プリンセスコネクト!リ・ダイブゥゥゥゥゥゥゥン!!!(ガッチョーン (古賀コーラ)
しおりを挟む

キャラ紹介

主要キャラを軽く紹介。


 

 

 

『檀黎斗9610』

 

・檀黎斗バックアップデータのナンバー9610。

黎斗にとって特別な数字であり、このナンバーであるこの個体は檀黎斗ネットワーク全ての管理を任されていた。

 

ある日、レジェンド・オブ・アストルムと呼ばれるゲーム世界に精神だけ飛ばされ、主人公と呼ばれる少年の体に憑依、融合してしまう。

 

肉体年齢は憑依先の少年『ユウキ』の年齢、10代後半のものである。

 

精神や思考などは主に黎斗が主導権を握りつつも体の深層意識とも思われる行動をとる事があり、しばしば黎斗の思惑とは外れた行動を取った。

 

性格はこの少年の深層意識の影響を受け本来の檀黎斗よりも丸くなっている。

 

またその優しさと黎斗の自尊心が混ざり合ったような部分が存在し、例として自分を慕う従者であるコッコロを傷つけられるを嫌い、傷をつけた者に攻撃的になる一面を持つ。

 

千里真那との最終決戦後、少年『ユウキ』の体から離れ、元の世界へと帰還した。

その後は宝生永夢達に新たなゲームの挑戦状を叩きつけた。

 

そのゲームは『プリンセスコネクト』、ニコ、小姫、ポッピーを姫と設定しそれぞれ、大我、飛彩、永夢との絆を深めるゲームだった。

 

『プリンセスコネクト』ガシャットにより永夢達の絆とコッコロ達との絆のデータを集め、統合する事で『ゼッタイフメツ』ガシャットを生み出し、最後のエクストラゲームを仕掛け、10億のゲンムを召喚し世界を混沌の渦に落とした。

 

永夢との一騎打ちの末、フメツの能力でコンティニューする事なく、消滅することを選び、檀黎斗9610は消滅した。

 

 

・体の持ち主の強化能力を保有、この力を使っている間、黎斗には肉体的負担が掛かり生身ではかなり戦闘能力が削られてしまう。

 

この力は人数が増えれば増える程、強大な力で強化をすればする程、黎斗への肉体負担が増えていく。

 

平均的な強化で5人までなら黎斗本人も動く事はできる。

 

 

・ゲーマドライバーとガシャットにより仮面ライダーゲンムレベル0となることが出来る。これにより全体的な戦闘能力向上と先述の強化能力による負担を減らすことができる為、戦闘の際は基本変身して戦う事になる。

 

レベル0が保有していた、レベルドレインなどの特殊能力は無く、世界からバグアイテムとして認識されている為、従来のゲンムよりも耐久面が薄く、力も弱い為容易に変身解除されてしまう弱点が存在する。

 

その後、このゲーム世界に存在するバグ、シャドウを利用し『タドルクエスト』などのガシャットを生み出し、ラビリスタこと晶の協力を経て、『デンジャラスゾンビ』『タドルレガシー』『ゴッドマキシマムマイティX』をこちらの世界でも生み出す事に成功した(尚最終決戦時にこれらのガシャットの殆どは破損した)

 

 

 

 

『檀黎斗X』

 

・檀黎斗9610が憑依した少年『ユウキ』に長期間憑依した事により精神が融合し、9610の精神が離れた後も残存した個体。

 

『ユウキ』及『檀黎斗9610』の記憶や性格を引き継いでおり、檀黎斗でありユウキという極めてイレギュラーな存在。

 

ユウキの記憶は欠落が多く、殆どの記憶を持っていない為、檀黎斗としての性質が強く出ている。

 

9610が残した使命、この世界で檀黎斗神王に相応わしい存在となるべく行動を開始する事となる。

 

 

 

 

『コッコロ』

 

・黎斗を主と慕う従者。

ギルド『美食殿』のメンバーの1人でサポーター兼アタッカーの役割を担う。

 

主という存在を幼少期の頃から求め、黎斗を主と見染めた最初期から黎斗を慕っていた。そして彼との交流が深まれば深まる程、信頼し現在では恋心に近い感情を抱いている。

 

どんな人物に対しても丁寧で相手を敬う物腰の柔らかな性格。黎斗の影響を受け、洞察力に優れるようになり、現在では勘が鋭くなった。

 

初期は黎斗に対し何事にも肯定的であり否定はしなかったが黎斗の常軌を逸した行動や発言に対して現在では注意を促すなど関係が変わっていった。

 

黎斗にとっても信頼できる存在であり最終決戦時点で2人の間には確かな絆があると言えるものとなった。

 

 

・風の精霊と心を通わせ使役する事ができる、生み出す槍も精霊達の力を使っている。

 

精霊との契約により少ない魔力で風を操ることが可能、攻撃や防御、精密な操作や探知など多様に対応できる。

 

また彼女自身が回復や身体能力強化などの魔法も使える為、サポーターとして重宝されている。

 

 

 

 

『ペコリーヌ』

 

・ギルド『美食殿』を創設した、ギルドマスター。

彼女が身に付ける『王家の装備』の効果により常にお腹を減らしており、何かを食べている現場を良く目撃されている。

 

本名は『ユースティアナ・フォン・アストライア』。初期の頃は忘れ去られてしまうかもしれないと思い込み名前を名乗らなかった(ペコリーヌという渾名が気に入っていたということもある)

 

1度は自分の運命を諦めかけた事もあったがとある青年と出会い立ち直れた過去を持つ。

 

思ったらすぐに行動にしてしまう性格で、何も考えずに先に動いてしまい、しばしば注意を受けてしまうこともある。また行動だけでなく口にも出してしまい、無意識に辛辣な言葉を投げかけてしまう。

 

黎斗に対し最終決戦にて恋心を自覚し、初恋をした。彼との関係は変わらず大切な仲間の範疇であるがいつか必ず彼をモノにすると心の奥底では息巻いている。

 

 

・『王家の装備』により高い戦闘能力を持ち、力でねじ伏せる事を得意とする戦術をする。魔力自体はあるが魔法は使えず、基本的に装備に蓄積されたエネルギーを使い、衝撃波を飛ばす、力に変換するという完全アタッカータイプ。

 

また『王家の装備』の出力がある程、防御力も向上しタンクとしても非常に優秀、しかし『王家の装備』はカロリーを莫大に消費しすぐにお腹を減らしてしまい弱体化してしまう恐れがある。

 

 

・ジクウドライバーとユースティアナライドウォッチを使い、仮面ライダーティアナとなる力を持っている。

 

 

 

 

『キャル』

 

・ギルド『美食殿』メンバーの1人。

猫の獣人、王宮に偽の王女として君臨していた覇瞳皇帝(カイザーインサイト)千里真那に仕えていた。

 

主に諜報を専門としあらゆる場所に潜入、調査を行う事を得意とし、1度は黎斗達を裏切り命を狙った。

 

魔法の才があり、下級から上級まで様々使え、自身が生み出した魔法も多数、黎斗に語った魔法総数は256個あるとの事。

 

努力家で物事を出来るまでやり続けるを心に決めているのだが恥ずかしがり屋な為、練習は森の中など人目がつかない所でやる、影の努力者。

 

また生み出した術式は自身の持つ杖の先端についている本に手書きで書く程マメな性格。

 

黎斗に対して淡い恋心を抱いているが自身では否定する天邪鬼気質。最終決戦時点では黎斗だけでなく同じギルドメンバーであるコッコロやペコリーヌに対しても深い愛情や友情を感じるようになった。

 

 

・数多の魔法を使えるが特に闇及び雷属性魔法を得意とし、その中でも大味で大胆な攻撃魔法が1番得意だという。本人曰く索敵などのせせこましい魔法は使えるが苦手との事。

 

典型的な魔法使いタイプであり身体能力は皆無に等しく一般の女性と対して変わらない。

 

魔法使いという事もあり魔力に関しては敏感で、少しでも魔力を帯びた対象ならば即座に察知し視覚からの攻撃も対応することができる、その際キャル自身の猫耳がピクリと反応する。(黎斗の観察による情報)

 

 

 

 

『覇瞳皇帝 千里真那』

 

・レジェンドオブアストルムを生み出したゲームクリエイターの1人。

 

この世界を生み出した創造主と言えるべき存在で、過去に『ユウキ』と戦闘し勝利を掴んだ事もある。しかしその際に起きた出来事により何度も世界を繰り返すループに嵌りその中では『ユウキ』に負け続けた。

 

無限に続くループの中で夢を捨てきれなかった真那はユースティアナの立場を奪い、その座につく事で夢と計画を同時進行する事にした。

 

キャルを使い監視、シャドウや魔物の使役、永夢のシャドウによる攻撃など様々な策を企てる。

 

しかしそれらは『ユウキ』の肉体を持つ黎斗によって阻まれ、最終的に『仮面ライダーディオ』となるもゴッドマキシマムとの最終決戦に敗北し意識を失った。

 

 

・『覇瞳天星』と呼ばれる、様々な物体の目から映った情報を元に分析し未来を予測する予知能力に似た力を持ち、それにより相手の動きを完璧に見切る事が出来た。

 

それだけでなく扱う魔法も強大かつ多彩であり、黎斗達を苦しめ、最終的には黎斗が送り込んだデータを盗用しバグルドライバーⅡとレジェンドオブアストルムガシャットを使い仮面ライダーディオに変身する力を得た。

 

仮面ライダーディオは『覇瞳天星』の力を使わなくとも完璧な予知が可能であったが、戦闘中は数珠繋ぎである事を見切られゴッドマキシマムの『星』による攻撃を受けてしまう。

 

 

 

『寿 恵琉』

 

・『アナザーユースティアナ』の変身者。

元は千里真那の右腕として共に『レジェンドオブアストルム』の制作に携わっていたがある事件をきっかけに制作メンバーから外された幻の七冠(セブンクラウンズ)

 

・千里真那を酷く憎み、アナザーユースティアナとなった際は真っ先にその命を狙い、殺害した。

 

・レジェンドオブアストル内及び世界そのものの歴史をねじ曲げ5年もの間『王』として君臨し、暴虐の限りを尽くした。

 

・目的はユースティアナアナザーウォッチに王の力を蓄え、オーマジオウに匹敵する力を得る事、王家の装備に力を蓄える為に全世界の食料を集めカロリーを摂取し続けた。

 

・恵琉はグランドジオウですら圧倒する力を得るが力を奪われた筈のユースティアナが覚醒し、ユースティアナライドウォッチを生成される。

 

・仮面ライダーティアナとの戦いでは星の力を利用したティアナに一方的に敗北し、彼女に夢を託した。

 

 

 

 

 

『オーマティアナ』

スペック

オーマジオウと同等。

 

 

遥か未来、数十年後のユースティアナの姿。その姿はオーマジオウに酷似しており、女性版オーマジオウといった姿。

食への感謝により全ての生命の力を操り、そのまま使うだけでなく複合や創作上の生物の力さえ生み出すことができる。

変身している間、無限に生命エネルギーを生み出すことが可能であり、食事や排便を必要とせず永遠に活動可能(老化はする)

また全ての生命と繋がることが可能であり、別世界の人間や生物に干渉することができる(これによりオーマジオウを自身の世界に招いた)

 

 

彼女は全てを失い、たった1つの希望を手に入れる為だけに生きてきた。

それは今もなお続く、そこに終わりがなくとも。

 

 

 

『リボーン』

 

タイムジャッカーの1人。正体はスウォルツやツクヨミ(アルピナ)の世界の王家の分家。

時間を操る力を持つ王族の中で唯一時間を止めることができない存在だったが、あらゆる力の時間を奪い去る事ができる力が覚醒し、それを使ってジクウドライバーとウォッチを生み出した。

ウォッチやドライバーをスウォルツや他の分家、果てにはクォーツァーに提供し、それぞれがオーマジオウの力を奪うように仕向け、最後は利用した相手から力を奪い去る計画を画作していたが全て失敗に終わり、それを知るや否や利用してきた人間達全てを見下した。

 

結局ライダーの力、オーマジオウの力を手にすることを諦め、別世界のそれもライダーではない存在からオーマジオウに匹敵する王の力を奪おうと画作するもそこにジオウやディケイド、それだけでなくゲンムの存在があり、計画は破綻。

さらに自身がこの世界に現れたという結果からオーマティアナに至る未来、というものが生まれてしまい、オーマティアナとオーマジオウが過去に干渉、結果的に現代のジオウ、ティアナ達の必殺技を受けて消滅した。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

覇瞳皇帝 
〜君達へ〜


騎士くんは出ません。


まずはこの作品に目を向け手を伸ばした「君達」…

 

いや、これはあまり私の…檀黎斗としての「表現」として適切な言葉ではない。

 

ここではあえて君達を「プレイヤー」と呼ぼう、そうした方が「檀黎斗」らしいだろう?

 

まずこの作品の物語を紐解くに当たってプレイヤーには2つのゲームを知り1つの論説を知ってもらう必要がある。

 

ゲーム好きのプレイヤーはチュートリアルなどすっ飛ばして早く始めさせろなどと、とやかく言うかもしれないがご了承を願いたい。

 

さて初めに1つ目のゲームのお話をしよう、この私、檀黎斗を追いかけ続けたプレイヤーなら誰しもが目を通しプレイしたことのあるゲーム「マイティノベルX」を知っているだろう。

 

この物語はその「マイティノベルX」のエンディングの先にあるということを初めに伝えておきたい。

 

ん?そんな作品は知らない?ふっ…それもそうだ、あの作品は門外不出の本来はお蔵入りにされるべきゲーム、知らないと言う初心者プレイヤーも一定層いるであろう。

 

そんな人達のために簡潔にエンディングのみをこの私が説明してあげよう。

 

さて、一言で言えば私、檀黎斗…のバグスターである檀黎斗II(ツー)は天才ゲーマーMに敗北し消滅した、永遠の戦いを誓い、そして夢と才能を探求する旅へと出た。

 

これがマイティノベルXのエンディングであり「仮面ライダーエグゼイド」という1つの作品の最後だということにしよう。

 

引っかかる言い方かな?それこそが1つの論説に繋がる。

 

「多元宇宙論」…「マルチバース」と呼ばれる物をご存知かな?まぁ、ゲームが好きな人間ならば誰もが夢焦がれ、幻を掴むようにその胸に秘めた事もあるだろう。

 

私は勿論信じている、最もプレイヤーとは違い「実際に目の前で見てきた」からこそだが

 

話が逸れたが私が言いたい事、それは至って単純だ。

 

私のバックアップは果たして「檀黎斗II」だけだったと言い切れるのか、という事さ。

 

私という人間を追ってきたプレイヤーならピンと来ていることだろう、そう…私のバックアップは1つや2つなどでは無い。

 

あらゆる知識や経験を集め、来たる日にまた永夢に挑む為のゲームを作る素材として私のバックアップは既に10億を超えている。

 

檀黎斗IIIから檀黎斗Billionまでだ、では今こうやってプレイヤーに語りかけている私が何番か気になるかい?ふっ…勿論私は檀黎斗9610だ。

 

そんなバックアップなのだが膨大すぎる上、先のマルチバースの一件で私の住む世界はかなり他世界との干渉が多いらしく私のバックアップの一部がそういった世界に迷い込む事があるようだ。

 

プレイヤーの君達は知っているだろうか、私が様々な学校に通う世界があることを、私が他世界の英雄として召喚されている事を、私が不可思議な異世界に送り込まれている事を。

 

そう、全て私の10億あるバックアップ達が実際に「檀黎斗」としてその世界に赴いているという事実を。

 

それは全てこの私…そうだな「檀黎斗ネットワーク」とでも言っておこう、その膨大なネットワークに繋がっている。

 

全ての知識が私の糧となり、全ての記録が私の力となる、これこそが確立された私だけのネットワーク…!!

 

ここまで説明すれば聡明なプレイヤー達なら分かるだろう。この作品もまたそんなネットワークの1つであるこの私の物語の一部。

 

…そしてこの物語のデータは…ゲームという作品を探求する私にとっても非常に感慨深いものとなった。

 

と、私の感想など述べていてもプレイヤーにとっては退屈だろう、さっさと本編へと向かおうじゃないか。

 

では最後にプレイヤーの皆さまへ

 

このゲームをプレイする上で君達は知らなければならない、私ではなく本来の「彼」の生き様を

 

プリンセス達の絆を紡ぐのは私ではなく「彼」であるべきという事を

 

それを踏まえて次の(ページ)へ進むといい

 

そこから先は私の物語だ。

 




今後も問題なければ黎斗目線で行くと思います


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幻の夢の中で

投稿初期のやる気は1000%だ


「目は覚めた?いや…『眠った』かしら?」

 

不意に私の頭に声が響いた、少女の声だ。

 

聞き覚えはないのだが不思議と安心感を覚えるような声だった。

 

「…君は……?」

 

私が目を覚ました時、私は床で横になっていた。上半身を起こすと目の前には声の主である少女が立っていた。

 

緑と薄い青の混じった長い髪、かなり奇抜な髪色と髪型だが目を引くのはそこじゃない。

 

まるで壊れた天使のようなイメージをした輪に機械仕掛けの破壊された翼。

 

何者だ?この少女は…

 

少し考えを整理する。私は檀黎斗…のバックアップの1つ、檀黎斗9610。

 

他世界などに行ったと思われるバックアップデータを整理しそれを元に新たなゲームを開発している途中だったはずだが…

 

推測するならばこの私自身が別世界に招かれたか…これに関しては私という個体自体では初めての事象だ。

 

ふふ、パラドの言葉を借りる事になるが心が躍るというのはこういう事かと納得したよ。

 

私は今、まさに未知の扉を開き自分自身の足でこの地に降り立ったのだから…!!

 

…ん?降り立った…という割には何か変だ。

 

周りの風景が異様だ、なんだこれは…

 

見渡せば見渡すほど不可解な景色が広がる、まるでモヤがかかったかのように遠くの方は朧げで見えず近くには建造物などまるで無い、印象的なのは噴水くらいなものだ。

 

まるで夢の世界…といっても差し支えがないくらい奇妙な空間に私はいた、そこに私とこの珍妙な少女がポツンと2人。

 

「その様子だと、あたしの事覚えてないわよね」

「…待て、それはどういう意味…っ」

 

なんだ?声の調子が…それに…私の両手を見ると見た事のないグローブを身につけていた、それだけではない見慣れない衣服にこの聞き慣れない自分自身の声…

 

それに彼女の指す言葉…『その様子だと』の意味する答えは…

 

「…そうか…これは他者の体か…」

「ん?何か言った?」

「…いいや、何も」

 

彼女は私に対し『過去を知る』ような態度を取った、これは私ではなく私の体、本来の持ち主に対しての物だと推測できる。

 

確かバックアップのデータの1つにも他世界で他者に憑依してしまったという記録もあった筈だ、今回のケースもそれだろう。

 

さて、どうしたものか…馬鹿正直に話すべきか?

 

なんにせよ彼女の最初の言葉で分かったことがある。

 

この体の『持ち主は何らかのことがあり記憶を失っている』という事。

 

彼女の言葉は記憶を失っても当然だと言わんばかりの物言いだった。

 

記憶を失ったか…はたまた体の持ち主の魂は死に私という魂が入ったか…バグスターでデータである私に魂とは少々皮肉かもしれないが…永夢、これが実証されればバグスターもまた魂があるという事だ。

 

とにかく行動が先決か、思考をするだけでは物語は進まない。

 

私は私を変えるつもりはない、演じるつもりも毛頭ない、ならば出すべき答えは簡単だ。

 

「すまない、私は君のことを知らない、君の知っている『コレ』とは恐らく違う」

「…そうね、あんたなんかおかしいものさっきから」

 

少女はそう言って人差し指で頬部分に垂れ下がる三つ編みをクルクルと回しながら呟く。

 

「あんたの心が分からない、なんか黒いモヤみたいなものがかかってて見えないし…いくら記憶を失ったからってそこまで根本的に性格というか話し方が変わるとは思えないもの」

「理解があって助かるよ、私の名前は檀黎斗、君は?」

「…檀…黎斗…ねぇ…成る程、本当に…でもどうして…」

 

少女は何やら考え込んでいるようだが

 

「すまないが話を円滑にスムーズにしよう」

「えっ?あ、そ、そうよね!!…うう…あいつの顔でこんな知的な話し方されると調子狂うわ〜…っとコホン、あたしの名前はフ…いや、今はアメスって呼ばれているわそっちで大丈夫よ」

 

何かを言いかけたようだがそこは別にさしたる問題では無いだろう。

 

「アメス、聞きたい事がある」

「それはあたしもよ…って言ってもお互いに腹の探り合いしたところで意味はあまりないんだけど」

「…どういう意味だ?」

 

彼女はため息を一つ溢し

 

「ここはね、夢の世界なのよ、それも脆く儚い幻の夢…」

「幻の夢…」

 

つくづく私に縁のある言葉だ。

 

「だからねあんたに色々情報を与えても目が覚めたら全部…とまではいかなくとも殆ど忘れちゃう、例えあんたがアイツじゃない特別な存在だとしても人間であるというのなら例外じゃない」

 

人間…先も言ったが私はバグスター、人間であった檀黎斗を元に作られたデータだ。

 

だが限りなく人間に近い…いや人間の遺伝子もかなり含まれておりマイティノベルXにて完成してしまった私達は人間と言ってもいいだろう。

 

彼女の言っていることは必ず私にも当てはまる、だとすれば深い問答は無意味…か

 

「見ての通り、あたしもあちこちボロボロでさ…ここから動くこともできないしこの空間を長く維持することもできない…だからあんたをサポートする事も出来ない」

 

彼女の寂しそうの顔は本来この体の持ち主に向けられたものだろう、しかしその顔を向けられると私もまた寂しい気持ちに包まれる。

 

この感覚…恐らく体の持ち主の記憶か…魂か…それが作用しているのかもしれない、でなければ初対面である私が彼女の顔を見ただけでこのような感情を抱くはずがない。

 

中々に難儀な状態なのかもしれないな今の私の体、精神は。

 

「ではどうする?私は何をすればいい?」

「黎斗…あんたにはいきなりで悪いかもしれないけど…あんた…いやあんたが借りてる体の子はね主人公なのよ」

「主人公?…まるでゲームや小説の登場人物のような物言いだな」

 

ゲームという単語にピクリと反応したアメスは言葉を強くしながら

 

「そう…そうよ!ゲーム…あんたは主人公、この際だから巻き込まれて頂戴、黎斗!!」

「…これも何かの縁として受け取っておこう」

「そう考えてくれるならありがたいわ…あんたには世界の命運がかかってる、これから先理不尽な事も降りかかるだろうし辛い事も起こると思う…でも大丈夫」

 

アメスは人差し指を立てて顔の横に持ってくる。

 

「ちゃあんとあんたを導くガイド役も用意しておいたから」

「世界の命運か…それは壮大だ、それにガイド役?ふっ…本当にRPGのような親切丁寧な設計だな」

「そこは用意周到と言って欲しいものね…黎斗、多分あんたならアイツ…本来の体の持ち主よりも早く世界の謎に辿り着くと思う、だからね」

 

彼女は一呼吸おいた後、グイッと私に顔を近づけ

 

「…仲間を信じなさい」

「…それは私宛かな?」

 

彼女の目は真っ直ぐ私を、私の心を、魂を捉えていた。

 

「…そうね、アイツにはこんな事言う必要ないから、アイツは真っ直ぐでむしろ人を信じすぎなところがあったし…でも」

 

アメスは私から顔を離した後にクルリとその場で1回転し

 

「今のあんたにはこの忠告をした方がいいと思ってね」

「…」

 

ふむ、何か彼女には見透かされているような気がしなくもない、が私はそんなに信用がないだろうか?

 

過去の記憶を遡っても私が人を裏切ったり騙したり仲間を信じなかったりなどした覚えがないのだが…

 

まぁ、今はこの忠告を聞いておく事にしよう、さて少し気になった事を質問し早めに目覚めることにする。

 

どの道ここは夢の世界これ以上話を続けても忘れるだけ、ならば

 

「アメス、その忠告をしたという事は今後、仲間が必要な展開があるという事、つまり私はこの体の持ち主…この少年のロールプレイをした方が良いのかな?」

 

ロールプレイ…即ち、なりきりだ。私は私らしく有りたいがそれでプレイに支障が出るというのであればそこは改善しなければならないだろう、私としてもこんな別世界でバッドエンドは避けたいところだ。

 

「ロールプレイ…それにさっきからゲームって言ってるし…あんたってもしかして……はぁ、まぁいいわ、今はそんな事…そうね、必要ないんじゃないかしら」

「意外だな、私とこの少年ではかなり性格が違うのだろう」

「ええ、そうね、でも…さっきあたしが悲しい表情した時、あんたも顔曇ってたわよね?」

 

…意外と目敏い女だ。

 

「つまり、あんたは知らず知らずのうちにアイツのロールプレイをしてる訳、無意識の内にね、アレよアレ、記憶になくても体は覚える〜って奴」

「っち、まるで自分の体じゃないみたいで気味が悪い…が現に私の体ではないからな、文句は言えない、か」

 

アメスはふふんと鼻歌を1つした所でこちらに笑みを向ける。

 

「なんだか不思議な事になっちゃったけど、後はよろしくね黎斗、ガイド役の子とかその他諸々にはあたしからあんたの事伝えておくから」

 

そう言って彼女は私の額に手のひらを当てる、すると私の意識はスッと光の中に消える感覚。

 

「『おはよう』黎斗。そしていってらっしゃい」

 

その言葉と共に私は眠りに落ちた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

目覚めよその魂

ナナカ「夜は焼き肉っしょ〜!!」

ナナカ佐藤太郎説


小鳥の囀る声、木々のざわめき、心地の良い風の音。

 

それら全てが綺麗な旋律として私の鼓膜を揺らす。

 

本当に心地良い…久々にぐっすりと眠るという行為を楽しみたい所だ…

 

「はじめちょろちょろ中ぱっぱ〜♪赤子泣いても蓋取るな〜♪」

 

声が聞こえた、少女の声だ。それにこの歌…聞き覚えがある。

 

と今は思考をするよりも先に目を覚ましておくとしよう、この声の主と私との距離はおおよそでも10メートル範囲内だ。

 

ここがどこで声の主が何者なのかハッキリしない間、ぐっすりと眠るなどという無防備な事は避けたい、まぁ今の今までぐっすりと眠っていた為、後の祭りではあるが。

 

私は目を開き、寝ていた上半身を起こす。声がした方向へと顔を向けるとそこには声の主らしき少女の姿があった。

 

歳にすれば10歳程度だろうか、随分と小柄な少女だ。独特な衣服、私の住んでいた世界ではまず特別なイベントの日以外ではお目にかかる事はできないであろうコスプレ感満載な衣服だ。

 

更に銀髪、そして尖った耳、まさに空想上のエルフと呼ばれるにふさわしいその少女はこちらに背を向け何やら作業をしているようだが…

 

「あ、お目覚めのようですね『主さま』」

 

少女は私をそう呼んだ。主だと?この私が?

 

記憶に間違いがなければこの少女と私に面識などはない、よって彼女と主従関係だったなどという過去など持ち合わせていない筈。

 

「突然の事で驚かれていますね、まずは自己紹介を…わたくしはアメスさまの託宣により主さまを導くようガイド役として選ばれましたコッコロと申します」

 

ガイド役…それにアメス…朧げながらその言葉に聞き覚えがある。どこで聞いたか…

 

その不確かな記憶を引っ張り出すことができない、記憶力に関しては良い方だと自負していたがそのことに関する記憶がそこから出てくる気配はない。

 

仕方がない、それは後に置いておこう。

 

それとは別に、今私は奇妙な感覚を覚えている。

 

この体…私のものではないと実感できる、何が奇妙なのかというと今しがた私はこの体を自分のものではないと確認した筈だった。

 

目線の高さの違い、衣服の違い…それらは全て、今確認した筈だ、しかし何故か私は『前からこの状態になっている』という事を知っている。

 

…先の不確かな記憶に何か関連しているのかどうか…今ある情報だけではどうにも出来ないな。

 

「あの…主さま、失礼と思いますがお名前の方をお聞かせ願います。わたくしは『主さま』と貴方さまに言っておりますが人違いの可能性もありますゆえ…」

 

彼女が不安そうにこちらに訊ねてくる、そうだなそういえば私は目覚めてからまだ一言も発していない。

 

「これはこれは、懇切丁寧なご挨拶をしてくれた淑女に大変失礼な事を…私の名前は檀黎斗、これでどうかな?君の人違いではないかい?」

「檀黎斗…いえ、アメスさまから教えて頂いた通りの名でございます、大変失礼致しました、人違いだなどと失礼な事を、わたくしになんなりと罰をお与えください」

 

…なんともまぁ、このご時世にこんな渾身的かつ奴隷根性がある少女がいるものだ、時代錯誤もいい所だ。

 

と言いたいところだがこの世界が私の住んでいた世界と同じ年代だと考えるのは早計か、彼女の身なりを見る限り私が住んでいる『現代』とは遠くかけ離れた時代もしくは文化のようだしな。

 

「いや、残念ながら私にイタイケな少女をいたぶる趣味は持ち合わせていない、遠慮させてもらうよ」

「ふふふっ、アメスさまの仰る通り、黎斗さまはお優しい方…コッコロは黎斗さまに尽くすと今決心致しました」

「ほう、中々見る目があるじゃないかコッコロ、存分にこの私に尽くしてくれ」

 

先程の時代錯誤だのなんだのという評価を訂正しよう、渾身的な敬いも悪くない、むしろこの神の才能を持つ私に対し全人類がこの態度を見習うべきだと私は思う。

 

「ふふっ、主さまはお優しいだけでなくとてもユーモラスな方でございますね。あ、そうでした、主さまがお目覚めになられたときの為にわたくし…」

 

そう言ってコッコロは竹皮に包まれたおにぎりを私に差し出してきた、個数は6つ。

 

そういえば私が目を覚ました時には彼女はこちらに背を向けて何かをしていた、このおにぎりを作っていたという事か。

 

作業をしていた所を見ると少量の薪、木の枝で作られた…そうだな物干し竿のような物か。

 

そこに引っ掛けてあるのはライスクッカーと呼ばれるキャンプなどで使われる米などを炊くことの出来る便利グッズ。

 

「おにぎりを作っておきました、ちょうどお昼時の時間にもなりますしどうぞお召し上がりくださいませ」

「そうか、それは助かるよ。ありがとう」

 

そう言って私はコッコロのおにぎりに手を伸ばした時だった。

 

「うぅ〜ん…お腹が減りましたぁ…クンクン…この匂いは…!!」

 

ガサガサと音を立て近場にあった草むらをかき分け少女が這い出てきた、歳は10代後半といった所。

 

胸部分を大きく露出させた衣服、腰まである長い髪が特徴か、その少女はこちらに気づいたのか一瞬にして近づきコッコロの持っていたおにぎりを全て奪い去った。

 

「ひゃっ!?な、なんなんですか貴方は…!」

「いやぁ〜お腹が減っていたんですよ〜!ありがとうございます!いただきま〜す☆」

 

コッコロの質問に答える事もせず傍に自身の身の丈程の巨大な大剣を地面に突き刺し勝手に食べ始める少女、それを見て

 

「おい待て!それは私のおにぎりだ!返せ!!」

 

流石の私も彼女を止めようと抗議の一声を上げる。

 

「もぐもぐもぐもぐ☆ん〜おいひぃれふねぇ〜!!」

「…この女…!全く話を聞いていない…!!!」

「あ、ああ…わたくしが主さまの為に作ったおにぎりが…」

 

この女め、余程育ちが悪いと見える、勝手に人の物を奪い、勝手に食べ始め、そして人の話を聞かないと来た。

 

世が世ならば即警察沙汰だ、運が良かったな。

 

「ゴックン☆ぷは〜ありがとうございます!見知らぬ旅人さん!ご飯を分けてもらっちゃって!」

「分けたというか勝手に食べられてしまったのですが…」

「貴様…何者だ、この私から勝手に食事を奪ったんだ、名前くらい名乗ってもらおうか」

 

私が少しだけ敵意の眼差しで彼女を問い詰めると彼女もまた何やら言い渋るように口ごもりつつ

 

「え〜と、そうですよね…わ、私は「だ、誰かぁ!助けて〜!!」

「…っ今度はなんだぁ!!」

 

彼女の言葉を遮るように別の少女の声が辺りに響いた、私達は声のした方向へと顔を向けるとそこには桃色の髪をしたショートヘアの少女が1人、こちらに向かって走ってきている。

 

それはいいのだが、その背後には無数の生物の姿があった。

 

スライム状の不定形な生物、蜂やら蟻というには大きすぎる巨大な昆虫、二足歩行する巨大なネズミや犬のような動物。

 

私の住んでいた世界には存在しなかった、否、空想上には存在した生物、私の世界ではこの生物達の事をこう呼んでいた筈だ。

 

『魔物』と、日本なら妖怪だとかで呼ばれているか、しかしながらこういった西洋ファンタジーのような世界観なら魔物の方がしっくり来る、現にこういった物を題材にしたゲームを多数手掛けてきた私にとってはそちらの呼称の方が馴染み深い。

 

「あれは…?一体なぜあの方は沢山の魔物に追われているのでしょうか?」

「も、もしかしたら私を狙っていた魔物達かもしれません…!わ、私結構魔物に狙われやすいタチで…」

「そんな呑気な事を言っている暇はないぞ、さぁどうする?魔物供は眼前まで迫っている」

 

私達と魔物までの距離は50メートルを切った、ものの数秒でここまで来るだろう、その前にあの桃色髪の少女が追いつかれ無惨にも挽肉にされてしまう可能性の方が高いが…

 

「どうするもこうするも…助けるに決まってます!元々私が撒いた種かもしれませんしね!!てや〜!!」

「っ!?」

 

私は思わず片腕で軽く顔を隠した、凄まじい風圧と砂埃から顔を守る為だ。

 

彼女が地面から引き抜いた剣を片手に前へ飛び出すと、その踏み込んだ足は地をえぐり風を巻き起こした、1秒足らずで彼女は魔物の群れに突っ込んでいる程の速さと力強さ。

 

「速い…!人間じゃないのか…!?」

 

私は驚きを隠せなかった、仮面ライダーでもないただの人間がこれ程の速さを持つなどあり得ないからだ。

 

「ちょっと伏せてて下さいね!」

「えっ!!あ、はい!!」

 

桃毛の少女は彼女の言葉通り頭を両手で抱えながらその場でしゃがみ込むと同時に

 

「せいやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

横に大振りの一撃が振るわれる。まるで野球のバッティングを思わせるような大味なフォームから繰り出された剣撃は剣本体に当たった個体のみならずその一撃で発生した余波により十数体の魔物が吹き飛ばされた。

 

剣本体に当たった数体の魔物に関しては原型を留めていない、木っ端微塵という言葉がふさわしい状態となっていた、赤、青、緑と様々な血液、臓物を辺りに撒き散らす。

 

剣圧に吹き飛ばされた個体は後方にいた別の魔物達に衝突し足止めに役立った様子だ、魔物達の動きがほんの数秒だが緩慢になる。

 

「さぁ!貴方はえっと…あっちの人達のところまで下がって下さい!ここは私が食い止めますから!!」

「わ、分かりました!!ありがとうございます!!」

 

桃毛の少女は立ち上がりすぐにこちらに向かって走ってくる、その間にも彼女は剣を片手に多数の魔物を相手取る。

 

「はぁはぁ…た、助かったぁ…」

「ふむ、君、名前は?」

「えっ?…えっと…ゆ、ユイって言います」

「そうか…私は檀黎斗、彼女はコッコロだ」

 

私は軽く挨拶を済ませる、いつまでも桃毛の少女などと表記するのは不便で仕方がないからな、私なりの配慮をしておこう。

 

コッコロもまた私の自己紹介と共に軽く彼女に頭を下げた後

 

「主さま、わたくしもあの方のフォローに向かっても構わないでしょうか?少々数も多いようですし、数に圧倒されてしまっては敵いません」

「君は戦闘ができるって事かい?」

「はい、幼少期より主さまを守る為に磨いた槍術がございます、下級の魔物程度には遅れを取りません」

 

そう言ってコッコロが掌をかざすと風が巻き起こり槍が出現する。

 

その槍を手に彼女は私達の一歩前へ足を踏み出す。

 

「主さま達は出来るだけ魔物達とは距離を置いて安全な所へ、わたくしがあの魔物達を全て排除いたします」

「そうか、無理はせずにがんばりたまえ」

「…はい!!!」

 

私の激励に元気よく返事をしてコッコロは走る、彼女もまた小柄ながら機敏な動きで魔物達を切り裂いていく。

 

小さな子供だと思っていたが彼女の言う通り幼少期からの鍛錬の賜物、実に素晴らしい動きだ。

 

風を纏わせたその槍は迫り来る魔物の皮膚を切り裂き、突き刺し、殺していく。

 

風を纏っているのはいわゆる魔法と呼ばれるものなのだろうか、ファンタジーの世界では常識の筈だが。

 

「っしまっ!!主さま!!そちらに魔物が…!!」

 

どうやらコッコロが1体取り逃したようだ、獣型、狼や犬のような姿をした魔物だ。

 

「安心しろコッコロ、自分の身くらい自分で守れる」

 

私は腰にかけてある鞘から剣を引き抜く、うん、実にファンタジーの王道を往く剣だ。

 

なんの変哲もない剣、さて

 

「き、来ますよ!!黎斗くん…!!」

「分かっている」

 

ユイの言う通り、既に魔物は私の目と鼻の先、私の喉笛に鋭い牙で噛みつこうとしている所だった。

 

「ふん…!!」

「キャインッ!!?」

 

私はすぐに行動を開始する、飛びかかってきた奴の首を下から手を振り出し掴む。

 

そのまま片手で宙に浮かした状態のそれをもう片方の剣を持つ腕を振り抜き奴の心臓目がけて突き刺す。

 

深く赤い潜血を飛び散らせながら魔物は絶命、ゲームでいう所の雑魚中の雑魚敵の魔物だ、この私が一対一で遅れを取ることはまず無いだろう。

 

一応仮面ライダーとして戦ってきた過去の経験があるからな…しかし

 

「…たった今の一連の動きで息切れが起こるとはな…少し体力が少ないんじゃないか、この体は」

 

この体の元の持ち主はあまり体力がないらしい、下手にあの魔物の群れの中に飛び込んでもすぐに体力が尽きて足手纏いになるのは目に見えている。

 

なら私がやれることは何もない、ここで静観しているしかない。

 

「くっ…っ!!魔物の数が想定よりも多いです、このままではやはり数に押されてしまうかもしれませんね…!主さま…!!」

 

コッコロが私に向かって何かを叫ぶ。

 

「なんだ、コッコロ」

「主さまには…他者を強化する力が備わっております!!それを使い、あの方やわたくしを強化してはもらえないでしょうか…!!」

 

うん…?他者を強化するだと…?私に…いや、この体の本来の持ち主の能力か…

 

それは精神が私になったとしても使えるのか?しかしどう使えば良い。

 

あまり考えている暇もなさそうだなコッコロの方は若干押され始めている、あの女の方は大丈夫そうだがコッコロの方までは手が回らないらしい。

 

「物は試しだ、やってみよう」

 

とにかくこういったものは念じたり体に力を入れておけばなんとかなるだろう、感覚の問題だ。

 

私は彼女達を強化する、という気持ちを念じてみる、すると体から光が溢れ出し何やら不思議な感覚のある力が私から放出される。

 

「これは…」

「凄い…黎斗くんから何か力を感じる」

 

近くにいたユイもそう感じているのか、ではこれをコッコロ達に向かって…

 

「これが…主さまのお力…!凄まじいエネルギーを感じます」

「おお…!なんだか力が湧いてきましたよ…!この戦闘でちょっとお腹が減ってきてたんですがこれなら…!!!」

 

…!!凄いな、たったこれだけのことでみるみる内に戦況が変わっていく。

 

力、俊敏性、魔力、洞察力。運動性能のそれら全てが2倍…いや少なくとも3倍は跳ね上がっている。

 

このバフ能力はタドルクエスト系列の力を彷彿とさせる、正直な話私好みではない。

 

それに…この力を発動している間、私の体にかかる負荷もそれなりだ、全身が少しダルい、全く身動きが取れないというほどではないが、使い所を誤れば一瞬でゲームオーバーだ。

 

「…!」

 

この能力を行使している間にも数体の魔物が彼女達の攻撃を潜り抜けて私に襲い掛かる。

 

この状態で交戦するのは中々骨が折れるが…

 

「えい…!!」

「…ユイ…!」

 

彼女が私の後ろから無数の光弾を発射し魔物共を殲滅する。

 

「凄い…いつもより力が上がってる…これが黎斗くんの力…!」

 

ふむ、これなら私が何かをするまでもなく彼女達のみで殲滅できるだろう、と思考している間にも魔物達は数を減らし続け既に数えられる程度にしかいない。

 

…過ぎた力だ、この力は、バフ能力の効果としても強すぎる。

 

ただ存在するだけでこれほどの力とは、それに私のみにこの力があるとしたらゲームバランス崩壊もいい所だ、ライダークロニクルなら最初からタドルレガシーがいるようなもの。

 

そうこうしている間に魔物共の殲滅が終わったようだ、各々が武器をしまいつつ警戒は怠らない。

 

「よくやったぞ君達、中々に悲惨な光景だが、良しとしよう」

 

周りは魔物共の死体と血溜まりであまり長居はしたくない。

 

「主さまのお力無くしてはこの危機を乗り越えることはできませんでした…して、貴方…そうですね、お腹ペコペコのペコリーヌさまはどうしてこのような場所に?」

「ペコリーヌって私の事ですか!?わーい、まさかかわいらしい渾名を付けてもらえるなんて嬉しいです!!」

 

…その渾名が可愛いかどうかはさておいて彼女がこの渾名を受け入れ名前を名乗ろうとしないのには何か理由がありそうだな……まぁいい。

 

「それよりちゃんと質問には答えてもらおうか、君は何故ここにいる、というのかを」

「うーん…そんな大した理由ではないですよ?私はただ武者修行をして世界各地を歩き回ってるってだけです、あっランドソルは私の故郷なんですがその故郷に帰る途中だったんです」

 

ランドソル…それが今いるこの土地の名前もしくは国、街の事か。

 

「それで、君はよく魔物に襲われていると…何やらきな臭いが…」

「あのぉ、さっきから何か変な魔力の流れを感じませんか?」

 

不意にユイがそのような事を言ってきた、魔力の流れ…私にはそう言ったものは一切感じない、ペコリーヌと呼ばれた女もあまり感じていないのか首を傾げている。

 

「そうですね…わたくしもあまりそういった分野は得意ではないのですが戦っている最中に何か違和感を感じました」

「うん、そうだよね…私の感覚が間違ってなければ…あっちの草むらの方だと思うんだけど…」

「よぉし、では見に行ってみましょう!もしかしたら敵かもしれませんし、警戒を怠らずに!」

 

ペコリーヌを先頭に私達はその魔力の流れの元へと向かう。

 

そこには

 

「…女の子…?猫耳の女の子ですよ!?」

 

獣人の少女が倒れていた。

 

 




マナが足りないのでヒューマギアを暴走させます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

未知なる街へ

短かったり長かったりしろ


「実に素晴らしい…!!これがファンタジーの世界というものか…!!」

 

私は感嘆の声を上げていた。今、私はランドソルと呼ばれる巨大な街に辿り着いていた。

 

やはりというか王道というか、広がる街並みは西洋のそれだ、私が現在いるこの地域は比較的中世の時代に作られた建物に近い雰囲気だ。勿論私の世界基準での話だが。

 

ランドソルにはこの街を統治する「王宮」なる物があるのだが、あの遠くに見える巨大な建造物がそのようだな。

 

白く美しい城というのが第一印象か、何に似ているか、というのであれば…パッと見は「プラハ城」が近い。

 

街並み自体も全体的にプラハに似ているかもしれない、正直な話この街は「それをモチーフにして作られた街並み」と表現できてしまうほどに。

 

さて街並みの感想は後に、私の隣には今現在コッコロのみがいる。

 

では道中で出会ったユイ、ペコリーヌそしてあの謎の獣人の少女はどうなったかと言うとだが、長々と説明するつもりはないが簡単に教えよう。

 

獣人の少女が目覚めることは無かった、魔法学に精通のあるユイによると、どうやら過度な魔力の消耗による気絶をしていたらしい、私達はその少女をこの街まで運ぶ事となった。

 

ユイやコッコロ達は恐らく慈悲によるものだろう、私からすればそんな感情論で動いてもメリットがなさ過ぎて話にならない。

 

だが今回は私にとっても気になることがある、この少女が何故こんな所にいたのかそして魔力切れによる気絶?ふん、そんな都合の良いことがあの場で何故起こったのか、それを聞き出す必要があったからだ。

 

その為にも少女をこの街に運ぶ。唯一の男かつ戦闘ではあまり役に立たない私が少女を背負いコッコロとユイ、ペコリーヌに先導してもらい私達はようやく街にたどり着いた訳だ。

 

道中で大量の魔物に襲われた際は流石にヒヤリとしたがペコリーヌが1人囮となりソイツらを引き付けてくれたおかげで事なきを得た。

 

そしてユイなのだが街に着くと同時に親が心配しているかもしれないとの事で解散する事になった、まぁ既に日も暮れている、私達のような流れ者とは違い彼女には帰る家があるのだからそれも当然だろう。

 

最後に背に抱えた獣人だが、近くにあった病院に預けてそれまでだ、私達は部外者で看病してやる必要もない、金?そんなものは目が覚めたその獣人が勝手に払うだろう。

 

私達がそこまでしてやる必要はないうえむしろタダでここまで運んできた事を感謝して欲しいものだ。

 

「あの方は大丈夫なのでしょうか…」

「そこまで心配する必要はないだろう、ユイもあの医者も言っていたが魔力切れによる疲労だ、私達が気に病む必要などない」

「はぁ…それはそうですが…」

 

コッコロはどうやらあの獣人が気になるらしい、優しい性格のようだ。

 

「安心しろ、もし心配なら明日にでも様子を見に行けば良い、その為にもまずは私達の寝床を探さなければその明日という日を迎えるのも難しくなるぞ」

「わふ…主さま…そうでございますね、まずは我々の寝床を探すことが先決ですね」

 

私はそう言って彼女の頭を撫でる、私自身無意識にそのような行動に出てしまった、もしかしたらこの体の持ち主の魂か何かがそうさせているのか…

 

私達は寝床探しに数時間ほど時間をかける、あまり懐が温かくない今、高値の宿屋に泊まれる程の余裕はない。

 

出来るだけ安く、出来るだけ長い間そこに滞在ができる場所を探すとなると難易度が跳ね上がる。

 

もう既に日は落ち夜の街だ。

 

「凄い…人の数でございます…わたくし、山奥の田舎育ちですのでこのような人の多さにはあまり慣れていなく…」

「既に懐かしさすら覚えるよ、この感じ…平日の仕事終わりの都市の光景そのものだな」

 

飲食店やら何やらの掻き入れ時の時間帯だ、社会人と思われる大人達の姿が多く、様々な店に出向いているのが分かる。

 

「逸れないよう手を」

「そんな恐れの多い…!!ですが…ありがとうございます主さま、本当にお優しい方…♪」

 

私は彼女に手を差し伸べ進む、やはりこれも無意識だ、ふむ…これは諦めた方が良さそうだ。

 

どうも抵抗は出来ないだろう、この体の本来の持ち主もまたコッコロに負けず劣らずかなりのお人好しのようだ。

 

「あ…あんた達…」

「ん…?」

 

不意に声をかけられた、そんな気がした。

 

私達はその声に振り向くとそこには数時間前まで気絶していた獣人がそこにはいた。

 

疲労による気絶程度ならば数時間あれば目を覚ますとは思っていたが、存外早かったな。

 

「…君は…」

「お目覚めになったようですね、どこもお怪我がなく何よりです」

「そりゃどうも…ってそうじゃなくて、あんた達…よね、あたしを助けてくれたのって」

 

…そこで気になる点が1つできる。

 

「…なぜ私達だと?君は気絶していた筈、面識のない筈の私達を何故そうだと思った?」

「…へ?あ、ああ〜…!!い、医者の人に聞いたのよ!なんか優男と銀髪のエルフの女の子があたしを運んできたって!」

「…そうか」

 

かなり苦しいが辻褄は合うか、良いだろう。

 

「それで?君は何者なんだ?私たちに関わってきたのだからそれくらいは教えてくれても良いだろう」

「そ、そうよね…うん…えーと…それじゃあ改めて、あたしはキャル、その…助けてくれて…ありがとうって言おうと思ってさ」

「そうか、それは律儀に…私は檀黎斗そしてこっちの小さいのが私の従者のコッコロだ」

「コッコロです、よろしくお願いいたしますキャルさま」

 

私が自己紹介を済ませるとキャルは何やら考え込む。

 

(檀…黎斗…?あれ?陛下が言ってたプリンセスナイトの男ってそんな名前だったかしら…?それになんか鋭そうな奴だし…うう…接触したのはマズったかなぁ…?)

「…何を考えている?」

「へ?あ、ううん!別に!!あっそうだ、ねぇお礼にさ、これからご飯食べに行かない?あたしが奢るからさ!ね?」

 

…話を逸らされたな、あまりここら辺は踏み込んで欲しくないようだな。

 

大方彼女が魔物を操っていたと考えるのが妥当か、あの場で魔力を使い切る様な魔力の使い方、そして大量の魔物の発生を鑑みるにな。

 

となるとなぜ彼女はペコリーヌを狙っているかだが…それをこの場で聞き込むの無理か、口を割るとは到底思えない。

 

だがそれだけでこちらには有益な情報となる。「口が割れないほどの重要な事」と自分から言っている様なものだ。

 

相当な上層部からの命令か闇社会からの依頼か…どちらにせよこの獣人少女はかなりきな臭い。

 

まぁ…

 

「で、ですがまだ出会ったばかりのキャルさまにそのようなご迷惑を…」

「いいのいいの!気にしなくて!よぉし、そうと決まれば早速何か食べたいのある?」

 

当の本人はそういう策略や悪知恵を考えられる様な人物では無さそうだが…どうにも彼女は顔に出るタイプのようだし無駄に警戒する必要もないだろう。

 

むしろ好都合と捉えるべきだ、コレと交流を深める事でそういった闇の部分を探れる、それはこの世界の真相、いいデータになるかもしれない。

 

「すまないが私達はあまりこの街に詳しくない、正直な話どこに向かえばいいのかさえわからない」

「主さまのいう通りでございます、わたくし達はこの街についたばかりの流れ者…それに都会というものにも慣れておりません…」

「そうなの…うーん、あたしもあんまり自分の巣から出ないタイプだからそこまで詳しくは…あ、だったらあそこなんかどう?繁盛してるわよ!」

 

キャルが示したレストランは確かに人々が入り込み繁盛していた。

 

「悪くないな、素人が選ぶ基準としては妥当だ、そこにしよう」

「わたくしは主さまが決めた事に従います」

「ちょっと!なんであんたはそんな偉そうな訳!?」

 

グチグチと言うキャルを放って私達はそのレストランへと向かう、中はやはり人だらけ、席は空いているのだろうかという不安さえ覚える、流石に順番待ちなどというのは味わいたくない。

 

「流石に繁盛店というだけあって中は人だらけでございますね」

「席が空いていないようなら別の店という選択も検討しておこう」

「ん?あれれれ?この声…そこにいるのは…もしかしてごはん王子!!」

 

私達の会話に突如乱入するこの元気120%の少女の声は…

 

「少〜し待っててください、今目の前の山盛りご飯を食べて視界を確保しますので…もぐもぐ☆」

 

みるみる内にとんでもない量のご飯が消えていく…山盛りという表現が的確なほど巨大なご飯がほんの数秒で…だ。

 

私達と出会った時の彼女の第一声が「お腹すいた」だった時からうすうす感じてはいたがこの少女の食欲は底無しなのか、実に興味深いな、キャラクターの味付けとしては申し分ない。

 

「あー!やっぱりごはん王子とお姫様!それに…気絶してた子!!」

 

私達の認識はそんな感じらしい、まぁそんなものか。

 

「ごはん王子にお姫様…いえ、わたくしは主さまの従者、決してお姫様などでは…」

「まぁ、私達も名を名乗っていなかったからな、改めて自己紹介をしよう、私の名は檀黎斗、こっちの従者はコッコロだ」

「……キャルよ」

 

…やはりというかキャルはペコリーヌと会う事は気まずい様子だ、この出会いもまた想定外の様だからな。

 

「そうですか!えーと黎斗くんにコッコロちゃん!それにキャルちゃんですね!コホン!私はコッコロちゃんにつけられた渾名ペコリーヌです!えへへ!気に入っちゃいました!」

「そ、それで良いのですか?まぁペコリーヌさまが良いというのならそれで構いませんが」

 

名乗らない少女にそれを狙う魔物使い…中々面白い組み合わせだ、ここは引っ掻き回すよりも放置して観察する方が面白い結果になりそうだ。

 

「ここで会ったのも何かの縁です!ほらほら!座ってください!みんなで食卓を囲みましょう!そちらの方が美味しく食べられますよ!」

「面白い感情論だ、それは君自身の体験談から得たものかな?」

「はい!……最近は1人で食べることが多くて余計にそう思えるんです…だからみんなで食べましょう!私が奢りますよ!!」

 

…みんなで食事…か、私はバクスターになってから食事など取らなくても済む体となった。いや…そんな体になる以前から私は誰かと仲良く食事などした記憶は遥か遠い昔。

 

彼女の言う楽しい食卓とは何なのか、今の私には分からない事だ、分かるつもりも無いが。

 

「ふぅん、奢りってんならあんた達も得じゃない?あたしもそれは嬉しいし」

「そうですね…わたくし達も懐は温かくないので…ここはお言葉に甘えましょう主さま」

「…ああ、私はそれで構わない」

 

私達はペコリーヌのテーブルを囲い席に着く、そしてペコリーヌがテキパキと料理を選択し注文する。

 

「では、皆さん!私達の出会いを祝して楽しく食べましょう!みんなで食べる…幸せな食卓を!!」

 

これが私達の「美食殿」の出会いの始まりだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

侵食せし虫

神にできない事はない


私は既にランドソルに辿り着いてから約3ヶ月程度の月日が経っていた。

 

私の世界と同じく1ヶ月が約30日だとするならばだが。

 

コッコロいわくこの街ランドソルは、ただの通過拠点でしかないとの事だったのだが結局長居をしてしまった。

 

そもそも私達の目的とは何なんだ?という根本的な部分が明らかになっていない。

 

私はなぜこの少年の体に憑依しているのか、この少年の目的は何なのか、どうすれば元の世界に戻れるのか、それすら分かっていない。その為、無闇やたらに行動するのは控えるべきと判断しこの街にとどまっている。

 

さて、この3ヶ月間では私はさまざまな人物と出会ってきた。

 

類似点としてはその殆どが女性であったという事くらいか。

 

そんな事があり得るのかと私は考えた。これもまたこの肉体の持ち主の才能ともいうべきか、あまり面倒毎に巻き込まれるのは好ましいとは考えていない私でもこの肉体が勝手にその方向へと出向いてしまう事が多々あった。

 

結果として私の交友関係はその女性達を繋いだ。

 

頭の隅に引っかかる「仲間を信じなさい」という言葉…何やら誰か神がかり的なものの手のひらで踊らされている感覚に陥り癪に触る。

 

それはさておき私とコッコロはこの3ヶ月の間で「美食殿」なるギルドに所属し活動する事となった、メンバーは初期に出会ったペコリーヌ、キャル、コッコロそして私だ。

 

経緯は流れのように決まった為、あまり深い理由はなかった筈だ、この街ではギルドと呼ばれるものに所属する決まりがあるのだとか何とかでな。

 

このギルドの目的は「食べ歩き」適当に集まり、適当に街中で店に入り食事をするというなんともまぁ平和的なギルドだった…最初のうちだけはな。

 

どういう事かというなら、活動を開始して間もない頃、ペコリーヌが幻の食材なるものを探すと言い始め、危険なダンジョンに足を赴く事が多くなり結局「食べ歩き」というよりはただの冒険者ギルドとなった。

 

私としてもこの世界での経験はゲーム作りに活きると考え、拒まなかったが…最初期はこの身体の体力の無さを痛感し後悔したこともあった。

 

そのような事もあり私は自身の体を鍛えとりあえずは1人で物事をこなす事は容易となった訳だが、まだまだ厳しい所がある。

 

反射神経やら何やらは私の精神だからかある程度は補えるのだが体がまだ追いついていない、故に戦闘面ではまだまだ万全とはいかない。

 

そこで私は考えた、それを補う為にもゲーマドライバーを製作しようと。

 

しかしその際に問題が発生した、それは何か

 

「ゲーマドライバーが作る事ができない…」

 

素材が無いだとかそんな事ではない、神の才能がある私にとってはそんな問題は無いに等しい。

 

では何か、それは「作るという事自体が不可能」という事だ。

 

この世界ならば十二分にも作る事は可能なはずだ、魔法という便利な素材もある、それなのに何故作れないのか。

 

答えは簡単だ、この世界にゲーマドライバーは「初めから設定されていない」

 

武器、衣服、食事、建築物…それら全ては職人が知恵を絞り考え、オリジナルで作られている様に思えるが、しかしそれらは全て初めから設定されているに過ぎない。

 

つまりどういう事か…ふむ、ゲームで例えるのならゲーマドライバーという物体は初めから「実装されていない」と置き換える方がわかりやすいか。

 

だからこそ素材があろうがそれを作るだけの技術があろうがこの世界では作り出すことはできない。

 

まさかこんな形でこの世界の真相を掴むことになるとは…いやはや私の才能には恐れ入る。

 

そして同時にその可能性を導き出す事が今の今まで出来なかった事に腹が立つ。

 

「…間違いない、この世界は『ゲームの世界』だ」

 

ゲームに携わり、ゲームを統べるといってもいいこの私が言うのだから間違いない、ここは仮想現実世界だ。

 

限りなくリアルに近いがそうではない世界…私が生み出した「幻夢VR」に匹敵する程の精巧かつとてつもない技術で生み出された世界。

 

こんな世界を作れるだと?私以外の人間が…断じて許せない…!!

 

とはいえだ、この私がこの世界で何も出来ない、というのは些か不愉快だ。

 

それにこの世界がゲームの世界というのであればそれを逆手にとってやる。

 

まずは…バグが必要だ、この世界にはいくつか綻びがあることはこの3ヶ月の生活で分かっている。

 

確か「シャドウ」といったか…奴らを利用させてもらおう。

 

 

ー王宮 王の間ー

 

「…?」

 

玉座の間に座る1人の女性…いやそのものに性別など意味をなさないのかもしれない。

 

その人物は狐の獣人の姿をしていた、白髪で白を基調とした衣装を身に纏う20代後半の人間。

 

「何かしら…シャドウの方で何か違和感が…」

 

その者は眉間にシワを寄せる、何か想定外のことが起きたからだろう。

 

「…この世界に何か異物がいるのかしら…」

 

そう言って怪訝そうに天を見上げるのだった。

 

 

「やはり…私は天才だ…っ!!!ヴァーッハッハッハ!!!アッハッハッハッ!!」

 

シャドウをとっ捕まえ、ハッキングを掛けた。

 

どうやってだと?私を誰だと思っている、いや正確には私の存在というものがどういったものなのかだ。

 

私はこの少年の体に憑依した精神体だ、だが基本は「バグスター」だ。

 

それも個体ナンバー9610、檀黎斗ネットワークを統治していたブレイン中のブレイン。

 

電子ネットワークの中で発達したバグスターが電子ネットワークの世界で出来ないことなどない。

 

カラクリさえ見抜いたこの世界でハッキングを掛けること自体は容易い。

 

ただ…

 

「思ったよりも複雑ではあったな…というよりこのゲーム世界内からのハッキングでは私の才能を持ってしても全てを掌握するのは不可能だ」

 

それにこのバグの存在であるシャドウ自体も不安定すぎる…逆に何故存在しているのかさえ疑問に思うレベルだ。

 

とにかく私が今やったことは私の…檀黎斗9610のデータネットワークに存在するゲーマドライバーやガシャット、バグスターなどのデータを無理やりシャドウに流し込んだ形となる。

 

簡単に言えば不正なデータをこのゲームに流したという事だ、正直その影響でこの世界に何が起こるかは見当もつかないが私にとっては些細な問題だ。

 

後は正常にこの世界で動くかどうか…試してみなければならないな…

 

私は早速行動を開始する。

 

 

 

ー翌日ー

 

「あの…主さま…?」

「クックック…できた…出来たぞォ!!わたしのガシャットとゲーマドライバーがぁ!!やはり…私は天才だぁ…!!何度でも繰り返してやる…私は…ッ天才だぁ!!!!ヴァーッハッハッハ!!」

 

私の手元には既にゲーマドライバーとマイティアクションXのガシャットが存在した。

 

先日まではこの世界に存在することさえなかった不正のアイテム達…永夢そして檀正宗、私はこの世界にて原初のバグスターになる事が出来たようだ。

 

「それは一体何なんでしょうか?」

「これかい?これは私の戦闘力を補助する優れものさ、このまま君達の足を引っ張るような真似はできないからね」

 

私はガシャットをコッコロに見せびらかしながら答える。

 

「足を引っ張るなどとそんな…!主さまがいるだけでわたしく達はパワーアップ致します、それだけでも主さまの存在は欠かせないものです」

「それでも人並みに戦えるようになった方がいいだろう?」

 

そう、人並みに…だ、今の私の戦闘能力はこの世界基準ならば下の下、更に能力を使っている最中は更に落ちると考えるとこの力は必要になる筈。

 

恐らくだが私がこのマイティアクションXで変身したとしても劇的なパワーアップは見込めないだろう、あくまで戦闘を補助する程度だ。

 

コレは下手をすればこの世界に異物、エラーとして認識されかねない代物。

 

今手元に存在するのはこのマイティアクションXのみ、理由としては他のガシャットをシャドウに読み込ませる前にシャドウは消滅してしまったからな。

 

そもそも不正な大量のデータを読み込ませた場合、とてつもない程のバグが生まれこの世界そのものが歪みかねない。

 

もし仮にこの世界が「幻夢VR」のような物だと仮定して、コッコロやこの少年がプレイヤーでゲームシステムに繋がれている場合、その際の歪みで脳の神経系が焼き切れるなどというリスクがある。

 

それだけは流石の私でも避けなければならない、私がゲームというものにおいてそこまでのリスクは犯せない。

 

「さて…とコッコロ、少しコレの試運転をしたい。付き合ってくれるね?」

「勿論でございます」

「よろしい、では行こうか」

 

私達はランドソル近辺にある平原へとやってきた。

 

勿論、報酬の出るクエストを受注してある。

 

「主さま、ここら辺一帯に出るといわれるウッドソウルやゼラチナなどの掃討が今回のクエスト内容でございます」

「まぁ、かなり難易度の低いクエストではあるが、試運転には丁度いい相手だろう」

「…む、主さま、既に周囲の魔物の気配を感じます、どうかお気をつけて」

 

コッコロが風と共に槍を出現させ構えをとる。周りを見れば十数体の魔物の群れが私達を取り囲んでいた。

 

「よし…試運転開始だ」

 

私はまず自身の腰の鞘から剣を引き抜き地面に突き刺す、その後ゲーマドライバーを腰に装着しガシャットのスイッチを入れる。

『マイティアクションエェックス!!』

 

いつものようにタイトルロゴが私の背面に…ん?

 

「ロゴが…乱れている…?」

 

…少し思考した後、結論が出た。それもその筈、この世界ではコレは異物、バグアイテムだ、表示が乱れるのは当たり前か。

 

「これは…一体…?」

 

コッコロがそれを見て目を丸くしている、ふふ、そうだもっと驚くといい。

 

「グレードゼロ…変身」

『ガシャット!!ガッチャーン!!レベルアップ!マイティジャンプ!マイティキック!マ〜イティアクショ〜ン!エェックス!!』

 

セレクト画面から投影されたマイティのイラストに包まれることで私の姿は仮面ライダーゲンムレベル0の姿へと変身する。

 

「変身は…何とか出来るようだな」

 

ジジ…ジジジと変身した直後は私の体、ゲンムの鎧がまるで砂嵐のように一部乱れる。

 

これも恐らくバグとして認識されているからだろう。

 

私は傍の剣を引き抜き構える。

 

この世界に送ったデータはこのプロトマイティアクションとゲーマドライバーのみ、ガシャコンアイテムは残念ながら送っていない為、私の武器はこの剣だけだ。

 

「なんと…主さまのお姿が変わりました…なんと凛々しい…」

「まずはコッコロ、君に強化をかける、それで私の体調にどう影響を及ぼすか試す」

 

私はいつも通り味方を強化する能力を使う、よし、体への負担がだいぶ減っている、これなら満足に動くことができるな。

 

「さて、後はどれほどの力が発揮できるか…運動性能を試させてもらう…はぁ!!」

 

私は前進し斬り込む…見える、奴らの動きが手に取るように、動体視力、筋力、肺活量など全てにおいてのパラメータの数値が上がっている。

 

襲い来る魔物を斬り裂き、叩き潰し、引きちぎる。

 

「主さま…見違える程お強く…!」

 

コッコロも周囲の魔物を相手しながら私の活躍を見ていた。

 

「これも試してみよう」

『ガシャット!キメワザ!マイティクリティカァルストライク!!!』

 

私は少し走った後そのまま真横、水平方向に飛び蹴りをするとキメワザの力によりジャンプと同時に加速し膨大なエフェクトを撒き散らしながら魔物を蹴散らしていく。

 

そして着地と同時に私の後方で爆発を起こし、それに巻き込まれた魔物達は消し飛ばされる。殲滅完了だ。

 

「よし、上々だな、特に不具合もなく掃討出来た」

『ガッシューン…』

 

私は変身を解除しコッコロに近づく。

 

「主さまのそのお力は一体なんなのでしょうか?アメスさまからの託宣でもお聞きになったことがない力です」

「ん?これはガシャットと呼ばれるものさ、簡単に言えば私を強化するアイテム、さっきも言ったが私としても私自身が戦えなければ意味がないからね」

「凄まじいお力です、これならば味方を強化する力と相まって百人力でございます」

 

とはいえ、このガシャットを使ったとしても私の実力はコッコロよりも頭一つ分抜けた程度でしかないだろうな。

 

馬鹿みたいに強いペコリーヌや魔力全開のキャルのような存在を相手に想定した場合、一対一ではまず勝てないだろう程度の実力でしかない。

 

彼女達をライダークロニクルのレベルで換算するのならペコリーヌはレベル100、キャルはレベル80、コッコロはレベル30程度の実力だろう。

 

私はレベル0…数値で見るのならレベル40かそこらのパラメータだ、これらは全てパラメータのみでのレベル換算だ、ここから個々の戦闘能力や何やらで変動はする。

 

例えるならレベル5でレベル30を倒した鏡先生やレベル50でグラファイトやクロノスなどと戦い抜いた花家先生がいい例だろう。戦闘能力というのは簡単にレベルやスペックで測り切れるものでは無い。

 

「これはあくまで私の補助、コッコロの期待に添える程実力が跳ね上がったわけではない」

「ご謙遜を…はぁ…♡先程の主さまはとても雄々しく勇しく…わたくしは主さまを更に深く尊敬いたしました」

 

全く困った娘だ、私が何をしようと何を発言しようともこの子は肯定してくる。

 

私としてもそれは嬉しい事なのだが、1ヶ月間毎度の事コレだと流石に調子が狂うし面白味は何もない、まぁ言って直るものでもないだろうから諦めるしかないが。

 

「さて、私達のやる事は終わった、街に戻ろう、確か午後からは美食殿の集まりがあるのだろう?」

「その通りでございます。この後はペコリーヌさま達との食べ歩き…というより今回は樹海にあるといわれる幻の果実を取りに行くとのこと、飛空挺の手配は既にしてあるとペコリーヌさまは仰っておりました」

「そうか…それはまたキャルが嫌がりそうな内容だな、私としてはこのガシャットの戦闘データを調整できるからな、申し分ないな、」

 

私達は適当に魔物達から素材を剥ぎ取り、素材を入れる袋に詰めて街へと戻る、美食殿の活動する為に。

 

 




次から本筋っしょ〜!!

暇があったら番外編したりするかもしれないです。
ちなみに女の子達との出会いはキャラエピとほぼ変わらなく黎斗ムーヴをしているって考えて貰ってもいいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

動き出す歯車

本編はい、よーいスタート


 

 

私達がこの街に辿り着き3ヶ月と少し

 

遂にこの日がやってきたというか何というか…

 

「すみません主さま、わたくしの里から持ってきていた路銀が底をついてしまいました」

「いや、むしろよく持った方だよ」

 

私はこの3ヶ月でちょくちょくアルバイトをし小遣い稼ぎをしていた。

 

それは何故かと疑問に思う声もあるだろう、この檀黎斗がアルバイトというものをする姿が思い浮かばないと。

 

それは違う、私はやらなければならないと思った事は必ずする、それはアルバイトでもだ。

 

それにより生活資金から宿泊代までをギリギリ支払ってこれたのだが…

 

「これから先はわたくしも働きに出ようかと思っております」

「まぁ待てコッコロ、別に君が働く必要はない、私がまた違うバイトでも探せばいいさ」

「しかし…」

 

私としても私の関係者でこの様な小さな少女に小遣い稼ぎをさせるというのも何か引っかかるものがある。

 

「ではご一緒に仕事を探しましょう、あそこの掲示板の張り紙にはわたくし達がいつもギルドで受ける依頼とは別の仕事ができるかもしれません」

「ああ、あれか、私も何度か活用させて貰ったことがあるよ。行ってみようか」

 

私達は目の前にある巨大な掲示板に向かって歩みを進める。

 

今日はやけに人が多いな…人をかき分けてまで張り紙を見に行こうとはあまり思わないからな、取り敢えずどこか空いたスペースに…

 

「あ、あわ…あわわわわっ!?」

「ぐあっ!?」

「主さま!?!?」

 

な、なんだ!?し、視界が急に暗く…!!?

 

咄嗟に後頭部を片手で守ることは出来たがどうやら私は転倒してしまったようだ、そして今顔面に何かが乗っている。

 

「あいたたた…やっぱり1人でこんな高い所に張り紙なんて出してはいけませんね、私ったらまたドジをしてしまいましたぁ…」

 

この声、そしてこのドジムーブ…間違いない。

 

「おいスズメ、いい加減私の顔面からこのお尻をどかしてもらえないか、息がつまる」

「ひゃいっ///い、いきなりお尻の下の方でモゴモゴと…ってひゃぁぁぁ!!?く、くくく黎斗さん!?も、申し訳ありません!!こんなはしたない体勢でいつまでも!!」

 

私の顔面に乗っていたスズメは顔を真っ赤にさせながら即座に立ち上がり私から離れる。

 

「あ、主さま…大丈夫でございますか?」

「ああ心配ない、慣れている」

 

スズメのドジに巻き込まれるのはもう両手で数えられない。

 

「ところで…主さま…スズメと仰っておりますが…お二人は知り合いなのでございますか?」

「ああ以前に少しな」

「そうなんです、前に一度親切にして貰ったんですよ」

 

親切というよりは彼女の場合、私は巻き込まれた形に近いが。

 

「スズメ、何故君がこんな所に?張り紙…つまり求人をしているんだ?」

「そうなんです!…まぁ黎斗さんならお嬢様がどんな方か想像がつくと思いますがケ…倹約家な人なのでこういったアルバイトのようなもので資金を調達しようという考えなんです」

「だがしかし彼女は君のドジを警戒して仕事ができる他の人間を募るようにとこの張り紙を出してこいと用意させたんだな?」

「うう…黎斗さんには全てお見通しなんですね…」

 

スズメ1人で仕事をさせるなどむしろ出費の方が多くなる可能性が高いからな、賢明な判断だ。

 

「あ、そうです!興味がおありなら黎斗さん、どうですか?黎斗さんがいてくれるのなら百人力ですよ!!」

「そうですね…引越しのお手伝いですか…報酬の方もかなり良いようですし…主さま如何いたしましょう」

「ふむ…悪くないな、それにスズメが心配だ、下手をすれば人死にが出るかもしれない」

「そ、そこまで酷くありませんよ!!?」

 

私達はスズメの案内で仕事先となる現場に向かう為、馬車に乗り込むことになった。

 

その道中

 

「コッコロちゃんって言うんですか〜可愛いですね〜黎斗さんの妹さんですか?」

「い、いえ…わたくしは妹では…わたくし、黎斗さまの従者でございます」

「従者…?黎斗さんってお嬢様と同じ貴族なのですか?」

「いいや、私はしがない旅人さ」

「へ〜…お二人はなんだか複雑な関係なんですね〜」

 

そんな会話をしながらようやく馬車へとたどり着いた。

 

どうやらスズメが…というより彼女の主人であるお嬢様が手配した馬車らしい。

 

彼女自身は勿論の事、私とコッコロを馬主に伝え乗り込む人数による金額を用意しているようだ。

 

数分後、私達は馬車の荷台に乗り込み、スズメは自前の鞄からサンドイッチケースを取り出しながら話し始める。

 

「す、すみません、少し受付に手間取ってしまいましたぁ…あ、これ今朝作ったサンドイッチです、お口に合うかどうかわかりませんが…」

「まぁ君が鈍臭いのは今に始まったことではないから別に大して気に病む必要はない」

「うう…相変わらず黎斗さんは辛辣です…」

 

私とコッコロはスズメが用意したサンドイッチに手を伸ばし口にする…ん?これは…

 

「…おや?このサンドイッチ…独特な風味でございますね」

「あ、あの、口に合わないようでしたら無理に食べなくても大丈夫ですよ?」

「いえ、わたくしがこの地域の味付けに不慣れなだけでしょう、主さまは食べておられますし」

「いやスズメ…このドレッシングは自作のものだろう?おそらくその調味料を間違えている」

「へ…?ま、まさか…」

 

そう言ってスズメは自身で作ったサンドイッチを頬張る。そして顔が青ざめ始め…

 

「あう…や、やってしまいました…すみません!!お二人共、無理に食べずに吐き出してくれても構いません!」

「…別に食べられないという程悲惨なことにはなっていない、それに私達は食事に対価を支払う程のお金も持ち合わせていない、これ以上の贅沢は求めないさ」

「ふふ、主さま…っとおや?」

 

私達が食事を進めているとコッコロが何かに…

 

「わたくしの食べかけのサンドイッチが何処かに…主さま何かご存知ありませんか?」

「…どうやら私達以外にも客がいるらしいな」

 

私はそれに気づき、座った状態である一部分…私の正面にある木箱を思い切り蹴り込む。

 

「グエっ!!?」

 

木箱は少しだけ開いておりその部分を閉めるように蹴り込んだ、するとまるで何かが挟まったかのような感触を足で感じ、辺りに珍妙な声も響く。

 

「い、いきなり何するんだ!!ゲホッゲホッ!無茶苦茶だな!?」

 

 

出てきたのは少女だった、それもコッコロと変わらない年齢くらいの少女、私がこの3ヶ月で出会ったことのない見知らぬ少女だった。

 

「って…ん?お前…どこかで見たことあるぞ?」

「へ?私ですか…?私はスズメですけど…」

 

彼女が木箱から出てきたと思ったら横にいたスズメに注目し始める。

 

「そう…スズメ…そんな名前だった…!ここであったが100年目…!!…じゃなくてお前、アタシの事覚えてるか!?」

「え?…えぇ…っとお初にお目にかかるんですが…ってあまり揺らさないでください〜」

 

スズメは両肩を掴まれて体を揺らされ目を回している…それにしてもコイツは何者だ?

 

「うう…どうしましょう、無賃乗車は犯罪ですし…かといってこんな小さな女の子を下ろすのもかわいそうですし…」

「小さ…っ!?アタシは小さくないぞ!!」

「犯罪は犯罪だ、小さい子供だとかそんなに甘やかす必要はない、何より私の従者の食事を奪ったんだ、それ相応の罰を与えるべきだ」

 

私は両腕を組みながら彼女に向かって言い放つ、するとようやく私たちの方へと顔を向けた彼女が目を丸くしながら私に近づいてくる。

 

「お前……お前!!!こんな所にいたのか!?全然姿を見せないから心配したんだぞ!?」

「…話が見えないな」

 

…この少女は以前のこの少年の知り合いか…?

 

「あなた…主さまのお知り合いでしょうか?」

 

そう言ってコッコロが私と彼女の間に割って入ろうとした時

 

「っお前は知らん!邪魔だ!!」

「あうっ」

「…」

 

コッコロは少女に突き飛ばされ尻餅をついてしまう。

 

「アタシは探してんだよ!お前を!「プリンセスナイト」のお前を…って…ん?」

「無賃乗車は犯罪だ、それに私の従者を傷つけるということは主であるこの私への挑発と受け取る、君には悪いがここらで退場してもらう」

 

私は少女の首根っこを掴み、そのまま馬車の荷台から放り投げようと考える。

 

「あ、あわわわわ!ど、どうしましょう!どうしましょう!!」

「お、落ち着いてくださいまし主さま!わたくしは平気です!それに馬車は動いていますし…そのまま放り投げては怪我ではすみません!」

「ちょ、ちょっと待て!!お前そんなヤバい奴だったか!?」

 

以前の少年の事など知らない、私は私だ、檀黎斗だ。

 

「っと…ん?アレは…」

 

首根っこを捕まえられ宙ぶらりんの少女が目を凝らしながら馬車前方を見る。

 

「お、おい!お前!降ろせ!!罠だ!爆裂魔法が組み込まれた爆弾がある!!」

「なに?」

 

この状況を打開しようと嘘をついている可能性もある、私は目でコッコロに合図を送るとコッコロが精神を研ぎ澄まし辺りを索敵する。

 

「主さま、前方200メートル程先に確かに微量な魔力を検知しました、彼女の言っていることは真実かもしれません」

 

200メートルか…この速度なら30秒程度しかないな、動けるチャンスはここだけか。

 

「コッコロ、君はスズメを頼んだ」

「承知しました主さま…さ、スズメさまお手を」

「へ?」

「グレードゼロ…変身」

 

『マイティアクショ〜ンエェックス!!』

 

私は変身を完了させ、すぐに前方の馬主を片腕で抱き抱え、馬車から飛び出す。するとその直後に馬車は爆発を起こし馬そして荷台は木っ端微塵に砕け散る。

 

流石に二頭の馬を助け出す程余裕はない、人命優先だ。まぁそうだなペコリーヌの言葉を借りるなら肉片は後で馬刺しにでもしてやろう。

 

私は馬主と首根っこを掴んだままの少女を抱えつつ岩陰に隠れ下ろす、コッコロも同様に近場の岩陰に隠れスズメを下ろした。

 

「お前…なんだその姿…」

「黙っていろ…これが罠だとすれば近場にそれを仕掛けた人間が必ずいる、息を殺せ」

 

私の姿を見て驚きを隠せない少女、しかし今はそんなことに構っている余裕はない。

 

「コッコロ」

「わかっております…爆発系のトラップ魔法が複数ではなく単独…となると必ずや近くに使用者が居る筈です、罠にかけ妨害する事が目的ではなく対象者を殺す事が目的の可能性が高いですから……今わたくしの風魔法で微細な魔力の流れを辿っています」

「流石は私の従者だ」

 

ちっ…こっちには名も知らぬ少女と使えない馬主、それにド緊張状態のスズメがいるとなると果たして守りながら戦えるかどうか怪しいな。

 

最善策は退避だが…こんな遮蔽物の少ない岩石地帯で3人抱えて退避するのは得策ではない。

 

コッコロが早めに敵を索敵できれば状況は変わるが…

 

「…!主さま、風上から風下の方に大量の魔力を検知しいたしました…どうやらこちらに迫ってきている様子」

「…数は分かるか?」

「正確な数までは…しかしおおよそでも20から30…」

「そ、そんなにですか!?もしかしてここら辺一帯を縄張りにしている盗賊なのでは…?」

 

…数でも圧倒的に負けているか…流石の私でも単独無双は少々難しい…

 

そうこうしている内に私達は取り囲まれている…もう逃げる事は不可能と見た方がいいな。

 

「さてと…両手を上げてその岩陰から出てきて欲しいなぁ〜別に手荒な真似をしたい訳じゃないからさ〜」

 

1人の男が言う、かなり軽装だがあの発言力から察するにこの面子の中では1番の実力者か…

 

「僕達の狙いはそこにいる『ムイミ』っていう子だけ…君達には危害は加えるつもりはないよ〜」

「…オクトー…!!」

「気安く名前を呼ばないでよ、仲良しだと思われちゃうじゃん」

 

オクトーと呼ばれた男とこのムイミと呼ばれた少女。

 

先の私やスズメへの突っかかりから察するに彼女は何かしらの記憶を保有している、だがそれは私には何も関係のない事だ。

 

ここは安全を考えこのムイミとやらを渡したほうがいいだろうな…安全を考えるのならな。

 

「忘れちゃったのかよ…!本当に何もかも…!!」

「はいはいそう言うの良いから、僕としてはそれを返してもらえれば良いだけだし、それは僕の母親から貰った大切な形見なんだ、返してもらうよ」

「…形見…お前一度もそんな事…知らなかった、そんな大切なものをアタシに…」

「言う訳ないでしょ?泥棒相手にさ」

 

その言葉にムイミが吠える。

 

「泥棒なんかじゃない!お前から貰ったんだ!!お前は忘れちゃってるかもしれないけど…本当の誕生日を知らないアタシに…お前が…『だったら今日を誕生日にしよう』って…」

「妄想の話でしょ?やめてよね〜そういう寒い話はさ」

「そうだな、そんな茶番は別にどうでも良い」

「主さま…!!」

 

この2人の会話に私が割って入り、前に出る。

 

「…んー?なにこの黒い鎧を着た変な人…」

「私は檀黎斗…神の才能を持つ者さぁ…」

「うーわ、また変な人に絡まれちゃったなぁ…」

「お、おい、お前…どうして…」

 

私の片腕を軽くつまみ話しかけてくるムイミ、それに対し私は1度だけムイミの方を向いた後、軽くため息をつきながらオクトーの方へと向き直る。

 

「君達は彼女を狙っているのだろう?名指しで狙われるという事は指名手配されている大悪党か…はたまた特別な人間のどちらかだ」

 

私は話を続ける。

 

「仮に大悪党ならば生死は問わないにせよ、このランドソルでは法律上必ず生きたまま捕縛する事が決まりだ、だからこんなコスい手で命を奪うなど到底あり得ない、ならば答えは1つだ」

 

私はムイミの頭に片手を乗せる。

 

「この娘が特別な人間だからだ、なら黙って引き渡すのは面白味に欠ける、ゲーム的にいうのならこの少女はイベントの要、簡単に捨て置けないだろう」

「ゲームって…お前…」

「ふぅん、それじゃあ邪魔するって事で…良いんだね?」

「勿論だ」

「今の声って…!!おーい!!黎斗!!そこにいるのか!!?」

 

その時だった、不意に別方向から声が響く、聴き慣れた声だ。

 

「…この声は…マコトか?」

「って、うへぇ!?く、黎斗…で良いんだよな?なんだその姿…」

「鎧のようなものだ、あまり気にするな」

 

十数人の獣人達を連れてやって来たのは狼の獣人の少女マコト、以前知り合った少女の1人だ。

 

「…また主さまのお知り合いの方…それもまたもや女の子…アメスさまの託宣通り節操無しです…ぶつぶつ…」

 

コッコロが背後で何かを言っているようだが、今は無視だ…ふむ、マコトか…これならば無傷でこの場を脱する事が出来るかもしれない。

 

「てか馬車に乗ってたのってお前かよ!!本当によかったぜ…危うく友人殺しになっちまうところだったよ」

「あなたが爆破などしなければ平和な馬車の旅だったのですが…」

「し、仕方ねぇだろ!?仕事なんだからさ!そ、それにオクトー先輩が勝手に…!!」

 

コッコロの辛辣な発言に言い訳をしているマコトだが、ここで選択を誤らなければあのオクトーとやらを丸め込みここから退避を…

 

「…!!」

 

マコトが何かを察知したコンマ数秒後に私も気付く、マコトの後方、私の正面…かなり遠方だ、変身し強化された私の視力でも見えない。

 

そこから飛んできたのは1本の矢、それがマコトの首に向かって飛んできたのだ、それをマコトは振り向きもせずに頭を左に傾ける事で回避。

 

回避したことにより私に飛んできた矢を私は右手で掴み取る。

 

「一体なんなんだ…?」

 

マコトが疑問に思っているが…この矢の挙動…私には身に覚えが…

 

「黎斗…!!また来るぞ!!お前達も!!」

 

マコトが獣人達に指示を飛ばす、その瞬間、とてつもない数の矢が私達に降り注ぐ。

 

「コッコロ!!私が強化する!!風魔法を展開しスズメ達を守れ!!」

「承知しました!!!」

 

私は剣を構え、迫りくる矢をはたき落としていく、やはり…間違いない…この矢は…

 

この矢の挙動に感づいた私は新たな局面へと移行する。

 

 




早くドロップ2倍キャンペーンになーれ☆


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

動き出す歯車 その②

ネネカなんか必要ねーんだよ!(血涙)


状況は好転している。

 

獣人の戦士達が数十名とマコト、マコトの先輩なる男オクトー。

 

更にムイミを狙う謎の襲撃者…これら全てが敵だった場合は私達の敗走は確定していた。

 

しかしそれらは全て真逆…実に運がいい、人脈とは持っておくべきものだ。

 

「主さま、弓での襲撃者はこちらに迫って来ております」

「そうだろうな、不意打ちが失敗した今、超遠距離からの狙撃は矢の無駄だ、接近し狙い撃ちにするのが効率的だろう」

 

それに、この矢を放つ彼女だけではないだろうからな。

 

「ちっ…!チマチマと…!!隠れてないで出て来やがれってんだ!!相手になってやる!!!」

 

マコトは今もまだ飛んできている矢を斬り落としながら吠える。

 

「ふっふっふ、あなた達に名乗る必要なんかありませんよ!!「ラビリンス」のリノちゃんは賢いので!!!」

「…あ?ラビリンス…?聞いた事ねぇよ!!」

 

そう言って弓を構えた少女が1人、小高い岩山の上の岩陰からヒョイと出てくる。

 

…やはりリノか…それにしても相変わらず…

 

「リノちゃん♪言ったそばから名乗ってどうするのかな?天然?天然さんなの?」

「っあいた!!?いきなり頭突きですか!!?うう…す、すみませんシズルお姉ちゃん…つい…」

 

…どうやらシズルもいるようだな、さて…彼女達はどう出るかで選択肢は変わってくるが…

 

「とにかく、そこにいるノウェムを回収されてしまうと困るんです!だから…こちらも介入させてもらいます!!」

「そういう事、だから大人しくしててね♪」

 

彼女達の狙いもムイミ…いや彼女達はノウェムと言ったか…この少女は2つの名を持っているという事か?まだわからないな。

 

「ラビリンスだか何だか知らねぇが売られた喧嘩は買ってやるよ…こっちもやられっぱなしじゃあよ…黙ってらんねぇんからなぁ!!」

「…リノちゃん、あっちにいる獣人の人達の足止めをお願いね、私はノウェムを確保するから」

「了解しました!!」

 

次の瞬間、行動を開始する。リノは連続して矢を放つ、全てが炎のようなものを纏いながら獣人達を足止め、その間にシズルが岩山から華麗に降り立ちノウェムに向かって走り始める。

 

「なに…無視しようとしてんだ!コラァ!!」

 

そうはさせまいとマコトが剣を振りかざしシズルの胴を斬りつけようとする、しかしそれは簡単にシズルの持つ長剣に防がれ唾競り合いとなる。

 

「うーん、今はワンちゃんの相手はしてられないかなぁ、少しおすわり、しててもらえる?」

「なんだと…ってうぉ!?」

 

唾競り合いで力んでいたマコトはいきなり後方に大きく跳躍したシズルによってバランスを崩し転倒しかける。

 

「っ…!野郎っ…アタシの力を利用してあんなに高く跳躍しやがった…っ!!!」

「それで終わりなわけ…ないよねぇ」

「っ!?」

 

彼女は高さ10メートルの位置で静止しており、空に向かって両足を向けるような体勢で剣を頭後ろに持っていくような構えを取る。

 

顔はしっかりとターゲットのマコトに狙いを定めており、背中付近から光の翼のようなものを噴出させそのまま空を…空間を蹴り込む。

 

ドンッという炸裂音が響き渡るとコンマ数秒でマコトの背面にまで移動し既に斬り込んでいた。

 

「なっ…っ!?」

「安心して、峰打ちだよ、まぁこの剣に峰なんてないんだけどね♪」

 

まるで雷鳴の如く、勝負は一瞬でついた。

 

そのまま何事もなかったかのように長剣をクルクルと手首を器用にスナップさせて振りながら呑気に歩いてくる、対照的にマコトは片膝をつき、斬られた(恐らく打撃)部分の右肩を左手で押さえながらギリっと歯を食いしばっていた。

 

「さて…と、黎斗く〜ん、ゴメンね?せっかく会えたのに今はお仕事中だから相手ができないんだぁ」

「…何故今の姿で私だと?」

「それは私達が運命の赤い糸で結ばれた姉弟だからだよ♪姿形が変わっても…性別が変わっちゃったとしても…性格が変わったとしても…私は君を区別できるんだよ!」

 

…彼女は以前に私と出会った時、私の名前や性格の違いに違和感を覚えていた…つまり前の私の体の持ち主を知る人物。

 

それでも尚、私をこの体の持ち主の少年と同一視していた、その時はただの頭のイカれた女だと判断していたが…ここまで来ると本当に何か…五感ではなく六感という奴で判断しているのではないかと思えてくる。

 

「それじゃあ…」

 

キラりと剣を静かに構えるシズルに対し

 

「わー待って待って!マコトちゃんが敵わない相手なんて僕ができるわけないよ!僕は頭脳専門だし!はいその子は譲りまーす!!」

「そっか、それじゃあ遠慮なく」

「へ?ちょっオクトーお前っ!グヘッ!?」

 

シズルは手刀1発でノウェムを気絶させ抱き抱えそのまま後方へバックステップしてリノの元まで下がっていく。

 

「よろしいのですか!?主さま!!ムイミさまが…!!」

「ああ、これでいい、彼女達は私の知り合いだ、下手な事はしないだろう、私としても彼女達と…あのシズルと戦うのは願い下げだ」

 

彼女はしっかりと仕事は仕事と割り切るタイプだ、平時は私を弟などといって可愛がってくるとはいえ邪魔をすれば確実に排除しにかかってくるだろう。

 

私の戦力を考えてもシズルとの一対一での戦いは分が悪い、オクトーではないがマコトが負けたのなら私が勝てる見込みは万に一つもない。

 

「あ、主さまのお知り合い…ですか…またもや女の子…ですか…そうですか」

「不服か?」

「…少し」

 

ふっコッコロにもちゃんと反抗精神があるのだな。

 

「リノちゃん、回収は完了したから、後は下がるよ。黎斗君には申し訳ないけど……マスター!!「オブジェクトの変更」で追手が来ないようにしてくれる!!?」

「逃げるがカチンって奴ですね!!」

「逃げるが勝ちね、リノちゃん」

 

ラビリンスと名乗った2人がその場を離脱すると同時に大地が揺れ始め、隆起する。

 

「な、なんだこりゃ…っ!!?」

「う、うわぁぁ!?なにこれ?魔法!?」

 

片膝をついていたマコトは立ち上がりバランスを崩しそうなオクトーを支える。

 

「あ、あわわわっ!?こ、転んじゃっ…って…く、黎斗さん!?」

「スズメに今ドジを踏まれると確実に落下死するぞ…私に掴まっていろ」

「す、すみません…ありがとうございます」

「主さま、こちらもなんとか大丈夫です」

 

コッコロは馬主を支えてくれているようだ、それにしてもオブジェクト変更…か。

 

どうやらラビリンス…というギルドにはこのゲーム本体に直接介入できる存在がいるようだな…マスターと呼ばれていたようだが。

 

しかしまぁ、おやつ感覚でオブジェクト変更をしてくるとは、このゲーム世界だけで生活している私達にとってはたまったものではない。

 

とにかくこの不安定な足場から落下しないように踏ん張りを効かせる、こんな所でゲームオーバーなど話にならないからな。

 

「っ…シズル達め…ただ逃げる為だというのに大掛かりすぎる…!マコト!お前達の仲間は動けるか!!」

「あ、ああ…!っち!もうここの足場ももたねぇか…!オクトー先輩!!アタシが担いでやるからしっかりしろよな!!お前達!あっちの足場に移動する!!アタシについて来い!!」

 

マコトが先陣を切り、不安定な足場を跳躍で抜けていく。

 

「コッコロその男も私に渡せ、スズメとソイツは私が担ぐ、君は先に行っていろ」

「しかし…っいえ、今は問答している場合ではございませんね、分かりました」

「物分かりが良くて助かるよ、流石は私の従者だ」

 

よし、コッコロは先に行ったか。

 

「スズメ、しっかり掴まっていろ、ここで下手に暴れて落ちたとしても私は助けないからな」

「は、はいぃ…」

 

私は揺れ動く足場を跳躍で次々と移動していく、それと同時に足場にした場所は崩落していく。

 

間一髪だったな、だがこれで…っ!!?

 

「主さま…っ!!」

「くっ…!!?」

 

後一歩の所で私のいた足場が崩れ落ちる、後数十センチ、目の前にはコッコロ達がいる足場に辿り着くはずなのに…!!

 

「ちぃっ!!!コッコロ!!コイツらを受け取れ!!」

「ひゃぁぁっ!?く、黎斗さん!?」

 

私は咄嗟にスズメと馬主をコッコロ達の方へ放り投げる、しかし私はそのまま崖下に落下していく。

 

高さは50〜60メートル程度、ゲンムの姿なら耐えられない事はないが大きなダメージは避けられない、変身解除は確実だろう。

 

本当に困った体だ、この私が他者を優先するなど…だが私が自分の命を捨ててまで他者の命を救うなどあり得ない。

 

他者を救うのなら必ずこの私自身も生き残ってみせる…!!例えコンティニューしたとしても!!

 

「コッコロ!!!!」

 

私は落下しながらコッコロを強化能力で強化する。

 

「主さまっ!……やぁぁぁ!!」

 

それに応えるようにコッコロは風魔法を使い、繊細なコントロールで私を上空へと弾き飛ばす。

 

弾き飛ばされた私の体はフワリと1度重力から解放されるような感覚を受けた後、コッコロ達のいる足場に着地する。

 

「流石に今のは肝を冷やしたが…よく私の事を理解しているようだなコッコロ」

「当たり前でございます、わたくしは貴方さまの従者です、貴方さまの望む事はわたくしの望む事です」

「うえ〜ん、す、すみません黎斗さ〜ん、私のせいでぇ〜」

「おいおい、大丈夫かよ黎斗、今のは流石に死んじまったかと思ったぜ」

 

泣きながら私に抱きついてくるスズメを無視し変身を解除しながらマコトに話をつける。

 

「さて、今回の一件はどうしたものか…馬車は爆破され、道は…この様に通れなくなってしまった訳だが…」

「う…お前分かってて言ってるだろ…わぁってるよ、オクトー先輩がやらかしたとはいえこの依頼のケツ持ちはアタシら『自警団(カォン)』のもんだ、馬車の手配や被害金もアタシらが出すよ」

「それだけか?」

 

私がそう言うと、はぁ…とため息を1つつき頭をワシワシと掻きながら

 

「そうだよな…もう後3時間もしたら日は傾いて暗くなっちまうし…馬車もないんじゃ帰りは徒歩だからな…ランドソルに着く頃にゃすっかり日も落ちてるだろうし…お前達は一回自警団で身柄を保護させてもらう」

「そうだろうな、一応私達は被害者だ、丁重に扱いたまえ」

「ったく調子いいぜ全くよぉ…」

 

そうと決まれば行動あるのみ、日没まで時間がない、徒歩では本当に日が暮れてしまうからな。

 

日が落ちれば気温は下がり、魔物達も活性化し視界も悪くなる、そんな中で準備もろくにしていない今の状況下でフィールドに出たままなど自殺行為だ。

 

「オクトー先輩、アンタには聞きたいことがあっから後で覚えておけよ」

「はーい分かってるよぉ〜はぁ…なんの収穫もないのに帰宅は徒歩かぁ…」

「そもそも、爆破の威力をあんなことにしてなければアタシらの馬も逃げる事はなかったんだよ!!爆発音で全部逃げちまったじゃねぇか!」

「そうじゃなくてもあの地形の変化のせいで結局馬達はみんなお陀仏だったと思うし僕のせいじゃないよ〜」

 

マコトとオクトーはそんな事を言い合いながら周りの獣人に嗜められつつ歩を進めている。

 

「それにしても…あの「ラビリンス」とは何者なんでしょうか…主さまのお知り合いのようですけど…」

「…それに関しては私も詳しくは知らない、そもそも知り合いといっても現場にいたリノやシズルくらいしか知り合いはいない…残りのメンバーが誰なのか何人いるのか何が目的なのか、その全貌はとてもじゃないが知り得ない」

「では何故逃したのです?主さまはあのシズルという女性の方と戦う事を拒んでいらしましたが」

 

別に感情論で拒んだわけではないが…

 

「単純に戦闘面による考慮だ、シズルは強い、私の今の力や例えコッコロを強化した所で歯が立たないだろう」

「成る程…」

「それにさっきも言ったが私と彼女達は知り合いだ、ここで敵対する様な流れを作った場合、次に出会ったとしたら確実になんの情報も得られなくなる、次の手を打つのであればここは穏便に事を済ますのが吉だろう」

「そこまでの事を…!流石は主さまですわたくし感服致しました」

 

そう、ここは黙って引き下がり我慢をする局面だ。

 

ノウェムは間違いなくこの物語の鍵、そしてそれが私の知り合いがいる組織の元に渡った。

 

それも強大な力を…この世界の理を司る力を持つ者がいる組織に…ククク…今のところはこの私の手のひらの上で転がっているぞ…この物語はなぁ…!!

 




えぇ!?女の子40人とエピソードを!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

華麗なる暴君と黒き騎士

ひたすらランク14の装備を整える日々


「ラビリンス」にムイミそしてノウェムという2つ名を持つ少女を確保されてから数時間。

 

私達は現在自警団(カォン)の本拠地ギルドに腰を置いていた。

 

この部屋は自警団(カォン)のギルドマスターのマホの部屋である。

 

この部屋はマホの趣味であるぬいぐるみで埋め尽くされたメルヘンチックな内装をしており男である私にとっては少し息苦しい場所ではある、まぁそこまで気にするほどでもないが。

 

「みらくるまほりん、くるりんぱ〜」

「おお、傷が治っていきます…」

「凄いです、それどころか服まで直っていますよ!?」

 

今、傷を負っていたコッコロとスズメがマホに治療を受けている。

 

「うち、体を治すんより服の修繕の方が得意やってん、これで2人とも怪我は治ったやろ?」

「ありがとうございます、えーと…」

「うちは一応ここのギルドマスターのマホって言います」

「すまないなマホ、世話をかける」

 

私が彼女に話しかけると彼女は顔を赤らめながら

 

「いややわ〜そんな『マホ』なんて他人行儀な…王子はんはうちの事を『マホ姫』って呼んでくれなきゃいやん♪」

「王子はん…マホ姫…?」

「…あまり人を睨むものではないぞコッコロ」

 

今のやり取りでコッコロには細い目で見られる、まぁそれは当然だろうな。

 

「あの…マホさま…何故主さまは王子はんなのでございましょうか」

「はい♪うちと王子はんは運命の赤い糸で繋がった関係…運命の殿方なんよ♪」

「…左様でござい…ますか…主さま…あまり言いたくないのですが…」

 

コッコロはズイッとこちらに顔を近づけ私を軽く睨む。

 

「交友関係に文句をつける筋合いはわたくしにはございませんが…いささか不純なのでは?」

「…彼女が勝手に言ってる事だ、気にするんじゃない」

「…むぅ」

 

彼女は私から離れたが頬袋を膨らませご立腹の様子だ、これは…先が思いやられる。

 

「本当、申し訳ないな王子はん、うち達のギルドが迷惑をかけてしもて」

「マコトも言っていたがオクトーとやらの判断に自警団(カォン)が付き合わされた形なのだろう?ならあまり君が気に病む必要はない」

「王子はんはほんま優しいなぁ…でもそういう話で終わらせるにはいきまへん、ちゃんとうち達が尻拭いさせてもらいます」

 

ギルド間の問題にあまり私が介入するものでもないだろう。私は前世で社長という経歴があるがそういった経営や何やらは下手をすればマホの方が詳しいだろう。

 

「マコトはんはオクトーはんのご説教に行ってもうてるからここには今は来れへんみたいやね」

「まさか私のお仕事でこんな事態になるなんて思いませんでしたぁ…」

「そうでございますね、本当に人生とは何が起こるか分かりません」

 

…果たして本当にそうだろうか、私とコッコロは確かに偶然かもしれないが…何か引っかかる。

 

「それにしても…「ラビリンス」とは何者なんでしょうね、あんな惨事になって死者が出なかったのは不幸中の幸いですが…」

「馬は死んだがな」

「主さま、茶々を入れないでくださいまし」

 

…コッコロの言葉がいつもより冷たいな、何故だ?

 

「うち達自警団(カォン)も追っ手を出してみてはいるんやけど、どうやら逃げるのが得意な組織みたいやなぁ、うち達は一応五感が鋭い獣人のギルドやけど尻尾一つ掴めんかったわ」

 

そのような会話をしているとガチャと扉が開く音が響く。

 

「はいたーい、マホ!パトロールと馬車の手配は済んだよって黎斗がいるさ〜何かあったの?」

「カオリはん、お疲れ様やわ〜、王子はん達も少しトラブルにあって今自警団(カォン)が保護してるんやわ」

 

そう話すマホ達の傍で再びコッコロに睨まれる私。

 

その目は「また女の子の知り合いですか主さま」と言いたげな表情をしていた。

 

「保護ねぇ、それは大変だったでしょ、黎斗元気だすさ〜あはは〜☆」

「別に私は落ち込んでいないよ」

「そうだよね〜黎斗はいっつもこんなテンションさ〜黎斗も一緒に踊ろうよ〜テンションが上がるよ〜」

「…遠慮しておこう」

 

彼女のハイテンションにはついていけない、それが彼女の良さでもあるが。

 

「もう、良い時間ですよね…きっとお嬢様も心配しているかもしれません…」

「連絡手段はあるのかい?」

「一応通信魔法は使えるのですが、私あまり得意じゃなくて…」

「マホ、君は使えないのか?」

「そうやねぇ、確かに遠隔になればなるほど演算なんかが難しくて中々出来るものじゃないしなぁ〜カスミはんがいてくれたならこういった小難しい事も出来るんやけど…今は「シャドウ」とかの調査でいませんし…」

 

「…そうか、なら他に連絡手段はないという事か?」

「そんな事あらへん、身近な人ならそこまで難しい演算は必要ありまへんから…マコトはんに取り敢えず連絡を取って見ます、もしかしたらカスミはんと合流してるかもしれへんし…コホン、では…みらくるまほりんくるりんぱー」

 

マホはそう言って詠唱を開始するのだが…

 

「…?」

「どうした?」

「珍しいね〜マホが魔法を失敗するなんて」

「いや…分かりまへんけど…通信魔法が使えなくて………」

 

そう言った彼女の顔つきが変わる、真剣そのもの、険しさが表れる。

 

「カオリはん、ここに来る途中何か変わった事、ありまへんか?」

「変わった事?あーそういえば帰ってきた時、あんまり生き物の気配がしなかったさ〜自警団(カォン)は結構動物とかに好かれてるから、いつもなら動物達の鳴き声とかして賑やかな筈なのに」

 

……言われて見れば…確かになんだこの気配は…動物達のような気配ではない、妙な気配を感じる…

 

「うーん…少しうちは抜けてるんやろか…ポケッとしすぎかもしれへんなぁ…こんなおぞましい気配に気づかないなんてなぁ」

「…何が来る」

「分かりまへん…カオリはん、気を引き締めた方がよろしおす」

 

その言葉にスズメ以外の全員の顔が険しいものとなる、私でさえ正直取り繕う程の余裕はない。

 

「ど、どうなさったんですか…!皆さんそんな怖い顔をして…!」

「…しっ、あまり大声を出してはあきまへん…今、このギルドハウスは敵襲にあっているかもしれまへん」

「…マホ、コッコロ、どうだ」

「ダメです主さま、どうやら遠隔に飛ばす魔法は妨害されるような結界を張られている可能性があります」

「こっちもダメみたいやわぁ、索敵魔法も妨害されてるさかい…どうやら敵に取り囲まれてるかもなぁ…」

 

…事態はかなり悪いな…取り囲まれてるとなるとかなりの大人数、先のラビリンスとの攻防の時よりも悲惨な状況と見ていいだろう。

 

思考しろ、何故このような事態になったのか、それを考えろ。

 

十分にピースはある筈だ…後は当て嵌めるだけ、この私が相手の策略に黙って陥れられるなど断じて許さない。

 

「…む、足音が聞こえてくるさ〜!それも正面から堂々と!こうなったら私の空手の餌食にしてやるさ〜!」

 

そう言ってカオリが扉の前に立ち、右手と右足を引き、左足を前にして構えを取る、所謂正拳突きの構えというやつだろうか。

 

「いっくよ〜!!!」

「って待て待て!カオリ!アタシだよ!!」

「マコト〜?なんだ良かった〜危うく私の空手の餌食になるところだったよ〜」

「あ、あはは…そいつは勘弁願いてぇぜ…っとそれよりみんなのその顔つき…どうやら呑気してるわけじゃなさそうだな」

 

マコトは入ってきた扉を閉め、神妙な面持ちでこちらに近づいてくる。

 

「分かってると思うけど、今このギルドハウスは敵に囲まれてる」

「敵って…誰ですの?うち等のギルドは平和的なギルドやさかい、そんな敵なんて作れる程のものでは無いんやと思うけど…」

「…オクトー先輩から色々と問いただしたら、キナ臭い話が聞けてさ」

 

マコトが私達の座るマット床の近くにドカッと床に座りながら語りを続ける。

 

「オクトー先輩はあのムイミだかノウェムだかっていう女の子を狙ってたのは間違いないんだけど…その他にも狙いがあったんだ…」

「狙い…ってなにさ〜?」

「オクトー先輩も上からの命令で仕方なくって感じらしくてさ、とにかく…全部アタシの責任なんだ!アタシがその事に早く気づいていれば…!!」

 

悲観している場合ではない、早く用件を言えと私が言おうとした瞬間だった。激しい爆発音と粉塵、瓦礫が飛び散る。

 

「主さま…!」

「王子はん…っ!!」

「あわわわわ…!!?」

 

私はなんとかコッコロとマホ、スズメを庇いながら後方に下がることができた。

 

身体能力の高いカオリとマコトは大丈夫だろうとタカをくくり何もしなかったがやはり回避に成功している様子だった。

 

「な…なにさ〜!?いきなり壁が崩れたばぁよ!?」

「これはこれは、紳士淑女の皆々様、「王宮騎士団(ナイトメア)」様のお通りだよ☆」

 

砂煙の中から巨大な剣を振りながら歩いてくるド派手な衣装を身に纏う女が1人、その背後には十数人の銀色の騎士達が共に歩いてくる。

 

王宮騎士団(ナイトメア)…そうか、これで合点がいった。先程マコトが言いかけた事……全てのピースが埋まった。

 

「てめぇ…いきなり何しやがる!!!何者だテメェはよ!!」

「おお!よく吠える犬コロだ、まぁ私は誇り高き騎士様ではないから紳士的にする必要は無いのだが、良いだろう!冥土の土産に教えてやろう☆」

 

彼女はそう言いながら巨大な大剣を真横に振るう、その剣圧は煙のように漂っていた砂塵を一瞬にして消し飛ばす。

 

「私は王宮騎士団(ナイトメア)副団長!!クリスティーナ・モーガン!!今宵は王宮に仇なす獣共を狩りに来た次第だ!」

「さっきから…勝手な事言ってんじゃねぇぞ!コラァ!!獣狩りだぁ?狩られんのはテメェの方だ!!」

「ま、待つんよ、マコトはん、どうしてマコトはんは血の気が多いんや、ここは穏便に済ました方がええ」

「穏便だぁ?もうこっちは壁もぶっ壊されちまってるんだぞ!!?」

 

…さて、どうしたものか。マコトの言い分も分からなくはない、相手は事を穏便に済まそうとはしていない。

 

そして穏便に済ますという選択肢を与えてくるとは到底思えない、このままいけば結局行き着く先は1つだけ、それが遅いか早いかの違いでしかない。

 

「そんな事言うても相手の思う壺や、本当に戦争を起こすつもりかえ!?」

「そうだぞぉ?犬コロ、そのギルドマスターさんの言う通りだ、貴様達が手を出せば我ら王宮騎士団(ナイトメア)は正義を持ってして貴様達を罰する」

「よくもそんな事をいけしゃあしゃあと…!!!テメェ達が仕組んだくせによぉ!!」

 

マコトが激昂して吠える、今にも飛び込んでいきそうな勢いだ。

 

「ほう、オクトーの坊やから随分聞いた様子だなそこの犬コロは」

「一体どういう事でしょうか?」

「簡単な話さコッコロ、私達は…正確にはスズメは戦争の火種に利用されたって事だ」

「黎斗…お前…どうしてそれを…」

「ほう…?」

 

私の発言にマコトそしてクリスティーナが反応を示す。

 

「わ、私ですか?な、なんで…」

「スズメ、お前の所属しているギルドはどこだ?」

「えっ…それは勿論「サレンディア救護院」ですけど…」

「ではそれはなんのギルドの傘下だ?」

「傘下ですか…えっと…「プリンセスナイト」の傘下です…でも書類上なだけで繋がりなんて殆どないような…」

「そんな事は関係ない、傘下というだけで十分さ…そして」

 

そこまで言うと流石にマホとカオリは何かに気づいた様子だった、頭の回らないスズメとランドソルの知識に乏しいコッコロは未だに分かっていない。

 

「それが問題だ、大元のプリンセスナイトとこの自警団(カォン)の大元である「動物苑」は犬猿の中で有名だ」

「…確かに動物苑とプリンセスナイトは一色触発の冷戦状態みたいな関係やったからなぁ…」

「ノウェムの捕縛もまたこの一連の計画の一部に過ぎない、オクトーもまた利用されただけだ」

「ち、ちょっと待って下さい!例えそうだとしても私があの馬車に乗り込んだのだってたまたまですし……それでムイミちゃんがいるだなんてもっと偶然じゃないですか!どうやって…」

「むしろどうしてたまたまだと思えるんだ?」

「え!?」

 

私の発言に一応全てを把握している筈のマコトでさえ驚愕している。

 

「スズメ、君は「誰に」馬車を手配してもらった?」

「お、お嬢様です…」

「そうだ、そのお嬢様は元王宮騎士団(ナイトメア)副団長…つまりそういった手続きの書類を把握する事などコイツら…王宮騎士団(ナイトメア)には容易い」

 

私は続ける。

 

「更に言えば、サレンディア救護院に来た求人である「引越しの仕事自体」が果たして仕組まれていないと言えるのかい?」

「た、確かに…」

 

私の発言にようやくスズメも理解してくれたようだ。

 

「そしてもう一つ、ノウェムがなぜピンポイントにあの馬車に乗っていたのかだが…答えは簡単だ…そうだろう?王宮騎士団(ナイトメア)

「…面白い坊やだ☆中々どうして頭がキレる、そうさ!貴様の考えている通り!私達王宮騎士団(ナイトメア)がそのノウェムとやらを追い詰めあの馬車に乗り込むよう仕組んだ!」

 

一連の流れはこうだ、全てこの戦争の火種を生み出す為だけに仕組まれた事。

 

「だがしかし…この計画には1つ誤算がある」

「ほう、それはなんだ?」

「それは……この私がこの件に関与しているという事さぁ!!」

「はっはっは!!やはり面白い坊やだ!!貴様達の様な奴が馬車に乗っている事なども想定内だよ!!お前達!!ここにいる獣人共を狩り尽くすがいい!!」

 

クリスティーナの声と同時に背後にいた十数人の騎士達が動き始める。

 

「神の才能があるこの私がぁ…お前程度の想定にぃ……収まるものかぁ!!!『ピロリッ!マイティアクションエェックス!!』へぇんしぃぃん!!!」

『ガシャット!!ガッチャーン!!レベルアップ!!マイティジャンプ!マイティキック!マ〜イティアクショ〜ンエェックス!!』

 

私がゲンムの姿に変身を完了させると前進していた騎士達は驚き、動きを一瞬止める。

 

「あれぇ?黎斗珍しくテンションが上がってるさ〜」

「主さまは時たまに変なテンションになるのです、これにはほとほと困っているのですが…」

「ええい!姿が変わっただけで怯むな!!進め!!」

 

クリスティーナの怒号で騎士達が動きを再開し始める。

 

「ふん、あまり舐めては困るな、私達を罠に嵌めた罰は受けてもらう、手加減は無しだ」

『ガシャット!!キメワザ!!マイティクリティカァル!ストライク!!!』

 

まず私は陽動として手に持っていた剣を騎士達に投擲する、騎士達はそれに目を奪われ叩き落とす事に成功するも私の蹴りに気付くのが遅れる。

 

私は跳躍しそして加速、激しいエフェクトを出しながら騎士達全員を巻き込む。

 

「「ぐぁぁぁぁ!!!?」」

 

十数人の男の声が辺りに響き渡り、その後激しい爆発を起こし爆炎が巻き起こる。十数人の騎士達は爆炎の中から転がり出てそのまま動かなくなる。

 

「おいおい、やりすぎじゃねぇのか…黎斗の奴…」

「この場合はどうなるやっさ〜?黎斗は別に自警団(カォン)じゃないもんね〜?」

 

爆煙の中から現れるのは騎士達だけではない、私も蹴りの反動でしゃがんだ体勢から立ち上がり先程投げつけた剣を拾い上げクリスティーナに向ける。

 

「この私に楯突いたことを後悔させ、この世界から削除するぅ…!!!」

 




黎斗とシズルとかのキャラエピを想像したらなんか草生えた。
無茶苦茶想像できない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

華麗なる暴君と黒き騎士その②

今回のお話↓


横から連続で蹴りをしながら現れるマコト
マコト「フッ!!ハッ!!どうした!カオリ!!何故変身しない!!!」


こんなお話です


「あっはっはっは!黙って殺されるようならつまらん舞踏会になると思っていたが…黒い剣士よ!私と共にダンスを踊ってくれるかな?」

「ああ、踊ってやるさ…だが踊るのは死のダンスだがなぁ…!!!」

 

私は剣を片手に突っ込んでいく、この女…どこにそんな余裕がある。

 

先程私のキメワザで部下共を一蹴してやった後だというのにこの自信と余裕だ…何かある。

 

私は連続して斬り込むのだが

 

「ふぅむ、悪くない太刀筋だ」

「ちぃ!!やはり一筋縄ではいかないか…!!」

 

私の攻撃は簡単に回避される、副団長という肩書に偽り無し、無駄にド派手な格好をしているだけはあるな。

 

攻撃を開始してからものの数十秒足らずだが、私の攻撃は一切届いていない。

 

「…ふぅ、だがこれではただのお遊戯だな。少しガッカリだ、貴様の実力では私をその気にさせる事さえ出来んとはな」

「…何?」

「先程の見栄えの良い必殺技を出すなら今の内だぞ?でなければ貴様の首が飛び、辺りに血の花を咲かせる事になるからな!!」

 

その瞬間、不意に振られる大剣の横薙ぎ。この軌道は読みやすい、舐められたものだ、この程度の攻撃を私に当てられるとでも?私はその攻撃を回避しようとその場から身を引いた。

 

「…っ!!?」

 

だが違った、出鱈目に放たれたその一撃は私の首目掛けて確実に迫っていた。

 

「ぐぅっ!!」

 

私はギリギリ、剣でそれをガードするも大きくノックバックしコッコロ達のところまで吹き飛ばされてしまう。

 

…一体今のはなんだ…?妙だ…確実に私は今、回避をした筈…

 

「よく防いだな!それだけは褒めてやろう!」

 

クリスティーナは大剣をブンブンと振り回し高らかに笑う。

 

私はその場で静止し、右手で顎を撫でつつ横目でマコトとカオリを見る。

 

「…ふむ…マコト、カオリ」

「あ?どうした、黎斗」

「後は任せる」

「はぁ!?おまっ…あんなカッコつけておいて結局アタシ等頼りかよ!?」

 

私は少し思考する、というより奴の動きを把握する必要があると判断した。

 

今の一手で分かった事、それは確実に何か妙な力が奴にはある、それにより私は攻撃を受けた。

 

それを考える為にも体を動かしながらでは時間がかかる、その為に2人には囮になってもらう。

 

「仕方ないさ〜黎斗はこう見えても頭が凄く良いから後のことは任せるよ〜!」

「ったく仕方ねぇか…カオリ行けるか?」

「そうね〜…まずは小手調べっと…!!」

 

そう言うとカオリは足に力を込め一気に接近する、その速さは私以上だ。

 

「ほう、次は獣人達のお出ましか!いいぞ!もっと私を楽しませろ!!」

「その余裕、いつまで持つか…ね!!!」

 

カオリは連続して拳を突き出す。右、左、アッパーカット、更には体を捻り変則的な角度から攻撃を仕掛ける。

 

全ての攻撃の速度が先程の私の攻撃速度の4倍はあるだろう、とにかく目にも止まらぬスピードだ。

 

しかし

 

「ふはっ☆」

「っ…!!」

 

手を、足を、止める事はない。10秒以上も高速乱打を仕掛けるカオリだが全く擦る事さえない。

 

(どういうことさ〜?この人の視線を見れば分かる、私の拳は目で追えてない筈なのになんで当たらないさ〜!?)

「楽しいなぁ!!だが攻撃しているだけでは貴様も退屈だろう?せめてものプレゼントだ!受け取れぇ!!」

「んなっ!!?」

 

激しい金属音が響く、それはクリスティーナの大剣とカオリのガントレットが激しくぶつかった音だ。

 

その一撃によりカオリは吹き飛ばされ石柱に衝突する。

 

衝突したカオリは打ち所が悪かったのか尻から地面につくような体勢で動かなくなる。

 

「っ野郎…!!カオリ一人にやらせるんじゃなかった…!!…うらぁ!!!」

 

それを見たマコトが飛び出していく…それにしても…妙だな。

 

今の攻防、カオリは確実に剣撃を見切っていた筈だしクリスティーナは攻撃を追えていなかった、そもそもあの大振りに振られた出鱈目な攻撃をカオリが当たるということ自体が不可解だ。

 

…まるで『カオリ自身が大剣に当たりにいった』ような挙動…

 

「次は犬ころか!!来い!!愛し合おうじゃないか!!血を血で洗う殺戮の愛をな!!」

「意味わかんねぇ事言ってんじゃねぇよ!!」

 

マコトの剣撃もまた当然の如く紙一重で躱される。

 

「荒いな犬のお嬢ちゃん、実に剣が荒い、獣臭すぎるぞ」

「なにぃ…っうおっ!?」

 

クリスティーナは当然のように攻撃をヒットさせる、激しい剣と剣の衝突音が響き渡りマコトはその衝撃で後退せざる得ない。

 

「休んでる暇はないぞぉ?」

「…っ!!」

 

そんなマコトに接近し斬りつけようとするクリスティーナ、しかしその背後から一つの影が現れる。

 

「せやぁ〜!!」

「むっ!!」

 

それは先程まで石柱付近でダウンしていたカオリだった。戦線復帰し背後から奇襲をかけるも

 

「っ…また躱されたさ〜!!」

「おぉう、危ない危ない☆」

 

クリスティーナは振り向きもせずにその場で回転しながらカオリの攻撃を回避する。

 

カオリはその勢いのままマコトの隣に立ちクリスティーナと対面し構えをとる。

 

「…マコト」

「分かってるよカオリ、コイツは一筋縄じゃいかねぇ…一緒に行くぞ!!」

「勿論さ〜!!!」

 

2人が同時に動く、クリスティーナの視線は二手に分かれたマコト、カオリそれぞれを順繰りと移し品定めをしているように思える。

 

「マコト!!私が高速移動で相手を撹乱するからその隙に…ってわひゃ!?」

「おいおい、敵を目の前にして作戦会議とは些か呑気ではないか?自警団(カォン)

 

いつの間にか接近していたクリスティーナがカオリ目掛けて剣を振るう。

 

(あっぶな〜それにしてもなんで今の距離から攻撃が届くさ〜?それに…!!)

 

カオリは攻撃を受けた反動を利用して裏拳、そして回避される事を見越して更に回転し遠心力を利用した跳び回し蹴りを炸裂させる。

 

(っ…だからなんでさ〜!?攻撃もそうだけどなんでそんな体勢から回避できるばぁよ〜!?)

 

一連の攻撃はやはり紙一重で回避され、逆にクリスティーナが剣を構える。

 

(やばっ…!この体勢じゃ…回避も防御も出来ないさ〜っ!!)

「オルルァ!!!」

「むぅ!?」

 

クリスティーナが攻撃に移る寸前、マコトが側面から剣を下から上にかち上げるように振り込みクリスティーナに回避させる。

 

「成る程な、大した連携はないがこれも本能って奴か?獣だからか戦闘における嗅覚とやらは鋭いようだな」

「ケッ!てめぇに褒められても嬉しかねぇよ!」

(…やっぱりそうだよね〜何かがおかしいさ〜、私達が攻撃をしても全く当たらないのにあの人が攻撃すると必ず当たる…)

 

ん?カオリの奴…戦いながら何かを考えているのか?…彼女は確かに戦況を分析する能力に長けているからな。

 

(しかもどんな体勢だろうとどんな状況だろうとそれは必ず成立する…この謎を解明しない限り私達に勝ち目はないかもね〜)

 

状況は目に見えて劣勢、一応互いに致命打になるようなダメージを受けてはいないが、クリスティーナには一切ダメージは与えられずこちらにのみダメージが蓄積されていく。

 

このままではジリ貧でこちらが敗北するだろう…さて、私の方の分析は大方終わったが…この2人がどう攻略するか見ものだなぁ。

 

「マコト!やっぱり一旦体勢を立て直した方がいいよ〜!奇襲されてこっちは体勢が全然整ってないしね〜!」

「何言ってんだ!カオリ!!尻尾巻いて逃げろって言うのかよ!!せめて1発ぶん殴らなきゃ気がすまねぇ!!」

「一対一の喧嘩ならそれでもいいさ〜、でもこれはギルド間の問題よ〜、罠にはめられた時点でこっちの負けさ〜」

「でもよ…!!」

 

マコトの反論に一度咳払いをした後、カオリは冷静に

 

「ギルドハウスなら幾らでも替えは効く、でも命は違うよ〜、私達が守らなきゃいけない命がここにはいっぱいあるさ〜…だからマホ達を逃す為にも退路を作る、それが先決…違う?」

「う…そうだよな…カオリ…すまねぇ」

「ほう?中々冷静な判断じゃないか、人は見かけによらないな、面白いじゃないか拳法のお嬢ちゃん」

「ただの拳法じゃないよ〜おじぃとおばぁ直伝の空手さぁね〜!」

 

カオリの判断は間違っていない、これ以上戦闘を先延ばしにしてもワラワラと王宮騎士団(ナイトメア)がやってくるだろうからな。

 

まぁ当然、彼女が許すわけが無い。

 

「ふっ…だがそれは出来ればの話だがな…それに優しく撫でるのにももう飽きてきた頃だ、こちらも少し気合を入れて相手をしてやろう!」

 

彼女の雰囲気が変わったな、このままでは確実にマコト達は殺されるだろう。

 

「マホ、彼女達に回復と強化の支援魔法をするんだ」

「あ、うん…そやな…了解どす、うちだって黙って見ているだけなんてそんなの嫌やわ、微力ながら力になるえ!」

 

強化魔法を受けたマコトがクリスティーナの攻撃を受け止める。

 

「っ…!なんつー力だよ…っ本当に人間か!?姫さんの強化受けてんのに体が少し浮いたぞコラ!!」

「うらららら!!…っマコトと鍔迫り合いしてる筈なのにやっぱり攻撃が全然当たらないさ〜!!このぉ!!!」

 

マコトは鍔迫り合いを止め、すぐに連続で攻撃を仕掛ける、そしてカオリは逆に連続攻撃を止め高速で移動を開始する。

 

どうやら互いの持ち味を最大限活かす作戦のようだ。

 

「ふむ、先程口頭で言っていた作戦通りの撹乱と連撃か、確かに悪くない」

「協力してこそ自警団(カォン)の真骨頂さ〜!」

「ああ、見せてやるぜ!アタシ達の力をな!!!」

 

連携…取れているな、よしよし、上出来じゃないか…さてと、では流石に私も手を貸してやるか。

 

まずは少し気になっていた部分も検証しておこうか。

 

「コッコロ」

「はい?なんでしょうか主さま」

「今、あのクリスティーナは隙だらけだ、君の全力で槍を投擲してみせろ」

「し、しかしあの方はどうやら攻撃を完璧に回避する事が…」

「いいからやってみるんだ、私を信じろ」

 

その言葉にコッコロは動揺しつつも

 

「分かりました、主さまの命とあらば…」

 

コッコロは答え、そして槍を構える。

 

「あっはっはっは!!即座に対応してくるか!面白いぞ!獣人共!!」

「そこです!横槍失礼いたします!!えーい!!!」

「何っ!?」

 

…やはり体勢が崩れたか…コッコロ…君は…

 

「体勢を崩したぞ!!今だ!!カオリ!!」

「了解さ〜!!」

「ちぃっ!!」

 

一気に形成逆転…とはいかないな、素のポテンシャルも高い奴が一度体勢を崩した程度で逆転など出来るはずもない。

 

一瞬だけでも攻勢に出れたのは大きい…がやはりあと一歩押しが足りないようだな。

 

コッコロによる奇襲も2度は通用しない、だがこれで完全に分かった、もう私にはそのトリックは通用しない、ならば私がそのあと一歩になってやろう。

 

「鬱陶しい…!私が自らの意思で回避しなければならないなど…!!ふっ…全く…熱い展開じゃないか!!!」

「うおわっ!?また力が強くっ!!!!」

 

カオリとマコトが2人同時に吹き飛ばされる、火事場の馬鹿力というやつか?とにかくクリスティーナを一瞬でも焦らせる事はできたようだから及第点だ。

 

「おい小娘、貴様…何者だ?興味が湧いたぞ、貴様も私や陛下のように特別なのか?ちょっとこっちに来い、切り刻んで解剖して、徹底的に調べてやる」

「ヒィッあ、アレが善良な人のする目なのでしょうか…っ!な、なんと恐ろしい…っ」

「おいおい、酷いじゃないか、流石の私でも傷がつくぞ?」

「止めてくれないか?私の従者を怯えさせるような真似をするのは…」

 

私はコッコロの前に立ち、再び剣を構える。

 

「ん?また貴様か…どうするつもりだ?貴様の力量はすでに分かり切っている、今更出てきても何の足しにもならん」

「それは残念だ……お前の頭がな」

「何?」

 

パチンと私が指を鳴らすと先程投げつけクリスティーナの背後にあるコッコロの槍に風が宿る、それに気がついたクリスティーナは警戒するがもう遅い。

 

「さぁ再び死のダンスを踊ろうじゃないか、『ゲームマスター』…!!」

「っこれは…っ!!!」

 

私が巻き起こしたのは砂煙だ、最初にクリスティーナがご丁寧に壁を破壊したおかげで砂塵を巻き起こす材料は揃っている。

 

しかも今はマホに私が強化をかけ更にそのマホがコッコロを強化している、重複した強化により砂煙というよりは殆ど砂嵐のような状態になっている。

 

視界も悪く、1メートル先すら見通せない。

 

「くっ…っ!!これ程まで『異物』があるんじゃ『絶対防御も絶対攻撃』もロクに機能しないぞ…!!」

「その通りだァァ!!!」

「むぅっ!!?」

 

ガキンッ!と鳴り響く金属音、私は既にクリスティーナの目と鼻の先に近づいていた。

 

剣と剣がぶつかる音が連続して鳴り響く、視界はほぼ無く、能力も使えない、互いに同じ土俵で戦う他ない。

 

「貴様…っ!!最初からこれを…っ!!」

「お前の力…成る程…『絶対防御に絶対攻撃』か…確かにその名がピッタリだ」

 

だがそれは決して絶対なんかではない。

 

「お前には『お前や相手の当たり判定を中心にして自動的に判断し行動する』力が存在する」

「…何を言っている?」

 

私は攻防を続けながら話を続ける、どうやら彼女にはゲーム用語が通用しないようだ…少し期待をしていたのだが……残念だ。

 

「お前にも分かりやすくいうのならこの世界の物体には必ず『魂』がある、お前の攻撃はその魂から算出し、自動的に狙いをつける、しかも弾き出される計算により相手が次にどこに行くのかをおおよそ予測して狙うことも可能だ」

 

魂…とは当たり判定の事だ。この世界はゲームの世界、私達はキャラクターでありプレイヤーだ、勿論当たり判定と呼ばれるものが存在する。

 

この世界の辺り判定は見た目通り、私達の見えている体そのものがちゃんと判定になっている筈だ。

 

大体のゲームの当たり判定は見た目通りの場合、プレイヤーのストレスとなりかねない為、キャラクターより一回り小さかったり、シューティングゲーム等に関してはもはやキャラクターの中心に点のように存在するだけだったりするが

 

やはりVRという点がこの様な仕様になっている大きなポイントだろう、確かに判定が一回り小さかった場合、視覚情報と誤差が出てプレイヤーは違和感を感じるからな。

 

そして判定が大きいのならば多少計算がズレたとしても攻撃を当てることは出来るだろう。

 

『乱数』…恐らく当たり判定の乱数を操作する事がクリスティーナの能力だ。

 

「逆に防御はお前自身の魂を基準に計算する、何処から、どの角度でも、どんなタイミングだろうと、お前の魂を中心に計算を行い自動的に回避する」

 

当たり判定が全身ならば尚更感知しやすい、足先から頭頂までの全てが自動で感知するのだから…だが逆に言えば

 

「全身が計算を行うお前の体にこのように『大量の砂の粒子のような小さな異物』をぶつけた場合どうなる?」

 

数千、数万の判定を一つ一つ計算し、算出、そこから調整し回避や防御、攻撃に移る、これらの芸当を一瞬で行うことが果たしてできるのか。

 

所詮はスーパーコンピューターではない、1つのキャラクターに積まれたコードに過ぎない。

 

これ程大量の演算処理を出来る程の優秀な計算を1人のキャラクターに積むなどVRMMOに置いてはあり得ない、無駄だからな。

 

やるとするなら砂の一粒一粒を個々の判定として捉えるのでは無く、砂嵐というものを1つの大きな判定として捉える事にすればこの状況下でもその力は使えた筈だ。

 

「成る程な…やはり随分と頭のキレる男だよ、坊やは…まさかたったの一太刀浴びせただけでここまで手の内がバレるなんて初めての経験だ、いい勉強になったよ」

「それはこちらも同じさ…貴重な経験を得た、ぜひとも私のデータに加えさせてもらうとする」

 

私達の剣の手が止まる。

 

「その力は絶対攻撃と絶対防御というようだが…私から言わせて貰えばこの世に絶対なんてものは存在しない」

「ほう?意外と意見が合うじゃないか坊や、私も常々そう思っているよ、アッハッハッハ!!」

「ヴァッハッハッハッ!!」

 

私達は笑い合う、その間に徐々に徐々に砂嵐が治まっていき、視界が確保されていく。

 

「主さま…何を笑い合っているのでしょう…」

「アイツってほんと自由だよなぁ…」

「流石は王子はんやわぁ…素敵どす♡」

「マホ、少し感性がおかしいさ〜…」

 

後方でそんな声が聞こえるがまぁ良いだろう、そろそろ頃合いだ。

 

「ふぅ…さて、砂嵐が治ってしまったぞ?どうするつもりだ?私は2度も同じ手を食らうつもりはない」

「いいや、そろそろ幕引きだクリスティーナ、時間だ」

「あん…?」

 

その言葉と同時に扉の奥から声が響く。

 

「退いて退いて!早くここを通しなさい!!」

 

そして宴の終わりを告げる扉が今開かれた。

 

 

 

 




今回黎斗を活躍させ過ぎた感が異常…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ようこそ、愛しの我が家へ

リノ「あの子達が命をかけて作ったものです(死んだとは言ってません)」
騎士くん「馬鹿野郎…また勝手に先に逝きやがって…」

美食殿3人のドッグタグを握り締めながら…

『ウェルカム!一致団結!美食パーフェクト!』
『Are you Ready?』

騎士くん「変身…!」
『フォーマーズフェスティバル!美食殿パーフェクト!ガキン!ゴキン!ガコン!ドッキングー!』


こんな展開はないです。


扉を開け中に入ってきたのは金髪碧眼のエルフの少女。

 

この宴を終わらせる為に来た元王宮騎士団(ナイトメア)のサレンだ。

 

勿論私の知り合いさ。

 

「何がどうなってるのか、いまいち掴めてないんだけど言わせてもらうわよ!!双方武器を納めなさい!このあたしが仲裁させてもらうわ!!まったく、夜中だっていうのに近所迷惑でしょうが!!」

「…少し遅かったじゃないかサレン」

「…え?…その声…もしかして黎斗?」

『ガッシューン…』

 

私は変身を解除し剣を鞘に収める。

 

「どうしてあんたがここに…」

「私にも色々と事情があってね、スズメの仕事に協力しようと思っていたのさ」

 

私がサレンと話をしていると後方から

 

「またもや主さまのお知り合い…もう慣れてきてしまいました…」

「遅いって…黎斗はその人と連絡してたさ〜?」

「いいやしているわけがないだろう、だがサレンがここに来ることは分かっていたさ」

 

皆が小首を傾げている為補足する。

 

「まず、事の発端はサレンディア救護院に対する仕事の依頼だ、そしてその仕事を請け負ったのはメイドのスズメ…この時点でサレンがこの事に介入するのは確定している」

「そうでございますね…自分が持ってきた仕事でスズメさまのお帰りが遅い、連絡も取れていないとなるとお嬢様という立場であれば心配で探しに来る筈…」

「そうだ、そしてこの騒動を引き起こしているのが現副団長のクリスティーナともなればサレンは王宮騎士団(ナイトメア)内に人脈があるからな、簡単に足がつく」

 

つまりクリスティーナはこの火種の為にサレンディア救護院を利用したがその時点でこういう結末になるのは決まっていたという事だ。

 

「それに、サレンの仕事終わりはおおよそ午後6時頃だ、その後はすぐに子供達の世話をしながらスズメの心配をして探しに出ると予測できる。そして情報収集をする時間、この自警団(カォン)のギルドハウスと救護院の距離、サレンの歩幅や速度などを計算。それらを元にすればこの時間にたどり着くという結果を導き出すのは簡単だろう」

 

私の考えを簡単に説明すると若干周りに冷たい空気が流れ、数秒沈黙が続く。

 

「…うん、黎斗、流石に気持ち悪いわ。仕事終わりの時間とか子供達のこと〜辺りはまぁ予想はつくにしてもなんであたしの歩幅まで知ってんのよあんたは」

「主さま…お労しや…」

「黎斗お前、流石になぁ…」

「王子はん……」

「全く…そこまで計算尽くだったのか…この坊やは…恐れ入るよ」

 

何故か味方であるはずのサレンやコッコロ、自警団(カォン)の面々に引かれ、敵であるクリスティーナには笑みを向けられている。

 

「はぁ、まぁいいわ…そんなことよりクリスティーナ、剣を収めてくれるわよね?あんたがやった事は完全に独断…団長もご立腹よ」

「…やれやれ正直食い足りないが、まずまず満足だよ、面白い収穫が3つもあったからな☆」

「ヒィッ…あ、主さま…」

 

ピトッと私に張りついてくるコッコロ。彼女はコッコロ、私そしてマコトとカオリを見ていた。やれやれ面倒な奴に目をつけられたな。

 

「こら、小っちゃい子を怖がらせないの!」

「…はっはっは!スマンな!威嚇したつもりはないのだが子供には少々刺激が強すぎたようだ!…まぁ、ここいらでお暇させてもらうよ、全員を相手取るというのも楽しそうではあるがサレンお嬢ちゃんは何かと王宮騎士団(ナイトメア)の兵士共に慕われているからね〜相手したら面倒な事になりかねん、ここは素直に帰らせてもらうよ」

 

そう言ってクリスティーナは大剣をデータのように消失させ、こちらに背を向けつつ軽く手を振りながら自身が破壊した壁の方へと歩いていく。

 

「それでは紳士淑女の皆様!アデュー☆」

「なっ!ちょっと待ちやがれ!!」

「マコトはん、相手が帰ってくれる言いはるのならわざわざ追いかける必要はありまへん」

「うう…分かったよ姫さん」

 

騒乱の種であるクリスティーナが去り、このギルドハウスに確かに静寂が戻る。

 

「ふぅ…とりあえずみんな大した怪我がなくてよかったさ〜」

「…たく、ムカつくやろうだったぜ…クソっ!無駄に強ぇしよ…!」

「それでもあの人は手加減してたさ〜?そうじゃなきゃ私達は今頃死後の世界(ニライカナイ)行きよ〜」

「マジかよ…あれで全力じゃねぇのかよ…」

 

カオリの発言にマコトはかなり落ち込んでいるようだった。

 

それにしても…と、私は辺りを見回す。

 

「マホの部屋がこんな事になってしまったな」

 

マホの部屋はクリスティーナとの攻防で荒れに荒れている、特に最後の砂嵐が決定打だろう、周りは砂まみれだ。

 

「構わへんよ、みんなの命があるのならそれに越した事はありまへん、部屋は片付けて掃除すればええだけやしな」

「ならその片付けは私も手伝おう、この戦略を思いついたのは私だからな、私にも非がある」

「主さまがお手伝いをするのならわたくしもやります、何よりわたくしの魔法による被害ですしね」

「お二人さん…本当にありがとうな、優しいお人達やわぁ」

 

私が自らその様な事を進言するのは非常に珍しい事だ、ありがたく感謝をしてほしい。

 

「そういえば黎斗、よくあの人の能力が分かったね〜、私全然分からなかったさ〜」

「そうだよ、アタシも全然分かんなくて気になってんたんだよ、どうして分かったんだ?」

「…過去に少しだけ似たような能力を持つ者と戦ったことがあるのさ」

 

似たような能力、というのは『マイティノベルX』の事だ。

 

私としても苦汁を飲ませられた相手であり、能力の理屈としては全く違うものである。その能力というのは『未来を決める力』

 

永夢の言ったことが現実となり決定する力な為、今回の『絶対の力』とは性質が違うのだが

 

過去に永夢によって決定された時の発言は『攻撃が当たらない』やら『俺の攻撃は当たる』やらだった為、今回のケースと状況が似ていた。

 

まぁぶっちゃけた話『フィニッシュは必殺技で決まりだ』なんていう理不尽な言葉で必ず仕留められるあちらよりは大概こちらの方が幾分もマシだったが…そのおかげで冷静にこちらの分析ができたという訳だ。

 

「似たようなって…あんな奴みたいなのが何人もいてたまるかよ…」

「…同感だな」

 

私達の会話の背後ではサレンがテキパキと指示を飛ばしている、どうやら私がキメワザを放ち怪我をした騎士達を他の健康な騎士達に運ばせているようだ。

 

「全く誰よ!こんな酷い怪我をさせたのは!!」

「私だ」

「黎斗が?あんたそんなに強くないでしょ?」

「いいえ、本当でございます、主さまはこの短期間で目まぐるしい成長を遂げたのです」

「へぇ…って感心してる場合じゃないわね、少しやり過ぎよバカ。王宮騎士団(ナイトメア)の鎧って結構な値段するし…それをこんなにボロボロにして…それに怪我だって普通の怪我じゃないわ、大怪我してる人だっているのよ?」

「私達を攻撃してきた罰だ、回復魔法などかけてやる必要はない、病室のベッドの上で十分に反省させる事だな」

 

サレンは「全く相変わらず無茶苦茶言うわね…」と言いながら私の横を通り過ぎ

 

「スズメ、無事?ごめんね、駆けつけるのが遅くなって」

「だ、大丈夫ですお嬢様〜…とても怖かったですけど…大きな怪我などはしていませんよ、黎斗さんやコッコロちゃんが私を守ってくれて…」

「そう…黎斗もありがとうね、スズメを守ってくれて」

「そんなことよりも、いささか無用心なのではないか?サレン、君ともあろう者がこの様な策略にまんまと嵌められるとは」

 

そう言うとサレンは頭を軽く片手で抱えながら

 

「あー…そうね、面目ないわ、今回は完全にあたしが抜かったせい…最近平和続きで少しボケちゃったのかも…子供達の明るい未来を暗雲で曇らせるわけにはいかないのに」

「相変わらず子供達の為…か、君もまた水晶のような輝きを持っているようだな」

「…それって褒めてるの?」

 

…生憎、皮肉であるが…今は黙っておこう。

 

「とにかく、今日のところは一旦お開きかしらね、片付けやら掃除にしても今日はもうだいぶいい時間よ」

「そうだな…流石に連戦続きで体力が無い、少しはゆっくりとしたいものだ」

「そういえば…黎斗はどうしてスズメの仕事を手伝おうとしてたの?あんたがただのお人好しではないって事は分かってるし」

「酷い言い草だな…だがまぁ事実だ。私とコッコロはかなり懐が寒くてね、ホテル暮らしをしているのだがもって後、数日というところなんだよ」

 

私の言葉に彼女は少し思案した後。

 

「そうねぇ…だったらうちに来る?」

「うち…というとサレンディア救護院か?」

「あんたと…コッコロだっけ?2人とも困ってるっていうならスズメを助けてもらった恩もあるし」

 

…ふむ、悪くないが

 

「なんならあんた達の生活が安定するまでうちにいてもいいわよ?」

「何故そこまでする?メリットがないだろう」

「さぁ?なんででしょうね、なんかあんた見てるとホッとけないっていうか…何というか…うーん…?あーもう、考えるのは止めた!ノリって事にしておいて!」

 

随分と軽いノリだな、だがこれで宿がタダになるというのはかなりツいている、それこそノらない手はない。

 

自警団(カォン)の皆さん、この度はあたし達王宮騎士団(ナイトメア)がご迷惑をかけたわ、明日もしかしたら…というかほぼ確実にだと思うけど話し合いがあると思うから、ギルドマスターのマホさんは出席してもらえる?」

「そやねぇ、掃除なんかは明日以降になってまうしなぁ…マコトはんやカオリはん達に迷惑かけてしまうけどうちは参加させてもらいます」

「うん、そうしてもらうと助かるわ…さてと、それじゃあ一度あたし達は帰るわよ、あんた達はついて来て」

 

私とコッコロそしてスズメはサレンの後ろを着いて歩く、その道中もサレンは場に残っている騎士達に命令を飛ばしていた。

 

「あんた達!自警団(カォン)の人達に迷惑をかけたんだから明日から復興の手伝いをするのよ!特にクリスティーナが空けたあの大穴は王宮騎士団(ナイトメア)が資金を出して丁寧に塞ぎなさい!!良いわね!!」

「「は、はい!!!」」

 

…元副団長だというのにこの指揮力そして発言力。

 

彼女の人柄の良さが為せる業か、彼女は王宮騎士団(ナイトメア)に所属していた頃、かなり優秀な人材だったらしい、高いカリスマ性を持ち当時は彼女を崇拝する部下達もいたと噂される程だ。

 

「ねぇ、少し気になってたんだけど、さっきのアレ…何よ?」

「このゲーマドライバーの事か?」

「そうそれ、クリスティーナとまともに戦えるくらい強くなれるなんて結構異常よ?それってあたしにも使えるのかしら?」

「…さぁね、試した事はないから使えるかどうかは分からないな」

 

実際このゲーマドライバーやガシャットは私の記憶を元にした、ただのデータに過ぎない、バグスターウイルスに感染し適合しなければ使えないなんて事は決してないだろう。

 

ただやはりこの世界にとってこれは異物だ、異物である私が使うからこそ反発していないだけかもしれない。それ以外の人間が使った際に何が引き起こるのか見当もつかないからな…

 

「ただ決してこれは安全な代物ではないのは確かだ、死にたくなければ使わない方がいいさ」

「えっそんな危ないものなの?ならやめといた方がいいわね…」

「それがいい」

 

試してみたい衝動に駆られるがここはグッと抑えよう、私も成長したものだ。

 

以前の私なら九条貴利矢にデンジャラスゾンビを渡し使わせた時のような事をしていただろう、間違いなくな。

 

そうこうしている間に私達はサレンディア救護院へと辿り着いた。

 

私は何度かここに訪ねたことがあるが初めてのコッコロは個人の家というには少し大きい建物に目を煌めかせている。

 

サレンを先頭に私達は救護院の入り口の扉へと差し掛かる。

 

「ただいま〜」

「あ、おかえりなさい『ママ・サレン』…!」

 

扉を開くとそこに1人の少女がいた、どうやら掃除をしていたのかホウキを持っている。

 

少し気弱そうで短髪の少女、クルミだ。この施設でサレンに世話になっている子供の1人。

 

「もう、『ママ』はやめてよね、あたしまだ17歳よ?」

「あう…ごめんなさい…でも…ママ・サレンはママ・サレンだからぁ…」

「そうだぞ、ママ・サレン」

「黎斗、あんた引っ叩くわよ?」

 

場を和ませようとしたというのに酷い女だ。

 

「そうだ、クルミ、他のみんなは?」

「アヤネちゃんはまだ起きてます、幼少組のみんなはもう寝かしつけてて…」

「そう、それ以外は起きてるのね…クルミは掃除してて偉いわね〜よしよし♪」

「え、えへへ…♪スズメお姉ちゃんがいなかったから…やっとかないとって思って…」

 

彼女は気弱ではあるがしっかりとした性格をしておりドジで間抜けなスズメのかわりに家事をしていることがしばしば見受けられる、一応子供の中での最年長は彼女ではなくもう1人の年長の少女である、アヤネなのだがアヤネの場合、逆に精神が子供のようであり彼女に家事などはスズメの次くらいには任せられない。

 

「あ〜こんなに遅くなるなんて思わなかったからお腹ペコペコよ〜、クルミ、ご飯とかってまだ残ってたりする?」

「はい、ありますよ…えーと…あ、黎斗お兄ちゃんもいるんですね、それに…スズメお姉ちゃんも、後は知らない子…うん、人数分用意するから待っててください」

「そう、ありがとうクルミ、あたしも手伝うから…っと玄関先に立たせちゃってごめんなさいね。こほん、黎斗、コッコロ、改めてようこそあたしの愛しい我が家に、大したもてなしもできないし高級ホテルのスイートルーム…とまではいかないけどそれなりの設備はあるわ」

「私としては雨風凌げるだけで十分だ」

「わたくしも主さまと同意見でございます、むしろこのような大きなお家にお泊まりできるなど夢のようで…」

 

田舎育ちのコッコロにとってはかなり物珍しいようだ。

 

「ふふ、そう言ってくれると助かるわ、あたしはこれから晩ご飯の支度とかしなきゃいけないし空き部屋は2階の奥にあるからそこを自由に使ってくれて構わないわ、ベッドメイクとかは悪いけど自分でやってちょうだい」

「なら遠慮なく使わせてもらおう、行こうかコッコロ」

「はい、主さま」

 

私達は2階の奥にある空部屋へと向かう。

 

空き部屋というだけあって何も物珍しいものはなく質素な部屋だ。

 

強いていうのなら掃除が行き届いており綺麗で清潔という点だ。

 

「ベッドを軽く整えました、今日は様々な修羅場を乗り越えお疲れでしょう主さま、体をお休め致しましょうか」

 

ふむ、コッコロの言う通り今日は様々な事があったがこの体になってから私はかなり疲れやすい体質になっている。

 

数々の修羅場があったとはいえ、ライダークロニクル時代に比べれば大した事はないはずだ。

 

そんな事を考えつつ、私は手荷物から寝巻きを取り出し着替える。私は先にベッドに潜り込み就寝する準備をする。

 

コッコロも同様に寝巻き姿に早変わりだ、体を洗わずに寝るというのは多少気分が悪いが仕方がない、疲れに勝てるものはない、無理は禁物だ、無理をすれば12回はゲームオーバーしてしまうかもしれないからな。

 

「明日、荷物などはホテルからこちらに持ってきましょう、それでは明かりを消します」

 

コッコロがランプを消し、こちらに歩み寄る。さて…私も本格的に寝ようか…

 

…こうして私の1日がようやく終わりを告げる…

 

「失礼しまーす…もう眠ってしまっていますか?」

 

数分後、数回のノックの後、部屋の扉が開きスズメが中に入ってくるのだが

 

「ち、ちょっと!どうして2人で一緒に寝てるんですかぁ!!?」

 

…騒がしい声だ…どうやらまだまだ1日は終わりそうにない。

 

 

 

 

 

 




プリコネのアニメってどうなるんですかね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

家族という絆とは

コッコロ「主さま、ゼロワンドライバーをお使いください」

騎士くん「mimiは夢のマシンなんだよ…!!」
『ジャンプ!』

騎士くん「変身!」
『プログライズ!飛び上がライズ!ライジングホッパー!A jump to the sky turns to a rider kick』

騎士くん「お前を止められるのはただ1人、俺だ!!」

今回もこんな話はありません。

黎斗の独白みたいなのが多め。


就寝前に入ってきたメイドのスズメの大声より私の睡魔はどこへやら…一気に目が冴えてしまった。

 

「一体何だっていうんだ…騒がしい」

「あ、すみません…ご夕食の用意ができたので呼びに来た…ではなくて…!!」

 

キーンとするような甲高い声で近寄ってくるんじゃない…全く

 

「あの…何か問題でも?」

 

そう切り込んだのは私にしがみ付いているコッコロだ。私達がどういう体勢で寝ているのかというと何でもない、本当にただコッコロが私の右側にピッタリとくっ付いているただそれだけだ。

 

「問題しかありませんよ!?」

「主さま、何か問題のようです」

「そのようだな、一体何が問題があるのか私にはさっぱりだが」

「さ、さささ、さっぱりって…!あの…もしかして、いつもその様に寝ていらしたんですか…?」

 

スズメの質問に私とコッコロは顔を見合わせる。そして同時に

 

「はい」「ああ」

「息ピッタリに肯定しないでください!!全く…いいですか!あなた達は年齢に差があれど年頃の男女なんですよ!?家族でもなければ兄妹でもないんですから…その…いかがわしい事に発展しかねないじゃないですか!!?」

 

確かに彼女の思考は世間一般的には常識だろう、しかし

 

「別に私はコッコロにいかがわしい事をしようとなどこれまで一度も思ったことはない」

「えっ」

 

何故かコッコロが驚愕の声を上げた後、少しだけテンションが下がったように見えたが、まぁ今は無視をして話を続けよう。

 

「そしてそう思っている君こそがただ単に変態なだけではないのか?」

「なぁっ///わ、私は別に変態ではありません!私はただこのサレンディア救護院には子供達もいるので不純な事がないようにと…」

「…ふむ、まぁ良いだろう、元々コッコロが私を守る為、などと言って私のベッドに侵入して来たのが事の始まりだし、私もそこまで一緒に寝る事に固執しているわけではない」

 

コッコロの場合、言っても聞かないからな。それに無理に拒む理由も無かった事とコッコロは体温が高く湯たんぽ代りになって便利であったのは確かだ。

 

「コッコロ、私は君の判断に委ねるよ」

「わたくしは……そうですね…やはり主さまと一緒にいたいのですが、居候の身、このサレンディア救護院に住む以上、宿主さまのルールに従うべきだと、わたくしは思います」

「だそうだスズメ、悪いがコッコロに別の部屋を用意してくれないか?」

「ほっ、良かったです聞き分けの良い子で…黎斗さんの事は信じてますけどダメですからね!小さい女の子と同衾なんて!!」

 

全く、たかが子供と一緒に寝ていただけでもこの騒ぎとは、彼女はどうやら男性経験が皆無のようだな、おっと勿論口に出すつもりはない紳士性に欠けるからな。

 

「こほん、とにかく広間でお嬢様達が待っています、勿論眠いのであれば寝てしまっても構いませんよ、お話をする機会なんてこれから先一緒に生活する上でいっぱいありますからね!」

「…そうだな、スズメの喧しい声で目が冴えてしまったし、コッコロ、君は眠くないかい?」

「はい、わたくしは大丈夫です。お世話になる人達への挨拶は初日にしたほうがいいですからね」

「や、喧しい…ガックリ……」

 

テンションが駄々下がりのスズメに先導されながら一階の広間へと向かうのだが

 

「ん…?」

「…すぅ…すぅ…zzz」

「あはは…クルミったら支度をしてる途中で寝ちゃって」

 

広間に向かうとそこには立ちながら眠ったクルミの姿があった、器用だな。

 

「今日は私やお嬢様がいませんでしたからクルミちゃんが1人で家事をしてくれてたんでしょう、よっぽど疲れてたんでしょうね」

「だとしても立ちながら眠るなど…私でも月に一度あるかないか…」

「いや、あるんかい!…っとツッコミを入れてる場合じゃないわよね、黎斗悪いけどクルミを部屋まで運んでくれない?場所はスズメが案内するから」

「…分かった」

 

何で私が、とは言わない。居候である立場というのも勿論だが現場の状況を見ても男手は私1人だ、結論からいえば力仕事を任されるのは当然だろう。

 

私はクルミを起こさないよう丁寧に抱き抱える。お姫様抱っこといわれるアレだ、しかし子供だからか随分と軽い。いや違う、この短期間で私が体力をつけたからだ、この体でも30、40キロ程度なら楽々持てるということが証明された。

 

「こっちですよ〜」

 

スズメの案内でクルミの部屋に到着、スズメが部屋の扉を開けるとそこには1人の少女がいた。

 

外見年齢はクルミと変わらない、赤毛の長いツインテールで巨大なクマのぬいぐるみが先端に取り付けられたハンマーを常に抱っこしているのが特徴的だ。

 

外見年齢はクルミと変わらないと言ったが実は彼女は14歳らしく、この救護院では最年長なのだが、外見も内面もハッキリ言ってクルミ以下だと判断せざる得ない。

 

初めて年齢を聞かされた時、私は驚きを隠せなかった、よく子供が大人びているとは耳にするがその逆は滅多に聞かないからな特に女性の場合は。

 

私はそれで彼女は何か心に闇を抱えているのではないか?と推測したこともある、その証拠には彼女の持つクマのぬいぐるみ、ぷぅきちといったか、それを『イマジナリーフレンド』として扱っている。

 

まぁ、このゲーム世界ではぷぅきちは『イマジナリーフレンド』とは言い難い存在ではあるがな。

 

と、長々と彼女の事を話してしまったな、それだけ彼女は興味深い観察対象だということだ、勿論彼女の観察結果はいいデータとして収集させてもらう予定だ。

 

「ん?あれ…スズメ、帰って来てたんだ」

「アヤネちゃん、起きてたんですね!」

 

おいスズメ、その馬鹿みたいに大きな声を出すのをやめろ。

 

「ん…んん…あぅ…あれぇ…?」

「ほら見たことか、スズメが大きな声を出すからだ、少しは静かに話すということができないのか君は」

「えぇ!?わ、私ですか!?す、すみません…」

 

起きてしまったものは仕方がないか、ここに来たことが完全に無駄足になってしまったというのが非常に不愉快ではあるが。

 

「あれ?クルミを抱っこしてるのは黎斗お兄ちゃん?何でここにいるの?」

「それは色々と事情があってね、まぁ主にスズメのせいだが、今日からこの救護院に厄介になる事になった、よろしく頼むよアヤネ」

「へースズメのせいか〜、うん、何となく分かった、よろしくね!黎斗お兄ちゃん!」

「何となくでわかんないでください!アヤネちゃん!!」

 

私があまりにも彼女に対し辛辣な発言をしすぎたせいか既に半分涙目だ、彼女をイジるのは今日はこれで最後にしておこう。

 

「あれぇ?アヤネちゃんも黎斗お兄ちゃんを知ってるの?」

「うん!前にお世話になったんだ!そういうクルミも?」

「うん…!黎斗お兄ちゃんに色々助けてもらったの♪」

「今日だけでも黎斗さんのお知り合いだと名乗る方が凄くいましたよね、黎斗さんって随分顔が広いんですねぇ」

 

元の世界の方が私の顔を知っている人物は多いと思うがな、なんせ幻夢コーポレーションの元社長!!…であり犯罪者としてな。

 

元の世界ではあまりにも多くの前科が私にはついている、世界の人間が私に追いつかなかったばかりに私は犯罪者扱いだ、全く神の思考は理解されない、いつだって異端扱いだったさ…

 

「そっかぁ、でもでも、黎斗お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、このサレンディア救護院では私の方が先輩だからね!アヤネ先輩って呼んでもいいんだよ!」

「それは参ったな」

『そうだぞ、なんなら俺の事もぷぅきち先輩って呼んでくれよな!新入り!』

 

今私の脳裏に直接聞こえてきたような声、男…というには少し高めの声だ。どう聞いてもアヤネが低い声を出しているようにしか聞こえない、それがクマのぬいぐるみのぷぅきちの声である。

 

これがイマジナリーフレンドというには少し例外的な存在だと私が思う所以だ、この世界では彼は喋り意志を持つ存在…バグスターに近い存在だと私は勝手に思っている。

 

それもアヤネに感染したバグスター…例を出すなら永夢とパラドのような関係、分身…ともいえる部分だろう。

 

彼女が抱える闇…永夢を例に出したがそれと同じと考えるならばぷぅきちと呼ばれる存在は彼女の深層心理から生まれ出た存在という事になるのだが…

 

「えへへ…♪先輩かぁ…それじゃあ私も…クルミ先輩って事になるのかなぁ…なんか変なの…♪」

 

おっと、先ほどからやけにアヤネの分析をしてしまっている、しかも現在進行している会話を疎かにし分析のみに思考を割いているなど…

 

やはり少し疲れと眠気があるのかもしれないな、この私が同時に二つ程度の事を処理できないとは。

 

「そういえば、さっきちゃんとご挨拶できなかったから…これから家族としてよろしくね、黎斗お兄ちゃん♪」

「おっと…」

 

少し驚いてしまった、何故ならクルミがいきなり抱きしめてきたからだ、彼女が目を覚ましてからも私はずっと彼女を抱き抱えたままだった為、彼女は私の首に手を回してハグをしてきたのだ。

 

…なんだ、この奇妙な感覚は…

 

「わーい!アタシも!!これからよろしくね!黎斗お兄ちゃん!!」

「き、君もか…アヤネ…」

 

走って飛びついてきたアヤネに吹っ飛ばされないよう足腰に力を入れる。

 

この温かな気持ちはなんだ…?以前にも感じたことがある…私がパラドに殺されそうになった時、ポッピーが私を庇い抱きしめてきた時だ、当時何故そんな気持ちになったのか、アレは過去に…檀櫻子に抱きしめられた時の事を微かに思い出したからだ。

 

だがしかし

 

『黎斗の才能の芽を潰す事は何より罪深い事だ』

『黎斗は磨けば必ず我が社を成長させる商品価値のあるものとなる』

 

…私の『家族』に対するイメージはコレしかない。

 

私の話を黙って聞く『母』と私の事を商品としか見ていない『父』それが私にとっての『家族』であり無価値で無意味なものだ。

 

だからこの感情は私のものではない、この少年の深層心理によるものだ、決して、私のものではない…

 

「あらあら、2人とも黎斗さんに甘えちゃって…私も混ざっていいですか?なーんちゃ…」

「ダメですぅ」

「ダメ〜!!」

「おふざけが過ぎるなスズメ」

「し、辛辣…です、本日二度目のガックリ…」

 

先ほど本日はもうイジらないと決めていたがスズメ自らイジられに来るとは想定外の為ノーカウントだ。

 

私は抱きついていたアヤネを離し、クルミを床に下ろす。

 

「さて2人とも、もう子供は就寝する時間だ。良い子はちゃんと寝れるね?」

「そうですよ〜早く寝ないと悪いお化けが貴方達を食べてしまいますよ〜」

 

おいおいスズメ、流石に園児という程幼い子供ではないのだからそんな脅し文句で通用するわけが…

 

「はーい!」

「お、お化けはいやですぅ…」

 

…通用したな。

 

私とスズメは2人を寝かしつけた後、一階の広間へと戻る。

 

広間の長テーブルには豪勢な食事が用意されていた、食事の数々は量が減っており子供達の食べ残しの余り物。当たり前ではあるがな。

 

「余り物で悪いけど遠慮せずに食べてもらって構わないわ」

「悪いな、食事の用意までしてもらって」

「別にいいわよ、ここに住む以上、あんた達も家族の一員なんだから」

 

救護院という偽善…いや彼女の場合は心の底からそうなのだろう、そんな心持ちの為か家族という絆にサレンは執着している。

 

彼女自身、別に本来の家族と仲が悪いなどという話は聞かない、なら何故執着するのかとなってくるが、考えられるとすれば幼少期にその家族という部分で心に傷を負ったかあるいは絆が必要だと強い決意を抱いたか…

 

人間を形成する上で最も影響を及ぼすのは幼少期に受けるポジティブもしくはネガティブ。それが過度であればあるほど尚更人格が変わってくるだろう。

 

そう考えれば彼女達の人格の輪郭がある程度見えてくる。

 

何故クルミは臆病なのか、それは不安があるからだ。何に対する不安なのか、それは分からないという事に対する不安だ。彼女は臆病ではあるが好奇心が旺盛だからな、知りたいと思う好奇心はあるがそれに対し恐怖や不安を感じる。そして知っているものに対しては平常でいられることが何よりの証拠だ。

 

何故スズメはドジなのか?それは失敗しても大丈夫だという安心があるからだ。彼女は幼少の頃からサレンのメイドとして仕えているらしい、サレンが昔からあのような性格をしているというのならば頼りになるだろう、そしてスズメ自身そんな高潔で頼りになるお嬢様の力になろうと無茶をする。失敗をしてもサレンがなんとかしてくれると心のどこかで思っている、それにより失敗を恐れず力になろうと動く事でドジを踏む。

 

よく怪我をする、と私のよく知る所では永夢がいるが、彼もまた怪我をしてもいいや、と幼少期に抱いた感情が元だ。自分が怪我をしても誰にも迷惑をかけない、怪我をすれば優しいドクターの元に行ける、と。

 

こうやって人間観察をする事で様々な楽しみが増えていく、そしてそれはゲームにおいて最も必要なキャラクター性に繋がっていく。

 

キャラクター性はプレイヤーを引き込む要、どんなキャラにどんな背景があり、どうしてそうなったのか。仮に作中で多くを語らずとも仕草や癖、好みや性格によりその背景を推察することができる、それこそが深みのあるキャラクターというものだ。

 

そういった点ではこのサレンディア救護院のキャラクター性は実に面白い。心に闇を抱える少女、過度に臆病な少女、ドジ、博愛主義者。どれもこれも私のデータ収集に欠かせない存在だ。

 

「そういえばお嬢様と黎斗さんってお知り合いだったんですね、ずっと気になっていたんですよ」

「まぁね、ひょんな事から知り合ったのよ、よく仕事の手伝いとかしてもらってたの、そういうスズメもでしょ?」

「はい!どうやらアヤネちゃんもクルミちゃんもお知り合いだったようです、さっきお兄ちゃんなんて呼ばれて懐かれていましたから」

 

おっと長考をしていたから話を聞いていなかったな。いけないな、先ほど二つの事を同時に処理できなければ私ではないと言ったばかりだというのに。

 

「ふぅん、黎斗、言わなくても分かってると思うけど子供達に変な事をしたら許さないからね」

「その下りはスズメで済ましたよ、私がそんな事をする人間に見えるかい?」

「う、うーん…子供達に何かをするようには見えないけどたまに危険人物には見えるわ…」

 

おかしな事を言うものだ。

 

「はぁ、それにしても疲れたわ…この後、結局ギルド間で事情聴取というか話し合いというか…会合をするってジュンさんから今さっき連絡があってジュンさんと私、後はマホさんで集まる事になっちゃったわ…はぁ…夜更かしは良くないっていうのにお肌が荒れちゃうわ」

「私から見ても君の肌艶はかなりいい方だと思うが」

「そういう油断が一番危ないのよ…でも褒めてくれたのね、ありがと♪」

 

事実だからな、彼女は仕事の忙しさから徹夜などを多くしているそうだがその割には肌艶は良い、むしろその辺にいるモブキャラよりは断然にな。

 

「事情聴取というと私達も参加した方がいいですかね?それに…こんな大ごとになるなんて…やっぱり私のせいで…」

「別にスズメのせいじゃないわよ、あんまり弱気にならないで、そういう所を付け込まれるんだから…むしろ今回はクリスティーナにつけ込まれた訳だし。事情聴取ならあんた達は明日以降になるんじゃないかしら、今日は大分時間も遅いしね」

 

なら私達は安心して体を休めることができるという事か。

 

「さてと…それじゃあ少しだけギルドのお話をしましょうか、黎斗は平気だと思うけど、スズメやコッコロの為にもね」

 

そう言ってサレンは語り始める。

 

 




サウザンドライバー音声が少ない…少なくない?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

迫りくる影り

ソルの塔上層部

ユイ「私は…みんなと一緒にいたい…!!」
SOUGO「レジェンドオブアストルムの世界…醜くないか?」
ユイ「え!?」

アストルムダイソンによりアストルムの世界は一度崩壊した…

という事はありません。


「さてと、まず何から話しましょうか…そうねぇ、じゃあ基本である街のことから話しましょうか。この街ランドソルはこのアストライア大陸を長年に渡って支配してる国家の首都よ」

「この国は中央集権タイプの国家と聞くが?」

「そうよ、古臭いでしょ?」

 

古臭いと言われても私の世界の日本でも中央集権国家ではある、勿論彼女の古臭いと考えるような典型的なものではないが。

 

中央集権国家とは簡単にかいつまんで言えば『国王』等の存在がトップに立ち、そのトップに従い政治や公的機関などを統治するシステムの事だ。

 

日本も『皇族』が存在し日本のトップだ。しかしその『皇族』が政治や公的機関を統治しているわけではない、これこそが典型的なものではないという所以であり……と、まぁここは日本ではないのだから細かな説明をしていても仕方がないか。

 

「そしてそんな王家の居城が街の中央にある王宮ね。王宮は国家の運営や政治、公的機関やソルの塔の管理などを行っているわ」

 

私の説明通りだったろう?今の彼女の説明が典型的な中央集権という奴だ。

 

「その王宮直属のギルドの総称、それが『プリンセスナイト』」

「事細かな公的機関、つまり郵便や消防、警察などの仕事は全てその『プリンセスナイト』とやらの傘下ギルドが行なっている」

「黎斗の言う通りよ、傘下のギルドはそれだけこの街の要であり重要な役職についていることが多いわ」

「主さま…流石は博識でございます…わたくしと同じくこの街に辿り着いた筈ですがそれほどまでの知識を…」

 

暇だからデータ収集としてこの街の歴史書や新聞を片っ端から読み漁り得た知識だ、正直付け焼き刃のようなものでしかないがな。

 

「そういえばどうしてプリンセスナイトなんて名前なんでしょう?確か、ラビリンスに捕まったムイミちゃん…いえ、ノウェムちゃんでしたっけ?その子が異常に反応していましたが…」

「…さぁ、大昔の伝承による由来らしいけど…ノウェムねぇ…ラビリンスに捕まったって聞くからそういったことを知ってそうだし事情聴取も兼ねてちゃんと追跡した方がいいかしら?」

「…プリンセスナイトに関しては興味深いことが分かっている」

「知ってるの?黎斗」

 

私の発言に皆が注目する。

 

「…いいや、何も知らない」

「し、知らないのね…ならなんで意味深に言うのよ!」

「違う、その逆だサレン、『調べてもその部分だけは何も記されていない』だから何も知らない」

「どういう事…?」

 

これだけわかりやすく言っても理解されないか…仕方がない凡人にもわかりやすく伝えてやろう。

 

「まるで『虫に喰われたように』その部分だけが記されていない、様々な歴史書を読み漁った私でさえもその部分だけが不明瞭だ、故にその部分のみが『分からないという事が分かった』…何か奇妙だとは思わないかい?」

「…そう言われると確かにそうかもしれないわね…その部分だけ歴史が抹消されたようにわからないなんて…」

 

この世界にはこのように奇妙な引っ掛かりが複数存在する、これらはおそらくゲーム内に何らかの齟齬が発生した為に空いた穴だとは思われるのだが…原因は今ある情報だけではわからない。

 

「それじゃあ、話を戻すわね?そのプリンセスナイトの傘下の一つ『王宮騎士団(ナイトメア)』その名の通り王宮を守護する事が目的のギルドよ、王家直属の親衛隊っていったところね」

「この国の軍事力の総本山が王宮騎士団(ナイトメア)だと言われている、今でこそ平和なこの世界では王宮を守護するという事を第一に考えているが戦時ともなれば第一線で戦う事になるギルドだ」

 

私は食事を進めながら話しているとスズメが少し怯えた声色で言葉を紡ぐ。

 

「まさに軍隊ですよね…おっかないです…あの自警団(カォン)を襲った派手な女の人もすっごく強くて、殺伐としていました…兵隊さんですもんね…」

「そうかな、彼女の場合は彼女の性格の問題であると思うがな」

「ま、まぁクリスティーナはね…でも彼女、素性がイマイチわからないのよねぇ…一応王宮騎士団(ナイトメア)は王侯貴族が中心になってる格式あるギルドだから身元は確かなんだろうけど…」

 

今までの話はこの国の知識のおさらいだ、今回の事態を把握するのならば話のキモはここからだろう。

 

「最近はちょっと治安が悪化してるとはいえ…この大陸では長い間、戦争らしい戦争はなかったわ」

「だからこそ軍事力である王宮騎士団(ナイトメア)は軍部の縮小に伴い、予算や人員が削減されているというのが現状だ」

「そう…だからこそクリスティーナは戦争がしたい。今回の件はただそれ一点のみ」

 

サレンの顔に暗い影が落ちる。

 

「戦争さえ始まれば長年落ち目だった王宮騎士団(ナイトメア)は復権して返り咲く事ができる、こういった溝は利用価値のあるものだわ」

「他に何か企みがある可能性が無いとは言えないが概ねそれが狙いだろう今回の一件はな…」

「うん、だから今回の件で平時から危機に移行している、正直ここで判断をミスったら一気に戦時に行きかねない」

「そうだな、この国では地理、文化、そして人種の偏りから亜人ではなく普通の人間が幅を利かせているのが現状だ。獣人やエルフ、魔族などはマイノリティの分類だからな」

「他の国では他の種族だけの国もあるけど…この国の亜人の人達は結構肩身が狭い思いをしているのも事実よ」

 

この国では他種族間との付き合いは表面上は良い、これは私の世界でも言える事だ、現代社会では対等などと謳っているが未だ黒人差別は根強い、肌の色が明確に違う黒人と白人どころかほぼ遺伝子情報の変わらないアジア圏ですら睨み合っているのだからな。

 

どの創作物のファンタジー世界でも獣人などの亜人は迫害の対象だ、やはり獣という人間よりもヒエラルキーの低い存在との融合、という事でその様な扱いなのだろうが…

 

私からすれば私以外の生き物は皆平等に同価値でヒエラルキーのような差というものなど存在しない、さて話を戻そう。

 

「今回の件はその手の輩には都合の良い条件だ、これを期に触発され暴動などが起こる可能性もあるだろう」

「他国間との戦争ならまだしもたかが王宮騎士団(ナイトメア)の復権の為だけに内戦だなんて馬鹿げてるわ」

「それに人間と亜人との対立という構図事態不味いな、この国だけの問題というわけにはいかない、他国が干渉してこないとは限らない」

 

そうなれば行き着く先は内戦どころか確実に戦争となる、宗教、民族、文化、それらの差異から生まれる戦は歴史を紐解いても大きく長期的なものになりやすい。

 

「…す、凄く会話のレベルが高くて私達では付いていけませんね…」

「主さまもそうですが流石は元王宮騎士団(ナイトメア)の副団長のサレンさまでございます、お二人とも知的で素晴らしいです」

 

二人は私達の会話について行けてないものの真剣に耳を傾けていた。

 

「で、でもお嬢様…!これだけの事で戦争だなんて…!普段はみんな仲良くやってるのに…」

「そうね、この国は表面上は仲良くしてると思う、明確な差別意識も殆どない無いから一触即発っていう程、危機的状況じゃないと…思いたいわ」

 

彼女は決して楽観視している訳ではない、先程彼女は言った。平時から危機に移行している、と。

 

それはつまり彼女の選択次第では移行しないという事だ、そこは彼女の手腕が問われる。今夜から始まる会合にて一応中立の立場である彼女が取りうる選択肢によって平時か危機か、運命が分かれるだろう。

 

「…現にあたしの家はエルフの一家で成金の父が高値で買い取った地位とはいえ貴族の称号は与えられてはいるし…でも」

 

とサレンは区切り

 

「種族や文化の違い、宗教…イデオロギーの違いから戦争なんて簡単に起こる、歴史がそう証明している、だから油断なんて全然できない局面である事に変わりないわ」

「だからこそ、最悪を想定しておく必要がある、そうだろう?」

「勿論よ、戦争で最初に犠牲なるのは弱い者たちよ、子供や老人、女性、病人…そんなの絶対に許さない、あたしが阻止してみせる。その為にだったら徹夜でも何でも来なさい!って感じよ」

 

彼女のやる気は十分のようだな、しかしそれでどのように事が運ぶかはやる気だけでは埋まらない。

 

私としても望んで戦争が起こって欲しいとは思っていない。起きれば確かに貴重な体験として良いデータとなりうるだろうが、私はゲームクリエイターであって戦争屋じゃない、メリットに対してデメリットが大きすぎるのは頂けない。

 

「あ、あはは…お二人とも!暗い顔をなさらないでください!それに食事の手も止まってますよ!ほら!お嬢様、あーん」

「ちょ、やめてよ!スズメ!恥ずかしいじゃない!」

 

一瞬静まり返ったこの食卓の場を和ませようとスズメなりの気遣いか。

 

「えー?そうですか?だったら黎斗さん、あーん」

「…では頂こう」

 

私はスズメがスプーンで差し出してきた食事を口に運ぶ。

 

「わぁ、意外と素直なんですね黎斗さん」

「コッコロが毎日のようにやってくるからな、正直もう慣れた、それに手を使わずに食事ができるからか集中して思考ができるという所も利点だ」

「…なんというかこう…黎斗さんの考えてる事って効率的というか…何というか…夢がないですね…」

「そうね、思春期特有のハツラツさがないわよ」

 

生憎、思春期などというのものはとうの昔に過ぎ去ってしまっているからな。

 

「はぁ、まぁスズメのおかげでなんか変な緊張感が解けたわ、正直あたしが王宮騎士団(ナイトメア)をやめてなければこんな事にならなくて済んだのにって思ってたところだったから…」

「だが君が選んだ道はこちらだった、それに後悔はないのだろう?」

「勿論よ!あたしがこの道を選んだのは…最近『ロスト』っていう子供達の親が忽然と姿を消す怪現象が多発していてそこで身寄りのなくなった子供達を保護したいって思ったから…それに対して後悔なんて無い」

 

『ロスト』…シャドウとならびこの世界の綻びの一つ。サレンの言っていた通り、子供の親と思われる人間が姿を消す現象。

 

シャドウとならびと私は言ったが、私の推測ではシャドウとロスト、この二つは無関係の現象ではないと考えている。

 

バグを修正した際にそれを元に新たなバグが発生する様に、この二つは因果関係にある。

 

「後悔なんてないからこそ、あたしはあたしがやっている今のこの救護院に誇りを持ってる、そして子供達を悲しませない為にもあたしは戦争なんてものは絶対に起こさせないわ」

 

サレンの決意を改めて聞きつつ、私達は食事を進めていく。サレンはその後会合へ向かい、目を覚ました事で丁度良かった私達は軽くシャワーを浴び再び就寝する事となった。

 

 

 

 

これでようやく長かった1日が終わりを告げる……事は無かった。

 

 

 

「────っ!!」

 

眠りについてから1時間程度過ぎただろうか、私は何かの声を聞き、目が覚める。何の声だ?叫び声の様に聞こえたが…

 

体を起こし、上着を羽織る。そしてゲーマドライバーとガシャットを手に持ち、警戒をする。

 

聞き間違いでなければ何か妙な事が起こっている可能性がある、取り敢えず様子を見る為、部屋から出るか…

 

そう思った次の瞬間に私の部屋の扉がノックされる、おそらく別の部屋へと移ったコッコロだと思うが

 

「失礼します主さま、おや、やはり目を覚まされておりましたか、流石です」

「というとコッコロも声を聞いたのかい?」

「はい、何か叫び声のようなものが…」

「きゃぁぁぁぁぁ…っ!!!!」

 

コッコロの話している途中にもまた叫び声が響き渡る、先程よりも大音量ではっきりと聞こえた。

 

「…この声…アヤネか?」

「広間の方から聞こえた様に思えます、行ってみましょう」

 

私達は軽く準備を済ませ、一階の広間へと向かうと、そこには青ざめたアヤネとクルミそしてそれを宥めているスズメの姿があった。

 

「あ、黎斗さんにコッコロちゃん…!」

「どうしたスズメ、何があった」

「き、聞いてよ!黎斗お兄ちゃん!ま、窓の外に…あ、あたしがいたんだよ!もう一人のあたしが…!きっとあっちが「本物」なんだ…パパとママが偽物だったようにあたしも偽物なんだ…!!」

 

どうやらアヤネは錯乱しているようで思考が纏まっていない。それにしてももう一人の自分か…

 

「よしよし、落ち着いてくださいアヤネちゃん、窓に映った自分自身を見間違えちゃったんじゃないんですか?」

「見間違いなんかじゃないよ!ね!クルミ!!?」

「う、うん…私もお外を見たら…アヤネちゃんの姿が見えました…す…凄く怖くって…」

「う、うーん…どうしましょう?」

「もう!スズメは何で信じてくれないの!!?…黎斗お兄ちゃんは信じてくれるよね!?」

 

アヤネはスズメではなく私に同意を求めてくる。

 

「…もう一人のアヤネ…それには確かに興味があるな、スズメ」

「は、はい?」

「まずは君が見に行ってこい」

「わ、私ですか!?な、なんで…?」

「君はアヤネを信じていないのだろう?なら君の目で直接見に行って確かめてくるんだ」

 

そう言うと途端に自信を無くしたのか

 

「う…うう…黎斗さんってば私に対してはいつも当たりが強いです…」

「サレンがいない今、頼りになるのは君だけだ」

 

私がそう言い放つと

 

「そ、そうですよね!お嬢様がいない今…私がなんとかしないと…!大丈夫です!護身用の魔法は覚えていますから!泥棒でもなんでも撃退してみせますよ…!!」

 

よし、スズメのやる気を出させることに成功したな…後はもう一人のアヤネの正体だが…私の推測が正しければこれはまたとないチャンスかもしれない…

 

スズメはプルプルと震えながら一人で庭の方へと出向いていく。それを見送った私は考える。

 

このチャンスを逃すべきではないと、そして今夜の睡眠時間はかなり削られてしまうな…と。

 

 

 




ここ5年の間でビジュアルが好きなライダーを1つづつ
ネクロム、デンジャラスゾンビ、タンクタンク、ジオウⅡ、シャイニングアサルト

かっこいいですよね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影の群

次の星6 あくしろ〜?


さて、スズメが庭に向かってから数分、ガチガチに震えている子供達は私にぴったりとくっ付き動かない。

 

「スズメさま大丈夫でしょうか…」

「まぁ彼女はドジだからな…君の心配も分かる」

「うぅ…お化けとかじゃないよね…?」

「お化けは嫌ですぅ…」

 

そんな時だった、背後に気配を感じ、私は両サイドに張り付くクルミとアヤネを抱えて、回転しながら半歩程後方に下がる。

 

「きゃぁぁぁぁぁっ…!!」

 

それと同時にクルミが叫ぶ、それもそうだ、目の前を煌く刃が通り抜けたのだからな。

 

「えっ…ま、ママ…サレン…?」

 

アヤネが呟く、目の前にはサレンの姿があった、刃を振り下ろし私達を見据える。

 

「…あ、主さま…これは…一体…?」

「…やはり、私の推測通りか…」

 

いや、しかし…何故こんなにもシャドウが…?庭にはアヤネのシャドウもいるのだろう?ここまで大量発生している事など今まで経験したことはない。

 

「だ、大丈夫ですか!?な、何があったんですか!?」

 

走って息を切らせながらこちらに向かってきたのはスズメ、先程のクルミの叫び声で飛んで戻ってきたのだろう。

 

「や、やめてぇ…ママ・サレン…っ…!」

 

涙目で訴えるクルミを無視しジリジリと剣を構えて迫るサレンのシャドウ。

 

「なっ…えっ!?お、お嬢様!?どうしてここに…それに剣を構えて…それではまるで…っ」

「ち、違う!違うよ!スズメ!コイツはママ・サレンなんかじゃない!偽物!外にいたあたしと同じ偽物なんだよ!!」

「偽物って…でも、どうして子供達を…」

 

ユラリと動くシャドウサレンは剣を振り上げ私達に振り下ろそうと駆け足で近寄ってくる。

 

「お手並拝見と行こうかしら?」

 

そんなことを呟きながらな、さて…このチャンス、見逃す訳にはいかない。

 

『ガシャット!ガッチャーン!レベルアップ!!マ〜イティアクショ〜ンエェックス!!』

 

「きゃっ…!!お、お兄ちゃん…?」

「アヤネ、クルミ、君達はコッコロとスズメの後ろに行け、コイツの相手は私がする」

 

私は振り下ろされた剣を右腕にある籠手部分で受け止めながら彼女達を下げさせる。

 

「…ふん!」

 

私はまず籠手で受け止めていた剣を弾き、前蹴りで胸部を蹴り込む、シャドウサレンは怯み三歩程後退。

 

「あう……ううぅっ…!!」

「それで攻撃のつもりか?」

 

シャドウサレンが二度程斬り付けくる、私はそれを一度目は左に軽く体を逸らし回避、次に振られる横薙ぎは右手で上から叩く事で弾き落とす。

 

そしてワンツーの拳を顔面と胴体に打ち込み、更に回し後ろ蹴りを腹部に決める事で大きく吹き飛ばし転倒させる。

 

「ひうっ…ま、ママ・サレンが…っ…」

「く、黎斗さん!相手は偽物とはいえお嬢様なんですよ!?子供達の前なんですからもう少し手心というか…」

「…何を言っている、コイツがサレンではないと分かっているだろう?なら手心も何もない」

 

私はそう言って倒れ込むシャドウサレンにゆっくり近寄る。その間も四肢をプルプルと震えながら立ち上がろうとするシャドウサレン。

 

「あ、主さまは一応手心はしております、普段なら剣をお使いですが今は素手でございますし…」

 

コッコロが精一杯のフォローをしてくれているが別にそういうつもりで素手なのではない。シャドウは脆くあまりダメージを与えすぎると消滅してしまう、それだけは避けなければならない。

 

私はちゃんとダメージ計算をしている、そろそろ準備に入ろうか。

 

「…スズメ、ここから先、子供達に見せるには少しショッキングな光景になる、クルミとアヤネの目と耳を塞げ」

「へ?」

「いいから早くしろ、コイツが立ち上がり再び動き出すと面倒だ」

「は、はいぃ…!!」

 

スズメは彼女達に指示をして耳を塞ぎ目を閉じる様に促す、更にスズメは自身の両手で彼女達の目を隠すという万全の用意だ。

 

「く、黎斗さん!準備ができましたよ!!」

「主さま…一体何を…」

 

スズメとコッコロが燻しげに見てくるも説明している余裕はない、既にシャドウサレンは立ち上がろうと四つん這い体勢になっている。

 

「……君は立ち上がるな」

 

立ち上がりとするシャドウサレンの背中を片足で踏みつけ無理やり這いつくばらせる、そして次に彼女の右足を両手で持ち上げる。

 

「ふん」

 

パキャッという音と共にシャドウサレンの右足をへし折る、これで満足に動けないだろう。

 

シャドウは痛覚がないのか痛みに悲鳴を上げる事はない、更に手応えが無いというか骨を折ったり肉を切断したりしても血液も流れなければダメージを与えたという感覚もあまり無い。

 

「あう…あ…」

「ん?」

 

そんな状態になりながらも左手を伸ばしてきた為、私は右手でその左手を掴み取り、その後すぐに両手を使って腕関節部分を折る。次に私はこちらに顔を向けるシャドウサレンの頭頂部を鷲掴みにして顔面を地面に叩きつける。

 

「な…何をしてるんですか…黎斗さん…」

 

スズメの声色は恐怖に染まっていた、流石に悪いことをしてしまったか、偽物とはいえ彼女の慕うお嬢様の姿をしているのだからな。

 

「悪いが今は問答している暇はない、ここまでダメージを与えてしまうと消滅するのも時間の問題だ」

 

かといって機敏に動くコイツらをノーダメージの状態でハッキングをかけるのは不可能、その為、最小限のダメージで尚且つ行動不能にさせる手足を折るという選択を取った。

 

私はすぐにシャドウサレンにハッキングをかける、マイティアクション以外の他のガシャットやガシャコンアイテムなどのデータを送り込んでいく。

 

「よし…順調だ…次はデンジャラスゾンビガシャットを……っ…!!」

 

ポシュンという音と共にシャドウサレンが煙の様になり消滅する。

 

「ちっ…やはりデンジャラスゾンビの様な容量の大きなガシャットデータは雑魚シャドウ程度では消滅してしまうか…」

 

デンジャラスゾンビが無理だという事はゴッドマキシマムなど夢のまた夢、仕方がないか。

 

私は立ち上がり、スズメ達の方へ振り向く、するとピクリとスズメが怯える様に反応する。

 

「もう目を開けさせてもいいぞ……悪かったよスズメ、気分を害したか?」

「い、いえ…そんな…助かったのは事実ですし…」

「今回の主さまは子供達への配慮が行き届いておりました、はなまるを差し上げます」

 

これで配慮をしていなかった場合、コッコロからかなり叱られていた事だろう、コッコロの叱責は長い、前に一度叱責された時、公衆の面前で何度も指切りゲンマンをやらされた時は流石の私でも堪えた。

 

「しかし、あのサレンさまは何なのでしょう、姿形を真似る魔物…でしょうか?」

「その認識で良いだろう、あれはシャドウと呼ばれる存在らしい」

「知っているんですか?黎斗さん」

 

スズメは子供達の視界を確保させつつ私に聞いてくる。

 

「知っている、という程でもない。実際に見るのは数える程度でしかないし情報という情報は街でささやかれている噂程度だ」

「その噂とは?なんでしょうか主さま」

「コッコロの推察通りの事でしかないよ、姿形を真似、行動や発言は真似した人間の反復しかしない魔物の様な存在、という事だけだ」

 

幽霊だとも言われているな、確かにシャドウは不安定な存在、ここまで維持し更に襲いかかってくるなど稀だ、大概は出現から数分で自然消滅する為、幽霊と噂されても仕方がない。

 

「…黎斗お兄ちゃん、姿が変わりましたよぉ?」

「凄い…何それ!」

「これは私の鎧のようなものだ……とにかくコッコロ、スズメ…まだ戦いは終わっていない、気を引き締めろ」

 

私の言葉にスズメ達が反応し窓から外を見るとそこには

 

「なっ…アヤネちゃんやお嬢様の姿のシャドウだけではありませんよ!?」

「とてつもない数のシャドウの群れ…この救護院は取り囲まれています、主さま」

「…どうやらその様だな…しかし妙だ、本当に何故こんなにも大量にシャドウが…」

 

この様な事象は見た事も聞いた事もない…私達は一体何に巻き込まれているというんだ?

 

「き、今日だけで何度の修羅場に巻き込まれればいいんですかぁ〜」

「とにかくスズメは寝ている子供達を全員起こしてこい、それまで私とコッコロで時間を稼ぐ」

「そうでございますね、スズメさま達の準備が出来次第、この救護院からの脱出を図りましょう」

 

その言葉を皮切りに私とコッコロが動く、コッコロが前に右手を突き出すと優しい風が吹き荒れ槍が出現する。

 

それぞれが武器を構え、迫りくるシャドウの群れに前進していく。

 

「す、すぐに子供達を起こしてきます…!それまで頑張ってください!!…行きましょうアヤネちゃん、クルミちゃん」

 

スズメが二人を連れて急いで階段を駆け上がっていく、その姿を見送った後、私達もまた駆ける。

 

「主さま、わたくしは右陣を迎撃いたします」

「了解した」

 

私の武器は未だ素手だ。理由としてはまだハッキングを諦めていない、この大量発生したシャドウを利用しない手はない。

 

私の目の前には数にして20体程はいるだろう、サレンやアヤネ、クルミと見慣れた存在もいれば全く知らない人間の姿をしたシャドウもいる。

 

とにかく捌き切る事が先決だ、迫りくるシャドウ共に次々と拳を当てる、シャドウの手にはそれぞれ武器を持っており、冒険者の姿を借りたシャドウはもっぱら剣を持っている。

 

縦に振られた剣を右手で受け止め、すぐにカウンターとして左拳で顔面を殴り吹き飛ばす、更に歩きながら、迫るシャドウに右腕で裏拳をぶちかます。

 

殴られたシャドウは大きく回転しながら転倒、私はすぐに後ろから気配を感じ、即座に中段後ろ蹴りを剣士シャドウの胴体に打ち込む。

 

「コッコロ!すまないが私はまた先程のようにシャドウに細工をする!その間無防備な私を援護してくれ!」

「了解しました主さま!!」

 

倒れ込んだシャドウには間髪入れずにハッキングを掛ける、1体に掛ける時間は長くても5秒、それ以上はコッコロへの負担を考えればやる必要はない。

 

ハッキングが成功してようがしてまいが5秒以上は決してやらない、そして少しでも成功確率を上げる為、送るデータは1体につき1つに制限する。

 

私がハッキング中、コッコロが槍と風魔法を使い周りに蔓延るシャドウ共を蹴散らしていく。

 

それを何度か繰り返し5分程度の時間が過ぎた所で

 

「黎斗さん!子供達を起こし終えました!!」

「主さま…!!」

「分かっている、スズメ!ここから退避する!!会合をしているサレンの元へ急ぐぞ!!」

 

私とコッコロは未だ迫るシャドウの群れを迎撃しながら後退しスズメ達の元へ向かう。

 

「コッコロ、大技で目眩しと退路を作る、そこから皆を避難させるぞ」

「承知しました主さま」

 

私はガシャットをキメワザホルダーに、コッコロは槍を構え魔力を練り上げる。

 

『キメワザ!マイティクリティカァル!ストライク!!』

「精霊達よ、わたくしの声に答えてくださいまし…ウィンドストーム!!」

 

コッコロが発生させた風の竜巻と私のライダーキックが炸裂し右前方が爆発と暴風で吹き荒れシャドウの群れを一部吹き飛ばす。

 

「スズメ!!」

「は、はい!!さぁ、皆さん、こっちについて来てください!!」

 

スズメ、アヤネ、クルミはそれぞれ自身よりも年が下の子供と手を繋ぎ退路を駆ける。

 

「主さま…!!」

「コッコロ、君も先に行け、残るシャドウが未だに追いかけてくる、私はそれの足止めをする」

 

私の言葉に不安そうな顔でこちらを見つめるコッコロ。

 

「安心しろ、私もこの数をまともに相手するつもりはない、安全が確保でき次第そちらに向かう、私を信じろ」

「…っ分かりました…信じます!」

 

信じろ、という言葉にコッコロは弱い、かなり不服そうな顔をしつつも私の目をまっすぐ見て信じていると目で訴えている。

 

「お怪我だけはどうか…なさらずに…!」

 

その言葉を最後にコッコロもまたスズメ達の方向へと向かっていく。

 

キメワザやコッコロの大技であれだけ吹き飛ばしたというのにまだ30体近く残っている。

 

子供達の歩行速度も考えれば最低でも4分か5分程度、コイツらを足止めする必要がある、その間に自然消滅してくれれば楽ではあるのだが…

 

次の瞬間、私に迫りくるシャドウ達、前後左右全ての角度から襲いかかってくる。

 

「あまり私を舐めて貰っては困る」

 

私はその場で360度回転蹴りを浴びせ距離を取る。

 

「もう十分データは送らせてもらった…手加減無用で行くぞ」

 

そう言って私は地面に突き刺しておいた剣を引き抜き構える、安全が確保できたら?いや違う、私の才能なら5分あれば殲滅出来るだろう。

 

私はそうタカを括って一気に連撃を打ち込んでいく、シャドウ自体大した耐久力はない、本気で攻撃すれば一撃または二撃で消滅する程だ。

 

2分程戦闘は続き、かなりの数を減らす事が出来た、この数を相手に立ち回るとなるとかなり体力を消費する、この後退避する体力の事も考えなければ…

 

その時だった、不意に背後から剣撃が横薙ぎに振られる、私はそれに気付きギリギリで回避して距離を取る。

 

今のは完全に油断していた、全くあまり思考に割いている暇はないという……こと…か

 

私は驚きで目を見開いた、なぜならば…

 

「…そうか、確かにその可能性も考慮しておくべきだったな…」

 

目の前には『私』がいた、否私が憑依している少年の姿というのが正確だが。

 

「私のシャドウか…面白い…ん?」

「…変身」

 

私のシャドウはなんとガシャットとゲーマドライバーを持ち、ドライバーを腰に当て、ガシャットのスイッチを入れドライバーのスロットに挿入する。

 

『マイティジャンプ!マイティキック!マ〜イティアクショ〜ンエェックス!』

 

奴は目の前でゲンムの姿となりこちらを見据える…まさかそこまでコピーされるとは予想外だ。

 

「…不正なガシャットは削除するぅ…!!」

 

ゲンムシャドウはそう呟きながら突っ込んでくる。

 

「…それは…こちらのセリフだァ…!!」

 

この言葉と同時に2体のゲンムが衝突する。

 

 

 

 

わたくし達は走り続け、ようやくサレンさまがいると思われる会合を行なっているギルドハウスに辿り着きました。

 

「はぁ…はぁ…す、スズメさま、皆さまもお怪我などはありませんか?」

「は、はい…大丈夫です…子供達も…全員いますね…!」

 

わたくし達が逃げている最中も何度かシャドウの襲撃に遭いました、ここまで来ればもう追っては来ないと思いますが…

 

「…5分は経過致しましたね…そろそろ主さまがこちらに向かってくる頃だと思いますが…」

「…大丈夫ですよ!コッコロちゃん!黎斗さんならきっと!それより早く中に入りましょう、お嬢様達にも状況を説明しないといけませんし、子供達だって本来は寝ている時間帯ですしね」

 

そうでございます、まずは子供達のことを優先に考えましょう、もう既に日付が変わっている時間です、そんな時間に子供達に過酷な運動をさせてしまいましたからね。

 

…主さま…どうかご無事で…

 

 

 

 

 




オリジナル展開とか書けたらいいんですがね…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

影の群その②

ニノン「忍びと書いて、刃の心デース!!」

オーエドニノンすき


「フッ!ハァッ!!ハァァッ!!!」

 

私は連続で拳や足を振るう、シャドウゲンムも同じように私の攻撃を真似し攻撃をしてくる。

 

ちっ…!!正直やり辛い、中々決め手になるような攻撃を与える事ができない。

 

流石は私…!シャドウになっても動きが緩慢になる事はないとは…!!

 

「しかし…っ!!!」

 

私のシャドウだけではない周りには他のシャドウがいる、それらを捌きながらゲンムシャドウを相手にするのはかなりの重労働だ。

 

その前に体力を使いすぎたのも裏目に出ているな…

 

「ぐぅっ!?」

 

背中を斬られた…!冒険者シャドウによる縦振りの剣が私の背を斬り付けた、軽い火花を散らしながら私は反動で少しだけ前に蹌踉めく。

 

「…やってくれる…っふぐぉっ!?」

 

私を斬り付けたシャドウを睨み付けている間に前方のシャドウゲンムが私に連続パンチとキックの応酬を仕掛けてきた。

 

全てに被弾した上、トドメと言わんばかりに中段横蹴りを私の胸部にぶつけてくる、それにより私は大きく吹き飛ばされ地面を数回程転がる。

 

「ぐぅ…このままでは…まずいか…」

 

私は胸部にあるライダーゲージをチラリと確認すると既に半分を切っている。

 

「うぅ…ぁぁ!!」

「ちっ…っ!!」

 

ゲンムシャドウ含めて残りのシャドウは15体…長期的に戦闘を行いスタミナを消耗しすぎたせいか私の動きが鈍くなりゲンムシャドウはおろか雑魚シャドウの攻撃すら避けられなくなっている。

 

「ぐぅぅぅぁっ!!?」

 

私は連続で雑魚シャドウの攻撃を受け、更にゲンムシャドウの飛び膝蹴りをまともに受け、私は再び大きく吹き飛び背中から地面に叩きつけられる。

 

「くっ…もう体力も残り少ない…このままではゲームオーバーになってしまう……仕方がない…っ一か八か…っ」

 

この私が運に頼るとは…しかしこれしか私が生き延びる術はない。

 

『ガシャット!キメワザ!!マイティクリティカァル!ストライク!』

『ガシャット!キメワザ!!マイティクリティカァル!ストライク!』

 

やはりゲンムシャドウも私と同じようにキメワザホルダーにガシャットを挿入し構えをとる。

 

奴は私の真似をする、私がキメワザを放とうとすれば必ずやってくる…だからこそ一か八かの賭け…

 

「…行くぞ…っ!!!ハァッ!!!」

 

私とシャドウゲンムは跳躍しエフェクトを出しながら空中で加速する、そして互いの足が衝突し爆発を起こす。

 

勝負は決まった。

 

 

 

 

「主さま…」

 

わたくしは未だ現れない主さまをひたすら外で待ち続けました。何分経ったでしょうか、分かりません、そこまで長い時間では無かったと思います。

 

しかしわたくしにとってそれはとてもとても長く果てしない時間のように思えました。

 

「コッコロちゃん…」

「スズメさま…」

 

振り返るとそこにはスズメさまだけでなくサレンさまのお姿も見られました。

 

「子供達はもう寝かしつけたわ…それにしても黎斗…まだ来ないのね…」

「…わたくしはとても心配です……しかし信じると主さまに言いました、だから……今ここで主さまを探しにいくのは主さまを信用していないという事になってしまいます」

 

だから…せめてここで待ち続ける、それが従者としての役目。

 

「あ、あれは!見てください!お嬢様!コッコロちゃん!」

 

スズメさまが指を指す方向にボロボロの状態の主さまのお姿がありました。

 

衣服は所々破け、体には土埃、皮膚を裂傷している箇所もあり出血もしています。

 

「主さまっ!!!」

 

わたくしはいても経ってもいられずにすぐに駆け寄りました、主さまはヨロヨロとした足取りでこちらに歩いてきています。

 

「主さま、如何いたしましたか!?どうしてそんなにボロボロに…ああ、なんとお労しいお姿に…!!」

 

わたくしが主さまを抱きとめると力無く主さまもわたくしに体を預けてきました、そして後方からスズメさまとサレンさまも走って駆け寄ってきます。

 

「すまないな、コッコロ…想定外の事態が発生してね…まさか私の姿をしたシャドウまで現れるとは…」

「主さまのお姿をした…シャドウ…」

 

だからここまでの傷を…

 

「なんとか…キメワザで相討ちにまで持っていけたよ…シャドウは耐久力がないからな…それを賭けて一か八かの攻撃をした…しかしその代償は大きかった、中々の怪我を負ってしまったよ」

 

主さまは右肩を押さえておられます、おそらく肩関節が外れてしまっているのでしょう、それを無理やり治すほどの筋力さえ残っていらっしゃらない様子。

 

「スズメさま、共に主さまに回復魔法をかけましょう、わたくし回復魔法が得意ではないのであまり力になることはできませんが…」

「は、はい、黎斗さん、ジッとしていてくださいね、今ちょちょいと治してあげますから」

 

わたくしとスズメさまが魔力を練りそして回復魔法の詠唱を行うと淡い緑色のオーラが出現し主さまの体を癒していきます。

 

「……ごめんなさいね黎斗、あたしがいなかったばかりに…あんたにこんな無茶させちゃって…」

「…何を言っている、会合は君にしかできないことだ、君には君のやるべき事を私には私にしかできないことをやった、ただそれだけさ」

 

…ああ、主さまはこういうお人です。不可思議な事を言ったり、変な行動をしたり、他人を侮蔑するような言い回しをしながらも誰かをお助けになる時は理由もなくお助けになる優しいお方…

 

「それより…子供達は無事かい?」

「はい、大丈夫でございます、これも全て主さまのおかげです」

 

わたくしがそう言うと主さまは静かに「そうか」と呟いて傷が癒えるのを待ちました。

 

「とにかく私はもう疲れた…すぐにでも眠ってしまいたいくらいだ」

「そうね、このギルドハウス、結構大きめで空き部屋も沢山あるし今日はここで寝泊まりした方がいいわ」

「是非そうさせてもらう…今回のシャドウの事も話し合いたいところだが、先に失礼させてもらうよ」

 

回復を終えた主さまはわたくしの名前を呼んで共に来るように指示を出されます、わたくしは勿論黙って付いて行きます。

 

こうして、ようやくわたくしと主さまの長い1日が終わりを告げるのでありました。

 

 

 

 

翌日、私とコッコロの2人で自警団(カォン)のギルドハウスへと訪れていた。

 

理由は勿論、先日クリスティーナの襲撃で半壊したギルドハウスの片付けの手伝いの為だ。

 

「サレンさま、今日もお忙しそうでしたね…」

「そうだな、子供達はスズメが連れて救護院に戻ったようだが…」

「子供達は怯え切っておられました…トラウマになっている子もいるでしょう」

 

ふむ…私はドクターではない、心のケアを出来るほどの技術も知識もない、こういう時永夢のような小児科医の力が必要なのだがな。

 

「いずれにせよ、そちらの事はサレンか何か知恵を出すだろう、コッコロも出来るだけ子供達のケアに当たってくれ、生憎私は力になれそうにないからな」

 

そんな会話をしつつ自警団(カォン)のギルドハウスへと辿り着く。

 

昨日と何ら変わりはない、強いて言うなら王宮騎士団(ナイトメア)の兵士数名が壁の修繕に当たっているくらいか。

 

「おーう、黎斗!コッコロ!待ってたぜ!」

「遅れてすまない、昨夜面倒ごとに巻き込まれて朝起きるのが遅くなってしまった」

「ああ、知ってるよそれ、カスミから聞いたからな」

 

カスミ…?そう言えばマホもそんな名前を言っていたな、まだ私は会った事はないが度々名前が出ると言う事は何かしら有能な人材なのだろう。

 

「何故そのカスミとやらは知っている?」

「カスミは最近シャドウっていう魔物みたいなのを追っててさ、昨日は仕掛けあった『魔力索敵機』…?ってやつにめちゃくちゃな反応があったらしいんだよ、ほんと凄ぇ驚いててさ、真夜中だってのに飛び出してったよ」

 

確かにアレだけの数のシャドウが現れたとなると追っていた側としてはまたとないチャンスだ。

 

その時に私の姿を確認した、ということか?…なら加勢に入ってくれても良いだろうに。

 

「…そのカスミという奴は今どこに?」

「…ん?部屋じゃねぇのか?多分流石に帰ってきてると思うけど…」

「…そうか、分かった。すまないコッコロ、私は先にカスミに会ってくる、シャドウの研究をしているというのに興味がある」

「承知しました主さま、わたくしはマコトさま達のお手伝いをしております」

 

私はコッコロ達と分かれ、マコトに教えてもらったカスミの部屋へと向かう。

 

私は軽くノックすると中から声が聞こえる、少女の声だ。

 

「どちら様……っと君は…」

「ん?私の顔に見覚えが?」

 

彼女は右肘に左手を添え、右手を顎に持っていく、所謂考えるポーズで思考する。

 

昨夜の事を知っているということは私の顔を知っているという事だ、だとすれば何故だ?彼女とは一応初対面のはず、少し推察してみよう。

 

「君…見覚えがあるよ、確か…檀…黎斗さんって言ったかな?」

「…成る程、私の話がこのギルドで出たのを聞いたって所かな?」

「その通り、君の話題はよく上がるよ、特にマホさんやマコトさんからね、その話の特徴と君の容姿が合致したし何度かこのギルド内ですれ違ったりしてたからもしかしてと思ってね」

 

…ふむ、彼女は中々観察眼と思考能力に長けているようだ、神の才能の私に比べればまだまだひよっこだが彼女も才能ありといったところか。

 

「それで、君はわたしに何か用かな?」

「…その様子だとかなり行き詰まっているようだね、シャドウの件は」

 

私がそう言うと彼女は目を丸くして驚いた表情をする。

 

「驚…ろいたね、どうしてそう思うんだい?」

「君が今手にしているカップの中身は珈琲だ、それも『アウェイクリン』というランドソルでもっぱら『目が冴える』と言われている豆だ」

 

そして私は更に彼女の机の方に指を指す。

 

「そしてそこにある資料の散らかり具合、用紙の隅がぐしゃりとヨレているのは何度も見直している証拠だ、君はかなりマメな性格だね、鉛筆で頭に引っかかった内容の部分に印をつけている、がその数が極端に多いのは結論が出ず迷っているという事」

 

彼女は私の言葉を黙って聞く。

 

「最後に君の髪の毛だ、寝癖が付いている、多少はケアをしてはいるが今起きたばかりだね?昨夜シャドウの大量発生に飛び起きて向かったと聞いている、シャドウは夜中に発生することが多いからな、ここ最近の生活は不規則だろう」

 

となると。

 

「結論から言わせて貰えば君は寝る間も惜しんで徹夜で仕事をしている、結果を出せずに何日もの間ずっとね」

「…あ…ああ…っ」

 

…ん?彼女は何か言って…体が震えている?

 

「き、君!なんて聡明なんだ!素晴らしい!!どうだろう!わたしのシャドウの調査を手伝ってくれないかい!?君のような才能ある人物に手伝ってもらえればなんと心強いかっ!!!」

 

彼女は目を輝かせながら私に迫ってくる。私はその勢いに圧倒され半歩後ろに下がってしまう。

 

「お、おっと失礼、つい興奮してしまって…コホン、改めて自己紹介させてもらうよ、わたしはカスミ、前まではソロで活動していたけど今はここ自警団(カォン)で探偵稼業をさせてもらっているよ」

「探偵か…成る程、だからシャドウを…誰かの依頼かい?」

「まぁね、誰か…という個人のものではないよ、複数の住人からの依頼さ」

 

彼女は自身の机を指でなぞりながらそう答えた。

 

「最近はシャドウの目撃情報が多発しているからその影響で君のような探偵に依頼をしているという事か…」

「そういう事さ、さて黎斗さん、どうかな?この件を手伝ってくれるかい?」

「…良いだろう、元々それに興味があって来たのだから」

 

私がそう言うと彼女は満面の笑みを溢す。

 

「本当かい!?やった!実は1人では限界だと思っていたんだ!君のような頭の良い人が協力してくれるのなら本当に助かるよ!!」

「まぁ、まずはこのギルドハウスの片付けをやってからだが…」

「おっと、そうだったね、まぁシャドウが出るのは夜だし、今晩から早速行動しよう!今夜は寝かせないぞ、助手君♪」

 

こうして私はカスミの助手になりシャドウの調査に出る事となるのだが…それはまた別の話になる。

 

 

 

 

 

シャドウ襲撃から数日が経過した、私はその間にカスミと共にシャドウの調査に出たりと色々とやっていたのだが。

 

「子供達がシャドウの一件で怯えちゃってる、だから一時的でもいいから避難させたいのよ」

 

と、サレンから伝えられた、どうやら私がその避難先予定である『エリザベスパーク』の住人と知り合いである事がバレてしまっているようだ、大方両者と面識のあるマホ辺りが伝えたのだろう。

 

そのおかげでこうやってサレンが私に頼み事をしてきたわけだが。

 

「分かったよ、私がエリザベスパークに行き、避難先として使えるかどうか交渉に行けばいいんだな?」

「うん、ごめんね黎斗にばっか迷惑かけちゃって、本当はあたしが行きたい所なんだけど…はぁ…ちょっと今は無理そうね…」

「君は連日会議で大忙しだからな、無理はするな、こっちは私に任せておきたまえ」

 

実を言う所、私は今ワクワクしている。理由は何故か、それは先日のシャドウの襲撃の際にシャドウをハッキングし流したデータによりこの世界で複数のガシャットを製作することに成功した。

 

それを早く試してみたいという欲求に駆られており、今はなんでも良いからこの街から出たいというのがあった。

 

エリザベスパークはこのランドソル近くにある小高い山の頂上付近にあるため、その道中では魔物と出会う可能性もあるだろう、その時に試してみるのはアリだ。

 

今回は私1人で向かう、コッコロは今日も自警団(カォン)のギルドハウスの片付けに行っているしスズメは子供達の世話があるからな。

 

私は複数のガシャットとゲーマドライバーを持ち、早速街を出る。

 

長い山道をひたすら歩く、エリザベスパークへの道のりは慣れた冒険者なら楽々進めるが街の人間が向かうとなるとかなりキツイだろう、ここを何度も往復するのは私でも勘弁願いたいくらいだ。

 

山道を進んでいると、不意にガサガサと草陰が揺れる音が響く、何か生き物の気配も同時に感じ、私は魔物ではないかと考え鞘の剣の柄に手をかける。

 

次の瞬間、草陰から飛び出す1つの影、私は反射的に剣を鞘から引き抜き、逆手持ちで襲撃者の攻撃を防ぐ。

 

カンッ!という甲高い金属音が響く。

 

「…ん?君は…ペコリーヌ」

「あれ?そういうあなたは…黎斗くん!」

 

襲撃者の正体はペコリーヌだった。甲高い音が響いたのも剣による斬撃だった為だ。

 

「何故私に襲い掛かる」

「す、すみません、凄くお腹が減ってて…何か気配を感じ取ったので魔物かなって思って…」

「君は私を食べるつもりだったのか…」

 

彼女はお腹が減りやすい体質らしく、腹が減ると思考能力も著しく低下し見境なく襲い掛かる性質がある、全く恐ろしい女だ。

 

「も、申し訳ありません!うぅ…でも…お腹が減りましたぁ…」

「はぁ…仕方がない、私の持ってきていたおにぎりをやろう」

 

コッコロに今朝持っていくようにと用意されたおにぎり4つを彼女に渡す。

 

「い、いいんですか!?わーい!あなたって本当に優しいですね!いただきま〜す!!もぐもぐ☆」

 

相変わらず良い食べっぷりだ、彼女の食べっぷりは見ているこっちまで食欲をそそる様な感じがする、これは是非食事をテーマにしたゲームの参考にしよう。

 

「ゴックン☆ンま〜い!!美味しすぎてヤバいですね☆こんなに優しいご飯久々です!恋してもいいですか?」

「…君は何を言っているんだ?」

「あはは!わたしよく勢いが凄いとか言われるんです!ん〜お腹が満たされたから思考も纏まってきました!所で黎斗くんはどうしてここに?」

 

それは私が君に聞きたいところなのだが、質問を質問で返すのもアレだ。

 

「私は先日シャドウという魔物の襲撃を受けてしまってね、私の寝泊りしている救護院の子供達が酷く怯えてしまって、1度避難させる為にこの先にあるエリザベスパークに挨拶に行く途中だったんだよ」

「あ〜成る程、そういう事ですか、わたしはまぁ武者修行ってやつです、本当にたまたまこの山で魔物を倒していたところあなたに出会ったという訳ですよ、それにしても黎斗くんは相変わらず偉いですね〜よしよ〜し☆」

 

そう言って彼女は私の頭を撫でてくる、彼女と共に行動をする際、彼女はかなりの高確率でスキンシップをしてくる、これは別に私に限った話ではない、コッコロやキャルに対してもだ。

 

「君の激しいスキンシップは何なんだ?誰にでもそのようなことをしているか?」

「えっ!?ち、違いますよ〜流石に見知らぬ人とかには絶対しません!心を許した人だけです!!…わたし今まで結構1人でいることが多くて、多分寂しかったんだと思います…だからそれも相まって誰かと接したいな〜なんて思ってるのかもしれませんね」

 

そう言う彼女の顔は何故か寂しそうに見えた、そこから垣間見えるのは彼女の過去。

 

「よし!だったらわたしも黎斗くんのお手伝いをしますよ!丁度予定もありませんし!」

「別に構わないが、特に何も面白いことはないぞ?」

「別に構いませんよ!わたしはあなたと一緒にいるだけで楽しいですから!」

 

相変わらず能天気な女だ。

 

彼女と共にエリザベスパークに歩を進めて数分、何処からともなく声が響く。

 

「誰か〜!助けて〜!!!」

 

その声は私の知る声だった、どうやらまた私に新たなイベントが訪れるようだ。

 

 

 




ゼロワンのドライバーの数が多すぎてお金が減っていく…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

厄災の牧場 

アカリ「超強力プレーで」
ヨリ「クリアするわよ!!アカリ!」その為の左手

この2人なら覇瞳皇帝(糞運営)を倒せそう。


「はぁ…はぁ…やめて〜来るな〜!!」

 

その声はどんどんと近づいてくる、そして数秒後、声の主が姿を現した。

 

私達の後方から駆けてきたのはリスの獣人、この先にあるエリザベスパークに一応護衛として派遣されている自警団(カォン)の1人であるリン。

 

一応といったのは彼女の性格の問題であるのだがそれは後で話そう、今はそうこうしている場合ではなさそうだ。

 

「黎斗くん!魔物に追われてる女の子がいますよ!」

「分かっている」

「あ!そこにいるのは黎斗!?なんでここにいるのさ!…まぁいいや、とにかくあたしを助けておくれよ〜!」

 

そう言って彼女は私の背後に隠れる、彼女は自警団(カォン)の筈だが戦闘能力は殆どないという残念な性能をしている。

 

「お知り合いですか、黎斗くん」

「まぁな、とにかく今はこいつらを削除するぞ、ペコリーヌ」

「はい!やっちゃいましょう!!」

 

さて、私の方も試してみるか。

 

「グレードエックス03(ゼロスリー)変身」

 

『ガシャット!ガッチャーン!レベルアップ!マイティジャンプ!マイティキック!マ〜イティアクショ〜ンエェックス!アガッチャ!タドルクエ〜スト!!』

 

私に装着されたのは黒のゲンムに映える白の鎧、タドルクエストだ。

 

「鏡先生の言葉を借りるなら…私に切れないものなど無いと言ったところか」

 

『ガシャコンソード!!!』

 

更に私が手をかざすとガシャコンソードが手元に出現する、AボタンとBボタンが存在し炎剣モードと氷剣モードが存在する比較的オーソドックスな剣状の武器だ。

 

「おっ!黎斗くん前に見た奴と違う見た目になりましたね!何なんですか!?ヤバいですね!!」

「今の私は仮面ライダーゲンムブレイブ…このファンタジー世界に相応しい騎士だ」

 

そう言って私は魔物達に突っ込んでいく、数は18体程、狐のような見た目をした二足歩行の獣人魔物コボルト。

 

手には骨で作られた鎌のようなものを二刀持ち、赤フードを身に纏っているのが特徴だ、彼らの特性は身軽かつ高速で動き、武器を投擲してくるなどのトリッキーな戦術を得意とする。

 

また仲間がやられると攻撃性が増すルーチンが組まれており数を減らせば減らすほどより強力になっていく。

 

タドルクエストの初陣には丁度いい相手だ。

 

「来ますよ!!黎斗くん!!」

 

ペコリーヌが叫ぶ、私に襲い掛かるコボルトの数は3体、前方から1体が私に縦ぶりの鎌による攻撃を仕掛ける。

 

それを私は左腕につけられたタドルクエストの装備であるリヴァーサルシールドで受け止め弾き返すパリィをする。

 

それによりガラ空きになったコボルトの胴体をガシャコンソードの炎熱で斬り裂く。

 

「グギャァァッ!!」

 

という叫びと共にコボルトが炎上し転がる。残り2体のコボルトは私の背後に回り込み背面を斬り込もうとしてくる。

 

そこで私は肩の装備アームドアンブレイカーから全身を覆うように装甲強化剤を噴き出し、防御力を底上げすることでノーガードでその攻撃を受け止める。

 

タドルクエスト系列の防御力はピカイチだ、この能力を使えば今の私は傷1つつかないだろう。

 

ガキンと金属音が響きダメージが入らなかったことに驚いたコボルトは呻くような声を上げている。

 

「ふぅ…雑魚敵ではこの程度か…」

 

私はその状態でAボタンを1回タッチすることで炎剣から氷剣に変化させる

 

『コ・チーン!!』

 

「ハァッ!!」

 

360度回転し斬りつける事で絶対零度の冷気が辺りに撒き散らされる。私に攻撃を仕掛けていたコボルト2体は一瞬にして凍りつく。

 

凍りついたコボルト2体を雑に蹴りと拳で破壊しつつ前進し他のコボルト共を斬り裂き屍に変えていく。

 

「お〜かっくいい〜♪わたしも負けていられませんね!!タァっ!!」

 

ペコリーヌもまた駆け出し、次々とコボルトを斬り裂いていく、その力強さは斬りつけたコボルトが吹き飛ばされていく光景を見れば分かる。

 

「…数も多いからな…ここは一気に決めるか、ペコリーヌ!これを使え!!」

「へっ!?わわっ!?なんですかこれ!?」

 

私が投げ渡したのはガシャコンソードとタドルクエストガシャット。

 

「やってみろペコリーヌ、キミなら使える筈だ!」

「なんだかわかりませんがなんとなくわかる気がします!!」

 

『ガシャット!キメワザ!!!タドルクリティカァル!!フィニィッシュ!!』

 

ペコリーヌはガシャットをちゃんとスロットに装填しキメワザ音声が辺りに鳴り響く、そしてガシャコンソードを構え。

 

「行きますよぉ…全力全開!!プリンセスストライク!!!!」

 

彼女がソードを3連続で振るうとそこから衝撃波が3つ発生し前方の無数のコボルト達が吹き飛ばされバラバラに砕ける。

 

巻き起こる風圧は木々を揺らし、大地を抉る…素晴らしい、これは素晴らしい発見だァ!!

 

「う、うひゃあ…アレだけの魔物を一瞬で…あたし凄い人を見つけちゃったよ…」

 

ガシャコン武器によるキメワザと魔力による技、更にペコリーヌの力が合わさる事で何倍もの威力となっている…!

 

これはガシャコン武器を積極的に使わせた方が良さそうだな。

 

それよりも本来はこの世界で新たなガシャットやガシャコン武器を生み出す事が良いのだが…流石にこのゲーム世界の内側から改造して製作するというのは難しいだろう。

 

今はまだこれで良い事にしてやるが後々は必ずこの手で革命を起こしてやる…!

 

「はぇ〜…凄いです…こんな凄い力が出るなんて思いませんでしたよ!」

「そうだろう、これも私の才能があってこそだ」

『ガッシューン…』

 

私は変身解除して彼女達に近寄る、さて…まずは何があったのかリンに聞いてみる必要があるか、彼女の性格上魔物に追われているなどという光景自体あり得ない。

 

「リン、何があった?君がこんなところにいるなんて普通じゃない」

「か、軽く酷いこと言わないでよ!…まぁ事実だけどさ…と、とにかく2人とも!あたしについて来て!大変なことになってるんだって!」

 

リンはそう言ってそそくさと走り出す、彼女がここまで動いているとなると牧場で何かあったか…魔物の群れ…まさかな。

 

私達はリンに連れられ牧場に辿り着くと。

 

「これは…」

「凄い魔物の数ですね…わたしはいつも見慣れた光景ですけど……いえ、いつもより数が多いです…何匹いるんでしょう…?」

 

牧場一帯を埋め尽くす数の魔物…100…200…いやそれ以上はいるな、多種多様、種族が統一されていない魔物達が溢れかえっている。

 

「それがさ!いつも通り起きたら外が騒がしくって見に行ったらこんな事になっててさ!どうしようってテンパってたらリマが街で誰かを呼んで来いって言って…ひぐっ…それで…」

 

リンが泣くとは珍しい、だがそれだけ状況は悪いという事だ、先日のシャドウの大量発生など比ではない数の魔物、それにまったくの雑魚という訳ではない個体もちらほら見える。

 

「だからお願い!黎斗!助けて!何でもするからさ!特製のドングリもあげるよ!」

「ドングリですか、良いですね、最近のドングリは品種改良されててとても美味しいと聞きますよ!」

「…やれやれ、まぁ良いだろう、君がそこまで頼み込むという珍しいものが見れたのだから私が救いの手を差し伸べてやる」

 

私はいつも通りマイティアクションのガシャット、そして次はバンバンシューティングガシャットを取り出す。

 

『バンバンシューティング!』

 

2つのガシャットのスイッチを入れると音声が流れ

 

『ガシャット!ガッチャーン!レベルアップ!マ〜イティアクショ〜ンエェックス!アガッチャ!ガガンガンガガン!ババンバンババン!バンバンシューティング!!』

 

私はマイティアクションとバンバンシューティングのガシャットを挿入する事でゲンムの鎧にスナイプのマフラーと装甲を取り付けた仮面ライダーゲンムスナイプに変身する。

 

「リン、リマは何処にいた、まずは安否の確認を優先する」

「え、えと、あっちの方角だよ…ってさっきは気になんなかったけど…その姿なんなの?」

 

毎回出会う人間に説明するのも面倒だから今回は無視させてもらう。

 

「ペコリーヌ、前線は君に任せる、魔物共を蹴散らし道を作るぞ」

「了解です!!行きましょう!!」

 

『ガシャコンマグナム!』

 

バンバンシューティングに内蔵されたガシャコン武器を取り出し、私はとにかく撃つ。

 

ガシャコンマグナムは反動が殆どなく片手で撃てるというところが利点だ。

 

「やぁぁっ!!せい!!」

 

ペコリーヌは前衛でひたすら斬り倒し吹き飛ばし進む、そして彼女の背後から不意打ちをしようとする魔物は私が撃ち抜く。

 

(黎斗くんの援護は凄い正確…戦いやすくってヤバいですね!本当に恋しちゃいそうですよ、全く〜)

「うわぁ〜近寄るなってば〜こんの〜!!」

 

リンはハチャメチャに槍を振り回し近寄る魔物にダメージを与えていた。

 

「リン、君はどうしてそこまで頑張る?そういう性格ではないだろうに」

「あ、あたしだってここの人達にはお世話になってるんだ…それに…あたしがちゃんとしてなかったから…こんなことになっちゃったのかもしれない……ううん、例えそうじゃないとしても!!1%でもあたしのせいなら…あたしがやらなくちゃダメなんだよ…!!」

「…そうか、なら存分に頑張りたまえ」

 

彼女の話を聞きながら私は近寄る敵は乱雑に拳や蹴りで打ち払い、距離を取らせた魔物をマグナムの餌食にする。

 

「およ!?おっとっととと!?」

 

ん?前方のペコリーヌに迫っているのはハイオークか、かなりの巨体で3メートル近くはある巨大な猪型の獣人の魔物、手には大斧を持ち耐久力と攻撃力の高い厄介な魔物だ。

 

ペコリーヌでもこの乱戦状態で相手をするのは一苦労するだろう、現に彼女はハイオークの攻撃をギリギリで回避しているという状況だ。

 

私は瞬間的にペコリーヌに走り寄り

 

「ペコリーヌ!!」

「黎斗くん!?…っと、よいしょぉっ!!」

 

ペコリーヌと私は言葉を交わさずに伝わった行動をとる、ペコリーヌが少し屈み私は彼女の肩を踏み台にする。そしてその後、彼女が一気に立ち上がる、その反動を利用し高く跳躍、ハイオークの顔面に無数の弾丸を打ち込み目眩しをする。

 

「どっせぇぇい!!」

 

ペコリーヌがその隙に横薙ぎの一撃を斬り込み、ハイオークの巨体を吹き飛ばす。

 

「ふん」

 

ペコリーヌの背後から忍び寄る魔物は私が着地と同時にマグナム2発を発射することで撃破。

 

「すっげぇコンビネーション…2人ともなんか息ピッタリじゃない?」

「当たり前ですよ!なんたってわたし達は同じギルドの仲間ですから…って黎斗くん!後ろ!!」

 

私は背後に気配を感じ、咄嗟に前転回避、その後すぐに背中から地面に飛び込むようにバックステップしその体勢のまま射撃する。

 

全部で4発、全て着弾、ウッドソウルの群れを撃破することに成功する。

 

やはりスナイプの特徴である、SNグロウスレックの緊急回避や高速ローリングなどの俊敏性はこういうときに役に立つ。

 

「やっぱり黎斗くん見違えるように強くなりましたね、前に会った時よりも強いです」

「当たり前だ、私を誰だと思っている」

 

そんな時、不意に遠くの方で煙が上がっているのが見えた、赤い煙…ただ何かが炎上しているというわけではなさそうだが。

 

「あ!!あそこで煙が上がってますよ!」

「あの煙は…うーん、なんだったっけなぁ?自警団(カォン)の訓練でよく聞かされてたんだけど…あ、思い出した!あれは救援信号だ!あそこに誰かいるのかも!!」

 

成る程な、ならば急いで突っ切った方が良さそうだ。

 

私はバンバンシューティングガシャットを引き抜き。

 

『爆走バイク!!ガシャット!ガッチャーン!!レベルアップ!バイバイバイババイクで爆走!ロンリーウェイ! ライド爆走バイク!』

 

私は爆走バイクを身に纏う、さながらシャカリキスポーツのバイク版のようなものだ。

 

そして右手をかざす事で爆走バイクを召喚、それに跨り。

 

「ペコリーヌ、リン、乗れ。ペコリーヌは私の後ろにリンは私の前に座れ」

「今度は乗り物まで出て来ましたよ!?なんですかこれ!?」

「あ!これ見たことあるゲームの中で出てくるバイク?とかいう奴じゃん!生で初めて見た!」

「時間がない早くしろ、周りは既に魔物に取り囲まれている」

 

催促しペコリーヌは私の背面にリンを前に座らせ、一気にクラッチを切り加速する。

 

「うわ、うわわわっ!?は、速い〜!?」

 

リンが涙目になっているがそれはそうだ、爆走バイクの最高速度は278キロ、それもこんな草原のオフロード地帯だ、一応爆走バイクは搭乗者に負担を掛けない設計になっているとはいえ初心者には少し危険な走行をしている。

 

「す、凄いですね、これ…し、しがみ付いてないと落ちちゃいそう…ぎゅー☆」

「リン、君もちゃんと掴まっておけ…ここからが爆走バイクの見せ所だ」

「…へ?」

 

高速で動く爆走バイクだが魔物達は構わず突っ込んでくる、そして爆走バイクの特徴は破壊、妨害なんでもありのレースゲーム。

 

「ハァッ!!!」

 

最高速のまま高速スピンをかまし、周囲にいた魔物共を蹴散らす。

 

「うひゃぁぁぁ!!?め、目が回るぅ〜!?」

 

更に

 

『ガシャット!キメワザ!爆走!クリティカァル!ストライク!!』

 

バイクに乗ったまま跳躍、そして急降下し着地と同時にスピンすると、そのスピンに合わせてエフェクトが飛び散り、360度全ての範囲の魔物を吹き飛ばし爆発を起こす。

 

そのまま私は再び加速し目的地へと向かう。

 

「う…うぅ…酔った、酔ったよ…うへぇ」

「あはは!こんな体験黎斗くんと一緒にいる時しか出来ませんよね!凄く楽しかったです!」

 

至極真っ当な反応を示すリンと対照的に脳天気なペコリーヌを見ていると非常に興味深い、さて…そろそろ目的地だが…

 

「…リン、ペコリーヌ、飛ぶぞ」

「飛ぶって…うわぁぁひゃぁ!?」

 

私は2人を両脇に抱き抱え跳躍、バイクは勢いよく前方にいる魔物の群れに突っ込んでいく、そして爆発。

 

それに巻き込まれた魔物は黒く焦げ肉の焼ける臭いが辺りに立ち込める。

 

地面に着地後、2人を下ろし、歩を進める。ここら辺は今の魔物の群れ以外はそこまで酷くはないな、ある程度ゆっくりしていても平気だろう。

 

救援信号が出ていた場所と思われる所には厩舎(きゅうしゃ)があった。厩舎(きゅうしゃ)とは牛や馬などの家畜を世話する小屋のことだ。

 

「…人影は見えないが…そこの厩舎の中にいるのか?」

 

私が厩舎に近づくとズイッと1つの影が現れる、その影は近づいた私に対して攻撃を仕掛けて来た。

 

私は咄嗟に右腕でガードするも鈍い音が響く、かなり重い一撃だ、多少はダメージを受けてしまったか…

 

「あ、貴方だれ!!?魔物!?」

 

私に襲いかかって来たソレは私に対してそんな事を言い放って来た。

 

「そ、そう言う貴方こそ誰ですか!?というか魔物なのは貴方なのでは!?」

 

ペコリーヌがツッコミを入れる、そう、私を襲って来たのは二足歩行で手には大きな剣を持ちピンクの鎧を身につけチャームポイントに耳あたりに赤いリボンを取り付けた…ラマだ。

 

ラマとアルパカの違いをご存知だろうか?体躯の違いや背中の丸みなどがあるが1番わかりやすいのは耳だ。

 

ラマは耳がバナナ状に長く、アルパカは短く鋭い、そういった点を考慮すると彼女はラマだ。

 

しかし彼女の毛並みのもふもふ感は…アルパカのそれだ、正直私でさえ最初はどちらだか見分けがつかなかった、ただでさえ二足歩行で話すのだからな。

 

「待って待って〜!リマ!その襲いかかってる人、黎斗だから!助けを呼びに行ったら黎斗に会ったんだって!」

「え!?リンちゃん!?どうして戻って…というかそうだったの!?く、黎斗君なの?」

「ああ、だから剣に力を込めるのをやめて欲しいのだが」

 

私がそう言うとようやくリマは剣を納めた。ペコリーヌと言い今日は見境なしに襲われる日だな。

 

彼女の名前はリマ、この牧場で働く珍しい獣人…いや人獣か?

 

これでようやくこの牧場で何が起きたか、物語が進展しそうだ。

 




今回は色んな人達の形見が出せてよかった…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

厄災の牧場 その②

オリジナル展開がない限り黎斗視点のため、本編の他キャラ視点は基本端折っていきます、気になった人は本編のメインストーリーを見ましょう!



「さて、まずは…ペコリーヌ、君も剣を納めてくれないか?彼女はリマ、私の知り合いだ」

「えっ?あ、す、すみません、つい…こういった人に出会うのは初めてでして…その…失礼しました!!」

 

ペコリーヌは私の言葉の後すぐに剣を納め、頭を下げる。

 

「い、良いのよ、私そういう態度されるのは慣れてるし、初めての人なら無理もないわ、むしろ黎斗くんみたいに初対面の時から好意的に接して来てる方が異常なんだから」

「へ〜黎斗くんって感性がねじ曲がってるんですね〜」

 

ペコリーヌは時たまに毒を吐いてくる、失礼な奴だ。

 

「そこは好奇心があるといって欲しいものだ、まぁ良い、それよりもリマ、状況はどうなっている、ここの住人はあらかたあの厩舎にいるようだが…マヒルやシオリの姿が見えない」

 

この牧場には後2人、経営主であるマヒルとリンと同じく自警団(カォン)に所属しているシオリという少女がいる筈なのだが…

 

「マヒルちゃんは牛さんや羊さん達が心配だからって飛び出して行っちゃったわ、マヒルちゃんは強いから平気かもしれないけど…」

「そ、そうだよ!マヒルはともかくしおりんは!?しおりんは病弱なんだよ!?」

 

リンが慌てて叫ぶ。シオリ…彼女は護衛で雇われているリンとは違う、体が弱く療養の為にこの牧場にいる。

 

「シオリちゃんはこの魔物の襲撃はもしかしたらニャットちゃんを取り返しに来たんじゃないかって言ってニャットちゃんを連れてどこかに…」

 

ニャットちゃんというのは以前この牧場に迷い込んだ猫型の魔物の子供。それを彼女達が保護し以降は飼っているのだが…ふむ、彼女の性格ならそう考えるのも無理はない、しかし

 

「い、いやいや、どう考えたってそれは無いって、ここにいる魔物全部統一性が無いし…ニャットちゃんの親っぽい種族の魔物1匹もいないしさ」

「…彼女の体力では既に魔物に…」

「ち、ちょっとやめてよ黎斗くん!冗談でもそんなこと言わないでね!?」

 

冗談ではなく客観的事実として言ったまでだ。

 

「お〜い!そこにいるのはリマリマとリンリンでねぇでべか?」

 

そこにやって来たのは小さいリンよりも更に体躯の小柄な少女…のように見えるのだが彼女は20歳の成人した女性だ。

 

リアルな牛というよりは牛のぬいぐるみのようなフードを身に付け、手にはピッチフォークと呼ばれる三又槍のようなものを持っている。

 

「ん?なんだべかこの女の人と黒い人は」

「私です、マヒルさん」

「その声…黎斗でねぇでべか!いやー驚いたべそんな姿になれるなんてな!」

 

一応この憑依した少年の年齢は10代後半、ちゃんと目上の人間には敬意を表さなければね、私にもそれくらいの良識はある。

 

「ってマヒルの背中に乗ってるのしおりんじゃん!!」

「そうだべ、この子魔物のど真ん中で寝てたけんろ、よく踏みつぶされなかったべよ」

「にゃーん」

 

更にマヒルの頭のフードから猫型魔物であるニャットが顔を出す。

 

「ごめんなさい…けほっけほ…わたし…体が弱いのに無理しちゃって…」

「別に良いんだよ、シオシオが正義感あふれる良い子だって事は分かってるべ」

 

シオリはマヒルの背から下ろして貰い何とか立ち上がる。それにしてもマヒルは小さな体格で魔物が複数存在するこの現場で彼女をここまで運んできたというのだから驚きだ。

 

「それに…私は体が弱くて、いつ死ぬか分からないから…だったら死ぬ気でみんなを守って死んだ方がマシだって思ったから」

「もう!そんなこと言わないで!そんな事をして死んだって誰も喜ばないわ!」

「私もリマに同意見だな、シオリ、私はそういう考えは嫌いだ。2度と口にするな」

 

私はそう言ってシオリの頭を1度ポンと軽く叩く。

 

「…すみません、あまり考えないで言ってしまいました。もう…そういうことは言いません」

「黎斗くん…えへへ、やっぱり優しいですね、あなたは…」

 

私と永夢やドクターの面々は命の価値観が違った。彼らはひとつしかない命を懸命に守る事に必死になっていた。

 

私は命がひとつである必要がないと考えた。だからこそ命という概念そのものを変え、データにし蘇らせることが出来るのなら多少の犠牲も厭わなかった。

 

この2つの価値観は正反対に見えるが別に私は命が大切でないと思ってはいない。

 

むしろ私程、命というものを考えている存在はいないだろう、だからこそシオリのように死んでも良い、などと浅はかな考えをするのは好まない。

 

「えーと、これで生存者は全員いるってことで良いですか?」

「おうよ!オラ達で全員だ、それにしても変だよな〜?魔物達の動きが不自然だべ、オラはさっき牛さ逃してる時、魔物達の様子を見てたんだけんどもなんつーか手当たり次第って感じだったべ」

 

確かに、この魔物達の動きは不自然、目の前にあるものを破壊しようとするだけで特に目的も見えない。

 

更に言えば、魔物達の暴れている場所、それがてんでバラバラ、数が多い場所もあればここのように少ない場所もある…

 

これは…考えられるとすれば暴走状態、だとすると…キャルの奴が何か失敗したと考えるべきか…

 

「どうかしましたか、黎斗くん?」

「ああ、いや…」

 

私は推測でキャルがいると思われる方角を見つめているとペコリーヌに察せられる、その為、私は話を逸らすようにシオリに問いかける。

 

「ところでシオリ、君が魔物の群れに突っ込んでいる間、何か不自然な事に気がつかなかったかい?」

「不自然なこと…ですか…?えーと…そうですね…魔物達は何か…『行動を制限されている』ような感じがするんです」

「行動を制限…?あ〜言われてみれば確かにここら辺は魔物全然いないのにあたし達が来た方角にはめちゃくちゃな数がいたよね」

 

シオリの言葉にリンが反応を示す、そう、恐らくこれはキャルの力により操られた魔物達、その為、彼女を中心として魔物が暴走していると考えて良いだろう。

 

だからこそキャルから離れれば離れる程、効果は薄くなっていく。

 

「つまりどういうことだべ?」

「多分ですけど…魔物達が暴走する中心となるものが何かあると思うんです」

「…中心ですか…それがどこだか…分かりますか?」

「え?あ、はい…えっと…」

 

シオリに訊ねたペコリーヌはシオリからおおよその位置を教えて貰い、何かを決意したかのように1度目を瞑る。

 

「…わたしはその中心となる場所に行ってみようと思います、その間に皆さんは逃げてください」

「逃げてくださいって…危険よ!いくら貴方が強いからといって凄い数の魔物よ!?」

「えへへ…わたし、日頃から魔物に狙われてるから慣れてるんです、だからここはわたしがやります」

 

ペコリーヌの判断にリマが止めようと必死になっているが…ここで彼女を止めるのは無粋か…キャルがペコリーヌのことを狙っているという事はいずれバレる事なのだからな。

 

ここまで本格的な動きがあるとなると、上からの圧力が強くなったと考えるべきだろう。キャル自身は無害な存在といってもいい。

 

彼女は正直、暗部で働くには純粋過ぎる、だとすると上にいる存在の闇の大きさが窺い知れる。

 

「黎斗くん、そっちをお願いしても良いですか?」

「…構わないよ、君も十分気をつけると良い」

「はい!」

 

私は今まで彼女達を甘やかしてきたらしい、そろそろ現実を知っても良い頃だ。

 

「んじゃ、その方向で行くだべよ、みんなオラに付いて来い!この牧場はオラの庭みたいなもんだ!どこにどんな凸凹があるかだってよく分かる!」

「うう〜あんまり魔物がいなければ良いんだけどな〜…」

「みんなの命を預かってるだから、ほら!リンちゃん!シャキッとする!」

 

私とペコリーヌは軽く視線を交わし、お互いに背を向け走り出す。

 

私は爆走バイクをスロットから取り出し代わりにタドルクエストを挿入しレベルアップする。

 

ガシャコンソードを出現させ装備し、前方に見える魔物の群れを片っ端から蹴散らしていく。

 

「魔物が大暴れしてる中心ってとこから離れると言えどもやっぱ数が多いべな〜っ!!」

 

マヒルはそんなことをぼやきながらピッチフォークを巧みに操る。クルクルと片手で何回も回転させ構えをとる姿はさながら歴戦の槍術師。

 

迫り来る魔物はその巧みな槍捌きで撃破していく、本当に酪農業だけをやっているのか不思議だ。

 

先陣を切っているのはリマ、彼女の耐久力とスタミナ、そして腕力はこの中ならば随一だろう。

 

どうやって持っているのか原理は不明なのだが彼女は蹄で剣を持っている、それを使い魔物を吹き飛ばしながら切り裂いて行く。

 

その力強さはペコリーヌと変わらないほどの威力だ、俊敏性もありアクロバティックな攻撃方法もしている。それは跳躍し空中で縦一回転をしながら叩き斬るという重めの斬撃だ。

 

回転の遠心力と全体重を乗せた縦切りは魔物を骨ごと切断する威力。

 

「リマさん!後ろ!…えーい…っ!」

 

そして援護を担当するのはシオリ、彼女は弓使いでエンチャントと呼ばれる魔法で矢に特殊な力を宿し撃つという戦術をしている。

 

エンチャントの効果により力の弱い彼女でも矢は真っ直ぐに飛び、威力もそれなりだ。矢の正確性も高い評価に値する。

 

「ありがとうシオリちゃん!!ほら!リンちゃんも頑張って!!」

「あたしは頑張ってるよ〜!それでもこの程度なの!!」

 

リンは牧場の従業員数名と動物達の周りを守りながら戦っている、ただしリン1人ではカバーしきれない為、私も同じく周囲の敵を掃討する担当だ。

 

「黎斗くんが来てくれて本当に助かったわ!それにその姿、中々かっこいいわよ!」

「ほう、君は見る目があるな、流石はリマだ」

 

彼女には是非マイティアクションやタドルクエストをプレイして欲しいものだ。

 

さて…ペコリーヌと分かれてから1時間、ようやく魔物達の少ない地点まで降りてくる事に成功した。

 

「ぜぇ…ぜぇ…つ、疲れたぁ…リマァおんぶ…」

「ちょっとリンちゃん、まだこれからよ?やっと魔物達が少なくなってきたってところに来ただけでちゃんと山を降りて麓まで行かなくちゃ」

「え〜この時間じゃ麓まで降りたら日が落ちて真っ暗になっちゃうよ〜」

 

既に夕刻、空は赤く染まり、遠くの方は紫がかっている。

 

「黎斗、もうオラ達は大丈夫だ、オラ達だけでも下山できるべ」

「何?」

「分かってるだよ、あのお嬢ちゃんのこと心配だど?」

 

…余計なお世話ではあるが、そうだな…どういう結末になったのか興味はある。

 

「分かりました、では私は彼女を探しに出ます、あなた達のご武運を祈っていますよ」

 

私はそう言って彼女達に背を向け歩き出す、また魔物の群れに飛び込んでいくというのは正直気が引けるが…

 

キャルとペコリーヌ、どちらかが倒れていると考えるといてもたってもいられない、どう物語が転ぶのか楽しみでな。

 

私が牧場の皆と離れて数十分、荒れた牧場付近まで戻ってきたのだが。

 

「魔物の気配が少なくなっているな…恐らくキャルの奴が魔力切れを起こした事により魔物とのリンクが途切れたか…」

 

シオリが示した中心点、そして以前ユイがキャルを見つけた時に感じた魔力の不規則な流れ、魔物の痕跡、それらを辿りキャルの居場所を正確に判別する。

 

牧場付近の森を進んでいくと、どこからともなく叫び声が響く、私はその声がする方へと走り向かう。

 

すると

 

「くそっ!こっちくんな!!この!!」

「ブモォォォ!!」

 

キャルがハイオークに襲われていた、リンクの切れた魔物は操れない、キャル自身魔力切れを起こし魔法を撃てない状況だ、彼女の身体能力は皆無に等しい、このままでは確実に追い詰められ殺されるだろう。

 

「全く、自身の魔法でそうなるとはな…自業自得だ」

 

私は瞬時に近寄り、ガシャコンソードでハイオークの膝裏を斬り裂く。

 

「ブモォ!?」

 

ガクンと膝から崩れ落ちるハイオークに私はすぐにエックス字に斬り裂き絶命させる。

 

「く、黎斗…っ?…ってうわぁぁぁ!?」

「っ…!!」

 

安心したのも束の間、彼女は背後にある崖から滑り落ちる、私は間一髪で彼女腕を掴み、なんとか崖から引き上げることに成功する。

 

「う…うう…何やってんだろ…あたし」

「…全くだ」

『ガッシューン…』

 

変身を解除し、私は一息つく、ここまでろくに休んでいなかったからな。

 

「はぁ…魔力も底をついちゃったし…これからどうしよ…」

「……ペコリーヌの姿が見えないが…きっちり殺したのか?」

「っ!?」

 

私の言葉に絶句するキャル…この様子、ペコリーヌを殺してはいないな、だとするとどうやってかは分からないが彼女の事を撒いたようだな。

 

「なんであんた…その事を…」

「気づかないと思っていたのか?」

「…いつから?」

「初めからだ」

 

その言葉に再び絶句する。

 

(初めから…それじゃあコイツ…分かってて…)

 

彼女が何を考えているか分からないが、恐らくなぜ私が何もせずに見守っていたのか疑問に思っているのだろう。

 

「どうして…あたしと仲良くしてくれたの?」

「理由などない、何故理由が必要なんだ?」

「…そりゃあ…あたしは……あたしには…あんた達と仲良くなる資格なんてないから…」

 

今日のキャルは妙に素直だな、魔力切れの影響かはたまたキャルの上司による圧のせいか…

 

「ふん、それなら最初からそうしていろ、今更そんな事を言っても、私はともかくコッコロやペコリーヌには効き目がないぞ」

「…そうかもね」

 

罪悪感、彼女の心の中には今それで埋め尽くされているのだろう。

 

難儀な立場だな、精神的にも肉体的にも未熟な少女が善意と悪意の狭間に板挟みの状態とは、まるでゲームのキャラクターのようだな。

 

「君の事情など知らない、だが君はそれで良いのか?誰かの掌の上で転がされる人生など、私はまっぴらごめんだがな」

「…あんたは何も知らないからそんな事を言えるのよ」

「そうだ、言ったじゃないか私は君の事情など知らないと…だが君自身の人生だ、だったら時には人生とやらを見つめ直す必要があるんじゃないか?」

「あんたに何が……っ!?」

 

その時だった、私達を中心に魔法陣のようなものが地面に描かれる、見たことのない不可思議な図形だ、これは一体…?

 

「なに…これ…きゃっ!?」

「くっ…今度は何なんだ…!!!」

 

私とキャルはその魔法陣から発生させられた光に飲み込まれ……

 




バグスターとか出したいけど今のところ挿入できる場所がない…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

覇瞳の皇帝

即刻キャル虐は中止せよ!繰り返すキャル虐は中止せよ!


 

 

 

「ん…んん…?」

 

あれ…あたし…なんで眠ってるんだっけ?

 

硬くて冷たい地面…地面というよりは…床…いつも見慣れた小綺麗な大理石でできた床…って…!?

 

「どうしてあたし『王宮』にいるのよ!?さっきまであの牧場の森の中にいたわよね!?」

 

おかしい…それはおかしな事だわ…!

 

「あれ、黎斗…!?あんたもここに…って気絶してる…?」

 

黎斗は倒れたまま身動き一つしない…もしかして死んじゃってたり…

 

「ちょっと起きてよ、黎斗、ねぇったら…!」

 

あたしは慌てて黎斗を揺するけど反応はない…どうしよう…!あたしのせいで…!!

 

「あんまり揺すっちゃダメよ、命に別状はないけど彼は今、軽いショック状態だから…空間転移に耐えられずに失神しちゃったのね」

「ヒッ…っ!?へ、陛下…っ」

 

あたしは思わずそんな声が出てた。この声…優しい感じがするけどそんなことは一切ない、冷徹であたしを…見ていない聴き慣れた声。

 

「やぁね、この子ったら…ヒッとか言っちゃって…まるで化け物を見たかのような反応じゃない、傷ついちゃうわ〜うふふ…♪」

 

ああ、この目だ…目の奥が笑ってないこの感じ…自然とあたしの体は震えてしまう。

 

「あなたには結構良くしていたつもりなんだけどね…あと『陛下』なんて他人行儀な呼び方はやめてよ、家族でしょう?」

「も、ももも、申し訳ございません!えと…ゆ、ユースティアナ…さま…!」

「『さま』も余計なんだけどね…まぁいいわ、今日の私はご機嫌だから、何せ、まとめて目障りな連中を始末できそうなんだもの、ふふ、お掃除をすると気分がスッキリするわよね?それと同じ感覚だわ」

 

…陛下の例えは凄く…怖い。

 

「とはいえ、私、その子を連れてくるように命じてたわよね?なのにあなた…逆に助けられちゃってるじゃない」

「そ、それは…」

「良いわ、言い訳は聞きたくないし、そんなあなたがあんまり待たせるもんだから待ちくたびれちゃって直接呼び出しちゃったって訳」

 

呼び出した…って

 

「そんな…あたしと黎斗をあそこから…あんな山奥からここまで一瞬で移動させたっていうんですか!?そんなの魔法でだってあり得ない!!」

「あり得なくないわよ、キャルったら私を誰だと思っているの?」

 

ゴクリ…陛下のただならぬ雰囲気にあたしは喉を鳴らす。正直、怖い…ずっと震えが止まらない。

 

「まぁいいわ、キャルにも分かりやすく説明してあげる、『転送ゲート』っていうものがあってね、訳あって封印して一般人には滅多に使わせない代物があるのよ、それの魔術回路に介入して活用したって訳、無駄に魔力を消費しちゃったから少し頭にきているのだけれど」

 

…陛下は魔力を使わせたのはあたしの責任だと思っている、だからこうやって言ってるんだ。

 

「感謝してよ、キャル、あのままあの場所に留まってたら『巻き添え』でお陀仏になってたんだから、まぁそれはそれで良いけどね」

 

…?どういう意味かしら…

 

「…あ、あの…その、黎斗に何か用があったんですか?陛下に命じられてずっと監視をしていましたけど…確かに!なんか…変なやつですけど…その…」

「良い人、とでも言いたい訳?随分と仲良くなったわね〜あなた、それとも彼に惚れちゃった?」

「なっ///なにをおっしゃって…///」

 

か、顔が熱い…!な、なんでよ…!?確かにこいつは良いやつだけどあたしは…っ!!!

 

「それに『美食殿』だっけ?妙なギルドにも入っちゃってさ?」

「そ、それは潜入工作です、仲間になれば油断させられるかなって」

「うん、わかってるわよ、かわいいキャル、私のキャル…♪」

 

ゾクっとあたしの背筋に悪寒が走る。陛下が笑顔の時はいつも何か得体の知れない恐怖があたしの体を包む。

 

「言ったでしょ?あなたは私の一部みたいなものなの、あなたの気持ちなんか手に取るように分かるわ」

 

そう言って陛下は笑顔のままあたしを見る。

 

「ねぇ、お友達が欲しかったの?ううん、愛されたかったのかしら?分かるわ〜ひとりぼっちは寂しいもんね」

 

でもね、と区切り陛下の笑顔は消えた。

 

「キャル、神さまに友達も恋人もいらないのよ」

 

その言葉は今まで以上に冷たかった。全身に氷を引っ付けられたみたいにあたしの体は冷えていく感覚に陥る、さっきまで馬鹿みたいに震えてた体が一瞬でピタリと止まる。

 

怖すぎると人の体の震えは止まっちゃうんだ…

 

「たったひとりで完結し、万物を支配する。それが私たちの在り方よ、あなたは私の一部の筈なのにそんなことも弁えていないのかしらねぇ?」

 

次の瞬間だった、一瞬、陛下の指先が光り輝いたと思ったらあたしの体に雷撃が迸る。

 

緑色に発光した、魔力で形成された電撃はあたしの全身をくまなく駆け巡り神経を撫でていく。

 

「あぐっ!?あがぁっ!?!?」

 

まともな声が出なかった、息が苦しい、二つの足でしっかりと立っていることもできない。

 

その場で倒れ、何とか四つん這いの体勢で踏ん張りをきかす、意識が途切れそうだけど途切れない、陛下がそうやって調整してるってすぐに分かった。

 

「あーあ、失敗だったわ、やっぱりこの世界線だと『未来予知』も全然信用ならないし…」

 

陛下は欠伸をしながらもあたしへの電撃をやめない。

 

「勘違いしないでよね、これはお仕置きですらない、あなたは何も悪くないの、私の命令をなに一つ達成できず、醜態を晒し続けてたけれど、それはあなたの責任じゃないわ」

「あぐっ…!!!うぁぁっ!!!くぅぅぅっ!!?!?」

 

陛下の言葉が全然入ってこない、痛い、体が痛い、血液が沸騰してるんじゃないかってくらい熱くて痛くて苦しくて……流れる涙は電撃ですぐに蒸発して消える。

 

「かわいいキャル、良い子のキャル…私が甘かったのよね、あなたの事を人間扱いし過ぎていたわ、あなたは単なる道具なのに」

 

…道具…?そこだけは何故かハッキリ聞こえた。

 

「『プリンセスナイト』の力は強大すぎるしあなたの肉体が耐えられないと思って、ちょっとずつ慣らしながら与えてきたけど、結果としてあなたは魔物を制御できず、役目を果たせなかった」

「あうっ!?!?」

 

電撃の威力が更に増していく。どうして意識が保ってられるのか不思議なくらい…早く意識が飛んで欲しいって心の底から願った。

 

決して血が出る様な事はない、決して内臓が飛び出すような事はない、決して皮膚が焼け爛れる事はない、けれどその電撃は確かにあたしの体を蝕んでいた。

 

「それでも、ちょっとずつ経験を積んでいけばいつか成果をあげるって期待してたけど、なんかもうめんどくさくなっちゃったしそんな時間もないしね、だから今、『プリンセスナイト』の力を全部与えるわ」

 

陛下の言葉は本当に退屈そうで、本当にどうでも良さそうで、本当につまらなそうに…

 

「まぁ、これであなたが壊れちゃってもまた作れば良いんだもんね、トライアンドエラーは繰り返すのが成功の秘訣よ、『次のキャル』はもっと使える良い子かも知れないし?」

「な、なんで…?どうしてこんな…酷いっ!!やめ…やめてぇぇぇえぇぇ!!!!」

 

あたしは激しい痛みとその心の無い言葉に思わず叫ばずにいられなかった。

 

誰か…誰か助けて……あたしを…誰か…………

 

 

 

 

「…あら…?」

 

陛下の…そんな声が聞こえた…あ…あ…れ…?痛みが…急に…無くなって……どうして……?

 

「あなた、目を覚ましていたのね…」

 

這いつくばって、ボロボロで、惨めなあたしの目の前には、剣を片手に陛下の電撃を斬り裂いて立ち塞がる黎斗の姿があった。

 

「黎…斗…?」

「…随分と楽しそうじゃないか…神の才能を持つこの私を差し置いて…」

 

黎斗はそう言って剣を陛下に向ける。ああ…黎斗はいつも…こういう時に……あたしが望んだ時に…あたしを助けてくれる……本当にこいつは……

 

 

 

「はぁ、全く…キャルが下品な声を出すから彼が起きちゃったじゃないの」

「何を勘違いしている、私は別に気絶などしていない、初めから意識を保っていたさ」

「…なんですって?」

 

ユースティアナ、キャルは彼女をそう呼んだ、この人物は何か物語の鍵を握っている、私は直感でそう感じた、だからこそ

 

「何か有益な情報が貰えるのではないかと考え気絶しているフリをしていたが…ふっ、どれもこれも退屈でつまらない話ばかり…」

「…あなた…本当に何者なのかしらね、キャルから聞いてた通り姿形は彼そのものだけど…何か不自然なのよねぇ…」

「当たり前だ、私はお前の知るこの少年とは違う、私は檀黎斗……この世界でも名乗らせてもらおうか…最高神とな」

 

私の言葉に目を丸くするユースティアナ、しかしすぐに平常に戻り。

 

「ふーん…檀黎斗ね……確かに前のあなたとは別の名前ね、少し考えれば誰か他の人格が憑依したとかって考えるのが普通よね、でもそれも何か違う気がするのよ、今のあなた」

「…何?」

 

流石にその返答は予想をしていなかった、私が少年に憑依している存在ではないとしたら私という存在は一体…?

 

「まぁ、いいわ、黎斗くん、あなたは違う人格と捉えてもいいわね、でもね、根本的なところは変わってない、だってそうでしょう?例えキャルが壊されちゃったとしてもどうでもいいのなら狸寝入りしてればいい話だもの、でもあなたはそうはしなかった、それは相変わらずのお人好しさがあるから」

「違うな、私がキャルを助けたのは最早有益な情報が得られないと踏んだからだ」

「あらそう、ならそういう事にしてあげるわ」

 

…一々癪に触る奴だ、私の最も嫌いな人種のタイプ。

 

先のキャルのやり取りからも読み取れる彼女の性格、精神は私の嫌いな人間と同じだ。

 

他者を自身の道具としてしか見ず、自分の利益の為に他者を利用し、挙句は自分が世界のルールだと信じ込む。

 

「お前は先程、自分を神だと言ったがそれは違う」

「何が違うのかしら?」

「神は私だ。お前ではない」

 

それに、と続ける。

 

「…お前は神は1人で孤独だと言った、それの何が面白い?神は人間を導く存在だ、人間達を導き、アップデートし概念を超越させ、そして私と同じ才能を持つに至る者を増やしていく、それが神である私の務めだ」

 

…この答えは恐らく、以前の私なら見つけることができなかっただろう、ライダークロニクル、マキナビジョン、別世界融合、ゾンビクロニクル、マイティノベル…様々な経験を経て、私が導き出した答えなのだから。

 

私はゲームクリエイター、ゲームを作ることが仕事であり趣味であり生きる意味だ。そしてそれにはゲームをプレイするプレイヤーが必要だ。

 

プレイする人間がいなければ私のいる意味はない、つまり私1人では決して完結する事はない。

 

ゾンビクロニクルに挑戦した、たった1人のプレイヤー九条貴利矢だったり、永遠に私に挑戦すると言い放った永夢だったり、誰か1人でも挑戦する者がいなければ…私の才能に食らいつく存在がいなければ、神であったところで意味などない。

 

「根本的なことをわかっていないお前に神を名乗る資格などない、この私が剥奪し、この私こそがこの世界の神となる」

「…面白いこと言うわね、身の程を知りなさい」

 

私達は互いに睨み合い、対峙する。一触即発の状態だ。

 

「黎…斗…けほっけほっ…」

「君は少し休んでいろ」

「で…でも…」

「はぁ、キャルは私のペットよ?あまり気安く声をかけないでもらえる?…私としては黎斗くんには色々と聞きたいことがあるの、あなたとお喋りがしたいのよ、だからキャル、そこで這いつくばってないでさっさとお茶の準備でもしなさい」

 

その威圧感は対象ではない私でさえ身震いがする程の圧、成る程、キャルが不慣れな暗躍などをする理由がわかった。

 

「う…うぅ…は、はい…わかりました…だからもう酷いことしないで…」

「…本当に私をイラつかせるな…君達は」

「黎斗…?」

 

私は無理に1人で立ち上がろうとするキャルの肩を抱き寄せながら立たせ体を支える。

 

彼女を見ていると昔の自分を思い出す。利用されていることは分かっている、それでも私は自分の為にとゲームを作り続けていた。

 

永夢の発想に酷く嫉妬してしまった事も、檀正宗からの圧力も全て自分の為だと信じて突き進んだ。

 

結果は分かる通り。全て檀正宗の掌で踊らされていた、そんな自分に腹が立つ、今のキャルを見ていると当時の自分と重ねてしまい余計にだ。

 

「本当にお優しいんだから…反吐が出るくらいにね、例え元の記憶がなくなって他者の人格になろうとも根本的な所は何も変わらない」

「お前との問答は最早無意味、私を苛立たせたんだ…今すぐに削除してやる」

 

『マイティアクションエェックス!!』

 

「…グレード0…変身」

 

『マイティジャンプ!マイティキック!マ〜イティアクショ〜ン!エェックス!!』

 

私はゲンムの姿に変身した後、傍のキャルを強化する事で体のダメージによる負担を軽減させ私から離れさせる。

 

「これで少しは楽になっただろう、早く私から離れろ」

「ま、まって黎斗っ…!あんたじゃ陛下には……っ」

「2度は言わない」

「………分かった」

 

『ガシャコンブレイカー!!シャ・キーン!』

 

私は召喚したガシャコンブレイカーを瞬時にブレードモードに切り替え、構える。

 

「…それがキャルの言っていたものね、確かに私が組んだプログラムの中にそんなものはなかった…成る程、あなたがシャドウに何かしたって事ね」

「そうか、私が組んだ…か、君もまた『ゲームマスター』の1人か」

「…あら、そこまでちゃんと知ってるのね…こっちの記憶が無くてもあなたには知識があるって事、なら今のこの世界の現状もなんとなく、分かるんじゃないかしら」

「…っ!?」

 

私は驚いた、何故なら奴は既に私の背後に回り込んでいたからだ、つい先ほどまで玉座に鎮座していた筈の奴は私の背後に立ち、扇で口元を隠すような所作をしている。

 

「ちぃっ!!!」

 

私は振り返りと同時にブレードを横に振るう、しかし簡単に扇で切っ先を止められてしまう、かなり力を加えているのだがふるふると震えているのは私の刀身のみ…こいつ…

 

「さて少しお話ししましょうよ、黎斗くん」

「…何?」

 

扇を手首のスナップで軽く動かした程度なのに私の剣は大きく弾かれる、直感でレベルの差を痛感する。

 

「話だと?」

「あなたは感じた事がない?この世界の歪さを、生活に必要なものでさえまともに整っておらず、政治なんかもまともなものはまるでない、それなのにやたら魔物の詳細だけは事細かに記されてる…他の動植物だっているのにね」

「…お前はどこまで知っている?」

「全ての事、かしら。どう?興味出た?少しはお話しする気になったかしら」

 

私は適切な距離を保ち、ユースティアナと対峙する、ここからが正念場だ。

 

 




マイティノベルの実写化を待ち続けます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

覇瞳の皇帝 その②

プリコネで好みのキャラが多すぎて吐きそう。




 

 

「あなたはさっき、私のことを『ゲームマスター』と呼んだわね?あなたが何者かは分からないけどそっちの知識はあるって認識でいいわよね?」

「ああ」

「だとするとこの世界がどういう世界か…あなたが身につけている装備をこの世界で生み出した時点で察しはついているって事でしょ?」

 

…こいつ…中々鋭い人間かもしれないな。言葉を慎重に選ぶ必要があるか…?

 

「酷く歪んだ世界、この世界は何度も再構築を繰り返し、クソッタレな神さまに都合が良い世界に作られている」

 

…再構築、つまりリセットが何度もこの世界…ゲームでは行われた、この女の言い方から察するにそれはゲームマスターの立場である彼女でも想定外の存在によるリセットと考えられる。

 

リセットが出来る立場、となると考えられる線は大きく分けて三つ。

 

ひとつ目は悪質なプレイヤー、それも天才的なハッカーによる攻撃またはウイルスによる侵食等。

 

二つ目はゲームクリエイターやゲームに携わる人間による内犯、その中でも中枢を担う人物によるものだ…それはこの女である可能性が高いから除外だ。

 

三つ目は…何かしら独立したプログラム、彼女はその存在を神さまと称した、となるとこのゲーム世界を『リプログラミング』できる程、優秀でこのゲームの製作者の管轄外で勝手に制御するシステム。

 

つまり『AI』のようなものが存在する。それが濃厚な線か、それならばその存在を神と称するのも頷ける。

 

「そして、今現在、この世界を再構築する際、様々な不具合が発生した…所詮は子供じみた知能でしかない『アレ』じゃあこの辺が限界ってことね、それがさっき言った、政治やら何やらの粗さって事ね」

「…つまりお前は自身の管理下に置かれなくなったこの世界は歪で汚らしい世界だ、と言いたいのか?」

「ふふふ、かなり正解に近いわね♪そう、この世界は醜い、でもね、何度も繰り返してきたこの再構築の世界……『夢』を私はなんとかして自分の都合の良い夢に作り変えた…」

 

…作り変えた…過去形の言葉、この世界は既に奴の思い描くシナリオ通りの世界という事になるのか…?

 

いや、そうでは無いはずだ、彼女の発した言葉から推測しろ、思考しろ、考えを止めるな。

 

彼女が次に言葉を発する数秒の間に状況を把握しろ、私ならば出来る、神の頭脳を持つこの私ならば。

 

一つ、彼女は何らかの目的がある。これは何度も再構築をしたという発言から察するにその目的の為に何度も失敗をしたという事他ならない。

 

二つ、都合の良い世界に作り変えた。これは都合の良い世界に作り変えたというだけで何かを成し遂げた訳ではない、成し遂げる為に生み出された世界という事だ。

 

三つ、なんとかして。このネガティブな発言はその神さまとやらに妨害をされている可能性が高い、だからこそ世界に不具合が発生している。

 

つまり、この世界は『出来るだけ彼女の都合の良い世界』という事。彼女が望む完全な世界ではない、その一歩手前の不完全な世界…といったところか。

 

先程から私は要点を『三つ』挙げているが、これは別に深い意味合いがあるという訳ではない、私独自の持論だ。

 

何故、『三つ』なのか、三つ以上だとまとめにしては複雑になり混乱する、それでは要点とは呼べない。

 

一つでも二つでも無く三つである理由は、そうだな、例えるなら『起承転結』という言葉があるだろう、導き出す答えを『結』だとするのならば『起承転』が必要だ。

 

だからこそ、それらを当て嵌める三つの要点が必要だと私は考える、更に言えば人間…というより日本人は3という数字にキリの良さを無意識で感じているのかもしれない。

 

3秒後でVTRが始まるように、3.2.1の合図で一緒に物を持ち上げるように、ベスト3の発表があったり、大体は3の数字で物事を始めるという奇妙な数字、古来より日本では3という数字は縁起の良いものとされているのも由来しているのだろうな、三猿やら御三家やらと3にまつわる物も多い。

 

そんなことを考えていると、彼女が口を開く。

 

「さてと、そこでなんだけど…黎斗くん、私が聞きたいのはここからよ…あなた……どこまで過去のことを覚えているかしら?」

「…どういう意味だ?」

「ふふ、あなたの今の状況がよく分からないけれど、ある仮説を立てているわ、それはあなたが彼の体に憑依している場合、『彼の記憶はあなたに引き継がれているかどうか』…って事よ」

 

彼…つまり私のこの肉体の本来の持ち主か…

 

「…聞いてどうなる」

「これは私にとってもね、重要な事よ、何せ、彼は主人公…私の天敵なんだから」

「ふ…だとするのならばその質問は意味がないだろう…どのみち、知ってようが知ってまいがお前は私を逃すつもりはないのだからな」

 

数秒、私達は黙り込み互いに睨みをきかす、その後すぐにユースティアナは笑みを溢し。

 

「まぁまぁ良いじゃないの、ぶっちゃけこれは私のやる気の問題だし?あなたが脅威になるかどうか、今後の展開にちょっとだけ影響が出るかもしれないじゃない」

 

自分に不利な可能性の1%も許さない、そんな気迫が彼女からは感じて取れる。

 

「それで?あなた『レジェンド・オブ・アストルム』って知ってる?『ミネルヴァ』って分かる?『プリンセスナイト』って単なるギルドの名前だと思ってる?」

 

…畳み掛けるように彼女は単語を放つ、はっきり言えば私には聞き覚えのないものばかりの筈だ、しかし、どこかで聞いたようなことがある錯覚もない訳ではない。

 

「…フィオっていうあなたの周りをうろちょろ飛んでたあの口うるさい妖精は?」

「フィオ……」

 

この単語…フィオという単語にだけは強烈に私の頭の中に残った…間違いなく聞いたことがある単語だ…なぜ…?

 

「…ふふ、長考してるって事は覚えがあると言っているようなものよ、黎斗くん♪」

「っ…!」

 

しまった、私とした事がこういう頭の回る奴の前であらかさまに考え事をするというのは後手に回る行為だ。

 

仕方がない、ここは誤魔化しても意味をなさないだろう。

 

「…そうだな、軽く引っかかる部分はあったよ」

「そう、つまりあなたは『彼』でありそして黎斗くんでもあるって事が今証明されたわね♪」

 

…推察とはパズルゲームだ。

 

キーワードを並べ整理し読み解く、クロスワードのように一見バラバラのワードも全てが揃えば1つの答えが導き出される。

 

ならばパズルをしようじゃないか、彼女の発言を一言一言注意して読み取ってね。

 

『レジェンド・オブ・アストルム』…レジェンドとオブは英語、アストルムはおそらくラテン語だ。

 

日本語にすれば星の伝説といったところか、この世界には確かソルの塔とルナの塔と呼ばれる建造物が存在する。ソルは太陽であり恒星、ルナは月であり衛星、どちらも星を象徴する存在だ。

 

この単語から推測できるのは『ゲームのタイトル』、この世界そのものの名前という事が分かる。

 

他にも根拠として挙げられるものはこの大陸の名前は『アストライア』そしてこの街の名前はランド『ソル』。全て上記で挙げた単語に引っ掛けた名前だ。

 

私もゲームクリエイター、そういうネーミングは嫌いじゃないしむしろ自身のゲームにも多く取り入れているから分かる。

 

次に『ミネルヴァ』だ、詩・医学・知恵・商業・製織・工芸・魔術を司るローマ神話の女神の名前と同じもの。

 

…私としてもなんとも因縁深いというか…『ミネルヴァ』は医師と医療を司る女神とされている、もしこの世界にも『ミネルヴァ』という神がいるのならば、ゲームに医療…まさに私がライダークロニクルに必要とした素材の2つを象徴とする神ということになるな。

 

女神という点から、先程、彼女が言ったクソッタレな神さま、というのもイコールで結ばれる。同一のものと考えて良いだろう。では仮に『ミネルヴァ』が『AI』だとするならば

 

元ネタの『ミネルヴァ』は『知恵』も司る、その為、私の世界では数々の教育施設で知恵の象徴として像が置かれている程だ。

 

知恵の象徴…知恵とは物事を正しく判断し身につけていく事。『AI』もまたそれらを学習し身につけさせる事で物事をこなす存在だ。…まさに『ミネルヴァ』とはうってつけの名前という事だな。

 

三つ目『プリンセスナイト』…この世界では単なるギルド名だが、彼女はキャルに電撃を浴びせながら与える力の事を『プリンセスナイトの力』と呼称した。

 

だとすると『プリンセスナイト』とは役職だ、RPGの魔法使いや戦士のような固有の職種、その中でもかなり特別なものだろう…勇者に近い部類のものと考えるのが妥当だ。

 

最後に『フィオ』…どれにも当てはまる事のない単語、彼女は口うるさい妖精と言った事からまずはその妖精の名前である事が分かる。

 

私の周りをうろちょろ飛んでいた妖精…という事はプレイヤーではない筈だ。つまりキャラクターだが…口うるさい…?まるで意志があるような言い方だな…自立型のAIという事か?

 

自立型のAIが過去のこの私…この少年の側にいたという事は、考えられるとしたら『ガイド』キャラクター、今の私からいうコッコロのような存在か。

 

さて、これらは全てバラバラのキーワードに思える、だがしかしクロスワードパズルのように一つ一つ繋ぎ合わせ、導き出せばある程度の事はわかってくる筈だ。

 

彼女がそれらを私に聞いてきたという事は全て過去の私に関係のある単語なのは間違いない、つまり

 

過去の私は『レジェンド・オブ・アストルム』というゲームをプレイしその中で『プリンセスナイト』と呼ばれる役職で何らかの力を保有していた。ガイド妖精の『フィオ』に導かれ『ミネルヴァ』と協力あるいは利害の一致をし、このユースティアナと対立、そして戦い、結果、ユースティアナは完璧な世界を作る事ができず、この少年は記憶を失い私が憑依した。

 

ふむ、このキーワードだけでここまで仮説として立てる事ができる。果たしてどこまで合っているのかは分からないが、この程度の仮説を立てられれば十分だろう。

 

「それじゃあ最後にもう一つ、『七冠(セブンクラウンズ)』って分かるかしら?それらを名乗る人物にはもう出会った?」

 

…またしても新たな単語…いや、どこかで目を通した事があったな…この世界の歴史書に記されていた単語だ、人名と思われる単語と共にそれが載せられていた筈。

 

「…いいや、残念ながら全く知らないな」

「そう…ふぅん…記憶は無い…か」

 

名前の通り7個程、名前が載せられていた筈だ、その中にはクリスティーナの名前もあった、そう考えるとなると七冠(セブンクラウンズ)とはゲームクリエイターの事だ、この世界を…このゲームを生み出した7人。

 

そしてクリスティーナの能力から察するにその7人は製作者権限としてチートを使える、と考えた方がいいな…そして目の前にいるこのユースティアナと名乗るこいつもまたその1人だろう。

 

こいつの名前はおそらくユースティアナではない、七冠(セブンクラウンズ)の名前にそんな名前はなかったからな。自分の都合の良い世界に作り上げた際に奪い取った名前か何かだろう…いやそれどころか立場もだろうな。何故それが自分に都合が良いのかは……

 

おっとその考察は後に回そうか、そろそろ奴が動く。

 

「まぁ、本来のあなたなら正直言って、ただの男の子だし?記憶を失ってるのなら尚更脅威の対象にもならないって思ってはいたんだけどねぇ…」

 

スッと彼女の頬に紋様が浮かび上がる、片側に赤い横ラインが3つ、合計6つ。

 

衣装も何やら武装が取り付けられ羽衣が装備され、更に持っていた扇は碧光を放つ刃渡り30センチ程の槍状の武器もしくは短剣と表現できる武器に変化する。

 

「今のあなたはかなり脅威になりそうだから…ここで始末しておこうかしら、悪い芽は早めに摘んでおかないとね」

「…やれるものならやってみろ、女狐。ふん、白髪に狐の獣人…白狐とはな、そのビジュアルで神になんぞ憧れるとは皮肉なものだな、お前は決して神になれない」

「…博識なのもよくない点ね、あまり長生きしないわよ、無駄な知識をひけらかすのは」

 

再び私達は衝突する、今度は牽制ではない、本気のぶつかり合いだ。

 

「くぅっ!?」

 

っ力負けする…っ!!正面からぶつかり合った私は武器同士での鍔迫り合いで押される、しかも一瞬でだ。

 

確実に負ける前に私はバックステップで距離を取る、しかし

 

「それは『予知通り』よ」

「なに!?」

 

完全に行動を読まれていた。そうだ、クリスティーナに『絶対防御と絶対攻撃』があったようにコイツにも何かしらの能力がある。

 

私は槍状の武器の斬り上げにより胴体を斬られ、大きくのけ反る。

 

「ぐぅっ…!」

「まだ終わりじゃないわよ?」

 

更に胸部分にその武器の先端を突きつけられ、そこから膨大な魔力の塊が発射される。先程キャルに放っていた緑色の電撃を一点集中したような光線エネルギーだ。

 

「ぐぁぁぁっ…!!くぅ…がはっ…っ!」

 

私は後方に数十メートル程吹き飛ばされ、床を数回転がる。

 

「ぐぅ…ぜぇ…ぜぇ…」

「あら?もう息切れ?冗談はよしてほしいわ〜まだまだ始まったばかりよ?」

 

次の瞬間、奴は私の視界から消え、私の真左に瞬間移動してくる。

 

「ぐほぉらっ!!!?」

 

一撃、私の左半身を斬り付けられる、その1回で終わるはずが無い、2度、3度、4度…何度も連続で斬られ

 

裁きの瞳(ジャッジ・アイズ)

 

彼女の詠唱と共に空間に魔力の色と同じ緑光色の目が複数現れ、それが開眼すると同時にそこから怪光線を連射してくる。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

それに多段でヒットし、私は大きく吹き飛ばされ床に倒れる、力の差、レベルの差、全てが今の私には足りない。

 

指に力が入らずガシャコンブレイカーを握る事ができない。すぐに立ち上がる事ができない。

 

ライダーゲージも既に点滅しているほどのダメージの大きさ。

 

「黎斗っ!!!…へ、陛下…っ!!おやめ下さい!!黎斗が…っ黎斗が死んじゃう…っ…!」

「…黙りなさいキャル…何あなた勝手に喋っているの?そもそもなんで彼に肩入れしているのかしら」

「そ、それは……っきゃぁぁぁっ!!!?」

 

私が倒れている隙にユースティアナは先程の電撃でキャルを炙る。

 

「キャルっ…!!!」

「あーあ、本当、私には味方が1人もいないのね〜寂しくなっちゃうわ〜」

 

っ…何を倒れている私…!!このまま奴の思うようにさせるなど……っこの私が断じて許さない…!!!

 

「はぁぁぁ!!!」

 

『ガッチャーン!!レベルアップ!!シャカリキ!シャカリキ!バットバット!?シャカッとリキッとシャカリキスポーツ!!』

 

「あら、残念、それも『予知通り』よ」

 

私はシャカリキスポーツにレベルアップ後、すぐに肩の装備であるトリックフライホイールをユースティアナに目掛けて投擲する。

 

勿論それは彼女の能力で簡単に回避されるのだが

 

「…それはどうかな?」

「……なんですって?」

 

私の狙いはそこじゃない、1度通り過ぎたホイールを操作しこちらに戻ってくる動作の最中に1つを彼女が放つ電撃の切断に使い、そしてもう1つを私が変身前に投げ捨てていた私の剣に着弾させ弾き、彼女目掛けて飛ばした。

 

「っ…」

 

彼女はギリギリでその剣を回避するも頬の一部を切り、血が滴る。更にその隙に私はキャルに近づき抱き抱え距離を取る。

 

「どうやらその予知は…『自分自身に対する予知』しか出来ないらしいな」

「…黎斗くん…あなたって人は…っ」

 

どういう原理かは未だに分からない、だがしかし予知に関しても『間接的な攻撃なら届く』事が証明できたな。

 

私の今の攻撃はユースティアナ本体にしたわけではない。私の落としていた剣に攻撃する為にホイールを投げた、その時に発生したいわば事故のようなものだ。

 

それを察知できていない、いや、本来ならばできるのかもしれないが彼女は自分自身で言った『やっぱりこの世界線だと未来予知も全然信用ならない』と。確実に本来の力よりは弱体化している筈。

 

キャルをお姫様抱っこ状態から降ろし、戻ってきたホイールを片手で受け止め、もう片方の腕でキャルを下げさせる。

 

「黎斗…っ」

「…ユースティアナ…お前を攻略してやる」

 

私はホイールを構え、ユースティアナを睨みつける。

 

「はぁ…やっぱりダメね、ちゃんとしなくちゃ……そろそろ私を守護する兵隊さん達が騒ぎを聞きつけて来ちゃうと思うし……そうなったら色々面倒だしね…ちゃんとするわ」

 

その言葉と同時に私は何かただならぬ気配を察した。

 

「…っ!!!キャル!!!」

「きゃっ!?へ…?く、黎斗!?」

 

キャルを突き飛ばし、それと同時に私の真下に魔法陣が展開され激しく発光、私は強烈な電撃に打たれ膝をつく。

 

「ぐぅっ…っがはっ…っ!?」

 

『ガッシューン…』

 

変身が解除されてしまうのは元々体力が少なかったからだ。それに奴の攻撃はそれだけでは終わらない。

 

「ばいばい、黎斗くん」

 

私は光に包まれる、この感じ…まさか…また…転移をするつもりか…っ…!!

 

「黎斗ぉ!!」

 

私の目に最後に映ったのは突き飛ばされ尻餅をついた状態から必死に手を伸ばして私に近づこうとするキャルの姿だった。

 

 

 

 

 




ちなみに神社に祀られてる白狐さんは騙したり、欺いたり、奪ったり、生きている時に悪い人だったので狐に化けてしまったなんていう話があるらしいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

覇瞳の皇帝 その③

もう既に今の黎斗のガシャットでは対応できてない、インフレが激しすぎる


 

「ぐぅっ…くっ…!!!」

 

眩い光に包まれ、瞬時に私は別の空間へと転送されていた。

 

肌を突き抜ける冷たい風、吹き荒れる爆風に衣服や髪が乱される。

 

私は瞬間的に周りを確認する、ここは…エリザベスパーク……山頂付近か…再びここに送り返されたという事か。

 

だが私は地上にいる訳ではない、空中…それもかなりの高度だ。

 

今、私は重力に引っ張られ自由落下を開始している。このままでは確実に私の命はないだろう、だがこういう時こそ冷静に頭を冷やし練れるだけの対策を講じる。

 

周りの遮蔽物の少なさで正確な高さを測ることは難しいがおおよそで高度を測ることは出来る…高度にして約5000メートルと言ったところか、空気密度に関しては現状では分からない為省き、私の身長と体重から考えて最高速は時速190キロにはなるだろう。

 

落下時間は1分と少ししか時間がない。ふむ、高度5000メートルならば空気中の酸素量に問題はない為、意識を失うという事はないだろう、落ち着いて対処をする。

 

私の知る限り高度1万メートルからの落下事故で生存した例は過去に数件あった筈だ、それを踏まえ、今やるべき事を確認し実行する。

 

まずは空気抵抗を大きくし減速する事が必要だ、両手を広げ、背中をやや丸め、頭を上向きにする事で出来るだけ空気抵抗を大きくする。

 

まずは落下地点に良さそうな場所を探す、水面はダメだ、水面への落下はうまく着水出来なければコンクリートに打ち付けられるのと変わらない。

 

ここは山地だ、木々が生い茂っている場所がありクッションには最適だが…下手をすれば枝木が体に突き刺さり死に至る恐れがあるな、1番生存率が高いのは積雪やぬかるみ、時点で芝か、この季節の山地なら芝くらいはあるだろうが。

 

確かエリザベスパークには牧草ロールがあった筈、それも複数積みの奴がな、クッションにはそれが一番最適か、まずはそれを探そう……

 

…ん?牧草ロールを探す為に周りを確認した際、そこで私は目の前を浮遊するガシャットの存在に気づく。

 

「ガシャット…!?そうか…!変身解除した際に飛び出したガシャットか…!!私のガシャットがぁ…!!!」

 

私は咄嗟に手を伸ばす、落下に備えている場合ではない!私のガシャットが落下で破壊されてしまう方が問題だ!!

 

「くっ…この…!!」

 

私は何とか2つのガシャットに手が届くが、くそっ…!肉体のダメージのせいで握力が殆どない…!!ガシャット1つまともに握る事ができないとは…!!!

 

だがしかし…!諦めない!!私のガシャットォォ…!!!!

 

「…っ取ったァァァァァァァ!!!」

 

よぉし!!!!私はガシャットを手元に収めることが出来た!!ふぅ、これで…

 

「あ…しまったァァァァァァ!!!?」

 

周りを見れば、既に高度は300メートルを切った、落下まで残された時間は約6秒程…ガシャットに気を取られ減速もしていなければ落下地点に良さそうな場所も選んでいない。

 

今から変身をするべきか?いや…この負傷した体ではまともにスロットに入れるのはもはや不可能だろう、くっ…ここまでか…!!

 

私は死を覚悟した、しかし、衝突の3秒前、私は地表にある光景を見る。

 

それは超高速で黄金のオーラを纏いながらこちらに近づいてくる1つの影。

 

「…あれは…!!ペコリーヌ…!!!?」

「おりゃぁぁぁあ!!間に合ってくださいよぉぉ!!!!」

 

その速度は時速180キロは軽く出ているだろう、蹴りつける地面は抉れ、土埃が舞い散り、通った道筋の軌跡が見える、まるで除雪機やブルドーザーを彷彿とさせる光景だった。

 

「うりゃぁぁぁぁ!!!!」

 

私と地面との衝突1秒前、彼女が大きく前にヘッドスライディングのような跳躍を見せ、私に両手を伸ばす。

 

その瞬間は訪れた、凄まじい衝突音と煙に巻かれ、あたり一面土煙で見えなくなる。

 

「く…は……」

「あはは〜いや〜凄い衝撃でしたね〜びっくりです、それにしても間に合ってよかった〜」

「ああ…助かったよ、すまないなペコリーヌ」

 

私はペコリーヌにお姫様抱っこの形で抱き抱えられ生存していた、かなり不格好ではあるが、今は生存していた事を喜ぼう。

 

「お姫様抱っこで申し訳ありませんね、本来なら私と黎斗くん、逆の立場って感じですもんね」

「そうだな、絵面的には見るに耐えないだろう」

 

ゲーム的な演出でもこの絵面はプレイヤーが冷めかねない。

 

「そうですよね〜、でもいつか黎斗くんが逆にわたしのことを抱っこしてくれる日を楽しみにするって事で今回は貸しにしましょう!」

「そうしてくれるとありがたい…つぅっ…」

 

体が痛む、ユースティアナとの戦闘によるダメージはまだ色濃く残っている。

 

奴の力…やはり侮れない、ゲンムに変身しているのにも関わらず私の肉体にこれ程のダメージを与えるとは…。

 

「どこか痛みます?大丈夫ですか?それに…黎斗くんボロボロです…一体何があったんですか?」

「…君こそ、よく私に気がついたじゃないか、落下している私に気づくなど…しかもこの夜間でな」

「それがですね、最初は何処かで爆発音が聞こえたんですよ、それでそれの調査に行こうとしてたら上空でピカッと光ったので王家の装備の力で視力をめちゃくちゃ高めて見たら黎斗くんが落ちてきたんですよ」

 

そういう事か…ふむ、それにしても王家の装備か…彼女の身に付ける特殊の装具だと聞く…点と点が繋がったな。

 

「うーん、仲睦まじいねぇ、だが少し緊張感が欠けるんじゃないか?」

 

ペコリーヌの軌跡から遅れてやってきたのはド派手な衣装を身に纏う王宮騎士団(ナイトメア)副団長クリスティーナ。

 

…そこで思い出す、ユースティアナの発言を…『まとめて目障りな連中を始末できそうなんだもの』…まさかとは思うが…

 

わざわざこんな山奥に私を転送したのは彼女の対象となった人物をまとめて削除する為だとするのなら…

 

「緊張感はありますよ!なんせあなたみたいな人が近くにいるんですから!」

「それは失敬、だがしかしこちらに何者かが近づいてきているぞ、先ほどの爆発、どうやら近くの『ラビリンス』の基地の1つが爆破でもされたようだからな」

 

クリスティーナの言葉通り、何かの気配が2つ、こちらに接近してきている。

 

「止まれ、ラジラジ…何かいるぞ、警戒しろ」

「はい、止まれと言われれば止まりましょう、今はあなたの言葉に従います」

 

私たちの目の前に現れたのは1人は見覚えのある少女、ムイミ。もう1人は見たことのない男だった、体全体を覆うまるでカーテンのようなマントを身につけた褐色肌の男…どこか薄気味悪さを感じる、何故だ?

 

「ん?そこの男…貴様……どこかであったか?うーん?何か引っかかるな…ワタシは記憶力の良い方だと自負していたんだがな」

「私のことを知っているのでしょうか?生憎私は記憶が混乱しておりまして、ノウェム、あなたは知り合いですか?」

「へ?ってクリスティーナじゃないか!!」

 

…どうやらムイミとクリスティーナは知り合い…それにクリスティーナの反応…このラジラジとか呼ばれた男も何か特別な存在と見ていいか。

 

「ん?貴様は確か…馬車に追い込んだ…オクトーの坊やに追われていたお嬢ちゃんじゃないか」

「その認識ってことは…アタシの事覚えてないのか……仕方がないよな、今は説明してる時間ないし…ってそこにいるのは…!!」

 

ようやくムイミは私の存在に気付いたようだ。

 

「無事だったようだな、ムイミ…いやノウェムと呼んだ方がいいかな?」

「あはは、別に今更どっちでも好きに呼んでくれて構わないよ、それにしても…おまえそんなキャラだったか?なんか変というか…聞いた話じゃ記憶を失って今は黎斗って名乗ってるんだって?」

 

どこからの情報かは察しが付く、おそらくはリノかシズルだろう、彼女達は以前の私を知る人物、以前の私の名前を覚えている訳ではなかったが違和感を感じてはいたからな。

 

「ああ、出来ればそっちの名前で呼んでくれれば幸いだ」

「じゃあアタシの方もムイミでいいよ、なんつーかお前はアタシの名前を馬鹿にしたりしないからさ」

 

そう言って彼女は笑う。無意味…か、確かに縁起がいい名前の響きではない。

 

「とにかくアタシはそこのラジラジのおかげで『ラビリンス』から脱出する事ができた、体もピンピンしてるし、今のうちに逃げて…」

「ノウェム、警戒してください、上空に…ただならぬ気配を感じます」

 

ラジラジと呼ばれた男が顔を上げる、それに合わせ、現場にいた皆が上空を仰ぐとそこには…あの狐の獣人、ユースティアナの姿があった。

 

奴は更に姿を変化させる、今度は露出度が高めで漆黒の鎧を身に纏う、頭にはまるでペコリーヌの王家の装備であるクリスタルの冠の対をなすかのように漆黒の冠が取り付けられている。短剣状の武器も切っ先が伸び色もまた鎧に合わせた赤紫に発光したものとなる。

 

そして帯びるオーラもまた禍々しく強大なものへと変化する、まさにラスボスといった雰囲気だ。

 

「…ユースティアナ…!!」

「あの人は…っとと…黎斗くん!?無理に立たないで…!!」

 

私はペコリーヌの静止を聞かずに立ち上がる、かなりしんどいがな、ガシャットを構え戦闘態勢に入る。

 

「ふぅん、『誓約女君』のクリスティーナに『跳躍王』のラジニカーント、それに近くには『晶』もいるだろうし『七冠(セブンクランズ)』の半数が集まったって事ね、自分で仕組んだ事だけど上手く行きすぎて笑えちゃうわ」

 

それに、と付け加え

 

「ノウェムに…黎斗くん、うふふ、懐かしい顔ぶれが揃ってるわね、同窓会みたいだわ、最初で最後のだけどね」

「黎斗くんの怪我…それに黎斗くんのこの警戒心…まさか、黎斗くんが怪我をしたのってあなたのせいですか…許せません…!!」

 

ペコリーヌもまた私に続き立ち上がり、王家の装備である剣を出現させ構える。

 

「あら?なんであなたがいるの?別にあなたを呼んだ覚えはないのだけれど、優先順位だってかなり低いし?まぁ、邪魔であることは変わらないしここでまとめて一緒に消しちゃおうかしら」

「勝手な事を…!!」

「おいおい、待ってくれ、そこにいるのは…陛下、で間違いないな?その禍々しい雰囲気はなんだ?それに…聞き間違いでなければまとめて消す…とワタシの耳がそう捉えたのだが、つまらない冗談だとすれば即座に叩き斬るぞ」

 

クリスティーナもまた片手で大剣を構え、ユースティアナに向ける。

 

「叩き斬る?無理よ、ただの人間が神に敵うわけないじゃない」

「無理かどうかは…やってみなければ分からないだろう…っ!!」

 

私がそう言い放ち、ガシャットのスイッチを入れようとした時、手元からポロリとガシャットが滑り落ちる、手に力が入らない。

 

「あはは!よく言うわ黎斗くん、あなたは既に満身創痍、減らず口を叩いたところで今のあなたなんて脅威でもなんでもないわ」

「やっぱりあなたが…わたしの大切な人を傷つけたんですね…ここで決着をつけてやります!!!」

「はぁ…分からないのね、神と人間との差が…愚か者のお姫様には少し黙っててもらおうかしら、断罪の槍(コンビクト・ランス)

 

一撃は予想外のところから放たれた、それはペコリーヌの真後ろ、一部の空間が歪み、そこから謎のエネルギーが一直線にペコリーヌの肩を貫いた。

 

「なっ…っ!?」

 

気配を感じなかった、魔力による兆候も見えなかった…この力、私と戦った時よりも更に圧倒的な力を奴は宿している…!!

 

ガクンと膝をつき肩を押さえるペコリーヌ、致命傷ではない、今の攻撃は奴のお遊びだ。

 

「ふぁ〜…だから言ったでしょ?神と人間じゃ実力に天と地の差があるの、あくび程度の魔法ですら対応できないんだもの、戦いにすらならないのよあなた程度では」

「く…うぅ…そんな…」

「あなた達に先に教えてあげるわ、既にこの近くには私が用意しておいた王国の魔術師達が取り囲んで『結界術式』を組んである、そこにいる『跳躍王』の力を使ったとしても結界の力で遮断されまともに機能しないわ」

 

どおりですぐに姿を表さないと思ったよ、つまりコイツは初めから準備をしていた、私達をここで確実に削除する為に。

 

「それで、どうするつもりだ?まさかペコリーヌにやったような攻撃魔法で私達を一人一人始末するつもりか?」

「まさか、黎斗くん、あなたの頭を持ってすれば私がやりたいことくらい分かるんじゃないの?こんな大それた計画を立ててる時点で…ねぇ?」

 

…ペコリーヌに見せた圧倒的な力もまた私に対する当て付けか、これくらいは余裕、というね。

 

大規模な結界、主要人物と思われる人間を複数集める、そして見せつけた圧倒的な力…これらから導き出される答えなど簡単だ。

 

「私達をまとめて消せる程の強力な魔法を放つ事、それも回避も防御も不可能な程、強力かつ広範囲の一撃、私達を確実に殺せるという保証があるもの」

「そうよ♪流石は黎斗くん♪あなたなら分かる表現で言ってあげるわ、今から放つ魔法は殲滅魔法っていうかなり特殊な魔法…その中でも私のとびきりの奴をあなた達に与えるわ、その威力は核兵器にも匹敵する、骨も残らないから安心してね♪」

 

核兵器だと…?冗談で言っているのだとしたら大したものだが…奴の力ならそれも容易く行えるだろう。

 

何か対策を講じなければ、だが現状でどうする?そのレベルの攻撃など防げるとすれば不死身のデンジャラスゾンビか完全無欠のムテキ、時を止めるクロノス、あらゆるゲームを生み出すゴッドマキシマムなどの特殊なガシャットくらいだ。

 

しかし現状でそのようなガシャットはない…ちっ…!どうする…!!!

 

「なになに〜?何のお話?アタシもちょっと混ぜてよ〜」

 

その時、不意に別方向から声が響いた、女の声だ、初めて聞いた声のはずだが何故か聞き覚えのある声をしていた。

 

赤く長い髪に眼鏡をかけ、これまた赤い衣装を身につけている。

 

「ようやくお出ましね『晶』、今は『ラビリスタ』だっけ?まぁどっちでもいいけど…どう?私からのプレゼントは」

「プレゼントってあの強襲隊の事?あれほんとやめて欲しかったわ〜おかげさまで基地の1つはアボン、『オブジェクト変更』も楽じゃないんだからあんまボコスカやりたくないっつぅのが本音なのにさぁ〜?」

 

この女は軽口でそんな事を言い放つ、『オブジェクト変更』…コイツがシズル達の言っていた『マスター』…『ラビリンス』のボス格の人物か。

 

「ま、シズルちゃん達は強いし多分余裕で生きてると思うからそこらへんは信用してもいいかな、とまぁ、そんな事は今はどうでもいいや、現状ヤバい状況でしょ?だからここはみんなで手取り足取り…協力して危機を脱しようって話」

 

晶と呼ばれた女はユースティアナから背を向け私達に話しかけてくる。

 

「この状況を打開できる術があるのか?」

「ああ、君が黎斗くん?シズルちゃん達から聞いてるよん、確かにあの少年と同じ顔だね、実に面白い状態になってるじゃない、っと今は雑談してる場合じゃないか、無駄に別の話に脱線しちゃうのがアタシの悪い癖だな〜、ともかく君には渡したい物があるからさ、まだアタシも君も死ねない」

 

私に渡したいもの…?

 

「さてと、そんじゃま、さっそくだけど全員力を合わせるよ、ミスったら即死だから注意ね〜ほら、もう来るよ〜」

「全く、相変わらず軽口は変わらないようね、晶」

「…悪いけど、アタシあんたのことわかんないや、記憶力は良い方なんだけどね〜特に人の名前はさ、ほら、アタシ人間のこと大好きじゃん?」

「…そういうところ昔から反りが合わないわ」

 

その言葉を最後にユースティアナが剣を構える、そして光がその剣に集結していき

 

殺戮の理想郷(ユートピア・オブ・デスティニー)

 

眩い閃光が放たれる、それは直径にして約30メートルはあろう巨大なエネルギーだった、それ自体に当たれば確実に私達は消しとばされるだろう、そうでなくとも余波で身体を保つことが出来ない。

 

迫り来る確実な死、私達の行動次第でこの物語の結末が決まる。

 




覇道と覇瞳ってダブルミーニングなんすね〜


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

帰るべき場所へ

まぁまぁオリジナル展開があります。
どれくらい違うかは本編と見比べてみよう!


 

放たれる殲滅魔法、着弾まで残り1秒。

 

「さてと…」

 

『晶』と呼ばれた女が空間を手で撫でると半透明のキーボードのようなものがまるでホログラムのように出現、そして

 

「まずは時間を稼ぐ」

 

片手で高速でタイピングをし、エンターキーを激しく打ち鳴らすと、私達の足元、半径約3メートルほどの魔法陣が出現、それと同時に降り注ぐ殲滅魔法が一時的に停止する…これは…っ!!

 

「『時間が…停止している』…!?」

 

私を含む、この場にいる晶を中心とした側にいる人間以外の時間が停止している。

 

「まぁ、そんな所、そこまで便利な代物ではないんだけどね、めっちゃ簡単にデメリットを説明したげる、1つ、少しの間しか時間は止められない。2つ、停止している間、動いてる方と止まってる方は一切干渉できない。3つ、こうやって時が止まっていない部分は半径2、3メートル範囲内だけ、そこから出ようもんなら発動したアタシでさえも止まっちゃうね。4つ。それに何度も連続して使えるようなものではない、ほら制約まみれでしょ?」

 

恐らくクロノスの原理と同じくゲーム内をポーズさせているのだろう、ただクロノスと明確に違う所は私達はプレイヤーとして認識され、ポーズをしている間、ゲーム内に干渉することはできないという事か。

 

私以外の全員がこの光景に驚き、戸惑っているが、晶は少しばかり焦りながらも話始める。

 

「はい、みんな冷静に!本当に時間ないしヤバい状況に変わりない、ポーズなんて荒技、ガチで何秒持つか分かんないから、うーん、多分もって後1分くらいかな?だから今から簡潔にこの状況を打開する術を話す、みんな、耳かっぽじってよく聞きなよ?」

 

この状況を脱する為には皆の協力が必要不可欠、その為に…生き残る為にこの場にいる全員が真剣に晶の話に耳を傾ける。

 

「作戦は至って単純だ、アタシは『オブジェクト変更』を使ってこの場にいる全員をある一定の範囲まで吹っ飛ばす、所謂、瞬間移動に近い事をやる」

「…いや、でもラジラジの『空間跳躍』は結界で防がれるんだろ?そのオブジェクト変更でも無理なんじゃ…」

 

ムイミが疑問をぶつけるも晶は笑みを溢す。

 

「跳躍と違ってオブジェクト変更は理屈が違う、『アタシ達が飛ぶんじゃなくて世界そのものの方が移動する』、だからその点は引っかからないよん」

 

成る程な、だが

 

「…演算処理の方はどうする、そこまでの事をやってのけるとなるとただオブジェクトを出現、削除するよりも複雑化する筈だが」

「そう、そこだよね、時間が停止している間はあっちには干渉できない、だから動き出してからコードを弄らなきゃならないんだけど…ぶっちゃけ最低でも10秒…いや20秒は欲しいな〜」

 

つまり足止めが必要になってくるという訳か…

 

「…おい、ペコリーヌ、クリスティーナ、それにムイミ、あとは…ラジニカーントと言ったな、あの破壊魔法を何秒足止めできる」

 

私が4人にそう言い放つ、全員が少しだけ嫌な顔をしながらも

 

「あはは…無茶言ってくれますね…黎斗くん…王家の装備を全開にしても…正直2秒もてば良いですかね…」

「坊や、残念だがワタシもそこまで愚かではない、誇張していうつもりはないよ、5秒…最大で5秒だ」

「うーん?いまいち分かんないけど、アタシの天楼破断剣なら何とかできる!!」

「そうですね…私の出力を考えれば……もって3秒程度でしょうか、アレ程強大な魔法を完全に止めるなど不可能です」

 

ふっ、私はつい笑みが溢れる。

 

「いや、単純に加算しても10秒、上出来だ、晶…と呼べば良いのかい?」

「いや、コッチだとラビリスタ、の方がいいね」

「ならばラビリスタ、その演算に私も加わろう、私がいれば10秒以内で処理ができる筈だ」

 

私の提案にラビリスタが目を丸くする。

 

「あはは!本当に面白い少年になったもんだね、いいね!ならお願いするわ、ただマジでコード複雑だから後から泣き言は無しね?」

 

面白い、私がそんな事を言うと思っているのか。

 

「さぁて、そろそろ時が動き出すよ、構えるんだ、ここから先は失敗が許されない!失敗した時、全員ゲームオーバーだよ!!」

 

そして時が動き出す、膨大なエネルギーの波が押し寄せ、再び私達は危機に瀕する。

 

その瞬間、4人が前へ一斉に飛び出し、その光輝くエネルギーに自身の武器を突き立て押し返す。

 

「フンギギギ…っ!!んにゅぅぅぅぅ…!!」

 

ペコリーヌは王家の装備を全開、眩い黄金のオーラがまるで翼のように背中から噴出され、ロケットのエンジンのように絶え間なく放出されている。

 

「ちぃっ…!!全く今日は厄日かなぁ…?それともラッキーデイか!!ははは☆これ程愉快な事はないぞ!!」

 

クリスティーナは能力をフルで使っているのかホログラム状の数字のようなものが身体中から湧き出ている、アレが彼女の能力が自動で行うという演算を可視化したものか。

 

「うひゃぁ…!?こ、これヤバっ…!!?」

 

ムイミは自身の背丈に似合わない大剣を召喚し対抗したのは良いが、前2人に比べればムイミはかなり力負けしている様子。

 

「っ…やはり無防ですね…私達の生存率は10%…!!」

 

ラジニカーントはカーテンのようなマントを脱ぎ捨てるとそこから複数の機械の腕が出現、それはまるで複腕の仏像を彷彿とさせる見た目だった。

 

それらの腕を使い、謎のエネルギーを吹き出させ、殲滅魔法を食い止めている。ついでに吹き飛ばされそうになっているムイミの背中を支えている。

 

「時間ないよ黎斗くん、ガチのマジで一瞬で決めるよ」

「…良いだろう」

 

ラビリスタが自身のキーボードの他に私の方にも半透明のキーボードをスライドさせてくる、そしてホログラム状のPC画面のようなものが映し出され、そこにはかなりの量のコードが羅列されている。

 

「さぁ、0.1秒も無駄にできない、やるしかないよ黎斗くん」

 

確かにとんでもない量だ、ここから私はありとあらゆる情報を得て、選択し、計算し、コードを変更していく。

 

0.5秒…1秒…1.5秒…2秒…2.5秒…3秒…着実に時間が過ぎていく、その間も私達の目の前を閃光が迸り、膨大なエネルギー同士の衝突による爆風が吹き荒れる。

 

私とラビリスタに会話はない、時間稼ぎをしている4人を心配している余裕もない、互いにどこの処理をしているのか画面をチラリと確認する程度だ、それ以外は常に指先と脳を動かし続ける。

 

「も、もうもちません…っっ!!!」

「くっ…限界か…っ!!」

「あ…アタシしんだ…」

「す、すみません…!!力不足です…!!」

 

10秒持たずにして彼女達の限界が来た、8秒、稼げた時間はそれだけだった、しかし

 

「よくやった君達!!十分だ!!」

「黎斗くん!仕上げだ!!アタシを君の力で強化するんだ!」

 

その言葉と同時に時間稼ぎの4人の体勢が崩れる、私は瞬時にラビリスタをフルパワーで強化…ぐぅ…この満身創痍の肉体では負荷が半端ではない…が

 

ラビリスタが高速で再びタイピングをしエンターキーを弾く音が響き渡った。

 

 

ハッと気がつくと私は既にランドソルに居た、不可思議な感覚だった。

 

その感覚に慣れずにいるが、まずは状況を確認する為、周りを見渡すと

 

「…ペコリーヌ、君は私と同じ場所に飛ばされたようだな」

「はい〜…つ、疲れました…」

 

私の近くにいたのはペコリーヌのみ、他のメンツは別の場所に飛ばされたようだ。

 

その時、ドンッと音が響く、比較的小さな音ではあったが明らかに破壊音だ。

 

「…今、音が響いたという事は、どうやらいまだに奴の殲滅魔法は放たれているという事か」

「街からは結構離れてるのにここまで音が響くなんて凄まじいですね…」

 

核兵器と自信たっぷりに言い放っただけはある。しかし街に被害が及ばないのは彼女が入念に準備した結界とやらのおかげか、彼女自身も街で騒ぎを起こすつもりはないらしい。

 

「っつぅ…お互いにボロボロだな、ここら辺は………丁度いい、近くに私が世話になっている救護院がある、君も来るかい?」

「うう…本来ならご迷惑をおかけしないようにしたいんですけど…今…凄く疲れてまして…お願いします」

 

それは同感だ…私も正直立っているのがやっとだ、近くとはいえサレンディア救護院に歩いて帰るという事さえ憚られる程に。

 

「…肩を貸そう、ペコリーヌ」

「へ?そんな!黎斗くんだってボロボロなのに…っ!!」

「なぁに、心配するな…というより私も1人で歩くのは少々厳しいからね」

「えへへ…そういう事でしたら、一緒に歩きましょう!」

 

私達は互いに支え合い、歩く事数十分、ようやく救護院に辿り着いた。

 

私達は救護院の扉を開く、しかしスズメやサレンの姿は見当たらない、スズメは奥の方で何やら作業をしているようだな、ガサゴソと音が響いている。

 

サレンは恐らくまだ帰ってきていないのだろう。子供達は既に就寝しているみたいだな。

 

疲れている私はスズメに声をかける気にならず、すぐに部屋へと直行し、扉を開け…

 

倒れるようにベッドに飛び込む、ペコリーヌも同様だった、互いに満身創痍、瀕死だ。

 

「も、もう…一歩も動きたくありません…」

「…同感だ…寝よう」

 

私とペコリーヌは一瞬で眠りについた、それ程までに疲れが溜まっていたのだから仕方がない。

 

睡眠を開始してから1時間くらいが経過した時、再びあの声に起こされる。

 

「ってえぇえぇ!?!?」

 

この声は…間違いない、スズメだ。

 

「い、いつの間に帰って来てたんですか!黎斗さん!?みんな心配してたんですよ!?そ、それに…なにか見覚えがある光景が…というか前より酷くなってますよね…!?」

 

前より酷く…?私が薄目で横をちらりと見ると

 

「うへへ…もう食べられませんよぅ…」

 

右側にペコリーヌが私に引っ付いている、まぁ彼女は共に眠ったから分からなくもない、が

 

「うへぇ♪主さまぁ…♪」

 

左側には何故かコッコロが引っ付いている、いつの間に…

 

「ち、ちょっと!黎斗さん!言ったじゃないですか!女の子と…それも今回は2人だなん…ぷぎゃっ!?」

「うるさい」

 

私は枕をスズメの顔面に向かって投げつけ、黙らせる。

 

「私は今、凄く疲れているんだ…あまり騒ぐと君を削除するぞ、スズメ…さっさと部屋に戻れ、この部屋から出て行け」

 

私はそう言って再び目を閉じる、既に彼女に構う程の余裕はない。

 

「う…ううぅ…黎斗さんが今月一の辛辣発言をして来ましたね…わかりました…明日事情を聞かせてもらいますね…あと…枕お返しします…」

 

彼女は枕を私に返し部屋から出て行った、ようやくこれで安心して眠りにつける…

 

 

 

 

翌朝、目を覚ますと既にペコリーヌの姿はない、隣で寝ているコッコロを起こさないように静かに起き上がり、私は下の階の広間に降りると台所から音が聞こえる。

 

「…ペコリーヌ、もう起きていたのか」

「ああ、黎斗くん!おはようございます!っと家主の人に内緒でシャワーをお借りしてしまったのですが…」

「それは仕方のない事だ、私達は汚れた状態で寝ていたわけだ、そういう私も今少々気分が悪いからな、シャワーを浴びてくる予定さ」

 

ベッドの方も今日は洗わなければな。

 

「ところで君は今…料理を作っているように見えるのだが…」

「ええ、そうですよ、朝ごはんです!…やっぱり人の家の食材を勝手に使うのはまずかったですかね?」

「いや、そうではない、君は…サレンの言葉を借りるならお客さんの立場だ、逆に料理をしても良いのかい?体を休めた方が今はいいと思うが」

 

そう言うとペコリーヌは微笑みながら

 

「良いんです、好きでやってる事ですから、それに疲れた〜といってずっと休んでる方がわたしらしくありませんよ!」

「…そうだな、確かに今の君が君らしい」

「えへへ〜、あ、そうだ量はこれくらいで大丈夫ですかね?ここは救護院っていうくらいですから人も多いんですよね?」

「ああ、主に子供達だからそれほどの量はいらない、さて…私はシャワーを浴びてくる、そろそろコッコロやスズメも起きてくる頃だからな」

 

私はそう言い残しその場を後にする、十数分後、私がシャワーから出ると既にスズメやコッコロ、それに子供達が起き出し、広間に集まり朝食をとっていた。

 

「さぁさぁ♪召し上がってください〜!」

「で、では頂きます…申し訳ございません…お客様に料理を振る舞ってもらうなんて…」

「あはは、黎斗くんにも同じことを言われましたが、良いんですよ、好きでやってるので」

 

私も席につき、食事に手をつける、鳥肉を薄くスライスしたものが入ったサラダに様々な種類のサンドイッチ、茹で卵に更にスープまで付いている、朝食にしては贅沢だし、ホテルの朝を思い出す。

 

「もぐもぐ…うーん♪おいしい!スズメが作る料理よりもずっと!」

「うう…アヤネちゃん…一応私も練習とかしてるつもりなんですけどね…」

「スズメの場合は味はともかく卵の殻や味付けの間違いを直すところから始めるべきだな」

 

そう、スズメの料理は決して不味いわけではない、それ以前の問題だ。

 

「はい、コッコロちゃん、卵の殻、剥いてあげるね?」

「あ、ありがとうございます」

 

コッコロの隣に座るクルミはコッコロの世話をしている、このサレンディア救護院に来てからは見慣れた光景ではあるが常に私の世話をしてくるコッコロが逆に世話をされているところを見るのはやはり新鮮だ。

 

「はい、コッコロ、お塩だよ」

「すみません、何から何まで…ありがとうございます、アヤネさま」

「『さま』は余計だよ、家族なんだから、アヤネお姉ちゃんって呼びなさい!」

 

ふっ…コッコロはこのサレンディア救護院でも比較的年齢が若い、こうやってみると年相応なのだと実感する。

 

昨日の命のやりとりがあったせいか、こういった日常の光景すらどこか愛おしく感じてしまう…やれやれ、私も歳を取ったという事か…バグスターである私に歳の概念など無いが体感というものかな。

 

「申し訳ありません、いつまでも他人行儀が抜けなくて」

「ふふ、コッコロちゃん、愛されてますね〜かわいい光景です、ね?黎斗くん」

「…何故私にフる」

「んふふ〜なんででしょう♪」

 

…分かってて言っているなコイツは…

 

「それにしても主さま達は昨日、何やら大変な事件に巻き込まれたご様子、わたくしが部屋に戻ればペコリーヌさまと2人で同衾…わたくしは正直、超びっくり致しました」

「そういえば…コッコロちゃんは昨日、自警団(カォン)のお手伝いの後、どこに行ってたんですか?黎斗さんと一緒という訳ではなかったんですよね?」

「はい、わたくしはその後、神殿でお祈りを捧げていました、少し気になったことがあるのでアメスさまから託宣を頂きたく」

 

アメス…何度か彼女とは出会っていることを朧げながら記憶している。

 

どうやらアメスとやらは夢の中でしか出会うことができず、しかもこちらにもって来れる記憶はごく僅か、しかし何度も何度も…それこそ私が人と出会うたびに交信してくる為、流石に私の記憶にも残った。

 

コッコロは自身の神さまとして崇めている存在だが…私にとってアメスとは一体どういった存在なのかは不明瞭だ。

 

「はぁ…本来なら主さまの体温を久々に感じたく、眠りにつきたかったのですが…2人きりで」

「…アレ?わたし意外と邪魔もの扱いされてます?」

 

…そこは何故か否定も肯定もしないコッコロに場の空気が微妙に冷える。

 

「そ、それよりも!お二人がどうして一緒に寝ていたのかとか!色々聞きたいことがあるんです!…その…よろしければ聞かせてもらえませんか?」

 

その冷えた空気を変えようとスズメが話を切り出す、ふむ、では少し話しておこうか、私としても色々と整理をしておきたいと思っていたところだったからな。

 

 

 

 

 

 




ちょっとした時系列

黎斗達が部屋で就寝し起きる1時間の間にサレンか帰宅、サレンはアキノの飛空挺に乗りエリザベスパークに向かいました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

奪われし真名

BGMではスナイプとゲンムのテーマ(レベル2)が好きです


 

 

「そうですね…一緒に寝てしまったのは不本意だったんですけど、実は昨日…」

 

ペコリーヌが昨日の事を簡単に話す、ユースティアナと呼ばれる狐の獣人に命を狙われ、そして殲滅魔法を放たれた事を。

 

「成る程、昨日の爆発は…そのユースティアナ、と呼ばれる人物による攻撃だったのですか…お2人共ご無事で何よりです」

「それにしても凄いですね…山が丸ごと消し飛ばされるほどの威力の魔法を撃たれたのにお2人ともご無事だったなんて…」

 

確かに、あの絶体絶命のピンチを切り抜けたのはかなり細い糸を手繰り寄せた奇跡に近い。

 

「あの場にいた手練れの人達と協力してなんとかなったんですよ」

「そうだな、不服ではあるが、私1人ではどうしようもない事態だった」

 

特にあのラビリスタがいなければ確実に私達はゲームオーバーだっただろう、せめて奴とまた接触できれば何か進展があるのだが…

 

「あ、そう言えばお嬢様にまだ黎斗さんの安否の連絡をしていませんでした、かなり心配していらしたので、後で通信魔法で連絡を入れておきますね」

「それが良いですね、黎斗くんも愛されてますね〜このこの〜♪」

「…そんなことよりも…ペコリーヌ、いや…そろそろ話しても良い頃なんじゃないか?『ユースティアナ』」

「っ!?」

 

私がそう問いかけるとペコリーヌは驚愕の顔し、数秒間間が開いた後、若干涙を浮かべながら

 

「どう…して…それを…」

「主さま…?どうしてペコリーヌさまをユースティアナと…?ユースティアナとは主さま達を狙った人物のことではないのですか?」

 

コッコロが当然の疑問をぶつけてくる。

 

「…ペコリーヌ、君に話す気があるのなら、話すといい」

「…えへへ、すみません…なんか…勝手に感極まっちゃって…泣いちゃって…その名前を…誰かに呼ばれたのは本当に久しぶりだったので…」

 

零れそうな涙を手で拭いながら笑顔を絶やさずにペコリーヌは語り始める。

 

「本当は…皆さんに迷惑をかけたくなくて…ずっと内緒にしてようって思っていたんですけど、黎斗くんなら…いいえ、黎斗くん達なら話しても…大丈夫って思えるんです」

 

ペコリーヌは1度、私とコッコロの顔を見る、そこには信頼していると見て取れる表情をしていた。

 

「わたしの本名はユースティアナ・フォン・アストライア、このアストライア大陸を治めるランドソル王家の長女として生まれました」

「お、お姫様って事ですか…あ、あわわ、なんと…恐れの多い事を…っ!」

「あはは、スズメ何テンパってるの〜?おもしろーい」

 

テンパるスズメをニコニコしながら茶化すアヤネ。

 

「そ、それはそうですよ!お姫様ですよ!?…でも、私、あなたの顔を拝見した事がないのですが…いえ!すみません!失礼な事を!!」

「えと…スズメさん…でしたよね?あなたは王宮の…?」

「スズメの仕えているお嬢様…サレンは貴族だ、更にサレン自身王宮騎士団(ナイトメア)の元副団長」

 

私がそう補足するとペコリーヌは「ああ〜成る程」と合点がいったようだ。

 

「あの…もしかしてですか…顔を変える魔法なんかを使われておりますか?そうでなければお姫様なんていう誰もが知る筈のお顔をお忘れする事なんて無いと思うんのですが…」

「いいえ、生まれてこのかたこの顔が素顔ですよ♪……みんながわたしの顔を覚えていない理由を今から話します……王家ではある一定の年齢になると子を武者修行の旅に出すんです、男女問わずに、それはこの王家に代々伝わる『王家の装備』に見合うかどうかをテストする為のもの…わたしもそうだったんです」

 

彼女は少しづつ声のトーンを落としていく。

 

「成る程、だからペコリーヌ…さまと今はお呼びしますね、そちらの方が呼び慣れているので、武者修行をなさっていたからわたくし達と旅すがら出会ったという事ですか」

「はい、そうなんです…といってもコッコロちゃん達と出会ったあの時には既に…わたしの武者修行は…無意味なものでしたけどね」

「どういう…?」

 

その意味を訊ねる為にコッコロが呟く。

 

「…わたしが武者修行を終え王宮に戻った時、王宮のみんなはわたしを覚えていませんでした、誰も…わたしをわたしだと…ユースティアナだと気付いてくれませんでした」

「そして代わりにいたのがあの獣人のユースティアナだな?」

「…はい、あの人はどうやったのか分かりませんがわたしに成り代わり、王女として君臨しわたしの全てを奪っていきました…」

 

いつもなら元気よく食事をしているペコリーヌの食事の手が止まる。

 

「わたしは何度もお父様やお母様…いつも仲良くしてくれた兵士さん達やメイドさん達に訴えました、でも…わたしの方が偽物だって、そう言って、捕まえようとして来ました…わたしは…家族に…指名手配犯にされたんです」

「…なんと…ペコリーヌさまにそのような過去が…」

「指名手配犯にされて…もうなんだかわたしの方が頭がおかしくなっちゃったんじゃないかって思って…この国の人達にも顔を覚えられてる筈なのに誰1人見向きもしなくて…途方に暮れてて…街から離れたくなって、それで惰性でずっと武者修行を続けて…」

「そんな時に出会ったのが私達という事さ、コッコロ」

 

コッコロは「成る程、時系列的にこちらという事ですか」と納得した

 

「すごく辛くて、苦しくて…もう全てが嫌になってた時に黎斗くん達と出会いました、黎斗くん達はわたしの事情なんて全然知らなくて…だからこそ仲良くしてくれて、ご飯を食べてくれて…本当に嬉しかったんです」

「ペコリーヌさま…」

 

彼女の笑顔は心の底から溢れ出たものだった、それに応えるようにコッコロも微笑む。

 

「う〜ん、今考えるとそうだよね〜。うちのパパもママも貴族だったからさ、王宮のこととかアタシも知ってるんだけど…この国って獣人…というか亜人の人達に風当たりが強い筈なのに1番トップの人が獣人っておかしいよね?」

 

そう言ったのはアヤネだった、中々鋭い所を突いてくる。

 

「そう…ですね…確かにアヤネちゃんの言う通りです、獣人の人が獣人の人達を差別するなんておかしいと、今思いました、どうして今までそう思わなかったでしょう?」

「それは『そういう認識』だと思い込まされていたからだ」

 

スズメの疑問に私が答える。

 

「黎斗くん、何か知ってるんですか?」

「ああ、私はペコリーヌ、君に昨日出会う前、奴と対峙した」

 

…キャルの事を伝えるべきか、一瞬悩んだがここではまだ話すべきではないと判断した、おそらく話が脱線し混乱を招くだけだ。

 

「その際、奴と会話をしてね、そこで面白い情報を聞き出すことができた」

「それはなんでございましょう、主さま」

「…この世界は奴にとって都合の良い世界に作り変えられているという事さ」

 

私の発言に皆が驚愕した、無理もない、世界を作り替えるなど途方も無いことだ、私以外でそういう発想に至るものはそうそういないからな。

 

「世界を作り替えるって…そんなことできるんですか!?あり得ませんよ!」

「スズメの言いたいことは分かる、しかしこれは事実だ」

「確かに…あの人ならやりかねませんね…世界を変えるなんて事も…でもどうしてわたしの立場を奪ったのでしょう?」

 

…そう、そこは私も疑問に思っている所だ、奴にとって都合がいい立場がペコリーヌの立場だとしてそれはなぜ?

 

権力?財力?…いや違う、おそらくそんなものでは無い、もっと、なにか個人的の思想な気がしてならない。

 

「…ユースティアナ…この名前はわたしのお母様達が…遠い異国の神様の名前からとって付けてくれたものです…とても大切な名前なんです…だから…このまま取られたままなんて…嫌なんです」

 

ユースティアナか…おそらくローマ神話に伝わる女神ディアナ、が濃厚な線だと思われる。

 

女神ディアナは純潔と月を司る女神とされている、一説にはアポロンの妹と言われ、そのアポロンはヘリオスと同一視されている…つまり太陽だ。

 

月と太陽、そしてアストライアは星、フォンはドイツ貴族の爵位の呼び名。

 

これがペコリーヌ…ユースティアナ・フォン・アストライアの由来か…

 

「確かに…君らしい…とても美しい名前だ、誇りに思い、そして必ず取り返すといいさ、奴には過ぎた名前だからな」

「黎斗くん…えへへ、黎斗くんって本当に褒めてくれますよね、そんな真顔で言われると照れちゃいますよ〜…でもそうですよね、必ず取り返します、わたしの名前を」

 

ペコリーヌの目に光が灯る、強い闘志の光だ。

 

「…やっぱり黎斗くん達には迷惑をかけられませんよね、あの人はわたしを狙っていました、きっと本物であるわたしが邪魔なんでしょうし」

「いや、一概に君だけが狙われているとは言えない、言っただろう、私は奴と対峙したと」

「…そう言えばなんで黎斗くんを…?」

 

私としても私自身が狙われているのではなく今借りているこの体の少年が狙われていると言った方が適切であるが。

 

「どうやら、記憶を失う前の私は、奴の計画を阻止したことがあるらしい、その影響もあって今の世界が構成された…とも言っていたな」

「…記憶を失う前の主さまでございますか…」

「そんな…まるで勇者みたいな存在だったんですね黎斗くん」

「…といっても記憶がない以上、赤の他人がやった事となんら変わらない、実感がないのだからな」

 

元より私がやったことではないというのもあるが。

 

「あの獣人は共通の敵、と捉えて良いだろう、私としてもあそこまでやられたんだ、このまま見過ごすつもりもない」

「黎斗くん……分かりました、一緒に…協力してあの『偽物』をやっつけましょう!」

 

私としても無策で挑むほどの愚か者ではない、奴と私とでは圧倒的に戦力の差がある、それは現状では到底埋められない差、これは事実だ。

 

「ではまずはいつも通り、情報を整理しよう、戦いとは情報を先に得た方が勝つ、そして情報はその都度整理する事で円滑な伝達、共有が行える」

「情報の整理…ですか…なら、まずあの『偽物』の目的ですよね」

「目的…それは具体的には分からないが、奴は自身に都合の良い世界を作り出し、最終的には『完璧な世界を作り出す事』が目的だと私は推測する」

「完璧な世界…とはなんなんでしょう?」

 

ペコリーヌが私に問う。

 

「…完璧、の定義が不明だが、奴にとっての完璧とは自身が『神』となる事、つまり世界のルールとして君臨し頂点に立つ事だ」

「そ、そんな悪の親玉みたいな…」

 

スズメの言う事もあながち間違いではない、これではまるで敵キャラの思想そのもの。

 

「では奴の狙いだが、私を含め昨日いたメンバー全員は確実に対象内だ、だからこそ私達が次にするべき行動は彼らとの合流または連絡を取り合う事」

「うへぇ…あの中にはクリスティーナって人もいますよね…あの人苦手なんですよね…」

 

そうだな、私も苦手だ。

 

「だがしかし、私達だけで奴を対処するのは不可能に近い、今は戦力となり得るもの、利用できるものは全て利用するべきだ」

「そうですね…あれ程の魔法を撃ち、恐らくわたし達の事は死んだって思っててもおかしくはないですが、わたし達が生きているとなればどこかで必ず足がつきます、そうなった時、今のままではまた同じことの繰り返しです」

 

そう何度も同じようなヘマをするなどあり得ない、だからこそ早急に奴等と連絡を取り合わなければならない。

 

「あれ…?」

「どうしたのぉ…?スズメお姉ちゃん」

 

話し合いをしている最中、スズメは何やら魔法を使っていたようだが、不調のようらしい、何度も試している様子だが反応がなくクルミに心配されている。

 

「いや…通信魔法が…お嬢様に繋がらなくて…元々私は通信魔法が苦手とはいえお嬢様とは何度も連絡を取り合っていますので失敗するなんて事はないと思うのですが…」

「…コッコロ、何か分からないかい?」

「承知しました主さま…」

 

コッコロは目を閉じて魔力を練り上げる、数秒もすれば何かわかったのか目を開き私の方へ顔を向ける。

 

「主さま、ここら辺一帯、魔力の大きな乱れを感じます、何か…魔力を阻害するものが大気中に漂っているような…」

「ふむ…考えられるとしたら…EMP…電磁パルス、いや魔法によるものなのだから魔力パルスと言った方がいいか」

 

電磁パルス…強烈なガンマ線や、β線やα線などの粒子線が高層大気中を通過すると、その相互作用によって、広域にわたって光電効果や電離作用を発現させ、光電子やオージェ電子、イオンが多量に生成される。

 

生成された電子は電子拡散を生じ、地磁気によって回転運動しシンクロトロン放射、物質との衝突によって制動放射を起こす事によって広い帯域の電磁波が放出される。

 

特に核爆発によって引き起こされるのだが…奴は核に匹敵する殲滅魔法とアレを称した、ならばあの魔法による影響と見た方がいいだろう。

 

「魔力パルス…?なんですかそれ?」

「おそらく、昨日ユースティアナ…君の偽物が放ったあの魔法により…そうだなこの世界で例えるならば魔力を練り上げる精霊やマナと反応を起こし、広範囲に魔力を乱すなんらかの波が発生しているのだろう」

 

魔法とは即ち私達の世界における科学、それらを阻害されるとなると人間はいかにそれらに頼っていたかを思い知ることになる。

 

「どうしましょう…これでは黎斗さん達の無事をお嬢様にお知らせする事ができません…」

 

それはこの世界でも同じだ、魔法に頼ってきたこの世界で魔法が使えないとなると凡人は途端に思考力が低下する、科学も魔法もそれを生み出してきた天才こそが状況を冷静に判断し脳をフル活用して対策を取ることができる。

 

「なら答えは1つしかないだろう、直接出向けば良い」

「直接って…黎斗さんがですか?」

「ああ、まぁ、エリザベスパークには私の知り合いもいるからね、それらの状況確認も同時に行えば一石二鳥だろう」

 

私がそう言うとスズメは納得したように頷く。

 

「主さま、今回はわたくしもついて行きます、前回わたくしがいなかったばかりに主さまに大怪我を負わせてしまいました…ですから今度は離れません」

 

そう言ってコッコロは私にしがみ付いてくる。

 

「あはは、相変わらずコッコロちゃんと仲良しですね〜」

「それでペコリーヌ、君はどうする?」

 

私が聞くとペコリーヌは1度考え

 

「…わたしもついて行きます、何はともあれ行動が先決です、現状わたしには具体的な目的はありませんし、黎斗くん達と行動することが1番だと思います」

「賢明だな、軽く準備を済ませ出発しよう」

 

私達は朝食後に救護院を出る、再び山道を歩くと考える少しばかりやる気が削がれるがそんな事を気にしていたら何も行動ができなくなってしまう。

 

怠惰とは最も危険な感情だ、少しでもこの感情を持ったのならば全ての行動に支障をきたす。

 

やらない、という選択肢はもってのほかだがやるべき事を先延ばしにする、というものですらかなり危うい。

 

物事を面倒くさがり、先延ばしにすればやるべき事がどんどんと先送りにされる、1日は24時間しかないのにも関わらずそんな無駄に時間を割くなど愚かな事だ、私にはそんな時間さえもったいない。

 

私、コッコロ、ペコリーヌの3人で目指すはテント村。

 

山道を少し登ったところにあるとスズメからの情報だ、彼女はギルド『プリンセスナイト』傘下のギルドだ、その情報に間違いはないだろう。

 

何故ならば今回の件を取りまとめているのは『王宮騎士団(ナイトメア)』…まぁ、彼等は戦時でもなければ災害等に救援として派遣されるいわば自衛隊のような立場だ。

 

しかし、この国に仕える立場の人間がこの国に君臨するお姫様の一撃で被災した人間達の世話や事後処理をしなければならないとは皮肉なものだ。

 

さて、歩く事数十分、そろそろテント村に辿り着く頃だが…

 

「あれ?テント村の様子がおかしいですね…人の気配がしません」

 

どうやら事を簡単に運ばせてはくれないようだ。

 




もう2月!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

王宮騎士団(ナイトメア)

今回は黎斗は何もしません、それでいいのか。


現状、テント村に人の姿はない、気配も感じられない。

 

「うーん?どこかに行ってしまったのでしょうか?」

「まさか、魔物に襲われてしまったとかでは?」

「いや、それは無いだろう、魔物の襲撃ならもっと場が荒れている」

 

テント村は荒れておらずむしろ綺麗な方だ、コッコロの発言よりもペコリーヌの方が今回は正しいだろう。

 

「さて、ではどこに行ってしまったか、だが…」

 

私はテント村にある焚火の後に近づきしゃがむ、見ればまだ微かに煙が出ており先程まで人がいた痕跡が残っている、大体1時間くらい前までは現場にいたようだ。

 

「ふむ、考えられる選択肢は2つ、1つはランドソルに下山した、これは昨日の破壊魔法の影響でこの場が危険と判断され避難した場合だ。2つめはパークに戻った、これも先ほど言った破壊魔法の影響、これにより逆に危険ではないと判断された場合だな」

「そうでございますね、しかしランドソルに戻ったのならばサレンさまや、えと…そのパークに所属している自警団(カォン)の方々が戻ってきてもおかしくないと思います、そうなってくると何かしらこちらにアクションを起こしてくると思いますのでエリザベスパークに戻った可能性の方が高いのでは?」

 

ふむ、中々冴えてるじゃないか、確かにその通りだ、サレンが戻ってきている場合は勿論、救護院に戻ってくるだろう、自警団(カォン)の場合もリンやシオリが私達の事を伝えたとならばマホやマコトなどは救護院の場所も知っているのだし何かしら連絡を取ってくる筈だ。

 

それに1時間程度しか時間が経過していないのならば…この山道は商業用の登山道が1つあるだけだ、わざわざ危険を犯して道外れを使い山道を下るという選択肢はないだろう、つまり下山しているならばどこかしらで私達とすれ違っている筈だ。

 

よしよし、コッコロもまた私の影響を受け思考力が上がってきているようだな。

 

「賢くなったなコッコロ」

「えへへ…そんな頭を撫でられるほどではございません…♪」

「あはは、本当にお二人は仲良しさんですね〜こうしてみると本当に兄妹みたいです」

 

兄妹か、私は一人っ子だった為あまり実感がないが、世の兄妹とはこういうものなのか?…まぁいい、結論は出た。

 

「…私達の目的地はエリザベスパークという事になった訳「うわぁ〜寝坊したっス〜!!」

 

私達の方へ近づいてくる声が1つ、特徴はかなり元気で活発さを感じさせる少女の声だった。

 

「…ん?誰っスか?見たところエリザベスパークの人達…ってわけじゃないっスよね?」

 

そう訊ねてきた少女は短髪で所謂ボーイッシュさを感じさせる風貌をしていた、恐らくは獣人だろう、頭にキャップをかぶっているが特徴ある耳部分を隠し切れていないうえ虎の尻尾が尾てい骨部分から生えている。

 

「ああ、私達はエリザベスパークの人間ではない、そのパークの人達と交流のある者だ、そういう君は?」

「あ!申し遅れたっス!!ヒーローたるもの!挨拶は基本っスよね!!コホン、改めて自己紹介させてもらうっス!!トラタイガーに憧れヒーローを目指すマツリっていう者っス!よろしくお願いするっスよ!!」

 

そう言いながら腰の鞘から剣を引き抜き決めポーズをするマツリ、どうやら彼女はヒーローを夢見る少女のようだ、私の世界でもライダークロニクルの際に仮面ライダーに憧れる少年が多数いた訳だが、女の子が憧れるとは珍しい。

 

トラタイガーと呼ばれるものはこの世界における仮面ライダー…のようなものだ、特撮でこの世界で放送されているヒーロー番組のヒーローである。

 

変身ベルトで変身し別の姿へと変貌する…まさに仮面ライダーそのもの、どの世界でもそういった類の存在はいるという事か。

 

「そうかマツリ、私は檀黎斗、そっちにいるのが私の従者コッコロ、そしてそこにいるのがペコリーヌだ、どうだろう?君はここにいたであろうパークの人達がどこにいるか、分からないかな?」

「主さま、このような子供が知っているとは思えませんが…」

「いいやコッコロ、それはないな、彼女はここに来る時『遅刻した』と言っていたろう?つまりなんらかの関係者の可能性が高い」

 

私がそう言うとコッコロは納得したように頷く。

 

「黎斗くんってどんな言葉も聞き逃しませんよね、凄いです」

「情報は最大の武器だ、些細な言葉、行動をよく観察しどんなものも見落とさない聞き逃さない事が非常に重要だ、コッコロも先程の観察眼は優れていたがもう少し精進するといい」

「ご指摘ありがとうございます、流石は主さまです」

 

私達の会話を横で聞いていたマツリが何やらキラキラとした目でこちらを見てくる。

 

「ほあ〜!かっけぇっス!知的っス!!まさにトラタイガーのようなお人っス!えっと黎斗さんって言ったスよね!?もしかしてヒーローなんスか!?」

 

…ヒーロー…か

 

「…さぁ、果たしてどうだろうね」

「うひゃ〜!ミステリアスな所もヒーローっぽいっス!!」

「それより、知っているなら教えてくれないかい?」

「おっと、そうだったっス!エリザベスパークの人達なんスけど、昨日にあった爆発の影響で街に避難って話も出てたんスよ、でも爆心地からも離れてて大した影響もないって、今朝方判断されてつい先程パークに戻った筈っスよ」

 

やはり私達の見立て通りか。

 

「それで君はその手伝いの筈だったのだが、寝坊し遅刻をしたという事か」

「うう…そうっス…不甲斐ないっス、これでも王宮騎士団(ナイトメア)の端くれ…頑張らなくちゃダメっス!!」

「かぁわいいですね〜って…王宮騎士団(ナイトメア)!?」

 

…ペコリーヌのこの反応は…まずいな、面倒な事になりそうだ。

 

「む、その名を聞いて後ずさるとは…お姉さん、悪者っスか?王宮騎士団(ナイトメア)は正義のギルド…その名を聞いて驚くのは犯罪に手を染めた悪党だけっス!」

「ペコリーヌさまは何か犯罪に手を染めているのですか?」

「い、いえ、言ったじゃないですか!わたしは王宮から直接指名手配されてるって!だからあまり王宮騎士団(ナイトメア)の人達には会いたくないんですよ…」

 

とはいえだ、その反応は彼女の正義感とやらを刺激してしまうだけ、まぁ相手は子供、自分で撒いた種だ、今回はペコリーヌ自身に処理をしてもらおう。

 

「む、何を話してるっスか、逃げる為の作戦会議っスか…そんな事はさせないっス!!まずはえーと…事情聴取ってやつっス!大人しくして欲しいっスよ!!」

 

そう言ってマツリは剣を構えペコリーヌ目掛けて駆け寄って行く、中々身体能力に優れているな、流石は獣人であり王宮騎士団(ナイトメア)だ、子供とはいえ侮れないな。

 

「わわっ!?いきなり襲ってこないでください!?というか事情聴取じゃないんですか!?まさかの実力行使!?」

 

ペコリーヌは瞬時に王家の剣を出現させ、マツリの縦振りの剣を受け止める。

 

「むむっ!大人しくするっスよ!」

「お、大人しくって…!!そんな剣を振り回しながら言わないでくださいよ〜!!」

 

マツリは剣をブンブンと振り回しながらペコリーヌを追いかける、一方ペコリーヌは相手が子供だからか攻める事は一切ない、バックステップで適切な距離を取りつつ剣で攻撃を弾きいなしていく。

 

「く、黎斗くん!見てないでなんとかして下さい〜」

「…なぜ私が君に手をかさなければならない?君があらかさまな態度を取らなければそんな状態にならなかったろう、君は今まで指名手配犯になっていた筈だ、それなのにポーカーフェイスの1つもできない自分を恨みたまえ」

「そ、そんな〜ってわわっっ!?」

 

やはり攻められないというのが問題だな、若干押されている。

 

「そこで何をしている!!」

 

不意に声が響いた、マツリではない、別の少女の声、全くつくづく似たような展開が続く。

 

現れたのは銀髪でローポニーテール、割と派手な衣装をしたこちらもどちらかと言えばボーイッシュな少女だ。

 

「あ!トモねーちゃん!丁度良かったっス!この悪者を逮捕するのに協力して欲しいっスよ!!」

「逮捕って…君はまだ見習いなんだから逮捕権なんてないよ…でもまぁ、相手はかなりの手練れのようだし、僭越ながら助太刀させてもらうよ!!」

 

トモと呼ばれた少女は抜刀する、それはレイピアの様に細く長い剣…細剣と呼ばれる物だろうか。

 

実は細剣と呼ばれる武器は現実には存在しない、創作物では広く親しまれている武器種だが現実ではレイピアのような『相手を貫く』事に特化した武器しか存在しないというのは面白い所だ。

 

ゲームなどでの細剣の特徴といえば高速の連続攻撃というイメージだが果たして…

 

「ちょっっ!?」

 

マツリが身を引くと同時に一瞬でペコリーヌの間合いに入り込む、低い。

 

彼女の体勢は低かった、その体勢から構え

 

「ミクマ流奥義…阿修羅…!!!」

 

高速の斬り上げ、某格闘ゲームの昇竜拳を豊富とさせるそれはペコリーヌの喉元を斬り裂こうと下から上へと斬り込んでいく。

 

「っっ!!」

 

間一髪ペコリーヌは仰反ることで回避するも体勢が大きく崩れる、対してトモは冷静にトントンと軽くジャンプする、これは格闘技や剣技で行われるルーティンに非常に酷似している。

 

その昔はボクシング選手などで多く見られたステップの1つだ、色々とあるが基本は小刻みに前後に軽くジャンプステップをし相手の行動にいち早く反応し対応する、今ではあまり見られないもの。

 

着地と同時の瞬発力を利用し前へ後ろへと動く事が可能とされている動きだ、そして重要なのはリズム、完成されたリズムはそこからの流れを決める、例えるならドラマーがドラムを叩いていない時でもリズムを取るようにその時のリズムを掴み、頭の中で次にするべき行動を決める。

 

それにしても彼女のステップは垂直に跳ね、それも綺麗すぎる程綺麗だ、ステップ間隔も一定、トーン、トーンといった余裕のあるものだ。彼女独特のルーティンといった所だろうか。

 

「っ中々手強そうな相手が出てきてしまいました…ねっ!!」

 

ペコリーヌが動く、それと同時だった、トモが一定間隔で跳ねていたそのルーティン、着地と同時に瞬時に近づく、先程よりも速い。

 

「なぁっ!?」

「…ミクマ流奥義…摩尼跋陀羅(まにばだら)

 

横薙ぎが振るわれる、左から右へ、彼女は右利きの為左肩から右方向へと薙ぐ形だ。

 

その大振りはペコリーヌに通じる事は無かった、その速度で放たれた攻撃も対応できた、しかし

 

その横薙ぎはフェイント、本命はここからだった、そこから彼女は回転し、連続で縦に剣が振るわれる。右回転で回り、その勢いのままペコリーヌには背を向けるような体勢から剣が振り下ろされている、それも超高速でだ。

 

ペコリーヌはその勢いの前に後退せざる得ない、凌いでこそいるが圧倒されている、勿論、こちらが手を出さないとはいえペコリーヌがここまで一方的だとは…

 

「ふふ、中々凌ぐじゃないか、でもあなたの剣は乱雑、型も無ければ技もない、まさに喧嘩の剣…そんなものでは由緒正しいミクマ流には勝てない」

「け、剣術ですか!?た、確かにわたしにはそういうものはありませんが…信念と根性だけはあります!!」

「そう、根性ねぇ…ならミクマ流の剣術48種と奥義28種…全てが試せそうで楽しみだよ」

「そんなに多いんですか!!?」

 

ふむ、ペコリーヌと彼女とでは圧倒的に『技』というものの差が出ているな、決められた技と技のルーティンを絶え間なく連続でこなす事でまさに1つの流れが完成している。

 

一方ペコリーヌにはそういったものがまるでない、1つ1つ対処をする事で精一杯だ。仮に彼女が全力で対応したとしても力のごり押しになるだけでそれを見切られれば今のこの劣勢状態と変わらなくなるだろう。

 

「お次はこいつだ…ミクマ流剣術 陣風!!」

「ううっ!!?」

 

高速刺突剣撃がペコリーヌを襲う、私が目で追えたのは4発程度だが実際は8発程は打ち出されているだろう、ペコリーヌは辛うじて回避と防御に成功しているがこのままだと本当にまずい事になりかねないな。

 

「ちょっ…!本当に待ってください!!えと…その!ここは穏便に平和的な解決っていうのは出来ないんでしょうか!!?」

「ほう?悪人にしては珍しい物言いだね、こちらとしてもそれが1番なんだけど…陛下が病に伏せている今、少しでも怪しいと感じた不安の芽は先に断ち切っていく必要があるからね…手加減無用さ!!!」

 

…病に伏せている?あの偽物のユースティアナが…?

 

成る程、昨日放った魔法による影響か、ふん、あれ程の事を言いながら1度放てば疲労で動けなくなるとは良い様だ。

 

…いや待て、本当にそうか?私達を確実に殺す為に昏睡するレベルの魔法を放つというのは分からなくはないが…何か府に落ちない…あの場にいたラビリスタ、奴はコードを変更している際、何か別の事も同時に行っていた…と今にしては思う。

 

「ミクマ流剣術 燕返し!!」

 

トモが次に放った攻撃は1度目は右斜から剣を振り落とす斬り下げ、そして瞬時に同じ軌道の斬り上げを放つ。

 

「くぅっ…こんのぉ…!!良い加減怒りますよ!!わたしだってなんの罪もないのに捕まるなんてごめんです!!わたしの剣技は喧嘩ですって!?違います!わたしの剣技は魔物と生きるか死ぬかで磨かれた実践剣術です!そんなお上品なお座敷剣術に負けま……せん!!!」

 

次に放たれる剣術に合わせ、ペコリーヌが一撃、まるで裏拳を放つが如く…そうだな裏剣を放つ、その一撃は全力だ、おそらく相手が確実に防いでくれる技量があると信じての一撃、そうでなければ相手は粉微塵になるだろう。

 

「ぐぅっ!?な、中々重い一撃だね…やるじゃないか」

 

その攻撃の威力は完璧に防いだ筈のトモを数メートル程吹き飛ばす。

 

「はぁ…はぁ…全く、話を聞いてくれない割に強いんですから…」

「ふふ、私程度の技量で驚いていたら王宮騎士団(ナイトメア)とは戦えないよ」

「そうですね…あのド派手な人も相当な使い手でしたし…」

 

さて、ここで関係のない話を1つしよう、少し気になった事だからな。

 

あのトモが戦闘中に技名を言っているという事に違和感を覚える人は少なからずいるだろう、普通はそんな事言ってないで行動だけしろ、と。

 

しかしながら口に出す事に何か意味があると私は思う。例えば同じ類では魔法がある、魔法の場合はそう言った技名を口で言うというのは『詠唱』の意味合いがある、それにより威力を上げたり精度を上げたりすることが出来る。

 

では剣術や拳術などの場合はどうだろうか?ゲーム的に考えればやはり演出面を強調する為、ボイス付きのキャラクターが叫ぶ事でプレイヤーに分かりやすくそしてド派手な演出が見れるという面が強いだろう。現に私のライダーシステムにはキメワザの演出としてカットインと音声が鳴り響くからな。

 

しかし彼女は48種の剣術と28種の奥義があると言った、それ程までに多い技となると頭の中で整理して次にどれを使い、どう繋げていくかの取捨選択を瞬時に行わなければならない。

 

そこで口で技名をしっかり言う事で改めて脳が理解し処理を行なっていると考えた方が自然だ。

 

魔法の場合でも同様。以前キャルの魔導書を拝見させてもらったことがあるが彼女の使える魔法の種類はなんと256種類、それらを覚えそして瞬時にその場で取捨選択し発動するとなるとこちらもやはり口頭確認は重要になる。

 

簡単な例えを出そう。少学生が先生の言葉を繰り返し口に出して物事を覚えるようなものだ。

 

後はそうだな…君達にも経験がないだろうか?

 

周りには勿論、誰もいなく自分1人なのだが、何かをふと思い出した時、「あっそうだ」とか「あ、忘れてた」とか無意識に言葉として出てしまう。ゲームなどでやられた際に「痛っ」とか「えーなんで!?」とかを咄嗟に出してしまう。

 

これらは技名を口で言う、という事に非常に似ている、言葉にする事で脳が改めて理解を示す、整理できるというのが大きな点だ。

 

例え魔法のように口に出す事自体にメリットがある訳ではない剣術などにも技を叫ぶ事に意味があると私は考えている。

 

勿論、気合を入れたり力を込めたりする意味合いもあるのかもしれないがな、物を持ち上げる時に「いっせーの、せっ!」や「よいしょ」と言って持ち上げた方が力が入ったりするのと一緒さ。

 

「ふふふ!楽しくなってきたね!!」

「ううっ…っ!クールビューティーな子かと思ってたんですが意外と熱血な子ですね…!!」

 

2人の戦いは未だ続いている、コッコロもまたオロオロと自分も参加しようかと悩んでいるようだが、私の判断に任せているという感じだ。

 

「っと…あれ?ちょっと待ってもらっていい!?自分から吹っかけておいてなんだけど!!」

 

その時、不意にトモの動きが止まる、ペコリーヌもまた、戦いたいわけではない為、攻撃を止めてくれるのならば仕掛ける必要はないと判断し動きが止まった。

 

「えーと…そこにいるのってもしかして…檀…黎斗さん?」

 

トモは剣を納めながら私に近づいてくる、何やら彼女は私に用があるようだ、ようやく話が進展しそうな気がしてならない。

 

 




ペルソナ5Sが楽しみで今はドキドキワクワクで書いてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神出鬼没

この作品、黎斗以外のIQも相対的に上がってる気がする…
書き手のIQが乏しいせいで追いつかないじゃあないか…(必死)


私に近づいてきたトモ…なのだが、近すぎるぐらい近いな、彼女は私との身長差からこちらを見上げる構図になっているのだがとにかく近い、鼻先数センチまで顔を近づけてくる。

 

「…私に何か用か?」

「あはは、聞いてた通り、全然微動だにしないね、ふふ、これは逆にからかいがいがあるな」

 

そう言って満面の笑みで私から半歩離れる。彼女はからかう事が好きなようだな、それも年上を。

 

「自己紹介をしよう、私は王宮騎士団(ナイトメア)団員の1人、トモ。檀黎斗さんには前から会いたいと思っていたんです」

「私に?何故」

 

彼女周りに知り合いが居たかどうか…ふむ

 

「主さまのお知り合いの方…?またしても女の人…」

「ふふ、違うよ、私達は初対面さ、いやなに、前に人相書きを見ていたことがあってね」

 

彼女はコッコロにそう言いながら、ペコリーヌの方に顔を向ける。

 

「どうだろう?少し話をしないかな?」

「うーん?どうも釈然としませんが…わたしも好きで戦いたいわけではありませんし…ただあの偽物の配下である王宮騎士団(ナイトメア)の人達とはあまり話したくないのですが…」

「はは、嫌われたものだね……偽物ねぇ…君たちの話も聞きたいな、それでいいかな?マツリちゃん」

「へ?自分っスか!?自分も…確かに暴力だけで解決するのは良くないって思うっス!だからトモねーちゃんに従うっス!!」

 

その方向で話がまとまっているようだが

 

「しかし、私達には行くべき場所がある。エリザベスパークだ、のんびりとここで会話をしている暇は無いのでね」

「ああ、そういう事か、だったら馬車を用意しよう、現に私はパークの物資の配送の為に馬車でここまで来ていたからね、あなた達も乗っていくといい、馬車の中で話しながら向かおうじゃないか」

 

その言葉を皮切りに私達は馬車へと向かう。

 

馬車に乗り込み、エリザベスパークへと向かうその道中。

 

「それで?私と話をしたいとはどういう意味かな?」

「それは…ジュンさんって知ってますよね?黎斗さん」

 

ジュン…か、私がこの街の状況把握の為に王宮の調査に出た際に王宮を守護していた全身を覆う黒い鎧を身に付けた女性の名前だ。

 

黒い鎧という点でどこか親近感を覚え、私は彼女と会話をしたところ意外にも話が合い、日常的な会話をしつつ何か王宮の情報でも聞き出せないかと親しくさせてもらっていた人物だ。

 

成る程、そこから私の話が出たという事になるのか。

 

「ああ、知ってはいるが…気になる点もある、人相書きというのはどういうことだ?王宮での私の扱いはどうなっている?」

「あー…それは…これ言っていいのかな…」

「ジュンさんを信用しているというのならば話してもらいたいところだ」

 

私の言葉にうーん…と唸るトモだが決意を固めた目をこちらに向け。

 

「…わかりました、私はジュンさんを信じていますし、ジュンさんがあなたの事は良い人だと…とても楽しそうに話をしていましたから」

 

楽しそうに話すという事が珍しいといった感じのニュアンスだ、事実ジュンは全身鎧兜で覆われ表情は伺う事はできない。それにあまり感情を表に出す事もない性格だ、彼女を知る親しい人間ならばもの珍しいのだろう。

 

「昨日、私達王宮騎士団(ナイトメア)の元に人相書きが届きました、それが…あなたとそこにいる女の人」

 

トモが指を指したのは私とペコリーヌ…成る程。

 

「昨日から陛下は体調不良を訴えお休みなさり、最後に提示してきたのがこれです、他にも何人か指名手配者として人相書きが配られたけれど、私の知る人物は黎斗さん、貴方だけだった」

「え!?なんスかそれ!自分聞いてないっスよ!?」

「まぁ、マツリちゃんはまだまだ新米だからね、仕方がない事さ」

 

これで私もペコリーヌと同じくお尋ね者扱いか、全く人生……は1度終了しているから何と言って良いかわからないが、敢えて使わせてもらおう、まさか人生で3度も指名手配されるとは私の才能はやはり恐ろしい。

 

「ジュンさんも驚きを隠せてなかったよ『黎斗くんに何があったんだ』ってね、ふふ、随分と親しいみたいですね、ジュンさんがあんな反応するなんて見たことがなかったから凄く新鮮です」

「…何人か、という事は他の人物の名が挙がっているのだろう?」

「そこまでは流石に言えませんよ、マツリちゃんにデカい顔してますが私も下っ端に近いですしこれ以上の漏洩は私の権限ではちょっとね…でも驚きなのはあのクリスティーナもその中に入っていたという事」

 

…クリスティーナ、そうか彼女もあの場にはいたからな。

 

「はえ〜あのおばさんやっぱり悪い人だったんスね!自分は分かってたっスよ!」

「あはは…マツリちゃんの言いたいことも分かる。私も反りが合わない人間だったのは事実だからね、でも今回の件は少し府に落ちない部分も多い」

 

トモは顎に指を当て考える。

 

「クリスティーナの逮捕……それは昨日の深夜に行われました、何かあったかは知らないけど随分とお疲れの様子のクリスティーナが帰ってくると同時に緊急招集された先鋭隊が彼女を拘束した」

「え!?あの派手な人捕まっちゃったんですか!?」

「まぁね、ぶっちゃけ先鋭隊と言えど相手はあのクリスティーナだ、彼女が黙って捕まるわけないし暴れに暴れてね、こっちの被害は甚大、最終的に彼女を捕縛したのはジュンさんだった、私が見ていた限りではジュンさんくらいしかまともに戦えてなかったよ」

 

流石は王宮騎士団(ナイトメア)の団長であるジュンだな、あのクリスティーナとまともに戦えるとは。

 

「でもよろしいのですか?その事はわたくし達に言ってしまって」

「そうだね、君の言いたい事はわかるよ。クリスティーナは王宮騎士団(ナイトメア)の副団長の立場…そんな人間が逮捕されたなんていうのは確かに表立って言える事じゃない……それでも今のこのご時世じゃ隠し立てなんて出来っこないしすぐにでも世間に露見するさ」

 

トモは半ば諦めの表情で軽く笑いながら次の言葉を紡ぐ。

 

「クリスティーナの捕縛の件なんだけど、気になったのは招集された際に伝えられた『先日の独断行動による器物損壊と戦争になり得る火種を故意に促した事による処罰』という名目、確かに妥当な判断ではあるとその場で聞いた時は感じたけれど…」

 

トモはそこで1度区切り、再び自身の気付いた点を話し始める。

 

「よく考えれば『対応が遅すぎる』、ここ最近の王宮騎士団(ナイトメア)の世間の評価を見れば今回の件に対する対応の遅さは寧ろ印象が悪い、今の今まで身内を庇ってた癖に突然足切りするなんて何か王宮にとって都合が悪くなったのでは?ってね」

 

特に王宮騎士団(ナイトメア)は世の為人の為と謳っているギルドだからな、余計に印象が悪くなるだろう。

 

「そうなってくるとやっぱり問題になってくるのは獣人…動物苑の人達の対処かな。この事はすぐにでも世間に広がる、と考えると獣人達の暴動が起きかねない。現状の王宮は陛下もいない、副団長もいない、クリスティーナの逮捕によりその一派も大勢抜けちゃったし先鋭隊の人達も昨日の怪我でいないんだから戦力も人手もかなり少ない、最悪だよ…はぁ…明日からその処理は私たちに任される事になると考えると……」

 

…しかし逆に言えば、そうした世論を度外視する程、あの偽物のユースティアナはあの場にいた人間を確実に排除しようと考えているという事になる。

 

そしてそれを指示したという事は、奴は私たちの生存に気が付いている、または生存していた時の場合を想定した保険を掛けていたという事になる。

 

やはり奴を侮ってはいけない、戦闘能力の高さだけでなく策を二重にも三重にも練ってくる策士だと考えるべきか。

 

「トモ、と言ったな、有益な情報提供に感謝しよう」

「いえ、こっちもあなたと直接会えてよかった……ところで陛下を偽物と言っていたけど、その真意を聞きたいんですが…」

「別に話してもいいが君たちにとってはかなり胡散臭い話になるが」

「構わないですよ、私も今の王宮には不信感を抱いていますから…おっと口を滑らせてしまいましたね」

 

彼女は自頭が良いのか、勘付いている様子ではあるな、だが世界の改変による影響で確信にまでは至っていない。

 

「偽物、と断言できる理由…それがそこにいるペコリーヌが本物のお姫様だから、と言ったらどうだろうか」

「…へぇ、随分と面白い理由ですね、根拠は?」

「では逆に聞こうか、なぜ彼女は指名手配されている?昨日にそうなった私と違い、彼女は以前から指名手配されている筈だ」

「…聞いた話では王女を語る罪人として……っと言われてみれば何故そんなことをする必要が…?」

 

やはり口頭確認とは重要だ、口に出すことで改めて疑問に至る事もある。口に出すことで自身の脳のみで完結するよりも第三者の視点で耳から聞く事ができるからな。

 

「そうだ、彼女に何のメリットがあって王女を騙る必要がある?しかもだ、彼女は王宮に入り込んでまで自身を王女と騙った事になる。その場にいた第三者からしてみれば確かに頭のおかしい人物による行為だと思えるがどう考えてもリスクの高さとメリットが釣り合っていない」

「…それに加え、陛下は獣人だと聞いています…そこにいるペコリーヌさんは人間ですからね、先代の王や王妃もまた、ただの人間です。辻褄は合う…」

 

彼女は以前から自国の代表たるユースティアナが獣人という事に疑問を抱いていた、そこに舞い込んだこの情報だ。

 

「それとは別に私が気になっていた事があるんです、それはペコリーヌさんの装備、それを見たことがあったんですよ」

「この王家の装備を…ですか?」

「そう、王家の装備だ…そんな代物を王宮から盗み出す事なんて簡単にはできやしない」

「でもトモねーちゃん、本当にそれがその王家の装備ってやつなんスか?」

「なぁに、さっきの打ち合いで実感したよ、間違いなく本物さ、小さい頃に見た憧れの伝説の宝具…それと全く同じものだって確信を持てる」

 

これは…運がいいかもしれないな、今、私は少しでも戦力が欲しい、正直な話、奴の配下である王宮騎士団(ナイトメア)の人間をこちらの戦力に加える事は不可能だと思っていた。

 

しかしこれならば…トモからジュンへと繋げれることができれば大きな戦力となり得る、実に素晴らしい。

 

「っと、お話はこれまでかな、見えてきたよ、エリザベスパークが」

 

トモの言う通り眼前に牧場が見えてくる…のだが私は微かな違和感を覚えた。

 

そして馬車から降りるとその違和感は一層より強く感じる。

 

「今回の馬車の旅は爆破をされなくて良かったです……主さま?如何いたしました?」

「…見ろコッコロ…『牧場が綺麗すぎる』」

「へ?あー確かに綺麗ですが良い事じゃないですか!凄いですね〜色々なギルドの人達がお手伝いをしてるって話ですがここまで綺麗になるとは」

 

ペコリーヌが呑気なことを言ってくるが…それだけでは到底無理だ、まだ正午になったばかりの時間、仮に昨日から作業を行なったとしてアレほどの被害をたった1日でここまで直すことなど不可能。

 

「黎斗さん!横からで悪いけど、物資が下ろし終わったから私達はもう行きますね」

「ああ、トモ、君は確か物資の運搬係なんだったな、これから何度も往復とは大変だな」

「まぁ仕方がないことですよ、ただでさえ王宮騎士団(ナイトメア)は人手不足ですし、これもまた『正義の味方』って奴の仕事ですから、でしょ?マツリちゃん」

「そうっス!!トモねーちゃん、自分も力仕事なら手伝うっスよ!!」

「そうしてもらえると助かるよ、それじゃあ黎斗さん、これで私達は失礼します、また今度ゆっくりとお話でもしましょう」

 

そう言ってトモとマツリは馬車へ向かい街へと戻って行った。

 

「さて、この早すぎる復旧も気にはなるがまずはサレンを探すべきか…」

「あら?そこにいるのって黎斗くん!それにペコリーヌちゃんも!」

 

私達が行動を開始しようとした時、声をかけられる、リマだ。

 

「良かったぁ〜無事だったのね!」

「そういう君こそ無事で何よりだ、他のみんなも無事かい?」

「勿論よ!あ!ほら、2人共丁度いいところに!」

 

そう言ってリマが手招きすると、やって来たのはリンとシオリの自警団(カォン)コンビだ。

 

「おー黎斗じゃん!生きてたんだぁ〜良かったぁ〜」

「黎斗さん!!無事で良かったです…!」

 

2人は私に気づくと足早に近づいてくる。

 

「2人もよく頑張っているようじゃないか、特にリン、君が働いているなんて不気味なくらいだ」

「もう酷いな〜、あたしだってやる時はやるんだよ!」

「他のギルドの皆さんのおかげでここまで復興しました、感謝しかありません」

「少し聞きたいことがあるのだが、ここまでの復興…例え何百人いようとたった1日でここまでなるとは思えないのだが」

 

私がそう言うとリンが少し考えた後、言葉を発する。

 

「あー、そういえばなんか不思議な女の人が来てさ、確かリマの知り合いの人だったよね?」

「ん?あ、ネネカちゃんの事ね、そうなのよ、ネネカちゃんがフラ〜とここに来てね、たちまち牧場を直していったのよ」

 

…『ネネカ』確か七冠(セブンクラウンズ)の1人にそのような名前があった筈。

 

「詳しく聞きたい、リマ」

「え?詳しくって言われても…うーん、知ってる事と言えば凄い魔法使いでたまに私のお手伝いをしてくれて…神出鬼没の不思議ちゃんって感じの子…かしら」

「神出鬼没か…会う事はできないだろうか?」

「うーん、難しいかもね、本当にあの子は自由というか決まった時間にアレをやってるコレをやってるっていうのは無いし…」

「そうか…」

 

七冠(セブンクラウンズ)の1人かもしれない人物に接触できれば奴…偽物のユースティアナの対策に利用できるかもしれないと思ったのだが…そう上手くいくものではないか。

 

「ネネカ…どこかで聞いた事があるような…」

 

そう呟いたのはコッコロだった、やはりコッコロは…

 

私の推測ではコッコロもまた『重要人物』の1人、流石に七冠(セブンクラウンズ)とまではいかないだろうが。

 

以前、クリスティーナの権能である『絶対防御、絶対攻撃』これらをコッコロは阻害した。これは恐らく七冠(セブンクラウンズ)の持つ力と同じものだ。

 

私はコッコロに対して前々から疑問に思っていた事がある、それは『何故コッコロが私の従者なのか』という事だ。

 

適当に無作為に選ばれたとは思えない。更にコッコロの口振りからアメスによる助言以前より私…いや、主となる存在を求めていたという点も気になる。

 

コッコロが夢見がちな少女だから?違う、何かしらのきっかけがある筈、そのきっかけこそが彼女を形成する憧れの主さまという部分に凝縮されている。

 

結論を述べよう、コッコロは間違いなく七冠(セブンクラウンズ)の誰かの関係者だ。

 

「あら?あなたは初めて見る顔ね」

「これはご紹介が遅れました、わたくし主さま…黎斗さまの従者であるコッコロと申します」

「従者…?黎斗くんって偉い人だったの?」

「いいや、そういう身分ではないさ…どうやら私はコッコロによると選ばれし者らしい」

 

私がそう言うと「なにそれ!まるで勇者じゃない!」とリマは笑った。

 

「とにかくそのネネカの事は後にしよう、まずはサレンだ。さてコッコロ、サレンはどこにいると思う?」

「どこに…でございますか…この広い牧場ですし…闇雲に探すのは中々難しいですからね…うーむ…」

「コッコロ、これは私から君への問題だ、彼女の性格を考えればおのずと場所が導き出されるはずさ」

 

コッコロは考える、必死に頭をフル回転させ、私の期待に応えようとしているのが見て取れる。

 

「…まず、この現場は被災されてから1日程度しか経過しておりません、ですから現場はまだまだこれからの工程を決めたりする段階でしょう。施設などの修繕自体はそのネネカさまとやらや他ギルドの皆さまの力により概ね終了しておりますので力作業をしている可能性は少ないですね」

 

そうだな、本来彼女の性格ならば率先して力作業などをしている可能性の方が極めて高い、しかし今回はその殆どが終わっているのだからその点は考慮しなくていい。

 

「となると、サレンさまの性格を考えるならば、この牧場の被害額やら何やらの相談、先程言った工程などの話し合いをしている可能性の方が高いです」

「つまり?」

「…話し合いができる場所、どこか建物内もしくはその付近にいるのではないでしょうか?」

「ふむ、素晴らしい推察だ。褒めてやろう」

「わふぅ…♪」

 

私はコッコロの頭を撫でる、最近は褒める度に頭を撫でている為、コッコロがなんだか犬や猫のようなペットの存在になっている感覚だ。

 

「ではリマ、サレンがどこにいるか分かるかい?私達の予想ではこの牧場の建物付近…この牧場に建物は少ない、本拠点の宿舎か厩舎(きゅうしゃ)のどちらかだと思っているのだが」

「サレンディア救護院の方ですか?だったら宿舎の方で見かけましたよ」

 

そう答えたのはリマではなくシオリだった。

 

「そうか、ありがとうシオリ。そして推測通りだったぞコッコロ」

「主さまのご期待に応えられてコッコロは満足でございます」

 

フンスと鼻を鳴らして得意げなコッコロを見つつ私達はサレンの元へと向かう。

 

 

 




早く戦闘描写が書きたい(発作)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

メルクリウス財団

グラブルvsをやっていて ふと思う、プリコネvsも出そう!(提案)


宿舎に向かう事10分。宿舎には複数の人間が作業をしている姿が見て取れる。

 

「お、黎斗でねぇでべか!無事で良かったけろ!」

 

その人の群れの中から1人、私達の存在に気づきちかづいてくるのはマヒルだった。

 

「大分ここら辺も元に戻って来ていますねマヒルさん」

「んだべ!これもみんなの協力のおかげだ、怪我してた人達や動物もよ、あの『メルクリウス財団』ってギルドのユカリちゃんが治してくれてよ、ありゃ凄いべ、たった1人で全部治しちまうんだからよ、医者要らずだべな、あっはっは!」

「ユカリさんがここに?」

 

つまりここにはメルクリウス財団の人間も来ているということか、しかし彼女達のギルドは中々癖が強い、特に金銭が関わるとなると面倒なメンツが揃っている。

 

「おや?主さま、当たり前のようにお知り合いがいるのですか?」

「ああ、先に言っておくよ、メルクリウス財団の面々は全員、私の知り合いだ」

「そうでございますか…」

 

あらかさまにテンションが下がるコッコロは一先ず置いておき。

 

「マヒルさんの足を止めていられないな、ユカリさんも聞いた話では忙しそうだし、挨拶はこの辺に私達の目的を済ませてしまおうか」

「おお、相変わらず空気というか場を読むのが得意だべな黎斗は、そんじゃまお言葉に甘えさせてもらうべ。オラは一応この牧場の経営主だべから色々とこれからの事を話し合わなくちゃなんねぇからな、また今度ゆっくりこの牧場に来てくれよ〜!」

 

マヒルはそう言ってこの場を後にする。

 

「うーん、それにしても人が多いですね…サレンさんってどんな人なんですか?」

「特徴か…君のように髪が長く、整った顔立ち、金髪で碧眼のエルフだな」

「おお!詳細かつ黎斗くんの評価が高いなんて中々珍しいですね、もしかして好みのタイプの女性なんですか?」

 

…好みかどうかは分からないが確かに嫌いではないタイプではある。

 

異性に…というより私としては相手をするのならば黙って従うような人間よりも反骨精神で挑んでくるタイプの方が好ましい。

 

仮に女性に求めるとすれば、私に対して真正面からぶつかってくるようなタイプが好みと言えよう、となればサレンは当てはまっている。

 

「さて、そんな事よりも…サレンはあそこにいるようだぞ、何やら揉めているようだが…」

 

私達の目の前には言い争っているサレンの姿があった、その言い争いの相手、それはメルクリウス財団に所属する、深い青髪のロングポニーテールが特徴的な女性、ミフユだ。

 

内容を簡潔に言い表すならこうだ、ミフユはこの土地の魔力の乱れ、恐らく昨日の破壊魔法の影響によるもの、それによる環境変化を元に戻す施設を作る。一方サレンは景観が大事、その施設は巨大なものになる為、この自然豊かな土地の景観を壊したくない、予算も馬鹿にならないのだから、といった具合だ。

 

この2人は別に険悪な仲という訳ではない筈だ。

 

「2人共、戯れてないでもっと円滑に話を進めたらどうだ?」

「「誰が戯れてるのよ!!」」

 

2人の声が重なる。

 

「そうだにゃ〜2人とも落ち着くにゃ、ここには被災した人達も大勢いるんだから、そんな大声で喧嘩みたいなことしてたらストレスを感じる人もいるにゃ」

 

そう2人の仲裁に入ったのミフユと同じメルクリウス財団の一員タマキ、猫の獣人で淡い赤紫の短髪の少女だ。語尾に「にゃ」をつける安直なキャラ付けをしているのも特徴的か。

 

「黎斗もこっちに来てたかにゃ、とにかく2人を止めてくれてありがとにゃ〜、2人ともこの調子でかれこれ30分以上はこんな感じだったにゃ」

「そうよね、配慮が足りなかったわタマキさん。サレンさんとの話し合いはいっつも盛り上がっちゃって」

「そうねぇ、ミフユさんの話はいつも身になるから結構本腰入れちゃうのよね、あまりそういう話をする相手があたしにはいないから」

 

サレンとミフユ、先程の険悪そうな雰囲気はどこへやら今は2人共、笑顔で談笑している。

 

「それは私も同じよ、ウチのギルド、金銭絡みなのにこういう面倒な話してくれる人いないんだもの」

「ふふ、その面倒な話が楽しいのにねー?」

「ねー」

「君達戯れは済んだか?」

 

私が再びそう言うと流石に談笑を止める。

 

「あら、ごめんなさいね、貴方も来ていたの黎斗くん、行方不明だって聞いてたから心配したのよ?」

「そうよ、何気に感動の再会ってヤツじゃない!あんた、昨日から行方不明になってたんだもの…結構心配したんだから…」

「その心配を払拭する為に私はこうやって足を運んだんだ、感謝して欲しいものだな」

 

私の言葉にどこか安心感を覚えたのかサレンは微笑みをこちらに向ける。

 

「とはいえ、サレンが声を荒らげるとは珍しいな」

「ふふ、そうなのよ〜さっきからねサレンさん、『黎斗は無事かしら…心配』って言っててイライラしてたのよ?それを八つ当たり代わりに私にぶつけてきてたのよ」

「なっ//べ、べつ…だって黎斗はその…同居人だし?か、家族だもの!当然でしょ?」

 

2人の会話を聞いているとタマキがこちらに寄ってくる。

 

「黎斗は知り合いだけど、そっちの子は初対面だにゃ、よろしくにゃ〜はいこれ、たいやき」

「あ、ありがとうございます」

「あ、この味知ってますよ!よく屋台で売っていますよね?」

「お、知ってるかにゃ?よく見たら…お姉さんよくうちでたいやきを買ってくれる人だにゃ!いつもご贔屓にありがとうにゃ!」

 

私もタマキから貰った、たいやきを食べつつ

 

「アタシはタマキにゃ、そっちにいるのは同じギルドメンバーのミフユ、他にもユカリやアキノっていうのがいるから後であったらよろしくにゃ」

「君もこの牧場の手伝いを?リン程ではないが君もあまりこういった作業に加わるタイプではない筈だが」

「今はそんなこと言ってる場合じゃにゃい非常時にゃ、元々動物苑は助け合いの精神がモットー、今回は意外にもアタシ自身能動的に動いてるにゃ」

 

随分と珍しい事もあるものだ。まぁ、彼女の性格や活動を考えれば違和感はないが。

 

「そうよね、今こそ助け合う必要がある、多種族間の問題もこうやって手と手を取り合って解決していくべきなんだわ」

「多種族…そう言えばあんたもエルフ族にゃ、耳がとんがってるし、この辺のエルフの森って所も被害にあったみたいだから後で行ってみたらどうにゃ?」

「うーん…ここら辺のエルフの子達とは別に知り合いってわけじゃないからね…エルフっていっても枝族なのよ、コッコロもそうでしょ?」

「はい、エルフといっても一枚岩ではございません」

 

ここら辺のエルフの森…か

 

「それでも、やはり同族でございます、どうなっているか、1度確認したいものですね」

「そうだな、私も知り合いがいる、様子を後で見に行こうか」

「あ、ならあたしも行くわよ?」

「ふふ、サレンさんったら黎斗くんとよっぽど離れたくないみたいね」

「ちょっとミフユさん///変な誤解しないでよね//」

「ちょっとお話中にごめ〜ん!みんな〜」

 

そんな時、不意に声が響き渡る。

 

「ん?どうかしたかにゃ、ユカリ」

「珍しいじゃない、ユカリさんが息を切らせてくるなんて」

「そ、それがね、この辺りで魔物が出てきちゃって…今はエリザベスパークの人達が対処してるけど人手が足りなくて困ってるのよ」

 

息を切らせ走ってきたのはユカリ、金髪のエルフで肩書きは元聖騎士。戦闘面でも活躍できるが得意分野は回復、ヒーラーの役職だ。例えるなら鏡先生のような立ち位置といったところか。

 

「魔物だと?…考えられるとすればやはり地殻変動による生物の活性化というところか」

「あら?黎斗くんじゃない、良かった、無事だったのね…と今はそうじゃないわね、多分そう、この近くにある魔物の巣らしきものが地殻変動で露出しちゃったみたいでそこから大量に溢れ出てきちゃってるみたいなの」

「それにより周りにいる魔物達も刺激され暴れてしまっている、ということか」

 

そしてユカリはそれに対抗できる戦力としてミフユとタマキを呼びに来たというわけか。

 

「私も前線でガツガツ戦いたいところだけど今朝からの回復魔法連発で殆ど魔力がないし…だからタマキさん辺りを呼びにきたんだけど」

「…なら、私も同行しよう、コッコロ、ペコリーヌ、君達も出るんだ」

「もちろんですよ!今ここにいてもわたし達は役に立ちそうにないですし」

「わたくしも頭を動かすより体を動かす方が得意でございます」

 

美食殿は皆、武闘派思考だな。

 

「それで?巣とはどこにある、臭いを断つのならばやはり根元から立つべきだ」

「えっと、それはあの山向こうにあるみたい、そこまで徒歩って事に…」

「おーっほっほっほっ!その必要はありませんわ!!」

 

甲高い声と空を切る音が響く、私達に暗い影がかかり、見上げるとそこには巨大な木造建の船が姿を現した。

 

「あちゃ〜もう戻ってきたのね、アキノさん…自分の活躍的そうなタイミングで毎回現れるわね…」

「当たり前ですわ!話は聞かせてもらいました!この飛空挺ならばひとっ飛びでその巣とやらに向かう事ができますわ!」

「確かに丁度いいな、アキノ、よくやった」

「うふふ、黎斗さまにお褒めいただき嬉しいですわ、さぁ皆さん!乗り込んでくださいまし!」

 

と言うのだが

 

「…あのアキノさん、乗り込んでと言うのなら早く縄梯子をおろしてもらえる?流石にその高さじゃ私達登れないわよ?」

「あら、ごめんなさい、少し待ってて…あー!?!?」

 

アキノの叫び声が響く、なんとなく察せするが…

 

「縄梯子…忘れてしまいましたわ」

「はぁ…アキノさんらしいわ…」

「…仕方がない」『マイティアクショ〜ンエェックス!!アガッチャ!ジェット!ジェット!イン・ザ・スカ〜イ!ジェットジェット!ジェットコンバ〜ト!!』

 

私はゲンムの姿になると近くにいるユカリ、タマキを脇に抱え跳躍し、背中につけられ飛行ユニット、エアフォースウィンガーのブーストにより一気に加速、そして上空30メートルの位置にある飛空挺に着地する。

 

「んにゃぁぁ!?!?」

「えっ!?きゃぁぁぁぁぁっ!!?」

「これで2人ずつあげた方が船を下ろすより早いだろう」

「まぁ、素敵なお姿になられましたわね黎斗さま!」

「な、何よこれ…空を飛んだわ…」

「にゃ、にゃははは…なんだか黎斗凄いことになってるにゃ…」

 

私は2人を下ろすとすぐに地上に戻り、他のメンツも同じように運んでいく。

 

「凄いですね!黎斗くんっていくつ姿があるんですか!?」

「そうでございますね…主さまはいつの間にまた強くなられてるご様子…」

「私の実力はこんなものではない、見ていろ、いずれこの世界に革命を起こしてやる」

 

私はペコリーヌとコッコロを担ぎながらそんな事を言う、これで全員乗船、私は変身を解除せずに目的地に向かう。

 

サレンは現場での指示がある為、パーク内で待機してもらうこととなった。乗船メンバーは私、アキノ、ユカリ、タマキ、ミフユ、ペコリーヌ、コッコロの計7名。

 

少人数での掃討となる。となると簡単な作戦は立てておくべきだ。

 

「魔物の数は数百規模になるわ、それを全部殲滅する必要はないわよ」

「なんでにゃ?確かに戦力的にも厳しいかもしれにゃいけど…」

「まだ魔物は別に悪さをした訳じゃないし、無闇矢鱈に殺生をするのも気が引けるからね、それに殺し過ぎて恨みを持たれてもエリザベスパークの人達が困るだけよタマキさん」

 

動物達にも復讐するという感情は持ち合わせている、そうなってくると襲われるのは周辺地域の人間だ、流石にそれだけは避けなければならない。

 

「出来るだけ追い払うという形で良いのかい?」

「それが1番だと思います、効率的にもね」

「おーっほっほっほ!ならこの飛空挺の出番ですわね!この飛空挺には魔法兵器が沢山あります、その巣とやらにそれらをぶち込み追い払うというのはどうでしょう!?」

「相変わらずアキノさんは…」

 

大味だが悪くない案だ。

 

「アキノとユカリさんが魔法具により地上に誘き出す、私達は地上でそれらの魔物達を倒すのではなく追い払う、これが作戦だ」

 

 

私の言葉に皆が黙って頷く、さてその前に…

 

『ガシャット!アガッチャ!タドルクエ〜スト!ガシャコンソード!アガッチャ!バンバンシューティング!!ガシャコンマグナム……』

 

次々と私は変身しては他の形態にレベルアップしガシャコンアイテムを召喚。何度かそれを繰り返し再びジェットコンバットにレベルアップし直す。

 

「まずはペコリーヌ、君はガシャコンソードを。コッコロ、君はガシャコンマグナムを。タマキは…ブレイカーでいいだろう」

「えっ扱い酷くにゃい?今テキトーだったにゃ!絶対テキトーだったにゃ!!余り物渡されたにゃぁぁ…」

「私にはないの?黎斗くん」

「あるにはある、ただガシャコンスパローは君とは相性が悪いと思うが」

「使ってみなきゃわからないじゃない!効率的に行く為にも物は試しよ!」

 

各々にガシャコンアイテムを渡し、更にそれに対応したガシャットも渡しておく。

 

「使い方は君たちなら分かる筈だ、説明は省かせてもらう、そろそろ着くぞ」

 

私達の眼前に広がる1つの大穴、地殻変動で生まれたそれがこちらを覗いているような錯覚に陥る。

 

「では、私が先陣をきるとしよう、コッコロ、皆の着地は君に任せるぞ」

「承知しました、主さま」

 

エアフォースウィンガーでブーストし私は再び上空へと躍り出る。そして

 

「放ちますわよ!!黎斗さま!!……全弾撃てぇぇぇ!!」

 

ドン!と私の背後からの砲門から放たれる魔法砲弾、砲門に魔法陣が展開されそこから青白いボーリング程の大きさの弾が十五門の砲台から発射される。

 

それらが巣に着弾すると土埃が舞い上がり、炸裂音が響き渡る、1発1発の威力は私の知る戦車の砲弾のそれとなんら変わりない、その激しい音と炎熱により巣の中にいた魔物達が一斉に動き出し地表へと這い出てくる、その数は数百。

 

私はその瞬間、腰に装備されたガトリングコンバットを構え掃射する。ガシャコンマグナムのハンドガンモード銃弾40発分の威力を持つ炸裂光弾を高速で連射し、最大発射速度は毎分5,400発という火力を持つ、レベル3の中でも破格の強さを持つガシャット。

 

それを魔物に直接は当てず相手を後退させるように地面にぶつけて行く。その間にペコリーヌ達が地上へと飛び降りる、着地の瞬間、コッコロの風魔法の操作でゆっくりと安全に着地、そこからは全員が武器を構え、魔物達を撃退する。

 

ペコリーヌは元々、自身に型がない、だからこそ臨機応変に戦い方を変えることができる、今彼女は王家の剣とガシャコンソードの二刀流だ、その剣で次々と魔物を吹っ飛ばしていく。

 

「確か…黎斗くんがこうやって…えーい!!」

 『コ・チーン!!』

 

更にはモードの切り替えまでやってのけた、流石は美食殿の前衛戦闘員だ、飲み込みが早い。

 

「わたくしも負けてはいられません、やぁ!!」

 

コッコロは槍を両手で持つ為、マグナムとの併用は出来ない、しかしコッコロの腰につけられた革ベルト部分にマグナムが引っ掛けており、隙があれば瞬時に引き抜き、狙撃する。

 

コッコロの槍は風魔法により召喚されるもの、マグナムを使う時は風に消え、槍を使う時は召喚するという使い分けをしている、かなり器用だ。

 

狙いも正確だ、タマキやペコリーヌの背後を取ろうとした魔物を狙い撃っている。

 

「余り物みたいに渡されたけどこれ…すごく使いやすいにゃ〜!!!」

 

タマキはブレイカーでひたすら殴る、元々素早さとアクロバットな動きに特化したタマキとブレイカーの相性は良い、戦い方自体マイティにそっくりだからな。

 

相手の頭上を飛び越え、ハンマーで殴り、再び回り込む…まさに猫型マイティだ……これはいいアイディアだ。そうだな…タマキと引っ掛けて義賊、怪盗マイティXなんてのはどうだろう、怪盗アクションゲームというジャンルで売り出せば中々に良い出来になるな、間違いない。

 

…と、今はそういう場合ではなかったな、ミフユの方はどうだろうか。

 

「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

…彼女も武器は槍なのだが…槍を片手にもう片方にスパローを持っている、かなり無理があるように見えるが、彼女は使いこなしているようだ。

 

「いいわね!!これ!!効率的よ!!」

 

近くの敵は槍を薙ぎ追い払い、遠くの敵はスパローを連射する、効率的ではあるが絵面は酷い、彼女の場合、効率優先でそんなものは気にしないのだろうが。

 

それから十数分、魔物達が散り散りになり始め、あともう一押しでここら辺一帯の安全は確保される、というところまで来た。

 

「さぁ、締めの大技だ!!決めるぞ!!」

 

私の言葉に皆が返事をする、そして誰にも説明していないが、ガシャットを手に持ち、皆がスロットに挿入する。

 

『キメワザ!!』

 

音声が響く、それぞれのガシャットの名前が読まれそして…

 

『クリティカァルフィニィッシュ!!!!』

 

同時にキメワザ音声が流れると、私はジェットコンバットのキメワザであるガトリング、ロケットミサイルの連射。ペコリーヌは炎熱の飛ぶ斬撃、コッコロは爆発を引こ起こす弾丸、タマキはブレイカーのエフェクトが激しく飛び散る叩きつけ、ミフユは巨大な1本矢で貫く。

 

それぞれのキメワザが炸裂し、魔物の群れは一瞬にして壊滅、ふぅ…一仕事を終えたようだ。

 

「あらまぁ…これはまた…やり過ぎてしまったのではないですの?」

「なぁにやり過ぎるぐらいが丁度いいさ」

 

上空を飛び、飛空挺のそばにいた私はアキノのその疑問に答える。

 

さて…後は地上にいる彼女達を回収しこの後の予定はエルフの森に行く事だったな、中々今日もハードスケジュールだな。

 

 

 

 

 

 

 




やっぱジェットコンバットってレベル3じゃない気がする。

黎斗の好みのタイプはポッピーのような包容力のある叱ってくれる女性だと思っています。ジオウのオーズ編で歯向かってきたヒナちゃんを姫にしようとしてくるあたりもそんな感じがします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

予言者

ママ・サレンをヒロインにしよう!(提案)


 

 

 

魔物の撃退を終えた私達は再び牧場へと戻り、私とコッコロはサレンと合流、メルクリウス財団の面々とペコリーヌは牧場で待機してもらい、シオリの案内でエルフの森へと訪れる事となった。

 

その道中

 

「…おい、サレン…何故そんなに近い」

「べ、別にいいでしょ、減るもんじゃないし…」

「…むぅ…主さま、森の中は大変危険でございます、足下にも木の根などがありますし、わたくしが補佐しましょう」

 

今現在、私の両腕にはサレンとコッコロが引っ付いていてる、コッコロはいつもの事だがサレンは正直予想していなかった。

 

「あ、あんた、目を離すとすぐどっか行っちゃうんだから、こうやって縛っておかないとね…!」

「…はぁ、まぁ理由はなんでもいい、歩きづらいから離れて欲しいのだが…」

「「いや「です」」」

 

…何故?

 

「あはは、黎斗さん達、本当に仲が良いですね、家族って言ってましたけど…」

「ああ、それは…あたし、サレンディア救護院っていうのを経営してるから、それの居候をしてる黎斗もコッコロも家族って意味よ、本当に血の繋がった家族って訳じゃないわよ?」

「そうだったんですか、私にも家族がいて…このエルフの森にある里にはお姉ちゃんがいるんです、魔物の襲撃や破壊魔法の影響で今までここには訪れていなかったのできっとお姉ちゃんが心配してるから…」

 

シオリには姉のハツネという少女がいる、特徴的なのは桃毛で…魔法使いのようなドレスを着こなしている、外見イメージは天女のような感じだ、今風の織姫と言ったら分かりやすいのかもしれない。

 

「見た感じ、この森には破壊魔法の影響は無さそうね」

「そうですね、これなら里にお姉ちゃんがいるかもしれません、あっ見えてきました、あそこです」

 

シオリが指を指す方向には巨大な木に木造の家が取り付けられている…ツリーハウスという物だろう、それらが複数連なっている開けた場所にたどり着いた。

 

しかし人気はない。

 

「あれ?人の姿がありませんね…」

「何か問題でもあったのでしょうか?」

「そうだな…」

 

見た感じでは何か荒らされているという様子はない、出払っていると見た方が可能性は高いか。

 

「先程の私達のように周辺に現れた魔物の駆除に出たか、昨日の破壊魔法について調べに出たかのどちらかだろう、となると…ここには誰もいないか…」

「いえ、主さま、上空をご覧ください…何か…浮いていますよ」

 

コッコロが示した場所、上空20メートルの位置に…それはいた。

 

「…人…かしら?浮いてるけど…」

「あれは… ハツネお姉ちゃん…!!!」

「お姉ちゃんっ!?」

 

サレンが驚く、それもそうだろう、人が浮きそして気持ちよさそうに寝ているのだから。

 

「…相変わらず彼女は寝ると浮くのか…」

「は、はい…最近頻度は減ってきた方なんですけど…」

 

彼女は『超能力者』だ、魔法があるこの世界で超能力とは何が違うのか、と思ってしまうが、魔力を必要とせず、多種多様な力…それも魔法では難しいとされる分類の事ですら出来てしまう物、それが超能力。

 

ハツネはその力を持っているのだが…完全に制御できているわけではない、その為にたまにあの様に無意識に暴走する。

 

「お姉ちゃ〜ん!起きて〜!シオリだよ〜!!」

 

シオリが呼びかけるとすぐに反応を示した、空を飛び眠るハツネが目を覚まし、大きなあくびに体を伸ばす仕草をする。

 

「ふぁぁ…あれぇ?シオリン…?おはよぉ…って…ん?」

 

ハツネが目を覚ますと自身が宙に浮いている事に気づき、そして

 

「お、落ちるゥゥゥ!!?」

「お姉ちゃん!?」

 

ハツネは自身が空中にいるという衝撃からか超能力を維持できず落下し始める、が

 

「うわっと…あれ…?」

「君のその癖はどうにかならないのか?」

 

私はあらかじめハツネの真下に移動しており、落ちてきたハツネを抱っこする形でキャッチする。

 

「え、えへへ…黎斗くんだ!また助けてもらっちゃったね//」

「助けてもらわないくらいにはなって欲しいものだが」

「むぅ…むぅ…っ」

「全くアイツは…相変わらずなんだから…」

 

語録力を失ったコッコロと半ば諦めの微笑みをするサレン。

 

「それよりもハツネ、君に聞きたいことがある」

「あー!私も聞きたいことがあるんだよ!シオリ〜ン、心配してたんだよぉ〜!魔物が一杯牧場を襲ったって聞いてエルフの里のみんなで応援に行ったら誰もいないんだもん!」

「ごめんね、お姉ちゃん、街の方にみんなで避難してたんだ、今はみんな牧場の方に戻ってきてるよ」

「そうだったんだ、良かったぁ…」

 

ハツネがシオリの方に両手を伸ばしていた為、抱き抱えたまま私はシオリの方へと足を運ぶ。

 

「あっそうだ、黎斗くんが聞きたいことって?」

「それは、この里の光景さ、君以外はいない様に見えるが?」

「えーとね、昨日あった爆発の調査にみんな出てるんだ、だから私だけでも里に残らなきゃって思って、最近見たことない魔物の目撃情報もあるし…」

「見たことない魔物?」

 

聞いた事がない情報だ。

 

「うん、なんかここら辺で魔物と魔物が合体したみたいな気持ち悪い魔物が出てきててここでも生態系に何かあったんじゃないかーって調査してるところなんだぁ」

「…そうか、とにかく君達に何もなくて良かったよ」

「うん!それにね、被害が少なかったのには理由があるんだよ!」

「理由?」

 

何かハツネは知っている様子だ、聞いてみる必要があるな。

 

「実は爆発が起こる数日くらい前に予言者が現れたんだよ!」

「予言者…?君も似た様なことができるじゃないか」

「わ、私のは好き勝手にできるもんじゃないよ!今回だって何の役にも立たなかったし…それでね!予言者っていうのはこのエルフの里に来て『後数日もすればこの近辺で厄災が起こる』みたいな事を言ってきたんだって!」

 

…かなり大雑把な予言だな。

 

「それでは誰も信用しなかったんじゃないのか?」

「…うん、最初のうちは誰も信じてなくて一応里のみんなは警戒はしてたんだけど、牧場のみんなには伝えてなかった…でも今回こうやって本当に起っちゃったから、みんなあの時、ちゃんと信じてれば〜って話をさっきもしてたんだぁ」

「予言ねぇ…そんな事できる人が本当にいるのなら凄い事なんだけど…って黎斗?あんたいつまでその子を抱き抱えてるわけ?」

 

そうサレンに指摘される、ハツネは毎回のようにこの様な事態に陥る為、抱き抱える事がデフォルトになりつつあってあまり気にしていなかったな。

 

「そうでございますよ、もう抱っこしてる必要はないと思います」

「そう不機嫌になるなコッコロ。ハツネ、下ろすぞ」

「ありがとう〜」

 

私はハツネを下ろし、考える。預言者か…

 

あの偽のユースティアナも予知能力に似た物を持っていた、その人物を探し出せば何か対策になるのかもしれない。

 

「ハツネ、特徴は分かるか?」

「え?うーんと私も直接見たわけじゃないから分からないけど…女の子だったらしいよ、なんかミステリックというか如何にも!って感じの子だったって」

 

ミステリックな如何にもな少女か…

 

「心当たりはあるな…取り敢えずソイツを当たってみよう、貴重な情報をありがとうハツネ」

「うん!黎斗くんもシオリンも無事で何よりだよ!」

 

私達は互いの安否を確認したところで牧場へと帰る。

 

「あ!黎斗くん!コッコロちゃん!サレンさーん!」

 

そこにはメルクリウス財団の面々とペコリーヌの姿があった。

 

「どうでしたか?エルフの森は」

「何事もなかったよ、しかし面白い話は聞けた、エルフの森にこの被災を予言していた予言者なる者が出没したらしい」

「予言…ですか…それを聞くとアイツを思い出しますね…あの偽のユースティアナ…奴も予知の様な力を持っていた筈です」

 

その口ぶりから過去にペコリーヌは奴と対峙した事があるらしいな。

 

「その対策になるかもしれない、今後はその人物と接触する事を目的としよう、といっても見当はついているが」

「本当ですか?黎斗くんってやっぱり知り合い多すぎません?」

 

人脈は必要な力の1つだ、あった事に越したことはない。

 

「えっと…ペコリーヌさんだっけ?あなたこれからどうする?ウチに来る?黎斗と同じでなんだか大変なことに巻き込まれてるんでしょ?」

「本当ですか?わたし、行くあてもないですからありがたい話ではあるんですけど…」

「迷惑、だなんて思わないわよ、こういう時こそ助け合いよ」

「わぁ、ありがとうございます!お言葉に甘えちゃいますね!」

 

サレンの言葉に笑みを溢し、私達は牧場を後にする事となった。

 

その夜、私達は改めて今後の行動決める事となった。

 

まずは1週間程度の様子見をする、これはペコリーヌや私の指名手配の度合いを街で確認する為だ。

 

どれ程警備が強化されているか、どれ程私達の優先順位が高いかの判断をする、もし危険な水準だった場合はやはりこのサレンディア救護院に留まることはできないだろう。

 

偽物に闘志剥き出しのペコリーヌには大人しくしてもらい、私はその間に王宮騎士団(ナイトメア)のトモやマツリなどから話を聞く必要があると判断し行動することにした。

 

 

 

 

 

破壊魔法が炸裂してから10日後、ようやく私達の件の熱りも覚めてきていた。

 

初めの3日程はかなり私達を捜索していた様子だったが4日目にはほぼそういった事はなく、通常の街並みに戻っていた、何でも王宮から脱獄したクリスティーナの捜索の方が優先されているらしい。まぁ王宮騎士団(ナイトメア)の面子を考えるとすればそうだろうな。

 

その脱獄犯クリスティーナなのだが…たまに私に会いに来ている、理由はなんとも説明しづらいのだが…掻い摘んで話そう。

 

トモやマツリからの情報提供により『ラビリンス』の旧アジトの場所を私は何箇所か訪れていた。

 

何かしら手がかりがあるのではないかと思っていたからね、その最中、クリスティーナとバッタリ出会った。

 

奴は本気で私と戦いたいなどと言い始め、更に私が彼女に触れることさえできれば勝ちというハンデまでつけられてな。

 

それで…私が彼女に触れ勝ったのは良かったのだが…面倒な事に彼女の一族の風習で『誓約は必ず守る』というものがあったらしい、彼女も私に負けるまで忘れていたというのだから迷惑な話だ。

 

その誓約とは『自分に触れた者と結婚する』というものだ、彼女は若い頃、異性から言い寄られる事が多かったらしく鬱陶しく思い、絶対に不可能な誓約を打ち立て追い払っていたそうなのだが…

 

よりにもよって私に敗北した、そして面倒な事にその誓約のせいで私は言い寄られているという訳だ、全く彼女がここに足を運んでくるたびにこっちがペコリーヌやコッコロを救護院から離れさせるという配慮をしなければならないというのは理不尽な話だ。

 

それにクリスティーナにどうやって脱獄したか訊ねても「いずれわかる」の一点張りで話にならない、私が彼女に勝利したというのに何故か負債だけを抱えさせられた気分だ。

 

と、この10日間はそのようなくだりがありつつ、11日目、ようやく行動開始する事ができる。

 

私は予言者と思われる人物が私の知り合いではないかと予想し、その人物に会う為に数日前からある約束を取り付けた。

 

約束を取り付けた相手…それはアカリとヨリという魔族の双子の少女だ。彼女達はギルド『ディアボロス』とかいう名前負けのギルドに所属している。

 

名前負けというのは一応ギルドマスターは凄まじい力を持つ吸血鬼…だった幼女だからだ。

 

本来の力を取り戻すと確かに素晴らしい力の持ち主なのだがいかんせん通常が小さな子供、これでは名前負けと言われても仕方がないだろう。

 

そのディアボロスのメンバーであるアカリとヨリに約束を取り付け、集合場所へと向かう事が今回の目的だ。

 

朝、軽く支度を済ませ、コッコロ、ペコリーヌと共に救護院の扉に手をかける。

 

「あら?黎斗達、今日は一緒にお出かけ?」

「はい、あの謎の予言者のところに行こうかと、黎斗くんのお知り合いの方なので」

「ああ、前に言ってた…だったら何か有益な情報が聞けたらあたしにも教えて頂戴?同じ釜を食う家族なんだから」

「そうだな…考えておくよ」

「そこは肯定して頂戴よ…、まぁいいわ、とにかく怪我とかはしないように気をつけて行きなさい」

 

サレンの忠告を受け、私達は街へ出る。

 

「いや〜中央の方は賑やかでいいですね〜」

王宮騎士団(ナイトメア)の監視の目もほとんどありませんし…主さまのおかげでございますね」

「トモ達に掛け合ってここら辺には来させないように仕向けているからな、最も今現在そんな余裕はあちらには無さそうだがな」

 

ペコリーヌはようやく自身の安全を確認でき、再び食べ歩きを再開できた事を喜んでいる。

 

「ンま〜い☆やっぱり食べ歩きは最高ですね〜!10日以上振りのこんな豪遊…!」

「ペコリーヌさま…先程、救護院で一杯食べたはずなのに…」

「わたしの王家の装備は何もしてなくてもカロリーを大量に使ってしまいますから、それに外してしまうとわたし、凄く弱くなってしまうので…」

「前から気になっていたのだが…元の強さはどうなんだ?その装備は筋力などのスペックを上げるだけで経験は君自身に積まれている筈だろう?」

 

そう言うとペコリーヌはうーんと唸る。

 

「そうなんですけど…王家の装備って多分、思考能力とかにも影響があると思うんです、わたしがこの装備を外したら…いつもの感覚に体と頭がついていかないと思います」

「ペコリーヌさまは本来お姫さまですからね、戦う必要がない立場のお人ですから」

「言い訳っぽくなっちゃいますけど王家の装備は最前線で戦うぞ!っていう装備じゃなくて護身用の装備なんです、王族の万が一に備えての」

 

成る程な、彼女の武者修行もそういった場合を想定した軽い訓練の筈だったということか、凄まじいカロリー消費のデメリットも本来は常に装備している事を想定していないものだから。

 

「でも良いこともあるです、この装備のおかげでお腹が減っていろんなものが食べられて、いろんな食べ物を発見できました、王宮に住んでた時は食材は料理として出てくるだけで、どういった物なのか分かりませんでした…でも実際に見て、経験して、料理して…初めて命の大切さ、食べる事への感謝っていうのが分かったんです」

「ふっそれは良いことだな、実際に体験するというのは自分にとてつもない経験値となる。私にもその気持ちはよく分かる」

「珍しく黎斗くんが笑ってくれましたね!嬉しいです」

 

ゲームを作る上でもやはり資料だけで作るより実際に見て体験して感じて作った方がよりリアリティを追求できる。私が作ったゲームの中で究極のリアリティを再現できたのはマイティノベルだろう。

 

アレの取材は16年以上の歳月をかけたからな。

 

「おや…?何かあったようですよ?」

 

ペコリーヌが指し示す、そこには

 

「な、なんで街中に魔物がいるのよぉ〜!そ、それに…ぜ、ゼラチナじゃない…っ」

「何怯えてるのお姉ちゃん、これは低級魔物だよぉ?」

「ゼラチナは…!ふ、服だけ溶かす体液を吐き出してくるのよ!?き、気持ち悪いじゃない!!」

 

居たのは少女が2人。私達がこの場で待ち合わせをしていた魔族の双子、アカリとヨリだ。

 

「どうして街中に魔物がいるのでしょう?」

「恐らく王宮騎士団(ナイトメア)が機能していないのだろう、この程度の魔物ですら見逃すほどにな」

 

彼女達の目の前にはゼラチナと呼ばれる紫色の流体型の魔物。俗にいうスライムと同種の存在だ。

 

体力も耐久面も弱く、低級魔物に属しそこまで危険視させるものではないが、確かに魔物が街中にいるとなると一般人にとっては危険か。

 

彼女達から数メートル離れた位置には人だかりが出来ているのもその証拠、この街の中央区には戦闘が出来るような人間は殆どいない。冒険者などは基本的には外区側にいる。

 

「ひゃぁ!?み、見ないで!エッチ!スケベェ…!!」

 

早速、ヨリの方がゼラチナの体液に被弾しスカートの左端を溶かされ太もも上部が露わになってしまう、それにより彼女はスカートを押さえ地面に座り込んでしまう。

 

ちなみに彼女達は双子の為、容姿自体は似ており服装も統一性がある、ピンクの衣装を身に纏い、座り込んでしまった方が姉のヨリ、グレーの短髪で口調は悪いが基本人見知りで内気な少女だ。

 

一方、妹のアカリの性格は正反対でかなり人懐っこく誰にでも心開く社交的な一面がある、紫の服装でヨリより大胆にへそ出しをしており、身体的に姉よりも発育が良いのが特徴的か、髪はグレーのツインテール…恐らく種類は短めのツーサイドアップだろうか?

 

「んもう、しょうがないなぁ〜お姉ちゃんの代わりに…アカリがやっつけちゃうよぉ〜!!」

 

アカリの持つ槍、3本の刃がついたトライデントと呼ばれるそれに近い。イメージするのなら海の神ポセイドンなんかが持っているアレだな。

 

それをグルグル振り回し、使い慣れている事が見て取れる。彼女は本来、魔法職なのだが近接もイケる口だ。

 

「ちょっアカリ!そいつ服を…!!」

「こんなの…ちょちょいのちょ〜い!!」

 

吐かれる体液を物ともせず真っ正面から斬り裂き前進していく、巧みな槍の使い方はどちらかというとバトントワリングの選手のような動きだ。

 

「ほらほらぁ〜!!」

 

数体のゼラチナはアカリの槍により粉々に砕け散る。

 

「ふぅ…こんなものかな♪」

「は…はぁ…良かった…」

 

私達はそんな彼女達に近づくと、先にアカリが私に気づく。

 

「あー!!黎斗お兄ちゃん♪会いたかったよぉ〜!」

「え!?くくくくくく、黎斗!?な、なんでこんなタイミングで!!?み、見ないでっ!!!」

 

ヨリは一層溶けたスカート部分を隠す、そんなヨリは放っておいて。

 

「彼女達がヨリそしてアカリだ、彼女達が予言者…シノブの元へと案内してくれる」

「は〜い♪アカリで〜す、あっちの羞恥プレイしてるのがお姉ちゃんのヨリだよ♪」

「ちょっと!自分からやってるみたいじゃない!!」

「えっと、ヨリさま…わたくしがお洋服をお直し致しますよ、以前にマホさまから教えていただいたので出来る筈です」

 

そう言ってコッコロがヨリの服を直す魔法を唱える。

 

「さて、ではアカリ、シノブのところへ案内してくれ」

「うん♪お兄ちゃんの言うことならなんでも聞くよ〜」

 

こうして新たなパーティーを組み、私たちの物語が新たな局面へと動き出す。

 

 

 

 

 

 




そろそろ物語が急展開してくる頃ですが…どうなるんだろう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

古城の住人

メタルクラスターの暴走状態って今までの暴走ライダーと違う演出ですき。


 

今現在、私達はランドソル近辺にある廃城へと足を運んでいた。

 

その廃城は見ての通りのボロボロ具合、何十年…いや何百年もの間放置されている代物だろう。

 

「えーと…なんでこんなダンジョンみたいなお城に来たんですか?」

 

そう切り込んだのはペコリーヌだ。

 

「本当はシノブさんと街のカフェとかで会う予定だったんだけど…シノブさんがこっちで話した方が都合がいいって通信魔法で連絡が来て…」

「ここはアカリ達のギルドの拠点なんですよぉ?アカリ達のギルドは個性的な人達が多くて、あまり街で活動できるようなタイプではないですからぁ」

「そうよね…幽霊、骸骨頭を連れた占い師にちっちゃい吸血鬼…そんなのがメンバーなんだもの、表立って活動できないわ」

 

実際、彼女達の目的自体、街中である必要性がないものだからここを拠点にしてようがさしたる問題にはならないだろう。

 

「ひゃあんっ!!」

「えっ!?ど、どうしたのアカリ!!?」

「え、えっと…なんか背中に…破片?お城の破片が服に入ってきただけみたい、変な声出しちゃってごめんなさぁい」

 

…それにしても今の揺れ…これは…

 

「こんな感じでお城は古くてボロボロだから、崩落とかに皆さん警戒してくださいね?」

「今、お城全体が揺れませんでしたか?…というか現在進行形で揺れる気が…」

「まるで廃城で起こる心霊現象…ポルターガイストというやつのようですね、初めて見ました」

 

コッコロの言ったポルターガイスト…遠からず当たっている。

 

「これは…ミヤコか?」

「はぁ…多分ね…それにしても今日の癇癪は酷いわね…」

「そうだよねぇ、イリヤさんが何かしたのかも」

 

よく聞けば、この奇妙な揺れの他に言い争う声もまた響き渡る、イリヤとミヤコだ。

 

「相変わらず騒がしい奴らだ、それでシノブはどこに…」

「わひゃぁ!!?」

「むぎゅう…いきなり抱きつかないでくださいましペコリーヌさま」

 

突然ペコリーヌがコッコロにしがみつく、何かの気配を察知したようだ。

 

「私はここにいますよ、黎斗さん」

 

暗闇から現れたのは紫髪の短髪、ゴシックな服装に身を包みどこか不思議な雰囲気を醸し出す少女、シノブだ。

 

彼女の傍には青白い炎を纏った骸骨が飛んでいる。

 

「そこにいたのかシノブ」

「申し訳ありません、街中ではなくこのような偏狭の城にまでご足労いただいて…」

「よくやったぞ小僧!こんな美人な姉ちゃんを連れてくるなんてなぁ!!」

「ひっ!?骸骨が喋りましたよ!?」

 

ペコリーヌが驚愕するのも無理はない、シノブの傍を浮遊する骸骨は言葉を話す、奇妙な存在だ、気味が悪いと思うのも不思議ではない。

 

「ペコリーヌ、君は幽霊の類は苦手なのかい?」

「うう…実は…あまり得意ではなくて…それに食べられないですし…」

「ペコリーヌさまの基準はそこですか…」

 

シノブは喋る骸骨を右手で遮るようにし

 

「お父さん、あまり人を怖がらせるような真似はやめてって言ったでしょ?特に女の人に無闇矢鱈に話しかけちゃダメ」

「いいか!シノブ!こういうのは第一印象が重要なんだよ!…お姉さん、この後一緒にディナーしないかっごふっ!?」

 

シノブはドクロオヤジに鉄拳制裁し黙らせる。

 

「申し訳ありません、この骸骨は私の父なんです、ひょんな事から父の魂がこの骸骨に宿っているんです」

 

他の物体に魂が宿る、今の私も人のことが言えない立場であるな。

 

「おっと…」

 

私は足に踏ん張りを効かす、先程よりも強い揺れが発生したからだ。

 

「…はぁ、さっきより揺れが強くなってない?ミヤコどんだけキレてるのよ…」

「ふふ、賑やかなのは良いことですが、お話をするには少し騒がしいですね、黎斗さん、申し訳ありませんが2人の仲裁に入ってもらえませんか?あなたの言葉ならきっと言うことを聞くと思うので…」

 

シノブは私のことを信用しての発言のようだが…イリヤはともかくあのミヤコが私の言うことを聞くとは思えない。

 

「仕方がない、話をしている最中に城が崩壊などしたら敵わない、私に任せろ」

 

私達は2人が喧嘩してると思われる現場に向かう…すると

 

「うわぁっ!?な、なんですか!?物がしっちゃかめっちゃかに飛び回ってますよ!?」

「小さな女の子が2人…言い争っていますね…」

「はぁ…やっぱりミヤコね…」

 

私達の目の前ではありとあらゆる物が飛び交い、そして

 

「えぇい!しつこいぞミヤコ!わらわは食べておらんと言うておるじゃろうが!」

 

飛び交う物体を複数生み出された闇の腕が弾き落としている、これは喧嘩というよりちょっとした戦闘だ。

 

「絶対食べたの!!いっつもプリンを隠れて食べるのはイリヤなの〜!!」

「わ、わらわは食べておらん!最近おかしな魔物がこの城に出入りしてるからそやつらが食べたに違いない!」

「そんなわけないの!というかもしそうなら、ちゃんと監視してなかったイリヤが悪いの!!」

 

更に激化する戦闘、このままでは本当に城がもたない。

 

「おい君達…」

「大体イリヤはいっつもそうなの!わがままなの!」

「誰がわがままじゃ!お主の方がわがままじゃ!」

「君t「だったら今日はとことんやってやるの!!」

「そうか!ならばわらわだって…」

 

『レベルアップ!マ〜イティアクショ〜ン!エェックス!アガッチャ!タドルクエ〜スト!!』

 

「…ふん!!」

「うひゃぁ!!?」

「のわぁ!?」

 

彼女達目掛けてガシャコンソードの炎熱で焼き払う。その爆炎は2人を飲み込み、後方の城壁が崩れ飛ぶ。

 

間一髪で2人は避けていたが2人の表情は焦り色に染まっている。

 

「な、なんなの?こ、殺されるところだったの…」

「あ、危ない奴じゃのう!誰じゃ!」

「少しは話を聞け、2人共」『…ガッシューン』

 

私は変身解除して2人に近づいていく。

 

「く、黎斗なの!?何するの!!ミヤコを殺す気だったの!!?」

「黎斗!?わらわまで巻き込む気だったじゃろ!!危ないわ!」

「ミヤコは幽霊で死にはしないだろう、イリヤも伝説の吸血鬼ならばこの程度で殺されるほどヤワではないのを私は知っている」

 

私がそう言うと2人は黙り込む。

 

「さて、話を聞かずとも大体わかる、ミヤコ、また君はプリンがどうとかで騒いでいるのだな?」

「むぅ、黎斗なら分かってくれるの、ミヤコがどれだけプリンが大事か」

「それで?イリヤは本当にミヤコのプリンを食べたのか?」

「それは……そんな事より!」

 

話を逸らしたという事は食べたなコイツ…

 

「黎斗はシノブに用があって来たのじゃろう?」

「一応イリアさんにも同席して欲しいので、こちらに来てもらえると助かりますが」

 

私ではなくシノブがそう答えるのだが。

 

「待つの!まだ話は終わっていないの〜!」

 

やれやれ、ミヤコの奴…面倒だな。

 

「仕方がない、ペコリーヌ、君は料理ができたろう?ミヤコにプリンを作ってあげてくれないか?」

「え?そうですね…材料と厨房さえあれば出来ると思いますが…」

「それならあっちに厨房はありますよぉ〜それに材料もあらかたありますぅ」

「本当ですか?では、それらをお借りしてパパッと作ってきますよ!」

 

ペコリーヌがそう言うと不機嫌だったミヤコの顔に笑みが戻る。

 

「本当に作ってくれるの!?おねーさん、プリンを作れるの!?」

「はい、勿論♪」

「よく見たらおねーさん、ミヤコがよく行くお菓子屋さんで見る顔なの、もしかしお菓子職人さんなの?だったら期待できるの〜」

 

ミヤコの機嫌が直りこれで円滑に話が進められそうだ。

 

とはいえ、ペコリーヌも話に加わってもらわなければ困る、その為、彼女の料理が終わるまでは世間話に花を咲かせた。

 

1時間もすれば料理が終わり、人数分のプリンとクッキーが用意され、それをお茶受けとしつつ話を進める。ミヤコの方もプリンに満足している様子で話の腰を折るような事はしないだろう。

 

「黎斗さん達が聞きたい事…というのは1週間ほど前に起きたあの破壊魔法を予知していた、私についてですよね?」

「ああ、君の占いとやらも今まで詳しく聞いたことがなかったからね、良い機会だ、教えてくれ」

「そうですね……私も正確な予知ができる、というわけではありません、占いから導き出される結果はかなり曖昧なもので、それこそ必ずこれが起こる、などという確定した未来を見る事は超越的な力を持つ者にしか起こせない奇跡だと思っています」

 

確かにそうだろうな、ハツネから聞いた情報でもシノブの発言はかなり曖昧な物だった。

 

「しかし…アイツ…ユースティアナはかなり正確な予知のようなものを持っていたように思えます、飛んでくる矢をわかっていたかのように避けたりしていましたから…」

「予知の専門家…ではないにしろ、占いを専門とするシノブの意見を聞きたい、その事に関してどう思う?」

「精度の高い予知…ですか…考えられるとしたら2つ、1つは先ほど言った超越的な力の持ち主、神にも匹敵する奇跡を用いて未来を見透すことができる力の持ち主です。そうした場合、例えるなら…黎斗さんが5秒後にナイフで刺されるという未来を予知したとします、そうなると黎斗さんは必ず5秒後にナイフで刺されてしまいます」

「な、なんと!!そんな事はわたくしがさせません!」

 

シノブの言葉にガタッと立ち上がるコッコロ。

 

「ふふ、慕われていますね黎斗さん、しかし…あなたがどう守ろうとその運命からは逃れる事はできません、人的な物だろうと偶然な事故だろうと必ず黎斗さんは刺されてしまう。それが1つ目です」

「では2つ目はなんでしょうか?」

「2つ目は外的要因で未来を固定するという物です。先程の例えで言いますと5秒後にナイフで刺される、という部分で予知をした本人が無理やりにでも黎斗さんにナイフを突き立てることさえできればそれもまた予知となります」

「…確かに無理やりですが予知と言えますね…」

 

ミステリー小説などで予知ができる犯人などのトリックはコレだったりする、基本中の基本テクニックだな。

 

「本人でなくとも雇った人間だったり、あらかじめ仕掛けておいた罠だったり、とにかく外的要因で無理やり因果をねじ曲げてしまうのが後者です、後者の場合は所詮、人が考え得る知恵によるものなので防ぐ事は可能な筈です」

「しかしながらそれを瞬時に判別する事は難しい、両論の違いはそれが運命であるか無いか、概念の違いだ。後者であったとしてもタネが割れていない状態でそれをやられた場合、私達は奴を前者の完全な予知能力者だと判断してしまうだろう」

「…となると偽物のユースティアナさまがどちらなのか…現状判別をする事は出来ない…という事でございますか?」

「いや…」

 

私はコッコロの疑問を払拭すべく遮る。

 

「まず、予知という物が何か、シノブ…占い師という点からどう推測する?」

「そうですね…予知とは『予測』の延長線にあるものだと思います、というより言葉の意味としてはどちらも変わりはないとは思いますがこの表現を使わせてもらいますね」

 

シノブは話を続ける。

 

「予知は本来、誰にでもできることです、例えば…ミヤコさんはこの後、テーブルで手をつけていないイリヤさんのプリンを食べようとします」

「ふぎゃあ!?な、なんでバレたの…?」

 

シノブの指摘通り、ミヤコがこっそりとイリヤのプリンを食べようと手を伸ばしていた。

 

「これ!ミヤコ!なにわらわのプリンを食べようとしておるんじゃ!」

「うう〜話に夢中だから気づかれないと思ったの〜」

「…と、このように私でさえ占いというものに頼らなくても予知はできます」

 

シノブの予知に驚愕するペコリーヌとコッコロ。どうして分かったのか訊ねている為、私が補足する。

 

「これは行動心理学を応用した技術だ、相手の性格や場の状況からパターンを弾き出し相手がなにをするのかをおおよそ予測するもの」

 

本来は相手が何を考えているのかなどを予測して相手に好印象を与える行動をするなど、仕事や恋愛に応用することが出来る心理学だと言われている。

 

「では、今シノブがやった予知、それは至って単純だ、まず前提としてミヤコはプリンが好きだという事がある。そして今現在、このテーブルにはプリンがある訳だ、更に先程ミヤコは『イリヤ』とプリンのことで喧嘩をした、ここから導き出される答えこそシノブの提示したものだ」

 

そもそもの話、心理学のみならず、現代で予知は身近にある、天気予報、地震などの天災の予測、競馬や競艇などの公営競技もある意味で予知を競技にしたものだ。

 

特に天気予報は現代での正確性はかなりの方だ、100%とはいかなくとも80%程は当たるだろう。それは過去の膨大なデータから導き出される結果。

 

…そう、あのユースティアナもそれに近い能力なのではないだろうか?このゲームの世界ならばそんな奇跡じみた能力より尚更『データ』に干渉する能力と解釈した方が理屈に合う。

 

以前、奴と対峙した際のあの予知…考えられるとすれば奴は膨大な数の未来の可能性を、その場にある物や人、相対している相手の性格や思考、身につけている装備など様々な要因を一瞬で情報として捉え予測している。

 

奴程の権限を持つ者ならば過去の戦闘データや相手の性格データ、地理や地形のデータを持ち合わせていてもおかしくはない、それらを総合した結果の予知だと考えられるが…

 

だとしても奴の情報処理能力は桁違いだ、まるでプロの格闘ゲーマーが幾千、幾万の経験から切り返しや確定反撃を手癖で出すような感覚でそれらの予知をしているようなもの、正直な話そこまでくると前者の奇跡と何ら変わりはない。

 

「どのみちあの予知能力を突破しなければなりませんからね…今得た知識で何とかするしかない…ですよね」

「そうだな、奴は七冠(セブンクラウンズ)の1人、予知の力が本物だろうが紛い物だろうが強大な力がある事に変わりはない」

「黎斗さん…七冠(セブンクラウンズ)を知っているのですか?」

 

そう聞いてきたのはシノブだった、何か知っている様子。

 

「ああ、そういうシノブは何故?」

「実はエルフの里近辺で起こる厄災を当てたのは私ではなく、七冠(セブンクラウンズ)のネネカと呼ばれる人です」

 

…またネネカか。

 

「私の方でも占いで何かが起こるという曖昧なものは出てきましたがネネカさんの予知はかなり具体的なものでした」

「ネネカを知っていると捉えて良いのかい?」

「そうじゃの、ネネカはわらわ達の商売相手じゃからな」

「商売相手?」

 

シノブではなくイリヤが答え、その答えも意外なものだった。

 

「ネネカは不可思議な力を持っておっての、姿形が変幻自在なのじゃ、それでわらわのこの特殊体質やミヤコの霊体に興味を持っての、そこから関係が出来たのじゃ、わらわ達は割と様々な鉱石や薬草なんかを見つけてきてそれを売る事で生計を立てておるのじゃがネネカもそういったものを集めておるらしくわらわ達から買っておるのじゃよ」

「そして私達も生活品などをネネカさんから譲ってもらっているのです」

「ちょっとまて、つまり…君達とネネカは頻繁に会う仲という事か?」

 

リマの話では神出鬼没の七冠(セブンクラウンズ)…これが事実ならばまたとないチャンス。

 

「はい、イリヤさんに同席してもらったのもそれが理由なんですが、ネネカさんの住む研究所に繋がる魔法陣はイリヤさんの許可がなければ通ることが出来ないのです」

「…成る程、最初からネネカの居処に向かう予定だったのか」

「はい、予知を出来る人を探しているということだったのでネネカさんを紹介しようと最初から考えていました」

 

好都合だ、これでネネカと接触でき、利用できればあの偽物を削除できる確率が高くなる。

 

「…イリヤ、頼めるか?私としてもぜひ、そのネネカとやらに会いたい」

「別に良いのじゃが…奴の住む研究所は少々面倒な作りになっておるぞ?」

「構わない」

 

私の言葉にイリヤが頷き、行動を開始する。城内部を進む事、2分程度でその魔法陣がある場所へと辿り着いた。

 

「この転移魔法陣は中々に捻くれ者での、わらわが全盛期の頃でも解放するのに骨を折った代物じゃわい」

「ん?つまり今のイリヤではこの魔法陣を使う事はできないじゃないか」

「だったらぁ、お兄ちゃんがイリヤさんとスキンシップを取ればいいんだよ〜いつもみたいに♪」

 

アカリがそう言うとイリヤが顔を赤くする、理由はまぁ、この後分かる。

 

「はぁ、仕方がない…か、イリヤ」

「う、うむ…た、頼むぞ黎斗よ」

 

私が彼女に近づき、頭を撫でる。

 

「も、もっと優しく撫でんか…///」

 

伝説の吸血鬼は注文が多いな。私は仕方なく言われた通りに優しく撫でると

 

イリヤの体が光に包まれ、シルエットもまた大きくなっていく、私よりは小さいが女性にしては平均より大きめの身長となったイリヤ。

 

スタイルも良くなり、漂う雰囲気も一気に変わる、これならば伝説の吸血鬼と言われても納得の姿だ。

 

「おぉ…!やはり黎斗とのスキンシップで元の姿に戻るのう!!…しかしそれ以外の方法で戻る術はないのかの…?やたらドキドキして心臓に悪いわ…」

「な、なんですか!?姿が変わりましたよ!?」

「先程の雰囲気とも大違いでございます」

 

2人は初めて見るイリヤの姿に驚きを隠せない。

 

「説明は面倒だから省かせてもらう、イリヤはこういう体質なんだ、あまり気にするな。ではイリヤ、魔法陣を起動してくれ」

「うむ…と、全員で行くのか?」

 

イリヤの指摘通り、魔法陣内部にはディアボロスや面々と私達、計8名いる。少々手狭だ。

 

「仲間外れは良くないの〜ミヤコもいくの〜」

「あまり大人数でけしかけてもネネカさんに鬱陶しがられるかもしれませんが、ネネカさんの研究所に辿り着くのは少し手順があるのでこの人数で行った方が楽かもしれません」

「奴は偏屈じゃからの〜研究所に行くためにはダンジョンを攻略しなければならないのじゃ、そのダンジョンには奴が仕掛けた罠なども沢山ある、気をつけるのじゃぞ?」

 

ネネカとやらはかなり警戒心が強いらしい、確かに私たちだけで行くのは危険か、話の都合を合わせる為にも顔見知りの彼女達がいてくれた方が心強いか。

 

「では、行くぞ」

 

イリヤが詠唱すると魔法陣が光り輝く、この現象は以前に偽のユースティアナにされた転送と同じものを感じる。

 

そして次に目を開いた時、私達は巨大な遺跡のような場所へと移動していた。

 

 




次は
シャイニングアサルトメタルクラスターホッパーにしよう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

地下研究所

エグゼイドの神回を1つ挙げろと言われれば?

2人のマイティですよね!


 

私達が転送された場所は迷宮遺跡、青白い灯が随所に置かれ内部自体は非常に明るい。

 

恐らく光を発する鉱石によるものだと思われる。さて私達は今、空中にいる。

 

遺跡内部は天高であり、10メートルはあるだろう、下を見れば10メートル下に地面が見える。

 

転送の後に落とされるのはこれで2度目だな…やれやれ

 

「わ、わたし達空中にいますよ!?」

「転送魔法はいっつもこんな感じなんですよぉ?皆さ〜ん、怪我をしないように気をつけてくださ〜い」

 

アカリのその言葉を最後に落下を始める。

 

「え〜い!今がチャ〜ンス!お兄ちゃんにしがみ付いちゃお〜」

「こ、こら!アカリ!やめなさいよ!!」

 

アカリがしがみ付いてきたのでそのまま抱き抱え着地する、上からペコリーヌが降ってくる事を目視で確認し横に移動して回避する。

 

「あいた〜っ!!く、黎斗くん…避けるなんて酷いですよ〜」

「私はアカリを抱えている状態だ、そもそも君の身体能力でならなんとかなったろう」

 

私は周りを確認する、目視で見える範囲内に研究所らしきものの入り口などは見えない。

 

「ミヤコは大丈夫かの?お主は肉を持たぬ幽霊じゃから転移魔法のようなものは影響を受けやすい」

「大丈夫なの〜ミヤコは強い子なの〜」

「そう言うイリヤ、君も魔力切れか?体が元に戻っているぞ」

 

私が指摘するとイリヤはうんざりした顔で呟く。

 

「そうみたいじゃの、全くあの程度で魔力切れを起こすとはな」

「うーん?ネネカさんの研究所っていうわりには何か遺跡のような感じがしますよ?」

「その通りじゃ、奴はかなり辺境の山脈の間にダンジョンを構え、その最奥に研究所を作りおった、普通の人間ならまず来れん」

「ネネカさんは凄く警戒心の強い方ですから…」

 

イリヤとシノブの言う通り、この場所を攻略するのは一筋縄では行かなそうだ。

 

「…むむ?何か変な気配がするの」

「…そうじゃな、魔力の気配じゃ、恐らくは…ネネカの造った魔物じゃろう、この施設の防衛システムじゃな」

「造った?魔物をですか?…ネネカさんって本当に不思議な人なんですね」

 

魔物を造る…か、合成されたような魔物というのもこのネネカが関係しているようだ。

 

「そのような話をエリザベスパークでも聞きましたね、この施設から逃げ出した個体という事でしょうか?」

「逃げ出した…?ネネカさんがそのような失態を犯すとは思えません…あの人程、神経質な人もいませんからね」

「…何かあったのかもしれないな、見ろ」

 

私が指を指すと前方から魔物の群れが出現する、数多の魔物が融合した奇怪な魔物、恐らくこのゲームにも本来は実装されていないデータだろう。

 

「…き、気持ち悪い…相変わらずグロい見た目ね…」

「お姉ちゃん、グロくても愛でてれば可愛く見てくるものだよぉ〜」

「なんの話よ…それにしてもいつもより多いわね…」

 

数は数十に及ぶ、大した数ではないが

 

「この横に狭いフィールドでは全員で迎え撃つのは少々無理があるな」

「黎斗、それだけでは無さそうじゃぞ」

 

イリヤの言葉と同時に私達の背後、側面の壁が粉々に砕け散る、粉塵の中から現れたのは同じく合成された魔物達。

 

「囲まれたか…戦力は分散はされるが都合は良い、全員で迎撃するぞ」

「全てを相手にする必要はない!道が開け次第進む!わらわ達は研究所への道を把握しておるからそれに続くんじゃ!」

 

私は即座にガシャットとゲーマドライバーを取り出し装備、そしてガシャットをスロットに挿入。

 

『マ〜イティアクショ〜ンエェックス!タドルクエ〜スト!!』

 

次の瞬間、群れが迫り来る。魔物はネズミの姿をしているが背中からはサソリのハサミが複数生え、足はドラゴンのような爬虫類の足、そのような見た目の魔物が多種多様に存在する。

 

私はガシャコンソードで迎え撃つ、サソリの腕を弾きながら斬り込んでいく。

 

感覚的にだが通常の魔物よりも強い、強靭な肉体、複腕による多彩な攻撃。1体1体これでは対処も面倒だ。

 

「後方は…アカリにお任せ!!」

「近寄ってくるなぁ〜!!」

 

アカリはやはりトライデントを振り回し魔物を迎撃している…魔法を殆ど使わないなアカリは。

 

対してヨリは同じくトライデントに似た槍に電撃を集め、それを振るう事で複数の魔物を感電させる。

 

「中々数が多いですね…黎斗くんどうしますか!?」

 

私に背を合わせてきたペコリーヌが聞いてくる。

 

「…そうだな、この状況を打開するのならば一気に退路を作るべきだ、ペコリーヌ、お腹の状態はどうだ?」

「うう…正直もう少し満たされていればなんとか…」

 

となると

 

「ミヤコ!君はおやつのプリンを持っていただろう!それをペコリーヌに渡せ!!」

 

皆が戦闘している中でただ浮遊しているだけのミヤコ。

 

「何を言ってるの、嫌なの、これはミヤコのプリンなの」

「あ、後でプリンなら一杯作ってあげますよ!」

「むぅ、それなら…約束なの、約束を破ったら呪ってやるの…はい、あーん」

 

ミヤコがペコリーヌにプリンを食べさせるとペコリーヌの王家の装備が光り輝く。

 

「よし、カロリー補給できましたよ!!全力…では被害が大きすぎるので全開のプリンセスストライク!!」

 

彼女の一撃で一部の魔物が吹き飛ばされ道ができる、その瞬間皆が一斉に動きその道を進む。

 

「お父さん!お願い!!」

「仕方ねぇ、可愛い娘の為だ!!オラァ!!」

 

ドクロ親父が青白い炎を撒き散らし魔物達の進行を遅らせる。

 

『キメワザ!!タドルクリティカァルフィニィッシュ!!』

「ライトニングジャベリン!!」

 

私のキメワザに合わせてヨリが巨大な光の槍を放つ、魔物達に追い討ちをかけ今のうちに退避する。

 

「すぐに奴等は追いかけてくるだろう、急いでここから離脱する、イリヤ、先導を頼むぞ、コッコロ、君はあまり戦えない先頭のイリヤを守れ」

 

私の声にコッコロが頷き、イリヤを先頭にして走り出す、横幅5メートル程の細い通路を駆ける、変わらない景色が3分程続いた所で少しだけ広い空間に辿り着いた。

 

縦15メートル、横20メートルはあろう空間、私から見て左端の方は崩れており崖となってる事が分かる。

 

「この先じゃ!この先の通路の奥が行き止まりなのじゃがそこにネネカの隠し研究所がある!」

「岩裏にスイッチがあってそれを押す事により研究所への扉が開く仕組みになっています…後方から足音が聞こえますね、早く研究所にいるネネカさんに止めてもらわなければ…」

 

私達は背後から忍び寄る魔物達に追いつかれぬよう動き出した瞬間だった。

 

「っ…!!」『マイティクリティカァルフィニィッシュ!!』

 

咄嗟だった、私は地面に向かってソードのキメワザを放ち、その余波で私以外のメンバーを前へと吹き飛ばす。

 

「えっ…く、黎斗くん…っ!?」

 

ペコリーヌの顔は私が彼女達を突然攻撃したことに対する驚きの顔ではなかった、眼前に私に食らいつくように襲いかかる巨大なライオンの顔が横切っていたからだ。

 

「ぐぅっ…!?!?」

 

体躯にして6メートル近くはあるだろうその巨大な体には蝙蝠の翼、無数の獣の腕、尾は大蛇。これもまたネネカの生み出した合成獣。

 

私はこの生物の攻撃に為す術なく力負けし、そのまま左端にあった崖にこの生物もろとも落下していく。

 

ペコリーヌ達が何か叫んでいたが、それを聞く余裕なく崖底へと落下した。

 

 

 

「ああ…っそんな…!黎斗くん…!」

「ペコリーヌさま、今はそんな事をしている暇はありません!!魔物達が来ます…!!」

 

わたしがふと目を逸らすとそこにはわたし達を追ってきていた合成魔物達の群れが迫ってきていました。

 

「主さまなら大丈夫です、必ず生きて戻ってきます!」

 

コッコロちゃんの力強い声がわたしに力をくれる…そうですよね、1番心配したいのはコッコロちゃんの筈なのに…よぉし!

 

「気合入れました!!行きましょう皆さん!!ネネカさんに会って早く止めてもらいましょう!!」

 

あの大きな魔物も合成魔物でした、だったらネネカさんに止めてもらえれば黎斗くんへの攻撃もやめてくれる筈です。

 

「わらわのこの少ない魔力で…足止めしてやろうかの!ヴァーミリオン・ハンド!!」

 

イリヤさんの放った複数の闇の腕が魔物達を掴み取り投げつけたりしています、威力はさほどありませんが足止めにはもってこいですね。

 

わたし達は走ります、シノブさん達が言うにはこの先、数百メートル程度で辿り着く筈なのですが…

 

「っ…!?前方にも魔物が!?」

「またなの〜!?」

 

また…おかしい…これは何かおかしい気がします。

 

「っ…今まで経験したことがないのぉ…!なんじゃこれは…っ!!」

「いつもの迎撃システムと違い、今回は過剰過ぎますね…ネネカさんの身にやはり何かあったのかもしれませんよ…!!」

 

わたし達は前方の敵を全力で叩きます…!黎斗くんの事もありますし…こんな所で足止めなんて…!!

 

 

 

「…やってくれたな…」

 

私の眼前には巨大を揺らすライオン型の魔物。こちらを睨み、口から唾液を滴らせている。

 

「このダンジョンのボス、といったところか、生憎時間をかけている暇はない、一気に決める」

 

私はガシャコンソード片手に突っ込んでいく、しかし

 

「…!速い…!!」

 

巨体に似合わず高速で移動し、私の背後に回り込む、そして複数の合成された腕が私に向かって叩きつけられる。

 

それをジャンプ回避で避ける、しかし

 

「っ!!?」

 

なんと奴は口を大きく開くとその口の中から巨大なシャコが私に向かって飛び出してきた。

 

よく見ればヤツの舌と融合している…ちっまさか口内にまで合成が及んでいるとは想定外だ…!!

 

「ぐはぁっ!!?」

 

私はシャコの右ストレートをまともに浴びて吹き飛ばされる、壁に叩きつけられ、壁が粉砕される。それだけで威力がどれ程のものか理解いただけるだろう。

 

「ガルルォォアァァァ!!」

 

奴が吠え、壁にめり込んでいる私に向かって突進を繰り出してきている。

 

連続で攻撃を受けるべきではない、ダメージもデカいからな、私はガシャコンソードを氷結モードに切り替え、氷の壁を作り出し、相手の視界から一時的に消える。

 

奴は氷の壁を鬱陶しそうに腕で破壊するが私の姿はそこにはない、背後を取り、炎熱モードで斬り裂いてやる。

 

しかしそれは読まれていたのか奴が大口を開け再び口内のシャコを飛び出させてくる。

 

「…ふっ、それは計算の内だ」

 

私はシャコの攻撃をしゃがむことで回避し、一気にそこから斬り上げをするとシャコとライオンを繋ぐ部分を切断する。

 

「ガァァァァッ!!?!?」

 

奴は切断部から血飛沫を、そして痛みから悲鳴を上げ、勢いよく飛び出したシャコはそのまま奥の岩盤に突っ込んでいく。

 

「痛みに狼狽えている暇はなぁい!!!このクソ魔物がァァァ!!」

 

私は怯んでいる魔物に高速で近づき連続で斬り付けていく、この私に歯向かった罰だ。

 

容赦などしない、数メートルの巨体を物理法則など無視して浮かし、岩盤に叩きつける、連続で高威力の斬撃を打ち込み奴に反撃の隙を与えない。

 

すると背後から巨大シャコがこちらに向かって飛び込んでくる、もう崩壊した壁の瓦礫から這い出てきたのか。

 

ならば利用させてもらう。私は背後から迫るシャコの勢いを利用し、ガシャコンソードの刃にシャコの体を乗せ、勢いを殺さず魔物に向かってソードを振り抜く。

 

それにより加速したシャコは魔物の胴体にぶつかり、更に斜め上方向に壁を破壊しながら吹き飛んでいく。

 

「丁度いい、そのまま上の階層に戻らせてもらう」

『マイティクリティカァルストライクゥ!!!』

 

私はそのまま上へと吹き飛ぶ魔物に向かって天地逆さま状態で蹴りを打ち込む。

 

そのまま、上へ上へと目指し蹴りを続ける、激しいエフェクトと岩盤を砕く破片で視界が悪い、しかもヤツの唾液と血飛沫で尚更だ。

 

「ふぅん!!」

 

更にダメ押しで回転を加えると魔物がたまらず絶叫する。

 

ドォンッと音が響く、どうやら上の階層へと飛び出したようだ。そのまま上の階層の天井に魔物は激突、天井を軽く崩落させながら地面に叩きつけられる。

 

私は華麗に着地し、周りを確認する…すると

 

「…ペコリーヌ…それに君は…ムイミ?」

 

そこにはペコリーヌ達だけでなくムイミの姿があった。

 

「な、何事かと思ったけど黎斗!?てかなんだこの魔物!?」

「なぜ君がここに?」

「黎斗くん…!よかったぁ…ってそうじゃありません!大変なんですよ!」

 

ペコリーヌが再開を喜んでいたのま束の間、彼女の表情が変わる。

 

「この研究所…爆発するんです!」

 

…何?突然の事に一瞬思考が停止した、しかしすぐに状況判断を開始する。

 

「…成る程、つまりネネカに何かあり、この基地に仕掛けてあった爆弾か何かが作動したということか?彼女はかなり神経質な性格だと聞く、自身の研究などが表にならないよう証拠隠滅するつもりという訳だな?」

「お前…爆発するって言っただけなのに良く理解したな…流石に気持ち悪いぞ」

 

ムイミに引いた目で見られたがそんな事は関係ない。

 

その時、私のゲンムの姿が解除される、恐らくキメワザの連発のしすぎよるエネルギー切れを起こしたらしい、私も戦力としてはもう数えられないだろう。

 

「とにかく脱出が先決だ、ここで黎斗に会えたのは運が良かった!この先にいるラジラジのところまで急ぐぞ!!」

 

私達は走る、すると地鳴りのようにこのダンジョンが揺れ始める。

 

「まずい…魔力炉の融合が始まった…!!もう1分もすればここは木っ端微塵だ…!!」

「こんなところで死にたくないの〜、あ、でもみんなが死んだらみんなで仲良くお化け仲間なの〜それはそれで楽しそうなの〜」

「これ、ミヤコ!冗談でも笑えんぞ!?」

 

イリヤとミヤコの漫才を無視しつつ私達は更に進んでいく、その道中の間にも合成魔物達が行手を阻む。

 

この人数で来て正解だったと今にして思う、この人数で来ていなければ確実に死者が出ていただろう。

 

崩れるダンジョン、迫る魔物、まさに物語の架橋のような展開に胸が躍る。

 

「あ、いたぞ!!ラジラジ!!跳躍の準備をしろ!!」

「ノウェム…!い、いやしかしその人数を飛ばすのは不可能…」

「いいから飛ぶんだぁ!!」

 

無理なものは無理だ、しかしそれは私がいなければの話だが。

 

「ラジニカーント!ムイミの言う通りにしろ!私が君を一点集中で強化する!!」

 

私の言葉に少しだけ驚いた後、1度頷き、ラジニカーントが空間跳躍を開始する。

 

瞬時に目の前が光り輝き、次に眼前に広がっていた光景は草原地帯だった。

 

そして次の瞬間に微かに爆発音が響き渡る、前回の破壊魔法同様だな。

 

「む?おお!君は私を救ってくれた少女!…と見慣れない人達がちらほら…」

 

移動してきた場所は先客がいた、男だ。金髪でオールバックに近い髪型、前世の私くらいはある背丈、白銀の鎧を身につけている騎士。

 

「こほん、ここは紳士的に名前を名乗っておこう!私の名前はマサキ!ネネカさまに仕える騎士だ!!」

「…なんだかペコリーヌさまに似た雰囲気の方ですね」

「…ああ、そうだな」

「えっ?わたしあんなスチャラカな感じですか?」

 

私達は小声でそんなことを話す。マサキは何となく話の流れを勝手に持っていく力強さがあるような感じがしてならない。

 

「それより、私は急ぎの用がある、君には感謝しているがこれで失礼する!」

「待て待て!お前、それでもかなり怪我してるんだからな!?そんな状態のお前を放って置けるか!」

「しかしネネカさまが今も危険な状態なんだ!このままにしておくことなど…私にはできない!」

 

マサキには焦りの表情が見える。

 

「マサキ、何があったのじゃ?あのネネカに何かあったとは到底思えないのじゃが…」

「おお、イリヤ殿、相変わらず奇抜な格好をしているな、と今はそうではない…ネネカさまは確かに強大な力と素晴らしい知恵がある、しかし圧倒的な数の前では限度がある」

「圧倒的な数…というと?」

 

イリヤに続きシノブが問う。

 

「…私達の目の前に数百から数千の騎士の集団が押し寄せてきた、取り急ぎで魔物達を配置したが足止めも数分も持たずにして崩壊、ネネカさまのお力なら1人でも逃げ延びている可能性はあるが…高度な攻撃魔法による不意打ちを受けた今のネネカさまにそれが出来るかどうか…」

「高度な攻撃魔法…?」

 

…心当たりがあるとすれば…キャル。

 

七冠(セブンクラウンズ)のネネカを狙ったという事は偽のユースティアナの差金…王宮騎士団(ナイトメア)か。ここ最近の街の警備の薄さはネネカやクリスティーナなどを追ってのことだとは判断していたがここまで大規模だとはな…」

 

しかも率いているのは恐らくキャル…どうしたものか…

 

キャルの性格上、あの偽物に逆らう事は決してない、むしろ前回のこともある、尚更失敗は許されないと思っているだろう…次に彼女に会った場合…私も覚悟をする必要があるな、彼女を削除するという覚悟を。

 

「なぁ、黎斗…お前達があそこにいたのってネネカに接触する為…だよな?」

「そういう君もそうなのだろう?君達はネネカが狙われるのを分かっていて先に保護をする予定だった、ラビリンスの方でな」

「どうしてアタシがラビリンスの方についてるって分かったんだ?また推測か?」

「ああ、そうだ。以前、ラビリスタが現れた際、私がペコリーヌと同じ場所に飛んだように君達は彼女達と一緒の場所に飛んだ筈だ、何よりあの怪物のユースティアナが共通の敵である以上敵対する必要がない、となると君達がラビリンス側に付くのは自然だ」

 

私の言葉に「あ〜成る程」と言いながらポンと手で納得するポーズをとる。

 

「マサキと言ったな、私は檀 黎斗、ここは冷静に行動してもらう。私の指示に従ってもらうぞ」

「…ふむ、黎斗くんか、しかし分からないな、何故私が君のいうことを聞かねばならないのだい?」

「理由は簡単だ、はっきり言う、邪魔をするな。私達は今、共通の敵と戦っている、そこで君のような存在が整えるべき場を乱す事で状況を悪くする事は避けたい」

 

私の言葉は彼に届いたようだ、少しだけ思案した後、頷く。

 

「ラジニカーント…君なんだろう?クリスティーナを脱獄させたのは」

「はい、ノウェムの命により王宮の監獄に侵入し彼女と他1名を脱獄させました」

 

他1名…?それは謎だがやはりそうだったか、彼の能力ならば簡単に脱獄させる事は可能だろう。

 

「しかし、それの影響で王宮では既に私対策をされているようです、このような大規模な作戦で人員を割いてはいますが王宮自体の警備は未だ健在、私の能力無しでは簡単に侵入する事は不可能でしょう」

「つまりだ、マサキ、君1人で正面から行っても今のその怪我では満足に戦う事はできず、いたずらに相手の警戒心を増やすだけだ、それだけは避けなければならないのは君でも分かるな?」

「…そうだな…ネネカさまの事は心配だが…私とて無策で挑むのは…それこそネネカさまに叱られてしまう」

 

どうやら聞き分けは良いみたいだ、ペコリーヌと違い。

 

「それじゃあマサキ、まずはお前は治療な!黎斗達はどうする?」

「私としても君達ラビリンスと合流がしたい、その為にこの1週間行動していたのだからな」

「へー、そうか、だったら丁度良いな、これを機にちゃんと腰を据えて話をしようじゃないか…このクソったれな世界をぶっ壊す為に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




クロノスの変身ポーズの練習はたまにしか成功しない


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歪められた世界

アニメプリコネ…騎士くんはどれくらい喋れるのだろうか…



 

その後、私達はラビリンスの複数あるアジトの1つに身を置いていた。

 

イリヤを筆頭にしたギルド、悪魔偽軍団(ディアボロス)とは昨日のあの爆発の後に別れている、現状このアジトにいるのは悪魔偽軍団(ディアボロス)のメンバーを除いた面子である。

 

昨日、というのは私達はこの小さなアジトに辿り着いてから既に1日が経過している、何事もなく、食事を取り、これからの方針などの話し合いは明日以降になるとムイミから言われ、私達は眠りについた。

 

現状、目を覚まし、私は辺りを確認している最中である。

 

「おや?目を覚まされたご様子ですね、主さま」

「コッコロか…今は何時だ?」

「まだまだ早朝でございます、健康的な1日を過ごせる良い朝でございますよ…ところで、そのお二人は何をなさっているのですか?」

 

コッコロが指摘したのは私の両隣にシズルとリノがしがみ付いている事。最近はよく眠っている間、私の隣に誰かがいることが多いな。

 

「まぁ…コイツらはいつも通りだ、あまり気にしなくていい」

「わーい、久しぶりの黎斗くんだぁ〜!黎斗くん成分補給〜☆」

「ちょっと!シズルお姉ちゃん!くっつきすぎですよ〜!全く油断もキスもナッシングです!」

「油断も隙もないね、リノちゃん、といっても私から黎斗くんを引き剥がす事はできないよ!私達には切ってもきれない血の繋がりがあるんだから!」

「いや…シズルお姉ちゃんもわたしと同じで血の繋がり無いじゃないですか」

 

ここで初めて知る事実、コイツら血の繋がりがないのか…

 

「あの…もう既に主さまはお目覚めになっているご様子ですし…そろそろお二人には退いてもらった方が主さまの都合もよろしいのですが…」

「え!?そうなの黎斗くん!?お姉ちゃん、邪魔?」

「…そうだな、私はもう起き上がりたい、2人とも退いてもらえると助かる」

 

私の言葉に渋々と頷き離れる2人。

 

「これからは黎斗くんとずっと一緒だよ!お姉ちゃんの力が借りたかったら何でも言ってね!」

「み、右に同じですよ!お兄ちゃん!!」

 

2人はそう言い残してその場から去っていった。

 

「なんとも騒がしい人達でございますね」

「悪い奴等ではないが、相手にするのは少々面倒な2人だな」

「おーい、黎斗ぉ!目、覚ましたか?ちょっとこっちで話がしたい!来てくれないか?」

 

ムイミの声が響く、話しか、丁度いい。私は軽く身支度を整え広間に向かう。

 

すると激しい剣撃音が響き、砂塵が舞う、全く狭いアジトでなんだというのだ。

 

「中々やるじゃないか!ダイゴの坊や!」

「っ…!お前!これ戦闘訓練って分かってやってんのか!?全力出し過ぎだろ!?」

「訓練で全力を出さないなど間抜けか?それでは訓練にならないだろう!」

 

何故か広間ではあのクリスティーナともう1人、金髪のダイゴと呼ばれた筋肉隆々の男が両腕のガントレットでクリスティーナの大剣を受け止めている。

 

恐らく先日ラジニカーントが言っていた、クリスティーナともう1人の脱獄者という事か。

 

「おいおい、お前達、こんな狭い所で訓練なんてやるなよ、埃が舞うだろ!?」

「とはいえ、ワタシ達は罪人だ、表立って訓練などできないのだから仕方ないだろう」

「まぁ、俺もよ体を動かしてなきゃ鈍っちまって、いざという時、戦えねぇかもしれねぇからな、ただでさえあの狭っ苦しい牢獄にぶち込まれてたんだしよぉ」

 

ムイミは頭を掻きながらため息を漏らす、コイツらは問題児2人という感じだ。

 

「まぁ、なんだ…もうすぐ朝ごはんだから落ち着いてくれよ…」

「おお!朝飯か!だったらこんなおばさんと戦ってる暇はねぇな!」

「おい、誰がおばさんだ、年長者は敬うべきだよ坊や」

 

2人は互いに武器を収め、服に付いた埃を払う。

 

「悪いな、騒がしくて、いつもこんな感じなんだよ」

「それは良い、話とはなんだ?」

「ああ、まずはラビリスタ…ここのボスと顔合わせしてもらう、今どういう状況なのか知ってもらいたいからな」

 

ムイミのその発言は何か意味ありげなものだった。私達は黙ってムイミの後を追う、するとそこにはベッドで横たわるラビリスタの姿があった。

 

「ラビリスタ…がどこまで『晶』としての記憶を持ってて、今何が目的なのかは分からない、でもアタシ達を命がけで守ってくれたのは事実だ、こんな状態になってまでな」

「あの後何があった?彼女がこんなことになるという事はあの時、あの演算以外に何かをやっていたということか?」

「詳しくは知らない、でも今この状態なのはあの真那…えーと今はユースティアって名乗ってるんだっけ?そいつを精神世界っていうのかなんというかそういう場所に押さえつけてる状態…らしい」

 

精神世界、というのはあまり表現として適切ではない、こちらで眠っているという事は…恐らく

 

「今はコイツの子細を話している暇ではなさそうだな…とコッコロどうかしたかい?」

「いえ、この方…どこかで会ったことがあるような、懐かしいような感覚があるのですが…」

「あー、それも踏まえて話したい事があるんだ、ラビリスタとの顔合わせは終わった事だし、朝食を取ってから話をしようじゃないか」

 

私達は再びムイミの先導で広間へと戻る。テーブルには朝食が並べられており、私達は席へと座り朝食を取る。

 

そして腹を満たし準備を整えた後、ムイミが話し始める。

 

「えーと…どこから話せば良いんだろうな…アタシ、説明下手だからうまく話せないんだよなぁ…よし、それじゃあ聞くぞ?あんた達はこの世界に何か違和感を覚えた事はないか?」

「違和感…でございますか?」

「ああ、なんでも良いんだ、地形がおかしいとか政治、文明がおかしいとかなんでも」

「言われてみると…そうですね、日常生活に不自由なく、と考えると粗が少々あると感じた事があります、まるで今さっき急ピッチで作られたような…」

 

コッコロがムイミの質問に答える、どうやらムイミはこの世界の変貌に気づいている様子、そしてそれらをペコリーヌ達に教える考えだ。

 

「わたしもそういったことを考えた事はあります、でも何というか…考えようとするとスルスル〜って頭の中から抜けていっちゃうというか…考えないようになっちゃうような…不思議な感覚が過去に何度かありました」

「そう、この世界はそういう修正力がある、みんなに違和感を与えないよう、記憶が改竄されているんだ」

 

記憶の改竄…即ち、この世界にいるプレイヤー全てがこの世界を現実だと思い込み、生活をしているという事。

 

突飛な話に聞こえるが私にとっては経験がある事だ。

 

マキナビジョン、奴が開発したゲーム、ハリケーン忍者による襲撃で新種のバグスターウイルスに感染した人間の意識をVR空間に連れ込み、そしてその中で、与えられた役割のキャラクターとして永遠に閉じ込めるというもの。

 

これはその案件に非常に酷似している、皆がその役割として違和感を覚えずに生活をし続ける。

 

「ゲームって言っても伝わらないかもしれないからさ、取り敢えずこの世界のことを夢の世界って言い方にする。この世界は夢の世界…つまり現実の世界じゃないんだ」

「…現実ではない…としたら本当の現実の世界というものがあるということでございますか?」

「ああ、勿論ある、こんな事態になる瞬間に間近でアタシは立ち合ったんだ…アタシにはさ、不思議な力があって…その力でなんとか自分の記憶だけを守る事ができたんだ…みんな忘れちゃったけど…アタシにはちゃんと現実世界で生きていた記憶もある」

 

ムイミの顔に嘘偽りは無かった。

 

「その話が真実だとして…わたし達はどうすれば良いんですか?あの偽物と何か関係があるんですか?」

「ある、この原因の1つはアイツにもあるからな」

「…待て、その言い方ではまるで奴のみの責任ではないような言い方じゃないか」

 

私としては奴が何かしらの事をしてこのような事態になったと考えていたが…他にも要因があるというのか?

 

「そういえばさ、黎斗…お前、どういう存在なんだ?記憶喪失ってレベルじゃない、人格まで変わってるってあり得ないだろ、名前も違うし…お前本当に何なんだ?」

「…では、私の事を簡潔に話してやる、コッコロも心して聞くといい」

 

私はコッコロにそう釘を刺す、理由は…この事実は彼女の主さまという概念の根幹に関わる事だからだ、本来の主さまは私ではないのだから。

 

「私は檀黎斗…恐らくだがこの世界とは別の世界からこの少年の体に憑依した……人間だ」

 

バグスターなどという存在は余計に混乱を招く為、人間という表現でここは通す。

 

「別世界…まて、それは現実の世界って意味じゃないって事だよな?」

「ああ、このアストルムでも君の知る現実世界でもない、とはいえ私の世界とここの現実世界は大した差はないようだが…所謂パラレルワールドというものだろう」

 

パラレルワールドという単語に納得したのはムイミだけだった。

 

「どうしてそんなことになったんだ?」

「さぁな、だがこの少年の末路は…君の方がよく知っているんじゃないのか?」

 

私がそう言うと暗い影を落とす、やはり何かこの少年の身に悲惨な事が起こったのだろう。

 

「…私はこの少年に乗り移った精神体…という解釈をしていた、が…あのユースティアナ…奴と対峙した時、奴はこう言っていた『そういうものとも何か違う気がする』と」

「…どういう意味だ?」

「…さぁ、奴も具体的な事までは分かっていない様子だったからな、私としても私が私であるのか不安になってきたよ」

 

さて、この話を聞いてコッコロはどう思うか…

 

「どうだ、コッコロ…これで分かったと思うが、私はこの体の持ち主の少年本人ではない、君の本来の主さまはこの少年であって私ではない」

「いいえ」

 

即答だった。その言葉は私の予想していた答えと違った。

 

「主さまは主さまです、どんな境遇だろうとこの数ヶ月を共に過ごした主さまは…紛れもなく黎斗さまなのです…だから…わたくしの主さまで間違いありません」

「…そうですね、黎斗くんは黎斗くんです、初めて会ったあの日から黎斗くんでしたから、黎斗くんの前の人格がどんな人かはわたしは知りませんしね」

 

ペコリーヌもコッコロの意見に同調した、全く、私のギルドメンバーは頭のおかしな奴らばかりだ。

 

「へへ、黎斗もこの新しくなった世界でアイツらとは違ういい仲間が出来たみたいで何よりだよ。話を戻すけど黎斗の問いには正確には答えられない、間近とは言ったけど直接は見てないんだ、ユースティアナ…千里真那とあの現場にいたお前やお前達の仲間が何かやったっていうのは推測できるんだけどな」

「あの…アイツら…ってわたし達ではないんですよね…?」

 

そう聞いたのはペコリーヌだった、少しだけ不安そうに聞いている。

 

「あ、ああ…そうだな、少なくともこの再構築された世界では初めて会ったよ、そっちのコッコロっていう方も、前のコイツの仲間は他にいて、フィオっていう妖精もつれてた筈だ、なんでこの世界では一緒にいるのがアイツらじゃないんだっていうくらい仲が良かったよ」

 

フィオか…千里真那が言っていた妖精…ムイミとの話が合致したな。

 

「そう…ですか…あはは、なんかちょっとだけショックですね…こんなに仲が良いのに…本当は違う人達と仲良しで…横から取っちゃったみたいで申し訳ない気持ちがあります」

「はぁ…何を言うかと思えば、君はさっき言ったんじゃないか、初めて会った時から私は私だと、前の私とは違うのだと、ならそんな事を考えるの無意…無駄だ」

「黎斗くん…」

「ふふ、ペコリーヌさまを元気付けていらっしゃるのですね、それにムイミさまの配慮をして『無意味』ではなく『無駄』と言い直しているあたりも主さまの優しさがお伺いできます」

 

…無駄に観察力ばかり付いてしまったコッコロには敵わないな。

 

「お前……そうだな、確かにただの憑依とは違うのかもしれないな…」

「どういう意味だ?」

「いや、檀黎斗っていう奴の元々の性格を知ってる訳じゃないからはっきりとは言えないけど…前のお前はすごく優しい奴だった、こっちが目眩を起こしちゃうくらい甘い奴だった。憑依ってさアタシの感覚だけどそっくりそのまま憑依した奴…つまり黎斗の性格が反映される筈だろ?」

 

…ムイミのその答えで私の中である仮説が生まれる。

 

単純な憑依ならば、この少年の性格に引っ張られるなどという事は決して無いはずだ、例えるならパラドが体内にいた事でMの人格が生まれた永夢。

 

永夢の体に一時期乗っ取りをするような形でパラドが侵入した際、パラドはパラドだった、永夢の性格に引っ張られていたという事は無かった、だから私のレベル0で抑制し切り離す必要があった。

 

つまり…私のこれは憑依というよりは…『融合』や『統合』に近いのかもしれない、私と少年の体だけでなく精神まで統合していると考えられる。

 

しかしこの少年の場合は記憶の欠落がある為、私の記憶の方のみが一方的に支配している。本来ならば少年と私の記憶の混流があったのかもしれない。

 

いや既に始まっている…フィオという単語に聞き覚えがあったのもそれだ。

 

私の精神は一体どこへ目指すのか…私という個体がどのようなエンディングを迎えるのか…クフフフフ…今から楽しみでしょうがない。

 

「黎斗…?考え事は終わったか?」

「ああ、大体状況は把握した」

「そっか…とにかく、夢っていうのはいつまでも見てちゃダメなんだ、そりゃ…辛い現実が待ってるかもしれない人だっているかもしれない…でも、夢はいつか醒めなきゃ前には進まない」

「違うなムイミ、夢は見てはダメなのではない…『夢は叶えるものだ』自分の力でな」

 

私の言葉に目を丸くした後、微笑むムイミ。

 

「そうか…そうだよな、アタシだってそうだったんだ、自分の夢を叶えるためにも今のこの悪夢を取っ払わなくちゃならない…!今はみんなで協力しよう!」

「それで?協力とはこれから何をするつもりだ?」

「それなんだけど、実は作戦があっt……っ!?」

 

ムイミの言葉が遮られる、理由は単純、奇妙な揺れが確認されたからだ。

 

「…なんでしょう…地震でございますか?」

「いや…この地鳴りは天災のそれとは違う…人力だ」

「…アジト周辺に仕掛けていた罠が破られて警報がなってる……ラジラジ、まずは状況判断をしたい、空間跳躍で外を見てきてくれ」

「分かりました」

 

ラジニカーントは瞬時に消える、私達ものんびりしている暇はない、各自席を立ち上がり準備を始める。

 

「ちょっと油断したな…リノとシズルも洗い物は一時中断!ヤバくなったらここから撤退するぞ!」

「…ふむ、今の揺れは罠を無理やり破壊したという事だな、だとすると物理攻撃ではなく範囲的に魔法で破壊した、と考えるべきか…」

 

だとするとそんな事をする人物は1人しか思いつかない、罠が目の前に張り巡らされている、1つでも起動してしまうのなら後は全て起動しても関係ないという大雑把な考え、せせこましい作業が大の苦手。

 

「…キャルか…」

 

私は誰にも聞こえない小声でそう呟いた。

 

「この攻撃は王宮騎士団(ナイトメア)によるものだと考えたほうがいい、先日から私は知り合いのツテでラビリンスの無数にあるアジトをしらみ潰しで調べていた際、王宮騎士団(ナイトメア)もまた私同様にアジトを洗っていたようだからな」

「まぁ、そうだよな…しかもネネカが捕まるような大軍勢…それがこっちにも来たって考えた方が妥当か…」

「遅れて申し訳ありません」

 

その時、私の背後の空間が歪みそこからラジニカーントが出現する…が

 

「ラジラジ!ちょっとおそか…ってお前どうした!?大丈夫か!?」

 

ラジニカーントは右半身がズタボロになり出血もしている、顔色をあまり変えてこそいないが常人なら動くことさえままならないだろう。

 

「いえ、どうやら私対策の魔法を練り上げられているようで、空間跳躍をした場合、自動で迎撃されるみたいです。と私の事はいいでしょう、外の様子なのですが非常事態です、このアジトの外周をグルりと大量の魔物と王宮騎士団(ナイトメア)の軍勢が取り囲んでいます」

「大量の魔物だって…!?ここを取り囲むレベルって…大戦並みの戦力じゃないか…」

 

ムイミが焦りの顔を見せる、その間、コッコロがラジニカーントに近寄り回復魔法で治療しているようだった。

 

「いつまでも逃げ腰っていうのも割に合わねぇ、ここで迎え撃って殲滅っていうのはダメなのか?」

「ダイゴ…そうしたいのは山々だけど無理だ…戦力差が大きすぎる」

「そうですね、相手の魔物の中には城塞級の巨大な個体も見えました、更に特級クラスの魔物もチラホラと確認出来ましたから戦うのは得策ではないかと」

 

…城塞級に特級…?あのキャルがそこまでの魔物を操りここを取り囲むレベルの魔物の軍勢を操っているというのか…?

 

いやそう言えば以前、プリンセスナイトの力を無理やり与えられていたな…そうか自身の力としてちゃんと取り込んだという事か、そこだけは褒めてやる。

 

「しゃーねぇな、俺も別に負け戦がしたい訳じゃねぇし…そういや逃げるんだったらあのラビリスタも連れて行かなきゃなんねぇんだろ?だったら俺が担いでやるよ!待ってろ!」

「…そうだな、ラビリスタはこのギルドの要なのだろう?損失は避けるべきだからな」

 

ダイゴがその場から走り去り、クリスティーナがダイゴの言葉に付け足す。

 

「みんな〜!こっちは準備できたよ!」

「みなさん!こっちに抜け穴があるんです!それを使ってここから脱出しましょう!!」

 

リノとシズルが私達に向かって叫ぶ。

 

「アタシ達もこういうのを想定してなかった訳じゃない、脱出経路くらいは作ってあったさ」

「ここで死ぬのは本望ではない、私にはネネカさまが待っているのだ!!生恥を晒してでも生き延びてみせる!!」

 

マサキのやる気を尻目に私達は行動を開始する。

 

抜け穴に入り込むとそこは洞窟となっていた、ヒヤリとした空気が辺りに流れる。

 

「ケホッケホッ!整備とかしてなかったから埃っぽ〜い、お洋服のクリーニングとか今は出せないのに汚れちゃったな〜」

「そんなこと言ってる暇はありませんよお姉ちゃん!」

 

そろそろ、背後のアジトに侵入してきている頃だ、早めにここを抜けたいところだが。

 

「む?大量の魔物の気配がする…野生の個体なのか待ち伏せかは判断しかねるが…どうだ?ダイゴの坊や、どちらが魔物を多く倒せるか…試してみるか?」

「何言ってんだ!こちとらラビリスタ抱えてんだぞ!?それにちまちま魔物と戦ってたら後ろから追手が来て挟み撃ちにされちまうっつぅの!」

「ほう?中々冷静じゃないか、脳みそまで筋肉ダルマかと思ったがそうでは無いようだな」

 

私達の目の前には多種多様の魔物が数百体…最近はこんなことにばかり巻き込まれているな。

 

ここを突破しなければ私達に未来はない…さてどうするか…

 

 

 




マナ…マナが足りない…(スキル上げ)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

破滅の包囲網

今回だけで8章の8割消化するという…


「ひぃ、ふぅ、みぃ…数が多いな、まぁ、ここはアタシに任せな」

 

そう言ってムイミが前に躍り出る。

 

「わたしも手伝いましょうか?わたしの王家の装備の出力ならこれくらいの魔物達なら一気に倒せますよ?」

「いいや、ペコリーヌ、君のフルパワーは出来るだけ取っておきたい、ここはまだ出し切る局面ではない」

「そういうことだ…行くぞ!!顕出せよ!!天楼破断剣!!!」

 

地面から半透明の体剣が出現し、それが徐々に色を成していく。彼女の持つ特殊な剣。

 

「前回はいいとこ無かったけど…ここはアタシの見せ場だな!!道を開けな!魔物共!!!」

 

全力で縦に振り抜く、ただそれだけ、それだけで高出力のエネルギーが前方に噴出し魔物達を薙ぎ払っていく。

 

それは魔物だけでなく洞窟の壁面さえも削り取っていく。

 

「ふぃ〜…ザッとこんなもんだな、見晴らしも良くなったしさっさと進むぞ」

「す、凄いですね…王家の装備みたいなデメリットがなさそうなのにこの威力…」

「当たり前だろ?これは前の世界でアタシ専用に作られたチート武器、最高の攻撃力を誇る、天楼破断剣…まぁ今はラビリスタに作ってもらったレプリカで全盛期の頃の強さより劣るけどそこはアタシの技量と根性で補う!」

 

確かに凄まじい威力だ、しかしデメリット無しとは到底思えない。

 

「おい、シズル、リノ、この脱出経路はどれ程の長さがある?」

「えーとね、襲撃者とかに出口を悟られないようにかなり長距離だった筈だよ、ただ…こんなに魔物がいるとなると…脱出までかなりかかっちゃうかも…」

「そうか……ならばムイミ!君もあまり体力と力を使いすぎるな!確実に脱出が出来るとは考えない方がいい!」

 

そう、常に最悪のケースを想定していくことが重要だ。アドリブで状況を打破し続けるのは無理のある行為だ、それを私は痛感している。

 

衛生省にアジトを嗅ぎ付けられ、CRをアドリブで利用したこともあったがああいった手段は本当に奥の手だ。

 

ここは体力の温存、魔物達がまだまだ巣食っているこの洞窟で長距離移動するとなると出口にたどり着いた頃には既に限界に来てしまっているかもしれない。

 

そんな状態で仮に包囲されている場合、待っているのは死だ。

 

「出来るだけ私は変身も強化も避ける!各々体力温存を心がけ魔物を捌き、出口に向かう!!」

 

私の言葉に皆が納得し、最小限の動きで魔物達を撃退し、進んでいく。

 

何時間経過しただろうか、元々長距離ということもあったが魔物達の相手もしていたからかやけに時間がかかった。

 

暗闇の洞窟から出てくると太陽の日の光が私達を照らす、しかし空は既に夕暮れ、それ程までの時間が経過していた。

 

「よ、ようやく出てこれましたね…」

「でもここまで来れば敵も撒けたと思いますよ!」

 

ペコリーヌの疲れた声に対しリノがそんな事を大声で叫ぶ、だが

 

「…いえ、そういう訳には行かなそうですよ…主さま…」

「そうか…君の索敵魔法に引っ掛かったか…数は?」

「…周囲を取り囲まれております、完全にわたくし達の動きが読まれていると考えて宜しいでしょう」

 

…最悪のケース、やはり…か

 

「取れる選択肢は2つ、1つは玉砕覚悟で敵陣に突っ込む、2つ目は諦めて降伏だな…まぁ後者は選びたくないものだ、そんな事をするくらいなら戦場で死に花を咲かせた方がマシだ」

「おばさんの言う通りだぜ、こちとらここまでされる覚えはねぇっての!謝るくらいなら叩き潰した方がいいに決まってるぜ!」

 

クリスティーナそしてダイゴが意気込んでいるが…この数の相手となると、突破はかなり厳しく現実的ではない。

 

「でもなんでバレたんでしょうか!?こんなのフクロウネズミですよ!!?」

「袋の鼠、ねリノちゃん」

「単純にしらみ潰しだろう…広範囲に索敵魔法を仕掛け、更にはここら辺一帯の地理を把握しどこにどう繋がったダンジョンがあるのか、どこから私達が出てくるのかをおおよそで判断した」

 

恐らく可能性の1番高いのはこの場所だけでなくそれ以外の出入り口にも魔物や兵士達を配置しているだろう。戦力は分散しているとはいえ、この数か…途方もないな権力という奴は。

 

王宮騎士団(ナイトメア)は腐っても国家権力…歯向かったワタシ達を処罰する為ならばこのような大規模作戦を企てる…とんでもない金の使い方をするな陛下は」

「はいは〜い、お取り込み中失礼するよ〜」

 

不意に私達以外の声が響く、魔物の群れの中に1人、見慣れた男の姿。

 

「…オクトー…!!」

「やっほ〜ムイミちゃん、僕の大事なものを無くしてないみたいだね、よかったよかった」

「おやぁ?ワタシには挨拶は無しか?オクトーの坊や、お前を世話してやったつもりなんだが…ワタシを不愉快にさせると後悔するぞ?」

「あはは〜あんまり僕が出しゃばっても上から怒られちゃうし〜ここは僕は一歩下がらせてもらうね〜?後は頼んだよ『陛下』」

 

オクトーの『陛下』という単語に周りがざわつく、私でさえも内心、驚きを隠せない。

 

奴が…千里真那がここにいるというのか?

 

「オクトー、私は『陛下代理』であって陛下ではありません、仰々しい敬いはやめてください」

「は〜い」

 

現れたのは千里真那ではなかった、私達のよく知る声。

 

「えっ…どうして…キャルちゃんが…?」

「どういう事でございますか…?キャルさま…?」

 

キャルの顔には何か不可思議な漆黒の仮面を取り付けていた、衣服も少しだけ変化があり、肩を露出し黒いファーが取り付けられている。

 

「反政府組織ラビリンスあなた方を王宮騎士団(ナイトメア)の正義の名の元に断罪します、降伏は認めません。…ペコリーヌ、コッコロ…そして黎斗、あなた達にも加担した罪が問われています、もし身柄をこちらに引き渡すというのであれば命だけは取らないで置きましょう、1分間待ちます…身の振り方を冷静に考えてください」

「どうして…!キャルちゃん!!」

「キャルさまがわたくし達にそのような事をするとは思えません!ちゃんと説明をしてくださいまし!!キャルさま!!」

 

…何か引っ掛かかる。別にキャルが陛下代理になった事に対する疑問ではない。

 

『何故わざわざキャル自身が姿を見せた?』という事だ。

 

彼女の力は前衛向きではない、魔物を指揮する力、私達を殲滅することが目的ならば尚更出てくる必要はない。

 

それでも彼女は私達の前に姿を現した、ペコリーヌやコッコロの前に…かつての仲間を裏切り、ただ名残惜しかったから…?違う、彼女には何か考えがある。それを探る必要がある。

 

「ほう?随分とお優しいじゃないか、キャル…私達なら助ける?甘すぎる考えではないか、やはり君には向いていない、敵キャラというのはね」

「黙ってください、あなた達の発言は身柄をこちらに渡すか渡さないかの2つのみ、それ以外の発言は認めません」

「なら分かっているのだろう?私達をよく知る君なら答えが」

「…っ」

 

仮面の奥の表情が崩れる、やはり彼女は向いていない。

 

「ねぇキャルちゃん、恥ずかしがり屋の可愛いキャルちゃん…いつもみたいに照れ隠しでそんな事を言っているんですよね?そんな…わたし達を脅したりなんてキャルちゃんはしませんよね?」

「…1分、経ちました…身柄をこちらに渡す意思は無いと判断します、全軍進撃!魔物共は奴らを食い尽くせ!!」

 

キャルの号令で動き出す、360度、全角度から一斉に敵が攻撃を仕掛けてくる。

 

「っち…!ペコリーヌ!!体を止めるな!!奴らが動き出したぞ!!」『マ〜イティアクショ〜ン!シャカッとリキッとシャカリキスポーツゥ!!』

 

流石の私も即座に変身し対応する、迫る魔物や騎士達を腕や足で迎撃し打ち払う。

 

「ペコリーヌさま!今のキャルさまは様子がおかしいです!恐らくあの仮面に何かあるのかもしれません!!!…しかし、それよりも敵への迎撃を優先してくださいまし!」

 

コッコロも既に戦闘へ参加している、他の皆もそれぞれの対応で忙しい。

 

この場でペコリーヌのみ、何かを考えているのか動きが止まっていた。…この時、私はもっと早くに考えつくべきだった。

 

何故、キャルがわざわざ私達の目の前に現れたのかを。冷静に考えれば簡単な事だった筈。

 

彼女は…キャルは私達をよく『観察』していた、私達の癖や性格を完璧に把握していた。

 

彼女が私達の前に姿を現した、あらかさまに目立つ謎の仮面を取り付けて現れた。

 

コッコロならばそれにいち早く気づきそれを指摘する、その指摘を聞いた場合…ペコリーヌならばどう行動するか、キャルは知っている。

 

「っち…!!ペコリーヌ!!安易な行動はよせ!それは罠だ!!!」

 

私がそれに気づいた時、既に遅かった、ペコリーヌは飛び出し、魔物の群れの中に1人突っ込んでいってしまう。

 

ペコリーヌの悪い癖だ、これだと信じ込んだら人の話を聞かず突っ走る…キャルの狙いはコレか…っ!!!

 

私はトリックフライホイールを投げつけ魔物を吹き飛ばしペコリーヌを追うのだが次々迫り来る魔物達に行手を阻まれる。

 

「ペコリーヌさま!!…っ完全に分断されてしまいました…!!」

「最悪、あのお嬢ちゃんは置いていく判断をしなければならないな、この状況で助けに行くのは無謀だぞ?」

 

コッコロの微かな望みもクリスティーナの正論に打ち崩される。

 

しかし

 

「っ分かっている、だが今ペコリーヌの戦力を失うのはこちらにとって大きな損失だ…!ここで見捨てるわけに……」

 

その時、私は更なるキャルの策略に気付いてしまった、いや、『私だから気付いた』

 

それの意味する答えは簡単だ、キャルはペコリーヌやコッコロの事をよく理解している。

 

つまり『私』の事も当然理解している。

 

私はある一点を見る、私の額から冷や汗が流れ出てくるのを感じる。

 

「主さま…一体どこを見て…アレは…っ!?」

 

コッコロも私に続き、遅れてソレに気付く。

 

「やだやだやだ!こっちに来ないで〜」

「うわーん、誰か助けて〜!!うぅ…にいちゃーん!」

「うぇ〜ん怖いよぉ〜お兄ちゃ〜ん!!!」

 

3人の小さな少女達がこちらに向かって走ってきている、魔物の群れに追われながらだ。

 

「あれは…キョウカにミソギ…それにミミか…!!ちっ…やってくれたな…キャル…っ!!」

「っ主さまっ!!?いきなり飛び出されては…いえ、そうでございますね…見捨てるわけにはいきませんよね!!…やぁぁ!!」

 

私が飛び出すと同時に風魔法の支援で魔物達を吹き飛ばす、私はすぐに彼女達の元へと駆けつけ、迫る魔物達を蹴りと拳で迎え討つ。

 

「ひえっ!?あ、あなた誰ですか!?ふしんしゃさんですか!?」

「私だキョウカ、とにかく私に掴まれ」

 

ゲンムの姿を初めて見るキョウカは最初こそ身構えたが、私の声を聞くと安心して張り付いていた表情が緩む。

 

「えっ!!?その声にいちゃん!?なんかカッコよくなってる!」

「うわーい、お兄ちゃんだぁ〜ミミすごく怖かったよぉ…」

 

私は淡い紫髪のツインテールのエルフの少女キョウカを背に、オレンジ髪のサイドテールの活発少女のミソギを右脇に、ピンク髪のおさげにウサギのフードをかぶった少女ミミを左脇に抱え、駆け出す。

 

「キョウカ、私は君たちを担いでいる間攻撃ができない、君を強化する、それで迎撃するんだ」

「は、はい…!やってみます!!えーい!アイスランス!!」

 

背に乗るキョウカが杖から水を圧縮し氷に変化させた魔法を放ち、私達に迫る魔物を粉砕していく。

 

コッコロ達の元へ無事戻ると私は3人をその場に下ろし。彼女達の目線に合わせるように片膝を地面につく。

 

「良いかい?君達は決して私達から離れるな、ミミ、君は迫る魔物だけを対処しろ、ミソギ、君は爆弾やトラップで敵を足止めだ、キョウカ、君は魔法で私達やミミ達を守れ、出来るね?」

 

3人は頷き、それぞれが魔物達を迎撃する。すぐに私は立ち上がり再び魔物達と激突する。

 

「しかし何故この子達はこんな場所に…偶然とは思えないな」

 

近くで魔物を斬り飛ばしていたマサキが問う。

 

「…全てはキャルの計算通りさ…」

「どういう事でございますか?主さま」

 

私達は魔物達の攻撃を捌きながら話を進める。

 

「彼女は私達の事をよく知っている、ああすればこうするという事をよく分かっている、キョウカ達がここに来たのは偶然じゃ無い、こんな辺境の場所に子供たちだけで来れるはずがないだろう?」

 

私は続ける。

 

「それに魔物に追われていたというのも不自然だ、子供達の走力なんて魔物に比べればウサギとカメ程の差がある、わざとここに来るように追わせていたと考えるのが自然だ」

 

そして問題はここからだ。

 

「…彼女は…キャルは私の交友関係を知っていた、その中で最も非力なこのリトルリリカルの子供達を選び、それがこの戦場におびき寄せられたともなれば…私が取るべき行動が決まる…」

「…っ最初から主さまがこの子達を助ける、というのもキャルさまの計算のうち…っ」

「それだけでは無い、助けたが最後、私達はこの子達から離れられない…即ち、孤立したペコリーヌを助けにいくことが実質的に不可能となった」

「そんな…それではまるで……っ」

 

そう、コッコロも気付いている、キャルの本当の目的が。

 

「それではまるで…『最初からペコリーヌさまのみがターゲットだったみたいではございませんか…!!』」

 

この大規模な作戦は勿論、私達の排除だ、だが本当の目的は一点のみ、ペコリーヌの捕縛。

 

ペコリーヌには王家の装備が備わっている、その力は絶大だ、そして何よりも1番捕らえる事がたやすい性格をしている。

 

簡単に誰かを信じ、簡単に策略にハマりやすいペコリーヌを孤立させ捕まえる、これがキャルの思い描いたシナリオ。

 

「だがしかし…何故ペコリーヌのみを…?どう考えても千里真那の指示とは思えない」

 

仮に千里真那が今、ラビリスタと同じ状態だった場合、彼女の復活の為に何かしらでペコリーヌを利用する算段だとしても、何故ペコリーヌのみなんだ?

 

そこには何か…キャル自身の思惑があるようでならない。

 

「…考えている暇はない、コッコロ、残念だがこうなってしまった以上、ペコリーヌは見捨てる、退くぞ!!」

「そんな!!主さま…!!」

「駄々をこねるな!私の従者ならば状況を冷静に判断しろ!!!この状況下での独断はこの場にいる全員を危険に晒す!!これ以上、キャルの思惑にハマるというのはこの私が許さない!!!」

 

私の叱責にコッコロの顔が歪む、とても辛そうな表情でペコリーヌの向かっていった先を見つめる。

 

「…安心しろ、恐らくだがペコリーヌは殺される事はない筈だ…キャルの性格を考えるならば…な」

 

キャルが私達をよく知るように、私もまた彼女をよく知っている、彼女の甘さは美食殿の中でも飛び切りだ。

 

勿論、コッコロを安心させる為の言葉でもあったが、この推測は間違いではない筈。

 

「…っ分かりました、行きましょう…主さま…!!」

 

コッコロが決意を固めた瞬間だった、私達の前数百メートル先で強大な魔法によるエネルギーが上方に向かって放たれているのを確認できた。

 

それは即ち、キャルがペコリーヌに対して攻撃をしたという事に他ならない。決着はついた。

 

「ペコリーヌさま…っ」

 

コッコロはそれから目を背けるように退避を始める。

 

「マサキ!子供達の先導を頼みたい!私は他の面子と共に道を切り開く!!…コッコロ、君も子供達を守りながらで良い、マサキと共に退避してくるんだ」

「分かった!!子供達は私に任せたまえ黎斗君!!」

「承知しました主さま…主さまもどうかお気をつけて…!」

 

私はガシャットをシャカリキスポーツから爆走バイクに変え、バイクを召喚し跨る。

 

一気に加速し、100メートル程前方(どこを基準に前方と言っていいのか不明だが)にいるダイゴ、クリスティーナの元へと向かい魔物達をバイクで轢き薙ぎ払う。

 

「うおっ!?なんだそりゃ!?」

「また珍しい力を持っているな黎斗の坊や!」

「前線…いや退路確保の状況はどうなっている」

「ふむ、ノウェムとラジラジが道を切り開いている、それを支援しているのがリノとシズルだ、状況は良いとは言えないがな」

 

私の問いにクリスティーナが答える、状況はやはり厳しいか…

 

「私もムイミ達に合流する、君達は後続のコッコロとマサキ、子供達を頼むぞ」

 

クリスティーナなら問題はないが、背中にラビリスタをくくり付けたダイゴにとってこの乱戦状態の戦場はかなり厳しいだろう、その負担を私が背負うしかないのだが…

 

私はバイクで加速しムイミ達のいる前線に向かう、ムイミ達のいる場所はクリスティーナ達の地点から更に200メートル程先の地点だった。ムイミは天楼破断剣で道を切り開こうとしているようだが魔物や兵士達の数が一向に減らない。

 

しかしムイミは笑っていた、何か活路を見出したように思える。

 

「ここら辺までくると魔物達の動きが鈍い、恐らく操れる魔物に使役制限範囲が決まってるんだ!」

「どうやらそのようですね、ここさえ突破できれば、私の空間跳躍も発動し範囲外に飛び出す事ができます、多少私はダメージを受けますが、範囲外にさえ出れれば治療を受けられますからね」

 

2人は見つけ出した最後の希望に向かって最後の力を振り絞る。

 

「私もそれに加わろう、どれくらいの距離で空間跳躍は使える?」

「距離にして50メートル…あの地点ならば魔法結界の威力も弱い筈です」

 

50メートル…たった50メートルならば、ここら辺一帯の敵を排除し後続が合流次第、空間跳躍で退避が可能だ。

 

だがしかし、私は想定していなかった。

 

最悪の事態に見出した微かな希望、それに目を取られ、本当の意味での最悪の事態を…考え得る最悪のケースを、私はあれ程警戒していたというのに完全に抜け落ちていた。

 

「お兄ちゃん!どうやらシャドウが複数確認出来ますよ!!」

「シャドウだと…?」

 

リノの言う通り、魔物や王宮騎士団(ナイトメア)の兵士に混じり冒険者の姿をとった人間の姿が確認できる。

 

「えっ!?どういう事?シャドウって自然発生した存在なんじゃないの!?」

「…シャドウはバグの存在だ…千里真那ならそういう存在を自分の手で操る事も出来るってことだな」

 

シズルの疑問にムイミが答える…これで合点がいったぞ、前回大量のシャドウに襲われたのも全て千里真那の策略か…

 

そして、その『最悪の事態』が訪れる。

 

「お兄ちゃん!そっちにシャドウが行きました!気をつけてください!!」

 

リノの言葉に私は振り返る、するとそこには思いがけない存在が佇んでいた。

 

「なっ…まさか…っ…!!?」

 

その思いがけない存在を目にした私は、1歩後退してしまう。

 

「…ゲンム…お前を攻略する」

 

私の目の前にいたシャドウ…それは…

 

宝生永夢だった。

 

 

 

 

 

 




多分ここがこの作中の黎斗が1番窮地に立ってる状況だと思うんですけど(凡推理)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最大級の力

ここ最近で1番楽しく書けた


遡る事、数分前…

 

「はぁ…はぁ…キャルちゃん…!!今…わたしが…!!助けてあげますからね…!!」

 

わたしは次々と迫る魔物を斬り倒し、ぐんぐん前に進む。絶対にそうに違いない、あの仮面が…アレがキャルちゃんを…!!

 

許せない…わたしの大切なお友達を…操るなんて…!偽物…いや、千里真那…!!!!

 

「さっさと…道を…空けろぉぉぉぉ!!!」

 

王家の装備を全開にして無我夢中で前を遮る障害を排除していく、今、わたしにはキャルちゃんしか見えない…!!!

 

魔物も兵士も…関係ない、フルパワーで剣を握り、相手を吹き飛ばしながら進んでいく。100メートル?200メートル?とにかく走り続けた。

 

そして

 

「…キャルちゃん!!」

 

ようやく、キャルちゃんのところまで辿り着く事が出来た!!後はあの仮面だけ…!!

 

「…全く、何も考えずに突っ込んでくるとは…呆れたものですね…ペコリーヌ」

「えへへ、それがわたしの良いところですよ、それにそんな話し方キャルちゃんらしくないです…ってうわぁ!?」

 

わたしが話してる途中でキャルちゃんが雷の玉をこっちに向かって発射してくる、わたしはそれを飛び退いて回避する。

 

「いきなり何を…」

「話す必要なんてありませんよペコリーヌ…それに気付いてないんですか?貴方今…孤立しているという事を」

 

そう言われて初めて気づく、わたしの周りには誰もいない…いつの間にか孤立を…

 

「いつの間にか孤立をしている…って顔をしている様ですが、はぁ、そこまで馬鹿だったとは…事が運びやすくて助かります」

「どういう意味…ですか…?」

「貴方は最初から嵌められていたという事ですよ、最も貴方に説明しても貴方のオツムで理解できるとは思えませんが」

 

その言葉を皮切りにキャルちゃんが攻撃魔法の詠唱を開始、闇色の雷属性の球体が4つ程キャルちゃんの背後に出現し、そこからそれと同じ大きさの球体が生成されこっちに向かって飛んでくる。

 

息もつかせぬ攻撃、球体から生み出される弾は高速かつ連続でこちらに向かってくる。

 

「っキャルちゃん…!!」

 

わたしはそれを走りで回避、右に左に大きく動く事で射線をズラす様心がけて、とにかくキャルちゃんの攻撃に当たらないようにする。

 

「ほう?こちらに対して攻撃をしないつもりですか…?舐められたものですね…でも」

 

更に激化する雷弾、それでもこれくらいなら全然回避できる筈…!!

 

って…あ、アレ…?

 

わたしの動きが途端に鈍くなる、足元がおぼつかないというよりはいつもより遅い…いつもの感覚でいる筈なのに足が…腕が…重い。

 

「どうしました?動きが鈍いですよ?ふふ、自分の装備の癖に気付いていないんですか?」

「っ…!!」

 

王家の装備…カロリーを力に変える装備…っここに来るまでに無駄に力を使いすぎちゃった…っ!!

 

「黎斗辺りに『無駄に力を使うな』と釘を刺されていたでしょうに…本当に貴方は人の話を聞きませんね」

 

そう…だった…黎斗くんに力を使いすぎるなと言われてたんだった…迂闊過ぎるなぁ…わたし。

 

「あうっ!!!?」

 

無駄に思考に割いていた事とカロリー不足による動きの鈍さ、この2つによりわたしはキャルちゃんの雷弾を腹部に被弾する。

 

大きく吹き飛び、転がり、被弾したお腹部分をおさえます。

 

強烈だった、王家の装備自体も力を無くし始めているから防御力も落ち、わたしは軽い嗚咽感に襲われる。

 

身体中をピリピリと電気が走る感覚もある、カロリー消費で胃の内容物を消化していなければ吐いてたと思う。

 

「い…いたた…思いっきり被弾してしまいました…お腹が痛いです…」

 

でも…

 

「それでも…キャルちゃんを元に戻せるのなら…笑顔を取り戻せるのなら…!!」

 

わたしはカロリー不足の王家の装備を無理やり全開にする、これが最初で最後の力。

 

失敗すればわたしはしばらくまともに動けなくなる…けどその覚悟は出来てる!!!

 

突き進むのは真正面、考える事はやめた!!唯ひたすらに直進あるのみ!!!

 

「一直線に…余程死にたいようですね…いいでしょう、望み通りにしてあげます!!!!」

 

術式を展開し、魔力を練り上げていく…キャルちゃんの持つ杖に一点に集まる雷。

 

「食らいなさい!!!ダークネス・ネビュラ!!!」

 

ボワッと広がる闇の星々、わたしを正面から包むように広がっていき、そして最後はわたしに向かって収縮していく…すぐにわたしの視界はゼロになる。

 

「ふっ…流石のアイツでもこれで無傷で済む訳……っ」

「キャル…ちゃぁぁぁぁぁん…!!!」

 

ボフンッという風切音と共にわたしは煙の中から飛び出していく、勿論無傷ではないけれど…最大出力の王家の装備のおかげで出来るだけ最小限のダメージにすることが出来た。

 

もう、わたしに力は殆ど無い、それでも…やっと…!!

 

「っ…あたしに…っ近寄るなっ!!触るなっ!!!」

「この…仮面…さえっ…!!!!」

 

わたしはキャルちゃんの両手を掴み、一瞬でも魔法を封じれれば、その後はすぐに仮面を片手で弾き飛ばせる!!

 

わたしの思惑通り、仮面を手で弾くことに成功し、走ってきた勢いのままだったのでキャルちゃんを押し倒す形となり、ようやく停止。

 

これで…

 

「キャルちゃん!わたしが分かりますか!?」

「…ペコ…リーヌ」

 

仮面の取れたキャルちゃんはそう呟いた。わたしは思わずキャルちゃんを抱きしめる、だって嬉しくて、本当に嬉しくて…

 

「良かった……仮面が取れて…これで正常に…」

「本当にあんたは馬鹿ね」

「………え?」

 

思わずそんな声を出してた…でも

 

わたしはその一言で全てを理解した、理解してしまった、理解したくなかった…

 

仮面は取れた、口調も戻った…けれどキャルちゃんは…『最初から正常だった』

 

「コロ助の観察眼を利用して正解だったわ、こんなアホみたいな作戦にかかるなんてね………さてと、『ユースティアナ』、この距離ならまともに防げないでしょ?」

「キャルち…っ!!?」

「アビス・バースト」

 

次の瞬間、わたしの視界が真っ白になった。

 

 

 

 

最悪の事態…それは訪れた。

 

回避する事はできない、しかし勝てる見込みは現段階で殆ど無い、絶対的な存在。

 

「…宝生永夢ゥ…っ…!!」

 

純白の汚れなき白衣、その下はゲーマー時代から愛用しているTシャツを身に纏う、私の知る中で最も神の才能に近しい存在と認めざる得ない存在。

 

さて、何故ここに永夢の姿をしたシャドウが存在するのか、軽く推測をする。

 

千里真那はシャドウを支配下に置いていた。ここから導き出される答え、それはシャドウから情報やデータを取る事ができるという事に他ならない。

 

思い返してみれば千里真那は私がシャドウにガシャットデータなどを流した事を知っていた。千里真那はシャドウに流した私のあらゆるデータの中で『私に対抗できる存在』を抜き出し、シャドウとして再現した…

 

それがこのシャドウ永夢という事だ。

 

「…マックス大変身」

 

『マキシマムマイティエェックス!!』

 

『マキシマムガシャット!ガッチャーン!!レベルゥマァァックス!!最大級のパ〜ワフルボディ!ダリラガーン!ダゴスバーン!最大級のパ〜ワフルボディ!!』

 

ガシャットのスイッチを入れ、ゲーマドライバーのスロットに挿入、その後、ガシャットの上部分に付けられたアーマーライドスイッチを一気に叩くのように押し込む。

 

『マキシマ〜ムパワーエェックス!!』

 

頭上からマキシマムゲーマが出現しそれを身に纏う事で、エグゼイドマキシマムゲーマーレベル99の姿へと変貌する。

 

身長2メートル56センチ、体重256キロというパワフルボディの名に恥じない巨大な体躯。

 

私が……人間だった頃の私が初めて完全敗北したエグゼイドのフォームだ。

 

千里真那の奴…本当に私の過去のデータの中で最も憎むべき相手を出してきたという事か…!!それに膨大な容量である筈のマキシマムゲーマーをこの世界で維持できるという事自体異常だ。

 

やはりこのゲームの開発者だからこそ出来る裏技という事か…っ!!

 

「はぁあ!!」

「っ!!!」

 

エグゼイドが高速で接近してくる、マキシマムのゴツい見た目とは裏腹に速い。初めてこのフォームと戦闘した際もこのギャップに驚きを隠せなかった、それはもう昨日の事のように覚えている。

 

エグゼイドの右ストレートが私の胸部目掛けて振られる、それを私はなんとか両腕を使ってガードするのだが…力の差は歴然、そのまま吹き飛ばされ地面を転がる。

 

「ぐぅ…っ!!」

 

それで終わらない、マキシマムは再び高速接近し倒れる私を容赦なく叩き潰そうとしてくる。

 

「…そうはいくかァァァァッ!!」

 

私は遠隔操作をして爆走バイクを横から突っ込ませる、しかし簡単に裏拳で弾かれ、バイクはあらぬ方向へと進んでいきそのまま転倒する。

 

くっ!今の私ではエグゼイドの進撃を止められない…!!!

 

「苦戦しているじゃないか!黎斗の坊や!!!しょうがない子だよ!!…乱数領域(ナンバーズ・アヴァロン)!!!」

「クリスティーナ!?君は後方でコッコロ達を支援しているんじゃなかったのか!?」

 

横からクリスティーナが割り込みエグゼイドに強力な一撃をお見舞いする。

 

まぁ、確かに考えてみればコイツが言うことを聞く筈がない、しかし助かった、この大技ならエグゼイドだろうと流石に堪える筈……だ…

 

だがそれは高望みだった。

 

「なっ…っバカな…!!ワタシの一撃が防がれただと…!?」

 

見ればマキシマムのEXストロングアームによりそれは防がれていた、甘く見ていた…正直、ハイパームテキでは無かったことに軽く安堵していた先程までの私を恨みたい。

 

そもそもマキシマムの時点でレベルは99…それも天才ゲーマーMが相手なのだ、軽く見れば痛い目を見るのは過去の経験で分かっていた筈…!!

 

「なんなんだコイツは…黎斗の坊や、お前に似ている存在のようだが…」

 

このままではまずい…確かにクリスティーナの権能は絶対的な強さだ、だがしかし断言できる、確実に永夢は『攻略する』

 

ゲーマーではない私でさえクリスティーナを攻略できたのだ、シャドウだろうと永夢という存在である以上、速攻で攻略してくるだろう。

 

「ちっ…!クリスティーナ、一気に畳み掛けるぞ!!このシャドウを突破し数十メートルも進めばラジニカーントの空間跳躍が使える!!」

「成る程な、倒さなくても皆の合流まで時間を稼ぎ、こいつ自体を瞬間的にでも足止めできればワタシ達の勝ちということか……ダイゴ!!貴様も協力しろ!!」

「無茶言ってくれるぜ、おばさん!!こっちはラビリスタ抱えてんのによぉ…!!」

「その言い訳は聞き飽きたぞ!!!」

 

10メートル程後方の離れた位置にダイゴはいたのだが、それを察知したエグゼイドが動く。

 

「そこだ!!!」

 

エグゼイドがその場で回転しながら腕を横に振る、ここからがEXストロングアームの真骨頂。

 

振られた腕が……伸びる、真っ直ぐに伸びた腕は離れたダイゴの顔面を横薙ぎで的確に狙う。

 

「うぉぉぉっ!?マジか!?そんなのありかよ!!?」

 

ダイゴは間一髪、体を大きくのけぞらせる事で回避に成功する。

 

「隙だらけだぞ!!」

 

クリスティーナがその隙にエグゼイドに斬りかかるも、振り向きもせずにエグゼイドは簡単に剣を掴む、そして

 

『マキシマァム!クリティカァル!!ブレイクゥ!!!』

 

レバーを開閉する事でマキシマムのキメワザが発動する。

 

音声と共にエグゼイドの回し蹴りが炸裂する、勿論クリスティーナは自身の能力で完璧な回避を成功させるのだが…

 

狙われたのはクリスティーナ本体ではなく、大剣の方だった。剣と足が衝突し激しい音が鳴る。クリスティーナは瞬間的にバックステップで衝撃を逃し距離を取る。

 

…クリスティーナの能力…それを既に永夢は理解しているようだ。

 

『絶対防御、絶対攻撃』それは必ず回避、防御を可能にし。必ず攻撃が当たる力……即ち、彼女本体ではなく武器である剣を狙った場合はどうなるのか。

 

答えは2つに1つ、『攻撃を防御するか』『攻撃に対して攻撃を当てるか』…しかもそれらはどちらも自身の能力により『必ず当たる』。

 

マキシマムゲーマーにとって『必ず当たる』というのはデメリットだ…それはこの後すぐに分かるだろう。

 

「むぅ…っ!?」

 

瞬間、彼女周りの数列が一気に乱れ始める。

 

「何だこの違和感…感覚が鈍るような…」

「っ…まずい…!クリスティーナ!攻撃を回避しろ!!」

「っ!?!?」

 

私の声で間一髪でエグゼイドのパンチを回避するクリスティーナ、これは『絶対防御』の力ではない、自身の身体能力で回避したのだ。

 

「どういう事だ?ワタシの『絶対防御』が発動しなかったぞ…?」

「今のアレは『リプログラミング』だ…君のその権能を書き換え、その力を奪った…つまり、もう君はその権能を使う事ができない」

「…なんだと?ちっ…とんでもない奴がいたものだな…こんな乱戦でなければ泣いて喜ぶ好敵手だったのだが…今は正直勘弁願いたいな」

 

『リプログラミング』…エグゼイドマキシマムゲーマーの真の力…九条貴利矢が託した忌々しい力…!!

 

ゲームの世界でこの力は厄介すぎる、現実世界でこの力を発揮したのはゲームライダーやバグスターにのみ、当たり前だ、プログラムを書き換える力なのだからな。プログラムが無ければ意味がない。

 

だからこそ、それ以外の要素、プログラムなどが関係ない状況ではリプログラミングは働かない、それが弱点だった。例を出すと洗脳をされていた訳ではなく檀正宗についていた九条貴利矢にリプログラミングを放っても効かなかったように。

 

しかし、この世界は全てデータ上の産物、そこら辺にいる普通の人間だろうと草や木、石ころだろうと、とにかく何でもだ、それらがあの力を食らえば…下手をすると存在そのものが消し飛ばされかねない。

 

クリスティーナの力のみが消し飛んだのは永夢の温情だろう。永夢はああ見えてやると決めた時は容赦がない、私との決着で問答無用で私の体内のバグスターウイルスを書き換え変身させなくしたように。

 

「クリスティーナ、ここからは一切の小細工が通用しない」

「ふはは…☆とはいえ、久々の肉弾戦か!!血沸き肉踊るな!!!」

 

彼女は笑いながら前進していく、エグゼイドの攻撃を捌き、攻撃を仕掛ける。

 

後方からはダイゴが攻め立てる、彼の武器は拳、両腕を振り回しエグゼイドを攻撃しているのだが…

 

「っ硬ぇ…どうなってんだこの鎧!!」

「ダイゴの馬鹿力でも傷ひとつ付かないか…厄介だな…!!」

 

クリスティーナ達が攻防をしている隙に私は爆走バイクガシャットを取り出し、他のレベルにチェンジする。

 

『ジェットジェット!ジェットコンバ〜ト!!』

 

私はジェットコンバットにレベルアップし空中に浮かび上がる、そしてそこから一気に射撃を開始する。

 

エグゼイドは勿論、周りにいる他の魔物やら兵士やらも撃破する事と後続のコッコロ達に対して目立つ目印として飛ぶことができる、このガシャットを選出したのたが…

 

「うぉぉぉぉ!?!?おまっ危ねぇだろ!?俺達まで巻き込むんじゃねぇ!!!」

「全く、今はワタシの力が無いのだ、無闇矢鱈に攻撃するのはやめてもらいたいのだがな!」

 

私の射撃はエグゼイドに当たってはいない、バックステップで1度回避された後、エグゼイドはアームとレッグを伸ばしそして自由自在に飛び跳ね回る。

 

「っち…っ!!!」

 

これがあるからマキシマムは厄介だ、空中戦ですら可能、私は逃げに徹底する、エグゼイドに攻め立てられ攻撃に移る事ができない。

 

それどころか確実に追い詰められている。

 

「ぐおぉっ!?」

 

私はその後、呆気なく撃墜されてしまう、伸びてきた左腕に叩き落とされたのだ。

 

「がっは…くぅ…っ…!!!」

 

かなりの速度で地面に叩きつけられ、私は身動きが取れなくなってしまう、まずい…非常にまずい…!!

 

私に迫るエグゼイドをクリスティーナとダイゴが割って入り、足止めをしているがこのままではラチがあかない。

 

「おい、黎斗!!!大丈夫か!!?こっちは退路を確保できたぞ!」

 

私に声をかけてきたのはムイミだった、見れば既にリノやシズルはラジニカーントを守護する形で退避ポイントに陣取っている。

 

「黎斗君!無事かい!!?飛んでいた君を目印に子供達を安全に連れてきたよ!!」

 

次に現れたのはマサキとコッコロ、そしてリトルリリカルの3人だ…くく、素晴らしいタイミングだ…この状況を突破する算段がついたぞ…

 

「リトルリリカルの3人…私を…私達を助けてくれないか?」

「「え…?」」

 

驚きを隠せない3人に私の今思いついた作戦を伝え、すぐに決行に移す。その為に、私はジェットコンバットガシャットを引き抜き、マイティアクションのみの姿となる。

 

「コッコロ、マサキ、君達は先へ行っていろ、後は私たちに任せるんだ」

 

2人は私の事を信じ1度頷き先に退避ポイントへと向かう。退避ポイントとはいえ敵はまだまだ残っている、リノ、シズル、ムイミ、ラジニカーントだけでは手一杯だ。

 

「くっ…っ!!」

「へへっ…はぁ…はぁ…ど、どうしたんだよ、おばさん!!い、いつもみたいに元気出してけよ!!…はぁはぁ…もう限界か!?」

「そういう貴様こそ…随分と息苦しそうだが?」

 

クリスティーナとダイゴ、既に2人は限界だ、むしろマキシマムマイティ相手によく粘った方だ。

 

「2人共下がれ!!後は私が決着をつける!!」

「…しょうがない…今回だけは譲ってやるよ、ダイゴ、退くぞ」

「ま、生存第一だよな、後は任せるぜ、黎斗の兄ちゃんよぉ!」

 

2人が退避した瞬間、エグゼイドの目標が私に切り替わる、一瞬で私に近づき、大腕を振りかぶる。

 

本来ならノーガードの私がこんなものをまともに浴びれば、一撃粉砕されているだろう、しかし

 

「これならどうだァ?永夢ゥ!!!」

「…っ!」

 

エグゼイドの動きが一瞬止まる、やはりシャドウとはいえ永夢は永夢か。

 

私が両腕を差し出し、前に突き出したのは

 

「へっへーん、これでも食らえ!!トリモチ爆弾!!」

 

ミソギだ、私は両腕で抱えたミソギを前に突き出したのだ、それにより永夢の動きが一瞬止まった。

 

そしてミソギが放ったのはトリモチ爆弾、ミソギ考案の実用性ある武器の1つだ。

 

トリモチのように粘りと粘着性があり、衝撃を与えると爆発を起こす、その威力は低級魔物程度なら一撃で倒す事が可能な程だ。

 

所詮エグゼイドはシャドウ、一瞬でも永夢らしさを出したところで見境なく襲ってくるバグの存在、トリモチが振り解かれれば今度はミソギごと私を狙ってくるだろう。

 

だがしかしそうはいかない

 

「え〜い、ウサギさんスラッシュ〜!!」

 

こっそりと近づいていたミミがトリモチに剣撃で衝撃を与える、それにより激しい爆発が起こり、エグゼイドは爆炎に飲み込まれる。

 

しかしそれと同時、爆炎からエグゼイドのストロングアームが伸びてくる、どうやらあまりダメージになっていない様子、がしかしィ!!!

 

「それも計算の内ィ!!!!仕上げだ!!キョウカ!!!」

「コスモブルーフラァッシュゥゥゥ!!!」

 

私の背後から全力の水魔法を発射するキョウカ、それはレベル99の拳でさえ押し返され、本体のエグゼイドを吹き飛ばす。

 

元々魔力が高く素質のあるキョウカなのだが。キョウカのコレは例えを出すと消防車の放水なんてチャチなものではない、もはやナイアガラの滝だ。上から下に流れ落ちる滝を真横に発射しているような圧巻ささえある。

 

「どうだ永夢…小児科医の君がァ、子供達にしてやられる気分はァ…」

 

とはいえ、エグゼイドマキシマムゲーマーがこの程度でやられるとは思えない、私はすぐさま子供達を抱え、走り出す、時間は稼いだ、後は逃げ延びるだけ…

 

「黎斗さん!!大変です!あのおっきな人が追いかけてきてます!!」

「なに!?」

 

背中のキョウカがそう叫ぶ、馬鹿な!!早すぎる!!

 

私は後ろを振り向く余裕はない、3人を抱え、魔物を蹴散らしながらではまずい…!!!追いつかれる!!!

 

たった50メートル…されど50メートル…この距離がとてつもなく長い距離に感じる。

 

「オラオラオラァ!!!退け退けってんだ!!!」

 

ギャリリィ!!と後方から音が響き、それがエグゼイドにタックルをした後、私の前方の魔物を吹っ飛ばし現れる。

 

「ダイゴ…!?それにそれは…爆走バイク…そうか、まだ残っていたのか…」

「へへ、テメェでコイツの操作の仕方は見てたからよ、つぅかなんかしっくりくんだよなぁコレ」

 

…確かに、絵面的にダイゴとバイクは似合う、街のチンピラっぽい風貌だからだろうか。

 

「それよりほらよ、ガキども乗せな、さっさとズラかろうぜ!!」

「…今回ばかりは助かったよ、ダイゴ」

 

キョウカ以外の子供をバイクに乗らせ、キョウカのみは私が背にしたまま走り出す、後ろから吹き飛ばされていたエグゼイドが立ち上がり、再び私達を追う。

 

走力では私達は勝てない、残り20メートル…!!!

 

「お兄ちゃんを守りましょう!!皆さん!!」

「黎斗くんを援護だよ!!!」

「主さまをお守りするのが従者の役目…やぁぁぁ!!!」

 

リノは大量の矢を。シズルは剣にエネルギーをタメ、放出した飛ぶ斬撃。コッコロは風魔法で私の後方にいるエグゼイドに攻撃を仕掛ける。

 

エグゼイドは腕をX字にクロスさせそれをガードし耐える、全く恐ろしいな、あれほどの攻撃を簡単に受け止めるとは…

 

だがしかし、コレでいい、勝てなくても動きは止まった、その時点で私達の勝ちだ!!

 

私達はラジニカーントの元へと辿り着き、そして

 

「行きますよ皆さん!!空間跳躍します!!!」

 

 

次の瞬間、私達の視界は真っ白になった。

 

 

 

 

 

 




黎斗以外のキャラにも活躍の場を持たせるのが書いていて気持ちがいい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それぞれの動き

ペコリーヌが捕まってるのにアイドル鑑賞をしている理由づけが1番難儀しました。この理由以外は私には む、無理です…


終わった…これで、何もかも…

 

もう、後戻りはできない。

 

陛下が残した、特別なシャドウって奴の気配も消えていくのが分かる。時間切れか…

 

「…黎斗達の方は…逃げられましたか…」

「それでぇ?この子…どうする訳ぇ?」

「仰々しい態度はよせとは言いましたがいきなりフランクになりましたね、まぁ別に構いませんが…」

 

オクトーにペコリーヌを縄で縛ってもらい、適当に使役した大型で爬虫類型の魔物の背にペコリーヌを乗せる。

 

「キャル…ちゃん…どう…して…」

「…おや?まだ意識がありましたか、やはりタフさだけはありますね、貴方は」

「本当凄いよね〜あんな魔法を間近で受けてまだ意識があるなんてさ」

 

ボロボロになり、ぐったりとしながら微かに目を開けてあたしを見つめるペコリーヌ。

 

だから、少しでも希望を持つコイツの心を折る為にもあたしは口を開く。

 

「最初から貴方は嵌められていたと先程言いましたね?その理由をお教えしましょう。私のこの仮面は単なる魔力増強装備に過ぎない、貴方が考えるような代物ではまるでない」

 

ペコリーヌに仮面を見せびらかすように手に持つ。

 

「そして私が貴方の前に姿を現したのも全て貴方を誘導する為、仮面をつけていたのも黎斗やコッコロのような観察力のある人間に怪しい点だと気づかせる為、最も黎斗には効き目がない事は百も承知」

 

あたしは続ける。

 

「だから、黎斗に無駄な思考をさせない為に妨害の先手として魔物達を襲撃させ、更にはリトルリリカル?でしたっけ、あの方が仲良くしていた子供達を利用させてもらいました、これで貴方を助けるという選択肢が無くなるわけです」

「最初…から…だったんです…ね」

「ええ、そうですよ…全てはマヌケな貴方を捕らえる為の作戦だったのです……ペコリーヌを連れて行きなさい」

 

あたしの命令で魔物が動く…なんでだろう、胸が苦しくなる…凄く痛いんだ…

 

でもこれでいい…これで……そうですよね…陛下…

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…皆…無事のようだな…」

 

私達はラジニカーントの空間跳躍により、先程の平原とは別の場所へと飛んでいた。

 

詳しい場所は分からない、しかしかなりの距離を移動したと思われる。

 

私は既に変身が解除されている、それ程までに疲弊していたのだ、ゲーマドライバーとガシャットは。

 

それと同時に私はふらりと倒れ込む、片膝をつき、息が上がり肩を上下に揺らす…

 

ゲンムの姿であってもこの連続強化の代償は大きい、本来、戦闘をしながらこの能力を使うものではない。

 

戦闘による疲労だけでなく能力を使い続けた嘔吐感が私を襲う。

 

いつもならばコッコロが私の体を支えてくれるのだがコッコロもその余裕がなさそうだ。

 

私以外の皆もそれぞれが地面に座り込み、私同様に息が上がっている。

 

数分の間、私達に会話がなかった、皆息を整えるのに必死だった。

 

1番回復が遅れたのは私だ、エグゼイドとの戦闘と味方強化による疲労の為である。

 

「…む?…おお、どうやらワタシの力が戻ってきたようだな」

 

クリスティーナがそう呟く、となると、シャドウ永夢が自然消滅したという事か。

 

全く、厄介なものを生み出してくれたものだ、奴が存在している間はもう迂闊にデータを流す事は出来ないな、利用されてしまっては敵わない。

 

とはいえ、既にクロノスが初めて登場した時ぐらいまでのデータを流してしまっている。

 

流石にクロノスをこちらの世界にシャドウとして読み込む事はシャドウの耐久性を考えれば不可能だと思われる、が何かしらの手は打っておいた方がいいだろう。

 

「さて、これからどうする?もう日も暮れた…休む場所を確保したいのだが…」

「ここら辺は…うん、大丈夫だよ、この近くにもかなり小さいけどアジトがあるから、今日はそこで休もっか」

 

私の疑問にシズルが答える、寝床があるだけ幾分もマシだ。

 

「キョウカ、ミソギ、ミミ、今日は君達を家に帰すことができない、明日になるだろう、君達も一緒に来るといい」

「は、はい…なんだか疲れちゃいました」

「今日はいろいろあったもんね〜」

「パパとママに連絡しなくちゃ、お兄ちゃんとお泊まり会するって」

 

良かった、子供達の心身に影響は無さそうだ。

 

私達はそのアジトへと向かい、寝泊りをする事となった、小さいと言っていただけあって、設備も最小限のもの、しかし先の事もあり誰も文句を言うものは出ず、1日の疲れを癒す為に皆はすぐに就寝する事となった。

 

翌日、ムイミとラジニカーントが子供達を街へと帰す為にこのアジトから出て行った。

 

街ではいまだに私たちへとの警戒が続いている為、かなり準備をし街の状況を入念にチェックをしていた。

 

「ふぃ〜ただいま〜子供達は無事届けたぞ〜」

「よくやった、ムイミ、街に直接飛ぶことができない今、大変だったろう」

「まぁな、仕方がない事さ、アタシ達は今第一級のお尋ね者…日向を歩む事は当分出来ない」

 

それにしても、とムイミが話を切り替える。

 

「コッコロのやつ…大丈夫か?」

「…意気消沈という感じだな、昨日のことで頭がいっぱいなのだろう」

 

コッコロは昨日からずっと俯いたままだ、キャルの裏切り、ペコリーヌの捕縛、この2つの事が同時に来たのだ、まだ小さな子供にはショックが大きい。

 

だが慰めている時間などない、我々はすぐにでも行動を起こさなければならない。

 

「コッコロ、いつまでそうしているつもりだ、もう既にその過程は終了している、気持ちを切り替え、先へ進むことをだけを考えろ」

「ああ…申し訳ございません、主さま…少し気が滅入ってしまって…」

 

…これではダメだな、私の従者ともあろう存在がこの様では…仕方がない。

 

「はう…主さま…慰めてくださるのですね…」

 

私はコッコロの頭を撫でる、気休めかもしれないが少しでも元気を取り戻してもらわなければ話が進まない。

 

「とにかく、今はシャキッとしろ、現状は芳しくないまま…ムイミ、次の策は練ってあるか?」

「正直、どうしたもんかって感じだな…街の状況もかなり悪かったし…見た感じ情報操作されてアタシ達『ラビリンス』の悪評がばら撒かれてるみたいだしな」

 

街で大々的に活動は出来ない、元々ラビリンスはそういうギルドではないのだから関係はないのだが。

 

「サレンさまなどには連絡は…取れるわけがありませんよね…」

「そうだな、今の状況で連絡を取り合うのは危険だろう」

「今回の件で分かった、アイツらはもう大々的に動いてくる時期に入ってる、多分、もし次アイツらが動き出したら今回以上の大規模作戦でアタシらを叩いてくると思う」

 

それは同感だな。

 

「どうせそんな事になるのなら…アタシ達も大っぴらにやっちまうっていうのも手だとアタシは思ってるよ」

「ほう?算段はあるのか?」

「いや、大見え切ったけどまだ具体的には何も、とにかくこれから作戦を立てる、黎斗、お前チャートとか作るの得意だろ?お前の頭が必要だ、期待してるんだからな、頼んだぞ?」

 

やれやれ、そんな最後の希望のような目で見られても困るのだが…まぁ、この私なら最後の希望にでもなんでもなってやるさ。

 

 

 

 

…きな臭くなってきたね〜どうも…

 

僕の名前はオクトー、知ってる人は知ってるよね?

 

今現在、僕は王宮の…しかも玉座の前にいる訳なんだけど…その玉座に『陛下』と呼ばれる存在はいない。

 

代わりに鎮座するのは『陛下代理』とかいう女の子…変な仮面つけちゃってさ〜

 

ただ…その力は…『陛下』とかいう存在から託された力は本物だ。

 

昨日の戦場を見て分かったけど、この子はとんでもない量の魔物を操る事ができ、膨大な魔力を保有し、得体の知れないシャドウすらその手に収める。

 

僕の隣には黒い鎧を全身くまなく身に纏った、現団長のジュンって人がいるんだけど、色々と代理に突っかかってて面倒だなぁ〜

 

…僕としては少し気になる事があって、そっちに手を回したいんだよね。

 

気になる事…ついさっき、1時間くらい前かな、あの代理が『ある場所』に向かっていた。

 

この玉座の間の丁度真下にある奇妙な部屋だ、奇妙っていうのはそうとしかいえないからだね。

 

だって必要のない部屋なんだもん、この王宮には、だだっ広くて特にこれといったものが無い部屋にポツンと謎の機械が1つ、本当にそれだけ。

 

機械1つの為にしては広すぎるその部屋は奇妙だとしか言いようがないでしょ?

 

それで気になったっていうのはその機械の前で代理はこう呟いていたんだ。

 

『そろそろこれを起動できる…これを使えば王宮内の人間の意識を……アタシのこの…気分の悪い罪悪感も…』

 

ってね、代理の子が無用心すぎるって?そんな事ないよ〜、こう見えても僕、かなり隠密スキルあるからさ、可愛そうだからここは僕の隠密が凄かったって事にしておいて。

 

にしても…起動か…あの装置、何か面倒な事になりそうな気がする、というか今現在、奇妙な感覚がある。

 

頭、脳に違和感を感じる。あの機械はそういう類、『陛下』って奴は確か民衆の認識をズラす事も出来るらしいからアレもそうなんだろう。

 

流石にそれは気持ちが悪いし…僕も対策しておくのが賢明な判断だよね。

 

僕はその対策として自分の頭の記憶領域に直接結界魔法を張り巡らせてる、かなり高度な技術さ、これでなんとか頭の方は守ってるって訳。

 

そして、話は玉座の間に戻る、何というか割と結構強めに精神に作用するっぽいね、あの装置…対策をしている僕ですら気分が良いとは言えない。

 

そして隣にいる団長さんが『正義』とやらを語ってるけどその『正義』は歪められてるって事に気付いてない、実に厄介だ。

 

「分かったわ、来週末のお祭りは予定通り開催する、変に民衆に不信感を持たせるのは良くないものね」

「そうしてもらえると助かる」

「…分かってはいると思うけど、だからといってラビリンスの残党や黎斗達の捜索はやってもらうからね、街中にいないとは限らないんだから」

「…分かった」

 

そして、次に発する『陛下代理』の言葉が何か重みを感じる、先程からの団長とのやり取りの時には感じられなかった重みが。

 

「…いいわね、黎斗は必ず連れてきなさい、私の目の前に」

「…?なぜ彼を…いや、分かった」

 

ジュン団長と僕は彼女から背を向ける、その際。

 

「…オクトー副団長、彼女の事を見張っておくんだ…何かよからぬ事を考えてそうだからな」

「…えー?僕がぁ?無理だと思うけどねぇ〜…まぁ、やれるだけのことはするけどさぁ」

 

…さてと、どうなるんだろうねぇ……この王宮は、僕としても『正義』なんかより『悪』の方が性に合ってるからこっちの方が居心地はいいんだけど…

 

肝心の『自由』って奴がここにはないよね〜『悪党』って奴は自由でなくちゃ、自論だけどさ。

 

それじゃあまぁ、僕は僕なりに自由って奴の為に動きますかね。

 

そうだろう?ノウェム。

 

 

 

 

 

「狙い時はここ、来週末に行われるランドソルの祭りの期間だ」

 

ムイミが紙に書いた表に丸をつけながら話す。

 

「この期間は王宮の方も手薄になる、黎斗のお仲間を救い出すとしても良い機会だ」

「待て待て待て、王宮が手薄になるってどうして言い切れんだよ、アイツら俺らを探してんだぜ?てか祭り事なんてやってる方が不自然だろ」

 

ダイゴがツッコミを入れてくる、意外とコイツは頭が回るな。戦術などに関しては妙に回転する奴だ。

 

「君の言うことも分からなくはない、が…王宮はどうも民衆とやらの目を気にする、これ以上民衆の反感を買うわけにはいかないからな、祭りの中止はまずないだろう」

 

前にあったクリスティーナの逮捕から脱獄の流れで民衆の王宮への目はかなり痛いようだからな、慎重にならざる得ない。

 

「そうだ、それに祭りの警備に対して手を抜くことも出来ない、ただでさえ獣人との確執もあった訳だし、他国からもぞろぞろと人が集まってくるんだ」

「待ってくださいまし、その作戦は良いのですが…来週末って…!?その間ペコリーヌさまは…っ!!」

 

コッコロの懸念も最もだ、その間ペコリーヌが生かされてる保証など無いのだから。

 

しかし

 

「それは大丈夫だコッコロ、確実にペコリーヌは殺される事はない。なぜ言い切れるのか……理由は1つ、恐らくペコリーヌは餌だ」

「餌…?」

「何を考えているのかは分からないが、キャルは私達に『王宮内に来て欲しい』ようだ、つまりペコリーヌを助ける事自体が罠だと思った方がいい」

 

私の言葉にコッコロの表情が歪む、結局のところ、私達は敵の罠に飛び込まなければならないのだからな。

 

「といっても、相手方もロクに動けないって言うのはわかり切ってんだ、ここからは互いに切羽詰まった状況でやり合うしかない」

 

ムイミの言う通り、互いに手の内はバレている、だとするのならばその中でどれだけ相手の上手を取れる策が練れるか、勝負はそこだ。

 

「…とにかく、その間に練れるだけの策とその為の準備をする、今日はこの紙にプランをめちゃくちゃ書くぞ、そんでもって明日からはここに書いた策を実行する為に皆個々に分かれて行動を取ろう」

 

ムイミに言葉に皆が頷き、今日はそこから10時間もの間、紙にチャートを書き続けた。

 

 

翌日。

 

私とコッコロはランドソルの街に帰ってきていた、街は近づく祭りの日に合わせて賑わいを見せている。

 

そんな時、私の服の袖をつまみ、コッコロが話しかけてくる

 

「しかしわたくし達はこれで良いのでしょうか…」

「ああ、これでいい」

 

今、私達にはあまり大きな仕事は回ってきていない。

 

というよりむしろチャート内容の全貌を私とコッコロは見ていない。

 

あの作戦会議で『全体の大きな流れ』を作ったのは私だが細かい内容は全て、ムイミ達に任せた。

 

理由は単純、キャルの狙いが『ラビリンスよりも私達、美食殿に固執しているから』だ。

 

つまりキャルは私達の動きを注視している、ならば逆に私達が動かなければラビリンスの動きが悟られにくくなる。

 

私達自身のリスクが高くなるが、これでいい。

 

「コッコロ、極力王宮騎士団(ナイトメア)との接触は避けよう、私達が捕まれば計画は全て水の泡、それどころか捕まっているペコリーヌは用済みになり…最悪その時点で殺されるかもしれない」

「そ、それは困ります」

「…何にせよ、キャルの目的が見えないのがネックだ…何故、私達に固執しているのか…」

 

私はブンブンと頭を振り、考えることを止める、今はまだその時ではない、無駄に思考していると周りの王宮騎士団(ナイトメア)に怪しまれる。

 

「とにかくだコッコロ、私達は何も考えずに街を散策をしよう、逆に王宮騎士団(ナイトメア)に見せつけてやるんだ、私達が何もしていないと言うところを」

「なんとも矛盾を抱えた状況でございますね…今のわたくし達は…」

 

王宮騎士団(ナイトメア)に接触してはならない、しかし私達が何もしていないところを見せつけなければならない、確かに矛盾だな。

 

その後は特に何事もなく私達は街を散策した。日も傾きやる事はない為、私がこう話を切り出す。

 

「さて、泊まる場所を確保しよう、昨日泊まった場所はもう使えないからな」

「わたくし達は狙われの身、一箇所に留まるのは危険ですからね」

 

宿探しを始めてから数分、何やら周りが騒がしくなってくる。

 

「おや?何やらあちらで人だかりができていますよ?それに…楽しげな音楽まで……何か催し物でもあるのでしょうか?」

「この曲…聞いた事があるな…カルミナか?」

「かる…みな?」

「アイドルと呼ばれるものだよ、気になるかいコッコロ」

 

私の言葉に少しだけ考えた後。

 

「いえ、今は遊んでいる場合ではございませんし…」

「…ふっ、言ったろうコッコロ、私達はむしろそうした方がいいのだと気になるなら行ってみようじゃないか」

 

私が手を引き、カルミナのライブ会場へと足を踏み入れようとした時だった。

 

「あ、トモねーちゃ〜ん!黎斗さん見つけたッスよ〜!」

「お、本当だ、流石マツリちゃんだね、鼻が効く」

 

私たちの目の前に現れたのは王宮騎士団(ナイトメア)のマツリとトモだった。

 

「…あなた達は…王宮騎士団(ナイトメア)…っ!!」

 

あらかさまに警戒を示すコッコロ、仕方がない事ではあるが…

 

「まぁ、待って待って、私達は別に2人を捕まえに来た訳じゃないから、本当だよ?」

「トモねーちゃん…怪しさマックスッス…」

「主さま…ここは逃げましょう、怨敵である王宮騎士団(ナイトメア)の方達との接触はまずいのでしょう?」

 

先ほど私が言ったことが裏目に出ているな、コッコロは必要以上に警戒している。

 

「あはは、随分と嫌われちゃったね…まぁ、リトルリリカルの子達から聞いたのが真実だとしたら…仕方ないことだけど」

「…あの3人から話を聞いたのか?」

「まぁね、あなた達の大切な仲間が連れ去られた事も聞きましたよ」

 

…少しこの2人に話を聞いてみたい、王宮騎士団(ナイトメア)の現在の内情も知りたいとは思ってはいたからな。

 

「主さま、行きましょう!この方々の話に耳を傾けてはなりません!!」

「お、おい、コッコロ…!!」

 

私はコッコロと手を繋いでいた為、無理やり引っ張られ人混みの中に入り込んでしまう、流石にここで手を離して戻るのはコッコロと逸れてしまう可能性を考慮し、私はそのまま引っ張られていく。

 

仕方がないか、今回は私がコッコロを無駄に刺激してしまった事による失敗だ、反省し次に活かそう。

 

 

「あ〜…行っちゃったか、しょうがない」

「追わないんスか?トモねーちゃん」

「あの子が警戒してる今、無理に追っても逆効果だよ…落ち着いた時に黎斗さんだけでも話ができるタイミングを見計らう必要があるね」

「それじゃあ自分もカルミナのライブ見てもいいッスか!?いいッスよね!」

「やれやれ…仕方がないなぁマツリちゃんは…」

 

 

 

「みんなお待たせ〜!!」

「私達のライブに来てくださってありがとうございます!一生懸命歌いますので、皆さんよろしくお願いします!」

「カルミナのライブツアー初日!このランドソルからスタートですよ!!張り切っていきましょう〜!!」

 

私達はトモ達から逃げる為に人混みをかき分けて割と先頭集団のところまで来ていた、ぶっちゃけ迷惑客だな私達は。

 

センターに茶髪のロング、赤いリボンがアイデンティティのノゾミ。私達から見て左に薄い緑髪のロング、どこか儚さを感じさせるチカ。右側にとてつもなく騒がしいがしっかりした性格、桃毛のサイドアップツインテールのツムギ。

 

この3人が歌って踊って戦うギルド『カルミナ』だ。

 

「これが…アイドルですか…」

 

コッコロは初めて見るアイドルに目を奪われ、キラキラとしている、先程までの警戒は何処へやら…

 

私が彼女達と出会った頃はまだまだひよっこだったが…随分と様になったじゃないか。

 

彼女達の歌が始まる。私はあまりこういったものに詳しくはない、しかし彼女達の歌は素晴らしく魅力的だと素人の私にさえ分かる。

 

目を焼き付けておこう、アイドルゲームの制作に何かしら使えるかもしれない、それにもしかしたらこれが最後の息抜きとなる可能性もあるのだからな。

 

「おや?主さま、あのアイドルの方々ともお知り合いなのですか?今…一瞬ですが主さまの方を見て話されていたように見えたのですが」

「ああ…そうだな、知り合いだよ」

「そうでございますか、相変わらず顔が広いですね、主さま…っ」

 

その時、コッコロの表情が変わる、険しい顔だ、それだけではない壇上のチカの顔色も優れない。

 

この2人の共通点は精霊を使役する、それはかなり高精度の探知能力を持つというところだ。

 

つまり

 

「…何かあったな…コッコロ」

「はい、こちらに一直線に近づく…強大な力を確認できました、距離にして1キロ…かなりの速度でこちらに向かってきています」

 

ここから1キロ…つまり既に街門は突破され街中に入り込んでいるということか…

 

「主さま」

「分かっている…私達で対処するぞ」

 

どうやらこの世界とやらは私に息抜きをさせるつもりはないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何気に9章が1番黎斗を絡ませづらい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

狂騒する獣

一部でほぼ出番なしだったあのギルドを出します。


 

私達は人混みをかき分け、民衆の前…いや後ろに立つ。

 

「主さま、人々の避難の方はどうなされますか?」

「それはノゾミ達がやるだろう、君と同じようにあそこには精霊と契約したチカがいる、既に感づいていたようだからな」

 

私の言葉とほぼ同時にノゾミ達が観客に退避するよう指示を出し、人々の誘導を始めた。

 

「コッコロ、距離はどうだ」

「はい、既に300メートルを切っています、まっすぐに……10秒後にはこちらに辿り着くと思われます」

 

時速120キロ程度か…しかもそれを継続して出し続けるほどのスタミナを兼ね備えているとなると…相当な上級の魔物と考えていい。

 

そうしている間に魔物のシルエットが遠方に見えてくる、巨大な体躯、二足歩行型の魔物だ、全高4メートル前後。

 

筋肉隆々にライオンのような顔、額には禍々しい2本の赤きツノ、尾は大蛇となっている。

 

確かアレは…キマイラとかいう魔物だったか、かはり上位種の魔物だ。

 

私はキマイラに縁があるようだな、ネネカの研究施設にいたのもキマイラだったからな。

 

それはそうと、それがこの街中に現れるというのは何か引っ掛かる。

 

「黎斗さん!!」

「トモ…それにマツリか」

 

事態の急変を受け、この場にいた王宮騎士団(ナイトメア)の2人が私達に駆けつけてくる。

 

「…頼めるな、トモ、マツリ」

「勿論ですよ、黎斗さん」

「じ、自分もやるッスよ〜!!」

 

『マイティジャンプ!マイティキック!マ〜イティアクショ〜ン!!エェックス!!タドルクエ〜スト!』

 

「あ、主さま…」

「コッコロ、今はそういう事態ではない、王宮騎士団(ナイトメア)だろうと共闘する必要がある」

 

コッコロは何か不服のようだが、私の言葉に従い、武器を構える。

 

「来るぞ!!!」

 

キマイラは大腕を振りかぶりそれを私達に向かって振り下ろす、その場にいた全員がバックステップ回避をする。

 

振り下ろされた腕は地面を砕き、砂塵が舞う、見た目通りとてつもない腕力だ。

 

「ミクマ流剣術…迅雷一閃光!!!」

 

バックステップ時に大きく飛んでいたトモはそこから建物の外壁に足をつけ踏ん張りを効かし一気に加速して奴の首元目掛けて斬り込んでいく。

 

しかし、ガンッという肉に斬り込んだとはとても思えない音が鳴り響く。

 

「っ…硬いな…!!鋼鉄に斬り込んだみたいだよ…!!」

 

キマイラにはダメージになっていない、キマイラはそのまま動き出し、着地したトモを狙う。

 

「トモねーちゃんには近づかせないっスよぉ〜!!タイガー…スラッシュゥゥ!!」

 

ガンッ!!ガガンッ!とやはり鋼を叩くような音が響く、トモでダメージを与えられないというのならばマツリでは奴にダメージを与えることは出来ない。

 

「か、硬すぎっスよ〜っ!!うわぁっ!!?」

 

奴は足踏みをするだけでトモとマツリを吹き飛ばし瓦礫が舞う。

 

「っ…王宮騎士団(ナイトメア)とはいえ…あのお二人を助けないという選択は…ないですよね…!!風の精霊よ…!!ウィンドエクスプロージョン!!」

 

キマイラの胴体部分に風が集まり、爆発を起こす、流石のキマイラもそれには怯み2.3歩程後退する。

 

その隙に私はガシャコンソードの氷結モードで足元を凍らせ動きを止める。

 

「っ!!?」

 

私はその間に近づき斬り込もうとしていたのだが奴の尾の大蛇が私に向かって噛み付いてくる。

 

「っち、自立して動いてくるのか…厄介だな」

「主さま、奴が動きます!!」

 

コッコロの指摘通り奴は凍った氷を粉々に砕き行動を再開する。

 

「ミクマ流剣術!!灰塵旋撃!!」

「タイガーインパクトォ!!」

 

トモは超高速剣撃、マツリは自身の力を一点集中した一撃をキマイラにぶち当てる。

 

決め手になるような攻撃ではなかったもののキマイラを足止めをするには十分だった。

 

「マツリちゃん!とにかく足止めだ!まだ避難できてない人もいる!せめてその人達が避難するまで耐え忍ぶんだ!!」

「了解ッス!!黎斗さん達もいるし…自分達ならきっとやれるッス!!」

 

コッコロと私もキマイラに接近し4人でキマイラの攻撃を捌く、奴の特徴は高腕力と自立して動く大蛇。

 

1人ではかなりキツイ相手だろうが4人いればそれだけターゲットが分散できる、コイツ自身、特殊な能力があるわけではないから捌くことは容易いが…

 

攻め手に欠ける、奴は防御力もかなり高い、生半可な攻撃では傷一つ付かない。

 

倒すという事ができないのはかはり痛手だ。5分もの間、私達は息も付かせぬ攻防を続けていた。

 

ここで一つの問題が発生するそれはスタミナだ、常に体を動かし続けるというのはそれだけで息切れを起こしパフォーマンスが著しく下がっていく。

 

「っ…はぁ…はぁ、かなりキツイ相手だね…っマツリちゃん!君はもう下がって!」

「はぁ…はぁ…ま、まだ…自分は…っ」

「トモ!!マツリを連れて下がれ!君も最前線で戦い疲弊している筈だ!!体力を回復しろ!!」

 

トモは私達以上に接近し相手を翻弄していた、その為、この場にいる誰よりも疲れている筈、既に彼女のパフォーマンスは5分前より大分下回っている。

 

「す、すみません黎斗さん!!この場は一旦任せます!マツリちゃん!行くよ!」

「申し訳ないッス…」

 

2人の離脱は大きい、私とコッコロ2人では奴の攻撃を完璧には捌き切れないのは事実としてある。

 

奴の攻撃が苛烈さを増していく、お互いの負担を減らすべく、互いに気を配り、極力大きな被弾をしないよう立ち回る。

 

「コッコロ!スタミナの方は平気か!!」

「は、はい…なんとか…大丈夫でございます!先日の魔物の大群に比べれば…大したことなどございません!!」

「よく言った、流石は私の従者!!」

 

だが気合だけでどうにかなるものではない、このままトモが戻ってこなければジリ貧で私達はゲームオーバーだろう。

 

「お待たせ〜!!2人とも、よく頑張ったね!!」

 

ギャン!と金属同士がぶつかり合いをしたような音が鳴る、それはノゾミが剣を片手にキマイラの胴体に思い切り衝突した音だった。

 

あの巨体のキマイラが体を退けぞらせる程の衝突、だがキマイラは止まらない、そのまま衝突してきたノゾミを狙う。

 

「そうはさせませんよ〜!!」

 

キマイラの動きが止まる、見えない糸で足止めされているからだ、これを行っているのはツムギだ、彼女の扱う戦闘用の糸の強度は10トン以上の重りをつけても切れない程。

 

「風の精霊よ…皆さんを守ってください!!」

 

突き抜ける一陣の風がキマイラの体を切り刻む、コッコロと同じく聖霊と心を通わせることができるチカ。

 

「助かった、3人とも…これならば奴を攻略する事が出来る」

「ちょっと見ないうちに黎斗君、変わったね、変身って奴?」

「そうですね…黎斗さん、本当に騎士さんになっちゃいました、ビックリです」

「皆さん、まだ戦いは終わっていません、気を抜かないでください」

 

この3人の助太刀は心強い、なぜかわからないがこの3人の戦闘能力は高い、彼女達を私が少し強化すればこの程度の相手、遅れを取ることはないだろう。

 

私は前線から身を引き、彼女達の強化に集中する、それと同時に私は頭を回す。

 

キマイラ…何故、これ程までに強力な魔物が街中にまで侵入してこれたのか…

 

1つ、街の警備。今、ランドソルは今週末の祭り開催にかけて警備を厳重にしている筈だ、それなのに魔物の侵入を許すとは正直考えにくい。

 

つまりこの魔物は意図的に侵入させたもの…そんな芸当ができるのはキャルくらいだ。

 

2つ、狙いは何か。街門からここまでの距離は約7キロ、それほどまでの距離を一直線にここに向かって来たとなると目的がなければなし得ない。

 

魔物という目に映るものを優先的に狙うルーチンをしているデータの塊がこのような動きをするというのは違和感がある、上記でキャルが使役していると推測したが、だとするのならばコイツの狙いは私やコッコロという事になる。

 

3つ、全体像は何か。キャルが私達を狙っているという事は、ペコリーヌはあくまで保険か…

これで私達を捕まえられればそれでヨシ、これやこれ以外で失敗し続けても最終的にペコリーヌを救出する際に私達は相手の総本山に突っ込む事になる。

 

キャルにしては悪くない策だ、失敗する事を想定した、安全策。

 

だが、リスクを犯さず安全策のみの緩やかな橋では私は簡単に踏破してしまうぞ?

 

あまり私の才能を侮らない方が良い。

 

私がそう思考を割いていた時だった、傷を負った奴の雰囲気が変化する。

 

筋肉がさらに膨れ上がり、怒気のように口から煙を吹く。

 

腕をその場で振り回すと爆風が吹き荒れ、近接戦闘をしていたノゾミが吹き飛ばされる。

 

「きゃあっ!!…っつぅ…怒ったって感じ?ちょっとヤバいかも…!」

「ノゾミさん!あまり無理はしないでください!私とチカさんで何とか動きを封じますから!!」

「分かった!2人とも!よろしく頼んだよ!!」

 

3人の連携で攻撃を何とか捌いていく、私も集中して彼女達を強化するのだが、かなり戦況は厳しい。

 

見誤ったか…?あのキマイラ…相当なレベルだ、私が気を抜けばあの3人だろうと手に負えない、ちっ…集中強化中はあまり私自身が身動きが取れないのがネックだ。

 

奴が大きく片足を持ち上げ地面に叩きつけると地面が砕け、大きな破片が舞い上がる、それを腕を使って更に砕きつつノゾミ達に向かって投擲し始める。

 

彼女達は全てを身体能力や魔法を使って回避していくのだが、奴の尾、つまり大蛇の部分が1つの瓦礫をこちらに飛ばして来た。

 

「っ主さま!!!」

 

身動きの取れない私の前にコッコロが立ち塞がり飛んできた瓦礫を槍を使って粉砕する。

 

「っよくやったコッコロ…!!」

「主さまをお守りするのが従者の……っっ!!?」

 

ゴッという衝突音が響いた、骨が粉砕される音だ。

 

安堵したのも束の間、瓦礫を粉砕した瞬間、伸びて来た大蛇がコッコロを跳ね飛ばしたのだ、私の目の前で小さな体が宙を舞う。

 

槍はその場で虚しい音を立てながら転がっていき、鮮血が飛び散る、彼女の体は十数メートル程飛んでいきそのまま地面に受け身も取れずに叩きつけられる。

 

「…っコッコロ……ッ!!!!!!」

 

やってしまった、私とした事が、前線で戦うカルミナに集中しすぎて、コッコロの強化を疎かにしていた、あの当たり方は非常にまずい。

 

「貴様ァ……私の従者になんて事を…っ!!」

 

怒りが沸沸と湧いてくる、しかし落ち着け私、ここで冷静さを欠くのは後手に回る行為だ。

 

「チカァ!!!コッコロの治療を頼む!!その間は私が出る!!!」

「えっ!?く、黎斗さん!?…っ…あの子の治療が先決ですよね……分かりました!お願いします!!」

 

私は1度カルミナの強化を中断し、戦闘に集中する。

 

ガシャコンソードを片手に一心不乱にキマイラに斬撃を入れていく、しかし鳴り響くのは金属音のみ、硬い奴の皮膚が刃を通さない。

 

「っ…黎斗さんの強化が途切れたせいか…奴を束縛するのが難しいです…!!」

 

ツムギの拘束も一瞬で解かれる程、奴の力は強大だった、私は判断ミスをしていたという事に今気づく。

 

冷静にと言った手前、知らず知らずのうちに私は怒りに支配されていた。コッコロを傷つけられたという事に対する怒り、それに支配され冷静な判断をしていると勘違いしていたのだ。

 

この怒りは過去に不正なガシャットを生み出した永夢や小星作に対して抱いた怒りと同等かそれ以上の物だと今にしてわかる。

 

 

「ヤバっっ!!」

「ノゾミさん!!!?」

 

ノゾミの一瞬の隙をつきキマイラが拳を振るう。

 

『タドルクリティカァル!フィニィッシュ!!!』

 

私はそれに合わせてキメワザを放つ、炎熱の斬撃が奴の振るう拳を斬り裂く。

 

それによりノゾミに対する攻撃は阻止できたがそのまま奴のけたぐりが私に向かって炸裂する、この体格差のけたぐりは私の体全体に突き刺さりそのままコッコロの倒れる位置まで吹き飛ばされる。

 

「がっはぁっ…!!」

「黎斗君!!こんのぉ…!ってわわっ!?」

 

私が倒れている間もノゾミとツムギが何とか時間を稼いでいる、くっ…何という事だ、この私が…っ!!

 

コッコロの方を見ると傷自体はチカにより治されているようだが依然目を覚まさない。

 

私はそれを見て再び拳を強く握りしめる。

 

「…必ず…私の手で削除してやるゥ…!!」

『ギリギリチャンバラ!!ギリ・ギリ・ギリ・ギリ!チャンバラ~!』

 

私はタドルクエストからギリギリチャンバラにレベルアップしガシャコンスパローを手に連射しながら突っ込んでいく。

 

奴の注意をこちらに引き付けつつ、接近したと同時に弓モードから鎌モードに変化させ斬り込んでいく。

 

「くっ!何故だ!!何故ダメージが通らない!!!」

 

硬すぎる!!ここまでトモやマツリ、カルミナやコッコロなどで攻撃を加えている筈なのに、殆どダメージになっていない…!!

 

「黎斗さん!近づきすぎです!!離れてください!!」

 

ツムギの言葉を聞いた時には既に私は大蛇に跳ね飛ばされていた、再びコッコロの倒れる場所まで吹き飛ばされてしまう。

 

ぐっ…何だ…何が奴にはあるというんだ…!!くそっ!思考がまとまらない!私ともあろう者が…!神の才能を持つこの私がァ!!!

 

キマイラが動く、再び地面の瓦礫を使い投擲攻撃を仕掛けて来たのだ。

 

狙いはノゾミ達だけでなく、私や倒れているコッコロ、全員まとめだ。

 

私は咄嗟に動く、倒れてるコッコロを守らなければならないと反射的に動いてしまう。

 

「黎斗さん!!!!」

 

治療にあたっていたチカが叫ぶ、私は彼女達の前に立ちはだかり瓦礫を全てその体で受け止めた、しかし代償は大きかった。

 

「がふっ…ぐっ…」

『ガッシューン…』

 

変身が解除され、その場に倒れ込む、意識自体は保っているが体を動かす事ができない。

 

まさかここまでやるとは…キャルの奴め…中々抜け目がないじゃないか…

 

チカが焦ったように私の治療を開始するがこのままでは強化を受けていないノゾミとツムギは殺され、次に私達も奴に蹂躙されるだろう、私とコッコロは最悪キャルの元へと連れて行かれる程度で済むだろうが…それはゲームオーバーと何ら変わりはない。

 

トモが戻って来たとしても勝率は限りなくゼロに近いだろう、見誤った、選択をしくじった、私の責任だ。

 

こんな感情を抱くようになるとは思いもしなかった……良い経験になったよ。

 

しかし、一向にキマイラが攻撃を仕掛けてくる事はなかった。何かあったのかと私は顔を前方に向ける、すると。

 

「やれやれ…今宵もこの街は騒がしいねぇ…全く…『海内無双の型…二の太刀 一点飛雨』」

 

ズバンッ。まさにその効果音がふさわしい音だった、真上から垂直に真下に放たれた剣撃がたったの一太刀でキマイラの大蛇の尾を切断する。

 

「グルルァァァォッ!?」

 

キマイラが絶叫する、切断され大蛇が自立して動き尾を切断した者に対して攻撃を開始しようとしていたのだが。

 

「汚物は消毒だァァ!!ナナカ・エクスプロージョン!!」

「クックック!!来れよ!コード:ヌル!羅刹涅槃(アナイアレート・フォール)・極光終天冥壊波(ファイナル・カタストロフ)!!!」

 

強烈な攻撃魔法が容赦なく大蛇を消し飛ばす。それと同時に更にキマイラ本体が絶叫する。何か奴と大蛇には関係があったように見えるが…

 

「ミツキさんの言っていた通りですわね…あの大蛇の部分が力の源…それさえ消せば弱体化すると…さて…」

 

ゴリゴリとかなり重量のある金属を地面に引きずる音を立て近寄る影が1つ。

 

「私の黎斗さまを傷つけた不届き者…覚悟はよろしくて?クスクスクス、答えは聞いてませんが…」

 

引きずる音が消え、そのシルエットは跳躍、キマイラの懐に入り込み、手に持った巨大な斧を振り抜く。

 

ゴバァッという肉が吹き飛ぶ音が鳴り、キマイラの巨体が数メートル程浮いた、とてつもない力がある事が窺える。

 

殴られた腹部はドス黒い血が吹き出て内臓部分が露出する。

 

そして吹き飛んだ巨体の真下に何やら赤く光る魔法陣が出現しそこから黒く太い薔薇が複数出現、キマイラを拘束し縛り上げる。

 

薔薇のトゲが体に食い込み激しい出血をし吼えるキマイラ、それを眺めるのは建物の屋根上に立ち、月の光でシルエットとなり姿を隠す1人の女。

 

「エリコちゃん、その子の体、後でじっくりと見たいから出来るだけ丁寧に解体して頂戴ね!ほら、ルカも手伝って」

「はぁ…ミツキには敵わないよ…この期に及んで死体の良し悪しを考えるなんてね」

 

私はこの集団を知っている、私が出会った中でも極めて戦闘能力の高い集団のギルド…たしか『トワイライトキャラバン』といったか…

 

「黎斗さん!遅れて申し訳ありません!マツリちゃんを避難させてる途中にあの人達に会って…黎斗さんの名前を出したら協力してくれるって言ってくれたので連れて来ました!!」

 

私に駆け寄って来たのはトモだった、どうやら彼女達を呼んできたのはトモのようだ。

 

「そうか…いや、正直最高の助っ人だ…」

「そうですね…見ていて分かります、1人1人がめちゃくちゃ強いですよ…」

 

私の強化能力など必要ない程に彼女達は強い。

 

私達が手こずった相手を見事な連携で圧倒していく、刀で斬り裂き、魔法で吹き飛ばし、斧でミンチにしていく。

 

たった数分で事が終わった、キマイラは原型が留めていないほど肉体を破壊され見るも無残な肉塊へと変貌していた。

 

「黎斗さん、これで怪我の治療の方は終わりました」

「すまないチカ……コッコロの方は…?」

「…分かりません、他に目覚めないのには何か理由があるのかもしれません、とにかくこの子は医療施設に方に預けた方がよろしいかと…もう回復魔法でどうこうできる段階は過ぎています」

「そうか…」

 

彼女の言葉を黙って受けいれる事しかできない、私らしくもないな。

 

「ああ!黎斗さま!!大丈夫ですか!!?どこもお怪我をなさっていませんか!?」

 

そう言って私に飛びついてくるのは先程大斧でキマイラをミンチにした魔族の少女、エリコだ。

 

「全く、黎斗、お前さんはいつも騒ぎの中心にいるねぇ、何か持ってるのかい?」

 

今度私に話しかけてくるのは太刀で大蛇を切断した和風の装いをした女性ルカだ。

 

その他にも

 

「我が友、シグルドよ!どうした!情けないではないか!!」

「いやいやアンナたそ、あんな化け物を真正面から戦うなんて無理ゲーですぞ、私達もミツキ氏の助言がなければ苦戦は免れなかったですしおすし」

 

発言の一々が厨二臭い魔族の少女はアンナ、彼女の見た目はパンクでそれこそ厨二病全開の服装だ。うってかわってオタク全開の話し方をするのはナナカだ、見た目は想像しやすい魔法使いそのもの。

 

そして最後に

 

「でも、おかしいわね…黎斗君ともあろう者が…キマイラの弱点を探し出す事ができないなんて…」

 

片目を眼帯で隠し妖艶さを醸し出す女性ミツキ、彼女の性格はマッドな気質がある為、私はあまり得意なタイプではない。

 

「何かあった?それとも…そこの子のせいかしら」

 

ミツキはニヤリと笑いながらコッコロを見る、本当に見透かされているようで嫌な気分だ。

 

「…すまない、少々思考が纏まらなかった…助かったよ」

「あら、あなたから感謝されるなんて珍しいわ。まぁ、それはそうとその子、目を覚まさないわね」

 

…確かに、何か違和感を感じる。回復魔法には怪我を負った人間の症状はある程度分かると聞くが、チカの様子を見る限り、特に脳の方にダメージを負っているようではない筈…

 

「…何にせよ、彼女を医療施設に連れていかなかればならない」

「それなら私の出番ですわ、この近くに私が行きつけの病院がありますの、腕は確かですのでご安心を」

 

エリコがそう言うのだが彼女の行きつけというは何か引っかかる。

 

「トモ、マツリ、後の処理は君達王宮騎士団(ナイトメア)に任せる」

「分かりました…と、最後に1つだけ、黎斗さんに話しておきたかったことを伝えておきます」

 

私達はすれ違い様に言葉を交わす。

 

「王宮内で何かあったみたいです、王宮内直属の兵士達の様子が変わりはじめました」

「…そうか、頭に入れておく」

 

兵士達の様子の変化…か、このキマイラ騒動といい何か変化の時が差し迫って来た、という事か。

 

 

 




あと少しで最終決戦だ、頑張ろう私。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

生まれる感情

今回は説明回です、進展は…ないでふ。


「…」

 

私は病室のベットの横の椅子に座っている、目の前には眠ったままのコッコロがベッドの上で横たわっている。

 

この病院を紹介してくれたエリコだがミツキにこの後も仕事があると言われ、私にしがみ付いて離れまいとしようとしていたが無理やり引き剥がされ連れて行かれた。

 

その際、ミツキに

 

『あのキマイラの動き、何か奇妙だったわよね?…黎斗君はいつも因果の中心にいるんだから、何かあったらいつでも言いなさい、トワライトキャラバンはいつでもあなたの力になるわ』

 

と告げられた、これから先あの千里真那と戦うと想定した時の戦力としては申し分ない。

 

今はそれに歓喜し、これからの事を考えていかなければならないのだが

 

「…何故目を覚まさない、コッコロ…」

 

これ程までに焦燥に駆られた事は今まであっただろうか、私は目を覚まさないコッコロを前に片膝を揺らす、所謂貧乏ゆすりの様なものをしてしまう。

 

…私は両手を細い目で見つめる。別に手に異常を感じたとかいうわけではない、ただ何か…確認したかった、どこでもいいから何かを確認したという所作をしたかった。

 

既に…私とこの少年の同化はかなり進行しているとみていいだろう。

 

私が他者に対しここまで親身になるなど…今まで考えた事がなかった、分からなかった。

 

だがしかし、今は分かる…これが『心配』という感情なのだという事が、私が誰かに対して心配などした事がなかった。

 

いや、訂正しよう。心配自体はした事はある、例えば永夢が勝手にパラドを殺害しエグゼイドに変身できなくなったあの時は流石に心配した。

 

しかしその様な心配とは別だ。…不安に駆られ、怒りや焦りが出てくる心配…今のこの現状の事。

 

「く、黎斗さん?…大丈夫ですか…?」

 

不意に背後から声をかけられた、この声は…チカか。

 

私は振り向く直前、チラリと壁にかけらた時計を見る、時刻は夜10時を回っており、既にコッコロが気絶をしてから3時間は経過していた。

 

そしてチカがこの場にいるという事はライブが何事もなく終了しここに来たという事か、あの魔物を撃破した後もカルミナは再び観客を呼び集めライブを再開したというのだから驚きだ。

 

「ああ…すまない、チカ、ノゾミ、ツムギ…先程は本当に助かったよ」

「そんなお礼なんて、私達が勝手にやった事だし…それにその子を守れなかったし…」

「そうですね…私達がもうちょっとちゃんとしてれば…その子を守る事だって出来た筈です」

 

ノゾミとチカが暗い表情になりながら呟く。

 

「そ、そんな事ありませんよ!私達はあの場で最善の選択が取れてた筈です!その子も…目は覚ましませんが生きてます!それで十分ですよ…!!」

「ツムギ…そう…だよね、うん、ファンのみんなも守れた、みんな…とりあえずは生きてる、それだけで十分なのかも」

 

ツムギの言葉にノゾミに軽く笑顔が戻る。

 

「君達はこんなところにいて良いのかい?確か…ツアーと言っていたろう、準備なんかが必要な筈だ」

「うん、だけどやっぱり気になっちゃって」

「ツアーは来週末までの長期に渡りますし、最後くらい黎斗さんにご挨拶をしておかなくちゃと思いまして」

 

ツムギが笑顔で答える、来週末まで…か、その日は王宮侵入決行日、心苦しいが彼女達の旅路の最後は大荒れとなるだろう。

 

「おい、お前達!ここで何をしている!!」

「うっ!この声…プロデューサー!!」

 

プロデューサー…?声に聞き覚えがあるぞ…

 

「クリスティーナ…?何故君が…」

「ワタシの方が驚きだがな、この子達は今や飛ぶ鳥を落とす勢いの天下のカルミナだぞ?それらが知人などファンの雄共が泣いて悔しがるだろうな」

「…質問に答えてもらおうか」

 

私が少しうんざりとした口調で言い放つとクリスティーナもまた、ため息を1つして口を開く。

 

「お前達はそろそろ出ろ、『転送の間』の手続きは済んでいる、アイドルたるもの時間厳守だ」

「は、はい、プロデューサー!!…それじゃあ黎斗君、またね!」

「黎斗さん、その子の事でどうか深く気に病まずに、体調だけは崩さないでくださいね」

「そうですよ!!元気出してください!!私たちが戻って来る頃には必ず目を覚ましてます!大丈夫です!!」

 

彼女達はそう言い残してこの病室から出て行った。

 

「…質問の答えだが、ワタシも色々とあってね、何の因果か、アイドルのプロデューサーという立場に今はいる」

「脱獄犯だというのにか?」

「そうだな、ある意味では丁度いい隠れ蓑にさせてもらっているよ、これからカルミナは全国を回るライブツアーだ…他国に渡れば少なくともワタシは監視の目から遠ざかる事ができる」

 

監視の目…

 

「まさか、このプロデューサーの件も作戦の1つか?というよりどうやってその座についた?流石にムイミ達の手配では不可能だろう」

「ああ、これに関してはアイツらの力じゃない、ワタシ自身の…いや、ワタシの身内の力といった方がいいか」

「君の…?あの誓約がどうとかいう家訓がある」

 

「そうだ、ワタシの実家はここから遠く離れた地にある名誉ある貴族だ、お前には話したがワタシは若い頃、実家に嫌気をさし半ば家出に近い事をしてこの地に流れ着いた…まぁ、若気の至りというやつだな、それからはこの地で1から力を勝ち取り貴族となり王宮騎士団(ナイトメア)に所属と…順風満帆に生活をしていた訳だが…」

 

ただでさえ家出という経緯があり、先日の逮捕からの脱獄、彼女が現在身内からどういう扱いをされているのか想像に難くない。

 

「我が家は色々と揉み消すことに必死さ、今回の『コレ』もその1つって事だな、自分の家から犯罪者を出す訳にはいかない、元からアイドルのプロデューサーをやっていたという事にする、まぁ金さえあればやれない事はない」

「つまり君はそれを利用するという事か」

「そうなるな、ワタシとしてもアイドルをプロデュースするというのは中々新鮮で楽しそうだとは思っているが、今はそうやって楽しんでる暇はなさそうだ、やつを…千里真那を消すまではな」

 

クリスティーナという人間は初めて対面した時の破天荒さで苦手意識を持っていたが彼女を知っていくとどうも真人間のように思えてくる、慣れただけかもしれないが。

 

彼女は先見の明があり、判断力や常識も兼ね備えている、こうやって落ち着いている時は私とも話しが合うからな、いかんせん戦闘時というか興奮時は話を聞かない。

 

「来週末までワタシはこの国を離れる、その間にちょいと仕込みをしてくるよ、せっかくの他国だ、利用できるものはしなくてはな」

「私達が相手取るのは国家そのもの…確かに利用するのならばそういったものの方が都合はいいか」

「さて…ここで耳寄りの情報だ黎斗の坊や」

 

彼女はドカッと私の隣にある椅子に座り込み

 

「王宮にはどうやら洗脳装置と呼ばれるものがある」

「洗脳装置…?待て、どこからの情報だ」

「オクトーの坊やだよ」

 

…オクトーだと?

 

「奴がワタシに接触してきてね、最初はワタシも警戒したさ、だが奴1人でワタシに挑んでくるとは考えづらい、話だけでも聞いてやったら出てきた言葉がコレさ」

「…話が本当なら王宮騎士団(ナイトメア)の現状は…」

「洗脳されているということになるな、だが露骨な洗脳とは違うらしいぞ?」

 

どういう意味だ?

 

「オクトーの坊やは『意識を心の奥底にあるものに集中させる』だとか言っていたな、奴自身あまり上手い表現で伝えられないとも言っていたが、黎斗、お前はこれに対してどう考える?」

 

…心の奥底にあるもの……人が誰しも抱える『闇』の部分、それを刺激して表面化させている…?

 

「…私達の考える洗脳ならば、兵士達の発言が露骨に変化し、違和感を覚える程に私達を追跡してくるなどの行為をするだろう、しかしそうではなく『心を刺激する』と考えたらどうだろうか」

「『心を刺激する』?」

「ああ、例えば元々正義感の強い兵士がその洗脳装置とやらの術中に嵌った場合、どんな悪も見逃さなくなる、確かにそれ自体は良い事なのかもしれないが常軌を逸した正義の執行も厭わなくなるという難点もある」

「ふむ、確かに表面的にはただの洗脳よりは分かりづらいな、こちらの警戒心も逸らす事はできるだろう…だがしかし何の意味がある?あの暴君、千里真那がこんな周りくどい事をするとは思えないが」

 

…そう、あの千里真那がやるとは思えない、それにただの洗脳ではないと言うところもポイントだ。

 

「トモの話では、その洗脳の効果範囲は恐らく王宮内だけ、彼女も王宮騎士団(ナイトメア)だがその兆候は見られなかった」

「ほう、トモちゃんか、確かにあの子は庶民の出だからな王宮内には入る事は出来ないだろう」

 

つまり

 

「…王宮内全体を対象にするとなると…キャルも勿論対象内だ、そして洗脳と違いコレはどちらかというと『意識の塗り潰し』…」

「ふむ、つまりあのキャルとかいう獣人は『自分の意識を塗り潰したかった』しかも丁度よく王宮騎士団(ナイトメア)達も使役しやすくなる。考えたものだな」

 

…塗り潰したかった感情は考えるまでもない、私達『美食殿』への罪悪感、では彼女が罪悪感を塗り潰した感情とは何だ…?

 

怒り、憎しみ、哀しみ…考えられるとすればここら辺だが…これは直接彼女に会うまでは分からない…か。

 

「さて、そらそろワタシも話を切り上げるとしよう、あの子達のプロデューサーだからな、手を抜く訳にもいかん、楽しんでると思われるかもしれないが、やるからには彼女達のツアーは成功させるつもりだよ」

 

クリスティーナは席を立ち、ワタシに背を向けながら歩き出す、そして1度立ち止まり。

 

「…その子、目を覚すといいな」

 

そう言い残して去って行った。

 

……

 

それから丸1日、24時間と120分が過ぎた深夜0時の時刻を知らせる時計の音が病室に鳴った。

 

未だコッコロは目を覚まさない、私はその間ずっとコッコロのそばにいた、昨日同様に座りながらも片手はずっとコッコロの手を握っていた。

 

考えれば私にもこういった子供がいてもおかしくない年齢だったのだなとある意味で再認識できた、バグスターになり年齢という概念から解き放たれたとはいえ本来私は38歳…それこそコッコロぐらいの子供がいても良いぐらいだな。

 

この感覚は少年の優しさだけではない、私自身の父性とも呼べる部分が刺激されているのかもしれないな…私自身もまだ私の知らない部分がある…やはり人間の心というものは面白い。

 

分かった気でいてもまだまだ未知数、これはゲームのキャラクターを作るうえでも利用できる事だ、覚えておこう。

 

「あうぅ…」

「…コッコロ!!目を覚ましたか…!!」

「主…さ…ま…?手を…ずっと…握ってくださっていたのですね…主さまの温かなお手て…なんともあったかい事でしょう…」

 

私は咄嗟にその場で立ち上がり、彼女を抱きしめる、もはや歯止めが効かなかった、この行為に驚きこそしたが疑問は抱かなかった。

 

「あう…主さま…ふふ、主さまがこうした事をなさるなんて…初めてでございますね」

「ああ…そうだな…私も少し驚いている…すまなかった、私の注意不足だ、君を危険に晒してしまったのは」

「…いいえ、そんな事ありません、主さまのおかげでわたくしは再び再起できたのでございます…」

 

コッコロはそう呟きながら私を抱きしめ返してくる。

 

「主人さまの温もりを感じられてコッコロは幸せです…っと、そうではございませんでした、主さま、わたくしが昏睡状態に陥っていた原因をお話し致します」

「…なに?」

 

私はコッコロから離れるとコッコロが経緯を話し始める。

 

昏睡している間に自分は現実世界に赴き、『晶』と出会った事、現実ではどのようなことになっているのかという事、コッコロ自身がどういう立場の人間であったのかという事。

 

「…今回の昏睡はたまたま時期が重なってしまったことによる事故みたいなものだったという事か…」

「そうなりますね、本来ならあの日、わたくしが眠ってからあちらの世界のロボットと呼ばれるものに精神を移す手筈だったようです」

「とにかくコッコロがあちらとこちらを行き来する手段を得た、これはかなり使えるのではないか?」

「そうですね、しかし晶さまが言うにはあっちの世界よりもこっちの世界を今は注視して欲しいとのこと」

 

…晶は晶で現実でやるべきことをやっている、その間は私たちに全部こちらを任せるという意味合いか。

 

「それと…これを…」

「…?」

 

コッコロが手を私の手のひらを包むように触る、すると光り輝き始める、最初は何かの魔法かと思ったがそうではなかった、何か…物が転送させられて来ている。

 

「少々お待ちを…時間がかかると仰っていましたので… 」

「…晶の差し金か?」

「はい、晶さまが主さまに今必要になるものだと…」

 

一体なんだと言うんだ…?私に今必要なもの…

 

手のひらが光り輝き始めてから3分ほどで私の手に何か感触がある事が確認できた、どうやら転送が終わったらしい。

 

コッコロが私から手を引くと

 

「こ、これは…!!!」

 

私の手のひらにあったもの…それは

 

「デンジャラスゾンビガシャット…っ!!!」

 

白と黒の配色、ゾンビのイラストが描かれた正真正銘本物のデンジャラスゾンビガシャット…本物というよりはデータか。

 

「どうやって…いや、現実世界からの干渉なんだ、晶がクリエイターであるのならば新たなデータを加える事など造作も無いこと…しかし驚いたな」

 

恐らくこちらの世界の千里真那同様に私が流したデータから持ってきて再現した、しかも現実世界で手順を踏み、この世界にちゃんと正規のアイテムとして登録したというところなのだろうが。

 

「コッコロ、晶は他になんと言っていた?」

「そうですね…」

 

『黎斗君に伝えておいて欲しい点がある、1つ、そのアイテムは君が望むほどの性能をしていない、色々とアタシも試してみたんだけど現段階じゃあ完全再現とまではいかなかったよ、いやぁ〜凄いねコレ、黎斗君が作ったもんなんでしょ?こりゃすぐに真似できないよね』

 

『んでもって2つ、アタシは何とかして黎斗君のデータを漁ってアイテムを再現してみるとするよ、きっと何かの力になる…とはいえ、そのガシャット?とかいう不完全なアイテム1つ再現するのにめちゃくちゃかかったから次はいつになるかは分からないけど…真那を打倒する為に協力は惜しまないよ』

 

『そして最後に、こっちで真那は止めてるけど、もうそろそろ限界だ、心してかかるように、良いね』

 

「…と仰っていました」

 

…嬉しい知らせだな、デンジャラスゾンビですら中からのハッキングではデータを再現することはできなかった、それを外からやってくれるというのだからありがたい話だ。

 

しかし完全再現はできていない…となると不死身の能力は無いと考えた方がいいな、不死身がなければ何がゾンビだという話になってしまうが単純にスペックが向上するのは大きい。

 

それに死のデータによるダメージも無いと考えていいだろう、となるとデンジャラスゾンビガシャット1つで変身可能…それどころか他のガシャットと併用できるというのは利点だ。

 

「…ふっ、でかしたぞコッコロ…これで、奴を…千里真那を倒せる可能性が格段にアップした」

 

私は笑みを抑えられず笑いながらコッコロの頭を激しく撫でる。

 

「わふぅ…それだけではございません、ペコリーヌさまを助けられます」

「…そうだな…あとは出来れば…キャルもだな」

 

私達は決意を胸に眠りに付く事にした。この幻の夢の世界で私達が成すべき事を成す為に。

 

 

 

 

それから月日が流れ、王宮侵入決行日。つまりランドソルの祭りの日、初日。

 

2週間程度の時間が流れたもののその間に私は色々と手を尽くしていた。

 

例えば力になると言ったトワイライトキャラバンに協力を要請し、万が一の時の為に街で待機してもらうことになった。

 

同じく戦闘を主とするギルド『ヴァイスフリューゲル』の面々にも出張って来てもらっている、彼女達にはこのランドソルの外周を警備、上記の通り万が一に備え民衆達を効率的な避難誘導をしてもらうつもりだ。

 

彼女達と言ったがヴァイスフリューゲルの面々も全員女性だ、彼女達もかなりクセのある5人で構成されたギルドである、その紹介は後にしておこう。

 

民衆を効率的に避難……恐らくこの作戦は成功しようがしまいがこの街にもたらす被害は想像を超えていくだろう。

 

何せあの千里真那…核兵器級の魔法を放つ魔術師と戦わなければならないのだからな。

 

「主さまの準備は整っておられるようですね」

「ああ、この2週間で色々と分かった」

 

そう言いながら私はデンジャラスゾンビガシャットを取り出し、手首のスナップでコッコロにそれを見せつける。

 

デンジャラスゾンビガシャットを試運転した結果、分かった事。

 

私の推測通り、不死身の能力自体は無かった、ダメージ自体は受けてしまう。しかし『ダメージを受けた瞬間、そのダメージの半分程度の数値分ライフを回復する』機能が追加されていた。

 

恐らく晶が気を利かせデンジャラスゾンビの能力に付け足したのだろう、これにより実質耐久力が上がった。

 

そして音声はピン挿しの場合、レベル2の音声『デ・デンジャラスゾンビ!デ・デンジャラスゾンビ!!』というものなのだが…何故かバグルドライバー仕様の音声となっていた。

 

これも推測になるが晶が私のデータからデンジャラスゾンビガシャットデータを再現する際、最も長く使っていた期間の音声データを抽出し使用したからだと思われる。

 

私としても『ジェノサイド!』や『wooo』という音声があった方が馴染み深いといえば馴染み深い。

 

そしてやはり他のガシャットと共に併用可能だった、デンジャラスゾンビに他の武装が取り付けられるのは中々新鮮で非常に興味深い。

 

増殖機能もあった、通常は10体まで召喚可能、他のガシャットと併用時は3体。どちらも増殖体の耐久力は殆ど無い、乱戦時には使えるだろうくらいの認識でいいというのが私の出した結論だ。

 

微調整は私の方で行った、ゲームクリエイターとはいえ初めてガシャットに触れた晶では繊細な部分の調整は施されていない、私は2週間かけてデンジャラスゾンビガシャットの調整を行った。

 

最後に、この2週間の間に何度かキャルからの刺客と思われる魔物を撃退したり分身体のネネカと接触したりと様々な事があったのだが、それらは割愛させてもらう。

 

これで準備は万端…後は他の面子を待つだけなのだが…

 

周りを見渡せば人、人、人…流石は祭りだ、他国からも観光客が来ているというのだから人口密度が半端ではない。

 

「凄いですね…様々な出店が出ていますよ、本来なら楽しみたいところですが…」

「祭りは5日間あるらしい、もし事が平穏に終わるのであれば、その後に楽しむとしよう」

 

希望的観測をしつつ私達は歩を進める。私達が向かっているのはあるクレープ屋。

 

そこにラビリンスのシズルと合流する手筈なのだが…

 

「あ…あそこではございませんか主さま」

 

コッコロが指を指し示すその場所に1つの出店が確認できた、クレープ屋だ。

 

そこには女性が1人、クレープを焼いているのだが…ん?

 

よく見ればあれは…シズルか?いや…見た目自体そこまで変化はないのだが若干違和感を感じた、シズルだとパッと見で判断する事ができなかった。

 

「…シズル、私だ」

「あ!黎斗くーん!!会いたかったよぉ〜っと…ダメダメ、今は抱きついたりしちゃ…」

 

私は驚愕した、いつもなら問答無用で飛びついてくるあのシズルが我慢しただと…?

 

「…何か他人に触れてはいけない魔法でも使っているのか?」

「正解だよ!ほら、あのネネカって人……正確にはその人の分身だっけ?まぁいいや、その人がね私達に『認識を誤認させる』魔法を掛けてくれたんだよ、おかげで黎斗君でもすぐに気付かなかったでしょ!」

 

成る程、先程の違和感はそういうカラクリがあったのか。

 

「でもでも、少しでも誰かに触れると解除されちゃうから…黎斗君に抱きつく事ができなくて、お姉ちゃん寂しい」

「それよりも、他はどうしている?いつ始めるんだ、その作戦とやらは」

「…もうすぐだよ、黎斗君、コッコロちゃん、気を引き締めて行こうね」

 

シズルの声色が変わる。そうか、ついに始まるのだな…では最終決戦と行こうじゃないか。

 

 

 

 

 




前から2部もやろうかなぁなんて思ってて、溜めていた2部のストーリーを読み始めたらまた岸君の記憶が破壊された事に驚きました。ついでに読む前に想定してた自分の物語のプロットも破壊されてあーもうめちゃくちゃだよ。
岸君の赤ちゃんプレイのくだり…ドウスッペ…
まぁその時が来たら考えます(諦め)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

黒鉄の騎士

キャル虐は禁止です、コロ虐はもっと禁止です!!!!


 

 

 

「とは言ったものの、合図はまだだね〜」

 

つい先程の緊張感ある雰囲気は何処へやら、現在私達はシズルのクレープ屋の手伝いをしている。

 

どうやらムイミ達の作戦の合図があるまでは現場待機との事だった。

 

「いや〜それにしてもいつもはお客さんなんて全然来ないのに、今日は繁盛してるな〜流石はお祭り」

「わたくし、こういった経験は初めてです、中々楽しいですね」

 

コッコロは初めての客商売なのだが元々丁寧な話し方をしているおかげか難なくこなしている。

 

「…既に1時間はこうしているぞ?いつになる」

「そろそろだと思うんだけど…あっ!ほら見て!空が輝いたよ!」

 

シズルの指摘通り、一瞬空が白く光った、アレは…

 

「…ムイミの…確か天楼破断剣とかいう武器による攻撃か?」

「そうそう、ノウェムちゃんの武器ってよくわからないエネルギーがドバーって出るでしょ?アレを合図にしようって決めてて」

「あの、作戦とは一体なんなのでございますか?」

 

とコッコロが質問したすぐ後に、人々の悲鳴が木霊する。

 

何かから逃げるように大量の人々が走ってこちらに向かって来ている。

 

「ほら、始まったよ」

 

シズルがそう言うと、私達の前に大剣をブンブンと振り回しながら歩いてくるムイミの姿があった。

 

「やいやい!そこのけ!悪党様のお通りだ!!!」

 

…成る程な

 

「陽動作戦か…」

「そういう事、手順は簡単だよ、今この国には沢山の人々が集まってる、だから王宮騎士団(ナイトメア)の人達も王宮から出張って来て警護にあたってる、それをノウェムちゃんが暴れる事で注意を引く」

「確かに…ムイミさまはオクトーと呼ばれた方に名指しで狙われてる身…王宮騎士団(ナイトメア)が黙って見ている訳がございませんね」

 

そうやって話している間もムイミが訳のわからないこと言いながら人々を追い立てている、何故か笑顔で。随分と楽しそうだな。

 

「それだけではないな?カルミナのライブの最後はこの国だ、2週間前にカルミナのライブが魔物に襲撃された件もあり彼女たちのライブの警護は相当数配置される…それらも引っくるめるという訳だな?」

「そうだよ、流石黎斗君!!とにかく王宮内の兵士さん達を外に連れ出す為にカルミナのプロデューサーにあのクリスティーナって人を抜擢したんだから!まぁ…殆ど偶然の産物なんだけどね」

 

アドリブを効かせつつちゃんとした作戦を練るとはやるじゃないかムイミ。

 

「では移動はどうするのでしょうか?王宮まではここからかなり距離がありますし…」

「そこで私の出番というわけです」

 

不意に背後に気配を感じる。

 

「ふぁ…!?あ…ら、ラジラジさま…急に現れると驚いてしまいます」

「失敬。私はどうやら影が薄いようなのでたびたび注意を受けます。それより私の力を使えばあの王宮までなら瞬時に移動できますよ」

 

彼には『空間跳躍』と呼ばれる権能がある。それがあれば一瞬でここからあの王宮へ向かう事ができるだろう。

 

「この期間を狙ったのもそれです、各国から人々が来るこの祭りの期間ではあまり凶悪な魔法結界は敷かれることはありません、とはいえ流石に王宮内に直接跳ぶことは避けますが…」

「いや、それでいい、さて…ムイミの陽動もあまり長くさせてはかわいそうだ、さっさと行こう。シズル、流れは把握してるな?」

「勿論!私とリノちゃんで王宮内部の陽動、ダイゴさんとマサキさんの2人で洗脳装置ってやつを破壊、黎斗君とコッコロちゃんでペコリーヌさんの救出、これが王宮内の大まかな流れだよ」

 

…よし、では早速向かうとしよう。

 

「ラジニカーント…頼めるな」

「勿論です、しっかりと私に近寄ってください…では…跳びます」

 

 

眩い光に包まれるとそこは王宮の目の前。

 

「では、私はシズルさん達を空間跳躍で連れてくるので、ここから先の潜入はあなた方お二人でよろしくお願いします」

「分かった、行くぞコッコロ」

 

私達は走り出す、向かうべき場所はペコリーヌが拘束されていると思われる地下牢獄だ。

 

正面から行くのは流石に不可能、事前にネネカから情報提供を貰い侵入経路を導き出してもらっている。

 

「ふっ…まるで怪盗にでもなった気分だな、面白い体験だ」

「そうでございますね、このような場所から侵入するとは思いもしませんでした」

 

その場所はゴミ捨て場、定期的に王宮からゴミが排出されるこの場所は1番警備が少ない場所。

 

ネネカもここから脱出してきたらしい、私達はゴミが排出される場所からよじ登り中へと侵入する。

 

「…すんなりと入れて良かったな、だが警戒は怠るな、陽動があるとはいえまだこの内部には兵が配置されている」

「中は流石に広いですね…」

 

白に統一された内装は不気味な程、歪さがない。

 

人気が少ないこの場ではただだだ気味の悪さが際立つだけ、コツコツと地面を歩く音が静かに響き渡るのもよりそう思わせる。

 

「とにかく移動を楽にしたいところだな…丁度いい、奴を利用しよう」

 

私達の目の前に兵士が1人、私達は隠れてこちらに来るのを待ち…

 

「ふん…!!」

「ぐえっ!?」

 

私は奴の首元に手をかけてこちらに引き寄せ顔を地面に叩きつける。

 

「それでは、失礼致します、えーい!」

「がはっ…っ!?」

 

コッコロがその隙に召喚した槍で思い切り後頭部を殴りつける、すると兵士はグッタリとし意識を失った。

 

「さてと…コイツは適当に隠して…」

 

私はこの兵士から鎧を剥ぎ取り、身に付ける事でこの兵士になりすます。

 

「ではコッコロ、少しいいかい?」

 

私はコッコロの体を縄で縛り上げる、そして片手で縄を持つ事で側から見ればコッコロを拘束してきたように見えるだろう。

 

「これならば堂々と歩くことも出来るし地下牢獄に向かう事も怪しまれる事はない」

「そうですね、体力の温存もできますし…では行きましょう、主さま」

 

少女を縄で縛った状態で引き連れて歩き、主さまなどと呼ばれている絵面は非常に道徳的にまずい気がしなくもないが今はそんなことを考えている暇はない。

 

歩を進めていると私の向かいから別の兵士が歩いてくる、出来れば接触は避けたいところだったが…

 

「おい、お前!まさか…捕らえてきたのか!?」

 

私は声を出す事はできない、もし知り合いだった場合、声で怪しまれる恐れがある、兵士1人1人が誰だか分かるように胸部分にイニシャルが掘られているからだ。

 

私は黙って頷くと、向かいの兵士はうんうんと頷きつつ。

 

「お前も大変だな、今日は急遽他国からのお偉いさん達が大量に来て、兵士達が駆り出され人手が足りない…王宮全体の警護もままならないよな」

 

…他国からのお偉いさんか…クリスティーナが手を回してくれたようだな。

 

「それより…お前なんで喋らないんだ?」

 

その質問に対し、私はフラリと足元がおぼつかない演技をした後、喉を指し示す。

 

「ああ…そりゃそうだな、お前ここんところ働き詰めだろう、仕方がない、しかしそれの手柄は大きいぞ、ソイツを地下牢獄に連れて行き次第休みを取るといい」

 

私は黙って頷き、その場を後にした。

 

「うまく行きましたね…主さま」

「ああ、このまま何事もなければ良いが…」

 

私達は地下牢獄に続く階段を発見し、降っていく。その間にコッコロの縄は解かせている、いつまでもやっていてはかわいそうだからな。

 

ジメジメした空気が流れ、光源は壁にかけられた燭台のみで薄暗い。

 

「待て、コッコロ…誰かいる…」

 

私達は足を止め壁際から覗く、そこには

 

「…何やら強そうな人が牢獄に続く階段を塞いでおりますよ…」

「…ちっ…アレはジュンか…」

 

そこにいたのはジュン、漆黒の鎧を身に纏った王宮騎士団(ナイトメア)の団長だ。

 

「主さまのお知り合いの方ですか…?では話し合いでこの場をなんとか…」

「それは無理だろうな…洗脳装置とやらでジュンも操られていると考えた方がいい…恐らく彼女の揺るぎない正義感が増長している」

 

つまり、悪である私達を決して許す事はない、例え知り合いだとしてもだ。

 

「ではどう致しましょう…」

「そうだな…流石に私も彼女と真正面から戦いたいとは思わない」

「…そこにいるの誰だ」

 

…っ…!!感づかれた…!!流石は王宮騎士団(ナイトメア)団長…!!

 

しかしどうする、彼女の実力は本物だ、ここで体力を消耗するのは得策ではない。

 

「…姿を見せる気がないというのであれば、こちらも容赦はしないが」

 

私は壁の影から歩き出る、コッコロにはまだ待機してもらい、兵士の装いをしている私が先に姿を現した。

 

「ん?なんだ君は私の部下の………とでも言うと思ったか?そこにまだもう1人いるだろう、それに君の纏う雰囲気も違う、誰だ」

「やれやれ、流石ですね、ジュンさん」

 

私は兜を脱ぎ捨て、コッコロをこちらに手招く…さて、ここからどういう展開になるか…

 

「…黎斗君か、どうしてここに?」

「…諸事情がありまして」

「…言うつもりは?」

「無い」

 

静寂が流れる、額から嫌な汗が出てくるのを感じる、どうしたものか…

 

「そうか、ならば仕方がないな…ここには何人たりとも近づかせないという決まりがある、例え黎斗君であろうとこの場で斬る」

「お、お待ち下さい!えと…ジュンさま!!お話を聞いてもらえないでしょうか!」

 

割って入るのはコッコロ。

 

「話?」

「主さまのお知り合いならばここは穏便に…」

「それは無理だな、そもそも君達は代理閣下から名指しで捕らえろと言われている『悪』この私の『正義』が君達を裁く」

 

即答だった、やはりこうなるようだな…仕方がない…

 

私は決意を固めガシャットを手に取ろうとした瞬間だった、ジュンに違和感を感じる。

 

彼女はこちらに話しかけてくる間、『一切身動きを取らなかった』。

 

いや別にそれ自体がおかしいという訳ではない。

 

確かに彼女は王宮前で鎮座している間、あまり動かないことに定評があり、遠目で見れば鎧の飾りだと勘違いする人もいる程だったらしいが

 

私には分かる、何度か彼女と立ち話をした仲の私なら…これは…!!!

 

「コッコロ!!先に行け!!!っがはぁっ!!?!?」

「主さ…ま…っ!!?」

 

私の意識が途切れかける、真後ろから突然殴られたからだ、素手ではない、鈍器のような感触、恐らく彼女の持つ大剣の柄で殴られたのだろう。

 

私はコッコロの背を押し、牢獄の方へと向かわせる。

 

私はその場で倒れ込み、身動きが取れない、意識こそ保っていられるが体の機能を再起動させるには少々時間がかかりそうだ。

 

「よく気づいたね、流石は黎斗君か」

「な、何故…貴方がこちらに…っ!あちらは…」

 

コッコロはチラリと後方を確認する、そこには未だ動かないジュンの姿。

 

しかし眼前には鬼気を放ち動くジュンの姿。

 

つまりあちらの動かないジュンはフェイク。

 

「魔法石って知ってるかな?その中でも声を石同士で伝達できるものがあるんだ、それを使えば少し離れた位置から声を届けて、あたかもそこから声を出しているように聞かす事もできる、こんな風にね」

「っ…主さまをよくも…っ!!」

「私としても子供を痛めつけるのは心苦しいんだ…できれば斬りたくない、さぁ、帰るのなら今のうちだよ」

 

コッコロは槍を出現させ、臨戦態勢に入ろうとしている、しかしコッコロではジュンに勝つことなど不可能、今取るべき行動はそうではない。

 

「…っくぅぅ…!!」

「ん?おっと…そうはさせないよ」

「ぐはっ!?」

 

私がガシャットを起動させようとした瞬間、ジュンに首根っこを掴まれそのまま持ち上げられる、その後直ぐに思い切り腹部に鋭い強打を受け………

 

 

 

「主さま…!!!!」

 

何ということでしょう、わたくしを庇ったばかりに主さまが…!!!

 

「まぁ、黎斗君は今はこれで良いか、さて残るは君だ」

 

ポイっという効果音が付きそうな程、乱雑に主さまが地面に投げ捨てられる。

 

本来ならば…主さまの言っていた通り、この方を無視して階段を駆け下り、ペコリーヌさまを救出した方が良いのでしょう。

 

しかし、このまま逃げたとしても追い付かれる、牢屋を直ぐに破り共に脱出を図る事は現実的ではないです。

 

…ならばここで倒してしまいましょう、そうしましょう…主さまのお知り合いの方だろうと関係ありません。

 

何より、この心の奥底から湧き出てくる怒りが…収まり切れませんから。

 

「…随分と怖い顔をするじゃないか、鬼気迫るとはこういう事を言うのかな。なら私もそれに…答えよう」

 

ジュンさまが構えます、綺麗な構えです、大剣を両手で持ち自身の体の前に出す、前にどこかの書物で見た「サムライ」と呼ばれる人達の構えにそっくりでした。

 

「精霊達よ…」

 

ポツリとわたくしは呟き…瞬時に懐に潜り込みます、この距離なら1秒掛からず辿り着くことができます。

 

一瞬の加速により半歩遅れて衝撃波が辺りに広がっていく、わたくし達を中心に円を描くように突風が吹き荒れます。

 

「やぁぁぁ!!!!」

 

その後は連続の突き、確実にここで息の根を止めるという覚悟を持って、ジュンさまを攻撃します。

 

「小さいのによく鍛えられている、凄いね君は……でも」

「…っ!!?」

 

全てを簡単にイナされ、逆に大振りの一撃がこちらに振り落とされる、わたくしはそれをバックステップで回避するのですが…

 

「何も攻撃は武器によるものだけではないよ、騎士の鎧というのはね…『全身が凶器だ』」

「あぅぐぅっ!!!?!?」

 

縦振り攻撃からの流れで彼女が行ったのはタックルでした、わたくしとジュンさまとでは圧倒的に体格差があります、そこから放たれる渾身のタックルをまともに受ければどうなるか。

 

「あうっ!!がっ…くぅっ…!!」

 

受け身もろくに取れずに硬い地面を何度か跳ねながら吹き飛ばされます、辛うじて武器を手放す事はしませんでしたが…

 

「君は勘違いしている、怒りなどの気持ちだけで状況が転じられる程、現実は甘くできていない、最悪の状況を覚醒なんかで打破できるなんていうものは創作物のお話だけだ」

「…それでもわたくしは…主さまを守る為なら…覚醒でもなんでもしてみせます」

 

再び立ち上がり、わたくしは構える、強い…圧倒的です。

 

相手の底など到底見えない、それこそ赤子の手を捻って遊んでいる程度の実力しか見せていないでしょう、ですが…!!

 

「わたくしの槍は…!!信念は!!!消して折れる事はありません!!!」

「そうか」

 

バキンッという音が鳴る、わたくしの高速接近からの渾身の突きは簡単に弾かれました。

 

「決して折れる事はない、確かに折れなかったね、でも君自身の握力の方が持たなかったみたいだ」

 

ジュンさまは軽く振るっただけ、それなのにわたくしの全力は防がれ、それどころかわたくしの武器がクルクルと空中を虚しく舞っている。

 

手がジンジンと痛み、熱を帯びる、手が小刻みに震えてもいます。

 

「あうっ…っ!!!!!?」

 

カランカランと槍が地面に落ちた音と共にジュンさまがわたくしの首を片手で掴み、そのまま空中に浮かせてきます。これも体格差から為せる技でしょうか、いいえ、先程主さまにもやっていましたし純粋に筋力が異常なのでしょう。

 

喉が閉まり、息が…苦…し…い…っ

 

「…ふんっ…」

「かっ……はっ…っっ…!!」

 

そのま…ま…ジュンさまは…わた…くしを…壁に叩きつけます…背中を強打し…更に呼吸がっ……

 

「君はそこそこ戦えるようだからね、ここは確実に戦意を無くしてもらわなくちゃ後々困るな、申し訳ないけど死ぬ寸前まで痛めつけさせてもらう」

「か……ふ…っ!!」

 

更に…締め付ける力…が……強くなる、わたくしは……無駄だと分かっていても……両手でジュンさまの手を…掴む。

 

それだけじゃ…ありま…せん…言葉を…紡が…なくて…は…

 

「────」

「ん?何を言っているんだ?」

 

ジュンさ…まが…聞き耳を立てる…ようにこちらに…顔を…近づけます…

 

「ウィン…ド…オペ……レート」

「…っ!!!」

 

ジュンさまはすんでの所で気づきました、掴んでいたわたくしを投げ捨てるように離し、真横に回避する。

 

ガキンッとわたくし達がいた場所の壁に、わたくしの槍が突き刺さっています、わたくしが風の精霊を操作し、ジュンさまの背後に落下していた槍を思い切り射出させたのです。

 

「かは…っ…はぁ……はぁ…えぅっ…っ…はぁ…はぁ…んく…っ」

 

なんとか息を整えます、軽い酸欠状態の為か視界が揺らいでいます…でも、まだ戦えます…

 

「…やっぱりそうだね、君は戦える子だ…」

 

ザワッと空気が変わる、重くのしかかるような感覚が肌身に触る。

 

ユラリとジュンさまが回避した体勢からこちらに顔を向き直す、その動きはまるでこちらを今にも食い殺そうとする大型の魔物のような動き。

 

この場の雰囲気がそういうイメージを持たせてしまっているのでしょうか…いえ…違います、これは本当に…

 

「少し…厳し目に行くとしよう」

 

ジュンさまがこちらに片手で大剣の切っ先を向けたと思った瞬間でした。

 

ガコンという音、先程わたくしの槍が地面に落ちた音よりも重い音が響きました、それは…ジュンさまの大剣が地面に落下した音でした。

 

「かぁっ…っ!!?」

 

そう認識した時には既にわたくしの腹部にジュンさまの手が深くめり込んでいました。

 

速い…っ!!わたくしのソレと変わらない程の速さ…!!それにこの構え…っ!!

 

わたくしは勢いよく後方へ弾き飛ばされ、地面を数回転がりながら停止します、息が苦しく、口から唾液を垂らしてしまいます、痛みで口元が緩んでしまい自分では止められません。

 

「あの大剣は凄く重くてね…殺さないようにって考えたら(こっち)の方がいいと思って…もっともこの鎧を脱いだ方がもっと機敏に動けるんだけど」

「けほっけほっ…っ…武術ですか…っ…!!」

 

わたくしはお腹を押さえながら立ち上がる。

 

「ああ、まさか王宮騎士団(ナイトメア)が剣しか振れない集団だと思っていたのかい?それは違うよ、武器がなくても戦えるよう日頃から訓練している。それに殺しちゃいけない相手と戦わなくちゃいけない状況だってあるだろう、こんな風にね」

 

バチィン!とわたくしの視界が揺れる、再び高速接近してきたジュンさまの右拳がわたくしの顎を捉えました。

 

ギリギリでわたくしは頭を振ることで衝撃を逃す事ができましたがそれでも重いダメージです、何度も受けるわけには…

 

「っ!?!?!?」

 

次の瞬間、乱打が押し寄せてきます、目で追えないスピードの拳がわたくしの右や左、体格差からか上からも下からも拳が押し寄せてきます。

 

わたくしは手や足を駆使して頭部や腹部を守る為、身を小さく丸くしダメージを最小限にします…が

 

「ちゃんと前を…敵を見なくちゃダメじゃないか」

「っ…!?」

 

守る事で精一杯のわたくしは前を見ている余裕などありません、再びタックルを受けてしまいます、それも先程のようにぶつかってきただけではございません。

 

わたくしをそのまま壁まで運んで行き叩きつけ、ジュンさまと壁に思い切り挟まれる形となりました。

 

バキバキバキと背にした壁にヒビが入っていく程の衝撃、わたくしは気を失いそうになってしまいます。

 

「あ…が…ぁぁ…っ!!!?」

「ふむ、これで戦意は喪失したかな?」

 

ジュンさまがタックル体勢を解除し、半歩後ろに下がると、わたくしは板挟み状態から解放されそのまま重力に逆らわずにズルズルと下がっていきます。

 

お尻から地面に落ちた後、力なく肩で呼吸をする事しか出来ません。

 

「心が痛むよ、君のような子供をここまで痛めつけなければならないなんて…でもこれも仕方がない事なんだ、『正義』の為だからね」

「…そんな…『正義』…なんて…」

「ん?」

 

わたくしは…プルプルと震えながら立ち上がります…戦う力はもう、殆どありません…でも

 

「わたくしの大切な人達を弄ぶような……そんな『正義』なんてクソ食らえ…です!!!」

「…それは残念だ」

 

わたくしは目を瞑る、ジュンさまが拳を構えたからです、もう限界でございます…主さま…申し訳ございません…!!

 

『デンジャー!デンジャー!ジェノサイド!!デス・ザ・クライシス!デンジャラスゾンビィ!!wooooo!!!!』

 

「っぐはぁっ!!?」

 

わたくしに攻撃が届く事はありませんでした、何故ならば不可思議な音声と共に現れたソレにジュンさまが思い切り蹴り飛ばされたからです。

 

ああ…主さま…わたくしの主さま…

 

「それ以上、私のコッコロに怪我を負わせる事は許さなァい、断じてなァ!!!」

 

白と黒のモノトーンの騎士がわたくしをお守りしてくれる…

 

 




書いていて思いました、やり過ぎました。

でも…書いていてその…下品なんですが…ボッ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

デンジャラスな力

黎斗がどんどん丸くなっていっている…騎士くんパワー凄い


 

 

 

「くっ……うぐっ…い、一体何なんだ…」

 

ガラガラと音を立てながら、瓦礫の中から出てくるジュン。

 

「…コッコロ、大丈夫か?……ふっ…良く耐えたな、偉いぞ」

「はい……わたくし…主さまを信じておりました…」

 

フラつくコッコロの体を両手で支え、優しく頭を撫でてやる。

 

こんな小さな体であのジュンと戦っていたのだ、褒めてやらなければ神の名が廃るというものだ。

 

「そうか…その姿…黎斗君か…やはり手を抜くのは駄目だな…私もまだまだ甘い…手足の1本でもへし折っとくべきだった」

 

私は背後で立ち上がり拳を構えるジュンを無視してコッコロの頭に片手を乗せたまま目線を合わせる為に片膝をつき話しかける。

 

「傷の方は軽くでもいい、今治療しておくんだ、その間の時間稼ぎくらいはする」

「…無視とは心外だな、なら遠慮はしない、背後からだろうと叩き伏せる」

 

背後のジュンが動く、だがしかし

 

「……時間稼ぎをすると言ったろう」

「っ!?!?」

 

私はジュンに対して何かをした訳ではない。

 

しかし私の背後では無数のゲンムがジュンの行手を阻んでいる。

 

そう増殖体だ、全部で9体。それらが多方面からジュンを攻撃している。

 

「な、なんだこれは…!!?」

 

流石のジュンも予想外の攻撃に狼狽えている、その隙に私はコッコロに続けて話しかける。

 

「そうだ、そのまま回復魔法で自分の治療に専念しろ。コッコロ、君はこの後そこの階段を降りてペコリーヌの元へ向かうんだ……彼女の相手は私がする」

「し、しかし…主さまもお怪我をなさって…」

「君の方が怪我をしているじゃないか、何、安心しろこの程度はかすり傷さ」

 

背後では未だに増殖体がジュンを押さえ込んでいるが後何秒持つか分からない、せめて10秒は持って欲しい、コッコロの治癒を考えてもな。

 

私はコッコロの治癒を眺めつつ、背後を何度かチラチラと確認する、やはり増殖体では抑えるのはかなり厳しい。

 

毎秒毎に増殖体が消されていく、ほとんど一撃粉砕だ。

 

だがしかし時間は十分稼げた。

 

「コッコロ、君は私の従者だ。君なら出来る、さぁ…行くんだ」

「主さま………分かりました、主さまもどうかお気をつけて」

 

コッコロの治療がある程度済んだ事を確認し、彼女を見送る。私はその場で立ち上がり、背後を確認すると丁度私の増殖体が1匹残らず消された瞬間だった。

 

「…こんな芸当までできるなんて、思いもしなかったよ黎斗君」

「流石は王宮騎士団(ナイトメア)団長、増殖体とはいえゲンムをものともしないとは」

 

私達は対峙する、以前の私ならジュンを相手取る事など不可能だっただろう、だが今の私なら同じ土俵にくらいは立てると確信している。

 

「今度こそ手足を折って、2度と戦う気を起こさせないようにする、勿論あの子もだ」

「ふん、笑わせるなよ、君がコッコロに触れる事など2度と無いと思え。これでも私は今、虫の居所が非常に悪い」

 

私はいつも通りゾンビの構えを取り、相手の動きを観察する、いつでも来るがいい。

 

「…っ!!」

 

心した瞬間、ジュンが懐に入り込みアッパーを仕掛けてくる、それを左側に体を逸らしつつ右手を使い、アッパーしてくる拳をイナして回避する。

 

そこからのジュンは拳の連打、私はそれを全て素手で弾いて回避を続ける。

 

見える、やはりちゃんと見えるぞ、スペックが上がったことによりジュンの攻撃ですら見切ることができる。

 

彼女の一突き一突きは非常に重い、コッコロは良くこれらを生身で耐えたものだ。まともに食らえば一撃でも致命的だ。

 

見切れる今、ただ防御に徹しているだけではない、私は防御の合間に攻撃を仕掛ける、ジュン同様拳による殴打。

 

互いに攻撃を捌き、仕掛けては防御し防御しては攻撃をする、力は拮抗していた。

 

そこでジュンが動く、変則的に彼女は一気に屈み込み私に対して足払いを仕掛けてきた。

 

私はそれをバックステップで回避すると、ジュンはその流れで後方に飛び込み前転で下がりつつ地面に転がっていた自身の大剣を拾い上げる。

 

そして立ち上がりと同時、高速で私に接近して斬り上げをしてくる。

 

「ぐぁぁっ!!!?」

 

流石の私もそれに対応する事は出来なかった、斬り上げをモロに胴体に浴び、吹き飛ばされる。しかし地面を転がりながらもダメージ自体は少なかった為、すぐに立ち上がり体勢を整える。

 

「良かった、やはりその鎧は私の剣撃に耐える事ができる…これで遠慮なく剣が使えるという事だ」

「…っ随分とお優しい事を言うじゃないか」

「勘違いしては困る、私の目的はあくまで拘束だ、殺す事じゃない」

 

ジリっと互いに構えを崩さない、ジュンが武器を持ったか…厄介になるな、なら…

 

「私もこうしよう」

『ガシャット!!アガッチャ!タドルクエ〜スト!!』

 

私はタドルクエストガシャットを起動し挿入。デンジャラスゾンビにタドルクエストの武装が付与される。

 

アンデットナイト…不死身の騎士さ、まぁ不死能力はないのだが。

 

ガシャコンソードを出現させ、こちらも剣を構える。

 

そして

 

「ふん!!」

「はぁ!!!」

 

互いの剣がぶつかり合う、激しく剣芯をぶつけ合い、金属を打ち鳴らす。

 

一歩も譲らぬ攻防、普通の剣撃では埒が明かない。

 

「…ヘヴンストライク!!!」

 

先に動いたのはジュンだ、そう叫びながら回転斬撃を打ち込むと刀身が光り輝く。横薙ぎのソレは空気を揺らし、私の胴体目掛けて飛んでくる。

 

勿論、私もソレをまともに受けるつもりはない、先手で私はソードで剣先を下から叩く事で上に弾き、軌道を逸らす。

 

それによりあらぬ方向に飛んだ斬撃は遠く離れた天井部分を粉々に粉砕する。即ちこの攻撃は飛ぶ斬撃なるものだった、光り輝いた刀身から光のエネルギーが飛んだのだ。

 

ガラガラと石造りに天井が崩落しこの王宮全体を激しく揺らす。

 

私自身も弾いたソードを持つ右手がビリビリと痛む、それ程の高威力の技…何度も打ち込まれたくないものだ。

 

「…なんて思っているんじゃないか?」

「…っ!?」

 

そこからは連続だった、同じく刀身を光らせながら先程と同じ技を打ち込んでくる。

 

ちっ…!!この場を完全に破壊するつもりか!!?互いに生き埋めになるぞ!!!

 

それを考えない程、ジュンは馬鹿ではない、しかしそれ以上に私を捕らえるという事に固執している。

 

「…ふざ……けるなァァ!!!!」

『キメワザ!!デンジャラス!クリティカァル!!フィニィッシュ!!』

 

私の放つ飛ぶ斬撃はまるで無数の闇の腕が手を伸ばし、ジュンを取り捕まえようとするような不気味なものだった、しかし。

 

「インフェノシールド!!」

 

彼女が大剣を地面に突き刺す動作をすると、彼女の前方に半透明の巨大な盾が紅蓮の炎と同時に出現、それは私のキメワザを吸収し消し飛ばす。

 

攻めも防御も一級品…流石は団長という立場だ、このまま戦っていても時間だけが無駄に消費されるだろう。

 

私達にそんな時間はない、先に進まねばならない理由がある。

 

「いい一撃だ、感動的だな、だが無意味だ。私に君の攻撃は届かない」

「…そのようだな……だが先に謝っておこう」

「…どういう意味だ?」

 

ジュンが不思議そうに私の話を聞く。

 

「『1匹残らず消したと勘違い』させてしまった事を、ね」

「っ!?」

 

次の瞬間、彼女の背後から増殖体の1体が彼女の兜をヒョイと取り上げる。

 

私は最初に1体だけは彼女に立ち向かわせずに私達が初めに隠れていた壁の影にスタンバイさせておいた。

 

全てはこの時の為に。

 

「な、なななな…!!?何をするんだ!!返してくれ!!」

 

素顔を露わにした彼女はあたふたと動き、増殖体のゲンムにまるで子供のような動きで兜を取り返そうとしている。

 

「ふん!」

「ぐえっ!!!?」

 

その隙に私は彼女の背後に近づき手刀を首元に1発お見舞いすると彼女は力なく倒れた。

 

意外とうまくいくものだな手刀による気絶…まぁ、ゲンムの姿で不意打ちでも決めればどの攻撃を受けても生身の肉体ならば気絶するか。

 

アホみたいな作戦だが、彼女の家系は代々素顔を晒してはいけないらしく、このように兜を取り上げれば一気に戦力ダウンする、というのが彼女の弱点だ。

 

初めから私はまともに彼女と戦う気はなかった、最初から言っていただろう王宮騎士団(ナイトメア)の現役団長とやり合うなど体力の無駄。

 

さて、兜は……いや、まだ持っておこう。彼女が目を覚ました時、再び戦うという面倒事になるからな。

 

私は取り敢えず変身を解除しておく、あまりゲーマドライバーに負担をかけているといざという時、変身できなくなってしまうかもしれない。これから先もまだコレには頑張ってもらわなければならないのだからな。

 

「こっちだ!!地下牢獄からだぞ!!!」

 

バタバタと足音が複数響く、まずいな…ジュンのめちゃくちゃな攻撃により王宮内の兵士達に気付かれた。

 

どうする…?このまま放置しコッコロの元へ向かったとしても現場のこの状況、確実に怪しまれ牢獄方面に突入してくる。

 

「ちっ…結局面倒な事になったな…!!」

 

ドカドカと階段を駆け降ってくる音が複数聞こえ、そしてその時はやって来た。

 

 

 

 

数分後。

 

私は長く続く地下牢獄前を走っていた、つい先程まで追い詰められていた筈だったのに。

 

理由は何故か。それは王宮騎士団(ナイトメア)が突入してくる際、先陣を切って現れたのはオクトーだった。

 

『あー…はいはい、ここは僕に任せて君達は持ち場に戻ってもらえる?』

『し、しかしオクトー副団長…!!』

『ここは団長の持ち場でしょ?団長なら平気だよ〜、後は僕と団長でやっとくから君達は見張りに戻った戻った〜他にも賊が入り込んでるんだからさ〜』

 

という風に自身の部下達を事前に追い返したのだ、私としても当然疑問に思い。

 

『…何故助けた』

『ちょっと僕にも思うことがあってね、というか君達洗脳装置も狙ってるみたいだし、僕の事、薄々気付いてるんじゃないの?特に君ならさ』

『…』

 

私達にその後の会話はない、静かに視線を交わし、最後に

 

『…ジュンの兜は君に預けておく』

 

そう私は言い残して現在に至る。

 

この地下牢獄は非常に長い、直線状にとてつもない数の牢が並べられ、更に複数のトラップが張り巡らされている。

 

最も既に先に向かったコッコロが全て破り進んでいるようだ。

 

セキュリティ的にも本来は脱獄した人物に対するトラップのようなので外からの侵入に対して鈍い、そもそも外から侵入してくるという事を想定していないからか、コッコロ1人でも容易に破壊可能という訳だな。

 

ペコリーヌが捕まっていた牢屋は最奥だった、そこへ向かうとコッコロが牢の前に立ち、どうにか破れないか試しているようだった。

 

「うぅむ、どうしたものでしょう、ただの鉄格子という訳ではないようですし…魔法なども阻害する何かが仕掛けられているようです…力業では…」

「よく辿り着いた、コッコロ」

「主さま…!!ご無事で…!!」

「あ…黎斗くん…!!!」

 

牢の中にはペコリーヌの姿があった、普段身につけている王家の装備は当たり前だが無い、肌艶は荒れ、髪もボサボサ、衣服も所々汚れている。

 

当たり前だ、2週間もの間この牢獄に閉じ込められていたのだからな、牢獄内はボロボロのベッドと洋式トイレのような見た目をした石造りのトイレが1つという質素なものだ、コンクリのように見事といえば見事だがのっぺりとした石造りの正方形の室内。

 

そんな場所に2週間か…彼女は私の姿を見て本来の笑顔の絶えない少女に戻ってはいるが…想像を絶するだろう。

 

彼女は私のような運命にいる人間ではない、永夢や他のドクターライダー達のように過酷な運命に自ら投じる意志があった訳ではない、そもそもまだ十代の少女だ。

 

「…少しやつれたな、ペコリーヌ」

「えへへ…一応ごはんとか運んできてくれるんですけど量が少ないので…む、むしろこうやって生かしてもらってる方が不思議ですけどね!……キャルちゃんの指示なんでしょうか…」

 

彼女は下を向き、考え込む。

 

「…それを確かめる為にも今は脱出をしよう、ここの鍵はここを守護していたジュンから奪っておいた、扉を開くぞ」

「おお、流石は主さま、あのジュンさまを倒したのですね…!」

 

私は鍵を使い、牢屋の扉開く、ようやくペコリーヌとの鉄格子を間に挟まない、ちゃんとしたご対面だ。

 

私は彼女を抱き寄せ、ハグをする。これは私自身の意思だ。彼女のこれまでの頑張りに敬意を払い抱擁する。

 

少しばかりコッコロとのスキンシップが最近多かった事もあるのだろう、こういった行動に抵抗が薄まりつつあるのは確かだ。

 

「わふゃあ!?く、黎斗くん!?…えへへ…黎斗くんがこんな事をしてくれるなんて…凄く…驚きです」

「私達が来るまでよく頑張ったなペコリーヌ、褒めてやる」

「で、でも…その…今わたし…きっと臭いですよ…お風呂とかも入れてませんし…ケアだって…」

「そんな事はない、頑張った君は汚くなんかない、むしろ美しいさ、誇るといい」

 

私がそう言うとペコリーヌは突然涙を流し始める、流石の私でも予想していなかった。

 

「あ…す、すみません…本当に…黎斗くんって優しいなって思って…こうやって…ギュってしてると安心して…」

 

ペコリーヌは私に対して抱きしめ返してくる、その力は…弱々しかった。

 

いつものペコリーヌらしくない、当たり前だ、いつもは王家の装備により馬鹿みたいに力があり、私でさえ抵抗できない程だ、それが今ではか弱い少女。

 

「……本当に心が折れそうだったんです、黎斗くん達に迷惑かけて、何も出来なくて…」

 

ペコリーヌは泣き声混じりに続ける。

 

「美食殿での生活はとても楽しくて…失いたくなくて…全部奪われたわたしにとって…たった1つの帰る場所…それが無くなっていくのが怖くて…」

「それでも君はこうやって諦めなかったじゃないか」

「……ある言葉が…わたしの支えになっていたんです」

 

ある言葉…?

 

「…わたしは…黎斗くんやコッコロちゃん達と出会う前…偽物の王女として追われる身となって…全てを投げ出し自暴自棄になってた時期があったんです。そんな時に『彼』は現れました」

 

ペコリーヌはギュっと私を抱きしめる手を強める。

 

「あの人は…わたしにこう言いました『君ならいける気がする』って…『本物の王女だって信じてるのなら…きっと支えてくれる人達が必ずそばにいてくれる』って…」

「…そうか、君が諦めなかったのはその人物の言葉のおかげという事か」

「はい…だからずっと…ここにいる間…ずっと…コッコロちゃんと黎斗くんの事を考えてました…キャルちゃんの事も…美食殿はわたしにとって…そばにいてくれる大切な人達だから…!」

 

感謝しなければなその人物とやらには、こんな不衛生な場所に2週間近くも入れられていれば精神的にも肉体的にも参ってしまってもおかしくない。

 

「主さま、仲の良い事は大変微笑ましいのですが…そろそろ脱出致しましょう」

「…ああ、ペコリーヌ、立てるか?」

「あう…すみません…安心したら腰が抜けちゃって…どうも動けなさそうです…」

「…仕方がない、ペコリーヌ、私が君を抱き上げる事にする、君が動けるようになるまではな」

 

私はペコリーヌをお姫様抱っこで担ぎ、コッコロと共に来た道を走り戻る。

 

獄中の者共が恨めしそうに『俺達も出してくれ』などと言っているが全て無視だ。

 

「えへへ〜これが本当のお姫様抱っこですね!前に黎斗くんがいつか抱っこしてくれる日が来るかもって言いましたけど、こんなに早く来るなんて、嬉しいです」

「あまり力を強めるな、息が苦しくなる」

 

私達は駆ける、再び地上に這い上がると白を基調とした王宮内は光を反射し眩しく照らされ、地下から出てきた私達にとっては目に悪い。

 

「道中でジュンさまを見ませんでしたね…何処かへ行ってしまわれたのでしょうか?」

「そこら辺はおそらくオクトーが手を回してくれたのだろう…とにかく」

「あの!少し良いですか?」

 

ペコリーヌがそう聞いてくる。

 

「わたしの装備…王家の装備はおそらく宝物庫か何かに入れられてると思うんです、それを回収した方が多分、戦力になるかと…」

「場所は?」

「大丈夫です、王宮内は自分の家なので把握しています」

 

ならば目的地は宝物庫、もはや隠れる事も面倒だ。

 

「コッコロ、正面突破だ、急ぐぞ!」

「はい!主さま!!!」

 

私達は隠れもせずにひたすら走り続ける、ペコリーヌの指示で的確に宝物庫へとナビゲートされていく。

 

「いたぞ!!あそこに賊だ!!」

 

複数の兵士達が剣を引き抜き私達に迫り寄ってくる。

 

「コッコロ!私にゲーマドライバーとガシャットを!!」

「承知しました!行きますよ!主さま!!」

 

ペコリーヌを抱っこし両手の塞がる私にコッコロがゲーマドライバーを腰に装着しガシャットをスロットに挿入する。

 

『デンジャー!デンジャー!ジェノサイド!デス・ザ・クライシス!デンジャラスゾンビィ!!woooo!!』

 

「はぁ!!!」

 

私はホログラムの壁を蹴りでぶち破りながら前方の兵士達を蹴り飛ばす。

 

側面にいる敵もコッコロが槍を使って迎撃している。

 

「あれ?黎斗くんの見た目、また変わっていませんか?白黒になってますよ?」

「ああ、君を救う為に新たな力を手に入れたのさ」

 

私達は進む、迫りくる兵士を次々と薙ぎ倒し宝物庫らしき巨大な扉の前にたどり着いた。

 

「当たり前ですが閉まっています…何やら魔術回路のようなものが…複雑すぎてわたくしでは解除するのは無理そうです」

 

コッコロは巨大扉の前にある小さな石柱に触れている、触れると青白く光り何やら文字列が浮かび上がっている。

 

私達の世界でいうセキュリティープログラムのようなものか、ハッキング…は無理そうだな。

 

「大丈夫ですよ。わたしなら開けれます、なんたってここの王女なんですから!…黎斗くん、近寄ってもらっていいですか?」

 

ペコリーヌを担いでる私がその石柱に近寄るとペコリーヌが片手でその文字列を操作する、すると

 

まさにダンジョンの最奥にあるボス部屋の如く、ゴゴゴという音を立てながらスライド式で両脇に収納されるように開いていく。

 

「おお…!!これはまた中々見ることの無い光景でございます」

「そうだな、圧巻な光景だよ」

 

私達の目の前には金銀財宝が山のように並べられている、生前の私でも見ることなど無かっただろう。

 

「さて、色々と目移りしてしまうが…ペコリーヌの王家の装備を探そう」

「あ、あそこに…!」

 

ペコリーヌが指を指すとそこには丁寧に保管された王家の装備があった。

 

「よかったです、ちゃんと保管してあって」

「コッコロ、王冠だけでもいい、ペコリーヌに付けてやってくれ」

「承知しました主さま」

 

コッコロは少し駆け足で王冠に近寄り、手に取って再びこちらに向かって走る。

 

「どうぞ、ペコリーヌさま」

 

コッコロがペコリーヌに水晶で作られたような王冠を取り付けるとカッと光り輝き。

 

「力が戻ってきましたよぉ…!!黎斗くん、もう平気です、降ろしてもらって構いませんよ」

 

私はペコリーヌを降すとペコリーヌは二本の足で立つ。

 

「少しフラつきますが全然平気です、他の装備もつければカロリーがなくなるまで戦える筈です」

 

ペコリーヌは自身で他の装備に歩み寄り、自分に取り付ける。

 

「…完全フル装備です、行きましょう、黎斗くん、コッコロちゃん…キャルちゃんの元へ」

「そうでございますね…脱出するのなら…キャルさまも一緒です」

 

キャルを助け、そして奥に眠るとされる千里真那を暗殺する事、私達に与えられた使命は今コレだ。

 

「…全てを終わらせるぞ、コッコロ、ペコリーヌ」

 

私達は向かう、キャルがいる思われる玉座の間に。




でもそろそろ尖がらせようと思っています。次回まではまだ甘いですけど


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

愛憎に歪む

VSキャルです。


 

 

王宮、それも玉座の間とか呼ばれる場所の丁度真下に位置するこの場所。

 

大きな広間にポツンと機械が1つ。

 

「ちっ……ラジラジの旦那…どうなってやがる…!!」

「そうですね…やはりというかここの警備はかなり厳重ですね…ダイゴ、やはり正面突破は厳しかったかもしれません…!」

 

俺とラジラジの旦那は今、洗脳装置っつぅもんを破壊する為、その保管されてる場所までやって来たんだが…

 

「とてつもない数のシャドウ…これにこの場を守らせている…」

「まぁ、今は兵士共は色々と出払ってるからな、都合がいいというかまぁ、得策だよな」

 

俺達はとにかくシャドウ達をぶん殴りながら前へと進んでいく。

 

「あの陛下代理とかいう少女が仕掛けたものでしょうが…どうしたものでしょう」

「こいつら自然消滅するんだろ?つってもそこまで待ってる時間はねぇけど…!」

 

そうだ、俺たちには時間がねぇ、他の奴らも頑張ってるんだ、さっさと俺達も仕事終わらせて合流しねぇと…

 

「っ…!!…っダイゴ」

「どうした?」

「…あのシャドウが…います…!!」

 

ゾクリと背筋が凍る。前方を見ると、奴がいた…あの時、俺達全員を戦慄させたあの男が…。

 

「…マックス大変身」

『マキシマムガシャット!ガッチャーン!レベルマァックス!!最大級のパ〜ワフルボディ!!マキシマ〜ムパワーエェックス!!』

 

 

「どうします…ダイゴ…今の私達ではアレには勝てませんよ…!」

「どうするもこうするもやるしかねぇだろうが!!」

 

自然消滅を狙う?それまで後何分掛かる?

 

前回だって10分か20分くらいは残ってやがった筈だ、それまで逃げ回ったらジリ貧で俺達は負ける。

 

とにかく洗脳装置を破壊しなきゃならねぇ…兵士達もこの今の状況に疑問を抱き、他の奴らがやべぇ目に合う確率が格段に下がる。

 

ここはなんとしても…意地でも突破しなくちゃならねぇ…!!

 

「…覚悟決めろ…旦那…男にゃ引けねぇ時がある」

「…そうですね…私も男です、気持ちは分かります、出力全開で挑みます」

 

俺は両拳を打ち鳴らし、旦那は無数の腕を出現させ構える。

 

「ゲーム…スタートだ…!!!」

 

あいつがそんな事を言いながら、腕を大きく振りかぶり…来た!!腕が伸びて来やがった!!!

 

「うぉぉぉぉ!!!」

 

俺達は前へ飛び出す、真正面から打ち破る!!それが俺の…俺達の流儀だ!!!

 

 

 

 

「面白い、中々考えて来たようね…ラビリンス」

「…ネネカ様を解放するんだ、お嬢さん」

 

まさに一触即発って空気だよね〜…この玉座の間には私シズルとマサキさん、そしてリノちゃんの3人がいる訳なんだけどちょっと想定外かなぁ…

 

本当は陽動で撹乱するのが私達の目的だったんだけどうまく誘導されちゃったのか辿り着いたのは玉座の間…

 

兵士達はかなり倒したからここにはあんまり来ないと思うけど…目の前には陛下代理とかいう黎斗君のお友達の子…

 

前に見た時からヤバいとは思ってた、性格とかそういうんじゃなくて…純粋に魔力が

 

内包してる魔力の量が桁違い。それに使う魔法だってかなりヤバめ。

 

「ネネカ、ネネカって…あんたはそれしか言えないのかしら、まぁいいわ…黎斗とかがいないんじゃつまらないし…あの世に送ってあげる、あたしの手で」

 

前と口調が違う、これも洗脳装置って奴のせいなのかな、元々あの話し方はおかしいって黎斗君とかが言ってたし…内なる心を刺激するって見解は正解かも…

 

「あの世にはいかん!!俺は…ネネカ様を救わねばならんのだからな!!!」

「あっそ、目障りよ、消えろ…メテオシューティングダスト!!」

 

彼女の頭上に巨大な魔力の塊が出現、そこからあり得ない数の魔法弾が発射されてくる、これは…!!!

 

「リノちゃん!お願い!!!」

「任されましたよ!!お姉ちゃん!!」

 

リノちゃんはすぐに構える、矢を数本手に取り、片膝をつき、弦を引き絞る。

 

「いっけぇぇぇぇぇ!!!コロナレイン!!!!」

 

ドンッ!!とリノちゃんが放った矢が炎を纏い、無数に分裂して迫りくる魔弾を1つ1つ破壊していく。

 

「ってわわっ!?流石に全部破壊するのは無理!?」

「そうはさせん!!」

 

ガガン!とマサキさんが剣で迫る魔弾を連続で薙ぎ払う。

 

「あ、ありがとうございます…」

「礼には及ばない!」

「余裕があるようだけど、これで終わりなわけないじゃない、サンダボール・レスレヴィナント!!」

 

2メートルくらいの巨大な雷の弾が10個ほど生成されてこっちに飛んでくる。

 

「むっ!?これは回避優先か!!」

「うん!みんな散開して避けるよ!」

 

だけどそれを簡単に許してはくれない。

 

「ネビュラ・ランス!!」

「嘘でしょ!?間髪入れずに別の攻撃魔法!?」

 

才能があり過ぎるよ!?普通、攻撃魔法をこんな連続で同時に使用なんてできない、脳が焼き切れちゃうから。

 

魔法を使うというのは文字を書くのと一緒、別の魔法を同時に使うという事は別の文字をもう片方の手で同時に書くという事に他ならない。

 

しかも1つの魔法につき何個も何十個も展開するなんて…片手どころか1つ1つの指先で別の文字を同時に書いてるような、そんな神業だよ。

 

あの子はそれを今、やってる…!

 

放たれた槍は全部で20、一直線に飛んでくるから軌道は読みやすいけど…

 

「くっ!先に放たれた弾の方が面倒だ!!仕方がない!!斬り裂き破る…」

「っマサキさん!それはダメ!!!」

 

私はそう叫んだけど時既に遅し、マサキさんが雷の弾を斬り裂いた、すると

 

「なっ……っ!!?」

 

バリバリバリっていって弾が弾け飛び雷撃の爆発を起こす、近距離で浴びたマサキさんは雷の光に包まれて一瞬姿が見えなくなる。

 

「ば…爆発……した…だと…っ!?」

「…っセイクリッド…パニッシュ!!!」

 

私は背中から光の粒子を集めた翼を出現させ、一気に加速し飛び交う雷弾を避けながらマサキさんに近寄り、更にダメージを負ったマサキさんに飛んでくる槍を弾き飛ばす。

 

「リノちゃん!!!」

「わかってます!!」

 

遠距離攻撃のリノちゃんが安全圏から雷の弾を狙撃して爆発させる、これによりなんとか相手の攻撃を凌げてはいたんだけど…

 

「オメガグラビティ!!」

「つぅっ!?」

 

次に来たのは重力魔法、リノちゃん以外の私達はかなりの重さで上から押さえつけられたみたいに地面に這いつくばる。

 

リノちゃんは範囲外…っ…なんとかしてもらわないと…っ!

 

「ダークサンダイオン!」

 

またしても攻撃魔法の連続使用、狙われるのは当然動けない私達…!!

 

「シズルお姉ちゃん!!!?」

「こんのぉ…っ!!セイクリッド…シールド!!!」

 

無理やり技を発動させ光り輝くドームシールドを展開、真上から降り注ぐ無数の闇色の雷を妨害する。

 

「…くっ…っレジオン!!」

 

マサキさんがそう叫ぶと、体がフッと軽くなる…多分周りに負荷がかかる魔法を阻害する魔法を使ってくれたんだと思う。

 

「っ…やるなあの子…少し侮っていた」

「代理を任されるだけはあるね…」

 

私達は防戦一方、いまだ降り注ぐ雷を前にシールドを解除できない。

 

その間も他の攻撃魔法でリノちゃんを攻撃している、どうなってるんだろうあの子の脳みそ…

 

「しかし…こんな魔法の使い方…魔力以前に脳が持たないぞ」

「そうだよね…今見えてるだけでも同時に『8つ』の魔法を使ってる…しかも1つにつき何個も…何十個も展開して…こんなのまともな使い方じゃない」

 

どんなに才覚があったってこんな芸当は正直不可能だと思う、考えられるとすればあの仮面…

 

無理やり魔力を高め、脳味噌を弄ってるのかもしれない、魔法を最適に使う事ができるように。

 

「…長時間の戦闘は好ましくない、彼女の命に関わるかもしれん、彼女は黎斗君達の知り合いなのだろう?」

「そうだね…ここで見捨てちゃったらお姉ちゃん、黎斗くんに顔向けできない」

 

それにジッとしててもリノちゃんが持たない、というかもう既にリノちゃん1人じゃ限界っぽいし。

 

「…マサキさん、シールドが解けたらさっきの魔法お願い」

「任された、アレを使った後は即回避、そしてすぐに本体に攻撃して少しでも次の攻撃の手を緩めさせるんだ」

 

私がシールドを解くとマサキさんがさっきの魔法でまず重力効果を無効化する、そしてすぐに散開しつつ。

 

「セイクリッドチェイン!!」

 

剣を振りながら光の鎖を召喚し、あの子が放つ魔法を砕きながら本体を狙う。

 

「リノ君!平気かい!?」

「す、すみません…少しヘロヘロで…」

「俺の後ろにいるんだ!攻撃は全て防ぐ!!」

 

リノちゃんはマサキさんに任せておいて…私は…!!

 

「本体狙い…小癪なマネを…!!!!」

 

私の鎖を嫌がり周りを打ち払うような範囲攻撃魔法を唱え始める。

 

「接近戦は苦手な典型的な魔法使いタイプだね、だったらお姉ちゃん、遠慮なく近寄らせてもらうんだから!!」

 

未だに降り注ぐ槍や弾、雷、様々な魔法を掻い潜り彼女の懐まで潜り込む。

 

「っ…!!?」

「これで…終りにするよ!!」

 

私は剣を引いて、突き刺す構えを取る。

 

「…掛かったわね」

「なっ…っ!?」

 

瞬間、彼女が一歩大きく後ろに飛び退くと彼女が立っていた場所の床に魔法陣が出現、これは…!!!

 

「設置型…魔法っ…きゃぁぁぁぁ!!!?」

 

設置型魔法が炸裂して閃光が迸り私は大きく後方に吹き飛ばされる、ギリギリ…本当にギリギリで回避と防衛魔法が発動できたから致命傷にはならなかったけど…っ…!!

 

「シズルお姉ちゃん!!?」

 

リノちゃんの声が聞こえる、私は背中から地面に叩きつけられて数回転がりつつ前を見る。

 

ユラリと体勢を立て直したあの子が口を開く。

 

「接近戦が苦手なんて百も承知よ、対策してないわけがないじゃない、あたしに近寄るな、屑共」

 

っ…また攻撃魔法がめちゃくちゃに放たれる…ヤバいかも…!!

 

その時、私の目の前に全力ダッシュで近寄ってきたマサキさんが数多の攻撃を剣1つで捌いていく。

 

その後ろからリノちゃんも走り寄ってきて、倒れている私の肩を抱き寄せる。

 

「くぅ…!!!!」

「ま、マサキさん…!!?」

「俺は騎士だ…!!!ネネカ様をお守りする誇り高き騎士!!その騎士が目の前で女の子を守れないなどネネカ様に笑われてしまう!!!」

 

マサキさんは全ての攻撃を弾き消す、私だけじゃないリノちゃんの分まで全て。

 

でも剣1つでは限界がある、このままじゃマサキさんが最初に倒れる事に…っ!!

 

「くっ…倒れろ…!倒れろ……!!倒れろぉぉぉ!!!」

 

…!!あの子の様子が…いや、当然だよね、こんな無茶苦茶な魔法の使い方…あの子の方がキツイ筈…

 

でもこのままだとマサキさんが言っていた通り、あの子が死んじゃうかもしれない、マサキさんだってもう限界…

 

それはダメ、黎斗君達が悲しむから…!!

 

「クソがっ!!思った以上に耐えやがって…!!!!だったら良いわ!!コレで本当にお終いにしてあげる!!!」

 

更に魔力を練り上げてる…!!何か来る…!!!

 

「マサキさん!リノちゃん!!私の後ろに下がって!!!全力で盾を張るから!!!」

 

私は2人を下げさせる、次の瞬間。

 

「アビス・バーストォォォォォォォ!!!!」

 

それは炸裂した、一点集中、私たちに向かって特大かつ眩い閃光が襲いかかる。

 

「ぐっ…くぅ…っっ!!!」

 

ドーム型のシールドがビリビリと揺れる、ヒビも徐々に徐々に入っていっている、後何秒持つか…分からない…!!!

 

「くっ…あの子も洗脳とやらをされているのなら…ダイゴ君達が破壊さえしてくれればこの状況もなんとかなるのだろうが…」

「流石に今はそれは期待できそうにないですね…シズルお姉ちゃん、大丈夫ですか?」

 

正直、会話に参加できるほど余裕がない、一瞬でも気を抜けば私達はあの魔法により蒸発する事になるから。

 

「…っつぅ…っ!!?」

 

バキンッと私のドームシールドが破壊されたと同時にあの子の特大級魔法も撃ち終わる…ギリギリだった…

 

後1秒でも相手の方が持っていたら…危なかったかも…っ

 

「くぅ…そぉ…はぁ…はぁ………一筋縄じゃ…いかないわね…っ!」

「く…はぁ…はぁ…むしろ…私達相手に…たった1人で大立ち回りできる方が……凄いと思うんだけど…ね…っ」

 

これでも私は腕に自信があった、でもこの子を見てるとその自信も無くしそうだよ…

 

「でも…ふふ…っ!!メインのタンク要員が疲弊しているのなら…後の2人を殺すなんて簡単だわ…死ね、陛下に逆らう罪人共が!!!」

 

っ…アレだけの大技を放っておきながらまた間髪入れずに攻撃魔法!?

 

さ、流石に私はすぐには動けない、それにマサキさんやリノちゃんだって完璧に防げる程、体力が回復してない…どうしよう…!!

 

来るっ…!!あの子の攻撃魔法が…私達に死が…確実に迫って…っ!!

 

「死ネェェェェェェェ!!!!!!」

 

とてつもない数の攻撃魔法が放たれ、私たちの眼前を覆い尽くしていた、本当ならここで終わり。

 

私たちの敗北は確定していた…けど…

 

「はぁぁぁぁ!!!」

「やぁぁぁぁぁ!!!!」

「てぇぇぇい!!!」

 

どこからともなく聞こえたその声は、私達に降り注ぐ攻撃魔法の嵐を片っ端から弾き飛ばし、私達の目の前に現れる。

 

「……ペコリーヌ、コッコロ…それに…黎斗…」

 

攻撃魔法を放っていた彼女がそう呟いた、そう…私達の目の前に現れたのは…

 

 

「無事で何よりだ、シズル、リノ、マサキ」

「おお!その声は黎斗君!また一段と面白い見た目になったな!!」

 

マサキが私のデンジャラスゾンビの姿に興味津々に見つめてくる。

 

「キャルちゃん、一緒に帰りましょう、美食殿に…みんなの笑顔が溢れるあの場所に…」

「ペコリーヌ…どうやってあそこから出たか…まぁ黎斗なら出来るわよね当然」

「…キャル、君の狙いはなんだ?何故わざわざ私達をここまでおびき寄せる必要があった?ペコリーヌを拘束してまでな」

 

彼女は「ふぅ…」と軽くため息をついた後。

 

「…決まってるじゃない、あんた達を『一網打尽にする為よ』」

「っ!?」

 

バチィと私達全員の体に電気のようなものが走り拘束される…魔法ではない、これは…っ!!

 

「この王宮の防衛システムの1つ、魔法なんかじゃコロ助辺りに探知されちゃうからね、この場所に仕掛けさせてもらってたの」

 

私達全員がその場で膝をつき、苦しみ始める。

 

「キャルさまは…これを…!!」

「当たり前じゃない、そうじゃなきゃ、わざわざペコリーヌを生かしておく必要なんかない、あんた達みんなまとめて陛下のエネルギーになってもらうわ」

「…成る程…っ…洗脳装置…とやらは…これらのシステムも管理する為か…っ!!」

 

私がそう言うとキャルはドシンと玉座の間に座り、微笑む。

 

「ええ、そうよ、あの機械はこの王宮システムの要…あんた達はただ闇雲に壊そうと考えてたみたいだけど、それも無駄。ただ壊したところでこのシステム自体は破壊されない、あんた達は初めから詰んでたのよ」

「…なっ…そんな…っ!!それじゃあ私達は…!!」

 

リノが絶望した顔で叫ぶ。

 

「洗脳も解く事が出来ず…我らは捕まる…くそっ!!ネネカ様を助けるのが俺の使命だと言うのに!!こんなところで!!」

 

マサキは下を向きながら吠える。

 

「…なら、1つだけ助かる道を与えてあげるわ…」

 

キャルが呟いた。

 

「何…?」

 

私は当然疑問に思い、キャルに訊ねる。

 

「ねぇ、黎斗…あんた…あたしのものになりなさいよ」

「…何を言っている」

 

彼女は不気味に微笑みながら続ける。

 

「あんたがあたしのものになればそこにいる奴らみんな助けてあげる、簡単でしょ?」

「…何故、私なんだ」

「………あんたっていい奴よね、本当…あたしにしょっちゅうかまってきてさ、最初から…あたしがペコリーヌを監視してた事知ってたくせに優しくしてさ…本当に……あんたが欲しい」

 

…そうか、少し勘違いをしていた。

 

私は彼女は憎しみや怒りなどで感情を上書きしたのだと思っていた、だがしかし違う。

 

これは…『愛情』だ、私に対する愛情、コッコロやペコリーヌに対する『友情』。これが歪んでいる。

 

その膨れ上がった醜い感情が彼女を今なお塗り潰している。独占欲や支配欲に近いものだろう。だからこそ

 

「ねぇ、黎斗…いいでしょ?あたしのものに「断る」

 

私は彼女の言葉を遮りながら断言する。

 

「今の君は……キャル、本当の君じゃない。私の知るキャルという人物は人知れずに努力を惜しまない努力家だ」

 

私はチラリとペコリーヌの方を見る。それに気づいたペコリーヌが口を開く。

 

「わたしの知るキャルちゃんは…思ってる事もちゃんと言えなくって、いつもいつも反対の事を言って…でも…本当は優しい良い子なんです」

「わたくしが知るキャルさまは自分よりも他人を優先する方です、そのように自分のみに利益がある事を考えても…抑え込んでしまう…ずっと1人で戦ってしまうような強いお方なんです」

 

ペコリーヌもまた私同様にコッコロを軽く見つめると、それに気づいたコッコロも言葉を紡いだ。

 

「…あたしの何がわかる…っ!!!ふざけんな!!知ったような口を聞くな!!黎斗もだ!!あたしのものになれよ!!!そうすれば解決なんだ!!そうすれば……!!」

「『誰も傷つけなくて済む』か?」

「っ!?」

 

私が彼女の言葉を続けた。

 

「甘いな、キャル…誰も傷つかないなんていうのは甘い考えだ、そんなものは誰も望まない、自分の道は自分で決めるものだ、例え辛い未来になろうともその先に悲しみ以外何もないとしても人は前に進まなければならない、立ち止まってはならない」

 

狼狽るキャルに私は続ける。

 

「今の君はどうだ?陛下なんて呼ばれる者の言いなりとなり、紡ぐ言葉は夢幻の絵空事、誰も傷つけたくない?自分は辛い目にあっていた?そんな『未来』と『過去』に縛られるのはもうやめろ」

 

私は電撃で拘束されながらも無理やり立ち上がる。

 

「『今』の君はどうしたい、何がやりたい。過去に絶望し未来を悲観しその場で足踏みしているだけの君は一体何がやりたいんだ?」

「うるさい…!!うるさいうるさい!!もういい!!!だったら今やりたい事決まったわ!!あんた達全員…ぶっ殺す!!!!」

 

彼女が立ち上がり、魔法を詠唱し始める、アレが放たれれば満足に動くことができない私達は消し飛ばされるだろう。

 

だがしかし

 

バシュンッという音と共に私達を拘束していた電撃が霧散し消え失せる、それは流石に予想していなかったキャルは驚きのあまり詠唱を中断してしまう。

 

「なっ!?なんで!?どうして!!?」

「ふぅ…どうやら間に合ったようだな、ダイゴ達は…」

 

 

 

 

 

 

「たく…黎斗の兄ちゃんも……くぅっ…無茶…言ってくれるぜ…」

「はぁ…はぁ…ど、同感ですよ…」

 

俺達は瀕死の状態、王宮のある一角の陰で座り込み息を上げていた。

 

…だが洗脳装置は破壊できた。

 

「まさか…『あのシャドウ』を利用する事も作戦に入れているとは…恐れ入りますね彼の頭脳は」

「ああ、あいつの能力…『リプログラミング』?だっけか…アレを利用すればあの装置を上書きして破壊する事ができる、ねぇ…」

「理屈は分かりかねますが…あの洗脳装置をただ物理的に破壊するのでは洗脳は解けない可能性がある、そして陛下代理ならば前回現れたあの強敵を再び守護者として配置する。そこまで読んでのこの作戦…お見事です」

 

…それにそれだけじゃねぇ…俺とラジラジの旦那を組ませたのも考えてやがる。

 

おばさんや他の奴らは割と魔法や能力に頼り切り、あのシャドウの能力を受けちまったらかなりやべぇ状況になる。

 

だからこそぶっちゃけ特殊能力とかねぇ俺や一瞬で戦線離脱できる旦那がいれば、洗脳装置をリプログラミングって奴さえすれば速攻逃げられる。

 

勝つ必要なんざ最初から無かったのさ。戦いには負けても勝負には勝つ、はっ!中々おもしれぇ経験だぜ。

 

「つぅか…それでもかなりヤバめだけどな…今の俺達…」

「ええ、逃げられたのは運が良かったからでしょう…とにかく、合流しましょう、私達の仕事は終わっていませんよダイゴ」

「っつぅ…マジで今日は重労働だな…こりゃあ…」

 

俺達は瀕死の体を引きずりながら玉座の間へ向かう。

 

 

「なんで…どうして…」

「互いに切羽詰まった状況で」

「っ…!!?」

 

狼狽るキャルの言葉を遮るように私は話す。

 

「出来る限りの策を練る……これはラビリンスの初めの作戦会議で決めた言葉だ」

 

確かにキャルは1人でよく考え抜いたものだ、称賛してやろう。

 

「だが……私と君とで知恵比べして…君が勝てる道理があるわけないだろう、キャル」

「ふざ…けんな…っ…」

「あの用心深い千里真那が永夢のシャドウをたった1体だけしか用意しないとは考えられない。そして失敗が出来ない君が手を抜く事は決してない…導き出される答えは簡単だ。洗脳装置の守護をさせるという事さ」

 

しかし1つ、彼女は失敗した。

 

「…君は永夢を…マキシマムゲーマーの力を知らなかった」

「…っ」

 

リプログラミングさえ知っていればそこに配置するなんて事はしなかっただろう。単純に私と彼女とでは知識の差が、経験の差が出た。

 

「…決着をつけよう、キャル…君と戦うのはこれが最後だ」

 

キャルとの最終決戦が今、始まる。

 

 

 

 




永夢君まともに戦ってもらえなくてかわいそうになってきた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

内に秘めた想い

キャルちゃんはすこか?

私はすこだ。


 

 

「うぅ…くそっ!!くそっ!!!くそぉぉ!!」

 

キャルの奴…錯乱しているな…自分の思い通りにいかない現状に苛立ちを隠せていない。

 

「シズル達は下がれ、ここからは私達がやる」

 

先に戦っていた3人を取り敢えず下げさせ、私達は構える。

 

「許さない…っから…あんた達っ!!!みんな…死ねえぇぇぇ!!!」

「…来るぞ!!ペコリーヌ!!コッコロ!!!」

 

私達は走る、キャルに接近しない事には始まらない。

 

アレだけシズル達が応戦し、消耗させている筈なのにこの攻撃の量…文字通り桁違いだな。

 

だが…キャル自身限界な筈…

 

「うぐっ…っゲホッ…ガハッ…っ…!!」

「っキャルちゃん!!?」

 

攻撃魔法は決して止まない、しかしキャルは吐血し鼻や目からは血を流している。

 

「あのままではキャルさまが持ちません!!」

「ペコリーヌ!!無理やり押し通るぞ!!」

「分かりました!!!…はぁぁぁ!!!」

 

まさに一心不乱、迫る攻撃魔法をとにかく排除し足を止めずに突き進む、後数分もすれば確実にキャルの命はない、いや…これ程の魔法の使い方をすれば数分もかからないかもしれない。

 

『シャカっと!リキッと!!シャカリキスポーツゥ…』

 

私はデンジャラスゾンビにシャカリキスポーツを装備し、腐食能力の付いたトリックフライホイールを投げつけ、道を切り開いていく。

 

「コッコロ!!全力でペコリーヌをサポートしろ!!」

「承知しました!!!」

 

ペコリーヌだけでも彼女の元へ向かわせる、ある意味で彼女にリベンジの機会を与える。

 

ペコリーヌに降り注ぐ攻撃魔法は私とコッコロが全力で防ぐ、万全ではないペコリーヌの負担にならないようにだ。

 

「待っていてください!キャルちゃん!!今度こそ…抱きしめて…みんなの帰るべき場所に帰してあげます!!」

「そんなの…誰も頼んでない!!アンタを見てると…イライラするのよ!何もかも奪われたくせに!!そんな笑顔でなんで立ち向かってこれるのよ!!」

 

ペコリーヌはキャルの猛烈な攻撃を受けてもなお、突き進む。

 

「わたしは1人じゃなかったから!!いつだってどんな時だって誰かの言葉が…存在がわたしを支えてくれた…だから!!キャルちゃんにも…!わたし達が支えになるんです!!1人になんて絶対にさせません!!」

 

私とコッコロがペコリーヌの進行方向を塞ぐ魔法を弾き飛ばす、これにより後はペコリーヌが数十歩進めばキャルに届くという距離まで詰め寄った。

 

「何よ…何よ何よ!!そんなの信じられない!どうせあたしは救われない!誰もあたしを救えない!!そんなのまっぴらごめんだわ!!」

「きゃぁっ!?…っ!!!?」

 

あと一歩という至近距離でペコリーヌは攻撃魔法にぶち当たる、吹き飛ばされ壁に衝突し、そのまま倒れ込んでしまう。

 

「はぁ…はぁ…やったわ…流石のペコリーヌでも…この攻撃には耐えられない…はは…ついに…やったわ…」

 

キャルは1人で壊れたように笑い始める。

 

「ははは…っそうよ…最初からこうしてればよかったのよ…!あたしは……あたしは…?何がしたかったんだっけ?『今』のあたしがやりたい事って…?」

「…キャルさま…?」

 

キャルの動きが止まる、コッコロも…そして私の動きも。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!あたし、あたしは…!!違う!!そうじゃない!!あたしがやりたかった事はこんなんじゃ…!ペコリーヌはあたしを助けようとして…っ!みんなは…!!あたしを…っ!!?」

 

…洗脳装置がリプログラミングされ事実上破壊された事により彼女の罪悪感が再び戻ってきている。

 

このままでは彼女の体も心も破壊されてしまうだろう。

 

「大……丈夫ですよ…キャルちゃん…」

「ペコ…リーヌ…?」

 

ペコリーヌは立ち上がる、至近距離で攻撃魔法を浴び大ダメージを受け、王家の装備の力もそこまであるわけではない、それでも彼女は立ち上がった。

 

「…これでもわたしは学習するんですよ。前に…安易に近づいて攻撃魔法を受けましたからね…ちゃんと対策はしましたよ」

「な、なによ…それ…ふざけんな!!だったらもう1回…!!」

 

さて、どうしたものか。このままでは埒が明かない…彼女の心の問題は身体的なぶつかり合いでどうにかなるようなものではない。

 

このまま戦い気絶させて連れ帰ってもなにも意味はない。

 

その時だった、不意に私の頭に声が響き渡る。聞き覚えのある声だった。

 

『…黎斗…キャルちゃんに…あんたが触れなさい…』

 

それだけだった、私が…キャルに…?いや、考えている場合ではない、一か八かだ。結局誰かは彼女に近づき直接止めなければならなかったのだから、やる事は変わりない。

 

私が一瞬立ち止まった事に気づいたのはコッコロ。

 

「主さま…もしやアメスさまからの託宣を頂いたのでは?」

「というとコッコロ、君にも…」

 

どうやらアメスからの通達がコッコロにもあったらしい…なら…

 

「コッコロ!!これが最後の前進だ!!気合を入れるんだ!!」

「承知しました主さま!!」

 

私とコッコロ、そしてペコリーヌが同時に動く、既に弱り始めているキャルの攻撃魔法など容易く避けて進んでいく。

 

「な、なんなのよ、なんなのよ!!そんな必死なっちゃって馬鹿みたい!!」

「それだけわたし達はキャルちゃんが大切なんです…だから!!!」

 

私達は飛び出す、彼女との距離を一気に詰めて行く。

 

「戻ってきてください!キャルちゃん!」

「キャルさま!!!」

 

全員が手を伸ばし、そして…

 

 

 

 

「つぅ…こ…ここは…」

 

照りつける暑い太陽の日差しに私は目を覚ました。耳障りなセミの鳴き声、季節は…夏。

 

私が体を起こすと私が眠っていた場所はどこかのベンチだった。眼前に広がる街の風景。

 

街全体を見下ろすことができる高台…展望台のような場所、私は立ち上がりふらつく足取りで前進すると目の前には転落防止柵がありそれに近づいて行く。

 

「…ん?これは…」

 

私は柵に手を置き気付く。私の衣服は…制服か?学生服だ。

 

この見慣れた風景…いや、正確には知っているという訳ではない、私の住んでいた世界の光景と似ているという意味での見慣れたという事だ。

 

しかし…妙な懐かしさも感じる、それは恐らくこの少年の記憶にない記憶の思い出だろう。

 

「ここは現実世界…という事なのか?」

 

アメスが何かをやった、という事しか現状は分からない、とにかく周りを確認し状況判断をしよう。

 

私はひたすらに歩く、行く当てがある訳ではないが、とにかくだ。

 

歩き始めて数分、私は遠方にあるシルエットを発見する。

 

「あれは…キャルか…?」

 

私の前20メートル程先…転落防止柵を越えた場所にキャルが立っていた、落ちるか落ちないかのその場所で彼女は上を見ていた。

 

キャルかどうか一瞬で分からなかったのは現実世界の彼女と今まで見てきたキャルとは身体的特徴の差異があったからだ、今の彼女は私の知るキャルよりもどこか幼く感じる。

 

私は彼女に近づかない、この状況では何があるかわからないからな、私は近くにあったベンチに座り観察を続ける。

 

その間、別にキャル自身に大きな動きはなかった、しかし数分後。

 

「黎斗く〜ん!」

 

別方向から声が響く、ペコリーヌの声だ。手を振りながら白い大きめのハット、キャペリンやストローハットと呼ばれる種類に近い帽子を被りいかにもお嬢様といった雰囲気のペコリーヌ。

 

その隣には赤いランドセルを背負い儚げな雰囲気、そして髪の長い少女、見た目こそ違うが私は1発で現実世界のコッコロだと見抜くことが出来た。

 

「アメスさんの言う通りここに黎斗くんがいましたね!」

「それが現実世界の君達という事か……いや今はそれより、見るんだ」

 

私が指を指す、そこにはキャルの姿。

 

「…なんか柵の向こう側にいませんか?」

「危ないですね…成る程、主さまは刺激しないようわたくし達が来るまで待機していたのですね」

 

私達は静かに近寄る、すると彼女が見ていた上部分に何かがある事に気づく。

 

まるでモヤのようなスクリーンに映し出されたそれは…

 

「あれ…ってランドソルの…わたし達…?」

「ああ…これはわたくし達がお米を取りに行く依頼を受けそのお米でご飯を食べた時の記憶でございますね」

 

記憶…成る程、ここは現実世界というよりも、キャルの記憶の中、精神世界といった方がいいのか。

 

アメスができる事といえば確かに夢の世界を生み出す事…この今の状況と合致する。

 

映し出されるキャルの記憶、私達と過ごした記憶が流れ、そして

 

次に映し出されたのは陛下…千里真那とキャルの会話だった、この日にあった出来事なのだろう。

 

内容は単純だった、千里真那は嫌味や罵倒を言いながらもキャルが作ったおにぎりを食べあの千里真那が珍しくキャルを褒めた。

 

ただそれだけだった。複雑な表情を浮かべるのはペコリーヌとコッコロ、この2人には何か思うことがあったのだろう。

 

「…ふふ、笑っちゃうでしょ、これがあたしと陛下の唯一の楽しかった思い出…それ以外は無視されて罵倒されて…お仕置きされて…」

 

柵向こうのキャルがついに口を開いた。

 

「…それでもあの時は幸せだった、あたしが必要とされてるんだって実感できた……あたしはさ…両親が変な宗教にハマっちゃってろくに面倒なんか見てもらわなかった」

 

彼女は両手をポケットに入れて話す。

 

「貧乏って訳じゃなかったけど…親があたしにお金を払うなんて事はなかったから…着るものだってコレともう1着あるくらいで見窄らしくて、勉強できなきゃ怒られるし、お金がないからバイトしなきゃならないし…時間に余裕がないから学校では友達なんて出来ないし…」

 

私達は彼女の話を黙って聞いていた。

 

「あたしの両親は頭がおかしいから学校には無駄に口出ししててさ、それが原因でクラスメイトからは悪評立ってさ…軽いイジメみたいなのもあたしにしてきて、余計に孤立して…なんか…毎日が退屈で、勉強とバイトだけしかしてなくて……ゆっくりとあたしの心は死んでいってたのかもしれない」

 

彼女の境遇はどことなく永夢と似ている、いや…劣悪度で言えばこちらの方があるか。

 

「そんな時に知ったのが陛下の存在だった、あたしと同じで境遇が1人ぼっちだった筈なのにみんなから褒められるくらいすごい人になって、そんなすごい人があたしの親戚にいるんだって思ったら…あたしはなんだか勇気が湧いてきて…!!」

 

現実世界での彼女の話は、他人事とはあまり思えない。

 

前にキャルは以前の私に似ていると思ったことがある。そして今の話の中で似通っている部分それは『共感できる相手が生まれた』という事だ。

 

私の場合は永夢、彼女の場合は千里真那。私の場合は『嫉妬』、彼女の場合は『憧れ』。違いはそれだけだ。

 

「あの人に会って、あの人を愛せるのはあたしだけなんだって、世界中の誰もが敵になってもあたしだけはあの人の味方でいるんだって…そう思う事であたしはあたし自身に価値を見出してた…でも」

 

彼女の声色が震える。

 

「…辛くて…あたしは何か間違えてたのかなぁって……あの人に認められないならあたしの価値って何?あたしの存在ってなんなの?いる意味はあるの?生まれてきた意味は!?」

 

彼女の慟哭に誰もが答えられなかった、だから私は彼女に近づき、彼女の真隣、柵を背に両肘を乗っけながら口を開く。

 

「…自分の価値など他人が決めるものではない。自分の価値は自分で決めるものだ」

「…え?」

 

私は続けた。

 

「……少しだけ私の話をしよう。私も君と同じで両親の愛情というものを知らない…私は…私自身の才能が優秀過ぎた。誰からも理解されないしされなくてもいいと、幼少の頃は考えていた。父親もまた才に溢れる存在だった、しかし奴は私を自身の子供としては見ていなかった。才ある私を自分の会社の商品としてしか見ていなかった」

 

私の話にキャルは絶句している。違いはあれど私の家族も…正直な話、常軌を逸していると言えるだろう。

 

「母親は凡人だった。だが凡人故に私達家族から一線身を引き、干渉することはなかった、いや出来なかった。…だから私が信じていたのは常に自分自身だ」

「自分自身…」

「他人に決められる価値など、表面的なものだけだ、真に重要なのは内にある自分の心だ。そして君にはそれが出来るだけの強さがある、だからそろそろ君は、君自身に素直になったらどうなんだ?」

 

私の問いかけにキャルはブンブンと顔を横に振る。

 

「無理よ…今更…あんた達のところになんて帰れない…あたしは、あんた達に…特にペコリーヌに酷いことしたんだもん…」

「それは…洗脳装置のせいで…!」

「…確かに洗脳装置の影響もあったのかもしれない…今さっきの事はなんかフワフワっとした感じでしか覚えてない…でも…ペコリーヌ、あんたを捕まえた時は…あたしは正常だった、自分の意思であんたを…傷つけた」

 

それは確かに紛れもない事実だ、変えることもできない、言い訳することもできない。

 

「…ペコリーヌ、あんたはよく…あたしの事、大好きだって言うわよね?でもさ…あたしには人に愛される権利なんてないのよ、あたしは薄汚いのよ…いつもいつも…自分がなんとかしがみ付くために誰かを傷つける選択ばっかりしてきた…そんな奴に…」

「それでもわたくし達は愛しますよ、キャルさまの事を」

「…!!」

 

コッコロの言葉にうんうんと頷くペコリーヌ。

 

「キャルちゃんはよくぶっ殺すとか言ってますが…わたし達はこの通り生きてます、生きている限り、キャルちゃんにこう言うことができるんです、『許します』って」

「殺されそうになったわたくし達が言うのですから他の第三者がなんと言おうとキャルさまは許されてもいいんです、愛されてもいいんです、違いますか?」

 

この2人のお人好しさは目に染みる、私にはね。

 

「…良いのかな…パパにもママにも…ううん、誰からも愛されなかったあたしが…こんなに…愛されても…良いのかなぁ…?」

「良いんですよキャルちゃん、黎斗くんも!キャルちゃんの事大好きですよね?」

 

まさか私に振ってくるとは…しかし

 

「…ああ、そうだな…私も君が好きだよ」

「うへぇぇ!?///ま、マジなの…っ!?!?///」

 

明らかにペコリーヌ達に好きと言われた時と態度が急変するキャルだが、私はそれを無視して

 

「…確かに君の人生は最底辺だった。ゲームでいうならばベリーハードモードの人生だ、でも君は今までそんな難易度の人生を、様々な選択肢を『選択』してここまで来たんじゃないか、たとえ折れそうになっても決して折れずに、君はここまで来た」

 

人生とはノベル。数多の選択肢を選び、導き、未来へと紡ぐ。

 

そしてそれはキャルにだって当てはまる、キャルはここまでの人生をちゃんと歩んできた。たとえどんなに惨めで誇れるようなものでなくても。

 

「私はそういった挑戦者は嫌いではない、むしろ好きなタイプの人間だ。キャル、君はそういう人間だよ間違いなくな」

「黎斗…」

「珍しく主さまが他人をお褒めに…」

「黎斗くんってキャルちゃんへの評価めちゃくちゃ高かったんですね〜ビックリです」

 

私だって誰かを褒める事はある、いや…確かに珍しい事なのかもな、私の人生を振り返ってみても。

 

「はぁ…私の事は別に良いだろう、それで?キャル、これで満足か?十分君の不満は吐露できたか?」

「…うん」

「ならここにいる必要はない、帰るぞ」

 

私は彼女の腕を掴んだ、その瞬間だった。眩い光が差し込んだと思ったら。

 

「…っ!!?」

 

目の前に広がる光景はキャルではなくシズルだった、周りを確認するとペコリーヌそしてコッコロ、キャルが眠っている。

 

私の変身もどうやら解除されている事が確認できた。

 

「良かったぁ…!黎斗君やっと目を覚ました…!!ってそんな事言ってる場合じゃなかったんだった!」

 

シズル達が何やら慌てているがその原因はすぐに分かる、揺れている…王宮全体が激しく揺れているのだ。

 

どうやらこの揺れで私は目を覚ましてしまったらしい、あそこが夢の世界というものならば目を覚ませばあそこから弾き出されてしまうという事だ。

 

この場にはシズル以外にもリノやマサキは勿論、ダイゴやラジニカーントが既に合流している。

 

さてと念の為、私はゲンムに変身しておく、勿論デンジャラスゾンビだ。何か嫌な予感がする。

 

「…ん…んん…」

 

次に目を覚ましたのはコッコロ、その数秒後にペコリーヌが目を覚ます。

 

「あれ…キャルちゃんは…?」

 

ペコリーヌは寝ぼけるようにキャルを見つめるもキャルが目を覚ます様子はない…

 

「キャルちゃんが目を覚ましませんよ!?黎斗くん!!」

「…あちらで何かあったと考えるべきか…アメスが何かしているのかもしれない」

「だとしてもこのまま放置はできません、何やら王宮全体が揺れておりますし」

 

コッコロの言う通りだな、状況は一転している…この揺れ…なんなんだ…?

 

「なんか気味悪ぃヘドロみたいなのが流れてきてねぇか?」

 

ダイゴの指摘通り、大量のヘドロが王宮に走った亀裂の隙間から流れ出てこの玉座の間を満たさんとしている。

 

「あ、あれは…!!ネネカさま!!」

 

今度はマサキが指摘する、彼の指を指す方向、玉座の間の奥、下10メートル程先に何やら装置が1つ、その装置が開くとそこには分身体で何度も接触してきたネネカの姿があった。

 

「今助けに行きます!!ネネカさま!!」

「落ち着けマサキ、あれは罠だ」

「何を言って…!!」

「装置が仮に洗脳装置…ダイゴ達が破壊した装置はこの王宮全体のシステムを制御していたものだ、だとするのならばネネカの繋がれた装置もまたそのうちの1つ、であるならば破壊と同時に彼女が解放されてなければおかしい」

 

だというのにこの時間差……

 

「そう簡単に脱出なんかさせないわよ…?だってあなた達はここで死ぬんだから」

「…っ!!」

 

この声…1度聞いたら絶対に忘れないだろう。

 

「…千里…真那ァ…!!!」

 

フワリと彼女は私達の前、上5メートル程の位置まで浮かび上がって出現する。

 

その姿は以前、殲滅魔法を放ってきた時と同じ、露出度の高い…まさに諸悪の根源という言葉が似合うあの格好だ。

 

「ふふ、黎斗君は相変わらず察しがいいじゃない」

 

パチンと指を鳴らすとネネカの居た位置が爆発を起こす、初めから仕掛けていたのか…爆弾を。

 

「ネネカさまぁぁぁ!!!…き、貴様ぁぁ!!!!」

「一網打尽にしてやろうとも考えていたけれどやっぱり黎斗君がいるとうまくいかないわね…計画の軌道修正も大変だわぁ…」

「軌道修正する必要はなぁい、お前の計画もここまでだからだ」

 

私は構える、ここでコイツと一戦交えても構わないように。

 

「違うわよ黎斗君…私は既に次の極地へと向かっている…千里真那なんて人の名は捨てたわ…今の私は『覇瞳皇帝(カイザーインサイト)』…ゲームは終わりよ、平伏しなさい人間共」

 

 

「あ、あれ?黎斗達の姿が消えちゃったわ!?」

 

あたしは突然の事に頭が回らない、アイツらなんで…

 

「ゴメンね、ちょっと良いかしらキャルちゃん」

「へ?ってあんた誰?」

 

あたしの目の前に現れたの知らない女の子…本当に誰?

 

「あたしはアメス…コッコロたんから名前くらいは聞いた事があるでしょ?」

 

…確かコロ助がなんか崇めてる神様みたいなの…だっけ?

 

「それが何の用よ」

「アイツらは今、王宮に起きた異変で目を覚ましちゃってる、このままだとあんたも危ないから早く目を覚まさせて…」

「まぁまぁ、ちょい待ってもらえる?」

 

今度は別の女の人の声が聞こえた、すごく何というか…おちゃらけてる様な印象がある声色だった。

 

「ってへぇ!?晶!?なんで!?」

 

アメスがすごい表情で驚いてる。

 

「そりゃあアタシも腐っても七冠(セブンスクランウズ)だし…それよりキャルちゃんだよね?ゴメンね真那のわがままに付き合わせちゃってさ」

「…は、はぁ…あの……陛下とお知り合いなんですか?」

 

アタシの質問に飄々とした顔つきのまま答える。

 

「まぁね、旧友さ…それよりも君にはやってほしい事があってここに残ってもらってるんだけど、良い?」

「やってほしい事?」

「そ、黎斗君…いや、違うね。アタシのかわいいプリンセスナイトにプレゼントを届けて欲しいのさ」

 

その言葉を聞いて慌てふためくのはアメス。

 

「ちょ、ちょっとあんた正気!?あいつの記憶を今の……黎斗に流したら…!!」

「わかってるよ、だからほんの少しだけ、脳みそが壊れない程度に、そうすればあの子の力も強化されるし格段にパワーアップできる、最終決戦ぽいし、しのごの言ってられないでしょ?」

「だからって…っ!!」

 

2人だけで会話を続けてるけど、入っていけない…

 

「それともう1つ…これはちゃんと黎斗君に対するプレゼントがあるんだ、この2つをキャルちゃん、君が彼に渡してほしい」

「あ、あたしが!?どうして…」

「…この力…どっちかというと…プリンセスナイトの方だけどこの力ってさ、『絆』なんだよね」

 

晶と呼ばれた女性は続ける。

 

「んで、この力を渡せるのは…ぶっちゃけ黎斗君とキャルちゃん…君達くらい絆パワーって奴がカンストしてなきゃ無理って話、良かったね〜キャルちゃん、黎斗君は意外と君の事を大切に思ってるよ〜」

「なっ///」

 

へらへらと笑ってるこの女、腹立つわ…で、でも…それ以上にアイツがあたしの事を気にしてくれてるって事が嬉しい…!きっと今のあたしは気持ち悪いぐらいニヤニヤしてるんだろうなぁ…

 

「さぁ、最終決戦の始まりだよキャルちゃん、あたしの方も、もう1つくらいは策を用意してるけど少し時間がかかる、だからそれまでは…君達に任せるよ、世界を救ってこいヒーロー達!!」

 

 

 





まぁ、全員好きなんですけどね。40股くらいへーきへーき


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決戦の始まり

もう少しだけプリコネ寄りのお話が続きます。


 

 

崩れる王宮、後数分でこの場所は謎のヘドロで埋め尽くされる事だろう、退路はこの玉座の間の出入り口のみだが…

 

ドンと炸裂音が響く、奴が…確か覇瞳皇帝(カイザーインサイト)とか言っていたな。

 

ソレの周りを浮遊する複数の目の様な物体から放たれたビーム状のエネルギーにより退路を完全に破壊される。

 

「退路は断たせてもらったわ、あなた達はここで死ぬのよ、私が直接手を下さずともね」

 

そう言って奴は浮遊していく、私達を相手にする価値すらないと見なされたか…とはいえ今追いかけられる程の武装はない。

 

ジェットコンバットはあるが単独で撃破出来る程奴は甘くない、ここは見逃してやるか。

 

外にはムイミやクリスティーナなどもいる事だし、まだ平気だろう。まずはここを脱出する事を先に考えるべきか。

 

「っどうすんだよ!この状況!!ラジラジの旦那!!あんたの力で…」

「無理だな、奴がラジニカーントの力を把握していないとは思えない、奴が再起動した時点でこの王宮には結界でも張られているだろう」

「黎斗さんの言う通りです、今現在強力な結界が張られており、私の力では脱出する事は不可能でしょう」

 

ちくしょう、とダイゴは地面を拳で殴りつける。

 

「ではどうすると言うんだい?黎斗君、君はこの状況でも落ち着いている…つまり対策をしているのだろう?」

「ああ…私にかかればこんなもの障害でもなんでもない」

 

私がそう言うと私達の近く、溢れかえった黒いヘドロ溜まりの一部が爆散する。

 

「ふふ、マサキよりも頼りになるナイトですね、流石は私が見込んだ男です」

「なっ…ネネカさま!!?」

 

私が…正確には私の増殖体が抱えて来たのはネネカ、ふむ…やはり残りの増殖体はあの爆発の犠牲になったか…まぁ1体でも残っていたのは御の字だろう。

 

「勝手に見込まれても困るが…ネネカ、君の力を借りたい、ここから皆を安全に同時に脱出する為にね」

「成る程、私としてもここで溺れ死ぬのは頂けませんし、貴方に借りを作っておくのも嫌ですからね」

 

ネネカは瞬時に姿形を変化させる、黒い箱のようなものだ、高さ3メートル、横幅2メートル程だろうか。

 

「ふむ、この人数で乗るには少々手狭だが、仕方がない、君達この中に入れ、脱出するぞ」

 

私たちがその中に入ると本当に狭かった、この人数で入るとギチギチになる。

 

「ヘドロの中に突っ込むのは少し気が引けますね…」

「箱のまま喋るな、気味が悪い」

「貴方だけヘドロの中に沈めますよ黎斗」

 

そんなやりとりをしつつネネカ箱はヘドロの中に勢いよく突っ込んでいく、そこからは加速し王宮の脆くなった壁を突き破り外へと飛び出していく。

 

玉座の間がある場所は王宮内で高い位置にある、そこから王宮城下町まで一気に下る為ちょっとしたジェットコースター気分だ。

 

高低差は約100〜200メートル程度はあるからな。

 

「皆さん衝撃に備えてください、着地しますよ」

 

ネネカの声と共にドガガガッと地面を削り擦る様な音が響き、箱全体が強烈な振動を起こす。

 

私の近くにいたペコリーヌが覆いかぶさり彼女の胸で視界が見えなくなる事以外は何もなかった、むしろ変身していてよかった、していなければ呼吸困難に陥っていただろう。

 

ガコンと上部が開くと光が差し込み、息苦しそうに女性陣がそこから顔を出す。

 

「うへぇ…流石にキツかったですね…」

「感想はいい、さっさと降りてくれないかペコリーヌ」

 

私の催促でペコリーヌ達が箱から降りる、私達男性陣も後から降りると箱に変化していたネネカが元の女性の姿へと戻る。

 

「おお、貴様達だったのか」

「お前ら!!みんな無事でよかったよ!!」

 

私達の目の前にはクリスティーナとムイミの姿があった。

 

「ネネカの力を使いあそこから脱出した、洗脳装置の破壊、ペコリーヌそしてついでにキャルの奪還も成功した」

「ほう、やるじゃないか黎斗、後は…あの女だけか…」

 

クリスティーナが細い目をして遠くを見つめる。

 

「千里真那に会ったのか」

「ああ、つい先程な…お前達が乗ってきた箱を見た途端に話を切り上げ去っていったよ」

 

…私達が脱出する事も想定内か、それに逃げたということはまだ奴は万全ではない。

 

「なんか餌がどうとか言ってたよ…アイツ、万全じゃないからか…何かしでかそうとしてるんじゃないか?」

「餌…?……逃げた方角は分かるか?」

「街の中心の方だ、万全じゃないっていうなら話は早い、今のうちに真那をぶっ倒すぞ!!」

 

ムイミが声を上げるとダイゴ、ラジニカーントなどがムイミの後に続き街の中央方面へと進む。

 

「わたし達も後を追いかけましょうか、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)を止めて…またみんなで美食殿の活動するんです」

「キャルさまは目を覚ましませんし…本来ならどこか安全な場所に置いておきたいところですが…」

「キャルに関しては私が運ぶ、とにかく今は奴を追うぞ」

 

私がキャルを背に抱え、走り出す。

 

「何をしているのですかマサキ、貴方も黎斗のように私を背負いなさい、私は変身により体力が少なくなっているのですから」

「喜んで背負いましょう!ネネカさま!!!」

 

私達に続き、ネネカとマサキも動き出す、目指すは街中央、奴は一体何をしようとしている…?

 

 

 

「早く!ミソギ!!追いつかれちゃうよ〜!!」

「分かってるよ〜って言ってもどこに向かってるのさキョウカ〜!」

 

私とミソギは走ってる、なんで走ってるのかというと

 

「助けてくれ〜!!王宮騎士団(ナイトメア)でも自警団(カォン)でもなんでもいい!!息子が…!瓦礫の下敷きに!!」

「なんだって!?よし…なら私達に任せ…ぐぁぁっ!?!?」

「なっ…!!?まだ来るのか…魔物共!!!!」

 

…走ってる理由、それはこの街に大量の魔物が侵入してきたから。

 

突如現れたソレらにより人々は逃げ惑い、街は破壊され…恐怖の声が沢山聞こえてきます。

 

「ううっ…っ!!?」

「き、キョウカっ!み、見ちゃダメ!!」

 

ミソギが慌てて私の目を両手で隠す、今…人の体がバラバラに…っ!!

 

「だ、大丈夫だよミソギ…大丈夫…」

「み、ミソギは一応お姉さんだからね!キョウカを守ってあげる義務があるんだ!」

「普段はチャランポランだからお姉さんな感じはしないけどね…」

「ひ、ひどい!」

 

ふふ、まだ余裕がある、街は酷い状況だけど、まだ心に余裕を持って行動できる。

 

「あ!そうだよ!!ここら辺だったら兄ちゃんの家に行こうよ!!」

「黎斗さんの…?確か…サレンディア救護院ってところでお世話になってたんだよね?」

「うん、ここら辺なら…えーと…あっちだ!ついて来てキョウカ!最短距離で駆け抜けるぞ〜!!」

「あ!待ってよミソギ!置いてかないで〜!!」

 

いつもイタズラをする為に街中を走り回ってるミソギにとってここは自分の家みたいなもので頭の中に地図が入ってるって前に言ってた。

 

こういう時、ミソギは本当に頼りになるな…

 

「頑張ろう!キョウカ!!ミソギ達2人で生き残るんだ〜!!おー!」

「おー!!」

 

 

「あわわわ!ど、どうして街中に魔物が!?」

「えーい!ぷぅきちフルスイーング!!」

「こっちに来ないでください〜!!」

 

な、なんという事でしょう…年長者である私を置いて、こ、子供達が魔物の対処を…

 

「お、おおおお、お二人とも下がってください!私が魔物をやっつけます!」

「す、スズメじゃ頼りないよぉ…こ、怖いけど…アタシはみんなのお姉ちゃんだから…泣かない…!みんなを守るんだ!!」

「うう…グスッ…わ、私もみんなを死なせたくないから…頑張る」

 

アヤネちゃんとクルミちゃんの覚悟が胸に刺さる…ああ…!私はなんで情けないんでしょうか…!!

 

「わ、私だって!!やる時はやるんです!!お嬢様がいなくても…出来るんですよ!!」

 

本当なら今頃、子供達はお祭りで楽しく…笑顔で過ごしていた筈なのに…それなのにこの魔物達は全てを破壊した…許せません!!私が成敗してやります!!

 

「えーい!!ダスト・クリーニング!!」

 

本来はお家のお掃除魔法の筈…しかし私の場合は何故か…

 

ドンっ!と爆発を起こしてサレンディア救護院の前に立つ無数の魔物を吹き飛ばす、そう…何故か私の魔法は敵をお掃除する魔法になってしまうんです。

 

「はぁ〜…相変わらずスズメの魔法って意味不明だよ…」

「で、でも…これなら魔物を退治できる…かも?」

 

子供達が慰めてくれますが何だか情けない気持ちに…

 

「あ!あそこだよキョウカ!!」

「た、助けてください〜」

 

魔物を吹き飛ばした直後、前方から女の子が2人…アレは…黎斗さんのお知り合いの子の…

 

 

 

や、やばいってやばいって…!!

 

私達のギルド『悪魔偽王国軍(ディアボロス)』はこの街に大量発生した魔物の対処に当たっていた…のは良かったんだけど。

 

突如として現れた謎の女…不気味でとてつもない魔力を持ったソレは私達を襲撃してきた。

 

「あら…貴方の魔力を食べに来たのに…どうも楽にはいかなそうね、イリヤ・オーンスタイン」

「この姿になったからには、一筋縄で行くとは思わない事じゃな」

 

手も足も出ないと思っていたけど、突然イリヤさんは元の姿に戻った。シノブさんやアカリが言うには愛の力らしいけど…

 

それでも、嫌な予感というか寒気が止まらない、いつもなら大人の姿になったイリヤさんには絶対的信頼と安心感がある筈なのに…

 

「お主らは下がっておれ、名指しでわらわを指名しているのじゃ…お主らは関係ない」

「何を言っているのかしら、確かにメインディッシュは貴方だけど…他の子も魔力が高そうだしぃ…逃すと思っているの?」

「ああ、逃すとも…わらわはその為におるのじゃからな」

「…っ!!?」

 

「えっ…?」思わず私はそう口に出してた、それもその筈、イリヤさんは既に奴の背後に回り込んでいたから。

 

「遅いのぉ…戯け者が」

「…っち…!!」

 

でも既の所で攻撃を防がれる、イリヤさんの大きな斧による攻撃は奴の持つ剣みたい武器で弾かれた。

 

「凄〜い、イリヤさんいつもよりずっと速〜い」

「恐らく、いつも以上に力が戻っているのでしょう…イリヤさんはお優しい方ですから…」

「い、イリヤ!がんばるの〜!」

 

みんなが応援してる、そうだ、ダメダメ!弱気になってちゃ…!私も応援しないと…!!

 

「どうした?さっきまでの威勢がないのぉ…!!!」

(…やはり面倒ね、少しでも多くの生命力を補給しておきたい所なんだけど…イリヤ・オーンスタイン相手じゃ、今の私では手間取って時間を無駄にするだけね)

 

よし…!押してる!!イリヤさんの連続攻撃で相手は防御しか出来てない!このままイリヤさんが…!!

 

「…予定変更よ」

「むぅ…!?」

 

ドドンッ!と奴の周りを浮遊していた目のような球体から連続でエネルギーが放たれる、それは私達というよりは地面に向かって放たれた。

 

砂塵が舞い、視界が極端に悪くなる。

 

「…ここで目眩しじゃと…?小賢しい真似を…!!」

「ふぎゃあっ!?」

 

声が響いた、聞き覚えのある声…ミヤコ!?

 

「なっ…ミヤコさん!!?」

「いつの間に…ミヤコ!!」

 

シノブさんとイリヤさんが叫ぶ、そう…今の一瞬でミヤコが…アイツに捕らえられていた。

 

片手で首元を掴まれ、宙に浮かされてる…いやミヤコは幽霊だから自分で浮いてるのかもしれないけど。

 

「イリヤ・オーンスタインを食べる為にも少し力が必要と判断したわ、貴方…確か幽霊なのよね?だったら都合がいいわ、肉体を元から持っていない貴方は生命力を奪いやすい」

「な…何を言ってるの…?はぐっ!?うわぁあぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

ミヤコの体に黒い稲妻が迸る、それと同時にミヤコは絶叫…あんなの…ひとたまりもないわ!!!

 

「ミヤコを離しなさいよ!!」

「そうだよ!!ミヤコちゃんは大切な仲間…痛い思いをさせるなんて許せない!!」

 

私とアカリが武器を手に持ち突っ込んでいく、幸いミヤコに攻撃?だかなんだか知らないけどやってるのなら奴はこっちに攻撃出来ない筈!!

 

「…鬱陶しわよ、邪魔しないで」

 

なっ…!?次の瞬間、奴の目のような球体達が一斉に動き出す、自動的に私達に狙いを定め、連続でエネルギービームを発射してきた。

 

「きゃぁぁぁ!!?」

 

流石に避けられない、予想外だった、まさか自動的に防衛できるなんて…っ!!

 

「や…やめて…欲しいの…ミヤコは…みんなと一緒にいたいの…成仏は…したくないの…」

「それは残念ね、その願いは叶わない、私が奪うから。このゲームは願いを奪い合うゲーム、奪われたくなければ他者から奪うのが真理、貴方が弱いのがいけないのよ?」

 

更に力を加えられたのかミヤコの叫び声は更に増していく、このままじゃ本当に…!!

 

「ふざけるのも…大概にするのじゃ…!!!この…小悪党がぁ!!!」

「…お父さん」

「分かってるよ」

 

イリヤさんが斧を振り下ろすとそこから大量の影の腕が伸び、シノブさんが刀を振り翳すとそこにドクロ親父さんの青白い炎が灯り、炎熱が奴に向かって襲い掛かる。

 

「…下らない」

 

奴は身動きせずにそれを防ぐ、あの球体が自動的に守ったんだ。

 

「下る、下らないはわらわが決める、何故ならばわらわは世を統べる王じゃからな」

「王如きが神に敵う筈ないじゃない、私は覇瞳皇帝(カイザーインサイト)、この世を統べる神よ」

「傲慢ですね、貴方は神という存在から最も遠い存在です」

 

接近戦、2人は距離を詰めて奴に斬りかかる、勿論あの球体が自動的に防御して2人の攻撃を捌いてるけど…

 

「…っ!!」

 

ミヤコの生命力を吸収しながらあの2人を相手するのはかなりしんどい筈、現に徐々にだけど奴は2人の攻撃を取りこぼし始めてる。

 

イリヤさんは言わずもがなだけどシノブさんだってこのギルドのナンバー2の実力がある程強いんだから心配ないわ。

 

「…隙ありです!!」

「…っ!?…やってくれるじゃない…」

 

シノブさんの斬撃が奴の片腕を掠める、それによりミヤコが解放された、私とアカリは急いでそっちに向かってミヤコの事を介抱する。

 

酷い汗…うなされるように唸ってるし…それに体も点滅し始める…これかなりやばいじゃないの!?

 

「…はぁ、本当にやんなっちゃうわ…でもこれで貴方達に勝ち目は無くなった」

「…なに?」

 

その言葉の次の瞬間だった、その時には既にイリヤさんとシノブさんの体が宙を舞っていた、何が起きたのか分からなかった。

 

「な…なんじゃと…っ…今のは一体…っ…!!」

「シノブさん!?しっかりして!!シノブさん!!」

「シノブゥゥゥゥ!!!??」

 

イリヤさんは無事、流石だと言えるけど…シノブさんの方がやばいわ、アカリとドクロ親父さんが叫ぶのは無理もない。

 

シノブさんの右肩、左脇腹、右太腿からは出血、おそらく何か…エネルギー的なものが貫いたんだと思う、それも超高速で放たれた複数の奴…私達どころかイリヤさんですら目で追えない程の超スピードの攻撃が。

 

私達のギルドはヒーラーがいない、強いて言うならアカリがちょっと使える程度、このままだとミヤコより先にシノブさんが…!!

 

「ミヤコ…とか言ったかしら?その子。ありがとうね、おかげさまでまぁまぁ満足に戦えるだけの力を取り戻せたわ」

「…ふざけた事を…!!」

「ふざけてなんかいないわ、今の私なら伝説の吸血鬼だろうと、一捻りって奴よ」

 

ドドドドンッ!今度は見えた…っていう表現が正しいのか分からない、奴が人差し指でイリヤさんを指すと指先からめちゃくちゃな数の細いエネルギービームを連射した。

 

それは1つ1つが速すぎて私には連射というよりもひと繋ぎのビームに見えた。

 

それはイリヤさんの全身を満遍なく貫く、イリヤさんですら対応できなかった、それ程のスピード、そして最後に奴はイリヤさんの額に向かってビームを放ち、イリヤさんは何も出来ずに額にビームを受けて後方に頭から吹っ飛んで行く。

 

「がはぁっ!!!?」

 

そのまま壁に衝突し、その壁は崩落、建物は半壊して砂煙をたてる。

 

「流石は伝説の吸血鬼、今の攻撃は並みの人間なら即死しててもおかしくないわよ?随分な耐久力じゃない」

 

…予想してた通りだった、ミヤコはもう動けない、シノブさんも瀕死、イリヤさんですら敵わない、私とアカリじゃ相手にすらならない。

 

「まぁいいわ、これで貴方達全員の生命力を安全に食べられる、そうすればもっと効率よく行けるわ…!」

「そうは…させん…皆の者…逃げるのじゃ…!!」

 

イリヤさんは立ち上がる、私達を逃す為に奴の前へと立ち塞がる。

 

「…随分とふらついているようだけど、もう貴方に出張られると面倒なだけなの、大人しく寝ていて頂戴、吸血鬼」

「そうはいかないのぉ、奴らはわらわの愛しい眷族達じゃ、ここから先には一歩も行かせん」

「…鬱陶しい、愛だ絆だと無価値なものに縋る者達を見るのはもううんざりだわ」

 

その言葉を皮切りにさっきの高速ビームが連続で撃たれる。

 

「…っ…しかし、2度も同じ攻撃が通用すると思うでないわ!!」

 

イリヤさん、さっきは避けれてなかったけど今はギリギリだけど…避けれてる。

 

「よいしょ…お姉ちゃん!一旦アカリ達も下がろう!」

「で、でも…!!」

「ミヤコちゃんもシノブさんもボロボロだし…イリヤさんの足を引っ張っちゃう!」

 

…っ…そうよね、私達がいたところでなんの役にも立たない、それどころかイリヤさんが満足に戦えない…そんなの嫌…!

 

アカリがシノブさんをおんぶして私はミヤコを抱き抱えて走り出す、取り敢えずは遠くに…

 

「逃さないわよ」

「いいや、絶対に逃すとも、ヴァーミリオン・スパイク!!」

 

イリヤさんが片足で地面を一回叩くとそこから赤黒い棘が一斉に発生して奴の視界を覆う。

 

「…下らない、時間稼ぎのつもりのようね」

「わらわの魔力も全開とは言えんのでな…省エネって奴じゃよ」

「あら、そこだけは気が合うじゃない、限られた魔力でやりくりするのって…大変よねぇ?」

 

ドンッ!そんな音が響いた、次の瞬間、イリヤさんがこっちに向かって吹き飛んできた。

 

「ただ貴方と私では元の容量が違う、格が違うのよ。そうねぇ、十万円くらいでやりくりしなきゃいけない貴方と一千万でやりくりしている私とでは最初から勝負になってないの」

 

イリヤさんが発動した棘も一瞬で粉々にされた、あんな…適当な魔法でイリヤさんの全力が粉々に…!!

 

「ぐ…まだ…わらわは…」

 

ポンとイリヤさんの体が小さい子供の姿に戻ってしまう。

 

「万事休すって奴よ、貴方達はここで食べられるの、私の…神の食事となる事を光栄に思いなさい!!」

「神は神でも…偽物の神さまですけどね!!!」

「…っ!!?」

 

そんな時、別方向から声が聞こえた、その声の主は一気に奴に迫っていって、剣を振り下ろす。

 

「…しつこい女は嫌われるわよ…お姫様」

「それがわたしのいいところなんです!逃がしませんよ…覇瞳皇帝(カイザーインサイト)!!」

「…面倒ね、このままだと合流されちゃうかしら…ならまずは…そこの吸血鬼達だけでも頂くわ!!」

「なぁっ!?」

 

飛びかかった女の人をそっちのけで私達を!?奴が放った閃光が私達に向かって飛んでくる…ヤバっ避けられな…

 

「お前の計画もこれまでだァ…千里真那ァ!!!」

 

でも攻撃が届く事はなかった、白と黒の仮面の騎士が私達を守ってくれたから。

 

「…黎斗君…成る程、ラジニカーントで先に寄越すのは貴方達にしたのね」

 

 

「そ、その声…黎斗なの!?」

「ああ、とにかく状況はどうなってる」

 

私は倒れ込むヨリやアカリ…その他もろもろを確認する。

 

何故彼女達が狙われたのか…餌をどうこうとクリスティーナが言っていたが、考えられるとすれば彼女達のエネルギーでも吸収しようという事か。

 

「た、大変なの…!イリヤさんやシノブさんが大怪我してるのは勿論だけどミヤコちゃんが…!!」

 

アカリの叫びに私はミヤコの様子を確認する、どうやら奴にエネルギーを奪われ、今にも消滅しそうな勢いだ。

 

「…そうか、怪我の方はここにコッコロが向かっている、治療は彼女にしてもらえ、ミヤコは取り敢えず私の強化能力でなんとかする、万全とはいかないだろうが多少はマシになるだろう」

 

ミヤコの延命…幽霊なのに延命とはいかがなものだが、とにかく延命をする。1分程それを続けるとミヤコの様子もだいぶ落ち着きを取り戻した。

 

それを確認した後、私はすぐに千里真那を睨む、彼女は何やらペコリーヌに向かって何かを言っているようだが…

 

「なにを話している、今のうちに斬り倒せペコリーヌ」

「…黎斗くん…シャドウやロストの原因が分かりましたよ」

 

シャドウ…それはこの千里真那が原因だというのはおおよそで付いていたが…ロストも…か

 

「…どういう意味だ?」

「アイツが…定期的に人間の生命エネルギーを吸い取り副産物的に生まれる存在がシャドウ…そして奪われ肉体を失ったものがロスト、という事です」

 

成る程な。先程のヘドロ状のものは全てシャドウの残骸か、アレにより千里真那が復活したと言う事か。

 

「つまり…全ての元凶という事ですよ…アイツが…!」

「…やっている事は神というよりは魔王だな、千里真那」

「なにを言っているの?命を選別し私に献上させているのよ?むしろ最も神らしいと思わないかしら」

 

…気に入らないな。

 

「…シャドウの事は分かりました…でも目的がわかりません、貴方の目的はなんなんですか?」

「それを聞いてどうなるの?お姫様だから私の言うことでも叶えてくれるって言うのかしら」

「…貴方は憎むべき相手です、しかしただそれだけで終わってしまうのはとても悲しいことだから…キャルちゃんが信じた貴方を少しでも知る必要が…わたしにはある」

 

ペコリーヌの言葉に千里真那は嘲笑う。

 

「お優しい事ね、でも少し貴方のそのちっぽけな頭で考えた方がいいわよ、今までのヒントで分からないようなら待っているのは死だけなんだから」

「…周りに複数の魔物を確認!!皆さん!迎撃してください!」

 

そう叫んだのはラジニカーント、彼は複腕を出現させ構える、それと同時に怒涛の勢いで私達の周りに魔物が出現し始める。

 

「なっ…いつの間に…!!?」

「私が親切で貴方と会話をしていると思ったのかしら、そんなわけがないでしょう?この世界で死ねばシャドウになる、そしてシャドウになれば私が管理できる…貴方達は極上の餌…私の栄養なんだから」

 

…魔物の使役…キャルにできる事は奴にできて当然か、さてこの状況…どう切り抜けるか…他の奴らが合流したとしてもかなり厳しい現状だ。

 

そして…目の前には千里真那、余力を残しているやつとの決戦をこのような混戦の中でやりたくないものだ。

 

しかし

 

「お前が万全でないのなら、やはりここで潰しておくのが最も撃破率が高い、千里真那…決着をつけるぞ」

 

宣戦布告、ここで終わりにする為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本編だとまぁしょうがないとは言え、覇瞳皇帝がずっとエボルト並みの無双してたのは心苦しかったのでイリヤを強化しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

乱戦激闘

本編の色々を黎斗のおかげで円滑に進むのでRTAみたいなノリで進む物語。



「サレンさん!そちらにも行きましたわよ!!」

「分かってるわよ!!」

 

もう!どうなってるのよ!!街中になんでこんなに『魔物』が!?

 

私達の周りにはかなりの魔物がいる…どうしてこうなったのか分からない。

 

そこにいるアキノさん達メルクリウス財団の人達と協力してお祭りを盛り上げようとしていたんだけど…予定が狂っちゃったわね…

 

「子供達、全員連れてきたわ!!」

「ありがとうミフユさん!」

「お嬢様〜申し訳ありません〜」

 

ミフユさんに連れてこられた子供達、それとメイドのスズメ…よかった、みんな無事ね。

 

あら?この子達…黎斗が仲良くしてる子…救護院に避難してきたのかしら…っとそれよりも。

 

「事態は急変してるわ、報告によると町全体にとてつもない数の魔物が入り込んでるみたいよ」

「入り込んでるって…王宮騎士団(ナイトメア)が門を警備してる筈よね?」

 

そう聞いてくるのはユカリさん、そう…本来ならこんなことありえないはずなんだけど…

 

「分からない…何がどうなって…」

「まるで街の中で突然湧いてきたみたいな感じですわね!」

 

アキノさんの意味不明な発言はいつものことだけど…なんだか今回ばかりは彼女言っていることは馬鹿にできない気がするわ。

 

「とにかく街は今危険な状態、子供達だけでも安全な場所に連れて行かなきゃ…!!」

「そう言うことならば私達の出番だな!!」

「だ、誰!?」

 

前方の魔物を吹き飛ばしながら現れたのは…小さな女の子?と槍をブンブン振りまわしてる女の子の2人。

 

「えと…あなた達は?」

「よくぞ聞いてくれた!!私達はギルド、ヴァイスフリューゲルランドソル支部!!ギルドマスターのモニカだ!!」

「あ、あの…私はアユミって言います…」

 

唐突に現れた2人…でもなんだか戦い慣れているような…

 

「黎斗の言っていた通り、異変が起きたようだな、私達が協力する」

「黎斗!?貴方黎斗を知っているの?」

「無論だ、この異変が起こる事を彼は知っていた、だから我々がこうやって待機していたのだ」

 

黎斗…アンタは何か知ってるって言うの…?

 

「でもいい提案だと思うの、私達もタマキさんの様子が知りたかったし、それに黎斗君からの指示もあったからね」

「あの子1人で別行動ってかなり心配だもの…」

 

ユカリさんとミフユさんがそんな事を呟く、同じギルドメンバーだものね、当然よ。

 

…というかここでも黎斗?…アイツ一体何人に声をかけてるのかしら…しかもみんな女の子ばっかり…

 

ちょっとイライラしてきたけど今はそんな感情任せじゃダメね、コホン

 

「分かったわ、貴方達の好意を受け取らせてもらう、アキノさん!貴方はタマキさんの所へ向かってもらってかまわないわ!子供達はあたしとこの子達で安全な場所まで連れていくから!」

「分かりましたわ!ですがサレンさん!無茶だけはしないでくださいね!!」

 

ふふ、相変わらずお人好しね…よぉしそうと決まればここから頑張り時よサレン!!

 

 

 

「嫌な気配だねぇ…」

「うむ…街の中央から邪気を感じるぞ」

 

アタシ達は無数の魔物を斬り伏せながら呟く。

 

「黎斗君が言っていた通りになっちゃったわね、まぁ私としてはこんなに材料がそっちから来てくれるなんて嬉しい限りだけど」

「ミツキさん、黎斗さまのお願いなんですから真面目にやっていただきたいのですが…」

 

はぁ、やれやれ…アタシ達のギルドはあいも変わらず呑気なもんだ。

 

「ほれほれ〜街の人たちはどんどん逃げな逃げな!!ナナカちゃんの杖が火を吹くぜぇ〜!!」

「ナナカ、あんまり無茶な魔法はよしてくれよ?ここは街中なんだから」

「いやぁルカ姉、こういう時しか街中でブッパできないんですぞ!やっちゃうよ、やっちゃうよ!?火力!暴力!!総合力!!アッハッハッハッハ!!」

 

あぁもう、ナナカのせいで街がめちゃくちゃだ…

 

「流石はナナカだ!私も真似をして…」

「アンナは真似しなくていいよ、ほらさっさと民間人を助けてあげな」

 

うちのギルドはコレでいいのかねぇ…まぁらしいと言えばらしいけど。

 

 

「皆さん構えてください!四方から魔物の軍団が襲ってきますよ!!」

 

既にラジニカーントは複数の魔物を相手取っている、複腕で殴り飛ばし、私達に近づけないようにしている。

 

「…退路は…無さそうだな」

 

私はチラリと周りを見渡すがラジニカーントの言った通り四方を固められている、脱出するのはかなり厳しいだろう。

 

「うう…シノブゥ…俺ともあろうものが…娘のお前を守れないなんて…情けねぇ…!」

「はぁ…はぁ…大…丈夫…だよ、お父、さん…」

「コレ、あまり喋るでないシノブ傷口が開いてしまう…アカリ、なんとかならんのか?」

「うん…あまり回復魔法得意じゃないから…これが限界かも…」

「あわわわ…どうしよう、魔物がいっぱい寄ってきてる…このままじゃ…!」

 

心配なのは彼女達だな、戦力の要であるイリヤとシノブの2人が重症ではこの状況を突破するのは不可能に近い。

 

「さてと、高みの見物でも洒落込もうかしら、貴方達さえつぶれてくれれば私に楯突く人間はいなくなる…無駄な魔力と体力を使わずに効率的に私は栄養補給できる、なんて素晴らしいのかしら」

 

奴はフワリと浮かび上がり半壊した建物の屋根の上に座りこちらを見下す。

 

「くっ…覇瞳皇帝(カイザーインサイト)…!ズルイですよ!さっさと降りてきて戦ってください!!」

「いやよ、ここから眺めてる方が楽しいもの」

 

このままでは私達は数の暴力に圧倒され敗北するだろう、このままならな。

 

『バンバンクリティカァルフィニィッシュ!!』

 

ドンッという炸裂音と激しいエフェクトを出しながら1つの弾丸がこちらに向かって飛んでくる、それは複数の魔物を纏めて吹き飛ばし爆散させる。

 

「おっしゃあ!!中々いいんじゃねぇの!!」

「ほえ〜結構すごいなその武器…アタシにも欲しいくらいだ」

「ほう、やるなダイゴの坊や、初めて使うおもちゃにしては使いこなしてるじゃないか」

「ったりめぇよっと…まっ、もうこいつは必要ねぇな、ほれガキンチョ、お前に渡す」

「が、ガキンチョではありません、わたくしはコッコロです、いい加減覚えてくださいまし」

 

ダイゴはマグナムをコッコロに投げ渡し、両手につけられたガントレット状の武器を打ち鳴らす、そして一気に前進し両腕を振り回し残る魔物を殴り飛ばしていく。

 

「…お友達の到着のようね」

「みなさん!良いタイミングで来てくれました!」

 

私は魔物と戦いつつ、こちらに寄ってくるコッコロと合流する。

 

「コッコロ、あそこに瀕死の少女がいる、君の力で急いで回復をしてくれ」

「承知しました主さま」

 

コッコロはすぐに行動に移す、槍を手に魔物をなぎ倒しながら悪魔偽軍団(ディアボロス)の面々の場所へ向かっていく。

 

「主さまの命により回復魔法を施させてもらいます、怪我人をこちらへ」

「あ、ありがとうコッコロ…本当に助かったわ…!」

「シノブの怪我を治している間はわらわが…ぐぅ…っ」

 

立ち上がり、斧を振りかぶろうとしたイリヤは片膝をつく。

 

「い、イリヤさんも重症なんだからコッコロちゃんに治してもらわなきゃ駄目だよぉ」

「安心するの…みんなの事は…ミヤコが守るの…!!」

「み、ミヤコ…!?」

「ぐぬぬぬぬ…ハイパーポルターガイスト!!なのぉ!!!!」

 

ゴゴゴゴゴ…ととてつもない霊気が発生する、霊感などない私でさえもピリピリとした何か気配のようなものを肌で感じ、その直後、彼女の周りの物が浮かび上がる。

 

物なんてチャチな物ではない、建造物…半壊した建物でさえ浮いている。

 

「へぇ…驚いたわ、私に生命力をあれだけ取られたっていうのに、あの子まだあんな力があるなんて…それとも黎斗君の力のおかげなのかしら」

「…まとめてぶっ飛ばすのぉぉ!!!!」

 

建造物をぶん投げて魔物達を撃破していくミヤコ、これならばあちらを心配する必要はない、自分の事に集中できる。

 

「この程度の魔物でアタシ達を止められると思ってるのか真那!」

「言ってくれるじゃない、勘違いしてるようだけど、貴方達は合流したんじゃない、私がさせたのよ?」

「なに?」

 

千里真那はニヤニヤと笑いながらムイミに向かって話を続ける。

 

「貴方達は貴重なレア物の栄養、それを一網打尽にした方がいいでしょ?だからここに来るように私が仕向けたの、気づかなかったの?それにこの程度とは言うけど後どれだけ貴方達の体力が持つか…見ものだわぁ」

「…確かに…戦いは数かもしれない、だったら…!アタシ達も数で勝負だ!!」

 

その時、不意にクリスティーナ達が来た方向の魔物達が吹き飛ばされる。

 

「おらぁ!!どこ行きやがった!クリスティーナ!!まだ話は終わってねぇ!!!」

「ちょっマコト、今はそんな状況じゃないさ〜周りを見るよ〜」

「そうだよマコト、どう考えてもこんなの異常にゃ、冷静に物事を考えるべきにゃ」

「さっすがタマ姉!かっこいい〜!!」

 

アレは…マコト、カオリ、タマキにヒヨリ…獣人祭りだな、それにそれだけじゃない。

 

「だけど、なんとなく話が見えてきたね、この状況…あの屋根にいる女…アイツからはとてつもない邪気を感じる、この状況を生み出しているのはアイツで間違いない」

「…この魔物達を操ってるって事なんだよね」

 

レイにユイ…この2人もいるようだ、意外と心強いメンツが揃ったな。

 

まさかムイミが頭を使って彼女達を誘導してくるとは、やるじゃないか。

 

「…貴方…草野結衣…ちゃん…」

 

ここで反応を示したのは意外にも千里真那だった、聞こえてきた草野結衣…ユイの現実世界での本名か。

 

「えっ…貴方も私をクサノユイって呼ぶの…?貴方は何か知っているんですか?」

「…ええ、知っているわ、とても…凄く…ね」

「ユイ!今はそうしている暇はなさそうだ!魔物が来る!!」

 

レイの言葉通り、魔物達の動きが活発になる、千里真那は確実にここで私達の息の根を止めようとしているようだな。

 

「ふっふっふっふ…よくぞやったぞコッコロよ、褒めてやろう、シノブ…動けるか?」

「ええ、勿論です…先程よりも力が湧いてくるようですよ」

「おおおぉ!!シノブゥ!元気になってくれてパパは嬉しいぞぉ!!」

 

どうやらあちらも戦線復帰したようだな、ならば良し。

 

「全員背中を預けろ!!この魔物達を駆逐する!今までの啀み合いなども全て今は水に流せ!!」

 

私の言葉に反応を示したのは勿論マコトだ。

 

「っ…くそ…確かにこんな状況じゃ……しゃーねぇよな。おい、クリスティーナ」

「なんだ小娘」

「今は休戦してやる、だから背中を貸せ」

「…ほう?もっと可愛げのある頼み込みをして見たらどうだぁ?ほれ、ワンワン♪」

「後で覚えてろよ…この…おばさん!!!」

「誰がおばさんだこの犬ころが!!!」

 

そう言いながらも2人は背中を預け、互いに背面の魔物を撃破していく。

 

「よっしゃあ!!ドンドン来やがれってんだ!!」

「…なんでしょう、下劣な暴力の筈なのに、凄く心地よい…以前の私はそう言った人格の持ち主だったのでしょうか」

 

ダイゴは乱打で魔物を撲殺し、ラジニカーントは空間跳躍による瞬間移動と複腕による殴打の併用で広範囲の魔物を一瞬で撃破していく。

 

「あん?んなもん関係ねぇよ、前の旦那と今の旦那…変わらずに旦那は旦那だ、俺のダチだぜ」

「お!そこのおっきな人!良いこと言ったね!!私も友達を守るために戦ってるんだ!友達も友達の友達もそのまた友達も!みーんな守るんだ!!」

 

ヒヨリもまたダイゴと同じくステゴロだ、蹴りや拳で魔物を粉砕し突き進んでいく。

 

「ったく、1人で突っ込んでんじゃねぇよガキ」

「ガキじゃなくてヒヨリだよ、ダイコンさん」

「ダイコンじゃねぇよ!お前は良い加減名前覚えろ!!…って俺お前に名前名乗ったか?」

「あれ?そういえば…というか良い加減にって私達初対面だよね?」

 

記憶の混流か…?彼女達は以前…前世ともいうべきか、そこで知り合ったことがあるらしいな。

 

「皆で力を合わせる、確かに素晴らしい物だ、1人では無理でも2人…3人…人が増えればそれだけ突破口が開ける、私達はそういった心の絆を信じたい、そうだろうユイ」

「うん、勿論だよ!ここにいる人達はみんな…きっと黎斗君との繋がりでできた物…」

「そうですね、それが貴方達の強み、1人1人は劣っていてもそれらが合わさった時、奇跡の力を生み出す…私たちを打ち破った時もそうでしたからね」

 

ネネカ…いつの間にこの場に……見れば隣でぜぇはぁ言っているマサキ、成る程今まさに辿り着いたといったところか。

 

「うわぁ!?き、君…いつの間に…」

「はい、私はいつでもそばにいますよ、私はネネカ、ふふ、今は手を取り合って協力しましょう、マサキ…私のプリンセスナイトなのですから頑張りなさい」

 

ネネカの言葉と同時にマサキの体が光り輝く。

 

「おお…!!ネネカさまの力が…愛が流れ込んでくる!!!」

「…気持ちの悪い表現をしないでください」

 

マサキは手に持ってた剣を掲げた後、近寄る魔物を剣で差し込み、引き抜く。すると何か剣先から糸のような煙のような白いモヤが吹き出し。

 

次々と他の魔物達にも同様に突き刺しと引き抜きをする、そして。

 

「これで十分だ」

 

ドンッ!眩い閃光と共に突き刺された魔物達が一瞬で合体を起こす、これが…マサキの力か…!

 

「行け!!我が生み出した生命よ!!」

 

マサキの声と同時に生み出されたキマイラが他の魔物を撃破していく。

 

「さて、少しくらいは私も手伝わなければ、あの黎斗にどやされてしまいますね」

 

ポフっという効果音がつきそうな感じで彼女は自身が生み出した半透明のソファに優雅に座り込み膝を組む、先程の発言とは裏腹に妙にリラックス体勢で腹立たしい。

 

「…ワンダフルコピー」

 

その状態でコンと軽く地面を杖で小突く、ただそれだけだった、石畳の地面の1つ1つが隆起し、変化していく。

 

それはまるで戦国時代の火縄銃のような見た目をした武器に変わっていた、彼女は一瞬で数百もの銃を生み出したのだ。

 

彼女の前方に浮かぶ数百の銃、狙いを定め、彼女は退屈そうにソファに座りながら頬杖をつき。

 

「さて…こういう時はなんて言うんでしたっけ……ああ、そうですね。日本式の銃ですが言わせてもらいましょうか、ファイア」

 

一斉射撃、引き金は引かれた。火縄銃は1発ずつしか撃てない、しかしこれ程の数ならばそんなものは関係ない、圧倒的火力で圧倒的な数の魔物を瞬時に撃破する。

 

…やはり彼女も七冠(セブンクラウンズ)の1人…とてつもない力を保有しているな。

 

「黎斗、何ボサッとしてるにゃ!今は戦うことに集中にゃ!」

「…ああ、タマキも協力に感謝するよ」

「まぁ、こう言う時だからこそ助け合いってやつにゃ、アタシも義賊を名乗ってるくらいだから、みんなの平和はアタシが守るにゃ」

 

ふむ、中々耐えれているな、最悪の状況に変わりはないがこれならば活路を見出す事は可能だろう、しかしそれを奴が許すとは思えないが…

 

「えっと…ユイちゃん!お久しぶりです!すこしお願いがあるんですけど、いまだに目覚めないわたしのお友達がいるんです!ユイちゃんの力でなんとかなりませんか!?」

「えっと…ペコリーヌちゃんって言うんでしたっけ?久しぶり、とそうじゃなかった、目を覚まさない…ってまたこの子気絶してる!?」

 

ペコリーヌとユイは眠ったまま放置されていたキャルに近づきつつそんなことを話している、ちなみにキャルは私がここにくる前にコッコロに渡しておいた。

 

「とにかくやってみるね……うん大丈夫、ただ寝ているような状態なだけ…むむむ、えい」

 

ユイが何かの魔法を唱えると淡い光がキャルを包み、キャルが目を覚ます。

 

「ん…んん?あれ…」

「わーい!キャルちゃんが目を覚ましました!キャルちゃーん!」

「うわっ!?ペコリーヌ!!?抱きつくな!苦しいっての…!」

 

ペコリーヌがキャルに飛びついているが…この状況ではやめて欲しいものだ。

 

「ペコリーヌ、再会を喜んでいる場合ではない、未だに敵の数は多い、キャル、君も万全ではないだろうができればすぐに戦線に加わってほしい」

「…えっと…黎斗…みんなごめん…迷惑かけて…あたしにできることがあるならなんでもするわ、がんばる」

 

よし、着実に戦力が強化されている、ここを突破し千里真那を削除する。

 

(…キャルまで目を覚ましたようね、それに魔物の数が合わないわ、本来ならもっとここに集結していてもおかしくない、腑抜けた王宮騎士団(ナイトメア)の兵士共だけじゃ対処できないはず…まさか)

「どうした、千里真那…想定外なことがあったような顔をしているぞ?」

 

私が何かを考えている千里真那に向かって言い放つ。

 

(…やっぱり黎斗君の仕業ね、大方こんな状況になる事を想定して手を回しておいたって所かしら…多分相当手練れのギルドに声をかけてるわね…となると、少し予定を変えた方がいいかしら1人ずつ処理をしましょう)

 

奴が動く、立ち上がりこの場から離脱するように離れていく。

 

「…っ!!奴が逃げます!!逃しません!!」

「ペコリーヌ!!わかっているな!!」

「はい!これは罠です、でも…逃しません!!絶対!」

 

前回、キャルにしてやられた事もあるペコリーヌはその反省をしている、ならば。

 

「ムイミ!」

「へ?な、なんだ!?」

 

何やらユイと話をしていたムイミを呼び。

 

「ペコリーヌは千里真那を追う、出来るだけ退避が出来る様、ラジニカーントと共に退路の確保をしていてくれ」

「全く、無茶な注文してくれる…この状況でもいっぱいいっぱいなのに…!でもやるぞ!!アタシとしても真那をここから逃すつもりはない!!」

 

ペコリーヌとムイミそしてラジニカーントは千里真那を追っていく、その時だった。

 

「ちょっと良いかしらキャル!それに黎斗!!」

 

声が聞こえた、この声は

 

「君は…ネビア、どうやって外に?」

 

私達のギルドハウスに居座る妖精、ネビアだ。本来なら外に出る事はできないと言っていたが…

 

「フィオ…アメスになんとかしてもらって一時的に出してもらってるのよ、とにかくキャル、あんた夢の中の事どれだけ覚えてる?」

「夢…?えーと…黎斗達に謝って…それで変な女が来て…なんか言われて…」

「やっぱ微妙に覚えてないのね、かなり重要な事だからあたしが教えてあげるわ!感謝しなさい!特別よ!」

「…とにかくこの乱戦の場所でも話はできる、簡潔に話せ」

 

私は周囲の魔物を撃退しながらネビアに訊ねるもネビアがすこし困った声色で。

 

「いやまぁ、話すのは確かに出来るんだけど、ちょっと問題があってね、黎斗とキャルだけでも良いからこの場を離脱できない?」

 

…この状況で離脱か…

 

「大丈夫だよ黎斗君、私達だけでもなんとかなるよ」

「そうだね、あまり舐めないで欲しい、私たちを信じて黎斗」

 

ユイとレイが私達にそう言う、ならば仕方がない。

 

「ネビア、あまり時間はかけられない、頼むぞ」

「分かったわ、コッコロも付いて来なさい、一応美食殿の問題なんだから」

 

ネビアの言葉が何か引っかかるがとにかく私とキャルそしてコッコロはこの場から離脱し少し離れた場所に移動。

 

幸い魔物達はあの場に集結しているからかこの場には見当たらない。

 

「それで、私とキャルに何がある」

「んじゃまぁ、簡潔に話すわ、キャルには今、『晶』に託された黎斗の力がある、それをアンタに渡すって話よ」

 

…キャルが目覚めなかったのは晶との接触があったからか。

 

「そんでもって力の受け取りの儀式、儀式って言うと色々とあるんだけどその中でも比較的オーソドックスな形式を今回は取るわ、簡単に言えば…キスよ」

「ファッ!?き、キスぅ!?こ、ここここいつと!?」

「成る程、ならさっさと済まそう、単独で突っ込んだペコリーヌに保険をかけているとは言え危険な状態にあるのは変わりない」

「なんであんたは平然としてるのよ!?」

 

所詮は唇と唇の皮膚接触に過ぎない、そんな事で一々騒いでいたら面倒なだけだろう。

 

「むぅ…しかし…そうですよね、ここであまり時間をかけてはいられません、断腸の思いですがキャルさま限定でほんのちょっぴり、一瞬だけならキスをしても構いません……はぁ、変わってあげられるのならわたくしが変わって差し上げたいのですが…」

「こ、コロ助もコロ助でおかしいわよ…というかそれって口にしなきゃダメなわけ?」

 

キャルが最もらしい質問をする。

 

「いや、そんな事ないわよ?ああ、出来れば顔の方がいいけど、顔なら別にどこだっていいわ」

「なら最初から言いなさいよね!!?……はぁ、大丈夫、口よりはやり易いわ…」

「よし!覚悟決まったんならさっさとブチューとやっちゃいなさい!あんた達に世界の命運が掛かってるんだから!!」

「うう…黎斗…なんかごめん、コロ助にも悪いし…」

 

珍しく彼女が素直に謝る、さっさとこの状況を片付けなければならない、私は無言で彼女方に向く。

 

「よし…覚悟決めたわ、行くわよ」

 

彼女が両眼を閉じて背伸びをしながら私の顔に近づいてくる。

 

「ほれ、キース!キース!キース!キース…ぶへぇ!?」

 

私の背後で飛び回り煽っているネビアを裏拳で吹き飛ばしキャルの意識を乱さないようにする。

 

「なんと…ネビアさま、ご無事ですか?」

「あ…あんにゃろ…本気で殴りやがったわね……」

 

そして

 

 

 




次回、ようやく覇瞳皇帝と戦える…かも?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

躍るマリオネット

千里真那攻略クエスト開始。


 

「お嬢様、ここからどこへ避難しましょう…まだまだ魔物もいますし…」

「そうね…子供達をあたし達だけで守り切るのは中々難しいわ」

 

ギルド、ヴァイスフリューゲルの2人が魔物達を撃退して道を切り開いてくれてるけど、避難先を考えていなかったわ、どうしよう…このままじゃ体力を無駄に使ってすり減っちゃうわ。

 

「えと、私に考えがあります、少しいいですか?」

 

そう聞いてきたのは…確かキョウカちゃんだっけ?

 

「考え?」

「黎斗さんにもし大人の人と合流できたらここへ向かうよう前から指示されていたんです」

「ここって。エリザベスパーク?…それに前から指示って…アイツ…どこまで見越してるのかしら…」

 

とにかく向かうべき場所が決まったわ、早速行動を開始しましょう。

 

 

「イオちゃん!これで他の生徒の避難は完了したわよ!」

「良くできましたミサキちゃん、それにしても…」

「黎斗っちの指示ではここでアタシ達は待機しとけって言ってたけどなんでなんだろね?」

「く、クウカ達もここで待機してろと指示がありまして…」

 

と、僕のギルド仲間であるクウカさん、そして今日も可愛い僕ユキがこの場をお借りして話させてもらうよ。

 

僕達、ヴァイスフリューゲルは黎斗さんの指示で各々別々の場所で待機、街から避難してくる人々を誘導しつつ魔物を退治してる訳だけど、ぶっちゃけなんで待機させられてるのかは分からないんだよね。

 

「何かしらの事があるのでしょうが、黎斗さんはいつも教えてくれませんね」

「まぁ、あの人はいつもそうだし、僕はこの鏡さえあればあとはのんびりしててもいいんだけどね」

「い、いや…戦ってくださいよユキさん…」

 

他にもルーセント学院っていうところの生徒さん?多分黎斗さんの知り合いの人達も僕たちのお手伝いをしてくれてる、彼女達も黎斗さんの指示でここにいるみたいだし…

 

「なぁんか嫌な予感がするんだよねぇ…」

 

 

「はぁぁ!!!」

「…惜しいわね、貴方の攻撃は私には届かない」

 

覇瞳皇帝(カイザーインサイト)…!どうして攻撃が届かないの…!!

 

これが予知能力、完全にこちらの動きを見切られている、まともに戦ってくれもしない、多分こっちの『王家の装備』の特性を知っているから。

 

「ふぅ、何か企んでいるかと思ったけどただひたすらに攻撃してくるだけ…貴方なんて簡単に仲間と分断できちゃうのよ?」

「知ってますよ…それでも…わたしは貴方を逃しません!」

「威勢がいいわね…まぁいいわ、予定通り、貴方から始末してあげる」

 

そう言って奴は…

 

「な…なにを…っ」

「何をって…食事よ?貴方の大好きな、お・食・事」

 

奴は周り散らばっていた死体を、物体を浮遊させる魔法でかき集め、そこから何か魂のような…エネルギーとも呼べるそれらを口に運んでいく。

 

「あー…本当に下賤な味ね、まぁ貴方を仕留めるには十分かしら」

「…許しませんよ、民を…そんな…事に使うなんて」

「あら?貴方だっていつもやってる事じゃない、生き物を殺し、それを食べる、貴方がやっている事は良くて私はダメなのかしら?」

「違いますよ!!貴方のやってる事は生き物に対する侮辱…!!感謝のかけらもありません!!」

 

わたしの言葉に心底うんざりしたような声色で。

 

「感謝…?逆よ、神である私に食される、相手がこの私に感謝をするべきだわ」

「…ふざけないでください…本当に」

 

王家の装備をフル稼働させて、奴に詰め寄る、剣を横薙ぎに振るい奴の首を…

 

「残念だけど、貴方程度では私には勝つ事なんて出来ないわよ」

「っ…」

 

目のような物体に攻撃が受け止められる、それだけじゃない、すぐにその目から激しい閃光が放たれる、私は全ての攻撃を回避に徹する事でギリギリで躱していく。

 

奴自身は動いてさえいない、余裕の態度でこっちを圧倒する、王家の装備の出力でさえ奴の攻撃を見切るのは完璧に難しい。

 

「…プリンセス…ストライク!!!」

 

無理な体勢から放つプリンセスストライク、飛ぶ斬撃は一直線に奴に向かっていく。

 

「…ふふ」

 

奴はデコピンをするかのように私の一撃を中指1つで弾き飛ばし、そこから人差し指でこっちに向かって細いビームを放つ。

 

「あうっ!?」

 

わたしの右肩を貫く、わたしは王家の装備のおかげで致命的な一撃にこそならなかったけど反動で大きく吹き飛ばされる。

 

諦めない…!!わたしはすぐに立ち上がって足に力を入れ加速、すぐに奴の間合いに入り込む。

 

「相変わらず猪みたいなお姫様ね、ただただ猪突猛進…私が王女にならず貴方が王女のままでもこの国は滅んでいたんじゃないかしら?」

「黙ってください!!!」

 

様々な角度から目のような物体により細く速いビームが撃ち込まれる、それを避けながらも奴に攻撃を加えなければならない、それでも奴は予知能力で躱してくる…どうしたら…!

 

「ほらほら、どうしたの?隙だらけよ?」

「あうっ!?」

 

真後ろからビーム…っ…!!背後にいつの間にか目が…っ!!

 

背後からのビームは私の左胸付近を貫いた、肉が焼ける匂い、王家の装備がなかったら多分体に穴が空いてる程の威力。

 

そこからは連続だった、痛みに足を止めたが最後、奴の連続攻撃を止める術はない。

 

「くぅ…!!!!」

 

なんとか足を動かしてみるけど全然避けられない、全身をビームが焼いていく。

 

「はい、これで詰みよお姫様。笑っちゃうくらい楽だわ、でも安心しなさい、貴方を食べて他のお仲間も一緒に私のお腹の中に入れてあげる」

「…はぁ…はぁ…くっ…覇瞳…皇…帝(カイザー…イン…サイト)…!!」

 

ああ…なんでここで思い出してしまうんでしょう…

 

走馬灯のように流れてくる記憶、楽しかった記憶…何より…黎斗くんの顔…

 

貴方の存在が…わたしに勇気をくれた。

 

いつもいつも…ふざけて好きって言ってるけど…今なら分かる…わたしは貴方が好き…大好き…

 

こんな絶望的な状況で分かるなんてなぁ…ううん絶望的な状況だからこそ理解できちゃったのかもしれない。

 

ああ…そういえば初めての恋って確か叶わないんだっけ……

 

奴が攻撃の準備を整え終わり、奴の前に目のような物体が集結、奴の前に円を作るように組み合わさりドーナツ状になると空いた空間にエネルギーが集中、そして

 

「終わりよ、お姫様」

 

放たれる巨大なビームはわたしを………

 

黎斗くん…っ!!

 

『デス・ザ・クライシス!デンジャラスゾンビィ!!辿り着いた世〜界!神々〜のレガシー!!』

 

ドンッと目の前に閃光が炸裂する、何が起きたのか分からなかった。

 

「そのまま伏せてなさいよペコリーヌ!!グリムバースト!!!」

 

更に聞いたことのある声と同時に攻撃魔法が奴に向かって迫っていく、奴は鬱陶しそうにそれをなぎ払う…これって…

 

「…無事だったようだな、ペコリーヌ。間に合ってよかったよ」

「黎斗…くん…っ!!」

 

わたしの目の前に…漆黒と純白を兼ね備えた…わたしの…わたしだけの…騎士がそこにはいてくれた。

 

 

「…キャル…貴方、今何をしたのか分かっているの?」

「ひっ…!!えと…その、これは…ペコリーヌに借りを作っておこうと…」

「うちのキャルに脅しをかけるのはやめてもらおうか、キャルは既にお前のものではない」

「黎斗…(うっ…今はアイツの顔見れない…さっきの事思い出してきちゃったし…っ//)」

 

私はガシャコンソードを奴に向ける。私の装備は今デンジャラスゾンビレガシーゲーマー、レベルはEX(エクストラ)だ。

 

まさか奴が…晶がキャルに持たせた物がこのガシャットだとは思わなかった…いや、奴の事だ、この世界にマッチしたものを選出したのだろう。

 

皮肉なものだ、レガシーゲーマー…姫を救う事ができず闇に落ち魔王となった勇者がその両方の力を得て再び挫折から立ち上がるゲーム。

 

それがお姫様の危機に間に合ってしまうのだからな、鏡先生が知ったらなんと言われるか。

 

「とにかく、ペコリーヌはコッコロ達と共に下がれ、ここは私がやる」

 

私はサンクチュアリマントを靡かせるとペコリーヌの傷がどんどん癒されていく、ゲームの世界ならでは、ゲームライダーでなくとも治療が可能だ。

 

一瞬で傷が治り驚きを隠せないペコリーヌ、私はそれに対し

 

「後はコレを」

「これは……鯛焼きですか?」

「タマキからの差し入れだ、たんと食え」

 

6個ほどペコリーヌに鯛焼きを渡すとペコリーヌは笑顔で頬張る、一瞬で無くなるとは改めて思う、凄まじい食欲だ。

 

「黎斗くん…でも1人では…」

「何、安心しろ、私は1人ではない、それに君達にはやってほしいことがあるからな」

「やって…欲しい事…?」

 

奴が動く、浮遊していた奴は地面に着地すると

 

「よく間に合ったわね、黎斗君…ここまでの道のりは魔物で埋め尽くしておいた筈だけど」

「ムイミとラジニカーントに道はあらかじめ作ってもらっていたからな、当然間に合うさ」

 

次の瞬間、奴に向かって連続で弾丸が撃ち込まれる、それは勿論防がれるが忌々しそうに奴は睨みを効かす。

 

「…ネネカ…いや…変貌大妃(メタモルレグナント)…!!」

「お久しぶりですね、真那」

「まさか貴方達が手を組むなんて、前世では考えられない光景だわ」

「ええ、私もつくづくそう思いますよ…しかし、私も今のこの状況は面白くありませんから、彼等につきます」

 

ネネカは分身体を召喚しペコリーヌ達を導く。

 

「詳細はその分身体のネネカに聞け、とにかく私を信じろペコリーヌ」

「黎斗くん……分かりました…わたし、頑張ります、そして覇瞳皇帝(カイザーインサイト)を必ず倒します!!」

「…ああ、頼んだぞ」

 

ペコリーヌ、コッコロ、キャルは離脱した。残るは私とネネカのみ、周りには複数の魔物がこちらを見据えている。

 

私とネネカは背中合わせとなりつつ。

 

「ふふ、どうです?黎斗、私の専属の騎士になってみるというのは、貴方の見た目も素晴らしく騎士らしいですし」

「君にはマサキがいるだろう、私の枠はない筈だ、丁重にお断りさせてもらう」

 

軽口を交えつつ、迫る魔物達を一瞬で撃破する、簡単だ、私は剣撃でネネカは生み出した巨大な剣で一薙ぎだ。

 

「さて、相手はあの真那です、気を引き締めていきましょう」

「なに、別に今は勝つ必要がない、時間を稼げばいいのだからな」

「…時間を稼ぐ?私相手にそれができると思っているのかしら!!」

 

奴が放つ複数のビーム、それを私はガシャコンソードで薙ぎ払い消し飛ばす。

 

「…出来るさ、何故ならば私は君以上に神の才能があるのだからな」

「…戯言…っ…!?」

 

私はサンクチュアリマントの効果で光の粒子を生み出しそれを剣の形状に変化、それを複数生成し数多の目のような物体に当てる事で破壊する。

 

「どうした、今のは攻撃は分からなかったのか?予知能力が乱れているんじゃないのかぁ?」

「…貴方…まさか…」

 

私の言葉に近くにいたネネカが不適に笑う。

 

「真那、貴方が相手にしているのは貴方にも届きうる才能を持つ人間だという事をお忘れなのですか?」

 

ネネカはそう言いながら自身の体を変化させる、それはガシャコンソードだった。

 

まさか私がこの武器で二刀流をする日が来るとは思いもしなかった。

 

だがお陰で戦いやすい限りだ、私は接近し連続で攻撃を仕掛ける、ただし全て読まれ攻撃を回避される、奴の目のような物体もまだ残っている、しかし

 

私の生み出す光の剣がそれを許さない、追撃も迎撃もさせない。

 

数分の間、私たちの攻防は続いた、その際明らかに千里真那の動きが鈍くなっている…これは私の推測はビンゴだな。

 

「…私の『覇瞳天星』が…乱れている…?」

「覇瞳天星か…面白いネーミングだ、だが私は既にその答えに辿り着いている」

「…何ですって…っ!?」

 

私の攻撃が当たる、奴は咄嗟に魔法障壁によるガードをおこなったものの弾かれ後退する。

 

「っ…黎斗君…っ!!貴方って人は…っ」

「以前から気になっていた、お前の予知能力…お前が天才ゲームクリエイターだとしてどうやって予知を実現させているのか。それはデータだ、この場にいる魔物や人々の『目』から映し出された膨大なデータを元にあらゆる確率や可能性を導き出し、相手の動きを瞬時に予測する」

 

ならば答えは簡単だ、その目を潰せばいい。

 

覇瞳皇帝(カイザーインサイト)とはよく言ったものだな、お前の目は今まさに1つずつ潰されている、即ちお前の予測はもうできなくなるぞ」

「…成る程、さっきお姫様達を後退させたのもその為…でも貴方、この街に何体の魔物がいると思ってるの?それを全て倒せるとでも?」

「倒せるさ、私を誰だと思っている」

 

私の自身に奴の顔が怒りに歪む。

 

「勘違いしないでもらえる?覇瞳天星は確かに周りに目があればある程その効力も増す…でもね、なにも魔物だけの目が頼りなんかじゃな…」

「そんな事は百も承知だ、以前の戦いではあの場にお前の他には私とキャルしか居なかった、即ちそれは私達からの目でも予知する事は可能なのだろう?」

「…」

 

だが

 

「それがどうした?数が減ればそれだけ支障が出る、予知にもランダム性が生まれる、その隙を突けばいいだけの話、何回だろうと何百回だろうと失敗しようが私は成功するまで攻撃を止めるつもりはない」

「…貴方と私は相入れないわね、同じ天才でも考え方がまるで違う」

「ふん、お前のように『失敗を恐れて必ず成功する』という手段をとった時点で私とお前とでは天と地ほどの才能の差がある」

 

完璧に未来を予測するというのはそういう事だ、失敗を恐れ、成功する未来にしか手を伸ばさない。

 

それのなにが面白い、失敗もまた教訓となりそして力となる、それこそがゲーム作りに活かされるというのに、根本的にコイツと私とでは違う、だから気に入らない。

 

「…言ってくれるじゃない、この…クソ野郎がぁぁぁ!!!!」

「クソではなぁい…私こそが…神だァァァァァ!!!」

「大技が来ますよ黎斗、私も手伝います………んっ」

 

『ガシャット!キメワザ!デンジャラスクリティカァルフィニィッシュ!』

『タドルクリティカァル!フィニィッシュ!!』

 

ネネカがソードに変身したままで腕だけを変身解除して伸ばし私のゲーマドライバーに挿入されたガシャットを2つ引き抜き、それを両方のソードのキメワザスロットに挿入。

 

その際、自身が変身したソードに挿入した際に何やら卑猥な声が聞こえたが一体、体のどこに挿さったのか少し疑問に思い興味が湧いた。しかし今はそれよりも奴に攻撃を加える事を優先する。

 

怒り心頭の奴は巨大な光線を放つ、それを私は二刀のソードのキメワザで真正面から撃ち向かう。

 

相殺、確実に私のレベルは上がっている、今の奴の攻撃でも対処可能。これに関しては晶に感謝をしなければな、タドルレガシーは今の私にとって最も必要なガシャットだった。

 

(っ…どうなっているの…!?明らかに魔物達の減りが想定よりも早い…黎斗君が用意した人数は一体…っ!)

「既に王宮騎士団(ナイトメア)の洗脳も解けている今、この街に残る人間は皆全て私の配下だと思え」

「っ……私の予知能力を潰す事も全て想定済みだったというの…!?」

「当たり前だ、私は『王宮攻略』の作戦には加わっていないが『千里真那攻略』の作戦を考えたのはこの私だ」

 

恐らく千里真那も王宮攻略作戦自体は私も絡んでくると推測し、私に対する策も講じていただろう。

 

しかし見誤った、千里真那は自身が企てた策に絶対的自信を持っていた、だからこそ私がその全てを打ち砕く。

 

奴の手札を真正面から全て奪い去る、その為に私はこの2週間…いやそれ以前から対策を考えていた。

 

「後何枚手札はある?2枚か?3枚か?いずれにせよ私はお前の思惑を全て超えていく」

「やれるものならやってみなさい!!例えどんなに策を講じてようが…貴方は私に敵わない!!」

 

…光線魔法の連発、なりふり構っていられなくなってきたようだな。今の私がそれに当たる筈がない、それだけじゃない変身したネネカが自動的に動き攻撃を弾いている事も大きい。

 

「そんなに無駄な魔力の使い方をしていいのか?省エネ…お前はそう言った筈だが随分と余裕そうじゃないか」

「…ふん、私はね慎重なのよ、こういった時の為の…」

「お前が何故、生命エネルギーを必要とするのか」

 

私は千里真那の言葉を遮り話す。

 

「おかしいとは思わないか?絶対的力があり、無尽蔵にも思える魔力の使い方をするお前が、省エネだとか生命エネルギーによる補給が必要だとか、側から見れば万全ではないお前が元に戻る為に必要な物だと考えるだろう、しかしそれは違う」

 

私は続ける。

 

「お前自身の魔力は人並みだ、それを他から吸収する事で無限に思える魔力を手に入れる、その手段の1つが生命エネルギー、そして…」

 

私は4つの光の剣を生み出し千里真那に撃ち込む、勿論回避されるが重要なのはそこではない。

 

「4つ…このランドソル付近に強大なマナ反応を示す地域があった」

「…っ…!!」

「それはランドソルを囲むように四方に分かれていてね、以前から少しおかしいと思っていたよ…この情報を提供してくれたのは私の知り合いさ」

 

私の知り合い…ギルド『フォレスティエ』や『悪魔偽王国軍(ディアボロス)』など様々なギルドが地域の異変を察知し私に伝えてくれた、これにより私は気づけた、この異常性に。

 

「4つの場所はそれぞれ独立しているようで調べてみれば地脈によって繋がっていた、その地脈の中心となる場所…それが王宮だった。以前のお前はそこから魔力を供給していた」

 

そして極め付けは

 

「お前は生命エネルギーの補給が失敗した時の保険としてその4つの地点から魔力供給を担う…恐らく魔物か何かをこちらに派遣してくると私は考えた」

「…まさか…っ!!」

「既にそちらは私が手を回している」

 

 

「のーほっほっほっほ!行きなさい!タマキさん!!」

「もうどうにでもなれにゃー!!!」

 

ドンと凄まじい爆発を起こす飛空挺、飛び散る残骸、直撃したのは高さ30メートルはある巨大なゴーレム。

 

「あああっ…!!なんて事…飛空挺が…始末書が…」

「み、ミフユさん…はぁ…こうなったらヤケ飲みよぉ!!」

「いや、貴方達!お仲間の心配は!?」

 

両膝をつき項垂れるミフユと吹っ切れたのか笑っているユカリに対しツッコミを入れるトモ。

 

「ちょっとみんな!あたしの事を心配しろぉ!」

「いや〜なんとか間に合ってよかった〜きらーん⭐︎」

 

そんなタマキを空中で抱き抱え浮遊するハツネ、それに対し

 

「あら、生きてましたわ」

「酷いにゃ!!」

 

タマキはツッコミを入れざる得なかった。

 

 

「鬼ヤバかったね!」

「ま、あたし達にかかればこんなもんよ」

「い、いえ…クウカ達殆どなにもしてませんよ…」

 

ススナとミサキが和気藹々とする中そんな2人にツッコミを入れるクウカ。

 

その視線の先、ゴーレムの残骸の上に立つ2つの影。

 

「エリコちゃんこの残骸使えそうかしら?」

「ミツキさんがこれを使って何をしようとしているのか正直わかりたくないですわ…」

 

ミツキとエリコによりゴーレムは粉微塵に粉砕されていた。

 

「ああ!なんて僕は美しいんだ…!!」

「合流したのはいいデスが…やる事殆どありマセンでした…」

 

後から合流したニノンはユキの隣でしょげ

 

「はぁ〜い、皆さーん落ち着いて〜黎斗君から新しい指示が来るかもしれないから備えておいてくださいね〜」

 

そんな皆を纏めるイオだった。

 

 

「ひぃぃ…!!こ、怖い〜!!」

「落ち着いてアオイちゃん、ほらあの人達の事を最後までフォローしてあげてね」

「は、はい!そ、育て!!植物達っ!!」

 

アオイは地面に何を撒くと弓を放つ、それにミサトが魔法でエンチャントすると、弓が着弾したと同時にそこから巨大なツルが伸び始める、それはゴーレムまで一直線に伸び…

 

「よくやったよお嬢ちゃん!!ナナカ!アンナ!」

「了解ですぞ!ルカ姉!!」

「全力を出してやろうではないか!!アッハッハッハ!!」

 

ナナカとアンナは両サイドから魔法を放ちゴーレムを足止め、その間にルカはアオイが生み出した巨大なツルを走り登っていく。

 

「一刀両断だ!!!」

 

ゴーレムのコアを一太刀で両断、そのままゴーレムの背後に着地すると

 

「アンナたそ!早く早く!ルカ姉の隣に並んで!」

 

ナナカとアンナがルカを挟み、並び、そして

 

背後のゴーレムが爆発を起こすと同時に決めポーズを決める。

 

「…何やってんだい2人とも」

「いや、背後で爆発と言ったら決めポーズっしょルカ姉」

「そうだな、どうだ!今のポーズかっこ良かっただろ!?」

 

2人のノリについていけなくなるルカであった。

 

 

「よぉし!キョウカ!ミミ!!こっちにそいつを誘導して!」

「分かったよぉ〜」

「コスモブルーフラッシュ!!ゴーレムさん!こっちですよ!」

 

3人は巨大なゴーレムを誘導すると、ゴーレムが突如崩落した地面に足を取られ体制を崩す。

 

「今だ〜!!」

「クルミ!一緒に合わせて!ぷぅきち…フルスイ〜ング!!!!」

「うん!!えーい!!」

 

崩れたゴーレムの胴体に攻撃をすると一部分が崩壊しコア状の物体が露出する。

 

「よくやったよ子供達!大した奴らだ!!後はあたしに任せな!!!オラァァ!!」

「かやぴぃカッコいい…!!」

 

たまたまこの場に来ていた竜人のイノリとカヤ、イノリは口から炎を吐き出すとカヤがその炎に自分の腕を巻き込む事で炎を纏った拳によりコアが完全破壊されゴーレムの動きが停止する。

 

「私が見ないうちに…成長したわね…子供達…」

 

サレンは驚愕していた、巨大なゴーレムが出現したエリザベスパーク、他の者達の支援があったとはいえ子供達がゴーレムを撃破したからだ。

 

「凄いッス!みんなの力で巨悪を倒したッスよ!!」

「一時はどうなるかと思ったけんど、みんな!よくやったべな!パークのみんなもお疲れだべ!」

 

キョウカら子供達の元へと喜びを分かち合うために向かうマツリ、そしてエリザベスパークの皆に激励を送るマヒル。

 

「よくこの作戦思い付いたねキョウカ!まるで兄ちゃんみたいだったよ!」

「えへへ、これで私も黎斗さんに近づけたかな」

「うん、凄くお兄ちゃんみたいだったよキョウカちゃん」

 

 

「…っ…!!」

「その表情…どうやら供給源を全て破壊されたようだな、私の計画通りに」

「…っなっ…!?」

 

私の攻撃が奴の右肩を捉える、激しい火花を散らし、奴は大きく後退する。

 

「…ふっ…予知能力の方も大分乱れてきているな」

「…どうやって…流石に出来過ぎじゃないかしら…貴方が私と交戦している間に…こんな…っ」

「通信魔法だ」

 

私が素直に奴の疑問に答える、その言葉を聞いて奴は驚愕の表情を浮かべる。

 

「通信魔法…ですって…!?あり得ないわ、今このランドソルは私の影響で魔力が乱れている筈よ、そんな中で複数の地点を正確に…」

 

私は上空をソードで指し示す、奴はそれにつられ見上げるとハッとした表情をする。

 

「あれは…確か…アイドル…カルミナの…飛空挺…っまさか…っ」

 

 

「よし、ちゃんと通信できてる、えっとイオさんでしたっけ?皆さんはそこから街に入って魔物を討伐してください、その周辺にもかなりの数がいます」

「シズルさん、マサキさんが恐らく覇瞳天星の核を担う魔物を何体か撃破したそうです!そのまま戦闘を続行してください!チカさん!誘導お願いします!」

「はい、ではマサキさん、その場から数百メートル先に魔物を確認できます、そのまま直進してください。あ、プロデューサーは右に曲がってください」

 

 

「彼女達を中継する事でこのランドソル一帯の通信を担ってもらっている、よって魔力の乱れがあろうと正確に情報伝達ができる」

「それだけじゃありません、飛空挺に乗る事でこの街全体を見渡せ、私達地上班に街の情報を届けてもらえます、チカと呼ばれた少女が精霊の力を借りて視力に頼らずとも人や魔物の魔力を感じて指示を出せるのも評価できる点ですね」

 

私とネネカの言葉による追い討ち、奴は怒りに表情が歪む。

 

「はっはっはっ!!ここか!祭りの会場は☆」

「誘導通り、辿り着くことができましたね」

「おっしゃあ!!ここからはアタシらにも出番があるな!!」

「…っ…七冠(セブンクラウンズ)2人に…ノウェム…っ」

 

それだけじゃない、続々と先程千里真那と対峙したメンバーが集まってくる。

 

マコト、カオリ、ユイ、レイ、ヒヨリ、ダイゴ、コッコロ、キャル、ペコリーヌ。

 

「黎斗くーん!」

「お兄ちゃーん!!悪魔偽王国軍(ディアボロス)っていうギルドの人達とバトンタッチしてコッチに合流しましたよ〜!!」

 

続いて来たのは魔物退治を任せていたシズルにリノ。

 

「姫さん達他の自警団(カォン)とも黎斗のおかげで連絡取れたぜ」

「みーんな魔物退治をしてくれてるさ〜これであの人の予知能力も潰せるね〜」

「…次から次へと…羽虫のように…っ…!!」

 

奴の怒りが頂点に昇り詰める、だからこそ私達は言い放つのだ。

 

覇瞳皇帝(カイザーインサイト)…ここで貴方を倒します」

「わたくし達は皆さんのおかげでここまで来れました、貴方の負けです」

「…私が…負け…?」

 

さて、ここであえて言わせてもらおう、コイツを絶望のドン底に叩き落とす為に。

 

「千里真那ァ…確かに君の計画は素晴らしかったァ!だがァしかしィ!!君の計画はァ…全て!!私の…!!この…!!手の上で…転がされているんだよ!!!アーッハッハッハッハッ!!ヴァーッハッハッハ!!」

「…っ!!!」

 

さぁ、終幕だ。

 

 

 

 




エグゼイド本編並みに登場したキャラが即攻略されてんな、やっぱり黎斗がいるとそうなるってはっきりわかんだね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

絶望の果てに

      絶対に負けを認めない千里真那…!!



ラスボスを集団リンチなんて…醜くないか?


「私の…負け…ふふふ、冗談はよしてよ、私は負けていないわ、まだ…始まったばかりよ」

「黎斗…っ!気を引き締めて!来ますよ!!」

 

フラリと体を揺らしながら奴が目をカッと見開く、その直後にネネカが叫ぶ。

 

ネネカの注意を聞いた私は皆に指示を出そうとした…瞬間、既に攻撃は開始されていた。

 

「ぐっ…っ!!」

 

360度、全方向に迸る光線状の魔法、奴を中心とし直系にして約2、3センチほどの太さの光線が数え切れない程放たれる。それは5秒もかからずに数百メートル範囲の物体を破壊した。

 

私は自身を守る事で精一杯、他の皆を構っていられる程の余裕はなかった。

 

「黎斗君…確かに私の魔力は貴方のおかげで底を尽きる事になるでしょう…でも、その間に…何人死ぬでしょうねぇ…?」

 

そして回避や防御に徹していたというのに私ですら二箇所ほど被弾した、右肩と左脇腹を光線が掠めていた。

 

「っ…変身が…」

 

そうネネカが呟く、恐らく今の攻撃から私を多少は守ってくれたのだろう、しかしそれのせいで彼女の変身が途切れ元の人型の姿に戻ってしまう。

 

「くっ…何て無茶苦茶な攻撃…っ!!キャルちゃん!コッコロちゃん!無事ですか!!?」

「…コロ助っ!!!コロ助しっかりしなさい!!」

 

周りを見れば凄惨だった、ペコリーヌは多少の被弾はあったものの持ち前の身体能力でギリギリ回避に成功していた。しかしコッコロは恐らくキャルを庇ったのか右肩、右太腿、両脇腹付近から出血し、その場でうつ伏せで倒れ込んでいる。

 

「わ…わたくしは…大丈夫です…他の皆さまは…」

 

コッコロには息があった、キャルがホッと胸を撫で下ろすのも束の間、彼女の言う通り周りを見れば…

 

マコト、カオリ、シズルはペコリーヌと同じくある程度の被弾で済んだが2、3カ所から酷い出血、致命的ではないものの3人は本来なら立っているのもやっとの筈のダメージを負っていた。

 

ムイミ、ラジニカーント、ダイゴ、クリスティーナは比較的ダメージが少ない、クリスティーナの場合は自身の権能で無傷だ。

 

「リノちゃん!!!?」

 

シズルが叫ぶ、1番の重傷者だったのはリノだ。狙撃手の為1番離れた位置にいたのだが身体能力ではこの場にいる誰よりも劣る彼女は体の至る所から出血していた。

 

仰向けで倒れ、意識はあるようだがまともに動けずに手先をピクリとさせる事しか出来ていない、出血も酷く血溜まりが出来始めている、このままでは確実に出血死するだろう。

 

「はぁ…はぁ…何で奴だ…たった一撃で……ユイ!私達のことは後でいい!!あの子の治療を優先するんだ!早く!!」

「レイちゃん…!!…分かった、後で2人も必ず治すから…!!」

 

あの3人の中でダメージが無いのはユイだけ、ヒーラーであるユイを潰されないよう、レイとヒヨリが全力で守ったのだろう。

 

レイは比較的軽症だがヒヨリはマコト達同様に重い怪我をしている。息を切らし額からも血を流しているのがわかる。

 

「舐めてもらっては困るわ、黎斗君…例え魔力供給が絶たれようとも、覇瞳天星が機能しなくなったとしても…私と貴方達には絶対的な差がある!!」

 

再びゴッ!!という破裂音、奴の胸付近から先程の光線よりも更に太い10センチ程度の太さの光線が連射される、着弾部は光線と同じ色の赤紫の爆発を起こして周りの物体を巻き込み破壊する。

 

私は息切れを起こしているネネカを抱き抱え跳躍し回避、ペコリーヌは攻撃を確認後、すぐに後退し私と同じようにキャルと瀕死のコッコロを両脇に抱えて回避に専念する。

 

「2人とも!リノちゃんを一緒に守ってお願い!!」

「お前も怪我してるっていうのに……いい根性してるぜ!カオリ!!気合入れて守るぞ!!」

「分かったさ〜…おじいとおばあ……力を貸して…!!」

 

治療をし動けないユイ達を守る為に3人が光線を迎え撃つ。

 

「あの面倒なビームを止めるぞ!坊や!!」

「ああ!おばさん!突っ込むぜぇ!!!」

「私も協力しましょう!!!」

「除け者にすんなよ!アタシも連れてけ!!!」

 

ラジニカーントの空間跳躍で一気に千里真那の懐に潜り込む4人、そこからは同時に攻撃を仕掛ける。

 

「…無駄よ!!!」

 

奴は真下に光線を放つと光線が爆発を起こし飛び散っていく、それは接近していた人間を弾き飛ばすには十分な威力だった…ただ1人を除いて。

 

権能があるクリスティーナのみは回避していた、しかしそれは奴にとって都合がいい、奴は不敵に笑いながら。

 

「狙い通りよ、クリス」

「なんだと…!!?」

「クリス…貴方が1番面倒なの…貴方の権能は厄介すぎる、だから…1番最初に消えてもらうわ!!!!」

「むぅ…!?」

 

全体攻撃は止んだ、しかし奴は確実にクリスティーナを仕留める為に集中狙いを始める、クリスティーナの周りに無数の槍のようなものが形成され射出される。

 

クリスティーナは自身の権能により全てを回避または防御するが、着弾した槍がまるで霧のように霧散し空気中に粒子が漂う。

 

それにより彼女の周りの数列が乱れる、これは彼女の権能に不具合が発生している合図だ。

 

「くっ…!!」

「貴方も私と一緒、能力が乱れれば対処は容易いわ!!」

 

更に続けて槍が生み出されクリスティーナ目掛けて飛ばされる。

 

「旦那!!俺を跳躍で飛ばせ!!」

「しかし跳躍先には奴の攻撃が……」

「良いから早くしろ!!」

 

ラジニカーントが跳躍でダイゴと共にクリスティーナの目の前に瞬間移動する、2人は何とかしてクリスティーナを守る為、大量に迫り来る槍を弾き落とすが…

 

(くっ…この乱撃…っ2人を空間跳躍で飛ばして退避する隙はありません…!!かと言って塞ぎ切れる程…っ!)

「……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「っダイゴ!!?」

 

ドスドスドス!とクリスティーナを守るようにダイゴは両手を広げる、クリスティーナが珍しく狼狽てダイゴの名を叫ぶ。ダイゴは体に無数の槍が突き刺さり大量の血液を吹き出す。

 

「ぐぅ…っ…!!?がぁ…はぁっ…!!」

「ダイゴ…っ!!?……ウォォォォラァァァ!!真那ァァァ!!…天楼覇断剣!!!」

「…ちっ…ノウェム、良いところだったのに邪魔をしないでもらえるかしら」

 

ノウェムがその隙に割って入り、千里真那の攻撃を妨害、一騎討ちの形となっている。

 

「ネネカ、君をここに置いておく、コッコロが自身の治療を完了させたら君も治療してもらうんだ」

「…私とした事が情けないところを晒してしまいましたね……余力を残しておこうと思っていたのですが…」

 

私はネネカをその場に置いて走る、ソードを構え、ムイミと剣を交えている千里真那の首を背後から狙う。

 

しかし奴は振り向かずに背後の私に向かって背中から3連の光線を撃ち出す。私はその場で急停止する事で攻撃を避ける。

 

「覇瞳天星の効力は完全には消えていない、そして1度でも未来が見れればそこからは私の頭脳を使って先を見通すわ!!」

 

奴はその場で回転すると光線同じ色をした衝撃波を生み出す、私とムイミは回避する事で奴から距離が離れてしまう。それはこの戦いにおいては致命的だ。

 

「そしてぇ!!この隙は見逃さない!!!確実に1人づつ始末していく!!」

 

再びの槍、それが瀕死となったダイゴ目掛けて飛んでいく。

 

「ダイゴがやったのならば私もやらなければ男ではありません…!!!」

「…旦…那…っ!!」

 

ラジニカーントが複腕を乱打し槍を撃ち落としていくが迫る数の暴力、次々と複腕を掻い潜りラジニカーントの身を削り血飛沫をあげる。

 

「くっ…!!!」

 

ラジニカーントはもう持たない、私とムイミは再び千里真那に駆け寄る。

 

「あら、その行動…予知が必要ない程分かりやすいわ!!」

 

次はまるでドリルのようにエネルギーを集結させ私達に向かって射出する、だが

 

「足を止めるな!!!黎斗ぉぉぉ!意地でも真那の動きを止めるんだぁぁぁ!!」

 

ムイミが叫ぶ、そんなことは分かっている、だがしかし、奴は完全にこちらの時間稼ぎをしている私達を近づけさせない、するつもりがない。

 

ムイミと私は足を止めずに前進こそするも奴の放つ攻撃魔法の妨害が苛烈を極める、思ったよりも進めない、このままではまずい…!!

 

「ダラァァァァァァ!!」

「えいさぁぁぁぁぁぁ!!」

 

真上から突如現れたマコトとカオリ、この2人が奴に一気に詰めるこれは流石に想定外の筈…

 

「それは…『予知済み』よぉ!!!」

「なっ!?」

 

マコトとカオリは真上に放たれた極太の光線に吹き飛ばされる。数十メートル程上空に打ち上げられた後、20メートル程度離れた崩壊した建物の残骸へと落下する。

 

「『運』も実力の内ってね…神だからこそ、そういった不確定要素も味方にできる!!」

 

ちっ!!ここに来て連続で予知能力が発動出来ている、奴は逆境に強いタイプか…!!

 

「セイクリッドパニッシュ!!!」

「あら、お次は貴方かしら…!!」

 

次に飛び込んだのはシズルだった、それに対し光線エネルギーを集結させた千里真那はそれを固形…物質に変化させる。

 

光の翼を吹き出し滑空する天使を彷彿とさせるシズルとは対極、禍々しい闇の翼となりまるで悪魔のような姿となった千里真那はシズルの一撃を翼で止める

 

「焦り……ふふ、仲間を持つっていうのは大変よねぇ?私のように1人だったら互いに足を引っ張るなんてことしなくて済んだのに…ねぇ!!」

 

ズドドドドッと闇の翼が瞬時に分解、羽の1つ1つが殺傷力のあるナイフとなりシズル、ムイミそして私に襲いかかる、間近にいたシズルは回避もままならず身体を切り刻まれ大量に出血する。

 

ムイミもまた身体を切り刻まれながらも…

 

「シズル…!!!」

 

駆ける、とにかく駆け抜け更に追撃で狙われているシズルを片手で抱き抱えそのまま翼の範囲外まで飛び出す。

 

しかしそれを奴は許さない、シズルを抱えるムイミに急接近した千里真那はトドメを刺そうとしている。

 

「ノウェム、これが仲間というものよ!互いに足を引っ張り、私の思惑通りに動いてくれる不必要な存在なの!!」

「…っ…(距離が近すぎる…!シズルを抱えたままじゃ避け切れない…!!)」

「はぁぁぁ!!!」

 

私は一気に近寄る。見れば千里真那の右手には光線と同じエネルギーを集結させた剣、まさに文字通りの手刀をムイミに向かって放とうとしている瞬間だった、それをギリギリで私は弾くことに成功する。

 

「無駄よ!無駄なのよ!仲間なんていうくだらないものの為に貴方も死ぬのよ!黎斗君!!」

「それはどうですかね!覇瞳皇帝(カイザーインサイト)!!」

 

私の背後から跳躍し千里真那に剣撃を喰らわせたのはペコリーヌだ、2人は互いの武器で鍔迫り合いをする。

 

「仲間がくだらない?違います、ここに集まるみんな…黎斗くんが繋いだ絆なんです、そしてみんながそれを見捨てないっていうのは素晴らしいことなんです」

「感情論でどうにかなるとでも?温室育ちのお姫様」

 

私はその間にシズルとムイミに近寄りサンクチュアリマントを靡かせて回復させる。更に光の剣を生成し彼女達の攻防に割って入る。

 

私とペコリーヌは連続で奴に攻撃を加えるも決め手にはならない、奴の攻撃自体も苛烈な為、防御に油断は許されない。

 

「…っ確かに…今は貴方に押されています、あなたの言う通り、互いを庇いあってしまい怪我をしてしまうのかもしれません…けど、助け合いは絶対に…貴方を追い詰める、そう確信しているんです」

「ペコリーヌの言う通りだ、君は誰1人として殺す事はできない、否殺せなければ君の負けだ」

「減らず口を…!ならやってみなさい!守ってみなさい!!」

 

次の瞬間、ここ1番の巨大な太さの光線を最初に放った光線乱射の時のように放つ。もはや全く節約など考えていない。全力だ、出鱈目だな奴の魔力は。

 

普通に考えればこのレベルの攻撃は避け切れないだろう、しかし

 

「フラワーベール!!」

「サンダーボール!!!」

 

私とペコリーヌの周りに花が舞い散り半透明のシールドが発生、それが光線を弾き、さらに千里真那本体に雷の弾をキャルが複数放つ、それにより少しでも奴の乱射を止められる。

 

「キャル…貴方…っ!!」

「それだけではないぞ、ウィンドストライク!」

「キャットストライクだぁ!うにゃにゃにゃ〜!!」

 

トゥインクルウィッシュの面々が更に追い討ちをかける、奴の手をあらゆる手段を用いて妨害、奴に無差別攻撃をさせない、注意を逸らす、そういった気迫を皆からは感じ取れる。

 

「鬱陶しい…邪魔よ…!!」

 

奴は翼を生成した時のように両腕にエネルギーを集結させ巨大な手…魔物のように爪がある禍々しい手を生み出す。

 

それを使い迫るレイとヒヨリを殴り、2人は大きく吹き飛ばされ崩れる家屋に突っ込んだ。

 

しかし2人が作った隙を私達は見逃さない、私とペコリーヌが瞬時に近寄り再び攻撃を開始する。

 

「そこまでです、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)!やぁぁぁ!」

 

更に奴の背後からコッコロが槍に風を纏って横薙ぎの一撃、両腕を私達に使っている千里真那は翼を生み出す事でコッコロの攻撃を防ぐ。

 

「…っ神に対してこんな事を…許されると思っているの…!!!?」

 

真上から雨のように光線を放ってくる、私達は再び奴から距離が離れる事になるが

 

マコトとカオリ、再び戦線復帰した2人が攻め立てる、彼女達はユイによって多少は傷を癒してもらっているようだ。

 

「っ…また貴方達!?しつこいわよ!!」

「生憎、あたし達はそれが取り柄なんだよ!」

「みんなを傷つけるなんて許さないさ〜だから私達は絶対に諦めないよ〜!!」

 

彼女達の攻撃を防ぎつつ、次の攻撃を仕掛ける。

 

「そう、でもね…例え何度来ようとも…羽虫は羽虫…私に敵う道理はない!!」

「でもよ、羽虫も集まりゃチッとは効くんじゃねぇのか!!」

「っ!?」

 

妨害したのはダイゴ、傷が癒え復帰している、ダイゴだけではないクリスティーナやムイミも続けて奴に攻撃を仕掛ける。

 

それにより奴は大きく後退せざる得なかった、しかし次の瞬間

 

「っ!?」

 

奴の肩に炎の矢が降り注ぐ、2、3発は確実に奴に着弾した、すぐに奴は真上に光線を放つ事でその矢を消し飛ばす。

 

「コロナレイン…私もいる事をお忘れなく!!」

「ちっ…!!」

 

最初に撃破したと思われていたリノも復帰、更に奴の背後にヒヨリとレイが迫る、彼女達にはコッコロがそばにいる為、彼女に回復をさせて貰っているようだ。

 

「…どいつもこいつも…ふふっ……ふははは…!!!また同じ事を繰り返すつもり?同じように貴方達じゃ絶対に避けられない全方位攻撃を展開して…」

「デッドリーパニッシュ…」

「…そうはいかないわよ魔王さん?…薔薇の刻印」

 

斧による斬撃が奴に襲いかかる、奴は飛び退く事で回避をするも回避先の地面に薔薇の魔法陣が展開される。

 

「今度は何…っ!!」

 

そこから薔薇が出現し襲いかかる、それを自分ごと巻き込むように光線を連射して破壊する、勿論奴自身無傷では済まない。

 

…クク、ようやく集まってきたかァ…

 

「火遁の術デース!!」

「よし、クウカさん突撃だ」

「ヒェェェェェ!!あ、熱い!熱いですぅぅ!」

 

炎を吹き出したニノン、その中をユキに蹴り飛ばされたクウカが突っ込んでいく、千里真那は先程の攻撃から復帰したばかりでそれに気づくのが遅れクウカのダイブをもろに喰らった。

 

「うぐっ!?」

 

初めてちゃんとしたダメージがまさかクウカのタックルになるとは…いやまともな攻撃ではなかったからこそ奴は探知できなかったと言うべきか…

 

「っ…貴方…余程死にたいようね…」

「ひぃぃ…!!」

「海内無双の型…五の太刀…波紋薙ぎ!!」

 

クウカに迫る爪による攻撃をルカの横薙ぎの一閃が妨害する。

 

「っ…なんなのよ…!次から次へ…なっ…!?」

 

奴は気付いた、周りを見れば他にもまだ人間がいると言う事を…

 

圧倒的な数の暴力を今度は自分自身が受けるという事に気付いてしまった。

 

「鬼ヤバシュート!!」

「ナナカ・インフィニティ・ブラスト!!」

「コスモブルーフラッシュ!!!」

 

連続で撃ち込まれる攻撃、それを奴は全力で回避や防御をする為に魔法を使う。

 

「全く子供達は来るんじゃないって言ったのに今度は黎斗を助けたいんだって言って話を聞かないんだから……仕方ないわ、黎斗!!子供達はあたし達が全力で守るから!とっとと悪の親玉倒しちゃって!!」

 

サレンや子供達の姿もそこにはあった。いや…それだけではない、メルクリウス財団、フォレスティエ、ルーセント学院、トワイライトキャラバン…etc…私の知り合いである全てのギルドがこの場に集結している。

 

「っ…馬鹿な…どうしてここに…っ」

「さて、陛下…いや元陛下と言うべきか、私達を操った事…ちゃんと反省してもらいたい」

「なっ…うぐぁぁっ!!?」

 

奴の背後から迫ったのはジュン、奴はジュンの全力ラリアットを食らって吹き飛ばされ家屋を複数破壊する。

 

「私達王宮騎士団(ナイトメア)も参戦だ、ねっマツリちゃん」

「うぉぉぉ!かっけぇッス!流石は団長ッス!」

「…この…羽虫共がァァァ!!!」

 

吹き飛ばされた奴は瓦礫の中から放つ無差別光線、しかし

 

「そんな危ないことしちゃ…ダメだよ!きらーん⭐︎」

「あっ!お姉ちゃん…!!お姉ちゃんも来てたんだ…!!」

 

その光線は軌道がねじ曲がり誰1人として当たる事はなかった、ハツネの超能力により全ての軌道が逸らされたのだ。

 

「…この……人間の…集結の仕方…そう…っカルミナね…っ!!」

 

奴は上を睨みつける、カルミナの飛空挺、それが指示を出してここに集めていると悟った奴は真上に向かって極大の光線を放つ。

 

「恨むのなら自分たちを恨みなさい!!この私をここまでさせたのだから後悔してあの世で泣きべそをかくといいわ!!」

 

完全に私怨による攻撃、カルミナを意地でも破壊しようと考えたのだろう、だが。

 

「ほう?わらわ達にも是非泣きべそをかかせて欲しいものじゃな」

 

ドンッ。極大の光線が弾き消し飛ばされる、上空…カルミナの飛空挺を守るように浮いているのは悪魔偽王国軍(ディアボロス)の面々、ミヤコの力により浮遊しているようだ。

 

「…イリヤ…オーンスタイン…っ!!!」

「やられたらやり返す、それがわらわの流儀じゃ、ちっとは堪えたようじゃのぉ、今のお主の顔…傑作じゃわ」

「ふざけないで…!!」

「ふざけているのは貴方ですよ、元陛下!!」

 

イリヤに攻撃を仕掛けようとした千里真那に飛びかかったのはトモそしてクリスティーナだった。

 

「ふふ、まさか貴方と共闘する事になるとは…」

「面白い因果だろうトモちゃん、ここは息をピッタリと合わせて共に手と手を取り合おうじゃないか☆」

 

奴は…千里真那は追い詰められる、様々な集まった力により防御と回避に魔法を使う、着々と奴の魔力は減っていく、疲れも見えてくる。

 

「凄い…みんな…黎斗くんを信じて集まってくれた仲間…」

「ああ、孤独な奴では決して得られることの無い力…それが奴を苦しめる」

 

私はペコリーヌにそう呟く、創作とは孤独な事が多い、私も同じ創作者だ経験がある…だが…今にして思えば最高傑作のゲームを作り上げた際…私の周りには人がいた、孤独なだけでは限界が来る、孤独は自分の力以外の物を見れないからな。

 

奴の間違いは他者を拒んだ事だ。私でさえも他者を認める、ということはしなくとも拒む事はなかった、他者の才能を否定こそするが関心がなかった訳ではない。それが奴と私の違い。

 

(…黎斗の知性と『彼』の絆を信じる優しさ…これらが合わさった今の彼は想像以上に厄介のようですね、彼と敵対するのは好ましくはないでしょうから、ここは穏便に済ましておきましょうか)

「ネネカ様、如何なされましたか?俺達も前線に向かいましょう!」

「…私は少々疲れました、マサキは行きなさい」

「はい!!!」

 

マサキが突撃していく、千里真那を取り巻く戦況は非常にカオスだ、爆撃、水撃、雷撃…とにかく様々な攻撃が繰り出され荒れに荒れている。

 

むしろたった1人でこの人数を相手取っている奴の凄さが改めて分かる。苛烈な戦闘が続くも奴の疲れは目に見えている。

 

そして…

 

「やぁぁぁ!!!」

「くうっっ!!?」

 

数分近く奴は数多の攻撃を耐えてきた。しかし最後、ペコリーヌの剣撃をまともに浴び、そのまま吹き飛ばされ膝をつく。

 

「…終わりです、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)…今度こそ貴方の負けです」

「はぁ…はぁ…くっ…」

 

魔力が底をつき、既に次の攻撃を放つ事ができない、皆がそれを確認し武器を収め…ペコリーヌに注目する。

 

「…貴方は沢山の罪を犯しました、民を苦しめました、この国の姫として許すことは決して出来ません…」

 

けれど、と続ける。

 

「貴方にはやり直すチャンスがある筈です!人は変われる筈なんです!わたしが変わったように!!」

 

ペコリーヌはそう諭しながらゆっくりと千里真那に近づいていく。

 

「…やり直す?馬鹿言わないで…私が『何度やり直してきたか』知らない癖に…」

「何を言って…」

「私の負け?…まだ負けてないわ…私に…敗北なんてものは存在しない!!!」

 

バッと奴が懐から取り出したもの、それに私は驚愕する。

 

「なっ…まさか…それは…!!!」

「…黎斗君…貴方は見誤ったわ…私の策がこれで終わりだと思っていた、それは大きな間違いよ…」

 

奴が取り出したのは…バグヴァイザーII(ツヴァイ)

 

「私はね…この世界で昏睡状態になっている間…貴方が流したデータを研究していたのよ…永夢君だけじゃない…この、アイテムの事をねぇ…」『ガッチョーン』

 

奴はそれを腰に装着する…まさか…っ

 

「ガシャット…それにバグルドライバー……全ては…この時の為に私はこれらを徹底的に調べ上げそしてデータを作り出していたのよ…!!!」

『レジェンドオブアストルム…』

 

なんだと!?オリジナルの…ガシャット…!?

 

「うふ…うふふ…変…身…!」

『ガシャット……バグルアップ…天を掴めライダー!刻め星々を!!今こそ世界は手の中に…!!!』

 

背後に星座盤が出現し、星座を紡ぐ星々の1つ1つの光が天高く射出され丸く大きな星のホログラムを形成し奴の頭上から降り注ぐ。それが奴に衝突すると稲光が炸裂し…

 

「貴方はこれのことを仮面ライダー…とかって言っていたわね…なら…私も名乗らせてもらいましょうか…」

 

奴の姿はクロノスに酷似していた、推測だが…私がこの世界に流したクロノスのデータを元に…奴が自身の手を加えた…新たな仮面…ライダー…!!!!

 

「…仮面ライダーディオ…それが今の私よ」

 

 

 




仮面ライダーディオ
アストルムゲーマー



【挿絵表示】



00スペック
■身長:205.0cm
■体重:101.0kg
■パンチ力:100.0t
■キック力:132.8t
■ジャンプ力:102.0m(ひと跳び)
■走力:0.80秒(100m)
■キック必殺技:クリティカルアストルム
■ガシャコンバグヴァイザーⅡを使用する必殺技
チェーンソーモード:クリティカルサクリファイス
ビームガンモード:クリティカルジャッジメント


千里真那がバクルドライバーIIとレジェンドオブアストルムガシャットを用いて変身した姿。

ゲームエリア内のキャラクター全ての動きの先を予測できる『フュルズアイドミナシオン』が組み込まれており、あらゆる可能性の先を導き出し最適な行動をする事が可能。

檀黎斗がレジェンドオブアストルム内に流したライダークロニクルのデータから仮面ライダークロノスのデータを抜き出し、自身が一から作り出したゲーム、レジェンドオブアストルムのゲームデータをクロニクルガシャット内に上書きした事で生まれた千里真那専用のライダーである。

変身者:千里真那

変身時に使用するアイテム:バグルドライバーⅡ/レジェンドオブアストルムガシャット


01ASヘッド-ROA
仮面ライダーディオ アストルムゲーマーの頭部。


02 フォーサイトライフガード
仮面ライダーディオの胸部を保護する黒色のプロテクター。
内部中枢に深刻なダメージを負わないよう、急所に受けたダメージを全身に分散させる機能を持つ。
相手の行動を予測する度に攻撃時に発動するクリティカル率が上昇していく。


03エクスコントローラー
仮面ライダーディオの胸部に配置された管理モジュール。
デバッグモードへの移行や特殊技発動時のシステム制御などを行う。
また魔力の循環制御を行い魔法を生み出す際、最適な魔力消費を算出するシステムが搭載させている。


04 ASマスターアーム
仮面ライダーディオの腕部。
攻撃力と防御力を最大状態で保つ事が可能。
レスポンスが良く、攻撃の出が早いため、素早い攻撃で畳みかける戦法に適している。


05 レジェンドオブグローブ
仮面ライダーディオの拳を覆う強化グローブ。
グローブ表面を通じてガシャコンウェポンとのデータ通信を行い、攻撃システムの連動と最適化を実行する。また攻撃が命中する度にパンチ力を5%上昇させ、与えたダメージに比例して魔力を生成する。


06 ASマスターレッグ
攻撃力と防御力を最大状態で保つ事が可能。
瞬発力に優れており、高い走力を活かして相手との距離を一気に縮め、素早く攻撃を仕掛けることができる。
 

07レジェンドオブシューズ
仮面ライダーディオのバトルシューズ。
エア噴射による滞空や落下タイミングの調整、三段ジャンプなど、アクロバティックな動きを可能にする。
また、攻撃が命中する度にキック力が5%上昇させ、与えたダメージに比例して魔力を生成せる。


08コンクエストアイズエフェクター
仮面ライダーディオの胸部に組み込まれた特殊装置。
ゲームエリア内のキャラクターの動きを制御するシステム「フュルズアイドミナシオン」が組み込まれている。
これにより他者の動きを正確に把握し予測、あらゆる可能性を掌握する事が可能。


09ディオファングショルダー
仮面ライダーディオの肩部を保護する装甲。
死角からの攻撃に対して予知をする事が可能。自動的に身を守るように最適に体を動かす機能を備えている。


10 ディオスーツ
仮面ライダーディオのボディスーツ。
擬似的なバグスターウイルスを利用して変身者の動作を補助・強化し、驚異的な身体能力をもたらす。
運動能力と反応速度を重視した調整が施されており、装着者の技量がそのまま戦闘力として反映される。


11バグルドライバーⅡ
仮面ライダーディオへの変身時に使用するベルト。


12 メックドミナントガード
仮面ライダーディオの腕部と脚部に装着されたガードパーツ。
表面に塗布された耐爆コーティング剤によって十分に強度が高められており、100t以下の攻撃を安全に受け止めることができる。





【挿絵表示】


01デスアイスコープ
仮面ライダーディオの視覚センサー。
ハイスピードカメラ並みの撮影機能や、夜間戦闘用の発光装置を搭載している。
ミクロサイズのバグスターウイルスを観察することも可能。


02ディオブレードアイクラウン
3本のブレードアンテナでゲームエリア内の全ての動体反応を捕捉・識別し、自動的に追跡マーカーをセットする。
内部モニターのレーダーマップには捕捉した敵の位置や、その残存体力などが表示される。


03レジェンドオブライドヘヤー
仮面ライダーディオの頭部を保護するパーツ。
表面に塗布された耐爆コーティング剤によって必要以上に強度が高められており、決して折れることはない。


04ダイナミックゴーグル
仮面ライダーディオのフェイスゴーグル。
衝撃や汚れから視覚センサーを保護する役割を持つ。
表面に塗布された耐爆クリアコーティング剤によって十分に強度が高められており、決して割れることはない。


05センダーイヤー
仮面ライダーディオの聴覚センサー。
周囲の雑音を遮断し、必要な音だけを変身者に聞かせる機能を備えている。
特定の相手と音声会話を行うための秘匿通信機能や、通信傍受機能も搭載されている。


06 エアフレッシュガード
仮面ライダーディオの頭部に取り付けられた吸気装置。
取り込んだ空気から有害物質を除去することで、変身者の健康を守る。
また、余剰に取り込んだ空気を利用して、スーツ内部の温度や湿度を最適な状態に保っている。
内部には圧縮エアも蓄えられているため、水中での長時間活動も可能。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神の名を冠する者

ディオの無双回なので進展は…ないです


…目の前に現れたのはクロノスに似た仮面ライダー…

 

仮面ライダーディオ…それが奴の今の姿…!!

 

奴自身の技量は分かっていた、このレジェンドオブアストルムという世界を作り出すほどの実力があったのだから。

 

しかし、私にふつふつと湧き上がる感情、永夢や小星作のように、私の技術を盗み取るような真似を勝手にするという事。

 

「断じて…許さない…不正なガシャットを生み出す事など…!!」

「…ふふ…さぁ!!ゲームの時間は終わりよ、これが本当のラストゲーム!!」

「ちっ…!姿形が変わっただけだ!怯むな!!進め!!」

 

クリスティーナが一気に近づく、仮面ライダーディオはただその場に両手を広げて構えるだけ、先程の魔法連射とは違う静かな構え、何か…危険だ…!!!

 

「待て!!クリスティ……」

「はい、まずは1人目」

「がっ…はっ……っ!!?」

 

私が止めようとクリスティーナの名前を叫んだ瞬間だった、彼女は既にその拳をクリスティーナの腹部に当てていた。

 

クリスティーナはその重い一撃に耐えきれず地面に腹を両手で抱え込んで倒れ込む、ただすれ違うようなその動作、それだけでクリスティーナは…敗北した。

 

「な…ぜ…だ…っ…!」

「『予知の予知』よ…クリス」

 

千里真那…否、仮面ライダーディオはクリスティーナに興味がないようにそのまま通り過ぎる。

 

「貴方の能力は乱数を弄るもの…だけど私の予知はその先さえも予知できるという事、もはや貴方程度では私を止められない」

 

奴はバグヴァイザーを腕に取り付け、チェーンソーモードに切り替えながら歩き進める。

 

「さぁ、次は誰から死にたいかしら」

 

周りにいる誰もが動けずにいた、奴にその隙が全く見当たらない、先程まで瀕死だった人間とは思えない圧が感じられる。

 

「…何故、今になって…その力を…!」

「黎斗君、奥の手は最後まで取っておくから奥の手なのよ?それに…当初の予定ではこの姿にならずに倒す予定だったというのも事実、そして何よりも…」

 

私はその間に前へと出る、コイツの相手は私がしなければならない、他の皆のダメージを鑑みればまともに戦えるのは私しかいない。

 

「ふふ、そうよ…この姿になるまでの間にどれだけの人間が疲弊していると思っているの?黎斗君がここにこれだけの最高戦力を集めてくれた、そしてその戦力は私がこの姿になる前に疲弊している」

「…そのタイミングで切り札を切ってきたという訳か…確かに合理的だな」

 

確かに非常にまずい、奴にはもう手はないと踏み、ここに集めた全員が全力で対処した、それこそ倒し切る勢いでな。

 

それが1から崩された…コッコロやユイのようなヒーラーもこの戦闘続きでは魔力が無くなり殆ど機能しないだろう。

 

「サレン!!子供達はもう下げろ!!他の皆も重傷者は出来るだけ戦線を離脱!戦える人間だけ残るんだ!!」

 

私の言葉に皆が動く、私はその間も奴から目を離さない。

 

「賢明な判断ね、それでどうするつもり?」

「…私が1人で戦う……戦える者達もまずはこの戦いには参加するな!!」

 

私が叫ぶ、皆疑問に思っている事だろう、だが

 

「…成る程、黎斗様は私達にこの戦いを見てほしいみたいですわね」

「…そうかい…まずは様子見をしてもらう…奴がどんな力を持っていてどんな攻撃をしてくるのか…それを確認してからって事かい」

 

流石はトワイライトキャラバンのメンバーだ、私の考えを読み取ってくれる。

 

ここで全員で挑むのは無謀だ、奴にどんな力があるのか分からない、下手をすれば一瞬で壊滅なんて事もあり得る。

 

それだけは避けなければならない、ここで戦力を一気に削がれる事は許されない、それこそ勝率が下がる。

 

まずは彼女達には回避や防御を優先、出来るだけ奴の攻撃範囲外から奴の攻撃を見てもらい、攻略の糸口を探してもらう。

 

手の内さえ分かればまだ何かやりようがあるだろう、その為にも

 

「まずはこの私が相手だァァ!!!」

「威勢がいいわね、黎斗君…!!!」

 

ソードを振り回して奴に斬撃を当てようとする、しかし

 

「っ…紙一重で避けられる…!!」

「分かるわ…次の攻撃が完璧に分かる!」

 

覇瞳天星とやらはほぼ機能しない筈、しかしそれとは関係なしに完璧に予知が成功している所を見るとディオの能力は『完全予知』か…!!

 

私の推測だがクロノスのような『時間停止』は存在しない、あの力はゲームエリア内に作用する特殊なものだ。

 

このゲームの世界でそれをやるとなるとレジェンドオブアストルム自体のコードを弄る必要がある、それは流石の千里真那でも時間を要する、この短期間でできるものではない。

 

タイムエグゼキューターをこの予知能力に置き換えている方が現実的だろう、かといって弱体化しているとは全く思わないが…

 

光の剣を生成し連続で攻撃を仕掛けるも擦りもしない、読まれている…完全に次の攻撃が…!!

 

「次はこっちの番よ!!黎斗君!!」

「…っ!!」

 

奴がチェーンソーを振りかざす、私はそれに対してソードで防ごうとしたのだが…

 

「なにっ!?ぐぁぁっ!!!!」

 

回し蹴りが飛んできた、この攻撃は予想外だった…まさか…っ…!!

 

「…攻撃だけでなく…防御も読まれているのか…!!」

「攻撃の予知ができるなんて一言も言っていないわ、私は未来を見通せるの、そしてその未来は私が好きなだけねじ曲げられる」

 

本来ならチェーンソーでの攻撃は私が防いでいた筈…だが途中で奴が攻撃方法を変えた事で私に攻撃は当たった…

 

未来を予知し結果をねじ曲げる…まさにディオ…神の名に相応しい力。

 

ハイパームテキでさえも手を焼く可能性がある、ムテキにはスパーキングショルダーというゲームエリア内とムテキの間を隔てる遮断フィールドを展開する装備が存在するがこの力はゲームエリア内に直接干渉するものではない為、クロノスの時間停止のように無効化できない。

 

凄まじい戦闘能力を保有していようと攻撃が当たらないのでは意味がない、そして攻撃も防御も読まれ覆してくるこのディオは…

 

これも私の推測だがハイパームテキでさえ決着をつける事はできないだろう、互いにダメージを受ける事がないのだからな。

 

「ふんっ!!はぁ!!くっ…っ!!」

「どうしたの?もう疲れた、なんていう訳じゃないわよねぇ?黎斗君には付き合ってもらわなきゃ…私の腹の虫が収まらないのよ!!」

「ぐぁぁぁっ…!!」

 

チェーンソーで連続で斬られ吹き飛ばされ転がる。

 

全くついていけないという事はない、攻撃自体は見切れる筈なのに奴の予知により全て先を行かれる。

 

「これならどうするのかしら、黎斗君」

『…クリティカルサクリファイス』

 

エネルギーで生み出された巨大な丸のこが私に向かって飛んでくる、これは…避けられない…!!

 

しかし、それは当たる事はなかった、ギャリギャリと火花を散らし丸のこを受け止める…ルカとエリコの姿があった。

 

「流石にこれ以上、見ているだけという訳にはいきませんわ…!!」

「同感だ…!とにかく手を尽くしてみるよ、あたし達も…!!」

 

2人が攻撃を弾き飛ばすと、奴の背後からレイとヒヨリが飛びかかる。

 

「どんな力を得ようと私達は決して怯まない!!」

「とにかく攻撃をやめてもらうよ!!そして迷惑をかけたみんなに謝ってもらうんだから!!」

「あら、勇ましい事、でもね」

 

ドドンと2発、背後から近づき死角からの攻撃だった筈の2人は簡単に吹き飛ばされる。

 

たったのそれだけで2人は瀕死の状態となった、家屋に衝突した2人は身動きが取れない。

 

「無駄なのよ、今の私に隙なんてないわ、全方位からの攻撃だろうと予知して見せる」

「…っ!!畳み掛けるしかねぇ!!黎斗の兄ちゃんとの戦いを見ててもぶっちゃけよくわからねぇ!!でも!やらなきゃやられるだけだ!!」

「…私もダイゴの意見に賛成です、予知されようとも…それを上回る攻撃で叩けばいいだけの話!!」

 

空間跳躍、そして2人は乱打を仕掛けるのだが。

 

「簡単なのよ、貴方達の予知なんて…あくびが出るくらいね」

「なっ…んだと…!!?」

 

ダイゴとラジニカーントの攻撃は片手づつで防がれる、それだけで圧倒的な実力差が計り知れる。

 

「さぁ、退場の時間よ…」

「っ…!まずい!!」

 

ムイミとシズルが察知して動く、ダイゴとラジニカーントの2人に近づき…

 

『キメワザ、クリティカルアストルム』

 

「食らいなさい」

 

奴の蹴りが炸裂する、眩い閃光を撒き散らし星々が輝き周りに流星が飛び交う、離れた位置にいた私ですら回避をしなければならない程の威力と攻撃範囲。

 

『神の一撃…!!!』

 

「ぐぅぅぁ…っ!!」

 

至近距離で浴びたムイミ達もまたレイ達同様に家屋に叩きつけられ意識を失った、肉の形を保っているのが奇跡なレベルの威力だ。

 

「っ…まずいです主さま…今の攻撃で…!!」

 

コッコロが言う、私が見れば今の流星で周りに被害が出ていた、元々体力的に消耗していた面子が多かった事も起因しているだろうが…

 

「怪我をしたみんなをこっちに連れてきて!!はやく!!」

「大丈夫よ…心配しないで…」

 

ユカリとミサト、2人のヒーラーが怪我人の治療にあたっている…なんて言う事だ…!!

 

今の攻撃で殆ど壊滅状態だ…!!まともに攻撃を喰らった者も多い…!!

 

回復魔法にも限度がある…残りのヒーラー達だけで賄える程の余裕はない…私のサンクチュアリマントも後2回使えればいい方だ。

 

「随分と苦しそうね…形勢逆転…ってところかしら」

「ふざけるな…この私に許可なくガシャットを生み出したお前は…私のこの手で削除する…!!」

「やれるものならやってみなさい、貴方達では私に傷1つつける事はできない」

「…いい加減に…してくださいよ!!覇瞳皇帝(カイザーインサイト)!!!」

 

飛び掛かったのはペコリーヌだ。

 

「あら、お姫様、さっきは私に対して何か言っていたようだけど…この惨状を見ても同じことを言えるの?」

「言えます…言えますよ…!!やり直すチャンスはあるんです…!」

「偉そうに…そういうのは勝ち誇ってるから言えるのよ、見下してるから言えるの、果たして今の貴方が言える立場なのかしらねぇ」

「うぅっ!!?」

 

奴の攻撃は止まらない、ペコリーヌの防御は間に合わない、奴に予知され防御しても別角度から攻撃される、こちらから攻撃しても決して奴に攻撃は届かない、一方的な戦いだ。

 

「彼女だけに戦わせるなぁ〜!!続け〜!!」

 

ヴァイスフリューゲルのギルドマスターであるモニカの声、それと同時にアキノやイリヤなど錚々たる面子が飛びかかるのだが…

 

『キメワザ…クリティカルジャッジメント』

 

炸裂するビームが飛びかかった人間をまとめて弾き飛ばす、たった1人相手に40人あまりの人間がなす術なくやられていく。

 

「あははは…!!黎斗君!貴方は素晴らしい力を私に与えてくれたわ!!これこそ…神ィ…!!」

 

奴は再び目のような物体を複数展開する。その数は数十から百程。

 

「アレは…!!」

「再び魔力が戻っていますわ…!!」

 

ルカとエリコが反応を示す通り、奴の魔力が回復している、アレもディオの能力の1つか。

 

それだけではない、結晶化した魔力は翼を生成し更にバグヴァイザーを持たない方の腕には翼と同じ成分で出来た巨大な鉤爪が装着される。

 

「このくだらないゲームを終わらせる究極の神!!それが私なのよ!!」

「ゲームを終わらせるだと…?違う…ゲームとは…けして終わらない…夢と希望を紡ぐ究極で永遠の旅路だ…!!!」

「…ゲームにはね…必ずエンディングがつきものなのよ、バッドエンドだろうとなんだろうとね」

「…そうかもしれないな、だが私の求める究極のゲームは、終わりなきゲームだ」

 

私達は構える、互いにジリジリと間合いを詰め。

 

「やはり」

「やはり」

「貴方とは相容れない」

「お前とは相容れない」

 

私達は同時に動く、奴は私の攻撃を的確に弾く、まるで楽しんでいるように…

 

「貴方の攻撃は手に取るように分かる、貴方のレベルはとっくに超えているのよ私は、もう既に策略だとかそういうもので覆せる次元の話じゃないのよ」

「そんなことは分かっている…!!」

「ならどうして諦めないの?貴方程の知恵が回るものなら私の側に付く方が賢明だと思うけど?」

 

私はソードを振り続けるが奴は鉤爪や翼、チェーンソーで防ぐ。

 

「私は…!!もう…!誰の下に付く事もない!!私は…私こそが…神の…才能を持ち…全ての人間を導きレベルアップさせる…最高神となるのだ!!!」

「優しいわね、所詮天才以外の人間など道具に過ぎないっていうのに…!!!」

「ぐぅぅっ!!?」

 

私は連続で攻撃にヒットしてしまう、鉤爪、チェーンソー、そして翼…吹き飛びながらも私は抵抗として光の剣を…

 

「残念ね、貴方の魔力切れは予知済みよ」

「…っ!!?」

 

あまりにもレガシーの力に頼りすぎた…!!もう光の剣を作り出す事も出来ないほど消耗しているとは…!!

 

ということはサンクチュアリマントも使用できないだろう…!

 

「ぼうっとしてる場合じゃないわよ!!」

「ふぐぁぁっ!?」

 

鉤爪によるアッパー、回し蹴り、連続チェーンソー、最後は両翼による叩きつけ。

 

「ぐぅっ…はぁ…っ…!!」

 

ガシャットが飛び抜け、私の変身が解除される。

 

「他のお仲間も私のおもちゃと戦ってるみたいだから…貴方のフォローには回れないわねぇ…?」

 

奴は飛び散ったガシャット2つを回収し…破壊する。

 

「ああ…!!私の…ガシャットがぁ…!!貴様…っ…!!」

 

私は地面を手で叩きつけながら吠える、屈辱だ、ゲームに愛のない人間に破壊されるなどと、今までにない程の屈辱を感じる。

 

「さぁ、行きなさい私のおもちゃ…邪魔な観客達にはそろそろ退場してもらわなくちゃ、もう相手するのも面倒なのよ」

 

更に奴は目のような物体を放つ、どんどん奴の魔力が回復している、このままではまずい…っ!!

 

「グレード…0……変身…!!!」

『マイティジャンプ!マイティキック!マ〜イティアクショ〜ンエェックス!!』

 

「今更そんなレベルになってどうするつもり?」

「…どんな無理ゲーだろうと攻略の糸口は必ず存在するという事を私は天才ゲーマーから教わってね、必ず攻略して見せる」

 

…啖呵を切ったもののすぐにでも攻略の糸口を見つけなければ勝機はない、どうするか…奴が黙って考える時間をくれるとも思えない。

 

「なら見せてもらおうかしら?そのゲーマーの力とやらを」

 

ガシャコンブレイカーを出現させブレードモードに変更、奴との攻防は無駄ではあるが…

 

まず第一に考えよう、奴はどこまでの予知を出来るのか。

 

何手先まで見ることが可能なのか、重要なのはそこだ。

 

戦闘中にそこまで先の未来を見れるとは思えない、奴の事だ三手先程度なら見ることができるだろう。

 

やはりここはとにかく弾幕をはる、手数で勝負をかけるしかない。

 

『ジェットコンバ〜ト!!』

 

ジェットコンバットにレベルアップし即座に射撃を開始する。

 

「弾幕…いい手だわ、悪くない…でも」

 

それをまるで満員電車の人混みを避けるが如く弾幕を縫って奴は迫ってくる、くっ…!!弾幕レベルの予知も可能という事か…!!

 

「甘いわね、何百、何千だろうと予知の1つに過ぎない」

『シャカッとリキッと!シャカリキスポーツゥ』

 

すぐにホイールを投げつける。

 

「ふぅん、またそれ…それには前に酷い目に遭わされたものねぇ…でも2度も同じ攻撃が効くと思わないで頂戴!」

 

一撃は弾き、跳弾させたホイールもまた簡単に翼で打ち払わられる。

 

『ギリギリチャンバ』

「ぐぅっ…!!!」

 

ギリギリチャンバラを起動したと同時に奴に首を掴まれる、それによりガシャットを落としてしまう。

 

「何をしても無駄なのよ…黎斗君、貴方に勝ち目はもうないの、敗北という名のエンディングが貴方を待っているわ」

「ぐぁぁぁぁぁっ……はぐぁっ…!!!」

 

鉤爪で思い切り胴体を引き裂かれそのまま十数メートル程吹っ飛ばされる。

 

駄目だ…今の私ではあらゆる手を尽くしたとしても奴に攻撃を当てることは出来ない…

 

弾幕レベルの攻撃だろうと避けてくるというのならば残る手は1つしかない…しかしそれをやろうにも私1人ではどうしようもない。

 

誰かの助けを借りようと周りを確認しても。

 

「エリコ!子供達を守るんだ!!」

「分かっていますわ!しかし…!!」

 

「怪我人を守るにゃ!!」

「くっ…我が魔眼(イーヴィルアイ)を持ってしてもこの量は…ッ!!」

 

「イリヤさんの魔力がもうないわ!!イリヤさんを守りながら他の人も!!」

「ミヤコに任せるの〜!!うううみゅみゅみゅ…!!!」

 

ここに全員を集結させた事が裏目に出たか…皆守る事で精一杯だ。

 

考えろ、私…この状況を打開できる策を考えろ、私は神の才能がある、私ならば必ず、この状況を…突破できる!

 

「黎斗くん!!!」

 

その時奴に迫ったのはやはりペコリーヌだった、彼女も既に限界な筈なのに目のような物体を破壊しながらも奴に接近した。

 

「…しつこいお姫様だこと、貴方もそろそろこのゲームから降りてもらわなきゃ困るのよ」

「…終わりませんよ…わたしのゲームは…いつまでも」

「貴方も黎斗君みたいな事を言うのね、本当に下らない」

「きゃあぁっ…!」

 

生み出さられた翼に叩かれ吹き飛ばされるペコリーヌ。だが彼女は決して諦めない、どんな逆境に立たされようと彼女の意思は砕けない。

 

「それでこそ……ゲームプレイヤーだ、私の望む…最高のプレイヤーとは…君のような存在だ」

「黎斗くん…大丈夫なんですか?」

「この程度のダメージ、慣れている」

 

私はペコリーヌの横に並ぶ、現状でこれを打開する術はない、しかしかといって諦める理由も見当たらない。

 

「貴方達が潰れれば他の奴らも戦意を喪失するでしょうし…そうね、いいでしょう…さっさと潰してあげる」

 

私達は突き進む、隙があるようで全くない奴に攻撃を仕掛けても全て回避され、奴の攻撃は確実に私達を捉える。

 

その時だった、私の頭の中に声が…

 

その声に釣られて私は一瞬だけ動きを止めてしまう、その際。

 

「くぅっ…!!」

「これで終わりよ!お姫様!!貴方の国は!いいえ!!世界は私が作り変える!!新世界の神となるの!!」

 

バッと前を向くとペコリーヌが剣を弾き飛ばされ更に巨大化した爪で切り裂かれようとしていた。

 

「ペコリーヌ!!」

 

私は咄嗟に名前を呼びながら彼女を突き飛ばし奴の爪に引き裂かれる。

 

「ぐぁぁっ……がっ……は…」

「く…黎…斗くん…?」

 

私はそのままゆっくりと両膝をつきそして、変身が解除され…

 

そこで意識を失った。

 

「黎斗くぅぅぅぅん!!!!!!」

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幻の夢を追う者へ

俺には夢がない、でも夢を守る事はできる。
だから明日のパンツを真っ白にする。


 

 

 

「黎斗くん!!黎斗くん!!そんな…どうして…!!!」

 

わたしの目の前で…彼は倒れた。

 

目を覚まさない、目を開けてくれない…なんで…どうして…!!

 

「彼らしい最期といえば最期かしら、全く…価値ある人間が無価値の人間の為に命を落とすなんて無駄な事だわ」

 

わたしの前で奴が笑う。

 

「どう?お姫様…これでもまだ私を許してくれる?私にやり直すチャンスをくれる?」

「…っ」

 

言い返せない…許せない…わたしの大切な人をまたこの人は…奪った…

 

でも…

 

「許せませんよ…貴方なんて…大っ嫌いです…!!でも…だからこそ…罪を償う機会を…与えるんです…わたしは……お姫様だから…!!!」

「大したものね、流石は人の上に立つ立場といったところかしら、まぁいいわこれで私を邪魔できる者はいなくなった」

「…何を言ってるんですか…いますよ…ここに…私が…私達が…!!」

 

風…竜巻が巻き起こり、奴を包み込む。

 

「ふん、下らないわね……確かコッコロちゃんって言ったわよね?」

「やはり…効きませんか…!」

「コロ助…怯むんじゃないわ!!!」

 

次に上から雷の槍が何本も降り注ぐ、これは…

 

「キャルちゃん!コッコロちゃん!!」

「…キャル…私のところにいた時よりも随分とハキハキしてるじゃない」

「申し訳ありません…陛下…あたしは…この美食殿のメンバーなんです…そして…」

 

更に追い討ちをかけるように雷の魔法を唱えて攻撃する、勿論奴に攻撃は当たらない。

 

「大切な人を…そんな目に遭わされて…黙っていられる程出来た人間じゃないんですよ、あたしは!!!」

「いい顔よ!!キャル!!それでこそ潰し甲斐があるわ…!!」

「…キャルちゃん、コッコロちゃん…やりましょう…黎斗くんの為にも…美食殿の手で決着をつけるんです!!」

 

こんな所で…打ちひしがれてる場合じゃない、きっとそんなことをしてるな!って黎斗くんに怒られちゃうから、だからわたしは頑張る。みんなも頑張ってる。

 

わたし達は全員で奴に攻撃を仕掛ける、当然の如く攻撃は当たらない。

 

黎斗くんとの攻防を見ていたけどこの人には完全な予知がある、あらゆる手を尽くしても攻撃を…防御を完璧に予知し反撃してくる。

 

「キャルちゃん!魔力の方は!!」

「安心しなさい、他の奴らのおかげでだいぶ回復できたと思うわ!!」

「わたくしも平気です、回復魔法の方は無理ですが攻撃魔法ならば精霊達の力を借りれば十二分に戦えます」

 

予知能力…前まではどうやったって敵わない相手だと思ってて、今だって別に何か突破口があるというわけでは無いけど。

 

でも…前の時とは違う、明確に…ただ絶望して諦めるわけにはいかない。

 

わたしには…みんながいるから…!!!

 

「全力…全開……!」

「へぇ、まだそんな力があったのね、少し驚いたわ」

 

わたしは王家の装備の出力を全開にする事で戦闘能力を飛躍的に向上させる、限界なんてとっくのとうに過ぎてる、だからもう関係なんてない。

 

「でも、そんな乱雑に振る攻撃なんて何万光年経っても私に当りはしないわよ」

「わたし1人ならそうかもしれません、でも…今のわたしにはみんながいます、だから必ず届きます!!」

「行くわよ〜ペコリーヌ!!!サンダボール!!」

 

キャルちゃんがわたしの攻撃に合わせて間髪入れずに雷魔法を連射する。

 

「わたくしも…風の精霊よ、穿て!!」

 

コッコロちゃんも奴に連続で風魔法による攻撃を仕掛ける。

 

「あらあら、黎斗君と同じで弾幕を張るって作戦かしら?無駄よどんなに隙間なく攻撃を展開しようが私には全て見えるのよ最適な答えがね」

 

奴には死角からの攻撃も無意味、確かに無敵のような強さに思える…でも

 

「はぁぁぁ…!!全力の…プリンセスヴァリアントォ!!!!」

「…!!」

 

ドンッと炸裂音が響く、わたしはフルパワーで奴に向かって剣撃を飛ばした、それは空間を切り裂き広範囲を巻き込んで爆発させるわたしの大技。

 

「…へぇ、やるじゃないお姫様」

「はぁ…はぁ…貴方こそ…今のタイミングでよく防ぎましたね」

 

奴は翼で身を守り先程の大技をガードした……これで確信に変わった。

 

「やっぱり今…『守り』ましたね、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)

「…何が言いたいの?」

 

明確…奴の声色が変わったのか分かる。だからわたしは続ける。

 

「今まで貴方は『回避』を選択していました、それは避けられるからです、当然です。しかし『避けられない程の広範囲の攻撃』は当然身を守るしかない」

 

当たり前のようで気付かなかった事、奴は別に瞬間移動が出来るわけでも時間を止められる訳でも無い、ただ完璧に予知ができるだけ。

 

「そして今確信しました。貴方の予知は5秒程先しか見えていない、そうですね…二手か三手先程度でしょうか、それくらいしか見えていない。もっと先を見ているのならば今の攻撃へと対処は距離をおいて回避した方がいいですから」

「…そうね、貴方の言う通り体を動かしつつ頭の中で未来を予知しながら戦うなんていう神業を正確にやるのはせいぜい数秒先が限界かしらね」

 

…えらく素直に認めてきた…これは何かある。

 

「で?それに何か問題でもあるのかしら、例え数秒先しか見れなくても別に『クールタイム』が必要な訳じゃあるまいし!!」

 

ズズンという音が聞こえた、背後からだ、わたしが振り向くと…

 

結晶化した魔力の塊がキャルちゃんとコッコロちゃんを跳ね飛ばしていた、いつの間に…っ!!?

 

2人は大きく大空を舞っている、モロに攻撃を受けてる…これは…っ!

 

「キャルちゃん!!?コッコロちゃんっ!!?」

「予知通りね、貴方が下らない妄言をドヤ顔で説明している間に攻撃ができたわ…油断しすぎなんじゃ無いの?」

 

奴が更に追撃を2人に仕掛けようと魔力を集中させている…しまっ…っ

 

「っ!!?」

 

わたしがそう思う前に奴に雷が降り注ぐ、奴はそれをすんでのところでその場から移動する事で回避した。

 

何か違和感を感じた、予知による回避ではあったけど…今までと違いわざとではなくギリギリで回避したように見えた。

 

「…キャル…貴方…」

「あら…陛下、予知した後もちゃんと警戒してなきゃダメじゃ無いですか」

 

キャルちゃんは吹き飛び空中に舞いながらも軽快に動きながら体勢を立て直し地面にその二本の足で着地する。

 

「あたし達に攻撃が当たった……までは予知していたみたいですがそれによって『ダメージが無かった』という所までは予知できないみたいですね陛下」

「わたくしの精霊の力により事前に攻撃の軌道を逸させていただきました」

 

2人が自信満々に言い放つ、それだけじゃない…

 

キャルちゃんは片方の手の親指を自分の胸元らへんに持ってきてなぞり払うような仕草をする、これは黎斗くんがよく戦う前にやる動作と同じだった。

 

そしてキャルちゃんは続けて言う。

 

「陛下、必ず貴方を攻略します、あたし達の手で」

「……キャル…っ」

 

 

私が目を覚ますと

 

「ちょっと何やってんのよこのおバカ!!」

「痛っ…」

 

私は頭を引っ叩かれた、叩いてきたのはアメス、つまりここは夢の世界。

 

「…君が呼んだんじゃないか」

「いや呼んだけど!!でも何やらかしちゃってくれてんのよ!?あんた死ぬレベルの怪我をしたのよ!?てゆうかほぼ死んでるわよ!今のあんたの体!!」

「はぁ…」

 

私がため息を漏らすと更に顔を真っ赤にさせ。

 

「あんたねぇ…!その体!あんたの体じゃないのよ!?分かってんの!?無茶して死んだら死ぬのは元の持ち主なんだから!」

「だがしかし今の所有権は私にある、なのだから私が何しようが私の勝手だ」

「身勝手!!あんた身勝手よ!!?」

 

こうしてこの世界に来れたのだから問題無い筈だ、何が不満なのか、彼女の怒りが私には分からない。

 

「そもそもあの場面でペコリーヌを失う方が不味かっただろう、私の場合はこうやって仮死状態になれる分、奴の目も誤魔化せるのだからな」

「…それは…そうだけどさ…無茶しすぎよ、下手したら本当に死んじゃってだかもしれないのよ?」

「ふっ…私は死んでも死なないさ」

「何よそれ…」

 

さて、ただ単にペコリーヌを庇ったわけではない、今のこの状況は何より好機だ。

 

奴の予知能力には弱点がある。それは『奴の意思で能力を発動している』と言う事だ。

 

どういう事かといえば、例えば奴の予知が『危険を察知し自動的に発動する』というものだった場合、これから起こる自身に降りかかる不幸を未然に防ぐ無敵の力となるだろう。

 

しかし奴との攻防ではそういったものは一切無かった。死角外からの攻撃に対して反応していたから私は勘違いしてしまったが、奴の予知は奴自身が『予知をすると意識しなければ発動できない』

 

そう、クロノスがポーズをする為にボタンを押さなければならないのと一緒さ、だからこそ私が今仮死状態になっているのを『死んでいる』と勘違いしている筈だ。

 

勘違いしたが最後、奴は私に対して予知を行わない、必要がないと判断する、それこそが弱点だ。

 

この間も恐らくペコリーヌやキャル、コッコロが必ず奴を食い止めている、彼女達を信じ私は私が出来る最善の手を尽くそう。

 

「私をここに呼んだのは…いるのだろう晶」

「正解だよ〜ん、黎斗君流石だね〜」

 

この飄々とした女…晶と呼ばれた女性、天才的なゲームクリエイターという事しか今は分からない。

 

「まさか仮死状態を利用して真那の目をやり過ごしてくるなんて、流石の私も思いつかないし思いついたとしても実行しないわ」

「…それよりも要件はなんだ、私としてもあまりここに長居をしたくはない」

「まぁ、そうだよね彼女達の事心配だもんね」

 

晶はニヤニヤとこちらを見て笑う、不愉快極まりないな。

 

「…君の事だからさ、きっと…『コレ』のキーをもう既に作ってると思うんだよね」

「…これは…っ!!」

 

私は彼女から手渡された光の粒子、その中にある『コレ』と呼ばれたデータを見て驚愕する。

 

「いやまぁ…アタシの力じゃそれが限界、ハッキリ言って神の領域だよね、それ」

「…寧ろよくここまでやってくれたな晶、本来ならば私の才能を利用した事に激怒したい所だが…感謝する」

「…まぁ別にいいけどさ、それで?当然」

「ああ、ここまで再現されているのならば私の方のデータと組み合わせればほぼ完璧に生み出すことは出来るだろう」

 

私の言葉に何やら釈然としないように…いや明らかにテンションが落ち込んだ晶が頭を掻きながら。

 

「…ふぅ、わかってると思うけど、それ…とんでもなさ過ぎる、故に…もしあの世界で使ったら、君…うん、少年ではない君自身…黎斗君がどうなるか分からない」

「…今更怖気付くとでも?」

 

私は彼女の言葉の真意を理解している。

 

「…君さ、黎斗君が過去にどういった人生を歩んで、どういった性格をしていたのか、アタシには全然分からないよ、でも…君がこの世界に来て、彼女達と生活をしているのを見て、これだけは言える、この世界での君は幸せそうだった」

「…」

 

私は彼女の言葉を黙って聞いていた。

 

「だからさ、正直に言えば、その力は使って欲しくない…十中八九、君はこの世界から弾き飛ばされると思う、君は精神体だからね…負荷に耐えられない」

「えっ…晶…それって…」

 

アメスが困惑したように問う。

 

「…うん、黎斗君という精神…人格は消える…いや元の世界に戻るっていった方がいいのかな、そこら辺は分からないけど…とにかく黎斗君が消えて…少年が戻る、とアタシは思ってる」

 

アメスはそれを聞いて複雑そうな顔をしていた。

 

「…あたしにとって…アイツは……相棒だったから…元に戻るのは嬉しい、でも…黎斗も…同じくらい相棒だった…だから…っ!!」

「何を言っているアメス、結局私はこの世界では異物だ、存在してはならない存在なんだ……全て元に戻る、それだけさ」

「でも…!!」

 

私の覚悟など等に決まっていた、未練などあるわけが無い。

 

「それに…私は不滅だ」

「…え?」

 

私には確かな確証があった、そこに理由があるわけでは無い。

 

「例えこの世界から私という意思が消えても、私は残る…そんな気がしてならない、何故ならば私は神…いやこの世界ではいずれ檀黎斗神王と名乗るのだからな」

「…何よそれ…ふふ」

 

アメスは笑った、それでいい。

 

「…覚悟は決まってたみたいだね、余計なお節介だったかな?」

「そうだな、私がただの仲良しこよしのギルドの為に勝てるゲームを放棄するなど有り得ない」

「…そうかい、ならいい。だったらこっちも準備を始めておく、そのデータを完全にゲーム内にアップロードをする為にも時間は掛かる」

 

…時間か…

 

「どれ程だ?」

「いんや、そこまで長時間はかけるつもりはない、そんな時間ないしね、長くても10分…勿論最速で届けるつもり、黎斗君…出来る?」

「…やるさ、私を誰だと思っている」

「ふふっ…それじゃあ頼んだよ檀黎斗神王君、後は君に任せる」

 

 

「あっはっはっ!!結局減らず口だったわけね!他愛もないわ!!」

「はぁ…はぁ…くっ…」

「キャルさま…ペコリーヌさま…大丈夫ですか…っ」

 

ここまで…耐えられたのはむしろ奇跡かもしれない…

 

キャルちゃんが凄く頑張って奴の予知の上を行くように策を立ててくれていたから、でも

 

予知だけじゃない、覇瞳皇帝(カイザーインサイト)にはそれを簡単に覆せるだけの知性もある。

 

わたし達じゃ弾幕も多重トラップも広範囲攻撃も何もかも足りない、奴の上をいく事が出来ない。

 

頑張っても頑張っても、奴に傷一つ付けることはできず、わたし達は傷つつく一方だった。

 

「頑張ったわねキャル、でもね無駄なのよ、神である私に凡人の貴方では勝つことができないと、結局貴方は黎斗君の猿真似をしているに過ぎない」

「それでもいい、アイツに近づけるのなら…貴方を…越えられるのなら」

「…変わったわね、キャル…そうねぇ、私の名前って千里真那…って言うわよね?」

 

唐突に彼女はそんな事を言い出す。

 

「真那…マナ、この世界の力の源、それもマナって言うでしょ?マナっていうのはね、神秘的な力の事を指す言葉なの」

 

背に取り付けられた結晶の翼を広げながら語る。

 

「超常的な力…人々が恐れ、敬い、崇める力…それがマナ、私の名にはそう言った意味が込められている。私は生まれながらの神なのよ、神になるべきして生まれてきた存在…!!!」

 

そこまで言い放った後だった、奴に異変が起こる、何か…驚いてる…?

 

「馬鹿な…そんな…っあり得ない…っ」

 

わたし達の周りに異変はない、奴は何かを予知した…一体何を…?

 

「ほう…随分と面白い考え方だな、生まれながらにして神…か」

 

この…声は…っ…っ!!

 

わたしはその声を聞いた瞬間、涙が止まらなかった、わたしだけじゃない、キャルちゃんもコッコロちゃんも…っ

 

「なら私はその神を超える、まさに神の王…檀黎斗神王だァァァァァァ!!」

 

黎斗くんが…立ち上がっていた。

 

 

「…どうして…っ!!貴方は確かに死んでいた筈っ…!」

「ああ、そうさ…私は死んでいた…だが私は…このゲーム、コンティニューしてでもクリアする」

 

私はそう言いながら前へと進む、瀕死状態の美食殿のメンバーの横に並ぶ為に。

 

「主さま…ご無事で…っわたくし…わたくしは…っ」

「…っばかっ…遅いわよ…」

「黎斗くん…よかったです…本当に…っ」

 

各々が感動を分かち合うように私に対して何かを言ってくるがそうしている暇はない。

 

「コンティニュー…ですって…っ!!」

「ああ、ゲームならば当然だろう」

「ふざけないで!この世界での死は現実での死を意味する、それは絶対よ!蘇りなんて……いや、まさか…晶ね」

 

やはり奴の事を知る千里真那にとって推測は簡単か。

 

「こんな芸当ができるのは晶しかいないもの、それで?何か対策でも教えてもらったのかしら?試してみる?」

「随分と余裕だな、その借り物の力でお前は満足しているようじゃないか」

「…借り物…ですって?」

 

私の挑発に乗ってくる。

 

「そうだ、結局神だなんだと言いながら私の才能を利用しているに過ぎない、その力は自分で生み出した力ではない…お前など神ではない偽神だ」

「利用できるものは全て利用する、それの何が悪いの?神である私に全て貢のよ、全人類がね」

 

…真逆だな、ゲームクリエイターとは生み出し他者に希望と永遠の娯楽提供するものだ、しかし奴はそれらを奪い去り自身の物としようとしている、本質を見失っている。

 

「く…クククク…」

「…何がおかしいの?」

 

私は思わず笑ずにはいられなかった、そして私は言うのだ、奴の奥底に眠る嘘で固められた本質を引っ張り出す為に。

 

私は千里真那に対して人差し指で指し示す。

 

「千里真那ァ!!!何故君が草野結衣に嫉妬したのかァ!!!」

「…っ!!?」

 

私の一言で空気が変わる、明らかに動揺を示す千里真那。

 

そして周りにいるコッコロやキャル、ペコリーヌや千里真那の放つ目のような物体の対処に当たっている他の者達もまた私の言葉に耳を傾けた。

 

「何故わざわざペコリーヌから王女の座を奪ったのかァ!!」

「…それ以上言わないで…っ」

 

奴が呟くが私はそれを無視する。

 

「そもそも何故レジェンドオブアストルムというゲームを生み出したのかァ!!!!」

「それ以上言わないで!!!!」

 

奴は攻撃してこない、それ程までに取り乱しているのだろう。

 

「…千里真那ァ…それは、君が…物語のヒロインに憧れていたからだ」

「…っ…」

 

私はそこで一気にトーンダウンして言った、彼の…いや『彼女』の本質を。

 

「…何よそれ、知らないわ…違う」

「違わない、それがこれまで君が矛盾してまで奪い取った座の答えた」

 

周りがざわつく、それはそうだ。魔王のように民を蹂躙し神を自称した者が願ったものがお姫様のようなヒロインだ、などと言うのはあまりにも滑稽だろう。

 

「ふっ…答え、ね…そんな子供じみた願いが答え?笑わせないで、もう夢を見る歳じゃないのよ、いつまでもそんな物に縋るなんて馬鹿馬鹿しい」

「それの何が悪い」

「…え?」

 

私の答えに奴はポツリとつぶやいた、予知能力がありながら予想もしてなかった答えが返ってきたからだろう。

 

「子供じみた夢を見て何が悪い、それは誰が決めた。…確かに君の言う通り、ゲームに対する他者大勢の価値観は夢など見ず現実から目を背けるなと言われる程劣悪な物だろう、いつまでもゲームをやる大人は『卒業しろ、早く大人になれ』などと罵倒されることもある」

 

だが

 

「同時に大人になるにつれて人間という人種は大切なものを失っていく、それこそが『夢』だ」

「…夢」

「ゲームに限らず大人になると『現実』が行手を阻む、夢を捨て、夢を持つ事が恥となる。それこそ人類が今の段階で進化が止まっている原因だと私は思っている、夢はいつまでも、いつになっても見て良いものだ、そしてそれを叶え可能にする才能を、自分を信じなくて誰が成し遂げる」

 

私の才能は常にそこにあった、私の夢は幼少の頃から変わらない、いや、むしろ増長し更に膨らんでいっている、可能性というのは無限に広がっていくのだ。

 

「君は諦め切れなかったからこそペコリーヌから王女の座を奪った、まだチャンスがあるかもしれないと願った、それは決して恥ずべき事ではない、しかし今の君は勝手に諦めた負け犬だ」

「なん…ですって…っ」

「君は逃げただけだ自分の夢から、君自身が『幻の夢』にしてしまった」

 

奴は震える、怒りなのか悲しみなのかは分からない、そのどちらもなのかもしれない。

 

「黙りなさい!!わかったような口を聞かないで!!もういいのよそんな戯言!!貴方達はもう生きられない!!ここでゲームオーバーになって!この世界は私の世界へと生まれ変わるのよ!!」

「…そうはいかない、君は少し勘違いをしている」

 

私がそう言うと奴は身構える。

 

「君との今までの会話は私の才能を刺激してくれるには十分だった、感謝しているよ…ただ、それだけではなァい…君との会話は全て…時間稼ぎに利用させてもらった…!!!」

「時間…稼ぎ…っ何よ…そのガシャットは…っまさかっ…晶にデータを送ってもらう為に…私と会話をっ!?」

 

私が手元に出現させる前に奴がそんな声を上げる、予知で先読みしてきたようだ。

 

「これがなんなのか、君の能力でみたらどうなんだ?」

 

私は出現したガシャットのスイッチを入れる。

 

『ゴッドマキシマムマイティエェックス!!』

 

「グレードビリオン…変身」

 

『マキシマムガシャット!!ガッチャーン!!ふ〜め〜つ〜!!!!最上級の神の才能!クロトダーン!クロトダーン!最上級の神の才能!ゴッドマ〜キシマ〜ムエェックス!!』

 

私の頭上からマキシマムゲーマが出現、ゲンムに装着される事で私は仮面ライダーゲンム ゴッドマキシマムゲーマーレベルビリオンへと変身する。

 

「それは…っ…っ!!!」

「さぁ、ゲームを始めよう千里真那、幻の夢を叶える為に」

 

 

 

 

 

 

 




ー次回の仮面ライダーゲンムは!!ー

「黎斗くん!!」
「黎斗!!」
「主さま!!!」

遂に迎える最終決戦───。

「貴方には敵わないわね…」
「安心しろ…私は、不滅だ」

最後の時───。


最終回『終わりなきGAME』


次回、第一部完…?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

終わりなきGAME

こちら第一部最終回となっています。


「その力は……っ…!!」

「うん?私のデータの中にはこれのデータは無かったはずだ、それとも予知でこの先の攻撃を見たのか?」

「いいえ、違うわ…確かにデータには無かった、でもね…何重にもロックされたソレを見て何も思わない程、私は愚かではないわ」

 

奴は明確に今の私に対して警戒をしている、これは予知などではなく奴自身の本能。

 

「ペコリーヌ、コッコロ、キャル…君達は皆下がっていろ…よく私が戻ってくるまで耐えたな、褒めてやる」

 

私はそう言って彼女達を下げる、もう何も心配する事はない、この私が来たのだからな。

 

「ゴッド…ねぇ、神の名を冠する者同士、仲良くしましょうよ」

「悪いが君は神に到達すべき人間ではない、今の所、神は私1人で十分だ」

「…そう、なら私もそう思う事にするわ、神は1人でいい」

 

奴は周りに水晶状の魔力の塊を生み出し、そこから流星を放つ。

 

私はそれを避ける事はしない、ただ真っ直ぐ歩いて突き進む、今更そんな攻撃を避ける必要もないからだ。

 

「…やっぱり効かないようね」

 

奴は手を緩めないが攻撃が単調だ、おそらくあらゆる未来を見通して私に対する攻撃手段を考えているのだろう。

 

「攻撃に予知を割いている暇はないぞ、千里真那ァ!!」

 

私はGMマイソロジーアームを伸ばす事で攻撃を開始する、射程距離は無限、どんな距離からでも攻撃が可能だ。

 

「…フッ!!ハッ!!」

 

私は連続で拳を振るも奴に攻撃は当たらない、それが奴の力だから当然だ。

 

「成る程ねぇ、姿形があの永夢君のマキシマムマイティに似ているから薄々感じてはいたけど、能力も同じようね、手足を自在に伸ばして攻撃可能、射程距離も上限無し、更に空中だろうと自由自在に動ける」

「いい推察だ、だが永夢のマキシマムと同じにされては困るな」

 

この攻防に意味はない、奴にこの程度の攻撃は通じないのだからな。

 

「…!!それは…っ」

 

奴が呟く、おそらく次の手を読まれたのだろう、ならば期待に応えなければな。

 

「シューティングクロニクル…起動」

 

私の言葉と同時にshooting chronicleのロゴが出現し、私の背後から複数の戦闘機が出現する。

 

その戦闘機の装飾はそうだな…どちらかといえばSFなどに出てくるような非現実なものだろう、私のイメージも実際の戦闘機というよりはそっちをイメージして生み出した。

 

「このゲームは宇宙からやってくる地球外生命体を、主人公が戦闘機に乗り込み倒していくシューティングゲーム、君は今地球外生命体と認識された」

「…成る程、私が外敵って扱いになってるって訳ね…でも」

 

街を焼き尽くすほどの集中火力、空中に展開された戦闘機がそれこそSFチックな謎のエネルギー弾を発射しディオを粉砕しようと過剰攻撃で攻め立てる。

 

しかし私の呼び出した戦闘機は数秒後、逆に粉々に粉砕される、ディオによって破壊されたのだ。

 

「無駄って分からないの?私の予知は完璧なのよ、例え戦闘機だろうとなんだろうと差し向けて来ても私1人で戦争を終わらせることができるの」

 

崩れる私の戦闘機達、数多の残骸がランドソルの街に降り注ぐ。

 

「モンスターズクロニクル起動」

 

次に私が生み出したゲーム、それは何百、何千の魔物達が千里真那を狙って攻撃をし始めた。

 

先の状況とは真逆、私達が魔物に襲われるのではなく千里真那を襲う。

 

「何かしらこれは!意趣返しのつもり!!?無駄よ!!」

 

奴は次々と迫る魔物を片っ端から潰していく。

 

「モンスターズクロニクル…とてつもない数の魔物を相手にする無双ゲーム」

「無双ゲーム?ふっ…だったら私が主人公という事よねぇ?無双ゲームってこうやって雑魚共を蹴散らしていく爽快感が売りのゲームだもの、尚更私を倒すことなんて出来やしない!」

 

『キメワザ、クリティカルアストルム』

 

奴の回し蹴りは流星を纏い、全ての魔物を一気に片付ける。

 

「主さまのお力…これは…一体…」

「アイツのことだから自分が死ぬ事まで計算に入れてたんじゃないの、死んでる間に何かしたのよきっと」

「…今は黎斗くんを信じるしかありません…他の皆さんも…もう限界ですから」

 

ペコリーヌの言う通りだ、奴の放った目のような物体のおかげで他のギルドも疲弊が限界に達している、これ以上戦闘を長引かせるわけにはいかない。

 

「ゲームを生み出すゲーム…それがゴッドマキシマムの力かしら?」

「君の予知と私の想像力…どちらが上か証明してやる……ライダークロニクル起動」

 

次は私が完成させた究極のゲーム、ライダークロニクルだ。

 

私の前に10種のバグスターが出現する、パラドやグラファイトも含めたあの面子だ。

 

「ふぅん、その子達は黎斗君のデータで見たわね」

 

奴はそう言いながら迫り来るバグスター達を一撃粉砕していく、下級バグスターは勿論、グラファイトやラヴリカ、パラドのような上級バグスターも簡単に弾き飛ばす。

 

「でも、歯応えがないわ、所詮貴方が生み出したゲームのキャラクター…オリジナルとは程遠いわね、このパラドって子はデータによるともう少し強かったと思うけど」

「そうかもな、だが次はどうだ」

 

次に召喚したのはブレイブレベル100、スナイプレベル50、エグゼイドハイパームテキ、ゲンムデンジャラスゾンビ、レーザーレベル0、クロノスゲーマドライバー仕様という錚々たるメンツだ。

 

「行け」

 

私の号令と共にそんな面子が一斉に襲い掛かる、ゴッドマキシマムでは初めて起動したゲームだ、中々に壮観だなこの光景は。

 

それだけではない先程吹き飛ばされただけの上級バグスター、パラド、グラファイト、ラヴリカ、ポッピー。

 

それらが力を合わせてディオに立ち向かっている。自分で言うのもなんだがこのような光景は2度と見られない貴重なものだろう。

 

オリジナルではないデータ状の産物とはいえ、私の心の中にこの光景は刺さるものがあった、こんな面白い光景、彼らに見せたらどんな表情をするか、考えただけで笑みが出てしまう。

 

「確かに、さっきの奴らよりはまともよね、それでも私に攻撃が届けばの話だけど」

 

あれ程の面子の攻撃も当たらなければ意味をなさない、奴の攻撃により次々と消滅させられていく。

 

「ガワだけの偽物で私を止められると思ってるのだとしたら黎斗君の目も腐ったものね」

 

奴の翼がブレイブとスナイプを消し飛ばす、残ったライダーはムテキとクロノスとラヴリカ。

 

この3体は特殊能力がある、例えオリジナルで無くとも特殊能力で耐える事は可能だ。

 

「ここに来て時間稼ぎのつもりかしら?小賢しいわね」

 

ムテキ達が奴を足止めしている、やはりディオに攻撃を当てる事は不可能、このまま私が静観していた所で勝負はつかない。

 

「シューティング、モンスターズ、フォートクロニクル起動」

 

戦闘機、魔物、そしてランドソルの街に巨大な砦が出現する。

 

「…予知通りだけど…何の真似かしら」

 

ディオは残った3体を捌きつつ戦闘機や魔物さらには砦からの砲撃を全て躱し、防御している。

 

側から見てもおかしな性能だと感じる、ここまでの連続攻撃はこのゴッドマキシマムでさえも一歩間違えればやられかねない、というよりそのレベルの攻撃を仕掛けているつもりだ。

 

ちょっとした戦争レベルの攻撃をしているのだが擦りもしないとは…

 

「凄すぎない…流石に引くレベルだわ…」

「黎斗くん…どんどん強くなっているんですね」

「流石はわたくしの主さま…」

 

私は奴に攻撃するついでに他の人間に襲い掛かっている目のような物体も射撃や砲撃で破壊し尽くす、これで誰かが死ぬような事はないだろう。

 

さて、準備は整った。

 

「私のおもちゃも全て破壊されてしまったようね、まさかそれが狙い…?無駄な事を…私の魔力は既に十分回復している、どれだけ破壊しようが再び…」

 

奴は言葉を失った、それもそうだ、奴の眼前には既に迫っていたからだ『星』が

 

「なっ…っ!!?」

 

何の星かは分からない、このゲームの世界に設定されたなんらかの星だ、大きさは火星程はあるだろう、それを私が持って来て奴にそのまま振り抜く。

 

召喚したライダーも戦闘機も魔物も砦も全て巻き込む形で奴を殴り抜ける、それは奴に直撃しそのまま大きく吹き飛ばす。

 

奴が吹き飛んだのは数百メートル以上先の王宮、その壁に打ち付けられ王宮が崩壊し始める。

 

「ふん」

 

私は適当に星を空に投げ捨て、メテオファイトブーツの力を使い一気に奴に近づいていく。

 

「驚いたな、あの攻撃を受けてまだ立ち上がるとは」

「ぐっ…がは…そんな…っ…!!」

 

あの一撃はあのクロノスでさえ1発ダウンさせる程の威力だ、まともに浴びればどうなるか考えるのは簡単な事だ。

 

奴は予知能力を使いギリギリで防御態勢に入ったのだろう、奴に取り付けられていた魔力の武装である爪や翼は粉々に砕け散っているのもその証拠だ。

 

「…そんな攻撃が…残っていた…とはね…っ」

「君の予知能力は完璧だ、最初から星による攻撃をしたとしても君の殲滅魔法により星は砕かれていただろう」

 

だからこの手は今の今まですることが出来なかった、予知したとしても回避できない攻撃ならば破壊すればいいだけだからな、そして奴にはそれが可能だ。

 

「あの…無駄な攻撃は…全てそっちに予知を割かせる為の…ブラフ…」

「おかげで君が予知により殲滅魔法を放つという選択肢を潰すことが出来た、言っただろう、君は全て私の手の上で転がされているのだと」

 

だが…まだ終わりではない、奴は満身創痍でも戦える。

 

「…そう…私の予知が断片的に数珠繋ぎで行っているとバレたあの時からこの策を思いついていたのね…晶からその力を受け取る事も全て…」

「ああ」

 

私は肯定する、奴の能力は本来ならば1から10の過程から結果までを予知できるだろう、しかし戦闘中ではそうはいかない、だからこそ奴は1、2、3…と区切りをつけてそれを連続で処理する事で完璧な予知をしていた。

 

しかしそれではラグが生まれる、相手の手数が多く本手を隠された場合はこの様に対処が遅れる。

 

「…でも…まだ…負けた訳じゃない…!」

「ああ、そうだ」

 

私達は構える、そして…

 

「ふん!!」

「はぁぁ!!!」

 

先に攻撃が命中したのは私の方だ、伸びた腕が奴の顔面を捉える、もう既に予知をしている余裕が奴にはないのだろう。

 

奴は私の伸びた腕を掴み取り、引っ張り引き寄せ、拳を叩きつける。

 

「ぐぅっ…っ…っ!!」

 

私にもダメージがある程のパワー…っしかしここで狙うのは…っ!!

 

私は拳を振り抜き、奴のバグルドライバーを殴りつける、するとショートしたように火花が散り破損する。

 

「ぐぅぅっ…がぁっ……この…っ!!!」

 

奴もまた拳を振り抜き私のゲーマドライバーを殴りつけると、同じようにショートし破損する。

 

お互いにベルトやガシャットに負荷をかけ過ぎた、私のゴッドマキシマムに至ってはこの世界で維持するにはあまりにも強大、そこに加えこのベルトへのダメージは深刻だった。

 

ゴッドマキシマムを維持する事はもうこれ以上できない。

 

たったのそれだけで私達は大きく後方へ下がりそのまま尻から地面に倒れる。

 

私のマキシマムゲーマの武装が消え、私の姿はゲンムの姿になってしまう、奴も体から火花を散らし、もはや完全に予知能力は消え失せただろう。

 

「はぁ…はぁ…うぐぅぁぁぁぁっ!!!」

「はぁ…はぁ…くっ…うぁぁぁぁっ!!!!」

 

私達は立ち上がり拳を構える、そして一心不乱に拳を振り抜く、ここからは何もない、策略も能力も何一つない泥臭い殴り合いだ。

 

ポツポツと雨が降り始める、ああ…そうだ、いつだって何かの終わりの時は雨が降る。

 

雨の中、私達はとにかく殴り合いを続ける、胴体を顔を…とにかく殴り続けた。

 

再び互いに拳が顔にクリティカルヒットした、その衝撃で私達はまた後退する。

 

「黎斗くん!」

「黎斗!!」

「主さま!!!」

 

私達を追いかけて来た美食殿の3人がこちらを見る。そして…

 

「これで…最後よぉぉぉぉ!!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

大きく振りかぶり、私達は互いの顔面に渾身の一撃を叩き込む、お互いにふらつきヨタヨタと後退した後。

 

「ぐぁ…ああ…」

 

ディオは仰向けになって倒れた。私も倒れそうになったが駆け寄った美食殿の皆が私を支える。

 

互いに変身が解除され、雨に打たれながら奴は呟く。

 

「…ああ…私はまた…負けるのね…」

「…そうだな、君の負けだ」

「ふふ…ふふふ…私はただ、夢を追い掛けていたはずだったのに…」

 

私は支えてもらいながら千里真那に近づいていく。

 

「君の夢は…なんだ?」

「…私の夢は…このレジェンドオブアストルムをみんなに遊んでもらう事…夢を叶えるこのゲームで…」

「…なら私と同じだな、千里真那…ゲームクリエイターは誰かに遊んでもらう事が…夢を提供する事が使命だ」

 

私は続ける。

 

「君は先程、自分の名前…マナは神の力を指し示す名だと言っていたな…しかし…マナには人々の豊穣を願い分け与えるという意味合いもある、君の…本来の夢のあり方だと私は思うがな」

「…もう1度、やり直しましょう…覇瞳皇帝(カイザーインサイト)…」

「…本当……貴方には敵わないわね……なら1つ…私の良心で教えてあげるわ……私を倒しても…まだ闇は潜んでいる」

 

…ここに来てまさかそんな事が判明するとは正直思わなかった。

 

「どういう意味だ」

「そのまま…意味よ…だから気をつけなさい、死にたくなければ…ね…」

「待て…それは…くっ…」

 

私も存外ダメージを受けている…っ…千里真那はその言葉を最後に眠りについた、おそらく死んではいないだろう。

 

「大丈夫…?黎斗」

「ああ…なんとかね…」

「とりあえず雨に濡れない場所へ行きましょう」

「この人も連れて行かないと風邪引いちゃいますよね」

 

私と千里真那は彼女達に連れられて屋根のある場所で雨宿りをする。

 

「やっと…終わったんですね…」

「陛下…大丈夫かなぁ」

「雨のせいもあるのでございましょうが…終わった、という感じがしませんね…」

 

彼女達は座りながらそう語る、その時だった、私の体が淡く光り始める。

 

「主…さま…?」

「ちょっとあんた…体が光ってるわよ!?」

「そうか…もう時間切れのようだな」

「時間切れ…ってどういう事ですか!?黎斗君!?」

 

…ゴッドマキシマムの代償か…私はこの世界にいる事ができない。

 

ならばさっさと済ませてしまおう、別れを惜しむ前に、ね。

 

「私は君達と出会えて良かったと思っている、君達のおかげで私の才能は更なる高みへと昇る事ができた、感謝するよ」

「何を言って…」

「ペコリーヌ食べ過ぎには注意したまえ、キャル、君はもう少し素直になる事を努力しろ…コッコロ…君はよく私を支えてくれた、これからもこの体の事を頼むぞ」

 

さて…別れ挨拶は済んだ、あまり長々といるつもりはない……これからどうなる事やら。

 

「そんな…主さま…お待ちを…」

「そんな顔をするな、コッコロ…安心しろ、私は不滅だ」

「主…さま…」

 

そして私の体が更に光り輝き…

 

 

 

 

 

 

 

久しぶり、とここでは記述しておこう。

 

ん?私が誰か、と疑問に思っているようだが、私だ、檀黎斗9610。まさに今プレイヤー達に見てもらった私のデータの記録で少年に憑依していた個体さ。

 

ここはデータの世界、プレイヤーは私のデータの記録を見終わり再びこの場に帰って来たのさ。

 

ではあちらではあの後どうなったかって?そんな事は私は知らない。もうあの世界と私は関係がないのだから。

 

だが安心して欲しい、私という存在は不滅だ。私という個体があの世界から消えても私がいた痕跡は…軌跡は残る。

 

比喩でもなんでもない、これは事実だ。

 

もしプレイヤーの君達があちらをまだ見れるというのならば是非、見て来て欲しいものだ、私としても気にはなっているからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん…」

「主さま!!目を覚ましましたか!?」

「…君は…」

 

主さまが目を覚まし、キョロキョロと辺りを見渡しています。先程の言葉もありわたくし達は少しだけ身構え言葉を待ちます。

 

「…コッコロ、キャル、ペコリーヌ…」

 

主さまが名前を呼んでくれました。どうやらいつも通り…

 

「…は…はぁ、何よ!!あんた!さっきのお別れみたいな言葉はなんだったのよ!!」

「そ、そうですよ!ビックリしたんですから!」

「…」

「あの…主…さま?」

 

黙ったままの主さまにわたくしが声をかけると

 

「…ああ、すまなかったなコッコロ、キャル、ペコリーヌ。ちょっとしたジョークだ、楽しんでもらえたかな?」

「ジョーク…?…こんの……ふざけんなぁー!!!」

「あわわ!お、落ち着いてください!キャルちゃん!」

 

主さまとキャルさまが取っ組み合いになります、ふふ…良かった、いつもの美食殿に戻ったのですね…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君達はスワンプマンという思考実験をご存知だろうか。

 

ある男がハイキングに出かける。道中、この男は不運にも沼のそばで、突然雷に打たれて死んでしまう。その時もうひとつ別の雷がすぐそばの沼へと落ち、この落雷は沼の汚泥と化学反応を引き起こした事で死んだ男と全く同一、同質形状の生成物を生み出してしまう。

 

というものだ。

 

沼から生まれた男、だからスワンプマン。そのスワンプマンは死んだ直後の男と完全に同じであり完璧なコピーの存在だ。その後は死んだ男がかつて住んでいた部屋のドアを開け、家族と電話をし、読んでいた本の続きを読みふけりながら眠りにつく。そして翌朝、職場へと出勤していく。

 

果たしてこの存在は死んだ男なのかそれともそうではないのか、というのがこの思考実験の本質であり、この私、檀黎斗9610という存在にも当て嵌まるものだ。

 

私は檀黎斗という人間の遺伝子情報をデータ化して生まれたバグスターだ。

 

それだけではない、かつて宝生永夢が記者に「データは命と言えるのか」という質問を突きつけられた。

 

バグスターとして生まれ変わるという事は上記のスワンプマンと同じなのだ、だからこそあの記者はそう訊ねた、バグスターとはその人物の記憶を持った別人だと。

 

私にとっては些細な問題だが、知恵遅れの人類はそれを許さなかった、そして永夢はそれに対して答えを提示した、頭の悪い人類が出来るだけ納得できる答えを用意した。

 

と、今はそんな事はどうでも良い事だ。さて…そのスワンプマンだが、バグスターだけでなく、もし仮に私の記憶と性格を引き継いだ他人がいたとしたら…それは果たして誰になるのだろうか。

 

他の人間ならば別人だと切り捨てる方が楽な考えだ、しかし私はそうは思わない、もしその人物が心の底から自分を檀黎斗だと思っているのならば、同じ思考をしているのならば、ソレは本当に檀黎斗なのだろう。

 

私は檀黎斗の複製体であると理解しているが私自身は檀黎斗である、とそう思っているのだから。

 

だからこそ言うのだ、私は不滅だと。

 

さて、長々とこのお話を続けて来たが、そろそろ終わりにしよう。

 

このデータを元に新たなゲームを作らなければならないからね、私は作業に戻るとしよう。

 

では、また…新たなゲームでお会いしよう、プレイヤーの諸君。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー???ー

 

 

 

 

…私だ。

 

私は檀黎斗9610…から派生した存在、そうだな、檀黎斗Xとでも名乗っておこう。

 

私はこの体…この少年に檀黎斗9610が長期間憑依をした結果、融合を起こし、9610がこの体を離れた後もこうして残存している存在だという事だ。

 

私は檀黎斗9610であってそうではない存在…なんと興味深いのだろうか。

 

檀黎斗から派生したバグスターから派生した存在という極めてイレギュラー、このような事象にこの私という個体が経験出来たのは興奮を禁じ得ない。

 

今のこの状況を少し整理しておこうと私はこうやって記録に書き記している訳だが。

 

今現状ではこの体の本来の持ち主『ユウキ』と『檀黎斗』の2つの記憶を私は保持している。

 

しかし『ユウキ』の方は少々記憶の欠落が存在しわかっていないことの方が多い、故には私は『檀黎斗』と名乗らせてもらっている。

 

今後私のすべき事は檀黎斗9610がこの世界でやり残してしまった事をこの私が引き継ぐというものだ。

 

やり残した事…単純だ、この世界でこの私が『檀黎斗神王』と名乗るに相応しい存在となる事、それ以上でもそれ以下でもない。

 

もし、この私の記録を見ている人間がいるのならば、引き続き私の動向を見守って欲しい。

 

私のゲームは終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ー次回の仮面ライダーエグゼイドは!!ー



「僕の名前は宝生永夢、聖都大学附属病院に勤めるドクターだ」

宝生永夢の元に届けられた新たなるガシャット───。

「おいおい、またあの神の仕業じゃねぇだろうな?」
「奴のお遊びに付き合うのはノーサンキューだ」

神の仕掛ける新たなるゲーム───。

「…約束したんです、黎斗さんのゲームは必ず攻略するって…!」

再びドクターライダー達が立ち向かう!!───。


次回『その絆はPrincess!!!!』


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仮面ライダーエグゼイド 〜プリンセスコネクト〜
Princessの絆!!


檀黎斗9610の後日談です。プリコネ要素はほぼありません。


 

 

 

 

僕の名前は宝生永夢、聖都大学附属病院に勤めるドクターだ。

 

黎斗さんが…いえ、黎斗IIが消滅してから1年の月日が経過していた。

 

僕は相変わらずCRと小児科を跨いだ生活をしている。

 

…CRが存在している、という事は未だにバグスターや消滅してしまった人達の問題は片付いていない。

 

あの日…黎斗IIが消滅した日を境に世界中で異変が起こり始めた、これは恐らくだけど黎斗さんは関係ない。

 

どちらかというと本来起こるべき事が今起き始めたって言い換えたほうがいいのかもしれない。

 

それはなんなのかっていうと新しいバグスターウイルスの出現。バグスターもウイルス、年々進化をして来ている。

 

今までバグスターウイルスは黎斗さんの管理下にあった、だから黎斗さんの元会社である幻夢コーポレーションのプロトガシャット10種のゲームキャラクターを元にしたバグスターしか発生してこなかった。

 

でもその黎斗さんはもういない、檀正宗も存在しない、管理下から離れたバグスターウイルスは世界各国にネットという広大な海を使って広がりを見せた。

 

それにより幻夢製のゲームのみならず世界のあらゆるゲームのキャラクターを元にしたバグスターが発生している、それがあの日から変わった異変の1つだ。

 

だから僕達仮面ライダーの仕事は無くならない、未知の脅威に立ち向かう為に僕達はドクターとして仮面ライダーに変身し今も尚戦っている。

 

そして2つ目は新たなバグスターが生まれ始めた事により動きもあったという事、それは幻夢コーポレーションの現社長、小星作さんがCRと協力し新たなガシャットを作り出した。

 

そして衛生省からの指示により新たな適合者…ドクターライダーをこの聖都大学附属病院に配備する事になった。

 

最前線で戦ってる僕達も、もういい歳だ。今後も新型のバグスターウイルスが生まれ続けるのならやはり若い世代に引き継いでもらわなければならない。

 

本来ならこのバグスターの広がりに対して全国的にもっと配備をしていきたいっていうのが本音なんだろうけど適合手術は狭き門、それをクリアした医者を見つけ出すというのはかなり難題だ。

 

現にこの病院に配備された新しい適合者はたったの1人、手術を受けた人数は20人いたのにたったの1人だ。

 

正直あまり実感なかったんだ、当時の僕はパラドに感染していたから適合手術を受けずに変身できた。

 

大我さんは黎斗さんによって元々選ばれた存在で僕が変身していた時には既に適合者だった。

 

飛彩さんも黎斗さんと過去に出会っていた時点で選別されていたんだろう、貴利矢さんも。

 

当時、黎斗さんによって駒として僕達は集められた訳だから当然みんな適合できた。だから実感が湧かなかった。

 

本来、適合するのはここまで狭いんだって事を、今回改めて僕は実感した。

 

「先生!永夢先生!!」

「叶君!」

 

彼は夢咲 叶(ゆめさき かなう)。23歳で中性的な顔立ちをした僕の後輩だ。

 

彼は8年前、当時15歳の時にライダークロニクルが起こった、その時に僕が治療した患者の1人だ。

 

あの時から叶君は命がけで救ってくれた僕に憧れてドクターを目指し必死に勉強してこの病院に来てくれたって話を聞いた時、僕は心の底から嬉しかった。

 

恭太郎先生に憧れてドクターを目指した僕に叶君が憧れてドクターになった、凄く運命を感じる。

 

これが受け継ぐって事なんだって思った、ドクターの…ヒーローの意思は受け継がれていくんだって。

 

そんな彼もまた昔の僕と同じくCRと研修医の二足の草鞋を履いている。

 

CRに所属しているという所から分かる通り、彼もまた仮面ライダー…の卵。

 

さっきも言ったけど、若い世代に適合手術を受けさせてガシャットを使い、変身させる訳なんだけど…

 

まだまだ育成が足りていないのは事実としてある、彼の扱いが卵なのはそれに起因している。

 

僕や飛彩さん達が戦っていたあの頃は黎斗さんのせいでとんでもない量のバグスターやライダー達と戦わされていた、それこそ毎日のように。

 

幸いな事に現状新種のバグスターもパンデミックという程、爆発的に増えてはいない、既存のバグスターもワクチンでなんとかなる。それに黎斗さんの暗躍がなければ人為的な発生もないから僕達がオペする機会もそこまで多くはない。

 

仮面ライダーのオペは命がけだ、新人研修だとか言って無闇矢鱈に彼のみでオペさせるわけにはいかないから先輩である僕達も現場に行くんだけど…

 

僕はともかく飛彩さんは融通が効かずに1人で倒してしまうのが問題で新人の育成にまるでなってないのが現状。

 

一応僕からも注意を促した事はあるんだけど…「俺の執刀は俺が決める」の一点張りで全く話を聞かない、なんというか頑固さは昔からは変わらないけど…こう…やり取りが初めて会った頃を思い出して嫌だった。

 

あのポッピーからもこっ酷く怒られたのも記憶に新しい。

 

そんな訳で近況は色々と変わって来ている、その中で1番変わった出来事…というか驚いた事があったんだ。

 

今から1ヶ月程前に遡るんだけど…

 

 

ー1ヶ月前ー

 

「えぇぇぇぇ…!?」

 

ポッピーの甲高い声が耳をつんざく、というのも仕方がない事だと思う、だって僕も驚きを隠せていない。

 

「き、きききき、キリヤがけ、けけけけ結婚っ!?ぴぴぴピプペポパニックだよ〜!!」

 

そう、あの貴利矢さんが突然結婚するなどと言い始めて来たからだ。

 

もうそれは驚いた、いつもの嘘かとも思ったけどなんかそんな雰囲気じゃないというか何というか…僕だって長い付き合いだ、それくらいは分かる、だからこそ驚いたんだ。

 

CR内でその報告を聞いた訳なんだけど、僕は口を開いたまま静止、ポッピーはピヨり、飛彩さんは口に運んでいたケーキを落とし、叶君は僕達の声に驚き何もないところで転んだ。

 

「あのさ…君達、酷くない?その反応」

「いや…だってあのキリヤがだよ!?嘘つきでなに考えてるのかわからないあのキリヤが!!」

「…ポッピー、流石の自分でも傷つきますよ、それ」

 

まぁ、ポッピーがそう言うのも無理はないと思う、僕も口には出さないけどそう思ってるし。

 

いやというかいつの間にそんな関係の人がいたの?っていうのが素直な感想、だってそんな素振り見せなかったし…いや、貴利矢さんの事だから言ってたのかな…?

 

貴利矢さんとの会話は半分くらい冗談として聞き流してる、いつも嘘をつくからね。

 

だから過去に「いや〜自分、〇〇さんとお付き合いしててさ〜」なんて言ってたかもしれない、勿論僕は「はいはい、そうですね」と言った具合でスルーしてた可能性もある。

 

それが本当の事だと知らずに…ともかく

 

「ん″ん″…ところで観察医、相手は誰なんだ?」

 

飛彩さんがわざとらしく咳払いをしながら貴利矢さんに聞く、うん、それは僕も気になる。

 

「ああ、それは紗衣子先生だよ」

「八乙女紗衣子だと!?」

「うおっ…っ」

 

僕は突然の事に驚きの声を上げた、その理由はそう言って僕の体から出て来たパラドに驚いたからだ。今までは黙って聞いていたけどその名前を聞いて我慢できなかったんだと思う。

 

パラドと紗衣子先生には浅からぬ因縁があるから無理もない反応だとは思うけど、僕も…まさか貴利矢さんとだなんて…

 

つまり…紗衣子先生と以前からお付き合いしてたって事になる、貴利矢さんもそうだけど紗衣子先生とも僕はちょくちょく会っていた筈…2人とも全くそんな素振りを見せなかった。

 

2人ともポーカーフェイスが上手い人だから仕方がないんだけど。

 

「でもどうして紗衣子先生と?どっちからプロポーズしたんですか?」

「そりゃあアッチからだね、まぁまぁ付き合いもあったし気も合うし別にいっかな〜って感じ」

「随分適当だな、観察医らしいといえば観察医らしいが…結婚というのはそういう不純な理由で決めるべきではない」

 

飛彩さんにとって結婚というのは小姫さんとのある意味でのエンディング地点だ、そこまで辿り着く為に今までずっと苦しんできた。

 

貴利矢さんのそんなフランクな理由にトゲのある返しをするのは当然の事で、僕自身飛彩さんの意見はもっともだと思う。

 

だって結婚っていうのは人生でも重要な分岐点だと思うから、といっても結婚はおろか女性と付き合ったこともない僕が言うのも何だけど。

 

「…そうかもな、でもさ、別に嫌いでもなくて寧ろ好印象の相手に告白でもされたらそれでオッケーなんじゃねぇの?…それにさ自分達はもう別に若くねぇんだしな」

 

貴利矢さんの返しに何も言えなかった、特に…若くないという部分に。

 

今まで色んな事があった、辛い事も楽しい事も、それに目を取られて意識が向いてなかったって言うのはある。

 

僕も今年でもう32歳……若くない、普通に考えればなりふり構っている暇がない年齢って言えるかもしれない。

 

それに僕は医者だ、そういった場に行く事も機会も今は無い、忙しいという理由で先延ばしにしていたら多分、僕は一生結婚なんてできないと思う。

 

飛彩さんのように学生時代からの恋人がいる訳ではないし、学生時代はゲームが恋人みたいな感じで今はそれが仕事に変わってる。

 

そう考えると確かに貴利矢さんのように数少ない出会いを大切に即時即決のような大胆な行動を起こしたほうがいいのかもしれない。

 

「まぁさ、大先生には小姫さんがいるしタイガー先生にもニコちゃんがいる訳だ…んで問題は永夢よ」

「ぼ、僕ですか…?」

 

いや、確かに飛彩さんや大我さんみたいに相手がいる訳じゃ無いけど…こう…他人に名指しで言われるとなぁ…意外と来るものがある。

 

「ここら辺で思い切った行動しねぇと…永夢、お前孤独死するぞ?」

「…キリヤが珍しく真面目…」

「そらな、どっかの神じゃあるまいし不死身じゃねぇんだ、残る人生、孤独にゃ生きたくねぇのよ」

 

確かにそうかもしれない…結婚…か…

 

「で?永夢、お前にはそういう相手いないのかよ」

「…そう…ですね…」

 

あまりそう言った事…考えた事なかったな…前までは家族というものにあまり良いイメージを持ってなかったし。

 

こうやってちゃんとみんなと話してようやく考えたってレベルだし…僕は…

 

「…どうしたの?エム、私の顔に何か付いてる?」

「え…いや、何でもない」

 

なんでだろう、貴利矢さんにそう言われて無意識にポッピーの方を見ていた、確かにポッピーの事は普通に好きだ、声も好きだし、見た目も僕の好みだと思う。

 

でも別に今までそんなこと思った事なかったし意識した事もなかった。

 

「ほぉん…まぁ、いいや、自分がここに来たのはさ。式は1ヶ月後になるからその報告をって思ってな、勿論大我先生もニコちゃんも呼ぶつもり」

「1ヶ月後って…それもまた急ですね…」

「そこら辺はまぁ、自分も思ったよ、あの人そういうの好きだからな〜」

 

確かに紗衣子先生はああ見えてせっかちだ、そういう部分を黎斗さんに利用された過去もあるし。

 

「それにしてもサイコ先生がキリヤとかぁ…院内どうなっちゃうんだろう…」

「阿鼻驚嘆だろうな、奴に惚れていた男は多い、それに俺達にすら今の今まで伝えていないという事は院内の誰も知らないだろうからな、明日から荒れるぞ」

 

う…飛彩さんの分析はよく当たる…そうだよね…紗衣子先生と貴利矢さんが付き合ってる!とかでもアレなのにいきなり結婚報告って……

 

男性ドクターのメンタルケアも視野に入れないと…心療内科の人達…頑張ってください。

 

「ま、他の人達には自分から伝えておくよ」

 

貴利矢さんはそう言って立ち上がり。

 

「それじゃあ、諸君…1ヶ月後、楽しみにしておけよ、自分も気合入れて行くからさ」

 

と言って別れを告げた。

 

それが1ヶ月前の衝撃的な出来事だった、衝撃すぎて母さんの墓参りに行った際に墓標で話してしまう程、衝撃だった。

 

 

そんなこんなで今に至る。貴利矢さんの結婚式は明日。今日はそんな式に呼ばれている僕や飛彩さんだけでなくこのCRには大我さんやニコちゃんも来てくれていた。

 

勿論ただ遊びに来た訳じゃない、大我さん達が来た事は新型バグスターの対策を考えるいい機会だと飛彩さんが判断して今日はCRの活動を優先してくれたんだ。

 

「まさか…あの嘘つき男が先を越すなんてな…そう思わねぇかブレイブ」

「…そうだな、俺としてはこの1年の間に小姫を復活させる術を見つけている筈だったのだが…」

「ブレイブの場合は難易度が違くね?仕方ないことだと思うんだけどなぁ」

 

大我さんとニコちゃんがそんな事を言う、彼らなりの気遣いなのだろう。

 

飛彩さんはこの1年間、再生医療の進歩を願い待ち続けていた、紗衣子先生が言うには少しづつ進んでいるようなのだけれど未だに復活した人はいない。

 

黎斗さんの残したゴッドマキシマムは本当に神の領域の代物なのだろう、研究チーム総出で取り掛かりもう4年になる。

 

つくづく黎斗さんの凄さに驚かされる、あの人はあの時点で何年先に行っていたのだろうか。

 

「結婚かぁ…やっぱ憧れるかも」

「…意外だな、ゲーマー娘がそんな事を言うとは」

「ゲーマーでもあたしも女の子なんですぅ、デリカシーなさ過ぎ」

「…もう女の子という歳ではないだろう…」

「はい、ブレイブ禁句言った!!ふざけんな!この堅物野郎!」

 

ニコちゃんが飛彩さんに飛びかかってる、それを大我さんが軽く止めている。なんだか久しぶりにこういう和やかな雰囲気かも。

 

というよりニコちゃんがいるといつもこんな感じになる、毎度付き合わされてる大我さんはたまったもんじゃないだろうけど。

 

「はぁ…たく、落ち着けお前ら、はしゃぐのは明日からだ、まずは近況報告だ」

 

大我さんが今度はしっかりと2人を宥める、これも久々に見たなぁ。

 

「そうですね、そういえば海外の方でもバグスターが発見されたんでしたっけ?」

「ああ、ニコが見つけてな、日本程じゃないが確認された」

「最近では開業医は主に海外でオペをしていると聞いたが」

「まぁね、今はあたしのうちで養ってあげてるんだ」

 

…今まさに結婚という話題の中でぶっ込んできた同棲発言、いや大我さん達自体は前に一緒に暮らしてた訳だし今更ではあるけど…なんか気になってしまう。

 

…と今は仕事仕事…

 

「えっと、海外のバグスターってどんな感じなんですか?」

「こっちとそんなに変わらない、ただ…戦えるのが俺だけだから正直体の方が厳しい時もあるな、それに海外は病気に対して疎いというか、軽く考えている節があるのも問題だな」

 

昔は戦うのは自分だけでいいと言っていた大我さんも丸くなったものだ。

 

それにしても海外か…確かにバグスターに限らず米国の医療意識はあまり高くない、インフルエンザが流行ろうがマスクは付けないし予防もしない、医療機関の金額が高いからって平気で治療の為の受診をしない。

 

僕が聞いた話では怪我をした指の治療をせずに壊死させてしまう人もいるとか。

 

「あたしが戦えればいいんだけどね〜」

「はぁ、まだそんなこと言ってんのか、お前はもう、うちのバイトじゃねぇんだぞ」

「分かってるよ、あたしもまだまだゲーマーとしての腕は落ちてないし、ゲームをやるつもり」

「…お前はそうしてんのが1番だ」

 

やっぱり2人は仲がいい、こうやってこの2人を見てると、貴利矢さんの言葉が刺さる。

 

僕もそろそろ身を固めないとダメなのかな…いや人生絶対に結婚をしなくちゃいけないって訳じゃないけど…

 

父さんが生きてる間に孫くらいは見せてあげないとダメかなっていうのは少しくらい思ってる。

 

「それで、エグゼイドの方はどうなんだ、後輩ができたんだろ」

「それが…飛彩さんがバグスターを1人で倒しちゃって…新人育成としてはちょっと…」

 

と言うとニコちゃんも大我さんも「ああ〜…」と口を揃えて納得した。それに対して飛彩さんは「おい、変に納得するな」と抗議している。

 

「お前らは2人揃っていつまで経っても変わらないな」

「…そんなに変わっていて欲しいか開業医」

「…いや、こっちも半年近く海外にいると意外とこういうやり取りが恋しくなるもんだって思ってな、日本食を食べたくなるのと一緒だ」

 

久々の再会、僕達は話に花を咲かせた。そんな時だった。

 

「永夢先生!」

「叶君?どうしたの?」

 

叶君がこちらに近づいて来た、何か小包を手に持って…

 

「それは…?」

「いえ…永夢先生宛の荷物だと思うんですけど…」

「…研修医、それはどこにあった?」

「え…と…ドローンで届けられたものですが…」

 

その言葉に僕達は黙り込む、ドローン…以前にも似たような事があった。

 

脳裏に過るのは1年前の出来事、僕に対して送られてきた『マイティノベルX』というゲームガシャット。

 

それにより僕達は酷い目に遭わされた、同時にかけがえの無い絆を得た。

 

「…これって…」

 

ポッピーが呟く。

 

「ゲンムの野郎だ、間違いねぇ」

「また檀キモトの?アイツに振り回されるの何度目ぇ?」

 

2人がうんざりしたように呟く、この場にいる全員が思ってるような事だけども。

 

「…奴のお遊びに付き合うのはノーサンキューだ…だが…」

「おい、永夢…」

 

飛彩さんの言葉に続けて、出て来たのはパラドだった、分かる…パラドの言いたい事が心を伝って流れてくる。

 

「分かってるよ、パラド…これは罠だ…前と同じでね」

「…でもやるんだろ?永夢」

 

パラドが笑いながら言う、僕とパラドは心で繋がってる、だから分かるんだ、考えてる事が。

 

「勿論」

「そう言うと思ったぜぇ〜永夢」

 

そう言って別方向から声が聞こえてきた。

 

「貴利矢さん!!どうして…確か、今日は準備で…」

「いや…なんか妙な胸騒ぎしてな、やっぱり様子を見に来て正解だったぜ、とにかくまたあの神の仕業なんだろ?」

 

僕達は貴利矢さんの言葉に頷く。

 

「…鬼が出るか邪が出るか…どっちみちろくなモンじゃねぇな…」

 

貴利矢さんは小包を薄目で見ながらそう呟いた。

 

「そうだな、あのゲンムの事だ、俺達だけじゃねぇ、他の無関係な人間だってアイツなら巻き込む……それでもやるんだなエグゼイド」

「…分かってます大我さん、でも約束したんです、黎斗さんと…必ず貴方のゲームをクリアするって」

 

そう、これは約束だ、1年前のあの時交わした約束。

 

黎斗さんの無理難題に僕は一生付き合うって。

 

「永夢が決めたんだ、よぉし!ビシッと行っちゃってくれ!!」

「貴利矢さん…はい!!」

 

僕は小包を見つめる、何が来るかわからない恐怖とみんなを危険に合わせるかもしれないからあまり言えないけど、どんなゲームが来るのかのワクワク感が僕の中で渦巻いている。

 

勿論それはパラドにも伝わっている。

 

「…では皆さん…開けます」

 

ゴクリと喉を鳴らす、一体どんな…

 

僕が小包を開けるとそこには1つのガシャットがあった、見た事ないものだ。

 

色も…ピンク?何というか意外だった。黎斗さんがピンクの塗装をするなんて…

 

いやまぁ、僕の持つマイティアクションもピンクではあるんだけど、このピンクはもっと淡いというか、女の子っぽい?というか…

 

「裏側だな…小児科医、裏返してみろ」

 

僕が手に取っていたガシャットは裏、ロゴも何もなく、どんなゲームなのか分からない。僕は飛彩さんの指示に従い、クルリと反転させると…

 

「…『プリンセス…コネクト』…?」

 

『Princess Connect』とロゴが振られて可愛らしい女の子の絵柄が描かれた、なんというかあまり黎斗さんらしくないガシャットだった。

 

「なんつーか…神らしくなくね?」

「それ思った、もしかしてキモトのキモの部分?」

「でもクロトって一応『ときめきクライシス』みたいな恋愛ゲームも作ってた筈だからそこまでおかしな事…じゃない?」

 

みんな疑問形だ、そりゃそうだ、僕も正直『マイティ〇〇』みたいなゲームを想像してたから少しというかだいぶビックリしてる。

 

「…一体どういうゲームなんだ…想像がつかないな」

「起動する前に少し推測した方がいいんじゃねぇか?どうせ起動した途端ろくな事にならねぇのは確かなんだ」

 

大我さんの言う通りかもしれない、前回はなんの対策なしに起動したからかなり痛い目にあった。

 

「プリンセス…コネクト、直訳するなら『姫の絆』か」

「ますます想像つかないんだけどアイツがそんなゲーム作る?」

「ニコちゃんの言う事も分からなくないが、相手はあの神だ、自分達の想像なんて軽く超えてくる」

 

姫の絆…

 

「まず、姫ってなんなんでしょうか、誰を指し示しているんでしょう」

「それに絆…姫に対する絆なのかそうでないのか、タイトルだけじゃ分からない」

 

正直、タイトルからは危険性があまり伺えない、でも黎斗さんのゲームだから油断はできない。

 

「まぁ、今まで通りのゲームならこのラベルに描かれたお姫様っぽい女の子の絵が姫というか主要キャラクターって事になるが…」

 

貴利矢さんの言う通り、今までのガシャットはそうだった、でも…何というか…

 

「…前にあった『マイティノベルX』に似てる…」

 

そう、この感覚…1年前のマイティノベルと同じだ。

 

そうなるとラベルの女の子はあまり関係がない、前回のゲーム内容は『僕の過去』に関するものだった。

 

もし前と同じなら…『姫』に設定された僕達の誰かが主役となりそれを元にゲームが展開されていく、と言うことになる。

 

うーん…全然分からないな…こうなったら同じゲーマーの意見も聞こう。

 

「パラドはどう思う?」

「んなもんクソゲーに決まってんだろ、ゲンムだぞ?」

 

…だよね、即答だった。パラドは黎斗さんの事嫌いだから…

 

あまり有力な意見は聞けなかったな、そうなってくるとやっぱり試すしかない。

 

「とにかく起動…してみます」

 

僕がそう言うと一気に空気が引き締まる、ただガシャットのスイッチを入れるだけでこの緊張感…

 

これですら黎斗さんの手の上のような気がしてならない。

 

「起動…します」

『プリンセスコネクト!!』

 

僕が起動スイッチを入れると聞いた事のない声の音声が鳴り響く、なんだろう…凄く明るくて元気っていうイメージがする可愛らしい女の子の声だった。

 

その瞬間、眩い光が僕達を包み、視界がゼロになる。

 

咄嗟に顔を腕で覆って光を遮ったけど周りで何が起こったのか分からない。

 

数秒後ようやく視界が確保でき、僕達は辺りを確認した。

 

そしてそこで気づく。

 

「ポッピー…?」

 

ポッピーの姿がなかった。それだけじゃない

 

「ニコ…!!おい!ニコ!!どこ行った!!!」

 

大我さんが叫ぶ、そう…この場にポッピーとニコちゃんの姿が無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ー次回の仮面ライダーエグゼイドは!!ー

「プリンセスコネクト…それは姫との絆を紡ぐゲーム」

────檀黎斗からの挑戦状。

「コイツが来てからこの医院は変わった」

────大我に迫る運命とは!!

「つまり…俺に諦めろって事か…」

次回『BAN!!した『心』がやってくる』


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

BUN!!した心がやってくる

大我編です。

今回の神の用意したゲーム内容はこんな感じです。
アリですかね?


「ポッピー!!……ポッピー!!!」

「ニコ!!おい!!!どこ行った!!!」

「ちっ…やっぱりゲンムの奴…!!」

「…少し落ち着け、小児科医、開業医、パラド……つまりこれがゲームという事か」

 

取り乱す僕達を飛彩さんが宥める。

 

ゲーム…そうだ、黎斗さんが仕掛けたゲーム…このプリンセスコネクトの…

 

「成る程ね…プリンセスっていうのはポッピーとニコちゃんって事か」

 

貴利矢さんが推測する。

 

「ご明察、流石は九条貴利矢だ」

 

その時、僕の手に持っていたプリンセスコネクトガシャットから音声が流れる、先ほどの女の子の声ではない、聞き覚えのある男の声だった。

 

「…この声は…ゲンム…!!」

 

パラドの激昂する声が響く、その声と同時、ガシャットからモヤのようなものが出現し僕達の前に形を成していく。

 

それは人の形となり、パンっと弾けると見慣れたあの姿になる。

 

忘れる事はないだろう、あの男…檀黎斗が目の前に存在した。

 

「黎斗…さん…ですよね」

「その通りだ永夢、私は檀黎斗のバックアップデータの1つ檀黎斗9610だ」

「9610…ってお前いくつまでバックアップあんだよ」

「勿論10億だ」

 

勿論って…何を基準にして勿論なんだ…そんな文字通り桁違いの数値を耳にしたみんなは半分呆れた感じでため息を漏らす。

 

最早、黎斗さんのこう言った発言には慣れてしまっているんだ。ある意味で怖い。

 

「それよりもニコとポッピーピポパポをどこへやった、答えろゲンム」

「まぁ、そう焦るな花家先生、これからゲーム内容を伝える、私はいわばその進行案内人だ」

 

黎斗9610…いや長いから黎斗さんでいいや、黎斗さんは両手を広げながらCR内を歩き、口を開く。

 

「プリンセスコネクト…それは姫との絆を紡ぐゲーム」

「…タイトル通りだな、それで?自分達は何をすれば良いわけ?」

「今回の主役は3人…宝生永夢、鏡飛彩、花家大我、君達だ」

 

…僕達?いや、大我さんは分かるんだけどどうして僕と飛彩さんまで…

 

「まぁ、何となく分かる面子だな」

「どういう事ですか貴利矢さん」

 

貴利矢さんは椅子に腰掛けながら。

 

「ポッピーは永夢、大先生は小姫さん、大我先生はニコちゃん、それぞれのお姫様はこうだろ?神」

「その通りだ」

 

黎斗さんは両腕を組みながら肯定する。

 

「ルールは簡単だ。主役の君達は姫との絆を手に入れ、姫を救わなければならない」

 

姫を救う、という部分は分かる、今この状況から助け出すという事だから。

 

でも…姫との絆を手に入れるって…どういう事だろう。

 

「…檀黎斗…小姫まで巻き込んで何を企んでいるんだ」

「…企む?私にはもう策略も何もないよ、純粋に君達にゲームを楽しんでもらいたいだけさ」

 

凄まじく胡散臭い、黎斗さんの歯の浮くようなセリフにはもう騙されない。

 

「彼女達との記憶を辿るといい、そうすれば…彼女達のいる場所へ向かう事ができるだろう」

 

…ポッピー達との記憶…だから姫との絆…なのか。

 

「分かりました、受けましょうそのゲーム」

「…天才ゲーマーの力を是非見せてくれ永夢、私はここから見守ることにしよう」

「っうわ!?」

 

そう言って黎斗さんは霧散し僕達に1度体当たりするようにぶつかって(煙みたいな感じだったから衝撃はない)消えた。

 

…やる事は決まった。

 

「行きましょう皆さん、ポッピー達を助けに」

「そうだな、奴からの指示に従うのは癪だが…小姫を救えるのは俺だけだ、小姫は任せてくれないか」

「俺もブレイブと同じだ、ニコは俺が救う」

「そうですね、黎斗さんは名指しで僕達を指定しました、個々に分かれて行きましょう」

 

早速行動を開始しようとした時、僕についてくるパラドを貴利矢さんが止める。

 

「なんだ、レーザー」

「ちょい待ち、今回は俺とお前はお休みな」

「何でだ、俺は永夢と行く、ゲンムのふざけたゲームなんだ。1人で行かせるのは危険だ」

 

パラドの警戒も最もだ、本来なら団体行動をして1人ずつ助けていくのが定石だろう。

 

「まぁまぁ、この問題に関しては、なんつーの?1人1人がちゃんと解決しなきゃいけないっていうか…とにかく!お座りしなさい!パラド君!」

「お、おい!なんだ!というか俺は犬じゃない!!」

 

無理やり貴利矢さんに座らせられるパラド。

 

「とにかく永夢を信じろ」

「…分かったよ…何かあったら俺は永夢の心を感じられる、そうなったら俺はすぐに行くからな」

「はいはい…っと…永夢、頑張れよ」

「…分かりました、行ってきます」

 

僕達はそれぞれ別の道に進む、それぞれの記憶の旅路か…

 

僕のポッピーとの思い出…思い当たる場所に行ってみるしかない。

 

 

 

 

 

俺とニコの思い出の場所っつったら、あそこしかねぇ…

 

半年前から休業している俺の医院、只今休業中という張り紙が貼られた扉を開き、奥へと進む。

 

アイツが海外に行った後のこの院内の風景は殺風景なもんだ、アイツ色に染められていない普通の医院。

 

半年間アイツの家にお世話なったからかこの風景が妙に殺風景に思えてしまう。

 

「…で、どうすりゃいいんだ?」

 

思わずそう呟かざる得なかった、この場所に来たからと言って何か起こるわけじゃない、何の意味があるのか…

 

そう思っていると俺の白衣の内ポケットが光り輝く…そしてそれに気づいた瞬間からその部分に違和感を感じた。

 

俺は内ポケットに手を突っ込むと何か入っている、手の感触でわかる、これはガシャットだ。

 

こんな所に俺はガシャットを忍ばしてはいない…いつの間にか入れられていた。

 

「…あの時か…」

 

考えられるとすればゲンムが霧状になった時、わざわざ俺達にぶつかって消えた、あの時コイツを入れられたんだ。

 

手に取って見れば、それは『プリンセスコネクト』ガシャット、成る程な、コイツを使えって事か。

 

前回の『マイティノベル』と同じならガシャットを起動しドライバーのスロットに入れればイベントがスタートする。

 

やる価値はあるか。俺はガシャットを起動し腰に取り付けたゲーマドライバーのスロットに挿入しレバーを開く。

 

『プリンセスコネクト!イベントスタート!!』

 

その音声と共に俺の意識は一瞬だけ飛ぶ、次に目を開いた時、周りの風景が淡く見えた。

 

何と言えばいいのか…白黒という程でもないが周りの風景の色が薄い。

 

そして目の前には俺がいた、今の俺よりも随分若い俺だ。

 

『…なんだてめぇは』

 

若い頃の俺はそう言った、俺が振り向くとそこには…ニコの姿があった。

 

キャピキャピした奇抜なファッション、今よりも随分背が小さい、いや、今も小さいが…

 

とにかくニコも今のニコよりも若い姿でそこにはいた、というよりこの光景には見覚えがある。これは…

 

『天才ゲーマーMを倒してくれる?』

『…ふざけんな』

 

このやりとりは…俺が初めてニコに会った時の会話だ。

 

その時、目の前に選択肢が現れた。ノベルの時と一緒だ。

 

《この時の彼女への印象は?》

 

→かわいい女の子

→最悪の面倒臭いガキ

→患者

 

 

俺は迷わず2つ目の『最悪の面倒臭いガキ』を選択した、迷う訳がない。

 

最初の印象は最悪だった。勝手にやってきて勝手に命令し、どこに行くにもついて来やがる、人の話は聞かねぇしその癖自分の意見だけは通そうとする。

 

…今にしては何でこんな奴とこんなに長い付き合いをしてんのか分からねぇくらいだ。

 

コイツが来てからこの医院は変わった、元々捨てられていた病院を勝手に使ってたから外装も内装も心霊スポットそのものだった。

 

それがコイツの色に染められたんだ、ポップなよくわからねぇキャラとかファンシーな装飾品とか付けられて、最初は嫌悪感しかなかったがいつの間にか慣れちまってた。

 

『イベントクリア!!』

 

「…っ…!」

 

音声が鳴り響くとフッと意識が戻るというか気づくと景色に色が戻っている、現実に戻って来たって事か。

 

…過去の…その時の事を思い出し、選択肢を間違えなければクリアか。

 

これを後何回か繰り返せばニコの元に行ける…。待ってろよニコ、俺が絶対に救ってやる。

 

そう心に決め、俺は次の目的地に向かう。次の目的地…か。

 

当てがないわけじゃねぇ、俺とアイツの中で何かが変わったと思う場所に行けばいいって事だ。

 

 

 

俺が次に向かったのはここだ。

 

ゲンムと戦ったこの場所、ニコがポッピーピポパポに諭されゲンムに対してモップで殴りかかったあの場所だ。

 

その場所に近づいていくとガシャットが先程同様に光輝く。

 

「…やっぱりな、だったら早速…」

 

俺はガシャットを起動する、再び白黒の風景世界に飛ばされていた。

 

 

『大我!こんな奴、さっさと倒して!!』

 

やっぱりだ…この場所で俺は…

 

《この時、彼女に抱いた感情は?》

 

→恋心

→心の支え

→救い

 

 

 

…俺は少し考えた後、『救い』を選択した。

 

俺はこの時、この場面でコイツが主治医だと言ってくれた時…救われていたんだ。

 

腐っていくだけの俺の心を洗い流してくれた、滝のような存在だ。

 

一方的に流れ落ちて、こっちの否応なしに流してしまう、そんな奴だった。

 

…あまりこんな事を考えてるとまたポエムってるなんて笑われそうだが俺はそう思っている。

 

この日からだったな、ニコと打ち解け始めたのは、共にいる事が当たり前になり、共に危険な戦いに挑んだ。

 

ニコは本当に想定外の存在なんだと実感したのもこの時だったか、ニコがいなければ檀黎斗も檀正宗も倒せなかったと今にして思う。

 

『イベントクリア!!』

 

その音声と共に俺は元の世界に戻る。

 

…戻ってきて思う。何というか違和感がある、あの檀黎斗って奴のゲームにしては平和すぎる。

 

今俺がやっている事はニコへの思いの再確認、当時の事を振り返り、どういった存在だったのかを改めて実感している、ただそれだけだ。

 

一体どういう事なんだ?これじゃあまるで本当に絆を再確認しているだけのゲームだ。

 

…いや、あのゲンムだ、きっと何かある…さっさとクリアして奴の目的を暴いてやる。

 

俺は早歩きで進んでいく、俺が次に向かった場所、そこは…

 

 

 

ラヴリカと戦ったあの噴水広場だ、ここには必ずイベントスポットがある。

 

俺の読み通り、ガシャットが輝く。

 

「さっさとケリをつけてやる」

 

 

 

俺はガシャットを起動し白黒世界に入る。

 

目の前には水没した俺とニコ、ブレイブやエグゼイドの姿があった。

 

そう言えばこの時はポッピーピポパポが洗脳されていた時期だったな。

 

『お前が主治医だと言ってくれて…嬉しかった…』

 

俺の本心を吐露した場面だ、凄まじく恥ずかしい、エグゼイドやブレイブはこんな感じで俺を見ていたのだろうか。

 

この時の俺は周りは見えていなかった、ただ純粋に思った事を言う、それだけに集中していた。

 

『これからもよろしくね♪セ〜ンセ♪』

 

この言葉が俺の心を変えてくれたんだ…

 

《この時から彼女はどういった存在になった?》

 

文字が浮かび上がる、どういった…存在…か。

 

→恋人

→最高の患者

→かけがえのない存在

 

…この選択肢だけは少し迷ってしまった、俺にとって…ニコとはどういう存在なんだ?

 

あまり深くは考えた事がなかった、この当時はいる事が当たり前、その後は俺の患者だ。

 

…本当に今はそうなのか?頭が痛くなる。

 

ゲンムのゲームでこうなるとは思いもしなかった、ちっ…

 

俺は思わず舌打ちをしてしまう。選択しようとする手が震える、俺にとってニコは…

 

目を1回瞑った後、俺は決心し選択する。俺が選んだ答えそれは…

 

「…俺にとってニコはかけがえのない存在だ」

 

アイツは闇から俺を引き上げてくれた、俺に光を与えてくれた。

 

アイツがいたから今の俺がいる、アイツがいたからエグゼイドやブレイブ達と打ち解けた、アイツが俺の心の闇を取っ払ってくれたんだ。

 

答えは…出た、何か俺の中に頑固たるものが生まれた気がする。

 

『イベントクリア!!!』

 

音声が響き、再び世界が戻る、するとガシャットが光り輝きその光がある地点を指し示す。

 

「…つまりここに向えって事か…上等だ」

 

今までとは違う、これが最後だと確信できる、この場所にニコがいる…俺は走る、無我夢中で走った。

 

息を切らしながら俺が向かった場所はここだ。

 

「…幻夢コーポレーションか」

 

何故ここなのか、大体察しは付く。この場所は俺達にとっても馴染み深い、何度訪れた事か。

 

2人揃って初めて訪れたのはゲンム対策の為のガシャット及びエグゼイドのガシャットを生み出す際にここに来た。

 

ニコが幻夢の株主になってからはよく来るようになった、この世界からバグスターを根絶できるよう俺達は幻夢と協力していたんだ。

 

「とにかく入るか」

 

俺の顔は全社員に割れている、まぁ大株主様の保護者だからな、顔パスで入る事ができる。

 

「あれ?花家さんじゃないですか、どうしたんですか?」

 

現れたのは小星作、この幻夢コーポレーションの現社長なんだが…言っちゃ悪いがそんな雰囲気の持ち主ではない、というか社長が何でこんなところにいるんだ?社長室でもなければ普通の廊下で普通に茶を飲んでやがる。

 

「ああ、ちょっとな…それより頼めるか?」

 

俺は小星の案内でガシャットを制作する部屋に向かう、ゲンムが残した専用部屋だ。

 

ゲンムが消えた後、俺達はここでガシャットを生み出し続けて来た、まぁ俺達はただ見ていただけだが。

 

「あの…今日はどうして?またガシャットの注文ですか?」

「いや…今日は違う…野暮用だ」

 

プリンセスコネクトガシャットが光る。

 

「下がってろ小星作、ゲームが始まる」

「そ、それってまさか…だ、檀黎斗のですか!?」

 

俺は小星を下げ、スイッチで起動する、あの音声が流れ…

 

目を開けば見た事ない場所だった、あの部屋じゃない、というか室内でもない。

 

「…どうなってやがる…」

 

今までとは明らかに違う、風景も別に白黒じゃない…ここは…何なんだ?

 

見渡せば見渡す程、謎が深まる。ファンタジーの世界だ、これは…見慣れぬ景色、見慣れぬ建物…奥には王宮らしきものまで見える。

 

今までもゲームエリアで構築されたものだったが今回は大分違う、現実にある世界を表現してるもんじゃねぇ。

 

俺が歩を進めると前から女の子が歩いて近寄ってきた、歳は…10歳くらいに見える、だが目を引いたのはその格好だ。

 

コスプレって言うのか?あまり感心しねぇ格好だ、自分に娘がいたのならさせないだろうな。

 

銀髪で淡く赤い目、先がとんがった耳…頭の中でエルフという文字が過った、この少女はそれに当て嵌まる容姿をしていた。

 

「…君は?」

 

俺は少女に目線を合わせ話しかける、ゲンムの仕掛けた罠かも知れないがいきなり攻撃を仕掛けるのは気が引ける。

 

「わたくしはコッコロと申します、貴方さまのお姫さまを守るよう申し付けられました」

 

『コッコロ』…?『心』じゃなくてか?

 

というより凄まじく丁寧な口調の女の子だ、ニコにも見習って欲しいもんだな。

 

「っと…そうじゃねぇか、君は…ニコの…お姫様の居場所を知っているのか?」

「勿論でございます」

「だったら…」

「わたくしはお姫さまを守る守護者、外敵を排除します」

「っ!?」

 

『インフェクション!レッツゲーム!バッドゲーム!デッドゲーム!ワッチャネーム!?ザ・バグスター!』

 

コッコロと名乗った少女がバグヴァイザーを使って怪人化した…っ!!やはりゲンムの野郎の罠だったって事か…!!!

 

見た目はそこまで大きく違わない、コッコロという少女をそのままただ怪人化したという感じだ。

 

手には巨大な槍…こうなったらやるしかねぇ。

 

「…はぁ、ガキの相手は苦手なんだがな」

『バンバンシューティング!』

 

「第二戦術…変身」

『ババンバン!!バンババン!!Yeah!!バンバンシューティング!!』

 

仮面ライダースナイプのお出ましだ、俺はガシャコンマグナムを召喚し、射撃する。

 

「手加減は無しだ、邪魔をするって言うんならてめぇを倒してニコを取り戻す」

 

俺は片手で射撃しながら後方に少しづつ下がる、俺はスナイプだ、遠距離職なんでな。

 

奴は手に持った槍で飛んでくる弾丸を弾き落とし、その合間に槍を振る事で風の刃を飛ばしてきた。

 

「ほう…遠距離も行ける口か…っ!!」

 

そんな事を言ったのも束の間、瞬時に接近してきた奴は俺に向かって槍での攻撃を開始、横振り、縦振り、突き。

 

槍という武器を最大限に活かした攻撃方法で俺を責め立てる、俺はマグナムを使いつつそれらを弾き、合間に射撃するもそれは避けられ、連続の突き攻撃を受けてしまう。

 

「ぐぅぅ…っ!!意外と強い…」

 

俺は吹き飛ばされ転がり片膝で立つ、少し舐めてかかっていた、子供の姿をしていたからか…

 

そうだな、絶対そうに違いねぇ、あのゲンムが嫌がらせ目的で配置したバグスターだ、ふざけやがって。

 

『バンバンシミュレーション!!』

 

「第五〇戦術…」

 

『I ready for Battleship…デュアルアップ!スクランブルだ!出撃発進!バンバンシミュレーションズ!発進! 』

 

俺の頭上から現れたシミュレーションゲーマと合体し全身に10門の砲台を装備したスナイプシミュレーションゲーマーレベル50となる。

 

「悪かったな、舐めてかかっちまって、ここからは本当に手を抜かねぇぞ」

 

俺は砲撃を開始、その威力は周りの建物を粉々に粉砕する程の物だ、しかし

 

「なに…?」

 

奴は風を纏い、砲撃から身を守っている。爆炎はその風の吹く方向に流れ奴自身にダメージは無い。

 

「ちっ…」

 

俺は構わず砲撃をし続ける、だが同じように風で守られ全くダメージが入らない。

 

再び近づいてきた奴は俺に斬り上げの攻撃をしてくる事で俺は吹き飛ばされる。

 

「っ…流石はあのゲンムが用意したバグスターだな…面倒だ」

「…貴方さまは何故諦めているのですか?」

「あん?」

 

唐突にそんな事を聞いてきたバグスターに俺は思わず聞き返してしまう。

 

…諦める?俺が?なにを?

 

「貴方さまは心のどこかで諦めています、お姫さまの事を」

「…俺は別に諦めちゃいねぇ、てめぇを倒してニコを…」

「違います、諦めているのは彼女との今後です」

 

…何だと?

 

「貴方さまは今のこの現状で良いと思っています、それ以上は望まず、それだけでいいと止まっているのです、それこそ即ち諦めなのでは無いですか?」

「…それのなにが悪い?」

 

アイツと俺はそれでいい、今の関係がベストだ、それ以上を望むのは…俺にはあまりにも光が強すぎる。

 

「俺はニコのお陰で闇の底から日向に戻ってこれた、それで十分だ、それ以上は望まねぇ、必要がねぇ」

「本当に?」

「なんでバグスターのてめぇにそんな事を言われなきゃならねぇ」

 

俺は砲門を向ける。

 

「貴方さまは色々と考えていらっしゃる、ニコさまの未来を、自分との年齢の差を、それらを考えたら自分という存在が彼女の荷になると」

「…それが分かっていてなんで聞いてくる」

「貴方さまはそろそろ自分に素直になるべきなのです、お互いに素直になれないならばどちらかが折れるしか無いのです」

 

…素直か…1年前のノベルで俺達はエグゼイドの過去を探るべくゲーム大会の会場となった場所に訪れた。

 

そこは当日婚活パーティーが開かれた会場になっていて俺達は潜入する為に色々と書かされた。

 

その時に俺達は互いに好みのタイプは『素直』と書いた。

 

「折れる事は諦めではございません、進むべき道なのです、今までもそうだったでしょう」

「…俺は」

 

そうだ、今までもニコの無茶苦茶に『諦め』てきた、そうする度に俺は前に進めた、前に進み闇から抜け出せた。

 

お互いに頑固で壁張ってるんじゃ前に進まねぇ、そして俺はそれでいいと思っていた、もう進む必要がないからだ……それこそが諦め。

 

「……つまり俺に諦めろって事か」

 

俺は無意識に笑っていた、心のどこかを縛っていた鎖が一気に崩れ去ったような感覚だった。

 

グッと重荷が取れ、体が軽くなる。だったらやってやる、闇を抜け日向に出たのなら、もっと光に向かって進んでやる。

 

「…生憎、俺は諦める事には慣れてる」

「…左様ですか」

 

ドドン!と腕の二門の砲台から砲撃を開始、奴は真っ直ぐ突き進んできて砲撃を斬り裂く。

 

縦振りの槍を両手の砲台で受け止め弾き、片腕の砲台で殴る、怯んだ奴に俺は一撃砲撃を撃ち込んで吹き飛ばす。

 

「…!!」

 

しかし気づくと周りに風の槍が複数、俺を取り囲むように出現しておりそれが俺を斬り裂く。

 

「うぁぁぁぁ…っ!!!」

 

俺は地面を転がる、普通のバクスターより何倍も強いな…コイツ…

 

「貴方さまの思いはこんなものではありません、見せてくださいまし、貴方さまの思いを」

「…言ってくれる…」

 

俺はガシャットを取り出す…コイツを使う事になるとはな…

 

…俺の思い…か、なら…俺とニコが共に生み出したコイツを使う、それが今の俺の思いを表現できるもんだ。

 

『バンバンタンク!!』

 

「第…百戦術…!変身!!!」

 

『ガシャット!ガッチャーン!!レベルアップ!!全てを砕け〜!!砲撃時間だ〜!!バ〜ンバ〜ンタ〜ンク!!』

 

戦車の形をしたゲーマ、タンクゲーマが10台出現し、バグスターに攻撃しながら俺に近づき合体していく。

 

全身に戦車砲台を取り付けた、仮面ライダースナイプ タンクゲーマーレベル100。

 

「…もう俺は自分の道を見失わねぇ、行くぞ」

 

風の槍を生成して俺に攻撃を仕掛ける、俺はそれを避けずにズンズンと突き進んでいく。

 

多少のダメージは覚悟の上だ、それでも俺はもう逃げない、自分のこれからの未来も。

 

構えた槍を右腕ではたき落とし連続で拳を胴体に当てる、怯みつつ風の槍を複数召喚してきたのを確認し俺は10門の砲台でその槍を全て撃ち落とす。

 

更に両腕を合わせる事で巨大な砲台と化す、これはシミュレーションゲーマーと同じだ。

 

強力な砲撃を至近距離で浴びせバグスターを吹っ飛ばす。

 

『ガシャット!キメワザ!!バンバン!クリティカァルブレイク!!!』

 

俺の全砲門が奴に狙いを定め、発射すると同時に2本のキャタピラが先制でバグスターの身を削る。

 

怯んだところをすかさず俺の砲撃が狙い撃つ、バグスターは特大の爆発を起こし吹き飛んでいく。

 

バグスターは煙の中からゴロゴロと出てくると元の女の子の姿に戻った。

 

「…」

 

俺は黙ってガシャットを引き抜き変身を解除して近づく。

 

「…貴方さまのお気持ち…伝わりました…後は…それを…」

 

少女が光になって消えると、代わりにそこにニコの姿があった。

 

「…ったく…心配かけやがって…」

「…大我…」

 

俺は倒れるニコを抱き上げる。

 

「…見てたんだろ、今の」

「…うん」

 

はぁ…と俺は少しだけそっぽを向いてため息を漏らす、その後すぐにニコの方へと向き直し。

 

「まぁ…だからなんだ…その…お前は…アレだ、大切な…奴だ…その…」

 

くっ…息巻いたものの言葉が詰まる、何で言ったら良いのか分からねぇ。

 

「…ぷっ…下手くそ」

「なっ…!!?っ〜…だから嫌なんだよ、こういうのは!!!」

 

ニヤニヤとこっちを見るニコに俺は再びそっぽを向いてしまう。

 

「ま、その方が大我らしいけど」

「…それで、どうすんだ」

「どうするって…それあたしに言わせる気〜?本っ当、あたしがいないとダメダメだね」

 

…年下に良いように言われている自分が情けねぇ…

 

「だから…これからもよろしくね、セ〜ンセ♪」

 

俺の心を変えてくれたあの時と同じ言葉、同じ笑顔でニコは答えてくれた。

 

『GAME CLEAR!!』

 

その音声と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ー次回の仮面ライダーエグゼイドは!!ー


「俺に切れないものはない」

────檀黎斗が仕掛けるゲームは飛彩にも牙を向く。

「俺に…どれを選択しろというんだ!!」

────小姫との思い出を利用する卑劣な罠。

「…切り捨てる必要はない…今も過去も…未来も…」

────飛彩が選ぶ選択とは!!

ー次回『涙のsuture!!』ー

タンクの音声のイメージはゲキトツロボットみたいな感じです。


見た目はタンクタンクみたいなのをイメージしてます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

涙のsuture!!

大我といえば光

では飛彩といえば…?

そう曇です。曇らせるのがいいのです。
飛彩さんのいつものテーマを流しながら暗い顔してるのが似合いますよね。


 

俺に切れない物はない。

 

今回も必ず俺の手で小姫を救って見せる。

 

何度檀一家に狂わされその度に乗り越えて来たか。

 

今回も同じだ、今までと同じようにするだけ、俺のオペに…狂いはない。

 

奴が提示した小姫との思い出の場所、思い当たるのは聖都大学だ、今にしては苦い思い出があるこの場所。

 

「…変わらないな、ここは」

 

間近にあるとはいえキャンパスに入ったのは何年振りか、意識して見ると懐かしさを感じてしまう。

 

この場所に来て改めて思い出す、小姫と過ごした日々を、楽しかった…とはお世辞にも言えないのだろうが俺にとってはかけがえのない思い出だという事を。

 

「ん?お前は…鏡か?」

 

校内を歩く俺に声をかけてきたのは橘 龍二(たちばな りゅうじ)、この大学で世話になった教師の1人だ。

 

「珍しいな、こっちに顔を出すなんて…」

「すみません、諸事情で今日はここに…」

 

彼が不信感を抱くのも無理はない、平日の昼間に連絡無しでこの場にいるなど常識外れもいいところだ。

 

「…そうか…鏡の事だ、理由は聞かない」

「ありがとうございます」

 

この人程、話を理解してくれる人はいない。俺が小姫との関係でモツれた時も気にかけてくれたのはこの人だった。

 

心のケア…今にしてはライダークロニクル当時俺が小児科医の精神を少しでも尊重できたのはこの人の影響があるのかもしれない。

 

「…そうだな…もう百瀬が亡くなって…いや、消滅だったか。あの日から13年か…俺も歳を取ったな、嫌になってしまうよ」

 

…13年…言葉を聞いて随分と長い時間が過ぎていた事を実感する。

 

この年数の間に何度か小姫と会う機会はあった。いずれもあの檀黎斗、檀正宗に利用された形ではあったが…

 

最後に会ったのは4年前…あの日から俺は前に進めるようになった。

 

何度挫けそうになってもその度に小姫が勇気づけてくれた、今の俺がいるのも全て小姫のおかげだ。

 

「…鏡、お前は仮面ライダーだったな」

「はい」

「……頑張れよ」

 

橘先生は俺が今置かれている状況を知らない、それでも、彼は俺と小姫の事をよく分かっている。

 

「…俺に切れないものは何もないですから」

 

俺がそう言うと橘先生は俺の肩にポンと手を1度置いた後微笑み、その場を去っていった。

 

俺はその後ろ姿を見送った後、歩み始める。

 

向かうべき場所は…食堂、俺と小姫が初めて出会った1番初めの思い出の場所だ。

 

俺が食堂に向かうとまだ生徒の姿はない、お昼には早い時間だからだ。

 

現場に到着するとすぐに俺のズボンのポケットが光り輝く。

 

…察するに檀黎斗が仕組んだものだろう、俺はポケットに手を入れると異物の感触がある。

 

ポケットからそれを引っ張り出すとガシャットが1つ。

 

「…プリンセスコネクトガシャットか」

 

これを使えという事が分かった、ならばやるべき事は簡単だ。

 

俺はガシャットのスイッチを入れ、ドライバーのスロットに挿入する。

 

『プリンセスコネクト!イベントスタート!!』

 

という音声と共に俺の視界は一時光に包まれ見えなくなる。

 

目を開けば、そこは淡い風景に包まれた空間だった。

 

先ほどまでいなかった学生が溢れ返った食堂…俺はここが過去の場所である事を悟った。

 

前回の『マイティノベルX』と同じだと考えて良いだろう。即ち…

 

『えっと…貴方が…鏡…飛彩君…?』

 

小姫だ、俺と小姫が初めて出会った頃だ。

 

こうやって客観的に第三者の目線で見ると、俺の無愛想さがよく分かる。よく小姫はこんな態度をしている俺に話しかけてくれたと思う。

 

小姫が話しかけている間も過去の俺は彼女をほとんど見ていない、目だけはたまに小姫の方を見ているだけ。

 

自分の記憶と照らし合わせても確かにこんな感じであったと思うが、やはりこうやって実際に見ると目も当てられない光景だ。

 

この頃の俺はドクターになる事を第一に考え過ぎて周りが見えていない、孤立しようがお構い無し。

 

そんな俺に構ってくれたのが小姫だった。

 

 

《この時の彼女の印象は?》

 

→素敵な人だ

→鬱陶しい奴だ

→救いの天使だ

 

 

選択肢…これも前と似たようなものだ。違う点は自分自身が過去に思っていた事という所だが。

 

この時、というのはこの映像に映っている当時の俺、この場面の時の俺の心境だ。

 

だとすれば…

 

俺は2番目の『鬱陶しい奴だ』を選択した。

 

この時の俺は、先ほども言った通り、勉強一筋で他の事などに時間を割くつもりなど無かった。

 

そんな中で話しかけてきた小姫は鬱陶しかったと記憶している。

 

しかし、小姫は諦めなかった、孤立する俺に何度も話しかけ、俺はそんな彼女に惹かれていった。

 

いつしか俺達は付き合い、行動を共にし将来を誓い合った。

 

だが、当時の俺は変わらなかった。そこまでしておいて俺は彼女に向き合う事をしなかった。

 

いや、心のどこかで安心しきっていた、俺が変わらずとも小姫は離れていかないと。

 

そして失ってから気づいた、変わるべきだったのだと。

 

この光景は、過去に何度も俺の心を蝕んだ、それを利用され1度は小児科医達を裏切った。

 

だからこそ向き合わなければならない、何度でも、過去を認め、その上で未来に進む。

 

それが4年前に小姫と約束した事だ、過去の未練を断ち切り未来を掴む。

 

それが俺の人生の執刀だ。

 

『イベントクリア!!』

 

音声が流れ、俺はゲームエリアから脱出する。周りは再び人気のない食堂となった。

 

「1つ攻略したが…まだ変化は無し…これを何度か繰り返す必要があるのか」

 

となれば、次の目的地の設定が必要になる。

 

次……次か…、小姫との思い出となる場所…

 

俺の頭に過った場所、そこは再び俺にとっては苦い場所となる。

 

現場は聖都大学から程近い、廃工場だ。

 

ここは、檀正宗が小姫のデータを消し去り俺が過去の未練を断ち切った場所だ。

 

今でも思い出すと胸のどこかが痛み出す、この場所に近づくと歩みが遅くなる。

 

だがここは絶対にイベントスポットがあると確信できる、俺の運命を変えた大きなターニングポイントである事は間違いないからな。

 

俺が現場に近づくとガシャットが輝く、やはりここがイベントスポットだったようだ。

 

少しだけ…ガシャットを起動する事を躊躇ってしまう、あまり思い出したい記憶ではないからな。

 

自分勝手な理由でドクターである仲間を裏切り、人々の命を弄ぶ人間に付き、小姫の最後の願いすらも破ろうとしてしまった時の記憶。

 

今でも鮮明に思い出すほどの苦い記憶だ、それをわざわざ掘り返したいと思うほど、俺は強くない。

 

しかしやらなければ進まない、小姫を助ける事はできない。

 

俺は意を決してガシャットのスイッチを入れる。

 

 

先程の音声と眩い光に包まれると、俺は再び灰色のゲームエリアの中に入る。

 

目の前には檀正宗、小児科医、そして俺…

 

『世界で1番のドクターになって』

 

小姫が壊れたラジカセのように繰り返しその言葉を言い続ける。

 

俺にとって、当時この言葉は信念であり同時に呪いであった。

 

世界で1番のドクターになる…俺はその為に1度は小姫を諦めた、諦めなければ小姫を裏切る事になると思ったからだ。

 

檀正宗が小姫のデータを消す、今見ても俺の中で何かがざわつく。

 

決心してこの場にやってきたとはいえ小児科医がここにいてくれなかったら俺の心は折れていただろう。アイツの存在はこの場において最も重要だった。

 

 

《この時何を抱いた?》

 

→檀正宗への憎しみ

→百瀬小姫を助ける事ができない哀しみ

→前へと進む事を選んだ勇み

 

 

…選択肢が出た、しかし俺はすぐに選ぶ事ができなかった。

 

選択肢の全て…この時思っていた事だったからだ、檀正宗の事を憎しみ、小姫を助けられず哀しみ、それでも前へと進もうと勇んだ。

 

「俺にどれを選択しろと言うんだ…!!」

 

思わずそんな言葉を口に出てしまう。檀黎斗の事だ、正解は1つしかない、そして間違えれば俺は消滅する事になるだろう。

 

考えろ、当時の俺はどう思っていたのか、感じていていたのか、それを思い出せば良い。

 

…俺はいつもそうだ、他者を執刀する時は揺るぎがない、だが自分自身の事となると腕が鈍る、判断が遅れる。

 

何年経とうとそこは変わらない。変わりたくても早々に変わるものではない。

 

…ああ、そうだ…思い出した。

 

自問自答したおかげで思い出す事ができた、俺が選択するべきものが。

 

「…俺は小姫を助けられなくて哀しかったんだ」

 

この時はそうだった、人はすぐには変わらない。例えどんな覚悟を持っていたとしても、この時、哀しかった、辛かったという感情が決して消えたりするわけではない。

 

だから俺は全てが終わった後、小児科医を先に行かせた、そして俺の心は耐えきれなかった。

 

俺の涙に呼応するように雨が降り始め、生まれて初めて俺は膝から崩れ落ち、この日俺は涙にピリオドを打ったんだ。

 

『イベントクリア!!』

 

俺は現実に戻されると呆然と少しの間だけ立ち尽くした、当時と同じように。

 

「…切り替えなければな」

 

イベントはクリアしたがまだ終わりではない、次に向かわなければならない。

 

…足が重い、このゲームを進めれば進む程、過去の記憶が俺の足を絡め取る。

 

乗り越えた筈の過去が俺を…

 

俺は頭を横に数回程振った後歩き始める、このままではいつまで経っても変われない。

 

…開業医に「変わってて欲しいか?」などと言ったのにも関わらずこの様か。

 

変えなくては…俺の運命を、小児科医がよく口にしていた「俺の運命は俺が変える」という言葉。

 

アレがいかに難しい事なのか、今になって分かる。小児科医は何度も運命を変えてきた、俺もそうだ。

 

…改めて俺はやる、4年前も8年前もそうやって来た、再び俺はこの問題に向き直さなければならない。このゲームを経てな。

 

俺が次に向かった場所はここだ、ここしか無い。

 

聖都大学附属病院から徒歩数分という公園だ。ここは4年前小姫と最後にあった場所。

 

思い出があるとすればここしか無い。

 

「…あまり気は進まないが」

 

先の2つの事もありガシャットを起動をする為の手が鈍る。

 

1度俺は息を大きく吐いた後、ガシャットを起動する。

 

音声が鳴り響き、俺は3度目の灰色の世界に訪れた。

 

この日、俺の心はズタズタにされた、檀黎斗の策略により小姫が一時的に復活しラヴリカに洗脳されていた。

 

洗脳されていた彼女は俺に対して正論を突きつけた、彼女を1度は諦めた事、何もしなかった事。

 

否定できない事実だった、だからこそ俺は何も言えなかった。

 

開業医は自分の過去に決着をつける為、文字通り死ぬ気でクロノスとなった、俺も小姫も救おうとしてくれた。

 

奴には感謝をしてもしきれない、口下手な俺はそれを口に出したことはないが心の中ではずっと感謝をしている。

 

『…ずっと応援してるよ』

 

…これが小姫が洗脳状態から解かれ、俺に掛けてくれた最後の言葉。

 

彼女の言葉に答える為に俺は4年間向き合って来た、いや…つもりなだけだったのかもしれない。

 

もしそうでなければ小姫も消滅してしまった患者も治療が完了し元の生活に戻っていたかもしれない。

 

《この言葉を聞いて貴方はどう思った?》

 

→必ず小姫を取り戻す

→もう2度と悔やまない

→世界で1番のドクターになる

 

 

俺はこの選択肢を見て『必ず小姫を取り戻す』を選択し掛けた、だがそれは安直すぎやしないかと疑問に思った。

 

いや、自分の事なのだから安直も何も無いが、当時の俺は本当にそう思っていたのか。

 

…そもそも小姫を取り戻すというのはこの時に思っていた事ではない、彼女が消滅してしまったあの日から少なからず思っていた事だ。

 

つまり他の2つに比べこの選択肢は決定力に欠ける。

 

『世界で1番のドクターとなる』…これも同じだ、この時を境に改めて思う事ではあるが俺のこの信念はこれより以前から揺るぎない。

 

…となると、2つ目『もう2度と悔やまない』これが当時の俺がこの時に感じていた事だ。

 

そうだ、俺はこの日から真の意味で小姫を助ける意味を理解した、過去に縛られず己の道を踏み出すきっかけになった。

 

自分が進むべき道を正しいと、小姫が今でもそばにいて支えてくれているのだと分かったからだ。

 

『イベントクリア!!』

 

音声が流れ、俺は現実へと戻ってくる。3度のイベントを経て俺は小姫に対しての想いを再度確認できた。

 

しかしどういう事だ?あの檀黎斗のゲームにしてはまとも…むしろこちらにとってメリットがあるようにしか思えない。

 

姫との絆を紡ぐ…奴らしからぬゲーム条件、しかし甘い蜜には必ず罠が仕掛けられている、特に檀黎斗という男ならば尚更。

 

そう考えているとガシャットが光り、どこかを指し示すように光の線が出現する。

 

「今までとは違う、これが最後という事か」

 

最後に待っているものは何か、それが何であろうと俺は切り開き進む、それが俺の執刀だ。

 

早足で光の線を辿ると、ある場所に行き着く。

 

「…再生医療センター」

 

何故ここに……俺と小姫との思い出がある場所とは思えない。

 

ここに小姫と来たことは1度もない、俺自身最後に訪れたのは3年前、何か俺にも出来ることはないかとここに来た。

 

勿論、管轄外の俺が手伝える事など何も無い、ただ見ていることしかできなかった悔しさと不甲斐なさ、それは今でも感じている。

 

「檀黎斗の当て付けという事か」

 

奴らしい、最後の場所が…俺が小姫に対して何もしてやれなかった場所だとは。

 

俺は歩き出す、この施設の中に奴が残した『ゴッドマキシマムマイティX』と消滅してしまった人達のデータが保存された『プロトガシャット』がある。

 

恐らく最後のイベントはそこにある。

 

俺が中に入ると職員が俺に気づく、俺の顔はここにもよく通っている為、ちょっとした手続きを済ませば入る事を許された。

 

「…ふぅ」

 

ここに入ると少しばかり体が重い。足、腕と来たら次は体全体か…

 

今日はつくづく体に悪い日だ、明日が休みでよかったと思う日が来るとは。

 

ここを任されている八乙女紗衣子も今日はいない、明日の準備とやらでな、逆に都合がいい。

 

檀黎斗の名を出すと彼女はあらか様に機嫌が悪くなるからな、かく云う俺もあまり奴の名を出したいとは思わないが。

 

「…ここか」

 

俺の目の前には『ゴッドマキシマムマイティX』と10種の『プロトガシャット』、それらは複数の配線によって繋がっており今も尚ここの研究者達の手によって研究が進められている。

 

これだけの設備、これだけの優秀な人材、それらを持ってしても檀黎斗という人間1人の才能に辿り着くことができない。

 

奴は最低最悪の男だ、だが同時に才能を認めざる得ない、紛れもなく奴には神の才能があった、いやあるという現在進行形にした方がいいのだろう。

 

俺はプリンセスコネクトガシャットを手に取ると光り輝くソレのスイッチを起動する。

 

ここが最後、これで俺のオペは完了する。

 

 

 

俺が目を開くと、広がる風景は異なっていた。

 

「…どこだ、ここは?」

 

見知らぬ土地…俺の記憶が正しければこのような場所に1度も来た過去はない。

 

現実の世界とは言い難い、ファンタジーのような世界観をしたゲームエリアだった、何故最後がこのような場所なのか今までの流れからは想像もつかない。

 

「…なんだ?」

 

俺の前に人影が1つ、それは見知らぬ少女だった。

 

歳は十代前半、黒いロングの髪に開業医のように前髪の一部分が白い、メッシュのように見えるが恐らく違う、アレは地毛だ。

 

開業医もそうだが過去に強いストレスを受けると髪はああやって白くなる、あそこまで一部分に集中するという話はあまり聞いた事がないが。

 

更に目を引くのは見た目、別の世界の魔法使いを思わせるような風貌はコスプレというものだろうか、それに頭には猫の耳、尾骶骨あたりから本当に猫の尻尾まで生えている。

 

「君は…」

「あたしは姫を守る守護者…外敵であるあんたを姫には近づけさせない」

 

『インフェクション!!ザ・バグスター!!』

 

「バグヴァイザー…!!」

 

彼女は檀黎斗が用意したバグスターという事か、バグヴァイザーを使い、バグスターの怪人体へと変貌する。

 

「術式レベル2…変身!!」

 

『タドルメグル!タドルメグル!タドルクエスト!!』

 

俺は仮面ライダーブレイブとなりガシャコンソードを構えて飛びかかる、奴は先端に本が取り付けれた杖を召喚し応戦する。

 

何度か弾き合いをしたが相手の方が1枚上手、ソードを弾かれ何度か俺は殴りつけられて吹き飛ばされる。

 

「くっ…強い…っ」

「違うわ、あんたが弱いのよ」

 

奴は杖をこちらに向けて挑発をして来る。

 

「あんたは偽りの仮面を付けてる、だから弱いの」

「なに?…ぐぁぁっ…っ!!」

 

奴が魔法を唱え、闇色の雷が俺に降り注ぐ。数多の雷が俺の体を貫き、電流が走る。

 

「ぐぅ…俺に偽りの仮面だと…?」

「そう、あんたは過去に仲間を裏切った。裏切ってまで大切なものを取り戻そうとした」

 

そうだ、俺は当時の小児科医達を裏切った、だが

 

「大切なものを取り戻す前に俺はドクターだ、人の命を救う事が最優先であり、それが小姫との約束だった!それが間違っているというのか!!」

「間違ってはいないわね、でも今のあんたはどうなの?」

「なんだと?」

 

奴は再び魔法を唱える、今度は球体の雷エネルギーを複数生成し俺に向かって放つ。

 

何度かはソードで切り裂く事ができたが右肩、左脇腹と次々と被弾し俺は吹き飛ばされる。

 

「今のあんたは何かしてあげたの?小姫さんに対して何かを」

「…ぐっ…」

 

俺は這いつくばりながら考える、4年前も似たような問いを投げ掛けられたことがある。

 

小姫に対して俺は何もできていない事は事実だ、だがそれでも小姫は応援してくれると言ってくれた、その言葉が俺をまた前に進ませてくれた。

 

「…それの…何が悪いって言うんだ!!」

 

俺は叫びソードを構えて立ち上がり斬り込む、しかし奴は簡単に杖で弾き、俺の腹部に一撃、杖を打ち込む。

 

3歩程俺が後退すると、その隙に至近距離から雷弾を発射し俺は大きく吹き飛ばされてしまう。

 

これは檀黎斗が仕掛けたゲーム…俺の過去を徹底的に調べ上げ、俺が最も苦しむ部分を突いてくる。

 

乗り越えた過去も進むべき未来も奴が再び試練のように頑固たる壁として用意する。

 

だからこそ俺は4年前に覚悟を決めた、過去の鎖を断ち切り、未来へと進む覚悟を。小姫の応援が何よりの証拠だ。

 

「…俺は…そういった過去を断ち切った、俺に切れない…ものは…無い…!!」

「…それが間違ってるって言ってんのよ」

「…なん…だと…?」

 

俺が…間違っているだと?

 

根本的なところを打ち崩されるような感覚だった。何故ならば、だとするのならば…それは…4年前から間違っていたと言う事になるからだ。

 

いや、下手をすれば8年前、小姫を1度は諦めてしまったあの日からずっと、俺は間違い続けてきたことになる。

 

そんな事はあり得ない、あり得てはいけない。あり得てしまったなら…俺は…

 

「…俺は…乗り越えていなかった、というのか?」

「乗り越えた、乗り越えてなかったっていう問題じゃないのよ、あんたは」

 

奴は巨大な雷弾を出現させ、こちらに放ってくる、俺はそれを確認後すぐに飛び退き回避を試みるもあまりにも巨大で強大な1撃は俺の体を吹き飛ばした。

 

「ぐっ…がはっ…くっ…」

「…あんたはあたしと似てんのよ、素直じゃないし自分の使命に囚われてる」

 

吹き飛ばされうつ伏せで倒れる俺に近づきながら話を進める。

 

「誰も彼も心のままには生きられない、そんな事は分かってる。だからあんたは自分に嘘をついてる、無意識の内に」

「…っ…!」

「俺に切れないものはない、あんたはそう言った、でも本当にそうなの?」

 

…俺に切れないものはない、昔から俺が俺である為に口に出していた、口癖だ。

 

未来に進む為にと過去を断ち切り、その癖自分は何も出来ないと勝手に決めつけ、何もせずただ待ち続けるだけの日々。

 

それが切り捨ててまで掴んだ未来なのか?…違う、俺の望むものはそうじゃない。

 

「ブレイブなんて大層な名前よね、今のあんたには勇敢さなんて1つもない、暗闇の道を突き進む勇気なんかないのに」

「俺は…っ」

 

…そうか、単純な事だった。小姫を諦めてしまった過去も、共に歩む未来も、小姫も含めた消滅者の復活を願う今も

 

「ん?…答えは出たのかしら?」

「……ああ…そうだ…切り捨てる必要はない…今も過去も…未来も…俺が全て『縫合』する!!!」

 

答えは決まった。俺は…消滅してしまった人達も含めて必ず俺が…俺自身が救い出す!

 

俺自身が何も出来ないからやらないのではない、やらなくてはいけない。

 

ゲーム病治療だって初めの頃はそうだった、俺はゲームなんて一切出来なかった、それでも俺はオペであることに変わりはないと出来ないこともやってきた筈だ、

 

なら今回だって同じだった筈だ。俺はきっと心の中で少なからず諦めていた。

 

「へぇ、それがあんたの答えね」

「ああ、もう待つのはゴメンだ、俺が小姫を迎えに行く、傲慢だろうと身勝手だろうと、これが俺の…縫合だ」

 

俺は懐からタドルレガシーガシャットを取り出す。

 

「術式レベル150(ワンハンドレッド フィフティー)

『タドルレガシー!!アガッチャ!辿り着いた世〜界!神々〜のレガシー!!』

 

俺はタドルクエストに更にタドルレガシーガシャットを挿入する事で俺はタドルクエスト レガシーゲーマーレベル150へとレベルアップする。

 

「繋ぐ…ね、あたしもそれで救われた」

「そうか、ならそれが正しいと今、証明してやる」

 

ガシャコンソードを手に俺は連続剣撃を仕掛ける、杖と剣が交わり、火花を散らす、攻めは俺の方が有利、徐々に押し始め奴の体に何度か剣撃が当たる。

 

「これならどう!!アビス・バースト!!!」

「はぁ!!!」

 

俺は片手を前に突き出すと翼の生えた盾を召喚、それが奴の魔法を全て吸収し翼をはためかせると1つ1つの羽が攻撃となり猫型バグスターを攻撃する。

 

「俺は仮面ライダーブレイブ…小姫を救う…真の勇者だ!!」

 

俺は大声で叫んだ、自分自身を鼓舞するように。

 

この歳になってこんな事を叫ぶことになるとは…だが勇気が湧いてきた。心の奥底からふつふつと。

 

「見せてみなさい!!あんたの勇気を!!!」

『ガシャット!キメワザ!タドルクリティカァル!!フィニィッシュ!!!』

 

彼女の言葉と同時に俺はソードのスロットにレガシーガシャットを挿入。

 

炎熱をソードに溜め込み…

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

彼女の放つ魔法を斬り裂き進み、炎熱剣を彼女の腹部に当てる。

 

「はぁ!!!!」

 

そしてすれ違うように腹部を斬り裂きエフェクトが飛び散る、俺の背後でバグスターは爆発を起こす。

 

爆炎の中から怪人体から人間体に戻った少女が転がり出てくる。

 

「…」

 

俺は変身を解かないまま彼女に近づいていく。

 

「まさか俺がバグスター…それも君のような少女に教わる事になるとはな」

「今まであんたは我慢して切ってきたんだから……頑張って繋ぎとめなさい」

「…ああ」

 

俺がそう言うと猫耳少女は淡い光に消え、代わりにそこにいたのは…

 

「小姫…!!」

 

倒れている小姫に駆け寄り、俺は抱き抱える。

 

「小姫…小姫なのか…!?」

「飛…彩……ずっと…見てたよ…」

 

小姫はそう言って笑った、ずっと見てた…あのバグスターの少女の中に小姫はいたという事か。

 

「…飛彩は強くなった、昔よりずっと」

「…今の俺がいるのは今まで出会ってきた数々の関わりのおかげだ、ソイツらにも感謝しなければならない」

 

俺は彼女に微笑んだ。変わっていくものと変わらないもの、ソレが俺の心に確かにある。

 

「俺はもう、自分には何もできないからといって諦めたりはしない、小姫も…消滅してしまった人達も、必ず俺が救う。わがままだろうと俺はそう決めた、心のままに生きてみると」

「…うん、飛彩ならできるよ、だって世界一のドクターだもん」

 

ああ…やはり小姫の口から直接この言葉を聞くと、俺はちゃんとドクターをやれているのだと実感できる。

 

そしてまた、俺は1つ成長することができた、これから先もきっと、俺は曇り空を晴天に変える努力を惜しまないだろう。

 

いや…俺の心には2度と雲がかかる事はない。

 

『GAME CLEAR!!』

 

俺の決意に呼応するように音声は鳴り響き、終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ー次回の仮面ライダーエグゼイドは!!ー

「ポッピーは…僕にとって…」

────迫られる選択!!

「…バグスターにも心があるから」

────永夢が導き出した答えとは!?

「僕が…ポッピーを…差別してるって言うのか…っ!?」

────永夢の運命は!?

ー次回『自分を変えるDestin!!!』


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

自分を変えるDestin!!!

永夢役の飯島くんも役の中で彼女が欲しいと言ってたのに…

最近龍騎を見直しててプリコネの世界に浅倉入れたら面白そうだなぁ…って妄想しました。


アニメプリコネ、作画が動いてていいと思います、ペコさんは鉄拳制裁するしコッコロちゃんはかわいいし、おにぎり作る時に水をパッと手で払うところとか細かくてすこ。


僕とポッピーの思い出の場所…

 

「…意外にどこに行けばいいのか…パッと出てこない…」

 

僕は彷徨っていた、外に出たものの、目的地が定まらない。

 

黎斗さんが名指しで僕を指名したという事はポッピーと僕との思い出の場所というのは細かく設定してある筈。

 

イベントスポットとなる場所はポッピーと僕との間に何らかの変化だったり印象に残るような出来事があった場所の筈なんだ。

 

「うーん…記憶を1から遡っていくべきか…」

 

…と、そこでふと思い出す。1から遡った事で、もしかしたらという部分が出てきた。

 

「最初…ポッピーと初めて会った、あの場所…」

 

僕が思いついた場所は…まだ僕が仮面ライダーになっておらず、勝手にガシャットとゲーマドライバーを使って変身したあの場所だ。

 

あそこは僕自身の運命が変わったというのが強い面がある、ポッピーと僕のとなるとあまり関係がないように思える。

 

でも今の僕ではそこにしか行く当てがない、だから行って確かめてみるしかない。

 

そう考えたのなら早速行動だ。僕は遅れを取り戻すように早足で進む。

 

 

 

ようやく現場に着くと今は人通りも少ない、丁度良い時間だ。

 

何が丁度良いかというと、黎斗さんのゲームだ、ぶっちゃけ何が起こるか分からないし、人がいない方が安全で良い。

 

僕が初めて変身したあの広場に向かうと手に持っていたプリンセスコネクトガシャットが光出す。

 

「やっぱりここが…」

 

ここにマイティノベルの時と同じイベントスポットがある、間違いない。

 

息を整える、何が来ても良いように、深呼吸を1回、胸に手を当てて落ち着かせ。

 

『プリンセスコネクト!イベントスタート!!』

 

僕がガシャットのスイッチを入れると女の子の音声が響き、僕の周りにゲームエリアが広がっていく。

 

そして眩い光に包まれ僕は一瞬だけ目を瞑ると次に広がる光景は白黒で灰色の世界だった。

 

同じ場所ではあるけど…なんとなくここが過去の世界だって分かった。

 

こういう表現は大体そうだと僕のゲーム知識が囁いている。

 

「あれは…」

 

目の前にはポッピー…の人間体である明日那さん、ナース服姿で僕に何かを言っている、確か…「それは君に使えるものじゃない!」的な事を言ってたような…

 

この時の僕は目の前の患者を救う為、無我夢中で周りが見えてなかったし、ガシャットのスイッチを入れたらゲーマー魂に火がついちゃってあまり周りの声が聞こえてなかった気がする。

 

それにしても関係無いけど明日那さんのナース服って凄くスカートが短いというか…何というか…

 

…明日那さんの時は割と冷静な性格なんだけどこう言うところは改めて見るとポッピーらしいというか。

 

というか改めて黎斗さんの凄さが分かる、この場面、随所の至る所まで再現されてる。

 

どうやってやっているのかは分からない、風景なんかはあの人の性格だ、現場に行って草だろうと石ころだろうと1つ1つを正確に再現しようとするだろう。

 

それは分かる、でも僕と明日那さんとのやり取りや仕草や動作まで完璧だ、当時の映像が完全再現されている。

 

僕に関しては黎斗さんはずっと見てきたらしいから、あまり分かりたく無いけどまぁ分かる。

 

これがもし今このゲームをやっている飛彩さんや大我さんにも僕と同じ事が起こっているとするのなら……本当にあの人に不可能な事は無いんだろう。

 

明日那さんが驚いて僕の戦いを見ているのも新鮮だなぁ…あ、僕の動きも今より随分鈍い。

 

それでもなんであんなドヤ顔…というかドヤ声?ドヤ発言できるのは…なんだか恥ずかしくなってくる。

 

Mになってる時は誇張表現が多いというか自信が出ちゃって…

 

あれ?そう言えば…今回僕は『僕』のままだ、マイティノベルの時もそうだったけど、イベントの時はMにならない。

 

そこら辺は自分自身でも制御できないからなる時とならない時はいまだに分からない、以前パラドに聞いた事もあったけど「ゲーマーMの人格は俺と永夢であって、俺でも永夢でもない、だから俺にも分からない」と言ってた、まさにパラドと僕のハイブリッドがゲーマーMという存在だから当然といえば当然なんだけど。

 

そんな事を考えていると僕が初めてソルティを倒した所だった。

 

明日那さんが近づいてきて僕に話しかけている、その様子を見ていると現在の僕の前に選択肢が出現する。

 

 

《彼女の第一印象は?》

 

→好みのタイプの人だ

→かわいい人だ

→声が好きだ

 

……僕は唖然とした、なんだこの選択肢は。

 

これってこの時、この場面で、ポッピーもとい明日那さんに対して僕が思った事でいいんだよね?

 

8年前…僕はそんな事を思っていたのか?…自分自身の問題なのにそんな疑問が出てしまう。

 

…というより選択肢全て、この場面ではどうだったかは分からないけど確かにポッピーに対して思っていた事ではある。

 

黎斗さんに頭の中を全て見透かされているようで気味が悪い、今に始まった事じゃないけど。

 

…それで話は戻るけど、どれなんだろう…きっと正解は1つ、黎斗さんに限って全部正解なんて事は無い。

 

消去法で考えてみよう、まずは『好みのタイプの人だ』からだ。

 

明日那さんとポッピーは同一人物だけど真逆の性格をしてる、特に初対面のこの時はポッピーの事なんて知らないし、どちらかというと好みなのはポッピーの方だし…これは違うかな。

 

『かわいい人だ』…これも上記と同じ、明日那さんはどっちかというと落ち着いた雰囲気で美人寄りなのかな?ポッピーと同一視すると変わるけど。

 

だとしたら『声が好きだ』が正解かもしれない、ポッピーと明日那さんは声の高さが違うけど本質は違わない、うん、どっちもいい声してると思う。

 

これしか今の僕には分からない…震える指先で『声が好きだ』の選択肢を選ぶ、頼む…!当たっててくれ…!!

 

『イベントクリア!!』

 

音声が響く、それによりゲームエリアから弾き出され、僕は元の世界へと戻ってくる。

 

当たってた…でも…当時の僕に言いたい事がある、あの状況でそんなこと思ってたの?って。

 

まぁ、今はそれより先に進む事を考えよう、イベントクリアしたけどポッピーは戻ってきてない、まだこれ以外にもあるって事なんだ。

 

次…次は…

 

僕がそう考え始めた時、スッと次の目的地が出てきた。

 

それは、ポッピーがラヴリカに洗脳され僕たちと敵になった、そしてポッピーを助ける為に僕達はポッピーと戦った。

 

ポッピーの本心を聞くために。

 

あの場所だ、あそこにならきっとイベントスポットがある。

 

僕はそう確信し、歩を進める、確かあそこはここからでも数分で着く川沿いの場所、ここで僕達はポッピーと戦った。

 

大我さんやニコちゃん、それに飛彩さんはポッピーはバグスターだからと割り切って攻撃し倒そうとしていた。

 

僕はそれを止める為、2人を妨害した。この時はまだパラドも人間を敵視してたから迷ってるポッピーを煽ってたし…この時期は本当に嫌だった。

 

黎斗さんも他人を巻き込んでたけど、あの頃はどちらかというと僕に対してだったしまだ耐えられた。

 

でもこの頃は本当に…僕以外の人達が苦しい目に合っていたから…僕の心は凄く震えていた。

 

ポッピーもそうだ、凄く苦しい時期だったって思う、だから僕は助けなくちゃって思ったんだ。

 

僕がその場に近づくと思った通り、ガシャットが光り輝く、ここにイベントスポットがある。

 

僕はすぐにスイッチを入れ、ゲームエリアへと侵入する。

 

淡い灰色の世界が広がり、目の前には座り込むポッピー、そしてポッピーの目の前には僕の姿があった。

 

僕がポッピーの目線に合わせるように片膝立ちとなりポッピーが手に持っていたバグヴァイザーを僕の胸に押し付け。

 

『だったら、俺と戦え、人間を攻略したいんだろ……世界を支配したいんだろ……攻撃しろ!!』

 

過去の僕がポッピーを睨みつけながら叫ぶ、この時、僕はポッピーの気持ちを確かめる為に声を荒らげた。

 

ポッピーの辛そうな顔が見て取れる、この時の僕は必死だったからあまり気にしてなかったけど…ちょっとやりすぎたかもしれない。

 

だって飛彩さんも大我さんも若干引いてるから、ニコちゃんもなんか苦い顔してるし…こんな感じだったんだ…あの時の皆…

 

でも、ポッピーは顔を横に振った、人間の敵にはならないと、皆とドレミファビードをしたいとそう願った。

 

この言葉を聞いた時、僕は心底から嬉しかった、勿論ポッピーが初めからそう思ってた事なんて分かってた、そうじゃなくてちゃんと言葉にしてくれた事が嬉しかったんだ。

 

《この時の貴方の心境は?》

 

→ポッピーが戻ってきてくれて良かった

→ちゃんと反省してくれて良かった

→バグスターにもちゃんと心はある

 

…なんだろうこの選択肢…

 

特に最後の選択、それだけが妙に前の2つと比べて異質だった。

 

ポッピーという個人のものから外れている選択肢だ、引っ掛けかな?

 

黎斗さんは平気でそういう事をする人だし、当時の僕の記憶なんて曖昧だ、事細かに覚えてるはずがない。

 

当時の僕は勿論ポッピーが戻ってきてくれて嬉しかったと思ってた。

 

2つ目、反省してくれたのを見て嬉しかったというよりは本心を聞けて良かったと思ってる。

 

でも最後の選択肢『バグスターにもちゃんと心はある』、これだけは何か異質なものを感じた。

 

でも、確かに、思い返してみれば、僕がしっかりとバグスターという存在と向き合い始めたのはこの時からだったかもしれない。

 

バグスターは人類にとって脅威の病原体で、僕達ドクターはそれらを排除する存在だ。

 

本来、決して相入れないし、元がウイルスという生物とも無生物ともとれる存在が相手だからそこら辺は深く考えてこなかったのはこの時は事実としてあった。

 

でもポッピーを筆頭にパラドやグラファイト…それだけじゃないソルティ達にだって立派な心を持っていた。

 

ちゃんと『生きている』んだって理解し始めたのは多分この頃からだったと思う。

 

だから僕は3番目の『バグスターにもちゃんと心はある』を選択した。

 

さぁ、どうなる…単なる引っ掛けなのかそうでないのか…

 

『イベントクリア!!』

 

音声が鳴り、僕は現実世界へと戻される。

 

「良かった、あれで合ってたみたいだ」

 

…偉そうな事を言ってるけど、心…心とは何なんだろう。

 

どういったものが心なのかイメージはできる、感情だとかそういったものなんだろう。

 

でも自分の心って自分自身、完璧に把握してるわけじゃない、こうやって改めて考える事で、ああ、この時の僕はこうだったんだって心から思うんだ。

 

俺はお前、お前は俺…パラドの口癖で、以前黎斗さんから指摘されたパラドの気持ちや行動は僕の裏表…

 

つまり僕もまた、心について何か、という事をあまり理解していないのかもしれない、パラドと同じように一緒に理解していっているのかもしれない。

 

僕はプリンセスコネクトガシャットを見る、変化はない、まだ何かイベントスポットがあるのかもしれない。

 

次か…思いつく場所…あそこしかない気がするけど…

 

僕が向かった場所、というより戻った場所。

 

それは聖都大学附属病院、僕が目指しているのはCRだ。

 

ポッピーとの思い出が1番ある所はCRしかないって思った、ここにならきっとイベントスポットがある。

 

そう思った矢先、大学の入り口に近づいただけでガシャットが光り出した、まだCRじゃないのに…

 

いや、でもここでもできるっていうならやるしかない、僕はガシャットを起動しゲームエリアに侵入する。

 

僕が目を開くとそこはCR内だった。これはいつの頃なんだろう、パッと見ではどこの場面かは分からない。

 

ポッピーだけじゃなくパラドや貴利矢さん…飛彩さんもいる、この光景見覚えがあるぞ、そんなに昔の記憶じゃ無い。

 

これは…僕がそう思い始めた瞬間、また光り輝き僕の視界は0になる、その光が無くなり目を開けば場面が変わっていた。

 

「ここは…!!」

 

…ここは僕の昔暮らしていた地域のコインランドリー…あの場面からこの場面に移動したという事は…

 

「1年前の…マイティノベルの時か…」

 

1年前のこの日、僕とポッピーは僕の過去に携わるゲームマイティノベルの攻略に出向いた、その道中の場面だ。

 

僕はこの時、ポッピーに自分の過去を話してもいいかなって思ったんだ、誰にも話したことがない僕の過去を。

 

当時は誰にも話したくなかった、面白い話というわけでもないし、父さんの話はしたくなかったから。

 

でも…ポッピーには打ち明けられる気がしたんだ、あれ…?今にして思えばなんでなんだろう。

 

確かにポッピーは信頼できる仲間だ、でも、それは飛彩さんや貴利矢さんにだって言えることだしむしろそういった話は飛彩さん達に話して相談に乗ってもらった方が良い見解を得られると思う。

 

それでも僕はポッピーならって思った…なんでだろう。

 

これもまた『心』の問題、僕自身もわかっていない心の…

 

《何故貴方はそう思った?》

 

→ポッピーの事が好きだから

→ポッピーが明るい性格だから

→ポッピーは理解力がある子だから

 

選択肢が出た、まるで僕の考えている事を読まれているような選択肢だ、質問内容も具体的な指摘ではなく『なぜ貴方はそう思った』という

曖昧なものだし、僕がそれを考えていなければ何のことだか分からない質問だ。

 

僕は既に黎斗さんの手の上…それでも進まなくちゃならない、ポッピーを救えるのは今は僕だけなんだ。

 

僕はどうしてそう思ったんだろう、ポッピーの事が好き…それはそうだと思う、でもきっとこの選択肢はそういったものの『好き』とは違う

意味合いなんだろう、だから違う。

 

ポッピーは明るい性格だから…確かにそうかもしれない、明るく包容力のあるキャラだから話しやすいって思ってたし。

 

理解力…理解力…?ポッピーってそんな知的じゃ…いやいや、そういう理解力じゃないよね、多分こう…頭で理解してなくても分かってくれるというか…相手の気持ちになってくれるというか…多分そんな感じのニュアンスなんだと思う。

 

だとすれば…3番目、理解力がある、なのかもしれない。

 

この選択肢の理解力って部分がかなり幅広い解釈の捉え方をしてると思う、ポッピーという存在の中枢部分を全部ひっくるめてる。

 

優しく包容力があり、誰に対してもその人の気持ちになって相手を分かろうとしてくれる、それを全てひっくるめて理解力、だから僕はポッピーになら話せると思ったんだ。

 

僕はそう考えて3つ目の選択肢を選択、ちょっとだけ自信がないけど…どうなる。

 

『イベントクリア!!』

 

音声が鳴り、僕は…

 

目を開くとそこは現実世界じゃなかった、正直正解できた安堵感よりもここはどこ?っていう感想が強かった。

 

「なんで…?正解した筈なのにゲームエリアから出られないんだ…?」

 

それにこの場所は見た事がない、まるでゲームの世界だ、凄いリアルだけど。

 

石畳の地面から建造物の細部までリアリティーを感じる、黎斗さんはゲームに文字通り命をかける男だ、半端な事はしない。

 

この感じ…まるでこういった異世界のような場所に実際に行った事があるようなリアリティーを感じる、流石の黎斗さんでもここまでリアルな非現実を行ったこともないのに再現できない。

 

とはいえ、僕もゲーマーの端くれだ、こんな凄い世界に心が踊らないわけがない、子供の頃に憧れたゲームの世界が今目の前に広がっている。

 

凄くワクワクするし、もしゲームが進歩して子供達がこんな世界で冒険できる未来があるんだって思うと少しだけ嫉妬してしまう、僕ももう若くないからもっと若いうちにやりたかったなって。

 

そんな事を考えながら歩いていると、僕の目の前に横たわる女性…アレは…!!

 

「ポッピー!!」

 

ポッピーだった、あの特徴的なピンクの髪の毛、ポピポピな服装はポッピーしかいない!

 

僕はすぐに近づいてポッピーを抱き上げる、僕はポッピーの肩を揺らして呼びかける。

 

「ポッピー!しっかりして!ポッピー!!」

 

ポッピーはバグスターだから余程のことがない限りダメージを負わない、でももしかしたらバグスターにも感染するバグスターウイルスに感染してるかも…黎斗さんの事だし。

 

「エ…ム…」

「ポッピー…!!」

 

僕の呼びかけに反応してポッピーが目を開く…良かった、怪我もしてなさそ…

 

ドンッと僕は突き飛ばされた、一瞬何が起こったか分からなかった。

 

見れば僕はポッピーに両手で突き飛ばされ、尻餅をついてしまっていた。

 

「ポッピー…?いや…違う…誰だお前は…!!」

「…申し訳ありません、騙すような真似をしてしまって」

 

ポッピーの声が別人に変わる…それにこの声…聞き覚えがあるぞ…この声はこのプリンセスコネクトガシャットの音声と同じ声…!!

 

ポッピーの声だけじゃなく姿形まで変化していく、橙色の長い髪、水晶のような王冠、お姫様のようで騎士のような格好。

 

特徴的なのは胸かな、大きな胸の上部分をさらけ出したその子は可愛らしい女の子だった。身に覚えはない…この子…多分バグスターだ、黎斗さんが仕掛けた。

 

ポッピーを守る為に僕を妨害するバグスター…だったら倒すしかない。

 

僕は切り替える、仕事モードに、ここでこの子は倒さなくちゃならないから。

 

僕はゲーマドライバーを装着しすぐにマキシマムマイティとハイパームテキを…

 

「…ってアレ?ハイパームテキがない…っ!?」

「それも申し訳ありません、それはここにあります」

 

彼女がそう言うとハイパームテキは彼女の手の中にあった、しまった…ポッピーに化けてる時に取られたのか…というかその為にポッピーに…

 

「…流石はあの黎斗さんだ、対策はバッチリって事か」

『マキシマムガシャット!!』

 

「わたしはお姫様を守る守護者です、貴方には出て行ってもらいますよ」

『ザ・バグスター!!』

 

彼女はバグヴァイザーを使い怪人体となる、見た目は彼女をまんま怪人にしたような見た目だ、だからか少し愛嬌がある、と今はそうじゃない。

 

「マックス大変身!!」

『マキシマ〜ムパワーエェックス!!』

 

俺はマキシマムゲーマを装着する事で仮面ライダーエグゼイドマキシマムゲーマーレベル99に変身する。

 

「…ポッピーは返してもらう」

「今の貴方には返せませんよ」

 

…今の俺に…?どういう意味だ?まぁいい、今は目の前のゲームを攻略する事が先決だ。

 

俺は腕を伸ばして牽制する、それは剣で弾かれるけど読み通りだ、俺はすぐに近づいて連続で攻撃を仕掛ける。

 

「ふふ!大きな体は的も大きいですよ!!」

「っ…!!」

 

彼女の剣捌きはかなりのもんだ、ゲーマ装着状態じゃ小回りが効かない、俺は連続で剣撃を受けてしまう。

 

俺はこのままでは勝てないと判断しすぐにゲーマから飛び出す。

 

「およ?なんか飛び出しました!!」

 

俺は着地と同時にガシャコンブレイカーを召喚、彼女の剣をブレイカーで弾きながら打撃を加える。

 

「この状態なら今のあんたにも攻撃ができる!!」

「やりますねぇ…ですが、貴方は何もわかっていません」

「…なに?」

 

攻略に関してはこれが正しい判断だと思ってる、でも彼女はハッキリとそういった。

 

「わたしに対するものじゃなありませんよ?ポッピーさんの事です」

「ポッピー…?」

 

何が言いたいんだ。

 

「貴方はポッピーさんに対して嘘をついてる」

「俺がポッピーを…?」

 

貴利矢さんじゃあるまいし俺が嘘をつくなんてそんな事…

 

「これはゲームの攻略ではありません、貴方がポッピーさんの事をどう考えてるかの問題なんです」

「……僕がポッピーを…」

 

その言葉に僕はゲーム攻略のMから永夢に戻る。

 

「ポッピーは…僕にとって…」

 

戸惑ってしまう、考えた事なんて無かったから。

 

「…貴方は無意識の内にこう思ってるんです、『僕は人間、ポッピーはバグスター』って」

「…っ!!」

 

その言葉は僕の心をチクリと刺した。

 

「僕が…?僕が…ポッピーを…差別してるって言うのか…っ!?」

 

僕は思わずそう叫んでしまった、でも否定できなかった。

 

僕はさっきのイベントでポッピーの事を好きという選択肢を真っ先に除外した。そういった意味での好きではないと否定した。

 

前もそうだ、ポッピーの声が好きだの性格が好きだの並べて否定した、それは…きっと、ポッピーがバグスターだから。

 

ポッピーと僕では寿命の概念も何もかもが違う。確かにそうかもしれない…けど僕は人間と同じ心があるだとか命があるだなんだとか言いながら結局ポッピーをポッピーだと見る事ができてなかったんだ…っ!!

 

そんな自分が情けなく感じた、ドクターとしても僕個人としても。

 

「そんな貴方にお姫様は渡しませんよ!!」

「うわぁぁっ!!」

 

僕は剣撃を連続で受けて吹き飛ばされる。

 

地面に這いつくばりながら考える、僕にとって、ポッピーっていう存在がなんなのか、ちゃんと向きあわなくちゃいけないんだ。

 

迫り来るバグスター、僕は立ち上がりながら振り下ろされる剣をガシャコンブレイカーをブレイドモードに変更して受け止める。

 

「…僕はもう…自分に嘘はつかない、僕自身の運命は僕が変える…!!!」

 

僕は相手の剣を弾き一撃、胴体に剣撃を斬り込む。

 

「…っ…その息です、さぁ!見せてください!貴方が本当にポッピーさんの事を想っているかどうかを!!!」

 

僕はその言葉に応える為にブレイカーで応戦する、互いに剣を弾き、キックやパンチを受け流す。

 

このままじゃ多分僕の方が押されるかもしれない…

 

でも、僕だって…ゲーマーMじゃなくたって僕はゲームが得意なんだ!!

 

彼女の攻撃を全ていなして僕は連続で攻撃をヒットさせ彼女を吹き飛ばす。

 

迷いはない、ポッピーに伝えなくちゃいけない、自分自身の気持ちを、だから…

 

『マキシマムマイティクリティカァルブレイクゥ!!』

 

僕はレバーを開閉する事でキメワザを放つ準備をする、脚に力を込め跳躍し、一気に彼女にキックで迫る。

 

ドンッと2つの影が衝突する、彼女は剣を使って僕のキックを受け止めている、でも

 

「はぁぁぁぁ!!!!」

 

僕は更に力を込める事で一気に押し切る。僕はそのまま通り過ぎて決めポーズをすると背後のバグスターは爆発を起こして爆煙に巻かれる。

 

「…ゲームはまだ終わってない」

 

そう、まだ終わってない、だから僕は変身を解除しながら爆炎から飛び出してきた少女に近寄る。

 

「…やりましたね、自分の気持ちに気付いたんですね」

「…君のおかげだよ、ありがとう」

「…貴方のゲームはこれからも続きます、だからわたしに応援させてくださいね」

 

…そう言って少女は光になって消えた、黎斗さんが生み出したバグスターとは思えないくらい心が綺麗な子だった。

 

そして消えた少女の代わりに残ったのはポッピーだった、今度は間違いない、本物のポッピー。

 

「ポッピー!大丈夫?」

「エ…ム……?ごめんね、心配かけて」

「…僕の方こそごめん、僕は…自分に嘘をついてた」

 

…僕がそう言うと黙ってポッピーは頷いてくれた、ああ、そうだ…僕はポッピーのこういうところが好きなんだ。

 

どうやらポッピーは今のやり取りを中から見ていたみたいで理解してる、だから今しかない彼女に想いを伝えるのは。

 

「…僕はポッピーがバグスターだからって無意識に諦めてた、僕とポッピーは違うって…でもそうじゃない僕もポッピーも何も変わらないんだ、だから」

 

僕は言葉を紡ぐこれから先の僕の運命を左右する言葉を。

 

「僕はポッピーの事が好きだよ、女の子として、ちゃんとね」

「エム…」

 

僕の言葉を聞いたポッピーは笑顔だった、それが嬉しかった。

 

「エム…わたしね、わたしもね…エムの事が好き、前からきっと…ずぅっと好きだったんだと思う、でも…それがなんなのか今まで分からなくって考えれば考えると頭の中ピヨピヨしちゃって……」

 

ポッピーも僕のように悩んでいたんだ、ずっと前から。

 

「でも、今回のこのゲームでハッキリとわかったよ、わたしもエムが好き、大好き」

「…ありがとうポッピー」

 

僕達は思いを伝えあって、その後2人で笑った。

 

「なんだかおかしいね、クロトのゲームでエムとこぉんなに仲良くなれるなんて」

「…そうかもね、でも…黎斗さんのゲームはいつだってそうだ、僕達に無理難題な試練を与える、それを越えた時、僕達は前よりもレベルアップしてるんだ」

 

ライダークロニクルの時もゾンビクロニクルの時もマイティノベルの時も僕達はあの神からの挑戦を乗り越えるたびに得るものがあった。

 

今回もそうだった、黎斗さんは最低最悪な人だけど感謝している部分もある。

 

これから僕の人生は僕1人の運命じゃない、ポッピーと共に…僕達の運命を変えていく。

 

『GAME CLEAR!!』

 

 

 

 




ー次回の仮面ライダーエグゼイドは!!ー

「まずはゲームクリアおめでとうと言っておこうドクターの諸君」

────檀黎斗9610の目的とは…!!

「…ここからはエクストラステージだァ!!!」

────神の仕掛ける最後のゲーム!!!

「…黎斗さんは僕達が止めます」

────再びドクターライダー達が神の挑戦を受ける!!

ー次回『ゲンムChronicle!!!』ー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゲンムChronicle!!

アニメのコッコロちゃんが可愛すぎてアークに接続仕掛けた。


 

フッと眩い光に包まれると、目の前は聖都大学附属病院の前だった、現実世界に戻ってきたって事か。

 

僕とポッピーはその場で立ち上がり周りを確認する。

 

「ゲームはクリアした……とにかくCRに戻ってみよう、ポッピー」

「う、うん」

 

僕とポッピーは駆け足でCRへと戻る、飛彩さんも大我さんもどうなったのか気になるし。

 

僕達がCRに戻るとそこには待っていた貴利矢さんとパラドの他に大我さんとニコちゃんの姿もあった。

 

「大我さん!!ニコちゃんを助け出せたんですね!!」

「ああ、お前の方もゲームをクリアしたみたいだな」

 

心なしか大我さんの顔が明るくなった気がする、ポッピーはニコちゃんに駆け寄り互いの生存を喜び合っていた。

 

「後は大先生だけだな」

「レーザー、来たみたいだぜ」

 

パラドがそう言うと飛彩さんが……

 

「ってえぇ!?小姫さん!?」

 

驚いた、飛彩さんの後ろには間違いなく消滅した筈の小姫さんがいた。

 

僕だけじゃなくその場にいた全員が驚いていた。

 

「だ、大先生、一体どういうことだ?なんで小姫さんが…」

「俺にも分からない、ただ、このゲームをクリアしたら小姫が戻ってきた、それだけだ」

 

飛彩さんがプリンセスコネクトガシャットを取り出して見つめる。それに釣られて僕も大我さんもガシャットを取り出す。

 

「…ブレイブの恋人を助けたっていうのか?あのゲンムが」

「助けたとは言い難いな、小姫の体は未だバグスターだ、人間に戻った訳ではない…恐らく奴もそこまでやる義理はないと判断したんだろう」

「つまり前の自分みたいな感じなのか…小姫さんどう?調子は?」

「は、はい、大丈夫です」

 

バグスター体としての経験が過去にある貴利矢さんが小姫さんの様子を見る。

 

「…とにかくゲンムがなんの目的でこんなゲームを俺達に仕向けてきたんだ?」

「それは俺も気になっていた所だ、正直奴のゲームとは思えないほどまともなものだった」

 

飛彩さんと大我さんがそんな事を言う…確かに、黎斗さんらしからぬゲームだと僕も思った。

 

命のやり取りも特になく、用意されたバグスターも僕達を諭すようなものばかりだった。

 

「…まずはゲームクリアおめでとうと言っておこう、ドクターの諸君」

「…!!!」

 

その声に皆が反応し声のする方向を見る、そこには黒いモヤが集まり人の形となる…黎斗さんだ。

 

「ゲンム…!!」

「おい、檀黎斗、俺達はゲームをクリアした、気は済んだだろう、さっさと俺達の前から消えろ」

「まぁそう邪険にするな鏡先生…私からのクリア報酬は良かっただろう?」

「…」

 

クリア報酬…小姫さんの事だ、黎斗さんは笑いながら話を続ける。

 

「ここからはエクストラステージだ、存分に楽しんでくれたまえ」

 

エクストラステージ…?

 

「ふざけんな!永夢達はゲームをクリアした、お前の遊びに付き合ってられるか!!」

「何を言っているパラド、ゲーム好きの君がそんな事を言うとはね…ここからは君達も参加していいんだぞ?」

「なに?」

 

そう言って黎斗さんが手をかざすと僕達が手に持っていたプリンセスコネクトガシャット3個が黎斗さんの元へ引き寄せられる。

 

「君達に協力してもらったのは他でもない、絆の力を手に入れる為さ」

「絆の力だと?ふっ…まさかお前がそんなものを求めるとはな」

 

飛彩さんがトゲのある言い方で黎斗さんに言い放つ。

 

「絆の力は素晴らしいものだ、君たちが経験したあのゲームエリアの世界、人物は私の経験談に基づいて作られていてね」

 

世界…あのファンタジーみたいなゲームエリアの事か、それにあの女の子のバグスターも黎斗さんの知り合いを元に作ったって事でいいのかな。

 

どこで知り合ったのかは分からないけど黎斗さんなら何故かありえる気がする。

 

「…彼女達のおかげで私の才能は更に刺激され最高のゲームを生み出す事が可能となった」

 

そう言ってプリンセスコネクトガシャットを自分自身に向けてデータを読み込ませる事により黎斗さんの体が輝き始める。

 

「クックック…ヴァーッハッハッハッハッ!!素晴らしい!!来たぞ…!!私の新たな力がァ!!!才能がァ!!!!」

 

そう言って黎斗さんはゲーマドライバーとゴッドマキシマムマイティXを取り足す。

 

「バカなっ!!何故お前がそのガシャットを…!!」

「どう言う事だ…?それは再生医療センターに保存されているはず…誰からも盗まれたなんて連絡は来てねぇぞ!?」

 

飛彩さんと貴利矢さんが狼狽る、無理もない、あのガシャットは確かにヤバい…!!

 

「このガシャットは確かにオリジナルではない、ゴッドマキシマムの力の半分程度しかない模造品だ、しかし今はそれでもいいのさァ…」

 

黎斗さんはそう言ってニヤリと不敵な笑いを零しながら

 

「ブゥゥゥゥゥン!!!」

『ゴッドマキシマムマイティエェックス!!』

 

奇妙な声を上げてドライバーを腰に当てる、そしてゴッドマキシマムのスイッチを入れた後、黎斗さんの手に渡っていたプリンセスコネクトガシャットが変化を起こす。

 

3つのガシャットが融合し変形…その形はまるで…

 

「へぇぇぇんしぃぃぃん!!!!」

『ゼッタイフメツゥゥゥゥ!!!!』

 

それはハイパームテキガシャットを紫と黒に塗り直したようなガシャットとなった。

 

僕は直感で分かった、ゼッタイフメツ…アレが黎斗さんのハイパームテキ相当のガシャット…!!

 

『ドッキーング!!パッカーン!!フーメーツー!!閃け!神の如く!最上のゲームクリエイター!!ゼッタイフメツゲンムゥ!!!』

 

一瞬だけマキシマムゲーマを装着した後、それらが霧のように消え、顕になったのは黒いハイパームテキ…

 

これが…ゼッタイフメツの姿…黎斗さんの新しい力…!!

 

「…やはりただ俺達にメリットがあるだけではなかった、あのゲームも…そのガシャットを生み出す為に利用されていただけだった!!」

「ケリをつけてるやるよゲンム」

「俺も参加していいって言ったよな?…ここでお前を倒す」

 

戦闘態勢に入る飛彩さん、大我さん、パラド、しかし黎斗さんは右手のひらをこちらに向けて3人を静止する。

 

「このゼッタイフメツが起動した時点でゲームは始まっているのだよ、諸君」

「ゲーム…今度は一体どんなゲームなんですか!?」

「ゼッタイフメツによりこの世界全土がゲームエリアとなった、プレイヤーは君達も含め、全世界の全ての人間さ」

 

…規模が違う、全世界がゲームエリア?全人類がプレイヤー?

 

黎斗さんは今までも人知の及ばない凄いゲームを作ってきた、でも今回はそれを凌駕する文字通り神の領域に踏み込んでいる。

 

「この世界には既に敵キャラクターとしてゲンムが配置されている、その数は10億」

「10億って…神…お前本当にその数好きだな」

「そんないっぱいのクロトを用意して何がしたいの!?」

 

ポッピーの問いに対しても黎斗さんは不敵に笑いながら答える。

 

「…ルールは簡単だ、全人類のプレイヤーの諸君は力を合わせて10億のゲンムを倒す、制限時間は今日の終わり…深夜0時だ」

「制限時間だと?なんでそんなもんが必要になる」

 

大我さんの疑問は最もだ、時間制限付きをしたところで一般市民は無理に戦う必要なんてない。

 

「参加者は全員、ゼッタイフメツを起動した時点でゲンムウイルスに感染している、感染者はキッカリ0時に発症し消滅する」

 

黎斗さんの言葉を聞いて僕達は即座にゲームスコープを覗く。

 

「…ゲンムの…マーク…!!」

 

ポッピーや小姫さん、パラドを除くバクスター以外のメンバー全員がゲンムのマークのバグスターウイルスに感染していた。

 

恐らくこの地球上全ての人間がこのウイルスに感染していると考えて良いだろう。

 

「…強制的に無関係の人間まで巻き込みやがって…これがお前の望むゲームのやり方か」

「花家先生、勘違いしては困る、ゲームとは挑戦だ、私は全人類に挑戦状を送ったのだ」

 

答えになってない、でも黎斗さんらしい。この人はいつもこうだ、自分の目指す目標の為ならどんな犠牲があろうが他人の事などお構いなしだ。

 

「さて、君達にはまずはこれを見てもらおう、このゲームがどのようなゲームなのか、実際に世界の様子をね」

 

黎斗さんが手のひらを翳すとホログラムのスクリーンが表示されそこには映像が映し出される。

 

日本だ、それも都内のどこか、人々が逃げ惑い、無数のゲンムが闊歩している。

 

「酷い…」

 

ポッピーがそう呟いた、街は悲惨だった、建物は所々崩れており、車などの移動手段も乗り捨てられ炎上しているものも見て取れる。

 

見た限りではまるでゾンビ映画のワンシーンのようだった。

 

襲いかかるゲンムに対し一般市民がガシャコン武器を携えて応戦しているのも見える。

 

「参加者にはもれなく1つ、ガシャコンアイテムが支給される、それを使いゲンムを倒してもらう」

 

…だからといってただの人間がゲンムに敵うはずがない…あっ…!!

 

『お父さん助けてぇぇぇっ!!』

『たけしっっ…あぁ…!!!?』

 

親子の姿がそこにはあった、男の子の方がゲンムに襲われ…そして…

 

『GAME OVER』

 

男の子が…粒子となって消えた、映像見ていた僕達はその光景に絶句した…ライダークロニクル時代を思い出す嫌な光景…それもあんな小さな子供が犠牲になったところを見なければならないなんて…

 

しかしそれだけでは終わらない。

 

『たけし……そんな…っ』

 

父親がそう呟くとたけし君の粒子が再び集まり始め…ゲンムの姿となった。

 

『なっ!?たけしっ!?』

 

そしてそのゲンムが父親に襲いかかる…まさか…これは…っ

 

「このゲームはゲンムウイルスに感染した人間が倒された場合、ゲンムとなる」

「ふざけんな!!前のゾンビクロニクルと同じクソゲーじゃねぇか!!」

「落ち着けパラド、勿論救済措置もある、もしゲンムを討伐できた場合、1体につき1人、ゲンムとなった感染者を人間に戻すことが出来る」

 

黎斗さんは当然のように言ってるけど、それがいかに難しい事なのか、むしろ難しいからこそ達成感があると黎斗さんは思っているのだろう。

 

「ただし」

 

黎斗さんが区切る、それと同時に映像の方でも変化があった、先程の父親は何とか生き延びているがたけし君ゲンムに手が出せずにいた。

 

『くそっ…たけし…』

『おらぁぁ!!』

 

するとたけし君ゲンムの後ろから1人の青年が現れ、連続でガシャコンソードを振り斬り付けたけし君ゲンムをなんと倒した。

 

たけし君ゲンムは消滅しその青年の頭上に『1』という数字が表記される。

 

『な…たけしを…っ!!お前っ!!』

『何言ってんだ!!?コイツは敵だろ!?』

 

それだけじゃない、青年の数字の横には『KILL 前原 たけし』と書かれている…アレはキルログ。

 

『ふざけるな!!息子を返せ!!』

『や、やめろ!!うわぁぁぁ!!!』

 

たけし君の父親が青年をソードで斬り裂く、青年は絶叫し、そして『GAME OVER』の文字が表示され消滅した。

 

『はぁ…はぁ…たけし…ってうわぁぁぁ!!?』

 

しかし消滅と同時にたけし君の父親に倒されたその青年はゲンムとなり復活する。

 

そのゲンムが父親を襲い、父親は抵抗も虚しくゲンムによって消滅させられる。

 

そして消滅した父親もまたゲンムとなり他の人達を襲い始める…地獄絵図だ。

 

「ゲンムとなったプレイヤーを間違って倒してしまった場合、そのゲンムとなったプレイヤーは残念ながら消滅する。そして元プレイヤーのゲンムを倒したプレイヤーにはキル数とキルログが表記され、他者から…特に今のように身内から狙われやすくなってしまう」

「わざとそんな仕様にしてるとか…さいっってい!!!」

 

ニコちゃんが黎斗さんに怒りの声をあげる。

 

当然だ、現段階でこのゲームでわかっている事を並べれば…

 

制限時間は今夜0時、残り約10時間程度。

 

その間に10億のオリジナルのゲンムを倒さなければゲンムウイルスにより人類は消滅する。

 

GAME OVERになった場合、ゲンムになる。

 

ゲンムの姿になった人は倒されると完全に消滅、10億のオリジナルゲンムの討伐数には加算されない。

 

間違ったゲンムを倒してしまった場合はキルログが表記され、誰を倒してしまったか分かるようになる。

 

オリジナルのゲンムと感染した人のゲンムの見分けはつかない。

 

…ハッキリ言えばゲームバランスも何もない黎斗さん有利のゲームだ、それに悪趣味、ニコちゃんが憤るのも無理はない。

 

それに感染して増えたゲンムを含めれば…もう既に10億以上のゲンムがこの地球上には存在する可能性がある。

 

最悪、この地球上全てがゲンムで埋め尽くされてしまうかもしれない。

 

「これが…!!絆の力で得た!!私の究極のゲーム!!それがゲンムクロニクルだァァ!!ヴァーッハッハッハッハッハッ!!」

「ふざけるな!!やはりお前はこの世界にとって悪性のウイルス…ここで完全に消し去ってやる!」

 

飛彩さんが声を荒らげ、一触即発状態、でも

 

「残念ながら、君達はまだ私と戦う事はできない、それまでの間、存分にこのゲンムクロニクルを楽しんでくれたまえ」

「なっ…待ちやがれ!!!」

 

大我さんが止めようと足早に黎斗さんに近づくも黎斗さんは霧散して消えた…バグスター特有のワープ移動だ。

 

「…とにかく、黎斗さんがどこに行ったのか、探す事も大切ですが、外に出ましょう」

「…そうだな、どうなっちまってるのか…実際に目で見た方がいい」

 

 

 

僕達は準備を済ませると外へと飛び出す。そこは先程の映像通りの光景が広がっていた、むしろ現場で見る分…悲惨さが伝わってくる。

 

「酷い…」

「と、止めなきゃヤバくね!?」

 

ポッピーは口に両手を当てて唖然としニコちゃんがそう叫ぶ、僕達もガシャットを取り出して対応する。

 

「ニコちゃんの言う通りだ、まずは襲われてる人達を助けないと…!!」

『マイティアクションエェックス!!』

 

「永夢先生!僕も手伝います!!」

 

叶君も来てくれた、よし…

 

僕達はそれぞれガシャットを起動し、ドライバーのスロットに挿入、レバーを開く事でレベル2の姿に変身する。

 

ブレイブはタドルクエスト、スナイプはバンバンシューティング、レーザーは爆走バイク。

 

叶はゲキトツロボット、ポッピーはときめきクライシス、パラドはパーフェクトノックアウト。

 

戦力自体は十分だ。

 

「この場にいるゲンムを止める!!最終目標は檀黎斗だ!!」

 

ブレイブの言葉に即座に反応をし皆が散開、それぞれがゲンムの対処を行う。

 

しかし

 

「近づいて見ても…まっっったく見分けがつかねぇ…!!」

 

レーザーがそう不満げに呟く、確かに、俺も間近で見ているが…どれもこれも同じに見える。

 

俺達はドクターだ、患者を見捨てる事はできない、無闇矢鱈に攻撃して消滅させるような事はできない。

 

それこそがあのゲンムのやり方だ。俺達に攻略させる気が全くない。

 

「叶!!どれがオリジナルのゲンムか分からない!!一先ずは他の人達を逃す事に専念しろ!!」

「分かりました!!先生!!はぁ!!」

 

叶は右手のアームを使ってゲンムを薙ぎ払いながら民間人を逃している、他の面子もそうだ、攻撃がしにくい…!!

 

「永夢!!このままだとジリ貧でヤバい!!神を探して直接叩きのめすしかコイツを止める術はねぇ!!」

 

確かに…まともな攻略法でこのゲームをクリア出来ない、悔しいけどな。

 

「ここは俺達に任せて檀黎斗を探せ!!小児科医!!」

「お前に全世界の…人類の運命がかかってる!!」

「いつもみたいにみんなの運命を変えてきてよ永夢!!」

 

ブレイブ、スナイプ、ニコが俺を励ましてくれる、だったら期待に応えるしかない。

 

「レーザー!!ちょっとコレを!!」

「あん?…って…これ…」

 

俺はレーザーにあるものを手渡す、それを見てレーザーは一瞬戸惑ったけど、1度頷いて理解してくれた、流石はレーザーだ。

 

「…分かったよ永夢、だがあんま無茶はすんなよ?」

「無茶をしなきゃゲンムは止められない」

「…だな、パパッと終わらせて、明日のために自分は休みたいよ」

 

俺達は軽口を叩きながら分かれる、俺の目指すべき場所は…あそこだ。

 

 

 

 

永夢がここから離れ、ゲンムの元へ向かってから数分、俺達は未だに劣勢状態だった。

 

ゲンムの数が増えていく一方で俺達は1体もゲンムを減らすことが出来ない。

 

その時だった、一陣の風が吹き荒れ、俺達に風の刃による攻撃が飛んできた、一体なんだ?

 

「…アレは…コッコロか…」

 

スナイプが呟いた、コッコロ…?見ると小さな女の子が槍を構えてこちらに攻撃してきていた…見れば分かる、アレはバグスターだ。

 

「それだけじゃない…俺が戦った猫耳少女もいる」

「って事は…もう1人はエグゼイドが相手した奴か」

 

3人…ゲンムに紛れて奥から現れた、見知らぬ女だが…ゲンムの仕向けたバグスターだろくなもんじゃない。

 

「中々手をこまねいているようだな、ドクター諸君」

 

…この腹の立つ声…ゲンム…!!

 

ゲンムは人間の姿でこっちに歩いてきやがる…余裕ぶっこいてムカつくやつだ。

 

「あ?なんで神がこんなとこに…っちゃあ…永夢の奴とすれ違いかよ…」

「まぁ、永夢がいないのは好都合だァ…このゼッタイフメツを試すには丁度いい」

 

そう言って女3人を下げさせる。

 

「コッコロ、キャル、ペコリーヌ、君達は私のサポートをしろ、準備運動だ、軽く済ませる」

「承知しました主さま」

 

1番小さな少女が畏ってる…なんなんだあの2人の関係は。

 

「おいおい、そんな小さな女の子に主さまなんて呼ばれちゃって…神から主君に鞍替えしたわけ?」

「コッコロは私の忠実な従者でね、これが普通なんだよ…まぁいい、まずは九条貴利矢…君が私の相手をしてくれるかな?」

「…上等」

 

『ゼッタイフメツゥ!!』

『ギリギリチャンバラ!!!』

 

レーザーがギリギリチャンバラのガシャットを起動してガシャコンスパローを装備し、ゼッタイフメツと対峙する。

 

俺も参戦しようしたが、コッコロとかって呼ばれた少女の行手を阻まれる。

 

「主さまの命により妨害は許しません」

『ザ・バグスター!!!』

 

3人はバグヴァイザーで怪人体になるとレーザー以外のライダー達を妨害する、その為、俺達は2人に近寄ることができない。

 

「…そんじゃま…最初からフルスロットルで乗っちまうぜ、神」

「来い、九条貴利矢…最初の脱落者にしてやる」

 

ゲンムとレーザーの戦いが始まる。

 

 

 

 

またコイツと戦う羽目になるとはな、いや…永夢が付き合うって約束しちまったんだ、自分もそりゃ巻き込まれちまうわな。

 

それにしてもマキシマムの次はムテキの色違いよ、たく…相変わらずお前は永夢が好きなんだな。

 

ずっとお前と永夢は2Pカラーだ、パラドなんかよりよっぽど似た者同士だぜ。

 

まずは本チャンの前に様子見か…どんな能力を持ってやがるのか…

 

「ふん…!!」

「っ!!」

 

速い!!…それこそムテキと変わらねぇ…まさかマジでムテキ並みのスペックだとか言わねぇだろうな!?

 

移動速度も攻撃速度も以前ムテキと戦ったことのある俺なら分かる、変わらねぇ…

 

速すぎて全く攻撃が捌けねぇ…!!

 

フメツの攻撃が連続で自分の体をボコスカ殴る。

 

「やろっ…っ!!!」

 

無駄と分かっていてもスパローの鎌で斬り込んでみる、それは簡単に弾かれ蹴りを1発、俺の脇腹に入れられる。

 

それだけじゃない、フメツにもあるあの長い髪が伸びてそれの1本1本が鋭利な槍のようになり俺に向かって突き刺し攻撃を仕掛けてくる。

 

俺の胴体に連続ヒットして、俺は体から火花を散らしながら後方の弾き跳び転がる。

 

「つぅ…ぁぁ…」

「ふむ、上々だな」

 

アイツは自分のフメツの力がどれ程のもんか確認してるだけ…ちっ…やんなっちまうぜ。

 

「お前が仕掛けたあのゲーム…本当にこのゲームを生み出す為だけに仕掛けたもんなのか?」

「…突然何を言い出す」

「自分は嘘を見抜くのが得意だ、お前とも随分長い付き合いだし、それくらい分かる」

 

自分がそう言うと黙り込む、…ったく相変わらず傍迷惑な神だ、思考が1次元か2次元先に行ってるせいで常人が付き合うには正直かなり厳しい。

 

でも永夢は付き合うと決めた、それに応える為に今も戦い続けている、それは…自分も同じだ。

 

「ま、何にせよ、世界そのものに迷惑かけるってんならやっぱお前を止めなくちゃならねぇわけだし、ここで終わっとけ神」

「いいや、まだ終わるつもりはない、永夢との決着をつけるまではね」

「そうかい…永夢との決着…ねぇ…」

 

『ギリギリクリティカァルフィニィッシュ!!!』

『ゼッタイ!!クリティカァル!!クリエイト!!!』

 

俺は鎌にエネルギー込めて、奴の飛び蹴りを迎え撃つ、なんつぅか…前にもこんなことがあった気がするよ…ずっと前にな。

 

「ぐ…ぐぁぁぁぁ…!!!」

 

当たり前のように自分は力負けしフメツの蹴りをモロに浴びる、自分は吹き飛ばされ、地面に這いつくばり全く身動きが取れねぇ…

 

でも、少し違和感があった、その違和感の正体はすぐに分かった。

 

自分は大ダメージを受けているにも関わらず、消滅は愚か『変身解除』すらしてない。

 

勿論体のあちこちは痛いし、正直立つことだって難しいくらいの致命傷だ。それなのに…俺はゲームオーバーになっていない。

 

何か…妙だ、まさか…これがフメツの力…?

 

「…これで九条貴利矢は脱落か、呆気なかったな」

「おい、何終わった気でいやがる」

 

ドドンと砲撃音が聞こえ、ゴロゴロとフメツの前に転がってくるバグスター少女の3人、どうやら白髪先生達が返り討ちにしてくれたみたいだ。

 

白髪先生も大先生も見たことない姿になってた、戦車と…タドルクエストに更にレガシーゲーマーがくっついてんのか?アレ。

 

それにパラドやポッピー、叶君もいるしこれなら何とかいけそうな気がしてきちゃうぜ〜?

 

「すこし休んでいろ監察医、後は俺たちが引き継ぐ」

「このゲームはこれで終わりだ」

 

戦車の砲撃をスナイプが放つとフメツは髪でそれを薙ぎ払い、一瞬でこっちに迫ってくる、それを察知したパラドがフメツの打撃を両手で受け止める。

 

「クロト!もうやめて!どうしてクロトはいっつも誰かを悲しませようとするの!?」

「ポッピー、それがゲームだからだ、私の考えるゲーム」

「ゲームは人を笑顔にする物でしょ!?クロトが今やってる事は人を悲しませることだよ!!」

「いいや、私のゲームもまた、人を笑顔にするものだ」

 

フメツは受け止めていたパラドの腕を膝蹴りで弾き、連続の拳による打撃と回し蹴りでパラドを数メートル先の壁まで吹き飛ばす。

 

更に近づき剣撃を仕掛けるブレイブの攻撃も簡単に全て弾いてライドヘアーによる振り回しによりブレイブもまたかなりの距離を吹き飛ばされる。

 

最後はスナイプと叶君だ、近接職の叶君がアームを構えて接近しスナイプの砲撃がそれをフォローしているんだけど…

 

フメツは何発かは素手ではたき落として最後は蹴りで砲撃を弾き返し、それが接近していた叶君の胴体に直撃、叶君は火花を散らして吹き飛んで動かなくなった。

 

「やろ…っ!!!」

 

スナイプが再び砲門を構えるも一瞬で迫ったフメツにより砲門を殴られて砲撃できず、前蹴りをもろにくらって後方に吹き飛ばされる。

 

「…十分、フメツの動きは掴めた、後は永夢との決着をつけるだけか」

「うぉぉぉ!!!」

 

不意打ちを仕掛けるパラド、それに対し裏拳をかまし、倒れたパラドに追い討ち、右足で胸部を踏みつけるフメツ。

 

「コッコロ!ペコリーヌ!キャル!!この場は君達に任せる!私は永夢の所へ向かう!!」

 

檀黎斗の言葉にあのお三方が元気よく返事する…なんつーか羨ましい限りだ、バグスターとはいえ女性3人から黄色い声を掛けられるなんてな…

 

フメツは3人にこの場を任せ、悠々とこの場を後にした…恐らく永夢が向かった場所にアイツも向かったんだろう、何となくだが檀黎斗の目的が分かってきたぜ。

 

それにしても…

 

「力が湧いてきます…主さまのお力のおかげ…!」

 

あの3人…なんか様子が変というか…力が上がってねぇか?対応に当たってる大先生達が若干押されてる…

 

アレもフメツの力…他者を強化する力があるのか。

 

…仕方ねぇ…永夢が全てを終わらせるまで…自分ももう一踏ん張りと行きますかね…!!

 

 

 

 

 




次回プリコネ要素が……ないです。もうこれただのエグゼイドだな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EXCITEする未来!!

アニメ二話もメッッッッッちゃ良かった(コナミ)



檀黎斗9610編終わり!!閉廷!!


「…ここだ、きっとここに黎斗さんは来る」

 

僕には分かる、今この場所に黎斗さんはいない、多分何処か行ってる。

 

それでも分かるんだ、すぐにここに来るって

 

幻夢コーポレーション…僕はその中に入る。

 

既に社員の姿はない、みんなゲンムクロニクルの影響で逃げているんだろう、もしかしたら既に…

 

その時だった、社長室に向かう道中、部屋の隅に人影が見えた。

 

「作さん…!?何でまだここに…」

「ああ…君は…すまない…逃げ遅れてしまって…」

「そうですか……ここにはゲンムが入ってきていませんね…とにかくここで…」

「…この事態は…やはりあの…」

 

作さんの問いに僕は頷く、作さんも黎斗さんに散々嫌がらせを受けた人だしすぐに分かる事だ。

 

「僕は黎斗さんを止めます、その為にここに来ました」

「え?ここに…ですか?」

「黎斗さんにとってここは…思い入れのある場所です、戻ってくるとしたら…確実にここだと思うんです」

 

僕はそう言って作さんを比較的安全な場所に移動させてから進むべき場所に向かう。

 

社長室だ、あそこに黎斗さんはいる。

 

僕が社長室の扉を開くとまるで王様のようにその人物は椅子に座り踏ん反り返っていた。

 

「…もう戻ってきてたんですね」

「…まぁな、私はバグスターだからね…ワープができる暇さえあれば1秒かからずこの場に戻れるさ」

 

黎斗さんは立ち上がり、僕の方へと歩いてくる。

 

「決着をつけましょう、黎斗さん」

「ああ、その為に私はこのゲームを用意したのだからな」

 

…僕との一対一の真剣勝負、それをする為だけにこんな大掛かりなゲームを用意した…黎斗さんらしい。

 

「…でも、良いんですか?黎斗さんなら…例え僕との決着をつけると言えど、ゲームを利用するなんて…」

「利用では無い、言っただろう?これは挑戦状だと、ゲンムクロニクルの真のエンディングはこうだ。永夢、君が敗北し全人類がゲンムとなるか、君が勝ち人類の運命を変えるのか…」

 

端から人類がゲンムに打ち勝つゲームとして想定しているわけじゃない、僕が黎斗さんに勝つか負けるか、深夜0時がタイムリミットなどではなく全人類こそがタイムリミット。僕が悠長にしていたら人類は数の暴力によりゲンムとなる。

 

「さぁ、エクストラゲームの大本命だ!!永夢ゥ!!」

「…付き合いますよ、黎斗さんのゲームに、そう…僕は約束しましたからね」

 

『ゼッタイフメツゥ!!』

『マイティノベルエェックス!!』

 

「変身!!」

「変身!!!」

 

『ゼッタイフメツゲンムゥ!』

『俺のストーリーエェックス!!』

 

2つの声が重なる、俺は白のエグゼイド。ノベルゲーマーレベルXに、ゲンムは黒のムテキ。フメツゲーマーレベル?に変身した。

 

『ステージセレクト!』

 

俺達は変身した直後にステージセレクトで広場のステージに飛ぶ。そして俺は紡ぐ、言葉を。

 

「…これで終わりだ、ゲンム」

「ほう?『どのゲンム』だ?」

 

次の瞬間だった、ゲンムの目の前に大量のゲンムが…正確には通常形態のゲンムが沢山湧き出てきた。

 

そのゲンム達はまるでゾンビのように俺に向かってくる。

 

『これで終わりだ、ゲンム』…俺のセリフは全てノベル、運命だ。

 

運命が決定づけられ、その通りの出来事が起こる、それこそがノベルゲーマーの力だ。

 

本来なら今の一言ですべてが終わっている筈だった、だが、奴は返してきやがった、言葉を。

 

「ちっ…!!だったら…フメツ…!!ゼッタイフメツはそこで立ってろ!!」

「残念だが、ここにいるゲンム全てがゼッタイフメツにより生み出されたフメツだ、その言葉では止まらない」

「っ…っ!!!」

 

…やっぱり、ゲンムにはもうノベルは効かない、ノベルの弱点…それは『屁理屈』だ。

 

俺の視点から俺の運命を決定する能力。俺がこうだと信じていればそれが運命になる。

 

逆に言い換えればノベルは『言葉の力』。

 

俺の紡ぐ物語を言葉巧みに屁理屈で並べ立てられると、途端に語るべき物語に齟齬が出る。

 

例えば、俺が目の前にいる子供を女の子だと認識していても、実際は男の子だったり。

 

例えば、仲睦まじい男女を見て恋人だと思ったら実は兄妹だったり。

 

俺から見た物が、俺が感じた物が俺の物語になってしまう、それがノベルだ、そしてそれをある意味でねじ曲げ信じ突き通すのがノベルの力だ。

 

だからこそ、屁理屈で押し通されるとその根本の部分が崩される。『確かに』だとか『そうかもしれない』という理屈がノベルの力を弱体化させる。

 

『屁理屈』や『とんち』じみた問答でゲンムの話術には敵わない、なんせ過去に俺は何度も奴の話術に打ちのめされてきた。

 

そして…ノベルにはもう1つ弱点がある…っ…!!

 

「ノベルには戦闘能力はなァい!!」

 

そう、ノベルには戦闘能力はない、正確には俺が『俺の攻撃は必ず当たる』などの言葉を紡げれば関係がない。

 

でも、それを奴は許さない、今俺を羽交い締めにしてくるゲンム達はおそらくほぼ全て元人間のゲンムだ。

 

下手に俺が攻撃すれば…消滅する。

 

ゲンムはそれを分かってて、こんなにも沢山のゲンムをこの場に召喚したんだ。

 

「くそっ…離せ!!お前達!!」

 

俺のその発言に何体かのゲンム達が離れていく、よし…複数形の発言なら…

 

「ふん!!」

 

その瞬間、ゲンムのライドヘアーが俺に迫りくる、まずい!!

 

「お前の攻撃は俺には当たらなっ…ぐぅぅっ!!?」

「…『お前』とは誰の事だ?」

 

っ…屁理屈が過ぎる…っ!!俺はしっかりと迫りくるゲンムを見てハッキリと発言した、それでも…ノベルで紡ぐには具体性に欠けるって事か…!!

 

『ゲンム』だとか『お前』だとかの表記ではオリジナルのゼッタイフメツゲンムを止めることができない。

 

仮に『オリジナルのゲンム』と発言したとしても意味を為さないだろう、奴の事だ、『私はオリジナルのゲンムではない檀黎斗9610だ』とか言い出す。

 

そして『檀黎斗9610』と指定しても『本当に私が檀黎斗9610だと言えるのか?』なんて言われれば奴に効力を示さないだろう。

 

ノベルの能力が相手に効くのは、相手が自分自身を『自分』だと認識してるから効くんだ。例え『お前』だろうと『ゲンム』だろうとそう思っているのなら曖昧な二人称でも能力は効いている筈。

 

ゲンム…檀黎斗にはそれがない、自分の事を檀黎斗だと思っているし思っていない…だからこそ厄介なんだ。

 

だからこそこんな屁理屈が通るんだ、正直、ノベルのような概念能力が主なガシャットの力じゃ…今のゲンムを打ち負かす…もとい言いまかす事は出来ない。

 

「ふぅん…」

「ぐっ…」

 

俺は背中から倒れ込み、胸部をゲンムが右足で踏みつける、見下されて嫌な気分だ。

 

「ノベルを使って短期決戦を挑んでくるとは…相変わらず容赦がないな、永夢」

「…あんたこそ…1度…負けた相手の…対策はバッチリってか…っ」

 

ゲンムはそのまま俺のガシャットを引き抜き、奪い去る。

 

ノベルを奪われた僕は変身が解除されて元の白衣の姿に戻ってしまう。

 

…今にして思えば『僕以外のこの場にいる全員の動きは止まる』とでも言っておけばよかったかもしれない。

 

でも時既に遅し、黎斗さんにガシャットを奪われた。

 

黎斗さんはノベルを奪ったが何かまだ探しているようなそぶりを見せる。

 

「…ん?おかしい…ムテキはどこだ?」

 

黎斗さんはムテキを探しているようだった、でも残念…ここには無い。

 

「やっぱり…黎斗さんなら…そうしてくると思いましたよ」

「…何?」

「…ノベルは完全対策し完封勝ち……その後はムテキを奪う…それこそが貴方の描いたシナリオ…そうすれば貴方の勝ちですからね…」

 

それに今回は僕の能力対策としてプリンセスコネクトガシャットは黎斗さんが既にゼッタイフメツに変化させている。前回のノベルの時のように奇跡による逆転を無くす為に。

 

「だから、僕はムテキを置いてきたんです、あそこに」

「置いてきただと?…何処に…ふぐぉ!?」

 

黎斗さんの体に何かが衝突し、僕に体重を乗っけていた黎斗さんは吹き飛ばされ地面を転がる。

 

「待たせちまったな…永夢」

「ありがとうございます!貴利矢さん!!」

「九条…貴利矢だと…!?」

 

吹き飛ばしたのは爆走バイク姿の貴利矢さん、すぐに変形しレーザーターボの姿になる。

 

「悪いな、神…お二人さんのゲームの邪魔しちゃってさ、まぁ安心しな、自分もここからは手を出すつもりはないから」

 

そう言って貴利矢さんは僕が預けてたガシャット、ハイパームテキを僕に手渡す。

 

「永夢、もう既に大先生達もかなり危険な状態だ、頼むぜ」

「はい、任せてください…もう、終わりますから」

「いいや、終わらない…このゲームは永遠に続く」

「そうですね……人生というゲームはこの先もずっと続きます」

『ハイパームテキ!!!』

 

僕はハイパームテキのスイッチを入れる、黄金に輝くガシャットは煌めく音声を鳴り響かせ、辺りを照らしていく。

 

『ドッキーング!!パッカーン!!ムーテーキー!!輝け!流星の如く!!黄金の最強ゲーマー!!ハイパームテキエグゼイド!!!』

 

俺は黄金粒子に包まれ、仮面ライダーエグゼイドムテキゲーマーに変身する。

 

黒と金のムテキが揃った…いつかに見た2人のマイティを彷彿とさせる…だが並んではいない。

 

最初の頃のように対立し、相手を見据える。

 

「…レーザー、周りにいるゲンムを頼む」

「…了解」

 

俺はレーザーにそう声を掛けて一瞬でゲンムの間合いに入る、右拳を振るがそれはゲンムの右手で掴まれる。

 

「流石はムテキ…私の最高傑作のゲームだ」

「そういや、あんたとムテキでガチバトルするの初めてだな…!!!!」

 

俺とゲンムは拳で殴り合う、互いに腕を払い、迫りくる攻撃を完璧にいなし防御する。

 

互いのスペックは互角、速さもパワーも同じだ。

 

だけど何か違和感を感じる…なんだ…これ…

 

「はぁ…!!!」

「くぅっ…!?」

 

ゲンムの攻撃が俺の胸部に打ち当たる、その違和感の正体をようやく俺は知覚した。

 

「ぐっ…くっ…これは……ダメージっ…!!?」

 

ムテキにダメージがある…いや違う、ヒットマークは出ていない、ムテキにはダメージはない。

 

ダメージがあるのは『俺自身』だ…!!

 

「ムテキがダメージィ!?(…いや、今にして思えば、自分もそこら辺に違和感を感じてた…俺にはダメージがあったのに変身解除をしなかったあの時…)」

 

レーザーが驚いてる、そりゃそうだ…俺だってガチでビビってる。

 

ムテキでダメージを受けるなんてマジで久しぶりだし、何というか…仮面ライダーで受けるダメージというより生身に直接殴られてる感覚で気持ちが悪い。

 

「…それもフメツの力か」

「その通りだ、フメツには『スペックは無い』」

 

どういう意味だ?

 

「『力』も『スピード』も全てこのフメツには存在しない…無だ」

「無って…それじゃあ理屈が合わない」

「この私に理屈を求めるのか?」

「…そうだな」

 

そうだ、コイツに理屈は通用しない、無というのはゲーム的な表現なんだろう。

 

「フメツには力はない、だがしかし、『プレイヤーに直接固定ダメージを与える力』がある」

「固定ダメージ…ね、ムテキならそれも無効になる気もするが…」

「私がムテキの粗を知らないとでも?」

 

ムテキを生み出したのもゲンムだ、自分で対策を生み出すことも可能。

 

ムテキにダメージを与えることはできない、恐らくゲムデウスムテキのようなイレギュラーな存在以外は。

 

そうなるとプレイヤー自身にダメージを生み出すプログラムを作る、確かにゲンムらしい。

 

「そして私が受けるダメージもまた同じ固定ダメージだ」

「…つまり『ムテキの超攻撃力も無意味』って事か」

 

受けるダメージも与えるダメージも同じ…スペックの差だとかそんなものは一切無くなる。

 

「成る程な、実力勝負、そう言いたいんだな」

「そういう事だ、天才ゲーマー」

 

俺達は再び拳を交える、今度はキックも混ぜ、ライドヘアーで打ち合う。

 

更には高速移動、広大なゲームエリアをふんだんに使って移動と攻撃を繰り返す。

 

パワーが互角なんじゃない、スピードが互角なんじゃない、同じにされているからこそムテキの強さについてくる。

 

「マジかよ…こりゃ自分じゃついていけねぇわな」

 

複数のゲンムを取り押さえながらレーザーが呟く。

 

「くぅっ…!!」

 

俺は空中で掴まれ、そのまま地面に叩き落とされる、その後すぐに無理やり立ち上がらせられ腹部に3回ほど拳を入れられる。

 

俺は切り返しで右ストレートをゲンムの顔面に叩き込み距離を離す。

 

「はぁ…はぁ…くっ…」

「……永夢ゥ…」

 

俺達は互いに片膝をつく、体力が…厳しい…

 

ゲンムもバグスターだがダメージにより疲労している。

 

まだだ…まだ…!!!

 

俺達は再び接近し殴り合い。ゲンムのゲームはいつもこうだ、最後は殴り合いになる。

 

そこに何もなく、ただの…

 

いや…これが…

 

 

黎斗さんの望みなんだ。

 

黎斗さんは自分と対等にゲームができる人間を探していた。

 

そして見つけ出した相手には小細工がない勝負を挑むんだ、黎斗さんは。

 

勝って、それに勝つ事で黎斗さんは証明するんだ、自分が自分であると。

 

だからこそ僕は答えるんだ、そんな黎斗さんに。

 

「…これで最後です、黎斗さん」

「…ゲーマーではなく『君』で来るか…いや実に君らしい、永夢…」

 

『ハイパークリティカァルスパーキングゥ!!』

『ゼッタイクリティカァルクリエイトォ!!!』

 

僕達はキメワザを放つ、激しいエフェクトが飛び散りながら、構える。

 

「はぁぁ!!」

「はぁ!!」

 

跳躍、ここからだ…ここから…!!

 

僕達は一気に接近し、蹴りを打ち込む…っっ!!

 

く…ぐぐぐっ…!!力負け…しそう…!!いや…力負けなんて存在しない、フメツの力でそれはありえない!!

 

ここからは…心の強さだ!!!心を滾らせろ!!!

 

「はぁぁぁぁ!!!!」

 

凄まじい爆発が起こり、僕達はバランスを崩しながら地面に叩きつけられ転がる。

 

不格好でも…勝負は付いた。

 

「はぁ…はぁ…黎…斗さん…っ」

「ぐっ…くっ…これで…ゲームは…終わり…か…」

 

先に変身が解除されたのは僕だった、でも黎斗さんの方もその後すぐに変身が解除される。

 

お互いにボロボロだ、普通のライダーバトルよりも自身の体に直接ダメージの入るフメツとの戦いでの傷は重い。

 

周りにいた複数のゲンムも消滅…消滅!?

 

「安心したまえ…私の敗北と共に…ゲンムウイルスに感染した人間は全て消えた場所にデータとして送られる…すぐにでも…元の姿に戻るだろう」

「そこまで考えているなんて…流石黎斗さんですね」

 

僕がそう言うと、あの黎斗さんが微笑んだ、前までの不敵な笑みじゃない、本心だ。

 

「…黎斗さん…変わりましたね」

「…ふっ…何を言うかと思えば…私は変わらない…今も昔も…これからも」

 

…そう言って笑う黎斗さん…少しだけ僕は悔しかった、僕は以前、黎斗さんの笑顔を取り戻そうとしていた。

 

…でもそれは最後の最後まで叶わなかった。

 

そして笑顔は…この笑顔を取り戻したのは、きっとあの女の子達なんだって、そう思った。

 

プリンセスコネクトガシャット、あれはただ僕達にフメツを作らせる為だけに生み出したものなんかじゃない、僕達に見せたかったんだ、自分が変わるきっかけをくれた子達を。

 

だから悔しいんだ、僕よりも先に黎斗さんの笑顔を引き出したあの子達を。

 

変わったものと変わらないもの、黎斗さんはきっとこの先も大きく変わったりする事はないだろう。でも…少しなら少しづつなら変わっていく。

 

「…神…どういう事だ?あんたがこの程度で終わるわけがない、まだフメツの力…残ってんだろ?自分には嘘が分かる」

 

変身を解いた貴利矢さんが歩み寄ってくる、フメツの力がこの程度なわけが無い、僕もそう思っていた。

 

「…なに…初めに言っただろう、ゲームクリアおめでとう、と…あの時点で私は既に負けていたんだよ君達に……。そしてこのゲームはエクストラゲームだ」

 

黎斗さんは立ち上がる。

 

「…君達のゲームは永遠に続く、いずれまた、君達に挑戦しよう、私の才能の旅は終わらない」

『GAME OVER』

 

その言葉を残して黎斗さんは霧になって消えた。

 

こうして、黎斗さんが引き起こしたゲンムクロニクルは終結した。

 

 

 

 

「はい、トース!!」

 

僕達は今、貴利矢さんの結婚式に来ている、白いタキシード姿の貴利矢さん…正直似合わなくて笑っちゃう。

 

花嫁である紗衣子さんがブーケを投げるとそれをとったのは…

 

「おお!!小姫さん!!流石だね〜持ってるね〜!」

「ありがとうございます!」

「当たり前だ、既に俺は彼女に指輪を送っている」

 

ブレない飛彩さんにキャッチし損ねたニコちゃんと明日那さんがしょぼくれている。

 

「ちょっと大我!!身長でかいんだから取ってよ!!」

「俺が取んのかよ!!お前が勝手に取ってろ!!」

「はぁ?…はぁ、結婚とかしてやんね」

「…お前なぁ…」

 

ニコちゃんと大我さんは以前より凄く仲良くなってる、多分、ブーケを受け取った小姫さん、飛彩さんよりも先に結婚しそうだなぁ…あの2人。

 

「こういったもんは初めてだが…中々心が躍るな、永夢」

「ああ、これも…黎斗さんのおかげなのかもしれない」

 

今回の件で僕達は新たな一歩を踏み出した。

 

黎斗さんが残したゼッタイフメツにはどうやらゴッドマキシマムのデータを解析するシステムがあるらしく、データをバグスターに、バグスターを人間にするという手段がかなり簡潔に出来るようになるとの事だった。

 

つまり…早ければ年内中にはバグスターを人間に戻し復活することが出来るという事だ。

 

正直、何年もの間、止まっていた再生医療がたった1つのガシャットで解決してしまう…やはり黎斗さんの才能は恐ろしい。

 

それだけじゃない、データ化し再び復活するという黎斗さんが示した命のあり方…これが少し世界では前向きに考えられるようになった。

 

余命幾ばくもなく死を待つだけの人をデータ化し完治した状態で蘇生する…

 

理想的で現実味を帯びたその技術は革新的だ。

 

僕達ドクターとしては1度死んでもらうなんて認められない事だし、僕個人としてもあまり気は進まない、この件に関して否定的な世論は当然ある。

 

答えを出すのは僕達ではないにしろ…何となく、黎斗さんが世界に理解された気がしてほんの少しだけ嬉しかった。

 

あの人はあの人なりの命の考え方があった、それが多少なりとも理解されたとなればあの人も本望だろう…いや、そんな事はないか、あの人に常識なんか通用しないし。

 

人間に戻す作業には飛彩さんや大我さん達も加わるらしい、飛彩さんは小姫さんを一刻も早く治す為に、大我さんはフメツガシャットの解明の為に。

 

この光景に黎斗さんはいつか加わることができるのだろうか、以前にも似たようなことを思って、僕は『多分』とつけた。

 

でも今なら言える、『ゼッタイ』って、なんとなく絶対だ、矛盾してるけど。

 

そんな未来を思い描きながらも僕の方は今まで通り小児科とCRで生活していくだろう、でも1つ違うのは…

 

「明日那さん」

「ん?何永夢」

「…これからもよろしくお願いします」

「ふふ…改まって変なの」

 

僕の隣には彼女が常に居ることになるって事。

 

これからの僕のゲームは…僕1人のものじゃなくなって…これからもずっと続いていく。

 

 

 

 

 

 

プレイヤーの君へ。

 

私は檀黎斗…とここでは名乗っておくとしよう、個体番号9610が破れ消滅、既にデータは統合処理済みだ。

 

檀黎斗ネットワークでは今回の件…檀黎斗9610が独断で行った行動に対して騒ついている。

 

まさかこの様な変化が起こるとは…私自身驚きを隠せず非常に興味深いものとなった。

 

彼女達との出会いは多少なりとも檀黎斗の人格に影響を及ぼしたのは事実だ、否定はできない、何故ならば統合した私が言うのだからな。

 

プリンセスコネクト、ゼッタイフメツ…これらのガシャットは是非次回のゲームに活かそう。

 

さて、再生医療の方だがまさか9610が助力するとは思いもしなかった。

 

先の通り変わった私だ、誰かの為に手を伸ばした、というのは面白い行為だ。そのおかげで私の技術が、才能が凡人共にも浸透してきたというのは誇らしい、是非そのまま私のレベルにまで到達してもらいたいものだ。

 

ゲンムクロニクルというのも中々面白い発想だった、だがしかし解せないのは全て永夢との一騎打ちの為だけに製作されたゲームだということだ。ゲームクリエイターとして、その点に関しては減点しておこう。

 

この後も私はゲーム制作に勤しみ、今回の件での発想や反省を活かし、次にもまた君に攻略できないゲームを叩きつけてやる。

 

その前に…君が人生というゲームで、ポッピーというバグスターと…種族を超えた愛の絆を見せてくれることを楽しみにしている。

 

何故なら、それ自体が…私の仕掛けた攻略できないゲームなのだから。

 

是非、攻略してくれたまえ、天才ゲーマー。

 

私はいつでもここから君の人生の動向を探りつつ新たなゲームを作っているよ。

 

くく…くはは…!!!ヴァーッハッハッハッハッハッハッハッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 






『ゼッタイフメツゲンム』
フメツゲーマーレベル無

スペック
無し

・檀黎斗いわく、力も速さも設定されておらず、常に相手と同じになる。
与えるダメージ、受けるダメージも固定化され、どんな強大な相手だろうと同じ強さになる。逆に相手が弱い場合でも同様。

・ダメージは全て変身者に直接与え、ムテキのような力を持ってしてもアーマーに干渉することなくダメージを与える。

・ゲームエリア内で発生する特殊な能力を強力な妨害電波で阻害し無効化する。

・起動と同時に全世界にゲームエリアが展開され10億のゲンムと地球上の全ての生物にゲンムウイルスを感染させる力を持つ。

・地球上に存在するゲンムを任意にワープ召喚可能

・ゲームオーバーになっても地球上に存在するゲンムを1体消費することでコンテニューすることができる。実際のコンティニュー回数は10億+α


・黎斗が考えた『どんなに強い相手だろうが弱い相手だろうが自分と同じにする』ガシャット。
自身の才能に到達しないのであれば同じにするという願望がつまったガシャットである。








次回『星の王女様20XX』






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仮面ライダージオウ 〜レジェンドオブアストルム〜
星の王女様 20XX


檀黎斗要素なくなっちまった…かわりにプリコネ要素を入れておきます。

ちぇるーん♪


 

わたし達、美食殿は今ランドソル近辺にある湖畔に来ています。

 

いつも通り、魔物退治のクエストを受けてここに来たんです。

 

「ちょっと黎斗!!あんた、そんなもん近づけないでよ!!」

「キャル、君はあまり好き嫌いをするな、成長しないぞ」

「何よ!ひんそーで悪かったわね!キーっ!!」

 

ふふ、キャルちゃんと黎斗くんがさっき倒したカエル型の魔物料理を仲良く食べてます。

 

そう言うわたしは彼らを見つつ、湖畔を眺めていました、懐かしさを感じていたんです、ここに。

 

「おや?ペコリーヌさま、どうかしましたか?お食事が進んでいないようですが」

「あ、いえ…少し考え事をしてて…」

 

そう…ここは…この湖は、ランドソルから逃げていた時期によく訪れていた場所。

 

まだ…黎斗くん達と出会う前、ここでよく休んでいたことを今、ふと思い出した。

 

 

 

 

 

 

「この本によれば、普通の王女であるユースティアナ・フォン・アストライア。彼女は自社で開発したゲーム、レジェンドオブアストルムを世に広め、世を統べる星の王女となる未来が待っていた。自社で開発したゲームにバグなどがないか確かめる為、彼女は自分自身でプレイしゲームの世界の中に入ることを決めた。しかしその中で自身をユースティアナと名乗る人物と出会い、自分を偽物扱いに……おっと先まで読みすぎました、ここから先はまだ未来の……いえ、貴方達にとって未知なる過去の出来事でしたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…ここまで来れば…っ…!!」

 

はふぅ…つ、疲れました…

 

わたしの名前はユースティアナ・フォン・アストライア。

 

この国、ランドソルの王女…でした。

 

過去形なのは、突如として現れた白狐の獣人により立場を奪われてしまったからです。

 

立場を奪われた…原因は分かりません、本当に突然、わたしはわたしでは無くなりました。

 

父も母も側近の方々も街の人達も…わたしの事を忘れ、その獣人の事をユースティアナと呼んだんです。

 

…わたしに居場所は無くなりました、わたしは逃げるように王宮から出て…街を出て…

 

流浪の旅に出たんです、いつか…自分を取り戻せるように…

 

「…と…思っていたんですが…まさか…あの村にも『王宮騎士団(ナイトメア)』が居たなんて思いませんでしたよ…」

 

ランドソル近辺にある小さな村、そこでわたしは宿を取り、休息をしていたのですが…王宮直属の兵士、王宮騎士団(ナイトメア)に発見され、今の今まで追われていたんです。

 

あの獣人はわたしが目障りなのか、兵士の方々にわたしの抹殺令を出しているようで、この様に目立ってしまえば直ぐに追いかけ回されます…

 

「生きづらいですね…世の中は」

 

1度、ランドソルどころかアストライア大陸自体を離れようかとも考えましたが、それはわたしのプライドが許しません。

 

あの人には負けない、わたしは必ずチャンスをモノにしてもう1度…国を…家族を取り戻すんです…!!

 

と…意気込んだものの…どうしましょう…

 

ぐぅ〜とお腹が鳴ります、うう…ここのところロクに食べていませんでしから…お腹が減りすぎて…動けません…

 

湖畔近くの木に寄りかかりながら少し休憩します…ああ…心地の良い風が吹いて気持ちいい…

 

わたしが流浪の身になってからもう…1ヶ月…随分と立っちゃいましたね…

 

アレから街はどうなったんでしょうか、アレから1度も様子を見ていませんし…変わりはないでしょうか?

 

街の様子を見てみたいですけど…うーん…最近ではどうも王宮騎士団(ナイトメア)の様子もおかしいですし…

 

何がおかしいかというと、見慣れないエムブレムが彫られた鎧を着ているんです、わたしの知る限り、その様なエムブレムは見たことがありません。

 

鎧もなんだかおかしいというか…わたしが幼い頃から見てきた王宮兵に支給されるソレとは全く違うものを兵士さん達が着ているんです。

 

さっき追いかけてきた人達もそうでしたし…あの獣人が何か指示を出したのでしょうか?

 

うう…あの獣人の事も気になります…国を乗っ取って…一体何をするつもりなのでしょうか…それにどうやってわたしに成り変わったのでしょうか。

 

とにかく、今はお腹を満たして…あの村とは少しの間、お別れしなくちゃいけませんね、警戒されていると思いますし。

 

次の目的地は…そうですね…ここから程近い漁村に行きましょうか、この大きな湖で漁を営んでいる村があった筈です。

 

まずは…おっと、丁度いいところに魔物が…豚さんの魔物ですね、ジュルリ⭐︎

 

「それでは…いっただきまーす!!!」

「フゴォ!?」

 

 

「ンまーい⭐︎やっぱりご飯は命のエネルギーです!やばいですね!!…うう、最近独り言が多くなってきました…」

 

これも寂しさの弊害なのでしょうか…ずっと1人でいると話し相手がいないので無意識に言葉に出してしまっています。

 

「でもでも、満腹にはなりました!よぉし!目的地までレッツゴー♪……また1人でやっちゃってますね…」

「…見つけたぞ、王女の名を騙る賊だ」

 

その時でした、いつの間にか囲まれていることに気づきます。

 

目を動かして周りを確認…ゾロゾロとわたしを囲む様にさっき言った王宮騎士団(ナイトメア)の兵士さん達が集まってきます。

 

「…ここまでしつこいのは初めてですね…あの人、なりふり構っていられなくなりましたか…!!」

 

わたしは王家の装備の出力を10%程出して、剣を構える。

 

「ユースティアナ様から殺害するよう言われている、ここで始末するぞ!!」

「だから、わたしがユースティアナ何ですってば!!」

 

迫りくる兵士達の攻撃をわたしは剣で応戦して捌きます。

 

…やっぱり見たことが無い、この鎧…

 

それにこの数を1人で相手にするのは少々不利な気がします、ここは一旦体勢を立て直しましょう。

 

わたしは相手の隙ができるまで防御体制を崩さず、隙が出来た一瞬を見逃さない。

 

「今です!!プリンセスストライク!!!」

 

技を放つ一瞬だけ出力を50%に引き上げ、衝撃波を飛ばす、これは兵士達を倒す為に使ったのではなく、砂塵を起こし視界を悪くする為。

 

とにかくここは一時退散、当初の目的通り漁村へ向かいましょう。

 

 

なんとか王宮騎士団(ナイトメア)から逃げ出す事に成功したわたしは漁村に辿り着きました。

 

「ふぅ…1日に2度も逃げる事になるなんて…今日はついていませんね…おや?」

 

少し村の様子がおかしい事に気がつきました。

 

何というか…暗い?村が活気付いていません。

 

ランドソルの街に比べればここは比較的静かな村だとは思います、でも…それでも異様に…っ

 

わたしは咄嗟に身を隠します、何故ならわたしの視界の先に王宮騎士団(ナイトメア)の兵士が1人居たからです。

 

何やら村家に用があるみたいですが…

 

…わたしは次の行動に驚きが隠せず、思わず「えっ?」と小声で呟いてしまいました。

 

その理由は、兵士はノックもせずにいきなりドアを開き、怯える村人の首根っこを掴んで引きづり出したからです。

 

わたしは咄嗟にその場から出そうになりましたがグッと抑えます、まだ…奴の目的が分からないからです。

 

「おい、貴様…今週の王都に収める品が献上されていないようだが?」

「ひっ…し、しかし…もうこの村には魚はねぇべ、先週ので一杯一杯だべよ」

「…なんだと?貴様はユースティアナ様に逆らうというのか、不届き者め…まぁいい、丁度いい見せしめだ、ここで殺してやる」

「そ、そんなぁ…!!!」

 

村人は雑に外に投げ出されて地面に倒れ込みます、その人に剣を抜刀して近づく兵士…もう、黙って見てられません!!

 

「やめてください!!王家直属の兵が民に乱暴狼藉とは!このわたしが許しません!!」

「なっ…貴様はっ…っ!!?」

「やぁぁ!!!」

 

わたしはガッと足に力を込め踏ん張りを効かし、一撃、顎に思い切り右フックを仕掛け、相手の脳を揺らしすぐさま右手を引いて…

 

「ほっ!!」

「ぐふっ!!?」

 

ボディアッパーを仕掛けます、王家の出力も40%、これなら例え鎧を着込んでいようがお腹に大ダメージの筈です。

 

兵士は今の攻撃で意識を失い、その場にペタリとうつ伏せで倒れ動かなくなりました。

 

「あの、大丈夫で」

「ああああ…っ!!なんて事をしてくれたんだべ!!」

 

わたしの言葉を遮って殺されそうになった男の人が叫びます。

 

「えっと…どういう…事です…?」

「お終いだ…この村はお終いだべ…王宮に手を出した…ユースティアナ様の逆鱗に触れた…お終いだ」

「お終いだ…お終いだ…お終いだ…お終いだ」

 

ふと気がつくと、男の人以外、わたしの周り、360度の家々の扉が開き、村人達が顔を覗かせ「お終いだ」と呟いていました。

 

異様な光景で不気味でした。皆が絶望した表情でどこを見ているのか、一点を見つめたまま呟いているんです。

 

…おかしい、何かがおかしい。

 

そんな気がしてならない、あの獣人が…何かした、いいえ、現在進行形で何かしてるに違いない。

 

この人が言っていた「ユースティアナ様の逆鱗に触れた」というのも気になります、まさかとは思いますがこの村以外にもこのような仕打ちをしているのでは?

 

だとすれば、もう見過ごせません。わたしの命を狙ってくるのは良いんです、わたし自身が辛い目に合うだけだから。

 

でも…民を…人々を傷つける様な事をしているのはわたしが止めなくちゃいけない。

 

だってわたしは、この国の王女だから。

 

まずは真相を知る為にもランドソルに向かいましょう、何があったのか、何が起きているのか、確かめる為に。

 

危険ですが…いても経ってもいられない、この身に変えても…あの獣人を止めなくちゃ…!!

 

この漁村から1時間もあれば辿り着きます、急ぎましょう。

 

わたしは全速力で走り、ランドソルへ向かいます、幸い兵士達にも見つからず安全に街に辿り着くことが出来ました。

 

しかし

 

目の前にあったランドソルの光景を見て…わたしは言葉を失いました。

 

「うそ…です…よね?」

 

その言葉以外見つからない。そうとしか言えない。

 

わたしの目の前にあったランドソルはまるで魔王のお城の様でした、ボロボロで歪、配色も魔王にふさわしい禍々しい色合い。

 

それに見ればまるで牢獄が並んでいる様な塔が無数に並んでて、遠くの方には像が見えます…アレは…わたしですか?

 

わたしの様な大きな像が剣を掲げ、更にその奥に王宮が見えました、王宮の形もわたしの知るものとは違います。

 

巨大な鎖の様なものが巻きつき、暗い配色、以前の王宮とは正反対の印象です…何がどうなって…

 

これもあの獣人の仕業…?たった1ヶ月で国を丸ごと変化させる程の力を持っているということですか…?

 

何が何だか分からなくて、頭の中がグルグルしてしまいます、本当にわたしの記憶が正しいのか、もしかしたら間違っているのはわたしの方なのでは?

 

そう思ってしまう程、この光景は凄惨でわたしの脳内にダイレクトにインパクトを残します。

 

 

「い、いけない、いけない…」

 

わたしはパンパンと頬を両手で軽く2回叩いて自分を鼓舞します。

 

「…危険ですが…街の中に…入って確かめましょう」

 

正面から入ります、というか入口がそこしかありません、勿論入るからには堂々と…

 

…といっても人々の姿が見当たりません、いつもは色んな人たちで活気付いてるこの街も…お店も、通行人も…何1つ見当たりません。

 

雰囲気もなんだが肌に嫌に絡みつく重たい空気が流れ、気味が悪いです。

 

「本当に…なんなんですか…これは…」

 

1ヶ月前とまるで違う、本当にここがランドソルなんですか?わたしが幼少の頃から過ごしてきた故郷なんですか?

 

不安の文字が頭を過ぎる、余計な事を考えず今はこの街の様子をちゃんと見なくちゃいけないのに。

 

その瞬間だった、ガッという音が響いて

 

「…え…っ…?」

 

わたしの…意識は…そこで途切れた。

 

 

「う…うう…あれ?ここは…」

 

目を覚ますとわたしは別の場所にいた、随分と見覚えのある…ってここは…っ!!?

 

「ようやくお目覚めの様ね、貴方達は下がって良いわよ」

「…はっ!!」

 

複数人の男の人の声…恐らく王宮騎士団(ナイトメア)…そっか…わたし、捕まっちゃったんだ、鈍器かなにかで頭を殴られて気絶させられて…

 

うぅ…アレだけ用心しようって思ってたのにあっさりと…それよりわたし…何も拘束されてない?

 

武器もありますし…何というか何もされていないことが不思議です。

 

わたしは玉座の間にポツンと寝っ転がっていただけだった、何も拘束されておらず体を動かせる。

 

それに…この声…

 

「おはよう、偽物さん」

「あなたは…!!!!……誰…ですか?」

 

知らなかった、見たことがなかった…

 

あの白狐の獣人じゃない、知らない女の人が…玉座に座っていた。

 

「あら?私はユースティアナよ?偽物の貴方と違って本物のねぇ」

「違います!!答えてください!!!貴方は何者ですか!?それに!!あの白狐の獣人は!!?」

 

目の前にいる女の人は獣人じゃない、私と同じただの人間です、髪は長くエメラルドグリーン、目つきは鋭く、妖艶な雰囲気を感じさせます。

 

「白狐…?…ああ…真那の事ね…そいつならねぇ…私が殺したわ」

「…え?」

 

殺…した…?

 

「どういう…事…ですか?」

「どういう事も何も邪魔だったから消しただけよ、何か問題がある?」

「……本当に…な、何者なんですか…貴方…っ」

 

飄々と語るこの人にわたしはそういう他なかった。

 

「…そうね、そんなに知りたいの?なら、冥土の土産に教えてあげる。私は『寿 恵琉(ことぶき える)』…この世界の王となる者よ」

 

コトブキ…エル?聞いたことがある様な…ない様な…そんな不思議な感覚があります。

 

それに王って…

 

「オリジナルに少し興味があって、ここに来てもらったのだけれど…ふぅん、案外普通の小娘よねぇ、つまらないわ」

「…ふざけないでください、国に…民に何をしたんですか!!」

 

わたしは剣を構えて叫びます、でも奴はニヤニヤと笑いながら立ち上がり

 

「…あら、元気ねぇ…なら少し遊んであげましょうかしら、本物のユースティアナが誰か、教えてあげるわ」

 

そう言って彼女は懐から何かを取り出します…なんでしょうか、手のひらサイズの機械の様な丸っこいものです。

 

わたしはそれが何なのか分かりませんでした。何処となく時計に似ているような…?

 

『ユースティアナ』

 

その機械の外側の縁を親指を使って時計回りに回した後、先端部分に取り付けられたスイッチを押すと音声が鳴り、それを自分の胸部に持っていくと、その機械が体に吸収され彼女の体が変化する。

 

「なっ…っ!?」

 

その姿は禍々しい。少しだけわたしに似ている気もしなくもありませんが…刺々しい鎧、トゲ棍棒の様な大剣…まるで怪物になったわたしのような見た目でした。

 

「…わかったかしら?これがユースティアナ、王の姿よ」

「何を…言ってるんですか…ユースティアナは…わたしです!!!やぁぁ!!!」

 

わたしは奴の懐に潜り込みます、しかし簡単に剣で受け止められます。

 

「王家の装備とやらはその程度?」

「な…に…をぉぉ!!!」

 

出力50%…!!力押しで勝って見せます…!!

 

「…ならこっちも…出力20%」

「なっ!?」

 

奴も王家の装備と同じ力を…!?それに…20%で…わたしの50%よりも…力が上…っ!!

 

「ふん!!」

「きゃぁぁぁぁぁっ…!!」

 

わたしは簡単に吹き飛ばされてしまいます、強い…っ

 

「本物が偽物に負けるはずがないわよねぇ?だから貴方の方が偽物よ」

「く…っ」

 

偽物…またわたしは偽物扱い、あの獣人の人がいなくなっても結局わたしはまだ偽物なんだ…っ

 

「ほらほら、ジッとしてても死んじゃうだけよ」

「あうっ!?」

 

高速接近してきて連続剣撃、わたしはなんとか剣で応戦して弾きます、でも…どんどん押されて後退していきます。

 

「もうこれでお終いね、プリンセスストライク」

「っ…!?」

 

思い切り剣の攻撃で吹き飛ばされて距離が離れた後、奴が刀身にエネルギーを集め、一気にこっちに向けて斬撃を飛ばす。

 

その一撃は視界が真っ白になって、何も見えなくて…

 

 

 

 

「あら…?少しやりすぎちゃったかしら…?」

「…どうだ?力は集まったか?」

 

先の一撃で壁に大穴が開いてそこから下を覗いていた私の背後から男の声が聞こえてくる。

 

気味の悪い男…服装もなんというか未来的というか、現代の服装にそぐわない、このゲームの世界ですら浮いた格好をした男。

 

「確か貴方…リボーンだったっけ?随分久しぶりじゃない、今まで何処へ行ってたの?」

「王の力を高めろ、そうすればお前は真の意味で王となる」

 

…こっちの話は聞く耳持たず…ね。

 

「分かってるわよ…この力…貴方がくれたこの力は素晴らしいわ、あの憎き真那も簡単に消せたんだもの」

 

リボーンは私の隣に立ち、城下町を見つめる。

 

「…オリジナルの王か…ふっ…面白い」

 

 

 

 

「が…は……っはぁ…はぁ…っ…うう…」

 

わたしはなんとか生きていました…今は…王宮の下に広がる城下町を歩いています。

 

兵士達にバレないよう隠れながら…必死に逃げています。

 

背後を見れば遠くにそびえる王宮の一部に開いた大きな穴…あそこからわたしは飛ばされてきたんです、あの一撃をなんとか王家の装備をフルパワーにして防いだのですが…

 

敵わない…絶対勝てない…そう実感しました。

 

逃げなきゃ…逃げないと殺される…奴はわたしが死んだと思ってない、きっと殺しに来る。

 

なんなんですか…なんでこんな目に合わなくちゃいけないんですか…わたしが何したって言うんですか…っ

 

「痛っ…っ…」

 

全身が悲鳴を上げています…早く…ここから逃げないと…!!

 

わたしは無我夢中で逃げました、あんなに好きだった、取り戻そうとしていたランドソルの街から…

 

振り返る事もなく、必死に…

 

わたしが戻ってきたのはあの湖畔でした、ここしか行く場所がなかったから…ここまで来れば安心できると思ったから。

 

「…はぁ…はぁ…ここ…なら…」

「アイツだ!アイツだべ!!!」

 

その時でした、後ろから声が聞こえて、振り返るとそこには漁村にいた男の人や村人の人達が複数人立っていました。

 

こっちを指差し、その人達の背後から…

 

「ユースティアナ様の名を騙る反逆者……直ちに排除する」

「う…そ…ですよね…っ」

 

王宮騎士団(ナイトメア)…それも…10人以上はいます…今のわたしの状態では満足に戦えません。

 

「ユースティアナ様のお力をお借りします!!はぁぁぁ!!」

 

王宮騎士団(ナイトメア)の人達が寿恵琉と名乗ったあの人が持っていたものと同じ時計のようなものを取り出してスイッチを押す。

 

『ナイトメア』

 

その音声と共に胸部分から吸収、鎧の化物となってわたしに向かってジリジリと寄ってきます。

 

「やっちまえ!ソイツは反逆者だべ!!」

 

村人達が王宮騎士団(ナイトメア)を応援します、どうして…っ!!

 

「あうっ…!!」

 

迫りくる兵士達の攻撃、わたしは体のダメージもあって満足に戦えず、防戦一方。

 

力任せに振ってくる攻撃に受け止めている剣が震え、体は力に負けて蹌踉めき、もう既に為す術がありません…

 

「死ネェェ!!!!」

 

……ああ…もう諦めてしまいましょう、誰かを助けても…こうやって裏切られるだけ、何処へ行ってもわたしは偽物扱い。

 

きっとこの世界にはもう…居場所はないんだ…わたしの居場所なんて…どこにも…

 

『ライダータイム!!仮面ライダー!!ジオウ!!』

 

ガキン!と甲高い金属音が鳴り響いて、わたしに振り下ろされた剣が当たることはなかった。

 

「え…?」

 

わたしが驚いていると目の前に…よくわからない鎧を着た人が剣を持って…王宮騎士団(ナイトメア)の攻撃を受け止めていました。

 

「…君、まだ諦めるには早いんじゃないの?……はぁ!!」

「ぐぅっ!?何者だ貴様っ!!!」

 

剣で相手を吹き飛ばして、その人は何というか飄々とした感じで答えました。

 

「俺?…俺はねぇ、常盤ソウゴ、将来は最高最善の王様になるんだ」

 




寿 恵琉(ことぶき える)

20歳。過去に千里真那の右腕として彼女のゲームクリエイトに携わっていた経歴を持つ。
タイムジャッカーのリボーンから『ユースティアナ』のアナザーウォッチを貰い、ユースティアナの座についていた千里真那を殺害し国を乗っ取り、歴史を変えた。

名前の元ネタは『ジュエル』から。


リボーン
謎のタイムジャッカー。ライダーではない存在からアナザーウォッチを生み出すことができる。

名前の元ネタは『生まれ変わる(Reborn)』から。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

時の王と星の王 20XX

ディケイドとかいう便利装置。


「ソウゴの奴は何処へ行ったんだ、全く…」

「まぁ、そう焦らないでよゲイツ、ソウゴが勝手な行動するのはいつもの事じゃない」

「それは…そうだが、ウォズもいないのか」

「それも、いつものこと、でしょ?」

 

俺とツクヨミ、俺達は今、廃村に来ている。ここが何処なのかそれは分からない。

 

「ちっ…門矢士…奴の話をまともに聞くんじゃなかった」

 

 

 

 

ー遡る事、数時間前ー

 

「何?」

 

俺達の前に1人の男…手ごろなサイズのカメラをいつも首から下げ、掴みどころのないキザったらしい男、門矢士がそこにいた。

 

コイツが俺達を集めた癖に、自分はまるで関係ない、と言いたげな態度、いつもコイツはそのような態度だが腹が立つ。

 

「何度も言わせるな、新たなタイムジャッカーが現れた」

「…何故それを俺たちに言う」

「タイムジャッカー関連はお前達の仕事だろう、俺がその世界に連れて行ってやるから、ついて来い」

 

コイツ…相変わらず人の話を聞かない。

 

それに他の世界だと?

 

「え、何々?別の世界?へぇ…凄い面白そうじゃん」

「…ソウゴは相変わらず能天気ね」

「流石は我が魔王、肝が座っておられる、私は何処までも貴方について行きます」

「おい、門矢士、新たなタイムジャッカーとお前は言ったが、ソイツが何者か分かっているのか?」

 

俺の問いにため息を1つ漏らしながら。

 

「…名前はリボーン、詳しいことはわからないが奴は…」

 

 

 

 

「ライダー以外の力をアナザーウォッチに変える事ができる…か」

「本当にそんな事が可能なの?」

「さぁな、だが奴が嘘をつくとは思えない」

 

俺達は歩く、この荒廃した世界を

 

「ただ1つ言える事は…この世界はまともじゃないって事だ」

 

まるで2068年…俺達が育ったオーマジオウに支配された世界のような光景だ。

 

見窄らしい人々、朽ちた村、荒野のような平原。

 

アナザーライダー…と言っていいのか、とにかくアナザーの力により過去の歴史が変わり、今この時代の本来の歴史がねじ曲がった結果と見ていいだろう。

 

「嫌な感じね…あたし達が経験した…あの時代みたいで」

「…ああ、そうだな、この世界のアナザーライダーはオーマジオウのような存在なのかもな」

 

その時だった、俺たちの目の前に少女が2人、鎧を着た複数の兵士に追われているのが見て取れた。

 

少女はまだ十代前半くらいの歳だ、このままじゃ危険と判断した俺とツクヨミは

 

「ツクヨミ!」

「分かってる!!はぁ!!」

 

ツクヨミはファイズフォンXを取り出して銃撃、少女と兵士達の間に向かって数発の弾丸を撃ち込んだ。

 

「大丈夫か?」

「は、はいぃ…」

「あ、ありがとうお兄ちゃん、お姉ちゃん…」

「…ゲイツ、この子達はあたしが…」

「ああ、頼んだぞ、ツクヨミ」

 

俺は女の子達をツクヨミに任せて、前に出る。

 

「なんだ貴様らぁ!!」

「お前達に名乗る名前はない」

 

振りかざす剣を俺は片手で弾き肘打ちで1人目を吹き飛ばし、2人目を前蹴り、3人目を回し蹴りで蹴り飛ばす。

 

それに驚いた他の兵士が

 

「貴様…ユースティアナ様直属の我らに歯向かうとは…見慣れぬ顔だが、レジスタンスの仲間のようだな」

「…レジスタンスだと…?」

 

懐かしい響きだった。この世界にもレジスタンスがいるのか。

 

「ならばこちらも容赦はしない」

『ナイトメア』

 

ライドウォッチ…!!奴らは自身の胸部にウォッチを当てがうとそれが体内に吸収され変貌。

 

鎧の怪物…見た目は前に見たアナザー鎧武や剣に近い。

 

ナイトメアと音声が鳴っていたが…アレは『アナザーナイトメア』という事になるのか。

 

それにこの数…まるでこの光景はアナザーアギトだな。

 

「そっちがその気なら…こっちも遠慮なくいかせてもらう」

『ゲイツ』

 

俺は構える、いつものようにライドウォッチをドライバーにセットし、両手を前に突き出して、その後は滑らかにドライバーの両端を掌で包み込む。

 

「…変身」

 

グルリとドライバーを縦に回転させると音声が鳴り響く。

 

『ライダータイム!!仮↑面↑ライダー!!ゲイツゥ↓!!!』

 

俺は迫りくるアナザーナイトメアを飛び交う『ライダー』の文字が妨害、その間にライダーの姿となり俺は構える。

 

「なにっ!?」

「驚いている暇はないぞ」

 

俺は拳で次々とアナザーナイトメア達を殴り、蹴り飛ばす。

 

「ゲイツ!あたしもフォローするわ!!」

「助かる、ツクヨミ!!」

 

ツクヨミがファイズフォンで援護、そのおかげか苦もなくアナザーナイトメアを撃破していく。

 

蹴りや拳を当て、こっちは被弾しないように立ち回る。

 

「くっ…コイツ…強いぞ…一旦体勢を立て直す!ユースティアナ様に報告だ!!」

「なっ…待て!!…ちっ…逃げたか」

 

俺は変身解除しながらツクヨミと子供達のもとへ向かう。

 

「大した事はなかったな、恐らくアレは本体のアナザーライダーが生み出した副産物に過ぎん」

「…となると、本体がこの世界の何処かに…」

 

俺は怯え切った子供達に目線を合わせ訊ねる。

 

「…俺の名前はゲイツ、こっちはツクヨミだ、君達は?」

「わ、私は…クルミって言いますぅ…」

「あたしはアヤネ、本当にありがとうゲイツお兄ちゃん、ツクヨミお姉ちゃん」

 

礼儀が正しい子達だ。俺は気になった事を彼女達に聞く事にした。

 

「…そうか、クルミ、アヤネ、何故お前達は狙われている?奴らは何者だ?」

「…えと…その…」

「あのね!あたし達、レジスタンスの一員なんだ!ここら辺にあるランドソル支部?の!!」

 

オドオドとしているクルミに代わりアヤネが答える。

 

「支部…って事は本部もあるのかしら?」

「うーんとね、よく分からないけど、あたし達は本部?って所から逃げてきたんだ…あのユースティアナに…壊されちゃったから…」

「ユースティアナ…さっきの奴らも言っていたな」

「…そうだよ、この国の王様……魔王なんだ」

 

…魔王か。

 

「…ねぇ、クルミちゃん、アヤネちゃん、そのレジスタンスの支部って所に案内してもらえる?」

「え?…うん!お姉ちゃん達、あたし達を助けてくれたから!!」

「で、でも…みんな許してくれるかなぁ?最近みんな…怖い顔してるし…」

「確かにな、部外者である俺達がレジスタンスのアジトに向かおうものなら警戒されても仕方がない」

 

俺がそっちの立場なら真っ先に実力行使で出て行ってもらう。

 

「でも…」

「…分かってるツクヨミ、この世界の現状を知る必要があるからな…アヤネ、クルミ、案内頼めるか?」

「うん!!」

 

俺達は2人の案内で進む、目指すはレジスタンスアジト。

 

 

 

「はぁぁ!!!」

「ぐぅっ!?くっ…!こいつ…っ!!」

 

強い…この人、すごく強い、10人の王宮騎士団(ナイトメア)の兵士達が手も足も出ないなんて…

 

『ジュウ!!』

 

「ぐぁぁっ!?」

 

遠距離にいた相手にも何か飛び道具?のようなものに変形してエネルギーを撃って迎撃します。

 

『ケン!!』

 

再び剣に戻して、射撃で怯んで蹌踉めいている相手に接近。

 

『ギリギリ斬り!!!』

「たぁぁぁ!!」

 

ピンク色のエネルギーを剣身に纏わせて連続で斬り込んで相手の横を次々と通り抜けていきます。

 

『フィニィッシュタイム!!ジオウ!ギリギリスラッシュ!!』

 

通り過ぎた後、振り返り、時計のような物を剣に嵌め込んで、何やら構えを取ると音声が響き渡ります。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!」

「ぐぎゃぁぁぁぁぁ!!!?」

 

紫色のオーラ状の衝撃波が王宮騎士団(ナイトメア)達に直撃し、火花を散らし吹き飛ばされそのまま元の姿に戻ります。

 

そして彼らの体から時計のような物が吹き出てきてパキンッと粉々に砕け散りました。

 

「よし、これでお終い…っと、君、俺についてきて、ここはまだ…安全じゃないから」

 

彼の言う通り、さっきの村人達が応援を呼んでいるように見えます、ここは彼に言われた通りついて行ったほうがいいです。

 

わたしはすぐに行動を開始し、彼についていきます。

 

走る事数分、ようやく一息つける場所までやってきました。

 

彼は腰につけたベルトから時計のような物を取り外すと鎧がパッて消えて男の子の姿になりました。

 

凄く優しそうで人当たりが良さそうな男の子でした。

 

「改めまして、俺は常盤ソウゴ、君は?」

「えっと…ユースティアナ・フォン・アストライアって言います…」

「そっか、外人さん?いい名前だね」

「あ、ありがとうございます」

 

何となくですが、我が道を行くって感じの話し方というか話の流れを作るというか…

 

わたしは彼のテンポに無意識に合わせられてしまいます。

 

「お父様とお母様からはティアナって呼ばれてました」

「そっか、それじゃあ、俺もティアナって呼んでいい?」

「ええ、それは勿論、わたしもソウゴくんって呼びます」

 

わたし達は自己紹介を済ませて、湖畔近くの木の下で休憩する事になりました。

 

日も暮れ始めてそろそろ辺りが暗くなってきます。

 

だからわたし達は食材になりそうな野草やキノコを集め、更にわたしは手頃な魔物を狩ってきて、ソウゴくんは焚き火の準備に取り掛かりました。

 

それが終わる頃にはすっかり真っ暗になってしまい、わたし達は火で炙るという簡単な調理方法で食材を焼いて食べながらお互いの事を話をしました。

 

「へぇ、それじゃあティアナは王女様だったんだ」

「…はい、でも…あの日からわたしは王女としての地位を失ったんです」

 

わたしは自分に何があったのか、ソウゴくんに全て話しました、こんな信じられないような話をソウゴくんは笑わずに聞いてくれました。

 

この世界の誰もが信じてくれない話を、彼は信じてくれました。

 

「もう…辛くて、誰かを信じても裏切られるだけだって思って…」

「…それであの時、諦めた顔してたんだ」

「…はい」

 

そう言うと彼は少しだけ微笑みながら焚き火に枝を焚べつつ。

 

「俺もさ、昔、すっごく辛いことがいっぱいあったんだよね」

「それってさっき話してくれた王様になるって話ですか?」

「うん、その中でも1番辛かったのがさ、今のティアナと同じで誰からも忘れられちゃった時、ずっと仲良かった友達からも忘れられちゃって1人ぼっちになっちゃったんだ」

 

…わたしと同じ…

 

「その友達も…最初は仲良くなくて…すっごい時間をかけてようやく仲良くなれたって所で、そんな状態になっちゃったからさ、かなりキツかったよ」

「…でも、ソウゴくんは諦めなかったんですよね?どうしてですか?どうして折れなかったんですか?」

「信じてたからだよ」

 

即答でした。

 

「俺は将来、絶対に最高最善の王様になるって信じてた。そして、そんな俺の夢を信じてくれたゲイツ、ツクヨミ、ウォズ…3人を俺が信じられたから、俺は諦めずに済んだ」

「…信じ…る」

「ティアナにはさ、もしかしたらまだそういう人がいないのかもしれない、俺みたいに心の底から信じられる3人がさ」

 

…そうなのかもしれません

 

「でも将来、君が自分を本物の王女だって信じてるのなら…きっと支えてくれる人達が必ずそばにいてくれる、俺みたいにね」

「わたしの……将来…本当にそんな人が…人達が現れるのでしょうか?」

「だってティアナは王女様なんでしょ?だったら必ず現れるよ、俺が保証してあげる」

 

そう言って彼はわたしに笑顔を向けてくれた。

 

 

 

「ここが…レジェンドオブアストルムの世界…」

 

皆さん、こんにちは、私はウォズ。

 

今現在、門矢士により送り込まれたこの世界で単独行動中だ。

 

我が魔王の為に、有益な情報を手に入れる、それこそが忠実なる家臣というものだ。

 

「…アナザーライダー…いや、ライダーではないからアナザーというべきか…その力は強大のようだね」

 

世界全体をここまでねじ曲げ変化させとは…

 

「過去改変自体があったのは1ヶ月程度前…しかし、この規模と改変の仕方を鑑みれば…少なくとも数年単位の変化が起こっている…やれやれ、門矢士は随分と厄介ごとを持ってきたものだ」

 

まずは1番怪しい、あの街に向かう、あそこが1番歴史に歪みがある、確実にアナザーの根幹があるだろう。

 

私が歩を進めた瞬間だった。

 

「きゃあ…っ!!!」

「…ん?」

 

私の目の前に崖から少女が落ちてきた。

 

「…獣人?」

 

私はそう呟いた、落ちてきた少女は獣人、猫耳を生やし、前髪の一部が白い。

 

「くっ……しっつこいわね…っ!!」

「しつこくもなるわよ…キャルちゃん」

 

…崖の上、恐らく少女を追い詰めた元凶…奇妙な威圧感を放つ女性だ。

 

「貴方は真那の手駒…そんな存在を私が許すとでも?あの存在が残した爪痕は全て綺麗に消さなきゃ気が済まないのよ」

『ユースティアナ』

 

ライドウォッチ…奴がこの世界のアナザーという事で確定だね。

 

「さぁ、キャルちゃん、鬼ごっこはもうお終い、ここで貴方を始末する」

「…っ」

「待ちたまえ」

 

私は少女の前に躍り出る、ここで見逃す訳にはいかない、我が魔王にどやされてしまうからね。

 

「…貴方、何者?」

「私はウォズ、君を倒させてもらう、悪く思わないでくれたまえ」

 

私がビヨンドライバーを取り出そうとした時、彼女の背後から1つの影が現れ、それを見た私の手が止まる。

 

「…やれやれ、門矢士から名前を聞いた時、まさかと思っていたが…本当に生きているとはね…リボーン君」

「俺もだよ、ウォズ…クォーツァーは倒されたと聞いていたからな」

「悪いが、私は我が魔王に仕えることに決めたからね」

 

奴はアナザーを後ろに下げさせながら私を見下ろす。

 

「恵琉、君はレジスタンスのところへ向かえ、奴らの居場所は俺が探っておいた」

「あら、気が利くじゃない、それじゃあここは任せるわよ」

「待ちたま…」

「お前の相手は…俺だ」

 

…奴が崖から飛び降り、着地する。

 

「ティード、スウォルツ、フィーニス…俺以外の全ての王家の者は倒された、クォーツァー…お前達が用意した替え玉如きにな」

「スウォルツ氏とツクヨミ君が本家、君やティード、フィーニス君が王族の分家……それぞれが時間を操る力を持ち、別の時間軸から我が魔王を利用する為にやって来た…それがタイムジャッカー」

「まるで俺達だけが悪者みたいな言い方だな?お前達クォーツァーも俺達を利用していた癖に、何が歴史の管理者だ、馬鹿馬鹿しい」

 

そう、我々は互いに利用しあっていた、特にこの男、リボーンとは。

 

「ライダー以外の存在をアナザーウォッチにすると聞いて、君以外にそんな芸当が出来るわけがない、何故なら…『君がライドウォッチとジクウドライバーを生み出したのだから』」

「ああ、そうだ、王家の者でもあらゆる物質の時間を奪い、それを閉じ込めウォッチにすることが出来るのはこの俺だけだ、ライダーの力を奪う技術を奴らに教えたのはこの俺だからな」

 

この男のせいでスウォルツやティード達が暗躍し我が魔王から力を奪おうと画作した。

 

「…だが、別に奴らだけに力を与えたわけじゃない、お前達クォーツァーにも与えただろう…ジクウドライバーをな」

「時間を物質化できる君の力…それにより生み出されたジクウドライバー、元我が魔王もその力に魅入られ、利用した」

 

我が魔王、常盤ソウゴにライドウォッチを集めさせ、1つに纏めることで一気にその歴史を消去しようとした、それがクォーツァーの目的であり、私が離反した原因だ。

 

「だが…どれもこれも失敗、俺の力を使っておきながら…無能な奴らだ」

「…君は何をしようとしている?今更ライダー以外の力でアナザーを生み出したところで我が魔王に勝てる訳がない」

「勝てるさ、お前はオーマジオウを勘違いしている」

「…何?」

 

私が…我が魔王を…?

 

「なぜ、オーマジオウが世界に君臨する王なのか…考えたことがあるか?平成ライダー全ての力を持っているから?強大な力を持っているから?…違う、それらは全て結果に過ぎない」

 

奴は吠える。

 

「常盤ソウゴが王たる資格があったからだ!!王であると運命つけられ決して揺るがぬ王の精神があったからだ!!その結果がライダーの力を全て集め、強大な力を得るに至った!!!だからこそクォーツァーもスウォルツも他の王家の者共も敗北したのだ!!」

「…我が魔王を褒めてもらえるのは大変嬉しいのだが…結局何が言いたいんだい?」

 

奴は不敵に笑う。

 

「ならば答えは簡単だろう…王たる資格を持つ者は全て…オーマジオウに至る力がある」

「…この世界に来たのもそれが理由…」

「その通りだ、この世界に存在する王女…『ユースティアナ』…奴は常盤ソウゴに匹敵する王の資格の持ち主…彼女の力を完全に奪いされば…俺はオーマジオウを超える王となる!!!」

 

…私は止まっていた手を動かす、ビヨンドライバーを腰に付け、ウォズミライドウォッチを片手に持つ。

 

「その話を聞いて、ますます黙っていられなくなったよ」

「…ん?なんだそれは…見たことが無いぞ」

「君の知らない時間軸にあるものだからね…未来のジクウドライバーの味をご賞味あれ」

 

『ウォズ!!!』

 

私はドライバーにウォッチをセットし

 

「変身」

 

右手を使ってレバーを倒すと

 

『投影!!フューチャータイム、凄い!時代!未来!!ウォ↑ズ!!ウォ↑ズゥ!!!!』

 

「君の計画はここで破綻だ」

 

『ジカンデスピア!!ヤリスギィ!!』

 

槍モードで構え、奴の動きを探る。

 

「…ふっ…俺の知らない未来の時間か…気に入らんな」

「…それは…っ!!?」

 

『ジクウドライバー!』

 

「…俺が生み出したもんだ…俺が持っていても別におかしくは無いだろ?」

 

奴はジクウドライバーを腰に装着すると、手には見たことがないアナザーウォッチを持っていた。

 

『ナイトメア』

 

ウォッチを起動し、ドライバーにセット。

 

「変…身」

 

勢いよく回転させ、ライダーの文字列が私に襲いかかる、それを私は弾き飛ばすと、奴の元へと戻っていき禍々しいオーラを纏いながら変身を完了させる。

 

『カ・メ・ン!!ライダァ〜↑!! ナ・イ・ト!!メ〜アー↑!!』

 

「仮面ライダーナイトメア…終わらぬ悪夢を見せてやる」

 

奴は早足でこちらに歩いてくる、対し私は槍を構え、振り下ろす。

 

「ふん」

「何!?」

 

それは簡単に右肘で受け止められ、左手の平で腹を殴られる、何歩か後退しつつも私はすぐに連続で槍を振り下ろし、横薙ぎ、突きの攻撃を仕掛ける。

 

しかし全て手の平で受け流され、カウンターに肘打ちを胸部に受け更に続けて右手の掌底を思い切り食らってしまう。

 

私は数メートル以上空中に浮かびながら吹き飛ばされ地面を滑っていく。

 

「ぐうぅぅ…っ…つ…強い…っ!!」

「当たり前だ、俺はいわばジクウドライバーのオリジナル、たとえ俺の知らない未来のものを持ち出そうと所詮は劣化コピーに過ぎない」

「…言ってくれるね…っ!!」

 

『爆裂デランス!!!』

 

私は倒れた体勢から立ち上がり爆発を起こす突きを奴に放つ。

 

奴はそれを両腕に溜めた半透明のエネルギー…スウォルツなどが行なっていた時間を圧縮して攻撃してくるあのエネルギーを放つ事で私の攻撃を相殺。

 

しかし

 

「この攻撃が当たらない事は想定内さ」

 

『ビヨンドザタイム!タイムエクスプロージョン!!』

 

「はぁぁぁ!!!」

 

私は既に宙に浮かんでおり、奴に対してキックの攻撃を仕掛ける。

 

「…それこそ想定内だ」

 

『フィニッシュタイム!!タイムブレイク!!!』

 

奴が地面にかかと落としをすると奴の周り360度、奴を中心に円を描くように激しく禍々しいオーラが湧き出て私の蹴りを妨害し更に弾き飛ばす。

 

「ぐぁっ…くっ…っ…」

 

バチバチと体のあちこちから火花を散らし、私は変身が解除されてしまう。

 

「ま…まさか…ここまでとは…いやはや…驚いたよ…っ」

「所詮はクォーツァーの残党か、くだらない事に時間を割きすぎたな、消えろ」

 

奴が歩み寄る、しかし

 

「むっ!?」

 

奴の前方に落雷が迸る、それにより奴は歩みを止める。

 

「…いきなり現れて…あたしを無視して勝手に盛り上がってんじゃないわよ!!」

「…でかしたよ、えぇと…キャル君!!」

「へ?な、なに…ってきゃあっ!?!?」

 

私はその隙に私とキャル君をストールで包み込みこの場から離脱する。

 

「……逃げられたか…まぁいい、恵琉がウォッチに王の力を蓄えられさえすれば…くくく、俺が真の王になる日も近い」

 

 

 

「…つぅ…なんだったのよぉ…」

「くっ…うぐっ…」

「ちょ、ちょっとあんた…大丈夫?」

 

私は先程のダメージで立っている事も出来ない…こんな所を我が魔王に見せるわけにもいかない、早めに体力の回復を図らねば…

 

「ほら、あたしの膝貸してあげる」

「すまない…初対面の少女にこのような事をさせてしまって…っ」

「いいから、ほらこっち来て寝る…それに助けてもらったしさ、あんた何者なの?アイツ…あの寿恵琉とその仲間の男と知り合いみたいだったけど」

 

寿恵琉…あのアナザーの力を持っていた女性の事か。

 

「残念だけど、寿恵琉の事は知らない、彼女の持っていた力の事は知っているがね」

「え!?本当!?なら教えて!あたし…アイツのこと…倒したいのよ…」

「…君にも何か背負っている物があるみたいだね、まずはちゃんとお互いに自己紹介でもしておこう、私はウォズ」

「ウォズね、覚えたわ、あたしはキャル、よろしくねウォズ」

 

 




タイムジャッカー関連は完全に想像補完です。

因みにジオウ組の時系列はファイナルステージ+Vシネ後みたいな感じです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

降り立つ救世主 20XX

コッコロ→ママ
サレン→ママ
キョウカ→ママ
ツクヨミ→ お  か  ん


何故なのか


 

 

 

「ここですよぉ…」

「ここか…」

 

俺達はクルミ達の案内でレジスタンスのアジトへとやって来ていた。

 

先程の廃村の近く、地下に築き上げられたそのアジトはかなり広い。

 

まさに地下都市ともいうべきか、縦10メートル、横幅30メートル、奥行きは…目視ではどれほどか分からないな。

 

「レジスタンスのアジト…支部という割には巨大だな」

「そうね…あたし達が過ごしてきた拠点よりはずいぶんと立派かも」

「…ああ、急ごしらえで一杯一杯だった俺達とは違う」

 

人々が行き交い、ここでは活気がある、外の世界とは隔離された空間。

 

ここの活気こそが本来、この世界にあるべき姿だということが分かった。

 

「…おい…誰だてめぇら…!!!」

「ちょっ…マコトはん…!!」

 

その時だった、奥からズンズンとこちらにやって来ていきなり俺の胸ぐらに掴みかかった女が1人。

 

「…なんだ貴様は」

「それはこっちの台詞だ…何者だてめぇ…」

 

俺は掴みかかった女の手首を掴み、力付くで引き剥がす。

 

「落ち着いてよゲイツ!!」

「マコトはんも!いきなり喧嘩腰はいきまへん!!」

「…っち」

「…悪かったよ、姫さん…でもよぉ…コイツらが何者なのかわからねぇ…他の奴らを見ろよ」

 

周りの人々は俺たちを見て怯え切っている、先程の兵士達の仲間だと思われているようだな。

 

「ま、待ってよマコト姉ちゃん!ゲイツお兄ちゃんとツクヨミお姉ちゃんはアイツらからあたし達を助けてくれたんだよ!?」

「そ、そうです…助けてくれたんです」

「…なに?…そ、そうだったのか…悪かったな疑って」

「…いいや、この状況を見ればわかる、疑いたくもなる気持ちはな」

 

アヤネとクルミのおかげで一触即発の雰囲気は無くなった。

 

「…話を聞かせてもらおうか、この世界はどうなっている」

「…はぁ?お前ら…この状況がわからねぇってマジでどこから来たんだよ」

「…信じてもらえないかもしれないけど…あたし達、別の世界から来たの、だからこの世界の事を知らない…」

 

ツクヨミがフォローするとマコトと呼ばれた女はため息を一つ、頭を軽く片手で抱え悩んだ様子だった。

 

「あー…分かった、とりあえず話をしてやる、こっちにこい」

 

マコトとマコトを仲裁したマホに連れられ俺達は奥に進んでいく、俺達はその間、ここの住民からは怪訝な目で見られ続け、あまり気分の良いものとはいえなかった。

 

このアジトの最奥、入口から大体200メートル程進んだ最奥にそれはあった、この場所でもかなり大きめな木造りの屋敷、手作りで外観こそボロいがこの場では十分立派な建造物だ。

 

「ここだ、ここにこのレジスタンスのリーダーがいる、ちょっと話つけてくるから待っててくれよな」

「分かった」

 

待つ事数分、マコトが屋敷から出てくると俺達に「来い」と一言、こっちに来るようジェスチャーをしながら招く。

 

俺たちが中に入ると中も十分立派な内装をしていた。

 

「…凄いわね…外があれだけ酷いあり様なのにこのアジトはどこもかしこもちゃんと手入れが行き渡ってる…」

「…戦うことのみを重視していた俺達のレジスタンスとは違うってことだな」

 

奥から現れたのは気品が溢れる女だった、年齢は俺やツクヨミと大差はない、金髪碧眼、どこかのお嬢様を思わせる佇まいだが目に宿る炎に俺は何か親近感を覚えるものを感じた。

 

「マコトさんから話は聞いたわ、あたしはこのレジスタンスのリーダーをしているサレンよ」

「俺はゲイツ、こっちはツクヨミだ」

 

俺の言葉の後すぐにツクヨミは軽く頭を下げ挨拶を済ませる。

 

「そう、ゲイツさんにツクヨミさん、クルミやアヤネが助けられたそうね、本当にありがとう、とりあえず立ち話もなんだから腰を落ち着ける場所に行きましょうか」

 

サレンの案内で俺達はリビングと思われる場所に辿り着く、そこで俺たちは木造りのテーブルを挟んで向かい合わせで椅子に座り、話を聞く事にした。

 

「あの…ろくなおもてなしもできませんが…お茶です」

「ああ、あまり気にするな」

 

俺達に茶を出して来たのはメイド?のような女だった、他のレジスタンスと変わらないボロい上衣を羽織っているがその下に来ている衣服がそんな感じをしているものだったからだ。

 

「この子はスズメ、あたしのメイドよ…っといっても元だけどね」

「な、何を言ってるんですかお嬢様!私はいついかなる時もお嬢様のメイドなんです!」

「ありがと、スズメ…っと、そうじゃなかったわね、貴方達…別の世界から来たっていうのは…本当なの?」

 

早々に自分達の会話を切り上げ、俺達にそう質問してくる。

 

「…ああ、こんな話を信じてくれるのか?」

「信じるも何もこの世界の事を知らないっていうのはちょっとあり得ないから」

「有り得ない…?どういう事?」

 

ツクヨミが訊ねる。

 

「…この世界は5年前、魔王ユースティアナにより変わった。全世界に宣戦布告、ランドソルの住民は流されるままに戦禍に落とされた」

「そんでもって、戦争自体はランドソルの一人勝ち、圧倒的な戦力で他を圧倒し、そのまま他国を支配下に置いたんだよ」

 

マコトが補足する、やはり俺達の2068年と似た世界になっているという事か。

 

「奴はこのランドソルに住む人間さえも支配し、武力であたし達を押さえつけた」

「目的は?」

「さぁ…ただ奴は世界中から食べ物を集めているわ」

 

食べ物…?

 

「どうして?」

「そこまでは…でもおかしいくらい集めてるのは確かよ、金品とかよりも食べ物を優先的に住民から集めてる」

「週に1度、奴は食材になるもんを片っ端から回収してんだよ、そんな生活がもう5年だ…ぶっちゃけあたし達は生活するのだって厳しい状況だ」

 

それでこのレジスタンスがあるのか。

 

「レジスタンスはそんなユースティアナに反旗を翻す為にあたしが作ったものよ、こうやって細々と生きて…いつか必ず…アイツを倒して平和を取り戻す!未来ある子供達の為にもあたし達がなんとかしなくちゃいけないのよ!」

「……立派だな」

 

俺はそう呟いた、俺がレジスタンスの頃は他人に…特に子供に気を配る余裕なんかなかった。

 

ツクヨミはよく子供達の世話をしていたが…俺は…オーマジオウを倒す事だけを目指してひたすらに足掻いていた。

 

「そう言ってくれるのはありがたいわ」

「安心しろ、奴は俺達が必ず倒す、お前達のこんな生活もすぐに終わらせてやる」

「それは…可能なの?貴方達は何を知ってるの?別の世界から来たって言ってたけど奴の力の正体を知ってるの?」

 

俺達は話す事にした、アナザーライダーの事を、タイムジャッカーの事を。

 

「…つまり…あのユースティアナは…偽物って事ね?」

「そうだ、本物になり変わり、奴が歴史を変えた」

「食べ物を集めてるって言ってたけど…もしかしたら今回のアナザーライダーの特徴なのかも」

 

ツクヨミの意見に同意する、今までのアナザーライダーも何かしらの目的がありその為に動いていた。

 

アナザービルドならばスポーツ選手を、アナザーエグゼイドならばゲーマーを。

 

今回のケースもそれだ、おそらく食料を集める事に何かしらの意味がある。

 

「過去が変わっちまってるなんて信じらんねぇ…」

「うちも別の生き方をした未来があったのやろか?」

「そうかもしれない、けどあたし達が必ず、この世界を元の世界に戻して見せるから」

 

マコトとマホにそうフォローするツクヨミ、やはりあのアナザーユースティアナをなんとかしない事には始まらないな。

 

「大変ですわ!!サレンさん!!」

「アキノさん?どうかしたの?」

 

アキノと呼ばれた女が屋敷に飛び込んでくる、随分と焦っている様子だが。

 

「…王宮騎士団(ナイトメア)の軍勢が押し寄せて来てます!!どうやらここの事も把握している様子ですわ!!」

「そんな…!!」

 

慌しくなるアジト、屋敷の外でも人々が逃げ惑い、混乱状態だ。

 

「ちっ…!!アヤネやクルミが狙われてるって事自体おかしな話だったんだ…!!野郎…既にこの場所を…!!」

「マコトはん、皆の避難誘導をしなきゃあきまへん、もう時間もあらへんし、行動開始や」

「ああ、分かったぜ、姫さん」

 

マコト、マホが動き出す、俺達も椅子から立ち上がり、俺は腕につけていたウォッチを取り外す。

 

「…俺達の出番か」

「…そうね、ここの人達が逃げる時間稼ぎくらいはしましょう」

「あ、貴方達…危険よ…!!」

 

サレンが心配そうな顔をこちらに向けてくる。

 

「…言っただろう、俺達が奴を倒すと、その為に俺達はここに来た」

「大丈夫、みんなに怪我なんてさせないから」

「で、でも…」

 

俺は心配症の彼女を安心させる為、一呼吸置いた後。

 

「俺はお前達を…この世界を救う救世主だ、信じろ」

「救…世主…」

 

不器用な笑顔をサレンに向けた後、俺とツクヨミは走り出す、目指すは正面入口、敵を迎え撃つ。

 

 

ーレジスタンスアジト正面入口ー

 

大量のアナザーナイトメアの軍勢を引き連れて先頭を歩く2つの影。

 

アナザーユースティアナの寿恵琉と王宮騎士団(ナイトメア)副団長クリスティーナ。

 

「あっはっはっは☆実に愉快な所にアジトを隠したものだ!!確かにこれでは気づきようがないな!」

「ええそうね、クリス、景気づけに一発派手にやっちゃいなさい」

「喜んで、陛下」

 

クリスティーナが大剣を振るうと同時に衝撃波が巻き起こり、前方にある廃墟が粉々に砕け散り、隠されていたアジトへの入り口が顕となる。

 

「さて…反逆者の諸君!命乞いの準備はできているかしら!!ユースティアナ陛下が直々に出向いてやったわ!!」

「まぁ、命乞いをした所でワタシ達は許さんがなぁ、男は勿論!女子供も容赦なく殺す!楽しい宴の始まりだ!」

 

寿恵琉とクリスティーナは大声でアジトにいる人々に脅しを掛ける、先の一撃で砂塵が舞い、視界が悪い入り口付近に2つの影がシルエットとして浮かび上がる。

 

「ん?陛下…何者かがこちらに…」

「命乞いだと?…誰がそんなものをするか」

「貴方達の好きにはさせない」

 

ゲイツとツクヨミ、2人の戦士が堂々と入り口から出て、ユースティアナ軍と真正面から対峙する。

 

「…あら?貴方達、見ない顔ねぇ…いつの間に用心棒なんて雇ったのかしら」

「お前がアナザーユースティアナか?」

 

ゲイツの問いに恵琉の表情が曇る。

 

「…貴方…さっきの男の知り合い?」

「…カマを掛けて正解だったな、お前がアナザーユースティアナ…探す手間が省けて助かった」

 

『ゲイツリバイブ!』

 

ゲイツは右側にゲイツライドウォッチ、左側にゲイツリバイブウォッチをセット。

 

「お前達!やれ!!」

 

クリスティーナの号令でゲイツとツクヨミにアナザーナイトメアの軍勢が押し寄せる。

 

「変…身!!!」

 

『ライダータイム!!!リ・バ・イ・ブゥ!!剛烈ゥ! ゴウレツ!』

 

『パワードのこ!!』

 

「ふん!!!」

 

ゲイツのジカンジャックロー、のこモードの叩きつけの一撃は大地を砕き、そのまま衝撃波となり前方に広がっていき複数のアナザーナイトメアを弾き飛ばす。

 

「変身!」

 

『ライダータイム! !仮面ライダーツク〜ヨミ♪ツ・ク・ヨ・ミ! !』

 

「たぁぁぁぁ!!!!!」

 

ツクヨミはステゴロで近づくアナザーナイトメアを次々と殴りで粉砕していく。

 

「…そのアイテム…やっぱり貴方達は…さっきの男の知り合いね…クリス」

「分かっている」

 

『ナイトメア』

 

クリスティーナはアナザーナイトメアウォッチを自身の胸に翳すとアナザーナイトメアに変身する。

 

巨大な大剣を肩に担ぎ前進する。

 

「さぁ!!殺し合いをしよう!!最高の宴にしようじゃないかっ!!」

 

クリスティーナは2人に近づき、剣を振り下ろす、それをゲイツがのこで受け止め、弾く。

 

その隙にツクヨミが連続の蹴りを仕掛けクリスティーナを後退させる。

 

「ゲイツ!!コイツはあたしに任せて、貴方はアナザーユースティアナを!!!」

「…助かる、ツクヨミ!!!」

 

ツクヨミはクリスティーナの攻撃を避け、逆に拳の一撃を胸部に当てる。

 

「ほう…やるな、お嬢さん」

「伊達にレジスタンスで鍛えてないわ!!」

 

ゲイツは剛烈状態で恵琉に向かって走る。

 

「ここで終わりにしてやる!!」

「随分と威勢の良い子ね…無駄なのに」

 

『ユースティアナ』

 

アナザーユースティアナに変身した恵琉は振り下ろされるのこを剣で受け止める。

 

「お前の目的はなんだ、なぜこんな事をする…!!」

「私の目的?そんなものは決まってるでしょ?この世界に君臨する王となる」

「王だと?お前のようなものは王とは言わない、魔王だ!!」

「魔王でも構わないわ、全ての者の上に立つ絶対的覇者となるのよ!!」

 

力押しでのこを払い除け、一撃、二撃、三撃と胴体を斬り付ける。

 

怯んだゲイツに更なる追い討ちで横薙ぎの剣撃を打ち込む事でゲイツを吹き飛ばす。

 

「くっ…っ!!今までのアナザーライダーよりも強い…!」

 

一方、ツクヨミもまた

 

「はぁぁ!!はぁ!!」

「はっはっはっ!愉快だな!!久しぶりにまともな奴と戦えて嬉しいぞ!!」

「…この人…!!遊んでる…!!戦いを楽しんでる…!!」

 

クリスティーナ相手に攻め立てているものの攻撃を当てることができない、全ての攻撃を回避されている。

 

「ツクヨミ!踏ん張れ!もう少しの辛抱だ!!」

 

ゲイツはそう叫びながらアナザーユースティアナと攻防を続ける。

 

「へぇ、成る程…貴方達は囮…って所かしら…となると…」

「ぐはっ…っ!!?」

 

ゲイツが再び剣撃に打たれ吹き飛ばされる、その間にアナザーユースティアナは剣の衝撃波を飛ばし瓦礫を破壊する。

 

「っ…!!」

「ま、ママ・サレンっ…!!!」

 

そこにはクルミとサレンの姿があった。

 

「クルミっ!!サレン!!!」

「…そう、貴方達で最後のようね、まぁ良いわ、貴方達だけでも…葬ってあげる!プリンセスストライク!!!!」

 

アナザーユースティアナが剣を構え、振るうと紫色の衝撃波が生まれ、それがサレン達に向かって飛んでいく。

 

「っちぃ…!!」

 

『スピードタイム!!!リバイ・リバイ・リバイ!リバイ・リバイ・リバイ!リ・バ・イ・ブ!疾風ぅ!!シップウ』

 

ゲイツはリバイブ疾風となり超高速でサレン達の前に立つ、そして

 

「ぐぁぁぁぁっ!!!!」

「ゲイツ!!!」

 

その光景に思わずツクヨミが叫ぶ。サレン達の盾となり攻撃をまともに浴びたゲイツはその場で倒れ込み変身解除してしまう。

 

「ゲイツさん…!!?」

「っ…はや…く…いけ…っ…!!俺達が…囮になった意味が無くなる…!!!」

 

ゲイツの言葉にサレン達が黙って頷き、動き出す。

 

ゲイツもまた震えながら立ち上がる。

 

「…ありがとう…ゲイツさん」

「アレが…救世主さん……頑張ってください…!!」

 

『ゲイツ…ライダータイム!仮面↑ライダー↑ゲイツ!!』

 

「…流石にこの体では…リバイブは無理だな…だが…これで十分」

「強がりね、勇敢さと無謀は違うのよ?」

 

ゲイツはジカンザックスを片手に再びアナザーユースティアナに向かっていく。

 

剣と斧、何度も交わり、火花を散らすも力の差は歴然、ゲイツが徐々に追い詰められていく。

 

重い一撃によりジカンザックスが弾き飛ばされ、武器を無くすゲイツに縦振りの剣が降ろされる。

 

それを肩と両腕を使い受け止めるもゲイツの体に確かにダメージを残す。

 

「ぐっ…っ!!」

「このまま切り裂いてあげるわ…!!!!」

 

『フューチャータイム、誰じゃ!?俺じゃ!?忍者!!!フューチャーリングシノビ!シノビ!! 』

 

『一撃カマーン!!!』

 

「っ!!?」

 

紫色の何かは対峙するゲイツとアナザーユースティアナに超高速で近寄り、アナザーユースティアナに強烈な一撃を加える。

 

それによりアナザーユースティアナは大きく後方に吹き飛び、互いに距離が離れる。

 

「グリムバースト!!!!」

 

そしてツクヨミの方にも変化が起こる、アナザーナイトメアと化したクリスティーナに向かって暗黒エネルギーが集まり、爆発を起こす。

 

「むっ…なんだいきなり!突然の横槍は興が削がれる!!」

「…今度は何!?」

 

その状態はすぐに明らかとなった。

 

「ウォズ…今までどこに行っていた」

「少々単独行動をしていてね、そこにいるキャル君と共に参上した次第だ、ベストなタイミングだったろう?」

「少し遅いな、もっと早く来い」

「おっと、これは手厳しい」

 

2人は軽口を叩きつつ並び立つ。

 

「えっと…貴方がツクヨミ…さん?ウォズから話は聞いてるわ、あたしはキャル…とにかく今はこの状況をなんとかしましょう」

「ありがとうキャルちゃん、助かるわ」

 

ゲイツ、ウォズの2人でアナザーユースティアナの相手をする、ウォズが鎌で剣と打ち合っている隙にゲイツは落としていたジカンザックスを拾い上げ後ろから斬りつける。

 

それをアナザーユースティアナは左腕で受け止め、横蹴りでゲイツを蹴り飛ばし、鎌を剣で上に弾いた後、ウォズを縦斬りで斬り飛ばす。

 

ツクヨミとキャルはクリスティーナと相手する。ツクヨミは接近戦でクリスティーナと互角の戦いを繰り広げ、キャルが援護として攻撃魔法を連発する。

 

『ビヨンドザタイム!!時間縛りの術!!』

 

「はぁっ!!」

 

ウォズは鎌で斬撃を飛ばす、それはアナザーユースティアナに斬り裂かれ霧散するも接近していたウォズが連続で斬りつける。

 

さらにその横からもう1体のウォズが現れ、同じように鎌での攻撃を仕掛ける。

 

「面白い技ね…でも…無駄ぁ!!」

 

2体同時に回転剣撃により吹き飛ばされ、分身体は消し飛ぶ。

 

「くっ…ゲイツ君!!」

「分かっている!!」

 

『フィニッシュタイム!!ゲイツ!ザックリカッティング!!!』

 

既にアナザーユースティアナの間合いに入っていたゲイツはジカンザックスにライドウォッチを装填し回転斬撃を繰り出すと波状の衝撃がアナザーユースティアナに襲いかかる。

 

「グリムバースト!レイン!!」

 

キャルの大技、グリムバーストが空中で展開され、それが雨のように周囲に落ちる。

 

「ちぃっ!!面倒だ!!」

 

それを真上に剣を振るう事で消すも

 

『フィニッシュタイム!!タイムジャック!!』

 

「たぁぁぁらぁぁぁぁ!!!」

「なにっ!?」

 

その隙をつきツクヨミが真横を水平に跳躍しながらキックを決めるとクリスティーナの腹部に直撃しそのまま吹き飛ばされる。

 

ツクヨミが華麗に着地すると前方で爆発を起こしクリスティーナは爆炎に消える。

 

「フゥンっ!!!……っ!」

 

ゲイツの必殺技を受けたアナザーユースティアナは爆炎に巻かれていたが剣を振るうとその風圧で煙を吹き飛ばし視界を確保する。

 

しかしそこには既にゲイツ達の姿は無く。

 

「…逃げたわね…仕方がない」

 

アナザーユースティアナの姿から元の恵琉の姿に戻る。

 

「っちぃ…!!忌々しい奴らだ!!」

 

同じく煙の中から這い出てきたクリスティーナもまた変身を解除し恵琉の元へ歩み寄る。

 

「奴らを排除できなかったのは痛いけど…目的通り奴らの食料を頂きましょう」

「そういえば陛下、団長は?」

「彼女なら…私の名を騙る偽者の排除に向かわせたわ」

 

 

 

「よし、と…そろそろ出発しようか」

「出発ってどこに…?」

「決まってるでしょ、ティアナの偽者の元に」

 

ソウゴくんは笑顔で言ってみせます。

 

「ま、待ってください!そんなの危険ですよ!!アイツは…」

「それでも、俺達はその為にここに来た、それに…これはティアナ自身の問題だ、君自身の手で、未来への道を切り開かなきゃ」

 

…わたし自身の…手で…

 

その時でした、ソウゴくんの表情が変わる、笑顔の溢れる顔から一変、鋭い眼光である一方向を見つめる。

 

「ティアナ…下がって、ここは俺がやる」

「あ…あの人は…」

 

見たことがある人でした、いつも王宮の警護をしている…王宮騎士団(ナイトメア)団長…ジュンさん。

 

「君が陛下の名を騙る偽者だね、あまり手荒な真似はしたくないのだが…」

「ティアナを今、渡すわけにはいかない」

「そうか」

 

『ナイトメア』

『ジオウII(ツー)!!ライダータイム!仮面ライダー↑ライダー↑↑ジオウ!ジオウ!!ジオ〜ウ!!II(ツー)!!!』

 

ソウゴくんは新しい姿になりました、アレは確かジオウというそうです、それのツーって事でしょうか?

 

『サイキョーギレード!』

 

ソウゴくんは前に見た時とは別の剣を召喚してジュンさんに突っ込んでいきます。

 

ジュンさんのあの姿…ソウゴくんはアレのことを『アナザーナイトメア』と言っていました、ですがジュンさんの姿は昨日のアナザーナイトメアよりも禍々しく感じます。

 

雑兵のような存在だった昨日の兵士達は違う、明らかに強力な存在。

 

ジュンさんもまた巨大な剣を出現させ、ソウゴくんの攻撃を弾きます。

 

互角…互いに攻撃を弾き、決定的な攻撃を繰り出すことができません。

 

「…だったら!!」

 

ソウゴくんが一旦離れると、ソウゴくんの目の辺りにある時計の針がグルリと回転します。

 

「…見えた!!この先の未来が!!」

 

ジュンさんが構わずソウゴくんに横薙ぎの攻撃を仕掛けるとそれを読んでいたかのようにソウゴくんは剣で受け止め、剣を持っていない反対の手を使い腰にあるジクウドライバーと呼ばれるベルトを回転させます。

 

『フィニッシュタイム!!トゥワイスタイムブレイク!!』

 

「はぁ!!!」

「っ!?」

 

その状態から横蹴りを放つとピンク色の光が迸りながらジュンさんの腹部に直撃し、凄まじい衝撃音と爆発でジュンさんを吹き飛ばします。

 

でも…

 

「…なに…!?」

「…君…未来を見る力を持っているね、明らかに先読みされた動きをしていた」

 

ジュンさんはピンピンしていた、彼女の目の前には半透明の盾が現れておりそれによりソウゴくんの攻撃は無効化されたんだと分かった。

 

彼女は先の一撃で大きく後退したものの耐え、地面には踏ん張った痕跡である電車道ができています。

 

「…君の相手は少々骨が折れそうだ、全力で相手しよう」

 

ジュンさんはそう言うと腰からもう1つ巨大な剣を引き抜きました、二刀流です。

 

「…だったらこっちも…全力で行く」

 

ソウゴくんももう1本、昨日見た奴と同じ剣を出現させます。

 

…対峙する2人…2つの剣を持ち、静かに対峙する。

 

 

 

 

 





アニメを見ててキャルちゃん乾巧説が浮上、なんて薄汚い獣人なんだ…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幻の七冠(セブンクラウンズ) 20XX

チエルのキャラエピを見て彼女の見方が180度変わりました。彼女は瞬瞬必生の擬人化でした。今度のキャラ投票ではこの子に入れます。

ユニ先輩も同様……この人はやべーやつだわ。


 

 

「はぁ!はぁぁ!!!」 

 

ソウゴとジュン、2人の攻防は互角、2つの剣を巧みに操り、弾き、打ち合い、そしてまた弾く。

 

2本の剣を交差させることで鍔迫り合いをし距離を縮みていく2人。

 

それをただ見ることしかできないティアナは固唾を飲んで見守り続ける。

 

「…うぅ…っ!!見えた…っ!!」

 

鍔迫り合いの中、再び未来を予知する事で先の行動に対する対策を練り上げるソウゴ。

 

力を押しで鍔迫り合いを解き、そのまま交差させていた剣を振り抜くジュンの攻撃を回避し、ソウゴは2本の剣に金とピンクの光を溜め。

 

X字に切り裂く事で衝撃波を飛ばす、しかし

 

「それが予知か、でも」

 

ノーモーションで半透明の盾を出現させ、それをガードし更にその盾から白い衝撃波が複数生成されソウゴの体を切り刻む。

 

「うぁぁぁっ!!!!?」

「ソウゴくん!!?」

 

ソウゴは吹き飛ばされ地面を転がる。すかさずティアナが駆け寄りソウゴを抱き抱える。

 

「予知はほんの先の未来しか見えないみたいだね、更にその先までは君は見えていない」

「…つぅっ…っ!!」

「私はこれでも王宮騎士団(ナイトメア)団長をしているんだ、民草に威厳を見せる為にもこの程度で折れたりはしない」

 

その言葉にソウゴが反応を示す。

 

「…民の為…?あんた達がやってる事が本当に民の為なのか?」

「ん?私は何かおかしな事でも言っているかな?」

「違う!!こんな事、決して民の為なんかじゃない!!俺は見てきた!この世界の人々はみんな悲しい顔していた!!」

「陛下の望む事は民の望む事だ、君には分からない」

 

ジュンの発言にソウゴは更に反論する、その為にソウゴは立ち上がり。

 

「分かるさ!!俺も王様になるのが夢だから!!…俺が目指すのは最高最善の魔王だ!!みんなが笑って過ごせる世界を作り上げる、こんなディストピアな世界、そんな世界は…俺が壊してやる」

 

ソウゴはそう言いながら、サイキョーギレードとジカンギレードを合体させ、1つの巨大な剣へと変化させる。

 

「ソウゴくん…あなたは…」

 

ティアナはソウゴの言葉に何かを感じていた、その何かは、恐らく自分と同じ、王としての覚悟を感じていたのかもしれない。

 

「…壊す、ね…随分と物騒だ」

「創るっていうのは壊すって事だ、破壊と創造は表裏一体…俺はこの世界を壊して創る…はぁぁぁ!!!!」

 

ソウゴは再びジュンに向かっていく、絶え間ない攻撃はジュンを一方的に押していく。

 

「くっ…っさっきよりも…勢いがある…!!」

「俺は!俺達はこんなところでは止まれない!!」

 

『サイキョーフィニッシュタイム!!キングギリギリスラッシュ!!』

 

[ジオウサイキョウ]と書かれた長大な光の刃を生成し。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

縦振り、横振り、更にもう一撃縦の剣撃を繰り出す。

 

それをジュンが発動している半透明の盾ごと斬り裂き、ジュンを吹き飛ばした。

 

「っつぅ…無茶苦茶だ…!!!」

 

ジュンが立ち上がり周囲を確認するとそこには既にソウゴとティアナの姿はなかった。

 

 

 

 

 

「準備は整ったわ」

 

寿恵琉は王宮に戻っていた、王宮の財物庫には大量の食料が運び込まれ、山のように積まれている。

 

「5年もの歳月をかけ、集め、溜め込んだこの食料を使い、王家の装備の力を最大、最強にする…」

 

恵琉は両手を広げながら呟く。

 

「この世界の真の王になるのはこの私よ…私を貶めた奴らも…真那以外の奴らも全て、私の手で…!!」

 

 

 

 

私は優秀なゲームクリエイターだった。

 

真那の右腕として私は影ながら支えてきた、七冠(セブンクラウンズ)を。

 

「真那、これで…!」

「ええ、これで完成よ…私のゲームが…!!」

 

この時から既に、真那の目には私など映っていなかった、すべての功績は真那のものとなり私の存在は抹消された。

 

「ちょっと!どういう事よ!真那!!このゲーム…私達で作り上げたものじゃない!!」

「…私『達』?何を言ってるの?貴方が出来たことなんてほんの少しのプログラミングだけじゃない、ぶっちゃけ貴方、必要無かったわ」

 

…私の全てを否定された、長年寄り添ってきたつもりだった。

 

現実での私は何もなかった、何を得ることも、皆がレジェンドオブアストルムの発売と共に七冠(セブンクラウンズ)を持て囃した。

 

その中に私はいない、私は何者にもなれない…無価値な存在。

 

そんな時、レジェンドオブアストルムを開発資金などを提供してくれた国の王女様が日本にやってくるという情報を聞いた。

 

私は直接会った事はなかったけど、彼女は率先してレジェンドオブアストルムの製作過程の状況を見にきていたらしい。

 

だからきっと、私のことも…影に消えた私の活躍もきっと知ってくれている。

 

「あの…っ…プリンセスユースティアナ…!!」

「へ?…あの…えっと…」

「私の事は…!!私は…!」

「…えぇ…?あの…申し訳ありません、貴方は…?」

 

私はその言葉を聞いた時、全ての時が止まった、私の時間はこの時より先には進まない。

 

「君!入ってきては困るよ!!連れて行きなさい!!」

 

私は苦笑いでこちらを見る王女の顔を見ながら警備の人間に連れて行かれた。

 

その後は彼女の会見を邪魔した精神異常者として取り調べを受けた、でも私は何も答える事は出来ず、何も出来なかった。

 

家に引きこもり、もう考える事も放棄した、外に出ればアストルムの話ばかり…そんなの聞いたって嫌になるだけ。

 

「…随分と荒れているな」

「っだ、誰!?」

 

私の部屋にいたもの、それは得体の知れない男だった、何処から入ったのか分からなく気味の悪い男だった。

 

「俺はリボーン…お前、力が欲しいんだってな?」

 

力…

 

「貴方が力をくれるっていうの…?」

「ああ、俺は王の器になる存在を探している」

「それが…私…?」

 

彼は何も言わず、私に手のひらサイズの機械を渡してきた。

 

「それはアナザーウォッチ、お前の力だ、何をするのもお前の自由だ」

 

私の…自由…!!

 

『ユースティアナ』

 

私はそのアナザーウォッチを起動すると体が変貌する、湧き上がる力、なんでも出来ると確信した。

 

「…千里真那…奴をただ殺すんじゃない、くくく…頂点に立って愉悦に浸っている所を…どん底に…!!」

 

私はその日から決めた、奴が頂点に君臨したその瞬間を狙うと、そして奴が私に力を与えてから1ヶ月…ついにその日が来た。

 

私はレジェンドオブアストルムに起きている異変を察知し、本来ならアストルムの世界に入る事は許されないこの状況を、この力で無理やりゲーム世界に侵入し、頂点に君臨した真那を…

 

「あら?貴方…誰だったかしら?ごめんなさいね、私、今記憶が混乱しちゃってて…」

「…もう、そんな事どうでもいいわ、どうせ誰にも覚えてもらえないなら、覚える必要なんかないんだもの」

 

『ユースティアナ』

 

「…っ!?なによ、それ…」

「どう?一時でも頂点に立てた感想は?…まぁ、それも今日で終わりだけど」

 

真那は瞬時に玉座から立ち上がり戦闘態勢に入るも私の方が一手早く胸に剣を突き立てた。

 

「がっ…ふ…貴方は…一体…っ」

「覚えなくても思い出さなくてもいいわ、私はこれから王になるの、貴方の代わりにね」

 

私が指パッチンをすると世界が変わる、私が変えるのはこの世界…この千里真那が築き上げた忌々しいこの世界を全て、私の手で…!!

 

 

「壊す…!!!はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

恵琉がウォッチを構えると全ての食材がウォッチに吸収されていく、膨大なエネルギーは恵琉を強力な存在へと昇華していく。

 

「ああ…力が漲ってくる…ふふ、食事は命のエネルギー…ね」

 

恵琉は自身で破壊した壁の穴から街を見つめる。

 

「後はオリジナルのユースティアナ…奴さえ葬り去れば…全てが終わる、いや…始まるのよ…!!」

 

 

 

「とりあえずは逃げ切れたかな…」

「す、すみません…わたし…何もできなくて…」

 

わたしは自分自身が情けない、ソウゴくんばかりに頼ってしまって…わたしは何もできてない。

 

「いいんだよ、今はそれで、急ぐ必要なんてない、自分の足で自分の速度で、ちゃんと前に進めばいい」

「ありがとう…ございます、ソウゴくん」

「…っと、それでも…やっぱりそろそろゲイツ達と合流した方がいいよなぁ…連絡手段は今無いし…どうしよう…あっ!そうだ!!」

 

ソウゴくんは何か閃いたのかジクウドライバーを腰に装着し…

 

「これがあったんだった、丁度いいや、えい!」

 

『ジオウトリニティ!!トリニティタイム!

三つの力、仮面ライダー↑ジオウ!ゲイツ!ウォズ! トーリーニーティー!トリニティ!! 』

 

ソウゴくんが新しい姿に変身します、すると空間から突如2つの顔が現れてソウゴくんの両肩に合体します。

 

「ふふ、お疲れ様、2人とも」

「おお…我が魔王、突然の呼び出しに少し驚いてしまったよ」

「ソウゴ、お前今何処にいるんだ?」

 

なんか1人で話始めました…と言っても声がそれぞれ違うのであの体に3人の人格が入っているのでしょうか?

 

「俺は…この通り、森の中…かな、特に目印になるようなものはないよ、そっちは?」

「こっちも色々とあってな…俺達は今、風車が大量にある廃村にいる、怪我人も多数いる、あまりここからは動ける状況では無い」

「俺達って…ウォズとゲイツは一緒なの?」

「ああ、その通りだ我が魔王、私達は既にアナザーユースティアナと戦った」

 

アナザーユースティアナ…今のアイツの事でしょう…

 

「…分かった、俺もすぐにそっちにいく、待ってて2人とも」

「分かった」

 

ソウゴくんはそう言うと変身を解除して近づいてきます。

 

「ティアナ、風車が沢山ある村って分かる?」

「は、はい…ここから北に十数キロ行ったところにあります」

「そっか、急ごう、俺の仲間が待ってる、それで合流したら、一緒にアナザーユースティアナを倒そう」

「…はい」

 

…わたしはすぐに答えることができませんでした、まだ心奥底であの人に怯えている。

 

絶対に埋めることのできない力の差、それが頭から抜ける事はない。

 

あの人と戦うことが怖い。

 

それをソウゴくんは見抜いていたのか、その言葉を投げかけた後、わたしの肩に1回だけポンっと手で軽く叩いてから。

 

「それじゃあ、案内お願い、ティアナ」

 

笑顔でそう言いました、彼の言葉は真っ直ぐでどこか惹きつけられる気がします。

 

あれ程怯えきっていたわたしの心も彼の言葉でピタリと震えが止まりました。

 

わたしはすぐにソウゴくんの前に行き、先導を開始します。

 

 

「サレン、そっちは大丈夫か?」

「ええ、なんとか…というより貴方達の方が大丈夫なの?特にゲイツさんはあたしたちを庇って…」

「心配するな、こういった怪我には慣れてる」

 

ソウゴがトリニティの力を使う事でお互いの安否を確認することができた、俺達はソウゴに伝えた通り、風車が目立つ廃村で身を隠している。

 

「…こんな目立つ場所じゃ長くはもたないわよね…」

「…ここはランドソルからも近い…奴らの軍勢が押し寄せてきたら今のあたし達じゃどうしようもねぇ…」

 

そうか…それなら都合が良いな

 

「俺達はこの後、そのランドソルとやらに向かう」

「えっ…ゲイツさん!?」

「私達の目的はアナザーユースティアナ…それと戦う場としては持って来いの場所だからねぇ」

 

俺の発言にウォズが同意する。

 

「これ以上、この世界の人達を苦しめるわけにはいかない、あたし達の手で決着をつけて、元の歴史に戻さなくちゃいけないの」

「ツクヨミさん……あたし達はなんの役にも立たない…けど…信じてるわ、貴方達ならきっと成し遂げてくれるって」

「ああ、任せてくれ」

 

その時だった、おーい、という声と共にこちらに寄ってくる影2つ。

 

「ソウゴ!!!」

 

ツクヨミがその名を呼んだ、こちらに向かってきたのはソウゴともう1人、女の姿だった。

 

「ソウゴ、そっちは?」

「ん?こっちはねぇ…何と本物のユースティアナだよ」

 

俺達はその言葉に驚いた、本物…つまり奴の…アナザーユースティアナのオリジナル。

 

「ゆ、ユースティアナ・フォン・アストライアって言います、その…よろしくお願いします」

「な、何ということだ…っ」

 

そう言って驚愕していたのはウォズだった、ウォズは逢魔降臨暦を落とし両手で口を押さえながら震えている。

 

「あ、あの…どうかしましたか?」

 

彼女は当然のように奇行に走るウォズに訊ねる。

 

「まさか本当に……見れば分かる、君は我が魔王と同じ素質を持つ、まさに王の器にふさわしき人物…っ!!!」

「は、はぁ…?」

「…ウォズ、ティアナが引いてるから…」

 

ソウゴですらツッコミを入れざる得ない程、今のウォズはイカれていた、元からイカれてはいたがな。

 

「…コホン、失礼…ユースティアナ王女、私はウォズ、そちらにいる我が魔王…常盤ソウゴに仕える家臣の1人でございます」

 

そう言いながらウォズは片膝をつきユースティアナの前に跪く。

 

「こちらが同じく家臣の1人ゲイツ、そしてこちらが友人Aのツクヨミです」

「誰が家臣だ」

「ゆ、友人A……」

 

俺はソウゴとは友にはなったが家臣になった覚えはない。

 

「あ、あの!そんなにかしこまらないでください!わたしが王女だったのは前の話ですし、今のわたしはただの…女の子のユースティアナです…奪われてしまっていますしね」

「それを取り戻しましょう、ユースティアナ姫、私達はその為に来たのですから」

 

ウォズは立ち上がり片手を振り上げながら言い放つ。

 

「ねぇ、ゲイツ…なんだかウォズ、テンション高くない?」

「よく分からんが奴にとって王の素質とやらに興奮してるんじゃないか?お前を祝う時だって大概ああだっただろう」

「…確かに」

 

…とはいえ、俺には今の彼女にそういった王たる資格があるとは思えないがな。

 

何となくだが分かる、奴の心は折れている。

 

1度、過去にソウゴが王になる事を諦めた時があった。

 

オーマジオウになる未来を悲観し、自らベルトを捨て去り、何もかもを諦めた時があった。

 

その時のソウゴと同じ目をユースティアナはしている。

 

「…おい、ユースティアナ」

「は、はい?…えっと…ゲイツ…くんって言いましたよね?なんでしょうか」

「お前に何があったのか知らないが、王女であるというのなら決して自分の運命から逃げるな」

 

俺はそう言った、たとえ辛い未来が待っていようと自分の運命からは逃げてはいけない。

 

俺の言葉に黙り込むユースティアナ、厳しい事を言っているのは百も承知だ。

 

だが俺は過去にソウゴにはこう言った。「お前がオーマジオウになるのなら俺がそれを必ず止める」と。

 

 

だからお前は自分の運命から逃げるなと。

 

「もし、お前の未来が辛いものだとしても、安心しろ、俺達がいる、俺達は必ずお前を支えてやる」

 

この問題はユースティアナ自身の問題だ、ただ俺達がアナザーユースティアナを倒して解決という訳にはいかない。

 

彼女が自分自身を乗り越え、自分の運命を変えなければならない。

 

ソウゴや俺達がやって来たようにな。

 

「ゲイツ……ふふ、良いこと言うじゃん」

「黙れ、別に良いことでもなんでもない、普通の事を言ったまでだ」

 

俺はその発言の後、ソウゴと共に軽く笑い合う、その時だった。

 

大地が揺れ始める。

 

「な、なんだ…!?」

「どうやら相手も…準備が整ってしまった、という事かもしれないね」

 

これ以上、のんびりとしている暇はない、ランドソルに向かいアナザーユースティアナを倒さなければこの世界の歴史はどんどん歪んでいく。

 

「急ごう、ゲイツ、ウォズ、ツクヨミ…アナザーユースティアナを止めるんだ!!」

 

ソウゴの言葉に俺達は同意し走り出す。

 

「待ってよウォズ!!あたしも付いて行くわ!!」

「キャル君…ああ、戦力は多い方がいい、頼むよ」

「よし!アイツに一泡吹かせてやるんだから!!」

 

ウォズの後ろをキャルが付いていく、そして

 

「うぇーん…お母さ〜ん!」

「だ、大丈夫よ…大丈夫だから…」

 

この地鳴りにより子供達が泣き始める、それを…ユースティアナは静かに見ていた。

 

唇を噛みしめ、両手を強く握りしめる。

 

「…待っていてください…わたしが…必ず…!!」

 

その目に闘志が宿った、ああ、そうか…これこそが王の器って奴か。

 

ソウゴもそうだった、ちょっとした事で闘志が戻る、そして目的に向かって真っ直ぐに突き進む精神を宿している。

 

彼女にもまた最高最善の王の力がある、俺はこの時、確かにそう思った。

 

 

ー魔王監獄街 ランドソルー

 

 

数百にも及ぶ王宮騎士団(ナイトメア)を引き連れ、街を歩く。

 

先頭には副団長クリスティーナ、団長ジュン。

 

更にその前をアナザーユースティアナの寿恵琉とタイムジャッカーのリボーンが歩いていた。

 

「ふふ、このくだらない戦争ごっこも今日でおしまい、この世界最後のレジスタンスもここで完全に始末しオリジナルユースティアナの力を奪う」

「既にお前の中にはこの5年の歳月で集めた食材のカロリーが蓄えられている、王家の装備の力はまさに逢魔の如く、行けるな恵琉」

「勿論よ、例え時の王者だろうとこの私を止める事はできない」

 

そんな彼らの進行を止めようと、彼らの前方から現れる影。

 

「ふふ、来たわね…」

 

恵琉の言葉通り、その影は全部で6つ。

 

「もう逃さないわよ!オリジナルさん!貴方を倒して私こそが世界の王となるの!!」

「そうはいきません…もう、逃げません…貴方からは…民の笑顔を…取り戻す為に…!!!!」

 

ティアナは剣引き抜き構える、その目にはもう、迷いはない。

 

「タイムジャッカー…お前の計画はここまでだ、みんなの未来を返してもらう」

「これはこれは…オーマジオウ、時の王者様…!今に見ていろ…俺はお前を必ず超える存在となる」

 

その場にいる全員が構える。

 

『ナイトメア』

 

クリス、ジュン、リボーン、それに加え、背後にいる王宮騎士団(ナイトメア)の集団がアナザーウォッチのスイッチを入れるとそれぞれがアナザーナイトメアの姿に変化する。

 

『ナ・イ・ト!!メ〜アー↑!!』

 

リボーンはアナザーナイトメアではなく仮面ライダーナイトメアの姿に。

 

『リ・バ・イ・ブ!疾風!!』

『ツ・ク・ヨ・ミ!!』

『フューチャリングキカイ!!!キカイ!!』

 

ツクヨミはノーマルフォーム、ゲイツは疾風、ウォズはフューチャリングキカイとなる。

 

そして

 

『グランドジオウ!!』

 

『キュィィン!!ブゥゥゥン!!アドベント、COMPLETE、ターンアップ、チーン…CHANGE BEETLE、ソードフォーム、ウェイクアップ!カメンライド、サイクロン!ジョーカー!タカ!トラ!!バッタ!!!(スリー)(トゥー)(ワン)!シャバドゥビタッチヘンs!ソイヤッ!!ドラァ↑イブ!カイガン!!!レベルアァップ!ベストマッチ!ライダータイム! 』

 

「うへぇ!?」

 

いきなり隣が豪華絢爛な金色のライダー達の石像が現れ、初見のティアナとキャルが目を丸くしてその光景を見つめる。

 

「変身!!」

 

『グランドタイム! クウガ・アギト・龍騎・ファイズ・ブレイィィド!響鬼・カブト・電王!キバ・ディケイィド! ダ〜ブル!オーズ!フォォーゼ!!ウィザード!鎧武・ドラ〜イィブ! ゴースト!エグゼイド!!ビ・ル・ド〜! 祝え!!仮面↑ライダー↑!!グ・ラ・ン・ド!ジオォォウ!!』

 

黄金煌く、仮面ライダーグランドジオウに変身するソウゴ。

 

「…な、長っ」

 

と思わずツッコミを入れてしまうキャル。

 

「お前たち!!やれぇぇい!!」

 

クリスティーナの号令と共にアナザーナイトメアの軍団が走り出しソウゴ達に向かって襲いかかる。

 

「よぉし、こっちも大盤振る舞いだ!!」

 

『クウガ!ダブル!!ブレイド!鎧武!!』

 

ソウゴは自身の体についたレリーフをタッチする事で歴代ライダーを召喚する。

 

クウガアルティメットフォーム、ダブルエクストリーム、ブレイドキングフォーム、鎧武パインアームズ。

 

それぞれが独立して動き、アナザーナイトメアと戦い始める。

 

「キャル君!アナザーナイトメアの相手は君に任せるよ」

「えっ!?あ、あたしあの偽物のユースティアナに一泡…っつぅ…分かったわよ!適材適所よね!!全くもう!!」

 

キャルはソウゴの召喚したライダーと共にアナザーナイトメアの相手を、そしてウォズは

 

「リベンジマッチと行こうか、リボーン君」

「良いだろう、クォーツァーの残りカスは俺が消し潰してやる」

 

「はぁぁ!!!」

「ふんっ!!」

 

ゲイツはジュンとツクヨミはクリスティーナの剣を止める。

 

「ツクヨミ!そっちは任せても良いな!!」

「当たり前でしょ!あたしを誰だと思ってるの!!」

「はっ…そうだな…!!!」

 

ゲイツはジュンの攻撃を捌きつつ。

 

「ソウゴ!ユースティアナ!!アナザーユースティアナはお前達に任せるぞ!!!」

「分かった!!行こう!!ティアナ!!!」

「はい!!!」

 

ティアナとソウゴは一直線に恵琉の元に向かう。

 

「…悪あがきよ、貴方達では私に勝つことは不可能って事を教えてあげる」

 

『ユースティアナ』

 

恵琉はアナザーユースティアナの姿となり2人攻撃を迎え撃つ。

 

「不可能かどうかはやってみなければわかりません…それに…例え不可能だとしても…その運命は…必ずわたしは変えてみせます!!!!」

 

レジェンドオブアストルムの歴史を賭けた戦いが今、始まる。

 





因みに
アナザーナイトメア クリスとジュンはどちらも純粋なスペックはジオウIIよりは強い設定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

星の生命  20XX

 

 

 

「この世界を貴方達の好きにはさせない!!」

「良いじゃないか!血で血を洗う戦場!!それがワタシの生きる道さ!!」

 

ツクヨミはクリスティーナの振るう大剣を華麗に避けつつ拳で殴り抜ける。

 

「だからこそよ!誰しもが貴方のような生き方をするわけじゃない!貴方の身勝手さを相手に押し付けないで!!」

「これは…失敬だ☆」

 

クリスティーナの大剣がツクヨミの胴体を斬りつける、互いの戦闘能力は互角、一方的な戦いになるということはない。

 

「ワタシは自分が楽しめればそれで良いんだよ、そこに他人の感情を持ち込むなんてナンセンスだ、今、この状況は非常に楽しい!お嬢さん!ワタシと共にもっと踊ろうじゃないか!!」

「…っこの人…話が通じない…!!」

「ツクヨミ!!これを使え!!」

 

その時だった、ジュンと戦闘をしていたゲイツがツクヨミ方面に後退しつつツクヨミにライドウォッチを投げ渡す。

 

「これは…よし…!!」

 

『ファイズ!』

 

『アーマータイム!! コンプリート! ファイズ↓』

 

ツクヨミは投げ渡されたファイズライドウォッチでファイズアーマーを装着、クリスティーナの縦振りの剣撃を右腕で受け止め、左拳で腹部を殴りつける。

 

殴りつけた後、左手をスナップさせもう一撃胸部に打ち込んでいく。

 

「…っつぅ…ほう、何か着込んだと思ったらえらく強くなるじゃないか!中々楽しませてくれる!!」

 

そう言って剣を振るうがファイズアーマーを取り付けたツクヨミはクリスティーナの攻撃を確実に回避、防御し、攻撃を当てていく。

 

ゲイツはツクヨミにファイズライドウォッチを渡した後、ゲイツリバイブ疾風の力使い、ジュンの背後に回り込みジカンジャックローで斬り付ける。

 

ジュンもそのスピードについていこうと背後に攻撃を仕掛けるもその時には既にゲイツは背後に回り込んでおり、攻撃は空を切る。

 

それを3回連続でやられたジュンは大きく吹き飛び地面を転がる。

 

「成る程…中々のスピードだ、ならば」

 

ジュンはもう1つの剣を生み出し、二刀流となる。そしてゲイツの高速スピードに合わせて回転剣撃を繰り出すとゲイツはそれをまともに受けて吹き飛ばされる。

 

「くっ…っ!!」

「速いだけで力はない、装甲も薄いようだね、だったら」

 

ジュンは倒れるゲイツに早足で接近し連続で剣を振るう、ゲイツは二撃、三撃と攻撃を食い火花を散らすも右肩に重い一撃が繰り出された瞬間、それを片手で掴み。

 

『リ・バ・イ・ブ!!剛烈!!!』

 

「!?」

 

もう片方の手でウォッチを回転させ剛烈形態に変化する、それにより防御力が上がり、肩に乗っていた剣を弾き、のこモードに変わったジカンジャックローで斬り付ける。

 

「形態が…変化するのか…!!」

「俺達は負けん!!この世界に生きる人々の為にもな!!」

 

ウォズはキカイの力を借りジカンデスピアのヤリモードで仮面ライダーナイトメアが出現させた闇のエネルギーを真正面から打ち破って接近する。

 

ナイトメアはそれを確認した後、空間から剣を出現させ、接近した2人は互いの武器で打ち合う。

 

「クォーツァーの亡霊が…ここで消えろ、俺はこの世界に君臨する王となる」

「それは無理な話だ、我が魔王がこの件に関わった時点で君の計画は破綻している」

 

力ではウォズキカイの方が上、力押しでナイトメアを攻め立てる。

 

『ビヨンド・ザ・タイム!!フルメタルブレイク!!』

 

キカイショルダーから伸ばしたフックがリボーンに急接近する、それをリボーンが剣を使って弾く。

 

その隙にウォズもリボーンに接近してキックを仕掛けるのだが

 

「甘すぎるな、ウォズ!!」

「がっはっ!?!?」

 

しかしそのキックは不発に終わる、リボーンの縦振りでウォズは叩き落とされ、地面に倒れ込み、リボーンに蹴りを入れられて吹き飛ばされる。

 

ウォズは地面を滑るように吹き飛び建物に衝突、土煙を上げながら壁を破壊する。

 

「例えオーマジオウだろうと俺はその力を超える力を得る、見てみろウォズ、既に恵琉はその力の片鱗を手にしている」

「な…にぃ…?」

 

ウォズは瓦礫の中から這い出てアナザーユースティアナの方を見る。

 

そこにはユースティアナとグランドジオウが2人がかりでアナザーユースティアナと戦っている姿があった。

 

ティアナとソウゴは剣を振るい、恵琉に連続で攻撃を仕掛けるがそれは全て防がれティアナに関しては拳や蹴りを打ち込まれて吹き飛ばされてしまっている。

 

「その程度なの?時の王者とやらの力は」

 

恵琉はソウゴの攻撃を完璧に防ぎ切ると逆にソウゴに連続で攻撃を当てる。

 

「くっ…だったら…!!」

 

『ドライブ、響鬼、ゴースト』

 

連続でライダーを召喚し恵琉に攻撃を仕掛けるが

 

「浅い、浅すぎるわ、時の王!!」

 

召喚したライダーは全て一撃で倒され、エネルギーを刀身に貯め、それを衝撃波として放つ事でソウゴを吹き飛ばす。

 

「ソウゴくん!!」

 

ティアナはソウゴに駆け寄る。

 

「私は既に王の力を手に入れている、オリジナルの貴方…ユースティアナはおろかオーマジオウでさえ凌駕する力をね」

「そんな…」

 

ティアナは呟く、圧倒的な力の差に絶望する他無かった。

 

「まさか…我が魔王が…ここまで…ぐぁっ!!?」

 

ソウゴがやられている光景を見ていたウォズに近寄り剣撃を喰らわせるリボーン。

 

「丁度いい、ここでオーマジオウとその一派を殺せれば俺を阻む者はいなくなる」

「くっ…っ!!まさか本当にここまで力をつけているとはね…!!」

 

先の一撃でフューチャリングが解かれ通常形態に戻ってしまっているウォズ、しかしそれでも諦めず立ち上がり槍を構える。

 

 

同時刻、クリスティーナと激しい戦闘を続けるツクヨミはクリスティーナの攻撃を掻い潜り裏拳で怯ませると。

 

「これでも食いなさい!!」

 

『フィニッシュタイム!! ファイズ!! エクシード!タイムジャック!!!』

 

「なんだと!?」

 

クリスティーナの眼前に現れる赤く光る円錐状の光、それは前だけでなく360度全てに出現する。

 

「どこから…っ!?」

「はぁぁぁぁ!!!」

 

クリスティーナの考えとは裏腹に一ヶ所からではなく全ての角度からクリムゾンスマッシュを打ち込まれる。

 

「ぐぅっ…うぅ!?!?ぐぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?」

 

雄叫びを上げて爆発を起こす。

 

それを背に瞬間移動の末、出現したツクヨミの背後では爆炎から浮かび上がったクリスティーナにφのマークが現れ、彼女の力の源になっていたアナザーナイトメアの鎧が灰となって風に飛ばされ消えてなくなる事で彼女の生身の姿が顕となる。

 

「馬鹿…なっ…この…ワタシが…っ負ける…だと…っ!?」

「悪いけど戦いだけに生きている貴方にあたしは負けない」

 

ツクヨミはその言葉を残し倒れるクリスティーナから離れていく。

 

 

剛烈となったゲイツはジュンと互角の戦いを繰り広げていた、が

 

二刀となったジュンに隙はなく、ゲイツは徐々に押され始めていく。

 

「ゲイツ!!」

 

そこにクリスティーナとの戦闘を終えたツクヨミがファイズフォンXを撃ち込みながら走り寄りジュンは剣でそれを弾く。

 

「助かったツクヨミ!!」

 

その隙に疾風になるとジュンの背後に回り込む。

 

「甘いな!!超スピードだろうと私は対応できる!!」

 

背後に回り込んだゲイツに剣撃を繰り出し確かにそれは直撃するのだが

 

「なに!?」

 

既にゲイツは剛烈に切り替えており攻撃をノーガードで受け止める。

 

「はぁぁ!!」

 

のこのゼロ距離斬り上げを繰り出すとジュンは大きく吹き飛ばされる、その間にツクヨミとゲイツが並び立つ。

 

『フィニッシュタイム!! リバイブ!! 一撃タイムバースト!!』

『フィニッシュタイム!タイムジャック!!』

 

三日月を背に2人のライダーによる飛び蹴りが炸裂し迎え撃つジュンを打ち破り吹き飛ばす。

 

そのまま地面に転がるジュンの体内からアナザーウォッチが転がり出て粉々に砕け散る。

 

「くっ…申し訳…ありません…陛…下」

 

その言葉を最後にジュンは動かなくなった。

 

「うわぁぁぁぁっ…!!」

 

ゲイツとツクヨミ、2人の足元に吹き飛び転がってきたのはウォズ、3人の眼前に仮面ライダーナイトメア、リボーンが歩み寄ってくる。

 

「使えない奴らだ、所詮は道具か」

 

リボーンの手には剣の他にキカイミライドウォッチ、ウォズから奪い取ったものが握られていた。

 

「忌々しい…俺の知らない歴史のものなど…俺が塗り替えてやる」

 

リボーンが力強く握るとミライドウォッチが変化し…

 

『キカイ』

 

それはアナザーウォッチとなり、起動するとウォッチが変化しアナザーキカイが生まれる。

 

「あれは…アナザーキカイ…!!」

「奴がこんな事まで出来るとはね、正直、想定外だよ」

 

リボーンとアナザーキカイ、2人が急接近しウォズ達3人と激しく戦闘する。

 

「俺の思い通りにならないことなどない、歴史を変え、俺の思い描く歴史を保存し、その世界は生まれ変わる」

「随分と身勝手だな…お前は王になどなれない!」

 

ゲイツとリボーン、剣とのこが打ち合う。

 

「それを決めるのはお前じゃない、俺自身だ!!」

 

『フィニッシュタイム!!タイムブレイク!!』

 

ゲイツの攻撃を捌き、2回ほど胴体を斬り付けた後、紫のエネルギーを足に溜め回し蹴りをゲイツに当てるとその余波は遠くでアナザーキカイと戦っていたウォズ、ツクヨミを巻き込みダメージを与える。

 

3人は吹き飛ばされ地面に這いつくばる。

 

「お前達の使うジクウドライバーは誰が作ったものだと思っている、俺が生み出したものだ、オリジナルの俺にお前ら紛い物如きが敵うわけがないんだよ!!」

「確かに…私達は君が生み出したものを借りて戦っているに過ぎない…」

 

ウォズ達が立ち上がる。

 

「だが…俺達の…信念は…戦う理由は…」

「本物よ…!!!!」

 

彼等は決して諦めない、どんな強敵だろうと、力の差があろうと、気持ちを昂らせ覆す。

 

「行くぞ、ウォズ、ツクヨミ…コイツは必ず倒さなきゃならない相手だ」

 

ゲイツの言葉に同意した2人、全員でリボーンに走って向かう。

 

「信念だと?下らない、力こそが全てだ!!」

 

3人を相手取り互角の戦いを見せる、その間にアナザーキカイも合流するが

 

『ビヨンドザタイム!!タイムエクスプロージョン』

 

それを読んでいたウォズが迫るアナザーキカイにノーモーションで飛びながら回転蹴りを打ち込むとアナザーキカイは吹き飛ばされ爆発を起こして霧散する。

 

更にツクヨミとゲイツがリボーン相手に押し、蹴りや拳での応戦は徐々に優勢になっていく。

 

「くっ…何故だ!!何故お前達は関係のない世界相手にこうもムキになる!!お前達の世界とは無縁な筈だ!!」

「だからって見過ごせるわけないでしょ!?貴方がやっていることは間違ってる!それを正せる力があたし達にあるっていうのなら、あたしはそれを正さなくちゃいけないの!!」

「俺は救世主だからな、救える命が目の前にあるのなら俺は救ってみせる!!」

 

2人の横蹴りが直撃し後退するリボーン、その手は怒りに震えていた。

 

「俺の…計画は…っ!!」

「君の計画は狂う、○か✖️か」

 

『フューチャリング!クイズ!クイズゥ!!!』

 

「狂わない!!!!」

「…いいや、正解は○だ」

 

フューチャリングクイズとなっていたウォズの問題に間違えたリボーンは落雷の攻撃が炸裂し電撃によるダメージでその場から吹き飛ぶ。

 

「なん…だと…っ!?」

「言っただろう?この世界に我が魔王が来た時点で君の計画は破綻すると君にオーマジオウに至る力はない」

「そんな筈はない!!俺はオーマジオウを超える力を手に入れる!!必ず!!」

 

リボーンは剣に強大なエネルギーを集め、1つの大きな剣を生み出す。

 

「…君の攻撃は当たらない、○か✖️か」

「消え去れぇ!!」

 

リボーンはその剣を振る、しかしそれはツクヨミとゲイツによって受け止められ

 

『ビヨンド・ザ・タイム!!クイズショックブレイク!!』

 

受け止めているゲイツ、ツクヨミの背後から飛び蹴りを放ち一直線にリボーンの元へと向かっていく。

 

そしてそれはリボーンの顔面に直撃しそのまま蹴り抜けるとリボーンは爆発に巻き込まれ絶叫する。

 

「ぐっ…ま…まだ…だ…俺は…」

 

しかしまだ倒れてはいなかった、ヨタヨタとよろめきながら未だ戦う意思を示す。

 

「…正解は◯だ」

「ぐぁぁぁっ!?!?!?」

 

最後の余力も不正解による落雷により完全に断たれた。

 

落雷によりリボーンのジクウドライバーは弾け飛び落下する。

 

「君の負けだリボーン、君は王にはなれない」

「くっ…そ…」

 

ウォズはジクウドライバーを拾い上げながら倒れるリボーンから離れる。

 

「ゲイツ君、ツクヨミ君、君達はキャル君の援護を頼む、私は我が魔王を」

「分かった」

 

ゲイツ達は二手に分かれ行動を開始する、ゲイツとツクヨミはそのままアナザーナイトメアの群れを引き受け、ウォズはソウゴ等の元に向かう。

 

「あんたはなんの為に王様になるんだ!!!」

 

ソウゴはそう言いながら恵琉に斬り込むがそれは簡単に剣で受け止められる。

 

「王様になる理由?そんなもの必要ないわ、力がある者が頂点に君臨する、それが自然の摂理なのよ!!」

「そんな事ありません!!わたしは力で民を押さえつける為に王女になった訳じゃありません!!」

「…下らない、偽善発言は聞き飽きたわ」

 

後ろから斬り込んだティアナの攻撃を手で掴む。

 

「なった訳じゃない?当たり前じゃない、貴方は親が王だったから後を継ぐ形で王女の座についただけでしょ」

「あうっ!?」

 

掴まれていた剣が弾かれ、前蹴りを腹部に受けたティアナは転び地面に倒れ込む。

 

「ティアナ!!はぁぁ!!」

 

ソウゴもまた斬り込んでいくも簡単に弾かれ、2度、3度と胸部に剣撃を受ける。

 

「プリンセス…ストライク!!!」

 

紫の光を放つ衝撃波はソウゴを包み、そのまま後方数十メートル先まで吹き飛ばす、辺りの建物を粉砕し監獄塔に衝突、その一撃は監獄塔が崩れる程の威力だった。

 

「くっ…がはっ…っ」

 

ソウゴはそのまま倒れ込み、這いつくばる。

 

「その親は力があった、もちろん物理的な力…暴力じゃない、権力、財力…それらもある意味、暴力なんかよりもよっぽど怖い力」

 

恵琉は蹴りでティアナを転がしながら呟く。

 

「貴方はそんな両親から生まれた存在…貴方は知らず知らずのうちに力を持っていたのよ、そんな考えに至るのは貴方がただ気づいていなかっただけ、愚かな偽善者め」

「違う…わたしは…っ!」

「何も違わないのよ!貴方も私もね!!」

 

恵琉の振るう剣の力が増していく、倒れるティアナに無慈悲に降り続けられる剣は地面を砕き、ギリギリで回避を続けるティアナに迫っていく。

 

「いいや!あんたとティアナは違う!!」

「っ…貴方…まだそんな力が…!!」

 

ソウゴは再び恵琉に迫り攻撃を仕掛ける、それはやはり防がれてしまうが

 

「俺はティアナと話した、話だけでも分かる…ティアナはずっと!民の事を考えてた、自分が何者でもなくなってもずっとだ!!!」

 

ソウゴの力にも言葉にも力が増していく。

 

「ティアナは、何者でなくなっても王女であり続けた、あんたとは違う!!あんたは何者でもなくなった自分を恐れてるだけだ!!」

「っ…お前に…何が分かる!!!」

 

力が増す、全身が光輝き王家の装備の出力が上がっていく。

 

「私の辛さは私にしか分からない!生まれつき定められた運命などクソだ!!この私がそんな奴らから力を奪い!私こそがそんな腐った王共の座を奪う!!」

「うわぁぁぁぁっ!!?」

 

ソウゴは最大出力の王家の装備のなぎ払いをまともに受けて吹き飛び転がる、グランドジオウの変身が解除されその場に倒れる。

 

「っ…我が魔王…!!」

 

そこに変身解除していたウォズが駆け寄りソウゴを抱き抱える。

 

グランドジオウが変身解除された事により召喚していたライダーが消え、キャルやゲイツ達に襲いかかるアナザーナイトメアの数が増え始める。

 

「ちっ…数が多い…!!キャル!!そっちの方は大丈夫か!!?」

「あたしのことは構わないで!!…アイツを…陛下の仇を取るまでは…あたしは死ねない…!!」

 

奮闘するキャル達、そして…

 

「これでお終いよ、ユースティアナ・フォン・アストライア、貴方を殺せば、私がユースティアナになる…そしてこの世界に君臨する王となる」

「…させません」

 

ティアナは立ち上がる、その目はまだ諦めていない。

 

「へぇ…この状況でまだ闘志が宿ってるなんてね」

「諦められる訳ないじゃないですか…歴史を歪めて、わたしの知らないところで長い間、民が苦しめられてて、未来ある子供達が絶望して泣いて、子供達を導く為の大人達が幸せだった過去にしか目を向けることができないなんて…」

 

拳を握りしめる。

 

「人々が苦しいって叫んでいるのに放っておく事なんて出来ませんよ、この国の人々が諦めずに戦い続けていたんですから諦められませんよ、だって…わたしはこの国王女なのですから!!」

 

その瞬間、ティアナの体が光り輝く、眩い光、それは王家の装備の出力を上げた時のものとも違う。

 

「な…なによ…っそれは…!!?」

 

ティアナの手元にその光源の正体があった、それはライドウォッチ、彼女の覚悟に呼応するようにそれは出現した。

 

「…やっぱり、ティアナは本物の王女様だ」

 

ソウゴは全てわかっていたかのように微笑む、ウォズに肩を貸してもらいながら立ち上がり

 

「ユースティアナ君!!」

 

ウォズは手に持っていたジクウドライバーをティアナに投げる。

 

ティアナはそれを優雅に回転しながらキャッチし腰に装着する。

 

『ユースティアナ』

 

そしてライドウォッチのスイッチを入れ、右側のスライドに挿入する。

 

待機音声が流れ、右手のひらでライドオンリューターのロックを解除、そのまま右手は相手をゆっくりと指を指すような動作をしつつ、左手は腰に近づけていく。

 

そして右手が肩の位置程度まで上がったところで両手首をスナップさせ

 

「変身!!!」

 

腰に持ってきていた左手を思い切り弾くことでジオウサーキュラーのユニットを回転させる。

 

『ライダータイム』

 

星々が煌めきながら文字を形成していく、それは恵琉に向かって飛んでいき、更にレーザービームを無数に放ち恵琉を弾き飛ばす。

 

『仮面ライダァー↑ティア〜〜↑ナ〜↑↑』

 

恵琉にレーザーを放った『ライダー』の文字がティアナの元へ戻ると同時にティアナを纏っていた星々が弾け飛び姿を表す。

 

全体は白を基調とした鎧、随所に星を基調とした装飾、そして頭には冠のような物も取り付けられている。

 

「ばか…な…貴方はもう…ユースティアナじゃない筈なのに…っ!!!」

「違うよ、ティアナは取り戻したんだ、自分の力で、ユースティアナを、ね」

「っ…あり得ない!!!」

 

剣で地面を思い切り叩き怒りを顕にする恵琉、それとは対照的に笑顔のソウゴはそばにいるウォズに

 

「ねぇ、ティアナの力も元に戻ったんだしさ、アレを…」

「祝え!!!」

 

ソウゴの言葉が言い終わる前にウォズは我慢ならず声を荒らげる。

 

「食への感謝、生きとし、生きる者全ての意思を汲み、全てを支配する星の王女!!その名も仮面ライダーティアナ!!まさに生誕の瞬間である!!!」

「…えぇ…もう考えてたんだ…」

 

流石のソウゴもこれには若干引いていた。

 

「わたしは…迷わない、王女として、この国を導く為に」

「…っ姿が変わった所で、今更何ができる!!私の力は既に王の力だ!!」

 

恵琉がティアナに飛びかかる、しかしそれは

 

「なっ!?」

 

顔を向けただけで止められる、半透明の壁が恵琉の剣を止めた。

 

「っ!!この!!!このぉぉ!!!」

 

連続で振る剣は全てその壁によって阻まれる。

 

「アレは…よく見れば…亀の甲羅?」

「え?…本当だ…甲羅だ」

 

ウォズの指摘に気づき目を凝らして見れば半透明の盾は亀の甲羅のようになっている。

 

『キングイクセントスラッシャー!!』

 

その状態からティアナは長剣を取り出す、それはどことなく王家の剣に似ている。

 

「はぁぁ!!」

 

ティアナが剣を振る、恵琉も対抗して剣で応戦するがティアナの剣に半透明のヴィジョンでトラの爪が出現しそれが恵琉の体を斬り裂く。

 

連続でその攻撃を与え、ティアナは突き攻撃を放つと今度は鹿の角が出現し恵琉を弾き飛ばす。

 

「アレって…もしかして…」

「ああ、彼女は星の王女…生きとし生きる全ての生命を操る、彼女の命への感謝の念が力となっている、君が時を操る力を持つのと同じようにね」

 

更に攻撃は苛烈していく、ティアナが足踏みをすると象の巨大な脚が出現し恵琉を叩き潰し、剣を振ると巨大な蟷螂が出現し鎌で斬りつける。

 

そして足にチーターの力を宿し腕にゴリラの力を宿す事で高速接近からの右ストレートが炸裂、空中に弾き飛ばされた恵琉を逃さない、半透明の蛇が体に巻き付き、恵琉を地面に叩きつけ、大量のバッタがまるで弾丸のように宙に浮かぶ恵琉を弾く。

 

「がっ…!?は…っ…!!?な、なんで…こんな力がっ…私は…王の筈なのに…貴方は…もう…王じゃない筈なのに…!!!」

「これはわたしだけの力じゃありません、全ての生命がわたしを助けてくれてるんです、それがわたしのエネルギーですから」

 

『オールライフビューティフル!!』

 

剣にライドウォッチを当て嵌めると音声が鳴り響く、待機音が鳴り、構え。

 

「これがわたしの全力全開!!!プリンセスストライク!!!!」

 

剣を振るとそこから様々な生物が溢れ出る、魚、昆虫、鳥、獣…多種多様の生命が次々と恵琉に攻撃を仕掛けていく。

 

「うぐぅっ!?この…私がぁ…私がぁぁぁぁぁぁ!!!?あぁぁ!!?」

 

まともに必殺技を受けた恵琉は爆発を起こし爆炎の中に消える。

 

「…我が魔王よりも『王』と呼ぶには相応しい能力かもしれないね」

「…かもね、確かに」

 

そう言ってこの世界に生まれた新たなライダーの活躍に2人は笑い合うのだった。

 




『仮面ライダーティアナ』

■身長:190.0cm
■体重:90.0kg
■パンチ力:65.0t
■キック力:195.0t
■ジャンプ力:144.0m(ひと跳び)
■走力:0.14秒(100m)
■キック必殺技:プリンセスライフブレッシング
■キングイクセントスラッシャーを使用する必殺技
オールライフビューティフル

王女たるユースティアナが覚醒し、無から生み出した正真正銘、王のライドウォッチ。
その力は星の力、全ての生命を操ることが可能、実在するものから非現実のものまであらゆる生物の能力を使うことができる。

この力を使うためには食…つまり生への感謝の気持ちがなければならない。

また生命エネルギーが体の中を十分に満たしている場合(つまり満腹状態)、全身に生命エネルギーを循環させる事で、どんな攻撃を受けても瞬時に回復し、全てのスペックを2倍に引き上げる。

生物の力を借りる際に制限はなく、複数の力を同時に使うことも可能、また生物の特性を混ぜて使用することもできる。

変身している間は生命エネルギーを半永久的に作り出す為、変身者は決して餓えず、老けず、排便や体のケアを必要とする事はない、ただし生命エネルギーは変身中だけであり、長時間変身し解除した際に餓死をするという危険性がある(そもそも食事を必要とせず彼女の性格上合わない為、変身解除しないという選択肢はない)



※戦いのイメージはまんまランペイジバルカン。
現実のコッコロちゃんが動物園に住み、ペコは食への感謝や星の王女という点があったのでこのような能力にしました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20XX 虚王の復活

2号ライダーはいっつもヌルッと出てくる。


「ぐぅっ…ぐっ…がはっ…!!」

 

転がり出てきた恵琉は既に変身が解除されており、懐からアナザーウォッチが飛び出してくる。

 

飛び出していたアナザーウォッチは粉々に砕け散り、霧散。

 

「…大丈夫ですか?」

 

変身を解除しながら近づき手を差し伸べるティアナ、しかし恵琉はその手を払い除け俯く。

 

「私の何が間違っていたというの…!!私は…ただ…!!」

「何者にもなれないのなら、ならなくてもいいじゃないですか」

「…何を…言って…」

 

ティアナは微笑む。

 

「何者である必要はない、自分が自分らしく、それが一番ですよ」

「…貴方は…本当に…王の器…ね…私が出来なかった事は…貴方に…託す…わ」

 

恵琉は微笑み、その言葉を残して気を失った。

 

「終わったね、ティアナ」

「はい!!」

 

そんなティアナに近寄るソウゴ、ウォズ、それだけでなく戦いの終わったゲイツやツクヨミ、キャルもまた歩み寄ってくる。

 

「いいや、我が魔王、彼女の戦いはまだ終わらない、これから歴史は修正され、元に戻る…しかし」

「分かってます、歴史が元に戻るという事は…アイツも…きっと蘇る…」

 

この世界が元に戻ったとしても、ティアナに待ち受ける未来は混沌を極める事だろう。

 

しかし彼女は笑顔になる。

 

「でも…何となくですけど…大丈夫な気がするんです、もう、わたしは迷わないから」

「…うん、そうだね、君なら何か…いける気がする」

 

ソウゴもまた彼女に笑顔を向けた。

 

「あの…えっと…これ…お返しします」

 

ティアナはそんなソウゴにジクウドライバーとユースティアナライドウォッチを返そうとする。

 

ソウゴは何かを察したようだったが

 

「…分かった、こっちは受け取っととく、でも…これはティアナが持ってて」

「でも…」

 

ソウゴはジクウドライバーだけを受け取り、ライドウォッチはティアナの手に渡した。

 

「これは君の力だ、君が持つべきものだから」

「そのウォッチを持っていれば例え歴史が修正されたとしても君はこの時のことを覚えていられる」

「忘れないでティアナ、どんなに離れていても、俺達はずっと友達だよ」

「勿論です!!」

 

そんな会話を他所にゲイツは周りをキョロキョロと確認する。

 

「…それよりも、リボーンの奴はどこへ行った?見当たらなかったが…」

「そういえば…」

「奴の計画は崩れた、アナザーウォッチを壊れ、今の奴に何かできるとは到底思えない」

 

ウォズが軽口でそう言うのだがソウゴは少し険しい表情となり。

 

「でもアイツは野放しにしておけない、門矢士と相談してアイツの動向を探ろう」

 

ソウゴの意見に皆が同意し、その後ソウゴはティアナの方へと向き直る。

 

「俺達はもう行くよ、あのリボーンという男を追わなくちゃいけないから」

「はい、本当にありがとうございました…ソウゴ君、わたし頑張ってみます」

「うん、今のティアナなら大丈夫」

 

ソウゴとティアナの言葉はそこまでだった、2人は背を向けそれぞれの道を歩き出す。

 

ティアナはその場で座り込むキャルの姿を見て微笑む。

 

(あの娘とはきっと…また会える気がします、何となくですけど)

 

ソウゴ達が去り、歴史が修復していく、世界全体が光の粒子に包まれていく。

 

全ての人々がその不思議な光景を見ていた。

 

「ぐぅっ…くっ…ふざけるな…俺は…まだ…!!」

 

その光の粒子が舞う中、地面を這いつくばる男が1人。

 

その男は倒れながら手を伸ばすとその先にある粉々になったアナザーウォッチが修復していく。

 

「まだだ…時期を…待て…俺が…王の力を得る為に…!!奴らを…全てを凌駕する力を得る為に…!!」

 

そして…歴史が元に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?ペコリーヌはこの後、王宮に戻るんだっけ?」

「はい、色々と仕事が回ってきてしまって…今までのように美食殿のギルド活動はできないかもしれません…」

「そう…」

 

キャルが寂しそうに顔を背ける。

 

「仕方がない事だろう、彼女はこの国の王女に返り咲いたんだ、後始末の管理も彼女がやらなければならない」

「…ペコリーヌさまと一緒に活動できるのが少なくなるのは寂しいですね…」

 

さて…これで今日の活動はここまでだ、さっさとギルドハウスへ戻り、私はガシャットを…

 

その時だった、気配を感じる。複数の人間の気配。

 

それを感じ取ったのは私だけではない、コッコロやキャル、ペコリーヌも既に感じ取ってきた。

 

「…何者だ?」

 

現れたのは…王宮騎士団(ナイトメア)…?だが雰囲気が違う。

 

『ナイトメア』

 

奴らは何か手元に収まるくらいの機械を取り出し、それを自身の胸部に持っていくと体が変貌する。

 

「アレは…!!アナザーナイトメア…!!!」

「…何か知っているのかペコリーヌ」

「は、はい…でも…」

 

奴らはこちらに会話をさせるつもりはないらしい、既に攻撃態勢に入っている。

 

『マイティアクションエェックス!!』

 

「まずはコイツらの処理をしてからでも…遅くはないか」

 

私はガシャットを起動し、仮面ライダーゲンムの姿に変身し飛びかかるアナザーナイトメアの攻撃を捌いていく。

 

「サンダーボール!!」

 

それを遠距離から雷の球を乱射しアナザーナイトメアを吹き飛ばす。

 

「主さま、ペコリーヌさま、強化いたします!やぁ!!」

 

強化された私とペコリーヌが前線に立ち、アナザーナイトメアを粉砕していく。

 

「どうして…今になって…!!」

「ペコリーヌ!コイツらは一体何なんだ!?」

 

私達はアナザーナイトメアと戦闘をしながら会話を続ける。

 

「アレは…タイムジャッカーが生み出した…もう1人のわたしの配下です」

「何?」

 

言っている意味は分からないがコイツらは…明確に私達の敵。

 

「ちっ…雑魚だが数が多い」

「どうして…っ!」

 

ペコリーヌはコイツらに何か思うことがあるらしいが…

 

「何なのよコイツら!!気持ち悪い!!」

王宮騎士団(ナイトメア)のように見えますが…異様でございます」

 

数の暴力、それにより徐々にだが私達は押され始めている、ちっ…面倒な奴らだ…!!

 

その瞬間だった。

 

『フィニィッシュタイム!!タイムブレイク!!』

 

キックという文字が複数個出現しその文字ごと蹴り抜ける1つの影、それが私達を襲っていたアナザーナイトメア達を粉砕する。

 

「これは…!!」

 

それに反応示したのはやはりペコリーヌだった。

 

爆炎に巻かれながらソイツは姿を現した、ソイツは…間違いない、仮面ライダー…。

 

「久しぶりだね、ティアナ」

「ソウゴくん!!!」

 

ソウゴ?…彼女の知り合いに仮面ライダーが?

 

っと今はそういう状況ではないな、まずは周りに残っているアナザーナイトメアを…

 

「はぁぁ!!!」

 

キャルやコッコロに迫っていたアナザーナイトメアを次々と拳や蹴りで倒していく複数のライダー。

 

どれも先程現れた…ソウゴと呼ばれたライダーに似たライダー達だった、同じライダーシステム

を使っている…仲間か?

 

「ゲイツくん!ツクヨミちゃん!それにウォズくんも!!」

「これはこれはユースティアナ姫、またお会いできて光栄です」

 

やはりコイツらと彼女は面識があるらしい。

 

あらかた片付き、アナザーナイトメアの残党は劣勢を感じ取りそそくさと退散していく、これで話ができるな。

 

私達は変身を解除、リラックス状態となると、私は素性の知れない者達を見る。

 

男3人に女1人、見たことがない人間だ。私の知る限りのライダーシステムではない、私の知らない仮面ライダーだ。

 

…仮面ライダービルドや今回のこの世界の件もある、もしかしたらコイツらは別世界のライダー、しかも世界と世界を移動できるような力がある。

 

そうでなければ説明がつかない、この世界にライダーがいるのであればこの世界はもっと何かしらの影響を受けているからな。

 

「無事でよかったよ、ティアナ…それに、俺と同じで友達が3人出来たんだね」

「はい、おかげさまで」

 

…となると以前助けてもらった青年というのはコイツの事か…

 

「君達は何者なんだ?ペコリーヌの知り合いのようだが…」

「わたくしの名前はコッコロと申します、ペコリーヌさまとはお知り合いのようですので…こちらはキャルさま、そしてこの方は我が主の檀黎斗さまでございます」

 

私の発言のすぐ後にコッコロが続ける、すると何故かソウゴと呼ばれた男がニヤニヤと笑い始めた。

 

「えっ…檀…黎斗…って…あの檀黎斗?」

「…なんだ、私は君と面識は無いはずだが?」

 

人の顔を見て笑い始めるなど不愉快極まりない。

 

「…君は…仮面ライダーゲンム、檀黎斗で間違いないかい?」

 

ストールを巻いた飄々とした男、確かウォズと呼ばれていたか、ソイツが私に訊ねてくる。

 

「…お前達…何者だ?」

「…この雰囲気…どうやら彼は本当に檀黎斗のようだね、何があったか知らないが…今はこの姿のようだ、それに我が魔王、君が知らない本来の歴史の檀黎斗のようだね」

 

…コイツ…いやコイツらはただの仮面ライダーではない、やはり私の推測通り世界を自在に移動し尚且つ私の事も知っているライダー…

 

「それじゃあこっちも自己紹介だね、この2人はゲイツ、ツクヨミ、こっちがウォズ…そして俺は常盤ソウゴ、王様になるのが俺の目標なんだ」

「ほう、王様…だが甘いな、私は神…いずれこの世界ではそれさえも超越した檀黎斗神王となる」

「…なんか前の檀黎斗よりも凄いね」

「その通りだ我が魔王…オリジナルの檀黎斗はエグゼイド世界でも手を焼く存在だと本には記されていた」

 

コソコソと話すソウゴとウォズを放っておき、私はペコリーヌに近づく。

 

「おい、ペコリーヌ…コイツらは本当に信用できるのか?」

「はい、以前私を助けてくれた人達なんです…ってソウゴくん達がここに来たという事は」

 

ペコリーヌの一言に彼らの表情が険しいものとなる。

 

「前にリボーンって男がいたの覚えてる?」

「それは勿論…」

「あいつの居場所が分かったんだ…アイツは世界を移動してなかった…この世界にずっと…アイツはいた」

 

ソウゴの発言にペコリーヌが驚愕の顔をする。

 

「ずっとって…あの時から…ですか!?」

「その通りだ」

 

そう言ったのはゲイツ。

 

「奴はこの時を待っていた、ユースティアナ、お前の力が戻り、千里真那が敗れるこの時をな」

 

話は掴みづらいがどうやら問題が発生したようだ、しかも現在進行形でだ。

 

やれやれ、千里真那との決戦が終わり、ようやく落ち着けると思っていたらコレだ。

 

「どこにいるんですか!!奴は今!!」

「…君がよく知ってるところだよ…王宮だ」

 

 

ー王宮ー

 

「ついにこの時がきた…!!このアナザーウォッチに貯めた力を解放する時が…!!!!」

 

リボーンは王宮内でアナザーウォッチを掲げていた。

 

そのウォッチは通常のアナザーウォッチにさらに金の装飾がされた特殊なものだった。

 

「このウォッチは既に…王のウォッチ…!!俺がこの力を…!!」

「そのお宝は、僕が頂いていくよ」

 

リボーンの動きが止まる、まるで時間が止められたように体が止まった。

 

「な…にぃ…っ貴様は…っ…仮面ライダー…ディエンド…っ!!」

「そういう事、それじゃあ、これは僕が貰っていくよ」

 

仮面ライダーディエンド、海東大樹は時間を止める能力でリボーンの動きを止めた。そしてゆっくりと歩いて近づき手に持っていたユースティアナアナザーウォッチに手を伸ばした…だが

 

「ふん!!」

「なっ!?ぐはっ!!?」

 

突然動き出したリボーンは海東を裏拳で殴り飛ばし、海東の胸部を足で押さえつける。

 

「甘いな、ディエンド…スウォルツ如き俺は既に超えている…たかがその程度の力で俺の動きを封じられると思うな」

「…そう…かい…っ!!!」

 

海東は倒れた体勢から隠していたディエンドライバーを構え射撃する、リボーンはそれらを手で弾くも海東から距離が離れてしまう。

 

「そのお宝は…この世界にとってはとてつもなく邪悪なものらしくてね…そんな事聞かされちゃあ……ふっ、盗み甲斐があるってものじゃないか」

 

『カメンライド! ディエンド!』

 

海東は隙をつき仮面ライダーディエンドに変身する。

 

「これは渡さん…俺がこの世界に君臨する王となる為に!!…ぐっ…くぅ…うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…!!!」

 

リボーンは自身の胸部にアナザーユースティアナウォッチを持っていくとそれが体内に吸収されると腰部分にベルトが出現しそれはまるでオーマジオウドライバーのようなものだった。

 

「それは…!!」

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

そして体が変貌する、その姿はもはやユースティアナの面影はない、オーマジオウ…王たるライダーのような姿に変化していた。

 

「これが…この世界の…ユースティアナの力か…感じる…これは…まさしく王の力…!!」

「…少し面倒な事にになっちゃったかな…はっ!!!」

 

海東は射撃しながら走る、リボーンはそれを片手間で弾き、接近し殴りかかる海東の攻撃を片手で掴む。

 

「無駄だコソ泥、貴様程度では最早俺の相手は務まらん」

 

海東の腹部に手を持っていくと手のひらから半透明のエネルギーが生まれ、海東を数十メートル吹き飛ばす。

 

「がっ…はっ…!!」

 

『カメンライド! G3! メテオ!』

 

吹っ飛ばされながらもカメンライドでライダーを召喚する、G3-XはGM-01 スコーピオンで先程のディエンドのように前進しながら射撃を開始。

 

そして一気にメテオが接近し、格闘技を仕掛けるのだが

 

「ライダーの力など俺には効かん!!」

 

全て片手で防がれた挙句、メテオは首を掴まれ1度地面に叩きつけられ、更に迫ってくるG3-Xにメテオを投げ飛ばす。

 

そしてリボーンが片手を前に伸ばすとそこから先程ディエンドにやった半透明のエネルギー弾を飛ばし2人を消し飛ばす。

 

『アタックライド! イリュージョン!』

 

6体に分身した海東は接近しながら射撃で攻め立てる、ノーガードでリボーンは受け切り、近寄る分身海東を次々と一撃で粉砕する。

 

そして本物の海東は蹴り上げで腹部、右左と連続パンチ、更に後ろ蹴りを打ち込むと直撃した海東は大きく吹き飛び王宮の壁に衝突、壁は砕け散りそのまま床に叩きつけられた。

 

「所詮、仮面ライダーディケイドの金魚の糞か…貴様に用はない、消えろ」

「…は…はは、それは心外だなぁ…僕が…士の糞だって?」

 

『アタックライド! ブラスト!』

 

エネルギー弾を分裂、四方から迫るようにホーミングさせる弾丸を放つ、それは全て簡単に消されてしまうのだが。

 

『アタックライド! インビジブル!』

 

再び隙をついた海東はリボーンの前から消えた。

 

「…ふん、やはりコソ泥…逃げ足だけは早いな」

 

リボーンはそのまま王宮の壁を破壊するとそこからエネルギーを放出する、それらは空中でアナザーナイトメアウォッチとなり街全体を覆い尽くすように落ちていく。

 

「この世界は俺のものとなる、王の力を…見せてやる…くくく…あっはっはっはっ!!!」

 

 

「ヤバいっス!!ヤバいっスよ!!」

 

剣を片手に狼狽えているマツリはトモと共に街中に現れたアナザーナイトメアと戦闘していた。

 

「変な機械を拾ったり当たったりした人達が次々と怪物になってる…これは一体…?」

「しかも強いっスよ!!こんなの…みんなを守りながらじゃあ…!!」

「ぐすっ…み、ミミも…マツリちゃんと一緒に戦うもん…!!」

 

少女達はなんとかアナザーナイトメアの軍勢と戦えているが時間の問題だろう。

 

その時だった、ドンドンと何発かの発砲音が響き、マツリに襲いかかっていたアナザーナイトメアは火花を散らしながら吹き飛ばされる。

 

「な、なんスか!?」

「ここは俺に任せて、お前達は逃げろ」

 

そこに現れたのはハンドガンを手に持ち、首からカメラを下げた男、門矢士。

 

「あ、貴方は…一体…?」

「通りすがりの仮面ライダーだ、別に覚えなくてもいいぞ、お嬢さん方」

 

『カメンライド! ディケイド!』

 

「な…と、トラタイガー!?」

 

マツリは目をキラキラさせながら士を見る、士はそれを無視しながらアナザーナイトメアに連続でキックを打ち込んでいく。

 

「つ、強い…!!ま、マツリちゃん、今のうちにミミちゃんを連れて逃げよう」

「えっ…でも…うう…もっと見てたいっスけど…今は人命優先っス!」

 

3人は士にその場を任せ、離脱する、士は次々迫るアナザーナイトメアを格闘でねじ伏せる。

 

次にライドブッカーを出現させ

 

『アタックライド! スラッシュ!』

 

刀身にエネルギーを纏わせて一時的に分身させ、一振りで数太刀の斬撃を複数体に浴びせ、アナザーナイトメアは爆散する。

 

「……来ていたのか、海東」

「…まぁね、士のいる所に僕ありってね」

 

心底うんざりしたため息をしつつ

 

「…お宝を盗む事に失敗したようだな」

「以前…この世界に来たことがあったから地の利は得てたつもりだったんだけどね…そういう士こそ、珍しいじゃない、タイムジャッカー関連に自分から参戦するなんて」

「奴は力をつけ過ぎた…この世界は俺の手で破壊する」

 

海東も士の隣で変身し、構える。

 

「行こうか、士…世界を壊しに」

「…ふん」

 

2人のライダーがアナザーナイトメアに向かっていく。

 

 

 

 

「ほう、つまり君は檀黎斗の従者だと」

「左様でございます、そういうウォズさまもソウゴさまを魔王とお呼びしておられましたよね?」

「その通り、私も常盤ソウゴの従者、君と同じさ」

 

コッコロはどうやらウォズと仲良くなったようだ。見ればウォズが手に持っている本をコッコロは見せてもらっている。

 

「コッコロ君、これが初めて私が我が魔王を祝った日だ」

「成る程、その度にこうやって賛美をしていらっしゃるのですね」

「君も檀黎斗の成長を喜ぶ際はこうやって祝うといい」

「それはいいですね」

 

…何やらウォズに変なことを吹き込まれているようだが。

 

「王宮…ですか」

「うん、アイツは今、あそこにいて…この状況から考えられるとしたらもう街は…」

「でも、安心して、あたし達は貴方の味方よ、また力を合わせてリボーンを倒しましょう」

「…はい!!」

 

リボーンとやらが何者かは分からないが私の邪魔をするというのならばこの手で削除しなければならない。

 

コイツらが何者かは分からないが協力する他ない。

 

「準備が出来次第、ランドソルに向かうぞ、奴を止める」

 

ゲイツの一言で皆の気が引き締まる、1番に引き締まっているのはペコリーヌだ。

 

「わたしの…過去の因縁にも決着をつけなければなりません、黎斗くん、キャルちゃん、コッコロちゃん、付き合ってくれますか?」

「…当たり前じゃない、あたし達はあんたも含めみんな合わせて美食殿よ」

「キャルさまの言う通りでございます、わたくし達はペコリーヌさまが困っていると言うのなら全力でお付き合い致します」

 

彼女達の発言、その後、何かを求めるようにペコリーヌがこちらを見る。

 

「…安心しろ、私も手伝ってやる、君はドンと構えてればいい」

「黎斗くん……えへへ、やっぱりわたしはみんなが大好きです!ギュー!!」

「ちょっ…抱きつくなぁ〜!!く、苦しいっ」

 

私達はペコリーヌに無理やり抱きつかれ苦しい思いをしつつ、迫る決戦を前に心を落ち着かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回のイベントでマヒルの人気は上がるだろう、俺の占いは当たる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20XX 集いし王

黎斗の出番は…次回になりそう


  

 

 

 

「大分時間経ったけど、どうかな士、少しは…疲れてきたんじゃないかい?」

「寝言は寝て言え、この程度の荒ごと…慣れてるだろ」

 

次々と迫るアナザーナイトメアの集団、キリがない程溢れ返るその傀儡達は倒しても倒しても増えていく一方だった。

 

『ファイナルアタックライド! ディ・ディ・ディ・ディケイド!』

『ファイナルアタックライド! ディ・ディ・ディ・ディエンド!』

 

しかしこの状況の中、2人のライダーはライドブッカー ガンモード、ディエンドライバーから光の弾丸を連射し、無数のアナザーナイトメアを撃破し、一時的にこの場から敵はいなくなる。

 

「これが王の力ね…」

「…いいや、ここからが本命のようだぞ、海東」

 

士がライドブッカーをソードモードに変化させ、刀身を撫でながら前を見るとそこに居たのは仮面ライダーグレイブ、仮面ライダーアビス。

 

「これはまた…嫌なものを用意してくれたものだね」

 

海東はディエンドライバーをクルクルと回しながら心底うんざりした声色で呟いた。

 

「気を引き締めろ海東…来るぞ!!」

 

士の声と同時に動き出す、グレイブは醒剣グレイブラウザーを、アビスはソードベントを発動し右手にアビスセイバーを持ち2人に接近していく。

 

ディエンドはグレイブを、ディケイドはアビスをそれぞれ相手する。

 

激しい攻防、互いの力は拮抗し、決め手となる攻撃を仕掛けることが出来ない。

 

更にその最中、周りにゾロゾロとアナザーナイトメアが集結し始めた、その数は30体以上。

 

「これは…流石に…っ!!」

 

海東が弱音を吐き始めたその瞬間、周りに集まり始めていたアナザーナイトメアの数体が突然吹き飛び始めた。

 

「大丈夫っスか!!?お兄さん達!!」

「応援を呼んできました!!私達も貴方達のお手伝いをさせてください!!」

 

そこには先程、士が助けた少女2人の姿があった、それだけではない。

 

「クリスちゃん、そっちを頼む」

「任せろ団長、久しぶりに楽しい宴が開そうじゃないか!!」

 

王宮騎士団(ナイトメア)団長ジュン、元副団長クリスティーナ、更にはトワイライトキャラバン、ヴァイスフリューゲルなどの武闘派ギルドもアナザーナイトメアとの戦闘に加わった。

 

「ふっ…どうかな、士」

「…何がだ」

 

2人はそれぞれのライダーと戦いながら呟く。

 

「随分と久しぶりだろう、初めから憎まれない立場にいるなんて」

「…そうだな、悪くない」

 

2人はそれぞれ、ソードとディエンドライバーを使い、胸部に攻撃をする事で相手と距離を離す。

 

『カメンライド! 龍騎!』

 

士はその隙に龍騎に変身し、更に海東にカードを投げ渡す。

 

「コイツを使え」

「…士…!」

 

投げ渡されたカードと自身が元々持っていたカードを1枚取り出し

 

『カメンライド! ブレイド!ギャレン!』

 

海東はライダーを召喚、そして2人は更にカードを取り出す。

 

『ファイナルアタックライド! リュ・リュ・リュ・龍騎!』

『ファイナルアタックライド! ブ・ブ・ブ・ブレイド! ギャ・ギャ・ギャ・ギャレン!』

 

士はドラゴンライダーキックの構えを取り、海東が召喚したブレイド、ギャレンはそれぞれライトニングブラスト、バーニングディバイドの構えを取る。

 

士はドラグレッダーの火炎と共に仮面ライダーアビスを蹴り抜ける。

 

仮面ライダーグレイブに対して海東は射撃で足止めし、その間にブレイドとギャレンが接近、ブレイドが雷の剣で腹部を斬り裂き。2人に分身したギャレンが足に炎を宿しながら飛び、回転蹴りを打ち込むとグレイブは爆散する。

 

海東が召喚したライダーが消え、龍騎に変身した士はディケイドの姿に戻り、士はそのまま海東に近寄ると

 

「返せ」

 

ブレイドのカードを海東から強引に奪い取る。海東は少し不服そうな動きをしつつも強敵を撃破し互いに少しリラックス状態となった。

 

「ふぅ…一応ひと段ら…っ!!?」

 

油断していた2人に襲いかかる半透明のエネルギー、それに直撃した2人は後方に吹き飛ばされ地面を転がる。

 

「随分と好き勝手してくれていようだな、仮面ライダーディケイド、ディエンド」

「…それはこっちのセリフだ…タイムジャッカー」

 

ゆっくりと現れたのはリボーン、その姿はまさにアナザーオーマティアナというべきか。

 

士は立ち上がり、アナザーオーマティアナと対峙する。

 

「見ろこの力を、まさに王の力だ、素晴らしいとは思わんかね?」

「興味ないな、何故ならこの世界は俺に破壊されるんだからな」

「ついでにそのお宝は僕が頂いていく、覚悟したまえ」

「…貴様達のような、物語の無い者達にこの力の素晴らしさは分からないか…」

 

その言葉を皮切りに士と海東が同時にリボーンを攻撃する、2人の攻撃は全て回避され、海東の手に持つディエンドライバーは右手ではたき落とされる。

 

「うぐっ!?」

「海東!!!」

 

そのまま右手で首を掴まれた海東は宙に浮かされる、瞬間、背後から士がリボーンを斬り付ける。

 

しかしリボーンはそれを察知し後ろ蹴りを放つ、まともにソレを胸部に受けた士は数歩後退、リボーンが左手を向けると再び半透明のエネルギーが士を襲い、数十メートル先の壁まで吹き飛ばされ強い力で叩きつけられたように壁にめり込む。

 

リボーンは海東の首を掴んだまま、左手を上に振り上げると、それに呼応し士も真上に吹き飛ばされる。

 

直後、今度は逆に腕を振り下ろすと凄まじい速度で士は地面に叩きつけられ土煙に消える。

 

「つか…さ…っ…!!」

「今度は貴様の番だ」

 

リボーンは醒剣グレイブラウザーを召喚すると首を掴んでいた右手を離し、瞬間的に宙に浮かぶ海東を連続で斬りつけた。

 

吹き飛ばされ地面に倒れ込む海東は、胸部を手で押さえそのダメージの大きさに呻く事しか出来なかった。

 

「はぁーっはっはっは!!世界の破壊者ともあろう存在がこの程度とは笑わせる、いいだろう、貴様達の物語にこの私が終わりをつけてやる、バッドエンドという名の終わりをな」

 

海東と士、2人は震える体に鞭を打ちながら立ち上がる。

 

その時だった、リボーンに伸びる硬質化したストール、それによりリボーンの体は軽く弾かれ、2人はトドメを刺される事はなかった。

 

「むぅ…っ!!何者だ!!!」

「随分とやられているようだね、海東大樹、門矢士」

 

そこにいたのはウォズ、そして周りには常盤ソウゴを筆頭にした魔王軍と檀黎斗を筆頭にした美食殿の姿があった。

 

「…ったく、遅いぞ、お前達、本来はお前達の仕事だ」

「ごめんごめん、ティアナ達を探すのにちょっと時間がかかっちゃって」

 

軽口を叩く士とソウゴ、目の前にいるリボーンはそんなやりとりを鼻で笑い。

 

「随分と余裕だなオーマジオウ、貴様は私を舐めているのではないか?」

「…随分と雰囲気が違うね、今のあんた…それに…」

 

ソウゴの目は奴の腰部分に取り付けられた物に向けられる。

 

「オーマジオウと同じベルト…」

「恐らく、ティアナ姫の力を蓄え続けたウォッチを解放し生み出したものだろう…いわばアレは…アナザーオーマティアナと言ったところか」

 

リボーンは両手を広げ、体から圧倒的なオーラを放ち、この場にいる全員に圧力をかける。

 

並みの人間ならばすぐに膝をつき、まるで王の前に傅くような光景になるだろう、しかしこの場では誰1人として膝をつく者はいない。

 

「リボーンさん…貴方はずっと前にわたしから全てを奪いました」

「何を言っている奪ったのは恵琉だ、千里真那だ、私ではない」

「貴方が…!!!貴方がいなければ…あの人が道を間違える事はなかったんです、だから…その因縁にも決着をつけなくちゃいけません」

 

ペコリーヌの目は真っ直ぐにリボーンに向けられる。

 

「事情はわからない…が、この世界は既に私の世界だ、その世界で好き勝手にやろうというのならば…君は非常に貴重なサンプルではあるが仕方がない、削除させてもらう」

 

黎斗もまたゲーマドライバーとガシャットを取り出し戦闘態勢に入る。

 

「ふっ…面白いことを言う……貴様達が最初の贄だ!!」

 

キャルやコッコロ、ペコリーヌ以外のメンツがそれぞれのドライバーとアイテムを取り出し、腰に装着。

 

「ティアナ!コレを!!」

 

その時、ソウゴがペコリーヌにジクウドライバーを投げ渡す。

 

「これって…」

「使う時、今がその時なんじゃない?」

「…はい!!!」

 

『ユースティアナ』

 

『ゲイツ・ツクヨミ・ジオウ・ウォ↑ズ・マイティアクションエェックス!!』

 

「「変身!!!」」

 

それぞれが変身音を鳴り響かせ、エフェクトに包まれると、仮面ライダーに変身を完了させる。

 

仮面ライダーではないキャルやコッコロはそれらの光景に心を躍らせ、見入っていた。

 

「なんと…ペコリーヌさままで…」

「あんた…黎斗と同じ姿になれたの!?どこまでバケモンになんのよあんたは!!?」

「すみません、隠していたわけではなかったんですけど、色々と事情があって」

 

その姿に驚いていたのは何もキャル達だけではない、黎斗もまた驚きを隠せていなかった。

 

(…あのアナザーオーマティアナといい、ユースティアナという名前のアイテムといい…ペコリーヌには何か特別な力があるのか?…ふむ、特別な力を持つ王女か……これは次回のゲーム作りに活かせるかもしれないな…)

 

そんな事を考えているとは他の誰もが知る由もない。

 

「ふん…!」

 

リボーンが広げた両腕に力を込めるとアナザーウォッチが2つ出現しそれらのスイッチを起動する。

 

するとリボーンの両隣にアナザーディケイドとアナザーディエンドが出現しこちらを見据える。

 

「王の凱旋だ!!ひれ伏すがいい!!」

 

リボーンの声と共に動き始める。

 

「分かれて各個撃破だ!!散れ!!!」

 

こちらは士の一声で動く。

 

アナザーディケイドを士、ツクヨミ、キャル。

 

アナザーディエンドを海東、ゲイツ、ウォズ、コッコロ。

 

アナザーオーマティアナをペコリーヌ、ソウゴ、黎斗。

 

それぞれが分かれ、戦闘を開始する。

 

 

 

アナザーディエンドを取り囲むように士とツクヨミが剣や拳を使って攻撃。

 

「兄さんの亡霊…今度こそあたしの手で倒す!!」

「威勢がいいなツクヨミ」

「当たり前でしょ!?貴方こそ相手はアナザーディケイドなのよ!?」

「…そうだな、確かに気分がいいもんではないな」

 

2人は会話しながらも的確にアナザーディケイドの攻撃を躱しイナしていく。

 

しかし相手は腐ってもアナザーディケイド、接近戦では劣勢、大きなダメージを負う訳ではないが、2人は何度か軽いダメージを受けてしまっている。

 

「あんたら…くっちゃべってないで真面目に戦いなさいよね!!グリムバーストォ!!」

 

その時だった、キャルの後方支援によりアナザーディケイドが吹き飛び、隙ができる。

 

「丁度いい、ツクヨミ、これを使え!」

「えっ!?これって…」

「先輩からのプレゼントだ、ありがたく使え」

 

ツクヨミは静かに頷くと

 

『ディケイド!アーマータイム! カメンライド!ワーオ! ディケイド!ディケイド!ディーケーイードー! 』

 

「ってアレ?…ソウゴの時と違う見た目に…」

 

ツクヨミの指摘通り、ソウゴの時のディケイドアーマーとは違く、他のアーマータイム同様、ツクヨミにディケイドアーマーが装着されているような見た目となっている。

 

「当たり前だ、お前はジオウとは違うんだからな」

「た、確かにそうよね…よし!」

 

ツクヨミは左手にヘイセイバーを出現させ、右手は光の粒子から形成されたルナミスフラクターの二刀流でアナザーディケイドに向かっていく。

 

連続攻撃を仕掛けるツクヨミ、士も同じように攻撃を仕掛けるのだがアナザーディケイドが手を翳すと士の動きが止まる。

 

更に援護していたキャルの攻撃魔法もまた空中で停止、時間を止めたのだ。

 

その中でツクヨミだけが動き続け、アナザーディケイドと攻防を続ける。

 

そしてアナザーディケイドの右手なぎ払いを横回転しながら回避、それと同時に手を翳すとアナザーディケイドが止めていた時間が動き出す。

 

それによりキャルの放った攻撃魔法が動き、アナザーディケイドに連続で当たる、更に士も静止状態から動きだしこちらも連続で剣で斬り付ける。

 

アナザーディケイドは吹き飛ばされ、大きく隙を作ることになり

 

『フィニィッシュタイム!ディケイド! アタック!タイムジャック!!』

『ファイナルアタックライド! ディ・ディ・ディ・ディケイド!!』

「これで終わりよ!!アビスバースト!!」

 

アビスバーストによりアナザーディケイドの動きが止まると、2人のライダーが跳躍、目の前に巨大なカードが一列に並び、そこを通過しながらアナザーディケイドにキックを叩き込む。

 

それによりアナザーディケイドは爆散し消えていく。

 

 

 

アナザーディエンドと接近して戦う、ゲイツ、ウォズ。

 

ゲイツの手には斧、ウォズの手には槍、それらを腕を使って防ぐアナザーディエンド。

 

「全く…コイツは見るのも嫌なんだけどねぇ…」

 

海東はブツクサと文句を言いながら遠距離から襲撃し続ける。

 

そしてアナザーディエンドが手を翳すと、2体のアナザーライダーが召喚される、それはアナザー鎧武とアナザー龍騎。

 

それらが空中からオーロラのようなカーテンから出現しゲイツとウォズを狙う。

 

「巻き起これ、風よ!!」

 

しかしその前にコッコロの風魔法により空中で風の刃を受けたアナザーライダー達はバランスを崩し、そのまま地面に倒れる。

 

「君小さいのにやるね」

「お褒めいただきありがとうございます」

 

海東がコッコロを褒めつつ

 

『カメンライド! バロン! ナイト!』

 

仮面ライダーバロン、ナイトを召喚しアナザーライダーの相手をさせる。

 

ウォズ、ゲイツはアナザーディエンドに弾き飛ばされ、地面に倒れ込むもすぐに立ち上がり。

 

「ウォズさま!ゲイツさま!わたくしにお任せを…!!!風の御加護を…やぁぁぁ!!!」

 

コッコロは魔力を高め、ゲイツ、ウォズに風を纏わせ身体能力を上げる。

 

「体が軽い…」

「これならば…!」

 

2人はまるでゲイツリバイブ疾風、フューチャリングシノビになったかのように高速移動し、連続でアナザーディエンドを斬り付ける。

 

アナザーディエンドが召喚したアナザーライダーはディエンドが召喚したライダーによって撃破され、海東はカードを1枚、ディエンドライバーに挿入する。

 

『ファイナルアタックライド! ディ・ディ・ディ・ディエンド!』

 

19個のエネルギーが銃口に集まっていき、巨大なエネルギービームとなってアナザーディエンドを吹き飛ばす。

 

『フィニィッシュタイム!タイムバースト!!』

『ビヨンドザタイム!!タイムエクスプロージョン!!』

 

立ち上がったアナザーディエンドに間髪入れずにライダーキックをお見舞いし、アナザーディエンドは爆散する。

 

 

アナザーオーマティアナと戦闘をしていたソウゴ、ペコリーヌ、黎斗は劣勢だった。

 

「うぐぁぁぁぁっ!!」

「ソウゴくん!!黎斗くん!!!」

 

男2人のライダーはリボーンの強力な回し蹴りで地面を滑るように吹き飛んでいく。

 

ペコリーヌのみリボーンとギリギリの攻防を続けていた。

 

「お前のおかげだユースティアナ…お前が王の心に目覚め、千里真那を破った…それにより以前よりもより強力な力をこの…アナザーウォッチに蓄えられたことにより私はこの力を得ることができた」

「…っっ…!!」

 

ペコリーヌはバッタの軍勢で攻め立てることでリボーンと距離を離し、剣を振るう事でそこからサメが出現しリボーンを噛み砕く。

 

が、リボーンが腕を振ると噛みつこうとしていたサメは粉々に砕け散り、逆にその衝撃波がペコリーヌを吹き飛ばす。

 

「ティアナ!!」

「ペコリーヌ!!」

 

ソウゴと黎斗が吹き飛ばされたペコリーヌに近づくと、リボーンが両腕を広げ。

 

「見せてやろう…この私の真の力を…はぁぁぁぁぁ!!!」

 

リボーンの周囲が激しく揺れ、雷が迸り、更に光が溢れ出す。

 

それはドンドンと大きくなっていき、周りの物体を吸収し始めた。

 

「…なんだ…これは…!!」

 

黎斗が思わず呟く。見上げる程巨大、王宮と完全に融合したリボーンはまるでアナザーオーマティアナの姿をしたゴーレム。

 

「これこそが!!真の王の姿!!力!!!!何人たりとも私の前に立つ事は許さない!!!」

 

ゆっくりと振り下ろされる右腕が地面にぶつかると、とてつもない暴風と地鳴り、衝撃波が巻き起こり、ペコリーヌ達だけでなく、士や海東、更にはジュン達など、全ての人間が巻き込まれ吹き飛ばされた。

 

「くっ…っ!!けほっ…けほっ…なんて…力…っ!!」

 

砂煙の中、ペコリーヌが立ち上がると更に

 

「王のなり損ない共め!!この私が引導を渡してやる!!」

 

両目がキラリと輝くと薙ぎ払うように極太のビームが掃射され、数百メートル範囲の街が焼き払われる。

 

爆炎と爆風が襲いかかり、再びペコリーヌ達は大きく吹き飛ばされ、更に全員が変身解除にまで追い込まれる。

 

「バカなっ…ここまで力の差があるとは…っ!!」

「あたし達じゃ…アイツを止められないっていうの…っ!!?」

 

ゲイツとツクヨミが地面に倒れ込みながら弱音を吐く。

 

「諦め…ちゃ…ダメです…ここで…諦めてしまったら…ここに生きる…民が…みんなが…笑って暮らせない…!!」

 

変身解除してもなお立ち上がるペコリーヌ。

 

「ああ…ティアナの言う通りだ、俺だってそうだ、民の笑顔を守る…それが王様だ!!!」

 

最初に立ち上がったのはペコリーヌとソウゴ、2人の王だった。

 

「…くだらんな、所詮貴様らは王のなり損ない…力を手にする事を拒んだ、軟弱者達だ、真の力を得た私の前に…消えるがいい!!!」

 

振り下ろされる巨大な拳、しかし2人は逃げない、目を背けず、振り下ろされる拳をただ睨みつけていた。

 

「我が魔王っ…!!」

 

倒れながらもウォズはソウゴを心配していた。

 

しかし、その心配は杞憂に終わる。

 

「よくぞ言った、若き日の私よ」

 

ドンッと炸裂音が響き、巨大な腕が空中で静止する。

 

「なにぃっ!?き、貴様は…!!!!」

「…オーマジオウ」

 

ソウゴが呟く、視線の先にいたのは両腕を使い、振り下ろされる巨大な腕を触れずに止めていた。

 

「お前の覚悟、変わらずに何よりだ若き日の私よ」

「何故だ!!何故、貴様がいる!!!」

 

そう叫んだのはリボーンだった。リボーンは腕の力を強めるとそれを止めているオーマジオウの体が地面を滑るように少し後退する。

 

「貴様は!!この世界には存在しない筈だ!!そして!!貴様には世界を移動する力など無い!!!例えそこにいるディケイドの力を使ったとしても!強大すぎる貴様の力ではこの世界に来る事は不可能だ!!!」

「ぐぅぅっ…っ!!!」

 

更に力が強まる、相手よりも必ず上回る力を保有するオーマジオウでさえ今のリボーンの力を完全に受け止めることができない、徐々に徐々に後退していき、足元は強烈な摩擦で火花を散らす。

 

「…そうだな、私の力ではこの世界に来る事はできない、彼の力を利用しこちらに来る事も…な」

「ならばどうやって!!!!」

「私は『彼女』の力を使ってこの世界に来たのだ」

「…『彼女』…?ぐぁぁあっ!?」

 

次の瞬間、オーマジオウが抑えていた巨大な腕が中腹から粉々に砕け散る、それによりオーマジオウは体勢を整え、リボーンを見上げる。

 

「何が…起きてっ…っ!!」

 

粉々になった腕を見ながらリボーンは呟く、そして

 

破壊された事により周りに砂煙が発生し視界が悪くなっているその中で、1つのシルエットがオーマジオウの元へ向かって歩いていた。

 

「アレは…!!」

 

砂煙が晴れると先に呟いたのはペコリーヌ。

 

「…その言葉が聞けて、とても嬉しいですよ、『若き日のわたし』」

 

そこにいたのはオーマジオウ同様、黄金の鎧に身を包んだ、仮面ライダーティアナ…まさにオーマティアナと呼べる存在がそこにはいた。

 

 

 




プリコネはママキャラが多すぎる。

◯◯は…俺の母親になってくれる女性なんだ…!!!

みんなの◯◯は誰?  僕は王道を往く…………コッコロたんです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20XX 光指す未来へ

ライダーリンチ!駆け抜け〜ろ〜このクロニクル〜

今回の話を書いた感想 文字が多くて目が痛い


「な…なんだ…貴様は…っ!!!」

 

巨大なゴーレムとなったリボーンが、突如現れたオーマジオウに酷似したライダーに吠える。

 

「…わたし、ですか…わたしはユースティアナ・フォン・アストライアですよ」

 

その黄金のライダーはそう呟きながらリボーンの方へと向き直る。

 

「ユースティアナ……あの人は…未来のわたし…」

 

ペコリーヌもまた、そのライダーの事を見つめていた、静かに立つ彼女の隣にオーマジオウが並ぶ。

 

「…そういう事か…」

 

その光景を見て呟いたのはウォズ、彼女の姿に何かを察したようだった。

 

「どういう事だ…っ!!!ユースティアナが…オーマとなり…この時代に…やって来たというのか…っ!?」

「君が言ったんじゃないか、彼女には『オーマジオウに至る力がある』ってね」

「…!?」

 

ウォズの発言に明らかに動揺を見せるリボーン。

 

「本来、彼女がオーマの力を得る事は決してなかった、しかし、彼女がそのジクウドライバーを手にした、あの日、あの時からこうなる未来の可能性が生まれたという事だね」

「未来とは、数多の可能性を秘め、無数に存在する、私や彼女の存在はそのうちの1つに過ぎない、それは貴様が1番理解しているだろう、タイムジャッカー」

 

ウォズに続けてオーマジオウが言い放つ。

 

「…若き日のわたし…ティアナ…貴方の心が折れない限り、わたしはわたしであり続けることができます、何年経とうと何十年経とうと希望の光をその心の中に宿すのです、ほんの少しでも」

「…はい、大丈夫です、わたしには大切な人達がいますから、その人達を守る事ができるのなら、わたしは決して、わたしの中の希望の光を失う事はありません」

「…そうですか」

 

その言葉を受けたオーマティアナは1度、黎斗やキャル、コッコロの方をチラリと見た後、ペコリーヌに再び顔を合わせる。

 

「ならば、わたしも全力で協力しましょう、貴方の希望の光をわたしが守ります、…ソウゴくん」

 

オーマティアナがオーマジオウに顔を向けて名前を呼ぶと、オーマティアナとオーマジオウがそれぞれペコリーヌとソウゴの前まで歩いて近づく。

 

「手を」

 

オーマティアナの一言でソウゴとペコリーヌが片手を差し出すとそれぞれ、片手づつ手をかぶせるとその手に何か強大な力が集まっていく。

 

「若き日の私よ、お前の信念で彼女の未来を守れ、お前が自分自身の未来を切り開いたように」

「…ああ、任せて」

 

ソウゴは笑顔で言うと同時、一瞬4人が光に包まれると、ソウゴとペコリーヌの2人、その手にはそれぞれウォッチが握られていた。

 

「ティアナ、君の未来を明るい未来にする為に」

「はい、ソウゴくん…わたしの未来はわたし自身の手で切り開きます」

 

2人の決意に納得したのかオーマティアナとオーマジオウが顔を見合わせ、静かに肯く。

 

「ふふ、これは面白い事になって来たんじゃないかな…士」

「…そうだな、役者は揃った」

「ゲイツ君、これを使いたまえ」

 

海東は自身が持つカードをばら撒くとそれが空中で集まり1つのライドウォッチに変化する。

 

「これは…」

「それと、檀黎斗!!君にもこれをプレゼントだ」

「何?」

 

海東は更に黎斗に向けてアイテムを投げ渡す。

 

「…ほう、これは」

 

それを黎斗は受け取るとゲイツ、ツクヨミ、ウォズと共にソウゴ達の隣に並ぶ。

 

「おい、海東、お前それはどうやって」

「ん?言ったろう士、僕は以前からこの世界に来ていてね、彼が檀黎斗だという事に気付いていたんだよ、だからこんな時もあろうかと彼の世界からちょっと拝借しておいたのさ」

 

海東の軽い発言に呆れながら2人もペコリーヌ達の隣に並ぶ。

 

「行こう!みんな!!」

「あの人を倒して未来に光を取り戻します!!!」

 

「「変身!!!」」

 

『オーマジオウ!』『オーマティアナ!』

 

『ゲイツマジェスティ!』『ツクヨミ!』『ギンガ!』

 

『ゴッドマキシマムマイティエックス!!ゼッタイフメツゥ!!』

 

『クウガ アギト 龍騎 ファイズ ブレイド 響鬼 カブト 電王 キバ W オーズ フォーゼ ウィザード 鎧武 ドライブ ゴースト エグゼイド ビルド ジオウ』

 

『G4 リュウガ オーガ グレイブ 歌舞鬼 コーカサス ガオウ アーク スカル エターナル ポセイドン なでしこ ソーサラー マルス ダークドライブ エクストリーマー 風魔 ブラッド バールクス』

 

『キングタイム! 仮面ライダージオウ!オーマー! 』

『プリンセスタイム!仮面ライダーティアナ!オーマー!』

 

『マジェスティタイム! G3・ナイト・カイザ・ギャレン・威吹鬼・ガ・タ・ッ・ク! ゼロノス・イクサ・ディエンド・ア・ク・セ・ル! バース・メーテーオ・ビースト・バロン! マッハ・スーペクター・ブレイーブ! クーローズ! 仮〜面〜ラ〜イダーー! Ah~↑!!ゲイツ!マジェ〜ス〜ティー! 』

 

『ライダータイム! 仮面ライダーツク〜ヨミ♪ツ・ク・ヨ・ミ!』

 

『投影!ファイナリータイム! ギンギンギラギラギャラクシー!宇宙の彼方のファンタジー!

ウォズギンガファイナリー!ファイナリー! 』

 

『閃け!神の如く!最上のゲームクリエイター!ゼッタイフメツ!ゲンムゥ!!!』

 

『ファイナルカメンライド!ディケイド!』

『ファイナルカメンライド!ディエンド!』

 

この場に総勢10人のライダーが揃った、全員が用いる最強のフォームとなり強大な力を持つリボーンに立ち向かう。

 

「舐めるなよ…虫けら共がぁぁぁぁぁ!!!」

 

腕を再生させたリボーンの叩きつけが再び行われる、しかし

 

「ふぅん!!」

「はぁ!!!」

 

オーマティアナとオーマジオウの2人がその腕を手も触れずに止める。

 

「…なんという光景だ…っ!!このような機会は滅多に訪れない…!!祝わなければ…!」

 

ウォズは興奮のあまりワタワタと狼狽えた後

 

「祝…っ「祝え!!!」っ!?」

 

ウォズの声は掻き消される、ウォズは驚き辺りを探すと、その声の主は自身の斜め後ろ、上方向、崩壊した建物の上に居た。

 

「あ、あれは…!私の逢魔降臨歴…!!」

 

そこに居たのは逢魔降臨歴を片手に自身がいつも祝っている時のように片手を広げ高らかに声を上げているコッコロだった。

 

「時空を超え!過去と未来を繋ぎ止める時の王者、星の王女!彼らの未来に光をもたらす為、数多の英雄達が今!!ここに集結した瞬間である!!」

「…何やってんのよコロ助…」

 

コッコロの後ろにいたキャルはその奇行に若干引いていた。

 

「私が…この時の為にメモをしていたものを全て読まれてしまった…!!!しかし…!コッコロ君、初めてにしては素晴らしい!!」

「え…アレってメモ帳代わりに使ってたの、ウォズ…」

 

ウォズは祝福後輩の初めての祝いに感激し拍手を送り、ソウゴはまさかの衝撃の事実にツッコミを入れざる得なかった。

 

「うう〜♪それにしても!なんか!いける気がする!!」

「はい!ソウゴくん!!なんかすぅっごく!やばいですね⭐︎」

 

そう言ってリボーンに向き直るとリボーンは口部分が裂け、大口を開く。

 

そこから大量のアナザーナイトメア…だけでなく歴代ライダー達を苦しめて来た怪物達が出現する。

 

その数は数えきれない程の数、このランドソルの街を覆い尽くしていく。

 

「何人集まろうと何人来ようと、今の私を止める事は…出来なぁァァァい!!!」

 

リボーンの腕はオーマティアナとオーマジオウにより粉微塵に粉砕されるも一瞬で腕を再生させ振り下ろす。

 

「こっちの相手は俺達に任せろ、行くぞ、海東」

「大盤振る舞いといこうか」

 

士と海東は迫り来る無数の怪人達を前にライダーを召喚する。

 

士は各ライダーの最強フォームを全て出し、海東は各劇場版ライダーを全て出し切る。

 

まさにこの場は戦場となった、数多の怪人と数多のライダーが戦い混沌を極める。

 

ゲイツ、ツクヨミ、ウォズは再び召喚されたアナザーライダー達を相手にしていた、アナザーライダーは全種類存在し、それら全てを相手する。

 

「いい加減、こいつらも見飽きて来たな!!!」『アクセル!』

「あんな奴にいいように使われてこの子達もある意味で被害者よ!!」

「…確かにそうかもしれないね、ここにいる全ての怪人やライダー達は利用されているに過ぎない」

 

ゲイツはエンジンブレードで相手を斬り裂きながら

 

「だからこそ、俺達が救ってやらなきゃいけないんだ」

「…流石は救世主」

 

リボーンは腕を増やし合計6本の腕でオーマジオウ、オーマティアナ、ペコリーヌ、ソウゴ、黎斗を相手にする。

 

「分かっていないようだな!!」

「何がだ!!」

 

リボーンは彼らに攻撃をしながら吠える、ソウゴはそれに対して声を荒らげて聞き返す。

 

「私の配下はここだけではない!全世界に放たれた!!いくら貴様らが強かろうが全ての人間を救う事はできない!今、この瞬間も!数多の人間が犠牲になっているだろう!!」

「ふっ…その点に関しては安心するといい…」

 

そう言ったのは黎斗だった、黎斗は迫る腕を回し蹴りで吹き飛ばし。

 

「私のゼッタイフメツが起動した…この世界には10億のゲンムがばら撒かれ、それらが全て現場の対処をしているゥ…今現在でお前の配下による犠牲は1人も出ていない」

 

黎斗の言う通り、世界のあちこちにゲンムが出現しそれらが怪人の対処を行い、更に倒した怪人がゲンムの姿となって個体数を増やしいている。

 

「なんだと!?」

「流石は黎斗くんです!!わたしも負けていられませんよ!!」

 

降りかかる腕を全身で受け止めたペコリーヌはそのまま掴み、力一杯その場で後ろに振り返るような動作をすると、巨大な腕をなんと根本から引き千切り投げ捨てる。

 

更に再生していく腕部分に炎を纏ったタカが体当たりを仕掛け、その後を続くように巨大な虎が斬り裂き、バッタの軍勢が傷口をえぐる、それによりリボーンの腕の回復速度が一気に低下していく。

 

オーマティアナ、オーマジオウに腕が次々と破壊されていき、更に

 

「うぉぉぉぉぉ!!!」

 

ソウゴの蹴りがリボーンの胸部に撃ち込まれる。

 

「ぐぅぅぅっ!?!?!?ぐぉぉぉぉ!!!」

 

リボーンは死に物狂いで覇気を迸らせ蹴り込んできたソウゴを弾き飛ばし、破壊された腕を無理やり再生させ、更にその数を6本から22本に増やす。

 

そして腕の形から変化していき22本のうち20本がそれぞれ、別の生物の顔を模した物に変化する。

 

「ぐぅぅっ!!何故だぁ!!何故!俺の力がっ!!俺は既にオーマの力を凌駕している筈!!最強の力を手にしている筈なんだ!!」

「違う!!お前の力なんて最強でもなんでもない!!1人で手にできる力なんて!ちっぽけなものなんだ!!」

「決して1人では最強になんてなれません!!みんながいるから…みんなの絆が…それが!!わたし達の強さなんです!」

「黙れぇぇぇぇ!!」

 

リボーンの複腕が同時に動く、その時だった。

 

「おりゃぁぁぁぁ!!!」

 

後方から走ってきたクウガがソウゴとペコリーヌの横を通り抜けそのまま腕に対しアルティメットキックを放つ、巨大な刻印が刻まれ大腕を粉砕する。

 

「ハァアアア!」「ハァッ!」続けてG3とG4が爆撃し怯んだ腕をアギトがシャイニングライダーキックを放ち破壊する。

 

『ファイナルベント!』ナイトが真上からドリルとなって落下する飛翔斬で貫き、龍騎とリュウガがドラグランザーとドラグブラッカーの吐き出した炎と共に蹴りで粉砕する。

 

『Exceed charge!』ファイズに迫る腕、それをオーガが剣で受け止め、上に弾き飛ばすとファイズがフォトンバスターから巨大なビームを放つ、ボロボロになった腕を真上からカイザが斬り裂き腕は完全崩壊する。

 

『Mighty!』『Burning shot!』『Royal straight flush!』グレイブの力により腕が凄まじい重力の影響を受け、地面に叩きてけられる、その間にギャレンが炎を纏った銃弾を撃ち込み腕の一部にヒビが入る、そこにブレイドが無数のカードを通り抜け強大なエネルギーの斬撃を繰り出す事でひび割れから一気に崩壊していく。

 

「タァッ!」「そらよ!」「鬼神覚声! ハァアアア…ハァッ!」威吹鬼が烈風を起こし腕の動きを止めると腕の根本部分を剣撃で斬り落とす歌舞鬼、宙を舞いながらも動き続ける腕に響鬼が炎熱を纏った剣の衝撃波を飛ばすと斬り付けられた腕が超振動を起こして破壊される。

 

『CLOCK UP』『HYPER CLOCK UP』ガタックとコーカサスが超高速で腕を蹴りつけると蹴りを受けた腕からは反撃として無数の小さな腕が出現し襲い来る、それをコーカサスのエネルギーを溜め込んだ右ストレートが全てを粉砕する。『MAXIMUM HYPER CYCLONE』そして最後はカブトのマキシマムハイパーサイクロンが放たれ腕を破壊する。

 

『FULL CHARGE』『MOMO SWORD』「電車斬り!」ゼロノスが3発、ボウガンから弾丸を発射するとそれは三角形を描き大腕の動きが止まる、そしてその直後ガオウが片っ端から巨大な鰐の顎で腕を喰らっていきボロボロになった所を電王がレールと共に移動し続け腕を一刀両断する。

 

『ウェイクアップフィーバー!』イクサはイクサカリバーで大腕を弾き飛ばした後ガンモードで銃撃を乱射。その後、巨大な体躯を持つアークがその腕を掴み上昇していくと腕が引きちぎれそのまま真上に吹き飛ばす、そして既に上空にいたキバがドリルキックを撃ち込むと赤い紋章エネルギーが迸り腕を粉砕する。

 

『ファイナルアタックライド! ディ・ディ・ディ・ディケイド!』『アタックライド! ブラスト!』ディケイドがディメンションキックを放つと腕が大きくのけぞっていく、その隙に地上にいたディエンドがディエンドライバーに溜めたエネルギー弾を発射する事で腕を破壊する。

 

『マキシマムドライブ!』アクセルがアクセルグランツァーで大腕を翻弄、その間に真上からエターナルがキックを撃ち込むと余波がダブルを襲う、しかしそれをスカルが蹴りで相殺しその隙にダブルが跳躍、真下からキックをするとエターナルとダブルが腕を挟み込むキックとなり腕を崩壊させる。

 

『セルバースト!』『スキャニングチャージ!』バースはバースデイとなり空中を自在に動きながら砲撃し腕の動きを止める、オーズの隣はポセイドンが並びポセイドンがアクアドライバーを使い周囲の水を取り込み仮面ライダーアクアとなる、オーズとアクアはそれぞれ炎と水を纏いながら大腕を同時キックで消滅させる。

 

『リミットブレイク!』フォーゼとなでしこがロケットを使い、空中を跳び回りドリルキックで腕に穴を開けるとメテオが青い流れ星となって連続で大腕を破壊していく、最後は3人揃って上空からキックをすると

腕は粉々に砕け散る。

 

『エクスプロージョン ナウ!』『キックストライク! ゴー!』『ハイタッチ! シャイニングストライク!』ソーサラーが指パッチンをすると黄金の爆発が巻き起こり腕が壊される、しかし腕は形状を変えドラゴンのようになるとウィザードとビーストに飛びかかってくる。それを2人はキマイラとドラゴンを召喚し相手の動きを止めさせ、ビーストが蹴りで怯ませ、ウィザードがアックスカリバーで両断する。

 

『カモン! ゴールデンスカッシュ!』『カモン! バナナスカッシュ!』『ソイヤ! 極スカッシュ!』マルスはまるで通り抜けるように腕を斬り込むとリンゴのエフェクトが飛び散り腕全体にヒビを入れる、そこに鎧武とバロンが現れ、2人は競い合うように腕に剣撃を入れていく、そして斬り終えた2人の背後で腕は爆発を起こし消える。

 

『ネクスト!』『ヒッサーツ! フルスロットル! スピード!』マッハはライドクロッサーに乗り込み大腕と戦う事で隙を作り出し、地上にいたドライブそしてタイプネクストが揃って跳躍、トライドロンとネクストライドロンが協力し2人をサポート、高速の連続キックが撃ち込まれ腕がその攻撃により消えて無くなる。

 

『ダイカイガン! オメガスパーク!』『チョーダイカイガン! ムゲン! ゴッドオメガドライブ!』スペクターは1度、凄まじい数の銃を生み出しそれを使って射撃し腕を怯ませ、真下から真上に飛ぶように蹴りを放つ、そして正面からゴースト、背後からはエクストリーマー。それぞれが真っ白な羽と孔雀ような黒い羽を生やしながらキックを放つ、腕を前後で挟み込むキックで完全に破壊する。

 

『キメワザ!』ブレイブが炎熱で斬り付け、瞬時に氷結モードに切り替え、氷を生み出すと、風魔が風を巻き起こしその氷の範囲を広げていく事で腕全体を凍らせる。

『ハイパークリティカァルスパーキング!!』 『ゼッタイクリティカァルクリエイト!!!』瞬間、エグゼイドとゲンムがそれぞれキメワザを発動し瞬間移動をしながら連続でキックを当て続け、2人の着地と共に大爆発を起こす。

 

『Ready Go!』ブラッドが連続キックで腕を傷つけ、その腕の上に着地する、そのブラッドに向かっていくかのようにビルドとクローズが跳躍すると空中で光り輝き1つとなる。クローズビルドとなったビルドはそのままキックを撃ち込むと反撃するかのようにブラッドが回し蹴りで迎え撃つ、それにより巻き込まれた腕は消し飛ばされる。

 

「ぬぅぅっ!!!まだだぁぁ!!」

 

残る2つの腕がペコリーヌ達に向けて振り下ろされる。

 

しかし

 

『フィニッシュタイム! マジェスティ! エル・サルバトーレタイムバースト!!』

『フィニッシュタイム! タイムジャック!!』

『ファイナリービヨンド・ザ・タイム! 超ギンガエクスプロージョン!!』

『フィニッシュタイム! バールクスタイムブレイク!!』

 

4人のライダーキックがその腕を受け止め、弾き返す。

 

それによりリボーンへの胴体はガラ空きとなった。

 

「今だ!ソウゴ!!ユースティアナ!!!」

 

ゲイツの言葉に遂に動くソウゴとペコリーヌ、更にはオーマジオウとオーマティアナまでもが宙へと浮かび上がり。

 

「バカなっ…こんな事が…っ!!こんな事が有り得てはいけない!!俺の計画は完璧だ…!!最強の王は俺1人だ!!!!」

「どんなに最強の力を持っても1人なら意味なんてない!!」

「1人で得る最強よりもわたし達はみんなと一緒にいる最高を選びます!!!」

 

『キングフィニッシュタイム!!キングタイムブレイク!!』

『プリンセスフィニッシュタイム!!プリンセスライフブレイク!!』

『終焉の刻!!逢魔時王必殺撃!!』

『終焉の刻!!逢魔星王必殺撃!!』

 

4人がそれぞれの必殺のキックを放つ、全てのエネルギーが1つに集約していき…

 

「俺は…滅びなぁい!!王の力は…永遠だァァァァァァ!!!」

 

その叫びと共に強大なエネルギーのキックを一身に受けたリボーンは体の内側から光を放出し砕け、爆発を起こす。

 

4人は地面に着地すると同時にリボーンが召喚していたライダーや怪人達が光の粒子となって消えていく。

 

ここに、未来を賭けた戦いが今、終わりを告げた。

 

 

「…終わったようだな」

 

黎斗は変身解除しながら呟く、周りにいた士達が召喚していたライダーも消え、この街、ランドソルに静かな時間が流れていく。

 

「…ありがとうオーマジオウ」

「…礼を言うのなら彼女にするといい若き日の私よ」

 

オーマジオウは隣にいるオーマティアナに顔を向けながら言う。

 

「…うん、…ティアナありがとう」

「いいえ、貴方達のような存在がいたからわたしはこの時代に望みをかける事ができました、感謝しています」

 

そう言ってオーマティアナはペコリーヌに近づき手を取る。

 

「貴方の手はまだこんなにも綺麗です、貴方のこれからの未来…楽しみにしていますよ」

「あの…!!」

 

その場から去ろうとするオーマティアナを呼び止める。

 

「…貴方は大切な人達を守ってください、その力で…行きましょうソウゴくん」

 

オーマティアナはそう言い残しオーマジオウと共にこの時代を去っていった。

 

 

「それじゃあね、ティアナ、これからも頑張って」

「ふふ、はい!美食殿のみんなで頑張っていきます!!」

「うん、ティアナ達ならこれからもずっといける気がする」

 

ソウゴ達とペコリーヌ達の別れ、それは簡単なものだった、しかしそれでも紡いできた絆は固い。

 

「コッコロ君、君の祝福は素晴らしかった、しかしまだまだ…これからも精進していくといい」

「はい、ウォズさまを真似、わたくしどんどん成長してまいります」

「いや、コロ助に変な事教えないでよ…」

 

やはりこの2人の以心伝心に呆れるキャル。

 

そして士の力によりソウゴ達が元の世界に戻っていく。

 

しかし士だけはこの場に残っていた。

 

「…何故お前は帰らない」

「少しやり残した事がこの世界にあってな、それをやり終えたら俺もこの世界から消える、安心しろ」

 

黎斗の質問にそう答え、士は去って行った。

 

「不思議な人ですね〜」

「…そうだな、まぁいい、それよりもお腹が減った、ペコリーヌ夕食の準備を」

「おお!ご飯の時間ですね!ではわたしが腕によりをかけて作っちゃいますよ〜!!」

「わたくしもお手伝いさせてもらいますペコリーヌさま」

「なんでもいいけどゲテモノ料理は勘弁ね…本当に…」

 

 

 

「どう?士、いい写真は撮れた?」

「まぁな」

 

海東と士は小高い丘の上からランドソルの街を見下ろしていた。

 

「士のせいでこの世界は破壊されてしまった…この世界の秩序はかなり乱されちゃったみたいだけど良いのかい?」

「それは俺の知った事じゃない、元より俺は…世界の破壊者だ」

 

写真を撮りながらそう呟く士に微笑みかける海東、2人は街を背にして歩き出す、するとその2人の横を通り抜ける少女達。

 

「スバル君どこに行ってしまったんでしょうか…」

「だ、大丈夫よ、ああ見えてスバルは強いんだから!1人でも大丈夫!!」

「ふん、バルスの事だからどこかでのたれ死んでるに決まっているわ」

 

その少女達を見て海東は再び笑う。

 

「…ま、確かに僕達の知った事じゃ……無いのかもね、頑張りたまえ、檀黎斗」

 

士は先に別世界へと移動し、海東は1度、ディエンドライバーをクルリと回転させた後、世界を移動するカーテンを生み出し、士に続いて別の世界へと移動していく。

 

この世界は破壊された、他世界との壁が薄くなり、今後も別世界の物が入り乱れる世界となるだろう。

 

しかしそれは、また別のお話…

 

 

 

ーCRー

 

「良かったぁ…ゼッタイフメツとゴッドマキシマムが無くなったって聞いた時は心臓が止まるかと思いましたよ」

 

小児科医、宝生永夢はそう呟いた。

 

「しっかしなんでなくなったのか見当もつかない、あそこの警備は厳重だったんだけどな」

 

九条貴利矢がため息混じりにそう言った。

 

「でも戻ってきて良かったじゃ無いですか、あ!それと…これ見てください!大我さんとニコちゃんアメリカで結婚したらしいですよ!ほら!」

 

2人は送られてきた便箋を見ながら笑い合う。

 

 

 

 

 

 

 

ー???ー

 

荒廃した世界、全てが滅び、何も無いその世界に、質素な手作りの墓が3つ。

 

そこには最早名前の文字が掠れて読む事はできない、それに対し片膝をつき、祈りを捧げるオーマティアナ。

 

「行くのか、ティアナ」

 

彼女の背後に立つオーマジオウ。

 

「ええ…まだ、わたしの戦いは終わっていませんから」

 

彼女はそう言いながら立ち上がる、すると2人の背後、数百メートル以上先におびただしい数の怪人、怪物の群れが迫ってきていた。

 

「…ならば、時間の許す限り、私も協力しよう、今度は君の未来の為に」

「…ありがとうございます、ソウゴくん…では行きましょう、この暗闇から抜け出す為に」

 

2人のライダーは向かっていく、ただ眼前に広がる暗闇に伸びる一筋の光に向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 




オーマティアナなどの詳細はキャラ紹介に載せます


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。