アルトリア・オンライン (ら・ま・ミュウ)
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SAO編
茅場ァァァァ!!!!


切っ掛けは何だったか分からない。

Fate/stay nightの存在しない現代日本に再び生を受けた私は、『ソードアートオンライン』略してSAO。

運良くベータテスターに選ばれ、そのゲームアバターをアーサー王…………王子様の概念を詰め込んだ彼に寄せた頃には手遅れだったと思う。

 

 

 

「王は人の心が分からない」

 

 

 

あぁ、肯定する。

何なのだ。ゲーム世界の死が現実世界の死?

アバターはリアルと変わらない?

ただ私は王子様ロールを楽しみたかっただけなのに…………剣だけの世界だとか云うから「カリバーァァァァ」したかっただけなのに、(茅場 晶彦)テメェのせいでなぁ…………

 

 

 

「我が王よ!ラフィン・コフィンが軍の掃討作戦に名乗りを上げました!付きましては我々、“円卓の騎士”もはじまりの街奪還に向け援助を!」

 

「父上!第四十階層のフロアボスは俺たちに任せてくれ!」

 

「情報屋の一部にガセネタを掴ませる集団が我らの領内にも、早急に取り締まるべきかと」

 

「我が王よ!」「我が王よ!」「我が王よ!」

 

 

「…………ええいっ!うるさい一辺に話すな!一列に並び書類を提出!」

 

 

「「「はっ!」」」

 

 

 

 

机の上に積み上げられる書類、そして全身鎧の暑苦しい集団が列をつくる。

 

…………茅場 晶彦これも全部お前のせいだ。

 

お前があの時、あんな事を言ったせいで。

 

お前が、このスキルを与えたせいで。

 

私はあの時、阿鼻叫喚のはじまりの街で「私はベータテスターだ!」自分が彼女のように成れるいや、成ったのだと勘違いしてしまった。

 

その結果がこれだ。

 

 

ギルド『円卓の騎士』

 

SAO最強と称されたのが血盟騎士団だと呼ばれたのも今は昔、最強にして最高。平均レベルは60。ラフィン・コフィンなどのレッドギルドとも手を結び、規模は軍の次に迫る(現在も拡大中)

アインクラッド攻略の半分以上を担うアインクラッド攻略の期待を一身に背負った表と裏を制するギルド。

ギルド長:Arutoria

 

 

何故だ。何故だ茅場!

ベータ版の時にパーティーを組んでいたアーサー王伝説厨を真っ先に仲間に率いれたことが、ベータテスターであることを宣言し第一層の攻略が進む中、新人プレイヤーの育成に力を入れていたことが、アルトリアの顔を持つ日本人離れの容姿をした私が女でありながらアーサー王を名乗ったことが、そんなに気に食わなかったのか!?

 

何がエクストラスキル『騎士王』だ!

何がエクストラスキル『アホ毛“脱”』だ!

 

馬鹿にしてるだろう!?

このギルド全員に全体バフとアホ毛を引き抜けば一時的にステータスが上昇する謎スキルのせいで、あれやこれやと担ぎ上げられ、会議、レベル上げ、探索、新人育成、レッド討伐……今じゃ平均睡眠時間一時間以下のブラックギルド長だぞ!

 

 

茅場ァァ!!!!私を過労死させる気だろ!!!!貴様ァァァァ!!!!



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嗤う道化師

俺が始まりの街を去って直ぐのこと、とあるβテスター組がその正体を明かして、新人プレイヤーにチュートリアル講座のようなことをしていると風の噂で聞いた。

 

正直、凄いヤツも居たものだと思う。

 

阿鼻叫喚渦巻くあの中で、保身を考えれば先ずそのような提案をする事は出来ない。

この世界――ソード・アート・オンラインにはフレンドリーファイヤー防止システムなんて気の効いたものはないし、圏外に出れば他のプレイヤー全てが自身を殺し得る。

気の知れた身内で囲うならまだしも、同レベルという足並みを揃えて、そして他人より少し前に立って先導しようだなんて行為は命知らずにも程があった。

 

だから俺のようなβテスターは誰にも殺されないように、殺しにきても返り討ちに出来る力を身につける為に、レベルアップという自己の強化を優先するのだ。

 

……けど、そんな馬鹿な行為を嬉々としてやりそうな奴らなら心当たりはある。

 

βテスター時代。

【円卓の騎士】という当時最強のギルドを築き上げた異彩を放つ7人組だ。彼らはゲーム廃人の温床とも言うべきβテスター内の中でも飛び抜けたプレイスキルを持ち、そしてまるでお伽噺の騎士が如く紳士的で、弱者を助け強者と肩を並べるという特異なスタンスがかなりの目を引いた。

 

ロール・プレイングというやつだろう。俺もフロアボス戦で遠目に見る程度で直接会話したことはないが、確か全員がアーサー王伝説に出てくる騎士達の名をプレイヤーネームとして使用していた筈。

あまりに強いのでチーター疑惑が浮上し、そして運営から不正はないと公言されると、ただ強いだけで運営を動かしたという伝説を作り上げた存在だ。

 

奴らなら素人同然のプレイヤー相手に例え同レベルといえど不覚も取ることもない。

 

β時代と変わらず、王や騎士として困っている人が居たら助けるのは当たり前というスタンスを変わらず掲げるつもりなら正気を疑うが……ゲームが現実となったこの世界で、その清廉潔白な騎士様(メッキ)をどこまで続けられるか見物でもある。

 

「ま、今はせいぜい楽しませてもらうぜ?」

 

灰色のポンチョを被り、ゲラゲラと笑いながら片手斧を振り下ろす。「ぎゃあ!」切り刻まれた女は己のHP残量が0になった現実に絶叫し、そして絶望に顔を歪めながら電子の塵屑へと消えていった。

 

「…ビーターに円卓とはこの世界も面白くなってきたもんだねぇ」

 

その男の名を――PoH(プー)

オレンジから真っ赤に変化した星を天に掲げる彼は、弧に口を描き上げた。




PoHがβテスター。捏造設定というか主人公が生まれた故のバグ。


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ショタヤンデレだと!?茅場ァァァァ!!!!

ガレスにとってアーサー王は英雄だった。

 

はじまりの街、そして始まりの日。茅場晶彦の言葉によってプレイヤーの誰もが絶望する中、ただ当然のように歩き、当然のように彼等、ランスロット、ガウェイン、モードレッド、ベディヴィエール、トリスタン、アグラヴェイン、後の『始まりの騎士』達を引き連れ、高台に上がった彼女はたった一言。

 

「私はベータテスターである!」

 

プレイヤー達は静まりかえる。

彼等の多くが「今度はなにが起きたのか」困惑と恐怖に顔を歪める中一部が唖然と口を開く。思えば彼等はベータテスターだったのであろう。

 

「これから、ゲームクリアを目指す者、ゲームクリアを待ち望む者、様々だろう。私の名はArutoria。ベータテスターとして責任を果たすべくこの場に立った!」

 

覇気という奴なのだろうか、ザワザワとした闘技場はArutoria(アルトリア)というたった一人のプレイヤーの為に完全な沈黙を下ろす。

 

それは正しく英雄譚に語られる伝説の一ページだった。

――伝説。そう、後の最強ギルド『円卓の騎士』の主、騎士王が夫ガレスと結ばれる初めての出会い………ウハッ、ヒヒヒヒ………………!!!

 

―――円卓の騎士・ギルドメンバーガレスの日記より一部抜粋(一番まともだったやつ)

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハックション!」

 

「王よ、ゲーム世界で風邪とは流石でございます」

 

「何が流石なのかなトリスタン君。取りあえずティッシュ取ってくれない?」

 

ポロロン

デスゲームと化したSAOで再会した時、マジモンのトリスタンかと勘違いさせられた『トリスタン』。楽器こそないが実力はフロアボスを単独で狩る化け物揃いの円卓の騎士で五本の指に入る猛者中の猛者であり、そんな彼とはそこそこ仲が良く、レベル上げなどでよくパーティーを組んでいた。

 

「トリスタンはさ、何レベ?」

 

「67です」

 

安全マージンが10レベ。現在解放されている最高階層が39層なのでこれはかなり狂っている。

 

「我が王よ、そう言う貴方は?」

 

「――69だ」

 

だが私はそんな彼よりも二つレベルが上だ。

何故かって?

 

「流石です。ですが、マッシュポテ………ガウェイン卿は先日70レベルに為ったとのこと。王が配下より弱いとは情けなく思われます。今日中に5レベルほど上げてしまいましょう」

 

「えっもうこれぐらいになると1レベ上げるのにぶっ続けで五時間ぐらい掛かるよね?トリスタン、キミは正気かい?」

 

「正気ですが何か?」

 

私のレベルが高いのは円卓のゴリラどもがバンバンレベルを上げ、トリスタンみたいな「王が配下より弱いとは……私は悲しい」ポロロン

育成部隊が控えているからである。トリスタンは口先だけで最悪無視すればどうって事ないが、モードレッドやケイの野郎は私がレベル上げを拒否するようならオレンジになるのも辞さない強硬派である。

 

「――同レベで勘弁して?」

 

「ええっとケイ殿へ――我が王はレベル上げを」

 

「うわぁぁぁ!!!!やりますから!5でも6でも徹夜で頑張りますからケイだけは止めてェェェ!」

 

 

 

 

 

夜通しでレベル上げをしたアーサー王はレベル75に為った。




【円卓の騎士】ギルドメンバー
ガレス…ショタでヤンデレ。
ガウェイン…マッシュポテト狂い。
トリスタン…ほぼ型月トリスタン。
ケイ…俺が新撰組だぁぁぁ、が少し落ち着いた感じの人。
モードレッド…槍王似の貧乳娘。現役女子高校生。THEスケバンて感じの人。


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ヒースクリフだと!?茅場ァァァァ!!!!

「これはこれは騎士王殿」

 

「……ヒースクリフか」

 

王は空腹である。

会議を抜け出し蜂蜜パイを所望するArutoriaの前に現れたのはヒースクリフ、円卓の騎士がトップに立つまで攻略組を率いていた血盟騎士団の団長をやっている男である。

そして私はこの男が嫌いである。

 

「珍しいではないか、君がこんな低階層に来るとは」

 

何か然り気無く隣歩くし、話は長くて英雄とは王とは何か哲学めいてつまらないわ、会って数回の付き合いで妙に馴れ馴れしいわ。一度ラーメン屋を知っていると言うので着いていったらゴムみたいな食感のラーメンを食べる羽目になりもっと嫌いになった。

こんな男に構っていては限定蜂蜜パイが売り切れてしまうかもしれない。

 

「―――そう言えば、選定の剣という物を知っているかい?」

 

ステータスの隠蔽スキルに伸ばしかけたアルトリアの指がピタリと止まる。

 

「ある村のNPC曰く、村から程近い平原には選ばれた者しか抜けないとされる剣があるらしい。まるで、アーサー王伝説の選定の剣カリバーンのようだとは思わないか」

 

「………」

 

「ここに先日部下に買い占めさせた蜂蜜パイが――」「その話、詳しく」

 

食欲には勝てなかったけど……是非もないよね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒースクリフゥゥゥ!!!!」

 

怨嗟の声が地底深くから響く。

 

「何で挑戦者が全然居ないか、分かってたのにあえて黙っていやがったなあの野郎ぅぅぅ!!」

 

声の主は円卓の騎士ギルド長アルトリア。彼女の現状を分かりやすく纏めるとヒースクリフに騙された。それに尽きる。

 

村から程近い平原?

村人NPCが指差した先は断崖絶壁、剣を抜くにはあれを昇る必要があるらしい。

山頂の間違いだろう?

 

クエストが始まると剣を装備出来なくなり、解除条件は制限100時間のタイムオーバーかクリアのみ…………100時間もアイツらが休暇くれるわけないし、クリアしないと私、素手でボス攻略に出ないといけないからね!?

 

 

 

「決めたぞカリバーン、お前をエクスカリバーに進化させる為に斬り捨てる騎士はヒースクリフだ!私はあの男を殺す!」

 

登り始めて三時間。アルトリアはヒースクリフに殺意を抱いた。

 

「なっワイバーンだと!?関係あるか!挽き肉にしてやるよぉぉ!!!!」

 

登り始めて五時間。素手でワイバーンを殴り殺した。

 

一秒たりとも気が抜けず、足場のない中モンスターと戦い寝る間も惜しんで登り続けたアルトリア

 

何度落ちそうになっただろう、何度心が折れそうになったであろう

 

――父上!

 

――我が王!

 

――王よ!

 

――王、王、王!!!

 

 

―――剣がないから何ですか?効率の良いレベ上げにトラップ部屋巡りをしますよ!

 

 

「流石に死ぬからそれぇぇぇ!!!!」

 

 

 

 

 

‐シャキーン‐

 

そして、1日が経ち。アルトリアはカリバーンを手に入れた。

何の抵抗もなくカリバーンが抜けたのはアルトリアが特別……とかではなく、恐らくこの崖を登りきる事が条件だったからだと思うのだが嬉しかったアルトリアは円卓の騎士の連中に無茶苦茶自慢した。

 

後日、彼等はアルトリアと同じようなクエストをこなしエクスカリバー・ガラティーン等。魔剣クラスの武器をぶら下げていた。

 

彼らのクリア時間を聞いたアルトリアは少しだけ泣いた。



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-番外編-クリスマスならこのネタだよなぁ茅場ァァァ!!!!

少年が宝箱に触れると不気味なアラーム音が鳴り響き空間は赤く光る、そして無数のモンスター達が湧き出した。

 

「おいっ何だよこれ!?」

 

「トラップだ!皆、俺から離れるな!」

 

ギルド月夜の黒猫団を守るように剣を抜いたキリトは目の前のモンスターを斬り伏せ――しかし、横から別のモンスターに殴り飛ばされる。

「キリト!」

 

「俺に構うな!早く転移結晶で!」

 

月夜の黒猫団のメンバーサチは震えながら槍を構えキリトを守るようにモンスターの群れに立ちふさがる。

 

「使えないの!」

 

「そんっ!クソッ」

 

サチに棍棒を振り下ろすモンスターの腕を逆に下から上へ振り上げるように斬りつけたキリトの視界に映ったのは、サチ以外のメンバーが一塊になってモンスターと戦う姿と宝箱を開けた少年が赤いドットを撒き散らし、モンスター達が集中的に攻撃を加えている光景だった。

 

「うわぁぁぁヤメロォォ!!!!」

 

少年のHPがレッドに差し掛かり悲鳴を上げる。キリトは飛び出すように地面を駆けるが間に合わ―――!

 

「問おう、あなたが私のマスターか」

 

黄金の一閃

 

パリッパリッパリッパリッパリッパリッパァァ

 

瞬間、少年を囲んでいたモンスターが消え失せた。

 

「たった一撃、だと…」

 

「……助かった?」

 

キリトと少年の視線はモンスターを斬り伏せた黄金の剣――それを持つ純白な少女へと移る

 

「……あぁ、そう言う事か」

 

少女は冷めた目で少年とサチを除いた月夜の黒猫団を襲うモンスター達を眺めた後――ブチリッと金髪を一房引き抜いた。

 

空気が変わる。

 

アルトリアの毛先が金から色が抜け落ちたような白へと変化し、青い鎧は黒く変色する。

破壊不可能な筈の空間はビリビリと震え、それは錯覚なのかモンスター達が彼女の変異に怯えているように見えた。

 

『……鏖殺する』

 

青は黒く染め上がり蹂躙が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カンパーイ!」

 

「いや~まさかあんな所でアーサー王に会えるなんて俺たちツイてるよなぁ!」

 

「おい、お前のせいで危うく全滅する所だったんだぞ!もう少し危機感をだな!」

 

「とか言いつつ、握手してもらったのは誰かなぁ?」

 

「そっそりゃあ仕方ねぇだろ!アーサー王って言ったら俺たち中層組の憧れだ!」

 

「へ~ん?」「このっお前!」「「「ワハハハハハ!」」」

 

場所は月夜の黒猫団のギルドホーム。

かの有名なアーサー王に助けて貰った月夜の黒猫団は新たなギルドホームで宴会を上げていた。

一歩間違えば全滅、そうでなくとも彼ら一人一人に死の恐怖という一生もののトラウマが残っても可笑しくなかったが、アーサー王。全プレイヤーが認める最強にして最高の王。レベル差もあるだろうが素人目で見てもあれほど卓越した剣技を魅せられては怯えるほうが馬鹿らしいと感じてしまう。

 

 

「ねぇキリト」

 

「なんだい?」

 

「今日…………いいよ」

 

「ブアホッ」

 

「アハハ何噴いてんだよ!キリト!」

 

「うはぁ腹痛テェェ!」

 

 

黒猫の宴はまだまだ終わらない、月夜の沈むその時まで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サブタイトル【アスナヒロイン脱落?これも全部、茅場のせい

 




「私はアスナでもリーファでもシノンでもなくサチを推す、異論は認めない」


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王は人の心が分からない、風評被害だ茅場ァァ!!!!

「四十階層のフロアボスは我々『円卓の騎士』に任せてもらおう」

 

「ふざけないで!」

 

もう1ヶ月は前になろうか、軍の攻略組引退を機に急速に力を付け始めた二大ギルド『血盟騎士団』と『円卓の騎士』 は今後どちらが攻略組の指揮を取るかで揉め、話し合いでは収まらずリーダーのヒースクリフとアルトリアがデュエルで決着をつける事となり……圧倒的レベル差&直感Aのアルトリアが幸運にも勝利した事で名目上は円卓の騎士が指揮を取ることになった。

円卓の軍師アグラヴェインはリアルで軍人経験があるらしく彼が指揮を取ってから攻略組の死亡率は0、アルトリアの下に集う円卓の勢力拡大に伴い攻略スペースは目に見えて上がった。

 

一見、順風満帆に見えるアインクラッド攻略だが、最近モードレッドやランスロット、円卓の中でも屈指の実力者達がボス攻略会議を待たず単独でフロアボス攻略を行うような事態が増え、豊潤なフロアボス経験値を独り占めされては攻略組のレベルバランスが崩れかねないと度々他勢力から抗議を受けていた。

 

「私達だって命をかけて戦っているの、貴方達の勝手な都合で攻略組の和を乱す気!?」

 

今日、円卓のギルドホームにやって来たのは閃光のアスナさん。血盟騎士団の副団長なんだが……正論過ぎて何も言い返せない。

私だって足並み揃えることは重要だと思う。でもモードレッドとか、いつの間にかフロアボス撃破して「へへっどうだ父上、凄ぇだろ?」あんな満面の笑みを浮かべられて強く言えないんだよ。下手に文句言った「我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)!!!!」叛逆ルートだぜ?

スゲエだろ?こっちのモードレッドも女の子で顔つきは私……というより獅子王にそっくりでめっちゃ背高いんだぜ(だが貧乳だ!)

 

「騎士王!貴方は何を考えていると言うの!」

 

―――えっ?

アグ君と話てると思ったら急に話を振られたんだが、どうすれば?

アグ君と違って口下手だから、あんまり話したくないんだが、答えないと失礼だよな?

 

「――――全プレイヤーの解放と自由」

 

「ッゥ!?だから円卓だけで突っ走ってもいつか壁にぶつかる時がくる!私達皆で――!」

 

 

 

「二十五層の時のようにまた死ぬか?」

 

 

 

「貴方!?」「アグラヴェイン、口を慎め」

 

「ハッ申し訳ございません。しかし、レベルと半端なプレイスキルだけで攻略組を名乗る連中が増えれば犠牲が増えるのは当然の理」

 

「その点……始まりの騎士は問題ないってわけね」

 

「あぁ、お前らが率いていた()()()()()と違って我々は弱者を戦場には立たせん」

 

「……アグラヴェイン」

「失礼するわ」

 

アスナは感情の消えた顔をして円卓を後にした。

追い掛けたい気持ちもあるが、私はアスナさんの『レベルを上げ足並み揃えて攻略組の数を増やす』考えよりもアグラヴェインの『真の強者のみで攻略する』その考えに賛成なんだ。

リアルの体がどれだけ持つか分からない。クリアを目指すなら犠牲は少ないのは勿論、時間をかけ過ぎるのは不味い。

アルトリアとしての直感なのかは分からないけど『百層を目指すなら彼女のやり方だと確実に間に合わない』と何かが警鐘を鳴らすんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっこんな所に落とし穴が!」

 

すいません。直感Aとか嘘です。ケイと経験値狩りしてたら普通に落ちたアルトリアです。あまり深くなかったのでHPが0,5割ほど減少するだけに済みましたが、下手したら死んでましたね……ハハッ。

 

だが、落ちた先はトラップ部屋だったのか激しいアラーム音と共に大量のモンスターが自然発生する。

 

「――何だよこれ!」

 

「私以外にもプレイヤーが!?」

 

低階層ではあり得ない数、そこそこレベルの高いモンスター達。間違いなく即死トラップに数えられるだろう其処にはアルトリア以外に数人のプレイヤー、そしてレッドに差し掛かり今にも消滅しそうな少年が絶叫している。

 

―――このッ光景!

 

槍使いのモンスターのタゲが少年に向いているのを見て、全身に電流が走り抜ける。アルトリアは――どうしても、どうしても()()()()を言いたい衝動に駆られた。それはFate民の魂かアルトリア顔がそうさせるのか分からない。

 

「問おう。あなたが私のマスターか」

 

カリバーンによって斬り捨てられたモンスター達の破壊効果音にダブってFateお馴染みのセリフを放つアルトリア…いやセイバー。

 

数秒して誰にも聞こえていなかった事に気付き、恥ずかしさのあまり聖杯の泥に自ら飛び込んだのであった。




アルトリアvsヒースクリフ

「(不味い!)」反応速度強化

超速度で振るわれる神聖剣

「……(何か嫌な予感する)」サッ

「(避けただと!?)」

全てはここから始まった。

モードレッドの父上呼びはちゃんと理由があります。


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これも全部お前の仕業だな茅場ァァ!!!!

どうして、こうなったのだろう。

 

何を間違えたのだ

 

何故私は再び―――――

 

 

「再び君と剣を交える事になるとは流石に予想出来なかったよ」

 

 

『さぁ始まりました!血盟騎士団最強ヒースクリフ!vs我らが騎士王アルトリアペンドラゴン!五十層攻略記念最後のお祭りはド派手に決まるぜェェェ!!!』

 

オォォォォ!!!!

 

 

 

…………この男と戦う羽目に?(涙目)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の始まりは単純だった。

 

円卓の騎士は五十層攻略を一区切りとし、大規模な祭りを開くと前々から決めていたのだ。アルトリアはそれを容認していたし、祭りの開催宣言でアグラヴェインが二年でアインクラッドを制覇する!とかとんでも発言をかました時も雰囲気に酔っているのだろう……優しい目で見守っていた。

何かが可笑しい、そう感じたのは闘技場にてモードレッドとアスナさんがディエルしていると小耳に挟んだ時だ。

 

 

【月夜の黒猫団キリトvs円卓の騎士ランスロット】キリトWIN

 

【風林火山クラインvs円卓の騎士ガレス】ガレスWIN

 

【聖龍連合リンドvs円卓の騎士ガウェイン】ガウェインWIN

 

エキシビション

【旧アインクラッド解放軍ディアベルvs新アインクラッド解放軍キバオウ】ディアベルWIN

【最強の商人エギルvs情報屋ネズミのアルゴ(顔出しNG)】エギルWIN

 

 

【血盟騎士団ヒースクリフvs円卓の騎士アルトリア】

 

…………は?

 

トーナメント表の最後の欄をみたアルトリアの感想である。

 

ディエルは半減決着モードで【あの伝説が再び!】胡散臭いキャッチコピーに…………は?

ヒースクリフと戦えと?そんなの聞いてない!

 

「逃げないとッ何処か何処かに!」

 

「王が居られだぞ!逃げられる前に拘束しろぉぉ!!!」

 

「いやぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

カウント、10、9、8、7……

 

 

ここまで来てしまった。いや、連れて来られた。

先ほどの試合で祭りの盛り上がりは最高潮へと達している、今は逃げる方が危険だ…………もう、腹を括ろう。

 

6、5、4、3…………

 

私とヒースクリフは正直いってプレイスキルにあまり差がない。

純粋な剣の腕なら現役剣道部の私の方が数段上だし、ヒースクリフの鉄壁の守りは巨大なモンスターだって決して通さない。

正直、勝ちを拾えたのはヒースクリフの油断があったからだと思う。完全に死角だった大振りの一撃をギリギリで避け、まさか避けられると思っていなかったのか動きの鈍るヒースクリフにジーク君よろしく「馬鹿め!剣はもう一本有るんだよ!」本能的に右手に持つ剣から守ろうと盾を動かす――隠し持っていた剣で左側からグサッとやった。

 

あれがもう一度成功するとは考えない方がいいだろう。

 

となると、モーションの読みやすい連撃系のソードスキルは避けつつ、盾の守りを何とか突破して得意な近接戦に持ち込むしかない。

 

2、1…………0

 

闘いが始まる




『やぁみんなアルトリアの剣術の指南役マーリン先輩だ!
本編未登場キャラの僕がまさか次回予告をすることになるなんて夢にも思わなかったが、いいとも!
鉄壁の守りを持つヒースクリフに攻めあぐねていたアルトリア、その時彼女は私が伝授した必奥義を放つ!次回、色仕掛け――』『マーリン死スベシフォーウ!』


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茅場、茅場ァァ!!!!

2、1…………0

 

『スタート!!!!』

 

応援席の何処かから実況役の声が響き渡る。アルトリアとヒースクリフはその言葉が終わる瞬間にはぶつかり合っていた。

 

「シイッ!」

 

「ほうっ」

 

カリバーンの重い一撃。もしかしたらレベル差によるゴリ押しで盾を弾き飛ばせるなんて、この男は甘くない。

 

「これは80、いや90はレベルを上げていたか」

 

一歩下がると目線ギリギリまで剣の軌跡が描かれる。避けなかったらこれで終わりだったかもしれない。

 

「…………ふぅ」

 

ヒースクリフ。改めて思うと厄介な相手だ。レベル差も剣士としての技術もこちらが上の筈なのに、私が嫌がる戦法を確実にとってくる。

あの男の強みは剣の腕でも武器の優劣でもない…場の支配力。剣を交える戦場において知略のみで奴は強者になったのだ。

 

「あぁ、本当に嫌になる」

 

それは正に超一流の戦士の一角なのだろう。

リアルの師匠に「剣の腕は一流だが超一流ではない。万能のキミは、ある程度の物事をそつなく凡人以上に成し得てしまうが、決して一流以上の超一流に勝ることはない。金メダルと銀メダルのような物だ。そこを勘違いしてはいけないよ?」耳にタコが出来るほど聞かされた言葉が脳裏を過る。

 

一度目は奇跡、二度目は敗北

 

そうなる事が必然なのに、諦めきれないとは。

 

「アーサー王!」

 

「頑張れー!」

 

「負けるなー!」

 

 

 

ケイ「負けたら休みは無しだ!」

モードレッド「カンストするまで付き合って貰うからな!」

 

 

 

 

くそっ!負けてたまるか!(涙目)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数度斬り合い、お互いの呼吸も読めてきた頃

空気が変わった。

アルトリアの瞳に暗い物が落ち、剣を握るもう片方の手で髪に手を伸ばす。

 

「させるか!」

 

エクストラスキル『アホ毛“脱”』の発動を見抜いたヒースクリフはソードスキルを発動させ突進によるキャンセルを試みる。

これは茅場もアルトリア本人も知らない事だが『アホ毛“脱”』は急揃えのエクストラスキルである為かバグが発生し、本来の意味を離れカーディナルの補助を受けられるようになっている。

ヒースクリフのこの判断は正解だった。アホ毛“脱”のアルトリアは彼の※※すら突破しHPを全損しうる可能性を秘めていたのだ。

 

「……そう、来ると思っていた」

 

だが、ヒースクリフはここで致命的なミスを犯す。

突進系のソードスキルは(化け物クラスでは)避けやすく隙が大きいのだ。

 

ヒースクリフはアルトリアを通り過ぎた瞬間その言葉を耳にする

 

勝利すべき黄金の剣(カリバーン)!!!!」

 

…………

 

……

 

背中に赤いドットを散らすヒースクリフは「やはり、君には勝てない」そう呟く。そしてHPが()()()()()した。

 

WINNER Arutoria

 

『勝者騎士王アルトリアァァ!!!!』

 

オォォォォ!!!!




「やはり、君には勝てない」
ヒースクリフさんは負ける事が分かっていたのでしょうね。
HPが半分切った所を見たことない人からレッドになった所を見たことない人へ進化


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アグ君がこうなったのもお前のせいか!茅場ァァ!!!!

我が王はヒースクリフに勝利なされた。

それは円卓の騎士の評価を上げる一方で血盟騎士団の名に傷を付ける事になる。経験談から言って今回の試合後、血盟騎士団のギルドメンバーのうち何名かは円卓の騎士に流れてくる筈だ。

中規模ギルドの血盟騎士団からすればかなりの痛手。あの娘はまた近いうちに抗議にくるだろう。

 

「だからどうした。我が王こそが全て。それ以外の光など」

 

「アグラヴェイン卿?」

 

「…………何でもない。王を迎えにいくぞ」

 

「「ハッ」」

 

 

 

『私は誰一人円卓を欠かすことなくこのゲームをクリアする。アグラヴェイン、お前は円卓になくてはならない存在だ。再び私の剣となれ』

 

あの日から一年。求められなければ、はじまりの街から動く事のなかった天才軍師が味方である攻略組すら蹴り落とす冷血非道な――

 

「アーサー王をイメージした特製パフェ限定20個早い者勝ちだ!」

 

「…………おい、金を渡すから食べる用、鑑賞用、保管用、布教用、4つ買ってこい」

 

「は?」

 

円卓一のアルトリアガチ勢であることを知る者は少ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……何とか勝てた」

 

『爆弾押すと見せかけてお前を殺す!』アルトリアの師匠が、超一流の相手に勝つために教えてくれた秘奥義の一つである。

 

一度、アホ毛“脱”の恐ろしさをヒースクリフに見せた事があり、『筋力・敏捷力』の50アップ。ソードスキル撃ち放題のこれのヤバさを知っている彼なら絶対に止めにくるだろうと避ける事だけに全神経を集中させていた甲斐があった。

 

ヒースクリフが止めに来なかったら、アホ毛“脱”を発動させることが出来ても効果時間が切れるまで盾で守り通され、約十秒の硬直時間中にやられていた可能性が充分あり得たので本当に危なかったが、何とか今回も勝ち星を拾えた。

 

「父上!さっすがだぜ!」

 

そう言えば、モードレッドとアスナさんとの対決は引き分けだったそうですが、閃光の名は馬鹿に出来ませんね……最低でも二十はレベルが離れていた筈のモードレッド相手に引き分けに持ち込むなんて私からしたら、裸でレッドギルドに飛び込むような物です。

 

唯一円卓から黒星を上げた月夜の黒猫団のキリトさんと初期の頃仲良くしていたそうですが、デスゲームが始まるまで一般人だった彼らに何が起きれば中高で剣道部だったらしい(大会で優勝したこともあるぞ☆)ランスロットに、釘バットを装備しないと殺されるような世紀末高校へ通っていたと噂の(オレの島荒らす奴は殺す!)モードレッド相手に張り合えるんでしょう?

 

育ちの良さそうな顔して彼らも、リアルじゃゴリゴリのスポーツマンか喧嘩に明け暮れる学生なのでしょうか?

 

「私なんか、ただ習ってるだけで大会出たことないし……リアルだとボコボコにされるんだろうな~」

 

打ち明げとかしたらモードレッド辺りにしごかれないかな?

 

少しだけゲームクリアした後の事が怖くなったアルトリアであった。




【円卓の騎士】ギルドメンバー
アグラヴェイン…円卓一のアルトリア信者。現役軍人。根は真面目で指揮官としての腕は一級品である。
本人曰く、アルトリアの勧誘がなければ始まりの街から動かなかったそう。




「やぁマーリン先輩だ!今回は次回予告ではなく彼女の名誉の為に参上したぞ!……と言っても彼女は滅茶苦茶強いぐらいしか言うことがないのだがハハッ!私の言う超一流がオリンピックとかそう言う次元ではなく“英雄”そう呼ばれる次元の中での話だと思ってくれているだけで今は構わない。」


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モードレッドがこうなった責任の一端はお前にあるぞ茅場ァァ!!!!

五十層攻略記念祭り―――ヒースクリフとアルトリアの戦いから二週間が経過していた。

二日ほど湧き部屋に篭っていたアルトリアは重い瞼を擦り剣を振るう。

 

「しゃぁ!」

 

そんな彼女と違って疲れ知らずなモードレッドは今のモンスターを倒した時、一際大きな声を上げた。

 

「ふわぁ~やっとレベルが上がったみたいだな」

 

「おうっこれで俺も百レベ勢の仲間入りだ!付き合ってくれて有り難な父上!」

 

「気にする……私も…………僕も?…………キミには助けられているから…………」

 

「おいおい、父上が父上の口調に戻ってるぜ」

 

「何言って……るんだい……僕はアーサー…………おぅ……」

 

やっと帰って寝れる。そう思うと緊張の糸が切れてしまい、猛烈な眠気に襲われるアルトリアはフラフラと左右に揺れ動きモードレッドに抱きつくような形で倒れた。

 

「むにゃむにゃ……しーるさーてぃん……」

 

「おおっと……そういやぁ、父上は中坊だったな。いくら剣が強くてもニ徹はツレェか」

 

モードレッドは眠ってしまったアルトリアにどうしたモノかと迷う。このまま目覚めるまで待つべきか、それとも担いでギルドホームまで戻るべきか。

アルトリアの疲労からして直ぐには起きないので担いで帰るべきなのだろうが、仮にも父と慕う人間をおんぶや抱っこなどして運べるだろうか?

……いいや無理だ。恥ずかしすぎて死ぬ。

 

「父上ー!おーい父上!」

 

普段ならまだしも、アルトリアの先程の言葉にモードレッドは思い返すだけで死ねるトラウマ級の黒歴史。ベータ時代の事を思い出していた。

 

 

 

 

『ちちうえー!ちちうえー!遊びましょう!』

 

『ははっモードレッドは甘えたがりだな』

 

身長は今と真逆。幼くして両親を失った彼女が舎弟から偶然譲り受けたSAOベータ版で出会った彼、アーサー王。

 

兎に角、モンスターを切り殺したい。そんな彼女のわがままに文句一つ言わずゲームの基礎やソードスキルの手解きなどをしてもらい成り行きでフレンドになった。

最初は「レベルさえ追い付けばお前なんかボコボコにしてやるからな!」と無駄に噛みついて、会うたびにPVPを申し込んだのは苦い思い出。

それから何度もパーティーを組んでクエストをこなし、世間話などをする内に、ふと天涯孤独な身の上を自嘲気味に相談とかしてみたら、まるで実父のように真摯になって答える彼の誠実さに不覚にも涙腺が緩んでボロボロと泣いてしまうことがあった。

 

「クソ、くそ……なんで、止まらない」

 

そんな時に優しく言葉をかけて慰めてもらい「大丈夫。大丈夫だよ。君には僕がついている」

 

…あぁもうダメだな。

 

と自分の中で何かが壊れる音がした。

それからはまるで今まで我慢してきた分が一気に溢れてきたみたいに見た目相応に彼に甘えて、甘えて、甘えて……女としてではなく子供として()を独占する麻薬のような快楽を知った。

 

ゲームが現実になって、

アバターがリアルフェイスに戻った時、彼に全てがバレてしまう。高校生にもなって甘えた声をして小学生のふりなんか!

蔑まれるんじゃないか、見捨てられるんじゃないか!

 

喧嘩なら負け知らずの俺が本当の顔も知らない『親』に見放される恐怖に怯えて、デカイ体を縮こまらせ闘技場の隅で震えていると――

 

『探したよモードレッド。また迷子になったのかい?』そんな時に手ッ手を差し伸べッッッッ!!!!

 

「あぁぁぁぁぁ!!!!父上!何であんたが男じゃねぇんだよぉ!!!!完全に惚れたんだぜ?あん時は男だと思ってたから柄にもなくお洒落なんかに気をつけてよぉ!マジでマジでうわぁぁぁ!!!!」

 

 

 

「うぐぐ……モードレッド苦ちぃ」

 

 

「あっ」

 

気づけばHPが減少するほど強く抱き締めていたモードレッドはオレンジになった。この後、オレンジ化の理由を聞いたアルトリアガチ勢のアグラヴェインに斬り殺されそうになったのは言うまでもない。




【円卓の騎士】ギルドメンバー
モードレッド…昔のプロトセイバーアバターだった頃のアルトリアを本当の父のように慕っていた。
今でも父上と慕っているが、同姓である為、母上と改めるべきか葛藤している。

βテスター時代のアバターは小さい方が攻撃が当たり難いだろうという考えで身長を最低値に設定した。


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この悲劇はお前のせいで生まれたんだぞ!反省しろ茅場ァァ!!!!

デスゲーム開始から少なからず時を刻んだある日の夜。アルトリアは書類仕事に嫌気がさして街に飛び出し「らっら~、ら~ら~♪」あの歌の音に耳を傾けていた。

 

――――サブタイトル『純白の歌姫』

 

 

 

 

 

「クッこの!うぉぉぉぉ!!!!」

 

ガキンッ

 

「甘い。大振りの一撃など横から叩いてしまえば重心は崩れ、剣は下を向いてしまう。

…………これで十合目。

悪いことは言わない血盟騎士団に帰りなさい、貴方は円卓に入るには余りにも(つたな)すぎる。」

 

肩で大きく息をする少年に優しく諭す大男『ガウェイン』はその決意の揺らがない熱い瞳に小さく息を吐く。

 

「(私も暇じゃないんですが……)」

 

土下座までして入団を申し込まれ、仕方なく模擬戦をしたものの……剣は操るのではなく振り回す、挨拶代わりの殺気にはガタガタと震えて、しまいには目を瞑って突撃とは………中層上位とは聞いていたが、レベルを除けば初心者とさほど変わらない技量に円卓一の脳筋と揶揄されるガウェインですらため息が漏れてしまう。

 

「どうして、円卓に入りたいのですか?」

 

()()血盟騎士団は円卓と比べれば質も量も勝る物はないとはいえ、不満を抱くような弱小ギルドではない。リーダーのヒースクリフは我が王を除けば円卓の騎士達でもはね除ける強者であり、副団長の閃光の指揮は経験とそこから生み出される柔軟性こそ円卓の軍師に劣るものがあるが優秀だ。アグラヴェイン卿はいずれ寝返る者が出てくると言っていたが、ガウェインにはその“いずれ”が当分先のように思えて少年に尋ねる。

 

「恐怖を克服したいんです。怖くなって足が動かなくなった時、彼女を守れないんじゃないかと不安になって、いてもたってもいられず…………」

 

「成る程、私は度胸試しですか」

 

「うぇ!?そそっんな!つもりは!?」

 

失言だったかと狼狽える少年。

 

「まぁいいでしょう、貴方が円卓に本気で入るつもりはないことは分かりましたし、恐怖を克服したいなら兎に角、死線をくぐり抜けることです。私も初めの頃は怖かったですが、なに……三百回ほど死にかければ丁度いい具合に感覚も麻痺しますよ」

 

バシバシと少年の背中を叩くガウェイン。少年はそれを冗談かと困ったように頷くばかりだった。

 

―――しかし、2023年10月15日。

この日ほど、怠惰な自分を呪ったことはない。何故自分はガウェインさんの助言を無視して恐怖を克服する所か、未熟な剣の腕も磨いてこなかったのか。

 

「ァァァァ!!!!」

 

恨めしい、恨めしい、恨めしい、恨めしい!

何も出来ない自分が!何もしてこなかった自分が!

彼女を見捨てたアイツらが彼女を殺すモンスターが!全部全部全部!!!!

 

「動けよ……まだ、彼女は生きてる……お願いだから……動け……動けよ!」

 

少年は叫ぶ。しかし体は自分の物ではなくなかったように口以外ピクリとも動かない。

その間にも“彼女”のHPはみるみる減少していく。

 

 

「…………お願いだから…僕は……………僕じゃ、無理なんだよ……………………………誰か彼女を…………ユナを助けてくれよぉ…………」

 

 

「――ならば、その願い。我が剣で叶えよう」

 

涙でくしゃくしゃになったその瞳に映ったのは「あ”ーさ”ーお”う”」騎士王だった。




フレンド登録したプレイヤーのHP残量は把握できるらしい


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私の癒しだけは消させないぞぉぉ茅場ァァァァ!!!!

フロアボス攻略において血盟騎士団とまだそこまでレベル差の開いていなかった円卓の騎士が協力体制を敷いて攻略に当たるのは必然で、アルトリアの姿もそこにはあった。

 

「ここは私が抑える!」

 

「往くぞー!」

 

守りのヒースクリフと攻めのアルトリア。この二人が揃った時の安心感といったら何とも言葉では言い表し難い。

アルトリアに続き、瞬く間にフロアボスのHPゲージを一つ削り切った攻略組は歓声を上げる。

 

「――ッぅ!?」

 

だが、アルトリアの様子が可笑しい。ステータス画面を開き予備の回復薬を補充する筈だった彼女は驚愕に目を見開くと「ランスロット!私の抜けた穴は貴公が埋めろ!」ボス部屋から飛び出したのだ。

 

 

「何をやっているんだ!」「騎士王!」「おいッ誰か連れ戻せよ!」

 

攻略組は困惑し、思わず敏捷力特化のプレイヤーは彼女を追いかける。「待ちなさい」「お前ッ何を!」しかしそれを遮るのは円卓のベディヴィエール。筋力にスキルポイントを殆ど振り分けず円卓で速さのみを突き詰めた彼は食い止めたプレイヤーに剣を向ける。

「元より、このフロアボスは王のお力を借りるほどの物ではない。王が自らの意思で退出なされた以上、追う者は我々円卓の敵だ」

 

「だが、アーサー王に抜けられれば誰がー!」

 

「Arrrrrrrrrrrr!!!!!」

 

それは狂気。闇に落ちた騎士の成れの果て。世界に絶望し、悲観し、己の殻に閉じ籠った“遅すぎる救済”を得た円卓の怪物。

彼の者はたった一人フロアボスを切り刻み、また一つHPバーを削り切る。

 

「それで誰がとは?」

 

 

 

 

 

 

 

「アイツ……また振られたのか」

「こりゃ3日はあの鎧脱がねぇぞ」

「私は悲しい」ポロロン

 

 

「Arrrrrrrrrrrrrr!!!!!!!!」

 

 

(すまないランスロット。セッティングした私が言うのも何だが初日でホテルはやり過ぎだ!)

 

唖然とその光景を眺めるプレイヤー達の後ろでベディヴィエールは救済の遅れた合コンの敗北者に黙祷を捧げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ならば、その願い。我が剣で叶えよう」

 

少年を横切り、剣を抜いたアーサー王は走り出す。

いや、走り出したように見えただけだ。気づけば王はモンスターの一体を斬り、細剣のソードスキル《ニュートロン》を思わせる高速の突きを両手剣で放ち、吹き飛ばしていた。

 

「アルトリアさん!?」

 

それは正にユナの残りHPを削りきろうとしていたモンスターを巻き込んで、硝子の割れる音が視界の外から響く。

少年が見れば左翼の雑魚モンスターが全滅していた。「凄い…………」少年は思わずそんな声を漏らす。そしてそんな言葉すら生ぬるいとアーサー王は捻れた両手槍をストレージから取り出す。

 

「はぁッ《スイフト・ランジ》!」

 

風が吹き荒れ今度こそアーサー王は消えた。アーサー王が槍を向けた先のモンスター達は強風に吹かれたように左右によろめき、数秒して弾ける。この時、誰がソードスキルを移動に使い途中でキャンセルした後、慣性の法則を利用し通り抜け様に刺してきた――そんな馬鹿げた話を信じられるのだろうか。

 

「……っユナ!今のうちに回復をー!」

気づけば体が動くようになっていた少年は次々とモンスターの消滅していく幻想的な空間に取り残されたユナにポーションを投げる。それを受け取り口に含んだ彼女を見て、再び闘志を奮い立たせる少年であったが……

 

「貴公が剣を握る必要はない」

 

ブチりッ

 

金髪の束が地面に落ちる…………鏖殺の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕さ、攻略組引退して花屋になろうと思うんだ」

 

「ノーチラス!?」

 

ユナという少女とノーチラスと呼ばれる少年の前からモンスターが一匹残らず消滅しアーサー王は去った。

その後の彼らの道行きを知るものは少ない……所か、五十層攻略記念祭りにおいて純白の歌姫と伝説のギターリストAEGとして一時期、時の人となるのだが―――それはまた次の機会で。




【円卓の騎士】ギルドメンバー
ランスロッド…彼女居ない歴=年齢。容姿は整っているが、本気過ぎてドン引きされフラれる。


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か、や、ば……マジお前…それは、まじで茅場ァァ!!!!

順調だ。

 

順調である。

 

順調に事が進む。

 

六十層に到達し、七四層も先週到達した。

 

残り二十六層。終わりは近い。

 

何も起きなければ今年中にアインクラッドはクリアされるだろう。

 

そして、今日は七十五層の攻略日だ。

七十四層のボス部屋が結晶無効空間になっていたことから久しぶりに円卓以外の攻略メンバーも集まり、さぁ勝とうぜ!

 

 

「よぉ、姉貴!今日も元気に人殺してるかい?」

 

「………PoH」

 

……と、一人盛り上がっていた私は

今は亡き殺人ギルド『ラフィン・コフィン』の長と二人っきりである。世界(茅場)は私が嫌いらしい。

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

「だから言っただろう、理由のない殺人は駄目だと!折角円卓と同盟組んだのに血盟騎士団に喧嘩売って壊滅とか馬鹿なのかお前達ラフィン・コフィンは!?」

 

「だってよぉアイツら、俺たちと同じ人殺しの癖に正義者気取りでムカついたんだよ……あぁ何だけっ?クラディール何とかは特にうざったくてさ、レッドまで切り刻んでやったら、鼻水垂らして何と、仲間に入れろとかほざきやがる!ついっカッとなってぶっ殺しまった俺が悪いと思うかい?」

 

「あぁ……それは仕方ない」

 

PoHとアルトリアの会話は斬り合いの中で行われる。脳筋は戦うことでしか分かりあえないとよく言うが、PoHとアルトリアは殺し合う事でしか同じ目線で話せない変わり者だった。

 

「っおわ!」

 

アルトリアのカリバーンを友切包丁で受け止めようと構えるも、押し込まれると悟ったPoHは慌てて距離を取る。

 

「良いねぇ、姉貴が俺に共感する度、姉貴の剣は重くなる。そう言やぁ、姉貴に初めて斬られたのは不可侵同盟を結んだ時だったかぁ?あん時は痛かったぜ~」

 

「痛覚の遮断された、アインクラッドっで痛みとは?」

 

「心だよ、こ、こ、ろ!」

 

そう言って麻痺毒の塗られた投擲用のピックを投げつけたPoHは蹴りで弾き飛ばしたアルトリアに苦笑する。

 

「お前、レベル上げサボってたな?」

 

「俺はエンジョイ勢だからな。PKを楽しめたらそれで充分だったんだよ!」

 

両手剣とは思えない斬撃の嵐に嬉しいような呆れているような悲鳴を上げるPoHのHPはレッドに差し掛かる。

 

「おいおい、このまま行けば俺は死ぬぜ!」

 

「残念だが、PKは初めてじゃない!死にたくなければ全力で抵抗することだ!」

 

「そうかい!」

 

 

剣と剣がぶつかり合う。

 

 

PoHは変わらず防戦一方で、アルトリアの独壇場だ。だが、何故だろう……この戦い後三度、剣を交えれば終わる筈が間に合わない?そんな(直感A)がした瞬間だった。

 

 

ゲームはクリアされました―――ゲームはクリアされました―――ゲームは――

 

 

「ハァァァ!?」

 

 

――サブタイトル『殺人鬼と話してたら全部終わりました』




???「ヒースクリフは倒れたようだが、SAO編はまだ終わりではない……」


PoH
元殺人ギルドのギルド長
散歩してたら偶然アルトリアを見つけて久しぶりに話そうと(殺し合おう)と思ったらゲームが終わってた。
アルトリアには近い物を感じていて親しみを込めて姉貴と呼んでいる。


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後悔しているだと!?茅場ァァ!!!!

キリトが指定された会議場につくと、血盟騎士団団長ヒースクリフを誕生席に据えた長机を囲い各攻略ギルドの長が腰かけていた。あの王様は見当たらないが、月夜の黒猫団団長の席も設けられておりキリトはそこに付く。

 

「――皆、よくぞ集まってくれた。会議を始めよう」

 

「…………?

おい、王様が来てないのに始めるのか?」

 

「あぁ、キミには話していなかったね。今回のフロアボス戦では円卓は参加しない……事になってしまったんだ」

 

 

それは、修正力……茅場晶彦すら意図せず、誰も望まなくして生まれた破綻した運命。

 

 

多くの命を散らし、友を失い、一人の男の夢を踏みにじる。

 

 

誰かが言った。

 

「あの王は完璧過ぎる」……と。

 

 

 

さぁ希望のないclear

 

最低のbadend

 

読む準備は出来たか?

 

これはクソッ垂れなモブの起こした世界への叛逆だ!

 

生まれながらのあの王も!絶望に打ち勝つあの剣士も!

これだけは防げねぇinpossible!

 

 

 

人間一番怖いのは…………裏切りだよなぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

俺たち攻略組は大きな犠牲を出しながらも第七十五階層ボス《ザ・スカル・リーパー》を討伐した。情報もろくになく、円卓の無参加、フロアボスの今までにない強さは多くの死者を生み、二十名。これは二十五階層以来、いや……円卓が本格的に攻略組に参加して以来誰一人として欠ける事のなかったフロアボス戦の中でも最多を誇る。

ギリギリと歯を食い縛る者、友の死に涙を流す者、暗い表情を浮かべ、見渡す限り誰一人としてボス攻略を喜んでなどいない。

 

「何がッ!プレイバランスだ!」

 

「円卓が強くなる事の何がいけないっていうんだよ……アイツらがいれば俺のダチは死なずにすんだ筈だろ!?」

 

これは、円卓に憧れそして嫉妬していた彼らへの罰なのだろう。

『攻略組』このたった一言が

レベル差が50以上開いている事

一刻も研鑽を忘れず己を磨き続けた事

五十層記念のあの祭りを除きアルトリアを含む円卓に休みなど睡眠時間以外存在しない事

才能もそれを補う努力もトッププレイヤーと円卓の間には決して埋められぬ溝が在ることを気付かせなかった。

 

 

踏みとどまるべきだった。誰か一人でも冷静に立ち止まって発言するべきだったのだ。

 

『これはゲームであって遊びではない』

 

注目を浴びたい?自分達も攻略組?お前らが束になって円卓に勝てるのか?

 

馬鹿馬鹿しい。英雄とは凡人には成し得ない奇跡の体現者である。お前らごときが彼らと同じ事を為せると思うなよ?

 

 

後悔する前に叫び蔑むべきだったのだ。

 

「俺は、見たぞ……ヒースクリフ!お前がボスから攻撃を食らったのにHPが減らなかった瞬間をなァァァ!!!!」

 

だからこんなゴミ(結末)が生まれる。

 

 

 

 

 

 

 

――俺は、見たぞ……ヒースクリフ!お前がボスから攻撃を食らったのにHPが減らなかった瞬間をなァァァ!!!!

 

キリトがアスナがクラインがエギルがその場にいる全ての者が目を見開く。今、あの男は何と言った……?

ヒースクリフが()()()を、つまり黒幕(茅場)の関係者にあたる人物だと言っているのか……信じられない、そう思ったのはアスナだ。

団長は今回、円卓がボス戦に参加しない事に、犠牲者が生まれる事を真剣に悩み悲しんでいた!

一万人の命をゲーム感覚で弄ぶあんな男と団長が仲間であるわけがない!

 

「ぅ…………うぉぉぉぉ!!!!」「どうなっても知らねぇぞキリト!」

 

「キリト君!?」

 

そんな時、キリトが走り出す。

携えた剣は淡く輝きを放ち「ダメッ今団長を攻撃すればHPは0になってしまう!」既に一割を切ったヒースクリフが耐えられるわけがなく、キリトは団長を殺す気なのだと悟った。

確信もないこの状況で何故彼がこのような暴挙に出たのかはアスナには分からない。ただ、かつての相棒を理由なき殺人を犯した犯罪者に堕とさせる訳にはいかないとレイピアを抜いて横から割り込む事しか出来なかった。

 

「アスナッ!」

 

「団長ッ今の内に回復を!」

 

「…………」

 

ヒースクリフは反射的に持ち上げていた盾を下ろす。腰に在るポーチからポーションを取り出そうと腕を伸ばすがその瞬間―――トスッ

 

ヒースクリフの腕に刺さる細いピック。投げたのは他ならないクラインだ。

 

そして、

 

【Immortal Object】不死存在。

 

現れた紫カラーのカーソルは彼をデスゲームに閉じ込められた哀れなプレイヤーからデスゲームを造り出した元凶(茅場側)へと突き放した。

 

 

 

「……一つ聞こう、アスナ君が私を庇わず私がただのプレイヤーだったのなら君は無益な殺人を犯したレッドプレイヤーになっていた。何故私が――茅場晶彦だと確信を持てた?」

 

全てが凍りついたような静寂がおりる。この男は茅場晶彦に与する者ではなく本人であると宣言したのだ。

キリトもその一言は予想して居なかったのか、ごくりと唾をのみ崩れたような笑顔で言う。

 

「お前が、あの王様以外に負けるなんてあり得ないだろ?

………俺なんかの攻撃なんて簡単に防いだ筈だ!そして、もうそれ以上HPが減らないと言うのなら、一ドットでも食らわせられたら無実を証明出来たんだ!」

 

そう、キリトの起こした行動は全てヒースクリフの無実を証明する為の物であり、俺たちの憧れたあの王に唯一手の届くこの男もまた英雄と呼ばれる人間であることを信じたかったのだ。

 

「…………そうか。やはり彼女は

 

しかし、英雄と同じ領域に立つこの男は英雄と相反する悪。

茅場は一瞬何かを呟きキリトを除くこの場にいる全てのプレイヤーが《麻痺》状態になる。

 

 

「選択しろ、黒の剣士キリト

私と今、ゲームクリアを賭けて戦うか

座して待つか。私と同じく英雄の名に憧れ目指す者ならば、私と云う悪を乗り越え英雄の名を手に入れてみせるがいい!」

 

 

「…………上等だぁぁぁ!」

 

何もしないなんて選択はなかった。

 

 

黒の剣士は高々と吼え、神聖の騎士は魔王のように嗤う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、新たな英雄が生まれた。




犠牲はあった

夢は諦める事になった

もっと上手くいく方法はちゃんと知っていたんだ

結末は最低で
憧れたものに自分じゃない誰かがなっていく様を最後に見せつけられた

そして私は消えてゆく

夢は幻想に終わり、憧れは記録として無機質な物に成り下がるだろう

けれど、この選択はきっと間違いではない。

今の私に後悔なんてないのだから…




敢えて描写せず読者の想像に戦いの結末を委ねるスタイル


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オベイロンが可笑しいのはお前のせいだ!アルトリアァァ!!!!

デスゲームがクリアされた。

実感が沸かないが喜ぶべきなのだろう……未練といってはなんだが、円卓のメンバーとリアルについてろくな情報交換を交わしていなかったので再び会おうと思えばそれなりに苦労する。

それだけだ………………まぁ最後くらい皆で戦いたかったという気持ちも捨てきれ…………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ君が円卓の主アーサー王だね、僕はオベッ…………美遊ちゃん?」

 

「その声、叔父さん?」

 

目が覚めるとビジュアル系の親戚と再会した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええっとごめんね!

茅場先輩を二度も叩きのめした滅茶苦茶ヤバい奴って聞いてたから、鎖なんかで…………すぐ解くから!」

 

 

「…………叔父さん。宝くじが当たり海外で会社開いたと聞いてましたが、日本に戻ってきたのですか?

ここは、SAOじゃありませんよね?」

 

 

アルトリア本名『美遊』

そして彼、須郷伸之は私の叔父である。

幼少期、叔父は私をつれ何となく買った宝くじで大金を得て「ひゃはぁぁぁ!!見ていろよ茅場ァァ!!!!俺は海外で一山築く!!!!」

等と発狂していたのを最後に生身であったのは最後で、メールや電話でたまに話し、海外で会社を開いているのだと聞いていた。

『SAO』の発表から半年後に『ALO』なるゲームを世界規模で配信する「所詮貴様は島国程度、俺は世界を支配するぜ!!!」予定であったが、果たしてこの状況は?

 

「あぁ、正直会社が上手く行きすぎて自分でも怖いぐらいでね。

……美遊ちゃんがくれた聖杯ストラップのお陰かな?

SAOの後始末を引き受けた僕は問題がありそうなプレイヤーをピックアップしてログアウトさせる前に簡単なカウンセリングを行う事になっているんだ。」

 

「そうですか……出世しましたね。おめでとうございます。」

 

「……あ、ぁぁ!頑張ったんだ僕は!ありがとう!ありがとう美遊ちゃん!君のお陰で今の僕がある。僕が嫉妬していたのが、あんなヤバい奴だったなんて!あの時、君が引き留めてくれなかったら僕は犯罪者になっていたかもしれない!」

 

そういえば、叔父さんの会社には質の悪い先輩がいて、好きな人まで取られたと、

その頃――酷く精神を病んでいた叔父さんに“何か”言った気がする。もしかしてそれが原因で海外に行ったのか?……いや、そんなわけないか。

 

「ええっと…………美遊ちゃんは問題なし、これで円卓は全員終わったよ。モードレッドさんはギリギリだったけど、美遊ちゃんの友達を犯罪者予備軍なんて僕の須郷伸之(すごうのぶゆき)の名にかけて絶対に言わせないから!」

 

「ありがとうございます()()()

 

先手、笑顔のアルトリア。

 

「ハウグッ!?」

 

性癖に即死ダメージを受けたオベイロンは倒れた。

一ターンキル成功である。

 

「どうしたのですか!?兄さん!兄さん!

誰か!誰か居ないか!兄さんが兄さんが―!」




須郷伸之(すごうのぶゆき)
ALOの最高責任者
アルトリア(幸運A+)との出会いを境に人生が上手く行きすぎてアルトリアから離れられなくなったある意味犠牲者。
経営者としてそれなりに優秀で、技術者としてもそれなりに優秀であるため、ボーナスの割り振りが適当(最適の意味)であり、社員、特に技術班から慕われている。
アスナには興味がない。
アルトリア限定のロリコン(イエスロリータ!ノータッチ!)
ただ身バレするのが怖く、オベイロン姿でSAOプレイヤーの前に現れるなど、若干の小物臭さは残っている。


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円卓の騎士ィィィ!!!!

「くそッ出血が酷い!輸血パックを持ってこい!」

 

それは、二人の少女が産まれた病院。

難産で帝王切開が行われ何らかのアクシデントで大量の出血が確認される、そして緊急輸血が行われる事になり…………後にその血液は汚染されていたことが全ての悲劇を産んだ。

 

「美遊ちゃん大丈夫だからね!頑張ろうね!」

 

だが、その汚れた血は一時間後に双子を出産する女性ではなく金髪の赤ん坊一人の為に使わようとしていた。

 

「オギャア!」

 

「……可愛いぃ」バシャッ

 

「おい何やってんだお前!」

 

いや、使われる直前で赤ん坊に魅とれた看護師が落として中身をぶちまけ、汚染されていない違う物を使うことになるのだが…………。

 

 

 

「はぐはぐ」

 

「あー!また美遊が私のクレープ取った!?」

 

「仕方ないよぉユウキ…………だって美遊ちゃん、私達よりも一時間だけ年上なんだから~はいっ私のもどうぞ♪」

 

 

アルトリア・ペン・ドラゴン

15歳。双子の幼馴染を持ちお隣さんに餌付けされ双子の姉の方に可愛がられる―――――

中学生である(9話参照)

 

 

 

 

 

 

 

「美遊ちゃん!」

 

「美遊!」

 

目が覚めるとよく知る双子と両親が涙を流しながら出迎えてくれた。

 

「ゲームは終わったのだな」

 

重い体を動かし、改めて実感するとアルトリアにもこみ上げてくるものがあった。それでも涙を流さないのは大ギルドの長としてのプライドが未だ自分の中に居座るからだろうか?

それとも――「おせぇぞ父上!」「無事に目覚められたようでなりよりでございます」「美しい家族愛ですね」「いやーこの祝いの席に弟が居ないとは残念だ。後でこの感動を伝えてやらねば」「Arrr俺も結婚して子供ほしい」「一同、車椅子姿で申し訳ございません。同じ病院だと分かると皆いてもたってもいられず…………」

 

「ははっははははは!」

 

笑いが止まらない。こんなにも早く再会を果たす事が出来るなんて。涙なんてたまるわけがない。こんなにもこんなにも嬉しくて心踊る事はないのだから。

 

 

『私は誰一人円卓を欠かすことなくこのゲームをクリアする』

 

 

守ったぞかつての私。

私が王として建てた誓いは今こうして達成させられた!

 

 

「ありがとう私の円卓、騎士達よ。汝らのお陰で私の心は満たされた」

 

 

照れたように笑うモードレッド

頬を赤めて平伏するアグラヴェイン

詩を唄い始めるトリスタン

太陽のような笑みを浮かべるガウェイン

疲れたように笑うランスロット

糸が切れたみたいに泣き始めるベディヴィエール

 

 

これが私の円卓。私の円卓のほんの一部。

まだケイや皆とは会えていないけれど、fateのアルトリアに誇ったっていい

 

私は騎士王、円卓の主

 

私の円卓は間違いなく世界最強だ!




fateのアルトリア「何ですかっあれは!?ランスロットは寝とらないしッモードレッドが素直ッー!つまり理想郷はここに在ったと!?」

SAO編【完】やりたい事は全部やった!


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ALO編・GGO編
アルトリアァァ!!!!


リメイク版


私の母は冬になると祖父母の屋敷へ帰省する。

この時期になると師匠の剣術指導が受けられず、精神年齢に反して「行きたくない、行きたくない!」……と駄々捏ねる私に母は呆れ果て、いつも刃の潰れた子供サイズの真剣を私に預ける。

恐らく、一度近所の博物館で西洋武器を眺め続けていたことが原因だろう。母はどうも私が常に剣を持っていないと発狂する特殊なバトルジャンキーだと勘違いしている節がある。

子供にこんな物を買い与える時点で色々とあれな気がするが、家に道場があるぐらいだし、我が家はそういった文化に寛容的なのだろうか。

 

まさか、銀行の中まで持ち込む事を了解するとは思わず、手続きが終わるまで同年代ぽい本を読む女の子の横で……バレたら強盗だと間違えられるのでは?

鞘を“きゅ”と可愛らしく握っては一人震えていた。

 

「―――どけぇ!」

 

「きゃあ!」

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

「このカバンに金を入れろ、警報ボタンを押すなよ!」

 

酷く興奮した男が母を薙ぎ倒し、黒いカバンから取り出した銃で銀行員を脅しては金銭を要求する。

まだ幼い『朝田詩乃』はそれが強盗であると理解した。

――怖い

男の怒声に体を硬直させて縮こまる。

 

まだ幼い彼女だが、銃という物が照準を合わせ引き金を引くと音速のごとき速さで弾が射出され、それが人体を喰い破り死に至らしめる事が出来る危険な物であることを知っていた。

 

男はどうも正気ではなく、いつ自分が狙われるか分かったものではない。

隣を見れば、自分よりも幼くみえる少女が震えている。手に持つのは傘であろうか、それにしては少々細長い気もしたが……状況が状況であり、それを両手に握りしめて涙目を浮かべる彼女には思わず助けてあげたくなるような儚さと沸き上がる庇護欲があった。

 

――年上のわたしが、助けないと

 

恐怖に駆られながら、詩乃は少女へと手を伸ばす。

 

 

ビー!ビー!ビー!

 

 

その時、警報音が鳴り響き、詩乃はこれで警察が助けにくる。そう思って少しだけ安堵した。

 

しかし、警察など助けに来ても遅いのだと理解する。

 

 

「押すなって言っただろうが!」

 

錯乱していた男はそのサイレンで余計に取り乱し、口から泡と奇声に近い大きな声を放って、引き金に掛ける指に力をいれる。

――不味い、撃つ気だ。

思わず、身構えた詩乃。そんな彼女は視界の端を高速で走る黄金の影を見逃さなかった。

 

男が引き金を引き、銀色の弾丸が飛び出す。

バンッ――と、その一コンマ後に飛び出した金色の影が銃口の向けられた男性の前に立ち――斬ッ――なんと、その弾を叩き斬った。

 

「なっ何だお前!?」

 

「……海賊版の玩具か何かですか?

弾道に添えただけで弾が弾け飛びましたよ」

 

金色の影は、先ほどの少女であった。

 

――あの子、いま弾丸を斬った!!!!?

 

目を見開いて驚く詩乃。

錯乱した男は信じられないモノを見たような目をして、少女に銃へと視線を交互させ――彼女へと突きつける。

 

「――ふっ」少女は薄く笑みを浮かべて剣を構える。

詩乃にはそれが「もっと撃ってみろ」そう挑発しているように感じた。

 

「ふざけんじゃねぇぇぇ!!!!!」

 

男は銃を撃つ。一度ではなく、二度、三度と、銃がカチャカチャと音を立て恐らく弾が尽きるまで撃ちきったのだろう。

詩乃は少女が、穴だらけになっている光景を想像し、思わず口に手をあてる――「流石に全部は無理か」そして頬と太ももにうっすら赤い線を描く金色の少女をみて、あてた口から「うっそ……」そんな間の抜けた声を漏らした。

 

「と、取り押さえろぉぉぉ!!!!」

 

弾が切れたと知った銀行員の人達が男に積み重なり男はうめき声を上げる。

慌てて母は私を抱きすくめるが…………今はあの少女に釘付けで、それ所ではない。私は母を押し退け――強盗に発砲、それを超至近距離&剣で防ぐという……とんでもない事件があったというのに、何事もなかったように帰ろうとする少女へ声をかけた。

 

「どうして!撃たれたのに大丈夫だったの!?」

 

少女は、振り返らずたった一言。

 

「あれだけ近ければ銃口から弾道は予測出来ます。ただ当てて少し押すだけです。何も特別なことはしていません。」

 

それだけ言うといつの間にか銀行の前に止まっていた黒塗りのワゴン車に乗って何処かへ行ってしまった。

 

「当てて……押すだけ……なら、もっと速くて重い銃だとどうなるのかな」

 

詩乃の中で何か善くないモノが目覚めた瞬間だった。



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死銃など円卓が動くレベルではないぞ菊岡ァァ!!!!

リハビリに一ヶ月の時を掛け剣道や剣術修行を再開し始めたこの頃、妙な気配を感じ路地裏に駆け込んだアルトリアは案の定それを追ってきた男に剣を突き立てた。

「我が身を脅かす者か?」

 

勿論、刃の潰れた鉄の塊である。

 

「い、いや…………彼には近づくなって言われてたけど、流石SAOをクリアに導いたアーサー王だ。僕程度の尾行なんて初めから気づいていたのかな?」

 

まずその男を見て感じたのは胡散臭さだ。

fateで言えばマーリン、身近に言えば師匠のような、深入りするとろくな目に遇わない飄々とした感覚。

そう言えば、病室の前で似た声をした男が一度追い返されていたが…………あの時はゲームクリアされて間もない。

 

「貴様、SAOプレイヤーでないな。何故私の名を知っている?」

 

メリメリと剣をコンクリートに押し込み、このまま押し潰すぞ……と、脅しをかける。円卓やラフィン・コフィンには通用しない手だが、男は目尻に涙を浮かべ(それでも余裕を残しているように見えた)己の素性をゲロった。

 

「僕は総務省通信ネットワーク内仮想空間管理課職員ミシッ…ミシッ「その割には体格の良いことで?」す、すまない!嘘だ本当は陸上自衛隊、二等陸佐!人工知能で戦闘機とか動かそうと研究者を集めて実験させてる腹黒い男であります!」

 

うむ、剣がだんだんと首を締め付けるこれ、SAOだとダメージ覚悟で切らせる奴が多いが思ったより使えるな。

それと、余裕があったのはアグ君と同じ軍人だったからか。二等陸佐ってアグ君より偉いのかな?

私の訓練メニュー考えたのはアグ君だし、明らかにリアルで実戦経験あったし、私的にはアグ君の方が上だと思いたいけど……また会ったときにでも聞こうか。

 

「で、その腹黒い男が私に何のようだ?

病室前で止められたことが分かる通り、家柄()()()恵まれているんだ。彼とやらが誰の事かは知らんが、誘拐なんてつまらないことは考えない方が為だぞ?」

 

アルトリアは「家凄い金持ちなんだぞ。悪い事したら両親がヤバいんだぞ!」的な意味合いで言ったのだが、男はこれ以上関わればここで殺す的なアルトリア個人の脅し文句ととらえたようで、

 

「そのようだね…………正直、君とは仲良くしたかったが、僕の手におえるような人物ではない。資料を見て理想の為に動く機械のような人間だと思ったが、君を見て“分からない事が分かった”よ、人間性を失いながらもその本質は王として輝き、決して機械のようではない……どういう育ち方をすればこうなるんだか」

 

何か凄い失礼な事を言われている気がするが、話が終わりそうなので無視しよう。

剣をコンクリートから引き抜き、パタパタと埃を払って少し覚束ない足取りで路地裏の外へ向かう男を見つめる。

 

 

「(足が震える……ははッ化け物だ。情報を聞き出されたのに収穫はゼロ。これ以上はこちら側が侵略されかねない……悔しいが彼女と円卓は、計画から外すしかないな)」

 

それ以来、男がアルトリアの前に現れる事はなかった。




菊岡誠二郎
アルトリアに脅された、胡散臭い人。
VR技術の専門家達が須郷ひいてはアルトリア陣営に流れて、アンダーワールドの完成が原作の二十倍ぐらい遅れている。


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ガレスゥゥ!!!

円卓にはガレスという少年がいる。

特質した才能もなくガウェインの弟ということ以外、正直キャラの立たない円卓の騎士の一人だ。

 

「僕が……うへへ、王と結婚、」

 

いや、キャラが立たないと言うのは取り消そう。キャラだけは立つ。アグラヴェインの秘書的な席を貪欲に狙い、アルトリアの人生に一秒でも長く僕という存在を刻んでほしいという欲望を恥もなく豪語する――

カーマがドン引きし、キアラが眉をひそめ、BBが吐き気を覚える。

妄想の【人類(アルトリア) 愛】ガレス

 

それが彼の正体である。

 

 

「我が王の目覚めに馳せ参じなければ!」

 

「待っ兄さんッ僕も僕ッぐぉぉぉ!!!!!!」

 

 

そして円卓最弱の男(リアル含め)

それがガレスである。

 

円卓のメンバーが一ヶ月そこらで退院する中、ベッドから抜け出すのに5日、立ち上がるのに一ヶ月。退院に二ヶ月掛かった。

 

アルトリアの身長が154cm

ガレスの身長が150cm

 

なんとFGOの女性版ガレス(153cm)に負ける体たらく、

 

アルトリアの体重42kg

ガレスの体重38kg

 

ひょろい、ひょろい過ぎるぞ。お前の筋肉は何処にあると言うのだ。

 

「王よ……挙式は和風と洋風どちらが……ぐふふふ」

 

ちなみに我らが王の好きなタイプは優しく己よりも強い男。FGOで例えるなら最強無敵フォームカルナさん。

弾丸を切る事が最低条件だ。

頑張れガレス、多分誰も応援してないし、アルトリアも年下の弟分ぐらいにしか思っていないが君は17歳。第二次成長に期待するのは絶望的だが、ペンは剣よりも強し!

 

「流石だ美遊、大学院レベルの問題をこうもあっさり解いてしまうとは、正直僕に教えられる事はもうないかな」

 

どうやら、アルトリアはグランドサーヴァント並みに厄介な存在へ変異したようだ。

攻略難易度はEX 第六特異点と同じか……フッ。

 

別にあれを倒してしまっても問題ないのであろう?

 

「僕は東大へ行くよ!」

 

や、止めるんだガレス!君の偏差値ではお世辞にも全国模試を突破出来るとは思えない!

相手が悪すぎる、受肉したヘラクレスに野良状態で挑むアーチャーよりも無謀だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日、殺人ギルドに囚われた君を単独で救出に向かい……恐怖と絶望で取り乱す君を一度己のHPを全損させてまで受け止めたアルトリアに惚れたのも分かる。

あれは、アグラヴェインが顔を真っ青にしながら持ってきた蘇生アイテムがなければ死んでいた。まさに命がけで身も心も君を救ったといえるアルトリアに運命を感じてもおかしくないエピソードだ。が、あの王にとって死は隣人である。君には生涯に一度の出来事でも王にとっては日常なのだ。

きっとあのまま死んでも「読み間違えた」と笑いながら、何の後悔も憂いもなく死んでいたに違いない。

“無駄な死”と“無駄にならない死”次第では笑って逝ける人間なのだ。

『立つ次元が違う』それをまず自覚するんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

byマーリン先輩




アルトリア「いや、そこまで狂ってないから私!?」

取り乱したガレスに攻撃されたのは完全に予想外でした。



マーリン先輩

アルトリアの剣の師匠
人をからかうのが趣味
万能型の天才
無職だが、金はある
女癖が酷い
どこから情報を仕入れてくるのかだいたいの事は知っている
円卓連中にろくでもないアドバイスをするのが最近の楽しみ

これでも本編未登場キャラとして固定された運命を背負っている。


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私は聞いていないぞトリスタンンンン!!!!

SAOの本が出たらしい。

攻略組の人が執筆したらしいそれは結構人気で、うちの道場に通い始めた円卓の子達もその本の内容で楽しそうに盛り上がっていた。

では、私も読んで見よう。そう思って書店に赴いたのだが、

【新アーサー王伝説】作者トリスタン

※今ならプラス500円でオリジナルポスターもプレゼント(店員さんにお願いしてね♪)

何か新約聖書みたいなノリのトンでもない盗作を見た。

 

 

 

「ねぇ、和人はSAO本と新アーサー王伝説買うの?」

 

「――う~ん、今月はバイト代もキツいから、片方だけかな?いずれはどっちも揃えたいと思うけど、サチのオススメは……聞くまでもないか」

 

「うん!勿論、新アーサー王伝説だよ!アインクラッドで起きたアーサー王の冒険談や、円卓結成秘話。SAO本は脚色って言うのかな?悪いとは言わないけど……キリトの『この剣を抜いた時、立っていられる者はいなぃ~』は、流石にふざけ過ぎ。新アーサー王伝説だと悪者として描かれてるけど、黒騎士キリトも私は、か、格好いいと思うの。」

 

アルトリアの目の前でイチャイチャしたカップルが新アーサー王伝説をとった。内容を聞いて察するに……あれもSAOサバイバーが書いた……名前からして私の知るトリスタンの書いた円卓視点のSAO本なのか!?

 

「これ下さい」

 

何か仕事の出来そうな女性までお買いに!?

 

「あの……白銀のアスナのポスターを下さい」

 

しかもポスターまで……トリスタンお前何を書いたんだ。

 

 

 

何が書かれているのか怖くなったアルトリアは急いで新アーサー王伝説を購入し店先のベンチに腰掛けページを開く。

 

貴公らの盾となろう!

 

 

「……」ビクッ

 

ページを閉じた。

何故かは知らんがページを開いて直ぐにアルトリアはアルトリアでもアルトリア顔の、ただ顔が似ているだけの別人(ジャンヌダルク)の有名セリフが目に入ってしまったのだ。恐らく偶然なのだろうが心臓に悪い。

 

「取りあえず、ひととおり内容を把握しなければ、」

 

 

―――それから暫く

 

 

「嘘は、書いてない。ポスターのキャラも二次元化されSAOサバイバーのリアル情報に繋がりそうな物は上手く隠されている―――しかし、」

 

内容事態は面白く、思わず読みふけってしまったアルトリアだが、一つだけ許せない事があった。

それは本の内容とは直接関係はない。本に巻かれている帯の内容にあった。

 

 

【大人気重版決定!第二刊の発売を記念して騎士王&始まりの騎士との握手会を開催!】

 

 

「私は聞いていないぞぉぉトリスタンンンン!!!!」




※良い子は真似しちゃダメだよ


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お前のせいだトリスタンンンン!!!!

ある日の夕暮れ。

アルトリアの紹介で、彼女の道場に通うSAOサバイバー『円卓』のメンバー達の剣の指導を行う師範代のような役回りを任される事になったケイ卿は雑巾を絞って道場の清掃に汗を流す、するとドタドタと激しい足音に眉をしかめた。

 

「(誰だぁ?こんな時間に…)」

 

“始まり”を除けば円卓の最古参であり、兄貴気質な人望もあるが…何よりその強さ。あの円卓の師範代を任されるほど化け物級(円卓最上位)の強さを持つケイが不審に思い雑巾から手を離して警戒を募らせる中――

 

「トリスタンは何処だ!」

 

道場を蹴破り現れたのは我らが騎士王アルトリア

歯が潰れていないマジもんの西洋剣を携えた我らが王はなんというか凄い。本当に剣からビームが放てそうな覇気を纏っている。

 

「トリスタンンンンオレは聞いてねぇぞぉぉ!!!!」

「貴様ァァ殺すゥゥ!!!」

 

パリーン

 

それに続くようにハリウッドスター顔負けの窓破りで道場に転がりこんだのはモードレッド&アグラヴェイン。人様の道場を蹴破るとはヒュー!派手だね!……後でぶん殴る。

 

「トリスタン!流石にやり過ぎですよこれは!」

 

ドゴン

 

壁が壊れた。クソッゴリラめ!

太陽の騎士(以下略

よし、修理代は全部こいつに払わせよう。

 

 

「なぁトリスタン!握手会って可愛い子とか来るのか!」

 

既に壊れた壁からランスロットが現れた。

……何でお前が一番被害が少ない登場をしているんだ。

 

「トリスタン何処だァァ!!!!」

 

バコン

 

天井に穴が!?

ベディヴィエールお前が始まりの騎士の良心だと思っていたのは間違いだったよ……

 

 

「「「「ケイ、トリスタンは今何処に!?」」」」

 

 

「お前ら全員正座ァァァァァ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして正座して円を作る円卓の騎士達。

 

 

「あぁ成る程、鳥山が勝手に本を出して騎士王と始まりの騎士の握手会を大々的に開催すると勝手に決めやがったと?」

 

「そうだ。腹切りだ。奴を出せ。殺す。」

 

「……落ち着け、そもそも作者は鳥山じゃなくてトリスタンなんだろ?何でアイツだって分かるんだよ。別にアイツが認めたわけじゃなさそうだし……」

 

トリスタンの本名は鳥山 清二。某有名漫画家と微妙に被っている。

実名で本を出す人間は少ないが、それでも全くいないわけじゃない。『トリスタン』元々アーサー王伝説の騎士として有名である英雄の名前が使われたぐらいで彼と結びつけるのは少々気が早いというもの。

 

「だが、あの本の内容は円卓の内情を細かく知る人間でなければ不可能!」

 

「そうかぁ?俺も新米どもに手渡されて読んだが、終始第三者視点で、キャラの心ってもんが描かれてねぇ、見るだけなら円卓以外の奴らでも散々やっていた事だろう?」

 

特に情報屋は何処までもついてきやがる。

そう、憎々しげに言葉を付け足すケイ。過去、何か握られたくない情報でも撮られたのであろうか?

 

「ケイ殿、それではランスロットが振られた五番目の女性プレイヤーの名が30ページの四行目に書かれていることに説明がつきませぬ!あれは私とトリスタンで見届けた愉ッ……悲しい過去!「えっお前ら見てたの!?」私達以外に人の気配などありませんでした!」

 

「そりゃ……お前、振った女が晒したんだろ。一人目みたいに」

 

「あっ成る程」「Arrrr!?」

 

ランスロットが可笑しくなった事件。『晒されたランスロット』嫌な過去を思い出した彼は悲鳴を上げる。

 

「ふむ、ケイは新アーサー王伝説を書いたのは鳥山清二ではない。そう言う事か?」

 

「違うさ、決めつけるのが早ぇって言ってんだよ。お前ら“始まり”が暴走した時に止める役は俺だったからな。」

 

その一言に何度が思い当たる伏しのある騎士王含め始まりの騎士はハッとなる。

 

「確かに、黒騎士が妙に綺麗に表現されているのは私も可笑しいと思っていた」

 

「あの野郎なら、常に下半身丸出しの鼻水小僧にする筈だ」

 

「いくら、出版品とはいえトリスタンがそう簡単に妥協するとは思えません」

 

「Arrrrrrr(嫌いな奴を直ぐ下半身丸出しキャラにするのはアイツの専売特許だよね)」

 

そして、少しばかり冷静さを取り戻した彼ら円卓に終止符を打つように「あっトリスタンからメールが来ました」ガウェインのスマフォに詰め寄る一同。

 

【下半身丸出しのキャラで小説を書こうと思うのだが……“キリト”流石に敵役の名前は変えるべきなのでしょうか?】

 

 

トリスタンの冤罪が証明された。

 

「「「じゃあトリスタンって誰?」」」

 

そして謎は深まった。




円卓の中でキリトの位置付け
アグラヴェイン 汚物
モードレッド ゴミ
ガウェイン 糞
トリスタン 下半身丸出しの変態
ベディヴィエール 憎悪する敵


ケイ

円卓の真の良心
円卓の兄貴
苦労人
この人が居なかったらヤバかった場面が三回ぐらいある。
始まりの騎士を除けば円卓一の古参。



犯人って【あの人】なんですよ


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変態が狙っているのはお前だ!アルトリアァァ!!!!

もうすぐだ……

 

もうすぐ君に会える……あぁ美しき

 

美遊……

 

アイツらなんかに邪魔はさせない…………今度こそ、今度こそ…………君を僕の手に…………

 

……握手会楽しみにしているよ

 

 

 

 

 

 

 

「よし、握手会は中止にしよう」

 

トリスタンの正体。

出版社に問い合わせてみれば原稿が送られてくるだけで担当者ですら顔を見たことがないと言い、今まで何度か接触を試みたが、SAOサバイバーとして顔出しNGの一点張りで本が出たのも内容の面白さに編集長がやる気になったからだという…………何とも胡散臭い。

 

アルトリア達はここ暫くなんとか尻尾を掴んでやろうと躍起になっていたが、鳥山の冤罪が証明されて以来事件に進展はみられなかった。アルトリアや円卓の心情としては鎧などで顔を隠し、安全が保証され()()()()()を受ければ別に握手会程度参加してもいいと思っていた。……と、言うのもSAO内で似たようなイベントを開催した事があり、良くも悪くも彼らにとって握手会とは馴染み深い物なのだ。

だが、見知らぬ誰かに握手会に出てくれと言われて参加するほど円卓は愚かではない。

 

『握手して下さいッ残念俺でしたー!』

 

警備体制がザルな握手会で達の悪いファン(PoH)に絡まれること度々、握手会の恐ろしさを身に染みて理解する彼らであるからこそ、中止以外あり得ないと判断する。

 

「オレンジギルド主催の握手会は本当に死ぬかと思いましたね……」

 

「我が王の機転がなければ全滅していました」

 

「まさか、ジュースに毒が仕込んであったなんて……」

 

「圏内だと思っていた所が一瞬で圏外になんなるてなぁ」

 

染々と雄叫び(悲鳴)を上げながら数多のオレンジプレイヤーを斬り伏せる王の勇姿を思い出す一同。

……あの頃は我々も若かった。

軍人としてやはり、それなりの地位についていたアグラヴェインが出版社に圧力をかけに電話を繋ぐ中、縁側で茶を飲む円卓達。季節は秋……夕焼けが眩しい。

 

 

「……ハァア!?握手会は中止に出来ないだと!フザけるなよ!!」

 

アグラヴェインの怒号が鼓膜を揺らす

 

事件は何一つ解決していない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ァァッ茅場も、須郷さんも僕を裏切りやがって!何なんだよアイツらは!折角金を掛けて作った電脳ドラッグも須郷さんがデータを消去したから!全部水の泡だ!

クソックソッ!茅場を見返すんじゃなかったのかよ……アンタはこっち側の筈だろう。俺らみたいなクズが今さら表舞台で輝けるなんて、間違ってるよ……なぁ須郷さん

 

表舞台って言うのはさぁ……美遊ちゃんみたいな、子にお似合いなのに……ハァ、

 

美遊ちゃん…………本当に…………可愛いなぁ~」

 

 

ソレは新アーサー王伝説の表紙をいとおしく撫で、鎖に縛りつけられるアルトリアの写真を――ねっとり舐めた。

 

 

「あ、あ、あっッ!……握手会楽しみにしててね」

 

 

体を震わせ光の差さないデスクでソレは嗤う。




ヒント:触手 封印 電脳ドラッグ

こいつの性格なら、今の須郷について行かないだろうなって。


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菊岡ァァ!!!!!

「いらっしゃい」

 

「……あぁ」

 

見慣れない男が椅子に腰掛ける。その男は老け顔でがっしりとした体に真っ黒なスーツでビシッと固めた見るからに重役然とした印象だった。

注文はまだ受けていないが、この店は暗黙のルールで初回のお客様にはコーヒーをプレゼントすることになっている。

店主はブラックにミルクと砂糖を添えて老け顔の男の前に置く。

「うん?私はまだ注文していないが?」

 

「いや~ねぇ、うちのサービスなんですよ。もしかしてコーヒーは飲めなかったかい?」

 

「いや、ありがたく受け取ろう」

 

男がコーヒーの味わいに少しばかり表情を緩めた。

 

「……美味しいな」

 

「それはどうも」

 

「…………すまない、急用を思い出した。また今度ここにはー」

 

老け顔の男は律儀にコーヒー一杯分の駄賃を置いて立ち上がる。普通の人間なら受け取り帰すか、受け取らず帰すのだろう。

……だが、この店の店主は大分変わり者であるようだ。「では、これは迷惑料として受け取っておこう」

 

「なに?」

 

「荒事なんだろ?

別に構わないさ、うちにはそういう客しかこないんでね……存分に暴れてくれたまえ!」

 

「あ…おい!」

 

そう言って店主はカウンターの奥へと行ってしまう。

アグラヴェインはそれを不気味に思いながらも、いつの間にか追加されていた――青い蝶が飾りとして添えられるパンケーキに気づく。

 

「……食べるか」

 

アグラヴェインは食べ残しが許せないタイプであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ久しぶりだね」

 

「……菊岡」

 

アグラヴェインが喫茶店に来て暫く、目当ての男が訪れる。

菊岡誠二郎。現在でこそ関わりは断たれているがアグラヴェインの同期だ。

 

「正直、円卓とは関わりを持ちたくないんだけどね。今回はあくまで同期のよしみ、プライベートで来てるんだ」

 

「残念だが、それは不可能だ」

 

視線がぶつかり合う。菊岡は目を細め刺すように、アグラヴェインは目を見開き逆に飲み込んでやると言わんばかりだ。

 

「須郷の元部下だった男が()()()お前の計画に付き合わせられているだろ?ソイツの首を差し出せ。」

 

「成る程、目的は柳井君か。彼はラースに来るまでSAOサバイバーの監視を担当していた。状況から察するに握手会の犯人は彼のようだね…………断る」

 

菊岡は笑顔でアグラヴェインに拒絶の意を示し、アグラヴェインの額にビキリッと血管が浮き上がる。

 

「これ以上、人材を引き抜かれては、僕の進めている計画が白紙になるかもしれなくてね。軽犯罪ごときで失うわけにはいかないんだ」

 

「軽犯罪…寝ぼけているのか?」

 

「僕が何を成そうとしているか、だいたい君なら察しがつくだろ。それに比べたら殺人だって軽犯罪さ」

 

ダンッ

 

アグラヴェインは菊岡を殴る。殴られた菊岡は椅子から転げ落ち浅く頭を切ったのかうっすら血を垂らしていた。

 

「使える手はなんだって使う。柳井は渡せない」

 

ハンカチを当てて立ち上がった菊岡はアグラヴェインに背を向ける。

 

「……ゴミが」

 

そんな彼に向けた視線は何処までも冷たく、汚物でもみたかのようだった。

 

 

 

 

明日――握手会が開催される




シリアスは嫌いだ。途中から何を書いているのか自分でも分からなくなる。


喫茶店の店主
新茶ぽいっ初老紳士


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化け物だアルトリアァァ!!!!

握手会当日。

アグ君が苦肉の策で用意した板金鎧(フルプレートアーマー)を私たちは纏う。こんな事を言ってはなんだが、私が前世の記憶を頼りに設計図を書き、それを元に造られたこれらはFGO仕様の円卓の鎧。私はアルトリア(セイバー)の鎧にオルタの仮面を付け、顔がそうなのでオリジナルに似て当然だが皆、様になっている。モードレッドなんて兜をしなければ獅子王がモードレッドの鎧を借りているようにしか見えない。

 

状況さえ違ければ、年甲斐になくはしゃいでいたのだろう。

 

「往くぞ」

 

「「「ハッ」」」

 

完全武装の円卓が今、動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっとファンでした!」

 

「ありがとう」

 

握手会が始まり半時間。未だ作者=柳井は現れず、騎士王と始まりの騎士は握手会に訪れたファン達とささやかな交流を楽しむ。籠手越しであるため、感触などは伝わらないが、ファンにとっては身近にある、それだけで満足なのだろう。アルトリアの前に立つ(時折見覚えのあるSAOサバイバーらしき)人達はみんな笑顔だった。

 

そして午前の握手会が終わりアルトリアがほっと息をついた瞬間の事だった。

 

「王よ!」

 

ダンッ

バコッ

 

何か(銃弾)が胸の中央に飛んできて反射的に籠手で殴りつける。

籠手は少しだけ凹み、弾は逸れたのか速度を落として顔に迫る。衝撃を受け流すよう後ろに下がっていたアルトリアの仮面が砕け、視線の上へ過ぎて行く。アルトリアは天幕の奥にそのまま転がりこんだ。

 

「キャァァァ!!!!」

 

……自分は撃たれたのか。

防いで無傷ではあるものの、瞬く間に広がる混乱と悲鳴にアルトリアはどうしたものかと悩む。

 

 

 

「貴様ァァァ!!!!」

 

「父上がッあ、ぁあ!ァァァァァァ!!!!」

 

「殺す殺す殺すゥゥ!!!」

 

「死ねェェ!!!!!!!!」

 

「Arrrrrrrrrrr!!!!」

 

 

 

犯人は今、私が死んでいると思っている筈だ。

 

何せ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだから…

 

それを逆手に取り、私が死んだ物と冷静さを失った“フリ”をして大袈裟に動いてくれている騎士達の輪を崩すのは王として申し訳ない。

 

「お前達がどう行動するか、たまには見届けてやろう」

 

以上、オルタ仮面装備でちょっぴりクールなアーサー王の意見でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、自己評価が低い一方、始まりの騎士の評価を彼ら自身の本来の能力より高く見る傾向のあるアルトリアの勘違いにより、見事、怒りに我を忘れた始まりの騎士達。

 

と……充血した瞳でライフル銃を構える柳井

 

「あぁ、美遊……君はこれで永遠となった!」

 

握手会は殺伐としていた。




「キャァァァ」←モーさん

始まりの騎士でも“ライフル銃”は無理だ。


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お前は踏み台だアルトリアァァ!!!!

俺にとって父上は光だった。

太陽のように明るくて温っかくて、誰よりも守りたいそんな存在だったんだ。

 

ダンッ

 

―――仮面が砕け、父上が倒れる。

 

頭が痛い。

 

分からない、どうして、何で、撃たれた、何処から、アイツ、笑ってるアイツが撃った、あれ、父上が居ない……父上は死んだ?

あ、ぁア、アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!

 

頭が痛い。

声にならない絶叫が気づけば口から漏れていた。

胃から物が逆流し、朝食べた卵とご飯が胃液と共に吐き出された。

 

頭が痛い。

 

「ゴハッ……ぅぇ……殺シテヤル!お前ハ絶対ニ!」

 

「君はこれで永遠となった!」

 

張りぼての剣を強く握る。敵はライフルを構えた白衣の男たった一人。

 

 

頭が痛い。

 

 

ランスロットが飛び出しそれに続くモードレッド。柳井はライフルを構え引き金に指を掛けるが―――ヒュイッ

「ぁぁア!?」「私に銃撃戦を挑もうとは百年早い!――行け!」柳井の顔面に装飾から引きちぎった鎖の束が直撃する、アグラヴェインの仕業だ。柳井はたまらず片手で顔を抑えライフルが肩から落ちる。「Arrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!」ランスロットが高く飛び上がり張りぼてとはいえ鉄パイプと同等の固さを持つ剣が柳井に振り下ろされる。

 

 

頭が痛い。

 

頭が痛い、頭が痛い、痛い、痛い!

 

 

必殺の一撃となる筈だった。相手は体格も小さく力の弱そうな研究職の人間と言えど銃を持っている。早めに、勝負を決めるのは正しい判断の筈だ。

 

“ランスロットが危ない!”

“アイツに近づくな!”

 

頭の中で何かが叫び続ける。

無視しようにもそれは段々と大きくなり、ランスロットが飛び上がった瞬間、モードレッドは限界を迎えた。

 

「あ"あ"あ"あ"あ"!!!!」

 

剣を離しランスロットの両足を掴む。そして、思いっきり地面に叩きつけた。

 

「グハッ!?モードレッド何をッ」パンッ

 

ランスロットの声に被さりライフルよりも軽い発砲音が響く。

 

「…………何で分かった!?」

 

「「「ッゥ!?」」」

 

見れば柳井が硝煙の漂う拳銃をランスロットが先程まで居た場所に向けているではないか。

 

「感謝しろよ、自称色男」

 

“仲間を失う”自分にとって都合の悪い展開を何となくで感じ取った。『直感』としか言葉に言い表せない頭痛からランスロットを助ける事によって解放されたモードレッド。

 

その顔は妙に清々しく、一段と戦士らしい顔つきだった。

 

「モードレッド?」

 

 

 

瞬間、赤い稲妻がモードレッドから迸る――ような幻覚を見たランスロット。

 

「早いッ」

 

剣の腕なら円卓一と自負する彼ですら追えない速度でモードレッドは動き「うぉぉぉぉお!!!!」「がぎゅっ!?」張りぼての剣で柳井の腹部を殴り打った。




モードレッドの覚醒?
絶対アルトリアの死(んだと思っている)が原因

柳井はこの後、ボコボコにされました。



このメンバーでイギリス異聞帯編を書いたら面白そうだなって思うこの頃。


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その名はトリスタンンン!!!!

ニュースをお伝えします。

 

『握手会で銃撃戦? 怪我人は犯人のみ』

 

先日、秋葉原で行われた握手会でライフル銃を構えた男が発砲。男は興奮していた為か狙いは反れ、直ぐに取り押さえられたとのことです。

1月 15日 秋葉原 竹敗社にて行われた握手会。SAO事件でクリアに貢献した円卓の騎士に視点を当て書籍化された『新アーサー王伝説』が好評を呼び、第二刊の発売を記念してモデルとなった円卓の騎士と握手会が行われました。しかし、ライフルを持った男が乱入――――参加者に取り押さえられたとのことです。

怪我人はありませんでした。

 

次のニュースです。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一時はどうなるかと思いましたが、皆無事で何よりです」

 

場所はアルトリア邸。朝食を家族と囲うアルトリアは、古い記憶を思い出すようにゆったりと事件を語る。

ライフルで撃たれたとか、その銃弾を弾き返したとか、さりげなく凄い事をしているのだが、本人がそれを異常として認識出来ない為、アルトリアの家族も大事にならなくてよかったと、ゆる~い感じで流されていく。

 

「菊岡さんが捕まったと風の噂で聞きましたが、父さん。また貴方が動いたのですか?」

 

「いや、自首だよ。」

 

「美遊~モーちゃんは次いつ来るのよ、円卓だっけ?

私も入れなさいよ!」

 

「お断りします。何故かは私も分かりませんが貴方を見るとモードレッドが怯えるんです」

 

アルトリアはもしゃもしゃとご飯を頬張り「モードレッドに会いたいなら『モルガン』など意味深なプレイヤーネームは辞めるべきかと」不服そうに口をすぼめる姉に一言告げて学生カバンに手をかけた。

 

「行ってまいります!」

 

新学期は始まりアルトリアも中学へと向かう。

 

 

 

 

 

 

「お待ちしておりました我が王よ」

 

そして、リムジンから顔を出し玄関前に待ち構えていたのはトリスタンだ。

 

「…………仕事はどうしたのですかトリスタン」

 

「土日が休みなのは公務員ぐらいですよ王」

 

どうやら定休日らしい彼は、アルトリアを待っていたらしい。

 

「これから学校なのですが」「その為に私が。ささっ早く乗らねば遅刻してしまいますよ」

「…………ハァ、トリスタン。その気持ちは嬉しく思いますがお断りします」

 

朝練を控え予め早めに出ていたアルトリアはカバンをおろし5分ほど、リムジンで登校する女子中学生がどれ程奇異の目に晒されるか、みっちり教え込み、家に帰した。

 

「……映画監督というものは常識を道端にでも捨てているのでしょうか?」

 

鳥山監督。それが今業界で有名な彼の名前だ。

 

 

――朝練中

 

「美遊!今朝、家になっがい車が停まってたよね!また新しく買ったの!?今度乗せてよ!」

 

「お、おぅ……」

 

一番バレたくない相手(幼馴染)にバレてしまったと、面の上からアルトリアは頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタカタ カタカタ カタカタ カタカタ カタカタ カタカタ

 

カタカタ カタカタ カタカタ カタカタ

 

カタカタ カタカタカタカタ カタカタ カタカタ カタカタ

 

カタカタ カタカタ カタカタ――――ピロン♪

 

「…………ん?」

 

大型アップデートを間近に控え、夜遅く会社のオフィスからALOにログインし、雑務処理に追われていた須郷=オベイロンは浮かび上がるメールタグに作業を中断する。

 

「個人アドレスに…………美遊ちゃんかな?」

 

オブジェクトのカレンダーを見れば土曜日、時刻もまだ11時という中学生ぐらいの子供なら起きていてもおかしくない時間帯である為、オベイロンはそう結論づけてメールを開いた。

 

―――久しぶりっす、須郷さん

 

「チッ」

 

だが、その一節を見て不快げに顔を歪める。

何処からアドレスを掴んだのか、まさかハッキングした…………と、かつて好意を寄せていた女性の紹介で飲み会に参加した時、酔った勢いでつい教えてしまったと深く息を吐いた。

 

「油断した……」

 

これは、“コイツ”の記憶力を嘗めていた須郷自身に非がある。

諦めて二節目に目を通す須郷だったが、見切れている画像をスクロールして…………

 

「とんでもない置き土産をしてくれたな!!!!」

 

世界樹の頂点、妖精王の怒号が響き渡る。

 

 

【製造資金提供者 須郷伸之】

 

バレたくなければ……分かりますよね?

 

 

アルトリアと出会う前の彼が犯した過ちの一つであり、とうの昔にデータごと消去した。()()()()()()をご丁寧に復元され須郷が開発に関わった証拠まで記されていた。

 

今やVRMMOの顔と言っても過言ではない須郷から電脳ドラッグ製造などという特大スキャンダルが漏れ出せば、須郷本人は勿論、会社全体に被害が及んでしまう。下手をすればただでさえ不安定だったVRMMO文化自体が再び問題視されるようになり、受け継ぎどころか何百万人も抱える大企業の社員を須郷のたった一つのミスで路頭に迷わせる事になるかもしれない。

 

 

「表向きは、ラースがうちの傘下に入るだと……?

柳井の暴走を止める所かあっさり自首しやがった時は、自暴自棄にでもなったと思っていたが……最後の最後に…………菊岡ァァ!!!!」

 

 

 

――――久しぶりっす、須郷さん

 

菊岡さんに私が逮捕されたら君経由で、送ってくれって頼まれてたデータを送ったす。

 

 

 

 

 

 

 

数日後、須郷の会社から数十人規模の人事異動があった。

 




プロジェクトの為なら自分すら犠牲にする
柳井が暴れている間、須郷さんの会社にハッキングして残留データ回収してました。by菊岡


アルトリア姉「モーちゃん可愛い♪」

モードレッド「ヒィィィ!」

モードレッドが唯一恐れる女『モルガン』


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誰のせいッ……取りあえずお前だ茅場ァァ!!!!

アルヴヘイム・オンライン(ALO)』が大型アップデートを迎え新エリアやシナリオの追加。そしてSAOサーバーから浮遊城アインクラッドがソードスキルと共にバランス調整を経て誕生したらしい。

アップデートが始まる3ヶ月前に須郷のメールを受け取った円卓一行は逸る気持ちを抑えられず直ぐにALOにダイブ……とはいかなかった。

 

「……すまねぇ父上」

 

モードレッドはアミュスフィアを買うお金がなかったのである。

 

「……バイトしますか。手伝いますよ」

 

「すまねぇ……すまねぇ……」

 

そこから始まったモードレッドとアルトリアのバイト三昧。

・新聞配達

・お弁当屋の配達

・アマ○ンの梱包作業

 

年齢的にバイトNGなアルトリアはモードレッドが請け負った内職等を手伝いながらチマチマ稼ぎ、モードレッドは朝、昼、晩、スクーターを飛ばし続け、働き疲れてアルトリアの膝上で力尽きることしばしば。

二ヶ月で合計ニ十万ほど稼いだ彼女達は、アミュスフィアとALOのメモリーカードを購入し、円卓の中でも特に付き合いの長い始まりの騎士達に連絡をいれる

 

『そうですか!ついにモードレッドが!』

 

「はい、5時に世界樹で」

 

『了解しました!』

 

他の騎士達にも連絡を入れようかと迷いはしたが、人数が人数なので断念。

 

「こ、これが……父上の部屋…ベッド以外何もねぇ…空き部屋の、間違いじゃねえか?」

 

「はいはい!モードレッド!寄って下さい、早くログインしますよ!」

「…………おおぅそうだな」

 

一人で使うにはあまりにデカ過ぎた大人サイズのベッドに背中を預けアミュスフィアを装着するアルトリアとモードレッドは――

 

「リンクスタート!」ついにALOの世界に飛び立ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

種族を選択して下さい。

 

「アルフとは一体?」

 

そして、スクロールしようにも一画面しか用意されていない種族欄に戸惑いの声を漏らしたのは我らが騎士王アルトリアである。

彼女が事前に調べた情報では《サラマンダー》《ウンディーネ》《シルフ》《ケットシー》《ノーム》《インプ》《スプリガン》《レプラコーン》《プーカ》9種族の中から選択するとの話だった。

 

それが、

 

《アルフ》あらゆる妖精族の頂点に立つ高位種族

種族特典:滞空時間無制限 世界樹への入場権

 

聞いたこともない種族一つだけしか表示されず、仕方なく選択すれば、何故かアルトリア(セイバー)最終再臨スタイル(マント装備)のアバターが既に出来上がっていた。

 

「…………兄さんが気をきかせて用意してくれたのでしょうか?

何故兄さんが昨日用意したばかりの私のアカウントを知っているのでしょう……」

 

転送されたエリアで困惑げに手のひらを見下ろすアルトリア。

 

「そもそも、ここは何処ですか?」

 

ヒュー ヒューウ

 

よく分からないが無茶苦茶高い場所、下を見れば一面雪景色で目の前には重厚な門がある。

……アルトリアは開始早々迷子になったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「ブォォォ!」

 

牛の化け物――恐らくはミノタウロスを元に創られた二匹のモンスターのうち一体がアルトリアを襲う。

 

「また回復ですかッ厄介な!」

 

ゲームを始めて間もないアルトリアは、ここに来るまでに倒したモブモンスターからポップした短剣を握り直す。

……かじかんで感覚が少し鈍い。吐く息は白く間違いなく装備が脆弱過ぎるせいで環境ダメージを受けている。

 

ここは神殿。

 

重厚な門の先にあったダンジョンだ。

それも初心者が訪れるレベルではない、中級から上級者向けの高難易度ダンジョン。SAOサバイバーとしてどうしても死んでリスポーン(死にリス)を躊躇ってしまったアルトリアが直感Aがビンビン警鐘を鳴らす門を潜って、現在進行形で地獄を見た……見ている。

 

「ブォォォォォ!!!!」

 

「やはり硬いッ」

 

大振りの攻撃の合間を縫って針を刺すように短剣を突き刺すアルトリア。

今、回復の座禅を組む方に比べてこのミノタウロスは兎に角固かった。

かれこれ一時間ほど短剣を突き刺す作業を繰り返し、やっと1ゲージHPバーが削れる。いくら大振りで隙が大きいとはいえ、アルトリアが集中を途切れさせず計三時間以上も戦闘を行えるのは円卓のレベ上げ地獄で培った強靭な精神力による物が大きいだろう。

 

「ブォォォ……」

 

そして、ミノタウロスが下がる。完全回復を終えたもう一体と交代する為だ。

 

「させない!」

 

アルトリアはミノタウロスに飛び乗り短剣で滅多刺しにする。

ミノタウロスは嫌がり足を止めてアルトリアを振るい落とそうと暴れた。

アルトリアはここで逃がしてなるものかと必死にしがみつき…………そして気づく。

「(何故、手を使って払わない?まさか、プレイヤーがしがみついた時のプログラムが組まれていないのか?)」

そうと決まれば徹底抗戦の構えだ。アルトリアはミノタウロスの皮膚に爪を食い込ませ、かぶりついた。短剣は腹で押す、まさに王は全身で戦かわれている。

 

「ブォォォ!?ブォォォ!!!!」

 

 

―――30分後

 

しがみついたモンスターが消滅し、心なしか「ブォォ(マジかよ、こいつ)」唖然とした表情を浮かべているように見える片割れのミノタウロスにアルトリアは嗤う。

 

「貴方はそこまで硬くないようだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

アルトリアは短剣の熟練度が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その頃モードレッドは……

 

 

「クソ……俺はどうすればッ」

 

身長 110cm

 

アルトリアが謎のダンジョン攻略に手こずる中、モードレッドはアバター製作の身長設定欄で手が止まっていた。

 

「撫で…………られてぇ!

父上に頭をッ!だが、そんな事が許されるのか!?クソォォォ!!!!」

 

プロトセイバー時代のアルトリアとモードレッドの関係は正に誰しもが理想とした仲良し親子。

物心つく前に肉親を失ったモードレッドにとってその頃の記憶は何よりも大切で…………そして、自分の選択次第でまた父と子の関係に戻れるかも、いや、アルトリアはどちらにしろ女性アバターを選ぶ筈なので“母上”と呼べるかもしれない。

 

「いっそのこと…………システムの限界まで小さく…………いやいやいや、俺は180だぞ、そんな事をすればリアルとのギャップでろくに動く事なんか……………………(ごくりっ)」

 

理性と感情のぶつかり合い果たしてモードレッドの選択とは如何に。

 




一方その頃

アグ「円卓の拠点が欲しいな」

ガウェ「何処かの領主邸を襲いましょう!」

トリ「素晴らしい案ですね」ポロロン

ランス「個人的にはサラマンダー等はどうでしょうか!」

ベディ「私はシルフの―」




領主達「「「ヒイッ!?」」」




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モードレッドォォ!!!!

「長い戦いだった」

 

ミノタウロスから始まり、青の巨人や阿修羅型の怪物。拳一本から登り詰め、今ではロンゴミニアドと云うアーサー王に馴染み深い槍を携えたアルトリアは小さな枝を絶ちきるルーンの刻まれた黄金の剣を()()し、ついに難攻不落のダンジョンを制覇したのだった。

 

「円卓を随分と待たせてしまいました…………今、ログインしているのはモードレッドだけですか。」

 

悟りを開いた仏陀のようにとても穏やかな心を持つ我が王は三対六枚の翼を広げ――――飛ぶ、事は練習不足で出来ないので、普通に走っていった。

 

「羽が邪魔ですね」

 

騎乗スキルは乗り物でしかカウントされないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………死にてぇ」

 

世界樹の根元、膝を抱えるのはキャラメイクに時間をかけすぎ円卓が父上と自身を残しログアウトしていたモードレッドである。

 

「おい、サラマンダーの領主が替わったらしいぞ」「マジかよ、って事はユージーン将軍が負けたのか!?」「何でも新しい領主はSAOサバイバーの…………」

 

たかが身長、されど身長。ベータ版に寄せるかリアルに寄せるかでモードレッドは思い悩み(ちなみにSAOクリア後に測ったら3cm伸びていた。地味に凹んだ)思い返すは父上と過ごした心地よい記憶。

 

アルトリアは身長で態度を変えるような人間ではない。小さかった時も大きい時もアルトリアと側にいるだけで幸せであることをモードレッドは忘れていたのだ!

 

 

 

――――身長 110cm

 

 

そして、これが欲望に負けた合法ロリッ子である。

赤いカーディガンを纏い少し長めの金髪をポニーテールにまとめた愛らしい少女だ。

 

 

時間を掛けすぎ、まだログインしているアルトリアにも恥ずかしくてメールが打てず通行人に不審がられないよう、世界樹の裏で項垂れる彼女は――自分の心の弱さに泣きたくなってきた。

 

「くそっ……父上は身長で態度を変える人じゃないって分かっていたのに!おれったらおれときたら!」

 

ポロポロと大粒の涙が溢れる。

……泣きたくて泣いている訳ではない。システムがそう判断しただけの勘違い、勘違いだ。

俺は喧嘩負け知らずの十七代目…………で、始まりの騎士で、こんな子供みたいな事で、泣くような弱虫じゃない。

 

「……俺は、最低だ」

 

モードレッドはよろよろと立ち上がりログアウト画面を開く。

 

――アカウントを消して新しいのを作りなおそう。

 

幸い、誰にもバレていない。今回の事は俺が馬鹿だった。それだけで終わらせればいいんだ。

 

涙を袖で拭いて画面をタップする直前に、

 

 

「――――モードレッド?」

 

 

彼の王は現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――モードレッド?」

 

アルトリアが世界樹に訪れると何処か懐かしい外見をした少女が泣きそうな顔を歪めて立たずんでいた。

見た所、丁度ログアウトする寸前だったのだろう。

 

「あ、ちちうっえ!これは、その…………」

 

「懐かしいですね、あの頃より少し背が高くなりましたか?」

 

「あぅ…………」「うん?」

 

アルトリアがモードレッドの頭に手を当てると、やはりベータ版よりも少し高くなっているような感覚を受けた。

なら、体重はどうであろう?

興味本位でモードレッドを抱き上げたアルトリア。

 

「ぅぅぅ!?」「う~ん、私自身の等身が違うのでよく分かりませんね」

 

「…………」「モードレッド?」

 

「はい、なんでしょう」

 

「もしかして、嫌でした?」

 

「いやいやいや!!!!?」

 

降りそうかと提案するアルトリアであったが、首に手を巻いて体を預けるモードレッドに「暫く歩きますか?」こくりと頷いたのを見て歩き出した。

 

 

 

「そう言えば、初めて貴方が私に心を開いてくれた時もこうして街中を歩いていましたね」

 

 

 

「あの頃は、円卓も貴方と私二人っきりでアルトリアでもモードレッドでもなかった。」

 

 

アーサー・ペン・ドラゴン

タイガー

 

初めの頃は趣味全快のそんな名前で、アルトリアがプレイヤーネームで呼んだ時、何故かモードレッドが怒ってpvpをする事になり、アルトリアが本気を出すと木にぶつかって痛みがあった訳でもないのに泣き出して…………あの時はかなり焦った。

 

『誰か医者は居ないか!?この子が怪我しているんだ!』

 

ゲーム内で何を?

モードレッドを抱き上げた私はプレイヤー達には白い目で見られ、モードレッドは顔を真っ赤にしてビンタしてきた。

 

 

『俺はアンタを越える!』

 

『だから、モードレッドか…ふふふっ受けて立とうじゃないか!』

 

 

アグ君やガウェインが仲間になると、データを初期化してモードレッドと名乗ったあの日は鮮明に覚えている。

 

『くそっ……何で!』

 

『残念だったねモードレッド、君が父の背中を越えるには早かったのさ』

 

『誰が父だ!こら!』

 

そう言えば、モードレッドが“父上”と呼び始めたのはいつからだっただろう?

一階層をクリアした時?

 

『アーサー王!』

 

いや、違う。

 

二階層をクリアした時?

 

『アーサーァァ!!!!』

 

いや、違う。

 

三階層か?四階層だったか?

気づけば呼ばれていたような気もするし、反抗期だったモードレッドが急に甘え出したのはあの六階層の――

 

「モードレッド……貴方が私を父と呼んだのはいつ頃からだったでしょうか?」

 

「……すぅ…すぅ…」

 

「おや、寝てしまいましたか」

 

 

間も無くモードレッドの体がポリゴン化して消滅し、「ゲーム世界でも変わる物はあるのですね」アルトリアもログアウトボタンを押して現実世界へ帰った。

 

 

 

 

モードレッドの小さな体はあの頃と同じようで少しだけ重く感じた。




エクスキャリバー「あんまりだァァァ!!!!!」


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IF編
須郷ゥゥ!!!と柳井ァァ!!!!が原作通りだった世界線ンン!!!!


ifルート


「アンダーワールドに暮らしているのは、ただのNPCじゃない、わたしたちがプレイしているVRMMO世界のデータを元に生み出された、本物の人工知能なのよ!アンダーワールド人たちは、あたしたちと同じ感情、同じ魂を持っているの!お願いです、彼らを守る為に、みんな力を貸して!みんながいま使っているキャラクターデータを、アンダーワールドに《コンバート》してください!」

 

五分間の演説を終えたリズベットは、祈るような気持ちでプレイヤー達を見つめる。

ドームに集まった妖精達は戸惑いの色を隠せずスケールのデカイ話に飲み込めない、そんな印象を受けた。

当然だ、ユイの説明を聞いたリズベット達にも未だ曖昧な部分が在るのに、理解しろという方が難しい。

 

――でも、私達だけでコンバートした所で何千人ってアメリカ人プレイヤーに対抗出来るわけがない。

極少数で万軍に匹敵するなんて、それこそあの『円卓』でもなければ不可能だ。

 

リズベットはALOではないVRMMOで全SAOサバイバーを忌み嫌う彼の王に面談を願うシリカを思う。

 

…………シリカ、お願い。私達の戦場はここなのよ、あんたには損な役割を任せちゃったと思うけど、円卓が来るか来ないかは今のあんたに懸かってる!

 

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

神聖円卓領域 キャメロット

数ヶ月前に誕生したアーサー王伝説モチーフのVRMMOに皮の装備level[1]という一目みて初心者だと分かるプレイヤーシリカは王城に訪れ黒髪の騎士に訴える。

 

「―――断る」

 

「お願いです!キリトさんとアスナさんを救うには貴方々の()()の力が必要なんです!確かにコンバートすれば痛みを感じ自発的にログアウトは出来ず!最悪キャラクターロストしてしまう可能性もあります!ですが!アンダーワールドは私達SAOサバイバーが繋いだ――!」

 

「おい、あの男の腰巾着が何故父上の城にいる」

 

シリカは言い終わる前に背中に強い衝撃を受け、地面に転がる。見なくても分かる、おもいっきり背中から蹴り飛ばされたのだ。

 

「ぃ…………お願いです!せめてアーサー王に会わせて下さい!!!!」

 

「チッ蹴られてもリアクションなしかよ…………アグラウェインこれはどう言う事だ?」

 

「足りない貴様の脳ミソでも分かるように説明すると、とあるゲームの協力を要請された。コンバートしてダメージを負えば現実と似た痛みを伴い、最悪キャラロスもあり得る世界で()()()()()()()()()()()()に力を貸せということだ」

 

黒の剣士(あの男)と閃光だと?75層のゴミ共筆頭格じゃねえか、面白そうなゲームだけどよぉ、アイツらに俺たちが協力するとかこいつふざけてんのか?」

 

「あぁ全くふざけている。今、管理者権限でこの娘のアカウントをこのキャメロットから永久追放しようと思っていた所だ」

 

「そっそんな!?お願いします!アーサー王に会わせてッ」

 

 

‐管理者権限により アカウントを削除しました‐

 

 

 

 




Fate(運命)Badendルート[1]
この並行世界では、アグ君が作ったVRMMOに円卓組が移る。
始まりの騎士が本編より少しだけ弱体化(整合騎士より少し上)
騎士王が獅子王化。
モードレッドがモーさんに完全進化
PoHがアスナに圧勝(ユウキ生存=円卓の為)
(シノンも円卓組)(茅場NPCに扮して円卓組へ)
キリト戻らず。





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菊岡!!!!が完全勝利した世界線ンン!!!!

ifルート2


此処は何処だ…………?

 

私は誰だ、

 

()()()は、荒廃とした大地は何だ…………

 

 

………………知らねばならぬ、この流れ出す血が尽きる前に…………

 

 

………我が王!父上!王!

 

 

 

脳裏を過る彼らが何者か、思い出さねば…………私は、

 

 

 

王…………お、…………

 

 

 

 

一体何者なのだろう…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちが、アルトリアの前に現れた時……全てが手遅れだった。

 

「我が元へ集え」

 

アンダーワールド

ダークテリトリーで倍速された世界で約五百年。天命を凍結し、記憶の崩壊を心意で強引に誤魔化しながら、禁忌を犯し追放された人間を束ね国を築き、門の崩壊の時を待ち続けた彼の王は身体精神共に身間違える姿に変貌し、これっぽちも俺たちの事なんて覚えていなかった。

けれど、俺たちがお前を裏切らないと……恐らく化け物じみた直感で感じ取ったのだろう。

 

「神ステイシアと我が名に於いて汝を騎士に叙す。忠誠、豪胆、幸運であれ」

 

その言葉と共にアルトリアが肩を叩いたのは、始まりの騎士、俺、ペリノア、ベイリン、モルガン、マーリン、ボール。

 

それ以外の奴ら?

 

…………死んださ。アルトリア()()()アイツを取り戻そうと馬鹿らしく特攻かまして、最後まで残ったのはガレスだったが、結局傷一つつける事は出来なかった。

たぶん、今頃はリアルの病院にでも直行かね。ハァ……

 

「千五百の円卓がアイツ一人に負けるとはねぇ」

 

重厚な鎧を纏う白馬に跨がったアルトリア……本人は獅子王と呼べと言う。ケイはその奥にある不気味な門を見つめ、隣を歩くアグラヴェインに話しかける。

 

「お前はこれで、良かったのか?」

 

「良くない筈がない。しかし、今の王を否定することが我々には出来ない……貴様も言っていただろう。どちらも王であると。」

 

「そうだな、どっちもアイツで違いは生きた年月だ。今のこいつが望まねえのにデータなんだで、記憶をリセット?ふざけるんじゃねぇ……アイツは人間だ」

 

今からでも思い出すだけで反吐が出る。研究者って生き物は人か?復元だとか、余計な部分を消去だとか簡単に言いやがって……須郷がいなければぶん殴っていた所だよ。

 

 

 

オオオオォォォ!!!!

 

 

ビキッバキバキ

 

門が崩壊する。

人界、暗黒界に属さず、その信念は正しき世界の為に…殺し尽くす。最強の王と最強の騎士達を揃えた第三勢力は山の頂上からそれを見つめていた

 

 

さぁ、最終負荷実験の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「構え!」

 

門から飛び出すゴブリンどもに業火を浴びせる整合騎士デュソルバートは、地を揺らすような衝撃――そして、人間、ゴブリン問わず、手当たり次第に切り裂きながらこちらへ突き進む白い鎧に赤の線を入れた狂戦士を目にする。

 

「(止められないかッ!?)」

 

五回、デュソルバート含め射られた弓がその戦士を襲うが、戦士は剣ではね除け、あまりに早すぎる一陣崩壊を危惧したデュソルバートは瞬時に武装完全支配術を使用する。

 

「エンハンス、アーマーメント!」

 

デュソルバートを炎が覆い、まるで炎そのものが形どったような矢が射られッ

 

トスッ

 

「なっ!?」

 

矢が弓から離れる事はなかった。

右手の間接部分に敵側からの矢が突き刺さり、術式は解ける。

 

 

「オラオラオラ!!!!」

 

 

 

「騎士様ッ此処は我らにお任せを!」

 

「回復を!」

 

「クッ任せた!」

 

 

――弓兵、それも指揮官が白昼堂々姿を晒すとは舐めているのですか?

 

回復の為に後ろ引くデュソルバートは『ポロロン』戦場に相応しくない美しい音色を聴いたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「どうなっている!」

 

暗黒術士ギルド総長ディー・アイ・エルは取り乱したような声を上げる。

 

「ギャァ!?」

 

「助け!」「うわぁぁ!!!!」

 

「Arrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!!!!!」

 

あれは、暗黒騎士か整合騎士なのか。正体不明の、まさに上空から降って湧いて出た漆黒の騎士に彼女の配下達が次々と切り捨てられ、小飼いとして態々育てた暗黒騎士ですら赤子の手を捻るように敗北してしまう。しかも、彼の騎士は命までは奪わない為、空間リソースが補充されず逆に回復の為に消費される一方だ。

 

「何としても殺せ!殺すのだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様が現代の英雄、アーサー・ペン・ドラゴンだな。SAOでは私の部下が世話になった、先ずは礼を言おう」

 

「…………」

 

そして、人界・暗黒界を巻き込んだ大戦が起こる中、獅子王と暗黒神は対談する。




Fate(運命)Badendルート[2]
アルトリアがアンダーワールドに投げ込まれ五百年の時を過ごす
騎士王が獅子王化
第三勢力誕生
コード871がない。
禁忌目録を破る人間があまりに多い為、最高司祭は整合騎士に咎人(破った人間)をダークテリトリーに追放する命を出す。
生き残った咎人はやがて獅子王の下に集いキャメロットが完成。整合騎士(四旋剣)クラスがゴロゴロいる。

神器『最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)』
絶望の中で人々が求めた最後の光(心意)が形どった姿。人がいる限り、絶望がある限り、天命が尽きる事はない。
それは持ち主にも同様な効果をもたらす。


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UW編
謝罪とアドミニストレータァァァ!!!


大幅修正(パッチ)が入りました。
菊岡は罰金を払い出所済み
キリト君は原作通りUWへ。



“キャメロット”

 

それはソードアートオンラインにて、かつて円卓がギルドホームとして構えていた巨大な城の名前であり、街の総称であった。

四十九層にあるそれは当時、アグラヴェインやガレスなど意外な秀才達の手によって活気に満ち、珍しいアイテムや武器なんかが市場に流れ中層プレイヤーや攻略組もよく利用していた賑わい高い場所だった。

――しかし、それもゲームクリアされた今ではデータの藻屑と化し亡き幻想…たまに懐かしく思うこともあったが、悲嘆にくれる物ではなく、それはそれで素晴らしかったと胸を張って言える物だった。

 

「いや、しかし……これは」

 

ALOに浮遊城アインクラッドが追加された。

少々のパラメーター調整は入ったものの、始まり街の外見はあの頃のそのままであり、もしかしたらキャメロットもあのままかもしれない……なんて二ヶ月前に言ったのが運の尽きか。

 

おい、その先は地獄だぞ。

 

――助けて、士郎

 

正義の味方などこの世には存在せぬ。

強制か担ぎ上げられた狂気故か、円卓は騎士王(廃ユーザー)へと私を変えた。

1日十時間ログイン?

睡眠時間は二時間足らず?

馬鹿か?

……馬鹿だな。断らなかった私はそれ以上の馬鹿かもしれないが。

 

絶剣という名の幼馴染や青アーチャーと云われる昔馴染みを新たな仲間に迎え全盛期の勢いを取り戻した円卓の怒濤の攻略ラッシュが再発し、製作陣の予定に反して四十九層までたった二ヶ月で上り詰めてしまった。

攻略スペースはデスゲームの倍以上……これを幸と取るか不幸と取るか。

今日は四十九層に到達した栄えある日、円卓が全員集まる珍しい日だ。

 

ふらふらと覚束ない体に鞭をうちキャメロットのテラスにて

 

お馴染みのランスロット、ガウェイン、モードレッド、ベディヴィエール、トリスタン、アグラヴェインを背後に従えた私は剣を突き上げる。

 

「「「「オオオオオオォォォォ!!!!!」」」」

 

総勢千五百(+二)の円卓の騎士達が雄叫びを上げキャメロットの王の帰還に熱を上げた。

 

時刻は深夜の二時だ。

こんな時間までログインしていると兄貴でパパン気質なケイ卿が「学生はさっさと寝ろ!」と叱り倒して瞬く間にこの熱狂を沈静化してくれる筈なのだが……悲しきかな、彼はリアルの用事で席を外している。

 

「(眠いな…)」

 

テラスから降り、円卓の中でも上位に位置する騎士達が守護する王座の間にて目蓋を擦るアルトリアは思わず欠伸を漏らした。

 

――そろそろ休もうか。

 

キャメロットも戻ったし皆とその嬉しさを分かち合ったアルトリアは肩の力を抜いて間延びする。

 

「私は、もう寝る」

 

「ハッ」

 

アグ君が短く返事を返したのでアルトリアはステータス画面を操作して

目蓋を一擦り、ログアウトボタンを選択する。

 

 

 

――ザザッ……ザザァ……王ッ……父上ェ!

 

―ザザッ…………ザザッ……ザザ…………ザザァ………………

 

 

 

 

 

 

 

そこから先の記憶がない。

気がつけば私は――「整合騎士なんて目じゃない…最高の駒を手に入れたわ」

藤色の髪を揺らす絶世の美女に見初められていた。

……不思議と違和感は覚えない。

 

「我ら、アドミニストレータ様の前に」

 

まるで何回も練習したかのよう、私と私の背後に従える“騎士達”はアドミニストレータと呼ばれる妙齢の女性の前にそれが当然の事であるかのようが如く膝を屈する。

 

《無毀なる湖光》ランスロット

《転輪する勝利の剣》ガウェイン

《燦然と輝く王剣》モードレッド

《一閃せよ、銀色の腕》ベディヴィエール

《痛哭の幻奏》トリスタン

《鉄の戒め》アグラヴェイン

 

《約束された勝利の剣》アルトリア・ペンドラゴン

 

1人1人が名乗りを上げ、額に紫に発光するナニカを埋め込まれる。その瞬間、我ら一同はどうしようもない幸福感に包まれた。

 

「あぁ素晴らしき我が主よ!!!」

 

喝采を上げる。我ら円卓の新たな主アドミニストレータ様!

貴方様の望むままに貴方様の思い通りに円卓は動きましょう!

 

熱に浮かされた生娘のように口早に捲し立てる皆。

 

 

 

 

円卓ギルドの再建という素晴らき日

SAO時代全盛期の武装に身を包む我ら円卓は最高司祭を前に永遠の忠誠を誓った。




味方だった者達が敵に回る恐怖。


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英霊召喚ンンンン!!!!

「……んっ。あぁ、もう終わったのですか?」

 

微睡みから覚めたアルトリアはガラス張りのドアを片手で押し上げ、酸素カプセルのような半球体の器械から体をおろした。

 

「ありがとうすっ、これでバイトは終わりですから口座に今日の給金は振り込んでおくのでお疲れ様した」

「そうですか。お疲れ様でした。」

 

叔父(須郷伸之)の古い知り合いらしい金髪眼鏡の青少年にバイト先の提案を受け、別に金に困るような生活をしている訳ではなかったが、社会勉強の一環で試作ゲームのテストプレイをすることとなったアルトリア。

VRMMO『アンダーワールド』そのゲームのボスキャラである整合騎士とやらと戦闘を行い、武装完全支配術や記憶解放術などFateでいう真名解放した宝具のようなド派手な必殺技を使う時には冷や汗をかいたものの……何かビームが出た。

そのゲームの仕様なのだろうか、ゲーム内で用意された武器が黄金の光を纏って『約束された勝利の剣』……出来てしまった。

 

何故に?

と疑問に思ったものの、対城宝具は整合騎士達を蹂躙せしめ見事勝利を収めたのは彼女である。

ゲームシナリオに習い整合騎士に勝利するとアドミニストレータという最高司祭という地位に位置付けられたNPCと面会することになり、数事言葉を交わしてゲームは終わり。

 

エクスカリバーァァァ!!!

 

……出来たのは謎だったが、今時剣からビームが出る程度珍しくもなんともないだろうと自己完結し、金を受け取って帰路についた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

その翌日、バイト代を使いモードレッドを誘って評判の良い喫茶店を訪れた。

 

「見てるこっちが胸焼けしそうだぜぇ……」

 

もきゅもきゅとホールサイズのケーキを頬張るアルトリアは自身を半目に見つめるモードレッドのため息に首を傾げる。

 

「食べないのですか?」

 

見ればワンサイズのショートケーキをつついて手が止まる彼女だ。

食欲がないわけではないが、この量でも時間をかけて食べるタイプであるらしい。

同じアルトリア顔なのにここまで胃袋に差があるのは不思議である。

 

「――そう言えば父上は知ってか?

近々…ALOでソードスキルありの大規模な大会があるらしいぜ」

 

「もぐもぐ……ごくんっ。

知っていますよ、ユウキ達が参加すると言っていた大会ですね。雌雄を決しようではないかとこの前誘いを受けましたのでエントリーしました」

 

「げっ!マジかよ!じゃあまだエントリーしてねぇの俺だけじゃねか…」

 

「おや、その様子だとアグ君達も参加するのですか?」

 

「あぁ、上位を円卓で固めるのもあれなんで、代表を絞って浮気野郎とアグラヴェイン、ケイが参加するって言ってたな。一応、“始まり”は全員出て良いって話だったけど、ゴリラと鳥野郎は降りるらしいぜ。自分達の戦いは民衆向けの小綺麗な物じゃないとか何とか……父上が出るなら俺も出ようかな」

 

ぽりぽりと頬を掻くモードレッドは伏し目がちに私の顔を覗き見る。何を躊躇う事があるのだろう?

出たければ出ればいいではないか。

 

「そのぉ……父上って有名だろ?テレビとか新聞に出てたし顔は隠れてたけどキャメロットのアーサー王って言ったらSAOもALOも同じ訳だし……だからさ、提案なんだけど」

 

「提案、ですか?」

 

「ほらっ父上ってアミュスフィアとナーブギア二台持ってんだろ?

ベータ版のアバターは消えた訳じゃねぇし二機目のアバターで……」

 

ベータ時代のアーサー王になってみたらどうだろうか。

そしてそのアバターで大会に出る。

円卓の規模が大きくなったのはデスゲームと化した後の話だったし、そのアバターなら始まり以外はアルトリアだと分かるまい。

 

「ほほぅ、つまり仲間内でも全力戦えると」

 

ニヤリと笑みを深めるアルトリア。

別に戦闘狂ではないが、前々から彼らとは本気で闘ってみたいとは思っていたのだ。

王として臣下に剣を振るうのは躊躇われたし彼らも私に剣を向けるような事はしたくないとpvpは今の今まで始まりとしかやった事がなかった。

だが、別人としてなら……

 

モードレッドの真意は単に父上の父上が見たいという若干下ネタにも聞こえる欲望の所にあるのだが、実に良い意見だと首を縦に振るう。

 

「いいでしょう!ナイスアイデアですよ!モードレッド!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「統一デュエル・トーナメント第一回戦!!!!!

キリトvsアーサーァァァ!!!!!」

 

…だからと言ってこんな展開は望んでないぞ。

 

 




アルトリアのデータから英霊召喚!
アドミニストレータ「最強のサーヴァント達を引き当てた!」
整合騎士「俺たちの立場が……」


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アドミニストレータsideォォォォ!!!!!

「我が王よ!全裸とは何事か!?」

 

「も~何なのよぉ~私が何したって言うのよ~」

 

寝室から引きずり出され玉座にてアグラヴェインの小言を煩わしそうに顔を歪めるのは―――『アンダーワールド』人界で頂点に位置するアドミニストレータその人である。

 

 

 

 

 

 

 

「―――何でしょうね。この胸の蟠りは」

 

数十年前。

観測次元の人間の1人を虜にし、整合騎士より使える駒を用意しろ……と、アドミニストレータきっての願いからバイトと偽り呼び出され

彼の王の戦闘データや記憶から集めた寸分違わぬ、Fateで云えば英霊と言っても過言ではない円卓の影法師達が誕生した。

 

そして廃ゲーマー極まり最早人類の限界を超えた先にある領域に登りつけた彼らは加速された世界の中で、他の整合騎士のよう記憶を抑制されているにも関わらず、アルトリアを中心にSAO時代を彷彿とされる狂ったようにレベリングを開始した。

つまり、防衛任務という名のダークテリトリー攻略をおっ始め、「天命を凍結されているから寝る必要はないな!」

……と、たった数年で上位整合騎士達を実力で屈服させる最上位整合騎士なる地位を授かったのである。

 

しかし、上位整合騎士と最上位整合騎士との力の差はあまりに大きく……現在進行形で開いていく一方であり、人界の防衛任務にも就けず罪人の捕縛任務は滅多に訪れない為、仕事がないから草むしりをし出す上位含め下位の整合騎士の様には流石のアドミニストレータも思うところがあったようで、最上位整合騎士から円卓の騎士と命名を変え、普段は彼女の護衛任務につき滅多な事がない限りダークテリトリー侵略を未来永劫禁忌とすることで事件は一度落ち着いた。

 

「あの方は王としての品位が微塵も感じられん!」

 

そう一度は。

 

アルトリアに絶対的な忠誠を捧げていたアグラヴェインは記憶が封印された今でも円卓の騎士という一つの枠組みにありながら対等である筈のアルトリアを敬うという異次元の忠義ぶりを見せ、また「我が王なら出来たぞ?」と一日中寝てばかりのアドミニストレータに嫌みでしかない進言してくるのだ。

 

遠征を禁止してしまった為にその頻度は日を逐うごとに増え、フラクトライトの記憶容量が既に限界に達している彼女は余計な記憶が増えていくのを心底ウンザリしていた。

だが、その煩わしさに目を瞑れば、醜く、不快で、達の悪い遊び癖の目立つ、元老長チュデルキンの百倍は役に立つのだから気安く“リセット”しようにも躊躇われる。

 

だからと言ってこれ以上レベル上げ……管理権限を上げられるのは彼女にとっても望ましくない。

 

「(どうしようかしら、王様らしくって出来なくはないけど、それが毎日のように起きて雑務に取り組むって……記憶容量の整理も上手くいってないのに……ハァ)」

 

息苦しい服に全身を包み玉座で息を吐く。

全裸の何がいけないのだろうか?

 

アドミニストレータの憂鬱は続く。




余談
“始まり”はアルトリアが居なかったらゲームクリアまで第一階層の『始まりの街』から動かなかった連中です。


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私の名前は――アルトリアァァァァ!!!!

私の名前はアルトリア・ペンドラゴン

偉大なる主、アドミニストレータ様より天界へ人理救済の単願を受け、召喚に参上した『円卓の騎士』騎士長である。

 

「甘いぞ、ベルクーリィィ!!!」

「ぐわぁぁぁぁ!!!」

 

と、言っても我々が下界に降りるのは後数十年ほど先の話らしい。人界と暗黒界を隔てる壁の天命が尽きた時――人と彼らの生存を掛けた戦が始まるのだ。

我々がいざ早くも召喚されたのには訳がある。

 

一つは、召喚に伴い天界であった全盛期の力を初期化された私達が再び力をつけるまでの準備期間。

二つは、同じ天界の騎士として恥ずかしい整合騎士の強化の為。

 

アドミニストレータ曰く、天界で我々の序列はとても高い物だったらしく当初は召喚出来ずに我々よりも下位、つまり整合騎士達を召喚していたらしい。

今になって我々を召喚出来る術式を開発出来たそうだが、天界騎士が下手に下界の文明レベルを乱してしまわぬよう、天界での記憶が封印されてしまうのは同じの様に、我々は更に弱体化されていたらしい。

 

それがステイシア神様のお考えによる物なのか、アドミニストレータ様の術式に不具合があったのかは分からない。

現在でこそ、下位騎士達に面目が立たないような時期は達したが、全盛期までは程遠い。

 

「より、精進しなければ」

「……止めて、くれ。これ以上強くなられたら俺達の体が持たねぇ」

「何を甘ったれたこと!ベルクーリィィ!!!貴様は走り込み追加だ!」

 

最近の悩みは下位騎士いや、下界では整合騎士だったか。

彼らのやる気のなさ。こんなモノで人類史の明日を掛けた戦いへ挑もうなど…片腹痛い。アグ君やトリスタンはそれはもう現状を嘆いていた。

天界では下位だったというのに下界におりて上位の存在になった途端に有頂天になるなど、騎士道精神が緩みきっている。

これは、ステイシア神様を守る天界の上司として精根を叩き直してやらねばなるまい。

 

「詠唱が遅い!一秒で一矢、二秒で五矢、生成しなさい!」

「うっぐ……はいっ!」

 

「おせぇ、おせぇ、おせぇ、!!!てめえら四旋剣は剣しか振れねぇのか!切られたら神聖術で回復しながらやり合えや!」

「「「はいっ!」」」

 

「――転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)

「これは……斬れない!」

 

ベルクーリ、デュソルバート、四旋剣、シェータ

今回の犠牲しゃ……参加者にミッチリと特訓を重ねさせ秘奥義の連続技を使えるように叩き込む。

 

まだ円卓から一本取った者はいないが、後数年もすれば百回に一回ぐらいはあり得るだろう。

 

うむ、後輩を育てるのは存外に楽しいな!




アドミニストレータ「……まぁ彼らよりはマシよね」
アルトリア「おや、剣に興味が――
アドミニストレータ「ごめんなさい。何でもしますから、それだけは勘弁してください」


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霜麟鞭

迷走中


四帝国統一大会。騎士としての最上位の称号である整合騎士の地位や名誉を褒賞として、人界全てから名のある剣士が覇を競い会う大会での出来事。

エルドリエ・ウールスブルーグは病弱な母と共にその会場へと訪れて、素振りをする参加者や各国の重鎮が佇む観客席全てに目を輝かせて見物していた。

 

「あれはアドミニストレータ様に初めて整合騎士になったとされるベルクーリ様ではありませんか!

内政の為、あまり表舞台には姿を現さないお二人があんな所に!」

 

石作りの地面を跳び跳ねて嬉しそうに話すエルドリエ。

息子の楽しそうなことに頬を緩める母親は藤色の長髪をたなびかせる芸術のように美しい女性と、鎧の上からでも分かるほどに鍛えられた強靭な筋肉を持つ大男を見る。

 

「確か、我々の数倍も長生きなさっているのよね」

 

「ええ!あのお方らは未来永劫人界の平和の為に尽くすことを条件にステイシア神様から永遠の命を約束された素晴らしき存在です!」

 

頬に手をあてて、こうしてみると自分達よりも何百年と長生きしているようには見えない。むしろ親近感が湧くと口にする母親に、エルドリエは首を傾げたが、よくよくみるとアドミニストレータの目下には濃い隈が浮かんでいる。

エルドリエは気付かなかったか、母親はあんなに偉い人でも苦労しているんだなぁ、と少しだけ同情した。

 

 

 

 

「ね、眠いわ……少しだけ仮眠をとってもいいかしら?」

 

「勘弁して下さい。そんな所をアグラヴェインの旦那に見られでもしたら、殺されてしまいます」

 

「私、昨日から寝てないのよ…?」(涙目)

 

 

 

 

 

開会式も終わり、第一回目の試合を前に整合騎士と整合騎士のデモンストレーションが行われるという話が出るとエルドリエのテンションは今季最高潮に達していた。

 

整合騎士と言ってもやはり実力はピンからキリ。無論一番下だからと言って、自分のような若輩者がどれだけ苦労してもかすり傷出来ないほどの強者であるのには代わりないが、やはり強いヤツと強いヤツが戦う時が一番面白い。

上位貴族であるエルドリエは一般の人間が知りようがない知識も修めていて、整合騎士の名前と、だいたいどれぐらい強いかといわれているかは頭に入っていた。

 

ゆえにベルクーリ様が出られた時、これはもう誰が出てきても勝負にならないのではないかと少しだけ落胆したのを覚えている。

ベルクーリ様は初めの整合騎士、そして最強の騎士として知られるお方。

老いることのないその肉体で何百年も修行を積み重ねただけでなく暗黒界との戦場から幾度も帰還してきた彼を打ち負かすほどの武功を轟聞かせる整合騎士をエルドリエは知らなかった。

 

だからこそエルドリエはその結果が信じられなかった。

 

「――貴公も腕を上げたようでなによりだ」

 

シーンと会場は静まりかえる。

 

圧倒。その劇場での出来事を一言で表すとしたらそれ以外の言葉が見つからない。

 

黄金の髪を揺らす女神のように美しい少女。

誰もが見惚れるそのプロポーションからは想像も出来ない瞬発力と力量を兼ね備え、その鋭い眼光は獅子のごとき勇ましいものだ。

 

……彼女の全てが剣士としての己の遥か上を行き、そして誉れある騎士が授かるとされる最上の称号、整合騎士最強の名を冠するベルクーリから一太刀も許さずに下した無駄のない剣舞のような蹂躙劇はあまりに衝撃的だった。

 

「皆、この者が何者であるか――」

 

未だ誰もがその衝撃に立ち直れずに呆然とする中。二階にある席からフワリと降り立ったアドミニストレータ様は彼女=アルトリアが上位整合騎士を越える最上位騎士という地位につくものだと語った。

 

「最上位騎士は通常の整合騎士の百倍の力を持つ、正真正銘ステイシア神様の寵愛を受けた眷属といえるでしょう」

 

エルドリエはその言葉を固唾を飲んで聞き入った。

 

「整合騎士になれば、彼女に指南することも叶うかもしれませんね」

 

整合騎士にならねば、と思ったのはその瞬間。

会場は沸騰した水のように沸き立って歓声を上げる。

あれほどの剣士に無限の時の中で習えるのだ。剣を一度でも握ったことのあるものなら嬉しく思わない筈がない。

 

「母さん、僕は整合騎士になるよ!」

 

母親は目の下に隈が出きるような辛い仕事を息子が死ぬことも出来ずに何百年とすることになるのを思うと、止めさせたほうがいいんじゃないかと思ったが、続けて整合騎士になれば、母さんにちゃんとした治療を受けさせてもらえるようにもなる筈だよ!

と満面の笑みで言う息子に、自分のせいで夢を諦めるよりはいいかもしれないと快諾した。




アドミニストレータ「十八時間労働なんてブラックよ、訴えてやる!」


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―番外編―アホ毛ェェェ!!!


 

「―――アルトリア騎士長のアホ毛が欲しい、ですか?」

 

某日。セントラル・カセドラルにてやりたくもない書類仕事にぶつくさと文句を垂れ流しながら判子を押していくアドミニストレータは、突然思い出したかのようにアルトリアのアホ毛が必要だと訴えた。

 

「そうよ、ずっと前の話なんだけどね。あの子が最多ての地で拾ってきた剣を私があの子専用の神器に造り上げてあげるって約束してたの」

 

雑務の傍ら記憶容量の整理も平行して行っていたアドミニストレータは五年ほど前のこと。

まだ彼女達が下位整合騎士ぐらいの力しかなくて暗黒界との戦闘で重傷を負って帰還してくるのも珍しくなかったある日、アルトリアは最果ての大地と言われる――ポツンと存在する奇妙な石板を除けば、あらゆるオブジェクトの存在しない荒野にて一本の錆び付いた剣を持って帰還してきたのだと思い出すように語り出す。

 

……

 

…………

 

 

…………

 

「アドミニストレータ様、このような剣を拾ったのですが」

 

「何がこのような剣を拾ったのですが、よ。

天命が一割切っているというのに、何故平気な顔をしているのかしら……全く、呆れてものも言えないわ」

 

外傷や血の痕などは事前に神聖術で誤魔化してきたようだが、アドミニストレータの手に掛かれば、他者の天命の残量を把握するなど容易いこと。

 

天命が一割あるかないかの状態で平然とするアルトリアに、やはり術式に不手際があったのかと頬に手を当てて困り顔になる。

 

最強の手駒――円卓の騎士は《アンダーワールド》の基盤となった世界《ソード・アート・オンライン》にて唯一無二の王として絶対的な力と富を誇っていたという。

 

アドミニストレータは蓄積された膨大なデータや本人のプレイデータなどを参照して彼女達を造り上げたのだが、あまりに高ステータスだと万が一反旗を起こされた時に手に終えない可能性があると懸念してステータスを初期化した。

 

彼女自身、他者の権限を消却するような真似は経験したことがない。

 

「貴方達には、死への恐怖というものがないのかしら?

例えば……そうね。この剣で貴方の肌を軽くつつけば死んでしまうのよ?」

 

軽い金属オブジェクト操作で短剣を作ったアドミニストレータはその刃先をアルトリアへと向けてみる。

殺す気など微塵もないが、この剣でチクりとでもやってしまえば死んでしまうのは事実であった。

 

「死ですか……?」

 

「なんで貴方が困ったような顔をするのよ」

 

まるで知らないことを聞かれたような顔。

まだ殺気がありませんからと達人ぶってくれた方がマシな返しに、息をこぼしたアドミニストレータは短剣を適当に投げる。

 

「それで、貴方が自身の天命に頓着しないのは理解しましたが、その錆びれた剣がどうしたのです?」

 

「それがですね。

私がカヴァスと共に暗黒界を抜けた最果ての大地の空を駆けていた時のことです。

突如として晴れ間であった天候に分厚い雲が広がって、落雷を危惧した私達は大地へと降りました」

 

それからまもなく激しい雷雨に襲われる一人と一匹。

 

アルトリアが即席の神聖術で作った穴蔵に避難していた為体を冷やして天命を消費するようなことはなかったものの、かなりの時間をその中で過ごしたという。

 

そして夜まで続いて、今日はここで野宿をするかと考え始めた時のことだ。

 

 

重低音。嵐の中を竜以外の何かが鈍足に駆ける音をアルトリアは聞いた。

 

 

とても大きな……下手をすればセントラル・カセドラルよりも大きいのではないかというナニかが動く音。

 

不気味ではあったが、それが人界の方角を示していることに気づいたアルトリアは相棒の飛竜であるカヴァスにお願いして暴風雨に構わず突っ込んだ。

 

「すまない、カヴァス。耐えてくれ!」

 

だが雲の中はゴロゴロと雷の音や光。そして顔に打ち付ける雨と風でナニかを目視する所ではなかった。

 

カヴァスの背から振り落とされないようにと手綱を握るのに必死で、カヴァスは悲鳴のような鳴き声を上げる。

 

「上だ……そうか、上なのか!」

 

いつ雷に打ち落とされてしまわないかという状況で、アルトリアはナニかを探った。

そして、あれほどまでに大きな気配だったそれが見つからないのはおかしい。

この雲の上にいるのではないかとアルトリアが気づいた時だ。

 

 

雲の裂け目を掻い潜ったアルトリアの視線の先に、石壁のようなものがチラリと映った。

 

 

「……あ」

 

嬉しさか、むさしさか、よく分からない感情が胸の内で弾ける……よりも先に、一筋の稲妻がカヴァスを直撃してカヴァスとアルトリアは落とされる。

 

 

そうして、目覚めた時に自分の横にこの剣があったのだとアルトリアは語った。

 

「貴方の天命がこれほどまでに減少していたのは空から落ちたからなのね」

 

ステータスでいえば下位整合騎士クラスでも四旋剣を束に相手にして無傷の勝利を飾れるアルトリアが、まさか暗黒界の軍勢風情にここまでしてやられると思えなかったアドミニストレータはその話に納得する。

 

そして彼女が持ってきた剣を見て舌を巻いた。

 

これは剣としては死んだも同然だが、上手く使えば新しい神器の素材へと出来るかもしれない。

 

ちょうど円卓の騎士達用に神器を用意しなければと考えていたアドミニストレータにとっては寝耳に水。

 

「このままだと、ただ膨大な天命を持つだけのなまくらだけど、使えそうね。

この剣は私が預かってもいいかしら?」

 

「質問なさるまでもありません。全てはアドミニストレータの思うがままに」

 

…………

 

 

………

 

 

……………

 

そう言えば、いつの間に立場が逆転したんだろうか。

今にして思えばかつての彼女達はまさに都合のいい駒のようであったのに、今では仕事と服を着ることを強要してくる悪魔みたいな存在だ。

 

「ま、あれよ。その剣を使ってアルトリア用に神器を作って上げようと思うんだけど、それにはあの子の一部が必要なの。

どうせ貴方達のことだから、あの子に剣を向けたくはないのでしょう?

なら、アホ毛をブチりと抜いてきなさいな」

 

「……御意」

 

ヒラヒラを手を振ってアグラヴェインを退室に追い込むアドミニストレータは、扉がしまった瞬間に「ヨシッ」と小さく拳を握りしめた。




アル「な、何をするガヴェイン卿、トリスタン、ランスロッド、アグ君!?」

アグ一同「騎士長ご覚悟!」


アド「やっとサボれるー!」

モー&ベディ「貴方も道連れです」


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アドミニストレータァァァァ!!!

天界に最も近く人界の首都に位置し天高く聳え立つ塔セントラル・カセドラルの支配者アドミニストレータ。

 

数年前に円卓の騎士を召喚して以来、惰性の限りを尽くした支配者の生活習慣を一変させ、半泣きになりながら政務に勤しんでいた彼女だが、本日はサボりぎみの彼女を監視する鬼の騎士が塔を留守にしているにも関わらず、神妙な顔をして下界を見下ろしていた。

 

「た、大変ですぞい!猊下!暗黒騎士の軍団がすぐそこまで!」

 

「黙りなさい!そんな事は分かっています!」

 

転がり込むようにして彼女の視界に入り込んだ肉だるまを冷たく叱咤し爪を噛んだ。

 

(最終負荷実験までまだ時間はあった筈、何故、奴らはこんなに早く動けた!)

 

乱雑に髪を掻きむしる。

彼女にとってそれは円卓の騎士の狂った精神性以上に想定外なものだった。

 

 

―――数時間。

人界と暗黒界を隔てる壁が何の脈絡もなく消滅したのだ。

 

 

 

 

 

 

「皆さん落ち着いて、落ち着いてください!」

 

「我々がセントリアまで皆さんの安全を守ります!」

 

アドミニストレータの怠慢な政治により腐敗した貴族達は円卓の知将アグラヴェインによって幾分か解消され、数年前から本来の姿を取り戻し始めた守備軍の存在によって『門』周辺にあった村の住人の避難は比較的早くに済ませる事が出来た。

 

「……そんな、僕達の村が」

 

「村なんて何度でも建て直せばいいのよ。前を向いてユージオ」

 

馬車に揺られた少年少女が呆然としながら見つめる先にあるのは、消滅した門の奥から暴れ出た山ゴブリン達とそれを抑える守備軍の前衛部隊が衝突する村の中。

獣のような怒号と硬質な鉄の塊がぶつかり合う金属音、何かの合図を知らせるラッパ音。既に戦禍は火の手を上げ、ゴウゴウと燃え盛る村の建造物は次々に倒れていく、

 

「……くそっ」

「…………」

 

少年は無意識に拳を強く握りしめ、言葉では元気つけようとするも内心の戸惑いに心の整理がつかない少女は悲しげな顔をして俯かせた。

 

 

 

 

 

 

《セントラル・カセドラル》

 

管理権限で己を上回れる事を忌避して下界に降りる事を禁止した円卓の騎士を超緊急的な例外的処置として最果ての山脈に出払った今、手元に残ったのは性欲魔人のデブと一部の殲滅戦向きではない神器を得物とする整合騎士のみ。

 

「被害状況は?」

 

「最果ての山脈より進軍するゴブリン兵に周辺の村は壊滅、守備軍の働きにより幸いにも、人的被害は最小限に抑える事が出来ましたが、最終避難場所である央都セントリアだけで全ての村人を賄えるだけの食料を確保出来るのは、二ヶ月が限界でしょう」

フラクトライトの記憶ホルダーから容量の無駄だからと随分前に消去した見に覚えのない下位整合騎士から話を聞く。

 

(二ヶ月……。円卓が手に入るまで、本戦に使おうと使おうと思っていたソードゴーレムの素材に変えるか……。

いえ、円卓の反感を買うのは不味い。今最も避けなければならないのは、内部分裂。多少の実害は飲み込むべきだわ。それに食糧は増やそうと思えば増やせるのだし、円卓をリセットして万が一、ソードゴーレムでも太刀打ち出来ない存在が出てこられたらその時点で終わりなのよ)

 

彼女は自分さえ幸せなら他の何者が不幸のドン底へと落ちようと微塵も心を痛めない自己愛主義者だ。

それ故、平時ならこのような考えには至らない。自分が誰かの為に努力することが嫌で、例えそれが片手間で済むようなことであっても、食糧を創造する為に神聖術を使うなど人界の全ての人間に頭を下げられたとて論議の余地なく断る冷酷非道な人間である。

 

しかし、空が落ちるだとか地面が失くなるだとか世界中が一瞬にして真空になる等と言う、杞憂と云われる絶対にあり得ない事が起きた状況化では話も変わる。

 

これは、

荒廃した紅い大地で闊歩する褐色の肌を持つ人間やゴブリンやオークなどの化け物が住む暗黒界から、人界の豊かな資源を求めて侵略を開始した総じて亜人と呼ばれる侵略者から国や領土を守る単純な話ではない。

 

砕ける筈のない……少なくとも後十年は持つ筈であった『門』を砕いた何者かへ対処するための布石なのだ。

 

アドミニストレータはチュデルキンの方へ視線を向ける。

 

「暗黒騎士の対処はどうなの?」

 

「ミ、ミニオンを向かわせましたが!全く時間稼ぎにもなりしませんでございます!」

 

小さく舌を弾いて、整合騎士を向かわせるまで持たせろと命令した彼女は震えるデブと下位整合騎士を出払う。

 

そして黒い台を操作する彼女は【エラー】その三文字を映し出した板を叩く。

 

「くそっ!」

 

退路は塞がれてしまった。

もう戦うしか道がないのは分かりきっている、それに上位の整合騎士にすら遅れをとる暗黒騎士がいくら集まろうと己に勝てる訳がないのも彼女は理解している。

―――だが、姿の見えない何者かが此方に手を伸ばしているという空想が彼女の心を恐怖に侵食する。

 

「円卓の誰か一人でも残すべきだった」

 

後悔しても遅い。

それでも、アルトリアがいれば、アグラヴェインが、トリスタン、ランスロッド、モードレッド、ベディヴィエール。

彼らの中で一人でも残っていればこの不安を紛らわす事が出来たのに…………そう考えずにはいられなかった。

 

『成る程、お前がアドミニストレータか』

 

「何!!?」

 

空間ごと切り離したアドミニストレータの広い私室から黒い闇が溢れだす。



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闇神ベクタァァァァ!!!!

「成る程、お前がアドミニストレータか」

 

何者であろうと干渉を遮断する空間が裂けた。

 

「何ッゥ??」

 

アドミニストレータは目を見開いて驚く。……あり得ないと。

この空間には円卓の騎士は勿論のこと自分と同一の管理者権限を有するカーディナルでさえ守りを破る事は不可能だ。

それこそ()()()()()()()でさえ閲覧することは不可能だろう。唯一の弱点は、寝ていながらこの空間を維持することが困難な為、籠城には向いていないことだが本気を出せば一ヶ月は維持できる。

 

「半神半人と呼ばれているからは期待して来てみれば、隠れてやり過ごす気だったのか?

存外……臆病だな」

 

漆黒の鎧と血のように赤いマントを揺らす金髪の男だ。

裂けた穴から顔を出して、宝石のように光を反射しない瞳が驚愕に息を飲むアドミニストレータを捉え、男は彼女に対して侮辱の言葉を浴びせた。

 

「探すのに少しだけ手間取った」

 

褐色の肌と顔の彫りの深さから暗黒界の人種である事が伺える。実年齢は青年とも初老とも見れる微妙な所、ガッシリとした肉体と遊びのない歩行から近接戦に心得があることは分かった。

 

「我が名は、暗黒神ベクタ」

 

その名に彼女は目を見開く。

 

「何ですって」

 

その名は、その名前は――この世界の創造種たる現実世界の人間達(ラース)が、安い金で雇った三流ライターに適当にでっち上げさせたこの世界の創世記にある魔王と怖れられた悪神の名だ。

 

かつては竜や巨人がいたこの世界でもその存在は完全に創作の物であることを彼女は知っている。

 

(……ブラフ?

それとも思い込みの激しい異常者かしら?)

 

警戒心を強めるアドミニストレータは相手の真意を探るべきか早急に撃ってでるべきかを迷い、後者を選択した。

一歩下がって片手を翳す。

 

「《システム・コール》《ジェネレート・サーマル・エレメント》《ディスチャージ》」

 

生命の源たる神聖力。呪文を用いてそれにあらゆる属性を付与して現象化させる魔法のような神秘。

アドミニストレータの高速詠唱を経て、熱性を帯びた十の光球が男に射出された。

 

「…………」

 

命中する。空間に漂うありったけを注いだ一撃を前に余波で大理石の床は砕けて粉塵が辺りに舞った。

咄嗟に対応しおうにも彼女がこの空間にある神聖力(空間リソース)を使いきってしまったせいで、神聖術による防御は不可能。

腰にある剣に触れず、何も抵抗せずに受けたのは疑問に残ったが、天命か防具に余程の自信があったのだろうとアドミニストレータは当たりをつけ、相手がどう動くと様子を見た。

 

整合騎士なら膝をついて立ち上がれない負傷となる筈だが、円卓なら無傷だ。その前例が彼女の慢心を控えさせたのである。

 

「いつまで、土煙の中に隠れているつもりかしら。この空間に侵入するような存在がまさかこの程度でくたばると――私がそんな滑稽な考えに至る訳がないでしょう?」

 

言いながら寝室に腕を伸ばした。

天涯付きのベッドからその屋根を突き破る破壊音が鳴り響き、彼女の手の平に納まったのは、藤色のレイピアである。

 

円卓一のクレイジーモンスター『モードレッド』。アグラヴェインの小言から逃げ、道中で出くわせでもしたら最後、有無を言わせず斬りかかってくるヤツ対策に彼女が自らの得物である神器『シルヴァリー・エタニティ』を元に再構築し、無駄な装飾を取り除き、効率と切れ味を追求した上位整合騎士の神器すら越えた至高の武器だ。

 

「それとも近接戦がお好みかしら?」

 

「――そうだな、この世界のシステムは既に網羅したが」

 

彼女の言葉に答えるように粉塵を振り上げた剣で吹き飛ばす男。

その右手には腰にあった剣があり、左手には反十字が掲げられた大盾があった。

 

「こちらの方が馴染み深い」

 

 

 

 

 

 

 




次回、『○○ァァァ!!!』


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茅場ァァァァ!!!!?

漆黒の男が槍のように突き出した大盾がアドミニストレータの懐に潜り、彼女は細剣を滑り込ませ寸前で弾いた。

 

「ッゥ!」

 

「はぁぁっ!!!」

 

思いの外、重い一撃だった。

だが、円卓の誰よりも軽い一手であった。アドミニストレータは流れるように細剣を構え、淡い光が彼女の細剣を覆ったかと思うと

―細剣ソードスキル《ニュートロン》―

五連突きをお見舞いする。

漆黒の男はそれを盾で受けるも、武器の優劣は此方が圧倒している為にノックバックを受けて後ろに大きく後退する。

 

(想定出来たことだけど、当たり前のように連続技に対応したわね……)

 

『門』の件といい、この空間に侵入して見せた事実からこの世界の者である可能性は低いと思っていたが、秘奥義などと呼ばれるソードスキル、未だ単発技しか伝わっていない状況で完璧に防いでみせるなんて簡単に出来る芸当ではない。偶然と片付けるには違和感を感じずにはいられない物だ。

 

アドミニストレータは追撃の手を休めず空間遮断を解いて外部から無理やり引き寄せた神聖力を束ねる。

「《システム・コール》《ジェネレート・メタリック・エレメント》《フォーム・エレメント》《アロー・シェイプ》《フライ・ストレート》《ディスチャージ》」

 

神聖力が鋼素の塊に変換され、そこから更に鋼の矢じりへと形を与える。

――出し惜しみはする気はない。全身の触覚を使い千個の矢じりを生み出した彼女は一斉にそれらを射出した。

 

「むうっ!?」

 

漆黒の男はそれに少しだけ驚いたような顔をして先程と同じように盾を前に出す。その途端、アドミニストレータはニヤリと笑い、矢を操作して男の四方八方に拡散させた。

 

「これで終わりよ」

 

散らばった矢が空中で静止し男の方へ方向転換する。その大盾で全身を覆えるのなら話は変わるが、どの方角へ大盾を構えようと背中は隙になる。

 

「《システム・コー」

 

男は神聖術を唱えようとするが、間に合う訳がなく。

矢じりは鎧を突き破り、穴の空いた水風船のように男は死ぬ。

 

 

 

その筈だった。

 

 

 

 

「これが心意というものか」

 

(あり得ないッッ!!?)

 

男の周囲直前で停止した。

アドミニストレータは狼狽する中で、男はその光を反射しない瞳で此方をジロリと見る。

 

「人の想いはシステムを越える。かつてそれを示した人間がいた」

 

男は口を開き、世間話でもするかのように剣をしまう。

鋼の矢じりが震え出した。

 

「その時、彼は確かに満たされた。

目指した物は違ったが、こんな結末も悪くないと笑って最後を迎えたのだ」

 

男は表情を変えず、千の矢じりの矛先が彼女へと向いて男の背後に広がる。

 

「――だが、心残りがあった。

()の英雄に魔王として対峙し、雌雄を決するという子供のような夢だ。

電子の渦に脳内が焼ききれていく中で、彼は思った。

 

この夢の続きを見たいと。英雄と魔王。どちらが真の勝者に相応しいのかと死に行く中で抱いたのだ」

 

「何意味の分からない事を――」

 

アドミニストレータは意図の読めない発言に戸惑いながらも防壁を構築していく。

 

「その人間の名を茅場晶彦という。彼は夢に生き夢の中で死んだ男だ。そして私は彼の思いを受け継ぎ相容れない本体から切り離された端末の一つである」

 

何故、此方の時間稼ぎに協力するような隙を見せるのか、自ら放った矢じりに対して、心意がプラスされようと防ぎきれる術式を構築した彼女は――そこで、弧を画く男の口元に視線が吸い寄せられた。

 

「この舞台(ゲーム)、彼女と私の為に乗っ取らさせて貰う事にした」

 

まるで喝采するように男が両手を広げたのとほぼ同時に鋼の矢じりが彼女に迫る。

金属オブジェクト無効化に加え、何十と防御を重ねているのだ。当然の如くそれらは彼女を前にして遮られる。

 

男は跳んで大盾を突き出した。

 

「馬鹿の一つ覚えもいい加減に……?」

 

彼女は細剣でそれを防ごうとするのだが、先程よりもその一撃が重く……それでも細剣ソードスキルを放つ彼女だが、不思議な事にノックバックは起こらず男は堂々と目の前に立っていた。

 

「言い忘れていたが君の使う秘奥義という物は全て私が生み出したものだ」

 

男の振り上げた剣。

 

「私に挑戦するのなら、秘奥義なしで十全に戦えるようにならないとな。

まぁここで死ぬ君には関係ないことかもしれないがね」

 

彼女の心臓へ軌跡を描いていく剣は紙のように防壁を破壊していき、彼女は何となくこれに斬られれば死ぬと悟った。

抵抗する意思はある。しかしソードスキルには硬直時間という物があり、肉体は動かない。

 

(こんなに呆気なく――私死ぬんだ)

 

死ぬ恐怖すら許されない寸前において彼女は、今までの走馬灯が浮かび上がり、己が生きてきた年月でみれば瞬きのような、円卓の騎士達との思い出ばかりが頭を過る。

 

『我が王、今日中にこの山を片付けますよ!』

 

『いやー!そんなに仕事がしたいなら貴方がやりなさいよ!』

 

 

『おっ、王様はサボりか?ならオレと殺し合えるな』

 

『何故そうなる!!?』

 

 

『またフラれました』

 

『……あっそ』

 

 

『うそっ美味い!』

 

『フハハそうでしょう!そうでしょう!マッシュは無限の可能性を秘めているのです!』

 

『はいっカット!!』

 

『打ち上げね!つまり休み!!!』

 

 

『匿ってベディ、アグラヴェインに殺される!!!』

 

『全く、仕方ないですね…』

 

 

『やっ、やめろぉぉぉ私のアホ毛を抜こうとするのではない!』

 

『あはは!王様命令よ、アルトリアのアホ毛を私に謙譲させなさい!』

 

『『『ハッ』』』

 

『貴様ら!!!?』

 

…………

 

 

……そっか。アイツら達には迷惑ばかり感じていたけど。それでも私がリセットしなかったのは、楽しかったからだ。

 

涙腺が緩んだのか視界が波紋に揺れる。

 

 

「我が王よ!!!!!」

 

瞬間、黒い鎖が壁を突き抜け彼女に巻き付いた。




次回『円卓全滅』

暗黒神ベクタ(茅場晶彦の亡霊)

ネットの海に解き放たれた茅場晶彦の心残り。
データの存在となった彼にとってそれは重大なバクであり、本体の消滅すら誘発しかねなかった。故に茅場晶彦はそれを分離し、消滅させようとしたが逃げられた。
彼は英雄(アルトリア)と真の決着をつけることだけに執着し、その為ならば手段を選ばない。
アンダーワールドに侵入した彼は、最高アカウントをジャックすると暗黒界から侵略を開始した。

全ては彼女と再び戦う為だけに。


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円卓全滅ッゥゥゥ!!!!?

「円卓の騎士達よ、二度は言わぬ。故に心して刻むが言い…………我々は死ぬ」

 

最果ての門に向かう前、あの方は言った。

 

「それが正しい事なのか愚行なのか私には分からない。しかし、敵軍は質、量共に一流を越え個にして我々に比肩する怪物ばかりだ」

 

それは、報告で受けた信じたくもない悪夢の真実。整合騎士が一撃で再起不能にされ、最果ての壁を乗り越える度に目にした大樹、『ギガスシダー』。膨大な天命を持つあれをただの一兵ゴブリンが欠伸をしながら斬り倒したというのだ。

 

過去に暗黒騎士やゴブリンやオーク、ジャイアントなど、一通りの種族と剣を交えて勝利してきた彼らだが、奴ら中でも充分な修練と装備が与えられた暗黒騎士の戦闘力は整合騎士が一人に対して五人がかりでやっと対等といった所。

 

時と状況から整合騎士を下した者やそのゴブリンが例外だったとは考えられず、何らかの方法……我々には理解出来ない方法を用いて奴等が異常な力を身につけたのは分かるが、ギガスシダーを片手間に斬り倒すなど我々でも不可能だ。

確かに一撃で斬り倒す事は出来る。それでも数十秒ほど全神経を集中させる時間が必要だ。

 

「我々は死ぬ。それは逃走が許されず人界の明日の為に出来るだけ多くの敵を道連れにするからだ」

 

アドミニストレータ様は過去に円卓の騎士を整合騎士の百倍の戦力を持つと称した事がある。

円卓と同等かそれ以上か。敵軍の総数は此方の守備兵を加えた約二倍。

 

「―――行くぞ」

 

絶対な死を前に死相すら見せずに歩き出した円卓の騎士。

 

「お止めください!円卓の騎士様!

逃げましょう、こんなの勝てっこない!負け戦だ!」

 

整合騎士レンリ・シンセシス・トゥエニセブンはたまらず叫んだ。

 

「あれだけの数を前にあまりに無謀な話だ!

人界最強たる貴方々を時間稼ぎの駒に使おうなんて間違っている!!!?

逃げましょう、貴方達さえいれば……今は無理でもきっと、いつか奪われた土地を奪い返すことだって」

 

彼はアドミニストレータが過労に耐えなね少しでも円卓の注意を逸せればと……それだけの理由で凍結状態から解き放たれた未熟な整合騎士だ。

神器すら使えず、円卓の騎士に勝てなくとも数分、数十分と粘ってみせる同僚達(整合騎士)の中で一撃すら耐えられない、指南された中では一番伸び代が好ましい結果でなかった騎士である。

 

(何を言ってるんだ僕は。この人達の覚悟を、侮辱するような事を口走るなんてっ)

 

彼自身、何故そのような発言をしたのか分からなかった。

円卓の犠牲は辛い決断かもしれないが、暗黒界の軍勢を押し止める事が叶うのは彼らぐらいで、守備軍や整合騎士では薄っぺらな紙と変わらない。

優先させるべきは人界の民とアドミニストレータ様のお命。

 

「あ、僕はッ」

 

謝罪しなければ、と口を開こうにも言葉が出てこない。

口ごもる彼に業を煮やしたモードレッドは最後に特大のカツを入れてやろうかと前に出る。

 

「―――いいえ」

 

けれど、彼女はそれに答えた。

 

 

 

 

初めは怖かった。

 

死ぬことも、痛みも、敵と殺し合い命を奪う事も。

使命も力もない小娘ごときに何が出来るのかと不安だった。

 

「多くの人が笑っていました」

 

飛竜の上から初めて人界を見下ろした時の事だ。

 

豊かな大地で育つ作物は腹を膨らせ、柔らかな星草は汗水ながす仕事の疲れから微睡みを誘い、夜空は満天の星に色づき、それを眺める彼らはとても心満ちた顔をしていた。

 

この人界で暮らす誰もが生き生きとしていた。

 

その時に彼女は使命や責任などを思考から放り出して純粋に

 

―――美しいと感じた。

 

この幸せを守る為なら――何でも出来る。そんな気がした。

 

今私がここに立てているのは、仲間達の存在もあるのでしょう、ですがこの私が死ぬ覚悟を固める事が出来たのは人界の人々のお陰だ。

 

「だからそれはきっと間違いではないと思います」

 

「貴方という人は……」

 

レンリはその言葉を受けて溢れでる涙を拭うこともせず嗚咽を止めることもしなかった。

 

「……アルトリア」

 

「ベルクーリ、後の事は任せましたよ」

 

レンリの後ろに立つ全ての整合騎士はこの日の事を決して忘れないだろう。

 

「まっ、オレたちが全部倒しきっちまうかもしれないけどな!」

 

「柄にもなく死亡フラグですか……まぁ私なら、もしかしたら全て倒してしまえるかもしれませんね」

 

「未来のお嫁様候補になりうる女性全てを守りと通してみせます」

 

「いいですね、腕がなります」

 

「…………皆、初心を忘れてはいけませんよ」

 

「王を生かせ、例えその身を滅ぼす事になろうと必ずだ」

 

 

 

円卓が消え、人界の八割が暗黒神ベクタの手に堕ちたその絶望の日を。

残された二割の希望はたった七名の騎士によって成し遂げられた大偉業である事実を。



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キリトォォ!!!!

シリアスからシリアル時空へ


「ハァァ!!!!」

 

「いいぞ少年!」

 

ALOのサービス開始半年を記念して開かれた『統一デュエル・トーナメント』

その初戦、デスゲームSAOのゲームクリアに貢献した攻略組の中でも郡を抜き、数多のフロアボス攻略に躍進してきた円卓のギルドマスターアルトリアと円卓を出し抜きデスゲームクリアの手柄を独り占めした……と(円卓の一部で)悪評を買う黒の剣士キリトは剣を交えて互いの実力に感嘆のため息を漏らした。

 

「やっぱり、円卓のギルドマスターともなると違うな」

 

「プレイヤーネームが同じなので、もしやと思いましたが月夜の黒猫団の団長さんでしたか」

 

キリトは五十層攻略記念の円卓主催の祭りで円卓の一人ランスロッドと一度だけやり合った事がある。結果的に勝利を拾えたとはいえあの時はかなりギリギリの戦いだった。それこそ二刀流を出し惜しんでいれば何も出来ずに敗北していただろうという凄味を彼からは感じた。

その時の雰囲気を思いだし、片手剣に両手を添えるキリトは一歩、二歩と横に動く。

 

「そういえば、二刀流は使わないのですか?」

 

何か策があるのだろうと察しながら楽しそうな笑みを浮かべてアルトリアは問い掛ける。

やはり、プレイヤー全ての命を背負っているという重圧に表情の変化すら乏しくなっていたあの頃に比べれば、心のゆとりという物が違うのだろう。キリトはそんな顔もするんだな……と意外な一面に内心驚きながら

 

「ちょっとな……」

 

二刀流を使わない理由を――遊びだから本気になれないなどと円卓の怒りの炎に油を注ぐような事を言える訳もなく誤魔化した。

 

「面白い太刀筋でしたので一度味わってみたいと思っていたのですが、それは残念です」

 

しかし、彼女にとってもこれはゲーム。命のやり取りをするわけではないのだ。使いたくないのならそれはどうぞと相手のプレイスタイルを尊重する礼儀は払う。

 

「ですが、私はランスロッドよりも当然強いですよ?」

 

彼女は黄金の剣を構えて踏み出した。

 

 

「そこだッ!」

 

キリトの剣が赤い光を放ちその光は縦に伸びる。

―ヴォーパルストライク―

 

(成る程。片手剣スキルの上位スキルですか)

アルトリアが踏み出す瞬間に合わせて放たれたそれは、確かに回避することは不可能だ。元々のスキルのスピードもそうだが、今彼女の片足は少し浮いているし、もう片方の足にもそれほど力を込めていない。

 

取りあえず、盾で剣の軌道をずらした彼女は数ミリほど減少するHPに目を細めて、スキル硬直で動けないであろう彼を叩こうと視線を向けるが―――「いない?」

 

 

彼女の視界からキリトは消えた。

 

アルトリアは少しだけ目を見開いて驚きのようなリアクションを取るも、彼が立っていた地面の周辺に漂う砂埃を見るとニヤリと笑い上を見上げる。

 

「原理は分かりませんが素晴らしい機転と行動力だ」

 

素直に称賛の言葉を送った。

 

「うぉぉぉぉぉ!!!!」

 

空から男の叫び声がして観客がその声につられて上をみれば、羽を広げたキリトが一直線にアルトリア目掛けて落下している。

恐らくだが、スキル硬直時間が始まる寸前に羽ばたいたのだろう。

 

反射神経がそのまま運動能力に比例するこの世界においてアルトリアの動きは己のそれを遥かに上回る。

 

SAO最後の時、『エクストラクラスでも希有なユニーク・スキルは一人一つ』だとヒースクリフは言った。だから、アルトリアが『騎士王』を得ていなければ二刀流は彼女の元に渡っていただろうとキリトは思っている。スキル硬直時間などのあからさまな隙を見せればその瞬間にHPを削り取られるのは分かりきった事だった。

 

故にキリトは天高く飛び上がって硬直時間が解けるまでの時間を稼ぐ。噂で聞くかぎり円卓のギルドマスターや幹部クラスの者は剣技においてトップクラスの実力者ばかり。長期戦はさることながら出来れば接近戦は避けたい。

決めるなら一撃に全てを込めて。

 

そして剣を矢のように引き、アルトリアを目指すキリトの表情がその気迫を物語っている。

 

「まるで燕のように素早い加速なことだ」

 

アルトリアは力強く踵を叩いて十メートルほど後方に下がる。

キリトは勢いを殺さず羽で位置を修正して綺麗な曲線を描きながらその後を追ってきた。

 

「これは二刀流なら防がれたのでしょうね」

 

アルトリアの顔に狼狽えた様子はなく、むしろ凪ぎのように静かで確かな勝利を確信している風格があった。

 

「――秘技、燕返し」

 

彼女が侍のような構えをとった、その瞬間キリトは三方向から迫る刃の軌跡を錯覚する。

 

(何、だって…)

 

どう防御すべきか。そんな思考を許す間も無く血を表す赤いドットが彼の肉体から表れ、羽を切られたのか機動力を失った彼はゴロゴロと地面に転がる。

 

「農民に出来たのだ。この私(アルトリア)に出来ない筈もないと子供のように打ち込んだ時期がありました。

結局、現実世界で再現することは出来ませんでしたが……どうでしょう三方向からの斬撃は?」

 

手を差し出して愉快そうに話す円卓の王にキリトは本物の実力者(化け物)を見た気がした。

 

(アイツはこんなのに挑戦しようとしてたんだな……)

 

ゲームクリアを前に立ちはだかる魔王でありながら絶望的な戦力差を前に果敢に挑む勇者のようなヒース・クリフ。そんな幻影を見る。

 

「本当にアンタが敵でなくてよかったよ」

 

彼女の手をとって立ち上がるキリト

 

 

「勝者!円卓のアーサァァァァ!!!!」

 

会場は湧き、記念すべき一回戦の勝者はアルトリアとなった。




キリトが初手から二刀流なら引き分けでした。


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アスナァァァ!!!!ユウキィィィ!!!!

「第二回戦は、バーサーカーヒールのアスナ!vs円卓の特攻隊長モードレット!

またもや新アーサー王伝説にその名を連ねるビックネームの到来だぁぁぁ!!」

 

実況の声に共鳴して歓声が跳ね上がる。

 

 

「一応確認するが、他人の空似とかじゃねぇよな?」

 

「貴方こそ、本物……?

なんというか、小さいのだけれど」

 

両手剣を握るモードレットはアスナの腰ほどまでしか背丈がなかった。

これでは子供、もとい幼女である。流石のアスナもゲームとはいえ幼女に剣を向けるのは気が引けたか若干の及び腰で問い掛ける。

 

「は、別にどうだっていいだろうが」

 

「その憎まれ口は本物……?

いや、でもその位の年齢なら反抗期ってことも?」

 

『カウント5秒前』

 

確信の得られない中、鞘に手を添えるアスナと両手剣を抜刀するモードレット。

 

『4』

 

『3』

 

『2』

 

『1』

 

『――0』

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はあの男が嫌いだった。

父上の栄光を横から掠め取って我が物顔で英雄を名乗るキリトとか言うクソガキが心底気に食わなかった。

 

「オゥラ!」

 

「――くぅ!?」

 

例えそれが逆恨みなのだとしても、父上があの時見せた顔が忘れられない。

 

『……そうか、犠牲者が出たのか』

 

破笑した表情から一変して哀愁に満ちた顔。

 

父上にそんな顔をさせたのは誰だ。

 

父上の努力を水の泡にしたのは、自身の命すらさらけ出した信念を汚したのは……あの七十五層の攻略に荷担した、己が目立ちたいなどという薄汚い欲望を持ったアイツら全員だ。

 

「死に腐れ!」

 

大降りの一撃をレイピアで受けたアスナは大きくノックバックを受けて大きく後退する。

 

 

「この剣筋……やっぱり、貴方はあのモードレッドなのね」

 

アスナは額から一筋の汗を足らす。

どうして彼女がそのようなアバターを使っているのかは不明だが、かつて戦った時よりも格段に強くなっている。

 

円卓の爆発力はSAOで嫌と言うほど味わったが、このALOにはレベルの概念がない。

装備の優劣は多少あれど、前よりは食い下がれると思っていたが、やはり円卓の真髄は圧倒的戦闘センス。

SAOに閉じ込められるまで竹刀も握ったこともなかったアスナが一年弱という期間で磨き上げたそれよりも、彼らは総じて天才的な剣の腕を誇る。

 

勿論、円卓全てがそうであるというわけではないが、ギルドマスターのアルトリアを中心とした7人組は、文字通り格が違う。

トリスタンやベディヴィエールが使う得物は剣でないため、剣の腕が凄いというわけでないが、彼らと同じ武器で戦い打ち負かせるとしたらそれは同じ円卓だけ。

元の才能と、それを磨き上げる時間と心の在り方が根本的に異なる。

 

「(前のように、隙をつく暇もない)」

 

アスナは五十層の大会で引き分けた時と同じようにモードレッドの剣の癖から生まれる一瞬の隙を突こうと考えたが、前回より一回りも、二回りも強くなったモードレッドの攻撃を防ぐのに手一杯で、粗探しをする余裕なんてとてもない。

 

細剣ソードスキル《リニアー》

 

最も単純な突きに特化したソードスキル。

苦し紛れに放ったそれで少しでも相手が引いてくれればと思ったが、モードレッドは全く怯まずに下から上へとアスナの斬撃の軌跡をずらしてアスナの懐に蹴りをお見舞いした。

 

「か、こほっ!?」

 

視界が急速に回転する。

これが現実世界だったのなら確実にあばらの何本かは折れていたのだろう。横目に映るHPバーが僅かに減少し、荒い息を繰り返してアスナは膝をつく。

 

 

 

「勝負あったわね」

 

会場の客席からそれを眺めていた青髪に肩に弓を掛けた猫妖精族(ケットシー)アバターの女はそう呟く。

 

「どうしてそう思うんだい?

まだ二人のHPは殆ど残ってるよ」

 

「戦闘技術が違い過ぎるわ。素人目に見たら二人が互角に斬り合っているようにも見えるのだろうけど、実際はチビッ子の方が終始優勢、決めようと思えばいつでも終わらせられる筈」

 

紫色の髪をした闇妖精族(インプ)の少女の問い掛けにこれでも狙撃主として目はいいのだと自慢気に話した。

 

「へぇ~、僕にはぜんぜん分からないや。シノンさんは凄いね。

あ、ちなみになんだけど、僕があの二人と戦ったらどれぐらい持つかな?」

 

「…あの水妖精族(ウンディーネ)なら、貴方の唯一無二のソードスキルを使えばそれほど苦労せずに倒せるでしょう。

チビッ子は、無理……いえ、頑張れば四割ぐらい削れるんじゃないかしら」

 

シノンと呼ばれる彼女は、闇妖精族(インプ)の少女の強さをアスナ以上、モードレッドと同等のようで僅かに劣るのだと言う。

先ほどの分析に比べてモードレッドとの勝算は随分と自信がなさそうだった。

 

「へへ、《絶剣》の名も安くないってね!

シノンさんの言うとおりにならないようにもっと頑張らなきゃ!」

 

彼女はそれを自分の強さをシノンがそれなりに評価してくれているからだと納得して笑顔になる。

自分としてはあの子ぐらいならギリギリ勝てなくもないと思うのだが、自分で言う《マザーズ・ロザリオ》のように、彼女も特殊なオリジナルソードスキルを持っていたらまた話も変わるのだろうと己に言い聞かせた。

 

「(ミユウと戦うまで僕は誰にも負けられないんだから!)」

 

ALO最強《絶剣》ユウキは自身を倒し得るかもしれないモードレッドの戦いに集中する。



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カーディナルゥゥゥ!!!

シリアルからシリアス時空へ


あの日、人界は滅んだ。

セントラル・カセドラルが陥落し、人界の要である安住の地とそして、円卓の騎士を失った我々整合騎士は最後に円卓に残ったアドミニストレータ様とアドミニストレータ様の御子息を名乗るローブ姿の少女に導かれて、最果ての地の先にある空虚の森と呼ばれる漂白した大地にたどり着いた。

 

「ここは、空虚の森。

文字通り神聖力の欠片もない何もない所だが、暗黒界の連中にここは探知出来んよ。当分の間は私で食糧を用意しよう、先ずは体を休めるといい」

 

少女の言葉に、ベルクーリはどっと倒れ付す。

 

「そうか、取り敢えずアルトリアの願いを叶えられたようでなによりだ」

 

彼は尊敬すべき上司であり師でもあったアルトリアが羨望した民達を守り通すことが出来たことにホッと息を吐く。

道中では何度も老人や怪我人は捨て置くべきかなどを整合騎士達や守備兵団の長達と口論した。

誰も見捨てないなどと、ずいぶんと強引な案を押し通したものである。此方は彼方側の一兵のゴブリンごときに決死の覚悟で挑まねばならぬほどの追い詰められた状況だというのに、円卓の騎士が消えた今、戦力の要である俺たちが老人などを背負っているのは、端から見れば腹が捩れるほどに滑稽な様だったに違いない。

 

「……一応、聞く。アグラヴェインの旦那は助かりそうか?」

 

「……無理じゃな。アドミニストレータの前に現れた時に既にアヤツの天命は尽きていた。それに加えて空間リソースの乏しい空間での身を削った完全武装支配術。

肉体の損傷も激しく、今は何とか凍結術式で消滅を誤魔化しているがフラクトライトが砕け散ったのだ。目覚めることはなかろうて」

 

まったく、あの女があれほど忠誠深い部下を持ち、そしてあれほどまでに焦れ込んでいたとは私も思わんかった。

 

最後の言葉は声に出ず、もし自分がもう少し早く書庫から出ていれば円卓の何人かは残せていたかもしれないと思うと少女――カーディナルは臍を噬まずにはいられない。

 

あと少しという所まで人界の平和はきていた。もしかすると私とアドミニストレータが和解するなどというありえない未来もあったかもしれない。

 

現にあの女は私が姿を見せて先ず、『何でもするから彼を助けて』と言った。

 

己と同等の管理者権限を持つ私を心底煩わしく思い、あれほど殺意を抱いていた女の口から開始一幕にもたらされたそれがあまりに信じられず、さしものカーディナルといえどあの時は目を見開いて驚いた。

 

私の知るこの自己愛主義者に何があったかは知らぬが、どこまでも他を顧みぬアヤツの心を変えて見せた円卓の騎士と呼ばれるもの達は類い希なる偉大人であったと感嘆を覚える。

 

だからこそ、惜しいと思う。

アドミニストレータが円卓と、つまりは自身と卓を囲むことを許可してしまうほど心許していた彼ら全員が故人となってしまったことに。

 

主の危機に死に体であった己に鞭を打って駆けつけ、見事救って見せた男は恐らくはアドミニストレータの所に駆けつけるより前に死んでいたのだろう。心意でこの世界の法則に逆らって死を拒絶していたのだ。

心意だけであれほど戦えるというなら……万全ならどれほど強かったか。

彼一人でも生きていれば、私とアドミニストレータをもってしてもこの世界の者でないと言う以外に正体すら分からない男とそれが率いる無敵の軍勢を相手にして人界を建て直すことも出来たかもしれない。

 

「……そうか。少しだけ休ませてもらうわ」

 

陰りのある表情をしたベルクーリ。

薄々分かってはいたがやはり、彼の死には堪えるものがあったのだろう。

 

カーディナルはゆっくり休むといいと言葉をかけて見送った。

 

 


 

一方その頃

 

アド「死なないで、死なないで……」

 

凍結処理の施されたアグラヴェインの死体にすがり付いて弱々しく嗚咽を漏らす。

 

 

〈おまけ〉

【此方の世界の円卓の最後 その一『アルトリア』】

 

バグ茅場「所詮は贋作。英雄の影法師。

騎士王の一側面を切り取った貴様は真作に遠く及ばない。

だから何も守れず、何も残せない。

あの王に比べればお前など我が身に触れることすら叶わないだろう」

 

アル「……ふっ、贋作、影法師ですか。

この世界に降り立ってから、どうにも拭えなかった違和感の正体が分かりました。

どうやらこの身は、元から何者でもなかったらしい」

 

バグ茅場「絶望したか……?だとしたら興醒めだな」

 

アル「……まさか。むしろ清々しくあります」

 

そう言って黄金の剣を捨てるアルトリア。

 

バグ茅場「なら何故剣を下ろす。

貴様……さては諦めたな。あの王の姿をして戦う前に意思を砕いたな?

我が仇敵を汚した罪、万死に値する」

 

男は瞳を細めて、自身の怒りを表すかのような禍々しいオーラを漂わせる。

 

アル「いいえ、私がアルトリアでないというのなら、この剣が不要であると言うだけのこと。私が私であるというのなら――私の剣を使おうと思ったまで」

 

来なさい。エクスカリバー!

 

バグ茅場「おお……それは!」

 

アル「この世界が作り出した人界の王を選定する剣。そして()()()アドミニストレータが鍛え上げた至上最強の神器。

……これは我が人生の集大成である。

忠告するぞ、異界の者よ。

この剣を取った私は、どうやら敗北が許されないらしい」

 

アルトリア(アドミニストレータの友)はニヤリと笑う。

 

バグ茅場「それでこそ英雄!それでこそ騎士王よ!」

 

男は嬉しそうに笑い、そして彼女に答えるように反十字の盾と剣を構えた。

 

 

 

アル「…………」

 

バグ茅場「…………」

 

 

 

アル&バグ茅場「「ハァァァ!!!!!」」



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ファナティオォォォ!!!

誤字報告ありがとうございます!


「空虚の森に避難してから三日が経ちました」

 

セントラルから持てる限り持ち出した物品の整理を終え、

転々と存在する天幕の一つで、整合騎士と守備軍の代表らは話し合う。

 

「アドミニストレータ様がお隠れになられている今、我々の代表はアドミニストレータ様の御子息であるカーディナル様であることは事前に皆に通達があったでしょう」

 

整合騎士団副騎士団長ファナティオ・シンセシス・ツーは集まった人間の顔を見渡し、問題がないと分かると話を続けた。

 

「現在、僅かな備蓄を崩して民草に食糧を供給し、それでも賄えない分はカーディナル様の御業にて神聖力を食糧へと変換し食糧確保をし行き届かせている現状です。しかし前途にカーディナル様から説明があった通り、ステイシア神様の御加護の届かないこの地表には空間リソースが欠如しています。」

 

今は薔薇や必要のない物から神聖力へと変換しているが、何れ枯渇してしまうのは目に見えている。

 

そのことをここにいる全員が分かっているのだろう。

殆どの頭の中に、ならば生かすべき人間とそうでないものを間引くしかないのかという暗い思考が過る。

 

「……この度、我々が集まったのは『空虚の森』周辺にある人界資源の奪還。余裕がある内に進軍するべきだと我々上位整合騎士が判断したからになりません」

 

その満を持してファナティオは言った。

どういう訳だか暗黒界の住人はこの地表を知覚出来ないらしい。

希望的観点になるがカーディナル様によればこの空間の周辺にも似たような現象があり、一部の人界を相手側に悟られずに取り戻すことが出きるのではないかという話があった。

 

「しかし、万が一そのような効果が見られなかった場合、我々はなす術がないのでは?」

 

不安の声が上がるのも確かだった。

暗黒界の兵士は謎の存在によって超常的な力を得てしまっている。ただの一兵ゴブリンに整合騎士が敗れたのは記憶に新しく、恐らく上位整合騎士ならそのゴブリンも倒せると信じたいが、暗黒界版の整合騎士《暗黒騎士》が更に力をつけていたとすると……数だけが取り柄の、個々で言わせれば『脆弱』とされるゴブリンでそれだ。

どうしようもないのではないかというのが実情である。

 

「ここに、円卓の騎士が居てくれれば」

 

ポツリと誰かが言った。

ファナティオも情けないことにその言葉に賛同してしまう。あの暗黒界の軍勢にたった七名で立ち向かい、結果的に全滅こそしたが、見事我々が逃げきるまでの時間を稼いで見せた彼ら。

 

『人界の未来は貴方達に託しました』

 

ファナティオは右肩に手をおいた。

 

「(ガヴェイン師匠、私達にはまだ貴方達が必要でしたよ)」

 

太陽のように笑う、父のように慕っていた師の温もりはもう感じられない。

あのお方は円卓の騎士でも特別で、ステイシア神様の御加護のある昼間は決して天命の尽きない不死のごとき人であったが、やはり夜中になっても戻らなかったのを見るに死んでしまったのだろう。

自分の神器とガヴェインの神器は相性がよかったことからよく面倒を見て貰ったファナティオからすれば、まさにステイシア神様の化身のようであった彼までも飲み込んでしまった暗黒界の勢力は恐ろしくある。

 

けれど、彼女には愛する人と守るべき民が残されている。

まだこの恐怖に屈するわけにはいかない。だからどうか、力なき我々を天から見守って下さいと彼女は祈りを捧げた。

 

 

それからファナティオ達は何度か議論を重ね、『空虚の森』と同様の効果が及ぶとされる、人界の領土総量の二割を取り戻すことで落ち着いた。

 


 

円卓の指導を受けた整合騎士達は原作の数倍強くなっています。当たり前のように連続技にも対応してきますし、アルトリアの記憶から作られた円卓=ほぼ型月英霊と遜色ない円卓の騎士から指導を受けているので下手をすれば宝具を使ってきます。

 

 

〈おまけ〉

 

ユージオ「僕は」

アリス「私は」

 

「「戦う(たい)」」



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アスナァァァ!!!!

「オラァ、オラァ、オラァ!」

 

戦いはモードレッドのパワープレイに圧されるアスナが必死に防御するという一方的なものになってきた。

 

「くっ!」

 

もう何度目かになるつばぜり合いの後、アスナは大きく後退して額から溢れる汗を拭う。

 

電子世界で疲労の概念は精神的なものによるが、今は全身の筋肉が悲鳴を上げるような苦痛がある。

アスナは息一つ乱れていないモードレッドを見て嘆息する。

 

「(正攻法じゃ、やっぱり彼女には勝てない)」

 

それに体が極端に小さくなった影響でソードスキルの狙いを定めるのも難しく、直接の斬り合いで劣るアスナにとって状況はかなり切迫したものになっていた。

 

「どうした、逃げてばっかかああん!?」

 

せめてもの救いは敵を怯ませる彼女の恫喝が幼女の姿となって微笑ましいものに変化したことだろうか。

 

思わず庇護欲を擽られるそれは、平常であれば瞳を輝かせて話かけていたと思う。

 

「ねぇ、そのアバターって貴方の自作?」

 

「うっせ、今は関係ねぇだろうが!」

 

確かにそうだが、この戦いが終わった後に頭を撫でさせてほしいと思う。膝枕して耳掻きしてあげたい。お金を払うので写真を撮りたい。

 

思わず、理性がとろけてしまうほどに今のモードレッドは可愛かったのだ。

 

「喋る暇があったら打ち込んでこいや!」

 

コスプレをした幼女が大きな剣をもって、強がっている。

アスナにはそう見えた。

 

モードレッドはそんなアスナの態度に舐められているとでも思ったのか、小さく舌を打ち、強く地面を叩いて勢いのままに剣を振り下ろした。

 

「死っね!」

 

アスナは左足を下げてそれを避ける。

けれどモードレッドは剣を地面に突き刺して、それを支点に回し蹴りを放つ。

 

咄嗟に片腕でガードするが金属ブーツの蹴りを素肌で耐えるのは無理がある。

アスナの片腕は鈍い音を立てて、HPがゴソッと減る。骨折扱いになったのか感覚が極端に薄くなった。

 

「これで詰みだな閃光!」

 

モードレッドはその瞬間に勝利を確信したのだろう。

止めをさすべく、地面に刺さった後ろの剣に手を伸ばして―――

 

「なっ!?」

 

スルリと空振った。

ここにきてアバターの身長を変えすぎた弊害が出る。持ち前の戦闘センスをきかせて身長差に対応してきたモードレッドだが、無意識間においての距離感はまだ掴めていなかったらしい。

 

「私の友達の実体験なんだけど、勝負は強い弱いが勝敗を分けるものだけど、負けたくないって想いが実を結ぶこともあるそうよ」

 

不味いと思ってモードレッドが振り返った時には遅い。

 

細剣ソードスキル『ニュートロン』

 

五連の閃光がモードレッドのアバターを突き抜けた。

 

 

 

 

「勝者!バーサーカーヒールのアスナァァ!!!」




モードレッドの敗因、慢心。キャラ育成不足。


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ユージオォォォ!!!

ALO最大規模の大会『統一デュエル・トーナメント』は全三日に分けて開催される。

私やモードレッドは初日だったが、幼馴染のユウキや他の円卓ギルドメンバーは翌日からになるらしい。

 

「今日はもう予定もないですし、ログアウトしますか」

 

済ますべき用事も終わったことだし、道場で体を動かそうかとログアウト画面を開く。

 

「――おーい、アルトリアさんちょっといいかな!」

 

そんな私を呼び掛ける声がして、顔を上げれば『月夜の黒猫団』団長のキリトさんが此方を向いて手を振っていた。

 

 

 

 

 

 

「成る程、キリトさんも『アンダーワールド』の試作プレイのバイトを為さるのですね」

 

「ああ、割が良いいし『レクト』って言ったらやっぱVRMMOの総本山じゃないか。

……まだ先の話なんだけど将来はあそこに就職することも考えてて、ちょうどいい機会かなーと思ってさ」

 

「うん。いいと思いますよ」

 

どうやらキリトはアルトリアでいう須郷伸之ようにレクト側に知り合いがいるようで、その人の提案で以前アルトリアが受けた新作VRMMO『アンダーワールド』の試作プレイのバイトをするらしい。

 

あのバイトは学生からすれば瞠目するような高額報酬である割に、好きにプレイさせられ、最後にプレイヤーからの動作確認を得るだけなので危険はない。

四、六時間ほどぶっ続けでログインせねばならないという普通の感性の人からすれば少し苦痛に感じるものもあるかもしれないが、我々SAOサバイバーからすれば一日の四分の一程度、レベリングに集中していればあっという間に過ぎてしまう。

 

それに『アンダーワールド』は今までのVRMMOとは何かが違う。

言葉に上手く表せないのはもどかしいが、キリトがVRMMO関係の仕事を目指すなら、その未知を一足先に味わっておくのは悪くない。

 

「ですが、何故私などに相談を?

こう言ってはなんですが我々が肩を並べた時などフロアボス戦などでしかなかったでしょう」

 

最後まで聞いておいてなんだが何故自分がそんな話をされているの分からない。

SAO時代では互いに認知こそしていたが殆ど会話を交えたこともなく、強いていえば結成まもなき黒猫団を偶然救ったことがある程度。

 

「はは、実をいうと俺も偶然声をかけただけなんだ。

あの時のお礼も出来なかったし、今日はその……君の要望に答えることが出来なかったから」

 

あの時とはトラップ部屋のことだろう。

要望とは……二刀流のことだろうか?

SAOでは珍しい剣使いもいるものだと興味を引かれていて、今回見れるものなら見てみたいと思っていたが、彼は片手剣だけの装備で表れ、結局最後までもう一本の剣を使うことはなかった。

 

アルトリアのオリジナルソードスキル《秘技・燕返し》

 

所詮猿真似に等しく本物には遠く及ばないこれは二刀流なら恐らくは耐えきれたのだと思う。だからこそ、アルトリアは少し残念に思う気持ちもあった。

 

キリトも一ゲーマーとして舐めプを噛まし、相手に不快な思いをさせて更に敗北するというのは後味の悪い話だった。

 

だから、今すぐ再戦を――と、それは流石に無礼な話だろう。

 

「フレンド登録をしてくれないか?」

 

「それぐらいなら請われるまでもありません」

 

キリトとアルトリアのフレンド欄に互いの名前が加わった。

 

「変に話に付き合わせてしまって申し訳ない。今度何かしらで埋め合わせはさせてもらうよ」

 

「それは楽しみですね。

私はかなりの頻度でレクトに訪れているので、もしバイトの時に見掛けたら声をかけて下さい。珈琲ぐらいなら奢りますから」

 

「こりゃ参ったな。埋め合わせするどころか年下の君に奢らせるようじゃ俺の立場がない」

 

ポリポリと頭の裏を掻くキリトに、レクト内にあるレストランならタダで利用出来るのですよとアルトリアは笑いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………あれ?

 

…キリト君!……誰………車!

 

 

……………で! …………………キリッ…

 

 

……あ………………………………………大……………

 

 

……あ、そうだ思い出した。

 

 

それから俺はアスナ達とエギルの喫茶店に出掛けて、帰り道でラフィン・コフィンの残党に襲われたんだ。

何とかサチとアスナは守ったけど、肩に打ち込まれた薬品のせいか、酷く意識が混濁とする。

 

不味いな、埋め合わせをするって約束したのに。

 

アルトリアは俺の大切な人達を助けて貰った返しきれない恩が沢山ある。

やっと、これから返していけると思ったけど……どうやらそれは難しいらしい。

 

 

ピーポー、ピーポーとサイレンの音がする。

サチ達が呼んでくれたのか……かすれる意識の中、手を伸ばしたキリトは誰かが握り返してくれた温もりに頬を緩めて、そして…………

 

 

 

「君は誰だい?」

 

朗らかな太陽の下で鮮やかに咲き誇る花畑。

そこで俺は小麦色の髪をした青年と向き合っていた。



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静観だアルトリアァァ!!!

「……キリトさんが消えた?」

 

キリトとフレンド交換をしてから、ほんの半日ほどの話だった。

月夜の黒猫団サチから我々円卓の騎士の一人にその情報が流れて、アグラヴェインを伝い、それはアルトリアにも届く。

 

曰く、ラフィン・コフィンの残党に襲われたキリトは妙な薬品を打ち込まれて病院に搬送されたが、駆け込んだ病院からいつの間にか彼は姿を消していたという。

手術の結果、一命は取り留めたという話だったが、心停止が五分間以上に及んでいた為、脳に何かしらの障害が残るのではないと懸念されていたキリト。

奇跡的に障害がなくとも、直ぐに一人で抜け出せる状況ではなかったのことで、そこそこの人脈のあるアルトリアを彼女は頼ったようだった。

 

「しかし、手術に出頭した医師がそんな患者は見たことがないとシラケるですか。カルテも抹消されているようですし……どうにもキナ臭い」

 

一人、此度の件について情報を整理する。

先ず確実に外部による介入が伺えるのだが、事件発症から術後ということで絶対安静だと病室で眠らされているキリトを院内の人間に口封じをして運び出すまでがあまりに早すぎる。

 

まるで献血を受けたら、説明もなしにカルデアに誘拐された『藤丸立香』並みに唐突だ。

 

もしかして、キリト君もその口……いや、この世界が型月時空ではないのは散々確認してきた。

 

冬木なんて地名はないし、原因不明の大火災があった形跡もない。

第一、アルトリア顔の私がこれだけ大っぴらに表舞台を歩いて未だに何もないのが証明している。

 

……それでも百%安全といえないのが型月時空の怖い所だが、まずはそれを置いといてキリトが何に連れ去られたか考えてみよう。

 

型月風にいえば彼はSAOをクリアした最も新しい英雄である。

そんな注目の的にある彼に悪意を持つ人間……円卓?

いや、彼らはそこまで人でなしではない。SAOでは順当にクリアまでの道のりを進め、結果的に甘い汁だけ吸われた形になったので、血の滲むような努力を重ねてきた円卓からすれば、ゲーム内で報復するのもやむなし……だが現実世界まで事を起こそうとする愚者を円卓は招き入れない。

 

すでに病院内にある救急車が一台消えていたことから移送手段にそれが使われたことは分かった。

 

国の上層部が絡んでいるのだろう。

キリトは英雄かもしれないが、別にSAOで最強というわけでもないので、ますます分からない。

 

実は重役の息子なのか、それともSAO被害者の逆恨みか。

 

「キリトさんには申し訳ないですが、どれだけの危険があるか分からない内は私個人の判断で円卓は動かせません」

 

これでもかつて多くの命を預かった自負がある。

彼らは私を慕って今でも多くのことに答えてくれるが、石橋を叩いて渡る前に先に行かせて確認するようなことは出来ない。

 

キリトとの親交はあくまで私個人の話。

 

一応、私だけで出来ることはするつもりだが、ただの小娘にどれだけのことが出来るか……。

 

 

 

 

円卓は今回のキリト失踪について静観を決め込んだ。




―ただの小娘に過ぎない
※リアルで銃弾を斬ったり殴ったりできる。


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修羅場不足

語尾伸ばすの止めます。


「――なるほど、記憶を失って彷徨っていたか……つまり君はベクタの迷い子というやつだね」

 

「よく分からないが、そういうものらしい」

 

自身が目覚めた時に顔を覗き込んでいた青年ユージオに状況の説明を受けたキリトは、あまりこちらから質問せずに聞かれるがまま全ての問いにイエスと返事を返した。

 

それは長年のプレイヤーとしての勘か、それとも見ず知らずの相手に尻込みしているからか、心の奥にあるものは分からない。

 

ただこの世界が夢というには現実味がありすぎて、ゲームというにはやはり現実味がありすぎた。

 

―花吹雪の舞う黄色い平原。遠くに聳え立つ幾何学的な紋章を秒刻みで変化させる壁のようなもの―

 

…だからと言って現実というには、幻想的すぎる。

 

目覚める前の最後の記憶が生死の境を彷徨うような状態であったこともあり、見た目ほどキリトは冷静ではない。もし目の前の青年が天使や閻魔様だと言うのなら自分はあの時に死んでしまったのだと信じたかもしれないぐらい憔悴しきっていた。

 

(…だとするとここは天国なのかな)

 

されるがままというのは、頭が可笑しくなりそうな中でひねくり出した苦肉の策だったのだ。

 

「……大丈夫。突然のことで気が動転しているのだろう。僕が君を街まで送り届けるよ」

 

それを知ってかユージオはとても親切にキリトを気遣った。

気分が優れないようならもう少しここに腰かけているといいなどと、昼食用に取っていたお茶とパンまで分けられた時には彼のヨーロッパ系の顔立ちもあってイギリスの紳士と話しているようだと感じた。

 

「…………」

 

「…………」

 

どれぐらい経ったであろうか。

ゴーン、ゴーン、ゴーンと三度鐘が鳴る。

 

「…………あ」

 

「……もうすぐ日が沈んでしまう。残念だけどこれ以上君をここに止まらせて置くことは出来ない。あまりに危険な事だからね」

 

少しだけ怖い顔をしてユージオは言う。何だかんだと自分や彼に言い訳をして三時間ぐらい居座ったキリトだが、これ以上駄々をこねれれば引きずってでも街とやらに向かわさそうな雰囲気だ。

 

別に街に行くことに拒否感はなかった。

ここが傷付いた心を癒すには十分過ぎるほど満ち足りていたから、つい離れたくないと思ってしまっていただけで、流石に夜中に一人残ってまで居ようとは思わない。

 

手を差し出されて、その手を握る。

 

「……ぅ?」

 

「どうかしたかい?」

 

「いや、なんでもない」

 

同じぐらいの背丈だと思っていたが、握り返された手があまりに大きかったものだから少しだけ驚いた。それだけの事だった。

 

 

 

……まるで、男と女ぐらいの差。

キリトは少しだけ違和感を感じだが、今は他に注意を割く精神的余裕はなかった。

 

 

 

 

 

 

 




ヒント・GGOメルタル


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