天災科学者「これが超次元ISサッカーだよ!」 (エルゴ)
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特訓編

 みんな! 「イナズマイレブンIS」を見るときは部屋を明るくして、近づきすぎないようにしてみよう!


 

「もうドンパチやるの危ないから全部ISサッカーで決めよう!」

「は?」

 

 修学旅行から帰って数日。突如ホームルーム中の教室に現れた天災、篠ノ之束はいつも通りの怪しい笑顔で俺達にそう言った。

 急に何を言っている? ISサッカー? 何だそれは、IS装着して玉蹴りしろと? これまでも中々頭のおかしい発言ばかりだったが、今日この発言は特におかしい。脳がサッカーボールになってしまったのだろうか。

 

「いきなり何言ってるんですか束さん。ISサッカーだなんて……なあ皆?」

「全くだ。私はプレー経験がないんだぞ」

「そうですわ。準備というものが……」

「機体の調整だって必要なのに……」

「ん?」

 

 今何か変だったような。

 

「まだこのメンバーでやったことないもんね。ラウラはどう?」

「問題ない。……と言いたいが、こちらの戦力把握の時間が欲しいな」

「私は賛成よ。ISサッカーなら被害は少なくて済むし」

「同じく……。けど、まだ打鉄弐式でやったことはないから、少し心配……」

「ちょっと待ってくれ」

 

 どういうことだ。これではまるで、I()S()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「どうした一夏? まさかISサッカーを知らないなんて言うまいな」

「いや知らん。何それ……」

「「「えっ」」」

「えっ」

 

 何だその反応。俺がおかしいみたいに。

 ISサッカーなんて単語聞いたことないぞ。授業にも出てないし教科書にも載ってなかった。千冬姉に隠れて見てたISの動画にもそんなのなかったぞ。

 

「何を言っとるか。ISサッカーなら授業で何度も教えただろうが」

「千冬姉まで……」

 

 ついに姉までも狂ったか。普段なら馬鹿者と言って出席簿を振り下ろすところだろうに。

 しかし目はマジだ。授業中に怒られるときと同じ目だもん。

 

「冗談だろ……?」

「そんなわけあるか」

「ほんとに忘れちゃったの一夏?」

「勉強不足だぞ」

 

 そんなはずはない。成績はイマイチでもしっかり授業は受けているんだ。この通りノートだってしっかり……そうだ! 本当にISサッカーを教えられているならこのノートに書いてあるはず。

 

「ほらっ! ノートにだってISサッカーなんて……ある!?」

「ほら見たことか」

 

 嘘だろ。まるで覚えがない。覚えがないのにノートは取ってある。これは一体……。

 

「当然だね! なんたってISは宇宙開発とサッカーのために作ったんだから!」

「えぇ……」

 

 今明かされる衝撃の真実。この人絶対そういうこと考えてないだろ。教科書にもそんなこと書いて……ある。書いてある。なんで?

 

「おーけー? わかった? どぅーゆーあんだすたーん?」

「わかりましたよ……」

 

 もう否定しても無駄だろう。きっとこれは夢だ。顔をつねっても普通に痛いけどこれは夢。きっとそう。

 それにサッカーで決着が着くのなら悪い話じゃない。スポーツなら学園が破壊されたり全身を焼かれたりはしない。平和的だ。

 

「織斑、後はお前だけだぞ」

「……やる。俺、ISサッカーやるよ」

「うんうん! じゃあ早速試合開始─「だめだ」……ちぇー」

 

 そりゃそうだよな。そもそも俺、ルール知らないし。皆が言うにこのメンバーでやったことないみたいだし。

 

「むー……。なら一週間後はどう? それ以上は待たないよ」

「……いいだろう。では来週午前十時、グラウンドで待つ」

「決まりだね! 会場はこっちで用意するから、ばいばーい!」

 

 あっさりと試合の約束が結ばれ、束さんはいつもの人参型ロケットで去って行く。やはり嵐の様な人だ。

 

「……ということだ。来週、試合を行う。専用機持ちはそれまで授業を欠席して特訓だ。質問のある者は?」

「は、はい!」

「なんだ織斑」

 

 試合をやるのはいいが、俺にはまだまだ知らないことばかり、皆に遅れを取らないためにISサッカーについて少しでも早く知っておく必要がある。今の内に聞いておかないと……。

 

「専用機持ちは八人だけど、サッカーは十一人でやる物だろ?」

「何を言っている、ISサッカーは八人でやる物だろうが」

 

 え。

 

「基本のルールすら忘れたか? 後でルールブックを渡すから明日までによく読んでおけ」

「はい……」

 

 まさか人数が変わっているとは。しかしルールブックがもらえるのはありがたい。これである程度知識を入れることができるだろう。

 

「では、今日は解散とする、明日七時から練習を開始するので各自用意するように。織斑は職員室に来い」

「「「了解!」」」

 

 まあ、どうにかなるだろ。

 

◇◇◇

 

Stand up Stand up 立ち上がリーヨ

イナズマチャレンジャー

 

イナズマイレブンIS

 

ドン底弱気をパンチング

トンチを利かせてスライディング

泥んこまみれが勇ましく光るぜ!

 

貪欲チャレンジ精神

Don’t cry めげずにファイティング

悔しい気持ちもパワーに変えようぜ

 

汗かきベソかき夢育ち

根っこはマグマイナズマ式

傷だらけの雑草侍

見た目オンボロ中身骨太

 

Stand up Stand up 立ち上がリーヨ

勇気のシンボル イナズママーク

Stand up Stand up 立ち上がリーヨ

掲げよう勝利のフラッグを

Stand up Stand up 立ち上がリーヨ

イナズマイレブン

 

イナズマ(ファイト!)

イナズマヒーロー

 

 

ISサッカーやろうぜ!

 

◇◇◇

 

 翌日早朝。グラウンドに集められた俺たち専用機持ちは早速特訓を開始しようとしていた。

 昨日渡されたルールブックを読み込み、インターネットも活用して(世界中で大人気のスポーツだったらしい)何とか基本のルールは覚えることができた。

 普通のサッカーと違う点はざっくり3つ。昨日も言われたが試合は8人で行うこと、試合時間は短く、オフサイドは存在しない。そしてISサッカーの名の通りISを装着して行う。他にもファールの基準が緩かったり、フィールドが通常の数倍もあったりと色々と違いはある。因みにこれらを定めたのは束さんらしい。

 しかしただ一つ。いくらルールブックを読み込んでもわからないことがあった。

 

「シャル。一つ聞いていいか?」

「なぁに一夏? もう練習始まるよ?」

「いや大したことじゃない……と思うんだけどさ、

 ISのサッカーモードって何?」

 

 それがこれ、サッカーモードだ。どうやらプレーする時はこのモードで行うらしいが、どこを見ても知ってて当然が如く説明がない。まさか寮でISを展開するわけにもいかず、よくわからないままグラウンドへ来てしまった。

 

「そっか、一夏はISサッカーがわからないんだもんね。サッカーモードっていうのは……うーん、見てもらった方が早いかな」

「いいのか? サンキューシャル」

「いいよいいよ。どうせみんな使うしね。いくよ……」

「おお……」

 

 そう言って、『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』を展開。しかしなんの変哲もないいつものリヴァイヴだ。ここからどう変わるのだろうか。

 

「ちゃんと見ててね、『リヴァイヴ、サッカーモード 』」

 

 瞬間。全身が光に包まれ、がしゃんがしゃんと音を立ててリヴァイヴが変形。数秒後には光が晴れこれまで違う姿へ変化したリヴァイヴが現れる。

 装甲は脚部に集中。スラスターは小型化し、飛ぶよりは走ることに重きを置かれているようにも見える。

 

「これがサッカーモード。通常形態ISサッカーをするのに適した姿へ変形する機能。この形態だといくつかの武装は脚で使うんだ、ほら!」

「《灰色の鱗殻》!すっげえ……」

 

 左足にはシャルの切り札でもあるパイルバンカーが。今は出していないがきっと他の銃器やブレードも脚で使うのだろう。

 

「一夏もやってみてよ。きっとかっこいいよ」

「よーし、『白式、サッカーモード!』」

 

 名前を叫ぶと同時にモードチェンジ、普段と違う感覚に身を包まれながら『白式』が展開される。

 リヴァイヴと同じく脚部に集中された装甲。《雪片弐型》は右脚、《雪羅》は左足へ。ちゃんと使えるか不安だったが、展開してみれば使い方が頭に流れ込んでくる。これならいけそうだ。

 

GK(ゴールキーパー)タイプだとあんまり変形しないんだけどね。一夏は違うみたい」

「へーっ、アンタのサッカーモードってそんな感じなんだ」

FW(フォワード)向きかしら?」

「これはこれで……アリ」

 

 初めて見せる姿だからか、みんながこちらを見てくる。中々イケてるデザインらしい。なんかこそばゆいな。

 

「練習を始めるぞ! さっさと並べ馬鹿ども!」

「「「はい!」」」

「は、はい!」

 

 いっけね、慌てて白式を収納し、整列する。危うくお仕置きを食らうところだった。

 

◇◇◇

 

 それからは俺たちの厳しい特訓の日々が始まった。

 つい昨日ルールを学んだばかりの俺にとってはどれも初めての経験。しかも一週間後には世界の命運をかけた戦いが待っているのだから、練習はどんどん厳しくなっていった。特にキツイのは──

 

「今よ一夏!」

「うおおーっ! 零落白っ……うおあー!?」

 

 ──()()()の特訓だった。

 

「くっそーどうしたら必殺技が出せるんだ?」

 

 練習が始まって三日目。ISを装着してサッカーをする違和感こそなくなったが、中々習得できない技能が一つ。それが必殺技。

 皆が言うにはノーマルモード──普通にISを展開した状態のこと──で使われる技術や武装を、よりサッカーに適した形で使用することを指すらしい。それらはどれもド派手で奇抜。ISサッカーが世界中で愛される要因であり、これを習得してこそISサッカープレイヤーとして認められる……らしい。

 当然皆は習得済み。しかし俺は未だ一つも習得できていない。

 

「こればかりは特訓あるのみとしか言えませんわ。わたくしも一つ習得するまでに何日も特訓しましたし」

「でも簪はもう三つ覚えたぞ」

「私は……打鉄弐式ができる前からISサッカー自体はやってたから……」

「やっぱ完全に初めてじゃ厳しいよなぁ……」

 

 初日から何度も試してはいるが、普通に零落白夜を使うのとは感覚が違うらしく一向に成果は出ない。千冬姉に教えを乞うても、

 

「感覚で何とかしろ」

 

 としか教えてくれない。それでも教師か。

 

「とりあえず、もう一度皆さんの必殺技を見てみればいいのでは? ちょうど鈴さんがシュート練習するみたいですわよ」

「そうだな……。おーい鈴! ちょっと見学させてくれー!」

「わかったー! しっかり見てなさいよー!」

 

 ペナルティエリアの手前。ゴールの真っ正面に立ちシュート練習の準備をする鈴。確かに鈴はFWらしいしお手本に丁度いいだろう。

 GKはラウラ。ドイツにいたときは黒兎隊のキャプテン兼守護神として戦っていたらしい。本人が自慢していた

 

「いくわよラウラ! はぁぁぁぁっ『双天牙月(そうてんがげつ)』っ!」

 

 

 

 空中に蹴り上げたボールをブレードを装着した右足で一回、その勢いで回転し左足でもう一回。更に回転し両脚でトドメの一回。

 ボールは連結した青竜刀を思わせるオーラを纏いゴールへ飛んでいく。

 

「止めるっ! 『AIC』っ!」

 

A I C

 

 飛んでくるシュートに合わせて右腕を突き出す。瞬間掌から放たれたエネルギー波が空間を歪め、慣性を奪う。

 ボールが纏うオーラは徐々に小さくなり、遂には消滅。見事に止められてしまった。

 

「あーもうやっぱり堅いわねー!」

「中々いいシュートだったぞ。だがまだまだだな」

「ぐぬぬ……もう一回よ!」

「受けて立つ」

 

 そして再び必殺シュート。必殺キャッチ。必殺技の応酬が始まる。

 

「参考になりまして?」

「……わからん!」

 

 どうやるかはさっぱりだが、まともに試合をするにはとにかく必殺技がいる。これだけはわかった。

 そして練習を再開したが、結局この日は必殺技を覚えることはできなかった。

 

◇◇◇

 

 四日目。基本的な動きや連携は身についたと見なされ、新しい練習をすると言われ集められた俺達。しかしグラウンドには特に変化なし、一体何をするのだろうか。

 

「では今日の練習だが、山田先生」

「はいっ! 皆さんには今日から()()で練習してもらいます!」

「ん? 揺れてる?」

「わわわっ、地震?」

 

 ポチッ。山田先生が手に持った装置ボタンが押され、地面が揺れる。少しずつ揺れは大きくなり、グラウンドの一部が割れた。

 割れた所からは入り口の様な物が現れ、その先には階段が見える? これは……地下室?

 

「ここが、ISサッカー専用特訓施設『イナビカリ修練場』です!」

「イナビカリ……」

「修練場?」

「先ずはこの階段を降りろ。説明はそれからだ」

 

 突如出現したイナビカリ修練場なる施設に困惑したまま、千冬姉に促されて階段を降りる。

 降りきった後明かりが点灯し、その全貌が明らかとなった。

 

「すっげー……」

「学園の地下にこんな場所があったのか……」

「地図にも載せてないからね。私も来るのは初めてよ」

 

 地下だと言うのにこの広大さ。それで十分驚きだが。特に異様なのはその設備。

 サッカーボールを発射するであろうガトリング型の謎の機械、障害物が満載の巨大ランニングマシーン……普通のサッカーでは、いやISを使っていても考えられないものばかり。

 一体ここでどんな特訓をするんだ?

 

「お前達にはここで個人の能力を高めてもらう。個人の練習メニューも用意した。順番に取りに来い」

「おお……」

 

 メニューが配られ、早速練習開始。場所も設備も代わり昨日までとは比べものにならないほどキツい。正直普通に戦ってる方がまだ楽だ。

 

「どうした織斑、もうへばったか?」

「こんのぉっ……! まだまだぁっ!」

「よし、もう1セットだ!」

「うおおー!」

 

 でも、こんなところで潰れるわけにはいかない。俺達は絶対に勝たなきゃいけないんだ!

 

 

 そして練習は続き───

 

「『清き熱情(クリア・パッション)』!!」

 

 

「うわー!!!」

 

 続き───

 

「『フレキシブルロード』っ! ですわ!」

 

 

「なんのっ! 『空裂(からわれ)』!」

 

 

「箒も必殺技を!?」

「やるじゃない!」

 

 続き───

 

「いくよっ! 『バックトルネード』!」

 

 

「『キャプチャートラップ』!」

 

キャチャ

 

「止めたぁー!」

 

 続いたが──

 

「俺もっ! 『零落白y──』どぉうわー!?」

「一夏ぁー!?」

 

 俺だけには全く必殺技を使える気配がなかった。

 

「どうして俺だけできないんだ……?」

「タイミングはバッチリのはず……」

「必殺技以外はちゃんとできてるんだけどなー……」

 

 練習も最終日。皆は次々と必殺技を覚え、ISサッカーの次元を上げている。一方俺はまるで成果なし。

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)を利用したドリブルも、左足に装備された《雪羅(せつら)》を使ったブロックだってできる。もちろんシュートだって普通のものなら難なく撃てる。

 しかし何度挑戦しても必殺技はできない。正確には発動ギリギリまではいけるが、あと一歩のところで失敗してしまう。

 

「くそっ。もう時間も残り少ないってのに……」

「そこだ、織斑」

「千冬姉……? 急に何をア゛ッ!?」

「ここでは織斑監督だ」

 

 千冬姉が監督なのか……。いや妥当か元プロISサッカープレイヤーだったらしいし。

 それよりも、千冬姉は俺が必殺技を撃てない理由がわかるのだろうか。この前は感覚とか言ってたのに。

 

「今のお前は焦り過ぎている。スタートが遅く、しかし決戦の日は近いからな」

「……そうだよ。だからこうやって──「だが」

「必殺技とは()()()()によって搭乗者の精神が限界まで研ぎ澄まされ、ISとシンクロ──即ち超次元に至ることで生まれる。今のお前ではその超次元には至れない」

「そんなっ……」

 

 今の俺じゃ必殺技が使えない。使えなければ試合に勝てない。

 我武者羅に練習するだけじゃダメってことか? でも時間が足りないんじゃ他にどうしようも──

 

「落ちつけ。あくまで今はできないというだけだ。余計な焦りを消し、足りないものを知れば必ずできる」

「……そんな簡単に言われたって、俺は……」

「だから、私が手本を見せてやる」

「千冬姉が……?」

「ああ、一度だけだがな」

 

 そう言いながら運ばれてきた打鉄に乗り込む千冬姉。元プロの必殺技。確かに参考にはなるだろう。

 ……でも、皆がやっている所を見てもできなかった俺がそれでできるようになるだろうか?少しでも多く練習した方がいいんじゃ……。

 いかんいかん。焦っちゃダメなんだった。

 

「久しぶりだな。ここに立つのは」

 

 センターサークル中央にボールを設置。ドリブルから始めるのだろうか。それにしたって距離が遠すぎる気もするが。

 

「これが私の、世界最強(ブリュンヒルデ)の必殺シュートだ!」

「なっ!? 中央からだとっ!?」

 

 勢いよく振り下ろした左足で強烈なバックスピンをかけられて浮き上がるボール。

 空中で静止したそれに向かって勢いよくオーバーヘッドキック。力強くそのシュートの名が叫ばれる。

 

「『ブレイブショット』!!」

 

ショ

 

 ボールは強烈な蹴りを受けて蒼いオーラを纏い、一直線にゴールへ入る。

 今まで見たどんな技よりも強烈で凄まじい。とんでもないシュート。

 

「はぁ……はぁ……やはり、ブランクが大きいな。どうだ一夏?」

「すげぇ、すげぇよ千冬ね、いや織斑監督! こんな技があったなんて!」

「ふっ。その様子だともう焦りはないようだな」

「えっ? あっ……」

 

 そうだった、俺はずっと焦ってて。それで失敗し続けていた。

 でも今のシュートを見たらそんな感情は吹き飛んでしまった。

 そうか、千冬姉はこの為に俺に見せてくれたのか。

 

「……この技は、私のISサッカーの原点とも呼べる技。強い思いを込めて編み出されたシュートだ」

「原点、思い……」

 

 俺に足りなかったもの。ろくに経験のない、俺の原点、思いとは?

 その答えは───

 

「─おい織斑、聞いているのか?」

「悪い。ちょっと考えてた。でももう大丈夫だ。()()()

「……いいだろう。やってみろ」

「はい!」

 

 

 ペナルティーエリア一歩手前。ここから俺はシュートを撃つ。どうせなら千冬姉みたいにセンターサークルから、と思ったが大事なのは距離じゃない。

 ボールを置き、精神(こころ)を鎮める。………よし。

 

「いくぞっ!」

 

 思い切りボールを蹴り上げ、追って自身も飛び立つ。

 右足に装着された《雪片弐型(ゆきひらにがた)》に意識を集中。答申が展開し、光の刃が形成される。同時に空中で一回転し全力の一撃を蹴り込む。

 

「これが俺のっ……『零落白夜(れいらくびゃくや)』だぁぁぁぁぁっっーーーー!!」

「!」

 

 

 俺の単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)。必殺の一撃が蒼いイナズマとなってボールに乗り、ゴールネットに突き刺さった。

 

「やった……できた! できたぞ千冬姉!」

「……よくやった。()()

 

 やっとできた。俺の必殺技。これで敵とも戦える、ISサッカーができる!

 

「やったな一夏! 凄いシュートだった!」

「ああ! これでバンバン点取ってやるぜ!」

「まあっ、わたくしにも見せてくださいな!」

「ちょっともう一回やんなさいよ!」

「僕も見たい!」「私もだ!」

「私もお願い!」「録画準備……OK……」

「わわっ、ちょっと待てって!」

 

 結局この後、色んな角度から見たいとかなんとかで何回もシュートをやらされた。お陰でヘトヘトだよ。

 ……だがついに、ついに俺にも必殺技ができたんだ。ずっと不安だったが、ようやく希望が出てきた。明日の試合もこの調子でいくぞ!

 

 

 

「…………ふぅ」

 

 遂に必殺技を完成させた夜。試合をを明日に控え、本来ならば寝ていないといけない時間だが、俺はグラウンドに来ていた。

 別に今から練習するわけじゃない。ただどうしてもじっとしていられなかったんだ。

 しかしこんな夜に誰かがいるはずもないか、早く帰って寝るとしよう。

 

「……何をしている?」

「あっ……」

 

 千冬姉だ。やばい。こんな時間に彷徨いているなんて怒られるに決まっている。前日に説教なんて受けたくないぞ。

 

「……眠れないのか?」

「へ? あ、ああ……」

「そうか……まあ座れ、すこし話そう」

「? はい……」

 

 あれ、怒られない。というか、何時もより少し態度が優しい。まるで家にいる時みたいに。

 そのまま近くベンチに座り、しばし無言の時間が流れる。

 

「…………」

「…………」

 

 気、気まずい……。何か話はなかったか、えーと……。

 

「今日お前が使った技だが」

 

 ぽつり、と一言。言葉が発せられる。今日の技? あのシュートか。

 

「『零落白夜』か?」

「そうだ、その技は……昔私がプロの試合で使っていた物だった」

「『いた』って……今は」

「使えない。あれは以前の私の専用機、『暮桜(くれざくら)』のものだからな。『ブレイブショット』は『暮桜』がない状態でも使える必殺技だ」

 

 『暮桜』。かつて千冬姉が出場したISの世界大会、『モンド・グロッソ』でも乗っていた専用機だ。

 たしか『零落白夜』は、もともと『暮桜』の単一使用能力だったらしい。

 

「私がいたチーム……かつての日本代表は、『イナズマイレブン』と呼ばれていてな。『零落白夜』を撃つとき、イナズマの様なエネルギーが出ただろう? あれは、特に強力な必殺技を使うときに発生するものでな、チーム全員の必殺技が発していたことからそう呼ばれるようになった」

「じゃあその、『イナズマイレブン』は今何を?」

「やめたよ。私が現役を引退したと同時に解散して……今は全員普通に生活している」

「そっか……」

 

 ISサッカーに限らず、千冬姉が現役だった頃の話をするのは珍しい。普段ならいくら聞いたってはぐらかされてしまうことが多い。

 それにしても『イナズマイレブン』か。初めて聞くがさぞかし強いチームだったのだろう。

 

「あの頃は本当に楽しかった。連戦連勝向かうところ敵無し、伝説とも呼ばれたよ」

「そんなに強かったのか……」

 

 当時の話をする千冬姉は懐かしそうで、楽しそうな表情だった。

 こんな顔の千冬姉を見るのは久しぶりだな。

 

「……明日の試合、不安か?」

「っ……。まあ、どういうわけかISサッカーのこと忘れてるし、必殺技もやっと一個できるようになったばっかりだしな」

「そうか……」

 

 こちらからすれば急に皆がサッカーやり出して随分困惑したんだけどな。もう諦めてるけど。

 

「大丈夫だ」

「え?」

「お前ならきっとできるさ。私の弟だからな」

「千冬姉……!」

 

 そういった千冬姉はとても優しい眼差しをしていた。俺に剣を教えてくれたあの日と同じ、眩しいものを見るような表情だった。

 

「さあもう戻れ、明日に響く」

「わかった……それと、ありがとう、千冬姉」

「……ああ」

 

 そして夜が明け、試合の日が訪れた。

 

 




 次回、試合編!



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試合編・前編

「…………ふぅ」

 

 遂に必殺技を完成させた夜。試合をを明日に控え、本来ならば寝ていないといけない時間だが、俺はグラウンドに来ていた。

 別に今から練習するわけじゃない。ただどうしてもじっとしていられなかったんだ。

 しかしこんな夜に誰かがいるはずもないか、早く帰って寝るとしよう。

 

「……何をしている?」

「あっ……」

 

 千冬姉だ。やばい。こんな時間に彷徨いているなんて怒られるに決まっている。前日に説教なんて受けたくないぞ。

 

「……眠れないのか?」

「へ? あ、ああ……」

「そうか……まあ座れ、すこし話そう」

「? はい……」

 

 あれ、怒られない。というか、何時もより少し態度が優しい。まるで家にいる時みたいに。

 そのまま近くベンチに座り、しばし無言の時間が流れる。

 

「…………」

「…………」

 

 気、気まずい……。何か話はなかったか、えーと……。

 

「今日お前が使った技だが」

 

 ぽつり、と一言。言葉が発せられる。今日の技? あのシュートか。

 

「『零落白夜』か?」

「そうだ、その技は……昔私がプロの試合で使っていた物だった」

「『いた』って……今は」

「使えない。あれは以前の私の専用機、『暮桜(くれざくら)』のものだからな。『ブレイブショット』は『暮桜』がない状態でも使える必殺技だ」

 

 『暮桜』。かつて千冬姉が出場したISの世界大会、『モンド・グロッソ』でも乗っていた専用機だ。

 たしか『零落白夜』は、もともと『暮桜』の単一使用能力だったらしい。

 

「私がいたチーム……かつての日本代表は、『イナズマイレブン』と呼ばれていてな。『零落白夜』を撃つとき、イナズマの様なエネルギーが出ただろう? あれは、特に強力な必殺技を使うときに発生するものでな、チーム全員の必殺技が発していたことからそう呼ばれるようになった」

「じゃあその、『イナズマイレブン』は今何を?」

「やめたよ。私が現役を引退したと同時に解散して……今は全員普通に生活している」

「そっか……」

 

 ISサッカーに限らず、千冬姉が現役だった頃の話をするのは珍しい。普段ならいくら聞いたってはぐらかされてしまうことが多い。

 それにしても『イナズマイレブン』か。初めて聞くがさぞかし強いチームだったのだろう。

 

「あの頃は本当に楽しかった。連戦連勝向かうところ敵無し、伝説とも呼ばれたよ」

「そんなに強かったのか……」

 

 当時の話をする千冬姉は懐かしそうで、楽しそうな表情だった。

 こんな顔の千冬姉を見るのは久しぶりだな。

 

「……明日の試合、不安か?」

「っ……。まあ、どういうわけかISサッカーのこと忘れてるし、必殺技もやっと一個できるようになったばっかりだしな」

「そうか……」

 

 こちらからすれば急に皆がサッカーやり出して随分困惑したんだけどな。もう諦めてるけど。

 

「大丈夫だ」

「え?」

「お前ならきっとできるさ。私の弟だからな」

「千冬姉……!」

 

 そういった千冬姉はとても優しい眼差しをしていた。俺に剣を教えてくれたあの日と同じ、眩しいものを見るような表情だった。

 

「さあもう戻れ、明日に響く」

「わかった……それと、ありがとう、千冬姉」

「……ああ」

 

 そして夜が明け、試合の日が訪れた。

 

◇◇◇

 

 試合当日、俺達はグラウンドへ移動し、試合に向けてウォームアップをしていた。準備は大切だからな。

 しかし……。

 

「そういえば、試合はどこでやるんだ?」

「向こうが用意するとか言ってたわよね? 何もないけど」

「待っていろ、直に()()

 

 来るとは。まさかスタジアムでも飛んで来るのだろうか。いくら束さんでもそれはないか。お迎えが来るとかそんな感じだろう。

 そう考えながら空を見上げていると、ゆっくりと巨大な影が現れる。

 

「おい……なんだあれ……」

「来たぞ、あれだ」

 

 巨大な飛行船。()()()I()S()()()()()()()()()()()()()()のそれの下部が静かに開き、1週間ぶりに見る人影が現れる。

 

「おっまたせー! ここが試合会場、『ラビットスタジアム』だよー!!

「やっぱりここなのか……」

 

 当たりたくない予想が的中してしまった。マジで空中で試合? どこにこんなもの隠していたのだろうか。

 

「もう観客も入ってるからー! 準備できたら上がってきてー!」

「わかったからもう少し降りてこい!」

 

 普通に話しているけど千冬姉はこの状況に驚いていないのか。それともこれが普通なのか?

 

「篠ノ之博士ほどになるとこんなに大きいスタジアム持ってるのね……」

「姉さん……」

 

 空中に浮いてることには突っ込まないのか……。もう深く考えるのはよそう。

 

「ではアレに乗り込むが……準備はいいか?」

「「「はい!」」」

「は、はい!」

 

 さっきよりほんの少し降りてきた飛行船に乗り込み(千冬姉は俺が抱えて入ったけど何故か皆に睨まれた)、案内看板に従って控え室へ移動。

 試合直前のミーティングが始まる。

 

「改めてフォーメーションの確認だが、3‐2‐2‐1で行う」

 

 3‐2‐2‐1。FW(フォワード)3人、MF(ミッドフィルダー)2人、DF(ディフェンダー)2人とGK(キーパー)の編成。やっぱり8人だとなんか足りない感じだな、これでもオーソドックスな編成らしい。

 

「次はポジションの確認だ。GK、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

「はい!」

「DF、シャルロット・デュノア、更識楯無」

「「はい!」」

「MF、セシリア・オルコット、更識簪」

「「はい!」」

「FW、凰鈴音、篠ノ之箒、織斑一夏」

「「「はい!」」」

「では補給の後移動して試合開始だ。質問のある者は……いないな。行くぞ」

 

 そして移動。こうしていると普通のサッカーみたいだ。お遊びぐらいしか経験はないけれど。

 懐かしいなぁ。小学生の時はよくやった。誰がキャプテンするか争って……あれ?

 

「そういえば、キャプテンは誰がやるんだ?」

 

 昨日も今日も特に言われなかった。するとしたら楯無さんだろうか。一番上手いし。ラウラも行けそうだな。

 

「お前だ」

「誰が?」

「だから織斑。お前がキャプテンだ」

「!!??!?!?!??」

 

 なんで? なんで俺? この間まで素人だったんだぞ。試合を投げたとか言い出さないよな。

 

「落ち着け、ちゃんと理由はある」

「?」

「確かに知識経験は他のメンバーの方が上だ。しかし他のメンバーは公式戦のデータがあり、当然研究されている可能性が高い」

「そうなのか? でも……」

 

 でも、だからって俺には荷が重すぎる。ちゃんと指揮なんてできるのか?

 

「お前にはデータにはない伸びしろがある。相手の予想を超え、打ち破る才能が。私はそれに賭けてみたい」

「…………」

「安心しろ、何も完璧に指揮をする必要はない副キャプテンには更識姉を置き、サポートも入るさ」

「そういうことよ。ほら一夏くん自身持って!」

「……なら、まあ……わかった」

 

 大丈夫……なんだろうか。少し不安だが、期待されているなら答えなくては。

 

「今度こそ質問はないな? 行くぞ、時間が迫っている」

「「「了解!」」」

 

◇◇◇

 

『ついにこの日がやって参りました〜。IS学園対篠ノ之束&亡国機業(ファントム・タスク)の決戦。実況は私、生徒会会計の布仏本音でお送りしたしまーす!』

「何やってんだのほほんさん……」

「……本音は、昔からISサッカーの実況するのが夢だったから……」

「思いっきり亡国機業って言ったが大丈夫なのか?」

 

 10分後。『ラビットスタジアム』フィールドに並んだ俺達は、未だ現れない対戦相手を待っていた。

 

「呼びつけといていないってどうなのよ」

「わたくしに言われましても……」

 

 てっきりもう揃っていると想ったから誰もいなかったのには驚いた。

 それなのに観客は超満員だ。学園の生徒もいる。いつの間に?

 

『出ましたぁー! 亡国機業イレブンの入場でーす!!』

「おっ」

「来た!」

 

 歓声と共に選手が入場。

 先頭から織斑マドカ、スコール、オータム、アーリィさん、フォルテ先輩とダリル先輩、専用機限定タッグマッチとクラス対抗戦の時に来た無人機が一機ずつの8人。ほぼ全員修学直以来の再開となる。

 

「……逃げずに来たようだな」

「……そっちこそ」

「今日こそ私が勝利し、私こそが完成された織斑と証明してやる」

「何のことかわからねぇけど、受けて立つ」

 

 目の前に並んだマドカと睨み合う。この前もこいつには辛酸を嘗めさせられた。絶対に勝つ。

「私としては織斑千冬と戦いたかったんだけどサ」

「アーリィさん……」

「やあ、シャイニィは元気?」

「ええ、なかなか図太いやつですよ」

 

 アーリィさんも今日は敵だ。第二回モンド・グロッソ優勝者の彼女も相当の実力者と考えていいだろう。

 

「この日を待ってたぜぇ……。痛い目見せてやるよ……」

 

 ……うん。気をつけておこう。

 他のメンバーも強敵ばかり。束さんが監督なのも忘れてはいけない。きっと凄い作戦を立てているに違いない。

 

 形ばかりの礼、握手。万力みたいに力込めるな痛い。

 そして運命のコイントス。前半キックオフは……こちらからだ。

 それぞれがポジションに着き、開始準備を整える。あちらのフォーメーションは2‐2‐3‐1。

 FWにマドカとスコール、MFにアーリィさんと細身の無人機。DFにダリル先輩とフォルテ先輩、大きい方の無人機。GKにはオータムだ。

 ……正直もっと攻撃的な感じだと思ってたから以外だな。だからといって温い攻撃ではないはずだ。警戒せねば。

 

「よし……行くぞ皆ぁっ!」

「「「おうっ!!!」」」

「エム、準備はいい?」

「当然だ」

 

 ホイッスルが鳴る。先ずは落ち着いて鈴にパス。こちらはここから攻めていこう。

 

『さあIS学園イレブンボールでキックオフ! 一夏から受けたボールで鈴音が切り込んでいくぅ!』

「いっくわよーっ!」

 

 早速鈴のドリブル敵陣へ。合わせて俺も上がっていく。

 ……実況の時はあの変なあだ名使わないんだな。こっちの方が違和感がある。

 

「…………………」

「こいつっ! あの時の!」

『おーっとぉ! ゴーレムが鈴音の前に立ちふさがったぁ!』

 

 あいつ(でかい方)ゴーレムって名前だったのか。なんでのほほんさんはそんなこと知っているのかは置いといて、このままでは鈴が止められてしまう。

 なんとか突破してもらわなければ。

 

「邪魔よっ! 『昇り龍』!」

「……『ディフェンスコマンド03(コイルアッパー)』」

 

  

ディフェンスコマンド03

 

『これは必殺技のぶつかり合いだーっ!! 勝つのはどっちだー!?』

 

 必殺技のぶつかり合い、それすなわち超次元度の勝負。より超次元な方が勝利する……らしい。ルールブックに書いてあった。

 最初から負けるわけにはいかない。頼むぞ鈴。

 

「はぁぁぁぁーーーっ!!」

 

『鈴音が競り勝ったー! 必殺ドリブルの炸裂ですっ!』

 

 足下から出現した赤い龍に飛び乗り、的を吹き飛ばしながら突進。超次元ISエネルギー(よくわからないもの)によって具現化された龍はゴール前まで鈴を運び、役目を終えて消滅する。

 

『あっという間にゴール前、シュートチャンスだーっ! ここは決められるかぁーっ!?』

「当然っ! 『双天牙月』っ!」

 

双天牙月

 

『出たーっ! ドリブルに続きシュートでも必殺技、『双天牙月』!』

 

 青竜刀のオーラを纏ったボールがゴールへ飛んでいく。待ち構えるは不適な笑みを浮かべたオータム。

 

「甘ぇんだよっ! 『ビッグスパイダー』!」

 

 『アラクネ』の装甲脚が全て展開。巨大な蜘蛛のオーラを発しながらシュートに突き刺さる。

 僅かに押し込まれながらも勢いはなくなり、完全に止められた。

 こいつ、ちゃんとキーパーやってやがる……!

 

『キーパーオータム止めたぁー!』

「てっきりザルかと思ってたのに……!」

「ブッ飛ばすぞテメェッ!? ……まあいい。今度はこっちの番だ!」

 

 そうだ、シュートを止められたってことは相手にボールが渡ったということ。一気に攻められては堪らない。防御を固めよう。

 

「皆下がれ! 守備に回るぞっ!」

「スコォォーール!!」

 

 ISの腕力で投げられたボールは一気に自陣へ移動し。既に回り込んでいたスコールへ渡る。

 

「行かせないっ! 『スピニングカッ──」

「無駄よ、『ソリッド・フレア』!」

 

 

「うわあっ!」

『スコールの必殺技にシャルロット吹き飛ばされたぁー! ラウラと1対1ぃー!』

 

 凝縮された超高熱の火球がアクア・ナノマシンのブロックを容易く貫く。こちらが必殺技を発動する前に突破されてしまった。

 

「お返しよ! 『ファイアトルネード』!」

「っ! 止めるっ! 『キラーブレード』!」

 

ファ

 

 炎を纏い時計回りに回転しながら上空へ蹴り上げたボールを追う。一瞬鋭い眼差しでゴールを睨み付け、激しい火炎をシュートに乗せる。

 対してラウラは右腕のプラズマブレードを展開。炎を纏ったシュ-トを両断…とはいかず、地面に叩きつける。よかった、止められたな。

 

『止めたぁー! キーパーラウラ、オータムにも劣らぬ必殺キャッチだぁ!』

「危なかっ……いや! この程度か?」

「あら、次はもっと強く蹴らなきゃ」

「や、やめろ!」

 

 十分凄いシュートだったがまだまだ本気ではないらしい。

 でもボールはこちらに渡った。今度こそ点を取るぞ。

 

「ラウラ! 私に!」

「了解!」

「……よし、セシリア!」

「はい!」

 

 先ずは簪へパス、そのままセシリアへ繋ぐ。流れるようにボールを運べている。練習の成果だ。

 

「通さん!」

「いいえ、どいて頂きますわ……『フレキシブルロード』!」

 

フレキシブルロード

 

「何っ!?」

「いいぞセシリア!」

「おほほほ……」

 

 上空へ蹴り上げられたボールへ偏向射撃(フレキシブル)で曲げられたビームが突き刺さり、ディフェンスに入っていたマドカを躱して進んでいたセシリアの元へ。

 もうこんなに偏向射撃を使いこなしていたのか。

 

「一夏さん!」

「おうっ! ……うおおおーーーっ!」

『おーっとフォワード一夏がダイレクトシュートだぁーっ!』

 

 センタリングで上げられたボールを追い、そのままシュート体勢へ。

 

「『零落白夜』!!」

 

 

 必殺の一撃を蒼い稲妻と共にボールへ叩き込む。手応え、いや足応えは完璧だ。

 

「いっけぇぇーーーっ!」

「させるかっ! 『ビッグスパイダー』! ……ぐあああっ!」

 

 装甲脚が展開。巨大な蜘蛛のオーラを発しながらシュートに突き刺さる……が、一瞬にして零落白夜のエネルギー無効化能力によってかき消される。

 止めきれなかったボールがゴールネットを揺らした。

 

『ゴォォォーーーーール!! 見事なシュートが決まったぁぁぁーーー!!! 一対〇! 先制したのはIS学園!!』

「やったぜ!」

 

 これで先制点ゲットだ。俺の必殺技は通用した。一週間の努力は無駄じゃなかった!

 

「よし、この調子でいくぞ!」

「うんっ!」

「……レイン、フォルテ。()()をやりなさい」

「オッケー叔母さん」

「は、はい!」

 

 喜ぶのもほどほどにポジションへ戻る。試合はまだ前半が始まったばかりだ。

 

『さあ亡国機業のボールで試合再開! この失点を取り返せるか!?』

 

「はぁぁぁーーっ!」

「!!」

 

 早速箒がボールを奪いにかかる。そうだどんどん攻めていこう。

 

「『空裂(からわれ)』っ!」

「ぐうっ!」

 

空 裂

 

 左手に構えた刀を振るい、刀身から放たれた帯状のエネルギーがスコールを襲う。態勢が整いきっていなかった彼女は防ぎきれずボールを零す。

 

「もらった! はぁぁっ!」

『箒がボールを奪って敵陣へ突撃ーっ!』

 

 瞬時加速を利用したドリブルで相手を寄せつけず、深く敵陣へ切り込む。このまま追加点だ。

 

「これ以上はっ!」

「行かせないっス!」

「「『イージス』!!」」

 

 

「うわぁぁーーっ!!」

「箒ぃーっ!」

『二人の必殺ディフェンスが発動ーーっ!』

 

 冷気と熱気による分子の相転移がエネルギーを奪い、動きが止まったところで氷塊と火炎が箒を襲う。

 これが二人がIS学園に在籍していたときから有名だった必殺コンビネーション『イージス』。さすがの防御力だ。

 

「叔母さん!」

「よくやったわ……エム!」

「…………」

 

 ロングパスが繋がり、ゴール前で待っていたマドカへ。ディフェンスは……間に合わない。

 

「……いくぞ」

「来いっ!」

「くらえっ! 『ディザスターブレイク』ッ!!」

 

ディ

 

 一瞬にして上空へ移動。左足に黒いオーラを集め、回転と共にシュートを放つ。黒い()()()()と共に地を抉りながらゴールを守るラウラへ突き進む。

 この威力は……『零落白夜』クラス、いやそれ以上か!?

 

「『AIC』っ! ……何っ!? ぐっ……ぐああっ!」

『ゴォォォーーーーール!!! 亡国機業マドカ、凄まじいシュートを放ちましたーっ! 一対一! 同点です!!』

 

 あっという間に追いつかれてしまった。ラウラの必殺技も決して弱いものではないのに。

 織斑マドカと『黒騎士』、予想以上に強力なフォワードだ。

 

「ドンマイドンマイ! 取り返すぞ!」

 

 勢いで押されるわけにはいかない。まだ同点、ここは切り替えてもう一点取ろう。

 しかし点を取るにはあの『イージス』を突破しなければならない。一体どうしたものかて……。

 

『IS学園ボールで試合再開! この状況を切り抜けられるかーっ!?』

「よし行k「待つのサ!」

「何っ!?」

「私を忘れてもらっちゃあ困るのサ! 『真空魔』!」

 

 

『アリーシャがボールを奪ったぁ! そのまま突き進んでいくぅ!』

 

 開始直後から突っ込んで来たアーリィさん。空気を裂くような蹴りを繰り出す。それによってできた真空の裂け目にボールを捉え、逆に突風でこちらを吹き飛ばす。

 

「さあさあボーッとしてると置いてくのサッ!」

「楯無さんっ!」

「了解っ! 『清き熱情(クリア・パッション)』!!」

 

清き熱情

 

「無駄無駄っ! 『風神の舞』!!」

 

 

 超高速の機動と突風により、辺りに撒かれたアクア・ナノマシンごと楯無さんを吹き飛ばす。クソッ、止められない。

 

「どんどんいくのサッ! 『疾駆する嵐(アーリィ・テンペスト)』ッ!」

 

o

 

 両腕を左右に広げ、風が集まり、アーリィさんと瓜二つの像を作り上げる。本体を含め三人となったアーリィさんが同時にボールを蹴り、風の像の二人ごと嵐となったボールが飛ぶ。

 

『出たぁーーーっ!! アリーシャの単一使用能力とそのシュート、『疾駆する嵐』だぁー!!』

「ううっ! ……ぐっ、ぐああぁぁーーー!!

『ゴォォーーーール!!! 亡国機業追加点! すさまじいシュートを放ちましたーっ! 一対二! IS学園リードを許してしまったぁーー!!』

 

 マドカに続きとんでもないシュートだった。これが世界レベルのプレー。圧倒された。

 でも、

 

「まだだっ! 取り返すぞっ!」

 

 取られたなら取り返す。まだ負けてはいないんだっ!!

 

『再びIS学園ボールで試合再開! 点差が広がるのは避けたいところだぁ!』

「今更だけどのほほんさん全然味方してくれないんだな……」

『ごめんねおりむー。解説は公平じゃないとねー』

「急にいつもの調子に戻らないでくれ」

 

 聞こえてたのかよ。

 

「……ねえ一夏。お願いがあるんだけど」

「どうしたシャル? いい案でもあるのか?」

「うん。僕()()にシュートを撃たせて欲しいんだ」

「たち……二人技か? そんなの練習してたっけ?」

 

 記録を見ていくつか見つけたが、一応2人ないし3人で使う必殺技は存在する。しかしそれらはどれも難易度が高く、長い努力が必要となるものばかりだった。

 

「違うよ、でも、それに近いものならできる。ね、セシリア?」

「ええ。わたくしからもお願いします」

「……わかった! 一旦2人に任せる。頼むぞ!」

「うん!」「はい!」

 

 何をする気かはわからないが自信はあるみたいだし。ここは二人のシュートに賭けよう。

 

「シャル!」

「はいっ!」

『おっとシャルロットへバックパス! 守りを固める気かぁー!?』

「いいや! 攻めるねっ!」

 

 がちん。

 軽く蹴り上げたボールに突き立てた左足から引き金を引いたような音が鳴る。

 がちん。がちん。がちがちがちがちがちん。

 リボルバー機構による連射。音が鳴る度に深々と悔いが突き刺さり、エネルギ-が蓄積されていく。

 この杭の名は《灰色の鱗殻(グレー・スケール)》。それによって繰り出される必殺の一撃は──

 

「『盾殺し(シールド・ピアース)』ッ!!」

 

 

 限界に達したエネルギーはが解き放たれ、あらゆる防御を貫く一撃へと変わる。

 しかしまだゴールまでかなり距離がある。いくら威力の高いシュートでも減衰してしまうはずだが……。

 

「セシリア! お願い!」

「了解ですわ!!」

 

 その先で待ち構えていたセシリアが種-トを追う。合体技? いやそれではないはず。これは──

 

「シュートチェイン!?」

「『スターゲイザー』!! はぁぁぁーーー!!!」

 

 

 4基のレーザービットと2基のミサイルビットを全開。偏向射撃によって自在に軌道を変えながらボールへ向かい、シュートを更に加速させる。

 『シュートチェイン』──独立した二つのシュートを繋げ、威力とスピードを上げる高等技術。

 一歩間違えれば逆に弱体化させるリスクを伴うため習得している選手は複数人の技よりもずっと高い。

 

「「いっけぇぇぇーーーーーー!!!」」

 

 パイルバンカーとBTビット。2つの力を得たシュートは勢いを増し──

 

「させるかっ! 『ビッグスパっ……ぐあああぁーーー!!」

 

 ──キーパーの守りを物ともせずネットに突き刺さった。

 

『ゴォォォォーーーーール!!! これは見事なシュートチェイン! 学園の連携を見せつけたぁーーーっ! 同点二対二!!』

「すげえよ2人とも!」

「やったねセシリア!」

「ちょろいもんですわ!」

 

 これで再び同点。前半終了まではあと少し。なんとかもう一点リードして終わらせたい。

 

「……スコール」

「何かしら?」

()()()()()()()()

「……あら、熱くなっちゃって」

 

『亡国機業から試合再開! 』

 

 さあボールを奪──『おぉーーっとぉ!?』何だ!?

 

 スコールはボールを受けたそのままの位置からシュートの構え。逆にマドカは一直線にこちらへ突っ込んでくる。

 これではまるで、そんなまさか!?

 

「『ヘルファイア』!!」

 

ファ

 

 爆炎と共に蹴り出されるシュート。その先にはマドカ。まずい!!

 

「マドカを止めろ!!」

「もう遅い!!」

 

 背後から飛んできたシュートに紫色のエネルギーが集まっていき、爆炎ごとボールが紫に覆われる。

 今にも弾けそうな状態のそれに強力な蹴りを見舞い、鋭く燃える刃へと変容させる。

 

「『オーガブレード』!!」

 

 

「危ないっ! ぐっ……あああ!!」

「簪っ! くそっ、『AIC』!!」

 

 シュートブロックに入るもあえなく吹き飛ばされる簪。シュートは勢いを落とさずにゴールへ。

 ラウラは慣性停止結界で受け止めようとしたが……。

 

「ぐうっ! がっ……うわああああーーーっ!!」

 

 チェインによって強化された一撃は止められず、追加点を許してしまった。

 

『亡国機業もお返しとばかりに見事なシュートチェイン! 二対三で亡国機業のリードだぁぁーーー!!』

 

「くそっ!!」

「落ち着け! まだ時間はある! ここで取り返すんだ!」

 

『さあISボールで再開! しかし前半終了まで時間がないが失点を取り返せるかー!?』

 

「箒っ!」

「よしっ……っ!?」

「ダメッスよ!」

「ボールよこしなぁ!」

「「『イージス』!!」」

 

イージス

 

「うわあああーーーっ!」

「箒っ!?」

 

 パス先を読み切られ、二人の『イージス』によってボールを奪われる。

 

「叔母さん達に負けちゃいられねえ、今度はオレ達がいくぞ!!」

 

「待てっ!」

 

 ドリブルで切り込んでくる二人。ディフェンダーのはずではなかったか、いやこの状況なら……合体技か!

 

「二人を止めろ! 合体技が来るぞ!」

「もう遅え! ここから行くぜ!」

「はいッス!」

「!?」

 

 突然二人が口づけ、そして離れた瞬間、それぞれが炎と氷に包まれる。

 

「「『ファイアブリザード』!!」」

 

ファ

 

「ぐああああーーーーーっっ!!」

 

 『イージス』の分子の相転移をそのまま攻撃に転用したような一撃。そのシュートは必殺技を使わせる間もなくラウラを吹き飛ばす。

 

『入ったぁー! ダリルとフォルテ二人の必殺技、『ファイアブリザード』炸裂!!!  二対四!!』

 

「まだだ! まだ……」

 

 まだ巻き返せる。そう言いかけたとことで、

 

 ピィィィーーーーッ………

 

「あ……」

 

『ここで前半終了のホイッスル! 亡国機業のリードで前半が終了しましたっ!』

 

 無情にも時間は過ぎ、前半終了。俺達は暗い雰囲気に包まれながら千冬ね……監督の下へ戻るのだった。

 

 



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試合編・後編

「……で、どうすんのよこれ」

「まだ2点とはいえ、差をつけられてしまったな……」

 

 ハーフタイム。本来ならば後半への作戦会議などを行う場だが、俺達の士気は下がっていた。

 覚悟はしていたがかなりの強敵。それもまだ全力は出していない。こちらもまだ全てを見せたわけではないが、それが及ぶかもわからない。

 

「……すまない。私がもっと止められていれば……」

「ラウラのせいじゃない……私たちがしっかり守れてないから……」

 

 全員が落ち込んでしまっている。このまま後半戦に出られる状態じゃない。

 どうすればいい? 後半有利に立ち回るには、いやその前に皆が……

 

「織斑」

「千冬姉?」

「今こそ、『キャプテン』が必要な時だ」

「……!」

 

 そうか、わかったよ監督!

 

「……皆! 聞いてくれ!」

「え?」

「ん?」

 

 キャプテン()の役目、今何をするべきか。それはきっとこれだ!

 

「試合はまだ終わってない! 前半でダメでも後半がある。絶対に勝てない勝負なんてないんだ。諦めなければ、絶対に勝てる!」

 

 落ち込んでいる場合じゃない。気持ちで負けたらおしまいなんだ!

 

「最後まで試合がどうなるなんてわからない。全力で戦って、勝利の女神を微笑ませてやろうぜ!!」

「「「!!!」」」

 

 ……やべ、ちょっと恥ずかしい。

 

「……ああ、やろう!」

「わたくしは諦めるつもりなど毛頭ありませんわ」

「そうね、まだまだ行けるわよ!」

「箒! セシリア! 鈴!」

「うん! 絶対に勝とうね!」

「当然だ。勝利を掴むぞ!」

「勝って学園を、皆を守りましょう!」

「……諦めたら、そこで試合終了……」

「シャル! ラウラ! 楯無さん! 簪! ……皆、ありがとう!」

 

 よかった、みんな諦めてなんかいなかった。

 

「皆、勝つぞ!」

「「「おう!!」」」

「……気合いは入った様だな。では作戦を伝えよう」

「「「はい!」」」

 

 ……そしてハーフタイム終了。後半戦が幕を開ける。

 

◇◇◇

 

 フィールドへ戻り、各自ポジションへ、亡国機業側は変化なし。こちらは……。

 

『さあ後半開始ですが……おーーとぉ? IS学園イレブン、箒をミッドフィルダーに下げている! これはどういうことだぁー!?』

「……」

 

 こちらは箒をミッドフィルダーに。これが千冬姉の作戦の一つ。

 『紅椿』が持つ第四世代機特有の対応力。それを狙ってのポジション変更。

 最も理由はそれだけではないみたいだが……。

 

「さて、もう1点いただこうかしら……」

「させるかっ!!」

 

 もう一つの作戦はスコールのマーク。相手のキャプテンはマドカだが、司令塔はスコールだ。こいつを自由にしておくとどんどん不利になる。

 だからこちらは全力で動きを封じる。

 

「うおおおっ! 『雪羅・霞衣(せつら・かすみごろも)』!!」

 

 

 左足の雪羅から光の膜を展開、炎をかき消しながら相手を吹き飛ばす。零落白夜のエネルギーを防御に転用した技だ。

 

「くっ……」

『織斑の新必殺技がスコールからボールを奪う! ここから反撃できるかぁー!?』

「鈴っ!」

「はいっ!」

 

 そのまま鈴にパス。このまま繋いでいこう。

 

「……『ディフェンスコマンド06(マグネットドロー)』」

「渡さないっ! 『昇り龍』!!」

 

ディフェンスコマンド06

昇 り 龍

 

「うおりゃあっ!!」

 

『ゴーレムⅢを吹き飛ばしたぁー!! しかし先には『イージス』コンビが控えているぞー!?』

「あいつⅢなのか!?」

「Ⅱはどこ行った?」

 

 赤い方の無人機(ゴーレムⅢっていうらしい)を吹き飛ばして更に進む。

 

「行かせるかっ!」

「残念、一夏っ!」

「おうっ!」

 

 ダリル先輩を躱して再び俺へ。これでゴール前、シュートチャンスだ。

 

「『零落白夜』ぁっ!!!」

 

零落白夜

 

「無駄無駄っ!」

「アーリィさん!?」

 

 もうここまで戻ってやがる!そして空気を裂くような蹴りを繰り出し──

 

「『真空魔』!!」

 

真 空 魔

 

『出たぁー!! アリーシャのシュートブロックだぁ! 勢いが弱まったぞぉ!!』

「こんだけ弱まれば楽勝だぜ!」

「くっそぉ……」

 

 真空の裂け目によって勢いを失ったシュートは軽々とキャッチされ相手ボールへ。

 急いで取り返さないと。

 

「ゴーレムⅢ!!!」

「…………」

 

 ゴーレムⅢへのパス。ここでカットだ。

 

「『オフェンスコマンド02(リニアドライブ)』」

 

オフェンスコマンド02

 

「何っ!?」

 

 磁石状のオーラが具現化、その磁力を利用した高速移動でこちらのディフェンスを抜けていく。

 

「止めろっ!」

「無駄だっ!!」

「しまった!!」

 

 接触する前にマドカへパス。既にシュート態勢に入っている。

 

「『オーガブレー──」

「『スピニングカット』!!」

 

 

 右足をふるって放つ衝撃波でパスをカット。何とか止められたな。

 

「楯無さん!!」

「はいっ!!」

 

 もう一度パスで繋いでいく。次こそ決めるんだ。

 

 しかし……

 

「『ウォーターベール』!!」

「『ディフェンスコマンド06』」

「『ディフェンス方程式』っ!!」

「『イグナイトスティール』」

 

『必殺技の応酬! しかし得点は動かないっ膠着状態だぁー!』

 

 どうにかあちらの攻撃を凌げてはいるが、こちらも攻め切れていない。そして。

 

「っ!?」

「エネルギーが………」

 

 こちらはガス欠が近い。相手の攻撃を凌ぐためには必殺技を使わざるを得ず、消費が大きすぎるんだ。

 対してあちらはまだ余力を残している。

 

「……もう終わりか?」

「このっ……」

 

 

 

 

(……だめだ、このままじゃ皆がやられてしまう)

 

(一夏は私たちを励ましてくれた、なら私には何ができる?)

 

(……そうだ、私には、『紅椿』にはこれがある!)

 

「応えろ!! 『紅椿』っ!!!」

「何だ!?」

「この光は……」

 

 箒を中心に広がる光、これをオレは知っている。この光は……

 

「『絢爛舞踏』!!」

 

 シールドエネルギーの高速回復。本来手を触れなければ発動できないそれは、全身から迸る光によってオレ達に届けられる。

 

「……全回復!」

「これでいけるかっ!? 皆ぁ!!」

「「「ああっ!」」」

 

 心配だったエネリルギーの問題もこれで解決。全力出し放題だ。

 

「ぜぇぇいっ!!」

「うおっ!」

「楯無さんナイススティール!!」

 

 やっとボールを奪えた。今度こそ反撃だ!!

 

「簪ちゃん! 私たちもいくわよ!!」

「うん、お姉ちゃん!!」

 

 楯無さんが《ミストルテインの槍》を準備、簪も《山嵐》をセットしている。

 

「『ハイドロ──」

「──ストーム』!!!」

 

 

 山嵐をミサイル48発と、ミストルテインの槍を全く同時にボールへ浴びせる必殺シュート。水流と爆発が威力を高め合い。ゴールへ飛んでいく。

 

『これは姉妹の合体技!! 『ファイアブリザード』にも劣らない凄いシュートだぁーー!!』

 

「まだよっ!!」

「鈴!」

 

 ゴール前に駆け込んできた鈴もシュートの構え、これは……合体技にチェインか!?

 

「『ドラゴンインパクト』!!」

 

 

 2門の衝撃砲を全開、強烈な衝撃波と龍のオーラをシュートに追加。

 龍、ミサイル、水流。3つが混ざった凄まじい一撃と鳴ってオータムに迫る。

 

「「「いっけぇぇーーーーっ!!!」」」

「うおおおっ! 『ビッグスパイダー』!! ……うわああっ!!」

 

『ゴォォーーール!! IS学園一点を返しました!! 三対四!』

 

「「「やったぁ!!」」」

 

 笑顔でハイタッチを決める3人。凄いシュートだった、皆の士気も上がっている。

 オレも負けていられないっ!

 

『さて試合再開……おおーーーっとぉ!?』

「今度は俺だぁっ!!」

「ぐっ!!」

『一夏ボールを奪ったぁ! 連続得点なるかぁ!?』

 

 瞬時加速でどんどん駆け上がっていく。エネルギーは箒が回復してくれる。今は全力で点を取る!!

 

『さあ一夏はゴール前! 再びシュートチャンスだぁ!』

「絶対に決めるっ! 『零落白夜』!!」

 

零落白夜

 

 先ほどよりも遙かに大きな光の刃を纏った右足でボールを蹴り抜く。

 今度は誰にも邪魔させない。最大威力で叩き込む!!!

 

「うぉ──」

『ゴォォォーーーーーーール!!!!!  また素晴らしいシュートが決まったぁっ!! 同点ですっ!!』

「いよっしゃぁ!!」

 

 再び同点!! これで振り出しに戻った、後は逆転だ!!

 

『勢いの出てきたIS学園!! このまま逆転かぁー!?』

「巫山戯るな! 私が負けるなどあるはずがない!」

「いいや、勝つのは俺達だ!!」

 

 これ以上相手には攻めさせない。このまま試合の主導権を握り続けてやる。

 

「もう一回いくぞ! 『零落白夜』!!」

 

零落白夜

 

『再び一夏の『零落白夜』炸裂ーー!!』

「今度こそっ!」

「止めてやるぜっ!!」

「「『凍てつく炎(アイス・イン・ザ・ファイア)』」!!」

 

 

 氷に包まれた炎の壁。その亀裂から勢いよく炎が吹き出し、ボールを弾き飛ばす。

 本来は反発装甲(リアクティブ・アーマー)として使うものをブロックに利用した大技だ。

 

『弾いたぁ! 『イージス』コンビの新必殺技だぁ!』

「まだだっ!!」

 

 弾かれ高く上げられたボールに箒が飛びつく。

 

「この高さなら防げないっ!」

 

 肩部ユニットをブラスターライフルに変形。真紅のエネルギーを放出する。

 一発でも十分な威力のそれを、六連続で。

 

「『穿千(うがち)・六連』!!」

 

穿千六連

 

「ぶち抜けっ!!」

「くそがぁっ……」

 

 大出力のエネルギーを纏ったボールを待ち受けるオータム。その顔には連続で得点を許した怒りと憎しみで満ちている。

 

「ざっけんなよ……そう何度も入れさせるなんて私のプライドが許さねえ!!」

「な、なんだ!?」

 

 オータムの背から溢れる黒いオーラ。それが徐々に形を成し……幾つもの手になった。

 

「『ムゲン・ザ・ハンド』!!!」

 

 

「うおおあああ!!!!」

 

 背後から伸びる腕はシュートに群がり、完全にボールを覆い尽くして止めた。

 

『止めたぁーー!! キーパーオータム、ここに来て新必殺技でゴールを守ったぁ!!』

 

「おいクソガキッッ!!」

「!?」

「ボサッとしてんな! お前が点を取れ!!」

「……了解!」

 

 オータムからマドカへのロングパス。ここでマドカにボールが渡るのはまずい。

 

「待ちなさいっ!」

「……どけっ!!!」

「きゃああーーーっ!」

 

 焦りに満ちた顔から一転、勢いを取り戻したマドカがフィールドを駆け上がる。

 

「『スピニングカット』!!」

「『清き熱情』!!」

「邪魔だっ!!」

「「うわあああーーーっ!」」

 

 二人のディフェンスも突破された。これでフリー。チャンスを渡してしまった。

 

「貴様らが何点取ろうと、無駄な足掻きだっ!!」

「何っ!?」

「うおおおおおおおおっ!!!」

 

 『オーガブレード』の時より更に巨大な、黒いオーラが全身から溢れ出し、蹴り上げたボールと共に上昇。

 そして装甲を部分解除した右手を咥えて…咥えて?

 

 

ピュイーーーーッ!!

 

「何だぁ!?」

「指笛!?」

 

 指笛の音に反応したのか、徐々にオーラが変形し、水族館でよく見るあの鳥の姿に変わる。

 

「あれはペンギン!?」

「しかも6匹!? 何考えてんの!?」

「油断するな! 来るぞ!!」

 

 現れた漆黒の鳥はマドカの右足に食らいつき、赤い目を禍々しく光らせる。

 

「喰らえ……! 『ダークネスペンギン』!!」

 

 

 空中で大きく一回転し右足を踵落とし。放たれたシュートは1匹の巨大なペンギンに変わり、空中を泳いで突き進む。

 

「何だこのシュートはっ!? くそっ……ぐ、ぐあああーーーーっ!!!」

『ゴォォォォーーーーーール!!!! 今度はマドカの新必殺技炸裂ーーー! 再び亡国機業のリードだぁぁ---っ!』

「くっそぉぉ……」

 

 ペンギンの見た目に反してなんて強力なシュートなんだ。今日一番、いや記録で見たどのシュートよりも強く、凄まじい必殺技だった。

 

「……でも、だからって負けられない。そうだよな? 皆ぁ!!」

「「「おおーーっ!!」」」

 

 sロ売りを求める皆の気持ちが一つになり、超次元エネルギーの高まりを感じる。今ならできる気がする。『ダークネスペンギン』を超える必殺技が!!

 

『さあ再びピンチのIS学園! ここからどう返すかぁーーっ!?』

「俺がやるっ! パスを繋いでくれ!」

「了解!!」

 

 皆を信じて敵陣を駆け抜ける。大丈夫。必ずボールは来る。

 

「行かせねえ!」

「押し通るっ! 『雪羅・月穿(せつら・つきうがち)』!!」

「うああーーっ!?」

 

 ディフェンスに捕まっている暇はない。何故なら──

 

「一夏っ!! 今だっ!」

「サンキュー箒!! タイミングバッチリだ!!」

 

 ボールが来たからだ!!

 

 ……全身に満ちる超次元エネルギーを右足に一点集中。零落白夜と混ぜ合わせて刃とし、飛んできたパスにダイレクトシュート。

 これが俺の、最強の必殺技!!

 

「『最強IS波動』!!!!」

 

IS

 

 巨大な光の刃が地を抉り、立ちはだかる全てを薙ぎ払いながらゴールへ飛ぶ。

 この一撃、止められるものなら止めてみやがれ!!!

 

「『ムゲン・ザ・ハンド』!! ……ぐううう……」

「いっけぇぇぇーーーーっっっ!!!!」

「ぐうあああああーーーっ!!」

 

『……は、入ったぁーーー!! ミラクルシュート炸裂!! またも同点へと返しましたっ!!』

「よっしゃあ!!」

 

 これでまた振り出し。次で逆転だ!!!

 

「まだだっ! まだ負けてないっ! 勝つのは()()()亡国機業だ!!」」

「エム……!」

「うおおおおっ!! 『ダークネスペンギン』!!!」

 

 

『出たぁーー! マドカの『ダークネスペンギン』が襲いかかるぅーーっ!! 止められなければもう後がないぞーーっ!?』

「せめて勢いだけでもっ! 『山嵐』っ!!」

「少しでも弱めるんだっ! 『盾殺し』!!」

「吹き飛べぇ!!」

「「うわああっ!!」」

 

 全力のシュートブロックも僅かに勢いを落とすのみ。漆黒のペンギンは目の前のゴールを破らんと襲い来る。

 だが、それでも俺は。

 

「ラウラーーーっ!!!」

「嫁!?」

「絶対に止められる! 俺は信じてるぞっ!」

「……任せろ!!」

 

 ラウラなら絶対に止められる。これは予感じゃない、確信だ。

 

(……そうだ、私ならできる)

 

オータム(あの女)も土壇場で必殺技を編み出した。ならば私にできないはずがない)

 

(ここを守って、勝利へ繋ぐ! そして、嫁に褒めて貰うのだ!!

 

「うおおおおっ!!!!」

「な、なんだ!?」

「絶対に止めるっ! 『タマシイ・ザ・ハンド』!!!」

 

 

 ラウラの胸元──心臓から赤いオーラが飛び出し、巨大な手を形成。

 魂そのものが形となった手はイナズマと共にシュートを受け止める。

 

「そんなっ……」

『止めたぁーーーーっ!!! ラウラも新必殺技を発動! ゴールを守りました!!!』

「よし!!」

 

 やった! これでボールは俺達の手、いや足に。この勢いで逆転だ!!

 

『しかし残り時間はあと僅か。このまま延長戦か!? それとも決着なるかぁーーっ!?』

「当然決着だ! シャルロット! 楯無!!」

「「了解!!」」

 

 ラウラからディフェンダーの二人へそれも半端なパスの勢いではなく、シュートと見紛うほどの威力で。

 

「「セシリア! 鈴! 簪!」ちゃん!!」

「「「はいっ!!!」」」

 

 今度は三人。更に威力は増し、ボールは光を帯び始める。

 

「「「箒っ!!」さんっ!!」」

「応っ!!!」

 

 二度の加速を重ねたボールはイナズマと共に箒の下へ。

 ここで箒がやることはただ一つ。俺はそれを待つべく一気に敵陣ゴール前まで上がっていく。

 

「受け取れ一夏! これが私たちの想いだっ!」

 

「『少女たちの展翅(ガールズ・オーバー)』!!!」

 

 

『これは何というパス、いやシュートだぁぁーー!? ゴールから七人で繋がれたボールが七色に輝いているーーーっっ!!!』

 

「これが俺たちの全てだっ!!」

 

 このボールから皆の熱い想いを感じる。このチャンスを、想いは決して無駄にはしない。

 絶対に決めてやる!!

 

「『最強IS波動』!!!!」

 

IS

 

「オータム!!」

「『ムゲン・ザ・ハンド』!! うおおお……」

 

 七色のイナズマを纏い、全員の想いをのせたボール。誰にも止められやしない!

 

「いっっっけぇぇぇぇーーーーっっ!!!」

「ぐっ……ぐぁああああ!!!」

 

『ゴォォーーール!!』

 

『逆転! ついにIS学園が勝ち越しぃーーっ!!!』

 

ピッピピィィーーッ!

 

『そしてここで試合終了のホイッスル! 世紀の一戦! 勝ったのはIS学園! 大逆転勝利ぃぃーーーっ!!』

 

「勝った……」

「やった……」

「うん……」

「「「やったぁーー!!」」」

 

 ついに、ついにやったんだ!

 

『この歓声を聞いてください! 皆がこの試合を讃えています! かくいう私も泣けてきちゃったよおりむー!

「あっ戻った」

「逆に違和感出てきたわね……」

 

 ともあれIS学園と亡国機業+束さんの試合は終わった。互いが全力を出し切った、いい戦いだったと思う。

 そして俺たちはスタジアムに響く歓声を全身に感じながら、勝利の喜びを噛み締めるのだった。

 

◇◇◇

 

「……どこへ行くつもりだ? 束」

「……ちーちゃん」

 

 スタジアム入口。大盛り上がりの試合結果をよそに二人。

 

「べっつにー。私は負けた、敗者は去るのみだよ」

「そうか。ではな」

「止めに来たんじゃないの? 別にいいけど」

「そんなことしたって嫌みにしかならんだろう」

「そうだけどさぁ……」

 

 じゃあ何で呼び止めたんだこいつ。学生時代からの友人とはいえ、時々ちーちゃんのことがわからなくなる。

 

「約束通りもう学園にちょっかいは出さないよ。じゃあね」

「待て、一つ聞きたいことがある」

「今度は何? スタジアム(ここ)なら後で自動着陸するよ」

「今日の試合は楽しかったか?」

 

 ……!

 

「……うん。まあまあね」

「そうか、()()()もっと楽しませてやる」

「期待しとくよ。今度こそ、またね」

 

 負けたのに何故か清々しい。こんないい気分は久しぶりだろう。

 さあ、帰って次の試合はどうするか考えなくっちゃ!

 

◇◇◇

 

 ワァァァァ……

 

「……やったな一夏」

「……ああ、ついに勝ったんだ」

「それで……だな、ちょっと話が……」

「あ、ちょっと待ってくれ」

「?」

 

 放棄の話を遮って少し離れる。後で聞くから勘弁してくれ。

 そして向かう先には対戦相手のキャプテン。

 

「マドカ、ちょっと待ってくれ」

「何の用だ、私を嘲笑いに来たのか?」

「まさか、いい試合だった。ありがとう」

()()()()だと? ……巫山戯るな!」

「はっ? どうしたんだよ!?」

 

 そんなに酷いこと言ったか? 普通に褒めたつもりなんだが……。

 

「貴様にはわかるまい、この試合にかけた私の思いを! それなのに……無様に敗北のどこがいい試合なのだ!?」

「そんなことない!  お互い全力を出した! 最後までどちらが勝つかわからない、熱い試合だったじゃないか!」

「黙れ黙れ! 究極の人類の失敗作と呼ばれても生き続け、遂に力を手に入れたと思えばISサッカーなどというわけのわからんスポーツをやらされ! そのスポーツですら無様に敗北したこの気持ちが!」

「え? ……うん? んん!?!!??!?」

 

 お前もISサッカー知らなかった(こっち側だった)のかよ!?

 やべえ驚愕の事実に話が全然入ってこねえ。

 ……どうしようこれ。……うん。

 

「……わからねえよ、お前の気持ちは」

「……っ」

「でも、この試合は楽しかった。それは本当だ。だから……」

 

「また、ISサッカーやろうぜ!」

「!!」

 

 今の俺が言えるのはこれしかない。またこいつとISサッカーがやりたいんだ。

 

「……()()()私たちが勝つ」

「! ……今度も俺たちが勝つ!」

 

 そしてマドカと亡国機業は去り、スタジアムには俺たちと観客だけが残る。

 

「……話は終わったか?」

「ああ。で、何て言おうとしてたんだ?」

「……さあな、忘れたよ」

「?」

 

 変なの。まあいいか。

 

 

 

 

 

 

「……なあ」

「どうした?」

「なれたかな? 俺たち。伝説の『イナズマイレブン』に!」

「……いや、伝説は……これからだ!!」

 

 

 

 

スキになったキモチ 誰にも隠せない

このトキメキ どうしたら伝えられる

おでんボーイ おでんガール

レトロモダンな食べ物 人気者

スキなんだもの

 

ハンペン食べてるのに 大根の誘惑

青のりスパンコール 心乱れる私

 

メインディッシュはおでん 別腹でもう一本

いつも近くにいたのに 気付かなかったよ

 

牛筋一筋噛みしめて つゆの香りにつつまれて

スキだってこと わかってしまったから

青春おでん

 

 

 

 

 

次回予告

 

 ついに勝利だぁ! さあ皆でもっとISサッカーしようぜ!

 ……え!? IS学園に襲撃!? 一体何が!?

 

 次回、イナズマイレブンIS

 

絶対天敵(イマージュ・オリジス)が来た!

 

 これが超次元ISサッカーだ!!

 

 

 

 

 キャプテン! 今日の格言!

 

IS

 

 以上!

 

 




特殊タグの設定やら歌詞使用の確認やら何やらで地獄みたいに手間がかかったので二度とやりません。


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