とある■■の幻想殺し (イニシエヲタクモドキ)
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序章 始まり
始まり


はい、禁書小説書きたかったので書きました。
原作は基本的に全巻揃えていますが、内容が飛んでいたり時系列がおかしかったりします。
気にしないよ、という人はどうぞ。


誰かが喜ぶ度に、必ず誰かが悲しむ。

誰かが幸福を感じる際には、絶対に不幸を感じる人が現れる。

 

その絶対的なルールを掻い潜り、誰もが幸せになる方法が一つだけある。

酷く簡単で、尚且つ下らない、現実味の無い話。

 

『不幸や悲しみを一手に背負う存在を用意すれば、他は必ず幸せになる』

ただ、それだけである。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「おっと、いいタイミングで目を覚ましたね」

(……あぁ?)

 

頭の中に、誰かの声と自分の声が響く。

おかしい、自分に関する記憶がまるでない。

全てに靄がかかったように不明瞭なのだ。

 

「もうすぐ君の体が()()()()んだ。その後、少し説明を挟んで即転生。まぁ深呼吸でもして待っていると良いよ。出来るなら、だけど」

 

男とも女ともわからない中世的な声が、これまた訳の分からない事を言ってくる。

…完成?転生?ファンタジーじゃあるまいし、そんな事を『はいそうですか』と受け入れられるわけがないだろう。

 

「…よし、完成だ。気分はどうだい?息苦しかったり、思ったように体が動かないとか…そういうのは無い?」

「…いや、それは別に大丈夫だけど…」

「おぉ。それは良かった。いやいや、この仕事を任されるのは何気に数百年ぶりでさ。腕が訛ってるんじゃないかって不安で不安で」

 

まるで友人に話かけて来るかのような気安さで話し続ける男(もしくは女)に、半眼を作りつつも質問する。

 

「…それはまぁどうでもいいけど、その転生だとか完成だとかってどういう意味なんだ?起きたばっかりで、記憶も曖昧なんだ」

「うーん、詳しい話をするのは許可されていないからできないんだけど…そうだね、転生は文字通り転生で、完成も文字通り完成って意味だけど…」

「あー、うん。わかった。もう完成云々は諦める。ただ聞かせてくれ……転生って言うのは、所謂異世界転生みたいな物であっているのか?」

 

眉間を抑えながら質問した俺に、目の前の誰かは大仰に頷いた。

 

「そうだよ。知っているだろう?異世界転生。らいとのべる?とかいう作品で一時期大人気だったらしいし、大興奮だったり?」

「いやあまり。今ので夢だって悟ったし」

「む、その顔信じてないな?」

「別にいいじゃないっすか別に。夢の中なんだし、さっさと話を進めてくださいよ」

 

どうせ夢なら限界まで楽しんでやりたい。

そのためには、面倒くさそうな会話は出来る限り省略させたいのだ。

 

「…じゃあ、どんな世界に行きたい?」

「それって、アニメとかゲームの中から選ぶのも可能って事?」

「うん。寧ろそっちの方が楽だしね」

「……これって、くじ引きとかルーレットみたいなやつで、自分の選択肢の中から選べたりするシステムは」

「あるよ。でも本当にそれでいいの?君の選択肢だと、立っているだけで命の危機みたいな世界に行く可能性だってあるし」

「どーっせ夢だし、適当でいいんだよてきとーで。いいからさっさと頼むよ」

「…た、態度がでかいなぁ……じゃあ、回すよ」

 

呆れたような顔をしつつ、巨大なルーレットを取り出し、手動で回し始めた。

しばらくの間回り続けていたルーレットが、突然ピタッと停止した。

 

「うん?これは…『とある魔術の……』なんて読むんだいこれ?」

「禁書目録と書いてインデックス。なるほどな、確かに最近読んだ気がする」

「……というか君、まだ夢だと思ってるの?」

「あのさ…これが夢じゃなかったら何だって言うんだ?もしかして本当に転生?だったら俺の死因は?」

「…それは言えないけど、少なくとも君が『死んだ』と定義される状態になったのは事実だね」

 

その言葉を聞いて、俺は一瞬で硬直した。

…いや、まだ夢だと思っている所はあるけど、『もしかしたら』という考えが脳裏に焼き付いて離れないのだ。

…それってつまり、俺が今まで夢だと思っていたものが夢ではないという可能性がある事で…

 

「まじで俺禁書世界に行くんすか」

「まぁそうなるね……あぁ、安心して?俗にいうチートって奴はつけるから」

 

む。チート、チートか。

元々の言葉の使い方とは違う使い方らしいが、まぁそこはあまり気にしなくてもいいだろう。

いざ貰うとなるとなんかドキドキワクワクするな。

 

「うーん、そうだなぁ…手に余らない感じで、尚且つ強くて差別化が出来て……あっ、これとかどう?幻想殺し(イマジンブレイカー)って言うんだけど」

「主人公の能力まんま!?」

 

今日一番の大声を出し、立ち上がる。

なんというか、別作品の能力がもらえたり、そうでなくとも滅茶苦茶な身体能力とかそう言ったものがもらえるのかと思っていたんだが……まさかの作中で未だに謎が明かされていないブラックボックスとは。

 

「あぁ、安心して?多少原作の物と変えるつもりだから」

「……それは安心していいのだろうか」

「後はまぁ、君の力で頑張ってとしか」

「いやいや俺に幻想殺しがあった所で上条当麻とは比べ物にならないって」

「別にそこは気にする事じゃないと思うけど……それに君は、少し一般人と違うからね。鍛えてたらそれなりに戦えるようにはなるとは思うよ?」

 

不安だ。不安過ぎる。

ここまで安心できない保証があっただろうか。いや、ない。

チートかと思えばそれほどでもなく。

身体能力云々は鍛えろとの事。

 

「……は、ハードモード?」

「大丈夫だって。実際に体験したら自分の規格外さが良くわかるようになるから」

「うぅ…まだ幻想殺しを持っているわけでもないのに不幸だ…」

「さぁさぁ、早速転生、してみようよ」

 

中世的な誰かにせかされるままに、魔法陣のような場所に立たされる。

なんかもう、考えるのは止めよう。

死ななきゃいい。その精神で。

 

「あぁ、そう言えば名乗ってなかったや……僕は■■■■■。確かそっちの世界にも居たと思うし、その時はよろしくしてあげて?」

「…か、神様だったんっすか…」

「あー、敬語云々は気にしてないから大丈夫だよ?―――じゃあ、行ってらっしゃい」

 

神に見送られ、俺は新たな人生を―――不安と緊張に呑まれつつ、迎えるのだった。




他の作品ももちろん書いていますので、そこはご安心を。

久しぶりにこの小説を色々書き直すことにしたので、最新話の投稿はかなり遅れます。


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第一章 禁書目録
学園都市


はい、前回は序章の序章だったので、ここでキャラの立ち位置を一部紹介しつつ主人公設定を少しだけ明かします。


俺が転生してから、十数年の月日が流れた。

この世界に来て、一瞬だけ平穏に一生を終えようと考えたが、すぐに自分が原作に関わらねばならない事を悟ってしまったので、諦めて方向転換。

原作を崩壊させようと決意。

 

何故俺が原作に関わらなければならないと悟ったのか?

答えは単純で、俺のすぐ近所に、ある男が住んでいたからだ。

()()()()。とある魔術の禁書目録という作品の主人公。

右手に幻想殺しという能力を持つ、かなりの頻度で不幸に見舞われる男である。

 

それが隣に住んでて、尚且つかなり仲良くなっちゃったら、ねぇ?

自分も不幸体質だし、『当麻くんが学園都市に行くみたいだし、翔馬も行ってみたら?』と勧められるのは自明の理であった。

…因みに翔馬は俺の名で、『天城翔馬(てんじょうしょうま)』がフルネームである。

 

「「「「じゃんけん、ぽん!!」」」」

 

男4人が、真昼間のファミレスでかなりの大声を出しつつじゃんけんをしている。

その男4人の内、二人は俺と当麻だ。

他の二人は、浜面仕上と一方通行という男。

……知っている人もいるだろうが、二人もとある魔術の禁書目録におけるキーパーソンだ。

なんでそんな重要そうな奴等と、態々ファミレスに集ってじゃんけんしているのかというと…

 

「よしっ、勝ち!!」

「てなわけでドリンクバーよろしくな」

「くっそぉ!!何故この時ばかりは俺が敗北者に!?」

「うるせェ。さっさとオレのコーヒーとってこい」

 

…そう。ドリンクバーを往復する係を決めていたのである。

俺と当麻は誰もが認める程の不幸体質だが、何故かドリンクバーの往復を決める時の勝負では、浜面の方が不幸なのだ。

まぁそれでも何度も勝負を挑んでくるあたり、俺達の不幸はかなり信頼されているのだろうが。

 

「くぅっ、辛辣…」

「あ、俺はメロンソーダで」

「て、天城が勝者の風格を…!?」

「あ、俺もそれでいいわ」

「て、テメェら…!覚えてやがれー!」

 

捨て台詞を吐き、駆け足でドリンクバーに向かって行った浜面を見て、自然と俺達は笑ってしまう。

…何というか、このくだらないやり取りが、どうしても貴重なものに思えて仕方がないのだ。

 

「…しっかし、こうも暑いとやる気が起きねぇよなぁ」

「翔馬サン翔馬サン、それはちょっとした事件に巻き込まれた結果、『面倒くせーし学校さぼろーぜどうせ明日から夏休みだし』的な思考に至った我々を皮肉っているのでせうか」

「ははは、当麻君や。それでは俺にその言葉がブーメランになってしまうではないか」

「くッだらねェ。一日サボったくらいでそんな話になるか普通」

「「こっちはお前と違って出席日数でヒィヒィ言っちゃうんです!!」」

「わかッたわかッた」

 

身を乗り出して声を荒げた俺達に、一方通行は苦笑いしながら答えた。

…何故あの一方通行がこんなに柔らかい性格になっているのか、その理由を説明しよう。

と言っても理由は簡単で、単に捻くれる前に仲良くなっちまっただけである。

反射?ベクトル?知ったこっちゃない。

俺達に異能の力が太刀打ちできるわけがない。

友情パワー(ただ握手しただけ)で一方通行を絆してやったぜ!

…という事だ。

 

「えっと、天城と上条がメロンソーダで、一方通行がコーヒーだよな?」

「ありがとな」

「……何かお前、日に日に三下ムーブが身についてきてないか」

「あァ。四人分のコップを綺麗に持ち運ぶ手段を自然ととれるようになっているあたり、もはや体が運搬係を受け入れちまってるなァ」

「なっ、そんな事ねぇ……と言い切れないんだよなぁ…」

 

当麻と一方通行の言葉に、否定しきれずに落ち込む浜面。

しかし、この場の誰もフォローしたりはしない。

だって、このやり取りはいつもやっているから。

実際、すぐに浜面は復活し、自分の飲み物に口をつけた。

 

「そういや、この後どーすんだ?地獄ラザニア早食い選手権は決定事項だとして、それまでまだまだ時間あるだろ?」

「そうだなー…あんまり早く食っても、やる事無くて暇になるだけだし」

「だよなぁ……ん?メール……はっ!?うっそだろ!?」

「どォした?」

「い、いつもならいけないこの時間帯のゲリラタイムセールの通知が来た!ちょっと走って行ってくる!!」

「あっ、当麻テメェ自分の代金くらい自分で……」

 

言い切る前に、当麻は店を走って出て行ってしまった。

…まぁ、普段なら学校のせいでいけないのだ。こういう日にこそ行くべきだろうな。

 

「…どーする?俺達も一旦解散する?」

「別にいいけど、天城は何かすることあんの?」

「ねぇなぁ…元々学校だし」

「オレは垣根に呼ばれてるからなァ」

「今日もドンパチやってくんの?」

「おゥよ。今日も圧勝してやるさ」

 

一方通行の言った垣根とは、『垣根帝督』の事である。

学園都市に7人しかいないレベル5…所謂『超能力者』の内の第二位。

未元物質(ダークマター)と呼ばれる、この世に存在しえない物質を扱う能力を持っている。

 

…言わずもがなだが、一方通行はレベル5の内の第一位。

俺達のようなレベル0とは比較にもならないエリート(その癖生活態度はかなり悪い)である。

 

「全く。白熱すんのはいいけど、俺等のテリトリーに被害だすのは止めてくれよ?アジトの雨漏りが最近深刻化してきててな…」

「……ま、ちったァ気に掛けるわ」

「いやしっかりしてよね!?」

「浜面、口調」

 

まるで漫才のようなやり取りだが、実際浜面達スキルアウトの集合場所は垣根と一方通行の戦闘の被害をもろに受ける場所にあるため、かなりボロボロになってしまっている。

駒場という友人が、『もう少し離れたところでやってくれないかな』と泣いていたのを思い出す。

…まぁ、アイツらの場合離れていてもかなりの被害が出るとは思うが。

 

「…じゃあ、俺そろそろ帰るわ」

「お、自分の代金はおいてけよ?」

「おいてる置いてる。んじゃ会計の時出しといてくれ」

「おう。またな」

 

二人に見送られ、ファミレスからゆっくりと外に出る。

……やはり、外は暑かった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

時は過ぎ、夜。

約束の時間、約束のファミレス(昼間に居た場所とは違う場所)の入り口に居るのだが…

 

「当麻は特売の魅力に負け、金欠……浜面はスキルアウトの連中と酒飲み対決の結果酔いつぶれ…一方通行は垣根と未だに戦闘中……」

 

メールを確認しつつ、苛立っているのを隠す事無く地面を強く踏みつける。

 

「結局誰も約束守んねぇじゃねぇか!!予想はしてたけども!」

 

店先で叫ぶ男一人に、店から出てきたカップルが奇妙なものを見るような目を向けてきた。

それでも俺の怒りは収まらない。

なんのために地獄ラザニアを食う度胸を用意してきたと思っているのかアイツらは。

 

今度絶対にアイツらの嫌いなもの食わせてやろうと心に決めつつ、特に何もせずに帰るのが癪だったので店の中へ。

店員に言われるがままに適当に席を探していると、とても奇妙なものを見つけた。

 

奇声を発しながら髪をバサバサと揺らして額を机に叩きつけ続けるその姿は、もはや日本のホラー映画に出てくる幽霊のようでもあり……

尚且つ、俺の友人の女にとてもそっくり―――いや、もはや本人であった。

 

「……何してんの」

「おぉおおおおお姉さまぁああああああ………はっ!?しょっ、翔馬さん!?」

「はいはい翔馬さんですよーっと……何新種の虫みたいな声出しながらヘドバンしてたんだよ」

 

いくら店内が空いているとはいえ、うら若き少女が…ましてや風紀委員がやっていい事ではなかった。

少なくとも、尊厳とかそう言ったものを全て捨てた行動だったと思う。

 

「あ、アレをご覧くださいまし…」

「ん?あー、御坂?それと……なんだいかにもやんちゃしてますみてぇな見た目の男達」

「…余り大きな声では言えないのですが、今お姉さまは彼らからある情報を得ようと」

「レベルアッパーとか?」

「ブッ!?――な、何故ご存じですの!?」

「何故も何も有名な話だろ?俺も気になって色々調べてみたしな」

 

半分嘘、半分本当だ。

この世界で聞いた事は無いが、原作の知識としては結構知っている。

…いや、レベルアッパーは禁書じゃなくて超電磁砲…別作品の方の話なんだが。

 

「…な、なら態々お姉様があの男達に媚びを売る必要は」

「無かったって事だな……はぁ、ちょっと助けて来るか」

「………それは、どちらを?」

「不良達」

 

即答。

だがその答えで正しい。

御坂……御坂美琴は、一方通行や垣根と同じレベル5。

まぁ2と3の間にはとても大きな差があると言われているがそれはそれ。

 

そんな御坂は、今は堪えているようだが、不良達の下卑た目線や下品な態度にいつまでも耐えれる保証がない。

そうなったら最後、怒りのままに周囲を電撃で焼き尽くすだろう。

 

いくら不良達が下半身的な理由で言い寄ったからとは言え、それで致命傷を負うのは可哀そうだと思ったのだ。

 

「よー御坂。何してんだ?」

「………あ、アンタは」

「あ?誰だテメェ」

「しがないレベル0っす」

 

名乗ると面倒くさいのでやめておく。

この手の連中の連絡網をバカにしちゃあいかんのだ。

 

俺の事を胡乱な眼差しで見つめてくる不良達と御坂に内心冷や汗をダラダラ流しつつ、自然に御坂の手を握り、適当なことを早口で宣う。

 

「いや、コイツ俺の彼女なんすよね。それで、なんかナンパされてるっぽかったし止めなきゃなーって思ってこうして入ってきたんすけど、彼氏が居るってわかった以上もういいっすよね?ね?ってなわけで俺はもうそろそろ彼女共々失礼したいなぁーなんて思っていたり思っていなかったりなんで、さらば!!」

「…は…?な、なんだったんだアイツ」

 

泣き出しそうである。非常に。

何が悲しくてこの狂暴電撃中学生の彼氏という設定にしてしまったのだろうか。

もっとこう、兄妹とか色々言い方があったと思う。

 

御坂と手を繋ぎっぱなしでひたすら走って、走って……鉄橋に来た所で、一度立ち止まる。

一応ファミレスを去るときに、背後から不良の諦めるような声を聞いたので大丈夫だとは思うが、念の為ここまで走ったのである。

 

「…はぁ、はぁ…いやすまんな御坂。こうでもしないとあの場から離れられなさそうだったもんで」

「……かのじょ」

「あん?……あぁ、咄嗟の言い訳とは言え悪かったな。流石にデリカシーだのなんだのが無かった。兄妹とか、他に言い方はあっただろうに」

「あっ、アンタなんかと誰がつ、つっ付き合うってのよ!馬鹿!」

「いや話聞いて?」

 

顔を手で覆いながらも俺を罵倒してくるその精神力は賞賛ものだが、俺だって傷つく時は傷つく。

一応俺のストライクゾーン(12~34)の中に入っている美少女(性格は気にしないものとする)に、ここまでストレートに罵倒されると、流石に心にダメージが入る。

 

青ピ…俺の親友であり、愛すべき愚かな変態でもある彼ならば、興奮してもう一度罵倒してくれと頼めるのだろうか。

 

「……ていうか何邪魔してくれたのよ!?もうすぐで聞き出せたのに!」

「レベルアッパーの件だろ?それは問題ねぇって。俺が良く知ってる」

「……はぁ?もしかして、アンタそれに」

「あんな怪しいモン誰が使うか」

 

御坂の言葉を遮り、呆れたという感情を隠すことなく答える。

 

凄く苛立った表情をされるが、それほどまでにウザかったのだろうか。

 

「じゃあ何?なんで知ってるのよ」

「ん?普通に有名だったからな。気になって調べてみたんだよ」

「…それで、何処まで知ってるの?」

「レベルアッパーの正体、大まかな概要…それと、仮説にはなるが原理と副作用」

「…ず、随分調べたのね…」

「気になると夜も眠れなくなるタイプでな」

 

これは本当だ。一度でも気にかかった何かがあれば、どうしてもそれが頭から離れなくなる。

悪い癖だと思うが、知的好奇心は大事な物だと思うから敢えて直さない。

 

「まず正体だが、アレは音楽データだ」

「…音楽?」

「多分だが、共感覚性を利用したんじゃないのか?あの風鈴の音を聞いたら涼しく感じるアレ」

「…それが能力の増強とどう関係するのよ?」

「あー。わかりやすく例えるならアレだな、普通のコンピュータを何個もつなげて、スパコン並みの演算力を出させてるって感じか?」

「何個もつなげるって……そうか、だから…」

 

物分かりが早いなコイツ。

 

優秀な奴は違うなぁと思いつつ、話を続ける。

 

「それと、レベルアッパーの使用を取り締まるのは止めた方がいいと思うぞ」

「…音楽データだから、データを完全に消し去らないと意味がないって事?」

「わかってるなら言わなくていいだろ……まぁ、これでどうするかとかは決まっただろ?」

「…なんで私が何とかしようとしてるってわかったの?」

「何とかしようとしてなかったら、そもそも聞き込みなんてしないだろ……それに、白井の奴も近くに居ただろ?だからどうせ、風紀委員絡みなんだろうなぁ、と」

 

まぁそこの話を詳しく掘り下げる気はない。

態々話すほどの事でもないし、な。

 

言うべきことは言い終えた、と態度で示すため、その場を立ち去ろうとする。

…が。

 

「待ちなさいよ」

「…なんすか」

「まだ話は終わってないわよ」

 

…どうやらこのビリビリ中学生、ただでは帰してくれないらしい。

 

「…私と勝負しなさい」

「またそれか。今回はまだ俺何もしてないだろ?」

「したわよ!私の手を勝手に握って!勝手にこんな人気のないところまで連れ込んで!あっ、挙句は…彼女、なんて…」

「いや全部あの場を切り抜けるのにはあれしか咄嗟に思いつかなかっただけで…」

「うるさい!いいから勝負よ勝負!」

 

周囲に電撃をまき散らしながら、俺を威嚇する御坂に、わざと大きくため息をつく。

 

その動作だけで、御坂は息を止めて後ずさった。

 

…アイツに、俺の能力はまだ知られていない。

故に、アイツは警戒し続けているのだ。

俺のただの溜息に、過剰に反応してしまうくらいには。

 

「……やるって言うのかよ」

「……当然」

「あっそ……じゃ、これでチェックメイトだな」

 

冷や汗を流しながら俺の言葉に頷いた御坂だったが、次の俺の言葉に完全に硬直した。

 

チェックメイト。その言葉を発した時、既に俺は御坂の眼前に迫っており、右拳を突き出していた。

普通なら電撃を発することの出来る御坂の方がまだ有利だと思うだろうが、それは違う。

 

御坂は、俺が何をしたのか見えなかった。

故に、敗北を喫した。

 

…要するに心が折れたのだ。

今この場では絶対に勝てないと、自分で諦めてしまったのだ。

 

事実、御坂の目にはもう先程までの闘争心が無く、あるのは恐怖と諦観だけだった。

 

「……また、まけたのね…」

「まぁ、鍛えてるからな。俺」

「鍛えてそんなになる?レベル4でもそこまで出せるかどうか」

「まぁ、身体能力強化系の能力者と違って、体を頑丈にはできないから。今の移動ですっごく全身痛いし」

 

情けないが、事実だ。

神に言われた通り、俺は鍛えれば鍛える程規格外の力を手に入れた。

しかし、肉体の硬度を鋼鉄並みにするなんて事はできないし、余りに早く動きすぎると自分の脳の処理が追い付かない。

 

体鍛えすぎても駄目なんすね…

 

「…じゃ、またな」

「……次は負けないから!」

「はいはい。期待せず待ってるぞー」

 

御坂の方を見ることなく、その場を立ち去る。

 

この後、自宅の前で清掃用ロボットに足をぶつけて悶えている当麻を発見した以外には何も事件は起きないまま、俺の夏休み前日は終わった。

 

…そして、俺が本格的に非日常に突っ込んでいくことになった夏休みが、幕を開けた。




次回、インデックスとの遭遇からです。


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禁書目録

一巻だけ行方不明なので、アニメ版の内容と自分の記憶を利用して書いているので三沢塾の話が始まるまではおかしい点が目立つと思いますが、そこはお気になさらず。


翔馬視点

 

「あー…朝か」

 

携帯電話のアラーム機能に叩き起こされ、目を擦りながら起き上がる。

カーテンを閉め忘れていたせいで、日光が遮られることなく部屋に入ってきている。

 

「こんな日には~ヤっシの実サイダ~」

 

即席の替え歌(なんかのCMの曲のもの)を歌いつつ、冷蔵庫を開ける。

中には、一般人からすれば常軌を逸していると言えるほどのヤシの実サイダーが貯蔵されていた。

禁書世界に転生し、幻想では無く原作をぶっ壊すと決めた俺だったが、ヤシの実サイダーという胡乱な名前の炭酸飲料には頭が上がらないのだった。

 

端的に言うと、うまい。

この独特な爽快感がたまらないのだ。

 

「うーん、これを飲んでからが一日だな。気分もいいし、布団でも干すか!」

 

いつになく意気揚々と(夏休み初日特有のテンション)移動し、布団をたたむ。

ベッドが備え付けだったが、撤去してもらって布団で寝ているのだ。

 

俺は床じゃないと寝れないタイプらしい。

鼻歌交じりに布団を外へ出そうとしたところ、突然足の裏に痛みが。

 

「痛ッ!?……うわっ、ゲーム機踏んじまった…無事か?コイツ」

 

本日一個目の不幸、襲来。

まぁ幻想殺しが右手にある時点で大体諦めていたので問題なし。

 

しかし痛いものは痛い。

泣いたりはしないが、しばらくの間のたうちまわる。

 

そのまましばらく痛みに悶えた後、立ち上がる。

まだジンジンするが、動けるようにはなったのだ。

先程よりも足元に注意しながら歩き、ベランダへ向かう。

 

そのまま、布団を干そうと視線を上に移動させて、気づく。

 

「…んだこれ」

 

白。

ともすれば布団にも見えるソレは、どうやら人のようだ。

 

……なるほど、ついにとうとう事件からこちらに干渉してくるようになったという事か。

 

「…お腹減った」

 

様々な感情の入り混じった溜息をついた俺等どうでもよいと言わんばかりに腹を鳴らしたその少女に、一瞬どう返事をすべきかと迷った後、答える。

 

「―――男飯でよければ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

翔馬視点

 

腹埋めたい時はこれが一番。待ってる間はコレを飲んどけ…

そう言って手渡したヤシの実サイダーだったが、存外インデックス(名前を聞いたわけでは無いが、恐らくそうだろうと判断)は気に入ったらしい。

現在は冷蔵庫の中の貯蔵に手を出し、四本目を飲んでいる。

 

好きなだけ飲んでいいなんて言わなければ良かったと、今になって後悔した。

 

「ほら、出来たぞ」

「わぁぁぁ!おいしそうなんだよ!いっただきまーす!」

 

適当に肉と野菜を油と塩コショウで炒めた物を提供すると、サイダーから手を離し、インデックスは掻っ込む様にして食べ始めた。

その食いっぷりが見ていて清々しかったので、つい笑顔になる。

 

かなりの量あった野菜炒めを三分ちょっとで食べつくしたインデックスは、笑顔でこちらを見ながら自己紹介を始めた。

 

「おいしいごはん、ありがとうなんだよ!私の名前はインデックス!魔法名は」

「ちょっと待て、インデックス?偽名かそりゃ」

「?ううん、本名なんだよ?」

 

長くなる魔法名のくだりは無理矢理言わせず、名前の話に持ち込む。

…しかし本当にインデックスだとは。

 

喜ぶべきか、面倒くさがるべきか…まぁ、自分から事件に首突っ込むくせにいざ相手から来たら嫌がるというのは変だとは思うが。

 

「本当はもう少し長いけど、インデックスだけでも名前としての体は成してるんだよ。それで、あなたの名前は?」

「天城翔馬。ちょっと変わった普通の高校生だ」

「しょうまって言うんだ!いい名前だね!」

 

まるでゲームのキャラのような返事をしてきたインデックスに対しツッコミを入れたくなるが、それはそれ。

ぐっとこらえて、質問を始める。

 

「それでインデックス。何でお前俺ん家のベランダに居たんだ?」

「落ちたんだよ」

「落ちたぁ?」

「追われてたからね。屋上から屋上へ移動しようと思ったんだけど…失敗しちゃったみたい」

 

…うん、知ってる通りだ。

原作が先に崩壊していたら反応に困るから、こうして一致していてくれると助かる。

 

そんな事を表情には出さずに考え、話の続きを促す。

 

「追われてた?一体誰に」

「魔術師だよ」

「魔術師ぃ?……まぁ、もし仮にそういう奴がいるとして、どうしてお前が追われる事になるんだよ?」

「…私の持ってる、十万三千冊の魔導書を狙ってるんだよ」

「十万三千冊?…なんだよ、図書館の鍵でも持ってるってのか?」

「違うんだよ。ここにあるの」

 

そう言って、インデックスは自分の頭を指さした。

…なるほど、どうやら概ね俺の知る物と同じらしい。

 

安堵しつつ、サイダーを飲んで話を続ける。

 

「……ま、色々言いたいことはあるが大体わかった。けどこの後どうするんだ?追ってきてる奴等から完全に逃げ切ったって断言するにはどうすりゃいいんだ?」

「…一応、教会に行けば匿ってもらえると思うけど、探しても見つからないから…しばらくは逃亡生活かも」

 

困ったような顔をしつつ、立ち上がったインデックス。

その目は、どこか諦めきった様子でありながら、今にも泣き出しそうで――

 

原作原作と考えていた俺の脳内が、急激に冷めていくのを感じた。

 

あぁそうだ。

俺は、こんな目をするこの子を、ただ助けたいだけだ。

 

だから、呼び止める。

 

「出てくつもりかよ」

「うん。いつまでもここに居ると、魔力を辿ってここまで魔術師が来ちゃうからね。しょうまも部屋をめちゃくちゃにされるのは嫌でしょ?」

 

それだけ言って、インデックスは再び部屋を出ようとした。

 

しかし、行かせない。

インデックスの肩を右手で掴み、真剣な表情で答える。

 

「そんなの気にしねぇよ。―――いきなり追われてるだとか言われて、ほっておけるわけねぇだろ」

「……じゃあ、私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?」

「ついていく気はねぇな」

 

俺の返答を聞き、悲しそうな顔を一瞬だけ見せ、手を振り払ったインデックス。

 

だが、まだ俺の話は終わっていない。

 

「でもな、お前を放っておくつもりもねぇんだよ」

「え…?」

「だから、お前をその地獄ってとこから引っ張りだせばいいんだろ?…任せとけって、こう見えて俺、誰にも助けを求められずに困ってる奴を救うのが得意なんだよ」

「―――本当に、助けてくれる?」

「任せとけって言ったろ?…それに、俺は強いからな。魔術師だろうがなんだろうが、俺が倒してやるよ」

 

それを聞いて、インデックスは涙を流し始めた。

堰を切ったように泣き始めたインデックスだったが、すぐに泣き止むことになる。

 

――先程、俺がインデックスの()()()()()で触れたのは覚えているだろうか?

歩く教会は、原作でどのようにして破壊されたかを、覚えているだろうか?

 

「……やべっ」

「―――きゃぁあああああああ!!」

 

反射的にだろう、俺に噛みついてきたインデックスを、罪悪感から防御することなく、甘んじて罰を受けるのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

翔馬視点

 

「…しかし見当たらねぇな…つっても、学園都市に教会があると思ってた俺が馬鹿だったか」

 

頭を掻きむしりながら、反省。

隣のインデックスも、少し歩きすぎたのか疲れ気味だ。

…俺の歩幅が大きかっただけか。

 

結局、あの後俺達は家を出て(インデックスの服は原作同様、安全ピンで固定されている)教会を探し始めた。

当麻達と違い、俺には補修が無い。

開発の方は落第と言っても過言ではないが、他はそれなりに優秀なのだ。

 

「取り敢えず今日はもう帰―――」

 

諦めて帰ろうとしたとき、異様な雰囲気に気づく。

…先程まで人がいたはずの公園は、俺とインデックスだけになっており、誰の足音も聞こえなくなってしまった。

 

…人払い、だろう。

だとしたら、ここにいるのは―――

 

「残念だけど、それは無理だね」

「っ、しょうま…」

「下がってろ、インデックス……お前が魔術師だな?」

 

インデックスを庇うように前に立ち、質問する。

 

相手は、赤い髪に目の下のバーコード、そして咥え煙草が印象的な大男。

知っている。

この男の名前は…

 

「うん?うんうん、そうだとも。僕が魔術師、ステイル=マグヌス…そう名乗りたいところだけど、ここではFortis931と名乗ろうかな」

「…なんだそれ」

「魔法名だよ。まぁ端的に言えば―――殺し名、かな?」

 

ステイルがそう告げた瞬間、俺に向かって巨大な炎の塊が飛んできた。

 

一瞬回避する選択肢が脳内に浮かぶが、そうしてしまえば背後のインデックスが危険だと判断し、インデックスを突き飛ばす。

 

「しょうま!?」

「ふん、予想外に弱かったな…ま、その子を庇ったことだけは評価してやるよ」

「おいおい、防いだことは評価してくれねぇのかよ?」

「何ッ!?」

 

右手を横に薙ぎつつ、余裕そうな笑みを浮かべる。

元々幻想殺しが通用する事はわかっていたので、余り恐怖は無かった。

 

驚愕しつつも、すぐに気を取り直して次の攻撃を用意するステイル相手に、俺は迷わず駆け出した。

 

「速ッ…!灰は灰に、塵は塵に…吸血殺しの紅十字!!」

 

何かが書かれている紙を手に持ち、ステイルが叫ぶ。

すると、突然炎の柱が出現し、十字の形になって俺を襲った。

 

再び右手で防ぎ、消滅させる。

幻想殺しの処理限界に及ぶ技で無い事は、既に知っていたからだ。

 

「そらッ!」

 

左手で殴り掛かるが、ギリギリで回避された。

…仰け反った結果、奇跡的に回避できたのか。

俺には到底できないな。奇跡的な回避は。

 

「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ…それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり。それは穏やかな幸福を満たすと同時に、冷たき闇を滅する凍える不幸なり、その名は炎、その役は剣顕現せよ、我が身を食らいて力と為せ……魔女狩りの王(イノケンティウス)!!」

 

回避されたせいで生じた隙を逃さず、ステイルはイノケンティウスを召喚する。

 

どうやら、姿を現す前に準備していたようだ。

 

「魔女狩りの王、イノケンティウス…その名の意味は、必ず殺す」

「―――いいね、面白い」

 

イノケンティウスが俺とステイルの間に出現しているせいで姿が見えないが、余裕を取り戻している事はわかった。

 

…確か、幻想殺しじゃ倒しきれないんだっけか。

 

「ま、物は試しってなぁッ!」

 

強めにイノケンティウスを殴りつけると、一瞬の抵抗の後、体が爆発四散した。

一度消滅したおかげで見えるようになったステイルの顔は、切り札がやられたというのに余裕が残っていた。

 

…つまり、これは…

 

「まだ動くってのかよ…!」

「ははっ、僕も忘れないでもらいたいね!」

 

再生し、武器のような物を叩きつけてくるイノケンティウスに加え、ステイルも炎の十字架を投げつけてくる。

 

…だが、この程度の逆境等、なんてことはない。

体を無理矢理捻ってイノケンティウスをもう一度一瞬だけ消滅させ、その隙にその場を移動し、ステイルに迫る。

背後に感じるイノケンティウスの攻撃の気配に対応し、今度は武器の方を右手で()()、腕の力だけで体を上に持ち上げる。

 

その後、武器から手を離し、体を無理矢理捻って踵落としをステイルに喰らわせる。

 

「終わりだ!」

「なっ…ぐぶっ!?」

 

回避できずに攻撃を喰らったステイルは、そのまま意識を失って倒れた。

 

…勝ったか。

 

「……帰ろうか」

「…うん」

 

色々聞きたいことがある、と言いたげな顔をしているインデックスに、どうやって説明するかなぁ…と思いながら、帰路につくのだった。




次回、VS聖人


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人外

翔馬視点

 

「…という訳で、世話になりたいんですが」

「どういう訳なんですかぁ!?」

 

あの戦闘の後、家から生活必需品をいくつか持ちだして、俺達は小萌先生の家に向かった。

自分の家でも良かったが、原作通りツリーダイアグラムを破壊するなら(まぁ当麻は意図せずという感じだったが)ここの方がいいと思ったのだ。

 

シスターズの問題を拗らせたくないしな。

 

「いきなりシスターさんを連れて来るし、しばらくの間泊めてくれって言うし、挙句に土下座はするし…一体どうしちゃったのですか?天城ちゃんらしくないのです」

「――え?俺って結構先生を頼る事多くないっすか?」

 

そうだ。

俺は何か自分の家だと都合が悪いときや、大人の力が必要な時は、小萌先生を頼るようにしている。

本人も頼られる事は満更でもない様子なのがまた、俺が頼ってしまう理由の一つであるのだが。

 

「…ま、まぁそうですけど……先生だって、いつでも準備が出来ているってわけじゃ」

「多分数日中に決着がつくので大丈夫です」

「余計に不安ですぅ!」

 

―――結局、俺達は泊めてもらえることになった。

その代わり、一か月間小萌先生の雑用係を命じられてしまったが。

青ピなら狂喜乱舞するだろう役割を与えられたが、これから先生にかける迷惑に比べればなんてことなかった。

 

……というやり取りから、二日後。

小萌先生の家に風呂が無いという驚愕の事実を知り、俺とインデックスは急遽銭湯に行くことを決意。

 

因みに先生はあるにはあるがゴミ袋が占拠しているという風に言っていた。

人はそれを、無いものとして扱う。

 

「おっふろ、おっふろ、おっふっろ~!」

 

陽気に鼻歌を歌いながら俺の前を歩くインデックスを、生暖かい目で眺める。

 

先生が家を空けている間に、いくらか俺についての話をした。

右手の幻想殺しの事、筋トレしてただけで何故か音速を超えられるようになったこと、等々。

インデックスの知識をもってしても、俺の謎の身体能力は説明がつかないらしかった。

 

本人は「それっぽい情報なら幾つかあるけど、多分あり得ないかも」との事。

 

「ねぇしょうま、コーヒー牛乳って何?カプチーノの亜種?」

「そんなお高いもんじゃないが…そうだな。風呂上がりに飲むコーヒー牛乳は最高って事は確かだ」

「そうなの!?すっごく飲みたくなってきたんだよ!」

「ははは、ならまずは風呂に入らないとなー」

 

俺を目を輝かせて見て来るインデックスに、自然と笑みを浮かべてしまいながら歩く。

何と言うか、明るく振る舞ってる奴が近くに居るだけで、こっちも気分が明るくなるな。

 

…さて、来たか。

 

「インデックス、巻き込まれないくらいの距離をとっておいてくれ」

「っ、う、うん…」

「…気づいていましたか」

 

あまり離してインデックスを攫われてしまっては困るので、一応目の届く場所に待機させる。

すると、以外そうな声を出しつつ、誰も居なくなった道路を一人の長身の女性が歩いてきた。

 

整った顔立ちと綺麗な長いポニーテールだけ見ればただの美人だが、着ている服は奇抜そのもの。

ジーンズの片足側をバッサリと切り落とし、腹部を見せつけるように白いシャツをたくし上げていた。

挙句は二メートル程の刀を、これ見よがしに携えていた。

 

「…天浄消魔(てんじょうのしょうま)ですか、良い真名()ですね」

「そういうアンタはなんて名前なんだ?」

「イギリス清教の、神裂火織と申します」

 

丁寧な口調で自己紹介をしてきた神裂に、警戒を緩めないままさらに質問する。

 

「それで?そのイギリス清教とやらの人がなんの用だよ?」

「私達の目標はその子…禁書目録(インデックス)の保護、ですので……大人しく、引き渡してもらえませんか?」

「そりゃ無理な相談だな。助けるって約束したし―――何より、お前らにインデックスを渡したら、何されるからわかったもんじゃないからな。守り抜いてやるよ」

 

言葉と同時に駆け出す。

ほぼ一瞬で神裂の背後に移動し、右手で力強く殴りつけようとし…たが、紙一重で回避され、カウンター代わりに蹴りを入れられる。

 

…やっぱりダメージには弱いな。

幾ら鍛えても防御が弱すぎる。

 

「…とても常人とは思えない速度でしたが…一体何者なんですか?」

「何者って言われてもな…ただの一般人だよ、俺は。つい最近までは魔術のまの字も知らなかったんだし」

「…聞いても無駄、という事ですか」

 

会話が途切れると同時に、再び殴り合いが始まる。

…いや、殴り合いというのは語弊があるだろう。

俺の攻撃を、神裂は躱すか防ぐかしかせず、時折俺を吹き飛ばす攻撃も、案外痛くは無かった。

なんというか、気絶させようとしているだけ…という感じがする。

 

「――解せねぇな。なんで態々手心加えたりするんだ?インデックスを回収したいってんなら、俺を殺してからでも構わねぇだろ」

「……出来るなら、私はもう誰も傷つけたくはない。―――何より、あの名はもう名乗りたく無い」

「魔法名か」

「えぇ。――殺し名等、名乗って何があるというのです」

「そうか。まぁ俺も殺す気はねぇしな―――って事はだ。お互い、諦めさせた方が勝ちって事になる」

「―――一応聞きますが、彼女の身を引き渡す気は?」

「ねぇな……聞くが、インデックスを手に入れたい理由は、本当に十万三千冊の魔導書目当てか?」

「……何を」

「ステイルとか言う奴も、お前も…勘だが、どうも慈愛に満ちた目をしているもんでね。まるでお前ら」

「七閃!」

 

俺の言葉を遮るように―――いや、インデックスに聞かれないようにするために、神裂が指を動かす。

すると、甲高い音と共に不可視の斬撃が俺に迫ってきた。

 

……タネは元々知ってるが、普通は見えないもんだろうと思っていたんだが…

 

「しょうま!?」

「問題ねぇ。この程度なら避けれる」

 

実際、どれだけ怒っているように見えても殺気は込められていない。

本気ならどうなるかわからないが、殺す気はない攻撃だ。

 

「……まさか、全て見切るとは」

「七本じゃ足りないな。せめて三倍は用意しておいてくれよ」

 

余裕を感じさせるように言うが、正直増やさないで欲しい。

別に回避するのに余裕が無かったのかどうか聞かれれば、全然余裕だったと答える。

 

…だが、肝心なところでミスをしやすいタイプなのと、運要素が絡む(足元に何かが落ちている等)と途端にマイナスに向かってしまうという事もあり、正直これ以上攻撃を苛烈にされたくない。

 

「―――いいでしょう。貴方に手を抜いてかかるのは危険。でしたら…名乗る他、無いでしょう」

「生憎、名乗りを待つような性格じゃないんだよなッ!」

 

刀に指先で触れたまま、静かな声音で瞳をそっと閉じた神裂に、俺は言葉と同時にローリングソバットを喰らわせる。

…が、すんでのところで刀(実際は鞘)に防がれ、そのまま押し返される。

 

「―――Salvare000(救われぬ者に救いの手を)!!」

「っ、まじか!?」

 

着地したその時、神裂が名乗り、先程とは比べ物にならない速度でワイヤーが俺に迫る。

 

…よけきれない、か。

 

「なら、防ぐしかねぇだろ!」

 

俺の右隣にある電柱を思い切り蹴りつけ、へし折る。

倒れながらワイヤーを巻き込み、攻撃を防いだ。

 

…聖人の攻撃をただの電柱が防げるわけがないと思うだろうが、流石は学園都市製と言うべきだろう。

かなりの硬度を誇るワイヤー相手に、傷一つ無く耐えきったのだ。

 

…ならそれほど硬い物をよく蹴りだけでへし折れたなと思うだろうが、それはノーコメントだ。

自分でも説明のしようがないものだからな。この身体能力は。

 

「…名乗ったな、アンタ」

「えぇ。そうでもしなければ…彼女を保護できないと判断したので!!」

 

再びワイヤーが俺を襲う。

それをギリギリ躱すが、少し頬に裂傷が生じてしまった。

 

…殺す気での攻撃は、流石に完全回避できないか…?

 

拳を握りつつ、再び攻撃が来る前に駆け出す。

いや、攻撃が来てももはや関係ない。多少の怪我くらい気にせず、こちらの攻撃を当てるのが先だ。

 

「オラァ!!」

「ぐうっ…!?」

 

全身を使っての、渾身の右ストレート。

そこらのビルなら崩す事が出来る程の一撃(骨が折れるか罅が入るかしてしまうが)を、神裂は防御する事無く喰らう。

 

…いや、間に合わなかったと言うべきか。

 

ボディに一撃を受けた神裂は、そのまま崩れ落ちるかに思えたが…

 

「唯、閃!!」

 

強く踏み込み、柄を握りしめて抜刀。

二メートル程の刃が、俺を切り裂かんと振るわれた。

 

まさか耐えられると思っていなかった事と、神裂のあまりの気迫に押されて動きを止めてしまいそうになるが、こちらも強く地面を踏みしめ、右手を振るう。

刃と正面から打ち合って耐えられるわけがないので、鎬の部分を殴りつけるように、アッパーカットで応戦する。

 

刀に拳が触れた瞬間、何かが無くなっていくような感覚の後、神裂の刀は宙を舞った。

…どうやら、別方向からの力を受けても握っていられる程の力は、残っていなかったようだ。

 

「―――私の、負け…ですか…」

「っと……いや、粘り勝ちだな」

 

刀が手を離れると同時に俺の方へ倒れこんできた神裂を受け止めつつ、苦々し気に言い放つ。

俺の言葉の意味がよくわからなかったのか、神裂は首をかしげる。

 

…俺の視線の先には、インデックスの首根っこを掴んでこちらを見つめてくる、ステイルが居た。

 

「――負けたよ。いつから居たんだ?」

「…神裂が七閃を使ったあたりからさ。君は一人ずつ相手する余裕のあるような、楽な奴じゃないって判断したからね……実際、その通りだったみたいだけど」

「………インデックスを返せ。じゃねぇとこの女の首をへし折る」

「そんなちんけな脅しが通用するとでも?……心にも無い事を言うな。こっちもやり方を変えるつもりだしね」

「……あ?」

 

いつもよりも少しばかりキレ気味で会話する。

それは、自分の至らなさに対して怒っているからなのか、はたまた――ステイルに捕まえられているインデックスが、酷く申し訳なさそうにこちらを見てきているからか。

 

そんな俺に、ステイルはどこか不服そうに口を開いた。

 

「…無理矢理でも連れていくつもりだったけど、君も当事者になったわけだし。ある程度の話はしてやるかなってね……その後、別れの一言くらい言わせてやるさ。業腹だけどね」




説明を増やしすぎるとくどくなるので、中々説明不足のところがあったりすると思いますが、そこは話が進むと説明されていくと思うので辛抱強く読んでください。

次回、禁書目録編終了。


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終幕

はい、オリジナル展開スタートです。
どんどん救済していきましょうねぇ(ただし別の見方をすれば…)


翔馬視点

 

「……なんだよ、それ」

「なんだよも何もこの通りさ。今はまだ元気そうだけど、明日や明後日もそうとは限らない……わかっただろ?」

 

小萌先生の家で、ステイルと俺がテーブル越しに向かい合う。

神裂とインデックスは外にで待機している。

俺が変な気を起こして、危害を加えられたくないんだと。

…正直一体一の方が危険だとは思うが…まぁ、インデックスを最優先にしたら、こうなったんだろう。

 

そんなどうでもいい事が脳裏を掠るが、それは特に気にせずに、愕然とした表情のまま口を開く。

 

「十万三千冊の魔導書が脳の大部分を埋め尽くしていて、そのせいで一年ごとに記憶を消さないと、完全記憶能力の影響も相まって脳がパンクしちまう…だって…?」

「あぁそうだ。言っておくけど、『自分なら何とか出来る』みたいな戯言は止めてくれよ?魔術側ならともかく、科学側の人間の…それも、訳の分からない改造を受けてるような超能力者(化け物)の何とかできるは微塵も信用できないからね」

「―――いや、何とか出来るも何も、おかしいんだよ」

「……は?」

 

俺の言葉に、ステイルが眉を顰める。

何を言ってるんだコイツ、話を聞いてなかったのか、という感情が、ありありと分かる。

 

だが、気にせずに言葉を続ける。

ステイルが聞く耳を持たないとしても、説明はしておくべきだと思ったからだ。

 

「……そもそも魔導書だのなんだのの記憶と、生活していて残っていく記憶とかは、全部違う場所に記憶されてくんだよ」

「何を言って」

「意味記憶、手続き記憶、エピソード記憶って言ってな。ほら、記憶喪失の人間でも言語は覚えてるだろ?それと同じだ。――因みにお前ら曰く八十五パーセントを占めている魔導書の記憶は、意味記憶に分類されているな」

「……なら、なんで実際にあの子が一年ごとに苦しんでいた!僕は毎年見たぞ!あの子が苦しむ姿を!!」

「……あのな。インデックスの持つ記憶を魔術師が好き勝手扱えたら、そいつは魔神とか言うのになるんだろ?もしインデックスの記憶を消さないでおいて、教会に不信感を抱かれたり疑問を抱かれたりしたら…な?」

 

俺の言葉を聞いて、ステイルは沈黙した。

思い当たる節はあったのだろう。でなければ、あんな顔はしない。

 

「それと、アイツが魔術を使えない理由もそれだろうな」

「…なんだって?」

「魔術ってのは基本、誰でも使えるもんなんだろ?なのに使えないって事は、使うために必要な魔力が『アイツを一年周期で苦しめる何か』に全部取られているからなんじゃないか?」

「―――くそっ…そう言う事か、あの女…!!」

 

歯噛みしつつ、全てが繋がった、というような顔をしているステイルを尻目に、外へ向かう。

 

…二人を、呼ばなくては。

 

「どこに行く」

「あ?そりゃインデックスの苦しんでる原因を取り除くんだよ」

「無理だ!そりゃ君の右手は異能の力全てに通じるんだろうけど…それらしきものが見当たらないんじゃ、消しようがないじゃないか!!」

「…当てはある……あくまで勘、だがな」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ステイル視点

 

神裂とインデックスを部屋に居れ、再び説明をした。

奴は平静に話していた物の、どこか焦っているようにも見えた。

 

そりゃそうだろう。

消せる()()()()()()…所詮、可能性どまりなのだ。

確証がない以上、このまま探すだけ探して無駄骨と言う可能性もある。

 

それこそ手で触れられないような体内だとか、別の場所に保管されている可能性があるのだ。

いくら触れればどうとでもなるからと言って、余裕はなくて当然だろう。

 

「……それで、貴方の勘では、どこにソレがあるのですか?」

「…喉の奥だ。脳に一番近くて、尚且つ目で確認できる……それに、数少ない手の届く場所だからな。正直、そこだと良いなっていう願望も入ってる」

 

苦笑いしつつ、右手を握って開く。

その手が少し震えているのを見て、どうしようもなく嫌な気分になる。

 

…まるで、あの時の自分を見ているようだ。

淡い希望を持って、記憶を消さなくてもよくなるのではと思って試して…失敗して。

そうして絶望に打ちひしがれるのが、常だった。

最後の最後まで抗っても、結局はあの子の手を握って涙を流して別れの言葉を言う他なかった自分を思い出す。

 

「というわけで神裂。インデックスの喉奥を見てみてくれ。俺が確認してそのまま触れてもいいが、素人目にはわからないタイプかもしれない」

「…わかりました……よろしいですか?」

「う、うん…」

 

神裂が、インデックスの口内を覗き込む。

しばらくの間無言で探していた彼女は、突然声を出した。

 

「あ、ありました!」

「やっぱりか!俺の手が届くような場所だな!?」

「は、はい…しかし」

「しかしも何もないだろ!」

 

本当にどうにかなるのでしょうか、と言おうとした神裂に言葉をかぶせ、インデックスの前に立つ。

 

「…いいか?インデックス」

「うん。―――少し、怖いけど。しょうまなら、なんでか信じられるんだよ」

「…そうか」

 

一瞬だけ笑みを見せ、奴はあの子の口の中に右手を入れた。

ゆっくりと、ゆっくりと奥まで手を伸ばして―――突如、何かが壊れるような音と共に、あの子の様子が変わった。

 

「警告。第三章第二節。Index-Librorum-Prohibitorum―――禁書目録の『首輪』、第一から第三までの全結界の貫通を確認。再生準備……失敗。『首輪』の自己再生は不可能、現状、10万3000冊の『書庫』の保護のため、侵入者の迎撃を優先します。『書庫』内の10万3000冊により、防壁に傷をつけた魔術の術式を逆算……失敗。該当する魔術は発見できず。術式の構成を暴き、対侵入者用の特定魔術ローカルウェポンを組み上げます。

―――侵入者個人に対して最も有効な魔術の組み込みに成功しました。これより特定魔術『聖ジョージの聖域』を発動、侵入者を破壊します」

 

はじき出された右手を抑えつつ、急に無機質な声で話始めたあの子を…奴は、何処か歓喜した表情で見ていた。

発していた言葉から察するに、すぐに攻撃が開始されるのだろう……だというのに、だ。

 

いや、何故喜んでいるのか等、わかっていないはずがない。

僕だって、同じ立場なら喜び、歌いだしてもおかしくないだろうし。

 

―――自分の手で、あと一歩であの子が救えるという所まで来ているのだ。

そりゃ喜ぶに決まってる。

 

「――終わらせてやるよ、この幻想(悪夢)を」

 

犬歯を剥き出しにし、奴は右手を強く握りしめて駆け出した。

それと同時にインデックスの眼前に巨大な赤黒い魔法陣が出現し、光の柱を吐き出したが、奴は右手を突き出し、防御した。

 

…あの一撃も防ぐ、のか…

 

呆然と立ち尽くす僕らに、奴は声を張り上げた。

 

「なに突っ立ってんだお前ら!!いつまでも抑えてられるわけじゃねぇんだ…お前らもコイツを助けたいってんなら、やれる事全部やりやがれ!!」

「『聖ジョージ聖域』は侵入者に対して効果が見られません。他の術式へ切り替え、引き続き『首輪』保護のため侵入者の破壊を継続します」

 

さらに攻撃が苛烈になり、奴の右手に傷が生じ始めた。

 

そこでようやく、まるで何者かに掴まれていたかのように不自由だった体が動きだした。

 

――あぁ、そうだ。僕だって、あの子を救いたいし助けたい――そのためなら、命だって惜しくはないはずだ――!!

 

Fortis931(我が名が最強である理由をここに証明する)!!」

Salvare000(救われぬ者に救いの手を)!!」

 

僕と神裂が魔法名を叫んだのは、偶然か必然か…同時だった。

 

僕がルーンを部屋の壁に貼り付け、神裂がワイヤーを使ってあの子の足元をひっくり返し、攻撃を上にそらした。

屋根を貫通し、遥か上空へと攻撃が向かっていったその隙に、奴に問う。

 

「…なぁ、君は本当にあの子を何とかできるんだな?」

「あぁ…あの魔法陣…あれさえ俺の右手で消せば、インデックスは元に戻るはずだ」

「では…私があの子の攻撃進路を変えさせます。ステイルはイノケンティウスで防御してください…貴方は、あの子の魔法陣を消す事だけ意識してくれれば構いません」

「わかってる……ここで、終わらせてやらねぇと」

 

今までの浮ついた様子は何処へやら、真剣な表情で右手を硬く握りしめる。

 

神裂が少し頬を染めているが、それを指摘しているような暇はない。

………まさか、まさかとは思うが、あの子も神裂の如く奴に一定以上の感情を抱いたりはしていないだろうな。

いや、神裂を一日足らずでこんな風にしたとは言え、その原因は今の表情だろう。

 

だとしたら、遠くから監視していた時には見せていなかった以上、あの子がこんな風になっている可能性は無いと

 

「おいステイル、どうした」

「…どうか、したかい?」

「いえ、少し上の空の様子でしたので…」

 

それは君の方じゃ無いのかいという反論はぐっと抑え、イノケンティウスを呼び出す。

 

…こういう話は、後に考えればいい。

一生あり得ないと思っていた光景に、少し混乱していただけだ。

今は、あの子の事だけ考えればいい。

 

少し不安そう(僕の方が不安だと言いたい)にこちらを見て来る神裂と対照的に、奴は気にすることなく走り出した。

僅か数メートルの空間を、これほどまでに長く感じた事は恐らくないだろう。

 

「任せたぞ…能力者」

「警告。第六章第十三節。新たな敵兵を確認。戦闘思考を変更、戦場の検索を開始……完了。現状、最も難度の高い敵兵『天城翔馬』の破壊を最優先します」

 

僕達に向けられていた視線は、すぐに奴に向けられた。

 

…まぁ、一番の脅威は奴だろうが……

 

「癪だが、守れ!イノケンティウス!!」

 

再び放たれた極光を、イノケンティウスが全身で受け止める。

 

今はまだこちらの再生速度の方が上回っているが……恐らく、十万三千冊分のデータをもとに、すぐに攻略法を編み出されるだろう。

 

その懸念は当たっていて、インデックスは何の感慨も無く、無機質な声を発した。

 

「警告、第二二章第一節。炎の魔術の術式を逆算に成功しました。曲解した十字教の教義をルーンにより記述したものと判明。対十字教用の術式を組み込み中……第一式、第二式、第三式。命名、『神よ、何故私を見捨てたのですか(エリ・エリ・レマ・サバクタニ)』」

「くっ……七閃!!」

 

再生速度が間に合わなくなっている様子を見て、神裂は歯噛みしつつもワイヤーを手繰る。

 

足場をひっくり返そうとした物の、一瞬だけこちらに視線を向けたインデックスは、何を言う事も無く飛び上がり、回避した。

 

……攻撃の意思がない事や、どのようにすれば回避できるのか…それを全て、あの一回で理解したって事か。

 

「ぐっ…あ、あああああああああッ!!」

 

イノケンティウスも消され(厳密には、再生と同時に破壊されているというべきだが)、神裂も妨害も躱された結果、奴は動きを止め、防御に徹する他無くなった。

 

しかし、今までの攻撃とは比べ物にならない力に右手が耐えれなくなっているのか、時折骨が軋む音等が聞こえてくる。

 

……そして、ついに奴の右手は()()()

ぐしゃり、と生々しい音をたて、力に耐え切れなくなった奴の右手は肉塊へと変貌した。

―――だが。

 

「うぉおおおおああああ!!」

 

突如、肉塊から黒い何かが溢れ出し、インデックスから発せられている光の柱に絡みついた。

ソレは、まるで腐らせるかのように光の柱を侵食していき、完全に消滅させた。

 

理解しがたい現象に対し、一瞬硬直したインデックスへ、奴は迷わず肉塊を振るった。

魔法陣を肉塊…いや、黒い何かが撫でた瞬間、まるで吸い上げられるかのように消滅した。

 

「警、こく。最終……章。第、零―……。『首輪』、致命的な、破壊…再生、不可………消」

「これで、終わりだぁあああ!!」

 

()()()()()、奴はあの子の頭に触れた。

すると、黒い何かが這うようにあの子の頭を蠢き、すぐに消滅した。

 

「い、今のは…」

 

呆然と呟いた神裂に、僕はただただ頷く他できなかった。

 

結局、僕達が動き始めたのは、奴とあの子が同時に倒れこんでしばらく経った後だった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……誰だ、お前」

 

誰も居ない。居ないはずの空間。

 

暗闇のほかには自分のみだというのに、俺はある方向へ問いかけた。

自分でもその発言の意図が分かっていないというのに、暗闇は問いに応じた。

 

『俺は、何者でもあり何者でもない』

「…なに、言ってるんだよ…」

『ま、気にしない事だ……取り敢えず、ありがとな。久しぶりに表に出れて、尚且つ満足するまで()()()わけだしな』

「だから何を言って」

『いつかわかる。―――()()()、天城翔馬』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

翔馬視点

 

「はっ!?」

 

服が張り付いて気持ちが悪い。

寝汗はさほど酷くないタイプなのだが、嫌な夢を見てしまった(実の所内容は覚えていないが)事もあり、今は酷く汗をかいていた。

 

「…ここは、病院…?ってあぁ、怪我したのか」

 

記憶が曖昧だったが、病院に居るという事は怪我をしたという事だろう…そう思って体を見回すが、特に異常がある様子はない。

 

…そうか、気絶したのか。

確か、インデックスの魔法陣をなんとかしようとして、攻撃を防いだ時に右手が潰れて……

 

「…そうだ!アイツは!?」

「しょーうま!!」

「わぶっ!?」

 

そこで全てを思い出し、急いでベッドから飛び出した。

 

…のだが、突然部屋に入ってきて、そのまま俺にダイブしてきたインデックスに押し倒され、再び俺はベッドへ横たわる事になった。

 

「…ってインデックス!?お前、無事か!?」

「うん。私は元気一杯なんだよ!!」

「インデックス、ここは病院ですよ……それに、いくら彼が何ともないと診断されたとはいえ、いきなり飛び掛かるのは非常識です」

「う、うん…わかったんだよ、()()()。ごめんね?しょうま」

「あ、あぁ…大丈夫、だけど……どうしてお前、神裂を」

「……そのことについても、説明しないといけませんね…外に出ても問題ないと言われていますし、そこで話ましょうか」

 

柔らかい笑みを浮かべながら告げた神裂は、インデックスに手を伸ばした。

その手をインデックスはにこやかに握り、俺の方を見て、早く来いみたいなことを言ってきた。

 

……何が、起こった?

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

三人称視点

 

病院の外…神裂達に連れられて翔馬が向かった先には、煙草を吸いながら黄昏ているステイルが居た。

 

インデックスはその姿を見て、二人の手を離してステイルへ駆け寄っていった。

 

「ステイル!」

「うん?天城翔馬を呼んできたのかい?」

「うん!…それはそれとしてステイル。昔から言ってるけど、あんまり煙草を吸うのは駄目なんだよ。吸い過ぎは体に悪いんだよ」

「うっ…わ、わかってるさ…」

 

駆け寄ってきたインデックスに対し、ステイルは今までからは想定できないような優しい笑顔を見せた。

その次の言葉にも、バツが悪そうにしながら煙草を片付ける事で応じた。

 

まるで随分前からの友人と交わすような会話をしている二人に、翔馬は一人混乱する。

隣を見てみれば、神裂が微笑ましそうに見つめているではないか。

 

やはりこの状況に異常性を感じているのは自分だけか、と翔馬は頭を抱える。

 

「……さて、そろそろ説明しましょうか…あのベンチにでも座って、どうですか?」

 

神裂の言葉に促されるままにベンチへ座り、落ち着かない様子で翔馬は問う。

 

…一体、何があったのかと。

 

「まず、あの子はもう一年周期で記憶を消去する必要が無くなりました。貴方の予想が正しかったという事ですね」

「…あぁ」

「そして……貴方の破壊された右手から生じた何かが、『首輪』の破壊以外に、もう一つある事を成したのです。それを救いと言うべきか否か…少なくとも、私達は諦めきっていた事ですし、感謝しているのですが…」

 

一度言葉を切り、神裂はインデックスとステイルの方へ視線を向ける。

 

その後すぐに翔馬へと視線を戻し、ゆっくりと告げた。

 

「彼女の…インデックスの、消されたはずの記憶を、戻したのです」

「消されたはずの記憶を?戻した…?お、俺が?」

「はい。――本当に、ありがとうございます。貴方のおかげで、二度と叶うはずの無かった『真の意味での再会』が叶いました」

「い、いや…頭を上げてくれ。もしかしたら、インデックスにとってはあまりよくないかも知れないし…」

 

その懸念は当然だった。

今まで消されていたとは言え、自分に親しくしてくれていた人達に対して、ある時は敵意を向けてた可能性すらあるのだ。

 

心優しいインデックスだからこそ、その自分の行動全てを思い出したことで、苦しんでいるかも知れなかった。

そして、その事実が翔馬には耐えがたかった。

 

自分でも良くわかっていない現象のせいで記憶を全部戻させたと言われ、しかもそれが自分が助けると決めた少女を傷つけているかもしれないのだ。

ステイルや神裂の手前明るく振る舞っているだけで、裏ではどれだけ自分を責めているのか分からない。

 

「そうかも、知れません…ですが、あの子はもう決心したらしいですよ」

「……決心?」

「――それは、あの子自身に聞くべきでしょう」

 

そう言うと、神裂は二人の居る場所へと歩いて行った。

そして、インデックスに何かを囁くと、インデックスだけが翔馬の元まで駆け寄ってきた。

 

「…しょうま」

「インデックス……その、なんていうか…戻ったんだな、記憶」

「うん…しょうまの、おかげだよ」

 

違う、と否定したかった。

 

翔馬自身、自分の右手についてはわかっていないのだ。

()()()()()()()()()()()()だという事以外、何も理解してはいない。

今回も()()、勝手に右手が暴走して終わっただけだとしか思っていない。

 

だが、否定できなかった。

否定した所で、『お前を苦しめているのは俺のせいじゃない』と、『俺は悪くない』と見苦しく言い訳するだけのように思えたからだ。

 

「……あのね、しょうま」

「…なんだ?」

「私…今まで会ってきた人に、もう一度会いたいって思ったの」

「っ……そうか」

 

当然だ。

別に翔馬だけがインデックスに良くしてきたという訳ではない。

 

寧ろ逆だ。

ステイルや神裂のように、非情に徹するようになった人間の方が少ない。

 

別にインデックスと過ごした日々はそれほど長くもないというのに、いざ面と向かってもう会えないと言外に言われれば、動揺した。

 

「……もしかしてしょうま、私がこのままどこかへ行っちゃうって思ってる?」

「な…何言ってるんだよ。当たり前だろ…だって、お前が今まで会ってきた奴等ってのは、ここじゃないどこかに」

「うん。だけど……皆には勿論会いたいよ?けど…私はまだ、しょうまと一緒に居たいんだよ」

「―――どうして」

「…だって、約束してくれたからね」

「約、束?」

 

たどたどしく聞き返す翔馬に、インデックスは笑顔で答えた。

 

「助けてくれるって約束。まだ、続いてるんだからね?」

「―――そう、だな……約束は、守んねぇとな!」




インデックスの記憶が戻ってくる展開は予想しなかったでしょう!!…え、他にやってる人なんていませんよね?よね?(露骨に動揺)
終わりが少し臭くなってしまった気もしますが、それはご愛敬。

因みにステイルや神裂からの好感度は、上条さんよりも高くなっております。
まぁ、インデックスの記憶を戻したからと言って必ず感謝されたり喜ばれたりするとは限らないのですが、このまま嫌われたら先の話を書く時に色々面倒なので、無理矢理こうしました。

本当はもう少し各々の心情とかに気を遣いたいんですがね…


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吸血殺し
自称魔法使いな巫女


二巻の無いように入りました。
原作だいすきお兄さんの僕ですが、自分で小説にするとなると違う部分を作りたくなるものです。
だって、インデックス記憶戻ってるんだもん。


翔馬視点

八月八日。うだるような熱気の中、俺とインデックスはとある店を目指して歩いていた。

「アイス♪アイス♪」

アイスクリームショップ、いわゆるサーティワン的なものである。

余り通気性がよさそうとは思えないような修道服姿のままなのに汗一つかくことなく歩いているインデックスに内心舌を巻きつつ、その後ろをついて行く。

そうして歩いていると、書店の前でレジ袋を抱えて不幸だー!と叫んでいる当麻を発見した。

「…どうしたんだ当麻」

「…しょ、翔馬か…実はな」

俺に気づいて顔を上げて涙ながらに事情を語ってくれた当麻。

どうやら、今朝見たテレビ番組に感化されて本棚に参考書の一つや二つでも入れてみるかと思い立ったところ、夏の受験生応援フェアが昨日で終わっていただか何だかで半額が適用されておらず、無駄に高いものを買ってしまったとの事。

「…それは不幸というべきかおっちょこちょいと言うべきか…」

「あぁ……ところで翔馬、その子は?」

「ん?教えてなかったか?訳あって同居してるインデックスっていう子だ。イギリス清教のシスターさんなんだが…」

「なるほど、翔馬あるあるだな」

「あるあるってなんだあるあるって」

納得したような表情を見せてきた当麻の頭を小突く。

話についてこれてないインデックスにもしっかり当麻について説明して、当麻も俺達と一緒にアイスクリームでも食べに行くかと誘ってみた。

すると、奢ってくれるなんて!神か!と言われながらついてこられることになった。

…奢る気だったが、誘った時から奢ってもらえる前提で話を進めないでいただきたかったな。

そうして店についたはいいのだが…

「…本日、閉店…?」

閉じられたシャッターの前でインデックスが呆然と呟いた。

その後ろで俺はやべぇやべぇと大慌て。

その様子に小声で質問してきた当麻にしっかり教え込んだ。

…空腹のときのインデックスの恐ろしさを。

その全てを語りつくすころには、当麻もなけなしの財布を開いて、一緒にケーキバイキングにでも連れていくかだなんて言っていたレベルだった。

「い、いやまだだ!まだファストフード店のシェイクがある!!」

もはや命すらかかっているように感じるこの状況を打破するために、俺は天まで届けとばかりに叫んだのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「シェイク♪シェイク♪シェイクが三つ♪」

シェイクをのっけたトレーを持ち、歌いながら階段を上っていくインデックスについて行く。

一階が驚くほど混んでいたせいだ。

そうして二階に到着したのだが…

「…こ、ここも満席か…」

そう、俺の隣でもはや苦笑いしながら発せられた当麻の言葉の通り、二階も満席だった。

「ってあの馬鹿迷わず人のいる席に向かいやがった!!」

どうしようかなぁと思いつつ、当麻から目線を逸らしてインデックスの方を見ると、何故か人がいるのにも関わらずある席に向かって行って歩いて行った挙句、そのまま座っていた。

「な、何してんだ!?」

「ん?お店の人がここで相席して貰えって。返事が無いから肯定とさせてもらったんだよ」

「お前ゆったりシェイクを味わうためには手段を選ばないのか!?」

俺の叫びもむなしく、インデックスの興味はシェイクに注がれてしまった。

「あ、あはは…すいませんねいきなり相席なん…」

後頭部を掻きながら、俺は元々座っていた人に謝ろうと思ったが、途中でその言葉が止まってしまった。

「…と、当麻さんや。俺の目がおかしくなったのか?あの人…巫女装束着てるように見えるんだが?」

「き、奇遇だな翔馬…俺もそう見える」

「なぁにコソコソ男二人でテーブルの前で話合っとるんやカミやん、しょうちゃん」

「「ぎゃぁああああああ!?…ってなんだ、青ピか」」

「い、息ピッタリでなんだは酷いやろ…」

「それと、俺もいるんだにゃー」

俺達のすぐ後ろから声をかけてきた青髪ピアス…通称青ピ。本名は誰も知らない。

そしてその隣から陽気な声で補足するように話しかけてきたのは土御門。

因みに、しょうちゃんは俺のあだ名だ。

…なんかなぁ…

「…い、いやあれを見てくれよ」

「ん?ぎ、銀髪のロリシスターさんに巫女さんやと!?ふ、二人共一体何をしでかしたんや!!」

なんか違う反応をしてきた青ピから視線を逸らし、俺達は土御門をすがるように見つめた。

「…な、なんだこっちを凝視してくるんだにゃー…?そんなに見つめられても、俺はなぁんにもできないぜい?」

「くそっ、こういう時に頼りになるやつが誰一人としていねぇ!!」

「よっしゃこうなりゃヤケだやってやらぁ!当麻、俺はやってやるぞ!」

なんだかんだ当てになる奴がいないと分かった俺は、諦めて巫女装束の女に話かけてみることにした。

「…な、なぁ…どうしたんだ?」

敬語は無し。面倒くさいし、何より必要なさそうな輩だからである。

「………食い倒れた」

姿勢を正して、無表情のまま告げてきた巫女少女。

「……はい?」

圧倒的既視感を覚えつつ、俺は取り敢えず聞き返してみることにした。

「…食い倒れた。お徳用のクーポンがあって、電車賃が足りなかったから…やけ食いした」

「うん、説明がよくわからない」

真顔でそう言い返すと、巫女服少女は再びテーブルに突っ伏し、無言で哀愁漂うオーラを出してきた。

どうすればよかったんだ、と聞くように当麻達の方を見ると、当麻からは同情するような目を、土御門からは何とも言えない目を、そして…青ピからは信じられないようなものを見たかのような目を向けられた。

「…な、なんだよ青ピ」

「…しょ、しょうちゃんが美少女と平然と会話…?も、元々そういうところはあったような気はしてたねんけど…う、うせやろ!?どうせ夢や!夢なんや!!」

相変わらずのエセ関西弁で頭を抱え悶えだした青ピから無言で目を逸らし、少女の方を見る。

それが女の形をしていれば助けずにはいられない、どっかの上里さんみたいな性格をしている俺は、電車賃が足りなかったという言葉に反応してしまったのだ。

「…ほら、いくら足りないんだ?教えてくれ」

「……100円…貸してくれる?」

「あぁ…ほらよ」

財布から100円玉を取り出し、手渡す。

巫女服少女は100円を見回すと、無表情のまま…されど明るい声色で、

「ありがとう」

と、ただ一言言ってきた。

「…いいって事よ」

こうやって感謝されることは気分が良くなるなぁと考えつつ、当麻達にミッションコンプリートと告げようとしたその時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「―――――ッ」

慄くように俺は立ち上がった。

その男たちが、不気味なほど存在感が無かったから。不気味なほど特徴がなかったから…

ではなく。

その男たちがいた事に、気づけなかったからである。

俺は基本的に気配を読む特訓と称して一時も休むことなく気配を探っているようにしているのだが…

そんな俺も、さっき視界に映るまで気づけなかった。

「な、なぁこいつ等…」

「…塾の、先生?」

首をかしげながらそう嘯いた巫女服少女。

嘘が分かりやすすぎる。

これなら暗殺者だと言われた方が俺は信じられる。

「…100円、ありがとう。いつか返す」

「………絶対、無事に返せよ?」

遠回しに身の安全を案じてみる。

だが…

「…うん」

少女は、悲し気な瞳を一瞬見せて顔を背けたばかりで、とても俺の言葉の通りになれないと態度で雄弁に語っていた。

少女が黒服の男たちと共に立ち去って行った後、俺達は何事もなかったかのようにしたいとばかりに馬鹿話で盛り上がった。

そして、帰路。

「…ね、しょうま!このネ」

「ダメ」

「コ……なんで!?」

「…お前さぁ…別に飼いたいなら飼ってもいいが、おかずが一品…いや、二品くらいは無くなることを覚悟してくれよ?」

「…むぅ~!!」

みゃぁ~とダンボールの中から顔をのぞかせて俺達に鳴いてくる猫を尻目に、インデックスは地団駄を踏んだ。

「…はぁ、帰るぞ」

「飼うったら飼うー!!」

「はいはい、その猫とお別れしとけよ~」

後ろで喚き散らしているインデックスを完全スルーして歩き出すと、しばらくしてからゆっくりインデックスがついてきた。

敵の気配を感じたら、すぐにでもインデックスのそばに行けるような距離を維持することは忘れない。

そうして無言で家に向かい、鍵を開けようとしたときにあることに気づいた。

「……鍵が、開いてる?」

そう、確かに戸締りは確認したはずなのに鍵が開いていたのだ。

「……インデックス」

「!?な、なぁにしょうま!?」

「…?家の中に誰かが侵入してる、警戒しろよ…って言おうと思ってたんだが…どうした?」

「べ、別に何でもないんだよ!!」

「…そうか、とにかく気をつけろよ」

なんか態度が変なインデックスが気になるが、今は家の中にいる侵入者に集中。

ゆっくりと扉を開くと、靴が一足きちんと並べられていた。

…客?だとしても…一方通行はこういう靴は履かないし、ちょっと前に垣根と喧嘩するってメールが来てたから無し。

浜面はスキルアウトの奴等と夏休みの特別企画、三日オールで楽しもうの会の最中。

当麻はさっき用があると言って別れたばっかりだ。

…じゃあ一体…?

「誰だ!!」

扉を勢いよく開け放ち、声を荒げる。

そこには…

「うん?見ての通りステイル=マグヌスだけど?…あぁ、お邪魔してるよ天城翔馬」

「…す、ステイル?」

俺のテーブルに灰皿を置いて一服していたステイルが居た。

「…家は全面禁煙なんだけど?」

「ニコチンとタールが無い家なんて…地獄か何かかい?」

「…と申しておりますがインデックス殿?」

「ステイル…前に煙草はやめるって約束したでしょ」

「うっ…や、やめるやめるやめますよ…」

俺には何にも悪びれる様子を見せなかったステイルは、俺の後ろに隠れていたインデックスに冷ややかな目を向けられると急いで灰皿と煙草を仕舞った。

「…んで、どうして俺ん家の中にいるんだよ?鍵は閉めておいたはずなんだけど?」

「そりゃあ開錠のルーンを刻んだからだよ?あぁ、安心してくれ。刻んだのはドアノブにだから、見る角度にさえ気を付ければ目立たないから」

「何してくれてんの!?」

軽く笑いながら言ってくれやがったステイルに怒鳴りつける。

人の家のドアノブを、コイツは何だと思っているのだろうか。

「…ていうかインデックス、その腹…どうしたんだ?」

「…え、えへへ…お、おなか一杯かも…」

「みゃー」

目線をインデックスに移して質問すると、インデックスは笑顔で腹を擦った。

同意するように、腹の中から猫の声も聞こえてきた。

「…………なに連れ帰って来てくれてんの!?」

「わぁあああ!!やめてしょうま!スフィンクスはもう家の子なのー!!」

「いーやダメったらだめだ!家の経済状況なんだと思ってんだ!!お前の食費でただでさえ限界近いってのによぉ!!」

「……もしあれなら、その猫に関する金は必要悪の教会(ネセサリウス)に払わせようか?」

「「本当!?/マジか!!」」

取っ組み合いを始めた俺達に、ステイルが夢のような一言を発した。

「あぁ、猫を飼育する程度の金額なら、あそこから巻き上げられる…それに、今まで好き勝手やってきた相手に関する事だとするなら、なおさら巻き上げやすい」

「…ま、まぁ深くは聞かないでおこうか…」

「ありがとうなんだよ!ステイル!」

黒い笑みを浮かべたステイルから目を逸らした俺の隣で、インデックスが満面の笑みで感謝していた。

それに対してステイルは嬉しそうに頬を緩ませると、俺の方を見据えて真剣な声音で話しかけてきた。

「…さて、本題にはいろうか」

「…それはインデックスが居ても大丈夫なのか?」

「あぁ。むしろ…上層部は嫌がるだろうけど、僕としてはインデックスも知るべきだと思っているからね」

そう言って俺達に座るように促してきたステイルは、煙草を吸いながら話始めたのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

翔馬視点

「…えーっと、つまりあれか?今回はアウレオルスってやつが一人で暴走した挙句、巨大なエセ宗教と化した塾に立てこもって少女一人監禁してるって?」

「まぁ端的に言えばそうだね」

「…今のところインデックスは何の関係もない気がするんだけど?」

「…実は、アウレオルスは三年前のインデックスのパートナーだったんだ」

「…なるほど」

恐らく…というか原作知識通りだと、そのアウレオルスは、インデックスの記憶消去を無用にし、挙句記憶をとりもどさせようと考えていたはずだ。

…だが、それはもう俺が終わらせてしまっている。

記憶消去の無用化だけでなく、記憶を取り戻すというところまでも。

「アウレオルスは裏切り者としてローマ正教の連中が戦争吹っ掛けるレベルの武力を用意してるんだけど…多分、インデックスはあって話がしたいと思ってるだろう?」

「…うん。話だけ聞くと、昔のあの人とは全く似ても似つかない感じだけど…それでも私のために奔走してくれていたって思うと、やっぱりあって話をしたくなったんだよ…」

俯きながら告げたインデックス。

無言が続いた空間の雰囲気を紛らわすべく、俺はインデックスの頭をわしゃわしゃと撫でた。

「わわっ!?な、なにするのしょうまぁ!」

「…元気がなかったからな。こうすると気分が良くなるらしいし………お前の記憶のソイツと今のそいつがどう違っていたとしても、お前が気にする必要はない。案外、ステイルたちみたいに明るく受け入れてくれるかも知れねぇぞ?」

「………わかった。ありがとうなんだよ、しょうま」

「おう。いいってことよ」

二人だけの世界を作り出しながら、立ち上がった俺達。

それに咳払いして声をかけてきたステイル。

「…とにかく、向かうというなら準備はある程度必要だろう。僕たちは罠だらけの敵の本拠地に三人で…戦えるのは二人か。とにかく少人数で向かうことになる…もしかしたら、ローマ正教の連中ですら相手にする必要があるかもしれない。天城翔馬に至っては右手のせいで無効化されるからルーンを刻んだ何かを貼り付けても意味が無いし、インデックスは…歩く教会があるし、防御面は問題ないが…そうだな。一応僕の作ったこれを渡しておこう」

「…これは?」

「永久の火炎瓶…中には消えない火が籠っていてね。蓋の裏に封印のルーンを刻んである。開けたらその火が君の望む方向へ向かって飛び出し、対象を焼き尽くす。攻撃に使うのが本来の用途だけど…この油と一緒につかえば、通路をふさいで逃げるための時間を稼ぐことも出来るだろう」

「ありがとうなんだよ」

「気にしないでくれ。君のために作ったんだ」

なんてことない、と言うように笑っているステイルは、感謝されてとても嬉しそうにしているように見えた。

「その火ってのはどれだけ使っても消えないのか?」

「本来は使用者の魔力を使うんだけど…例の『首輪』のシステムに侵入するようなものを作り出して、彼女から奪われている魔力を全てこの瓶に注げるようにしてあるから、この火が消え失せることは無い。ただ…便が割れないようにルーンを刻んである影響で、君が右手で触れば一瞬で砕け散る」

「…さ、触っちゃダメなんだよしょうま」

「わかってるって」

ステイルの説明を聞き、俺から庇うように瓶を抱きかかえたインデックス。

その姿が子を守る小動物のようで少し和んでしまったのは内緒だ。

「さぁ、行こうか」

「ちょっとまて。救出する少女の特徴とか名前とか、そういうのを何も聞かされてないんだが?」

「おっと、忘れていたね…これが今回のターゲット、姫神秋沙だ」

そう言ってステイルが見せてみた写真は、昼間ファストフード店で出会ったあの巫女服の少女が映っていた。




はい、ステイルの好感度が高いとこういうイベントが起きます。
因みにこれから先上条さんがオリ主宅に入ろうとするたびに、刻まれた部分との凹凸で手をよく切ってしまうことになりました。
不幸ですね。
次回、突撃三沢塾。


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コインの表裏

翔馬視点

「…ここが三沢塾、か」

「あぁ…見た目は何の変哲もないただの学習塾だが、その実電気代等の内訳を見てみれば異常さが浮き彫りになる…事実、隠し部屋らしきところも何個か確認されているしね」

なんてことない様に言ったステイルに、少しばかり疑問を抱く。

「…なぁステイル、これから正面突破ってのにその余裕は一体何なんだ?錬金術師ってのは…確か前にインデックスに聞いたことがあるが、世界のシミュレートすることを目的に掲げてるんだろ?三年も地下に籠ってそれに没頭し続けてたら…さすがに突破法に一つ見つけてモノにしてそうだけど?」

「…アウレオルスって名前は大物だが、ヤツは末裔だからね…僕一人でも最悪何とかできる程度の奴さ。そんな奴に錬金術師の真の目的がそう易々と達成させられるはずないだろう?」

軽く鼻で笑いながら告げたステイル。

だが、それでも俺の胸騒ぎは収まらなかった。

扉を通って侵入…というより突入する。

「…ってちょっと待て。お前らその恰好で大丈夫なのか!?」

どうした?と言うようにこっちを見てくる二人に質問する。

仮にもここは学習塾。そんなところに修道服を着た二人組が入ってきて怪しまれないはずがないだろう。

「…ふむ、そうだね…コインの表と裏ってことでわかるかい?」

「あー…お互いに干渉できないってことか?」

「そういう事。その干渉できないっていうのは、衝撃とかもそうだから……転びでもしたら、その部位に全体重分のダメージが追加で襲い掛かってくるって思っておいてくれた方がいいよ?」

軽く、本当に軽く…まるで今の天気の話をするかのように言ってくれやがったステイルに、信じられないものを見るような目をする。

それを華麗にスルーしたステイルは、いつの間にか俺達の近くからインデックスが居なくなっていたことに気づいた。

「っ、インデックス!」

「ここだよステイル、翔馬」

咄嗟に声を張り上げた俺達に、少し離れたところからインデックスが返事をしてきた。

「…どうしてそんなとこ…ろ、に」

襲い掛かってくる衝撃を無視しながら駆け寄ると、インデックスの目の前に赤黒い液体を垂れ流しながら倒れている甲冑があるのを見つけた。

「……コイツ…」

「うん、もう死んでるんだよ……この人の最期、看取ってあげれて良かった…」

目尻に涙をためて声を絞り出すようにして出したインデックス。

呆然と立っている俺をよけ、甲冑の前に立ったステイルは、無言で十字を切った。

「……行こう、戦う理由が…増えたみたいだ」

「…うん。もし、もしこれをやったのがアウレオルスなら……もし、アウレオルスだったら…私は…」

「インデックス…」

暗い表情のままのインデックスを励まそうと思ったが、何も言わない方がいいと思いなおし黙って後ろをついて行った。

そうして歩き続けること数分。

「…なぁステイル、俺達ってこのまんま最上階まで向かうのか?」

「うん?どうしてだい?」

「…ここは敵の本拠地だ。下手に体力を削っておくのは得策じゃないって思ったって言うか…端的に言えば」

「疲れたのかい?そりゃ僕もそうだが、君の方はもう少し体力があるものだと思ってたがね」

「そりゃすまんな。俺は持久戦は苦手なんだ。神裂との戦闘の時だって、もう少し耐久されてたら俺は普通に負けてた。秒で筋肉痛に襲われてただろうしな」

そう、俺は体力が無いのである。

まぁ常人が音速を超えるなんて、なんの代償もないわけがないからな。

筋トレ最強とは言え、無反動なんて夢のまた夢なのだ。

まぁ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…まぁ、これから隠し部屋に向かう予定だから…そこにもしこの結界の核があれば、この状況は突破できるだろうね」

「よし!行くぞ!!」

どっかのナンバーセブンの如く気合と根性で乗り切ろうと声を張り上げた俺に、生暖かい目を向けてくる二人。

それを華麗にスルーしながら食堂の方へ向かった。

聞いた話によると、その辺にあるらしい。

「……なぁ天城翔馬。君の目から見て彼らはカルト宗教に染まりきってるように見えるかい?」

ふと、何気なくステイルが訊いてきた。

そう言えばここは元をただせばカルト宗教…まぁ三沢塾そのものはカルト宗教じゃなく、ただの全国シェアナンバーワンの学習塾なのだが。

学園都市に進出してみたが運の尽き。能力を持っている自分が素晴らしいとねじ曲がった考え方をし始め、すごい能力を持っているヤツを信仰するようになった…という感じだ。

「…パッと見普通だけど…やっぱエセカルト宗教だよ、ここ」

「へぇ、その心は?」

「…アイツらの会話、誰かを蹴落として自分を引き上げる…典型的な俺SUGEEE!的な話題ばかりだからな。まぁ中には何で俺ばっかり…見たいなことを言ってる奴もいるみたいだけど」

「…それって、普通の人もやるものじゃないのかい?」

「いーや、ここまで顕著にやるやつは居ない。ステイル、それは人に対する冒涜だと思っておけ」

食堂の入り口で会話する俺達。

それに、一体どういう話をしているのかと首をかしげているインデックスに笑顔を見せ、

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……ステイル!」

「あぁ、奴も行動を始めたってところか!!」

それだけいうと、ステイルはインデックスを抱えて階段の方に走り出し、俺はそれをゆっくりと後ずさりしながら追いかけ、敵の攻撃をいつでもイマジンブレイカーで消せるように用心しておいた。

だが。

詠唱を終えた学生たちから放たれてきた光の球体の軍を見た瞬間、俺は脇目もふらずステイルたちが向かった方へ走り出した。

追いついたところでステイルから驚愕される。

「なっ!君がどうして逃げ出しているんだ!?竜王の殺息すら止めるレベルのその手をもってして消せないわけじゃないだろう!?」

「質はともかく量が問題だ!!イマジンブレイカーは右手首から先しか効果範囲がないんだよ!!」

「じゃあこの子を救った時のあの黒い何かを出せばいいだろう!?」

「あの時はどうやって出したのかどころか、出したかどうかすらわかってねぇくらいボロボロだったんだよ!!」

喚きながらも、ステイルを先頭にして別の隠し部屋に向かって走り続ける。

「なぁステイル!!別行動にしておこうぜ!!」

「君一人で何を」

「俺が囮になる!お前らは魔力さえ出さなきゃ一はバレないんだろ!?なら俺が囮になって攻撃を受けきった方がいい!」

「さっき消せないって言っていたはずだけど!?」

「……まぁその時はその時だ!お前がこの結界とかその他諸々何とかしといてくれれば、俺も行動できる!任せたぜステイル!」

「しょうま!!」

口早にまくし立てて弾幕の前に立った俺に、後ろからインデックスが声をかけてきた。

それにサムズアップして、すぐに右手を構える。

「落ち着け、落ち着くんだ俺…何も全部消す必要はない、俺が避けれるだけの隙間を作れば…だ、大丈夫、大丈夫だってきっと。不幸さんも今回ばかりはなりを潜めてくれるって絶対」

早鐘のようになってしまっている自分の心臓を押さえつけるように左手を胸に当て、迫りくる弾幕に向かって右手を突き出す。

…突き出した、直後の事だった。

右手を中心として赤黒い魔法陣が…まるで、インデックスと戦った時に出てきたようなあの魔法陣が展開された。

「なっ!?」

驚愕する俺を無視して、弾幕に向かって魔法陣からレーザーのようなエネルギー砲が放たれた。

だが、それはインデックスの時のような白色をしていたわけではなく、魔法陣と同じく赤みがかかった黒色をしていた。

極太の黒いレーザーは、弾幕を飲み込み廊下を直進していき、壁にぶち当たった所で消滅した。

恐らく、結界による反射に寄ってきた同質量のレーザーに相殺されたのだろう。

弾幕が消え去ったのを俺が確認すると、魔法陣はパラパラと砕けていき、消えていった。

「…い、今のって…インデックスが使ってた、ドラゴンブレス、ってやつだよな…」

右手を見つめながら、先程の光景とあの時の光景を照らし合わせる。

色以外は、全てが同じだった。

「…でもなんでだ?俺はイマジンブレイカーの影響で魔力なんて生成できないはずじゃ…」

インデックスと違い、俺は何があっても魔力が練れないのだ。

そのせいで、俺はAIM拡散力場を全く観測されていない。

滝壺が背中にくっついてたときに愚痴を言うみたいに言ってた。

「…まぁいいや、このまま最上階のアウレオルスのところまで行っておくか」

下手に考えている時間は無い。

そう判断して、階段を上り始めたのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ステイル視点

「……これで天城翔馬は大丈夫だと思うが…安心したかい?インデックス」

「うん……でも、この衝撃が返ってくるのはまだ治らないんだね…」

「あぁ、あのグレゴリオの聖歌隊が発動したのと同じところでこの核の魔力反応が強まったから、大体予想はついてたけどね」

「……………血路って言うのは、自分で切り開くべきものなのに……他人のものを、ましてや魔術を使えない能力者の物を開くなんて…」

悲しそうに俯く彼女を見て、無意識的に口に咥えていた煙草の端を噛んでしまっていた。

彼女を悲しませたから…だけでない。だけではない…のだが。

認めたら、それはそれでアレなのだ。

まぁ、強いて言うなら…

インデックスにそのあり方を嘆かれるくらい親密になっていた、アウレオルスに…嫉妬、してしまったのだろう。

前までは、記憶を消されているから、記憶を失っているから…と言い訳をして他のパートナーに笑顔を向けるところを耐えてきていた。

だが、今となっては違う。

彼女の一挙手一投足は、僕達全員との記憶を思い出したうえで行われているものなのだから。

それでも、数十を超える旧パートナーの悉くに会う事よりも、天城翔馬の隣にいることを選んだのだから…

やはり、奴には敵わない、のか。

自嘲めいた笑みを浮かべた僕に、インデックスは首をかしげてきた。

「どうしたのステイル?なんか…なんだか悲しそうなんだよ?」

「……ありがとうインデックス、心配してくれて…僕は大丈夫だ。早くアウレオルスのところまで行こう」

「うん!」

「呆然、何故ここに禁書目録(インデックス)がいる?」

笑顔を見せてきたインデックスの手を握ろうとしたところで、後ろから声をかけられた。

その声は威厳がありつつも、何処か間抜けた声をしていた。

大方、いるはずのないインデックスに驚愕しているのだろう。

「…アウレオルス…」

「…!?まて、な、何故私の名を」

「驚くのは無理もないだろうね。そのことも込みで今日はお前に会いに来たからな」

いつもの口癖のようなものすら忘れて、自分の名を呼んできたインデックスに驚愕したアウレオルスに、自分でも驚くほど穏やかな声で話しかけた。

「い、一体どういうことだ。どういうことなのだ!?まるで、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()―――――――」

「悪ぃがその通りだぜ」

右手で手を覆って脂汗を流しているアウレオルスの背後から、少しばかり息切れしつつも余裕を見せつけるような感じで、聞きなれた声が発せられてきた。

「しょうま!!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

翔馬視点

上の階を目指して歩いていると、ステイルたちが見つかったので合流しようとすれば、アウレオルスと遭遇していた。

だが、当のアウレオルスの様子が少しおかしかったので話を隠れて聞いてみると、どうやらインデックスの記憶について知った直後だったらしい。

「…き、さま…何者だ?」

「あん?極めて普通の高校生、天城翔馬さんだ。よろしく」

そう言って()()()差し出す。

困惑しながらも俺の手を握ったアウレオルスは、いまだ困惑しきった様子で俺に質問してきた。

「…唖然、貴様が彼女の記憶を取り戻したとのことだが…それは真か?」

「あぁ、言った通り俺が取り戻した。インデックスが今まで消されてきた記憶全て、な」

たった一言。

俺が言ったその一言が、アウレオルスに一体何を与えたのか。

ただ、アウレオルスは笑った。

笑っていた。

驚いて固まっていた俺達を無視して笑い続けたアウレオルスは、立ち上がり俺達の目を見据えてこういってきた。

「…与えられたものに過ぎんはずのこの記憶……今ようやく、私が偽者であった意味を知れた」

「にせ、もの…?」

晴れやかな表情で告げられた言葉に、インデックスは小さく零した。

それに頷き、どこか哀愁漂う表情でアウレオルスは続けた。

「…私は、アウレオルス=イザードによって作られた複製体の一つに過ぎない。アウレオルス=ダミーと言ったところか。私の受けた役割はただ一つ、窓口だった」

淡々と、書いてあるものを読み上げるような正確さでアウレオルス=ダミーは語る。

「もう一人の方は、自分が偽者であるという事実すら与えられずに、ただ技の一つを与えられて徘徊しているだけに過ぎんが…私は、来る者が自分にとってどのようなものであったかを知らせる役割を与えられたからな…本体の記憶を全て与えられた。その代わり、戦う力など何一つ持たないがな」

「……なぁ、錬金術師ってのは自分のコピーでも作れるのか?」

「当然。だが、本来必要とするべきはコピーを作る際の過程に発生する事象の解明…まぁ、もう本体に必要ないことなのだが」

「それってどういう…」

俺の問いに、何かを察したようにステイルが告げた。

「ま、まさかアウレオルスは黄金錬成(アルス=マグナ)を完成させたって言うのか!?」

「そのまさかだ」

アルス=マグナ。

端的に言うならば、この世の全てをシミュレートすることによって、望む事象を引き起こす能力。

本来なら、今の技術では成功しえないはずのものだった。

それを、完成させた?

「…ステイル、これってまずいんじゃ」

「まずいどころの騒ぎじゃない!!世界全てを敵に回すことが確定したといっても過言ではないんだ!…くっ、インデックスだけでも先に家に帰しておいた方が…」

「うぅん。私は残るよ」

「…な、ならどうすれば」

「落ち着けステイル……こいつを心配するのはわかるが、こっちにはアウレオルス=ダミーがいるんだ…なぁ、窓口ってことは、アイツのところに行って俺達について口添えしてくれるってことだよな?」

「当然。事実を伝え、こちらの感想を話すと同時、処遇についての進言を行う。それが私に与えられた役割」

「…なら、コイツについて行けば間違いないだろ?第一、敵対するより先にインデックスと話をさせるんだろ?そこで解決するなら十分じゃねぇか」

「…そんな楽観できることか?」

「そうでもしないとやってられねぇだろ?敵がでかすぎる時は、気張らず行くべきだと思うね」

経験則からそう告げる。

前からでかい事件(暗闇の五月計画ぶっ壊し事件とか、木原幻生が置き去り(チャイルドエラー)使ってなんか悪いことしてるのを知ったから取り敢えず計画ぶっ壊しておこう事件とか)に巻き込まれている(自分から起こしている)俺の言葉の重みは、並大抵の奴らよりかは重いはずだ。

まぁそんなことステイルたちが知ってるはずないんだけど。

「…まぁいい。案内してもらおうか」

「判然、やることは決まった」

それだけ言うと、俺達は歩き出した。

目指すはアウレオルス=イザードの居場所。

アウレオルスも、姫神も…全員、救ってやる。

三人の後ろを歩きながら、俺は右手を固く握るのだった。




はい、今回はあまりいい出来ではありませんでしたね。
シスターズ編も自信ないですねぇ…最近新約の方ばかり読んでましたし。
まぁ原作見ながらなんとかやっていきましょう。
あ、アウレオルス=ダミーは二体いる設定でお願いします。


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吸血殺し(ディープブラッド)

今回は、かなり適当になっている気がします。
毎話毎話頑張って書いていますが、今回はかなり無理がある気がするのですが、甘く見てやってください。


翔馬視点

大きな扉の前で、俺達は止まっていた。

扉の奥から感じる重圧、それは確かに勘違いではなかった。

吸血鬼を殺すほどの能力の持ち主と、世界を完全に再現し望む事象を引き起こす錬金術師…

その二人を前にして、一体どこに平静を保てる奴がいるだろうか。

「…自然、流石の貴様も冷や汗はかくか」

「あぁ、アルス=マグナだけでも厄介だって言うのに、吸血殺し(ディープブラッド)がまだどのような人間性なのかを知らない以上、ディープブラッドがアルス=マグナと協力するなんてことも想定しておく必要があるからね…まず、僕はディープブラッドとやらがどんな能力なのかを知らないんだ…警戒くらいはするさ」

吐き捨てるように言ったステイルから目を離し、扉を開いたアウレオルス=ダミー。

「悠然、貴様らがここまで来ていることはすでに把握していた…だが、これは予想外だったな。なぜインデックスがここにいる?」

扉を開いた先には、高級そうな空間が広がっていた。

部屋の奥には、椅子から立ち上がりこちらに向かってきているアウレオルスが居た。

それに対し、アウレオルス=ダミーは解説するように事の顛末を説明した。

インデックスの記憶が戻った、と言われて最初は何を言われているのか分かっていなかったアウレオルス=イザードは、ダミーの方ではなくこちらに向かって質問してきた。

「…唖然、一体何を使った?彼女の一年周期の呪縛を外すのはともかく、失われたはずの記憶を一体どうやって」

「こっちが知りたいくらいさ…こいつ、自分でもわかってないみたいだからね」

呆れたように一体ステイルに少しばかりムッとしたが、俺は我慢強い男なので黙っておくことにした。

「……わか、らない?ふ、ふざけたことを…よもや依然、インデックスの記憶などないのではあるまいか?そのような甘言にて私を言いくるめようとするならば」

「アウレオルス」

「ッ!?」

アウレオルス=イザードは、今度こそ平静を崩した。

たった一度、インデックスが名前を呼んだだけで。

……いや、俺が「だけ」と言えているのはアイツの、アイツらの苦しみを知らないからだ。

こうやってもう一度名前を呼ばれるために、アイツは一体どれだけ……

「久しぶり、なんだよ」

「い、いん、でっくす…」

焦点の定まらない瞳を、何とかインデックスに向けたアウレオルス=イザードは、悲し気な表情をしているインデックスの態度に疑念のような物を感じているように見えた。

「……どうして、どうしてあんなことをしたの?」

「――――――っ…無論、君のため」

「私のため…?なら、ならどうして殺したの?」

「……」

沈黙。

インデックスの静かな問いかけに、アウレオルスは無言になった。

きっと、夢中だったのだろう。

インデックスを取り戻すためには、どんな手段も選ばないと決め、結果だけを求めてきたのだろう。

それが最も自分からインデックスを遠ざけることになるだろうと、知っていたのにも関わらず。

「私は、誰かの犠牲のおかげで自分を取り戻せたとしても、絶対に心から笑うなんてできないはずなんだよ」

「…そ、れは」

「わかってる。アウレオルスは一生懸命になってくれた。それは嬉しいし、感謝もしてる…でもね。それで誰かが傷つくことになったら、それは駄目なんだよ」

「いん、でっくす…わ、私は」

「うん。いいの……ただ、知りたかっただけ。許せないし、許されることじゃないけど……アウレオルスのアルス=マグナがあれば、皆を元に戻すことも出来るんだよね?」

「当…然。我がアルス=マグナに不可能は無し…」

「じゃあ……お願い。みんなを、もとに、戻してあげて」

涙ながらにインデックスが訴える。

それに対しアウレオルスは、ポケットから針を取り出して首筋に突き刺し、それを抜き捨てて叫んだ。

「三沢塾内の全てよ、もとに戻れ!」

しばらくの間声が部屋の中で反響していたが、それを無視してアウレオルスは話始めた。

「…吸血殺しよ」

「……なに?」

虚空に話かけたかに思われたが、姫神は俺達の視界に居なかっただけで部屋にはいたらしく、アウレオルスの隣に立った。

「必然、インデックスの記憶が戻った今、お前の力を借りる必要がなくなった……当然、契約通りの事は成そう」

どういう意味かは分からないが、そう言った後アウレオルスは再び首元に針を刺し、再び叫んだ。

「吸血殺しは、姫神秋沙から霧散する!」

その言葉を聞いた姫神は、泣いていた。

ようやく自由になれたと、解放されたと言って泣き崩れていた。

「……さぁインデックス。共に行こう」

「?どういうこと?」

「ふっ…必然、私と共にあの場所へ向かおうと言っているのだ」

笑みを浮かべながら告げたアウレオルスに、ステイルがこらえきれないとばかりに笑った。

「判然としないな。何がおかしい?」

「…いや、わかってないのかと思ってね」

「わかっていない?一体なにを」

「気づかないのかい?さっきからずっと…インデックスは誰の隣にいる?」

「――――――。き、さま」

「そうさ。僕も…もちろん君も。インデックスが記憶を取り戻したところでフラれていることに変わりはなかったって事さ」

自嘲的な笑みを浮かべたステイルは、()()()()()()()()()()()()()()()を一瞥した後、アウレオルスを哀れむ様に見た。

「…いや、可哀そうだねほんと。同じ立場の人間として同情するよ」

「……貴様、何者だ?」

ステイルの言葉に耳を貸さず、俺に質問してきたアウレオルス。

「俺は天城翔馬。インデックスの今代のパートナーだ」

俺の答えに、アウレオルスは硬直した。

そして、次の瞬間。

「ははははははははははははははははははははははは!!」

狂ったように笑い始めた。

それは、自分の全てを否定されたかのように感じたからだろうか。

それは、自分の全てが無駄だったと思ったからだろうか。

それは…それは…

「ひれ伏せ!!魔術師!能力者!!」

「っ、しょうま!!」

呆然と突っ立っていた俺達に向かってアウレオルスが声を荒げて叫んだ瞬間、俺とステイルだけが地面に叩きつけられた。

「……な、なんのつもりだい…?」

「黙れ!!貴様らが私の全てを否定するならば…ここで貴様らの全てを奪いつくしてやるまでよ!!」

「やめてアウレオルス!!そんなこと…!」

「っ、憮然、もはや君すらも私を否定するか……まぁいい。すぐにまた、昔のように私に笑みを向けてくれる」

笑いながら言ったアウレオルスに、ステイルは挑発するように言った。

「はっ、笑わせるなよ。そんな幻想、あるはずがない!いい加減諦めろよ!僕たちは成せなかった!戻ってきたところで、彼女は居場所を決めていた!それを自分の都合で勝手に決めるのはお門違いってやつじゃないのか!!」

「黙れと言っているだろう!!貴様のような軽い気持ちでやっているわけではない!諦めてインデックスに対し冷徹に接してきていたお前が、今更なにをほざいている!!」

言い争う二人を尻目に、俺は右手で自分の体に触れた。

その瞬間、俺の体に自由が戻った。

「テメェの言い分は勝手だが、インデックスを傷つけるようなことは許さねぇ!!」

「愕然…何故動け」

驚愕に目を見開いたアウレオルスを殴りつけようとした瞬間、俺の攻撃の射線上に、アウレオルス=ダミーが割り込んできた。

右手で触れられた贋作は、何の抵抗もなく消滅した。

「っ、ふ……役に立って死んでいったとは、もう片方の私に比べて役に立ったようだ」

まるで壊れた物に向けるかのように、何の気なしに告げたアウレオルスに、さらに苛立ちを覚え拳を握る。

「……なぁ天城翔馬。もしや貴様のその力…幻想殺し(イマジンブレイカー)か?」

「…何でわかったんだ?」

「ふ、三年間インデックスの記憶の消去を食い止められるだろうモノをかたっぱしから調べてきたのだ。滅魔についての本も無論調べた。だが妙だな、それはただの追儺礼装に過ぎず、人の身にやどるなど到底…」

「言っておくが、俺以外にもう一人この能力を持ってる奴はいるぜ?」

「…呆然、この街というものは…!」

俺を親の仇のように睨みつけてきているアウレオルスの眼前に一瞬で迫り拳を振るおうとした瞬間、

「後方へ吹き飛べ」

その一言で俺は部屋の外にある壁に叩きつけられた。

「がはっ…」

「ふん、どうやらその能力、一定範囲にしか及ばないようだな……ならば、その右腕を切り落とせばいいだけの話。なに殺すのはまだ後だ…だが、我がアルス=マグナを打ち消すその力、先に潰しておこう」

そう言って、俺の方に歩み寄り手に大きなナイフを顕現させたアウレオルスの腕を、

姫神が掴んだ。

「まって!」

「……何用だ姫神秋沙」

「…彼に、聞きたいことがあるの」

「………いいだろう、最後の会話くらい許す」

そう言って俺達から離れインデックスのそばに行ったアウレオルス。

「……ひめ、がみ…」

息も絶え絶えな状態の俺は、少しでも気を抜けば血を吐き出しそうになりながらも続けた。

「…ごめんな、助けられなくて」

「ううん。私の望みはもう叶えられたから…」

「いや、それでもだ…インデックスも、姫神も、もちろんアウレオルスだって完全に救わなきゃいけない」

「…どうしてそこまでするの?あのシスターはともかく、私も彼も貴方とはまだあまり面識が」

「それがどうしたよ」

意識が戻ってくる。視界がクリアになってくる。

俺はまだ、動ける。

「面識がない?だからって助けちゃダメなのかよ?救ってやりたいって思うことは、罪なのかよ?」

姫神に肩をかしてもらいながら立ち上がり、アウレオルスとインデックスを見据える。

「…助けてほしいって言われなくても、助けなんか言わないって言われても……俺はアイツと同じ、偽善者でも構わないから…誰かを助けたいんだ」

もはや脅迫観念にすらなりつつあるそれを、姫神に話すのもアレだと思うが。

当麻や浜面、一方通行…アイツらみたいに、なんだかんだ言って誰かのために動けるような奴に、俺はなりたかった。

なろうと思った。

だから…だからこそ。

「お前がここにとらわれてるって聞いてきたのも、全部、それだけだったんだ……そして、アウレオルスが苦しんでいたことも知った。なら……アイツを一発殴って、目を覚まさせてやる」

姫神から離れ、アウレオルスと向き合う。

「話は終わったか」

「あぁ、どうせ聞こえてたんだろ?ならもう、何も話す必要はないな」

構える俺に対し、針を首元に刺したアウレオルス。

「窒息」

冷酷に告げられたその単語。

それが意味するものを察し、喉に右手を滑り込ませ、異能の影響力を消滅させる。

「圧殺」

頭上から落ちてくる大質量の何かに右手を叩きつけ、消し去る。

「感電死」

右手を前に突き出し、俺に襲い掛かってきた電撃を全て消し去る。

「絞殺」

喉に手を当て、縛り付けてくるような痛みを霧散させる。

「爆殺」

一際でかいエネルギーを感じたところに手を当て、未然に防ぐ。

「轢殺」

突然現れた車に向かって右手を突き出し、その存在をなかったものにする。

「…なるほど、やはりその右手、異能を消滅させるか…俄然興味がわいてきた。が…我が黄金錬成の前には無力」

「はっ、全部消されといて何言ってんだ?さっさとインデックスを返しやがれ」

「当然、返すわけあるまい?本来ならこちらに歩み寄ってくるはずのインデックスをたぶらかしたのは貴様だろう?……そして先程の言葉だが、こういう攻略方法を考えたのだ」

「攻略方法?」

割かしどういう意味か分からなかったので、本気で聞いてしまう。

それに対してアウレオルスは、笑みを浮かべてこういった。

「銃をこの手に。弾丸は魔弾、用途は射出。数は一つで十二分」

「……なるほど、俺が目で追えなけりゃ意味が無いって言いたいわけね…」

冷や汗を流した俺に、アウレオルスは答えることなく告げた。

「人間の動体視力を超える速度にて、射出を開始せよ」

「しょうま!!」

アウレオルスの言葉と同時に、俺に向かって弾丸が飛んできた。

なるほど、これは目で追うなんて不可能だな…

()()には。

「ふっ」

軽く息を吐きながら、右手で弾丸をはじく。

ダメージを負うことなく、弾丸を消滅させた。

「馬鹿なっ!常人には視認できない速度で放たれたはず!」

「常人には、って言ってんじゃねぇか。言っとくけど、こっちは聖人と殴り合いして勝つことが出来るレベルの人間だぜ?」

「あ、改めて聞くと中々人間びっくり箱だね君は」

後ろから聞こえてきたステイルの声は無視。

そのままゆっくりとアウレオルスの方による。

「……ふん、ならこうさせてもらおう」

そう言ってアウレオルスは、俺…ではなく姫神に向かって銃口を向けた。

「先の手順の通り、射出を開始せよ」

その一言と同時に、姫神の方へ弾丸が射出された。

右手でピンポイントに消すことは不可能、なら…

「ぐぁっ!?」

「しょうま!?」

全身を使って、弾丸を受けた。

どうやら痛めつけるのが目的の弾丸だったらしく、俺の体に銃痕のような物は残らなかった。

だが痛い。神裂の唯閃よりはましだが…痛い。

「…どうして」

「あ、あぁ?」

地面に伏した俺に、姫神が質問してきた。

「どうして私を助けたの?」

「…いや、さっきも言っただろ?……助けるのに理由なんていらねぇ。助けたいと思ったから助けたんだ」

そう言いながら立ち上がる。

アウレオルスはもう、一回殴るだけじゃ気がすまねぇ。

「体も頑丈ときたか…化け物め。なら…その力の根源たる右腕を切り落としてやろう」

「やれるもんなら」

「……内容を変更。暗器銃による射撃を中止、刀身をもって外敵の排除を用意」

アウレオルスの言葉に呼応して、銃に刃が現れた。

「その右腕…切り落としてくれる。暗器銃、その刀身を旋回射出せよ」

そう言ってアウレオルスが銃を持った手を振るった瞬間、気持ちの悪い軌道で俺の右腕まで迫ってきた刃は、俺の右腕をなんの抵抗もなく斬り落とした。




次回、アウレオルス死す。


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■■■■■■■■■■■/終劇

タイトルが読めなくても問題ないです。
字数を合わせたつもりですが、もしかしたら間違ってるかもです。
まぁ、関係ないです。


三人称視点

(…おかしい)

アウレオルスがその明確な異変に気が付いたのは、翔馬の手が斬り落とされて地に落ちた直後の事だった。

(…血が、全く出ていない?いや、そればかりか…何かを飲みこもうとしている?)

翔馬の右肩口に、何かが吸い込まれていく感覚をアウレオルスは感じていた。

「……まぁいい、これでもうお前を守るものは何もないだろう!」

そう言ってアウレオルスは再び銃を構えた。

「先の手順を量産、10を超える暗器銃と刀身にて、対象の体を細切れに――――ッ!?」

命令した通り、刀身が飛ぶはずだった。

だが、アウレオルスの手にあった暗器銃は、全て翔馬の右肩口に飲み込まれていった。

(馬鹿なっ!?あり得ん!!我が黄金錬成が効かな――――いや待て、思考、停止。考えるな。それを考えたら…)

表面上の冷静さを取り繕い、アウレオルスは針を首に刺す。

「断頭の刃を上空に、奴の進む先には剣山を!!我が無敵の黄金錬成に逃げ場等あらず!!奴は首を斬り落とされ、剣山に全身を貫かれ死――――」

半狂乱で叫んだアウレオルスだったが、目の前の光景に絶句した。

右肩口から現れた謎の黒い何かが、自分の命令通りに現れた全てを食いつくしたのだから。

「ひ、ひぃっ!?」

今度こそ、駄目だった。

アウレオルスは恐怖に耐え切れず、翔馬に背を向けて逃げ始めた。

だが、すぐに行き止まりに。

「くっ、くそ!!刺殺、絞殺、毒殺、射殺、斬殺、撲殺、爆殺、磔殺、焼殺、孤独死、圧殺、轢殺、凍死、溺死、感電死……な、何故だ!!なぜ死なない!!」

涙を流しながら考え得る死因の悉くを連ねたアウレオルスだったが、その現象は全て黒い何かが食って行った。

「足りねぇ…足りねぇなぁ…」

ズルズルと、何かを引きずるような音をたてながらアウレオルスに迫っていた翔馬が、ゆっくりと口を開いた。

「まだまだ()()()()()()()()()()()()()()……そんな思い一つで現実が変わっちまう能力なんか、役に立たねぇもんなぁ…しっかり()()()が使えるようにしてやらねぇと」

何を意図して言われているのか、全くわからない言葉に、その場にいた全員が疑問に思った。

(あれが…天城翔馬?)

黄金錬成の効力が消えたことによって立ち上がれるようになったステイルは、姫神秋沙とインデックスを守るようにしながら思った。

まず、アレは何なのか。

インデックスの時にも出ていた、あの黒い物は何なのか。

異能を喰らうたびに、その色や大きさを変えていくのはどうしてなのか。

天城翔馬は…何者なのか。

「…ほら、見せてみろよ…お前の無敵の黄金錬成ってやつをよぉ!!」

「あ、あぁああああぁぁあぁぁあぁあああああ!?」

折れた。完全に折れた。

アウレオルスは、目の前に迫って来た恐怖に、心を完全に折られた。

泣き叫んでいたアウレオルスは、翔馬の肩口から溢れ出てきた黒い何かに飲み込まれて――――

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

翔馬視点

「随分前から言おうと思ってたけど、君ってもう一人の方よりもトラブル体質じゃないのかい?」

カエル顔の医者に呆れた目を向けられながら淡々と告げられる。

まぁ俺だってイマジンブレイカー持ち。不幸であることに変わりはない。

まぁ当麻よりはましだし、ドリンクバー絡みなら浜面の方が俺達より不幸だ。

そんな言い訳じみたことを胸の内で叫んでいると、カエル顔の医師は笑顔で告げた。

「しっかし十日間以内に二階も入院しに来るなんて…もしかして君、こっち側かい?」

「看護師属性は流石に求めてないし、何より手術台で弄られたいって言うようなM思考は持ってませんよ?」

「そうかい?残念だね、同志かと思って期待したんだが……」

「まさかそのためだけに医者になったのかあんた」

一気に徒労感が押し寄せてきた。

ナースコールではなくポリスコール(110)してやろうかとも思った。

「勘違いして貰っちゃ困るね。僕は弄られるよりも弄る方だし、なにより手術台じゃなくて分娩台…」

「んな話聞きたいんじゃねぇよ!!」

ここが病院だという事すら忘れて、大声で続きを聞くことを拒否する。

すると、医師は露骨に残念そうな顔をして立ち去って行った。

「な、なんだったんだあの冥途返し…」

原作知識所有者特有の独り言をしつつ、右手を眺める。

「綺麗な切り口だったから、すぐに縫合できた…ねぇ」

どうせ無茶を続けるつもりだろうから、より強固にしておいたから安心してくれて構わない、とすら言われた。

うーむ、仕事ができるけど人間性がダメなゲコ太フェイス……掴みどころしかなさそうな人だなぁ…

一人で唸っている俺を嘲笑うかのように、外でカラスが一鳴きした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ステイル視点

「…それで、一体何のようだい?」

「…天城翔馬について、知りたいことが出来たので」

姫神秋沙救出について指示してきた『人間』の下に、足を運んだ。

その理由が天城翔馬だ。

あの時の黒い何かが、一体何なのか。

「ふむ……それを聞いてどうする?」

「とくには…ただ、知りたいだけです。天城翔馬…いえ、幻想殺し(イマジンブレイカー)について」

「……まぁ、教えて問題ないところまでは教えてやって構わないだろう。そうすればプランも大幅に省略できる………幻想殺し、まずはそこが違うという事から話す必要がある」

「な…」

早速唖然とさせられる。

今、あの『人間』はなんといった?

イマジンブレイカーでは、ない?

「天城翔馬は幻想殺しだと思って振るっているが、その実、本質は全くの別物。圧倒的に、天城翔馬のアレの方が上だ」

「で、では本当は幻想殺しなど存在しない、と?」

「いや?幻想殺しはこの都市にいる。無能力者の上条当麻という男だが…それは今関係ないな。それで天城翔馬についてだが…実は、こちらも何なのかわかっていない」

「……は?」

「わからないんだ。あまりに強大過ぎて」

完全に沈黙してしまう。

天城翔馬は、それほどまでの力を持っている…?

そしてこの『人間』は、それをなんてこと無い物のように扱っている…?

言いようのない悪寒が襲い掛かってきた。

それと同時に、天城翔馬を思い出してさらに恐怖した。

…そんなデカいものを持っていて、あんな日常に溶け込めるのか…!?

「…どうしたんだい?随分震えているようだが」

「い、いえ…なんでもありません」

「…ふむ、追い打ちをかけるようで悪いが、アレについて最近とんでもないことが分かった」

「……なんでしょうか」

これ以上に恐ろしいことがあるとでもいうのか。

「…アレは、飲み込んだ物の力を得る」

「…は?」

二度目の間抜けた声を出してしまう。

だがそれも仕方ないことだろう。

だって、もしそれが本当なら…

「て、天城翔馬は、竜王の殺息も、黄金錬成も使える…と?」

「…私は科学サイドの人間だから、それが何なのかはわからないが…黒い物がそれを飲み込んだのなら、天城翔馬が使えない道理はない」

なんてことない様に言ってくれた『人間』に、本気で殴りつけたくなった。

なんてことを教えてくれたんだ。聞いたのは自分だが、そこまで話してくれやがる必要はなかった。

神話級の一撃を使い、望むとおりに現実を歪め、異能を消し飛ばす…そんな奴とどうやってかかわっていけばいいんだ?

途方もない重圧に、ついに笑う事しか出来なくなってしまうのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

翔馬視点

「…それでインデックス、何でそんなに機嫌が悪いんだ?」

「ふん、わからないならいいんだよ」

わざとらしく怒ってます、という表情を作りながら言ったインデックス。

それにどうすればいいのかと頭を抱えながら、病院の外にある自販機のヤシの実サイダーの購入ボタンを連打する。

一万円札を全てヤシの実サイダーに帰る作業を終える頃には機嫌も良くなるだろうかと思ったが、駄目だったようだ。

「なぁ、いい加減に」

「しょうまは、あの戦いの時に何であいさを守ったの?」

「…な、何度も答えてるはずなんだけどなぁ…俺はただ、やりたいようにやっただけさ」

「……あの時、アウレオルスに私が捕まってたのは、ステイルが助けてくれたんだけど」

「いいじゃねぇか別に。何より道中アイツに言われてたからな『彼女に何かあれば僕が助ける』って」

「…本当?」

俺の言葉に、インデックスが訝しむような目を向けてくる。

「本当本当…大方、お前にかっこいいところ見せたかったんだろ」

まぁ、俺みたいな正体不明の能力を使う奴に任せるのが嫌だっただけかもしれないが。

「ねぇしょうま、しょうまはあいさを助けて良かったって思ってる?」

「あぁ、もちろんさ」

「本当?」

「うわっ!?姫神!?」

自販機から離れて、ベンチに腰掛けていた俺達の背後から声をかけてきた姫神に、驚愕して転がり落ちてしまった。

痛い。

「そんなに驚く必要はない」

「いや誰だって驚くだろ今のは」

ヤシの実サイダーの無事を確認しつつ、姫神の方を見る。

相も変わらずの無表情だが、何処か俺を見る目が違う気がする。

「それでなんの用だよ」

「報告しておこうと思っただけ」

「報告ぅ?」

「うん。私を助けてくれたあなたにその後を伝えないのはアレだと思って」

そう言って姫神は俺がさっきまで座っていた位置に座って、こちらを見てきた。

「…あの後、私はイギリス清教のお世話になることになった」

「あ、そうなのか?」

「うん。吸血殺しの力は無くなったけど、完全になくなったかどうか確認する術はないから」

「大事をとって、ってことか」

まぁよく考えなくてもわかるな、そうなることは。

いくらアウレオルスの力によってその能力を失わさせられたとはいえ、いつ復活するかわからないしな。

「…戻らないといいな。お前も戻って欲しくないんだろ?」

「…当たり前。もう…誰かを殺すなんて嫌」

悲し気な顔をした姫神に、悪いことをしたなぁと思いつつ話を変えようとする。

「それで、あの後アウレオルスはどうなったんだ?右腕がふっ飛ばされたあたりから意識が朦朧としててよくわかってねぇんだけど」

「……彼は、あなたの腕から出てきた黒い何かに喰われた」

「く…じゃあアイツは」

「生きてる…でも死んでいるのと変わらない」

哀れむような姫神の声音に嫌な予感を抱きつつ、次の言葉を待つ。

「…彼は、廃人になった」

「は、はい…じん?」

「そう…感情も、何もない…植物人間よりも酷い状態…らしい」

それを聞いた瞬間、俺の中で何かが崩れたような感覚を覚えた。

廃人になった?俺のせいで?俺のこの…右手のせいで?

本当なら、記憶を失うとかそこら辺で済んでたはずじゃ…実際原作はそうだった!なのになんでだ!?

俺の能力が、まるで幻想殺しじゃないみたいな…!!

「…あなたが悲観することはない。あの人はもうあの戦いの時には狂ってた。戻れないくらい」

「そうだよ、しょうま。気にしちゃダメなんだよ…」

慰めるような言葉をかけてくる二人に感謝を伝える。

だが、どうにも心は晴れなかった。

『自分では無く、誰かのために力を振るう』

当麻のそんな生き方を目指して、それを守ってきた俺には…アウレオルスが人として終わったのは、かなりのダメージを残した。

「……話は、終わりか?」

「うん……それと、小萌っていう人のところに住まわせてもらうことになった」

「小萌先生のところで…?あぁ、あの人よくそういう奴らを受け入れてるからなぁ…」

今頃当麻達に説教しているだろう先生を思い浮かべ、少し笑ってしまう。

まぁ当麻以外の二人は意図して点数を下げたり補習受けたりしてる節があるからなぁ…

余談だが、当麻は俺の宿題(完全に終了済み)を映し終わっているので、自由の身である。

「じゃあそろそろ私は家に向かうことにする」

「そうか。元気でな」

「うん……………ありがとう」

最後の最後で満面の笑みを浮かべてきた姫神に、かなりときめいてしまったのは言うまでもあるまい。

そして、それを見たインデックスに久しぶりに噛みつかれたのも言うまでもあるまい。




姫神さんチョロイン過ぎるような気がする。
そんなこんなでアウレオルスさんは廃人となりました。
その理由もいずれ分かるので、気になる人はこの作品を読み続けましょう(苦行を貸す鬼の鏡)


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妹達
非日常/日常


???視点

「風が強いですね、とミサカは一人小声で語り始めます」

対戦車ライフルを構え、対象を見る。

対象の名は一方通行…アクセラレータと呼ばれる少年。

学園都市最強のレベル5。調べたところ、ある三人の友人(男)の前と普段ではかなり態度が違うらしい。

同性愛の可能性があるともされている。

「おっと、それはどうでもよかったですね、とミサカはにやけてみます」

言葉とは裏腹に、表情筋は微動だにしなかった。

「…さて、そろそろ風が落ち着いて来る頃ですね、とミサカは気を引き締めます」

対象の動きも、ちょうど止まった。

電話しているらしい。相手は…あの表情から察するに、友人とだろうか。

だがそれはどうでもいい。

何も考えずに引き金を引く。

寸分たがわず一方通行の眉間に当たった…はずだった。

一瞬だけ、ほんの一瞬だけ見えた光景に、勝利を確信した次の瞬間。

銃が内側から粉々に砕け、自分の肩を喰らった。

「な、にが…と、ミサ…カは」

這いずるようにしながら対象の方を見る。

その視線の先には、こちらに顔を向けている一方通行が居た。

そしてそれを視認した瞬間、対象は眼前に迫ってきた。

「…駄目、みたいです…ね、とミサカは…諦観と共に、死を…」

後には、少年の哄笑が響くだけだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

翔馬視点

「んで上条はどうしたのさ」

「アイツ補修。お前最近オールしまくってたから知らなかったろ」

「また馬鹿みてェなことしてたのかァ?」

「…あれ、俺言ってなかったっけ?」

「その時は一方通行は垣根と大乱闘してただろ」

「あぁ!そうだったな!」

ファミレスの中で他愛のない話をしている俺達。

その声が大きいせいか、周りの奴から視線を感じる。

「…お、コーヒーきれた…浜面オマエ早くドリンクバー行ってこいよ」

「くっ、そう何度も行くわけないだろ!!」

「あ、俺も頼むぜ浜面」

「なんでだぁあああ!?」

理不尽だ!なんて言いながらも空のコップをもってドリンクバーまで向かっているところが何とも言えない。

「それで、どうしたよ急に?お前から俺達誘うなんて珍しいな」

「まァ、な…」

いつになく元気がない様子の一方通行を心配に思いつつも、本人が触れてほしくなさそうなのでやめておく。

ここに当麻が居たら、きっと相手の迷惑とか気にせず聞けたんだろうな。

「…なァ、最近どォだ?」

「ど、どうしたんだマジで…最近、ねぇ…そうだな。前みたいに事件に関わっちまうことが増えたな」

「事件?」

「そ、朝起きたらベランダにシスターが引っ掛かってたり…巫女服の自称魔法使いが監禁されてる塾の最奥にいたラスボスとドンパチやってたら相手を廃人にしちまったり…こんな濃いキャラしてる奴と関わってばっかだと、もう悟り開いちまいそうになるよ…これから先、知り合いのクローンとか出てきても驚かない自信あるぜ?」

「っ、あ、あァ…そうかもなァ…」

「なんだよ顔色悪くしやがって。腹壊したか?肉ばっかり食ってるから」

「肉は悪くねェよ!!」

「持ってきたぜ~」

俺達の間に割り込む様にしてコップを置いた浜面。

やはり持ち方といい置き方といい…手馴れていた。

「…何だろうな、お前のこういう小物感さえなくなれば、普通にモテると思うんだけどなぁ…」

「同感だな…なンだってコイツこンなに残念なンだよ」

「え、揃いも揃って辛辣!?」

哀れむ俺達に驚愕していた浜面。

「そういうとこだよ!!」

「いやなんの話だよ!?」

「……ほら、取り合えずここ座れ」

「その優しさがなんか怖い!!」

普段の一方通行からは信じられないくらい優しげな声で座ることを勧められた浜面は、怯えつつも進められた場所へ座った。

「……で、なんだよ俺がモテるって」

「いや、顔は悪くないし、何かに全力になれる姿勢とかそういうのは好かれると思う…けども」

「やっぱその三下感だよなァ…イメチェンしたらどォだ?」

「いやほんと失礼だな!それに、モテるって言ったらお前らの方だろ!…特に天城」

「「は?」」

「は?じゃねぇよ!」

「俺のどこがだよ」

「……お前と仲良くなってから、女に話かけられることが増えたんだ」

「ほう」

良いことじゃないか、と腕組みしながら耳を傾ける。

「で、さ…その女って、決まってこう言ってくるんだ……『あの、よく一緒に居る…そう、天城さんの連絡先教えてください』って!」

「いやなんか最近知らない人からメール来るなと思ったらお前の仕業か!?まさかお前当麻まで」

「モチのロンだよくそったれ!!さっきの典型文は天城の部分を上条に変えても成り立つんだよ!!」

「……で、でも俺より当麻の方が頻度高いだろ?」

「…そりゃな?でもお前も十分多いわ!」

俺、怒ってますというような話し方をしてくる浜面に、悪い悪いと取り敢えず謝っておく。

するとそれに浜面がさらに怒り、こちらにつかみかかってきた。

それをいなし、煽ると、再びつかみかかってくる。

それを繰り返しているところを、一方通行は笑顔で見ていた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

翔馬視点

…暇すぎる。

そろそろ当麻の補修が終わるころだが、どうせいつもの不幸で会うことは無い…

「お、自販機」

することもなかった俺は、視界に映った自販機でいつものヤシの実サイダーを飲むことにした。

鼻歌交じりに小銭を投入し、ヤシの実サイダーの購入ボタンを押す…

「あ?」

おかしい。何度ボタンを押しても、一向にヤシの実サイダーが出てこない。

「……不幸だ」

当麻の如く愚痴をこぼす。

このまま連打してたらあるいは…とひたすらボタンを連打していると、聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。

「ちょろっと~、自販機の前で固まってんじゃないわよ~」

「あ?御坂?」

背後を見ると、某お嬢様学校に通う中学生の知り合い…御坂美琴がいた。

「…あー、一応忠告しておくが、その自販機…」

「お金呑み込むんでしょ?わかってるわよ。常盤台内伝の金を呑む自販機だもの」

「なんてものを内伝してんだお嬢様学校…」

なんかもう、ツッコむ気力すら失われてきた。

「じゃあどうやって買うんだよ?」

「買うってのはちょっと語弊があるわね…こうすんのよっ!!」

俺の質問に答えるように、御坂は迷わず自販機に回し蹴りを喰らわせた。

「ばっ、おまっ!?」

「ここの自販機、結構古いらしくてね?バネが緩んでるらしいのよ…あ、ヤシの実サイダーゲット」

「いやそれはマジで譲っていただけませんかね金払うんで」

軽く笑いながら商品取り出し口に手を入れて商品を確認した御坂の言葉に脊髄反射で土下座を披露した。

「ど、どうしたのよ…そんな飲みたいならアンタもやってみればいいじゃない?」

「いや、俺不幸だから。当麻の次くらいには不幸だから。そんなロシアンルーレット確実にハズレ引くような不幸の避雷針みたいなやつにそんな賭けさせないでいただけません?」

「早口でまくし立てることかそれが!…まぁいいわよ、はい」

ひれ伏す俺に向かって困惑しつつもヤシの実サイダーを手渡してきた御坂は、今の俺には慈母のように見えた。

「お、おぉおおお!!愛してるぜ御坂!!」

「愛してっ…!?」

「あ、すまん嫌だったか」

「あ、当たり前じゃない!……ま、まぁほんとは結構嬉しかったり嬉しくなかったり…」

「??なんて?」

「何でもない!!」

聞き返した俺に電撃をまき散らしながら怒鳴ってきた御坂。

うーん?乙女心はよくわからんのですなぁ…

「…そう言えば、アンタどうして金呑むこと知ってるのよ?」

「あん?そりゃ俺がさっき金を呑まれたからだけど」

「へー…いくらよ?」

「お前その苦学生の財布事情に切り込む発言やめてくれねぇかな………五百円だよ」

「ご、五百円?」

「そ、ほんとはピッタリ払いたかったんだけど…憐れ、値上がりの影響とかいろいろ忘れてたせいで、十円玉が足りなかったんだ」

「ふーん」

訊いてきた御坂は早速興味をなくしてくれやがった。

二千円でもつかっときゃ良かったのだろうか。

「…ねぇ、アンタ」

「どーしたよ?もう金に関する話はNGで頼みたいんだが」

「そうじゃなくて……前の決着、まだつけてないわよね?」

「……お前今言うか?」

「今言うわよ。ここであったが百年目ってやつ」

再び自販機を蹴りつけて取り出したジュースを手に、御坂は告げる。

すっごい面倒くさい。

そこに…

「まぁお姉さま、まぁまぁお姉さま…補修なんて似合わない真似をと思っていましたが、このことの口実だったのですね?」

「黒子…別に私はコイツに会いたくてそういったわけじゃなくて」

「私は翔馬さんに会うための口実、とは一度たりとも明言していませんよ?」

「む、ぅぅ…」

一触即発、そんな状況を打破してくれた白井に内心感謝しつつ、なんか雰囲気が怖いなぁと引き気味になる。

「ま、まぁ白井…あまり御坂をいじめてやるなって。第一、俺と会ったのも偶然なんだから」

「ふぅん……翔馬さんがそう思ってるならいいんですけど」

どう思っているのがいいのだろうか。正直俺にはよくわからない。

「あぁそうでした。翔馬さん。今度風紀委員の一七七支部まで来てもらっても?」

「え、俺最近品行方正だと思うんだけど」

「…よく言いますわ。最近浜面とかいう人たちと盗んだ車で夜のドライブに洒落込んでたり、削板さんとやらに絡まれて軽く大乱闘してみたり、挙句貴方の部屋から現れた極光が上の階の床をぶち抜いたり、不良に絡まれてた佐天さんを守るためとはいえ廃ビル三つを素手で砕いたり…ほかにもありますがまぁいいでしょう。今回はそういう事を言うために誘っているわけではないので」

「うっ、改めて言われると俺ってとんでもない奴だなぁ…たはは…」

少しばかり自分の行動に責任を持つべきだろうかと反省。

…しかし、これが理由じゃないなら一体?

「はぁ…初春がどーしても貴方に会いたいなどと申すのですから…」

「初春?誰?」

「ちょっとアンタ初春さんにまで手をだしたの!?」

「だぁ!?待て待て落ち着け御坂!!俺は無実!潔白なんですけど!?」

「知らないわよ!!大体アンタなんなのよ!最近の常盤台の皆の話題にはアンタか上条ってやつしか上がってこないのよ!!」

「いや知らんがな!!なんで俺がそれで問い詰められて…!?」

「はいはい、仲がいいのはよろしいのですが…少々ヒートアップしすぎですわよ」

「仲良くなんて無い!!」

「おぉっと、それはそれで傷つく…」

俺の首根っこ掴んで揺さぶって来やがった御坂に訳が分からないよと怒鳴り返していると、白井が仲裁に入ってきた。

強制的に少し距離の置かれたところにテレポートさせられそうになったが、俺は幻想殺しを持っていたので効かなかった。

「……相変わらず効きませんわね」

「まぁそれは諦めることだな…取り合えず、今度その初春さんとやらに会えばいいんだろ?でもなんで風紀委員の支部まで?」

「……あの子、最近仕事を溜めにため続けてたせいで、夏休みということも相まって缶詰めさせられているんですの」

「あらま…じゃあできるだけ近日中には行くわ」

「そうしてくださった方が幸いですわ…では私はこれで」

未だビリビリしている御坂を放置して、白井は消えていった。

…あ、あれは放置でよかったのか…

「…全く、テレポートなんて卑怯な真似を……変な噂流さないでしょうね……ま、まぁ別に外堀を埋めるとかそういう意味で言えば周りにそういう勘違いをされておくのも悪くは無いのかも―――って無い無い無い無い!!」

「何が無いんだよ?」

「ばっ!な、なんでもにゃっ!?…し、舌噛んだ…」

途中小声だったところが何と言っていたのか分からなかったが、変に被害妄想してしまったのだろう。

だがそんなに慌てるような事なのだろうか。

「ようやく一段落付いたから乱入してやろうと思ったらこれかよ、とミサカは呆れながら近寄ります」

……ん?

ベンチに腰掛け、御坂の奇行を生暖かい目で見守っていると、背後から御坂と似たような声が聞こえてきた。

「うぉ、御坂が二人」

「妹です、とミサカは質問の間など許さずに自分の立場を説明します」

恐ろしいまでの無表情で告げた御坂二号を見ながら、コイツがどんな奴だったかを思い出す。

妹達(シスターズ)。レベル5に()()()()御坂から手に入れたDNAマップを利用し、レベル5のクローンを作るための実験によって生まれた少女。

二万体作られているんだったっけか?それとも作成途中だったっけか?

後、ラストオーダーってやつもいたな。ミサカワーストってやつも。

「…それでその妹が何の用だよ?」

「何の用、と聞かれましても…とミサカは返答に困ります」

「…え、ただ公園を徘徊してただけ?」

「それはそれで語弊がありますね、とミサカは答えるのを億劫に思いつつも言葉を続けます。偶々この辺を歩いていただけです、とミサカは驚愕の事実を告げます」

「お、おう…」

どこに語弊があったのか、どこが驚愕なのかとツッコミたいところはいっぱいあったが…まぁそこはどうでもいいか。

未だミサカの方を睨みつけているだけの御坂を放置して、ミサカは話続けた。

「…しかし、とミサカはあなたの顔を凝視しながら小さく言います」

「はい?」

「……中々私好みの顔ですね、とミサカは顔をポッと赤くします」

「ど、どうも…?」

全く表情に変化がない状態で褒められても何とも思わん。

例え美少女であっても、感情の起伏というものは大事なのだなぁと学ぶことが出来たいい日であった。

…うーむ、クーデレソムリエやめようかな。

「ていうかマジでどうしてこの辺歩いてたんだ?こんな廃れた公園、偶々で歩くか?」

「……強いて言うなら研修中と言ったところですね、とミサカは吹けない鼻歌を歌うふりをしつつ答えます」

「オッケー、答える気はないんだな?」

強引に話を終了させる。

答える気のないことを態々聞いても時間の無駄でしかないということは、この短い人生経験で明らかになっている。

と、ここでようやく御坂が口を開いた。

「…ちょっとこっち来なさい」

「どうしましたか?とミサカは首をかしげます」

「オイ待て微塵も動いてないぞ」

俺のツッコミも無視して、二人は話続ける。

「いいから!早く」

「…はい、とミサカは愛しい彼に手を振りながら嫌々引きずられていきます」

「おうおう、せめて手を振ってからそういうことを言う事にしような」

どうせ冗談、と鼻で笑って手を振って別れる。

「……帰るか」

二人の姿が見えなくなったところで、ヤシの実サイダーを一気に飲み干し帰路につく。

…御坂の奴、飲みかけのまま置いて行ってやがる…しょうがない、後で届けてやるか。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

翔馬視点

「……え、さっきお前御坂に連れ去られてなかったか?」

「……それは残像です、とミサカはデジャブを感じさせる誤魔化し方をします」

…露骨な誤魔化し方をしてきたミサカに、こちらも露骨に溜息をつく。

まぁミサカは複数人いるししょうがないんだろうが…少々不用心すぎやしないか?

仮にも極秘の実験のメンバーなんだから。

「…ていうかせめてそのゴーグルくらい外してても大丈夫なんじゃねぇの?」

「ミサカはお姉さまと異なり、電子線や磁力線を目で追うスキルがないのでそれらを視覚化するデバイスが必要なのです、とミサカは懇切丁寧に解説しました」

「…懇切丁寧って使い方あってるのか?」

俺のツッコミなど知らぬとばかりにミサカは話をつづけた。

「それより、特にすることもないのであなたの家までついて行っていいですか、とミサカは確認を取ります」

「特にすることが無かったら俺の家に来るヤツ多すぎねぇかな…まぁいいけど」

絹旗とか、黒夜とか、色々。

絹旗に至っては、俺のテレビで勝手にB級ホラー見てたりするんだよなぁ…

黒夜のせいでイルカの人形増えたし。

「では早速行きましょう。時は有限です、とミサカは意気揚々と歩き始めます」

ミサカがそう言いながら俺の事を引きずって俺の家まで向かう事数分。

玄関で、土御門の義妹である土御門舞夏に遭遇した。

「あぁ、なるほど…また土御門の家に邪魔することにしたのか」

「そうなんですなー……それと天城先輩、家出少女を匿う秘訣その」

「あー、わかった。そういう事か。うん。できる限り静かにするように伝えとくから。うん」

清掃ロボットの上でくるくる回りながら俺にワンポイントアドバイスしてこようとしてきた舞夏を軽くいなし、少しでも巨体の人が利用しようものならすぐにでも故障しそうなくらいボロボロなエレベーターに乗って俺の住む部屋のあるところに向かう。

すると俺の家の扉の前で言い争っている二人が。

片方は成金趣味のティーカップカラーの修道服を着たシスター。

もう片方は巫女服黒髪…だが、自称魔法使い。

「何してるんだお前ら」

「あ、しょうま!……その人誰?」

「まってインデックスさんしっかり説明するからそのマジトーンやめて?」

俺を見るなり笑顔を向けてきたインデックスは、光速を超越したかのように思えるレベルの速さで表情を冷たく睨みつけてくるものに変えた。

身振り手振りでミサカの説明をすると、理解はしたが納得はしていないというような態度ではあるものの追及はやめてくれた。

「それで、何があったってんだ?」

「…スフィンクスにノミがついてたの」

「…ちょっとまて、それってつまり部屋の中は…」

「ノミまみれかも」

「だぁー!?なんでそれを放置してんだよ!?」

なんてことない様に言ってくれやがったインデックスを、無性に殴りたくなったが我慢。

それもこれも、先にノミ取り剤をつけておかなかった俺の責任なのだ。気を付けよう。

「……聞くがお前らの手に持ってるそれは何だ?」

「?セージだよ?これを燻して…」

「お前は猫の燻製でも作りたいのか?」

「む…」

スパッと切り捨てた俺に、釈然としない顔をして固まったインデックス。

そこから視線を動かし、姫神の方を見る。

その手には…

「なぁ、姫神のそれって…」

「うん。魔法のスプレー」

「まさかお前生きた猫にそんな化学物質の詰め合わせみたいなやつを吹きかける気じゃないよな?」

「…」

これまたインデックスと同じように固まった姫神から視線を外し、結構本気で考える。

「…なぁミサカ」

「どうしましたか、とミサカはこれから頼られるだろう事を期待しながら己の持つ情報を再確認します」

「…いや、電気系統の能力を持ってるお前だから通じると思っただけで…確か、ノミにだけ聞いて猫には無害の周波数の電気をだす機械ってあったよな?」

「ありますが、とミサカは首をかしげながら」

「いや微塵も動いてねぇから……あれってホームセンターとかでいくらくらいなんだ?」

「私は従業員か何かですか、とミサカはこっそり舌打ちします……申し訳ありませんが、詳しい値段等についてはわかりかねます、とミサカは慈悲なく言い放ちます」

「お、おぉうすまんかった…しっかしインデックスとか姫神とかが都合よく持ってるわけもねぇし…自宅にも使いたいからな…買ってくるか…インデックス、いくぞー」

なんか怒っている雰囲気のミサカに謝罪しつつ、薄っぺらい財布を取り出し中身を確認してから店まで歩いて行こうとする。

するとそこで、ミサカが待ったをかけた。

「待ってください、とミサカは真打登場という文字が背後に出ていることを妄想しながら呼び止めます」

「漫画か何かかこの世界」

「……その特定周波数を出す機械がなくとも、ミサカの手にかかれば問題なしです、とミサカはお姉様のせいで薄っぺらい胸を張ります」

「お前驚くほど毒吐くよな…でも、何とかできるなら頼む!なんなら晩飯奢ってやっから!」

「…その言葉、忘れないように、とミサカは念を押してから作業に取り掛かります」

それだけ言うと、ミサカはその場で指を鳴らした。

すると、いきなりスフィンクスが総毛だった。

その足元には大量のノミの死骸が落ちていた。

「…恐らく部屋の中にもその死骸が散らばっているでしょうが、掃除くらいは自分でやってくださいね、とミサカは一仕事終えた後に来る爽快感を全身で受け止めつつあなたに冷たく一人作業をすることを強制させます」

「…言われなくてもやるっての……まぁ、ありがとう。すっげぇ助かったわ…何かリクエストとかあるか?まだ何を作るか決めてなかったし」

「…ではハンバーグがいいです、とミサカは要望します」

「ハンバーグな?了解。部屋掃除してからでいいよな?」

「…むしろノミの死骸の上で客に食事させるつもりだったのですか?とミサカはあなたの感性を疑います」

「いやねぇよ」

手を振って否定しつつ、扉を開ける。

視界の端に何故か哀愁漂う表情をしている姫神が映ったので、一応声をかける。

「…お前もなんか食ってくか?」

「!うん」

…ちなみにだが、この後挽肉が無くてスーパーで買おうとしたのだが、近場のところには無かったので購入するので足が限界を迎えたのは、いやな思い出だった。

「…不幸だ」

だから、こうやって当麻みたいにうなだれてしまうのも、仕方ない話なのだ。




今回もうまくいけませんでした。
まぁ僕がしっかり何があって今このようになっているのか等の描写を全くしていないからなんですが…
取り敢えず、原作キャラで翔馬がかかわれる範囲で言えば、恋愛フラグはほぼ全員にたっています。
フラグをたてるついでに原作の流れをぶっ壊す作業まで兼ねてくれているので、自分でその先を考える必要まであります。
例えば、雲川鞠亜を木原加群が助ける前に助けたせいで、通り魔に仕立て上げられてたその少年は無事生存し、木原加群は自分を殺す必要を失い(ベルシになるルートを強制回避)、雲川姉妹は二人共…ということになった。という感じです。

今回当麻さんの方の話が出ましたが、しっかりモテモテです。
ただスポットが当てられないだけで……言い寄ってきている人数は、今のところ翔馬より多いです。
流石原作主人公。


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妹達

新春初投稿



翔馬視点

「いやぁ、ひっさしぶりだな当麻と帰るのは」

「まぁ俺は補修があったからなぁ…こう、登下校中に困っている人を配置するのをやめて欲しいな」

「まぁ悪意ある配置と言えばそうだな」

日が沈んでいるなか、俺と当麻は冗談めかして笑い合う。

本当なら俺は補修が無いので一緒に帰るなんてことは無いのだが、何やら当麻が家に忘れ物をしていたらしく、それを俺に届けてもらおうと呼び出されたのだ。

…プリントくらいもう一回印刷すればいいのになぁと思ったのは内緒だ。

「…あ!」

「どーした当麻」

「さ、財布落とした…」

「え、何処に仕舞ってたんだ?」

「さっき自販機でジュース買ってからずとポケットに入れてたんだけど…」

「じゃあ戻って探して来いよ!落としてるかもしれねぇだろ!?」

「お、おう!!じゃあまたなー!!」

慌ただしく先程まで歩いていた道を戻っていった当麻を見送り、家に向かう。

…と。

「あ?御坂?」

「…あぁ、アンタか……どうしたの?今日は疲れてるからビリビリ無しよ?」

「そりゃありがたい」

「…で、なんの用よ?」

「…いや、見かけたから声かけただけで何にも」

「それをしようとしても出来ない男子が沢山いると知っての発言?」

「なるほど、お前はあれか、ナルシストってやつか」

「うっさい、焦げ目つけるわよ?」

淡々と会話する。

…なんだろう、御坂の様子が何処か変なのだ。

心ここにあらずというかなんというか…

「…私、飛行船って嫌いなのよね」

「それは俺もだが…理由を聞いても?」

「…機械が決めた政策に人間が従ってるからよ」

忌々し気に飛行船を睨みつけている御坂を尻目に、考える。

…確か妹達って樹形図の設計者ってやつの計算結果のせいで殺されることになったんだっけ?

だとすれば御坂がここまで憎悪を露わにするのも仕方ないか。

「樹形図の設計者ってやつか?でもあんなアブソリュートシミュレーターってあるもんなんだろうかな。最近なんて天気予報も的中率下がったし」

何とか場の空気を換えたいと思いつつ、話題を狩る度胸もないまま無言になる。

…だがまぁさっきの言葉は本心だったりする。

本当にそんな機械があるのだとすれば、態々実験なんてしなくていい。

なんなら、妹達を二万回虐殺しなくともレベル6に到達させられる、別のもっと平和な方法を算出したり出来たんじゃないのか?

最近の一方通行の目に見えて気が沈んでいる理由は、多分その実験のせいだ。

…しかし、知るはずのない俺がいきなり実験を止めに入ったりなんてしたら、酷い目に遭うのはわかっている。

それに…確かわざと一万体殺させてたんじゃなかったか?妹達の総体は。

「……えいっ」

「あだぁ!?テメェ不意打ちは卑怯…!」

「はっはっはー!引っ掛かったわね!…じゃ、帰るわ」

「はぁ…じゃあな………無茶すんなよ」

「っ!……それが出来たら、苦労しないわよ」

小声で言った俺の言葉に肩を震わせて、これまた小声で返した御坂は、逃げるように帰っていった。

「……さて、どうやって実験に乱入して止めるかね…」

目下最大の問題について考えながら歩く。

まず、もうこれ以上殺させたくない。

御坂も、ミサカも…そして一方通行も。皆が傷つくだけでなんのメリットもない。

二つ目、俺が実験に知ってた体では行きたくない。

これだと、知っていたくせに今の今まで何もしてこなかったクソ野郎という認識を全員に与えるだけだ。

…これらを達成させるにはどうすればいいのだろうか。

いや、作戦はあるにはあるが…その作戦のかなめである黒い何かは、どうすれば出て来るのか分からない。

ちょっと前に自分で指を切ってみたが、血が流れるだけで何も無かった。

三沢塾に攻め込んだ時の黒いドラゴンブレスは、いくら念じても出なかった。

ステイルに黄金錬成が出来るようになっていると言われたが、何を望んでも現実にならなかった。

「……やっぱ一人は諦めるしかないのか…?って、アイツ」

頭とか胃とか痛くしながら歩いていると、視界に何かの前で屈んでいるミサカを見つけた。

「…何してんだ?」

「…いきなり声をかけないでください、とミサカは肩を大きく震わせながら答えます」

質問には答えず、ミサカは手に持っていたゴーグルをつけた。

「…その菓子パン、上げなくていいのかよ?」

「…それは不可能でしょう、とミサカは結論付けます。ミサカには致命的な欠陥がありますから、とミサカは補足します」

「…そういう言い方、やめた方がいいぞ」

そう言えば電撃使いってのは無意識的に磁場を発していて、その磁場は人間には何の影響もないが、他の動物だと怖がらせてしまう…とかいうのがあったな…と思いつつ、ミサカに注意する。

欠陥、なんて言葉は使わない方がいい。

例えクローンだとしても、ミサカはここに生きている人間なんだから。

そんな俺の意図には気づいていないようで、ミサカは首をかしげるばかりだったが。

「…とまぁそれはさておき…猫に触りたいんだろ?」

「ですからそれは不可能なのです、とミサカはムッとして言い返します」

「はいはい…要はその磁場が無くなればいいわけだ」

そう言いながら、俺はミサカの肩に右手を乗せた。

すると、先程までダンボールの隅で怯えていた猫が、恐る恐るだがミサカの方に近づいて行った。

「…なぜ?とミサカは驚愕します」

「俺の右手には、能力を無効化する能力が備わってるらしくてな…その磁場ってやつも、お前の能力の副産物ってんなら…消せない道理はない」

幻想を殺すだけの右手だが、使いようによっては幻想(願い)生かす(叶える)ことも出来る。

猫を手で撫でながら菓子パンを与えているミサカの顔は、少しばかり笑顔に見えた。

「…さて、とミサカはあなたの目を見つめます」

「なんだよ」

「このままこの猫が放置されていれば、いずれ保健所の人間が」

「わかった、コイツを俺の家に連れて行けと言いたいんだな?」

「はい、とミサカは頷きます」

無表情で頷いたミサカを無性に殴りたく思いつつ、否定するとともに代案を提供する。

「…俺の家はもう猫飼う余裕なんてないからな……最近猫に目覚めてきた親友に渡すけど、別にいいか?」

「…それは一体誰ですか、とミサカは質問します」

「一方通行」

アイツ、最近猫に興味津々だからな。

ペットショップの前で猫を見て立ち止まっていたりと……

「そう、ですか、とミサカは途切れ途切れに返事をします。その人に猫を飼育するなんてできるんでしょうか、とミサカは苦言を呈します」

「見てもない人の悪口を言うもんじゃありません。それにアイツ、最近癒しを求めてるところあるしなー」

ここでミサカがついうっかり実験についてバラしてしまったりしてくれればすぐにでも動けるのだが…いや、いっそ一方通行と鉢合わせさせて…

「…見てもないというわけではありませんが…とミサカは言葉に詰まりながらも返答します」

「…?よくわかんねぇけど…まぁいいや。アイツの家まで届けてくとするか」

嘘だ。本当はわかっている。

だが、それを知っているというのがどれだけ異常な事なのかと考えれば、行動に移すことが出来ない。

「じゃあなミサカ。また会う機会があれば」

「……えぇ、さようなら、とミサカは手を振ります」

「…いい加減、手を振るくらいはしろよ」

苦笑いしながら、突っ立っているだけのミサカに手を振って猫を抱えて帰る。

思いついたのだ。一番楽な方法を。

…実行できるかどうか、わからないが。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

翔馬視点

「ってなわけで一方通行、この猫、飼え」

「どンなわけだよ…」

あからさまに嫌そうな顔をしつつも、俺から黒猫を受け取った一方通行。

心なしか嬉しそうだった。

「っと、大分暗くなってきちまったな…じゃ!」

一方通行の家を立ち去り、書店に向かう。

まぁ理由というのは簡単なもので、いい加減インデックスと姫神にちゃんとした猫の飼育知識を持ってもらおうと思ったからだ。

中古ではいけないと思ったので、泣く泣く新品を買うことにしたのだが…インデックスの食費も相まって、財布がかなり寂しい。

「ありがとうございましたー」

間延びした定員の声に押し出されるように店をでて、ショートカット用の路地裏を歩き始めたところで、気づく。

「……サビ臭い、これって…」

匂いの正体に大体の見当がついたところで走り出す。

匂いの元まで向かうと、そこには…

「……」

かろうじてミサカとわかる死体が転がっていた。

光の無かった目はもう虚ろに開かれたままで、全身から血を流し、腹部からは内臓が飛び出していた。

「…こうして実際に遭遇すると…中々辛いな」

ミサカの死体の目を閉ざしてあげて、そのまま周囲を見渡す。

不自然に外れた換気扇などが、アイツの戦闘であると俺に伝えているかのようだった。

「…一方通行」

先程まで猫を抱きかかえて嬉しそうにしていた親友が作ったのであろう惨状に、俺は呆然と声を漏らした。

そこに。

「…まさかあなたに目撃されてしまうとは、とミサカは目を見開きます」

もう一人ミサカが来た。

「…どういう、ことだよ…?」

あくまで知らない体で演技を続けようとするが、ボロが出そうだった。

流石にここまでの惨状が広がっていると、思ってもいなかったから。

()()ですよ、とミサカは答えます」

「…これのどこが実験だよ?クローン実験か?」

「それはこの実験の前の実験ですね、とミサカは返答します。この実験はクローン実験から生まれたミサカ達を利用したものです、とミサカは本来なら教えてはいけないことをはついうっかり明かしてしまいます」

「なんてことをしているのですか、とミサカはミサカに叱責します」

「あなたも最近自由行動のし過ぎで大変な目にあっていたでしょう、とミサカはミサカとは違うミサカを叱責したミサカに冷静なツッコミを入れます」

「それよりも早く回収作業に取り掛かるべきでは、とミサカは言い争っているミサカ達に大人な態度を見せつけます」

「全員同じでしょう、とミサカはミサカとは違うミサカ達を小ばかにしたミサカに言い返します」

ミサカは、ミサカは…とひたすら別方向から言われて、思考がぐちゃぐちゃになってしまう。

こいつらは、目の前の自分の死体を何とも思っていないのか?

「…なぁ」

「どうしましたか?とミサカは問いかけます」

「……俺が実際に会ったことがあるミサカは、コイツか?」

「いえ、あなたと直接話したことがあるのはシリアルナンバー10032のこのミサカです、とミサカは背後から返答します。他のミサカは私の脳波をリンクさせて記憶を共有してあなたを知っているのです、とミサカは聞かれていない情報を開示します」

俺の背後から声をかけてきたミサカは、何処か誇らしげだった。

とても訳が分からなかった。

混乱し続けていた俺を無視してミサカ達は何かを言った後、俺を引っ張って路地裏を出た。

そのまま軽く会釈してミサカは立ち去って行って、後には俺だけが残された。

「………殺されなくても済んだかもしれなかったのに、俺のせいで死んだってわけか…」

胸糞悪い。先ほどまでの光景がひたすらフラッシュバックする。

「………いや、こうなってしまった以上どうしようもねぇな…次に殺されるのを止めればいいだけだ」

俯いていた顔を上げる。

落ち込んでいる場合じゃなかった。もうどうしようもないなら、今できることをするしかないんだ。

…とにかく今は、御坂の部屋から絶対能力進化実験の資料を手に入れる必要がある。

常盤台の学生寮に向かって走りながら、俺はある人物に協力を求めて電話するのだった。




…ミサカミサカ書きすぎているせいでせいでゲシュタルト崩壊起こしそうになりました。

因みに主人公が飛行船が嫌いと言うのは、ただただ高所恐怖症なだけで、乗るのが嫌い、という意味でした。


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協力者

翔馬視点

「…ここか」

体力がないくせに全力疾走したせいで整っていない息をそのままに、入り口に堂々と入る。

女子寮だからと言ってコソコソしてたら、逆に怪しまれるからな。

インターホンらしきものを押すと、すぐに反応があった。

「…天城だけど、御坂か?」

『…翔馬さん?』

「ん?白井?御坂は?」

『……お姉様はまだ帰ってませんの。何か御用でもありまして?』

「ほんのかなりちょっと急用があってな」

『どれですの……まぁいいですわ。急用でしたら部屋で待つのが一番ですの』

白井がそういうと、オートロック式らしい扉から重々しい機械の駆動音が聞こえてきた。

……開き方癖すごいな…

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

翔馬視点

部屋に入ると、白井が俺に茶を淹れてくれた。

その紅茶の箱は、取り敢えずなんか高そうな感じだった。

「取り敢えずベッドにでも腰掛けておいてくださいまし」

「…勝手に座っていいもんなのか?」

「大丈夫ですわよ。お姉様も翔馬さんなら嫌な顔しなさそうですし」

そういう問題ではない気がする。

ただまぁ、何か言ってはいけないような雰囲気が醸し出されていたので何も言えなかったのだが。

「…それで、一体何があったんですの?」

「何があったか、って聞かれるとこっちも困るんだが…」

「…前々から、お姉様が何かの事件に巻き込まれているだろうことは大体察していましたが…黒子は何も聞かされておりませんの」

「アイツが言いたくないことなら俺が言うべきじゃねぇんじゃねぇの?俺だって偶々知っただけだし」

俺がそういうと、白井は黙って俯いた。

頼って欲しいんだろう、御坂に。

それでも、アイツは平気な顔をして何でもないと言ってきたんだろう。

…そんな中、いけ好かない奴が自分を差し置いて御坂の問題にかかわろうとしている……まぁいい顔はしねぇよな。

…ん?

「なぁ白井、なんか威圧感って言うか…取り合ずなんか感じないか?」

「…まさか」

違和感を感じた俺の言葉に、すごく嫌な予感を感じているような顔をして白井は扉に耳を押し当てた。

次の瞬間。

「!まずい、寮監の巡回ですの!」

「足音聞いただけでわかるのか…」

「それくらいマズイんですの。さっさと身を隠してくださいまし」

そういうや否や、白井は俺を御坂のベッドの下に押し込んだ。

入り口どころか中すら狭く、持ち前の不幸の影響か右手を変な方向に曲げてしまって痛い。

ベッドの下の暗さに目が慣れてくると、視界に巨大な熊が映った。

中々パンクな見た目をしている。

何やら寮監と言い争っている白井を心の中で応援しつつ、熊のぬいぐるみのファスナーから飛び出ている紙を手に取る。

これが絶対能力進化実験の…あの木原幻生(トンデモ見本市野郎)が提唱した実験のレポートか。

内容を読み進めたが、俺が原作知識として知っているものと何ら変わりないことが書かれていた。

…いや、待て。どういうことだ?

「……一方通行が、二重人格者…?」

声に出してしまうくらいには衝撃的だった文章を、読み間違いじゃないのかと何度も読み返す。

何度読んでも、書いてあることは変わらなかった。

「……ある条件下において、性格が非常に残忍、狂暴なものに変化…レディオノイズの殺害を楽しんでいるらしく、実験開始前に準備が整っていた場合はこちらの制止も聞かずに殺害を開始するレベル…また、能力の質が通常時の五十パーセント上昇していることも確認され、()()()()()()()()()()()()()ことすら可能にしていた…」

その文書の下には、妹達の遺体の写真が添付されていた。

その全てがグロテスクなオブジェにされており、人としての面影を感じさせるものは無かった。

「翔馬さん?もう出ても大丈夫でしてよ?」

「…そうか、わかった」

白井に言われて、ベッドの下から出る。

もちろん、あのレポートを手に持って。

「……ちょっと寄らないといけないところがあるから、俺そろそろ帰るわ」

「お姉様に用があるんじゃ」

「その用事については問題ない、ほとんど解決したからな」

解決したのは嘘だが、この部屋に来てやらないといけないことはもう全て終わっているので大丈夫。

…さてと、確か御坂はあそこにいるんだよな。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

翔馬視点

足の限界を無視して走り続けたおかげで予想よりも早く鉄橋に到着した。

そこでは、御坂が一人で泣いていた。

どうやら俺には気づいていないらしい。

「……よぉ御坂、ちょっと話があるんだが」

「…何の用?」

俺に見えないようにして涙を拭った御坂は、いつもの勝気そうな顔を繕って答えた。

「下手に前置きしてバッドエンドなんて最悪だからな……これでわかるよな」

そう言いながら俺がレポートを見せると、御坂は一瞬、ほんの一瞬だけ泣きそうな顔をした。

だが、それもすぐに諦観をにじませたような顔になった。

「……それを見て、どう思ったわけ?」

下手な前置きはいらないと察したのか、御坂は潔くそう訊いてきた。

だから俺は間髪入れずに答えた。

「心配した」

「っ……ま、まぁ嘘でもそう言ってくれるやつがいるってだけマシ、よね」

「嘘じゃねぇし、まず強がるのをやめろよ」

いつも以上に必要最低限の言葉だけを使う。

態々長ったらしく俺の思ったことを口にする必要は無いからな。

「…このレポートの最後にあった地図、そこに書かれてた×印から大体は察したさ。そのうえでお前、今何しようとしてるんだ?」

一方通行が多重人格であることを除けば、全て俺の原作知識が正しいので、研究所の破壊云々は省略。

一刻も早くミサカと一方通行を助けたい。

「…研究所をいくら潰したところで、研究者たちは実験をずっと続けた。研究所を変えて、ね……本当ならそこに書いてあるキルマーク分で充分だったんだけど……その何倍もの数に研究所が増えちゃって……」

そこまで言って、御坂は話を切った。

「……だから、違う方法で実験を止めさせようと思ったワケ」

「……死ぬ気じゃないだろうな」

「よくわかったわね、その通りよ」

訝しむ様に言った俺に、おどけて答えた御坂が、俺には苦しんでいるように見えた。

「元々そのレポートに書かれている通りの実力を私が持っていないと、その実験は成り立たない…だったら」

「お前がそのレポートに書かれてる予測よりも早く、無様に殺されれば、ツリーダイアグラムに再演算を頼むほかなくなるってか?」

「そういう事。…因みに言っておくけど、ツリーダイアグラムはもう何者かによって破壊されてるからないわよ?だから、再演算を必要にさせれば……自然と実験は中止せざるを得なくなる」

うん、ほとんどって言うか全部原作通り。

後は御坂を止めて俺が一方通行のもう一つの人格の方を殴り飛ばせば良し。

「……だからって、お前が死んでどうする」

「…止める気?言っとくけど止まる気わないわよ?」

「だろうな」

飄々と答えた俺を威嚇するように、御坂は俺が左手に持っていたレポートを電撃で焼いて灰にした。

「…どいて」

冷たく一言だけ告げた御坂の目を真っすぐに見据えて、俺は言い返す。

「断る」

俺のその言葉に、御坂は裏切られたかのような顔をして、次の瞬間には親の仇を見るかのような目で睨みつけてきた。

「……邪魔する気?それとも何、あの子たちが死んだって殺されたって構わないって思ってるわけ?」

「阿保か。そんな訳ねぇだろ」

「じゃあどいて」

「断る」

俺に説明させる間を許してくれないせいで、中々俺がその場をどかない理由を言えない。

悶々としていると、御坂は電撃を発し始めた。

いつもの比ではないレベルの、高圧電流である。

「…どかないってんなら…殺してでも通るわよ」

「殺してでも、ね……やってみるか?」

御坂に自分がどれだけ無力なのか知ってもらうために殺気をまき散らしながら聞くと、御坂を囲っていた電流は一瞬で霧散した。

「……確かに、無理かもね…でも、それでも私はあの子たちを救いたい!!」

「…そうか、そうだよな……それでな」

「だから!!ここは通してもらう!!」

「…話聞いて?」

俺の言葉に耳を貸すことなく、御坂はコインを構え、超電磁砲を撃った。

ギリギリ目で追える程度の速度で飛んできた超電磁砲を右手ではじく……ことはせず。

「ッがァ!?」

わざと受けた。

右わき腹を貫通したコインは、それでも止まることなく一直線に進み続けた。

「……嘘」

小声で、信じられないというように零した御坂。

それに対し血反吐を吐きながらなんとか立ち上がり、再び真っすぐ目を見据える。

「……話を、聞けよ…」

弱々しく立ち上がった俺の言葉に、御坂は力なくうなずくのであった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

翔馬視点

声を出すことすら辛くなってきたので、御坂に近づいてもらってから説明を開始した。

「……ってなわけで、俺はお前のやろうとしてることの逆をやる」

「……どういう、こと?」

嫌な予感がする、と言うような顔をしながら訊いてきた御坂を安心させるように無理して笑いながら答える。

「俺が、一方通行と戦う」

「無茶よ!!相手は学園都市最強のレベル5!私なんかとは比べ物にならないような…!!」

「だからこそだ。そんな最強を俺みたいな雑魚が倒しちまえば、研究者たちはより一層結果を不安に思う」

まぁこんな状態で勝てるかどうか不安だが。

「…それにな…一方通行は、親友なんだ。だからこそ、親友の俺が止めてやらなきゃならねぇ」

痛みをこらえるように歯を食いしばりながら立ち上がり、常盤台の学生寮に行く途中で呼んだ奴等を待つ。

元々御坂に話を聞かせるために多少怪我をすることは予想していた。

だから、送迎係としてアイツらを呼んだのだ。

…ちょうど到着したらしい。

なんか、殺気を感じるけど。

「…なーんで天城が第三位と一緒に居るのかにゃーん?」

「わかった、説明するから取り敢えず今から説明するところまで俺と御坂送ってくれ。見ての通り軽く怪我しちまってな」

こめかみに青筋が立っている麦野に、取り敢えず車に乗せてくれと、俺は珍しく泣きそうになりながら頼むのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

翔馬視点

「痛っ!?」

「超動かないでください翔馬……いや、なんでこんな怪我をしておいて動けるんですか…」

結構なマジトーンで疑問を口にしながら俺の腹部の傷に応急処置を施している絹旗に感謝の意を感じつつも、少し優しくしてはくれないかなと割かし本気で思う。

そんな俺達を無言でフレンダと滝壺と御坂が見てくるのがなんか気恥ずかしい。

…って。

「…今更だけど麦野運転でいいのか?」

「…言っていいのかわからないけど、むぎのは多分しょうまの役に」

「た・き・つ・ぼぉ…?何か言ったかにゃーん?」

「…ごめん、何でもない」

「うん、そんな滝壺を応援するよ」

麦野にドスの利いた声で脅されて震えている滝壺を、普段の滝壺の口癖風に慰めつつ、傷跡を見る。

絹旗曰く応急処置程度らしいが、傷はふさがった。

…麻酔もなしに糸で縫うことを、応急処置というのかどうか不安だが。

「…ていうか、なんでお前らそんな険悪なんだよ」

「!聞いて翔馬!コイツが私に電撃くらわせた挙句蹴りつけてきて…ッ!!け、結局何でもないって訳…」

なんか涙目で俺に訴えてきたフレンダだったが、御坂に睨みつけられた瞬間萎縮して誤魔化し始めた。

…何なのこの空間、強い人に圧迫されてる人多くない?

「…ねぇ、どうしてしょうまは私たちに送迎を任せたの?」

「いや、送迎以外も任せようと思ってんだけど」

「例えば?」

「…これから行くところに居る、御坂にそっくりなヤツを、俺と一方通行の戦闘の余波から守って欲しいんだ」

「…翔馬は一方通行と超戦う気なんですか?」

心配するように訊いてきた絹旗に、笑いながら大丈夫と答えたところで、車が止まった。

どうやら、実験の行われているところについたらしい。

「…じゃ、行くか!…痛っ」

かっこつけて車を降りたが、痛くてうずくまってしまった。

かっこ悪い。

そんなこんなで少し涙目になりながら、コンテナの合間を縫って走り出すのだった。




…原作で上条さんがかっこいいことを言っているシーンを書くのって大変ですね。
オリ主ってそんな情熱的ないい人じゃないので。
取り敢えず繋ぎの回みたいな感じで読んでいただけたら結構です。


そして、ハイ。一方通行さんは二重人格だったということになります。
原作乖離は大事ですからね。


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一方通行

翔馬視点

コンテナの間を抜け、比較的広いところに出た。

「…この場合、実験ってのはどォなっちまうンだ?」

俺の視界に映る一方通行は、ミサカの頭部を踏みつけにした状態で、ただ一言そう言った。

「……」

その光景は、俺をキレさせるのに充分だった。

「……離れろよ」

「あァ?」

「ミサカから離れろって言ってんだよ、一方通行」

声が震えるのも気にせずに、一方通行を睨みつけながら言う。

「……オイ、ミサカってのはテメェのオリジナルの名前だよなァ?なンでアイツが知ってンだ?まさか関係ねェ一般人に協力でも求めたってのかァ?冗ォ談じゃ」

「…離れろって言ってんだろうがこのセロリ野郎がッ!!」

俺から目を逸らし、ミサカを蹴りつけながら興ざめしたと言うように文句を垂れる一方通行に、俺の堪忍袋は破裂した。

一瞬で一方通行の眼前に迫り、防御の隙を与えずに右手で殴り飛ばす。

渾身のアッパーカットが炸裂し、一方通行をコンテナに叩きつけた。

「大丈夫か!?」

地面に倒れ伏しているミサカを起こし、肩をゆする。

最初は反応が無かったが、ゆっくりと目を開いて俺の顔を視認すると、瞳を驚愕の色に染めた。

「…な、ぜ…貴方がここにいるのですか、とミサカは…」

「お前を助けに来た。詳しい説明はまぁ…御坂にでも聞いてくれ」

お姫様抱っこでミサカを抱え、俺を追ってきた御坂に渡す。

「……い、今アンタ」

「そういうのは後だ。あの程度で一方通行が止まるわけがねぇ」

御坂の言葉を遮り、再び一方通行の方を向く。

もう一方通行は立ち上がっており、信じられないものを見た、という目でこちらを睨みつけていた。

「……なン、だ?どォして俺の反射が効かねェ?」

「いーや、確かに効いてたぜ。事実俺の攻撃力がかなり軽減されたらしいしな」

軽く返したが、その実内心ではかなり動揺していた。

…おかしい、幻想殺しで殴りつけたから、ダメージは全部通っていくはずなんだが…

自分の攻撃のダメージの一部を受けた右手を気にしつつ、余裕さを演じながら一方通行に近寄る。

「……それで?大体の事情は知っているが…お前から話を聞きてぇな」

「…まるで知り合いみてェな口ぶりだが…オマエ、ナニサマ?」

「お前の親友だ」

はっきりと言い切った俺に、一瞬呆けた顔をした一方通行は、高笑いし始めた。

「…面白ェ冗談だなァオイ。俺はオマエなんか知らねェぞ?」

「…だろうな。やっぱり二重人格か」

「チッ、そういう事かよ…()()()の方の…面倒くせェ」

続く俺の言葉に、一方通行は何かを理解したのか気だるげな表情を作った。

「……オイ、一回だけチャンスをやるよ。()()()の知り合いだってンなら少しは情けくらいかけてやる………失せろ、三下」

「……調子乗ってんじゃねぇよ。俺に殴られてビビってたくせに―――」

「死ね」

俺の挑発が言い終わる前に、一方通行は足元を蹴りつけた。

その次の瞬間、俺の足元が爆発した。

「ぐぁッ!?」

砂利が全身を叩き、肺の空気を体内から押し出した。

咳き込む俺に目をくれることなく、レールの前まで行った一方通行は、いつもの一方通行の物とは違う気色の悪い笑みを浮かべ、レールを足で小突いた。

甲高い音を響かせながら変形し、立ち上がっていくレール。

それは、一方通行が指を軽く俺の方に向けて動かしたと同時に俺に襲い掛かってきた。

「ぅ、あぁあああああああ!!」

声を張り上げて無理矢理体を動かし、レールを避け、叩き、逸らす。

避けきったと思えば、一方通行はコンテナをこちらに蹴り飛ばしてくる。

「シッ!!」

息を吐くのと同時にコンテナの面を殴りつける。

殴りつけたところを中心にして凹んだコンテナは、一方通行の真横を通り過ぎ、中身の小麦粉をばら撒いた。

「……身体能力強化系の能力者かァ?」

「まっさか、ただの筋トレだ」

「なンだそりゃ」

真面目に答えていないと受け取ったのか、軽く聞き流した一方通行は、視界を悪くさせている小麦粉を一瞥して笑った。

「なァ三下…さっきの死にぞこないも言ってたが、今日は風がねェよなァ…」

「……お前まさか」

「粉塵爆発、って知ってるかァ?」

愉快そうに放たれた一方通行の言葉に戦慄し、すぐさま小麦粉が浮遊している空間を離脱。

俺が小麦粉の漂う場所から離脱するのと同時に、一方通行がコンテナとコンテナをぶつけ、火花を散らせて発火させた。

「ッ!!」

咄嗟に顔を腕で庇ったが、全身を熱気が襲ってきた。

「…今のは火傷しちまったな…」

夏場だからと言って半袖でいたのが仇となったか。

爆炎の中からゆっくりとこちらに向かってきている一方通行を睥睨しつつ、拳を握って開く。

…試してみるか、対一方通行用の戦闘術。

「そォだった…俺だって酸素奪われるとキツいンだっつーの…こりゃ核を撃っても大丈夫ってキャッチコピーは訂正が必要かもなァ?」

「…」

世間話でもするように言ってきた一方通行を睨みつけながら、如何にして攻撃射程内に迫るかを考える。

いくら近づこうにも、俺が近くに行けば砂利が全身を襲ってくる…

だが、一応勝機はある。

アイツの口ぶりだと、俺の事を全く知らないらしい。

…この右手(イマジンブレイカー)の事も。

不用意にこちらに寄ってくるタイミングを、狙う。

「……もォいいや、オマエ…最初攻撃が入ったのは俺が慢心しすぎたってとこだろ…てなわけで終わらせてやるよォ!!」

そういうと、前屈姿勢を取り、右手と左手を開いた一方通行。

「好きな方を選べよ、どっちかに触れるだけで血流とか生体電気とかを滅茶苦茶にして死なせられるからよォ…オマエ、充分頑張ったから選ばせてやるよ……右か?左か?……両方かァ!?」

笑いながら俺のすぐそばまで手を伸ばして近づいてきた一方通行に、俺は…

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

一方通行視点

…?

??

!!!??

おかしい、なンでだ!?

なンで俺は呑気に月なんか見てンだ!?

「どうした一方通行、二発ダウンなんてバカみてえなこと言わねぇよな?」

二発……ダウン!?

ダウンだと!?

この俺が、またやられたってのか!?

俺は学園都市第一位なンだぞ!?

「………オイ、何しやがった?」

「…どういうことだ?」

「…今俺に何したか聞いてんだよ答えやがれ三下ァ!!」

目の前の雑魚に迫る。

先程詰めたはずの距離が、戻されているという異常さを感じないように叫びながら。

「こうしたんだよ!!」

そう答えながらアイツが右手を振るうと、俺は顔面に痛みを感じると同時に後方へ吹き飛ばされた。

……攻撃が、当たった…?

ダメージが、入ったってのか?

この、俺に…?

「ふ…っざけてンじゃねェぞ!!三下がァアアアアア!!」

「ふざけてんのは……テメェだあああああああ!!」

俺の右手を掴み勢いを殺した三下は、無防備になった俺の鳩尾を勢いよく殴りつけた。

「ご、がァっ!?」

胃液を吐きながら、地面に叩きつけられる。

今まで感じたことのない感覚に、思考がぐちゃぐちゃになる。

アイツは、何者だ…?

「いい加減失せろ偽者、本当の…いつもの一方通行を返しやがれ」

「…俺が、偽者だァ…?」

疑問まみれで混乱しきっていた脳内が、目の前の三下(強敵)の言葉でクリアになる。

それと同時に、途切れ途切れの記憶がフラッシュバックした。

『この…ッ!化け物がァ!!』

無能力の不良は、捨て台詞を吐きながら俺にバールを振るって…反射の影響で、自分の脳天をつぶして死んだ。

『これより対象に攻撃を開始する!!』

軍隊みてェな奴等が、俺に銃弾を躊躇いなく撃ってきた。

戦車の大砲が俺を襲ってきた。

『ひ、ひぃッ…来ないでっ!!』

不良に絡まれていた女子生徒を、()()()()()()()()()()()()()助けてやったら、泣きながら礼も言わずに逃げていった。

『いい加減失せろ()()

目の前のアイツは、俺を偽物と呼んだ。

……どォしてだ?

俺が一体、何をした?

俺は俺だってのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

いや、もう一人の方が俺という存在を作った理由からして、こうなるのは仕方なかった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

それが俺が生まれてすぐに求められた事だった。

俺はソレがわかっていたから、どンだけ辛くても耐えてきた。

()()()()()。アイツは偽者だと言って捨てやがった…!!

「吠えてンじゃねェぞ……三下ァ!!」

先程よりも速く、正確にアイツに迫る。

攻撃が当たっても大丈夫だって考えは捨てて、回避しつつ確実に殺す。

何発か当てなきゃ俺を倒せねぇアイツと違って、俺は一瞬でも触れれば十分なんだからよォ…!!

「ッラァ!!」

なのに…!

「フッッッ!!」

どォして…!

「終わりだぁああああ!!」

アイツに攻撃は当たらねェのに、こっちは全部当たってンだよ…!?

アイツの攻撃が再三俺の顔面を捉えたのを感じた次の瞬間には、地面に叩きつけられていた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

美琴視点

「…すごい、アイツ…あの一方通行を、圧倒して…」

「しょ、翔馬って何者なワケ…?」

二人が戦っているところを遠巻きに眺める。

アイツは最初こそやられていたが、一方通行が迫った瞬間に鬼気迫る連撃を始め、一方通行を押し始めた。

「……これは一体どういう事なんですか、とミサカはお姉様に事情の説明を要求します」

「……ただアイツがこの実験について知って、いつも通りお節介してるだけよ」

実際はそういうわけではない。だが、正確に話そうにも、どうやって話せばいいのか分からなかった。

「……彼は、どうして私なんかのために…とミサカは」

「なぁ一方通行…どうしてこんな実験に参加した?」

私への質問を遮るように、アイツが口を開いた。

地面に倒れこんで動かない一方通行を気遣うような雰囲気を見せながら、アイツは淡々と聞いていた。

「ミサカだって、生きてんだよ。アイツらなりに、生きてた。一人一人違って……なんつーか、こういう言い方はアレだけど、確かに()って感じがした」

「……人、か…?あの、ただの出来損ないのクズ人形が…?」

「それは違う。出来損ないなんてあるはずがない………皆、生きてんだよ。……なぁ、俺が今までいろんな事件にかかわってきたことは知ってるよな?」

「……あァ、この実験を受けるって()()()()()()()のも、そういう事情があったからだなァ」

アイツは一方通行の言葉に少し顔を歪めて、すぐに話をつづけた。

「俺がかかわってきた事件の中にはさ、クローンの女の子が絡んでる事件があったんだ……才人工房(クローンドリー)って言ってな。元々違う目的があったんだが…まぁそれはいいか。とにかく俺が言いたいのは…なんだ、クローンだからって人じゃないって訳じゃなくて……あー…駄目だ。こういう時にすらすら言えねぇ」

困ったように笑ったアイツに、少し、ほんの少しドキッとした。

…アイツのあんな顔、見たことない…

「まぁ、なんだ?お前にだって何か理由があったんだってことはわかる。だからって、それで誰かが傷つくなんて…まして死ぬなんてあっちゃだめだ」

「…………」

「お前がまだ立ち上がれる程度のダメージしか受けてねぇってのはわかってる。そうなるように加減したからな。だが……もしまだ実験を続けるってんなら構えな。俺はお前が何かのためにミサカを犠牲にするように、俺はミサカのためにお前を犠牲にする……つっても、気絶させるだけだがな」

軽く、本当に軽く笑いながら、アイツは言い切った。

…駄目だ。私じゃなくてこの子に言ってるはずなのに…ミサカって言ってるはずなのに、御坂って言われてるみたいで……

「顔が、真っ赤ですよ?とミサカはお姉様にブーメラン発言をします」

「……アンタも、真っ赤じゃない」

緊迫した状況だというのに、緩んだ雰囲気の空間を作ってしまっている私たちをアイテム(確かあの金髪の奴がそう言ってたはず)のメンバーが睨んでくる。

…なんか、嫉妬心が混ざっている気もする。

「………なァ、天城」

「なんだ?一方通行」

三下、と言う呼称ではなく、アイツの名前で呼んだ一方通行に驚愕する。

…本当に、親友だったんだ…

いや、ただの知り合いかもしれないけど。

「……俺がこの実験を受けたのは…オマエ等のためだったンだ」

「……どういうことだ?」

「…最近、変なやつに絡まれることとか、不良に襲われることとか…増えてきてなかったか?」

「…まぁ、な」

思い当たる節があるのか、途切れながらも返答したアイツに、一方通行は申し訳なさそうに続けた。

「アレはよォ……俺を倒して自分が最強だって示したがるバカどもが俺の親友を襲ってマウントをとろォとしたからなンだ」

「…なるほど。俺達を人質にすれば、お前が手出しできないと踏んだわけだ」

「そォ言うことだよ……だから俺は、最強から無敵になろうと思ったンだ。無敵になって、オマエ等を人質に取ってでも勝とうと思えなくなるくらいの絶対的な力を手に入れて…そうして、また心からお前らと笑いたかったんだ」

……り、理由が意外過ぎる……

あの一方通行が、私を嗜虐的な笑みを浮かべながら圧倒してたアイツが、友達のために…?

「……ありがとう。そうやって思ってもらえて…嬉しい。…でもそれだったらなおさらこんなやり方駄目だ」

「……わかってる、わかってンだよ……最近、俺が俺じゃなくなるのが増えてきたンだ。戦ってる時でもねェのに、アイツが()()()()

そう言いながら、一方通行は一人で立ち上がった。

本当に加減してたのね…アイツ。

「…なァ、天城。助けてくれ……俺と、アイツを……止めてくれ」

「…、初めてだな。お前が俺に頼るの………いいぜ。相手してやる…全力で来い、止めて見せる」

「……任せたぜ、三下ァアアアアアアアアアア!!」

アイツに…しょ…翔馬を名前で呼んでいた時の声色と、あの子たちを殺していた時の声色が混ざった叫びをあげて、一方通行は…しょ、翔馬に襲い掛かった。

それに対してアイツは…翔馬は、右手を思い切り振りかぶって…

一方通行の顔を、全力で殴りつけた。

一方通行は成すすべなく地面に叩きつけられ、ここから見てもわかるレベルで意識を手放して…

そして次の瞬間、一方通行が飛び跳ねるように起き上がり、背中から何か黒い物を放出させ、翔馬に黒い翼のような物を叩きつけた。




【あとがき】
思ったこと全部書こうにも、力量不足で不出来。
いつか直しましょう、いつか、ね。

禁書と言えば願いの力、ということで、一方通行その2は一方通行の強い願いが生んだという設定にしました。
まぁありがちなものなのでそんないいものではないのですが。

戦闘描写を書こうにも、そのままじゃ一方通行さん翔馬に馬鹿力でボコされるだけだったので、反射の出力が強すぎて、イノケンティウスのように処理しきれなかったのでダメージが完全に入ったわけではないという無理矢理設定を用意させていただきました。

話の中で軽く触れたクローンドリーについてですが、主人公の過去が関わってくる事件なので、大覇星祭編の回想シーンかどこか(←ここ大事)で話させていただきます。
まぁ強いて言うなら、主人公さんやらかしすぎて、その時に警策看取とも食蜂操祈ともフラグたてて(操祈とはデッドロックの一件でもちゃっかりフラグをたててます)、ドリー生存させて(フラグも立てて)妹もちゃっかり救出してます。
その他の事はいつもの黒い何かが一晩でやってくれました。
…やらかしすぎじゃない?

どうでもいい話ですが、翔馬は上条さんと違ってかっこいいセリフがうまく言えません。許してやってください。


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