 

「後、皆がまだ未成年だということも忘れないでくれ。いくら個性が強くても、まだまだ子供なんだから」

 

「肝に銘じておきます」

 

 特に爆豪君とデク君にはしっかりと教えておこう。 

 

「では、今後もよろしく」

 

 げ、食えない奴だな、この校長。つまり、今回の件は目をつぶるかわりに、手を貸してほしいってことか。

 

「ええ、よき隣人としてね」

 

 助力しないさ、協力もなし。でも、敵対もしないよと伝えてみるけど。

 

「それで十分さ」

 

 うわぁ、この人は解った上で頷いたよ。

 

 まったくさぁ。

 

 仕方ないか。あ~~ぁ、酔っぱらったオールマイトって、かなり楽しいのに今後は来ないかな。 

 

「あれ、今の考えって愉悦部の? そんな、俺まで染まるなんて」

 

 ちょっと俺は帰り道で項垂れたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が来たぁぁぁ!!」

 

「へ、オールマイト、あれ?」

 

 普通に来ましたよ、この人。

 

「いやいや、あの話し合い、かなり険悪だったじゃないですか」

 

「それはそれ、これはこれだよ、田中少年。それに、プロ・ヒーローとしては反対だが、一個人や一ヒーローとしてはよくやったと褒めてやりたいくらいさ」

 

 あ、そうですか。この人も大人なんだな、表と裏を使いこなしている。 

 

 俺には無理だな、何回も転生してもそこのところは解らないや。

 

「さて! 今日の死柄木少年のメニューは何だろうな。この前はサバの味噌煮だったから、今日は何かね?!」

 

「肉じゃがだ」 

 

「・・・・・・死柄木少年、嫁に行くつもりはないね?」

 

「ああ」

 

 真顔で答える弔は、次の瞬間に俺を見た。

 

「一郎の嫁には教え込むつもりだ」

 

「そうか。頑張りたまえ、田中少年!」

 

「え、あれ、待って、何それ?」

 

 その日、俺は何を言われたかまったく解らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、後日。

 

「なあ、コナン、あれって何? 金色ってギルの趣味じゃないか?」

 

「ああ、あれはな、魔王の首だ」

 

「え、首? ベルトじゃないか。あれって仮面ライダーのベルトじゃないのか?」

 

「首だよ、マスター。突っ走り過ぎて世界を超えかけた、間抜けな魔王の、な」

 

 そっか、コナンがそう言うなら、そうなんだろうな。

 

 何故か遠い目をするコナンに、俺はそう思ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 







 デク君と爆豪君が装備を持って人助けしないわけがない!

 絶対にやって、それに黒霧と弔も乗っかった結果!

 一郎君はオールマイトに呼び出され、根津校長にロックオンされました。

 そんな風味でお届けしました。






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今日もいい天気ですね、いかがですかと書き始めた手紙の、送り主がそこにいる気持ち?



 ハイテンションで暴走中、そんな毎日を過ごしていたら早死にするな、なんて思っている今日この頃です。

 頭空っぽで行き当たりばったりなのに、気がつけば伏線はっている自分がいる。回収できるかなんて考えないですが。

 結構、ネタが尽きずに書き続けている自分に驚いています。

 短編って何話までなんでしょう?

 そんなわけで、予想外のことって予想外だから驚くよねって風味でお送りいたしますです。








 

 

 自重って言葉を忘れると、痛い目を見るのが世間一般の常識。

 

 どうも、田中・一郎です。

 

「すみません」

 

「え、いや、まあいいんだけどさ。俺は関係ない、わけじゃないけど、頑張るのは俺じゃないからさ」

 

 俺の前で、二人の少年が土下座中です。

 

 曇り空の午後、ランチタイムが終わった時に爆豪君とデク君が飛び込んできて、なんか土下座しているんだけど。 

 

 話を聞くと、どうもコスチュームを壊してしまったらしい。

 

 え、あれが壊れるってどんな状況?

 

「ヴィランがそんなに強敵だったの?」

 

「はい、個性が特殊でした」

 

「次やったら負けねぇ」

 

 へぇ~~そんな個性の敵がいたんだ。あれ、待って、君たち待った。

 

「危ないことしないでよ、お願いだから」

 

 オールマイトにまた怒られたり、警察に呼び出されたりするの、俺なんだし。

 

 あれ、でもさ、なんで俺が関わっているって思われてるのかな? まあ、俺が関係していても呼び出されて注意で終わるのは、きっとギルとコナンが色々とやってくれるおかげなんだろうけど。

 

 まあ、そっちはあの二人に甘えるとして。

 

「どんな相手だったの?」

 

「体が大きくて全身が黒くて、力もありました」

 

「個性が能力がはっきりしなくて、周りにも人がいたら爆発が上手く使えなかったんです」

 

「え? 二人かがりでダメだったの?」

 

 うわ、予想外。まだヒーローじゃないとはいえ、二人の能力はかなり高いはずなのに。

 

 もうノリノリなアインズやエルが鍛えたり、弔と黒霧まで付き合ったりして、二人の戦闘に関しての能力は上がっているし、他の面でも色々と教えているから、そこら辺のヒーローに負けないくらいは実力があるはず。

 

 コナンが『まあ、大丈夫だろ』って言っていたから、俺は疑ったことはないんだけど。

 

「どんな相手・・・・・」

 

「おい、お前ら」

 

 あ、コナン。そんな怖い顔してどうしたんだよ?

 

「なんで『脳無』と戦ってんだよ?」

 

「脳無って言うんですか?」

 

「あのヴィラン、脳無って言うのかよ。次は必ず倒します!」

 

「はい! 僕も負けません!」

 

 お~~い、君たちね。脳無ってあれだろ、オール・フォー・ワンが作った複数個性の強敵。

 

 え、そんな相手に戦いを挑んだの?

 

「泣いている人たちがいたんです」

 

「けがしてた奴らもいた。だから譲れなかったんです」

 

 う、まあその状況じゃ仕方ないか。でも、あの人もまだまだ諦めてなかったんだなぁ。

 

「チ、あいつもしぶといな。また作ってんのかよ」

 

「コナン、しぶといって何? え、また会ったの? いつ、交戦したのさ?」

 

「ちょっとな」

 

 おいおいおい、何かしたのか、またやり合ったのか? 俺への報告がないんですけど、何時ですか、前の『最強最善最高の魔王を刈ってくる』ってそのことか、ねえ名探偵?

 

「とにかく、危ないことすんなよな」

 

「コナンく~~ん? 俺への説明がまだなんですけど? 活動記録とか提出させるぞ、この野郎」

 

「じゃ、また書類仕事やるか、マスター?」

 

 ク、不敵に笑いやがっておまえってやつは。俺が書類仕事ができないとでも思っているのか、おまえらに仕込まれた技術はまだまだ健在だぜ。

 

「いいんだな、マスター?」

 

 しかし! 出来ることとやりたいって気持は別ものだ!

 

「解ったよ、今回は見逃すよ、コナン。でも、次の時にはきちんと言えよな」

 

「了解だ、マスター」

 

 絶対におまえ、またあっても言わないだろう。

 

 長い付き合いだから、コナンが言ってこないことは予想できたけど、俺に言わないってことは『言わなくていいこと』か、あるいは『言いたくない』って考えているんだろうけど。

 

 俺が知ると俺に負担がかかるとか、そんな余計な気遣いはいらないんだよ、名探偵。

 

 まあ、俺もコナンに言わないことあるけど。

 

 元々の推理力の差で、バレることが多いけどな。

 

「だけど、一郎さん、コスチュームの裏機能なら教えておいてくださいよ」

 

 はい、爆豪君、何の話?

 

「助かりました! いきなりドリルとか出た時は驚いたけど、あれで何とかできました!」

 

「俺の方は槍でした。着弾した時に爆発したんで、使い難くて」

 

 え、デク君がドリルで、爆豪君が槍? そんな機能、俺は知らないけど。

 

「コナン?」

 

「あ~~~あの愉悦王やりやがったな」

 

 ギルかぁ、そっかそっか。

 

「誰ですか!? 僕らの艤装とコスチュームを魔改造したの?!」

 

「本当だよ! この宝具をつけたのは誰?!」

 

 エルとソープが怒鳴りこんできて、俺は頭を抱えたのでした。

 

「おまえらのじゃないだろうが、バーロ」

 

「いいえ! これは僕らの作品です! ならば改造する時に一言はあるべきでは?!」

 

 激怒しているね、エル。そりゃ、自分の作品が勝手に弄られたら、怒る気持ちは解るんだけどね。

 

「エ~~ル~~~く~~~ん」

 

「ひゃ?! な、なんですか、一郎さん?」

 

「俺の鎮守府の資材を勝手に使ったり」

 

「ギク!!」

 

「俺の鎮守府を勝手に変形合体恐竜やロボにしたりしたの、誰かなぁ?」

 

「そ、それは・・・・」

 

「それは?」

 

「きっとロボット愛にあふれた誰かであって僕じゃありません!」

 

 ひ、開き直りやがったな、てめぇ!!

 

 おまえがやってにやらかす度に俺がどんだけ軍令部とかに怒られたか、おまえは解ってないんだろう!

 

「おまえなぁ! 少しは自重しろよな! それに今回は二人が助かったんだから、いいじゃないか」

 

「よくありません! 僕がやるはずだった魔改造を!」

 

「やるつもりだったの!?」

 

 あれ、なんで俺じゃなくてソープが驚いているの? あれ、エルだけの暴走だったってわけか。

 

「もちろんです!」

 

「よかった、僕だけじゃなかったんだね」

 

 何故か、ほっと安堵して設計図を広げるソープ。それを見て、目をキラキラと輝かせるエル。

 

「いいですね! これなら二人のコスチュームは次元を超えます!」

 

「ふふふ、いいね、やろうか。今度こそ、脳無『程度』には負けないように」

 

「はい! 無双して勝って!」

 

「人々を護り奮い立たせるヒーローに!」

 

「二人をするために!」

 

 エルとソープはそう言って、がっしりと手を握り合って、そのまま戻って行った。

 

 おう、不味いぜ、二人ともハイテンションの暴走状態だ。

 

「爆豪君、デク君」

 

 俺は二人に顔を向けてから、土下座した。

 

「ごめん、今後は『何が飛び出しても驚かないで』」

 

「一郎さん」

 

「貴方も苦労してるんだな」

 

 ふ、ふふふ、二人の優しさが身にしみるぜ。

 

「おい、愉悦王」

 

「なんだ、名探偵? 先に言っておくが、我は爆豪に褒美を与えたにすぎん。奴の歌は我の心を慰めるからな」

 

「へぇ~~~それはどっちの意味で、だ?」

 

「無論、愉悦よ」

 

 後ろでギルがすっごいいい調子で笑ってるけど、俺は振り返らない。爆豪君の歌が『音痴』じゃなくて、ギルの心を楽しませたことは解るけど、俺は振り返って問いかけない。

 

 だって、今振り返ったらさ、俺が対象にした何かが起きそうだから。

 

「フ、学んだな、マスター。しかし、だ。我の愉悦が、我だけで終わると、本当に思っているのか?」

 

「ま、まさか、ギル」

 

「フ・・・・フハハハハハ!! 無様よな! 貴様は勘違いをしているようだ!!この家にあるコスチュームは『幾つか』?」 

 

 おまえまさか!?

 

「黒霧と弔の奴にも細工したのか?!」

 

 俺は思わず振り返ってしまった。 

 

「遅いわたわけ! 我が今まで何もしていなかったと?」

 

 まさか、こいつは前から? 嘘だ、俺はギルが何かしてないかと、確認したはずだ。二人のコスチュームには細工がなかった、なかったって確認を。

 

 そこで俺は気づいた。最後に『してない』と結論を出したのは、俺じゃなかったことを。

 

「ま、まさか?」

 

「察したようだな、マスターよ。貴様以外の全員が既に愉悦部の同士! つまりこの家のすべては我が愉悦の結果よ!」

 

「貴様ぁぁぁぁぁ!! ギルガメッシュぅぅぅ!」

 

「いいぞ! 実にいい顔をする! やはり貴様は道化の相応しい!」

 

「何をした?! 何を仕込んだ?!」

 

「フ」

 

 そこでギルは小さく笑い、その後に真顔になって顔の前で手を振った。

 

「いやなにもしてない」

 

「へ?」

 

「いくら我でも、そこまでは外道ではない」

 

「え、ないの? あれ、今の会話は何?」 

 

「あまりにマスターが必死な顔をしていたのでな、AUOジョークで場を和ませようとしたまでだ」

 

 皆さん、聞いてください。

 

 うちのギルって、こういう奴になったんです。

 

 愉悦のためにがんばることもあれば、人に優しくすることも覚えたんですよ。

 

 その方法が、場違いとか、今そこってツッコミ待ちのボケに見えても、本人にとっては優しさらしいですよ。

 

 俺、もう泣いていいよね?

 

「デク、爆豪、基本的に『うち』はこんな感じだからな」

 

「あ、はい」

 

「ウス」

 

 俺は呆れながらもフォロー入れるコナンを、頼もしく感じました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう寝込みたいよ、本当。

 

 爆豪君とデク君のコスチュームは、その後にエルとソープが頑張って修復して本人達に渡しました。

 

 なんか、『再生可能』とか言っていた気がするけど、俺の聞き間違いかな?

 

「なるほど、脳無か」

 

 現在、ディナーの後。黒霧の店に来たオールマイトに、とりあえず報告しておきます。

 

「ええ、二人が接触したみたいですよ」

 

「私のほうにも報告は上がっている。複数の個性を持つ強敵と。私自身はまだ接触したことはないが」

 

「デク君の艤装も半壊していました」

 

「な?! 緑谷少年の艤装が、なるほど。私の攻撃でも傷一つ付かなかったあれが、半壊するほどの攻撃力か」

 

 オールマイト、難しい顔しているな。

 

 そりゃそうか。デク君の艤装を壊せる攻撃力ってことは、大半のヒーローが一撃で戦力外、あるいは死亡することだってあるから。

 

「解った。後でヒーロー協会を通して脳無の情報は流そう。無理して戦うことなく、とも伝えよう」

 

「はい。その時は、こっちでやりますから」

 

「すまない、田中少年。また借りを作るな」

 

「オールマイトには、普段からご迷惑をかけていますから、これくらいは」

 

 本当に、毎回毎回、ね。俺の戦力が動くたびに、オールマイトが呼び出すって彼が壁になって、他からの追及を反らしてくれるんだろうね。

 

 国の上の方に話を通しても、現場では『そんなの知るか』って反骨精神の人は多いと思うし。

 

「私のほうこそ助けられているよ。私一人では救えない人も多い、しかし君たちの力があれば救える人は多くなる。正式に感謝できないのが、辛いところだが」

 

「感謝は貰っていますよ」

 

 助けた人からの『ありがとう』で、俺達は十分だ。ヴィランとヒーロー、そのどっちでもない、グレーゾーンに俺達はいるからな。

 

 だから、それだけでいいって俺は思って、素直にそう告げるとオールマイトは苦い顔をしていた。

 

「称賛も栄光もなく、助けた人からの感謝のみか。この先、君たちの存在が大きくなれば、国家が動くかもしれない」 

 

「そうですね。だから、できるだけ穏便にやります」

 

「しかしだ。君たちはそれでいいのかね? 本来なら、君たちが正式にプロ・ヒーローになればもっと多くの称賛を受け取れる。多くの資金も手に入る。もっと大きく手を振って、活動できるのじゃないかね?」 

 

「かもしれません。でも、俺は・・・・そういったしがらみは苦手なんですよ」

 

 権力を得て、出来ることが増えていくのは確かにある。

 

 でも同時に『できたことができなくなる』ことだってあるから。俺は軍令部総長までなったから、それを知っている。一個人、一提督時代はすんなりできたことが、多くの人に話を通して、色々なところから許可を貰ってからでないと動けないもどかしさも。

 

 大切なことだってのは解るけど。これが民主主義だって理解はしている。 

 

 でも、それで救えなかった命を見て来たから。

 

「君は自由だな」

 

 ちょっとだけオールマイトは、目を細めて俺を見ていた。

 

 馬鹿にしたような様子もないから、これってなんだろう? え、まさか羨望とかじゃないよね。ナンバーワンが、まさかねぇ。

 

「私にはできないことも、君たちはできるのだろう。動くたびに、誰かを救う度に思ってしまうことがある。もっと力があれば、もっと素早く動ければとね」 

 

「オールマイト」

 

「人は、人に出来ることしかできない。多くの人を救うために多くの人の協力がいる。私は確かに他の人よりも多くのことができる、けれどそれだけだ。嘆いた人すべてを救うことはできない。解っているんだが」

 

 オールマイトはそう言って、目線を下げた。彼の前に置かれているカクテルに注がれた視線は、グラスではなく何処か遠くを見ているように思える。

 

 この人はナンバーワンなんだな。常に前を走ってきた人で、だからこそ救えなかった多くのものを見てきた。

 

 でも笑っている。かっこいいほどに笑顔で『私が来た』って言い続けているのって、ひょっとして。 

 

 そう言って周囲に示さないと、自責の念で潰れそうだからか? まさか、そんなことないだろ。

 

「すまない、湿っぽい話になってしまったな。私は今日は、相当酔っているようだ」

 

「たまにはいいんじゃないですか」

 

 顔を上げたオールマイトは、何時もと変わらない笑顔でいた。 

 

 でも、その瞳にちょっとだけ涙が滲んでいたような。

 

 俺の気のせいだよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう寝ますと一郎が去った後、オールマイトはただ静かにカクテルを飲んでいた。

 

 救いたい人たちがいた、救えない人たちがいた。

 

 そんなことが頭の中で流れ、やがて最近になって知った自らの師の家族のことを思い出す。 

 

 家族すべてがなくなっていた、個性による暴走の結果かもしれないが、事件は未だ解決されずにいる。

 

 ただ、孫が生き残っている可能性がある。彼を見つけ出して保護して、その後にどうすればいい。

 

 事件は起きた、彼が生きているとすればもう成人間際だろうか。

 

 何を言えばいいか、何を伝えればいいか。オールマイトは答えを出せず、グルグルと考え込んでしまう。 

 

「つまみにどうぞ」

 

「あ、すまないね、死柄木少年?」

 

 珍しい人物から差し入れに、オールマイトは少しだけ固まってしまう。彼は酒のつまみは造らないのではなかっただろうか。

 

「俺もようやく吹っ切れました」

 

「そ、そうか。何か心境の変化でもあったかね?」

 

「ええ。オールマイト、『志村・転狐』は貴方を恨んでない」

 

 ビクッと彼の体は震えた。

 

「貴方だって人間だ、救えない人はいる。その結末は、あいつが招いたものであって、貴方が責任を感じるものじゃない」

 

「まさか君は?!」

 

「俺は死柄木・弔ですよ、オールマイト」

 

 立ち上がり呼びかける彼に、弔はゆっくりと語りかける。

 

「だから、これは独り言だ。『志村・転狐』は貴方を恨んでないし、あの結末を仕方なかったなんて割り切ってない」

 

「しかし!」

 

「だから俺はここにいる。罪を償うなんて気持ちはない。でも、失ってしまった命の分、それ以上の命と誰かを救います。俺の料理で多くの人を笑顔にして、多くの人に『今日も生きていて良かった』と思わせるくらいに」

 

 弔は穏やかに語りながら、何時もの仮面を顔につける。

 

「『ザ・ハンズマン』は、嘆きや絶望の檻を崩壊させて、人々の自由を護ります。だからオールマイト、貴方はそのままナンバーワンでいてください。貴方が『後を譲ってもいい』と思えるヒーローに出会えるまで」

 

「志村少年」

 

「だから、俺は死柄木・弔ですよ、オールマイト」

 

 仮面を外し、微笑しながら、弔は店の奥へと戻って行った。

 

「そうか、君はそうしているのか」

 

 小さく呟き、オールマイトはカクテルに手を伸ばす。

 

 彼は罪を償うのではなく、罰以上の何かを世界に返そうとしているのか、ならば自分は彼の言う通りにしよう。

 

 ナンバーワンであり続ける。次の世代が追いかけて、自分を超えるヒーローに成長するまで。

 

「『ウィスパー』だったかな」

 

「はい、『自らの心の声を聞くためバーでは声を潜めて話せ』。そういうカクテルですよ」

 

 確かに、とオールマイトは黒霧の言葉に頷いた。

 

 今は自分の心の声が、よく聞こえそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 随分と長い時間、飲んでいたようだ。ほろ酔い気分となって店から出たオールマイトは、軽く背伸びした。

 

 美味しい酒と美味しい料理を堪能した。明日からは脳無に対して、動きまわる活力を得た。

 

「お疲れ様、オールマイト」

 

「コナン少年? もう随分と遅い時間だ、君の姿では補導されてしまうのではないかね?」

 

 路地の暗がりから姿を出したコナンに、オールマイトは別の心配を投げかけたのだが、彼はフッと笑って両肩をすくめた。

 

「ここの区画の巡回時間は把握しているよ。念のため、アインズもいるからさ」

 

 誰か来たら知らせてくれる手筈が終わっている。そう告げるコナンに、オールマイトは少しだけ怪訝な顔を向けた。

 

「内緒話、というわけか?」

 

「ご明察だよ、ナンバーワン。オール・フォー・ワンが転生者狩りをして手にした個性だが、そいつらを使って脳無を強化している。デクの艤装を壊したのはその一体だ」

 

「何の話だね?」

 

 転生者、その個性がなんだというのか。そもそも、転生者とは何の話なのかオールマイトはまったく解らなかった。

 

「神様が他の世界で死んだ魂を別世界に転生させる時に、転生特典を与えて生き返らせる、これが転生者さ」

 

「なるほど。骨董無形な話だが、君が語ると説得力があるな。となると、私達はそれに対応しないといけないと?」

 

「いいや、そっちは俺たちが何とかした。オール・フォー・ワンの手元にあるのは、今では『この世界』での個性だけだ」

 

「君たちが?」

 

「ああ、あいつはやり過ぎた。転生者の個性をあれだけ狩っていれば、大元が出てきちまうからな」

 

 オールマイトには、それが何かは解らなかった。理解はできなかったが、察することができた。

 

 神々が、この世界に降り立つ、ということか、と。

 

「そうか。また世話になったようだな」

 

「気にすることないさ。これは『探偵への依頼』でもあったからな」

 

 誰からの、とはオールマイトは聞かなかった。 

 

 その代りに彼は一つの疑問を投げる。

 

「何故、私に?」

 

「筋を通そうと思ってな。この世界に転生者の情報を拡散させるつもりはないが、それでもヒーローとしての誰かに話を通すべきだ。それが、オールマイトだったって話だよ」

 

「光栄だと思っておくべきかね?」 

 

 少し挑むように笑いかけると、彼はフッと笑って返した。

 

「違うな。オールマイトこれは『何時ものお礼』さ。マスターによくしてくれたこと、俺達のことをかばってくれているあんたへのな」

 

「かばっているつもりはないが、君たちのしていることは人のためになっている。それ故に、我々は『見落としている』だけだ」

 

 本来なら速やかに捕縛するべきなのだろう。個性を勝手に使ってはいけない、自らの生命の危機に対しての自己防衛なら許されるのだろうが、彼らの場合はそれに当てはまらない。

 

 誰もが強力な個性を持ち、個性を抜きにしてもその強さは揺るがない。

 

「それでもさ、ありがとう『ナンバーワン』。あんたがそこにてくれたことを感謝するよ」

 

 肩をすくめた後、優雅に一礼したコナンは、話は終わりだと背を向けて歩きだす。

 

「一ついいかね? 依頼があったから君たちは動いたのかね?」

 

 ピタリと、コナンは足を止めて、顔を上げた。その視線の先には、夜空に輝く月があった。

 

「俺達は、『イレギュラー』だ。本来なら世界にないはずの存在。俺たちがいたから救えたものもあれば、俺たちがいたから失ったものもある」

 

 因果応報、すべての物語は繋がっており、何処かで切れるものではない。原作というものを大切にした転生者もいたが、結局は破綻してしまっていた。

 

 当然のことだ。物語とはそこにいる人物だけで描かれたものだ。そこにまったく違う何かをつけ足せば、それがどんなに小さなものでも物語を、まったく別の何かに変えてしまう。

 

「本来なら排斥されるべき存在。それを、大切にしてくれたあんたらへの、せめてもの恩返し、だからかな?」

 

 彼は振り返り、そう微笑んで再び歩き出した。

 

「恩返しか。それは私の方だよ、ありがとう」

 

 すでに誰もいない路地に向かって、オールマイトは深々と頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰り」

 

「ただいま、なんだ気づいてたのかよ?」

 

 戻ってきたコナンを出迎えて、俺は飲み物を手渡した。

 

「俺を誰だと思ってるんだよ? おまえらのマスターだぜ?」 

 

「そうだったな。マスター、話してきたけど、止めなくて良かったのか?」

 

「コナンが決めたんなら、それでいいんだろ、頼りにしてるぜ、名探偵」

 

「まったくおまえは昔っから、俺に投げっぱなしだよな」 

 

「信頼の証だって」

 

 気楽に笑ってみせると、コナンは呆れながらも笑った。

 

「これからもよろしくな」

 

「ああ、こちらこそだ」

 

 そう言って俺達は乾杯と口にした。

 

 

 

 

 

 




 


 最初に書くとき、『よっし、デク君と爆豪君の訓練と強敵との遭遇、後は雄英受験の前段階にしようか』だった。

 書き終わったとき、『あれ、なんだか重い話になってないか? あれ、プッと笑えて頭空っぽはどこいった』になっていた。

 うん、なんか色々と迷子になっている気がしてきました。

 なんてこと風味でお送りしました。





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 日常って毎日ってことだけど、ちょっと異常な日々も毎日と続けば日常なんだよね

 


 前回、なんかやたらと重い話になってしまった。

 プっと笑えるか、呆れるかのどちらかを目指して頑張ります。

 もっと短くあっさりと読める、喉ごし滑らかを目指して。

 今回は、艤装を受け取ったデク君の日常を描いてみようと思います。

 忘れてませんか?

 艤装は妖精がいるんですよ。それが身近にあるってことは?

 なんて風味の話です。







 

 

 緑谷出久の朝は、実は早い。

 

 朝日が昇ると同時にとか、目ざましが鳴った瞬間に目が覚めるではなく、頬に軽く触れる気配で彼は目が覚める。

 

「あ、おはよう」

 

 薄く眼を開けてみると、そこには手のひらに乗るくらいの小さな存在、妖精がビシッと敬礼していた。

 

 出久が艤装を受け取ったときに出会った彼ら、あるいは彼女達はこうして毎日、彼が起きたいと思った時間に起こすのでした。

 

「うん、今日は『一つ目』で起きたから」

 

 ビシッと敬礼する妖精とは別の方向に、出久はゆっくりと顔を向けた。

 

 そこには主砲から弾薬を抜く妖精たちや、飛行甲板に並んだ航空機を格納庫に戻す妖精たち、あるいはミサイルや魚雷を発射管から戻している妖精たちと、色々な妖精たちがいた。

 

 全員が、出久の視線に対して一度は揃って敬礼して、再び作業に戻っていく。

 

 彼は思う、『良かった、今日は朝からお部屋の修復しなくて、済んだ』と。

 

 今日は幸先がいいようだ、これならトレーニングも上手くいくかもしれない。

 

 ホッと安堵している出久だったが、彼自身は気づいていない。朝から目覚まし代わりに砲撃されたり、爆撃されたりすることが異常なことも。朝から部屋を修復しないで済んだことに安堵している自分がいることも、それが普通じゃないことも気づかない。

 

 着替えを始める出久の後ろで、妖精たちが『ニヤリ』と笑っていたことを彼は知らないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖精たちにとって、緑谷出久は『よく解んない』存在だった。

 

 最初に艤装と一緒に『配属』した時、彼は艤装に適合するのに艤装の扱いを知らず、また装着できたのに艤装への指示や妖精への指示も出来なかった。

 

 艦娘なら生まれた時からできたことができない、それなのに艤装が使えるよく解らない存在、それが妖精たちから見た緑谷出久という少年。

 

 田中・一郎提督からのお願いもあったから、妖精達は仕方なく従っているだけだった。

 

 その彼らを変えたのは、艤装を貰ってからひたすら、ただ直向きに訓練を繰り返す出久の姿。

 

 上手くできなければ何度でも。何万回でも繰り返す。できたことは今度は、完璧にどんな状況でもできるように反復訓練を怠らない。

 

 愚直なまでに真っ直ぐに、ただ我武者羅に訓練する彼の姿に、妖精達は強く胸を締め付けられた。

 

 これが新しい主だ、これが彼なんだと。

 

 同時に思う、『あ、この子、何処かで止めないと死ぬまでやる』と妙な焦燥感に駆られたが。

 

 その一件があってから、妖精たちは出久に心から従うようになった。

 

 彼らも心があるから、出久の気持ちは痛いほど解る。個性社会で無個性でヒーローを目指し、諦めろと周囲から言われてもあきらめなかった彼の一途さ、こうと決めたら曲げない頑固さ、それは妖精たちが知っている『昔の軍人たち』に通じるものがあったから。

 

「もうちょっと」

 

 だから妖精たちは妥協しない。ギリギリのラインを見極め、出久が潰れるか潰れないかの瀬戸際まで追い込んで、後はきっちりと終わらせる。 

 

「うぎゃ?!」

 

 首筋に砲撃して気絶させて。

 

「・・・・・デク、おまえはすげぇ奴だよ」

 

 白目を向いて煙にまみれながら倒れる出久に、爆豪はポツリと呟いた。

 

 何度目だろうか、彼が妖精達の止める声ではなく、止める『攻撃』で倒れていくのを見るのは。

 

 やり過ぎ、無個性に爆発を向けて殺しかける、なんてことも平然とやれる爆豪から見ても、妖精達の出久に対する突っ込みというか、『いいから訓練止めなさい』攻撃は、度を越している。

 

 主砲のゼロ距離射撃なんて、元々艤装を持っている艦娘でさえ、訓練でやらない。

 

 接近さえない艦娘ばかり揃っているのが、田中・一郎の鎮守府なのだが、爆豪はしらないので、『あれが普通か?!』と軽く戦慄していたりする。

 

 こうして、出久は砲撃を受けて気絶して、後は艤装の妖精たちが出久を運ん行くのだが、出久の家族は心配しないのだろうか。

 

 爆豪はちょっと気になって様子を見に行ったことがあったが、しなければ良かったと後悔したのだった。

 

「今日もお疲れ様」

 

 すでに異常さを異常と感じないほどに繰り返され、それが当たり前に感じ始めてしまった出久の母の姿と、敬礼して何時も通りと運んで行く妖精達の姿に、爆豪は軽く震えが来たのだった。

 

 とはいえ、出久を止める手段は過激ではあるものの、それ以外では妖精たちは彼に対して素直に従っている。

 

 指示を聞き、願いに応え、想いを叶えるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうも、遅いごあいさつでごめんなさい、田中・一郎です。

 

 今日は俺の個性の『手のひら鎮守府』からお送りしています。

 

 現在ですか、現在は。

 

 爆豪君とデク君対、うちの最強艦娘が戦っています。模擬戦ですよ、大丈夫ですから、もうね妖精さんパワーで傷一つなく訓練場から出てくるから安心してください。

 

「あっぶねぇ!!」

 

「かっちゃん!!」

 

「避けろよデク! この人のナイフはマジで死ぬぞ!」

 

「うん!!」

 

 はい、なんか見事に二人がダンスを踊っているようですがね。ははは、なんだろ、なんであの子はあんなに刃物の扱いが上手いのかな。

 

「大丈夫ですよ。ちょっと『痛い』か、『死ぬ思い』するだけですから」

 

 穏やかに笑うのは、チート過ぎるうちの艦娘の中でも滅茶苦茶チート染みてバグって性能を持っている女の子。

 

 見た目、中学生くらい。田舎にいそうな素朴そうな外見なのに、逆手に持ったナイフと二連装の主砲、それに彼女を中心に『空中を進むモーターボート』みたいな独立艤装。

 

 うん、なんか独立艤装の主砲が五十二センチ三連装『電磁併用』になったらしいけど、俺は知らない。あれ、見た目が完全に大和型戦艦みたいで、後部の第三主砲がVLSになっていて、対空兵装がレーザーとか訳が解らないものなんだけど、俺はもう見ないことにした。

 

「どっちにしろ痛いじゃないですか?!」

 

 あ、爆豪君とデク君の声が重なった。

 

 いや~~~あの二人って呼吸ぴったりだよね。もう訓練で組ませると、面白いほどにお互いの動きがはまるはまる。

 

 一対一だと彼女はナイフ一本で相手しているのに、二人だと艤装フル装備で挑むからね、デク君と爆豪君の二人が組むと技量がどれだけ上がるかよく解るよ。

 

「マスター、そろそろ現実逃避は止めろよな」

 

「コナン、もう少しだって。今日はもうちょっと現実を見たくない」

 

 止めてくれよ。俺はもっと平穏に暮らしたいの。なんだよ、あいつら、この世界に来て練度が上がったって、どういうことだよ。

 

 改三って実装されてないって話は、何処に行ったんだよ?

 

「吹雪・壊参か」

 

「コナン、頼むからデータを俺に見せるなよ。最初の頃だって艤装スロットが怖いものばかりだったんだから、あんな状況じゃもっと見たくないからな」

 

「ああ、俺もできれば見たくなったぜ。けどな、見ないとダメだろ?」

 

 ク、逃げられないのか。 

 

 仕方ない、覚悟を決めよう。

 

「デクぅぅぅ!!」

 

 あ、デク君が捕まった。うわぁ~~あの艤装、前よりも防御力が上がったのに、一撃で細切れだよ、十六分割だよ。

 

「第一スロット、『直視の魔眼』」

 

「あ、そこは変わってないのね」

 

 安心したよ、いや安心しちゃダメだろ。だから、吹雪のナイフは容赦ないんだよな。あの艤装、また修理ってなったらエルが怒らないかな?

 

「第二スロット『複合戦略級攻撃システム』」

 

「え? 何それ?」

 

 はい、俺の知らない単語なんですけど。

 

「第三スロット」

 

「え、待って、なんで流すのさ?!」 

 

「『防御貫通絶対ダメージ』」

 

 は、ははははは。え、それってスキルって言いません? ねぇ、艦娘の艤装のスロットにスキルって入るの、え、防御貫通の絶対ダメージって何。

 

「第四スロット、『武芸百般・極み』」 

 

「あ、うん、そうだね、吹雪ってなんでも武器が使えたよね。って! おまえ本当に駆逐艦か?!」

 

 思わず叫んだ俺は悪くない。元々、吹雪は何処か異常だったけど、それがこの世界に来て各段に上がったね。

 

「あ」

 

「遅い」

 

 デク君が倒れたことに気を取られた爆豪君に、吹雪の右の回し蹴りが決まって、彼も地面に倒れた、と。

 

「まったくもう! 二人とも気を抜き過ぎですよ! だからあんな『脳無』程度に後れをとるんです」

 

 プンスカと怒っている吹雪は、年相応に幼く可愛いのだけれどね。

 

「あれの片付け、誰がやるんだろうな」

 

「は、ははは、誰かやるだろ、誰か」

 

 呆れて半眼で見つめるコナンに、俺はそう答えて帰ることにした。

 

 訓練場、半壊。地面に頭から埋まった爆豪君と、艤装を細切れにされた後に殴って飛ばされたデク君。 

 

 うん、かなり怖い訓練場だ、あれで妖精さんパワーが働いてなかったら、二人とも生きてないね。

 

「あれ? 妖精さん、白兵戦の訓練ですか?」 

 

 え、なんて? 

 

 俺は背を向けていた訓練場へ振り返ると、デク君の艤装妖精さん達が、手に銃を持って吹雪に向かって言っている途中だった。

 

「はい! ならば吹雪も頑張ります!」

 

「第二ランドだな」

 

「訓練場全壊にならないといいなぁ」

 

 俺はそんなことを神様に祈る、ことはなかったよ、本当だよ。神様に祈ったら、『お前の個性くらいおまえでどうになしろ』って怒られそうだからね。

 

 そして後日、俺は訓練場が消滅しかけたことを、妖精さん達からの報告で知ったのでした。 

 

 本当、うちの吹雪って駆逐艦なのかな?

 

 艤装スロットに『ゴジラ』入っている電や、『イデオン』装備できる榛名が全力で訓練しても壊れることないのに。

 

 資材、足りるといいな。あ、なんだろ、お腹が痛いや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆豪は考える。幼馴染は、いったい何処へ向かっているのかを。

 

 艤装を与えられて無個性でもヒーローをやれている。

 

 彼が本気でヒーローを目指しているから、その魂にロックを感じたから田中・一郎に頼みこんで艤装を作ってもらったのだが。

 

「俺は速まったかもしれねぇ」

 

 思わずそう考えてしまうくらいに、彼は思い悩んでいた。

 

 強くなってはいる。個性がとか艤装がとかではなく、精神的にも肉体的にも強くなっていて、背中を任せると頼もしいと感じるくらいには、認めてやってもいいと思えてしまう。

 

 しかし、だ。同時に彼の周囲にいる妖精たちの存在に、ちょっとだけ怖くなってしまう時がある。

 

 昔は自分もデクに対して個性を向けていた。容赦なく攻撃したこともあったが、それでも無意識に『外す』あるは威力を落としていたのに。

 

 あの妖精たちに『容赦』の二文字はないのかもしれない。

 

 やり過ぎに対して、主砲で攻撃するか。しかも、ヴィランさえも吹っ飛ばす威力を持った主砲を、ゼロ距離で放つものか。

 

 いや、やらない。いくらヒーローを目指しているとはいえ、今の彼はまだ中学生。体が出来上がっていない時期から体を鍛え続ければ、いずれ大人になった時に障害としてでてくるかもしれない。

 

 もしかして、妖精達はそれを知らない。教えてもらっていないのか。

 

 いやそれはない。田中・一郎はそれほど浅慮じゃなかった、その彼についているコナンって少年も、思慮深く知識が豊富だ。知らないはずがないし、訓練の時には何時もいるから危なくなったら止めてくれる。

 

 はずだろう。 

 

 爆豪の頬を、汗が一筋、流れおちた。 

 

 まさか、止めないことはないよな。やれるだけやってダメなら潰れても、なんてことを考える人たちじゃない。もし、そういった人たちなら最初の頼みに動かなかったはずだ。

 

 それに、アインズもいる。彼の魔法は、まさに神の奇跡のようだ。少しのけがなら瞬く間に再生してもらえる。

 

 もしかして、それがあるから歯止めを忘れているのか。まさかそんなことはないか。

 

 爆豪は無意識にギターを握りしめ、かき鳴らす。

 

 悩んでも仕方ない、ウジウジと考えるのはもう止めたはずだ。今の自分はロックに生き、ロックのように突き進み、そしてロックのように激しくヒーローをやる。

 

「なんだ、単純じゃねぇか」

 

 ギターを弾いていると、不安とか後悔なんてすぐに消えてしまう。後に残るは明確な決意と、うるさいほどに叫んでくる自分の心のみだ。

 

「明日は負けねぇ」

 

 最後に小さく呟き、爆豪は不敵に笑った。

 

 ギターを丁寧に置き、彼はベッドへと入り眠りにつく。

 

 そこでふと思う、やはり気になる。

 

 自分の幼馴染はいったい、どこへ行こうとしているのか、あるいは行かされようとしているのか、と。

 

 悩んでも仕方がないか、と爆豪は割り切って眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日もダメだったなぁ」

 

 自室のベッドに寝転がった出久は、深くため息をついて体の力を抜く。

 

 吹雪の攻撃を回避できる自信はあったのに、実際に対戦してみると手も足も出ない。前に比べて艤装の扱いは慣れており、妖精たちとも意思の疎通ができてるのに、だ。

 

 まだまだ自分は弱いな。

 

 ちょっと暗くなりかけた出久の顔に、ぴしゃりと冷たいものが一つ。

 

「ひゃ?!」

 

 悲鳴をあげて体を起こせば、ベッドの横から艤装が伸びていて、その上に冷たいジュースが乗っていた。

 

「ありがと、落ち込むなってこと?」

 

 ジュースの隣にいる妖精はドンと自分の胸を叩いている。

 

 自信、もて、大丈夫やれる、前より強くなった。無言で見つめてくる妖精の言葉が、不思議と出久には聞こえてきた。

 

「ありがと」

 

 お礼を言ってジュースを口にする。ほどよい甘みに体の疲れが少しだけ取れた気がした。

 

 何のジュースと出久が問いかけようと顔を向けると、そこには妖精たちがいなくて代わりに『参考書』が置いてあった。

 

「受験勉強か」

 

 妖精が『雄英合格当たり前、やるなら首席!』と旗を振っている。相変わらずこの妖精達は手厳しい。 

 

 自分に無茶はさせない、でも無理してでも実力を上げさせる。それは戦い方でも、勉学でも同じだ。あらゆることに手をのばさせ、すべてを平均点以上に引き上げようとしている。

 

 矛盾しているように見えて、妖精達の中では明確な線引きが出来ているようだ。ならば、出久のすることはただ一つ、妖精たちに胸を張れるようなヒーローになること。

 

 頑張るか、と彼は机に向ったのでした。

 

「痛い」

 

 間違えると、対空砲が飛んできて後頭部を襲撃するのは、妖精達なりの励ましだと出久は思う。

 

 しかし、だ。

 

「待って! それは待って!!」

 

 止めても無駄だ、妖精達の眼はそう語っていた。

 

 すべての主砲に徹甲弾を入れて、狙いを定めてくる妖精たちに、出久は思うのでした。

 

 『彼らの信頼が、とても重い時がある』と。

 

 そして、今日も出久の部屋からは攻撃の大音響が響いてくる、のです。

 

 

 

 

 

 

 









 最近、思い浮かんだネタはメモに残すことにしています。しかし、サルスベリは飽きっぽい性格をしているので、メモには簡単なことしか書いてありません。

 今回の話のメモですが、『デク君と妖精の華麗なる日々(爆撃と死線、鬼の吹雪)』と書いてありました。

 私はいったい、何を考えていたのでしょうか?

 そんな風味の話でした。





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類は友を呼ぶっていうけど、同類以上の奴が来ることもある


 迷走とか暴走とか、迷子とか、色々ありますね。

 つい先日、ヒロアカのアニメを見ました。

 あれ、こいつってひょっとして。

 映画も見ました。

 その結果、こんな夢を見て慌ててメモしたのが今回の話です。

 暴走特急まっしぐら、ブレーキなんて関係ないぜ、やりたいことやろうぜ世界なんて知らね、風味の話です。





 

 

 望んでも手にできないものは世の中にはある。願っても叶えようと努力しても、どうしても手から零れ落ちてしまうことがある。

 

 努力して試行錯誤を繰り返して、何度も何度も挑戦しても、結果が出ないことなんていくらでもあった。

 

 彼もそういった失敗の経験はあった。自分がやっていることが無意味かもしれないと、もう諦めたほうがいいのではないかと。

 

 何度も悩み、手を止めて、それでもやり遂げたい意思が心の奥底で燻っているから、止められない。

 

「もう嫌だよ」

 

 何度も聞いた声と言葉を、また聞くことになっても。

 

 涙を流している彼女がいたとしても、どうしても止められない。

 

 原因を調べて、打開策を考え、誰でもいいからと相談しても、誰からもアイディアが出てこない。

 

 自分の才能の無さが嫌になる。

 

 どうしてこう自分の個性は、願いに沿わないのか。こんな無駄な個性があっても、無意味ではないか。

 

 挫折と絶望感に支配された彼は、街中を当てもなく歩いていた。

 

 道行く人は誰もが彼女が望んでも手に出来なかったものを持って、それが当たり前だと信じて疑わず、無理して背伸びして、世間の何かに流されてごく当然のように『違和感』を身に纏う。

 

 革命が必要だ。誰もが眼を覚ますための、革命を。けれど、自分にはその力がない、才能がない、個性が使い易いなんてバカな話でしかない。

 

 歩くのに疲れた、そうじゃない心が疲れただけだ。

 

 道行く人波を眺めながら、彼は懐から一枚の写真を取り出す。

 

 『白い髪の』。

 

 ハッと彼は立ち上がる、写真の向こうを白い髪の人物が歩いていた。見つけた、いや背格好が違う。けれど、あの服装はなんだ、見事な色彩とデザインのあれはどうしたことだ。

 

 思わず彼は追いかける。

 

 我武者羅に追いかけ、ある店の前で立ち止まった。

 

 『ラ・エンテル』。

 

 ここか、それかその下か。階段の下を覗けば、『ジェミニ』と書かれている。まさか、ここはあの場所か。

 

 ある噂を思い出し、彼は全身を硬直させた。

 

 心に染みわたる料理を出す店。そして、魂を救う一杯を出すバー。

 

 ここならば、自分は見つけられるかもしれない。

 

「待っていろ、エリ」

 

 小さく呟く、決意を込めて男は『ラ・エンテル』の扉に手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆さま、どうも、田中・一郎です。早速ですが、俺は怒鳴らないといけない。もう心の底から怒鳴ってお説教しないといけない。

 

「こらエル!!」

 

「はい?」

 

 何事と振り返るあいつは、大きなプラカードを持っていた。『おいしくて安い店、『ラ・エンテル』、貴方の胃に極大魔法!』って書いてある。

 

 うぉい! 待った、ちょっと待った! え、何それ? 胃を消滅させたいの、待って、そっちまであるの、俺一人の突っ込みでそれをさばけって。

 

 こいつ、俺を殺しに来たな。

 

「なんですか、一郎さん?」

 

「まず最初にだな」

 

 よっし、プラカードは置いておこう、そっちは後でいいや。

 

 まず最初にこいつの格好を叱らないと。

 

「おまえ、その服装なんだよ?」

 

「なんだよと言われても」

 

 くるりと目の前で一回転するエルの『スカート』が翻った。

 

 うん、スカートだよ、スカート。なんだよおまえ、なんで不思議の国のアリスみたいな恰好してるんだよ、しかもエプロンドレスは白でも、その下はピンクって何を狙ってんだよ。

 

「ただのアリス・ブランドですよ?」

 

「何処のブランドだよ?」

 

 服装もそうだけど、その背中の翼は何? 天使ですか、天使なんですね、まあ似合っているかどうかっていうと、おまえは男かってキレるくらいに似合っているけどさ。

 

「ギルが投資したブランドです」

 

「ギルガメッシュぅぅぅぅぅ!!」

 

 元凶はあいつかまったく! どうしておまえは平穏とか普通に生活できないんだよ、何か俺に恨みでも有るのか!

 

「フ、どうした我がマスターよ。なんだ、その顔は? そうかそうか、王の中の王に普通の生活をしろというのだな? 許せ、マスターよ、我の溢れるばかりの『王のオーラ』が、普通の生活を拒絶するのだ」

 

「おまえは俺の顔色から察するなら悪ふざけは止めろ。アリス・ブランドってなんだよ、誰のための」 

 

「フ、馬鹿を言うな、

 

ユニコーンのために決まっている

 

 真顔で決めたよ、この馬鹿愉悦王。なんでそこでユニコーンのためって言いきるんだよ。おまえはそこまでユニコーン至上主義化か。

 

「我が人生に、一片の悔いなしといえるほどだな」 

 

「お前」

 

 そこまでか、そこまで何ですか。こいつ、そんなになるまでユニコーンが大好きってわけか。

 

「マスター、それ以上は止めるがいい。いくら我が寛容でも、それ以上の『称賛』は恥ずかしいものがある」

 

「褒めてない、絶対に褒めてない」

 

「照れることはないぞ、存分にユニコーン至上主義の我を褒め称えるがいい。いずれ世界を染め上げて見せようぞ」

 

「おまえは何処の真珠メーカーのトップですか?」

 

「世界をユニコーンで染める力を」

 

 ダメだ、今のギルはハイテンションで止められない。

 

 はぁ、まったく。でも、ユニコーン以外に反応しないし、それ以外で馬鹿やることはないからいいか。

 

 あの言葉に反応しないだけ、救いがあるよな。

 

「イエス・ロリータ」

 

 試しに言ってみても、ギルは軽く笑っているだけだ。

 

ノータッチ!!!

 

 

 へ? あれぇ~~なんで別方向からくるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 店の扉を吹き飛ばす勢いで、男は叫んでいた。

 

 黒髪の三十歳くらいの男性で、服装はスーツっぽいけど。

 

「・・・・失礼」

 

 今更、身なりを整えられてもね。

 

 呆れる俺達を余所に、男は大股で歩いて来て、エルの前に片膝をついた。

 

「君、その服は何処で手に入れたのかな? あるいは誰が作ったのか、もっと言えばどうやったら手に入るのか?」

 

「え、あの、これですか?」

 

 流石のエルも引いてるな。うわぁ、目線で『変態です、変態がいます』って訴えているけど、おまえだって女装しているから変態になるんだけど、解っているのかな?

 

「おい、客なら注文をしろ」

 

 おまえはさすがだよ、弔。この異様な空気の中、普段どおりに動けるんだからさ。

 

「これはすまない。つい興奮してしまってね」

 

「そうか、変態なのか?」

 

 ちょ?! おまえな、弔! 直球過ぎ! なんでそんなに真っ直ぐに行ったの、普通は少しオブラートに包むとかしないのかよ?!

 

「何の話だね? 私はいたって普通の」

 

「普通の、何だ?」

 

小さな可愛い子が好きなだけだ

 

 変態決定! うわぁ~~キリッとした顔で言いきったよ、こいつは間違いなく変態だ。

 

「誤解があるようだが、私は可愛いものが好きだ。ただそれだけの男でしかない」

 

「何かあったのか?」

 

「少しな、私は自分の才能に限界を感じている」

 

 あれ、なんか弔が相談に乗っている感じになっているけど。

 

「限界か。俺も限界は感じたことはある。けれど、それを試行錯誤で乗り越えた先にこそ、新しい道が開けてくると信じている」

 

「そうか、君はそうしているのか。羨ましいな」

 

「俺一人の力じゃない」

 

 あれ、なんだか二人の会話がかみ合っているような、かみ合っていないような。あれってなんか、通じ合っていませんかね。

 

「フ、そうかそこで繋がるか。歴史とは面白いものよな」

 

「え、ギル、なんでそこでシリアスになるわけ?」

 

「たわけ、我はいつでもシリアルよ」

 

 え、それって何の話?

 

「そういえば名乗っていなかったな。『治崎・廻』だ」

 

「死柄木・弔、ここの料理人だ。それで、おまえは何に悩んでいる」

 

「ああ。私はこの子のことでな」

 

 そっと治崎は懐から写真を出した。

 

 あれ、えっと娘さんってことでいいのかな、じゃなければ本当い変態扱いするしかないけど。

 

 写真には白いちょっとウエーブのかかった髪と、右の額から角の生えた少女が、『白いワンピースを着て背中から天使の羽を出して』ちょっと涙目になっている姿が映っていた。

 

「これが」 

 

うちのエリちゃんマジ天使

 

 変態だぁぁぁぁ!!

 

 すっごい速度で俯いて拳を握って小さくガッツポーズして、何か魂のこもった一言を呟いた治崎は、その後すぐに顔の前で手を組む姿勢に戻った。

 

 すげぇ、早業。何それ。

 

「侮れませんね。さすがです」 

 

「エルが何に戦慄しているのか、俺には解らないよ」

 

 なんで額を汗を拭って唸っているのかな、こいつは。

 

「私が探しているのは、彼女のための服だ。見ての通り、普通の服ではダメだ」

 

「そうか?」

 

 弔は首をかしげているけど、俺も同意見だよね。別に今の服装がおかしいってわけじゃないし、特別に変なところがあるわけじゃない。

 

 普通に可愛い女の子って見た目だけど、天使の羽以外は。

 

「ダメだ!!」

 

 いきなり治崎は叫んだ。叫んで立ち上がり、片手を天井へと向けた。

 

「ダメなんだ! これではエリの可愛さの一億分の一も表現できていない! いいか彼女のサラサラヘアーを見ろ! この艶と色合い、何ものにも汚されぬ白! 天然の髪色としては最上級! いやもはや、この世においてこの色合いに勝る髪は存在しない、まさに天下一品、天空の女神にも勝るものだ!」

 

「あ、ああ」

 

 おいおいおいおい、なんでそこで力説が入るのさ?!

 

「しかもだ! この瞳を見ろ! 赤い、とても赤くて健康的だ! まさに太陽! 地上すべてを照らす神々の瞳! その瞳に幼いながらもしっかりとした美を封じ込められている、この瞳だけで三倍は逝ける! 見つめられてみろ、おまえもすぐに昇天できるだろう!」

 

 天に昇ってんのはおまえの危なさだよ、みろよ店内にいるお客さんが凄い白い目で見て・・・・・ないだと!?

 

 なんで半数が頷いて、半数の人が写真を見て『確かにこの服はな』なんて言ってるの? え、この店って『そういう連中の集まり』?

 

「だというのに全体的な印象は幼くか弱く儚く。まさに少女の面影そのもの! 守ってやりたくなる衝動を抑えるのに、俺はお経を三十分は唱えるしかない!」

 

「誰かオールマイトを呼んできてくれ。こいつを捕まえないと」 

 

「変態ってヴィランだったんですか?」

 

 ち、違うのか、でもオールマイトなら何とかしてくれそうじゃないか。

 

「儚く壊れそうなほどの美しさを持ちながら! エリは笑顔を見せてくれる! 精一杯に笑ってくれるのだ!! 私に向かってだぞ! 『お洋服ありがとう』などと言われたあの日! 私は自分の運命を悟った! 同時に世界を呪った! 何故だと!!」

 

 治崎は天井へ伸ばしていた腕を床に叩きつけ、そのまま項垂れた。

 

 いや、俺が項垂れたいわ。

 

「どうしてだ! どうしてこの世界は『こんなはずじゃなかったこと』ばかりなんだ! 間違いだ! こんなのはおかしい! どうしてだと私は何度も叫んで探した! 探して探して世界中を旅してしまったほどだ!」

 

「話がズレてない?」

 

 俺は思わず弔に訪ねた。

 

「いや、繋がっているな」

 

「ほう、さすがだ弔よ、貴様も推察力を上げてきたな」

 

「英雄王に褒められる日が来るなんてな」

 

「フフフ」

 

 え、あれ、俺だけ? えっと、エルは? あ、ダメだ、なんか凄く頷いている。コナン、俺の最終精神的防壁のコナンは何処だ、名探偵が解説してくれないと俺の精神が崩壊しそうだ。

 

あ、黒霧と出かけたんだった(泣)

 

「だが見つからなかった! 見つけることが出来なかったんだ! だから俺は決意した! 見つけることができないなら作るしかないと!」

 

 そして治崎は再び立ち上がり、エリちゃんの写真を高らかに掲げた。

 

「うちのエリちゃんのマジ天使で可愛いを、さらに引き立てる洋服を!!」

 

「・・・・・・え、そこに繋がるの?」

 

「一郎、おまえは少し回りのことを察することを覚えてくれ」

 

「我がマスターは相変わらず空気が読めない男だな」

 

 え、俺が悪いって言うのかよ、と振り返って叫ぼうとしたら店中の人達が頷いていた。トッティちゃんやトルテ君までも。

 

 コナン! コナン、カムバック! もう俺のライフはマイナスだぜ!

 

「だが、出来なかった。俺にはこんな駄作しかできなかったんだ」

 

「そうか、長い旅路だったようだな」

 

 あれ、ギルが妙に優しく治崎の肩を叩いているんだけど。

 

「お疲れ様でしたね」

 

 エルもなんでそんなに優しいのさ、何があったの。

 

「これは俺のおごりだ、食べていけ」

 

 弔まで。え、そこまでのオオゴトなのか、だって可愛い子に服を見つけることができないから、自分で作ってやろうぜって話でしょ。

 

「一郎、おまえは何時からそんな冷たい男になったんだ?」

 

「あれ、え?」

 

「フ、マスターよ、貴様は慢心したようだな」 

 

「へ?」

 

「酷すぎませんか、一郎さん」

 

「えぇぇ?」

 

 なんで弔、ギル、エルって三連ちゃんで怒られたの。え、俺が場違いっていうか、空気読めない男になってるんだけど、これっておかしいのかな。

 

 飲食店でやる会話じゃないでしょうが。

 

「皆、ありがとう。しかし、私はついに見つけた。そう、君のその服だ。どうか、私にエリちゃんを天使にする術を授けてくれ」

 

 なんか、神様に祈るように片膝ついた治崎がエルを拝んでいるんだけど、それは違うよね。

 

 エルじゃなくて、作った人に祈るべきじゃないの。いや祈るっていうより買ってくればいいんじゃないの。

 

「いいでしょう。貴方のエリへの愛情は、深くそして偉大でした。誇りなさい、このエルネスティ・エチェバルリエが証明しましょう。貴方は今、偉大なる勇者(紳士)達の列に並ぶことを許されました」

 

「おおおお!!」

 

 エルが凄く尊大な話し方をすると、治崎は泣いて喜んだのでした。

 

 そういえば、エルって王族以上の貴族の出だったなぁ、なんてことを俺は思いだしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その日から治崎・廻の特訓は始まった。

 

「ダメです! 素材をよく見つめなさい! 同じ布でも質感を感じ取りなさい!」

 

「は、はい!!」

 

 ある時はエルに布の束に巻かれて廊下を転がされて。

 

「色合いは自然界の神秘、その色い合いを重ねることで得られるのは神々の領域、しかし人はそれに美を見出し、ファッションとした。さあ、君が望む相手を引き立てる色を描き出すだ」

 

「はい!!」

 

 ある時は、まさに自然界の色が集められたような滝に打たれ、ソープの教えを聞いたり。

 

「ぬるい! 貴様の愛情はその程度か!! 温すぎる!! 貴様の魂を燃やせ! 情熱を燃やせ! ただ着るものへの『敬意と愛情を』注げ!」

 

「はい!!」

 

 ある時は、アインズによるデザイン講座とかされていたり。いや、アインズのセンスってかなり磨かれたけどさ、それって音楽関係じゃないの。

 

「知識とは力だ、世界中を探したならば知識はあろう、しかしそれだけ至高は生み出せぬ。過去に学ぶがいい。すべての服飾の知識を入れよ」

 

「了解だ」

 

 ある時は、ギルによって膨大な資料の海に沈められたり、と。

 

 本当に凄いと思うよ。マジで変態っぽいけど、あの情熱は俺も見習うべきかな。 

 

「一郎さん、あれは何をしてんだ?」

 

「新しいお弟子さんですか?」

 

 お、爆豪君とデク君だ。学校が終わったのか。

 

「はい、弟子?」

 

「違うんですか? てっきり、また僕とかっちゃんみたいに、何かの教えを請いに来た人かなって」

 

 え、あれ、そんなことしてないと思いたいけど。

 

「あいつ、アインズさんの攻めにも耐えてるぜ。ロックな気配がする」

 

「かっちゃんダメだよ。まだあれって初歩くらいだから」

 

 え、初歩、何を言っているのか、解らないよデク君。初歩って何、服を作るための訓練しているんだよね。

 

「バーロ、デザインに訓練なんてねぇよ」

 

 俺はその日、コナンに言われてやっと気がついた。うん、デザインを学ぶだけなら、服を作るだけなら肉体的な修行はしなくていい、と。

 

 止めなくちゃ。

 

「一郎、ここは任せてみよう」

 

「弔、どうしてだ?」

 

 なんでか、弔が俺を引きとめた。

 

「そのほうがあいつのためだ」

 

 なんでか、治崎を優しく見ているけど、何か共感できるものがあったのかな。

 

「あいつは俺と同じだからな」

 

「弔と? そんなに同じ部分はないと思うけど」

 

「同じさ」

 

 ちょっとだけ照れたように笑う弔に、それ以上のことは聞けなかった。

 

「あいつは俺と同じで、迷って悩んでようやくなりたいものを見つけたんだ」

 

「何か言ったか?」

 

「言いや」

 

 弔はそう答えて、『ザ・ハンズマン』の仮面をしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 治崎・廻。個性、『オーバーホール』。対象を分解し、再構築、あるいは分解したもの同士を結合させることができる彼は、地獄のような試練を潜り抜けた。

 

「ようやくだ、エリ。ようやく出来たぞ」

 

 壮絶な訓練の果て、彼は個性も使った自分のすべてをかけて少女に服を送った。

 

「ありがとう」

 

 少し頬を染めて笑顔で告げる少女の姿に、治崎は小さく微笑み返した。

 

「我が人生、未だ至らず。しかし、その道筋はここに始まる」

 

 エリの笑顔を胸に秘め、彼は歩き出す。

 

 世界中の可愛い少女に、その可愛さを昇天させる服を送るために。

 

 彼は邁進した。やっと手に入れた納得できる技術と、それを叶えるための情熱のままに。

 

 やがて彼は、こう呼ばれるようになる。

 

 『ミスター・クローゼット』、あるいは女性を美しく飾ることから、『ドレッサー』と。

 

 それは、爆豪とデクが雄英の入学を決めてから、少しした頃のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二つの意味で何か言うことはあるかね、田中少年」

 

「はい、オールマイト。変態の情熱は世界を活性化させます」

 

「よろしい! では君は反省していない、ということでいいかな?」

 

「すみませんでした」

 

 そして、俺こと田中・一郎は、治崎の一件と、『やり過ぎだよ爆豪君とデク君、イン雄英入試試験』でオールマイトに呼び出されたのでした。

 

 





 治崎、エリの可愛さのあまりに変態になる、でした。

 なんか、アニメを見た後に、『あれ、こいつってちょっとでも踏み外したら、変態まっしぐらじゃないのかな』なんて妄想の後に、エリちゃんの魅力を延々と語る治崎の夢を見て、書こうと決めました。

 そろそろ本編に、でも短編だから終了しないと。

 もっと書きたいからどうしようって考えながら風味のお話でした。







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誰かの声に応え、その限界を超える

 

 ついに来ました、ヒロアカ入試試験話。

 はっちゃけてもいいし、ギャグにしたいけど、これをギャグにしたらヒロアカって言えない気がした。

 なんて考えても、サルスベリなので色々と迷走して爆走しての結果です。

 入試試験って大変だよね、風味でお届します。








 

 

 それは、雄英の入試の少し前の話。

 

「試験内容の変更かい、オールマイト?」

 

「はい」

 

 根津校長の言葉に、彼は大きく頷いた。

 

「今になってどうして?」

 

「今年の受験生に二人、問題があります」

 

 彼の言葉に、根津は机に出された資料に目を落とす。

 

 他の先生方も配られた資料の中、二人のところで止まっている。

 

 緑谷・出久、無個性と『・・・・』。

 

 爆豪・勝己、個性『爆発』と『・・・・』。

 

 二人の入学は雄英にとって、マイナスになる可能性が高い。どの先生も口に出さないだけで、不安やあるいは忌避さえ感じているかもしれない。

 

「確かに問題児ですが、オールマイトが言われるようなことはないと思います」

 

 相澤先生は、問題とは感じているが『危うい』とか感じてないらしい。確かに今まで二人は無許可でヒーロー活動のようなものをしている、個性を厳しく制限、あるいは明確な法によって誰もが傷つかない社会を形成している現在において、この二人はそれを破っていることは明白だ。

 

 しかし、だ。この二人が『本当にあのヒーロー』なのかどうかは、実は他からの情報では知れ渡っていない。

 

 『グリーン・シップ』、『シンガー・ボマー』の二人は、自分達から名乗ったことはなく、また活動中もどれだけ映像や写真で捕らえようと仮面によって顔は見えず、また全体像は捕らえられても、その顔については常に靄がかかったように映っていない。

 

 だから、二人がそうだと確信を持って言えるものは何もなく、この二人がそうらしいという話だけ。

 

「映像は見ました。ヒーロー免許がないことを抜かせば、この二人のレベルはかなり高い。状況判断能力、戦闘技能、救助対象への対応、どれも素晴らしいといえるレベルです」

 

 褒める相澤の言葉に、誰もが疑問を投げる。彼がここまで生徒を、もっと言えば生徒になる前の学生を褒めることは、珍しい。

 

 彼は、誰よりもヒーロー活動の危険性を知っているし、命が簡単に消えることを理解しているのに。

 

「だからこそさ、相澤先生。二人は『法律を暗記している』」

 

「そこまでですか?」

 

 驚きは室内にいる誰もだ。まだ中学生の段階で、あそこまでヒーローとしての知識や技術を持っているのに、そこに加えて法律までとは。

 

 オールマイトは知っていることを話す。もちろん、二人があのヒーローであることも含めて。

 

 緑谷と爆豪を鍛えたのは、田中・一郎一派。ヒーローでもヴィランでもない、第三勢力。誰もが知っているわけじゃないが、知っている者は知っている最大勢力。構成人数は不明、個性も不明。目的も不明ながら、行っていることは人助けが大半なので、今まで『見落とす』ことにしていた組織。

 

 組織なのかなぁと内容を知った根津が頭を抱えていたこともあったが。

 

 二人を鍛えたのは、そういった集団。何を考えたのか、彼らは全力だった。本当に傍で見ていたオールマイトが、軽く引いて止めようとしたくらいに、全力で鍛えていた。

 

 知識、技術、経験。短時間で効率的に二人を鍛えるために、それでいて学校に影響がないようになんて、いっそのことそのやり方をマニュアル化して、全国のヒーロー学校に配りたいくらいに、見事な手腕だった。

 

 知識は法律を始めとして、医療、介護技術、災害時の対応、各種危険物への対応等など。二人が資格試験とか受けたら、もう各種資格を一発合格できそうな勢いで。

 

 技術は実際にエルやソープが徹底的に叩きこんだ。素材さえあれば、パソコンが組めるとか、遊具ができるとかレベルじゃない、素材があれば要塞くらいはできそうなくらいに、多方面に渡って。

 

 経験は戦闘時のものから災害発生時まで。死ぬ恐怖さえも経験として叩きこんだ訓練は、二人に土壇場での状況判断能力を上げている。

 

「それはすでに雄英に入学して学ぶレベルを超えている」

 

 驚愕に染まった相澤の声は、この場にいる先生たちの内心を語っていた。

 

 学ぶべきことなどないのではないか。誰もがそう思う中で、オールマイトだけは違っていた。

 

 二人が育っていくのを傍で見ていたからこそ、二人が現在の社会において決定的に足りないものを理解していた。

 

「それはなんだい、オールマイト?」

 

「はい、二人に足りないのは、『歯止め』です」

 

「そうか」

 

 答えに誰もが疑問を浮かべる中、根津だけは解った。いや相澤も解ったように厳しい目で資料を見ている。

 

「二人には、『そこで止まる』といった考えがありません」

 

 彼ははっきりと、しかし悔しそうに答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はるうらら、隣は何をする人ぞ、なんて言葉が昔にあったなぁ。受験シーズン真っただ中、皆が頑張っている中で、田中・一郎はのんびりです。

 

「たわけが」

 

「おう、今日もギルは容赦ないなぁ。いいじゃん、試験の一つや二つは落ちてもさ」

 

 人生、一つだけが正解じゃないからね。色々な道があって、それを選んでいくこともあるさ。

 

「あのな、そういう問題じゃないんだよ、マスター」

 

「え、コナンまでそっち? いいじゃんいいじゃん、失敗くらいあるさ」

 

 むしろ失敗のない人生なんて、ないわけだよ。俺だってそうだし、皆だってそうなんだからさ。失敗から学んで、次に生かせばいいわけだよ。

 

「生かせそうにないからだろ、バーロ」

 

「え、そこまで致命的なこと? 別に『雄英だけがヒーロー校』じゃないじゃん」

 

 うんうん、そうだよね。別に日本や世界には、他にもヒーロー資格を得られる学校はあるわけだからさ。そこだけを目指して頑張るのは違うと思うわけですよ、俺はね。

 

「このままじゃ、二人は試験に合格できないって話だよ」

 

「え、まだ足りないの?」

 

 ウソだろ。あれだけやってまだ足りないって、雄英ってどんだけレベルが高いんだよ。

 

 デク君も爆豪君も、徹底的に鍛えてたじゃない。エルとソープが武器を持っているなんて久しぶりに見たし、アインズはあの豪華な杖を持っていくらいだよ。

 

 しかも、ギルが鎧を纏って『エア』を抜いていたなんて、久し振りに見た気がするけど。

 

 知識だってガンガン詰め込んでいたし、六法全書も暗記したんだよね、二人。資格を取らせてないだけで、模擬試験とか全問正解してたじゃないの。

 

 チートを俺は疑ったね!

 

「でもさ、試験は終わったんだよね?」

 

 俺は覚悟を決めて、闇を背負っている二人を見た。

 

 もう、何があったんだって思ったよ。

 

 最初に店に飛び込んできて、『すみません』って土下座するんだもん。俺は初めて見たよ、ジャンピング土下座。

 

 良かったぁ、店にお客さんがいない時間でさぁ。

 

 あれ、返事がない。え、二人ともそこまでショック。

 

「土下座のまま動いてないんだけど、気絶してないよね?」

 

「も、申し訳なくて」

 

 やっとデク君が答えてくれたけど、顔をあげてないし。爆豪君はもう答えてもくれないし。

 

「そこまで気にしなくても」

 

「俺達のために色々してくれた、一郎さん達に申し訳がたたねぇ。こんなんはロックじゃねぇ」

 

 お~~やっと爆豪君が動いた。え、あれ、えっと。

 

 顔を上げた爆豪君は、号泣していた。

 

「マジで何があったのさ?」

 

「二人を狙った試験内容だったって話だよ」

 

「え? 高校の受験で特定の生徒を狙うって、どんだけ酷いの雄英って」

 

 えげつないな。確かに試験って本当に合格させる気あるのって時もあるけど、大抵は生徒を確保しなければいけないから、ある程度のレベルに抑えられているはずなのに。

 

「この二人だから、だろうな」

 

 コナンが意味深に言っているけど、俺には解らないんだけど、どういうことなんだよ?

 

「試験内容は例年通りで、実技試験の時になんかあったらしい」

 

「へぇ~~~」

 

「まあ、予想はつくけどな」

 

 さすが名探偵。これだけの情報で推察するなんて、すげぇよ。で、何があったのさ?

 

「たぶん、試験にマイナス点の『内容があった』か」

 

 ビクッと二人が震えた。え、そんなのあるのか。いや実技試験じゃマイナス点ってあるか。

 

「それか、『ヴィランを助けた』か、だろ?」

 

「なんで解るんですか?!」

 

「試験結果を見てたんですか?!」

 

 おう、怒涛の勢いでデク君と爆豪君がコナンに迫ったけど、そう言うこと?

 

 え、何か間違ったの? マイナス点は解るけど、ヴィランを助けたらダメって何で?

 

「ヴィランは基本的に倒すか、あるいは捕獲が前提条件だからだろ?」

 

 あっさりとコナンは二人の突進をかわして、俺の隣に来た。

 

「ふん、たわけどもが。敵を救おうなどと」

 

 ギルぅ~~お前ね。呆れて見た俺の視界には、とても嬉しそうに笑っている英雄王がいた。

 

 あ、これ愉悦じゃない。

 

「よくやったって褒めてやればいいじゃん」

 

「馬鹿を言うな、マスター。我の褒め言葉など、簡単に出ると思うなよ」

 

「お~~い」

 

 口調と表情があってないぞ、愉悦王。

 

「で、具体的にどんな内容だったのさ?」

 

 二人に問いかけても答えは戻ってこなくて。ギュッと拳を握って唇を噛んで、めちゃくちゃ悔しそうだし。

 

 えっと、これってどうなるんだろ?

 

「こんなこともあろうかと!!」

 

「映像を手に入れておいたよ!」

 

「出たな、技術系の自重を忘れた馬鹿二人」

 

 エルとソープが決めポーズを取りながら、映像を持ってきた。

 

「見てみるか」

 

 今まで黙っていた弔の提案に、俺達はそれを見ることにしたんだけど。

 

「弔、何してたんだよ?」

 

「料理を作っていた。試験が終わって腹が減っているだろうからな。人間、空腹だとマイナスな思考にしかならない」

 

 すげぇ、この状況でそんなこと考えられるなんて、おまえくらいなもんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 映像は試験開始から始まった。

 

 プレゼント・マイクの開始合図は、いきなり開始。準備の時間がないっていうのが気になったけど、確かに現場に出たら『これからやります』なんて掛け声はないよな。

 

 でもさ、団体行動なら声かけあってやるから、『行くぜ』とかあるんじゃないかなって思うんだけど。

 

「反応はいいな」

 

「フ、あの程度この二人なら造作もないことよ」

 

 コナンの褒め言葉と、解り辛いギルの称賛に、俺も頷く。

 

 よくあの合図で飛び出せたよな。

 

 あ、爆豪君もデク君もジャージだ。それはそうか、二人のコスチュームは有名になり過ぎたからな。試験で使って色々といわれるのを防いだのか、それとも力のセーブをしたのか。

 

 でも、デク君は艤装の主機は使っているな。足元と腰に少しあるパーツがそれだね。

 

 ちょっと見はゴツイブーツと、腰のポーチくらいにしか見えないからな。

 

「試験内容はヴィラン型のロボットを倒してポイントを稼ぐ、ですか。なるほど、なるほど、ロボットをねぇ

 

「おい、エル、殺気」

 

「おっといけません。僕としたことが、ロボットが倒されていく姿に怒りが抑えきれませんでした」

 

 こいつは本当にロボットが絡むと自重がなくなるよな。このまま映像を見ていて暴れ出さないか。もっと言えば、雄英に殴りこみをかけないか。

 

「あれ、この人型もロボットですね」

 

「え、どれ?」

 

「これですよ」

 

 エルが指さす先にソープも食い入るように見て、納得したような顔をした後にちょっと悪く笑った。

 

「なるほど、これかぁ」 

 

「え、なになに?」

 

「そのうち解るよ」

 

 教えてくれよ。なんでそこで『悪だくみ』みたいな顔、するかね。

 

 まあ、今は試験内容か。へぇ~~色々な個性があるんだな。これって何処からの映像?

 

「雄英のデータベースです」

 

「ハッキングしてんなよ、馬鹿エル」

 

「失礼な。ハッキングしてませんよ」

 

「じゃどうやって手に入れた?」

 

「保護者ですが、試験の映像がみたいですと言いました」

 

 そっちのほうが性質が悪いだろうが、身分詐称じゃんか。

 

「育てたので保護者です」

 

 日本語って難しいなぁ。俺はエルの自信満々な答えに、そう思ったのでした。

 

「今、どのあたりだ?」

 

 ここで弔が合流、黒霧もいるな。

 

 デク君と爆豪君には試験内容は辛いものだからって、『手のひら鎮守府』に行ってもらった。で、そこで艦娘達と一緒にお食事中、と。

 

「試験の中盤だな」

 

 コナンの返答に、弔は映像を見た後に大きく頷いた。

 

「二人は落ちるな」

 

「え、もう? 何処でそう判断したのさ?」

 

「ヴィランのポイントだ。ポイントに『ゼロ』と、『マイナス』がある」

 

 確かに。でもさ、マイナスポイントのヴィランって、そう書いてあるだけでイラストも写真も載ってないけど。

 

「簡単なことだ、一郎。二人の態度と二人の『性質』を考えれば、な」

 

「いや簡単って。あれ、ひょっとして俺だけ解ってない?」

 

 え、マジで。なんで全員が頷いてんだよ。あれ、俺だけ。

 

「吹雪も『やっぱりそうなりましたか』って言っていたな」

 

「え、ひょっとして艦娘達全員が?」

 

「ああ。予想していたらしい。二人が落ちる理由は、それしかないってな」

 

 え、えええ。こんなに頑張って色々なことができた二人が落ちる理由って。

 

 俺には解らないけど、全員が頷いているから解り易いことなんだろうな。

 

 あれ、俺以外の知能指数ってかなり高いから、俺は馬鹿だから解らないって可能性もあるような。

 

 泣きそうだよ、馬鹿野郎。

 

 ちくしょうって俺が思っている間も、爆豪君は爆発で、デク君は拳でポイントを重ねて行った。

 

 あ、妖精が一匹、デク君の肩に乗ってる。あれって、時々は指で指示しているから、きっと上空に偵察機がいるな。で、上空から見た映像をデク君と、後は爆豪君に伝えているんだろうな。

 

 時々、デク君と爆豪君の視線が合わさっているから、あれでアイコンタクト取っているんだろうけど。

 

 連携、見事だな。他の生徒は、と。あれ、まだまだ出来てない。ポイント差が大きいな。二人がぶっちぎりの一位と二位で、三位以下と百点差あるんじゃないか。

 

 あれ、でも試験で百点も差がつくほど仮想ヴィランを出すって、おかしくないか。受験生ってまだ素人なんだから、もっと少なくていいはずじゃないか。いくらヒーロー志望でも、こんな数のヴィランに囲まれたら。

 

「危な?!」

 

 今、女の子が瓦礫の下敷きになりかけたけど!! 

 

 咄嗟にデク君が瓦礫を破壊したけど、こんなに危ない試験なの?

 

 あ、あっちでは爆豪君が仮想ヴィランに囲まれた生徒を助けてる。この試験ってなんだろ、まるで『生徒が危険になることを考えてない』気がする。

 

「セコイ手を使ってんな」

 

 コナンもそう思うんだ。

 

「例年とは違う試験だな」

 

「え、弔って前も見たことあるの?」

 

「一応な」

 

 へぇ~~そっか、まるで違うのか。ってことは、デク君と爆豪君が狙われたのって間違いないのか。

 

 オールマイト、何か考えたのかな?

 

 そして試験も終盤。ゼロポイントも敵が二つ出たけど、それもデク君と爆豪君が一撃で葬った。

 

 瞬殺だったな。出現地点に多くの生徒が固まっていたこともあって、瞬時に倒さないと被害が出るって考えたんだろうな。

 

 あれの防御ってかなり硬いって説明もあるし。

 

「あれ」

 

 倒したゼロポイントのヴィランが倒れる。二つとも倒れていく先、人型のヴィランが瓦礫に足を取られていた。

 

 

 

 

 

『助けて』

 

 

 

 

 

 瞬間、俺は二人が落ちた理由を理解した。

 

 そっか、そうだよな。それじゃ無理だよな、二人だから『合格できない』よ。

 

 マイナスポイント、それは『ヴィランを助けること』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぐしゃぐしゃに泣きながらも、食事を口に詰め込んでいく二人に、誰も言葉をかけていない。

 

 必死に頑張っていたことを知っているから。懸命に努力していたことを見ていたから。二人の熱意をよく理解しているから、何も言わないでいる。

 

 やがて二人は嗚咽を堪えるように食事を終えて、そして机に突っ伏した。

 

「受かりたかった」

 

「雄英に行きたかった」

 

「胸を張って『やった』と報告したかった」

 

「皆さんのおかげですって言いたかった」

 

 呟く声に誰も答えず、けれど温かい目で見つめる艦娘達。

 

 知っている。二人の誠実さを、二人が努力家なのを。現状に満足せず、これだけでいいなんて考えなんて浮かぶことなく、もっとと前に進んでいた二人の姿を見守っていたから。

 

 涙が流れ、悲鳴と絶望を噛みしめるような二人を見つめた艦娘達は、それでも何か言わない。

 

「すみません」

 

「何をだ?」

 

 デクの謝罪の言葉に、エンタープライズは強く答える。 

 

「皆さんの期待を裏切りました」

 

 絞り出すように答える爆豪に、彼女は小さく嘆息をこぼす。

 

「期待を裏切られた覚えはないな」

 

「でも僕たちは合格しなかった!」

 

「落ちたんだぞ!!」

 

 盛大に言い放った二人に、誰ともなく艦娘達は笑った。大声で馬鹿らしいというくらいに盛大に。

 

「な、なんで?」

 

「どうしてだよ?!」

 

 

 

 

「馬鹿を言うな!」

 

 

 

 一括はエンタープライズから。そのあまりに迫力に、爆豪とデクは思わず立ち上がっていたが、ゆっくりと力を抜くように座り直す。

 

「私たちが裏切られたと感じた? 馬鹿を言うな。二人ともよくやった、見事だったと褒めたいところなのに、そんな呆れたことを言うからだ」

 

「で、でもよ」

 

「私たちが期待したのは、雄英に合格することじゃない」

 

 穏やかに微笑みながら、彼女は語る。二人をゆっくりと見つめ、一言ずつを届けるように。

 

「私たちが君たちに期待したのは、『ヒーロー』であることだ。誰かを救い、嘆きを砕き、絶望に立ち向かい、強敵に恐れを抱かず」

 

 交互にエンタープライズは二人を見つめる。

 

「圧倒的不利な状況でも諦めず、理不尽な暴力に決して屈せず」

 

 艦娘の誰もが二人を穏やかに見詰めていた。誰もが解っていた、試験に落ちたと聞いた時から、怒るのではなく呆れるのではなく、『よくやった』と褒めるために。

 

「常に勇気を持って立ち向かい、多くの人を奮い立たせる背中を見せ続ける、そんな『ヒーローである』ことだ」

 

 穏やかに語り終わり、エンタープライズはゆっくりと頷いた。

 

「よくやった。私たちは誰もがそう思っている。よくぞ、敵であっても見捨てずに助けようとした。確かに犯罪者は悪だろう、裁かれるべき存在だ。被害者にとっては、消えてくれたほうがいいと願う者もいる」

 

 昔からその手の問題は、人につき纏う。被害者と加害者がいるなら、その恨みの感情は消えることはない。

 

 ヒーローは敵を倒す、正義の味方は悪を決して許さない。

 

 けれど、それですべてが終わることはない。

 

 彼がヴィランとなった理由は何だろう。彼が悪事に手を染めた結果は、どこで彼はそれをしなければならなかったのか。

 

 正義の味方であるならば、正義を執行するだけならば、この世界のすべてを刈り取れば終わる。

 

 それで終わったなら、人などどこにも存在しない、冷たい世界だけだろう。

 

「一郎から聞いていないか? 彼が語ったヒーローこそ、私達のヒーロー像だ。だからこそ、私たちは君達を誇る、例え相手がヴィランであっても、絶望や悲劇の檻に拘束された人の、『自由を取り戻した』」

 

 彼女は語る、いつかに言われたことを。死柄木・弔が目標とした姿のことを、かつて田中・一郎が憧れた背中のことを。

 

 『人々の自由を護る(理想とする)ヒーロー』のことを。

 

「理想だろう、綺麗事だろうな。ヴィランに苦しめられた人たちからしたら、私達の言っていることは嫌悪か、あるいは憎しみの対象になるかもしれない」

 

 しかしと、エンタープライズは続ける。穏やかに微笑みながらも、決意を秘めた瞳を持って。

 

「けれど、その理想と綺麗事を現実にするための、決して逃げない、絶対に退かない、私たちが君たちに期待したのは、そういうヒーローだ」

 

 言葉を止めて、彼女は周囲を見回す。

 

「こんな冷たくて理不尽な世界だ、誰もが理想を追いながらも、何処かで諦めて折り合いをつけてしまうかもしれない。現実的に考えて、これで十分だと思うかもしれない」

 

 艦娘達の視線は二人に注がれる。かつて、戦争を生き抜いた、戦争の中で消えて行った彼女たちは、二人を通して理想を見ていた。

 

「けれど、二人は『そこで止まらないでくれ(絶対に諦めないでくれ)』。理想を現実にしてほしい、綺麗事を体現してくれないか。私達は常にそう思って、お前たちを鍛えていた」

 

 そこでエンタープライズはフッと自嘲気味に笑う。

 

「すまないな、茨の道をお前たちに課してしまったようだ」

 

「そんなことありません!」

 

「皆さんがそう思っているなら僕たちは!!」

 

 涙を流して嘆いた二人は、もうそこにいない。立ち上がり、拳を握った二人は何時も通りに、前を向いてただ走っていく。誰かの助けてに足を止めず、迷わずに突き進む二人だった。

 

「そうか。ならば」

 

 

 

私たち艦娘(嘆いた者たち)から、君たちに願いを託そう。

 

 

 どうか人々の自由を護る存在(絶望を砕く最高のヒーロー)になってくれ。

 

 

「はい!!!」

 

 気合のままに答える二人に、誰もが安心したように笑顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が言わなくても、良かったな。

 

「オールマイト、理想すぎますか?」

 

「いいや、そんなことはない」

 

 食堂の入口で、俺は壁に背中を預けて、入口の反対側にて、同じように背中を預けているオールマイトに声をかけた。 

 

「私は怖かったのかもしれない。あの二人が、あんなにもヒーローらしい二人が立ち止まらずに、消えてしまうかもしれないことが」

 

「歯止め。何処かで止まらないと、突っ走ってそのまま消えてしまいそうだからですか?」

 

「ああ」

 

 小さく呟き、彼は天井をみつめたままだ。彼が何を願い、何を思い出しているかは俺には解らない。

 

 だけど、これだけは言える。

 

「爆豪君とデク君は誰よりも強いですよ。誰にも負けないくらいに強い」

 

「解っている」

 

「だからこそ、『貴方(大人)が教えてください』」

 

 ハッとオールマイトが俺を見た。

 

「世の中の理不尽を、限界があることを、冷たく非常な絶望があることを」

 

 いつだって、世界っていうのはとても暗くて冷たくて、嘆きばかりが多いところだから。

 

 だから俺達は理想を語り、綺麗事を思い描く。それを叶えようと必死になって頑張っている。

 

「オールマイト、二人に教えてあげてください」

 

 『二人の前を走る大人(ナンバーワン・ヒーロー)として』。

 

「田中少年・・・・・解った、二人には教えよう。世界の厳しさを、現実の非情さを。そして」

 

 オールマイトは真っ直ぐに見詰めてくる。

 

 安心した、この人なら二人に教えられる。絶対に超えられない壁と絶望を。

 

 そして、それを超えること(プルス・ウルトラ)を。

 

「二人をお願いします」

 

 俺は深々と一礼した。

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、雄英の合格が二人の元に届いたのでした。

 

 でも、俺はねぇ。

 

「それとこれとは話が別と思わないかね、田中少年?」

 

「はい」

 

 雄英の試験の内容、それは問題ないんだけどね。

 

 二人とも、手加減を覚えてくれると嬉しいなぁ。

 

 だって、仮想ヴィランすべて粉砕なんてさぁ、もうやり過ぎって言葉が笑えてくるよ。

 

「田中少年!」

 

「はい、すみません」

 

 俺はその日、雄英の会議室でオールマイト、根津校長に土下座したのでした。

 




 

 職業ヒーローではなく、『ヒーロー』という生き方を教えていくスタイル。

 理想と綺麗事を体現してくれる、そんなこと無理っぽいけど、無理って諦めて挫折するくらいなら、壊れるまで突き進めばいい。

 で、その理想の姿になれる。

 サルスベリがヒロアカを見た時に感じたのは、そういう作品でございました。

 書きたいこと、山積みになって書けないような気がしてきたのですが、短編から長編に切り替えていこうと思います。

 だから、途中で『これで最終回』でも許してください。

 的な見切り発車な風味でお送りしました!





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仁義なき、最終兵器合戦、にゃー成分多め



 真面目な話を挟んだ、かなり真面目にやったと自負している!

 さて、今回てすが趣味趣向は人それぞれ。

 今回の目標は『全滅!』って風味です、はい。






 

 

 ガタガタと全身が震える、もう俺は駄目かもしれない。

 

 どうも、田中・一郎です。

 

「おい、英雄王、生きてるか?」

 

「フ、名探偵こそ呼吸をしているか? 貴様が死んだら誰がなぞ解きをするというのだ?」

 

「言ってくれるぜ。誰のせいだと思ってんだよ?」

 

 俺の左右で、昔から頼もしい二人が、同じように膝を抱えてガタガタ震えている。

 

「フ、このギルガメッシュ、間違いなど犯さぬ、と信じていたかった」

 

「泣くなよ、頼むから泣かないでくれ。おまえは何時だってかっこいいじゃないか!!」

 

 なんで俺は英雄王の号泣を見なくちゃいけないんだよ! いつだって自信に溢れてたおまえが! 大胆不敵に笑っていたギルが! 今は小鹿のように震えているんだぜ、笑えてくよ。

 

「コナン、何とかしてくれ。もうお前しかいないんだ」

 

「俺に振るなよ、マスター。頼ってくれて探偵冥利に尽きるってもんだけどな。『あれ』は俺じゃ勝てない。解ってるだろ?」

 

 哀愁を背負っているようなコナンに、俺は唇をかみしめて小さく頷くしかない。

 

 ああ、そうか、俺達は最終兵器を起動させてしまったんだな。

 

 もうアインズも沈んだ。ガイコツなのに、真っ赤に染まって倒れた。

 

 エルは真っ先に吹き飛んだ。もう豪快に赤い液体をまき散らして。

 

 ソープは崩れ落ちるように血の海に沈んで行った。

 

 お、俺達だけなのか? もう止められないのか?

 

「田中少年」

 

「オールマイト! さすがナンバーワンだ!! 生きて・・・」

 

 助かったと俺が見た先で、何時もなら豪快に笑って力強くポーズを決めるヒーローが、血の海に沈んで行った。

 

「すまない」

 

「お、オールマイト!!! なんで貴方はナンバーワンじゃないか!」

 

「私も、『男』だったということさ」

 

 フッと笑った彼は、そのまま沈んで行った。

 

 まさか彼も、いや待ったオールマイトと一緒に爆豪君とデク君もいたはずだ! まさか、フル装備で立ち向かった二人も沈んだと?!

 

「一郎」

 

「弔! 戻ったのか?! 廻はどうした!?」

 

 確か一緒に他のルートを探していた、と俺が顔を向けた先で弔は血だらけだった。その隣には治崎・廻が、ぐったりとした姿でいた。

 

「お、おい」

 

「すまない、一郎君」

 

 小さな声で答える廻は、そのまま血の海に落ちた。

 

「俺もここまでみたいだな、一郎、楽しかった」

 

「弔、待てよ、おまえまで逝くなよ!」

 

「黒霧も先に沈んだ、後は任せた」

 

 寂しそうに笑った弔も、ゆっくりと血だまりに倒れた。

 

 もう後がない、やるしかない。

 

「ギル、コナン、行くぞ」

 

「よかろう、ここが我の死地となろう」

 

「いいぜ、地獄の底まで付き合ってやるよ」

 

 頼もしいな、俺はこいつらがいればなんだってできる、そう思えるさ。 

 

「逝くぜ!!」

 

 そして俺は駆けだした。

 

 どうしてこうなってしまったのか、それは三時間前にまで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日は雲一つない青空だった。

 

 寒くもなく熱くもない、春の昼下がり。ちょっと眠気を誘うような陽気の中で、『ラ・エンテル』は貸し切りで二人の合格祝いをしていた。

 

「よかったよ、二人とも」

 

「ありがとうございます。これから誰にも負けずに勝ち続けてやるぜ!」

 

「絶対に諦めずに突き進みます!」

 

 うん、いい顔するなぁ。落ち込んでいたのが嘘のように、真っ直ぐ前を向いている。

 

 俺も土下座したかいがあったな。

 

「ロボットの修理は僕がやりますから大丈夫ですよ!」

 

「あ、うん、エルってそういう情熱はすごいし技術も信頼しているけど、どっから資材を持って行った?」

 

「もちろん、鎮守府からです」

 

「てめぇ」

 

 当然のように答えるエルに、俺はゲンコツを作ったけど、悪くないよね。こいつは最初に話を通すとか、やる前に書類提出するって頭はないんかい。

 

「二人の門出に我が歌を聞くがいい!!」

 

「待ってましたアインズさん!!」

 

 すげぇ、アインズが立ち上がって歌い始めた瞬間に、最前列に爆豪君がいる。めちゃくちゃ速かったんだけど、あれって何?

 

「あ、かっちゃんは『ジェットエンジン』を再現できたそうです」

 

「へ?」

 

「はい、燃料を『爆発』させて推力にしているなら、俺にできないことはないって言って」

 

「あ、そう」

 

 そっか、そっか。前に爆豪君、デク君がどこを目指しているか解らないって弔や俺に言っていたけど。

 

 十分に君も何処を目指しているか解らないから、大丈夫だよ。君たちは間違いなく幼馴染だから、どっちもどっちだ。

 

「最大がマッハ六までしか上がらなかったって嘆いていましたよ」 

 

「うん、本当に何処を目指しているのかな」

 

「できれば『ビックバン』まではやりたって言ってましたよ」

 

 君は本当に何処を目指しているのさ、爆破の個性で宇宙創造ってできるわけない、ないよね、出来ないよね? これで爆豪君が宇宙を作ったら、俺はオールマイトにどう言い訳していいか解らないよ。

 

「僕も負けられないなって思って」

 

「思って?」

 

「妖精に相談したら、『ゴッドハンドクラッシャー』と『ゴルディオン・ハンマー』のどっちがいいって聞かれました」

 

 おう、怖い。なんだろう、なんでその二つの選択肢しか持って来なかったのか、後で聞こう。妖精達の拳の一撃の最高ランクって、『オベリスク』だったんだなぁ。

 

 で、もう一つは艤装の主機に備わっている、『勇気をエネルギーに変える緑色の石』繋がりかな?

 

「俺、次にオールマイトに会ったら『スマッシュ』されそう」

 

「安心しろよ、マスター。きっと最高の一撃を用意してくれるさ」

 

「コナン、俺のピンチを救うための謎解きをしてくれ」

 

「無茶言うなよ」

 

 名探偵でも、この危機は回避できないかぁ。

 

 俺が嘆いていると、店のドアが開いた。

 

 そこからが、悲劇の始まりだなんて、その時の俺は気づけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デク君と爆豪君の合格祝いだからって、俺達だけじゃ味気ないので、ヒミコちゃんにも声をかけた。

 

 最近、ネットアイドルが大人気で、街を歩くと人ごみができるとか、人だかりができて警察が動くなんて話もあるくらいに。

 

「こ、こんにちは」

 

 だから黒霧に迎えに行ってもらったんだけど。

 

「こんにちはヒミコちゃん」

 

「お邪魔します」

 

 深々とお辞儀する彼女の頭に、違和感があった。あれ、なんでそれをつけているかなぁ。

 

「なんで猫耳?」

 

「お、男の人は好きらしいので。後はパーティといえば、猫耳ってネットで」 

 

 誰だ、純真無垢なヒミコちゃんに余計なことを教え込んだのは。

 

 グッジョブって言ってやるよ。今日のヒミコちゃんはロングスカートなんだけど、上着が巫女っぽいのでよく猫耳が映える映える。

 

 くっそ、可愛い。

 

「ふきゃ?!」

 

「大丈夫か?」

 

「と、弔クン、ガードです、私のライフを護ってください」

 

 ク、やはり弔か。おまえは俺とヒミコちゃんの間に立つな!

 

「一郎、客がもう一組だ」 

 

「え、誰? あれ、廻じゃん!」

 

 店の入り口から入ってきたのは、治崎・廻。最初は治崎さんって呼んでいたんだけど、『師にさん付けで呼ばれるのは気後れする』って言われて、呼び捨てになったんだけど、師って何? 

 

 死じゃないといいな。

 

「お招きとのことで参上いたしました、我が師よ」

 

「いや、なんでそんな古風な言い回し?」

 

「ちょっとふざけただけだ。さて、紹介しよう」

 

 そう言って、廻は彼女を紹介してくれた。

 

「エリだ」

 

 おう、シット。

 

 俺は思わず、呆けてしまった。そこにいたのは、まさに天使。

 

 白い髪と純白の翼を背負った、天使。可愛いとか可憐って言葉が霞むくらいに、幼く儚く美しい少女だった。

 

「こんにちは」

 

「はい、こんにち・・・・は?」

 

 で、猫耳。あれ、なんで猫耳? 

 

「さすが我が師、気づかれましたか? 今回のエリちゃんのコンセプトは『マジ天使エリちゃん! 猫耳をつけて可愛さ天元突破!』です」

 

 あ、そう、うん、可愛いね。可愛いんだけど、いきなりそのテンションはどうなのさ。しかも、コンセプト以外はすげぇ冷静って。

 

「この可愛さはまさに宇宙一! 世界を超えて人を超えて! 天使を超越した我がエリちゃんの可愛さはもはや女神レベル! 古のあらゆる美の女神を超えた美しさと儚さは! 世界を革命させる!!」

 

 あ、相変わらず絶好調だな。

 

「弔君!! 私は髪を染めます!」

 

「落ち着け、ヒミコ」

 

「いいえ! 落ち着けません! あの目! あの感情! あれを向けられるなんて許せません! 確かに可愛い、もっと言えば可愛いしギュッと抱きしめたい! 天使って言葉を否定する要素はあの子の何処にもない! しかしです!!」

 

「ヒミコ、それは止めろ」 

 

 う、後ろでなんだかヒミコちゃんが暴走している。

 

「でも!! 女の子として可愛いで負けたくありませんから! 絶対に退けない戦いはここにあるのです!」

 

「落ち着け、ヒミコ、おまえはそれをどうするつもりだ?」

 

「猫耳をもっと映えるために髪を解きます!」

 

「え?!」

 

 思わず振り返った先、ヒミコちゃんが髪を解いて、さらさらと綺麗な髪が風に踊っていて。

 

 フ、なんだ楽園がそこにあったのか。もう天使とか女神とかどうでもいいさ、可愛い、その言葉だけで十分じゃないか。

 

「あう」

 

「いいもの見せてもらったぜ、ヒミコちゃん」

 

 俺は思わず親指を立てた。

 

「はうぅぅぅぅぅぅ」

 

「オーバーヒートか」

 

「なるほど。それは我がエリちゃんへの宣戦布告と見た!!」

 

「おまえも落ち着け、廻」

 

 すっげぇ絶叫して腰を折って天上へと叫ぶ廻に、冷静に突っ込みを入れる弔だった。

 

 俺はもう立ってられなくて壁に背中を預けているけど、もう任せていいよね。

 

 あ、デク君が顔が真っ赤だ。あれはヒミコちゃんの髪解きを直視したな。

 

 爆豪君は、ヒミコちゃんとエリちゃんを交互に見ているな。猫耳が珍しいって顔しているね、解るよ、君の気持はよく解る。猫耳って、日常的に見れるものじゃないからね。

 

「勝負だ! ヒミコとやら! どちらが猫耳をつけるにふさわしいか!」

 

「望むところです! 私こそが猫耳マスターであることを教えてあげます!」 

 

「ククククク、おまえごときが猫耳マスターを語るなど笑止千万! 我がエリちゃんのキング・オブ・猫耳の前に沈むがいい!」

 

 なんか、ヒートアップしているな。

 

 俺はその時そんなことを思っていた。

 

 そう、それこそが悲劇の引き金だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「控えよ!」

 

 一括だった。すげぇ王のオーラと滅茶苦茶なカリスマの気配に、室内にいた誰もがそいつを見た。

 

 ギル? と、ユニコーンだと?!

 

「待てよギル!!」

 

 慌ててコナンが止める! さすがな行動力だ! 俺も今回は気づいた!

 

 咄嗟にエルとソープも動く、アインズも魔法を展開しようとしていた。

 

 だが、すべてが遅かった。

 

「よく聞くがいい! 雑種ども!! これこそが!!」 

 

「よせぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

「止めろギル!!」

 

「これこそが『真の猫耳!』、唯一絶対なる王としての猫耳だ!!」

 

 そして、ギルは禁断の『艤装』を使ってしまった。

 

 ユニコーンの艤装スロットの五つ目の装備を。

 

「にゃ~~ん」

 

 そして、店の中に静寂が訪れた。

 

「逃げよ! 逃げるのだ!!」

 

 真っ先に飛び出したアインズは、『超位魔法』を展開。直撃させて威力を拡散させる寸前で崩れ落ちる。

 

「さ、さすがはこの私を一度は完全に沈めた威力だ。ふ、フフフ、まだこの私に恐怖を刻むとは」

 

「アインズ!」

 

「逃げよ!!」

 

 グッと俺の体が掴まれた、気づけば何故かギルが俺を掴んで、コナンまで俺を掴んでいた。

 

「誰でもいいからオールマイトを呼べ! あいつなら!」

 

 誰かがそんなことを言っていた。

 

 エルが突撃していった。目を閉じていたから、見ないようにしていたのかもしれない。でも、ダメだった。

 

「やはり、僕も男だったんですね」

 

 彼はそういって沈んだ。

 

「二度目でも威力が変わらない。流石だよ」

 

 同時に飛び込んだソープも、そう言って倒れた。

 

 後は混乱だ、もう誰が何処にいるか解らない。

 

 必死に逃げても店の中は狭い。どうやっても立ち向かうしかない。

 

 やがて、オールマイトが応援に来た。 

 

「なるほど、解った、田中少年」

 

「オールマイト」

 

「大丈夫さ、何故って? 私が来た!」

 

 かっこいい、あんたはやっぱりナンバーワンだ。

 

「俺も行くぜ、オールマイト」

 

「あの威力です、数で対応した方がいいでしょう?」

 

 爆豪君とデク君も立ち上がった、それにオールマイトは少し迷っていたようだが、大きく頷いた。

 

「では行こうか、有精卵ども!」

 

「おう!!」

 

「はい!!」

 

 元気よく向かって言ってくれた。何とかしてくれる、どうにかしてくれるって思っていたんだ。

 

 俺はそれにすがりたいだけかもしれない、でもダメだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、皆が血の海に沈んでいる。

 

 もう後はないから、俺はギルとコナンと突撃していった。

 

 大丈夫、三人もいるから誰か辿り着けるはずだ。

 

「にゃ~~ん」

 

「に、にゃ~~~ん」

 

「にゃ~~~」

 

 俺の目論見は儚くも砕け散った。

 

 なんでだよ、どうしてなんだ。

 

「ここまでかよ、ちくしょう」

 

 コナンが墜ちた。

 

「我の唯一の失敗だったな」

 

 ギルは立ったまま意識を失った。

 

 どうしてさ、なんで『三人』になっているのかな? 

 

 最初はユニコーンだけだったじゃんか。あの最終兵器、ゴスロリメイド服猫耳装備はユニコーンだけだったはずだ。それがなんでヒミコちゃんとエリちゃんまで着ているのかな、あれ色が違っているから複数もあるの、なんだよそれなんで三人ともちょっと頬を染めて、恥ずかしそうに笑っているのさ。

 

 猫のポーズをして恥ずかしいのね、うん、君たちの気持ちは解るよ。でもその恥ずかしいが、男にとってはクリティカル・ダメージになるって知ってくれないかな、もうね恥ずかしいけど一生懸命にやっていますが、可愛くて可愛くて。

 

 誰か一人でも堂々としていたら、俺は立ち向かえたかもしれない。

 

 でも全員がちょっと恥ずかしがって、照れながらのポーズなんてどういうことなんだろう。

 

 もうダメだ、ユニコーンだけだったら耐性ができているんじゃないかなんて、馬鹿な考えだった。 

 

「フフフ、天使の翼がないほうが威力が高いとは。私もまだまだ未熟だな」

 

「俺も楽園が見えた、明日からコックとしての技量が上がりそうだ」

 

 俺の後ろで鼻から赤い情熱を流して倒れている廻と弔が呟いている。

 

「私はヒーローだ、ヒーローだが、その前に男だったようだ」 

 

 オールマイト、それは仕方ないんだよ。

 

「クソがぁ、可愛いが最強なのかよ」

 

 爆豪君、それは仕方がない。しょうがないんだよ。

 

「こ、これを使えばヴィランも救えるかも」

 

 デク君、そんなことしたらヴィランが死ぬよ。

 

「一郎さん、私も人間だったようです」

 

 黒霧、おまえも鼻があったんだな。お前は今、ブラックじゃなくてレッドだぜ。

 

 く、クソ、どうにかしないと、そろそろ全員が死にそうだ。

 

「あ・・・・」

 

 その時、ユニコーンが気づいて小さく頷いた。 

 

 瞬間、俺の第六感が盛大に叫んだ!! 言わせては駄目だ、と。

 

「待て!」

 

「にゃ~~んだよ、お兄ちゃん」

 

 ブハ!?

 

 そして、俺は倒れたのでした。 

 

「にゃーんです、お兄ちゃん」

 

 ぐぉ。 

 

「にゃ~~~んです、お兄ちゃん?」

 

 ああ、もうまさかに三連撃をもらうなんて。ふ、ヒミコちゃんにお兄ちゃんなんて呼ばれたよ。

 

「我が人生は幸福でした」 

 

 もう俺にはこれしか言えないよ、じゃあな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「田中少年、あの装備は危険だ。二度と使わないように」

 

「はい、オールマイト」

 

 絶対に使うか、本当に死ぬじゃんか。

 

「・・・・・・オール・フォー・ワンに使ったら、倒せるんじゃないか?」

 

 小さく、オールマイトが呟いたことは、俺は死ぬまで誰にも言わなかった。

 

 

 

 

 

 






 暴走特急、もう止まれない、猫耳戦争にゃーでございました。

 人の趣味は人それぞれですが、可愛いで戦争が止まればいいな。

 『可愛さのあまり全滅しました』風味でお送りしました。





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ある日の、ごくありふれた、とても普通の、何処にでもあるような、午後の話

 

 萌えに命をかけた前話の後に、何を書くかでメモ帳確認。

 あ、こんな話を考えていたんだと、思いつつ『あれ、内容が思い出せない』ってことになりました。

 よし、ニュアンスから全力で行くぜ、風味で突撃します。







 

 

 人生って予想外のことは多々ある。

 

 転生している自分が言うのだから、信憑性があるでしょう。

 

 どうも、田中・一郎です。

 

「一郎、現実逃避は止めておけ。おまえのためにならない」

 

「と、弔」

 

 すっごい形相の弔がね、俺の背後に立っているんだよ。もうね、手に持った包丁が凄味を増しているのさ。

 

「さ、殺意は人を堕落させるって昔の偉い人が言っていた」

 

「そうか。俺はどちらかといえば、復讐は正当なる権利の方だな」

 

「なるほど、なるほど。止めておけ、弔、俺が本気になったらおまえだって叶わないさ」

 

 ク、強がって見せるさ。いくら弔でも、俺に本気で勝とうなんて考えていないはずだ。そうさ、こいつは何時だって俺を立てる。

 

 立てる? あれ、弔に立ててもらったことってあったかな?

 

「今日は強気だな、一郎。『これ』で俺に勝てると思っているのか?」

 

 冷たい顔で包丁を持つ弔に、俺は妙な寒気を感じた。

 

 怪しく輝く刃物に、血走った目。こいつ、どんな追い込みをしてきたんだ、まさか本当に目覚めた、と?

 

「いいぜ、弔、来いよ」

 

 俺は包丁を持ち上げ、できるだけ精一杯の笑みを浮かべる。

 

「ああ、やろうか」

 

「来いよ、弔」

 

 そして俺達は包丁を持って、砥石に向かった!!

 

「今日こそ一郎を超えて見せる、何時までも包丁研ぎでおまえに負けるなんて、俺の料理人としてのプライドが許さない」

 

「フ、いいかげんに学びたまえ、弔クン。君は絶対に俺の前に走らせない、俺の包丁こそ銀河一の切れ味よ!」 

 

「超えてやる!」

 

 フはははは! まだまだ甘いわ!!

 

「なあ、ギル。平和だな」

 

「そうだな、コナン。ところで、あの二人は我を笑い殺したいのか?」

 

「英雄王を笑いで撃墜した、最初の人間かぁ」

 

 なんか、後ろでコナンとギルが笑い合っているけど、俺は無視した。今はこの包丁に魂込めて! そうだ、この刃先を見つめ、声を聞いて、鋭く軽やかに磨く。

 

 一か所だけじゃない、丁寧に全体的に、先から鋭く細く、食材の細胞を傷つけないような切れ味のために。

 

 料理の腕じゃ弔に負けても!! 包丁の研ぎ方で負けるわけにいかないんだ!

 

「俺は絶対にその背中を超えてやる!」

 

「まだまだおまえに負けるよ弔!」

 

「超えてやる一郎!!」

 

「かかってこいや!」

 

「望むところだ!」

 

 燃えるぜ! この一本の包丁に、俺のすべてをかけてやる!

 

「その気になれば、世界さえ支配できる男が包丁のためにすべてかけたよ」 

 

「ククククク!! フハハハハ! 止めよ、一郎! 貴様、我を笑い殺す気だな! 我が財を自由にしてよいと言って! 最初に望んだのが『じゃ安眠できる枕』と言った貴様の間抜けな顔を! 我に思い出させるとは!!」

 

「あ~~~あれはなぁ。本当、世界のすべての財が入っている蔵を得て、最初が『安眠できる枕』ってなぁ」 

 

「よいぞ! 良いぞ道化よ! 踊るがいい! いや止めよ! やはり止めるがいい! 我の腹がよじれる!!」

 

「今日も平和だなぁ」

 

 うっさいそこの外野!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キラリと光った包丁を両手に持って、吹雪は無言で鋼鉄を裁断しました。

 

「どっちだ?!」

 

「当然、俺だろう?」

 

「今回は俺も自身がある」

 

「・・・・・勝者、爆豪君」

 

 はい?

 

「おっしゃぁぁぁ!! しゃあ!!」

 

「か、かっちゃん! なんで包丁研ぎなんてしているのさ?!」 

 

 うん、デク君、俺が言いたい、なんでそこで俺らに混じってやっていたのか、そもそも、なんで混ざっているのか、何時からやっていたのか、色々と疑問があるんだけど、なんで爆豪君?

 

「甘いな、デク。これもヒーロー活動だ」

 

「はい?」

 

「いいか、俺達ヒーローは助けての声に答える。それがどんな状況でも、どんな場所でもだ」

 

 あ、うん、そうだね。でもさ、君たちがやっていることは、非合法なんだよね、まだ免許持ってないから。

 

 だから、できればもっと穏便にね、もっと静かにさ。

 

 いや待った、その前になんでヒーロー活動で包丁研ぎ。

 

「解んねぇのかよ、デク」

 

「え、え?」 

 

「だからおまえは駄目なんだよ。いいか、デク、もしも『料理人が困っていた』ら、おまえは無理だって答えるのか?」

 

 はい? あれ、何それ、え、どういうこと?

 

「包丁がなくて困っていたら? 切れない包丁で困っていたら? おまえはそんな人の助けてに、『無理です』って答えるつもりか? てめぇ、それでもヒーローか?!」

 

「かっちゃん、そんな無茶なことを」

 

「無茶じゃねぇ!! やればできるんだよ! だからやるんだよ!!」

 

 いや、それは無茶苦茶だって。爆豪君、勢いで乗り切ろうとしてない? ねぇ、君の言っている状況ってとても限定的だと思うんだけど。

 

「弔、そろそろ復活してくれ」

 

「俺は負けた、爆豪に負けた」

 

 膝をついて泣きそうな弔に、俺は声をかけながらも『え、このカオスどうすればいいの』なんて思っていたりする。

 

「できないなんて弱音だ! 言い訳を探してんじゃねぇよ! やれよ、デク、おまえだってヒーローだろうが」

 

「か、かっちゃん、僕は」

 

 少し悔しそうにうつむいたデク君は、そのまま吹っ飛んだ。

 

 あれぇ~~。

 

「俯いてんじゃねぇ! 弱気になって逃げる理由を探すなよ! 俺達はヒーローやるんだろうが! ヒーローは絶対に諦めねぇ! 逃げねぇ! 退かねぇ! おまえは艦娘の皆にそう誓ったんだろうが!」

 

「・・・・そうだ、僕らは誓ったんだ。ありがとうかっちゃん」

 

「解ればいいんだよ、やるぞ、デク」 

 

「うん!!」

 

 がっしり手を握り合った二人は、そのまま包丁研ぎにまい進していった。

 

「甘ぇんだよ!! なんだその持ち方は!!」

 

「ご、ごめんかっちゃん!」

 

「気合入れろ! これは料理人の魂だ、俺達ヒーローにとってのコスチュームに匹敵するんだぞ!」

 

「解ったよ!」

 

 うん、何だろう。俺は何を見ているのかな。

 

 というよりもだ、また俺はこの言葉を言うしかないな。

 

 誰か俺に教えてください。

 

 爆豪君とデク君が何処へ行こうとしているのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一郎、俺はちょっと日本刀の鍛冶師に弟子入りしてくる」

 

「はい?」

 

 なんだか復活した弔が、そんなことを言い出しました。

 

「二人の熱意に負けている。俺はもっと色々な知識を仕入れないと、料理人としてやっていけない」

 

「え、あれ、待って、ちょっと待った弔」

 

 なんで日本刀の鍛冶師、それが包丁とどう繋がるのか、俺には解らないんだけど。

 

「幕末に廃刀令が出た時、日本刀の鍛冶師達は包丁を作り出したという。ならば、彼らに弟子入りすれば今以上に料理のための包丁が砥げるはずだ」

 

 自信を持ち、拳を握って宣言する弔。

 

 うん、逆光になって凄くいい顔で宣言しているから、ドラマのクライマックスの主人公に見えるんだけどさ。

 

 言っていることは、とても意味不明なんだよね。

 

「逝ってくる」

 

「待てよ弔! おまえ言っている感じが違う気がするんだけど!」

 

「心配するな、一郎。俺は必ず戻ってくる、絶対だ。だから、行かせてくれ」

 

「悟った様な顔してるやつの何処を信じろと?!」 

 

 ダメだ、今こいつを行かせたら、絶対に変な風に曲がって戻ってきそうだ。例えば、包丁にうっとりした視線を向けるとか。

 

 自分で想像して怖くなってきた。うっとりした眼で、包丁に頬ずりしながら愛称を口にする弔。 

 

 あれ、それはそれで絵になるような、ならないような。

 

「大丈夫だ、ここにギルから貰った地図がある。ここに行けば、包丁を立派に研ぐ人物がいるらしい」

 

「え、はい?」 

 

 えっと、冬木? どこ、そこ?

 

「おい、ギルガメッシュ、あれってあの場所じゃないか?」

 

「ほう、さすがだ、コナン。あの贋作者ならば弔を立派な研ぎ師に育てるだろう?」 

 

「どっちかっていうと、投影魔術使いにしそうだけどな」

 

「なるほど。では弔が無事に能力を得たら、我が宝物庫に案内しよう」

 

「おまえらちょっとは責任感じて止めようか!?」

 

 なで後ろで楽しそうに笑っているんだよ、ギル! コナンも止めろよな! 後、宝物庫を簡単に開放するんじゃないよ、英雄王!

 

「笑止! 我の宝物庫をどう扱おうが、我の自由よ。それにな」

 

「それに、何だよ?」

 

「我は良い言葉を知った。『そのほうが面白かろう』という言葉をな!!」

 

「アインズぅぅぅぅぅ!!」 

 

 ここでまさかのあいつが原因なんて!

 

 最近はギルが原因が多かったから忘れていたけど、アインズもかなり愉悦に染まってそういったことが多くなってきたんだった!

 

「呼んだか、一郎!!」

 

「お前ギルに・・・・・はい?」

 

 あれ、今日のアインズは服装が。あれ、白い鉢巻に青い羽織、それに白いエプロンって。あれって魚屋がしているようなエプロンに見えるんだけど、何があったの?

 

「フ、ククククク、気づいたか、さすがだ一郎。いや、マスターと呼ぼう!」

 

「え、あれ、アインズ? どうした、何時ものギターは何処に行った?」 

 

「ふははははは!! 今の私はナザリック大墳墓の主でも! 流しのギター若大将でもない!」

 

 な、なんだって?! あのアインズがギターを持っていないなんて! 何があった、といよりなんで包丁を持ち出した?

 

「今の私は! 流離の包丁研ぎ師! この腕の冴えを見るがいい!」 

 

「え? はい?」

 

「ちょっと待ったぁぁ!!」

 

 うぉ!? え、エル? え、なんでおまえはシェフみたいなかっこうしているんだよ。 

 

「チッチッチ! 一郎さん、今の僕はロボットではなく包丁を愛する流浪の料理人兼研ぎ師! この包丁の輝きにひれ伏しなさい!」

 

 あ、うん、いい輝きしているね。でもさ、その輝きってみたことあるんだけど、何の金属を使ったのかな。

 

 まさか、だよね。

 

「あれってボーキサイトと鉄鋼ですね」

 

「ありがと、吹雪、そっか、そうだよね。おいこらエル! 書類どうした?! 申請書はどこいった?!」 

 

「奇跡の一刀のためには些細な犠牲です!」

 

「犠牲じゃねぇぇぇぇ!!」

 

 おまえ! ボーキサイトと鉄鋼を集めるのに、どんだけ苦労すると思ってんだよ! ただでさえ資材は集めるのが大変なのに!!

 

「みんな、少し騒ぎ過ぎじゃないの?」 

 

「ソープ! おまえだけは・・・そうだよなぁ~~~」

 

 もういいや。

 

 振り返った先にいたソープは、まさに板前さんって服装でした。

 

「この僕を差し置いて、包丁のことを語るなんてね。一郎に研ぎを教えたのが誰か、忘れたの?」

 

「確かにソープに習ったなぁ」

 

「なんだと!?」

 

 あれ、アインズ、知らなかった。

 

「一郎さんの師匠!?」

 

 爆豪君、食い付き良すぎ。

 

「ソープ、俺に秘儀を授けてくれ」

 

「弔!! 土下座ってなんで?!」

 

 それが一番、驚いたよ!

 

「ちょっと待ったぁぁ!」

 

「コナン! そうだよな、おまえがいて」

 

 期待して振り返った先、コナンは包丁を片手に持っていた。

 

「探偵としての俺の洞察力なら、包丁研ぎなんて簡単なものさ」 

 

「言ったね、コナン、僕と勝負しようか?」

 

「望むところだ、ソープ。今度こそ、決着をつけようぜ」

 

 ニヤリと笑うコナンに、怪しい笑顔を向けるソープ。

 

 そして俺は、笑うしかなかった。

 

「マスターよ、貴様はよくやった。我が認めてやろう」

 

「ギル、おまえも悪のり・・・してない?!」

 

「たまには、貴様の苦労を労うのも、良いと思ってな」

 

 すげぇ優しい笑顔で語る英雄王に、俺は不覚にも泣けてきた。

 

「さあ、存分に味わうがいい、これが王の労いよ!!」

 

「ギルガメッシュぅぅぅ!!」

 

「フハハハハハ堪能せよ! 噛みしめるがいい!」

 

「おまえだけだよ! おまえだけが!」 

 

 ああ、いい奴だよ、本当におまえはいい王様だ。毎回、そうであって欲しいのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんてこと、幻みたいに優しいギルガメッシュの労いを受けて、全員が大騒動になった日の翌日。

 

 俺はあいつの愉悦を甘く見ていた。

 

「なあ、コナン、あの『一位』に輝いた黄金の包丁はなんだ?」

 

「ギルの奴、宝具を使いやがって」

 

「あ、うん、解った」

 

 包丁と研ぎ石に原点なんてあったんだなぁ、なんて俺は思いつつ胃を抑えたのでした。

 

 

 

 

 

 




 

 今回の話のメモ帳、『包丁挽歌』。

 というわけで、何事もなくありふれた午後の一幕でした。

 最初は無理かなって思ったけど、包丁だけの話題で一話とか埋めてみました。

 やっぱりさ、最高のヒーローは何がっても『無理だ』なんて口にしないから、爆豪君とデク君は色々な技術と知識を得てもらわないと。

 という言い訳風味の話でした。






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小さくても、今にも消えそうでも、それでもつないでいく

 

 間に合いません(泣)

 山ほど書きたいことあるのに、時間がない。 

 というわけで、二月の大イベント、男が泣いて鳴いて、なく日?

 バレンタインデー風味の話、です。





 

 寒い、って感じじゃないけど、暖かいって日でもないなぁ。

 

 どうも田中・一郎です。

 

 今日は珍しく、弔と黒霧と買い物ですよ、買い物。

 

「お酒に合う料理ですか。弔も随分と丸くなりましたね」

 

「言うな、黒霧。なんだその保護者みたいな顔は?」 

 

「いえいえ、成長したなぁっと」

 

「止めろ、俺の保護者はそっちだ」

 

 なんで俺を指差すかな、弔クン? おまえの保護者したことなんて、一度も、あれ一度、二度かな、あったなぁ。

 

「ちなみに、俺の保護責任者の名前は『田中・一郎』になっている」

 

「おいてめぇ!! 同年代! 同い年!」

 

「ああ、同姓同名の誰かだろうな」

 

 無理あるだろ、それ。誰も突っ込まないのかよ、誰か違法だなんて言ってくる、ことないかぁ。

 

 ギルがいるだろ、ソープだろ、エルだろ。いざって時はアインズが精神系魔法使うだろうし。

 

 うん、捕まらないといいなぁ。

 

「あの!!」

 

 呼ぶ声に、俺は振り返ったけど、弔と黒霧は振り返らなかった。

 

「これ受け取ってください! 死柄木・弔シェフ!」

 

「あ?」

 

「黒霧さん! 何時も美味しいお酒ありがとうございます!」

 

「はい?」

 

 ようやく振り返った二人の両手に、多くのハート型のお菓子が。

 

 あれ、俺は素通り? え、二人は山なのに、俺は誰も来ない?

 

 泣いていいよね。

 

「そうか、バレンタインか」

 

「なるほど、もうそんな時期ですね」

 

 山のようなチョコを抱えた二人は、しみじみとそんなことを呟いているんだけど、俺は言いたい。

 

 ちょっともうかなりの勢いで言いたい。

 

「妬くなよ、一郎」

 

「そうです。貴方の魅力はもっと違うものですから」

 

「妬いてない。そもそもだ、バレンタインってなんだよ?」

 

 あれか、ウィスキーの一種か?

 

「・・・・・は?」

 

「え?」

 

「はい?」

 

 あれぇ~~俺、おかしなこと言ったかな?

 

 え、あれ、知らないとおかしい話? 一般常識なの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世の中にはバレンタインデーというものがあるらしい。

 

 好きな異性に気持ちを伝えるために、チョコを贈るとか。チョコの甘みと恋の甘さをかけたとか、恋心がとろけるチョコに似ているとか。

 

 色々あるらしいのですが、最近はお世話になりましたって意味でも贈ることがあるらしいです、はい。

 

「ってわけでだ。欲しいのかよ、マスター」

 

「丁寧な説明、ありがとう、コナン。欲しい」

 

 もちろんです、女の子から貰えるなら貰いたい主義ですから。

 

 俺って、モテたことないからなぁ。

 

「一郎ってそうなのか?」

 

 弔、意外って顔するな。

 

「あ~~~~」

 

 コナン、そんな呆れた顔するなよ。

 

「悪かったな。俺は貰えないよな」

 

 クッソ、イケメンが恨めしい。

 

「そんな情けない顔するなよ、マスター。いいことを教えてやるよ」

 

 その時、俺はコナンから魔法の言葉を貰った。これを女性に言えば、貰えるらしい。 

 

「宝くじ並みの確率でな」

 

「苦笑いか、名探偵。いいのか?」

 

「弔はあれで成功すると思うか?」

 

「一人か二人、成功するだろうな」

 

「あ~~あの二人か」

 

 なんだよ、誰だよ。まったく、俺を除け者にして話しやがって。

 

 クッソ、失敗するなら、絶対にくれそうな子にやってやる。

 

「こ、こんにちは」

 

「ヒミコちゃん!! ギブ・ミー!!」

 

 丁度いいところに! これならば。だけど、ヒミコちゃんの善意を利用したようで、ちょっと罪悪感がわき上がるけど、彼女なら。

 

「ふぇ」

 

「あれ~~」

 

 真っ赤になって出て行っちゃった。

 

「チョコレートって言いきれなかった」

 

 失敗か、次だ次。

 

「コナン、俺は今、恐ろしいものを見た気がする」

 

「奇遇だな、弔、俺もだ」

 

「天然だな、一郎」

 

「あいつが真面目にやったら、スケコマシでも通用するんじゃないか?」

 

 うっさい、後ろの年中モテ期の馬鹿二人。おまえらの後ろにある段ボールの中、チョコレートだって知ってんだよ。

 

 なんだよ、なんで二人はモテてるんだよ。チックショウ、俺ばっかりないのかよ。黒霧も貰っているし。 

 

「フ」

 

 ソープなんて男が群がっているんだぜ。あれってチョコレート貰っているんじゃなくて、チョコレートを献上されているように見えるな。

 

「さあ、僕の相手は誰ですか?!」

 

 エルの奴なんて、ロボットの箱を貰っているし。え、チョコを渡してロボットのプラモを貢いで貰っているって。おまえ、最低だ。

 

「よかろう! 私の歌を聞くがいい!!」

 

 アインズなんてアイドルのコンサートに見えるさ。

 

 で、最大のモテるイケメンは、な。

 

「助けてくれ、マスター」 

 

「今日の一面は、『英雄王、チョコによって撃墜』かな?」

 

 一トントラック三台分のチョコレートを獲得した、ギルかな。あ、でも、ギルを撃墜したのって、ユニコーンの手作りチョコだから。 

 

 タバスコ入りの。

 

 愛は赤いから、赤いのを入れないとって思ったらしい。

 

「ク、我のユニコーンへの愛が、これを食せと言っている。しかし、我の本能が『愉悦のために行け』と言っている。だが!! 我の王の矜持が『止めよ』と叫んでいる!! 我はどうすればいいのだ?!」

 

「いや、リア充は死ね」

 

 もうなんだよ、こいつは。なんでそんなに愉悦に生きたいのかな、それともユニコーン関係ならばすべて押し通すつもりなのか。

 

 はぁ、俺もチョコ、欲しいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不意討ちだ、ずるい、決意が一気に消えた。

 

 トガ・ヒミコは路地裏で必死に息を整える。

 

 昨日まで頑張った、何回もシミュレーションしたのに、何度もくじけそうになった意思を奮い立たせて、ここまで来たのに。

 

 不意討ちにも程がある。あんなに真っ直ぐに、あんなに真剣に、あんなに情熱をこめて向けられた想いに、全身が竦んでしまいそうになって、感情が爆発したから逃げてしまった。

 

「一郎くぅん」

 

 小さく名を呟いただけで、全身が燃えるように熱い。もう感情が抑えきれない、想いが溢れて止まらない。

 

 もっと触れたい、もっと見つめたい、もっと話したい。もっと温もりを感じて、その血に触れて、暖かい心臓の音に身を沈めたくなった。

 

 チョコも頑張った。一郎が喜んでくれるように頑張って作った。素材から厳選して何度も失敗して、授業中も頑張って、必死に作ったのに。

 

 先生に、『あなたにも春がようやく来たのね』とか怒られるのじゃなく、祝福されたのは意外だったが。

 

 今は一郎だ。他のことを考えて感情を抑えよう、このチョコを渡して今度こそ想いを告げよう。

 

 たった二文字だ。日常的な会話に比べたら、簡単な二文字を言えばいいだけ。チョコを渡しても通じるはずだ、何度も思考を繰り返し、何度も練習したのだから大丈夫。

 

 そっと扉を開けて、挨拶して、チョコを差し出して、たった二文字を言えば終わる。 

 

 なのに、だ。それなのに、扉を開けた瞬間に崩れた。

 

 『ギブ・ミー(君が欲しい)』。

 

 瞬間、全員が炎を噴き出したような錯覚に陥る。彼は何と言った、何を欲しいと言ったのか、思い出して否定して、もう一度と思い出して、彼女はその場に崩れ落ちる。

 

 限界だ、もう無理だ。もう抑えきれない、自分からじゃない相手から言われたことだ。抑えなくていい、我慢しなくてもいい。 

 

 これは『田中・一郎』からの想いだ。

 

「こうしてはいられないわ、トガ・ヒミコ」 

 

 よっしと立ち上がり、自分に言い聞かせる。

 

 一郎が求めているならばすぐに行動だ。速やかに対応しなければ。

 

 まずは戻って全身にチョコを塗ってこよう。

 

 いいや、全身にリボンを巻いて『プレゼントです!』の方がいいだろうか。

 

 どっちだ、どっちならば一郎は喜ぶだろうか。

 

 思考を繰り返す、今までの彼の考えと動き、意思の流れから最高の選択肢はどれだと考えて。

 

 やがて、ヒミコは止まった。

 

「おい、一郎はチョコレートって繋げようとしたからな」

 

「弔君、私もそこに辿り着きました」

 

「なら良かった」 

 

「はい。なので、これから裸になってチョコを全身に塗ってラッピングしてきますね」

 

「どうしてそうなった?」

 

 心底、残念なものを見る顔になった弔に、ヒミコは小さく首をかしげたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぁ、チョコが貰えないなって考えていたら、正午を過ぎたよ。今日も平和な日々だといいなぁ。

 

「私が、段ボールを持ってきたぁ!!!」

 

「あれ、オールマイト?」

 

「よかった、田中少年、爆豪少年と緑谷少年はいるかね?」

 

 まあ、いますけど。

 

 ランチタイムが終わったから、店のカウンターテーブルで予習復習してますよ。MITの試験内容を。

 

 うん、おかしい。何してんの、二人とも。

 

「二人にヒーロー協会から届けものだ」

 

「俺たちに?」

 

「なんですか?」

 

「チョコレートだ。『シンガー・ボマー』と『グリーン・シップ』に助けられた人達からの感謝のしるしだよ」

 

 へぇ~~。たくさんあるな、これだけ多くの人を二人は助けたってことか。いいこと、なのかな。まあ、オールマイトが持って来たから、『大目に見るぞ』って意味でも有るんだろうけど。

 

「あいつか。歌いながら多くを救っている奴だろ?」 

 

「船の個性か。誰なんだろう、僕も参考にしないと」

 

「あれぇ?」

 

「なにを言っているんだ、二人とも?」

 

 え、あれ、なんだか、話がかみ合ってないんだけど。あれ、二人のことだよね、え、あれぇ? 

 

「ああ!」

 

 コナン、何か知っているのか?

 

「二人から名乗ったことないだろ?」

 

「え? まさか、二人は知らないってこと?!」

 

「シット!! そうなのか?!」

 

 うわぁ~~当たりだよ。二人とも、固まっているし。疑問しかない顔をしているから知らないんだなぁ。

 

「はぁ、お前らのことだよ」

 

「はぁ?! なんスかそれ!?」

 

「ええ?! 僕たちのことなんですか?!」

 

「いやいやありえねぇだろ! 歌って爆破してヴィランを倒して救助してだから! 俺の個性と同じでもっとすげぇ奴だって思っていたのに!」 

 

「船の個性だから艤装の扱いのヒントになるかもって! 何度も映像を確認しようとしていたのに!?」

 

「俺のことかよ?!」

 

 爆豪君、頭を抱えてます。

 

「僕のことだったなんて!!」

 

 デク君、膝をついて嘆いてます。

 

「そ、そうか。なるほど、知らなかったかぁ」

 

「俺達も知っているもんだと思っていたからな」

 

 オールマイト、ちょっと呆れてません?

 

 コナンも溜息つくなよ。俺も知っているものだと思っていたから、言わなかったから同罪だろうけど。

 

「そ、それじゃ二人とも、これを受け取りたまえ」 

 

 仕切り直してオールマイト持ち上げた段ボールには、それぞれに手紙とチョコレートが入っていて。

 

「なんか、上手く言えねぇけど」

 

 爆豪君、なんでそんなに俯いているのさ。胸を張りなって。

 

「僕も上手く言えませんけど、こそばゆいっていうか、その」

 

 デク君、それは解るけどね。

 

「君たちが助けた人たちからの感謝だ。他の誰でもない、君たちだから受け取る資格がある。本来なら、渡すのは『不味い』のだろうけどね。今回は特別だ。さあ、『ヒーロー達』、人々からの気持ちを受け取ってくれたまえ」

 

 オールマイトに言われて、そっと手を伸ばした二人は段ボールを持った。

 

「重いな。本当に重いぜ」

 

「うん、凄く重い。こんなに気持ちが詰まったものなんだね、かっちゃん」

 

「ああ、デク、俺達はこんなに多くの人たちに感謝されるような、そんなヒーローやれてたんだな」

 

「うん、そうだね」

 

 二人とも泣いてるな。そっか、二人とも初めてか。感謝の言葉を受けたことはあっても、見える形で『ありがとう』を受け取ったのって初めてだったんだ。

 

「懐かしいな。私も最初のファンレターは、胸にこみ上げたものさ。良かった、助けられて、自分はヒーローをやれていたんだ、とね」 

 

「へぇ~~~ナンバーワンにもそんな時があったのかよ?」

 

「ハハハハ! それはそうだ。救えなかった時、挫折しそうになったとき、そんな時に支えてくれたのが、こういった『助けた人からの感謝』だからね」

 

 なるほどね。ヒーローでも人間だから落ち込んだりしたこともあるだろうし、止めたくなることもあった。

 

 でも、それでもと前に進めたのは、こういう気持ちを受け取ったからか。

 

「君たちの原点、『オリジン』になるかもしれないね」

 

「オリジンか」

 

「僕たちの原点」

 

 二人は段ボールを見つめて、そんなことを呟いていた。

 

 うん、きっと二人の原動力になってくれるよ。誰かの助けてに答えて、絶望を砕くヒーローをやる二人ならさ、『ありがとう』を力に変えられる。

 

「よっし、俺も悩んでないで頑張るか」

 

 チョコレート貰えなくても、今日も元気に頑張りましょうっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暴走しそうなヒミコを宥め、何とか言いくるめて、弔は店へと戻る。後ろをついてくるヒミコは、手に持ったチョコを嬉しそうに眺め、うっとりした危ない表情をしているが、見ないようにしよう。

 

 原因は、一郎にあるのだから彼に責任を取ってもらおう。

 

「お母さん、あのねあのね!」

 

 店に戻る途中、ケーキを持った母子が前から歩いてくる。何処かのケーキ屋さんによった帰りだろうか。

 

 子供の方に見覚えがある。前の時、脳無との一戦の時に見かけたような。

 

「どうしたの?」

 

「私ね、料理人になる!」

 

「ええ?」

 

「私の個性は、ヒーローになれないけど、料理人には向いているって言ってたから!」

 

「まあ、そうね」

 

「だからね! あの『お手手のヒーロー』みたいに、『誰かを護れるヒーロー』になりたいの!」 

 

 ピタリと、弔の足が止まった。ああ、そうか、守った人達の中にいたのか、と何となく思い出す。

 

「それで、料理人なの?」

 

「うん! 私の料理で『みんなの心を護るヒーロー』になるの! いっぱいいっぱい美味しい料理を作って、皆の悲しいを吹き飛ばすの!」

 

 元気に答える子供に、母親は『それじゃがんばらないとね』と答えていた。

 

「あ! シェフのお兄ちゃんだ! 私も料理人になるからね!! お兄ちゃんみたいにみんなを笑顔にできる料理人になるから!!」

 

 元気に手を振ってくる少女に、弔は自然と手を振り返した。

 

 母親は小さく頭を下げて、『また伺いますね』と告げてくる。

 

「また美味しいごはんを食べに行くからね!」

 

「ああ、待ってる」

 

「きっとだよ!! それで私の料理もいつか食べてもらうからね!」 

 

「解った」

 

 笑顔でバイバイと手を振る親子を見送り、弔は再び歩き出す。

 

「よかったですね、弔君」

 

「・・・・ああ」

 

 短く答える彼の言葉に乗った感情を、ヒミコは読み取れなかった。でも呟いた彼の横顔は、何処までも澄み渡るように笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分が守れたもの、護れなかったもの。

 

 足を止めてしまうこともあった、ダメだと考えたこともあった。

 

 限界だと、もう無理だと、動けないと感じたこともあった。

 

 でもそれでも、一歩でも前に、もっと先にと動き続ける。

 

 自分のためなら動けなくても、誰かのためなら動けるから。 

 

 『ありがとう』、その一言で動ける。限界の先に、そのもっと向こうへ。

 

 人々は、ヒーローに守られているのかもしれない。

 

 だが、ヒーローは誰が護ってくれるのか。限界を感じ、ダメだと歩みを止めて挫折しかけても、ヒーローは『護ってくれる存在』によってその先に進める。 

 

 ヒーローが護ってきた人たちのありがとうの感謝の心が、今日も危険と隣り合わせのヒーロー達を護り続けるから。

 

 だから、彼ら・彼女らは今日も危険の中に飛び込める、誰かの助けてに真っ直ぐに向かっていける。

 

 感謝の気持ちを、自分の原点を、オリジンを魂に抱きながら。

 

 

 

 

 

 

 

 





 最終回、のような終わり方ですが、短編時の最終回はこんな形で終わらせるつもりでいました。

 内容をちょっと変えて、連載になったので『一話分』にしてみました。

 ヒーローが人々を護り、人々の気持ちがヒーローを護る。だから前に進んでいけるんだ、的な考えでございます。

 サルスベリの作品は、すべて共通して最終話から書いていきますので、使わないのはもったいないなぁと感じて、バレンタインに合わせて内容を練り直してみました。


 間に合わなかったけど!

 という風にもったいないから使ってみた風味でした!




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もしも、ヒロアカがドラマだったら?


 ふと思いついた話。

 こんな話があってもいいかな、というものです。

 本編まったく関係なし。

 面白おかしいかなっと思った風味です。







 

 

 とある町のとあるバー。そこのカウンターに男が二人。

 

「はぁ、まったくどう思う?」

 

「ふむ、今日の一件かね?」

 

「当たり前だ」

 

 男は憤慨した様子でカクテルを煽る。喉を通る液体が、おいしいはずなのに苦々しく感じる。

 

「なんだ、あの不抜けは? 覇気がない、気合いがない、まったくもって腹立たしい」

 

「私もそう思うが・・・」

 

 もう一人の男は言葉に詰まる。

 

 確かに、今日の『彼』は何処か元気がなかった。何時も通りのポーズに何時も通りの名乗りだったのに、何時も通りの『気合』が入っていなかった。

 

「あいつは! あいつは解っていない!! 自分が何かを!」

 

 声が上がっていく。無念とか悔しさとか、あるいは彼にかけた思いがそうさせるのか。

 

「まあ、まあ、落ち着きなよ」

 

「落ち着けるか! あいつはナンバーワン『役』なんだぞ!! ヒーローのナンバーワンが強くあらねば! 貴様だって張り合いがなかろう!」

 

 グッと肩を掴まれ、言葉に詰まる。言われていることは解るのだが、彼と自分たちでは年季が違う。

 

 彼は今年、卒業したばかりの新米。対して、二人は十年以上の経験を積んだベテラン。

 

「私達の昔も、そんなものじゃなかったかい?」

 

 今度はもう一人が黙る番だった。

 

 確かに、昔の自分達はがむしゃらであっても、『スキル』があったわけじゃない。毎日、苦悩しながら、何度も読み合わせをして、鏡の前で演技の練習をして、今のように『この役ならば』といわれるようになった。

 

「しかしだ!」

 

「まあまあ、『エンデヴァー』、少し落ち着きなよ」

 

「しかしだな、『オール・フォー・ワン』。あいつは、主役なんだぞ!」

 

「主役でも、新人さ。だから、僕らフォローしていい作品に仕上げる。そうじゃないか?」

 

「むぅ」

 

 穏やかに背中を叩くオール・フォー・ワンに、エンデヴァーも何も言えずに口を閉ざす。

 

 新人の頃、演技について先輩から怒られた。気合を入れろとか、もっと作品の心を知れとか、意味が解らないことも言われた。

 

 反発もした、やってられるかと投げ出しかけたこともあった。

 

 でも、どうにかやり遂げたら、『よくやった』と褒めてくれた。出来上がった作品を見て、主役とか脇役とかどうでもよくなった。

 

 ただ、嬉しかった。

 

「今回の作品は、彼がナンバーワンになるまでの物語。僕が巨悪として彼の前に立ち、君は彼を追いかけるナンバーツーとして、同じ側のヒーローの壁としてだっただろ?」

 

「確かにそうだが、あいつの気合いが足りん」

 

「人間、そう簡単に成長しないさ」

 

 再びポンポンっと背中を叩かれ、エンデヴァーは再びカクテルを煽った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重圧というのは、何時の世も付いて回る。

 

「はぁ」

 

 彼はスマフォの画面を見ながら、溜息をついた。

 

 最初に話を貰った時、純粋に嬉しかった。

 

 ベテランばかりの中の新人一人、大抜擢だと友人たちも祝福し、それだけの実力があると自分自身も信じて、そして自分自身の浅はかさを実感した。

 

 何が大抜擢だ。実力も経験もない新人が、主役を張るには重すぎた。何度も撮影を繰り返し、その度に注意しては周囲のベテランからアドバイスをもらって、それでも上手くできない。

 

 どうして、どうやって、何度も自問して練習しても理想とする姿から、遠ざかってしまう。どうやればいい、どうすればいいと何度も繰り返す。

 

 上手くいかない、上手く出来る自信がない。その結果、今日はベテランで今まで支えてくれた二人から、盛大に説教を貰った。

 

 『そんなふぬけた態度なら辞めてしまえ』と、激怒されてしまった。

 

「はぁ」

 

 スマフォの画面に再び目を落として、どうしようと考えてしまう。

 

 行ったほうがいいのか、それとも用事があるとお断りした方がいいのか。もう十分も悩んでいるのに、答えが出ずに立ち尽くしていた。

 

 『待ってるよ、ここね』とのメール。末尾にハートマークとかついているとか、あの人らしいと笑うべきか、それともこんなにフレンドリーなのに、役に入ると見事な悪役になるのは、どういうカラクリなのか。

 

 いや、あれがベテランか。役を与えられたら、どのような役でも十全以上に演じてみせる。

 

 いつか自分もああなるのか。まったく自信がない、そうなれるなんて自信もないのに。

 

「行かない方がいいよな」

 

 結論を出し、断りのメールを送ろうとしたとき、再びメールが入ってきた。

 

 『待ってるよ、僕らのナンバーワン』。 

 

 グッと指が止まり、続いてふっと笑ってしまう。まったくあの人は、人を乗せるが上手い。どんな役でも千変万化に演じてみせる、大ベテラン。一たび役に入りこめば、それを十全以上に演じてみせる、多重人格を疑われた大俳優。

 

 彼が誘うなら、彼がそう望むならば彼に相対するような存在になろう。

 

 そうだ、自分が何者か、思い出した。

 

 悩むことなんてない、悩みなんて些細なことを笑ってやろう。 

 

 自分は、ナンバーワン。その役を与えられた、『オールマイト』なのだから。

 

「行くか」

 

 颯爽と笑って歩きだした。

 

 そして、ドアを開ける。重厚で入る人を阻むような扉、それがバーの扉であること。昔のバーは、秘密の場所だった。そこでのことは、決して外に漏れない。

 

 昔、バーの中では警察と強盗が一緒に飲んでいたらしい。 

 

 そんな話を思い出し、フッと笑ってしまう。今まさに、ここではヒーローとヴィランが一緒に飲もうとしているのだから。

 

「来たな! ナンバーワン!」

 

「遅かったじゃないか」

 

「すみません」

 

 小さく謝罪を口にしながら、二人の間、一つだけ空いている席に腰を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからおまえは気合が足りん! もっと胸を張れ! もっと前を向け!」

 

「は、はい」

 

 バシンバシンと何度も背中を叩かれて、もう何度も頷いているのに、彼は許してくれない。豪快に叫び、豪快に動いて、もう役通りの人柄だというのに、その表情は何処か子供っぽい。

 

 ギャップ最高ーエンデヴァー、なんて世間で言われていることを彼は知らないのだろうか。もしかして、知っていながらやっているのか。それも俳優として必要なことなのかもしれない。

 

「ちなみに、彼は素だよ」 

 

「なんですと?!」

 

 不意に告げるオール・フォー・ワンの一言に、オールマイトは凄い勢いで叫んでしまった。

 

 あれが、素。豪快に飲んで、人に話しかけ、酔っぱらって笑っているのに周りが迷惑って顔をしていない。それどころか、周囲の人を巻き込んで騒ぎは大きくなっていく。

 

 見知らぬ相手に話しかけ、色々な話題を振って大笑いして、最後には肩を組んで酒を飲んでいる。

 

「な、なんたるコミュ力」

 

「あ、うん、彼はね、こう人当たりがいいというか、周りを巻き込まないといけない宿命を背負っているというか」

 

「あ、あの、どういう?」

 

「ライブ会場に突撃して、ライブしているバンドに混ざって、ボーカルと一緒に歌って一万人を動員したこともある」

 

「はい?」

 

 何それとオールマイトが隣を見ると、闇を背負ったオール・フォー・ワンが項垂れていた。

 

「もうね、僕らは同期で一緒にやっているんだけどね、彼が馬鹿をやる度に連絡が来るのさ。はは、夜中の二時に『すみません、エンデヴァーがまたお祭りです』なんて言われて、僕はどうすればいいんだろうね。次の日、四時入りなんだよ、そんな中に二時に起こされてどうすればいいって言うのさ」

 

「お、オール・フォー・ワン先輩」

 

「いいかい、オールマイト、友人は選ぶべきだ」

 

 鋭く、今までドラマの中で相対した時も見たことがない、マジな目線を向けられ、オールマイトは光速で頷いた。

 

「どうしたどうした?! 夜はこれからだぞ皆の衆!」

 

「皆の衆!?」

 

 いきなり言ったエンデヴァーの古風な言い回しに、オールマイトが驚愕する。英語交じりの日本語を話していたのに、どうしてそんな言葉を選んだのか。

 

「彼、あの格好で、『時代劇志望』だからね」

 

「え?」

 

「侍になりたいから、が役者を目指した理由だよ」

 

 意外な理由がオール・フォー・ワンの口から語られた。

 

 え、あのヒール・ヒーローならばこの人以外にいないと言われる、エンデヴァーが時代劇志望、しかも侍になりたいからって理由はどうなのか。

 

「ちなみに、僕は刑事役になりたかった」

 

「え?」

 

「子供の頃には憧れたものさ、『タカとユージ』に」

 

「ええええ?!」

 

「何の因果だろうね、今じゃ『ラスボス、あるいは巨悪ならば』って、よく言われるんだよね。はぁ、一度でいいから刑事やってみたいなぁ」

 

 まさかの内容を語られ、オールマイトは固まってしまう。どちらもベテラン、二人の機嫌を損ねたらプロデューサーの首どころか、制作会社のトップさえ変わるなんて言われているのに。

 

「飲んでるかオールマイト!!」

 

「は、はい」

 

 いきなり肩を掴まれ、気がついたらジョッキを持っていた。信じられないほどの早業を繰り出すエンデヴァーに、オールマイトは驚愕した。 

 

「行くぞ皆の衆! 今宵は任務を忘れて語り明かそうではないか?!」

 

「おー!!」

 

「え、は、あれ?」

 

「はぁ、今日もオールナイトか。明日、ドラマの撮影があるんだけどねぇ」

 

 深々と溜息をつくオール・フォー・ワンは、ゆっくりと店内を見渡した後、カクテルを頼むのを止めた。

 

 あ、これは一人は素面じゃないと、収拾がつかない、と。

 

 そして目の前で思いっきり酒を飲まされているオールマイトに、暖かい目線を向ける。

 

 彼、明日、主役の過去話の撮影があったはずなんだけどなぁと思いつつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハハハハハ!! 私が来たぁぁ!!』

 

 とある日の撮影時、監督はオールマイトの姿に大きく頷いた。

 

「お、どうしたの彼? 今日はいいじゃない」

 

「色々ありまして」

 

「オール・フォー・ワン、何かしたの?」

 

「本当に、色々とありまして」

 

「ふ~~~ん、バーを一店、『飲み干した』って話、知っている?」

 

「色々と、あったんですよ、監督。お願いだから思い出させないでください」

 

 深々と溜息をつき、頭を抱えるオール・フォー・ワンに監督は思う。

 

 あ、またエンデヴァーがやらかしたな、と。

 

「まあいいじゃん、見事に『巨悪として主役を引き立てた』んだからさ」

 

「そうだといいのですが」

 

「間違いなしさ。オールマイト、これからすっごく立派になるよ」

 

「そうなれば、私もラスボスとして嬉しく思いますよ」

 

 そこで二人は軽く笑った。

 

 後日、公開されたこの作品は、興行収益のトップを走り続け、殿堂入りを果たしたのだった。

 

 ただ、そのせいもあり、オール・フォー・ワンはその後も巨悪、ラスボス、の役ばかりが回ってきたという。

 

 エンデヴァーも、ますます侍から遠のいたのでした。

 

 そして、オールマイトは・・・・・・。

 

 

 

 

 

 




 

 という、ドラマの裏側話。

 NGシーンとか入れようかと考えても、今のサルスベリの実力では無理なので、こういった話となりました。

 ドラマの中では巨悪で周囲に絶望を与えている存在が、ドラマ以外では周囲の混乱を収めているとか、楽しそうだなぁって思いました。

 そんな、オール・フォー・ワンが苦労するって話風味でお送りしました。






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特殊効果を受け付けない耐性を持っていながら、追加効果を忘れて直撃したらしい



 二月のイベントが終わった。

 残りは入学イベントまでまっしぐらだ!

 なんて考えていた時期が私にもありました。

 凄い重要なこと、忘れていました風味です。






 

 

 世界は何時だって冷たい、どんな状況であっても、相手が誰であっても、例え幸福の最中であっても、現実の非情さを刻みつけてくる。

 

「ダメだ、エリ」

 

 治崎はゆっくりと膝をつき、彼女の目線に合わせる。

 

「モンスターは封印されるべきだ、解るな?」

 

「で、でも」

 

「ダメだ」

 

 少し強めに伝えると、彼女は小さく俯いて頷いてくれた。

 

「すまない、エリ。だが、どうしても、ダメなんだ。『オヤジ』にこれを見せるわけにはいかない」

 

 彼女が持っているものを受取、厳重に封筒に収める。 

 

 絶対に渡すわけにいかない。何があっても隠し通さなければ。もしこれでオヤジに嫌われることになっても、絶対にだ。

 

「治崎、何してんだ?」

 

 ビクッと体が震えた。どうしてここにいる、今日は会合があって遅くなるはずじゃないか。

 

「なあ、おまえ何を持っているんだ?」

 

「お、オヤジ」

 

 ゆっくりと振り返り、悟られないように背後に隠して立ち上がる。

 

「いえ、何も」

 

「そうか。おまえ、俺に隠れて何か『シノギ』してんじゃないだろうな?」

 

「まさか、俺はオヤジの道を歩いていますよ」

 

「・・・・・エリちゃんは?!

 

マジ天使!!

 

 

 間髪入れずに答えると、オヤジは満足そうに頷いた。

 

「解った、信じてやろう」

 

 ホッと安堵し治崎・廻は一礼して立ち去ろうとした。

 

「ところで、おまえさん、エリからバレンタインのチョコは貰ったのか?」

 

「もちろんです。トロフィーにして飾ってあります

 

「そうか、俺は額縁に入れたぜ

 

 満足そうにうなずく二人、傍らから見たら完全に変態だったが、本人達は至って真剣だった。

 

「なら、次は・・・・・」

 

 オヤジの言葉に、治崎は一気に血の気が引いた。

 

 馬鹿な、忘れていただと。自分としたことが失態だ。ありえない、まさか自分がそんな些細なミスを犯すなど。

 

 そして、彼は再び世界を呪った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いい日、旅立ち。

 

 ああ、まったくチョコが貰えないバレンタインが終わった。終わってしまったんだ、なんてな! 

 

 フフフフ、どうも皆さん、田中・一郎です。

 

 俺が一個も貰えないって思った? まさかぁですよ、俺はきちんと貰いましたよ。

 

 誰にだって? 誰だと思う?

 

 艦娘だよ、いいだろ、家族チョコだよ、この野郎。

 

「チィ」

 

「一郎、これをやる」

 

「見そこなうなよ、弔。俺は施しはうけん!!」

 

「そうか・・・・・ヒミコの気持ちは届かないか」

 

「なんだって?」

 

 小さな声で言うなよ、気になるじゃないか。まったくさ、コナンの魔法の言葉も効果ないし。ヒミコちゃんにはあれからずっと避けられるし。

 

 踏んだり蹴ったりだな。

 

 今日は平和な一日で終わるといいなぁ。

 

「我が師よぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 儚い願いだったなぁ(泣)。

 

 いきなり扉を蹴破る勢いで入ってきた廻に、俺は泣きながら顔を向けたのでした。

 

「どうした?」

 

「弔、おまえさ、店の扉半壊してんだけど?」

 

 なんでそんなに冷静なのさ? 店、壊されてんだぞ?

 

「廻があれだけ焦っているなら、何かあったんだろう」

 

 おまえの優しさ、時々さ、本当に心配になるんだよ。なんでそんなに優しいわけ。

 

「我が師よ!! お聞きください! どうかこの愚かな弟子に教えを!」

 

「いや、俺は君を弟子に取ったつもりはないから」

 

「三番弟子に慈悲はないと?!」

 

「いや、一番も二番もないから」

 

「爆豪とデクがそうなのでは?」

 

 へぇ~~~何時からそうなったのさ。

 

 マジで顔を傾げて疑問を浮かべる廻に、俺は盛大に突っ込みを入れたくなった。でも、入れたら負けな気がするので止めた。

 

「それよりもです!! 私は失敗しました。由々しき事態です、取り返しのつかない失敗を、私は!!」

 

「え、はい、何があったの?」

 

 なんか焦っているけど、こう言う時の廻って焦る理由がエリちゃん関係だから、今回もそうじゃないかな。

 

「申し訳ありません。私は、私は『ひな祭り』を忘れていたのです!」

 

「なんだと?!」

 

 え? あれぇ~~なんでそこでギルが激怒して立ち上がるかな。さっきまで店の一角にソファーなんて置いて、のんびりうたた寝してたじゃないの。

 

 弔、あれは怒っていいと思う。お客さん達も、『ギルさんじゃ仕方ない』って言ってくれたからいいけど、営業妨害で怒っていいと思います。

 

 怒らなかったけど。

 

「貴様! 今、何と言った?!」

 

「英雄王、私はもはや取り返しのつかない失敗を」

 

「貴様ぁぁぁぁ!! 失敗だと?! 貴様はここで死ぬか?!」

 

「お、御許しを。私はモンスターの封印に全力をかけていたのです」

 

「モンスターだと?」

 

「誠に遺憾ですが、他に形容のしようのない『あれ』です」

 

 え、何、あれって何さ。

 

 俺が疑問を浮かべる中、激昂していたはずのギルの怒りがさらに上がり、やがて蒼白になった後、小さく肩を落とした。

 

 え、マジ、ギルが止まったの?

 

「ク、我は何も言えぬ。納得は出来ぬが、理解はできる」

 

「はい。私も納得などしていません。しかし! あれは世界を壊す存在、まさにモンスターと呼ぶしかないと」

 

「無常とはこういうことを言うのか。英雄王である我が、こうも引き下がるしかないとは」

 

「世界は冷たいものです。それは貴方が最もよくご存じのはずです」

 

「虚しいな」

 

「はい」

 

 ギルと廻が項垂れているんだけど、何の話なんだろう。

 

「弔、何の話か解る?」

 

「ああ、あれは恐ろしいモンスターだからな」

 

「恐ろしい?」

 

 え、そんなのいたかな? 俺が知らないけど、皆は知っているってことか。何時の間にそんな恐ろしい存在と戦ったのさ。

 

「恐ろしかった。誰もが血の海に沈んでしまったのだから」

 

「え、それってまさか」

 

「ああ。『猫耳』だ」

 

 そっか、そうだよなぁ、うんうんよく解ったよ。あれはモンスターって言うしかないよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話を戻して。廻さ、雛祭りがなんだって?」

 

「はい、実はエリのひな人形を用意していません」

 

 え、あれ、今が二月の月末だから、そろそろ飾らないといけないんじゃなかったっけ?

 

 俺の鎮守府じゃ、艦娘達が気合入れて飾ったから。もうね、鎮守府の入口に三十メートルのお雛様が飾ってあるわけだ。

 

 見た目がひな人形だけど、俺は騙されない。あれは絶対にエルが関わっているロボットだ。

 

 しかも、雛壇まであるから、鎮守府の建物が小さく見えるったらもう。

 

「治崎・廻よ。貴様それでも同盟の末席にいる者か?」

 

 鋭い眼光で睨みつけてくるギルに、治崎はその場で膝をついた。

 

「申し訳ありません」

 

「言い訳はいい! 今すぐにどうにかせよ。できなければ、貴様は除籍とする」

 

「そ、それは! お待ちください英雄王! 私の誓いは未だ衰えることなくあります! 此度の失態を挽回し必ずや我が信念を示してごらんにいれます」

 

「ならん!!」

 

 うわ?! え、え、ギルの本気の一喝だったんだけど、そんなに重要なこと。いや待った、その前に同盟って何?

 

「ギル、あのさ、何の同盟?」

 

「決まっている、『紳士☆同盟』だ」

 

 へぇ~~~~紳士ね、そっかそっか。あれ、紳士?

 

「自らが愛でる存在を見護り、自らが敬愛する存在を育て、その行く末を見守る。高貴にして清廉潔白、ただただ愛し見守る、そういった紳士達の同盟です、我が師よ」

 

 え、そうか。廻が胸に手を当てて誇らしげに語るんだけど、それってつまりあれだよな。

 

「ちなみに、合言葉は?」

 

「フ、我は『ユニコーンに殉じ、ユニコーンに生きる』」 

 

「私は『エリちゃんのための天使であり女神という言葉』です」

 

 あ、解った。いいや、もうその話は終わり。つまり、変態紳士同盟ってことね。よく解ったよ、うん。

 

「ちなみにだが、この同盟の参加者は多い」 

 

「へぇ~~」

 

 あれ、でも誰なんだろう。エルとかソープは違うし。

 

「ちなみに僕は『ロボット娘は可愛いに決まっている』です!」

 

「『可愛いは正義、幼子に勝利を』にしてみたから」 

 

「裏切り者どもがぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 なんで普通にエルとソープも同盟に入ってるんだよ! 絶対に違うって信じてたのにさ! 

 

「アインズは違うよな?」

 

「残念ながらな」

 

 本当に悔しそうにつぶやくギルに、ホッと俺は安心した。

 

「あいつは歌のために生きる求道者だからな」

 

 予想通り過ぎて、逆に安心できるって、俺もかなり精神的に危ないのではって思ったよ。

 

「『息子が可愛過ぎて、怖い顔してメディアを遠ざける』」 

 

「え、誰それ?」

 

「本名では登録しておらぬが、確か『エンデヴァー』と名乗っていたな」

 

 た、確かナンバーツーのヒーローでヒールとかヴィランじゃないかって、言われている人がそんな名前だったような。 

 

 きっと同姓同名で別人だよ、きっとね。

 

「我が師よ、どうか私にエリのためのひな人形を授けてください」 

 

「治崎!!」

 

 ギルの怒声が飛ぶ中、彼はゆっくりと膝を折り、頭を床につけた。

 

「貴様、そこまでというのか?」

 

「もちろんです、英雄王。私のプライドも、未来も現在も、過去さえも。すべてをかけても、エリのためにひな人形を手に入れる。全部をかけて、命さえもかけても。それだけは私は譲れない」

 

「そうか、どうやら我の目が曇っていたようだ。貴様は今も立派な紳士だ。見事、『愛すべき存在(エリちゃん)』のために、よくぞそこまでと認めてやろう」

 

「英雄王、解っていただけましたか?」

 

「ああ、この王の中の王が認めてやろう。貴様はまさに紳士に相応しい、と」

 

「おお!!」

 

 あ、うん、そっか、そうだね。

 

「なあ、弔、俺が変なのかな?」

 

 これって何の茶番って思っているんだけど、弔。あれ、弔がいない。

 

「廻、少し待っていろ。俺の包丁に不可能はない」

 

「すまない、弔。おまえの気持ち、確かに私が受取、必ずエリに届ける」

 

「フ、そんなに上等なものじゃないさ。けどな、俺はおまえの熱意に答えたい。おまえの対応策()がないなら、俺がやる。だからその後は任せた」

 

「ありがとう」

 

「がんばろうな」

 

 嬉しそうに笑う弔に、廻は大きく悲鳴のような歓声を上げたのでした。

 

 あれ、これって俺が悪いのか。冷たいのか。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 必死に努力した。寝る間も惜しみ、食事も惜しんだ。絶対に退けない戦いに身を投じたことを後悔していない。

 

 誰もが苦しい表情一つせず、ただ黙々と自分に出来ることをしていた。 

 

 ただ一つの目標のために。

 

 次は君の番だと告げるために。

 

 一人の少女のために作り上げたものは、全員が満足の出来るものばかりで。 

 

 治崎・廻はそれを手に、真っ直ぐに立ち向かう。

 

 理不尽に、世の中の冷たさに、世界の過酷さに。

 

 大丈夫、君は愛されていると伝えるために。

 

「エリ、待たせた」

 

「どうしたの?」

 

「ひな祭りを知らないか。すまない、私は君に教えてなかったようだ。世界には女の子が主役になれる日がある。それを教えていなかったようだ」

 

 優しく手を握り、そっと案内した先にあったのは、絢爛豪華なお雛様。

 

 英雄王さえ宝物庫を開き協力した人形たち、死柄木・弔渾身の食べられるお雛様も添えられた部屋へと案内し、廻はエリの背をそっと押した。 

 

「さあ、今日の主役は君だ。存分に楽しむといい」

 

「あ、ありがとう」

 

「フフフ、礼は不要だ。これが私たち『紳士』の役割なのだから」 

 

 満足そうに頷き、廻は指を鳴らす。 

 

 スッと室内に入ってきたのは、お手伝いさん達。手に持ったのは桐のタンスに入った着物。

 

「さあ、エリ。これに着替えて私に見せてくれないか? 世界で最高に可愛く天使な君のひな祭りを」

 

「はい・・・・・・でもいいの?」 

 

「もちろんだ。女の子が主役の今日、君が着物を着るのを邪魔する者はいない」

 

 自信を持って答える廻に、少しだけエリは戸惑いつつ周りを見て、そしてギュッと服の裾を握った。 

 

「でも」

 

「サイズを心配しているのか? きちんと君に合わせてある。それとも、色合いが気になるのか? 複数の配色の着物も用意してある。好きなものを着るといい」

 

「違うの」

 

「何が違うのか?」

 

 廻は戸惑い、彼女の前に片膝をついて目線を合わせた。

 

 エリは服の裾を握ったまま俯いていたが、やがて顔を上げて真っ直ぐ見てから口を開く。

 

「今日、2月28日だよ」 

 

「・・・・・・・・・・私も詰めが甘かったなぁ」

 

 そうして彼は志半ばで倒れたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの馬鹿が」

 

 組長は一人、自分の部屋で治崎・廻のことを呆れたように告げる。

 

 最高のタイミングでひな祭りを祝うつもりだったのに、先走って勘違いして暴走した結果、エリに余計な気を使わせた。

 

 まったくもってあいつは詰めが甘い。

 

「それに、な。俺にはエリの可愛さの耐性があるんだぞ。今更、『猫耳』程度で揺れるかよ」

 

 会長の手には治崎・廻が封印したはずの封筒があった。

 

 ゆっくりと中から引き出されるのは、一枚の写真。あの時、大騒動になった時の猫耳を映したものだが。

 

「・・・・・まったく」

 

 写真を眺め、会長は軽く笑った。

 

「治崎、おめぇは俺のことをよく理解しているぜ」

 

 猫耳程度で揺らがない。

 

 しかし、だ。その写真に写っていたのは、『猫耳だけじゃなかった』。

 

「まさか、メイド服たぁ恐れ入ったぜ」

 

 そして彼は血の海に沈んだのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「田中少年、最近エンデヴァーが優しいのだが、何か知らないかね?」

 

「ごめんなさい」

 

「いや、君の土下座が見たいわけじゃないんだが」

 

「すみませんでした」

 

「何があったというんだ?」

 

 俺は後日、オールマイトからの質問に、速やかに謝ったのでした。

 

 

 

 

 

 






 入学編前に、やっておきたいひな祭り事変!

 女の子は無敵の日って誰かに言われて、なら『エリちゃん無双』にしなくちゃって思ったけど、ギャグにしなくちゃって使命感に染まって。

 結局、エリちゃんに罪はないから治崎に染まってもらった。

 ザ・勘違いアンド暴走って風味でございます。







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理想のために、夢を追いて、他が為の

 

 真面目な話にどうしてもなってしまうものだろうか。

 ギャグってどういうものを言うのか。

 誰もがプッと笑える話って何なのか。
 
 色々と考えてみた結果、暴走すればいいって結論にでるわけですよ。

 そんな風味ですので、はい。





 

 

 

 四月も過ぎた今日この頃、皆さまはいかがお過ごすですか?

 

 なんて真面目な挨拶から始めてみました、田中・一郎です。

 

 今、非常に空気が重いんですよ。

 

 もうめっちゃくちゃ、重い。まるで鉛、いやこの感触はオリハルコンか。触ったことないけど。

 

 原因は一つだけ、爆豪君とデク君がカウンターに座ったまま無言なんですよ、もう険しい顔して無言なんです。

 

 普段だったら、もっと色々な話をしてくるんですけどね。

 

 今日は何があったんだろう。

 

「・・・雄英に入学して、最初の授業か」

 

「おお、月日が経つのは早いなぁ。え、で、これ?」

 

 俺が親指で二人をさすと、弔は大きく頷いた。

 

 ということは、雄英で何かあった。いや、まさかって俺は反論しかけて思い直す。いや、あの入試で二人を狙い撃ちした雄英だから、何かしたんじゃないか。

 

 まさか、根津校長とオールマイトが二人に対して何か罰則でも。いや、そういうことする人たちじゃない、って思いたいけど。

 

「調べるか?」

 

 コナンがそっと提案してくれたことに、俺は頷きかけて。

 

「私が先生として来たぁぁぁぁ!!!」

 

「原因、知っている人が来たから教えてもらおうぜ」

 

 クールに決めて言ってみた。

 

 すっごい寒い目で皆が見てくる。いいじゃん、たまにはカッコつけさせてくれよ。

 

「すまない、田中少年、死柄木少年、少しの間、店を借りてもいいかね?」

 

「構いませんよ、オールマイト。そちらは?」

 

 弔の声に、オールマイトは少しだけ脇にそれて、背後にいる人物を手で示した。

 

「こちら、相澤先生だ。二人の担任だよ」

 

 ガタンと爆豪君とデク君が立ち上がり、先生を見つめた。

 

 ちょっと、険悪な雰囲気なんだけど、えっとどういうこと?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 原因の発端は、二人の個性について。

 

 雄英の初日、他がオリエンテーションとかやったり、授業の説明とかしている中で、運動テストしたらしい。

 

 各自の運動神経を計測して、これからの授業活動の参考にするって。

 

 うん、これだけ聞けば普通の学校みたいに聞こえるけど、これに『個性を使って』って着くと、さすがヒーロー校って思えるよ。

 

 で、カウンターの雰囲気がさらに重い。

 

 殺気交じり、怒気交じり? いや、爆豪君とデク君のほうは必死に抑えているようだけど、相澤先生の雰囲気がとてつもなく冷たい。

 

「初めまして、1年A組の担任をしている相澤・消太といいます。噂の『第三勢力』のトップ、田中・一郎さんですね?」

 

「はい?」

 

 え、待って、ちょっと待って。何それ、第三勢力って何? え、俺って一大勢力に数えられているの。

 

 まっさかぁ、そんなわけある・・・・かぁ。

 

 俺は今までの出来事をすべて思い出して、頷くしかなかった。

 

「なるほど、肯定すると? 貴方達の目的をうかがっても構いませんか?」

 

「目的ねぇ」

 

 え、普通に穏やかに生活したいってだけですよ。もう本当に、毎日が平穏なら俺はそれでいいのに。

 

「話すことはない、ということですか?」

 

「それはね」

 

 え、あれ、なんで相澤先生が鋭く見てくるのさ。え、俺の言葉が悪かったの、素直に言えばよかったの。だって先生って話せる雰囲気じゃないでしょうが、その険悪な気配を引っ込めてからにしてよ。

 

 オールマイト、どうにかして。

 

 俺が期待を込めて見つめると、彼は小さく首を振った。

 

 あれ、無理ってことね。 

 

「一郎に話があるなら、俺を通せ」

 

「君は?」

 

「死柄木・弔。ここのシェフだ」

 

 一瞬、二人の目線が火花が散った気がした。気のせいだよね、そんな一触即発って雰囲気じゃないよね。

 

 ここは、平和な飲食店、普通に穏やかな午後なんだからさ。

 

「弔、落ち着けって、それじゃ話ができない」

 

「けどな」

 

「大丈夫だって。相澤先生、俺達の目的が知りたいんですか?」

 

 よっし、ここは俺が一肌脱ぎましょう。

 

「それもありますが、二人の『訓練の内容について』も伺いたい」

 

「二人のね」

 

 そっちとなると、コナンを呼ぶしかないか。あれ、でもコナンに説明させると相澤先生が『子供が』とか言わないよね。

 

 えっと、そうなると俺が言うしかないか。

 

「二人の訓練については、各自に任せているので。理想とするヒーローにするために、色々と教えたみたいですよ」

 

「そこです。貴方は、二人に『能力を制限しろ』と命じましたか?」

 

「はい?」

 

 え、そんなこと言った気はないけど。

 

「待ってくれ先生! あれは俺たちが勝手にやってることだ!」

 

 うぉ?! 爆豪君、いきなり怒鳴らないでくれよ、びっくりした。

 

「そうです! 僕とかっちゃんで決めたことなんです!」

 

 デク君まで熱くなっちゃって。あれ、となるとそこで先生と激突したの、なんで、あれ個性も使った運動テストだよね?

 

 制限って何?

 

「勝手に『個性を使わず』にテストを受けたというのか? 合理的じゃないな」

 

「合理的がすべてじゃねぇ。ロジカルだけを追い求めても、結果的に救えないことの方が多いだろうが。理屈だけで世界を回せるほど、この世界はシンプルに出来てねぇだろうが」

 

 爆豪君?! 口調口調! 相手は先生なんだからせめて敬語を使って、お願いだから。

 

「合理的判断によって被害が少なくなることはあります。けれど、人間のメンタルにおいて合理的判断は特に被害者に対して、絶対的な圧迫感を与え、かえってトラウマを深く印象付けることもあります」

 

 デク君、冷静に語っているようで敬語を使っているけど、その目線はちょっとまずいって。なんでそんなに睨むように見ているのさ。 

 

 本当に何があったの、二人とも。他人に対して、そんなに辛く当ることってなかったじゃないの。

 

「確かにそうだが、合理的判断は常に事態を効率よく進める。非効率的な動きによって救える命の数が少なくなることもある」

 

「救える命の数じゃねぇ! 絶対に救うんだよ! 全部な!」

 

「最初から救えないことを念頭において活動するのが合理的判断なら、僕らには必要ありません。全部を救う、そのための力ですから」

 

「非合理的で非現実的だな」

 

「最初から逃げ腰になった奴が何言ってんだよ!」

 

「先生は合理的合理的と、物事の基準を語っているようで、合理的って言い訳をして逃げているようにしか聞こえません」

 

 お~~い、二人とも熱くなるなって。相澤先生も口調は平坦だけど、何かムキになってないか。

 

「なるほどな。だから、お前達は個性を使わなかったってことか?」

 

「使っただろうが!」

 

 爆豪君、ちょっと落ち着こうか。今にも噛みつきそうな顔してるの、止めようね。この人、先生だからね。

 

「ああ使ったな。あれで全部じゃないだろうが、違うか、『シンガー・ボマー』?」

 

 挑発的な目線を向ける相澤先生に、爆豪君の怒りが上がった。スッと立ち上がって拳を握る。

 

 めちゃくちゃ怒っている。でも思考は凄く冷たい。

 

「先生、その名前は俺達が名乗ったもんじゃない」

 

「そうらしいな」

 

「だから、だ。先生、その名前は俺たちにとって『勲章(理想)』だ。俺たちが助けた人たちが名付けてくれた名前だ。それを」

 

 二人がそれを誇りにしているのは知っている。自分で決めたんじゃない、多くの人が二人の姿を見て決めた名前は、二人にとって自分達がヒーローである証みたいなもの。

 

 多くの人の願いが詰まった、大切な宝物だ。

 

 でも、ね。

 

「爆豪君、それは駄目だ」

 

「けど一郎さん!!」

 

「確かに君たちの勲章みたいなもんだ。だからこそ、それは『君たちの自由にできるもの』じゃない。多くの人が口にできるもので、それを誰がどう使っても君たちが怒る権利はない。もしあるなら、それが悪用された時だけ」

 

 気持ちも解る、爆豪君が怒ったのは、自分が安く見られたことでもなければ、弱く見られたものでもない。

 

 『シンガー・ボマー(みんなの想い)』が低く見られたこと、だ。それが許せなかった。 

 

「多くの人が想いを重ねた名前は、同時に皆のものでもある。それは、相澤先生にも権利がある。君が怒る筋合いじゃない」

 

 冷たくて辛いことを言っているようだけど、これは超えてはいけないことなんだよ、爆豪君。

 

 君たちが勝手に決めたことを、決意は固いことを示すために。

 

「?! 解りました」

 

 グッと唇を噛んで、爆豪君は席に座った。

 

「先生、お願いしますから、子供を煽らないでください。貴方だってまだ現役のヒーローでしょうが」

 

 まったくもう、これってオールマイトの役目じゃないのかな。なんで俺が言うことになってるのさ。

 

「貴方は二人からかなり信頼されているようですね」

 

「二人はいい子ですから。俺なんかのことをかなり慕ってくれていますよ」 

 

「だから、利用した、と?」

 

 あれぇ~~~何でそうなるかな?

 

 あ、待った!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまえ、死ぬか?

 

彼方へ飛ばしてあげましょうか?

 

雑種が

 

面白いことを言う人ですね、消えますか?

 

へぇ~~~次元の挟間に落としてやろうか?

 

無慈悲な死を与えてやろう

 

 待った、本当に待ったおまえら!

 

「コナン!」

 

「じゃますんなよ、マスター。こいつは、超えちゃいけない一線を越えたんだよ

 

「ちょっと待った! なんでおまえまで怒ってるんだよ! 何時ものジョークとして流そうぜ!」

 

 なんで全員がフル装備で相澤先生を囲んでるのさ?!

 

 何時の間にオールマイトと爆豪君やデク君を店の端に飛ばしたの! 本当に待って! ただの冗談、ほら冗談。

 

「よっし、落ち着こうか、皆」

 

 ヤバい、俺の後ろで艦娘達が全員艤装を纏っているのが解る。トッティちゃんとトルテ君も種族全部を連れてくる気になっている。

 

 不味い、本当に不味い、ここで全力戦闘になったら。

 

「個性が消せない?」

 

「残念ながら、おまえの個性で消せるほど、小さな能力を持った奴はここにはいないぜ、『イレイザーヘッド』」

 

 こ、コナンがマジギレしている。え、なんで、待って、どうして。ギルもエルも、ソープもアインズも、なんでそこまで怒っているのさ。

 

 弔と黒霧はそんな気がしていました。俺への忠誠心って高すぎません?

 

「話中、俺と相澤先生のお話の最中だから、全員撤収。命令」

 

 念を押して告げると、全員が顔をしかめて舌打ちして退いてくれた。良かったぁ、一応まだ提督としての命令権が生きてた。

 

「とりあえず、利用したことないですから」

 

「・・・・・あれだけの人員がいながら、爆豪と緑谷に何をさせたいんですか?」

 

「二人が望んだことをそのまま叶えられるように、俺達は手助けしただけです。ヒーローとして、助けてと言ってくる人達を救えるように。ただそれだけですよ」

 

「まさか、本当にそれだけだと?」

 

 嘘はついてない。本当のそうなんだよ。

 

「相澤先生、気が済んだかね?」

 

 オールマイト、もっと速く動いてくださいよ。なんで俺が寿命を縮めるようなことになってんですか。

 

「すまないね、田中少年。相澤先生がどうしても君に質問したいと言ってきかなくてね」

 

「質問って、俺の目的とか?」

 

「いや、爆豪少年と緑谷少年の件だよ。二人は今日のテストでコスチュームも艤装も使わなかった」

 

 あ、そう言うこと。だから制限って話になったわけね。

 

「貴方が二人に言いくるめたのかと疑いました。二人の能力は素晴らしいものがある。確かにあの個性を使わなくとも、今日のテスト結果は二人の独走状態でした。しかし、私から見たら」

 

「手を抜いているように見えたってことですか?」

 

「はい。事件は常に危険と隣り合わせだ。手を抜いていいとか、手加減してどうにかできるなんて甘いものじゃない」

 

 なるほどね。そっか、そっか。

 

「それでもし二人に危険が及んだからって考えたわけですね、相澤先生」

 

 ハッと、爆豪君とデク君が目を見開いた。

 

 まだまだ二人も甘いな。救う相手の心も救えるように、なんて頑張っていてもこういったことで人生経験の差が出てくる。

 

「二人とも、相澤先生は天の邪鬼なんだよ。言ってること、やっていること、その根っこのところには、『二人が大切で仕方がない』って想いがある。見抜けないようじゃ、まだまだヒーローには程遠いな」

 

 と、カッコつけてみた。うん、これだけなら俺ってあの人達を目指せるかなって思うんだけど。無理かな、無理だよな。

 

「先生、悪かったよ」

 

「ごめんなさい、先生。僕たちはまだまだ未熟でした」

 

 素直に頭を下げる二人に、相澤先生はどうにも少し照れたような顔をしていた。

 

「とにかく、二人に何も言ってないんですね?」

 

「もちろん。俺達はデク君と爆豪君が『無茶なヒーロー活動して死なないように』鍛えたつもりです」

 

「なるほど」

 

 小さく頷き、相澤先生は小さく頭を下げた。

 

「どうやら私の勘違いのようです。申し訳ありません」

 

「いえいえ、先生ならそう思って仕方ありませんよ。どうか、二人をお願いしますね」

 

「はい」

 

 そう答える相澤先生は、確かに『教師の顔』をしていた。

 

 うん、オールマイト以外にもこんな人がいるなら二人はいい経験を積めるだろうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 店を後にして、四人は歩く。丁度、帰り道は全員が一緒だったからと歩いている途中で、相澤がふと思い出したように口にする。

 

 ずっと気になっていたことを。

 

「そういや、なんで使わなかったんだ?」

 

 今になって思い出したように口にした言葉に、爆豪とデクは真っ直ぐに彼を見つめ答えた。

 

 あれは、『自分達のための力じゃないから』と。

 

 爆豪のコスチュームも、デクの艤装も、どちらも願いの結晶。多くの嘆きを知った存在が、絶望も慟哭も、地獄の底のような現実を見てきた人たちが、それらを砕いて自由を与えてくれるヒーローに憧れて、そんな存在になってほしいと願いを込めて贈ってくれたもの。

 

「だから、決めたんだ」

 

 爆豪は右手を握り締める。赤と黒のブレスレットが、淡く光を放ちながら揺れる。

 

「この力を使うのは、『誰かの助けてに答えるため』だけにしようって」 

 

 デクは胸元の船のペンダントを握り締める。緑色の輝きを灯したそれは熱く鼓動を繰り返す。

 

 自分のための力じゃない。誰かの絶望の檻を砕き、自由を守るための力だから、どんな状況になっても、例え自分達が死ぬことになっても『自己のため』には使わない。

 

「理想だな。理想すぎる、非合理的だ」 

 

「けど、譲れねぇ。これだけは譲りたくない。何があっても、絶対に譲れねぇんだ。理屈じゃない、馬鹿げているのは解ってる」

 

「僕とかっちゃんの『力』は、無尽蔵に使えば誰にだって負けません。たぶん、どんな相手にも勝てます。だけど、それは同時に僕達の心を『染めてしまう』から。だから、支点が必要なんです」

 

「好き勝手に使う力は暴力だ、先生。誰も彼も傷つけて、最後には自分さえ殺してしまうかもしれねぇ。だから、線を引いた。どんなに感情的になっても、どんなに苦しい時でも見失わないために」

 

「僕たちが、ヒーローが護るものが解らなくならないように。例え、闇の中でも、眩しい光の中であっても、見つけることが出来るように」

 

 二人はそれぞれの『勲章(願い)』を握りながら、真っ直ぐに先生を見つめ答えた。

 

 『絶望を砕く最高の(自由を護る)ヒーロー』であるために、絶対に忘れてはいけないことを刻むために、この力は人々のために使うと。

 

「非合理的すぎる。おまえらはそれでいいと本気で思っているのか? それで倒れたら? 護りきれずに死んだらどうする?」

 

 不機嫌な顔で相澤が告げると、二人はお互いに顔を向け会って笑った。

 

「そんときゃ、デクが助けるさ」

 

「かっちゃんがいるなら大丈夫ですよ」

 

「二人が倒れたら?」

 

 さらに言葉を重ねると、今度は二人は真っ直ぐに相澤を見つめ、拳を突き出した。

 

「取りこぼしなんてしねぇし、させねぇ。そのための『シンガー・ボマー』だ」

 

「『グリーン・シップ』の航路に、倒れるってことはありませんから」

 

 だから、負けません。もし倒れることになっても、悔いはありませんから。そう望んで進んだ道です。

 

 瞳に宿った決意は、相澤にそう告げている。

 

 そして、その背を見せ続ければ後に続くヒーローが必ず現れます。ナンバーワンに憧れた自分達のように。

 

「まったく、非合理的の塊だな、お前らは。明日から、厳しく教えてやるぞ」

 

「はい!!」

 

 元気のいい返事を受けて、相澤は顔を戻し再び歩き出した。

 

「嫌いじゃないな、そういった考え」

 

 小さくポツリと呟いた言葉は、淡く街の中へと溶けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 もう、暴走すれば全部解決さ。どうだい、サルスベリのギャグは?

 何処がどうギャグなのか、解らない?

 安心してくれ、俺もさ。

 といった風味でお届けしました。





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頑張るって素敵だね、切っ掛けはそこにあるからさ、思い込みは大切だよ、そんな話ですよ

 


 感覚に任せて暴走させると、色々と大変なことになるのに気付きまして、もう少し理性を織り交ぜていこうかなぁって。

 そんなわけで今日の仕事の時に気づいたアイディアで、ちょっと色々とやってみようかなぁっと。

 勘違いって素敵だね風味です。 







 

 

 

 雄英に入学して、担任と色々あって、自分自身を振り返って気づく。まだまだ未熟だ、技術は確かにあるのだが経験値がまだ足りない。

 

 最高のヒーローになるために、もっと色々な経験を増やさないと。

 

 爆豪はそんなことを考え、今日も人間観察に勤しむ。

 

 教室のクラスメートの会話、担任の話し方、人の仕草や表情から内心を推し量る。行動心理学は熟読したが、まだまだ実戦レベルではない。

 

 犯罪心理学はまだ手を出したばかりで、知識が足りていないから、もっと勉強しないと。

 

「爆豪、お前は何を読んでいる?」

 

 いきなり相澤先生に言われ、彼は真っ直ぐに立ち上がり答える。

 

「過去十年間の犯罪記録とそのプロファイリングデータです」

 

 当たり前のことを聞く人だな。まさか、何か意図があって。いや、言葉どおりに判断するのは早計だ。彼は天の邪鬼だから、言葉の裏の裏を読んで対応しないと、また失敗してしまう。

 

 彼の一挙手一投足を観察し、彼の表情筋を把握するべきだ。微細な表情筋は演技では誤魔化すことができず、その人の内心に直結している。相手の心を読む上では欠かすことができないスキルだ。

 

 これはデクのほうがうまくやれる。他人の機微を読むのはあいつのほうが優れているから、今までは任せていた部分もあったが。

 

 そこで爆豪は笑ってしまいそうになる。対抗して見下して、遠ざけて馬鹿にしていたのに、今では普通に背中を預けられる。 

 

 今までの自分の行動はなんだったのか。心理学で言えば、自分への強迫観念か、あるいは虚栄心からの行動になるのか。いや待った、今は相澤先生の心理だ。彼が何を言っているのか察しないと。

 

「この問題の答えはなんだ?」 

 

 呆れた顔をしている。なんだ、どういうことだ。彼がさしているのはごく当たり前の数学だ。問題自体に不自然な点はない、ごく普通の高校生レベルの数学を、今になって出題するなどあり得るのか。

 

 ヒーローを目指す学生が、『たかが高校生レベルの知識がない』というのはあり得ないことだ。この数式は暗号なのか、まさか昔の旧軍あたりの最高級機密暗号が入れられている。

 

 それか、アメリカなどで使用されている現在最高の機密レベルの暗号文が、何処かに隠されているのか。 

 

 さすが、機密情報では世界最高峰のアメリカだ。まさか、一目で見破れない暗号を使ってくるとは。それを知っている相澤先生は只者ではない、なるほど田中・一郎が諭すわけだ。自分は知らず知らずのうちに驕って、周りを低く見ていたのか。

 

 危ない、これでは自分は最高のヒーローではない。救える命をとりこぼすところだった。そんなことはあの名前を貰った自分にとって、許されることではない。

 

「爆豪、授業を真面目に聞いていないのか?」

 

「聞いていました。さすがです、先生。まさか、そんな暗号文があるなんて思いもしなかった」

 

「何を言っているんだ、お前は?」

 

「普通の数式、そこに巧妙に隠された暗号。さすが雄英だ、普通の数学の授業に見せかけて、暗号解読をさせるなんて。すげぇな」

 

「・・・・・・・緑谷?」

 

 矛先を変えたか。悔しいが先生の選択は正しい、こういった暗号の解読は自分よりデクのほうが優れている。

 

「数式から判断して間違いなく普通の数学だ。いや、待った。配置に意図が隠されているのか、数式だけじゃなくアルファベットの位置、そこに書かれた順番か。書いた後で見られても問題ないように隠されている、これはきっと先生が書くところを見せたことに意味がある。手の動きで別の文章と数字を織り込んで、その上で全体の数式を持って暗号の解読キーを形成している。いや、違う、それでは単純すぎる。手の動きだけじゃない、相澤先生の全体の動きも暗号化されている? そうか、先生の表情や目の動きもすべてが暗号を形成していて、数式を書いている先生を見ているだけじゃ解けないような高度な暗号信号になっている。凄い、こうやってみても解らないくらいに普通の数式だ。今の世界のヒーローはこんな暗号を使っているのか。だから、一郎さん達は僕たちにあんなに色々な知識を教えてくれたのか。ク、なら僕の観察は遅かった。書き始めた先生の動きを見ていなかった。これじゃ暗号の解読は不可能だ。かっちゃん」

 

「おう、最初の動きだな、それなら俺が覚えてるぜ」

 

 凄まじい勢いで理論を組み立てるデクを頼もしく思いながら、自分の記憶を掘り起こしていく。

 

 推察はデクに負けるが、記憶力なら負けるつもりはない。瞬間記憶ならばこっちの能力が上だ。

 

 さて、回答を出してやろう。

 

「・・・・おまえら、少し深読みし過ぎだ」

 

「先生、俺達を騙そうなんて無理だぜ」

 

「僕とかっちゃんが揃っているのに、騙せると思っているんですか?」

 

「あのな」

 

 すぐにだ、すぐに答えを出してやる。爆豪はにやりと笑い、思考を加速させていく。

 

「これは普通の高校生レベルの数学だ」

 

「な?!」

 

「嘘ですよね?!」

 

「天下の雄英が!! ヒーロー校が今更そんなレベルの数学を教えるのか!?」

 

「まさか違いますよね!? そうやって僕たちを煙に巻いて、後になって補修させるつもりなんでしょう?!」

 

 驚愕に染まる爆豪とデクを余所に、クラスメートたちは何とも言えない表情で二人を見ていた。

 

 最初の出会いから、二人が飛び抜けているのは解った。

 

 試験の時の行動力、判断力は学生というよりはヒーローの、それもトップ・ヒーローに並ぶような凄さだった。

 

 運動テストの時、個性を使っていないのに他の追随を許さない記録を次々に打ち立てた。

 

 授業の時もほぼ即答に近い答えを出し、突発的な質問にも迷うことなく答えつつ、まったく別の書物を読んでいる姿には、畏怖さえ感じてしまうほどだ。

 

 普通なら異質として怖くなるのだろうが、彼らは何処か『面白い』雰囲気を出していて、怖いと感じる前に『微笑ましく』なる。

 

 今も、簡単な数式の前に深読みしてカラ回りて、ドツボにハマったようにぶっ飛んだ話をしている。

 

 要するに、癒し系かつ笑い系の二人とクラスメートたちに思われていた。

 

「・・・・・違う、おまえら二人とも少し落ち着け」 

 

 とても疲れた声で告げる相澤先生は、肩を落としたままゆっくりと爆豪を指差した。

 

「で、おまえは『何語の本』を読んでいるんだ?」

 

「フランス語です」 

 

「その下は?」

 

「ドイツ語です」

 

「・・・・・・おまえ、昨日はギリシア語とか読んでなかったか?」

 

「ヒーローならば語学は必須ですから」

 

 キリッと答える爆豪と、大きく頷くデクを前にして、相澤先生は軽く眩暈を感じてしまう。 

 

 あ、こいつらはもうぶっ飛んでるのか、と。

 

 知っていたはずだ。レベルが違うと解っていたはずなのに、自分はまだまだ二人を把握していなかったのか、と。

 

「おまえら二人とも何ヶ国語、しゃべれる?」

 

「まだ二十一です」

 

「僕は二十です」

 

 まだまだ足りないと口外に語る二人に、教室の空気は一気に固まったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうも、英語とドイツ語と日本語しか話せない、田中・一郎です。

 

「何してんですか、貴方は?」

 

「え、俺が悪いんですか、相澤先生?」

 

「ええ、もちろんです」

 

 うわ、すげぇ言われよう。でも、そっか。今の学生って日本語と英語しか話せないか。俺の時は、ドイツ語も必須だったんだけどな。 

 

 あ、提督だからだ。うわぁ、やっちゃったなぁ。イタリア語とロシア語は駄目だったから、仲間内からは結構な言われて方をしてたんだけど。

 

「一郎、おまえはそのままでいい。俺が話せる」 

 

 なんで優しい目で言うんだよ、弔。その前に、おまえさ、俺は今、相澤先生にかなりな言われた方をされたんだけど、怒らないよな? 

 

「二人の担任として強く育ててくれることが解ったからな。反省はしている」

 

「そっか」

 

「後悔はしていない」

 

「おまえは少し自重を覚えようね?!」

 

 なんだよその決め顔は?! 自重しようよ、もっと穏便に平和に生きようよ、いきなり殺そうかって考えは止めてくれよ。 

 

「あれは、警告だったのでは?」

 

 うううう、相澤先生の優しさが今日も身に染みる。あんな集団に囲まれたのに、水に流してくれる優しさ。

 

 あんたっていい大人だよ。

 

「とにかく、本当に爆豪と緑谷に何を教えたのか、具体的に教えてください。授業が止まります」

 

「え、はい」

 

 でもさ、完全に把握しているのってコナンだから。その、どうしよう。

 

「ご心配なく。俺はオールマイトから話を聞いています」

 

「なら、オッケーです。コナン、ちょっと教えてあげて」 

 

「解ったよ」

 

 そういってコナンは、五百枚はありそうな用紙を持ち出して、あれぇ?

 

「二人に教えた内容は、こんなところかな?」

 

 あ、そうなんだ。というわけで、と相澤先生が軽く引いてるんだけど。 

 

「具体的な訓練の内容や、そのタイムスケジュールなんかも入れてある。映像も残っているけど、そっちは渡せないからこれで勘弁してくれよな」 

 

「まさか、これほどとは」

 

 受け取った相澤先生がゆっくりと読んでいくんだけど、その表情が険しくなったり穏やかになったり、その後にまた険しくなって呆れたりと。色々と表情が変わっていくなぁ。

 

「これ、マニュアルとして貰えませんか?」

 

「ダメだろ、流石に。そいつは非合法なやり方だぜ?」

 

「いや、今のヒーローの育成のあり方を根底から変えるほどです。ぜひ、譲ってください」

 

「無理だろうな。やるには今のヒーロー教育設備じゃ、出来ない部分がある。俺達も『科学的な手段』だけじゃ不可能だからな」

 

「確かにこれは」

 

 まあ、俺達にはアインズとエルっていう、無敵な魔法使いがいるからな。時間停止って、余裕でできるもんじゃないだろうし、ちぎれた腕を一秒以下で再生させるとか無理だろうから。 

 

「それにな、そいつらは爆豪とデクに合わせた訓練内容だから、他のやつらには向いてない。二人の特徴と、その『個性』に合わせてその都度に調整してあるからさ」

 

「個性・・・・・そういえば、緑谷は『無個性』と書いてありましたが?」

 

「艤装のおかげだ。後は『勇者』の加護だな」 

 

 うん、そうだね。艤装だけじゃなくて、あの緑色の石のおかげだね。本当、あれを使ったって知った時は、心臓が止まるかと思ったよ。

 

「勇者とは誰の?」

 

「悪いな、これ以上は教えられない。とにかく、そいつは諦めてくれ」

 

「残念です」

 

 いや、相澤先生、そんなに未練ありそうな顔で見なくても。雄英ならもっと素晴らしい教育をしてくれるでしょう。生徒一人一人に合わせて、そんなに考えてくれる先生がいるんだから。 

 

「ところで、何時もこんな訓練をしているんですか?」

 

 はい、そうです~~とか言っておいた方がいいのかな?

 

「ハーハッハッハ! 私がぁ」 

 

「宣言が遅い」

 

「飛ばされたぁぁぁぁぁぁ?!」

 

「オールマイト! だから言ったじゃないですか!」

 

「あの人は! デク! 前を固めろ! くるぞ!」

 

「かっちゃん後ろ!!」

 

 何時も、だろうな。本当に、何時もになるなんてなぁ。なんでオールマイトまで参加しているのさ。デク君と爆豪君だけでいいじゃないの。

 

「にゃしし、いい感が育ってるね~~」

 

 うわぁ、睦月が凄いいい笑顔で姿を消している。あいつの『ハデス』は、完全に姿を消すんだよな。その上に、『デスサイズ・ヘル』のハイパージャマーを使われると、もうレーダーにも映らないし目視でも見えないし。

 

 攻撃の瞬間のちょっとした空気の揺らぎをデク君が察知して、爆豪君が周辺を爆炎で覆って対処したね。

 

 うん、それって睦月だけなら、完全に正解なんだけどね。

 

 今回は如月もいるから。

 

「残念ね」

 

 六角形のフィールドを展開した如月に、爆豪君の爆破は届かないんだよな。

 

 使徒かぁ、まさかエヴァの使徒の全能力を持っているとは思わなかったよ、はぁ。

 

 しかも、まだ改になったばかりで、その上に改二があるんだよな。

 

「斉射!!」

 

 お、デク君の三連装主砲が炸裂した。うんうん、最初は四つしかなかった主砲も今では十個は出せるようになったね。

 

 もう改になったかな。

 

「残念でしたね」

 

 そんな主砲も、如月の防御を突破できるけど、吹雪のナイフの前には無意味なんだよね。

 

 はぁ、本当にうちの吹雪はチートの塊だね。

 

「はい、終わり」

 

 そして、二人も沈んだ、と。

 

「もう一度、聞かせてください、何時もですか?」

 

「大抵は何時もだな」

 

「はい、申し訳ありません」

 

 かなり引いている相澤先生に、俺は頭を下げるのでした。

 

 ど、土下座まではまだあるはず。あるはずだよね?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆豪は考える。今の自分はコスチュームがあれば、大抵の防御は貫通できる。槍に自分の個性を吸収させ、それを放つことで大抵の敵は一層できる。

 

 また個性をコスチュームが吸うことで爆破が防御にも使えるようになった。敵の攻撃が当たる瞬間に、爆発することで敵の攻撃を相手にはじき返すことができる。

 

 リアクティブ・アーマーの強化版と一郎に言われた能力に、満足しているのは嘘じゃない。

 

 しかし、だ。自分の個性はどちらかといえば近距離。デクのような遠距離攻撃の手段がないわけではないが、どうしても回り込まれたりすれば、あるいは手の範囲から内側に入られると対応手段が一気に減る。

 

 そして手の届く範囲プラス十メートルから二十メートルが最大範囲。一点集中して放つ攻撃も、砲撃というよりは狙撃に近いものがあり、範囲攻撃はできない。

 

 面で制圧しないと対応できない場面では、デクに任せるしかない。

 

 加速もそうだ。マッハ六から上がらなくなった。もっと速く、もっと最短で駆けつけたいのに、速度が上がらない。

 

「どうすりゃいい」

 

 小さく呟き、息を吐く。

 

 デクは強くなっている。艤装の扱いも上手くなった、艤装の攻撃手段も増えてきた。主砲も最大で十五基は出せる。動けなくなるらしいが、主砲ごとに浮遊するから全方位に砲撃できる。

 

 装甲の強度も上がった。今では弾道ミサイルも受け止められるだろう。放射能さえなければ、核の直撃も耐えるかもしれない。

 

 自分も強くならなければ。あいつに負けないように、あいつの背中を預けられるように。 

 

 どうすればいい。

 

 考え込む爆豪の視界に、一人の教師が映った。

 

「あるじゃねぇか。俺向きの攻撃方法が」

 

 ニヤリと笑った爆豪は、そのまま一郎の元へと駆け込んだ。

 

 必死に頭を下げて、鎮守府の訓練場に入り、そして彼は決死の修行に挑む。 

 

 理論的には可能かもしれない。

 

 あの教師の個性からヒントを得た、遠距離攻撃。広範囲であり、距離も関係ないほどの射程距離を誇る。

 

 唯一の弱点は、気象条件に依存することか。関係ない、風を読めばいい。相手の動きを観察し、次の一手を予想し、そこに流せばいい。

 

「かっちゃん、それって」

 

「デク。俺は気づいた。俺の個性はニトロみたいなもんを使って、爆発させてんだ。つまり、俺の汗はニトロだ。けどな、ニトロみたいなもんであって、完全なニトロじゃねぇ」

 

「それはそうかもしれないけど」

 

 傷だらけになる自分を心配したデクが止めてくるが、止まるつもりはない。ヒントを得た、チャンスを貰った、ならば後は突き詰めるまで。

 

 形にする、何がなんでも、不可能なんてことは絶対にない。できると信じる心が個性を強くする。

 

 死柄木・弔は最初は手に触れたものしか崩壊できなかったが、次第に視界に捉えたものも崩壊できるようになった。

 

 黒霧は触れたものしかワープできなかったものが、視界内ならばいくらでも距離は関係なくワープできるようになった。

 

 つまり、個性は『こうだ』と思い込むことで、その能力を限定してしまう。もっと視界を広く、想像を繰り返して自分の『個性』のあり方を変える。

 

「体臭っていうのは、つまり汗が気化したもんだ」

 

 爆豪は脳裏にあの教師を思い浮かべる。 

 

 眠りを誘う女教師の姿を。

 

「俺の汗はニトロだ、汗なんだよ」

 

 バチバチと小さな火花が散る、これではだめだ。肌の上で弾けるのではない、もっと外へ、遠くへ。もっと先へ、手と足の延長のように、もっと先の視界の隅まで。

 

「届かせるんだよ。やれよ、爆豪・勝己。やるんだよ」

 

 自己暗示のように繰り返し、脳裏のイメージを全身に叩きつける。 

 

 フワリと風に乗る。自分の何かが風に乗って周囲に漂う、それで終わり。抜け落ちるように消えて行った欠片が、今は確かに『そこにある』と感じられる。

 

「へ、やれるじゃねぇか」

 

 ゆっくりと息を吐き、そして命じる。

 

 『弾けろ』。

 

 瞬間、訓練場を大爆発が吹き飛ばした。 

 

「かっちゃん?!」

 

 デクは艤装を纏い全力で防御した。それでも艤装が傷つく音がした、自分が誇る最大の楯が悲鳴を上げるほどの攻撃力。爆炎と衝撃は艤装の装甲を砕き、デクの体を押しのけようと荒れ狂う。

 

「やったぜ」

 

 轟音の中、確かにデクは爆豪の声を聞いた。

 

「やってやったぜ!!」 

 

 叫ぶ、彼は爆発に負けないほど大きな声で叫ぶ。

 

 訓練場の四方は吹き飛んだ。天井も亀裂が走っていた。でも、中心にいる爆豪は無傷のまま。彼がいる場所も無傷のままだった。

 

「かっちゃん」

 

「広範囲で遠距離攻撃、面制圧。しかも、『識別可能』だ! どうだデク!?」

 

 狂喜のような、ではなく純粋に笑う彼を前にして、デクは思う。

 

 『やっぱりかっちゃんは凄いや』と。

 

 同時に感じる、この幼馴染は何処へ向かっていくのだろう、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆豪君、識別可能なMAP兵器を手に入れる。

 

「田中、どういうことだ?」

 

「すみません」

 

「田中少年、説明してくれないか?」

 

「すみません」

 

「どうしてなんだろうね、田中君」

 

「すみません」

 

 その日、俺は相澤先生とオールマイトと根津校長の前で、土下座することになった。

 

 お、俺が悪いわけじゃない、と思いたい。でも、俺が鎮守府の訓練場を貸したから、原因はあるかもしれない。

 

「説明してくれ」

 

「本当にごめんなさい」

 

 三人の圧力が怖いから、俺はひたすら土下座しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 


 ミッドナイトを見る。体臭が眠りを誘うって凄いなぁ。あれ、体臭って汗が気化したもんじゃなかったっけ?

 汗、爆豪君の汗はニトロ。ニトロって気化しても爆発するよね、ガソリンとか爆発しそうだし、するもんだろうな。

 あ、そっか、汗が流れて遠距離攻撃可能、MAP兵器だ!

 というわけで、爆豪君、ミッドナイトの『個性』にアイディアを貰って前周囲攻撃を手に入れる、風味の話でした。







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