鬼滅奇譚・外章 夢幻の刃 (夢の呼吸)
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禰豆子との夜

お知らせ:なんか書く気力がある為、一発ネタの短編から連載に変更します。

時系列としては、最終選別以降、那田蜘蛛山以前。(初任務の直後)

オリ主ですが転生系ではなく、オリ主が存在するパラレルワールドという扱いです。


 時は大正――。

 

 文明開化の明治を経て、日本帝国は栄華の未来へと向かって歩みを進めている。

 が、どんな世にも闇はある。

 太陽がどれほどに昼を照らそうとも、必ず夜があるように……。

 

 鬼。

 

 昔話に登場する定番の怪物であるが……それらは人喰いの化物として実在し、今この時も、日本のどこかの影の中でおぞましい悲劇を齎している。

 

 ただし、どんな闇夜にも道を照らす月や星々があるように。

 

 巷にあふれる鬼どもと、その首魁・鬼舞辻無惨。悪鬼たる彼らを根絶するため、無垢なる者どもを守るため、日夜に渡って鬼と闘う者たちもいる。

 

 肉体を鍛え、呼吸法を習得し、鬼を殺すために身を削る。事情を知らぬ政府から隠れ、自ら闇夜に身を任せ、悲劇を繰り返さぬためだけに、人知れず鬼を殺し続ける者たち。

 

 鬼殺隊。

 

 彼らはそのように呼ばれていた。

 

 そんな鬼殺隊の中にあって、特別なる強さを持つと認められ幹部となった者は「柱」と称される。

 そしてその一人、「夢柱」の保有する夢屋敷の玄関に、今……一人の鬼が訪れていた。

 

 その鬼――竈門禰豆子は、実兄が土間へ下ろすや否や背負い箱から飛び出すと、一も二もなく目の前にいた青年へと飛びついた。

 

「んふー♡」

 

 腕を精一杯に広げ、小柄な体でぶつかるようにして男の腹へ抱き着く。彼の胸元へすりすりと顔をこすりつけ、そんな満足そうな吐息をついた。

 

 その様子を見守るのは二人の男。

 彼女をここまで連れてきた兄・竈門炭治郎と、抱き着かれている男・坂田銀太郎である。

 

 奇妙な空間であった。

 

 男二人は鬼を殺しつくすことを目的とする鬼殺隊の隊士服をまとっているにも関わらず、静かに苦笑を浮かべ、少女を見やるその瞳は暖かな色を放っており――鬼であるはずの少女には、一向に人を喰おうとする様子がない。

 

 そしてなにより――。

 

 少女に抱き着かれ、柔らかな笑みを浮かべているこの男こそが、鬼を殺しまくることを生業とする鬼殺隊の中でもひときわに殺した者が至るはずの「柱」――この夢屋敷の主、「夢柱」その人であることだった。

 

 最初に口を開いたのはその夢柱……銀太郎だった。

 

「いつもすまないね、炭治郎」

 

 胸元へすり寄る少女……禰豆子の頭を優し気な手つきで撫でながらそう語りかける。すると、彼女はより一層の親愛を体で表現するかのように抱き着く腕に力を込めた。

 

「いえ、これも禰豆子のためですし……」

 

 炭治郎は、上がり口にて歳上の友人に撫でられる妹の幸福そうな表情を改めて眺め、

 

「……俺もやりたくてやってますので!」

 

 しばしば太陽のようだと評される笑顔でもってそのように答えた。

 そして土間に下ろしたままだった背負い箱を再び背負う。

 

 その姿に銀太郎が慌てて声をかける。

 

「たまには上がっていかないか。茶でも出そう」

 

 玄関の引き戸へ手を掛けていた炭治郎はその言葉に振り返るも、しかし首を振る。そしていたずら気なほほえみで、

 

「妹が恋人と過ごす久しぶりの逢引を邪魔するほど、俺は野暮な兄貴じゃないつもりです!」

 

 それじゃまた明日に迎えに来ますね――そう言い残して去っていった。

 

 後には満足げな顔で抱き着く十四歳の少女と、彼女に抱き着かれる十七歳の男だけが残された。

 

「逢引って……いや、間違いではないが……」

 

 そうつぶやくのは銀太郎。胸中に浮かぶのはほのかな罪悪感。「うー?」と上目づかいでうかがってきた禰豆子の頬を撫でてごまかす。

 

「……♡」

 

 彼女は目を細めると、その大きな掌に猫のようにすり寄った。

 しかし頬の柔らかさと、武骨な竹筒や紐の感触が対照的で……。

 

 念のために銀太郎は屋敷の周囲の気配を探った。

 

「……大丈夫だな」

 

 一安心すると、彼は知り合いが作成したその拘束具を丁寧に取り外した。彼の前でのみ、この筒は無用なのだった。

 

「さ、奥に行こうか」

 

 気を取り直すように声をかければ、彼女は鬼化前を偲ばせる明るい笑みでうなずいた。

 

 

    □■□■□

 

 

「ふっ、ふぅっ……んぅ……」

 

 暗い室内に、吐息のごとき声が響く。

 熱にうなされているかのような、そんな声を漏らすのは禰豆子であった。彼女は敷かれた布団の上、胡坐をかいた銀太郎の懐にぽすんと座り、彼の胸元へと背を預けていた。

 銀太郎の両手は、彼女の胸へとのびている。

 襟元は小さく乱れ、そこからのぞく素肌は仄かな桜色に色づいていた。

 

「禰豆子……」

 

 囁くように銀太郎が呼べば、頬を上気させた少女はぼんやりと顔を上げる。その小さな唇に、彼は覆い被さるように己の唇を合わせた。

 

「んふぅ……♡」

 

 禰豆子も応じるように瞳を閉じて、幸せそうに息を吐く。

 普段は茫然とした様子の目立つ彼女は、しかし彼と共にいる時のみははっきりとした意識性を垣間見せる。

 静かに唇を離す銀太郎に、彼の襟元を軽く掴み、潤ませた上目遣いで以て催促する。彼もまた小さく笑むと、再び顔を寄せるのだった。

 

 その応酬が三度四度と続き、やがて啄むようなものから深く貪り合うものへと移ってゆく。互いに舌や唾液を交換し、熱い息と共に淫らな水音がこぼれる。

 

 禰豆子の体をまさぐる銀太郎の手の動きは、大きく大胆になっていき、彼女の着付けもあられもなく崩れてゆく。

 

「わふぁっ……♡」

 

 銀太郎の右手が、禰豆子の裾をするするとめくりあげてゆく。太腿をさするようなそれに彼女はくすぐったそうな声を上げるも、その手が登りきり、股の内へと入ると再び熱の籠もった息を吐いた。

 

 くちゅり……。

 

 股に潜った彼の指が小さく動き、そんな水音がこぼれた。

 

 途端に禰豆子は目を伏せ、恥ずかしそうな様子を見せる。

 銀太郎は構わず、右手の感触に意識を移す。

 相変わらずにつるつるとしていて、ぴたりと閉じている幼い女陰。その筋に指の腹を這わせば、再びくちゅりと吸い付くような音を立て、暖かな蜜が零れ出てくる。

 

 それを数度繰り返すことで愛液を指にまぶすと、銀太郎は搗きたての餅のごとき柔肉の奥へと少しずつ潜らせていく。

 

「ん、んぅ……♡」

 

 いつの間にか両手でしがみつき、銀太郎の胸元へ顔をうずめた禰豆子が声を洩らす。

 彼女の中は火傷しそうな程に熱かった。指を少し動かす度に、淫らな音が室内に響く。

 

「ふぅ……ふぅ……♡」

 

 いつの間にか無言になっていた二人の耳には、双方の荒い息と湿った音のみが入ってくる。

 

 くちゅ、くちゅ、ちゅぷ――。

 

 やがて銀太郎の指が第二関節まで埋まったとき、禰豆子が彼の襟を強く引いた。

 見ると、熱に浮かされた顔で彼をしっとりと見つめていた。上気した頬に汗で濡れた髪がひっついている。その様子がとても淫靡に見えて、銀太郎は知らず唾を飲み込んだ。

 

 禰豆子は何かを期待するような眼差しで以て、ただ「ぅー……」と鳴いた。

 

「――禰豆子っ!!」

 

 気が付いたとき、銀太郎は少女を布団に押し倒していた。

 嬉しそうな声が真下から漏れる。

 

「ふわぁっ……♡」

 

 白い敷き布の上、長い絹のような髪が扇のように広がっている。頬の桜色に染まった可憐な顔が、その中心で銀太郎を愛おし気に見上げている。

 衣服は淫らにはだけて、小ぶりな胸や白い太腿を晒していた。

 

 覆いかぶさっている男の、獣のような視線を感じて、改めて素肌が桜色に染まってゆく。胸の先端がぷくりと膨れ上がった。

 

「禰豆子……」

 

 努めて優しく呼び掛け、銀太郎は顔を寄せる。禰豆子も瞳を閉じ、唇を合わせた。

 

 ちゅぷ、ちゅぱ、じゅずずず――。

 

 愛を確かめ合うように、口と口で繋がる。互いの舌を絡ませて、唾液を飲み合う。

 しばらく続いてから、どちらともなく顔を離す。

 

「ぷはっ……はふぅ、ふぅ、ふひゅぅ……」

 

 互いに荒い息をこぼす。

 物足りなさそうな顔を見下ろして、銀太郎は(そろそろ頃合いかな……)と考える。

 己の口腔内で、舌の先端を軽く歯に挟み――

 

「……ッ!」

 

 途端に鉄臭くなるそこから意識を外し、彼はみたび彼女へと顔を寄せる。

 

 そして応じた瞬間、禰豆子の瞳は大きく開かれた。

 

「んみゅっ……!!」

 

 傷ついた舌から漏れる銀太郎の血が、唾液と共に少女の姿をした鬼の口へと移ってゆく。

 こくり、こくり――と細い喉が鳴る。

 

 普通ならば、このような行為は自殺行為以外の何物でもない。しかしここ、この場においてのみ異なる展開となる。心配など欠片もない。己の体質がどのようなものなのか、それを銀太郎は熟知していた。

 

 やがて銀太郎の口内へと舌が伸びてきたとき、彼が見やれば禰豆子の瞳は蕩けたように甘い色に浸っていた。

 

「ふぅ、ふぅ……♡」

 

 ちゅぷ、ぺちゃ、ぷちゃ、じゅぷっ――。

 

 先ほど以上の激しさで、まさしく貪るように禰豆子は銀太郎の口に吸いつく。いつの間にか彼女の両腕は彼の首を抱えるようにして背中へと回り込んでいた。

 

 こくり、こくりと白い喉が鳴り、己の血が彼女の中へと取り込まれてゆくのを、銀太郎は横目でただ眺める。

 そうしている間も、彼の両手は少女の肉体をいやらしくまさぐっている。

 

 しっとりと汗ばんだ胸を揉み上げて、そして彼の指が屹立した乳首を軽くつまんだところで、びくりと禰豆子の体が震えて――。

 

 ひとつ間を置いてゆるやかに弛緩した。

 

「――ぷはぁっ♡」

 

 それに伴い、長い接吻も終わりを告げた。拳ひとつ分ほどだけ顔が離れ、「ふぅ……♡ ふぅ……♡」という熱い吐息が頬にかかった。頬は互いの汗で濡れ、その熱気がさらなる汗を呼ぶ。

 銀太郎と禰豆子は至近距離で見つめ合う。

 

 そして。

 

 ふ、と彼女の視線が下方へ落ちる。

 その先が何であるか、銀太郎は見なくとも判る。その先では、痛いほどに勃起した陰茎が己を強く主張していた。

 

「ふふっ……♡」

 

 禰豆子の目尻が下がり、途端、柔らかな刺激が銀太郎の股間に走った。

 

「うっ……」

 

 思わず声を漏らす。それに気をよくして、彼女はさする手の動きをさらに強くした。

 

(やばい――)

 

 危機を感じて、慌てて銀太郎は股間に潜り込んでいた腕をつかんで止めた。

 

「禰豆子……」

 

 そして口をふさぎ、血の混じった舌を送り込む。途端に彼女の瞳が蕩け、その体から力が抜ける。

 それを確認すると口を離し、銀太郎は上半身を起こした。

 

「はふぅ……♡」

 

 またいだ腰の下では、横たわった禰豆子が幸せそうな息を吐いている。

 

 それを眺めながら、銀太郎は隊服の腰帯を外した。窄袴(ズボン)を降ろし、下穿きをずらすとそこから勢いよく屹立が飛び出した。

 勢い余った先走り汁が、小さく跳ねて飛び散った。

 

 それが顔にかかったので、禰豆子はようやく目の前の状況に気が付いた。

 

「ふわぁ……♡」

 

 嬉しそうな声が上がる。その瞳はきらきらと輝いていた。

 すっと伸びた小さな手が、硬く怒張した陰茎にさわりと触れる。

 

「うっ……」

 

 思わず声が漏れ、銀太郎は先ほどと同じく慌ててその手を掴んでどけた。

 

「むー……」

 

 禰豆子から不満げな声が漏れるも、銀太郎には取り合う余裕がなかった。そうしている間もびくん、びくんと勃起は小さく跳ねている。

 

(危ない……)

 

 自意識の不確かな少女に手を出すという不届きを行っている以上、無駄な射精をするわけにはいかない。それが銀太郎に残されている微かな良心、それのもたらす矜持であった。

 

 軽く息を整えてから、銀太郎は禰豆子の名を呼びながら、改めて覆いかぶさった。

 

「ん……♡」

 

 禰豆子も応じるようにうなずくと、濡れた瞳で彼を見上げた。

 

「……入れるよ」

 

 声をかけ、銀太郎は己の怒張を彼女の股へと誘導していく。

 

 そして――。

 

「んふぅっ♡」

 

 ――ちゅぷり。

 

 柔らかな肉を押しのけて、先端が熱い膣内へと入ってゆく。

 

「はあっ♡ ふうっ♡ はあっ……♡」

 

 首元に抱き着いてきた禰豆子の熱い吐息が耳にかかる。

 その間も挿入はゆっくりと進んでいき――

 

 とん……。

 

 熱くうねるひだを幾つも掻き分けていった先で、慣れ親しんだ壁にぶつかり、そこで止まった。

 勃起はまだ根元までは入り切ってはいない。

 少女の拳の半分ほどはまだ外に残っていたが、それもまたいつも通りであった。

 

 しかし、むしろその光景が、まだ幼い少女と繋がっている現実を改めて突き付けてくるようで、銀太郎はここでいつも更なる興奮の高まりを得るのであった。

 

「はぁ♡ はぁ♡……」

 

 禰豆子の荒い息が熱く胸元へとかかる。先ほどまで耳元に抱き着いていた彼女は、挿入が完了したことで一度腕をほどき、改めて胴へと抱き着きなおしていた。

 身長差の関係で、腰の位置を合わせれば禰豆子の頭頂部が銀太郎の口元へとやってくる。お互いに、この体勢が最も楽なものなのであった。

 

 息を整えている禰豆子のつむじに、銀太郎は軽い接吻を落とした。柔らかな髪の感触が唇に触れ、ふわりと少女の甘い体臭が鼻へ入り込む。

 それにぴくりと怒張が反応して、

 

「んむぅ……♡」

 

 禰豆子も小さく体を震わせた。

 

 そのまま、数呼吸の間だけ互いに息を整える。

 そして銀太郎が視線を落とせば、熱い上目遣いが期待に濡れていた。

 

「……禰豆子」

 

 名をつぶやき、顔を寄せてまた口を合わせる。そこで、

 

 ……ずるっ――ずぷんっ!

 

「にゃぁっ!?」

 

 腰を引き抜き、また突き刺す。ただそれだけの単純な動きを、ゆっくりと……しかし力強く繰り返し始めた。

 

「ふぅ♡ ふぅ♡ ふひゅぅ……♡」

 

 銀太郎の腰に合わせて小さな体が揺れるたびに、押し出されるようにして禰豆子の口からも熱い吐息がこぼれる。

 

 ちゅぷ――ぱちゅんっ!

 ぢゅぷ――ばちゅんっ!!

 

 やがて銀太郎の腰も段々と動きが速くなり――

 

 ぢゅっ――ぢゅっ――ぢゅぷっ――。

 

「ふぅ♡ ふぅ♡ ふぁひゅぅ♡ はふぅ♡」

 

 火傷しそうに熱い膣内が、強く、より強く締め付け――

 

 

「――禰豆子っ!!」

 

「――みゃあぁぁぁぁっっ♡♡♡」

 

 

 どぷっ!! どぷどぷどぷぅぅっっ!!!

 

 

 白い快感が稲妻の如く銀太郎の身体を走り抜けていった。

 熱い膣内はぎゅぎゅぅぅっ――と力一杯に締め付けながら、もっともっと……とねだるように蠕動して絞り出そうとしてくる。

 そんな禰豆子の体に応えるように、銀太郎の体もまた、どくっ……どくっ……と未だに射精を続けている。

 

「ふひゅぅ……♡ はふぅ……♡」

 

 そうして快感に意識を傾けながら、懐の中で悩まし気な息を吐く少女の小さな肩を掻き抱いた。すると彼女もより強く抱き着いてくる。

 

 互いに接続部の強烈な快感が収まるまで、そのまま身じろぎもせず抱き着き合っていた。

 

「――はふぅ……♡」

 

 やがて射精が完全に収まると、どちらともなく深い息を吐いた。

 

 しかし、彼女の膣内ではまだ絞り出そうと蠕動がにちにちと締め付けてきている。

 

「……んー♡」

 

 一息ついた銀太郎が見やれば、静かに見上げてくる瞳は未だ褪せぬ期待の色で熱されている。

 彼は小さく微笑むと、

 

「……♡」

 

 かがむようにして軽く唇を合わせてから、彼女の後頭部へ右手を伸ばした。そして撫でながら、その頭を優しく肩口へ抱きかかえる。

 

「いいよ」

 

 首を回し、口元へ来た禰豆子の耳へと、湿った声でささやく。すれば――

 

「……ッ!」

 

 首筋に軽い痛み。許可された禰豆子が、銀太郎の首元へと軽く噛みついたのである。

 そうして浮かび上がってきた血の珠を、彼女は愛おし気にぺちゃぺちゃと舐め始める。

 

 一心に首元を舐めあげてくる少女の頭を撫でながら、銀太郎も再び腰の動きを再開させた。

 

「ふみゅっ……♡」

 

 上がる嬌声。首元のそれを聴きながら、銀太郎は繋がり合っている下方での強烈な快感に意識を向けていく――。

 

 

 ……こうして二度三度と、時折に体位を変えたりしながらも、彼は幼い膣内への射精を繰り返す。

 この日の夜も、そうして愛し合って更けていった。

 

 

    □■□■□

 

 

「すぅー……すぅー……」

 

 隣で強く抱き着くようにして眠る少女の髪を、優しい手つきで撫でつける。

 上から下に。上から下に……。

 それを静かに繰り返しながら、銀太郎は懐の中の禰豆子を想った。

 

 果たして、これでよかったのか――。

 

 今夜のように彼女を抱いたとき、その後でひとり静かになって考えることはいつもそれだった。

 そして同時に、頭のどこかの自分が冷静ぶった口調で次のように続けるのもいつものことだった。

 

 当たり前じゃないか。でなければ禰豆子は今頃、きっと人喰いになってしまっている――。

 

 鬼殺隊の中でもほとんど知られていないことだが、夢柱である坂田銀太郎は、稀血を持つ男である。

 それも風柱のように特殊な性質を持つ一級品であった。

 彼の血は、摂取した鬼に幸福感を与え、魅了を施す。

 そしてさらには血そのものよりも、風柱以上にひときわ特殊なことに――その血から生成された精液には、鬼の腹を大きく満たすだけの栄養が詰まっているのだ。

 

 なんでも小さじ一杯ほどの量の精液で、通常の鬼なら一か月は人を喰わなくとも満腹が続くという。かつて知り合った鬼の女医は、そのように彼を診断したものだった。

 

 だが、自分自身であるからこそわかってもいるのだ。この主張が言い訳に過ぎないことを。

 だからこそ、銀太郎はいつになってもこんな問答を繰り返す。

 

 いつだって彼の胸の奥底にあるのは、ほのかな罪悪感。

 

 なぜならば二年前のあの夜……初めて禰豆子を抱いたあの時――。

 

 自分の中にあったのは、そういうような高説ではなく。

 

 ただ単に。

 

 至極単純な。

 

 ――性欲だけだった。

 

 

 

 ……やがて、そんな問答に悶々と悩み続ける彼からも、静かな寝息が漏れ始める。

 明朝も近い。柱ゆえに陽が昇れば、また激務が始まる。

 眠れるときに眠ることができるのもまた、柱に要求される能力であった。

 

 ――だからこそ、銀太郎はいつも気が付かない。

 

 そうして彼が眠りに落ちた後、その懐の中で少女が薄く瞳を開き、優し気に笑みながらその顔を眺めていることを。

 しばし眺めて満足をしてから、みじろぐようにして胸元へとすりより、彼女もまた今度こそ眠りへとつくのであった。

 




生まれて初めてエロを書いたが、わりと書けるものなのだな(感慨)

何か思いついたら続きを書くかもですが、とりあえずこれで締めです。

以下、設定紹介。


●坂田銀太郎
 オリ主。夢の呼吸を扱う鬼殺剣士であり、夢柱。十七歳。身長175㎝。
 名前が思いつかなかったので金太郎になった。銀魂とは関係ないので、べつに銀髪じゃない。黒髪。
 実は時透家の縁者という裏設定があり、容姿はむしろ無一郎や継国兄弟にどこか似ている。スラリとした風体のイケメン。
 竈門炭十郎と縁があった関係で、炭治郎や禰豆子とは二人が幼い頃からの馴染みである。
 稀血を持ち、それによって鬼に襲われやすいことが鬼殺剣士となった直接の原因であるが、その体質が輪をかけて非常に特殊な性質を持っていることは本人もごく最近になって知った事実である。


●竈門禰豆子
 ヒロイン。十四歳。身長153㎝。
 鬼になった経緯は原作と同様。しかし、最初に駆け付けた隊士が義勇ではなくオリ主であったり、そもそも寝込む前の段階でオリ主に犯されたので二年間の昏睡は起こらなかった、など差違も多い。昏睡の代わりに二年に渡ってオリ主から人目を忍んで調教された結果、オリ主の体液を摂取するだけで「鬼としての食事」の代替とすることができるようになったほか、彼へ対する愛情だけで無惨の呪いを自力で外した。
 オリ主自身は己の血による魅了の結果と思い込んで罪悪感を覚えているが、実は鬼になる遥か以前からオリ主に対して恋をしていた。そのため、血による魅了はほとんど効果を発揮していない。言葉を話すことができないがゆえに、悩むオリ主にそれを伝えることができず、やきもきしている。
 きちんと「食事」をしている形であるために、鬼としての能力は原作以上に優れている。
 わりかしはっきりとした自意識を保ってはいるが、オリ主のそばにいないときはあまり表出せず、原作同様の態度である。
 (必要ではないが)一応は睡眠をとることができる。


●竈門炭治郎
 原作主人公。ヒロインの兄。十五歳。身長165㎝。
 昔馴染みの兄貴分であることもあり、オリ主のことは非常に好意的にみている。はやくも妹を嫁に出した気分であるが、オリ主に対する彼女の好意は昔から知っていて応援もしていたため、まこと世の中は禍福は糾える縄の如しであるなぁ……などとひとりごちている。
 オリ主自身は禰豆子に対する18禁行為は誰にもバレていないと思い込んでいるが、炭治郎や鱗滝左近次はその優れた嗅覚から何をしているか普通に察している。
 ただしオリ主の稀血の性質までは知りようがないため、禰豆子が人喰いしない特質に関しては、ひとえにオリ主への愛ゆえなのだろうと思い込んでいる。


●富岡義勇
 二十一歳。身長176㎝。俺は嫌われてない。
 さりげなく序盤の見せ場をオリ主に奪われる。
 しかしオリ主との仲は非常に良好。マブダチ(だと義勇は思っている)。


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はじまりの夜(前)

まだ十二巻までしか読めていない(入手できなかった)が、なぜか書いたので投下。

唐突に過去編(回想)です。
たいへん申し訳ないが、今回はエロはなし。後編まで待ってくれ。


 春先の、ある晴れた日のことだった。

 

「ごめんください。炭十郎さんはご在宅でしょうか」

 

 昼下がり。竈門家の玄関先に響いたその声に、いち早く気が付いたのは炭治郎だった。

 家の裏にて薪を割っていた彼は(誰だろう……)とその手を止めた。声は非常に若く、子供のものに思えた。

 炭十郎とは父のことである。病気がちで体の弱い彼は今、居間の奥にて幼い弟たちの面倒を見ている。

 町へ炭を売りに行った際に声をかけられることは数あれど、わざわざ父を訪ねてくる人は炭治郎が記憶するかぎり初めてのことだった。――しかも子供。

 

 好奇心をくすぐられた彼は、仕事を放ると家の正面へと回るべく歩き出した。

 そんな中、今度は家から声。

 

「はいはい、どなたでしょう」

 

 母の声だ。続いて、玄関を開ける引き戸の音。

 それらを聞き流しながら、炭治郎は家の角を曲がって……

 

 ざあぁ――と、春風が吹いた。

 

「お初にお目にかかります。坂田銀太郎と申します。この度は私の父、坂田時甫(ときうら)が逝去しましたご報告と、父が炭十郎さんから長い間お借りしていました本のご返却に伺いました……」

 

 春の香りが吹き荒れるなか、背筋を伸ばして静かに語る少年。後ろで括られた黒髪は肩口に揺れて、その口元を隠している。

 すん、と鼻へ漂ってくるのは、清廉でいて、どこか甘い匂い……。

 

 そこで、少年の瞳がふとこちらを向き、家の陰からのぞく炭治郎と目がかち合った。

 

「あ、わ……」

 

 蒼い*1綺麗な瞳だった。なぜか炭治郎は口があわあわして、そして、

 

「か、竈門炭治郎ですッ!!」

 

 なぜか勢いよく頭を下げていた。

 その耳に、これまたどういうわけか玄関先からも同様の切羽詰まった声が追従するのが聞こえる。

 

「か、竈門禰豆子ですっ!!」

 

 ざあっ……と、また風が吹き、後には初対面の少年少女に頭を下げられる少年と、頬に手を当て、それらを驚いたように眺める女性だけが残った。

 小さく眉を寄せ、幼いながらも端正な顔をはっきりとした困惑に彩った少年は、やや置いてから、

 

「……えぇ、ええと、改めまして。坂田銀太郎です」

 

 

 ――炭治郎九歳。禰豆子八歳。銀太郎十一歳。

 

 それが彼ら三人の、初めて出会った日の記憶である。

 

 

    □■□■□

 

 

 それ以来、竈門家の兄妹にとてもよく懐かれた銀太郎は、年に何度か、手土産を持って訪れるようになった。

 炭十郎や葵枝もそれを微笑ましそうに眺め、炭十郎にいたっては亡き友の面影を追うかのように銀太郎へと接した。

 

 ある日のこと、鬼ごっこで疲れた炭治郎が、同じく肩で息をする禰豆子と共に銀太郎へと詰め寄った。その周りには、他の弟妹たちが地に転がって荒い息をしている。

 

「なんで銀太郎さんは疲れないんだ?」

 

 それに、と彼の目がその腰へと移る。

 

「そんな重そうなの提げてるのに」

 

 初めて出会った日からずっと気になっていたことではあった。銀太郎の腰には、いつも本物の刀が提げられていた。

 

「うぅん、それは……」

 

 珍しく言いよどむ銀太郎に、禰豆子が抱き着くようにして抗議する。

 

「というか、なんで刀なんて持ってるんですか! 危ないですよ? それに、捕まっちゃいますよ?」

 

 見上げる彼女の目は心配の色で濡れている。銀太郎がお縄になってしまった場合のことを、言いながらにしてはやくも想像してしまったらしい。

 

「いやいや、大丈夫だよ……」

 

 銀太郎は彼女の髪を撫でて、にこりと笑う。

 

「そのときは、ちゃんと逃げるから」

 

「……そういうことじゃないんです!」

 

 うがーっと怒りを表現する禰豆子と、それをなだめる銀太郎。それらを眺めながら、炭治郎は今の銀太郎の発言に本気(ガチ)の匂いを嗅ぎ取って、ひとり戦慄していた。

 

「まあ、冗談はともかく」

 

 仕切りなおす銀太郎に、(いや本気だったじゃん)と炭治郎は思った。

 

「この刀はね、僕に必要なものなんだ」

 

 腰の柄を優し気に撫ぜて、銀太郎は目を細めた。

 

「必要? なんで?」

 

 ぷくぅと両頬を膨らませた禰豆子が、抱き着く腕に力を籠める。自分ではなく刀風情が撫でられることが癪に障ったらしい。炭治郎は今度は無機物にまで嫉妬する妹に戦慄した。

 

「それは……」

 

 なにか言いかけてから、そこで銀太郎は腰をかがめて禰豆子と視線を合わせた。彼女の小さな両肩に手を置いて、

 

「みんなを守るために、必要なんだ」

 

 そう語るその顔は、二人が今まで見たことがないほどに真剣な表情だった。

 

「守るため……」

 

 反芻した炭治郎にも視線を向けて、銀太郎はうなずく。

 

「そう、守るため。だから、別に誰かを傷つけるために持っているんじゃないよ。危なくないさ。守るためのものなんだから……」

 

 彼の蒼い瞳には揺るぎない光が宿っていた。炭治郎がそれに見とれていると、横から大きな声が割り込んでくる。

 

「じゃ、じゃあっ!」

 

 見れば、禰豆子だった。彼女は両手を胸の前で握りしめ、頬を赤く上気させて、

 

「あの、私もっ! 銀太郎さんは私も守ってくれますか!」

 

 銀太郎は優しく笑んで、「もちろん」と答えた。禰豆子の瞳が円く広がり、これ以上ないほどに輝いた。

 そしてそれを聞いて、周囲で転がっていた竹雄たちも飛び上がるようにしてわらわら寄ってくる。

 

「姉ちゃんずりぃー! 俺も!」

「僕も!」

「私も!」

 

 銀太郎は破顔して声を上げた。

 

「それこそだよ! 禰豆子も、竹雄も、茂も、花子も! もちろん炭治郎も! そのときは、みんな必ず僕が守ってみせるよ!」

 

 わーい、と声を上げる弟たちに、炭治郎も思わず声を上げていた。

 

「いや、銀太郎さん! 大丈夫だ!」

 

 きょとん、とこちらを向く皆に、炭治郎は胸を張って、

 

「みんな俺が守る! 長男だから!」

 

 一拍置いて、その場に笑い声があふれた。

 

「そりゃ、そうだな! さすがは炭治郎だ!」

 

 銀太郎は炭治郎の頭に手をやって、「期待してる!」と掻きまわした。

 

「うわっ……」

 

 頭をぐわんぐわん揺らされる炭治郎の耳に、「でも、私はやっぱり銀太郎さんのほうが……」とつぶやく禰豆子の声が入る。

 

「え!?」

 

 と炭治郎が声を上げれば、

 

「たしかに、兄ちゃんよりも銀太郎さんのほうが強そうだよなー」

 

 という竹雄のからかい混じりな追い打ち。

 

「そんなぁ……」

 

 と肩を落とせば、また皆から笑い声がこぼれた。

 炭治郎も顔を上げて笑った。

 

 陽だまりのように、暖かい時間だった。

 皆が笑んでいた。炭治郎も、禰豆子も、竹雄も、茂も、花子も、銀太郎も……。

 このあとに帰宅して話をすれば、炭十郎も葵枝も声を上げて笑ったし、彼女の腹の中の六太だってきっと笑っていた。

 

 こんな優しい時間が、ずっと続いていく。そんなことを、このとき皆がかたく信じて疑っていなかった。

 

 

 ……それが幻想であったことを知るのは。

 

 ……この日の約束を果たせなかったことを彼らが知るのは。

 

 それからそう多くない月日が経ってのことだった――。

 

 

    □■□■□

 

 

(――なんで、なんでこんなことに……)

 

 仰いだ曇天から、次々に雪が降ってくる様子が目に入る。

 炭治郎は両手を前に掲げ、握りこんだ斧の柄で以て覆いかぶさってくる存在の牙から逃れていた。

 

「ウゥ……ウガァァァゥッッ!!」

 

 猛々しい唸りを上げ、怪力で以て炭治郎へ喰いつこうと押し倒している存在は――変わり果てた禰豆子だった。

 肉体は増してゆく力と共に巨大化し、額には血管が浮き上がり、瞳孔は縦に割れ、牙や爪が伸びていた。

 

 ――「鬼」だった。

 

 人喰い鬼だ。

 昨夜に聞いた三郎爺さんの話を思い出す。

 

(禰豆子……なんで、なんで鬼に……)

 

 炭治郎は抑え込みながらも考える。しかし思考は一向にまとまることがなく、次々に浮かんでは散り散りになっていく。

 ふと暖かい記憶が脳裏を過ぎって――

 

(俺は、約束を守れなかった……)

 

 視界がにじむ。

 突き出した腕が重い。かじかんだ指に力が入らない。凍てついた空気が肺を焼く。

 

「いや――」

 

 小さく、声を絞り出す。

 

(……それでも、せめて禰豆子だけは――)

 

 気づくと、炭治郎は叫んでいた。

 

「大丈夫だッ! 禰豆子、がんばれッ!!」

 

 あふれだした涙が次から次へと頬を流れ落ちる。

 

「こらえろ、禰豆子ッ! 負けるなッ! がんばれッ!!」

 

 こちらを見下ろす獣のような瞳を見つめ返して、精一杯訴えかける。

 

(大丈夫だ、禰豆子なら、まだ大丈夫だ――)

 

 根拠なき思考。信頼か、あるいは願望にすがりついて、きっと想いが届くはずだと信じて。炭治郎は叫ぶ。

 

「禰豆子、鬼になんてなるなッ! がんばってくれぇッ――」

 

 そして、想いが――

 

「ウゥゥ……ゥゥ……」

 

 ――通じた。

 

 斧にかかっていた圧力がぴたりと雲散し、静かになった禰豆子の瞳からは涙がこぼれ出る。そこにはきちんと炭治郎の姿が映っていた。

 

「ね、禰豆子……」

 

 炭治郎は安堵の息を吐く。そして――

 

 禰豆子の肩の向こうで、誰かが刀を振りかざすのが見えた。

 

「禰豆子ッ!!」

 

 咄嗟に禰豆子を抱きかかえて、転がるも、振り下ろされた刀が齎したすさまじい風圧にそのまま二人そろって吹き飛ばされる。

 木の幹にぶつかって止まった。炭治郎の腕の中で、禰豆子も元の大きさへと収縮する。

 

「ぐ、ぅ……」

 

 呻きながら、雪の舞う中心へと目を向ける。

 果たして、そこにいたのは――

 

 はためく羽織。黒い詰襟の洋服に……瞳と同じ蒼色の刀。

 静かに立ち上がる青年の肩口で、ひとつにまとめられた黒髪がふわりと揺れた。

 

「――ぇ、銀太郎、さん……?」

 

 呆然とした声が、炭治郎から漏れる。

 坂田銀太郎。数年来の歳上の友人。頼れる兄貴分。数か月ぶりではあるが、その姿は見間違えようがない。

 つい今しがたに斬りかかってきた謎の人物の正体に、炭治郎は思考が追い付かなかった。

 対して、馴染み深い声は記憶と変わらぬ調子で返ってくる。

 

「……やはり、炭治郎か。襲われていたのに、なぜ、鬼を――」

 

 そこで、ようやく振り向いた男の瞳が見開かれた。

 その視線は、炭治郎の腕の中、「ウゥ、ウゥ……」と唸りながら抜け出そうとする鬼に向けられている。

 そして、

 

「……禰豆子、か……?」

 

 彼から絞り出されるようにして漏れたその声は、先ほどとは違って、あまりにも重く――

 

 いつの間にか、炭治郎の腕のなかの禰豆子もまた動きをぴたりと止めていた。彼女の瞳は、目の前で呆然とこちらを見やる青年へと向けられている。

 

「――なぜ」

 

 銀太郎がこぼした問いに、炭治郎は堰を切ったように話しかけた。

 一から全部を説明する。

 昨夜、帰らなかったこと。三郎爺さんに聞いた鬼のこと。今朝に帰ったら皆が殺されていたこと。そして、禰豆子だけが息をしていたこと。彼女を医者に見せるため、山を下りているところだったこと。

 

 炭治郎自身もまったく事情を理解しきれていなかったが、それでも銀太郎なら、きっと代わりに説明してくれる。そして解決をしてくれる。……そんな信頼が彼の中にはあった。

 しかし。

 

「それで――ッ」

 

 唐突に気が付いたその匂いのあまりの濃さに、炭治郎は開きかけた口を閉じた。

 目の前で、静かにたたずむ男から漂ってくる、それは……

 

(――すごく苦しんでる。深い後悔と、悲しみの、匂い……)

 

 炭治郎が息をのんでいると、ようやく銀太郎が口を開いた。

 

「――そうか」

 

 そしてその言葉から匂ったのは、悲しみと決意――。

 

「え……?」

 

 気が付いたとき、炭治郎の腕の中には誰もいなかった。

 

 慌てて見渡せば、離れたところに立つ銀太郎と、彼に腕を拘束されている禰豆子の姿。

 掴まれている腕が痛いのか小さく呻く禰豆子だが、それを見下ろす彼の瞳は氷のようで、右手の刀を強く握りなおす様子が目に映る。

 

「――なんでっ……!」

 

 銀太郎の思考を察した炭治郎は、すがるようにして声を出す。

 なぜ――。なんで――。

 裏切られたような感情が胸中に吹き荒れる。

 

 そんな炭治郎を見やって、銀太郎は平淡な声音で語りだした。

 

「炭治郎。僕は――鬼狩りだ」

 

 固まる彼に、銀太郎は手元の刀を見せびらかすように振るった。キラリ――と場違いなほどに美しい光が漏れた。

 

「鬼を狩るのが仕事なんだ」

 

「でもっ!」

 

 声を荒げる炭治郎を見つめて、銀太郎はなおも静かに続ける。その冷淡な様子は、今まで見知ってきた彼からは想像もできない姿で――そんな彼は、彼を慕ってきた妹に刀を向けていて――炭治郎の頭は破裂しそうなほどに混乱していた。

 

「鬼は、必ず人を喰らう」

 

 銀太郎は左手で拘束している禰豆子へと視線を移した。いつの間にか静かになっていた彼女は、その顔をただ見上げている。

 

「鬼は飢餓状態なら、たとえ家族であっても躊躇いなく食べてしまう」

 

 銀太郎はゆっくりと持ち上げた刀身を、彼女の首元へと近づけた。

 

「鬼は――殺さなくてはならない」

 

「――禰豆子はッ! 人を食べたりしないッ!」

 

 冷たい空気が喉を刺し、口の中には血の味がする。しかしそれでも、なんとかして炭治郎は大声を張り上げていた。

 

「俺が、させない! なんとかするッ!! だから――ッ」

 

 炭治郎の叫びに、銀太郎は目を伏せた。その声が、初めて震える。

 

「炭治郎。……禰豆子も。約束を守れなくて、すまない――」

 

 聞いた炭治郎の脳裏にも、あの暖かい記憶がよぎる。

 そしてその追憶を、銀太郎の悲愴な叫びが一瞬にして切り捨てた。

 

「――おまえたち家族を、守ってやれなくて、すまない……ッ!!」

 

「やめっ――」

 

 炭治郎の叫びもむなしく、銀太郎の右手が高く振り上げられる。

 

 刀は美しい、青い孤を描いて振るわれて――

 

 

 ――そして、首を斬ることなく、その手前で停止した。

 

 

「……ゥ、ゥゥ……」

 

 禰豆子は、泣いていた。ぎゅっと閉じた目尻からぽろぽろと涙を流して、小さく体を震わしながら――それでいて、しかし逃げようとしていなかった。

 ずっと前からそうだった。昔から彼女は、心から銀太郎を信じていた。その彼が、鬼は必ず人を喰らう、何があっても殺さなくてはいけないのだと――そう言うのなら、きっとそうなのだ。

 死ぬのは、とても怖い。

 しかし、人間を――家族を。いつか、炭治郎や銀太郎を食べてしまうというのなら、そちらのほうが何十倍も怖かった。

 現実として、実際に空腹感もひどいのだ。さっきだってもう少しで実の兄を――。

 

 だから。

 

 彼女は震えながらも、刃を受け入れようとしていた。

 

「禰豆、子……」

 

 震える声が炭治郎から漏れる。気づいたときには、走り出していた。

 

「禰豆子ぉ!」

 

 固まっている銀太郎の手から奪い取るようにして妹へと抱き着く。

 ぽろぽろと涙がこぼれだして、止まらない。

 

「うぅ、うあ……」

 

 なにか話そうとして、しかし喉からは嗚咽だけがこぼれてゆく。

 禰豆子もまた、抱き返して、涙を流していた。

 牙の伸びた、人外の口を大きく開けて、――噛みつくのではなく、嗚咽をこぼす。

 

「ゥゥ……ゥアァァ……」

 

 そしてそんな中、炭治郎の耳に、ぼとり……という音が飛び込んだ。

 なんだと思う間もなく、彼を――胸の中の禰豆子ごと抱きしめる大きな腕があった。先ほどの音は、銀太郎が刀を雪に落とした音だった。

 

 暖かい、逞しい腕。

 それが強く、強く二人を抱きしめている。

 彼らが見上げれば、銀太郎の瞳からも大粒の涙がこぼれてゆく。

 

「――くそっ……なぜだ、なんで……」

 

 銀太郎は震える口からそれだけこぼして、それきり無言で抱きしめ続けた。

 

 雪が、森のなか変わらず静かに降り積もってゆく。

 

 三人は抱き合ったまま、しばらく泣き続けた――。

 

*1
青みがかった深い緑色のこと




基本的に書きたくなったときにだけ書いて、書けたら晒す人なので、定期更新とかは期待しないでくださいね()

●オリ主の日輪刀について
 色は青みがかった深い緑色。(浅葱色……?)
 適正を示す性質は、風と水。
 そして、オリ主の扱う「夢の呼吸」は水の呼吸の派生です。


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はじまりの夜(後)

十八巻まで読み切ったので、投下します。

以降の本誌部分の原作知識は、ネタバレされた部分を所々知っている形のにわかですので、何かあっても大目に見てやってください。

●いきなり令和こそこそ噂話
 予想に反して好評をいただきました前話でございますが、ふと読み返していて、最初の区切りでアニメOPを、次の区切りでアニメアイキャッチを、それぞれ脳内再生すると良い感じになることに気が付きました。(どうでもいい)
 あと、誤字報告ありがとうございます。たいへん助かりました。(お恥ずかしい……)


 竈門家の庭に、皆を埋葬し終わるころには夕方に差し掛かっていた。

 簡単に盛られた土饅頭の前には、水の入った鉢と香、洋菓子の包みが供えられている。――洋菓子は、銀太郎が土産として持ってきた物だった。本来なら、今頃は竈門家の皆と囲炉裏でも囲みながら食べていたはずであった……。

 

 墓前に屈み、並んで手を合わせていた炭治郎に、銀太郎が静かに問いかけた。

 

「炭治郎、これから君はどうしたい」

 

「俺は――」

 

 炭治郎は閉じていた瞳を開くと、そばに寄り添う妹を見上げた。人間から外れてしまった少女は、しかし暴れることなく、茫然とした様子で静かに佇んでいる。口元には銀太郎が念のためといって()ませた布が猿轡になっている。

 

「――禰豆子を、人間に戻したい」

 

 言って自分も立ち上がり、隣で未だ屈んでいる銀太郎へ向き直った。

 

「銀太郎さん、鬼狩りなら何か知りませんか」

 

 朝から降り続けている雪が、ぽつりぽつりと土饅頭も彩り始める。

 土色のなかに少しずつ増えてゆく白色を見つめながら、銀太郎はぽつりとつぶやいた。

 

「鬼を人間に戻す方法、か……」

 

「はい」

 

「……すまないが、知らない。聞いたことがない」

 

 銀太郎は瞳を閉じて、静かに息を吐いた。それは白い霞となって、すぐに消える。

 

「炭治郎には言っていなかったが、僕は鬼殺の剣士のなかで、とても高い地位にいる。その僕が知らないのだから、おそらく他の鬼狩りにも知る者はいないだろう」

 

「そう、ですか……」

 

「だけど――」

 

 炭治郎の下がりゆく言葉尻を断つようにして、銀太郎が声を被せた。

 

「――鬼の中には、知っている者もいるかもしれない」

 

 銀太郎は瞳を開けると、隣の炭治郎を見据えた。

 

「炭治郎。幸い、僕は鬼殺の剣士だ。鬼を狩るのが仕事だから――そのとき、鬼に訊いてまわってもいい」

 

「本当ですかっ!」

 

 一転して弾んだ声を出した炭治郎に、「ああ」とうなずいて銀太郎も立ち上がった。

 

「なにかわかったら知らせよう。だから――」

 

 立ち上がり、見下ろす形になった銀太郎の瞳が炭治郎を射抜く。

 

「――それまで、禰豆子と一緒にどこかへ隠れているんだ」

 

 予想外だったその言葉に、炭治郎の動きが固まった。

 

「え、隠れるって――」

 

「言葉の通りだ。意思の力で踏みとどまれていても、それでもやはり禰豆子は鬼だ。常に食人衝動に悩まされ、日に当たると死ぬ。普通の人間のなかでは、とても暮らせない。バレてしまえば、すぐさまに鬼殺の剣士が呼ばれて狩られてしまうだろう。――それに、敵は僕ら鬼狩りだけじゃない。同じ鬼からだって隠れねばならない。……奴らは共食いをする。人を喰わない禰豆子は弱い鬼だから、戦いになれば負けると思う」

 

 銀太郎は、辺りに遠く霞んで見える峰々へと顔を向けた。

 

「こことはまた別の、どこか山奥で、小さな畑でもやりながら二人で静かに――」

 

「――いやだッ!!」

 

 炭治郎の叫びが、暗くなりつつある空へと響く。

 

「銀太郎さん、俺――俺も、鬼狩りになります!」

 

 炭治郎は鬼気迫る顔で胸を叩き、ずいと銀太郎へ迫った。

 

「禰豆子を人間に戻すだけじゃないッ! みんなを殺、ッした奴を、ちゃんと、俺が……ッ!!」

 

 銀太郎は一瞬だけ目を見張り、そして、

 

「……そうか」

 

 とだけ、小さく呟いた。今朝から何度も襲ってきた深い後悔の念が押し寄せ、更にやるせない気持ちもあふれてくる。炭治郎、やはりお前も復讐を、血塗られた道を選んでしまうのか――そんなことを思ったところで、

 

「それに……銀太郎さんにばかり寄りかかるのは、やっぱり、良くないと思うんだ。俺の家族のことなんだから、俺自身も、その、ちゃんとしなきゃ!」

 

 炭治郎はそう言い切って、少しぎこちない笑みを浮かべた。それでもこの日に初めて浮かんだそれは、やっぱり陽だまりのような笑顔だった。

 銀太郎はまた瞬間だけ固まってから、

 

「――そうか」

 

 復讐を誓っても、炭治郎(この子)の芯は変わらないのだ――。悟ったそれに、どこか穏やかな気持ちがやってくる。

 

「わかった……。炭治郎、ならば僕も、君を立派な鬼殺の剣士にしてみせることにしよう」

 

 うなずき発せられたその言葉に、炭治郎の顔が瞬く間に輝く。そして何か言おうとして、ハッとなってから、唐突に居住まいを正して勢いよく頭を下げた。

 

「お願いします、師匠!」

 

 そしてそれに、

 

「あ」

 

 非常に珍しい、間の抜けた声が銀太郎からこぼれた。驚いた炭治郎が顔を上げると、彼は気まずそうに頬を掻きながら視線を逸らす。

 

「いや――すまないが、僕は仕事が忙しい。見れたとしても、月に一回か二回……。炭治郎、君の修業は別の人に頼もうかと思う」

 

「あ、そうなんですか……」

 

 眉尻が下がり、本当に残念そうだとわかる声が出る。そんな炭治郎の様子に、銀太郎は慌てたように付け足した。

 

「ああ、いや、それでも素晴らしい人だよ。僕の師匠の一人でもあるからね」

 

 その言葉に、炭治郎の顔もまた明るさを取り戻す。

 

「銀太郎さんの師匠……!」

 

「うん。さしあたっては――」

 

 銀太郎は遠く東の方角を向いた。

 

「一緒に狭霧山へ向かおうか」

 

 

    □■□■□

 

 

 狭霧山へと向かうその道中で、炭治郎は銀太郎から鬼のことや鬼舞辻無惨、鬼殺隊や呼吸法、育手、柱など、一通りの説明を聞かされた。

 日中も道を進むために、竈門家のあった山のふもとで譲り受けた籠と竹、藁で編んだ即席の背負い籠にこもっていた禰豆子も、兄と一緒にその説明を聞いていた。

 

 銀太郎が齢十五にして、すでに鬼殺隊最強とされる柱の一角を担っていると聞いて炭治郎は興奮し、また鬼殺隊の事情を聞いて、ふと不安な顔をしたりした。

 

「鬼殺隊隊士は鬼に家族を殺された人が多い……ってことは、やっぱり鬼の禰豆子を匿っていることが、もしばれたら――」

 

「まあ、ただじゃ済まないな」

 

 涼しい顔で当たり前のことと答える銀太郎に、改めて炭治郎の声はしぼむ。

 

「……その、大丈夫なんですか。ただでさえ銀太郎さんは柱で責任がある立場なのに、不文律を犯したりしちゃって……」

 

 一歩前を進んでいた銀太郎の足が止まる。

 

「――炭治郎」

 

「はいッ」

 

 背中で発されたその声に、炭治郎は思わず背筋を伸ばしていた。

 

「僕はそのような場合に起こるだろう、ありとあらゆる状況をすべて承知したうえで、禰豆子を助けると決めたんだ」

 

 そして振り返った銀太郎の眉は、心なしか下がって見えた。

 

「今更そんな、寂しいことは言わないでくれ」

 

「あ……」

 

 息の詰まった炭治郎を見ずに前へと向き直ると、

 

「……まあ、それに。べつに君たちが家族同然だからってだけじゃない」

 

 銀太郎はそう言って、再び歩みを再開した。

 

「今までいろんな鬼を見てきたが、飢餓状態でも人としての意志を貫ける者など、一人もいなかった。……禰豆子は明らかに、特別だ。そういう意味では、鬼を滅ぼすための手がかりになる存在なのかもしれない」

 

 とは言いつつ、結局のところは照れ臭さをごまかすような匂いが漂っており、炭治郎の心は少し暖かくなった。

 

 

 ――そんな調子で日が進み、狭霧山まで残り二日ほどの距離になった。

 

「あんたたち、これから山を越えるのかい」

 

 ある山のふもとで子連れの女性に声を掛けられる。

 

「そのつもりですが……」

 

 代表して答えた銀太郎に、女性は人のよさそうな顔を暗くして注意を促した。

 

「もう日が暮れるし、およしなさいよ。山では最近、人が行方知れずになってるというし、危ないよ」

 

 銀太郎は隣の炭治郎を窺った。疑問符を浮かべて見返してくる彼の顔には、そこまで疲労の色は出ていない。妹の入った籠を背負っているのにたいしたものだと、ひそかに感心する。

 そして女性に向き直って、

 

「お声かけありがとうございます。ですが、少々道を急いでおりまして……」

 

「そうかい……。でも、ほんとうに気をつけてね」

 

 迷わないようにね、と更に声をかけてくる女性に、二人は礼をして山道へと入っていった。

 

 しばらくも歩かないうちに日が落ちる。禰豆子もごそごそと籠の中から出てきて、二人と共に歩き始めた。

 

「あ、明かりだ」

 

 山頂へさしかかろうかというところで、炭治郎が声を上げた。

 彼らの先には、灯りの漏れる山堂がある。

 

「今日はあそこで泊まりませんか――」

 

 そう言って顔を上げれば、そこには心なしか険しい表情の銀太郎がいた。

 (え……)と思うも、すぐに炭治郎の鼻にも異変が届く。

 

「血の匂い――ッ! 誰か怪我したんだ!」

 

「あ、待――」

 

 銀太郎が止める間もなく、炭治郎は禰豆子の手を引いたまま山堂へと駆け寄り、

 

「大丈夫ですか!」

 

 勢いよく戸を開け放った。

 そして、固まる。

 

 

「――ああん?」

 

 

 胡乱げに声を上げて、堂の中、しゃがみこんでいた男が振り返る。

 

 そこは、一面が赤く染まっていた。

 壁や床には大量の血液が飛散して、幾重にも重なっているのは息絶えた人々。

 男の手には齧られた女性の腕があり、彼の口には牙が生えそろい、唇の周りをべっとりと血糊が彩っている。

 

(人喰い鬼……ッ!)

 

 陰惨な現場に硬直してしまった炭治郎の横では、同じ現場を見るも別の意味で目を離せなくなった禰豆子の姿があった。彼女の息は微かに上がり、猿轡から涎が垂れ始める。

 

「なんだ、おい……ここは俺の縄張りだぞ、俺の餌場を荒らしたら許さねえぞ」

 

 厳つい顔をさらに顰めて、血走った眼を向けて威嚇する男――鬼。どうやら彼は、禰豆子の匂いもあって炭治郎をすぐに人間だとは気づかなかったようだった。

 

 そしてそこに、ようやく足を踏み込む三人目の影がある。

 

「やはり、鬼の気配だったか――」

 

 静かに語りながら、銀太郎はさりげなく炭治郎たちを背にかばう。その際、禰豆子の様子に一瞬だけ目を細めた。

 

「その服ッ……刀!! おまえ、鬼殺隊かッ!!」

 

 鬼の男も声を上げると、堂の奥へと一足で後退する。爪を構えて銀太郎の挙動を警戒している。

 鬼のあまりに素早い動き――人外染みた高速に炭治郎が目を見張っていると、銀太郎が鬼へと呼び掛けた。

 

「ひとつ訊きたいのだが、鬼を人に戻す方法を知らないか」

 

 その言葉に炭治郎が息を吞むも、鬼は嘲笑うように鼻を鳴らした。

 

「知るかよ、ンなこと」

 

 銀太郎は「そうか……」とだけ呟いて瞳を閉じた。そして、

 

「炭治郎」

 

「……は、はいッ」

 

 鬼を見ていた炭治郎が慌てて視線をそちらに戻せば、銀太郎は真剣な、されど涼しい表情で以て鬼を見つめながら言う。

 

「丁度よいので、君に鬼殺の剣というものを見せておく」

 

 唐突な発言に炭治郎が目を大きくしていると、銀太郎は刀の柄へと静かに手をかけて、

 

「――夢の呼吸 参ノ型」

 

「なにをごちゃごちゃと――」

 

 なにかされると感づいた鬼が慌てて襲い掛かろうとするも、銀太郎は意に介さずに続ける。

 

「――黄梁一炊(こうりょういっすい)

 

 

 ――キン、と。小さく、納刀する音がした。

 

 

「……ん?」

 

 鬼の男が首を傾げた。今、何かしたか……?

 山堂の入口に立つ鬼殺隊の男は、刀に手を掛けたまま動いた様子もない。自身の体にも全く異変はない。

 

「なんだァ? 焦らせやがって、虚仮威しかよォ!!」

 

 叫び、勢いそのままに鬼殺隊員へと襲い掛かる。男は反応することも出来ないのか、動かない。

 

「死になァッ!!」

 

 鬼の爪がとうとう男へと届き、その肉を無残に切り裂く――。

 

「――あれ?」

 

 こつん、と額に当たる感触に、鬼はハッとした。どういうわけなのか、地に伏せている。

 そして目の前には、あの男の――鬼殺隊員の足がある。

 そのまま見上げれば、五体満足の男が依然として変わらぬ姿勢のまま、こちらを冷たく見下ろしている。

 

「馬鹿な、俺の爪が……」

 

 たしかに切り裂いたはず――そう続けようとして、ふと気づく。爪――いや、体の感覚が――。

 

 沸き上がった悪寒に、眼球をぐるりと回して背後を見やれば、そこにはぼろぼろと崩れてゆく、首のない己の体があった。

 

「なん、だと……――」

 

 愕然とした表情でそう呟き。

 その途端、稲妻のように流れ込んでくるのは断末魔の衝撃。

 

「――グ、グアアァァァアアアアッッ!!」

 

 最後に絶叫を上げて。

 鬼の首も、ぼろりと灰のようになって消え去った。

 

 そして後には、

 

「……え? いや、え?」

 

 困惑した表情で、ひたすら疑問符を浮かべる炭治郎が残された。

 彼の視点では、鬼も、銀太郎も、両者とも一歩も動かずに決着がついていた。

 

 銀太郎が刀の柄へ手を掛けると、次の瞬間には鬼の頭がぼとりと落ちていた。抜いた刀身すら炭治郎の目には映らなかった。

 

「……と、まあ、呼吸法を修め、究めれば、この程度のことは出来るようになる」

 

 静かにそう纏めて、銀太郎は鬼の消滅した堂の中へと足を進めていく。

 

「埋葬するぞ。炭治郎、手伝ってくれ」

 

「……え、あ、はい!」

 

 慌ててその後を追いながら、炭治郎は思った。

 

(出来るようになる気がしない……)

 

 はたして自分も、本当に鬼殺の剣士になれるのか? ひそかな不安が沸き上がっていた。

 

 

    □■□■□

 

 

 ――こそり、と。

 静かに山堂を忍び出る気配に、銀太郎の瞳が開いた。

 深夜である。

 堂の中心に置かれた火鉢に、わずかに残った燠が薄く周囲を照らしている。

 着物にくるまった炭治郎が、静かな寝息を立てている。

 狭い堂内を見渡すも、禰豆子の姿は――やはり、ない。

 

「……さて」

 

 抱えていた刀を腰へ差し直し、銀太郎もゆっくりと立ち上がる。

 そばで寝転がる炭治郎を見やり、ふと考えてから、荷物の中から香炉を取り出す。火鉢の燠から火を移し、香を焚く。途端に堂内に漂う香りは、藤の花のものだ。

 曲がりなりにも鬼である禰豆子がいたので今までの旅路で使用することはなかったが、一時的にも銀太郎がそばを離れるのなら、万全を期することに無駄はない。

 

「炭治郎、もしものときは――すまない」

 

 健やかな寝顔を見せる弟分に、静かに告げる。

 もし、禰豆子が鬼としての性をとうとう抑えきれなくなってしまっているとしたなら――。

 

 ――被害が出る前に、己が片をつけなければならない。

 

 密かな決意を胸に、銀太郎はそろりと月夜のなかへ躍り出た。

 

 周囲を見渡すも、先に抜け出したはずの禰豆子の姿は見えない。天を仰げば、まだ月は高く、夜明けまでの時間は長い。

 

「まずは――」

 

 ひとつ息を吐いて、山堂の裏側へと回る。もしも禰豆子が肉親以外で人喰いをするならば、最初に思い浮かぶのが、先刻に炭治郎と二人で埋葬した者たちのことだった。

 元いた鬼の喰い残しではあるが、死後そう時間も経っておらず、手軽さで考えれば一番に喰う確率が高い。

 

 ――と、思ったが。

 

「いない、か……」

 

 人数分に並んだ土饅頭には、掘り返した跡も見当たらない。

 銀太郎は知らず、安堵の息を吐いた。

 

 危惧したようなことでは、ないのかもしれない――。

 

 いや、もちろん、ふもとの人里まで人を襲いに行っている可能性もまだあるので、そう簡単に安心してはいけないのだが。

 銀太郎もまた、やはり、炭治郎と同様に禰豆子のことを信じたい気持ちが大きいのであった。

 

 鬼殺隊として今までに見てきた鬼の無情さ、常識、柱としての責任――。一方では様々なものが銀太郎を責め立てるも、しかし、それでも昔馴染みの少女を殺したくない……そんな思いがそれらをはねのける。

 どうにも、ままならない。人間とは、そういう生き物だ。

 ましてや銀太郎はまだ、十五歳。ただでさえ若かった。

 

「禰豆子は……どこに行ったのか」

 

 小さくつぶやいて、銀太郎は改めて辺りを見渡した。

 そこでふと、森の一角に分け入っていった跡があることに気が付いた。

 

 近づいて、のぞく。

 草を踏みしめた跡は、森の奥へと続いている。……ふもとの人里とは、反対の方向だった。

 

「――よかった」

 

 今度こそ、心から安堵する。

 しかし、だとすれば。

 

(禰豆子は、どこに何をしに……?)

 

 どちらにしろ、他の鬼に見つかっても禰豆子は危ない。彼女を探さねばならないことには変わりなく、銀太郎は禰豆子を追って森の奥へと進んでいった。

 

 しばらくすると、何か耳に入る音がある。

 

「これは……」

 

 足を止めてみれば、川のせせらぎだとわかった。

 

(川……水浴び? いや、さすがに寒いだろう。待てよ、でも鬼だから……)

 

 その場でいろいろと考えていると、ふと、川音よりもさらに小さな物音があることに気が付く。

 落ち着いて耳を澄ませると、それはどうも人の声で……禰豆子のもののように聞こえた。

 

(何をしているんだろう……)

 

 知らぬうち、銀太郎の足は忍ばせたものになっていた。音を立てぬよう、気配を漏らさぬように、そろりそろりと声のするほうへと近づいていく。

 そして、腰を落として木の陰からのぞき込めば――

 

 

「――ふぅ、ふぅ……んふあっ♡」

 

 

 川のそば、大木の幹に寄りかかるようにして腰を下ろし、帯をほどいて着物の前を完全にはだけさせた禰豆子の姿があった。

 

(えっ……)

 

 あまりの予想外な光景に、銀太郎の時間が凍結した。

 体と思考はぴたりと硬直し、しかし……その視線は無意識に、目の前で広げられる一人きりの秘め事にくぎ付けになっていた。

 

「んふぅ♡……ふぅ♡……」

 

 禰豆子の右手は幼い割れ目へと伸びており、左手は膨らみかけの乳房を揉んでいる。

 未成熟な体を、自分自身で弄びながら、禰豆子はとろりとした表情で青い快楽に浸っていた。

 

 月明かりの下、白い肌がいやでも目に入る。

 

 三つ年下の昔馴染みの少女のあられもない姿に、気づいたとき、銀太郎は唾を呑み込んでいた。

 

 ――美しかった。

 

 そしてそれ以上に、官能的な光景だった。

 自身の股間が、痛いほどに膨張していることがわかる。

 

(しかし、なぜ……)

 

 銀太郎の頭の片隅で、まだ冷静な部分がつぶやいた。

 

 ――銀太郎は知る由も無いことであるが、この現状の原因は、ある意味で彼の存在が大きかった。

 

 禰豆子は、ここまで己の意志の強さによって、鬼の本能を抑え込んでいた。鬼化してからすでに数日が経ち、飢餓状態も非常に苦しく辛い時期に突入していたが、もし銀太郎のいない世界であったならば、まだしばらくは持ちこたえることができた。そうして安全な場所へたどり着けたならば、本来は必要のない睡眠を取ることで肉体を変質させる作業へと突入できただろう。

 

 しかし、この世界では銀太郎がいた。道中、常にそばに――稀血の持ち主が。

 

 禰豆子の飢餓感は輪をかけて想像を絶するものになった。生き地獄と言ってもよく、耐え抜いた彼女の存在を他の鬼が知ればそれだけで驚嘆するであろう偉業であった。

 

 そうして、かろうじて保たれていた天秤が、しかし今晩……崩れ去った。

 

 山堂の鬼が喰っていた人間たち。その血肉の香り、その(いざな)いのなんと甘美なことか!

 禰豆子の腹の虫は、とうとう欲望を抑えきれなくなった。

 

 だけれど。

 

 空腹がひどい――。しかし、兄や想い人を食べたくない――。そして人を喰らって、彼らに嫌われたくない――。

 

 そんな思考でもって、それでも彼女は抗い続けた。

 抗い続けて……彼女の肉体が、緊急的に逃げ道を作った。

 

 生来、人間という生物は大きな欲望を三つ持っている。食欲、睡眠欲、そして――性欲である。

 なにがなんでも人間を食べたくないと拒否する心と、食欲が暴れる肉体との調整をなんとか図るために、無意識下に彼女自身が行った緊急逃避――。

 

 ――それが、食欲から性欲への一時的な転換だった。

 

 強い欲望の衝動を、別な欲望のものへと無理やりに誤認識させたのだ。

 そうして兄と想い人が寝静まるのを待って、ひとり夜の森へと抜け出た禰豆子は、このように生まれて初めての自慰に耽っていたのである。

 

 どこを触れば気持ちが良いのか。そんなことは、事前知識がなくとも生物なら本能でわかる。

 すでに自慰を初めて十分以上が経ち、彼女の肉体はこれ以上ないほどに火照っていた。

 

 しかし、まだ――まだ、足りない。

 

 あの強力な食欲をごまかせるほどには、まだ至っていない。もっと、もっと激しい快楽が必要だ――。

 

 そんな思いが、彼女の指の動きに現れる。

 焦るように激しくなったそれらが、割れ目の上部の小豆へと触れて――。

 

「――んふあぁぁんっ♡♡!!」

 

 ビクッ――ビクンッ――ビクンッ!!

 

 今までにない刺激に、少女の華奢な体が大きく跳ねた。

 汗と愛液が飛び散り、月光に輝く。

 

「んふぁ♡ んふぁ♡ ふぁ♡……」

 

 口に巻き付けられたままの大きな布の枷は、あふれ続けた涎を吸って、随分と重くなっていた。

 鬼であっても、ちょっと息が苦しくて、禰豆子の目尻に涙がたまる。

 

「んふぅ……ふぅ♡」

 

 しかしそれはそれとして、今ほどの刺激であっても、まだ食欲を抑えられる程度には未だ遠かった。もっと快楽を得なくてはならない――。

 そうして、だらりと垂れていた手が、再び股へと潜ろうとして――。

 

 がさり。

 

 聞こえた音に、伸びた手がぴたりと止まった。

 

「……!」

 

 禰豆子が見れば、そこには思わず立ちあがってしまった銀太郎の姿があった。

 

 緩慢な意識レベルのなかにあっても、少女の持つ乙女心は健在だった。恥ずかしい場面を見られたことに心は悲鳴を上げて、瞳からは先ほどとは異なる涙が一筋、流れ落ちた。

 

 一方の銀太郎もまた、混乱していた。

 なぜ禰豆子がこんなところでこんなことをしているのかについてでもあったし、なぜ自分は今、立ち上がってしまったのかについてでもあった。

 

「あ、いや、禰豆子、その……」

 

 震える口が、うまく言葉を紡がない。銀太郎は必死で頭を働かせた。

 

(なんとかしなければ、なんとか――)

 

 しかし、そんな正常な思考はそこまでで停止する。

 

「――ッ!!」

 

 銀太郎は目を見張った。

 硬直し、涙を流す禰豆子。その股座で、しかし伸ばされた指が中途半端に広げていた幼い割れ目から、とろり――と蜜が垂れ落ちるのを目撃してしまったからだった。

 

 ――このとき、銀太郎のなかで理性が吹き飛ぶ音がした。

 

「…………」

 

 ごくり、と喉を一つ鳴らして。

 

 銀太郎は、禰豆子のほうへと足を踏み出していた。

 

「……?」

 

 涙を流していた禰豆子は、その行動にびくりと小さく体を震わせる。

 そして、うるんだ瞳で上目遣いに銀太郎をうかがった。先ほどまでの自慰によって、その頬は上気しており、汗に濡れた髪は額や頬に張り付いている。

 

 ――この上もなく、色気があった。

 

 次の瞬間、ばさりと銀太郎は禰豆子に覆いかぶさっていた。

 

「んむぁ!?」

 

 驚く禰豆子を意に介さず、銀太郎は布の轡をはぎ取って、その瑞々しい小さな唇へと吸い付いた。

 

「んむぅっ!?……んちゅ、ぷひゃあっ」

 

 突然のことの連続に、禰豆子の目が白黒している。息を継ぐように逃れた口を、再び銀太郎の口がふさいだ。

 

 くちゅ、ちゅぱ、ちゅぷ――。

 

 銀太郎は遠慮なしに舌をねじ込み、少女の口内を蹂躙する。相手のことを考慮しない、激しい接吻だった。

 その折に、小さな牙で擦れた舌に軽い傷がついた。銀太郎の血の味が、禰豆子の喉元に広がってゆく。

 銀太郎の頭のどこかで(まずい――)という意識が起こったが、それはとても小さな声で、彼はそのまま気にせず接吻を続けた。

 

 血による変化は、鬼の凶暴化とは別のかたちで現れた。

 

「んふぁっ……♡」

 

 眉や目尻が下がり、瞳がとろんと蕩けている。息が荒くなりはじめ、再び情動の波が彼女の内から湧き上がっていた。

 

 ぬるま湯のような幸福感が、腹の底のほうからやってくる。

 

 乙女心の羞恥や銀太郎の突然の行動に対する混乱など、先ほどまで脳内を支配していたものがすべて押し流されて、ただ、このまま想い人ともっと愛し合いたい――そんな愛欲で満ちてゆく。

 

 身勝手な接吻に対する嫌悪なども全くなく、気づいたときには禰豆子の方からも舌を絡ませていた。

 

「んふっ♡……んちゅっ♡……んぷぅっ♡」

 

 舌が離れれば、ねだるように舌先で相手の舌をつつく。覆いかぶさった彼の背中へと、知らないうちに両腕を回して抱き着いている。

 

 ちゅぱ――ちゅぷ――んちゅり――。

 

「……ぷはぁっ♡」

 

 足りなくなった空気を求めて、互いの口が離れた。銀色の橋が間にかかり、ややあってから禰豆子の口の中へと納まった。彼女はそれを、無意識に嚥下する。

 どれほどの時間、接吻していたのかはわからない。二人は完全に抱きしめ合っており、口元は互いの唾液で、火照った体は互いの汗で濡れていた。

 

「禰豆子……」

 

 銀太郎が囁き、彼女の裸体を眺める。月明かりに照らされて、白い未成熟な肉体が夜のなかに浮き上がっている。

 

「……綺麗だ」

 

 また顔を寄せる銀太郎に、禰豆子も応える。

 すると、彼はなにやら腰の方へ手をやってもぞもぞとし出した。

 

「……?」

 

 火照った意識の中、禰豆子が首を傾げていると、銀太郎が上体を上げた。膝立ちのような形で、禰豆子にまたがっている。

 そしてその腰元から――大きく、反り返った陰茎が飛びだしていた。

 

「ふぁっ!?」

 

 禰豆子は小さく悲鳴を上げた。勃起したそれを、彼女は初めて見たのだった。

 もっと幼い頃の記憶、共に風呂へ入ったときに見た兄弟や父親のものとはまるで異なっている――。

 なぜか、禰豆子は喉を鳴らしていた。

 

「禰豆子……」

 

 銀太郎が顔を寄せて、彼女の柔らかな頬へと口づけを落とした。啄むようにして、音を立てて唇をつける。それは、頬からやがて首元や耳元へと移動してゆく。

 

「んふぁっ……♡」

 

 くすぐったそうに、禰豆子が身をよじる。逃げるような動きをする彼女の顔を追うように、彼の口づけも激しくなる。そうしていると、彼女は自身の股に何か熱いものが押し当てられていることに気が付いた。

 

「んふぇ?」

 

 驚き見れば、彼女の割れ目をなぞるように、彼の陰茎の先が上下して擦れている。

 銀太郎の口から熱い吐息が漏れた。

 

「禰豆子――」

 

 呼ばれた彼女が顔を上げれば、口を奪われる。それに身を任せ、瞳をとろんとさせて――

 

 

「――んふぐぅッ!?」

 

 ――下半身を、引き裂かれるかのような痛みが走った。

 

 

 熱い、とてつもなく熱い、熱された鉄棒でも股座に突き刺されたかのような激しい痛みである。

 

「んふぐッ……ふぐぅッ……んふぅッ――!!」

 

 痛みに喘ぐ禰豆子であるが、銀太郎は彼女の口をふさいで離さない。それどころか、覆いかぶさった体の全体で、下敷きにした小柄な禰豆子を抑え込もうとしている。

 涙の溜まった瞳で禰豆子が見れば、腰元では彼女の割れ目の中へと、太く大きな陰茎が入り込もうとしている様子が目に入った。

 

 禰豆子は息をのむ。痛みの正体はこれだった。

 

 小さな割れ目は精一杯に広がって、太く硬い屹立を、ぎちぎちと音でも立てそうな具合で健気に呑み込もうとしている。

 それでも、挿入できているのは陰茎の半分にも満たなかった。

 びくびくと震える膣口からは、赤い血液が滲み垂れている。

 

「フゥ――フゥ――フゥ――」

 

 禰豆子は鼻で息をして、痛みに耐える。ぎゅっと閉じた目尻からは、涙が流れていった。

 彼女がそうしている間に、銀太郎はお構いなしの抽送を始めた。

 体格差の大きい相手を抑え込んでいるために可動域が不自由気味な腰をなんとか振り、未熟な膣へと大人の性器をぶつけるだけの運動。

 そのたびに、小柄な少女の体はゆさゆさと上下へ揺れる。

 

 ずちゅ――ずぷっ――じゅぶっ――じゅちゅッ――。

 

 段々と、銀太郎の腰の動きが激しくなっていく。

 未成熟な性器、それも初物であるために、挿入できた部分は陰茎の半分ほどだったが、それでも挟み込んで離さない熱い膣内は、不足を補って余りあるほどに気持ちが良かった。

 

 一方で、同調するようにして、禰豆子のほうにも変化があった。

 

「――んふぁっ……ふぁんっ♡……んあぁっ♡!」

 

 痛みに耐えるだけだった呼吸が、いつの間にか熱くなり、そして喘ぎ声へと変移していた。

 

 鬼の回復力が破瓜の痛みを和らげ、治癒し――そして快楽が訪れ始めたのである。

 

 じゅぷっ――じゅちゅっ――じゅぷっ――。

 

「ふぁっ♡ ひぁっ♡ ふぁんっ♡」

 

 その様子を見た銀太郎は上体ごと顔を離すと、無理に抑え込んでいた体を離して、改めて少女の腰を掴んだ。動きやすくなったぶん、これまでよりも強い衝撃が幼い膣へと打ち込まれる。

 

「ふぁあんっ♡♡♡!!」

 

 丑三つを超えた、静かな夜の森の中、二人の情事の音だけが辺りへ響いてゆく。

 

 じゅちゅ――じゅっ――じゅっ――じゅぷっ――。

 

「ふぁっ♡ んはっ♡ はぁ♡ はぁ♡――」

 

 男と女。十五と十二。共にまだ若く幼く――

 柱と鬼。許されてはならない立場のはずなのに――

 

 じゅっ――じゅっ――じゅっ――。

 

「あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡――」

 

 互いの息が、熱が、際限なく上がってゆく。

 立場や現実など、そんな無粋な思考は二人の中には一欠片も存在していなかった。

 

 ただ、ただ目の前の人と愛し合いたい――。

 

 そんな一念のもとに二人の意識は溶け合っていた。

 

 やがて、銀太郎の手がひときわ強く少女の腰を掴み、

 

 ――ずどんっ!!

 

 そんな幻聴が聞こえるくらいの衝撃で以て、幼い子宮口へと亀頭を叩き込んだ。

 

 白い光が二人の脳髄を落雷のように迸って――

 

 

 ――どぷっ!! とぷどぶどぷぅぅぅっっっ!!

 

「――ふあぁぁぁああんっ♡♡♡♡!!」

 

 

 絶頂する。同時に絶頂した二人は、点滅する視界に翻弄される。

 銀太郎の腰はがくがくと震え、禰豆子の膣は逃がさないとでも言うように陰茎をにちぎちと締め上げた。どぷどぷと、尿道に残った精液が吸い上げられてゆく。

 

 天を仰いで半ば放心する銀太郎の下で、禰豆子は激しい快楽にもみくちゃにされる火照った思考のなかで、ある気づきを得ていた。

 

 どくん――とくん――と腹の奥へと流し込まれる熱いもの。

 

 それと同時に、今までずっと彼女のなかにあった飢餓感が薄れてゆく。

 

 鬼になってから、ずっと――ずっと体の奥底にあった食人衝動が、強力な空腹感が。綿が水を吸うように、膣の鳴動と共に穏やかに消え去ってゆく。

 

 意識レベルが、ふわりと浮き上がり……鬼化以前の明晰な意識が再び戻ってくる。

 

(ああ――)

 

 すべてを察して、禰豆子は熱い吐息をついた。

 

(やっぱり、そうなんだ――)

 

 歓喜の涙で、視界が滲む。

 

(私は――)

 

 胸のなか、愛おしさが溢れて止まらない。

 

(――このひとと結ばれるために、生まれてきたんだ)

 

 禰豆子はこの夜、その恋を愛へと昇華させた。

 

 

    □■□■□

 

 

 射精の快感から気を取り戻した後、まず銀太郎を襲ったものは強い後悔と罪悪感だった。

 

 性欲に頭をやられて、ほとんど、いや明らかな強姦をしてしまった――。

 

 そう思って顔を真っ青にするも、見下ろしてみると禰豆子はにこにこと微笑んで、猫のように縋り付いてきた。

 

(え――?)

 

 と固まる銀太郎であったが、禰豆子は依然として体の全体を目一杯に使って愛情表現をしてくる。

 甘えるように抱き着いてくる彼女の頭を、ほぼ無意識に撫でれば、「むふー」と非常に満足そうな吐息が帰ってきた。

 

(これは――許された、のか?)

 

 混乱する銀太郎の顔を、禰豆子は下から心配そうにのぞき込む。そして彼の襟もとを引くと、元気出して、とでも伝えるように頬へ口づけを行った。

 

 そして名残惜しそうに離れてゆく、小さな唇を見送って。

 

 ここで、銀太郎の覚悟が決まった。

 

 どちらにせよ――やることをやってしまったのだから。

 責任を、取らねばなるまい。

 男として。

 

「――禰豆子」

 

 呼びかければ、その声に何かを感じたのか、彼女は少し不安そうな顔でうかがってくる。

 頭を撫でまわして接吻したくなる気持ちを抑えて、銀太郎は続けた。

 

「その、順序が逆になってしまって本当に申し訳ないのだけれど……」

 

 彼女の小さな両手を握りこみ、その瞳をのぞき込んで宣言する。

 

 

「――結婚を前提に、僕と交際していただけませんか」

 

 

 途端、辺りの音が遠くなって、消えた。

 無音の世界で、禰豆子の瞳がひときわ円く大きくなって――

 

 ――気づけば、銀太郎は草の上へと寝転がっていた。

 

 先ほどまでとは上下の体勢が入れ替わっている。鬼の瞬発力で抱き着いた禰豆子に、銀太郎が押し倒されたのだ。

 禰豆子は押し倒した銀太郎の腹の上で、ぎゅうぅぅっと強く抱きしめて顔をこすりつけていた。鬼の力なので、少しだけ痛い。

 それを呼吸法で和らげながら、銀太郎は彼女の髪を梳かすように撫でた。

 さわさわと指当たりの良い、絹のような髪だと思った。

 

 そして、そうして天を仰いで……唐突に気づく。

 

 月が、西へと沈みかけている。

 星々の光が、遠く薄い。

 まだ東の空は明るくないが――

 

 ――夜明けまで、時間がない。

 

 

 ……そこから先は、まさしく慌ただしいことこの上なかった。

 

 川の水で濡らした手拭いで以て、互いの体の後始末をつけてから、二人は急いで堂へと戻った。

 しかも間が悪いのか良いのか、帰ったころには炭治郎がちょうど起きだしてきていて。

 

 彼はすん、と鼻を鳴らしてから、じっと二人の顔を見比べた。

 

 そうしてから、「これからは本当の義兄弟(きょうだい)になるんですね――」と嬉しそうに語った。銀太郎はすさまじく肝が冷えた。

 藤の香を消した堂の中で、禰豆子はぴたりと寄り添ってきて離れない。その様子をニッコニコと眺めながら、やたらと銀太郎に話しかける炭治郎。彼が「前と同じでいい」と言うまで、炭治郎は「義兄上(あにうえ)」呼びをやめなかった。

 

 その後、一行はなんだかんだで狭霧山へとたどり着く。

 

 急に訪問してきた彼らを出迎えた鱗滝左近次へと、事情を説明していく銀太郎。

 その際においても片時も離れまいとする禰豆子に、銀太郎へその関係性を尋ねた鱗滝へと「鬼になりましたが、妹と銀太郎さんは恋人同士なんです!」とひたすら嬉しそうに力説する炭治郎。

 

 すべてがすべて、慌ただしく過ぎて。

 

 炭治郎は鱗滝のもとで水の呼吸の修業を行い、その様子を、銀太郎は柱の業務の隙間にのぞきにやってくる。

 そのたびに禰豆子は歓喜して寄り添い――二人はしばしば夜の山で情を交わした。

 銀太郎は(よし、ばれてはいない――)と思っていたが、炭治郎と鱗滝は察した上で知らない素振りをしていた。……ただ、恋人同士だからと気にも留めない炭治郎と、内心では少し引いていた鱗滝という違いはあった。

 

 そうして二年が経ち。

 

 最終選別を突破した炭治郎が、無事に最初の任務を終えて帰ってきて――現在へと至る。




普段は常識人なのに、エロ展開になると途端に、鬼畜になったり馬鹿や阿呆になったりする。これを「エロゲ主人公体質」と呼ぶ。――民明書房刊『現代の主人公たち』

なお、二年前の当時のオリ主は自身の血の特殊な性質について知りませんでした。
また、(常に食欲が満たされているため)完全に人間を襲う気配のない禰豆子に対し、鱗滝は迷った末に暗示をかけるのをやめました。

以下、設定晒し。

●血筋について
・竈門家
 実は縁壱と竈門すみれ(炭吉の娘)が結婚(再婚)して血が入ったため、以降の子孫には日の呼吸の適正がある。(成長したすみれ十代が縁壱三十代にしつこく言い寄った結果であり、炭吉やすやこも心から祝福した)
・坂田家
 坂田家自体の先祖は侍だが、現在は陶芸作家の家族だった。陶芸作家と良質の炭焼きという関係で、時甫と炭十郎は知り合い、友人となった。
 銀太郎の母の旧姓が時透で、無一郎の父と実は兄妹である。銀太郎と無一郎は従兄弟の関係となるが、二人ともそれを知る肉親がすべて故人であるため、のちにお館様から知らされるまで両者とも全く知らぬ事実であった。
・坂田銀太郎
 容姿が継国兄弟によく似ている。のちに発現させる痣の文様は、どうも月の呼吸の剣士のものと酷似しているようだが……。

●夢の呼吸
 オリ主が作り出した自分のための呼吸。技名だけご紹介。詳しい説明はいずれ物語内にて。
 なおオリ主自身は、他にも水の呼吸と風の呼吸も各々に一部だけ修得している。
壱ノ型 幻魔六腕(げんまろくわん)
弐ノ型 栩栩胡蝶(くくこちょう)
参ノ型 黄梁一炊(こうりょういっすい)
肆ノ型 鏡花水月(きょうかすいげつ)
伍ノ型 月下人虎(げっかじんこ)
陸ノ型 狼疾感染(ろうしつかんせん)
漆ノ型 夢幻万華鏡(むげんまんげきょう)零式(ぜろしき)
捌ノ型 夢幻万華鏡(むげんまんげきょう)(かい)


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