WTクランによる帝国を勝利に導く物語~核抑止とは?~(本編完結) (紅茶)
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原作開始前
プロローグ


仮想戦記物は初めてであります。少々中の人等の思想の影響もあるのでご了承を。

核の描写が出てきます。苦手な方は少し飛ばしても結構です。


2050年、ある欧州の軍事産業を担う軍事産業会社はとてつもない危機に瀕していた。

 

当代の社長がどうしようもないダメ男で酒と女に溺れ会社の金を使い込み老舗として有名であった武器会社を遂には倒産の危機にまで追い込んでしまったのだ。人間は酒、女、金に狂わされる物であるが、ここでは2つに狂っていた。

 

ここに至って会社が負債を抱えたまま倒産すると今まで通りの暮らしが出来なくなることに今頃気付いたクソ男は会社の建て直しをようやっと思案するようになったのだ。

 

だが、その業界で有名だった老舗の会社を潰しかける程の男である。そんな男に解決策など見いだせる筈もなくすぐに手詰まりになってしまう。

 

そこで男は考えた。

 

世界で一番強い武器を売れば会社は儲かるのではないかと

 

勿論、こんなダメ男に新たな武器を創造する能力も開発する予算も無い。既存の兵器から最強の武器を探すことにした男が出した結論。

 

それは…『一発で30万以上も殺せる核兵器ってヤバくね?絶対売れるわ』であった。

 

その考えは人類が自らの手で人類を滅亡させる一歩でもあった。

 

彼はどうしようもない大馬鹿者だったのだ。彼は核抑止理論さえ知らないオオバカ者だった。兵器会社社長であったのにもかかわらず。

 

倒産の危機を敏感に感じ既に逃げ始めている従業員などに、社運を賭けた一大プロジェクトを任せることに不安を覚えた彼は数年前に他界した不倫相手から生まれた自分の娘に売り込みを任せることにしたのである。

 

14歳になったばかりの小娘に武器を、それも『核兵器』を売りに行かせるなど正気の沙汰ではないが、生憎とこの男にはその程度のことを考える知能も無かったようである

 

「いいか、うちは社運を掛けてこの核兵器を売る。全て売りさばくまで帰ってくるな!」

 

可哀想にも訳も分からず核を売ってこいと言われ放り出された少女は生きるために核を各国に売りさばく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがてその核売りの少女は国際指名手配をされる事になる。

 

 

 

501FG統合戦闘航空団という民間軍事会社がある。(勿論架空の会社)

その会社はアメリカに本社をおくPMCである。

その501FGはシリアで突如発生した小競り合い(紛争)に介入を決定したアメリカ軍に雇われ臨時でアメリカ軍として航空支援を行っていた。

 

そして『その時』が訪れる。

核売りの少女がシリアにいると言う情報が入り、CIAおよびMI6主導のもとで核売りの少女を排除する事を決定した

 

その際任務として501FGには捜索および観測の任務が下されたのである。

 

「報告。こちら『グリフォン3』いまだに該当の人物は発見できていない。」

「分かった。出来るだけ早く発見せよ。」

「了解。」

 

シリアの空を飛んでいるのは501FGの八機異種混合編隊である。

 

通称グリフォン部隊である。9人のパイロットで構成されており、すべてが敵戦闘機を五機以上落としているエースであった。

 

隊長たるコールサイン『グリフォン1』はF-15Jを。

 

夜桜と呼ばれる副隊長、コールサイン『グリフォン2』はSu-30SMを。

 

メガネと呼ばれるコールサイン『グリフォン3』はEA-18Gグラウラーを。

 

兵長と呼ばれるコールサイン『グリフォン4』はF-16block70/72を。

 

シグレと呼ばれるコールサイン『グリフォン5』はF/A18Fスーパーホーネットを。

 

パンジャンと呼ばれるコールサイン『グリフォン6』はタイフーンを。

 

タワシと呼ばれるコールサイン『グリフォン7』はF-22の機体に中身はF-35なゲテモノを。

 

シデンと呼ばれるコールサイン『グリフォン8』はイタリア空軍仕様のF-35Aを。

 

Q太と呼ばれるコールサイン『グリフォン9』はアメリカ空軍F-4EファントムにAIM-120Cの運用能力を負荷したF-4E改を使用。

 

それぞれ運用していた。彼らは一機ずつとなって探索を行っていた。

 

「こちら『グリフォン3』。該当と思わしき人物を発見。ただその人物に接近している者がいる。」

 

「AWACS了解・・・確認した。該当のターゲットである。直ちに地上部隊より狙撃を行う。そのまま観測、戦果を確認せよ。」

「了解、ターゲット追尾中。」

 

 

赤外線映像で追尾していた『核売りの少女』は狙撃により倒れた。

その映像はデータリンクを通じアメリカ大統領も見ていた。

 

 

「大統領、コールサイン『核売りの少女』を狙撃しました。目標は重傷を負いもう助からないでしょう」

 

ホワイトハウスの地下に設置された国家安全保障会議(NSC)の画面にはグリフォン3が撮影していた赤外線映像が表示されていた。

 

 

 

そしてそれと同時にクズ男がいた軍事会社にイギリス特殊部隊SASとアメリカ海兵隊が展開、強襲を実行することとなっていた。

 

その時、作戦の状況を映し出していたNSCの画面の一部が暗転した。目標の武器会社を監視していた偵察機の映像から作戦部隊の無線まで作戦地域から送られるはずの全ての信号が途切れたのだ。

 

「いったい何があった!」

 

異常事態を感じ取った統合参謀本部議長が声を荒げる

 

「不明です。強襲作戦に参加していた部隊からの通信が一切途絶いています」

 

「なんだと!?衛星回線は?」

 

「ダメです。繋がりません」

 

「第一報入りました。飛行中の民間機より作戦地域付近で巨大な火球が…次いでキノコ雲が見えたとのことです」

 

「何だと!?核爆発したというのか!」

 

「その可能性が高いです」

 

「自爆…したのか」

 

オペレーターの一言でNSCは大混乱に陥った。

しかし、混乱は収まることを知らない。そして更なる災厄が放たれた

 

「大統領、イギリスの偵察衛星がロシア領内での核爆発を確認しました」

「なんだと!?どういう事だ」

 

騒然となるNSC会議室内。

それを一括し収めたのはアメリカ大統領であった。

 

「冷静にならんか!ロシアはこの件を受けどう動く?」

 

 

 

「本作戦は秘匿されていましたのでロシア側が事態を察知していない可能性が高いです。その場合、核爆発の原因が我々にあると見る可能性があります」

 

大統領の一喝からいち早く立ち直ったCIA長官が答弁する

 

「何?どういう事だ」

 

「本社強襲のため致し方なくロシアとの国境付近に海兵隊を大規模展開しましたから、核爆発に我が国が関わっていると見られる可能性が極めて高いのです」

「その場合、予想されるロシアの動きは」

「良くて非難声明と賠償要求。最悪、ロシアのデフコンレベルが上がる可能性もあります」

 

ただしCIA長官の予想は悪い意味で外れていた。

NORAD司令部より弾道弾早期警戒装置(BMEWS)のレーダーが弾道弾を探知したからである。

 

即座にNORADはすべてのアメリカ艦艇よりSM3弾道弾迎撃ミサイルを発射させ迎撃する。ただし量が多過ぎたのだ。なにせ1500発のICBMが発射されていたからだ。THAAD防空ミサイルを使用しても迎撃が間に合わない。

 

 

アメリカ大統領は決断した。いや決断するしかなかった。核抑止理論に基づき核攻撃をしなければならないことを。

 

「デフコンを2にICBMの発射を準備。それとB-52をスクランブルだ!急げ!」

 

「接近中のMIRVマーヴ弾頭分割を確認。弾着まで11分」

 

「中国、イギリス、フランス、インド、デフコンレベル1。各国が核発射体制に移行しました!」

 

「全面…核戦争…」

 

統合参謀本部議長の呟きはまるで幻を見ているようだった

 

「大統領。時間がありません。報復の決断を!」

 

「こんな…こんなことで核戦争だと…何千年もの人類の歴史を一瞬で灰にする決断を一人の人間ができるというのか…」

 

「大統領。報復しなければ更に多くの国民が危険に晒されます」

 

「…わかった。報復を開始する。ICBM発射はじめ!」

 

唐突に始まった最終戦争が地球の各地を焼き付くした。

 

記録できた者は誰もいない。

 

そして、501FGも核戦争に巻き込まれての全滅であった。




世界には未だ1万発以上もの核兵器が存在し何時それが私達の頭上に降り注ぐかわからない状況です。

どんな些細なきっかけで人類が滅ぶかわからない。
小説の始まりでこんなイヤなことをかかれて不快感をかんじたかもしれませんが一度、この状況を一度考えてみては如何でしょうか?


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終わりの始まり

『グリフォン3』通称メガネはAWACSの警告を受け核攻撃を逃れようとしたが失敗。

だった一人の少女が核戦争を起こす――

 

メガネは信じられない気持ちでいっぱいだった。

後ろから核の爆風が追ってくる。EA-18Gグラウラーはアフターバーナーを炊き、400km/hから急速に速度を上げ飛行しているが衝撃波は亜音速の1080km/hとも言われている。この加速の調子だと間に合わないだろう。

 

メガネはゆっくりと目をとじ、走馬灯のように自身の今までの人生が駆け巡る。愉快な同僚達に思いを馳せながら。

 

メガネの意識は闇に呑まれた。

 

 

 

 

 

 

 

カタリナ・フォン・プロイツフェルンは溜め息をついた。

 

 

意識がまた浮かんできて、生きていたのかと思ったのもつかの間、身体が自由に動かせずに色々と周りに迷惑をかけ。

 

ようやっと周りの事を分かって来たと思ったら、まさかの姉であるエリザベート・フォン・プロイツフェルンは前世で同じ中隊の副隊長である夜桜が中身だったのである。

しかも生まれたところは自分が知る史実のドイツ帝国には似ているが非である帝国に生まれたのだった。

 

 

そしてそれだけでは無く、病床に伏せっているビスマルクお祖父様にほんの少し我が帝国の現状を聴いてみると見事に仮想敵国に囲まれていた。

その時は思わず上を向いて少し絶望したのである。

 

「あれ・・・これ詰んでない?」

 

と・・・まぁ姉のエリザベートも最初はそうだったらしいが。

 

最近は結構困っちゃんだが、一応何か深い事は考えているのだろう。多分。

 

お姉様は二年前まではお見合いはイヤだと無駄にあった航空魔導師の才能で色んな方向に逃げる癖があって、「逃亡姫」と呼ばれていたりする。

脱走するたびにビスマルクお祖父様がお姉様を怪我なく保護する為に組織した親衛隊第2師団第2航空魔導連隊が捕まえに行くのだが・・・

 

これもまた親衛隊第2師団第2航空魔導連隊の幹部クラスの三人に少し話しをするキッカケがあったので少し話してみたが、全員中身が501FGのグリフォン部隊の隊員であったのだ。

 

思わず目を剥いてしまったが・・・まぁ許容範囲内だと思う。多分。

 

 

 

だが最近姉が、中身がパンジャンであるが現在は技術者であり一応軍人なレナ・フォン・ワイス(15歳)を捕まえてAK47を作らせようとしているのはまぁ。

姉らしいなぁと思った。

 

 

 

そんな私ことカタリナ・フォン・クロイツフェルンは今日で15歳となった。

とりあえず12歳の時にビスマルクお祖父様に頼み込んで軍大学に行ったけども。

この仮想敵国だらけな帝国救うためにも今動かなくてはならない!と思うがやはり自信は出ない。とりあえずトイレに籠もって・・・

 

「どうしよう~・・・周りは仮想敵国だらけだし、どうすればいいの・・・?だけどこのままだと帝国が消滅しちゃう・・・うぅ私ができる事なんて全くないよ~・・・」

 

と嘆く。本当にどうしよう・・・

 

 

だが嘆いては始まらない。トイレで30分ほど嘆いていたがようやっと出て本格的に対策を考える。

 

そう言えば何か侍女が私のことを心配していたが何故だろうか?

 

 

まぁいいか。

 

取りあえず手始めに・・・

 

 

 

 

 

 

 

ー侍女side-

カタリナ殿下は大丈夫でしょうか?

トイレから30分もこもったっきりなのですが・・・まさかお身体の具合が悪いということなのでしょうか!?

 

あ、殿下が出てきました!

 

 

「殿下、大丈夫ですか?お身体が悪いと言うことは・・・」

「?私は至って元気だが・・・」

 

「そうですか、分かりました。もし具合が悪くなったようでしたら周りの侍女にお申し付けください。」

 

「そうか。さて、決心も付いたところだし、やるか。」

 

「?」

「あぁ・・・いや何でもない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタリナ・フォン・クロイツフェルンは情報戦・・・つまりは情報漏洩を防ぎ、こちらに有利な情報を流させたりする、情報工作を主とする非対称戦が有益だと考えていた。

簡単に言うと

「情報を制する者は戦いを制する」

ということである。しかし帝国の成り立ちから言うとそのような物はあまり重要ではないと思われている。

そしてカタリナはビスマルクお爺ちゃんからもらったお金を使って帝国情報局を設立。各種の情報工作を開始する。そして帝国情報局の初代局長に就任する。

さらには未だに発達が著しくない航空機を陸軍から分離、空軍を整備したのだ。

 

 




情報部設立の詳しい話しは次回詳しく語ろうと思います。


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~お祖父様、お金ちょーだい!~

さぁ、どんどんストックを投下していくゾ


「お祖父様、少し肩もみしてあげる~」

 

 

「あ、あぁ。ありがとう。だけどどうしたんだ?いきなり肩をもむとか言い出して。」

 

「いや少しおこづかいがほしいんだ~♪」

 

「ふーむ・・・何マルク欲しい?」

 

そうするとカタリナはこれほどとないようないい笑顔で

 

「6億マルク!!」

 

少し静寂が訪れる。

やがて現皇帝であるビスマルクが口を開く。

「は?お爺ちゃんが難聴かも知れないね、もう一回言ってくれないかな?」

 

そうするとまたこれほどとないような清々しい笑顔で、

 

「6億マルク!」

 

「うーん・・・カタリナ、6億マルクって価値分かってるのかな?」

 

そうすると当然と言うような顔で

「分かってるよ。中央省庁が立つくらいでしょ?」

 

「価値は分かっているのか。じゃあその用途は決まっているのかい?」

 

「これに詳しく書いてある!」

 

といって渡したのは、メガネの軍大学の卒業レポートであった。

 

「簡単に言うと、この帝国を情報で守りたいんだ。」

 

皇帝ビスマルクはレポート(の写し)を30分で読破し、大まかな概要を理解してしまった。

 

「うむ・・・まぁ許可しよう。そこまで言われたら出すしか無いだろう。ただし、成功させなさい。」

 

「勿論です、お祖父様。」

 

斯くして6億マルクを手にしたカタリナは帝国での情報局を設置をめざし動いていく。

 

 

 

 

ちょうどそのころ。

「G3作って!」

 

次期皇帝のエリザベートは航空技術者であるレナ・フォン・ワイスに参謀本部へ呼び出し、あって早々にそう言い放ったのである。

 

「え!?G3ですか?いや私は航空技術者であって銃技師ではないのですが・・・」

 

レナ・フォン・ワイスは空軍技術設計局で主任設計技師であった。だが悲しい事に前世がエリザベートの中身の部下だったのである。よって・・・

 

「いや、だけど作れるよね?」

 

「まぁそうですけど、しかし・・・」

 

「私の立場って分かる?」

 

「次期皇帝ですが・・・」

 

そうすると、とてつもなく良い笑顔でレナ・フォン・ワイスに言い放つのだった。

 

「分かってるじゃない、じゃあ作ろうか!」

 

「はっ、了解しました!」

 

「あ、あとラインダースも作って欲しいな!」

 

「ラ、ラインダース?もしかしたらTa152ですか?」

 

エリザベートは何を言っているのかというような顔で

「勿論だよ、レナ大尉。君の本業だろう?」

 

「勿論そうですけど・・・G3とどちらを優先するんでしょうか?」

 

 

「勿論両方だよレナ大尉。」

某極東の国のブラック企業の上司のようなむちゃぶりをするエリザベートであった

 

愕然とするレナ。だが目の前に居るのは次期皇帝である。できないものはできないと言えば良いのだが、良くも悪くもレナは優秀であった。

 

 

 

 

 

 

 

統一歴1902年の暮れ、ある戦闘機と銃の試作が行われた。

 

戦闘機は空軍技術設計局が設計したTa152の最初機型であった。

レナはなんと数年はかかる戦闘機設計を一年以下で終わらせたのである。

 

倒立V型12気筒エンジン1800hp級を搭載。ただ余裕を持たせたために爆撃機エンジン並みに巨大化してしまったが、将来的に2段3速過吸機を使用すれば2000hpを余裕で超してしまう化け物エンジンが出来上がってしまった。

しかもレナはそのエンジンを元にデチューンした民間用エンジンも設計してしまったのだ。

翼内に12.7mm機関銃を8丁搭載し、胴体と翼下にパイロンを追加できる。胴体には30リットル落下式増槽や1トン爆弾、魚雷を搭載でき、翼下には10リットル落下式増槽を2つか250kg爆弾を2つ、そしてロケット用パイロンを追加すれば20発の対地/対空ロケットを搭載できた。

 

[最初期型 Ta152A1]

最高速度657km/h,設計最高高度1万1000m,実用最高高度9560m.

 

 

 

 

 

 

 

銃は戦闘機と同時期に試作された。同時小銃と言えばボルトアクションしかなかったが、当時の次期皇帝の無茶ぶりでなぜか航空技術設計局で設計された銃は新しい分類としてアサルトライフルと分類した(そのように命じたのは当時の次期皇帝エリザベートであった。)

空軍が銃を設計したと聞き陸軍はロクな銃ではないと思っていた。いや思いたかったが・・・視察してみると現在の銃よりほぼすべての分野で越えていた。

陸軍はその新型小銃を採用することを決定。また空軍、海軍も採用し長らく帝国および連邦の主力小銃となるのである。

 



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情報局設置、そして始動

注意!
この小説はフィクションです。その事が分からない人はこの小説を読まずにブラウザバックして下さい。



6億マルクを手にしたカタリナはひとまず先にエリザベートが大体いる参謀本部に赴く。

 

 

参謀本部の会議室でゼートゥーアやルーデルドルフとエリザベートは話していると言う。

軍大学を卒業しているカタリナは現役軍人でもある。現在は大佐の階級章を付けている。

ドアを4回ノックし、

「カタリナです。少し宜しいでしょうか?」

 

「あ、カタリナか、良いぞ。」

 

「失礼します。」

 

ドアをあけると視界に入ったのは真ん中の席で資料をパラパラと見ている姉とゼートゥーア大佐達を筆頭とする陸軍の軍服を来た作戦、専務参謀達。そして私が最近陸軍から引っ剥がして作った空軍*1総司令アルベルト・フォン・ゲーリング少将、そして海軍*2総司令ウォルター・フォン・デーニッツ中将が居た。

 

「カタリナ。何か用が有るのか?」

 

「ええ。諜報する部署を設置する許可をお祖父様から貰ったので、一応お姉様にも報告を。」

 

 

 

事前にお姉様には諜報戦をする部署を設置したいと話してあった。実際その時お姉様は

「うん、好きにやりな。」

と言っていた。ぶっちゃけ何も考えていないのだろう。

 

 

 

「あぁ、あの話か・・・うん良いんじゃない?」

なんとまぁあっさりと許可を貰った。取りあえず早速設立のために動くとしましょうか・・・

 

「お待ち下さい、殿k・・・「大佐」大佐・・・」

 

「で、どうしたのですか?」

 

「いえ私達は諜報は寡聞にも聞いたことがないのですが。」

 

「おや、軍人と言うよりむしろ学者、研究者と言われたゼートゥーア大佐が分からないとは・・・貴官にも知らない物があるのですね。」

 

まぁそれは仕方のないことだろう。我が帝国は初代皇帝が軍を自ら率いて作った国であるのだから、正面戦力*3に固執する傾向がある。

だから非対称戦はあまり知識としては無いだろう。逆に帝国においてその知識が有ったら頭がおかしい。

 

「なる程、貴官らは諜報を知らないのか。ま、仕方ないことではあるか・・・」

 

いきなり私の姉が喋りだした。周りの参謀達はビックリしながら一斉に姉の方へ向いた。

皆の注目を浴びながらもその多数の視線を浴びながらも話を続ける。

 

「諜報は一般的に対立する国・組織間で、相手方の政治・軍事・経済など諸般の情報を合法また非合法の手段によって収集することを指す。

 

そして表面には出てこない戦いを諜報戦と言う。

 

私の妹は諜報戦をする諜報機関を作りたいと言っているのだ、参謀諸君。」

 

「「なる程・・・(全く分からん)」」

 

 

 

 

因みに軍大学では同期のなかでは私が一番若かった。ゼートゥーア大佐は私より10期上であったのだ。要は私の方が後輩といった感じである。形式上は(・・・・)

 

 

 

後の戦務トップに登りつめたゼートゥーアは戦後にこう語った。

 

「火力信奉、衝撃力重視のきらいがある帝国軍に在籍している以上諜報戦と言う発想は出なかった。殿下達が居なければあの戦争は我が帝国の敗戦で終わっただろう」

と。

 

 

 

 

 

 

とまぁ斯くして姉の許可を得た私は取りあえず財務大臣の所に殴り込みに行って予算(6億マルク)を獲得し、せっせと機関を設置する事に邁進した。

 

何か姉も姉で空軍のレナ主任設計技師にG3を作らせている事を聴いたが気にしない事にした。

 

 

 

 

 

2ヶ月後・・・

取りあえず諜報機関は立て終わった。

対外諜報・諜報活動及び特務工作を担当する事になる。

取りあえずこの帝国の徴兵システムの中に組み込み、階級は帝国の階級システムと同じにした。但し軍ではないが。

 

軍ではないが(・・・・・・)

 

外見は整ったが中身は未だに育っていない。よって腰を据えて2年以上育成をしなければ・・・

指揮権は取りあえず皇帝がする事にした。だが現在皇帝たるお祖父様は病床にあり実質お姉様に業務が移っていたので実質お姉様の直轄となる。だけどやっぱり心配だなぁ・・・

 

 

 

 

 

カタリナ・フォン・クロイツフェルンは帝国諜報局(通称IGN)創立者であり、初代局長として知られる。

また、カタリナの次代の局長は彼女の娘であり、ほぼ偶然ではあるが、すべて帝国諜報局の局長はすべてカタリナの家系から出ていて、そのすべてが女性でありかつ現役の帝国及び連邦軍人でもあった。

偶然ではあるが局長全員そうなっている為現在の連邦諜報局の伝統みたくなっている。

 

皇帝である姉を影から支えていたが、カタリナは欧州では別の事で有名である。欧州諸国では、あの連合王国が霞むほど有名な謀略家でもあった。

事実彼女が局長を勤めていた1965年まで、連合王国は情報戦において常に後手に回っていた。

但し、連合王国は公式にはその事を否定している。

 

カタリナが局長を辞めた後もある程度の勢力を誇り、21世紀現在では合州国の中央調査局(CIA)や連合王国の秘密諜報部(MI6)と並び3大諜報機関と呼ばれている。

*1
空軍制服はダークネイビー

*2
海軍制服は黒色

*3
単純な兵力や装備品などの戦力。一般的に物資生産力や輸送力は正面戦力には含まれずに後方支援と言われる。但し現代戦ではその後方支援をも含めたものを総称して戦力と呼ぶ



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クリスマス

今日はクリスマス。そしてソ連邦崩壊もクリスマス。よって12月25日はアカ撃滅デー(大嘘)


今日はクリスマスである。

誰がなんと言ってもクリスマスである。

 

今日はクリスマスだから一緒に恋人で過ごすとか言った奴。

 

怒らないから出てきなさい・・・

 

 

 

 

「あ、それ私です。」

 

 

何だと!!お前裏切ったな!?

 

 

 

 

はい。ということで今日はクリスマスです。

 

因みに私は最近諜報部隊を作ろうと躍起になっているカタリナの姉のエリザベート・フォン・クロイツフェルンです。

そして今日はお祖父様に呼ばれたので、その部屋に向かっている最中です。

 

なぜか何時もより侍女が多い気もするけど・・・気のせいだよね?(フラグ)

 

 

 

くっそ無駄に広くて迷子になりそうな宮殿で、歩いている此方も暇になってくるんですが・・・

 

あぁ・・・ようやっとお祖父様の部屋が見えてきた。

 

 

コンコンコンコン

とドアを4回ノックすると

「エリザベートか?」

 

「はいそうです。」

 

「失礼します。あ、レナ大尉にカリン大佐、ライナー少佐。あれ?そう言えば・・・」

 

レナ大尉は知っての通り中身がパンジャンな航空技術者である。外見は黒髪の長髪でストレートのままにしており纏めてはいない。目は薄い碧眼。

 

カリン大佐は現在近衛第二師団第二連隊連隊長を勤めている。但し中身はタワシである。そして生粋のコーヒー好きである。そして女性である。外見は黒髪で幼顔、透き通るような白い肌、そして濃いめの碧眼。

 

ライナー少佐は中身が兵長であり、性別は辛うじて前世と同じ男性ではある。天然の茶髪に、元は男の私から見ても普通に整っている顔である。

 

そしてこの3人は私が脱走する度に捕まえに来た親衛隊第2師団第2航空魔導連隊の幹部3人でもある。

 

そう言えば・・・レナ大尉って確かG3はこの前12月の24日までには出来上がると思いますとか言ってたな・・・

 

「レナ大尉、もしかしてG3が出来上がったの?」

 

「ええ、まぁTa152も試作終わった段階ですが、本日は残念ながらその話ではなく・・・」

 

レナ大尉は少々複雑な顔をしながらお祖父様の方へ顔を向ける。

何かあるのだろうか?

 

 

「用が有るのは余である。」

 

「お祖父様が・・・?」

 

「うむ。実は婚約の件なのだが・・・」

 

お祖父様の言葉を聴いた瞬間言い知れぬ嫌悪感に襲われる。身体と精神が不釣り合いな私は感情もあまり良い状態では無いのだろうか・・・だけども野郎と婚約・・・ゆくゆくは結婚すると言うと生理的に・・・

 

無理。

 

「いいえ、お断りします。では私はこれで・・・」

 

私が出ようとすると、私より先に来ていた3人の軍人が行く手を阻んだ。

 

「ちょっといいか?」

 

 

「無理です。」

「皇帝陛下の直接の御命令なので・・・」

「どくことは出来ません☆」

 

 

 

「そんな・・・結婚なんてまだしたくない!」

 

圧倒的絶望感に襲われ、すべてが終わったように感じるのは気のせいだろうか(いや気のせいでない)

つい足から力がぬけ少し近くにあった椅子に崩れ落ちるようにして座った。

 

「エリザベート。お前は次の皇帝なのだから。余としても、臣下にしても結婚して子を成して貰わんと困るのでな。」

 

それは分かっている。高貴なる者の義務と言う奴だろう。

けども・・・

 

「まぁそんなに言うのならば仕方ない。」

 

え?その言い方だとまだ当分はしなくて良いってなのかな?

 

「強制だ。レナ大尉にカリン大佐。この不肖な余の娘をお見合い相手がいる部屋に連れて行ってくれ。」

 

「「はっ。では殿下行きますよ。」」

 

「いやだ、まだ死にたくない、死にたくないっ!!」

 

「ハイハイ殿下行きますよ。私に仕事ばかり増やさせないで、ご自身でも仕事をして下さいね。」

 

あぁぁ~現役軍人につれて行かれる~~・・・・・・

 

 

 

 

 

(皇帝ビスマルクside)

なぜ儂の娘達はあんなに結婚を嫌がるのだろうか。嫌いな者ともし結婚する事になったとしてもあんなに嫌がる事はないと思うのだが。

 

 

 

 

 

 

お見合いの部屋らしい部屋の入り口のドアでライナー少佐が立ち止まりドアノックする。

そんな私の気分は最悪である。

「失礼します。」

 

そうして部屋の中に放り出された私は中にいた人物(恐らく見合い相手だろうか)をよく見る。そうするとどこかでよく見た顔のような気がするのだが・・・

 

「あ・・・えーと、空軍総司令官の副官じゃないか?」

 

確か参謀会議に大体参加していた覚えがある。

なぜこんなにも覚えていたのかというと、軍人のわりには結構綺麗な顔をしていた。

いかにも貴族のような、けれどもそれでも説明がつかないほどの女顔だった事で記憶に強く残っている。髪は茶髪で透き通ったターコイズブルーの目をしていた。

確か名前はラルフ・フォン・ゲールティエスで階級は中佐と言っていたような・・・

 

 

そう言えば一回本人に

「女?」

って思いっきり聞いたら

 

「男です!」

って返されてびっくりした覚えがある。

 

 

そんな男がお見合い相手か・・・

悪く無い気もする。

 

「じゃあ、後は若い人達だけで・・・」

 

とか言いながらレナ大尉達が普通に部屋から出て行った。

いや、レナ大尉達は私より1歳若いはずなのだが?と突っ込みたかったがその前に部屋を出て行った。

 

あいつら・・・・・・後で仕事を増やしてやろうか?

 

 

 

 

 

 

私はラルフフォン・ゲールティエス。最近創設された空軍総司令官補佐をしている。

 

家は代々軍と関わりがある軍系の高級貴族であった。

そんな私の見合い相手は少し政治的な理由で帝室の皇女様がお相手になると聞いた。

 

だけども実はその皇女殿下は少し苦手である。

何故なら自身でも気にしている女顔の事を言われたからである。まぁそんなわけで少し苦手意識はあるが皇女殿下は良い上司であるとは思うのだが・・・

まぁ外見は良すぎるといっても過言では無いのだろう。

 

病的までに白い肌に長めの銀髪をストレートで下ろし、目はルビーのように赤い目をしている。そして誰しもが思わず吸い込まれそうな美貌をしているのだ。

 

 

それでいて男のような頼りがいのある性格をしている。

妹のカタリナ殿下相当美しく、殿下は妹の方の殿下とあわせ『帝国の秘宝』姉妹とまことしやかに言われている程である。

 

 

おっと、これ以上考えに耽っては行けないな。

 

「殿下。これを皇帝陛下より預かっています。」

 

皇帝陛下より預かった手紙を目の前の女性に渡す。

 

 

 

 

因みにその手紙の内容は・・・

『すまんなエリザベート。実はこれお見合いではなく、婚約の場じゃった。ゴメンね?てへぺろ(・ω<)

 

エリザベートがお見合い嫌だ嫌だって言って、他がエリザベートの前にいるであろう男しかいなくなってしまったからじゃ。

 

自身のせいでもあるのじゃぞ☆』と言うような趣旨の内容だった。

 

いやさすがに皇帝だからてへぺろ(・ω<)とか書かないのはあたり前でしょ。

 

因みにこれを読んで少しエリザベートはプッツンしかけたけども、さすがに他人の前で発狂する事は流石に自重した。

 

顔を引きつらせながらも何とか平静を保ちつつ、目の前の男に手紙を読むよう突きつける。

 

相手は一瞬目をまん丸にして驚いている様子だったが、流石は高級貴族。直ぐに平静を装う。

 

「では・・・殿下。どうぞ宜しくお願いします。」

 

「は・・・よ、宜しく・・・?」

 

とまぁ両者共にそれなりにいい感じになるのですが、それはこのお見合いはお見合いではなく婚約の場でもあったのです!

と言うことで・・・

 

エリザベートはクリスマスにリア充(政治的)になりました。

 

やったね!

 

 

 



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技術問題

右となりに座っていた人がインフルエンザになって、自身に移ってないか戦々恐々な作者です。


 エリザベートの婚約の騒動より1週間たったある日。つまりは年が変わり統一歴1903年1月の事。

 

 帝国陸軍の射撃場において、連発(・・)した破裂音が響く。

 

「「おおッ…!!!」」

 

 

 複数人の感嘆のどよめきが上がる。そこには空軍の佐官クラスの制服を着た女性と陸軍の将官,佐官クラスの制服をきた人物が複数人。そして高貴そうな美人というにはおこがましいほど綺麗な麗人が一人いた。

 レナ大尉と陸軍の武器課のトップとその副官、そしてレナ大尉に設計させたエリザベートであった。

 

「いい仕事をするじゃないか、レナ大尉」

 

「ありがとうございます。しかし問題点がありますが…」

 

「少し待ってほしい。この小銃に問題なんてあるのかね?」

 

「残念ながら…」

 

「このようなスペックで、しかもそれを額面だけでなく現実で実現するのはこの目で見ても信じられないものがあるのだが…」

 

 そう、額面通り。それは実現するのは簡単ではないからだ。想像するのは簡単だけれども実現するのは簡単ではないのだ。いわゆる、「理論値と実測値は違う」ということだ。

 

 理論値を実測値に近づけるにはさまざまな条件を追加する必要がある。

 

 例えば材質。材質によって摩擦の与えられる係数が違い、それによって摩擦の値が微小ながらも変化する。

 使う金属の種類はあまり別のものにしてはならない。金属の種類が違うと電流が流れ経年劣化が激しくなりやすい。(気になった方は電蝕で検索!!!)

 

 例えば使用する状況。例えばの話だが、潤滑油を入れる前提のものを入れずに使うと想定より摩擦の量が増え、工業製品が破損する可能性がある。

 

 まぁ例を挙げるとキリがないが。

 

 

 

 

射撃試験を行った銃は12月24日には試作を完了していたG3であった。それは射撃試験で期待通りの性能を示した。

 

期待通りとは…

 

毎分600発で7.62㎜×51㎜弾を銃口初速790m/sで発射し、かつ有効射程は500mという代物である。

 

 

 

 

 

 が、この統一歴1900年代初頭にG3のようなスペックの小銃は存在していない。

 

 いや、それどころかオーバースペックといっても過言ではない銃だ。何せ、小銃はボルトアクションの銃しかないのだから。

 一番最初にこの銃と最初に並べると思われる銃はルーシー社会主義連邦が1933年に開発したAK47を待つ必要があった。

 

 

 

 

「だが…この良い性能の銃を採用しないのはもったいない。すぐ正式採用したいのだが…」

 

「一つよろしいでしょうか。」

 

「ん?何だねレナ空軍大尉。」

 

「我が帝国にはこの銃を量産できる技術力がないのです。」

 

「な…それは本当かね?」

 

 なぜかいつの間にかエリザベートがG3をもっていじくりまわしているのを見ながらレナ大尉が言う。

 

「ええ。この試作は本邦が誇る優秀な銃技師が2週間をかけて1丁作り上げたものです。しかも一丁が…」

 

 レナ大尉が言った一丁当たりの金額にほぼ全員が驚く。

 

「な…」

 

 いや、銃一丁の値段が大きすぎて言葉が出ないようだった。

 しばらく痛い空気が広がり誰も言葉を発しない。

 聞こえるのは風が吹く音しか聞こえない。

 

 

しばらくすると。

 

「レナ大尉。」

 

「何でしょうか殿下。」

 

エリザベートが急に話かけた。

 

「それは試作段階の話だろう?量産すれば安くなるだろ(米帝プレイ)?」

 

「しかし現在銃職人の作業で作るしかなく…」

 

「何、私が何とかする。まぁ今来年度までには量産化させるぞ。」

 

「は?はぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1903年、帝室のナンバー2ともいえるエリザベートはある会社を立ち上げる。

 

 軍需会社 エリザベート・アンド・クルップ

 略称   E&K

 

 である。

 

 といってもほとんどは帝室の次期皇帝がバックについた会社ともいう。

 

 

 その会社は当初はマザーマシンと銃器製造しかしなかったが次第に航空機の製造、内燃機関の製造、医薬品の開発生産、銃火砲の製造など多岐にわたるようになっていった。

 

 マザーマシンとは工業製品(現代で言えばスマホやパソコンなどの家電製品やデジタル機器などを指す)を制作する上で必要になる、材料を必要な寸法、形状で精度よく加工する機械の事。

 

 そのマザーマシンをできるだけ大量に、そして品質を高い水準(というかトップレベル)のものを生産し、そのマザーマシンを使用し1903年に帝国陸、海、空軍で採用されたG3を大量生産により単価を安くすることに成功。

 さらにそのまま航空機用のエンジンから自動車のエンジンまでを作り始める。航空機用はレナ大尉が設計したエンジンを参考にした民間用と、デフォルトの軍需用を量産。

 

 

 そして民間用であってもそれなりに優れたエンジンであったため、帝国内のエンジン関係会社にそれぞれライセンス生産が開始された。

 そしてそれをもとに各会社は独自の持ち味を出したエンジンを開発し、市場に投入していく。

 どれも大体同じような性能なのだが、トルク特性,エンジン音,振動の波長。それぞれが各会社のエンジンの好みによって分かれていくため、どこかの会社のエンジンが独占という話にはならなかった。

 とはいえ元はオーバースペックな最新の技術を使用した戦闘機用エンジン。輸出には規制がかかり、目下5年は海外に関連技術や製品を輸出してはならないという政令が成される。

また、同時期には帝国工業規格(IIS)を帝国政府主導で制定。量産性と整備性を確保した。

 

 

 

 戦闘機の機体は10年・・・20年以上活躍できるよう設計されているが何せエンジンは工業力がよく現れる工業製品。流石のレナ大尉もエンジン設計には6~7年を先取りした設計を余儀なくされる。が輸出では5年の制約がかかるために輸出するころには帝国以外の列強諸国は1~2年頑張れば追いつける代物。よって帝国の製品が入ってきた時は少し飲まれかけたが新製品を出すとある程度は挽回でき、島国の連合王国,大陸の巨大国家合州国などは適度に経済が刺激され経済活動が活発になり、帝国はよき競争相手として列強経済界では見られるようになる。

 

 ただし!

 一般人は競争相手は消すべきだろうと考えるだろうがそう経済は簡単な話ではない。よく考えるとわかる話だが競争相手がいなくなると経済活動が非活発的になる。

 

 たとえると今の日本がそうである。

 日本の市場は限られた少数の企業がほぼ寡占状態に近い状態である。日本経済がいまだ低迷しているのもその一因ではないのかと、経済学をほんの少々かじっただけの学生の意見である。

 

話を元に戻そう。

 

 

 

 

 

 帝国の周りはほぼ敵国に準じた国家だらけ。よってカタリナが設置した諜報部隊は国内外で情報漏洩せぬよう諜報活動をしていく。またカタリナは諜報活動を経て優秀なエージェントを育てていったのだった。




経済学というのは複雑で先が予測できないという学問ですが過去から分析するということができます。

まぁ日本経済の下りは私の意見ですが、皆さんも考え、そしてどのようにわたしたちが行動すべきか考えたらどうでしょうか?


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帝国諜報局の詳細(極秘)

1908年現在

 

所属人数5000人弱

 

局を統括、指揮する局長の他に局長補佐(通称"秘書")が存在。その下にそれぞれの各部門が存在する。その部門は以下の部門である。

 

局長

カタリナ・フォン・クロイツフェルン陸軍大佐

 

局長補佐

内務省出身

ルドルフ・ナヴァール

 

工作担当

・諜報部

 帝国諜報局の中で1,2位を競う程の大きな部署である。

 設立の際には外務省の外交官(二等書記官クラス)や、陸海空軍(所謂3軍)の駐在武官、などから引き抜かれた。

 

・情報分析部

 諜報部が集めた情報を必要な情報か、要らない情報かを振り分ける。

 但し国内外の複数の情報から1つの推測を出す必要も有るため、極めて高度な推測能力を必要とする。

情報分析部長

エリッヒ・ヘルフルト(inシデン)

 

 

・軍事工作部

 皇帝が議長をつとめる本組織の局長を含め、帝国の首相、陸海空軍のトップが参加する会議において可決された目標を暗殺する組織。また、海外にいる帝国の邦人などを保護をする役割もある。

 また、ある程度の軍事行動をする能力を持つ。

 1中隊で組織されるが実際は5ヶ小隊だけであり、それをまとめて便宜上中隊としている。

 創立する際に近衛第二師団より精鋭5ヶ小隊を丸ごと引っこ抜いた。

 

 中隊長

ライナー・フォン・オットー少佐(in兵長)

 

 また、帝国内部の工作には憲兵隊も必要であったために陸軍憲兵隊より少佐クラスを中隊長として3ヶ小隊を引き抜いた。

 

 

・連絡部

 3軍ないしは局内部の中で緊密に連携をとる必要があるため設置された。

 特に空軍は戦略偵察機や戦術偵察機、または軍事行動をする場合の戦術輸送機を保有するため特に緊密な連携が必要である。

 

 設置の際に空軍作戦室より3人、海軍司令部より1名、陸軍作戦課より一名引き抜かれた。

 

・情報工作部

 プロパガンダや偽情報の流布などの心理戦を諜報部と連携して行う。よって情報工作部と諜報部はすぐ廊下をはさみ目の前に情報工作部の部屋がある。

 

 

行政管理

・総務部

・保安部

・訓練部

・技術・諜報設備部

 

上記合計9つの部所が存在する。

 

 

 

 

 帝国の夏は晴れて爽やかな夏である。極めて冬より絶対過ごしやすい帝国の夏は、まぁ少し開放的になりやすい。

 そんな夏の帝国の夏の昼下がり、帝国首都であるライヒに設置されている帝国諜報局本部の局長室にて。

 

「局長、どうぞ。」

 

「あぁ、ありがとう。」

 

 ほぼ秘書のような存在の局長補佐ルドルフが淹れたコーヒーを美味しそうに嗜むカタリナ。

 それを見ながらルドルフはふとある疑問を覚えた。

 

(そう言えばカタリナ局長は皇帝陛下の実娘。なのに一般的に帝室の御方達がすんでいる宮廷には1週間に一回程しか帰っていらっしゃらない・・・そしてその上一人暮らし・・・この方は本当に皇室の御方なのだろうか?

しかも、なぜこんな無防備に・・・!?)

 

 実は彼女は現在帝国諜報局の宿舎に住んでいる。局長は一応帝国の国家公務員と言う扱いになっており、宿舎が使える。

 なぜ宿舎で生活しているのかというと、単純に宮殿より早く帝国諜報局に着けるからだ。

 

・・・一人暮らしではなく宮廷のメイドが出入りしていたりするが。

 基本的に食事などの準備は自身でこなしていたりする。

 と言うかほぼほぼそのメイドと一緒に住んでいる状態だが・・・まぁ中身が男なだけあって・・・まぁ仕方ないだろう。

 カタリナの性癖はメイドなのかもしれない・・・

 

 

 そしてカタリナが現在している服装は・・・上はブラウス一枚に下は陸軍佐官制服のズボンである。先ほど

 

「少し暑いかな・・・」

 

 とか言いながら上の陸軍佐官の制服を脱ぎイスの背もたれに掛けたからである。

 まぁそんな上着を脱ぎ、ブラウスの下には下着しかない状態である。いかな上司といえども、そんな事をされるといささか目線に困るが・・・どうしても大きめな胸部装甲の方に向きがちなのだ。

 ルドルフは内務省では若手の中でも優秀といわれていた人材で、それをカタリナが内務省から引っこ抜いたのだが・・・如何せんルドルフはまだ結婚をしていない(恐らくは)健全な25歳男性の若手である。20代ならば仕方ないだろう。

 

 この日ルドルフは目のやり場に困りながらも1日の職務を何とか過ごした。

 




ここより下は帝国最大機密が書かれています!読む際はご注意下さい。(帝国諜報局に暗殺されても当方では責任を負いません)
























エリザベート・フォン・クロイツフェルン

身長:168.2[cm]

バスト :95[cm]
ウェスト:64.2[cm]
ヒップ :90.2[cm]

よってFカップ
容姿:万人が美人とはっきりといい、雪のように輝く銀髪と病的とまでは言わないが相当白い肌、それに対比するような紅色に輝く瞳・・・そう、まるでルビーのような瞳が印象的。そしてキリッとした一重瞼が美貌を引き立たせる。

体重:ん?次期皇帝にそんな事聞いていいの?


カタリナ・フォン・クロイツフェルン
身長:165.5[cm]

バスト :90[cm]
ウェスト:61.0[cm]
ヒップ :88.8[cm]

よってEカップ

容姿:千人が可愛いと言い、明るめの茶髪で三つ編をして左肩に流している。そして輝くミントグリーンの瞳。

体重:なるほど、そんなにも暗殺されたいようなのですね


レナ・フォン・ワイス
身長:170.2[cm]

バスト :91.5[cm]
ウェスト:65.0[cm]
ヒップ :90.8[cm]

よってDカップ
容姿:大抵の人は美人と答える。4角の銀縁メガネをかける。黒髪ストレートの髪とそれに対比するようなサファイア色の瞳。

体重:設計するのに私の体重は関係ないです。良いから仕事に戻りなさい!


カリン・フォン・フート
身長:167.2[cm]

バスト :90.3[cm]
ウェスト:64.9[cm]
ヒップ :90.5[cm]

よってDカップ
容姿:おっぱいの付いたイケメン!それ以外言うことなし!(どちらかというと美人ではなくイケメン。そして綺麗な金髪をショートでカットしてある。)
あ、因みに瞳はエメラルドグリーン

体重:上官にそんな事を聴いてどうするんだ?


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幕間 エリザベースのグルメレース

 授業が始まって辛い…インターンシップの締め切りが異常に短い…もうヤダ…工学の実験レポートもある…もうヤダ…


 あと眠い。


 エリザベートは激怒した。

 

 かの邪知暴虐なメイドからの重圧を取り除かねばならぬと決意した。

 

 エリザベートには政治は分かる。

 分かり過ぎて頭が痛い。

 

 エリザベートはベルン宮殿の住人である。

 起きれば英才教育、また起きれば英才教育と遊べずに暮らしていた。

 

 けれども趣味に対しては人一倍敏感であった。

 

 本日宮殿を脱走し、警備を掻い潜り侍従の捜索の目を欺き、半里離れた下町の商店街へとやってきた。

 

 エリザベートの父、母は存命である。

 ただし夫はおらず、内気で頭が良いはずの妹がいる。

 

 

 

 

 統一歴1900年10月13日

 

 エリザベートは現在12歳で陸軍士官学校の1年目を修了し、2年目の士官学校生活である。

 

 

 

 彼女はおよそ1年前に毎日来る興味もない縁談と言葉使いから始まり主要世界各国の言語を学んでいる状態だった彼女はものすごいフラストレーションが溜まって大脱走を起こした。

 

 当時10歳だった彼女は侍女を押し倒して脅し賺し、いろいろあってメイドの協力を得て脱走した。

 

 そして彼女はそれを皮切りに何回も脱走した。

 彼女は大抵下町の商店街へと降り立ち自身の稼いだお金から1マルクを引き抜きのんびりと過ごした。

 

 なお、株取引では2か月で10万マルク*1は最低でも稼いでいる。

 

 この前の合州国のノーザンパシフィック鉄道買収事件を発端とした株価暴落事件*2では7500万$*3の黒字を勝ち取ったので帝室の財産はホッカホッカである。

 

 

 宮殿では皇女に居ないことに気づいた侍従が探し回っているのにも関わらずのんびりと。

 

 

 

 商店街のおばちゃんおじちゃんは高貴な身なりをした少女には内心驚きながらも

 

「よぅ来たね、何が欲しいんだい?」

 

 と声をかけて応対したそうな。

 

 そして返した言葉が

 

「簡単なサンドイッチが食べたいかな…」

 と答えたそう。

 

 ちなみにその時朝の9時半。

 彼女はシェフに今日の朝は食事を外のパン屋で食事を摂ると言い残して宮殿から抜け出したそうな。

 

 

 そのおばちゃんがベーグルのサンドイッチを作ってくれたので紅茶を添えて今朝の新聞を片手に足を組んで新聞を読みながら朝食をとっていた。

 

 帝室の侍女はその光景を見れば

「立ち振る舞いが特によろしくありませんね。

 なんとはしたない。女の子が足を組むとは…」

 

 と説教を始めるのは分かり切っていた事であった。

 

 だからそのような事をできるのは宮殿の外でしかできない。

 

 

 

 

 

 

 息抜きに宮殿を飛び出すことを覚えたエリザベートに宮殿の者たちは苦言を漏らす。

 

「宮殿を抜け出すことはお控えしていただけますでしょうか?」

 

 と。

 

 エリザベートも愚かではない…かもしれない。

 

 彼女は折衷案を提案した。

 

 

「帝国軍の士官学校に行ければ控えます。」

 

 と。

 

 

 

 

 当時、皇帝の座を巡り当人の預かり知らない場所で政争を繰り広げられていた。

 第一皇女で皇位継承権第一位のエリザベート・フォン・クロイツフェルンを推すエリザベート派と第二皇女で皇位継承権第二位のカタリナ・フォン・クロイツフェルンを推すカタリナ派の二派に分かれ派閥争いが行われていた。

 エリザベート派とカタリナ派で別れて皇帝の座に推挙するために本人のあずかり知らぬ場所で争いが繰り広げられていた。

 

 それは皇帝ビスマルクにも侍従を通じて把握していて、皇帝が貴族、軍部へ働きかけ派閥争いは一時の落ち着きを見せた。

 

 ただしエリザベートが自身の父の悩みなんか知らねぇ!みたいなノリで宮殿からの脱走を始めたために政争は再燃をし始めた。

 

 皇帝の「皇位継承権は序列を遵守せよ」との正式な声明によりカタリナ派は急速に勢力を衰えさせた。

 

 ただ、その事もあってあっさりと許可された。

 

 

 

 

「そういえば、最近噂のお菓子屋さんに最近行ったんですけど…」

 

「…」

 

 エリザベートは士官学校で知り合った比較的仲の良い級友と話をしていた。(なお士官学校に入学した女子は少なく、学年でも1クラス20人程度である。そして、魔導士適性がある者は性別問わず徴兵されるが、士官学校に行くという事は軍人としてご飯を食っていこうとする人物がほとんどなわけで…帝国の女子が進んでいくような学校ではなかった。)

 

「この学校ってだいたい夕方に講義がおわるじゃないですか、それで帰りに寄ったら売り切れていて…」

 

「殿下はそのお店のお菓子食べたことあります?」

 

「いや食べたことはないな。」

 

「そうですか。今度講義がなかった時に行きましょ?

 

 …殿下?あれ居ない!殿下?殿下?」

 

 エリザベートの級友たちはいきなりエリザベートが居なくなったのでびっくりして探したが見つからなかった。

 

 

 

 その時エリザベートは何をしていたか。

 

 彼女は廊下の角に設置されていた電話に向かい話をしていた。

 

「やぁ、久し振りだね。

 

 レナ空軍准尉。」

 

『あの、殿下今何時か分かりますか?いつもなら空軍士官学校で講義を受けている時間なんですよ?』

 

「知ってる。けど今日講義がなくて休みなんでしょ?」

 

『はぁ…それで何の用ですか?』

 

「最近話題の菓子屋さん知ってる?」

 

『あ、あの6丁目の菓子屋さんですか。』

 

「それで…お昼までに買ってきてくれない?」

 

『…私に買いに行けと?』

 

「うん!」

 

『なんで私が……』

 

「今どうせ暇なんでしょ?」

 

『いや暇じゃないですよ!レポートに今追われてるんですからね!』

 

「ああ、はいはい分かった分かった。それで買ってくれるよね?」

 

『…分かりましたよ、殿下お願いを無下にするわけにはいきませんからね…お昼までにそちらに届ければよろしいんですね?』

 

「うん、あと紅茶の茶葉もよろしく。」

 

『分かりましたよ。』

 

 レナの方から電話を切った。

 エリザベートも受話器を置く。

 

 

 

 そして電話から踵を返してクラスメートがいる部屋まで歩いていく。

 

 

 

 いきなり居なくなったエリザベートに騒然となったが、普通に帰ってきた彼女にどこに言っていたのかを聴けば、

 

「電話をしていただけだから。」

 

 という言葉を聞き納得して次の講義が行われる教室へと移動していった。

 

 

 講義が終わり昼休み。

 門の前まで行けばある人物が外の歩道に立っていた。

 

「レナ准尉。」

 

「殿下・・・それは仮の階級で」

 

「まぁそんなことは良い。例の物は?」

 

「はぁ・・・えーと、これが話題のお菓子。後、茶葉はこの包みに入ってます。」

 

「そうか、ありがとう。たまに君を頼ることがあると思うけど、これからも頼むよ。」

 

「分かりました…”これからも!?”」

 

「…何か疑問が?」

 

「大有りで…いやなんでもないです。そんなことより私レポートの続き書くので帰っていいですか?」

 

「む、お茶くらい飲まないのか?」

 

「いや私一応部外者なんで」

 

「あっそっか。」

 

「そっかって…まぁ良いです。じゃ私はここで。またいつか会う日まで。」

 

 そう言い残しレナは帰っていった。

 エリザベートは彼女を見送ると校舎へと帰っていった。

 

 その時より、エリザベートとレナとの腐れ縁が始まり、のちにレナは『第一皇女殿下の忠臣』であり『信頼を置かれている』とエリザベート派からは見られ、カタリナ派はレナを『エリザベートの忠臣』でありいつか排除したいと考えられるようになる。

 

 ちなみにそのお昼には、エリザベートとその仲間たちが其のお菓子をお茶請けにティータイムをしていた光景が見られたそうな。

 

 

 

 

 

 

統一歴1901年5月3日

 4月。それは日本…幼女戦記の世界戦でいうところの秋津洲にあたる場所では卒業する季節である。

 ただし、帝国はドイツをモデルの国であるので卒業は6月である。

 ※ちなみに卒業式に近い行事はドイツには 存在しない。

 

 エリザベートは士官学校からの帰り道でもたびたび侍従を撒いて買い食いを繰り返したりはしていたが、宮殿から直接抜け出すという事は無くなった。

 

 ちなみにエリザベートはよく買い食いしている所を見かけられて帝国の首都ベルンの下町のおばさんおじさん達の顔なじみになっていた。

 ちなみに良く行っている店はベルンの下町にあるとあるパン屋でのんびりとドーナツを食べていることが多い。

 そして、エリザベートが通いだしてからそのパン屋はそれなりに有名になった。

 

 

 

 そしてその日。

 「そういえば、最近噂のお菓子屋さんに最近行ったんですけど…」

 

「…」

 

 既視感のある会話である。

 

「この学校ってだいたい夕方に講義がおわるじゃないですか、それで帰りに寄ったら売り切れていて…」

 

「殿下はそのお店のお菓子食べたことあります?」

 

「いや食べたことはないな。」

 

「そうですか。今度講義が偶然なかった時に行きましょ?

 

 …殿下?あれ居ない!殿下?殿下?」

 

 ちなみにその時、教室の窓が全開で空いていたという。

 

 

 

 その同時刻、エリザベートが制服姿でそのお菓子屋で菓子を買っていた所をエリザベートの顔だけは知っているただの通行人が見かけたという。

 

 

 

 20分後……エリザベートは校舎から抜け出した際に自分で開けた窓から菓子が包まれた包装を手に戻ってきたという。

 

「やぁ、買ってきたよ。さぁ一緒にお茶をしよう!」

 

 と言いながら。

 

 

 

 

 もうエリザベートと友人となっておよそ2年。

 悪いのか良いのかわからないが彼女の友人はもう慣れたようで貞淑にこう言った。

 

「はい、そうしますか。

 殿下。」

 

 と。

 

 

 そしてそのあとはのんびりと紅茶をたしなむエリザベートとその仲間たちが見られたという。

 

 

 

 

 数か月後。エリザベートは士官学校からたびたび抜け出したものの無事卒業した。

 

 

 

 

 

 

 そして士官学校卒業直後から宮殿を良く抜け出すようになったという。

 

 なお、後世の帝室史においての研究では、彼女が宮殿での教育で圧迫された故の脱走であるという説や教育の不徹底が原因であるとする説、フリーメイ〇ンの陰謀や、結婚、縁談を拒んで脱走など多数の説があるが未だに真相は解明されておらず、現在では思春期のストレスによる脱走であったという研究が有力である。

 

 なお、この時の脱走回数は以前より明らかに増えていた。

 前までは1週間に1回程度であったものが1週間に3回、4回ほどであったと公式記録で残されている。

 

 

 

 脱走の頻度が急増した事によって近衛師団は皇女捜索を目的として、当時帝国軍最強クラスの航空魔導士が集まっていたアグレッサーを中心とした索魔道部隊の設立、捜索網、警備網の刷新を行い万全な体制を整えた。

 少なくとも軍の最精鋭部隊ともいえる部隊の追跡を彼女は巧みに躱し、意味を成さなかった。

 

 ちなみに、その時の世間の反応は様々であった。

 帝都ベルンの市民は一市民にも友好的に接する皇女に対し歓迎的な反応であったのに対しその他の国民は新聞社の報道やラジオによる専門家の意見により良し悪しの評価は大きく分かれる結果となった。

 

 良い評価では

『親近感が湧く』

『私たちの事を良く分かろうとしている』

 と言った評価もあれば、

 

 悪い評価では

『帝室の教育がうまくいっていないのでは?』

『前例のない事で、極めて良く無い事ではないのか』

 と言った評価もあった。

 

 

 ただ、本人はそんな評判など知らぬと言わんがばかりにのんびりと美味しい物さがしのために下町へと繰り出していた。

 

 

 その宮殿からの脱走は美味しいものをエリザベート自身で料理すればいいんじゃねと言う結論に至った14歳の時に頻度が少なくなった。

 

 そして脱走に関しては15歳の婚約で落ち着きを見せ、将来の夫となるラルフと親密になった頃にはエリザベートによる大脱走は無くなったという。

*1
現在の日本円にして1億2000万から1億5000万円

*2
ちなみに我々の歴史と言う名の史実では1901年恐慌という

*3
現在のドルの価値にすれば5億3700万ドル。現在の日本円で650億円程



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幕間 クーデター前日譚

 レポート辛み…だけども小説を書けるのでそこまで追い込まれていないのも実情だったりします。

 学習内容も大学相当となったので頭がこんがらがりそうですが、友人の力を借りて何とかやってます。


1903年3月

 

「カタリナ…儂を安心させてくれないかの?エリザベートも来年の10月に結婚予定でおるし、そろそろ結婚相手見つけてもいいんじゃないかの?」

 

 その場には第2皇女のカタリナと現在皇帝の座に座っているビスマルク皇帝が居た。

 他にはお付きの侍女ももちろんいるが、この侍女たちは物語上関係ないので居ないこととする。

 

 

 エリザベートはこの年から見れば1904年の10月1日に結婚予定である。

 相手はもちろんラルフ・フォン・ゲーティアス。

 

 軍系貴族であり、ラルフ家は貴族の序列の中ではそれなりの家系である。

 

 貴族社会的にも、政治的にも、結婚相手としては十分な相手である。

 

 エリザベートと同じ軍人であったから何か馬が合ったのかもしれない。

 

 

 

 あれだけ結婚を嫌がっていたエリザベートが、あっさりと結婚承諾をして結婚式をも普通に挙げると聞いて、カタリナちゃんはすごいびっくりしたのである。

 

「…分かりました、ビスマルク御祖父様………すぐにでも結婚相手を見つけてきます。」

 

 そう言って第2皇女はビスマルクに辞の言葉を言ってその場を去った。

 

 

 

 

 数十分後に彼女自身が設立した諜報局へと着いた。

 

 玄関を潜り、そしてカタリナであると証明する局員証を提示して中に入る。

 

 

 局長室に赴けば、自身の補佐をしている内務省出身のルドルフが仕事をしていた。

 

「局長補佐。いや…ルドルフ君。」

 

「?はい、なんでしょうか?」

 

「結婚しよう」

 

「!!!???????!!!!!????」

 

 ルドルフは混乱しているようだ!

 (言葉の)威力は絶大だ!

 

「ななな…何故ですか!?」

 

「陛下が私にそろそろ結婚しろと言うことでね、皇帝陛下を安心させてあげるのも娘の役割だと思うんだけどね、なかなか見つからなくてね。

 と言うか仕事であれ何であれ、それなりに相手を知っている相手と言うのが君くらいなものだよ。」

 

「そ、そうですか」

 

「そこで私はこう考えたんですよ。偽装結婚すれば良いと!

 

 という事でルドルフ君。私と偽装結婚しませんか?」

 

 これまたいい笑顔で言うのだからたちが悪い。

 ルドルフは訳も分からずに上げて落とされた気分で一杯であったが反射で思わずこう言ったのだった。

 

「わ、分かりました…」

 

 と。そう、彼は了承してしまったのである!

 

 

 

 それは、カタリナの将来に多大な影響を与えた思い付きであったが、同時にとある事件の事の発端でもあった。

 

 

 

 

 

 1905年4月初旬より皇帝ビスマルクの病状悪化が見られ医師より余命5ヶ月を宣告される。

 

 この宣告が帝室報道官から新聞社への公式発表で世間に知られる事となる。

 

 その際、新聞社の過剰な表現により危篤状態であると曲解される事態となり軍部、貴族へも多大な影響を及ぼすことになった。

 

 半数の民衆は次期皇帝としてエリザベートの皇帝即位を望んでいた。

 

 帝国に飛躍的な経済的発展をもたらしたからである。

 

 

 ただし、反対意見も一定以上あるのが通説である。

 

 

 

 

 

 

 第一皇女が素行悪化していた時より第二皇女を支持する声が増し、第一皇女エリザベートを信用できていない帝国民や軍人、貴族もある一定数以上、カタリナ派は勢いを増すことになる。

 

 1905年初旬より軍内の一部に存在する過激なカタリナ派は強硬手段による第一皇女の皇位継承権剝奪を画策し暗殺をも計画する将校も少数存在していた。

 

 エリザベートの結婚式で襲撃することも考えられたが、カタリナ派の中でも準備が間に合わないことから見送られた。

 

 

 

 

1903年11月15日

 カリン・フォン・フートの結婚式が挙げられた。

 

 カリンとの結婚相手は近衛第1師団の副師団長であるエルンスト・フォン・フートであった。

 結婚する事になった経緯はと言うと。

 

 カリンが実家に帰った時にこう言われたのだ。

 

『孫の顔早よう見せてくれないかね?』

 

「えー?まだ良いでしょ。」

 

『だめ、明日お見合い組んだから。』

 

「へ?あ~明日仕事が…」

 

『明日は日曜で近衛で緊急の物もないから…』

 

「分かりました、行きます。」

 

 そしてお見合いで出会ったのがカリンとの結婚相手であるエルンスト近衛准将であった。

 

 彼女の結婚式時にエリザベートやカタリナも参加したかったが、諸事情(政治等)により参加ができなかった。

 なお、転生者で参加した物はレナ空軍中尉に、ナスターシャ空軍大尉、マルレーネ空軍大尉が参加した。

 

 そしてそのことによりカリンの結婚式に“あの”事件が起きることはなかった。

 

 

 カリンの両親は面々な笑みを浮かべていたのだが、カリンだけはほんの少し引きつった笑顔をしていたと、カリンを知る人物は証言していた。

 

 

 

 

 

 

 

1904年1月某日 帝国諜報局

 

 帝国諜報局は全体的に浮ついていた。

 本当であるならば、シリアス全開な雰囲気が常な帝国諜報局が浮ついているのである。

 

 それはなぜか。

 

 それは……

 

 

 局長のカタリナと局長補佐のルドルフが結婚すると発表されたからである。

 

 我らが敬愛する局長がご結婚なされる、実に喜ばしい事だ。

 

 ちなみにカタリナの結婚相手のルドルフは意外ではあるが元はそれなりの地位に居た。

 帝国はその実は連邦制であり、総勢40余州で構成させており、警察組織も各州警察で独立した組織を確立している。

 

 帝国において、銃乱射事件などの犯罪は未だに起きてはいないが人間の世界で犯罪が起きる以上、各州警察との連絡やとりまとめをする場所が必要であった。

 

 そのために設置されたのが、内務省連邦刑事局である。

 

 そしてルドルフはその連邦刑事局の国家保安部*1に所属していて、トントン拍子で出世していた所を、カタリナが目を付けて引き抜いてきた人物である。

 

 そして・・・・・・なぜかカタリナはルドルフに懐いていた。

 

「ねぇ、ルドルフ。」

 

「はい、何でしょう?」

 

「誰もいないし・・・良いでしょ?」

 

「いやだめです。仮にも仕事時間中ですよ!?」

 

「そんなぁ・・・くぅ~ん・・・・・・」

 

 カタリナは今日の朝からつけてきた寝癖を、しょぼんと垂れ下げさせる。

 

「そう言えば、私達の結婚式ですが・・・」

 

「そう、それ!お姉様の結婚式良かったなぁ・・・」

 

 彼女はルドルフにじ―っと目を向けながらそう言う。

 

 

 なぜこんな感じになったか。

 

 それは一重に、彼女の姉の結婚式にあった。

 前世より付き合いのあった彼女の姉…すなわちエリザベートが結婚式を挙げた時である。

 

 エリザベートが。

 あのエリザベートが本心からだと思われる笑顔を浮かべていた。

 (なお、彼女の本心はやけっぱちで浮かべていた笑顔だったのだが…)

 

 彼女は知らないうちに憧れた。

 

 その結婚式が終われば、カタリナはルドルフに次の休みにデートをする約束を秒で取りつけた。

 

 そして彼女がデートと称して話している内容は仕事のみではあったが、なぜか途中で話が料理の話になった。

 

「私実は料理ができないんだ。

 

 メイド曰く食材が可愛そうだそうでね。

 

 ひどい言い草でしょ?

 

 まぁ事実大体焦がすからなんだけどね。」

 

 事実、姉は料理の才能があったがカタリナはなんでも焦がすのだ。

 

 よって、できるのはパンを焼くこととヴルストを適当に焼くこととコーヒーを淹れる事くらいである。

 

「私は料理くらいならできますが…」

 

「へぇ…なら私に毎日朝食を作ってもらいたいな。」

 

 実は日本ではこれは求婚の文句に成り得る事だったりする。

 (毎日お味噌汁を作ってくれないかの派生だと私は考える)

 

 要は知らないうちに自分で自爆したのだが、

 

「良いですよ。何時からにしますか?」

 

 そして当たり前のようにのたまうルドルフ。

 

 そして…自分がうっかり発言した言葉を振り返って顔と耳を真っ赤にしているカタリナ。

 

 

 お付きの者は離れたところでニヤニヤとニヤついていた。

 

 自身で盛大な自爆をして真っ赤になっているカタリナと、意味が分からず困惑しているルドルフ。

 

 

 

 

結婚してください…

 

「え?」

 

 意味のないところで鈍感を発揮するルドルフ。

 カタリナは勝手な自爆で頭から煙を上げ始めるのではないかと思うくらい真っ赤になって、自爆内容を暴露するしかなくなったのだ。

 

結婚しましょう…?

 

「あぁ。なるほど。ではよろしくお願いします」

 

 一番最初のデートで自爆した彼女は、彼を普段から意識せざるを得なくなったのだ。

 

 

 斯くして、彼女は、そして彼は当初の偽装結婚という建前を彼女はすっかり忘れてしまっていた。

 

 

 そして、ルドルフにものすごく懐いたのである。

 …犬かな?

 

 そして現在。

 

「ねぇ、あなた?」

 

 貴方呼びである。

 

 

 そして、彼女は自身の結婚式をうきうきとたのしみに待っていた。

 そう、“実に”楽しみに。

*1
日本で言う公安警察のような物



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幕間 6月10日~13日

1905年6月10日

 

その日。6月10日はカタリナちゃんの結婚式が10日後に迫った日である。

 

 カタリナは帝国諜報局で心をぴょんぴょんさせていた。

 

「結婚式楽しみだなぁ♪」

 

 1年前のカタリナに今の姿を見せれば絶句するような光景ではあるが、本当に彼女は結婚式を楽しみにしていた。

 

 既に1か月前に花嫁衣裳の最終セッティングを終わらせてあり、1か月前に終わらせるべきことは既に終わらせている。

 

 

 彼女はもうすでに脳内お花畑になっていて、ルドルフはお花畑になっていたカタリナを見て少々苦笑していた。

 

 

 

 であるが…

 

 

 

 

 その日の夜

 

 ミハイル・ヴィルケ・シューマンすなわち情報局連絡部部長、パスカル・フォン・クロイツァー陸軍准将、パウル・ディーヴァルト陸軍少佐、エーデン・フリート陸軍少佐、エッカルト・ロート陸軍大尉、ドニファーツ・クラフト陸軍少尉の6人がとある帝国首都にあるホテルの1室に集まっていた。

 

 その内容は、10日後に行われる予定の〝軍事クーデター”の策謀を立てていた。

 

 1905年初旬より軍内の一部に存在する過激なカタリナ派は強硬手段による第一皇女の皇位継承権剝奪を画策していた。

 

 暗殺をも計画する将校も少数存在し、カタリナが局長を務める情報局内にもそれに近い思想を持つ過激な人物も居た。

 その人物はそろってカタリナが唱える[反戦論]思想に心酔していた。

 

 ひとえに我の愛する国を良くするための思想であると思っていたためである。

 

 カタリナが反戦論者であった事も手伝って彼女の知らない場所でクーデター計画が成されていたのだった。

 

 軍事クーデター自体はカタリナの結婚式にエリザベートが参加することが濃厚になった時より計画が立案されている。

 

「できれば近衛の中で我らに協力してくれるような人物が欲しいが…」

 

「元陸軍に居た伝手で、トーマス・ベッヒャー少佐が我らに賛同してくれた。」

 

「できれば連隊長クラスの賛同が欲しいが…」

 

「近衛第2師団の中でか?」

 

 カタリナの結婚式の会場警備は近衛舵2師団がすることとなっており、クーデターを起こすうえで近衛第2師団に内通者が欲しいのは当然の事だった。

 

「それは、無理だった。近衛第2師団の混成第1連隊の連隊長は海軍出身で伝手がない。混成第3連隊の連隊長は空軍出身だ。それに、どいつもこいつもエリザベート派だ。」

 

「第2連隊の連隊長は確か…」

 

「カリン近衛大佐だが…第1皇女に親しい人物だ。一応陸軍出身だが、エリザベート派とみなさなければならない。」

 

「厄介だな。」

 

「うむ。何とかならぬものか…」

 

「会場警備の計画では混成第2連隊が、決起するときの時間に警備している。

 

 いくらエリザベート派の人物でも従わざるを得ないモノがないか?」

 

「……軍人であるならば上官の命令は絶対だ。それを利用しよう。」

 

「なるほど。であるなら、当日直談判し協力を取り付けた後、師団長命令を第2連隊司令部までもって行き………事を起こすか。」

 

「師団長を説得できなかったらどうする?」

 

「だったら偽の命令書を偽造しておいて本人に印を押させよう。

 あとは誰かが師団長を見張っておけばいいだろう。」

 

「そうだな。なら…あとは実行するのみ。」

 

 

 

 

 そのような策謀が成されているとは、だれもが知らずにカタリナの結婚式を楽しみに待っていた。

 

 

 

 

 

 

 例えば…

 

 カリン・フォン・フート近衛大佐もそうである。

 

「カタリナ殿下の結婚式が待ち遠しいなぁ…」

 

「そんなにか?」

 

「ええ!それはもう!殿下の結婚式には出られない運びになっちゃったけど、結婚式の…ねぇ?」

 

 カリンは先ほども述べた通り結婚式会場の警備にあたる。

 

 仮にも皇族と貴族の家系に連ねる者同士との結婚である。

 ※実はルドルフ君は伯爵家の生まれではあるが、事情により内務省の警察組織で働いていた。

 

 皇族との結婚式でもあるので、多くの参加者を要する。

 

 カタリナ…すなわち花嫁側はエリザベートを筆頭とした近しい親族と、世話になったかつてのメイド、レナ空軍技術大尉にナスターシャ空軍大佐等を招待し、ルドルフ…すなわち花婿側は同じく近しい親族に仕事上付き合いがある部下などである。

 

 ここで豆知識!

 結婚式の招待人数については、花婿と花嫁が招待する人数はおおよそ同じにならなければならない!

 

 いつか役に立つと思うので覚えておきましょう!

 

 閑話休題

 

 比較的多くの参列者が来て且つ、後続の結婚式である。

 会場警備には近衛第2師団が投入されることになった。

 

 カリンは近衛第2師団にある3個連隊のうちの一つである、混成第2連隊を率いている。

 

 近衛団2師団長はシュテファン・フォン・ハース近衛少将である。

 

 ちなみにカリンの夫はエルンスト・フォン・フート近衛准将で、近衛第一師団の副長を務めている。

 

 

そして、カリンはカタリナの結婚式に出席できないのは残念だったが、その代わりに会場警備に携ることができた。

 

「それは光栄なことではないですか!?」

 

「うんうん、そうだね。」

 

 夫の趣味なのか何のか分からないが、近衛指定のブラウスの上からピンクの少々飾りっけのあるピンクの(・・・・)エプロンをフリフリしながら包丁を振るい夕食を作っている。

 

 そんな彼女が包丁で指に傷を付けないかが心配ではある。

 

 

 

 

1905年6月13日

 カタリナの結婚式かた1週間前の日である。

 

 会場警備は実のところ半年以上前から計画されていた。

 

 近衛のどの部隊を配置し、爆弾等が置かれるのも困るために爆発物処理専門の人員も~~となる。

 

 

 そしてその日は近衛第2師団の先遣隊が到着した日である。

 

 すなわち、補給線の構築、司令部の設営、兵員の待機場所のこれまた設営。

 そして、野外で料理できるフィールドキッチン等が配備された。

 

 そして、補給の構築もそうだが、近衛第2師団の先遣隊の役目は様々であった。

 

 爆発物が市中にないかを探したりと、それはもう大変だった。

 

 カリンちゃんも結婚しておよそ半年でまだ新婚気分なわけだが、そんなことはお構いなしに近衛のお仕事である会場警備に忙殺される。

 

 

 

 

 

 

 その日エリザベートちゃんは…

 

 息を止めながら自身の夫に抱き着いていた。

 

 その時の時刻はちょうど夜の8時。

 外は暗く闇のようである。

 電気をつける家も少々少なくなってくる時間帯である。

 

 その日の夜は美しい見事な丸い満月であり、宮殿の噴水の水が幻想的な月の美しさを鏡のように映していた。

 

 

 

「ちょっと…どうしたの?」

 

 エリザベートの髪は誰もが目を引くような銀髪が柔らかな電球の光を反射させている。

 夜10時と、少し深夜に近いこともあり彼女はすぐにでも眠れるように薄い白のネグリジェを着用していた。

 

 

 

「………」

 

 エリザベートの夫にどうしたと聞かれても、彼女は黙っている。

 

 一応控えている侍女やメイドもあらあらと今にも言いそうな優しい雰囲気で二人を見ている。

 

 一人、鼻から愛と言う名の朱い代物を出していて、それを何とか食い止めようとしているメイドもいた。

 ちなみにそのメイド、エリザベートが最初に抜け出した時の協力を得た人物である。

 

 貴族の娘として教育の為に送り出されたメイドであるが、何をどう拗らせればこうなったかは分からないが主人への愛が危ない領域にまで入っている。

 

 

 なぜ、そうなったか。

 それは主人であるエリザベートにもわからない。

 

 ちなみに、そのメイドにエリザベートは結婚を勧めるのだが、本人がかたくなに拒否をしているため、そのメイドに浮ついた話がほとんどない。

 

 ただし、ほとんどと言ったが0ではないことは確かである。

 

 なぜか変な感じになったメイドと、宮殿のシェフが楽しそうに話している場所を偶然エリザベートが見かけたからである。

 

 

 

 

 

 

 

 良く分からないが、なぜか抱き着いているエリザベートを、何を思ってかラルフは…

「しょうがないなぁ…」

 と、頭をポンポンとした。

 まるで小さい娘をあやす様に……

 

 ちなみに、男性が異性へと頭をぽんぽんとするのは可愛い妹に対する愛着が深層心理にあるそうです。(ネット記事に載ってた)

 

 

 

 

「私は赤ん坊じゃないんだけど」

 

 黙っていた彼女が突如しゃべりだした。

 赤ん坊扱いされたことに不服だったのだろうか。

 

 しゃべった事によって息を自然に吸ってしまい、眉間にしわが寄り少々しかめっ面をした。

 

 ただ、彼女はその後目を丸くして意外だというような表情をし、その後すぐに取り繕うような苦笑いするような感じの表情を見せる。

 

 実はエリザベートちゃんは人の匂いが嫌いなのである。

 

 

 ただ、せっかく結婚したので新婚気分という物を味わってみたい。

 

 そんな知的好奇心に負けた彼女は息を止めて彼女の夫に抱き着いているのである。

 ※人の匂いを嗅ぐのが嫌いなエリザベートちゃんであったが、妊娠した際にいろいろと起きた。

 

 一般的に女性が妊娠するとき味覚が変化するという事が言われている。それが行きすぎるといわゆるマタニティブルーという物になるのだが…

 

 彼女は見事に“それ”にかかり、なぜか自身の夫が傍にいると落ち着くようになった。

 いつかかは分からないが、エリザベートちゃんの夫君もできるだけそばにいることを心掛けたのだが…

 

 彼女の『他人の体臭嫌い』に例外が生じたのはその時であった。

 

 自身の夫と娘の匂いには何にも思わなくなった。

 それどころか、エリザベートちゃんの夫さんのラルフ君の匂いが精神安定剤にさえなった。

 

 彼女の他人の体臭嫌いはそれで例外が生まれたのだ。

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 息を止めて自分の夫に抱き着いているエリザベート。

 

 それをされて困惑しながらもいろいろとアレな感じになってきてるラルフ君。

 

 そして、いろいろと察して侍女やメイドが静かに部屋から出ていく。

 

 

 結局は新婚夫婦ご恒例の“アレ”にまで到るのだった。



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幕間 6月18日~19日

試験1週間とちょっと前~~~!!!
小説書くぞ~~!(やけくそ)




1905年6月18日

 午前5時15分,近衛第2師団が配備されている各駐屯地に起床ラッパが大音量で鳴り響いた。

 

 朝の若干もやがかかった空気に朝日が差し込む。

 もやがかかった空気が朝日の光をキラキラと反射させ光るどこか幻想的な空気の中、近衛第2師団は動き出す。

 

 事前より起床ラッパが早まることを予告されていた近衛第2師団の全人員は誰一人遅れることなく一斉に行動を開始する。 

 

 朝飯を食べ、準備を進めていく。

 

 

 この日はカタリナの結婚式に合わせ近衛第2師団が本格的警備を開始する日である。

 

 午前8時、近衛第二師団は大聖堂周辺へ展開を開始することとなっている。

 

 帝国民は現在の皇帝が現在病に臥せっているという事もあり、半年前にあったエリザベートの結婚式があったことも相まって、帝室は若干の不安がある物の、それを覆うほどの光が帝国民に降り注いでいる。

 

 そんな気がしていた国民が大多数であった。

 

 

 すなわち…

 

「第1皇女殿下もすでにご結婚なされているし、明後日には第2皇女殿下もご結婚なさる。これほど良いことはあっただろうか?」

 

「これで帝国も安泰、あとは陛下のご病気が…」

 

「そうですね。陛下にはもう一度お元気な姿を見せてほしいですね。」

 

 と言うような会話が街中で見られたという。

 

 

 短期間に相次いだ、皇帝のご息女姉妹の結婚と言う慶事に沸く帝国国内。

 

 勿論、カタリナが局長を務める帝国諜報局内でも自身の上司であり憧れ(見た名の意味でも)な彼女の結婚に大多数が湧いていた。

 

 少なからず、中身は知らずとも見真麗しい彼女を知らず知らずのうちに憧れている局員は大多数存在している。

 

 そして、なぜか未来に生きていた局員がこのようなものを作り上げていた。

 

『カタリナ局長ファンクラブ』

 

 である。

 

 

 圧倒的カリスマの持ち主であり、見目麗しいこともある彼女は知らず知らずのうちにファンクラブを形成、未来に生きた局員が作ったファンクラブである。

 

 その内容は、ただの集まりではあるが…我が局長をできる限り見守るという内容である。

 

 そのファンクラブで、カタリナ局長とプライベートな関係を持つことは絶対に許されないことで、仕事上でも少々プライベートな話を彼女としただけでファンクラブから勧告が来るほど厳しい物であった。

 

 ※そのファンクラブはカタリナ本人どころかルドルフさえも認知していませんでした。

 

 そのファンクラブ会員はルドルフに殺意の波動を覚えながらも、素直にカタリナの結婚を喜んでいる人物が温度であった。

 

 

 そして、前世からの戦友たちもカタリナの結婚を喜んでいた。

 カリン近衛大佐はいざ知らず、実の姉であるエリザベート、Ta152やG3を設計したレナ空軍大尉、マルレーネ空軍大佐、ナスターシャ空軍大佐も彼女の結婚について祝福していた。

 

 とくにエリザベートはカタリナとの実の姉であるため、異常に喜んでいた。

 

 18日の昼間は以上にハイテンションな様子で、エリザベートは公務を30秒で終わらせたという。

 

 実の姉がそうならば、母親もそんな感じで。

 

 カタリナの母親は皇帝ビスマルクの皇后陛下。

 そして、エリザベートのは母親でもある。

 

 自らの腹を痛めながらも生んだエリザベートが、カタリナが、結婚する旨を聞いた皇后陛下はものすごく喜んだという。

 

 ただ、皇帝の病によって父親が花嫁を連れてヴァージンロードを歩けなくなったために、

 

 エリザベートの時は、エリザベートと皇帝ビスマルクの皇后である彼女が、腕を組んで式場に入場し、皇帝の代わりの名代として出席した。

 

 カタリナも同じ予定となっている。

 

 

 

 

 近衛第2師団は午後4時に全配備を完了した。

 司令部も稼働を始め、万全な状態になった。

 

 今や、その周辺は欧州の中でも屈指の防御力を有しているとも過言ではない状況であった。

 

 カタリナの結婚により浮つく国内と帝国諜報局、そしてカタリナの身内。

 

 それを知ってか知らないのか、極めて無粋な計画が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 その日の夜。

 

 あたりは日が沈み、暗闇の中を街灯とわずかな民家の明かり、そして時々走る車のヘッドライトが照らす道をとある人物が歩いていた。

 

 モスグリーンのような軍服は帝国陸軍所属であることを示しており、その肩に付いている肩章に星が1つ付いていることより准将クラスであることがうかがえる。

 

 

 その軍人はホテルの受付嬢に問うた。

 

「連れは来てるか?601号室にいるはずなのだが。」

 

「601号室ですか…いらっしゃいますね」

 

「分かった、ありがとう。」

 

「はい。」

 

 彼はエレベータに乗り、6階で降りた。

 

 帝国の中心部にある由緒あるホテルであり、その実要人が泊まるときの宿泊所にもなるほどのホテルであるため、廊下の照明や装飾は上品なもので飾り付けられている。

 

 帝国でも1室1晩泊るだけでも相当な金額が必要であった。

 

 閑話休題(そんな事はともかく)

 

 軍人の男は軍靴を床に打ち鳴らすような音を立てながら廊下を歩く。

 

 その男は601号室の前に立った。

 

 

 右、左、後ろと振り返って何かを警戒するように素振りを見せてドアをノックする。

 

 中からは誰か走る音がしたと思うと誰何が聞こえてきた。

 

 普通に

 

「誰だ?」

 

 そうすると601号室の前に立っている男はこう返した。

 

「誰だと思う?」

 

 と帰ってきたのだ。

 

 

 そうしたらドアが開いた。

 

 先ほどは普通の会話に乗せた合言葉であり、各々別の合言葉を持ち誰がドアの向こうにいるかが分かるようにした…らしい。

 

「少尉か、入れ。」

 

「は。」

 

 中には男たちが話をしていた。

 

「で…奴らがこう出てきたら…」

 

「おお、少尉よく来た!」

 

「少尉か。」

 

 部屋に入った『少尉』と呼ばれた男こそ、帝国首都近くを管轄する帝国の中央を担当する中央軍集団のトップナンバーの師団。

 

 それが第1師団なのである。

 

 

*1

 

 その第1師団の第1歩兵連隊、同連隊第1歩兵大隊第3小隊売隊長、ドニファーツ・クラフト少尉、その人である。

 

 彼は比較的新米の少尉ではあるが、この帝国と言う国の未来を本気で憂いていたのだ。

 そんな時彼は彼女…

 

 すなわち、カタリナの著書を手に取ったのだ。

 

 彼女の戦争を理解しているかのような非戦的、非戦論者的なその著書は彼の心にい刺さり、異常な程のファンとなった。

 

 そこで陸軍部の駅なカタリナ派に誘いを受けた。

 カタリナの思想を過剰に、そして過激に理解をした彼は陸軍のカタリナ一派に入る。

 

 その後エリザベート派閥の台頭で圧迫されながらも外部のカタリナ派と結びつきを深めた陸軍のカタリナ派は、情報部のカタリナ派の中でも過激な人物と共に、クーデター計画を立案した。

 

「いいか、明後日には決行だ。

 まず我々は近衛第2師団長を説得し、この作戦に一枚かまさせる。

 時間は―――――」

 

「20日の明朝、午前6時だ。

 忘れるな。」

 

「は。」

 

「その後、近衛作戦命令書を伝達させる。

 

 内容はこうだ。」

 

 

「Ⅰ、師団は敵の支配下にある逆賊、エリザベート・フォン・クロイツフェルンを確保、拘束すべし

 

Ⅱ、近衛混成第一連隊主力は別名あるまで待機すべし。

 

Ⅲ、近衛混成第二連隊は結婚式会場の占拠、逆賊に属するエリザベート派貴族、軍人を拘束すべし。

 

Ⅳ、近衛混成第三連隊は道路警備を厳とし、道路の封鎖を行うべし。

 

 か。なるほど考えましたな。」

 

 

「うむ、これでも作戦参謀次長なのでな。

 

 近衛第2師団の命令書を受け取った後に、近衛第2師団の各連隊司令部へ赴き命令書を伝達させる。」

 

「第2連隊の連隊長は従うだろうか?」

 

「従うさ、どのような命令でも命令であるなら従うのが軍人だろう。

 

 不服があるなら上申もあるだろうが、我々でそれを止めておけば近衛第2師団長の翻意は防げるだろう。」

 

 

「なるほど。」

 

「近衛第1連隊にはエッカルト・ロート大尉が、特に大きな障壁であると思われる第2連隊にはエーデン・フリート少佐と、近衛第二師団混成第二大隊長のトーマス・ベッヒャー近衛少佐が、第3連隊にはクルト・フォン・ルーデルドルフ大佐が行く計画だ。」

 

「その後、近衛第2連隊でエリザベートを拘束、うまく行けば各国のそれなりの地位にある人物たちの前で皇位継承権破棄の宣言をさせる。」

 

「抵抗があった場合は…」

 

「殺害…だな」

 

「ああ、第1皇女には結婚してばかりで悪いが…

 

 ただ、それは最悪の場合だ。相手が抵抗しなければ問題ない」

 

「ああ。」

 

「あとは第2皇女殿下に、皇位継承権が第1位になる事を宣言してもらえば後は…」

 

「盤石だな。」

 

「成功すれば軍法会議はかけられるだろうが、軽い罪になるだろう。

 

 うまく行けば無罪も…」

 

「そうだな。」

 

「「「「「すべては我が国のために!」」」」」

 

 

 

 

 

 

6月19日

 

 カタリナ結婚式の前日である。

 

 結婚式の前日はカタリナとルドルフが一緒に挙式のスケジュールを仲良く確認していた。

 

「えーと、8時半に式場入りして…準備して、11時に挙式リハーサルして…」

 

「12時に挙式始まって、ブーケトスして写真を撮って…」

 

「うん。まぁそんな感じだね。

 

 明日の結婚式楽しみだなぁ♪」

 

 

 

 彼女は明日へと迫った結婚式を心待ちにしていた。

 

 ちなみにその日の夜は緊張して眠れなかったそう。

*1
ちなみに帝国軍が擁する空挺部隊として、中応軍集団では第1空挺旅団の他に第173空挺旅団や北部を担当する北部軍集団の第101空挺師団、東部を担当する東部軍集団の第82空挺師団などがある



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6月20日

どうも、作者です。

夏なのか知りませんが、体調が崩れやすくなってきました。

皆さんもエアコンの当たり過ぎには気を付けましょう!

精神的BL要素がほんの少しだけ香ってくるかもしれないので気を付けてくださいませ。


 統一歴1905年 6月20日 午前6時30分

 クーデター実行4時間前

 

 

 

 パスカル・フォン・クロイツァー准将、パウル・ディーヴァルト少佐以下3名は近衛第二師団司令部ヘ赴いていた。

 近衛第2師団司令部は近衛第2師団の主要司令部所在駐屯地であるライヒスベルグ駐屯地に存在している。

 

 午前6時より動き始める予定の近衛舵2師団はもうすでに慌ただしかった。

 

「すまない、陸軍参謀本部からの者だ。シュテファン師団長の所へ案内してくれないか?」

 

「はぁ…陸軍さんが何用でしょうか?」

 

「陸軍の人間が近衛に何用かという事だろう?

 少々気になる事をうちの情報局の人間がつかんでね。

 それでここに来たわけなのだ。」

 

 そこで事務方は勘違いをする。

 今、目の前にいる陸軍の将官は、近衛とも言えども下士官には言えないような情報を持っていて、近衛第2師団長に直接協議しに来たのではないかと。

 

 そして、その重要な事例は一つしか思いつかない。

 

 カタリナ殿下の結婚式の事に違いない、と。

 事務ではあるが近衛に所属する軍人である。

 

 近衛においての兵卒は通常の軍の下士官レベルにまで教育されるのが通例であった。

 

 近衛は花形の軍隊ではあるが、教育も一歩進んでおり。ついていけない者も少数いる。

 

 そんな人物は、原隊に戻される運命である。

 

 

 

 とまぁ。

 その事務方の兵卒()はそう考え、仕方ないので同僚に案内を頼むことにした。

 

「陸さんが師団長に合いたいそうだ。案内してくれるか?」

 

「あぁ、いいぞ。」

 

 直ぐ傍にあった階段を上り、4回まで階段を上りきったあと、

 キュッ、キュッと掃除が良く行き届いた廊下を歩いていく。

 

「ここです。」

 

「うむ、ありがとう。」

 

 案内をしてきた彼は来た道順をたどり戻っていった。

 

 パウル・ディーヴァルト少佐がドアのドアノブに手をかける。

 

 そして、ドアノブをひねりドアを開けた。

 

 ごく自然に。

 

 ドアを開けた後、広がった風景は、ノックもなしにだれが入ってきたのかを見るために顔を上げた近衛第2師団長とその副官であった。

 

「君たちはいったい誰なのかね?近衛の人間じゃないな。」

 

 近衛第二師団長シュテファン・フォン・ハース少将の説得を開始することになる。

 

「単刀直入に申し上げると…クーデターに参加してもらいたい。」

 

 副官が厳しい目で入ってきた闖入者を睨みつける。

 近衛と言うのは建前上は帝国3軍と同じ立場であると定義されているが、その事実は皇帝が直接率いる戦闘部隊の名残がある。

 

 そのため、皇帝の力が強い帝国において、事実上帝国3軍より立場が上であった。

 

「………は?申し訳ないが私の耳がもう遠くなったようだが…クーデターと言ったのかね?そもそも君たちは何者だ!?陸軍所属であることは分かるが。」

 

 そこでパスカル准将が口を開き自身たちの自己紹介を始める。

 

「陸軍参謀の者です。第1皇女の帝位継承権をはく奪し、カタリナ殿下に帝位継承権第1位にする手伝いをしてもらいたい。」

 

「ふむ…まぁ落ち着き給え。君たちは頭に血が上っているようだ。一度協会に行って熱くなった頭を冷やしてみてはどうかね?」

 

「頭に血が上っているとはどういうことだ!小官らはいたって冷静である!」

 

 陸軍第一師団、第一歩兵大隊長のエーデン・フリート少佐が唾を飛ばし激高するも、パスカル准将は彼をなだめ、こう言った。

 

「近衛両師団は第1皇女殿下の脱走によって振り回されました。貴方であってもそれは同じはずです。」

 

「ふむ…それは確かにそうではある。」

 

 エリザベートがあの脱走を繰り返したことにより迷惑をこうむった部署は少なくはない。

 

 近衛師団。帝国3軍と近衛から魔導士の精鋭が集まる魔導士教導団。宮殿に努める者たち。

 

「であるなら、我々に協力してくれますか?」

 

「うむ…少し考えさせてくれ。」

 

「ええ、分かりました。ですがこちらに時間がないので30分ほどで結論を出していただきたい。」

 

 彼らは少なからず、近衛第2師団長に対して手ごたえがあった。

 

 その後痛ましいほどの静寂が訪れる。

 

 30分の長い黙考時間は、痛ましく感じるような静寂であった。

 執務室の壁に掛けられている時計が嫌にうるさく聞こえるよう錯覚するほど。

 

 そして…30分が経った。

 

 クーデター首謀者の『陸軍さん』は30分と言うのが嫌に長く感じた。

 

 30分待つという事は彼らを焦らせることにもつながったのである。

 

 それはなぜか。

 師団長と話しただけでおよそ30分かけたのだ。

 

 それに追加で30分ともなれば合計は1時間経つことであり。

 

 クーデターを起こすうえで重要なのは決起する時間であった。

 

 最低でも10時30分ごろまでには絶対に事を起こさなければなかったのだ。

 

「30分経ちました。師団長、お答えは?」

 

「うむ…」

 

 改めて、クーデターへの近衛第二師団の参加を要請する。

 

 だが、回答はうやむやであり時間に追われる首謀者パスカル・フォン・クロイツァー准将は最終的な結論を師団長に強い口調で問う。

 

「近衛第2師団長、結局jaかneinかどちらですか!」

 

 との問いに師団長は

 

「Nein」

 

 とだけ答えた。

 

「…おのれ‼」

 

 直後に焦りに苛まれたパスカル・フォン・クロイツァー准将のサーベルによって斬殺された。

 

 拳銃を抜こうとした副官はパウル・ディーヴァルト少佐によって斬殺された。

 

「…まずい、どうしようか?当初の計画がお釈迦に‼」

 

「准将、命令を偽造しましょう。私が偽造命令書を作成しますので」

 

「………そうか。その方法があったか!」

 

 パウル・ディーヴァルト少佐はパスカル・フォン・クロイツァー准将の起案した近衛作戦命令第608号の命令書に殺害した第二師団長の印を押し命令を偽造した。

 

 

 

命令は以下の通り。

 

 

 

近衛作戦令第608号 6月20日 0750

 

一、師団は敵の支配下にある逆賊、エリザベート・フォン・クロイツフェルンを確保、拘束すべし

 

二、近衛混成第一連隊は一個中隊を以って近衛第二師団司令部の封止、部外者の立ち入りを阻止すべし。

 

三、近衛混成第一連隊主力は別名あるまで待機すべし。

 

四、近衛混成第二連隊は結婚式会場の占拠、逆賊に属するエリザベート派貴族、軍人を拘束すべし。

 

五、近衛混成第三連隊は道路警備を厳とし、道路の封鎖を行うべし。

 

六、予は師団司令部にあり。

 

近衛第二師団長 シュテファン・フォン・ハース

 

 

 9時半頃、大聖堂を警備中の近衛混成第二連隊司令部にエーデン・フリート少佐、エッカルト・ロート大尉の2名が命令下達の為訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 統一歴1905年 6月20日 午前9時半

 

 近衛混成第二連隊司令部

 

 近衛第2師団混成第2連隊司令部には、恐ろしいほど若くして近衛の連隊長の座に座った人物がいた。

 

 数か月前に近衛第1師団副長のエルンスト・フォン・フート准将と結婚した女性士官。

 

 その名も、カリン・フォン・フート大佐である。御年17歳。

 

 若すぎるが、この時代では未だ生まれていないターニャを比べると少しインパクトに欠ける気がする。

 

 比べる対象が悪い気もするが……

 

 

 

 

 閑話休題(そんな事はともかく)

 

「連隊長。陸軍の方がお越しになられています。」

 

 連隊司令部に入ってきたのはトーマス・ベッヒャー少佐、近衛混成第二大隊長である。

 

「陸軍?」

 

 

 

 カリンには一応陸軍のつながりがある。

 

 陸軍士官学校から陸軍大学の参謀過程を履修。

 

 その後、近衛に直接入隊した彼女は陸軍とのつながりがほぼなくなったと言える。

 

 

 陸軍とのつながりは、士官学校と軍大学が陸軍に属していた事くらいである。

 

 

 

「なぜ陸軍が?私に?」 

 

「どうも近衛師団長命令を持ってきたようです。」

 

 

 その大隊長に理由を問えば可笑しい答えが返ってきた。

 

 近衛第2師団師団長の命令であるなら、伝令を出すなら近衛の人間を出すだろう。

 

「なぜ陸軍が?」

 

 カリンは若干の疑いを持った。

 

「まぁいい。今陸さんは来てるのか?」

 

「はい。どうぞ。」

 

 さすれば、陸軍将官の制服を身に纏った、准将の階級を付けた人物が入ってきた。

 

「………」

 

 

「私は陸軍参謀本部参謀次長である。近衛第2師団長殿より預かった命令書を読み上げる。

 

近衛作戦令第608号 6月20日 0750

 

一、師団は敵の支配下にある逆賊、エリザベート・フォン・クロイツフェルンを確保、拘束すべし

 

二、近衛混成第一連隊は一個中隊を以って近衛第二師団司令部の封止、部外者の立ち入りを阻止すべし。

 

三、近衛混成第一連隊主力は別名あるまで待機すべし。

 

四、近衛混成第二連隊は結婚式会場の占拠、逆賊に属するエリザベート派貴族、軍人を拘束すべし。

 

五、近衛混成第三連隊は道路警備を厳とし、道路の封鎖を行うべし。

 

六、予は師団司令部にあり。

 

近衛第二師団長 シュテファン・フォン・ハース

 

以上。」

 

「…質問はよろしいでしょうか、准将殿」

 

「師団長殿に聞いた分であるなら答える事はできる。」

 

 

 

「…これは第2師団全体へのご下命でよろしいでしょうか。」

 

「うむ。」

 

「私は今、師団長殿にこの命令を出された真意をお聞きしたいのですが…」

 

「近衛第2師団長殿によれば、師団長殿は師団司令部からは離れられないそうだが。」

 

 カリンは通信装置を預かっている通信兵にこう命じた。

 

「通信士!師団長殿にこの命令の真意をお聞きできるか司令部に連絡を取れ!」

 

「分かりました。」

 

 その後、通信が終わった通信兵が司令部から来た回答をその場で伝達する。

 

「司令部より回答ありました。」

 

「なんと?」

 

「『その旨は了承した。私の真意を説明する用意はあるが、第1連隊から説明することと相成った。そのため第2連隊司令部まで赴くのには時間がかかる。ただちに第2連隊は命令書通りに行動せよ』とのことです。」

 

「……了解した。」

 

「私はもう行って良いかな?」

 

 陸軍准将が退室しても良いかと聞いてきた。

 

「ええ…」

 

 彼が司令部から出ていった後に、彼女は苦悩しているような表情をする。

 

 それもそうだ。

 

 エリザベートとカリン両方とも同じ世界からの転生者ではあるが、元の世界ではエリザベートはカリンの元上司に当たる人物であったが、相応に親しくしていた仕事仲間でもある。

 

 その、前世から付き合いがある人物を逆賊と断定され、そして拘束しなければならない。

 

 ただ、軍人において上司からの命令は基本的に順守するのが通常である。

 

 軍人として、命令は守らなければならない。

 

 

「連隊長…」

 

「………連隊へ告ぐ。我が第2連隊は師団長命令を実行する。我々は結婚式会場の占拠。

 

 その後、第1皇女殿下を拘束せよ。」

 

「分かりました。」

 

「第1大隊は式場周辺の確保を行え。」

 

「はっ」

 

「第2大隊は式場の占拠、第1皇女殿下の拘束を行え。ただし、その際には危害を加えないよう注意する事。」

 

 彼女にとって、エリザベートに危害を与えないように命令をするのが精いっぱいの抵抗であった。

 

「連隊長‼…いえ、なんでもありません。」

 

 混成第2大隊長が何かを言おうとするが押し黙る。

 

 それもそのはず、彼はクーデターの協力者であったからだ。

 

「第24戦車中隊は待機、本部管理第13魔導士中隊も待機だ。」

 

「了解しました。」

 

 命令が発令された時間…10時00分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 統一歴1905年 6月20日 午前10時00分

 ベルン大聖堂

 

 本日は私の妹の誕生日。

 

 一般的に言えばめでたい日です。

 

 

 

 座ってる私の目の前には、いつも私が語るロマンを技術的に具現化する女性技術者の後ろ姿が見えます。

 

 まぁどう考えても該当人物はレナ空軍大佐なわけなのですが。

 

 今日の主役の一人である新郎が入ってくるようなので、全員が立たなければなりません。

 

 私も立ちますか。よっこらせ…

 

 おや、今日の主役の一人である新郎が入ってきました。

 

 その後に、ついに私の妹が、私の母と共に入場してきました。

 

 おやおや、顔が真っ赤になってますよ(愉悦)ですが、これで仲間入りですね。

 

 堕ちるのは未だ先だと思いましたが、もうこの分だと手遅れみたいです。

 

 

 

 その後、賛美歌が斉唱されます。

 

 厳かに奏でられる協会の聖歌のメロディーはカタリナの結婚を祝ってるような……そんな感じがしました。

 

 その後に、神父が聖書の朗読、その後に結婚の制約を行います。

 

「汝ルドルフ・フォン・ナヴァールは、カタリナ・フォン・クロイツフェルンを妻とし、これを終生愛すると誓いますか?」

 

「誓います」

 

「次に、カタリナ・フォン・クロイツフェルンは、ルドルフ・フォン・ナヴァールを夫とし、これを永遠に愛する事を誓いますか?」

 

「はい、誓います。」

 

 おっと、宣誓が終わりましたか。この次は確か――――――

 

「では誓いのキスを」

 

(おっと――――!!!これは来ましたねぇ!!なぜか顔のニヤニヤが止まりませんなぁ!!!!)

 

 この姉、普段は冷静なくせして、身内になるとすぐこうなる。

 

 

 

 我が妹は顔を真っ赤にさせながらもルドルフ君のキスを唇で受けたようで。

 

 顔が真っ赤になり過ぎて煙が立ち上ってくるんじゃないかと思ったけど、残念ながら煙は頭から立ち上ってきません。

 

「次に、指輪の交換を」

 

 カタリナとルドルフ君は普通に結婚指輪の交換をしましたねぇ…つまらん

 

「以上を持ちまして、神への報告が終わりました。新しい夫婦の門出に神もお喜びになるでしょう。」

 

 

 教会から出て、ブーケトスが行われます。

 

 一般的に、ブーケを取った人物が次に結婚できるという物は前世もあったけど、この世界にもあるらしい。

 

 

 我が妹が後ろを向いて思いっきりブーケをぶん投げると、なんとレナの方にまっすぐ飛んでって、普通にキャッチしていました。

 

 レナが自分の手の中にあるブーケを不思議そうに見ていたのは御愛嬌でした。

 

 その時、外が騒がしくなった気が…おっと!

 

 私の腕を引っ張ったのは、先ほどカタリナがぶん投げたブーケをキャッチしたレナ空軍大尉でした。

 

 彼女は左手に取ったブーケ、右手は私の左手を取っています。

 

「レナ大尉?」

 

 すると彼女の顔が険しい事に。

 

「殿下、今すぐお逃げください。」

 

 そうすると大声で近衛兵がこう叫んでいるのが聞こえた。

 

「第1皇女はどこだ!!!!」

 

 と。

 

「殿下、今すぐお逃げください。」

 

 彼女に連れられて、少々暗がりの資格になるところまで来た。

 

「殿下、演算宝珠はお持ちですか?」

 

「いや、持って無い。」

 

「でしたら、これを。」

 

 そうすれば、彼女の軍の礼装についていた演算宝珠を取り外し、私に渡した。

 

「これさえあれば、周りの景色に溶け込むことも、幻影等を出してかく乱させることも可能です。お持ちください。」

 

「だが…」

 

「お持ちください。早く!」

 

 そうして彼女は演算宝珠を私の手に握らせた。

 

 そして、レナは私から離れていったのです。

 

 

「…ん?お前はレナ・ワイス大尉だな?」

 

 そのような誰何の声が聞こえたので反射的に景色に溶け込みました。

 

「はい、そうですが。何か御用で?」

 

「貴様を軍命で拘束する。」

 

「は?それはどういう…ちょっと待てッ……」

 

 彼女は尊い犠牲となりました。

 

 

 レナに言われた通り、おちついてスニーキングしましょう。

 

 周りの景色に溶け込ませながら、足音を立てないように歩きます。

 

 とりあえず門は無事抜けることができました。

 

 …おっと、目の前に警備の近衛が。

 

 植え込みを通っていきますか…

 

ガサっ!

 

「ん?音がしなかったか?」

 

 やばっ、ばれたか?

 

 すると一斉に気に止まっていた鳥が飛び立っていきました。

 

 とりあえず、鳥のせいにできたので、通過していきます。

 

 確か、式場警備の計画では半径数キロが警備範囲でしたから…

 

 一気に離脱しましょう。

 

 

 

 

 

 エリザベートはレナから渡された演算宝珠で兵士の目を眩ませた。

 

 それは、首謀者達をいらだたせることにもつながったのである。

 

 

 

 そして、式場では。

 

「殿下、第1皇女殿下の帝位継承権をはく奪させ、カタリナ殿下が次期皇帝になってください!」

 

 ミハイル・ヴィルケ・シューマン情報局連絡部部長がカタリナにそう説得をする。

 

「何を言ってるんですか?時期皇帝はお姉さまでしょう?」

 

「ですから…」

 

 ルドルフ・ナヴァール情報局局長補佐がこめかみをぴくぴくさせながら黙って先ほど妻になった人物と、ルドルフの腹心の部下のやり取りを聞いていた。

 

 そして、一連の騒動を聞いて柔軟に活動した空軍佐官が居た。

 

 空軍作戦課に所属するナスターシャ・フォン・シグラ空軍大佐だった。

 

 彼女は近衛兵の目を盗み空軍作戦課にコンタクトを取った。

 

 彼女はクーデターが起きたという旨を説明し、首都上空を守るベルン・テーゲル空軍基地より高高度偵察機Ta152R-1を2機飛ばすことを要請した。

 

 そこから先、空軍作戦課はてんやわんやの大騒ぎとなった。高高度偵察機の情報でどうも、クーデターと言うのは本当らしいという事を確認。

 

 空軍から関係するであろう各所にかたぱしっから連絡が言った。

 

 近くに陸軍の駐屯地があるために、陸軍に。警察に。そして、宮殿にも連絡が届いた。

 

 

 陸軍の作戦参謀本部は仰天、急いで情報収集に乗り出した。

 

 後の戦争で有名になるハンス・フォン・ゼートゥーア大佐とクルト・フォン・ルーデルドルフ大佐もその場に居合わせ、事態の収拾を図ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、連れてかれたレナちゃんはというと。

 

 とある場所で尋問されていた。

 

「第1皇女の行き先を知っているだろ!」

 

「私は知らん。」

 

「知っているだろう!!」

 

「知らん。」

 

「知っているだろう!!!!」

 

「知らん。」

 

 

 

「まぁ、まて。レナ大尉。本当に知らないのか?」

 

「私は知らないな。」

 

「そうですか。第1皇女殿下の腹心の部下と噂されているあなたが第1皇女の行きそうな場所を知らないのですと!?」

 

「そんな場所は見当もつかない」

 

「いい加減にしろ!!」

 

「そんなに興奮すると体が熱くなるぞ?ところでここは暑いな。上着を脱いでもいいかな?」

 

「うるさいっ黙れ!!!」

 

 こんな感じ。

 

 

 

 

 

 

 

 宮殿に第一報が届いたのは午後2時半ごろであった。

 

 首都上空にはTa152R-1が飛び回り外の上空を把握しきっていたために近衛第2師団が動いていたことかも分かっていた。

 

 皇帝は事態を重くみて自ら近衛師団の指揮を執ってクーデター鎮圧に乗り出した。

 ※むろん、周りも医者も皇帝ビスマルクの事を止めたが、自身の娘の事なので出ない訳がなかった。

 

 其の後、皇帝は近衛第1師団を掌握し、事態の収拾にのりだす。

 

 とりあえず、近衛第2師団の師団司令部に行けば、なぜか陸軍の軍人にここから先誰も入れるなと言われ、文字通り誰も入れなかった警備兵が居た。

 

 そのため、皇帝特権で執務室に入れば、惨殺された近衛第2師団長と近衛第2師団副長の遺体が転がっていた。

 

 その時刻およそ16時30分。

 

 

 

 

 

 

 そのことが近衛第2師団混成第2連隊に届いたのは17時の事であった。

 

 それを知らせたのは近衛第1師団副長エルンスト・フォン・フート准将であったりする。

 

 

 その後、皇帝陛下が式場で

 

「命令は偽物だーっ!」

 

 と叫んだりした珍事がきっかけで、クーデターは急速に終わりを迎えた。

 

 ちなみに、逃げたはずのエリザベート殿下は城下町のパン屋で売り子をしていたという。

 

 

 ともあれ、クーデターは収束を迎えた。

 

 

 後の捜査で、首謀者が判明した。

 

 情報局のミハイル・ヴィルケ・シューマン情報局連絡部部長、陸軍からは参謀本部参謀次長のパスカル・フォン・クロイツァー准将が首謀し、それに賛同した人物として参謀本部・情報部次長のパウル・ディーヴァルト少佐、陸軍第一師団 第一歩兵大隊長エーデン・フリート少佐、陸軍第一師団 第一歩兵大隊付参謀エッカルト・ロート大尉、同、第一歩兵大隊第三小隊長ドニファーツ・クラフト少尉、近衛第2師団より近衛混成第二大隊長のトーマス・ベッヒャー少佐が関与していたことが発覚した。

 

 なお、第2師団の第1、第2、第3連隊長は首謀者等ではなかったためにおとがめなしとなった。

 

 首謀及び関与した者は銃殺刑に処された。

 

 

 

 これで、クーデターと言う大事件が幕を閉じた。

 

 これにより、エリザベート派閥は力を増し、カタリナちゃんの肩こりと腰痛が解消し、ルドルフ君は腰痛に悩まされるようになったという。



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帝国の勝利への道
原作開始プロローグ


2020最初の投稿です!


これより原作に突入します。
準備は良いですか?では・・・ターレル沼にハマりましょう!


ー彼女は確信した。自称存在Xとは別の何者かがこの帝国を変えているとー

 

 

 ターニャ・デグレチャフは士官学校の図書室で確信していた。

 世界大戦を未経験であるのに、帝国の経済、更に言うと軍も大概おかしい。

 

 孤児院はそれこそ15年前までは孤児院出身者は身売りするか、金持ちの妾になるかのどちらかしか無かったそうだが、この十年で帝国は経済的に飛躍的進歩を遂げ、孤児院にも余裕があった。

 

 男は人手が足りてないそうで工場などに勤める事ができる。女もまた帝国では「女性は家庭で男を支えるべき~」とかいう古い風習があってあまり良い顔はされないが生きていく上で困ることは無かった。

 

 

 ただ、ターニャは幸いか不幸か航空魔導師の適性がランクAであったため軍にほぼ強制的に徴兵される。

 

 戦時に徴募されるよりは平時のうちに志願した方がいい、と判断して飛び込んだ士官学校。

 

 そこで学び、判明したのが帝国と帝国軍の状況だ。

 

 そこで冒頭に戻る。

 

 陸軍が少し可笑しい。

 歩兵すべてにアサルトライフルを支給しているのだ。アサルトライフルだぞ!

 出て来るのはまぁせいぜいStg-44かと思いきや、あの(・・)G3を配備していると言う話しなのだそうだ!しかも10年以上前からだそうだ。

 

 しかもなぜか機甲師団も出来てたり・・・前の戦争でルノーFTにコテンパンにされた帝国は戦車の開発を決定し、更に騎兵もこれまたルノーにやられまくったために戦車と歩兵戦闘車(騎兵戦闘車を含む)を配備。更に歩兵戦闘車の車台を流用し自走榴弾砲まで作ったらしいのだ。

 

 3号戦車という名の前の世界では4号戦車であったからまだ理解はできる。ただ普通は歩兵戦闘車なんてアイデアは出てこないだろう!?

 

 歩兵戦闘車か・・・そんな物を作った奴を見てみたい。

 

 

 先進的な装備で稼働率は低いかもしれないと思っていたが、帝国の優秀なエンジン技術と、それに付随する自動車技術、そして思ったより堅実な設計をしているそうで稼働率は80%をキープしているらしい。

 

 単価は高いが量産して抑えているらしい。帝国がちゃっかり米帝プレイをしていたんだが・・・・・・

 

「史実の第三帝国を上回る工業力と経済力を備えている。出なければG3から始まり騎兵をすべて機械化何てすることが出来るわけが無い。」

 

「ただし、帝国3軍の中で最もヤバいのは・・・空軍だろう。いや空軍がやばくなかったら他国軍がちっぽけになるぞ。」

 

 帝国空軍は爆撃機こそないが、戦闘機がほぼすべてを担っている。世界初のマルチロールといっても過言ではないのだろうか。戦闘機一つだけで戦術爆撃、制空任務、近接支援、対艦攻撃をこなし、輸送機だけでも戦術輸送機と戦略輸送機がある。

 戦術輸送機は前線物資輸送任務だけでなく戦術偵察や強行偵察、前線兵員輸送や対潜哨戒をこなす。戦略輸送機は歩兵戦闘車や人員をこれでもかと積める。しかもどちらも短距離離着陸ができるときた。

 

「ここで私は問いたい。なぜ・・・なぜ1923年にこんな代物が!?」

 

 1923年現在軍用として空液冷問わず1800馬力以上のエンジンが主流だからだ。

 

 一番最初に目を引くのは4発の戦略輸送機である。それはどこかエアバスが計画、量産していた戦略輸送機A-400を彷彿させるものだった。

 4発の巨大輸送機で巨大な直径の8挺プロペラに巨大な胴体と大型な翼を高翼配置としてあった。その輸送機に使われているエンジンは4重星形空冷28気筒過吸機2段3速+ターボチャージャ付きの4000馬力エンジンという化け物だった。だが・・・それでもエンジン馬力足りなくないか・・・?と思ったが離陸補助用ロケットブースターがあると書いてあって目が点になった。

 

「これは・・・Ta152か?いやTa152とか、なんてものを世に送り出しているんだ・・・は?スペック見ると史実のTa152より高性能何だが・・・?」

 

 1923年現在、Ta152は1904年初飛行より近代化改修を受けている

 エンジンをスーパーチャージャーまで載っけた2000馬力水冷エンジン(過吸機2段3速)に換装し、尾翼は全遊動型尾翼に改造、地味だが照準機を望遠鏡式から光像式に変更した物だった。

 最高速度は700km/hを余裕でオーバーし、高高度性能実用で1万メートルを越える程で、なかなかのようだ。

 

 

 

 2000馬力やら4000馬力やらのここまでの大馬力エンジンとなると基礎工業力が顕著に現れるという。

 では、そういったものを向上させる方法はというと、化学工業や冶金工業、工作機械などの基礎技術的分野に膨大な資金を投じて、時間を掛けて着実に技術力を蓄積させ、発展していくしかない。

 

 帝国は、そういった分野へ帝室が音頭を取り投資をしていたのだ。投資家は帝室というブランドが投資すると投資家も釣られて投資する。すると5年くらいがたつとそれが2倍くらいになって帰ってくる。

 

 帝国では20年くらい前から帝室が中心となり設立したE&Kといった重化学企業が先導し、周りの企業もE&Kの成長につれられ大きくなっていき、帝国にはすでに世界に名だたる企業(E&K以外にも多数)が存在している。

 

 帝国はあの新大陸の化け物に継ぐレベルの経済力にまでのし上がった。

 

 

 帝国を変えている人物ーいや恐らくは転生者が複数居るのであろうが、それは帝室の関係者に居るのではないかと思う。そして空軍にも。ただ、その者たちはあまり表には出てこないようだった。

 

 ただ、いつかは面を拝んでみたいと思ってはいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ターニャは知らない。次期皇帝が転生者である事を。そしてそいつに色々振り回される事を。ターニャは知る由も無い。



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会議は進む、されど踊らず

どんどん行きましょー!!






ターレルは良いぞ


「さて、久し振りですね。といっても3日前位ですが。」

 

 1903年からおよそ20年経ち、16歳だった未だ少女の雰囲気を醸し出していたエリザベートも36歳。既に3人の娘を産んでいる。そして3年前、ビスマルク皇帝が病死し、皇帝の座を引き継いだのだった。

 現在、この皇帝は元帥(名誉職)の立場と皇帝の立場を利用し帝国3軍統合参謀本部の議長をしていた。

 

 もちろんその場には諜報局の副官と自称偽装結婚したが2人の娘を産んでいる時点で周りからは普通に結婚していると思われている、我らが帝国諜報局局長カタリナ・フォン・クロイツフェルン陸軍准将も出席していた。

 

 

「では始めよう。」

議長たる皇帝の言葉で話が始まる。

 

 

「ではまずは諜報局から。

現在、ルーシー連邦で引き続き工作を行っております。実が結ぶのは戦争が始まる頃にはなるでしょう。ですが連邦はこの戦争に参加出来なくさせるメドがつきました。

 

 そして、現在秘密裏に行っている赤狩りと敵国スパイ狩りですが、敵国スパイはすぐ見つかり処理出来るのですが、赤は尻尾を掴めない状況です。引き続き情報収集に当たります。

 

 フランソワ共和国の動向ですが・・・少し興味深い動向が見られました。航空魔導師1個連隊を国境線にはりつけた様です。

 

また・・・フランソワ共和国軍の中で連合王国と通じている将軍が居るとの情報も入りました。」

 

「なる程、分かった。さて、この会議に参加している全員に聴いておこう・・・

 

戦争での勝利はなんだと思う?

 

 

「戦争での勝利ですか・・・」

ゼートゥーアの声が響く。 

 

「勝利と言う単純なものでは無さそうですが・・・」

 

 

「諜報局からの情報を鑑みるに、恐らく連合王国は我が帝国がフランソワ共和国との戦争で共倒れする事を狙っている。

 そこでだ。我が帝国ではフランソワ共和国程度に共倒れする事は無いにしてもあのこの世界の揉め事の7割が連合王国が原因な国だ。

 

 奴らがそう簡単にあきらめると思うか?君なら分かるだろう、レルゲン少佐。」

 

「は・・・」

 

「よし、レルゲン少佐は連合王国の駐在武官だったからな。あの自称紳士どもの3枚舌には手を焼く・・・さて、奴らがフランソワで我らを倒せなかったら協商連合、ダキア公国、ルーシー連邦、そして・・・いや今この国の名を出すのは不味いな。

 そして恐らくは合州国でさえこの欧州の地に引っ張ってくる可能性がある。

 

 そうしたらこの帝国でさえ危ないものとなる・・・好きなように料理されるだけだ。」

 

「そのような・・・そのような事があると「あると私が思っているからこの場で言っているのだよルーデルドルフ准将。」・・・え?」

 

「ただし、諜報局のお陰で合州国は恐らく途中で手を引くだろうし、連邦と直接戦う事は無くなりそうだ。」

 

「さて諸君。我等は最悪を常に想定して動かなくてはならない。もし帝国の痛みが最小限に済んで戦争が終わったとしても、それは戦争と戦争の間の短い平和という物にすぎない。諸君ら参謀には、良く考えて貰わねばなるまい。

そうだ、諸君」

 

「何でしょうか陛下。」

ルーデルドルフがエリザベートに聞く。

 

 

そんな事より前線行って良いか?

 

「ダメです!!」

すぐにカタリナがNGを出す。いや当たり前でしょうが・・・

 

「何で行っちゃいけないんだ!おかしいだろ!」

 

「陛下、ご自身の事を考えて下さい!」

 

 そして唐突に始まる姉妹喧嘩に一同困惑するしかなかった。

 

「やだ、私前線行って敵兵皆殺しにするもん!!」

 

「するもんじゃないですよお姉さま!レナ中佐とカリン准将呼びますよ!」

 

「申し訳ありません・・・あの二人は勘弁して下さい・・・」

 

「宜しい。」

 

 

 レナ中佐とカリン准将の名を出され一気に静まるエリザベート(女帝)。

 

「だってあの二人説教ネチっこいし、レナ中佐は日頃の怨み晴らそうと清々しい顔で怒ってくるんだもん」

とはエリザベート談。

 

 

 

 

 

 

 

 



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開戦

待たせたなぁ!(某MGS並み感)


"ターニャ・デグレチャフ一号生は特別選抜候補生として北方管区研修とする"

 

 それは士官学校で優秀な成績を残した・・・いや、残してしまったターニャへの処遇であった。

 

 士官学校でとある男の2号生を銃殺刑に処そうとしたことは有ったが、それを抜きにしてもターニャは優秀な人材で有った事は確かである。

 

 簡単に言うと・・・緊張状態にある(開戦したときは)最前線に(なる場所に)放り込まれた訳である。

 

 あまつさえ、よりにもよってこのタイミングで戦端が開かれるなど、誰が予想できようか?

 

少なくとも、この時点では・・・平成のサラリーマン感覚が色濃く残っていたデグレチャフ候補生には無理だった。

 

 それこそ前世が職業軍人では無いがPMCで紛争の最前線で戦い、予測不可能な核戦争に巻き込まれた転生者で情報を握っている転生者が居ないと予想出来なかったであろう。

 

 

――――――

 

1923年2月某日 北方ノルデン マルメ港

 

 私を含めて准尉候補生の全員が6ヶ月の北方管区研修でスカンジナビア半島の南端、スコーネまで行くこととなった。

 

 さて・・・ここで帝国領土を確認するとしようか。

 

 オーストリア=ハンガリー二重帝国から異民族以外の場所をきれいさっぱり併合。ネーデルランドと、分割したポーランドと大ドイツを足したような状態にある。

 

 

 更にユトランド半島とスカンジナビア半島の間にある島々に加えスコーネ地域をも足したちょび髭伍長もビックリするであろう領土の広さである。

 

 本土からは船と鉄道で移動するか、航空機でひとっ飛びするかのどちらかである。

 

 私は鉄道で移動し、連絡船でフェーマルン海峡を渡り、その後また連絡船でエーレスンド海峡を渡る。

 因みにストーストレム海峡には連絡船が存在したが今は補給の為の鉄道橋が建設されており、手間や時間のロスが減ったのは明らかな事実である。

 

 そしていま私は北方方面軍のスコーネ駐屯地に向かっている所である。

 

 2月であってもさすがは元の世界では雪深い事で有名(偏見)なスウェーデン、未だに雪が残っている。

 

 どうせまだ着かないので針葉樹林が後方に流れていくのを車窓で見ながら時間を潰す事にした。

 

 しばらく車窓を見ていると飛行場らしき物が遠めで見えた。航空魔導師は目が良く無いとやってられないので視力は高ければ高いほど良い。ダストでぼんやりとしか見えないが巨大な飛行場である。

 

 事前に調べたのだが、あれはスコーネ空軍基地という物で、最大で戦略輸送機A400M*1(帝国正式名称EKC-2)擬きが発着出来るらしい。ここで重要性が高い物や緊急製の高い物質は輸送機で空輸される。

 

 勿論此処は制空権を取る上でも重要な基地である。何故なら此処に2個航空戦闘団が配属されているからである。はたまた防空能力は有るのだろうかと考えたが空軍の強さが頭吹っ飛んでいる帝国の事だ。相当な防空網が構築されているのだろう(実際にされてます。)

 

 さて、空軍基地が見えなくなってきた。さて、改めて車内を見ると全員そろそろ着きそうな雰囲気であったので降りる準備をする。

 

 

――――――――――――

 北方方面軍スコーネ駐屯地仮設乗降車場

 

 さて、目的地に到着した。私は着いたらすぐに北方司令部に出頭せよと命令を受けているので、踏み固められ固くなった雪に気をつけながら歩く。吐いた息は未だに白く濁り、ただ歩く。やはりなかなか育たず小さいままなこの使いにくい身体を煩わしく思いながらも北方司令部に出頭した。

 

 

 出頭し、本部の廊下を歩いている途中で声がかかる。

「君がターニャ・デグレチャフ候補生だね?」

師団本部に移動している途中に現れた男は少佐の階級章を着けていた。

 

「はっ、小官がターニャ・デグレチャフであります」

 

反射的に敬礼をする。慣れたものだ。

 

「君宛てに武器課から荷物が来ている。付いてきたまえ。」

 

 

 

 

 物資集積所で渡されたのは小銃だった。

 

 これは・・・私らが使っていたG3より短く折り畳み銃床になっている。G3のバレルを切り詰め、折り畳み銃床化した物か。カービンだろうか?

 とすると・・・G3KA4辺りか?

 

 

 

 

「知っての通り、現在我が国では魔道師戦力の拡充のために『拡大志願』を実施している」

 

 要するに魔導師としての素質を持つ人間の兵役のことだ。名目上志願になってるがあれでは徴兵と大して変わらん。

 

 

「今まで女性魔導師は後方任務に回される場合が多く、特段問題は起きなかったが、今回は『志願』が多く男性同様の前線配置を予定している」

 

「しかしながら、女性の体格はどうしても男性に劣ってしまい小銃の取り回しに問題があるという話が陸軍武器課で上がった。偶然にもこのG3を設計した空軍設計局がG3派生型を作成していた。それはG3を短銃身化し、銃床を折り畳み出来るようにした物でる。」

 

「これはG3と同じ様に扱っても?」

 

「見て分かると思うが、G3の銃身を切り詰め、折り畳み銃床にして調整したもので、名をG3KA4カービンという。これは通常のG3を改造しても出来るらしく、空軍は改造キットを必要な部隊に送っているそうだ。」

 

「現在女性魔導師は少数であるため、正式採用は検討中であるが今回は特別に空軍設計局より増加試作型を融通して貰った。その内の一丁だ。」

 

 確かに扱いやすい物に仕上がっている。というか前世のM4A1とほぼ変わらない全長であった。M4A1と変わるのは重さ位だろうか?

 

「そして、これが君の拳銃になる。魔導兵は特殊な兵科であるために魔導兵全員に支給される。因みにこの拳銃の名はワルサーPPだ。扱いは士官学校やっているから問題は無いな?」

 

「はい。」

 

「うむ。では・・・あぁそうだ。もう一つあった。空軍設計局より直接君に来た物だ。」

 

 そして少佐が出してきたのは小型のガンケースであった。

 

「開けて、中身を手にとっても良い。その銃は恐らくは帝国陸軍の中で直接手にした者は君が最初だ。上から直接君に開けないで渡すようにと言われたが・・・武器課の私には理由は分からん。」

 

 これはMP5じゃないか!しかも1990年代に概念が完成したPDW型のMP5K-PDWじゃないか?ストックは折り畳みのフォールディングストックか・・・なんかマウントレール付いてないか・・・?そしてこのホルスターはこの銃に対応するホルスターか・・・

 

 

「それはG3の派生で、簡単に言うとG3の軽機関銃版らしい。MP5というからしいんだが、陸軍は正式採用してはおらず、空軍が採用しているというか話だけ聞いた。」

 

「そしてそれはそのMP5の個人携帯火器型*2らしいが・・・よくわからん。空軍はそれをMP5KA6-PDWという名で正式採用しているらしい。聞いた話によるとパイロットの護身用とか何とか・・・まぁ陸軍だと今は君だけしか持っていない事になるな。」

 

 

 

 

 

 少し信じられないが、MP5-PDWという物も思い掛けなく入手してしまった。

ただ、支給されたのは使うのが普通で、研修生の一部は哨戒任務を任されており、その時にG3KA4とワルサーPPと共に携帯し、哨戒任務をこなしていた。

 

 

 

 

――――――――――――

1923年6月某日

 

北方ノルデン地域第八警戒区

 

 

ここ数日、どうもきな臭い。

 

夜には友軍の訓練もないのに遠くから砲撃音はするわ、哨戒飛行のときに当たる北風から明らかに硝煙の匂いが混じっている。

 

 

現在は、帝国と協商連合がそれぞれ陸軍部隊を部分動員充足状態で国境線上に貼り付け、帝国空軍は何時でもスクランブルがかけられる状態だった。

 

最早いつ開戦しても不思議ではない状態と言っても過言ではない。

 

『こちら北方方面ノルデン地区航空指揮管制(ノルデンコントロール)。フェアリー08定時連絡。』

 

『こちらフェアリー08、感度良好。異常なし』

 

『ノルデンコントロール了解。所定経路での哨戒任務を継続せよ』

 

『フェアリー08了解』

 

 来た当初よりかは寒さが和らぎ、雪も溶けたが土は泥濘であり、まるで第1次世界大戦の戦場のような光景であった。

 

しばらく哨戒をしていると無線が入った。

 

『ノルデンコントロールより全空域に通達。哨戒班が協商連合軍陸上部隊の越境を確認。哨戒任務中の各班は交戦規定を防空哨戒戦に移行する。別命あるまで待機せよ。』

 

 これで戦争が始まったか。しかし奴らは馬鹿なのか?帝国の軍備は世界最精鋭といっても過言ではないそれに突っ込もうなんて、協商連合の首脳が本当の馬鹿か、大国・・・連合王国か共和国からかレンドリースか義勇軍の派兵の約束でも取り付けることができたの2つ位しか無いだろう。

 

 

そしてコントロールより無線が入る。

『ノルデンコントロールよりフェアリー08、観測任務に切り替える。事前射点群Gへ向かえ。以後はゴリアテ07に引き継ぐ。周波数そのまま』

 

『フェアリー08、観測任務、地点G、周波数維持』

 

 

 

 

 

『こちらゴリアテ07、フェアリー08応答せよ』

 

しばらくして砲兵部隊から無線が入る。周波数そのままだと通信相手ごとに切り替えなくて済むから楽だ。

 

「こちらフェアリー08、感度良好。まもなく観測地点に到達する」

 

『確認。砲撃は事前試射に基づき転移射で行う。但し目標が射点群より1km以上離れる場合は通常の観測射撃に移行する』

 

「フェアリー08了解」

 

 転移射とは事前の観測射点を基点に目標位置、気象条件等を考慮し補正し、観測射無しで効力射を実施する方法である。

 

 帝国では砲兵は基本は自走榴弾砲*3と牽引・自走両用の榴弾砲の両方が配備されている。

 

 

 

 

「フェアリー08からゴリアテ07、観測地点に到達」

 

 眼下に広がる北方国境の森の中には幾つかの道があり、その中の一つに整列して移動する歩兵集団を見つけた。

 

 なんだあれは。他国の領土に武装して侵入しておいてパレードでもしているつもりなのか?

 

「フェアリー08よりゴリアテ07、目標地点はG-3-11からG-3-9の間を南方へ行軍中、旅団規模、速度1」

 

『ゴリアテ07了解』

 

 

 

『ゴリアテ07よりフェアリー08、転移射を開始。観測求む』

 

「フェアリー08了解」

 暫くすると射撃音がして榴弾が着弾し、歩兵隊の中心で砲弾が炸裂し人が吹き飛んだ。

 遠くから複数の乾いた炸裂音が聞こえる頃には歩兵がまるで水を注がれた蟻のように混乱し逃げ惑っていた。

 

「敵は散布界内にあり、射撃を継続されたし。」

 

するとゴリアテからの無線がECMでジャミングされていた。

 

 

 

 

 すると敵魔導師中隊を発見した。

「フェアリー08からノルデンコントロール。点群Gより方位340、距離9000、高度4200。敵一個魔導中隊が接近中。一時後退する」

 

 

『こちらノルデンコントロール。後退は許可できない。遅滞戦闘に努めよ』

 

 

―――は?

 

 

『ノルデンコントロールからフェアリー08、後退は許可できない。繰り返す。後退は許可できない。遅滞戦闘に努めよ。増援は300以内に到着する』

 

 つまりだ・・・5分カップラーメンが作れる時間まで一人で1個中隊に立ち向かえと?

 

 

 

『……フェアリー08了解。せいぜいあがいてみせましょう』

 

『幸運を祈る。神は我らと共に』

 

 

 

 

クソッタレクソッタレクソッタレ! 態々意図的にこんな状況に放り込むクソッタレな神など碌でもないゴミに決まっている!そんなのが一緒に居たら心地悪いうえにいつ死ぬか分かったものじゃない!何が神は我らと共にだ!?

 

 

 ターニャはG3KA4カービンを射撃、ワンマガジンで8騎を撃墜、MP5KA6-PDWで近接戦闘に入り5騎を撃墜した。が・・・そこですべてのマガジンが空となり、銃剣による更なる接近戦をしたが魔力ドーピングの限界となり、ターニャは狂気の笑みを浮かべ宝珠の自爆をし、中隊長一騎を残して全滅させたのだった。

 ターニャは自爆の煙からボフッと出て来て重力に従い落下していった・・・

 

 増援が来て制空権を確保後、空軍のパラメディックがターニャを救助し、すぐさまターニャは野戦病棟にぶち込まれたのだった。

 

因みにパラメディックはパラシュート降下を行う衛生隊員(軍医、衛生兵)のことを意味する。ターニャを救助したパラメディックは自衛隊で言うレンジャーや空挺レンジャーなどを取っている女性魔導師だったりする。

 

 

 

 

 

 

 協商連合軍は陸は帝国の計算された綿密な火網、そして榴弾砲の雨。要請されたらものの数分以下、下手したら数十秒で飛んでくる近接航空支援機に襲われ、空は協商連合軍の越境と共に5分で航空優勢の確保をし、十分後には制空権を完全に取った。

 

 協商連合軍は多大な損害を払うが帝国軍は戦傷者こそいるものの、戦死者はゼロであった。戦傷者にはターニャ・デグレチャフも含まれていたが。

 

 協商連合軍の越境は2ヶ月以上続いた。が、制空権を完全に取った帝国軍にとって、協商連合軍は完全に動く的だった。

 

 帝国のドクトリンは基本が防衛主体だからだ。政府や軍首脳による命令み有った為、北方司令部は越境して攻めいる事はしなかった。

 

*1
エアバスが開発した4発8挺プロペラの戦術輸送機であり、西側最大出力のターボプロップエンジンを搭載している。

*2
PDW(ピーディーダブリュー、Personal Defense Weapon、パーソナルディフェンスウェポン)は、1990年代に登場した銃器の形態の一つ。短機関銃と類似性が高く、近年登場した銃器カテゴリーであるため、短機関銃の一種として評価されることもある。

*3
何らかな動力を有し、大砲を自走可能な車体に射撃可能な状態で搭載したものである。

 よく混同されることがあるが、レール上を移動する列車砲は牽引に機関車との連結が必要で、砲単体では移動手段を持たないので自走砲ではない。



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諜報局の暗躍

さて、墜落したターニャのその後の話と、最近大人しく?していた諜報局の話


1923年6月某日

スコーネ駐屯地臨時軍病院病室にて

 

 ターニャ・デグレチャフが目を覚ましたとき、見えたのは天井だった。

所謂見知らぬ天井というやつである。

 そして本当にお決まり文句をターニャは言うのである。

 

「知らない天井だ・・・」

 

 中隊に一人で相手どる事になってから先は其処まで覚えていないターニャ。魔術ドーピングをして、敵魔導師をある程度撃墜した事は覚えている。魔術ドーピングをしすぎたことは覚えているが、それの影響とも思えない。

 物を言ったその時に激しい頭痛に襲われる。

 

「痛っ・・・」

 

 更に立て続けで襲ってくる足と腕からの痛みから状況をようやく理解した。

 

「少なくとも死んではない…」

 

 そして病室であることも分かった。恐らく野戦病棟なのだろうが、妙に人の気配が少ない気がする。

 気のせいだろうか・・・いや戦争が始まっていると怪我人も大量に出てくるのが普通なのだが・・・

 

 少し考えて、ふっと目を窓に向けると花瓶に花が飾ってあった。

 その花瓶には白い花が飾られていた。ターニャの前世は会社員で花なぞに触れる事はなかったがその花は白のアネモネ*1だったりする。

 

 少し気になってその花を見ていると4回ドアノックがあり、その直後にドアをあける音が聞こえた。ドアのほうに目線を向けると白い白衣の女性が見えた。恐らく従軍看護婦なのだろう。

 

「あ、デグレチャフ准尉。起きたんですか?」

 

「先程起きましたが・・・」

 

「そうですか。では、軍医お呼びしますね。

 

あ、オットー軍医!デグレチャフ准尉が目を覚ましました。」

 

 看護婦が偶然廊下を歩いていた軍医らしき人物を呼び止め、話を少々した。

 

 その後は少し診察のような物をして(作者は医療ではなく工学専攻なので診察シーンはカットさせていただきました。)話を聴いた。軍医によると私は丸1日は寝ていたらしい。

 

「デグレチャフ准尉、と言うわけで2週間は様子見で入院ですね。傷が塞がってもまたその傷が開かないとも限らないので。戦場に復帰出来るのは1ヶ月から2ヶ月程でしょうかね?」

 

 私は戦場になぞ行きたく無いのだが。ここは話の話題を変えるとしよう。

 

「そう言えばこの野戦病院人が余り居ないように感じるのですが・・・」

 

「それは現在入院しているのがあなただけですからね。何しろ昨日はこの病院に来たのは排出したばかりの薬莢に誤って触って火傷した人が数名と風邪引いて寝込んでた人が一人位ですからね。デグレチャフ准尉が一番重傷でしたよ。」

 

は?開戦初日に大怪我を負ったのは私だけと言うことか?運がないにも程があるだろう!ふざけるな存在X!

 

「そう言えばデグレチャフ准尉。あなたに銀翼突撃章の授与が決まったようですよ。」

 

「…銀翼突撃章?」

 

「そうですね、准尉にはそれが授与されることになったそうです。」

 

銀翼突撃章とは、帝国の勲章の中でも特殊なものの一つで、窮地に陥った味方部隊を救った者のうち、戦史に記録するべき人物のみに与えられる。

 

また、通常の勲章と異なり上官が推薦するのではなく、救われた側の部隊の指揮官が推薦するというかなり特殊な勲章である。

 

 個人の、それもただの下士官もしくは尉官で後世に名前を残す戦史に記録されるような人物は少ない。

 

 居たとしても、殆どが勲章を授けられる前に死亡している。

 

 即ち・・・それを生きている状態で授与されるのは前例がなく、そんな勲章獲得してしまうと最前線に送られる可能性が極めて高い!

 

・・・と言うわけである。

 

 

 そんな事を考えていると同時に鋭敏な頭脳を持つターニャはこうも考えた。

 

 『べ、別に勲章貰ったら選果を稼ぎやすくなって中央に行きやすくなるかもしれないし・・・(震え声)』

 

 

 

(いや、君には馬車馬のごとく働かせて貰うよbyエリザベート)

 

何か嫌な感じがしたが気のせいだろう。多分。(フラグ)

 

 

 

 

 

 

 2週間後、傷がある程度塞がり普通に過ごせそうな感じだったが、ドクターストップにより病院で病院着のまま銀翼突撃章を授与されることになった。

 

 

「ターニャ・デグレチャフ准尉。

 貴官らは協商連合軍との戦闘において、1人で1個中隊と交戦。

 満身創痍になりながらも、増援到着までに11騎を撃破し敵1個中隊を撃滅。

 味方の制空権確保までの敵魔導部隊の対砲兵攻撃を阻止した。その行動と勇気を讃え、銀翼突撃章をここに授与する。」

 

 これで私もエースの仲間入りしてしまったのだ。

これの何がよろしくないか。

 最前線での活躍を命じられる可能性が高いということだ。

 

 あの魔王ルーデル*2のように戦死が味方の動揺を誘うとして後方に頑張って下げられたと言うような例も無きにしもあらずなのだが。

 帝国は確かに強大であるがさすがに大根畑から兵士がとれるようなルーシー連邦よりかは人的資源が少ないと言わざるを得ない。ただしその人的資源を補っているのが周辺国家を軽く上回る装備を持つ空軍だった。空軍の編成をみるとどこの国にも負ける気がしないのだが・・・何しろ空軍の作戦機は700機弱。そしてそのうちの143機は輸送機なのでそれ以外の機はTa152を主力とする(と言うかTa152しか居ない)制空邀撃戦闘機で構成されている。頭おかしいと言わざるを得ない。

 

 

 とは言え、周辺各国との関係は良好とは言えないため、全方位が敵になる可能性がある。

 例外が2カ国ほど存在するが、一つは永世中立を宣言しており、更に国家自体が究極の要塞のようなものであるため、"障害物"や"通行不可能地形"という評価が正しい。

 もう一カ国は帝国との国境紛争を抱えながらも比較的友好的だが、場合によっては十分敵になりうる。

 

 ただ、新大陸の化け物国家、合州国は比較的関係が良好だったりする。何しろ帝国は医療分野で他国を上回っているため、その国の医療では救えない命を帝国の医療で救えたと言う話はいくらでもある。合州国は民衆の意見が政治に強く働く国であるため、合州国も表面上は帝国と良好な関係を構築しているのだ。

 連合王国は民衆こそ帝国感情は良いが、首脳が帝国を危険視している為、帝国は准適性国家として見ている。

 

 ただ・・・やはり全方位が敵になっても帝国が負けるビジョンが出てこないのはやはり空軍のせいだろうか?

 

 

 

 

 

―――――――――

1923年7月某日

 結局戦場に戻る羽目になった。やはり私は運が無いらしい。

 

 命令に従い、ある魔導中隊に行くことになった。

 

「少佐殿。補充として参りました、デグレチャフ准尉です。」

 

「あ、君が噂の。銀翼突撃章を2週間前に受賞したそうじゃないか。期待しているよ。

 

君には本当に助かるよ。何しろ3人が生焼けの肉を食って食中毒で病院送りにされて困ってたんだ。」

 

 は?3人が食中毒で離脱?一体何やってるんだ、給養課は。しかし命令である以上従わなければならない。ままならぬものだな。

 

 

「中隊傾注!今回の任務は制空権確保の継続だ。要は敵魔導師狩りと言うことだ。だが今回何時もより更に楽になるだろう。何故なら銀翼突撃章をつい最近受賞した者が居るからだ!」

 

「「「なる程~。」」」

 

おい待て、納得するな!

 

「では中隊諸君、出撃準備だ!長くなるぞ、一応レーションも持って行け!」

 

「えー・・・あのクソマズイ奴ですか・・・」

 

「腹に何も入れないよりマシだ。さぁ行け!

 

 ああそうだデグレチャフ准尉、出撃準備中に司令部より届いた武器を支給する。ついて来たまえ。」

 

「はっ。」

 

中隊のテントを出て弾薬集積所(といっても小銃弾や拳銃弾くらいしか無いが。)に着く。

 

「これらが君の被撃墜地点で回収された小火器類だ。ちゃんと武器課が整備したらしい。で、ガンケースは君の部屋においてある。この小銃と短機関銃は君専用となるため、管理はしっかり行うように。」

 

「はっ!」

 

「宜しい。では出撃準備するように。」

 

 

 

 

 

 

 

 3時間後、私は戦場の空を飛んでいた。中隊が出撃した後、私は臨時の小隊に組み込まれ、6人1小隊で行動していた。

 

 戦場といっても・・・敵にとっては地獄な戦場だが。

 

 あちらから一方的に仕掛けてきた戦争。基本的に攻めるしか出来ない協商連合は取りあえず帝国領地に進行して来る連中は、帝国空軍や帝国の魔導師によって殲滅され、はたまた砲兵部隊に部隊をちりじりにされ・・・制空権を取ろうと魔導師を投入するが、帝国魔導師にすぐさま撃墜される。それが協商連合との戦争・・・いやこれは戦争と言うには余りにも一方的すぎる。

 

 帝国の基本ドクトリンは機動防御*3での防衛だが、軍である以上攻めることもしなければならない(と作者は思っている)。

 帝国の侵攻ドクトリンは基本は機甲師団主体での帝国空軍制空権確保が前提となる電撃戦である。機甲師団で敵の守りが薄い場所を予め空軍が偵察、制空権確保前提とし、Ta152などの近接支援の元で機甲師団による突破、そして帝国空軍の優秀な兵站輸送能力及び輸送トラックで止まることなく進撃する、かのナチス・ドイツの戦術を使用していた。

 

 

 ただ協商連合との戦いはただの殺戮とでしか思えない。 

 

 

 

『おっと、久し振りな敵のお出ましだ。中隊規模の敵さんか。そんな事しても焼け石に水だろうに・・・ロトリーダーより小隊へ。敵魔導中隊隊を撃滅せよ!』

 

 

 敵魔導中隊と相対し、敵が射撃を開始する。

 

『散開!』

 

 小隊は敵の射線をかわす様に散開。敵は我々に当てることが出来るような小銃を所持していない。せいぜいセミオートマチック銃だろう。ただし此方はフルオート可能なG3である。敵に回避機動をとられても十分当てることができる代物であるため、撃墜は比較的容易であった。今回は一人ではなく小隊であったからだとも思われるが。

 

「墜ちろ」

 

 そうつぶやき長らG3KA4を三連射し、敵魔導師を撃墜。

 

『准尉、チェックインシックス!』

 

 咄嗟に後ろをみると比較的近距離で此方をねらっている敵がいた。素早くMP5KA6-PDWをホルスターから抜き、片手保持で弾倉が切れるまで連射する。すると・・・敵は死ぬ。

 

『准尉、ナイスキル!』

 

 

 

「嫌だ・・・嫌だ!死にたくない、死にたくない!」

 

弾倉が切れたMP5ホルスターにしまい、次の敵に襲いかかる。次の敵は味方が次々とやられ撤退しようとしていて偶然私の目の前を通った新兵らしき魔導師だ。

 

「さぁ私の戦果となれ!」

 

 そいつはG3のアイアンサイトで良く狙って撃ったら一発で吹き飛んだ。たわいもない奴だ。

 

 しばらく戦闘をすると敵中隊は消滅していた。今回の選果は4騎撃墜2騎共同撃破であった。

 

 その後は単調な対地攻撃や砲兵隊の観測だったためにカットする事にしよう。

 

 

 

 ターニャは今回の戦闘で4撃墜2共同撃破、8火砲の破壊、3車両の破壊をした。

 

 

 ターニャは知らない。協商連合との戦争が後1ヶ月で終わることなど・・・知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 協商連合軍は狼狽していた。陸軍3個師団をはじめ、多数の魔導師部隊、200機に及ぶ共和国からコツコツと購入して整えた航空戦力、そういったものが帝国軍によって半分以上が『溶けた』。

 

 何より、軍は元々やる気が無かったのだ。何故なら帝国軍と自軍の差をよく分かっていたが故に。

 

 しかし、今回は政府に押し通されてしまい、大規模な軍事演習という名目を掲げて越境し、大損害を被った形だ。

 当然、軍が現政府に対して良い感情を抱くわけがない。しかし、戦争は政治の延長戦と言える代物。軍は当然政治家に逆らえない物だ。

 

 但し、政治家が逆らえない事もある。経済界である。政治家と経済界は密接な関係があり、経済界に支援を打ち切られると次の選挙で当選できなくなる可能性が相当大きくなるからだ。

 

 

 

 帝国とは良い関係にある経済界からの突き上げも強くなり、もはや、政府が戦闘継続を叫んだところで議会は殆どが戦争反対に回ったためどうにもならなかった。

 

1ヶ月後、協商連合軍による越境は無くなり、それから程なくして協商連合政府は外交筋を通して交渉の席につくことにした。

 

 協商連合との戦争終結である。

 

 ターニャは戦争終結までに合計36騎単独撃墜、24騎共同撃破、装甲車両37両撃破、火砲18門破壊と言うまさにエースであった。

 

 それは自身が所属している中隊の中でも一番選果を得ているらしい。そのせいかどうかは知らないが少尉へと階級が上がった。上官からは誉められ、同僚からは胴上げされる始末である。

 

 

 それゆえ何故か上官や同僚からは雪景色に映える銀髪なので、白銀だの、可愛い悪魔だの、戦闘妖精HAKUGINだのと、それはもう訳の分からん呼び名で言われまくった。

 

 

「・・・しかし、これで良かったのか?」

 

現状は悪くない、悪くはないはずだ。

 

 ターニャはそう思っている。

 

 エースとなれば後方に下げられ、後進育成の為に教官となれる可能性は高い。

 

 隊内でも浮いているということはなく、むしろ積極的にコミュニケーションを取っている。

 

 問題はないはずだ。 

 

 協商連合との戦闘は終わり、あとは外務省の仕事になっている。

 

 もしも辞令が出るとしたら、もう間もなくだとターニャは確信していた。

 

 頼む!

 

 今回の件で、教導隊とかそういうところへ回してくれ――!

 

 

(教導隊?何言ってんの?兼任させるから覚悟しといてbyエリザベート)

 

 

 

 とまぁ斯くして2か月と少しで協商連合との紛争は終わったのである。

 

 

 

 

1923年8月某日

 

スコーネ駐屯地 師団本部軍令部室

 

 

 

何たることだ。

 

仮に存在X以外に神がいるのだとすれば、そいつに関してはある程度信頼してやってもよいのかもしれない。

但し今後どうなるか分からないのだから、あと50年ほどは評価を保留させてもらうが。

因みに存在Xに関しては神とするには余りにも酷いので信じる気は1ミリもない。

 

あれだけ願った後方勤務だ。

私、ターニャ・デグレチャフ少尉の配属の内示は"後方勤務"であることを示していた。

 

「本国戦技教導隊付きの内示と、同時に総監部付き技術検証要員の出向依頼…テストパイロットでしょうか」

 

「そうだな。できれば君にはそのまま受け取ってもらえると助かるのだが…」

 

「分かりました。配属命令を受領いたします」

 

 

 

 

 

 

そのころ…帝国首都ライヒでは無事戦争らしき紛争が終わりどこか首都全体がホッとしている気配がしているが…諜報局では大忙しであった。

 

 

「それで憎きヨシフ野郎が『赤軍の至宝』をとらえたと…」

 

「はい。すでに一刻の余地もない状況です。」

 

 諜報局局長室は副官から殴り書きにされている書類を持ちながら報告を受けていた

 

 

 

 

「我が特殊部隊はどうなっている?」

 

「今すぐ出撃できるようになっています。」

 

「輸送機は?」

 

「空軍からは今すぐにでも出せると。」

 

「分かった、今すぐ出せ。我々の悲願を達成するこれとないチャンスだ。」

 

 諜報局は設立当時北の巨大な国家、ルーシー帝国に諜報員を置き、相当な金を投入してルーシー帝国の中枢に巨大なパイプをつなぎ、帝国に有利になるよう工作をしていた。そんな中起きた赤化革命である。

 

 共産主義になるにあたり諜報員の退避が間に合わずに拘束され、中枢につながったパイプも同時に粛清されてしまった。これにはさすがの温厚なカタリナも激おこぷんぷん丸だった。当然帝国諜報局は共産党撃滅の旗を掲げ、帝国内の重要な地位についていた共産主義者を徹底的に調べ上げ、『不幸な事故』で暗殺。

 

 またルーシー社会主義共和国連邦にルーシー帝国以上の金をかけ工作を開始する。その一つにミハイル・トゥハーチェフの亡命も入っていた。ヨシフおじさんの猜疑心による粛清が始まったのを諜報局は敏感に嗅ぎ取り、素早く計画を立案。その計画は…

 

『オペレーション・ハイドバルバロッサ』

 

である。

 

 

 ルーシー連邦のざるな防空網を特殊部隊を載せた戦術輸送機で高度3万ftまで上昇して回避し、HALO降下*4してNKVDを音もなく速やかに射殺し、ミハイル・トゥハーチェフの亡命を家族とともにさせるというものである。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。夜闇に紛れて高高度3万ftを巡行している一機の輸送機があった。それはもちろん…特殊部隊を載せた帝国の戦術輸送機である。そこには諜報局特殊作戦部隊2個小隊が乗っていた。それは待機していた特殊部隊全員である。(ちなみに残り3個小隊は不測の事態に備えお留守番)

 

 戦術輸送機は連邦のざるな警戒網をくぐり抜け、空挺ポイントに到達。部隊員全員でHALO降下を実施する。空軍戦術輸送機はいったん帰還した後に代替の輸送機が合流ポイントへ到達し、空軍作戦コマンド1個分隊を空挺しランディングゾーンを確保。特殊作戦部隊+ミハイル・トゥハーチェフ家族が到着次第すぐさま離陸し、帝国へ向かうというものである。

 

 

 

 

 

――――――――

1923年8月某日

モスコー某所

 

 

『隊長、NKVDが居ます。』

 

『排除しろ。音もなくな。』

 

 パスっ…と着弾音がして玄関に立っていたNKVDの1隊員が死ぬ。

 特殊作戦部隊が使用している銃はMP5である。ただし改修済みであるが。サプレッサーを内蔵し銃声を消音する。ただしMP5に使用されている9㎜パラベラムは超音速拳銃弾であるため、60~70dbと電話機のベル並みの音量がある。.45ACPのような亜音速弾を使用した場合、発射音が大幅に軽減されるためこのMP5は.45口径拳銃弾を使用する特殊作戦仕様だった。

 

『中に入るぞ。』

 

 ドアは普通に鍵がかかっているので鍵を普通にピッキングして開けると思われたがすぐそばにあった梯子を使って窓から侵入。その階を音もなく制圧した彼らは目標がいないことが分かると二手に分かれた。その階より上の階を制圧する班とそれより下の階を制圧する班である。

 

 

 そして上の階をすでに制圧し終わった一つの班は下の班へ合流。残りは地下である。

 

『廊下に見張り』

 

『排除する。』

 

 見張りが音もなく倒れる。

 

「おいどうした。居眠りか?」

 

『排除しろ。』

 

 倒れた仲間を居眠りだと勘違いして偶然通りかかった者も排除される。そして…部隊はある部屋の前にいた。

 

『隊長、鍵がかかってます。』

 

『ドアに聴診器を当てて何も聞こえないようならこじ開けろ。それ以外のものは周辺警戒だ。』

 

 

 

 数分経っても何も音が聞こえなかったためピッキングをしてドアを開けると…ひどく血まみれの男がいた。それは取り調べの机にある紙にまで飛び散っていたことからひどく何か(おそらく拷問)されていたのだろう。

 

 そして取り調べの机にはNKVDが座っていた。

 

「ん?どうし…」

 

 それは静かな銃声で途切れた。

 

『これはひどい。医療班に見せてもらおう。だがその前に脱出だ。』

 

「誰だ…君たちは…?」

 

 ひどく弱きった声で男がロシア語で言う。

 

「私たちはあなたを助けに来ました。ミハイル・トゥハーチェフ元帥ですか?」

 

「あ、ああ…」

 

 血まみれの人物は目的のハイル・トゥハーチェフ元帥であることが分かった。

 

「では…早ければ早いほどいい。ここを脱出しましょう。」

 

「分かった…」

 

トゥハーチェフはメディックに担がれてその家どころかモスコー郊外まででてある無人の家に入り手当を受ける。

 

 

ある程度痛みが引き、トゥハーチェフは質問する。

 

「私を助けるといったが…誰なんだね?」

 

「…私たちは帝国の者です。」

 

「帝国…」

 

「失礼ですが閣下。嘘の自決はもうなされました?」

 

「もう、してしまった…家族を人質にとられ、しかも拷問までされて自白させられた…家族は…家族はどうなるんだ?」

 

『隊長、家族らを無事確保しました。』

 

「全員無事だそうですよ、閣下。」

 

「そうか。それならよかった…」

 

 

静寂が訪れる。数分後に沈黙を破ったのはトゥハーチェフだった。

 

 

「それで私たちをどうするつもりなのかね?」

 

「閣下とそのご家族様が選べる選択肢は二つあります。帝国に亡命するか、この連邦という国に残るかです。ただし、帝国に亡命する方が閣下にとってもこちらにとってもよろしいかと。自白してしまった以上、この連邦という国に残ると閣下は銃殺刑に処され、ご家族様も強制収容所に送られてしまします。できれば…」

 

「私の家族はなんといっている?」 

 

 通信員が連絡を取り始め、数分後した後で

 

「ご家族様は亡命を希望していますが、閣下に合わせるとのことです。」

 

「そうか………わかった。亡命しよう。」

 

「閣下、ご決断ありがとうございます。」

 

『空軍より連絡。集合地点確保したとのことです。』

 

『分かった。』

 

「閣下。行きましょう。」

 

「分かった。」

 

 また特殊作戦部隊+ミハイル・トゥハーチェフが現地で調達した車に乗り込み集合地点へ着く。そこにはすでに空軍輸送機のプロペラは回っており、実は家族らはすでに乗り込んでいて後は特殊作戦部隊+ミハイル・トゥハーチェフキーが乗り込むのを待つのみであった。

 

「さぁ閣下。足元にご注意ください。」

 

ミハイル・トゥハーチェフキーが乗り込むと先にはトゥハーチェフの家族15人が待っていた。

 

「あなた…!」

 

「ニーナ…」

 

 これは感動の家族の再会という奴だろうか?おそらくそうに違いないのだろう。戦術輸送機の後部ハッチが締まり、だれも残さずに戦術輸送機は優秀なSTOVL能力と悪路耐性をフルに使用して離陸する。

 

 無骨な軍用機の中で家族の会話をしているトゥハーチェフ家族。何せルーシー社会主義共和国連邦内では現在粛清の嵐が吹き、家族とろくに会話もできないからである。ただしこの輸送機は帝国の物。すなわち帝国への直行便であり、あの連邦などとは違った技術の進んでいる新天地(帝国)への航空便だった。

 

 

 帝国の早朝、戦術輸送機は帝国首都近くの空軍飛行場に降り立つ。そしてトゥハーチェフ家族の前に現れたのは…

 

 

 

 

続く―――――――

*1
花言葉は希望、期待。つまりこの花を飾った者は君に期待していると言う意味を込めている

*2
第2次世界大戦のナチスドイツ空軍攻撃機パイロット。曰わくアンサイクロペディアに嘘を書かせなかった男。と言うか存在自体が嘘のような人物。この小説にも出てくる。

*3
機動防御とは、我が勢力圏内に侵攻する敵を機動打撃部隊即ち戦車や歩兵(騎兵)戦闘車などの装甲・機甲師団等で撃退することにより、敵の攻撃を阻止するものである。陣地防御には広すぎる正面(少なすぎる勢力)でも機動防御でなら敵を効果的に阻止できる。

*4
パラシュートによる潜入作戦に用いられるために開発された降下方法。視認外である高高度(10,000m程度)を飛ぶ航空機から降下し、自由落下して低高度(300m以下)でパラシュートを開き敵地に降下・潜入する方法である。航空機が高高度を飛行するため、敵のレーダー網による警戒を比較的回避しやすく、エアボーンの実行を察知されにくい利点がある。一方で、高度1万メートルでは気圧が地上の1/4、大気温は氷点下50度(地表約15度)を下回ることがあるので、航空機には減圧システム、ダイバーは酸素マスクと防寒着衣が不可欠である。



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接触

 帝国の爽やかかな夏の朝、帝国首都の上空を守る飛行隊第25戦闘航空団『25st Tactical Fighter Squadron』や戦略、戦術輸送機が所属している第61輸送航空団『61st Tactical Airlift Squadron』が所属するとある空軍基地に第61輸送航空団に所属するEKC-1戦術輸送機がプロペラ機特有の爆音を発生させながら着陸アプローチに入る。

 

 それを航空管制官や空軍基地所属の人員以外にもそれを見ている人物がいた。

 

「無事に帰って来れたようですね。」

 

 帝国陸軍将官制服に身を纏っている女性は諜報局局長カタリナ・フォン・クロイツフェルンその人であった。右手にはめられている夫(副官ルドルフ・ナヴァール)から贈られた結婚指輪が朝日に照らされて綺麗に輝く。35歳になってもその美貌は衰えずに、見る者を振り向かせる程の美しさを保っていた彼女は諜報局では、既に摘まれた高嶺の花と言う風に言われているらしい。

 

 

 戦術輸送機が滑走路に危なげもなく着陸して近くに戦略輸送機がタキシングする。その様子を少し離れた場所で見ていたカタリナ。清々しい帝国の夏の風でカタリナの髪がなびき目にかかる。殆ど無意識に髪を書き上げ耳にかけて、輸送機の中から待ち人が出てくるのを待つ。

 

 戦術輸送機の後部ハッチが上がり、帝国諜報局の特殊部隊中隊長、ライナー・フォン・オットー大佐が先導して先に降り、ミハイル・トゥハチェフスキーらしき人物とその家族が出てきた。

 

 ・・・ん?トゥハチェフスキーが何か負傷していないか?

 

 疑問符が頭の中に浮かんだ私は実質直属であるライナー大佐の方へ歩み寄っていく。

 

 近づいていくとライナー大佐は此方に気がついたようで・・・

 

「あ、局長。トゥハチェフスキー元帥の事なのですが・・・」

 機先を制するように話し始める中隊長。早速報告を受けるとしよう。

 

「トゥハチェフスキー元帥の救出はギリギリでした。NKVDによって自白を既にさせられ、銃殺刑目前のような状態でした。嘘の自白を吐かせる際に家族を人質に取って拷問までしていたようです。それで・・・」

 

「なる程・・・それでもこの有様と言うことですか、分かりました。ご苦労様です。これだと余り長くは話せそうにありませんね。軍病院に連れて行って上げなさい。」

 

「はっ。」

 

 ライナー大佐は陸軍式敬礼をして部隊に戻った。これから究極ミハイル・トゥハチェフスキーを病院まで護送しなければならない。そして家族達は帝国が用意した帝国では平均的な住居に取りあえず住んで貰う事とする。但しそこは諜報局や軍関係者が多く、圧倒的に治安の良い住宅街だが。

 

 トゥハチェフスキー元帥はあのルーシー社会主義共和国連邦を分裂させ、帝国に矛を向けさせる余裕がないようにするための布石だ。そのための工作もしてある。その工作した成果はルーシー社会主義共和国連邦の奥深くに眠っているが、その我々が撒いたダイナマイトは池に石を放り投げて波紋をあげるがごとく、本当に些細な事で爆発する。

 そのダイナマイトの爆発がルーシー社会主義共和国連邦を分裂させるのだ。

 

 もう少し。もう少しで共産主義者共に一泡吹かせることができる。

 

 

 

 

  トゥハチェフスキーの怪我は相当深く、完治するのに2週間以上程掛かった。トゥハチェフスキーの家族も文化の違いや言葉の違いに振り回されたりしたが、1ヶ月もすると馴染んでくるらしい。既に各々知り合いと言う者が出来たりしたからである。

 

 

 

 例えばトゥハチェフスキー元帥の妻、ニーナは隣の家に住んでいた軍人の妻達3人と近くのカフェで少々話したりするくらいにはなった。

 3人は現役空軍軍人で空軍設計局の主任設計技師だったり、近衛第2師団師団長だったり、帝国諜報局局長だったりと、極めて国の中枢部に近い人物であったが。

 トゥハチェフスキー元帥の妻である彼女が国の中枢部に近い人物と知り合ったのは運命なのか、それとも・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は 病院から退院したトゥハチェフスキー元帥と面会した。全治二週間以上だったが、会えて話し合えただけでも僥倖だと思う。

 

 

「さて、はじめましてかな?私はカタリナ・フォン・クロイツフェルンです。訳あって、諜報局のトップに立っています。」

 

「・・・ミハイル・トゥハチェフスキーです。それで亡命した私に何か用が?」

 

「ええ。端的に言います。あなたに新国家を設立して貰おうと考えているのです。」

 

「新国家、と。それはまた。私は政治家ではなくルーシー帝国・・・もしくは連邦の1軍人だった男です。その私に新国家を設立しろと?」

 

「そうです。具体的には・・・ここ周辺です。」

 

「な・・・!?そこは・・・!?」

 カタリナが指を指して示した場所はルーシー社会主義共和国連邦のおよそ1/3の場所だった。

 

 カタリナは更に絶句するトゥハチェフスキーに彼が更に絶句する言葉を放った。

 

「もうすでにすでに工作してあります。更にあなたの古巣だった赤軍にも工作をしてあります。結果は連邦赤軍の1/3の将官及び佐官はあなたに着く意志を固めたそうです。」

 

 実際はトゥハチェフスキーは本当に人望があり、トゥハチェフスキーがやるなら・・・!と言う人物を片っ端から情報を集め、工作した結果である。

 

「そうか・・・もうそこまで・・・」

 

「我々は残念ながら表面上は支援できそうに無い状況ですが、諜報局と帝国3軍は秘密裏に協力する準備がなされています。今はさすがに時期尚早でありますが。」

 

「・・・・・・・・・・・・分かった。」

 

 

 

 

 

 ここに既に先を見通した人物による表に出ない戦争が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3ヶ月後・・・

 

『デグレチャフ少尉! 意識はありますか!? 少尉!』 

 

 私は今、既存の演算宝珠では不可能だった高度9000ftに居る。

 

 辛い。

 

 因みに当たり前のように旧式の91式宝珠で30000ft(およそ1万メートル。成層圏である)まで登る転生者(キチガイども)の4人は論外として・・・

 

 宝珠は非常に不安定で、魔力を内部に保持できるため、いつ爆発するか分かったものではない。それも半端ではない威力の爆発だ。

 

 

 これは前線より危険なのではないかと疑う。

 

 間違いなく"安全な後方勤務"の類ではない。

 

 戦技教導団での日々は良かった。良かったが・・・こっちの世界には狂人が居るもので、そのうえ信頼できない。

 

 

 しかし丁度あのMAD科学者『ドクトル』と空軍設計局の主任設計技師レナ大佐*1とは犬猿の仲だそうで・・・レナ大佐やエリザベート陛下に色々して貰おうかと思ったが考え直した。

『といっても一週間に一回の地獄のようなテスト飛行の為に後方勤務を手放すのも・・・』と言う感じで。

 

 

 

 斯くしてターニャは実験を成功させた(呪われた)のだった。

*1
技術者は基本平和主義者で、何より人命を重んじる。なぜなら技術者としての矜持があるから。技術者としての倫理があるから。だが、自身が人を殺す武器を作ったとしても、それは仕方がないと割り切る。それが技術者である。そして技術者は神という存在を信じているか信じていないかに関わらず神という見えざる手が自身の製品に働くことを嫌う。それが技術者の矜持だからだ。by航空工学を学んでいる学生



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御前会議

 該当場所を編集し用途考えましたが、めんどくさくなったので話に影響しない程度に丸ごと削除しました。


1923年12月某日

 

「申し訳ないが君に転属の書類が来ている。」

 

 そんな事を言われたのは帝国に冬が訪れ、少々寒くなってきた時期だった。まぁ北方の2月よりかは暖かいそんな日に、よりによって最悪な連絡が来てしまった。戦技教導団長室に呼ばれ何かと思い来たわけなのだが…

 

「は…?」

 

「申し訳ない…君は陸軍の所属のままで在るので、陸軍の命令を近衛である私がはねのけることはできない。君の転属場所はラインラントだそうだ」

 

 成程…神とやらはろくな存在ではないという事は確かな様だ。ラインラントといえばフランソワ共和国と帝国が現在にらみ合っている状態で、そんないつ戦争が起きてもおかしくはない状態である。そんなところに転属されるという事か…戦技教導団で良くも悪くも私の名前とも広まり、私を戦場になるであろう場所に移動させ、味方の士気を向上させようという魂胆なのだろうな。

 

「ああ、そうだ。貴官の銃だが…」

 

ああ、戦技教導団では通常のG3を使うようになっていて、MP5KA6やG3KA4などは一時使わない状態になっていた。そうなっていたのでせっかく転生者という縁でレナ空軍大佐が私向けにカスタムをいろいろ施してくれるらしい。

 

「レナ空軍大佐の所に行って取りに来てほしいとの本人からの言伝だった。できれば早めに来てほしいとのことだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦技教導団の駐屯地の門を出てレナ空軍大佐が普段つとめている空軍設計局に足を向ける。足で歩くと優に15分以上かかるが、まぁいいだろう。全く、この帝国の冬は暗く挙句の果てに寒い。寒さはさすがに2月のノルデンよりかはましだが、マイナスとゼロを比べられても困るだけだが。まぁこの時期は景気如何にも関わらず街中はどんよりとしてこちらまで鬱になりそうだ。

 帝国は自殺率はほぼ無いにも等しい状態であるが、この時期だけは自殺率が少々上がり、犯罪も増えてくる。日本で言う5月病とかそんな感じだな。

 騒がしい市場を尻目に市場出口を通り過ぎ、帝国の中枢部が集中してある場所に向かいあるいて行く。日本で言う霞が関とかそこらへんが該当するだろう。しばらく街を歩きよさげな珈琲店を見つけた。今度機会があればいって見ようか。

 

 さて、空軍の技術設計局が見えてきた。空軍技術設計局は海軍の技術本部、陸軍の技術廠と近い場所に存在している。

 

 

 

「レナ・ワイス大佐に用があるのですが…」

 

「少し待っていてください」

 

 とりあえず事務にいろいろ手続きをして内線をかけてもらう。

 

「すぐに来るそうです。」

 

 しばらく待っているとレナ大佐が階段を降りてきた。

 

「やぁ、しばらくですね。ターニャ少尉。小銃の件ですよね?」

 

「はい、そうです。」

 

「では、着いて来て下さい。」

 

 レナ大佐によると一回外にでて裏に周り試作した品を置いたり実験をしたりする比較的巨大な施設に向かうのだそうだ。

 

 その施設の出入り口にはG3を装備した空軍の警備兵がいた。

 

「お疲れ様です、レナ大佐。念の為にカードを。」

 

 レナ大佐は首に紐でかけられているカードを警備兵に見せた。

 

「ご協力ありがとうございました。それで・・・あの、それでこの娘は噂の?」

 

「そうだね。噂のエース『白銀』だよ。流石の私も白銀に頼まれて銃のカスタマイズを御願いされたら断れないよ。」

 

「そうですか。では、どうぞ中へ。」

 

 私は警備兵に少し会釈をして中を進むレナ大佐へ着いていく。

 

 中には試作と思わしき機体が置いてあった。一番最初に目についたのは我が帝国主力戦闘機Ta152の試作型と思われる物だ。

 

「・・・ターニャ中尉。これらが気になるのかい?せっかくの機会だから私が説明するよ。何せこれらにある物は殆ど全てが私が設計したものだからね。」

 

・・・流石はあの帝国主力戦闘機Ta152を一年で設計したと言われる人物。ここにある物の殆どこの人が設計したとは。さぞ優秀な技術者なのだろうな。

 

「これはTa152の最初期型のTa152-A1の試作型だね。懐かしいな・・・これは私が15歳の頃に設計した物でね・・・今の皇帝陛下にG3開発と平行して開発された物で、あの頃は大変だったなぁ・・・」

 

 隣には見るとTa152に装備されている12.7mm航空機関銃が置いてあった。これは連射速度や貫徹能力がバランスが良く、陸軍にも採用された傑作機関銃である。陸軍では戦車の上に付いている対空機銃や歩兵戦闘車や騎兵戦闘車の主要武器にもなっている。

 

 ちなみに歩兵先頭車や騎兵戦闘車はシリーズがあり、12.7mm機関銃を4連にした対空、対歩兵装備と88mmFlak19高射砲(いわゆるアハトアハト)を対戦車砲に転用した物を搭載した対戦車自走砲タイプ、75mm戦車砲を搭載した機動砲タイプ、155mmりゅうだん砲を装備した自走榴弾砲タイプがある。

 

 私は軍事オタクであったため少々魅入っていたが、そろそろ見るのを止めて奥に進む。レナ大佐は黙って私の後ろを付いて来る。

 

 暫くちらちらとみているとこの年では存在が有り得なさそうな物が置いてあった。

 

「これは・・・ジェットエンジン!?」

 

「これですか。これは私が一番最初に設計したターボファンエンジンです。バイパス比0.5の低バイパス比エンジンで戦闘機に載せることを想定したものです。推力は2.2kN。モデルはあのMe262が使用したユモ ju004ですがこれは如何せん推力が低いので没にしました。それでこいつを作って得た技術を元に、試作に試作を重ねて10年かけて作った拡大版のターボファンエンジンが、あれ。」

 

 指を指した先にあるのは、自分が目の前にあるエンジンよりも一回り大きく、全長はその2倍以上は有りそうな代物だった。

 

「重量はそいつの4倍、全長は2.5倍、直径は1.25倍になったけれども推力は31kNと10倍以上向上しました。バイパス比は0.9で、バイパス比が高くなった事で推力当たりの燃費も向上したんです。」

 

 

…帝国の航空機産業はいささか進み過ぎじゃないか?周辺の国家は帝国の優秀な産業のおかげでいくらか発展しているとはいえ、2000馬力級のエンジンを作ろうと四苦八苦している最中であるのにターボジェットを飛び越えてターボファンエンジンを開発し実用化するとはな。

 

「史実のナチスだとあのちょび髭野郎がMe262の開発を遅らせた原因でしたが、帝国のトップが現皇帝陛下で助かりました。少々わがままなところはありますが、自由に開発させてくれるので助かってます。

 話を元に戻しますと、そのエンジンを搭載するのがあの機体です。単発複座の艦載機で、速度を出すために後退角を付けながらも高速運動性をよくするために中翼配置のクリップドデルタ翼を採用しました。こいつは艦載機運用を想定されていまして、海軍と共同で開発したものです。

 ですが思ったよりいい感じに仕上がったので空軍でも制空戦闘機として採用する方針だそうです。」

 

 ほうほう・・・よく分からん。凄いと言うのは分かったのだが、如何せん航空力学には疎い。前世の時に少しでも習得すれば良かったかもしれない。

 

 

「さて、説明も終えましたのでそろそろ銃の方をそろそろお渡ししましょうかね。」

 

 そういってレナ空軍大佐は奥の部屋に行ってわたしのガンケースを持って来た。ロックを開けて蓋をこちらに見せるように開ける。

 

「これですね。」

 

 中には純白のG3KA4カービンと、同じく純白になっているMP5KA6が入っていた。G3KA4の方が激しく様変わりしていたがMP5KA6はそこまで変わっている印象はなかった。

 

「G3KA4カービンはハンドガード周りを大きく変更しました。ハンドガードには上部を除いた3面20mmアタッチメントレールのアルミ合金ハンドガードを使用、下部20mmレールにバーティカルグリップを付けました。

 

 また、バレルをポリゴナルライフリングと言われる断面が多角形になるバレルに変更して耐久性を強化しました。」

 

「MP5KA6は同じ様にポリゴナルライフリングにバレルを換装し、小さいストックにアングルフォアグリップを付けました。一応銃の反動に耐えるように作成しました。」

 

 なる程、AK47の近代化改修のような内容になっている気がする。

 

「自由に構えてみても良いですよ」

 

 ふむ・・・なぜか純白になったG3KA4カスタムを手にとって構えてみる。確かにグリップが付加された事で握りやすくなり、少々構えている分には疲れない代物となっていた。MP5KA6も同様な物となっていた。

 全体的に少々重くなっているが誤差の範囲内だ。

 

「前に比べて圧倒的に構えやすいなこれは。

 流石はG3とMP5の産みの親と言った所か。」

 

 

「其処まで難しいカスタマイズはしてないのですが・・・有り難く受け取っておきましょうか。

 

 実はスコープなどもあるのですが、場所によって変える必要があると考えたので既にラインの駐屯地にターニャ少尉宛てに送っておきました。

 

 内容は2倍、2.5倍、3倍光学スコープ各種と対空サイトもおまけで付けておきました。ホロサイトも用意したかったのですが、今の帝国の技術力では無理なので見送りましたが。

 

 サイトの取り付けはレールの取り扱い説明書に書いてあります。良く読んで取り付けて下さいね?」

 

 その旨を彼女に了承し、帝国空軍設計局を辞した。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

帝都ベルリン中央駅

 

8月下旬某日

 

 

 

 

「現在動員令に伴い臨時ダイヤでの運転となり…」

 

「第八方面軍行き列車が到着しますので…」

 

「第104師団はどれに乗ればいいんだ?」

 

 

 

今日の中央駅はいつにも増して人が多い。

 

それもそのはず。

 

 

 

帝国内の鉄道は現在、兵員輸送のための特別ダイヤが敷かれている。

 

対協商連合ではない。対共和国戦の準備のためだ。

 

 

 

12月中旬、遅すぎる気もする動員令が共和国にて布告された。

 

 これに対抗するためにも帝国も動員を開始した。

 対共和国国境へ戦車やそれに付随する後方部隊を含めた機甲師団5個師団、騎兵戦闘車を中核とする騎兵隊5個師団、歩兵やその人数分の歩兵戦闘車を装備した機動歩兵5個師団、塹壕戦を行う通常歩兵が10個師団が配置されることとなった。

 

 総兵力20万近くに及ぶ大規模動員であり、それを輸送する鉄道は師団配置のための装置として全力稼働し始めた。

 また、帝国には世界でも3本の実力がある優秀の空輸能力を保有している空軍も存在する。

 

 

 

 

 戦争装置として高い完成度を持つ帝国は、共和国よりも早く動員を完了できる。

 先に動員令を布告した共和国側が侵攻する前により多くの兵力を国境に配置できると思われる。

 

 時間的余裕があるので塹壕を掘る時間すらある。 

 

 この時点で普通なら共和国の敗北は確定したようなものだが、共和国がそれを理解するかどうかは不明だ。

 

 何故ならこちらの世界で普仏戦争に相当する戦争が発生しておらず、

 

 よって鉄道輸送が原因の敗北は発生していないし、機動戦計画を無理に遂行する可能性もあるが、何にせよ十分な塹壕網を作ることのできる帝国に負ける可能性はほぼ無い。

 

 

 

 つまるところ、開戦前から共和国は勝利できないことが半ば決まっている。

 

 極東で起こった戦争の見学に行ったくせに新しい戦い方を学ばなかった愚かな国として。

 因みに帝国はちゃんと反映されているため塹壕戦での防御時の消耗抑制に関しては時代を考えると完璧に近い。

 

 ただ、帝国は塹壕戦をあまり重視していない。およそ20年前より塹壕戦になることを予想し、その対策としての突破戦術である電撃戦を考案した人物がいる。それが、近衛第二師団の師団長殿であるカリン少将である。

 塹壕戦を極力せずに防衛拠点を築く。それは最低でも天蓋つきの距離の短い塹壕でも、帝国陸軍の手にかかれば堅い防御陣地と化す。効果的に防衛用機関銃を配置し、120mm迫撃砲を固定配置。塹壕の後方より戦場の女神である流弾砲陣地がセットで漏れなく付いて来る。

 更に要請をすれば空軍の近接航空支援が最低でも5分以下で飛んでくる。

 

 もしその防御陣地が破れて敵の手に落ちたら?そこもカリン少将は触れていた。

 

 予め爆薬をセットしておき、敵が多く守りきれなかった場合に歩兵戦闘車などで迅速に撤退し、その後に敵が防御陣地を占領し悠々自適になっているところを爆破する。

 

 ・・・何だろうか、この戦術は冬戦争でフィンランドが取った戦術に似ている気がするのだが?

 

 

 まぁ良い。現実に視点を戻すと、本当に人が多い。新宿駅ではないよなここ?どちらかと言えば帰省ラッシュ時の上海駅のほうが近いかもしれない。

 そう言えば週末の新宿のトイレは結構汚かった印象しか無いな。

 

 …さて、それで私はどれに乗ればよいのやら。

 

移動許可証を再度確認すると、利用は一等車と書かれている。

 

動員輸送時の一等車は将校の連絡輸送などに使われており、軍人もしくは公務員であれば帝国陸軍運輸部もしくは帝国海軍運輸局、帝国空軍輸送部発行の移動許可証さえあれば切符なしで乗れる。

 

 一等の待合室は将校専用となり一般人はたとえ一等の切符を持っていたとしても入ることはできない。

 さて、人が多すぎて吐き気がする改札を尻目に一等待合室に行く。あの人混みの中を突っ切る事無く列車に乗れそうだ。

 

 

 少々待合室で暇になったので近くに座った将校と話をした。

 

「知っているか少尉?ルーシー連邦とスオミ共和国が戦争中なのは少尉も知っているだろう。

 

 その事で噂を聴いたのだが、スオミ共和国にルーシー連邦が苦戦していると言う事だ。大粛正中のルーシー連邦には将校が足りずにまともな統制が取れていないらしい。

 

 それで、根拠の無い本当の噂を聴いたのだよ少尉。スオミ共和国とルーシー連邦の戦争に秘密裏に帝国が介入しているって言う噂が。」

 

 その噂は本当かも知れない。この帝国に諜報戦を纏めた論文を出した人物がいる。あのカタリナ殿下だ。殿下ならやりかねないな・・・

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

帝都中央 帝国軍統合作戦本部(通称参謀本部)

 

 帝国3軍の共同参謀本部。そこでは今後の戦争遂行の為の方針や対策、そしてターニャ・デグレチャフ少尉の軍大学入学を認めるべきか否かの会議が行われる会議が行われていた。

 

 そして本来なら星を重ねた3軍の高級将官達が激しい議論をしていた。

 

「えーと。次の課題は・・・ああ西方の話しですか。

 

 

 さて。今回の戦争はあくまで防衛戦争です。積極的に攻勢する事は出来ません。昔のように土地を得ることは殆ど出来ないと考えて下さい。但し、攻勢防御の結果占領する事になったのは良い事とします。

 

 この戦争は上手く立ち回らないと泥沼の戦争になってしまい最終的には世界大戦と化してしまいます。

 

 それは近衛第二師団長の論文を読めば明らかでしょう。」

 

 帝国は強大で、その強大さは合衆国に次ぐ。それが周辺諸国の不安を煽り、帝国を何とかして潰したい。世論とは裏腹の物であっても。そしてそれが世界大戦になる。

 あらゆる兵器の製造に重工業が不可欠となっている現在では戦争と国家、戦争と経済はかつてないほどに密接な関係となっている。

 また、弱小国がほぼ消滅し、世界が列強により分割された今日において、戦争は列強同士の真っ向勝負となるその戦争は、その遂行に文字通り国家のありとあらゆるリソースを投入しての国家総力戦となる。

 

 その細かい流れを近衛第二師団長カリン少将(当時は准将)とカタリナ陸軍少将が共同で研究した内容が『これから起こり得る戦争』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その場のいた軍の高級将校は口を揃えてこう話した。

 

『我が帝国に、エリザベート殿下がいた事は幸運のことであった』

 

 と。

 

 そしてこうも話した。

 

『カタリナ殿下は敵には回したく無いお人であった』

 

 と。

 



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幕間 エリザベートの料理研究

 20年前―――

 

 

 

―――――――――

統一暦1903年1月25日

帝国軍統合作戦本部厨房

 

 帝国軍統合作戦本部の食堂はくっそ不味いことで有名である。帝国陸軍がはっきり言って見栄重視で作った『どうしてこうなった』な食堂。

 会議をしたりすることもあるが、基本的にまずい食堂としか認知されていなかったのだが・・・

 

 「ふんふふ~ん♪」

 

 銀髪で、赤目の見目麗しい可憐な少女が楽しげに鼻歌を歌いながら少女は調理をしていた。

 いつもはストレートにしている髪をまとめ上げ、三角巾で髪が入らないように防止している。

 どう考えてもその人物は次代皇帝エリザベート・フォン・クロイツフェルンである。

 

 なぜか彼女が料理をしているか。それは・・・

 

「新婚ならあの人の為に手料理を振る舞わないとね?」

 

 と言う事で料理を手作りしている訳なのだ。

 

 

 

 

 予め冷やしてあった500gの牛豚逢い引き肉を金属のボウルにぶち込み、氷水で冷やしながら、肉の粒がなくなるまでこねる。

 

 そして塩と白こしょう、ナツメグで味付け兼つなぎをする。そしてまたこねて少々粘り気が出てきたら、あら熱を取ったある炒めた玉ねぎに生パン粉、牛乳を加えてムラがなくなるまでこねる。

 

 タネをおよそ三等分にした後、手にサラダ油を塗りたい所ではあるが無いのでオリーブオイルを塗って3等分に分けたタネを両手で投げるようにして空気を抜く。

 

 そして楕円に形を整え、表面を滑らかに整え、金属トレーに一度載せる。

 

 フライパンを温めてサラダ油の代わりにオリーブオイルを引き、両面にうっすらと薄茶色になったら、両面に美味しそうな焦げ目がつくまで焼き上げる。

 

 焦げ目が着いたら蓋をして蒸し焼きにして、更に火を止めて更に蒸す。

 

 合計10分蒸し焼きにしたら皿に盛りつける。白いプレートにオーブンで焼いたポテト、そして色々調理がめんどくさい白いアスパラガスを見栄えがするように並べて先程手間暇をかけて焼いたハンバーグを載せ、赤ワインを入れた中々手の混んだデミグラスソースをかけて完成である。

 

 

 

 一度手を洗って清潔なタオルで拭き、トレーに載せて厨房から広い食堂の中へと入る。本日は食堂の定休日であったので借りたのだ。

 

 あるテーブルに人2人座っているのを見ると ふっ と笑い、歩み寄る。

 

「出来ましたよ、"あなた"」

 

 一番最初に男の方に料理を出す。それはもう満面な笑みで。その人物は夫のラルフ・フォン・ゲールティエス。空軍大佐である。この前昇進したばかりである。軍系の高級貴族の出であり、およそ1ヶ月前に次期皇帝エリザベートと結婚した人物。

 

そしてもう一人の人物がその場にいた。カタリナ・フォン・クロイツフェルン。エリザベートの妹である。カタリナは姉と違って其処まで料理ができない。朝は適当にパンとコーヒー。昼は普通に美味しい諜報局の食堂で。夜は適当にソーセージと野菜ぶち込んで野菜炒めにポテトをつけたもの。

 喪女とまでは行かないが結構な適当ぷりである。この生活が改善するのは偽装結婚と称して副官と結婚した時からである*1

 

 「お姉様。何故私もお呼びに?夫婦水入らずの方が宜しいでしょうに。」

 

「まぁ良いじゃない。では、どうぞ。召し上がって下さい。」

 

 

 

 

 

 

ちなみにそのハンバーグは好評であった。

 

曰わく

「レストランの味だった。」

「 美 味 し い 」

との事だった

 

 

 

 

 

 

―――――――――

統一暦1923年1月25日

 

「さて、ちょっとやってみますか」

 厨房に立っていたのはエリザベートだった。ちょっと小腹がすいたので厨房を借りて何か食べようと思ってただけである。

 

 取りあえずソーセージにオリーブで焼き卵を入れてみて、ケチャップとチーズを乗せて、なぜか小麦粉で作られた薄い生地をフライパンに入れる。

 

 そして出来上がった物は・・・

 

 

【挿絵表示】

 

 

「 ナ ニ コ レ ? 」

 

「と・・・取りあえずたべてみようかな?」

 

 取りあえずフォークでもぐもぐと食べてみる。味はどうだったのだろうか?

 

「 ク ソ マ ズ イ ・ ・ ・ 何これ?」

 

「あれ?どうしたんです、お姉様。

 ・・・何ですか、このスクランブルエッグのなり損ないみたいな物は。」

 

 そんな所に妹のカタリナが入ってきた。手元にあるフライパンを見て少し困惑気味に見たままの感想を言う。

 

「・・・カタリナも食べてみる?」

 

「は・・・」

 

 ハイもイイエも聞かないがままカタリナの前に差し出す。

 

「じゃ、じゃあ・・・頂きます・・・」

 

 フォークを取って少し口に入れてモグモグする。そして其処まで咀嚼せずに無理やり胃の中に流し込んで、水をコップに注ぎ一気に飲み干した。

 

「頑張ったら吐ける不味さですね!」

 

 これまたいい笑顔で言い放ったカタリナ。

 

「あっ、そうですか・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 因みにその訳の分からないレシピは諜報局の尋問用レシピに追加されたとさ。

 

 

*1
このカタリナと言う人物、偽装結婚と言っておきながらしっかりとウェディングドレス着て結婚式を挙げている人物である




「ふん、帝国人は尋問相手に肉を出すのか。・・・うわなんだこの料理、吐くレベルで不味いぞ。」


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西方、異常あり/重戦車の出現

申し訳ありません、此方の事情で期末試験が終わった後に執筆した影響で、1ヶ月近く遅くなりました。





 心地よくなる鉄道の走行音に包まれて、一等車の寝台に身をうずめ長ら窓の外の景色を見ていた。

 

「長い鉄道の移動は何も娯楽がないこの時代だと窓から景色をみるしかする事が無いからな・・・それにしても暇だ。ん?あれは―――」

 

 Ta152だ。この近くに飛行場があるのか、比較的低高度を飛んでいるように見える。Ta152とひとくくりにいっても大きく分けて2つ有る。

 前世は軍オタであったたために趣味がこうじ,この国の軍備は一通り国内向けに発表されているものであるが、一通り調べて見たのだ。

 

 まずは高高度戦闘機型である。史実のTa152H-1に近い形状をしていて、恐らく高高度でも問題なく飛べるよう翼面積を大きくするために翼幅が大きく、一つ見ですぐわかるほど特徴がある。主に迎撃戦闘機として使用されているとのことだ。

 形式名はTa152H-1である。

 

 二種類目は制空戦闘機、戦闘攻撃機型である。低高度で使用し、対艦攻撃や近接攻撃支援、そして制空任務を主な任務とする。

 そのため、一番被弾しやすい機体である。よって多くの被弾対策を施しているとのことだ。

 

 先に説明したのとは高高度性能は其処まで必要はない。

 

 レナ女吏に教えて貰ったが、低高度性能が必要であるために低高度で最も性能が出るようにただの重りとなる排気タービンを除いてあるらしい。

 

被弾対策として燃料タンクを防弾ゴムで被覆する他に二酸化炭素自動消化装置、パイロット周りやエンジン周りを覆う鋼板装甲、操縦索の一本が切れても問題ない用にバックアップを用意するなど多彩な被弾対策を施している。

 当然機体重量は重くなる。排気タービンを抜いて有るにしても更に艦載機運用も考えてあるために更に重量が嵩む事になる。それを無理やり大馬力の水冷エンジンで引っ張っている機体である。

 

 形式名はTa152G型である。G型にも色々有るらしく、対地のための武装強化型のG-2(モーターカノン75口径30mm機関砲を付与し、翼内を60口径30mm機関砲2挺に換装)

 敵戦闘機に有利に戦えるよう、12.7mm機関砲8挺からモーターカノン20mm機関砲と翼内20mm機関砲2挺に換装し、武装の軽量化を計りながら瞬間火力を強化したG-6。

 

 

 それで今飛んでいるのはTa152G型だろう。H型と違い、2段フラップを装備し、前縁スラットももちろん装備している。翼形もTa152H-1とは明らかに違う物だ。

 

 

 さて、特別目を引いたTa152は飛び去り、外は恐ろしく寒そうな雪景色である。針葉樹林には雪が少し積もり、欧州の景色を彩っている用に思える。

 次々と移ろっていく景色を眺めながら次の任地はどの様な場所なのか思案していると、ガクンと揺れがして列車が段々減速していった。そろそろ着くのだろうか。

 

 

 遂に目的地であるブリュッセルの仮設駅に付いたのだ。

 

―――――――――――――――

1923年12月13日

ブリュッセル郊外 第七強襲戦闘団駐屯地

 

 西方方面軍司令部直轄機動打撃群

第七強襲戦闘団、第二〇五魔導中隊。それが私の新しい配属先だ。

 

 第七戦闘団は本来北方に配置されていた部隊だが、共和国の動員令に伴い再配置となり、ここ西方に配置転換されたと聞いている。

 そして、私が北方で戦った時の所属は西方方面軍司令部直轄機動打撃群 第七強襲戦闘団の一員として戦ったのだ。

 

「久しぶりだな、ターニャ少尉。ようこそ我が中隊へ」

 

「大尉殿、お久しぶりであります。」

 

 見覚えがある中隊長であるイーレン・シュワルコフ大尉の面を久しぶりに見た気がする。

 

「さて、見覚えがあるものが多いと思うが、あの(・・)ターニャ少尉だ。

 さて、我々は4個小隊で構成されているのは存じているとおもうが、1個小隊、つまりはターニャ少尉が前にいた小隊がこの前別の中隊に引き抜かれてな、新たに新兵が補充される事になった。

 それでターニャ少尉に新兵を率いて小隊長をやって貰う。」

 

 ――新兵の世話か。生存率が落ちるな・・・

 

「新兵の引率は楽では無いと思うが、宜しく頼むよ、ターニャ少尉。」

 

――――――――――――

翌日12月30日早朝

 

 この世界は我々を休ませてくれる気は一切ないらしい。

 

早朝、共和国軍が越境したとの一報が入り武装状態での待機を指示された。

 

 

 

主力の動員が完了しないうちに完全充足の精鋭師団で奇襲とは。

 

フランスの割には上出来。

 

 

「さて、中隊諸君。共和国軍は戦車を先頭に自動車、騎兵を多数用いて、リール、ダンケルク方面から多数越境行為をしている模様だ。

 航空魔導師の援護を受けており、行軍速度が非常に速い。

 今日中にブリュッセル、アントウェルペン正面の防衛線に到達する見込みだ」

 

 シュリーフェンプランだな。ただし攻守が逆だ。シュリーフェンプランは西暦世界では色々あって失敗したも同然だったが、戦車を含む半自動車化騎兵で実行された場合は恐らく成功する。

 

 ブリュッセルを突破されたら帝国はライン川まで後退することになるだろう。

 

「我々の任務は、ブリュッセルに接近している軍団の防衛線突破を阻止することだ。

 なお、この防衛には陸軍の機甲師団、機械化歩兵師団、自走砲部隊、更に空軍の魔導兵部隊や航空部隊も参加する。

 敵を各個撃破、機動防御に徹する。反撃はするが、今は防衛に徹する。では、宜しく頼む。

 

 第七戦闘団からは二〇二、二〇四と我々二〇五中隊が制空戦闘を実施する。

 但し第四小隊は不参加だ。」

 

「何故ですか中隊長!」

 

 うちの小隊の伍長が余計なことを言い出した。新兵が口を出す状況じゃない。

 

「やめろハラルド伍長」

 

「ですが少尉! 自分は戦うためにここに来たのです! 新兵だからと「やめろと言ってるんだ!」

 

 死にに来たのかこの愚か者は。あの熾烈を極める帝国の魔導兵訓練を経験してもその性格は直らなかったと見える。

 

「今の貴様らが行っても無駄死にか足手まといになるだけだ! これ以上無駄口叩くようなら抗命で処分するぞ!」

 

そう言うとハラルド伍長は悔しそうに拳を握りしめながらも黙った。

 

「・・・申し訳ありませんでした。」

 

「良いかな?では我らが白きエースに言葉を貰うこととしよう。」

 

 それはあなたが言うことでは無いのでしょうかね、シュワルコフ大尉。仕方ないから言うのだが。

 

「新兵達には申し訳無いが、訓練終了したばかりの者をいきなり制空任務に駆り出すことは危険である。帝国の訓練を通せばある程度練度がつくとはいえ、新兵は新兵だ。

 

 出撃する諸君は義務を全うせよ。ヴァルハラに転属することは許可しない」

 

―――――――――

 この世界には転生者がいる。帝国のトップ、エリザベート殿下。

 

 その妹であるカタリナ殿下。

 

 空軍の設計局で主任設計技師を勤めているレナ空軍大佐。

 

 近衛第二師団長を勤め、電撃戦という戦術をこの帝国軍に提案した人物であるカリン近衛少将。

 

 そしてこの私。

 

 で、帝国にもこんなにも居るのだから、敵にいないとも限らないのだ。

 

 恐らくフランソワに一人。ド・ゴールでド・ルーゴ・・・その可能性は大いにある。何せあのフランソワがシュリーフェンプラン擬きを出してきたのだ。可能性はある。

 

 まぁ良いか。出撃準備をするとしよう。

 

―――――――――

 

『此方管制塔、地上より支援攻撃の要請を受けた。目標はα12に存在、素早く敵を撃滅せよ。

 なお、味方空軍の到着は5分後であり、近くの航空兵力は貴小隊しか存在しない。α12付近には航空魔導師の反応は無い。貴小隊の任務は近接航空支援である。速やかに敵を撃滅せよ。』

 

 

 

「アドラー1了解。さて小隊諸君。ブリーフィングでも言ったとおり、今回の出撃は対地戦だ。言われた通り近接航空支援任務である。迅速に敵を殲滅せよ。」

 

 

 指定されたポイントである、「座標α12」に向け飛行する。新兵を率いている為、100km/h程度とあまり速度を出すことは出来ないが、それでもフランソワの新兵よりかは練度が高いのは事実である。

 

 双眼鏡で索敵しながら飛んでいると敵戦車らしき物が目に入った。ついでに、味方の悲鳴の無線も。

 

 

『味方歩兵戦闘車被弾!敵戦車砲塔此方に指向中、よけろ!』

 

『無理言うんじゃありません!』

 

 

 

『パンツァーファーストでもいい、誰か対戦車兵器を持って来い!』

 

『パンツァーファーストはもうありません!』

 

『クソッタレ!空軍はまだか!』

 

『後3分かかると言ってます!』

 

『畜生!』

 

『・・・敵戦車砲塔こちらに指向、待避、待避!』

 

『ばか、勝手に逃げるな!ぐぁぁ!・・・・・・』

 

 

 

 

「チッ・・・」

 下の様子は軒並み地獄らしい。

 

 

 

 

 

 帝国軍らしくはない一面である。確かにこのような風景はめったに見られない風景だった。

 

 基本的に機動防御戦は帝国が優勢であり、豊富な対戦車能力や機甲戦力を生かして敵を叩き潰していた。

 

 ただ、ライン戦線は敵が大量に来るために物資の供給が1日でわずか10分ほどであるが欠乏する時間があった。

 其処を偶然つかれてこのようなことになったのだ。

 近くには対戦車自走砲部隊や機甲師団の車両が全くいなかった。機動歩兵に基本的に随伴する機動砲部隊も居なかったのだ。

 

 正に偶然に偶然を塗り重ねた、敵にとっては奇跡に等しい事だった。ただ、その奇跡の時間も後僅かである。

 

「あれはフランスのB1重戦車といったところか。」

 

 ターニャが対地戦だからと言って3倍スコープを載せたG3KA4を構える。レティクルは敵戦車に合わせて、右手でセミオートマチックを選択していたセレクターをフルオートにする。

 

 ゆっくりと引き金を引き、銃弾が発射される少し前で引くのを止め、息を止める。1秒以内に照準をぴったり合わせて、ほんの少し引き金を引く。

 

 するとどうなるだろうか?

 

 正解はG3の7.62×51mm弾が700m/sで発射され、20発弾倉の全てをちょうど2秒で撃ちきられる。

 

 魔導師の小銃弾は威力で言うと105mm榴弾砲に匹敵する威力をもつ。即ち、2秒に105mm榴弾が20発着弾するのと同異義である。

 105mm榴弾に匹敵する火力を20発もたたき込まれたB1ter重戦車はどうなるか明らかである。

 

 即ち、搭乗員は着弾の衝撃による装甲の裏側部分の剥離により瀕死状態もしくは死んだ状態になってしまう。(装甲が厚くても必ずしも中の搭乗員が無事とは限らない典型的な例)

 そして爆炎により排気口から異物が混入しエンジンが停止し、ついでに燃料に引火しエンジン火災を起こす。その火災の熱により30秒後には搭載している弾薬の引火を引き起こす。

 弾薬の引火は爆発的な衝撃を起こすのだ。そして弾薬の引火により、重い重戦車の砲塔が吹っ飛ぶのだった。

 

「敵戦車を撃破。」

 何の感慨も無く任務を遂行したことを確認した。目下には敵の姿は一切見られず、敵に撃破された歩兵戦闘車の残骸と、せわしなく動く味方歩兵、そして砲塔が吹っ飛んでもなお燃え続ける敵重戦車だけであった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

1924年1月フランソワ陸軍司令部

 

「何故、進めんのだ!」

 

 ド・ルーゴはフランソワ陸軍司令部で叫ぶ。彼の怒りはもっともであり、司令部における誰も彼もが不思議で仕方がなかった。

 

開戦初日から1ヶ月以上経っているにも関わらず侵攻できたのは僅か2~3km、しかも越えたといのも帝国軍が敷設してあった地雷原と鉄条網、対戦車壕を超えたという程度に過ぎない。

 

 その3kmより先には全く進めていなかった。

 

 前線からは悲鳴のような報告が大量に届いているが、それらは到底信じられるものではなく、すぐに信頼できる参謀を派遣し、詳細な調査を命じていた。

 

 100m進むために大隊が消し飛ぶと言うことは日常である。

 運良く1km進めたと思ったら、帝国の機甲部隊が待ち受けていてフランソワ陸軍1個師団規模が全滅。

 砲兵との撃ち合いで帝国砲兵に押し負けた。

 物量が帝国の方が上回っているそうで、銃弾が嵐のように飛んでくる、砲弾が雨のように降ってくる、ついでに帝国空軍から500kg爆弾が雨のように降ってくるなど。

 前線からは悲鳴のような報告しかあがらなかった。

 

「だが、空軍は互角なはずだ!あの最新型戦闘機ならなんとか・・・」

 

 するとドアノックがされて参謀が入ってきた。

 

「少将、残念なお知らせです。」

 

「・・・聞きたくはないが、聴かねばないらない。なんだ?」

 

「前線に展開している空軍部隊を調査してきましたが、壊滅しています。未帰還機の数は分かっているだけで既に1000機近いらしく・・・」

 

「・・・続けろ。」

 

「更にパイロットの損失も並大抵ではないそうです。

 

 数少ない帰還できたパイロットの報告によりますと、敵戦闘機は直線において最低でも時速600km台後半は出ているそうです。更に、敵に銃撃を加えたところ、銃弾が有効打を得られないらしく、破壊力がある20mm機関砲が明らかに操縦席やエンジン部に当たっていたそうですが敵戦闘機が落ちなかったと言う報告まであります。」

 

 

「ならば機甲軍団と予備の歩兵戦力を一箇所に集中させ、敵戦線の突破を図ることは可能か?」

 

「制空権が覚束ない現在では集結すれば叩かれる可能性が高いかと……」

 

「はぁ・・・攻勢を中止し、立て直しを図るしかないか。」

 

「今の所はそれしかないかと。」

 

 

 

―――――――――――――――

1923年1月12日 帝国軍統合作戦本部(通称参謀本部)

 

「それで、損害を最小限にしながらも敵を押しとどめる事に成功しているのですか?」

 

 帝国のトップ、エリザベートが帝国3軍の参謀に対して質問を行う。本日は現在の味方の被害状況と、それに対する今後の作戦の検討が主な議題である。

 

 

 しょっちゅう開かれるこの会議は議長である皇帝エリザベートを筆頭とし、空軍の作戦参謀長、海軍の司令長官級の人物やそれに準ずるもの、陸軍の作戦局の長官や戦務参謀長クラスが主に参加する。

 殆どは少将や准将などの将官クラスに、重要なポストについている大佐から少佐までの佐官クラスのおおよそ10人前後で開かれる。

 

 

 陸軍より、戦務参謀ゼートゥーアが質問に対し返答をする。

 

「はい、殆どの戦線で死傷者を出さずに敵を撃退、もしくは撃破する事に成功しています。ですが・・・ラインラント戦線は極めて難しい戦線であります。

 何しろ敵が殆ど無為無策で突っ込んで来るのですが、些か敵が多く・・・機甲師団だけでなく、対戦車自走砲部隊にも動いている状態です。」

 

「補給はどうなんですか?」

 

「1日に10分ほど切れる時があると。」

 

「なる程・・・空軍作戦参謀!」

 

「はっ。」

 

「ライン戦線に補給物資の投下を行うことは可能ですか?」

 

「可能です。ですが補給物資が敵の手に渡る可能性がありますが。」

 

 実は補給物資が鹵獲される事は意外とあるのである。それは前世、傭兵となって戦地を飛び回っていたエリザベートには勿論知っていることだった。

 

「それはもちろんわかっています。対策は考えれば思いつきますが、敵に鹵獲されることは心配しなくても良くなるでしょう。」

 

「・・・それはなぜでしょうか?」

 

「・・・陸軍戦務参謀。此方の被害と敵の考えられる敵の戦死者数の統計を。」

 

「分かりました。」

 

 統計が書かれた紙を全員に配られる。

 

「おおよそ帝国の死傷者は今のところ2500人。そのうち死者は1000人、そのほかの1500人は負傷者で、一年以内に復帰可です。対して協商連合の想定被害はすでに5万人以上であると考えられます。」

 

「という事ですね。戦争開始一週間で5万人以上被害を出したら考えることは3つあります。部隊を撤収させて再編し我が帝国の補給が追い付かなくなるほどの攻勢をかけるか、立て直しを図りこの戦線を膠着させるか、もしくは迂回か。その3つです」

 

「そして、フランソワはおそらく要塞線に引きこもるでしょう。帝国の防衛線を抜けないと感じたのならば、長期戦に持ち込むはずです。そこを叩きましょう。さて、カリン少将の出番はまだ少しかかりそうですね。とりあえず補給物資の投下は許可します。」

 



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1話で終わらせるダキア戦役

サブタイのまんま






今回は正式に精神的BLタグを回収します。
そのような描写が苦手な方はこの作品を一生開かないよう忠告致します。


 ド・ルーゴが動かない戦線に業を煮やし、囲碁で言う捨て石のようなモノを放りこむ。すなわち

 

―――ダキアを動かせろ――――

 

ダキア大公国。帝国で見ると西方戦線より1300㎞程離れたその国は帝国より南東方向でありフランソワ共和国との戦線である西方戦線よりちょうど真反対だった。

 

 そして、帝国は戦力のほとんどを西方戦線につぎ込んで自身の領土防衛をしている――――

 そう考え、帝国の最も柔らかく、そして効果がありそうな喉元をナイフで突き刺せる場所に位置するとド・ルーゴは考えていた。

 

 考えは明白である。ダキアを帝国の戦争に持ち込ませることによって帝国に2正面作戦を強いることにより戦略を破綻させることである。

 

 もちろんダキアがあの帝国相手に勝てるとは露ほども考えてない。ダキアは帝国を釣る餌であり、捨て石でもあるのだから…

 

―――――――――――

1月21日 統合作戦本部

「ダキア軍が越境した?」

 

 「あれほど分かりやすく、隠しもしない大動員だ。てっきりブラフだと思っていたのだが…」

 

とはゼートゥーアの言葉だが、この場にいる全員の気持ちを代弁していた。

 

「今一度、本当に越境したのか確認させろ。」

 

「失礼する。」

 

 その時、空軍作戦参謀長、そして後ろにはちゃっかりとエリザべ―トも一緒に会議室に入ってくる。

 先に会議室にいた7人の陸軍、海軍参謀はエリザベートが入ってきたと知るや否や一斉に起立し各々敬礼をきめ、エリザベートが座ると敬礼をやめ座った。

 

 自身が座る場所のイスに座ると実はエリザベートの夫だったりする空軍作戦参謀長(空軍大将)は持っていた紙を片手に持って話し始める。

 

「先ほど入った情報ですが、我々空軍が国境付近を偵察したところ、ダキア大公国軍は確実に越境をしたとの事です。」

 

「確実に、ですか。」

 

「はい。」

 

「なんと…まさか攻めてくるとは思いませんでしたから、平常時の防衛戦力しか置いてません」

 

「起動防御するにしても防衛拠点を構築する時間があるかどうか…」

 

「では、我々空軍が少しだけでも足止めを…」

 

 

 

 

 その時エリザベートは薄く笑っていた。見るものによっては恐怖を感じるような薄気味悪い何かを企んでいる悪い顔。

 

 その場にいた全員はそれを見てこう振り返る。

 

「 す ご く 怖 か っ た 」

 

と。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お姉さま、少しご報告が。』

 

『何ですか、カタリナ。』

 

『最近ダキア大公国に動員令が発令されたことを受けて諜報員を向かわせて情報収集をしたのですが…』

 

『うん。それで?』

 

『はい、あの…戦闘機も、魔導士もまともな戦力がないそうです。』

 

『そうなのですか?』

 

『はい、戦闘機はフランソワの旧式であるVG13重戦闘機などだそうで、魔導士もフランソワのそれよりもひどいとの情報です。』

 

『そうですか。』

 

『さらに、配備されている小銃もフランス…いや違いました。フランソワのお下がりのボルトアクションだそうで。』

 

『欺瞞情報の可能性は?』

 

『可能性も無くはないですが、結構ダキア国内では情報駄々洩れでしたので。わざと偽の情報をダキア国民に流した可能性もあります。』

 

『もし本当だったら、ダキア公国の頭は情報戦の頭文字すら知らなそうですね』

 

『ええ。ただし偽情報だった場合…』

 

『ダキア公国は情報戦を知っていることになる。』

 

『ええ。情報に確実性が持たせるようさらに諜報戦を仕掛けることにします。』

 

『よろしくお願いしますね。』

 

『はい、任せてくださいお姉さま。では私はこれで。』

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふふ・・・これは好機だ。」

 

 ワイワイガヤガヤと、敵がどの様な装備をして、どの程度がいると言うことを確認できていないままに対策やドコソコの部隊を迎撃に~と論じている参謀達が、少し様子がおかしいエリザベートに疑問を抱く。

 

 まぁ必然的にエリザベートの顔をみることとなる。

 何時もは淑女らしく優雅に微笑んでいるか、敵をコロコロしたと言う報告をつまらなそうにしながら聴いていたり、時には面白そうに赤い目を輝かして聴いているかのどちらかであるが、この時は違った。

 

 鋭い目をして口角を上げて、少し不気味に微笑んでいた。そう、まるで獲物を前にした肉食獣のような・・・

 

「殿下・・・?」

 

 エリザベートを見た全員がぎょっとするがそんな事は関係無いように、イスから立ち上がり、話し始める。

 

「諸君、現在の戦闘について今は語らせて貰います。

 今の戦争は国家の体力と体力を真っ正面から殴り合う戦いで、簡単に言うなれば、どちらが多くの国家的リソースを保有しているのか。

 それで勝敗が決まると言っても過言ではありません。

 国家のリソースには多趣に渡ることは貴官らが軍大学で学んだ事でしょう。

 

 例えばゴム。ゴムは帝国の優秀な技術者が合成ゴムを作る方法を確立してくれたのであまり心配する必要は無いでしょう。

 

 鉄を筆頭とする、金属類。モリブデン、タングステンなどの希少金属。鉄鉱石に関しては去年負かせた協商連合より輸入する事になっています。

 

 そして、何より石油がなければそもそも戦争は出来ない。

 

 そして、ダキア大公国には油田があります。

 

 

 さて皆さん、私の言いたいことは分かりますよね?」

 

 エリザベート含め、この場にいる全員は軍大学を卒業している、エリート中のエリートである。

彼女が言わんとする事を分かるのは必然であった。

 

「ダキアを2ヶ月以内で吹き飛ばしなさい。法の許すまでのあらゆる手段を使っても構いません。

 

 勿論。『油田付きで』です」

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝、ダキア大公国への侵攻作戦(・・・・)が首相に承認され、皇帝エリザベートも承認した。

 

 

 

作戦名は

 

Fall Blau(ファル ブラウ)

 

 日本語で言うところの『青作戦』である。

 

 

 実は首相がこの作戦を承認したのには訳がある。ダキア軍の内情の裏付けがとれたからだ。

 カタリナが本気を出して(諜報局の金をダキア方面にかけたとも言う)諜報戦を仕掛けた事によりほぼ確実な情報手に入れる事が出来たからである。

 カタリナが手に入れた情報は裏付けがとれた以上にダキア軍の粗末さを表していた。

 

―――――――――――――――

1921年1月19日  帝国諜報局

 

「局長、失礼します。」

 

 カタリナはちょうど書類仕事をしていた。

 インクの瓶をあけて万年筆にインクを浸しながらカリカリと書類仕事をこなす。

 横には使われたであろう、インク吸い取り紙もその辺に散らして置いてあった。

 

 

 実はカタリナは今日の朝、諜報局へ出勤するのを見送るついでに「行ってらっしゃいのキス」を夫であるルドルフにして見送った。

 なお、日課になっている()

 

 

 自身がこの世界に転生してはや35年。当初15歳までは男としての精神が残っていた。

 ただ、やはり女の身に転生したせいか、性格でさえも女になっていく・・・いや染まっていく。それを実感したのは、いつ頃だったか・・・

 

 局長補佐の声を聞き思わず眦を下げてふんわりと笑ってペンを置く。

 

 

 そう、実感したのはルドルフと結婚してからかな。

 

 16になり、お祖父様にカタリナも結婚しなさいと言われ、取りあえず身近にいた私の補佐をしていたルドルフに偽装結婚を持ちかけてみた。

 そうしたら、普通に承諾されて周りにはカタリナ殿下も結婚するのかと大盛り上がりされて周りがあれよあれよと言う間に準備を整えて。

 そして結婚式を挙げることになってしまった。

 結婚式には諜報局の主要なメンバー、元501FG隊員や親戚が集まり盛大にされた。

 ただ・・・良かった。そう思ってしまった時点で、女に染まってしまったんだと思う。

 

 何だかんだあって私はルドルフにお腹を膨らまされ、娘3人を拵えてしまった。

 だけども彼を愛しく思うのは・・・あのターニャが言っていた存在X。

 この世界では『神』と崇めているモノの存在の所為なのか。

 それとも、私がそうなるべきだというFate(運命)だったのか。

 それは分からない。

 ただ、おおよそ元501FGで現世では女として生まれてきた人達は同じ様になっている。

 各々、自身の夫と出会ったきっかけは違えども、私も、姉のエリザベートも、レナも、カリンも、皆がそれぞれの夫を愛しているのだから。

 

 だから私は彼の事を愛してやまない。

 かつては男だったとしても。

 

 

 

 

 

 

 ドアの方へ目線を向ける。

 

「どうしましたか?」

 

「ダキアの件です」

 

 すると、カタリナは身内しか見せない緩みきった顔を引き締めてとりあえずは報告を聞く事にしたらしい。

 ただ自身が自然に緩みきった顔をしていることを余り自覚していないが、彼女は仕事になると自然と引き締まるのである。

 

「ダキアの情報ですが、あれに裏付けが取れました。そしてこれが情報分析管の報告です。」

 

 報告書と言うには普通のレポートのようなものになっているが。

 

 レポートには情報を分析したことによると、どう考えても魔導師の情報も航空戦力の情報も出てこなかった。

 それもそうだろう。魔導師に必要な宝珠は生産出来るのは大抵は列強諸国でそこら辺の国が作るのは難しい代物である。

 

 また、航空機の有用性は帝国が示したばかりであるが、ダキアには航空機をもし買ったとしても維持できるような産業基盤が無いのだ。

 

 そもそもパイロットが居ない。

 

 ならばと、航空機を無理して導入しようとするとそれには整備人員や派遣パイロット、更に自国パイロットの新規育成まで、全部セットで行えるだけの金を払う必要がある。

 

 日本は戦争に負けた敗戦国とは言え、その産業基盤は十分整えられていると言っても過言ではない。

 日本には航空機を生産する重工業会社が多く存在し、現在の最新技術の塊であるジェット戦闘機等をライセンス生産するほどの工業力は保有している。

 現在そのような事ができるのは数える程しか居ないだろう。

 

 

 話を元に戻す。

 

 今の所、宝珠を生産できる国というのは限られている。列強位しか生産していないのだ。

 そんじょそこらの小国には生産は不可能だと言えよう。

 

 よってダキア軍には航空戦力は皆無に等しいのが実状であろう。

 侮って痛い目に合ったのは日本の零戦が登場した頃のアメリカと言う例があるが、この場合ダキアは第二次どころか第一次世界大戦頃の日本の工業力より劣っていた。

 

 

 

 そして話は次の話題に移る。

「ダキア軍があれだけの大増員をしましたが、それはただ下士官が増えるだけ。」

 

「下士官は増えても士官は時間をかけないと育たないものだからね。」

 

「ええ、増やそうと思って簡単に増やせるものじゃない。ですからダキア軍は慢性的な士官不足にあると考えられます。」

 

「それで統率はとれるのかしら?」

 

「ほぼ不可能でしょう。とろうとするならば、中世のように戦列歩兵になってしまうかも?」

 

「さすがにそれは・・・」

 

「とりあえず、報告終わりました。さて・・・」

 

「?」

 あざとく首を傾げる。

 

「はぁ・・・今日の晩御飯はどうしますか?」

 

「あぁ・・・うーんと・・・取りあえず何時もので!」

 

「分かりました。」

 

 そのまま部屋を出ようとするルドルフに、少し寂しくなったカタリナちゃんは思わず呼び止めてしまった。

 

「あ、ちょっと・・」

 

「何でしょう?」

 

「えっと・・・」

 カタリナちゃんは取りあえずイスから立ち上がりルドルフの方に近づき、頬に一つのキスを落とした。

 

「はい、私の夫何だから。頑張りましょ?」

 

 ルドルフは絶句する。何故なら、カタリナちゃんは余りこのような事はしないからである。

 ルドルフはカタリナと結婚し、既に娘が3人いたとしても、結婚から早10年以上が経ったとしても、ふとした拍子に自身の妻に惚れるのだ。

 

 

 

 

 

 

 1月22日、空軍は主に帝国の南東地域*1を担当する第4航空軍のほぼ全ての作戦機がかき集められる。

 騎兵戦闘車や歩兵戦闘車を中核とする陸軍第7師団を空軍輸送機20機程でピストン輸送し、ダキア方面に戦闘車を速達していた。

 

 

 帝国南東部に駐屯する帝国陸軍第4師団にも出撃命令が下る。

 

 第4師団は通常の機動歩兵に歩兵戦闘車をセットにした3個連隊、戦車1個大隊、機甲偵察大隊、砲兵大隊、工兵大隊等やそれらに付随する後方部隊を含めた帝国の一般的な陸軍師団である。

 

 空軍、陸軍共に4日以内までに素早く展開を終了し、作戦日を待つのみとなった。

 

 一方ダキア軍はと言うと、全く抵抗が無いのに疑問を覚えながらも侵攻を続けていた。

 

「国境線を侵入して速くも4日。もしや帝国は共和国の言うとおり防備を此方に裂けて無いのでは?」

 

 ダキア軍司令部ではそのような言葉が最近4日の間に飛び交っていた。

 

「相手はあの帝国だぞ?西方では強力な防衛陣地を作って共和国軍を防いでると専らの噂。

 

 帝国は4日で防衛陣地を何とか作り上げようとしているのではないのか?」

 

 ただ、彼らは解って居なかった。自分達と帝国との戦力がどの様に違うかを。

 それは身を持って知ることになるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 1921年1月26日、帝国の『青作戦』第1フェーズ。ダキア軍先鋒60万を壊滅させること。

 

 帝国の戦闘攻撃機Ta152G-6がダキア軍を発見したのは9時53分だった。

 

「ルーデル、今回はラインとは違って楽そうな任務だ。ライン辺りは飛んでいると敵戦闘機が飛んできたが、敵戦闘機が飛んでくる気配すらないな!」

 

「・・・そんな事より共産主義者共を殺せないか?」

 

「その内赤共とは戦争になる。それまではのんびりと爆弾落とすとしようじゃないか。」

 

 Ta152G-6の戦闘攻撃機編隊60機はTa152H-1の上空援護を受けながらも対地攻撃を開始する。

 

 ひとまずダキアの20万位の戦列歩兵っぽい集団に1トン爆弾と500kg爆弾2発を叩き込むと一気に吹き飛ぶ。

 それを60機一斉にやるものだから、合計60万の軍が吹き飛ぶのも時間の問題だった。

 

 第1フェーズ、航空戦力でダキア軍先鋒を叩き潰す~終了~

 

 第2フェーズ、油田の占領。

 迎撃機、高高度戦闘機であるTa152H-1を使い確実に制空権を確保した帝国は戦術輸送機を空域に飛ばし、遥か後方の油田に特殊部隊を空挺降下させ、占領する。

 戦術輸送機には海軍特殊部隊、空軍特殊部隊各1個小隊、合計2個小隊が乗っていた。

 何故陸軍特殊部隊が居ないのか。それはただ単に陸軍の特殊部隊が無いからだ。

 未だにどの様な任務にするか、設立するならばどの様な訓練をするか、特殊部隊の必要要項をどうするかなどで未だに議論されている(争っているとも言う)のが実状であった。

 

 内部で争っている陸軍を後ろ目に、海軍と空軍はさっさと特殊部隊を設立してしまった。

 

 海軍はいつもは影が薄い事を懸念し、陸空海問わず任務を行う事とした。任務は偵察任務、敵後方の破壊活動など。

 空軍は偵察、戦闘捜索救難などである。

 

 

 

 

 ダキア上空を高度4000mという比較的低高度で堂々と飛行していた航空機がある。帝国空軍戦術輸送機EKC-1戦術輸送機が飛行していた。それらに乗り込んでいたのは空軍第10航空団第105特殊作戦コマンド第1大隊より12人、海軍特殊作戦コマンド第3大隊より12人が乗っていた。

 輸送機一つでの飛行であるが、4000mの低高度で飛行していたのには理由があった。

 空挺降下をしやすくするのと、制空権が完全に取れており、魔導士の奇襲の可能性もあるが魔導士の最大到達高度は今の所およそ4000ftである。4000mと4000ftだと4000mのほうが圧倒的に高度が高い。よって魔導士による奇襲も不可能である。

 

 

 今回は空軍、海軍の合同特殊作戦である。

 作戦立案の際、出された案は当初空軍のみの作戦であったが、海軍がこの機会にと合同特殊作戦を提案。平時より合同訓練を行い、現場間では知り合いも多かった。

 そして、統合作戦本部内に設置されている統合特殊作戦本部がせっかくあるのだから利用する手はないだろう。そういう事だった。

 

 

「降下十分前です!」

 

「総員、立て!」

 

 全員の前で指示を飛ばしているのはサラ・フォン・フート空軍少佐。

 サラはカリンの長女であり、現在17歳。

 母親の血を完全に受け継いだようで、空軍士官学校では優秀な魔導士として認識され、3年前には魔導士レンジャーを取得。

 着実に母に近づいて行っていた・・・ 

 

 

 海軍、空軍の特殊部隊総勢24人が一気に立ち上がり、お互いの装備チェックに勤しむ。

 

 その後、機体外に次々と飛び、降下をしていく。

 

 

 4時間後、油田は帝国によって占領された。

 

 第2フェーズ、油田の占領~終了~

 

 

 

 

 

 第3フェース ダキアを地図から消す。

 

 ダキア侵攻。第4師団のみでの侵攻作戦となるが、その侵攻を阻めるモノは存在しなかった。

 ダキアがそもそも攻めるつもりだったのに、いつの間にか後方の油田が占領されてて、攻守が逆転して異常なスピードで侵攻してくるのだ。

 

 なんとか防衛しようと師団を送りこんでも、帝国の侵攻を阻む事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――2ヶ月後、ダキアが正式に地図上から消滅した――――――――

 

 

 

 

 

 

「ダキアについては、予定のスケジュール通り順調に統治体制構築が進んでおります」

「そうですか。後々でレジスタンスになられてもこちらが困るので旧ダキア国民には寛容に。」

「はい、それは首相からも言われております。」

「じゃあいい。」

 

「あの、実は・・・」

「? 何かあるのか?」

 

帝国外務大臣が発言する。

 

 

「ルーシー連邦から『分割線』の再協議依頼が…」

 

 

 

 

 

「 ま た か ! !」

 

 

 

 

 

思わず皇女と軍人たちが叫んだが、仕方がないことだろう。

 

「頼んでもないのに援軍派遣を申し入れてきて領土をよこせと要求し、しかも『切り取り次第』と言ってきたくせに何を言うか!」

 

と言ったルーデルドルフのこの発言に全てが表されているだろう。

 

 

 

「はぁ…。もうすでに譲歩しているだろう。これ以上は無理だと伝えて、お引き取り願おう」

 

「無論、そのようにしておりますが…」

 

「連中、よほど油田が手に入らなかったことが悔しかったと見えますな」

 

「そうでしょうね。・・・カタリナ。」

 

「はい、お姉様。」

 

「そろそろ潮時です。あの赤共の土地を分割し、同盟国を作る準備をしてください。」

 

「分かりました。」

 

 

 

 

 

「あの・・・それはどう言う事でしょうか?」

 

「ふふふ・・・それは未来のお楽しみですよ。」

 

 

 

 

 

 

 ルーシー連邦との開戦は意外と近い。

*1
ダキア大公国との国境沿いを含んでいる




赤の共産主義国の始末は既に決まっていることです。

実はその先の朝鮮戦争のことまでプロットがあったりして・・・


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キィエール

 帝国では海軍は影が薄いです。ですがそれも仕方ないことです。ただ描写していなかっただけですから。今回は海軍にスポットが…当たってると良いなぁ…












今回も精神的BLタグ回収です。


1924年1月23日 帝国海軍キィエール軍港 

 

 この日は帝国海軍初の超大型通常動力空母の進水式であった。

 

 名をグラーフ・ツェッペリン級航空母艦2番艦K・エリザベートである。*1

 

 今回の進水式には皇帝たるエリザベートちゃんは参加しており、皇帝の付き添いとしてエリザベートちゃんの娘で次期皇帝のクリスティアネ・フォン・クロイツフェルンが参加していた。

 そして意外なところで言うと帝国空軍や陸軍もある一定数参加していた。空軍は実は空母を作る際に海軍から協力を受けたために、空軍の開発の最高責任者が参加した。

 

 

 

 

 グラーフ・ツェッペリンが作られる経緯を説明しよう。

 

 帝国が当時仮想敵国としていたルーシー連邦およびフランソワ共和国との戦闘において、海軍は自国の沿岸防衛を主とすることが想定されており、大西洋の奥にまで出撃し、敵地へ攻撃することは想定されていなかった事である。

 要は沿岸防備海軍である。

 

 このような想定であれば、航空戦力は陸上基地からの航空戦力で十分だと考えられていた。

 何しろ世界の空軍力の中でもトップクラスの強さを誇る帝国空軍がいるのだから。

 

 しかし当時はまだ空母という艦種の有用性が確立されていなかったので、戦艦の建造を優先するべきとの考えもあった。

 当時はまさに大艦巨砲主義の全盛期であった。

 

 しかし、仮想敵のフランソワ共和国とアルビオン連合王国が急接近すると、帝国海軍は北大西洋上における連合王国海軍との戦闘を本格的に想定する必要に駆られた。

 しかし連合王国との戦艦数は劣っており、連合王国との海軍との戦力差については、今まで海軍の方針であった沿岸海軍のツケを支払う事となる。

 

 すると戦艦を新たに作るか?いや並大抵の数を揃えなければ連合王国には対抗出来ない。

 そんな事は帝国でさえ難しかった。

 なぜなら空軍や陸軍の分配予算的に厳しかったからである。

 

 効果的に敵の主力艦を一方的に屠れる事が出来ないか。

 一番最初に考えたのは長い射程を持つ戦艦を作ることであった。

 1908年当時、射撃管制装置付きレーダー(FCS)が実用化間近であり、効果的に仮想敵艦に命中弾を浴びせる事ができるかに思えた。

 

 しかし此処である問題が浮上する。

 射撃管制装置付きレーダーの捕捉距離が水平線が在ることによって、21500メートルしか無かったからである。

 地球は丸く(諸説あり)*2その関係上水平線がレーダーの見通し距離の妨げになり、見通し距離はどれだけレーダー高いところに置くかによって決まる。

 ただ、艦橋を高くして、天辺にFCSレーダーをのっけると言っても限度があるし、試しに長大な射程を持つ420mm口径の主砲を試作した。

 そうすると41000メートル程の射程に達したが、その主砲に見合うだけの装甲を配して設計すると基準が8万トン級になるとの事であった。

 それに目を剥いた海軍上層部はさすがにこのような戦艦を作れる予算が海軍には無いとして、ワンランク下げた406mm級の戦艦建造を命じた。

 それらは連合王国が持つ16inch砲艦に対抗するためだけの物であったが、帝国での最新のモノを詰め込んだといっても過言では無かった。

 

 406mm50口径3連装砲3基9門(主砲射程39000メートル)を有する戦艦で、基準排水量4万9000トン最大排水量5万8000トン、索敵レーダー及び対空捜索レーダー、射撃管制装置付きレーダー等の最新技術を盛り込み、艦級はエリザベートの前の皇帝の名を冠したビスマルク級として登場した。

 ビスマルク級は1番艦ビスマルク、2番艦ティルピッツとして1910年に登場。

 

 先進的なデザインは当時の各国海軍関係者の度肝を抜き、当時の考えられる性能を想定し、連合王国はいち早く対抗艦を設計、建造した。

 但しその当時の技術では帝国が10年、20年先を行っているのを忘れていたのか、本物より過小評価をし建造したために連合王国海軍に取って良くない結果を産んでしまう。

 

 

 

 

 帝国が新型戦艦を作るに当たり、民間に新たな新型戦艦を作る事自体は公表していたので連合王国に帝国が新たな戦艦を建造している事を知られる。

 更に、対抗艦を作られると戦艦の数の差は埋める事ができなくなってしまっていた。

 

 最終的に海軍は連合王国との戦艦との数との差を埋めるための何かの『バランスブレイカー』を欲して、帝国3軍の参謀や当時丁度帝国のトップになった皇帝エリザベートちゃん(23)が参加する統合作戦本部に議題として提出する。

 

 そうすると、エリザベートちゃんがあっさりと答え出した。

 

「船にうちの最強の戦闘攻撃機Ta152を載っけて戦艦へ攻撃すれば良いじゃない。」と。

 

 1902年のある時、ルーシー連邦が秋津洲の裏庭である朝鮮とシナの北東を侵攻したために鳳翔と龍驤が出撃、対地上における航空作戦を展開したことは知っているが、船に乗せた航空機が船を沈めれないという当時の常識ともいえるような固定観念にとらわれていた海軍上層部は半信半疑ながらも船を第2の航空基地として運用可能かを研究を指示する。

 

 しばらくすると、空軍から

「うちのTa152、船にのっけられる設計になってますよ。ついでにその専用の艦種のモックアップも作ってありますよ」

 と連絡が来た。

 

 

 海軍は良く分からないまま、空軍技術局に赴き説明受け・・・やっぱりよくわからない。

 

 取りあえず海軍の作戦参謀にその特別な艦種『航空母艦』とやらをどの様にして敵艦隊を本艦隊に被害を出さずにすり潰せるか。

 その研究をさせてみると、滅茶苦茶上手く行きそうだった。

 

 下手に長大で射程の作るだけでもコストがバカ高い戦艦を作るよりもローコストで、敵艦隊を絶対に主砲が届かない位置より一方的に攻撃が出来ることが分かった。

 そして、海軍の優秀な参謀が既存の帝国陸軍の戦術である電撃戦や機動防御を参考に立案した戦術が『機動艦隊理論』であった。

 

 大量の航空機積む空母を中核にする。

 そして周りに潜水艦を警戒する駆逐艦、そして防空艦を配置それぞれ数隻配置する。

 万が一の為に並みの戦艦であるならば戦艦並みの主砲射程と圧倒的な装填速度でねじ伏せることができる巡洋艦を2隻配置。

 

 そして敵が想定していないあらゆる場所から航空機による奇襲または強襲を行い敵撃破を狙うと言う物だった。

 

 それで空母の有用性を検証したいが作らないと始まらない為に取りあえずつくろうと言うことになった。

 

 取りあえずモックアップを作り、載っける予定のTa152を設計した空軍に共同設計を依頼したところあっさりOKが貰える。

 設計は空軍側に転生者であり現在技術者であった人物が居たお陰で3年と言う短い期間で終わる。

 

 

 そして1914年、計画建艦『プラン1925』が発動される。

 内容は1914年より建造がスタートし、最終的に1925年までに計画されるすべての艦が実戦投入されるという内容である。

 

 予定されている艦は、グラーフ・ツェッペリン級航空母艦の3隻を筆頭に、戦艦を屠れる程の性能を持たせたヒンデンブルク級重巡洋艦を7隻、防空巡洋艦プリンツオイゲン級防空巡洋艦を12隻、Z52型艦隊駆逐艦を24隻、艦隊に追随出来る高速給油艦や補給艦なども建造される大建造計画である。

 

 

 そして同時期に19世紀の遺物であった旧式戦艦の計10隻を記念艦やスクラップにして古くて手の掛かり古いせいで異常に金が掛かっていた戦艦を退役させて浮いたお金と少々増加した建造の為の臨時予算で建造する。

 そしてついでに旧式戦艦に乗っていた乗員を新しく建造した船たちの乗員にしたりした。

 

 

 

 

 

 

 これらが帝国で空母が作られた経緯である。

 

 

 連合王国は帝国が何かを建造してると聞き探りを入れるが、防諜によって弾かれ、唯一手に入った情報が搭載機20機ほどの9000トンクラスの軽空母を実験的に作るという事だけであった。

 当時空母の有用性はそれなりに理解はされていたが、対艦攻撃をするほどとは思っておらず、協商連合と連合王国は実験的に航空機を船に乗せたりして対地などの足が遅いものを対象に運用したりしていた。

 確かに船に航空機を載せるというのは何かと便利そうではあったので、とりあえず作っていたのがフューリアス級航空母艦、グローリアス級航空母艦、イーグル級航空母艦であった。それぞれ戦艦や巡洋艦の船体などを流用したり改造したりしていたので新造より安く済むこともあった。

 

 極東の島国の秋津洲でも鳳翔が19世紀末には竣工されており、赤城や加賀も大震災が起きて被災した戦艦の船体より改造し最新鋭空母として登場していた。

 日本に当たる秋津洲ではルーシー社会主義連邦と領土をめぐり小競り合いをしていた。

 1902年のある時、ルーシー連邦が秋津洲の裏庭である朝鮮とシナの北東を侵攻したために鳳翔と龍驤が出撃、対地上における航空作戦を展開したことが、わざわざ戦艦を空母に改装した赤城と加賀という2隻の空母が誕生しそして、航空母艦が意外と便利だという事を世界の各国が知り連合王国や共和国、合州国などの空母建造に密接に関係していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラーフ・ツェッペリンを代表とする主力艦はこれより進水ラッシュを迎える。1923年の12月よりおおよそ1ヶ月事に各航空母艦3隻と重航空巡洋艦6隻が進水を行う予定である。(因みに、その事実が拡大解釈され、月刊空母と言われもしたが、8隻程度なのでこの世界のアメリカが行った『月刊空母』のインパクトは無い)

 

 

 

 グラーフ・ツェッペリン級の2番艦の進水式は無事に終わった。

 進水式には将官クラスの人物が殆どで、例外に佐官クラスも居たが、エリザベートの長女で軍大学を3年前に卒業したクリスティアネ・フォン・クロイツフェルン空軍少佐であることくらいだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 進水式に参加していた将官の中に、とある人物も参加していた。

 

 フランツ・フォン・ツィーエ空軍技術局長(空軍少将)である。

 

 ひとまず、本日の大きな予定が終わった彼は迎えの公用車に乗る事30分ほど。

 最寄り駅まで来た後、6時間ほど汽車に揺られて帝国の中央まで来れた。

 

 その後はまた公用車が迎えに来たのでそれで30分揺られて勤め先の帝国空軍技術局に舞い戻ってきた。

 

 

 警備兵に自身のIDカードを見せて局長室に戻り、壁に掛けてある時計を見ると4時35分を示していた。終業時間は17:30であるので一時間ほど仕事をする事ができるだろう。

 

 ライヒの民族性は勤勉であり、わずかでも時間があれば仕事をするワーカーホリックじみた民族である。

 

 

 

 

 カリカリカリと金属のペン先が奏でる音が響き、自身に来ていた書類を認可し、または非認可をしたり…という書類作業をこなし早数時間。

 

「む…」

 

 そろそろ目が疲れてきて目筋をもんでさりげなく窓の外を見ると暗くなっていた。

 さすがに時間が心配であるので懐にあった懐中時計を見るとすでに19時半を回っていた。

 

 

 さすがにこの時間まで仕事をしているとなると妻が心配すると思われるのでここらで切り上げて帰るとしようか…

 荷物をまとめて、我が家に帰る準備をする。

 

 

「あ、お疲れ様です。」

 警備兵が私に敬礼をして見送る。

 

 暗い道を街灯が照らし、少々寒い風が吹く。

 思わず体を縮めて歩いてしまうが仕方のないことだろう。

 

 家は徒歩15分という以外と近くにある。

 高級軍人が多く住んでいる街に妻と私、そして3女と4女の娘の4人暮らしである。1人目の娘は軍人になったが結婚して寿退役となり、予備役に。2人目の娘は現在軍大学に通っていて寮生活。3人目はいまだに13歳であるので飛び級すらしたものの高等教育中、そして4人目の娘は10歳で中等教育中である。

 

 

 この帝国では現在の日本で言う皆保険制度ほどのものではないものの、医療が充実して貧しくても戸籍さえあれば3割程度の負担で帝国最先端医療を受けられることができる。

 …妻は35歳だが、子供を産めるのはおよそ38歳までと言われているので、そろそろもう一人欲しくなったので腰を据えて腹を膨らませようと思うのだ。

 

 ただ、妻はさすがに勘弁して頂戴というのだがなぜだろうか?

 

 

 

 

 

 とりあえず家の玄関についたのでドアの鍵を開け中に入るとパタパタと小走りの音が聞こえてきた。

「お帰りなさい、あなた。」

 

 妻のレナだ。

 4人の娘を産んでいるが、それを感じさせないほどで、昔は少女であったが今では女として習熟したなぁと感じる次第である。

 まぁ4人も子供ができたのは、レナに若い時分に偶然見つけた服屋で買ったスカートが異常に短いメイド服であったり、相当生地が薄いネグリジェを着せてみてはハッスルし、頼んで頼み込んで土下座までして休日の朝に裸エプロンをしてもらって我慢できずにそのまま…

 とまぁ若い頃はいろいろ若くハッスルしまくっていたが。

 

 さすがに年であるためさすがに恥ずかしがる妻にそういう事を頼むのは一か月に一回か2か月に1回と決めている。

 

 

 だが、今妻のレナがしている帝国空軍のブラウスの上に黄緑のエプロンをかけている姿はどうだ!…正直エモい。 

…あとで襲うか。

 

「ご飯にします?お風呂にします?」

 

「お前で…」

 

「時間がないのでそれは無いです。」

 

 ぴしゃりと断られてしまった。

 

 

 妻は優秀な技術者で、我が空軍の主力Ta152戦闘攻撃機やG3小銃、MP5短機関銃などの主任設計技師を務めた技術者だった。

 昔は優秀過ぎた部下に嫉妬心を覚えていたくらいだが、いろいろあって結婚して10年もたつ。

 

 今は私が愛すべき妻だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、私の夫が私が作った手料理を普通に美味しいと言いながら食べている情景を見て、そういえばいつからこの()を好きになり、そして愛してしまうようになってしまうのでしょうか。

 

 私は空軍技術大佐で空軍技術局の航空技術開発部門の長をしています、戸籍上ではレナ・フォン・ツィーエとなっていますが、仕事上はレナ・フォン・ワイスと名乗っております。

 そして、夫フランツ・フォン・ツィーエの妻でもあります。

 

 夫は軍系貴族の6男であります。6男というのは貴族の当主には絶対と言えるほどなれません。

 なので軍大学に通い、自身で生計を立てようとして、軍大学で技術系に進み、技術系軍人になって自身一人で生計を立てるようになったそうです。

 

 

 

 さて、私は前世が男であったために、男の感覚が未だ健在であった14∼16歳は男と結婚するなんて御免だとおもっていたのだが。

 

 契機はエリザベート殿下とカタリナ殿下の結婚だったのだろうか?

 私の今生の親が、私がなぜか普通に親しくしていたエリザベート、カタリナ殿下の結婚を受け、『あなたもそろそろ結婚しなさい。さもないと婚期が遅れるわよ!』と言い放たれた。

 個人的には結婚しなくてもいいかと思っていたけど、そうはいかなかったようで。

 

 

 同じ帝国軍の人間でありながら男の独身で、話も合うように技術系の人物を見繕い、お見合い話を私の知らない間に進めていた。

 両親は確かにかつて徴兵されていたが、それも20年前の話である。

 どうやって見繕ってきたのか知らないが、まぁそれなりのつながりがあったとしか思えない。

 

 

 そして私の両親と先方の両親でトントン拍子に見合い話が進み、見合い当日。

 ここまで育ててくれた両親のため、仕方なく見合いに参加したときにはまぁびっくりした。

 

 なんと私の上司だったからである。

 この時には本当に参った。

 まさか見合い相手が私の上司であったとは…まぁあちらも驚いていたようだが。

 見合いしたときは私は17歳、先方…今の夫は29歳。

 

 ただ、上司と部下の関係ではあったが知らない関係ではなかったので見合い話は受ける事にした。

 その時は婚約であったので、部下と上司という関係に婚約者としての関係が足された時でもあった

 

 

 

 

 

 彼は仕事中は上司と部下の関係で接してはくれましたが、プライベートの時分や、仕事の合間の休憩などになれば私を婚約者として扱うようになりました。

 

 

 いつかは覚えていませんが、上官であり婚約者にもなった上官フランツ・フォン・ツィーエ空軍技術大佐(当時)に呼び出しを受けた私は、目の前で跪かれて婚約指輪を添えて結婚を改めて申し込まれた事は記憶に深くのこっています。

 

 その時、不覚にも彼に思わずファーストキスをプレゼントしてしまいましたが、今はそれについて後悔などしていません。

 むしろして良かったと思います。

 

 その時期には彼と同居もしていましたが、彼にファーストキスをささげてから、彼が『いってらっしゃいのキス』とか『寝る前のキス』やらをねだるようになりました。フランツ、あの時舞い上がって調子に乗ってましたね?

 

 最初は慣れませんでしたが、彼に限定すれば普通にキスをすることができるようになりまして…ちょうどその時私はG3の機構をもとにMP5の設計に携っていました。

 

 

 

 そしてMP5の設計が終わり、帝国海軍と空軍に採用されたことが決まると、家で私の頭を撫でてくれました。

 その時は彼の撫でる上手さにウットリして彼の胸板にほおずりやらなんやらをやってたみたいです。

 

 彼…夫曰く

「これが撫でポっていうんだなぁ…」

とか言ってました。

 

 その時からでしょうか? 

 急速に精神が女性の方に引っ張られて行ったのは。

 

 

 婚約してから、フランツの事をちらちらと意識して、求婚されたときに思わずキスしたりとそれなりに精神の女性化が進行していたと感じるようになりましたが、彼に撫でポで手なずけられてから、彼を自然に好きになり、そろそろ自身の転生前の性別が男であるというような片鱗が若干残っていた時にちょうど結婚式というイベントが起きました。

 

 結婚式は本当にうれしかったという記憶しかありませんでした。

 

 最後にとどめとして結婚式というとどめを刺され、私は彼を愛し、愛される覚悟を決めました。

 その時より、私は女に染まってしまったんだと感じました。

 

 結婚式を挙げた後、二人っきりになりいわゆる初夜というモノを経験しました。

 まぁ、この小説に詳しく書くとR-18になるので初夜については秘密といたしましょう。

 

 初夜を経験し、夫にいろいろとヤラれて一人目の子を産まされ、二人目もすぐに仕込まれ…今考えると私の夫は鬼畜な気がします。

 

 珍しく一週間ほどやめたと思ったら、どこで見つけたかめちゃくちゃスカートが短いメイド服を着させて自分で勝手に欲情して襲われたり、

 頼み込まれて仕方なく日本では新婚夫婦がやりそうな『裸エプロン』を土下座をされてまでやらされて後ろから襲われたり…なんか私の夫は未来に生きてますね。

 

 男の性欲って際限ないんだなぁと思ったけど、結局私はそれに溺れてしまって。

 最終的に娘を4人産まされました。

 

 なんか最近夫がアレなんですが、さすがに戦争中なので私の腹を膨らませるような事はさせないでしょう(慢心)

 

 

 

 

 

 

 

 なんか私のフランツの目が逝ってるんですけど…

「あの、あなた?どうかしました?」

 

「やっぱ我慢できない。」

 

「は?」

 

「一緒に風呂入ろう。どうせ子供2人とも寝てるんだろ?」

 

「そうですけど、さすがにそれはよくない気が…」

 

 私はひょいっと抱えられて風呂場に連れてかれて抱えられたまま脱ぎ脱ぎされて…

 

 

 

 

 

 

 その後、慢心していた自分に嫌気がさしながらも上機嫌に夫に寄り添いながら普通に寝るのでした。

 

 まぁそんな事はたまにあるので慣れてます。

 確か4人目の娘を産んでから10年たっているのですね。

 

 まさか夫は5人目が欲しいのでしょうか?

 

 

 

 

 翌日。

 

 

「勘弁してください…」

 夫に苦情を入れるも

「無理。」

 と即答されました(´・ω・`)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5か月後、妊娠が発覚しました。…は?

*1
ドイツ語で言う女王、王妃と意味のKöniginを省略し、K・エリザベートとした。帝国海軍正式名称はK・Elisabeth

*2
丸いと言うのもあれば卵型、楕円の回転体だと言うのもある。



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エリザベートの華麗な日常(笑)

 唐突で申し訳ないが、皇帝の一日はどうなっているのだろうか。

 

 

 一日優雅な生活?それとものんびりとした生活?

 

とんでもない!

 

 

 

 皇帝エリザベートの朝は早い。

 

 大抵は5時前には目が覚め、5時ちょうどにメイドが起こしに来るのでそこで皇帝は朝5時に起きたことになる。

 ついでに夫のラルフやエリザベートの娘3人も一緒に起こされる。

 

―――――――――――

1924年2月7日 帝国首都 ベルン王宮

 

 エリザベートは夢を見ていた。

 目の前でどこかの国の首都、そして港湾が焼かれていた夢を。

 

 ただしその炎はただの炎ではない。

 空襲であるならばもう少し違うのだろうが、この炎のきっかけは核。

  

 核によるきのこ雲が至る場所より発生し、そしてあらゆる場所が更地に近いことになっていてパチパチと燃えていた。

 

 人は誰一人見えない。

 

 

 エリザベートは燃えている街の中を一人彷徨う。

 

「これはいったい…?」

 

 しばらく彷徨うとこの場所が分かる場所にたどり着くと思いあっちへ、こっちへ歩いてみるが、人一人合わず知っている建物の輪郭があるわけでもない。

 

 ただ、エリザベートはこの街の雰囲気というか、知っている道構造ではたと理解した。

 

「この道、どっかで見たことあるな。もしかしてこの街はベルンか!?」

 

 なぜベルンが核によって焼かれているのか、それはわからない。

 

 エリザベートにはよく分からなかった。

 

 

「お母様…」

 

 どこか遠くで聞いたことある声が聞こえる。

 

 

 

 

 

「お母様!」

 

 

 身体をゆすられて、私が産んだ娘の声が聞こえ、遥か遠くに飛んでいた意識を覚醒させようとして目を開けると。

 

 心配そうに私の顔を覗き込む娘3人と夫がいた。

 

「どうしましたお母様?凄く魘されていましたよ?」

 

「…夢を見たんですよ。悪い夢を。」

 

 あの夢…核が出てきたのは前世で核で死んだからなのだろうか?

 

 ただ、前世の私は核で死にそうになっても何の感慨も得たわけでもなく、何も感じなかった。

 そして、今世の私は前世の私の死に方に別に不満を抱いているわけではない。

 

 

 ただし、あの夢は嫌な感じがする。

 

 

「今、何時頃ですか?」

 

「えーと、もう少しで日の出なので5時前かな?」

 夫が閉められていたいたカーテンを捲り、外の様子をみて答える。

 外は少々曇っているようで暗そうだった。

 

「そうですか。…心配させましたね。」

 

 

「君が魘されるのは珍しいけど…最近疲れてるのか?」

 

「いえ、そんな事はないと思いますが、あなたのほうが疲れているのでは?」

 

 夫、ラルフ・フォン・クロイツフェルン。

 婿入りする形で私の夫になり、かつては空軍大佐かそこらだったのですが、軍大学で参謀過程をトップで卒業した彼は、ほとんど自身の能力で空軍大将まで登り空軍作戦参謀を務めています。

 

 毎日空軍作戦室に詰めており、帝国3軍の統合作戦本部に重要な案件が舞い込んだ時についでに私の顔を見に来る夫は、フランソワ共和国と現在戦争中であるため相当多忙なのですが。

 

「疲れはするけど、問題はないね。」

 

 とまぁ少々家族5人でベッドの上で話をしていると扉が3回ノックされる。

 

「失礼します。お目覚めの時間でございます。」

 

 メイドが起こしに来るのはちょうど5時。

 

 という事は今5時ちょうどという事だ。

 

 そして、私の一日が始まる第一声でもある。

 

 

 家族5人揃ってモグモグと歯を磨き、ボーっとしながら顔を洗って、自室に戻るとメイドが控えていて髪をセットさせられ、そして薄く化粧を…はかなくても十分自身の肌は白いので普通に化粧水を付けられ、皮下ていたメイドに着せ替え人形にさせられる。

 

 

 鼻を押さえながら30分ほど自身の君主を着せ替え人形にした危なそうなメイドが、今日の自分が納得がいくエリザベートの姿を見てついに赤いモノを鼻から垂らす。

 が其処は宮廷のメイド。

 

 スッと目をそらすと素早く取り繕ったようで。

 

「どうかしたの?鼻から血を垂らしちゃって。」

 

「いえ、殿下が美しいからいけないのです。」

 

「?????????????」

 

 エリザベートは何か嫌な悪寒が背に走ったが気にしないことにした。

 

 そのメイドは同じように鼻からツーっと血を流しそうになりながらエリザベートの娘の3人。

 クリスティアネを最初に大切なものを扱うように一枚一枚夜着を剥がし、あらかじめ帝国の帝室予算で買われている裾の長い白いワンピースを着せて(*´Д`)ハァハァさせている。

 

 何か娘が毒牙にかかりそうですが、いまだ手を出そうとしてないので良しとしましょうか。

 

 その後はいろいろ危なそうなメイドがどんどん娘たちに服を着せていく。

 

 私を着せ替えさせた時間が何だったのかというくらいには意外と早く着替えさせていた。

 

 まぁ簡単に言うと私の着せ変えが30分、娘が10分ずつ。計一時間である。

 

 

 ようやっと着替えが終わり、朝食である。

 

 昔はそれなりに豪華であったらしいのですが、私が皇帝になったときに料理人の負担を減らす為周りからは意外と質素だと思われるくらいの朝食にしています。

 

 朝はトーストにコーヒー、野菜のムニエルにブルストといったところです。

 

 家族全員に同じような朝食ですが少々違うものです。

 飲み物が少々違うくらいでしょう。私と夫は紅茶、娘3人はコーンポタージュです。

 

 18歳にもなってクリスティアネは紅茶だという気分ではないそうなので。

 

 そこは父親に似たのだろう。

 ラルフと結婚することになり、少々男女としての付き合いをしていた時に知ったのだが。

 

『俺?俺は甘いもの好きだな。逆に苦いものが嫌いだね。

 

 ブラックコーヒとかは飲めないね。』

 

 と言っていた。 

 

 私は9歳ころは何故か普通に飲んでいたのだけれど、大人になるにつれて嫌いになってきて結局コーヒーは飲まなくなってしまいました。

 

 偶然というべきなのでしょうが、食べ物の好みが合って少々うれしかったのは秘密です。

 

 

 

 

 

家族全員で食卓を囲い、家族5人での朝食を食べ終わると今日のやるべき事柄(ミッション)を達成するために夫が準備をして空軍参謀本部に出庁する準備を始めます。

 

 私が夫のクローゼットから空軍大将の襟章がついた空軍将官制服を取り出して、とりあえず着替えさせましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 エリザベートは夫ラルフを甲斐甲斐しく着替えさせる。

 着替えは結婚当初から初め、何かと10年以上は続けているものだ。

 

 しかしなぜ当時そのようなことを始めたのか。それは…

 

 

「ねぇ、エリス?」

 

(エリスはエリザベート御付きのメイド)

 

「はい、なんでしょうか陛下。」

 

「結婚すると家族という事になるのよね?」

 

「はい、おっしゃる通りでございます。」

 

「結婚して、ひいては家族の異性にするべき事って何かしら?」

 

「…それを私に?」(エリスは未婚である。)

 

「うん。一般的に言われていることでいいから。」

 

「はぁ…とりあえず家から夫を送り出すときに玄関でキスする『行ってらっしゃいのキス』、寝る際にする『お休みのキス』、そして旦那様を甲斐甲斐しくお着換え差し上げる事くらいですか、思い浮かぶモノは。」

 

「ふーん。ありがと。」

 

「いえ。」

 

 

 結婚直前にとあるメイドとエリザベートそのような会話があった事もあり、彼と結婚して初夜というモノを過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに帝国の王族の初夜は基本誰かに見られます。私も見られました。

       ※カタリナちゃんも結婚時に信頼できるメイドに見られました。

 

 

 

 詳細はというと。

 

 中世から続く伝統的(笑)な風習で、帝国が建国される前からこの地の王室にはそのような風習がありました。

 風習というモノはなかなか消えないモノで、形を変えながらも存続しているものです。

 

 帝国王室の場合、基本見る人物は信頼できる女性でかつ身分の高めな使用人でありかつ、主人が信用している人物であることです。

 

 そして、初夜を誰かが見るという事は、この結婚は正式でかつ完成されたものを誰かが立証するために行われるという事が保証するという事が名目で行われているそうですね。

 

 まぁ、高貴なる者の宿命というモノです。

 

 さすがに私には見られて喜ぶような性癖ではないので初夜はもちろん緊張という文字だけでは足らないほどに緊張しました

 

 カタリナは初夜を見られることについて、そこまで深く考えていなかったそうですね。

 カタリナ本人が私に初夜の詳細を語ってくるくらいなのですから。

 

(私、一瞬妹のことを相当な特殊性癖の持ち主だと思ってしまいましたが、本人に聞くとそうではないそうで。)

 

 

 

 

 

 

 と、とりあえず、しょ、初夜の話はこれで終わりです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 話を元に戻す。

 エリザベートが甲斐甲斐しく夫の着替えを手伝った後は無駄にでかい玄関で夫に『行ってらっしゃいのキス』を頬に落として、行きの公用車に乗り空軍参謀本部に向かう夫を見送った。

 

「陛下。」

 

「分かっています。」

 

 

 夫を見送った私は体の向きを変えて執務室へ向かう。

 

 執務室には既に用人が待機していて机には今日するべき公務の山が積みあがっていた。

 

 といっても2㎝位の紙の山だが。

 

 

「さ、始めましょうか。」

 

 インクの瓶の蓋を開けて、愛用の万年筆を取り、最初の一番上にある書類をとり目を通したのちに承認のサインを丁寧に描く・

 それをひたすら繰り返していく。

 このような公務は一週間のうち4∼5日あって、他の日は統合作戦本部で将軍や参謀の報告をじかに聞いてたりする。

 

 

 

 ただ、積みあがっていた書類をすべて認可し終えた時、用人が蝋で封をされた封筒を持ってきた。

 

 ずいぶん分厚いものだが、それもそのはず。

 

 

「陛下。軍より部外秘の書類承認があります」

 

 西方戦線での次期決行作戦だからだ。

 

 

 次期作戦は『黄色作戦』である。

 

 すなわち、フランソワ共和国電撃侵攻作戦。

 

 この作戦立案には私も携わったわけなのだが、今回の作戦はいつもの帝国軍ではないようなことを行う(かもしれない。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この作戦は統合作戦部隊によって行われ、陸軍、海軍、空軍、そして帝国最精鋭の近衛第2師団が参加する物となる。

 

 統合作戦部隊の編制は帝国では初めてであるので皇帝の名により編成され、統合作戦本部が指揮する。

 統合作戦本部の議長は皇帝エリザベート、副議長がカタリナと現在は結果的に言えども帝室が担っていることになっている。

 作戦指揮は統合作戦本部が行うことになっているが、指揮はカリン近衛中将(一か月前に昇進した)の夫であるエルンスト・フォン・フート近衛大将が取る。

 

 統合作戦本部は陸、海、空、近衛が基本並列で組まれていて、その議長として皇帝エリザベート、副議長は諜報局トップのカタリナとなっている。

 そして帝室がトップ2と並んでいるために実質の作戦指揮をとれるNo.3を決める必要があった。

 それでできた役職が統合作戦本部参謀長である。

 

 そして、統合作戦本部参謀長は現在、エルンスト・フォン・フート近衛大将である。

 

 

 ただ、前線指揮に関してであるが、方針を大まかに決めた後に陸、海、空、そして近衛などがそれぞれ作戦を指揮する事になる。

 

 

 

 

 

 

 ここで近衛について説明しよう。

 

 近衛は一般的に国王に直属し警衛する帝国となると若干毛色が違ってくるが一応は同じ物である。

 

 帝国の近衛というのは皇帝の直属の部隊であることは想像がつくだろうが、この帝国では成り立ちが特殊である。

 帝国を誕生するとき、初代皇帝が周辺諸国をぶっ潰して平定して回ったのであるが、その際近衛を皇帝が直接率いて周辺諸国を平定したのだ。

 

 すなわち、近衛は皇帝が直轄する軍事組織である。

 

 

 

 

 そして帝国には近衛が二つある。

 

 近衛第1師団。

 宮廷や、首相官邸の警備を行い、首都などの主要防備の任務に就いている。

 

 近衛第2師団。

 これは先ほど述べたように、近衛を皇帝が直接率いて周辺諸国を平定したことからの名残で帝国3軍の最精鋭が集まる実戦部隊である。

 その性質から、帝国の軍事組織の中でも最精鋭の人材が集まりやすい

 

 

 そして、どちらも帝国でも精鋭の人材が集まりやすい部署であるため、近衛に配属されるということは帝国軍人にとって一種の名誉だそうだ。

 話が長くなったがそろそろ終わる。

 

 近衛の第1、第2師団に絶対的に優劣はないが、近衛は皇帝が直々に直轄しているものであるため、近衛第1、第2師団を統べる各師団長を務める者は帝国3軍では各軍の大将などに相当する。

 そして近衛の計2個師団すべてを統括する近衛軍団長が存在する。

そしてその近衛軍団長がエルンスト・フォン・フート近衛大将であり、そして現在彼は統合作戦本部参謀長をも務めている。

 

 ちなみに本人曰く激務であるとの事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この『黄色作戦』は自分が作戦立案に携わっているので大した面白みもありません。

 

 間違い探しのようなものであるが、間違いは一切ないのでつまらないです。

 

『黄色作戦』には、後に高確率で行われるであろう、フランソワ軍の一部が連合王国に離脱する可能性もあるために情報が入り次第、海上での殲滅作戦が行われる予定です。

 

 ですが、海軍は空母が3隻揃ったものの、艤装が旗艦グラーフツェッペリンは終わりはして空母運用実績がある秋津洲より教官を呼んで海上訓練はしているものの、残り2隻は艤装完了を迎えていないために空母は投入できそうにありません。よって、戦艦と重巡を中核とした水上部隊と空軍の航空戦力、そして陸軍の航空魔導士、そしていろいろな罠にかけて殲滅することになっています。

 

 

 

 

 

 

「承認っと。封蝋して…ヨシ!………じゃなかった。

 

 良し。」

 

 

 これで今日のすべての公務が終わりました。

 公務は娘のクリスティアネもするようになったのでこれでも楽になったのですよ?

 

 もう日が傾いてますね。

 

 

 さて、公務が終わったら、愛しの夫が帰るまで待つとしますか。

 

 と言う訳で、ベッドに寝っ転がって夫の上着の匂いをスンスンと嗅ぎながら夫の帰りを待つとしましょう。

 

 ・・・娘のクリスティアネが信じられなそうな目で私を見ていますがいつものことなのでスルーします。

 

「お母様・・・」

「あなたも分かるようになるでしょう。私の娘なのだから。」

「いや、分かりたくないです。」

 

 私の娘なので、絶対分かる時が来るはずです。

 趣味思考、性癖は遺伝します(大嘘)

 

 

 

 4時間後に夫が帰ってきました。

 

 

「お帰りなさい。お風呂にします?夜ご飯にしますか?それとも…ふふっ」

 

「ご飯で。(無慈悲)」

 

「はうっ…」

 

 容赦なく撃沈されますがこういうのも良いのですよ。

 分からないですかね?

 

 

 

 夫が帰ってきたら娘3人、夫と私でのんびり食事を取り、お風呂に入って寝るだけです。

 

 結婚からかつて逃げていた私ですが、なぜか夫を好きになり、愛し愛され幸せです。

 できればこの生活が続きますように。

 

 

 そういえば朝起きた時いつの間にか夫の腕を抱き抱えていたりします。

 娘3人は私たちを中心にして寝ているのですよ。

 

 好きになった夫との間に出来た娘はやはり可愛いですね。



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帝国の反撃

今、某ウイルス等で全世界が大変なことになっています。

この小説でも読んで、外出を控えていただければ幸いです。
今、最も苦しいのはあなただけではありません。
今、この一秒にもこの世界の、この地球の住人のほとんどが苦しい思いをしています。
あなただけではありません。
この国難、世界難を乗り越えなければならないのです。

そして何より、最も大切なのはご自身の命です。


この辛い状況を笑い飛ばせる時が来ますように。



        by英国の珍兵器


―――――――――――――

 統一歴1924年2月14日

 

 近衛第2師団長室

 

 

「………へぇ。」

 

 近衛第2師団師団長、カリン・フォン・フート。

 

 帝国陸軍大学第6期生*1である。

 

 階級こそ近衛と付くが、本来の在籍は帝国陸軍所属である。

 なぜ、在籍が陸軍なのか。

 まぁ、簡単に言うと近衛をやめたらただ帝国陸軍に戻る、ただそれだけの話である。

 簡単に言えば、階級の前に付く、『海軍』、『陸軍』、『空軍』の文字を『近衛』という字が覆い隠していて、その近衛という字が前話で説明した通りに効力を発揮する。

 まぁ事情はそんなに簡単なことでは無いが。

 

 ちなみに上司であり、夫のエルンスト・フォン・フート近衛大将は元々帝国海軍大学出身であったが、進路を決める際の最終的な選考で近衛に振り分けられた人物である。

 彼の現在の在籍は海軍であり、階級も一応は海軍大将となっている。

 

 カリン・フォン・フート近衛中将も同じ口である。

 ちなみに、彼女も書類上は陸軍中将である。

 

 話が大幅にズレてしまったので戻そう。

 

 その紙は帝国統合作戦本部からの辞令が主な内容であった。

 紙の入っていた封筒には赤文字で『極秘』と書かれており、これは2月14日午前にカリン本人が開封せよという命令であった。

 

 そしてその命令は『3月に行われる反抗作戦において、近衛が参加する際近衛の指揮を取れ』と、ざっくりいうとそんな感じの命令であった。

 

 

 カリンは眼を細めてゆっくりと命令書を読み込み、そして顔を上げる。

 

「なるほど、そう言う事ですか。ま、やってやりましょうか。派手にやってやりますよ。

 

 

史実よりもね?

 

 とりあえず読み終わった。

 その後の機密処理は適切な処理を経て処理される。

 

 

 処理をした後は自身の仕事のすべてを終わらせるだけ。

 

カリカリカリと金属のペン先が奏でる音が響き、自身に来ていた書類を認可し、または非認可をしたり…という書類作業をこなし早数時間。

 

「うん…」

 

 そろそろ目が疲れてきて目筋をもんでさりげなく窓の外を見ると暗くなっていた。

 さすがに時間が心配であるので懐にあった懐中時計を見るとすでに17時になっていた。

 

 終業時間であるので荷物をまとめて、我が家に帰る準備をする。

 

 

「あ、お疲れ様です。」

 基地駐屯地の警備兵が私に敬礼をして見送る。

 

 

 

 暗い道を街灯が照らし、少々寒い風が吹く。

 

 私は公用車のドアを開けて中に入り、閉める。

 そして、公用車は暗くなってきた道をひた走り続けて駅に着いた。ここまではおよそ30分程度。

 

 そして汽車を待つ。

 とりあえず定期で一等は取ってあるので、そちらに乗りこみ、列車に揺られる事一時間ほど。

 

 帝国の主要の中央駅に着く。

 そこからは徒歩で歩けるほどである。

 

 まぁそれでも歩いて20分ほどであるから1㎞以上はありますが。

 

 

 家へ歩いている途中で市場があるので、そこに寄って、買い物をしなければならないのだが。

 

 市場はいかんせん軍人が多く住んでいる住宅街等があるため、終業時間以降になると昼間は一般人を多く見かけるが、この時間帯だけは軍服を着た者も多少は見かけられます。

 ただ、いかんせん近衛将官の制服のままであるので結構目立つ。

 

 

 優先して買うのは野菜や肉等の生鮮食品です。

 

 いかんせんこの時代は冷蔵庫というのは貴重で、買おうと思っても買えない物だし、前世の物とは性能が全く違うものです。

 

 この世界ではせいぜい冷暗所で保管するのがせいぜい。

 この国には保存食には定評があり、とりあえずザワークラフトとヴルストさえ食べてれば死にはしませんが。

 

 結婚している以上、夫には必要最低限度以上の食べ物を提供しなくてはなりません。

 

 というわけで。

 

 肉屋で注文した品を包装され会計をし、野菜を手に取って会計を済ませた。

 生鮮食品類を買った後は明日の朝に食べるパンを買うことにしますか。

 

 

「あ、お久しぶりです中将殿。」

 彼女に声をかけたのは、航空魔導士徽章をつけ、さらには航空魔導士レンジャー徽章をも胸に身に着けている女性。

 それでありながらもメガネを掛けている人物。

 そして、帝国の民間人からは完全に雲の上の人物。

 

 

「…カタリナ殿下。あまりおちょくらないでもらえませんでしょうか?」

 

「無理。」

 

「あ、そうですか。」

 

 隣を見るとカタリナの夫もいつの間にか立っていた。

 

「おや…夫婦で護衛もなしになぜここに?」

 

「一番の護衛がここにいるじゃないですか。」

 

「……まさか私と言うわけじゃないですよね?」

 

「何言ってるんですかね?私カタリナがルドルフの護衛です。」

 

「ちょっと何言ってるかわかんない」

 

 護衛される人物が護衛してどうすんだ。

 カリンは常識があるが、相変わらずカタリナは世間離れしてるというか常識がないと言おうかなんというか…

 前世からそんな奴だと思ってたけど、今世はもっとひどくなってた。

 

 カタリナ殿下は無自覚で男を誘惑しますからね。

 

 一番の被害者が夫のルドルフだったりする。

 

 

 

 

閑話休題(そんな事はともかく)

 

 

 

 

「それで今日は何しに?」

 

 そう聞くと意味深な笑顔でこういうのだった。

 

「決まっているじゃないか、買い物だよ。」

 

 と。

 

 

 

「…………そうですか。では夫婦でごゆっくり。」

 

「うん、それじゃ。」

 

 そういって離れていくカタリナ夫妻であった。

 

 意味深な笑顔で言っても、耳はすごく朱くなっていたが。

 なんだかんだ言っても、結婚して添い遂げた相手の事を好きなんだなぁと思ったカリンだった。

 

 

 家に帰れば明かりが付いていて、暖かいご飯が食べられる。

 前世で傭兵をしていた時、そのありがたみは享受できはしなかった。

 

 ただ、私は享受させる側なのだ。

 

 

 夫に寂しい思いはさせたくない。

 

 娘3人は全員戦地へ赴いたりしている。

 心配じゃないとは言えない。

 そんなことは死んでも言えない。

 

「そりゃあ、心配ですよ。だけどね、近衛で師団長を務める人間がそんな弱音を吐けますか。」

 

 電気がついていない暗い家のドアの鍵を開け、すぐに手を洗いうがいをして夕食の準備にかかる。

 将官制服をハンガーにかけて衣装棚にしまうとエプロンをかけてもう一回軽く手を洗い、夕食の準備をする。

 

 

 買ってきた豚ロース300gを一口大に切って小鍋にオリーブをひき、少々焦げ目がつくくらいまで焼く。

 その間に、野菜類を切る。

 玉ねぎをみじん切りにしてジャガイモを一口大に切り、ニンジンは前世が日本出身らしくいちょう切りに切り、肉がいい感じに焼けてきたので野菜をとりあえず放り込む。

 

 いい感じ(小並感)になってきたら火の通りが一番早いトマトをぶち込み、ドロドロになったら塩等の香味料香辛料を小さじ1/4ほど、ハーブは一つまみ入れ、炒める。

 その後水を入れ、そしていい感じ(小並感)になったら赤ワインを鍋に入れ蓋をする。

 

 そして40分ほど煮込む。

 

 その間はのんびり待つだけ。

 

 

 

 壁にかかっている時計を見ると針は8時を回っていた。

 

「はぁっ……」

 

 リビングにある食卓のイスに座り、のんびり時計を見ながら夫を待つ。

 

「むう…」

 

 食卓に置いてある写真立てには一枚の写真が或る。

 

 10年前に取った、私の娘3人と私、そして夫の家族写真である。

 

 

 

 白黒の写真であるが、10年という歳月は早いのか遅いのか。

 

 娘は無事に戦地で敵をコロコロしているか。

 それだけが気がかりであった。

 

 娘たちは無事に帰ってくる。

 何しろ私や夫に憧れ、軍に入るといってきかなかった娘たちに事前に空戦理論を教えた。

 

 絶対帰ってくる。

 

 Ta152の設計者、レナ空軍少佐(当時)に頼み込んで航空理論について教えさせて空戦技術を理論で考えさせたりもした。

 

『前世は同僚だったからね、断れなかったよ。子を思うのは私も彼女も同じなんだ。仕方ないね。』byレナ

 

 

 

 思いを馳せながらも時計を素早く見ると20時半であった。

 そろそろ帰ってくる時間である。

 

 お風呂は帝国において一般の家ではないが、この家は将官クラスが2人もいるのであるので風呂はあるし、毎日沸かしてはいる。

 とりあえず風呂を沸かしに行こう、そうしよう。

 

 十数分後。

『オフロガワケマシター!!!!』

 

 よし、お風呂を沸かし終えたぞ!

 

 

 そして、コトコト煮込んでいるシチューの相手をして、パンを焼き始める。

 すると、車が停車する音が聞こえた。

 

 素早く火を消して、夫の出迎えに行く。

 

 

 ドアが開き、風が吹き込んでくる。

「お帰りなさい、あなた。」

 

「ああ。ただいま。」

 

「ご飯にします?お風呂にします?それとも…」

 

「ご飯で。」

 

「(´・ω・`)」

 

「…ご飯で。さすがに平日は…な?」

 

「ソウデスネー。」

 

「…」

 

「…ご飯ですね。分かりました。」

 

 コートをもってハンガーに掛け、その後は渾身(意味深)なシチューを皿によそい、パンとジャガイモを棒状に切って焼いたモノを添えて出し、自身の分も添える。

 

 毎日、夕食は夫婦2人で食べる。

 

 20余年、それは毎日何があってもしている。

 

 

「うん…美味い。」

 

「そうですか、良かった。」

 

 夕食を取った後は夫婦の少々どうでもいいけど会話を取ったあとは二人でお風呂へ。

 

 娘がいなくなったので、普通に夫婦で一緒に入り、普通に夫婦で上がる。

 

 すぐ歯を磨いて明日の仕事の準備をする。

 

 

 

 そして同じベッドで夫の手を抱きながら眠りにつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前世は核で終えた人生だったけど、今はなんだかんだ言って幸せだと思えます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

1924年3月11日 アルデンヌ

 

 

 

 塹壕が張り巡らされている戦場にいくつもの履帯跡が残っている。

 

 帝国主力戦車4号戦車の最終型4号H型が陣形を組んで塹壕を突破しようとしていた。

 

 その後ろには歩兵を載せた歩兵戦闘車をも控えている。

 

 

 

 

 

「帝国の戦車です!」

 

「対戦車砲を持ってこい!」

 

「すでに爆撃で破壊されています!そんなのありません!」

 

 

「じゃあ対戦車ライフルだ!」

 

「持ってきました!」

 

「よし!撃て!」

 

 塹壕にこもっていた歩兵は塹壕の手前にいる戦車に向かって対戦車ライフルを撃つ。

 

 

 

 が、抜けない。

 対戦車ライフルでは4号戦車の弱点である操縦手の覗き窓等をつかないと貫徹は難しい。

 

「敵戦車砲塔…こちらに向いています!」

 

「…退避!退避!」

 

 間に合わず4号の主砲が火を吹き、兵を吹き飛ばす。

 

 アルデンヌは突破された。

  

 フランソワ共和国にとって、全方面にそれなりに分厚い防衛線を築いていた。

 ただ、均等というわけにもいかず、攻防が激しいライン戦線にある程度戦力を集中させる必要があった。

 

 アルデンヌはただ、その反動で少し防衛戦力が薄かった。

 と、言えどもそれなりには厚かったのが現状だった。

 

 それを突破できたのは、陸軍砲兵や空軍攻撃機による入念な事前の砲爆撃や、近接航空支援、戦車の集中的運用による敵防御陣地の突破、そして歩兵を機械化し、敵戦力を上回る機動力を持って敵部隊の包囲撃滅。

 

 

 そのアルデンヌをぶち抜いた後の目標は機械化歩兵で前線司令部を破壊もしくは占領し、補給線を破壊、最終的に敵戦線を崩壊させることが目標である。

 

 

 そして、アルデンヌを突破するため戦車を集中運用し、直接的に指揮した人物こそ

 カリン・フォン・フートであった

*1
帝国軍はエリザベートが10歳の時に改革を実行された。改革の名実は当時の皇帝ビスマルクによって行われたことになっている。その内容は、当時航空機の有用性が認められながらも、『これ、魔道兵兵でよくね?となった時代に空軍が設立され、陸海軍の二つより分裂してできた。それに伴い、各士官学校や軍大学にも色々メスを入れられることになった。帝国軍は帝国の男女感があるとはいえ比較的実力主義であるため、女性であるから現役軍人になれないというわけではなかったが、そのころより性別を問わず広く優秀な人材を求めるようになり、やがて軍大学は優秀な人材が特に集まるようになっていった。』



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各国の小銃採用事情

日本全土に緊急事態宣言が発令されました。

この小説でも読んで、外出を控えていただければ幸いです。
今、最も苦しいのはあなただけではありません。
今、この一秒にもこの世界の、この地球の住人のほとんどが苦しい思いをしています。
あなただけではありません。
この国難、世界難を乗り越えなければならないのです。
そして何より、最も大切なのはご自身の命です。
何よりご自身の身体を御自愛下さいませ。
この辛い状況を笑い飛ばせる時が来ますように。

        by英国の珍兵器


帝国軍の場合

 

 1903年にはG3が採用され、1907年には帝国3軍の隅々までいきわたり小銃はほとんどがG3に置き換えられた。

 

 G3以前の銃は史実のKar98kに当たる1878年に採用されたKar78kが主力小銃を担っていた。

 小銃の更新には手間を取られた。

 

 G3は帝国軍では最初のフルオート射撃が可能なライフルであり、機構も複雑なもので分解清掃の教育はそれなりに大変なものであったが、陸空海上層部はG3がいかに優秀で有効な小銃であった事は容易にわかる事であり、更新を推し進めることにしていた。

 

 採用より5年後になるとG3の軍への需要は少なくなってくる。

 G3の改良等で需要はあったが、採用直後よりは減っていることは考え付く。

 

 そしてG3の主要生産企業であったE&Kは考えた。

 考えて…民間に売ろうと思った。

 

 小銃は20年近く経つと陳腐化が始まり、民間にも流れてくる。

 

 

 そしてE&KはG3をフルオート機構を排除しセミオートのみのし、民間用としてバレルを406mmバレルへと換装した『EK G3』という名前で売り出しを始める。

 

 このころ、軍は正式採用している小銃としてG3を採用していることを公表していた。

 

 当然、帝国軍が採用している銃だという事で一躍帝国内の民間銃として人気を博す。

 1915年ごろになると暇してたウィンチェスター君がG3をライセンスして売らせてくれよー頼むよーと頼んできたために…

 

 一度断る。

 

 ただ、その2年後の1917年に帝国でエリザベートがあきれ返るほどの無能政府が誕生し、政府が合州国のコルト社とウィンチェスター君に民間G3のライセンス生産を許可してしまったことがすべての発端となる。

 ※その政権は1年で倒れました。

 

 

 合州国ではG3はライセンス料や元々高額な生産コストをモノともしないような人気を博し、大抵の家庭のベッド脇にG3が置かれている光景はごくごく当たり前となっていた。

 

合州国軍の場合。

 民間G3が生産され始めた時には合衆国軍はすでに動いていた。

 

 帝国軍の戦力分析のためにもG3は入手したい。

 そしてライセンス生産されたG3の初期ロットの1番から10番をコルト社より買い入れ、造兵廠スプリングフィールドにて実験が繰り返される。

 

 

 このころの軍用小銃弾は非常に強力なため、安定して射撃することが難しいと考えられていた。

 しかし、歩兵用小銃としての有用性を認めていた合州国陸軍は民間のG3を使用した実験より、セミオートライフルが着目されるようになる。

 

 当時の新型半自動小銃に関する軍部からの要求は、「自動装填式、.25口径から.30口径の範囲で軍用に適した銃弾を使用(.30-06弾を使うことが望ましい)、単純かつ頑丈な構造を備え、生産性に優れること。平均的な兵士が手にする標準軍用小銃であることに留意すること」というものだった。

 

 それにて採用された小銃が『M1ガーランド』である。

 G3より生産性に優れ、専用弾を開発せずとも既存の実包を使用することができることから、高い評価を得た。

 

 ただ、機構としてガスストラップ式*1を採用していたため、いくつかの欠陥が生じた。

 生じた欠陥を解消し、最終的に合衆国軍主力小銃となっている。

 

 また、同時期にはブローニングM1918自動小銃を開発。世界で2番目ともいえるフルオート可能な自動小銃であった。

 

 

連合王国の場合

 民間のG3は合州国やさらには帝国からの密輸により連合王国の手に渡った。

 

 連合王国に密輸された際、暴力組織などに渡り、その後治安組織に没収されたものを連合王国政府が反応しそのうちの一丁を分析に使用される。

 

 そして分析した後、この機構はフルオートが可能な設計になっているものの、EK 7.62×51㎜実包では反動が大きくフルオート射撃に適していないとし、フルオート射撃に適してかつ威力や射程をそこまで落とさずに済む実包を模索、口径が7㎜、つまりは28口径の中間実包を採用した。

 

 そしてさらに新機軸を盛り込んだ。

 

 後世ではブルパップと呼ばれるグリップと引き金より後方に弾倉や機関部を配置する方式を採用した連合王国初のアサルトライフルが誕生する。

 主にプレススチール加工で量産性を上げる事ができるようになった。

 名を『EM-1』と言った。

 

 ただし、採用されて間もなくして非常に多くの問題点が指摘されることとなった。完全に右利き用に設計されている点や、重量バランスの悪さや引き金の硬さなどから射撃精度が悪い点、射撃速度が非常に低い点などに代表される使用時の性能上の問題のほか、銃を落とした時に暴発を起こす危険性が報告されていたほか、部品の破損や脱落も相次いだ。

 

 ボルトにはコッキングレバーが直接取り付けられており、これが発射の際に激しく前後運動する事になる。

 そして、EM-1のレバーは配置も悪く、排出された薬莢がこのコッキングレバーに当たってしまう。

 その結果、排莢スピードが妨げられるだけでなく、薬莢が排莢口に挟み込まれ、最悪の場合は孔の中に跳ね戻ったりしてしまう。

 当然、それは作動不良を引き起こし、弾詰まりを起こす原因となってしまった。

 

 また、マガジンの交換をしやすくするためにマガジン挿入口を広く取ったのは良いが、マガジンキャッチのスプリングが貧弱で、マガジンが自重によって滑り落ちてしまう事もあった。

 そして、マガジンに関しても問題があり、マガジンの内部にある実包を上に押し上げるバネも貧弱であったため、弾薬は途中で止まってしまい、装填不良の原因となった。

 

 そのほかにも大量に動作不良が生じたがそんなものは関係ないと連合王国は調達を続行。

 

 少々の改修が行われたが、それが治ることは一切なかった。

 

 だがこれはこれで一応(・・)世界で2番目のアサルトライフルである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1924年2月21日

 帝国軍による3月11日の大攻勢のおよそ3週間前。

 

 ターニャは数多くの戦績を上げたこともあって、大佐以下の連中で戦場に立っているものは戦場の空を飛ぶターニャの通り名である『白銀』という名はほとんど全員が知っている、という状態であった。

 敵魔導士をことごとく撃墜し、単独撃墜121騎、共同撃墜34騎という高戦績をたたき出し、現時点で戦車17両破壊、火砲13門破壊となっている。

 フランソワ共和国軍ではエースオブエース(エースの中のエース)という事でコードネーム「ラインの悪魔」と言われ怖れられるようになる。

 

 

 帝国空軍にも似たようなエースが存在する。

 

 敵戦闘機を17機撃墜と言うだけでもエースではあるのだが、その人物の配属されている航空隊は戦闘攻撃を主任務としている。

 つまり対地攻撃を専門とし、対空はやらないわけではないがたいてい護衛が付き制空も護衛がやってしまうのが普通であった隊に所属しながらも敵航空機を17機撃墜というのは難しいだろう(知らんけど)

 

 その人物をハンス=ウルリッヒ・ルーデルと言った。

 戦果は戦車69両、軽装甲車トラック等を72両、火砲25門以上であった。

 殺傷した敵歩兵はすでに把握がとれておらず、その点でターニャと同じと言えるだろう。

 

 ちなみにルーデルが乗っている機体は60口径30㎜機関砲を3門搭載したTa152 G-12を搭乗機としていて、特徴的な深緑3色迷彩を機体に施されていることが有名である。

 そこから付いた名が或る。

 フランソワ共和国軍はその自軍の戦力を著しく削いでいく深緑3色迷彩を施されている機体を『魔王』と呼び始める。

 

 そしてふとライン戦線で上空を見上げると大抵ルーデル機を見かけるという話は意外と嘘ではないらしい。

 

 共和国軍が防衛線を構築するにあたりライン戦線を重点的に戦力を配備した理由は『ラインの悪魔』、そして『魔王』このキチガイどもが2人もライン戦線にいることが、ライン戦線の防御が部厚い防御にしている理由の一つであであった。

 

 

 最近共和国軍が引きこもり始め、ある程度経験が積まれた元新兵たちで構成された小隊を率いて哨戒の任務に就いているターニャは、直接の上官であるイーレン・シュワルコフ大尉に呼ばれて中隊長に会いに行く途中だった。

 

 野戦テントの天幕を開くとイーレン・シュワルコフ大尉の姿が見えた。

 

「デグレチャフです。何か私に御用でも?」

 

「…ああ、デグレチャフ君か。私もわからんのでな。私は君に連隊長の所へ連れてこいと言われただけでな。」

 

「…」

(まさか軍法会議か?だが戦時国際法にもハーグ陸戦条約にもジュネーブ条約にも違反した行動をした覚えはないが…)

 

「さて、連隊長のとこに行くか。」

 

 中隊長についていく事30分。

 目の前に連隊の司令部を見、中隊長は天幕を捲り連隊長を呼ぶ。

「連隊長!デグレチャフ少尉を連れてきました。」

 

「うん、ご苦労。それで、君があのデグレチャフ少尉なのかね?」

 

「そうでありますが…小官に何かごようがあるという事でしたが何でしょうか?」

 

「うむ…ここで話すのはいかんからな。外で話そう。」

 

 外に出て、テントからだれも聞き耳を立てても聞こえなさそうな距離を取った後に連隊長が話始める。

 

「さて。君に話すことがあるといったがね。

 

 

 君は軍大学に行きたいとと思うかい?」

 

 

「それは唐突なお話です。小官が行けるのであれば行きたいとは思いますが、なぜそのようなことを?」

 

「うむ…実は中央より話が来たのだよ。少なくとも、我が陸軍の中枢から。

 

 どんな話かというとだな。デグレチャフ少尉、君を軍大学に受験する資格を与えるという事だ。」

 

「は…?」

 

「まぁそういう事だ。なぜ戦争が終わったないのにも関わらずその話が来たのかはわからないが、師団長や方面隊司令官でさえ知らないという話だ。相当上から上がってきたのだろう。

 

 君は士官学校を優秀な成績で卒業したのにもかかわらず軍大学に行かずして戦地へと赴き、そして戦地でも大きな戦果を挙げた。

 

 おそらく、優秀な人材だと考えたのだろうね。

 

 おそらくは自分の派閥に引きこもうとしてるだけだと思うけど。

 多分中央で軍大学に入った時点で派閥争いは始まるらしいから、見極めて良い派閥に入るか、自分の派閥を作るか、それとも孤立するのを妥協してどこの派閥に入らないことにしてもいいし。

 

 それでもいいって言うなら、私は軍大学に君を推薦するけど。」

 

「…よろしくお願いします。」

 

 

「分かった。じゃあそのようにしておくよ。」

 

 

 連隊長とはそこで話を区切らせて中隊長とともに中隊のテントへ帰る。

 

「中隊長。」

 

「なんだ?」

 

「後で一人士官学校へ推薦書類を提出します。」

 

「ほう。分かったよ。」

 

 

 その次の日、小隊で補佐をしていたセレブリャコーフ伍長を士官学校へ推薦する書類を中隊長イーレン・シュワルコフ大尉に提出、中隊長や連隊長はそれを受理したためにセレブリャコーフ伍長は士官学校へ入学することとなった。

 

 

 

 5日後の2月26日。

 

 セレブリャコーフ伍長とデグレチャフ少尉は同じ駅に立っていた。

 

 士官学校と軍大学はほとんど同じ方面であるために折角なので二人とも同じ列車に乗ることとした。

 

 

「少尉は軍大学に入学ですよね?」

 

「そうだが。」

 

「それだけ優秀だと認められたってわけですよね。さすがは少尉です。」

 

「まぁ一応ありがたく受け取っておこう。ただ軍大学に行くのもそれなりに覚悟がいるけども。」

 

「そうなんですね。」

 

 列車の車内がすっからかんな状態で列車は軽快な走行音を立てながら東の帝国中央へ向かう。

 

 兵站を重視する帝国軍は列車のほかにも空輸や海上輸送、陸路でトラックでぶんぶんしたりと兵站戦のバックアップを用意している。

 

(旧日本のように兵站を分かっている人間がいるようだから兵站はあまり心配せずに済むから意外と楽だろうな。)

 

 ちなみに帝国3軍+近衛では兵站などの裏方を重視できない人間はそもそもどう頑張っても昇進が難しいといわれている。

 

 

 帝国中央の駅に着いた。

 

 駅に降り立った私はセレブリャコーフ伍長と別れる。

 

 

 

 

 

 

 

2週間後の3月5日、私は軍大学の図書室へ赴いていた。

 

 まさか二度目の大学生活を送ることになろうとは思いもしなかった。

 派閥争いがあると聞き少々身構えていたが、そんな事は無かった。

 派閥争いが激しいのは参謀課程などでいずれは部署のトップに着けるだろう人物が集まる所位だった。

 

 そんなところを皇族である二人は別にして、カリン少将までくぐり抜けたのは尊敬に値するだろう。

 

 そういえば士官学校時代に2等生をブンブンしようとした時に私の手をつかんだ人物は少々気になる。

 メガネを掛けており、確かちらっと見えた階級章は少佐だった。

 

 ただその人物には以外と早く出会えそうだ。

 

 

 入学したばかりであるが、帝国陸軍の図書室にはかつての卒業生の卒業論文すべてを保管されている。

 

 そしてここには現在近衛第2師団師団長カリン・フォン・フート近衛中将やカタリナ殿下や現皇帝エリザベート陛下の卒業論文さえ保管されている。

 

 残念ながらレナ空軍中佐の卒業論文だけは空軍大学に行かないと読めない物だが。

 そのうち本人にも読ませて貰えるよう頼んでおこうか。

 

 

 

 

 軍大学でその話を聞いたのは一ヶ月後であった。

 

 帝国軍があの守勢に入ったフランソワ共和国軍を撃破し、既に敵前線を崩壊させ共和国首都の目前にまで迫り、帝国との間に休戦協定を結ばれたのは。

 

「・・・休戦協定だと!?

 

 共和国軍の奴らはまだ戦争を続ける気か!」

 

 ターニャは史実においてのダンケルク撤退戦を危惧していた。

 

 ダンケルク撤退戦が成功されれば泥沼の戦争が始まるのだから。

 

「面白そうな話だな。私にも聞かせてくれんかね」

 

そんな最中、後ろから声をかけてきた人物。真っ先に階級章に目をやる。

 

准将であった。

 

 

 

「ゼートゥーア閣下!どうしてこちらに?」

 

「いや何、会議後の気まぐれでね。それに君がどうにも軍大学で何かをしているという噂も聞いた」

 

「気にかけて頂き光栄の至りであります」

 

「君はその若さで我軍の撃墜王、それも女性となると、誰でも覚えてるだろう。

 空軍にも負けないほどの戦果を陸軍にてあげているのだからな。」

 

 帝国は何も輸送機や戦闘機などでブンブンするだけの仕事では無い。

 撃墜されたパイロットや味方魔導師を救出したりするのは空軍の仕事であり、さらには基地防空の一つとして奇襲してくるであろう魔導師迎撃の為の魔導師さえ戦力として保有している。*2

 

 空軍はその強大な航空戦力の保持しているので、帝国陸海軍に何かあったらとりあえず頼るということをしている。

 

 ただ制空権を取るには空軍も必要だが敵から出てくる魔導師を戦線で迎撃し制空権を確保するのは陸軍の仕事である。

 なぜなら、空軍の魔導師は少数精鋭の特殊部隊と基地防空を担う魔導師しかいないからである。

 

 そんな事情がある。

 

 

「君の意見が聞きたかったのだが、貴官はこの戦争をどう捉える?」

 

 

「大戦に発展しうると考えています」

 

「大戦…とは?」

 

「主要列強の大半を巻き込んだ大規模な戦争。世界大戦と呼ぶべきでしょうか」

 

「…根拠は?」

 

「まず帝国は他の列強に対して国力、軍事力の点で頭一つ所か二つ三つほど抜けて優位に立っています。他の列強に対して1対2か3であれば勝利できるでしょう」

 

「共和国には勝てない訳がないのだからな。」

 

共通認識があるというのは話がしやすくてありがたいことだ。

 

 

「しかしながら、この優位は他の列強には脅威であり、共和国を勢力下に入れることを連合王国や連邦が見逃すとは思えません」

 

「彼らはこの戦争には直接関わっていないはずだが?」

 

「仮に共和国を帝国が併合、もしくは国力を抽出できる状態にしたとすると、帝国は2つの列強と同時に戦争をして尚、優位に立つことが出来る超大国、いえ"覇権国家"となります。仮に帝国が敗北したとすると、逆もまた然りです」 

 

「なるほど。そのような圧倒的な脅威が目の前で誕生するのを何も言わずに見守る事は出来ない。そういう訳だな」

 

「はい。これを阻止するためには共和国と帝国が消耗して共倒れになるようにするしかありません」

 

「具体的には?」

 

「外交的圧力、レンドリース、義勇軍の派兵等が分かりやすいかと」

 

「直接参戦の可能性は?」

 

「帝国が共和国に勝利した、若しくはその可能性が高いとすれば、多少無理にでも参戦すると推測します」

 

「勝利、敗北、共倒れ。どれを取っても帝国にとって最終的な勝利とは言い難い、と」

 

「はい。」

 

「ふむ・・・なる程。

 

 我々帝国3軍及び近衛の上層部でも既にその結論に達している。

 ただ、その結論に至るまでにあのお方の発言が無ければそこに至らなかっただろう。

 

 私達は軍人であり、政治家ではないのだからな。

 

 ・・・君は軍政の道に歩むつもりはないかね?」

 

「軍政、ですか。

 生憎と私は参謀課程を履修して居ないので難しいかと。」

 

「なるほど。君が進みたいと言うのなら力になるが。まぁ考えておいてくれ」

 

「は。」

 

 

 

 准将の階級章を付けた人物は去っていったが。

 "軍政"か・・・その道に進めば確実に後方勤務になるだろうな。

 

 今は軍大学を卒業しなければ始まらんな。

*1
銃弾発射の際、銃口から噴出する発射ガスを使用し遊底を作動させる方式。ガストラップ式は銃身にガス導入孔をあける必要が無く、ガスピストン式に比べ低圧になった発射ガスを利用できる利点がある。しかし、構造が複雑になりやすく、銃口側に作動機構があるため全長が長くなり重心が偏りやすい欠点があり、大量生産へ移行したものはドイツのGew41等少数の例しか見られない。

*2
帝国においての基地防空及び帝国領防空は高高度戦闘機Ta152Hか、基地防空の任に着く迎撃を専門とした魔導師、そして最後の砦として陸上用対空FCSと連動している88mm高射砲やこの前帝国が国境紛争といえる小競り合いで勝利した北方連合より輸入した40mmボフォース連装機関砲、帝国国産の20mm4連装機関砲で防空網が構成されている。



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黄色作戦

 レポートやら課題やらが出たので結構大変(汗)
 新型コロナ君は未だに猛威を奮っています…
 インフルエンザちゃんは何もする事なく消えていきましたが、某ウィルスちゃんは元気にしています(白目)



         by英国の珍兵器


1924年3月11日

 

 帝国がかねてより考案していた電撃戦の本領を発揮する日が来たといっても過言ではなかった。

 

 カリン・フォン・フート近衛中将が率いる臨時の軍集団は以下の通りであった。

 

 ・近衛第2師団第2大隊(3個戦車中隊を基幹とする)と陸軍第15、第36、第56師団戦車連隊、計戦車3個連隊+1個大隊

 ・近衛第2師団機械化第2、第34歩兵連隊、陸軍第15、第36、第68師団機械化歩兵師団 計機械化歩兵3個師団+2個連隊

 ・近衛第2師団第2機動砲兵大隊と陸軍第15、第36師団機動砲兵大隊の2個機動砲兵大隊

 ・近衛第2師団第2工兵大隊、陸軍第15、第36師団工兵大隊

 ・近衛第2師団第2通信大隊、陸軍第15、第36師団通信大隊

 ・近衛第2師団第2騎兵大隊、陸軍第15、第36師団騎兵大隊

 ・近衛第2師団第2後方支援大隊、陸軍第15、第36師団後方支援大隊

 によって構成され、そして近接航空支援として空軍作戦機165機以上をもってアルデンヌを突破する。

 

 戦車3個連隊と1個大隊を臨時の混成戦車師団としてまとめ、戦闘に立たせて塹壕戦などの防御線を突破する。

 その後、後詰の機械化歩兵師団が続き、砲兵等後方支援がぞろぞろと続く。

 

 ただ、アルデンヌなどの防衛線を突破するのはいいのだが、その突破口は点であり、さらには部隊は左右に敵防衛線があるおかげで左右の半方位をされている状態である。

 戦術上よくない状態であるのは容易に考え付くだろう。

 

 ところで、近代、現代の軍隊にとって大事な物事は何であろうか?

 装備?人員の数?士気?

 どれも軍にとっては必要なものであるが、これらがすべてそろっていたとしても軍は容易に崩れる事がある。

 

 通信と補給である。

 通信が途切ればどの部隊がどのような状況に置かれており、そしてその時点で適切な一手を取れなくなり、さらには統率すら途切れ、精強な軍がほとんど役に立たなくなる。

 

 通信ほど顕著には表れないが、補給もそうである。

 補給を切れば、前線の兵士が栄養失調に陥り、弾が届かなくなり撃つことすらできなくなる。戦車があったとしても燃料不足で動くことすらままなくなるだろう。

 

 

 危険な状態を避けながらも膠着した戦線を打破するために敵防衛戦力より上回る機動力を持っている機動歩兵等を以ってして前線司令部を破壊もしくは占領し、敵補給線を寸断し、敵戦線を崩壊させる。

 つまりは、敵前線への指揮をつぶすことで通信を潰し、補給を絶たせて敵前線を短期間で崩壊させる。

 

 そのあとは残兵を駆逐しながら前線を前へ前へと押し込み、フランソワ共和国首都まで流れ込む。

 

 彼女は敵に容赦をしなかった。

 捕虜がごく少数だったのだ。

 ただそれが捕虜を殺害したとかそういうことをしたわけではない。

 

 白旗や両手を上げる前に戦場の塵になったのがほとんどだったからである。

 

 

―――――――――――――――――-

1924年3月12日共和国国防省某室

 

「さて、報告を聞こうかな。」

 

 そう言ったのはフランソワ共和国軍の陸軍次官ド・ルーゴ

 

「はっ、我が軍は一部戦線を除き膠着状態に陥っております。

 現在、数の優位に立てない状況でありまして、極めてギリギリであると考えられます」

 

「ふむ。“一部戦線”とはラインラントかね?」

 

「いいえ、残念ながら違う場所です。」

 

「まさか!帝国が一番兵力を割いている場所だからそこだと思ったが…それでどこかね?」

 

「アルデンヌです。」

 

「アルデンヌだとォ!

 あそこは帝国軍が通過できないという報告があったじゃないか!」

 

「それが通過できたようでして…」

 

「はぁ…突破されたのかね?」

 

「それが、そのことをアルデンヌ防衛の第9師団指揮所に連絡しても返信が帰ってこないのです。」

 

「……アルデンヌは既に突破されている。」

 

「閣下!それでは…」

 

「帝国軍に対応する予備部隊は居るか?」

 

「残念ながら、現在それらは編成中でして…」

 

「くそっ!」

 机をたたく音が部屋に響きわたり、将校たちはビクッと肩を震わせる

 

 その時、あるモールス無線が指令室に届く。

 

「通信手。内容は?」

 

「それが…第15軍と第10軍からの緊急電です。

 

“補給が届かなくなっている。補給線が寸断されている模様”

 

 とのことです。」

 

「第15軍と第10軍はライン戦線防衛の部隊だったな…」

 

「そうです。大変なことになりましたな…」

 

「補給線が寸断されているなら一大事だ。編成を早く終わった部隊より補給線確保に動け。

 そして突破されたかもしれないアルデンヌへ偵察を出せ。」

 

「は。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ、時間は状況を悪化させるだけだった。

 

 補給を絶たれ、入ってくる物資はごく少数であるため、前線を後退させようとしたが後退させ始めると帝国空軍の戦闘攻撃機の攻撃により後退が敗走へと変化していった。

 

 帝国陸軍の追撃も熾烈を極め、カリンちゃんが率いる軍団を先頭に異常な進軍速度で侵攻されていく。

 

 前線司令部はカリンちゃんの軍団の機動歩兵による占領や手の届かない場所は帝国空軍の爆撃によりめちゃくちゃにされ前線司令部が完全破壊もしくは占領されすぐに命令が届かない。

 

 フランソワ共和国軍は後退からの撤退もしくは敗走を重ね、1か月後には首都パリースィイを目前にまで迫る。

 

 

 

 

 

 ただ・・・1924年3月29日に突如連合王国が帝国に宣戦布告された。

 連合王国魔導師部隊は北西から侵入した。

 その奇襲ともいうべき侵入に対応したのは帝国空軍第36航空団隷下のイェーファー航空基地に配属されていた第14魔道航空隊だった。

――――――――――――――――

1924年3月29日13時56分 イェーファー航空基地管制塔

 

「北部管制司令部より入電、『連合王国が宣戦布告、当該国の兵力の侵入があった場合直ちに迎撃せよ。』以上です。」

 

 そんな時、管制塔のレーダースコープに輝点が発光した。

 PPIレーダースコープは開店する捜索電波をスコープに表示しながらも、はっきりと輝点を映していた。

 

「近づいている…」

 

「魔導士反応、連合王国より北西に飛行中、速度70ノット、高度6000フィート。」

 

「迎撃しろ!」

 

「分かりました。」

 

 その基地でいつでも迎撃できるよう待機している魔導士は一個中隊を、4人の迎撃班に分け昼夜問わず迎撃できるよう待機させている。

 待機している魔導士は、空軍が採用している灰色をベースとした迷彩の戦闘服を纏い、すぐに迎撃に上がれるようにしておく。

 

 ホットスクランブルが掛かった瞬間に直ぐに走り出し、武器課よりG3を受け取り予備弾倉を弾倉入れに入れて帝国軍魔導士の前掛け型補助具を提げ、4人分隊が迎撃に上がることになっている。

 

 H/C*1が掛かり、待機していた魔導士は迎撃へ上がった。

 

 迎撃に上がったのは分隊規模である。

 分隊長は近衛のなんかすごいお偉いさんの3番目の娘(要はカリンの3人目の娘)のエリカ・フォン・フート、15歳である。

※帝国の民法では14歳で成人となっている。そのため、結婚も14歳から可能となっている。

 

 

 迎撃は成功した。

 

 復讐に燃える元・協商連合国軍人、アンソン・スー大佐(フィヨルドで英国情報部に保護されて以降、何かに憑りつかれたかのごとく『あの悪魔を滅ぼさねば』とつぶやき続け、ついに本国にも家族にも連絡を入れなかった人物)等の存在もいたが、カリンの娘であったエリカにより近接格闘戦の末殺害された。

 

 さて、エリカが迎撃の末、敵を殺害した事を報告しようと基地に帰投としていた。

 

 そろそろ基地が見えてくるだろう。

 遠目に…何か煙が立ち上っていた。

 

「基地が…!飛行場が爆撃されたのでしょうか?

 

 管制塔、こちらソーサラー1、指示を願う。」

 

 応答は、無い。

 

 基地に接近するにつれ、全容が見えてきた。

 滑走路は無事であったのだが、基地の管制塔、ハンガー、航空基地本部から煙が立ち上っていた。

 

 とりあえず無事な滑走路に分隊を下ろすことにした。

 

 とりあえず煙が立ち上っている管制塔に行くことにした…

 

「うわっ…これは…」

 

 迎撃管制官やレーダー士官が血を流して倒れているのを見てしまった。

 明らかに銃撃を食らったような死体であった。

 

「なぜ?銃撃を受けたにしては…」

 

 爆撃を受けるにしろ迎撃機が迎撃できなかった場合高射特科が射撃し防空をする手はずであった。

 ただし外から銃撃をされたにしては可笑しい。

 なぜなら、ガラスが飛び散っていない事だった。

 ガラスに被弾痕さえなかったのはさすがに可笑しいと言わずを得ない。

 

 どう考えても内部からであった。

 

 

 

「…残念です中尉。」

 

「うん、そうだね…その銃口を下ろしてからそれを言おうか。」

 

「それはできない相談です。」

 

 後ろを振り向けば今まで迎撃の分隊として飛んでいた部下の姿が見える。

 ただし、エリカにG3銃口が向いているが。

 

「あなたはできれば撃ちたくありませんが。」

 

「…ッ!

 

 伍長、いつからなの?」

 

 

 実はその伍長は1か月前より配属となっていた。

 

「何時からって、最初からですよ。」

 

「そっか。それで、ほかの二人は?」

 

「残念ながら死んでもらいました。」

 

 下士官であったとはいえ、空軍で長らく迎撃任務に就いていた彼女の他の部下を一人で制圧し殺害するのはなかなかの手練れであるのだろうか。

 

「ええ。そして、それを知った貴女は死んでもらいましょうか。」

 

「そっか、仕方ないね。」

 

「ええ、仕方ないです。」

 

 背中に突き付けられた銃口の存在を感じると同時にG3の銃床をつかみ、首筋に手をかけ右足を掛けるようにして要領よく回転させ彼の背中を地面に打ち付ける。

 

 思わずG3を手放した彼は思わず目を見張った。

 

 迷わず彼女が金属の光る刃物を腰の鞘から抜き自分の首筋目掛け振るおうとしていたのを。

 

「ぐっ…!」

 

 身を捩らせ何とか回避したと思ったらそのまま顔面目掛けて【上官の鉄拳制裁】が炸裂し彼の口から歯が折れて血が滴ってきた。

 まぁエリカの手も無事ではないのだが。

 

 ただ、彼女は何も顔を顰めず左手に持ったままの銃剣を首筋に刺される事と相成った。

 

「申し訳ないけど、母さんに生きて帰ってきなさいって言われてるの。悪く思わないでよ」

 

 近接戦闘をするであろう兵科にはすべて配給されるグラスに紅い血が付着し、自身の手を一瞬にして真っ赤に染め上げた。

 

 傍にあったG3でとどめを刺し、彼女は朱い血で染まった管制室を出る。

 

 敵の工作で襲撃を受け、管制室は全滅であったという事だけしか分からなかった。

 

 とりあえずハンガーに行ってみると。

 

 

「あ。これは機体3つくらい死んでますね。」

 

 

 

 取りあえず生存者探索といったところである。

 

 歩いていると食堂が目に入った。

 入ってみる。

 

 血の匂いはしない。

 厨房に行ってみると何人かの人が居た。

 そして床には顔なじみの人物が蹲っていた。

 

 

「エヴァ軍曹」

 

 なおこのエヴァ軍曹は2等軍曹である。

 

 すっかり憔悴した女性下士官の顔が目に入る。

 

「エレナ中尉殿…」

 

「これは何があったか分かりますか?」

 

 とりあえず、期待はしていないが聞いてみる。

 

「確か…H/Cが掛かった直後に侵入者のサイレンが鳴り始めて、その後すごい爆発音がして…

 

 いくらか時間がたったら銃撃の音がして。」

 

「うん。」

 

「騒ぎが収まって静かになった頃に基地司令の所に行ったんですけど、基地司令が死んでて…」

 

「うん…」

 

「みんなで他に誰か居ないか探したら一応いたんですよ。高射特科の方たちが機関砲を外に向けて撃っているのを…」

 

「うん…は?」

 

「侵入者をハチの巣にするために持ち出したんですって。」

 

「…あっそう…」

      ※航空自衛隊と陸上自衛隊との基地での演習の際、航空自衛隊が対空機関砲であるVADSを持ち出し陸自との演習に勝ったという逸話が存在する。

      ※侵入者はもれなくハチの巣になりました☆

 

「高射特科の他に誰か居たの?」

 

「武器課の方々がG3持って警戒してました。」

 

「あ、そうなんだ。」

 

 の割には人が居なかったけど…

 

「そうだ!食糧庫は無事でしたので2週間以上は補給来なくても大丈夫そうです。

 

 あと、救援+基地復帰のために輸送機が回されるそうです。」

 

 滑走路は破壊されず、燃料タンク破壊と基地司令、管制塔の惨殺で敵工作は止まったみたいである。

 

 

 彼女が去ることを伝えると、顔見知りのエヴァ軍曹含めた給養課の面々は気合いを入れて炊き出しを行うことにしたようだ。

 おそらく気合いを入れないと料理ができない程度には精神が逝っているのかもしれない。

 

 

 

 

 基地の建物をポテポテ歩いているとホットスクランブル時にエリカにG3を渡した武器課の人がG3を持ち歩いているところに合った。

 

「あ、中尉。無事だったんですね。」

 

「うん、まあね。侵入者が私が上がった直後に居たって話を聞いたんだけど…大丈夫そう?」

 

「武器庫に爆弾を張り付けてるやつが見えたのですぐMP5を取り出して射殺しました。

 その爆弾は整備課の人たちが爆破処理したみたいですね。」

 

「…この国の空軍ってよくわからない人たち多くない?」

 

「私もそう思います。」

 

 分からないところで意見が一致した彼とはここで別れ、ポテポテと歩いていると凄い場面を目にしてしまった。

 

 スッゴイデッカイ薬莢が散乱していたのだ。

 

 周りには高射特科の連中がせわしなく薬莢を塵取りに入れては弾薬箱にザバーっと入れている光景を目にしてしまったのだ。

 

 私は見なかったことにして、寮の自室に帰ることにした

 

 

 とりあえず先に魔導士の補助具はおくべき場所に置いておき、G3とMP5KA4を戻して自室に帰ることとした。

 

 

 

 

 

 連合王国による工作は少なくはなかった。

 鉄道の破壊、飛行場の破壊や港の破壊等であった。

 

 ただ、それらを遂行するのは実に命懸けであった。

 なぜなら、それらを遂行した後にもれなく後ろから小銃弾や対空機関砲弾が飛んでくるのだ。

 さすがに港で対空機関砲はぶっ放さなかったのか、港ではMP5の拳銃弾が飛んでくるが。

 

 とまぁ工作員はもれなく死亡するオチなのだが、それは工作員の運命といった事だろう。

 

 しかし、鉄道は破壊されても複数のバックアップが或るものだ。

 こんなこともあろうかと!

 公営線路が壊された?私鉄から輸送すればいいじゃないか!

 

 なぜか帝国は多くの平行路線が存在する。

 そして多くの私鉄はすべて最低でも軸重*230トン級で耐えるようになっていた。

 なぜか?それは帝国どころかすべての国で使用されていたのは蒸気機関車であったためである。

 

 ちなみに日本では蒸気機関車は機関車単体での重さがおよそ50トン程度の物がが多く普及しており、特に日本で有名な『デコイチ』として親しまれているD51機関車は軸重は14.5トン。

 それらでさえ、欧州の蒸気機関車よりはるかに軽いのである。

 

 帝国等の欧州では機関車の重量が100トン超えるのは当たり前なのである。

 軸重は20トン越え。

 そんなものを使えないでどうやって列車を運行するのか?

 そんなわけで私鉄であっても軍需物を載せた重量級貨車の乗り入れが可能であった

 

 

 

 さらに路線の数メートルや十数メートルという一部分を破壊しても一夜、長くても5日で直すキチガイ保線車両の存在もあり、鉄道の破壊活動はそこまで意味もなかった。

 

 飛行場?車両を使って短期間で直しました。

 港?結構時間がかかるけど頑張って直しました。

 

 一番てこずったのは港でしたね( ^ω^)…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基地の機能を一時的に喪失したイェーファー航空基地だったが、一週間後には基地機能を取り戻した。

 物的被害が少なく、人的被害も抑えられたからであった(空軍の頭おかしい人たちのおかげで)。

 

 そして空軍、港湾設備の一部を破壊された海軍は連合王国に対し報復の嵐を決行することになるが、今は語らない事としよう。

 

 

 

 

 

 1924年4月10日にはフランソワ政府の内閣総辞職が行われ、1924年4月13日にはパリースィイの無血開城、後継のフィリップ・ペタン元帥が休戦を申し入れ帝国政府はそれを受託し、4月20日にコンピエーニュの森において休戦条約が調印された。

 

そもそも第三共和政は呉越同舟の色合いが強く、敗色濃厚となった瞬間、一気にそれが噴出したのである。

 

共和国の新政権は帝国との和平交渉を要請。それは実質『敗北宣言』であり、これ以降共和国軍の抵抗は急速に衰えていく。

 

 休戦条約等には次の物が書かれた。

 

・国境の明文化

・賠償金は要求しないが、港湾や飛行場の99年間の借用使用の許可、フランソワ海軍大型艦の一部を賠償艦とする事

・フランソワ国土の極一部の割譲

 

……のみであった

 

 

 

 これを調印した外務大臣によると

『多額の賠償金を支払わせることを考えたが、われらの寛大な皇帝陛下がそれではフランソワ国民が可愛そうだ、手加減してやれと言われたので手加減した』

 

 と言っていた。

 

 

 …最低限は抑えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンケルク……

 

 後世ではダンケルク沖海戦と呼ばれる海戦が始まる。

 

*1
ホットスクランブルの事

*2
車輪一軸当たりにかかる重さの事



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ダンケルク沖海戦&バトルオブブリテン(前編)

 今回、その性質上頭が痛くなるような話になるかもしえませんが、私にとっては専門に近いものであるので分らなかったら飛ばしても良いです。

 あ、クランに新しい隊員が入りました。
 やったね!
 という事でキャラクター追加入りまーすw


20XX年X月X日

 

 とある欧州にある大学に勤める戦史研究家は個人的に質問しに来た自身の生徒にこう語る。

「連合王国は愚策に出ました。我が帝国の軍事が強大だと考え、破壊工作で対抗しようと考えたのでしょう。

 

 ですが目標が悪かった。空軍の航空基地への攻撃や線路の破壊はまだ良かった。航空基地は軍事基地でありますから、被害はせいぜい直接戦う軍人でした。線路も破壊こそすれどもわずか一夜で直してしまう。

 

 ただ、港への工作が良く無かったのです。これは良く無かった。港の破壊工作で一般人が少なくないほどの死傷者が出たからです。

 

 

 代表的なのはイェーファー基地襲撃のおよそ3日後の1924年4月1日に起きたハンブルク港事件です。

 ハンブルクは民間港ではありますが、軍需物資を扱う港でもある戦略的にも重要な港でした。

 

 その港に連合王国のMI6は眼を着け破壊工作を仕掛けます。

 

 クレーン等に爆薬を仕掛け工作をしたのです

 

 結果は上々でクレーン5基を破壊し港湾機能の半減に成功したのです。

 しかし同時に民間人への被害も少なくなく、237名が負傷し傍で働いていた75名が死亡したものとなりました。

 

 

 

 その事件により帝国の世論は一気に傾きました。

 帝国軍が防衛戦術で戦っても“この戦争は防衛戦争だから”で終わり、さらにフランソワとの休戦条約でも同じように“この戦争は防衛戦争だから”というスタンスで要求が相当ぬるくても寛容でした。

 

 ただし、連合王国に対しては別の話になってしまいました。自分たちの同胞が破壊工作で死んだ。

 もしかしたら自分たちもその標的になるかもしれない…

 

 その状態になったとき、人はどちらかに振りきれます。

 すなわち、

 

 ・戦意が高揚する

 ・戦意が低下する

 

 のどちらかになります。

 

 帝国の場合は前者となりました。

 

 

 そしてこのような世論が形成されます。

 

“殺られる前に殺ろう”

 と。

 

 どこから出てきたことは不明です。ですが、

 帝国の世論は連合王国への徹底的破壊を求めるような過激なものへと発展してしまいます。

 

 最悪なことに、帝国空軍―――今の王国連邦空軍のことです―――は当時世界最強クラスの空軍力を持ち、現在もその実力を合州国空軍と競っている状態です。

 

 帝国空軍はその民意に答える事ができる戦力を保持していました。

 

 連合王国はその日から斜陽の帝国へと一直線に駆け抜けていくことになっていくのです。」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

1924年4月7日 帝国空軍作戦室

 

「イェーファー基地における敵破壊工作被害のための復旧はすでに完了しています」

 大佐の階級章を付けた人物が3つ星の階級章の人物にそう話した。

 

 3つ星の階級章を付けた人物は帝国北部と連合王国の南部が描かれている地図を前に考え込んでいた。

 

「そうか。ぜひとも敵も我らと同じ気持ちになればよいのだが。」

 

 ここで帝国空軍の戦力がどれほどあるのか見てみようと思う。

 

 総作戦機  5250機

 

 戦闘攻撃機 3500機

 

 迎撃機   1000機

 

 輸送機   500機

 

 偵察機   250機

 

 練習機   150機

 

 である。

 

 広大な帝国を守るために作った結果がこれである。

 

 

 戦闘攻撃機はみんなおなじみTa152のG型。

 1t爆弾1発と500㎏爆弾か1t魚雷一発とロケット弾24発等、まさにチートなレシプロ戦闘攻撃機。

 

 迎撃機は高高度戦闘機とも兼ねているTa152H型を使用。

 Ta152Hは武装は12.7㎜機銃8丁か、小型軽量の30口径30㎜機関砲一丁と20㎜機関砲2丁のどちらかの武装に分かれる。

 輸送機はEKC-1戦術輸送機とEKC-2戦略輸送機。

 どちらもSTOL機能をもち、最高高度は1万3250m、適正高度は1万1000mと高高度を悠々と飛行可能。

 戦車は無理だが、歩兵戦闘車、騎兵戦闘車、装甲車、自走りゅう弾砲、人員を輸送可能である。

 

 

 

 偵察機は二つの種類が存在する。

 

 電子的に偵察するという観点で言えばあってるのだが早期警戒機と、高高度偵察機を使用している。

 

 EKC-1を改造した艦載を考えられてある早期警戒機*1版のEKC-1Eを100機ほど運用している。

 

 EKC-1EはEKC-1の上に紡錘断面の楕円形レーダードーム(レドーム)が搭載されたものである。レドーム下面には方向安定板を持ち、機体とは支柱によって支えられている。

 内装のレーダーは最大150マイル(240㎞)を捜索可能。

 レーダー等を搭載したことによる重量増加と重心位置の変更に対応するために主翼、全部胴体が延長され、尾翼も双垂直尾翼に変更され、主翼折り畳み機構も変更された。

 操縦手2名、レーダ手2名が乗り込む。

 

 

 

 

 高高度偵察機では

 Ta152の迎撃機/高高度戦闘機型のTa152H型を改造した

 Ta152R-1を使用している。

 

 Ta152R-1はH型の武装を12.7㎜機銃2丁に減らして軽量化をし、そして複座型にした艦載高高度偵察機である。

 

 パイロット1名、無線・カメラ操作員1名

 

 Ta152R-1型を150機運用中。

 

 

 

 

 

 

 うん。チートだな(確信)。

 

 そんな空軍がこんな戦力を持っていたので、戦力で劣る連合王国は破壊工作等の非対称戦を仕掛け、帝国を無力化しようと考えるのは当然の帰結だろう…

 

 

 

 

 

 

――閑話休題――

 

 帝国空軍がイェーファー空軍基地及びハンブルク港の破壊工作の報復として連合王国空軍に正面から挑戦状を叩きつける。

 そんな作戦が計画、立案状態であった。

 

 

 作戦名は―――――――

アシカ作戦

 

 

 

 第1フェーズ。

 とりあえず偵察。

 

 連合王国のレーダー網を構築するレーダー基地の正確な位置情報を得る。

 

 そのために早期警戒機EKC-1Eを10機ほど上空に挙げておき、高高度偵察機Ta152R-1を10機ほどで航空偵察しレーダー基地を把握。

 さらには敵航空基地を威力偵察のような形で把握する。

 

 

 第2フェーズ

 

 レーダー基地の位置を把握した後、把握したレーダー基地をほとんど同時刻に襲撃し破壊し、その直後に敵航空基地に別攻撃隊が滑走路と基地施設を破壊し制空権の優勢を継続確保。

 

 

 第3フェーズ

 

 新設された海軍航空隊と共同でロイヤルネイビーの頭上に爆弾の雨を降らせる。

 第1目標、敵艦船

 第2目標、軍港施設

 第3目標、その他の軍事施設

 第4目標、軍需工場

 

 第4フェーズ

 制空権の完全確保。

 

 を目的としている。

 

 ただ、バトルオブブリテンの敗因の一つの航続距離が足りないんじゃないかという質問もあるのではないだろうか?

 

 それについてだが…

 

 Ta152の戦闘行動半径は30分の戦闘時間も加味して最大1900㎞(増槽付き)である。

 ただ、これは胴体パイロンに520ℓ大型増槽一つ、両翼パイロンに360ℓ中型増槽を2つ付けた場合である。

 

 

 通常戦闘は対地任務ならば翼に中型増槽2つ吊り、胴体に1t爆弾を1つ吊り下げるか、胴体に大型増槽を1つ吊り下げ、翼に500㎏爆弾2つ吊り下げ、その上で対地上目標用ロケット4発を装備する。

 

 制空任務ならば単純に翼に中型増槽を2つ付けたうえで、空対空ロケット弾10発を装備する。

 

 その場合、戦闘行動半径は1400㎞程度となる。

 

 この世界のベルギーやオランダ当たりの航空基地から出撃するならば余裕で連合王国全体を空襲でき、連合王国の南部で戦闘したとしても、その余裕のある航続距離は戦闘時間が10分や20分ほど長引いたところで無事に帰還できる事を表している。

 

 

 

 

1924年4月5日

 フランソワ共和国との休戦協定が結ばれる。

 

 ただ、帝国空軍はそんなことは関係ないとばかりに準備を始めていた。

 

 

 

 

 

4月5日13時53分 ハーグ沖50㎞

 

「現在高度1万1000m、レーダー入感あり。

 

 機長、レーダーに捕捉されました。」

 

 

「うん、要撃機が上がったらまた教えてくれる?」

 

「分かりました。」

 

 高度1万メートル以上という高高度は本来人間が居て良い場所ではない。

 

 空気の濃度(圧力とも言う)はおよそ半分以下に減少し、気温は人間が十分凍死できるほど冷たくなる。

 そんな上空を飛んでいるのは帝国空軍所属早期警戒機

 EKC-1Eである。

 

 完全気密のキャビンにより高度1万メートル以上でも快適?な環境を整えてくれる何とまぁ訳の分からない早期警戒機である。

 なお、レーダー等の電子機器の発熱でほとんど暖房は要らない状況になっているが。

 逆に暖房付けると暑いくらいだとの評判である

 

 一応高高度で悠々と飛んでいても一応は非武装であるので護衛戦闘機が必要である。

 

 護衛戦闘機は高高度戦闘機であるTa152Hが増槽を付け、1∼2個小隊の4機から8機で担当する。

 

 今回は4機1個小隊の護衛を傍に侍らせ、高高度電子偵察と言ったところだろうか?

 

「敵要撃機上がりました.

 

方位1-6-0、相対速度350ノット、距離65マイル.

 

方位1-7-2、相対速度319ノット、距離130マイル」

 

「よし、じゃあその方向に飛行場が有るといったところだな。

 

 燃料がそろそろビンゴじゃないか?

 

 …帰るか。」

 

「分かりました。

 

 タワー、こちらホークアイ。

 

 ミッションコンプリート、RTB。」

 

 

 

 その3時間後、帝国空軍第18航空団がいるコクスアイデ空軍基地から第501偵察航空団より5機が護衛10機を引き連れ高高度偵察をすべく4月の空へ上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 その2日後、或る作戦が認可された。

 

『アシカ作戦』

 帝国語で

『Unternehmen Seelöwe』

 

 その作戦が認可されたのにはある背景がある。

 

 帝国の世論が連合王国への強硬派を占めたからである。

 短い時間で沸き上がった感情は帝国政府をも手を焼き、皇帝がラジオ等で諫めようと努力しても止まることはなかった。

 

 どちらにしろ、連合王国は早めにコロコロしておくべきだという議会の圧力もあり、その作戦はあっさりと認可された。

 

『アシカ作戦』

 それは、近いうちに行われるであろうダンケルク撤退やそれに近い出来事が起こると予想される。

 できればそれは阻止したいが、ロイヤルネイビーがクッソ邪魔だという事である。

 

 であるならば、ロイヤルネイビーを制空権を確保した後に素早く殺り、その情報をフランソワ共和国側に渡らせないように帝国3軍に設置されている情報部による欺瞞無線を流しながらのうのうと出てきた奴らを高速侵攻中の陸軍で攻め落としながらほとんど開店休業中の海軍、そしてその地域の絶対的防空権を奪取する空軍による殲滅戦を行うといったところである。

 

 

 

 皇帝エリザベートちゃんは承認するときにこう言った。

 『そんなうまく行くのかな?』

 と。

 

 (大丈夫です、ルーデルさんが敵を海の藻屑にしてくれます。)

 

 

 

―――――――――

1924年4月10日 7時03分

 

 帝国国内の航空基地7基地より空軍所属のTa152G型1725機、海軍航空隊所属のTa152G型315機。

 早期警戒機EKC-1Eを15機、高高度偵察機をTa152-R1を25機。

 高高度偵察機Ta162Hを150機。

 輸送機EKC-1を25機、EKC-2を25機。

 

 合計作戦機2280機が『アシカ作戦』に投入された。

 

 

 

 

 10時13分、連合王国のレーダー網に帝国の攻撃隊が探知される。

 

「これは…」

 

 連合王国のレーダー士官が絶句した.

 

「航空機反応、距離6マイル!」

 

「迎撃機を上げろ!なんでもっと前に報告しなかった!」

 

「急に現れたんです!」

 

「ええい、今言っても仕方ない、今すぐ上げろ!」

 

 各飛行場より量産が始まり配備が始まった最新型スピットファイアMkⅹⅹⅡ、MkⅹⅹⅣの稼働機すべてが連合王国南部にある飛行場より飛び立つ。

 

 総勢113機。

 

 スピットファイアの最新型はTa152とほぼ同等か若干下程度の2000馬力級ロールスロイスグリフォンエンジンを搭載していた。

 劣っているとすれば武装程度であった。

 

 スピットファイアmk22,Mk24の武装は20㎜イスパノmk2機関砲4門を積んでいた。

 

 ただ、その武装は低空侵入用として開発され、防弾装備をこれでもかと積んだG型にはいかんせん決定打に掛ける物だった。

 G型を落とすには、薄めの装甲で守られているエンジン部を被弾させるか、エルロン、ラダー等の操縦翼の破壊を狙わねばならない。

 着発して爆発する対空用20㎜榴弾で操縦翼を吹き飛ばすか、最も装甲が薄いエンジンを徹甲弾でぶち抜くか。

 

 そのどちらかをしなければならない。

 そしてTa152はその重量に見合わないほどの操縦性能を有している。

 

 大重量の機体は運動性能低下を引き起こすが急降下時の最高速度は最高800∼900㎞/hとジェットですか?と聞きたくなるような物で、機動性に関しても大重量であるので軽快ではないが速度が適正であればという条件が付くが、軽快な戦闘機にも負けないほどのターンレートを発揮する。

 

 ただ、今回は機体性能の差という物で勝敗が決まるわけではない。

 

 

 

 

 

 

 高度60m以下で飛行し、レーダーによる探知を遅らせる。

 

 迎撃機が上がった事を早期警戒機が感知すれば、素早く護衛が迎撃機しに来たスピットファイアの迎撃に向かう。

 

 今回、攻撃隊は2次に分けてある。

 

 

 第1次攻撃隊

 目標早期警戒レーダー網の破壊。

 

 第2次攻撃隊

 目標迎撃網構築の一端を担う飛行場等の破壊。

 

 

 この2つである。

 

 護衛機と迎撃機が交戦し始めると攻撃隊がその隙を縫い、すり抜けレーダー基地へと一直線へ向かう。

 

 

 

 第1次攻撃隊総勢623機、うち半分が護衛機313機。

 

 

 

 ここまで言えばわかるだろうか?

 

 数の暴力(米帝プレイ)

 

 である。

 

 迎撃機のスピットは常に数で押され、もし幸運な連合王国パイロットが1機撃墜できたとしても後ろから発射された60口径30㎜機関砲に粉砕され、呆気なくドーバー海峡の藻屑へと消える。

 

 そして爆弾を詰め込んだ総是313機の爆撃隊はレーダー基地をその腹に抱えている500㎏爆弾もしくは1t爆弾、さらには最後の仕上げに対人地雷30個を詰め込んだ収束爆弾を投下する。

 

 

 そして、そのレーダー基地はレーダーを破壊された上さらに対人地雷を撒かれ、まずその地にレーダーを復旧する事において絶望的になってしまう地雷原へと早変わりするのだった。

 

 爆弾を早々と投下し終わった機は未だに制空戦闘を続けていた味方に加勢。

 

 

 戦力差とライン戦線等で培ったロッテ戦術や、2機一組としたTa152G型の弱点の低速時における劣悪な機動性を長所である丈夫さを生かして自然に開発されたサッチ&ウェーブ等の戦術機動で常に優位に立ち、軽量で機動性に優れているはずのスピットファイアのパイロットを苦しめた。

 

 なお、相手になったのはスピットファイアのみであり、連合王国の隅々から搔き集められたハリケーン戦闘機は秒で粉砕されるのがオチだった。

 

 連合王国南部に配備されていた警戒レーダー網は破壊され、そもそも連合王国南部の稼働機がすべて出払った状態で管制も何もない状況ではなくなった連合王国空軍。

 

 もともと連合王国にはおよそ1000機ほどの戦闘機を搔き集めたが、最新型のグリフォンエンジン搭載スピットファイアや前線で目撃されたTa152G型の影響を受けた戦闘爆撃機型のホーカータイフーンや連合王国機最速ホーカーテンペストは王国全土を見るとそのうちの70%を占めていたが、それ以外の30%は旧式のハリケーンであった。

 

 南部に配置されていたスピットファイアは壊滅、連合王国の首都を守る戦闘機隊がおっとり刀で駆け付けた時にはすでに帝国空軍機は引き上げた後だった。

 

 

 迎撃するもむなしく破壊されたレーダー基地。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして全く静寂に包まれている海。

 

 高度1万8000ftを巡行速度300knotで飛行するTa152攻撃隊が進む。

 そのTa152は映える真っ青をベースとした海洋迷彩、機体下部は若干灰色の制空迷彩を施されていた。

 

 胴体にはD.K.Marineと書かれている。

 

 彼らは帝国海軍航空隊である。

 空母での運用が控えているが、その前に実戦を経験させたい狙いである。

 総勢325機の大編隊はどこに向かっているかというと…

 

 

 連合王国海軍の根城。

 すなわち世界で1,2位を争うRoyal Navyの本拠地である――――――

 

 スカパフロー海軍基地である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連合王国上層部では開戦に先立ち、帝国の沿岸部を艦砲射撃してはどうか?

 

 いっそのこと、スカゲラク・カテガットの両海峡を突破し、バルト海から陸軍を上陸させてはどうか?

 そんな案もあったが、海軍上層部は頑として譲らなかった。

 

 航空機で戦艦が沈められるとは考えにくいが、それでも数百機の帝国空軍機に襲われたら、無傷では済まないと彼らは判断していた。

 

 結局、出撃するということはなく、開戦から今日まで続いていた。

 

 

 

 そういう事情も手伝って、スカパ・フローは平時と変わらない雰囲気だった。

 

 静かな…そう。

 静かな海である。

 

 対空陣地が増設されたり、レーダーサイトが新しく建設されたりしていたが、本土から近いこともあって、前線のようなピリピリとした雰囲気ではない。

 

 

 魔導師達も2個中隊程度しか駐屯しておらず、メインランド島にあるオークニー諸島唯一の飛行場には戦闘機が50機程度、爆撃機は20機程度しか配備されていなかった。

 

 何かあったら、本土からすぐに援軍がやってくる、というのがスカパ・フローやその周辺に存在する全ての部隊における共通認識だ。

 

 

 連合王国海軍の本国艦隊は戦艦を15隻――――-全て15インチもしくは16インチの主砲を持つ超弩級戦艦や新戦艦と言える物を保有しているが、そのうちの半数をスカパ・フローに置き、帝国海軍に対して睨みを効かせていた。

 

 

 帝国から遠い事も手伝い、対空陣地が増設されたり、レーダーサイトが新しく建設されたりしていたが、本土から近いこともあって、前線のようなピリピリとした雰囲気ではない。

 

「空軍の連中が言うには、近日中に戦闘機が半分くらい引き抜かれるらしい」

 

「そいつは羨ましいな」

 

 レーダーサイトにて、昨日の夕方から勤務に入り、あと数時間で勤務が終わる2人はコーヒーを飲みながら、眠気覚ましに会話をしていた。

 

 PPIスコープの画面を見るというのは退屈極まりない。

 

 もちろんその事は帝国空軍のレーダーサイトを監視しているレーダー士官でも変わらない。

 眠気との戦いではある。

 

「帝国軍はアルビオン・フランソワ海峡を超えて、ポーツマスやドーバー、ロンディニウムあたりを空襲するっていう噂だ」

 

「ありえるな。そっちのほうが距離も近い。共和国の沿岸部から目と鼻の先だ」

 

「だから言ってやったのさ。俺たちも連れて行けって」

 

「ああ、本当にな。まったく、まさかこんなところに配属されるなんて思ってもみなっ……」

 

 何気なく、1人がPPIスコープの画面へと視線をやったときだった。

 

 南西から多くの輝点が光ってスカパ・フローへ向けて、高速で接近しているのが映っていた。

 呆けたように彼がそれを見ていると、もう1人もまたPPIスコープの画面を見る。

 

「なんだこれは?方角からしてアバティーン当たりの航空隊か?だったら朝早くから訓練でもしているんだろう。

 

 それか、アバティーン航空隊から本土へ引き抜かれた航空隊が本土に向かって向かってるのか?

 

 数日前にそんな噂を聞いたことがあるぞ。」

 

「…そっか、そうだよな!なんだよ、勤務上がりにこんなのは勘弁してくれだぜ。」

 

「まったくだ。」

 

「あと3時間はあるから、一応報告だけはしておくか?」

 

「それもそうだな。しっかり仕事をしているというアピールができる」

 

 それで給料があがりゃいいがな、と言って2人は笑い合う。

 

 そして、彼らは電話にて上官へと報告を行った。

 

 

 

 

 

 

 レーダーサイトから報告を受けた大尉は首を傾げる。

 

 とはいえ、報告を受けたからには確認をせねば自分の責任問題になる。

 

 大尉はすぐさまスカパ・フロー周辺の守備隊の司令官である大佐へと電話を掛けた。

 

 その時の時間は7時32分。

 大尉はその時針の音が異常によく聞こえて不気味であったと語った。

 

 

「航空隊?アバディーンか、インヴァネスの部隊か? 私も聞いていない。すぐに確認をしろ」

 

 ここはスカパフロー。

 連合王国の最大の海上戦力が集う場所。

 

 そんな場所に敵が攻めてくるはずがないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ターニャは不貞腐れていた。

 陸軍大学が休みの休日にいきなり起こされ、訳の分からないままに飛行場に連れてこられ、パイロットの服を着せられ、1時間ほど機上の人となっていたからだ。

 

 ただ、それを態度に出すとあまりよろしくはなかった理由があった。

 

 操縦席にいる人物。

 

「ターニャ少尉、少し不機嫌じゃないかい?」

 

「いえ、まったくそのようなことは御座いませんが?」

 

「イントネーションが怒っているように聞こえるけどね。」

 

 ナスターシャ・フォン・シグラ空軍准将である。

 (年齢37歳既婚w)

 

 ちなみに中身はQ太です。

 

 

 

 

 ナスターシャ准将は帝国海軍で空母艦隊が発足した際には第1空母打撃群航空隊指揮官として就任し、現在は325機の海軍航空隊を率いる指揮官として―――――

 

「陸上にいろってか?馬鹿じゃないのかい?やっぱり前線だよねぇ(^^♪」

 

 ―――適切であるかは置いといて。

 本当は優秀なのだけども、前線に行きたがり参謀以下全員を困らせる困ったちゃんであった。

 

 ターニャはそんな准将と一緒にTa152の高高度偵察機型であるTa152R-1の機上にいる。

 

「そんな機嫌を悪くしなさるな。そろそろいいものが見えるから。」

 

「良いものってなんでしょうか准将殿…」

 

「スカパ・フローだよ」

 

「本当ですか?」

 

「おぉ、食いついた食いついた!そうだよ。言ってなかったかい?」

 

「初めて聞きましたよ!ですがスカパフローですか。」

 

 無神論者であり、運命とかそういうものなど信じたこともがないが、それでも何か、不思議なものを感じてしまう。

 

 高度3万ftの上空から見える朝日に照らされたオークニー諸島はとても綺麗であり、ターニャは少しの間、見惚れてしまった。

 

 こういう体験は前世では絶対にできなかった。

 

 午前4時にたたき起こされた分の眠気が一気に吹っ飛んだ気がした。

 

「さて、仕事するかね。」

 

 そう言い前部で操縦桿を握っているナスターシャが取り出したものは無線機であった。

 

「全機、攻撃開始!」

 

 

 第24海軍航空隊、第25海軍航空隊、第26海軍航空隊総勢325機は各中隊に分かれて攻撃態勢に移る。

 

 まず主目標であるレーダーサイトを破壊する。

 レーダーサイトはメインランド島、サウス・ロナルドシー島の東側に2箇所ずつある。

 それらは魔力探知用と航空機探知用が1つずつだ。

 

 その後は滑走路、対空砲、港湾施設、そして艦船。

 これらを叩くつもりでこの航空隊ははるばると飛んできたのである。

 

 

 そして、ターニャ達は見た。

 

 スカパ・フローに停泊し、朝日に照らされている艦達を。

 

 

 

 

 

 ターニャは柄にもなく興奮した。

 

 写真を、写真を撮りたいっ!

 だってあれ、クイーン・エリザベス級とレナウンとフッドと、マトモな形のネルソン級だぞ!

 この世界は軍縮条約とかなかったから、ネルソン級が16インチ砲を前部2基、後部に1基という常識的な配置なんだぞ!

 

 勿論、三連装砲だ!

 

 

 その柄にもなく興奮しているターニャを後ろ目に見た人物はこういった。

「ターニャ少尉、その偵察カメラで撮ってい良いぞ。」

 

「本当ですか?」

 

「戦果確認には良い代物でしょ?

 

 その前に…高度32000ftから一気に降下するよ!高度21000まで!その高度から撮ってね!」

 

「分かりました准将殿!」

 

 

 

 

 その間にも、攻撃隊は陣形を攻撃陣形へ変更し、レーダーサイトを攻撃する一個中隊計2個中隊と、航空基地を攻撃する一個中隊が離れていく。

 

 その他は…

 

「目に入った物は破壊しろ。

 

 もちろん全部だ。」

 

 

 

 だ、そうです。

 

 2つの中隊からレーダー基地破壊の報告された時間には高度21000ftまで高度を下げていた。

 

「ターニャ少尉、21000ftまで下げました。撮っていいですよ。」

 

 と言ったら、とりあえずHoodからゲテモノじゃないネルソン級などの戦艦を撮り始めた。

 そして撮っている途中で目にしたものがあった。

 

「空母…?」

 

「あ…おそらくイラストリアス級だろう。イラストリアス級がその基地に1隻寄港しているらしいね。」

 

「なるほど。」

 

 攻撃隊は格納庫、管制塔の順番で潰し、航空燃料が詰まったタンクを破壊してその後仕上げに軽~く上から対人地雷30個ほど詰まった収束爆弾を5機、計10発。対人地雷が300発ほど撒き、航空基地への攻撃を終了する。

 

 その後港湾設備、対空砲を攻撃し、多大なる戦果を挙げることに成功した。

 

 

 

 

 

 その後は…

 

 メインディッシュである。

 

 

 

 

 

 乗員の対艦攻撃に慣らさせるための一環として行われた作戦であったが、実に成功した。

 

 Ta152の兵装は雷撃隊は1t魚雷を1発と対地ロケット24発、増槽2つ。

 爆撃隊は1t両用爆弾と両用ロケット弾24発、増槽2つ。

 

 それが、飛行場、レーダー、港湾設備を破壊した後も150機ほどは残っていた。

 

 それらが対艦攻撃し始めるとどうなるか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ちろっ! くそったれ!」

 

 叫びながら、射手は撃ち続ける。

 

 2ポンド8連装ポンポン砲は先月、改良型に交換されたばかりであったが、特に不具合が起きることなく、快調に弾丸を敵機に向けて送り出し続けている。

 初期型の信頼性は酷いものだった為、有り難いものだった。

 しかし、敵機は全く落ちない。

 初速が遅く、弾速もクソ。

 それを補うために8連装にしたのだが…

 

 当たらないものはどうやっても当たらない。

 

 

 

 先ほどの敵襲ではかろうじて被害があった艦はごく少数であった。

 

 

 その代わり、港湾施設をはじめとした様々な施設の被害は甚大であり、スカパ・フローは完全に艦隊拠点としての機能を失ったといえるだろう。

 

 

 

 そして、空襲の最後に停泊する本国艦隊に向かってきたのが皆おなじみTa152G型帝国海軍機である。

 

 「ああっ! フッドがっ!」

 

 その声が聞こえた、多くの水兵達が一瞬立ち止まってそちらを見た。

 

 

 フッドは右にゆっくりと傾いていった。

 その光景は現実感がまったく無く、さながら映画のワンシーンだと言われても信じてしまうくらいに。

 

 そしていきなり火炎とともに大爆発を生じさせ急激に艦体を横倒しにさせていく。

 完全に横倒しになり、盛大な水しぶきと波を湾内に引き起こした。

 

 しかし、機銃の射手が配置についていたネルソン級2番艦ロドニーもまた他人事ではなかった。

 

 

 

 各所の見張員から次々と悲鳴のような報告が艦橋へと入る。

 

 

 

「敵機直上急降下! 6機突っ込んでくる!」

 

「左舷に敵機!」

 

「右舷からも敵機接近!」

 

「前方から敵機!」

 

「後方からも敵機!」

 

 巡洋艦や駆逐艦も、ネルソンを支援すべく、自艦への敵機を顧みず、彼女に近づく敵機へ対空砲を向ける。

 

 そこには防空巡洋艦が多数配備されていたが、砲塔旋回速度が遅く対空戦闘できなくもなかったが難しい状況であった。

 

 

 ロドニーの対空砲火の銃口を敵機に向けるが5方向から向かってくる敵機すべてを対処できる方がおかしいわけで。

 

 

 Ta152の6機編隊が一トン爆弾と同時に増槽を切り離し、4方向から迫る雷撃隊も4機編隊で魚雷投下コースに入り魚雷を投下した。

 

 或る駆逐艦の乗員は見てしまった。

 敵機が切り離した見たことあるような爆弾より少し大きい奴がネルソンに向かって落ちていくのを。

 敵機がロケットを発射しながら魚雷を投下しているのを。

 

 

 魚雷の航跡はロドニーへと延びていく…

 

 そして、爆弾がロドニーにほとんど命中した。

 対地対艦両用爆弾は甲板装甲をギリギリぶち破って何とか爆発を起こして火災を生じさせた。

 それと同時に、ロケット弾の着弾と爆弾の着弾の飛び散った破片によって高角砲員や機銃手の多くが重傷を負った。

 

 しかし、左右から魚雷が迫っていた。

 左舷から12本、右舷から8本であり、それはまっすぐにネルソンへと向かっている。

 

 まず大和とかいう異能生存体でない限りその数の魚雷には耐えられないだろう。

 

 火災を発生し、多くの死傷者が発生してもなお、ロドニーはロイヤルネイビーの誇りをもって浮き続けようとする。

 

 そこへダイドー級防空巡洋艦HMSハーマイオニーとJ級駆逐艦Janusが機銃を海面に向けて撃ちまくりながら、その一方で浮き輪をネルソン目掛けて左右から投げる。

 ダイドー級のハーマイオニーに至っては主砲を海面に撃っていた。

 

 神の気まぐれか、左舷からの魚雷のうち2本は機銃による迎撃が成功し、右舷側はダイドー級による主砲や機銃によって3本の魚雷を爆発させることに成功した。

 

 ただ、無情にも魚雷がロドニーに8本命中し、そのうちの2本が弾薬庫に綺麗に命中。

 ロドニーは第1、第2主砲を朱い爆炎で主砲を吹き飛ばし、彼女自身はは艦上全体を黒煙で覆い尽くし、甲板からは乗組員達が次々と海面へと飛び降りている。

 

 しかし、魚雷による弾薬庫誘爆によって船体が破損したことで、大量の海水が流入したことによるものか、それ以降爆発を起こすことはなかった。

 

 

 HMSHoodは1t爆弾を2発、1t魚雷3発を受け撃沈、戦艦ロドニーは1t爆弾3発、魚雷8発を受け撃沈。

 そのほかその場にいた戦艦3隻のレナウン、バーラム、ロイヤル・オークはいずれも撃沈され、航空母艦イラストリアス級2番艦ヴィクトリアスも撃沈。巡洋艦もHMSハーマイオニーを残しすべて撃沈が撃沈された。

 駆逐艦はJ級駆逐艦JanusとJervis、他3隻が残ったのみであった。

 

 

 

 

「…静かな空は鎮魂歌によく合う。戦果確認だ少尉。」

 

「は。」

 

 いやに静かな、エンジンの音が響く偵察機の中でターニャはあちこちから煙が立ち上るスカパフローを撮っていく。

 

 

 攻撃終了時刻

 1924年4月10日8時34分。

 

 

*1
早期警戒機は、上空から監視を行うため、特に地上や艦載のレーダーでは水平線の影になり探知不能となる低空飛行の目標について遠距離から発見することに優れている。また、敵地に侵攻する場合など、地上のレーダーの支援が受けられないときでも移動し、空中からそれを補うことができるなどの利点がある。帝国の場合、管制作業はレーダー画像を転送した先の艦隊や地上管制の指令室にて行う仕組みである。




ナスターシャ・フォン・シグラ(37)

 身長173.5[㎝]
 
 バスト :87[cm]
 ウェスト:69[cm]
 ヒップ :95[cm]

 Cカップ


 もとは空軍大佐であったが、そろそろ前線勤務できなくなってきたので海軍に転向してみた変な人。
 実は転生前はバイセクシャルで男も女もいけるが、一応女性の方の彼女が居た。

 今はちゃんと男と結婚。前世はバイセクシャルであったために抵抗は全くなかった。
 2人の娘を抱えていた。

 戦闘技術はG3の銃床で敵を殴り殺すのが好きだった。
 魔導士レンジャー持ちでありながらも、Ta152パイロットでアグレッサーをしていた経験がある。

 現在海軍准将。

 そしてキチガイ+腐女子

 

 普段は黒髪を後ろで束ね、前髪は左右にピンで留めている。
 目はダークブラウン。


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ダンケルク沖海戦&バトルオブブリテン(中編)

 前回は恐ろしく長くて本当に申し訳ない…

 あとなぜかターレル書こうとしても話がつながらないのは何故だ!?


 これはカタリナちゃんの陰謀だ‼‼(大嘘)


 その後撤収し、1時間と30分ほど乗っていれば帝国の陸地が見えてきた。

 

「タワーコンタクト、周波数122.165。

 

 管制塔、こちら第24,25,26海軍航空隊。滑走路へのアプローチを要請する。」

 

 

『了解、63滑走路の使用許可。

 

 お帰りなさい、准将。大佐殿がお説教するためにお目見えですので、後でお説教されてください。』

 

 

「そんなぁ(´・ω・`)…」

 

「当然ですね。」

 

「ターニャ少尉まで…」

 

「何時に起こされたと思ってるんですか?」

 

「それは謝るけどさ。」

 

 そうなんか雑談しながらも部下の着陸を見守るナスターシャ准将。

 

 

 部下の最後の着陸が終わったのはおおよそ20分後であった。

 

「さて、着陸すっぞ!」

 

 正面に滑走路を捉えながらうまく減速していく。

 

「フラップダウン20°,ランディングギアダウン…確認。

 

 100…50…20…10…タッチアップ。」

 

 無事滑走路に着地した振動が身に染みる(気がする)

 

 格納庫前で止めてコックピットから降り立った。

 

「どうだった、ターニャ少尉。」

 

「久しぶりに興奮しました。実に…」

 

「准将~~?」

 

「あ…クリストフ大佐…」

 

「いつも言ってますよね?勝手に前線に出ないでくださいって。

 

 着替え終わったら直ぐに反省ミーティングですよ。

 

 あとで始末書2枚ですからね。」

 

「そんなぁ(´・ω・`)…」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 連合王国空軍戦闘機の稼働率を見てみよう。

 現在、連合王国の稼働率は81%を記録している。

 

 先の航空戦でスピットファイア113機を撃墜し、ハリケーン53機を撃墜した。

 こちらの損害は対空砲火等の被害もあり25機であった。

 

 パイロットはすべて着水し一時間以内に北方管区所属第12航空隊航空救難団などに所属している航空魔導士のパラメディックが救出しに行き、もれなく連語王国の航空魔導士と戦闘となった。

 

 ただ…帝国空軍のパラメディックは全員人間をやめていたので連合王国の魔導士を返り討ちにし、悠々とパイロット救出を行った。

 

 帰ってきたTa152G型は60m以下の海面を飛行したためオーバーホールをしなくてはならない。

 なぜなら、海面近くを飛行すれば海水がかかる可能性がある。

 もっと言えば、海水が気化した蒸気が期待に付着、塩が中に入り込んでいるかもしれず、機体が腐食しているかもしれない。

 そのためにすべてを分解して点検しなくてはならなかった。

 

 

 その間の機体はどうするか?

 

 新しい機体を作ればいいじゃない!(米帝プレイ!)

 

 

 帰還したパイロット全員以上の機体が空軍に納入されていた。

 その機体数なんと、2153機分!

 

 帝国において、すでに産業界は戦時体制に近いものに移行していた。

 帝国の工場はおよそ2000機の航空機を、1か月で量産している。

 

 帝国本土の資源はそこまでないとまで言える。

 しいて言えば、ダキア戦で油田を手に入れたくらいである。

 ただし、帝国はアジアやオセアニアなどの太平洋の資源が豊富な島国を植民地としていた。

 希少な鉱物等を産出する植民地をただで放っておくわけにはいかない。

 

 太平洋の植民地には学校等の初等教育を行い、道路や発電所、病院等のインフラを整備しリン鉱石採掘等による産業振興、貨幣経済への移行が重点的に行われる。

 

 

 

 

 

 

 まぁまぁの資源も太平洋の植民地より送られてくるために相応の量産をできるのは幸いであった。

 ただし、シーレーンを遮断されれば、帝国は資源不足であえぐことになる。

 

 よって、海軍が遠洋海軍へと舵を切ろうとするのは当然の帰結であった…

 

 

 

 

 さて、帝国は損耗するであろう、

 戦闘攻撃機型のTa152G型を帝国の航空機会社のほとんどが大量量産をしている。

 さらには帝国空軍が兼ねてより20年の間研究していた、バランスブレイカーと言える実用ジェット戦闘機の先行量産をE&K社が開始していた。

 

 

 

 

 

 

 そのころ連合王国南部では熾烈な航空戦が行われていた。

 

 第2次攻撃隊1102機、護衛機はそのうちの753機は護衛であった。

 

 今回は首都付近も含めた連合王国南部の飛行場破壊をも目的としていた。

 

 連合王国は2時間ほど前に早期警戒レーダー網を失っていたために、目視による対空監視所からの情報でスピットファイアmk24を50機何とか緊急発進させたもの、間に合わずに侵入を許す。

 

 護衛機が、上がってきた迎撃機とぶんぶんしている間に攻撃機は次々と侵入。

 

 対空砲火の中を掻い潜り、撃ってくる対空砲、バンカー、外に駐機されている航空機、滑走路。

 これらをまとめて破壊する必要がある。

 

 対空砲、バンカーは通常爆弾500㎏爆弾を緩降下爆撃機で撃破。

 

 滑走路は10㎏小型爆弾を50発まとめた収束爆弾を20発ほど投下し穴だらけにして滑走路復旧を困難にする意図が或る。

 

 ただ、ここでは軍上層部でさえ思わなかった副次効果が発揮された。

 

 爆弾には不発弾という物がある。

 特に収束爆弾、すなわちクラスター爆弾は非常に小型な爆弾を大量にまとめる物で、地上に着弾したとしても信管がうまく作動せずに爆発しない事が有る。

 

 それには工作精度のことも含まれるが、単純に収束爆弾特有の爆弾の着地の衝撃等が信管に伝わらずに爆発しなかったものも多くあるらしい。

 

 1発の爆弾が仮に1%の割合で不発になるとする。

 そして確率論的に言えばこのクラスター爆弾を2発投下した場合、1発の子爆弾が不発になる。

 また、収束爆弾の子爆弾は大量に積む必要があるため大量生産をするが、その際どうしても信管は少々品質が劣ってしまう。

 ただ、それを防ぐためには爆弾底部に信管を設け不発弾をある程度防いでいる。

 

 のだが…

 

 

 連合王国のひとつの飛行場破壊の際、クラスター爆弾が投下された際には20発が投下され、子爆弾の合計は1000発に上った。

 そして、不発弾の数は127発。

 

 連合王国は飛行場を復旧させるにはひとまず不発弾を撤去してから復旧作業をやらなければならなかった。

 

 よってむこう一週間は身動きが取れない状態となってしまったのだ。

 

 ひとまず一週間の猶予がある帝国空軍はどうしたか…

 

 

 帝国空軍300機程の帝国にしては少なめな攻撃隊を編成、ポーツマス海軍基地、クライド海軍基地に空襲を掛けることだった。

 

 なお、小規模編成をしたことにより帝国空軍の戦闘攻撃機に余裕が出てきたため、

 1924年4月15日をもって、連合王国の商船を見つけ次第撃沈するとかいう通商破壊戦を開始した。

 

 

 

 

――――――――――――――

1924年4月15日 ドーバー海峡

 

 深い海を鋼鉄の塊が行く。

 Z63型駆逐艦である。

 

 Z53型駆逐艦は量産性を主眼に置かれた量産型の護衛駆逐艦と言える存在である。

 それを帝国海軍は65隻運用している。

 

 

 帝国海軍はエリザベートちゃんや帝国空軍技術局の後押しもありシーレーン防護を口実として遠洋海軍を目指しはじめた。

 空母取得である。

 

 空母一隻を哨戒、実戦。

 空母一隻は本土で整備。

 空母一隻を移動と訓練。

 

 この空母3隻編成の取得を目指していた。

 ただ、帝国海軍が建造した空母はヤバイものだった。

 

 グラーフ・ツェッペリン級航空母艦

 基準排水量 4万3100t

 満載    5万8000t

 

 搭載機数  120機

 

 Ta152 100機+補用機3機, 

 EKC-1 3機+補用機2機, 

 EKC-1E早期警戒機 3機+補用機2機,

 Ta152R-1艦載高高度偵察機 3機+補用2機 

 そのほか自由に補用機等を2機搭載可能

 

 

 

 甲板はジェット機運用をする前提であるため耐熱装甲甲板で、軸に対し9°のアングルドデッキを採用。

 蒸気カタパルトを3基装備。

 

 エレベーターはアウトボード式を艦橋を挟み前後の2基とする。

 

 ボイラー8基, 蒸気タービン4基, 出力軸4軸からひねり出される215万馬力の出力により最大戦速33ノットを発揮する。

 全長 300m、最大幅 65m

 

 兵装

 65口径155㎜連装両用砲,SKC14/65     3基6門

 

 37口径127㎜連装両用砲,SKC12/37     6基12門

 

 72口径88㎜連装高角砲,Flak18mod.1    6基12門

 

 70口径40㎜4連装機関砲,Flak22mod.4    12基46門

 

 20㎜連装機関砲,Mg151/20FlakZwilling 20基80門

 

 2次元対空捜索レーダー,対水上捜索レーダー,2次元+測高レーダー付き射撃指揮装置(FCSレーダー)

 

 なぜか対潜ソナーを艦首のバルパスバウ内に装備。

 また、キール軍港の天然の要衝を問題なく航行するためにバウスラスターを艦首方向に装備している。

 

 兵員4232名

 

 

 

 

 防御能力

 

 格納庫は大西洋では相当荒れることもあるので半解放式とし、

 水雷防御は多層構造による舷側の区画配置とされており、中央部では片舷あたり4区画となっている。

 また船底は3重底である。

 

 巡洋艦を護衛のもとで、帝国におけるシーレーン防衛及び、連合王国のシーレーン攻撃を想定されていたために連合王国の主要軽巡洋艦砲155㎜砲弾に抗堪できるよう設計された。

 

 飛行甲板 - 45 mm

 水線 - 左舷73 mm, 右舷43 mm

 デッキ -40 mm

 隔壁 - 65 mm

 格納庫甲板 - 40mm

 

 

 また、第1種から第5種までの消火設備*1を完備しており、被弾時の爆風をできるだけ外に逃がせるような配置設計が成された。

 

 仮想敵としてイラストリアス級装甲空母が想定されており、本級は艦載早期警戒機と豊富な対空砲、そしてそれを管制する射撃指揮装置により敵航空機を近づけさせない事により一方的に殴る事を目標としている。

 

 また、潜水艦の脅威に対処するため、対潜ソナーをバルパスバウに装備している。

 

 が…連合王国の潜水艦はUボートの異常な程の数より劣っていたため、脅威と言うほどでもなかったのが実情だった。

 

 

 

 

 ただ、空母の建造、艦載機や空母等の整備等すべてにおいて金食い虫な空母を取得するにあたっては、

 予算の都合上潜水艦隊の半減やなんかクッソ要らないけどなんかあった305㎜の19世紀の遺物な旧式戦艦を片っ端から退役させるなどをし、

 予算の都合を合わせた。

 

 ただ、潜水艦の半減はきついものがあった。

 連合王国のシーレーンにちょっかいも掛けたいし、哨戒もしたい。

 

 そんな海軍の欲求にこたえたのが新型潜水艦の配備と新型魚雷である。

 

 

 

 

 新型潜水艦はUボートⅩⅩⅠ型潜水艦である。

 流体力学に基づいた流線形による水中での抵抗を極力減らす設計により水中速力は17ノットに向上し、

 魚雷射撃指揮装置もゲルマニウムコンデンサを使用した射撃管制コンピュータを搭載。

 

 完全潜航時であっても精密な攻撃を可能とした。

 

 UボートⅩⅩⅠ型 

 基準排水量1800t

 533㎜魚雷発射管6門

 アクティブ/パッシブソナー

 20㎜MG151/20FlakZwilling 1基

 2次元対空、対水上レーダー 1基 

パッシブレーダー 1基

 

 

 

 

 新型魚雷は G8aとG8bである。

 

 

 まずG8aについて

 

 G8aはスーパーキャビテーション現象を利用したキャビテーション魚雷である。

 帝国空軍が空対地ロケットを開発湯に起きた偶然からできた産物であった。

 

 帝国空軍技術局がロケットの実験中、偶然海の方に飛んでいき、海中でものすごい勢いで推進していったところを偶然見たレナ空軍技術少佐(当時)が

 

「これ、航空魚雷に使えそうですね」

 

 と言い始めた時から開発が始まった。

 

 航空魚雷の中身をロケットに入れ替え、先端部から気泡が出るよう細工をして、まっすぐ推進するようにしたものが帝国空軍技術局G7Lであった。

 

 本来魚雷は高価な代物であったが、このロケット推進剤によって30%価格を引き下げることに成功した。

 

 その航空魚雷の情報は空母打撃群を編成予定の海軍にまで届いた。

 航空魚雷を近く運用するからであった。

 

 G7L緒言

 魚雷口径 490㎜

 射程   4㎞

 重量   1t 

 炸薬   180㎏

 雷速   150ノット

 

 

 空軍のキャビテーション航空魚雷G7Lをもとに艦載用に再設計したものがG8aである。

 

 G8a緒言

 魚雷口径 533㎜

 射程   6㎞

 重量   2.5t

 炸薬   250㎏ 

 雷速   150ノット

 

 雷速を見ればわかる通りあの日本軍の酸素魚雷よりも優速であり、雷撃距離3∼4㎞離れた潜水艦の天敵である駆逐艦がまず避けれない速度となっている。

 

 

 次にG8bについて。

 G8bは連合王国の諜報機関へG8aの情報が漏れないように、帝国海軍が囮として開発したものである。

 

 G8bは正式発表では有航跡の空気魚雷とされているが、

 本当は無航跡の電池魚雷である。

 

 

 なお、G8bの通常型は無誘導魚雷であるが、G8bを元に対潜戦闘を目的としたアクティブソナー搭載対潜誘導魚雷G8bdが開発されている。

 

 G8bd緒言

 魚雷口径 533㎜

 射程   8㎞

 重量   2.5t

 炸薬   180㎏成形炸薬弾頭

 雷速   手動誘導時:35ノット

      自己誘導時:20ノット

 

 

 現在、ドーバー海峡には10隻の帝国潜水艦が配置されている。

 

 そして、それを含め連合王国の近海には50隻の潜水艦が存在していた。

 

 

 ただし、帝国海軍の潜水艦は目の前を堂々と航海している商船を何もせずに見送っていた。

 その商船の船籍が合州国であるからである。

 

 現在、帝国軍が戦端を開いているのは連合王国のみである。

 ただし、イルドア付近とルーシー方面はきな臭くなってきている。

 

 が、合州国相手に戦端を開くのはまずい事になる事は明らかである。

 

 

 

 現在帝国政府のトップとなっている首相は定期的にラジオ放送で合州国向けに

『帝国は合州国と戦端を開く気は無い』

 と繰り返し放送している。

 

 それは当然の事ではある。

 合州国と帝国は領土的な紛争があるわけでもなく、工業製品などでの競合分野はあれども、それらは戦争してまで解決する問題ではないからである。

 

 合州国議員の中にも親帝国派議員というのが合州国の上院下院には少なからず存在し、経済界からも、特に帝国企業と共同で資源開発を行っている企業からは、帝国との開戦には反対していた。

 現在の親中議員と同じような感じがしたが、あまり気にしないことにしよう。

 

 

 ただ、合州国は戦争をすれば儲かるそう中々無い国である。

 ただ、あちらから直接は仕掛けてはこない。

 

 脅し、賺し、そして相手側から仕掛けさせる。

 そうしなければ、モンロー主義に凝り固まった合州国は戦争へと踏み切れない。

 

 であるなら、連合王国の潜水艦が帝国潜水艦に扮して撃沈すればたちまち合州国と戦争になる。

 

 

 それを防ぐために帝国海軍が取った策は…

 

 駆逐艦一隻を合州国商船に1隻∼2隻付ける事である。

 

 帝国は現在118隻の駆逐艦を保有している。

 

 ただ、すべてがZ52やZ42で代表されるような大型の艦隊型駆逐艦ではない。

 

 シーレーン防護のために建造されたZ63型駆逐艦が半数以上を占めている。

 

 1300t級の比較的軽量で量産が効く物で、

 対空捜索レーダー、対水上捜索レーダー、FCSレーダー,アクティブ、パッシブソナー等を装備している。

 積極的に溶接を多用し、ブロック工法により量産が異常に効く駆逐艦である。

 37口径127㎜連装両用砲を3基6門、533㎜魚雷発射管3連装1基、ボフォース40㎜連装機関砲3基、20㎜MG151/20FlakZwillingを4基搭載している。

 対潜装備として、主に対潜ロケット砲と魚雷発射管より発射される対潜魚雷が挙げられる。

 

 

 

 

 

 

 絡め手で来るのなら、こちらは奇策で対抗する。

 それが帝国軍の考えであった。

 

 そして、合州国の船員は自分たちを護衛する駆逐艦を見てこう思うのである。

 

「連合王国への積み荷なのに帝国の駆逐艦が護衛しているじゃないか。

 

 どういうことだ?」

 

「お前、知らないのか?

 今、連合王国の潜水艦が俺たちを狙っているっていうのがもっぱらの噂だぞ?」

 

「どういうことだよ、自分たちに来る積み荷だろ?」

 

「それがな、途中で来なかった積み荷どころか、今俺たちが頑張って輸送している物の料金を踏み倒したいがためにやるらしいぜ?」

 

「ほんとか?サイテーだな。」

 

「まったくだ。それで帝国の軍艦がわざわざ敵対している国への荷物を護衛してるってわけだろうよ。」

 

「なるほどなぁ…」

 

 

 

 これは一重に、帝国諜報局による謀略だった。

 

 この20年で、人員は5000人からおよそ7500人にまで増大。

 

 連合王国や社会主義共和国連邦、さらには合州国、イルドアなどにまで手を伸ばしている。

 

 帝国諜報局は技術の漏洩を完全に防止するのが役目ではない。

 それは帝国3軍の各情報部の仕事であるからだ。

 

 本来の仕事は、謀略、諜報、暗殺、欺瞞情報の流布。

 これらである。

 

 合州国は相当メディアの力が強く、頭が弱い国民がそれらを信じればほとんどその情報を信じる。

 

 合州国主要メディアは帝国諜報部の手が及んでいて、CIA等の監視の目をくぐり抜けながらも欺瞞情報を流し続けていた。

 

 そしてその話は…半分くらいは本当だったりする。

 

 半分本当、半分嘘を交えれば、それは本当のように聞こえる。

 

 そんなモンである。

 

 

 

 合州国の国民は何故政府が連合王国に支援をしているか疑問視し始める。

 その謀略が実を結ぶのは一か月後である。

*1
第1種消火設備は消火栓。第2種はスプリンクラー。第3種は粉末等の特殊消火器。第4種は大型の消火器。第5種は通常の家庭用くらいの消火器もしくは消化砂



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ダンケルク沖海戦&バトルオブブリテン(後編)

 さて、ダンケルクは終わりっと。

 私の学校では遠隔授業がようやっと始まるらしいです。
 遅かったくらいですがまぁ良いんじゃないですかね?


1924年4月17日10時53分 ダンケルク

 青い空の下では共和国陸軍次官ド・ルーゴが焦れていた。

 

 

 

「…なぁエミール。もっと早く出航することは出来ないのかね?」

 

「その質問はこれで10回目だし、我輩の答えも10回目だ。『無茶を言うな』!

 

 陸軍はどうか知らんが、軍艦と言うのは出港に半日以上かかるものだ。これでも相当早めた方なのだぞ?それに――」

 

「ああ、分かった。私が悪かった。その先の説明も十二分に覚えたからそう怒らないでくれ!ただ我々に時間的余裕がないのも事実なんだ、分かるだろう!?」

 

「分かっているさ!だからわが共和国海軍の最短記録を更新してるんじゃないか!」

 

『自由共和国海軍』

 

 数日中にその名乗りを上げるであろう海軍組織、その旗艦に内定している新型戦艦『ノルマンディー』艦橋でのことである。その艦隊は、本艦に将旗を掲げた司令長官エミール・ミュズリエの言うとおり、今までにない速さで出港準備を進めていた。

 

 事の発端は昨日正午のこと。

 

 見張り員が高高度を飛ぶ見慣れぬ機体に気が付いたことから始まった。

 

 この時点で、より時間のかかる大型艦はボイラーに点火していたが、それ以外の船は燃料の搭載も完了しておらず、出航は18日夕刻、夜陰に紛れての脱出が予定されていたのである。

 

 だが、当該航空機が帝国空軍Ta152と分かったからには悠長なことは言っていられない。燃料は途中で洋上給油なりすることとし、本日未明に到着予定の魔導師部隊を載せたらすぐに出航するよう、予定を繰り上げたのだ。これほどの繰り上げを成し遂げた時点で、共和国海軍は優秀さをたたえられて良い。

 

 とは言え、根っからの陸軍軍人、機動戦重視派の人であるド・ルーゴにそれが分かるはずもない。いや、頭では理解はしているのだ。頭では理解していても気が急くのである。

 

 

 ―― 察知された以上、いつ帝国軍が襲ってきてもおかしくはないのだぞ! ――

 

 「案ずるな。すでに前路警戒の水雷戦隊は出港し隊列を整えつつある。その後、本艦を中心に輪形陣を組めばあと数時間で出港はすべて完了だ」

 

「数時間だと!?」

 

「だから大声を出すんじゃない。大型艦は岸壁から自力で離岸できないのだ。タグボートに回してもらう必要がある。そしてこれだけの数だ。一斉にという訳にもいくまい?」

 

「無理やり自力で出ることは?」

 

「…停泊場所と向きによっては可能かもしれんが、お勧めはしない。」

 

「…なるほど、私が根本的に海軍に向いてないことがよくわかった」

 

 二人は思わず笑った。

 

 確かに共和国海軍は優秀だった。

 

 ド・ルーゴが糾合した共和国軍の生き残り部隊と合わせれば、そして植民地マルジェリアに無事到着できれば、『自由共和国』の旗揚げも十二分に可能だっただろう。

 

 

 

 ただし制空権を帝国空軍が奪取している現状において、

 帝国海軍がおとなしくしていればの話だが。

 

 

 

―――――――――――――

 1924年4月17日7時13分 コクスアイデ空軍基地

 

 さかのぼる事3時間前。

 

 

 そこには帝国空軍戦術輸送機2機がエンジンをアイドリングさせながらも出撃の合図を待っていた。

 

 ダンケルク等のフランソワ海軍基地においてボイラーに火を入れたことをTa152R-1高高度偵察機によって察知した帝国軍はいつでも出れるようにしていた帝国海軍艦艇を出撃させる。

 

 そして同時に帝国海軍、空軍共同で特殊作戦部隊を投入する。

 

 空,海軍が編成していう特殊作戦部隊はそのほとんどが魔導士で構成されている。

 

 そしてその魔導士は何れも魔導士レンジャー持ちであり、ほとんどがアグレッサーに所属したことがある人物であったりする。

 

 そんな味方でさえ化け物と言われるような腕前が1個小隊いるだけでも絶望的と言われる集団がいる。

 

 

 要はそんな奴らの集まりである。

 

 空軍第10航空団第105特殊作戦コマンド第1大隊より12人、海軍特殊作戦コマンド第3大隊より12人が参加する。

 

 

 参加する隊員たちは自身の装備を入念にしていた。

 

 7.62㎜弾をパチパチとマガジンに入れている人物もいれば、作戦計画を読み直している人物もいる。

 

 自身の防寒装備を確認している者もいれば、何もすることがないのか、自身のサイドアームであるPPKを磨いている者もいる。

 

 …その中でG3銃床がボッコボッコになっているものを扱っている者もいた。

 

 

 ちなみにその人物、海軍特殊作戦コマンド第3大隊第2中隊のある小隊長だったりする。

 

 第2中隊第4小隊小隊長エレナ・フォン・シグラ少尉。

 帝国海軍第1空母打撃群航空隊指揮官になる予定のナスターシャ・フォン・シグラ准将の一人目の娘である。

 

 

 母から受け継いだザ・パワーな戦闘方法を得意とする。

 

 それは、自らの銃の銃床で殴り、殴打し殺害するという事である。

 ナイフとかのほうが音もなくやれると思うのだが、

 実際は銃剣だと曲がるやら、折れるんじゃね?とか言っていた母の言葉を信じてこれまでやってきているわけである。

 

 

 

 

 

 

 

 11時23分、ついに出撃命令が下った。

 

 彼ら、彼女らは素早く装備類をしょって乗り込んでいく。

 

 11時35分、コクスアイデ基地を2機のEKC-1と護衛のTa152H 4機が離陸した。

 

 

 

 11時53分高度30000ftに到達。

 同時刻、フランソワ艦隊を視認した。

 

 

 視認した後は早い。

 

 魔導士だけができるパラシュートなしのHALO降下である。

 

 魔導士は自身で飛べるのであり、パラシュートなんか背負ったら逆に荷物である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『敵騎直上!急降下!』

 

 超高高度に敵機が飛んでいると思ったらそこから魔導士が急降下…

 

 兵員輸送船となってる平時であるならば豪華客船となるべき物に向かって急降下していく。

 

 

「おお…神よ!!」

 

 ド・ルーゴは悲鳴を上げた。いや、彼だけではない。戦艦『ノルマンディー』艦橋から客船『ノルマンディー号』の惨状を目にした人間は、皆が皆悲鳴と嗚咽を漏らしていた。

 

 突然現れた帝国軍の魔導師。

 

 彼らは共和国側が十分な対応を取る前に、急降下して攻撃を加えたのだ。

 ちょうど船首を沖に向け、ようやっと航行を開始した客船『ノルマンディー号』に。

 

 

 

 豪華客船『ノルマンディー号』。

 

 この戦争が発生しなければしなければ、彼女は「洋上の宮殿」と謳われた華麗な内装と、平均で30ノットと言う快足を以て、『大西洋の女王』の称号をほしいままにしていたであろう代物。

 

 だがその高性能ゆえに軍に目を付けられ、昨年軍に徴用されて兵員輸送用となったことが本船の運命を決定づけた。

 

 

 

 

 

 その白く美しい船は、ド・ルーゴたちの目の前で真っ赤な炎に模様替えを遂げていた。しかも、よくよく見ればその炎の中から時折マッチ棒のようなものが燃えながら海面に転がり落ちているのが見えた。

 

 それは何であろうか…考えない方がよいだろう。

 

 

 

「…クルーエ参謀。『ノルマンディー号』にはどの部隊が?」

 

「…陸軍第13歩兵連隊と第七魔導師団です。先ほど発進した魔導師以外は…まだ船内に残っています…」

 

 その場にいる人間が全員うめき声をあげた。

 

 彼らの目には明らかだった。

 

 あれだけの火災に包まれた『ノルマンディー号』を救う手立てがないことは。

 

「…ミュズリエ提督。ノルマンディー号に救命ボートと駆逐艦を差し向けてくれ。脱出者を収容しなければならない。」

 

 それが、絶望に近いものであっても、それをド・ルーゴは命じなければならなかった

 

「…承知しました。ただちに」

 

 確率的に言えばゼロであろうが、やらなければいけない事であった。

 

 「急げ!これ以上被害が出る前に脱出するのだ!!」

 

 「「「ハッ!」」」」

 

 

 

 

 

 フランソワ海軍やド・ゴールには希望があった。

 

 最初こそ混乱したが、よくよく見れば帝国軍魔導師はたったの2個中隊。対する此方は――練度に難のある新人が多いのがネックだが――魔導師4個大隊、一個師団に匹敵する。

 十二分に勝てる数字であり、またノルマンディー号以外の船舶には被害のひの字すら出ていない。

 

 

 

 「本艦はただいま離岸を完了。これより自力航行に移ります」

 

 「よろしい。…通信兵、艦隊全艦に下令。最大船速で本港を離脱、所定の集結地に向かえ!」

 

 「了解!」

 

 「艦長、速やかに洋上に出るぞ。委細は任せる」

 

 「了解。航海長、舵そのまま!両舷前進全速!」

 

 「舵そのまま、両舷前進全そーく!!」

 

 

 

 彼らは知らない。

 

 上に気を取られ、海に気を払っていなかったことが…

 

 

 一番最初に気が付いたのは前方を警戒中の駆逐艦だった。

 

「艦長、水平線に何か見えるんですが…」

 

「うん?気のせいじゃないか?それより魔導士が…」

 

「…艦長、敵艦隊です!戦艦2、巡洋9、駆逐多数!」

 

「本隊に伝え…」

 

 そんな時、砲弾の空気を切り裂く音が聞こえた気がしたという。

 

 駆逐艦の周辺に数多くの砲弾が着弾。

 

 水しぶきが収まった頃には、駆逐艦は転覆し沈んでいく。

 

 

 

 帝国海軍第1戦隊旗艦ビスマルク艦橋

「砲術長。よくやった。」

 

「司令、水雷戦隊を突撃させましょうか?」

 

「うむ。本隊はこれよりドーバー撤退を阻止する!ドーバーを渡らせるな、すべてを海の下に叩き込む。」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 前進警戒をしていた駆逐艦が沈められたのを見てようやっとフランソワ海軍は帝国海軍の艦隊が接近しているのに気が付いた。

 

 しかし攻めることはできない。

 

 現在、真上では魔導士と魔導士の戦闘が行われているからである。

 

 と言っても現在数で優っているはずの共和国側の魔導士が不利を被っている。

 

『やられた!』

 

『こちらピエール03! 02がやられた!撤退許可を!!』

 

『まもなく限界高度!畜生!!やつらどこまで上がる気だ!』

 

『バルス!』

 

『目が!目がぁあ!!!』

 

『ケツにつかれた!振り切れない!』

 

『敵のケツを取ってやったぞ!』

『ウィザード01、後方!』

『なんだって?』

『…さよなら、名も知らない敵よ。』

バキャッ…うっ…』

 

 

 

『中隊長!それでは一方的に上を取られてしまいます!』

 

『そんなことは分かってる!』

 

 

信じがたいことに当初4個魔導大隊いたはずのこちらが、たった2個中隊の帝国軍魔導師に翻弄されていた。いや、有り体に言って負けている。

 

 

確かに、こちらの魔導師の半数はルーキーだ。

 

ライン戦線で損耗の激しかった部隊を後方に下げ、装備の更新ついでに新兵を入れて補充した部隊なのだから無理もない。

 

「…エミール、おかしいとは思わんか」

 

「…ああ。確かにおかしい」

 

戦艦ノルマンディーの防空指揮所――戦争勃発直後に増設された――から上空を見上げて、ド・ルーゴたちは首を傾げた。

 

「敵はたったの2個中隊。…の割にこちらが不利なのはいただけんが――」

 

「あの・・帝国にしては手ぬるい。そういう事だろう?」

 

「そのとおりだ。あれだけとは思えん」

 

「同意する。だが、その場合不可思議な点がある」

 

「なぜ、2個中隊を先行させたのか、だな」

 

 二人はそろって頷く。両者とも共和国軍で長いこと飯を食ってきた「軍人」である。

 帝国の事は悪い意味でも、いい意味でも“分かっている”人物である。

 あの、帝国が戦力の逐次投入することなぞしないということは身に染みて分かっている二人である。

 

 アルデンヌを機甲戦力の集中で突破し、すべての戦線で帝国空軍戦力の4/1程度の戦力を投入し制空権を確実に確保している。

 

「考えても仕方ないな。対潜警戒を強化してくれないか?」

「分かった。帝国ならやりそうだな。」

 

 

 そんな時だった。

 前方警戒中の駆逐艦1隻が撃沈されたのは。

 

「駆逐艦轟沈しました!」

 

 見張り員が大声をあげて報告した。

 

「潜水艦か!」

 

「砲撃です!」

 

「な!?連合王国海軍は何をしているんだ!?帝国海軍を抑えておくといっていたではないか!」

 

「敵艦隊、方位1-0-0、距離2万4000!」

 

「くそっ!前部砲撃戦!」

 なんとしても突破しなければ…」

 

「水雷戦隊接近中、迎撃しますか?」

 

「もちろんだ。」

 

 フランソワ海軍の艦隊より支援の巡洋艦一隻と駆逐艦が切り離され、水雷戦隊へと向かっていく。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 さて、一般的に駆逐艦同士の打ち合いであるならば泥沼にはまりいつまでたっても、いつまでたっても砲撃戦の決着がつかない時がある。

 

 それは決着をつけるのはより良い装備を付けている方が勝つのか?

 

 いや、開戦において、装備の優劣と言うのも確かに存在するが、一概には言えない。

 

 艦艇による戦いは練度と士気のどちらも影響がある。

 

 

 帝国側はドーバーを渡らせないように、共和国側はドーバーを渡ろうと必死で。

 

 

 どちらも必死であった。

 

 そして…

 帝国とフランソワ共和国の両方の水雷戦隊は熾烈な戦いを繰り広げる。

 

 帝国側は戦闘に立っていたZ43型駆逐艦のZ45が敵の砲撃が熾烈で集中砲火を浴び沈没。

 後続のZ43型のZ46、Z48は敵水雷戦隊の放った魚雷に触雷、沈没した。

 

 ただ、帝国側はその倍以上敵艦を撃沈させた。

 

 

 発射速度の優れた主砲とレーダーFCSを持っていたり、さらには昼戦という事もあり、それなりに正確な射撃を発揮させた、

 防空軽巡洋艦プリンツオイゲン級4隻が付き添いでいたために

 駆逐艦は各個撃破され、敵巡洋艦もプリンツオイゲンの主砲で張る弾幕にボロボロになり火災を発生させ、

 

 やがて弾薬庫に火が回りアンリ4世級重巡洋艦2隻が撃沈されたのだった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 そして、戦艦同士の2対1の砲撃船が繰り広げられようとしていた。

 

 

「エミール、君は司令塔に入らないのかい?」

 

「じゃあ、君も来ようか。」

 

「もちろん。命は惜しいからね。」

 

 そして指令塔に行こうとしたその時。

 

 ヒンデンブルク級重巡洋艦3隻が放った砲弾が30秒かけて飛来してくる。

 

「敵弾接近!」

 

 その時砲弾が言い表せないような…

 

 そう、揮発性の高い燃料が揮発してこもってる部屋に火を投げ入れたような…

 

 そんな爆発である。

 

 

 その爆発で装甲の厚い司令塔に行こうとしていたエミール司令長官とド・ルーゴ陸軍次官は痛みなどを感じることなく窒息死。

 

 艦橋要員ももれなく死亡した。

 

 そして次に戦艦ダンケルクの指揮を執ったのは次席の機関長の大佐であった。

 

 大佐はやむをえなくそのまま交戦の維持をした。

 

 ただ、ヒンデンブルク級重巡洋艦より飛んできた203㎜ナパーム弾により甲板に火災が発生。

 

 そしてその火災を消そうとした甲板要員はナパームに触れ、燃える松明と化し、配線を通す管から等から様々な場所よりナパームが流入。

 

 漏れなく乗員を蒸し焼きにされ、そして挙句の果てには406㎜砲弾19発と38㎝砲弾24発を食らい、もともとナパームにより発生した火災がどんどん延焼、食い止められなくなり弾薬庫にまで火災が到達。

 

 

 爆沈した。

 

 

 

 

 

 残存艦艇を戦艦を主力とした本隊や魚雷を放つも盛大に外した水雷戦隊が掃討。

 

 

 フランソワ側の死者。

 海軍で参加した人数1万3000人のうち1万1150人が戦死。

 残りは帝国駆逐艦に救助され捕虜。

 陸軍ほぼすべて。

 陸軍一個師団1万2000人と魔導士4個大隊の3200人。他大量の軽量な戦車を失う。

 捕虜等の生存者なし。

 

 帝国側の損害

 参加駆逐艦16隻のうち、Z43型のZ45,Z46,Z48被撃沈。その他駆逐艦は軒並み中破。

 

 戦艦ビスマルク級一番艦ビスマルク… 中破。

 戦艦シャルンホルスト級2番艦グナイゼナウ… 大破よりの中破。

 

 重巡洋艦ヒンデンブルク級

 ・ヒンデンブルク…  大破

 ・ブランデンブルク… 中破

 ・カリン・フート… 中破

 

 軽巡洋艦プリンツオイゲン級

 ・プリンツオイゲン… 大破よりの中破

 ・アドミラルヒッパ― 中破

 ・リュッツオウ……… 中破

 ・ナスターシャ・シグラ 中破

 ・ブリュッヒャー……… 中破

 ・マルレーネ・シュトリーゾフ…小破

 

 戦死者 453名

 戦傷者 3093名

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

ヒンデンブルク級重巡洋艦 

 当時の戦艦の射程を大幅に超える射程を持っている。

 そのため、戦艦を屠れる巡洋艦とみなされていた。

 これは当時計画されていた空母打撃群の護衛艦として建造された、当時最大級の大型巡洋艦。

 

基準排水量1万6500t

 

203㎜3連装砲SKC21/203 4基12門

 

155㎜連装両用砲SKC14/65 4基8門

 

88㎜連装高角砲Flak18mod.1 6基12門

 

70口径40㎜ボフォース4連装機関砲,Flak22mod.4 6基

 

20㎜連装機関砲Mg151/20FlakZwilling 9基

 

533㎜4連装魚雷発射管2基 

 

最大射程29850㎞

 

2次元対空捜索レーダー,対水上捜索レーダー,2次元+測高レーダー付き射撃指揮装置(FCSレーダー),対潜ソナー

 

 此の艦はエチレンと酸素を化学的に作用させできるエチレンオキシドを原材料とした燃料気化弾頭と石油類より作られたナパーム弾頭を装備している。

 

 これを対艦攻撃等で使用し、中の人間を焼き上げて無力化することを念頭に開発されたものである。

 

 同型艦12隻

 

 

プリンツオイゲン級防空軽巡洋艦

 この艦級は空母打撃群編成にあたって、主要な防空を担うものとして建造された艦隊防空型軽巡洋艦である。

 軽巡洋艦でありながらも長大な射程を持ち、主砲の装填速度も優秀なものである。

155㎜連装両用砲SKC14/65 5基10門

 

88㎜連装高角砲Flak18mod.1 6基12門

 

70口径40㎜ボフォース4連装機関砲,Flak22mod.4 6基

 

20㎜連装機関砲Mg151/20FlakZwilling 4基

 

533㎜4連装魚雷発射管2基 

 

2次元対空捜索レーダー,対水上捜索レーダー,2次元+測高レーダー付き射撃指揮装置(FCSレーダー),対潜ソナー

 

対潜ロケット砲装備

 

 同型艦18隻

 

 

Z43型駆逐艦

 Z52型の前級であるがそれなりの性能を有している艦隊型駆逐艦。

 

37口径127㎜連装両用砲,SKC12/37 3基6門

 

70口径40㎜4連装機関砲,Flak22mod.4 2基8門

 

20㎜連装機関砲,Mg151/20FlakZwilling 5基10門

 

533㎜4連装魚雷発射管2基

 

2次元対空捜索レーダー,対水上捜索レーダー,2次元+測高レーダー付き射撃指揮装置(FCSレーダー),対潜ソナー

 

対潜ロケット砲、対潜爆雷投射機、爆雷軌条装備

 爆雷55個、対潜ロケット弾55発

 

最大速力35ノット

 

同型艦9隻

Z43,Z44,Z45,Z46,Z47,Z48,Z49,Z50,Z51

 

Z52型駆逐艦

 Z43型の発展型の艦隊型駆逐艦。

 

37口径127㎜連装両用砲,SKC12/37 4基8門

 

70口径40㎜4連装機関砲,Flak22mod.4 3基6門

 

20㎜連装機関砲,Mg151/20FlakZwilling 6基12門

 

533㎜4連装魚雷発射管2基

 

2次元対空捜索レーダー,対水上捜索レーダー,2次元+測高レーダー付き射撃指揮装置(FCSレーダー),対潜ソナー

 

対潜ロケット砲、対潜爆雷投射機、爆雷軌条装備

 爆雷55個、対潜ロケット弾55発

 

最大速力35ノット

 

同型艦 12隻

Z52,Z53,Z54,Z55,Z56,Z57,Z58,Z59,Z60,Z61,Z62,Z63,Z64



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帝国の財源

 1日に何千文字も書くと手が痛くなりますね…


コクスアイデ空軍基地

 

 コクスアイデ基地に2機のロービジ迷彩を施された双発の機体が降り立った。

 

 特殊部隊を載せた双発の戦術輸送機EKC-1輸送機が降り立った。

 

 

 

 その輸送機はそれなりに大きな機体の割に短い滑走距離で着陸した。

 

 プロペラ機特融のプロペラピッチを逆転することによるスラストリバーサー(逆推力装置)*1 

 

 

 

 ハッチより今朝出撃した特殊部隊が出てきた。

 

 特殊部隊の任務は制空任務だけではなかった。

 

 

 制空任務は空軍特殊部隊が行い、海軍特殊部隊が上空より味方海軍の観測を行っていた。

 

 すなわち、帝国海軍が奇襲とはいえたった一斉射の砲撃で駆逐艦1隻を海の暗いそこにぶち込んだ理由が其処にあったわけである。

 

 簡単に言えば、フランソワ軍離反軍は上空の制空権を失っている時点で負けていたのだ。

 

 

 さて、この後の彼らの予定は基地のある場所で戦闘後のブリーフィングである。

 

 

 

 

 

 

 

 

帝国空軍空軍基地コクスアイデ空軍基地の一室

 

「さて、諸君らの類稀なる奮戦、活躍、観測により味方の攻撃で敵を粉砕せしめることができた。

 

 諸君らの奮戦に感謝する。

 

 敵の卑劣な攻撃から一週間、我らの反撃は未だ序盤である。」

 

 そう話すのは今回の作戦で臨時に指揮を執っていた帝国海軍エレナ・フォン・シグラ少尉だった。

 

 

 彼女の髪は返り血が飛び散っていて、特別に支給されている拳銃弾程度なら防ぐことができる比較的軽量な防弾ベストにも当たり前のように転々と返り血が飛んでいた。

 

 先頭で返り血を浴びるには近接戦闘でしかないのが普通だと思うのだが、そもそも帝国魔導士に近接を好んでする人物など一握りしか存在しない。

  ※皇帝エリザベート,カリン近衛少将とその娘達,ナスターシャ空軍准将とその娘達ぐらいが近接戦闘を得意としている。

 

 

 彼女はナスターシャ空軍准将の娘で普通に胸部装甲もあるがほとんどが筋肉じゃないかな…?っていうくらいの鍛え方をしている人物。

 母のナスターシャの影響を受けまくりこうなってしまったが、一応年相応な性格をしている(という噂)

 

 結構頼られている人ではあるが、その頼っている部下もなかなかの熟練者ぞろい。

 化け物小隊である。

 

 

「私たちは敵に一切の容赦をせず、敵を殲滅する。

 

 では、ブリーフィングを始める。」

 

 

 

 ……先ほどの演説は前座だったようだ。

 

 

 

 

 

 

 ともかくブリーフィングが始まった。

 

 あーでもない、こーでもない。空軍海軍垣根が本当に内容に見えるこの場。

 

 実は相当ピリピリしている。

 

 

 なぜか。

 まぁ一応同じ特殊部隊であるので対抗心を持つのは人間の性ってやつだろう。

 

 

 

 ブリーフィングは小1時間ほど続き、今度は空軍の方から締めくくりを行い作戦は正式に終了となった。

 

 あとは空軍と海軍士官が戦闘詳報を書き、終わりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実は、今回は帝室は膨大な財産を保有している。

 え、初めて聞いたって?

 そりゃあそうだ、初めて説明するんだもの。

 

 さて、われらが皇帝エリザベートちゃんは転生者である。

 若干は歴史が違うが、実は細かいところは元の世界と同じ出来事が起きていた

 

 

 

 

 統一歴1897年に合州国で起きた株価暴落事件、モルガン・グループとクーン・ローブ・グループの戦い”ノーザン・パシフィック事件”はシカゴ・バーリントン・アンド・クインシー鉄道を自社の影響下にしようと株の買い占めを画策したハリマンのユニオン・パシフィック鉄道とモルガンのノーザン・パシフィック鉄道の争いから始まり、ノーザン・パシフィック鉄道が勝利して幕が降りた事件だ。

 

 ただ、諦めきれなかったクーン・ローブ・グループのハリマンがモルガンの持つノーザン・パシフィック鉄道の株式を密かに買収しようとして、75万株近くを買い占めそれに気づいたモルガンも買い占めに走った結果、異様な出来高に成った。

 

 元々ノーザン・パシフィック鉄道株は150万株でしか無い中でハリマンもモルガンも秘密裏に買い占めをした為、市場には買い占め情報が流れること無く、株価だけが異様な上昇をしていった。

 

 それに乗ったトレーダーや資本家が、株価の下落を見越して次々に空売りしたが、売るそばから株が買われてしまった結果、一ヶ月ほど前は50$程度だった株価が木曜日の大引け前に1000$を超えた。

 

 しかし、既にそれ以前にハリマンとモルガンにより市場の殆どの株式は買われていた為、実際の株は殆ど残っていなかった。そして空売りと空買いだけで、株価が動き結果的に株価が下がらなかった事で、トレーダーや資本家が支払いのために持ち株を売りまくり、結果的にアメリカの株価が一気に30%も下落した。

 

 これはアメリカの株価総評価額35億$が25億$に下がるほどの事件で、これが引き金の恐慌が起こり多くのトレーダーや資本家が破産し”暗黒の木曜日“と言われるようになった訳だ。

 

 その時、皇帝エリザベートちゃん(当時は皇女エリザベートちゃん)は半年以上前からノーザン・パシフィック鉄道株を50万株も密かに買い集め木曜の大引け前に一気に売り出していた。

 

 結果的に買値2500万$が売値5億$にまで化けた。

 

 さらに、連合王国が起こした南アフリカでの戦争…

 

『ポーア戦争』

 

 

 ボーア戦争で連合王国が戦費2億3000万£も使い、経済的に青息吐息だった普通予算に充てる外債1億£分の債権権利、当時皇女だったエリザベートちゃんは“ポンッ”とそれらをあっさり立替えちゃったのである。

 

 実は皇帝エリザベートちゃんは頭がおかしいほどの金持ちと言ったところである。

 

 エリザベートちゃんは何も直接取引しているわけではない。

 

 エリザベートちゃんが軽ーく証券会社の株の90%を保有してるいわゆる、

 

 “息のかかった証券会社”

 

 を通じて取引している。

 そのおかげで、どの株が、どの債権をたどってみるとその証券会社に行きつく。

 そしてその証券会社がエリザベートちゃんの株取引の窓口でもあるのだ。

 

 

 

 

 まぁ、まとめると

 

 連合王国、フランソワ共和国、合州国、イルドア、秋津洲等の各国株70億$、債券で30億$分を持っている。

 

 合州国は株取引市場の総額80億$の40%である32億$分の株券を保有し、その他各国株券38億$、連合王国の債権1億£債権を保有、秋津洲の外債5億$分を保有、さらには合州国政府の外債7億$、自国帝国の債権(国債)を1億$分、イルドアの債権4億$分、その他、共和国などの核国家の外債を保有している。

 

 はたまた、株取引などで荒稼ぎながらも慈悲深いのか何なのかわからないが、自国への先端技術へ積極的に投資をしている。

 

 例えば、帝国のレーダー技術やコンピューター技術の根幹となったゲルマニウムトランジスタを推進したのも彼女で、あっという間に最新だった真空管技術を過去の技術にさせ、真空管を用いたラジオやレコードなどを帝国内で普及させた引き金を引いたのがエリザベートちゃんだといっても過言ではない。

 

 見返りもまぁ相当なものでエリザベートちゃんが30歳になったときにはおよそ1.7倍の数で帰ってきたという。

 

 彼女はそれだけでなく冶金やマザーマシン等の基礎根幹技術にも目を向けていて、年利2∼3パーセントではあるが確実に儲けてはいるらしい。

 

 彼女が色々やり始めたのは8歳程のときで,そこから帝国はGDP(国内総生産)のプラス成長をし続けている。

 

 その成長率は欧州トップである。

 

 

 

 ちなみに…帝国は資源がないというのは誤解である。

 

 石炭が異常な程とれ、そして民間の需要を答えることができ、平時であるならば軍隊の¥が消費する分の鉄鉱石を産出し、誤差ではあるものの石油も一応は産出する。

 

 

 ただし、誤差レベルであるので異常な程取れる石炭を液化する液化石炭の技術を昔から行っていて、その副産物である合成ゴムを生産する。

 

 その合成ゴムの技術は年々上がっていて、Ta152の燃料タンクの防漏用被覆や密閉されるコックピットのパッキン等々にも使用されている。

 

 ほかに、モリブデン、タングステン、クロムは太平洋の植民地や国内でも産出し、そこまで輸入に頼らなくても済んでいる。

 

 

 そんな帝国のGDPは495億$。

 

 

 合州国のGDPは963億ドルといつもの化け物っぷりを示している。

 ちなみに、連合王国は315億$、共和国は162億$、イルドアは162億$、秋津洲は201億$のGDPである。

 

 合州国のキチガイは置いといて、帝国は資源を輸出しなくてもなぜそのようなGDPが高いのか。

 

 資源は輸出もできないが輸入はとりあえずしなくてもよい環境ではある帝国。

 

 と言うが、GDPはそもそも何なのだろうか?

 

 

 

 一応筆者もミクロ経済学、ケインズ経済学を代表としたマクロ経済学をかじった事が有るので一応説明はできるますが、間違っているかもしれないので詳しいことを知りたくなったのなら元7帝大…(北海道大、東大、東北大、京大、九州大、名古屋大、大阪大)の経済学部に進学することをお勧めします。

 

 少なくとも下手な大学の経済学部は質が落ちているとのうわさがあるので…

 唯一ちゃんとしているのは元帝大やちゃんとした国立大くらいだそうで。

 

 

 閑話休題

 

 

 国内総生産、すなわちGDPは中間利益を差し引いた付加価値のことで、原材料の値段から最終的な物品の値段(経済学では品物にあたるものを財と言う。けど詳しい定義は全然違うので知りたかったら勉強してね☆)を引いた付加価値の合計ともいえる。

 

 GDPの計算方法は国内の全消費の金額と国内へ向けての投資、政府が国内へ向け支出した政府支出、そして他国との貿易でどれだけ利益を得たかの貿易利益の総和で計算される。

 

 そして、そのGDPは名目のGDPでしかなく、そのGDPは物価によって左右される。

 そして物価の増減の影響を差し引いたのが実質GDPで、その上昇率を実質経済上昇率という。

 

 例えば、名目の経済成長率をそれぞれ+2%とする。

 

 その時、物価が2%下がれば名目経済上昇率は0%。

 

 物価が4%下がれば、名目経済成長率は―2%。

 

 物価が2%上がれば名目経済成長率は4%。

 

 まぁ。そういう事だ。

 

 物価とともに、名目経済成長率も上がれば実質経済成長率も上がるというわけである。

 

 欧米の物価がちょっと高めなのはそれだったりする。

 

 

 

 

 さて、本題に入ろう。

 

 投資というのはGDPを上げるのに特に効果的ともいえる代物である。

 が、それは国民がどの割合で自身の得た給料を消費するかによって決まる。

 

 

 ここで授業をしよう。

 

 

 ここまでの話で国全体の消費がGDPとなる事は分かっただろうか?

 さて、であるならば、GDPを上げるためには消費を上げればよろしいと思われる。

 がどうすればよいのか。

 

 ここで、ケインズ経済学を元に消費関数を考える。

 

 さすれば、ケインズ型の消費関数は一次関数で考えることができる。

 

 すなわち、消費をC、傾きをaで後々重要になる限界消費性向とも呼ぶ。

 そして、bを切片で起訴消費と呼ぶ。

 

 そして所得Yが増えれば消費Cも増大すると考えられることが考えられる。

 

 

 ケインズ経済学で成り立っていると仮定すれば、

 

 限界消費性向、傾きaを0.8、

 切片、基礎消費を0.5とすれば

 消費C=0.8Y+0.5

 

 という1次関数が成り立つ。

 

 

 

 所得が0と仮定すると消費は0.5、すなわち基礎消費と呼ばれる。

 簡単に言えば、生きているうえで絶対消費する金額である。

 

 

 仮に所得を5万$とするならば、消費は4.5万$である。

 

 そして、この傾きの0.8は限界消費性向と呼ばれ、追加所得が80%とそれに0.5が足した数だけ消費に回り、それ以外は貯蓄に回るのである。

 

 

 

 そして、投資がどのように影響するのか。

 

 これは数式で簡単に分かってしまう。

 

 

 

 

 例えば、ある国の消費関数は

 

 C=0.8Y+500

 

 投資をIとして500とする。

 

 Yは国民所得とするならば、投資を100上げるとどうなるか。

 

 

 国民所得はGDPと同義であるので、

 

 

 Y=C+I

 

 となる。よって

 

 Y=(0.8Y+500)+500

 より

 Y=5000

 

 

 そこに投資を100増やすと

 

 

 Y=(0.8Y+5)+600

 

 Y=5500

 

 

 

 となり500上がることが分かる。

 

 

 

 

 と、投資を100増やせば国民所得、すなわちGDPが500も上がってしまうのだ。

 

 ただし、そのGDPが上がる率は傾き、すなわち限界消費性向に依存し、その率が高ければGDPが増大する率も変化する。

    ※日本は限界消費性向は0.6~0.7、米国は0.8~0.9と言われている。

 

 

 そして、この理論をもとに、公共投資が国民所得を何倍も増加させる乗数効果が計算できることが分かる。

 それを乗数理論と呼ぶ。

 

 

 そこで、国民総生産GDPを国民総所得Yとして書き直す。

 

 そうすると、

 GDP=消費+投資+政府支出+輸出利益

 

 ここで先ほどの式と合わせると

 

 Y=(aY+b)+I+政府支出+輸出利益

 

 となる

 

 そうすると

 

 Y=1/(1-a)×(I+b)+1/(1-a)×投資+輸出利益

 

 となる

 

 

 そこで、政府支出のみに着目すれば、公共投資をΔGだけ増加させるならば

 

 ΔY=1/(1-a)ΔG

 

 であり、aは限界消費性向であるので、ここに0.8を入れてみる。

 

 ΔY=1/(0.2)ΔG

 ΔY=5ΔG

 

 

 よって公共投資10億$を追加すれば、国民所得は50億$になる。

 

 すなわちエリザベートちゃんが公共投資として10億$“ポンッ”っとくれればGDPが50億$増える。

 そしてついでにエリザベートちゃんの懐も潤ってさらに大きな額の投資を“ポンッ”とする。

 そして、帝室が投資したので国内投資家も投資を“ポンッ”とする。

 

 

 

 GDPが増えれば税収も増える。

 政府としての投資もしやすくなる。

 ついでにGDP固定数パーセント程度の軍事費も、税収が大きくなるとなぜか自然に増えていく。

 

 要はそういう簡単な話である。

 

 それで帝国の国力が大きくなっていった。

 ただ、そういうわけである。

*1
逆推力装置は、ジェットエンジンが発生する推力の向きを逆にすることによって飛行機を減速させるための装置である。スラストリバーサーとも呼ばれる。着陸後初期の高速滑走状態で使用され、滑走距離を短縮するために用いられる。滑走速度低下後は車輪ブレーキとスポイラーのみによって制動が行なわれる。機体を減速させるだけの逆推力を得る為にエンジン出力が増大されるので、接地直後の数秒間だけエンジン音が一段と大きくなる。



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ブリカス

 遠隔授業が始まりました。
 投稿頻度が下がりますがご容赦を。

 あ、前の話で誤字報告をしてくれた方、本当にありがとうございます!

 実はほとんどが絶対にろくに読んでくれていないと思っていたのですが、意外と読んでくれている人もいるんですね!(失礼)

 実は作品名にある通りターレルを主題としています。
 ですがターレルの描写がないのは…ターレル要素が来るまで、長い前置きと考えてくれれば…うれしいなぁ・・・?

 


 統一歴1924年4月某日

 連合王国首都ロンディニウム ダウジ・ング街10番地 連合王国首相官邸

 

「それは本当なのかね?」

 

「はい、第1次、第2次ポーア戦争で我が国が発行した戦時国債の合計1億£が帝国の皇帝の手にあることに…」

 

 応接室で、連合王国にはないはずの部署…MI6所属のハーバーグラム少将より報告を受けていた。

 

「なんと…それで?」

 

「は、戦時国債が敵の手に渡っていることは我が国にとってまずい事でありまして…」

 

「ふむ。確かにその額の国債を平時においてもっていることは我が国にとってまずい事だがね。

 

 ただそれは平時(・・)の事だ。

 

 今は戦時だからやることは決まっているだろう?」

 

 

「資産の凍結ですか?」

 

「そうだ、それしか無かろう。」

 

「ですが。それは「我が国が取れる最大の対策と思うのだがね?」

 …それはそうですな」

 

「そして、もう一つ君が言わなければならないことがあるのじゃないのかね?」

 

 彼は肩をぴくっと揺らし少々顔が青ざめる。

 ではあるが、彼には首相への報告責任(見たいなの)がある。

  ※作者は連合王国をモチーフにした英国にそんなのがあるのか知らないので想像で書いております。

 

「はい…昨今、帝国の巨大化に基づき立案した多くの破壊活動の事ですが…」

 

「ふむ。それで結果はどうなったのかね?」

 

「それが…帝国本土航空基地破壊活動,線路破壊,港の破壊等を実行いたしましたが…」

 

「成功こそしたものの、帝国民の戦意をあおった形になってしまいました。」

 

「なんと。」

 

「さらには工作員さえも次々と連絡を絶っている状態で…」

 

「なるほど、帝国への工作がうまく行っていないと。」

 

「そういうことになります。」

 

「ふむ…ならば」

 

 その時、応接間にある電話が勢いよく鳴った。

 

 それは、帝国が連合王国の空軍飛行場及び海軍基地への空襲の第1報だった。

 

 

『閣下。先ほど、空海軍の基地が空襲されました。』

 

「それは予想されていたことだ。

 それで、被害は最小限に抑えられたかね?」

 

『それが…』

 

 ウィンストン・チャーブルはその次に聞こえた英文に自身の耳を疑った。

 

 いくらか年を取ったと自認はていたが、未だに相手の言う言葉が聞こえなくなるほどは言って無いと思っている。

『空軍の飛行場が多大の損害をうけ、さらには…』

『スカパ・フローまでも』

 

「…それはどういうことだね?私の耳がおかしくなってないとすれば私には

 

 スカパフローが

 

 空襲を受けたと聞こえたんだが。」

 

『残念ながら、本当のようです、閣下。

 

 今、海軍大臣が向かっておりますので…』

 

「海軍大臣だけか?閣僚全員を集めておいてくれないかね。

 

 緊急の閣僚会議を行うのでね。」

 

 

『分かりました。』

 

 

 カタン…と受話器をおいたチャーブル卿はこう呟いた。

 

我がロイヤルネイビーは何をしていたのだ…

 

 と。

 

 

 その言葉をハーバーグラムは聞き逃し

 

「閣下、なんと?」

 

 と聞いたが

 

「大丈夫だ、問題ない。」

  ※問題大有りである

 

 とごまかしたために

「そうですか。それで、先ほどの続きですが…」

 

「状況が変わったようだね。

 

 今夜…今すぐにでも閣僚会議を行う。

 

 その後すぐにそっちに連絡を入れるとしよう。」

 

 

「は、分かりました。」

 

 

 その日は帝国空軍から制空権を奪取することは極めて難しく,ロイヤルネイビーの計26隻と言う主力はこれ以上の損耗を防ぐべく戦艦ロドニー等主力艦2隻を沈められたために1/3ほどの主力艦が地中海の要衝ジブラルタルへと疎開しに行き,英国本土周辺の海軍基地は主力艦を全く…ではないがそれなりに配しながらもいろいろ頑張る予定であった。

 

 ただ、さすがの帝国空軍もロイヤルネイビーの拠点であったスカパフローをそうポンポン空襲してくるはずがないと連合王国海軍上層部も考えていた.

 

 Ta152の戦闘航続半径で言ってもせいぜい500~600であるだろうから連合王国本土南部まではいけるがスカパフローまでは行けないだろうと。

 

 それが当時の欧州戦闘機観であった。

 陸続きで、航続距離が短くても全く問題はない、欧州。

 そして、連合王国からでも大陸へは少し航続距離が短くても海を渡っていける距離。

 

 それは上昇能力を重視して作られた迎撃機スピットファイアであっても共和国の沿岸部で戦闘できるくらいには彼我の距離は近かった。

 

 対して、Ta152は何を念頭に作られたか。

 

 それは迎撃であった。

 スピットファイアと同じコンセプトであったのになぜここまで航続距離に差が出たのか。

 それは単純に…

 

 Ta152の主任設計者レナちゃんが、

「インターセプトをするなら航続距離が長いに越したことはないかな。

 

 というか長ければ長いほど滞空時間があるってことだから反復攻撃を多く仕掛けられるんじゃないかな?」

 

 という考えに到り、そして当時皇女だったエリザベートちゃんが

 

「海軍だったら空母ある方がロマンだよね」

 

 との考えのもと海軍を空母建造に誘導しようとしていることを察してしまった彼女は。

 

「……………空母艦載機にするかぁ…。」

 

 と言って余計航続距離を伸ばし、一切の妥協と怠惰を許さずくみ上げた結果が…

 

 Ta152という、航続距離,エンジン馬力や空力性能に優秀な失速速度、低空安定性を備えながら機動性それなりにを保有するまさにオーバースペックとチートの塊のような戦闘機が出来上がったのだ。

 

 そんな欧州戦闘機事情の中で稀有な存在であったTa152は民間に出回っていたエンジンによりTa152搭載の大まかなエンジン出力が割り出せては居たがどれほどの航続距離を持っているかは自分自身たちの常識に合わせてしまっていたのだ。

 

 とまぁ、Ta152は長大な航続距離を持っているが、その制空権取得は連合王国本土までであり、海外領までは届くはずもない。

 その考えより、ロイヤルネイビーの主力の本拠地がジブラルタルになったのは当然のことなのだろう。

 

 

 そして、帝国に混乱をもたらすために懲りずに絡め手を使う、

 その実は酸っぱく、そして毒性があった。

 いつ実り、どちらが食らうのか、それはまだわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 1924年4月25日 連合王国首相官邸

 

 この日、連合王国首相官邸はピリピリとした空気に包まれていた。

 

「…で?どうしてこうなったのだね?」

 

 怒りに震え、怒髪天を突かんばかりの表情で列席者を見渡す…いや、睨みつける男の名はチャーブル。連合王国の当代首相にして、根っからの帝国脅威論者である。

 

 そして…あのブリカスの首相。

 頭からは温泉に入った後のような見事だと感心するほどの湯気が上がっている.

 

 

 彼に握りつぶされた哀れな,ロンドンタイムズ朝刊には何が書かれていたのか…

 

――帝国と共和国とが講和成功!―――

――我が連合王国の外交政策失敗!――

――我が国が帝国に宣戦布告してから一方的に押されている!――

――チャーブル内閣はすべての責任を取って退陣すべき!――

 

 

「講和となっていますが、それは実際もそうでしょう。

 本国領土はわずかしか割譲されていませんし。」

 

「私が言いたいのはそういう事ではない!」

 

「君たちが言っていた『自由フランソワ共和国』はいったいどこに消えたのだね?『英雄的な抵抗を続ける誇り高き共和国市民』はどこに行ったのだ?」

 

「………」

 

「失礼。紳士にあるまじきところを見せたましたな。…ハーバグラム少将。ド・ルーゴ氏らの安否はいまだ分からんのかね?」

 

「…残念ながら。乗っていた戦艦『ノルマンディー』の状況からして絶望的かと。

 

 …そもそも残存艦艇がないという事からして絶望的であります。」

 

「ロイヤルネイビーが忌々しい帝国空軍によって実質無力化され、我が連合王国周辺の制海権は危うくなっている。

 

 私は帝国に挑戦しようとした無謀な人間だ。ただし、私はこう言いたい。

 

 いったいロイヤルエアフォース(RAF)ロイヤルネイビー(Royal Navy)は何をしていたのか!

 

 とね」

 

「……」

 

「分かっているとも。分かってはいるがね…

 

 

 

 ……空母等で制空権を奪取することは可能かね?」

 

「空母ですか。残念ながら焼石に水であるかと。」

 

「それはどういう?」

 

「本土防空のため空軍の方に生産ラインが動いているために空母艦載機の更新が追い付いていません。」

 

「…帝国では大型空母を就役させるという情報が入りました。もしかしたら…」

 

「ジブラルタルにいる本国艦隊主力が港湾に居るうちに空襲するというのか⁉」

 

 重い空気に包まれる会議室。

 

 時間がひどくゆっくり感じるほどの何も音がしない空間。

 

 

 数分後チャーブル卿が静寂を破った。

 と言っても列席者は体感では十数分だと感じていたが―――

 

「そういえば諸君。こんな格言を知っているかね?」

 

 

 

――永遠の友など存在しない。ただ永遠の国益のみが存在するのみ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 後世、『帝国を何としてでも倒そうと、悪魔と取引してまでも勝とうとした』と評された愚かな首相として、或る意味で有名な人物となる。

 

――――――――――

1924年5月 ベルリン・テーゲル空軍基地

 其処は帝国の首都防空を担う最後の砦。

 その基地司令はマルレーネ・フォン・シュトリーゾフ帝国空軍准将。

 当たり前のように前世を持っている、

 前世は501統合戦闘航空団ではぜかましと呼ばれていた。

 前世では“彼”ではあったが、核による膨大なエネルギー消費により魂が異世界へ吹っ飛び無事幼女戦記な世界へと転生したのである。

 女性として。

 女性として。

 

 まぁそんな彼女も戦争は男がするものだろう、だが能力があれば…な帝国軍において最初から出世街道を驀進し、年齢35歳で基地司令にまで収まっているのだからその能力の高さがうかがえる。

 事実、部下をまとめ上げ、上司として多くの人望を集めている彼女である。

 

 そんな彼女はターニャも含め7人の転生組の中で、希少で且つ唯一の常識人枠である。

 

 そんな彼女は、自身の仕事をササっと終わらせ窓の外を眺める。

 

 

 

 

 外では異色の航空隊が訓練をしていた。

 

 海上迷彩を施され、胴体には帝国海軍の略であるD.K.Marineという文字が書かれている。

 

 

 そう、帝国海軍航空隊が基地飛行場を借りて訓練をしているのだ。

 

 帝国海軍では空母取得のためのノウハウをあの秋津洲海軍を教官(?)として得て相当な速さで空母の実戦投入を急いでいる。

 

 

 

 操艦、艦載機の着艦訓練、航空機による移動艦船への攻撃云々が訓練としてあった。

 

 そもそも帝国空軍においては操艦、移動艦船を目標とした対艦攻撃は日常茶飯事でおこなっており、それは帝国海軍航空隊においても同じような状況であった。

 

 問題は着艦、発艦、空母による戦術であるが…

 

 

 空母を使用した戦術は既に空軍から転校…いや違った。

 

 転向してきたナスターシャが7年前に論文として提案した『空母打撃群における任務、戦術と統合運用』においてその根幹が出来上がり、本人はちょっと前線に行きたがるがそんなことはお構いなしに第24海軍航空隊を率いることが帝国海軍の上層部からのお達しでそうなった。

 

 さらにその功績が認められたのか、防空巡洋艦プリンツオイゲン級の最後の艦に彼女の名がつけられた。

 プリンツオイゲン級防空巡洋艦『ナスターシャ・シグラ』

 

 まぁそんなわけで彼らは飛行場を飛行甲板だと見立ててひたすらタッチ&ゴーをしたり、この基地には地上用の油圧アレスティングワイヤーが張られていたため、空母が使えない時はひたすらここで着艦やらタッチ&ゴーなどの練習をしているわけである。

 

 そんな彼らの実戦投入は1925年である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして…ベルリン・テーゲル空軍の基地司令室のソファでゆっくりとコーヒーを飲んでいる人物こそ、帝国海軍准将ナスターシャ・フォン・シグラだった。

「で、なぜあなたはここに?」

 

「いや、簡単なことじゃないか。部下が頑張っているところを見てる。」

 

「じゃあここで見なくてもいいでしょうに」

 

 ごもっともである

 

「まぁそう邪険にしないでリラックスしましょ?」

 

「はぁ…気が抜けますね、あなたの声は。」

 

「なんですと、じゃあ君のケツを掘っちゃうぞ♂?」

 

 何だ急に。

 たまげたなぁ( ^ω^)・・・

 

「結構です。」

 

「あ。拒否権は無いんで」

 

「あなたそもそも掘る槍持ってないでしょうに。」

 

「あ、そうだった。私そういえば掘られる側だったね。」

 

「…なぜこんな卑猥な…仕方ないわね、これも運命か…」

 

「 そ う だ よ 」 

 

 ナスターシャ、転生する前はQちゃんと呼ばれていた人物だが…

 前世はホモ(ネタ)であった。

 

 

ホモは世界を救う!



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ルーシー、そして謀略

 は~いどうも作者です。

 最近エリザベートちゃん達をハリーポッターのせかいに転生させても面白そうだなーと考えている作者です。








 ターレル…そろそろ書きたいなぁ…?





1924年5月25日 深夜12時

 とある連絡機が深夜12時にロンドン近郊にある民間飛行場から飛び立った。

 

 帝国はさすがに民間のしかも迎撃機が飛んでこない飛行場には爆撃しないという程度の慈悲はあった。

 その連絡機の行き先は『モスコー』であった。

 

 その連絡機はもちろん帝国の電子偵察機兼早期警戒機EKC-1Eがとらえていたものの、帝国空軍の航空方面隊戦闘指揮所は脅威ではないとしながらもいつでも迎撃機が飛べるよう準備をしていたが、北東方面に飛んで行ったために見逃した形である。

 

 制空権を帝国が握っているために連合王国の駐在武官と外交官が乗り込んでいた連絡機は無事に『モスコー』へと到着したのだった。

 

 

 

 そこでどんな外交が行われたのか…

 

 それを知っていたのは帝国において誰もいない。

 

 

 

 だがしかし、予想できる人物がいることを忘れてはならない。

 

 

 

 

 

―――――――――

1924年5月26日 朝6時30分

 

 カタリナちゃんの朝は…遅い。

 いつも先にカタリナちゃんの夫さんであるルドルフが先に起きてコーヒーを淹れておき、パンを焼いて卵をぱかっとフライパンに落として焼き、ハムをさらっと焼いた後にある程度の野菜を添えながらも盛り付けをする。

 

 帝国の代表的なカルテルエッセンの食事である。

 

 

 さて、唐突だがカタリナちゃんとその夫君はいったいどこに住んでいるのだろうか…

 

 それは多くの将校の家族たちが多く住む軍人の住宅地ともいうべき場所である。

 

 

 カタリナちゃんは本来帝国の首都にある宮殿に住まなければならないような人物であるのだが、諜報局設置、そして結婚に伴いそこに移り住んだのである。

 

 もちろん護衛が付かない訳はなく、近衛第1師団の機械化歩兵より1分隊4人が配備されているが、その程度である。

 

 

―――実はその家にはカタリナちゃんが趣味で集めた本が大量にある。―――

 

 あったって何になるのかと言えば、何かにはなるのだろう。

 ちなみにカタリナちゃんが執筆した本もある。

 

 それは、『失敗の本質』*1である。

 

 カタリナちゃんが執筆した『失敗の本質』は帝国諜報局の海外の諜報員向けの乱数放送の暗号ブックの一つだったりする。

 

 

 

 

 例 これは特定の周波数で且つ、ドイツ語および英語でさらに女性の声で放送される。

 

 『NS 116 15 10』

 

 と放送されたならば、失敗の本質は横書きであるので『失敗の本質の116ページの15行目の左から10番目の文字』が暗号化された数字を解読した結果である。

 

 しかも同じ文字であってもいくらでも違う場所にちりばめられているので暗号化する人物の気分によってその文字を特定するための数の組み合わせは変化する。

 

 その暗号化を説くのは不可能に近く、そんな単純な暗号ではあるが防護性は高くコンピューターであっても解くのは不可能に近い。

 

 しかもこの『暗号ブック』は5冊ほど存在し、帝国内で一般に発売されているその本が暗号に使用されているのを知っているのは帝国諜報局の人間くらいだろう。

 

 

 

 まぁそんなことは置いておいて。

 

 本しかないその家にも実は数少ない実銃が置いてある。

 

 MP5Kである。

 カタリナちゃんはG3のようなフルサイズのアサルトライフルを持てないのだ。

 なぜかと言えば、

 

 「重すぎでしょこれ。何㎏あんの?4㎏!?無理無理、腕折れちゃう」

 

 と言うくらい力がない。

 まぁカタリナちゃんは一般的な女の子なのだろう。

 

 

 それで、カタリナちゃんが持てる銃という事でMP5Kが置いてあるのだ。

 

 まぁMP5KがPDWであることもあるが。

 

 そして、個人的にカタリナちゃんが気に入っている銃でPKP/Sを本人が常に携行している。

 

 

 

 まぁ近衛師団の機械化歩兵より一個分隊4人とあるが、そもそも近衛師団は比較的精鋭が多く護衛で言えばなかなかの戦力であることは間違いないだろう。

 

 護衛に家や自身の身を守られながらものんびり寝ているカタリナちゃんが起きるのは朝の7時である。

 

 自然に目覚めた彼女はお腹を空かせながらも起き上がる。

 

 おっと、昨夜はお楽しみのようでしたね。起き上がりシーツがはだけると白めな肌が露わになった。

 

 カタリナはそんな事には頓着せずに『スパァン!』と起き上がりベッドのそばにある籠から下着の束を取りだしてもぞもぞと下着を身に着けていく。

 

 ちなみに、籠は秋津洲から取り寄せてきた竹籠(値段にして5マルク。現在の日本円ではおよそ6000∼7500円ほど)である。

 

 そして籠の一番下に置いてあったパジャマをサラサラ~っと着ていき夫が朝食を用意しているのでドアを開けてリビングへと向かう。

 ちなみに夫婦ともに一人でベッドで寝ているのでベッドは一つである。

 

 

 ペタペタと廊下を歩きイスを引いてテーブルに着く。

 

「おはよー、☆ダーリン☆」

 

「おはよう、カタリナ。あ、今朝の新聞取っておいたよ。」

 

「あ、ありがとー」

 

 テーブルに置いてあった新聞を普通に手に取って読み始める。

 そして、ルドルフはそんな彼女を見て、

 

「はい珈琲。」

 

 とテーブルにコースターとともにコーヒーが入ったカップをテーブルの上に置く

 

「ありがと。」

 

 良い匂いが漂うコーヒーをゆっくり味わいながら、新聞をまず最後の面から読み始める。

 

 

 

 

 ちなみに、カタリナとルドルフの関係がなぜか夫と嫁が逆転してる気がするが気にしないでほしい。

 

 新聞には国家の機密情報に触れることもあるカタリナやルドルフからしたら知っていることしか載っていない。

 そんな時、一つの見出しに目が留まる。

 

「帝国の東方で独立運動…?」

 

 彼女はそんな報告がこの前にあったかしらとこの一週間を振り返ってみる。

 

「東方は確か…」

 

「もとはポーランドやらスロバキアがあった場所じゃないか? 確か最近併合された…といっても50~60年前くらいの話だと思うんだけど。」

 

 帝国は広大故に多数の民族を抱えている。主要民族のドイツ民族、ポーランド人、チェコ,スロバキア系民族、などなどであるが、今まで独立運動という運動は起こっていなかった。 

 

 それにもいくつかは理由が存在する。今独立すれば自治は復活するが、雇用がボロボロになるのは目に見えていたからである。

 

 感情を理性で押さえつけ、そして自身の生活にかかわることであったので黙りこくるしかなかったのだ。

 

 そして、エリザベートが色々国内を発展させていった結果としておこぼれという形として第1次、第2次産業の振興や観光業の発達により雇用がさらに拡大され、『独立』と言う言葉の影も形もなくなっていった。

 

 今や、各々の独立運動家たちは自身の国民たちに『非国民じゃないのか?』、『君たちは我々に死ねと?』というような疑問の目では済まないような。

 要はその人物たちは百眼視されていたのだ。

 

 

 

 取り合えず、疑問を持ちながらも読み進める。

 

 カタリナちゃんは新聞の読み方はすごい独特で、後ろの紙面を最初によみ、後ろ数ページを呼んだところで前の一面を読むのだ。

 ………自分で書いてて思ったのだけども、カタリナちゃん新聞の読み方独特過ぎて頭の中が宇宙猫になっております。

 

 とりあえず新聞をとじてひっくり返して表の面を開く。

 

 そして表第1面の大きな見出しを見た瞬間、カタリナは芳醇なコーヒーを吹きだそうとしてしまった。

 だが、無理もないだろう。

 

 表の第1面にはこう書かれていた。

『ブラチスラヴァで銃乱射事件!』

 

 とりあえず彼女は見間違いかと思ってよく見たが、文言は変わらない。

 

 カタリナは遂に新聞社が狂ったかと思い始めた。

 

 とりあえずリビングにある真空管のラジオを付けてみる。

 

 

『ブラチスラヴァでおきた銃乱射事件ですが、けが人などの詳しい人数は分かっておりません。

 5月23日の夕方16時に起きた~……』

 

「銃乱射でまさかの立てこもり事件????」

 

 カタリナちゃんは訳が分からなくなった。

 

 夫のルドルフ君はびっくりした様子でありながらも朝の食事の用意をする手は止めない。

 

「銃乱射で立てこもりか…帝国初じゃないか?」

 

「ええ、立てこもりは今まで幾つかあったようですけど、銃乱射は初めてですね。」

 

 

 とりあえず新聞社が狂ってないことは分かったので詳しく読んでみる。

 新聞によれば、

『5月23日の夕方、プラチスラヴァ大学で突如銃声が響き悲鳴が響いた後に犯人は時計塔兼展望台に立てこもり眼下を歩いていた通行人を撃ち始めました。

 事件の一報を受けたブラチスラヴァ警察が出動しましたが高さを利用されどうもできず、警察が地下水道から塔に侵入し犯人を殺害するまで92時間かかりました。』

 

『詳しい被害は分かっておりません…』

 

 

「…はっ!こんなのんびりしてられない!ルドルフ、急いで局に行くわよ。」

 

「分かった。カタリナ、急いで食べよ。」

 

 焼かれたパンをササっと食べ、残ったコーヒーも飲み干した後に食器の後片づけを彼女が澄ませ、白く良くピントとノリが効いたブラウスを着てクローゼットから『大鉄十字章』が付いた帝国陸軍将官制服をさっと着こみ、カバンを持ちあとは夫とともに局…すなわち帝国諜報局へと向かう。

 

  ※(ちなみに行き帰りは護衛さんが公用車を回してくれます)

 

 

 カタリナとルドルフが車から一緒に降りて登局し、局長室に入ったとたんに一気に彼女の雰囲気が変わる。

 …と言っても彼女は元々気が抜けるような、何とも言えない優しい雰囲気を常日頃から醸し出しているので今更雰囲気が変わっても若干としか言えない程度ではあるが。

 

 その雰囲気の変化は20年近く連れ添ったルドルフ、そして実の姉のエリザベート位しかわからない微量な変化である。

 

?「変化は微量であるため実質0.おっと誰か来たようだ。ちょっと失礼…うわ何をするやめ…アー―ーッ!!!」

 

「余計なことを言わなければこんな目に合わずに済んだだろうに…あ、前世ではホモなQちゃんです。どうもよろしく~~~~(^^♪」

 

 変な電波を受信してしまった。

 

 

 

 とりあえず朝の報告書に目を通す。

 

 と、もうすぐに今朝流れていたニュースの情報とその分析が書かれた報告書があった。

 

 その報告書には銃乱射事件に使われた銃器が帝国で広く使われているG3ではなく出所不明なサブマシンガンであった事や国境が近いための違法に密輸された銃ではないかとの分析だった。 ついでにご丁寧に使用された銃のモノクロ写真もつけてあった。

 

「これは…ステン短機関銃ですね。流れてくるならスオミの方かと思ったんですが、ステンですか…

 

 ステンはおそらく連合王国の銃。これは決まりですね。」

 

 とかいいながら次の報告書を手に取りはたまた手に取る。

 

 

 

『空軍によれば、連合王国から発進した正体不明の航空機が、連邦へ向けて飛び去った』

 との報告書であった。

 

 この情報が入った時点でカタリナちゃんは連合王国の腹黒紳士が一生懸命考えた謀略を把握した。

 

「なるほど…連合王国にはMI6がある。それを利用したんですかね。

 じゃあ、同じような事をしてやりましょうか?」

 

 その日、連合王国が負ける日は決まったと言っても良いだろう。

 

 

 彼女はその日、ルーシーに直接謀略するのではなく、秋津洲に手を伸ばした。

 

 秋津洲は陸軍中野学校というような現代のCIAやモサドのような知名度は無いが、それなりの諜報能力をそろえている。

 

 まぁ、そんなことを置いといて…

 

 

 連合王国が考え付くのはいたって簡単なことである。

 すなわち、ルーシー社会主義共和国連邦を餌をぶら下げてからの参戦要請であろうと。

 

 そして、あの夜の未確認飛行物体は大方連合王国の外務省の連絡機であることは容易に想像がつく。

 

 はたまた、なぜ国境にそれなりに近い場所で銃乱射事件が起きたか。

 国境の警備隊がさぼっていたのか?

 それもあるかもしれないが今はそういう事ではない。

 

 なぜ連合王国の銃が密輸されているかである。

 おおかた、戦わずして勝とうと帝国の少数民族や比較的新し目に併合された地区を狙って前の世界のフランスみたいなレジスタンス的活動を期待したのだろうが、少々甘かったようである。

 

 

 実際のところはと言うと…

 

 実は帝国の田舎というのは意外と恐ろしく、ほかの人物が訪れ居ついただけで噂になる。

 

 まぁコミュニティが

 

 その人物が怪しいことをしているならば

『こいつ怪しいな…サツに言いつけてやろうか』

 となって警察に話が行く。

 

 その警察も大体配置換えとかは起きず、住人も見慣れた顔ぶりの中に異質の人物が混じっていれば目立つ。

 

 なんかやらかせば追い出す。

 まず工作員が田舎に潜伏することは不可能であった。

 

 

 

 

 

 

 比較的新しく設立した帝国とは違い、連合王国の『連合』は薄氷の上でダンスをしているような状況である。

 

 アイルランドは独立色が特に強く、独立をするためにテロのような事をする国である。

 ウェールズもアイルランドよりは過激ではないモノの独立色が強い国である。

 何せ、EUから離脱してしまうという理由で住民投票で僅差で連合王国残留と決まった国である。

 

 このアイルランド、ウェールズは独立色が特に強い国柄であり、皇帝の名の下でなぜかよくわからんが強く結びついている帝国より不安定な国である。

 

 アイルランドに関してはちょいと刺激するだけでガソリンに引火するがごとく一気に燃え始める。

 

 

 その一気に引火させえるためのマッチを用意するのはこちらで用意しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて…ルドルフ君、あの計画をそろそろ準備する必要があるね。

 

 秋津洲へのプロパガンダで少なくても5ヶ月は稼げるでしょうね。」

 

「分かりました。工作で“あの”作戦の準備をしましょう。」

 

 

 赤へのヘイトが溜まりに溜まりまくった帝国諜報局がルーシー連邦を分割させる日は近い。

*1
失敗の本質と言う本は本当にありますが、読んでいて頭が痛くなる本です。気を付けて読みましょう。



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異常な程の静寂

 どうも、作者です。

 緊急事態制限が解除されていい加減髪を切りに行こうかと考えた矢先に美容院でクラスターが発生したそうで。
 おちおち髪の毛すらも切りに行けなくなりました。

 6月からは学校も再開しますが、私は学校でクラスター起きた日には大惨事になると考えて戦々恐々としております。



 コロナが一刻も収束することを望みます。


 1924年5月から1925年3月までの10か月、全く戦況に全く動きがなかった時期がある。帝国は最初こそ飛行場を叩いていたものの、10か月の間に爆撃目標を永遠と戦闘機が生産される工場も追加され、英国の航空産業はボロボロになり崩壊しそもそもスピットファイアmk24と言った最新鋭機を生産できる状況ではなくなった。

 

 帝国は優秀な潜水艦群を保有しているが、予想された限定的通商破壊戦も行われこそしたものの、被害は少なかった。

 

 連合王国船籍の船舶が合州国船籍の船舶と一緒に航行していたからだ。

 それを良い事に連合王国は合州国よりP-51H-1マスタング等のレンドリース給与をもらっていた。(もちろん代金は払ってもらうが、これは連合王国への“ツケ”であった)

 

 何とかレンドリースで数をそろえ、海軍の拠点であるスカパ・フローはもちろんの事、念のためにジブラルタルにも配備された。

 

 

 

1925年1月某日 帝国陸軍大学

 

 ターニャは近くに控える卒業の為の卒業論文を書くために大学内の図書館に着ていた。

 

 大学に推薦された際に参謀課程は魅力的ではあったが、通常はおよそ3年程の受験勉強に勤しまなければ受からないというのが一般的に言われていることであった。(要はそれ程難関であると言うことだ。)

 ただし、参謀過程に合格し、無事に卒業すればターニャが望む後方勤務となるのだ。

 

 ゼートゥーアもその課程を落第することなく卒業し、順調に出世して今の地位にあるし、

 近衛で現在辣腕を振るっているカリンも実は陸軍大学に13歳程で入学し、参謀過程を留年するどころか上位12名の成績優秀者にまで入っていたし、同じ頃にはカタリナ殿下は上位5位で卒業したそうで。

 ・・・付け加えておくと、現在皇帝職に付いているエリザベートは上位3位で卒業している。

 

 通常課程は択一式と論述問題であったが、参謀課程はこれらに加えて口頭試問が加わる。

 

 士官学校卒業論文の内容に関して1時間、そして基礎的な戦略・戦術知識について1時間という計2時間だ。

 

 

 

 卒業論文について問題点を指摘され、それに対する改善点を述べなくてはならず、また戦略・戦術知識についても、その場で問題が口頭で出題され、それに対する問題点と改善点を簡潔にまとめて述べなくてはならないだろう、と彼女は予想していた。

 

 そんな彼女にとって、参謀過程ではなく一般過程に推薦されたのは行幸だったといえる。

 3年も勉強漬けにされるのはさすがに・・・そういう事である。

 

 

 ターニャは卒業論文のための参考文献を探しに軍大学の図書館に訪れたと言う訳なのだ。

「気のせいか?まぁ良いか。しかし少々騒がしいな…」

 

 そう思いながらも参考にすればよさそうなかつての卒業生やら帝国軍人が書いた論文がこの図書館に揃っている。

 

 少なくとも資料として足りなくなる事はないだろう。

 

 

 

 

 そんな資料集めをしている最中に誰かが入ってきたようだ。

 

「おや…君はデグレチャフ少尉ですか?」

 

 どこか聴き覚えがある声である。

 今は女であるが元は男の私からしてみれば可憐な声ではあるが、その戦闘技術は強烈でありそして帝国の陸軍ドクトリンに極めて大きな影響を与えた将軍。

 

 帝国軍で無能に今のところ出会っていない私にとって、手の平の5本指に入るほどの優秀さを私に印象付けた人物。

 

「これは、フート近衛中将ではないですか。」

 

 近衛第1師団師団長カリン・フォン・フート近衛中将。陸軍軍大学卒業時に『電撃戦に関する概論論文』で帝国軍に大きな影響を残した人物。

 

「それで、フート閣下は何か御用でしょうか?」

 

「校長に少し所用があってね。

 

 それと、近衛に今年入れられる人物がいるかの下見ってところですよ。

 

 図書館に来たのはついでです。」

 

「そうですか。」

 

 そんな感じで始まった挨拶もある人物によって中断された

 

「我が帝国陸軍のエースを取ろうと思っているのですかな?近衛は。」

 

「ゼートゥーア閣下!」

 

「ゼートゥーア准将でしたか。お久しぶりです。」

 

「フート近衛中将でしたか。後ろ姿しか見えなかったもので」

 

「ルーデルドルフ准将はお元気にされておられますか?私が軍大学時代教えを請うた人物だったので少し聞きたいのですが。」

 

「ふむ。元気にタバコを吸っていますが…」

 

「そうですか、お元気そうですね。

 

 あぁ、デグレチャフ中尉に声をかけたのは偶然で、近衛への誘いではありませんのでご安心を。

 

 では失礼しますね。」

 

 黒い近衛将官制服を纏った彼女は裾を翻して普通に帰っていった。

 

 

「…ゼートゥーア閣下。私に何か御用が?」

 

 帝国陸軍の若干緑っぽい将官制服を着こんだ彼は声を落として私にこう話した。

 

「ふむ…君が提唱した物が陸軍参謀本部でようやっと通った。あとは上の採決待ちであるのだが、通るのは確実だと思われる。

 

 そこでた、精鋭と集めた特殊作戦を目的とした部隊を編成する。

 

 大隊規模を想定しているが、そこの大隊長にデグレチャフ中尉。君が選ばれた。

 

 魔導士中隊に関しては大隊長であり魔導士である君が選任することになった。

 

 詳しくは5月に渡される命令書を呼んでくればいいが、とりあえず君に予告するためにここに来たのだが。」

 

 声の大きさを元に戻したゼートゥーアは彼女に問うた。

 

「彼女とはいつから懇意にしているのかね?」

 

「フート近衛中将とですか?教導団に居た時からですが。」

 

「なるほど…その徽章はその時に取ったのか。」

 

「はい。教導団に入っている者は全員持っているそうなので、一応。」

 

 ターニャの軍服左胸についていたのは航空魔道レンジャー徽章である。

 取る際に地獄のような思いをしたが、それもそうだろう。

 

 教官との訳の分からんやり取りにうんざりしながらも取った意味があったかと言われると良くは分からないが…

 

 厄介なことになった…愛しの後方勤務の夢が…遠ざかっていく……

 

 呆然としながらもゼートゥーア閣下が帰るそうなので辞を述べて資料集めを続行する。

 

 

 

 

 

 

1925年2月14日 ベルリン・テーゲル空軍基地

 

 2月14日。それは帝国にとっても、世界にとっても最初の事であった。

 

 世界最初のジェット戦闘機。

 それが最初に配備された日である。

 

 世界最初のジェット戦闘機と言えばこの世界ではMe262シュヴァルベが有名だが、この世界に転生した人物はそんなものを導入するのはだめだと思っていた。

 

 帝国空軍技術士官、レナ・フォン・ワイス空軍大佐である。

 彼女はターボジェットではなくターボファンエンジンを装備した多目的ジェット戦闘機(マルチロールファイター)が必要だと判断し、大出力で優秀な高高度性能、重武装でありながら低中速域での安定性を重視した設計とし、前提条件として艦載での運用も考えていたものだった。

 

 最初の配備場所は帝国空軍第202飛行隊の64機、の飛行隊である。

 

 

 

 

 EKF-24戦闘機

 

 共通仕様

  ハードポイント5か所+翼端にミサイルハードポイント×2

 

 

 型番

・EKF-24A 空軍向けの単座戦闘機。単座であるので航空支援にはあまり向いていない機体。主な任務は迎撃、制空、簡単な地上攻撃等

・EKF-24B 海軍、空軍向けの複座型戦闘機。複座なので対地、対艦に便利。高等練習機や偵察機型もある。主な任務は艦隊防空、制空、対地対艦攻撃、高高度偵察等

 

 上記2種は今でいう第1~2世代相当の物である。

 両者ともにほとんど同じ性能を持つ。

 

 初期型(typeA及びtypeB)

 最高速度 1153km/h

 実用最高高度 1万5000m

 エンジン EK.23 mk1ターボファンエンジン

        ドライ推力42.9kN ミリタリー推力*158.9kN

 レーダー.FCS FumoA 12機上レーダー(レーダー探知距離10㎞)

 

 武装

 30㎜ mk110機関砲×2丁

  45口径のリボルバーカノン。毎分950発の発射速度を誇る。なお、発射速度は押さえてある。

 爆弾各種

  1t爆弾1発と500㎏爆弾を4発,空対空ロケット弾を12発もしくは対地,対艦用無誘導ロケット弾12発

  もしくは

  大型増槽×1,中型増槽×2と空対空ロケット弾48発もしくは対地,対艦用無誘導ロケット弾48発

  もしくは

  各種ロケット弾62発

 

  なお、朝鮮戦争で短射程空対空ミサイルを搭載するようになる

  その時から翼端に空対空ミサイルを積む

 

 

 

 通常戦闘において

  近接航空支援任務

  大型増槽×1,500㎏爆弾×2,何らかのロケット弾12発,(短射程空対空ミサイル×2)

  迎撃任務

  (短射程空対空ミサイル×2)

  空対空ロケット弾24発

  制空任務

  中型増槽×2,(短射程空対空ミサイル×4),空対空ロケット弾12発

  中型増槽×2,空対空ロケット弾24発

  対艦攻撃任務

  中型増槽×2,1トン爆弾×1,対地対艦ロケット弾12発,(短射程空対空ミサイル×2)

  艦隊防空任務

  中型増槽×2,(短射程空対空ミサイル×4),空対空ロケット弾12発

  中型増槽×2,空対空ロケット弾24発

 

 戦闘航続半径

  増槽なしで890㎞

  増槽ありで1100㎞

  

 

第1次改修型

・EKF-24C 空軍向けの単座戦闘機。単座であるので航空支援にはあまり向いていない機体。主な任務は迎撃、制空、簡単な地上攻撃等

・EKF-24D 海軍、空軍向けの複座型戦闘機。複座なので対地、対艦に便利。高等練習機や偵察機型もある。主な任務は艦隊防空、制空、対地対艦攻撃、高高度偵察等

 

 第2∼3世代相当の戦闘機

 

 第1次改修型(typeC及びtypeD)

 最高速度 1847km/h

 実用最高高度 1万5000m

 エンジン EK.23 mk5ターボファンエンジン

        ドライ推力51.3kN ミリタリー推力*265kN

 レーダーFCSの変更

 レーダー.FCS FumoA 24機上レーダー/FCS(レーダー探知距離21㎞,レーダー補足10㎞)

 

 武装

 30㎜ mk115機関砲×2丁

  45口径のリボルバーカノン。毎分970発の発射速度を誇る。なお、発射速度は押さえてある。

 爆弾各種

 ・1t誘導爆弾

 ・500㎏誘導爆弾

 ・ロケット弾

 ・対地,対艦ミサイル

 ・中射程空対空ミサイル

 ・短射程空対空ミサイル

 ・偵察ポッド

 

 戦闘航続半径

  増槽なしで910㎞

  増槽ありで1250㎞

 

 

 

 第2次改修

・EKF-24E 空軍向けの単座戦闘機。単座であるので航空支援にはあまり向いていない機体。主な任務は迎撃、制空、簡単な地上攻撃等

・EKF-24F 海軍、空軍向けの複座型戦闘機。複座なので対地、対艦に便利。高等練習機や偵察機型もある。主な任務は艦隊防空、制空、対地対艦攻撃、高高度偵察等

 

 第3世代相当の戦闘機

 

 第2次改修型(typeE及びtypeF)

 最高速度 2447km/h

 実用最高高度 1万5000m

 エンジン EK.23 mk15ターボファンエンジン

        ドライ推力63.5kN ミリタリー推力*379.5kN

 レーダーFCSのさらなる変更

 レーダー.FCS FumoA 36機上レーダー/FCS(レーダー探知距離39㎞,補足19km)

 武装

 30㎜ mk160機関砲×2丁

  45口径のリボルバーカノン。毎分1050発の発射速度を誇る。なお、発射速度は押さえてある。

 爆弾各種

 ・1t誘導爆弾

 ・500㎏誘導爆弾

 ・ロケット弾

 ・対地ミサイル

 ・対艦ミサイル

 ・対レーダーミサイル

 ・中射程空対空ミサイル

 ・短射程空対空ミサイル

 ・偵察ポッド

 ・戦術ECMポッド

 

 戦闘航続半径

  増槽なしで990㎞

  増槽ありで1310㎞

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回はもちろん初期型のものがロールアウトした形だ。

 

 ちなみにその機体はもちろん

 ――EKF-24――

 

 その空軍向けの単座型ジェット戦闘機,EKF-24A戦闘機の初期ロットである。

 

 西暦で言うと未だ1940年から1941年相当の時代でなんてとんでもない機体を出したと思うだろう。

 正直作者もそう思う。

 

 ただ、この機体。

 搭載しているレーダーに問題があった。

 

 西暦で言えばせいぜい1941年の時代で優秀な機上レーダーを作れるわけがない。

 

 使用しているコンデンサはシリコンを使用したシリコンコンデンサではなく、衝撃に弱いゲルマニウムコンデンサを使用していた。

 

 それにより、6G以上の旋回は禁止されている。

 

 

 そのような比較的繊細に扱わねばならないモノを前線に置いておくわけにはいかないとして、ひとまず上昇性能が絶対的に必要な任務である迎撃任務に就くであろう航空隊(首都防空を担う第202航空隊)に配備されたのだ。

 

 なお、制限を9Gにまで緩和させた物は2年後の統一歴1927年まで待つ必要があった。

 

 

 

 

 

 1925年3月 帝国某所

 

 帝国のとある戦車工場で虎と豹が生まれる。

 

 その牙は鋭く,そして長かった。

 戦場に彼らが姿を表す日は近い。

 

*1
アフターバーナーを点火したときの推力

*2
アフターバーナーを点火したときの推力

*3
アフターバーナーを点火したときの推力



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幕間 バッドエンド

 帝国は負けた。

 

 合州国の本格参戦、数の暴力により戦線が押され、近衛第2師団は戦線を抑えるために投入され物量に押されて全滅。

 

 

 ドイツ海軍が誇るグラーフツェッペリン3隻は空母24隻に叩かれ沈没した。

 その際にナスターシャも戦死した。

 

 帝国は断固抵抗を決定、押されながらも彼我の戦力を削っていた。

 

 だが、それでも圧倒的な合州国の数により押されていた。

 

 

「我が国はまだやれます!」

 

「陛下はこれ以上の戦争を望んでおられない」

 

「黙れ黙れ!我らはまだ戦える!」

 

 とある将官が会議で喚き散らしている。その光景を目を顰めてみたのはエリザベートの代わりに出ていたカタリナであった。

 

「静粛に「カタリナ殿下はどう思われますか⁉」へ…?」

 

「私は…」

 

「報告します、カリン近衛中将が戦死されました。」

 

「何ですって!?」

 カタリナは驚愕した。

 少なくともあの人物を殺せるビジョンが見えなかったわけである。

 

 少なくとも、接近戦にたけていてそして魔導士としても優秀。そんな彼女が死んだというのだ。

 

 

 怒号が飛び交う会議、既に皇族であるカタリナには止めることができなかった。

 

 カタリナは4時間かけて紛糾した会議を持ちなおさせて強制的に終了させたカタリナは諜報局へと帰った。

 

 諜報局では夫のルドルフ君が局長補佐としての仕事をしていた。

 

 局長の席に座り、気持ちを切り替えて仕事をするとある一本の電話が飛んでくる。

 

「はい、こちら…「諜報局ですか⁉」そ、そうですが…」

 

「帝国空軍作戦室の物です!なぜかわが軍の戦闘機がそちらに向かっています!」

 

「…ばかやろう、それは敵の攻撃だ!」

 

 そう叫んだ後に諜報局に最大爆装された詳細不明な戦闘機が帝国諜報局建物に直撃した。

 

 カタリナちゃんはとっさにルドルフを庇った。

 

「おまえ…大丈夫か!?」

 

「うん…無理…死にそう…」

 

 そういうと吐血して意識を失った。

 

 

 ルドルフは頑張って病院に連れて行ったが、カタリナはもれなく死亡してしまった。

 

 ルドルフ君は悲しみに暮れてしまった。

 

 帝国諜報局が機能不全に陥り帝国の防諜はまさにザルとなってしまった。

 

 

 

 

 帝国陸軍は前線を3年持たせたがじりじりと押されていき、ついには帝国空軍が制空権を取る事すら不可能に陥った。

 その時には既に首都攻防戦にまで行った。

 『白銀』のターニャ・デグレチャフ、『魔王』ルーデルの柏葉剣付ダイヤモンド鉄十字章を受章した人物を召喚し、それを果たしたがルーシー群と合衆国軍が流入。

 

 抑えきれず『白銀』のターニャ・デグレチャフ、『魔王』ルーデルは合州国軍側に投降し亡命したのだった。

 

 エリザベートは前線でぶんぶんしていたところを撃ち落され合州国軍の虜囚となったものの、

 

「敵の虜囚となるのは私自身が許さん!」

 

 と言い放ち傍にいたアメリカ軍のM1911ガバメントを奪って自決した。

 

 

 

 

 

 さて、最後に転生組の残り二人の話をしよう。

 マルレーネ・フォン・シュトリーゾフ

 合州国軍の捕虜となった後に帝国改め連邦軍の再軍備に尽力した。

 最終階級は連邦空軍大将。転生組の中で最もましな死に方をした人物で、死因は心筋梗塞で79歳だった

 

 レナ・フォン・フート

 合州国へ亡命した後に合州国空軍の技術協力をし、民間にも力を入れた。

 ボーイング社に手を入れ、大企業へと成長させた。

 合州国において、航空技術を10年早めた人物として一躍有名となり、航空業界で知らないものは居ないとされていた。

 彼女が43歳でF4ファントムを送り出し58歳でF-15を送り出していった。

 

 そんな彼女だが、73歳時に祖国の地を踏み歩いていた時

 

『この逆賊め!』

 と言いながら突っ込んできた暴漢に刺され死亡した。

 もとは航空魔導士であった彼女だが、70歳ともなると体が効かずに、あっさりと刺されて死んでいった。

 

 享年73

 

 

 

 



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空母打撃群

 1925年4月

 

 ついに我が帝国海軍に新型艦が配備された。

 母港は帝国海軍の主力港であるキィエール軍港。

 

 その新型艦の名は…

 

グラーフ・ツェッペリン級航空母艦1番艦『グラーフ・ツェペリン』

 

 である。

 

 基準排水量4万3150トン、満載排水量5万トン越えの大型空母で、艦首には訳の分からんほどくねくね曲がってるキール軍港を通過するためのバウスラスターを装備している。

 

 将来的にはジェット艦載機が導入されることを考え装甲甲板とされており、艦には3本の蒸気カタパルトが既に装備されていた。

 

 

 この時代にはそぐわぬ代物を配備した帝国海軍であったが、試験航海や訓練、ドックに入っていることしかしていなかった。

 

 なぜなら未だに空母は一隻であるからである。

 せめて運用するのならば3隻、少なくとも2隻が欲しいところ。

 

 未だに2隻もそろっていないのだ。

 

 

 ただし、基準排水量で4万トン近くのデカブツを配備されたら勿論知れ渡る。

 

 自国民はいざ知らず、敵国に知られるのは時間の問題であった。

 

 

 

 

 

 

 1925年4月某日 

 連合王国首都ロンディニウム ダウジ・ング街10番地 連合王国首相官邸

 

「これは何だね?」

 

「前に我々が入手した写真と一致したことから推測するに、帝国の新型空母であると推測されます。」

 

「ふむ。それでこれに我がロイヤルネイビーやRAFは対抗できるのかね?」

 

「正確な搭載機は把握できておりませんので。60機~150機と大きく幅が開いて予想されておりますので…」

 

 MI6所属のハーバーグラム少将はそう言う

 

「ふむ。」

 

「ですが、搭載機が60機程であってもロイヤルネイビーの脅威であることは間違いありません。

 

 現在制空権を取られている現状では、本土にある海軍基地を好きな時間に攻撃できるという事になりますので。」

 

「対策として何かないかね?」

 

「…潜水艦であるならあるいは…ですが潜水艦で艦を沈めるのは難しいでしょう。足が遅い輸送船ならいざ知らず、相手は早い戦闘艦であります。

 

 可能性は無くはありませんが…」

 

「難しいか。」

 

「はい。帝国軍が航空機を使用して我が国の潜水艦を狩っているという情報も入ってきております。

 現在、我が国の潜水艦が活

活動できるのは…」

 

「大西洋の我が国が制海権を優勢に入れているところだけか…」

 

 帝国海軍は対潜、対空に特化した護衛駆逐艦や海防艦ともいうべき量産できる駆逐艦をなんか訳の分からん数を作っていた。

 

 それらが帝国植民地からの輸送の護衛をしているのだ。

 

 かつて(と言っても1年前くらい)、軽巡洋艦や重巡洋艦を繰り出させて遮断を試みた。

 

 

 

 

 

 

 

 帝国では既に防空巡洋艦が配備され且つての軽巡洋艦であるケーニヒスベルク級は2線級の軽巡へと落ちてしまった。

 そこで帝国海軍がケーニヒスベルク級に与えた任務は…

 

 海上護衛である。

 

 ただし、輸送艦に直接付くわけではない。

 

 

 海上輸送網を破壊しに来た軽巡洋艦,重巡洋艦を迎撃、撃退及び撃沈の任務である。

 

 そのため、ヒンデンブルク用に開発された203㎜3連装砲SKC21/203を連装砲に改め, 油圧の新設計の駐退機による反動の軽減や軽量化が図られた主砲搭が搭載される。

 それは203㎜連装砲SKC23/203だった。

 それを換装したものの、船体には増大した主砲反動で転覆しないよう安定させるための燃料タンクを兼ねたバルジを追加。

 

 機関を新型缶とディーゼルの複合とし最大速力33ノットを維持しながらも航続距離延長に成功した艦である。

 

 ようは、魔改造されたケーニヒスベルク級が立ちはだかったというわけである。

 

 当時の戦艦を射程でアウトレンジすることができる主砲や、FCS付き射撃管制レーダーの存在、それなりにあった搭乗員の練度もあり極めて正確に打ち込んできた。

 

 参考程度に、ここで当時の連合王国の最新鋭巡洋艦の主砲射程距離を見てみよう。

 

ダナイー級(D級)約19600m(仰角40度)

ホーキンス級 約19300メートル(仰角30度)

 

 そして、改造されて若干トップヘビーになったところをバルジで何とかしたケーニヒスベルク級の主砲最大射程を見てみるとしよう。

 

第2次近代化改修型

SKC23/203搭載ケーニヒスベルク級

203mm連装砲3基6門(仰角40度)

 

 主砲最大射程29850m

 

 巡洋艦級の主砲でありながら長射程を実現できたのは、長砲身と仰角を上げたという二つの点で長射程を得た。

 

 なお、理論上の最大射程を実現するには仰角45°が一般的である。

 ちなみに計算するのはいたって簡単である。

  

 投げ上げの運動方程式

 y=V₀t-1/2gt^2

 である。

 そして、三角関数を駆使して微分方程式みたいなものを解くと、

 

 x=V₀t×cosθ

 となる。

 

 V₀は要は砲身の初速、tは着弾までの時間、θは斜めに発射された砲弾と水平との角度である。※θは単位がラジアン角度とするのが一般的。

 

 そうして求められた最大射程の角度だが、この方程式には穴が存在する。

 空気抵抗の存在である。

 

 空気抵抗がなぜ存在しているか皆さんは知っているだろうか?

 空気が粘々しているからである。

 ただ、空気が粘々しているなんてありえないだろうという人へ!

 

 事実、空気は粘々…専門用語では“粘性がある”と言います。

 読んで字のごとく粘々している性質の事であります。

 

 空気であれ、何であれ、物に粘性が存在しなければ摩擦で失われるエネルギーはほとんど存在しなくなります。

 何だ、粘性がなければ良いことがあるじゃないかと思うでしょうが、そんな事は現実ではほとんどあり得ません。

 

 ただし、物事を考えるうえで粘性やら、空気抵抗やらを勘案するのには非常に骨が折れるほどの労力を必要とします。

  ※空気の粘性やらをすべて考慮された微分方程式も存在しますが、ものすごく複雑でコンピューターで近似値を求めるしかその方程式を求める方法は存在しません。

 

 まぁそれでも色々と空気の摩擦抵抗を加味しても最大射程となる角度は45度付近であることは確かであります。

 

 

 閑話休題

 

 

 巡洋艦にしては破格の長射程を前に連合王国の巡洋艦は苦戦を強いられる。

 

 もちろん最大射程ギリギリで撃てば当たるという物でもないが、有効射程はその分のビルという事である。

 

 そのために連合王国の巡洋艦乗り達はこう言ったそうな。

 

『なんだ、あの巡洋艦は!?

 

 新型巡洋艦を帝国が導入したのか!?』

 

 という感じである。

 

 

 

 

 

 さらに言えば、当時の戦艦主砲の射程はこんな感じである。

 

 連合王国

[オライオン級] 約21800m(仰角20度)

[キング・ジョージⅤ級] 約21700m(仰角20度)

[アイアン・デューク級] 同上

[クイーン・エリザベス級] 約22800m(仰角20度)

 

 帝国海軍

[シャルンホルスト級] 29850m(仰角25度)

[ビスマルク級] 38,720 m(仰角45度)

 

 

 なぜ連合王国の戦艦は軒並み射程が短いのか。それはある思想に基づいた結果だからである。

 

 連合王国海軍は戦艦が高速であれば良いとされ、そのためであるならば若干装甲が薄くても問題はないとしていた。

 

 第2世代MBTに多く見られた機動性に特化しまさに『当たらなければどうという事はない!』と言うような思想を体現したかのような戦術を取っていた。

 

 事実、その思想をもとに我々の世界の英国が少々装甲は薄いが速力はあるといった巡洋戦艦を数多く保有していたロイヤルネイビーはユトランド沖ドイツ海軍相手に多数損害を出すなどして痛い目に合っている。(海戦には一応勝っている)

 

 ただ、幼女戦記には第1次世界大戦が起きていないので、そんな巡洋戦艦の弱点が浮き彫りになるはずもなく…

 

 

 帝国の(一応)中古巡洋艦相手にボッコボッコにされた英国の巡洋艦群を見て、懲りずに戦艦群を投入した結果…

 

 有効射程でもアウトレンジされ、しかもクラスター弾頭やらナパーム弾頭やら燃料気化弾頭やらを大量に撃ち込まれ乗組員がこんがりと焼かれた挙句に『鹵獲』されたりと散々な目に合った。

 

 ※その時鹵獲したのは海軍艦艇に偶然乗り合わせていた海軍魔導士部隊で、海軍の臨検隊やらが出張ってきて、その後戦艦グナイゼナウが出張ってきて曳航した。

 その時鹵獲されたのはレナウン級戦艦『レパルス』であった。

 

 旧型のケーニヒスベルク級だと判明したのは連合王国の軽巡洋艦群がボッコボッコにされて重巡洋艦群が来た時にようやっと判明した。

 

 ちなみにその時、連合王国の海軍技術部及び海軍首脳は発狂したそうな。

 

 

 なぜならば、航空機や陸戦設備に定評があり、特に航空技術が飛びぬけて高かった帝国ではあるが、海軍系の技術は連合王国には劣っていると信じて疑わなかった。

 

 戦艦相手ならまだしも、よりにもよって「海軍後進国(とみなしていたはずの)帝国に」「旧式なはずの巡洋艦」に射程距離で負けたのだ。

 

 主砲開発部門に雷が落ち、さらには発破がかけられたのは言うまでもなく、急遽『既存戦艦大改装計画』にも「主砲仰角の増大による射程延伸」が追加されたのは当然のことだった。

 

 なお、それも帝国空軍の制空権奪取のより水の泡と消え、戦艦の改造や修復はシンガポールや南アフリカの海軍基地で細々と行われたそうである。

 

 

 

 鹵獲されたレパルスは帝国海軍に編入され、主砲を帝国製の38㎝連装砲に換装され、帝国製の対空捜索レーダーや対水上レーダー、射撃管制装置付きFCSを搭載され、さらには試験的にレーダー情報がまとめられて管理し、射撃管制装置に入力されるいわゆる初期の『CIC室』を試しに導入してみたりもしてみた。

 帝国海軍側の名称は『プリンツ・アイテル・フリードリッヒ・デア・グローセ』。

 帝国語…いわゆるドイツ語では「Prinz Eitel Friedrich der Große」である。

 

 …長くね?

 

 

 

 

 

 1925年5月23日

 

 帝国海軍において3空母。

 

 すなわち、帝国海軍第1空母艦隊旗艦『グラーフツェペリン』,第2空母艦隊旗艦『エリザベート・クロイツフェルン』,第3空母艦隊旗艦『カタリナ・クロイツフェルン』が配備された。

 

 その日より帝国海軍の行動は活発化し始める。

 

 

 ドーバー海峡を堂々と渡ったり、北海を航行してみたり、それとなーく地中海に向かうふりをしてみたりなどをしていた。、

 

 

 そのことについて、連合王国首脳部は実に憂慮しており、空母には航空戦力…は無理であるから、空母には空母という事で空母をまとめて運用し、帝国海軍の空母撃退せしめんと考え、艦隊を出撃させた。

 

 

 その艦隊は帝国海軍の空母艦隊が出撃したとの報告を受けジブラルタル基地より出撃した。

 

 主力としては、

・アークロイヤル

・カレイジャス

・ハーミーズ

 の空母3隻であった。

 

 連合王国にしては少ない空母数だったが、ジブラルタルに配備されていた空母がこの3隻だからであった。

 

 

 

 1925年6月18日

 ジブラルタル沖数100海里にて

 

 その日世界最初の空母同士による戦闘が発生した。

 

 最初に先手を打ったのは帝国海軍だった。

 帝国海軍は事前にジブラルタルに連合王国空母が配備されていたことは知っていた事で、空母が来ることは十分分かり切っていた事だった。

 

 同日6時30分 Ta152R-1偵察機が発艦し3方向同時索敵を開始。

 同日6時35分 EKC-1Eがカタパルトで射出され、範囲200km以上の空域警戒を開始。

 

 同日7時頃、偵察機が帰投補給しパイロットを交代して再出撃。

 

 同日8時10分 高度3万ftを巡航していたEKC-1Eの内ジブラルタル方面を警戒していた1機がレーダー波を探知。

 おおよその位置を特定した。

 

 Ta152R-1が3度目の再出撃。

 EKC-1Eによるおおよその位置特定のため集中的に索敵をしたところに発見した。

 

 帝国海軍の艦隊より600海里離れた場所を連合王国海軍艦隊が航行していた。

 

 第1空母艦隊は空母の上空護衛をのぞき全機発艦した。

 

 攻撃隊は総勢70と数機だった。

 攻撃隊は偵察機の先導で連合王国艦隊へとたどり着いた後に上空を護衛していた護衛のシーハリケーンをあっさりと叩き落とし対艦攻撃を加えた。

 

 特に攻撃隊が集中的に狙ったのは大型艦だった。

 空母ハーミーズ、カレイジャスに攻撃は集中、スーパーキャビテーション航空魚雷は面白い程に当たったのだ。

 

 カレイジャスは多数のロケット攻撃で対空放火が脆弱になった間に6本の魚雷と対艦1t爆弾2発が短時間に命中し轟沈。

 ハーミーズにも魚雷3発と対艦用1t爆弾3発、対艦用ロケット多数が命中し防御が貧弱であったハーミーズは無事に吹き飛んだ。

 

 ただ、この攻撃で無事であったアークロイヤルは攻撃隊を発艦。

 引き上げていく帝国海軍艦載機の後ろをついて行く形で追尾し彼らの母艦を把握しようとした。

 

 

 11時35分 上空警戒のEKC-1EがIFFに反応しない航空機群が攻撃隊の後ろに飛んでいることを探知。

 

 素早く空母の上空護衛をしていたTa152迎撃に向かう。

 攻撃隊のシーハリケーン20機はあっと言う間に叩き落とされ、攻撃隊へと迎撃をしようとした。

 

 そのアークロイヤルが発艦させた攻撃隊は圧倒的旧世代複葉機『ソードフィッシュ』であったためにTa152パイロットは少々舐めてかかっていた。

 

『複葉機?旧世代じゃないか!』

 みたいな感じで。

 

 ただ、『ソードフィッシュ』は足こそ遅い物の優れた点があった。

 

 布張りな機体であるため機銃弾が貫通するのだった。

 

 なかなか落ちないソードフィッシュに業を煮やしながらも弾を打ち込みようやっと撃墜した・・・

 

 そうしたら次の獲物を探して2機目を落とし、3機目を落とそうと思ったら、弾切れ

 

 そんな事が多かった。

 

 

 迎撃をすり抜けたソードフィッシュは持ち前の異常な遅さで空母艦隊の対空要因を困惑させる。

 そして布張りな機体であるため普通に破片が貫通し有効弾が与えられない。

 

 

 ソードフィッシュで落ちた機体は、機体を貫通した破片がパイロットに直接アタックされて落とされた機体が多かった。

 

 それでもソードフィッシュは対空放火を文字通りすり抜け、ロケット攻撃と魚雷を投下した。

 

 ロケットは装甲を貫通するような物ではないものの、数発を被弾。対空要員に少なからぬ損害を与えた。

 

 魚雷が投下されたのは内6本であったが、同時に投下され回避行動により1発を被弾した。

 

 魚雷の被弾により浸水が発生、艦が3度傾斜したものの普通に注排水装置で復元されてしまった。

 

 第1空母艦隊は敵残存艦艇を相当すべく、魚雷1発を被弾しても余裕綽々としているグラーフツェペリンより第2波攻撃隊が発艦しアークロイヤルを浸水、火災により発艦不能状態にせしめた後空母の護衛を執拗に攻撃。

 

 最終的に第6次攻撃隊が編成されて連合王国艦隊は波間の間に消えた。

 

 帝国海軍艦載機喪失機13機。

 

 パイロット救出は事前に来ていた潜水艦や艦隊より分離された駆逐艦Z52やZ53,Z54により大方が救助された。

 

 阻む物はなくなった第1空母艦隊はジブラルタルを攻撃した後に修理と補給のために意気揚々と帰って行った。

 

 

 その後のロイヤルネイビーの首脳部は阿鼻叫喚だったそうな。



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朱い津波を防げ! 上

 はい。免許取るためにメガネ変えようとして眼科に行けば、網膜剥離の恐れがあると脅された作者です。
 皆さんもスマホばかり見ず、森林を遠くから眺めるようにしましょう。


 1925年8月13日

 

 連合王国の凋落によって、対帝国戦を決断させられたルーシー社会主義共和国連邦。

 

 ただ、帝国の諜報機関“帝国諜報局”が秋津洲に手を伸ばし不可侵条約を先延ばしにさせたおかげで時間を稼ぐことができたのである。

 

 帝国はその時間的余裕を用いて、おそらく多くの戦場で活躍するであろう軍組織に力を入れた。

 

 

 帝国陸軍である。

 

 と言うのは早いが、そもそもどのような手が入れられたのだろうか。

 

 それは簡単なことである。

 

 すなわち、最新兵器の導入と、それに伴う兵站の強化である。

 

 

 最新兵器の導入として、ルーシーにショックを巻き起こした2種類の戦車が登場した。

 

 その戦車は帝国の友好国に輸出されたが、そのほかにスクラップの名で輸入し戦力化した国も数多と存在する物であった。

 

 単価が高く、量産性も若干難があるものの、工夫を凝らし量産性向上を目指した戦車である。

 

 それらは―――――

 

 

 

 

 

 

「これが…ティーガーⅡとパンターか!?いつの間にこんな…!」

 彼女はルーデルドルフやゼートゥーア肝いりの元で精鋭を選りすぐった203魔道大隊大隊長を務めている人物であった。

 

 勘が良すぎるような読者様はすぐにわかってしまうだろう。

 

 そう、われらがターニャ(幼女)である!!!!

 

 

 

 

 彼女は、第201航空魔道大隊を設立するにあたり、なんかやばい宣伝を出したのだ

 

 それで、大隊規模だっつってるのに師団規模の人員がぞろぞろと集まってきた。

 

 その様子を見た彼女は…

 

 とりあえず厳しい訓練を彼ら、彼女らに課した。

 

 そして、ある程度ふるいにかけ、100人ほどに絞り込んだ後に、“全員”『航空魔導士レンジャー』にぶち込んだのだ。

 

 航空魔導士レンジャーを通り抜けた魔導士はもれなくベテランと呼ばれたりエースとなっている人物が多く、周りからは小隊もしくは中隊に航空魔導士レンジャー持ちがいるだけでうらやましがられるものである。(生存性が上がる為)

 

 航空魔導士レンジャーにぶち込まれた人員100人は地獄のような訓練を体験した。

 

~初日~

 なぜか以上に優しい教官。

 ※教官は魔導士レンジャー(士官向け)を取っている人が多い教導団から来ることもある。

 

~二日目~

 教育。筋トレ。

 教官があのヤバい雰囲気を醸し出す。

 

~3日目~

 教育。筋トレ。魔導士専用メニュー。

 教官が牙をむく

 

~それ以降3週間~

 上記に加え、障害物走、銃剣術、生存技術も追加され訓練が行われる。

 

~過程開始より4週間後の1週間~

 山岳基礎訓練などが行われる

 

~過程開始より5週間後の4週間~

 魔導士の能力を利用した斥候訓練を行う。

 また、撃墜された際の生存技術をほとんど実地のより過酷な場所で行う

 

 ここで1つ、ネタだと思われてガチのようなやり取りがあった。

 

「こんな状況ではどうするんだ!」

「レンジャー!」

「レンジャーとはなんだ!?」

「レンジャー!!!」

「だから何なんだ!!!」

「レンジャー!!!!!」

 

 恐ろしいだろ、これ本当にあった事なんだぜ!?(陸上自衛隊レンジャー過程にて。結構有名な話)

 

 とまぁ、恐ろしいほどの訓練にさらされおよそ半数以上が脱落。

 

 42名が残ったため、彼ら、彼女らは晴れて201航空魔道大隊が決定された。

 

 帝国陸軍が決めたその大隊のコードネームは…『JG52』*1

 

 敵を狩りつくす大隊であることを思わせるようなコードネームであったが、それを決めたのはエリザベートであった。

 

 皇帝がそんなこと決めて良いんですかね…?

 

 

 

 そんな事はともかく

 

 第201航空魔道大隊を基幹とした中央、すなわち陸軍参謀本部が直轄する機動即応部隊の設立。

 

 現在はそんなことをすることを目標として、連隊から師団の間で収まる程度の機動性が高く突破能力も高い部隊の設立の真っ最中であった。

 

 

 なぜそんな部隊が発足されたか。

 

 その理由として、近衛第2師団の存在が挙げられる。

 

 フランソワへの高速進撃の際、主力を担ったのは陸軍ではあったが、指揮をしたのは帝国軍内でも有名な軍事学の権威『カリン・フォン・ワイス』近衛中将が指揮を執っていたからである。

 

 近衛第2師団は、普段は中隊に分けられている戦車中隊を一つにまとめ上げられた大隊、通称『ヴォイテク戦車大隊』、3個航空魔導士中隊に精鋭の機械化歩兵等を所有している。

 

 

 数とある程度の練度を両立された師団ならば、陸軍も持っている。

 

 ただ、精鋭を多く集めた近衛第2師団と同じ組織を欲しくなるのは人間の性なのだろうか…

 

 とまぁ、そんな部隊も欲しいよね?と話が上がり始めた時に、ターニャが軍学校で丁度いい事を論文で書いていたので…

 

 

 

 適任者であると思われる彼女をな前線指揮官として据えながらも、即応性と突破性に優れた部隊を設立することを目標とした。

 

 ゆくゆくは近衛師団程ではないにしても、精鋭を集め集中的に運用し、即応性及び突破性に富んだ部隊を期待した。

 

 

 

 そこで、最初らへんに戻る。

 

 ターニャが行っていたのは、部隊の編制、訓練であった。

 

 一応予定では戦闘団規模となる予定であるらしい。

 

 目下、このような部隊が編成予定である。

 

 第203航空魔道大隊(48名)、機械化歩兵1個大隊(550名)、1個戦車中隊(基幹3個戦車小隊、1個戦車中隊13両)、団直轄機動砲兵1個中隊(4門)、団直轄1個自走砲中隊(13両)、高射砲中隊(4基)、戦車中隊支援機動対戦車砲中隊(13両)、歩兵大隊支援機動砲中隊(13両)、その他支援中隊(省略)

 

 とまれ、戦闘団は所謂連隊規模の部隊である。

 連隊規模となると、現在のターニャの階級(数多の功績で中佐に昇進)では団長となることは叶わない。

 

 そこで、団長をレルゲン大佐(数ヶ月前に大佐に昇進)とした。

 

 この部隊は、第203航空魔道大隊を設立したときと同じ計画名であった。

 

『第601機動戦闘団組織計画』

 

 である。

 

 この部隊の幹部として、団長兼参謀本部作戦局参謀レルゲン大佐

 副団長兼第203航空魔道大隊大隊長ターニャ中佐

 次席第204機械化歩兵大隊大隊長リーンハルト・トーン少佐

 

 の3人である。

 

 なお、第204機械化歩兵大隊長リーンハルト・トーン少佐はターニャに言わせれば少なくとも無能では無いが、戦闘を行っていない以上何とも言えない…だそう。

 

 

 

 

 

 他に、中隊長がいるが、その一部を紹介しよう

 

 仮称第601戦闘団戦車中隊長エルマー・アーレンス。

 

 ターニャに一目置かれている人物でもある。

 

 なお、一目置かれているというが、ほかの人物も無能と言うわけではない。ただ、この人物は指揮能力に優れ、戦況を良く読め、兵站に関しても精通しているため優秀な将校である。

 ぶっちゃけ中隊長にいる時点で可笑しい。大隊長クラスになってもおかしくはない人物。

 

 

 仮称第601戦闘団直轄自走砲中隊長ロルフ・メーベルト。

 

 原作では職人気質ではあるが、この作品では彼は自走砲の指揮官となった。頭は固い(物理的に)が、戦況を読み的確な砲撃支援を陣地転換をしながら下すことができる、自走砲のために生まれてきたような人物。

 

 

 仮称第601戦闘団機動砲中隊長リーンハルト・トーン。

 

 原作では歩兵士官で、戦闘中にMIAとなる人物だが、この作品においては機動砲の指揮官である。機動砲は通常時4両の小隊で分けられ、機械化歩兵中隊の直接支援を行う。

 

 彼は、協商連合との戦争で直接機動砲の火力を目の当たりにする。その後フランソワとの戦争で、戦車を華麗に撃破した後に敵陣地を砲撃していく機動砲の姿を見て、彼は機動砲の信奉者となった。

 

 その機動砲に魅入られた彼は、機動砲を運用することに関しては才能を発揮し、機動砲に関する補給ならば熱心に語るが、それ以外となると熱が冷める人物。

 

 ターニャに言わせると、機動砲万能論者。ただ、本当の無能では無いため扱いに困り、且つ困惑するしかない人物。

 

 

 以上3人は、特筆すべき人物及び変人である。

 

 

 

 

 とまれ、この戦闘団は突破力と機動力に重きを置いた戦闘団であることは々述べている。では最初らへんの話に戻すとしよう。

 

 第201航空魔道大隊の大隊長たるターニャが、戦車中隊に新型戦車が導入されたとの話を聞き、かつての軍オタとしての血を沸き上がらせながら目にしたものは…

 

 かつての世界でのナチスドイツで活躍した中戦車パンターと重戦車ティーガーⅡに値するものだった。

 

 ただし、外観は似てはいるが、若干違う物となっている。

 

 史実のティーガーⅡは69.8トンであるが、今回ロールアウトしたものはなんと!60トン以下に抑えられているのである!その重量満載58.9t!

 

 その代わりに装甲が薄くなった。

 

 前面装甲は180㎜から120㎜の60°傾斜装甲に。

 

 砲塔は傾斜装甲を多用し、鋳造で円筒形の装甲を施した。戦車砲は新設計の後述のパンターに乗せる事も可能な88㎜L72戦車砲を採用。

 

 レナ大尉が歩兵戦闘車を開発するにあたって持ち込んだ概念であるパワーパック方式を初めて採用した。

 

 最大880HP(英馬力)のターボチャージドディーゼルとその大出力エンジンに耐える変速機を纏めたものを共通パワーパックとして採用した。

 

 鉄道輸送の観点より、鉄道車両建築限界に合わせかつ、レールの耐荷重にも配慮しまくって設計した、結構ギリギリ目を攻めながらも補給のしやすさに念頭を置いた重戦車である。

 

 最高速度47㎞(整地)、総生産数3450両

 

 

 パンターも全長、全幅共に一回り小さくなっていて、車体はパンターの車体を平べったくしたような形になっている。

 

 パンターの装甲は80㎜の60度傾斜、砲塔装甲は鋳造で最大厚110㎜程の被弾経始装甲である。

 

 パンターもティーガーと同様のパワーパックを使用しており、ティーガーより軽いパンターは比較的軽快に動くものである。

 

 主砲は、既存の4号戦車の75㎜砲弾を使用できるように75mm85口径戦車砲を使用しているが、補給の事も鑑みて、88㎜L72戦車砲に素早く改修ができるよう工夫が施されていた。

 

 なお、性能と使い勝手の良さから改修に改修が重ねられ、長きにわたり(勝手に)他国で運用されるのが見られたという。

 

 重量42.8トン、最高速度52㎞/h

 

 総生産数6万9560両である。

 

 なお、このような化け物のような量産を戦争中にしたわけではない。

 戦後、パンターの活躍を見て欲しがった友好国には輸出、同盟国にはライセンス生産の許可をしたためにこんなにも膨れ上がったのである。

 

 パンター、ティーガー共に、武装や足回りの変更はそれなりの頻度で行われていて、各型式は、

 ティーガーA型~F型まで、パンターはA型~H形まで存在する事になる。

 

 今回、編成途中ではあったものの、すぐに前線にぶち込まれるわけでもないので、部隊編成ついでに習熟訓練もしてね、と言うことだった。

 

 幹部達は、やることが増えると白目を剥きかけたのはご愛敬である。

 

 仮称第601戦闘団戦車中隊に配備されたものは、パンター4個小隊分とティーガー3個小隊分であった。余った車両は予備として使えとのお達しである。

 

 ここで、戦車中隊長と自席機械化歩兵大隊長は編成をパンター2個小隊、ティーガー2個小隊にわけ、ティーガー1両は中隊長が乗る指揮車として編成した。

 

 

 

 

 

 いくらか小型化されたとはいえ、幼女の身であるターニャは戦車のそばに立って眺めるにしても少々顔を上げなくてはならないのだ。

 

 幼jyoは可愛いけど中の人がなァ…

 

「中佐殿!」

 

 聞きなれた女性の声が聞こえる。新しく戦闘団に配備された戦車中隊への新型戦車を見学していた所に、茶髪碧眼の私の副官の声が私の後ろからかけられた。

 

「セレブリャコーフ中尉か。どうしたんだ?」

 

「団本部に、大佐殿が。」

 

「大佐殿が…?」

 

「はい。」

 

 大佐殿が…か。

 

「失礼、中佐。私はここで用事ができたようだ。」

 

「ええ、分かりました。」

 

 中隊長に団本部へ行くことを伝え、その場を辞した。

 

 団本部へと向かえば、公用車が止まっていた。

 

 参謀本部で見た覚えがある人物も車のそばに立っている。

 

 とりあえず、私の右斜め後ろにいるヴィーシャと勝手を知っている団本部へと歩き、団長室へと4回ノックをする。

 

 そうすれば、入室許可の声が聞こえてきたのでドアを開けて入る。

 

「何か御用でしょうか、大佐殿。」

 

 目の前にある机に座っているメガネを掛けた人物は、参謀本部作戦局の参謀将校。

 

 ゼートゥーア閣下やルーデルドルフ閣下に将来を有望とされていた人物。

 

 そして、いつもどのように髪をセットしているのか気になる髪型。

 

 そう、どう考えてもレルゲン大佐殿である。

 

「…この戦闘団の正式名称が変わった。これが、参謀本部からの書類なのだが。」

 

 その書類には、この戦闘団を

 

 『第206混成戦闘団』

 

 と書かれていた。

 

「我々の戦闘団の書類上はそうなる。正式な書類もそう書くことになるだろう。だが、便宜上別の愛称のようなものがつけられた。

 

 貴官も知っている通り、特殊な事情で編成された戦闘団だからな。

 

 この戦闘団の通称は『サラマンダー戦闘団』だそうだ。」

 

 この名前を考えたのもエリザベートちゃんです。

 

 

 

「サラマンダー戦闘団、ですか。良い名であると思います。」

 

「ふむ・・・用事はそれだけだ。

 

 あぁ、噂で聞いたのだが。赤い熊が冬眠から目覚めるそうだ。」

 

 その噂の出所は陸軍情報部。

 

 駐在武官からの情報を総合されて導き出された情報を参謀本部作戦課を通じて、噂と言う隠れ蓑でターニャに伝えた。

 

 ただ、そう言うことである。

 

 

 

 1925年8月25日 帝国諜報局

 

ルーシー共和国との国境がきな臭くなってきたころ。

 

 帝国諜報部では絶賛仕上げの真っ最中であった。

 

「根回しはすべて終わっております。元バルト3国をはじめとしたその周辺の州、地方の工作に成功しました。」

 

「分かりました。」

 

「決起は9月1日だそうです。トゥハチェフスキー元帥がそうおっしゃってました。」

 

「分かりました、計画の通り進めて下さい。」

 

 お仕事モードのカタリナちゃんはお仕事モードな自分の夫に極めて事務的に言うのだった。

 

 プライベートでは猫のように甘えるのだが、そのギャップが溜まらないと彼女の夫であるルドルフは語るのだった。

 

「はい。」

 

「トゥハチェフスキー元帥の身辺は厳重に警戒しておいてください。

 

 私はトゥハチェフスキー元帥の事は信頼してはいますが、彼の側近がそうとは限りません。

 

 私もそのようなことはないと思いたいですが、希望的観測はあってはなりません。万が一の事が有れば…切りなさい。恩をこれでもかと売って、そのまま恩として受け取ってくれるなら良いのですが、仇として返すのなら…」

 

「分かっていますが…あの元帥がそんなことをするでしょうか?」

 

「トゥハチェフスキー元帥の後の話です。彼の後を継ぐ者が敵対する可能性もあります。」

 

「…そうですね。」

 

「まぁ、そのための、リードなのですが。我々が御せるかどうかが問題です。」

 

「……」

 

 そんな時、一本の電話が入る。

 

「はい。」

 

『カタリナ。私だ。』

 

「……誰です?」

 

『おいこら待て、姉の声を忘れるなんてひどい奴だ。』

 

「冗談ですよ。で、仕事中の私に何か用でも?」

 

『なんか冷たいな。私も仕事中なんだが……

 

 まぁ良い。本題に入る。赤いクマがついに動き始めた。』

 

「へぇ…」

 

『国境線にあの“傾斜装甲の中戦車野郎”が輸送されているところを空軍が発見した。歩兵のみならず航空機まで増備されている。近日には確実に事が起きる。』

 

「分かりました、留意しておきます。」

 

『うん、じゃあ。』

 

 

 

 ゆっくりと受話器を置いたカタリナは、手を組みゲンドウポーズを始めた。

 

 どこからかサングラスを取り出しつけていた。

 

 ルドルフ君は困惑した。

 

 

 

 

 その3日後、国境線をルーシー連邦軍が越境した。

*1
第2次世界大戦を通じて全戦闘航空団中最多の10,000機以上を撃墜した航空部隊。航空史上の撃墜数上位3位までを占めるエーリヒ・ハルトマン、ゲルハルト・バルクホルン、ギュンター・ラルらが所属していた。



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朱い津波を防げ! 下

 ルーシー社会主義共和国連邦が国境を越えた。

 

 そのニュースは帝国全土に瞬く間に広がった。

 

 そして、そのニュースは全世界にも。

 

「ルーシーと帝国が争うか。どちらかが倒れてくれればよし。共倒れしてくれればなお良し。」

 

 そんなことを言ったのは誰だったたか…かのルーシー共和国を戦争に陥れた張本人であった。

 

 首相官邸で暗く嗤う彼を見た者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻 合衆国ホワイトハウス

 

「ルーシーと帝国が戦争勃発か。

 

 そういえば、連合王国は未だに制海権を取れていないのだろう?」

 

「その通りです、大統領」

 

「ふん、制海権を取れないだろうと侮っていた帝国相手にあっさり制海権を取られるとは。

 

 まぁ良い。奴らから代金はまだ来ないのかね?」

 

「ええ、支払いは未だ待ってほしいと。」

 

「レンドリースと言えどもただではやらん。今のところレンドリースの代金はツケとして置いといてあるが、そろそろ議会がうるさくなってきた。」

 

「絶大な経済効果が連合王国とのレンドリース供与で生まれておりますが…」

 

「我が国の国民に血を流させればその分だけ経済上昇効果が薄れてしまう。

 

 直接参戦するのは得策ではないが、連合王国とのレンドリースは限界近い。とりあえず連合王国には1か月後にレンドリース打ち切りを通告してくれ。

 

 理由は議会の効力が得られなくなったからとでもしておけ。

 

 そして次にルーシー連邦に連絡を入れろ。レンドリースの申し入れをな。

 

 同時に帝国にもそれと同じ」

 

 実はそのレンドリースの代金は後に踏み倒されるのだが、それは共産主義者でも"それくらいは守るだろう"という油断でもあるだろう。

 

 

 

 

 後に、合州国とルーシーは政治的敵対関係となる。

 

 その原因の一端の一つ…かも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 統一歴1925年8月29日 帝国3軍統合作戦本部

 

 ルーシー連邦が勝手に国境線に上がり込んできたために、帝国は戦争をする上での大義名分を得たのも同然であった。

 

「思ったより早く侵攻したな。」

 

「はい、ですが防衛準備は十分に整えられることができました。」

 

「今回の戦争において我々は裏方だ。

 

 そこまで気張る必要もないが、油断するのも良く無い。

 

 さて…各戦線の状況はどうなっているんだ?」

 

「は、我が陸軍は空軍と協力し、ルーシー連邦軍に対し優勢であります。

 

 具体的には、防衛線を1段後退させたのち空軍と協力し1個軍相当を包囲殲滅することに成功しました。

 

 ただ…戦局に影響はありませんが気になる報告があります。」

 

「なんだ?」

 

「捕虜をその時に取ったのですが、捕虜がこう言っておりました。

 

 『捕虜になるのは許されないと上官に命じられた!国に戻ったら銃殺刑になるかもしれない!』

 

 と。」

 

「……ハァ~~~~ッ………共産主義者は相変わらずだな。まぁちょうどいい。捕虜は後々重要になるかもしれん、虐待は絶対になしだ。」

 

「分かっています、全軍にできるだけ国際法を守るように教育はさせておりますので。」

 

「ならそれ以上の事は言わん。次は?」

 

「空軍です。我々空軍は継続的に連合王国本土周辺の制空権を継続的に奪取している状態であり、航空戦においても要撃機が上がらなくなるのも多くなってきました。」

 

「ふむ…航空機工場を爆撃したのは良かったようだ。」

 

「ただ、要撃が上がってきたことも少なかったのですが、敵要撃機が今までの連合王国機ではないとの報告がありました。情報は少ないですが、液冷戦闘機であることは確かだそうです」

 

「ふむ…P-51か?」

 

「はい、情報部もそのような分析をしていました。

 

 敵の練度はそこまでではないので落とすのは容易いとのことですが、一応留意すべきではあるかと。」

 

「なるほど…」

 

「東部戦線に関してですが、敵パイロットの技量が大きく劣っているために個々の戦闘は優位になっています。」

 

「分かった。制空権は取れつつあるという事だな?」

 

「いえ、それが。

 

 敵が落とされても落とされても別のパイロットを前線に送り込んでいるようで。」

 

「なるほど…敵の兵士はキャベツ畑からとれるようだな。」

 

「「「…いえ、さすがにそれは無いかと。」」」

 

「何でそこだけハモルんだよォ!!」

 エリザベートちゃんは机に突っ伏した。

 

「そんな事はともかく」

 空軍の参謀は容赦なく話を元に戻した。

 

「航空優勢は取れいている状態ではありますが、制空権は確固たるものではない状況であります。」

 

 机に突っ伏していたエリザベートは気を取り直し、報告を聞き入っている。

 

 そこらへんは一応国のトップと言ったところである。 

 

「なるほど…さて、我々は油断せずにルーシー連邦との戦争に臨まなくてはならない。敵は極めて強大である。各々の仕事を全うしよう。」

 

 さて、帝国は国民を鼓舞させると言った戦意高揚の手段を取らなかった。

 

 そんなことをして帝国が深入りするのは、のちの展開にとってあまり良く無い事であると、帝国の首脳部は判断していたからである。

 

 帝国軍は大量の歩兵による突撃(朱い津波)を何とかしのぎ切っている。

 

 強大な補給線と強大な火力投射によって持ちこたえている状態であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 統一歴1925年9月1日

 

 ルーシー社会主義共和国が去年軍事力により併合したバルト3国、およびその周辺の5州及び10の地方が独立宣言をした。

 

 唐突の事であり、モスコーにとっても青天の霹靂のような状態だった。

 

 さらに、独立を宣言したバルト3国、およびその周辺の5州及び10の地方は連邦制の新しい国家の宣言をしたのだ。

 

 ロシア連邦と言う民主主義を国是とした国家の宣言であった。帝国は世界に先駆けその国家を承認。帝国に負け、経済圏に入れられたフランソワ共和国やレガドニア協商連合も承認した。

 

 その国家は暫定首都としてスモレンスクとし、暫定国家元首としてあの人物を擁立した。

 

 赤軍の至宝、縦深攻撃の考案者を国家元首としたのである。

 

 その人物は…『ミハイル・トゥハチェフスキー』その人である。

 

 帝国諜報局の謀略によりバルト3国、およびその周辺の5州及び10の地方を独立させ新しい国家を形成、国家元首として『ミハイル・トゥハチェフスキー』を擁立した。

 

 ルーシーの独裁者ともいえるヨセフ・ジュガシヴィリはそのことを耳に入れると怒り狂ったのは当然の帰結だったと言える。

 

 何せ、トゥハチェフスキーはなまじ民衆や軍に人気があった。なのに自分には何もないという嫉妬心からトゥハチェフスキーを嫌っていたのだ。

 

 スモレンスクにて、新国家の樹立したトゥハチェフスキーを何としてでも殺すように、かつ新国家樹立は許せないとして、内戦という形で帝国に向けるはずだった軍を差し向けた。

 

 その時点で帝国諜報局の目論見の約30パーセントは達成したともいえる。

 

 彼らは望んで戦力分散をさせたのだから。

 

 斯くして差し向けられた軍は・・・

 

 第2軍集団の計24個歩兵師団であった。

 

 それを率いていたのは、かつてのトゥハチェフスキー元帥の副官だった人物である。

 

 かの粛正の露として消えるはずのイエロニム・ペトロヴィチ・ウボレヴィッチだった。 

 

 彼はトゥハチェフスキーが帝国へ亡命したと判明し、その事を耳にしたときに帝国諜報局のモスコー支部に秘密裏に連絡をとった。

 

 モスコー支部と言っても、帝国の大使館であるが。

 

 その時は統一歴1923年7月23日の夜であった。周りの目を巻き、帝国の大使館へとたどり着いた彼は何とか接触する事に成功。

 

 帝国諜報局に亡命する事を希望していた。

 

 ただ、監視社会になったルーシー社会主義共和国において、諜報局は動きにくい物を変貌していた。ただ、それは首都や主要都市に限った話であり、地方では比較的活発に動いていた。

 

 その事もあり、モスコーではそれらしい動きを見せればNKVDがすっ飛んでくることもあり、彼はうかうかと動ける状態になかった。

 

 そんな時、トゥハチェフスキーを国家元首としてロシア連邦の誕生があった。

 

 まだ小さいロシア連邦を消滅させるための鎮圧としてモスコー軍管区の歩兵主力の第2軍集団を任されたウボレヴィッチは亡命の良い機会であると考え、ロシア側へ24個師団を手土産に亡命をしようとしていた。

 

 そこで邪魔になるのは、政治将校であったが、そこまで心配するまでもなかった。

 

 上級政治将校であったニキータ・フルシチョフが帝国側に転んでいたからである。

 

 帝国からの接触で、母国ウクライナの独立を条件にロシア側、ひいては間接的に帝国側に裏切ったのだ。(のちの時代では、これを『フルシチョフ政治取引』という。)

 

 そこから先は早かった。

 

 第2軍集団のトップと上級政治将校のフルシチョフ、そして潜在的にトゥハチェフスキーを慕っていた軍人が他の政治将校を抹殺。

 

 24個師団丸ごとトゥハチェフスキー側、即ちロシア側に降りたのだった。

 

 

 

 

 24個師団の歩兵の脅威から救われたロシアは、トゥハチェフスキーと、補佐する副官のウボレヴィッチ、政治的に調整するフルシチョフを中心として動くことになる。

 

 驚くべきことに、これらは1週間というわずかな時間で起きたのである。

 

 ちなみに、この事件で猜疑心をさらに増したジュガシヴィリは戦争中にもかかわらず粛清を続行していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 統一歴1925年9月10日 帝国諜報局

 

「それで、フルシチョフは大丈夫そうですか?」

 

 帝国にて諜報を一手に担う帝国諜報局の一室。諜報局長室には二人の人物がいた。

 

 一人はイスにギィギィとならしながら座っている女性である。

 

 艶があり、髪だけでも男を振り向かせるほどで、その美しい茶髪は室内の明かりを反射させるその髪は恐ろしいほど蠱惑的で。

 

 そして…誰が言ったか、男はみんな面食いであると、そして彼女の風貌は悪いことに悪い男にひっかかけられそうなほど整っていた。

 

 どことなく幼さを残した、いわゆる若干の童顔な彼女こそ、カタリナ・フォン・クロイツフェルンである。

 

 もちろん、皇族であるために並の男では手が届かない高嶺の花である。

 

 ……まぁ既に貴族出身の現在の夫であるルドルフ君に摘まれているのだが。

 

「はい、我々があの交換条件を破らなければの但し書きが付きますが。」

 

「う~ん…ウクライナとなる周辺の州及び地方は転びましたか?」

 

「無事に転びました。独立できるなら、何でもすると代表者の言質を取りました。」

 

「なるほど…エリザベートお姉様に連絡をしておいてください。お姉さまなら無事に目的通りにしてくれるでしょう。」

 

「ええ、陛下ならうまい事調整してくれるでしょう。」

 

 そんな会話を聞いているとルーシー社会主義共和国と言う国が諜報に関してすっからかんだと思われるだろうが、そんなことは一切ない。

 

 ただ、粛清でNKVDが弱体化しているだけである。

 

 

 

 とまれ、粛清でNKVDが弱体化している間に工作を迅速に行い帝国の防波堤ともいえる国家を二つ作り上げた。

 

 あとは、帝国は二つの防波堤を崩れないように注意を払い、裏切らないようにするだけである。

 

東ヨーロッパ連合(EEU)*1の提案はトゥハチェフスキーにも渡しました?」

 

「はい、トゥハチェフスキーは賛成であるとの意見です。その副官やフルシチョフも、いずれは独立するウクライナを入れるならばと言う新たな条件を提示しましたが…」

 

「ウクライナも、もとより入れるつもりです。我が国の首相やお姉様にも話を通しておきましたので、政治的にストップがかかることはないでしょう。」

 

「分かりました。」

 

 これでどろどろとした話は終わり、黙々と書類整理を始めるカタリナとそれを手伝うルドルフ君の姿が見られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女らが色々とたくらみ仕事をしているとき。

 

 カタリナの御家ではメイドさんがてきぱきと働いていた。

 

 明るいブロンドヘアーをシニヨンにまとめ、明るめの若干紫がかった碧眼を明かりで輝かせていた。

 

 彼女はカタリナが幼少期のころから仕えていたメイドで周りからは忠義が厚い使用人であるとの評価であった。

 

 ただ、エリザベートに仕えている変態メイドと違ってほんの少したりとも浮ついた噂を出さず、心配したカタリナがお見合いをしてもその話を蹴った人物である。

 

 その名をユリア・クレーデン。

 

 帝国の皇族であるカタリナ・フォン・クロイツフェルンに一目ぼれし、恋し、身分差と性別と帝国社会の風潮に絶望した女性である。

 

 彼女は16歳の時に奉公にだされ、12歳のカタリナと出会った。

 

 そして、男をも撃沈する容姿と無自覚な行動に撃沈された女性(・・)である。

 

 そう、女性である。

 

 この時代は女性同士の恋愛は異端とされていた。それは帝国内でもそうであった。

 

 その風潮は彼女を十二分に絶望させた。

 

 カタリナに恋したがゆえに、自身の大切な主人を守るために自身の恋心を奥底に仕舞い、カタリナのメイドを続けていた。

 

 さぁ、そろそろ主人(カタリナ)が帰ってくる時分である。

 

 

 

 

 

 

「カタリナ様ぁ…」

 

 自分でも驚くほどの切ない声が流れ出た。

 

 今でも彼女を恋している自分に見切を付けたいけど、この胸を焦がす思いは…どうしてもあきらめきれない。

 

 だけど私は…この思いをいつまでも仕舞って恋しいあの人のために働こうと努力する。

 

「車の音…帰って来ちゃった………」

 

 外から、エンジンの音が聞こえて、ブレーキ音を響かせてこの家の前に止まった。

 

 私は、いつの間にか流れ出た涙を急いでぬぐった。

 

 あの人たちがドアを開ける前にドアの前に立ち、身だしなみを整えた。

 

 ドアが開けば、恋しいあの人と、憎々しくも夫となれた人物が目に入った。

 

 そして今日も胸からこみ上げる色々な感情を押しとどめてこう言う。

 

「お帰りなさいませ。」

 

 と。

 

 

*1
東ヨーロッパ連合は、EUを参考にカタリナが提案した連合。ロシアとウクライナを一蓮托生にするための首輪とリードでもある。この提案には、フランソワ共和国やレガドニア協商連合をも入ることになる。準加盟国として後にイルドア王国や一部を除いた欧州諸国も加盟しヨーロッパ連合(EU)へと改称した。



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東部戦線

 帝国において、協商連合との闘いは通称北方戦線とされている。

 

 北方戦線に関しては既に終結している。

 

 対共和国との戦争は西方戦線と呼ばれた。

 

 この各戦線は既に終わっているものであった。

 

 協商連合と共和国は既に帝国に敗北したとの形ではあったものの、帝国の経済圏に入れられている。

 

 その次は連合王国との戦争であった。

 

 連合王国との戦争は、後の近現代の歴史家は後に大西洋戦争と呼ぶようになっていた。

 

 

 さて、ルーシー社会主義共和国連邦との闘いは東方戦線が便宜上の上で呼ばれている。

 

 ルーシー連邦との戦争ではいかな帝国であっても疲弊するのは確実で、単独で赤い国に一方的に喧嘩を売られたからとりあえずその喧嘩は買うにしても、厳しいという軍部の共通認識があった。

 

 ただ、そのルーシーに対して非合法な諜報活動をしていた部署があった。

 

 帝国諜報局である。

 

 帝国諜報局は共産主義許さじとの信念というか恨み(前にも語ったが、ルーシーが帝国から社会主義共和国に変貌した時の遺恨)真髄で活動していた。

 

 その活動内容はちゃんと帝国のトップエリザベートや、首相には知らされてはいる。

 

 ただ、軍部にはその話はどうしても行きにくかった。

 

 軍部が諜報局が立てたプランを知ったのはルーシーとの国境がきな臭くなってきた時に、エリザベートちゃんと首相君が自爆してしまったがゆえに知られた。

 

 なお、自爆しても一応は国家機密であるため、未練がましく極秘裏の箝口令が敷かれた。

 

 

 ‥‥‥‥それでいいのか、帝国のトップと補佐役の首相よ…

 

 とまれ、エリザベートは少なくとも優秀だし、首相も政治家にしては以外といい線を言ってるので、意外とわざと口を滑らした可能性もある。

 

 というかそれしかない。

 

 それに加え、疑心暗鬼が最高潮になっているトップがいるルーシーでは、粛清の嵐が再び巻き起こっている。

 

 カリスマ性をもつトゥハチェフ君が臨時大統領をしている新たな民主国家の『ロシア連邦』のもとに亡命者が多数集まるのは必然であった。

 

 そして、その亡命者は航空産業からも来たのである。

 

 パーシヴァル・スホーイ。

 

 スホーイ設計局の設立者である。

 

 スホーイ設計局はハルキウに存在しているが、その場所はウクライナに位置する。

 

 ただ、ウクライナは現在民主化運動が盛んである。帝国の謀略によって。

 

 現在のルーシーにおいてそんなことをすればまず粛清である。

 

 それを物ともせず民主化運動をすれば…

 

 もちろん、ウクライナにあたる地域にいるだけで嫌疑をかけられるのも当然である。

 

 自身の身の危険を感じ、身の潔白を訴えたいが、技術者であれ安心はできない

 

 下手を打てば粛清、もちろん家族も含めて。

 

 であるならば…と考えていたところに帝国の意を受けた協力者が秘密裡に接触してきた。

 

 「家族を連れてロシアに亡命しないか?」

 

 と。

 

 なぜ帝国がパーシヴァル・スホーイに接触したか。

 

 それは、エリザベートちゃんが大の“su-27シリーズ(フランカー)”好きであるからだ!それ以外にない!

 

 ということで普通にロシアに亡命して、新たに新しい航空会社を帝国政府が3割、ロシア政府が3割、残りエリザベートちゃんが出資してできた航空機製造会社が、後に帝国空軍設計局のマルチロールファイター“EKFシリーズ”と並ぶ、大型制空戦闘機/マルチロール“フランカーシリーズ”という戦闘機ベストセラーを生み出すことになる。

 

 改めて名を、『スホーイ社』という。

 

 スホーイ社はロシアとルーシーとの独立戦争中みたいなものが起きている。

 

 よって、早く何か作れと無茶ぶりをさっそくかけてきたのである。

 

 帝国からも、Ta152G型を筆頭としたマルチロール機の先駆けのようなものを給与してはもらってはいる。

 

 ただ、制空戦闘に関しては文句なしだが、対地において難があるとの苦情があった。

 

 急角度の急降下爆撃に対応できるようエアブレーキを装備こそしてはいるが、多機能なゆえに値段が高い。

 

 なのに、被弾が激しい地上攻撃では、修理してもいつかぼろが出る。

 

 そのため、スホーイ社に要求されたは、堅実で、硬くて、大火力で、低コストな地上攻撃機である。

 

 それに彼は見事にこたえたのである。前々からルーシーのために開発していた攻撃機をロシア向けにいじくっただけではあるが。

 

 だが、それでもロシア政府は喜んだ。

 

 制空戦闘は帝国供与のTa152をすべて突っ込み、地上攻撃や歩兵支援はスホーイが作った攻撃機に任せればいい。

 

 ロシアはその攻撃機を生産しはじめ、地上攻撃の航空隊に配備すれば見事に誉め言葉しか返ってこなかった。

 

 その機体をロシア陸軍はSU-2と呼称し配備、ロシア海軍はその対艦攻撃もできるようにしたものであるSU-4を配備した。

 

 SU-2、Su-4はその信頼性の高さと頑丈さと火力からロシアの東部戦線の評価は極めて高かった。

 

 

 

 ロシアがルーシー相手に頑張っている間、帝国は何もしていないというわけではなかった。

 

 

 1924年9月25日 帝国東部ルーシー社会主義共和国国境付近

 

 帝国は、フルシチョフの密約およびウクライナとの密約により、防御に徹していた帝国軍は一転攻勢に躍り出た。

 

 敵の塹壕をパンターが飛び越え、ティーガーが敵を爆砕し、地雷原はまとめて爆破処理。

 

 塹壕や市街地戦で歩兵に随伴する機動砲が歩兵を吹き飛ばし、チャラっと現れた軽戦車BTを一瞬で煙が上がる鉄ごみに仕立て上げた。

 

 その突破口を穿つ役割の一端を担ったのが、前回か前々回に語った(作者が忘れてる)ザラマンダー戦闘団が突破店の一つであった事は言うまでもないだろう。

 

 穿った突破口から、帝国軍が最も得意としている機械化による電撃戦を開始する。

 

 電撃戦をしながらも兵站を頑張ってしていたが、補給が間に合わなくなりそうなときもあった。

 

 それはなぜか。

 

 ウクライナ周辺の鉄道網が貧弱であったからである。

 

 ウクライナに限らず、ルーシーは泥濘な土地が多く地盤が軟弱である。

 

 そのため、線路の耐荷重を大きく設定することが比較的困難ではあった。

 

 だが、問題はそこではなかった。

 

 帝国の重量級のものは主に戦車や重砲、そのほか弾薬であったが、ばらして載せれば編成は長大化するが何とかなった。

 

 問題は軌間*1である。帝国の貨車は標準軌、すなわち線路幅が1435㎜であった。しかし、ルーシーが引いた路線はほとんどが広軌(1520㎜)mmであった。

 

 そう、どうあがいても帝国が作った貨車では直通できないのだ!

 

 ちなみに、ロシアはそこを不便に思い、少しずつ鉄道を標準機として改軌を行っている。

 

 そんな問題に直面し、事態を重く見た帝国陸軍は考えた。考えて…

 

 重量級の戦車などは鉄道貨車を載せ替えて運び、それ以外はトラックでちまちまと隊列を組んで輸送するという思考放棄に達した。

 

 その急場しのぎをしている間に標準機へ改軌し、本格輸送をするというのが帝国陸軍の考えた手立てであった。

 

 重量級の戦車などは鉄道貨車を載せ替えて運び、それ以外はトラックでちまちまと隊列を組んで輸送するということをしている間は帝国陸軍の異常だったスピードが緩んだのは当然の帰結だろう。

 

 

 そんな帝国陸軍が補給にあえいでいるときに空軍はどうしていたかというと…輸送機ピストン+帝国陸軍の補給路の間借りで補給していた。

 

 話題に出たので空軍の話もしよう。

 

 帝国空軍の魔王はどうしているかというと、毎日毎日出撃しては敵を500㎏爆弾3発で爆砕し、30㎜機関砲で戦車の側背面装甲を貫き撃破したりと、敵がもうかわいそうになる。

 

 そんな彼の二番機はエルヴィン・ヘンシェル。

 

 彼は魔王ルーデル閣下ほどではなかったものの、現時点で計670回ほどの出撃を経験している(なお、北方および西部戦線等で出撃した回数も含んでいる)

 

 東部戦線において空軍パイロットは戦果が稼げるポイント(笑)となっていた。

 

 数も当初だけがやばかっただけで最近はマシになってきてるし、ただでさえ悪かった敵の練度もさらに落ちていた。

 

 当然カモばっかりなのだが、開戦当初から生き残っているパイロットも敵には存在する。

 

 いわゆる、エースパイロットである。

 

 帝国空軍も多くのエースを抱えているが、パイロットはカモばっかりで、どこか心の中で油断しているところで奇襲されてあっさり落とされ、帝国空軍救難隊等のお世話になることも少なくはなかった。

 

 

 その敵国のエースパイロットが油断するのが帝国空軍の攻撃隊である。

 

 重い爆弾を吊り下げたままでは鈍重で、戦闘機動をするだけでエネルギーが恐ろしいほど落ちてしまう。

 

 であるからして、まだ通常の護衛機よりかは与しやすい。

 

 が、護衛機も鈍重な対地攻撃機に敵を通すわけにはいかないのだ。

 

 ‥‥ルーデルを除いて。

 

 当たり前のように爆弾を抱えたまま敵エースパイロットの機体を30㎜機関砲で穴だらけにして落とし、挙句の果てに腹に抱えたのは何だとばかりに敵戦車に爆弾を叩き込んで基地に帰っていったのだった。

 

 うん、いつもの魔王だね!

 

 

 同じようなことを繰り返せばルーデルの名声も大きくなっていくのは当然であった。

 

 数えるのが嫌になるほどの戦車や火砲や対空砲や装甲車やらを撃破し、挙句の果てにはふつうにエースに分類される12機撃墜(なお、北方および西部戦線等で出撃した時に撃墜した敵機も含む)とされ、もう頭がおかしい。

 

 

 ちなみにターニャも順調に戦果を伸ばしていて、現時点で魔導士200騎近くを落とし、ついでに戦車を数十両撃破し、火砲もついでに大量に撃破して、敵拠点を爆破していたりする。

 

 そのことから、ルーシー連邦はターニャとルーデルを人民の敵と設定し600万ルーブルの賞金が既にかけられていた。

 

 とまぁ、ターニャとルーデル君が無事に人外の道を無事に驀進していた。

 

 

 

 

1924年10月13日 帝国3軍統合参謀本部

 

 帝国軍は無事にウクライナの掌握を完了した。

 

 ウクライナはいずれ帝国から独立することができる。

 

 ただし、“帝国とロシア連邦の庇護下で”であるが。

 

 ロシア連邦は帝国ほど強力ではないにしろ、ウクライナ周辺国では3本の指に入るほどの強国である。

 

 ぶっちゃけ、ウクライナに何があるかと言われれば、貴重な資源があるとしか言えない。

 

 悲しいことに工業力は周辺3国より劣っちゃう悲しい国なのだ( ^ω^)・・・

 

 

 とりあえず独立できるという確約はもらえた物の、大国3つに囲まれる予感しかなかった。

 

「ウクライナはおそらくルーシーに対抗できるほどの戦力を用意できないだろう。

 

 そして、地理的な問題でどれだけ弱くてもウクライナを守り、ロシアを支援しなければならない。」

 

「分かっています。EKF-25を更新する上で余剰となったTa152を無償給与しているほか、格安でロシア政府に売り渡しています。」

 

「ふむ、ロシアはまだ恵まれている。あのトゥハチェフスキーがいるのだからな。問題はウクライナだ。戦争が終割ればすぐさま独立してほしいが…

 

 今は投資をできるほどの余力は…一応あるが私がもっと死ぬ気で働かなくてはならないので勘弁してほしいな。」

 

 厳かな会議の場で少々の笑い声がきこえた。

 

 彼女はほんの少しのジョークなら言えるのだ!

 

「そうだ、陸軍の参謀長、ウクライナの防衛線はどうだ?」

 

「は、帝国より鉄道網が貧弱でありますので補給に滞りが見えます。」

 

「ふむ…軌間の問題は未だに解決してないのか?」

 

「もうすぐで改軌が終わります、それまではトラック輸送等を使わざるを得ませんが。」

 

「ふむ、致し方なし、だな。」

 

「殿下、新たな勲章の新設の件ですが…」

 

「あぁ、柏葉剣付ダイアモンド鉄十字章のことだろう?」

 

「は、我々空軍としては一人推薦者がございます。」

 

「それであれば陸軍にも」

 

「…大方、ルーデルとターニャだろう?」

 

「「そうです。」」

 

「その二人については、確かに既存の勲章では物足りないと思っているから良いとするが、二人とも前線を離れることはできない、それか離れたがらない。そうだろう?」

 

「そうであります」

 

「は。」

 

「折を見て授与するしかあるまい。もしかしたら戦後になるかもな」

 

「戦後ですか。」

 

「あぁ。戦後と言っても、この欧州では戦争は起きないとおもうが、妙にアジアがきな臭いらしい…

 

 あ、申し訳ないな、今は目の前の問題を考えるとしよう。」

 

 

 彼女は会議のお姉さんとしての役割を遂行しているみたいである。

 

 

 

 

 

 

*1
軌間とは線路の幅のことである



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それからの展望

1924年12月

 KF-24A/Bの海軍仕様ロールアウト。グラーフツェペリンから機種転換を開始。

 

1925年1月

 連合王国が合州国を通じて講和を模索する動きが発生。

 

1925年2月14日

 連合王国で独立心が高いアイルランドが、帝国の工作で武装蜂起。

 

1925年2月16日

 スコットランドが連合王国へ独立するための独立投票を実施。

 

1925年2月17日

 スコットランドが連合王国から独立することが決定。アイルランドは北アイルランドのみが連合王国の構成国の一部として残る結果となった。それによりIRAによる武装蜂起も沈静化した。

 

1925年4月

 秋津洲の植民地満州において秋津洲軍が怪しい気配を見せたためにルーシー連邦がロシア、ウクライナ、帝国に対してやむなく休戦を提案、一応帝国を筆頭とした3国は了承。

 

1925年4月27日

 ノモンハン事件。先手は秋津洲軍であった。事実上は痛み分けであるが、両国はどちらも勝ちはこちらだと主張。

 

1925年5月14日

 帝国と連合王国が終戦条約を締結、独立したスコットランド、アイルランドとも締結。なおこの際、レンドリース返済にあえぐ連合王国は、アメリカ周辺にある植民地の島や喜望峰、ジブラルタルまでをも手放さざるを得なかった。

 ジブラルタルはロシアがちゃっかり購入、喜望峰はアメリカが黙って買った。

 

1925年6月25日

 帝国、ウクライナ、ロシアとルーシーは共同で終戦宣言を発表した。なお、その時のルーシー連邦の書記長は屈辱に歪んでいたと言われている。

 

1925年7月17日

 ルーデル閣下が黄金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章を受賞

 

1925年7月18日

 ターニャデグレチャフなど数名が戦功をあげたとして柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章を受賞

 

1925年10月

 合州国大統領ルーズベルトは欧州で起きた比較的大規模な戦争が起きたことで国際連盟という概念を発表

 

1925年10月14日

 帝国皇帝エリザベートがルーズベルトが提唱した国際連盟に対するいくつかの脆弱さを指摘(全会一致ではなく民主主義における多数決の採用、国際的に組織する連盟軍等がないために、その国際的に軍を組織しこれから起こるであろう民族紛争等の介入)改善策を提示。

 

1926年3月

 ルーズベルトの提言をもとに改善案も取り入れ国際連盟が発足した。

 

 初期加盟国

 合州国、帝国、スコットランド、アイルランド、連合王国、ロシア、ウクライナ、協商連合、フランソワ等28国

 

 その後、ルーシー、秋津洲も加盟

 

1926年9月14日

 ターニャ、レルゲンと婚約

 

1926年10月

 帝国、ロシア、ウクライナ、協商連合は東ヨーロッパ連合(EEU)を設立。緩やかな経済的結びつきと比較的強固な軍事同盟を意識した連合である。

 初期加盟国は先ほどの4か国のみであるが、欧州のほとんどが加盟することとなる。

 

 

1927年1月

 ルーズベルト大統領急逝。心臓発作。大統領には副大統領のトルーマンが継いだ。

 その時期はルーシーが衛星国を増やしていた時期であり、中華民国は秋津洲に亡命、台湾に臨時政府をおいた。

 

 そのこともあり、対共産主義自由主義同盟(ACLA)が発足した。

 初期加盟国

 帝国、ロシア、ウクライナ、秋津洲、中華民国臨時政府

 

1927年5月

 朝鮮にて秋津洲からの独立運動が激化、独立投票で挑戦が独立。地政学的不利を悟り秋津洲軍は満州より撤退。

 

1927年9月27日

 ターニャとレルゲン、結婚式を挙げる。なお、エリザベートとカタリナは出席こそしなかったものの、一個人として祝辞の電報を送ったとされる

 

1927年10月

 朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国が建国。

 

1927年11月

 帝国軍が6.8mm×43㎜弾(通称6.8㎜ルガー)を採用、G3の改造を行う。それに伴い、ロシア、ウクライナに供与されていたG3も帝国の負担で改造された

 

1928年2月

 帝国3軍は6.8㎜ルガーを使用したアサルトライフ、EK-G41を採用。なおロシア、ウクライナは採用を見送るも協商連合は興味を示し、先行の末、次期小銃にて採用された。

 

 

EK-G41

 使用弾薬6.8㎜ルガー

 反動利用式、G3と操作系を似せて作られている。なお、セミ、フル、セーフティを基本とし3点バースト機構を初めて採用した。

 

1928年2月

 合州国陸軍はマッカーサーの事もありM14を採用したが、海兵隊や海軍は帝国が採用したと噂のG41に興味を示す。

 

1928年2月

 ルーシーのカラシニコフ技師がAK-47を完成させ採用した。

 

1928年4月

 帝国陸軍のパンター、ティガー戦車において大改修が行われる。

 

 パンターは新開発で88㎜より軽量でありながら貫徹力のある105㎜L55ライフル砲を、ティーガーは120㎜L44ライフル砲に主砲を換装、エンジンも強化が行われ信頼性のさらなる向上が行われた。

 

1928年8月

 合州国にてレッド・パージ第1弾が行われる。それに伴い、トルーマンドクトリン等が発表された

 そして、合州国は対共産主義自由主義同盟(ACLA)に加盟。

 

 事実上、ルーシーとその愉快な仲間たちVS帝国&合衆国の愉快な仲間たちの冷戦に突入。

 

1928年9月

 フランソワ、アイルランド、スコットランドがEEUに加盟。

 

1928年11月

 帝国は新型歩兵戦闘車ファミリー『マルダーシリーズ』を採用。初期は6種であったが、同盟国等に輸出されたため、様々な派生型が発生。

 

 某ユダヤ人の国ではマルダー歩兵戦闘車の車体にアメリカのM26パーシングの砲塔が付けられたキメラも生まれたという。

 

1929年3月

 合衆国が初の原子力爆弾の製造に成功、実験を行った。

 

1929年5月

 帝国皇帝エリザベート暗殺未遂。

 

 政情が不安定なバルカン半島へ外遊の為赴いた際に起きた事件である。この際にエリザベート本人が対処し、犯人を拘束した前代未聞の事件でもあった。

 

 なお、この月は全体的に世界の株価が下がったという。

 

1929年7月

 帝国諜報局長カタリナが皇族の政務として秋月島へ初の外遊。使用された機体は帝国空軍の戦略輸送機EKC-2の帝国政府仕様であった。

 

 なお、その際に帝国最初にして世界最初の空母打撃群が秋津島の横須賀へ入港していた。

 

1929年9月

 合州国海軍が50丁のG41を買うものの、正式採用はなし。同月、合州国3軍は帝国が採用していた7.62×51mm弾を30-06Winchesterら変更した。このときより7.62×51mm弾は7.62mmACRA弾と呼ばれるようになる。

 

 

 

1929年11月

 ルーシーが原子力爆弾実験を行った。

 

1930年5月

 帝国、ロシアが原子力爆弾の実験を行った。

 

1930年6月

 合州国海軍が極秘裏に原子力潜水艦ノーチラスの建造を開始

 

1930年8月から翌年10月

 帝国海軍航空隊の戦闘機隊がTa152からEKF-24へと完全に更新された。それに伴い、艦載高高度戦略/戦術偵察機もEKF-24 R-1へと更新された。

 

 それに伴い、グラーフツェペリン級3艦を改装。レーダーを始めとした対空警戒システム、CIC室の配置、蒸気カタパルトの追加であった。

 

 なおこの改装は、欧州に正規空母がいない空白期間を無くすため慎重にかつ大胆に行われた。

 

1930年10月

 帝国陸軍が次期機甲師団の中核を担う主力戦車の開発を開始。ラインメタル120㎜L44ライフル砲とユニット化された870馬力ディーゼルエンジンとそれらに付随する足回りを持ち、鋳造を用いてまで被弾経始が重視された。重装甲でありながら一定以上の機動力を保持していた。弾薬は砲塔後部に集積され、弾薬部に被弾しても上面パネルが吹き飛び弾薬の引火の爆風を逃がす設計としてある。

 弾薬数は45発。基本装填は人力だがロシアの要望で自動装てん装置が追加されたレオパルドR1とそれに空間装甲の役割も持つ増加装甲が付与されたレオパルドR2A1 Slatがある。

 

 改良型は多数存在するが、

 

 なお、帝国陸軍がこの戦車を開発するにあたって、ルーシーによる再侵攻を念頭に開発されたもので、泥濘にできるだけ強く且つ正面より敵の突破を防ぐほどの装甲を有していながらもある程度の陣地転換を有する物…という無茶ぶりに答えた物であった。

 

 

 

 

1932年6月

 朝鮮戦争勃発

 

1932年7月30日

 多国籍連合軍を組織、主軸は秋津州軍と、共産を許せない合州国が主軸となった。

 

1932年8月25日

 帝国海軍1個機動艦隊(グラーフツェッペリン級2番艦エリザベート・クロイツフェルン旗艦)を中核とした揚陸艦艦隊を派遣

 

1932年9月15日

 秋津洲陸軍第3歩兵師団第7歩兵師団、および秋津洲戦艦2隻、帝国軍正規空母1隻、米空母4隻を含むJTF7、TF-77などが任川上陸作戦が行われる。なお、帝国軍はその他に第13装甲師団、第8機動歩兵師団が上陸した。

 

同年9月18日

 戦艦ミズーリ、武蔵、ティルピッツ3隻による支援砲撃開始

 

同年10月3日

 帝国陸軍第3中戦車連隊及び合州国陸軍戦車部隊がIS-2と会敵

 

同年10月17日

 Mig-15が現れる。

 

同年11月10日

 合州国、秋津洲、帝国はそれぞれ最新鋭ジェット戦闘機の投入を決定。合州国はF-86、秋津洲は旭光、帝国はEKF-24Aを投入。

 

同年11月14日

 帝国海軍EKF-24戦闘機隊がMIG-17と会敵、世界初のジェット戦闘機同士の戦闘となる。

 

同年12月7日

 帝国空軍EKF-24配備

 

同年12月14日

 合州国空軍F-86配備

 

 

 

 その間の展開は史実の朝鮮戦争と展開が似ているため省略

 

 

 

 

1935年7月

 朝鮮戦争、休戦条約発効

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後の歴史は…帝国はエリザベートの死後王国連合へと改称(1965年)

 

 レナ・フォン・ワイス死去(1966年)

 

 カタリナ・フォン・クロイツフェルン死去(1969年)

 

 カリン・フォン・フート死去(1969年)

 

 

 ルーシーは一度崩壊するも再度復活(2010年)

 

 

 

そして………

 

 

 

 

2050年某日

 

 帝国を引っ張ってきた人物が各分野の歴史上の人物となって久しい時。

 

 帝国海軍特殊部隊が合州国と共同で核にかかわる任務を遂行中、核のボタンを取引していた場所ごと犯人とテロ組織ごとヘルファイアで爆殺したものの、頑丈なスーツケースに覆われた核のボタンが爆風により吹き飛び、現地の少女の目の前に落ちた。

 

 その少女は好奇心でそのボタンを押したことが核戦争への道となった。

 

 

 それから先の事を記録したものは…いない。










「ここは?」

「さぁ、分かりかねます、姉さま。」

 彼女たちは70以上という年月を共に過ごした姉妹である。簡単に言えばエリザべートとカタリナである。


 そんな時彼女の脳内に訳の分からん声が聞こえてきた。

『今その他たちに語り掛けている。私は数多の世界を作りを作り上げた紙…いや間違えた。神である。実は世界を作り過ぎて管理できない、だからちょっと適当にうろついてた魂を引っこ抜いてきたわけなのだ。』

「それで?私たちに何をしろと?」

『私の代わりに世界を見て回って、その世界を管理してほしい。神の視点ではなく、その魂を保有していた時の人間だった時の視点から観て、必要ならば修正を行ってくれ。』

「修正。ならそれがうまくいなかったら?私たちはただの人間、やる事も限られていると思うのだが。」

『ちゃんと考えてある。世界の隅々まで見渡す眼、世界を一部修正または修正がうまく行かなかったときには世界そのものを消す我の権能の一部を借りる程の権利を与えよう。

 そして…貴様らには一度最初にとある世界に転生してもらう必要がある。それから先は貴様たちは死ぬことは絶対に許されない。永遠の命と引き換えに死を失うのだ。』

「…私たちに拒否権は?」

『あるわけなかろう、そもそも貴様たちは魂という半物質体、抵抗もできんだろう。』



 そう、私達姉妹はまた訳の分からない世界に転生することになった


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帝国空軍戦闘機開発史

 帝国空軍の戦闘機は戦後において多くのシェアを持つようになる。

 

 西側と言われる諸国は帝国をはじめとする欧州及び帝国(後に王国連邦へと改称)の同盟国ロシア,ウクライナの東欧2か国は帝国製戦闘機を多く採用した。例外としては永世中立を国是とする内陸の国が一つあるが、そこは帝国製とのちに述べる合衆国製の二つが存在する

 

 次に合州国製の戦闘機は多くは合州国の経済圏に置かれた東南アジア、中央および南アメリカに多く輸出された。

 

 東側、すなわち共産陣営はほとんどがルーシー製の物を使っている

 

 今回は、帝国製戦闘機について述べよう。

 

 

 

 帝国空軍は前々よりレシプロ戦闘機の限界を知っていた。

 

 統一歴1890年代に開発されたTa152は帝国空軍が誇る最優秀でかつ最後のレシプロ戦闘機シリーズである。

 

 当時12.7㎜機銃2門程度が関の山の時代に12.7mm機関銃を6丁というのは十分重武装であり、且つ時代の流れで戦闘機の重武装化が進んでも、十分すぎる物であった。

 

 さらに戦闘爆撃機として、制空,迎撃,爆撃,雷撃,偵察の5つのミッションをこなすという空軍のやりたいことを一まとめにして解決してしまったどう考えてもチートな戦闘機である。

 

 1890年代より1900年代に移ろっても絶えず行われた改修により、世界でも類を見ないほどのシリーズ化が成され帝国軍と連合王国との戦争、大西洋戦争では序盤や中盤で主力戦闘機の座に君臨し続けていた。

 

 だが、最優秀レシプロ戦闘機と言えどもジェット化の波には叶わなかったようである。

 

 かの機体が現れたのは1924年、大西洋戦争終盤である。連合王国の破壊工作のため、帝国国内僻地から帝国首都へ航空機を飛ばし翼下の爆弾で首都爆撃を成そうとした事件が勃発した。

 

 

 その際、帝国首都を守っていたのは第25戦闘航空団であった。

 

 不明機が帝国上空より突如現れ、首都へと向かう航空機に対しスクランブルが発動、迎撃に向かった。

 

 その時に現れたのが帝国空軍の主力を長く担う事になった単発のジェット戦闘機

 

『EKF-24』

 

 戦闘機である。

 

 最大推力32kNのE-23ターボファンエンジンを一基搭載し、最大速度は1193㎞/h、30㎜ mk103機関砲2門の亜音速ジェット戦闘機である。

 

 後に出てくるであろうF-86やMig-15よりも重い機体を大出力のエンジンで押すといった形である。また、帝国空軍と海軍の要求に合うように配慮がなされており、荷重面積が低めに設計され、中低速域の安定性を考慮し機体前部にカナードという当時としては斬新的デザインであった。

 

 後に欧州や東欧ではカナード付き戦闘機が多くなるのだが、それは後の機会に語ろう。

 

 

 

 

 

 そのEKF-24戦闘機は朝鮮戦争でも使用され、Mig-15には速度、上昇、ロール方向の機動性に優っていた。そのためにmig-15には基本優勢で戦えていたという。

 

 朝鮮戦争終盤には翼端にミサイルパイロンが付けられ、そのパイロンには赤外線誘導式のIRIS-Aが装備できるようになった。

 

 

 

 初のミサイル撃墜はF-86のサイドワインダーであったが、その次の日帝国海軍所属機が空母に接近していたMigの4機編隊のうち3基が機関砲、1機が帝国軍初のミサイルによる撃墜であった。

 

 

 それよりEKF-24戦闘機は多くの国で採用されることとなる。

 

 欧州ではイルドア王国、協商連合、旧連合王国構成国とフランソワ共和国、ロシア連邦にウクライナであった。

 

 

 

 

 そして、帝国は超音速戦闘機の開発を始めた。

 

 それが――――

 

『EKF-24C/D』

 

 である。なんと、亜音速機であったEKF-24にさらに大出力かつアフターバーナー付きターボファンエンジンに換装。また、生み出される電力量も増えたことで初のレーダーを搭載した戦闘機となったのである。

 

 登場は統一歴1937年、朝鮮戦争より2年後の事である。

 

 乾燥49kN、アフターバーナー点火時98kNの推力を発揮するE-25ターボファンエンジンを一基搭載。またレーダー射程は50㎞,ロックオン可能距離30㎞で、今までは爆弾やロケットパイロンであった翼下のパイロンに新たに多くのミサイルを翼化できるようになる。

 

 なお、その影響で作られたかは知らないが、F-86を超音速戦闘機にしてみましたみたいな感じのF-100がEKF-24C/Dに影響を受けたのは仕方のない事だろう。

 

 なお、EKF-24C/D生産時、射程30㎞のセミアクティブ式の誘導ミサイル『EM-2』ミサイル、先の『IRIS-A/B』の改修型『IRIS-C』が生産された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後の分類では第2世代戦闘機に分類される。

 

 1940年、合州国のF-8やF-4に刺激される形で新たなるマッハ2級戦闘機の開発を行った。それが、帝国空軍のEKF-24シリーズの最後を飾る

 

『EKF-24E/F』

 

 である。EKF-24Eは単座、EKF-24Fは複座である。

 

 乾燥推力61kN、アフターバーナー点火時113kNのE-27ターボファンエンジンを一基搭載、最高速度はマッハ2.3である。

 

 搭載武装は30mm機関砲を2門、胴体下部に半埋め込み式の中距離ミサイル専用パイロンを二つ、翼下に随時に搭載できるパイロンを4つ、翼端に赤外線ミサイルを搭載できる小型ミサイルパイロンを備えている。

 

 

 その際レーダーを換装。レーダー照射距離65㎞と当時としては優秀なレーダー出力を誇っていた。

 

 同時期に、『EM-2』ミサイルの改修型『EM-7』、先の『IRIS-C』の改修型『IRIS-D』、帝国空軍初のレーダー誘導対艦ミサイル『SA-1』が生産された。

 

 搭載例として、迎撃、艦隊防護任務時は『EM-7』を6発、『IRIS-D』を2発搭載する。

 爆撃任務としては『EM-7』2発、『IRIS-D』2発、爆弾各種合計3000㎏分を搭載。

 

 対艦攻撃としては『EM-7』2発、『IRIS-D』2発、『SA-1』を2発である。

 

 

 

 

 それ以降はEKFシリーズのさらなる改修型は帝国からはロールアウトはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 なぜならEKF-24を設計したレナ空軍設計技師がとある戦闘機開発にかかりきりになったからである。

 

 名を『EKF-47』。

 

 統一歴1947年に採用された双発ジェット戦闘機である。

 

 年代的にMIG-25が登場した時期であり、帝国は何らかの方法でMIG-25の情報をつかんだと思われる。

 

 

 

 大推力エンジンを2基搭載、アビオニクスに関しては比較的最新のものを搭載した。

 

 レーダー照射距離は110㎞、ルックダウン能力増強のためパルスドップラーレーダーを選定した。

 

 同時ロックオン可能機数6機が可能で、艦隊防空にも配慮された設計となっていた。

 

 

 最高速度マッハ2.5、胴体半埋め込み式中距離ミサイルパイロン4つ、翼端に短距離ミサイルパイロンを装備。その他の装備として各種爆弾、対艦、対地、対レーダーミサイルを装備する。

 

 

 そして、どれもが秀でている性能なだけあって、今までにない高額な戦闘機となった。100機以上と大規模に導入できたのは帝国空軍のみで、旧連合王国構成国、フランソワと協商連合、さらには帝国海軍までもが30機から50機程に収まった。

 

 高額であるがゆえに、ロシア空軍および海軍、ウクライナ空軍は導入を見送った。

 

 同時期に『EM-7』の射程延長&機動性、ルックダウン、対ECM性能向上型『EM-7F』、『IRIS-D』よりシーカー冷却速度、射程延長、機動性向上型の『IRIS-G』が製造された。

 

 さらに、長距離ミサイルとして艦対空ミサイルより転用したアクティブレーダーホーミング式長距離ミサイル『EAM-65』通称『クロウ』空対空ミサイルが生産された。射程100㎞、最高速度マッハ5.0。高速で接近する緒音速ミサイル迎撃能力が存在する。

 

 

 

 

 

 

 帝国空軍はルーシーがMig-25というマッハ3級戦闘機を使用しているという事がプロパガンダ等で流れてきた時。帝国空軍はEKF-47戦闘機について公表した。

 

 それに焦ったのは他でもない合州国であった。Mig-25というやばい奴が今の仮想敵国が持っているにもかかわらず、自分たちはMig-25に対抗できる戦闘機がいない。

 

 しかも帝国に対抗馬の先を越された…という事である。

 

 そうであるならば戦闘機輸出に不利であると。

 

 

 だが、その心配は無用だった。帝国が開発したEKF-47は高性能ゆえに高額で当あった。そのため、枯れた技術を組み合わせF-15を開発したのだが。

 

 まぁそこまでは輸出に成功はしなかった。F-15も大概だったのである。

 

 

 

 

 

 そして、ロシア空軍、ウクライナ空軍は高額なEKF-47を見送ったものの、Mig-25は依然として脅威であり、マッハ2,3級の戦闘機であっても性能不足であると。

 

 

 そして考えた末に、自主開発を始めた。エンジンは既存のEKF-24E/Fが搭載していたE-27ターボファンエンジンを改良したE-29(EKF-47が搭載)を2基搭載。アビオニクスは妥協し、レーダー照射距離90㎞のパルスドップラーレーダーを搭載。

 

 また、24bitコンピューターで同時ロックオン6機、同時交戦機4機とし、最高速度はマッハ2.3。帝国の影響はやはり受けているのかカナード付きの機体となる。

 

 搭載ミサイルは翼下パイロンに中距離ミサイル6発、翼端に短距離ミサイル2発。翼下パイロンは各種爆弾、対地対艦、対レーダーミサイルが装備できる。

 

 その名は。

 

『SU-27』

 

 ロシアの軍需、航空機メーカーのスホーイ社がE&Kの協力のもと作り上げたものである。性能で言うとEKF-24E/Fより格段に上がっており、Mig-25の相手はできるだろうと考えられた。

 

 EKF-47が高すぎて多く変えなかった国はこれに飛びつき、欧州のみならず、中東諸国の空軍も採用したほどであった。

 

 なお、のちのイラン・イラク戦争でイラン空軍F-14Aの2機編隊とF-4ファントム8機編隊をタンカー護衛中の帝国海軍第3艦隊旗艦の原子力空母エリザベート・クロイツフェルンより飛び立った第113海軍航空隊所属SU-33の6機編隊が撃墜した記録が存在する。

 

 

 SU-33はSU-27戦闘機の帝国海軍の原子力航空母艦に搭載できるように要求され帝国海軍により改造されたものである。

 

 SU-27戦闘機を原型とし、中低速域のさらなる安定性と機動性を両立させるためエンジンを3次元推力変更ノズル付きE-30ジェットエンジンに換装、前後輪の剛体性強化、前輪の2輪化、アビオニクスの強化(レーダー出力増強,ECM能力増強等)、着艦支援装置の付与等が要求(アレスティングフックは元々ついていたため若干の改修で済んだ模様)された。

 

 なお、後にSU-33が逆輸入され、ロシア海軍の通常動力空母や前輪を1輪とし、ロシア空軍でも採用された。

 

 ロシア空軍採用の物はSU-37と公式に呼称されるがSU-33と同一視する者が多い。

 

 

 

 

 

 

 戦闘の推移としては、上空警戒に当たっていたEKC-5A1警戒管制機がとらえたイラン空軍の編隊2機が接近していることを察した帝国海軍第3艦隊は、艦載制空戦闘機SU-33を2機発艦させる。

 

 イラン空軍の機体はF-4ファントムで、最初はスパロー空対空ミサイルをSU-33の2機編隊に向けて発射した。

 

 レーダーロックを感知したSU-33は電波ジャミングを開始し、チャフをばらまきながら回避軌道を取る。

 

 

 

 あっさりとはずれたスパロー、そして交戦規定をクリアした空母艦載機2機はすぐさま長距離ミサイル『EAM-65』をそれぞれ1発ずつ発射。全弾命中し撃墜した。

 

 そののち、F-14の2機がF=4ファントム6機を引き連れてタンカー群に向かっていたことをEKC-5A1が感知。

 

 

 新たにEKF-47艦隊防空戦闘機4機、SU-33艦載制空戦闘機4機を発艦、迎撃に当たらせた。EKF-47戦闘機が機影を感知。レーダーロックを感知した帝国海軍機は全機『EAM-65』をそれぞれ1発ずつ発射。そのうち6機に命中、2機に深刻なダメージを与え、海の藻屑へと消えた。

 

 

 なお、これらの防空戦は帝国3大海戦の1幕にすぎないのだが、それは後の機会に語ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、EKF-47戦闘機をロールアウトさせた帝国であったが、この時期にはステルス戦闘機の開発に着手していたと言われている。

 

 かのレナ空軍技術大佐(退役時は少将)は統一歴1949年に退役しているが、どうも開発を推進したのは彼女であったとの話が関係者より明らかにされている

 

 

 帝国はステルス戦闘機の開発はF-117Aで先を越されていたが、その当時は機密であり同盟国や合州国の軍人でさえ知らなかった航空機であった。

 

 だが、純粋なステルス戦闘機(F-117Aは攻撃機の性格が強め)では帝国が最初に開発研究と製造を行った。

 

 ロールアウトは統一歴1973年4月である

 

 名を『EKF-73』ステルス戦闘機である。エンジンは乾燥推力125kN、アフターバーナー点火時198kNのE-113ターボファンエンジンを搭載。

 

 ウェポンベイには中長距離ミサイルを4発と短距離ミサイルを2発ずつ搭載する。場合によっては各種爆弾及び専用に開発された対艦ミサイルを2本(翼下パイロンを取りつけると6本となる)を装備できる。

 

 中長距離ミサイルとして機動性を向上させた『EAM-65D』もしくはその射程を延長するために艦載させるためのロケットモーターを付けっぱなしにした『EAM-65E』と短距離ミサイルとしてはさらなる射程延長、シーカーをイメージ赤外線ホーミングとした『IRIS-T』、空対艦ミサイル『SA-1』の後継『SA-4』のミサイル翼を折り畳みとし無理くりウェポンベイに収まるようにさせた『SA-4A1/A2』が製造された。

 

 スパークルーズ能力を擁し、高度30000ftにてマッハ1.4を出し、同様にアフターバーナー点火時最大速度マッハ1.9で飛行できる。

 

 

 

 

 輸出もされており、諜報において連携を取るロシア空軍、フランソワ空軍、協商連合に輸出され、各々ドクトリン等に合うよう配慮などが成された。もちろん帝国空軍及び海軍も主力として採用。

 

 これにて帝国海軍の主力を担ったSU-33とEKF-47は退役するかと思われたが、SU-33は対艦攻撃任務として一部残されているほか、EKF-47は帝国首都の防空の一翼を担っている。



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