【仮名】必ず僕達がお前を治す。 (紅の覇者)
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1話『医師を目指す少年』

話を思いついたので投稿しました。
良かったらどうぞ。


 現在、冬を迎えており昨日に大雪が降ったせいか辺り一面は銀世界へと成り果てていた。

 

 そんな中、雲取山中を駆け巡る1人の藍色の髪型が特徴な少年。その少年には籠が背負われており、中には沢山の薬草らしきものが入っていた。

 

 「この時期は早く採取しないと薬草がダメになっちまうからな!!今日中には春まで持てるぐらいまで沢山採らないと!!」

 

 少年はそう言って、雪をかき分けて薬草を採取する。

 

 本来なら、薬草とかはもうダメになり運良く耐え抜いた薬草はかなり少なく見つけるのは困難のはずなのだが、少年は次から次へと見つけ出して採取する。

 

 「む。僕の勘が今度はあっちだと言っている。行ってみよう!!」

 

 少年は方向を変え、走って進むと発言通り薬草が何本か生えていた。

 

 「相変わらず、僕の勘は当たるなぁ」

 

 少年は苦笑いしながら、目の前に生えている薬草を採取し籠の中に入れる。すると、ちょうど籠の中がいっぱいになった。

 

 「よし。これだけあれば充分だろ。早く家に帰ろ」

 

 採取した薬草の数に満足した少年は嬉しそうに自分が住む家へと向かう。

 

 向かっていると、途中に山奥だというのにも関わらずポツンと建っている一軒家が現れる。

 

 その一軒家からはワイワイと楽しそうに男女の子供が遊んでいた。

 

 「あ!!鈴兄ぃ!!」

 

 その内、1人の幼い女の子が彼を見て大声を上げる。それによって、他の子達も少年の存在に気づく。

 

 「あはは、元気してるか?みんな」

 

 幼い子供たちが、少年に近づきワイワイしていると1人の美しい女性が入り口から現れた。

 

「こんにちは、鈴蘭ちゃん」

 

「こんにちは、葵枝さん」

 

 鈴蘭と呼ばれた少年は、自分の名を呼んだ女性の傍まで行く。

 

 彼女の名前は竈門 葵枝。この一軒家で暮らしていて、周りにいる子達の母親だ。

 

 「今日も薬草の採取??」

 

 「はい!!今日はどうしてもやりたい調合があるので!!」

 

 「そうなの。頑張ってね!!」

 

 「ありがとうございます!!あ、これ良かったらどうぞ!!俺が調合して作った飲み薬と塗り薬です!!」

 

 鈴蘭は懐から2つの小袋を取り出して葵枝に渡す。

 

 「助かるわ。鈴蘭ちゃんが作った薬はよく効くから。流石は将来、お医者さんになる夢を持ってるだけあるわね」

 

 「そんなこと言われたら照れますよ」

 

 鈴蘭は昔からとある理由で医師になるという夢を抱いていた。

 

 しかし、彼は医師になるための教材などを買うお金がないので、ほとんど独学で勉強したり、薬に関しては独自の調合したりしていた。無謀に近いやり方だが、運良く鈴蘭は勘が良いのか独学も良い感じに学んでいるし、調合も失敗を1度もした事がなくほとんど成功させている。

 

 実際ここだけの話、市販されているやつよりも効果があると言われている。

 

 「そうだ、お礼に炭を持ってってちょうだい。炭治郎ー!!」

 

 「ん、どうした母さん………って、鈴蘭じゃないか!!」

 

 「よ、炭治郎」

 

  葵枝から呼ばれ、入り口から大きな籠を背負った1人の少年が現れる。その少年は珍しく赤い瞳をしており、耳飾りを付けていた。

 

 少年の名は竈門 炭治郎。竈門家の長男で父親がいない今、炭を売って家系を支えている大黒柱的存在だ。

 

 「てか、炭治郎よ。お前、顔が真っ黒だぞ?もしかして、今から山を下りて炭を売ってくるのか?」

 

 「あぁ!!今のうちに沢山、炭売って正月に弟たちに腹いっぱい食べさせてやりたいからな!!」

 

 「はぁー、相変わらずお前良い奴だな」

 

 すると、周りの子達が炭治郎と一緒に行きたいと騒ぎ出すが、それを炭治郎や葵枝が速く走れないから、と言って説得する。

 

 「炭治郎、また鈴蘭ちゃんが薬をくれたから炭をいくつか譲ってあげて」

 

 「本当か!!いつもありがとうな、鈴蘭!!」

 

 「別にいいって。その代わり、もし僕が医師になったら、ちゃんと来てくれよな」

 

 「勿論だ!!その時は家族全員で行くぞ!!」

 

 「いや、家族全員で来られても困るんだけど……。」

 

 少しだけ抜けている炭治郎に溜息を吐きながら炭を貰う鈴蘭。

 

 「よし。それじゃあ、行くか。」

 

 「手伝ってくれるのか!?」

 

 「な訳ないだろ。帰り道が同じだからそこまで一緒に行くだけだ。僕は早く調合がしたくてウズウズしてるんだよ」

 

 「だと、思った!!」

 

 アハハ、と笑う炭治郎を見て鈴蘭は思わずに笑みが零れる。炭治郎と知り合いになったのはまだ、竈門家に長女が誕生していない時だったので随分と時が経過したのかが分かる。

 

 幼馴染と言っても過言ではない炭治郎は、鈴蘭にとって良き親友となっていた。

 

 竈炭家を離れ、少しだけ進むと

 

 「あ、お兄ちゃんと………鈴蘭くん!?」

 

 幼い男の子を背負った1人の女性に話し掛けられる。

 

 「やぁ、禰豆子ちゃん」

 

 彼女の名前は竈門 禰豆子。竈門家の長女で炭治郎の妹。

 

 容姿は葵枝に似ていて、かなりの美人だ。町でもそれは有名で評判となっており、彼女を狙う男子も少なくはない。まぁ、炭治郎がいるからそれは難しい話だが。

 

 「六太を寝かしていたのかな??」

 

 「う、うん!!大騒ぎすると思ったから」

 

 「そっか。でも確かに、こんな幼いのに炭十郎さんが亡くなってしまったから、寂しいのは当然だよな」

 

 それによって、六太含め炭治郎と禰豆子以外の弟たちは炭治郎にくっつき回るようになったというのも鈴蘭は知っている。

 

 「偉いな、禰豆子ちゃんは」

 

 鈴蘭は笑いながら禰豆子の頭を優しく撫でる。彼女は自分よりも他の兄弟を優先にして竈門家を支えているということも鈴蘭は知っていたのだ。まだ歳は12だと言うのにも関わらず。これは凄いことだ。

 

 「ーーーーーーーー!!!」

 

 すると、禰豆子は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにするも、嬉しそうな表情へと変わる。

 

 それを見て、炭治郎はまるで父親のような目線を鈴蘭に送りながら一言

 

 「鈴蘭。お前になら禰豆子を任せられるよ」

 

 「は?何、言ってんの、お前。馬鹿じゃねぇの?」

 

 「もう!!お兄ちゃん!!」

 

 炭治郎は他の人と比べて鼻が利く。それによって、禰豆子が鈴蘭に対して抱いている気持ちも匂いで炭治郎は察していた。

 

 「早くしないと日が暮れちまうぞ?」

 

 「そうだな。それじゃあ、禰豆子。みんなをよろしく」

 

 「うん!!頑張って!!鈴蘭くんもまたね!!」

 

 「はいよ。」

 

 禰豆子と別れたあと、再び炭治郎と一緒に歩く鈴蘭。

 

 ふと、鈴蘭は気になったことを口にした。

 

 「そういえばさ、親父さん、亡くなったじゃん?」

 

 「あぁ………」

 

 「てことは、年初めにやってるいつものあの神楽。来年は炭治郎がやるのか?」

 

 「一応、そのつもりだ!!」

 

 神楽とは、火の仕事をしている竈門家に代々伝わっている毎年恒例のようなもので年初めに仕事が上手くいくようにと火の神様に捧げる舞のことだ。

 

 「炭十郎さんの神楽………、好きだったのにな」

 

 縁あって、数年前から毎年、その神楽を見させてもらったことがある鈴蘭は炭治郎の父親が舞う神楽が大好きであった。

 

 それを見て、今年も医学に向けての勉強が上手くいくようにとお祈りをしていた鈴蘭にとって、それがもう見れないとなると寂しいと感じてしまう。

 

 「本当に鈴蘭は好きだよな!!父さんの神楽」

 

 「当たり前だろ。好きすぎて、その神楽を見よう見まねで覚えたぐらいだからな」

 

 それを当時、生きていた炭治郎の父親に見せたら、珍しく驚愕の表情を浮かべていたのを鈴蘭は思い出す。

 

 「そんなことあったな。今もできるか?」

 

 「んー、どうだろう。ここ最近は、ずっと勉強やら採取やら調合やらで忙しかったからな。多分、また見れば思い出すんだろうけど」

 

 神楽の型は全部で12ある。そんな中、もし今現在、やってみようと思っても恐らくできるのは3つまでだろう。

 

 「あ、俺の家だ」

 

 次第に鈴蘭の家が見え、玄関前で2人は立ち止まる。

 

 「それじゃあ、ここでお別れだな」

 

 「おう」

 

 「今度、うちでご飯を食べに来いよ。鈴蘭!!」

 

 「気が向いたらな。炭治郎も、炭売り頑張れよ」

 

 「あぁ!!それじゃあ、また!!」

 

 「おう」

 

 炭治郎は手を振りながら先に進み、山へと降りていった。

 

 「ただいまー」

 

 家へと入った鈴蘭は言葉を出すも声が返ってくることは無かった。

 

 それを分かっているかのように、鈴蘭は部屋の奥へと進み、とある部屋へと入る。そこには鈴蘭によく似た男性と女性の写真が置かれている小さな仏壇が置かれていた。

 

 「ただいま、父さん。母さん」

 

 鈴蘭は優しくそう言って、仏壇に採ってきた薬草を添える。その後、手を合わせて数秒ほど目をつむる。

 

 目を開けたら、鈴蘭はその部屋から退室し、今度は自身の部屋へと入る。机の上には独学で勉強していたであろう紙や筆が散乱しており、もう1つの机には過去に採ってきたであろう薬草やら、作った薬品が入った入れ物が数多く置かれていた。

 

 「うし!!それじゃあ、始めますか!!」

 

 待ちに待った調合タイムでテンションが上がる鈴蘭。机の上にあるものを一旦整理し、ある程度の場所を作ったあと調合に使う道具と今さっき採ってきた薬草を置く。

 

 「んじゃまぁ………、とりあえずはこの薬草とこの薬草をーーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やっべ。また、徹夜してしまった」

 

 調合が予想以上に上手く行って、そのまま勢いに任せて続けた結果、夜を通り越して朝方になってしまっていた。

 

 ふぁー、と欠伸をかき、睡眠を取ろうとした瞬間ーーーー

 

 「…………なんだろう。今、竈門家が危ない気がする」

 

 いつもの鈴蘭の当たる勘が彼にこう訴える。

 

 

 ーーー竈門家が危ない!!と。

 

 

 長男である炭治郎がいるから、安心だと思うが、鈴蘭の勘は恐ろしいほどに当たる。

 

 「………ちょっくら行ってみるか」

 

 不安になった鈴蘭はいくつかの薬草やら飲み薬やら塗り薬。そして、念の為に自身を守るナイフを持って家を出て走る。

 

 そして、10分ほどで竈門家の前に辿り着いたのだが……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ーーーーーーーーは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 炭治郎以外の竈門家のみんなが血塗れになって倒れていた。

 




登場人物
成矢 鈴蘭(13)……とある理由で医師を目指している少年。独学で勉強中。藍色の短髪が特徴。体力は山を駆け巡れるほどある。鈴蘭曰く第六感である勘がとても冴えており、これを頼りに、これまでずっと生きてきた。
炭治郎とは幼馴染。両親のいない鈴蘭にとっては第2の我が家に近い存在で竈門家の誰とでも仲が良かった。竈門家で毎年行っている神楽がとにかく大好きで教えてもらおうと炭治郎の父親にお願いするが呆気なく拒否される。そのため、2年間、つまり2度、炭治郎の父親が舞う神楽を視界に焼き付け、見よう見まねで神楽を覚えた。炭治郎の父親はそれを見て、完璧のコピーに思わず驚愕する。しかし、せっかく覚えた神楽の型も今では3つしか出来ない。(また見れば思い出すと本人は言う。)

因みに、恋愛に関しては鈍感で禰豆子の必死のアピールやアタックにも気付かない、とても残念なやつ。


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2話『鬼』

2話以降から鈴蘭視点で話が進んで行きます。
よろしくお願いします。


 「おい、禰豆子ちゃん!!大丈夫か!?」

 

 僕、成矢 鈴蘭は勘を頼りに竈門家に来たら炭治郎以外の竈門家の家族が血塗れになって倒れていた。

 

 今まで襲ってきた睡魔が一気に無くなり、すぐ様、目の前に倒れていた禰豆子ちゃんに声を掛けるが反応はない。

 

 「葵枝さん!!花子ちゃん!!武雄!!茂!!」

 

 家の中で無残に倒れている竈門家の人達に声を掛けるが禰豆子ちゃんと同じく反応はない。肌を触っても、冷たく、脈や胸部に耳を当てても音はしなかった。

 

 「くそっ!!くそっ!!一体、何があったんだ!!」

 

 僕は彼女達の血で肌や服が赤く染まりながら涙を流し、目の前に倒れている茂の切口を見る。見た感じ、明らかに猛獣とかに襲われたような傷では無かった。

 

 つまり、人為的な殺人だと考えられる。

 

 「どうした!!どっ、どうしたんだ!?」

 

 外から、聞き覚えのある声が聞こえてくる。聞き間違えるはずがない。

 

 「炭治郎!!」

 

 「鈴蘭!?」

 

 鈴蘭と同じく顔を青くして涙を流していた炭治郎が立っていた。すぐ様、炭治郎は俺の両肩を掴む。

 

 「鈴蘭!!一体、何があったんだ!!どうして家族がーーー」

 

 「分からない!!だけど、竈門家が危ないと勘づいたから急いで来てみたらこうなっていたんだ!!」

 

 「そうなのか!!」

 

 本来なら、状況だけを見てみれば炭治郎は僕が竈門家の殺人の犯人だと思うのだろう。しかし、炭治郎は鼻がとても利く。僕の今の感情を匂いで理解したに違いない。

 

 「鈴蘭!!禰豆子だけ、まだ温もりがある!!」

 

 「何だって!?」

 

 炭治郎の言葉に、僕は禰豆子ちゃんの傍まで近づき肌を触れる。確かに、ほんの僅かだかまだ温かい。

 

 「街の医者に診てもらえば、もしかしたら助かるかもしれない!!」

 

 本当に微かにだか見えてきた小さな希望。僕は袋の中から薬草の成分が染みている包帯を取り出して禰豆子ちゃんの傷口に目掛けて巻いていく。

 

 「よし!!炭治郎!!今すぐ山を下りるぞ!!」

 

 「分かった!!」

 

 炭治郎が禰豆子を背中に抱えて街に向かって走り出す。葵枝さん達をこのままにしておくのは嫌だが、今は禰豆子ちゃん優先だ!!直ぐに医者に診てもらったら戻ってちゃんと、弔おう。

 

 「炭治郎!!早く!!」

 

 「分かってる………けど………息が………苦しいんだ!!」

 

 「くそっ!!こんな時に限って!!」

 

 こんな時に限って、空からは雪が降り始め、気温が更に下がり始めているのかが分かる。ただでさえ、禰豆子ちゃんが弱っているというのにも関わらずにだ。

 

 それによって、凍てついた空気を吸うと肺が痛くなってしまい、足が遅くなってしまう。

 

 僕は街まで近いルートを炭治郎に教えながら、彼に背負われている禰豆子ちゃんに言葉を投げかける。

 

 「死ぬな、禰豆子ちゃん!!頑張れ!!街まであと少しだから!!」

 

 「そうだ!!禰豆子!!絶対に兄ちゃん達が助けてやるからからな!!」

 

 と、2人で走りながら禰豆子ちゃんに声を必死に掛けるが……

 

 「え?」

 

 禰豆子ちゃんの様子がおかしi……………

 

 

 「グオォォォォォォ!!!」

 

 

 「「ーーーーーーーーッッ!?」」

 

 突然、今まで気を失っていた禰豆子ちゃんがまるで獣のように咆哮を上げる。それによって、驚いた炭治郎は思わずに足を滑らせてしまう。

 

 「しまっーーーー」

 

 「炭治郎!?」

 

 炭治郎と禰豆子ちゃんはそのまま、崖へと転がり落ちてしまった。僕はすぐに追うように近くに生えていた何本かの大木の丈夫そうな枝を土台にして飛び降りながら崖の下へと降りていった。

 

 降りると、炭治郎は無事だった。恐らく、積もっていた雪がクッションとなってくれたのだろう。僕は安心して安堵の息を吐く。

 

 しかし、あの子がいない。

 

 「禰豆子ちゃんは!?」

 

 「ハッ!!禰豆子!!」

 

 禰豆子ちゃんが背中にいないことを理解した炭治郎もすぐに起き上がり周りを見回す。

 

 すると、案外、近くに禰豆子ちゃんが立っていた。

 

 それを見た僕達はすぐに彼女の傍まで駆けつける。

 

 「禰豆子、大丈夫か!?歩かなくていい!!街まで兄ちゃん達が運んでやるから!!」

 

 「そうだぞ!!だから、禰豆子ちゃんは安静にして…………」

 

 僕達は気が付いた禰豆子ちゃんに声を掛けながら表情を伺うと…………

 

 

 過去に1度も見たことがない、豹変した禰豆子ちゃんの顔があった。

 

 

 「グァー!!」

 

 そして、禰豆子ちゃんは目の前にいた炭治郎を襲い掛かる。唐突の彼女の行動に炭治郎は動揺しながらも、手に持っていた斧の棒部分を彼女の口の中に目掛けて押し出し、噛ませた。

 

 「禰豆子ちゃん!?一体、どうしたんだ!?」

 

 僕は禰豆子ちゃんを炭治郎から引き剥がそうとするが、力がとても強くビクともしなかった。おかしい!!か弱い女の子が出せる力じゃない!!

 

 豹変した彼女の姿を見て、思い当たる部分があるのか炭治郎が口を開く

 

 「鈴蘭!!鬼だ!!」

 

 「は!?鬼!?」

 

 「あぁ!!三郎爺さんが言っていた!!人喰い鬼がいるって!!」

 

 「何、こんな時にふざけたこと言ってんだよ!!禰豆子ちゃんが鬼!?そんなこと、ある訳ないのがお前が1番によく知ってるだろうが!!」

 

 もし、本当に禰豆子ちゃんが鬼なら家族を殺したのは彼女だということになる。だけど、そんなことはありえないというのはお互いに知っている。

 

 「当然だ!!禰豆子は人間だ!!生まれた時から!!」

 

 「じゃあ、どうしてーーー」

 

 「匂いがいつもの禰豆子じゃないんだ!!それに、分かっていると思うけど母ちゃん達を殺したのも禰豆子じゃない!!六太を庇うように倒れてたし、口や手にも血は付いていなかった!!それに………」

 

 「もう1つ。違う匂いがあった!!きっと、そいつだ!!俺の家族を殺したのは!!」

 

 炭治郎は禰豆子に襲われないように力を入れながら大声で言葉を出す。炭治郎が言うなら、それは本当のことなのだろう。炭治郎は真面目故に嘘はつかない。

 

 

 ーーーズズズ

 

 

 「「ーーーーーーーーッッ!?」」

 

 禰豆子ちゃんが急に大きくなり始めた。どういう原理なのか、気になるところではあるがそれどころではない。

 

 とにかく、まずい。大きくなったということは力が更に大きくなるということ。

 

 今まではギリギリ、俺たちの力で耐えてきたがここまで来たらどうすることも出来ない。

 

 

 どうしたらーーー

 

 

 「頑張れ、禰豆子!!堪えろ、頑張ってくれ!!」

 

 「炭治郎!?」

 

 涙を流しながら、禰豆子ちゃんに声を掛け始める炭治郎。

 

 「鬼なんかになるな!!しっかりするんだ!!頑張れ!!頑張れ!!頑張れ!!」

 

 「………炭治郎の言う通りだ!!頑張れよ、禰豆子ちゃん!!負けるな!!」

 

 炭治郎に続いて僕も禰豆子ちゃんに声を掛ける。こんなことでどうにかできるのかは分からないが、こうした方が良いと、僕の勘が告げている。なので、必死に彼女に言葉を投げかけた。

 

 

 頑張れ!!頑張れ!!頑張れ!!

 

 

 すると、僕達の言葉が彼女に届いたのか……

 

 「ガァ……ガァ」ボロボロ

 

 禰豆子ちゃんが大粒の涙を流していた。落ちた涙が炭治郎の頬に垂れる。

 

 伝わったんだ………。禰豆子ちゃんに僕達の想いが。

 

 そう思い、安心したところで………

 

 

 "背後、危険!!"

 

 

 「ーーーーーーーーッッ!!」

 

 唐突に、僕の勘がそう告げる。すぐに後ろを見ると、何かが凄い勢いで俺達の方に向かって来ていた。

 

 そして、その何かは刀らしきものを抜いて禰豆子ちゃん達にに目掛けて振り下ろそうとした。

 

 僕はすぐに懐からナイフを取り出し………

 

 「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 ーーーガキン!!

 

 

 「……………ッッ」

 

 振り下ろされた刀をナイフで弾いた。

 

 刀を振り下ろした何かはすぐに後方に退いて距離を取り始める。僕はその何かに目掛けてナイフを構えた。

 

 「誰だ!!」

 

 「……………」

 

 

 

 

 ナイフを構えた僕達の先には、1人の男が立っていて、冷たい目線で僕達を見つめていた。

 

 

 

 

 




もう1話、投稿できたらします。


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3話『僕達が治す。』

とりあえず、本編1話は終了できました。
あと、作品タイトルにミスがあったので訂正しました。まぁ、一人称を間違えてたのでそれを変えただけです。


 刀を持った男は黒い制服らしき服に片方は無地。そして、もう片方は亀甲柄といった今時珍しい羽織を羽織っていた。

 

 「なぜ庇う??」

 

 男は冷たい目線を送りながら、呟く。

 

 どうして庇うのか??そんなの決まってるだろう。

 

 「妹だ!!俺の妹なんだ!!」

 

 「俺にとって大切な知り合いだからに決まってるだろう!!」

 

 俺達がそう言葉に出すと

 

 「ガァァァァァ!!!」

 

 「こら、禰豆子!!やめるんだ!!」

 

 禰豆子ちゃんはまたしても、その場から暴れ出す。

 

 その様子を見た男はまたしても一言だけ呟く。

 

 「それが妹か??」

 

 それが……だと??この人………まるで禰豆子ちゃんを人間じゃないような発言しやがった!!

 

 そして、その男は俺達に目掛けて走り出す。炭治郎は禰豆子ちゃんを覆い、僕はナイフを振り下ろして対応しようとしたが……

 

 「…………は??」

 

 僕と炭治郎の背後にいつの間にか移動していた男。そして、彼の手には咆哮をあげる禰豆子ちゃんがいた。

 

 瞬く間にこの男は僕達を通り過ぎて、彼女を抱えたというのか。本当に人間か、この男は!?

 

 「「禰豆子(ちゃん)!!」」

 

 僕達は男から禰豆子ちゃんを取り戻そうと動き始めるが、その場から動くなと男に言われてしまい足を止める。

 

 「俺の仕事は鬼を斬ることだ。勿論、お前の妹の首も刎ねる」

 

 平然と禰豆子を殺すと発言したその男。それに対し、炭治郎は慌てながら声を上げる。

 

 「待ってくれ!!禰豆子は誰も殺していない!!」

 

 炭治郎に続いて、僕も声を出す

 

 「そうだ!!その子は朝、家の前で倒れてて医者に診せようとしたら、こうなったんだ!!」

 

 「……………」

 

 男は僕達の言葉を聞いても、無言のままだ。

 

 「俺の家にはもう1つ、嗅いだことの無い誰かの匂いがした!!みんなを殺したのは多分そいつだ!!」

 

 「……………」

 

 「禰豆子は違うんだ!!どうして、今そうなったのかは分からかいけど。でもーーー」

 

 「簡単な話だ。傷口に鬼の血を浴びたから鬼になった」

 

 「「ーーーーーーーーッッ!?」」

 

 「人喰い鬼はそうやって増える」

 

 つまり、竈門家を襲った犯人は鬼で…………運悪くその鬼の血が禰豆子ちゃんの傷口に入ったことによって鬼になったということなのか!?

 

 「禰豆子は人を喰ったりしない!!」

 

 「良くもまぁ、今しがた己が喰われそうになっておいて」

 

 「違う!!俺のことはちゃんと分かっているはずだ!!」

 

 さっきの出来事があったからか、炭治郎は禰豆子を必死に庇おうと弁護する。

 

 「俺が誰も傷つけさせない。きっと禰豆子を人に戻す!!絶対に治します!!」

 

 炭治郎はそう言うが、男は更に僕達を絶望に陥れるかのように発言をする。

 

 「治らない。鬼になったら人間に戻ることは無い」

 

 「探す!!必ず方法を見つけるから殺さないでくれ!!」

 

 「家族を殺した奴も見つけ出すから!!俺が全部ちゃんとするから!!だから……」

 

 炭治郎が必死に弁護するも聞いていないように禰豆子ちゃんに刃先を突き出す男。

 

 「やめてくれぇぇ!!!」

 

 そして、ゆっくりと炭治郎は冷たい雪に両手と額を付ける。簡単に言えば土下座だ。

 

 これ以上、失いたくないのだろう。奪われたくないのだろう。

 

 そんな想いが込められているからか、涙を流しながら弱々しい声を炭治郎は出す。

 

 「辞めてください………。どうか、妹を殺さないでください。お願いします。」

 

 先程の勢いが嘘のように、弱々しい声で炭治郎は何度も何度も禰豆子ちゃんを殺さないで欲しい、と口に出した。

 

 お願いします、お願いしますと何度でも。

 

 こんな姿の炭治郎を僕は始めて見た。普段はあんなに強い男がこうして冷たい雪の地面に額を擦りつけて許しを乞うている。

 

 彼を見ていて、とても自分の胸が痛くなる。

 

 そんな炭治郎の姿を見て男は………

 

 

 「生殺与奪の件を他人に握らせるな!!」

 

 

 無表情だった顔が一気に険しくして、俺達に大声を出す。突然の事だったので炭治郎だけでなく、僕もビクリとしてしまった。

 

 なんなんだ、この気圧は!?

 

 「惨めったらしくうずくまるのはやめろ!!そんなことが通用するならお前の家族は殺されていない!!」

 

 「奪うか奪われるかの時に主導権を握れない弱者が!!妹を治す??仇を見つける??」

 

 「笑止千万!!」

 

 「弱者には何の権利も選択肢もない。悉く力で強者にねじ伏せられるのみ!!」

 

 「妹を治す方法は鬼なら知っているかもしれない!!だが、鬼共がお前の意思や願いを尊重してくれると思うなよ!!」

 

 「当然、俺もお前を尊重しない!!それが現実だ!!」

 

 「なぜ、さっきお前は妹に覆い被さった!!あんなことで守ったつもりか!?」

 

 「なぜ、そいつのように俺に目掛けてナイフを振るったようにその斧を振るわなかった??なぜ、俺に背中を見せた!!そのしくじりで妹を取られている!!」

 

 「お前ごと、妹を串刺しにして良かったんだぞ!!」

 

 

 男は大声で何度も何度も俺達に向かって厳しい言葉を投げかけた。それによって、炭治郎の精神はドン底まで突き落とされたように絶望に地した表情へと変わっていた。

 

 それほど、この人の言葉が炭治郎の心に突き刺さったのだろう。

 

 しかし、なんでだろう。本来なら、俺も男の怒涛な言葉によって絶望するか、それとも怒りに任せるはずなのだが。

 

 不思議と気持ちが落ち着いていた。

 

 この人は………きっと悪い人じゃない。これは、僕の勘だが。

 

 彼自身の意地悪で俺達に言葉を送っているようにはどうしても見えないのだ。

 

 まるで、自分自身にも言っているかのように感じる。

 

 まさか……………試しているのか??炭治郎のことを。

 

 本当に鬼になってしまった禰豆子ちゃんを助けたいという気持ちが。決心が。覚悟があるのかということを。

 

 きっと、炭治郎がやろうとしていることは脆弱な覚悟では成し遂げることは出来ない。

 

 だから、この男はそれを見極めようとしているんだ。

 

 そして、案の定。男は刀で禰豆子ちゃんをぶっ刺した。刺された箇所からは禰豆子ちゃんの血が飛び散る。

 

 それを見た炭治郎は手元にあった石を男に目掛けて放り投げる。男がそれを刀の柄で弾く。それを見計らって炭治郎は斧を手にして木々の間を駆け巡る。

 

 間髪入れず、炭治郎は続けて木々の間から小石を投げるが男は容易く躱す。

 

 そして、炭治郎は男に目掛けて立ち向かうが………

 

 「愚か!!!」

 

 男は持っていた刀の柄頭で炭治郎の背中に思いっ切り当て、逢えなく撃沈されてしまう。

 

 「感情に任せた単純な攻撃とは……」

 

 男はそう呟く。この人…………どうやらまだ気づいていないようだ。

 

 炭治郎の本当の攻撃に。

 

 「ーーーーーーーーッッ!!」

 

 だが、最後の最後でどうやら気づいてしまったらしい。炭治郎が手にしていた斧が無いということ。

 

 そして、その斧が現在進行形で、自分に目掛けて飛んできているということに。

 

 咄嗟に、男は首を左に傾けると、つい数秒まで顔があった場所に斧の刃が突き刺さる。もし、あと1秒でも気付くのに遅かったら男の顔面は大変なことになっていただろう。

 

 炭治郎は木の影に隠れる直前に男に石を投げ、隠れた直後に手にしていた斧を上へと放り投げていたんだ。

 

 丸腰であるのを悟られないように振り被った体勢で手元を隠していた。斧を手にしていないというのをバレないために。

 

 炭治郎は分かっていたのだ。この男に勝つことが出来ないということに。

 

 だからこそ、自分が倒された後にこの男を倒そうとした。

 

 凄く上手くできた戦術だ。

 

 親友がやられ、気絶してしまったのをのほほんと見学しているほど、僕の性格は腐ってはいない。

 

 すぐに炭治郎の傍まで駆け寄り、様子を伺う。うん….……、気絶しているだけだ。そのうち、目を覚ますだろう。

 

 「しまっーーーー」

 

 突如、男の焦ったような声が聞こえてきた。そちらの方に顔を向けると、なんと禰豆子ちゃんが僕達の方に目掛けて走って来ているではないか。

 

 だけど、焦る必要なんてない。なぜかって??

 

 さっき、炭治郎が散々と男に向かって何度も何度も言っていただろうが。

 

 

 禰豆子ちゃんは…………

 

 

 

 人を喰ったりしないって。

 

 

 

 禰豆子ちゃんはまるで俺達を守るような動作を見せ、男を威嚇していた。

 

 やっぱり………禰豆子ちゃんは鬼になっても分かっているんだ。

 

 兄である竈門 炭治郎という存在と、その親友である僕、成矢 鈴蘭のことが。

 

 きっと、すぐに、男に向かっていくだろう。そんな気がする。

 

 それはそれで、嬉しい気持ちだけど…………

 

 「ごめんね、禰豆子ちゃん。」

 

 

 ーーーバキッ!!!

 

 

 「ガハッ!!」

 

 僕は全力で禰豆子ちゃんの後頭部に目掛けて両手を重ねた打撃を入れた。打撃を与えた場所が良かったのか、禰豆子ちゃんはその場から気絶して倒れた。

 

 

 「…………なんのつもりだ。」

 

 

 僕の不審な行動を見て、男は言葉を出す。

 

 「どうせ、アンタだってこうするつもりだっただろ。それを早めただけだ。」

 

 「言ってる意味が分からないが。」

 

 「惚けても無駄だ。アンタがいくら隠そうとしても僕の前では無駄なことだ。」

 

 「…………その根拠は??」

 

 「根拠なんてない。僕のただの勘さ。」

 

 「ますます意味が分からない」

 

 「僕の勘はよく当たるんだよ。これはマジの話。」

 

 僕は誇るように、勘がいい事を自慢する。それを聞いて呆れたのか男は無言になった。

 

 まぁ、この人に聞きたいことは幾つかあるが、今は置いておこう。まずは禰豆子ちゃんの処置だ。

 

 僕は、普段いつも使っている竹で出来ている水筒を取り出して中身に入っている水を捨てる。

 

 その後、禰豆子ちゃんの口元に当ててサイズを確認し、ナイフで切り落としてサイズを調節していく。

 

 「何をしている」

 

 気になったのか、男は僕に声を掛ける。

 

 「口枷を作ってるんですよ。人は襲わないとしても念には念です。」

 

 「…………そうか。」

 

 男はボソッと呟くと、シュン!!とその場から消えた。

 

 …………は??

 

 どんな身体能力してるんだ、あの人。禰豆子ちゃんに向かって人間じゃないとか言ってたけど、アンタも大概だよ。

 

 変な気持ちになりながらも、良い感じにサイズを調節したら、それに紐を括って竹製の口枷を完成させる。

 

 それを気絶している禰豆子の口元に当て装着させる。年頃の女の子にこんなことするなんて罪悪感しか感じないが、仕方がないことだ。うん、仕方がない仕方がない。

 

 「おい」

 

 「わぁ!!ビックリした!!」

 

 背後から急に声が聞こえ、振り向くと男がいた。いつの間にか戻って来ていたようだ。そして、手には薄い紫色の少し大きめの着物を手にしていた。

 

 「これを、そいつに着せてやれ」

 

 「まさか、それを取りに??」

 

 「………………」

 

 何で、ここまで来て何も答えないんだよ。どうして、そこで無口になる。逆に怖いよ。

 

 男から着物を貰い、禰豆子に着せる。これで、少しは暖かくなるだろう。

 

 そして、僕は彼女を未だに気を失っている炭治郎の隣へと寝かせた。

 

 よし。これで竈門兄妹に関する処置は終わった。

 

 今度は……………

 

 「ーーーさて。お兄さん」

 

 「…………何だ??」

 

 男に声をかけると、このときを待っていたかのように反応を見せる。

 

 「お兄さんが知ってる鬼に関することを………ここで全部教えてよ。」

 

 「………いいだろう。」

 

 こうして、僕は目の前にいる男……冨岡 義勇さんから鬼に関する全ての情報を聞き出した。

 

 「なるほどな。その鬼を倒すための組織、鬼殺隊っていうのに入れば鬼を倒せるのか。」

 

 「だが、入隊するには藤襲山で行われる最終選別で生き残る必要がある。」

 

 「強くなければいけないってことだよな??」

 

 「………あぁ。だから、お前らには、ある人を紹介する。その人の元まで行け。そしたら、多分だが強くなれる」

 

 「ある人??」

 

 一体、誰のことだろう??

 

 「それは、そいつが目覚めてから言う。二度手間は時間の無駄だ。」

 

 「あぁ、そうですか。」

 

 「………1ついいか??」

 

 「……どうぞ??」

 

 「お前は…………あいつが妹を本当に人間に戻せれるも思うか??」

 

 冨岡さんの言葉に、僕は思わずに鼻で笑いそうになってしまった。

 

 炭治郎が禰豆子ちゃんを人間に戻せれるかって??そんなの決まってるだろう。

 

 「できる。僕『達』なら。絶対に。」

 

 この世に、治せない病気だってない。今は治せなくても研究を重ねたら、いつかはできる。今もそうやって治療薬は作られているし、今後も今は治せないと言われている病気を治すことができる薬がどんどん開発されていくはずだ。

 

 だから、鬼になってしまうという可哀想な病気を治す方法を絶対に見つける。炭治郎と一緒に。

 

 「………そうか。因みに、お前は医師を目指しているのか??」

 

 「そうだけど。」

 

 冨岡さんの質問に応えると、彼は顎に手を置いて何かを考えるような仕草を見せる。

 

 「………もし、ある人に出会い、1年以内に全集中を覚えたら、お前には蝶屋敷に向かうようにということも伝えておこう。」

 

 「……は?は?は?待て、言ってる意味が分からないのだが!?」

 

 全集中!?蝶屋敷!?ごめん、何言ってるか全然分からんわ!!

 

 「今はわからなくて良い。時期に分かる。」

 

 本当かよ。なんか、信用できないんですけど。

 

 そんなことを、思ってるとどうやら炭治郎は目を覚ましたらしく禰豆子ちゃんが着ている着物を掴んで涙を流していた。

 

 「おはよう、炭治郎」

 

 「鈴………蘭」

 

 「起きたか??」

 

 冨岡さんが炭治郎に声を掛けると、すぐに寝ている禰豆子ちゃんを抱える。まぁ、当然だよね。ついさっきまでは殺す発言されてたし、なんから刃で刺してたし。

 

 「狭霧山の麓に住んでいる鱗滝左近次という老人に尋ねろ。冨岡義勇に言われて来たと言え。」

 

 鱗滝左近次……、その人が冨岡さんが言っていた人物なのだろうか。

 

 「今は日が差していないから大丈夫のようだが、妹を太陽の下に連れ出すなよ。」

 

 最後に冨岡さんはそう言って、またしてもシュン!!消えた。だから、なんだよ。その瞬間移動的な速さは。今度、僕に教えてくれないかな。

 

 あと、鬼は日光に弱いというのは既に教えて貰っているので、その危険性についての詳細は僕から教えればいい。

 

 その後、僕らは竈門家に戻り死体である葵枝さん達を土の中に入れて弔った。彼女達の死体を見て、またしても泣きそうになってしまうが、炭治郎だって我慢しているんだ。耐えないと。

 

 その後ら炭治郎と並んで手を合わせる。その頃、禰豆子ちゃんはボーッとしていた。

 

 葵枝さん。今まで僕に優しくしてくれてありがとう。炭十郎さんと一緒に天国で僕達を見守って下さい。

 

 そう心の中で思いながら、しばらくその状態でいた。

 

 「鈴蘭、禰豆子。行くぞ」

 

 「…………おう。」

 

 

 ーーーギュッ

 

 

 禰豆子ちゃんの左手を炭治郎が。右手を僕が繋いで3人並んで竈門家から離れ、冨岡さんの言う狭霧山まで目指して僕達は歩き始めた。




本編1話で3話………と考えるとゾッとします笑

今日はこれで終わりです。また、明日、会いましょう。

お気に入り・感想・高評価待ってます∠( ̄^ ̄)


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4話『お堂の鬼』

評価バーに色がついてた!!しかも、赤!!

皆さん、ありがとうございます!!これからも頑張りますので応援よろしくです(`・ω・´)ゝ


 3人で狭霧山に向かう前に、ひとまず僕の家で準備することにした。鬼になってしまった禰豆子ちゃんは日中は外に歩けないので、それの対策をしなくてはならない。

 

 「なぁ、炭治郎。禰豆子ちゃん、どうする??」

 

 禰豆子ちゃんが行動できるのは夜のみ。それだと時間が掛かりすぎてしまう。どうにか、昼間にでも進めておきたいところではあるが。

 

 「そうだなぁ………。あ、鈴蘭。お前、籠とか持ってたりしないか??出来れば大きいやつ。」

 

 「籠??ちょっと待ってろ」

 

 僕は家の隣にある物置き場へと足を踏み入り、籠を探す。確か、この辺りに穴が空いてしまって使えなくなってしまった大きな籠かがあったはずなんだけどな。………あ、あったあった。

 

 「あったぞ、炭治郎。これぐらいでいいか??」

 

 「充分だ!!次いでに外に置いてある竹や藁も貰っていいか??」

 

 「別にいいけど。どうせ、貰いもんだし」

 

 「じゃあ、これ!!」

 

 炭治郎は小銭入れを取り出して、僕に金を払おうとする。おいおい、嘘だろ??

 

 「いらないよ。」

 

 「ダメだ!!ちゃんと払う!!」

 

 「いらねぇって」

 

 「そんなこと言うな!!俺は払うぞ!!」

 

 「いらねぇって言ってるだろうが!!」

 

 「それでも払う!!」

 

 だから、いらんて!!相変わらず、頭が固いな、こいつ。いや、リアルにこいつの頭は硬いけれども。

 

 どうしても払うということなので、とりあえず少ない小銭を受け取った僕は、禰豆子ちゃんの懐へと忍ばせておく。

 

 籠と竹と藁を持って、外へ出た炭治郎はせっせと、籠を竹と藁を器用に編み込んでいく。その間、部屋の中で僕は禰豆子ちゃんの相手をしていたのだが………

 

 「むー………」

 

 「どうした??禰豆子ちゃん」

 

 なんか………、凄い禰豆子ちゃんが甘えてくるんですけど。確かに禰豆子ちゃんは僕にとっては妹的な存在ですけれども。なんか……………こう、身体を寄せられると意識してしまう。女の子のいい匂いだし。

 

 「よーし、禰豆子!!出来たぞ!!」

 

 炭治郎はウキウキとしながら家へと戻って来る。その手にはあんなにボロボロだったやつが丈夫そうにしっかりとした形へと変貌を遂げた籠があった。なんかの匠か、お前は。

 

 「禰豆子、入る、ここに、籠。」

 

 知能が低下しているからか、炭治郎は分かりやすいように禰豆子ちゃんに籠に入ってもらうように言葉を出す。

 

 その言葉通り、禰豆子ちゃんは籠の中へと入ったのだが………

 

 「はみ出てるな」

 

 「…………うむ。」

 

 サイズが全然合っていなかった。結構、大きめの籠を持ってきたつもりなんだけどな。それでも、合わなかったか。

 

 隣にいる炭治郎を見てみると、禰豆子ちゃんが大きくなったのを改めて実感したのか、なんか感動していた。

 

 …………そうだ。

 

 「禰豆子ちゃん。身体の大きさって小さくすることできる??」

 

 彼女は炭治郎に襲いかかった時、大人の女性ぐらいまでの大きさまで身体をでかくしたことがある。それとは逆で、小さく出来ないかを提案してみる。

 

 「なるほど!!禰豆子〜、小さくなれ〜小さくなれ〜」

 

 ちょっと、お兄さん。うるさいんで、少しだけ黙っとけ。

 

 その後、籠に頭を突っ込んでいるままの禰豆子ちゃんは足をバタバタとさせたあと、身体を小さくさせてスポッと籠に収まらせた。

 

 「えらいぞー、禰豆子ちゃん」

 

 「むー♪」

 

 上手く身体を小さくすることが出来たので、禰豆子ちゃんの頭を撫でる。すると、とても嬉しそうに微笑む。か、可愛ええ……。

 

 禰豆子ちゃんが入った籠を炭治郎が背負い、その上に布を被せておく。こうすれば、昼間でも移動することが出来る。

 

 「行くか!!」

 

 「炭治郎。ちょっとだけ、待ってくれないか??」

 

 「分かった。」

 

 玄関前で、炭治郎達を待たせ、僕は両親の仏壇がある部屋へと入る。ここからは、恐らくだが、ここに戻ってくることは、ほとんど無くなるだろう。

 

 だから、その分、僕は目を瞑り手を合わせる。

 

 「……行ってきます。父さん、母さん。」

 

 そのまま5分程、手を合わせてから僕は立ち上がって炭治郎達の所へと戻った。

 

 「もういいのか??」

 

 炭治郎は少し寂しそうな表情を浮かべて僕に言葉を出す。こいつのことだ。要件を伝えなくても匂いである程度察したのだろう。

 

 「大丈夫だ。だから、早く狭霧山に向かおう」

 

 「あぁ!!」

 

 こうして、僕と炭治郎はようやく狭霧山へと本格的に目指すのであった。

 

 「……ところで狭霧山ってどこ??」

 

 「……分からない」

 

 ですよねー。冨岡さんめ、せめて場所ぐらい教えてくれよ

 

 「あ、あそこに人がいる。ちょっと、聞いてみよう」

 

 炭治郎は目の前を通り過ぎて子連れの母親らしき女性に狭霧山の場所を聞いてみる。すると、奇跡的に彼女は知っていたようで、丁寧に俺達に教えてくれた。

 

 「狭霧山に行くならあの山を乗り越えなきゃならないけど。もう日が暮れるのに、そんな大荷物を背負って行くのかい??危ないよ。」

 

 女性は心配そうに僕達にそう言う。気持ちは有難いが、それでも行かなくてはならない。

 

 「十分、気をつけます。ありがとうございます」

 

 「ありがとうございます。あ、これお礼に良かったらどうぞ。僕が作った薬です。」

 

 僕と炭治郎は並んで頭を下げて女性にお礼を告げる。なんなら、僕は手作りの薬も渡しておいた。

 

 「ほんとに人が行方知れずになったりしてるからね!!迷わないようにね!!」

 

 「はい!!ありがとうございます!!」

 

 「………………」

 

 行方知れず………ね。

 

 女性に教えて貰った通り、僕達は狭霧山の前にある山を乗り越えていた。山道が意外と険しかったが、僕は日頃から薬草採取目的で山を駆け巡っているから、体力にはそこそこ自信があるし、炭治郎も毎日、山を下って町まで炭売りをしていたからか、まだ余裕そうだ。

 

 夜が明ける前には、どうにか山を乗り越えれそうな感じだ。

 

 「ん??」

 

 「どうした??炭治郎??」

 

 「あれって、お堂じゃないか??」

 

 炭治郎は指をさして言葉を出す。確かに、お堂らしき屋根が木々の間から見える。

 

 そのまま、進むと炭治郎の予想通り小さなお堂があった。本来なら無人であるはずなのだが、明かりが灯っている。誰か中で休憩しているのだろうか。

 

 「ずっと歩きっぱなしだったし、中で少しだけ休もうぜ」

 

 「そうだn…………ッッ!!」

 

 唐突に、炭治郎の表情が険しくなる。

 

 「鈴蘭!!血の匂いがする!!」

 

 「何だって!?」

 

 「この山は険しいから誰か怪我をしたんだ!!助けないと!!」

 

 炭治郎はそう言って、お堂へと向かい襖を開けようとした。

 

 『行方知れずになってたりするからね!!』

 

 ここで、僕は女性が僕達に言った言葉を思い出す。それと同時に、勘だが襖を開けたらとんでもないことに巻き込まれそうな気がする。

 

 炭治郎を止めないと!!

 

 「おい、炭治郎!!やめーーー」

 

 「大丈夫ですか!?」

 

 あいつを止めようとしたが時は既に遅かった。炭治郎はバァン!と勢い良く襖を開けると中には…………

 

 何人かの血塗れになっている人達と…………

 

 「なんだ……、おい。ここは俺の縄張りだぞ。俺の餌場を荒らしたら許さねぇぞ。」

 

 明らかに人ではない、何かが僕達のことを睨んでいた。

 

 こいつは……人食い鬼だ!!

 

 まさか、この山で人が行方知れずになっているのはこいつの原因か!!!

 

 「んん?妙な感じがするな」

 

 僕達3人を見て何かを勘づいた鬼は言葉を呟く。

 

 「お前ら人間か??」

 

 は??こいつ、何を言ってーーー

 

 ーーーダッ!!!

 

 「うおっ!!」

 

 「炭治郎!!」

 

 目にも止まらぬ速さで鬼は炭治郎に飛び掛り、そのまま外へと出た。

 

 炭治郎は最初は動揺したものの、直ぐに冷静になり持っていた斧で鬼の首元を斬り裂く。

 

 ブシャー、と鬼の首からは激しく血が吹き溢れる。本来なら、これで鬼は死ぬだろう。首を斬って生きてる生き物なんてこの世にはいない。

 

 しかし、その概念を容易くぶち壊すのが鬼という生き物である。

 

 「ハハ。斧か…………、やるな。」

 

 首元から血を流しておるというのにも関わらず、鬼は不気味に笑う。

 

 鬼は生命力が非常に高く、再生能力も馬鹿にならない。こいつらは、普通に攻撃しても死なない。

 

 すぐに元通りになった鬼は改めて炭治郎に襲い掛かる。2度目はないのか、炭治郎に攻撃されないように首を絞める。何とかしないと、折られてしまう。

 

 「炭治郎からどけぇぇぇぇ!!!」

 

 「ぐはっ!!」

 

 僕は鬼に目掛けて全力ダッシュしたあと、ドロップキックをぶちかます。炭治郎しか目に行ってなかった鬼は、逢えなく吹っ飛んだ。

 

 「炭治郎、大丈夫か!!」

 

 「あぁ!!鈴蘭、ありがとう!!」

 

 戦闘態勢を解かないまま、僕はナイフを取り出して構える。炭治郎も同じく斧を持って僕の隣に並ぶ。

 

 「この糞ガキがぁぁぁ!!!」

 

 怒りに任せ、鬼は僕達に再度飛びかかるが

 

 ーーーボン!!

 

 「「ーーーーーーーーッッ!!」」

 

 襲いかかって来た鬼の頭が突然、何者かによって蹴り飛ばされる。

 

 鬼の頭を蹴り飛ばしたのは誰か。そんなの、1人しかいない。

 

 

 「禰豆子ちゃん!!」

 

 

 彼女の思いがけない行動に炭治郎は驚くが、そんなことしている内に頭のない鬼の身体が炭治郎を襲おうとしていたのを、またしても禰豆子ちゃんがその身体を蹴り飛ばして炭治郎から距離を取らせた。

 

 「てめぇぇぇら!!」

 

 頭しかない鬼が血管を浮かび上がらせながら僕達に叫び始める。

 

 「やっぱり片方鬼なのかよぉぉ!!妙な気配させやがってぇぇ!!なんで鬼と人間がつるんでいるんだぁぁ!!」

 

 頭だけなのに、こいつ喋ってやがる!!怖っ!!キモッ!!どんだけ生命力高いんだよ!!

 

 すると、またしても頭のない鬼の身体が襲い掛かる。今度は炭治郎や僕ではなく禰豆子ちゃんに向かってだ。

 

 「そんな汚い手で禰豆子ちゃんに触るなぁ!!」

 

 僕は鬼の身体にタックルをぶちかます。その後、その身体と一緒に森の奥へと転がり落ちる。

 

 頭は炭治郎がなんとかしてくれるだろう。身体は僕がどうにかしないと!!

 

 僕は持っていたナイフで鬼の心臓部に目掛けて刺し始める。ブシュ、ブシュと刺す度に血が出るが、お構い無しに刺し続ける。

 

 「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 何も考えず、ただ生きるために僕はひたすらナイフを身体にさし続けた。既に返り血によって僕の肌や服が赤く染まる。

 

 ーーーバキッ!!

 

 くそっ。ナイフが折れてしまった。どうすればいい!?

 

 僕は周りを見回すと、すぐそこには崖があった。よし…………

 

 「おらぁ!!」

 

 鬼の身体を掴んで、僕はそれを崖の下へと放り投げた。放り投げ出された身体はそのまま崖から落下し、そのまま潰れてグチャグチャになった。

 

 「…………勝った。」

 

 内心、喜びたいところではあるが、まだ炭治郎と禰豆子ちゃんがいる。安心している暇はない。

 

 すぐに、さっきのお堂の前に戻ってみると………

 

 

 「え??」

 

 

 炭治郎と禰豆子ちゃん。そして、天狗のお面を被った不審者がいた。

 

 

 

 ………何、この状況は。




次回、修行編突入っすね。


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5話『鱗滝左近次の試験』

 鬼の身体との戦闘があったため、この場に何があったのかは分からない。

 

 しかし、すぐ傍の木には…………うわっ、何あれ。首元に手が生えてる鬼がいる。気持ち悪っ!!斧によって身動きできない状況になっているようだ。

 

 ところで、あの天狗のお面を付けている人は誰なんだ??味方なのか??それとも敵なのか??

 

 すると、炭治郎が足元に置いてあった大きな石を持ち出して、気絶している鬼の頭まで近付く。

 

 まさか………それで、その鬼の頭を打ち付けるつもりなのか??

 

 しかし、炭治郎はすぐ目の前で躊躇う。こうなることは、分かっていた。

 

 なぜなら、こいつはとても優しいからな。例え、相手が人を喰う鬼だとしても同情心を抱いてしまうほどにな。

 

 炭治郎がモタモタしていると、夜が明け、朝日がすぐそこまでのぼろうとしていた。まずいな、禰豆子ちゃんを避難させなければ。

 

 「禰豆子ちゃん。お堂の中に行きなさい」

 

 「むー。」

 

 禰豆子ちゃんはコクリと頷いて、トテトテとお堂の中へと入っていく。これで、安心だな。

 

 「ぎゃああああ!!!」

 

 そんなことをしているうちに、朝日は完全に昇り、それによって鬼は断末魔を上げながら灰になってしまった。なるほど。禰豆子ちゃん含め、鬼が日を嫌う訳だ。

 

 天狗のお面を被った人は、殺されてしまった人を丁寧に埋葬していた。なので、俺も手伝うことにする。

 

 「手伝います」

 

 「…………助かる」

 

 天狗のお面からは、かなり渋めの低い男性の声が聞こえてきた。なので、俺も死体を運んで土に埋めてから、その人と並んで手を合わせた。

 

 「あの………」

 

 炭治郎が超えると、天狗のお面を被った人は……

 

 「儂は鱗滝左近次だ。義勇の紹介はお前らで間違いないな??」

 

 鱗滝………左近次!?てことは、冨岡さんが言っていた人じゃないか。わざわざ、迎えに来てくれたのか??

 

 「は、はい。竈門 炭治郎と言います。妹は禰豆子で、そっちの藍色の髪型をしているのは友達の成矢 鈴蘭です。」

 

 「どうも」

 

 「ふむ、それじゃあ。炭治郎、鈴蘭。妹が人を食った時、お前らはどうする??」

 

 禰豆子ちゃんが人を喰った時??そんなのある訳ーーー

 

 ーーーバチン、バチン!!

 

 「…………へ??」

 

 突如、鱗滝さんは僕達の頬にビンタを入れる。意味がわからないんだが。痛いし

 

 「判断が遅い」

 

 はい??

 

 「お前らはとにかく判断が遅い。朝になるまで鬼に止めを刺さなかった??今の質問に間髪入れず答えられなかったのは何故か??お前らの覚悟が足りないからだ!!」

 

 鱗滝さんはキツく言葉を続ける。

 

 「妹が人を食った時にやることは2つ。妹を殺す。お前らは腹を切って死ぬ。鬼になった妹を連れていくということはそういうことだ。」

 

 鬼という人類の中で異形的である存在を連れていくということは僕達にとって茨な道であること。そして、相当な覚悟が必要であることをこの人は伝えているんだ。

 

 「これは絶対にあってはならないと肝に銘じておけ。罪なき人の命をお前の妹が奪う。それだけは絶対にあってはならない。儂の言っていることが分かるな??」

 

 「「はい!!」」

 

 「………では、これからお前らが鬼殺の剣士として相応しいかどうかを試す。」

 

 試験がある………ということだよな。少しは予想していたことだけれども。ゴクリと思わず生唾を飲んでしまう。

 

 「妹を背負って儂について来い」

 

 そう言って、鱗滝さんは走り出す。ちょ、おいおい。まだ禰豆子ちゃん、背負ってねぇって!!!

 

 「炭治郎!!急げ!!」

 

 「分かってる!!」

 

 すぐにお堂へと入った炭治郎は禰豆子ちゃんの入った籠にまたしても布を被せてから背負い、僕と共に走り出す。

 

 2人で鱗滝さんのあとを走るが、追いつく気配が全くない。あの爺さん、速くない??一体、何歳なんだよ。高齢者が出していい足の速さじゃない。

 

 それと、不思議になぜか足音が全く聞こえない。本当になんなの、この人。

 

 「炭治郎!!大丈夫か??禰豆子ちゃん、背負おうか??」

 

 息が上がって辛そうにしている炭治郎にまだ余裕がある僕は声をかける。しかし、炭治郎は辛そうにしながらも

 

 「大丈夫だ!!最後まで………俺が背負うんだ!!」

 

 長男としてのプライドだろうか。本人がここまで言うんだ。なら、炭治郎の意見に尊重するのが親友ってもんだろう。

 

 「そうか!!じゃあ、最後まで頑張ろうな!!」

 

 「あぁ!!」

 

 こうして、僕達は鱗滝さんのあとを永遠と追いながら走り続けて数時間。

 

 狭霧山の麓にある一軒家の前で鱗滝さんは止まった。ここが、この人が住んでいる家なのだろうか。

 

 現在、体力に自信がある僕ですら辛い状況だ。息が上がるのは、いつぶりだっけ。炭治郎に関しては死にかけていた。

 

 「これで………俺たちは認めて貰えましたか??」

 

 そうだ。この人の言葉通り最後までついていけたんだ。だから、認めてもらえーーー

 

 「試すのは今からだ。山に登る」

 

 …………は??おいおい、嘘だろ??今までのは試験じゃなかって言うのか。冗談もそこら辺にしておけよ、このクソジジイ!!

 

 イライラしながらも僕は炭治郎と一緒に狭霧山の頂点付近まで登る。

 

 な、なんなんだ、ここ………。やけに空気が薄いし霧があるせいで周りがよく見えない。あと、疲労で膝がガクガクしてきた。

 

 くるりと僕達の方に振り向いた鱗滝さんは口を開いた。

 

 「ここから、山の麓の家まで下りてくること。今度は夜明けまで待たない。」

 

 鱗滝さんはそう言って、シュン!!と冨岡さんと同じく姿を一瞬で消した。アンタもできるのかよ、それ。

 

 てか、試験内容が………山に下りるだけ??

 

 「そうか。鱗滝さんはこの霧で俺達が迷うと思っているんだ」

 

 なにかに気づいた炭治郎はそう言う。確かに、霧は見えないぐらいまで濃い。下手したら永遠と迷うこともありえるかもしれない。

 

 しかし、こっちには鼻が利く炭治郎がいる。きっと、鱗滝さんの匂いはもちろん、さっき自分たちが登った時の匂いとかも嗅ぎとることができるに違いない。

 

 でも、本当にそうなのだろうか。

 

 何か………違う目的があると思うが。

 

 「鈴蘭!!時間が無い!!夜明けまでに下ろう!!」

 

 「待て!!炭治郎!!」

 

 ダッ、と走り出す炭治郎に俺は声を掛けるが、あいつは聞いていないのか、そのまま向かおうとした。

 

 すると

 

 ーーーグイッ

 

 「え??」

 

 走っていた炭治郎の足が、何かの紐に引っかかる。何なんだ、この紐は??

 

 ーーービュン、ビュン、ビュン!!

 

 「炭治郎、危ねぇ!!」

 

 横から、勢い良く炭治郎に向かって小石が飛んでくる。僕は炭治郎を弾き、彼の代わりにその小石を受けた。

 

 「痛っ!!!」

 

 「鈴蘭!!………うわぁ!!」

 

 小石を喰らった僕に近づこうとした炭治郎は、落とし穴に引っかかってしまった。

 

 「いてて………」

 

 「大丈夫か、炭治郎。」

 

 「あぁ。仕掛けがあるんだ。」

 

 「だろうな。これは少し厄介だぞ??」

 

 ーーーグイッ

 

 「「うおぉ!!??」」

 

 炭治郎を穴から抜けさせる際に、足がまたしても紐を引っ掛けてしまい、それによって背後から大きな木が襲い掛かかってきた。なので、咄嗟に躱す僕達。

 

 これはマジでヤバいぞ。いちいち、こんな仕掛けに引っかかってたら夜明けまでに鱗滝さんの家まで戻れない。

 

 しかも、タチが悪いのがこの山………空気が薄い!!脳や身体に酸素が回らないためか、クラクラするし、身体も思ったように動かせれない。

 

 だけど、僕達は戻るしかない。そうしなければ、鬼殺の剣士として認めて貰えない。

 

 「炭治郎………、仕掛けの匂いって分かるか??呼吸を整えて嗅いでみてくれ」

 

 「スゥ…………クンクン、分かる。やっぱり、人の手で仕掛けられてるから微かに匂いが違うんだ。」

 

 よし。炭治郎の鼻が利くならどうにかなるかもしれない。

 

 「炭治郎!!お前は匂いで罠がある位置を教えてくれ!!」

 

 「分かった!!鈴蘭は??」

 

 「僕は炭治郎が嗅ぎ逃した罠を探し出してお前に伝える!!」

 

 「そんなことできるのか!?」

 

 「僕は勘が良いからな!!まぁ、任せてくれ!!」

 

 「あぁ!!分かった!!絶対に鱗滝さんの家まで戻るぞ!!」

 

 「おう!!」

 

 そして、僕達は鱗滝さんの家に向かって山を下り始める。匂いで仕掛けの位置を嗅ぎ分けた炭治郎は的確に伝えることで、難なく躱すことが……………出来れば良かったんだけどな。

 

 「ぐはっ!!」

 

 「うぐっ!!」

 

 例え、匂いや勘で罠の位置が分かったとしてもそれを、躱せれるほど、一気に身体能力が上がる訳では無い。

 

 向かう道中、何度も何度も躱しきれなかった罠の仕掛けを僕達は喰らった。

 

 痛い、苦しい、辛い、楽になりたい。

 

 そんな気持ちが頭の中で過ぎるが、すぐに消し去る。とにかく集中して罠を躱すことだけを考えろ。

 

 足を止めるな。本当に禰豆子ちゃんを助けたいと思うのならば。

 

 そんな想いを抱きながら、僕達は山を下り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして………遂に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「コラァァァァ!!下りきってやったぞ、このクソジジイがぁぁぁぁぁ!!!」

 

 「も………どりました。」

 

 罠によって身体中に傷を負った僕達は、ボロボロになりながらも、なんとか鱗滝宅に辿り着いて扉を開ける。

 

 僕達のそんな姿を見て鱗滝さんは………

 

 

 「お前たちを認める。竈門 炭治郎。成矢鈴蘭。」

 

 

 この一言を聞いたことによって、僕と炭治郎は微笑みながら拳を合わせた。

 

 

 それと同時に朝日が昇り、太陽の光が今の僕達にとって、とても眩しいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




大正コソコソ噂話。
鈴蘭は機嫌が悪くなると、例え相手が目上な人だろうが関係なしに口が悪くなる。


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6話『鱗滝左近次による訓練』

キリが良いので短め。


 "鬼殺隊"

 

 その数、およそ数百名。政府から正式に認められていない組織。だが、古より存在していて今日も鬼を狩る。

 

 しかし、鬼殺隊を誰が率いているかは、謎に包まれていた。

 

 

 "鬼"

 

 主食・人間。人間を殺して喰べる。いつ、どこから現れたのかは不明。

 

 身体能力が高く、傷などもたちどころに治る。斬り落とされた肉も繋がり、手足を新たに生やすことも可能。

 

 体の形を変えたり、異能を持つ鬼もいる。太陽の光か特別な刀で頸を切り落とさない限り殺せない。

 

 

 "鬼殺隊"は、生身の体で鬼に立ち向かう。人であるから傷の治りと遅く、失った手足が元に戻ることもない。

 

 それでも鬼に立ち向かう。

 

 ーーー人を守るために。

 

 

 「儂は"育手"だ。文字通り、剣士を育てる。"育手"は山程いてそれぞれの場所、それぞれのやり方で剣士を育てている」

 

 鱗滝さんは鬼殺隊や、鬼、そして育手について説明してくれた。鬼殺隊や鬼については炭治郎が気絶している間に、冨岡さんから聞いていたから分かっていたけど、育手については知らなかった。

 

 冨岡さんも、鱗滝さんに剣を教えて貰っていたのだろうか。

 

 「鬼殺隊に入るためには"藤襲山"で行われる"最終選別"で生き残らなければならない。"最終選別"を受けていいのかどうかは儂が決める。」

 

 「えぇ…………」

 

 修行をつけてもらえるかどうかの試験があったのにも関わらず、今度はその鬼殺隊の最終選別に受けていいかの試験もあるのかよ。この人、試験好きすぎないか??

 

 こうして、僕と炭治郎は鱗滝さんによる修行が始まった。

 

 因みに、現在。禰豆子ちゃんは何故か、鱗滝さんの家に到着してからは、ずっと眠ってしまっている。脈や心臓は動いているから生きてはいるが、ずっと眠っているのはおかしい。

 

 それにちなんで、炭治郎は日記を付けることにした。なので、同乗して僕も日記をつける。何か、得ることがあるかもしれないからな。

 

 「「うおぉぉぉぉぉ!!!」」

 

 僕と炭治郎は相変わらず、鱗滝さんの指示で狭霧山を下りていた。最終選別で生き残るために、鍛えなければならない。

 

 最初の頃は、罠によって痛い目を見てきたが、下っていくうちに回避できるようになっていた。

 

 体力がさらに上がっていったのと、僕の勘が鋭くなったからかもしれない。炭治郎は鼻がさらに利くようになったそうだ。

 

 しかし、鱗滝さんは甘い男ではない。

 

 今まで仕掛けてあった罠が回避できるようになったと分かれば、さらに難易度の高い罠を仕掛けてくる。

 

 もう、本当に凄い。なんなら、僕達を殺しにかかってくるんじゃないかと思わせるぐらいまでに。落とし穴に刃物なんて設置するとか、どんな発想してんだよ。

 

 数日後、鱗滝さんの新たな指示で今日からは刀を持って山に下るように言われた。剣士だし、常に刀持って動かなければならないから、その訓練だと思う。

 

 なーんだ、刀持つだけでそんな変わらんだろ………、と数分前まで思っていた自分をぶち殺したい。

 

 とにかく邪魔!!刀が邪魔!!木とかに当たるし、片手が使い物にならないから罠に引っ掛かる回数が増えてしまった。なので、口に咥えて下ってたら鱗滝さんに殴られた。ズルしてごめんなさい。

 

 そんな訓練を続け、慣れてきたところで新しい訓練が始まった。

 

 刀の素振りだ。

 

 ここ最近は、山を下ったあとは、日が暮れるまでひたすら素振りをさせられてる。え、腕がもげそうなんですけど。

 

 そういえば、素振りを始める前に鱗滝さんは刀について教えてくれてたっけな。

 

 刀は折れやすい。縦の力には強いけど、横の力には弱い。

 

 力を真っ直ぐに乗せること。刃の向きと刀を振る時、込める力の方向は全く同じでなければならない、みたいなこと言ってたな。

 

 それに加えて、刀をもし折ったら僕達の骨も折るとか言って軽く脅しきた。ふざけんなよ。そんなこと言われたらめちゃくちゃ気をつけるしかねぇじゃねぇか。

 

 さらにそこから、どんな体勢になっても受け身を取って素早く立ち上がる訓練も追加された。これもこれで地獄ですわ。

 

 僕と炭治郎は刀、鱗滝さんは素手という状況の中、僕達は鱗滝さんに立ち向かうんだけど、この爺さんめちゃくちゃ強い。いや、これマジで。

 

 僕達はいつもすぐに投げらて地面に転がされた。

 

 悔しかったので、唐辛子を粉末上にした塊をさり気なくぶん投げてやったら、それを躱されて説教喰らったあと、素振り1万回追加された。解せぬ…………。

 

 さらにさらに、今日からは"呼吸法"についてと、その"呼吸法"の型らしきものを鱗滝さんから直々に習う。

 

 鱗滝さんが見本で見せてくれたのを、俺たちは見様見真似でやっていくが、思ったより上手くいかないな。炭治郎の親父さんの神楽を見様見真似で覚えた時もこんな感じだったっけ。

 

 腹に力が入ってないって怒られて、鱗滝さんにお腹をバンバン叩かれる。このクソジジイ………、覚えてろよ。

 

 そんな感じの訓練をやって半年が経過した。それでも、禰豆子ちゃんが起きる気配はない。念の為、鱗滝さんは町から医者を呼び診てもらったが異常はないということ。その時のやり取りを僕は1秒たりとも見逃さず、メモをとった。ふむふむ。

 

 ついでに、しつこく医療について、その医師に質問してたら鱗滝さんにいい加減にしろと叩かれた。ふざけんなよ、マジで。将来のためにこっちは少しでも知識を身につけたいんだよ。

 

 その次の日。狭霧山の中でも、最も空気の薄い場所まで鱗滝さんに連れてかれ、そこで訓練を行うようになった。その日だけで、何度も気絶しました。空気がないんだもん。

 

 ある日のこと。珍しく鱗滝さんから今日は訓練は無しということを言わされたので、僕は籠を背負い狭霧山で薬草集めに取り掛かった。

 

 今まで採取していた山には生えていなかった薬草がこの山には多くあったので採取して調合がしたい。新たな薬が出来るかもしれない。

 

  数時間後、籠パンパンに詰められた薬草を背負って鱗滝さんの家へと戻る。それをみて、鱗滝さんは多少なり驚いていた。

 

 ん……、そういえば、僕達が訓練で怪我を負った時、鱗滝さんが塗ってくれた薬があったな。あれは、鱗滝さんが調合したやつなのだろうか。

 

 聞いてみたら、案の定そうだった。作り方を教えて欲しいとお願いしたら、難なく教えてくれた。この人、厳しいけど優しいよな。

 

 作り方は案外簡単で、僕でもすぐに出来た。これは、凄いぞ。これをベースにほかの薬と合わせたらさらに良いのが出来るかもしれない。これは気分が上がってきたぞ。

 

 部屋の片隅で、薬の調合をしている僕をずっと眺める鱗滝さん。その時、何を考えていたのかは、僕は知るもしなかった。

 

 そして、鱗滝さんによる修行が始まって1年が経過したとき、鱗滝さんは僕に向かって言葉を出した。

 

 

 

 「鈴蘭には…………ここを出て行ってもらう。」

 

 

 

 「…………はい??」

 

 

 どうやら、僕だけ破門になってしまったらしい。

 

 




次回から、少しの間、オリ展開です。

大正コソコソ噂話。

鈴蘭は炭治郎より少し早く水の呼吸をマスターしたが、彼は三半規管が弱いせいか弐の型である"水車"だけどうしても上手く繰り出せれないし、やろうとも思わないらしい。


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7話『鈴蘭。狭霧山を下りる』

オリジナル展開です。最後にみんな大好きなあのキャラが出ます。


 「鱗滝さん!!どういうことですか!!どうして鈴蘭がここから出ていかなくちゃ行けないんですか!!」

 

 破門らしき発言を聞いて、真っ先に反応を見せる炭治郎。本当にこいつ、良い奴だな。

 

 それにしても、どうして僕がここを出ていかなくちゃいけないんだ??修行はちゃんとこれまでにやってきたというのに。

 

 出ていかなくちゃいけない理由なんて、これっぽっちも……………あるわ。全然あるわ。

 

 修行が辛すぎて、たまに鱗滝さんに向かって口ごたえしてしまったり、保管していた珍しい薬草を多少パチッて調合したり、なんなら、折るなと言われていた刀を普通に折ってしまったりしてたわ。

 

 思い返すだけで、バリバリあるじゃねぇか。これは、破門されて当然ですわ。

 

 しかし、僕がここを出ていく理由は想像していたのとは全く違うものであった。

 

 「鈴蘭には、とある場所に向かって、そこで修行をしてもらう」

 

 「とある場所?」

 

 

 「"蝶屋敷"という場所だ」

 

 

 蝶屋敷…………。どっかで聞き覚えのある単語だな。どこで聞いたっけ??

 

 …………あ、思い出した。冨岡さんだ。あの人がそんなようなことを言ってたような気がする。

 

 「蝶屋敷とは一体、どんな場所なんですか??」

 

 「負傷した鬼殺隊の剣士の治療所として解放している施設だ。」

 

 「ーーーーーーッッ………」

 

 治療所という単語を聞いて僕は思わず反応してしまう。

 

 「将来、医療の道に進むと決めている鈴蘭にとっても良い環境のはずだ。しかも、そこには医学・薬学に精通している現"柱"もいると聞くしその人に修行を付けてもらうといい。既に許可はとってある」

 

 "柱"。確か冨岡さん曰く鬼殺隊の最高位にいる剣士達のことのはずだ。そんな、凄い人がいるのか。

 

 「どうする?決めるのはお主だ。どうしてもここに残りたいというのならば、強制はしない」

 

 「鈴蘭…………」

 

 炭治郎は不安そうに俺の名を呼ぶ。こいつは、ここ1年間、厳しい修行を共に乗り越えてきた大切な親友なんだ。ここまで来て別れるとか考えたくない。

 

 それに、鱗滝さんの家には未だに眠り続けている禰豆子ちゃんもいる。不安の気持ちがすごく混み上がってくる。出来れば、彼女からも離れたくない。

 

 

 だけど……………

 

 

 それでも僕は…………

 

 

 

 「蝶屋敷に………行きます!!」

 

 

 

 蝶屋敷に向かうことを決意する。禰豆子ちゃんを治すとしても僕が持っている医療に関する知識や調合には限界がある。

 

 なら、ちゃんとした人の元で僕は医学を学びたい。

 

 「………ごめんな、炭治郎。自分勝手な判断で」

 

 「そんなことない!!それで、鈴蘭が成長できるなら俺も禰豆子も嬉しい!!だから、そんなこと言わないでくれ!!」

 

 「…………ありがとう」

 

 

 こいつが………、竈門 炭治郎が親友で良かったと僕は心の底から思う。思わず、泣いてしまいそうになった。

 

 

 「よし、では鈴蘭よ。荷物をまとめて出発する準備をしろ」

 

 「分かりました」

 

 僕はすぐに鱗滝さんの家に入り、自分の荷物をまとめる。今までに採取した薬草やら調合した薬やらとかも荷物に詰め込む。

 

 詰め終わったあとは、隣で寝ている禰豆子ちゃんの傍まで近づく。

 

 

 「禰豆子ちゃん………、絶対に死なないでくれよ」

 

 

 そう言って、彼女の頭を優しく撫でてから家へと出る。

 

 「この鴉が、道案内をしてくれる。こいつのあとを付いていくと良い」

 

 鴉が案内してくれるのか。すごいな、今の鴉は。

 

 「分かりました。鱗滝さん、この1年間。お世話になりました!!あと、色々と迷惑かけてごめんなさい」

 

 僕は頭を下げて彼にお礼の言葉を贈る。思い返しても、本当に地獄のような日々だったが、この人のおかげで強くなったというのも事実だ。感謝してもしきれない。

 

 すると、鱗滝さんは僕を優しく抱き締め

 

 「立派な剣士になって、また顔を見せに来い。お前も立派な儂の弟子だ。」

 

 と、お面からポタポタと滴を落としながら言葉を出してくれた。こんなことされたら………、あ、もう無理。これ泣くわ。

 

 結局、僕も涙を流して泣いてしまった。

 

 一通り泣いて、顔を強引に腕で拭ったあと、最後に僕は炭治郎の方へと向かう

 

 「炭治郎………」

 

 「鈴蘭…………」

 

 僕達は向かい合ったあと、まるで分かっていたかのように拳を差し出して突き合わせる。

 

 「次、多分会うのは最終選別の時だな」

 

 「あぁ!!」

 

 「炭治郎………禰豆子ちゃんのこと、よろしくな」

 

 「任せてくれ!!」

 

 炭治郎のその言葉さえ聞ければ、もう大丈夫だ。僕は手を振りながら飛んでいく鴉のあとを追うように歩いていく。その姿を見て、炭治郎は手を振り、鱗滝さんはまるで親が子を送り出すように立って見守っていた。

 

 

 

 さぁ、行こう。蝶屋敷へ。

 

 

 

 

 鴉のあとを追ってどれくらいの時間が経過しただろうか。半日ぐらい走ってる気がする。え、遠ない??

 

 すると、鴉はとある場所で止まった。

 

 そこは、とても大きな屋敷で周りには野生の綺麗な蝶々が何匹も飛び回っていた。

 

 ここが………蝶屋敷??

 

 「君が、成矢 鈴蘭くんですね」

 

 「え?」

 

 どこからか、声が聞こえてきた。周りを見ても誰もいない。

 

 …………まさか、上からか?

 

 上を見ると、屋敷の屋根に1人の女性がニコニコとしながら立っていて僕を見つめていた。

 

 容姿は、顔だけで食べていけそうなぐらいまでの美人で…………恐らくだが『作り笑い』をしている。髪には蝶の羽を模している髪飾りを付けており、冨岡さんが着ていたのと同じ黒い制服の上に蝶の羽を模した雅な柄の羽織を羽織っていることによって、さらに可憐な雰囲気を漂わせている。

 

 

 ………誰なんだ、この人は?

 

 

 俺の表情を見て、察したのか女性は胸に手を添えて自己紹介を行った。

 

 

 「初めまして。私の名前は胡蝶 しのぶといいます。……………鬼殺隊"蟲柱"と言えばお分かりでしょうか?」

 

 

 

 

 




鈴蘭の第2の師匠降臨です。
暫くは、蝶屋敷メンバーとのやり取りを楽しんでもらえたらな……、と思います。執筆が捗るんじゃあ(*´ ∨`)


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8話『蝶屋敷』

お気に入り数100突破してました。
ありがとうございます。


 まさか………この人が柱だったとは。

 

 胡蝶しのぶさんは、ヒラヒラとまるで蝶のように屋敷の屋根から僕の目の前まで飛び降りる。

 

 「冨岡 義勇殿、鱗滝左近次殿の両方のご厚意によりこの度は参上させていただきました、成矢 鈴蘭といいます。今日からよろしくお願いします!!」

 

 僕は向かう途中にずっと考えていた言葉を、胡蝶さんに言って頭を深く下げる。今日からはこの人の元で医学の勉強や剣術を学ぶのだ。それなりの態度を見せないといけない。

 

 「はい。こちらこそよろしくお願いします。では、早速ですが屋敷の中を案内させていただきますね」

 

 「はい!!」

 

 屋敷の中へと入っていく胡蝶さんのあとを追っていく。屋敷の中に入ると、ツンと薬品の匂いが微かに鼻を貫く。僕の好きな匂いだ。

 

 「まずここがーーー」

 

 そして、僕は胡蝶さんにより蝶屋敷を丁寧に案内され各部屋の説明を聞かされる。診療室や、鬼殺隊員が入院している病室、薬品などを調合する部屋に保管室、そして機能回復訓練というリハビリ的なのを行う大きい道場などがあった。

 

 屋敷というだけあって、やっぱり広い。これ、全部覚えられるか不安なんだけど。

 

 「ーーーと、だいたい蝶屋敷の中はこうなっています。今は覚えきれないと思いますが、徐々に覚えてくださいね。」

 

 「…………はい。」

 

 僕の心情を察したのか、胡蝶さんはニコニコとしながら言葉を出す。そんなに、顔に出てたかな。

 

 「では、ここに住んでいる子達を紹介したいと思います。もう、集まってもらっているので行きましょう」

 

 「分かりました。」

 

 再び、胡蝶さんが歩き出すので後を追う。彼女が向かった先は、そこそこ広い一室でそこには何人かの女性が座っていた。彼女達が、ここに暮らしている人達なのだろうか。

 

 僕と同い年くらいの女の子2人に、幼い女の子が3人だ。どの子も、蝶の羽根を模している髪飾りを付けている。

 

 「彼が、以前から伝えていた今日からこの蝶屋敷で私の"継子"になる成矢 鈴蘭くんです。まだ、右も左も分からないと思うので色々と教えてあげてください」

 

 「「「はい!!」」」

 

 「分かりました」

 

 「…………………」

 

 胡蝶さんの言葉に、幼い女の子3人は元気よく返事し、ツインテールの女の子は返事をして頷き、サイドテールの女の子は何も言わず、ただ無表情だった。

 

 てか………、"継子"??"継子"って何??初めて聞いたんですけど。

 

 「では、成矢くんからも自己紹介をかるくお願いします。」

 

 初耳の単語で動揺していると、胡蝶さんが僕に向かって言葉を出す。まぁ、自己紹介は大切だよな。

 

 「今日から、蝶屋敷にてお世話になります、成矢 鈴蘭といいます。歳は14で趣味は薬草採取と料理です。将来の夢は、医者になることです。色々と迷惑を掛けてしまうことがあるかもしれませんが、よろしくお願いします。」

 

 自己紹介をしたあと、胡蝶さんと同じように頭を深く下げる。

 

 「では、貴女たちもお願いします」

 

 胡蝶さんが、彼女達に声をかけると真っ先に反応したのは、やはり幼女3人組だ。

 

 「なほです!!」

 

 「きよです!!」

 

 「すみです!!」

 

 三つ編みの子がなほちゃん。前髪を垂らしたおかっぱ頭の子がきよちゃん。おさげの子がすみちゃんね。やばい、顔が似てるから髪型で区別するしかないや。

 

 「神崎アオイといいます。今日からよろしくお願いしますね、成矢さん。」

 

 ツインテールの女の子は神崎アオイさんね。神崎先輩と呼ぶことにしよう。しっかりとしてそうな人だ。怒ると怖そう…………。

 

 「…………………」

 

 そして、未だに一言も言葉を発さないサイドテールの女の子はただ、僕のことを見つめていた。え、何??もしかして、僕のことが嫌いで話したくないとか??それだったら、泣くよ??

 

 すると、その女の子は懐から1枚の銅貨を取り出した。………何しようとしてるんだ??

 

 女の子はピンッ!!と銅貨を上に弾く。グルグルと勢いよく回転する銅貨は宙を舞ったあと、すぐに落下する。

 

 落下した銅貨をバシッ!!と手の甲で受け止めた女の子はゆっくりと開ける。すると、その銅貨には『表』と書いてあった。

 

 「……………………」

 

 銅貨を確認した女の子は、それを懐へと仕舞い、何事も無かったかのように大人しくなった。

 

 は!?は!?はぁぁ!?意味が分からない。何がしたかったんだ、この子は。さっきのアレ、何??する意味あった??

 

 「ごめんなさいね、成矢くん。この子は栗花落カナヲっていうの。」

 

 胡蝶さんは僕に、彼女の名前を教えてくれた。栗花落さんというのか。不思議な女の子だなぁ。

 

 これで、互いの名前を知ったあと、胡蝶さんについてきて欲しいと言われたため、またしても彼女のあとを追う。

 

 やって来たのは、先程案内された診療室だった。

 

 「ここに座ってください、成矢くん」

 

 椅子に座るよう促されたため、僕は彼女の指示通り座る。すると、目の前に置いてある椅子に胡蝶さんが座った。

 

 「1つだけ最後に聞きたいことがあるのですが、良いですか??」

 

 「ど、どうぞ。」

 

 聞きたいこと??一体、何なのだろうか。

 

 「成矢くんは医学の道に進みたいそうですね。」

 

 「はい。」

 

 「それなのに、どうして鬼殺隊に入ろうとしたのですか??」

 

 「ーーーッッ、それは………」

 

 僕が鬼殺隊に希望する理由。それは、鬼になってしまった禰豆子ちゃんを治す手掛かりを炭治郎と共に見つけるためだ。

 

 しかし、これは教えることは出来ない。

 

 今、目の前にいる女性は"蟲柱"胡蝶しのぶだ。鬼を狩るエキスパートでもある彼女にそんなことを教えてしまったら、真っ先に禰豆子ちゃんを殺しに行くだろう。

 

 それだけは避けなければならない。

 

 「言えません。ごめんなさい」

 

 頭を必死に回転させながら言葉を探しても思い当たる言葉が見つからなかったため、正直に言えないことを伝えた。

 

 「そうですか。まぁ、深くは聞きません。きっと、成矢くんにとって辛いことがあったのでしょう。」

 

 幸い、胡蝶さんはそこまで追求しなかった。

 

 鬼殺隊の剣士のほとんどは鬼によって家族が殺されたりと被害があった者たちが復讐心を持って入隊を希望すると聞く。恐らくだが、そのうちの1人だと胡蝶さんも思ったのだろう。

 

 「では、医学の勉強と全集中の訓練に関しては明日から行います。これを両立させるのは相当大変だと思いますが、覚悟はよろしいですか??」

 

 「はい!!」

 

 「いい返事です」

 

 

 こうして、"蟲柱"胡蝶しのぶさんによる修行が、この蝶屋敷にて始まろうとしていた。

 

 




今日はこれでおしまい。
次回は明日からですな。今からバイト行ってきます


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9話『"全集中"常中』

 蝶屋敷に来てかれこれ、半年が経過した。

 

 僕は以前と変わらず日記を続けている。だから、軽くそれを読み返してこれまでの半年を振り返ろうと思う。

 

 まずは、胡蝶さんによる医学の勉強。これは、とても大変だが有意義な時間を過ごさせてもらっている。

 

 今までは独学でやってきた人間だから、ちゃんと医師免許を持ってる人に教えて貰うのは自分にとって、すごい為になる。

 

 胡蝶さんの教え方がとても分かりやすいから学んだ内容がドンドンと頭の中に入っていく。忘れないように、僕はメモをとるがその枚数はもう少しで3桁を越しそうだ。

 

 "全集中"の呼吸の訓練に関しても丁寧に教えてくれている。基礎は狭霧山にて出来てるから、あとはひたすら呼吸法の型を磨いていく。その際、胡蝶さんからアドバイスを貰う。これが、また的確なアドバイスだから助かるんだよな。

 

 だけど、唯一の難点といえば胡蝶さんがとても鬼畜で怖いということ。どれくらい怖いかと言うと、鱗滝さんが可愛いく思えてしまうぐらいのレベルでヤバい。

 

 まぁ、胡蝶さんは"柱"だから忙しいのは承知だよ?承知だけど、胡蝶さんが不在の間にめっっっっちゃ分厚い医学の本の内容を全部、紙にまとめろっていうのはダメでしょ。

 

 しかも、まとめるのを間に合わなかったら毒を注射するとか言い出すんですよ。普通の人がやっていけないことをやろうとしてるよ。おかげさまで、ここ2ヶ月は目の下に隈が出来てしまってる。

 

 そんな寝不足である僕に、胡蝶さんは"全集中"の呼吸をずっとしろと指示してくるんだ。マジで、は?ってなるよね。

 

 少し"全集中"をやっただけで、あんなに疲れるというのに、それを続けろと?無理でしょ。常中がなんだか知らんけど、本当に無理なんですよ。

 

 しかし、これも拒否したら毒を注射をすると胡蝶さんに言われる。ふざけんなよぉぉぉ!!こっちは寝不足だって言ってんだろ。そんなのやったら、今朝食べた焼き魚、吐き出すぞ。

 

 だけど、僕は彼女に逆らえないので指示通りに実行する。…………はい、無理でした。5分も持ちませんでした。しかも、宣言通り、朝食べた焼き魚をそのままリバースしてしまいました。神崎先輩………申し訳ない。

 

 胡蝶さんとのやり取りはこんな感じかな。これが、あと半年以上続くと考えると………生きてるかな、僕。

 

 まぁ、未来のことは未来の自分に任せればいいだろう。

 

 神崎先輩は、初対面で会った時に思った通り、しっかりとしていて常にテキパキと動いている。無駄な動きがない。

 

 彼女には本当に助けられている。色々と蝶屋敷で分からないことがあれば、すぐに教えてくれるし、勉強や訓練で疲れた時に励ましてくれる。あと、料理が上手でご飯が美味しい。なので、偶に料理を教えて貰っている。

 

 なほちゃん、きよちゃん、すみちゃんの3人組は見ているだけで和む。常に元気で、一生懸命に看護師として動いている。

 

 3人の相手してあげると、すっごく楽しそうにしてくれるから、思わず口がほころんでしまう。あ、なるほど。これが、蝶屋敷の飴と鞭っていうやつか(多分、違う)

 

 

 そして、僕が1番この蝶屋敷にて気にいらない人物が1人。

 

 

 「……………」

 

 栗花落カナヲだ。今日も相変わらず、朝会っておはようと挨拶をしても返事してくれなかった。泣きそう…………。

 

 なんか、神崎先輩曰く何か物事を決める時は銅貨を投げて決めるというよく分からない癖がある。

 

 しかも、僕の時に限って銅貨の出たのが決めていたのと違うやつらしく、反応を見せてくれない。いや、どんな確率?普通に僕と話すのが嫌すぎて嘘言ってるとかじゃないよね?

 

 それに、栗花落も胡蝶さんの"継子"であるため、たまに木刀で打ち合いをするのだが……………

 

 

 「水の呼吸 壱の型 "水面斬り"!!」

 

 

 鱗滝さんに教わった水の呼吸の型を、栗花落に目掛けて振り下ろすのだが

 

 

 ーーースカッ

 

 

 「くっ!!」

 

 こいつ……、まるで僕が振り下ろす位置が分かっているかのように容易く躱しやがる。どんな、視力してんだよ。

 

 

 「花の呼吸 陸の型 "渦桃"!!」

 

 

 そんで空振りして体勢を整えようした直前に、栗花落は空中で大きく捻りながら木刀を振り下ろし、それが僕の頭部に直撃して気絶するっていう日が何度かありました。殺す気か!!

 

 それにしても、どうしては栗花落はあんなに素早く動き回れるんだろうか。

 

 …………癪だけど聞いてみるか。

 

 「なぁ………」

 

 「………………」

 

 声を掛けても、彼女はこっち向いて微笑んでいるだけ。まぁ、分かってたけどさ。

 

 「どうして、あんなに素早く動けるのか教えて欲しいんだけどいいかな??」

 

 「………………」

 

 僕がそう言うと、栗花落はいつものように銅貨を取り出して、ピン!!と弾く。そして、それを手の甲に受け止めてどっちか出たか見る。

 

 銅貨は………"裏"を向いていた。

 

 どっちだ!?決めてたやつか!?

 

 「………………」

 

 喋ってくれないということは、"表"だったのだろう。どうして、こんなに外れるの!?いい加減にしないと、本当の本当に泣いちゃうよ?

 

 ………あ、そうだ。

 

 「栗花落。もう一度、チャンスをくれ。あと、銅貨の表裏は僕が決めさせてもらう。」

 

 ないとは思うが、もしかしたら栗花落はズルしているかもしれないからな。だったら、僕自身で決めた方が信用性は上がる。

 

 「"表"だ。"表"が出たら教えてくれ」

 

 コクリと栗花落は浅く頷いたあと、またしても栗花落は銅貨を上に弾き手の甲で受け止める。

 

 どっちか出たかと言うと…………

 

 

 "裏"だった。

 

 

 

 「………………」

 

 「………………」

 

 

 

 ……………気まずい。

 

 

 

 

 

 この後、神崎先輩に半泣き状態で教えて下さいと頼み込んだら普通に教えてくれた。

 

 栗花落は胡蝶さんが言っていた"全集中"常中をマスターしているためだということ。へぇ、常中ができるようになれば、あんなに身体能力が上がるのか。

 

 

 …………キツそうだけど頑張ってやってみるか。

 

 

 こうして、僕は1ヶ月かけて"全集中"常中をマスターした。正直言って死ぬかと思いました。

 




大正コソコソ噂話

カナヲはそれなりに鈴蘭のことを気に入っている。(外れた時の反応が面白いため。


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10話『胡蝶しのぶ』

しのぶさん視点です。言葉遣いが難しぃ……


 これは、まだ成矢 鈴蘭くんが蝶屋敷に来る前のこと。

 

 「胡蝶………話がある。」

 

 合同任務で"水柱"である冨岡と一緒に行動していた時、彼から話しかけられる。珍しいですね、あの冨岡さんから話しかけられるなんて。

 

 「はい、何でしょうか?」

 

 「早くて1年後ぐらいに子供を1人蝶屋敷に送る。だから、世話をしてやって欲しい」

 

 「はい?ちょっと待ってください。話が全然分かりません」

 

 唐突に何を言い出すんでしょうか、この人は。子供?誰の?………まさか冨岡さんの!?……………なわけありませんよね。だって、冨岡さんですもの。

 

 しかも、世話って………。犬猫みたいな感覚で言われても困るのですが。

 

 「ちゃんと説明してください。」

 

 「………分からないのか?」

 

 「分かりませんよ」

 

 私の事馬鹿にしてるでしょ、この男!!だから、他の皆から嫌わr………コホンコホン、失礼しました。つい思ったことを素で心の中で叫んでしまいました。平常心平常心………。

 

 それにしても、相変わらず大事な部分を省いて話されますね。聞かされるこっちの身にもなって欲しいです。

 

 「………3日ほど前に、任務先で医学の道に進みたいと言っていた子供に会った。」

 

 冨岡さんはボソボソと小さな声で私に詳細を話す。へぇ、つまりその子はお医者さんになりたいということですよね。それは大変興味深く、とても良い事だと思いますが…………。

 

 それが私に何の関係があるのでしょうか?

 

 「そいつは"とある事情"で鬼殺隊を志願した。今は俺が世話になった"育手"の所に向かわせているが、どうせならお前の所で世話になった方が将来的に為になると思ったからだ。そいつにとっても、胡蝶にとっても。」

 

 なるほど、大体の話が見えてきました。

 

 簡単に言えば、医学や薬剤に精通している私にその会った子供に医学について教えてあげて欲しいということですね。どうして、そのたった一言を素直に言えないのでしょうか。

 

 本音を言ってしまえば断りたい所です。なぜなら、私は"柱"でもあるため、その子に教える時間があまり取れません。それに、剣士として育てるとしても、私にはもう栗花落カナヲという"継子"がいます。カナヲの稽古もあるので尚更、無理だと思います。

 

 しかし、ここでその子を手放すのが惜しいと思ってしまうのも事実なんですよね。

 

 正直な話、現在の蝶屋敷は人手不足へと陥っています。

 

 理由としては負傷した鬼殺隊の隊員は毎日のように診療所である蝶屋敷へと足を運んで来ているからですね。アオイ達も看護師として頑張ってくれていますが、隊員達を診療することができるほどまでには、まだ至っていません。

 

 だから、隊員達を1人1人診療しているのは、蝶屋敷で私だけなのです。

 

 約300名以上いる鬼殺隊の隊員を蝶屋敷で全員診ることは流石の私にも不可能なこと。

 

 なので、医学の道に進みたいという気持ちがありながらも鬼殺隊へと志望している子がいるならば是非、蝶屋敷の元に来て欲しいです。そうすれば、少なくとも隊員を診療することができる人が増え、私の負担も減らせれますしね。

 

 きっと、冨岡さんの最後の言葉にあった『胡蝶にとっても』というのはこのことを指しているのでしょうね。普段はボケーッとしている癖に周りをよく見ています。

 

 

 ………よし、決めました。

 

 

 「分かりました。その子を蝶屋敷で引き取りましょう」

 

 将来の蝶屋敷のことを考えて彼を蝶屋敷に引き取ることを決意しました。

 

 私が………………いなくなったあとにも、蝶屋敷には人を診れる人間を置いておいた方が良いと判断しました。

 

 「………助かる。また近いうちに"育手"の方から報せが来ると思うからその時になったら頼む。」

 

 「はい。」

 

 これまた珍しく、冨岡さんから感謝のお言葉を聞いたあと、私達の目の前に目的である鬼が数体現れました。

 

 なので……………

 

 「蟲の呼吸 蝶の舞 "戯れ"」

 

 「水の呼吸 肆の型 "打ち潮"」

 

 冨岡さんと協力して、その場にいた鬼を全滅させました。

 

 

 

 

 

 それから、もうすぐ1年が経とうとした時の頃でしょうか。

 

 私の元に見たことの無い風格のある1匹の鴉がやって来ました。送り主は冨岡さんの"育手"である鱗滝左近次からでした。

 

 

 そして、その鴉から医学の道に進もうとする例の子供…………成矢 鈴蘭くんについての報せを聞きました。

 

 

 あと、3日ほどで蝶屋敷に向かわせるそうです。なので、私は蝶屋敷にいる彼女たちを集め成矢くんのことを話しました。

 

 なほ、きよ、すみの3人はとても喜んでいました。まぁ、彼女たちは人懐っこいからですね。新しい人が来ると嬉しいのでしょう。

 

 アオイは「そうですか。」と一言だけ呟いていました。アオイは少し固いところがありますからね。彼と上手くやっていけれるか心配になります。

 

 カナヲは分かっていたことですが、成矢くんのことを聞いても特に表情を変えることはありませんでした。特に気にしていないのでしょう。"継子"仲間として仲良くやって欲しいところではありますが…………。

 

 隠の人達にも成矢くんのことを話して、彼の部屋なり着ていく衣服なりを用意していると、あっという間に3日が経ってしまいました。

 

 はて…………、どんな子が来るんだろうと内心、少しだけ楽しみにしながら蝶屋敷の屋根の上で待っていました。

 

 しばらくしたあと、鱗滝さんの鴉がやって来ました。そして、そのあとを追う1人の藍色の髪型が特徴的な男の子。

 

 恐らく、この子が成矢 鈴蘭くんなのでしょう。見た感じ…………やんちゃそうなタイプに見えますね。本当に医学の道に進むの?と失礼ながら疑問に思ってしまいます。

 

 しかし、そんな気持ちは彼の態度で180°変わりました。

 

 「冨岡 義勇殿、鱗滝 左近次殿の両方のご厚意によりこの度は参上させていただきました、成矢 鈴蘭といいます。今日からよろしくお願いします!!」

 

 成矢くんは私の姿を見たあと、深く頭を下げて言葉を出していました。見た目に反して、礼儀はしっかりと弁えている子だと分かります。

 

 人は見た目で判断してはいけないというのはこのことを言うんですね。ごめんなさいね、成矢くん。

 

 そして、彼を蝶屋敷へと案内しようと中へ入って貰いました。

 

 すると、恐らく薬品の匂いを嗅いだのか、とても嬉しそうな表情を浮かべていました。ふふ、本当に医者になりたいんですね。

 

 彼に蝶屋敷を案内したあと、今度はカナヲ達に会わせました。各々、どんな反応を見せるのでしょうか。ちょっと楽しみです。

 

 結果としては…………特に何か起こることなく想像通りって感じでしたかね。ただ、カナヲが銅貨を弾いた時に、反対の目が出た為に何もしなかったのを見て、成矢くんが悲しそうな顔をしていたのは面白かったです。

 

 自己紹介を終えたあと、最後に私は彼を診療室へと連れて行き、気になっていた質問をしました。

 

 それは、どうして成矢くんは鬼殺隊に入ろうとしたのか……、ということ。

 

 冨岡さんは"とある事情"と言っていた時から気になっていましたが、何があったのでしょうか。できれば教えて頂きたいところではあります。

 

 しかし、彼は答えられないと言いました。その時の彼は複雑な表情を浮かべていました。きっと、辛い過去があったのでしょう。私達みたいに両親が親に殺されてしまったように。

 

 なので、そこまで深追いはしませんでした。そのうち、互いに打ち解けた後にまた、教えてくれるかもしれません。その時が来るまで、私は待つことにしました。

 

 こうして、我が蝶屋敷に新しい住人が出来ました。……………よくよく思い返してみれば、蝶屋敷に男の子が住むのは初めてですね。

 

 

 

 

 成矢くんが蝶屋敷に来て数ヶ月が経ちました。

 

 なんとか時間を作って、成矢くんに医学に関する授業をしているのですが………

 

 驚くことに猛威的なスピードで教えた内容を吸収しているんですよね。元々、独学でやっていたこともあり、最低限の基礎知識はあると聞いていましたが、たった数ヶ月でここまで来るとは思ってもみなかったです。

 

 しかも、私が作った仮試験用紙と嘘をついて去年の医師の国家試験のプリントを彼に渡してやらしてみたら、合格点数には届かなかったとはいえ、かなり惜しいところまではいっていました。

 

 

 しかも、驚くのはそれだけじゃありません。

 

 

 彼は薬とかも独学で調合して作っていたらしいので、いくつか見させてもらいました。

 

 しかし、どれも見たことがないものがばっかりだったので、最新の治療器具で詳しく調べてみた結果………

 

 (嘘でしょ………!?)

 

 まだ、治療薬が見つかっていない病気を………………治すことが出来るかもしれない薬がほとんどでした。

 

 これは世紀の発見と言っても過言ではないほどの出来事です。

 

 私はすぐに彼にどうやって調合したのか、聞いてみると成矢くんは平然とした表情で

 

 「え、全部勘で作りましたけど………。あ、ちゃんと薬の効果は自分で試していますよ!!」

 

 と、その日の夕飯を作りながら答えていました。

 

 

 本当に何なのか、この子は…………。

 

 

 その言葉を聞いて、真っ先にそう思ってしまいました。勘だけでやっていけれるほど、医学の道は甘くはありません。なのに、この子は成し遂げてしまっている。

 

 

 稀に見る天才…………なのでしょうね。成矢くんは。

 

 

 しかも、それに成矢くん自身は気付いていない。これに関しては教えない方がいいでしょう。気付いていないからこそ、それが成矢くんの力へとなっている気がします。

 

 恐らく………、あと数年経てば、きっと彼は凄い存在となっていると思います。

 

 成矢くん………普通に逸材ですよ、冨岡さん。紹介してくださって本当にありがとうございます。初めてかもしれませんね、貴方に感謝するのは。

 

 剣士としては………まぁ、発展途上って感じですね。とは言っても、まだ剣を握って1年しか経っていないらしいので仕方が無いのかもしれません。

 

 ですが数日前に、あんだけやるのを嫌がっていた"全集中"常中をいつの間にか出来るようにしていたので、少なくとも才能はあると思います。

 

 あと、これは少し余談なのですが成矢くんは冨岡さんの"育手"である鱗滝さんという方から"全集中"の呼吸法は教わったそうなので、冨岡さんと同じ水の呼吸の型を使っているのをよく見かけます。

 

 その光景をみる度にですね………その………

 

 なんか………妬いてしまいます。

 

 今は私が彼の"育手"なんですよ?それなのに、冨岡さんと同じ呼吸を使っているのは癪です。あ、別に水の呼吸を使っている人たちを馬鹿にしているわけではありませんからね。誤解しないでください。ただ、冨岡さんと同じなのが嫌なだけですから。

 

 

 

 ………あ、いい事を思いつきました。

 

 

 

 「成矢くん。頸を刎ねなくても鬼を殺せる呼吸法があると言ったら………君はどうしますか??」

 

 この一言をさりげなく言ったら彼はすぐ反応して食いつき、土下座して私に教えて下さい!!とお願いしてきた。その時の顔が本当に嬉しそうで興味津々な顔でしたね。

 

 

 残念ながら冨岡さん及び鱗滝さん。

 

 

 彼は今日から水の呼吸法の使い手では無くなるのでご了承を♪

 




というわけで鈴蘭の呼吸法はアレになりますので皆さんもご了承ください。これは、前々から考えていたことなので。


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11話『嘘………だろ』

多くの方から誤字報告を頂いています。
投稿する前に確認はしているのですが、見逃してしまっているみたいですね。
報告してくださる多くの方々、本当にありがとうございます。

最終選別前日からのお話です。どうそ。


 蝶屋敷に来てちょうど1年が経過した。

 

 鬼殺隊に入ろうと地元に離れて、もう2年が経ったのか。時間が流れるのを早く感じてしまう。

 

 15になった僕は、当然ながら身長も伸び、胡蝶さん曰く少し大人びた顔つきになっているという。神崎先輩に頼んで身長を測ってもらったら170cmあった。2年で20cmも伸びたのか。

 

 いやぁ、それにしてもこの1年。色んなことがあったなぁ。

 

 医学の関する知識を、胡蝶さんから学べれるだけ学んだ気がする。医学は一生勉強しなければならない職業だと言われているため、さらに勉強しなければならないが、それでも独学していた頃に比べたら圧倒的に知識量は増えている。嬉しいことだ。

 

 さらに薬剤の調合についても、胡蝶さんから正しいやり方を教えてもらったことにより、さらに新たな薬を調合しまくった。

 

 調合する度に、胡蝶さんが驚愕する表情を浮かべていたが、あれは何を驚いていたのだろうか。まぁ、考えるのはやめよう。

 

 しかも、僕は3ヶ月ほど前からは『毒』についての研究も個人で始めていた。胡蝶さん曰く、鬼を殺せる『毒』もあるらしい。そんなの聞かされたら、興味出るに決まってるじゃないか。

 

 お陰様でそれ以降、『毒』に興味を持った僕はそのまま流れで胡蝶さんから、ある呼吸法を習った。その呼吸法は案外3週間ほどでマスターすることが出来た。

 

 元々はその呼吸は水の呼吸の親戚みたいなものだと胡蝶さんは言ってたため、水の呼吸を使っていた僕にとってはそこまで苦では無かったのだろう。

 

 むしろ、鱗滝さんには申し訳ないが僕は水の呼吸よりも胡蝶さんから習った呼吸の方が合ってるらしく、最近はずっとその呼吸の型を重点的に磨いている。とは言っても、ちゃんと水の呼吸の型もたまにだが忘れないように繰り出すようにはしている。

 

 "全集中"常中に関しては完璧にマスターした。何気なくこうやって過ごしてるけど、今も"全集中"の呼吸をしてるんだぜ?

 

 それにしても呼吸法って凄いよな。呼吸するだけで病気や毒とかの侵攻を抑えられるし、なんなら止血とかも出来ちゃう。近いうちに呼吸だけでどんな病気も完治できる未来が来るかもしれない。………そうなったら医者いらないじゃん。廃業になっちゃうよ。

 

 と、そんな下らない考えをしながら現在、僕と栗花落は"育手"である胡蝶さんの目の前で正座していた。

 

 男女3人がただ向かい合って正座しているだけなのに緊張感が走る雰囲気が部屋全体を漂わせている。

 

 「遂に明日………あの日がやって来ました」

 

 先に口を開いたのは胡蝶さんだった。そして、彼女が言う"あの日"。

 

 

 

 それは鬼殺隊の最終選別のことを指している。

 

 

 

 試験の内容は鬼殺隊の剣士によって捕らえられた鬼が潜む藤襲山に7日間生き残るということ。

 

 捕えられているということは、そこまで強くは無い鬼しかいないのだろう。しかし、その鬼達さえも倒すほどの実力が無ければ今後的に意味がない。

 

 鱗滝さんの鴉を通じて炭治郎と文通を行っているが、今年の最終選別に参加するようだ。なので、僕も胡蝶さんに最終選別に行かせて欲しいと頼んだら、すぐに了承を得た。

 

 そもそも、僕が頼まなくても胡蝶さん的には、僕を今年の最終選別には行かせる気だったらしい。理由としては、今回の最終選別に栗花落を元々、行かせようとしていたため、僕にも彼女と一緒に行ってもらいたかったという。付き添いみたいな感じかな。

 

 なので、命が懸かっている試験に向かう"継子"である俺たちに話があるらしく、こうして座っている。因みに、こういう激励的なことって試験当日にやるものじゃないの?と思うところではあるが、運悪く明日は早朝から

胡蝶さんはどうしても外せれない仕事が入ってしまい、蝶屋敷にはいないのだ。

 

 この時の胡蝶さんは本当に怖かった怖かった。なにせ、前々から最終選別当日は僕達を送り出すために予定を開けていたのにも関わらず、3日前ぐらいに急遽、よりによって僕達が最終選別に向かう日に大事な予定が入ったらしく、その日の胡蝶さんは珍しく荒れていた。

 

 普段は丁寧な口調で話すのだが、その日の夜はとてもキツい口調で数々の暴言を愚痴のように零していた。その愚痴を僕は朝まで聞かされて、その日の稽古は寝不足で仕方が無かった。

 

 それゆえに、最終選別の前日に胡蝶さんから激励のお言葉を頂くことになったということだ。

 

 「2人にはこれを渡そうと思います」

 

 胡蝶さんはそう言って、彼女のすぐ横に置いてあった刀2本を僕達に1本ずつ差し出す。

 

 「知っているとは思いますが、念の為説明しておきますね。この刀は"日輪刀"。太陽の光をたっぷりと浴びた2種類の鉱石で造られる刀です。この刀で鬼の首を刎ねれば、奴らを殺すことが出来ます。」

 

 鱗滝さんも以前、日輪刀について同じようなことを言っていたな。1年前のことだけど、昨日のように感じてしまう。

 

 「それでは2人とも、よく聞いて下さい。」

 

 「はい」

 

 「……………はい。」

 

 「貴方たちなら、恐らくですが心配することなく最終選別を突破することはできるでしょう。それほどの実力は2人にはあります。落ち着いて行動するようにしてください。」

 

 胡蝶さんは僕達にそう言ったあと、背後から箱を2つ取り出して僕達の前に置く。

 

 「これは、私からの餞別です。受け取って下さい。」

 

 僕と栗花落は互いに顔を見合わせたあと、2人でその箱を開ける。

 

 栗花落が渡された箱には綺麗な蝶の髪飾りが入っていた。

 

 「カナヲが今、付けているのは結構ボロボロになってしまいましたからね。新しいのをプレゼントします。」

 

 栗花落は無口ながらも、嬉しそうに頬を赤くして今、付けている蝶の髪飾りを外し、胡蝶さんから頂いた新しい髪飾りを付けた。

 

 「ふふ、とても似合ってますよ。カナヲ。ね?成矢くん。」

 

 「…………そうですね。少なくとも3年前の僕なら見た瞬間に告白していたと思います。」

 

 悔しいところではあるが、とても似合ってて可愛い。髪飾りが変わるだけでこうも変わるのか。くそ………、稽古している以外は朝から晩までひたすらシャボン玉しかしてない癖にぃ………。

 

 そして、僕の箱に入っていたのは

 

 

 「…………白衣??」

 

 

  そう。少し大きめの白衣を連想させるような真っ白の羽織だった。しかも、よく見てみると胸元部分には2匹の鮮やかな蝶が刺繍されている。

 

 「成矢くんに何か贈るとしたらこれしか思いつきませんでした。どうでしょうか?」

 

 どうでしょうか?だって?そんなの、言われなくても分かるだろう。

 

 「ありがとう……ございます」

 

 凄く………物凄く嬉しいに決まってるじゃないか。

 

 栗花落と同じく、僕は今着ている着物の上から胡蝶さんに頂いた白衣を羽織る。おぉ………、羽織るだけで見た目がもう医者にしか見えない。テンションが高ぶっているのかが分かる。

 

 「成矢くんもお似合いですよ。ね?カナヲ。」

 

 「………………」コクリ

 

 あの栗花落が頷いてくれたことに驚きながらも、僕も頬を赤くさせながら頭を下げた。

 

 「では、最後に。2人とも必ず生きて蝶屋敷に戻って来て下さい。あんな場所で死んだら…………許しませんからね。」

 

 「はい!!」

 

 「…………はい。」

 

 僕達の返事を聞いたあと、満足した胡蝶さんは部屋から退室した。なので、僕達も明日に備えて荷物を準備して寝ることにした。

 

 自室へ向かっている途中

 

 「あ、神崎先輩」

 

 「成矢さん」

 

 大量の洗濯物を手にしている神崎先輩と出くわす。1人じゃ大変そうだったので、無理言って半分、洗濯物を手にして彼女の隣に歩く。

 

 「遂に明日ですね。最終選別」

 

 「はい」

 

 神崎先輩と並んで歩いていると、彼女は僕に向かって口を開く。先輩も知ってたのか。

 

 「怖い………ですか?」

 

 「そうですね、怖くはないと言ったら嘘になっちゃいますけど………そこまで気にしてはないです。」

 

 「………凄いですね、成矢さんは。」

 

 彼女は少し俯きながら悲しそうに答える。神崎先輩は鬼殺隊に入ったものの、最初の任務で恐怖心を抱き、それ以降戦えなくなってしまったという。そんな中、胡蝶さんが神崎先輩を受け入れてくれたそうだ。

 

 先輩の同期は命を懸けて戦っているというのに、彼女自身は蝶屋敷でのほほんと暮らしている。恐らく、彼女はそれを負い目として抱え込んでしまっているのだろう。

 

 

 けど、神崎先輩は1つ勘違いしている。

 

 

 「別に逃げたっていいじゃないですか。」

 

 「え?」

 

 僕の言葉に、先輩は目を丸くして僕の方を見る。

 

 「もし、本当に先輩が自分をクズ野郎と思うのならば逃げたことすら気にも留めてませんよ。同期なんて顔すら覚えてないでしょう。それに対し、神崎先輩は"逃げてしまった"という負い目を感じながらも蝶屋敷で立派に責務を果たしてるじゃありませんか。確かに前線には立ってはいませんが、先輩も他のみんなと変わりなく、しっかりと戦っていると僕は思います。」

 

 確かに、神崎先輩は鬼と戦うことからは逃げたのかもしれない。しかし、この人は戦うのはやめたが、こうやって負傷した鬼殺隊の隊員を治療する手伝いをしっかりと果たしている。

 

 なら、別に負い目を感じることはない。むしろ、誇ってもいいはずだ。

 

 負傷した隊員を治療する際に、神崎先輩は必死に励ましているの僕は何度も目にしてきた。それによって、救われた隊員も少なくは無い。

 

 蝶屋敷に神崎アオイは不必要な存在か。答えは言わずもがな、否に決まっている。それは僕だけでなく、他の人に聞いたとしても同じことを言うだろう。

 

 「そんなこと………初めて言われました。ありがとうございます、成矢くん。」

 

 神崎先輩は瞳に涙を浮かべながら言葉を出す。少なからず、僕の言葉が彼女の心に響いてくれたようだ。これで、彼女が前を向いて日常の日々を過ごしてくれることを願う。

 

 そして、僕は神崎先輩と共に大量の洗濯物を干し終えたあと

 

 「成矢くん」

 

 「はい?」

 

 神崎先輩に声をかけられる。なので、振り向くと彼女は俺の両手を優しく包み込みながら

 

 「明日の最終選別………頑張って下さい。カナヲと2人で帰ってきてくれると信じてますから」

 

 と、僕に言葉を出してくれた。この時の神崎先輩の表情は重荷が外れたせいなのか、とても穏やかな笑顔を見せてくれた。彼女の笑った顔を見るのはこれで初めてなのかもしれない。とても綺麗だった。

 

 「勿論ですよ。これからも、僕は神崎先輩に色々と教えて頂きたいですしね。」

 

 そんな僕は彼女の言葉に対して絶対に戻って来るという意志を伝える。すると、神崎先輩はまたしても可愛らしく微笑んでくれた。思わず、ドキッとしてしまったのはここだけの内緒である。

 

 そして、神崎先輩と別れたあと自室へと戻り、忘れ物がないかをチェックして僕は眠りについた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「鈴蘭さーん!!早くしないと遅刻しますよ!!」

 

 「はい!!すみません!!今すぐに食べます!!」

 

 次の日、ぷんぷんに怒るすみちゃんに怒鳴られながら僕は朝ごはんを食べていた。

 

 簡単に言うと、思いっ切り寝坊しました。

 

 久しぶりに炭治郎に会えるという喜びと禰豆子ちゃんは元気かな、という心配と、明日の最終選別で生き残れるかな、という緊張感が襲いかかってきて余り眠れなかったからである。

 

 ここから、藤襲山に向かう時間を考えると早く出ないと間に合わない。

 

 恐らく、神崎先輩が作ったくれたであろう朝食を急いで腹に入れる。

 

 「鈴蘭さん!カナヲ様が待ってくれてますよ!」

 

 え?あいつ、待っててくれてるの?意外なんですけど。でも、まぁ、もう少し時間かかるし待ってもらうのも失礼だからな。

 

 「先行ってもらうよう頼んどいてくれる?」

 

 「いいんですか?」

 

 「うん。僕のせいで栗花落も遅刻したとなったら彼女に迷惑かけるしね。」

 

 「分かりました!鈴蘭さんも早く準備してくださいね」

 

 「はいよー」

 

 なほちゃんがトテトテと走っていくのを眺めながら僕は朝食を完食し、歯を磨いたあと部屋から荷物を取り出す。

 

 昨日のうちから準備はしてあったから、あとは着替えるだけだ。

 

 着ていた寝衣を脱いで、いつも稽古の時に使っていた薄い抹茶色の着物を見に纏い、その上から胡蝶さんに貰った白衣を羽織る。

 

 よし。これで出発する準備は完了。

 

 あとは全力でダッシュすればギリギリ間に合うだろう。早く行かなくては。

 

 …………そういえば、今日、神崎先輩に会ってないな。朝から出掛けてるのかな?

 

 っと、そんなことを考えている余裕はない。マジで急がないと本当に遅刻してしまう。

 

 そう思い、玄関に向かおうとした瞬間、

 

 

 「アオイ様!!アオイ様!!大丈夫ですか!?」

 

 

 「ーーーーッッ!!」

 

 蝶屋敷中にきよちゃんの大声が響き渡る。声からして、ただ事ではないことは確かだ。

 

 僕はすぐに声が聞こえてきた神崎先輩の部屋へと入ると、そこには

 

 「はぁ………はぁ………ぐっ!!」

 

 「ーーーッッ!?」

 

 

 大量の汗をかきながら、苦しそうに呼吸をしてベットに横になっている神崎先輩の姿があった。

 

 「神崎先輩!!!」

 

 僕は肩に背負っていた荷物をすぐに手放して彼女の様子を伺う。おでこに手を当てると、とても熱い。そして、脈を測ると、かなり先輩が衰弱しているのかが分かる。

 

 明らかにただの病気ではないと僕は直感的に判断した。

 

 詳しく調べなければ。早くしないと神崎先輩が危ない!!

 

 そう思い、僕は顕微鏡などを引っ張り出して先輩が苦しんでいる原因を調べる。

 

 案外、その原因はすぐに発覚した。発覚したのだが………

 

 

 「嘘………だろ。」

 

 

 思わず、僕は嫌な汗を頬から伝えながら言葉を呟いてしまった。

 

 神崎先輩を苦しませている原因。それは……………………

 

 

 

 

 "結核"

 

 

 

 

 現在、"不治の病"として世界中で多くの死者を出している治療不可能な病気に神崎先輩は掛かってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、鈴蘭めちゃくちゃ頑張ります。お楽しみに。


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12話『覚悟を決めろ』

あけましておめでとうございます。
今年も、この作品をよろしくお願いします。


 「鴉!!今、手が空いている鴉はいるか!!」

 

 僕は神崎先輩の部屋で声を上げる。こんなに、大きな声を上げたのは初めてかもしれない。

 

 すると、僕の目の前に2匹の鴉がバサバサと急いで飛んできた。こいつらは蝶屋敷専属の鎹鴉で特に僕に懐いてくれている可愛いヤツらだ。……って、今はこんなこと説明してる場合じゃない。

 

 僕は早口で2匹の鎹鴉に使命を出す。

 

 「今すぐに胡蝶さんを蝶屋敷に呼んでくれ!!呼び主は成矢 鈴蘭!!要件は『神崎アオイが"結核"により体調が悪化!!生命に危機あり!!早急に帰宅を求む!!』で頼む!!」

 

 「リョーカイ、リョーカイ!!」

 

 「お前はここから1番近い街まで飛んで医者を呼んでくれ!!要件はさっきと同じだ!!」

 

 「リョーカイ、リョーカイ!!」

 

 「頼むぞ、2匹とも!!」

 

 バサバサと、窓から飛び立つ2匹の鎹鴉を見送りながら僕は神崎先輩の様子を見る。

 

 くそ………、よりによってどうして"結核"なんだ!!先輩が何をしたっていうんだよ!!

 

 僕は歯を食いしばりながら、彼女の不運を呪う。"結核"は未だに治療法が発見されておらず、"不治の病"と呼ばれていて、結核に掛かったら最期。必ず死んでしまうと言われている。

 

 はっきりと言ってしまえば、この状況をどうにかしようとしてもどうにもならない。胡蝶さんがいれば、微々たる希望は出てくるかもしれないが、現状僕にはどうすることもできない。

 

 このまま、神崎先輩が"結核"によって弱り果てて死んでいくのを僕はただ見ることしか出来ないって言うのか。

 

 くそ!!くそ!!くそ!!

 

 

 「…………成………矢さん」

 

 

 「ーーーーッッ、神崎先輩!!」

 

 彼女は辛そうに僕の名前を呼ぶ。意識が戻ったみたいだ。それは良かったのだが………

 

 「先輩、喋らなくて大丈夫です!!今、胡蝶さんを呼んでーーー」

 

 

 「もう……いいですから。」

 

 

 「ーーーーえ?」

 

 神崎先輩は僕の言葉を遮って、何度か呼吸を浅く行いながら彼女自身の心境を騙り始める。

 

 「私はもう………間に合いません。だから…………気にせずに最終選別に行ってください」

 

 「ーーーッッ!?何を言って」

 

 「早くしないと………最終選別が受けられなくなってしまいます………よ。」

 

 「そんなこと………今はどうだっていいじゃないですか!!」

 

 どうして、僕なんかのことを!!今は自分のことを大切にして欲しいのに!!

 

 「貴方は………"逃げた"私と違って、その刀で多くの人を助けることが出来る力があります。だから……………お願いします。行ってください」

 

 先輩は今、とても辛いはずなのに僕に向かって………笑顔で言葉を出した。顔は赤くし、汗も止まらずにかき続けているというのにも関わらず。

 

 その笑顔を見ると、とても心が痛くなる。

 

 神崎先輩の想いを素直に受け入れるとするならば、最終選別に向かった方が彼女のためになるかもしれない。

 

 だけど………だけど!!

 

 本当に………それでいいのだろうか。

 

 神崎先輩の最期を………こんなところで終わらせていいのだろうか。

 

 それは、否に決まっている。当たり前じゃないか。

 

 神崎先輩がいたからこそ、今の僕がいるんだ。蝶屋敷での稽古の過酷さで折れそうになった時、いつも支えてくれたのは彼女だ。

 

 それを、僕はまだ恩返しできていない。

 

 じゃあ………どうするか。

 

 …………ハッキリしろよ、成矢 鈴蘭。本当は分かってるんだろ。

 

 

 

 自分が今、この場でやるべきことを。

 

 

 

 確かに、無謀なことかもしれない。無理かもしれない。時間の無駄なのかもしれない。

 

 だけど、それを理由に僕は逃げたくない。

 

 禰豆子ちゃんを人間に戻す?これから先、多くの人を救う?笑わせるな

 

 目の前で今にも苦しんでいる人がいるというのに、それを見逃していいものか。

 

 

 僕は……………医者になるんだ!!

 

 

 なら…………覚悟を決めろ、成矢 鈴蘭。

 

 

 1つしかないこの命をここで懸けてでも!!

 

 

 「なほちゃん!!きよちゃん!!すみちゃん!!」

 

 「「「ーーーはい!!」」」

 

 僕の呼び声に彼女達を呼ぶ。3人とも、涙を浮かべながら不安そうにこちらを見つめる。

 

 「長袖の上下、エプロン、手袋、マスクを装着しお湯と大量のタオルを持って戻って来て!!10秒以内に!!」

 

 「「「ーーーーッッ!?わ、分かりました!!」」」」

 

 僕の言葉に3人は急いで部屋から出て行き、本当に10秒以内に指示通りの格好とタオルを持って戻って来てくれた。"結核"は感染病。しっかりとした防護具を着ないと彼女達も感染する可能性がある。

 

 「先輩の身体をそのタオルで温めたり、汗をできる限り拭いてあげてくれ。あと、励ましの声かけも忘れずに。」

 

 「「「はい!!」」」

 

 「何を………考えてるんですか。成矢……さん。話…………聞いていましたか?」

 

 神崎先輩は驚愕した表情で僕に言葉を出す。当然といえば、当然だな。彼女の願いを無視したのだから。

 

 「5分だけ…………僕に時間下さい。」

 

 「え?」

 

 僕は真剣な表情をして神崎先輩に言葉を出す。

 

 

 「"結核"の治療薬を………5分で調合します。」

 

 

 

 「ーーーーッッ!?」

 

 神崎先輩は信じられないような表情を浮かべる。そんなの、不可能だと考えたからだろう。

 

 はるか昔から恐れられていた病気の治療薬を今から5分で調合させるというのだ。驚愕するのも無理はない。はっきりして無謀な挑戦だ。

 

 しかも、そんなことをしてしまったら、今年の最終選別には参加できなくなってしまうのは確実。鬼殺隊に入ることはできない。

 

 だけど…………やるしかないんだよ。じゃなきゃ、神崎先輩は死んでしまう。

 

 そんな後悔だけは絶対にしたくはない。

 

 「そんなの…………出来るわけーーー」

 

 

 「出来ます。作ってみせます。もし、作れなかったら責任取って切腹します。だから………僕を信じて下さい。」

 

 

 僕は先輩の顔を見て真剣な顔で言葉を出す。彼女の瞳には1度も見たことの無い表情をしている自分の顔が映し出されていた。そんな顔も………出来るんだな。

 

 そして、僕はこの部屋から退室しようとした瞬間、ぐいと腕を掴まれる。振り返ると、荒い呼吸をしながら神崎先輩が僕の腕を掴んでいて

 

 「本当に………出来るんですか?」

 

 と、不安そうにしながら僕に聞いた。

 

 そんなことを聞くってことは、彼女も本当は死にたくなく、生き続けたいということ。

 

 

 「出来ますよ。なにせ、僕の勘は良いですから。」

 

 

 ニコッと微笑みながら、安心させるように僕は神崎先輩の頭を優しく撫でる。年下の男子に撫でられるとは思ってもいなかったのか、先輩は顔をさらに赤くして恥ずかしそうに顔を俯いた。だけど、満更でもなさそうだ。

 

 「3人とも、あとは頼んだよ」

 

 「「「はい!!」」」

 

 神崎先輩を3人に任せたあと、僕は先程、彼女の病気を診断するときに使用した彼女の血が入っている試験管を手にして部屋から退室する。

 

 急いで向かった場所は薬草の保管室。

 

 胡蝶さん曰く、鬼には"血鬼術"と呼ばれる技を使うらしく、中には毒や菌、ウイルスに関連したタイプもあるらしい。

 

 なので、そういう技を喰らってしまった剣士をできるだけ対応できるように、鬼殺隊のお偉いさんのアテで世界中の薬草や薬品を仕入れてもらっているという。

 

 目の前にある引き出しを何個かあけると、中から大量の薬草が出てくる。

 

 知ってるものもあれば、見たことの無い薬草もある。名前も知らなければ、どんな効果をもたらすのも知らない。

 

 それでも……調合するしかないんだ。

 

 僕は早速、何種類かの薬草を鷲掴みにして、薬研と呼ばれる薬草をすり潰すために使用する医療器具に放り投げて調合をしていく。

 

 粉々になった薬草を水に浸し、その各々の薬草の成分が合わさった液状タイプの薬を早々に作り上げる。

 

 そして、出来た薬を1滴、"結核"の原因となる"結核菌"が含まれているであろう神崎先輩の血に垂らして顕微鏡で観察する。

 

 もし、これで"結核菌"が嫌がる反応を見せれば成功となるのだが………

 

 特に反応は見えなかった。明らかに失敗である。

 

 「くそ!」

 

 すぐに薬草の厳選からし始める。今度は、感染病に効くとされる薬草をベースにして、色んな薬草と調合させ、薬を作る。

 

 しかし、この薬も反応を見せず失敗。

 

 僕は何度も何度も薬草を厳選し、調合させ開発した薬を"結核菌"に垂らすが、どれも反応は無かった。

 

 「これもダメか………」

 

 7回目も失敗し、追い込まれる。もう僕の辺りは散らばった薬草やら水やら医療器具やらで悲惨な状況になっていた。これを、胡蝶さんや神崎先輩が見たら相当ブチ切れるであろう。

 

 約束の5分までもう僅か。

 

 調合も出来てあと1回だ。

 

 しかし、7回とも失敗している僕は焦燥心によって何を選べばいいのか分からなくなっていた。

 

 やはり…………僕には神崎先輩を救うことができないのか!?

 

 折れてしまうかっていうぐらい、僕は歯を食いしばる。しかし、こんなことをしている間にも時間は進んでいく。

 

 

 どうすればいいんだ!?どうすればーーー

 

 

 ーーーピシィィィィィィィン!!!!

 

 

 「ーーーーッッ!!??」

 

 突然、僕は誰かに殴られたような感覚に襲われる。実際には誰からも殴られていたのだが、それでも不思議な感覚だ。

 

 今、自分自身に意識があるのか、ないのかよく分からない。なんだか、ふわふわする。

 

 (…………あれ?)

 

 すると、僕の身体が勝手に動き出した。一体、何が起きているというのか。

 

 そして、引き出しを開けて、僕の手は何種類かの薬草を掴み始める。

 

 厳選を終えたあと、同じように薬研に入れてすり潰して調合し、水に浸して液状タイプの薬を作り出す。その光景を僕はただ、黙って見つめるしか無かった。

 

 僕が無意識の状況の中で作った薬を1滴、"結核菌"に垂らす。それを顕微鏡で観察する。

 

 これでもしダメだったら、もうタイムアップなのだがーーー

 

 「ーーーーーーーーーーーは!?」

 

 僕は信じられないといった表情で顕微鏡を眺める。

 

 なんと、"結核菌"が反応を見せた。しかも、みるみると縮小して小さくなっていくのだ。

 

 「完成…………した!?」

 

 ここで、完全に僕は意識を取り戻す。そして、その薬を持って保管室を後にした。

 

 本来なら、もう少し確かめた方が良いのかもしれない。しかし、もう時間はないし、確か目でいる間に神崎先輩は死んでしまうかもしれない。

 

 すぐに彼女の部屋に戻ると

 

 「「「成矢さん!!」」」

 

 3人は絶望に浸ったような表情を浮かべながら僕に飛びつく。

 

 まさかーーー!?

 

 「はぁ、はぁ、はぁ!!」

 

 僕の想像通り、神崎先輩は先程より過酷な状態へとなっていた。目は飛び出しそうなぐらい見開いてい、呼吸も荒いを通り越して過呼吸へとなっている。言葉も出せれなくなっていた。

 

 これはまずい!!早く治療しなくては!!

 

 「先輩………いきますよ」

 

 僕は薬を注射器に入れ込んで、彼女に針を突き刺す。そして、薬を先輩の体内に注入していく。

 

 「はぁ、はぁ、はぁ!!」

 

 薬を注入してもなお、先輩の様子は変わらない。まだ時間がかかるようだ。

 

 僕は未だに苦しむ神崎先輩の手を両手で包み込んで、様態が安泰することを心の底から望む。

 

 「先輩!!頑張れ!!頑張れ!!頑張れ!!」

 

 必死に僕は彼女の名前を呼び、励ましの言葉を言う。もう、これしか僕にすることはないのだ。

 

 神崎先輩、負けるな!!頑張れ!!頑張れ!!死ぬな!!死なないでくれ!!

 

 僕は神崎先輩のことを、疲労で意識が失うまで言葉を出し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「もしもーし、成矢くん」

 

 「ーーーへぁ?」

 

 誰もが聞いて安心するような女性の声によって、僕は情けない声を出しながら目を開ける。

 

 「おはようございます、成矢くん。」

 

 目の前には胡蝶さんが立っていた。

 

 「胡蝶………ひゃん」

 

 起きたばっかりで呂律があまり回らず噛んでしまった。恥ずかしい…………

 

 「はい、あなたの"育手"である胡蝶 しのぶですよ」

 

 「ーーーそうだ、神崎先輩は!?彼女は!?」

 

 どれくらい僕は寝ていた!?胡蝶さんが来たってことは薬を注入してから結構な時間が経過しているということ。

 

 「胡蝶さん!!先輩はーーー」

 

 

 「成矢さん」

 

 

 「ーーーーッッ」

 

 僕の声を遮って、聞きなれた女性の声が僕の名を呼ぶ。

 

 振り向くと、そこにはーーー

 

 「神崎…………先輩」

 

 いつもの服を身に纏って、笑顔でこちらを眺める元気そうな神崎先輩の姿があった。

 

 「きゃ!?」

 

 「あらあら」

 

 僕はすぐに彼女の方に飛びつき、思い切り抱き締める。先輩は可愛らしい声が聞こえてきたが、気にしない。

 

 「良かった!!先輩が治って良かった!!う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 僕は大粒の涙を流しながら、まるで子供のように泣きまくった。

 

 死んでしまうかと思った。もう目の前からいなくなってしまうと思った。それが怖かった。

 

 本当に………良かった。

 

 「成矢さん、ありがとうございます。私の命を助けてくださって」

 

 今度は彼女が僕の頭を撫でながら感謝の言葉を贈る。その言葉を聞いてさらに僕は感極まってしまってさらに涙を出してしまった。

 

 「成矢くん。そろそろ離れた方がいいんじゃないでしょうか?」

 

 「え!?あ…………」

 

 落ち着いたところで、今の自分がしていることを理解する。すぐ僕の目の前には神崎先輩の顔があって、隙間がないぐらい密着している。彼女の………胸の感触も今になって感じ始めている。い、意外と柔らい………って何を考えてるんだ!!

 

 「ごめんなさい!!すぐに離れます!!」

 

 バッ!!とすぐに神崎先輩から離れようとしたが

 

 ーーーガシッ

 

 「え?」

 

 今度は神崎先輩が僕の腰に腕をまわして僕が離れないように抱きしめ始める。それによって、僕は再び彼女と抱きしめ合う形となってしまった。

 

 「は、え、ちょっと!?」

 

 「もう少しだけ………私を抱き締めてください。」

 

 「あ…………はい。」

 

 ぎこちない動きながらも、僕は神崎先輩を抱き締める。あぁ〜〜、またしても彼女の胸の感触がぁ………

 

 「あの神崎先輩……」

 

 「名前」

 

 「へ?」

 

 「苗字は嫌です。名前で呼んでください」

 

 「( ˙꒳˙ )ファ!?」

 

 名前!?なぜ!?苗字じゃダメなの!?

 

 でも、呼ばれたいのなら………しょうがないよな。

 

 「アオイ………先輩。」

 

 「………もう一度、呼んでください」

 

 「アオイ先輩」

 

 「…………ありがとうございます。」

 

 神崎先輩………じゃなかった。アオイ先輩は嬉しそうにして僕から離れた。い、一体何だったんだ!?

 

 「それじゃあ、成矢くん。早速ですが、最終選別の方へと向かって下さい」

 

 胡蝶さんは僕に向かって声をかける。

 

 「ですが、もう…………」

 

 最終選別には間に合わない。てか、既にもう始まっているだろう。日は最低でも1日は経っているはずだが…………

 

 「大丈夫。話は上に通しておきました。1日遅れですが、あなたを今回の最終選別に受けさせることを"蟲柱"の権限で許可します。」

 

 「えぇーーー!?」

 

 そんなことってアリなの?柱って改めて凄いことを学んだ。

 

 「あ、ありがとうございます!!では、すぐに行ってきますね」

 

 僕は昨日、放り投げていた荷物と刀を手にして玄関に向かって走り出すが

 

 「成矢さん………いえ、鈴蘭さん。」

 

 アオイ先輩から声をかけられる。しかも、名前呼びで。

 

 「頑張ってきて下さい。待ってますから」

 

 「はい!!行ってきます!!」

 

 あんな笑顔で言われたら、頑張るしかないじゃないか。

 

 僕は胡蝶さん、アオイ先輩、なおちゃん、きほちゃん、すみちゃんの5人の前で頭を下げてから蝶屋敷を出る。

 

 こうして、1日遅れではあるが、僕は最終選別を受けるために藤襲山へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーしのぶ視点

 

 

 成矢くんが最終選別を受けに行くため部屋を出てから数分ほど時間が経ちました。

 

 「アオイ、体調の方は」

 

 「はい、もう大丈夫です。」

 

 アオイに何度も同じことを聞きましたが、最後に念の為です。ですが、見た限りでは本当に大丈夫そうですね。

 

 あと、アオイ。気づいていないと思いますが、恋する乙女のような表情をしていますね。

 

 成矢くんのことが……………好きになってしまったのでしょうか。まぁ、命を救ってくれたのですから、無理もないのかもしれませんね。

 

 鴉から報せを聞いた時は驚きました。

 

 アオイが"結核"になったというのを聞いて、すぐに私は蝶屋敷に向かって走りました。

 

 運が悪いことに結構な距離があったので到着するのに時間がかかってしまいました。

 

 早くなんとか処置をしなくては!と思い、アオイの部屋に突入したのですが

 

 「…………え?」

 

 なんと、私の目の前にはアオイは苦しむことも無く安心してベットの上で寝ていました。診療してみると、異常はありません。そして、彼女のすぐ傍には成矢くんがアオイの手を掴みながら不安そうに寝ていました。

 

 これは………何が起きているのでしょうか。

 

 「ん?」

 

 成矢くんの足元に何かが落ちている?拾ってみると、それは使用済みの1本の注射器でした。

 

 

 ーーーーーーーまさか!?

 

 

 すぐに私は薬草の保管室へと向かい、中に入ります。すると………

 

 本来なら綺麗なはずの保管室が悲惨な状況へとなっていました。犯人は言わずもがな、成矢くんでしょうね。

 

 

 

 まさか………ここで"結核"に効果のある治療薬を調合したというのでしょうか?

 

 

 

 「成矢 鈴蘭くん。貴方は一体………何者なんですか?」

 

 私は凄いということよりも、恐怖に感じました。恐らくですが、いつものように勘を頼りに作り上げたのでしょう。

 

 

 

 これは少し…………調べてみる必要がありますね。

 

 

 

 

 




次回、最終選別編です。


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13話

お気に入り数が、昨日だけで100以上上がり、ランキングも7位をランクインするなど素晴らしい結果が出て、今でも嘘なんじゃないかと思ってしまう自分がおります。
本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

さてさて、最終選別編です。ようやく原作に復帰します。(1日遅れてる時点でだいぶ違うじゃねぇか!!と思う人もいるかもしれませんがそこはノーコメントでお願いします)


 「ここが、藤襲山………」

 

 蝶屋敷を出てから数時間後、僕はようやく藤襲山に辿り着き、設置されている階段を登っていた。

 

 凄い数の藤の花に驚きを感じる。まだこの花が咲く時期は迎えていない。一体、どうやって育てているのだろうか。

 

 そんなことを考えながら、階段を登りきると、そこには2人の子供が立っていた。最終選別の関係者だと思われる。

 

 「成矢 鈴蘭様でございますね。」

 

 「あ、はい。」

 

 黒髪の女の子…………いや、違うな。この子は男の子だ。確証はないけど、僕の勘がそう言っている。黒髪の男の子が僕の名を呼んだので、返事する。

 

 「"蟲柱"胡蝶しのぶ様から貴方様のお話を伺っております。ですので、今から最終選別のご説明をさせていただきます。」

 

 「お、お願いします。」

 

 僕が頭を下げると、黒髪の男の子と白髪の女の子が交互に話し始める。

 

 「この藤襲山には鬼殺の剣士様方が生け捕りにした鬼が閉じ込めてあり、外に出ることはありません。」

 

 「山の麓から中腹にかけて鬼共の嫌う藤の花が一年中、狂い咲いているからでございます。」

 

 「しかし、ここから先には藤の花が咲いておりませんから鬼共がおります。この中で7日間生き抜く」

 

 「それが最終選別の合格条件でございます。」

 

 ふむふむ、条件は鱗滝さんと胡蝶さんが言っていたのと大体は同じだな。

 

 「説明は以上となりますが、質問等はございますでしょうか?」

 

 「え、じゃあ、何でこの山には一年中、藤の花が咲いてるんですか?」

 

 この山に来てからずっと疑問に思ってたことを2人に言うと、2人は互いに顔を見合わせたあと、再び僕の方に顔を向けて

 

 「「……………行ってらっしゃいませ」」

 

 すっ、と僕に道を開けた。

 

 「え?ちょーーー」

 

 「「行ってらっしゃいませ」」

 

 「質問の答えをーーー」

 

 「「行ってらっしゃいませ」」

 

 「まさか、知らなーーー」

 

 「「行ってらっしゃいませ」」

 

 「あ、はい。すみません」

 

 2人が嫌悪なオーラを放出しながら真顔で僕の顔を近づけるので、余りの恐怖で折れてしまった。幼い子供がしてはいけない表情してるよ。目が怖かった…………。

 

 なので、渋々と2人の間を通って鬼がいる藤襲山の深部へと入っていく。

 

 

 ここからは、油断は一切許されない。少しでも気が緩んだら死を覚悟しておけ。

 

 そうやって、自分に言いかせながら、辺りを警戒していつでも刀を抜けるようにしながら走って行く。

 

 出来れば、炭治郎と合流したい。恐らくだが、あいつはまだ生きてる。こんな所でそう簡単にくたばるような男ではないということは知っている。

 

 鱗滝さんから教わった水の呼吸を十分に発揮させて鬼共を滅しているに違いない。

 

 栗花落にも一応、会っておきたいなぁ。最終選別に間に合わなかったから、少なくとも心配はしてるだろうし、アオイ先輩のことも報告しておきたい。まぁ…………、あいつは普通に生き延びると思うから、どっかで会うだろ。

 

 「人間だァーーー!!!」

 

 「うわぁ!!」

 

 「ぐはっ!!」

 

 走ってると、木の影から一体の鬼が不意打ちを仕掛けるかのように唐突に僕の方に飛び掛ってきた。

 

 僕はそれに驚いて、無意識に飛び掛ってきた鬼の顔面に目掛けて蹴りを入れる。偶然にも蹴りが鬼の顔面に当たって、鬼は呆気なく吹っ飛んで行った。

 

 「てめぇ………、マジふざけやがって!!寿命縮んたかと思ったじゃねぇか!!驚かせんなよ、この野郎が!!」

 

 「ウルセェェェ!!人肉ゥゥゥ!!」

 

 腹が飢えているのか、僕の怒りの言葉を聞いていないかのように鬼は再び僕の方に向かっていく。

 

 ここにいる鬼は皆、こんな感じなのだろうか。

 

 まぁ、そんなことはどうだっていいか。

 

 「人肉はあげれないけど、その代わりに…………」

 

 僕はゆっくりと刀を抜いて、息を吸っていく。空気が全身に回っていき、身体能力が上がっていくのを感じる。

 

 そして、鬼の爪が僕の目を引き裂こうとしたところで、

 

 

 「良いものをくれてやるよ。」

 

 

 と、言いながら刀の刃を鬼に目掛けて振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅ………なんとか勝てたな。」

 

 シュウウウと、灰と化していく先程の鬼を眺めながら僕は安堵の息を吐く。

 

 今までの修行は一切無駄では無かったというを実感した。むしろ、逆に無駄だったら泣いてた。思い出すだけでお腹が痛くなるぐらいの過酷な修行だったからな。

 

 刀に付着した血をブゥンと振るい落としたあと、鞘へと納めると

 

 「ん?」

 

 西の方から何か懐かしい雰囲気を感じる。なんだか危ない危険信号と共に。

 

 「そこにいるのか?炭治郎」

 

 すぐに僕は西の方に目掛けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー炭治郎視点

 

 最終選別によって藤襲山に入って1日が経過した。

 

 俺はこの山にいる鬼に鬼から人間に戻れる方法はないかと聞きながら生き延びていた。とは言っても、鬼は何一つ答えてくれず、ヨダレを垂らしながら俺に目掛けてくるだけなので、鱗滝さんから教わった水の呼吸の技を使用して首を刎ねていた。

 

 それにしても、鈴蘭はどうしたのだろうか。

 

 手紙の内容によれば、今回の最終選別に参加する予定だったんだけどな。

 

 やっぱり………、藤襲山に向かう途中に何かあったのか!?あいつが嘘をつくような奴じゃないのは知ってる。

 

 クソ………、やはり無理を言って彼女たちに最終選別を開始させるのを何日か遅れさせれないか頼むべきだった!!ごめんな、鈴蘭…………。本当にごめん!!

 

 「人間ーーーー!!!」

 

 俺は涙を流しながら走っていくと、鬼が現れ、俺の姿を捉えた瞬間に目を血走らせながら俺に向かって走ってくる。

 

 なので、俺は鬼に背を向けて逃げるかのように走る。当然ながら、鬼も俺を追ってくる。

 

 「はぁ!!」

 

 大木の枝が激しく交差している場所に辿り着いた俺は、その小さな隙間に滑り込むような形で通り過ぎたあと、振り向いて刀を構える。

 

 「ぐあっ!!」

 

 飢えによって俺にしか目がない鬼は、交差する枝に捕まり身動きとれないような状況へとなった。

 

 「聞きたいことがある。鬼になった人間を元に戻すにはどうすればいいんだ?」

 

 いつものように、俺は鬼に言葉を投げかけるが鬼は何一つ答えてくれない。

 

 鬼の力によって耐えきれなくなった枝は千切れ、鬼は俺に牙をむこうとしたが

 

 その前に俺は鬼の首を刎ねた。

 

 「………………」

 

 首を斬られた鬼はそのまま、灰となって消えていく。それを俺は手を合わせながら、完全に無くなるまで見守っていた。来世ではいい人でありますように。と願いながら

 

 しかし、これで鬼を倒したのは4体目となるが、どの鬼も俺の質問に答えてくれない。

 

 冨岡さんが2年前に言っていた通りだ。

 

 だけど、俺は諦めないぞ!!絶対に禰豆子を人間に戻すんだ!!

 

 よし、また鬼を探してーーー

 

 「ーーーーッッ!?」

 

 うっ!?なんだ、この腐ったような匂いは!?

 

 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 匂いを感じた瞬間、目の前に1人の男の人が絶望に陥ったような表情で走っていた。

 

 「何で大型の異形がいるんだよ!!聞いてない、こんなの!!」

 

 大型の異形?どういうーーー

 

 「ーーーーッッ!?」

 

 

 すると、走っている男の人の背後から、巨体で体中に腕を生やした不気味な鬼が現れた。明らかに他の鬼とは違う。

 

 

 そして、その鬼は腕を伸ばして男の人の足を掴み、食べようとしたので

 

 怯むな!!助けろ助けろ助けろ!!

 

 俺はもう無力じゃない!!動け!!

 

 

 「水の呼吸 弐の型 "水車"!!」

 

 

 身体を回転させて、その勢いで男の人を掴んでいた腕を斬り落とす。

 

 そして、その男の人の前に立って刀を構えると、その鬼は俺が付けている狐のお面を見たあと

 

 「また来たなぁ。俺の可愛い狐が」

 

 不気味そうにニタァと笑いだしながら言葉を出した。

 

 




キリがいいため、ひとまずここで終了です。

次回もよろしくお願いします。


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14話『久しぶりだな。』

久しぶりです。


 「狐小僧、今は明治何年だ?」

 

 巨体の鬼は俺に向かって言葉を出してくる。明治?何を言っているんだ?

 

 「今は大正時代だ」

 

 

 ーーーーざわ

 

 

 「ーーーーッッ!?」

 

 正直に鬼の質問に答えると、鬼からは苛立ちの匂いが漂い始め、

 

 「アァアァアーーーー!!!」

 

 唐突に叫び出した。

 

 「年号がぁ!!年号が変わってる!!またた!!また!!俺が閉じ込めてられている間にぃぃぃ!!!」

 

 「アァアァアーー!!許さん!!許さんんんんん!!!」

 

 鬼は俺たちの存在を忘れているかのように1人で怒りの言葉を放つ。その姿を、俺は助けた人と共に唖然しながら眺めていた。

 

 「鱗滝め!鱗滝め!鱗滝め!鱗滝めぇぇぇ!!!」

 

 ーーーーッッ!?どうして鱗滝さんのことを!?

 

 「知ってるさぁ!!俺を捕まえたのは鱗滝だからなぁ!!!忘れもしない四十七年前!!」

 

 「アイツがまだ鬼狩りをしていた頃だ!!江戸時代………慶応の頃だった」

 

 鬼狩り………?慶応時代!?

 

 「嘘だ!」

 

 巨体の鬼の言葉を聞いて、隣に立っていた男の人が震えながらも大声を出す。

 

 「人間を2・3人喰った鬼しか入れてないんだ!選別で斬られるのと鬼は共食いするからそれでーーー」

 

 「でも、俺はずっと生き残っている。藤の花の牢獄で。五十人は喰ったなぁ……、ガキ共を。」

 

 五十人という単語で、俺は過去に鱗滝さんが話していた時を思い出す。

 

 確か………鬼は人を食った数の量で強さを増すって言っていた。つまり、目の前にいるコイツは過去に俺がここで倒した鬼の非にならないぐらい強いということになる。

 

 もっと鼻が利くようになれば、鬼が喰った人の数が分かるようになるって言ってたが…………

 

 「十二………十三でお前が十四だ。」

 

 巨体の鬼は俺に指をさして何かの数を数え出した。一体………、なんの数だ!?

 

 「俺が喰った鱗滝の弟子の数だよ。アイツの弟子はみんな殺してやるって決めてるんだ」

 

 

 ーーーーーーは?

 

 

 「そうだなぁ。特に印象に残ってるのが」

 

 鬼は思い出すかのように、過去に殺したであろう鱗滝さんの弟子の特徴を語り出す。

 

 「珍しい毛色のガキだったな。1番強くて宍色の髪をしてた。口に傷がある」

 

 ーーーーッッ!?

 

 「もう1人は花柄の着物で女のガキだった。小さいし力もなかったが、すばしっこかった。」

 

 この鬼に………殺されていた?錆兎と真菰が?でも、俺は2人と………

 

 「目印なんだよ。その狐の面がな。鱗滝が彫った面の木目は覚えている。アイツがつけていた天狗の面と同じ彫り方」

 

 巨体の鬼は俺の頭に付けている狐の面を注目する。

 

 「"厄除の面"とか言ったか?それ。つけている面でみんな喰われた」

 

 

 ーーーやめろ

 

 

 「みんな俺の腹の中だ」

 

 

 ーーーーこれ以上、話すな

 

 

 「鱗滝が殺したようなものだ。」

 

 

 ーーーー黙れ

 

 

 「フフフフフ、これを言った時、女のガキは泣いて怒っていたなぁ。フフフ」

 

 

 ーーーー当たり前だろ。あの子は…………、真菰は鱗滝さん想いの良い奴だ。

 

 

 「そのあと、すぐ動きがガタガタになったからな。フフフフフ、手足を引きちぎって、それからーーー」

 

 

 ーーーブチン!!!!

 

 

 鬼が話している内容を最後まで聞かず、途中で何かが切れた俺は刀を握って鬼に向かって走り出す。

 

 コイツだけは絶対に許さない!!例え、何があっても俺が倒す!!

 

 鬼は腕を伸ばして対抗するが、俺はそれを見切りながら斬り落として足を止めない。

 

 この時、俺は目の前にいる鬼が鱗滝さんの弟子を殺したという怒りで、呼吸が乱れているということに気付いていなかった。

 

 「しまっーーー」

 

 それのせいで、横から向かってくる腕に気付いていなかった。本来なら気配や匂いやらで気づくが、俺はその攻撃を直接に喰らってしまった。

 

 「がはっ!?」

 

 俺は、そのまま吹っ飛んで大木に背中をぶつける。付けていた狐の面が砕け、そこからタラーっと血が垂れる。それによって、意識が朦朧し始める。

 

 ダメだ………、このままじゃ意識が。

 

 この鬼は俺が倒さなくちゃいけなのに…………。俺を強くしてくれた鱗滝さんと錆兎、真菰のためにも!!

 

 なのに…………なのに!!

 

 クソ!!動いてくれよ、俺の身体!!まだ動けるだろ!!このままじゃ………

 

 「死ねぇ!!」

 

 身動き取れない俺に向かって、鬼は太い腕を何本も伸ばす。

 

 この攻撃を喰らったら確実に死んでしまう!!どうすればいいんだ!?

 

 俺は………このまま死んでしまうのか?

 

 まだ…………禰豆子を人に戻すきっかけすら見つけてもないのに?

 

 ふざけるな………、ふざけるな!!!

 

 俺はこんなところで死ぬ訳には行かないんだ!!

 

 ここから、生き残って鬼殺隊にならなくちゃいけないんだ!!俺は!!禰豆子を人に戻すためにも!!

 

 考えろ!!どうすれば、この状況から抜け出せるのか!!

 

 「うおぉぉ………ぉぉお!!!」

 

 歯が折れてしまうんじゃないか、と思うぐらいまで強く食いしばりながら身体を動かそうとする。しかし、そんなことをしている間にも鬼の拳がすぐ俺の目の前まで迫る。

 

 死んでしまーーーーーー

 

 

 「何勝手に死のうとしてんだ、お前は。」

 

 

 「ーーーーッッ!?」

 

 

 突然、耳に聞き慣れた懐かしい男の声が聞こえてきた。

 

 それと同時に今までに見たことも無い綺麗な蝶が大量に、辺り一面を飛び回る。

 

 そして、その蝶の中で一人の男が刀を握ってスゥゥと息を吸い始めーーー

 

 

 「蟲の呼吸 蝶ノ舞……"戯れ"」

 

 

 「ーーーーッッ、なんだと!?」

 

 その男は、俺に向かっていた腕を鮮やかに全て斬り落とした。

 

 その男は最後に見たときよりもだいぶ身長と藍色の髪の毛が伸びており、幼い顔つきが少し無くなって、前よりもキリッとした目をしていた。

 

 間違いない、間違えるはずがない。

 

 俺はポロポロと大粒の涙を流す。

 

 その男は刃に付着した血を振り払いながら、刀を肩に置いて顔だけ俺に向けながら笑顔で言葉を出した。

 

 

 「よ、炭治郎。久しぶりだな」

 

 

 俺を助けてくれたのは、共に禰豆子を人間に戻すと誓い合った親友………成矢 鈴蘭だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで、2人が合流しました。
次回もよろしくお願いします。


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15話「再開」

お久しぶりです。リアルが忙しくて執筆出来なかった。

14話、少しだけ内容変えてるので、それを読んでから最新話を見ることをおすすめします。(2020/01/21)


 1年ぶりに僕は炭治郎に再開を果たした。少しだけ最悪な状況ではあるが………。

 

 僕は安堵の息を吐きながらも懐から1本の注射器を取り出して、

 

 「ほい」

 

 「がっーーー」

 

 炭治郎の首元に刺した。そして、容器の中に入っている液体をこいつの体内へと注入させていく。

 

 「鈴蘭!?何をーーー」

 

 「こら、注入してる途中に喋るんじゃねぇよ。僕特製の鎮痛剤だ。効果は先生のお墨付きだから安心しろ」

 

 何かあった時のために、調合しておいた鎮痛剤を持ってきておいて良かった。これで、すぐに一時的ではあるが炭治郎は動くことが出来るはずだ。

 

 因みに、そんな余裕を目の前にいる巨体の鬼は与えてくれるのか?と疑問に思うかもしれないが、そこも配慮済みだ。

 

 「ガァァァーーーー!?」

 

 巨体の鬼は、ドシン!!と膝を地に着けて苦しそうな表情を浮かべていた。

 

 「どうして、鬼が………」

 

 注入した鎮痛剤が全身を回ったおかげか、ゆっくりと立ち上がった炭治郎は不思議そうに苦しむ鬼を見て言葉を呟いた。

 

 「"毒"だよ。」

 

 「"毒"?」

 

 炭治郎は頭の上に『?』を浮かばせながら首を傾げる。

 

 「あぁ。僕が奴の腕を斬り落とす際に、さり気なく毒を注入しておいたんだ。」

 

 「そうなのか………。でも、鬼は日光か日輪刀でしかーーー」

 

 「そこら辺はまた後でゆっくりと教えてやるよ。だから、構えろ、炭治郎!!」

 

 それについては詳しく説明したいところではあるが、どうやら時間切れらしい。

 

 毒の効果が切れたのか、巨体の鬼は再び立ち上がって、僕たちのことを睨みつける。巨体だけあって、注入した毒の量が足りなかったか…………。

 

 僕の言葉によって、炭治郎はすぐに鬼を認識し日輪刀を構える。当然、僕も同じく構える。

 

 「このガキがぁぁぁ!!俺に何しやがったぁぁぁぁ!!!」

 

 鬼はブチ切れながら僕に向かって何本もの拳を伸ばして突き出す。

 

 早い攻撃ではあるがーーーー

 

 「栗花落やアオイ先輩ほどじゃない!!」

 

 この1年間の中で、僕は機能回復訓練という治療によって訛ってしまった身体を戦闘に慣らせるのを目的とした訓練のお手伝いを修行の一寛としてやらされたことがある。

 

 その時に、僕は何人かの鬼殺隊の人と薬湯をかけ合ったり、鬼ごっこをしたりとした。もちろん、負けたら胡蝶さんによる罰があったので本気で挑ませていただいた。

 

 それ故に、ほとんど僕は勝利してきたのだが、栗花落とアオイ先輩には勝つことが出来なかった。

 

 "全集中"常中を身につけた際には、何とかアオイ先輩に勝つことは出来たのだが、栗花落とは五分五分って感じだった。化け物かよ、アイツ。

 

 だからこそ、僕は2人をずっと相手にしていたからか、動体視力が以前と比べて上昇していた。

 

 僕は鬼の拳を見極めながら、全ての攻撃を刀を振ることなく全て躱した。

 

 「なっーーー!?」

 

 「水の呼吸 肆の型 "打ち潮"!!」

 

 「ぐあぁあーーー!!!」

 

 鬼が動揺している間に、炭治郎が攻撃を仕掛ける。見事に技は決まり、鬼の身体からは血飛沫が上がる。まぁ、すぐに再生されてしまったが。

 

 「鈴蘭、頼みがある」

 

 隣に並んだ炭治郎が僕に声をかける。

 

 「なんだ?」

 

 「こいつの頸は俺に斬らせてくれ」

 

 炭治郎はジッ、と真剣な目線を俺に送る。きっと、この鬼はこいつにとって何かがあるのだろうと分かる。僕の勘だが。

 

 それに、もうそろそろ炭治郎に打った鎮痛剤の効果が切れる頃のはずだ。攻撃は出来てあと1発。それも本人は分かっているからこその発言なのだろう。

 

 「分かった。援護してやるから思いっ切り行きな」

 

 「ーーーーッッ!!ありがとう!!」

 

 「行くぞ!!」

 

 ダッ、と僕達は刀を構えて同時に鬼に目掛けて走り出した。

 

 

 「調子に乗るなぁぁぁあああ!!!」

 

 

 鬼は咆哮を上げながら腕を伸ばして拳を突き出す。

 

 こいつ……このワンパターンしか攻撃してこないじゃないか。その攻撃はもう見切ってるから無駄だということが分かっていないのか?

 

 …………ッッ!?違う!!この攻撃は本命じゃない!!これは…………囮だ!!

 

 本命は………………下からか!?そんな気がするぞ!!!

 

 「鈴蘭!!地面から匂いがする!!下から攻撃が来るぞ!!」

 

 炭治郎の叫び声を聞いて、僕はその場から跳び上がる。すると、案の定、地面からは鬼の腕が現れた。

 

 あと、少し跳ぶのが遅れていたらこの攻撃の犠牲になっていただろう。

 

 まさか、躱されるとは思ってもいなかったのか、鬼は驚きの表情を浮かべる。

 

 僕は空中に浮いていたが、重力によって落下していくのを確認しながらスゥゥゥゥゥゥと思いっ切り息を吸う。

 

 

 「蟲の呼吸 蜻蛉の舞い "複眼六角"!!」

 

 

 地面から突き出された拳に目掛けて、僕は高速で色んな箇所に刀を撃ち込み、大量の毒を注入していく。

 

 「がァァァァ!!!」

 

 毒を注入しても、やはり巨体であるため毒が回るのに時間がかかる。

 

 その間は、僕は目の前に迫ってくる腕を次々と斬り落として、炭治郎が行動しやすいような状況へと作っていく。

 

 そして、遂にーーー

 

 「グオォォー!?身体がーーー!?」

 

 毒が全身を回り、鬼は身動きすることが出来なくなった。あとは奴の頸を炭治郎が斬るだけだ。

 

 「うおぉぉぉおおおおおおお!!!」

 

 身動きが取れないうちに、炭治郎は鬼の腕に乗ってスゥゥゥ、と息を吸う。

 

 「行けぇぇぇ!!炭治郎!!」

 

 

 「水の呼吸 壱の型 "水面斬り"!!」

 

 

 「ーーーーッッ!?」

 

 スパァァン!!と炭治郎の振るった刀が巨体の鬼の頸を斬り落とした。

 

 

 

 

 

 「炭治郎……………」

 

 鬼の頸を斬り落としたあと、炭治郎はとても悲しそうな表情を浮かべたあと、崩れつつある巨体の鬼の手を優しく包み込む。

 

 

 「神様どうか。この人が今度生まれてくる時は鬼になんてなりませんように。」

 

 

 炭治郎が優しくそう言うと、鬼は涙をポロポロと流しながら崩れていった。

 

 1年前と…………ほとんど変わってないな、炭治郎は。相変わらず、優しい。

 

 少しの間、炭治郎は空を向いて立っていたがーーー

 

 

 「もう………無理………」

 

 

 鎮痛剤の効果がきれたのか、炭治郎は口から泡を拭きながらバタン!と倒れてしまった。

 

 

 僕は苦笑いしながら、炭治郎に近づいて様子を診る。………うん、普通に重症。てか、気絶してるじゃねぇか。

 

 

 多分だけど、試験の残りの日数の間はこいつは身体を動かすことは出来ないだろう。

 

 

 だけど、もうすぐ夜が明ける。明けたら、鬼は現れないから休息の時間ができるから安心だ。

 

 

 もし、炭治郎が起きたらこの1年間、何があったのかを話し合おうと僕は決意した。

 

 

 話したい内容は互いに山ほどあるだろうからな。




次回もよろしくお願いします。


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16話『最終選別後』

 僕が藤襲山に入って、炭治郎と合流してから6日が経過した。

 

 つまり、僕達は最終選別に無事に生き残ることができ、試験を突破したということになる。

 

 この6日間は、正直いって楽だった。

 

 理由としては、夜になっても鬼は俺たちの目の前には現れなかったからだ。だから、俺が戦闘したのは炭治郎と合流する前に倒した雑魚鬼3体と異能の鬼体の計4体となる。炭治郎は計8体倒したらしいが。

 

 炭治郎は昨日あたりから、根性で最低限歩けるぐらいまでには回復していた。しかし、まだ戦闘できるぐらいまでには回復していなかったので、こいつが刀を持って戦闘に行くと言った時は全力で止めたものだ。

 

 そして、現在。僕達は最終選別のスタート時点まで戻ってきた。戻ってくると、数名の生存者と見送ってくれたあの少し不気味な子供2人が並んで立っていた。

 

 「お帰りなさいませ」

 

 「おめでとうございます。ご無事で何よりです」

 

 ご無事で何よりって………。本当にそう思ってんのかよ、この子達は………。

 

 生存者は僕達合わせて5人………か。以外といるのな。

 

 明らかに育ちが悪そうなイカつい少年に、さっきから僕の傍でブツブツと永遠と呟いている金髪の少年。それにーーー

 

 「あ」

 

 何を考えているのか、分からない表情を浮かべたまま蝶と戯れている1人の少女………栗花落だ。やっぱり、生き残っていたか。

 

 「炭治郎、知り合いがいたから少しだけここから離れるぞ。」

 

 「あ、あぁ。分かった」

 

 炭治郎に声を掛けたあと、僕は栗花落に向かって歩き出す。あいつ、蝶と戯れてて未だに気づいていないな。

 

 「栗花落〜」

 

 「ーーーッッ」

 

 僕が彼女に手を振りながら声をかけると、栗花落はようやく僕の方に顔を向ける。表情は変えなかったものの、少しだけ動揺しているように見えた。

 

 「いやぁ、栗花落も最終選別を突破してて良かったよ。ごめんな、7日前はいなくて。心配しただろ。」

 

 僕の言葉に、栗花落はコクリと浅くだが頷いてくれた。そして、彼女は何も言わないものの詳細を早く言え、と目線で訴えてくるので7日前にあった出来事を手短に説明した。

 

 アオイ先輩が結核によって倒れたという事を聞いた瞬間、栗花落は僕の両肩をガバッと掴みあげる。

 

 「アオイは………無事なの?」

 

 珍しく、彼女はコインを使わずに険しい表情を浮かべながら口を開く。それほど、アオイ先輩の様態が気になるのだろう。流石は、好きな食べ物がアオイ先輩が作った料理全般と言うだけはある。元々、2人は仲良いしな。

 

 僕は震える栗花落の手を優しく除けながら、言葉を出した。

 

 「大丈夫。一応、治療したから。今は胡蝶さんが先輩を診てくれている。」

 

 「…………そう」

 

 アオイ先輩が無事だと知った栗花落は安心したそうに呟く。

 

 よし。栗花落に謝ったし、言いたかった要件も伝えられたからもう大丈夫かな。

 

 炭治郎の元へと戻ろうとした瞬間ーーー

 

 「……………え?」

 

 なぜか、栗花落に腕を掴まれてしまった。

 

 「な、何だよ………?」

 

 

 「あ、ありがとう…………」

 

 

 「ーーーッッ」

 

 あの栗花落が……………僕にお礼を言っただと!?嘘だろ?コインを投げて普段は物事を決めるあの栗花落が!?(←凄く失礼)

 

 しかも、彼女自身も少しだけ緊張、もしくは恥ずかしさだからなのか頬を赤く染めている。やめろよ、そういうの。ちょっとだけ可愛くてドキッとしちゃっただろ。

 

 言いたいことが終わったのか、栗花落は僕の腕を離す。………もう、炭治郎の方に行って大丈夫だということだよな?

 

 「またな」と栗花落に言い残して、僕は炭治郎の方へと早足で戻る。

 

 「まずは隊服を支給させていただきます。身体の寸法を測り、その後は階級を刻ませていただきます。」

 

 炭治郎の元へと戻ると、白髪の女の子が僕達に向かって言葉を出していた。

 

 「階級は十段階ございます。癸・壬・辛・庚・己・戊・丁・丙・乙・甲。今、現在皆様の階級は1番下の癸でございます。」

 

 ほぅ………。十段階も階級があるのか。1番上は"柱"っていうのは分かっていたけどな。

 

 「刀は?」

 

 「本日中に玉鋼を選んで頂き、刀が出来上がるまで10日から15日となります。」

 

 刀ってことは………日輪刀のことだよな?そっか。今使ってるのは胡蝶さんからの借り物だっていうことをすっかりと忘れていたわ。

 

 「更に今から鎹鴉をつけさせていただきます。」

 

 白髪の女の子がそう言って、パン!と手を叩くとーーー

 

 「わわっ!?」

 

 空中から6匹の鎹鴉(その内、1匹だけ何故か雀)が旋回しながら現れる。まさか………鎹鴉も貰えるのかよ。

 

 各1匹ずつ、鎹鴉は主となる人物の肩に止まるのだが…………

 

 「え?」

 

 僕の肩に乗った鎹鴉は、他の子達と違って真っ白で綺麗な鎹鴉であった。これは………稀に産まれてくるアルビノっていうやつか?

 

 「ヨロシクオネガイシマス、主人。」

 

 真っ白な鎹鴉は僕の耳元でそう囁き、ペコりと頭を下げた。礼儀正しい良い子じゃないか。

 

 名前が無いということなので、この子にはコユキと名前を付けてあげた。真っ白だし、ピッタリだろ?

 

 「鎹鴉は主に連絡用の鴉でございます。」

 

 『連絡用』と聞いて、炭治郎は首を傾げる。もしかして、こいつ。鎹鴉が喋るということを知らないのか。

 

 

 「どうでもいいんだよ、鴉なんて!!」バシッ

 

 

 「ーーーーーッッ!?」

 

 突然、イカつい少年は肩に止まっていた鴉を強引に払い除けながら大声を上げ、白髪の女の子に殴り掛かり最後に髪の毛を引っ張りながら言葉を出す。何してんだよ、こいつ!?

 

 「刀だよ、刀!!今すぐに刀をよこせ!!鬼殺隊の刀!!"色変わりの刀"!!」

 

 こいつ………さっきのこの子の話を聞いていなかったのか??刀は10日から15日かかるって言っていただろ!?頭狂ってんのか?

 

 それにしても、未だに髪の毛を掴まれているあの女の子が可哀想だ。助けなければ。

 

 そう思っていたのは、どうやら僕だけじゃなかったらしく、炭治郎もイカつい少年の腕を掴んだ。やっぱり、お前も見逃さねぇよな。

 

 「この子から手を離せ!!離さないのなら折る!!」

 

 「そうだぞ!!離さないと折………、いや、ちょっと待て、炭治郎。」

 

 折る?折るって何?この子、めっちゃ物騒なことを言い出したんですけど。

 

 「あぁ!?なんだ、テメェらは。やってみろよ」

 

 「ちょ、おま!?」

 

 馬鹿野郎!!炭治郎にそんなこと言ってしまったら…………

 

 

 ーーーボキッ!!

 

 

 「がはぁ!!」

 

 本気で折るぜ、馬鹿正直なこいつは。うわ、マジで折れてるじゃん。めっちゃ痛そぉ…………。

 

 診てあげたいところではあるが、まずは女の子を優先にしなくては。痛いだろうが、我慢しろよ。

 

 「大丈夫か?」

 

 僕は懐から袋と櫛を取り出しながら、白髪の女の子の様態を確認する。頬に痣が出来てしまい、殴られた際に切ってしまったのか口からも血を流していた。こんな幼い子に怪我させるなんて………許されねぇな。

 

 「……………」

 

 女の子はジッ、と僕の方を見るだけで何も言葉を出さない。栗花落2号かよ。

 

 袋からは薬草を滲ませてある布を取り出して、女の子の頬に貼り付け、綺麗な布で口から出ている血を拭き取る。その後、櫛で乱れてしまった髪の毛を梳いてあげる。

 

 どうして櫛を持っているのか、というと炭治郎の母親である枝衣さんに教えて貰ったことがあり、よく幼かった禰豆子ちゃんや花子ちゃんの髪を梳いていた。

 

 その技術は衰えることなく、蝶屋敷でもなほちゃん、きよちゃん、すみちゃんの3人組にもお願いされて髪を梳いてあげているので常に櫛を持つようにしたのだ。

 

 「よし。これで、大丈夫だろ。」

 

 髪を梳いたあと、僕は白髪の女の子の頭を数回撫でてから立ち上がった。これで、多少は楽になっただろ。

 

 「お話は済みましたか?」

 

 黒髪の男の子が言葉を出す。てか、お前。この子の兄か弟だろ。家族が怪我したのに何もしないのか?どういう育て方されてきたんだよ。

 

 「刀を造る鋼を選んでくださいませ」

 

 いつの間にか石の塊が用意されていた。これが、さっき言ってた玉鋼っていうやつか。

 

 でも、どれを選べばいいんだろうか。他の子達もそのような表情を浮かべている。

 

 「鬼を滅殺し、己の身を守る刀の鋼はご自身で選ぶのです。」

 

 僕達の表情を見て、心情を察したのか男の子は補足としてそう告げる。

 

 誰もが納得しそうな言葉ではあるが、言い方を変えれば自己責任だということにも聞こえるのは僕だけだろうか?

 

 まぁ、いいや。適当に目の前にあるやつを…………違うな。隣の方にしておこう。

 

 炭治郎も選び終えたみたいかので、一緒に女の子から隊服を貰う。結構………重いな。

 

 「よし………、早く鱗滝さんのところに戻らないと………」

 

 炭治郎はそう言って、藤襲山から降りようとする。おいおい、ちょっと待て。お前、その怪我で狭霧山まで戻ろうとしてるのか?無理あるだろ!!

 

 ったく……しょうがねぇな。

 

 「よいしょっと………」

 

 「鈴蘭………??」

 

 炭治郎の腕を自分の肩へと寄せると、炭治郎は不思議そうにこちらの方に顔を向ける。

 

 「そんな怪我で狭霧山まで歩かせる訳ねぇだろ。鱗滝さんの家まで肩ぐらい貸すわ。親友だろ」

 

 「鈴蘭…………」

 

 あと、久しぶりに鱗滝さんや禰豆子ちゃんの様子も見たいしな。

 

 あ、そうだ。

 

 「栗花落。少しだけ知り合いを前の"育手"の所まで送って来る。終わり次第、蝶屋敷に帰るから胡蝶さん達にそう伝えといてくれ」

 

 僕の言葉に栗花落は頷いた。よし、これで大丈夫だろ。

 

 「さぁ、帰るぞ。狭霧山に」

 

 「おう。」

 

 こうして、僕達は並んでちょっとずつだが鱗滝さんと禰豆子ちゃんがいる狭霧山へと向かった。

 




次回もよろしくお願いします。


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17話『錆兎と真菰』

タイトルだけで、ある程度は察してしまいますよね笑


 「やっと着いた……」

 

 日が暮れる前に、なんとか鱗滝さんの家のすぐ目の前まで辿り着くことが出来た。分かっていたことだけど、遠かった。

 

 「禰豆子………」

 

 炭治郎は禰豆子ちゃんの名前を弱々しく呼ぶ。最終選別の時にこいつから聞いた話によると、未だに禰豆子ちゃんは目覚めることなく眠り続けているという。

 

 兄の立場としては唯一生き残った妹のことで心配になるのは当然だよな。僕も平常心を装っているつもりだが、正直言ってキツイ。

 

 「はいはい。もうすぐそこだからーーー」

 

 

 ーーーバタン!!!

 

 

 僕が声をかけると、突然に鱗滝さんの家の扉が吹っ飛んだ。

 

 そして、家の中から1人の少女がててて、と歩きながら姿を現す。

 

 その子は、今までずっと眠り続けていた禰豆子ちゃんであった。

 

 「「あーーーーーーーー!!!!」」

 

 禰豆子ちゃんを視界に捉えた僕達は、揃えて大声を上げる。

 

 「禰豆子!!お前、起きたのかぁ!!」

 

 炭治郎の言葉に、禰豆子ちゃんも僕達を目にしたあと、こちらの方へ走り出す。

 

 「禰豆子!!……あっ」

 

 「炭治郎!!」

 

 禰豆子ちゃんの方へ向かおうとした炭治郎であったが、選別の疲労と彼女が目を覚ましたという驚きによってあまり力が入れることが出来なかったのか、勢いよく転んだ。

 

 「禰豆ーーー」

 

 炭治郎は立ち上がり、禰豆子ちゃんの方へ再び向かおうとしたところで

 

 

 ーーーギュッ

 

 

 先に辿り着いた禰豆子ちゃんが炭治郎を優しく抱き締めた。

 

 それによって、炭治郎は徐々に瞳から涙を溜め「あ………あ」と声を漏らす。

 

 我慢しなくていいんだぞ、炭治郎。今まで溜めてきた気持ちを吐いてしまいな。

 

 

 「わーーー!!!お前、何で急に寝るんだよぉ!!ずっと起きないでさぁ!!死ぬかと思っただろうがぁー!!」

 

 

 我慢の限界を超えた炭治郎は瞳から大粒の涙を流して声を上げる。

 

 禰豆子ちゃんが眠り続けてきたこの2年間、炭治郎は恐怖心を抱きながら今日まで過ごしてきた。大事な家族を殺され、唯一残った禰豆子ちゃんは鬼になり、御堂の鬼との戦闘以降、何故か起きることなく眠りについてしまった。

 

 心配しただろう。怖かっただろう。キツかっただろう。辛かっただろう。

 

 もしかしたら禰豆子ちゃんこのまま……….、と最悪な未来を予想してしまうのも何度かあったに違いない。

 

 そんな炭治郎にとって地獄のような日々は今日を以て終わりを告げた。

 

 良かったな、炭治郎。

 

 「…………あれ?」

 

 いつの間にか、僕も涙を流して頬を濡らしていた。気付かなかっただけ、もしくはそのことについて目を逸らしていたからなのか、どうやら僕も炭治郎と同じ気持ちだったらしい。

 

 

 ーーーバタバタ

 

 

 「………あ」

 

 横から、何かが落ちる音が聞こえた。振り向くと、そこには鱗滝さんが立っていた。禰豆子ちゃんと同じく1年ぶりの再会だ。

 

 ーーーガシッ

 

 炭治郎を目にした鱗滝さんも早足で抱きしめ合っている2人の傍に駆け付け覆うように抱きしめる。

 

 「よく……生きて戻って来た」

 

 僕が狭霧山から出ていくと同じように、天狗のお面の隙間から涙を流しながら言葉を出した。

 

 

 そして、2人は落ち着くまで泣き続けた。

 

 

 ♠♠♠♠♠

 

 「久しぶりじゃな、鈴蘭。」

 

 「1年ぶり……ですね。」

 

 炭治郎と鱗滝さんは落ち着いたあと、僕達は鱗滝さんの家へと招き入る。

 

 僕は炭治郎をここに連れて来るというのと、鱗滝さんと禰豆子ちゃんの姿を見れたので蝶屋敷へと帰ると言ったが、鱗滝さんはもう日が暮れているから今晩は泊まってけ、ということなので甘えることにした。

 

 その際、泊まりの件を書いた紙を僕の相棒である白色の鎹鴉、コハクの足に縛り付けて蝶屋敷へと送ってもらった。

 

 「それにしても、以前と比べて見違えたな。相当、努力したと見える」

 

 「あ、ありがとうございます。」

 

 流石は、元"水柱"といったところか。僕の姿を見ただけで、この1年間、何があったのかをある程度理解するなんてな。

 

 「むー」

 

 鱗滝さんの家に入ってからは、ずっと僕の膝にちょこんと座っていた禰豆子ちゃんは僕の頭を優しく撫でる。慰めてくれているのかな?

 

 「あはは、ありがとう。禰豆子ちゃん」

 

 笑みを零しながら、今度は僕が禰豆子ちゃんの頭を撫でてあげる。すると、とても嬉しそうな表情を浮かべてくれた。

 

 因みに、炭治郎は夕飯を食べ、鱗滝さんと会話をした後にすぐに眠りについていた。よっぽど、疲れていたのだろう。

 

 その後、僕達も大事な内容を含めた会話を弾ませたあと寝床につこうとした。したのだが………

 

 「暑い………」

 

 禰豆子ちゃんが僕に抱き着きながら、スピスピと寝ているため少しだけ息苦しく感じる。しかも、可愛らしい顔がすぐ目の前にあり、女の子特有のいい匂いもするため、余計に寝ずらかった。

 

 「夜風に当たるか………」

 

 抱き締める禰豆子ちゃんから何とか解放できた僕は3人を起こさないように家を出る。

 

 ビュー、と吹く夜風はとても気持ちが良かった。

 

 「散歩にでも行くか」

 

 もう少し、夜風に当たりたかったため、僕は狭霧山へと足を踏み入れる。あぁ、この空気が薄い雰囲気とか久々だ。

 

 「ん?」

 

 途中、僕は気になるものを見つけ、そちらの方に足を進めると

 

 「おぉ………」

 

 そこには、僕に比べると遥かに大きい岩があった。しかも、その岩はただの岩では無く、何者かによって斬られたような跡があった。

 

 「あぁ、これか。炭治郎が言ってたやつは」

 

 炭治郎曰く、僕が狭霧山に離れたあと、鱗滝さんから最終選別に行く条件として、この岩を斬れと言われていたらしい。

 

 それを炭治郎は1年かけて斬ったのか。凄いな。そもそも、刀って岩を斬るもんだっけ?……相変わらず、鱗滝さんは鬼畜な人だな。

 

 炭治郎が斬った岩を眺めているとーーー

 

 「ん?」

 

 背後から、何かが僕に向かってくる気配を感じる。振り向くと、僕のすぐ目の前には木刀らしきものがあった。

 

 「おっと………」

 

 僕はそれを軽々しく躱す。そして、反射的に蹴りを入れようとしたが、僕を狙った何かは後ろの方に跳んで距離を取った。

 

 「お前………やるな。」

 

 その何かは、僕に向かってボソッと言葉を呟く。声的に炭治郎や鱗滝さんではない。

 

 そして、月の光によって照らされたことにより、その何かは姿を現した。

 

 見覚えのある狐のお面を被った宍色の髪型が特徴的な人間だった。恐らく、先程の声からして男だと思われる。

 

 「人に急に木刀を振るってはいけないって、母ちゃんに習わなかったのか?」

 

 「俺と戦え」

 

 「いや、人の話を聞けよ。」

 

 なんなの、この子。少し怖いんだけど。

 

 「男として生まれたのなら、俺と戦え。逃げるな。戦え」

 

 「えぇ………」

 

 やばいよ。全然、話が通じない。

 

 「ごめんね。1度熱くなっちゃうと最後までこうだから相手してあげて」

 

 謎の戦闘狂に困っていると、また別の方向から声が聞こえる。今度は女の子の声だ。

 

 振り向くと、そこには1人の女の子が座っていた。別の狐のお面を頭に付けた可愛らしい女の子だ。

 

 「君は………君達は何者なんだ?」

 

 「私は真菰。あっちにいるのは錆兎だよ。」

 

 真菰?錆兎?どっかで聞いたことがある名前だな。…………………………あっ!!

 

 「鱗滝さんの………弟子か。」

 

 確か、1年半ぐらい前に珍しく酒を飲んで酔っていた鱗滝さんが前の弟子の名を呼んでいたことがあった。12人ぐらいの名前を呼んでいたが、そのうちに真菰と錆兎の名前もあった覚えがある。

 

 つまり、簡単に言えば錆兎と真菰は僕と炭治郎にとって兄弟子、姉弟子でもある。

 

 でもおかしい。なぜ、2人が俺の目の前に?

 

 

 2人は……………既に亡くなっているはずだ。

 

 

 「例え死んでも俺たちは鱗滝さんの傍にいる。それだけは変わらない」

 

 「うんうん!錆兎の言う通り!私達は鱗滝さんが大好きだからね〜」

 

 なるほどな…………。鱗滝さんに対する想いが強くなって、魂がここで落ち着いているのか。しかも、この2人だけじゃない。残り11人の魂もこの狭霧山から感じる。

 

 「それに、お前のことは炭治郎からよく聞いている。」

 

 「ーーーッッ!?炭治郎のことを知ってるのか!?」

 

 「うん!!お医者さんを目指しているとても頼りになる男だっていつも言ってたよ。」

 

 まさか………、炭治郎のことも知ってるなんてな。

 

 「話はこれぐらいにしよう。さぁ、成矢 鈴蘭。俺と戦え!!」

 

 錆兎は木刀を構える。ったく……、しょうがねぇな。

 

 「俺の分の木刀は?まさか、ないってことは無いよな」

 

 「これ、使って」

 

 真菰は僕に目掛けて木刀を投げる。僕は「ありがとう」と言いながら落とさずにそれを掴み上げて錆兎と同じように構える。

 

 「はぁ!」

 

 先に仕掛けてきたのは錆兎だ。お面を被った状態でも分かるほどに勢い良く息を吸い上げる。

 

 

 「水の呼吸 弐の型 "水車"!!」

 

 

 身体を勢いよく回転させながら僕に迫り来る錆兎。やはり、水の呼吸法を使うか。

 

 

 けど、悪いな錆兎。この勝負はーーーー

 

 

 一瞬で終わる。一瞬で終わらせる。

 

 

 僕はスゥゥゥと、落ち着きながら息を吸い、狙いを定めるようにして木刀を上へとあげ、

 

 

 「"全集中" 水の呼吸 捌の型 "滝壺"」

 

 

 錆兎の"水車"が僕に当たる寸前で、木刀を振り下ろした。

 

 

 ーーードォォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 「かはっ!!」

 

 僕の"滝壺"で、彼が繰り出した"水車"ごと錆兎を叩き潰した。

 

 まともに喰らった錆兎はそのまま倒れ込む。

 

 「はい、僕の勝ち。」

 

 その光景を見た真菰は目を丸くして言葉を失っていた。まさか、こんなに呆気なく終わってしまうとは思っていなかったのだろう。

 

 「凄い………。まさか、こんなにあっさりと錆兎に勝つなんて」

 

 錆兎に勝てた理由。それはごく簡単なもので、"全集中"常中をしているか、してないによるものだ。

 

 残念ながら、錆兎は"全集中"常中を身につけていない。むしろ、その存在自体知らないだろう。なにせ、認知する前に死んでしまったのだから。

 

 "全集中"の呼吸を常にすることによって、身体能力は漠然と上がる。

 

 だから、僕は勝てた。もし、錆兎も"全集中"常中を身につけていたら、恐らく負けていたと思う。

 

 「悔しいが………俺の負けだ。」

 

 錆兎は立ち上がり、僕に言葉をかける。表情は分からないが、とても清々しい雰囲気を漂わせる。

 

 「ありがとう」

 

 そして、彼はスッと手を差し出した。なので、僕も手を差し出して彼と握手する。

 

 「こちらこそ。」

 

 「炭治郎のことを頼む。あと………義勇のことも。」

 

 「冨岡さん?」

 

 なぜ、冨岡さんの名を?あの人のことも知っているのか?一体、どういう関係なんだ?

 

 「分かった。」

 

 理由は分からないが、兄弟子の頼みだ。引き受けるに決まっている。

 

 「鈴蘭〜」

 

 「真菰?」

 

 「これ、あげる〜。」

 

 真菰は花飾りを僕に差し出す。凄く繊細に作り込まれている立派な出来であった。

 

 「いいのか?」

 

 「うん!!しっかりと炭治郎のことを守ってあげてね。」

 

 「あぁ、任せろ。」

 

 俺の言葉に、真菰は可愛らしく微笑んだ。

 

 「………わわっ!?」

 

 その後、ビュー!!!と唐突に突風か生じたため、目を閉じる。

 

 そして、ゆっくりと目を開けると………錆兎と真菰の姿が無かった。

 

 もしかしたら、今のは夢だったのかもしれない。と思っていたが

 

 明らかに錆兎と交戦したあとがくっきりと残っているし、真菰から貰った花飾りもしっかりと手にしていた。夢でない。

 

 「ありがとうな、2人とも」

 

 僕はその場でペコッと頭を下げたあと、鱗滝さんの家へと戻り眠りについた。

 

 ♠♠♠♠♠

 

 「では、お世話になりました。」

 

 朝日が昇り、朝食を頂いたあと、僕は荷物をもって鱗滝さんの家の前に立っていた。

 

 「もう行くのか?もう少しゆっくりしていけばいいのに」

 

 「僕もそうしたいけど、やっぱり蝶屋敷の人達にも報告しないと。」

 

 栗花落やコユキによって、僕が最終選別は突破していると蝶屋敷のみんなは知っていると思うけど、やっぱり自分の口で言わないとな。

 

 「そうなのか。」

 

 残根そうな表情を浮かべる炭治郎。ごめんな。

 

 「その内、合同任務で一緒になる時が来るだろう。その時にまた会えばいい」

 

 慰めるように、鱗滝さんは言葉を出してくれた。基本的に、鬼殺隊に入った新人は同期と共に任務することが多いらしい。 つまり、炭治郎とまた会う機会が今後あるということだ。

 

 「まぁ、もし任務が一緒になったら、その時はよろしくな」

 

 「あぁ、もちろんだ!!」

 

 「それじゃ…………僕は行きます。」

 

 「気をつけるんじゃぞ。偶には帰ってきなさい」

 

 「はい!!」

 

 「またな、鈴蘭!!」

 

 「おう!!禰豆子ちゃんのこと、ちゃんと守れよ〜」

 

 「任せろ!!」

 

 因みに、禰豆子はまだ眠っている。もし、起きていた場合、帰してくれない気がしたため、ちょうど良かったかもしれない。寂しいけどね。

 

 

 こうして、僕は2人と分かれ、蝶屋敷へと戻るのであった。

 

 




次回は蝶屋敷のメンバーとのやり取りです。お楽しみに!!

あと、新しくアンケートを作ったので投票よろしくです!!


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18話『毎日作って欲しい。』

えぇ、今回から送ってくださった感想にコメントしていきたいと思ってるので、お待ちしております。………虐めないでね??笑


  炭治郎達と別れたあと、僕は半日かけて蝶屋敷のすぐ目の前まで辿り着くことが出来た。

 

 分かっていたことだけど、やっぱり狭霧山から蝶屋敷まで結構距離あるな。正直言って疲れたわ。お腹もなってる。アオイ先輩にお願いして何か軽く手料理を作って貰おう。

 

 そう思いながら、扉を開けて「ただいま、戻りました〜。」と声をかける。すると、バタバタと屋敷内から足音を立てて、こちらの方に向かって来る。

 

 「「「成矢さん!!!」」」

 

 最初に僕のことをお出迎えしてくれたのは、なほちゃん、きよちゃん、すみちゃんの仲良し3人組だ。3人は涙を流しながら僕に抱き着く。

 

 「心配しましたんですよ、もう!!」

 

 「でも、帰ってきて良かったです!!」

 

 「あ、荷物持ちますね!!」

 

 「あはは、ありがとう。3人とも」

 

 僕は相変わらずだな、と微笑みながら3人一緒に抱き締め、頭を撫でる。

 

 「おかえりなさい、鈴蘭さん。」

 

 「アオイ先輩」

 

 すみちゃんに荷物を預け、3人がドタバタと屋敷の奥へと向かうと同時に今度はアオイ先輩が姿を現した。

 

 「ただいまです。身体の調子はどうですか?」

 

 アオイ先輩の姿を見た瞬間に、僕は彼女に体調を聞いた。僕が離れた後は、胡蝶さんに任せたから大丈夫だと思うが、それでも彼女は一応、不治の病に侵されていたのだ。念の為、聞いておかないとな。

 

 僕の質問に、アオイ先輩は微笑みながら

 

 

 「はい。鈴蘭さんのおかげで快調です。」

 

 

 と、言葉を出してくれた。彼女の言葉通り、本当に大丈夫そうだ。そして、アオイ先輩の言葉を聞いて少しだけ照れしまう。

 

 「胡蝶さんと栗花落はいます?」

 

 「しのぶ様とカナヲですか?2人は奥にいますよ。顔、見せに行きますか?」

 

 「えぇ。とりあえず、報告だけ行こうかなと。…………あ、そうだ。アオイ先輩」

 

 靴を脱ぎ、屋敷の奥へと向かおうとする前に僕は彼女の方に顔を向けて申し訳なさそうにしながら言葉を出した。

 

 「なんですか?」

 

 「申し訳ないですけど、何か軽く作ってくれませんかね?帰る途中からずっとお腹減っちゃってて………」

 

 「それぐらい別に構いませんよ。」

 

 

 「本当ですか!?やったぁ!!いやぁ、もうアオイ先輩の手作り料理が食べたくて食べたくて仕方が無かったんですよね!!」

 

 

 「ーーーッッ!?そ、そうなんですか……」

 

 「はい!!途中、どこかに寄って食べてこようかなって思ってたんですけど、やっぱりアオイ先輩の手料理が食べたいなって思って我慢してきたんです!!」

 

 

 「そ、そんなに!?」

 

 僕の異常な喜びを見て、アオイ先輩は徐々に恥ずかしそうにして顔を赤く染めていく。何をそんなに恥ずかしがることがあるんだろうか。僕は本当のことしか言っていないのに。

 

 「そ、それじゃあ………要望とかありますか?」

 

 アオイ先輩は未だに顔を赤くしながら、ボソボソと言葉を呟く。要望かぁ………。アオイ先輩が作る料理は全部美味しいから迷っちゃうな。

 

 ………よし。決めた。

 

 

 「握り飯がいいです!!」

 

 

 「握り飯………ですか?」

 

 「はい!具材はアオイ先輩に任せます!!」

 

 今回は軽くお腹を満たすためのお願いだから、握り飯がちょうどいいぐらいだろう。簡単だから、時間や負担もそんなにかからないしな。それに、具材をアオイ先輩のお任せにすることによって、食べる楽しみも増える。

 

 「わ、分かりました。では、鈴蘭さんがしのぶ様とカナヲに報告している間には作っておくので、食べたくなったら私に声掛けてくださいね。」

 

 「はい!!楽しみにしてますね!!それじゃあ、また後ほどで!!」

 

 僕はテンションを高くさせながら、ウキウキ気分で奥へと向かう。ちゃちゃっと2人に報告して早くアオイ先輩の作った握り飯を食べるとしよう。

 

 因みに、僕がアオイ先輩の前から姿を消したところでーーー

 

 「あれ?アオイ様?どうかしました?」

 

 「………気にしないで下さい。」

 

 すみちゃん曰く、何故か顔をトマトのように真っ赤にさせ、両手で手を隠しながら床に倒れ込んでいるアオイ先輩の姿があったという。

 

 (次いでにお味噌汁も一緒に作ってあげよう。鈴蘭さん……喜んでくれるかな?毎日作って欲しいとか言われたらどうしよう………って何を考えてるのでしょうか、私は!!)

 

 

 ♠♠♠♠♠

 

 

 恐らく2人がいるであろう部屋の襖を開けると、案の定、胡蝶さんと栗花落が待っていたと言わんばかりに正座していた。

 

 「おかえりなさい、成矢くん。」

 

 「ただいまです、胡蝶さん。」

 

 僕はそう言いながら、2人と同じく正座をして座り、向かい合う形をとる。

 

 「最終選別突破おめでとうございます。成矢くんなら突破できると信じてましたよ。」

 

 胡蝶さんはそう言って、僕の頭を撫でる。

 

 「あ、ありがとうございます。」

 

 「それで、成矢くんはどんな6日間を過ごしてきましたか?カナヲのはもう聞いたんですが、成矢くんのも聞きたくて楽しみにしてたんですよ。」

 

 胡蝶さんは声を弾ませながら、楽しみそうに聞く。栗花落も相変わらず真顔ながらも、ソワソワとしているので多少なりと気になっているようだった。

 

 あと、ここだけの話、栗花落の話は胡蝶さん的にはつまらなくて少し窮屈だったらしい。栗花落の場合は出てきた鬼の頸をただズバズバと斬り落としてきただけなんだろうな、と容易に想像出来る。だって、強いもん、この姉弟子。

 

 僕はこの6日間にあった出来事を手短にあっさりと胡蝶さんと栗花落に説明した。早くアオイ先輩の握り飯が食べたいのですよ………………。

 

 説明し終えたあと、胡蝶さんは興味深そうに頷いたあと言葉を出した。

 

 「まさか、異能の鬼がいただなんて………。それは驚きでした。」

 

 本来なら数人しか食っていない鬼しかいないと思われているからな。何十年も生き残り、そして50人近くの最終選別に参加した子供たちを喰ってきた鬼がいたとなれば、驚きだろう。

 

 「他にも、同じような鬼がいるかもしれないので1度確かめる必要がありますね。」

 

 その方がいいと思う。そしたら、来年からは最終選別を突破する人数が増えると思うからな。

 

 「まぁ、その鬼は無事に前から話してた親友と協力して倒せたんで良かったですよ。それじゃあ、僕はこれで。」

 

 ペコリと、2人の前で頭を下げて立ち上がろうとする。さてさて、そろそろアオイ先輩も握り飯を作り終えている頃だろう。早く食べに行こうっと。

 

 「ちょっと待って下さい」

 

 胡蝶さんは僕の腕をガシッと掴み出す。え!?え!?何!?

 

 「な、なんでしょうか??」

 

 「少し無愛想じゃありませんか?もっと詳しく話してくださいよ。」

 

 「えぇ………!?」

 

 ちょ………、嘘でしょ!?そんなことある!?お腹、減りすぎて死にそうなんですけど!?

 

 「それは………その………。」

 

 「それに、前の"育手"の方の家にお泊まりしたお話も是非、聞きたいです。」

 

 「つ、つまらないですよ?」

 

 「つまらなくても大丈夫ですよ。貴方がどう過ごしたのかを知りたいだけなので。」

 

 「ええ………。」

 

 栗花落の話がつまらなくて窮屈だった的なことさっき言ってじゃないっすか、アンタ。同じだと思いますけど!?

 

 しかも、これは………………少しだけマズいぞ。話が長くなるパターンじゃないか、これ!?

 

 「話もまだ弾むと思いますし、茶菓子を持ってきましょう。カナヲ、お願いしてもいいですか?」

 

 胡蝶さんの言葉に栗花落は頷いて、部屋から退室する。チャンスだと思い、カナヲの手伝いを装って部屋から出ようとしたものの、胡蝶さんに防がれてしまった。

 

 「成矢くんはここで休んでてください。長旅でお疲れでしょうから。」

 

 「で、でも姉弟子だけにやらせるっていうのは弟弟子にとっては拷問に等しいっていうか………」

 

 「な・り・や・く・ん?」

 

 「はい、すみません!!」

 

 座るから!!大人しく座るから、その密かに右手に握ってる注射器をしまってくれませんかね!?それ、絶対にアカンやつでしょ!!

 

 「良い子です。それじゃあ、お茶が入るまでに毒について勉強しましょうか。」

 

 「ど、毒についてですか?なら、どちらかと言うと、医学についての勉強をしたいのですが………」

 

 「………………」スッ

 

 「はい!是非とも毒について教えて下さい!!いやぁ、楽しみだなぁ!!あ、あはははは!!!」

 

 もう、何も言わないまま、笑顔で再び注射器を手にする胡蝶さん。それを見て、僕はすぐに土下座をした。

 

 諦めるしかないな………、これは。

 

 僕は心の中で、何度もアオイ先輩に謝罪しながら、胡蝶さんの話を聞いた。

 

 「それじゃあ、藤の花の仲間についてーーー」

 

 

 ♠♠♠♠♠

 

 

 「やっと………終わった。」

 

 ようやく解放された僕は、重くなった足を引きずりながら屋敷内を歩く。

 

 結局、結構な時間長引いてしまった。胡蝶さんによる毒についての勉強からの、カナヲが合流したあとにまたしても、最終選別にあったことの詳しい話をしていたら当然ながら遅くなってしまった。

 

 「腹減った………」グギュルル

 

 僕はお腹に手を当てる。胡蝶さん達と話している時、茶菓子はあったのだが、手は出さなかった。理由としては、ここに来る途中に飯屋さんに入らなかった理由と同じで、アオイ先輩の握り飯を真っ先に食べたかったからだ。

 

 でも、アオイ先輩に申し訳ないことしたな。

 

 作るだけ、作らせておいてお願いした当人はなかなか現れないのだから。

 

 真面目な先輩のことだ。「遅いです!!どれくらい待たせるのですか!?」みたいなお叱りを受けそうだ。その時は、甘んじてそのお叱りを受け入れよう。そして、反省しよう………。

 

 「あ、鈴蘭さん。」

 

 「アオイ先輩………」

 

 噂をすれば………と、いうやつで廊下でアオイ先輩と会ってしまった。

 

 すぐに僕は彼女に土下座をした。

 

 「すみませんでしたぁ!!!」

 

 「ええぇ!?」

 

 突然の土下座にアオイ先輩は驚きの声を上げる。

 

 「僕は、貴女にお願いするだけしておいて、来るのが遅くなってしまいました!!本当にすみません!!」

 

 「ちょーーー」

 

 「どんな罰も受けます!!どんな申し出にも答えます!!だからどうかお許しをぉぉぉーーー」

 

 「別に怒ってませんけど?」

 

 「え?」

 

 「え?」

 

 「……………」

 

 「……………」

 

 「「え?」」

 

 僕とアオイ先輩は目を点のようにして、ポカンとさせる。

 

 「え、もしかして私が怒ってると思ってたんですか?」

 

 「だって………待たしてしまいましたし。」

 

 「手料理のことなら心配無用ですよ。なんなら、たった今出来たところでしたので。」

 

 「え!?」

 

 「すぐにお持ちするので、部屋で待ってて下さいね。」

 

 アオイ先輩はそう言って、厨房の方へと向かう。僕は彼女の言葉通りに、自分の部屋まで足を運び、中に入って待機する。

 

 「失礼しますね」

 

 少し経ったあと、アオイ先輩はお盆を持ちながら僕の部屋の中に入ってくる。

 

 「どうぞ。」

 

 

 「おぉおおおおおおお!!!」

 

 

 彼女は机の上にお盆を置く。そのお盆の上には大量の綺麗な形をした握り飯に、ホカホカと湯気が上がっている味噌汁があった。

 

 「味噌汁の買い出しなどで時間がかかってしまいました。なので、私も鈴蘭さんを待たせてしまっていると思っていましたが………ちょうど良かったですね。」

 

 「た、食べても??」

 

 「鈴蘭さんの為に作ったんですから、どうぞ。あ、その前に手を洗ってきてくださいね?」

 

 「フウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

 僕は奇声をあげながら、手を洗いにひとまず洗い場まで赴き、速攻で手をきちんと洗ったあと、自室に戻って握り飯を手に取り頬張る。

 

 「美味しい!!」

 

 いい感じに効いている塩のしょっぱさが疲れている身体に気持ちよく響く。しかも、中に入ってるの昆布じゃないか。

 

 そして、口の中のものを流し込むように味噌汁も手にして啜る。

 

 身体が味噌汁によって、温かくなっているのが感じる。これも美味しぃ………

 

 止まらなくなった僕は、次から次へと握り飯を口の中に放り込む。どれも美味い!!梅!!鮭!!昆布に紫蘇!!

 

 「ふふ、喜んでもらえて良かったです。」

 

 僕の食べてる様子を、嬉しそうに眺めるアオイ先輩。

 

 

 「本当に美味しいですよ!!もう、毎日作って欲しいぐらいです!」

 

 

 「え?」

 

 「え?」

 

 「…………」

 

 「…………」

 

 「「え?」」

 

 僕の言葉によって、先程と同じように僕達は目を点にしてポカンとしてしまう。あれ?僕、何かおかしなことを言った?

 

 「ななな、何を言って!?」

 

 明らかに動揺してるアオイ先輩は震えながら声を出す。ちょ、震えすぎ震えすぎ!!手にしてるお茶が伝わって零れてきてるから!!

 

 「本当のことを言ってるだけですか?」

 

 

 「ーーーーーーーッッ!!!!もう、鈴蘭さんなんて知りません!!」

 

 

 アオイ先輩は顔を真っ赤にさせながら、僕の部屋を飛び出してしまった。

 

 

 「えぇ……………」

 

 僕はただ、それを眺めることしか出来なかった。

 

 

 その後、胡蝶さんから「あまり、アオイの心情を揺さぶらせるような発言は控えるように」と怒りのオーラを漂わせながら笑顔でお叱りを受けました。

 

 …………何故!?

 

 

 

 

 

 

 




Q、好きな食べ物は?

A、アオイ先輩が作ったもの全て。

カナヲ「…………鈴蘭」

鈴蘭「栗花落…………」

 ーーーガシッ!!

後藤(何してんの、こいつら。)


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19話『刀』

 蝶屋敷に戻ってから、早くも15日が経過した。最終選別にいた子曰く、今日に日輪刀が届くはずだ。

 

 戻ってきてからは、以前と変わらず医学の勉強をしたり、調合したり、鍛錬したり、機能回復訓練の手伝いなどをして過ごしていた。

 

 そして、現在。僕はいつも通りに機能回復訓練の手伝いを行っていた。内容としては鬼ごっこだ。

 

 参加する隊員の先輩方が鬼で、僕は捕まらないようにひたすら時間内の間、逃げまくる。ただ、それだけ。

 

 「たぁぁぁ!!」

 

 男性の隊員さんが叫びながら僕を捕まえようと追うが、余裕で躱して逃げる。"全集中"常中を身につけてない限りは、誰でも逃げ切れる自信がある。まぁ、たまに身につけてなくても馬鹿みたいに高い身体能力のある隊員には捕まってしまう時はあるけどね。

 

 「それまで!」

 

 アオイ先輩の言葉で、鬼ごっこは終了となる。男性の隊員は大量の汗をかきながら悔しそうにする。まぁ、隊員になったばったかりの新米に負けるとなれば悔しくて当然か。何か言葉をかけたら、それはそれでこの人のプライドに傷が付きそうだから何も言わないでおこう。

 

 「成矢さん!!お客様です!!」

 

 タオルで汗を吹き、水を飲んでいると、きよちゃんが僕に声をかける。僕宛てのお客様となれば…………

 

 「はい。届きましたよ、君の刀。」

 

 「こ、胡蝶さん!?」

 

 いつの間にか僕の背後にいた胡蝶さんが僕の肩に手を置いて言葉を出す。あまりにも唐突だったので、僕はバタン!と尻餅ついてしまった。

 

 「あれ?いつもの勘??とかで気づきませんでした?」

 

 「何でもかんでも、僕の勘が反応する訳じゃないですよ。痛たた……」

 

 アオイ先輩が差し出してくれた手を掴んで、なんとか立ち上がる。当たったところが悪かったのか結構、尻が痛い。

 

 胡蝶さんとアオイ先輩に肩を借りながら客室に赴くと、そこにはちょこんと正座して座っている栗花落と………

 

 

 ひょっとこのお面被った小柄の変態がいた。

 

 

 「誰が変態ですか!!」

 

 おっと。どうやら、声に出していたらしい。変態という単語を聞いて、ひょっとこのお面を被った………………声的に女性かな?女性がむきーっと反論の言葉を投げかけた。

 

 「いや、だってどっからどう見ても変態にしか………」

 

 「また言った!!こいつ、また言ったよ!!歳下のくせに!!」

 

 「歳下!?ちなみに歳は??」

 

 「聞いて驚け、15だよ!!」

 

 「バリバリ僕と同い年じゃねぇか!!違う意味で驚いたわ!!」

 

 「同い年!?そうなの!?」

 

 よく、その見た目のくせに歳下って断言したな、こいつ。てか、15歳の少女に僕の相棒となる刀を造らせたの?普通に大丈夫なのか?

 

 「成矢くんが不安になるのは分かりますが、彼女………銀花 瑞稀(ぎんか みずき)さんは刀鍛冶の里では稀に見る天才少女と言われるほどの実力の持ち主らしいですよ?」

 

 僕の心情を察した胡蝶さんは、目の前にいる変態………じゃなかった。銀花について話してくれた。

 

 「"蟲柱"様の言う通り!!私の名前は銀花 瑞稀!!15歳にして、あなた達2人の刀を作るのを任された、凄い人なのです!!刀も凄いの作れるし、顔も可愛いし、何より胸が大きい!!」ドヤッ

 

 銀花はそうドヤっと効果音がつきそうなぐらいに嬉しそうに言葉を出しながら胸を張る。確かに、そこまで気にしてはいなかったが意外と胸があった。多分、そこそこ胸が大きい分類に入る栗花落やアオイ先輩より大きいと思う。

 

 「むぅ………」

 

 隣に座っていたアオイ先輩が頬をふくらませながら僕の足を突然、つねってきた。しかも、結構強めにつねっているのでそこそこ痛い。

 

 「あの〜………アオイ先輩。何で僕の足をつねってるんですかね??痛いんすけど。」

 

 「貴方が女性の胸を見すぎだからです。いくらなんでも失礼ですよ!!破廉恥です!!」ムーッ

 

 失礼も何も、相手から胸を張られて見せてきたんですけど!?どうしろと!?あ、さらにつねる力が強くなったんですけど!?

 

 って、こんな下らいことで時間を潰している暇はない。さっさと本題に入らなければ。

 

 何とか、アオイ先輩が抓ってくる手を振り払い、咳払いをする。

 

 「コホン、じゃあ銀花。君が僕達の為に造ってくれた刀を見してもらってもいいか?」

 

 「もちろんです!!どうぞ!!」

 

 僕の言葉に、銀花は自分の隣に置いてあった刀二本を手に取り、それぞれ僕と栗花落の前に置いた。

 

 「これが………僕の刀。」

 

 差し出された刀を僕はゆっくりと手にする。刀の見た目は栗花落と同じで花が刻印されている鍔が印象的な造りであった。

 

 「ささ、ではお二人共。刀を抜いてみてください。何色に変わるか見てみましょう!!」

 

 銀花の言葉通り、僕と栗花落は刀をゆっくりと抜く。抜くと、太陽の光で綺麗に光り輝く銀色の刃先が露わになる。

 

 「さぁ、何色に変わるんですかねぇ!!運命的な瞬間ですよ!!」

 

 ひょっとこが外れてしまうんじゃないか、と少し心配してしまうぐらいまでに気持ちを高ぶらせる銀花。落ち着けって

 

 因みに、日輪刀は別名"色変わりの刀"と言われており、持ち主によって色が変わると胡蝶さんから学んだが、実際にどんなものかは自分の目で見たことがなかった。

 

 変わった色によって、自分の適正の呼吸が分かるんだとか。逆に、何も色に変化が見られなかった場合は呼吸法が出来ないという意味を示す。まぁ、僕の場合は水と蟲の呼吸を使えるからそれは無いと思うが。

 

 刀を抜いて、少し経つと…………

 

 「おぉ………、本当に変わった」

 

 ズズズ、と僕の刀が先端から次第に銀色から"黒色"に変化した。こんな風に色が変わるんだな。ちょっと感動したかも。

 

 隣を見ると、栗花落の刀は桃色に変化していた。花の呼吸を使う栗花落にとってはピッタリな色だ。

 

 「黒!!黒!!黒だ!!」

 

 「カナヲはなんとなく予想通りですが………、成矢くんの色は意外な結果になりましたね。」

 

 黒色になった僕の日輪刀を見て、銀花はとにかく黒と連呼し、胡蝶さんは言葉を投げ掛ける。胡蝶さん曰く、僕の場合、"青"系か"紫"系な色が出ると思っていたらしい。

 

 「黒だと何か不味いんですか??」

 

 「黒色の刀は前例が少なくて、どの流派に対して適性があるのか分からないんです。だから、黒色の刀を持つ隊員は出世出来ないと言われていますね。」

 

 「嘘でしょ!?」

 

 何それ!?黒色の刀を持てて少し男的に浮ついていた僕の気持ちを返して欲しいんですけど!!?

 

 「大丈夫ですよ、鈴蘭さん!私はカッコイイと思いますから!!」

 

 「その優しさから出た労いの言葉も今は辛いっす、先輩。」

 

 肩をガックシと落とした僕を見て、「あ」と何かを思い出したかのように銀花は口を開いた。

 

 「そういえば、成矢は毒を使うということなので、"蟲"柱様の刀同様に刃の中に毒を染み込ませれるような仕組みにしておきましたよ!!詳細はこの紙に書いておいたんでよく読んでおいて下さいね!!」

 

 「え!?マジ!?」

 

 さっきまで落ち込んでいたのが嘘だったように、僕は起き上がって銀花が差し出した紙を受け取る。

 

 当たり前だが、本来なら普通の刀で毒を鬼に注入させることは無理な話だ。そう出来るように胡蝶さんは鍛冶屋に依頼して打ってもらえるという。

 

 最終選別の時に使ったのは、胡蝶さんのお古な刀だったので毒が注入できる刀だったが、今回、特に要望とかを伝えていなかったので、毒が注入できない刀が来るんじゃないか……と内心ヒヤヒヤとしていたが、心配する必要は無かったらしい。

 

 そして、色々と銀花から刀について話を聞いたところ、彼女がそろそろ帰らなければならない時間だということなので、みんなで玄関先までお見送りをすることになった。

 

 「何かあれば鴉を飛ばして連絡して下さい!!私、マジで何でも作っちゃうんで!!」

 

 「はいはい、分かったよ」

 

 「……………」コクリ

 

 「お2人が活躍することを心からお祈りしますね!!それでは!!」

 

 ペコリと、頭を下げた銀花は蝶屋敷から去っていった。なんか……嵐みたいなやつだったな。

 

 その後、胡蝶さんから改めて話があるという事だったので、僕と栗花落は先程までいた客室へと移動し、最終選別に行く前のような形で胡蝶さんの前で栗花落と並んで正座して座っていた。

 

 「さて。刀を手にした貴方達はこうして本格的に鬼殺隊の隊員となりました。いつ任務が来てもおかしくはありません。」

 

 そっか。日にちが空いてたから忘れがちになっていたが、もう刀を手に入れたということは、鬼と戦えるようになったということ。つまり、ここからが本当の僕達の戦いが始まったと言っても過言ではないということになる。

 

 「私は貴方達を、簡単に鬼に殺されてしまうような貧弱な剣士に育てたつもりはありません。1匹でも多くの鬼を滅し、1人でも多くの人の命を救えるような剣士に育ててきたつもりです。」

 

 「はい」

 

 「…………はい」

 

 「ですが、これから先、何が起こるか分からない世界となります。雑魚鬼と連絡が来たのにも関わらず異能な鬼だったり、血鬼術を使わない鬼だと連絡が来たのに、強力な血鬼術を使う鬼だったり、なんなら雑魚鬼を討伐しに向かった先には十二鬼月が待ち受けているかもしれない。これらが理由で命を絶つ隊員は後を絶たないです。」

 

 「だから………」と付け加えた胡蝶さんは、今までに見たことがない真剣な眼差しを僕達に向けながら言葉を出した。

 

 

 「死なないでください。カナヲ、成矢くん。例え何があっても生き延びて下さい。ここだけの話、無理だと思ったら、すぐに逃げなさい。それも1つの戦略です。任務先で何か怪我を負ってしまった場合は、必ず私達が治します。治しますから………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶対にここに帰ってきて下さい。」

 

 

 「「ーーーーーッッ」」

 

 

 胡蝶さんは僕達にそう言って、頭を深く下げた。

 

 すぐに、そんな姿を見て動揺した栗花落が胡蝶さんに頭を上げるように声をかける。

 

 「…………………」

 

 しかし、そんな栗花落に対して僕は何一つ胡蝶さんに声をかけることは無かった。むしろ、先程の胡蝶さんの激励に対して何か引っ掛かりを感じて、違和感を覚えた。なんなんだ、これは。

 

 この違和感はただの思い違いなのか。それとも、いつもの様に僕の勘の影響なのかは分からない。分からないのだが…………

 

 

 

 まるで、胡蝶さんはその言葉を僕達に送ったことに対して何か後悔している様な……………気がする。

 

 

 

 胡蝶さんは僕達に何か隠している?いや、そんなことはないはずだ。一応、1年間は彼女と一緒に暮らしてきたのだ。そのような素振りは1度も見たことがなかった。

 

 では、やはり今回ばかりは僕のただの思い違いか?だけど、何かが引っかかる。これを見逃してしまえば僕自身が後悔してしまう気がする。

 

 

 「あの、胡蝶さ「主人ー!!主人!!!任務デスヨーー!!!」ってコユキ!?」

 

 

 思い切って、胡蝶さんに言葉をかけようとしたら僕の鎹鴉のコユキが部屋に乱入し声をさえぎって飛び回りながら声を上げる。

 

 「チッ、このタイミングでかよ。」

 

 しかし、任務となれば仕方がない。また改めて彼女から話を聞くとしよう。

 

 僕は隊員服に着替え、胡蝶さんから頂いた白衣っぽい羽織りを羽織ったあと、銀花が打ってくれた刀を腰に装着する。

 

 準備が終わったあと、屋敷の入口で胡蝶さんと栗花落となほちゃん、きよちゃん、すみちゃんが見送りに来てくれた。アオイ先輩はどうやら洗濯物で忙しいらしくいなかった。

 

 「では、胡蝶さん、栗花落。任務に行ってきます」

 

 「はい、頑張って来てください。貴方なら大丈夫です」

 

 「……………頑張れ」

 

 「「「頑張って下さい!!!!」」」

 

 

 「はい!!それじゃあ、行ってきます!!」

 

 

 僕は皆に手を振りながらコユキが案外する場所へと歩き出す。すると背後からーーー

 

 

 「鈴蘭さーん!!」ハァハァ

 

 

 「あ、アオイ先輩。」

 

 アオイ先輩が息を荒げながら僕の方に走ってきた。

 

 「洗濯物終わったんすか?」

 

 「鈴蘭さんが任務に向かわれるということなので、急いで終わらせてきました。」

 

 「そうですか。別にそこまで急がなくてもよかったのに。」

 

 「あの………!!」

 

 「はい?」

 

 「絶対に………帰って来てくださいね。鈴蘭さんが死んだら私…………」

 

 アオイ先輩は目に涙を浮かばせ少し寂しそうな表情を浮かべて言葉をかける。そりゃあ、そうだよな。誰だって、一緒に過ごしてきた人が死んでしまえば悲しいに決まってる。

 

 だけど、この場合どうすればいいのだろうか。

 

 …………そうだ。

 

 「アオイ先輩」

 

 

 ーーーガバッ

 

 

 「きゃ!?ちょ、鈴蘭さん!?」

 

 僕は目の前にいるアオイ先輩を包み込むかのように抱き締めた。彼女同様に寂しそうにしていた禰豆子ちゃんや花子ちゃん達にこうしてあげていたのを思い出したからだ。

 

 とは言っても、相手は子供とは違って大人の1人。なんなら、僕の2つ上の女性だ。むしろ、歳下の男にこんなことされたら逆効果なのかもしれない。

 

 けど、それでも僕はアオイ先輩を抱き締めて安心させたいと思った。例え、これで嫌われたとしても。

 

 「僕は生きて帰ってきますよ。医師になるまでは絶対に死なないって決めてるんで」

 

 「……………鈴蘭さんらしいですね。」

 

 アオイ先輩はそう言って、可愛らしく微笑んでくれた。どうやら、もう大丈夫らしい。僕は彼女を離した。

 

 

 「それじゃあ、先輩。行ってきます」

 

 「…………はい。」

 

 

 こうして、僕はアオイ先輩とも別れて初任務へと向かった。

 

 

 さぁ、ここからだ。

 

 

 禰豆子ちゃんを人間に戻すきっかけを探しに行こうではないか。




禰豆子「ムー?(何か………アオイ先輩ルートに突入してない?)」

炭治郎「禰豆子?どうした?」

大正コソコソ噂話
成矢鈴蘭は別にそこまで女性の裸に関しては興味はない。1度だけアオイは鈴蘭にわざと胸を押し付けるような行為をしたが特に反応を示さなかった。その日の夜は涙を濡らしたとか。

ちょっとした告知で友達に勧められてTwitterの専用アカウントを作りました。Twitter自体、初めてのことなのでよく分からないですが良かったらフォローよろしくお願いします。m(_ _)m
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20話『初任務』

もうすぐ1000件いきそうなので、流れに乗って投稿しました。



 「北北西!!北北西ニ向カウノデスヨ、主人!!」

 

 バタバタと僕の前を飛びながら叫ぶ真っ白な鎹鴉、コユキ。初任務だからか、なんだか張り切ってるっぽい。

 

 それにしても、北北西か。確か、この先にはそこそこ大きい街があった気がするな。

 

 「コユキ、詳しい情報を頼むよ」

 

 「ソノ街で最近、奇妙ナ死体ガ発見サレテルノデス!!」

 

 「奇妙な死体?」

 

 「ソウ!!最近、ソノ街デ両腕ダケガ無クナッテイル死体ガ見ツカッテイルノデス!!昨日ハ三体、一昨日は二体、その前の日は四体、両腕ノ無い死体ガ発見サレテイルノデス!!コレハ、間違イナク鬼ノ仕業デスヨ、主人!!」

 

 「両腕だけが無い死体?それまた、悪趣味な鬼だな」

 

 胡蝶さん曰く、鬼の中には何かしらの拘りを持っている鬼がいるという。例えば、今回みたいに人間の特定の部位しか食べない鬼とか、女しか喰いたくない鬼とか、15歳以下しか食わない鬼とか。どれも、悪趣味な話ではあるが。

 

 「よし、街についた。」

 

 しばらくして、目的地である街に到着した。確か、この街は人が溢れる楽しい場所だと評判が良かったはずなのだが、今では人はあんまりおらず、殺風景に感じてしまう。

 

 とりあえず、情報を集めなければならない。………とは言っても、周りに人がいないので、とりあえず近くにあった定食屋に入ることにした。お腹も減ってきたし丁度いい。

 

 「こんにちはー」

 

 「いらっしゃいませ〜。」

 

 店内に入ると、店員さんと何人かのお客さんがいた。しかし、やはり活気が感じられない。

 

 「何にしましょう?」

 

 席に座ると、お冷とおしぼりを持った店員さんがやって来て注文を尋ねる。

 

 「そうですね、とりあえず天丼1つとお茶をください。」

 

 「はいよー。」

 

 メニュー表に、指をさしながら注文をした後、何気に懐に紛れていたコユキの頭を優しく撫でて時間を潰す。

 

 「へい、天丼ね。」

 

 「ありがとうございます」

 

 10分後ぐらいに、ホカホカの天丼とお茶を持った店員さんが戻ってきた僕の目の前に、天丼を置いた。めっちゃ、美味しそう。

 

 「いただきます」

 

 手を合わせながら、そう言った僕はエビの天ぷらを1口かじる。ジュワー、とエビの旨みが口の中に広がる。言わずもがな、凄く美味い。これ以外に他の言葉が思いつかない。エビの旨みを味わいながら、一緒に米もかき込んだ。

 

 あっという間にペロリと完食した僕は満足そうにお茶を飲んでいたら、先程の店員さんが僕に話しかけてきた。

 

 「お客さん、いい食いっぷりだったねぇ。見てて何だか作ったかいがあったよ」

 

 「ここの料理が美味しくて、つい……」

 

 「そう言って貰えると嬉しいよ。けどなぁ………」

 

 店員さんは何だか悲しそうな表情を浮かべる。これは鬼の情報を手に入れるチャンスかもしれない。思い切って、聞いてみよう

 

 「何か……あったんですか?」

 

 「それがな、最近、この街で両腕だけが無くなってる不気味な死体が度々発見されるようになったのよ」

 

 ふむふむ。コユキが言っていたのと同じだ。

 

 「だからな、最近は皆、それに不気味がって外出を控えるようになったんだよ。全く、困ったもんだぜ。こっちは商売あがったりだ。」

 

 「そんなことが………。」

 

 まぁ、地元でそんな不気味な事件があったら怖くて誰も外には出たがらないよな。

 

 「それに、亡くなっちまった人の中にはこの店の常連さんもいたからよぉ。しかも、この店に通った次の日に死体になって発見されてな。それがまた、悲しくてよ。」

 

 店の帰り道に多分、運悪く鬼に襲われてしまったのだろう。確かに、それは辛いな。

 

 「それはお気の毒に…………」

 

 「あぁ。もし、殺人事件ならば早く犯人が捕まってくれることを祈るぜ。一応、今日の夜から警察官が辺り一帯を徘徊してくれるらしいが。」

 

 「……………へぇ。」

 

 「ま、だから事件が解決するのは時間の問題だと俺は信じてる。………なんだか悪ぃな、食事の後だったのに、こんな気分を害するような話しちまって。」

 

 「そんなことありませんよ。聞いてしまったのは自分なので。」

 

 「それでも、俺が許せねぇんだ。………そうだ、良かったら蕎麦でも食ってってくれ!!」

 

 「そんな、大丈夫ですよ!!」

 

 「いいから、いいから!!すぐに作って持ってくるから待ってろよ!!」

 

 店員さんはそう言って、厨房の方へと向かってしまった。何だか申し訳ない気分だ。でもまぁ、あそこまで言われたならば、有難くいただくことにしよう。

 

 こうして、僕は店員さんから頂いた蕎麦も美味しく完食してからお金を払い店へと出た。

 

 早く…………、この街の平和を取り戻さなければ。この人含め、この街に住む人達の為にも。

 

 恐らくだが、奴は今日の夜も人を襲うと思われる。なにせ、今日は餌となる警察官がちらほらといる絶好の機会なのだから。

 

 僕は鬼が現れそうな場所を絞るために夕日が沈むまでこの街を歩き回ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、遂に、この街に住む住民からしたら恐怖でしかない夜がやってきた。

 

 民家の屋根を飛び映りながら、辺りを見回す。すると、店員さんが言っていたように何人かの警察官が徘徊を行っていた。

 

 今の時代、廃刀令が下されているので警察官に見つかると面倒臭い。できれば、あまり関わらずに鬼を倒したいな。

 

 「お?」

 

 何だか、南の方から怪しい気配を感じる。多分、あそこにいるな。

 

 いつでも、刀が抜ける状態にしながら屋根の上をダダダと駆ける。

 

 「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 南に向かっていると、近くから男性の苦痛な叫び声が聞こえてきた。どこだ?……………あそこか!!

 

 声が聞こえてきた場所に急いで向かうと、そこには2つの影があった。

 

 1つは、両肩から先が無くなっており、そこから大量の血を流している警察官の男性と………

 

 もう1つは、恐らくその、警察官のものであろう千切れた両腕を手にした血まみれの鬼がいた。

 

 「はぁぁぁぉぁぁ!!!」

 

 屋根から飛び降り、同時に刀を抜いて鬼に目掛けて振り下ろす。しかし、僕の存在に早くも気が付いた鬼は後方に下がり僕の攻撃を躱した。

 

 「お前か。この街で人を襲ってんのは。」

 

 「チッ、鬼狩りか………。余計なことを」

 

 倒れている警察官の前に出て、僕は呼吸を整えながら刀を構える。早く、この人を応急処置しないと大量出血で命に危険が出てしまう。

 

 「鬼狩りの腕はまだ喰ってねぇな。どんな味がするのだろうか。」

 

 鬼はヨダレを垂らしながらニタァと笑う。

 

 「どうして、腕だけを狙う!!」

 

 「そんなの、ただ単に俺が好きな部位だからだよぉぉぉ!!!」

 

 

 ーーービキビキ

 

 

 鬼は肘から斬れ味のありそうな鎌のような骨を突出させ、俺に襲いかかる。きっと、これで襲った人の命と両腕を斬り落としたに違いない。

 

 「この外道が!!」

 

 「ヒャアァァァァ!!」

 

 

 ーーーガキン!!!

 

 

 鬼の鎌状の骨と僕の刀がぶつかり合う。すると、その間からは勢いよく火花が飛び散った。

 

 「オラオラオラオラァァ!!!」

 

 「くっ!」

 

 鬼の素早い連撃を、僕はなんとか見切り、刀で弾き続ける。しかし、相手の勢いは増していく一方で、このままだとジリ貧だ。

 

 僕はスゥゥ、と鬼の攻撃を弾きながら息を吸い相手の動きに注目する。

 

 この鬼の攻撃は確かに素早いものだが、それでも連撃をする際に一瞬の隙が生じる。だから、その隙を見逃さないようにタイミングを見計らって……………………

 

 

 ーーーーーーここだ!!

 

 

 「蟲の呼吸 蜂牙ノ舞 "真靡き"!!!」

 

 

 「がはっ!!!」

 

 僕は鬼の連撃の隙を見計らって、鬼との距離を一瞬で詰め、鬼の目に目掛けて刃を突き刺した。勿論、大量の毒を注入しながら。

 

 僕の技をモロに喰らった鬼は右目から血を吹き出し、膝を地につける。毒を注入したため、この鬼が倒れるのも時間の問題。この勝負、僕の勝ちで間違いはない。

 

 しかし、ここで油断していけない。この鬼殺隊の世界では何があってもおかしくは無いのだ。だからこそ、確実に勝利を得るために追い討ちをしなくては。

 

 「蟲の呼吸ーーー」スゥゥゥ

 

 

 「おい、何をしている!!」

 

 

 「ーーーーーーッッ!?」

 

 鬼に追撃しようとしたら、バタバタと3人の警察官が僕達の目の前まで駆け寄ってきた。チッ、やっぱり何かが起きてしまった。しかも、僕からしたら悪い方の意味で。

 

 「腕ェェェェェェェェ!!!」

 

 突然の乱入者に僕が動揺したのを見逃さなかった鬼は、警察官の方へと素早く駆け付け襲いかかる。この人達を喰って回復する気か!!

 

 「うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!」

 

 何も事情を知らない警察官達は、自分達に襲いかかる鬼を見て、恐怖の叫びを上げる。彼らからしたら鬼は化物以外、何者でもないからだろう。実際、鬼は化物ではあるが。

 

 今からじゃ、どの技を使っても間に合わない。ーーーーなら!!

 

 「てぇい!!」

 

 僕は懐から注射器を三本ほど、取り出して鬼の方に向かって勢いよく投げる。ビュン!!と豪速で投げられた注射器は見事に鬼の背中へと刺さった。それと同時に、注射器の中に入っている容器が鬼の体内へと注入される。

 

 「ガァァァァーー!?」

 

 三本分の液体が鬼の体内に全て注入された際、鬼は警察官のすぐ目の前で倒れ込み、もがき苦しみ始める。

 

 注射器の中に入っていた液体の正体は、毒の回りを普段に比べて何倍にも促進させる薬だ。これは、元々胡蝶さんが開発したやつで毒が回りにくい鬼を相手に使うやつだそうだ。

 

 今回は別に使う必要は無かったが、毒の回りを早めないと警察官の人達が確実に殺られていたため、使わざるを得なかった。死を間近で、警察官しか目に行ってなかったのも不幸中の幸いだった。

 

 「腕ェ…………腕ェ………」

 

 苦しみながら、何度と"腕"と連呼する鬼。間もなく、こいつは全身に毒が回って死ぬ事になるだろう。

 

 結局、どうしてこいつが腕に拘るのか分からなかったな。さっきの質問に対しては美味さが理由だと言っていたが、きっとそれ以外にも理由があると思われる。だからといって、知りたいとは全く思わないが。

 

 「腕ェェェ…………、腕ェヲォ………」

 

 僕は苦しむ鬼の頸に刀の刃を当てる。次期に死ぬのでこいつの頸を斬る必要はないが、毒で殺ったとしても死体は残ってしまう。しかし、朝日が登るまで鬼の死体をここに放置しておくのも後先のことを考えて良い点は無い。だから、ここで頸を斬った方が良いと判断した。

 

 「腕ェ……………。腕ェ………………, 」

 

 

 

 「悪いな。僕の腕はお前の血肉になるためにあるんじゃない。人の命を守るためだ。」

 

 

 

 僕は鬼にそう言い残して、鬼の頸を斬った。すると、鬼は隅々と灰のように崩れていった。

 

 「ふぅ……」

 

 よし。これで初任務完了だ。無事に終わらせることが出来て良かったぁ。ぶっちゃけた話、かなり緊張してた。

 

 でも、これでこの街に次の鬼が来ない限りは平和が戻ってくるはずだ。きっと、さっきの飲食屋も客足が戻ってくるに違いない。その時はまた足を運ぶことにしよう。

 

 そして、僕は鬼に両手をやられてしまった警察官の元に行く。微かだが、まだ息があった。出血が酷いので、止血剤と鎮痛剤を範囲内で大量にぶち込み、傷口に包帯を巻いていく。

 

 「お、おい!!これは、どういうことだ!!」

 

 先程、襲われそうになった警察官達が顔を青ざめながら言葉を出していく。うーん、なんか面倒くさくなりそうだな。

 

 「詳しく話をーーー」

 

 警察官が話している所で、僕は素早くこの場にいる全員の警察官の鳩尾に目掛けて、拳を思いっきり突き出した。当然ながら、喰らった警察官は腹に手を当てながら蹲り、意識を失った。

 

 「夢だったと勘違いしてくれると嬉しいな」

 

 少ししたあと、後処理をしてくれる隠の人達が来てくれた。コユキが呼んできてくれたらしい。あとは、彼らに任せて僕は蝶屋敷に帰ろっと。

 

 

 「次ハ東京府浅草デスヨ、主人。」

 

 

 「……………え?」

 

 蝶屋敷に帰ろうとしたら、肩に止まったコユキが言葉を出した。今、なんて言ったこの子は。

 

 「ごめん、もう1回言って?」

 

 「東京府浅草ニ向カウノデスヨ」

 

 聞き間違いでは無かったらしい。

 

 「僕、さっき任務終えたばかりだよ?」

 

 しかも、浅草て。ここからだとめちゃくちゃ遠いんですけど。何里あると思ってんの?

 

 「煩イデスヨ、主人。鬼ガ潜ンデイル噂ガアルノデス。早ク行クノデスヨ!!」

 

 「分かった!!分かったらつつかないで!!」

 

 

 コユキにつつかれながら、僕は次の任務先となる浅草へと向かった。どうやら、この職場を選んだのは間違いだったのかもしれない。




大正コソコソ噂話。

鈴蘭が倒した鬼は生前、腕の良い大工職人でした。しかし、事故によって両手が切断され仕事が出来なくなってしまい、荒れ狂う日が続く毎日。それによって、妻や子供たちも離れていきました。職も家族も金も失い、この世を恨む形で過ごしたところ、上弦の陸である妓夫太郎と堕姫に目をかけられ、気に入られて鬼になりました。鬼になりたてだったので、そこまで強くなかったですが、1年ほど経っていれば下弦ぐらいには上り詰めていたでしょう。


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21話『こいつが………』

 「ほえー、ここが浅草かー。」

 

 コユキに浅草に迎えとつつきながら言われた僕は2日かけてようやく浅草に辿り着いた。いやぁ、遠かった遠かった。

 

 それにしても、浅草っていうか都会ってこんな感じなんだな。夜なのに周りは街灯や店の電気で明るいし、人がめちゃくちゃ多い。それに、なにより建物が全て高いんだけど。何あれ。田舎者にとっては衝撃的な光景だった。炭治郎とか、人の多さでめまい起こしてそうだな。

 

 さぁて、浅草に鬼が潜んでるっていう噂を早速調査しますか。今回は噂だから鬼がいるかどうかは分からないんだよな。まぁ、いない方がいいんだけど。

 

 「うぅ………痛いよぉ………。」

 

 「ん?」

 

 調査を開始しようとしたら、大勢の隅に1人の三つ編みが特徴的な女の子が何か痛そうな表情をして涙を浮かばしていた。よく見てみると膝から血を流している。転んでしまったのだろうか。

 

 医者を目指す者として、見逃せるはずがない。僕はすぐさま女の子の方へと駆け寄って声をかける。

 

 「君、大丈夫?」

 

 「…………お兄ちゃんは誰?」ビクッ

 

 優しく声をかけたつもりだったが、女の子は怯え始める。まぁ、急に声をかけたら不安になるよな。なんて答えよう…………。そうだ。

 

 「僕はお医者さんだよ。ほら、お医者さんがいつも着てる服だろ?」

 

 「ッッ!!本当だ!お医者さんの服だぁ!」

 

 僕は医者だと偽り、白衣らしき真っ白な羽織を女の子に見せつける。すると、案の定、女の子は僕が医者だと信じた。なんか、この子の純粋な心を利用してる気がして申し訳ない気持ちになる。ごめんね。

 

 「怪我してるみたいだけど、転んじゃったの?」

 

 「うん………。お母さんとお父さんからはぐれちゃって探してる時にころんじゃったの」

 

 予想通り、怪我の原因は転倒によるものか。しかも、この子の周りに誰も居ないなと思ったら迷子か。見つけれてよかったな。

 

 「そっか。痛かったね」

 

 「うん。」

 

 「よし、お兄ちゃんに任せてて」

 

 僕はそう言って、腰に掛けている小さな袋を取り出して中から綺麗な布と塗り薬を手にする。

 

 まず、綺麗な布で女の子の膝から出ている血を拭き取る。その後、「少しだけ染みるから我慢してね」と声を掛けてから塗り薬を塗った。

 

 「うっ………」

 

 やっぱり染みたのか、塗り薬を塗った瞬間、女の子は痛そうに声を上げる。だけど、それは一瞬のこと。すぐに痛みが引くはずだ。

 

 更に別の布を取り出してテキパキと女の子の膝に巻いていく。………っし、こんなもんだろう。布も花柄のやつにしたから見栄えも悪くない。完璧だ。

 

 「どう?痛くない?」

 

 「うん!全く痛くなくなった!お医者さんのお兄ちゃん、ありがとう!!」

 

 女の子は可愛らしい笑顔でお礼を言ってくれた。それを聞いて心が温かくなる。

 

 「どういたしまして!それじゃあ、ママとパパを探しに行こっか。」

 

 「うん!!」

 

 怪我を応急処置して、はいバイバイっていう訳にはいかない。この子に関わったからには、最後まで面倒を見てあげるのが責任ってもんだろう。少なくともバチは当たらないはずだ。

 

 「よし、じゃあお兄ちゃんの肩に乗りな」

 

 「いいの!?」

 

 「あぁ!!」

 

 「わーい!」

 

 僕は15歳にして身長は170と何気に身長は高い方だ。そこからさらにこの子を肩車にすれば、見晴らしも良く、両親を探しやすくなると思う。

 

 女の子を肩車してから立ち上がり、大勢の中へと入り歩き始める。昔はよく、竈炭家のチビ達を、今となればきよちゃん達に肩車してあげてるから慣れたもんだ。さて、この子の両親を探しに行きますかね。

 

 それに、我が子がいなくなれば、きっと、両親もこの子を探しているはずだ。だから、そんなに遠くには行っていないと思う。

 

 「どう?ママとパパいた?」

 

 「うぅん、いなーい」

 

 女の子は首を横に振る。いないかぁ………。まぁ、こんだけ人が多かったらな。探すのも困難か。

 

 「もう少しだけ奥行ってみよっか」

 

 「うん…………」

 

 声をかけても、女の子は不安そうにする。そりゃあ、僕がいたとしても両親がいなかったら寂しいし、怖いよなぁ。

 

 「あ………」

 

 この子の両親を探しに歩いていると、街の中央にりんご飴を販売している店が視界に入った。りんご飴…………、確かりんごを砂糖水でコーティングしているお菓子だっけな。胡蝶さんが柱の友人と食べに行ってとても美味しかったと嬉しそうに言葉を出していたのが記憶に新しい。

 

 よーし………。

 

 「おいちゃん、りんご飴2つください。その1番大きいやつ2つね」

 

 「あいよ〜。」

 

 お金を払って、店員からりんご飴2つを貰う。そのうち1つを僕の頭の上でグッタリしている女の子に渡す。

 

 「はい。」

 

 「ッッ、わぁ………!!りんご飴だぁ!!お兄ちゃん、ありがとう!!」

 

 「どういたしまして。」

 

 ふふ、やっぱり子供なのか、りんご飴を見せたら、さっきの不安そうな表情が嘘みたいに一気に元気になった。受け取ったりんご飴を美味しそうに頬張り始める。美味しそうに食べるじゃん。

 

 気になった僕も女の子が落ちないように片方の手で足を固定しながらもう片方の手で持っているりんご飴を口に近づけ、1口だけ齧る。

 

 「美味っ!!」

 

 あまりの美味しさに叫んでしまった。何これ、めちゃくちゃ美味しいんですけど!?元々は田舎出身でこういう甘味系な食べ物は滅多に口にしてなかったからな。より一層、美味しく感じてしまう。

 

 女の子と仲良くりんご飴を食べながら色々と話しながら歩いているとーーー

 

 

 「瑠璃!!!」

 

 

 人混みの中から、この子の名前を呼ぶ女性が涙を浮かばせて飛び出してきた。もしかして、この人が…………

 

 「あ、お母さん!!」

 

 女の子は飛び出してきた女性を目にした瞬間、安心したかのような笑顔を浮かべる。やっぱり、この子の母親だったか。

 

 僕は女の子………瑠璃ちゃんを降ろしてあげると、彼女は真っ先に母親の所に飛びつき

 

 「お母さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

 母親の胸元で泣き始めた。それを見て、「全くこの子は………」と言いながらギュッ!!と抱きしめる瑠璃ちゃんの母親。見つかって良かった。

 

 

 「麗さん……瑠璃は見つかったのかい?」

 

 

 人混みの中から、瑠璃ちゃんの母親に続けて1人の白い帽子を被り、あまり表情が見えない男性が姿を現した。この人が、瑠璃ちゃんの父親か。

 

 「えぇ、月彦さん。」

 

 「ッッ、それは良かった………。」

 

 「お父さん!!」

 

 「瑠璃………、どこにいたんですか。お父さん、心配してたんですよ。」

 

 母親の元を離れ、今度は父親に飛びつく瑠璃ちゃん。それを優しく受け止めて母親と同じく抱きしめ始める。

 

 「おや……、そのりんご飴はどうしたんだい?それに……膝に巻いてあるこの布も。」

 

 父親は瑠璃ちゃんが手にしているりんご飴と膝に巻いてある布を目にして気になったのか、言葉を出す。すると、瑠璃ちゃんは俺に向かって指をさしながら

 

 「あのね、私がお母さんとお父さんを探してる時に転んじゃったの。その時に、このお医者さんのお兄ちゃんが助けてくれたんだ。りんご飴もお兄ちゃんから………」

 

 「そうですか………。」

 

 瑠璃ちゃんの言葉を聞いて、父親は彼女を抱っこする形で持ち上げたあと僕の方に近づき、

 

 「この度はどうも、うちの娘を助けてくれてありがとうございました。」

 

 「いえいえ、自分も…………」

 

 僕は改めて瑠璃ちゃんの父親の顔を見ながら言葉を出そうとした瞬間、

 

 

 

 "こいつが鬼舞辻無惨だ!!!"

 

 

 

 「ーーーーーーーーーーッッッ!!??」

 

 勘が突然、僕にそう告げた。

 

 その瞬間、言葉を出すことが出来なくなってしまった。それと同時に全身から嫌な汗と鳥肌が立ち始める。

 

 これは『気がする』とかではない。確信だ。

 

 よくよく思い出しみれば、この胸騒ぎ………、葵枝さん達が襲われた時に感じたのと全く似ている。

 

 瑠璃ちゃんの父親が………鬼舞辻無惨だと??まさか、人間のふりをして今まで暮らしてきたのか!!??それだったら、何百年と続く鬼殺隊が一向に鬼舞辻無惨を見つけることが出来なかったのも納得がいく。

 

 「………どうかされたんですか?」

 

 鬼舞辻無惨は心配している瑠璃ちゃんの父親を装って、俺に言葉を出してきた。そのさり気ない一言一言で心臓を締め付けられるように感じる。

 

 こいつが…………こいつが炭治郎の家族を殺し、禰豆子ちゃんを鬼にした張本人!!僕は内心、かなりの怒りを募らせる。当たり前だ。こいつのせいで炭治郎は………いや、鬼殺隊に入っている者全ての人生を大きく狂ってしまったのだから。

 

 しかし……、だからといって悔しいことに何も出来ないっていうのが現実だ。現に、僕はこの人が鬼舞辻無惨と知ってからは微かに身体が震えている。それに、震えを断ち切って、無惨に立ち向かったとしても、周りの人がこいつのせいで被害に遭ってしまう可能性もある。ここは無理に動かない方がいいだろう。

 

 不幸中の幸いなのが、無惨は今のところ僕が鬼殺隊の隊員だと気付いていないことだろう。瑠璃ちゃんの言葉通り、医者だと勘違いしているはずだ。

 

 だから…………、せめて何か少しでも、こいつの情報をここで手に入れることにしよう。

 

 動揺するな…………って言われても、それは無理な話。だから、せめて不自然に見えないように意識する。

 

 「お兄ちゃん?どうしたの?」

 

 「あぁ、すみません。実は僕、山育ちでして。こういう都会のような人混みの多いところには余り慣れてなくて、偶にめまいを起こしてしまうんです。」

 

 まぁ、嘘ですけどね。炭治郎だったらありえそうだけれども。僕は大丈夫だ。

 

 「そうなんですか。それはお気の毒に。」

 

 「あはは、よく言われます。」

 

 「あの………、実はですね、私たち今から食事をしにある店に向かう所だったんです。なので、お礼と言ったらなんですが………ご一緒にいかがですか?ね、月彦さん。」

 

 「そうですね。瑠璃がこうして無事に見つけることが出来たのも貴方のおかげですし………。是非、お礼させてください。」

 

 「あ、いえ!自分、そんなつもりでは……」

 

 

 グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 

 

 「あ………」

 

 「あはは、どうやら身体は正直みたいですね。今から行く店、牛鍋が有名でとっても美味しいんです。良かったら一緒に行きませんか?娘もどうやらあなたと一緒がいいみたいだ。」

 

 「うん!お兄ちゃん、一緒に牛鍋食べに行こ?」

 

 「…………そうですか。では、お言葉に甘えて」

 

 まさかの鬼の頭に食事を誘われることになるとは。絶対に胡蝶さんや栗花落、アオイ先輩に話しても信じて貰えないだろうなぁ。

 

 僕は瑠璃ちゃんと会話しながら、鬼舞辻無惨が瑠璃ちゃんの母親と楽しそうに会話しているのを眺める。こうして見ると、マジで普通の人間にしか見えない。まさか、奥さんも瑠璃ちゃんも目の前にいる人が鬼で大量の人間を殺めてるなんて思ってもみないだろう。

 

 「ん?どうかしましたか?」

 

 視線で察しられたのか、無惨は僕に話しかける。動揺しそうになった僕は誤魔化すかのように

 

 「あぁ、特に何もありませんよ。ただ、月彦さん少し顔色が悪いように見えたのでお疲れなのかな………と。」

 

 

 「顔色が…………悪い??」

 

 

 ゾッッッッッッッッッ!!!???

 

 

 「ーーーーーーーーーーッッ!?」

 

 無惨のこの一言で一気に空気が変わった。まるで押しつぶされそうな、圧倒的威圧を無惨から感じる。なんだよ、これは!?

 

 「そんなに私の顔色が悪いように見えますかね?」

 

 ギリッと無惨の紅い瞳が僕を睨みつける。その瞳には、少しだけ怯えていると分かる僕の表情が映し出されていた。

 

 

 落ち着け………、自然に対応するんだ。

 

 

 「一応、医学の道に精進してる者として気になったもので………。癇に障るようなことでしたら謝ります。すみませんでした。」

 

 平常心をなんとか装い、僕は頭を下げる。

 

 「…………確かに、ここ最近は仕事続きで疲れているのかもしれません。私の方こそ、すみません。なんか問い詰めるような言い方をしてしまって。」

 

 無惨はそう言って、僕に謝罪の言葉を出した。どうやら、僕の言葉を信じてくれたらしい。先程の威圧のようなものは全く感じられない。今のは、一体なんだったのだろうか。

 

 念の為、さらに行動に出ることにしよう。

 

 「あの、月彦さん。これ、良かったらどうぞ。」

 

 「これは?」

 

 僕は懐から小袋を2つ手にして無惨に差し出す。すると、無惨はそれを受け取り興味深そうにする。

 

 「栄養薬です。疲労回復に特化してるので就寝前とかに服用してください。次の日、楽になってると思います。」

 

 「そうなんですか?ありがとうございます」

 

 無惨は真顔でそう言いながら、僕があげた薬を懐へとしまった。まぁ………、栄養薬っていうのは嘘なんですけどね。

 

 

 そして、麗さん曰く、牛鍋のお店が近くなっているということを耳にした瞬間ーーー

 

 

 「ん?」

 

 

 何かがこちらに目掛けて走って来ている気がする。しかも、この感じ…………。まさか!?

 

 

 すると、人混みの中から1人の男性が、まるでこの世の全てを恨んでいるかのような表情で現れて鬼舞辻無惨の肩を思いっきり掴む。

 

 

 「ーーーーーーーーーーッッ!!!」

 

 

 その掴んだ相手とは、俺の親友であり、この目の前にいる鬼舞辻無惨に家族を殺され、妹である禰豆子ちゃんを鬼にされた竈門炭治郎であった。

 

 



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22話『鬼でもあり医者でもある』

ようやく登場することができたぁぁぁ!!!

ちょうどキリのいいところまでですので、少し短めです!!


 どうして、ここに炭治郎が………!?

 

 炭治郎が鬼舞辻無惨の肩を掴んでいるのを見て、真っ先に思った。まさか、こいつも浅草で任務があったとかなのだろうか。

 

 それに、今のこいつの表情………。恐らくだけど、炭治郎も気付いているな。目の前の男が鬼舞辻無惨であるということに。憎しみが篭っている表情で睨みつけているのが証拠だ。

 

 きっと、僕が感じた胸騒ぎがあの時と似ていると同じように、炭治郎も自慢の鼻で匂いに気づいてたんだと思われる。

 

 それよりも、この現状………。ハッキリ言って不味いな。炭治郎は今、鬼舞辻無惨にしか視界に入っていない。麗さんや瑠璃ちゃん、なんなら僕のことにすら気付いていない。

 

 炭治郎はそのまま、葵枝さん達の仇をとるべく、刀に手をつけようとする。しかし………

 

 「お父さん………だぁれ?」

 

 「ーーーーーーーーッッ!?」

 

 瑠璃ちゃんの声で、炭治郎はようやく周りにいる人間に気付く。それと、同時に鬼舞辻無惨が人間のふりをして暮らしていることも理解するはずだ。

 

 因みに、当然のことながら僕が鬼舞辻無惨の傍にいることも炭治郎は気づき驚きの表情を浮かべる。

 

 炭治郎はあまりの衝撃を受け、動揺してしまったのか、息を上げて言葉を出さなくなってしまった。

 

 「あら?どうしたの?……お知り合い?」

 

 「いいや、困ったことに少しも………知らない子ですね。」

 

 麗さんの言葉に、鬼舞辻無惨は困った表情を装いながら言葉を出していく。

 

 「人違いでは………ないでしょうか?」

 

 

 "スグニ、シャガメ!!"

 

 

 「ーーーえ?」

 

 突然、勘が僕に危険信号を出しながらしゃがめと叫びだす。なので、反射的に僕は膝を曲げて、すぐにしゃがむとーーー

 

 

 ーーースカッ

 

 

 「は?」

 

 「…………………チッ」

 

 しゃがんだ瞬間、僕の頭が先程まであった場所に何かが凄い速さで通り過ぎ、勢いよく風が起こる。よく見ると、鬼舞辻無惨の腕だった。

 

 攻撃が外れた鬼舞辻無惨は小さく舌打ちをした後、その隣を歩いていた2人の男女の内の男性の方の首に目掛けて引っ掻いた。勿論、これも目に止まらぬ速さでだ。

 

 

 「「ーーーーーーーーッッ!?」」

 

 

 炭治郎も鬼舞辻無惨が行った行動が視界に映ったのか、僕と同じように驚いているのかが分かる。

 

 「うっ……」

 

 「あなた、どうかしましたか?」

 

 鬼舞辻無惨に引っ掻かれた男性は痛そうに唸りながら女性の方に倒れ込む。女性は男性を支えながら心配そうに声をかけるがーーー

 

 「ウガァァァァァァ!!」

 

 「やめっ!!」

 

 

 ーーーガブリ

 

 

 「キャアアアアアア!!?」

 

 顔中に血管を浮かべ、豹変した顔つきで男性は雄叫びを上げながら女性に襲いかかり、肩に目掛けて噛み付く。

 

 あの表情は…………禰豆子ちゃんが僕達に襲いかかった時と同じ表情!?まさか……….今、この瞬間に、鬼舞辻無惨はこの人を鬼にしたのか!!

 

 てことは、僕はあとコンマ秒しゃがむのが遅かったら、禰豆子ちゃんやあの男性みたいに鬼と化していたのかもしれなかったということ。そう思うと、心臓が激しく動いているのを感じる

 

 男性に噛み付かれた女性の肩からは血が溢れ、それを見た周りの人達はザワザワと騒ぎ始める。これはまずいぞ!!

 

 「炭治郎!!」

 

 「あ、あぁ!!」

 

 俺は炭治郎に声をかけたあと、この場から離れて女性の方に足を運ぶ。遅れて、炭治郎も僕の後に続く。

 

 

 「「おりゃあ!!」」

 

 

 僕と炭治郎は同時に、女性を襲う男性に勢いよくタックルを食らわして、ひとまず女性から離れさせる。その後、僕は怪我を負った女性の元に駆け付け、炭治郎は被っていた頭巾を外してそれを男性の口の中に突っ込む

 

 「あなた!!」

 

 「奥さん……、今は自分のことを優先にしてください。今、応急処置をします。」

 

 僕は瑠璃ちゃんに行ったのと同じように、傷口を消毒して布を巻いていこうとしたが、出血が酷いことに上手いようにはいかなかった。

 

 炭治郎は未だに暴れ出す鬼と化した男性を押さえ込み、僕は止血剤を女性に投入する。

 

 「麗さん危険だ。向こうへ行こう」

 

 瑠璃ちゃんは涙を浮かべ、鬼舞辻無惨に抱きつき、表情を明らかに青くした零さんに鬼舞辻無惨は言葉をかけてこの場から離れようとする。

 

 「クソっ………!!」

 

 今すぐにあいつのことを逃げられないように追いかけたいが、まだ女性の血は止まる気配はないい。この場から離れる訳にはいかないし、ただ鬼舞辻無惨が姿を消すのを眺めるだけだった。

 

 

 「鬼舞辻無惨!!俺はお前を逃がさない!!どこへ行こうとも!!」

 

 

 僕と同じように男性を押さえ込んで、離れられない炭治郎はせめてと言わんばかりに鬼舞辻無惨に向かって大声で叫ぶ。

 

 

 「地獄の果まで追いかけて必ずお前の頸に刃を振るう!!絶対にお前を許さない!!」

 

 

 「炭治郎…………」

 

 家族を殺され、妹を鬼にされた元凶が目の前にいるのに、それを逃げられるのを眺めることしか出来ない炭治郎にとって今はとても辛く悔しいことだろう。

 

 炭治郎の叫び声に鬼舞辻無惨は少しだけだが、こちらの方に顔を向ける。

 

 「ん?」

 

 鬼舞辻無惨は炭治郎の何かを見て、何か反応を示した。何を見てるんだ?………耳飾り?鬼舞辻無惨は炭治郎が普段から付けている父親の形見である耳飾りを見て動揺していた。

 

 

 どうして耳飾りなんかを………??

 

 

 「貴様ら何をしている!!」

 

 「酔っ払いか?離れろ!!」

 

 「下がれ下がれ!!どけ!!」

 

 人混みの中から、何人かの警察官が声を上げながら現れる。街中でこんだけ騒げば当然か。

 

 それよりも、まずい………。鬼という存在が警察にバレてしまうかもしれない。

 

 「ダメだ!拘束具を持ってきてください!頼みます!」

 

 男性を押さえ込んでいる炭治郎は警察官に拘束具を持ってくるようにお願いするが、警察官共は聞く耳持たずで、炭治郎を男性から剥がそうとする。ここで、炭治郎を剥がしてしまえば、きっと男性は周りにいる人たちを襲いかかってしまう。

 

 「やめてください!!俺達以外はこの人を押さえられない!!」

 

 それを分かってか、炭治郎は警察官の手を必死になって拒む。確かに、炭治郎の言う通り、この場でこの人を押さえることは僕達だけだ。警察官が束になったところで無意味だろう。被害が広がるだけだ。

 

 「あっ、なんだこいつの顔、これは!?」

 

 「正気を失っているのか!?」

 

 警察官共は、暴れる男性の顔を見て怪訝な表情を浮かばせながら言葉を出していく。

 

 「少年を引き剥がせ!!」

 

 「わかった!!」

 

 そう言って、更に炭治郎を引き剥がそうとする警察官たちが1人、1人と増えていく。いくら、鍛えている炭治郎でも引き剥がそうとする男共が増えれば抵抗するのも厳しくなっていく。

 

 

 「やめてくれ!!この人に誰も殺させたくはないんだ!!邪魔しないでくれ!!お願いだから!!」

 

 

 引き剥がそうとする力が強まっても、炭治郎は必死に抵抗しながらお願いの声をあげる。しかし、それでも警察官共はやめようとはしない。

 

 こうなったら…………

 

 「奥さん、少しだけここで待っててください。」

 

 僕は女性に声をかけたあと、炭治郎達の方へと駆け付ける。

 

 その際、懐から注射器を手に取る。容器の中には、毒が入っている。とは言っても、数時間ほど全身に痺れが起きて身動きが取れなくなる程度のものではあるが。勿論、命に支障はない。

 

 これを、警察官共にぶち込んで炭治郎と男性を、ここから離れさせる。もし、これをした場合、社会的に僕は罪人扱いとなってしまうが、そんなことを気にしている場合ではない。

 

 この状況をなんとかできるならば、上等だ。

 

 

 「この人から離れやがれぇぇぇぇ!!!」

 

 

 炭治郎達を引き剥がそうと必死で、僕の存在に気づいていない警察官達に注射器の針をぶっ刺そうとした瞬間ーーー

 

 

 「惑血 "視覚夢幻の香"」

 

 

 ーーーブワッ!!!

 

 

 「「ーーーーーーーーッッ!?」」

 

 

 唐突に傍から女性らしき声が聞こえたあと、僕達の周りに美しい何十種類にも及ぶ花紋様が現れ、覆い尽くす。

 

 「なんだ、この紋様は!?」

 

 「周りが見えない!!」

 

 突然に現れた花模様は次々と野次馬共含め、警察官すはも払い除ける。気がつけば、この場にいるのは僕と炭治郎と鬼と化した男性だけになっていた。

 

 なんだ、これは。まさか、攻撃か!?

 

 警戒した僕はすぐさま、いつでも刀を抜けるようにさやに手をかける。炭治郎も同じく警戒するが、男性を押さえつけているので特に何も出来ない。

 

 「あなたは………、あなた達は鬼となった者にも『人』という言葉を使ってくださるのですね。そして、助けようとする。」

 

 すると、僕達を覆う花模様から2人の男女が現れた。女性は、誰もが1度見たら記憶に忘れることはないだろうと思わせるほど美しく、魅力的な容姿をしている。葵枝さんみたいな感じだ。

 

 そして、男性の方は、見た目的には僕達と年齢がそう変わる無い風に見えるが、こちらも女性からすればかっこいいと思わせるような容姿をしている。しかし、何故だろうか。めちゃくちゃ敵対剥き出しの視線を僕達に送り付けるかのように睨み付けてくる。

 

 この2人のどちらかが、もしくは両人がこの花紋様を出したと思われる。

 

 「ならば、私もあなたを手助けしましょう。」

 

 女性は静かに言葉を出す。よく見てみると、彼女の手には引っ掻き傷のようなものがあり、そこから血が出ている

 

 すぐに手当しなくては!!、と思い駆けつけようとするが

 

 「問題ありませんよ。」

 

 僕の行動の意図を察したのか、女性は僕に止まるよう声をかけながら出血している方の腕を上げる。そして、その後に起こった光景を見て、思わず僕は足を止めてしまった。

 

 なぜなら、少しずつ、彼女の傷が塞がってきているからだ。本来ならば、あの傷ならば完治するのに数週間はかかるはずだ。

 

 つまり、この人は……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そう。私は鬼ですが医者でもありあの男………鬼舞辻を抹殺したいと思っている。」




次回もお楽しみに。(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+*ペコ


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23話『あります』

休学になったので、なんとか完成させました。
よろしくお願いします。


 自ら鬼だと、そして、鬼でありながら鬼舞辻無惨を抹殺したいと明かした女性に詳しいことを聞こうとしたが、彼女から場所を変えたいと言われたため、うどん屋さんに置いてった禰豆子ちゃんを回収するべく一先ず別れた。

 

 てか、いくら鬼舞辻無惨の匂いがあったからって禰豆子ちゃんを置いてくなよ………。何かあったらどうしてたんだ。全く………。

 

 炭治郎の後をついていくと、うどん屋さんの屋台の前にいた禰豆子ちゃんが1人の禿げている男性に大声で何か言われていた。

 

 「俺はな!!俺が言いたいのはな!!金じゃねぇんだ!!お前が俺のうどんを食わねって心づもりなのが許せねぇのさ!!」

 

 禿げている男性……、恐らく、このうどん屋さんの店主だろう。

 

 僕はジト目で炭治郎を見ながら言葉を出す。

 

 「お前………、まさか注文してから来たのか?」

 

 「………あぁ。」

 

 「バカなの?」

 

 それだったら、あの店主が怒るのは無理はない。見た感じ、自分の腕に誇りを持っている人だと思われる。そんな人が、一生懸命作ったというのに、その場には知能が低下して、まともに人と話せない女の子1人となれば、怒って当然だ。まぁ、状況が状況が仕方が無いとはいえ、せめて一言、店主さんに何か言うべきだっただろう。

 

 「まずその竹を外せ!!何だ、その竹!!箸を持て、箸を!!」

 

 そう言って、店主が禰豆子ちゃんに無理矢理、箸を持たせようとしたので……

 

 「すみません、店主さん!!」

 

 僕は急いで、両手を広げながら2人の間に入りこみ、箸を持っている方の腕を掴む。

 

 「あぁ!?なんだ、お前は!!」

 

 「この子と、注文しておきながら、何も言わず、この場に離れたあのバカの友達です!!すみませんが、山かけうどん追加で2個、お願いします!!ちゃんと食べるので!!」

 

 「食べるんだな!?」

 

 「はい、食べます!!汁1滴残さず!!」

 

 「よし!!少しばかり待っとけ!!」

 

 「お願いしゃす!!!」

 

 屋台に戻っていく店主を頭を下げながら見届けた僕は、近くにある長椅子に腰を降ろした。なんか、変なテンションで話を進めたから、疲れたわ。

 

 「ほら、炭治郎も隣、座れよ」

 

 「あ、あぁ。ごめんな、鈴蘭。迷惑かけて」

 

 「迷惑かけるのはいつものことだろうが。まぁ、気にするなよ。うどん、ちゃちゃっと食べて行こうぜ。」

 

 「分かった。」

 

 そんな会話を炭治郎と交わしていると、目の前に美味そうな山かけうどんが2つ置かれる。

 

 「へい、お待ち!!山かけうどん2杯だ!!味わって食いな!!」

 

 「「いただきます!!!」」

 

 

 ーーーズルズルズル

 

 

 「なっ!?」

 

 勢いよく、食べ始める僕達の姿を見て、店主は驚きの声を上げる。それにしても、マジで美味しな、この山かけうどん。麺はしっかりとコシがあるし、汁も出汁がちゃんと効いてる。そして、上に乗っている山芋のトロロと生卵が絡みついて最高な味付けだ。

 

 美味しすぎて、あっという間に完食してしまった。我ながら良い食いっぷりだと思う。今度、きよちゃん達を連れて来ようかな。

 

 隣を見ると、炭治郎も食べ終えていたので、2人揃って腰をあげる。

 

 「ご馳走様でした。美味しかったです!!」

 

 店主さんにお金を渡しながらそう言うと、少しだけ照れながら大声で言葉を出した。

 

 「分かればいいんだよ、分かれば!!毎度ありがとうな!!」

 

 なんだ、普通にいい人じゃん。是非とも、またの機会に足を運ぶとしよう。

 

 「さて、どうする?あの2人がどこにいるのか分からないんだが。」

 

 「大丈夫だ。俺、2人の匂いを覚えているから、それを辿って行こう」

 

 「了解。頼むよ」

 

 こういう時に、炭治郎の鼻の良さは本当に助かる。炭を街に売りに行く時も、炭治郎の鼻を頼りに何かお願いする人も何人かいたっけな。あの日々が本当に懐かしく感じる。

 

 そして、炭治郎が匂いを頼りに歩こうとした所で

 

 ーーーグッ

 

 「禰豆子ちゃん??」

 

 手を繋いでいる禰豆子ちゃんが唐突に足を止める。そして、何かを睨みつけていた。その先に視線を移すと、そこには、鬼と名乗った女性のそばに居た男性が立っていた。この人も、禰豆子ちゃんと対抗するかのように僕達のことを、睨みつけている。

 

 「待っててくれたんですか?俺は匂いを辿れるのに………。」

 

 「目くらましの術をかけている場所にいるんだ。辿れるものか。それより………」

 

 男性は、禰豆子ちゃんに指をさしながら衝撃的な言葉を呟いた。

 

 

 「鬼じゃないか、その女は。しかも、醜女だ。」

 

 

 しこめ………しこめ?しこめって確か、漢字で書くと……酷い女でしこめだったよな………。え、誰が?この場にそんな奴いたっけ??

 

 

 え?もしかして、禰豆子ちゃんのこと言ってる!?

 

 

 「醜女のはずがないだろう!!よく見てみろ、この顔立ちを!!町でも評判の美人だったんだぞ、禰豆子は!!」

 

 醜女と言われたのが禰豆子ちゃんだと気づいた炭治郎は青筋を浮かべながら反論する。確かに、炭治郎の言う通り、町では評判だったな。歳の近い男どもが何人も禰豆子ちゃんに好意を抱いているのも知っている。

 

 んー、それより、こいつ。どうしようかな?流石に、大切な可愛い妹分を馬鹿にされては、こちらとしても黙ってはいられない。態度も何か気に入らないし。

 

 殺るか?今、この場で。そんで、死体を屋敷に持ち帰って、毒の媒体用として使い物にならなくなるまで、永遠に僕の実験道具として活用させて…………っと、いけない、いけない。医者を目指す者としてあるまじき思考をしていた。落ち着け、僕よ………。

 

 それでも、こいつの発言は許されないから、いつか仕返しをすることにしよう。マジで覚えておけよ?

 

 「行くぞ」

 

 「いや、行くけれども!!醜女は違うだろう、絶対!!もう少し明るいところで見てくれ!!ちょっとあっちの方で」

 

 炭治郎は何とか、醜女発言を撤回するように、奮闘するが、この男性は気にすることなく歩き始める。安心しろ、炭治郎。お前の仇は僕が討ってやるから。

 

 歩いていると、立派な豪邸へとたどり着いた。あれ?ここ、さっき通った覚えがあるけど、こんな豪邸なかったぞ?

 

 よく見ると、その豪邸には不気味な札が貼られていた。なるほど、あの札が目くらましとして役に立っているのか。これなら、一般人がこの豪邸を見つけるのはほぼ無理だろう。

 

 「戻りました」

 

 豪邸の中に入り、ある部屋に入ると、そこには先程の女性と、被害にあった奥さんが顔を青くしながらベットの上で横になっていた。

 

 「この口枷のせいかもしれない!!これを外した禰豆子をもう一度見てもらいたい!!」

 

 いや、まだ対抗していたのかよ。いい加減、黙れや!!

 

 「おかえりなさい。」

 

 「あっ、大丈夫でしたか?おまかせしてしまい、すみません。」

 

 女性と奥さんの姿を見た炭治郎は正気を取り戻して、申し訳なさそうに言葉を出す。

 

 「この方は大丈夫ですよ。ご主人は気の毒ですが、拘束して地下牢に。」

 

 女性は、奥さんのおでこに手を添える。被害にあった奥さんに命に別状がないことを知れて安堵の息を吐く。でも、心は肩の傷以上に酷い傷を負ってしまったことだろう。なにせ、彼女は大事な人に襲われてたのだから。それも、唐突に。

 

 「……人の怪我の手当をして辛くないですか??」

 

 は?お前、急に何を言って………

 

 

 ーーードン!!

 

 

 「ぐえっ!?」

 

 炭治郎は隣いた男性に暴力を振るわれる。これは炭治郎が悪いわな。だから、こちらから特に何か言う必要は無い。

 

 「鬼の俺たちが血肉の匂いにヨダレを垂らして耐えながら、人間の治療をしているとでも?」

 

 そう。僕達からすれば、基本、鬼というのは血肉を貪る生き物だと認識している。現に、過去に出会ってきた鬼もそうだった。御堂で会った鬼、選別や初任務で戦った鬼、どいつもこいつも。

 

 しかし、この人達は違う。これは、別に勘とかではない。実際に、人を助けている。それに、そこら辺にいる鬼ならば、そもそも鬼舞辻無惨を抹殺したいなんて思わないだろう。

 

 「よしなさい。なぜ、暴力を振るうの?」

 

 女性が軽く注意すると、男性はぐぬぬ……と手を引っこめる。なんか、お母さんに怒られている子供みたいだな

 

 「名乗っていませんでしたね。私は珠世、と申します。その子は愈史郎。仲良くしてやってくださいね」

 

 仲良く?ははは、それは無理な話だろう。愈史郎くん、凄い僕達のことを睨みつけてるから。

 

 「辛くはないですよ。普通の鬼より、かなり楽かと思います。私は、私の身体を随分、弄ってますから鬼舞辻の呪いも外しています。」

 

 「呪い?」

 

 呪いとは何だろうか?まだ、鬼には何かあるのか?

 

 「身体を弄ったというのは?」

 

 気になった単語について、僕は珠世さんに質問する形で聞く。

 

 「人を食らうことなくして暮らしていけるようにしました。人の血を少量飲むだけで事足りる」

 

 「血を?」

 

 「不快に思われるかもしれませんが。金銭に余裕のない方から輸血と称して血を買っています。勿論、彼らの体に支障が出ない量です。」

 

 なるほど。なんか、この人たちが鬼でありながら不思議な雰囲気を漂わせていたのはそれが理由か。

 

 医者となれば、普通にお金に余裕はあるはずだし、それを利用して血を買うとは中々上手いことして活動しているな。

 

 「愈史郎はもっと少量の血で足ります。この子は私が鬼にしました」

 

 「えっ!?あなたがですか!?でも、え!?」

 

 炭治郎が驚くのも無理はない。僕も内心、驚いている。人を鬼にすることが出来るのは、鬼の頭である鬼舞辻無惨だけのはずだ。

 

 「そうですね、鬼舞辻無惨以外は鬼を増やすことが出来ないとされている。それは概ね正しいです。」

 

 

 「200年以上かかって、鬼にできたのは愈史郎ただ1人ですから。」

 

 

 200年かかって、鬼にできたのは愈史郎くん1人だけ?やはり、鬼舞辻無惨以外が人を鬼にするのは難しいことだと分かる。

 

 

 「200年以上かかって、鬼にできたのは愈史郎ただ1人ですから!?珠世さんは何歳ですか!?」

 

 

 「馬鹿やろう!!女性に歳を聞くな!!」

 

 炭治郎の言葉で、またしても愈史郎くんが暴力を振りそうになったが、その前に僕が炭治郎の頬を思いっ切り叩く。周りが女性ばかりの環境にいた身として、その質問は絶対にしてはいけないものだと分かっているからだ。

 

 「すみません、うちの阿呆が。たまに、馬鹿正直に言葉を出す時があるんです。今後、そうならないように僕の方からしっかりと注意しておくので許したって下さい。」

 

 「だって、気になるじゃないか!!」

 

 「無礼者!!」

 

 「ぐえっ!?」

 

 僕の謝罪を崩すかのように、炭治郎は追い討ちの言葉を出す。もう、ダメだ。こいつ。それによって、結局は愈史郎くんに殴られてるし

 

 「愈史郎!次にその子を殴ったら許しませんよ!」

 

 「はい!」

 

 「いえ、珠世さん。悪いのは炭治郎なんで。」

 

 珠世さん、少し優しすぎない?悪いのは炭治郎ですよ?

 

 「1つ誤解しないで欲しいのですが、私は鬼を増やそうとはしていません。不治の病や怪我を負って余命幾許もない、そんな人にしか、その処置はしません。その時は必ず本人に、鬼になっても生きながらえたいか尋ねてから………します。」

 

 医者としての気持ちが故の行動……という訳か。しかも、それだけじゃない。最後の一言を言う時、表情にあまり出していなかったが、彼女はとても悲しそうにしていた。

 

 まるで………、自分の様にはならないように。という気持ちが込められているように感じる。

 

 それも、彼女が鬼舞辻無惨を抹殺したいという想いになったきっかけなのだろうか。

 

 これは、僕の勘に過ぎないので、聞こうとは思わないが。けど、僕の勘は当たるしなぁ……、多分、そうなのだろう。

 

 彼女が、放った言葉に嘘がないということが分かったのか、炭治郎は真剣な表情を浮かべて、言葉を出した。

 

 

 

 「珠世さん。鬼になってしまった人を……、人に戻す方法はありますか?」

 

 

 

 炭治郎の言葉に珠世さんは、ゆっくりと一言。

 

 

 

 

 「あります。」

 

 

 

 

 ーーーーーーーズキッ

 

 

 

 

 本当ならば、喜ばしいことなのに。

 

 

 鬼になってしまった禰豆子ちゃんを人に戻せるかもしれないというのに。

 

 

 珠世さんが発した一言で、僕は胸に強い痛みを感じた。




なぜ、鈴蘭は胸に痛みを感じたのか。その理由は次回で。


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24話『嫉妬』

 「ッッ!?教え下さーーー」

 

 「寄ろうとするな!!珠世様に!!」

 

 鬼から人間に戻す方法があると確信的に発言した珠世さんに対して、炭治郎は彼女に飛びつくような形で教えを乞うが、愈史郎くんに投げられた。

 

 「………愈史郎」

 

 手を出してはいけないと愈史郎くんに注意した珠世さんは少しだけ顔を怖くして愈史郎くんの名を呼ぶ。あ、こいつ終わったな。

 

 「投げたのです。珠世様、殴ってません」

 

 愈史郎くんはそう言って、目をキランとさせる。いや、ダメでしょ。

 

 「どちらもダメです」

 

 ほらね。普通に考えて分かるだろうが。

 

 「……どんな傷にも病にも必ず薬や治療法があるのです。ただ、今の時点では鬼を人に戻すことは出来ない。」

 

 「………………」

 

 

 "今の時点では鬼を人に戻すことは出来ない"

 

 

 珠世さんのこの言葉を聞いて、今度は胸が少しだけ軽くなったのを感じた。さっきまでは凄く痛かったはずなのに。

 

 いや、……………なぜ、胸が痛くなったり、軽くなったりした理由は本当は分かってる。分かってるんだ。

 

 自分がこの現実に対して受け入れていないだけ。それだけのこと。

 

 それは…………

 

 「ですが、私たちは必ず、その治療法を確立させたいと思っています。」

 

 

 

 この人達なら…………、僕の望みを。本来なら、僕が鬼殺隊になってまで、やり遂げたかった禰豆子ちゃんを鬼から人に戻すことを、この人たちがやり遂げてしまうかもしれない、と言う嫉妬のようなものだ。

 

 

 

 医者であり、鬼でもある珠世さんならば、当然、僕達よりも圧倒的な差で鬼について詳しいはず。なんなら、もう遥かに長い年月をかけて鬼について研究していることだろう。

 

 ならば、彼女は近いうちに鬼になってしまった者を人間に戻す方法を見つけるのは時間の問題かもしれない。

 

 

 しかし、もし、そうなったら………僕はどうなる??

 

 

 僕は………何のために鬼殺隊に入ったんだ??何のために鱗滝さんや胡蝶さんの元で地獄のような修行の日々を乗り越えてきたんだ??

 

 

 鬼になってしまった親友である竈門炭治郎の妹である禰豆子ちゃんを…………人に戻す方法を見つけるためだろう。

 

 

 そのために………僕は今まで頑張ってきたんだ。

 

 

 だからかもしれない。今は素直に喜べない自分がいる。複雑な気分だ。

 

 

 「治療薬を作るためには沢山の鬼の血を調べる必要がある。貴方達にお願いしたいことは2つ」

 

 そう言って、珠世さんは僕達に2つの願いを言ぅた。

 

 1つは禰豆子ちゃんの血を調べさせて欲しいということ。珠世さん曰く、禰豆子ちゃんは鬼の中で極めて稀で特殊な状態だという。2年間という長い年月の間、人の血肉や獣の肉を口にしないと間違いなく凶暴化するのにも関わらず、禰豆子ちゃんに特に異変がないということはやっぱり、彼女の中で何かがあるらしい。

 

 そして、もう1つはできる限り鬼舞辻無惨の血が濃い鬼から血液を採取して欲しいというものだった。奴の血が濃いければ濃いほど、鬼舞辻により近い強さを持つ鬼だということ。そんな鬼から血を採取するのは簡単なことでは無いが、治療薬を作る上では欠かせないものらしい。

 

 「それでも、貴方達は………この願いを聞いてくださいますか?」

 

 珠世さんは申し訳なさそうに僕達に言葉をかける。

 

 ここで、すぐに「分かりました」と言えればいいが、そう簡単に口を動かすことは出来なかった。僕の中で、まだ色々と追いついていない気持ちがあったからだ。

 

 だから、先に言葉を出したのは炭治郎からだった。

 

 「…………それ以外に道が無ければ俺はやります。珠世さんが沢山の鬼の血を調べて薬を作ってくれるなら。けど………」

 

 炭治郎は炭治郎らしい言葉を出したあと、僕の方をチラッと見る。多分…………、自慢の鼻で僕が抱えている内容について察したな。

 

 仕方がない。ここは正直に言うことにしよう。

 

 

 「僕は……………、はっきり言ってそう簡単に首を縦に振ることはできません。」

 

 

 「ーーーッッ」

 

 「………そうですか」

 

 僕の発言に、炭治郎は少し悲しそうな表情を浮かべ、珠世さんは真顔ながらも目を伏せて呟いた。

 

 「貴様!!珠世様の願いを受けないというのか!!」

 

 「ッッ、愈史郎!!やめなさい!!」

 

 愈史郎くんは青筋を浮かべながら、僕の胸ぐらを強引に掴みあげる。しかし、珠世さんも愈史郎くんに大きく声を上げたため、すぐに僕は解放された。

 

 「ごめんなさい。」

 

 「いえ、大丈夫です。」

 

 「あと………、理由を聞いてもいいですか?」

 

 珠世さんに謝れたあと、僕が首を縦に振れない理由を聞かれる。まぁ、気になるか。

 

 

 「僕が鬼殺隊になった理由………。それは禰豆子ちゃんを鬼から人に戻す方法を炭治郎と一緒に見つけるためなんです。」

 

 

 「……………そうなんですか?」

 

 珠世さんが炭治郎に目線を移すと、炭治郎は肯定するかのように頷いた。

 

 

 「はい。んで、僕は将来………医者になるという夢も持ってます。だから、尚更………もしかしたら炭治郎以上に"鬼"になる病気に患ってしまった禰豆子ちゃんを人に戻したいという気持ちがあるかもしれません。医者にすらなってない奴が何言ってんだ、って話になりますけど。」

 

 「……………………鈴蘭さん」

 

 

 「だから………、こうして珠世さん達の存在を知ってですね………、その………嫉妬みたいなのが出てきちゃった訳です。僕じゃなくて、珠世さん達が禰豆子ちゃんを人に戻すんじゃないかって。」

 

 

 「…………………鈴蘭」

 

 

 「そりゃあ分かってますよ。僕なんかより、貴女に任せた方が絶対に良いって。その方が、炭治郎の為にもなるって。それが分かってるからこそ………その………めちゃくちゃ悔しい。まるで、僕がこの場にいらないみたいに感じてしまう。」

 

 

 「ーーーッッ、そんなこと!!」

 

 ないって言ってくれるんだろ?炭治郎ならそう言うと思ってた。けど、違うんだよ。

 

 

 「鬼を倒して血を採るとかだったら、別に僕や炭治郎以外の隊員でもできるだろ。問題はその先だ。鬼から人に戻す方法を僕は見つけ出したいんだよ。禰豆子ちゃんを助けるために」

 

 

 

 「だから………すみません。僕は………貴女のお願いことを簡単には引き受けることができないです。」

 

 

 

 「そうですか」

 

 自分の気持ちをある程度さらけ出した僕は珠世さんに頭を下げながら言葉を締める。それを聞いて、珠世さんはーーー

 

 「なら、鈴蘭さん。私の方から1つ提案があります。」

 

 人差し指をピンと上の方にさして、そう言葉を出した。

 

 「提案?」

 

 一体、なんなのだろうか。少しモヤモヤとさせながらも興味津津で彼女の言う提案を聞こうとした。

 

 「はい。それはーーー」

 

 

 

 ーーーピシィィィィィン!!!!

 

 

 

 「ーーーーーーッッ!!!???」

 

 

 珠世さんが言葉を出そうとした瞬間、俺の勘が今すぐにこの場から伏せろと頭の中でガンガン告げた。

 

 

 ここに何かが…………凄い勢いで来ている!?

 

 

 「まずい!!伏せろ!!」

 

 

 僕同様に何かに察した愈史郎くんは僕達に声を上げる。それによって、彼は珠世さんを。僕と炭治郎は禰豆子を覆う形でその場から離れた。

 

 

 ーーーガガガガガガ!!!

 

 

 離れて瞬間、壁から何かが突入し、それは部屋中を駆け巡る。床や壁、家具は崩壊し、一気に周りがボロボロへと化した。

 

 なんとか、全ての攻撃を躱したあと、突入した何かは勢いをなくし、次第に動きが止まった。

 

 

 これは………………

 

 

 

 「毬??」



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25話『例え鬼だとしても』

気付いたら前回の投稿から2ヶ月経ってましたね。
その間に鬼滅の刃も終わってしまった(´TωT`)
更新頻度を上げなくては!!



 なんだよ………この鞠は。まさか、さっきまで勢いよく飛び回っていたのがこれだというのか!?

 

 周りを見てみると、炭治郎と禰豆子ちゃん、そして珠世さんと愈史郎くんは何とか怪我することなく無事だったことに安堵の息を吐く。

 

 ーーーてんてん

 

 「キャハハ、見つけた見つけた」

 

 「ーーーーーッッ!」

 

 窓の方から高い女の声が響き渡る。視線を移すと、そこには2人の男女がいた。そのうち、女の方が両手に鞠を手にして地面に向かってバウンドさせている。恐らく、この女が鞠で攻撃をしかけた張本人でありーーー

 

 

 鬼舞辻無惨の手下で違いない。

 

 

 女の鬼は手にしていた鞠を楽しそうに僕達の方角に目掛けて地面に向かって放り投げる。すると、地面によって跳ねた鞠が勢いよく僕達の周りを飛び回る。てか、何で鞠が飛び回るんだよ!!

 

 勢いからして、もし触れてしまったらタダでは済まないだろう。僕と炭治郎は禰豆子ちゃんを庇いながら躱すが、飛び回る鞠がどう動くのが予測不可能なので躱すのに精一杯だ。

 

 そして、その鞠が運悪くも珠世さんの方へと向かう。しかし、その攻撃に珠世さんは気づいていないようだった。

 

 「珠世様!!」

 

 ーーーバッ。

 

 鞠が珠世さんに触れる直前に愈史郎くんが彼女の前に出る。それによって、珠世さんは無事だったが愈史郎くんの首が吹き飛んでしまった。

 

 「愈史郎さん!!」

 

 その光景を目にして、炭治郎は顔を青くさせながら彼の名を呼ぶ。しかし、彼は鬼だ。こんな攻撃を受けたぐらいでは簡単には死なないはず。

 

 それよりも、屋敷がこの有様なので奥の部屋にいる女性が心配だ。僕は傍にいる禰豆子ちゃんにコソッと声を掛ける。

 

 「禰豆子ちゃん。奥に眠っている女性を外の安全な所へ運んでくれる?」

 

 僕の言葉を聞いて、禰豆子ちゃんはコクリと頷いたあと、奥の部屋へと向かった。

 

 「キャハハ!1人殺した!!………ん?」

 

 愈史郎くんの首を吹き飛ばしたのを見て、女の鬼は嬉しそうに笑う。………が、

 

 珠世さんの前に並んで立ち向かうように刀を抜いて構える僕と炭治郎を見て笑うのを抑えた。

 

 「鈴蘭!この2人………」

 

 「今までの鬼より明らかに違うってことだろ?そんなの、言われなくても分かってるよ」

 

 僕の勘が凄く頭の中で警報を鳴らしまくってるからな。この鬼はヤバいって。

 

 しかも、この鬼達から感じる押しつぶされそうな威圧…………。先程、感じた鬼舞辻無惨と少しだけ似ている気がする。

 

 「耳に飾りの鬼はお前じゃのう」

 

 それって………炭治郎のことか?まさか、こいつら、炭治郎のことを狙って!?

 

 「珠世さん!身を隠せる場所まで下がってください!!」

 

 自分が狙われているということを炭治郎も気づいたのか、背後にいる首のない愈史郎くんを支えている珠世さんに炭治郎は声を掛ける。自分のせいで巻き込まれるのを防ぐためだろう。

 

 「炭治郎さん。私たちのことは気にせず戦ってください。守っていただかなくても大丈夫です」

 

 

 ーーーー鬼ですから

 

 

 「…………………」

 

 最後にそう言葉を口にして炭治郎の呼びかけを拒否した珠世さん。しかし、その時の珠世さんの表情は何だか悲しそうにしていた。

 

 そのタイミングで、女の鬼は鞠を炭治郎の方へと投げる。

 

 

 「全集中・水の呼吸 漆ノ型"雫波紋突き・曲"!!」

 

 

 ッッ、なるほど。炭治郎のやつ、考えたな。

 

 斜めから水の呼吸の中でも1番、最速の突き技である"雫波紋突き・曲"で突いて鞠の威力を和らげたな。これなら、鞠は動かないはずだ。

 

 

 ーーーぶるぶる………ゴッ!

 

 「うっ!!」

 

 「ーーーッッ!?」

 

 どういうことだ!?確かに突いた鞠が何故か動き始めて炭治郎の顔面に当たりやがった。

 

 愈史郎くんに当たった時も、不自然な曲がり方をしていた。特別な回り方をしている訳でもないはずなのに。

 

 これは………きっと。もう1人、別な鬼がいるな。

 

 「珠世様!!!」

 

 おっと、ビックリしたぁ………。唐突に愈史郎くんの声が聞こえてきたのでビクッとなってしまった。後ろを振り向くと…………え、気持ち悪っ

 

 「俺は言いましたよね?鬼狩りに関わるのはやめましょうと最初から!俺の"目隠し"の術も完璧ではないんだ!!貴女もそれは分かってますよね!?」

 

 顔を少しづつ再生させながら愈史郎くんは珠世さんに向かって怒りの声をあげる。

 

 「建物や人の気配や匂いを隠せるが存在自体を消せるわけではない!!人数が増える程、痕跡が残り、鬼舞辻に見つかる確率も上がる!!」

 

 「……………」

 

 愈史郎くんの言葉に珠世さんは申し訳なさそうにして聞き入れていた。彼の言っていることは本当にその通りだったからだろう。

 

 それに、愈史郎くんが口にした"目隠し"の術というもの。その能力があったから敵が近づいても炭治郎の鼻には引っかからなかったのか。僕の勘には引っかかったけれども。

 

 「貴女と2人で過ごす時を邪魔する者が俺は嫌いだ!!大嫌いだ!!許せない!!」

 

 ようやく顔を再生させた愈史郎くんは青筋を浮かべながら更に怒りの言葉を口にする。表情を見る感じ、めちゃくちゃキレてる。相当、珠世さんと過ごす時間を邪魔されるのが嫌だと分かる。

 

 まぁ、彼のその気持ちは分からないことは無いけどな。

 

 「キャハハ!何か言うておる!面白いのう楽しいのう!」

 

 バッと羽織を脱ぎ捨てる女の鬼は本当に楽しそうにして言葉を口にする

 

 

 「十二鬼月である私に殺されることを光栄に思うが良い!!」

 

 

 十二鬼月?十二鬼月ってあの鬼舞辻無惨直属の配下で比べ物にならないぐらい強い鬼だったか?そう胡蝶さんが教えてくれた気がする。

 

 確かに、この鬼は雑魚鬼と比べたら強い。強いが…………

 

 十二鬼月ではない…………はずだ。鬼舞辻無惨と少しの間、会話をして一緒に過ごしたからこそ、そう感じるのかもしれない。

 

 ちなみに炭治郎は初耳だったようで、珠世さんからたった今、教えられていた。鱗滝さんに教えてもらわなかったの?

 

 「遊び続けよう!朝になるまで!命尽きるまで!」

 

 メキメキと女の鬼は腕を2本から6本に生やし始め、手にした鞠を僕達に放り投げた。

 

 1つから6つとなった鞠が更に勢いよく飛び回る。

 

 「「うぉおおおおおおおお!!!」」

 

 襲いかかる複数の鞠を僕と炭治郎は刀を降るって斬る。しかし、斬っても斬っても、斬られた鞠は動き僕達に襲いかかる。

 

 きっと、この場にはいない鬼が軌道を変えてるんだ。

 

 

 ーーーミギマガル、ヒダリマガル、シタカラウエヘ、ソシテサラニ、ミギカラヒダリ。

 

 

 僕の勘が鞠の軌道を頭の中で告げる。その勘が告げたとおりに鞠は曲がるので、僕はそれに合わせて躱したり斬ったりしてなんとか防いでいた。

 

 炭治郎もなんとか鞠を防いでいたが、愈史郎くんと珠世さんは鞠に当たってしまい、頭や身体の1部が欠けてしまっていた。

 

 それを見て炭治郎は庇いに行こうとするが、鞠が邪魔で行くことは出来ない状況だった。

 

 「私たちは治りますから!!気にしないで!!」

 

 

 「気にしないはずがないでしょう。」

 

 

 「ーーーーーーッッ!?」

 

 「貴様!?」

 

 二人のそばに駆けつけた僕を見て、珠世さんと愈史郎くんは驚きの表情を浮かべる。苦戦してる炭治郎には悪いが、こちとら全集中・常中をしているため、僕に襲いかかる鞠は全て早々に処理させてもらった。

 

 「どうして………??」

 

 「どうしてって言われても、怪我してる人がいたら治療する。それが医者ってもんでしょう。それが例え、相手が………………治せる身体を持つ鬼だとしても。」

 

 僕はそう言って、懐から包帯を取り出して手際よく2人の欠けてしまった箇所に巻いていく。愈史郎くんはとても嫌そうな顔してたけど、珠世さんがいるから特に反抗することはなかった。

 

 「確かに貴女達は鬼だ。日光やこの刀で頸を斬らない限りは何をしたって時間が経てば元通りになるかもそれない。けど……………やっぱり痛いだろ。身体も心も。」

 

 「ッッ……………」

 

 そう言って、2人の応急処置を終えたあと、炭治郎に加勢しようとした瞬間に愈史郎くんに話しかけられる

 

 「おい、お前。あの矢印は見えるか?」

 

 「矢印?なんとことだ?」

 

 「ッッ、見えてないのに、お前はあの曲がる鞠に対抗できたというのか!?」

 

 「まぁな。勘だけは誰よりも冴えてる自信があるから。それより、矢印と言ったな?愈史郎くんには見えてるのか?」

 

 「………あぁ、見える。だから、俺の視覚をお前らに貸してやる。そうしたら、あの鞠女の頸が斬れやすくなるだろう。」

 

 愈史郎は懐から2枚の不気味な紙を取り出して、僕のおでこへと貼っつける。そして、残りの1枚は炭治郎の方へと叫びながら投げていた。

 

 愈史郎くんの視覚を借りたからか。彼の言う矢印というものがはっきりと視界に映し出されていた。この方角に鞠が不規則に動いていたのか。

 

 

 そして………その矢印が繰り出される場所は………あの木からだ!!!

 

 

 僕はすぐさま、目標の木の方へと向かう。すると、その木の上には男の鬼が潜んでいた。こいつが鞠の軌道を変えていたに違いない。

 

 

 「蟲の呼吸 蝶ノ舞 『戯れ』!!」

 

 

 「くっ!!」

 

 男の鬼に目掛けて技を繰り出すが、間一髪で避けられてしまった。しかし、その鬼が避けた矢先には禰豆子ちゃんがいつの間にか駆けつけており、顔面に蹴りを入れ吹っ飛ばした。

 

 炭治郎は軌道が見えるようになったからか、鞠の攻撃を『流流舞い』で上手く対抗しながら、女の鬼の腕を切り落としていた。

 

 

 こいつらは十二鬼月ではないとはいえ、他の鬼と比べたら濃い血が採れるだろう。この機を逃す訳にはいかない

 

 

 

 さぁ、反撃開始だ。覚悟しろよ、鬼共が。




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