私の魔法界紀行(仮) (57人目のご飯党員)
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転生のあきらめ

第一話です。何卒生暖かい眼差しで見守って下さい。


ある休日、ふと買い物に行こうと思い立った。

大学を卒業して、就職して、独り暮らしを始めた私だけれど、最近は仕事に忙殺されて趣味の時間なんてとれやしない日々が続いていた。久しぶりの休みに、もはや何をすればいいのかわからなくなって、思い付いたのが買い物だった。

折角なので電車を使って大きなショッピングモールに行こうと、駅の方面に行こうとしていた。

細い小道を通っていて、その小道のすぐ横には小学校があった。柵を挟んだ向こうには大きなガスボンベが数本並んでいて、休日だというのに学校公開か何かなのか、子ども達の笑い声が聞こえていた。

 

 

突然に外出を決めたこと以外はいつも通りの筈だった。

 

 

 

途端、白い光が視界を覆って、声を出す間もなくて、気付けば。

 

 

 

寒空の下、路上に捨てられた赤ん坊になっていた。

 

 

 

「ふんぎゃあぁぁあぁぁあぁぁ!?」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

アルマ・ベネット。生まれたての状態でとある片田舎の小さな孤児院に捨てられており、すぐさまその孤児院に保護された少女。彼女の元々の持ち物は赤ん坊の彼女を包んでいた毛布と、毛布の中に潜んでいた名前が書かれた小さなメモ。たったそれだけだった。悲惨な話だけれど、よくある話でもある。親の顔も知らない子どもなんて、このイギリスだけでもごまんといる。

 

その哀れな子どものひとりが、私、アルマ・ベネットというだけだ。

 

 

そして私にはきっと他の子どもたちとは違う点か幾つかある。ひとつ目は、自分の記憶じゃない記憶があること。日本……東京で普通に育ち、普通に就職し、最期は恐らくガス爆発で死んだ記憶。この記憶がイギリスの孤児のアルマの記憶であるはずは無いけれど、間違いなく私の記憶だという自覚がある。きっとこれは、"前世の記憶"という奴なんだろう。

つまり私は自分でも知らない内に死んで、生まれ変わったということだ。おかげさまで周りと精神年齢が違い過ぎて孤児院ではお姉さんポジションにおさまっている。

 

ふたつ目は一度でも見たり聞いたりしたものは忘れないということ。本でも音でも人の顔でも、忘れる、ということがない。前世の小説などでよく見た転生特典というやつだろうか。

その類稀な記憶力のオマケなのか、この身体は頭がとてもいい。"生前"の私では到底及ばないくらい、記憶力も思考力も発想力もずば抜けている。

 

私が生きていたのは21世紀の日本だけど、今の私が生まれたのは1960年代のイギリス。この記憶力のおかげで前世の記憶はまだ色褪せてはいない。前世の記憶を上手く使えばきっと、孤児でもなんとか生きていける。

 

 

そう思っていた矢先、私のことを女性が訪ねてきた。

その女性の名前はミネルバ・マクゴナガル。前世で何度も読み返した、『ハリー・ポッターシリーズ』の登場人物だった。

 

マクゴナガル先生は物語の描写よりも若々しく(20年以上前なんだから当たり前だけど)、そして想像していたよりもずっと厳格そうな顔立ちをしていた。

 

「はじめまして、Msベネット。私はミネルバ・マクゴナガル、ホグワーツという学校で教師をしています」

 

背筋をぴん、と伸ばしてキビキビ話すその姿は、なるほど確かに、本の中にいた"マクゴナガル先生"だ。夢じゃないだろうか。頬を抓りたくなったがこの第二の人生だって夢みたいな話なのでこんなことがあったっていいんだ。きっと。

 

「はじめまして、マクゴナガルさん。先生、とお呼びした方がいいですか?それと、私に何のご用でしょうか」

 

けれどマクゴナガル先生はここで確かに生きていて、私もここで生きている。この人はもう、登場人物ではないし、夢の中の人でもないのだ。

 

「ではマクゴナガル先生、と呼んで下さい。今日はあなたにホグワーツ魔法魔術学校の説明に来ました」

 

ああ、このセリフ、この状況に幼かった"生前"の私はどれだけこの状況に焦がれたことか。

翻訳された原作を子供のころから繰り返し読んで、原書も読んだ。お年玉を握りしめて関連書籍を大人買いしたことだってあった。

ホグワーツに入学して、魔法を習得して、楽しい学校生活を送る。そんな想像を、何百回したことだろう。

 

「あの、先生。魔法、ってどういうことですか…?」

 

ああ!じれったい!でもここで戸惑った振りをしていないと不審がられてしまう。年代から察すると既にヴォルデモートの最盛期が訪れている。これから先、少しでも怪しまれるのは避けたい。

 

「ええ、Msベネット。あなたには魔法の力が眠っています。あなた自身はとても落ち着いた性格の様ですから、もしかしたら無意識に魔力を制御していたのかもしれません。ですがあなたは間違いなく_____魔女です」

 

その一言に涙が出そうになって、必死に堪えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マクゴナガル先生にあれやこれやと説明を受けて、まるでホグワーツの設定を聞くかの様にたくさん質問をした。くっだらない質問から、割りと真剣な疑問まで。そのすべてにマクゴナガル先生は真面目に答えてくれた。呆れた様子もなく、なんていい教師なんだろうか。

 

一通りの質疑応答が終わり、学用品を買いに行くことになった。

 

おなじみのダイアゴン横丁に行くのだけれど、絶対はぐれない様に注意しなさいと言われた。また、最近何かと魔法界は物騒なので用心する様に、とも。

 

つまり、もうヴォルデモートの活動は活発化しており、死喰い人も出現している…と。こりゃマグル育ちとばれたら死亡ルートに入りかけるな。ホグワーツっていつも死と隣り合わせな学校なの?

 

「それでは行きましょうか。『付き添い型姿くらまし』をするので私の腕に掴まって下さい。…ああ、『姿くらまし』とはマグルの言う瞬間移動の様なものです。ホグワーツの6年生…17歳で免許を取ることが出来ます」

 

質問をされる前に説明してしまおうと思われたのか、何も言わなくとも姿くらましについての説明をされた。私の性格を把握されている気がする。

マクゴナガル先生の腕に掴まると、バシッという音と共ににぎゅうぅっとまるで身体を圧縮される様な感覚が身体を襲った。

 

姿くらましは予想以上に不快というか、決して気持ちのいいものでなかったことだけいっておこう。

 

そして吐き出されるようにその感覚から解放された時、私の三半規管は大音量で悲鳴を上げていた。

 

「ぎもぢわるい……」

 

まともに立つことすら出来ず、フラフラとした足取りで近くのベンチに座らせてもらった。マクゴナガル先生いわく、最初はみんなそんなものらしい。自分の三半規管がそんなに弱いとは思っていなかったが、これが姿くらましの威力である。水を差し出してくれた先生が女神に見える位には。

 

 

 

 

まずなにを買うにも先立つ物がないと、ということでやって来ましたグリンゴッツ。今の私は孤児で、ホグワーツの学費やらなんやらが買える金など無い。なので奨学金を受けることになる。ホグワーツの奨学金に給与型はなく、貸与型のみ。とどのつまり齢11にして借金をこさえる訳だ。気が重い。

 

幾つかの書類をマクゴナガル先生と一緒に埋めていく。そうしてやっとこさ奨学金を受けることが出来た。これを卒業したら少しずつ返していかなきゃいけない。魔法省とかが教育無償化とかの政策を実施してくれたらいいのに。もしくは奨学金を貸与型のみじゃなくて給与型も増やすとか。こう、両親の収入とか成績とか条件を出してさぁ。そうすれば孤児だけじゃなく、原作の某赤毛一家みたいな家族も助かると思うのに。

 

まぁそんなことを私なんかが嘆いても仕方ないけれど。

 

きっと私は原作を変えることなんか出来ない。死んでしまう人たちを救うことなんか出来ない。何かを成し遂げることなんて出来ない。ちっぽけな私に出来るのはただ生きることだけ。この優秀な脳みそのおかげで原作知識はまったく薄れておらず、骨の髄まで刻み込まれている。でもそれだけだ。少し先の未来を知ってるだけじゃあ世界に楯突くことなんて出来やしない。恐らく同い年だろうハリーの両親や悪戯仕掛け人、未来の薬学教授たちを横目で眺めて、心に浮かぶ羨望に蓋をして生きていくんだ。

 

 

アルマ・ベネットは作品に登場しない、いたかもしれない魔女として人生の幕を閉じるのだ。

 

 

 





原作を読み直したらヴォルデモートの活動開始が可笑しいことに気付いたので修正しました


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関わりたくない子供

あの日、グリンゴッツで奨学金を受け取った後の買い物はつつがなく終わった。

人混みのなか、マクゴナガル先生と一緒に必要そうな学用品を買っていった。ハリーの様にマダム・マルキンの洋装店で絡まれることもなく、時間が掛かったものと言えば私が本屋から動かなかったことか。フローリシュ・アンドブロッツ書店に置いてあった本を片っ端から読んで(多分他の人にはパラパラ捲っているだけに見えただろう)内容を暗記していった。とんとん拍子で進んでいた買い物が滞ったのはそこだけだった筈だ。オリバンダーの店でも3本目で杖が決まってしまった。ナナマカドにユニコーンのたてがみ、30.4センチ(12インチ)。力強い振り応え。この杖を握るとジワリと暖かさが伝わって、振ると真っ白な光が花火の様に杖から飛び出た。

映画や本の描写でその情景を知っていても、百聞は一見に如かず。

何より、その明かりを自分がもたらしたということが嬉しくてたまらなかった。

マクゴナガル先生に魔女だと言われても、私自身は一度も魔法を使ったことなんてないからピンとこない訳で。

初めて自分が使った魔法に気持ちが昂ぶった。

 

……ああ、たのしかったなぁ…

 

そんな風に全力で目を背けていても変わらないのが現実という物。ホグワーツ特急に乗り込み、独りでコンパートメントを陣取っていた私のところに鳥の巣頭に丸眼鏡の少年とヤケに顔の整った黒髪の少年がズケズケと入って来たのがこの列車が発車する15分前。赤い髪にアーモンド形の美しい緑の瞳の少女が入って来たのが発車の直前。

そして____重たい黒髪の少年が制服に着替えてコンパートメントに入って来たのが今。

 

ジェームズ・ポッター、シリウス・ブラック、リリー・エバンズ、セブルス・スネイプの四人が私のコンパートメント集結してしまった。

関わりたくない人物ランキング殿堂入りの方々である。

 

 

「スリザリンになんて誰が入るか!むしろ退学するよ、そうだろう?」

 

わぁ、既視感のあるセリフ~!

 

もう一度現実逃避をしてみるけど現実が変わる訳もなく。

そうだ、ここで空気になっていたらスルーされないだろうか?

 

よし。私は空気私は空気私は空気私は空気……

 

「きみは、何処に行くんだい?」

 

全力で存在感を消してみても、やはりそんな上手くいく筈も無かった。ジェームズ・ポッターがありったけの高慢さを滲ませてこちらを見ている。

 

 

 

 

 

______ふいに、その高い鼻っ柱をへし折ってやりたくなった。

子供のうちに一回くらい自尊心をへし折られる経験をしないと人間成長しないのだ。

 

 

「…きみは、グリフィンドールこそが最高の寮だと考えているの?」

 

ジェームズ・ポッターのハシバミ色の瞳を、真っ直ぐ見る。

 

「あ、ああ。だってそうだろ?『グリフィンドール、勇気ある者が住まう寮!』」

 

見えない剣を捧げ持つような姿勢で豪語するジェームズ・ポッター。

 

「…それで、スリザリンは最低な寮だと」

「そうさ!なんてったって闇の魔法使いはみーんなスリザリンの出身だ!」

 

興奮しているのか、心無しか鼻の穴が大きくなっている。

 

「でも、グリフィンドールからも死喰い人や闇の魔法使いは出てる」

「えっ?」

 

確かだ。ダイアゴン横丁の書店に置いてあった新聞、雑誌で確認済み。

 

「本当だよ。スリザリンが一番多いだけでグリフィンドールからもレイブンクローからも、ハッフルパフからも出てるよ。一番少ないのはハッフルパフ」

「でも!グリフィンドールは勇気ある者が住まう寮だ!」

「うん。グリフィンドールは勇猛果敢、レイブンクローは博学、ハッフルパフは温厚柔和、スリザリンは高潔。それぞれの寮を良く言うとこんな感じだ。

でも悪く言うと猪突猛進、頭でっかち、余り物、ずる賢い。

グリフィンドールでもレイブンクローでもハッフルパフでもスリザリンでも、短所も長所もある。どんな風に考えるかは人それぞれだけど。

 

……ねぇ、自分の嫌いなものを排除して、好ましい物しか認めないって、死喰い人やヴォルデモートとおんなじだね?」

「っ……!」

「東洋にはこんな諺がある。『井の中の蛙大海を知らず』……きみはいま、その蛙だ。でも、きみが’’大海,,を知る機会はこれからきっと幾らでもある。きみがその機会をひとつでもモノにすることが出来たらいいね。

それじゃあ。ホグワーツで縁があったらまた会おう」

 

荷物をいれたトランクを持ってコンパートメントを去る。言いたいことだけ言ったらさっさと逃げるに限るのだ。

 

 

 

その背中を、見つめていた少年がいたことも知らずに。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

どうにか別のコンパートメントに座らせてもらうことが出来、駅のプラットフォームに辿り着いた。そして今、ハグリッドと思わしき大男の先導で城に向かっているけれど、とにもかくにも道がひどい。

狭いし険しいし、おまけに暗い。舗装くらいして欲しいものだ。魔法を覚えたらこっそり舗装しよう。

とにかく足元が見えないのは困る。

 

「ルーモス、光よ」

 

孤児院で練習してきたおかげか、あっさりと杖先に光を灯すことができた。うん、多少は足元が見える。

そこからはルーモスが出来る生徒は次々と杖先に光を灯していった。きっと上から見ると蛍か百鬼夜行の人魂のように見えるんじゃないだろうか。

 

鬱蒼とした道をえっちらおっちら辿り、角を曲がると一気に道が開けて、湖畔に出た。向こう岸にそびえる城が凪いだ湖に映り込み、湖面と星空にキラキラと輝く無数の窓明かりが浮かんでいた。

 

湖に浮かぶボートに知らない子供達と乗って進む。蔦のカーテンをくぐって船着き場に着いた。船着き場と言っても舗装はされておらず、岩が積み上がって出来た岸のようなものだ。

 

「みんな、いるか?大丈夫か?」

 

確認するんだったら点呼ぐらいとれバーカ!

石段を登り、大きな木で出来た扉の前に着いた。先導の大男がドンドンドン、と大きな扉を叩くと音を立てて扉が開き、マクゴナガル先生が現れた。

マクゴナガル先生はこちらをチラリと見やって、ウィンクをしてくれた。私は昔からウィンクなどという器用な真似は出来ないのでとりあえず笑い返したが、先生はすぐに扉を開けて玄関ホールに行ってしまったので見えたかどうかはわからない。

 

ホール脇の小部屋に新入生が詰め込まれ、マクゴナガル先生の説明が始まる。新入生たちは緊張からか大部分が顔を強張らせている。

 

そういえば、ジェームズ・ポッターにあんなに偉そうに言って置いて何だけど、どこの寮に入ろう。

まずマグル育ちだからスリザリンは却下。7年間差別され続けるのは御免被る。

グリフィンドールもあまりよろしくない。列車で主人公の両親に関わってしまった以上、もう関わりたくない。…が。一番あの二人に疑われないのもグリフィンドール。闇陣営に関わって居ないのがわかりやすいのもグリフィンドール。

あとのふたつは悪いがパッとしない。"生前"の影響が強いからかもしれないが。

 

でも自分で全部決めるのも何か嫌だ。折角二度目の青春なのに、打算だけで決めたくない。

 

うーん、スリザリンだけ避けてあとは帽子に任せよう。

どうせなるようになるし、なるようにしかならない。

 

「ね、ねぇあなた、一体どうやって寮を決めると思う?」

 

くりくりした瞳の小動物みたいに小さい女の子が話しかけてきた。髪は金色で、目は黒い。たしか同じボートに乗っていた。何時の間にかマクゴナガル先生は行ってしまったみたいだ。

 

「えーと、ごめんね、名前は?私はアルマ・ベネット、よろしく」

「あっ、ごめんなさいアルマ!私はジャスミン・ハリス!よろしくね!」

「よろしくね、ハリスさん。それで寮の決め方、だっけ?」

 

丁寧に返したつもりが、ハリスさんはむぅっと頬を膨らませてしまった。

 

「もう!私はアルマって呼んでるんだから私のことはジャスミンって呼んでよ!なんならジャシーでもいいのに…」

 

年頃の女の子ってこう言う話題に敏感なんだろうか、’’生前"に同じようなことを言われた気がする。

 

「ごめんね、ジャスミン。で、寮の決め方なんだけど…」

 

ジャスミンで納得したのか、ジャスミンはふふっと可愛らしく笑った。嬉しそうでなにより。

 

「テストとかはないと思うよ、あったとしても心理テストの類じゃないかな」

 

私の一言でざわざわと動揺が広がって行った。いや別に気にしないでくれよ…

 

「アルマ、どういうこと?」

 

「マグル生まれマグル育ちの子供が何人かいるのに、入学してそうそうテストはないよ。魔法界育ちの子供と差ができるからね。寮が成績で分けられるものじゃないなら、きっと生徒の素質を見て寮を決める筈。だから心理テストとか面談とか、そういうもので決めるんじゃないかな」

 

こわばっていたみんなの顔がホッと緩んだ。安心したみたいだ。

 

「すっごいわ!アルマ!私達、一緒の寮になるといいわね!」

「う、うん…」

どうしよう、子供特有のテンションに着いていけない。

 

 

マクゴナガル先生が戻り、皆一列になって大広間に入った。

 

大広間は天井に雲ひとつない星空を映し、空中には数えきれないほどの蝋燭が浮かんでいた。四つの大きなテーブルにはそれぞれ右から赤、青、黄、緑のローブを着た生徒達が着席している。

 

正面のには三本足のスツールとボロボロの帽子。新入生は皆じっと帽子を見ていた。

 

帽子のシワが口のように開き、歌い出した。

 

さぁ、はじまる。

 



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大広間の天井

組分け帽子の歌が終わり、組分けが始まる。私のファミリーネーム、ベネットは頭文字がBだからすぐに呼ばれてしまう。

 

アダムズ・エディ___ハッフルパフ。

 

そして。

 

「ベネット・アルマ!」

 

帽子の乗ったスツールに向かって歩いていって、帽子を被る。すぐに声が聞こえた。

 

 

≪ウーム、これは難しい。ふむ、知識欲に満ち、才能もある。勇気もある。しかし……自分を過小評価しておる。…さて、どこに入れたものか?≫

 

(私の希望は通りますか?)

 

≪言ってみるといい。君の性質に合っていたら希望通りだ≫

 

(スリザリンは遠慮します。マグル育ちなので馴染めるとは思えません。スリザリン以外なら任せます)

 

≪ふむ…君の血筋ならばスリザリンが順当だが……≫

 

(…どういうことです?)

 

≪君がそう確信しているのなら君の可能性に懸けて…!≫

 

(ちょっと待って、ねぇ!!おい!どういうこと!?)

 

「グリフィンドール!!」

 

(いや、あの血筋云々はどういうこと!?教えてよ組分け帽子!!)

 

その叫びも虚しく、帽子はそれきり沈黙してしまった。アルマは諦めて帽子を脱ぐことにした。椅子に叩き付ける様に置いたのは断じて八つ当たりではない。断じて。

 

困惑しながらも、グリフィンドールの長テーブルに着席するアルマ。

 

「ようこそ!グリフィンドールへ!俺は監督生のフェービアン・プルウェット、5年生だ。寮で困ったことがあれば何時でも相談に乗るぞ」

 

フェービアン・プルウェット…たしかモリーの兄弟で、ヴォルデモートに殺された人だったか。不死鳥の騎士団の団員。原作ではほとんど登場して来なかったけど、赤い髪に褐色の瞳。そしてハンサム。

 

「よろしくお願いします、プルウェット先輩。アルマ・ベネットです」

 

挨拶に握手をして、早速気になることがあるので聞いてみる。

 

「あの、先輩」

「っ~~!なんだ!?後輩!」

「うわ!?」

 

いきなり大声を出されてびっくりしてしまった。これは…喜んで、る?フンスフンスと鼻息が荒くなっていて、目がキラキラと輝いている。犬耳と尻尾の幻覚まで見える。

 

「…先輩」

「なんだ!?」

「…圧が、すごいです…」

 

こう、頼って!頼って!みたいな圧がすごい。どうしたんだこの人。

 

「ごめんな、ベネット。こいつ監督生になったばっかりで頼られたいんだと」

 

と、名も知らぬ先輩が教えてくれた。そっか、監督生って五年生からか。なんだか初々しい。

 

「あ、じゃあ。組分けってかなりランダムに見えますけど、各寮の人数が大きく違ったりしないんですか?」

「ないな。帽子も色々考えるんだろう。いつもひとつの寮がだいたい同じくらいになってる」

 

ふむ。確かホグワーツの生徒は約1000人だって聞いたから、一学年約140人で、同じ学年同じ寮の生徒は35人…一クラスくらい。思ってたより少なくない。

 

 

プルウェット先輩は次の新入生のところに行き、私は手持ち無沙汰になって組分けを眺めていた。

最初は同級生の名前でも覚えてようかと思ったけど、飽きた。

天井を見てみる。空気が澄んでいるのか、記憶の中の東京とはまったく違う夜空だ。まあ、住んでいる孤児院は田舎だったし、星空なんて嫌になるほど眺めてきた。

けれど、無数の蝋燭に照らされた大広間の天井に映る星空が、どこか特別なものに思えるのはなんでだろう。

天井に映る星空と宙に浮かぶ蝋燭をただただぼぅっと眺めていると、ふと、とある考えが浮かんできた。

 

____この限られた学生生活を、二度目の青春を、めいいっぱい、楽しんでもいいんじゃないか。

 

我ながら馬鹿らしい考えだ。これからどんな時代が訪れるか、どんな悲劇が訪れるか知っているくせに、ただの子供みたく、青春を謳歌したいなんて。

でも、私がまだ純粋だった少女のころ。この世界でやってみたいことがあった。

今、私はその世界にいて、それを実現出来る環境もある。なら、やった方が悔いは残らない。

なにせ時間は、輝かしい青春時代はあの蝋燭のように有限なのだ。前のように、後悔したくない。

元々二度目の人生。あり得なかった延長戦だ。

 

私があのコンパートメントであんなセリフを吐くシーンなんて原作になかった。あのセリフでジェームズが変わってしまったかもしれない、シリウスが、リリーが、セブルスが変わってしまったかもしれない。

もしかしたら、原作なんて姿形もなくなるかもしれない。

でもいいのだ。原作はこの世界のひとつの可能性でしかない。私が居るんだ、原作通りになんてならない。原作どうこう考えながら動くなんて面倒だ。

もう、未来がどうなるかなんて誰にもわからない。それでいいんだ。

 

あの頃何度も夢想したホグワーツを過ごそう。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

チュニーへ。

 

ホグワーツはとっても素敵なところよ!

列車に乗ってそこから一年生だけ獣道みたいな道を通って学校に行くの。

湖をボートでわたって、そこで初めて学校が見えたわ。

中世のお城みたいでとっても綺麗よ!

学校に着いたらグリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクローとスリザリンに寮を分けるの。

私はグリフィンドールになって、セブはスリザリン。セブとは違う寮になって、不安がなかったわけじゃない。

でも。あの子、アルマがいたから、グリフィンドールも悪くないのかもしれないと思えたの。

 

列車のコンパートメントで絡まれてたところを助けてくれた女の子。佇まいも言葉も、なにもかもが大人の女の人みたいで、どうしようもなく憧れて、きっと年上だと思ったわ。

組分けであの子を見つけたとき、とってもびっくりした。憧れの女の人が同い年なんて!

 

同じ寮になって、真っ先に声をかけた。

 

「ねぇ!」

 

それで、振り向いてくれた。

 

高い位置でポニーテールにされたツヤツヤなブルネットの髪。

真っ白な肌。雪に紅を垂らしたように赤い唇。ごく繊細に位置した目鼻立ち。細くて華奢な体。

そして____強力な磁石みたいに引きつけてやまないガーネットの瞳。

 

なんだか一目惚れしたみたいな文になっちゃったわね…

ええと、つまり。なにが言いたいのかというと____私はアルマの顔をまじまじ見て、少しの間惚けてしまったの。

だってあんまりにも綺麗なんだもの!

 

「えーっと、なにかな?」

 

その声でハッとした。

私から声をかけておいて!こんなの失礼だわ!

 

「ごめんなさい、ちょっとぼーっとしちゃって。

あなた、あの時、列車で助けてくれた人でしょう?お礼が言いたいの。あの時はどうもありがとう!」

 

そう言っても、

 

「あー、あんなの気にしなくていいよ。ただの自己満足だから」

 

アルマにこりと微笑みを浮かべて謙遜したの。

 

「でも、絡まれたのを助けてくれたからいいのよ、自己満足でもね」

「敵わないなぁ…

そうだ、君の名前は?私はアルマ・ベネット」

「リリー・エバンズよ。これからよろしくね、アルマ!」

 

こうして私はホグワーツで記念すべき1人目の友達が出来たのだった。

 

やがて組分けが終わって、校長のよくわからない『二言、三言』が終わると、ついさっきまで空っぽだった金の大皿にたくさんのご馳走が現れた。

 

美味しく頂いている途中、同じコンパートメントにいたジェームズ・ポッターっていう鳥の巣頭が私達のところにやってきたけど、列車の時と同じ様にアルマが追い払ってくれた。

アルマとお腹いっぱいだねって話していたところで大皿にあった食べ物が全部消えて、デザートが出てきた。

 

そう!アルマったら全然食べないの!

ソーセージを何本かとパン一切れを食べて、後はずっとかぼちゃジュースを飲んでただけ!

デザートが出てきてもバニラアイスをほんの少しだけしか食べないの!

心配になって聞いたの。でもね、

 

「ねぇ、それで足りるの?」

「うん。むしろあんまり食べれないんだよ」

 

って!これからはもっと食べさせないと。

 

デザートも消えて、みんなで校歌を歌った(みんな好きなメロディーで歌ったの。ホントにバラバラだったわ)後、グリフィンドールの寮に行ったの。合言葉を言うと肖像画がパッと開いて、談話室にはいれるの。赤を基調とした部屋で、大きな暖炉があったわ。

 

人数の都合で、アルマだけ一人部屋になってしまったけど、とっても素敵な寮よ。

 

チュニー、貴女の学校はどうですか。手紙を送ってくれると嬉しいです。

 

愛を込めて。リリーより。

 

 

その手紙を読んだペチュニア・エバンズは手紙をビリビリに破き、窓辺に留まっているフクロウにコーンフレークを投げつけた。荒々しく階段を上り、二階の自室で毛布を被った。さめざめと泣きながら。

ペチュニアには何故自分が泣いているのかわからなかった。

 

 

 




フェービアン・プルウェットの年齢と性格、外見はオリジナルです。公式で明言……されてませんよね?

-追記 1/20-

アルマの組分けの順番を変更しました。
ベネットはブラックより先だよ馬鹿野郎…!


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朝食事変

三ヶ月も更新せず、まことに申し訳ありません…!
いや忘れてたとかそういうわけじゃないんですよ(震え声)

それもこれもコロナのせいだ…!


起きて、まずアルマの目に飛び込んできたのは紅い天蓋の裏側だった。もちろん天蓋付きのベッドなんてものがアルマの暮らす孤児院にあるはずもない。そんな豪華なベッドはアルマと無縁であるはずのものだ。

 

「…ああ、そうだ。ホグワーツ、か…」

 

呟いたアルマの声は掠れていた。

そう、ここはホグワーツ魔法魔術学校、魔法使いの卵たちの家。この部屋はグリフィンドール寮の部屋で、このベッドは塒である。天蓋と紅いカーテンの付いたベッドはアルマがこの身体になってから使ったことがないくらいにフカフカしていて、眠りに落ちるのに十秒とかからなかったのを覚えている。

 

瞼は重いし、時間はまだ早い。もう少し寝ていてもいい気がするが、ふくろう便のこともある。朝食の場に清潔とは言えないふくろうが舞い込んでくるのは避けたい。

 

仕方なく、布団から出たくない身体をどうにか起こし、授業の準備をさせていく。

 

広々とした5人用の部屋のなかには一人分の荷物と、一人分の家具しかない。

寝間着をグリフィンドールの象徴である赤色のあしらわれた制服に着替え、トランクから革製のショルダーを引っ張り出して、その中に荷物を放り込む。

 

部屋から談話室に降りると早い時間だからか、人っ子一人居らず、ただただ爽やかな朝日が降り注いでいた。談話室にこれと言った用はないので素通りしてアルマは大広間に向かう。

 

昨日監督生の先輩達が大広間からグリフィンドール寮までの行き方を丁寧に教えてくれたお陰で迷うこともなく、大広間に辿り着いた。まだ朝の早い時間だからか、人は疎らだ。頭上にふくろうが旋回している、なんてこともない。生徒が揃っている朝食の時間に郵便物を配達するのが効率的であることは理解できるが、納得は絶対に出来ない。不衛生だし、ふくろうが囓ったトーストなんてアルマは食べる気になれないのだ。

天井は白い雲だけがぽっかりと浮かぶ晴れ模様を写していた。勿論のこと時間が早すぎてふくろうは影も形も無い。

少し迷って、アルマはイチゴジャムをたっぷり塗りたくった焼きたてのトースト、中にチーズの入った三日月型のオムレツ、サクサクのクルトンが入ったシーザーサラダ、コップ一杯の牛乳を朝食に選んだ。因みに七年間のホグワーツでの学校生活において、アルマはほとんど同じ朝食を食べ続けた。後に前世、毎朝彼女の父親が作っていた朝食と献立が酷似している事に気付くのだがそれはまた後ほど。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

少し眩しいくらいの朝日でリリー・エバンズは目を覚ました。昨晩はあまりに疲れてしまい、ベッド周りのカーテンを閉めずにベッドの中に入ったのだ。同じ部屋の中ではモゾモゾと蠢くベッドの住人たちが4人、未だに微睡みの誘惑に勝てずにいた。

リリーはそれらを微睡みから、あるいはベッドから引き摺り出し、自分の身支度を整えてホグワーツで最初の友人と朝食を食べようとアルマの部屋に向かった。

 

 

しかし、部屋にアルマはいなかった。リリーが部屋を出た頃、アルマは既に朝食を食べ終わり、最初の授業、変身術の教室へと向かっていたのである。

 

 

部屋にアルマが居ないことを知り、リリーは少し落ち込みながらも朝食を採る為、大広間に向おうとグリフィンドール女子寮から談話室に降りた。

赤を基調とした、暖かげな談話室。リリーは昨夜寮にはじめて立ち入った時、一目でこの部屋を気に入った。大きな暖炉はとっても暖かいだろうし、もしかしたらマシュマロを串に刺して焼くことも出来るかもしれない。肘掛け椅子はふかふか、大きな机で友達と一緒に勉強も出来そうだ、と、これからのことが楽しみになった。

しかし。リリーはちょっとこの談話室が嫌いになりそうだと思った。

 

「やぁエバンズ!一緒に朝食を食べに行こう!大広間までエスコートするよ!」

 

この、鳥の巣頭のストーカーの所為で。

 

「ご遠慮するわ」

 

即答である。それもそうだ。リリーからすれば初対面で幼馴染のことを馬鹿にされ、昨夜の晩餐でもちょっかいを出してきた上に名乗っても居ないのに名前を呼ぶ気持ち悪い同級生である。好印象など持てる筈もない。

 

「そう言わずに!ホグワーツの校舎はとっても迷いやすいんだ!一人じゃ大広間にもいけない位にね」

 

普通、ホグワーツ初日の生徒は相部屋の生徒と一緒に行動する。このストーカーの言う通り、一人では到底目的地に辿り着けないほどホグワーツの構造は複雑だからだ。

 

「嫌よ。貴方とは行きたくないわ」

 

リリーは大袈裟な身振り手振りで話す横をすり抜け、スタスタ出口へと向かった。

 

「そう言わずに!」

「どいて頂戴。私は一人で行くわ」

 

それでも立ちふさがるジェームズをリリーはキッと睨めつけた。

 

ふと、扉の外で合言葉を唱える声がした。パッと扉が開くが、それに気付かなかったジェームズは扉にぴったり張り付いていたので、バランスを崩して背中から廊下に落ちた。

 

「えっ」

「わっ」

 

扉を開けたのはアルマだった。咄嗟にアルマがジェームズの身体を支えたので倒れることはなかったが、ジェームズの顔は羞恥で真っ赤になった。

 

「あ、危ないじゃないか!」

「じゃあそんなところに居ないでくれるかな、危ないから」

 

アルマはけろっとした顔で談話室に上がり、ジェームズを無視した。

 

「リリー、行こう」

「うん!」

 

アルマは扉を開ける少し前から二人の話を聞いていた。実は太った婦人が不在で、戻ってくるのを待っていたのだ。

忘れ物を取りにきたはずが、困っているリリーを放っておけず、自分の部屋に戻ることなく寮を出てしまった。

死んでもお人好しは治らないんだなと思いながら、アルマはリリーを連れて大広間に向かった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

ジェームズは激怒した。必ず、己の恋路を阻む敵を除かねばならぬと決意した。

 

「いやお前、ただの逆恨みじゃねーか」

「違う!あれは絶対に僕を邪魔してる!」

 

今朝の話を聞いた友人のシリウスの言葉も聞く耳を持たず、ぶちぶちと毒づくジェームズ。

彼からすれば、ホグワーツ特急、昨夜の新入生歓迎会、そして今朝。二度ならず三度までもリリーへのアタックを邪魔されているのだ。…実際、客観的に見るとシリウスの言う通り、ただの逆恨みであるが。

 

しかし、これは聞き捨てならないとツカツカ歩いてくる人影があった。リリーだ。

 

「誰が貴方の邪魔をしたって言うのよ!?あれは貴方に困った私をアルマが助けてくれただけよ!」

「エバンズ!」

 

幼馴染を馬鹿にされ、ホグワーツで初めての友人をも侮辱されたリリーはジェームズに怒鳴った。あからさまに怒っているのに意中の女子に声を掛けられたと瞳を輝かせるジェームズはもうシリウスやそのほかの友人達にも呆れられていたが。

 

「アルマは廊下に倒れかけた貴方を支えてくれたって言うのに貴方って本当失礼な人ね!!」

「っ…!」

「私のお友達を侮辱するのがそんなに楽しいの!?」

 

失礼な人。その言葉はジェームズの心にそれはもうグッサリと刺さった。ジェームズは9と4/3番線で初めて出会った───正確にはその姿を見ただけなので出会っていない───リリーに一目惚れしたのだ。今まで同年代の子供達と接する機会が少なかったジェームズにとって女の子を好きになることも当然初めてのことであった。

そして、自分でも何もわからないまま、心の赴くままにリリーにアタックした結果がコレだ。

一目惚れした少女がジェームズに軽蔑の眼差しを向けている。そのことが何よりもジェームズの心を抉った。

 

「…済まなかった、エバンズ…」

「謝る相手は私じゃないわ。アルマよ」

 

ふん、とリリーが鼻を鳴らしたタイミングで、アルマが大広間へ戻ってきた。リリーが朝食を食べている間に忘れ物を取りに席を外していたのだ。

 

「済まなかった!ベネット!」

 

何故か嫌っている筈のジェームズと何やら話していたリリーに駆け寄ると、アルマはこれまた何故かジェームズに謝罪された。勢い良く下げられた頭はぶおんと音が聞こえそうで、腰は90度に曲がっていた。

 

___なんじゃこりゃあ。

 

アルマの知識において、ジェームズは高慢、悪戯好き、そして自己陶酔の激しいクソガキ、という認識である。原作においてハイティーンの頃には幾らかマシになっていた、と言い訳じみた説明をシリウスがハリーにしていた描写も勿論記憶にあるが、"生前"のアルマはそれをとにかく疑っていた。まあ、リリーの人となりをなんとなく掴めばそんな人間と彼女が結婚し、子どもまで儲けるとは思えない、と一応納得したのだが。

 

___更生したジェームズってこんな感じなのか。

 

なんとなく感動しつつも、アルマは戸惑っていた。

いくら脳内をスキャンしても、ジェームズに謝罪されるような事象が見当たらないからだ。

 

「…リリー、私はなんで謝られるのか皆目見当もつかないのだけれど…?」

「ジェームズが貴女のことを悪く言っていたから私が怒ったのよ」

 

___それはなんとなく、予想が付くような。

 

「あー、それじゃあ、私も。あの時、私は君が扉のすぐ側にいる事を知ってて、故意に扉を開けた。事故じゃないんだ。済まなかった。…これで手打ちっていうのは?」

 

アルマからすれば、やっつけ仕事もいいところの処理であり、何より周りの注目が痛いのでちゃっちゃと終わりにしてしまいたい、というのが隠さざる本心であったのだが、ジェームズからするとまた違ったらしい。

 

「ありがとう、ベネット」

 

顔を上げて、へらりと笑ったその顔には、リリーが落ちても仕方が無いと思わせる魅力があった。

このまま真っ当に成長してくれ…と祈ったのもつかの間。

 

リリーと仲良さげなセブルスに対しジェラシーをこれでもかと燃やし、悪戯という名の嫌がらせを始めたことにリリーと共に憤慨しつつ、やっぱりジェームズだとちょっぴり安心したのはリリーにも、誰にも言えない秘密だ。

 



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