在るべき死に場所を探して (開拓屋)
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プロローグ

 普段は割とIQ空っぽの作品を書かせていただいているので....こういった作品を書かせて頂くのはあまり慣れていないので至らぬ点も多くあるかとは思いますが、どうか宜しくお願い致します!


 僕は(すぐる)と名付けられた。決して満たされたとは言えない環境ではあったが、それでも母から余りある愛情を受けて育った。母は僕の相談にも乗ってくれたし、無理してパートの仕事を増やして苦しい家計を何とか支えてくれた。僕はそんな母を心から慕い、愛していた。

 

 では父はどうだろうか。....言うまでもなく最悪であった。ロクに働きもせず怠惰を貪り、酒浸りの日々。さらには何か気に入らないことがあればすぐに僕や母に手を上げると言ったような、絵に描いたような最悪の父であった。これが絵に描かれた仮想の父であれば僕はどれだけ幸せだっただろうか。

 

 特に父は母によく手を上げるシーンを僕はよく見た。手に持っていたお酒の缶を投げつけるだけで済めばまだマシな方であった。食事中にいきなりテーブルを蹴飛ばし、意味の分からない文句を母に言うこともあれば、ギャンブルに負けて帰れば母の稼ぎが少ないと噛み付き、殴る蹴るといった具合の時もあった。

 

 そんな環境下で過ごしていた母は当然の様に摩耗し、疲弊していくのが分かった。どうにかして母を守りたいという気持ちは強かったが、いかんせん非力な僕ではどうにもならなかった。力づくで父の暴走を止めようとしてもすぐに投げ飛ばされ、暴力の飛び火は僕にも幾度となく向けられた。それに飽き足らず母にも思いきり手を上げる父に僕は、筆舌に尽くし難い怨みを抱いていた。

 

 それでも母は僕にどんな時でも優しくしてくれた。僕が学校で虐められていた時も相談に乗ってくれた。不良どもにお金をせびられていた時、参考書を買うのにお金が必要と嘘を吐いていたことも母にはお見通しであっただろうに、全く詮索することはなかった。

 

 僕が高校2年生になった頃、いよいよ本格的に生活は困窮し始めた。母のパートの時間はどんどん増えていき顔を合わせられる時間はどんどん減っていったが、反比例するかのように食事は少しずつ量が減っていった。もっとも極力それを悟られないようにと、母は自分の食事の量を減らしてまで僕に少しでも多くの食事を出してくれていたのだが。

 

 

 

 そんな日々が続いていたある日の休日、いつもより少し遅い時間に起きると、枕元に手紙と封筒が置いてあった。この日は母はパートが入っておらず父は競馬に出ている時間なのだが、父はおろか母もいない。不思議に思い手紙を開けると、こう書かれていた。

 

 

 

 

 

 優へ

 

 理由があってお母さんは少し遠出をしなければならなくなってしまいました。

 だからお母さんは少しの間だけ家に帰ることはできません。でも優は強い子だからきっと大丈夫。

 しばらくの間色々大変だと思うけど....元気でね。

           

                                    お母さんより

 

 

 

 

 この手紙に加えて御守りも入っていた。手が震えた。そして僕はこれは母なりの別れなのだと一瞬で悟った。震えたまま手でもう1つあった封筒を開けると、中にはたくさんのお金が入っていた。恐らく銀行から下ろしてきた母の全財産だろう。

 

 堪えていたものが堪えられなくなり、幼子の様に大泣きした。僕なんかのためにここまでしてくれた母の優しさ、そして別れにきっと生まれてから一番泣いただろう。

 

 ひとしきり泣いて僕は、カバンの中に必要だと思ったものを全て詰め込んだ。こんな所はもう出よう。母の居ないこの家になんか居ても、きっと僕と言う存在が潰されてしまうだけに違いないから。

 

 身支度をようやく終えようかと思ったその時、荒々しく家のドアが開く音がした。

 

「チクショウ....結局全部スッちまった....クソッ!」

 

 玄関の方から声が聞こえる。父だ。普段よりも大分早く帰って来たらしい。慌てて出て行こうにも間違いなく見つかってしまうだろう。突然の出来事に僕は身動きが取れなくなってしまった。

 

「何だぁ?随分デカい荷物じゃねえか。」

 

 父は僕を見つけ、そう言った。こいつがすべてを壊したんだ。これまでの怒りが爆発しそうにはなったが、ここで時間を食う訳にもいかない。そんなことを思っていると

 

「そういえばアイツはどうした?今日は家じゃねえのか。」

 

 父が僕に聞く。

 

「お、お母さんは急に仕事は言っちゃったから今はいない。」

 

 とっさに嘘を吐く。『ふーん、そうか。』とだけ言いその場は何とか凌げた、かのように思えたが

 

「んでその荷物は何だ?」

 

 と言って父はカバンを開けようとしてきた。

 

「こ、これは....!」

 

 見られまいと思って必死に抵抗はしたが、いつもと変わらず敵わなかった。カバンの中を見た父は僕をギロリと睨み付け

 

「なるほどなぁ、お前、ここから出て行くつもりだったのか。そんでどうするつもりだ?警察にでも行くつもりなのか?あぁ!?」

 

 そう言って思い切り僕を蹴りつける。小柄な僕は吹っ飛ばされてしまった。

 

「んなことが誰が許した?聞いてんのかクソガキ!」

 

 父は僕に追い打ちをかけるように殴りかかる。やばい、このままじゃ僕が殺されてしまう! そう思い僕は必死に父から逃げた。その時

 

「ん?なんだこの金?それに手紙か?」

 

 こんな声が聞こえて来た。その瞬間これまでの怒りの蓄積のキャパシティがついに限界を迎えた。アイツは僕と母を繋ぐ思い出にまで手を出そうとしている! きっと僕はそんなことを考えていたのだろう。そこから先のことはよく覚えていない。

 

 

 

 

 

 気が付くと、リビングに赤黒い液体が広がっていた。そしてその中心を彩るかのように父であったモノが横になっている。一目見ただけでもまずこれは生きている生物には見えなかった。

 

 相当な箇所を刺されていたのだろうか、一部のパーツは原形をとどめないレベルまで損傷している。近くには視るに堪えない色に染まった包丁が転がっている。きっとこれで滅多刺しにされたのだろう。

 

 自分の服を見ると、真っ白だったはずが汚らわしい父のそれの色で染まっていた。堪えられなくなった僕はトイレに駆け込んだ。

 

 口内に異物感は残ってはいたが、こうなってしまった以上はうかうかしている時間はなかった。急いで体を洗い流し、着替えた僕はカバンを背負い、まだ入れていなかった御守りだけはポケットの中にしまった。

 

 そうして僕は無我夢中で駆け抜けていった。足が限界を迎えても、肺が破れそうになっても僕はがむしゃらに走り続けた。

 

 

 

 

 不意にドン、と何かにぶつかった。後ろに倒れこんだ僕が見上げると、そこには件の不良のグループの姿があった。

 

「おう、どこ見て走ってんだよ!?」

 

 グループの1人が開口一番そう僕を怒鳴りつけ、そいつは僕の頬を思いっきり殴った。元々大いに疲弊していた僕はそこから立つこともできなかった。

 

「なんだ?いつにも増してひょろっちいな。そんなデカいカバン持ったまま走ってるからか?....そうだ、お前のマラソン手伝ってやるよ。」

 

 そう言って不良のリーダー格は僕のカバンを川へ投げ捨てた。それで満足したのか、奴らは高笑いを上げてどこかへ去っていった。

 

 僕は倒れこんだまましばらくの間起き上がることができなかった。疲労もあったが何より、言いようのない絶望に打ちひしがれたからである。カバンの中には母から託されたお金と、そして何より手紙が入っていたから。

 

 もう僕にはできることが無かった。今の僕に残っているのは父親を殺した、という十字架だけであった。いや、せめてもの救いが1つある。唯一僕と母を結ぶモノ—御守りだ。ポケットに入った御守りをぎゅっと握り締めると、不思議とその時だけは何かあたたかいものが込み上げてくるように感じた。

 

 しかしそれは一瞬であった。冷たい冬風が僕の体の芯を冷やしていく。おまけに無一文と来た。更には手紙を失ったといったことへの精神的なダメージは、僕をこの世界から引き離すには十分すぎる要因であった。父、そして不良....今日一日だけで人間のありとあらゆる汚い部分を見せつけられた気分だった。結局、僕が信じることができる人間と言うのは、母だけなのである。

 

 だがそんな母のもう居場所の手がかりも何もない。もう母はいない。僕にとっての心の拠り所は完全に消滅してしまった。

 

 果たして僕が今この世界にいる意味と言うのはあるのだろうか?答えはすぐに見つかった— そんなものはないと。

 

 

 

 

 フラフラとした足取りで、僕は死に場所を探した。どうせならだれにも見つからない場所にしよう。そうだな....森の中とかが丁度いいだろうか。

 

 しかし、しばらく歩いても森は見つからない。なんだ、僕は十分に死に場所を見つけることもできないのか。自分の人生の幕引きさえままならないのか。僕は自分の生まれてきた星の下をも怨んだ。

 

 

 

 

 何時間も歩き続けた末、ようやくそれっぽい場所が見つかった。草木は鬱蒼と生い茂っており、灯りになるようなものはどこにもない。辛うじて誰かが通れるような昏い道は確かに人をあまり寄せ付けるようなものではない。まるで今の僕じゃないか。

 

 あとは奥へ、奥へと進むだけである。だがすでに足が棒になっていた僕はあまり進むことはできなかった。いや、最悪ここでずっと寝ていたら凍死でもしているんじゃないだろうか。

 

 そんなことを考え僕は気にもたれかかり眠りについた。完全に寝付く前、僕はある1つのことを謝った。

 

 

 

 

 ゴメン、お母さん。僕なりに頑張った。でもダメだった....今まで本当にありがとう—

 

 

 

 

 

 木漏れ日が僕を無理やり起こす。相変わらず寒かった。どうやら残念ながら僕はまだ生きているらしい。

 

 

 

 と、ここで一つ気になることがあった。周りの景色が昨日まで居た森とは明らかに違っていたのである。昨日まではなかった、それでいて見たこともないキノコが生えており、周りの木の種類も違う。

 

「ここは一体....」

 

 そんなことを呟いていると後ろの方から何かが草木を分けてくる音が近づいてきた。




 今回は東方要素皆無でしたが、それらはこれから展開していくつもりです。どうか次回を乞うご期待下さい。


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滑稽な、夢

 都合が重なって短いにも関わらず半端に遅くなってしまいました。短いインターバルの餅つきとかすればそりゃすぐに眠っちゃいますよ....


 ここはどこなのだろうか?昨日自分がいたはずの所よりも随分ジメジメとしている。決して、と言うよりおよそ居心地の良い場所には思えなかった。

 

 少し考えてある1つの仮説を僕は立てる。きっと僕は夢を見ているんだ。そうでなければこんな見たことのない所に自分がいるわけがない。試しに頬をつねると、痛みはあった。随分とリアルな夢である。

 

 少しの間うろついていると何やら後ろからガサガサ、といったような音が聞こえてくる。こんな森の奥深くだし野生の動物でもいるのだろうか?そんなこと考えながら歩いているとその音は次第にこちらへ近づいてくる。

 

 さすがに気になってきた僕は後ろを振り返った。....一瞬情報が理解できなかった。そこには僕の数倍もあるようなサイズのイモムシのようなものがあった。その瞬間に僕はこの世界が夢だと分かった。

 

 こんな生物がこの世にいるわけがない。そう思うと何かこの世界が滑稽に思えてきた。やがてそのバケモノはこちらの方へ襲いかかってきた。

 

 そうだ、もしかしたらいっそ夢の中と現実世界とでは生死はリンクしているのかもしれない。ここで死ぬ=現実世界での死を意味しているのではないだろうか?

 

 そうなれば都合が良い。僕は一切逃げる素振りも見せずにその場に突っ立っていた。すると

 

「危ない!」

 

 という声と共に何かカラフルな光か何かが飛んでくるのが見える。その光はバケモノを焦がした。バランスを失ったソイツはこちらの方へ倒れ込んできたが、僕はその場で突っ立っていた。

 

「なっ!?アイツ何やってんだ!危ないぞ!」

 

 さっきの声がこちらに注意をしてきたが、僕はそれを聞き入れなかった。というか助けてくれた人って女性だったのか―

 

 

 

 

 すぐに目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 次に目を覚ますと僕はベットで寝ていた。

 

「もう起きたのか。しかしよく生きてたもんだぜ。」

 

 女の人の声が聞こえる。やや語尾が不自然ではあるが。

 

「ここは....どこ?あなたは?」

 

 彼女に尋ねる。

 

「後者に関してはそれはこっちのセリフだよ。まぁその格好をみた限り外から来た人間らしいが。」

 

「そりゃあ人間でしょう。逆にそれ以外がいるんですか?」

 

 体を起こして僕は言って、向こうの発言の主を見る。その姿に僕は少し驚いた。

 

 まるで魔女の格好である。よくイメージされるあのとんがり帽子に黒の服。....奇妙なコスプレである。

 

「それがいるんだな。むしろそれの方が多いとも言えるさ。ここには妖怪だって幽霊だって神様だっているもんだ。もっとも私は人間だがな。」

 

 この女はメチャクチャなことを言うものだ。どうやら僕は夢の中で何かに襲われ、ちょっと、いや、大分電波な女の子に助けられたようだ。こんなコスプレの子があんなバケモノがいる中無事でいるというのは不思議なことだが。

 

「んー?その様子だとまだ信じてないみたいだな。」

 

 怪訝な顔をしていたのがバレたらしい。

 

「まぁ仕方の無いことかもしれないけどな。とりあえず自己紹介だけしておくぜ。私の名前は『霧雨魔理沙』だ。お前は?」

 

 魔理沙と、名乗る少女が僕に尋ねる。

 

「....優です。」

 

 小さく下の名前だけ名乗った。

 

「優か、よろしくな。つってもまぁすぐに別れることになるんだろうけど。」

 

「どういうことですか?」

 

「そうだな、まずは根本から説明しなきゃならないな。もっともこれは優が外の世界から来たこと前提の話にはなるが....」

 

 さっきから外の世界とか妖怪とか何も要領を得ない。とりあえずここの説明はきっちり聞いておかなくては。

 

「まずここは『幻想郷』って言うんだ。さっきも言ったようにここには人間はもちろん、妖怪だって幽霊だって、あまつさえ神様さえもいる。多分お前が思っているようなモノとは違うだろうがな。」

 

 そう言って魔理沙は笑う。こちらからすればまだ状況が掴みきれないので笑い所が分からない。

 

「そんな暗い顔すんなって、それでまぁ、たまーになんだがさっき私が言った『外の世界』からここに来る人間がいる。そのままこっちに住み着いたやつもいるが、そのほとんどはすぐに外の世界、つまりは元居たお前の世界に帰りたいって言うヤツばかりだな。何か『オオイタ』とか、『ナガノ』?とかから来たとか言うが、その辺はよく分からないがな。」

 

 大分県、長野県のことだろうか?確かにその話を聞く限りは僕と同じような境遇にいる人間と言う人がいるようである。

 

「それでここからが本題だな。元の世界に帰るには幻想郷の東端にある『博麗神社』という所に行けばいい。そこに『霊夢』っていう巫女がいるからそいつに頼んでちょちょちょいっとやりゃ帰れるさ。」

 

 何か肝心な所が端折られているような気がする。というよりも僕は未だにここが現実だとは思えないのである。これ程までに具体的な夢と言うのは今まで見たことがないが、もしかすると現実世界の方で僕は余程の極限状態なのだろうか?

 

 そうなると起きるのがやや怖い。もう少しだけこの滑稽な夢に付き合うとしよう。

 

「まぁさっきの事で分かるとは思うが、ここ『魔法の森』にはさっきみたいなバケモノもいるし、普通の人間からしたら居心地も悪い。だからここは私が案内してやる―」

 

「僕は戻りたくないです。」

 

 きっぱりと僕は魔理沙に申し立てた。




 お堅い文面は慣れない....


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放蕩、瘴気、異臭

 夕方に上げたつもりでいました。今の今まで気づかなかった....


「....へ?」

 

 キョトンとした顔で魔理沙は気の抜けた声を出す。

 

「帰りたくないです、あんな世界。それならここでバケモノに喰われた方がよっぽどマシです。」

 

 改めてきっぱり魔理沙に言った。

 

「おいおい、あんまり冗談言うもんじゃないぜ。」

 

 魔理沙は少し語調を強める。

 

「冗談じゃありません。」

 

 負けじとこちらも返事をする。

 

「さっきも見たろ?ここには普通の人間じゃまず太刀打ちできないヤツらがうじゃうじゃいるんだ。実際にここに来て魔物にやられたヤツだっていたさ。お前にとってこんな実感のない世界で死んでもいいのか?」

 

「構いません。失礼しました。」

 

 そう言って僕は家を出た。

 

「お、おい!」

 

 後ろから声は聞こえたが無視した。

 

 

 

 しかしここは本当に居心地が悪い場所である。瘴気、というかなんというか。長く居たら何処かおかしくなってしまいそうである。

 

 遠くから不気味な声なども聞こえてくるが、僕は一心に歩き続けた。夢から醒めないために―

 

 しかし、どこまで行ってもバケモノは見つからない。しかもかなりの時間何も食べていないのに空腹を感じないのである。喉の渇きもない。

 

 どうしてだろう、と考えていたがそれと同時に1つ考えが浮かんだ。その辺にキノコがウヨウヨ生えているなら、毒キノコのひとつでもきっとあるだろう。とりあえずそこらに生えてるモノでもつまんでいこう。

 

 手始めに足下に生えた見たこともない小さなキノコを口に運ぶ。

 

「うっわ、マズッ。」

 

 正直食えたもんじゃない。それでも目に留まったものはとりあえず食べた。どれもマズくて吐き出しそうにはなったが、とにかく無理やり飲み込んだ。

 

 

 

 おかしい、確かにマズさに吐き出しそうなことはあるが、それ以外には全く身体に異常を来てしていないのである。ここに生えてるものが全部食用だと言うのだろうか。少なくともこの暴力的なマズさで食用となればある意味凶器とも言えよう。

 

 やがて食べ続けるにも精神的な限界が来た。飢え死にすることを考えると、下手に食べ物を口にしなければ良かったのだろうか。もしかすると、よもつへ食いのようにここの食べ物を食べたせいで戻ってくることができなくなったのかも知れない。そうなりゃ万々歳だ。

 

 と言うよりも、ここが仮に現実だとしたら僕の回りにいる人は皆が僕のことを知らない人ということになるであろう。いっそここで暮らしてもいいんじゃないか?

 

 そんなことを考えながら歩いていると、最初にここに来たときと同じようなあの草を掻き分けるような音が聞こえてくる。やがて僕の前に現れたのはさっきと同じような芋虫の姿のような、バケモノであった。声にならない呻き声を上げてこちらに襲いかかってくる。

 

 ここで改めて僕の目的を思い出した。今度はきっと魔理沙が来ることもないだろう。そして運命の全てを受け入れよう。

 

 ソイツは奇妙な動きをして僕のことを丸呑みにした。モワァッとした感覚が非常に気持ち悪い。そこから胃までの道はどこまでも耐え難い湿度と異臭に包まれていた。

 

 ようやく胃に辿り着いた頃には僕の胃液が逆流の限界を迎えていた。ものすごく強い酸の臭いを放つバケモノの胃液に浸からされた僕はとうとう耐えきれず、胃の中のものをぶち撒けた。

 

 やがて来ている服が溶け始めた。終を迎える場所としてはこの上なく最悪とも言えたが、これで最後を迎えられるのなら何でも良かった。バケモノの胃液が僕をドロドロに溶かして、この世から消え失せるのも時間の問題だろう。

 

 

 

 

 しばらくして様子がおかしいことに気づいた。服は上も下も完全に溶けきって、素肌で液に浸されているはずなのに、僕の体が溶けきる様子が無いのである。少々ピリピリした感覚はあったが、僕の体はずっと形を保ったままであった。

 

 さらにさっきまで活発に動いていたはずのバケモノの様子もおかしい。どんどん動きがなくなってきているのである。

 

 やがてドシーン、と大きな音をたてて僕の宿主は倒れ臥した。そこから動く気配も全くない。居心地の悪さに気も狂いそうだし、バケモノの胃から食道にかけて口までが平道になったため、とりあえず地上に出ることとした。何かが落ちていたようだったが、早く出たいと思っていたので無視して進んだ。

 

 

 

 地上に出ると急に体がピリピリしてきた。痛い! その一心で、僕は近くにあった水溜まりで体を洗った。

 

 幸いにも痛みは治まった。

 

 

 

 

「おいおいどうした!?何かデカイ音が聞こえたんだが....ってうわっ!どうしたんだお前!?」

 

 出るとすぐに魔理沙がいた。そりゃついさっきまでいた男が全裸になっていたのを見ればさっきの反応は当然だろう。むしろ可愛いくらいだ。

 

「....アレに食われました。けど何か戻ってこれました。」

 

 とりあえずさっきあったことを話す。

 

「いやそうじゃなくて....とりあえずその格好だと話そうにも話せん。向こうの水溜まりで体を洗ってくれ。こっちで適当に服は持ってくるから。それとなんだが....あと一つ聞かせてくれ。」

 

 怪訝な顔をして魔理沙が尋ねる。

 

「なんですか?」

 

「お前、うちの家の近くにあったキノコ....もしかして食ったのか?」

 

「あー....はいまぁそうですね。空腹だったんで。」

 

 とりあえず適当に嘘を吐いておいた。

 

「....どうもないのか?」

 

「まぁ特には。味は食えたもんじゃないですけど。」

 

「当たり前だ!あんなの食うヤツがどこにいるか!そもそもあれは生身の人間が食えば5分も経たずに死ぬようなもんだぞ!」

 

「じゃあ僕はどうして無事なんですか?」

 

「それは....それはまだ知らん。とりあえずその格好だと話すのもアレだ。少し待ってろ。」

 

 そう言って魔理沙は僕が行った道を戻る。僕はポツンと森に取り残された。

 

「....もうどうでもいいや。」

 

 魔理沙の指示を無視して僕は再びあてもなく歩き始めた。

 




 いよいよ年末の雰囲気が足音立ててきました。自分は今年も寝正月です。


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物盗りと、現実

 年末にこんな忙しいのは初めてです....短い話なのに投稿遅れてスミマセン....情けない限りです。


 僕はまたあてもなく歩き始める。魔理沙いわく食べたら死ぬキノコを食べても平気だったり、バケモノに食われても消化されることがなかったりと何故かこの世界に来て不死身にでもなってしまったかのようである。

 

 小さな子どもだったり、ヒーローを夢見る者とすれば喉から手が出るほど欲しいと思うような力ではあるだろうが、生憎僕は自殺志願者である。この運命を導いた神様がいるとすれば、この上ないありがた迷惑としか感じられない。もしも母といられるのなら別にそれで構わない、いや、母の死に目を見るのはちょっと辛すぎる。

 

 と、そんな他愛もないことを考えていたが、この辺りで流石に自分が一糸纏わぬ状態でこんな瘴気に塗れた所を歩き回っているということが辛かった。寒さは特に感じなかったが、それでもせめて羽織るものの1つも欲しい。

 

 ここに来て気づいたのだがあのバケモノに呑まれてから辺りだろうか、辛くなってきた。元々精神的にしんどいところもあったが、今度は肉体的にもキツい。

 

 ここで自身を放ったらかしにしていても勝手に野垂れ死ぬだろうが何だろう、こんな自分も全く知らないような森で真っ裸で死ぬと言うのも....せめてもう少しマシな死に様を所望したい。

 

 死に場所を探し、死ねればなんでもいいと思っていた僕が今更死に様を求めるなんて傍から見れば僕はどれほど滑稽だろうか。思わず自嘲的な笑い声が小さく零れた。

 

 ずっと代り映えのしない所をずっと歩いていると、ふとこんな森には少し不釣り合いな建物を見つけた....香霖堂?と書かれている。何らかの店だろうか。何と読むのだろうか。

 

 だが店は閉まっている。誰もいないなら衣服の1つ盗んでしまってももう誰も追及しないだろうし、何より外的要因により歪まされてしまった僕の中の倫理観がそれを全く追及することが無かったのであった。

 

 だが幸運なことに店の外には何らかの服が干されている。ポケットのようなものもついており、それなりの着心地であった。と、そこまでは万々歳ではあったが残念なことに下がない。

 

 とりあえずどうしようもないので上を羽織って下も隠せるようにした。これで人前に出れば間違いなく不審者扱いだろうな。とはいえこれから誰かに会うことなど考えていないしどうでもいいんだけどさ。

 

 

 服を着たからだろうか。再び辛さをあまり感じなくなってきた。さっきまで一糸纏わぬ姿でこんな所をずっと歩き続けていた分、大分精神的に磨耗していたのだろうか。心と体が密接に関係しているというのは案外間違いではないのかもしれない。

 

 

 しばらく歩いているとさっきよりも道が開けてきた。瘴気や湿気も大分収まってきて前ほどの居心地の悪さもなくなってくる。少しして森を完全に抜けた。ずっと代わり映えのしない景色が広がっていたので少し解放感は感じられる。

 

 目的地もないのでとりあえず放浪でもしようか、と思っていた矢先に

 

「はぁはぁ....ここにいたか。というかウチのモノまで盗って行って....これではまるで魔理沙が2人いるみたいじゃないか....」

 

 後ろから聞き覚えのない声がする。魔理沙と言っているとなると、声の主もこの世界、もとい夢の世界の人間なのかどちらかは知らないが、僕とは違う人間なのだろう。だが今は誰かと交わりたい気分ではない。無視して進むことにした。

 

「おいおい、無視かい?ここまで居直ることのない盗人と言うのもいっそ清々しいものだな。」

 

 そう言って声の主は僕の肩を掴んだ。振り払うのも億劫なので、抵抗はしなかった。僕はそのままさっきの香霖堂とかいう店に連れ戻された。

 

「それで、どうして君は僕のところのモノを持ち去ったりしたんだ?」

 

 特に理由もないので僕は何も答えなかった。

 

「はぁ....このままじゃ埒が明かないな。君ここらでは見ない顔だね。もしかしてどこかから迷いこんだのかい?」

 

「さぁ....」

 

 吐き捨てるように短く返事する。

 

「となると....もしかして君は外の世界から来たのかい?」

 

「さぁ....」

 

 返答も面倒臭くなってくる。物盗りへの対応は向こうの万引きの時とこことで大して変わらないようである。

 

「しかし魔理沙からは聞いていたが随分と強情だなぁ、何かあったのかい。」

 

 ....きっとこれ以上ここで取り調べを受けても時間の無駄だ。椅子から立ち上がって帰ることにした。

 

「おっと、このまま帰したりはしないよ。せめて少しだけでも話を聞かせてもらおうか。」

 

「僕から話すことなんてありませんよ、こんな現実かもどうかも分からないところで。」

 

 ぶっきらぼうに吐き捨てた。ここに来て僕は大分人間性が変わってきた気がする。 

 

「夢かどうか、か。魔理沙から話は聞いていないのかい?」

 

「聞いてようが聞いていまいが、ここが夢かどうかと判断するのは僕自身です。」

 

「そうかい?そう言いつつも君自身が一番ここが夢じゃない、と実感しているんじゃないかな?確かにこの辺りに棲むワームに呑まれて今もこうして五体満足でいられると言う状況じゃ、信じたくない状況にとって都合はいいかもしれないけどね。」

 

「言いたいことはそれだけですか?僕はもう出て行きますよ。」

 

 今度こそもう忠告も何も耳にいれるつもりはなかった。

 

「それが君の選択かい?それなら僕はもう止めはしないよ。ただし君もいつかは今君の生きている世界が現実だと言うことを直視しなければならなくなるだろう。とりあえず今だけはその服をあげるとしよう。それが無ければ身動きもそうそう取れないだろうからね。とはいえいずれ代金は払ってもらうよ。」

 

 ....どうもこの店主は食えない奴だ。彼が何を言おうがここが現実か否かは僕の匙加減である。頭の片隅にツケの話が残っていたのは僕の中にまだ良心的な気持ちがあったからなのかもしれない。

 

 だがすぐにその感情は無くなった。というよりも無理矢理押し込もうと思ったのだろうか。ツケなんか誰が払うもんか。そう思った僕は店の戸口に唾を吐きかけた。




 これが恐らく今年で最後の投稿になりそうです。大晦日までにやれそうなら頑張ります。


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嘲笑、大方虚無

 そろそろ続きに着手しないと本当に埋もれちゃうコレ....(1/4 夜明け前)これからは時間のスキを見て少しずつ書けていけたらいいなぁ(遠い目)


 よく分からないあの店からしばらく歩いていくと、やがて完全に森を抜けた。そこから少し歩いていくとさっきの所よりもずっと活気を感じられる場所に辿り着いた。人の往来もあり、さっきまで居た森とはまた違った場所だろうか。

 

 そこの人々は僕たちがイメージする江戸時代の庶民のような服を着ているのがほとんどであり、ここにいるのは基本妖怪ではなく人間だろう。

 

 ここで改めて今の自分の格好に気づいた。一応一糸は纏っているがあくまで布を裸の上にかけているような状態である。向こうで穿くものも何かしらくすねておくべきだった。とりあえずあまりここの人たちとは関わらないようにしよう。格好も格好だし憐れみの視線を向けられるのはたまったもんじゃない。そう言うのはもう向こうの世界で嫌と言うほど経験してきた。

 

 

 

 

 

「おどろけー!!」

 

 

 

 不意に物陰から何かが出てきた。子供だろうか。

 

「....」

 

 突然の出来事に僕は反応できなかった。驚かせてきた?のだろうか。こちらの反応を見て向こうは納得していない様子である。

 

「うーん、やっぱりだめかぁ。見覚えのない人間だし可能性はあると思ったんだけどなぁ。」

 

 その子は小さく呟く。人間、と言っている限りもしかするとこの子は人間ではなく妖怪の類なのか?少なくとも正気の人間ではこんなダッサい傘を持つこともないと思う。と言うかホントに気色悪いなこの子の傘。そもそも晴天だというのにどうして傘を持っているのか。いろいろ気になることはあった。

 

「な、何よ。そんなジロジロ見ないでよ。」

 

 相手の子は決まり悪そうにしている。と言うかコイツは何がしたかったのだろう。何を目的に僕を驚かしてきたんだろうか。

 

「何が目的なんだ?ちびっこ。」

 

 僕はそう尋ねる。度重なる災難や自分のこれまでの境遇の所為か僕の人間性は内側からじわじわ浸食され大分荒んできた気がする。

 

「ち、ちびっ子!?私は貴方よりも長く生きているというのに。これだから人間風情は....あと私にも『多々良小傘』って名前が—」

 

「あーもう分かったって。ここは基本人しかいないんだろ?どうして自称妖怪がこんなところにいるんだ?」

 

「なっ....私は人を驚かせるのが仕事なの!だからこうやってカモになりそうな人間を—」

 

「んで、ここ最近で成功した試しはあるのか?明らか負け癖がついているようだったが。」

 

 小傘とかいう妖怪は僕は嗤う。

 

「う、うるさい!あなたには関係ないでしょ!」

 

「と言うかこんな時間にこんなところであんな驚かし方したって意味ないだろ。もっと何か、ロケーションとかあるんじゃないのか?こんな場所だったら墓場とかもあるだろうし。」

 

 何だかあまりにもかわいそうに思えてきたせいか、なれ合いを避けて来たものの何故かこちらがアドバイザーの様になってきている。

 

「う....ま、前はそこもナワバリにしてたけど今は止ん事なき都合があって....」

 

「ふーん、まぁ頑張れ。」

 

 それだけ言って僕は立ち去った。

 

「あっちょっと!」

 

 小傘が後ろで何か言って僕を引き留めようとしていたが無視した。さて、一応人間のテリトリーに来たのだが、引き続きあてもないのでとりあえずその辺りをうろつく。

 

 ぐるっと回ってみたが、時代錯誤な点以外は特別変哲のない場所である。ここから少し行けばバケモノ達の巣窟であるとは到底思えない。夢にしては作り込まれ過ぎているようにも思えた。

 

 ....ダメだ、僕はここを現実とは思いたくない。頬をつねれば痛いし、これまで経験がなかったとはいえバケモノの胃の中のあの不快感も非現実と思えないほどまだ鮮明に残っている。およそ平常では思い付かないようなセンスの傘を持った妖怪とやらもいる。

 

 色々なことをグルグルと頭の中が駆け回って処理が追い付かない。どうしようもないのでボーッとしていると急に小さな子供の声が聞こえる。さっきの小傘とかいう妖怪とは別物で、それも複数人の。

 

 声の方に意識を向けると、これまた古臭い格好の子供たち....ん?

 

 ほとんどが着物の子供たちであったが、所々に奇妙な格好をした者もいる。何か触手の生えたのもいるし、面妖な見た目の多くに羽のようなものも生やしている。人間のコスプレか?それとも―

 

 子供たちは学校の帰り道のようにそれぞれ色々と話しながら家路についているように見える。奇妙な格好の者らも例外無くだ。

 

 子供たちが帰っていく方を見ると先生らしき女性が見送りをしている。何だろうあの奇妙な帽子?は。

 

「君は何をしているんだ?ウチの生徒に手を出したらタダじゃ済まさないよ。」

 

 先生らしき女性は挙動不審な僕の立ち居振舞いに気づいたのか、厳しめの口調で僕の方へ詰め寄ってくる。こんなよく分からない世界で変質者扱いを受けるだなんてたまったもんじゃない。

 

「そんなつもりはない。そもそもここがどこかも分かっていないというのにそんな馬鹿げた真似するもんか。」

 

 こちらも厳しめの口調で返す。

 

「それなら構わないが....っと君はさっきここがどこかも分からないって言っていたかな?」

 

「まぁ、そうですけど。何か幻想郷だとか言う場所だとは教えられたが、正直受け入れられない。」

 

「確かに無理もないか。それとなんだが....君その格好は一体どういう風の吹き回しで至ったんだ?やはり君は....」

 

「そうじゃない!服は....色々あって失った。」

 

 あらぬ汚れた疑いをかけられた僕はつい感情的になってしまう。らしくない自分の言動に少し苛立ちを覚えた。

 

「となると引剥の類いか何かか?いや別に話したくなければ話す必要はない。しかしその様では多分行くあても今日の宿もないだろう?今日は私のところに泊まるといい。」

 

 誤解があるとはいえ嫌な疑いは晴れ、向こうの反応も柔和になる。

 

「別にいいです。どっちにしろ僕には何も残ってないですから。もういいです。」

 

 最後にダメ押しを踏んで僕は虚無主義者のように呟く。

 

「その発言は一教育者としては聞き逃せないな。」

 

 再び向こうの口調が厳しくなる。口ぶりからするにこの人はあの子らの先生に当たるだろう。....人だろうか。さっきの傘を持った妖怪も見た目だけで言えば普通の少女とあまり変わらなかったわけであるし。センスは別として。

 

「とりあえず僕は行きます。」

 

「待て、これからの君を考えるに私は君を一人にすることはできない。君が納得するまで私は退くつもりはない。」

 

 様子を見るにこの先生とやらはそう簡単に折れはしなさそうである。もう断るのも面倒である。死にたいと言う目的立ったのがもはや自分がどこに向かっているのかも分からない。何になりたいのかも分からない。

 

 意欲を失えば人は死んだも同然といった旨の格言をしばしば聞くこともあるが、果たして今の僕は生きていると言えるのだろうか。

 

「....分かりました。」

 

 脱け殻のように空っぽの返事をその女性に僕は投げ返した。




 普段日常系ギャグアニメしかほとんど見ないので、この先残念になるやも知れんです。どうかお許し下さい....
(追記):別の作品の最新話としてこれを上げてしまいました。妙な迷惑をお掛けしました。


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懐古、故の爆発

 話を重くしようとしてもどこかでリミッターが掛かるのは僕の悪い癖でしてねぇ(U.S氏)
 新年どころか年始も明けましたが、ぼちぼち頑張ります。


 僕は彼女が教鞭を執っているらしい学校に連れて来られた。正直言って学校というものにいい思い出はそう無いのであまり見たい場所ではなかった。

 

「そういえば自己紹介が遅れた。私は『上白沢慧音』だ。ここの寺子屋で教師を務めている。」

 

 そう言って慧音は手を差し出す。僕はその手を取らなかった。

 

「むぅ、中々強情だな君は。まぁそれは会った時から思っていたから構わないが。」

 

 別に彼女に何を言われようが僕には構わない。どうせ深く関わることもないんだから。それに経験上僕はどうも教師と言う存在に対してあまり信頼を持てていないのである。ただでさえ他人と関わりたくないのにその上教師と来た。正直バケモノの胃の中とは違ったベクトルで居心地が悪い。

 

「とりあえずこの部屋にいると良い。狭いのは申し訳ないがそこは勘弁してくれ。」

 

 苦笑いを浮かべながら慧音が部屋を指す。僕にあてがわれたのは、ちょうど寺子屋の教室の上の階に当たる場所のやや狭めの部屋だった。

 

 今はもう既に陽もほとんど落ちており、間も無く夜の帳が降りる寸前であった。

 

 結果として意志の無い僕はとりあえず居候することになった。空っぽになった僕はひたすら流されることになった。少なくともこのまま行き着く先にハッピーエンドは待っていないだろうよ。

 

 僕の目指すハッピーエンドは誰もかもがバッドエンドとして思い描くモノに違いないだろうけれど。と、ボンヤリと考えて僕は床に大の字になった。隅に重ねられていた布団は放ったらかしにた。

 

 

 

「おはよう、って布団敷かなかったのか。」

 

 目を覚ますとちょうど慧音がいた。

 

「ああすまない。すぐに出るから気にしないでくれ。」

 

 慧音はタンスから何かを取り出してそのまま部屋を出た。それからしばらくすると下の方から子供の声が聞こえてくる。寺子屋と言っていた訳だし、おそらく授業が始まったのだろう。まさかこんな世界でも学校を感じることになるとは文字通り夢にも思わなかった。

 

 聞くに基本的に僕が小学校にいた時辺りと学んでいる内容はあまり変わっていないようであるが、ちょくちょく珍妙な名前も聞こえてくる。

 

『こらチルノ!寝るんじゃない!』

 

 こんな具合である。特にこの『チルノ』とやらの名前がしばしば聞こえてくる。たまに『ルーミア』?とやらの名前も聞こえてくるが。

 

 下の授業風景は校内のカーストも、嫌なしがらみも無いもののように思えた。何となく授業を聞いていると昔が懐かしい。まだこの辺りの頃は僕も世界を信じていただろう。穢れもなく純粋に物事を受け入れて....

 

 おっと、そんな無駄なことを考えたって何の生産性もない。どうして今更過去に未練を残せようか。まだ完全に過去を捨てきれない自分が何か腹立たしい。こんな宙ぶらりんの状態で果たして死ぬことができるのだろうか。

 

 森で彷徨っていた時の僕は死に対して微塵たりとも躊躇はなかった。あの時に死ねていたら僕はきっと今思い悩むこともなかっただろう。そうなっては今こうやって宿借りをしている自分は何を考えていたのだろうか。何も考えていなかったのだろうか。昨日の僕は様々な出来事を通して最終的にどんな考えに行きついたのだろうか。

 

 今僕がほんの少しでも昔のことを懐古しているのなら、結局僕は人としてまだ生きているのだろうか。それなら結局僕は何がしたいのか。結果として僕は死への決心を鈍らされたのだろうか。僕があの時目指していた死のそもそもの目的は何なんだろうか。現世からの苦しみを逃れるための都合のいい手段なのだろうか。それなら別に死ななくたっていいんじゃないか。

 

 でも果たして僕にはそれ以外に道が残されているのだろうか。世界に絶望するくらいなら別に逃げても構わないはずである。じゃあこの世界に果たして二度と絶望することが無いのなら、死ぬこと以外の選択肢は残されているのか。じゃあ結局死ぬというのは何なんだろうか。

 

 考えれば考えるほど頭痛がする。今なら哲学者かぶれにでもなれそうだ。とりあえず一人で考えたい気分になった。もし慧音とやらが戻ってきたら嫌みの一つでもぶつけて出て行ってやろう。僕は久しぶりに感情に素直な気持ちで笑った。傍から見ればきっと謀りをする盗人のような歪んだものだっただろう。

 

 

 

 しばらくすると授業の方が一段落ついたらしく、再び下の方から子供たちの活気のある声が聞こえてきた。こちらへ来る足音も聞こえてきた。慧音だろう。

 

「すまない、時間が時間だからきっと腹も空いただろう。これでも食べなさい。」

 

 そう言って慧音は藁に包まれたいくつかの大きなおにぎりをこちらの方へ置いた。僕はそれに手を付けず

 

「どうして僕を助けたりしたんですか。」

 

 と、慧音を睨み付けて言った。

 

「だから昨日も言っただろう?今君を一人にする訳にはいかないんだ。」

 

 慧音は真っすぐこちらを見てそう返す。

 

「どうしてそう思ったんですか。」

 

「それは、何だ、きっと良からぬ事を考えているんじゃないかと思ったんだ。」

 

「余計なお世話です。僕に声を掛けたのは教育者としてのエゴですか?」

 

 皮肉たっぷりに僕は言う。

 

「....確かにそれもあるかもしれないがそれだけじゃない。私の個人的な感情だ。」

 

「子供のしたいことを阻んでおいてそれがあなたの個人的な感情の行動ですか。」

 

「君だけの問題じゃないだろう。」

 

「もしかして僕の周りの心配ですか?そんなこと心配しなくても構わないですよ。僕には—」

 

 ここで僕は言葉に詰まった。恐らくその先を言うのは僕にとって簡単なことだろう。だがその先を言ってしまうと、ぼくにとってかけがえのない存在を完全に手放してしまうように思えたのだ。確かに大切な人は僕の前から姿を消した。だが、それが必ずしも今生の別れを意味しているわけではない。僕はどうしてもその希望を捨てきれなかった。

 

 突然黙り込んだ僕を見かねた慧音は心配そうに声を掛けて来た。

 

「どうした、何が—」

 

「うるさい!!」

 

 色々内に秘めた感情が堪えきれなくなり、とうとう僕は感情を爆発させた。ここまで不愛想で表情を出しなかった僕しか見てこなかった慧音は驚いて少しの間、口を開かなかった。

 

「アンタに僕の何が分かる!こんな訳の分からない世界でどうして素性も知らないアンタにこんな話を....!アンタに僕のことは関係ない!僕がどうなろうとアンタに関係ないんだよ!もう放っておいてくれ!」 

 

 そう言って僕は足早に部屋を出ようとする。

 

「ま、待て!」

 

 慧音が僕を止めようとしたが僕は聞き耳を持たなかった。

 

 

 

 

 

 一方少し時を遡りここは寺子屋の教室内。いつもの人間に加え、チルノとルーミア、大妖精が授業を受けていた。

 

「ふー、やっと昼休みだ。やっぱけーね先生の授業は退屈だー....」

 

「チルノが暇だからあえて寺子屋に行こうって言ったんでしょ。結局寝てたし。」

 

「そうだよ、来たからにはちゃんと起きとかないと。....ルーミアちゃんもね。」

 

「う、うるさい!どっちにしろ湖にいたってやることもないからいいんだよ....ってあれ?」

 

「どうしたの?」

 

「いや、けーね先生がいつもと違う方に行ってたからおかしいなーって。」

 

「たまたまじゃない?気にすることじゃないと思う。」

 

「私も別に大したことじゃないと思うけど....」

 

「いや、これはきっと何かあるに違いない!ちょっと後ろの方着いていこう!今日は探偵ごっこだ!」

 

「えっ!?やめときなよ!」

 

「私はあまり気乗りはしないけど。」

 

「じゃああたい一人で行くから。それじゃあ。」

 

「....まぁ私も暇だからついていくか。」

 

 慧音の後ろをチルノとルーミアが尾ける

 

「えっ!?....私は....やっぱやめた方が良いよ。」

 

「それならあたいとルーミアだけ行くから大ちゃんはそこで待ってたらいいぞ。

 

「え....う、うん....」

 

 大妖精だけは教室に残った。

 

 

 

 

「いいか、バレないように静かに行くんだぞ。」

 

「分かってるってば、にしても先生どこ行くんだろう?」

 

「さぁ....っと、階段か。足音には気をつけろよ。」

 

「はいはい。」

 

 

 

 

「ここの部屋、か。あんまり見たことない部屋だな。」

 

「ここに何か用だったんでしょ。多分何か道具でも取りに来たんじゃない?」

 

「しっ!何か聞こえる....」

 

 チルノがルーミアをたしなめる。ルーミアは少し納得いかない表情を浮かべたが一応静かにしていた。

 

「(けーね先生、だけじゃない....誰かいるみたいだな。)」

 

「(何話してるんだろう?)」

 

 2人はそっと部屋に聞き耳を立てる。どうやら慧音は誰かと何か口論しているらしい、時間が経つにつれ少しずつヒートアップしていくのが聞いてて分かった。

 

 

 

 

『うるさい!!』

 

「!?」

 

 突然の大声に2人はブルッと体を震わせた。何とか物音は立てずに済んだ。その後も慧音の相手は何か大声でまくし立てている。

 

『もう放っておいてくれ!』

 

 最後にその声が聞こえてきて、こちらの方へ足音が近づいてくる。

 

「やばっ!バレる!」

 

「どうするの!?これ無理だって!」

 

 小声で2人は叫ぶ。そのすぐ後に一気にふすまが開けられた。 




 よく考えたらバカルテットが寺子屋に顔出すのって二次設定だったんですよね....なんかナチュラルに定着しすぎて普通に出しちゃいました。完全な生徒の設定にはしませんでしたがちと無理あったかなぁ....


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戯言、時々反芻、それと—

めっっっちゃ投稿遅れました....年末年始終わったと思ったら、案外ここ数日の方が忙しかったのもきっと孔明の罠に違いない(断定)


 力任せに部屋のふすまを開けると、2人の人間....じゃない、何か羽が生えている。

 

「何だよ、何しに来たんだ。」

 

 さっきまでの怒りに任せて2人に凄む。そのただならぬ様子のせいか、2人は少し押し黙る。すると

 

「どうしてお前達がここに居るんだ?」

 

 という声とともに言い知れぬ殺気を後ろから感じた。

 

「あ、えっと....け、けーね先生?」

 

 2人は怯えた表情を浮かべて震えている。そしてすぐに

 

「ごめんなさい!」

 

 と、頭を下げた。それを見た慧音は、やれやれと言った様子で

 

「はぁ、まぁ今回は大目に見てやろう。もうするんじゃないぞ。」

 

 と、言って2人の頭をポンポンと叩いた。頭に触られた途端何故か2人が少しブルッとさせていたのは気になったが。どうやらさっき2人が黙っていたのは僕の様子を見たせいではなくて、後ろの慧音の殺気にあてられたせいだったんだろう。

 

 

 

「ところでお兄さん誰?人間?」

 

 何やかんやであの後、僕はチルノとやらに連れ出され、教室に引っ張り出された。ルーミアが僕のことを妙に人間なのかそーでないのかを気にしているようだが、何となくその理由は知りたくない。

 

 今は丁度昼休みの時間帯のようで嫌でも僕は注目の的となってしまった。もう好きにしてくれ。

 

「それにしてもどうして慧音先生と同じ所にいたんだろう....もしかしてそういう関係だったりするのかな?」

 

 人間の子供たちはそんな風な話で盛り上がっている。どこの世界でもこういう話はいい酒の肴になるようだ。正直鬱陶しいが相手したくない。相手をするにも値しない。

 

「それで結局お前はナニモノなんだ?もしかしてけーね先生の弟なのか!?」

 

 チルノと言ったか、正直コイツだけ色々感覚とか何かしらが大幅にズレている。

 

「んな訳無いだろ。」

 

 思わず返事してしまった。

 

「おおっ、しゃべった。となると....いとこ?」

 

「お前ひょっとしなくてもバカだろ。」

 

 小傘に会ったとき以上に哀れみの目を向けてチルノに言う。

 

「なっ!あたいはバカじゃないぞ!お前よりずーっと天才だからな!」

 

 僕は悟った。コイツは真性だ。真性のバカだ。いっそこのくらいバカであれば僕はこんなに思い悩むこともなかっただろう。これくらい本能に忠実にいられれば僕の人生はあとどのくらい彩りを添えることができただろう。考えるだけ虚しいものだ。

 

 

 

 

 ずっと空っぽで満たされなかった僕は退屈をほんの少しでも凌ごうと思い、チルノに

 

「なぁ、さっきお前自分のこと最強だって言ってたよな?」

 

 と、尋ねる。

 

「おお、そうだぞ!」

 

 期待通りの返事をチルノが返してくる。

 

「それならここの先生だって倒せるってことか?」

 

「え?」

 

 僕の発言を聞いたチルノは予想外、といった顔で聞き返す。

 

「いや、最強っていうくらいならきっと相当強いだろうなぁって思ってな。でもさっき見た様子だと相当あの慧音とかいう先生にビビってたみたいだし....」

 

「び、ビビってなんかないぞ!」

 

「それなら倒せるよな?」

 

「ぐぅ....」

 

 言葉尻を捕らえてジリジリと追い詰めていく。最後に僕はニヤリと笑って

 

「僕は最強のチルノが見たいなぁ。」

 

 と、呟いた。

 

「そ、そうか!それならやってやる!」

 

 勢いづいてしまったチルノはそう言って慧音のいた方へと向かう。

 

「ダメだよ!」

 

 突然チルノの手を誰かがつかむ。見るとその子も羽が生えている。

 

「大ちゃん!放して!」

 

「ダメ!勝てる訳ないって!お兄さんもチルノちゃんに変なこと言っちゃダメです!」

 

 そう言って大ちゃんと呼ばれた子がこちらをじっと見る。なんだ、マトモな奴もいるのか。作戦失敗である。面白くない。

 

「一体どうしたんだ騒がしい。」

 

 騒ぎを聞きつけたのか、慧音が教室の方へ来る。

 

「あっ、けーね先生!ここで会ったが100年目!いざ尋常に—」

 

「チルノちゃん落ち着いて!」

 

 少しの間騒ぎは収まりそうにない。これを見た慧音は一瞬で物事を理解したのか

 

「頼むからチルノに余計なことを吹き込まないでくれ....」

 

 とだけ、僕に言ってきた。なるほど、慧音は先生としての器量はかなりあるようである。しっかり人を見ているんだろうな。もう少しマトモな先生がいれば僕も楽しい学生生活が遅れたんだろうな。不意に理不尽な嫉妬が込み上げてくる。

 

「お前は良かったな、ちゃんとした『先生』に出逢えて。」

 

 皮肉を込めてチルノに伝える。

 

「そーか?けーね先生の授業って退屈だしよく分かんないからそうは思わないぞ。」

 

 言葉の表面だけを拾ったチルノが返す。ダメだ、皮肉さえも通用しない相手に真面目にに叱る気にもなれない。

 

「そうか、それならもっと私の授業が理解できるように補習を組んでやる。これで私の授業も分かるようになるだろう。」

 

 言うことを失った僕の代わりに慧音はチルノを見て笑って言った。目の奥が笑っていない。

 

「うー....で、でも寝てるのはあたいだけじゃないじゃん!それならあたいだけじゃなくて皆も—」

 

「チルノは特に酷いからな。テストに2桁の数字をつけた覚えがない。」

 

「ぐぅ、そ、それならあたいがコイツとテストでしょーぶする!それであたいが勝ったら補習は無し!じゃあダメ?」

 

 そう言って僕の方を見る。どうやら身の丈という言葉を知らないようである。もしかするとそういうフリをしていたんじゃないか....とか考えていたが、自らの首を絞めているこの様子ではやはり『真性』のようである。何となく考えるフリをしつつ僕は慧音の方をちらっと見る。

 

「....分かった、いいだろう。今回は特別に過去問を使用するぞ。チルノも1回解いたはずの問題だ。それなら尚更負けるわけないよな?」

 

 慧音はチルノの方を向き直って言う。

 

「おう!のぞむところだ!」

 

 案の定も案の定チルノは乗って来た。慧音は僕の耳元で

 

「すまん、少しだけ付き合ってやってくれ。」

 

 とだけ囁く。何となく面白く思えて来たので僕も乗っかることにした。

 

 

 

 

 

「なっ....100点だと!?さては何かズルしたな!?」

 

「いやこれめっちゃ簡単じゃん。むしろ1回解いたこの問題でどうしてこの悲惨極まりない点数が出るんだ。」

 

「ぐぅっ....」

 

 ぐうの音『しか』でないチルノを見て慧音は

 

「と言う訳だ。もちろん補修の事を忘れたなんて言わないな?」

 

 そう言ってチルノの肩をポンと叩く。チルノは全身をブルっと震わせて

 

「うぅ....くっそー!次会った時は覚えとけよ!」

 

 捨て台詞を吐いた。周りにいる子たちはその様子を見て笑っていた。しかしここは何とも平和だろう。学校内のしがらみというのも無く、種族を問わず社会に溶け込み、そして人間もそれを迎合する....

 

 ここでもう一度僕が死にたいと思っていた理由を考えてみる。僕の死にたい理由は多分世界に幻滅していたせいだろう。こことは違って僕がこれまで生きていた世界は筆舌に尽くし難い苦しみと苛立ちが僕の周りを取り巻いていた。それなら当然そこから脱却をしたいと思うのは自然の摂理とも言えよう。

 

 だがここはどうだ。死に場所を探していた僕の前に突然現れたこの『夢』と僕が形容する世界。結局ここが現実なのかそれとも夢の中なのかは分からない。先程慧音に毒づいた直前に僕がグルグルと頭の中を巡らせていたことを思い出してみる。

 

 

 

 ....結局今の僕がここを死に場所とする理由はなかった。もちろん過去のことを一切合切忘れて、それを引きずらないといったことは全く保証できない。いや、きっと無理だろう。母のことだってある。

 

 さて、これからどうしよう。あそこまで慧音に啖呵を切った僕がどの面を下げてここに居られようか。

 

「失礼。さっきは....」

 

 そこから先は言えなかった。敬語を使うのは決まり悪かった。その一言を残してここを出ようとすると

 

「ちょっと待ってくれ。少しだけ話、いいか?」

 

 慧音が僕を呼び止め、僕を連れて奥の部屋へ向かった。




 実はまだまだ続くんじゃ。(多分)もちっとだけじゃないんじゃ。


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居候、改め

 慧音先生のような方に教鞭を執ってもらえれば赤点を取ることもなかっただろうなぁ。


 寺子屋内で色々あった翌日、いつもの人間の子ら、さらにはチルノと大妖精とルーミアに加えて、今日はリグルも来ていた。

 

「いやー、昨日は大変だったぞ。見たこともない人間のせいでけーね先生の補習がいつにも増してひどかったんだからな。今度あいつにあったらガツンと言ってやるんだ!」

 

「それはチルノちゃんが悪いんじゃないかなぁ....」

 

「私もそう思うけど。チルノがちゃんと授業受けてたら少なくとも引き分けかいい勝負に持ち込めたというのにさ。もっともその相手とやらをまだ見てないから何とも言えないけど」

 

「なっ....リグルまであいつの味方なのか!?」

 

「いやでもそうなっても仕方ないんじゃないかな。どっちにしろ勝てはしなかっただろうけどねー。」

 

「ぐぬぬ....お前らー―」

 

「ハイハイ、 もうそろそろ今日の授業始めるぞ。チルノ、座りなさい。」

 

 ヒートアップしてきたところで慧音が手を鳴らす。

 

「さて、今日はお前たちに話しておかなければならないことがある。」

 

 いつもと違う慧音の導入に教室内が色めき立つ。

 

「なんだろ....もしかして抜き打ちのテストとか!?」

 

「いや、もしかすると今日は早く帰れるとか?」

 

 人妖問わずザワザワと噂をする。

 

「まぁ実際に見てもらった方がいいかもしれないな。おーい、もう入っていいぞ。」

 

 

 

 

 慧音が『僕』を呼ぶ声がする。ここで僕が出てきたらみんなはどんな反応をするだろうか。特にあのチルノとやらは相当に驚くのではないだろうか。もしかするとまたあの時のように決闘を申し込まれるかもしれない。

 

 奥から教室に入ってきて僕は小さく頭を下げる。

 

「あーっ!お前は!」

 

 案の定チルノが真っ先にリアクションする。指差すなんて失礼な奴だな。

 

「まぁほとんど皆知ってるとは思うが、改めて自己紹介を頼む。」

 

 慧音に紹介を賜り簡単に自己紹介をする。

 

「へー、おまえ『すぐる』って言うのか。よろしくな!次のテストは負けないからな!」

 

 チルノはまた僕を指差してくる。

 

「もしかしてこの人がさっきチルノが言ってた人?へぇ~、男の人だったんだ。」

 

 昨日は見覚えのない妖怪?がいる。触手生えてるしマント?をつけていて滅茶苦茶目立っている。ザワつく中慧音がとうとう言う。

 

「えーっとなチルノ、やる気があるのはすごく喜ばしい事なんだが....彼は今日から生徒じゃなくて私と同じく『先生』という立場で迎えたんだ。」

 

 

 

 

 

「ちょっと話、いいか?」

 

 先日慧音に言われ奥へ引っ込んだ僕は開口一番

 

「その、1つ頼みがあるんだが聞いてくれないか?」

 

 頼み?一体何だろうか。首を傾げる。

 

「実は君をここの先生として迎え入れたいんだ。」

 

「....へ?」

 

 よく言ってることが分からない。僕が先生?一体何を言っているんだ。

 

「唐突で無茶な頼みだとは分かっている。だが、頼まれてほしい。」

 

「一体どういう風の吹き回しで?」

 

 当然の疑問を投げ掛ける。

 

「まぁなんだ、生徒らにとって新鮮な刺激があるとよりいいと思った、というのもあるが、仮住まいのまま何もしないというのも君に退屈だと思ってな。大丈夫だ、君の知識があれば教えるのに苦になるような事はきっとないはずだ。」

 

 慧音はそう説明する。しかし何というか、本当に藪から棒と言った風である。小傘とやらが出て来た時よりも数倍もびっくりである。

 

「いやでも分かると教えるって大分違うと思うんですけど....それにいきなりそうなった所で向こうは受け入れられるんですかね....」

 

「あいつらに関しては心配ない。そんな排他的なもんじゃないさ。それに関しては私が保証しよう。教えることだって最初は誰だって不慣れなものだ。きっと慣れていくに違いないさ。」

 

 慧音から説明は受けるがどうも腑に落ちない。とはいえ完全なる居候でずっとここに居るのも正直どうかとは思う。異世界でリアルニート生活は正直笑えない。少々考えて

 

「分かりました。多分色々失敗はあると思いますが....宜しくお願いします。」

 

 

 

 

 

 

 

 と言う訳で今に至る。新入生が来たとき特有のザワザワしていた空気が一瞬で変わったのを僕は感じた。

 

「へ?先生?」

 

 キョトンとした顔でチルノは僕の顔を見る。

 

「ああ、そうだ。まぁいきなりでお互い躊躇うところもあるとは思うが....そういうことだ。」

 

「ぐっ....これで勝ったと思ったら大まちがいだからな!すぐる!」

 

 どうしてわざわざ下の名前で呼んでくるのだろうか。一応ちゃんと自己紹介はしたはずなんだが。

 

「というわけで、今日の算数の時間は私じゃなくて彼が先生だ。というわけで早く1時間目の準備をしておくんだぞ。」

 

 そう言って慧音は奥の方へ行った。とりあえず僕もそっちの方へついて行った。

 

 

 

「これ大丈夫ですかね....明らか空気が変わってたような気がするんですけど。」

 

 不安と不安と更に不安で慧音に尋ねる。

 

「構わないさ。それに君の思う『先生としての像』なんてあくまで偶像に過ぎない。授業が進むのであれば別に気味の好きな風にやればいいからな。向こうの世界では君は恐らく『先生』というものの在り方が気に食わなかったのではないか?」

 

 図星である。こちらの抱えている問題に一切干渉せず火中の栗を拾いたがらない先生というものが、僕は大嫌いであった。とはいえつい昨日までは気にかけてくれる存在にまで悪態を吐いていた僕がそれの善し悪しを語る資格があると言えるのかどうか分からないが。

 

「この経験を踏まえて先生というものに対する見方を180度変えてくれと言う訳じゃない。ただ君にとっての憎悪の対象になっているものがあるということが私にとって残念でならない。そしてそういったイメージを持っていた君だからこそ出来ることもあると私は思った。それこそそのイメージを大きく壊すようなものでも構わないさ。」

 

 まっすぐに僕の目を見て慧音が説く。周りが見えている人だと思っていたがなるほど、僕の知ったつもりでいる先生なんかとは全然違う質のもののようだ。

 

「色々考えてくれてたんですね。ここまで先生が人のことを考えてくれているということが今まで無かったので。」

 

「そうか?別段特にそんなことはないと思うが....まぁ私も長い間ここで『先生』をやってきたからもしかしたら向いているというのもあるのかもしれんな。」

 

「へぇ、長い間ってどのくらいですか?」

 

「そうだなぁ、私自身君の数倍かそれ以上は生きているだろうし、ここに住む人間は大体見て来たと思うから多分—」

 

 ....ん?

 

「え?」

 

 何か聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。

 

「ん?」

 

 僕が素っ頓狂な声を出したのを聞いて慧音が首を傾げる。

 

「僕の数倍って....先生20代くらいじゃないんですか?」

 

 恐る恐る尋ねる。

 

「20代....?ハハハ!まさかそんな風に見られていたとは思わなかった。そういえばまだ詳しく私のことを話していなかったな。」

 

 そう言って改めて慧音は言う。

 

「私の名前は上白沢慧音、ここの寺子屋の教師、そして『ワーハクタク』だ。」

 

 ワー....ハクタク?

 

「すみません、後半よく分からないんですけど....」

 

「そうか、やはりあまり馴染みが無いか....それじゃあ狼男というのは知っているか?」

 

「まぁ、はい。満月の夜になったら人間がオオカミになる、みたいなやつですよね?」

 

「ああ、そして私もそれに近い存在だ。簡単に言えば『半人半獣』といった所だ。半分人で半分獣。別に狼になると言う訳ではないんだがな。」

 

「」

 

 さらりと明かされる衝撃の事実に僕はあんぐりと口を開ける。確かに奇妙な帽子とか被ってるし、聞き覚えのない名前をしているとは思ったのだが。

 

「別にそんなに驚くこともないだろう。チルノや大妖精みたいな妖精もいれば、ルーミアのような妖怪だって寺子屋にはいる。君が思っている以上にここは人間と妖怪が共生しているんだ。」

 

 あの羽はやっぱりコスプレじゃなかったのか。というかルーミアも人間ではなかったのか。もしかして執拗に僕が人間か否かを聞いていたのはその為だったのか?

 

「まぁそんな感じだ。とはいえ妖怪が無闇に人に手を出そうもんなら大事にもなるし心配することはない。っと、そろそろ授業が始まるな。君の担当はもう少し後だからゆっくりしているといい。」

 

 そう言って慧音は教室の方へ行った。どうやら夢での想像なんかよりもよっぽどの世界に来てしまったようである。

 

 イレギュラーな形とはいえ、死に場所を探していた僕に皮肉にも居場所が見つかることになった。




 今回はやや閑話気味ですかもですね。次回も未定です!(アホ)


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想起、憤怒、―

タイトル詐欺とは言わないでください(怯)


 さて、とりあえず自分の授業の時間まで待っていろとは言われたものの、やはり緊張は収まらない。慧音曰く『自分の好きにやればいい』とのことだが、一体どうしようか。

 

 ここに居ると自ずと慧音の授業が聞こえてくる。歴史の授業だろうか。さっきまでザワザワしていた教室は静まり返っているようで、慧音が何かを書いている音しか聞こえてこない。なるほど、やはり先生として生徒に慕われているのだろうか、皆熱心に授業を聞いているようである。

 

 ふと授業風景が気になった。というか確かに皆熱心に聞いているようだが、話し方が堅苦しいというか、機械的と言うのは少し違うのだが、中々長時間聞いている分には辛そうである。ここの生徒は僕ら基準で言う小学生くらいがほとんどだったはずだが....

 

 待っていても退屈なので、こっそり隙間から授業の様子を覗いてみることにした。なるほど、一生懸命皆板書を取って....いない!

 

 7,8割方の生徒は机に突っ伏している。普通寝ている生徒がいたら先生は注意するものだと思うが、というか慧音の板書の量が異常だ。悉く僕らの世界で人気のないパターンのそれだ。

 

 慧音がつらつらと板書を書き連ねている間、ぽつぽつと生徒が起き始める。やがてチルノと一部を除く大半の生徒が起きて何事もなかったかのようにしている。

 

 一通り板書を書き終えた慧音は生徒の方を向く。チルノは寝ている。そして案の定注意を受ける。何となくチルノがマークされている理由が分かった。だがこれはこれでどうなのだろうか。

 

 やがて授業が終わった。号令が掛かり生徒らは休み時間に入った。とても懐かしい光景である。

 

「ふぅ、終わった終わった。にしても相変わらずチルノは授業態度に難があるな....一体どうしたものか。」

 

 慧音さんそれチルノに限ったことじゃないですよ—と、口から出かけたが、あえて黙っておいた。それをバラしてしまうと何か色々大変なことになりそうというか、慧音の精神衛生上あまりよろしくないように思えたからである。少し前の荒れ果てた僕ならきっとそれをあげつらってバカにしていただろう。もっとも今はそんな気は起きないが。

 

「さて、次は君の担当だ。このプリントは一応今日の授業用のものだが、使うのも使わないのも君に任せる。頑張って来い。」

 

 そう発破をかけて慧音は僕を送り出す。普通は教育課程だとかなんだかあるということを考えれば改めてやはりこれはかなりの無茶ブリなのではないかと感じる。

 

 

 授業の時間になり僕が教室に入る。だが、さっきの慧音の時とは違い大半の生徒はまだ休み時間の気分である。一部の人間、あと昨日『大ちゃん』と呼ばれていた子は大人しく準備をしている。

 

「おーい、もう授業始まってる時間だぞ。静かにしろー。」

 

 僕がそう言っても中々静まらない。一体どうしたものか。とりあえず手始めにこれまで一番僕に絡んできているチルノの方へ向かう。

 

「何だよすぐる。あたいはまだお前が先生だって認めてないからな。」

 

 そう言って僕の方を睨んでくる。『そうだそうだー!』と、周りからはヤジが飛ぶ。活発的な性な分、ちょっとしたリーダー的存在なのだろうか。

 

「そんなこと言ったってもう決まったことだ。授業するからとっとと準備しろ。」

 

 僕もチルノの方を見返してキツめに言う。

 

「そうだよチルノちゃん、一旦静かにしよ?」

 

 ここで大ちゃん、と呼ばれてた子が思いがけず僕の方へ援護射撃を送る。思いがけずいい子もいるものである。だが当のチルノは全然話を聞こうとしない。どうしてだろう、この構図は見覚えがある。多分僕が中学生くらいだった時。先生の注意。騒がしい。出来れば思い出したくない—

 

 

 

 

「うるせえ!!」

 

 気づけば自分でも思いがけず、大きな声を出してしまった。教室内の空気が一瞬で変わる。ハッとなったがもう時すでに遅しといった様子である。この空気を一言で表すなら『最悪』以外のものはない。

 

 どうしたらいいか分からず僕は少しその場で棒立ちになっていたが、そうもしていられない。周りを見るともうみんなが席に着き、俯いて静かにしている。

 

 とんでもない動悸に襲われ肩で息をしていたが、少しずつ僕を現実が引き戻してくる。そして少しふらついた足取りで教壇の方へ向かった。

 

 それから僕は授業をしていたそうだが、あまりハッキリとしたことは覚えていない。手元に会ったプリントを配ることもなくいつの間にか授業は終わっていた。

 

 授業が終わって僕は裏に引っ込んですぐ、途轍もない後悔の波に呑み込まれた。掴みで一番やってはいけないことをやってしまった。体育座りになって僕は頭を抱え込む。

 

「大丈夫か....?」

 

 僕の様子を見かねた慧音が声を掛けて来る。何かを答えようとするが言葉が出てこない。そのまま僕は空間に溶け込むかの如くじっとしていた。その間慧音は僕に無理に話しかけようとはしなかった。

 

 

 

 翌日、ここではいつもと同じように授業が開かれる。正直に言って相当に憂鬱である。昨日の授業がどんな風に進んだかも覚えてないし、何よりもどの面を下げて生徒らの前に現れればよいのだろうか。

 

「おはよう、よく眠れたかな?」

 

 こちらを見つけて慧音は声をかけてくる。

 

「まぁ、なんとか。」

 

 大噓である。と言うか寝たかも分からない。いつのまにか今に至る、と言った具合である。だが頭はボンヤリとしていてマトモに何かを考えられそうにもない。

 

「大丈夫か?今日は私が出た方がいいかな?」

 

 まぁ嘘はバレバレだった。このザマならさすがにチルノにも見破られそうである。

 

「今日は....お願いします。」

 

 作り笑いを浮かべてそう答えた。

 

 

 

 それからしばらく経って、僕は再び教壇に立った。初日とは大きく違って授業が始まる時間になるやいなや、教室内が静まり返った。重苦しい空気が場を支配する。僕は仏頂面をぶら下げて感情の無い一礼から授業を始める。

 

 参考書に書かれていることをそのまま辛うじて聞き取れるような声で読んでいき、ほとんど生徒に顔を会わせることもなく、ダラダラと黒板を埋めていく。

 

 『僕が一番嫌いな先生』を演じ切り、授業が終わって奥に引っ込むと生徒等の声がする。

 

「~~~」

 

「~~~」

 

 よく言っていることは聞こえないが、恐らく陰口だろう。恐らく授業の不満だろう。その声は次第に大きくなっていき、僕の心を呑み込んでいく。

 

 一体どうすればいい?もう取り返せないのか?ここでも僕は失敗してしまうのか?やり場の無い負のエナジーが僕を立ち込めていき、雁字搦めにする。

 

「~~~」

 

「~~~」

 

 また聞こえてくる。人妖問わずに不満が膨らんでいく。もうやめてくれ。これ以上はもう耐えられない。抑えていたヘドロの様に汚れきった感情のようなものが脳髄まで侵食していく。

 

 正気を失いリミッターが外れた僕はバッと立ち上がり、奇声をあげて走り出した。




 いつかはまぞくの二次創作書いてみたいなぁ(叶わぬ願望)


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