横須賀に咲く花束 (ヨコヨコ)
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プロローグ

幼いころに誓った夢、子供の頃思い描いた夢。

大人になり切れない自分があきらめかけている夢。

あきらめたくないのは自分だけなのに、目の前で何もできなかった自分が嫌いだった。


大規模な地殻変動で、日本の国土のほとんどは海中に沈んでしまった。その代わり、大規模な人工島(フロート)があちこちに建設され、人々の生活基盤は陸ではなく海にその場を移していった。

 

そんな世界で、子供たちが憧れた職業がある。【海に生き 海を守り 海を往く】・・・ブルーマーメイド。海上安全整備局に所属する海の警察。女性のみで構成されたこの職業は現代においてもっとも信頼を置かれ、子供たちの憧れの職業であった。

 

・・・え?男は船に乗らないのか?ああ、そこの君。君はいい子だ。将来は真っ白な政治家になるといい。そうすれば僕らの給料も少し位かいい給料にしてくれるだろう。

 

・・・話が逸れてしまった。もちろん、男性の部隊も存在する。女性では解決が難しい案件や、潜水艦乗りなどを専門に取り扱う『ホワイトドルフィン』。そう、この僕がその一人。何年も現場になんて出てないけど。いや、左遷じゃないよ。うん。

 

まぁ、花形のブルマーに比べたら僕らなんて影が薄いなんてもんじゃないんだけど。うん。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「で、俺たちの船が長期点検期間に例の事件でさらに修理が長引いた結果すねて嘆願書を出した、と?」

 

「暇すぎて授業もやってられないしねー。」

 

真昼間の食堂。たくさんの生徒たちが昼食をとっている・・・と思えば、利用者は極わずか。そりゃそうだ。僕ら以外はみんな海洋実習中なんだから。

 

「大体!整備局も整備局でブルマーの大規模作戦やるからこっちの整備課貸してくれって!全員もっていくとかありえないでしょ!?」

 

「整備局も、例の事件で色々あったらしいししゃーないしゃーない。俺らは結局影でしかないんだし。」

 

先日、ブルーマーメイド内で発生したとある事件。整備局の信頼を大きく覆してしまいかねない緊急事態にドルフィンの本隊も作戦に参加したらしい。

・・・で、幼馴染二人ががっつり巻き込まれてるのも笑えない話なんだけど。

 

「で、今日どうするよ。」

 

「用事あるからパス。」

 

ぱっぱと食事を済ませて食堂を後にする。・・・ああ、校舎が近くなのに女子のじ一つありゃしないってそりゃないよ・・・

 

こちとら青春まっさかりの男子高校生。できることなら彼女ほしいし。

 

「くしゅん!・・・まだ夏なのになんでこうくしゃみが止まらないんだ・・・。寮に戻る前に薬局寄って帰ろ。」

 

幼馴染二人に余計に心配されそうでなんか怖いし。しょうがないね。



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第1話 二人の幼馴染

主人公紹介
速水 海斗
横須賀男子海洋学校3年生 満18歳。

東京都第四居住フロート出生→呉市特別養護学校→神奈川県横須賀市

幼いころ両親と死別。整備局員だった両親の同期でもあった老松さん(現宗谷校長秘書)の勧めもあり呉の養護学校へ。そこでもえかと明乃に出会う

海洋学校に入学した理由はホワイトドルフィンになるためではなく、両親の事故の原因を突き止めることと、自分のような孤児を出さないためにするため。

クラスは大型直接教育艦 すいりゅう
航海科。船では二人いるうちの副艦長として指揮を執る。

だが性格は温厚かつ争いごとを好まない。そのためクラスの勢いに飲まれることが多く胃薬が手放せない。

現在は寮に住んでいるが、中学時代より宗谷家に居候。

知名もえかとは恋人。だが頭は上がらない。岬明乃は妹のような存在なためとても甘い。
憧れは真霜。



好きな言葉「To protect what is important, you need to be prepared to throw something away in yourself.」


神奈川県横須賀市。地盤沈下した現在の日本の中で、陸地とフロートが生活圏になっている珍しい土地。

 

そして、僕が通う横須賀男子海洋学校もここにある。そのお隣には横須賀女子海洋学校が。

 

横須賀のほかにも何か所か海洋学校はあるものの、また、卒業後もほとんどがブルーマーメイド(一部警察等の公務員や海洋大学等に進む卒業生もいる)に進む特殊な形態のため、在校期間は3年。ただし給与はしっかり出るという場所なため、基本的にはエリートが進む。・・・はず。

 

まぁ、そんな僕も海洋学校の生徒ではあるんだけど、ね。

 

さて、なんで僕が横須賀市内のショッピングフロートにいるかというと、だ。幼馴染二人に呼び出されたから、とだけ言っておこう。

 

そういえば、女子の買い物は長いってよく聞くけど本当なんだろうか。というか、あの二人に至ってはそんな買い物が長いわけ

 

 

「あ、あの二人とも?買いすぎじゃいやこれマジ重・・・」

 

荷物降ろさせて!!お願い!!!!

 

「あっ、これミケちゃんに似合うんじゃない?」

 

「あーっ♪これこの間雑誌で見たやつ!!」

 

似たの買ってなかった!?というかどこからそんな予算が!?

 

「ふふっ、このバッグほしかったんだ~♪」

 

君らすっかり女子高生だね。うん、あれその袋はいったい?あっ、だめ、腕がぁぁっ!!??

 

そろそろ両腕とれそうなんだけど君らかげ・・・・っ!!

 

 

「あ、あのね?わざとじゃないんだよ?ただほら、最近お休みとかあまりなくて。」

 

「そ、そう!もかちゃんも私もほら、例の事件で色々あったから!」

 

それで幼馴染の腕をこんなにするほど買い物したんだ。へー。」

 

目の前にいる二人の女子高生。岬明乃と知名もえかは、同じ養護施設で過ごした幼馴染だ。

 

といっても、もえかと僕は中学に上がるころにそれぞれ引き取られ、明乃だけは養護施設で過ごしたけど、お互い手紙は送りあいしてたから高校でもすぐに気づくことができた。まぁ、入学後の事件でゆっくりする暇はなかったけど。

 

「ほ、ほら!ごはんは私たち出すから機嫌直してっ?」

 

どうやら彼女たちの中で僕の機嫌取りはごはんらしい。いつの話をしているのか。

 

「とりあえず、荷物は寮に送ったんだし、何か食べに行くのは賛成。」

 

とはいったものの、日曜日ということでフロートの店舗はどこも30分以上待ちらしい。そりゃそっか。

 

「ここじゃ無理そうだし、一回横須賀に戻ろうよ。ここで待っててもらちがあかなそうだし。」

 

「ううっ、あそこのパフェ今日は食べれると思ったのにぃ。」

 

残念そうに肩を落とす明乃。そういえばこの間テレビでここのカフェが大人気とかって言ってたっけ。

 

「・・・もえかは待てる?」

 

「えっ?う、うん。私は大丈夫かな。」

 

情報掲示板を見るとそのカフェはちょうど一時間ぐらいの待ちらしい。

 

「しょうがない。せっかくだしそのカフェ行ってみようよ。せっかくなら食べてみたいし。」

 

「いいの!?じゃあ私先にいくから!!」

 

こんなところで走るんじゃありません!!!君高校生でしょ!・・・あーあ、もう見えなくなった。

 

「ふふっ、私たちもいこっか。」

 

手を引くもえか。子供の頃から何も変わらないこの光景が一番安心するのは・・・きっと幼馴染だからなんだろう。」

 

 



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第二話 事件を越えて

「・・・一時間以上待ち、だったんじゃなかったっけ?」

 

「あ、あはは・・・流石ミケちゃんだね。」

 

カップルや学生でにぎわうカフェの店内、先ほどまで一時間待ちと表示があった店内になぜかすんなり入れてしまった。予約も何もしてないのに。

 

「えへへ~、ラッキーだねっ。」

 

多分その元凶はこの目の前にいる岬明乃だろう。ラッキーガールという二つ名がぴったりなレベルでこいつは運がいい。

 

くじ引きはほぼ1等、遠足などの行事で雨が降ったことは一度もない。多分僕が不運なのは絶対彼女のせいだと思いたい。

 

「でもやっと食べれる♪念願のタピオカパフェ!」

 

「そもそも、タピオカって飲むやつだろ?」

 

「最近はアクセントで入れるところも多いみたいだよ。あっ、私のケーキ来たみたい。」

 

3人の頼んだものがそろうと、久しぶりの雑談に会話も弾む。

 

数年前までは当たり前だったけど、お互い離れ離れになってからは一度もできてなかったし、新鮮って言葉が一番かな。

 

「そういえば、海斗くんは最近どうしてたの?」

 

「どうしてたのって。海洋実習は一度もう終わってるよ。RATSの確認して、感染が確認できなかったからね。まぁ、横女の船には近づくなって命令は来てたから、晴風の応援tにはいけなかったけど。・・・何かあった時のためにバックアップで用意はしてあったよ。」

 

まぁ、結果的に晴風は沈んだんだけど。と、最後の言葉は空中に消えてしまった。

 

当時無線封鎖されていた作戦において、潜水艦の中からは何かが衝突した音とソナーで晴風が武蔵へ体当たりを敢行したのは判明していた。だからか、沈没するという可能性も正直よぎっていた。晴風の沈没は正直予想の範囲内、だけどまさか港で沈むなんて。 

正直、あの時の船の雰囲気は最悪だった。守れたはずの場所を守れなかったから。

 

「なんで自己満足かな。」

 

「ふぇ?何か言った?」

 

「いや何もって明乃!??一人でそんだけたべ・・・ええっ!?」

 

女子高生の食欲は常人の何倍、なんて言葉を聞いたことがある。やれ、甘いものは別腹だとか。美味しいから大丈夫だとか言うけど、正直空想でしかないって思ってたけど。

 

目の前の明乃はなんとだ。どうやらあのパフェじゃ物足らず追加のパフェとパンケーキも平らげていた。おいおい、僕の幼馴染はいつからあんなになってしまったんをだい?ちなみにもえかは先ほどのケーキをゆっくりと食べ目の前の状況を朗らかに見つめている。なんてメンタルだ。

 

「ああ、コーヒーがおいしい・・・」給料日はまだ先。学食は無料とはいえこれ以上の出費は厳しいものがある。

 

僕ら海洋学校の生徒は、学生といえど国の機関に属する。非常時には学生だろうが現場に駆り出される(武蔵救出作戦なんかいい例だけど。)そのため防衛大学校のようにちゃんと給料が出るのが特徴だ。学年ごとに給料も少しづつ上がるし、任務手当や危険手当もしっかり出る。

 

つまるところ、普通の学生よりかはもらえてるはずだけど・・・

 

「大丈夫だよ。私も少し出すから。」もえかの囁きマジ天使の調べ。

 

この隣にいる知名もえかは僕の恋人だ。いや、正直もったいないぐらいの女性だけど。

 

「それに、ね?」

 

「んー?」

 

僕は、もえかから離れられないだろう。

 

ちなみに、店を出るときに財布が軽くなったのは言うまでもない。

 

 

 



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第3話 進む時間

昼間のカフェから数時間後。時間的には夕食の時間だが、僕ともえかは二人先ほどと違って市内のレストランに座っていた。明乃はクラス会とかで先に帰ったから実質二人きりだ。

 

「・・・ふふっ、緊張してるの?」目の前に座るもえかがいたずらっぽくつぶやく。

 

「恋人とはいえ、女性と二人きりで食事することに緊張しない人なんていないんじゃない?」※但し百戦錬磨のモテ男=リア充は除く。

 

もえかとは彼女がこっちに来た・・・すなわち、入学時に告白されてからこんな関係だ。そう、あんな事件さえなければ!こんなイベントはもっとはやく発生するはずだったんだ!!

 

「でも、二人が無事で本当によかったよ。学校からは動くなって言われてたし。」

 

あの事件時、東舞鶴の潜水艦も感染していたこともあり、学校とホワイトドルフィン内でも緘口令が敷かれ、学生艦の出動が禁じられていた。装備科だけは横女に行ってたけど。

 

「後から聞いたけど、スキッパーで武蔵に乗り込もうとしたんだって聞いたけど、まさかそんなことしてないよね?」うわ、もえかの威圧あるほうの笑顔だ。答え間違ったら終わる。

 

「ま、さ、か。子供の頃あんなに命を大切にってお説教してた海斗君が命を粗末にするなんてことしてないよね?何も言ってくれないけど?」

 

ま、まずいばれてる・・・!確かにあの時超秘密裏にスキッパーで武蔵に乗り込もうとしたけど・・・!未遂で終わってるはずなのに・・・!

 

「ふふっ、私が何も知らないって思ってた?私のところにはそれはもういろんな話が来るんだよ?あと、入学前大和の艦長さんといい感じだったって聞いたけど?」

 

ひええ・・気が付いたけどもえかの目、光がないぃ・・・

 

「み、宮里さんは友達だよ?ほら、何回か任務で一緒になることもあったからさぁ・・・」

 

「ふーん・・・どうだった?」「いやすっごく美人だしスタイルいいしせいかk」

 

今、何かかすった?おそるおそる横を見ると、ナイフとフォークが顔面横に突き刺さってた。え、もえかが持ってたやつだよね?え?

 

「ふーん、付き合う前だけどモテモテだったんだねー?いいんだよ別に。」

 

そういいつつなんで第2波目を用意してるのかなぁ!?これあれだ。浮気とかしたら海に沈められる奴だ。

 

「海斗君は年上好きなんでしょ?もってる本もそういうの多いもんね。」

 

待て、なんでそんなこと知ってる。部屋に入れたこともないはずなのに。

 

「しかも水着と制服が好きなんだよね?」

 

まずい、こいつ隠し場所バレてるぅうう!?なにが、何が望みだ・・・!

 

「あ、大丈夫だよ?私は他の女性みたいに捨てたりなんかしないから安心して?」

 

にこりと笑うもえか。果たしてその言葉をどこまで信じればいい・・・?

 

「そうだなぁ・・・これからずーっと私のヒモn「店員さーん!注文お願いしまーす!!!」」

 

この子本当に高校生!?純粋だったあの頃の彼女はどこに!?しかもヒモなんて言葉どこで覚えたのかな??

 

「ふふっ、そんなはずかしがらないで?将来的に私が稼いで海斗君にはずーっと私のことだけ考えててほしいんだ。」

 

うわぁ、笑顔でとんでもないこと言ってやがる。この子怖い。

 

「魅力的ではあるけど、僕にもやりたいことがあるから。・・・でも、僕が一生をささげたいって思うのはもえかだけだよ。」

「・・・っ!どこでそんな言葉覚えてきたの・・・?」

 

どうしよう、ブーメラン過ぎて何も言えない。

 

「焦らなくても、浮気することもないし。もえかがしたいなら長期休暇の時は二人で過ごせるようにするからさ。安心してよ。」

 

と、ここで食事が来たのでこの話はいったん終了。そのあと?普通に帰ったけど何かあると思ったのかい?



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第4話 戻りつつある日常

横須賀女子海洋学校と横須賀男子海洋学校。姉妹校であるこの二校、実は隣同士にあるわけではない。横須賀女子本校が猿島フロート。男子が走水フロートに建設されている。

そしてブルーマーメイド・ホワイトドルフィンの両基地が横須賀新港にあるわけで。

後から作られたとはいえ、女子の方が何かと便利なのだ。

 

「・・・ま、こっちはこっちで基地があるから何かってわけじゃないんだけどさ。」

 

横須賀湾に浮かぶ大型艦すいりゅう。言わずもがな僕の所属する学生艦だ。海の上で活躍する職業・・・といえば確かにブルーマーメイドが一般的。だけど女性だけじゃ解決できない対応やバックアップ等。そういうのに対応するのが僕らホワイトドルフィン。つまるところ、男でも船には乗れるってことだ。なにがいいたいかって?

 

「・・・学生とはいえ、給料増えないかなぁ。」

 

そう。僕らは一応国家公務員。だから給料も出るし、ボーナスも出る。学校内の食費なども格安だ。けど女子の方が少し高い。

 

「最近ホワイトドルフィンだって志望者増えてんのに。」

 

近年、男子海洋学校の志望者が急激に増えているらしい。今までは防衛大を希望する人が多かったけど。(一説によると、逆に女性も防衛大を希望する人が増えたらしい。)

 

そんなことを考えていると目的地である横須賀女子海洋学校本校舎へ到着していた。スキッパー楽すぎ。(というか、中型まで取るのって普通じゃあまりいないしなぁ。)

そんなことを考えていると、正面から普段と違う見慣れない制服を着た女性が歩いてきた。しかも誰かから隠れてるみたいだしこっち気づいてないし。

 

「まったく・・・せっかく横須賀に来たのだからたまには好きなもの食べたっていいじゃない・・・」

 

「で、のむさんからまーた逃げてるんかい。いい加減野菜食べなよ。」

 

びっくりした表情でこちらを見るこの女性は宮里十海。呉女子海洋学校で大和クラスの艦長を務めている。なるほど、昨日からやけに港がにぎやかだと思ったら呉が寄港してたのか。

 

「ちょっと。急に声かけないでもらえるかしら。」「いや、30分ぐらい前からこっち見えてたし。前方不注意は船乗りのにとってやっちゃいけないことなのに、あの呉の大和の艦長が他人になすりつけるなんてことしないよね??」

 

ぐぬぬと声が聞こえてきそうなぐらい悔しそうな彼女の顔。ぞくぞくしてきた。

 

「どうせそんなんなら昼もまだなんでしょ?肉食べれるところ連れて行ってあげるからついてきなよ。」

 

「・・・わかったわよ。もう。」

なんで不満そうな顔をされているのか。いや本当に。

 

・・・

 

ところ変わって、横須賀市内のとある肉料理店。僕の行きつけというか、先輩たちから代々伝わってきた男子海洋学校の生徒御用達の店。

 

「本当にここ、見つからないのよね・・・?」「疑い深くない??」

 

一番奥の個室にして外から見えないようにしてるんだからわかるわけないでしょうに。まぁ?もえかからはさっきからラインくっそ送られてきてるけど。通知切ってるし、明乃を向かわせて今書類関係手伝わさせてるし。

 

「まぁ注文しようよ。僕は・・・Tボーンステーキにしよっと。十海は?」

 

「私も同じのかしら。・・・ふふっ、まさかあなたに名前で呼ばれる日が来るなんて。一年前までは想像もしてなかった。」

 

そりゃそうだ。お互いエリートクラスとはいえ艦長と方や副艦長。しかもこっちは人見知りだったし。そんな出会いだったけど、なんだかんだで任務を一緒にこなしていくうちに今じゃ艦全体で交流が盛ん。噂じゃ何人かは付き合ってるらしい。

 

「まぁ、貴方はここ数か月大変だったし連絡が取れなかったのもね。今回私たちが寄港したのもそれが理由だし。」

 

なるほど。あの事件の時、感染拡大を防ぐためにブルーマーメイド・ホワイトドルフィン艦隊すべてに寄港禁止措置が出された。多分、他の海洋学校の生徒たちも例外になく補給が間に合わなかったのだろう。

 

その後すぐに来たステーキを一口運ぶと。

 

「しかも、この件は呉の『組織』も動いてて、実習後の学生艦に対して対応が厳しくなってるみたいなの。感染していないかの検査含めおよそ一週間。これは先に帰港した同級生から聞いた話だけど、どうも呉本部からそういった不安要素を取り除きたいようね。」

 

なるほど。聞けば聞くほど腹が煮えくりたぎる。要は、表向きは学生の安全確保だが感染が確認されれば隔離か処分か・・・本部が考えそうなことだ。

 

「まぁ、大方あそこがかかわってるんだろうけど。どこからがシナリオ通りだったのか。」

 

「・・・あなたが入学した理由は知ってるわ。けど、私は友人が自分から犠牲になるのを止めないほどバカじゃない。」

 

そういうと十海は僕の手を取った。

 

「私とあなたはこのままなら間違いなく同時に入局する。私もあなたもほぼ成績は一緒。・・・だからこそ、私は貴方がほしい。私の部下になってほしい。」

 

「おいおい、プロポーズじゃないんだから。・・・まぁ、考えておくよ。」

 

二人分の支払いを済ませ、先に店を出る。空は雲一つない快晴。

 

「簡単に自滅なんかしないさ。」

 

そうつぶやいた声は、簡単に風に乗って誰にも聞こえることはなかった。

 

 



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第5話 幼馴染二人へのおせっかい。

さて。季節は夏。定期テストも終わり明乃達は新しい艦が与えられ。学生にとっての天国である夏休みが始まっていた。

 

一応国家公務員ではあるものの、学生の身の僕らも他の学生と共に通常の期間に休みがある。もちろん給料も。(ちなみに2年生からはボーナスも出たりする。)

 

「ボーナスも入ったし、何か奮発して買っちゃおうかなー。」

 

そうだ。まだ明乃ともえかに入学祝買ってあげられてなかったっけ。せっかくだし何か買ってあげるか。

 

「っと、今どこにいる?って随分早いな。何々・・・図書室?なんでまた。」

 

と思ったらそうか。春の一件の報告書やらが未だに終わってないとか言ってたっけ。(でもあれ春先で今夏・・・)

ともかく、僕は横女の図書室へ足を進める。

 

そういえば、明乃って作文とか苦手だったっけ。いつももえかが手伝ってたっけなぁ。なんて子供のころを思い出す。そう考えるとなるほど、春先の報告書が終わっていないのも納得が付く。特に最近まで試験期間だったことを考えるとなおさらだ。

 

横女の施設(ドック等)は男子と共用してるため、男子が女子へ。その逆も珍しいことではなかった。つまり手続きも学生証を見せるだけで簡単に終わらせることができる。

さて、二人はどうも会議室を使わせてもらってるらしいけど・・・会議室ってどこだ?

 

「ここ大きすぎんだよな。ほんと金持ち。」整備局もそろそろ重い腰動かしてくれませんかね。東舞鶴のやつらとこの間話したときなんて寮のエアコン利かないとか言ってたけど学生を預かる立場としてそれはいいのか管理局。っと、会議室あった。

地図で場所を確認して、二人が作業してると思われる会議室へ足を進める。季節はもう夏。横女のセーラー服を着たJkの姿がまぶしいぜ!!

 

そういえば去年は呉に行ったときみんなでナンパしたっけ。あれはあれで楽しかった。うん。

 

「お疲れー。」

 

「うぇえええんっ!!書類がいつまでたっても終わんないよぉおっ!!」

 

なんてことだ。あのポジティブ一本道の明乃が。気が狂ったように泣き叫んでいる。その隣のもえかにいたっては普段絶対に見ることができない顔でグッタリしている。書類に関しては問題ないんだろうけど、明乃がメンブレした結果というわけか。こいつはひでぇや。

 

「お。おーい?明乃?もえか?」

 

「書類が、書類がぁ・・・!」

 

机の上にあるお菓子の包み紙を見て確信した。この二人休憩しすぎたな。そして今日までの提出物もあるらしい。

 

「もえかがいてどうしてこうなった・・」

 

「あ、あはは・・・その、少し位いいかなって思ったら話がはずんじゃって。」

まったく、これじゃあミイラ取りがミイラになったのと変わらないや。とりあえず、手伝えるところは手伝うか。

 

書類を一枚一枚急ぎのものと期限がまだ先のものと分別していく。思ったほど残りはそこまで多くないらしい。全体の量より書類一枚の量が多いせいか。

 

というか、せっかくの休暇がまさかこんなことになるなんて思いも・・・いや、少しは予想してたけどここまでひどいとは・・・。というかもえか。明乃のほう見すぎて手が止まってるし明乃は泣きついて手が止まってるぅ!!??

 

バンッ!

 

「・・・報告書、やろう?」

 

「「はい。」」

 

なるほど。飴と鞭ってこういうときに使うのが効果的なのか。これはいい経験だ。特に明乃には効果覿面らしい。今まで結構甘やかしてたからなおさらか。

 

「ふーん。海人君そんなこと覚えっちゃったんだぁ。」

 

目の前からそんな言葉とすごいプレッシャー。うわ、顔上げられない。というか、書類を裁く音がもう音速越えてるぐらいの音なんだけど。というか何かぶつぶつ言ってるのが聞こえてきてるんだけど。

 

「ふふ、私の好きな海斗くんはあんなこと言わない。そうか、きっと別の女性に何かされちゃったんだねそうなら早く助けてあげないとやっぱり海斗君には常に私がそばにいてあげないとふふふ」

 

とりあえずクラスのラインに一言だけ残しておこう。

 

『俺にもしなにかあったらその時は頼む/(^o^)\』

 

すぐに返信きた。『黙れリア充。貴様の夕食はもずくにしてやる』やめろ!!俺はモズクが大嫌いなんだ!!

 

俺がもえかと付き合っていることは既に学校中で周知されてしまっている。そのおかげで俺は目の敵だちくしょう。誰だホワイトドルフィンがもてるっていったやつは目の前出てこい。

 

と、とりあえず生きて帰ろう。うん。

 

・・・

 

「や、やっと解放された・・・」

 

気が付けば腕時計は午後6時を指していた。4時間近く手伝っていたのかと考えると自分の集中力にほれぼれしてしまう。そして今何をしてるかって?

 

「こ、ここまでくればもえかにバレないだろう・・・」

 

そう、バーサーカーと化したもえかから逃げていた。何を勘違いしているのか浮気していると思い込んだ挙句、笑顔でスキッパーを飛ばす姿は鬼神のようだった。いやマジで。そして今は男子寮。そう、ここは女子生徒は立ち入り禁止!つまり、俺の勝利は確定したんだ!!!

 

・・・ここで俺の記憶は途切れている。

 



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第6話 夏休み突入

今回は夏休み突入編ということで、海斗たちの一日に密着してみました。


「というわけで整備局の一員であることを忘れずに夏休みを過ごしてください。」

 

校長のながーい演説が終わり。今日俺たちは夏休みに入る。まぁ毎度お決まりだが誰一人として校長の話を聞く奴はいない。それに、夏休みって言っても帰省するぐらいしかやることがない寂しい奴らの集まりということもあり、お盆以外は大体クラス艦に残るらしい。君ら本当にそれでいいのかい?

 

「あー!やっと長い前期が終わったよ。女子ナンパしにいかね?」

 

「バカ。女子は春先の事件の関係で夏休みが少なくなってるからしばらくは授業があるんだってさ。」

 

そういいながら近づいてきたのは古庄幸喜。横須賀女子教官、古庄薫さんの弟だ。歳かなり離れてるけど。ちなみに艦長でもある。

 

「海斗はいいよなー。なんせ横女始まって以来の天才が彼女ってどんだけ徳積めばいいのかわっかんねぇや。」

 

「あれはあれで大変なんだけどな。成績落とせないし。」裏で努力してるんです。特に女性問題に対して。

 

そんな『すいりゅう』のクラスメート。実はほぼ全員が横須賀近辺出身ということもあり、夏休み期間でもほぼ艦に残るやつが多い。もちろん寮でも生活するが、狭い艦内で生活したいとか最早色々やばい。

 

「そんなことより、今日の打ち上げどうなってんの?」クラスのどこからかそんな声が聞こえてくる。

 

「今日は・・・焼肉だぁぁ!!!」

 

その言葉に大歓声が艦内のブリーフィングルームに響き渡る。やっぱり夜は焼肉、男子高校生なら尚更だ。

 

「そのためにだ・・・今回艦の予算を少し回したからな。貸し切りにしてもらったぜ!!」

 

高校生が貸切、というのも大きい話だがこの学校では珍しいことではない。実は艦ごとに予算が組まれていて、その中で実習中の購買や文化祭の出し物などを行えるようになっている。女子よりも生徒数が少なく、艦の数もそこまで多くはないがゆえの特権だ。

もちろんこれには理由がある。ホワイトドルフィンの業務の一つに『ブルーマーメイドでは立ち入ることのできない事態に対応する』というものがある。大規模テロや沈没船の捜索等、女性では対応することが困難である任務に即座に対応するため、学生のうちからある程度の現場に対応することがある。命を伴う任務だけありいわゆる特別手当ってやつだ。潜水艦乗りもいるし、この『すいりゅう』だってある特別な存在理由があるから。

 

「無事に前期終わったし今日は騒ぐぞー!ただし他の組と合同なのも忘れるな!!」

 

そんなわけで。今日の打ち上げはこれまた学校恒例の合同焼肉会だ。ちなみにこれができるのもOBが経営している店だからだ。ありがたい。

というか、前回を思い返すと貸切じゃないと色々大問題になる気がする。うん。 

とりあえず、時間までは自室で休むことにした。この夏休みは何をしようか。去年は艦で花火見ながらバーベキューもしたし、全員でキャンプもした。もちろん今年もしたいけど・・・

 

「今年は、もえかがいるからな。」自室でぼそっと天井に呟いてみる。そう、恋人のもえかだ。

多分、というかきっと今日も追加講義がなければ間違いなく参加しようとしてただろう。そして僕は間違いなく委員会に滅せられる。

 

あ、委員会って公式じゃなくてあれね。自警団というか。自称『リア充撲滅隊』が動き出すのが厄介。しかも彼女いるやつは敵だって学年全体がやってんだもん。逃げられないよ。うん。

 

というか前に見つかったやついたけど、その時はあれか。潜水艇で4次元移動させられてたな。あれはひどかった。僕は絶対いやだ。三半規管弱いし。というかあれどうやって操艦してたんだ?潜水艦乗りってホントわけわかんない。

 

「おーい、海斗いるかー?」扉をノックする音の後で幸喜が入ってきた。

 

「そろそろ移動しないと間に合わないから呼びに来た。」

 

「ってもうそんな時間か。これだから休みは嫌いなんだ。」時間が短く感じるからな。

 

・・・

 

「というわけで前期お疲れ様でしたー!!かんぱーい!!!!」

 

4クラスが一つの店に集まるとさすがに息苦しいな。というか肉なくなるの早すぎでしょ。なんなん。

 

「カルビ!カルビ!カルビぃ!」

 

「おい!俺のタン食うなよ!!」「食わないお前が悪いんだよ!!」なんてことだ。交流会が祭りみたいになってやがる。

 

「あーあ…結局こうなるのね。」目の前の網に残るカルビの残骸を食べる。うわ、焦げてやがる。

 

振り返ればこの会も何回目か。元々先輩方から続く伝統だったが、僕たちの代は何かしら理由をつけてこの会を始める。体育祭終了記念、クリスマスなんてやってられねぇぜ記念。ああ、なんと悲しい同級生。だから彼女持ちがほとんどいないのだろう。

なんてことを自慢したやつが翌日校舎屋上から吊るされていたのはいい思い出だ。だけど、そんな場所がとても居心地がいいのは、間違いなくこの同期達のおかげだろう。

 

 

とまぁ、そんな楽しい時間はすぐに過ぎていく。

 

「というわけで最後に海斗からお言葉をもらおうか!!」おい。いきなりすぎないか。何も考えてないんだが。

 

しかし呼ばれてしまったからには出ないとまずいし、とりあえずマイクの前に立つ。俺こういうの苦手なんだよなぁ。

 

「えーっと、まずまたみんな・・・とは言えなかったけど、この会を開けたことを感謝したい。春先の大規模火災は、俺たちにとって大きな分岐点になったはずだ。そして、春の女子で起こった大規模事件においても、そうだ。それに関してはみんなに感謝しないとな。俺の幼馴染を、間接的とは言え助けてくれてありがとう。」

 

春先の大規模火災、そして春先のRATs事件含め、ホワイトドルフィン候補生である俺たちも現場に出ることが多くなった。そんな中、待機命令が出ていた春の事件では焦る俺を止め、事件解決に向けて全力でサポートしてくれたやつら。そんな友人たちがいることが心強かった。

 

「今年含め、俺たちはあと二年でここを卒業する。もしかしたら、全員揃って卒業ができないかもしれない。現場にいかず、海洋大や本局希望もいるかもしれない。けど、忘れないでほしい。この、俺たちが纏う白の制服は、ブルーマーメイドと共にこの海を守る誇りであることを。俺たちは、どこに行ってもこの海で会える。俺たちは永遠に仲間であり良き友人でライバルだ。今日はありがとう。」

 

そんな挨拶で締め、俺たちは横須賀の夜の商店街を背に、帰路についたのだった。

 

 

 

 



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第7話 夏のボーナス 貯めるか使うか。

さて、物語が夏休みに入ったということもあり、一度ここで整理ついでに世界線についてご紹介しましょう。

男子海洋学校は横須賀・呉・東舞鶴の三校で成り立っており、ブルーマーメイドでは対応できない特殊な事態や研究職等に就くための専門学科がそれぞれ設置されています。

三校とも毎年新入生を募集する中で、潜水艦乗りは舞鶴、研究は横須賀、総合の呉と抜きんでているものが違うため、効率のいい教育が行われています。
但し、どこの学校にも潜水艦は在籍していますし研究も行われているため、各校の交流はかなり盛んです。

ちなみに海斗は航海科ですが、研究職希望のため将来的には本局勤務になる進路予定になります。

ちなみに制服は白を基調としたブレザー型で、学年ごとに外に青のラインが1本ずつ入ります。ブレザーいいよね。







二回目の夏休み。先日の焼肉会も無事に終わり平穏…

 

「ああぁぁぁっ!!」があるわけはなく。寮の自室で絶叫。この季節はいたるところから絶叫が聞こえるため驚くのは新入生だけだ。

 

この時期、僕らには宿題の他にレポート提出が義務付けられている。いわゆる論文作成だ。毎年一回、一年かけて論文を作成するのだが夏休みを境に一度提出しなければならない。なぜだ。学生の休みとは何かと昨年は悟りを開く奴もいたし気が狂った結果海に飛び込んだやつも何人かいた。それぐらいこの論文は地獄なのだ。

 

ふと時計を見るともう午後の2時を回っていた。学食はカフェタイムだし、外にでも出るかな。せっかくボーナスと給料も出たし、新しいゲームでも帰りに買ってこよう。そうだ。長浦フロートに新しいカレーの店ができたらしいし行ってみるか。

 

「海斗ーでかけんのかー?」学生ロビーに降りるとクラスは違うが仲のいい同期が何人かぐだってた。まるで干上がった魚みたいだ。

 

「気分転換ついでに長浦のカレー食ってくるわー。」

 

「んじゃ帰りにアイス買ってきてくんね?金後で渡すし、俺ら今日はここにずっといるからさー。」

 

 

外に出れば夏のじわじわとした暑さが体を駆け抜ける。今日の最高気温は29度前後とほぼ真夏日だ。風が吹いているとは言え、やはり陸の上はきついな。

 

自分のスキッパーのエンジンをつけて、横須賀湾を進む。海風はいい。陸と違って遮るものがないから涼しさをよく感じることができる。まぁ、潮風のべとべと感はひどいけど、海で仕事するうえで正直今更観はあったり。

 

「そういや、明乃たちはまだ授業中か。」横須賀女子の横を通りかかるとふと幼馴染の顔を思い浮かべる。あいつ、勉強大丈夫かな。

 

ふと子供の頃を思い出す。この間手伝った時もだけど、明乃は論文や報告書が大の苦手だから。

 

『おにいちゃぁぁん!!読書感想文手伝ってぇえ!!』

 

『作文おわんないよぉおっ!!』

 

・・・うん。苦手だな。というか、こっち出てきた後もたぶんそのままにしてたやつ。

 

そんなことを考えながらスキッパーをフロートの船着き場に止めてそのまま目当てのカレーを食べに行く。カレーはいい。食欲なくても食べられるし、朝昼晩すべての時間で食べられるから。

 

そんなことを考えながら歩いて行ったその店先は・・・しまっていた。

 

「定休日…だと…!?」こんなところまできて…そんな・・・・

 

うなだれた首筋が焼けるほど痛い。うわ、へこむわ・・・

 

周囲に人が誰もいなかったのが救いだ。日中店の前にへたり込んでる若い男なんて不審者以外の何物でもないし。というか腹減った・・・昼飯どうしよう。というか、中央まで戻るの面倒・・・じゃねぇや、どのみち行かないといけないし。戻るかぁ…

 

「お?あいつは・・・おい、海斗ー!」

 

 

呼ばれた声に振り向くと、他のブルーマーメイドとは違う黒の制服がとっさに目についた。

 

「ま、真冬の姐さん!!」

 

そう、宗谷真冬。ブルーマーメイドの一人で二等保安監察官。べんてんの艦長その人だ。

昨年とある事件で協力をしたとき、その行動力と器量の良さから姐さんって呼ばせてもらってる。

 

「何やってんだ?真昼間から辛気臭い顔しやがって。根性いれるぞ?」

 

「姐さん。それセクハラです、男にもあるんですよ?というか明乃にやろうとしたらしいですね?」

 

この人に根性の入れ方教えたのどこのどいつだ。目の前に出てくれば魚雷一発で済ませてやる。

 

「というか、論文が終わらないから気分転換にここにカレー食べに来たら定休日だったんですよ。というかほんと、どこで飯食おうかな・・・」

 

手元のスマホを使ってこの付近の食事処を検索する。流石に何か食わないと倒れそうだ。調子乗って朝食ぬいたのが間違いだった。くそ・・・

 

「ふーん。なら家来るか?今日姉ちゃんが帰ってきてて、昼一緒に食べるって話になってんだ。海斗なら姉ちゃんも喜ぶだろうし、お前の近況も聞きたいしな。」

 

その言葉に思わず胸が高鳴る。

 

宗谷真霜さんといえば、現ブルーマーメイドの体制で指揮権のトップに君臨する才女だ。憧れであり、前から会ってみたいと話はしてたんだけど、まさかこんなところでチャンスが巡ってくるなんて!神様ありがとう!!

 

「あー・・・ただ、な?がっかりするなよ?」

 

「がっかり?」

 

その数分後、俺はその言葉の意味を知り、帰り道をとぼとぼ歩くことになるのだった。

 

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数時間後、寮の自室。夕飯まではまだ時間がある中で論文の続きを書いていた。

 

卒業後、それぞれ分かれる進路において重要な資料であるうえ、自分のこれまでの体験を生かして執筆するこの論文は誰にも特別なものだ。

 

そして、この論文を手に、俺は目標にしているあの場所にたどり着くのだ。

 

「海斗ー!飯行こうぜー!」

 

「おう、今行くー」

 

パソコンをつけたまま食堂へ向かう。そのパソコンの画面には論文の題がカーソルに照らされ一際強く目立っていた。

 

『RATs騒動におけるホワイトドルフィン側の対応の問題点と改善策』

 

 

 

 



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第8話 大和 襲来

穏やかな日差しと夏らしい暑さが漂う横須賀。男子海洋学校は夏休みといえど活気がなくなることはない。

それは基本寮生活だからということもあるが、何よりも実家に帰るやつらが少ないことも一つの理由だろう。研究もあるし、男子校ということもあり年末年始にのみ帰るやつらがほとんどだ。

だからかな・・・

 

「吊るせ!!!!」

 

「やめろ!!俺は何もして・・・!!」

 

一か月に一回以上行われる奇祭。彼女持ち並びに街中で女性とかかわった人間に対するモテない男たちの打ち上げ。今日も行われるその場面を見ながら僕は朝食をとっていた。

 

というか、もえかと付き合って尚且つ明乃という義理の妹、さらには大和の十海たちとバレたら間違いなく潜水艦に乗せられる恐怖、正直勘弁してもらいたいぐらいだ。というか普通に考えて国家公務員である僕らがこんなことしてていいのかな。

 

「おー海斗。旨そうなもん食ってんじゃん。」

 

「おっす幸喜。限定シーフードカレーだと。これ普通にうまい。」

 

ちなみにここの学食は3か所。第一食堂と運動部がよく使う第二食堂。カフェテリアも兼ねている第三食堂と生徒が自由に選べるようになっている。どうもこれも一つの入学理由らしい。確かに胃袋をつかめとはよく言ったもんだけど。

 

「で、あいつ何したの?」食堂の先で吊るされている同級生に一目視線を送るとカレーに再び視線を向ける。

 

「ああ、一昨日から呉の大和が寄港してるだろ?ほら、女子と合同演習とかで。それを聞きつけた数人がナンパしに行ったのがバレたらしい。…進愛から連絡きてたの知らんの?」

 

「昨日は一日部屋に籠って論文やってたから携帯見てない。…ふぅ、ごちそうさまでした。」

 

あーあ、あいつらとうとう海出ちゃったよ。こりゃ明日関連者全員反省文提出かなぁ…って、携帯に連絡だっけ。

 

『明日、1200時いつもの店。古庄君も一緒に』

 

…今日逃げられないけどいいのか?

 

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中央にあるステーキハウス。十海が横須賀に来るたびに通っているお気に入りの場所だ。

 

「の、のむさん。私はそう、わざと食べてないの。肉は重要なエネルギー源よ?そう、野菜よりも!」

 

「ほんなこと言ったって野菜は食べなきゃいけへんでしょ!もー、普段あんなに頼りになる艦長がほんな野菜をまるっきし食べないなんて艦のみんなに見せられんだがねんが!」

 

「・・・やってるな。」

 

「幸喜、帰るか。」

 

一路店を背に別の店に行こうとする。その時だった。

 

「あれ、海斗君。どこに行くの?」

 

すっっごく久しぶりに聞く透明な声。そう、もえかだ。

 

「宮里さんたち待ってるよ?せっかく海斗君とご飯食べれるの楽しみにしてたのに。ね?」

 

あっ・・・もえかいい匂い・・・じゃない。やめろ幸喜そんな目でこっちを見つつ携帯で何か撮ってるな!?

 

「あっ、海斗久しぶり!このわがまんま艦長に野菜食べるように言ってくれん?」

 

「海斗君。進愛に言ってほしいのよ。私は野菜が嫌いなわけじゃないって。」

 

なんでこう、彼女はわかり切ってることをドヤ顔で言ってくるのか。そうしなきゃ普通にかっこいいのに。

 

「えーっと、とりあえずサラダ全員分・・・あ、彼女には大盛でお願いします。」

 

「なんてこと・・・!?」

 

進愛がここまで言うってことはのらりくらりとかわしてきたのだろう。前回隠ぺいに付き合ったんだし今回は勘弁してもらおうか。

 

「で、もえかまで誘って今回はどうしたのさ。」先に来たサラダを食べながら問いかけてみる。大方話題になってた合同演習の件なんだろうけど。

 

「別に今回は大きな意味はないわよ。せっかく海斗の恋人さんとゆっくり話す機会があったのと、古庄君とも最近会ってなかったからちょうどいいかなって。」

 

なるほど。前回は幸喜がいなかったし、もえかとも先日の一件でそんな余裕もなかったか。お互い一学年しか変わらない以上合同演習なりある以上今後のことを考えてって感じかな。

 

「ほれに、海斗がデレデレだっていう彼女とゆっくり話してみたかったのあるけどねー。ほら、知名もえかって言えば今期の主席だし、どうやって落としたのか気になるって。」

 

「デレデレだなんてそんな・・・養護施設で一緒に育って、お兄さん見たいな感じだったから・・・ね。」

 

もえかさん。笑顔見せながら殺気出さないでもらえませんか?あの、前回のこと隠していたの謝るので・・・だから幸喜お前は何を録画している。

 

十海が目の前に出されたサラダに苦戦している間、進愛と会話が弾む。

 

 

「そういえば、この間の競闘遊戯会の結果見たよ。やっぱり先輩方強いよなぁ。」

 

「かと言って、横須賀だって予想以上だったからびっくりしちゃったにー。ほら、晴風・・・岬さんなんて将来楽しみだし。」

 

「ミケちゃんも同じこと言ってました。また先輩方とお話したいって。」

 

「本当?うれしいわー。」

 

「そういえば、この間うちの整備課に差し入れしてくれたんだってな。みんな喜んでたよ。」

 

実のところ、進愛と幸喜は仲がいい。同じ副艦長という立場からかもしれないけど、空気が合うのかな。というかもえか食べる量すくな。

 

「もえかおなかすいてないの?体調でも悪いなら後で薬でも・・・」

 

「ううん。先輩たちが楽しそうに話してるから。ふふっ、心配してくれてる?」

 

「もえかなら何かしら無理しそうだからね。」

 

そんな時間を過ごしながら、昼食を摂った僕らはそのままお開きになった。

 

あ、十海は半べそこいてた。写真撮ったし後で送ってやろ。



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