【完結】がっこうぐらし!モールスタートめぐねえエンドSランク縛り【MGNEND】 (月日星夜(木端妖精))
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1パンデミック~みーくん達と合流

リスペクト元が完結しているので初投稿です


 今日は2016年発売の家庭用ゲーム『がっこうぐらし!』のRTAに挑戦していきたいと思います。

 計測開始はゲームスタートを押してから。タイマーストップはエンディングスキップ後、スチルが表示されたら。はい、よーいスタート。

 

 ローディングの間に諸々説明していきましょうか。

 

 このゲームはカスタマイズしたキャラクターを主人公に、アウトブレイクの起こった街を生き抜くサバイバルゲームとなっております。

 

 このゲームの特徴はなんといっても自由度の高さですね。原作を踏襲したルートで走るもよし、一人街を旅するもよし、集団に合流するもよし。用意されたイベントの数は膨大で、発売からだいぶ経ちますが未だに未発見のイベントが起こったりします。最近だと街ルートの"めぐねえ怒りのデスロード"ですかね。発生条件はアウトブレイク後にめぐねえを校外へ連れ出す、めぐねえ以外の生徒が全滅している……という大変フラグ立てがシビアなものなのですが、迫力のあるイベントシーンは一見の価値ありです。ニキ兄貴の『学校ルート採用RTAりーさんEND 23分57秒』(非実在)で見れるのでそちらをどうぞ(ダイマ)。RTAはいいぞ(めっちゃいい)。

 

 そんな先駆者兄貴達に憧れて私も手を出してしまいました。試走はもーめちゃくちゃです。プレイするたびに状況が変わるリアルシミュレーションシステムを採用した本ゲームではチャートを組むのがしんどすぎて辛い。何よりプレイスキルが足りない……なのでこのRTAでは時間を度外視した安定重視のプレイスタイルを採用しております!! スーパープレイに興味のある方は他の走者さんのを見ましょうね~。おすすめはアサルトゲーマー氏の学校スタート(【WR】がっこうぐらしRTA_全員生存ルート【完結】)のやつです。

 

 RTAなのに時間度外視!? と驚愕しているであろう視聴者のためにぃ~……

 本プレイにあたっていくつか縛りを設けます。

 まず、難易度はVery Hard。上に最高難易度(Nightmare)がありますが、私ではベリハが限界です。

 スタート地点はショッピングモール、難易度の高いめぐねえエンドを狙っていきます。

 評価オールS、合計プレイ時間4時間以内、銃火器の使用禁止。拾ってもいいけど撃っては駄目という形で。

 

 学校での攻略可能キャラクター全員生存も追加しましょう。どうせ狙うなら曇っていないめぐねえと幸せな朝を迎えたいですからね。

 

 さっそくキャラクリに移りましょう。既にタイマーは動いているのです。時間は命ですよ、先輩。

 

『あなたは男の子? それともー女の子?』

 

 なんだこのロリ!?

 画面端にポップしたゆきちゃんがフルボイスで問いかけてきましたね。豪華なもんです。

 キャラの容姿を設定する前にいくつか質問をされるのですが、ここでナビゲートしてくれるキャラは学園生活部のメンバーからランダムで選ばれます。さらにここで現れたキャラクターの初期好感度が一段階上がります。好感度は上下しやすいので誤差ですね。厳選等する必要はありませんので最速入力で進めていきましょう。私の指捌きはレボリューションだ!

 

 性別は女。学年は3年生。

 キャラタイプはCで、容姿は事前に登録しておいたこちらを使用します。普遍的な黒髪ウェーブロングのモブ顔眼鏡まな板チビ。いえ性癖ではなくてですね、小柄なのはこのチャートにおいては有利なんです。勘違いしないように。

 

『じゃあ、今からする質問に答えてね!』

 

 画面端に立つゆきちゃんがコミカルな動きと共にいくつか質問を投げかけてきます。これががっこうぐらし!を原作としたゲームであると印象付けられますね。

 ここで決まるのは性格ほか、能力値や各キャラクターの主人公への初期好感度です。

 TNPよく行きましょう。……はい、性格は臆病で、クラスでは目立たないタイプ。得意な科目は図工。所属は園芸部。

 

 臆病な性格は隠密性に補正がかかり、「彼ら」に見つかりにくくなります。

 目立たないタイプも同様。それから"無音歩行"のスキルを最初から取得できます。タイプには他に「目立ちたがり」や「クラスの中心」などがあるのですが、前者は「彼ら」からの発見率が上がる代わりに索敵精度が高まり、後者はカリスマのスキルで味方の好感度を稼ぎやすくなります。

 

 それに比べると「目立たないタイプ」の恩恵は小さいように思えますが、モールスタートだと単独行動が多くなるので実質これ一択になってしまうんですよね。キャラタイプCは小柄であるのがその二つの要素とシナジーがあります。反面、キャラタイプCは体力が少ない。持久力も同様。さらに質問『あなたはお外で遊ぶのが好き? おうちで遊ぶのが好き?』におうちでを選択したので、息を止めていられる時間が短くなってしまっています。戦闘力なんてゆきに劣るほどのクソザコナメクジっぷり。

 

 元よりハイドアンドシークを推奨するゲームではありますが、彼女(タイプC)を操作キャラとした場合それが顕著になります。上等ですね。腕の見せ所ですよ。かくれんぼは得意なのです。

 園芸部なのはりーさんこと若狭悠里との接点を作ることと、ひいてはるーちゃん救出の布石です。

 

 名前は入力時間を考慮してほも……としたいところですが、女の子なのでランダムに任せます。

 千翼優衣(ちひろゆい)になりました。母さん食ってそう(チヒルォ)。よろしくお願いします。

 

『ありがとう、あなたのことい~~っぱいわかったよ!』

 

 ゆきぃ……お前ほんとかわいいなぁ(ノンケ)。

 今回はめぐねえエンドを目指しているので『何が好き?』という質問に「先生が好き」を選択しましたが、「あなたが好き」と答えてたじろがせたいです。「勉強が好き」でも可。ちょっと仲良くなれる自信がない、としょんぼりするゆきちゃんが見れます。

 

 こうしたナビゲートキャラごとに特定の回答をすると特殊な反応を見ることができるので、みなさんもぜひ探してみるといいでしょう(謎の上から目線)。

 個人的にはくるみの『災害時に一番大切な事って、なんだと思う?』の質問に「すみやかな介錯」と答えると不穏な表情が見られるのがなんか好き。

 りーさんの質問に内容を無視して「そんなのただの共依存じゃないですか」と答えると凄いバッチリカイガンするのも好きです。あなたねっ……!

 

 家族構成を問う質問には片親、兄弟姉妹不在と答えると個別ルートに入りやすくなります。

 オープニングムービーはスキップスキップ!

 それじゃ寂しい? よろしい。みぎっかわにムービー流しときます。

 

 

 半ドンで終わった学校に迎えに来た母と久々のショッピングを楽しむ優衣ちゃん。いつも仕事で忙しい唯一の肉親との楽しい時間に、根暗な優衣ちゃんの顔も今ばかりはほころんでいます。ま、すぐ曇るんですけどね。

 見る予定の映画が始まるまでの30分あまりを1階にあるドーナツショップで待っていた二人は、にわかに騒がしくなるのに不思議そうにしています。と、すぐ傍を何人かが駆けていきました。様子が尋常ではありません。

 何かあったのかと話を聞こうとお母さんが席を立ちますが、それが運の尽き。人波から飛び出してきた「かれら」に組みつかれて噛まれてしまいます。

 

 なんとか押し返したものの肩からとめどなく血が溢れ、ふらつく母に慌てて駆け寄った優衣ちゃんは、こうして現れた狂人から逃げるためにみんなが出口へ駆けて行っていたのだと理解し、その波に乗っていくのですが……。

 

 出入り口に殺到する人達が壁となってなかなか前に進めなくなり、さらにはその中から人を襲う「かれら」が生まれる始末。母に肩を貸しながら異様な雰囲気に呑まれて泣きそうになっていた優衣ちゃんは、耳元で発された唸り声に顔をあげ、直後に押し倒されてしまいます。母が「かれら」と化してしまったなどとはこの時の優衣ちゃんには理解できず、噛みつこうとしてくる母に抵抗しながら何度も呼びかけます。

 

 しかしタガの外れた「かれら」と貧弱一般人たる優衣ちゃんでは勝負にすらなりません。あわや、というところで誰かが母を引き剥がしてくれました。

 

「大丈……なっやめ!」

 

 助けてくれたのは警備員。ですが母にマウントを取られてかぶりつかれてしまいます。

 凄惨たる光景に悲鳴さえ出ない優衣ちゃんですが、聖人の如き警備員は必死に逃げるよう呼び掛けてくれたので、なんとか立ち上がれました。

 

 出口方面は団子状態でこちらへ向かってくる狂人が多数。ならば他の出口を求めていったん内側へ戻るしかない。パニックゆえ逆に迅速な行動を起こした優衣ちゃんは、しかし行く手を阻む数人の「かれら」に足を止めます。にじり寄る人であったものたちへの恐怖で身が竦み、もはやこれまでか……。そんな時、2階から落ちてきた人が立てた異音に反応した「かれら」は優衣ちゃんを放ってそちらに向かいました。危機一髪でしたね。

 

 その隙に近くの観葉植物の後ろへ隠れ、息を殺す優衣ちゃん──ここから操作可能になっていきます。

 付近に「かれら」が徘徊してますが、ここは完全に安全地帯となっているので"息を殺してやり過ごせ"という小目標は無視しましょう。植物の生える大きなオブジェクトに背を預け、座った状態でずりずりと横移動。怒号と悲鳴に身を竦める優衣ちゃんは可愛らしいですがいちいち止まるのはNG。

 端に寄ると外側を覗けます。ここに限らずオブジェクトの端っこだと同じアクションができます。これを専門用語でリーンと言います。

 

 ショートムービーが流れホールをうろつく「かれら」の姿に息を呑む優衣ちゃんですが、操作可能になれば即座に立ち上がります。これ以前は立てません。

 ダッシュで入り口側の柱へ移動し、ボディプレス染みたモーションで滑り込んでいきます。物音に振り向く「かれら」ですが、ギリギリ気付かれません。身を起こし、傍に転がるハンコを拾って柱の向こうへ投げ、「かれら」を誘導したら再びダッシュで入り口まで向かいましょう。

 

 今何をすればいいのかは左上に表示される小目標を見ればわかります。今はパニックが収まり始めた優衣ちゃんが母の安否を確認するために元いた場所へ戻ろうとしているようですね。"出口へ向かえ"と表示されています。

 

 入口側は相変わらず阿鼻叫喚の地獄絵図。仰向けに倒れ痙攣する警備員の傍に目的の母がのっそり立っています。そこに向かって全速前進! 左右の「かれら」に視認されますが、直後にムービーが入るので問題なし。「かれら」と化した事を強調する黒いオーラを纏い悍ましく開口する母のムービーはもちろんスキップ。スキップ可能なものは容赦なく飛ばしていきますよ。時間は大事。

 

 母だったものは優衣ちゃんよりも入り口側の騒音を優先してこちらに背を向けましたのでもう用はありません。近づけばスニークキルのマークが出ますが、今やると返り討ちにあって死にます(1敗)。以降も場合によっては返り討ちにあうので現実的に無理そうな場面でスニークキルを実行してはいけない(戒め)。

 

 私は初見の際「お母さん……?」と呼びかけながら近づく主人公ちゃんの傍にマークが出るのに反射でボタンを押してしまい淡々と殺しにかかるのを見た時は爆笑しましたね。そして死んで唖然としました。

 あ、でも無手では殺せないって訳じゃないです。しかし現状、そこにふらつく2体相手のスニークキルは非推奨。素手で二人に勝てる訳ないだろ! 実際体力が足りません。

 

 なお後半のチャプターでは無手での連続キルが基本になっていく模様。臆病な性格とはいったい……?

 

 ホールに戻ってきました。武器が手に入るまでは基本的にスニークする必要がありますが、ここに限っては立ちっぱでも問題ありません。高難易度ゆえ「かれら」の数は多いですが、チュートリアルステージなので戦闘状態に移ったかどうかは評価に入らないんです。しかし入り口で母のムービーを見るまでの最初の数体に発見されると何故か評価に響きます。なので柱に隠れる必要があったんですね。

 

 小目標は"エスカレーターへ!"

 障害物の隙間を縫って駆け抜けていきましょう。血だまりもしっかり避けないと転んだところに殺到されます。見ればわかりますよねそんなの(無敗)。

 あっ。

 なんだその判定(驚愕)たしかに避けたはずの血だまりにつんのめってしまいましたが、流れるようにスニークキル(キルしない)で障害物を退けてエスカレータに辿り着くことができました。操作ガバじゃありません、魅せプレイですよ、先輩。

 ここでムービー。

 

「こっちだ! はやく!!」

 

 背後を振り返って迫りくる「かれら」を確認し青褪める優衣ちゃんに、エスカレータ上から声がかかります。青年が手を差し伸べてきています。どっかで見た事あんなぁお前! そうです、原作漫画版のリーダー君です。

 助けてくれそうな人が現れた事に一瞬喜色を浮かべた優衣ちゃんは、しかしへにゃっと情けない顔をします。ん?

 そして、あ、あ~っ……! リーダー君の手を取ろうとしません!

 

 本来は1も2も無く手を取り引っ張り上げてもらうのですが……これはあれですね。ゲーム開始時に先天的に入手できるスキルのうち、バッドなもの……接触恐怖症(haphephobia)を引いてしまっていたようです。これは生存者とのスキンシップで得られる精神値の回復がマイナスに変わってしまうという、通常プレイではかなりまず(テイスト)なやつですね。

 

「何をしてるんだ、はやくこっちへ!」

 

 焦るリーダー君はさらに前のめりになって手を伸ばしますが、あろうことか優衣ちゃんは両手とも自身の胸に押し当てて嫌がります。背後から迫る気配に四の五の言っていられない状況だというのはわかっているのですが、触れるだけで精神ダメージを受けちゃうので仕方ないね(レ)。

 結局自分の足で駆け上がり始める優衣ちゃんですが、判断が少し遅かった。追い縋る「かれら」の手が服を掴みます。

 

「くそっ!」

 

 比較的安全な上に留まっていたリーダー君はそれを見て覚悟完了。安全圏を捨て駆け下りてきて優衣ちゃんの手を引いてくれますが、上階からもやってきていた1体が落下してきてリーダー君を掻っ攫っていきます。その際強引に上側へ突き飛ばされた優衣ちゃんは転びながらもなんとか2階へ逃れ、階下にて群がられるリーダー君の最期を目撃してしまいます。

 

「に、逃げ……ろ……!」

 

 お前ら揃いも揃って聖人君子か? さっきの警備員もそうですが、ここで登場するモブはやたらと気のいい人たちばかりです。脇道にそれてみると出会えるお姉さんもかなりいい人ですが、死にます。こういう世界ではいい奴から死んでいくのが常ですししょうがないね(野)。

 

 リーダー君の死を無駄にしないよう必ず生き残りましょう!

 ……と言いたいところですが、優衣ちゃん何やら苦悶の表情を浮かべています。

 

 それも当然のこと。母に次ぎ自分を助けてくれた好青年まで目の前で死んでいく……それを目の当たりにした優衣ちゃんはランダムで精神的異常を負ってしまいます。さっきも得た? いいえ、あれは珍しい例です。男性恐怖症とか女性恐怖症とか、そういった不利益をもたらすスキルが初期につく確率は2%もなく、普通は有用なスキルがつきます。クズ運? それもちがぁう。実は接触恐怖症にはバッドスキルの中でもプラスの面もあるまずまずなスキル。それが何かは後述。

 

 さておき、プレイ済みの視聴者さん方もそうだと思いますが、こうして酷い環境で心に傷を負う主人公を見て、ああ、これはゲームであっても遊びじゃないんだな、とこのゲームに引き込まれていったんじゃないでしょうか。私はおおってなりました。

 

 そういったリアリティが魅力の一つでもありますが、一方でやけにシュールな部分も多々あります。

 今悲痛な表情でここを離れる事を決めた主人公がその実なんのバッドステータスも受けなかったりとか、謎の挙動で延々壁に向かって走り続けるNPCや、ムービー中にすっ飛んでいくめぐねえ等。

 

 で、今回の精神異常はなんでしょ。確認するにはステータス画面を開かなければなりませんが、それは当然微ロスになるのでここで確認はしません。やってれば反応からわかるでしょう。そういった細々とした動作も凄いんですよね、このゲーム。

 

 ぽてぽてとした走り方で上階を目指す優衣ちゃん。どんくさい走り方ですが他のキャラとスピードは変わりません。プレイアブルキャラは横並び、NPCも同速度。例外としてくるみちゃんのみ1.3倍の速度で走ります。クルミ・クルミ! シャベルというハンデがあってようやく常人と同じ速度とはやるね陸上部。

 

 倒れ伏す遺体により開閉を繰り返すエレベーターの向こうやモグモグingされている方をあまり視線上に置かないように心掛けつつ駆け抜けていきます。精神値も大事。

 

 ここからみーくんらに合流するまではひたすら階段を上りつつ障害物を避けていくだけなので倍速。その間に説明を忘れていたステータスを解説していきましょう。上部の長いゲージが体力ゲージ。一部状態異常や被弾によって減っていきます。その下の細長いゲージがスタミナ。長い……? 体力の10分の3もありませんね。スタミナカスだからしょうがないしょうがない。こまめに歩きを入れているのはこれのせいですね。

 

 左の顔グラを囲う円のゲージの左半分が空腹ゲージ、右半分が飲料ゲージ。こまめに食事を摂ったり水分を補給しないとパフォーマンスが落ちてしまいます。また、ゲージとして存在はしませんが適度にお手洗いに行かないと、それもパフォーマンスに影響します。戦闘中に漏らすのは……やめようね!

 

 右下にあるのが装備スロット。現在何もセットされていません。左下には精神値。やや減少しているのは、んー、なんでしょうね。付与された精神異常が影響しているのか、道中でちょっと削られたのか判断つきませんね。

 

 学校帰りの優衣ちゃんが本来持っているはずの学生鞄は下の階に置き去りなのでアイテムも何も無し。時々ぽっけに飴とかを忍ばせている事があるのですが、これも今は確認できません。

 みーくんらですが、現在どこにいるかはプレイ時間によって変わってきます。RSS(リアルシミュレーションシステム)によってプレイヤーと同時進行で避難しているので、行動が迅速であればあるほど早期の合流が可能なのですが、おっかしいなーどこにもいませんねぇ……。もう最上階まで逃げてるのかな?

 

 そうすると微ロスです。4階にいる数体は難なくやり過ごせるのですが、みーくんらが立てこもる5階に確定でポップする「かれら」はまさに彼女達が籠城する部屋に取りついているためやり過ごせず、さらにこの段階にはバリケードが築かれているので取り除いてもらうのにやや時間がかかってしまうのです。

 

そっちのダンボール! はやく!!

うっ……ぐ……!

 

 5階廊下に出れば彼女らのくぐもった声が聞こえてきます。扉に取りついてエキサイトしている「かれら」も発見。ダッシュで近づいてアンブッシュ! 襟首を掴んで引き倒し、首を踏み潰して処理します。ドアを叩いている「かれら」は大きな音を立てても振り向くまでに時間がかかるのでスニークキルは簡単です。大抵固まって取りついているので上手く決まる機会はあまりないですが、連続キルが決まると爽快です。

 どの難易度でもここにはこいつ以外絶対に湧かないので、やっつけた事を伝えて中に入れてもらいましょう。

 

えっ……?

ど、どうしよう美紀……入れる?

「……」

 

 あのー、まーだ時間かかりそうですかねー?

 時間が大事って私言いましたよね? これRTAなんだよね。遅延行為は困るよー。

 

「……」

 

 おタイムこわるる^~。

 

「…………」

 

 ヌゥン! ヘッヘッヘ! ……ヌゥン!

 

「……よし……!

 

 あ、やっと終わった? 待ちくたびれたよ。トイレタイムにしようかと思ったわ。

 しばらくダンボールをどかす音がして、その間優衣ちゃんは不安げに縮こまっています。

 ようやく開いた扉はしかし彼女達の心情を表すかのようにほんの僅かな隙間のみ。そこから群青色の瞳を覗かせるのはみーくんですね。凄まじい警戒心が透けて見えますが、優衣ちゃんの制服から同校の生徒であるとわかると入れてくれます。入れてくれました。顔見せムービーはスキップ。ブックマーク完了! ついでにセーブ!

 

「巡ヶ丘学院高校2年の祠堂(しどう) (けい)です」

「同じく2年の直樹(なおき) 美紀(みき)です」

 

 青褪めた顔ながらもはっきりとした声音が芯の強さを感じさせるけーちゃんと、ボーイッシュながら良プロポーションかつ警戒心が滲んでいるみーくんのラブラブカップルにオラオラとエントリーしていきましょう。

 私は巡ヶ丘学院高校3年の千翼優衣! 全ての攻略可能キャラクターを生存させる女だ!!

 

 実際はぽそぽそとコミュ障を遺憾なく発揮し短く自己紹介を済ます優衣ちゃんですが、3年? 年下かと思った、と素直な感想を言われるのに、ちょっと不満げにします。でもそれオブラートに包んでると思うんだよね。高校2年である彼女らと比べても頭半分、下手すれば一個分低い優衣ちゃんはどう見積もっても中学生かそれ以下にしか見えません。しかし年配。二人はしっかりと敬語で接してくれます。人間の鑑がこの野郎……!

 

 自己紹介を終えた事でチャプター1が完了し、評価が出ます。その間も時間は止まらないので妙な動きはしないこと。異常な行動は彼女達の警戒心を上げ、友好度や好感度に響きます。結果は……当然のSランク。

 

 

 

LEVEL UP

 

 はいレベルアップ。得られるポインツは体力・精神・知力・筋力・俊敏に振れます。知力と俊敏に振っておきましょう。

 ノータイムでチャプター2が開始されます。タイトルは"生存"。

 生きるというシンプルな目的のために動いていきます。

 

 さて、雑談タイムです。チャプター2までの自由時間の間にできる限り二人に話しかけて好感度を稼いでおきましょう。これを怠ると一度部屋を出ると二度と入れて貰えなくなったりします。無情、おお無情。

 部屋内の「水(500ml)」と「フレーク」を回収しておきます。棚から「小物」を一つと緊急回避用の「ボールペン」を入手。裏側・隙間に落ちている装備品の「果物ナイフ」を手に入れて……物色はこれくらいでいいですかね。あまり持ちすぎても動きが鈍りますし、二人を無視し続けると不信感を募らせてしまいます。

 

 手に入れた果物ナイフですが、今は装備しません。好感度の低いキャラの前で武器を持つなど自殺行為以外の何物でもありませんからね。目の色が変わったみーくんに言葉の弾丸を撃ち込まれて殺されてしまいます。

 

 アイテム整理ついでに所持品の確認をしましょう。おっ、飴持ってますね。みーくんにあげましょう。懐いてくれよー、たのむよー。

 

「ありがとう、ございます……」

 

 うーん、このなんとも言い難い顔。警戒度は下がっているとはいえ完全には解かれていないのが露骨に出てますね。わかりやすくてグッドです。

 接触恐怖症ゆえに渡し方が『みーくんの差し出した手の30cmほど上からぽとっと落としたのち、ばっちいものに触ったかのように胸に手を掻き抱いて後退する』というムーヴのせいでもありそうですが。好感度プラスされてるこれ? されてない? されてる?

 お礼は言ってくれているので上昇していると信じましょう。

 

 さて、この警戒心バリンバリンのみーくんを攻略するためには、まず彼女の大親友であるけーちゃんを攻略する必要があります。厳密にはみーくん攻略に圭の攻略は不要ですが、断然こっちの方が早い。将を射んと欲すればまず、ですよ、先輩。

 

 空腹値・精神値微回復兼友好度微上昇の効果を持つ飴はもう使っちゃったので会話での友好度上げをしていきましょう。

 二人はどういう集まりなんだっけ?

 

「えっと、買いたいCDがあって……それで美紀と」

 

 自然な流れで二人がここに来た話を聞けましたので冷やかします。

 へー、デートかよ。

 

「違います!」

 

 ズバッとみーくんが切り込んできました。おっと、そんな大声出しちゃうと優衣ちゃん泣いちゃいますよ。いけませんねぇほらほら怯えちゃってます。みーくんやめちくり~。なお無害アピールにより彼女達の警戒心がガクッと下がって友好度を上げやすくなりました。だから、冷やかす必要が、あったんですね。

 

 この小さく怯えがちで控えめ(胸部)な先輩の意外とお茶目でとっつきやすそうな言動を目の当たりにしたみーくんは、まったくもう、と溜め息を一つ、腰に手を当てます。立ち方に気の緩みが現れ始めましたね。だいぶ警戒が解けてきた証拠です。

 

 さて、本来これだけ会話すれば彼女達の友好度が1段階上がる上、パンデミック開始からこの籠城部屋に至るまでに削られた優衣ちゃんの精神値も完全に回復しているはずなのですが、おっかしいなー減ってますねぇ。なんだろうこれ……会話によって精神値が減るようなクソバッドステータスなら選択肢が狭まって良い会話ができないはずだからそれじゃないし、うーん……?

 

 ……。

 あっ、これあれですね!

 見てください。現在会話を行っておらず、身体的接触もありません。にも関わらず精神値が微減していっています。進行形ですね。ですが方向転換して壁を向くと……減少しなくなりました。で、二人に視線を向けると……減ります。

 えー、おそらくあれっすね。精神異常の[食人衝動]っすね。たぶんそれです。空腹ゲージも微減してるし。ん? 壁向く必要はなかったね。

 

 やったぜ。

 

 何喜んでるんだとお思いでしょうが、このバッドステータスは単独行動をするプレイヤーにとっては良スキルになります。字面は凶悪ですけど。

 

 この精神異常にかかっていると生きた人間を視界に入れている間空腹ゲージの減りが早まります。

 それ以外の状態だとやや減速するので、生存者数の少ないモールで長時間物資の調達に動けるし、人を視界に入れる時はほとんど食事の時間に近いので減るのが早まっても回復が勝るので問題ないです。

 

 つまり行動を阻害する食事系アイテムをあまり持たずに探索ができるようになるんですね。ステータス上多く持てない緊急回避用のアイテムを余分に拾っておけばもしガバッても取り返しがつくようになります。いいぞーコレ。

 

 しかし優衣ちゃん、デバフまみれですね……ロジカル思考による精神回復と物資管理が得意なみーくんとフィジカル全開前向き思考のけーちゃんとは食い合わせが悪く、お荷物間違いなしです。

 ですがご安心を。実は優衣ちゃんが発症した接触恐怖症、これは、実は最初の質問の際に意図的に取ったものだったのです。な、なんだってー!?

 

 理由は二つあります。

 

 まず第一に、タイム短縮のためのイベント潰し。

 リーダー君が生存者を纏め、牽引していくとなると女子供は守る対象として行動を制限されてしまいます。それでは当然ロスですし、彼らが生きていると学園生活部が「えんそく」に来てくれないという特大のデメリットがあります。

 なのでリーダー君にはさくっと犠牲になってもらい、タァイム短縮です。かしこーい。

 

 それからもう一つですが……役立たずでどんくさいお荷物の優衣ちゃんですが、ハンデがあるんだよってのを免罪符にして寄生するんですね。味方になり得るキャラは基本的にハンデ持ちに優しくしてくれます。ゲーム的な救済措置なんでしょうね。リアリティを求めて快適なプレイができずクリアできないなんてゲームになりませんからね、当然です。いやまあ本当のところどうなのかはわからないんですけども。

 

 これでなんにもしなくとも学園生活部が到達するまで優衣ちゃんは五体満足で生きられますが……まま、そんなのは通常プレイでの話です。これはRTAですからガンガン動いていきますよー。通常プレイでもじっとして動かないプレイヤーはいない? まあ……そうね。

 動くのになんで庇護下に置かれるためのバドステを取ったかといいますと、これは個別ルートのためです。

 

 めぐねえはコミュ障の優衣ちゃんに殊更目をかけてくれているので初めから友好度が高く、絶対に下がらなくなります。突き飛ばしたって嫌われませんし、刃物で切り付けたって目をかけてくれます。「大丈夫、大丈夫よ……先生が必ず守ってあげるから」とのこと。

 

 …………。

 未知のイベントや台詞を探すためだと言って外道プレイするのはやめましょう、心が死にます。カメラアングル……表情……ゲームだからと好き勝手するプレイヤーの心を確実に抉りにきます……。私はそれでマインドクラッシュされました。心のパズルは強敵でしたね。

 

 話を戻します。

 めぐねえルートに入るためには、めぐねえを生存させる必要があります。

 そのために外に出る必要があるのですが、友好度が高いとバリケードを退けるのを手伝ってくれるものの、警戒度が高いと引き止められてしまいます。説得に時間がかかるため大ロスです。

 

 ……逆じゃない? 警戒しているならとっとと出て行ってほしくならないんだろか。

 どういう心理が働いているのか私にはさっぱりわかりませんが、とにかくそういう事なのでちゃんと会話をしてみーくんの懐に潜り込んでおきましょう。けーちゃんは何もしなくとも警戒してない天使なのでノータッチで大丈夫です。とにかくみーくん、みーくんが大事です。場合によっては彼女の言動によってけーちゃんまで主人公を警戒し始めてしまいますからね。

 

「ほ、ほんとに行くんですか……!?」

 

 何かを言いたげにしながらも引き留めはしないみーくんが見られるのは初回だけ!

 次回以降部屋を出ようとするとかなりの確率で引き留めてきます。遅延行為やめちくり~。

 みーくんの脇からひょこっと顔を覗かせたけーちゃんもお見送りをしてくれるみたいです。

 彼女達を安心させてあげるためにも、強く頷いてあげましょう。

 真剣真面目に……。

 

 私は、走者だから。タイムのこと、守らなくちゃいけないから。

 

 優衣ちゃんの気迫に押されたみーくんはごくりとつばを飲み込むと、頷いてくれました。

 

「……メニュー画面を開いている間も時間は止まりませんから、気を付けてくださいね」

「見つかりそうになったら息を潜めればやり過ごせるかも。「息を潜める」のはR1ボタンを押している間できるよ!」

 

 さて、無事に外に出られました。隙間から小声をかけてくれる二人に控えめに手を振ってから歩き出します。

 

 薄暗い廊下には誰もおらず閑散としていますね。BGMすらありません。安全地帯である籠城部屋から危険地帯である外へ出たと感覚で把握できます。とはいえ、引っ張ってでも来ない限りここに「彼ら」は来ないので速やかに階下に向かいましょう。他にも部屋があるのですが、初日のうちだとほぼ確実に生存者がいて、刺激すると厄介です。チャプター1は終了しているので、残っているモブは黒い奴らばっかりなんですよ。悲しいなあ。

 ところで、優衣ちゃんがやっつけた「彼ら」の残骸はどこに消えたんでしょうね……?

 

 4階には多くの「彼ら」がうろついています。多くはぼうっとしていますが、中には移動している奴もいます。1階で脱出をはかる人達に引き寄せられているのかもしれないですね。ここまで音が届いてるはずもないから違うかな?

 同階に映画館があり、各シアターにはひしめく「彼ら」、または発症寸前の生存者が潜んでいますが、行っても得はないどころか徘徊する「彼ら」の数が多くなるというデメリットしかないのでスルーします。

 

 チャートによっては学園生活部到達前にこれらを解放しやっつけておくことで安全な合流ができるようになりますが、私にはその場合どうやったって彼女達の到着を察知できなかったので採用していません。

 学園生活部が「えんそく」に出るのはバンデミック発生1週間後から完全ランダムで、発生しないケースもあります。それを回避するためにもとっとと1階に急ぎましょう。

 

 道中緊急回避用アイテムである「ボールペン」を拾いつつ、邪魔な敵は物陰があればそれに沿って、視界に入らずやり過ごせそうならば「息を止める」で口を手で押さえて通り抜けていきます。

 物音に反応する「彼ら」の間近を通る場合、通常はしゃがみ移動をする必要がありますが「無音歩行」のスキルがある優衣ちゃんならば歩いていけます。スピードは段違い。要所要所で駆けて行きましょう。

 

 1階に到達しました。うんざりするくらい「彼ら」が徘徊してますね。うーん、うじゃうじゃ。

 本当は駆け抜けてしまいたいところですが戦闘力が皆無なので2~3体に襲われるだけで詰みます。ので、慎重に歩いていきましょう。1~2体は狩っておいて経験値を稼いでおきます。しかしあまり殺しすぎると優衣ちゃんが吐いてしまうので殺りすぎはNG。殺して吐くを繰り返せば精神の絶対値が増えますが、そんな時間はないのだ。

 散乱する小物などを投げて物音を立て、「彼ら」を誘導。目的地の食品売り場に急ぎます。つきました。

 

 現在生存している人達はまだ食料の回収に踏み切るほど切羽詰まっておらず、ここは手つかずです。

 足の速い食品を中心に、肉類や一部の魚類を冷凍ケースに移しておきましょう。3日後以降に持ち帰ると好感度が上がるうえに精神値を大きく回復させてくれます。その時には忘れずにガスコンロや土鍋を持ち帰りましょう。食品だけ持って行って食べられないとなると逆にダメージを与えてしまいますからね(1敗)。

 

 当然ここにも「彼ら」が徘徊しているので行動は慎重に。これみよがしに置かれている系の物は罠アイテムです。所持した状態で食品エリアを出ようとすると警報装置が作動し大量の「彼ら」を呼び寄せてしまいますから、よく説明を見ておきましょう。

 

 優衣ちゃんの筋力は初期値なのでそう多くの物は持って行けません。そして生身では持てる数も限られるので、肩掛け鞄型のマイバッグを入手します。

 回収する食品系アイテムは生で食べられる「お寿司」「お刺身」と「おにぎり」に、しょうゆにわさびに、おっ「がば飲みクリームソーダ」! 良いアイテムを見つけました。

 これはコラボアイテムの一つで、主人公含めた全員の「好きな食べ物」に分類されるため見つけたら必ず回収しておきましょう。コンパクトなペットボトルなので飲みつつ移動ができ、かつ「彼ら」を誘導する「小物」にもなります。プレゼントにももってこいの万能飲料。これさえあれば他は何もいらねぇ。

 

 といいつつ衛生系のアイテムも回収しておきます。ハンドタオルに歯ブラシ等、日常生活を維持するのに必要不可欠なものは彼女達を安定させるのには欠かせません。

 

 回収が終われば移動じゃ移動じゃ。繰り返し言いますが、このゲームで採用されているRSSは今こうして優衣ちゃんがせっせこ「彼ら」をやり過ごしている間も他のキャラが見えないところで行動を起こしているのです。

 籠城部屋では美紀と圭が飲料や食料の数を確認し未来に思いを馳せ、優衣の無事を祈っているでしょう。

 がっこうでは屋上にたてこもった生活部、もとい由紀らがようやっと落ち着いている頃でしょうか。

 

 ですので、あんまり優衣ちゃんの帰りが遅いと二人を不安がらせてしまいます。

 

 そいじゃま、やることはやったんで籠城部屋に戻りましょ。

 道中2体ほど「彼ら」を狩っておきます。注意すべき点は固まった敵に挑まない事です。今の優衣ちゃんではまだ返り討ち必至ですからね。2体くらいなら連続キルで体力が切れる前にギリギリ倒し切れますが、安定を取って1体1体確実に葬りましょう。

 

「ふっ」

 

 手始めに下り階段の真ん前に突っ立ってるのを両手でトンッと押して落とし、少し進んだところにいる壁を向いてぼーっと立っている奴の膝を蹴り込んで服を掴み引き倒し、小ジャンプして顔を踏み砕いた優衣ちゃんはそのまま何事も無く歩き出します。臆病な性格とはいったい……?

 てんてんと続く赤い足跡を残したまま5階に帰還。足跡がつかなくなるまで部屋の前でぐるぐるしてからノックして入れてもらいましょう。足跡がつく状態で部屋に入った場合は……直樹です。

 

「……! 千翼先輩!」

 

 そっ……と僅かな隙間から瞳を覗かせたみーくんが速やかに部屋の中へ招き入れてくれました。好感度足りてたようで安心です。目に見えない数値は怖いなあ。それを意のままに操るのが走者というものです。

 

「ほんとに帰ってきた……」

「外、どうでした? 誰かいましたかっ?」

 

 心底意外そうにつぶやくみーくんは放っておいて、けーちゃんに首を振ってみせます。

 入り口付近にはまだ生きている人もいたのでしょうが、そっちには行っていないので遭遇していないんですよね。落胆する彼女に、でも全部を見た訳じゃないからと慰めてあげましょう。きっとまだ生きてる人はいる。私達だけじゃないはず。

 

「そう、ですよね……きっと。……うん!」

 

 それはそうと、食料持って来たぜ。おらっ好感度寄越せ!

 

「わ、お寿司! ご飯取ってきてくれたんですか!?」

「こっちにも食べられるものはありましたけど、夕食にはなりそうになかったから、すごく助かります」

 

 肩掛け鞄を渡して一歩引く優衣ちゃんに二人の輝く目が向けられます。

 まだ実感は薄いとはいえ、恐ろしい外に出て無事に戻ってきたうえに食料まで持って来てくれたのだから、英雄みたいに感じてるのかもしれませんね。ほんとに表情が細かくて、持ってきてよかったって心から思えます。

 

 ふふん。私は走者ですからね。これくらい当然です。

 

「……! そう、ですね……」

 

 無邪気に喜んでいた二人ですが、優衣ちゃんの言葉にみーくんの顔が曇りました。なんでしょうねー。

 原因は不明ですが、なんか毎回このタイミングでみーくんが沈むんですよね。他の人のプレイ動画を見た限りではそういうことはないみたいなんですが……私の言葉選びが悪いんですかね?

 

「それじゃあ、いただきましょうか」

「千翼先輩、ありがとうございます!」

 

 さっそく食事の時間としゃれこんで、三人輪になってお寿司をつつきます。

 しっかり割り箸も回収してきました。抜かりはありません。素手で食べる事になれば彼女達に非常時である事を強く感じさせて精神値の回復が少なくなってしまいますからね。特定の食べ物以外はお箸等を使わないと回復値にマイナスがついてしまうんですよ。寿司くらい素手で食えんもんかね。

 

「う、わさびだ……」

「圭はわさび駄目なんだっけ」

「んー、辛いの全般が駄目かな……」

 

 細々としたキャラ背景なんかを聞けるのもこのゲームの魅力ですね。

 みーくんからお水を受け取って呷る圭ちゃんの嗜好はしっかり把握してますが、これが大変えっ……貴重なシーンなので敢えてそういったものをチョイスしました。はえー、喉の動き細かい……。

 しかしあんまりじろじろ見ているとせっかく回復するはずの精神値が削られてしまうので、手元に視線を落として食事を続けます。食事を……食事……。

 

「……先輩? 食べないんですか?」

 

 割ったお箸を手にしたまま動かない優衣ちゃんに気付いたみーくんが問いかけてきますが、優衣ちゃんは食欲がないとだけ言って食事を取りやめてしまいました。ああー、貴重な回復の機会が……。

 ま、まだ初日ですし体力・精神・空腹ともに余裕があります! 問題はない!

 

 ……。

 右側にみーくんの苦手な食べ物を持ってきた際の反応を載せときますね(卑劣な囮戦術)。

 

 

 食事が終了し、歯を磨き、タオルで体を拭くだけのお風呂とは程遠い作業をこなし、あとは寝るだけです。

 なぜか二組ある布団のうち一つを優衣ちゃんが占領し、二人には一つの布団を使ってもらいましょう。

 

「いえ、私はソファで……」

 

 だめです。

 

「な、なんでですかっ!?」

 

 だから非常時を想起させる行動は駄目だっつってんだルルォ!?

 

「そうだよ美紀! せっかく布団があるのにソファで寝るだなんて……一緒の布団に入るのは、いや?」

「そういう訳じゃ……。そういう言い方は、ズルいと思う」

「じゃあいいんだよね! おいで!」

 

 一度はソファに移動したみーくんですが、ぱんぱんと自分の横を叩いて誘うけーちゃんには逆らえず渋々布団にインします。ああ^~。

 ま、優衣ちゃんは生存者見ているとお腹が空いてしまうので反対を向いてるんで、声しか聞こえないんですけどね。

 

「……やっぱりソファで寝る」

「ああん、美紀~」

 

 あっこら、だめだぞ! だめってイッテルデショ!

 ……だめみたいですね。みーくん、ソファに戻ってしまいました。

 この辺にぃ乱数に愛されない走者、いるらしいっすよ。

 

 しょーがないので後は寝るだけ。

 ……ではないですね。

 

 みなさんお待ちかね、きららチャンスのお時間です。

 

 1日の終わりに発生するこれは、救済措置的立ち位置のシステムです。

 ミニゲームを行い、その結果により現在味方状態のキャラクターとの友好度が上がります。

 下がる事はないので張り切っていきましょう!

 

 今回のミニゲームはこれ! ババ抜き!

 お相手はみーくん・けーちゃんの二人で、最終局面で始まります。

 私くらいになると1抜けは容易い……む、出番は私が最後ですか。いいでしょう、さ、引くがいい。

 

「いっちぬっけぴ~!」

 

 くっ、けーちゃんがあがってしまいました。ですが勝負はこれから!

 さあみーくん! 引け! このジョーカーをよォ!!

 

「あ、あがりです」

 

 なんだとォ~~!?

 

 

 はいっ☆

 夕焼け空を背景に優衣・美紀・圭の三人が手を繋ぎ、笑顔で大ジャンプ。

 チャンスは逃しましたが、どの道稼ぐことに変わりはないので大丈夫です。

 

 味方を増やせば増やした分だけこの場面での人数が増えていきます。全員生存ルートでのきららジャンプは圧巻の一言。みんなも、見よう!

 

 という訳で今日はここまで。ご視聴、ありがとうございました。

 

 

 ……くそっ。

 

 

 

 

 あの時。

 街道で見たニュースの内容を、もっと気に留めておくべきだったんだ。

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

 熱い。

 動き続ける全身が際限なく熱を生み出して、体中が燃えているみたいだった。

 息を吸い込むのもままならないまま、手を引かれて走り続ける私の頭の中は、空っぽだった。

 

「美紀! 美紀、しっかりして!」

「はぁっ、は、ふっ……!」

 

 それでも名前を呼ばれると意識が浮上して、視界がはっきりしてきて……薄暗い廊下を駆ける圭の姿が見えた。

 足がもつれないよう強張る体をなんとか制御しつつ、やや顎を引いてめいっぱい目を開けば、ちらちらと私を窺いながら走る圭のその先にも誰かが走っているのを見つけた。

 

 何故?

 一瞬現実がわからなくなる。どうして私達はこんなにも苦しくなるまで走っているんだろう。

 その答えは不穏な空気を伴って背後から(せま)っていた。

 

「うわ、うわ、うわっ痛っ、ぎゃあああ!!」

「っ!」

 

 焦燥を含んだ声が悲鳴に変わり、その断末魔の叫びに身が竦む。

 勝手に縮こまろうとする体を無理矢理に前へ動かせば、圭と横並びになった。

 顔を窺う余裕はないけど、握り合った手が、ぬるぬるとして外れてしまいそうなほど汗に濡れていて、それでもなお痛いくらいに掴み合っている手がお互いの感情を伝えていた。

 

(なんで、なんで、こんな……っ!)

 

 絶え間なく漏れ出る大きな吐息の中に思考が浮かぶ。

 疑問。今考えるべきはなぜこんなことになっているのか、じゃない。

 どうしたら私達は助かるのか、だ。

 

(考えろ、考えろ直樹美紀!)

 

 ぐるぐると出口のない迷路に閉じ込められそうになる思考を回転させて打開策を練る。

 そうしなければ、遠からず私達は今しがた先を行っていた女性が足をもつれさせて倒れた、その先に待つのと同じ末路を辿る事になる。

 

 階段を駆け上がる。膝で叩き上げた制服のスカートはいつになく分厚く感じられて、重かった。

 駆け下りてくる人の横を通り過ぎ、圭と手を引き合って減速しないまま回転し昇っていく。

 滑り落ちてきた「なにか」に気を取られないよう強く瞬きをして、衣服の売り場へと出た。

 

(どこまで逃げればいい!? どこか安全な場所を……!)

 

 走っているだけじゃそのうち体力が尽きて追いつかれてしまう。

 かといってあまりに粗雑な隠れ場所を選べば、そこが墓場となるだろう。

 いくら必死に考えても何も思いつかない。このリバーシティ・トロンには何度か足を運んだことはあるが、その全てを把握している訳ではないのだ。

 

 試着室の傍を駆け抜ける。揺れるカーテンの下から投げ出された足がびくびくと痙攣しているのを視界の端に映してしまい、ぎゅうっと心臓が委縮して、針で刺されたような痛みに顔が歪む。

 荒い息の中に悲鳴にもならないか細い声を混じらせる圭の手を強く引いて駆け続ける。

 ここもだめ! 向こうもだめ! 服の隙間も、棚の上も、試着室も、きっとトイレだって安全じゃない。

 

 私達は再び薄暗く続く廊下へ足を踏み入れた。

 でももう、階段には向かえない。屋上にあたる駐車場にはここの階段からはいけないし、そもそもそこに絶対安全な隠れ場所なんてない。

 だからってこの廊下の先に進んでも、追い詰められて終わりだ。

 

「っ、美紀っ!!」

 

 ほとんど悲鳴に近い圭の声にはっとする。前方、右側の扉から出て来ようとしている「なにか」から逃れるように体をよじって、圭に支えられるまま横を抜けた。

 

「どこか部屋の中に!」

 

 身の毛のよだつ危機は、そのまま天啓になった。

 私達も部屋の中へ!

 それだけを考えて、次に目に映った扉へと飛びついた。

 

 幸い、鍵は開いていた。

 幸い、中に「なにか」はいなかった。

 幸い、私達の力でもすぐに動かせてバリケードとなるダンボールがいくつもあった。

 

 多くの幸運に助けられて、私達はなんとか命を繋ぐことができた。

 それでも、危険が去ったとは言えない。

 今すぐにでも体を投げ出して酸素を取り込みたがっている体に鞭打って数段詰んだダンボールに衝撃が走る。

 さっきの「なにか」が扉に取りついたんだ!

 

「っう、くっ……!」

「うう……!」

 

 言葉もなく私達は全力でダンボールを押し始めた。

 これが崩されれば終わりだ、なんて具体的な事を考える余裕も無く、思考する力さえ全部つぎ込んで押し込んだ。

 

 いったいどれくらいの間そうしていただろうか。

 情けない感情に心が支配されてまなじりに涙が滲みだしたころ、突然ふっと腕にかかる負荷が無くなった。

 恐る恐る腕を離しても、もうダンボールは揺れさえしなくて、その向こうの扉に恐ろしい影は映っていなかった。

 

 

──あけて

 

 

「えっ?」

 

 くぐもった、それでいて透き通るような声が聞こえて耳を押さえる。

 思わず圭と顔を見合わせた。圭も同じように片耳を押さえて不安げにしていた。

 

 

──もういないよ。あけて

 

 

「どうしよう美紀、あ、開ける……?」

 

 それは間違いなく生きている者の、人間の声だった。

 声音からいって女の子。おそらくは、子供。

 

 思いきりぶんぶんと首を振る。

 だめ! 罠だ!

 ……。

 罠ってなんだ。混乱してる……ごちゃごちゃと乱れる頭に、私はなんと答えていいのかわからず沈黙を保った。

 

 そうすると圭も何も言わず、ただダンボールに体を預けて、息を潜めて扉の向こうの存在を確かめようとしていた。

 それにならうように私も扉の向こう側を把握しようと意識を向ける。

 ……かすかに感じる気配は、恐ろしくもなんともない。

 でも、それがおかしい。そこにはさっきまで「なにか」がいたのに、彼女がいるのはおかしいんだ。

 だから罠だと感じた。だから、考えるより先に心が拒絶した。

 

 しかし時間が経つにつれ、息も整ってくると正常に思考する余裕が戻ってくる。

 彼女の言葉を信じるのなら、「なにか」はいない。なら彼女がそこで安全にいたって何もおかしくはない。

 でもそれがずっと続くとも限らない。私達が扉を開けない限り、次の瞬間には命を落としてしまうかもしれない。

 

「美紀……」

 

 同じ考えに至ったか定かではないが、圭が訴えるように私を見上げていた。

 顎に当てていた指をそのままダンボールにかける。

 これを退かすこと。彼女を招き入れること。利益と不利益を天秤にかけてしまう自分に嫌な汗を掻きながら、よし、と自分を納得させる。

 

 人命は、何より優先すべきだ。それが道徳的人間のする行動であり、ひいては私達の正気を保つことに繋がるだろう。

 

 協力してダンボールを退かし、そっと扉を開ける。

 本当はもっと普通に開けてあげたかった。でも万が一を考えると警戒してしまって、どうしたってほんの隙間程度しか開けなかった。

 

 まず見えたのは、制服だった。

 見覚えがあって身近なもの。私達と同じ学校の制服。

 未知の存在に対する最大の警戒心はそれでいくらか剥がれ落ちて、外に他に何もいないのを素早く確認してから扉を開け、少女を招き入れた。

 

「巡ヶ丘学院高校……3年、千翼優衣……です」

 

 その子は、なんというか……やや俯きがちに微かな声で氏名を明かす彼女の髪の合間から覗く金色は、厭世的とでもいうべきだろうか。どこか昏い目をしていて、えっと、大人しそう……そう、大人しそうな、小柄な女の子だった。

 

 癖のある髪は肩にかかるくらいのボリュームかと思ったが、白色のリボンで後ろ髪を纏めた長髪のようだ。頭頂部から一房伸びて垂れる毛は寝癖だろうか。

 制服の上に一枚羽織った紫色のカーディガンは着ているというより着られているようで、より幼さを際立てていた。けど……どうやら上級生らしい。

 

 私達も自己紹介をすると、彼女はほっと小さく息を吐いて、同時に体を震わせた。

 「小動物染みた」だとか「庇護欲をそそられる」といったような言葉を感じさせる様子に圭はすっかり絆されたようで、親しい相手に向けるような軽口を叩いていた。

 

 同じ学校に通う人間であり、年も近く、性別も同じで見た目からして警戒する要素はない。頬を膨らませて圭を見上げ、視線が合うのを厭ったのか慌てて顔を伏せる仕草にはかわいらしささえ感じた、が……。

 

 それでも、どうしても私は彼女を……千翼先輩を完全に信用できなかった。

 崩れ切らない警戒心に私自身ショックを受けてしまう。

 

 慎重な性格だとは自覚していたけれど、粗を探すみたいに彼女を観察してしまうくらい、私は人間不信だったのだろうか。この非常時で剥き出しになった、これが私の本当の性格?

 我がことながら呆れてしまう。どうして素直に信じることができないんだろう。こんな状況だから仕方ないと納得しようとしても、こんな状況でこそ信じなければと自分を責めずにはいられない。……ストレスを感じている場合ではないというのに。

 

 けれど、何か……そう、致命的な……見落としをしている気がしてならなくて、ダンボールを積み上げ直している最中も、一息つけるようになった後も胸の奥の焦燥感は消えなかった。

 何を見落としている? それを究明しない事には落ち着けそうもない。

 視界の端に置くつもりで千翼先輩を探せば、思いのほか近くにいた。やましい企みを見透かすような目が、恐ろしかった。

 

「これ、あげる……」

 

 囁くような声量で話しかけてきた千翼先輩は、私が目を向けると露骨に目を逸らす。人と目を合わせられないタイプなのだろう。……わかっていてあえてそうした。……あまり見られていたくない。心底失礼だとは思うけど、どうしようもなく背筋が粟立つから。

 

 何かと思えば、スカートのポケットに入っていたらしいアメをくれた。

 それはそうと、どうにも接触を嫌がっているような動きだ。それを不審に思えど、なぜだか否定的な感情は浮かばなかった。彼女だって私達を警戒しているのかもしれないし、精神に何か異常があってのことかもしれない。だとしても、積極的に交流し壁を無くそうと働きかける彼女の、その、なんというべきか、『生きようとする強さ』に感心してしまった。

 

 人と関わるのが苦手そうなのに、それではきっとこの先生きていけないだろうと私達に話しかける心の強さは見習いたいものだ。なんとなく小学1年生の頃に最上級生に感じていた『大きさ』を思い出した。年上なんだな、と実感したというべきか。

 頻繁に胸のクロスを握り締める動作が宗教的なものを感じさせていちいち引っかかるけど、他人の嗜好をとやかくいう意味はない。

 

 いろいろ分析……と言うのは烏滸がましいか。千翼先輩の事をはかっていたものの、私達が二人で買い物に来たことを「……デート?」とからかうくらいの余裕というか、思っていたより暗い性格ではなさそうな事にひどく安心した。

 

 悪い人じゃなさそうだってようやく自分を納得させられた。……良かった。このまま不信感を募らせて後戻りできないところまでいってしまうんじゃないかって、それが一番怖かった。他人との交流を初めて難しいと感じたかもしれない。ううん、元よりあまり接するタイプじゃないから、気疲れしてしまったのを大袈裟に感じてしまっていただけだったのだろう。きっと。

 

 だから、大丈夫。この人とはやっていけそう。

 一緒の空間で生活できそう。

 パーソナルスペースに招き入れられそう。

 

 ……そう思ってみて、少しの不快感も浮かばない事に、小さく息を吐いた。

 

 なんとか仲良くやれそうだと思うけど、ただ、彼女の気の弱さは予想以上かもしれない。少し語気を強めただけで見てわかるくらい震えていた。胸に押し当てた、クロスを握る手が白むくらいに。

 単に大きな声が苦手なだけか。……家庭環境がどうこうと詮索するのはよそう。これからは努めて声を抑えて話せばいい。

 

 

 自然と会話が途切れると、立っているのもなんだからと私と圭は一度腰を落ち着ける事にした。

 部屋内を見て回るのが先決なのはわかってる。でも、動き続けるのは精神的に辛い。体力は回復してきているが休憩を挟むべきだと圭を説得した。またいつ扉が揺れ出すかもわからないのだから、体力は残しておくべきだ。

 

 しかし千翼先輩は座る気はないようで、部屋の中をうろついては物色し始めた。

 それでわかった事がいくつかある。この部屋は警備員か誰かの寝室だったらしく、寝台もあれば多少の飲食物もあった。

 その一部をポケットにつっこむ千翼先輩に(自分だけ……)と思ったものの、そうやって生存に必要な物を確保するのは当然だと頭を振った。なくなったと思った警戒心は私の中にこびりついているようだ。千翼先輩の言動を穿って見てしまうのをやめられない。

 野暮ったい動作を「かわい」と称して眺めている圭の気楽さを見習いたい。本当に。

 

 視線だけ巡らせれてみれば、トイレだって個室としてあるようだし……水も出るかもしれない。

 缶詰や何かもあるといいのだけど……。

 そうでなかった場合の事を考えると恐ろしくなる。

 物資の調達。生きるためにやらねばならない多くのこと。外の惨状。未来。

 

 自分を抱きしめたくなるくらいに心が震える。息苦しくてたまらなくなる。

 ふと床についていた手に重ねられるものがあって、見れば、圭が微笑んでいた。

 大丈夫、きっとなんとかなるよ。……そういったポジティブさに溢れる目を見ていると、不安や恐怖といった負の感情が溶けて消えていくようだった。

 

 今日は圭に助けられてばかりだな……騒ぎが起こった時だって、手を引いてもらわなければ、きっと今頃……。

 

「外、見に行く」

 

 突飛な事を言い出す千翼先輩を見上げる。

 外を見に行くとは、すなわち物資の調達に行くということだろう。どうなっているのか、何が起こっているのか、救助は来ているのか、生きている人はいるのか。知りたい事はたくさんある……でも、まだ、そんな事しなくたって生きていられるのに、わざわざ今すぐ行かなくたって。

 

 制止の言葉を口にしようとして、彼女がてきぱきと動いていたのを思い出す。

 最初から決めていた事なのだろう。不安に駆られてとか、突発的な話では無さそうだから、私が何か言ったところで「じゃあ行くのやめる」とはならなさそうだった。

 

「私は、3年生だから。貴女たちのこと、守らなくちゃ、だから」

 

 扉の前に立った彼女は、まっすぐ私を見上げて……視線は、合っていなかったけれど。

 はっきりとした口調でそう言った。

 

 どうして?

 学年が上だというたったそれだけの理由で、どうしてそこまで?

 よりにもよってあなたのようなタイプの子が、どうして覚悟を決められるっていうんだ。

 

 胸の内を掻き毟られるような不快感に、それでも私は頷いて、彼女の外出を肯定した。

 私が後ろ向きな事しか考えていない間も、私達のためにと彼女は動いていた。

 きっと圭ではなく私にアメをくれたのも、私がより沈んでいたのを察しての事だったのだろう。

 

 ……何も言えない。言ってはいけない。

 

 そんな責任、背負ってくれなんて頼んでない。

 突き放すような言葉も浮かんだけど、口に出そうだなんて思わなかった。

 弱さゆえ、だ。心の弱さ。

 

 頼りたい。こんな状況なんだ。引っ張ってくれる人についていきたくなるのは当然じゃないか。

 廊下へ出てしまった彼女に一言ばかり投げかけるのが精いっぱいの私は、反対に自分を慰めるための言葉はいくつも浮かべられた。

 

「……」

「……」

 

 固く閉じられた扉の前に、もう一度ダンボールを積み重ねようという考えは起きなかった。

 ただ、圭と二人で立ち尽くして、じっと扉を見つめていた。

 

 

 

 

「……美紀は、それでいいの?」

 

 廊下の空気が入り込んだためか、やけに重い空間に身動ぎ一つできずにいると、おもむろに圭が問いかけてきた。

 意味はわかる。千翼先輩に任せっきりで、頼りきりにして、それでいいのか?

 よくは、ない。でも。

 

「……ごめん」

 

 答えるよりはやく圭が言葉を取り下げたため、開きかけた口を閉じるほかなく、一度形になったはずの言葉は霧散してしまった。

 

 

 

 

 妙な空気を振り払うために、私達は部屋の探索に乗り出した。

 扉にはバリケードを築いていない。

 何を馬鹿なと思うかもしれないけれど、私達の感情にけじめをつけるには、今はこうするほかなかった。

 

 何か起こってからでは遅い。きっと後悔する。そうなった時にはもう命はない。

 ……そんなの、わかってる。でも千翼先輩はもっと危険な場所にたった一人で行ってるんだ。

 ここで初めて出会ったばかりの私達下級生のために。

 

 その帰りを拒絶するような形となるバリケードを築くという行為はとてもじゃないができない。私達がすべきなのはこの部屋を守って帰る場所を確保しておくこと……私達が無事でいることなのは理解していても、どうしてもそれはできなかった。

 私も圭も何も言わなかったけど、考えることは同じだったのか、バリケードについては一言も発さなかった。

 

「電気、生きてるみたい」

 

 千翼先輩が何故か目もくれなかった小さな冷蔵庫は、開いたドアから冷気を漂わせていた。中には未開封の清涼飲料とゼリー等が入っていた。今はまだ電気が来ている。それがいつ止まってしまうかは予測できないが、数日と持たないだろう。

 

 ダンボールの中は期待通り多くの水と食料だった。他はファイルだとか古い業務日誌らしきもの。食べられるものがコーンフレークしかない。

 牛乳はないので水でふやかして食べるか、そのまま頂くしかないのだけど……考えるまでも無く味気ないだろう。お腹は満たせるかもしれないが、考えただけで気が滅入りそうだ。三食それは、きつい。

 

 四の五の言ってられない。飢える心配をしなくていいのだと前向きに考えよう。

 これらの数を把握して、三人で分割した場合何日持つかを考えなければならない。

 ……後回しにするべきじゃないけど、今やる気にはなれなかった。

 

「水も流れるね……」

 

 個室トイレには洗面台といくつかのロールがあった。備え付けのゴミ箱は空で、セットされたトイレットペーパーも大きく、誰かが生活していた痕跡がない。

 それは精神的に助かる要素だった。たとえば年の離れた異性の生活の名残を感じてしまえば、私達の気分は落ち込むだろう。幸いにして二組あった布団は清潔そのもので、うっすらと洗剤の香りがするくらいだった。

 

 後回しにしていた飲食物の管理を手分けしてノートに記し終えたころ、千翼先輩が帰ってきた。

 控えめなノックの音に二人して飛び上がってしまった。先輩の事を考えると際限なく不安が膨れ上がってしまうので意識の外に追いやっていたから尚更だ。

 

「ただいま」

「おかえりなさい!」

 

 習慣づいているのか、意識してか挨拶する千翼先輩に圭が元気よく返す。

 先輩の装いは()()だけ変わっていた。

 目につくのは靴……いや、簡易な手提げ鞄だろうか。エコバッグと呼ばれるいくつかある種類の内の一つは、1階の食品売り場で見かけたことがある。つまり先輩は、そこまで足を運んだのだ。入っているのは当然……。

 

「たべて」

 

 パック寿司を覗かせてみせた先輩は、それを戻した鞄ごと差し出してきた。私が受け取る直前に手を放すと、その手を庇うようにしながら後退した。

 やっぱり他人に触れたくないみたいだ。まるで拒絶されているみたいだけど、不快感はなかった。むしろ申し訳なくなってしまう。

 外は、危険なんだ。それを……先輩とはいえ、私よりも小さな子に任せるなんて。

 動きを見ていればわかるくらい、先輩は運動が得意ではなさそうだった。部屋の中を調べている時の動作からしてみても……。

 

 それなのに、私達のために食料を取って来てくれた。

 それなのに……。

 

「先輩だから。たよって、ね?」

 

 後ろ向きの思考に陥りそうになっていた私の顔に何を思ったのか、念を押すように先輩は言った。

 

 ……そうでもしないと、私達に排除されると思っているのだろうか。

 有用であると示さなければ生き残れないと、そう思っているのだろうか。

 どこか必死で、急いていて、それでいて確かな優しさも感じる千翼先輩の声。

 

 視線が合わないまま微笑んで見せる彼女に、私は頷くことしかできなかった。

 

 

 食事の時間、千翼先輩は手を付けないまま箸を置いてしまった。

 食欲がわかないらしい。……靴についた、もう乾いている血が原因だろうか。

 この部屋を出る前の先輩の靴がどうだったか覚えてないが、外に「なにか」はいなくて行き来が簡単だったとは思わない方が良いだろう。

 

 先輩がどうやって「なにか」をやり過ごしたのかも考えない方が良い。……今は食事に集中しよう。

 

 先輩が持って来てくれた歯ブラシ等で歯磨きができた。一応洗面台に都合よく三つの歯ブラシはあったのだけど、開封済みのそれを使わなくて済んでほっとした。

 他人の物を使うのと、水だけでゆすぐのはどちらがマシだろうか。……どちらもごめんだった。

 

 圭が見つけ出したトランプで遊ぶ。先輩との距離を縮めるのが目的だろう。私達はまだ出会って1日目だ。こういう時間はいくらあってもいいと思う。

 初めこそ『こんなことをしていていいのか』という自問があったが、意外と負けず嫌いなのか何度も再戦を望む先輩と白熱の勝負を繰り広げているうちに忘れてしまった。やっと精神的な余裕を取り戻せた気がする。……そうすると眠気を感じ始めるのだから、人間っていうのは案外強い種族なのかもしれない。

 

 22時頃、布団を敷いて眠りにつく事にした。

 先輩の言うところによると、私達がいる階には「なにか」はいなかったらしい。

 それでも念のため見張りを立てようと提案しようと思っていたのだけど、()()話をしているうちにみんな眠ってしまった。

 

 まったく、先輩はどうしてこう、囃し立てるような事を言うのだろうか。

 圭も圭だ。流れに乗って一緒の布団で寝ようだなんて、恥ずかしい……。

 ソファがあるんだから三人寝るスペースはある。先輩は疲れているだろうから布団で寝てもらわないといけないとして、私はソファで寝るのも布団で寝るのもそんなに変わらないからここでいい。

 ……。そのうち、なんだかんだ言って布団に引きずり込まれそうな気がする。

 

 

 

 

「……」

 

 不意に意識が浮上した。

 薄目を瞬かせると、暗い部屋の天井がぼんやりと見えた。

 固まった体を解すように寝返りを打つ。……狭い。ああ、そうだった。ソファで眠ったんだった。

 

 強い眠気の残る頭の奥で、落ちて物音を立てては「なにか」に気付かれてしまうかもしれないし、圭たちを起こしてしまうと考えつつ、なんとなしに目を向ける。

 

「──……」

 

 ぞっとした。

 室内に「なにか」が入り込んできていた。

 

 ……違う。揺れるシルエットは小柄で、それはきっと、千翼先輩だった。

 先輩は、布団から抜け出して座っていた。圭のすぐ傍。背を丸めて、顔を覗き込むように……非常に近い位置で、じっとしていた。

 

 何を、してるんですか……?

 

 かけようとした声は出なかった。

 微かに輝いて見える金の瞳は前髪に隠れていても、一心に圭の寝顔を見つめているとわかってしまったからだ。

 自分でも理由はわからないまま息を潜める。起きているのを気付かれてはいけない気がした。

 

 ろくに酸素を取り込めないままで苦しくなってきた頃に、先輩が何か呟いているのに気が付いた。

 聞いてはいけない。本能的な忌避感がそう呼びかけてくるのに、部屋はとても静かで、一度気付いてしまえば耳を塞がない限りは聞こえてしまいそうだった。

 そして実際に、先輩が発する声を意味持つ言葉として捉えられた。

 

 聞かなければよかった。

 無理矢理に目をつぶって眠ってしまえばよかった。

 

 

 

「おなか、すいた……」

 

 

 微かな水音の混じる声は、耳の奥にこびりついて……。

 

 

 ………………。

 

 

 窓の外が明るくなるよりはやく、千翼先輩はもぞもぞと自分の布団に潜り込んで、ほどなくして寝息を立て始めた。

 ……。

 体にかけていた毛布を引き上げて頭まで被る。

 

 今はちょっと、何も考えたくなかった。

 




後手後手に回りすぎて旬を逃し、なんの真新しさもない小説になってしまった
こんなんじゃエンターテイメントになんないよー

TIPS
・千翼優衣
体力:だめかも
精神:だめかも
知力:だめかも
筋力:だめかも
俊敏:だめかも
身長:だめかも
体重:だめかも
胸囲:だめかも

・無音歩行
どのような場所でも歩く際に音を発しない
レベルが上がると走っても音がしなくなる

・接触恐怖症
生存者に触れていると精神値が減少する
最初の質問で「好きな人」に挙げた人物に触れているとかなり速く回復する

・食人衝動
生存者を視界に入れていると空腹値と精神値が微減していく
ハンバーガーを美味しく感じなくなる
ちょっとだけ人が食べたくなる
最初の質問で「好きな人」に挙げた人物を食べたくてたまらなくなる

・千翼優衣
44/100

・祠堂圭
88/100

・直樹美紀
31/100


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2探索と補給~めぐねえ覚醒

聖夜だったので初投稿です

この小説の略称は"モールスター"です
はしゃぎすぎ!!!!!!!!!!!


 怖いくらい順調なRTAの続きはーじまーるよー。

 前回はみーくんに同衾拒否されたところまで。今回は寝起きから。

 

 おはよーございまーす!!

 

「あ、おはようございます、千翼先輩!」

 

 おや、すでにけーちゃんは起きていたようですね。元気がいいのは良いことだ。それと挨拶大事。

 挨拶を疎かにすると部屋から締め出されてしまいますからね。精神値も僅かに回復しますし欠かさずやっていきましょう。

 

「ううん……」

「寝坊助さーん、はやく起きないと先にご飯食べちゃうぞー」

 

 うとうとと身嗜みを整える優衣ちゃんをしり目にソファに寄ってったけーちゃんがまだ眠っているみーくんを弄り始めました。ナチュラルにそういうことする~。NPCはああしてじゃれたり会話したりなどで勝手に精神値の回復を図ってくれます。反面、悪い方に転がり始めるとどんどん自滅していくのでちゃんと目をかけてあげましょう。

 

 ほっぺをつつかれて唸っているみーくん、アニメとかのように下着姿で寝てません。現実的に考えて他人(優衣ちゃん)がいるのにそんなカッコしませんよね。無論警戒が解け、好感度が高まればドスケベ下着姿で一緒の布団に入ってくれるまでなります。ご安心ください、CERO"A"なので健全です。ERO"E"! みーくんのスケコマ-C!

 

「起きた、起きたから……」

「うん、顔洗ってきちゃいなさい」

「お母さんじゃないんだから……もう」

 

 気心の知れた仲って感じの会話ですね。優衣ちゃんは置いてけぼりです。

 のっそりソファを下りたみーくんが個室へ移動すると、動けるようになりますので荷物の点検。

 バッグの中の果物ナイフは取り上げられてませんね。友好度が低く警戒度が高いと寝ている間に取り上げられる事もあるので要注意です。今回はけーちゃんしか起きていなかったのでもとより問題なし。

 というか、私の場合二日目の朝にみーくんが起きていた試しがないです。以降は必ず優衣ちゃんより早く起きてるので謎。昨日あんな事があったから疲れてるんでしょう。そうするとけーちゃんが元気すぎる気もしますが。

 

 輪をかけてみーくんは顔色が悪いですねー。精神値が40を下回っているんでしょうかね。

 

 精神値は50以下になると様々な悪影響を及ぼし始めます。軽いものなら「体調不良」や「スタミナ減少量の増加」、重いものなら「被害妄想」や「過剰攻撃」など。

 30を割ると要注意の「幻覚症状」が出始めます。存在しない友人と会話しだしたり、あるはずのないものを目撃したり、物や人が別のものに見えてしまったり。

 

 この「幻覚症状」には良いタイプと悪いタイプがあり、厄介なのは前者。

 悪いものは短期の症状が多く、たとえば視界外から「彼ら」が突然襲ってくる(襲ってこない)、足元に穴が開く(開いてない)、友好関係にあるものが「彼ら」に襲われているのを見る(襲われてない)などで精神値を削ってきます。

 

 良いものは幻覚を発症したキャラに対し手助けするように働きかけてくることが多く、助言や導き、慰めや会話などで精神値を回復させてくれます。が、悪いものが精神値が30を上回るとぴたりと止むのに対し、良いものは精神値が50になろうと60になろうと切っ掛けが無い限り残り続けてしまいます。

 いない者と関わり続けるキャラに対し、他のキャラは警戒したり距離を取ったりといった行動を起こし、友好度が下がってしまうのです。

 

 一晩寝たのにも関わらずみーくんの精神値が低そうなのは……検証の結果、優衣ちゃんの空腹値が減っている状態で初日の夜を迎えるとそうなるようです。

 初日に限り「起きとく」を選択できないので夜中の様子はわかりませんが、悪夢でも見てたんでしょうかね? まま、これくらいならすぐリカバリーできるので問題ないです。

 

 

 

LEVEL UP

 

 

 無事に一日を乗り越えた事でレベルが上がりました。堂々のSランク。やりますねぇ!(自画自賛)

 

 手に入れたポイントを使って筋力に1振り、「徒手格闘Lv.1」と「料理Lv.1」のスキルを取りましょう。

 「徒手格闘」はその名の通り武器を持っていなくても積極的な攻撃ができるようになり、素手での攻撃に補正がつくうえ、連続入力で続けて攻撃ができるようになります。

 

 ただ、Lv.1ではスタミナの消費が激しすぎてまともにコンボできません。貧弱な優衣ちゃんならばなおさらのこと。

 これを取ったのはスニークキルの威力を高めるためだけです。スニキルは筋力が低かったりレベルが低すぎると、シーンに入っても殺しきれない事があるので、それを無くすためですね。

 

 料理はLv.1では切る・焼く・煮るなどの簡単なものしか作れませんが、それでも精神値の回復に大いに役立ちます。

 このチャートではLv.1が最終レベルとなります。モールでの仲間となる圭が「料理上手」のユニークスキルを持ってるためです。

 じゃあ優衣ちゃんがスキル取る必要ないじゃんと思うかもしれませんが、実は圭のこのスキル、一緒に料理をしなければ判明しません。それまではステータスを見ても影も形もないんですよ。私は試走していて初めて気付きました。謎だ……。

 

 

 さて、朝食です。

 昨日取ってきた分は昨日の内に消費してしまったので、本日のメニューは水とコーンフレークだけです。

 味気のない食事ですが、元気なけーちゃんが色々と話を振ってくれるので暗い雰囲気にはなりませんでした。

 さらに「がば飲みクリームソーダ」を提供することで大幅に精神値を回復し、友好度を高めることができます。

 

「わ、クリームソーダ! 私これ大好きなんです!」

「私も……先輩も、ですか?」

 

 ボトルを抱えてこくこく頷く優衣ちゃんがそれをコップに注ぎ、三人で乾杯。

 かなり顔色の悪かったみーくんの表情も多少明るくなりました。

 しかしそれはそれ、これはこれって感じで食事が終わると剣呑な雰囲気を醸し出します。

 

「傷の確認? 確かに、こんな状況じゃ小さな傷でも危ないかもだけど……脱がないと駄目?」

 

 けーちゃんの控えめな抗議に首を振って断固拒否するみーくん。

 二日目の朝に確定で起きる身体検査イベントです。一日という時間を置いて現実を正しく認識しはじめたみーくんは、これまで見てきた「かれら」の事についてある程度あたりをつけたらしく、ゾンビのような「彼ら」から傷つけられていないかを調べようと提案してきました。

 

 昨日の探索で体力が半分削られた状態で攻撃を受けていると体のどこかに傷が残り、それを発見されてかなり険悪なムードになってしまいます。

 優衣ちゃんはノーダメなのでいくら調べられようと大丈夫……と言いたいところですが、キャラ作成時の生い立ちによっては手術痕などであらぬ疑いをかけられたり警戒されてしまったりします。

 

 生い立ちは最初の質問でかなりコントロールできるのでこれも問題ないでしょう。

 しばらくストリップショーの鑑賞と洒落込みましょうか、とでも言うと思ったか! 倍速です(無慈悲)。

 言ってませんでしたっけ? 時間は大事なんですよ、先輩。

 

 ちなみに「身体検査」は拒否することもできますが、関係が修復不可能なレベルになるのでおすすめはしません。

 

 無事に検査が終了するとみーくんは難しい顔をして黙り込み、話しかけてもうんともすんとも言わなくなるので大人しくけーちゃんと雑談して友好度を高めておきましょう。現在の関係が良好だからと会話を疎かにするといつの間にか友好度が地に落ちていた……なんて事もあるので通常プレイでも会話を欠かさない事をお勧めします。

 

 みーくんの好感度大事。けーちゃんより大事。

 こじれやすく修復しづらいみーくんは強敵だ。

 もし仲違いイベントが起こった場合でもみーくんにつくべきです。このチャートでは回避しますが、やっぱり好感度は大事。

 

 雑談が終了すれば探索タイム。引き続き大目標である「生存」のために動くとしましょう。

 といっても本日やる事はそう多くないです。食料とそれを調理するためのキッチン用品の回収、ガスコンロの回収、そしてめぐねえの生存と覚醒。

 

「今日も……その、行くんですか……? ……一人で」

「わ、私達、も……」

 

 危険です、と案の定引き留めてくるみーくんに、できもしない提案をするけーちゃん。

 とにかく頷きまくっててきとうに話を流しておきましょう。最初のうちはこれくらいで大丈夫です。繰り返しているとより強く引き留められるようになりますが、今はまだ二人とも優衣ちゃんに頼りきりなのでなんだかんだ言って外出を許可してくれます。

 

 精神値が一定を上回っていたり、友好度が高すぎると探索は彼女達が寝入った後でしかできなくなります。じゃけん、夜いきましょうね~(正しい使い方)。三日目以降でイベントをこなすと一緒に探索できるようになりますが……一人で行動した方が当然早いので好感度を高くして言う事を聞いてもらえる状態にし、待機を命じましょう。足手纏いは引っ込んでいるんだな(なおステータスワースト1位は優衣ちゃんの模様)。

 

「まだ余裕はありますし、まずはこれからの事について話しませんか」

 

 いやです。

 

「……すみません、でした。その……無理は、……。」

「無理はしないでくださいね!」

 

 傷の確認というある種の疑いをかけた事を引きずっているのか、途中で口を噤んでしまうみーくんの言葉をけーちゃんが引き継ぎます。以心伝心。

 おう考えてやるよ。

 

「あっ、そうだ! あの、美紀が夜中に水道の音を聞いたらしいんです。もしかしたら、他の部屋にも私達みたいに隠れている人たちがいるのかも……」

 

 語録に語録で返すとはわかってるじゃねぇか。

 けーちゃんにより小目標が示されました。"生存者を探そう"です。いやです。そんなんやってる暇はないんですよこっちは。時間時間時間! もういいね! 行きますからね!

 

「先輩、「彼ら」は音に反応するみたいです。しゃがんで移動すれば気付かれないですむかもしれません。しゃがむのは×ボタンでできます」

「他の人、良い人だといいんだけど……」

 

 相も変わらずチュートリアルしてくれるみーくんと不穏な言葉を残すけーちゃんに手を振って、いざ籠城部屋の外へ。忘れず果物ナイフを装備。

 ダッシュしつつ声出していきましょう。

 

 だれかぁー! だれかいなぁーい!?

 

 はい、これで終わり。

 本来は他の部屋に働きかけたりして生存者とコミュニケーションを取ったりイベントをこなすことができますが、時間の無駄なのでしません。どうせみんな死ぬ。

 しかし、頼まれたのにも関わらずなにもアクションを起こしていないと二人の好感度がガクッと下がります。エスパーかな? そういうわけなので探す素振りを一瞬見せつつ1階へ移動します。

 

 めぐねえを生存させるのにはタイミングがあるので、先に食品売り場へ向かい食材を回収。パスタとレトルトソースでいいかな。帰る時のために「石鹸」も入手。

 小さい鍋とガスコンロを鞄に詰め込んで、これで満杯。移動速度がやや落ちますし、過剰搭載なので転びやすくなりますが、筋力に振っておいたのでそれも防げます。プレイに自信のある方は俊敏に振ってもいいんじゃないですかね。私には難しいので安定を取ります。

 

 

 さて、めぐねえですが、みなさんご存知の通り彼女はプレイヤーが関与しない限り最初の一週間……「あめのひ」が来るまで確実に生き残るので急ぐ必要はない……と思うかもしれませんが、どっこいそうはいきません。

 モールスタートの場合、この二日目で事を成さなければめぐねえを生き残らせるのが非常に難しくなります。それも特定のタイミングで、そこを逃せば……まあ最悪は運任せでいけるかもしれませんが、ラックに頼るなど言語道断。私は確実性を求めたいんです。

 

 目指すは従業員用の宿直室。そこから学校へ電話をかけます。

 公衆電話からもかけられますが、確定で群がられて死にます。

 不用意な物音には気を付けよう!

 

「ふっ」

 

 行く手を阻む「彼ら」の背に踏み込んだ優衣ちゃんは、振り返ろうと動くその服を引っ張って揺らがせると、握り締めた果物ナイフを振り上げて柔らかな下あごを貫きます。そして前蹴り! ズボッと引き抜いたナイフを振って血を飛ばし顔の前に掲げると、冷たい瞳で眺め回します。これがスニークキルの動作の一つ。なんだその動きは、たまげたなあ。

 

 スニークキル(スニーキングキル)にはキャラタイプごとに固有モーションがあり、さらに性格によっても変わります。

 キャラタイプ+性格で2種のモーションを取るんですね。んな暇あるなら動け。

 

 タイプCで臆病な優衣ちゃんはぶっ殺し後にその悍ましい感触に身を竦ませるか、冷たい瞳で武器を眺めます。なんだそのモーション!? タイプCは小柄……小動物系のキャラ造詣が多いのになんでサイコパス染みた動きが搭載されてるんですかねぇ……。

 

 まあこれは、武器の損耗具合を確かめているのだという公式からの回答がありましたが、どう見てもそういう顔じゃないんだよなあ……。

 

 経験値を稼ぎつつ宿直室に駆け込みました。ベッドには死ぬほど疲れて眠っている人がいますが、何しても起きないので無視でいいです。電話を借りて学校にかけましょう。

 ……2、3とコール音が響くものの、電話には誰もでません。

 RTA的には屋上で夜を明かす事を厭った面々が打って出て3階を制圧し、めぐねえが職員室にいるタイミングに電話をするのがベストなのですが、中々タイミングが合わずままならないものですね。

 

 しかしこの時間帯にかければ、たとえば打って出た直後なら鳴り響くコール音に引き寄せられる無防備な「彼ら」を容易く狩りつつ出てくれます。制圧後でも音に気付いていずれかが出てくれるでしょう。その場合は高確率でめぐねえになります。違ったらリセットです。

 

『──もしもし!?』

 

 はい出ました。めぐねえですね。一応設定上は他のキャラが出る事もあると聞いているのですが、私だと10回やって10回めぐねえでしたから、今回もめぐねえなのは当然ですね。

 名前を名乗り、現在地を伝えましょう。これで「えんそく」が確定されます。

 それでもって特に切羽詰まっている訳ではないのですが、気持ち何かに追われているような感じで話しましょう。学校で生きる生徒だけで手一杯なめぐねえの気をしっかりと引く必要がありますからね。大袈裟なくらいで結構です。

 

『どうしたの、優衣ちゃん。大丈夫なの……?』

 

 こちらの尋常でない様子に問いかけてきためぐねえは、最初の一音以降は極めて声を小さくしてくれました。疑問を投げかけながらも理由を察している感じですね。それに便乗するように電話機の乗った机をガンガン蹴りましょう。ついでに息を呑むおまけ付き。

 

『優衣ちゃん!?』

 

 危機的状況を察して悲痛な声を発する彼女に、「たすけて、めぐねえ」と残して電話を切ります。

 はい、これでめぐねえ覚醒完了です。

 学校外にも助けを求める生徒がいると知った彼女は、何がなんでも生き残ってくれます。1週間を過ぎた学園生活部のメンバーが欠ける可能性もなくなり、チョーカーさんこと柚村貴依(ゆずむらたかえ)も勝手に救出してくれます。

 

 いやー、お手軽ですねえ。

 本来、面倒な手順を踏まなければ覚醒に至らないめぐねえですが、学校外スタートかつ彼女の生徒かつ彼女に目をかけられている生徒である、という条件を満たしているとこうも簡単に覚醒させることができます。

 ただ気を付けなければならないのは、最後の呼びかけで必ず「めぐねえ」と呼ばなければならないこと。

 「たすけて、佐倉先生」でも「たすけて、めぐみ」でも駄目。

 

 おそらくは「佐倉先生でしょ!」と叱るために奮起してくれるのだと思います。たぶんおそらくきっと。

 あ、あと電話を切る前にめぐねえが無言以外のリアクションを取った場合は失敗ですので、潔くリセットしましょう。なぜか直後に自動セーブが挟まるので(殺意)やり直しがきかないんですよね。

 

 さて、欺瞞に満ちた電話を終えた優衣ちゃんは俯きがちになって両手を胸に押し当てて、息を整えています。

 その顔は歪な笑みに歪んでいます。精神値も大幅に回復しました。

 なんだろうなー、どうしてそんな顔してるんだろうなー。

 

 はい。そうです。

 この優衣ちゃん、「先生が好き」なのです。そのままの意味で。

 

 

 優衣はめぐねえに恋慕しているッ!

 スピードワゴンも恋慕しているッ!(うおおおおお!!!)。

 

 

 そういうことだ。

 どういうことだ?

 

 Q.恋慕って?

 A.ああ!

 

 

 さ、用が済んだので籠城部屋に帰還します。かなり順調にいってますし、ちょっと冒険してみてもいいかもしれませんね。

 よし、たらいを運びましょう。電子ポットも持っていきましょう。水で体を拭くのはもうこりごりだ……。女の子にとってお湯は大切なんです。ポットがあればお湯で髪や体を拭くことができ、たらいがあれば簡易のお風呂にできます。精神値の大幅な回復が見込めますねぇ!

 みーくんの好感度を早期に上げておけば良い事づくめなので、我ながら良い考えなんじゃないでしょうか。

 

 持てる荷物の数を増やすために肩掛け鞄からリュック型に変えたエコバッグはそれでも満タン。左手にたらいを右手にポットを持った状態なのでかなりふらふらしてます。この調子では5階に帰るのには相当時間がかかりそうですね……「彼ら」と戦う手段もありません。

 

 ですので、吹き抜けのホールに移動して「石鹸」を使います。

 

 本来「石鹸」は彼らの前に放って転ばせたり、イベントに入る前にキャラの通り道に置いておいてイベント中に転ばせたりするくらいにしか使えないのですが、オブジェクトから飛び降りる際に踏んづけ、同時にジャンプするとフワーッ! 3階までフワーッ!

 

 ウ ン チ ー コ ン グ っ て 知 っ て る ?

 

 ってな具合にね、上手いことやればね、できたはずなんですが……。

 ……転びましたね。落っことしたたらいとポットが派手な音を立てて「彼ら」を呼び寄せてしまいました。

 

 だだだ大丈夫です、まだリカバリーはききます!

 被発見状態になってしまったので5~6体倒さないとSランクは取れなくなりましたが、そんなの4階でやればいいだけのこと。

 急いで立ち上がりたらいとポットを回収し、石鹸をセットしてテーブルの上に乗って、飛び降りて、ここっ!!

 

 ウ ン チ ー

 

 駄目でした。

 

 ……。

 

 組み付いて来た「彼ら」の目にボールペンを突き刺して緊急回避し、「小物」を投げて離れた位置にいる奴らを誘導。たらいとポットを回収し速やかに離れます。

 少々時間がかかりましたが、2階の、この、こ↑こ↓。宝飾品店の前にある芸術性を感じる謎オブジェなのですが、ここでの「大ジャンプ」はかなり安定してできます。

 

 ……よし、よし、成功しました! なんとも言えない浮遊感! 4階の「彼ら」の多くいる場所に出てしまいましたが好都合です。この大ジャンプはゲーム的には歩行の判定なのか、「無音歩行」を持っている優衣ちゃんだと着地の際に音を発さないので大体に気付かれずにすみます。

 ただ、あと一回でも緊急回避を発動してしまうとSランクは無理になってしまうのでちょっと安定を取ります。

 

 電子ポットをそっと置き、たらいを両手で持って回転、遠投。この場にいる7体の「彼ら」がのろのろと向かっていくのを後ろから処理していきます。連続スニークキル、1・2! 1・2! 1・2! ラスト!

 工事完了です。

 

 ちょっとべこっとしてるたらいを回収して帰りましょう。

 現在のステータスでこの数を相手取る場合、要所要所で休憩を挟まないと反撃にあってしまうので音を出すのにたらいを使ってしまいましたが、運が悪いとアイテムに設定された耐久値を超過して壊れてしまいます。が、私くらいのリアルラックを持ってるとま、これくらいはね、当然いけますねぇ。

 

 

 

「お帰りなさい! その、どうでした……?」

 

 籠城部屋に到着しました。

 ぬわあん疲れたもおん!(歌唱部)

 すっげぇキツかったゾ。

 なんでこんな、キツイんすかねぇ?

 

 けーちゃんの笑顔に癒されつつ腰を下ろしましょう。

 あ、生存者? いなかったよ(すっとぼけ)。

 

「そう、ですか……」

 

 そんな事より見てよこれ。凄いでしょ。お風呂入れるよ!

 今すぐ、脱ごう。

 

「そんな事より先輩、大丈夫でした? その……血が……」

 

 寄ってきたみーくんが不安げな表情で問いかけてきます。優衣ちゃんの心配と感染の心配が3:7くらいでしょうかね。

 緊急回避を発動した後に味方のもとに戻るとこういったイベントが挿入されますが、ロスなので気をつけましょう。いいですね!

 

 調理器具も運んでこれたし、後はフライパンと土鍋、ああ冷凍しておいた肉類や魚類も忘れずに持ってきたら、それ以降は衣服の運搬に移ります。

 制服以外の衣服を着れるとなると彼女達の上下しまくる精神値を安定させることができ、友好度も上がるのでやっておいて損はないです。衣服にもステータス補正やスキル補正が存在するので、彼女達を連れて探索する際は必須ですね。

 

 そいじゃお料理タイムと洒落込みましょう。女の子のたしなみですよ~。

 これらの作業はもちろん優衣ちゃん一人でできますが、役割分担で一緒に作業をすると僅かに好感度が上がります。

 みーくん、たらいにお湯張っといてくれる? けーちゃんはお湯沸かしてパスタ茹でる準備して。

 

「わかりました」

「うん。あ、お塩ないかな……」

 

 ? ないですが。

 

「そっか。うん、じゃあ普通に茹でてくね」

 

 オッスお願いしまーす!

 

 ガスコンロに鍋をセットして湯を沸かし始めたけーちゃんの隣に座り、パスタの封を切ってお手伝いをします。これで一緒に料理した判定になるのでけーちゃんに「料理上手」が生えました。美味しいパスタを作ってくれることでしょう。

 

 個室にてお風呂にするためのたらいの準備をしてくれたみーくんが戻ってきた頃に完成、実食に移ります。

 うん、美味しい! もりっと精神値が回復し、満腹になりました。胸も胃もちっちぇなあお前!

 

 さて、食事が終わりましたので雑談タイムです。みーくんに擦り寄りましょう。

 仲良くしようやぁ……。あっそうだ(唐突)裸の突き合いしましょうよ、一緒にお風呂入ろう!

 

「え、いやです」

 

 普通に拒否されましたが、考えすぎるみーくんは「千翼先輩は一人でいるのが怖いのかも」と深読みしてくれます。二日連続で探索しているからそういうのは平気なんじゃないかって安心を砕き、やはり見た目通りのか弱い女の子なんだと思い出させるのが目的なのです。本来部屋の中に閉じ籠って震えているタイプですからね、優衣ちゃんは。そして二人に探索を任せきる事だってできちゃうんです。そう、バッドステータス持ちならね。

 

 もう少し好感度が上がって二・三回誘えば渋々乗ってくれるようになりますので、楽しみにしとけよ~。

 

 

 む、優衣ちゃんの挙動が変わりました。膝を擦り合わせてもじもじする動作がちょこちょこ挟まります。催してますねクォレハ……素早くお手洗いに駆け込まなければ翌朝酷い目に遭います。

 好感度はなーぜーかー高まりますが、外には行かせて貰えなくなるので絶対に避けねばなりません。というわけでトイレにイクゾー!

 

 個室の扉にて「用を足す」を選択すると一瞬で終わります。しかしこの短い表示もできる限り削っていきたいので、これからも優衣ちゃんの膀胱を酷使し限界まで我慢してもらう事にしましょう。

 お次はお風呂タイム。あっそうだ(2回目)みーくんは駄目だったけどけーちゃんはどう? (優衣ちゃんとお風呂)いけそう?

 

「……あはは」

 

 だめみたいですね……。

 仕方ないので一人で入ります。なぜかこっちは服を脱ぎ下着姿になるところまでいきますので横目で鋭く眺めておきましょう。暗転してほかほか湯気の上がる状態で部屋に戻ったら、就寝準備。

 

 いやあ、今日も何事もなく終わりましたね!

 かなり好タイムです。いいぞ~コレ!

 

 きららチャンスは腕相撲のようですね。

 

 いやだああああ! 筋力1で勝てるわけないだろ!! しかも2人抜きしなければなりません。これなんのゲームだったっけ?

 

 いや、勝てる! 16連射さえできれば勝てる!!

 オッスお願いしまーす。

 

「ていっ」

 

 ぐわああああああ!!!

 

「えいっ」

 

 ぐわああああああ!!!

 

 チーン(33-4)チーン(66-8)

 はいっ☆

 朝焼けを背景に手を繋いで大ジャンプ。ボーナスとして筋力に+1されました。これ入るんだったら朝のステータスでもう一つスキル取っておくべきでしたね。未来の事はわからないんでしょうがないんですけども。

 

 さあ寝るぞ寝るぞ寝るぞ。ということで今日はここまで。

 ご視聴、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 あの時。

 私が、私こそ、私だけが……"大人"でいるべきだったんだ。

 

 

 

 あなたは生徒に近すぎる。友達感覚ではいけませんよ。

 

 教頭先生のお言葉は、確かにその通りだった。改めなくちゃと思いつつも、どこか今のままでもいいんじゃないかって思う自分もいたけれど……だって、その方が生徒一人一人の表情がよくわかる。何か問題を抱えてしまった時、打ち明けてもらいやすい。

 ちょうど、恵飛須沢(えびすざわ)さんが恋愛相談をしてきたように……。

 

「こ、こひっ、かな! そうかな!」

「ええ。先生はそうだと思うなぁ」

「……うん。よし!」

 

 廊下の端にある休憩のためのスペースで、備え付けの椅子に隣り合って座り、アドバイスとは名ばかりの言葉を送る。

 顔を上げた恵飛須沢さんのアメジストの瞳は決意にきらめいていて、後ろの窓から差し込んで照らす夕陽も相まって、とても大人びて見えた。

 

 そんな顔を見ていると、この年頃の女の子は子供じゃないんだなって改めて実感する。教員になってから何度も感じている事だ。彼ら彼女らは子供でありながら、もうずっと、大人なのだと。

 ひょっとすれば、恋なんてしたことのない私なんかよりも。

 ……なんて。こんなだから大人に見えないなどと冗談めかして言われてしまうんだろう。しっかりしなくちゃ。

 

「じゃ、行ってくる。ありがとめぐねえ!」

「はい、行ってらっしゃい。……あ、めぐねえじゃなくて……」

 

 さっと立ち上がった彼女はそのまま走り去ってしまった。訂正する暇もない……さすが陸上部ね。でも、廊下を走るのは感心しないな。

 けれど、そんな注意は野暮ってもの。だって恵飛須沢さんは今、全力なんだものね。ちょっと憧れちゃうな……。

 そんな寂しさも乗せて、先生は胡桃(くるみ)ちゃん……恵飛須沢さんの恋を応援するわ。

 

 そう思って手を振った。小さくなる彼女の背中に、ついぞ自分にはなかった大きなものを感じながら。

 

 

 

 

 

 ザッ、と音がする。

 スコップの先端が土に突き立った時のような音。

 でもその後の、理解できない擦れる音と硬いものを削るような音は、いったいなんなのか……わかりたくなかった。

 

「ああああああ!!」

 

 慟哭しながらスコップを振り下ろす恵飛須沢さんの体に赤黒い液体が飛び散っては染み込んでいく。

 

 恋に破れた少女の心の叫びと、心の傷……そんな生温いものであったなら、どれほど良かっただろうか。

 今、彼女は、彼女の話していた想い人の上に立って、その体にスコップを突き立てるのを繰り返していた。

 

「~~~~ッ!!」

 

 ああ……。

 なんて、酷い顔。

 恵飛須沢さん、あんなに綺麗な顔をして、去って行ったのに。

 

 どうして今は……。

 

「っ!」

 

 傍を駆け抜けた丈槍(たけや)さんが恵飛須沢さんに飛びついてそれ(・・)をやめさせるのがずっと遠くに感じられた。

 ロッカーを倒して塞いだ、この屋上へと続くドアから私の背へと突き抜けるような断続的な衝撃も、一緒に扉に取りついて押さえ込む若狭(わかさ)さんのことも、今は思考の外に薄れて。

 

 どんどん下がっていく視界に落としたスマホが入った。

 罅割れた画面に映る私の顔は見た事が無いくらいに青褪めていて、日常が……ずっと続けばいいなって、このまま続くんだろうなって思っていた日々が……崩れ去ってしまったのを、理解した。

 

 なにより。

 

 本来守るべき生徒の心を守れず。

 手を汚すべきである大人のはずの私が。

 何もできない子供であることを、映し出していた。

 

 

 この混乱からいち早く立ち直ったのすら、私ではなかった。

 

 何度も呼びかけてくれた、頼ろうとしてくれた若狭さんは、座り込んでしまって動かない。

 凄惨な状況を目撃してしまった丈槍さんは泣き止まない。

 それを撫でる恵飛須沢さんは、焦燥と絶望に彩られていたはずの顔を穏やかなものに変えて丈槍さんを慰めている。ほんの一瞬の間に、この衝撃的な出来事から立ち直った……ようだ。

 

 いつの間にか止んでいた背後からの衝撃と呻き声に、ようやく私も心を持ち直した。

 でもどうすればいいのかわからない。こんなの、何をしたら……。

 ううん、弱音を吐いている暇はない。丈槍さんを抱いてその帽子に顔を(うず)める恵飛須沢さんだって涙の跡さえ乾いていないのだ。

 

 「なにか」の脅威から逃れねば。

 彼女達を慰めないと。

 これからの事を考えないと。

 どうにかして助けを求めなくちゃ。

 彼女達を守らないと。

 同僚の安否の確認を。

 まず背後の確認が先。

 もう一度校庭の確認を。

 遺体をあのままにしておくわけにはいかない。

 恵飛須沢さんをあのままにしていていいわけがない。

 自失している若狭さんをどうにかしなければ。

 

 考えた。

 必死に、今やるべきことは何かを……私が、どうあるべきなのかを。

 でもだめだった。混乱して、息の仕方さえわからなくなって、蹲りたくてたまらなかった。

 

 教師である前に私だって一人の人間だ。

 人が目の前で死ぬのを見て……人が、人を襲うのを見て。それに襲われて、逃げて。

 もういっぱいいっぱいだった。泣き出してしまいたかった。

 

 それはできない。それはだめだ。

 今私が動かないで誰が動く。

 

 ここにいる大人は私だけ。

 私しかいないのなら、私がやるしかない。

 

 違う。私がやらなければならなかった。

 「なにか」と同じ挙動を取り始めたあの男の子を──するのは、私であるべきだった。

 

 ふらつくように膝をつく。

 すぐ傍にへたり込む若狭さんの肩を抱き寄せて、頭を抱える。

 震える手が縋るように私の服を掴む、そこに手を重ねて動揺が鎮まるように促す。

 

「先生……」

 

 これから、いったいどうすれば……。

 

 消え入るような、掠れるような「生徒からの質問」に、教師である私は、絶対の解を示さなければならなかった。

 

 

 

 

 ──緊急避難マニュアル。

 

 

 

 

 初日の夜は、それは酷いものだった。

 風は凌げない。床は固く冷たくて、容赦なく体温を奪っていく。

 物音や何かで何度も目が覚めた。まともに寝入れず、ずっとぼうっとしていた気さえする。

 

 それでも、私達は生きて朝を迎えることができた。

 言ってしまえばそれだけでも……今はそれさえ困難な事だと思う。

 よく頑張った……みんな。

 

 体中あちこち痛くて、染みるような朝日の中で「なにか」のように身を起こした私達は、言葉少なに生命活動を開始した。

 遠くで黒煙が上がり、校庭には不審者が徘徊し、校舎への扉を開ける気がまるでなくたってお腹は空く。

 お腹の虫はいつだって暢気だった。……受験生だった時も、英単語を頭に詰め込むのに忙しいのにひっきりなしに「ごはんちょうだい」と鳴いて……。

 

 ああ。

 現実逃避をしている場合ではない。

 しっかりしてよ、佐倉慈。お願いだからちゃんとして。大人の自覚を持って。

 いつもお母さんに叱られてたでしょう。それだからいつまでたっても良い人の一人もできないと、いつも、食事時にもお構いなしに、準備に追われてたって急にお説教が始まって、でも、でも。

 

 

 ──お母さん。

 

 

 

「落ち着いた?」

「……なんとか。まだ、よく、わからないんですけれど……」

 

 幸い、食べるものはあった。

 この菜園で作られたキャベツや、きゅうりにトマト。

 それを生で食べる。貴重かもしれない水を細く出して表面を洗っただけの、やたらと新鮮なそれらは、お腹を満たしてもくれなければ、少しも心を安らげてなんかくれなかった。

 

 隣り合って座る若狭さんが私に体を預けてか細く呟く。

 ひそかに大人びていると思っていた彼女の弱り切った姿に動揺する私を隠して、先生として接する。

 

 大丈夫……若狭悠里さん。先生は知ってます。貴女はとっても強い子よ?

 

「でもっ、先生!! なん、なんですか……。なんなんですか……!?」

「……──」

 

 少しの刺激で弾けるように顔を上げた彼女の乾いた瞳に、すぐに言葉を返そうとして……なんの答えも持っていないから、声なんか出なかった。

 それじゃいけない。

 昨日の焼き直しのように頭を抱いて、ゆっくりと肩を撫でてあげることしかできない。

 

「……」

「……」

 

 恵飛須沢さんと丈槍さんにも元気がない。スコップを抱えて俯く彼女は、頑なに「ブルーシート」のある方を見ないようにしているし、本来ころころと表情の変わる丈槍さんは血の気の引いた青白い顔で、一口齧ったきりのきゅうりを握り締めている。

 

 手が足りない。

 私一人じゃ、一人にしかあたれない。

 特に丈槍さんは幼いところがあって、一番にケアしてあげなくちゃいけないのに。

 恵飛須沢さんだって平気な訳がない。何か言葉をかけてあげないとどうにかなってしまうかもしれない。

 

 けれど、今はそっとしておくことしかできない。

 私は……教師失格だ。

 

 

 

「先生、これからどうする?」

 

 無為な時間を過ごした。

 ううん、決して無駄ではないと思おう。彼女達は、たった数時間ではどうにもならない心身への影響をそれでも捻じ伏せて、私を見ていた。

 応えなければならない。それは義務だ。そして……いいえ、私の、やるべきこと。

 

 恵飛須沢さんの問いに私が示した答えは、基本的な生命活動を維持するための安全を確保する、だった。

 「なにか」が徘徊する校舎へ戻るという意味の言葉に、膝を抱えていた若狭さんはますます縮こまって、恵飛須沢さんはスコップを強く握りしめた。

 

「先生が言うなら、そうしよう。……でも、その前に」

 

 きつく目をつぶりながら立ち上がった恵飛須沢さんは、ふっとブルーシートの方を見て、言った。

 

「先輩、埋めさせてくれ」

 

 私は、小さく頷いた。

 

 

 遺体の埋葬を済ませ、土に汚れた手を水で流して、出入り口を塞ぐロッカーを立て直し、その中からモップを取り出す。

 ……何も持たないでいくよりはましだろう。「なにか」に群がられて悲鳴をあげたくないのなら……。

 

「生徒会室なら設備も整っていると思うわ。まずはそこまでの道を拓きます」

「あたしも行くよ」

「いいえ、恵飛須沢さんは二人を見ていてあげて?」

「いや、二人で行った方がいい。その方が早く終わる」

 

 スコップを肩に担いで淡々と言う彼女の、なんて頼もしいことだろうか。

 でも、駄目だ。彼女は私の生徒だ。危険に晒す訳にはいかない。

 

「それに、めぐねえってどんくさいし……心配なんだよ」

「……そ、そう」

 

 それを言われてしまうと、自分でもとても不安になってきてしまった……。

 

 つんとやや上を向くようにして辛辣な言葉の棘を刺してくる彼女に、なんでか緊張が緩んだ気がする。

 気付けば力が入りすぎて真っ白に染まっていた手をモップから離し、胸のクロスを握る。彼女の先輩にそうしたように短く祈りを捧げて、それから、大きく息を吸った。

 

 こんなに空気は澄んでいるのに。

 

 ……行こう。

 

 

 

 

 屋上に残した二人の事を考えている余裕はなかった。

 「なにか」……「彼ら」……。

 かつての生徒が、亡者のように腕を伸ばして迫りくる姿は心胆を寒からしめるには充分なほどに恐ろしかった。

 けれど「彼ら」を退けなければ私達に待つのは緩やかな死だけだ。

 床を踏みしめるたび足元から這い上がる死の実感が私を急かす。

 両手で持ち上げたモップを、「彼ら」目掛けて思い切り振り下ろした。

 

「っ……!」

 

 当たる前に、勝手に手が止まった。

 

 ぽかんと開いた口。濁った瞳。乾いた肌。呻き声。

 それがあったとして、目の前にいる「彼ら」は、どうしようもなく私の生徒で。

 どうして教師である自分が手をあげられようか。体罰は、いけないことだ。

 

「下がってろ!!」

「ぁっ」

 

 ドンと乱暴に退かされて、入れ替わるように踏み込んだ恵飛須沢さんがスコップを振るう。

 ザッと音がして、赤黒いものを撒き散らして生徒が倒れた。

 ああ、大変……救急車を、呼ばないと。

 

「めぐねえ! もういいよ……あたしがやる。生徒会室までの安全を確保すりゃいいんだろ?」

「…………。」

 

 いつの間にかへたり込んでいた。

 いつの間にか、モップが手から抜けていた。

 周囲に倒れ伏す「彼ら」の数が10を超えていた。

 

 私、また、生徒に手を汚させて……。

 ほんとに、教師失格だ……。

 

 

 

 恵飛須沢さんの奮闘で3階の安全が確保された。

 まだ、完全にとはいかないけれど……どうにも「彼ら」は階段を上るのが苦手なようで、元々いたのを追いやるとすっかり静かになった。

 

 ……ところどころの教室の中から物音がするから、油断はできないとしても……丈槍さんと若狭さんを生徒会室に運び入れ、備え付けのポットで紅茶を淹れ、二人に飲ませた。

 それでどうにか落ち着けたみたい。自失していた丈槍さんは、怯えて、震えて、かわいそうなくらいだったけど……ぽつぽつと話すようになったし、いつも穏やかに目を細めていた若狭さんはずっと目を開いたままカタカタと震えていて、でも、恐怖をコントロールしようと努めているみたいだった。

 

 生徒会の子達が持ち寄っていたのか、市販のお菓子があったのでいくつか封を切って彼女達に配り、みんなが口にしたのをみてから私も含んでおく。

 甘味が痛いくらいに口内に染みる。呑み込むと、はっきりと熱が広がっていくのがわかる。

 ……よし。

 

「今夜安心して眠れるように、先生は見回りに行ってきます。若狭さん、丈槍さんを頼めるかしら?」

「……ええ、わかったわ。めぐねえ……大丈夫なの?」

「そうだよめぐねえ。さっきだって動けなかったんだ。あたしが行くよ」

 

 若狭さんには何かしていてもらった方が良いかと思って丈槍さんの事を任せる。その目論見は目に見えて成果を上げて、やっと目を閉じた彼女は口元に手を添えて私の心配をしてくれた。

 恵飛須沢さんの言う事はもっともだ。私は、何もできなかった。今もできる気がしない。

 

 じゃあ恵飛須沢さんに全部任せて、私はお茶をしてましょう。

 ……そんなの、できるわけないでしょう。

 これ以上恵飛須沢さんに心労をかける訳にはいかない。昨日に先輩を手にかけて、今日に何人も同級生を打ち払って……ずっと目が据わっている。

 

 椅子を引いて立ち上がる。たん、と机を叩けば、丈槍さんがのろのろと顔を上げるのが見えた。

 

「もうっ、めぐねえじゃなくて佐倉先生! でしょ?」

「……こんな時にも気にするんだ、それ」

 

 話を誤魔化すために、それから、ほんの少しでも空気が軽くなればと思ってお決まりの文句──私は本気なのだけど──を言えば、ふっと吐息ともつかない笑みを零した恵飛須沢さんは、今まで逸らさなかった目を他所へ向けて、机に腕をついた。

 

「でもやっぱり、私もついてくよ。……大丈夫、もう無理だーって思ったらちゃんと言うからさ」

「私も、そうした方が良いと思います。その、めぐねえ……佐倉先生は、言い辛いんですけど……」

 

 ……。

 若狭さんの言いたい事はよーっくわかりました。

 そんなに先生は頼りないですか? その通りなのが悲しいけれど、これはよくない。

 私が頼りになるってところを見せなくては。

 

 そのためにも……。

 恐怖を断ち切り、「彼ら」を退けなければならない。

 今だけ人の想像力の豊かさを恨む。そんな経験はないのに、これで叩いたり突いたりした時に手に伝わってくるであろう悍ましい感触を簡単に想像できてしまって、心が震える。

 

 また恵飛須沢さんと連れ立って外へ出た。

 安全な生徒会室から廊下へ出ると、明確に空気が違うのを感じられた。

 粘つくような、嫌な雰囲気だ。……恵飛須沢さんは平気なのか窺いたい気持ちがあったけれど、弱気を悟られてはよくないので、頑として前を向いて歩く。

 

 一つ一つ、教室を見ていく。

 慎重に、あまり音を立てないようにそうっと開いて。

 

 ……2、3……3人。

 教室内には3人居残っていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 緊張が高まる。自然と息が荒くなって、手汗でモップを取り落としそうになる。

 それでも歩みは止めない。入り込んだ私へ振り向く「彼ら」へ、向かっていく。

 風が通り抜けた。

 

「てぇい!」

 

 一振り、三人。突然突進した恵飛須沢さんは、瞬き一つする暇も無く「彼ら」を切り伏せると、終わったよ、なんてあっけらかんと言った。

 ……、……。

 

「ありがとう、恵飛須沢さん」

「……」

 

 ここで言うべきことはお礼だろうと声をかければ、彼女は眉間に皺を寄せて難しい顔をした。

 なんか妙な感じ……らしい。それは、そうだろう。「彼ら」をこ……やっつけて、お礼を言われるなんて。

 失敗だったかもしれない。でも他になんと声をかけるべきだったのだろう。

 

「次、行こうぜ」

「ええ」

 

 ひとまず頷き合った私達は、次の教室へと移動して、そこでもまた彼女がスコップを振るって、次もまた、次も、その次も……。

 

「ここが最後かな」

 

 返り血でひどく汚れた彼女は、頬を拭いながら問いかけてきた。

 そうだと頷く。……ここまで来るのにそう時間はかからなかったが、予想以上に体力の消耗が激しい。

 ただついていっているだけの私でさえそうなのに、体を動かし続けている彼女の疲労は如何ほどか……やや息を乱しているだけで、全然疲れてなさそうだけど……。

 

 カラカラ……。

 最小限の音で扉を開くのも、もう慣れてしまった。

 ほんの僅かな隙間から中を覗けば……数えるのも億劫なほどの「彼ら」がいた。

 

 これは、駄目だ。

 恵飛須沢さんに首を振って見せる。

 入れ替わって中を覗き見た彼女も踏み込むのは無謀だと判断したのか、代案を探すことになった。

 

「といっても、ここになんか物を置いて塞いじゃうしかないよな」

「ええ、そうね……少し不安だけど……」

 

 「彼ら」にドアを開けるような器用さはないらしく、これまで教室から扉を開けて出てきた生徒はいなかった。

 だからといって放置するのは気が引けるが……身の安全を優先しよう。

 

「一度戻りましょう。二人が心配だわ」

「ああ」

 

 短く答える彼女のぶっきらぼうさに、不甲斐なくも頼もしさを感じながら、私達は一度生徒会室へ戻った。

 

 重い足をなんとか動かして部屋へ入ると、弾丸が一つ私のお腹を穿った。

 

「めぐねえ大丈夫!? 怪我してない!?」

「ゆ、由紀ちゃん……」

 

 正直に言おう。命の危機を感じた……。

 抱き着いて不安げに見上げてくる彼女にそれを正直に言うのはどうかと思うので頑張って笑顔を浮かべて抱き返してあげる。

 良かった……丈槍さん、だいぶん調子が戻っているみたい。ろう人形みたいな顔色も多少はよくなって……チョコレートの跡が口の端にべったりついていた。

 

「こらこら、今のが一番のダメージっぽかったぞ」

「あう。ごめんなさい……」

 

 ひょい、と丈槍さんを引き剥がした恵飛須沢さんは、廊下にいた時に纏っていた剣呑な雰囲気はどこへ行ったのか、落ち着いているようだった。何か拭くものないかな……と、口調も穏やかなものに変わっている。

 その変化に、上手く言えないけれど……何か焦りのようなものを感じた。

 

「めぐねえ、ちょっといいかしら」

 

 私達のやり取りを目を細めて眺めていた若狭さんがちょいちょいと手招きをするのに寄って行けば、生徒会室にはかなりの量のお菓子と食べ物がある事がわかったと教えてくれた。

 私達が出ている間、室内を調べてくれていたのね……。それだけでなく、机の上にはその数を記したノートまであった。

 

「若狭さん……本当にありがとう」

「いえ……何かしていないと不安で仕方なくて……それに、めぐねえが頑張っているのに私だけ何もしないのは……」

「そうね。そういう事も、あるわよね。それとね、若狭さん」

 

 ……先程から一度だって恵飛須沢さんに目を向けていない若狭さんに、本当に頑張ったのは彼女なのだと……彼女なくして安全は確保できなかったと伝えた。

 自分の情けなさや教師としての立場なんて、今起きそうになっている不和に比べれば小さいもの。

 若狭さんは、血に濡れた恵飛須沢さんをかなり怖がっているみたいだったから……でも、私が伝えたことでようやく目を向けてくれた。

 

「そう、なのね……その、恵飛須沢さん? も、ありがとう」

「おう。いや、「はい」か」

 

 雑巾でスコップを拭っていた彼女は、横目で若狭さんの視線を受け止めると、軽い口調で答えた。

 

「若狭さん、だっけ。あたしの事は胡桃でいいよ。堅苦しいのも肩が凝るしさ」

「え、と……それなら、私の事は……」

「りーねえ!」

 

 二人の交流を見守っていると、ケトルの方で何やら動いていた丈槍さんが素早い動きで割り込んできた。

 りー、ねえ……? それはあだ名だろうか。

 

「悠里さんだから、りーさん! みんなのお姉さんだから、りーねえ! だよね?」

「いえ、あの、由紀ちゃんっ……それは」

「え、でもそう呼んでいいってさっき」

 

 どうやら若狭さんは作業するのと並行して、しっかり丈槍さんの事も見ていてくれたみたいだ。もともと人懐こい丈槍さんだけど、すっかり若狭さんに懐いているように見える。若狭さんの方も心を許しているみたいだ。

 証拠に、「りーねえ」と呼ばれる事に困ってはいても否定はしていない。

 

「お姉さん、か。確かにそれっぽい雰囲気あるよ……でもちょっと恥ずかしいな」

「は、恥ずかしいってなに!? それはその、言葉の綾というか……由紀ちゃんがどう呼んだらいいかって聞くから、一例として挙げただけで」

「ふーん。じゃ、あたしはりーさんって呼ばせてもらおっかな。よろしく!」

 

 それは、その、だから……。

 もにょもにょと何事か抗議する彼女は、朗らかに笑う恵飛須沢さんに押されてその呼び名を承諾した。

 

「じゃあ、くるみ……さん。こちらこそよろしくね」

「胡桃でいいよ。末永い付き合いになるといいな」

「じゃあ、私の事は由紀って呼んでね! りーねえ、くるみちゃん!」

「だから由紀ちゃん、りーねえじゃなくて……」

「りーさん?」

「それならいいから」

 

 はぁい、と元気よく挙手する丈槍さんに、自然と笑みが零れた。

 なんだか元気になっちゃうな……素敵な笑顔。丈槍さんの魅力ね。

 外から眺めてばかりもなんだから、私も話に参加しようかな。

 

「それじゃあ私は……」

「めぐねえ!」

「めぐねえだな」

 

 ……びしっと指さされて決定されてしまった。

 だから……めぐねえじゃなくて、佐倉先生……うう。

 

「あの、私だけでも先生とお呼びしましょうか……?」

 

 若狭さんの心遣いが逆に痛い。それってあえてってことかしら……? そうなのね。そうなのよね……。

 

「"りーねえ"からはすぐに言い直したのに、私はそのままなのね……」

「め、めぐねえ……!?」

 

 あら、そんなに慌ててどうしたのかしら。うふふ、若狭さんのそんな顔って、珍しくて良いわね……。

 

 なんて。おふざけはここまでにしておきましょう。

 「りー(ねえ)」って呼び方をするのは家族くらいのものでしょうし、それが今どこで何をしているのかを若狭さんが考えているかはわからないけれど……今はまだ、思い至らせない方が良い。

 後回しにしたって仕方のないことかもしれないけれど……せめて、今は。

 

 

 ……。

 

 ……さて。

 そろそろ、動かなくては。

 

「ん、めぐねえ、どこへ?」

「職員室に。少し気になるものがあって」

「ついていこうか?」

「いいえ。体を休めておいて。先生だって、逃げるくらいはできますからね」

 

 立て掛けていたモップを手にして出入り口の扉に手をかける。

 気になるもの。不意に思い出したもの。

 研修を終え、教師として働けるようになって真っ先に渡された一冊の資料。

 

 通常の災害に対して用意されたであろうものだとは思うけど、きっと何かの役に立つ。

 きっと……。

 

 

 

 

 

「………………」

 

 強烈な吐き気と、目眩に襲われてへたり込む。

 机の一番下の引き出しの、一番奥に仕舞っておいた緊急避難マニュアルは、役に立つどころの話ではなかった。

 

 これは、いったいなに?

 なんでこんなものが用意されているの?

 

 理解できない。したくない。

 見なかった事にして仕舞っておきたい。

 

 この災害を予期していたような内容が記されているだなんて思いもしなかった。

 限られた人数だけを生き残らせる魂胆だなんて……教師だけが知り得る情報なんて。

 

 これでは、まるで。

 

 

 

「──っ!」

 

 けたたましく鳴り響くコール音に背が跳ねた。

 電話。

 ……電話!?

 

 慌てて机に縋りついて、なんとか立ち上がる。焦って照準の合わない手でどうにか受話器を掴み取ると、耳に押し当てた冷たい機械からは耳鳴りに似た吐息の音が聞こえてきた。

 

『……もしもし?』

 

 あ。優衣ちゃんだ。

 「もし」の時点で彼女だとわかった。そして、胸に広がりかけていた得体のしれない冷たさが急速に温まっていくのを感じた。

 

 優衣ちゃん。気弱で奥手な、私の生徒。

 何も無い時はいつも近くをついてきて、何かある時は傍にいる、とても懐いてくれている、そんな女の子。

 その装いは……気のせいでもなんでもなく私を模しているから、すぐに姿が思い浮かんだ。

 

「もしもし、優衣ちゃんね? 先生よ。今どこに!?」

 

 慌てて、矢継ぎ早に質問する。

 向こうで息を呑む気配がした。それは電話に出たのが私だからか……それとも。

 ひやりとするものがあって、声を抑えて問いかける。

 

 彼女は、近くのショッピングモールに何人かと立て籠もっていると答えた。

 けど、様子がおかしい。声が離れたり近づいたりしていて安定しない。息遣いも荒く、不安や緊張が窺える。

 物静かで大人しい彼女の普段からは想像もつかない切羽詰まった声に、確信に近い不安が私の中に膨らんだ。

 

『たすけて、めぐねえ』

 

 そしてそれは、現実のものとして襲い掛かってきた。

 硬い物を叩く音は、まさしく「彼ら」の接近を表していて。

 消え入るような、縋るような声の後にブツリと通話が途切れて、彼女の未来までそうなってしまったと錯覚して。

 

 いいえ。

 いいえ、きっとあの子は生きている。

 だって彼女は、私に助けを求めてきた!

 

 必ず助けなくては。

 必ず救わなくては。

 

 彼女は、私の生徒なのだから……!!

 

 

 

 

 外が完全に暗くなってしまう前に、私達は本格的に安全を確保するために動き出した。

 この3階を確実に安全なものにするために、机や椅子を集めてバリケードを作る。

 それから、屋上の庭園や浄化槽を調べて、運用の準備をして。

 購買になら、様々な物資があると期待を膨らませて。

 

 全部が終わったら、熱いシャワーを浴びて豪勢な夕食にしようとみんなで約束した。

 力をつけなくてはならない。早急に。迅速に。そのためにも……、……。

 

 

 若狭さんと丈槍さんには一度屋上に行ってもらって、私と恵飛須沢さんは一つの教室の前にやって来た。

 つい数時間前に無理だと判断した場所だ。この3階を確実に安全な場所にするには、放ってはおけない。どうにかする必要がある。

 

「でも、どうする? さすがにあの数は……」

「そうね……」

 

 具体的な案は何も浮かばない。10を超える「彼ら」を一体どうやって追い払えばいいのか。

 

────!!

 

 考えが纏まらないうちに事態が動き出した。

 中から微かな声と物音が聞こえてきたのだ。扉の向こう。この教室から!

 

「っ!」

 

 一も二も無く扉を開け放って飛び込んだ恵飛須沢さんに続いて私も足を踏み入れた。

 けど、すぐに立ち止まる羽目になる。11、12、13……今まで以上の「彼ら」がいて、掃除用具入れに群がっていたのだ。

 押し合いながら取りついて引っかいたり叩いたりとするその様を見れば、それが何を意味するのかすぐに察することができた。

 

 あの中に誰かいる!

 

ひぁああぁあ……!

 

 それを裏付けるように小さな悲鳴が聞こえてくる。

 けれどどうしよう。どうすればいい。助けに行けない。数が多すぎる!

 今日ここまで獅子奮迅の活躍をしてくれた恵飛須沢さんだってスコップを構えるだけで攻めあぐねているようだった。

 あの塊に突っ込んでいくのは自殺も同じだろう。だからといって、見捨てる訳には……!

 

「せめて一匹一匹釣り出せれば……!」

 

 悪態をつく恵飛須沢さん。10数体の「彼ら」は揃いも揃ってロッカーに夢中になっている。

 私達がいる事にさえ気付いていないみたいだ。抑えたとはいえ入ってくる際に扉の音が多少はしただろうに。

 ……? 音……。

 はっ、そうか! 音を出せば「彼ら」をこちらに引き寄せられるかもしれない!

 

 そうと決まれば、とモップを振りかざし、ぎょっとして振り向く恵飛須沢さんに悪いと思いながらも机に叩きつける。

 トンッと軽い音が鳴った。

 どう……!?

 

 ……誰も反応していない。

 

「……てい!」

 

 ガイン! とスコップが叩きつけられる音に、数体が反応して緩慢に振り返った。

 釈然としないながらも、二人で後退しつつ3人の「彼ら」を教室外に誘導するべく移動する。

 そのさなか。

 

「っ!」

 

 恐怖に耐えきれなくなったのか、錯乱してしまったのか。あるいは急な物音に驚いたのか、定かではなかったけれど、ロッカーの扉を押し開けて女生徒が飛び出してきた。

 

 見覚えのある子だった。

 紅いメッシュとチョーカーが特徴の、丈槍さんのお友達……柚村(ゆずむら)さんだ!

 

「くそっ!」

 

 今まさに群がっている中に飛び出してしまえば、どうなるかなんて明白で。

 自分の行動に呆然とする彼女へと殺到する「彼ら」へ、恵飛須沢さんが飛び出していった。

 

「胡桃さんっ! はっ……!?」

 

 唸り声が迫る。

 恵飛須沢さんが無視した3人の生徒が、私ににじり寄ってきていた。

 人とは思えない上下する動きで、唾液の糸を引く口を大きく開けて、迫り来る「彼ら」。

 

 私は、固めていたはずの決意も覚悟も忘れて後退(あとずさ)った。抱えたモップが重くて、転んでしまいそうになりながら……。

 

「おい! こっちだ! くっ!!」

「うわあああ!! くるなっ、くるなぁ!!」

 

 恵飛須沢さんが奮闘している。でも、外側の何人かをやっつけるだけで全然進めていない。

 柚村さんはまだ捕まっていないみたいだ。めちゃくちゃに腕を振り回して、完全に錯乱しているけど、凌げている。

 それも時間の問題だろう。あと何十秒もしないうちに、彼女は……。

 

 頭の中のどこか冷静な部分が、これは無理だ、と判断を下す。

 このままでは共倒れになってしまう。恵飛須沢さんを引っ張ってでもこの教室から脱出するべきだ。

 なにより……。

 

「ひっ」

 

 ほとんど目の前にいる「彼ら」に、私の命が(おびや)かされている!

 死にたくない。食べられて死ぬなんて嫌だ。いやだ……こわい……!

 

 身が竦む。攻撃の意思が萎えていく。

 ──それでも。

 

 ……ああ、それでも。

 

 ここにいるのが体育の先生なら。あるいは、あの人だったなら。そんなもしもに意味はない。

 今ここにいるのは、今、生徒を守れるのは、ただ一人、私だけなのだから。

 

「っ、っ」

 

 前髪に触れる指に仰け反る。

 大きく一歩引いてしまって、体が臆する。

 

 悪夢の中にいるみたいに四肢の反応が鈍い。動けない。

 やっぱりだめ。だめだ。だって、わたし──。

 

 ──甘ったれるな、佐倉慈!

 

 委縮しきる前に自分で自分に発破をかける。

 

 ──あなたはなに!? 教師でしょ!! みんなを守るべき大人でしょ!!

 

 立ち止まるなんてだめ。絶対に傷つけさせないで。だって──。

 

 

『たすけて、めぐねえ』

 

 

「生徒を守れるのはただ一人! 私だ!!」

 

 迫る腕を払い除けて、振り回したもので足を払う。

 転がる「彼ら」の上を、私は跳んだ。

 

「やーっ!!」

 

 気合い一声、モップを振りかぶって駆けていく。

 

「めぐねえ!?」

 

 彼らへと叩きつけるその瞬間、私の中の時間がうんと伸びて──。

 見る影もないそれが、かつて私の教え子であったとはっきり認識できても。

 もう、私の心は揺るがなかった。

 

「私の生徒に、手を出さないで!」

 

 誰も傷つけさせない。

 誰かに押し付けたりなんかしない。

 

 これは、私の仕事だ!

 

 

 ──────

 ────

 ──

 

 

「はあっ、はあっ、はあっ」

「はー、ふー」

「はっ、んく……」

 

 ぜえぜえと三つの呼吸音が重なる。

 それ以外には何も聞こえない。

 私と恵飛須沢さんで多くの「彼ら」をやっつけて、なんとか柚村さんを救い出す事ができた。

 

「先生っ!」

 

 飛び込んできた柚村さんをモップを捨てて受け止める。

 怖かったね。寂しかったね……。そういう思いを込めて強く抱けば、柚村さんはぼろぼろと涙を零して、声を押し殺して泣いた。

 

 抱き締めた体は私よりも小さく、か弱く。

 ……大人びていても、子供は子供なんだって、初めて実感した。

 

「もう大丈夫よ……よく頑張った……偉いわ」

「うんっ……!」

 

 ゆっくりと頭を撫でてあげると、鼻声の返事。本当に恐ろしかったのだろう。心細かったのだろう。服を掴む手に力が入って、染み込んだ涙が熱い。

 それがどうにも愛おしくて、いっそう優しく背を撫でた。

 

 その横で、恵飛須沢さんがとても居心地が悪そうにしていたのが、ちょっといたたまれなかったかな……。

 

 




TIPS
・覚醒
巡ヶ丘の人間には覚醒という上のステージがある
覚醒すると精神値が回復し、絶対値が上がる
戦闘による精神値の減少が抑えられ、クリティカル攻撃の発生率が大幅に上がる

・柚村貴依
パンデミック発生から3日以内に救出可能なキャラクター
出現位置は主人公のスタート地点によって固定かランダムに変わる
全体的に優秀なステータスで、会話による精神値の回復量が上がるスキル「話し上手」を持っている

・ゲキレツモップインパクト
すごいよモップすごい……モップがすごくなっちゃう……



い モ ッ プ

ショッピングモール組

・千翼優衣
54/100

・祠堂圭
92/100

・直樹美紀
67/100

巡ヶ丘組

・丈槍由紀
43/100

・恵飛須沢胡桃
41/120

・柚村貴依
32/100

・佐倉慈
46/130

・若狭悠里
8/90


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3衣服入手~るーちゃん救出

実写版がっこうぐらしを見終えたので初投稿です。
年内最後に間に合わなかったので初投稿です。
まだ起きてるので年内だし初投稿です。
オリキャラが出るので初投稿です。
2020年になったので初投稿です。
瞬瞬必生なので初投稿です。


 モールで過ごすのも残り僅かなRTAの続き、いざぁ……♂

 

 

 

 おはよーございまーす! 朝です。

 前回ようやくご飯を食べられて満腹状態で眠った優衣ちゃんは、寝起きからしてご機嫌にゆらゆらしております。だっらしねぇ顔……そんなんでこの後のチャート走れんの?

 

 

LEVEL UP

 

 昨日生存者を探したので(探したとは言ってない)チャプター2が終了し、ノータイムでチャプター3が開始されました。ランクは当然S! ゴールデンに輝くSの字が素敵ですねぇ。

 大目標は"生存者の痕跡を探せ"、小目標は"1階を探索しよう"。

 

 ふにゃ顔レベルアップで得たポイントを俊敏に2振り、「全力疾走」のスキルを取ります。

 「全力疾走」はスタミナを消費して3秒間1.3倍の速さで移動できるようになるアクティブ系のスキル。5秒のインターバルをおいて再使用できるようになります。速度は俊敏値を参照。

 

 今日やる事はフライパン等の調理器具の調達、衣服の調達、みーくんとの友好度を所定の値まで上げてモールの外へ出ることと、るーちゃん救出です。

 外はこのモール以上に「彼ら」が徘徊してますので「全力疾走」で切り抜けます。「投擲」等のスキルを取ればもっと穏便に移動することができますが何より時間が大事ですからね。時間度外視の安定重視……? これはRTAですよ。

 

 ところで二日目朝の身体検査イベが確定じゃないって感想で見たんですけど本当でしょうか?

 おかしいなー私の場合いつも起きるし、プレイ動画見る限りじゃみんな起こってる気が……する、した、かなー? どうだったかなー?(痴呆)

 

 まま、特に悪影響なく走れているんでどうでもいいね。

 

 生活に必要なものを集めるのは、優衣ちゃんがいない間にそれらを求めた二人が勝手に外に出ないようにするためです。それからみーくんの友好度が低いと「主人公を信用しない」からの「圭と喧嘩」からの「生きていればそれでいいの?」で仲違いイベントが発生してしまい、不在中ゆえに止める手段がないので駅へ向かった圭を迎えにいくはめになりかなりのロスになってしまうからです。

 

 頼むから部屋の中で大人しくしててくれよな~。生きていればそれでいいんだよ!(強弁)

 

「先輩、立てますか? ご飯の用意できてますよ」

 

 スキルをセットしているとみーくんが話しかけてきました。もう作ってるとは有能ですね。一家に一台けーちゃん欲しい。

 両手を広げて「立ち上がらせて」とおねだりしましょう。

 

「自分で立ってください……」

 

 戸惑いと呆れの混じった目で見られてしまいました。

 辛辣な言葉に涙がで、でますよ……ほら優衣ちゃんも泣きそうです。えっメンタル弱すぎひん?

 

「わ、わかりました、わかりましたから泣かないでください!」

 

 慌てて手を貸してくれたみーくんにありがとうとお礼を言いましょう。

 やや頬を染めた彼女は、「先輩、子供っぽすぎます……」と照れ隠しをしながら視線を逸らします。

 あ^~、好感度の上がる音ぉ!

 

「もう、美紀ー? 先輩泣かせちゃだめでしょー」

「ちがっ、泣かせてないから!」

 

 ほっこりするやりとりをしり目にリュックをしょって食卓へ。机はないので皿は床に直置きですが、けーちゃんのよそってくれたご飯ならなんでも食べられますね。

 しかしメニューは昨日と同じミートソーススパゲティ。

 連続で同じメニューにすると精神値の回復量が減りますが、二連続程度なら誤差の範囲でしょう。私は三食クリームソーダでも構いませんがね。

 

 そういえばみーくん、さっきからこっちちらちら見てるけどなんなんすかねぇ。

 

「いえ、別に……」

 

 あ、わかった。先生わかっちゃったかなぁ。みーくん、優衣ちゃんに恋しちゃったんでしょ? 恋煩(こいわずら)っちゃったんでしょう? 《検閲》感じちゃうんでしょう?

 

「違います!!」

 

 ファッ!? お前ノンケかよぉ!

 

「意味がわかりません……」

 

 またまたぁ~、かまととぶっちゃってぇ。みーくんが女の子を好きだなんてバレバレですよ~。ネタは上がってんだよ!!

 実際圭との仲は怪しい……怪しくない?

 

 直樹美紀と祠堂圭は大親友である。それはたとえ何度世界が終わろうと揺るがない事実。

 けれど彼女達を探索に連れ出せるようになった後、何度も二人を窮地に陥らせ、手を取り合い生き延び、その相性の良さや距離感をからかい続けるとどちらかがそれを恋と錯覚し、意識し始めるイベントがあります。俗に言う"硝子の花園"エンドですね。

 

 意識し始めた二人を部屋に閉じ込めて夜に部屋に戻らなければ翌朝にエンディング。No.40「ぞうか」。二人きりの花園の完成です。Foo! 主人公が締め出されて途方に暮れていますが知ったこっちゃないね。

 

 食事の間にチャートを確認しておきます。忘れっぽいので丸暗記とかできないんですよね……。

 えー、そういや肉類や魚類を冷凍しておいたので忘れずに回収しませんとね、4日目からは電気が途絶えるので無駄になっちゃいます。危なかった……完全にすっぽ抜けてました。外出た後のことばかり考えてたよ。

 

 それというのも、今日のるーちゃん救出はかなり難易度が高く、私的キャラ救出難易度S+なんですよ。

 詳しいことは鞣河(なめかわ)小学校についてから書きますが、今から緊張で手汗がやばいです。

 みーくん、けーちゃん、癒してくんない?

 

「先輩、今日も外に行くつもりなんですね」

 

 無視されちゃったみたいですね。クゥーン……。

 食器を片すけーちゃんを横目にしていたみーくんは、居住まいを正して優衣ちゃんに向き直りました。

 

「私も連れてって欲しいんです」

 

 だめです。

 

「危険なのは、わかってます。でも……いつまでも千翼先輩にだけやらせるのは違うって、昨日圭と話し合って……決めたんです」

 

 そんなことしなくていいから(良心)。

 それって駄目って言ってもついてくるって事ですよね。じゃあ私の許可取る必要ないじゃん。

 ああわかったよ……連れてってやるよ。連れてきゃいいんだろ!!

 

「……! あ、ありがとうございます……いつでも出発できますから、先輩も準備ができたら声をかけてください」

 

 好感度が一定に達していたようで二人と一緒に探索できるようになるイベントが挟まれましたがようやく操作可能になりました。当然準備はできているのですぐに話しかけます。すると洗い物をしていたはずのけーちゃんがみーくんの真横に瞬間移動してくるので二人をパーティにインしましょう。

 

「先輩、私達もある程度は動けると思いますけど、外の事は先輩の方が詳しいと思うんです」

「こうして欲しいとか、待ってて欲しいって時は言ってくださいね。私も美紀も、言われたことはちゃんと守ります!」

 

 うそつけ好感度が低くなると無視するゾ。それに何度苦しめられたことか……。

 

「それじゃあ行きましょう、千翼先輩……!」

 

 覚悟を決めた顔で申し出るみーくん。

 りょ! では外に出ましょう。

 部屋に戻りましょう。

 これにて三人での探索は終了です。

 

 みーくんとけーちゃんのケツ意♂をないがしろにしているようであれですが、二人を連れ歩く余裕なんてないんだから最短で済ませるのは当たり前だよなぁ?

 

 攻めチャートなら二人を連れ歩けるようになってすぐ外へ向かい、るーちゃん救出後その足で学校へ向かう、なんて事もするようですが、あまりにも難しいので私はしません。上手くやればるーちゃん救出を大幅に短縮でき、チャプター4・5を無視するのでかなりタイムも縮まるのですが……。

 

 ただでさえ私の言葉選びだと指示は通らないわ画面外で死んだりするわ、るーちゃんイベでは仲良死しちゃうわで滅茶苦茶になってしまうので大人しく安定を取る事にします。

 

「そういえば、どこかで犬の鳴き声が聞こえた気がするんだよね……2階より下だったと思うんだけど」

 

 ソファに座って音楽を聴いているけーちゃんに話しかけ、情報を得ました。ヘッドホンを外す動作が細かい!

 犬とは言わずと知れた太郎丸のことです。

 本RTAでは学校で攻略可能なキャラクターを生存させる縛りがありますので、攻略でき、かつエンディングのある太郎丸もきっちり救出します。

 

 さ、きびきび探索に出ましょう!

 なーんか忘れてる気もしますが、廊下に出たら果物ナイフを装備して……もう装備してるじゃないか。

 みーくん達の前で装備しちゃだめだとあれほど……いや好感度足りてるしいいのか。ひょっとしてチラッチラッ見られてたのこれのせいですかね? 血濡れですもんね……そういや洗ってもいない。錆びて耐久値が下がってしまいますね。まあいいや。

 

 あ、イベント起こすの忘れてましたので戻りましょう(ガバ)。

 壁際に立つみーくんに話しかけ、生存者関連の話題を選びます。

 

「私達以外に生きている人は、きっといますよね……でも、良い人ばかりとは限らないかもしれません」

 

 おっ、そうだな。

 通常プレイでは痕跡を発見して、良からぬ行いが行われていたのを知ってから行動するのが本来の流れですが、チャプター3に入ってから一度でも籠城部屋を出れば条件を達成するのでこの会話まで短縮できます。

 

 じゃけん、"合言葉"決めておきましょうね~。

 

「合言葉……ですか? ノックのリズムを決めておくというのは考えましたが……」

「面白そう! どんなのにしよっか?」

 

 けーちゃんが話に乗ってきたので、ちゃちゃっと決めます。内容はこちらで決められます。

 

 "合言葉"は二人を部屋に残したまま探索する私のチャートではかなり重要な要素です。これを疎かにすると他の生存者に押し入られて二人が()られてしまうので注意しましょう。

 ちなみにみーくんの言うノックのリズムは、主人公が何も提案できないとランダムに決定されますが、自分で設定することもできます。私はターミネーターのアレにしてました。しかしノックだと結構な確率で生存者に突破され部屋に押し入られてしまうので必ず"合言葉"を設定しておきましょう(1敗)。

 

 合言葉は入力時間を考慮して「ほも」としたいところですが、こんなに短いとあっさり見抜かれてしまうのでいくつかの単語の組み合わせにしてセキュリティを高め、さらにもう一つ付け加えましょう。

 

「じゃあ、私が『佐倉慈』『は』……と言ったら、先輩は『巡ヶ丘学院』『の』『国語教師』『だ』と答えるんですね」

「そのあとに『これは』『たぶん』『遺書』『だ』って言うんだよね……うん、覚えた!」

 

 覚えなくていいから(良心)。教えたのは私ですがね。

 こんな風に、かなり自由に台詞を吹き込むことができます。何単語に区切られるかはAI次第。

 しかしあんまり汚い言葉を言わせようとすると弾かれるし好感度も下がるので慎重にいきましょう。巡ヶ丘の主要メンバーの名前を組み込むと好感度が僅かに上がります。

 

 万が一にも押し入られたくないため長めの台詞にしましたが、『支店を板に吊るしてギリギリ太るカレーセット』『まだ続くぞ』くらいの長さで十分侵入は防げます。

 

「あの、私達も行きましょうか?」

 

 さて。一回部屋に戻ってしまったので、もう一度みーくんディフェンスが入ってしまいましたね。

 一人でどこにいくのか、何をするのか話さないと「私達が行きますから、先輩はゆっくりしていてください」と閉じ込められてしまいます。ご飯と服を取りに行くということを丁寧丁寧丁寧に説明すれば通して貰えます。あのさぁ……毎回とおせんぼするのやめてくれませんかね。こっちの事情も考えてよね、もー。

 

「わかりました。お気をつけて」

「絶対危ないことしないでくださいね、千翼先輩!」

 

 みーくんの後ろからひょっこり顔を覗かせるけーちゃんに頷いてあげて、いざ鎌倉。

 まずは3階の女性服売り場に向かいましょう。ここで持ち帰る衣装でみーくんの好感度を荒稼ぎだぜ。

 

 とはいえ移動と収集は初日も2日目も見せましたし、倍速しても見所(みどころ)がなく退屈でしょうから、みなさまのためにぃ~……。(例のBGM)

 

 

 ぷはー。今日もいい天気♪

 

 

 ……大人気の動画を流しておこうと思ったのですが、解説したい事があるのでやめます。残念ですね……。本当に申し訳ない。

 

 徘徊する「彼ら」を避けつつ0円セールの服を漁る優衣ちゃんが手にしたのは、シックな感じの衣服です。シックってなんだ……?

 垢ぬけたお高い系の衣服は圭の好みど真ん中。持っていけば好感度大幅アップ間違いなしです。

 みーくんには大人なランジェリーを大量に持ち帰ってあげましょう。大喜びしてくれます。いやほんと。ホントホント、ホントだから。

 

 水着もいくつか詰め込んでおきましょう。今は関係ありませんが、着ていれば浸水した場所も通常の速度で移動できるようになります。

 

 優衣ちゃん用の衣服もここで入手しておきます。奥の倉庫っぽいところにある「しすたーの服」。

 洋服として着れるようアレンジされたかなりかわいらしい一品ですね。

 

 「彼ら」を天に送った際の精神値減少が抑えられ、欠損の激しい「彼ら」と遭遇しても減らなくなります。

 外は校内に比べてボロボロの「彼ら」が多いので、制服のまま行くとガリガリ精神値が削られて調整が難しくなるので必須級です。

 

 ただ、味方になり得るキャラクターと接触する際は制服の方が信用されやすいので、着替えられる場面ではしっかり着替え直した方がいいです。

 

 1階へ移動し、「フライパン」と生鮮食品を回収。この後のために精神値を回復できる「キャラメル」を入手。ん、運良く三箱残ってました。幸先がいいですね。

 いくつか「常備薬」と頭や体を洗うための「石鹸」を入手。

 それから、ペットコーナーで犬用のササミを手に持ち、移動しましょう。

 

 B1Fに続くシャッターの前まで来たら、痕跡を発見しないよう位置取りに気を付けて鳴きます。

 アァン! オォン! ンアーッ!

 

 ……。

 ……。

 ……。

 

「わぉー~~……ん」

 

 お、返事がありました。

 タタタッと駆けてシャッターの僅かな隙間を潜り抜けてきたのは、まさしく太郎丸ですね。

 

 距離をあけて止まり、こちらを窺う彼に封を切ったササミを放ってあげましょう。

 ジャンプキャッチした彼は、優衣ちゃんが無害であるとわかってぶんぶん尻尾を振り始めました。かわいい。

 ここにみーくんを連れていると「あ、わんこ!」とか「かわいい……」といった恍惚の声を聞けます。

 

「よしよし」

 

 足元に擦り寄ってきた太郎丸を、ちゃんと屈んでから撫でてあげましょう。

 立った状態でボタンを押すと攻撃が暴発して敵対状態になってしまいます(無敗)。

 しばらく可愛がっていると、一声鳴いた彼が導くようにシャッターの下へ消えていくので、籠城部屋に帰りましょう。

 

「あ、おかえりなさい。千翼先輩」

「お、っかえ、っりな、っさいっ」

 

 部屋に戻ると、二人は運動(意味深)をしていたようでやや汗を掻きつつ挨拶をしてくれました。

 すっくと立ちあがったみーくんに、両手をうしろについてはーはーと息を荒げるけーちゃん。うーんこの。

 位置取り的に腹筋でもしてたんでしょうかね。

 

 はいみーくん、フライパン。

 あとご飯。それとドスケベ下着。おクスリ。最後に石鹸。

 

「なっ、ななな、なんですかこれはっ!?」

 

 みーくんの下着です。いつも一緒じゃ気持ち悪いでしょ?

 

「それはそうですが、なんでわざわざこういうの持ってくるんですか!?」

 

 君がそういうの好きなの知ってるからだよ。

 とは言わずに、こてんと首を傾げて誤魔化しておきましょう。

 優衣ちゃん的にはみーくんが今穿いてるのとこれらに差はなく、ただの下着としか認識していないんでしょうね。他のキャラタイプなら動揺したり恥ずかしがるようなものも顔色一つ変えず持ってきますし。

 

「まあ、いいですけど……」

 

 ほらぁ。

 言った通りでしょ?

 

 さ、用も済ませましたし、外に向かいましょうか。

 本来外に行く目標が示されるのは生存者とのあれこれを終えた5日目以降ですが、チャプター3時点で出る事自体はできます。主人公一人の場合のルートを知っていれば出方がわかるんですよね。わざわざ美紀と圭を連れてきて入り口を塞ぐ瓦礫の撤去や寄ってくる「彼ら」からの防衛戦なんてこなすこたぁないのです。

 

「あ、千翼先輩」

 

 来ましたね、みーくんディフェンス。本日三回目ですよ、三回目。

 あれ、みーくんじゃなくてけーちゃんでした。なんでしょ?

 

「この髪留め、使ってください」

 

 その場で自分のヘアゴムを外したけーちゃんが優衣ちゃんの手に握らせてくれました。

 信頼イベですね。このアイテムは彼女の好感度と友好度が最高に達した証です。この大きさなら重さも全然ありませんのでありがたく頂戴しておきましょう。

 

 イベントが終わると「髪を下ろしているけーちゃん」をじっくり眺め回すことができます。ここ以外では風呂上り等の特定のタイミングでしか見れません。

 じゃあ外に行きましょうか。

 

「あ、千翼先輩」

 

 来ましたねみーくんディフェンス。

 ん? でもこの呼びかけのパターンは……。

 

「これ、あげます。眠れない時とかにどうぞ」

 

 あ、信頼イベですね。もう達したのか、早い! よっぽど下着が嬉しかったんでしょう。

 みーくんがくれるのはポケットサイズの文庫本です。中身は英文なので読めません。い ら な い。

 どこか恥ずかしそうな彼女の顔を報酬として部屋を後にしましょう。

 

「どこへ、行くんですか……先輩」

 

 スッ……と前に回り込んでくるみーくん。

 今度こそみーくんディフェンスです。もうやんなっちゃうよ。

 

「千翼先輩……どうしても、どうしても一人で行くんですか? 私達が一緒じゃ邪魔ですか?」

 

 好感度と友好度が最高に達した状態の彼女はかなり強引に主人公に同行しようとし始めます。

 が、高好感度特有の「言う事を聞いてくれる」状態を利用して部屋に留めておきましょう。

 

 あのねみーくん。邪魔だなんて、そんな事思ってない。ただ、心配なだけ。

 それは一緒だって思うかもしれないけど……お願い。ここにいて。おかえりって、言って?

 

「……わかり、ました……」

 

 よし。私の迫真の台詞選びにより無事みーくんを説得できました。胸に手を押し当てて俯きがちになるという優衣ちゃんそっくりの動作で脇に退いてくれます。

 一見このまま出れそうに見えますが、出れません。どこへ行くのか、何をするのかの説明もしないとなお食い下がってきます。ですのでちゃーんとお話して不安を取り除いてあげましょう。

 

 が、馬鹿正直にモールの外に出て小学校へ行き生きているかもわからない児童を助けるなどと(のたま)えば論理立った一部の隙も無い正論に優衣ちゃんが説得されてしまい外出を諦めてしまいます。

 

 これを回避するには彼女のロジカル思考を覆すカリスマ性を持つか、元より交流しないかです。

 そのどちらも不可能であり、しかも臆病なためけーちゃんにさえ外出を阻まれてしまう優衣ちゃんの場合は、もう素直に目的を話してしまいましょう。

 

 よっす二人とも~。私これから生存者いないか確認してくるからな~?

 

「……? 気を付けてくださいね」

「今度は一緒に行こうね。ゆ、千翼先輩!」

 

 嘘はついてないよ、嘘は。捜索範囲がモール内に留まるとは言ってないだけ。

 それでも訝し気にしているみーくんの察しの良さには殺意が芽生えます。何度私の走りを阻めば気が済むんだ!

 

 それから、けーちゃんの言葉を聞き逃さず呼称の変化を許可しましょう。友好度や好感度が下がりにくくなります。

 

「……ゆい先輩、頑張って!」

 

 ぱっと明るく笑う彼女に、優衣ちゃんは制服の裾をにじにじして恥ずかしそうに頷きました。ここら辺の反応はキャラタイプと性格とそれぞれとの現在の関係が参照されるので非常に多岐に渡るのが面白いところです。

 

 さて、廊下に出たらまずはけーちゃんから貰ったヘアゴムを使います。けーちゃんとの友好度がさらに下がりにくくなり、隠密に補正が掛かります。おそらく武器も持たず一人で駅に向かった彼女の隠密性がアイテムに込められているんじゃないかな。

 髪を結んでいたリボンと交換しました。ちょっと地味になっちゃったかな? もともと地味か。

 

 みーくんから貰った英文の本も流し読みます。知力に補正がかかりました。終わり!

 

 ちゃちゃっと1階に向かいましょう。向かうのは前回電話をかけた宿直室です。

 ここは、前回めぐねえと電話したところですね。本来B1Fにいる太郎丸のお世話をしているぶっきらぼうな女性から死ぬほど疲れている人が持つ鍵の話を聞けるのですが、知ってれば入手できるのでフヨウラ!

 

 ベッドの下、向こうの壁側に落ちているので潜り込んで拾いましょう。これで隣への扉を開けて従業員用出入り口へ向かえるようになりましたが、そこから出るとかなりの量の「彼ら」に囲まれます。

 が、タイプCの小柄さなら小さな窓からなんとか脱出できます。そこならやり過ごすことができちゃうんです。

 

 他の走者が大体タイプCで走っているのはこういった「体が小さくなければ通れない場所」を通って短縮できることが多いからではないでしょうかね。

 他のタイプにも良さはあるのですが、私的には断然Cがやりやすいです。

 

 さて、道路に出ました。ここから鞣河小学校に向かうのに特に情報などは必要ありません。外に出れさえすれば自由に探索可能です。聖イシドロス大学に乗り込むもよし、ランダルコーポレーションに踏み込むもよし、生存者を探して合流してもいいし、自分が音頭を取って集団を作ってもいい。

 

 生存者の情報はプレイヤーが能動的に集める事で知ることができ、救出したりしなかったりできます。

 

 ……今から助けに行くるーちゃんは、モールスタートで外出が大目標に設定されるようになる4日目以降では基本的に生きてなかったりするので、通常プレイだと手遅れな事が多いですね。

 ごく低確率で奇跡的に生き延びていたとしても精神値が1桁だったり重い障害を抱えていたりと、かなり辛い状態での発見になってしまいます。連れ帰っても数日以内に亡くなってしまい、基本的にりーさんを道連れにするので学校に行く場合は切り捨てられてしまうことも多いですね……。子供と犬に厳しすぎないかニトロプラス……!

 

 本チャートでは学校で攻略可能なキャラクターは全員生存させる必要があるゆえ助けますのでご安心を。

 大学の面々はゲームの製作時期の関係で存在しないので(DLCで追加されたシナリオにはいますが)範囲外です。

 ワンワンワン放送局もといラジオ姉貴は言わずもがな。すまんなガンマ姉貴。

 

 さて、るーちゃんですが、正直この三日目でも最速で向かったとして生きているかは五分五分です。そこは祈るしかありません。

 頼む、生きててくれ……! 頼む……!

 リセットは嫌だ、リセットは嫌だ……。

 

 道路には放置された車両や倒壊した建物の残骸などが障害物として設置されており、これを遮蔽物にして「彼ら」をやり過ごしていきます。

 警官かそれに準ずる格好の遺体を見つけたら積極的に漁って「果物ナイフ」に代わる刃物を入手します。理想は「サバイバルナイフ」ですが、包丁系のアイテムでも可。なんでそんなもの持ってるんですかね?

 今回は運良く初手でサバイバルナイフを引けました。果物ナイフは邪魔なのでポイ捨てしておきます。

 しっかり装備して、と……。

 

 ん? おや、遠方にいる1体の動き……捕捉されましたね……体温感知した……?

 どうやら体温感知したようです。彼らの中には体温感知する個体もいるって事ですね。

 

 外の「彼ら」には種類があります。

 音に敏感なモノ。

 視界が明瞭なモノ。

 そして、体温感知するモノ。

 

 体温感知してきた個体はしつこくしつこく追ってくるので殺すか、遮蔽物に身を隠してやり過ごしましょう。

 原作やアニメのようにピンポン玉などの音、光で誘導しようにもできない個体もいるという事です。

 初見殺しされた兄貴姉貴も多いのではないでしょうか。

 

 今回は発見されるギリギリまで近づいてから隠れます。攻め攻めです。見つかると評価に響くのでかなり緊張しております……よし、あっち行ったので急ぎましょう。ちょこちょこ「全力疾走」を挟み、失ったスタミナは水を飲みつつ回復。しかし水分補給は最小限に抑えないと、帰るまでに尿意が限界を迎えてしまうので注意。

 

 鞣河小学校に到着しました。ボロッボロでお化け屋敷みたいです(貧困な語彙力)。

 ある程度進んだ先にあるバリケードの向こうに侵入したら足元を注意深く見ながら進みます。るーちゃんの出現位置はランダムですが、足跡という痕跡を発見できれば見つけるまでは容易にできます。問題はその後。

 

 私、るーちゃんきらいです。だって逃げるんだもん。

 るーちゃんこと若狭瑠璃は、プレイヤーが女性か成人以上の男性か、かつ殺傷武器を所持しているとこちらを発見した際逃走します。なんで? なんで? なんで?

 

 武器を「装備」ではなく「所持」しているとなので、完全ステルスでもしていない限りはほぼ確定で起こる鬼ごっこイベント。

 その最中も「彼ら」は容赦なく襲い掛かってきます。数は少なめになっていますが、それでもるーちゃんが逃亡の果てにランチに早変わりしてしまうこともしばしば。そうなれば当然リセットです。理由はるーちゃんが死んだら自動セーブが挟まるからです! 覚悟の準備をしておいてください……近いうちに訴えます。裁判も起こします。

 

 逃走するるーちゃんを安心させる方法は私が知る限り三つあります。

 

 助けに来た、高校は安全などと呼びかける。

 りーさんの名前を出す。(要りーさんと友好関係を築いている)

 子供向けの歌をうたう。

 

 本日は歌いたい気分なので緩やかな曲調のものを選んで口ずさみましょう。

 さあるーちゃん、カモンカモン。

 

 ……さっきから違和感覚えていたのですが、妙に廊下が綺麗ですね……端の方には埃が溜まっているのですが、真ん中はそうじゃないし、そのせいで足跡が発見できません。

 んー、うろつく「彼ら」が鬱陶しい。光源に乏しいこの場所ではちょっと姿も見えにくいですし……しかし「無音歩行」を所持する優衣ちゃんならばもたつくことなく進んでいけます。

 

 こちらに背を向けている一体をスニキルし、引き続き探索。見つけるまでにあんまり時間が掛かりすぎるのは困りますね……ただでさえ鬼ごっこに時間を取られるのに。

 ちなみにここに複数人で来た場合は、逃走するるーちゃんを三方向から囲む事で一瞬で捕獲できます。ですがここまで人を連れてくるというのがそもそも難しいので一人でやるほかありません。

 

「っ!」

 

 えっ!? なんかダメージ受けたんですけど……幻術か?

 いや幻術じゃないですね。なんか頭にぶつけられたっぽく優衣ちゃんがふらついてます。なんだ……? 飛び道具を扱う「彼ら」なんて存在しないはずですが……。

 

 ビシッバシッと容赦なくぶつけられる何かを受けつつ進んでいきましょう。ダメージは微々たるものですが、ほんと鬱陶しいですね。

 

 あ。

 

 向かう先に築かれたバリケードの上に女の子がいました! るーちゃんじゃないねぇ!

 黒髪ロングに青い衣服、翡翠の目……割り箸でできた輪ゴム鉄砲を掲げてにやつく彼女は、超激レアキャラのせーちゃん! せーちゃんこと月日星夜ちゃんじゃないですか!!

 私見るの初めてなんですよね! だって相当いる確率低いですし、全然情報もないし……彼女を発見したプレイ動画も4日目以降だったためすぐに死んでしまいましたから、これは勲章ものですよ!

 

 ……これるーちゃん生きてないかもしんないですね。それでも珍しいんで参考記録として続行はしますが……。

 近づいていくと、彼女は向こうへ跳び下りてしまったので、バリケードを昇って追います。

 お、るーちゃんと合流してるじゃないですか! なんという豪運……! 二人とも怪我らしい怪我もないみたいですね。せっかく助けても感染してたら意味ないので、これは助かりますねぇ!

 

「……」

「……」

 

 とはいえ、友好的とは言い難いというか、この状況でもやっぱりるーちゃんは逃走するようです。

 何やら手をわちゃわちゃと動かし合った二人は、ぴゃーっと逃げ出してしまいました。

 追おうとすると脇からのっそり「彼ら」が出てきたので手早く処理していきます。この鬼ごっこ中に限り発見されても評価に響かないので堂々と走りましょう。

 

 このイベントは当ゲーム屈指の難易度を誇り、救出は至難……ですが、このために私は何度も練習してきましたし、どう追えばどこに逃げるかは頭に叩き込んであります。その詳細もチャートにちゃーんと……あれ?

 これせーちゃん増えて2対1になってますよね。……気のせいじゃなければ星夜ちゃんがるーちゃんの手を引いてましたし、ルートが変わってる可能性も……?

 

 ……。

 ……。

 

 スゥー……あああああんんもおおおおおおやああああだああああああ!!!!!

 

 ふう。泣き言を言っててもしょうがないので追いましょう。

 意味があるかはわかりませんが、るーちゃんの行動対策に歩いて追跡します。

 走って追うとかなり挙動が読みにくくなるうえ、捕まえられない場所に逃げ込んで「彼ら」防衛戦となってしまい逆に時間がかかってしまうんですよね。

 

 せーちゃんがいるせいでどういう挙動になるのかわからないですが……姿が見えなくなるのは同じ、と。

 この場合階段で上の階に逃げていると思うのでダッシュで行きましょ。踊り場に到着すればどっちに逃げたかは足跡を見ればわかりますので足を止めず上へ。お、ちゃんとありますね。なかったらどうしようかと思った……。

 

 2階に上がっても姿は見えませんが、進みつつ耳を澄ませて物音が聞こえないか探ります。

 大抵は「彼ら」の発する音ですが、そっちに向かえば高確率で「彼ら」をやり過ごそうとしているるーちゃんを見つけられます。これを繰り返しつつ袋小路に追い詰めて捕獲しましょう。

 

 追い詰める場所の候補は、このイベント中にしか入れない校長室や各階の職員室、るーちゃんの教室である2-3です。

 時間をかけすぎると「彼ら」にやられてしまうのできびきび追いかけましょう。

 

 どこだぁ~? 探すぞぉ~?

 

 む、物音がしました。こっちか!

 違いますね。んん? 「彼ら」すらいませんね。こんなこと今まであったか?

 あ、そういえばせーちゃんこと月日星夜ちゃんは攻撃的なんでしたっけね。輪ゴムで狙撃してきたり、音で誘導してきたりするんだとか。それで「彼ら」をこちらにぶつけてきたりもするそうです。……最悪の遅延行為じゃないか!?

 

 ま、まあ、しかし私このイベントだけはめちゃくちゃ練習しましたから、大丈夫です、たぶん!

 というわけで8倍速でお送りいたします。

 

 え~、かれこれ5分ほど経ちましたが、だーれもいませんね。生存者は、誰一人、見つけられませんでした。

 

 はーつっかえ。やめたら? 追跡者。

 

 この辺からだいぶん集中力が切れ始めてプレイが乱暴になってきてますね。「彼ら」を無視して進み、時折掴みかかられてQTEを発生させてます。ロスだよそれ(他人事)。

 そいでもってこれ見よがしに罠が仕掛けられてますね……。廊下の低い位置に紐が張られてます。こんな見え透いたものに引っかかる奴いんの?

 

「っ!」

 

 いました。ダッシュしてた優衣ちゃんが盛大に足をひっかけてスッ転びました。リュックがすっぽ抜けて派手な音を立て、「彼ら」を引き寄せてしまいます。だめだめですねぇ……。

 立ち上がり、リュックを回収しつつ群がられる前に「全力疾走」で切り抜けましょう。

 

 ん、にっくきせーちゃんを見つけました。……るーちゃんはどこに行ったんでしょうかね? まさか二人別々に追って捕まえろと……?

 

 しばらく追っていて気付きましたが、所々にある紐は歩いていれば引っかからないみたいですね。

 暗がりの中なため視認は困難でしたが、紐があると彼女はジャンプしますし、「彼ら」は足を取られて転ぶのでそれを見てから回避余裕でした。

 

 ていうかなんか普通に追いつけそうですね。せーちゃんは特定のポイントに追い詰めなくても捕まえられるのかな?

 と思ってダッシュしてみたらシーンに入りました。やったぜ。

 

「──っ!」

「!」

 

 組み伏せたせーちゃんが何やら取り出して噛み、ぐいっと顔を動かしたかと思えば鳴り響く警報。こいつ防犯ブザーもってやがりましたよ! ていうかこれ仲間にした時のるーちゃんの緊急回避じゃないですか! え、緊急回避してくるNPCとかありか!?

 

 うろたえる優衣ちゃんの下から抜け出したせーちゃんは小柄な体躯を活かしたスピードで逃げると、バリケードの下を通って向こう側へ行ってしまいました。

 いや、まだいますね……なに? あっかんべーしてますね。

 

 ふーん。ふーん。あったまきた……(冷静)。

 

 ま、子供らしいってああいうのを言うんじゃないですかね? それくらいでは怒りませんよ私は。

 優衣ちゃんもしっかり追い詰めるような動きに切り替わっています。冷静に行動している+1145141919点

 

 待てこらガキ! コラ!

 

 教室に繋がる小窓から逃げたりするせーちゃんですが、こっちも小柄なので楽々追えます。逃げられると思ってんの? かわいいなぁ。

 はい、捕まえました。

 緊急回避されました。

 

 はぁ~(クソデカ溜め息)

 

 鳴り響くブザーで「彼ら」が寄ってきますが正直どうでもいい。今はあのクソガ……せーちゃんをとっ捕まえてガタガタにしてやるのが先決ですからね。

 怒り心頭な私の操作のせいで優衣ちゃんがぼこぼこ壁にぶつかったりしてますが、タイムはやばいしるーちゃんは見かけないしで内心焦ってたんです。しょうがなかったんです。許してください、なんでもしますから!(古典)

 

 ていうか、この方向だと上手く行けば校長室に追い詰められそうですね。ちょっとやってみます。

 教室入るふりして、階段上がるふりして、ちょっと待機して……扉の開閉音が聞こえたらGO!

 

「……!」

 

 追い詰めました。覚悟決めろせーちゃん。持ち帰ってたらいに沈めて良い香りがするまで洗ってやっからよォ!

 しかしこの時の私は緊急回避を怖がってもたもたしてました。発動しない条件があるのか、ランダムなのかとか頭を働かせていましたが、結局普通に捕まえられました。

 

 そうしたらるーちゃん捜索に移るのかな、と思ったけど、会話が挟まりましたね。

 といってもせーちゃんは喋りません。たしか生まれつき喋れないんだったかな。うろ覚えです。

 手話っぽいものをわちゃわちゃやってますが理解できません。字幕とかないのか……(困惑)

 

 優衣ちゃんが理解できていない事を察したせーちゃんは困り眉で見上げてきてます。そんな目で見られてもなあ。

 とりあえず自分は危害を加えるつもりではない事と、りーさんの妹であるるーちゃんを助けに来たことを伝えてみます。

 

 「ほーん」みたいな顔をしたせーちゃん、説得に成功したらしく手を握ってきました。

 そのまま手を引いて動けるみたいです。とりあえずこの校長室に隠されているアイテムを回収しておきましょうかね。あやしい袋を入手しました。ぐへへ……こいつをお湯にでも入れればみんな……ぐへへ。

 

 さて、校長室を出ると、またイベントっぽいですね。

 学校の外に出た優衣ちゃんは、せーちゃんに手を引かれるまま物置小屋にやってきました。

 せーちゃんが前に出てココンコンと独特のリズムでノックをすると、カラリと扉を開けてるーちゃんが顔を覗かせます。そんでもってわちゃわちゃと手を動かし合って……手話で話してるんですかね? これ。

 

 お、るーちゃんも同行してくれるようになりました。どうやら二人捕まえずともいいようです。

 ということは? ということは?

 このイベントの想定時間を2分も下回りました! やったぜ。

 

 いや、ほんと、この短縮はでかいですね! 救出できた人数も相まって激うま味です!! 二人増えた事で消費する食料は増えますが、子供がいると精神値の減少が大きく抑えられるので安定性が増し、回復速度も上がります。それが倍。いいぞ~コレ!

 

 鬼ごっこイベントを成功で終えたので、学校が安置化されました。BGMも穏やかなものに変わってます。

 この曲、ドラクエの気球の曲より良いすね。

 

 一時的に「彼ら」がいなくなった校内を自由に探索可能になりましたが(もう用は)ないです。

 諸々アイテムはあるもののRTAではフヨウラものばかり。ただ、「教師の手記」とか雰囲気あるのでぜひプレイして読んでみてください。

 

 さて、救出に成功したるーちゃんとせーちゃんですが……かわいい。かわいいですね。ノンケになりそう。

 

 るーちゃんはベージュの長髪に二つのお団子、茶色のたれ目。クマをモチーフとした洋服が子供らしくはまっていて、守護りたくなります。所持品として防犯ブザーを持ってました。

 

 せーちゃんは黒髪ロングに翡翠のつり目。黒いドレスっぽい服に散りばめられたてんてんが星空みたいで綺麗です。全体的に良いとこのお嬢様っぽいですね。持ってる輪ゴム銃は武器ですね。いちおう高校でも工作で作れて、「彼ら」に当てると少しの間混乱させることができたはずです。

 

 二人とも声を失ってはいますが、顔色も良く精神状態は良好のようです。これはたしか、せーちゃんがいる場合のるーちゃんは食料の調達などができ、ある程度出歩けていたのが原因らしいですね。二人揃ってた場合3日と言わず1週間以上余裕で生きてるらしいです(攻略wiki調べ)。

 

 さらにるーちゃんが発症する失声症も、普段からせーちゃんと接する事で手話を覚えているため意思の疎通ができ、妹が覚えたてで嬉々として見せる手話をなんとなく理解しているりーさんも話す事ができるらしいです。良い事づくめですね。流石激レアキャラだ。

 

 ぽてぽてと歩く優衣ちゃんの後ろをちょこちょことついてくるるーちゃんとせーちゃんがとてつもなくかわいいのでその場でぐるぐる回りつつ眺めております。

 こういうのを専門用語でロスといいます。かわいいなあ。

 

 るーちゃんは子熊、せーちゃんは妖精ですかね。良い組み合わせだあ……。

 この子ら、真夏の野獣先輩より可愛いすね。

 

 暗くなる前にモールに帰りましょう。

 出発する前にせーちゃんのお尻を追いかけていたせいで減っている空腹値と精神値を補うためにキャラメルを食べます。

 

「!!」

「!!」

 

 うわ。一個口に含む優衣ちゃんの前に二人がずずいっと寄ってきました。

 そして揃って重ねた両手を前に出して上下にぱたぱた振ってます。なにこれかわいい。

 しかしこれは優衣ちゃんの貴重な回復アイテム。涙を呑んで知らんぷりしましょう。

 

「~~~~!!」

「!! !!! !!!!」

 

 猛抗議されてます。さらに詰め寄られて、ていうか纏わりつかれておねだりされてるのですが……馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!

 

「♪」

「~♪」

 

 だめでした。

 1箱ずつあげたキャラメルがみるみる彼女達のおくちに消えていきます。ああ……3箱あって良かった。消費しきったらまた探さなきゃなりませんし、当然それはロスになりますからね。

 

 二人も食べ終わったようなので出発しましょう……あの、服掴まれてるんですけど……まさか?

 

「!」

「!!」

 

 3箱目も寄越せ、らしいです。

 大人しく献上しましょう……たぶんアイテムを犠牲に友好度上げられてるんだと思います。そうとでも思わないとやってらんないよ。

 

 チャプター5以降からはファストトラベル(特定の場所まで即座に移動できる機能)が使用できるようになるのですが、今はまだ使えないので地道に歩いて帰ります。

 二人も連れてますが、しっかり「ついてきて」とお願いして隠密移動を徹底しましょう。

 

 あっこらせーちゃん、「彼ら」を撃つのはやめなさーい!

 

 

 ……ちょっと苦戦しましたが、どうにかこうにか戦闘状態にならずにモールに帰ってこれました。

 小窓から内部に入ります。三人とも子供だからここから入れますが、たとえばラジオ姉貴を連れて来た場合は正面突破するしかないんですよね。彼女も助ける場合は二日以内に学園生活部が「えんそく」に来るタイミングがちょうどいいんじゃないでしょうか。

 

 話が逸れましたね。5階に戻る前に調味料を調達し、二人用の石鹸、3階で衣服を回収していきましょう。

 戻ってまいりました。

 

「おかえりなさい、ゆい先輩!」

「……その子達は?」

 

 生存者を発見しました(モール内でとは言ってない)。

 モール外へ出た事は二人の口からも伝わらないので不和には繋がらない。うーん、完璧ですね。

 

「良かった……生きている人、私達以外にもいたんだ……!」

 

 感動の面持ちのけーちゃんと安堵の表情のみーくん。二人とも不安だったんでしょうね。ただでさえずっと部屋の中で過ごしているから、もしかしたらもう世界中どこを探しても自分達以外はいないんじゃないか、とか思ってしまっていたのかも。

 そこに投入された子供二人は確実に二人の癒しになってくれる事でしょう。……肝心の二人は、さっそく室内を歩き回って好き放題見て回ってます。自由だなー。

 

 さて、夕ご飯にしましょうか。今日は豪勢にステーキにしましょう。作るのはけーちゃんですけど。

 はい、調味料。

 

「わ、ありがとうございますゆい先輩! お塩も何もないからどうしようって美紀と話してたんです!」

「贅沢な悩みかもしれませんが……やっぱりこういうのは欠かせませんよね」

 

 そうだねー。焼いただけのお肉では気も滅入っちゃいそうですね。

 さ、ここで校長室からパクッてきたアイテムの出番です。

 じゃじゃん!

 

 「最高級紅茶パック」です。

 10パックで4000円!? うせやろ!?

 みなさん美味しい美味しいと飲んでくれます。ほんとぉ?

 

 味は知りませんが好感度はうなぎのぼりです。

 せーちゃんは図々しく優衣ちゃんの膝の上に陣取るくらいになりました。

 るーちゃんも感情に乏しい顔をしてぴったりくっつく位置に座ってくれます。

 襲われても大丈夫なよう盾を取りつつ、より人見知りしない方に寄ってるだけだと思いますねクォレハ……。

 

 お風呂タイムです。

 みーくん、一緒にどう?

 

「恥ずかしいです……」

 

 ほーん。じゃあけーちゃんは?

 

「あの、それじゃあ一緒に……」

 

 やったぜ。どうやらけーちゃんは入ってくれるようです。

 みーくんも後一回で陥落かなー。楽しみですねぇ。

 

 それでもってるーちゃん、せーちゃん。まずうちさぁ……たらいあんだけど、入ってかない?

 

「!」

「!!」

 

 諸手を挙げて賛成の意思。駄目って言われても入るぞって勢いです。彼女達も女の子って事ですかね。

 圭と手分けして二人を丸洗いしたら、就寝前の雑談タイム。

 

 

「そろそろ安全圏を広げなくちゃ、って思うんです」

 

 この5階は「彼ら」もいない事だし、しっかりとしたバリケードを築き、他の部屋を見回って危険を排し、安置化させようという提案ですね。みーくんとけーちゃん、今はるーちゃんとせーちゃんもいるので、四人のためにもやってあげたいところですが、どうせここは学園生活部が来るまでの仮拠点みたいなもんなので曖昧に頷くに留めます。

 

 あ、そうだ。改めてチャートの流れでも話しておきましょうか。

 このチャートはモールスタートではありますが、迎えるエンディングは学校での「そつぎょう」エンドです。

 その時のめぐねえとの状態を特定のものにする事で分岐し、めぐねえエンドに行きつきます。二つエンディングが流れる珍しい形式ですね。どちらかというと後日談みたいな感じなのかな?

 

 この調子なら予定よりも早くめぐねえと結ばれる事ができると思います。

 うーん、私のチャート完璧すぎない? お前達のチャートって、醜くないか?(暴言)

 

 きららチャンスは「歌唱」のようです。プレイヤーの歌唱力が求められます。なんだそれは(素)

 無難にきらきら星でも歌っておきましょう……。ゆらゆら歌う優衣ちゃんの左右で声が出せないゆえに参加できないるーちゃんとせーちゃんがぱたぱた踊っております。まるで学芸会みたいだぁ……。

 

 みーくんはしっとりとしたバラードを歌ってくれます。このゲームのテーマソングのアレンジであり、ソロですね。かっこE!

 けーちゃんは"練乳を奪いなさい"を歌ってくれました。はぇー、洋楽すっごい……。

 

 さて、結果は……?

 

「先輩の勝ちでいいです」

「なんかね、かなわないなーって感じがする!」

 

 はいっ☆

 まんまるお月様を背景に五人並んで大ジャンプ。

 

 なーんか釈然としませんが勝ちは勝ちですね。それぞれとの友好度が上がり、体力に+1されました。

 二つの布団をどう割り振るかでわちゃわちゃしましたが、私がソファで寝る、いやこっちの布団に二人で……と話していた結果、るーちゃんとせーちゃんは優衣ちゃんの布団に潜り込み、けーちゃんとみーくんが一緒の布団で寝る事になりました。みーくんが「あれっ?」て顔してますが何も問題はない、いいね?

 

 というところで本日はここまで。ご視聴、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 あのとき。

 星夜ちゃんがたすけにきてくれなかったら、きっとわたしは……たべられちゃっていたと思う。

 

 

 体がふるえる。

 何回も、何回もかんがえた。

 これはぜんぶゆめで、朝おきたらぜんぶもとにもどってて、りーねーがいて、お父さんとお母さんがいて。

 

 それを、目の前でうごく手になんども「ちがう」って言われて……あたまが、ぼうっとした。

 

 

 

 

 ふつうの日だった。

 そらはあおくて、かぜはあんまりなくて、クラスのみんなはにぎやかで、じゅぎょうがはじまってもまださわぐから、先生がこまっていた。

 

 でも、その声がだんだんひめいにかわって、ひなんくんれんがはじまって、それはくんれんじゃなくて……。

 先生が、きょうしつのとびらを閉めた。バンバンとたたく音がすごく、すごくこわかったのをおぼえている。

 しずくちゃんとなんだろうねって話していたら、もえかちゃんがしずくちゃんに噛みついた。

 

 それからのことは、あまり思い出したくない。

 もっとさわがしくなって、先生がおこってたり泣いてたりして、わたしをロッカーの中へ閉じこめた。

 

「いいか、絶対に出てきちゃだめだぞ! 何があってもだ!!」

 

 おこられてるんだとおもって、うなずくことしかできなかった。

 くらやみの中で丸くなって……ずっとそうしていた。聞こえてくる声がこわくてみみをふさいで、でも、どうなってるか気になって、すこしだけとびらを開けた。

 

 先生がたべられていた。

 なにかかおにかかっておもわず目をつぶってしまって、さわってみたらあったかい。でも、へんなにおいがした。ケガしたときみたいなにおい。しょうどくえきのにおいもおもい出した。

 

 いきを止めてかくれていた。見つかったら、わたしもたべられてしまうんだとおもうと、かなしくないのになみだが出た。

 ふと、ともだちの一人と目があった。

 

 ……それはもうともだちじゃなくて、「なにか」だった。

 

 ふらり、ふらり、「なにか」がくる。

 わたしは、かべのほうへにげて、いきをしないようにして、あっちにいってほしいってつよくかんがえた。

 でも「なにか」はまっすぐこっちにきて……。

 

 ビシリ。

 

 ふと、聞きおぼえのある音がした。

 輪ゴムのおと。

 せいよちゃんが使うてっぽうの音。

 少しだけあけたとびらの前に輪ゴムがとんできたから、あってるとおもう。

 

 輪ゴムをぶつけられた「なにか」は、わたしじゃない方へあるいていった。

 

 それでもこわくて、ひざにかおを当ててなにもかんがえないようにしていたら、コンコンコン、とノックの音。

 かおを上げると、だれかがそこにいて、びっくりして大ごえをだしてしまった。

 ……そうおもったんだけど、こえはでてなくて……どうしてか、なにもはなせなくて。

 

「……?」

 

 ひょいとさしだされた手に、くらくてよく見えなかったけど、ようやくそれが星夜ちゃんだとわかってほっとした。

 からだに力が入らなくてうまくたてなかったけど、手をひいてもらって……ありがとうって言おうとして、いきしか出ないのにこまってしまった。

 

『喋れないの?』

 

 手話で話しかけてくる星夜ちゃんに、なきそうになりながらうなずく。

 

『じゃ、これで話そっか』

 

 手をふられて、あ、そっか、わたしも手話をすればいいんだって気がついた。

 

 

 それからわたしたちは、二人できょうりょくして、「なにか」からかくれつづけた。

 星夜ちゃんはかしこくて、「なにか」をとおざけるほうほうをたくさんしっていた。

 ……テストのてんすうはひくいし、いっつもしかられてるのに。

 

 なにかあったときのために、「にげみち」をきめておこう、とはなした。

 大きい「なにか」が入ってこれないばしょ。小さい「なにか」の手がとどかないばしょ。

 それから……生きている「なにか」からにげられるばしょ。

 

 つぎの日も、つぎの日も、二人でいっしょにいれば、「なにか」からにげることができた。ごはんも、食べられた。

 おばけになってしまったみんなのことがかなしくてわたしがなくと、星夜ちゃんがなぐさめてくれる。

 『わたしの方がお姉さんだから』って……たんじょうび、3かげつしかちがわないのに。

 

 いつか、ひなんじょやこうこうにいってみようって星夜ちゃんと話したりして、すごしていた。

 

 わたしたちのへやでなんにもかんがえないでいると、まどのそとを見ていた星夜ちゃんが手まねきしたのでそっちへいく。

 まどのそと。ゆびさされた先に、まっくろな「なにか」がいた。

 

 生きている「なにか」だ。

 まっすぐこっちにきている。

 

 たしかめにいこうって星夜ちゃんは言うけど、わたしはこわくていやだった。

 でも、もしかしたら「きゅうきゅうたい」の人や「じえーたい」の人かもしれないし……。だから、いくことにした。

 

 くらいろうかをあるいていると、「なにか」を閉じこめたきょうしつのとびらがカタカタゆれているのが見えて、むねがいたくなった。

 

 星夜ちゃんはゴムでっぽうを手に「ばりけーど」の上にのぼったから、わたしはすきまからのぞくことにした。

 ……。

 ……うたが聞こえてくる。

 ひくくて、かすれたこえの……なにこれ……こわい……!

 

 

──や……がて…………ほしがふ……る……

 

 

「っ!」

 

 星夜ちゃんも、こわかったんだとおもう。すぐにてっぽうをうって……!

 

 

──ほしがふ……る…………ころ……

 

 

 ……!

 あたまに当たってるのに、「なにか」みたいにふらつきながらあるいてくる!

 うたはとまらない。どんどんちかづいてきて、星夜ちゃんがとびおりてきた。

 目があうと、ふるふるとくびをふる。だめだ、って。

 

 もういちどすきまから「なにか」を見る。

 たぶん、おんなの人。くろいふくは、スカートだったからそうだとおもった。

 チャリチャリとゆれるじゅうじかが、おそろしい。

 

 

こ……ころ……ときめい……て…………

 

 

 うすくらやみの中にうかぶきんいろのひかりが、どんどんおおきくなって。

 みみがキーンとするようなこえも、どんどんおおきくなって。

 

 

ときめい……て……く……る……

 

 

 ヒュッと振られたなにかが「なにか」をきりつけた。

 じゃぐちをゆびでおさえたときみたいにいきおいよくちが出て、でも、おんなの人にはかからなくて。

 

 わたしと星夜ちゃんはあわててにげだした。

 とおせんぼする「なにか」に輪ゴムをあててひるませて、ぴょーんととんでけりつける星夜ちゃんも、いつものじしんまんまんなかおじゃなくて、こわがってるみたいだった。

 

 ……。

 「べつべつににげよう」って星夜ちゃんがいった。

 いやだっていったのに、「わたしがなんとかするから」、って。

 

 星夜ちゃんがなげたボールペンのほうにむかっていくおんなの人からにげるために、上のかいへいって、ぐるりと回って下のかいへ戻って、そとへでる。

 

 このままいっしょにかくれてちゃいけないの?

 「まんがいちがあるからね」……こうしゃのほうをふりかえりながら、フッとわらう星夜ちゃん。

 

 どうして一人でいっちゃいうの?

 「まんがいちが、あるからね」……わたしのほほに手をあてて、かなしそうに、星夜ちゃんがいった。

 

 わたし、また、せまいばしょにひとりぼっち。

 どうしよう……もし、星夜ちゃんがかえってこなかったら……。

 そうしたら、きっと……わたしはすぐにしんじゃうだろう。

 

 ……りーねー……。

 

 

──ココンコン

 

 

 目をつぶっていると、おおきな音がした。とびらを開けると、星夜ちゃんがいて……うしろにおんなの人もいた。

 おどされてるのかもって思ったけど、「むがい」とみじかくつたえる星夜ちゃんのつーんとしたかおを見れば、だいじょうぶそうっておもえた。

 

 おんなの人は、ちゃんと見てみると、こわいかおではなかった。

 おもっていたより小さいし、くろいふくも、きょうかいの人みたい。

 

 たしかめるためにむりにおかしをねだってみたけど、「しかたない」ってかおしながらくれた。

 ……いい人だ。

 

 もっとねだってみたら、「いやだー」ってかおしたけど、くれた。

 すごく、いい人だった。

 

 チヒロというらしいおんなの人についていくと、デパートにやってきて、そこにはりーねーと同じせいふくをきたおんなの人が二人もいた。

 ノートとえんぴつをかりて、りーねーのことを聞いてみたけど、わからないっていわれた。

 うーん、りーねー……だいじょうぶかな。

 

 りーねーはしっかりしてるようにみえて、すごくこわがりだからしんぱい。

 星夜ちゃんは「きっと生きてる人のお姉さん役になってるよ」っていってくれたけど……。

 

 

 ひさしぶりにちゃんとしたふとんでねた。

 チヒロは、とってもあたたかくて、りーねーににたにおいがした。

 

 

 

 

 

 

 あの時。

 差し伸べられた手を掴んだのは、間違いなんかじゃなかったのだと……思いたかった。

 

 

 

 

 心臓が揺れる。

 繰り返し、繰り返し、それにつられて体も揺れる。

 生きている、証。……本当に、私は生きているの……?

 

 よくわからない。生きるって、なに?

 

 

 

 

 屋上の菜園は私達園芸部のもう一つの家だ。

 ひとつひとつ大切に育てた野菜は、素人仕事ながらも立派に育ってくれて、その青臭いにおいを胸いっぱいに吸い込むのが、大好きだった。

 

 ……「だった」。

 そう、それはもう、過去の話。

 

 

 空を揺るがすような大きな音が、終わりの始まりだった。

 致命的だった。だって、その方角は──。

 

 屋上にめぐねえがやってきて、遅れて見知らぬ女生徒と生徒でも教師でもない男性が現れて、それが突然豹変して、かと思えば死んだ。

 

 ……それ。

 その道具は、そういうことに使うんじゃない。

 それは、私達の大切な──。

 

 額に走る鋭い痛みに顎が跳ね上がって、押さえていた扉に顔をぶつけた。

 その向こう側から「なにか」の呻く声がする。恐ろしくてたまらない、怪物の声。

 わからない。わからない。わかんない。

 

 何が起こっているの? どうしてあの子は人を殺したの? なぜめぐねえは何も言わないの?

 ……めぐねえは、何も答えてはくれなかった。

 

 

 「なにか」がかつての生徒であったことは、夜を明かしてからじんわりと染み込むように理解した。

 割れた窓越しにその姿は見ていたし、何より窓を突き破って飛び出した手は、そういうものだった。

 理解したからといって何がどうなるわけでもない。

 

 とにかく、何か、なにか……そう、まずは、朝ご飯? よね………………?

 

 

 お腹を空かせたらしい彼女達に、私はこの菜園で作ったものを振る舞った。

 自信作の数々は、誰も笑顔にできなかった。

 私とて一口齧ってみて、いつもみたいに顔がほころぶなんてこともなく、ただただなんの味もしない粘土のような食感に眉を寄せただけだった。

 

 ……ううん。

 辛い。すごく辛い。

 いいえ、苦いのかも。それとも、すっぱい?

 

 味覚が変になっちゃったのかな。それとも、私自身がおかしくなってしまった?

 きっと、そうだろう。

 

 るーちゃん。

 るーちゃん。私の妹。まだ二年生の女の子。

 

 何が……起こっているのか……まだ、上手く飲み込めてないけれど。

 もはやあの子の命がないだろうことは、……っ、認めっ、たくないのに、どうして私は確信しているの……!?

 

「若狭さん、丈槍さん。ここでじっとしていてね……」

 

 いや。いやよ、先生。置いて行かないで……!

 やだ。やだやだやだ……やだぁ……

 

 じわり、じわり、肌を蝕む恐怖に、もう、動けそうになかった。

 

 

 

 

 

若狭さん

 

 ぼんやりと、何かの影が目の前にあった。

 うっすらとした線で構成された人影。

 ずっとずっと遠くに聞こえる声は、ああ、めぐねえ。

 線の揺れている部分は癖毛。一本飛び出しているのも癖毛。

 あなたなのね……? 「なにか」ではないのよね……?

 

 頬に添えられていたらしい手が離れていく。

 一瞬走った熱に、体が揺れた。

 

丈槍さんのこと、頼んでもいい?

「…………」

 

 ……めぐねえからのお願いに、沈んでいた意識が浮上する。

 私とは離れたところで勝手に開いた口が何ごとか答え、話したけれど……自分の中に響く音の意味は、私にはよくわからなかった。

 

 線でできためぐねえと子供の落書きみたいな黒い線の塊が部屋を出て行く。

 ……部屋。

 私、いつの間にこんなところへ来ていたのだろうか。

 

 でも、どこか見覚えがある気がする。

 簡単に沈み込める記憶の海に身を投げ出すと、すぐに思い出せた。

 先生の代わりに部活動の申請書を提出しに来た、生徒会室。ここはきっとその場所だ。

 

「──ひっ」

 

 そう思って顔を上げたのは、間違いだった。

 だって、ここは生徒会室じゃなかった。それどころか部屋ですらない。

 よくわからないピンク色の壁に覆われたどこか不気味な場所。

 人の体内のような色合いのそれにはいくつか筋が走って、時折思い出したように脈打っている。

 

 あまりの悍ましさに口を押さえて、そうすると椅子に座っているのも辛くて滑るように下りる。

 へたり込んだ床すらてらてらとした肉壁で、粘着質な肌触りに背筋が粟立った。

 

あのっ、大丈夫!?

 

 線がやってきた。蠢いている。

 いや……いやよ! 近づかないで!!

 

わわっ

 

 あっちへいって!

 なんなのよ! 私を……殺す気、なの……?

 

 ぞっとして、体中が凍えた。

 呼吸がままならない。早鐘を打つ心臓より早く吸って吐いてを繰り返して、際限なく下がる眉が、見開いたまま痙攣する目が、何一ついう事を聞かないで勝手に動いている。

 

お、落ち着いて……こわくなーい、こわくなーい

 

 目の前で線が揺れ動く。それがますます私を混乱させるのに、左右に揺れるものを自然と目が追って、だんだん線が太くなってきた。

 よく見れば、この線……上の方が動物の耳のよう、だわ。

 

 ……。

 

こわくない、こわくないよー……

 

 ……。

 やわやわと目の前で揺れ動く線が像を結ぶ。

 それは、手だった。小さな手。

 

お茶どうぞ! チョコもあるよ。ね、大丈夫だよ……

 

 手に握らされた硬い線と、黒い長方形の線。

 それが何かはわからなくても、私の前にいるのが誰かなのかは、なんとかわかった。

 私にこんなに優しくしてくれて、こんな風に近づいてくれる子は……。

 

 ……ああ、るーちゃん! るーちゃんなのね!?

 

えっ、えっ?

 

 良かった……生きてる、生きてる……!

 っ、ごめんなさい。痛かった? 強く抱きすぎたかしら……ごめんね。

 

ううん、だいじょうぶ、だよ……?

 

 それならいいの。ええ、本当に……。

 ……でも、どうしてるーちゃんが高校、に……。

 ……? …………?

 

あの、若狭ん。あのね……

 

 るーちゃん、どうしたの? なぜりーねえと呼んでくれないの?

 いえ、そもそもるーちゃんはいつ高校に……?

 

 そん、なの、どうだっていいわよね。

 だってるーちゃんはここにいるんですもの。気にしなくたっていい。気にする必要は、ないわ。

 

 そうよ。ああ、やっとはっきり見えた。

 るーちゃんの顔。るーちゃんの声。

 聴こえるわ……胸の鼓動も……それに、とても暖かい。

 

わたし、丈槍由紀っていいます

「……?」

 

 なあに、るーちゃん。聞こえないわ。なんだか耳が遠くなってしまって……もう一回言ってくれる?

 

痛いっ……う、く、わたしの、名前は、丈槍由紀!」 

「えっ?」

 

 えっ、なに……?

 るーちゃん、どうしたの? ……どうし、どこ……るーちゃん……?

 

 私の顔を覗き込んでいるのは……私が、頬に手を添えてあげているのは、るーちゃんではなくて、変な帽子をかぶった桃色の髪の女の子だった。

 ぱしりと私の手を取った彼女が仰け反る。すううっと息を吸い込んで──

 

あなたの、お名、なんですかーっ!!」

 

 ……。

 

「わ、わかさ、ゆうり……」

若狭さん……ゆうりさんだね。

「え、ええ」

 

 ……なんだろう、この子。

 というより……私は、何をしていたんだったか。

 この子の頬にべったりとくっついている黒いものはなんなのだろう。

 かすかに香る甘い匂いは……。

 

わたし、丈槍由紀! "るーちゃん"って子じゃ、ないよ

「っ!」

 

 強い語調の名乗りの後に、こちらを窺うような声音で告げられたのは……。

 じゃあ、るーちゃんはどこ? あなたが隠したの?

 もしそうなら……!

 

 ふわりと、カカオの香りに包まれた。

 

「落ち着いて。ね?」

 

 ……ぁ。

 ……ああ。

 

 ……私、今、なにを……。

 この子がそんなことをする理由なんてないじゃない。

 それに、るーちゃんはもう……。

 

「あのねっ、ゆうりさん」

 

 抱き着いて来ていた彼女……ええと……たけやさん、の息が耳をくすぐるのに、身を捩る。

 

「わたし、今、すっごく不安なんだ」

 

 ……それは、そうだろう。

 だってこんな状況なんだもの。

 私だって不安で仕方なかった。

 

「すっごく、すっごく、怖いの」

 

 そう。怖くて怖くてたまらなくて……。

 でも、今は、なんだか落ち着いていられる気がする……。

 

「だから」

 

 ほんのちょっとでも思考を「そちら」へ傾けると、あっという間におかしくなってしまいそうだけれど……。

 

「ぎゅーって抱き締めてほしいな……だめ?」

「……。それくらい、なら」

 

 できるわ。だって今、ほとんどそんな感じだもの。

 この子が飛びついて来たみたいだから、自分の体が倒れないようにするためにこの子を支えていて、もう抱き締めているようなもの。

 少し力を入れれば、それでおしまい。

 

「んっ」

 

 そうすると、この子も抱き返してきて……。

 押し付け合った胸の奥、異なる鼓動が重なって、なんだかどんどん意識が遠のいていく。

 ……人の熱。

 それがここにある。

 

 そしてそれは、もはや失われてしまったものだ。

 

「……?」

 

 微かに動く彼女の体を支えながら、肩に顔を(うず)める。

 ……良い香り。頭がふわふわしてくるような。

 

 ……ああ。

 はっきりとした意識が、現実を正しく認識してしまった。

 頭の中と体の中が致命的なまでにぐちゃぐちゃになって、二度と元には戻れそうにない。

 それなのに体の方は変わらず彼女を受け止めていて、静かに息をしている。

 

 ……それは、良い事だ。

 私を心配してくれたこの子を不安にさせずにすんだ。

 

 でもね、もう……息をしていたくないの。

 目をつむってしまったから、開けたくないの。

 この鼓動を止めてしまいたいの。立ち上がりたく、ないの。

 

 だって、とっても、心が息苦しいんだもの。

 だからこのまま……「そっち」の方へ傾いていって……。

 

ゆうりさん……?

 

 沈んで、沈んで、沈んで……溶けて消えてしまおう。

 そうすればきっと、またるーちゃんにも会えるよね。

 

 まぶたの裏の暗闇が眩しいくらい真っ白になる。

 どんどん感覚が鈍くなっていって、立っているのか座っているのかわからなくなって。

 

 きもちいい。

 

 意識が四散していく。

 空にのぼるみたいに、上の方へ消えていく。

 

 ……。

 

 ……………。

 

 

 ……。

 

 

 

……。

 

……。

 

……。

 

 

…。

 

‥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

りーねえ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぅ、ん?」

 

 かくんと頭が揺れて、それで意識が浮上した。

 天井より後ろを向いていた顔を戻せば、目の前にたけやさんの顔がドンとあって、しばし目を瞬かせる。

 

「あのっ、あのね、ゆうりさんのこと、なんて呼んだらいいかなって!」

 

 呼び方?

 えっと……そうねえ。

 

──りーねえ。

 

「私の妹からは、りーねえって呼ばれていたけど」

「じゃあ、わたしもゆうりさんのこと、りーねえって呼んでいい?」

「それは……」

 

 目を細めて、袖を口許にあてて思案する。

 その呼び方はなかなか特別なもの。

 フラッシュバックするみたいに思い出するーちゃんの、彼女だけに許した呼び名だから。

 

「でも、そうね……たけやさんなら、いいかも」

「ほんと!? やったあ!」

 

 ぱっと両手を上げたたけやさんが、何がそんなに嬉しいのかにこにこ笑って喜ぶのを眺める。

 素敵な笑顔……見てるとこっちまで元気になってきちゃいそうね。

 

 でも、どうして「りーねえ」なのだろう。

 

「うーん。お姉さんみたいだから……?」

 

 むむむっと眉を寄せて答える彼女の子猫みたいな仕草に、なんだか優しい気持ちになる。

 かわいいわね、この子……1年生かしら?

 

「よろしくね、りーねえ」

「ええ、よろしく」

 

 そう言ってから、ああ、初対面だったって思い至った。

 とっても長い付き合いな気がする距離感だったけれど、会ったのはつい昨日だった。

 不思議な感覚……。

 

「じゃあ、わたしのことはー……」

「ゆきちゃんって、呼んでもいいかしら」

「うん!」

 

 考える前に口をついて出てきた言葉に、たけやさん……ゆきちゃん、は1秒だって間を置かずに頷いた。

 ふふっ、それ考えてから言ってるのかしら? きっと由紀ちゃんは、本能で生きるタイプなのね。

 

「それって褒め言葉?」

「そう、褒め言葉褒め言葉。えらいえらい」

「わぷ」

 

 意味も無く頭を撫でてあげると、彼女ははにかんで私の手を受け入れた。

 

 それから、彼女とたくさんの話をした。

 

 学校のこと。私達のこと。

 

 私の菜園のこと。彼女のヒーローのこと。

 

 "ダリオマン"なるキャラクターが"究極の闇をもたらす者"と輪投げ勝負をする話を熱心に語る由紀ちゃんは、私の心を急速に癒してくれた。

 

 永遠にそうしていたい気持ちに駆られたけど、そうも言っていられない。

 いやだけど……思い出してしまった。

 

「さて、と。めぐねえも頑張っているんだから、私達も頑張らないと」

 

 わざわざ声に出して確認しながら立ち上がる。

 それだけの事がこのうえなく辛くて、果てしなく長い時間に感じられた。

 

 立ち上がれば、この現実と向き合わねばならない。

 生きるために動かなければならない。

 

 正直何もしたくなかったけれど、ぼうっと私を見上げる由紀ちゃんを見下ろすと、僅かに活力が生まれて……これならなんとか動けそうだ。

 私一人だったらダメだったかもしれない。でも彼女もいるんだから、って。

 

 ……そう、そうだ。

 私、この子に助けられたみたい。

 弱気の虫に負けそうになっていたところを、引っ張ってもらって……。

 

 ふるり、体が震えた。

 私……さっきまで、生きるのを諦めてた……?

 

 全然覚えていないのだけれど……その感覚は、大きな実感を伴って私の中に残っていた。

 

 ……。

 

「めぐねえからは由紀ちゃんの面倒を見ていてって頼まれたけど、他に何もしないのも……ね」

 

 意識がはっきりしていなかった時に聞いた会話も、思い出そうと思えば思い出せた。

 そして、そういう風に頭を働かせると、どんどん感情が甦ってきて体を蝕んでいった。

 不可能。無力。絶望。

 

 めまいがする。

 実際に、平衡感覚をなくして倒れてしまいそうになった。

 

「わっとと」

 

 でも、すかさず由紀ちゃんが支えてくれたおかげで、どうにか思考を保つことができた。

 生きるのは、恐ろしいけど……弱音ばかり吐いていてはいけない。

 この子のためにも、今私達のために頑張っているめぐねえに報いるためにも、私にできる事をしなければ。

 

 ……。

 少し時間をかけ、由紀ちゃんと手分けしてこの生徒会室にあるお菓子やちょっとした飲食物を見つけ、それを記してみたのだけど……ペンを動かしているとどんどん冷静さが戻ってきて、由紀ちゃんにりーねえと呼ばせているおかしさや恥ずかしさが表面化してきた。

 

 だから、やんわりと訂正したのだけど……。

 

「えーっ、でもでも、かわいいのに」

「いえ、あのね由紀ちゃん。かわいいとかそういうのじゃなくてね……」

 

 普通に「悠里さん」と呼んでくれればいいのだけど、由紀ちゃんはとても嫌がった。

 困ったわ……一度は良いと言ってしまったから、訂正しづらい……。

 それに、嫌ではないのだ。彼女にそう呼ばれるのは。

 

 ……りーねえと呼びかけられるたびにるーちゃんの姿が思い浮かんで、心が痛むけど。

 うるうると瞳を潤ませて私を見つめる由紀ちゃんを見ていればなんとか耐えられた。

 それと同じくらい、胸の中に生まれる熱があって……嬉しくてたまらなかった。

 

 そういった理由で押し問答を繰り返し、結局訂正できないうちにめぐねえと、……恵飛須沢さん。……くるみが戻ってきてしまった。

 

 はじめ、部屋に入ってきためぐねえの後ろに黒くてぐちゃぐちゃな線がついて来たので何事かと混乱してしまったけど、それがちゃんと同級生であると、私達のために頑張ってくれたのだと教えてもらうと、だんだんと人の姿に見えてきて、今ではしっかり判別できるようになった。

 

 

 休憩を挟み、気になる事があると言い残して職員室に向かっためぐねえは、顔色を悪くして帰ってきた。

 かと思えば「なにか」……「彼ら」を一掃すると言う。

 あまりにも無謀に思えて理由を問いただせば、いち早く外に向かえる環境を構築して、千翼優衣という生徒を助けに行きたいのだと教えてくれた。

 

 千翼さん……あの小さい子。背が低いのに俯きがちで、立っていると顔が見えないくらいの……でも同じ目線で作業してたから、金の瞳を持つ彼女の顔ははっきり覚えていた。

 園芸部の仲間。いつもめぐねえの後をついて歩いている子。そして……髪型や、仕草や、声音や、身に着けているものがめぐねえとそっくりな、不思議な子だった。なんとなく姉妹なんだろうなって思ってて、違うとわかってびっくりした記憶がある。

 

 ……事の顛末を聞く限りじゃ、残念だけど千翼さんが生きている確率は限りなく低いと思うのだけど……。

 それはめぐねえだってわかっているはずだ。

 でも、わかっていて、諦めていないようだった。

 

 なぜ信じられるの? だって、こんな状況なのよ? 生きている訳ないじゃない。

 その子も、るーちゃんだって、きっともう……!!

 

「若狭さん。若狭悠里さん」

 

 ふんわりと微笑むめぐねえが優しく語り掛けてくる。

 

「決して諦めてはだめよ。私が信じずして、あなたが信じなくて、彼女達が生きていることを、いったい他の誰が信じるというの?」

 

 ……。

 ……先生。

 それは、でも。

 

 ……でも、私は縋った。

 るーちゃんはきっと生きている。

 この状況から助けてくれるヒーローがきっと現れる。

 

 そう考えることで、絶望を遠ざけた。終わりを先延ばしにした。

 

「ここが安定したら、まずは小学校へ行きましょうね」

「……はい」

 

 力強く、絶対に生きていてくれていると断定するかのように話すめぐねえは、頼もしかった。

 うん……!

 そうよ。私が生きているって信じれば、るーちゃんは生きていてくれる!

 きっと、きっと助けに行くわ。待っててね、るーちゃん!

 

 




TIPS

・若狭悠里
ゲーム開始時にランダムに起こるイベントで決定される要素の一つに、彼女の精神値がある
開始時に確定で屋上にいる彼女が市内の爆発を目撃した時、その方角に小学校があること、そして妹の安否に思考がいきつくと、精神値が非常に低い状態、あるいは0以下でゲームが開始される

学校外スタートの場合は0にはならない

・たいせつないもうと
若狭悠里に発現する事があるバッドステータス
精神値の上下が丈槍由紀に大きく依存する状態

・がっこうよりすき
丈槍由紀に発現する事があるバッドステータス
精神値の上下が若狭悠里に大きく依存する状態

・不屈
一度精神値が0以下になってから復帰した
次に0以下になっても復帰する確率が大幅に上昇する

・希望
何かに縋ることで精神値を保つ
特定の出来事によってそれが崩れた時、大きく精神値を減少する

・若狭瑠璃(るり)
パンデミック発生から5日以内に救出可能なキャラクター
ただし3日目以降生存確率は大きく落ち、5日目ですら10%を下回る
さらに救出しても障害を負っている事が多く、基本的なゲーム期間である2週間を生き残れない
「瑠璃」という名前は当初ファンの間で呼ばれていたが、アップデートにより学校内の資料で名前を確認できるようになった。おそらく逆輸入だと思われるが、この形式は大変珍しい

精神値の減少を抑える「鈍感」、体力の消耗を抑える「マイペース」、誰かの精神値の減少を抑える「いもうと」を持っているが、消耗度合いによってスキルを失う

月日星夜(つきひせいよ)
パンデミック発生から5日以内に救出可能なキャラクター
生まれつき声を失っているものの、それを感じさせない元気さが取柄で
仲の良い若狭瑠璃とともに悪戯を繰り返していた
るーちゃんとセットの場合は不自由なく過ごしているが、1人の場合はるーちゃんと同じく消耗しきっている

音を発生させる「陽動」、本来警官や自衛隊などが持つ「精密射撃」、一定時間スタミナと精神値が減少しなくなる「高揚」、足音を抑える「忍び足」、周囲の精神値を上下させる「悪戯」等のスキルを所持しているが、消耗の度合いによってスキルを失う

・千翼優衣
歌うのが下手。
声自体は綺麗なものの、ぼそぼそと歌うので音楽にならない。

・やがて星がふる
穏やかな曲調が美しく、子守歌にも使われる子供向けの歌


・精神値
モール組

・千翼優衣
57/100

・祠堂圭
98/100

・直樹美紀
83/100

・若狭瑠璃
41/100

・月日星夜
32/100

巡ヶ丘組

・丈槍由紀
44/100

・恵飛須沢胡桃
48/120

・柚村貴依
32/100

・佐倉慈
48/130

・若狭悠里
17/80


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4太郎丸と合流~そして伝説へ

私達はこれからも挑戦を続ける。
作品の壁を越え、チャートを作る。
その走りはやがて、世界(WR)を変える!!

通りすがりなので初投稿です。



 

 おはよーございまーす! 朝でーす!

 

 前回かなり上手くいったのでるんるん気分で起きようと思ったのですが、瑠璃と星夜に両脇をがっちり固められて起きれませんね……。こうなると優衣ちゃんは身を捩ったって抜け出せません。小学二年生に負ける高校三年生とは……。

 

 仕方がないのでぼーっと天井でも見上げてましょう。視聴者さんのために倍速です。あ、噛み噛みされとる。せーちゃんは噛み癖でもあるんですかね? 感染……してません?

 苦悶の表情を浮かべながらも振り払う素振りすらみせない優衣ちゃんは優しいのかなんなのか。寝息の中に痛みをこらえる吐息が混じってああ^~たまらねぇぜ。

 

 ようやく全員起き出しました。パジャマはないのでみんな肌着姿。眼福です。はっ、ノンケになってる……!? 元からノンケでした。当たり前だよなぁ?

 せーちゃんも髪を梳いたりなどして普通に身嗜みを整えてます。変な筋は走ってないし、目も濁ってない。咳もしてない。うん、OK!

 

「っ」

 

 なんとなく指を差し出してみたら噛まれました。怪獣!!

 ところで今さら気付いたんですけど、一晩寝たのに精神値回復するどころか削れてますね。なんで?

 ……接触恐怖症のせいですね! 忘れてたね!

 

 

 

LEVEL UP

 

LEVEL UP

 

 

 4日目の朝を無事に迎えたのでレベルアップしました。学校で多数「彼ら」を始末したのと、鬼ごっこの経験値報酬ですね。評価はS。SSSS.ダリオマン。

 ステータス割り振りましょう。精神……んー、精神は……不安だし欲しいけど、きららチャンスで上がる事もあるし、そっちに頼って……俊敏に4振り、「物持ち名人」と「カウンター」を取ります。

 

 「物持ち名人」は筋力に関わらず両手で物を持った時にバランスが崩れにくくなり、さらに使用する武器や道具の耐久値が減りにくくなる良スキル。両手持ちの武器等にも適用されるのでそうしたプレイ方針ならば重宝するでしょう。

 緊急回避用のボールペンも対象に含まれます。発動すると壊れるのは確定に思えますが、「カウンター」に限りほんの僅かに耐久値が残るらしく、2回使用できる仕様(激うまギャグ)になっているのです。

 

 基本的に緊急回避を2回発動してしまうと評価Sに届かなくなってしまうので、危なくなったら「カウンター」で積極的に狩ってしまおうという魂胆です。ガバに反応できるかといえば……ナオキです……。

 

 

 さて、朝ご飯の時間ですが、ここで冷凍庫から魚を取り出した圭が電源が落ちている事に気付きます。コンセントを確認してみてもしっかり挿さっていて、元が駄目になっていると理解します。ドゥーン(精神値の削れる音)

 

「どうしよう……」

 

 どうもこうもないので自家発電できるランプや懐中電灯、ろうそく等を搔き集めてきましょう。その魚は捨てちゃいなさい。「ちょっと常温に晒したくらいなら大丈夫」で食べて食中毒にでもなったら死ぬしかありません。本ゲーム史上もっともしょうもない死亡シーンになります。……トイレの扉を背景に「you die」とか言われた人間の気持ち、考えたことあるかよ?

 

「ゆい先輩……そうだよね、落ちこんでなんかいられない。この子達も来たんだし!」

 

 けーちゃんのポジティブさが眩しい。おでこも眩しい!

 

 今日から節目である7日目、それ以降の学園生活部が来るまでにやることはさほどありません。

 通常プレイならば探索してイベントを起こして、とモールを存分に楽しむことができますが、このチャートでは必要な物資が集まったらすぐに寝て日数を進めてしまいます。

 

 ここまで好タイムなのでさらに安定を求めたいですが、学園生活部が来るタイミングでホールに出ておくのもいいかもしれませんね……走者の熱き魂がそうした方が良いと囁いてますし、偉大なるbiim兄貴も本走中に思い付きで行動するのもありだぜとおっしゃっております。

 

 というわけでさっさと外に行ってパパッとやって終わり! としたいところですが、「ちょっといいですか」とみーくん。

 

「一晩経ってるので安全とは思いますが、この子達の身体検査をした方が良いんじゃないかと思うんです」

 

 そうね。本来は昨日のうちにやるべきだったんだろうけど、きっとみーくんも言い出せなかったんやろなあ……。

 よろしい。私も見たいので──いえ、こんなことでみーくんの好感度を半減させたくないので、気は引けますがるーちゃんとせーちゃんにはマッパになってもらいます。

 

 オラ脱げぇ!! 見ててやるから……チラッ、チラッチラッ。

 嘘です。優衣ちゃんは大体あらぬ方向を向かせておいて、四人を視界にいれないようにしておきます。

 

 というのも、人数が増えたせいでまともに顔を合わせていると精神値はともかく空腹値が凄い勢いで削れていくようになりました。あんまり空腹値を底につかせるのを繰り返していると、優衣ちゃんが「彼ら」よろしく人を襲い始めるので注意が必要です。操作不能状態とかやってらんないよ。

 

 しかし優衣ちゃんはその性格から人と目を合わせるのが苦手で、勝手に生存者を視界の外に追いやってくれます。偶然の産物ですがいいシナジーを生んでますねぇ!

 

「……良かった。二人とも大丈夫みたいですね」

 

 身体検査が終わり、みーくんが安堵してます。よかったね。

 でも怪我してなくても空気感染するんですよね、初見さん。

 

 人数と確率のマジックでだいたい一人は空気感染で乙るゲーム、それががっこうぐらし。誰もやられてないのに抗生物質が必要になるなんて私聞いてない!

 

 もちろん生存人数が少なければ空気感染している確率も下がるので薬が必要な事態にはならなかった兄貴姉貴も多いんじゃないでしょうか。プレイヤーの数だけドラマが生まれるのもこのゲームの面白さだと思います。

 

 さて、今日も今日とて朝食はシリアルと水! 水かければふやけるしちょっとは甘くなるんじゃないですかね? みーくんとけーちゃんはそのままサクサク食べてますけど。

 

 けーちゃんが明るく話題を振ってくれるので「食料の不足」で精神値が削れるような事はありません。助かるなぁ。

 ただ、ここなら普通の、あるいは豪華な食事ができると考えていたのかせーちゃんは露骨に期待外れだって顔をしてますし、るーちゃんだって手の進みが遅いですね。昨日の夕食が豪勢だっただけに余計に貧相なのが堪えてるのかも。

 

 探索に出発できるようになったら、まず個室でサバイバルナイフを洗い、拭きます。汚したままだと耐久値があっという間に溶けていくので手入れは肝要。水洗いするだけなので焼け石に水ですけども。

 それからるーちゃんとせーちゃんに待機をお願いします。勝手に出歩かないでね、危ないから。

 

「……」

 

 ぷい、とそっぽを向かれてしまいました。あれっ? 好感度足りてない?

 るーちゃんがせーちゃんの服の裾をつまみながらこくこく頷いてくれたので、一応楔は打ち込めたと思っておきましょうか。

 

 さて、みーくんディフェンスのお時間です。

 

「千翼先輩、気を付けてくださいね!」

 

 あっさり引いてくれました。あっ、ふーん……(察し)。

 この子勝手についてくる気満々ですね。

 それがわかっていても今何を言っても証拠がないのでやめさせられないという仕様……悲しいなあ。

 何が楽しくて「彼ら」が徘徊する外へ出ようとするんですかね?

 

「行ってきます」

「行ってらっしゃい、ゆい先輩! お土産期待してます!」

「……」

 

 いつもは心配そうにしているけーちゃんも満面の笑み。数え役満ですね(意味はわかってない)。

 けーちゃんまでついてくるとかこの世の地獄か? 二人いっぺんに死にたいのか?

 ここまでなかなか良いプレイができていたのにここに来ての乱数敗北、頭にきますよ。

 

 手を振って見送ってくれるるーちゃんに癒されつつも、ややプレイが乱れて廊下に出てすぐ転んでしまいました。うーん……冷静を保たないとですね、反省反省!

 

 ちょっとダメージを受けてしまいましたが、コラテラルダメージ(?)というやつです。気にせず探索に出ましょう! 最良なのは彼女達が現れるまでに部屋に戻ってしまうことですが、出てくる時間はランダムなうえ、いつついて来ているのかもわからない隠密性を発揮してくれるのでタイミングが読めません。やめてくれよ……(懇願)。

 

 今回向かうのは本屋と電気系、食品売り場。前者は二つともこの5階にあるのでちゃちゃっと向かいます。

 前回訪れた小学校ほどではないですが薄暗くなっていて、気のせいでもなく「彼ら」の数が増えているので不意打ちに気を付けていきましょう。曲がり角や商品棚の影などでぼうっとしているようないやらしい配置が多いんですよね。

 

 まずは自分用の懐中電灯、拠点用の「ランプ」と「接続式手回し充電器」を入手。小物よりも「彼ら」を誘導しやすい「サイリウム」を5本入手。お代は結構!

 るーちゃん、せーちゃん用に防犯ブザーを入手。けーちゃんを部屋に封じ込める「CD」を入手。

 

 む、「彼ら」の唸り声が近いですね……棚に張り付いて、コンコンと傍をノックしてこちらに反応させ、サイリウムを投げて誘導。今のうちに電気店を出ましょう。

 

 続いて本屋へやってきました。

 ここで入手するのはバッドエンド鑑賞用SAN値直葬アイテム「がっこうぐらし!」。りーさん調整用です。

 「スタジオぐらし!」ではなく「がっこうぐらし!」。その意味が分かりますね?

 

 主人公含め誰もが読むことができ、ページを捲るごとに精神値が10ずつ削られていきます。

 『わたしたちって、本当はいないの……?』『なんですか、これ。なんなんですか……なんなんですか……』『なんだよこれっ!! 悪い冗談だって言ってくれよ……なあ、頼むから!!』『……。…………。………………。』

 

 読ませた時の反応はみんな違ってみんないい。めぐねえに読ませると何ページ読んだかに関わらず本と一緒に焼身自殺するので絶対に見せないでおきましょう。

 

 他人に押し付けて精神値を調整する用のアイテムですが、自分が読んでなきゃ内容の説明もできないので優衣ちゃんにも読ませます。自分は登場してないから安心ですね! なお減少値は他と変わらない模様。

 読むとしばらく前後不覚に陥るので、その前にみーくんを部屋に封印するための「教科書」を入手。安全な場所で「がっこうぐらし!」を使用します。

 

「……? ……!?」

 

 とりあえず1ページ捲りました。これだけでなぜか数十ページ分の情報を得た優衣ちゃんの顔色が見てわかるくらい真っ青になります。はいここまで! 終了!

 

「な、なに、これ……」

 

 アーハキソ。吐きました。汚い。

 精神値のグラフィックが流動し点滅するものになり、視界から得られる情報が絵画じみたものに変わります。狂気の世界。レイヤーズオブフィアーみたいだぁ。そんなに似てないね。

 本来なら正常になるまで休むところですが、時間も押してるので急いで1階に移動します。ぐにゃぐにゃ。

 

「先輩!」

「大丈夫!?」

 

 うっそだろお前w

 

 あ! 圭と美紀が飛び出してきた! このタイミングで来るとかある???

 あっダメダメダメその棚の影に放置してたアンブッシュ系「彼ら」がアッアッアッ……。

 

「っ!」

「美紀!?」

 

 アンブッシュゾンビ君迫真のみーくん踊り食いです。何してくれちゃってんの!?

 馬鹿野郎お前そんなことしたらあっという間にみーくん感染しちゃうでしょうよ!?

 主人公ならいくら噛まれようが引っかかれようがダメージとバステで済むんだよおらぁ! こっち来いやぁあたいが相手さ!!(スケバン)

 

 そしてここからが私の腕の見せ所です。見せ所さん!?

 まずみーくんに対して組み付きを行います。アンブッシュ大統領に対してでないのは、クソザコナメクジである優衣ちゃんでは振り払われる確率×組み付いたまま強引に動かれる=800万失敗パワーでこの状況だと確実にみーくんが噛まれてしまうからです。

 

 なので、みーくんの方に組み付いて「彼ら」に背中を晒す必要があったんですね。

 

「ひっ!」

 

 はい、噛まれました。がっつり肩やられてますね。みーくんの青褪めた顔がそそるぜ~~。

 優衣ちゃんの形容しがたいトロ顔はみーくんには見えませんが、みーくんの肩越しに目撃したけーちゃんの精神値がゴリッと削られました。優衣ちゃんの体力もゴリッと削られますよ~。チッ、もやしが!

 でも大丈夫! 難易度ベリーハードなので、そういうトラップでもない限り一撃で死ぬことは……死に……死にましたね……。無慈悲な「you die」の表示と曇った画面の向こうで貪られている優衣ちゃんが見えます。あれぇ?

 

 おかしいですね、いくら貧乳クソまな板の優衣ちゃんでもこの難易度で即死はありえないはずなのですが……。

 

 ──ちょっとダメージを受けてしまいましたが、コラテラルダメージ(?)というやつです。気にせず探索に出ましょう!

 

 あっ、これかあ!

 

 体力が満タンの状態ならガードブーストが働き、ダメージを抑えられるんですね。

 反対に言えば、ちょっとでもHPが削られていると思った以上に削られてしまってよくよく計算が狂います。

 

 コンテニューしてクリアしたところで強制的にAランク以下にされてしまうのでリセットです。このチャプターの最初からやり直しましょう。QTE成功してればそんな必要もなかったんですけどね。あーガバガバガバガバ。なんのための「カウンター」? そのための「物持ち上手」?

 自動セーブ挟まる前でよかったね!

 

 とれじゃ、そろそろ気を取り直していくわよ~イクイク。

 ファッ!? アンブッシュ=「彼ら」しゃん場所変わってるぅ!?

 ウーン……"死"。

 

 ……はい。

 いや、違うんですよ。やり直しをすると一部の自由移動する敵の位置が初期位置から変わってしまうっていうのを視聴者さんにもわかりやすく見せてあげようというですね、私の心遣い……素敵でしょ?

 

 あまりにもあんまりなプレイで前チャプターで稼いだタイムがおじゃんになりました。頭おかちなるでほまーに。みんなも急な後輩襲来には気を付けよう!

 

 というわけで再び本屋までやってきまして、必要なアイテムは回収しました。「がっこうぐらし!」を読むタイミングは「彼ら」のいない籠城部屋前まで戻ってからでいいね。最初からそうすればよかったよ。

 

 やや場所が変わって通路ど真ん中にいるアンブッシュ「彼ら」を腹いせに札害してから1階に行きます。暴力暴力! 優衣ちゃんも世紀末に染まってますね……。2階からホールへ飛び降り「彼ら」を踏み潰してクッションにし短縮、物音に振り返る「彼ら」の視線から逃れるために柱の影に滑り込んでサイリウムを投擲し、視線を誘導してから歩いて食品売り場へ向かいます。これ普通に階段下りてきた方が速かった気がしますね。サイリウムも無駄に使ってしまいました。まあいいや。

 

 がば飲みクリームソーダ見つからないかなと期待しながらドリンクコーナーを見てみましたがありませんね。子供達用にジュースを持って行きましょう。あっ牛乳……いや、もうだめでしょうね……さっさと持って行ってあげるべきだったかな。そうでもないか。

 

 B1Fの方の食品売り場の方が「缶詰」等良いものが多いのですが、痕跡を発見したりぶっきらぼうな女性の遺体とかち合ったりしてしまうので行きません。用があるのは太郎丸だけですしね。

 食糧を手当たり次第に詰め込み、犬用のささみ等も集めてからシャッター前へ行き、鳴きます。

 わおーん(声だけ迫真)

 

「わぉー……ん」

 

 

 トタタタッと足音が聞こえ、シャッターをくぐって太郎丸が出てきました。最初から尻尾を振ってますね。

 屈んで呼び寄せ、手ずからササミを食べさせてあげましょう。

 

「ハッハッハッ……くぅ~ん」

「いいこ、いいこ」

 

 頭を撫でてあげると目を細めて嬉しそうにする太郎丸に優衣ちゃんも微笑んでおります。人は駄目でも犬は触れるみたいですね。

 このイベントを済ますと太郎丸がついて来てくれるようになるので、「彼ら」にやられないよう籠城部屋へ戻りましょう。万が一死ぬと太郎丸の状態が前チャプターまで戻ってしまうので一度呼び出してから籠城部屋に戻り、もう一度呼び出しに来なければなりなくなります。

 

 太郎丸は中々優秀なユニットです。小さいのでまず「彼ら」に捕まりませんし、戦闘状態になればこちらの指示で「彼ら」を攻撃してくれたり吠えて陽動してくれます。吠えるのは隠密状態でもさせられますね。

 さらに優衣ちゃんが「彼ら」に組み付かれ、QTEに失敗しても高確率で助けてくれます。有能!

 

 忘れず5階廊下で「がっこうぐらし!」を読んでおきます。読みました。

 太郎丸が心配そうに足に擦り寄ってきてますが、気にする余裕はないみたいですね。

 そういえばみーくん達現れませんでしたね。今度は追ってくる前に戻ってこれたようです。

 優衣ちゃんがやや落ち着いたのを見計らって部屋に入りましょう。異常はすぐに回復します。

 

「……ただいま」

「おかえりなさい、優衣先輩。あ、わんこ……」

「わぁ、かわいいっ! ゆい先輩、この子は?」

 

 それぞれ過ごしていたみーくんとけーちゃんは、優衣ちゃんが帰ってくると手を止めてまでお出迎えしてくれます。呼称をサイレント変更しているみーくん、聞き逃さねぇからなぁ?

 じー。

 

「う……な、なんですか?」

 

 じぃー。

 

「わ、わかりましたっ、わかりましたから見るのやめてください!」

 

 何をわかったと言うんですかね? ほらほら話してみなさいよ!

 

「んっん! ゆ、千翼先輩……その、私も名前で呼んでも構いませんか?」

「……うん」

 

 優衣ちゃんが控えめに頷くと、みーくんはあからさまにほっとした顔をしました。

 以降、彼女は優衣ちゃんを名前で呼ぶようになります。好感度と友好度が下がりにくくなるのは圭と同じ。空腹値を犠牲に見つめた甲斐がありました。

 

 ちなみに呼称の変化に気付かないと微妙に好感度と友好度が下がり、名前呼びを否定すると半減します。こんな状況で協調性を示さないならそうなるのも仕方ないね。

 

「へぇー、太郎丸って名前みたい。首輪に書いてあるよ!」

「……」

 

 頭を撫でながらさっと体を確認するけーちゃんは、もう太郎丸を手懐けているようです。

 おそるおそる寄ってきたるーちゃんが手を出せば、一声鳴いて頭を差し出す賢いわんこ。これは完全にわかったり犬。いいぞ。わほーち。ガムテープみたいにな。

 

 せーちゃんは……来ないですね。興味がないどころか部屋にいません。

 誰も気にしてないって事は外には出てないっぽいですし、お手洗いに行ってるんですかね。

 ……あ、出てきました。少し開いていた扉を足で開いてちょこちょこ近づいてくるせーちゃんは、胸元で重ね合わせた手に視線を落としています。

 

 見ていれば、顔を上げた彼女と視線があって、くいっと顎で「こっち来い」みたいな仕草をされました。

 なんぞなんぞ。

 

「ひゃっ……!?」

 

 話を聞こうと腰を屈めたところぴゅーっと水が出てきて顔に浴びせられました。

 呆然とする優衣ちゃんから逃げたせーちゃんがケラケラ声無く笑っております。

 

 ……すぞ。

 

 これが「悪戯」ですかね? こんなんで精神値上がったりすんの?

 リアルで私の精神値はだだ下がりしましたが……かわいいしいっか。

 

「こらっ星夜ちゃん、そんなことしちゃ駄目でしょう? ゆい先輩に謝りなさい!」

 

 何も言わない優衣ちゃんに代わって怒ってくれるけーちゃんですが、なんとせーちゃんこれを無視。ソファに飛び乗ると寝っ転がって音楽を聴き始めました。リアルクソガキムーブ……!

 もうっと腰に手を当てるけーちゃんもなんのその。ちらっと優衣ちゃんを見たせーちゃんは、つーんとそっぽを向いてしまいます。完全に好感度足りてませんね。

 

 見かねたるーちゃんが向かっていってわちゃわちゃ手を動かし合うと、ヘッドホンを外したせーちゃんは渋々優衣ちゃんに謝りに来ました。

 ぺこり。いやに綺麗なお辞儀ですね。そこだけ見れば完璧なのですが……顔を上げた一瞬、ぺろっと舌を出した生意気な顔をしていました。それも見守っていたるーちゃんの方へ向き直る時には影もありませんでしたが……なに? プレイヤーにストレスを与えるキャラか何か……?

 

 やることなすこと可愛いんだか憎たらしいんだがわからない星夜ちゃんですが、きっと好感度上がるとデレ始めるタイプなんでしょうね。惜しくもこれはRTAなので能動的に上げられず見れそうにないですが、セーブ分けしておいて後でカンストさせてみます。なんかイベント起こったら動画で上げますね。

 

 

 

「ゆい先輩、髪留め……使ってくれてるんですね」

「先輩、あの本読んでくれたんですね。でも内容は難しくありませんでした? もしよければ翻訳して読み聞かせしますけど」

「……(りーねーげんきかな?)」

「……(無言でスカートを捲る)」

「わんっ!」

 

 まだ早い時間ですが、やる事も無いので雑談を繰り返して夕食に突入します。5人と一匹。学校勢とほぼ同じ人数なのでかなり賑やかというか、生活感に溢れて安心できる団らんの時間ですね。

 調味料が増えたので煮物を作ってくれました。手の込んだ料理ほど精神値を大きく回復させてくれます。……せーちゃんがひょいひょい嫌いな食べ物をるーちゃんのお皿に横流ししてるんですがそれは……。

 

「嫌いなものもちゃんと食べないと大きくなれないよ!」

「……」

 

 困り顔のるーちゃんを見かねて叱るけーちゃん。お母さんかな?

 しかしせーちゃん、聞く耳をもちません。

 ていうか優衣ちゃんも嫌いなものを箸で退けてますね。目ざとく気付いたけーちゃんにじとっと見られて焦ってます。

 

「貴重な栄養源なんですから、残すのは駄目です」

 

 せっかく圭が作ってくれたんですから、と正論を言うみーくんに、優衣ちゃんは泣く泣く根菜等を食べる羽目に。嫌いだろうがなんだろうが精神値と空腹値は回復するのできりきり食べて頂きたいですね。

 

 きららチャンスタイム!

 本日は……「居合」ですね。

 紙を丸めたものを持ち、1対1で向かい合い、審判のランダムなタイミングの合図に合わせてボタンを押す、カービィの刹那の見切りみたいなミニゲーム。

 

 1回戦はvsるーちゃん。

 

「……!」

 

 審判役のみーくんが合図した瞬間、紙を振り上げてぽてぽて走ってきたのでカウンターを叩き込みます。

 勝ち!

 

「……」

 

 2回戦はせーちゃんですね。

 るーちゃんの合図で即座に飛び出した優衣ちゃんが輪ゴムに額を撃ち抜かれました。

 ……輪ゴム銃と紙を持ったせーちゃんが鼻で笑ってますね。負け!

 

「よーし、がんばるぞー!」

 

 3回戦目はけーちゃんです。

 せーちゃんのフェイント合図に引っかかってしまい、カウンターでぽすりとやられました。

 負け!

 

「お手柔らかにお願いします」

 

 4回戦目はみーくん。けーちゃんの素直な合図に即斬。

 ストレート勝ち!

 

「わわんっ!」

 

 5回戦目はvsザシアン。丸めた紙をくわえた太郎丸。

 みーくんの合図と共に飛び掛かってくる太郎丸ですが、ここでスキル「カウンター」を使います!

 スローモーションになった世界では容易に反撃を成功させる事が出来ま……腕を踏み台にしたぁ!?

 

 パスッと頭を叩かれて敗北。 

 

 はいっ☆

 やたら輝く不思議な世界を背景に大ジャンプ! 今回は太郎丸も一緒です。

 2回勝って3回負けたのであんまり結果は良くないです。俊敏に+1されました。精神ボーナスが欲しいなあ……。

 

 寝る時間です。当然のように優衣ちゃんの布団に潜り込んでくるるーちゃんとせーちゃん。精神値が死ぬぅ!(建前) ナイスゥ!(本音)

 ツンツンしているせーちゃんですが、抱き枕代わりにしてくるくらいなので嫌われてはいないんだと思います。

 あ、ソファに移ろうとしたみーくんがけーちゃんに布団に引きずり込まれました。やっぱりデキてるんじゃないか!

 

 といったところで本日はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 あの時。

 ……ゆい先輩の後をつけるのはやめておこうって思って、よかったんだと思う。

 

 

 

 

 どうして無傷で帰ってこれるのか。ひょっとして外に「彼ら」はいないのではないか。

 そんな馬鹿げた発言をしたのは私か、美紀か……たぶん、私だったんだと思う。

 いつもゆい先輩が平気な顔して帰ってくるから、実はもう事態は終息に向かっていて、安全に出歩けるんじゃないか、って。

 

 じゃあなんでゆい先輩は私達が部屋から出るのを嫌がるの? って聞かれたら……そんな理由、考えてもしょうがない。

 だから私達は、ゆい先輩の後をこっそりつけることにした。

 もし、世界がまだおかしいままでも、ゆい先輩の秘密が知れるかも、って……いつもと違ったゆい先輩の顔が見れるかも、なんて思ってて。

 

 静かな廊下の、なんにもないところで転ぶゆい先輩に、やっぱり世界は平和なのかもと思ったけど……安全だと思っていたこの5階にもたくさん「彼ら」が歩いているのを見て考えを改めた。

 それから、そんな「彼ら」の傍をするすると歩いていくゆい先輩に息を呑んだ。美紀と顔を見合わせて、おんなじように後をついていく。

 

 そのつもりだったんだけど、ゆい先輩みたいに歩いていると「彼ら」に気付かれてしまう。どうして? 同じ歩き方、同じ道筋なのに。

 観察していて気付いた。ゆい先輩は、歩く時に音がしないんだ。そういえば部屋の中でもそうだった。いつの間にかあっちにこっちに移動していて、全然気づけないのは……体が小さいからかなって思っていた。

 

 毎日外に出ているだけあって、ゆい先輩の足取りには迷いがないし、凄く慣れているみたいだった。気の弱い彼女のすぐ傍を「彼ら」が横切るのに、上手い事視界に入らないよう動いていて……とても違和感を抱いた。

 だって、ゆい先輩って本当に臆病というか、怖がりで……私が料理のアイデアが浮かんで手を叩いたってだけで肩を跳ねさせるし、星夜ちゃんが何か悪戯をするたびに驚いては顔をくしゃくしゃにして泣きそうになるのに。

 

 「彼ら」が怖くないの……?

 ううん。ひょっとしたら、ゆい先輩は……死ぬのが、怖くないのかも。

 どうしてそう思ったのかはわからないけど、なんとなくそう思った。それが正解だとも。

 

 一緒に過ごしているとわかるけど、ゆい先輩はどこかズレている。浮世離れしているというか、私達とは何かが違う。

 感覚的に捉えられるそういった違和感が、今、目の前にはあった。

 

 「彼ら」という存在に震えもしない。私達はこんなにも怯えて、心臓だって今に張り裂けてしまいそうだというのに。

 手を握り合っている美紀が小さくつばを飲み込む音にさえ過剰に反応して、動けなくなりそうになる。

 死そのものの空気に包まれている感覚が正常な思考を奪う。末路を想像してしまって身が竦む。

 

 ただ死ぬんじゃない。生きたまま貪り食われて、「彼ら」の仲間入りを果たしてしまう。

 そんなのは、状況だけでだって耐えられない! あの部屋がどれほど安全で、精神に安泰を齎していたかを嫌というほど噛みしめた。

 

 ……それでも。

 そんな状況の中でも、私は……私達は、この世界のことを正しく理解できていなかった。

 いつ死んだっておかしくない。次の瞬間には私が……あるいは美紀が、その瞳から光を無くしてしまうかもしれないってことを。

 

「美紀っ!?」

 

 「彼ら」が美紀に襲い掛かろうとしている。

 視界の外。棚と棚の間からぬるりと出てきた存在に、反応なんてできなかった。

 ゆい先輩の様子が尋常じゃなくて、それに気を取られていたせいだ……なんて言い訳したって、「彼ら」は待ってくれない。

 慌ててしまった私の足はもつれて、逃れようとした美紀は過剰に体を傾けて倒れそうになっていて。

 

 見たくない。

 こんなの、いや!!

 

「そんな、先輩っ!」

 

 咄嗟に目をつぶってしまいそうになった私とは違い、ゆい先輩は動いていた。美紀にぶつかるという形で。

 でも、押し退けるように、でも力が足りずに美紀に受け止められてしまって、そのせいで「彼ら」に背中を晒してしまったゆい先輩は……肩を、噛まれて。

 美紀の脇から見えるゆい先輩は、苦しそうで、悔しそうで。

 

 あまりにも衝撃的な光景に、立ちすくむどころか頭がやられてしまった。

 四散していく精神が最後に捉えたのは、「みーくんが食べられちゃうくらいなら、いっそ私が……」などという、信じられないほどの献身の言葉だった……。

 

 

 

 

「っ!」

 

 布団を跳ね除けて起き上がる。ガアン、と光が散った。

 

「痛っ……!!」

 

 思わず頭を押さえてくらくらする意識を抑え込む。息を荒らげて、視線を落として……じっとりとした嫌な汗が体中に纏わりつく感覚に、だんだんと頭がはっきりとしてきた。

 

 ……夢?

 

「なんだ……」

 

 さっきまでの最悪の出来事は、全部悪夢の中のフィクションだったみたい。

 鈍痛を発する額を撫でながら安堵の息を吐いて……すぐ傍で丸まって震えているゆい先輩を見つけて、微かな疑問を持った。

 ゆい先輩、何、してるんだろ……こんな夜中に。

 

 どうにも頭を押さえて痛がっているみたいだ。あ、ひょっとしてさっきのガアン! ってやつ、ゆい先輩とぶつかった感じ?

 だとしたら悪いことをしてしまった。先輩、と声をかけると、彼女はゆっくり顔を上げて……涙をたたえた金の瞳が、妖しく揺らめいた。

 

「……」

「……」

 

 何かを言おうと思っていたのだけど、すっかり忘れて見つめ合う。

 ……やがてゆい先輩はのっそりのっそり布団に戻って、瑠璃ちゃんと星夜ちゃんの間にすっぽり収まった。

 少しもしないうちに寝息が聞こえてくる。

 ……大丈夫みたい?

 しばらく見ていてもなんともなさそうだったので、痛みより眠気が勝っている事だしと私も横になって布団をかぶった。

 

 ……美紀が顔をしかめてうなっている。横で大暴れしたのが効いてしまったのかも。

 髪に指を通して、指先で頬をくすぐってやると穏やかな表情になったので、安心して眠る事にする。

 まだまだ夜は長いみたい。毎日をしっかり生きるために、ちゃんと寝ないと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 待って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆい先輩……なに、してた、の……?

 

 




TIPS
・太郎丸
救出しようとすれば必ず救出できるわんこ
特定の境遇や性格の主人公以外には最初から友好度が高く、様々なお願いを聞いてくれる
彼が拾ってくる事もあるアイテムの中には有用な物も多い

命令できる内容は待機を命じる「待て」、攻撃を命じる「いけ」、陽動を命じる「吠えろ」、物品の回収を頼む「取ってこい」、可愛がる「お手」「お座り」「ちんちん」、その他「撫でる」「調べる」「労わる」


精神値

・千翼優衣
50/100

・祠堂圭
44/100

・直樹美紀
73/100

・若狭瑠璃
56/100

・月日星夜
53/100


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5仲違いイベ~ガバに次ぐガバ

誰かを笑顔にしたいと願うその想いが、私達を熱くするんだ!
お前がくれたチャートで私はこのゲームを走る
これが人間の力だ! これがbiim兄貴の力だ!

勝利の法則は決まったので初投稿です



 おはようございまーす……。朝です……。

 昨日は電気の供給が途絶えたところまで。今日も元気にやっていきましょ。

 

 館内が暗くなって雰囲気が重々しくなり、徘徊する「彼ら」の数が増えました。どういう理屈なんでしょうね? リバーシティ・トロンは終わり! 閉店! みんな解散! と少なくなってもおかしくないのに。私はここら辺の理由、いまいち理解できていません。地下の生存者がどうとかこうとか……? 

 

 明るくなってくるとねぼすけな優衣ちゃんがもぞもぞ起き出します。いや起きれません。太郎丸が胸の上に乗ってますねぇ。お前の寝床部屋の隅に用意してあげただろ何乗ってんだ! 胸が潰れるぅ!! 元々潰れてました。

 

「くぅ~ん」

 

 微振動で起きた太郎丸はおもむろに優衣ちゃんの顔を舐め始めました。太郎丸顔舐めすぎィ!! と投げ飛ばしたいところですが両脇をがっちり固められていて逃げられません。優衣ちゃんかなり悶えております……あ、退いてくれた。起きましょ起きましょ。

 

 子供二人に引っ付かれてるところを無理に出たので服が脱げかけてますが色気の欠片もあったもんじゃないね。健全!

 にしても夜通し生存者と密着していたせいで案の定精神値減ってますね。ん? なんか体力も減ってますね……というか空腹ゲージ空ですね。試走じゃ起きなかった現象に困惑しつつお着替え。

 ま、空腹値0になっても死ぬわけでもないし、2、3回程度なら暴走もしないし、チャートに影響もないので問題はないですね。

 

 ここまでオリチャー1回も発動してないとか私はプロの走者か?

 ルートの問題でほぼ1から構築してるので全編オリチャーみたいなもんですがね。

 いちおう外国人兄貴のチャートをパクっ……参考にしてはいますが、試走を重ねて頑張って考えたものでもあります。褒めてくり~。

 

 ロリ組が起き出してきたところで朝食。昨日手に入れておいたレトルト系があるので優衣ちゃんの精神値ももりっと回復する事でしょう。あ、今回レベルアップはしませんでしたね。しばらくは上がらないかな……足りないステータスはきららチャンスにお祈りしましょう。食事じゃ食事じゃ!

 

「……」

「……」

「……」

「……」

「わぉー……」

 

 え、くっら!! なにこれ暗い!!

 お通夜みたいな雰囲気になってますけど、おかしいですねぇ……こんなこと今まで一度もなかった……いや、昔圭と美紀を意図的に仲違いさせようとした時は凄くギスギスしてましたが、その時はそもそも食卓を囲んでなかったし……けーちゃんどうしたんですかね? なんかやたら暗い顔してますけど……。

 

 で、話しかけることもできず操作可能になったので、真っ先に圭に話しかけに行きます。これ放置しとくとまずい気がするんで。

 

「……」

 

 話しかけましたが、見上げられてすぐ視線を外されてしまいました。何回話しかけても同じ反応ですね。なんだこれは……。

 どうにも精神値が低くなってるっぽいですね。ロリ組がいれば安定するのではなかったのか……? 件の二人は部屋の隅の太郎丸ハウスに固まって大人しくしてます。悪戯好きのせーちゃんすらなんにもしてません。やだ……怖い……アイアンマン!

 

 壁際に立つみーくんにも話しかけてみます。頼む……反応してくれ……頼む!

 

「……先輩、顔色悪いです……風邪、ですか?」

 

 顔色悪いのはお前じゃい!

 まずいですね……全体的に精神がやられてる雰囲気びんびんきてます……。でもみーくんはああ言ってますが、優衣ちゃんの精神値は半分割ってないんですよね。咳もしてないので風邪でもないです。

 なんかのイベントですかねこれ……星夜が健康体で仲間にいると~とか? うーんよぐわがんにゃい。

 

 予測つかないし、うだうだしててもタイムが死にますのでとりあえず食料調達と、みんなの精神値を保護するために衣服売り場に行きます。

 廊下に出たらサバイバルナイフを装備して…………装備……あの、装備欄なんにもなくなってるんですけど……ちょ、ちょっとアイテム画面開いてみます!

 ……ナイフ無いですねぇ!

 

 急いで籠城部屋に戻ってきました。廊下より暗くないか?

 あのぉ~、つかぬことをお聞きしたいんですけどぉ、どなたかわたくしのサバァイバルナイフ……知りません?

 

「……ゆい先輩、昨日の夜、私のこと見てた?」

 

 は? なんで見る必要あるんですか(素)。何やらけーちゃんが話しかけてきましたが、暗転即朝になるので私にわかるわけないんだよなぁ……優衣ちゃん、見てたの?

 ふるふると首を振る優衣ちゃん。「そっか……」と呟いたけーちゃんは、もぞもぞとヘッドホンをして大人しくなりました。

 いや、ナイフ……。

 

「いえ、知りませんけど……」

 

 みーくんに聞いてみても、これは別段隠したりしてる反応ではないですね。もし信頼されておらず寝ている間に取り上げられたなら、もうちょっとわかりやすく誤魔化してくれますので。

 まさかるーちゃん? それともせーちゃん……? 子供二人に武器を隠されるなんて経験ないし、情報もないはずなんですが……。

 

「……」

 

 ふるふると首を振るるーちゃんに、「ないならこれ貸してあげよっか」みたいにゴム銃を差し出してくるせーちゃん。

 一応受け取っておきましょう。こういう好意を断るとどんどん好感度が下がってしまいますし……ていうかせーちゃんの好感度が低いのか高いのかこれもうわかんねぇな?

 

 結局サバイバルナイフは返ってきませんでした。悲しい。

 まま、もう少しレベルが上げられれば無手でも問題なくなるので、用心しつつ探索に出ましょう。

 

 本日やる事ですが、電気が使えなくなったせいで電子ポットでお湯を沸かせなくなったのでたらいに湯を張るのが難しくなり、お風呂に入れなくなりました。

 これにより精神値の回復がし辛くなります。みんな女の子ですからね……お湯に浸した布で体を拭くだけでは安らぎません。

 

 そこで発想の転換です。

 前に集めた水着を使い、水遊びをします。

 お風呂が使えない辛さ、苦しさを楽しさで上書きしてしまおうという由紀式発想法ですね。これで逆に精神値を大幅に回復できます。

 

 精神値は50を下回ると様々なデメリットを齎すことを説明しましたが、90以上ではメリットを生み出すようになるんですよ。

 ステータスに補正がかかったり、周囲の人物の精神値を微回復させていくようになったり、本来大きな精神ダメージを受ける出来事にも耐性を持ったり。

 精神値が100の状態だと、体力MAXの時と同じようにガードブーストが働いてヘリが落ちても即座に動けるような強靭さを発揮するようになります。

 

 ただ、このゲームは開始からして50を下回っている事が多く、劣悪な環境によりゲームクリアまでずっと40~50あたりをうろちょろしてる事が多いので滅多に起こらないんですけどね。

 

 さて、衣服売り場にてせーちゃん用の水着を回収します。彼女の事を考慮してなかったので前回取ってなかったためちょっとロスですが背に腹はかえられません。サイズはあてずっぽうです。他の子のは試行回数のごり押しでデータを取っているのですが、せーちゃんのデータはないから仕方ないね。大体るーちゃんと一緒かな?

 

 好みの傾向もわからないのでそれもてきとうに。

 続いて1階で食品を回収。やることは変わらないので倍速。

 

 籠城部屋に戻ってきました。

 

「ただいま……」

「ゆい先輩、おかえりなさいっ」

 

 お? 部屋の雰囲気、かなり明るくなってますね。不安げな優衣ちゃんの挨拶にけーちゃんが真っ先にお返事してくれましたし、みーくんは太郎丸と戯れてますし、るーちゃんせーちゃんコンビは紐であやとりをして遊んでます。……今朝のはなんなんだったんでしょうかね……?

 

 夕飯まで時間を飛ばしたいので雑談をしようと思うのですが、その前に本日のメインイベントをこなします。

 それは、「美紀圭仲違いイベ」です。

 

 衣食住を充実させても、二人と恋人状態になっていても、なんだかんだいって起こる「生きていればそれでいいの?」

 有史以来ほぼ確定で起こり回避不可能とされてきた美紀圭仲違いイベントが今──終わりを告げる。

 

 大技スーパータイムハッカーの出番です。やる事は簡単!

 この出入り口の扉のですね、ここら辺にぃ、美紀圭仲違いイベのフラグ、埋まってるらしいっすよ。

 じゃけん優衣ちゃん壁に埋め込んで不発に終わらせましょうね~。

 

「んっ」

 

 足元に「石鹸」を置き、角度をつけて、扉と壁の境目目掛けて「石鹸」を踏んづけながら「回避」飛び込み! 連続飛び込みをバッタンバッタン繰り返していきます。成功しろ成功しろ成功しろ……。

 頭かち割れるゥ~! スポッ!

 嵌まりました。誰か助けて! ライダーたすけて!

 

「んなっ、何事ですか先輩!?」

「な、なにがどうなっちゃってるのこれ!?」

「……? ……!?」

 

 壁尻状態で足をばたつかせる優衣ちゃんに部屋中てんやわんやになっております。

 これがこのゲームの面白いところで、特定のバグに遭遇すると付近の誰かが手を貸して助けてくれるんです。……力を入れる方向違くな~い?

 

 壁嵌まりバグに遭遇し行動不能に陥っている時、味方キャラに発見されると救出してもらえます。ごくごく稀に「彼ら」も助けてくれたりします。

 この仕様にて仲違いイベを上書き! 万が一にも発生させないようこの位置で嵌まる必要があったんですね。

 こんなことができる場所は限られてますが、重要なイベントをこれで上書きしちゃうと詰むので気を付けよう!

 

「うんしょ、よいしょ……!」

「優衣先輩、痛くないですか? 平気ですか? 千切れたりしませんよね? 大丈夫ですよね?」

「!」

「! っ!」

 

 困惑しながらも四人+1匹が無様な格好の優衣ちゃんを引き抜いてくれようとしています。

 抜けました。ぷう。これでもうけーちゃんが出て行くような事は起こりません。体を張って喧嘩を止める……優衣ちゃんも聖人君子の仲間入りですね。みんな平和が一番!

 

「わんわんわんっ!」

 

 太郎丸もぐるぐる回りながらそう言っております。よしよし、頭を撫でてやろう……お手!

 

「わぅ~ん」

 

 お座り!

 

「わう!」

 

 ちんちん!

 

「わんわん!」

 

 うんち!

 

「わ……?」

 

 うんこぉ!!!!

 

「先輩、太郎丸が困ってます……」

 

 はい。すみませんでした……。

 いやでもね、やっぱり今朝の事が気になってしかたないんですよ。なぜか今はなんともないですが、またいつああなってしまうかと考えると不安で夜も10時間しか寝られませんしおチャートも壊れてしまいます。

 

 その時はその時の私にどうにかしてもらうとして、夕食です。

 今日も今日とてレトルトですが、こんな世界ではこれすらご馳走ですね。

 けーちゃんが話題を振ってくれて大変明るくご飯を食べられました。

 

 さあ、お楽しみの時間だ。みなさんお待ちかねの水着回ですよ水着回!

 いそいそ着替え始める優衣ちゃんに一同困惑の眼差し。

 

「先輩、お風呂はもう……」

 

 沈痛な面持ちのみーくんにサプライズな提案をしましょう。

 水着持って来たからさ、みんなで入ろうよみんなで! ぬるま湯でもいいから!

 

「でも……」

「ね、美紀。せっかくゆい先輩もこう言ってくれてるんだし、一緒にはいろ?」

 

 趣旨は理解したけど一緒に入るのは恥ずかしいらしいみーくんですが、これで三回目のお願いであり、けーちゃんの援護射撃も相まってついに陥落しました。

 じゃあ脱げ(豹変)

 

「……」

 

 ぴらっと水着を広げてみせるせーちゃんがとっても嫌そうな顔をしてます。好みではなかったようですね……。

 でも着てくれました。るーちゃん優衣ちゃん含めビキビキビキニ1,2,3! 眼福ですね。

 

 優衣ちゃん、スタイルの良いみーくんの体にゴクリと生唾を飲んでおります。

 体型が羨ましいのかレズなのか……めぐねえが好きなだけのノンケのはずなので羨ましいだけでしょうね。

 空腹値が底を尽きそうなのでささっとガム食べます。

 瞬時に殺到してくるるーちゃんとせーちゃんにも分けてあげましょう。

 ……みーくんとけーちゃんにもあげないとかわいそうですかね?

 

「あ、ありがとうございます、先輩」

 

 どういたしまして。

 タイムのためにお風呂タイムは即終了。

 

「くしゅっ」

 

 きゃっきゃうふふして精神値は大幅に回復しましたが、ぬるま湯に浸かっただけのためみんな風邪気味になります。そこで常備薬の出番です。

 これを飲んで、あったかくして寝ればこの状況では致命的なバッドステータスである「風邪」にはなりませんし、即就寝に移れるので一石三鳥!

 

 きららチャンスは「かけっこ」でした。俊敏が火を噴きますよ。+されたのも俊敏ですけどね。

 精神値ィ!

 

 

 

 

 おはようございまーす! 朝でーす!

 今日もレベルアップはしませんでしたが、昨日特に何もしなかったのでしょうがないっすね。

 るーちゃんの好感度を最大まで上げれば信頼イベが起こりレベルアップもできますし、せーちゃんもいるので予定より余裕を持ってモール最終日を迎えられそうです。

 

 

「……」

「……」

「……」

「……」

「わぅーん……」

 

 ……いや、暗くないですか? けーちゃんがめっちゃ暗い顔してるんですけどぉ!!!

 なんなんだこのイベントは……わからん、まったくわからん!

 さっきからけーちゃんがちらちら見てくるのですが、優衣ちゃんが視線を向けると露骨に逸らします。絶対何かあるよこれ!

 

 タイム的にはあれですが、今夜は「起きてる」を選択して様子を見てみますかね……? 一体何が起こってるんでしょうかね。

 

 本日やる事。

 食料調達。以上!

 

 さっさと日数を進めてめぐねえに救出に来てもらいましょう。みんなを率いてこっちから学校に突撃すれば数日分短縮できますが、「あめのひ」にかち合って事故ることが多いので1週間過ぎて救出が来るまで地道にやっていきます。覚醒めぐねえ率いる学園生活部なら「あめのひ」を誰一人欠けることなく切り抜けてくれますからね。

 なお2回目の「あめのひ」は……AIの機嫌と時の運次第ですね。運に頼らなければならないとは……いやだいやだリセットはいやだ!

 

 操作可能になってすぐけーちゃんが近づいてきました。

 

「ゆい先輩、昨日の夜……私のこと見てた?」

 

 なんで見る必要があるんですか(素)。

 よくわかんないけど頷いておきましょう。うんうん見てた見てた、夢の中で?

 

「やっぱりそうなんだ……夢じゃなかったんだ……」

 

 うんうん。

 え、終わり? 他に何かないんですか?

 

「……」

 

 うっそだろお前w けーちゃんなんにも言ってくれなくなりました。これはもう今夜確認してみるしかないですね。

 念のためせーちゃんからゴム銃を借りて、と。それじゃみーくん、食料調達に行ってきます。

 

「……、……。行ってらっしゃい」

 

 その間はなんだよ! みーくんディフェンスすらなしで外に出ました。

 倍速倍速。何か起こった時用に「彼ら」を狩ってレベルアップを図っております。

 そういえば大目標と小目標ですが、しばらくチャプターは変わらず外の事関連になってます。フラグ踏んでないのでずっとこのまま。時間経過で切り替わるので放置でいいです。とはいえ、小目標に導いてもらえないのはちょっと困りますよね。自由シナリオの弊害なのかな。

 

 ゴム銃で怯ませた「彼ら」の後ろに回って膝裏を蹴ってバランスを崩し、転倒してくるその首裏に膝を叩き込んで頃す優衣ちゃん。明らかに動きが素人ではない……。これで周りからの評価は「運動が苦手などんくさい子」なの笑っちゃいますね。  

 

 食料も調達したのでちゃちゃっと戻りましょう。というところで等速に戻りました。

 あれ……籠城部屋がレッドゾーンになってる……?

 

 ここ、腐った食べ物を手に入れちゃったので捨てようとしたところ、マップに目がいったんですよね。

 安全な部屋はグリーンで表示され、危険な場所はレッド、未探索は無色、探索済みは薄い水色で示される仕様なのですが……。

 

 籠城部屋は絶対的な安全圏です。生存者に襲われ、攫われてもぬけの殻となったとしてもグリーンのまま。

 だから今まさに襲われているのかもしれないですね。うーん、生存者なんて7日目に近づくにつれて次々に「彼ら」に変貌していき全滅しているはずなんですが……ここでもまた悪い乱数を引いてしまったようです。

 

 というわけで籠城部屋へ急ぎ帰還しましょう。襲撃者の人数はこちらの生存者数に関わらず2~3人くらいですが、武装している事が多いので厄介です。大抵は向こうの要求する食料や水、衣服を渡せば開放してもらえます。いわゆるお使いイベを強要してくる害悪マン達ですね。札害せねば!(使命感)

 

 籠城部屋前につきました。

 ん? ローディング……?

 

 なんかイベント入りました。

 ドアノブに手をかけた優衣ちゃんは、それを回そうとして何かに気付き、扉に体を預けて耳を澄ませます。

 そこに何を感じたのか表情を険しくすると、ゴム銃を構えてゆっくりと扉を開きました。

 

 隙間から覗く部屋の中はやたらと薄暗く、人の気配がありません。

 もう少し開いてみて左右を見回しても、誰もいない。これはいったい……?

 

 警戒しながら部屋の中へ入る優衣ちゃんの、その両脇。身を潜めていた影がバッと飛び出してきました。

 

「っ!!」

 

 ポポン、と弾けるクラッカー。

 

「ハッピーバースデー! お誕生日おめでとう!」

 

 飛び出す色とりどりの紙吹雪に目を丸くする優衣ちゃんに、ランプを手にしたけーちゃんが声をかけてきます。

 ………………。

 あっ、これかあ!

 

 やや明るくなった部屋にわらわら出てくる面々は、誰かに襲撃されたとかそんな様子は欠片もないですね。

 どうやら起こっていたのは誕生日イベだったみたいです。

 プレイ中、最初の質問とは別にゲーム本体に設定した誕生日になるとこうしてキャラがお祝いしてくれるんですよね~。なけなしの材料で作ったケーキとお菓子やジュースでもてなしてくれます。るーちゃんとせーちゃんが折り紙の冠をくれるようなので屈んでかぶせて貰いました。優衣ちゃんすっごく照れてます。

 精神値等に影響はないですが、これはファンには嬉しいイベントですね!

 

 ……RTA的にはとんでもないロスですがね!(ガバ)

 

 本走中にこんなイベント起こしてるとかマ? あほすぎちゃう?

 ちなみにスキップ不可です。あーあ。あーあ。

 

「~♪」

「~~♬」

 

 バースデーソングを歌ってくれる美紀圭に踊ってくれるるーちゃんせーちゃんと太郎丸。

 心は癒されますがおタイムは完全に死にました。

 

 ……、……。

 いや、まだですね。まだリカバリーは利きます!

 というのも、何度か説明した通り学園生活部が「えんそく」に来るのはパンデミック発生より1週間後、ランダムな日数経過なんです。

 これの最速を引ければタイムはプラスになるので続行します!

 

 といったところで本日はここまで。ご視聴、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 あの時。

 私は私の意思で、ヒーローとなったのだ。

 

 

 

 

「オレが思うに……あんた、ヒーローには向いてないんでないかね?」

 

 刈り込んだ黒髪に、黒い肌に、サングラス。

 筋骨隆々の巨漢が私を見下ろしてそう言った。

 

 傷つき膝をつく私には返す言葉が無かった。向いてないというのは、私が一番よくわかっていたからだ。

 

 生来体が弱く、意志薄弱にして戦う力を持たない私であった。

 だが……だが、だ。今は、違う。

 

「ほう? どう違うのか、是非とも教えて欲しいもんだねぇ」

 

 ……!

 なんという威圧感! 外見は静かなままだというのに、その荒れ狂う内面が垣間見えて体が勝手に震えてきてしまう……!!

 

 いや、いい。震えたままでいいのだ。

 こんな私でも、ヒーローだと思ってくれる人がいる。

 そんな善き人たちのために私は立ち上がったのだ。

 

 そして今は……私自身、ヒーローでありたいと、強く思っている。

 だから……挫ける事も、負ける事も許されぬのだ!!

 

「甘い……甘い甘い! 意気込みは立派だが、それで勝てると思っているのか?」

 

 当然だとも。

 あいにく私には……意気込み(それ)しかないのだからね!

 

「……フッ。いい目だ……いいねぇ。……じゃあ、やろうか」

 

 

 

 

「それで、どうなったの?」

 

 向かいの席に座るりーさんが、グーマちゃんを抱いてにこにこしながら続きを促すので、わたしはめいっぱい手を広げて盛り上げるのを意識しつつ続けた。

 

「もちろん、ダリオマンの勝ち!」

 

 どうしようもなく追い詰められて、だけどやっぱりダリオマンは勝って……でもねでもね、内臓殺すマンも本当は悪い奴じゃなくて、ダリオマンがもっと強くなれるようにあえて悪い奴を演じていて……!

 

「ふふっ、そうなのね」

「うん!」

 

 わたしの話を楽しそうに聞いてくれるりーさんに、わたしも嬉しくなってきて勢いよく頷いた。勢いよすぎて帽子がずるっと取れかけちゃうくらい。

 あらあらって直してくれるりーさんは……だいぶん、落ち着いてきたみたい。

 

 今日、わたしたちは学校へ行った。

 りーさんの妹が通っていた小学校。

 でも、そこには……"るーちゃん"は、いなかった。

 

 生活の跡はあった。ほんの少し前まではそこで過ごしていたんだろうなって感じさせる、お菓子の空き袋とか、空のペットボトルとか、お布団代わりのコートとか……。

 けど、もう校内には「彼ら」しかいなかった。

 

 そんなはずない、絶対生きてる、きっとどこかに隠れてる……取り乱したりーさんのために、わたし達は学校中を探し回って……。

 でも、やっぱりいなくて。

 

 めぐねえが言うには、もしかしたら救助が来て、別の避難所に移ったのかもしれないって。

 でも、わたしは聞いてしまった。くるみちゃんとたかえちゃんが「争った形跡がある」って話してたのを。

 

 ほんとは、そういうことを包み隠さずりーさんに話すべきなのかもしれないけど……ずっとずっと泣き止まないりーさんに言い出せなくて……。結局、誤魔化すみたいにたくさん話して、落ち着いてもらうしかできなかった。

 

「由紀ちゃんのお話は面白いわね。もっと聞かせて?」

「うん!」

 

 見つからなかった妹さんの代わりみたいに、めぐねえの熊の人形を抱いているりーさんは、見た目だけは穏やかだった。でもきっと、その内側に激しい怒りを隠していた内臓殺すマンみたいに、りーさんも悲しい気持ちを隠しているんだと思う。

 

 めぐねえも、それをわかっているみたいだった。

 だからわたし達と「よく話し合いましょう」って言ってくれたけど……りーさんは、まだそういう気分にはなれないみたい。嫌だって言って、私の手を引いて教室に逃げて来た。

 それで、こうしてお話をしてるんだけど……。

 

 ……めぐねえ、疲れてるみたいだった。

 ううん、めぐねえだけじゃない。みんな、そうだった。

 生きているんだって信じていた子がいなくて、助けられたんだなんて嘘だってわかってて。

 ちひろって子だって……めぐねえ、はやく助けに行きたいだろうに、「それは言わない約束よ」って、「とても心配で、不安だけどね……今目の前にいるのはあなたたちなの。放ってはおけません」って。

 

 でも……。

 

 ううん、だめだめ! 暗いことばっかり考えてたら気が滅入っちゃう!

 辛い時こそ笑顔でいなくちゃ。せめてわたしくらいは、笑顔でいなくちゃ。

 

「由紀ちゃん」

 

 りーさんが、お話をせがむ。

 ……だから今は、たくさん楽しい話をして、いっぱい楽しんでもらおう。

 

 

 

 

「みんな疲れてる、ねぇ……」

「うん。だから、なにかできないかなって」

 

 静かな廊下で、わたしはたかえちゃんに相談してみることにした。

 たかえちゃんも辛い目にあったみたいだけど、わたし達の中では、きっと一番大丈夫だから。

 

「由紀は偉いなあ。私なんて自分の事で手一杯だよ」

「そうかな……たかえちゃん、みんなの相談役になってるでしょ? すっごく助かってると思うよ」

 

 そんなことないーって否定するけど、たかえちゃんが頑張ってるの、知ってるよ。

 だからわたしも相談したんだ。みんなが明るく笑えるような何か、ないかなって。

 

「そうは言ってもな……正直りーさん……あの人はどうしようもないし、恵飛須沢さんだってかなり余裕なさそうだし」

「そこをなんとか! このままじゃ、ずっとこんな感じになっちゃいそうで……いやだよ」

「うーん……」

 

 二人で頭をつっつきあわせて、何かないかを考える。

 考えて……考えて……頭から煙が出てきそうなくらいに、やっとこ思い浮かんだ。

 

「そうだ、パーティしよう!」

「はぁ? こんな時にか?」

「こんな時だからこそ! だよ!」

 

 みんな不安を抱えてて、疲れてて、辛くて。

 でもきっとそんなのは、美味しいものをたくさん食べて、みんなでわいわい盛り上がれば吹っ飛ぶはずだよ!

 それにそれに、今日の休息は明日の充実! それがじゅーよーなんだよ!

 

「……たしかに、そうかもね」

 

 でしょ!

 じゃあさっそく、めぐねえに提案に──。

 

「待て待て、由紀一人だと心配だし、あたしも行くよ」

 

 そう? たかえちゃんがいれば百人力だね。

 それじゃあ今度こそ、めぐねえのところにしゅっぱーつ!

 

 

 わたし達の提案は、受け入れられた。

 今ある食料を放出しちゃいましょうってめぐねえも言ってくれて、夕ご飯はとっても豪華になった!

 けど、その代わりに食べられるものがほとんどなくなっちゃったから、調達に行かなくちゃならないんだって。

 

「だからね、モールに行きましょう。そこになら、きっとたくさんの食べ物があるはずよ」

 

 めぐねえのその提案に、反対する人はいなかった。

 今日みたいに班分けして、めぐねえの車で行くことが決まった。

 

 わたしとりーさんはお留守番かな……?

 居残り組にもやることはあるぞーってたかえちゃんが言った。たかえちゃんもその居残り組?

 ……そうみたい。

 

 たくさん作ったバリケードの点検や、見回りとか、ご飯の管理。うん、やることはいっぱいある。どれも大切なことだ。もしかしたら、「彼ら」と戦うことになるかもしれない。その時は、わたしも覚悟を決めなくちゃ。

 めぐねえやくるみちゃんに守られてばっかりじゃだめだもんね。……わかってる。今こそ私もヒーローになる時なんだ、って。

 

「丈槍さん。お留守番、お願いね?」

「ラジャー!」

 

 明日のことを考えてか、めぐねえは緊張しているみたいだったけど、おんなじくらい元気になっているみたいだった。

 ちひろさんが見つかれば、もっと明るくなるだろう。そうしたらりーさんだって。

 

 大丈夫。なんとかなる。

 胸の内側と、お腹の奥にぐっと伸しかかる嫌な感じから目を逸らして、前だけを見つめる。

 大丈夫……めぐねえが作ってくれた、わたし達「学園生活部」なら……なんだって上手くいく!

 

 明日も頑張るぞー! おー!

 ……って意気込んでみたけど、頑張るのはめぐねえ達だよね。

 ただしくは、頑張れー! だったかな。

 

 応援すると、遠征組のめぐねえとくるみちゃんは少し恥ずかしそうにして照れていた。

 その空気にあてられてか、りーさんも元気そう。良かった……。

 

 こんな雰囲気がずっと続けばいいのにな。もっともっと、良くなりますように。

 何度も考えると、本当にそうなる気がしたから、寝袋に潜り込んだ後もずっとお願いを繰り返した。

 

 

 

 けれど、翌日はあいにくの雨の日だった。

 




TIPS
・あめのひ
雨宿りに来るたくさんの「彼ら」からの防衛戦
ゲーム中2回起こり、高難易度では苦戦は免れない
1回目の「あめのひ」では大抵めぐねえが亡くなる

・精神値
モール組
・千翼優衣
43/100

・祠堂圭
36/100

・直樹美紀
49/100

・若狭瑠璃
41/100

・月日星夜
41/100

学校組
・丈槍由紀
31/100

・恵飛須沢胡桃
55/120

・柚村貴依
59/100

・佐倉慈
46/130

・若狭悠里
31/80


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6あめのひ

誰かがエタれば誰かが続ける! そうやって走者の想いがグルグルと渦を巻いていく!
それも銀河(がっこうぐらしRTA小説)だ!!

あんたが始めたSSは、娯楽を求める読者の希望の銀河になってるんだ。

【WR】がっこうぐらしRTA_全員生存ルート【完結】(https://syosetu.org/novel/204792/)は私達の青春銀河なので初投稿です。


 なにがなんだかわからないRTAの続き、もう始まってる!

 

 前回はバースデーイベという虚無まで、今回は夜中何が起きているかを探っていくところから。

 

 きららチャンスは「べんきょう」でした。おお知力知力……そんなステータスは無い!

 広げた参考書の上にのべーっとなる優衣ちゃんがクソ雑魚な今日この頃、精神に+1されました。やったぜ。

 

 夜寝る前に『起きとく』を選択しましょう。

 いざ、禁断のナイトタイムへ! 初体験のイベントっぽいのでドキドキしております。RTAで初体験って大丈夫なんですか?

 

 ランプの明かりが消えると部屋の中は想像以上に暗く、少女達の寝息ばかり聞こえてきます。

 そんな中、ゆっくり身を起こす優衣ちゃん。幸い左右の二人の寝相はいいのか朝みたいにがっちり拘束されてることもないですね。

 

 んー……てっきりけーちゃんが起きてるかと思ったのですが、みんな寝てる……念のため一人一人つついて回ってみますが、やっぱり起きてない。夜のイベントじゃなかったのか……? でもけーちゃんは優衣ちゃんに見られてるって言ってたし……うーん。

 

 これ放置したらやっぱり精神値やばいですかね? 無視して進める訳にもいかないし、かなり悩んでます。

 というわけで倍速。部屋の中をうろちょろしている優衣ちゃんを背景に今回の原因を考察してみましょう。

 

 圭のあのような言動は優衣への不信感の表れだと思われます。

 つまり警戒度が高い状態になってるんですね。

 ……そこからしてもうわかりません。いや、だってつい先日友好度と好感度がMAXになったじゃないですか!

 

 名前呼びも許し、その二つのステータスが下がるのも防ぎました。不審な行動なんて、せいぜいみんなの前で急に壁に向かってヘッドスライディングしだしたり、壁に嵌まってみせたり、そういえばサバイバルナイフも装備しっぱなしだったりくらいで……えー、ほら! なんもない! ね!?

 

 

「ゆい先輩」

 

 ひゅい!?

 あ、なんだけーちゃんか。一体何かと思った……うろちょろし始めてから5分ほどで圭が起きてきたみたいです。静かに振り返る優衣ちゃんに、どこか不安げな仕草をみせながらソファに移動した圭は、腰を下ろすと置いてあった鞄からCDの再生機を取り出しました。

 

「ゆい先輩も寝れないの? ちょっとだけ、お話しない?」

「……」

 

 断る選択肢はないので座りに行きましょ。

 仲良いアピールをしようとぴったりくっつく位置に腰を下ろしたら優衣ちゃんが勝手に座り直して体一個分距離をあけました。クソァ!

 

「あのね、ゆい先輩」

 

 お、けーちゃんが何やら話してくれそうな雰囲気です。なんです? なんでみんな落ち込んでるの?

 

「……。ううん、もういいや」

 

 え?

 

「ね、ゆい先輩。一緒に音楽聞かない?」

「……」

 

 え、いや、それは別にいいけど……あの、理由は……理由は話してくださらないんで?

 

「よかった。みんな寝てるから、音量はちっちゃくね」

 

 ふ、と安心したように笑った圭は、手元の機械を弄ると"練乳を奪いなさい"こと「We took each other's hand」を流し始めました。アニメでは4話のEDに、11話の挿入歌に使われた曲ですね。雰囲気抜群だぁ……。

 

「ここにあるのがヘッドホンじゃなくてイヤホンなら、片耳ずつつけられるんだけど……」

 

 そう呟いたけーちゃんは、二、三回足を揺らすと、そっと優衣ちゃんを横目で見ました。流し目です。色っぽい。

 

「もっと……近くに来ても、いいよ」

「……」

 

 そうは言っても、優衣ちゃんは接触恐怖症持ちなのでこれ以上近づけないんですよね。

 あ、でもそれを考慮しなければいけるか。やや精神値が不安ですが、ずりずりと移動させて近づきます。

 

「もっと」

 

 ん? ああはいはい。もうちょっとね。

 

「もっと」

 

 ええ? もう精神値削れ始めてるくらいの距離なんですけど……密着しろって事ですかね?

 それはさすがにきついのでもうちょっと、ちょっとだけね。

 

「もっと」

 

 もう吐息がかかる距離まで近づいたのに「もっと」「もっと」と強要してくるけーちゃん、鬼畜か?

 いや、あれですね、優衣ちゃんの事情を理解してないだけですねこれ。

 そういえば話してなかったな。まいっかガハハ!(致命傷)

 

 試走を何回も繰り返してるとこういう細かい事を忘れてしまって困ります。特にこのゲームはそういった些細な事でそれぞれの心理状態が変化していくので……。しかし、優衣ちゃんがバッドステータス持ちだろうがそうでなかろうが「夜中に圭と二人で音楽を聴く」というイベントは初めてですね。別のことが問題なのかも。

 

「……私、人に触るの……苦手」

「そうなんだ。えいっ」

 

 話し辛そうにしながらも生来の気質と最近得てしまった決定的な精神異常を伝えた優衣ちゃんですが、おもむろに手を取られて両手で握られてしまいました。

 

「私でも、だめ?」

 

 だめに決まってんだろ精神値ガリガリ削られとるんやぞこっちはぁ!

 さっきからなぜか優衣ちゃんが頑張って視線を合わせようとしているので空腹値も削られてます。

 も、だめだぁー。このままじゃレッドゾーン突入しちゃうよ、幻覚見ちゃう幻覚見ちゃう……。

 

「ううん、へいき……かも」

「そっか」

 

 優しい嘘をつく優衣ちゃんに涙がで、でますよ……。

 それはそうと、このまま離れられないでいると冗談抜きで精神値がやばいんですけど……。

 まーだ、時間かかりそうですかねー?

 

「……うん。私も、平気」

「……?」

 

 目を伏せがちにして囁く圭の言葉の意味はいまいち理解できませんが、持ち直したって解釈してもいいんですかね?

 

「……ゆい先輩」

 

 はいはい、なんでしょ。

 

「……ごめんなさい。それと、いつもありがとう」

 

 どういたしまして? 何を謝られてるのかはわかりませんが。

 感謝は、優衣ちゃんに食料調達を任せっきりだからですね。こういうところがやっぱり細かい。

 こちらこそ、とこっちからも感謝を伝えておきましょう。いつも暖かく迎えてくれてありがとう。フラーッシュ!

 

「でも、一人きりで寂しくない? ……おうちに帰りたかったりは、しない?」

「……」

 

 ん? どういう意味だこれ……よくわかんない話運びですね。

 ふるふると首を振る優衣ちゃん。帰る家はありますが誰もいませんからね。今はここが家みたいなもんです。

 

「え、でも家族と……か」

 

 言いながら、それは発言すべきではない事に気付いたのか尻すぼみに消えていくけーちゃんの声。

 元々優衣ちゃんの家族は一人だけだし、その一人とも一緒に来たわけなのでやっぱり家が恋しくなったりはしませんよ。

 お母さんだって……あー、ストレートに伝えると精神値を削りそうなのでマイルドな表現で……そう、ここではぐれてしまいはしたものの、みんながいるから寂しくはないよ、と。

 

「はぐれて……」

 

 口の中で呟くように言ったけーちゃんは、窺うように優衣ちゃんを見ると、躊躇いがちに「見つかるといいね、お母さん……」と言ってくれました。

 とりあえず頷いておきましょう。

 

「……。そろそろお布団に戻ろっか」

 

 音楽が止み、微笑みかけてきた圭が立ち上がります。

 っと、夜が明けました。今のでイベントは終了したみたいで、優衣ちゃんは布団に戻ってます。

 もぞもぞ起き出すと、すでに起きていたみーくんとけーちゃんが笑顔でご挨拶してくれました。うん、いい雰囲気!

 

 圭はりーさんみたいにサイレント発狂をかますタイプではないので、これで解決したと思っておきましょう。

 そもそも警戒度が上がりにくく、友好度や好感度が下がりにくいキャラなので不穏なイベントが起きた事には少々驚きましたが、無事に乗り越えられましたね。

 

 みーくんの顔色も悪くありません。いつもはみーくんにけーちゃんが影響される形なんですが、今回は逆だったようです。

 るーちゃんとせーちゃんはどうでしょうか。眠そう。

 

 お、優衣ちゃんの精神値がかなり回復してますね。さっきのイベの恩恵かな?

 状況を改善する形のイベントだったのがこれで確定しました。一件落着!

 

 おはようございまーす! 朝でーす!

 

「優衣先輩、それ二回目です」

「挨拶は何回だってしてもいいんじゃない?」

 

 そうだぞ。おはようやおやすみは大切ですからね。しつこくしつこく言ってくぞ。

 さて朝ご飯。本日もレトルトご飯にレトルトカレーとレトルトサラダなレトルト三昧。ゲシュタルト崩壊してきた……。雰囲気も良いので精神値がもりっと回復。よし!

 

 部屋の中は薄暗いですが、単純に天気の問題なのでみんなの精神値の影響ではないです。

 ゲームの節目7日目の「あめのひ」。

 学校同様このモールにも雨宿りしようとどうにかこうにか侵入してきた「彼ら」のせいで低階層の敵の数が増えてます。じゃけん気を付けていきましょうね~。

 

 食料調達に出る前に、ちょっと不安なのでけーちゃんに話しかけに行きましょ。

 チラッチラッ。どう? ヘアゴムちゃんと使ってるよ。

 

「ふふっ、先輩かわいっ」

 

 とのこと。スカートをつまんでフリフリ照れ照れする優衣ちゃんはたしかにめんこい。

 それじゃあ、行ってきます。

 

 

 部屋を出たら倍速。やる事はやっぱりいつもと変わりません。

 この5階でかつて生存者であった「彼ら」がいずれかの部屋の内側からばんばん扉を叩いてますが無視でいいです。ちょっかいをかけなければ出てきません。

 倍速してる間暇なので特に必要のない情報でも喋る事にしますね。

 

 このゲーム既プレイの兄貴姉貴達は、モールからゲームを開始してチャプターを進めるとやたらしつこく追いかけてくる「彼ら」がいるのに気づいたでしょうか。

 そんなのいたっけ? という方、ご安心ください。この「彼ら」はいたりいなかったりします。

 というのも、ゲーム開始時の「しつもん」によって特定の境遇となった主人公にのみ現れる特殊な敵なのです。

 

 通常プレイだとチャプター4くらいから、早いとチャプター2の時点で発生し、以降は探索中こちらを発見すると籠城部屋に帰るまで延々と追ってきます。

 始末すればいいやん! と思った方、それはもちろん誰しも取ろうと思う手段です。

 

 このゲームに登場する「彼ら」はこちらを発見する精度は違っていても、戦闘能力に差はみられません。

 せいぜいちょっと硬いかな、脆いかなってくらいです。

 もちろんこの追跡型「彼ら」も簡単に倒すことができます。ただし! 50ほど精神値を持っていかれますけどね。

 

 それはなぜか。

 こいつの初期位置が1階の瓦礫で塞がれた出入口付近であると言えば察しの良い兄貴ならわかるかもしれません。

 もったいぶってもしょうがないので言っちゃいますが、その「彼ら」とは父か母です。

 

 最初の「しつもん」によって様々に分岐するオープニングの中で死んだ優衣ちゃんのお母さんは、はぐれてしまった我が子をずっと探しているようですね。そして見つけると一緒に家に帰るために捕まえに来るのです。

 このオープニングでいくつかの性格の時の主人公は、親が「彼ら」となったことを無意識に忘れているか、あるいは意図的に考えないようにしているか……目視した際も台詞はなく、何度追いかけられても特に反応はしませんが、倒すとそれが元々なんであったかを理解してザックリ精神値を削られます。

 

 当然トラウマとなってなんらかの精神異常を発現させてしまうこともあり、倒すのは非推奨ですね。

 幸いなことに足は速くないので油断をしなければ逃げるのは容易です。

 

 そもそも出入口の方にいかなければずっとその辺りでうろうろしてるので問題なかったりもします。

 判定は画面が切り替わる辺り。もちろん本チャートでは出入口に用はないので近づいてませんから、お母さんはまだうろうろしてる事でしょう。

 

 探索終了! 必要最低限の物を持ったら大量の「彼ら」に見つからないよう最大限の警戒をもって帰還します。

 本来は昨日のうちに両手のかごいっぱいに食料を詰めて「大ジャンプ」で帰るはずだったのですが完全に忘れてたのでちまちまやっております。「物持ち上手」が泣いてるね。

 

 籠城部屋に帰ってきました。たっだいまー!

 

「わん!」

 

 おっと太郎丸が胸に飛び込んできました。出迎えご苦労。

 えー……それでだけどね。

 

 

 みんなどこ行ったの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はー。はーつっかえ。

 なにこれ?

 

 えー、部屋の中に誰もいなかったので呆然としてしまいましたが、動かなきゃ始まらないということで外に出ました。太郎丸もついてきてくれるようです。

 未知のイベントなのか不信イベなのか……。みなさまに説明しますと、友好度が低く警戒度が高いキャラは2種類の反応をみせます。距離をとるか排除しようとするか、です。

 

 「排除する」とは文字通り攻撃してきたり、所属している団体から弾かれるよう誘導してきたり。

 「距離をとる」は遠巻きにして関わらないようにするほか、こうして何も言わず姿を消してしまったりします。

 

 しかしその場合一人だけいなくなるというパターンになるので、今回みたいに全員いないってのはちょっとよくわかんないです。いや、全員じゃないか。太郎丸がいた。

 ……解決したと思った圭の警戒度が高くて出て行ってしまったんでしょうかね? それにみーくんがついて行った、くらいまでならわかります。あんまり遭遇したことはないですが、りーさんがるーちゃんを連れて出て行ったことはありますし。

 

 ほんと、なんなんでしょうね……今までのプレイと違うことは……星夜が存在する事くらいなのでそれ関連かもしれないです。

 ……まさか「悪戯」か? でも、こんな大規模な事まで起こるもんなんですかね? そこらへん情報が無くてきついです。

 ちょっと嫌な予感がしたんですけど、小学校でやったような追いかけっこをここでもやる、みたいな展開にはなりませんよね……?

 

 リセットの四文字が脳裏を過ぎる中、急ぎ足でみんなを探して回ります。

 倍速倍速ぅ!

 

 5階にはいませんでした。

 4階も……いませんね。

 3階。影も形もない。

 

 2階より下は「彼ら」が多くなってくるので行きたくないというか、みんなも下には行かないんじゃないでしょうか。

 ということは、見落とした……?

 

「わん! わんわん!」

 

 おっと、太郎丸が接近する「彼ら」を遠ざけてくれました。サンキュー!

 もう一回上から見て回りましょう。不謹慎ながらちょっとわくわくしてたりします。……通常プレイかな?

 ま、すぐ寝るかちょっとうろちょろしてから寝るかなのであんまりタイムに影響は……。うおおん。

 

 本来こういう風に2階をうろちょろするのは明日以降にやりたかったことなのですが、しょうがないです。

 3階へ急げー! 等速で急げー!

 ん? 等速……?

 

「圭、そっち……」

「ううん、こっちは……あっ」

 

 ここで奇跡的に話し声を拾うことができ、5階へ向かう前に戻る事が出来ました。

 吹き抜けの手すりによじ登って下を覗けば、なぜか1階にみーくんとけーちゃんがいますね。柱の影で「彼ら」から身を隠しています。

 るーちゃんとせーちゃんは……ここから見た限りじゃ見当たりませんね……。

 

 あ、でもけーちゃんが発見したみたいです。指をさす先にドーナツ屋さんがあり、テラス席の丸テーブルの下に二人固まってる……ぽいですね。たぶん。ここからじゃちょっと見えにくいですが、付近に「彼ら」が多すぎて動くに動けないみたいです。

 近くの「彼ら」が変な動きしてるのでおそらくゴム銃で誘導しようとしているのではないでしょうか? 上手くはいってないみたいですけど、転がるゴムの方に気を取られる「彼ら」も多いので悪い手ではないでしょう。

 

 一方で美紀圭は微かな声でやりとりをしていて、ちょっと聞き取れませんが、おそらくどう助けに動くか相談しているのかと思われます。

 優衣ちゃんがいなくても動いている……生きようと足掻いている……そこに生まれるドラマは見ていて本当に楽しいですが、走っている身としては気が気でないです。死なれたら困るんです。がっこうぐらしやってるんじゃないんだよこっちは!

 

「わんっ! わん!」

 

 太郎丸が近づく「彼ら」に攻撃してくれている間にとりあえず荷物を確認。

 武器はありませんがサイリウムが三つ、防犯ブザーが一つ、緊急回避用のボールペンがいくつかありました。

 ほいじゃ、これで助けに行っちゃいましょうか。行っちゃいましょうよ!

 

「まずっ……」

「きっ、きた!」

 

 やっばい! 余裕ぶっこいてる場合じゃなかった!!

 どうにも美紀圭がピンチみたいです。まだ1階分しか下りてないのでまったく間に合わないというか、隠密してる場合じゃないね!

 3階からもう一度下を覗いてみます! おらっ邪魔だ退け退け! あっうそうそ殺到しないで……太郎丸ナイスゥー! やっぱり持つべきものは……犬なんやな、って……手すりによじ登ります。

 

 ……るーちゃん達が発見されてしまったのかと思いましたが、そっちは無事なようで、おそらく助けに動こうとしたみーくん達が見つかってしまったのかな、えっ、なんでピアノの上に避難してんの……?

 ん? ん? おかしいな?? そこに避難するのって既に学園生活部が来てる時だけじゃない?

 

 彼女達が救援に来るのは明日以降……今日の「あめのひ」を乗り越えた後なのでなんでそこに避難してるのかちょっとわかんないです。フラグの関係か普段は絶対上がらないんですけど……まあいいや。

 ピアノの上はちょっとした安置になっているので今のうちに下りちゃいましょう。

 

 一度手すりの上に立って、慎重に振り返って太郎丸に「おいで」と声をかけます。

 走り回って「彼ら」の気を引いてくれていた太郎丸が胸に飛び込んでくるのでそのまま落っこちましょう。

 投げ出してしまわないようしっかり抱いて……ピアノの上に着地!

 

「なっ……!」

「ゆい先輩!?」

 

 二人にぶつかることなく無事1階まで下りることができました。驚く二人は放っておいて、さっさと抜け出す準備をしちゃいましょう。今の着地でピアノの耐久値が相当減ってしまいましたからね。

 

 押し寄せる「彼ら」もガリガリと耐久値を削ってきます。その残量はゲージとしては表示されませんが、鍵盤を掻き鳴らしエキサイトしている「彼ら」の奏でる音が激しくなるほど崩壊が近づいているとわかります。

 

 耐久値が残っている限り上に乗っている人物は無事……つまり高所から落ちても骨折しなくて済むという訳ですね。学園生活部が「えんそく」に来ている、かつ美紀や圭がここに追い詰められて耐久フェーズに入っている時のみできる小技です。こんな事するくらいなら始めっから隠密行動して学園生活部と合流する方がはやいね。

 

 ブザーとサイリウムをぶん投げてやや遠い位置の「彼ら」を誘導。るーちゃん達付近のも釣れる位置取りになるよう気を付けて……。さすがにピアノに取りついてるやつらは向かいませんね。ここら辺の判定はよくわかんにゃい。今まさに掴みかかろうとしてる「彼ら」が生存者より付近の音を優先したりする時もあるし、ない時はこんな感じだし。

 ま、ちょうどいいですね。6体程狩らせてもらうとしましょう。

 

 ……武器ないんですけーどー。どうしようこれ?

 

 ねえみーくん、けーちゃん、ほんとに私のサバイバルナイフ盗ってない?

 

「いえ、私は持ってないですけど……その、」

「星夜ちゃんが……!」

 

 ふむふむ。

 素早く交わした会話によりますと、ナイフを盗っていたのは星夜ちゃんで、彼女がるーちゃんを連れて部屋を出て行ったのに遅れて気が付いた二人が慌てて探索に出た、と。私とは入れ違いになったのかな?

 悪ガキめ……と憤りたいところですが、これはあまり触れた事のないキャラなのにほとんど放っておいた私が悪いですね。ゆるしてミ☆

 

「っ!」

「先輩!!」

 

 とりあえずゲシゲシ蹴りつけてたら足引っ張られて倒されました。あかんこのままじゃ引きずり込まれるぅ! 

 みーくん助けて! けーちゃん助けて! 私まだ死にたくない! ここまできてリセットしたくないよぉ!

 

「っしょ!」

「えい!」

 

 みーくんに引っ張り上げてもらいつつけーちゃんが小物を投げつけて「彼ら」の気を逸らしてくれました。助かった。生きてるぅ~あっはっは!

 ペッ! カスが効かねぇんだよ!

 

 小物に気を取られている「彼ら」にスニークキルを決めてやりましょう。トゥーキック! 1体討伐。続けてもう1体! シュー! 超! エキサイティン!!

 

「はあ、はあっ、」

「このっ……!」

「離れてよ!」

 

 むー……3人いれば「彼ら」の攻撃も分散されてなんとか1体ずつ倒していってますが、キリがないうえにのそりのそりと寄ってくる「彼ら」がガンガンピアノの耐久値を削っていきますね。これもう駄目かもわからんね。

 ちなみにピアノが崩壊してもゲームオーバーにはなりませんが、こんな状況じゃ確実に誰か乙ります。全員生存を目指している以上それは許容できないので実質ゲームオーバーですね。やんなっちゃうね。

 

 

 ピィィ──────ッッ!!

 

 

 おっ!? なにこの音!

 「彼ら」が注意を惹かれた先は……るーちゃん達ですね!

 

 ちょっとどういう状況なのか……えーと、優衣ちゃんの誘導でドーナツ屋さんから「彼ら」が離れたために彼女達もある程度動けるようになったみたいですが、ピアノの上の三人がピンチなのを見てるーちゃんが笛を吹いてくれたみたいです。でもその笛がせーちゃんの首にかかってるんですよね。それでもってせーちゃんはわたわたしてます。

 慌てて取り出した防犯ブザーを投げたりゴム銃で「彼ら」を撃ったりしてますがほとんど意味を成してません。

 

 大部分の「彼ら」がそっちに動き始めたところでせーちゃんが笛を取り返したのですが、今度は向こうがピンチです。だってまだピアノにも取りついている奴がいるし、倒してから向かうのでは間に合いそうにない。

 詰みだぁ^~~はっはっは!

 

「待って! ……なんの音!?」

「これって……」

 

 ひょ? なんかムービー入りましたけど……瓦礫で塞がれた出入り口が映し出され、なんか音が接近してきてます。……このエンジン音は……?

 

「っ!」

 

 激しい揺れと共に入り口が爆散! ハイビームが薄暗い館内に差し込み、瓦礫を吹き飛ばして赤い車がエントリー! あ……あれは……!

 めぐねえカーだあああああああ!!!!!

 

 えっ、えっ、なんで!?

 混乱して優衣ちゃんが棒立ちになっていても事態は進行していきます。

 けたたましいブレーキ音を響かせて止まった車に、一時的に「彼ら」の動きが止まりました。みーくんとけーちゃんがすかさずピアノに取りついた「彼ら」を蹴り飛ばしてくれます。

 

 ──実は、この車の突入、既知のイベントです。

 リバーシティ・トロンの入り口は原作でもアニメでも特に塞がれていませんが、このゲームだと瓦礫が積み重なっている時があります。

 その時のNPCのみの学園生活部の行動は、「入らない」一択。主人公が同行していても体格が大きいと入れません。

 が、彼女達がちょうど外にいる時にホールで騒ぎを起こしたり、救援要請を送っていたりするとこうして強行突入してくれるのです。

 

 ではなぜ私が困惑したのかというと、今日がまだ7日目だからです。

 こんなに早く彼女達が「えんそく」に来たためしはありません。まさか来るとは思っていなかったのですんごい手汗が出てコントローラーすっぽ抜けて、まともに画面が見られませんでした。

 

 車から最初に出てくるのは、最も好感度の高い相手。

 

「優衣ちゃん!」

 

 ドアを蹴破る勢いで転がり出てきたのは、当然めぐねえ! 固有のカットインがかっこいい!

 他の学園生活部とは顔見知りか他人なので当然ですが、やはり嬉しいっすね。めぐねえすき!

 

「ほんとに生きてた……!」

 

 あ、続いてくるみも出てきましたね。彼女は親友や幼馴染設定の時以外でも共通のカットインが入ります。特殊部隊が全力で救助に来たかのような安心を得られる事請け合い。

 実際、子供達が囲まれているのを見つけるとざっぱざっぱとスコップを振るって猛然と助けに向かいました。鎧袖一触……これが恵飛須沢の力かよ……!?

 

「めぐねえ……」

 

 大好きな先生の登場に感極まって震え声を発する優衣ちゃん。

 カメラはくるみちゃんを映してますがここら辺から既に操作可能になるので、万が一にも美紀圭とはぐれないよう手を握っておきましょう。

 

「めぐねえ……!」

「優衣ちゃん……それに──」

 

 あれ、音消えましたね。編集ミスかな? 画面にノイズが……。

 ……あっ、えっ、なっ、優衣ちゃんの空腹値が0になってるー!?

 はっや! 消耗はっや! 都合2回目の全消費なのでやや体調不良になっているようです。

 まま、でもまだ暴走には程遠いので、めぐねえから視線を逸らしてガムを食べましょう。ほんのちょっとでも回復すれば問題ありません。美紀圭や子供達の方も見ないように注意…………あの……ボタン押してるんですけど……もしもーし?

 

 

「めぐねえ……たべたかった……!」

 

 

 アカン(白目)。

 

 このタイミングで操作不能状態とか、そんなことがあっていいんですか!?

 あー! だめだめ優衣ちゃんピアノから下りちゃだめ! めぐねえと感動の再会&モグする前に「彼ら」に食べられて死んでしまいます! 動け! 動けってんだよポンコツ! コントローラー壊れてるんじゃないこれ! もう結構長い付き合いだし買い替えるお金もないから仕方ないね!(それは君の甘えじゃないか)

 

「せっ、せんぱ……!」

 

 せっかく引き留めようとしてくれた二人の腕を、その小柄さを活かして擦り抜けてしまい、ピアノから降りた優衣ちゃん。当然「彼ら」に阻まれめぐねえの下にはいけないどころか、彼女の姿さえ見えません。

 腕を伸ばし襲い掛かる「彼ら」を、もはや私はコントローラーを置いて見守ることしかできませんでした、おしまい。

 

「っ!」

 

 あ、カウンターした。左前方の「彼ら」の伸ばされた腕、その指を掴んで折る勢いで突っ返し、蹴り飛ばした優衣ちゃんは、続けて腕を振るって右前方の「彼ら」の手を弾くとタックルで転ばせました。ぴょんと跳んで顔面着地。ピアノの方から息を呑む声が聞こえますね……。

 

 起き上がろうとする「彼ら」の横っ面につま先をめり込ませるキックをお見舞いした優衣ちゃんの視線は、常にめぐねえに一直線。周りはぼやけてるのにめぐねえの青褪めた顔だけははっきり見えるんだなー(観戦者)。

 

「ゆ、優衣ちゃ……はっ!」

 

 ただ、2体程度頃したところで「彼ら」を退け切ることは到底かないませんし、めぐねえだって棒立ちしていれば「彼ら」に襲われます。

 それをめぐねえ、手にしていたモップ……モップの先を外してナイフを括り付けた即席薙刀のようなものを振りかぶって──

 

 ちょっと待って。

 その「彼ら」、すっごく見覚えがあるんですけど。

 

「やああっ!」

 

 ザシュと首を切りつけられて、赤黒い血を撒き散らしながら倒れ行く「彼ら」。

 その光景に、猛然とめぐねえの下へ向かおうとしてた優衣ちゃんの足が止まりました。

 いやいやいや……冗談でしょ……? そんなガバガバコンボありえんて……!

 

 

「お、かあ、さ……?」

 

 

 あ。

 あ、あ。

 

 

 ああああああああああああああああああああ!!??!?!?!?

 

 

 

 

 

 

「あああああああ──」

 

 

 優衣ちゃんが、泣いている。

 

 大きく見開かれた目に涙は浮かんでない。

 人影の合間に見える彼女の顔にあるのは……ある、のは……。

 

 なにもない。

 

 なんの感情も浮かんでいない……いいえ、抜け落ちてしまったような……それは、なぜ?

 ふと、モップが震えているのに気づく。手元に視線を落とすと、どうしてか強く震えていた。

 それよりも、ずっと下。足元まで広がってくる黒い水溜まりの真ん中に浮かぶ「彼ら」の遺体……が……?

 

「泉…………さん…………?」

 

 うつぶせになって、微かに揺れ動くそれは、深く傷つけられた首からトクトクと血を流していた。

 

 

 

 

「っ、ぅ……」

「はい、おしまい。頑張ったわね、偉いわ」

 

 手当てを終え、涙を堪える優衣ちゃんに、私はほとんど無意識に優しい言葉をかけていた。

 ああ、いけない、これはいけないわね……。

 だって、彼女は高校生なのだから、幼い子に言い聞かせるような今の言い方では気に障ってしまうんじゃないかしら。

 

「……っ、……」

 

 頬を撫でた手を引っ込めると、それを追うように顔を上げた優衣ちゃんと目が合った。

 金色の瞳。

 とてもきれいな、透明の目。

 

「せん、せ……」

 

 耳を澄まさなければ聞こえないくらいの声量で呼びかけてくる彼女に、「なあに」と聞き返す。

 けれど彼女は口を閉ざして、俯いてしまった。それきり何も喋らない。

 ……でも、これでも前よりはましなのよね。

 

 優衣ちゃん。……千翼優衣さん。

 私が正しく彼女を個として認識したのは──こんな言い方は、教師としても人としてもどうかと思うが──初めての三者面談の時だ。

 

 高校二年生としてはかなり小柄な優衣ちゃんは、私が待つ教室に入った時は、保護者の方の背に隠れていた。

 椅子に座れば必然対面する事になるのだけど、彼女はずっと俯いていて、主に保護者の……泉さんとばかり話したと記憶している。

 

 それから、1階の渡り廊下の裏側で、膝を抱えて泣いていたのを見つけた時。

 「どうしたの」と聞いても答えてくれない彼女に、辛い目に遭ったのではないかと焦ってしまって、用事も忘れて付き添って……膝を汚していたから、転んでしまったのだと察して保健室へ連れて行った。

 

 でも、その1度目じゃなんの意思疎通もできなかった。

 今みたいに私を見上げてくれる事も無ければ、明確な言葉を発する事もない。

 ……嫌われてはいないと思う。むしろ好かれたんじゃないかな。でなければ、その日以来彼女が私の後をついて歩くようになった理由がわからないし、日に日にその装いが私を真似ていった説明もできない。

 

 そういう風にいつも近くにいたから、彼女が消火器に足を引っかけて転んだ時も、すぐにこうして保健室へ連れて来ることができた。

 それでわかった。私と彼女との距離は、いつの間にかとても詰められていたようだ。気弱で、人見知りをすると聞いていた彼女の方から歩み寄ってくれていた。

 

 私は、それをとても好ましく思ったし、嬉しいとも思った。……遅れて、不甲斐ないとも。

 だってそれは、本来私から行うべきことで、私が汲み取ってあげなければならないものだったはず。

 彼女が話しかけてきて初めてそれに気が付くなんて……ああ、なんてだめだめなんだろう、って落ち込んでしまった。

 

 優衣ちゃんが泣いている。

 消毒液がよっぽど染みたのだろう。声を抑えて、ふるふると震えている。そうしているとますます小さな子に見えるけど……そうじゃなくて……ああでも、そういう風に接してしまう。

 

「優衣ちゃん、大丈夫よ」

 

 手を取って、握って、ゆっくりと話しかける。

 

「痛くない。ね?」

「……」

 

 ふるふると、微かに首を振った優衣ちゃんは、私の手の内から抜いた手を自分の胸に押し当ててきつく制服を握った。

 きっと、涙が出たのは消毒液のせいだけじゃないのだろう。それは察せても、白くなった手が何を意味するのか、私にはわからなかった。

 だったら、聞いてみればいい。難しいけれど、難しいことではないはず。

 

「ね、何か悩みがあるのかな。良かったら、先生に話してみない? ……頼りないかもしれないけど」

 

 今の彼女なら心を開いてくれるかもしれないと……注意深く踏み込んでいった。

 繊細な心が傷ついてしまわないよう、手を差し伸べて──。

 

「……おかあ、さんの、こと……かんがえると、胸が、くるしいの……」

 

 少し時間がかかったけど、彼女は話してくれた。

 お母さん。それは、泉さんのこと……では、ないようだ。

 三者面談で会った彼女は、正確には優衣ちゃんの母親ではなく、その妹にあたる人だった。

 実の母は何年も前に亡くなっているらしく、泉さんが今は母代わりを務めている。

 

 あの時話した限りでは……見ていた限りでは本当の親子のように見えたけど、そう簡単なものじゃないのだろう。複雑な家庭環境が元の傷を抱える優衣ちゃんに怯んでしまいそうになるけど、いけない。しっかり向き合わなければ。

 

「優衣ちゃんは…………」

 

 泉さんの事は、嫌い?

 ……そう聞こうとして、やめる。

 なんとなく、首を横に振ってくれる気はするけれど……だって、彼女が泉さんを慕っているのはわかるから。

 でもそれは、今優衣ちゃんの手に籠っている力を抜いてあげられるような問いかけじゃない。これも、なんとなくだけどそう思った。

 

 自分の首に手を通す。後ろで止めたクロスを外して、優衣ちゃんの首にかける。

 そうすると、まるきり小さな私が目の前に現れた。

 不思議そうにクロスを見つめる彼女の手に十字の先を握らせて、手の甲を撫でる。

 

「それ、先生の大事なものよ」

「……?」

 

 ぎゅ、と力が籠もり始めた手は、私の声で柔らかな手つきに変わった。

 ……どうやら成功したみたいね。好意を利用するみたいでちょっと嫌だけど……私の物なら大切に扱ってくれるかな、って……そっちに気を取られてくれるかな、と思ったのだけど、良かった……優しい手つきに変わっている。

 

「……」

 

 やわやわとクロスを握る彼女は、両手で包んだそれを胸へ当てると、そっと私を見上げてきた。

 その手の上へ私の手を重ねる。……あんまり上手く言えないことが余すことなく伝わるように。

 

「しー、あーわーせになろー」

「?」

 

 目をつむって歌う。ゆっくり、はっきりとしたリズムで。

 ほんの僅かに首を傾げる彼女の動きを感じても、照れや何かは生まれなかった。

 

「えがおでLa() La() La() La() La()~──」

 

 ゆっくりと目を開く。

 優衣ちゃんは、目を逸らさないで耳を傾けてくれているようだった。

 懐かしそうな顔をしてるなって……わかる。あんまり変わらない表情が、いつも伏せがちな目が優しく細められている。

 私にとっても懐かしい歌だけど……やっぱり、今の子にとってもそうなのね。

 

 聴いたのは小学校の頃? 私は、そうだった。

 中学に上がっても、高校に上がっても、よく聞く曲だった。

 

 目を閉じる。ゆっくりと吐き出す息に歌を乗せる。

 そうすれば、伝わり辛い気持ちも上手く伝わる気がした。

 彼女の気持ちだって、わかる気がした。

 

 

 (うつむ)きそうで(くる)しいとき、(だれ)かに気付(きづ)いてほしいとき──

 深呼吸(しんこきゅう) (ふか)くついて この(うた)(おし)えてほしいの──

 

 

「かー、なーしい……こと、もー……」

「えがおでLa() La() La() La() La()~──」

 

 ゆっくり左右へ体を揺らすと、つられて優衣ちゃんの体も揺れて、導くように歌が続く。

 彼女の声はやっぱり小さくて、ちゃんと聞こうとしないと聞こえないけれど……。

 ……とっても上手ね、優衣ちゃん。

 

 心からの称賛に、優衣ちゃんははにかんで……きゅ、と私の手を包んだ。

 

 

 

 

 (しあわ)せになろう──

 笑顔(えがお)La() La() La() La() La()──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──あああああああ」

 

 

 ──……。

 優衣ちゃんが、泣いている。

 

 真っ白な顔に表情はなくとも、痛いくらいに伝わってくる悲しみが、嘆きが、私の心を震わせた。

 だから、腕が震えている。足が震えている。

 体が、動かない。

 

「めぐねえっ!!」

 

 慟哭を切り裂くように恵飛須沢さんが叫ぶ。

 はっとして顔を上げれば、「彼ら」は優衣ちゃんの声に引き寄せられて動き始めていた。

 

「っ!」

 

 慌ててモップを振るって、その先についたナイフで「彼ら」を薙ぎ払う。

 緩慢に振り返る者の足を払い、切り付けて、突き刺して、掻き分けて。

 立ち尽くす優衣ちゃんの下へ辿り着いた時、恵飛須沢さんのいる方から笛の音が響いた。

 

「先輩っ!」

「ゆい先輩!」

 

 ピアノの上に避難していた女生徒達が下りて駆け寄ってくる。その道を切り開くためにモップを振るって「彼ら」を退ける。

 夢中でそうしているうちに合流して、少しずつ下がって、伸ばされる手を掻い潜って、優衣ちゃんを守って──。

 

 

 私達は、車の中にその身を押し込んで、どうにかこうにかショッピングモールから脱出した。

 ある程度進んだ先にあるガソリンスタンドに車を止めて、ようやっと一息つく。

 狭い車中から零れ落ちるように外へ出る彼女達を横に、私は一も二もなく後部座席に体を押し込んで優衣ちゃんの様子を見た。

 

「はっ、はっ、はっ、」

 

 モールにいた時とは打って変わって青白い顔をして浅い呼吸を繰り返す彼女は、いくら声をかけても反応しない。──精神的なショックが強すぎるのだろう。無理もない。だって目の前で──。

 

「っ、っ!」

 

 ぐ、と息を呑む。口の中に広がる苦いものに険しい顔になるのを自覚しながら、優衣ちゃんの手を取って呼びかけ続けた。

 

「……あ」

 

 その甲斐あってか、彼女の目がはっきり私を捉えた。身動ぎもして、雨を含んだ風で髪が口にかかると嫌がるように首を振った。

 一瞬広がる安堵に、まだ安心なんてできないと気を張り直す。開いたままのドアをそっと閉じた。

 

「……、」

 

 聞こうとしても聞こえない声量で何事か発する優衣ちゃんに顔を近付ける。

 

「…………」

 

 声は、する。でも内容がわからない。

 ただ、ゆっくりと両腕を上げた彼女が私を求めているように感じたから、重なるように抱き締めた。

 

 肩にかかる彼女の喉が震える。

 耳元でなら、さすがに言葉は聞こえた。

 

「……お、かあ、さ……」

 

  

 ……。

 ………………。

 …………………………。

 

 気を失うように眠ってしまった優衣ちゃんを横にしてあげて、外へ出て窓越しに寝顔を見下ろす。

 それから、ベコベコにへこんだボンネットを撫でていると、女生徒の一人が話しかけてきた。

 

「優衣先輩の具合は、どうですか?」

 

 不安げな表情。優衣ちゃんの事をとても心配しているのがわかる。

 ……あの時の電話で言っていた、一緒に避難している人とは彼女達の事だったのね。

 外傷はない事と、今は眠っているだけだと伝えると、女生徒はほっと息を吐いた。

 

「あの、助けてくれてありがとうございます。直樹美紀、です。巡ヶ丘高校二年。あなたは、優衣先輩の……お母さん……親御さんであってますか?」

「……いいえ。私は教師よ。あなたたちと同じ巡ヶ丘の国語教師」

 

 やっぱり、知らない人からすると私と優衣ちゃんってそういう風に見えてしまうものなのね。泉さ……、……。

 

 ……。

 

 やんわりと訂正すると、彼女……直樹美紀さんは怪訝そうな顔をして「でも、たしかに優衣先輩は「お母さん」って」と呟いた。

 ……そのことは、話すべきか。……いいえ、今は……やめた方がいい。私とて心の整理がついていないし、学校に戻って、落ち着いてからでも遅くはないはずだ。

 

「……では……ひょっとして、優衣先輩が言ってた「佐倉慈」先生……?」

「それって遺書の人?」

「いしょ……? えっと、そう、佐倉慈です。優衣ちゃん……千翼さん、二人と仲良くやれていたみたいで安心したわ」

 

 直樹さんの隣にやってきたもう一人の女生徒の言葉に首を傾げつつ、彼女達がそれを知っているという事は優衣ちゃんと話せたという事だから、それと先程の直樹さんを見るにかなり良い関係を築けていたみたいだった。

 

 恵飛須沢さんも交え、私たちは互いに名乗り合い、食料を分け合って疲労の回復に努めた。

 こんな状況だけど、若狭さんの妹さんを見つけられたことは僥倖だ。聞けば、優衣ちゃんが「モール内で見つけて」連れて来たのだとか。

 ……小学校にいたはずの若狭瑠璃さんがなぜショッピングモールに……?

 わからない。優衣ちゃんに話を聞いてみないと……。

 

 ……私たちが休憩を切り上げて帰る事を決めても、優衣ちゃんはまだ目を覚まさない。不安になって何度か触れてみたけど、ただ眠っているだけのようだった。

 太郎丸というらしい小柄な犬が寄り添って眠っているのを見ていると、少し落ち着いた。

 

 改めて、直樹さん達と話をする。

 モールでの生活の辛かったことや苦しかったこと、言いたい事はたくさんあるだろうけど、まずは他に人がいなかったか、からだった。

 

 驚くことに探索に出ていたのは優衣ちゃんのみらしく、彼女の話では他に生存者はいなかったらしい。

 こちらも学校のこと、由紀ちゃんと柚村さんのこと、設備の事を伝える。

 熱いシャワーが浴びられる事が彼女達にとって一番の吉報だったのか、祠堂さんが飛び上がって喜んでいた。 

 

「では1階まで安全を確保して、バリケードも築いて、「彼ら」は中にいないんですね?」

「ええ」

 

 外へ探索に出るにあたって、私たちは全力で校内の安全を確保した。

 学校全体という訳ではないけど……一年生から三年生の教室がある校舎の安全は完全に確保したと言ってもいいだろう。

 二人を安心させるために、それを強調して、もう一度伝えた。

 

「学校は安全よ。大丈夫──先生が保証します」

 

 安堵して笑みを零す二人に、不謹慎ながらも、私の胸は誇らしさで満たされた。

 

 

 

 

 

 

 最近、学校が好きだ。

 

2階ももう駄目だ! 上へあがれ!!

 

 そう言うと変だって言われそう。

 でも考えてみてほしい。学校ってすごいよ。

 

由紀ちゃん! はやくっ!! はやく登るのよ!!

 

 めぐねえは優しくっていい先生!

 たかえちゃんとのお喋りは楽しいし、くるみちゃんはちょっぴり変だけど面白いし、りーさんはあったかくて、くっついてるといい気分。

 

はあっ、はあっ、

りーさん! こっち!!

 

 だからきっと、今はとってもいい気分。

 だってこうしてりーさんとくっついて座ってる。

 

どうしてっ、どうしてこうなるのよ……!?

りーさ……

がんばったじゃない! 私達、ここまでやってきて、それがどうしてっ!!

 

 体が震える。

 とっても寒くて震える。

 あれ……こんなにくっついてるのに、どうして寒いんだろう?

 

柚村さんも……きっともう……

っ、リーさん、前っ!

 

 でも、すぐ暑くなった。立って、走って、息を切らせて。

 ……めぐねえとくるみちゃん、今頃どうしてるのかな。

 千翼さんは見つかったのかな。ちゃんと帰ってくるのかな。

 

由紀ちゃんっ!!

 

 あ……。

 

このっ……!!

 

 真っ白な煙が吹き抜けていく。

 消火器で何かを潰したりーさんが蒼い顔して駆け寄ってきてわたしを強く抱き締めると、手を掴んで引っ張った。

 部室へ戻る。わたしたちの、「学園生活部」。

 

ひっ

そんな、ここまで……!?

 

 新しい子達が来るから、歓迎会の準備をしてた。

 本当なら、今頃みんなでパーティしてたんだろうな。

 

由紀ちゃんっ、由紀ちゃん、隠れて!

でもっりーさ──

いいから!!

 

 狭い場所に体を押し込めて、帽子を深くかぶって、口を押さえる。

 そうしてじっとしようとしていたけど……扉の音で、全部だめになった。

 

 しとしとと降る雨の日に、たくさんの人が押し寄せて。

 みんなで頑張って作った物は、全部全部壊れてしまった。

 

 めぐねえ。くるみちゃん。みんな……。

 

 

 

 

 ごめんね。ばいばい。

 




TIPS
・声繋ごうよ
優しい気持ちになれる曲


・精神値

モール組
・千翼優衣
9/90

・祠堂圭
32/100

・直樹美紀
38/100

・若狭瑠璃
33/100

・月日星夜
32/100


遠征組
・佐倉慈
29/120

・恵飛須沢胡桃
31/120

学校組
・丈槍由紀
24/100

・若狭悠里
13/80

・柚村貴依
42/100


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7学園生活部と合流~連れション

良いチャートだな。貴様のレギュレーションと目標タイムは?

WR。後追い走者なので初投稿です。


 ──ありがとう。生きててくれて。

 

 

 

 

 コントローラーを取り替えたのでなんの問題もないRTAの続き、さあはじまるザマスよ!

 前回は「めぐねえ、母さん殺したろ」まで。今回はなんか寝てるところから。

 

 えー、優衣ちゃんが暴走し、おチャートの崩壊を確信しましたが……ベッドの上で寝てますね???

 傍らには椅子に座ってかっくんかっくん頭を揺らし今にも寝落ちしそうなめぐねえがいます。

 んー……とりあえずまずは、起きる前に現状の確認しましょう。さすがにこの状況で前回付与されたはずのバッドステータスを確認しないのは論外ですね。

 

 メニュー画面を開き、マップを確認! 巡ヶ丘学院1階、保健室。はぇー。無事(?)に学校ルートに合流できたみたいですねぇ。正直暗転前の終わり方では何もかもおしまいかと思ったのですが……何が起こったんでしょうか。

 とりあえずステータス欄へ移ります。そういえば今まで一回も見てなかったし本作では初公開の画面になるのかな。

 知らない人のために一応説明しますと、ステータス欄にはステータスが載ってます。以上。なんて的確な説明なんだ……やはりうちはマダラか?

 

 既存の精神異常は想像通りのものでした。違ってたら怖い。でも一回あったんですよね、優衣ちゃんがやたらみんなにひっつくから「極度の寂しがり」……生存者がすぐ傍にいないと精神値が削れていく精神異常やろなと思ってたら「食人衝動」だったりとか。めぐねえ、美味しい!

 

 優衣ちゃんが新たに獲得したのは……「味覚障害」……ふむ。

 これは見ようによってはリカバリーになるんじゃないでしょうかね。

 

 「味覚障害」は、食べ物の味がわからなくなり、食事を摂るのを嫌がるようになるバッドステータス。

 空腹値の回復が難しくなりますが、食べるのを嫌がるということは、逆を言えば「食人衝動」の抑制にもなり得ます。

 ……検証してないのでわかんないんですけどね。

 

 それでもってですね、はい……。

 今日紹介する"気付いてなかったバッドステータス"はこちら! じゃん!

 

 「????(中度)」

 

 ……なんでしょうね~こわいですね~。

 空気感染だよ。

 それも初期段階を過ぎて発症間近なやつです。

 

 どうりでな~やけに空腹値の減りが速いと思ったんだよ私もな~。

 あーあ、あーあ。こんなのつけてRTAなんてやってらんないよ。リセですねこれは。

 

 ……いや、待て……今日は何日だ……? 日付、日付……いったん画面を閉じて優衣ちゃんをベッドから下ろしましょう。多分そこら辺にカレンダーとかあると思うので探して……優衣ちゃん! めぐねえから視線逸らしなさい!!

 

「……おかあさん」

 

 ベッドを囲うカーテンを開けて外に出ても、じーっと後ろを見ている優衣ちゃんはかなり不気味です。空腹値も空っぽで点滅してますね……もう一回暴走しそう。今はまだ操作受け付けてますが、時間の問題かもしれませんね。

 早急にガムでも食べて空腹値を回復しましょう。

 

「……っ!!」

 

 あ、吐いた。あっ、そうだった! 味覚障害患ってるんだった!(痴呆)

 口を押さえてげほごほやる優衣ちゃんは、これでもう積極的に食事をしてくれなくなりました。

 代わりと言いますか、一度めぐねえに目を向けてもすぐ逸らしてくれました。食欲わかなくなってます。んー、これを見越してのプレイだった!! ナイスゥ!!

 

 RTA万事塞翁ガバ馬になったわね……。と勢いで押し流したところでカレンダーを視認。いやわからん。特に線とか引かれてる訳でもない。

 もう少し探してみれば、棚の上にデジタル時計が置かれてました。まだ正常に動いているのでこれで日付がわかります。あー。毎回この流れやっちゃう。

 

 ……。

 

 ……どうやら優衣ちゃん、3日も眠っていたようですね。

 はぇー……チャート崩壊!! 3日分のきららチャンスが消し飛び、学園生活部の面々と構築するはずだった友情やらもどっか行き、りーさんの調整もままならず残り4日。なにもかもおしまいだあ。

 しかしこのピンチをチャンスに変えるのが走者ってもんです。良い方向に考えましょう。めっちゃ短縮できた! 快挙です。これって……勲章ですよぉ?(ねっとり)

 

 もちろん先程言った通り生活部との関係がなにも進んでないので、ここからは最適な行動を最速で行っていかなければなりません。でなければ2回目の雨の日……学校でのエンディングを迎えられる「14日後...」にあっさり全滅してしまいます。なぜか? 主人公が足を引っ張るからです。

 

 友好度が高くないと警戒度が上がりやすくなり、そんな奴がうろちょろしている中で「彼ら」と対峙するのは負担が大きすぎるのかみんなの消耗は早まり、崩壊へ繋がり、一人でも倒れれば連鎖的に精神値を削られて動けなくなり……といった悪循環による全滅。これを避けるには、みんなとコミュニケーションを取るほかありません。

 

 そしてそれはもっとも基本的なことであり、本来注意すべき点は他にもたくさんあるのです。

 たとえば、削れやすいりーさんの精神値の調整。現状低いようだったら「あめのひ」を迎える前に削り切ってすっきりさせておく、生活部ができてないなら結成してみんなの精神の安定に繋げる、食料がないなら遠征を促す、バリケードを補強する、ハンカチ等口元を防御できる布類の確保、十分な水の確保。

 

 そうして万全に迎えた「あめのひ」でも、プレイングミスで噛まれればハッピーエンドには辿り着けません。

 私にとっての大目標である「めぐねえエンド」……できればみんな笑顔で迎えたい……。

 でもま、たとえ噛まれても精神値振り切ってても生きていればそれでいいので、全員生存めぐねえエンドさえできれば大勝利です。

 

 しかし空気感染が中度まで進んでいる優衣ちゃんは、もういつ重度まで進行し「彼ら」化してもおかしくありません。

 身体欠損があったり著しい精神疾患を患ったりしてもプレイ続行できる本ゲームですが、さすがに死んだり「彼ら」化したりすれば終了します。その場合コンテニューはできずエンディングに入るのでリセットになりますね。

 

 なので薬を取りに行きます。原作・アニメ共にくるみちゃんが打った抑制剤……鎮痛剤……抗オメガ薬……ま、なんでもええわ。それが欲しいのですが、未だ誰とも顔合わせの済んでない優衣ちゃんに単独行動をさせると警戒度急上昇&軟禁待ったなしです。

 

 まずはみんなと挨拶しましょう。挨拶大事。それから誰かてきとうな子……くるみちゃん以外を誘き出して彼らに噛まれてもらいましょう。その方法なら優衣ちゃんへの警戒を抑えつつ自然な流れで薬を取りにいけます。

 地下の避難区域には確定で薬が二本あるので、優衣ちゃんと噛まれた子に使えばエンディングまでは持つでしょう。その後は……知ーらない!(HDS)

 

 2020年現在ではオメガ──「彼ら」化するウイルスの名称ですね、この対処法は本編で描かれ判明していますが、このゲームは2016年時点で作られたものなので(対処法なんて)ないです。

 一応、おそらくはその時にすでに原作の結末は考えられていたのでしょうが、漫画の刊行もまだまだのところで最後の種明かしなんてするわけないですもんね。

 

 

LEVEL UP

 

 

 外に出ると、チャプターが終了しレベルアップしました。ランクは!?

 ランクは……S!! あー、今人生で一番安堵しました……必死に「彼ら」の頭を蹴飛ばした甲斐がありましたね……。

 

 レベラッで得たポインツは精神に振りたいところですが、感染を遅らせるために体力のステータスを上げておきます。体力に2、スタミナゲージの消費を抑えるスキルに1。ニュースキル「我慢」を取ります。

 「我慢」は副次効果として体力の減少量も抑えられるので、これでなんとかエンディングまで持たせましょう。……持つといいなあ。持ってくれよな~頼むよ~。

 

 チャプター7が開始されました。番号飛んでるね。通常プレイでもわりとこんなものです。

 やたら膝を擦り合わせてもじもじして、歩こうにも蛇行して壁に寄りかかる優衣ちゃんが汗を流して辛そうにしているのを眺めつつみんなの下へ向かいます。おっ、バリケードちゃんと築いてますね~。慎重に乗り越えて3階へ上がって行きましょう。1階までバリケード作ってるとか覚醒めぐねえはやっぱり有能だぜ~! 大好き!

 

 ……にしてもなんか、廊下汚れてますね……「小物」がかなり落っこちてます。

 転んだりしたら決壊待ったなし。もったいないので気を付けていきましょうね~。

 

 3階につきました。学園生活部が既に結成されている事を祈りつつ生徒会室に向かい…………、……。

 やめました。お手洗いに行きます。みんなの前で漏らして泣き乱せば警戒度0になるからそうしようかなと思ったんですけど、諸々の関係が終わりますからね。うーん、焦っておる(他人事)。

 

 どうにも私はリカバリーが苦手なようで、ガバに対する動揺が大きく上手く立ち回れません。

 今ちょっと立ち止まってるのは気持ちを落ち着かせるために深呼吸してるからですね。ちょっとのタイムロスを犠牲に気を取り直し、やはりお手洗いに向かいます。

 

 女子トイレにつきました。水音が聞こえるので誰かいるみたいですね。

 ふらふらな足取りでエントリーしましょ。お、開いてんじゃーん!

 

「~♪」

 

 洗面台で手を洗ってるのはチョーカーさんこと貴依ちゃんみたいですね。ちゃんと救出されてたみたいで安心しました。彼女がいなかったらコントローラー砕いてました。

 

「……?」

 

 ふと顔を上げた貴依ちゃんと鏡越しに目が合いました。咥えていたハンカチがぽとりと落ちて──

 

「うわあああああっ!!?」

 

 おおああわああ!!?!?!?!?

 ななな、なに!? なぜいきなり叫ぶ!? ワイファッ〇ンガール!!

 ガッと優衣ちゃんへ向き直って、逃れるように洗面台へ体を寄せる貴依ちゃん、錯乱しているようでこっちを視認してもあわあわ言って震えてます。んーまあ初対面ですし、優衣ちゃん今顔青いですから幽霊にでも見えちゃったんですかね?

 

「……」

 

 話しかけてみようとしましたが、優衣ちゃんだって限界ギリギリなのでかすかな吐息しか出ませんでした。

 なんでとっとと個室へ駆け込みましょう。……なんかドタドタ聞こえますね?

 

「無事か! っ!」

 

 うおっと、くるみちゃんが扉を蹴破る勢いで入り込んできました。それでもってそのままの勢いで飛び掛かってきて──わー、優衣ちゃんが押し倒されちゃいました。喉元にスコップの先端を突きつけられてます。なにこれ?

 

「ふーっ、ふーっ」

「……あっ、ちょ、ちょっと待って恵飛須沢……その子って……」

 

 ちょっと暴れる素振りを見せた優衣ちゃんを強く押さえ込むくるみちゃんに、チョーカーさんが待ったをかけてくれました。一度そっちを見上げたくるみちゃんは、優衣ちゃんの顔色を窺うと、のっそり退いて「……すまん」と一言。

 ガリガリ頭を掻いてるところをみるに、かなり心に余裕がないみたいです。しょうがない、許してあげるとしましょう。こっちも切羽詰まってますしね。

 手をついて立ち上がり──あっぶぇ! えっ、今くるみちゃんにスニークキルのマーク出てなかった!? 優衣ちゃん怒り心頭事件? 反射でボタンを押さなくて良かった……。

 

「てっきりまたここまで「奴ら」が来たんじゃないかと思ったんだ」

「ごめん、あたしの勘違いだ……えーと、千翼さん? にびっくりして思わず……っと」

 

 未だ水が流れていた蛇口を閉めたチョーカーさんは、くるみちゃんと並ぶと優衣ちゃんに向き直り、自己紹介をしてきました。無難にお返事しときましょ。くるみちゃんもちゃすちゃす!

 それじゃ私はダム系の仕事があるのでこれで……。

 

「あ、一ついい?」

 

 くるみちゃんに呼び止められました。うがー! もじもじしてる優衣ちゃんが目に入らんのか!

 もしかして……いじめでしょうか……? 無視はできないので対応しますけども。

 

「めぐねえは……」

 

 保健室ですやすや寝てますよ。今頃椅子から転げ落ちてるんじゃないですかね。

 

「そっか……なら、いいんだけど」

 

 そ? じゃあトイレ入りますけど……あの、じーっと見られてると優衣ちゃん恥ずかしいと思うんですけどね。

 ほらほら散った散った!

 

 

 

 ふぅ。

 全てを解放し清々しい気分で女子トイレを後にした優衣ちゃんは、それを感じさせない薄暗い顔でとろとろと歩き始めました。待っててくれたらしいくるみちゃんとチョーカーさんと一緒にみんなの所へ向かいます。

 生徒会室の札を確認! 「学園生活部」の張り紙、ヨシ!

 賑やかで明るい声が聞こえてくる室内へおらっと入り込みましょ!

 

「それでね、たかえちゃんがばっこーん! ってして!」

「うわ、由紀またその話してんの?」

「あ、たかえちゃん!」

 

 おっと。ゆきちゃんホーミング弾がびゅーんと飛んできてチョーカーさんに直撃しました。

 直前まで子供連中と話してたみたいですね。さすが由紀、仲良くなるのが早い! るーちゃんのすぐ傍にはりーさんが座っており、穏やかに微笑んでます。聖母かな。

 

「じゃ、あたしめぐねえ呼んでくるから、その間仲良くやっててくれ」

「あ、うん」

「はぁーい!」

 

 すぐに外へ出て行くくるみちゃんを見送っていると、「ねぇねぇ!」と由紀ちゃんが元気良く話しかけてきました。興味深々みたいですね。目がしいたけになってます。

 

「あなたが千翼優衣さん? えっと、三年生なんだよね? わたしと一緒! あ、わたし丈槍由紀! こっちはたかえちゃん! あそこに座ってるのがりーさん!」

「こら由紀、雑に紹介するんじゃない」

 

 最初からニックネームで紹介する由紀ちゃん、チョーカーさんにチョップを食らって撃沈しました。今のでも自己紹介を終えた判定にはなりますが、警戒度を下げるのと好感度を上げるために一人一人に話しかけて回りましょう。みなさんもうおわかりでしょうが……そう、挨拶大事!

 まずはチョーカーさんね。

 ちゃす! チョーカーさん! ちゃす!

 

「お、おう。ああ、貴依……柚村貴依ね。あんたのことは……千翼でいっか。病み上がりなんだし椅子に座って休んでた方が良いんじゃない?」

 

 ご忠告ありがとう。どうでもいいね♂

 チョーカーさんの反応は可もなく不可もなく。次行きましょう。

 

 ちゃす! りーさん! ちゃす!

 

「久し振りね、千翼さん。……いえ、久し振りって程ではないわね。でも、もうずいぶんと顔を合わせてなかった気がするわ」

 

 立ち上がったりーさんは、寄ってきたるーちゃんの肩を抱きながら目を細めて笑いました。で、でかーい! 見上げてるのもあってなおさら!

 るーちゃんの頭を撫でたりーさんは、慄く優衣ちゃんに一歩近づくと、腰を折って目の高さを合わせてきました。保母さん?

 

「お礼がしたいの。千翼優衣さん……妹を助けてくれて、ありがとうございました」

「……」

 

 姉妹揃ってお辞儀をするのに、優衣ちゃんは困り顔。私はにっこり。妹を助けていた事で警戒度は低く友好度が高い状態でりーさんとの関係が開始されましたね。

 

「本当にありがとう。私にできることならなんでもするわ。なんでも言ってね」

「……」

 

 ん? 今なんでもするって言ったよね(古典)。

 じゃありーさんにはみんなとの仲をとりなしてもらいたいですね。優衣ちゃんコミュ障なので助けがないと集団生活なんてできません。それと……いや、こっちはいいですね。りーさんかなり顔色がいいし、必要ないかな。

 

「それから、これ」

 

 りーさんがアイテムをくれました。「がば飲みクリームソーダ」ですね! こいつはいいもんだ……!

 学園生活部では、こういう風に部員がアイテムをくれる事があります。好感度が高ければ高いほど良いものをくれるので、最高難易度では重宝しますね。

 しかし「がば飲みクリームソーダ」は校内の自販機にはラインアップされてないはずなんですけど……どこから持って来たんでしょうかね~不思議ですね~。

 

 ちょこちょこ寄ってきて手を握り揺さぶってくるるーちゃんへの対処に困りつつ、星夜ちゃんにも挨拶しておきましょう。

 

 ちゃす! せーちゃん! ちゃす!

 

「………………」

 

 うお、高速手話! シュパパパパパと印でも組むように手を動かすせーちゃん、何やら怒っているみたいですね。なに? なんでそんな怒ってるの? 牛乳飲んでないから?

 よくわかんないのでガムあげときましょう。

 

「…………」

 

 サッと受け取って両手で口を押さえるように含んだ彼女は、ごそごそと虚空を漁ると何かを手渡して来ました。武器ですね。これは……私のサバイバルナイフじゃ~~ん!

 そういえばせーちゃんに盗られてたんでしたね。それを咎めないから不思議に思ってたのかな? でもいいよ(おおらか)。結果的に何日も速く学校に来れましたし。

 

 話が終わると、じーっとこちらを見ながら離れて行ったせーちゃんは、りーさんの腕に引っ付いてるるーちゃんと遊ぶのかと思いきやその反対側からりーさんに引っ付きました。両手にロリかぁ……。正面から由紀ちゃん、背後から優衣ちゃんが挟めば包囲網ができますね。

 

「それでね、それでね、りーさんもどわーって!」

 

 大きな身振り手振りの由紀ちゃんの下へ向かい、会話相手のみーくんとけーちゃんにおはようの挨拶をします。

 ちゃす! みーくん! ちゃす!

 ちゃす! けーちゃん! ちゃす!

 

「先輩……その、結構元気そうですね」

「もー美紀、そうじゃないでしょ? 素直に心配してましたって言おうよ」

「う……。その、先輩。無事で何よりです」

 

 うんうん。二人も元気そうで良かった良かった。

 ところで三人はなんの話をしてたんですかね?

 

「うん! この間の雨の日にね、たかえちゃんとりーさんが大活躍で~」

「……」

「わたしもね! ほうきとちりとりでえいやーって!」

「……」

「二人もすっごかったんだけど、くるみちゃんもね、ズバババーッてね!」

「……」

 

 アッ長い! 話が長いよ由紀ちゃん~!

 ガンガン時間が過ぎていくのを感じます。こくこく頷く優衣ちゃんは相性が良いのか由紀ちゃんから離れる素振りを見せず……話が終わったのは、くるみちゃんとめぐねえが戻ってきた頃でした。

 さっそく二人にも挨拶しておきましょう。ちゃすちゃす~!

 

「っ、っ、ああ、良かった……! 優衣ちゃん、ここにいたのね」

「……。ほら、言った通りだろ? わりと元気そうだって」

 

 まあ、そうですね。一回眠ればたいていの状態異常は治りますし。

 睡眠を疎かにしているとそうでもないですが、さすがに3日も寝れば大抵のことはどうにかなります。

 今優衣ちゃんに付与されてるのは寝てどうにかなるものじゃないんですけどね。

 

「「先生」達は、これからもう一度あのモールに行ってきます」

 

 ん? なんで?

 

「物資の調達ができなかったからよ。このままじゃ、今日食べるものもないの」

 

 お、そんなことか~。それなら地下シェルターにたんまり食料があるから大丈夫!

 

「そういう事だから……「先生」は行くわね。……そうね、柚村さん、手伝ってもらえる?」

「ん……。……わかったよ、佐倉先生」

 

 あれ? あれあれあれ? あの、地下……。

 いや、優衣ちゃんは地下の事知らないので伝えられないのはわかってますけど、でもめぐねえ、あなた緊急避難マニュアル読んだでしょ?

 学校外スタートの場合、彼女は確定で読んでいるはずなのですが……。

 

 というか、どうしてそこでチョーカーさんを連れて行こうとしてるんですか? こういう場合必ずくるみちゃんが選ばれるのに。……やや精神面が危ういからか? たしかに何か異常があるキャラは遠征や見回りには出ませんけども……くるみちゃんに限って異常なんてあるわけないしなー。

 

 行かないでくれよなー頼むよー。いけっ優衣ちゃん! めぐねえに縋りつけ!

 あーみるみる精神値が回復していく……。あっ剥がされた! うそー!?

 

「……。少しでも雨が降ってきたら戻ります。……優衣ちゃん」

 

 屈んで優衣ちゃんの頭を撫でためぐねえは、少し白い顔ながらも優しい笑みを浮かべると──優衣ちゃんの前髪を上げて額に口づけをする動作を挟んで立ち上がりました。ん、めぐねえの好感度は良い感じですね。個別エンドに入れるレベルなのが確認できました。まだ最大ではないのでもう少し積極的になっていきましょう。

 あ、そうだそうだ、めぐねえこれあげる!

 

「──あら、ありがとう、ちひ……優衣ちゃん。嬉しいわ」

 

 さっそく「がば飲みクリームソーダ」が役に立ちました。屈託のない笑顔と光のエフェクトは好感度が最大に達した証! 信頼イベントでの贈り物はなんでしょ。……あー、別のイベントが挟まってるせいか起こりませんね。後のお楽しみだ。大抵胸のクロスをくれますが、優衣ちゃんはすでに同装備をしてるっぽいので、次点であれかな。

 

「……」

 

 伏せがちな目で優衣ちゃんを見下ろすめぐねえが意味深ですねぇ。なんでそんなに見られているのか……なーんでほっぺた触るんですかねぇ。こんなにスキンシップ激しかったかな……まま、めぐねえなら接触恐怖症持ちの優衣ちゃんでも問題なんか何もないのでオッケーですが。必要な会話をしつつ精神値も回復しタイム短縮に努める……完璧なムーヴですねクォレハ……。

 

 めぐねえのたおやかな指先が優衣ちゃんのくちびるをくすぐり、離れて行くのを見届けて……結局止める事叶わず二人は遠征に出てしまいました。

 ですがこれは逆を言えば、せっかく上げためぐねえの好感度及び現状下げたくないチョーカーさんの好感度を保ちつつ薬を得るために地下シェルターへ行き、これ以上の遠征を阻止する食料の確保も行えますね。……こいついつも逆を言ってるな!

 

「ふーん……」

 

 トン、トン。

 スコップを担いで肩叩きしながら扉を眺めているくるみちゃんに注意しつつ、えー、そうだな……もうせーちゃんで火傷したくないし、るーちゃん噛ませたらりーさん死ぬし、りーさんに触れたら爆死するし……みーくんかけーちゃんかな。けーちゃんにしましょ。彼女も好感度最大で、下がりにくいですし最適ですね。

 行動は迅速に。さっそく外へ連れ出しましょう。

 

「……」

「え、お手洗い? うん、いいよ」

 

 連れ出す理由はなんでもいいです。今回は連れションを名目にしました。

 問題は、1階まで制圧されてるので簡単に「彼ら」の群れに出会えないことですね。

 といっても2・3体いればそれで十分なんですけども。あんまり数がいて殺されてしまっては元も子もありませんしね。

 

 隣の校舎に繋がる渡り廊下か、ロッカー内に確率で潜んでいる「彼ら」を集めて回るか……。

 ロッカー内の「彼ら」は制圧後には出現しないんじゃないかって? 学校スタートで順当にチャプターを進めて行けばそうですが、学校外の場合、勝手に1階まで進められる関係か残ってる事が多いんです。

 

 それじゃあ出発しましょう!

 

 部室の外へ出ました。あれ、けーちゃんいませんね……よくあるバグ、というか読み込みのあれですね。少し歩いてると駆け足で合流してくるので気にせず行きましょう。

 2階の渡り廊下が狙い目です。ダッシュダッシュダッシュ!

 

 といったところで本日はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 その雨の日は、最悪だった。

 

 

「あたし! あたしだ!」

「……! い、今開けるわっ!」

 

 生活部のドアを叩けば、りーさんの慌てた声が聞こえてくる。

 躊躇うような動きで扉が開けば──強い眼差しとぶつかった。

 

 

 

 

 始まりは、由紀の何気ない一言だった。

 「彼ら」(みんな)も雨宿りしたいのかなあ、なんて暢気な言葉に、由紀はいつでも抜けてんなーなんて思って……抜けてるのはあたしの方だったってのに。

 

 間もなくして校舎が騒がしくなって、慌てて1階まで駆け下りてったんだ。そうしたら、玄関に打ち付けておいた板を突破したのか、「奴ら」がバリケードに取りついてて……テンパって仕方なかったけど、由紀が掃除用具入れから取り出した箒で果敢にも突き始めたのを見てあたしも続いた。りーさんもだ。

 誰がどうとか、何をするとか、決めてる余裕も考える余裕もなかった。ただただ必死に「奴ら」を外へ追い出そうとして──無理だった。

 

 バリケードが壊された。つい昨日、みんなで組み上げたばかりの椅子と机が降り注ぐのを呆然と見ていれば、由紀に手を引かれて駆け出す。

 ……ああ、なんだよ由紀。いつの間に、結構強引になったじゃん……。

 

 自らの頬を張る。2階のバリケードの防衛だ。「奴ら」を通すな!

 ここはあたし達の居場所だ。ここ以外に生きていける場所はない。

 先生が……! めぐねえが必死になって作ったこの場所を、壊させる訳にはいかない。

 

 そう奮起しても、現実はどうしようもない。

 奮闘してはいるが非力な由紀と、ぎこちない動きのりーさん。

 あたしだって別にこういうのが得意な訳じゃない。でもやらなくちゃ、やられんのはあたしらだ。

 

 そう思って一心不乱に突いているうち、バリケードが軋み初めて、「奴ら」が雪崩れ込んでくんのも時間の問題になって。

 だから、二人には先に3階に上がってもらうことにした。ここに残って死ぬまで戦おうってんじゃない。ただ殿を務めるって、そう言いたかった。恵飛須沢のように、気合い入れて薙ぎ払ってやるってそればっかり頭にあって──りーさんの表情を見てなかった。

 

 バリケードの倒壊に合わせて全力ダッシュで3階に移って、ここを通られちゃやばい、気合い入れろと吼える。

 正直体中張り詰めすぎて、筋肉が裂けてしまうんじゃないかと思うくらいガタガタだったけど……それよりも、追い詰められてる焦りが凄くて、ああ、そうか。だからあの時、死の恐怖なんてものは感じなかったんだ。

 

 汗濡れになって箒の柄で突く。拾ったものを投げつける。

 偶然「奴ら」の一匹が消火器に足を引っかけて転ぶと、ものすごい勢いで中身がぶちまけられて、その音に奴らが引き寄せられて。

 不意に、それ以外の音が耳に入った。雨音。違う、雨に混じって聞こえる……車の音!

 

 窓に寄って校庭を見れば、車が入ってくるのが見えた。間違いない、めぐねえ達だ!

 声を出せば「奴ら」の注意をひいてしまうから、大きく箒を振り回してピンチを伝える。と、車は止まるどころか急加速して玄関の方へ飛び込んでいった。

 

 足元に揺れを感じながらバリケードに向き直る。もうそろ消火器に飽きてる頃合いかと思ったけど、今ので体勢を崩してる奴も多かった。

 

 ……!

 

 逡巡する。

 このまま恵飛須沢達が来るのを待ちつつここを守るか……それとも。

 悩んだ時間は数秒もなくて、あたしはここを放棄して屋上へ向かう事に決めた。

 

 由紀とりーさんがどこにいるのかわからなくて少しまごついたものの、倒れてる掃除用具入れとこんなところにある「奴ら」の死骸から判断し、どうにか部室にいた二人と合流して、屋上へ向かって……そこの階段を、最終防衛ラインとした。

 バリケード越しでも恐ろしいのに、何も隔てないで「奴ら」とやり合うのはかなりの恐怖だったけど……心の底から湧き上がってくる、何かとてつもない力に助けられて、あたしたちはこの戦いを乗り越えた。

 

「たかえちゃんっ、ヒーローだよ!!」

 

 最後は屋上に立て籠もって先生達の助けを待つのみになったけど……へたりこむあたしは、由紀から見ればそういうカンジだったらしい。

 

「いいえ、柚村さん。貴女は紛れもなくヒーローよ」

 

 驚くことに、りーさんまであたしをそう称した。……いつの間にか髪を縛って凛々しい顔つきになってるあんたの方が、あたしからしたらスーパーヒロインって感じだけど。

 

「ふぅーっ……」

 

 近づいてくる恵飛須沢の声を聞きながら、空を仰いで息を吐く。

 口に入り込んだ雨粒は、とてもあまかった。

 

 

 

 

「……ごめんなさい。これは、私の落ち度です」

 

 開口一番、めぐねえがそう言った。

 青褪めた顔で、かわいそうなくらいに震えながら。

 

 どういうことかと新しい仲間を見れば、申し訳なさそうな顔をして「校内は、絶対安全であると……先生に言わせてしまって……」と小声で教えてもらった。

 あー、それは……。

 

「ね、その子がちひろさん?」

 

 重苦しい空気を塗り替えるように明るく問いかける由紀が言っているのは、めぐねえが抱いている女の子のことだろう。

 ともあれ、あたしたちはなんとかめぐねえを慰めて、決してこの事態は先生が原因ではないとなだめて……。

 

「……ありがとう。生きててくれて……この子を寝かせてきます」

「ああ。後片付けはあたしらでやっとくから」

 

 無理に笑顔を浮かべるめぐねえは痛々しくて見てられない。誰も恨んじゃいないのに、先生っていうのも難儀なものだ。

 だからこそ、あたし達生徒が支えていかなければならない。……なんて。

 

 恵飛須沢と協力して校内の「掃除」をする。

 工具箱を引っ張り出してきて、真っ先に、その……広くなった玄関を封鎖し、改めてバリケードを築いていく。

 この作業には丸3日かかった。その間の食事はかなり質素なものだった。

 

「……私のせいね」

 

 またまた落ち込むめぐねえを慰めはしたけど、こればっかりは何も言えない。ショッピングモールへ向かう前日に由紀の提案に乗っかって、めぐねえがあえて備蓄を使い切ろうとしていたのはみんなわかっていたからだ。そうして、必ず外へ出る理由を作ろうとしていたのを知っていた……。

 

 でもま、満腹にはなれないけどさ、連日メシ抜きって訳でもないし、そもそもそんなの日頃からダイエットだなんだで慣れてるし、みんな生きてる訳だしさ。

 やっぱりめぐねえを責める気にはならなかった。

 

 問題は……千翼って子だ。あの小さい子。

 めぐねえは、あの子のためにここまで頑張ってきた。

 その子が目覚めない。それさえ自分のせいだと思ってるフシがある。

 

 ……いや、話を聞く限りでは、実際そうなのかもしれない。

 めぐねえは、あたし達にモールでの話をしてくれた。何をしたのか、それでどうなったのか。

 ……仕方ないと思えるのは当事者じゃないからか。

 そんな事よりも、千翼の事が気になってしまうのは薄情かな。

 

 めぐねえが憔悴してるのは心配だけど……千翼についてはもっと心配というか……不安、なんだ。

 何度もめぐねえを「おかあさん」と呼んで、そのたびに悲痛な表情をめぐねえはするのに、千翼は……。

 

 ……。

 

 それと、だ。「学園生活部」に入部した直樹が、あたしと恵飛須沢だけに伝えたことがある。

 

 

「佐倉先生に会った時、たしかに言ったんです、優衣先輩…………」

 

 ──食べたかった、って。

 

 ……。

 あたしは、険しい表情の恵飛須沢と顔を見合わせた。

 

 もしかしたら。

 もしかしたらだけど。

 

 千翼は……生きてちゃいけない奴なのかもしれない……。




TIPS
・生存者に対してのスニークキルの発生条件
基本的にはマークは表示されないが、敵対状態になると表示されるようになる
自己紹介を済ませていない相手から攻撃された場合や、仲間であっても著しく傷つけられた場合に発生するようになる
ほとんどの生存者は「彼ら」より耐久力が低く、ほぼ確実に息の根を止められるだろう
恵飛須沢胡桃は「スニークキル」に3回耐える

・トイレでのスニークキルに成功していたら
警戒を解こうとした胡桃の不意をつき、胸倉を掴んで引き込んだ優衣の頭突きが炸裂し
怯んだ胡桃の腹に膝を叩き込み、その手からスコップを絡めとって振り回し、横っ面を叩いて転ばせるまでいく
貴依が止めてくれるが、止めてくれなくても反撃されて中断させられる
警戒度は高く、友好度は低い状態での進行になっただろう


精神値
・千翼優衣
44/90

・丈槍由紀
82/100

・恵飛須沢胡桃
48/120

・若狭悠里
80/80

・直樹美紀
83/100

・柚村貴依
72/130

・祠堂圭
100/100

・若狭瑠璃
98/100

・月日星夜
98/100

・佐倉慈
18/110


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8感染~裸の付き合い


中途半端はしたくないので初投稿です。



 

 

 

──優衣

 

 

安心して。あなたは、翔べるから。

 

あなたが優しさを忘れない限り……千の翼が、あなたをどこまでだって連れて行く。

 

だからね、優衣。

 

忘れないで。

 

約束よ

 

優衣──

 

 

 

 

 

 優衣は純真だが走者は邪悪なRTAの続き、はじまるよ!

 前回は圭を誘き出したところまで。今回は圭を感染させに行きます。

 残念だけどこれRTAなのよね。慈悲はないのだ。

 

「ゆいせんぱーい! 置いてかないでー!」

 

 第一のバリケードを登っているところでけーちゃんが合流してきました。

 おぱんつを見られてしまわないうちにとっとと下りましょう。

 

「よっ、と……わわ」

 

 足を滑らせて落っこちてくるけーちゃん、受け止められそうな位置なので受け止めてあげますかねー。

 べちゃ! 潰されました。優衣ちゃんには無理だったよ。

 

「あー! ごめーん! ……そんなに重いかな、私……」

 

 重い(無慈悲)。早くどいてくれないと優衣ちゃんがお煎餅になってしまいます。

 のそのそ退いたけーちゃんが手を貸して立たせてくれましたのでお礼を言いましょう。精神値削ってくれてどうもありがとう! 解いた手を胸に抱いてやや嫌そうにしている優衣ちゃんの表情もまるで気にせず笑いかけてくるけーちゃんのメンタル、どうなってるんですかね。強すぎる……。戦々恐々としながら進みましょう。

 

「ね、ね、ゆい先輩……トイレはこっちじゃないよ?」

 

 当初示した目標と関係のない行動をしているので仲間からガイドが入りますが、無視して進みます。

 大目標の"学園生活部に入ろう"も今は置いておき、小目標である"由紀に話しかけてみよう"も後回し。チャプター7以降は学園生活部に入ってしまうと遊びに次ぐ遊びで満喫させられてしまい大幅なタイムロスになってしまうのでタイミングを見計らっていきましょう。二回目の「あめのひ」の三日前辺りなら入部しても遊ぶ余裕がなくてグッドです。

 

 ただ、遊ぶだけで評価が得られるという機会を失ってしまうので信頼イベント等を起こしてちまちま評価を稼いでいきましょう。……そういう事ができる本ゲーム、実はSランクを狙うのは難しくないんじゃないか……? と察してしまったあなたには消えてもらう。じゃあなんスか。最高難易度でもないのに何度もSランク落としそうになってる私は雑魚ってことっスか。

 

「ゆい先輩……?」

 

 ガラリ。ガラリ。教室の扉を前方後方共に開け、少し歩いてはその繰り返し。

 中を覗く素振りをしつつ歩く優衣ちゃんに圭は困惑しているようですね。かなり不審な動きですが、警戒度は上がらない。そういう子だからね。

 

「……あのね、ゆい先輩。めぐねえは、お外に行ったんだよ……」

「……」

「…………ぅ」

 

 階段を降り、渡り廊下の方へ進んでいくと、だんだんけーちゃんが話しかけてこなくなりました。制圧済みの校舎は明るく穏やかですが、NPC任せの制圧の場合必ず他の校舎に彼らが残っているので、それを察してるのかもしれないですね。

 

「だ、だめだよ、ゆい先輩……もどろ?」

 

 渡り廊下につきました。特に封鎖もされていない扉を開き、向こうを覗きます。たまにすぐ傍の死角に「彼ら」がいて不意打ちを食らってしまうので……ヨシ、いないね。いやいなくちゃ困るんだけど。

 長い廊下は至って平和。半ばあたりに自販機と休憩のスペースがあるのですが、その辺に1~2体たむろしてるケースが多いのでそこまで行きましょう。

 

「……ほんとに……?」

 

 ほんとほんと。なんの話かしりませんけど。

 

「ゆい先輩……飲み物ほしいの? だったら、これあげるね」

 

 む、けーちゃんがアイテムをくれました。水ですね。水かあ……。

 必要なアイテムではありますが、もっと量が必要なので今これだけ貰ってもなーって感じです。

 ま、貰えるものはありがたく頂戴しましょう。センキューけーちゃん!

 

 自販機の発する微かな音に引き付けられているのか、すぐ傍に3体立っていて光に照らされてますね。

 ちゃんとけーちゃんがついて来てるのを確認して……と。それじゃわざと彼らに襲われて助けに入ってもらいましょ。

 

「ま、まずいよ……気付かれる前に離れなきゃ……」

 

 言いつつ、傍に落ちているペットボトルを拾うけーちゃんを置いて「彼ら」の下へ近づきます。ダッシュだと助けが間に合わないかもしれないから歩いて……あ、「無音歩行」のせいで反応してくれない。空き缶あるので蹴りましょ。

 気付かれました。背を向けて襲われましょう。いいよ! こいよ! 背中噛んで背中!

 

「先輩っ!!」

 

 悲鳴に近い声を発しながら優衣ちゃんを庇ったけーちゃんは、哀れ「彼ら」の餌食に……!

 ……なりませんね。ペットボトルを投げつけて怯ませた隙に避難させられました。手を引かれて強制退避の流れに……おいおいおい、これじゃここまで来た意味ないじゃん!

 

「っ」

「あっ、ゆいせんぱっ……く!」

 

 でも大丈夫! 接触を嫌がった優衣ちゃんが勝手に手を振り払ってくれました。圭もそのまま逃げずに優衣ちゃんを助けようと戻ってきてくれます。すると3体の「彼ら」に壁際に追い詰められる状況に持ち込めたので、あとは1回庇って貰って噛まれていただいて、すかさず3体とも処理してしまいましょ。

 

「ごめんっ、ごめんねゆい先輩! すぅー……」

 

 お? あれ、なんだそのきょど──

 

 

「たすけてぇ────っっ!!!」

 

 

 ……(鼓膜喪失)。

 ……(予備の鼓膜を装着)

 ……あっ(近づいてくるクソデカ足音を察知)

 

 

「無事か!!」

 

 

 あっ。

 あっ。

 

「くるみ先輩!」

「っ!」

 

 圭は 助けを 呼んだ!

 ゴリラが1体 現れた!

 

 もといくるみちゃんが来てしまいました。なんででしょうね~、どういうフラグ関係でしょうかねぇ~。

 えー、実のところ、ここら辺で「くるみちゃんに挨拶をしてない」ことに気付きました。

 トイレで彼女の名乗りは聞きましたが、こっちからは名乗ってません。だって名前呼ばれてたんだもん……知ってるなら済ませてるんだって思ったんだもん……。

 

 顔見せは済ませているものの、一切好感度は稼いでないのでおそらく初期値、そこにトイレでの不審な行動(したつもりはありませんけど)で警戒度が上がった状態なので……こういう結果になってしまったみたいですね。

 

 彼女にかかれば3体程度の「彼ら」なんて優衣ちゃんの手を捻るくらい簡単にやっつけられてしまいます。

 つまりはですね、わたくしの考えた計画はなにもかもおしまいってことです。

 というわけで諦めてくるみちゃんの無双を楽しみましょう!

 

「はっ!」

 

 瞬く間に1体の首を断ったくるみちゃんは、組みかかってきた「彼ら」をシャベルで受け止めて拮抗しつつ……なんか優衣ちゃんにガン飛ばしてきたんですけど……やだこわい(目逸らし)。

 

「お前……せっかくめぐねえが──」

「違うの! ゆい先輩は、きっとめぐねえを探してて!」

 

 何やら言おうとしたくるみちゃんを遮って、体ごと優衣ちゃんを庇ってくれる圭ですが、私の頭の中はハテナマークで埋まりました。なんの話してるのかさっぱりだぁ。

 あれかな。教室を開けて回ってるのを人探ししてると判断されたのかな。AIの挙動はよくわかりません。そんなんでRTAやってけんの……? 実際なんとかなってるんだからいんじゃない?(てきとう)

 

「ちっ……話は後だ! まずはこいつらを……!」

「あっ……!」

 

 お、廊下の向こう側から増援が来ました。味方ではなく敵です。声に反応したっぽいですね。

 それでもって私達が来た方からも何体か来てます。これは開けてきた教室のロッカーとかに潜んでた奴が追って来たんですね。

 右にも左にも逃れられず壁際に追い詰められたままのけーちゃんと優衣ちゃんは揃って目をつぶって顔を伏せてます。「彼ら」がやられてくのを見るだけでも精神値が削られてしまうからですね。まあ優衣ちゃんはそうしてても圭と接触してるので微減してってるわけですが……。

 

「くそっ……どうしたもんかな……!」

 

 案の定3体を容易く片付けたくるみちゃんは、こちらを庇う形で左右を見回してます。左の方が近く右より1体多い事から先にそっちを対処することに決めたようで、素早くポジショニングして構えました。

 そんな彼女の背中にけーちゃんが話しかけます。

 

「くるみ先輩っ、ゆい先輩は私を食べようとか、そういうつもりじゃなかったと思うんです!」

「……」

 

 無視されてますね。最初に話は後だって言われてるから当然なのでしょうが、くるみちゃんの背中に無言の重圧を感じて仕方がないです。

 それはそれとして……目論見ばれてませんか……?

 いや、言い方からして優衣ちゃんが直接モグろうとしたと解釈されてるっぽいですね。……あー、くるみちゃんがすぐさま飛んできたのは……優衣ちゃんが部屋を出た時辺りになんらかの会話がなされたと考えるのが自然かな。良い内容ではなさそう。

 

 到達した「彼ら」と交戦し始めるくるみちゃんをやる事もないのでぼーっと眺めております。

 ……掴み攻撃が頻発してますね。そのせいで一息に片付けられずシャベルでの拮抗を繰り返してます。この筋力勝負でくるみちゃんが負けたの見た事ないなあ。

 

 と、そうこうしてるうちに右側の「彼ら」も到達間近みたいですね。妨害とかをしてないと案外早い。

 いや、でもちょっと待って。今けーちゃんに掴まれてて動けない……噛ませるには絶好の体勢ですけど、くるみちゃんが来た以上警戒度を上げる行為はNG! 彼女に睨まれたら生きていけないってことくらい普通に考えればわかりますよね? ね? 危険な場所に連れ出して噛まれたなんて事になったら……あわわわわ。

 

「っ!」

「なっぇ、せんぱ」

 

 そういう訳なので、ぐりぐり動いて位置取りを変えます。けーちゃんを壁際に押し付け、優衣ちゃんが「彼ら」に背を向ける形。ちょっと両腕使えないのでカウンターもできませんが、噛まれたって体力が削れるだけ。すでに感染してるのでなんの問題もないね。さあこい! 優衣ちゃんは噛まれたって泣かないぞ!

 

「ばっ……かやろ……っ!」

 

 「彼ら」と優衣ちゃんとの間に突如差し込まれたシャベルは、そのまま平で「彼ら」の顔を叩いて怯ませました。

 くるみちゃんのガードが入りましたね……ってことは、仲間判定ではあるんですね? はぇー……わからん。なんもわからん。

 腕を目いっぱい伸ばしてこちらの援護に入ったくるみちゃんは、無防備な体を「彼ら」に晒してしまっていますが、こんな程度危機ではないですね。風を伴って引き戻されたシャベルが勢いのまま二回振られ、4体の「彼ら」が死にました。二撃必殺! さっすが……!

 

「ゆい先輩っ!!」

 

 先程シャベルで怯まされた奴と入れ替わりで迫る2体にけーちゃんが再び位置取りを変えようとしてきましたが死ぬ気で押さえ込みます。お前が噛まれちゃ困るんだよ!! ……こいつ発言の一貫性がねえな? でも仕方ないんです、くるみちゃん怖いから!

 

()っ……!」

 

 あっ!

 今度もくるみちゃんのガードが入ってシャベルが差し込まれたものの、こちらへ向かう勢いもあったせいか必要以上に踏み込んでしまったらしく、柄ではなく腕を掴まれて噛まれましたね。

 

やった。 投稿者:変態新千翼 2020/1/27 3:45:26

なんで噛まれたか、明日までに考えてきてください。そうしたら何かが見えてくるはずです。

ほな、(ワクチンルート)いただきます。

 

 

「くっそぉ! 祠堂!」

 

 腕を振るって「彼ら」を振り払ったくるみちゃんは、噛まれた個所を手で押さえながら、それでもシャベルを取り落としたりはせずに力強く振るって2体を退けると、体ごと振り返って呼びかけてきました。

 

「千翼ォ! 逃げろォ!!」

 

 いやです。と拒否りたいところですが、足手纏いにしかならないので今のうちに離れましょう。

 しかし過度に離れる必要はないです。感染したくるみちゃんはその状態でも3体を一息にやっつけ、合流してくるので手を貸しつつ部室まで戻りましょう。

 

 たっだいまー!

 

「おかえりー! 大丈夫だっ……くるみちゃん!?」

 

 びゅーんと飛んできたホーミングゆきちゃんはくるみちゃんに抱き着くとすぐ異常に気付き、目を見開きました。白い制服に血が染みて、もたれかかる彼女を支えながら混乱してます。日常の崩壊の足音……聞こえない?

 

「え、えっ、くるみちゃ……?」

「くるみ! どうしたの!?」

「ごめん……まずった」

「そんな……じゃあ優衣先輩は本当に……」

「違うよ美紀! ゆい先輩じゃないの! 違うの!」

 

 なんかみんな集まってきてわちゃわちゃしておりますが、気にせず由紀を手伝ってくるみちゃんをソファへ移動させましょう。座っていたるーちゃんとせーちゃんが退いてくれたら寝かせて、毛布をかぶせて、と。

 部屋の端に寄せられている机まで移動し左側の机の中から手錠を取り出して戻り、由紀に手渡します。これでくるみちゃんを拘束してもらうのですが、この時絶対に自分でやってはいけません。警戒度はさほど変動しませんが友好度も好感度もガタ落ちします。

 

 誰かに渡して代わりにやってもらったところでこんな迅速な行動をしては結局不信感を募らせてしまうのですが、自分でやるよりは遥かにマシ。そういう訳だからお願いしますよ。

 

「そんな……できないよ……」

 

 む、ゆきちゃんに拒否されてしまいました。まだ全然会話とかしてないので好感度が足りてませんでしたね。

 ならば……子供達には無理でしょうし、りーさんに任せましょう。

 

「これでくるみを拘束しろと言うの……!? いやよ!」

 

 険しい表情で突っ返されました。おーん。

 でもりーさん、なんでも頼み事聞いてくれるんでしたよね?

 じゃあさ、やろ?

 

「っ……」

 

 優衣ちゃんのお願いにぐっと息を呑んだりーさんは、くるみちゃんと手元とに視線をやって逡巡しております。あく! あく! もっとタイムを気にしてタイム!

 

「……くるみ、ごめんね……!」

 

 目を伏せてソファへと向かいくるみちゃんの手足を椅子の足に繋いでくれました。シュバルゴ(pkmn)。シュバルゴってなんだよ(自問)。

 

「はあっ、はあっ、い、いいんだ、これで……は、なれとけ……っ、は、」

「くるみ!」

 

 酷い汗を掻いて苦しそうにしているくるみちゃんは、時間経過でやがて言葉を発さなくなり、肌に特徴的な黒い線や血管が浮き上がり始めると唸り声と共に暴れるようになります。そのうち優衣ちゃんもこうなるんですねー。確認した時には既に進行度が中度だったので猶予がどれ程かはわかりませんけど、咳をし始めたら要注意ですね。

 

 怯えて優衣ちゃんの下に集まってくるるーちゃんとせーちゃんの頭を撫で……ないね。そうね。受け止めてあげましょう。りーさんの方に集まらないのはくるみちゃんのすぐ傍だからか。

 

「大丈夫よ……恵飛須沢、さんは、大丈夫」

 

 不安にさせないよう優しい声で話しかけつつ(内容はなんでもいいです)二人をやんわりと剥がしてけーちゃんに押し付け、外へ向かいます。迅速にシェルターの薬を回収しちゃいましょう。くるみちゃんの症状は主人公が感染している時よりもよっぽどわかりやすく進行していくのですが、初期の状態で薬を打てばものの数時間で回復します。脅威の免疫力! なので超スピード!? で行動開始!!

 

「どこに行くつもりですか……先輩」

 

 げぇー! みーくん!?

 みーくんガードが発動したようです……そりゃね、今優衣ちゃんが外出る意味がわからないからね、止められるわね。

 まあまあみーくん、今から優衣ちゃんが薬取ってくるからさ、そこ通して! お願い! 一生のお願い!

 

「だめです」

 

 ああああ!!!!!!

 ……と、見せかけて?

 

「だめです」

 

 ああああ!!!!!!(天丼)

 だめみたいですね……。

 

 追い返されてしまったので、子供達に引っ付かれつつ棚まで向かってファイルの間か下の棚か上の私物入れに入ってる緊急避難マニュアルを読み、地下の情報を知りましょう。

 棚……無い。下の棚……ない。上……届かない。

 椅子を運んできて乗っかって、ジャンプして上へよじ登ってダンボールを漁ってマニュアルを入手。飛び降りて緊急回避でダメージを回避。かなり不審な動きをしてますが幸いみんなくるみちゃんに注目してるので問題ありません。

 

「……」

「……」

 

 るーちゃんとせーちゃんがガン見しておられるぞ。飴をしゃぶらせて差し上げろ。

 ガムしかないのでこれで許してください! オナシャス!

 

「……」

 

 受け取り拒否されました。今そういう気分じゃないってことですね。

 あー、せーちゃんの警戒度大丈夫かな……またサバイバルナイフ盗られそう。後でケアしとかなければ。頭の中のチャートに書き加えておきます。

 

 入手したマニュアルを読みます。本来人為的な災害である確信にがっつり精神値が削られ、信頼していた、またはすべき大人で教師のめぐねえが加担している可能性に追い打ちをかけられるのですが、優衣ちゃんはめぐねえを盲信してるのでノーダメージでした。

 

 ああいや、一応ショックは受けているみたいですけど、反応は軽いですね。前にもっと冒涜的な書物(がっこうぐらし!)を読んでますからね……耐性がついている。

 地下シェルターの情報を得ました。小目標が"確認に行ってみよう"、"マニュアルの存在を話す?"に変わりました。

 

 こっそりみーくんにだけ見せましょう。

 

「なっ……んですか、これ……!」

 

 動揺著しいみーくんは、今みんなにこれを見せるのは酷だと伝えれば情報を隠してくれるでしょう(願望)。

 なにも追い打ちをかける必要はあるまい。この存在を明かすのはあるかもしれない薬を回収しくるみちゃんを治療して、食料を運んできてからでも遅くないはず。私、何か間違ったこと言ってますか?

 

「……わかりました……でも、そこへは私もついていきます。優衣先輩にだけは行かせられません」

 

 いいよー。モールと違ってここには「彼ら」もいないし、邪魔にはなりませんからね。断わって嫌われるより全肯定して好かれましょう。

 一見ロスのような今のやりとり、しかしどの道ここか職員室で緊急避難マニュアルを読むのは変わらないのでロスではないです。……会話の分だけ時間が過ぎてるんでやっぱロスだね。

 

 

 

「……すみません、優衣先輩……私があんなことを伝えなければ……」

 

 廊下に出ると、みーくんが何事か言い始めましたがダッシュで切り抜けましょう。

 階段は緊急回避で短縮。段差にお腹打っても平気な顔してるの冷静に考えると化け物ですね。

 この調子で1階まで駆け下りましょう。へいへいみーくん遅れてるー!

 

「でも、このコミュニティに私達を受け入れてもらうには、隠し事はしない方が良いと思ったんです。優衣先輩が……その、人と触れ合うのを極端に嫌がること、それと……毎晩圭の枕元に座って……お腹が空いたと、繰り返していたこと……それが悪い方にいってしまって、優衣先輩への強い警戒を生む結果になってしまったんです。ごめんなさい! 私、焦ってて……短慮でした。こんなの……ただの言い訳にしかなりませんよね。病み上がりの先輩に負担をかけてしまいました。こんなことになってしまうなんて……。本当は、薬を探しに行くのだって私一人だけで行くって言いたかったんです。でも優衣先輩、それじゃ絶対納得しませんよね……だって優衣先輩は……! ……先輩は、不器用でも優しくて、いつだって私達のことを考えてくれて……理解できないような行動をしたって、決して危害は加えてこなかった! でも、本当はわかってたんです。私も、圭も。先輩は弱くて、臆病で、強がりで……どうしようもなく、優しいんだ、って。それに甘えてばかりだったから……今も、そうです。私達はもっと先輩のことを考えるべきだった。先輩の想いを理解しようと努力するべきだった。知らなかっただなんてなんの免罪符にもなりません。瑠璃ちゃんのこと……星夜ちゃんのこと……モールの中で出会ったって聞いた時、おかしいと思ったのに、何も聞かなかった……。聞けなかったんです……先輩の嘘を暴きたくなかった。でもそれじゃいけなかったんです。私達ばかりが先輩の事を信じてたって意味がない。優衣先輩に頼ってもらえるくらい、こんな、安全を保障された場所以外でも一緒に行動できるくらいの信頼関係を築けるよう努めるべきだったって、後悔してます。……正直に言うと、こうして心の中のことを余さず話してしまうのは怖いです。私達が……私の……醜さを知って……いやに、なりますよね。口では優衣先輩を肯定しているのに、ずっと恐れていたし、手を貸すこともなかった。でも……でも、それでも、言わせてください。私はっ、私も圭も、優衣先輩のことを信じてます! 私達にしょ、食欲を、感じているのは、察してます、でも! 優衣先輩は「彼ら」とは違う……! それを証明してみせます! きっとわかってもらえます。受け入れて貰えます。理解してくれます。優衣先輩は、生きてちゃいけない人なんかじゃない、って。だから……。……先輩。「学園生活部」は……みんなは、そういう人達だから。短い付き合いですけど、優衣先輩に負けないくらい、みんな良い人達ですから。……そんなの、先輩が一番良くわかってますよね。だって先輩は、佐倉先生……めぐねえの事が好き、なんですもんね。あの部屋に閉じこもって何もかもを先輩任せにしていた頃には、そんなことさえ知らなかった。先輩の、その……おか……いえ、……なんでもありません。いえ、やっぱりなんでもなくないです。先輩……優衣先輩、めぐねえはめぐねえです! 先輩のお母さんじゃ──」

「……お腹、空いた……」

 

 優衣ちゃん、空気、読もう!

 今みーくんが何か良いこと言ってるっぽいんだから聞いてあげよう?

 あ、シェルターについたんでみーくんさ、これ上げるの手伝ってね。

 

「むっ……先輩、私の話聞いてましたか?」

 

 言葉通りむっとした表情で、それでもすぐさまシェルターへ続くシャッターを上げにかかってくれるみーくん、優しい。

 ちなみに今の台詞は話を聞いてない時に出てくる共通セリフです。聞いてた、と答えると好感度のダウンを防げるので軽率に頷いていきましょう。うんうん聞いてた聞いてた。やっぱクリームソーダは最高なんやな……ね!

 

「もういいです!」

 

 ぷんっとそっぽを向いてしまったみーくんの愛らしい顔はシャッターを上げるシーンに上書きされてしまいました。残念。

 じゃあみーくん、後ろについてきて。退路の確保ね。

 

「? はい、わかりました」

 

 優衣ちゃんにはサバイバルナイフを装備させて、と。

 階段を下りていくと、残り3段ほどから浸水した状態になっていて、非常灯の明かりが微かに水面を照らしています。

 もう何度も来た所なので敵の配置もマップも頭に入ってるのですが、仲間がいると勝手に電気をつけてくれるので任せて進みましょう。

 

 通常プレイでは大体ここにめぐねえが出現するのですが、めぐねえを死なせないでいると代わりのように1体身元不明の「彼ら」が配置されてます。ので、サクッと倒しましょう。

 普通ならしゃがみ移動しても水音で反応されてしまいますが、使いこなせてきた優衣ちゃんの「無音歩行」なら地形の影響を受けずに静かに歩いて行けます。

 ほとんどの場合背を見せて立っている「彼ら」にスニキルを叩き込んでやりましょう。

 

 膝裏を蹴り、屈したところで首へナイフを突き立て、一緒に倒れ込むその衝撃で根元まで突き刺し、立ち上がり様に足で押さえて引き抜くモーション。安定のナイフを眺め回す冷たい瞳にぞくぞくするね。

 

「先輩、気持ち悪いです……」

 

 サイコパスモーションを「気持ち悪い」の一言で済ませるのか……(ドン引き)。

 好感度が高いとみんななんでもかんでも肯定的に受け取ってくれるので楽でいいですね。

 優衣ちゃんは心無い言葉に涙目になってますけどね。ほんとにメンタル弱いなあ……精神に振ったポイント、どこにいった?

 

「あっちがっ! そ、そういう意味じゃなくてっ!」

 

 え、急にどうしたみーくん。

 

「すみません……」

 

 謝られてもよくわからないのですが……てきとうに頷いておきましょう。

 いいよいいよ、気にしないよ。

 なんでか沈んでるみーくんを連れて先を急ぎましょ。急げ急げ! くるみちゃんを助けるんだ!

 なおくるみちゃんが噛まれた原因は100%優衣ちゃんな模様。

 

「これ……凄い、全部……?」

 

 浸水ゾーンを抜ければ、左右に棚の並ぶ場所に出られます。ほとんど鍵がかかってますが、貴重な食糧を大量に獲得できるうえ、奥の机の傍に置いてあるケースには二本の薬が収められていますので入手しましょう。

 

「あった! 薬……っ先輩、やりましたね! はやく恵飛須沢先輩を助けに戻りましょう!」

 

 忘れず一本を自分に使います。大喜びしているみーくんからかっぱらってすぐさま使用しよう(激うまギャグ)。

 

「は……?」

 

 本来これは薬ではなく栄養剤なのですが、本ゲームではきっちりウィルスの抑制として働いてくれますのでご安心を。本来の特効薬の役割を果たす屋上の浄化槽を通した水には疲労回復とかの効果がありますが、残念ながらそれ以外には使えません。使えればこんな地下くんだりまで来なくて済むのに。

 

 ちなみに奥の扉はクリアフラグを立ててないと何をしようとも開きません。

 フラグ上書きバグとかも特に意味はないです。そこにフラグとか無いしね。

 

「まさか先輩、噛まれて……?」

 

 食料の回収もしたいですが、割とくるみちゃんの症状進行はシビアなので涙を呑んで戻ります。

 みーくんがふらついてる気がしますが、優衣ちゃんだと手を引いて直接引っ張っていくこともできないのでどっか行かないことを祈りつつ部室に戻ってまいりました。

 

「千翼さん……!」

「薬! 取ってきました!」

「! ほ、ほんとっ!?」

 

 ……、よしっ、まだくるみちゃん暴れ出してません。

 近づいて覗き込んでみると、だいぶん苦しそうにしてますし黒い線が走ってますが、正気を失ってはいないようですね。ではお注射の時間だ。りーさん頼んだ!

 

「ええ、まかせて!」

 

 くるみちゃんの腕を取り、注射器をあてがうりーさん。

 この作業はもちろん優衣ちゃんにもできますが、精神値を考慮して人任せに。

 ほどなくして強張っていたくるみちゃんの体から力が抜け、穏やかな呼吸に変わりました。

 

 ふぅーい。とりあえずは終わりですね。優衣ちゃんも回復できたし、くるみちゃんも感染からの復活でさらに覚醒しますし、結果的には良い事づくめだったんじゃないでしょうか。

 

「これで……大丈夫、なんだよね……くるみちゃん、大丈夫なんだよね……?」

 

 ソファに縋って呟くゆきちゃんに肯定を返してあげましょう。

 へーきへーき、へーきだから!

 

「……うん」

 

 弱々しい頷き方にぐっときますね。

 あ、そうだ。ゆきちゃん、風船飛ばしてお手紙出したりしました?

 

「……ね、それ、今しなくちゃいけない話なのかな……?」

 

 怒られました。タイミングがまずかったですかね。また後で改めて聞くとしましょう。

 こちらに向けていた目をくるみちゃんに戻し、それから立ち上がったゆきちゃんが机の方へ向かっていくのを横目に外へ出ましょう。今度は食料の回収に行きます。

 同行しようとする人間はいませんでしたね。どっちでもいいね。

 

 倍速しつつ今後やるべき事を考えていきます。

 まずは先程の「おてがみ」イベをこなしているかどうか。これ如何で14日目にヘリが来るか来ないかが決まります。

 NPC任せの進行の場合、大体はやってくれてるんですけど、稀に何故か起きておらず「彼ら」ラッシュ中にヘリが墜落せず長時間の耐久戦を強いられる事があります。タイム的にも難易度的にもやってられないので必ず確認しましょう。

 手紙さえ飛ばせば日数に限らず最終日に墜落しに来てくれるので少し遅れてても安心ですね。

 

 さ、持てるだけの食料を持って部屋に戻ってまいりました。

 

「……お」

 

 するとすでにくるみちゃんが目覚めているので、話しかけに行きましょう。

 

「そっか……お前と直樹が……ありがとう。おかげでこの通りだよ」

 

 どういたしまして。そうなった原因優衣ちゃんですけどね。これがマッチポンプか……。

 

「でも、どうしてそんなものがあるってわかったんだ?」

 

 一転、鋭い視線を突き刺してくるくるみちゃんですが、ふっふっふ……言い訳はですね。

 なんも考えてなかった。

 

「くるみ。まだ完全に治ったかもわからないんだから、ほら、横になって……もう少し休んでなさい」

「お、おう……ごめんなりーさん。心配かけて」

「いいのよ。後輩を庇った結果なんでしょう? ……ほんとうに、間に合って良かった……」

「りーさん……ゆきも、ごめんな」

 

 ぎゅーっとくっついているゆきちゃんの頭を撫でるくるみちゃん。なんて心温まる光景なんだ……!

 話が逸れたのもあって私も一安心。りーさんに話しかけて食料を渡しちゃいましょう。優衣ちゃんが持っててもなんの意味も無いですしね。

 

「食料まで? ……ありがとう。力がつくものを作るわね」

 

 よろしくたのまー!

 ……ふぅん。りーさん……目は閉じっぱなしだし、顔色良いし、精神値めちゃくちゃ高い? るーちゃん効果だけでなくせーちゃん効果もありそう。とても珍しい状態ですね。

 でもなあ、りーさんって消耗しやすい上にわかりにくいしなあ。やっぱ一回削り切っちゃった方がいいかなあ。

 

「……」

「……」

「ゆい先輩、また一人で外に行ったの? 言ってくれればいつでもついていくよ?」

「先輩、薬があって良かったですね。……この調子で誤解も解ければ良いのですが……」

「まだこの学校に食べられるものがあったなんて……なんだかめぐねえ達に悪い気もするわね」

「ゆいちゃん! くるみちゃんを助けてくれてありがとう……!」

 

 考えごとついでにみんなに話しかけて警戒度を下げておきます。結構反応が好意的ですね。

 

「すっげえ汗掻いてるし……すっげえシャワー浴びたい……」

 

 ぼーっと天井を見上げながら呟くくるみちゃんは、ふと傍らに立つ優衣ちゃんを見ると、「よしっ」と体を起こしました。

 

「ちょっとくるみ、まだ寝てなくちゃだめよ」

「……!」

「そ! るーちゃん、しっかり押さえててね! ゆきちゃん、くるみが逃げ出さないようしっかり見張ってて」

「はーい」

「あたしは動物園の猿か何かか……わかったよ、もう」

 

 るーちゃんに乗っかられて封じられるくるみちゃん。さしもの彼女も子供には敵わない、と。

 

「なあ千翼。後でシャワーでも浴びながら話でもしようか」

「……?」

 

 ん? あー、シャワーイベですね。変なタイミングで起こるなあ。

 学校スタートかつ女子だと高頻度で起きる、いわゆる裸の付き合いな出来事ですね。

 熱いシャワーで汗と疲れを流しつつ心の内を語り合い、精神値を回復させるとともに友好度を高めるいいイベントです。上昇率はそんなでもないですが、発生頻度が高いのでかなり助かりますね。

 

 部室の中では「休む」が選択できるので腰を下ろして時間を進めましょう。

 りーさんの手料理を食べて完全に復活したくるみちゃんは、さっそく優衣ちゃんを誘ってきました。1も2も無く頷いてついていきましょう。

 

 パーテーションに区切られたシャワールームは、斜めからのアングルで仕切りと頭頂部しか見えないようになっているのですが、水着を所持していると普通に映してくれます。顔色を窺いながら会話を進められるこっちの方が楽ですね。

 

「なあ、千翼」

 

 湯が床を打つ音に混じって、くるみちゃんの問いかけ。

 

「どうして薬のある場所がわかったのか、とか……なんで祠堂を連れ出してあんな場所まで行ってたのかとかさ。……事情があるのかもしれないけど、今は聞かない」

 

 追求せずに許してくれるってことでしょうかね。

 それはなぜ?

 

「祠堂がお前を信じてる。めぐねえだって……お前の……千翼の、体質……って言うべきか」

 

 ざあざあと降り注ぐシャワーの中で、髪を撫でつける優衣ちゃん。

 

「めぐねえは体を張って、千翼が危険じゃないって教えてくれたんだ。やけに触られるなって思わなかったか?」

 

 あ、あれってそういう意味だったんですね。

 ってことは、みーくんかけーちゃん、優衣ちゃんの精神異常を伝えちゃったってことなんですね。

 それはまた調整が難しくなることを……でもなんとかなってるっぽいし、結果オーライなのかな。

 

「祠堂もめぐねえも千翼を信じた。だから、あたしも信じることにした。……それだけ!」

 

 きゅ、と湯を止め、話を切り上げるくるみちゃん。

 会話から察するに、今ので警戒度はがくっと下がり、友好度が上がった感じですかね?

 うん、シャワーイベ、おいしい!

 

「これから一緒にやっていこうってんだから、仲良くできればいいな」

 

 そっすね。あ、そうそう、自己紹介しときましょう。

 

「……うん。あたしのことはくるみでいいよ。あたしも優衣って呼ばせてもらうな」

「……ん」

 

 こちらからの名乗りも済ませましたし、なかなかいい流れなんじゃないかと思います。

 今日はもう寝てしまって、明日以降は水を貯め込みましょう。

 

 夕食はステーキです。ひゃっほう! 優衣ちゃんめっちゃ嫌そうな顔してる!!

 このタイミングでめぐねえ達が帰ってきました。豪華なメニューを見て驚いてますね。

 すかさずめぐねえに引っ付いて精神値の回復に努めましょう。めぐねえはなあ……私の回復スポットなんだよぉ!

 

「そう、そんなことが……私、また……」

「めぐねえは悪くないよ。わたしたちのためにご飯取りに行ってくれてたんだし!」

「でも、その食料も取りに行く必要なんか……」

 

 あーあーあー。めぐねえめっちゃ沈んでますね。明るい部室、明るい顔色のみんなに囲まれて彼女だけめちゃくちゃ暗い顔をしてます。……さては精神値、やばいな?

 でも大丈夫! 豪華な食事は部員の精神値を大幅に回復させてくれますし、たくさん話しかけてればなんとかなるでしょう。

 

 という訳で食事が終わればめぐねえに引っ付いて話しかけまくります!

 

「……」

 

 あれ? あれあれあれ?

 おーい、めぐねえ?

 

「……」

 

 ……無視ですかね?

 視線は向けてくれるものの、なんにも喋ってくれません。

 

「……優衣ちゃん、もう寝ましょう」

 

 あ、喋った。と思ったら強制就寝タイム!

 ナチュラルに一緒の布団に潜り込む優衣ちゃんが健気です。

 女子かつ彼女に目をかけられている生徒であり、精神値が低いとこうして安心できるよう慰めてくれるんですよね。

 

 ところで……きららチャンス、どこいっちゃったの……?

 あの、あれ……いやまあ発生しないケースも多々ありますけど……壊滅的打撃を受けた日の夜とか、人数が一人だけだとか、そういう場合は……。

 

 なぜ発生しないのかさっぱりわからず首を傾げながら、本日はここまで。ご視聴ありがとうございました!

 

 

 

 

 それは、逃げのようなものだったのかもしれない。

 目の前で母を亡くして、傷ついて、私を母と呼ぶようになった優衣ちゃんに、正面から向き合うことができずに……食料の調達を言い訳に逃げ出した。

 

 最低だ。

 彼女を受け止めてあげなくてどうするというのだろう。

 彼女の母を手にかけたのは、他ならない私なのに。

 

「めぐねえ」

 

 窓を叩く音にはっとして、慌てて外に出る。

 金属バットを片手に心配そうに私を見上げる柚村さんに笑いかけて、それから、ショッピングモールの半壊した入り口を見据えた。

 

「行きましょうか」

「気を付けて、な」

 

 足元で尻尾を振っていた太郎丸が先行して中へ入っていくのを追うように、私達二人も館内へと足を踏み入れた。

 

「……」

 

 薄暗く、泥や血が混ざりあったひどいにおいのする場所に、変わらず泉さんは倒れ伏していた。

 ……埋葬。そうだ、彼女を埋めてあげなくては。

 それが私にできるせめてもの償いであり、手向けになるだろう。

 

 けれど、それをするのは今じゃない。優先すべきは生きている人間……すなわち生徒達だ。

 まずは食料の調達をしなければ。

 

「この1階と地下が食品売り場だったと思う。直樹達がここで生活してたのなら、この階の食料品を持ってってただろうから……あるなら地下かな。缶詰とかも多かったと思うし」

「そうね。そっちを当たりましょう」

 

 ここにはよく来ていたという柚村さんの提案にのり、シャッターで閉ざされた地下への道を進む。

 モップを固く握りしめ、彼女に背中を任せて、やや開いているシャッターを上げると、生温い風が頬を撫でた。

 

「わん!」

 

 太郎丸が突撃していく。彼は、この臭いは平気なのだろうか。

 ……人よりも危機感に優れる犬が駆けていくなら、ある程度の安全が保障されていると考えるべきか。

 

 警戒を保ちつつ地下へと降りた私達は、少なくはあれど徘徊している「彼ら」の目を盗んで、缶詰をリュックに詰め込んでいった。

 

「……思ったより、ずっときついな、これは……」

「そうね……」

 

 ごく小さな声でのやりとりは、それだって「彼ら」に勘付かれる危険があったけれど……柚村さんは声を発さずにはいられなかったのだろう。

 食料を調達する、ただそれだけでも神経が摩耗しそうな緊張感。一つのミスが死につながるこの非日常に対する心構えなんて、いつまで経ってもできやしない。

 

「ここで過ごしてた5人……あの子らも……いや、そういえばこうやって調達に出てたのは千翼って子一人だったって言ってたな」

「……優衣ちゃん」

 

 直樹さんも、祠堂さんもそう話していたけれど……にわかには信じられない話だ。

 だって、あの子はとてもか弱くて……。

 

 首を振る。

 その認識が間違いだった、ということなのだろう。

 私は、優衣ちゃんのことを何もわかっていなかったんだ。

 

「そういやさ、なんか……遠慮してるよね。助けてもらったから、みたいな気持ちでいるみたいで、そうしなくちゃ受け入れてもらえないと思ってるみたいに。……こっちは最初から受け入れてるのにさ」

 

 それは……。

 直樹さんや祠堂さんが、話し辛いことでも何もかもを伝えてくれた、そのことを言っているのだろう。

 たしかに私も感じた。どこか彼女達と私達には隔たりがある。そうなるだけの理由がある。

 優衣ちゃんが……人を食べたがっている、なんて……。

 

 けれど、そうして優衣ちゃんの秘密を話してもまだ遠慮が見えるのは、それだけ優衣ちゃんの側に立っているという証。それを……素直に喜んでいいものか……。

 

「みんな、どうすればいいのかわからないのよ」

 

 ……だから、私が……教師である私が導いていかなければならないの。

 そう、私が……。

 

  そのためにも、まずはみんなにしっかり食べて貰おう。食事は"生きる"というそれそのものだ。

 今のみんなの目標は"生きる"ことになっている。美味しいものを食べれば、生活が充実すれば、危険が遠のけば、きっとそれも変わっていく。()みたいに普通の女の子として過ごせるようになるだろう。

 その環境を整えるのが私の使命だ。

 

「わんっ!」

「えっ?」

 

 私が決意を新たにしている、そんな時だった。太郎丸が駆け出して、遠く、半開きの扉の向こうへ消えて行ってしまったのは。

 

「もうっ、太郎丸、どういうつもりだ?」

 

 二人で後を追えば、あまり広くない個室に辿り着いた。そこには女性の遺体があった。

 ……正確には、「彼ら」化した女性の、だ。

 壁際のベッドに自身を縛り付け、誰も食べられないようになのかガムテープで何重にも口を塞いでいる。

 

 その傍らに太郎丸はいた。悲しそうに、寂しそうに縮こまっている。

 この人は、太郎丸の飼い主? それとも……。

 

 机の上に畳まれた紙があるのを見つけ、手に取って広げてみる。

 それは手記だった。……あるいは、遺書。

 

 突如起きた暴動への動揺。人を襲う人への恐怖。

 太郎丸との出会いと、生への渇望。

 

 この女性は最後まで生きるのを諦めず、人を信じて、そして……「彼ら」になってしまったらしい。

 

「めぐねえ?」

「目をつぶってて……柚村さん」

 

 モップを構える。

 これを読んだ私にできることは、安らかな眠りにつけるよう祈ることだけだ。

 

 息を吸う。

 吐く。

 

 振り上げたモップを一息に振り下ろせば、一人分の命が私の腕に伸し掛かった。

 この重みを、私は生涯忘れることはないだろう。

 

 

 

「わんっわんっわんっ!」

 

 帰り道。

 予定していた通りに泉さんを埋葬しようと考えていると、入り口近くに差し掛かったところで太郎丸が騒ぎ始めた。

 

「ちょっばか、静かにしてろって!」

 

 慌てて柚村さんが押さえ込もうとするものの、するりするりとすり抜けて吠えたてている。

 いったいどうしたのだろう……とても興奮しているみたいだけど。

 

「っ、めぐねえ!?」

 

 柚村さんの悲鳴染みた叫びに反応して身を翻す。

 モップを構え、いつでも振り下ろせるようにして視線を巡らせたが……想像していたような、すぐ傍まで「彼ら」が接近しているといったことはなかった。

 

「めぐねえ、あっち!」

「えっ?」

 

 背後を警戒する私とは裏腹に、柚村さんが指さすのは入り口の方だ。

 でも、そっちには「彼ら」はいなかった、は……ず……。

 

「……い、ずみ、さ」

 

 そんな、ばかな。

 彼女は確かに私が、この手で……。

 

『──』

 

 けれどたしかに泉さんは立ち上がっていた。

 人ではない動きで私たちに近づこうと、蠢いていた。

 

「わん! わんわんっ!!」

 

 太郎丸の吠える声がずっと遠くに聞こえる。

 掲げたままのモップを握る手の内側にじっとりと汗が滲んで、今にも取り落としそうで。

 ……どうして。

 

「めぐねえ!」

 

 びくっと肩が跳ねる。

 自分の腕に半ば塞がれた視界に「彼ら」が映り、反射的にモップを振り下ろして──

 

『──』

 

 首を断つ。

 前に斬ったのとは反対側。

 今度は、血は噴き出なかった。

 

『ゥ────』

 

 腕が伸びてくる。

 どうして──切ったのに、切ったのに、どうして!?

 乾いて罅割れた首に二つの傷をつけて、なお何かを求めるように私へと近づいてくる泉さん。

 

 優衣ちゃんを探しているのか。

 前に切った時から、いや、それよりもずっと前から、ずっとずっと優衣ちゃんを……。

 

『──ィ』

 

 掠れた声が、粘ついた質感を伴って耳の奥にこびりつく。壊れかけの機械のような動きで開いた口から何かの欠片が零れ続けている。

 家族のかたち。血の繋がりは遠くとも彼女達は家族だ。優衣ちゃん。優しい声だった。彼女の背に隠れる優衣ちゃんの、小さな手が握る服の皺が。「おかあさん」。優衣ちゃん、先生は。

 

 心の底から湧き上がり膨れる恐怖が、それを塗り潰して止まない憐憫が、悲しみが、嘆きが──戻らない時間への怒りが、どうしようもない現実への激情が──

 

 その全ては、きっと今、目の前の女性が感じてい

 

「もういいでしょうッ!?」

 

 どこかで聞こえた甲高い悲鳴が思考を断ち切った。

 一心に突き出した槍が泉さんの胸に刺さり、独りでに抜けて、この手にはただ喪失感だけが遺って。

 

「はあっ、はあっ、は、」

 

 カン、カン、コロロ。

 倒れ行く彼女から離れた何かが床を転がる。

 弾かれたように駆け出す太郎丸を視界の端に、私は、ただ荒い呼吸が治まるのを待った。

 

 ……手に残る骨の感触。肉を断つ感覚。泉さんの顔が目の奥から離れない。

 どうして。

 息が、吐けない。どうすれば? 息ってどうすればよかったんだろう。ああ、やり方を……忘れてしまった……。

 

「わん!」

「んぐっ」

 

 ぐっと息が詰まるのに、胸を押さえて吐息する。

 塊が喉を通ったように痛んで、目じりに浮かぶ涙を手で拭っていると、足に擦りついてくる感触がした。

 見下ろせば、太郎丸が私を見上げている。

 

「どうしたわんころ、なんか食ってないか……ちょっと……まさか!」

 

 喋れない私に代わって柚村さんが太郎丸の様子を見てくれた。

 

「なんだこれ……指輪?」

 

 彼女の危惧は杞憂で、太郎丸がくわえていたのは、指輪だった。

 綺麗に断たれた紐に通した、銀の指輪。四色の小さな宝石がついた、特別なもの。

 ……泉さんが首にかけていたものだと、この時はっきりと思い出した。

 それが彼女の姉──優衣ちゃんの母のものであることも、同時に。

 

「めぐねえ、これ」

「……」

 

 指輪を受け取り、汚れを指で拭う。

 ただそれだけで指輪は輝きを取り戻して、不思議な眩さを保っている。

 ……これは、優衣ちゃんに渡すべきものだろう。……時期を、みて……。

 

 私は、それをハンカチに包んで、大切に仕舞った。

 

 

 ショッピングモールの外に、泉さんの遺体を埋葬する。

 一人でやるべきだと思ったが、柚村さんも手伝ってくれた。

 傍の花壇で詰んだ花を供えれば、お墓ができた。

 

 祈りを捧げる。

 あなたに安息を。

 優衣ちゃんは……あなたの娘は、私が必ず守り抜きます。

 

 優衣ちゃんだけじゃない。みんなを守る。それが今、私のやるべきこと。

 

 ……。

 ……ああ、そうか。 

 

「世界を守れるのはただ一人……私なんだ」

「めぐねえ……?」

 

 慈。佐倉慈。あなたは前に言ったね。

 "生徒を守れるのはただ一人、私だ"……って。

 これは、同じことなのよ。

 同じ……教師である私にしか、大人である私にしかできないこと。

 そう──。

 

 生徒の世界を守れるのは、私だけなのだから。

 

 

 

 

「行きましょう、柚む」

あなたに優衣を任せたのは、間違いだった

 

 

 ──。

 止まった息が、何十秒かの間をおいて緩やかに喉を抜けていった。

 振り返る。

 小さな山に供えた花が、花弁を風に揺らしていた。

 

「めぐねえ、大丈夫?」

「え、ええ……」

 

 空耳……。

 いいえ、きっとこれは……戒め。

 泉さんからの言葉。

 

 厳しい言葉だけど……取り返しはつく。私はまだ生きているのだから。

 

 人に接するのが苦手で、人と話すのが苦手で、人が食べたくて仕方ない。

 大丈夫……大丈夫よ。

 

 千翼優衣さん。必ず、先生が治してあげますからね。

 

 

 

 ……。

 

 

 学校に戻ると、まず驚いたのは食卓に並んだステーキだ。久しく見なかった真っ当なお肉に思考が凍って……それが優衣ちゃんが……直樹さんと協力して持ってきたものだと聞いて、耳を疑った。

 さらに恵飛須沢さんが噛まれたという絶望的な報せも……でも、彼女は音符が飛んでいるのが見えそうなくらいご機嫌にフォークを握っている。感染者特有の症状は見えない。

 

 聞けば、すでに対処されていたらしい。それさえ優衣ちゃんと直樹さんが薬を持ってきたおかげだというのだ。……地下にある、避難区域から……。

 

 ひなん、くいき……?

 

「あ……」

 

 避難区域。

 避難区域!!

 

 知っている。私は、そこを、知っていた……!

 知っていたはずなのに……!

 

 

 「おかあさん」と呼ばれるのが辛くて、逃げるために頭の中から追い出してしまっていた。

 

 

 どうして、私はこんなにも駄目なのだろう。

 この子達はこんなにも強いのに……私、何もできてない。何もしてあげられてない。

 

 

──あなたに優衣を任せたのは、間違いだった

 

 

 泉、さん……!

 それでもっ。

 それでも、私は巡ヶ丘の教師だから。生徒を、守らなくちゃ、だから。

 

 由紀ちゃん。恵飛須沢さん。若狭さん。

 柚村さん。瑠璃ちゃん、星夜ちゃん。

 祠堂さん。直樹さん。

 

──おかあさん。

 

 ……優衣、ちゃん。

 

 私は、私は、先生。教師だ。

 だから、私は、先生として、あなたたちと接して、い……。

 

 ──本当にそれでいいの?

 

「おかあさん、きもち、わるいの……?」

 

 金の瞳が瞬く。

 小さな口から覗く真っ赤な舌に目を奪われて。

 蕩けるくらい優しい声に、吐き気がした。

 

 ……。

 私に母の影を重ねる優衣ちゃんに……どう接するのが正解なのか……私には、わからなかった。

 




TIPS
・??の指輪
千翼優衣の本当の母親が所持していた指輪

・精神値

・千翼優衣
37/90

・丈槍由紀
61/100

・恵飛須沢胡桃
46/150

・若狭悠里
49/80

・直樹美紀
70/100

・柚村貴依
61/130

・祠堂圭
86/100

・若狭瑠璃
58/100

・月日星夜
47/100

・佐倉慈
10/100


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9りーさん調整~学園生活部での日常


おかあさんって、なんだろう。
ほんとのおかあさんって……。


……。


わたしには、3人のおかあさんがいる。


感情(こころ)をおしえてくれた、おかあさん。
『大丈夫よ……優衣ちゃんが優しい子だってこと、先生はちゃんと知ってますからね』


あまり会えなかったけど……わたしを育ててくれたおかあさん。
『ありがとう、優衣ちゃん。私をお母さんと呼んでくれて』


わたしをこの世に生んでくれた、おかあさん。
『──優衣。きっと、幸せになってね。──約束よ?』


いつだって、わたしの世界はわたしとおかあさんの2人きり。

ずっとずっと、そう。

これからもわたしは、おかあさんたちの想いをつないで生きていく。






……。


でも……。

おかあさん、って呼ぶと……喜んでくれる、って……思ったんだけど。

……。

……きもち、わるい、なら……だめ、だよね。









俺はメガトンコインを背負い……お前はウンチーコングを背負っている……
どちらが正しいか……今初投稿して……答えを出すか……!!





 終盤が近づき全てが完璧ご満悦なRTAの続き、タージマハールよー!

 前回はめぐねえの布団にもぐりこんだところまで。今回は朝チュンから。

 

 おはよーございまーーーーす!! 朝でぇーーーーーーす!!

 

「……」

 

 ぱた、ぱた、ぱた。

 目をつむったままの優衣ちゃんの手は布団を叩くばかりで、添い寝してもらってたはずのめぐねえがいませんね……。といったところでおめめぱっちり。起き上がります。

 本日からは最終日に備えて必要な物資を集めつつ、部員との絆を深めて信頼イベを起こしSランクを維持しーの万全の体制を築きーの、エンディングまで突っ走って行きましょう!

 

 チャプター7が終了し、チャプター9が開始されました。

 当然Sランクです。学園生活部に加入したのと、くるみちゃんと下の名前で呼び合う関係になれたのが効きましたね。地下探索も行ったので不安はなかったです。

 

 今チャプターの大目標は……ファッ!? "学園生活部に入ろう"!? えっ入ってないやん!? どうしてくれ……えっ!

 小目標は"入部届を出そう"……あー、そっかそっか、まだだったっけかー。いつもならもうとっくに入部してるタイミングなので勘違いしてました。ゆきちゃんには話しかけたものの、生活部のせの字も出てきてませんでしたね……というか怒られただけでしたね。まずはここら辺をやっていきましょう。

 

 ……Sランクの内訳なんだったんだろ……。

 

 まま、ええわ。新たな気持ちでSランクを目指していきましょう。起床! とろい動きで起床!

 お布団を畳み……あっ。

 

「……」

「……」

 

 隅っこに纏められた荷物の傍にぺたんこ座りしているせーちゃんがいますね。

 おうせーちゃん、そこで何してるのかな? それ、優衣ちゃんのエコバッグだよね。勝手に触っちゃだめだよね? おててに持ってるナイフ……バッグに戻そうね?

 

「……」

 

 そろそろとバッグへナイフを戻し、ふいっと顔を背けたせーちゃんは何事も無かったかのように立ち上がると部屋を出て行ってしまいました。はぇー……。ていうか他には誰もいないや。寝袋の抜け殻がいくつかと、畳まれた布団があるだけです。

 

 お着替えを済ませ、せーちゃんの後を追って部屋を出ます。部室や屋上等を巡ってみんなに挨拶しましょう。

 

 せーちゃんの好感度あんまり高くなさそうだけど、レベルアップさえすれば武器も必要なくなる……というか最終日のラッシュに必要なのはリーチのある得物かつ物量なのでナイフを盗られても問題はないのですが、不和が不和を呼び優衣ちゃん包囲網ができてしまっては大問題なので構いまくるとしましょう。

 

 不和が起きようと好感度の高い部員がいれば庇ってくれるので、やっぱり問題ない気もするなー。しっかりケアをして安定を取るか、スピードを優先するか……悩みどころですね。

 ま、実際のプレイ時にはそんな迷いなど持たず、もといなんにも考えずに行動してるんですけどね。尿意を感じるような感じないような感覚に慄きながらコントローラーを握っていた記憶があります。頭の中に描いていたチャートは……だめみたいですね……。

 

「おはよう……」

 

 部室につきました。誰がいるかなー。

 

「よ。寝坊助さん」

 

 くるみちゃんがシャベル磨いてました。あとはー、チョーカーさんとけーちゃんが何か話してます。せーちゃんは……棚の上に登ってダンボール漁ってますね。それをめぐねえがはらはらと見守っているようです。なんか久し振りによわよわねえ見た気がしますねー。かわいい。ちゅっ。

 

 まずはくるみちゃんの反応を見ましょう。どう? もうなんともない?

 

「ん? あー、元気元気。見ての通りだよ。…………」

 

 シャベルを振りつつ答えてくれたんですけども、その沈黙はなんなんですかねぇ……顔を見ての会話でも読み取るのには限界があります。ていうか優衣ちゃんちょっと引け腰なんですよね。臆病な性格ゆえにくるみちゃんとの相性はあまり良くなかったり。……そうです。性格による補正にはこういった要素もあるんです。仲良くなっちゃえば関係ないのであんまり実感することはないんですけども。

 

「いや、案外普通に話しかけてくるなーって思ってさ」

 

 あー、そういうことですね。一度は襲われ押し倒され一人に勝てると思ってんのかされた身ですし、うーん、性格的に考えると確かに優衣ちゃんは人と積極的に会話しようとはしないでしょうし、ごもっともな感想です。しかし優衣ちゃんがいくら嫌がろうと私が主導権を握っている以上、ぐいぐい人と接してもらいます。慈悲はないよ。

 

 そういや昨日めぐねえに目が眩んで「がば飲みクリームソーダ」を渡してしまいましたが、冷静に考えるとあれはくるみちゃんに渡すべきでしたね。

 人を害する精神異常持ちの一番の敵はくるみちゃんですし、敵対するとプレイヤースキル的にもちょっと勝てないので、ここらで好感度を稼いでいきたいところなのですが……何かあげられるものないかなあ。水しかないや。

 

 そういえば空腹値が空……ではないですが、危ういので水を飲んで誤魔化しておきましょう。味覚障害でも元々味の薄い水ならまだ大丈夫なのです。ただ、一見ゲージは回復しているのですがお手洗いに行くと回復した分がそっくり消失しますので頼り過ぎには要注意。

 

 それじゃ空腹値もケアしましたし、この水をくるみちゃんにプレゼント……ん? 水がない……なんで?

 

「……んー、と」

「……」

 

 空のペットボトルしか持ってませんね。こんなのあげたって好感度は上がりも下がりもしないよ。……けーちゃんがくれた大切なお水はどこいったの?

 

 理不尽なバグに遭いました。私は悲しい。

 

 仕方ないのでけーちゃんとチョーカーさんが何を話しているのか聞きに行ってみましょうかね。俺も仲間に入れてくれよ~(SNJ)。なんの話してんの?

 

「貴依ちゃんと? 良い天気だねーとか、雨降らなそうだねーとかだよ?」

 

 ふーん、そう……。

 特に重要でもない世間話でした。そうやって勝手に絆を深めてくれてるのありがたいです。もっとやってて。

 けーちゃんはコミュニティに所属する際すぐさま溶け込むのですが、すでに部員全員と名前呼びの関係まで至っているようですね。

 ならば私も!(緊急同調)

 

「た、かえ、ちゃん……」

「えっ、あ、おう……なに?」

 

 つっかえつっかえ不得手なコミュニケーションに励む優衣ちゃん、いいっすね~。反応はちょっと悪いですけど、ここで高好感度のけーちゃんが役に立ちます。そう、そこで微笑ましそうに「あら^~」って顔してる子が間を取り持ってくれるので、バッドコミュニケーションは普通に、普通の会話はグッドに向上され、チョーカーさんの友好度がアップ。

 

「いや……なに?」

「……」

 

 呼んだだけで用はないです。こてんと首を傾げて誤魔化しておきましょう。

 

「ふふっ、ゆい先輩って猫みたいだよね」

「んー、わからなくもないけど」

 

 そうですかね? 私は六本腕の異形みたいだと思います(直喩)。

 うそです。たしかにネコっぽい。フェムフェム。

 

 ちなみに今の圭の台詞は「プレイヤーの動きが意図の読めない気紛れな動きが多い」って判定の時の台詞ですね。不審な動きを控えるともっとまもともな評価になるんじゃないかな。そんなんじゃRTAになんないよ~。

 だから私は、今日も緊急回避で移動していく。……走った方がはやいのでやっぱやらない。「彼ら」のいない場所だと緊急回避も「無音歩行」も無用の長物ですね。どころか、音もなく忍び寄ると驚かせてしまったりしてよくない。そこら辺気を遣っていきましょう。

 

「そだ、ゆい先輩っ、これあげるね!」

 

 お、けーちゃんがまたもやアイテムをくれました。有能!

 ……ネコミミバンドでした。見た目に彩りを加えるだけのゴミアイテムですね。

 有用なアイテムだけくれればいいんだけどね。それ一番言われてるから。

 

 じゃあ俺、好感度貰って帰るんで。

 

「むぅ……」

 

 あれっ? なんかけーちゃんが膨れてますね? なんだろ……さっきまでにこにこしてたのに。

 よくわかんない反応に優衣ちゃんもじもじしてます。よっぽど重要な場面でもないと選択肢も出ないので判断に困りますね……あっ、わかった! 気付きました。わかっちゃったかな~。

 

「けい……ちゃん」

「っ! なあに、ゆい先輩っ!」

 

 名前を呼んであげるとぱあっと表情を明るくしてお返事してくれました。

 特に用事はないので反応は返しませんが、それでも嬉しそうにしてますね。笑顔が眩しい。

 名前呼び……コミュニケーションにおいて重要な要素ですが、モール組は特にそこら辺気にしなくても好感度が最大に達する事が多いので忘れてました。今まで一回だって呼んだことあったかな。

 

 なかったからけーちゃんが膨れてしまったんでしょうね。うーん、健気。

 あとでみーくんも名前で呼んであげましょう。何かいいアイテムをくれるかもしれませんしね。

 それじゃそろそろ次に行くとしましょうか。

 

「ん。じゃな、優衣」

 

 チョーカーさんのナチュラルな名前呼び、やりますねぇ! もじっとする優衣ちゃんを、今度はめぐねえのもとに向かわせましょう。

 

「おはよ……めぐねえ」

「あ……おはよう、優衣ちゃん。……?」

 

 こちらに向き直っためぐねえは、ちょいと小首を傾げました。優衣ちゃんにそっくりな動き……いや、優衣ちゃんの動きがめぐねえにそっくりなのか。モーションの使い回し……なんでもないです。

 そういえば、優衣ちゃんがめぐねえに呼びかける際「お母さん」と呼ぶのですが、私はちゃんと「めぐねえ」って言ってるんですよね。なんか勝手に優衣ちゃんが言い換えちゃってます。あ、でも今はもう普通にめぐねえに戻ってますね。不具合だったのかな。バグ?

 

 さてさて。めぐねえルートに入っているはずなのでこれから様々なイベントが彼女との間に起こるはずなのですが……残り日数的に無理があるかな。というかそういえばなんですけど、信頼イベで貰えるはずのアイテムまだ貰ってないんですが……いつくれるんですかね? クロス……じゃなかった。次点で貰える「ヒゲクマグーマ」ストラップは身に着けていると警戒度がほんの僅かに上がりにくくなるので今すぐ欲しいんです。ちょうだいちょうだい。……だめそう? まだ起こらないっぽいですね。うーん……?

 

「優衣ちゃん、もう少しで朝ご飯の時間だから、屋上のみんなを呼びに行ってもらえる?」

 

 いいよー。軽率に請け負っていきましょう。

 こうした部員からのお願いを聞くと全体の友好度が微増します。やっぱり学園生活部は最高だぜ!

 まだ加入してはいないのでその恩恵は受けられませんけどね。ガバ!

 

 ところで、めぐねえの首に巻かれてる包帯はなんなんでしょ。工作の失敗などで指やら腕やら足やらに巻いてるのは見た事ありますが、首は「彼ら」に噛まれた直後くらいしか見た事ないんですけど……。

 

「……」

 

 大丈夫? と問いかけると、にっこり微笑んだめぐねえは屈んで優衣ちゃんの頭を撫でてくれました。癒される~。そだ、引っ付いて精神値の回復しときましょう。会話しつつならロスにはならな……抱き着いたらびくっとされました。感度3000倍なのかな?

 

「ゅっ、ゆ、優衣ちゃん?」

 

 この状態のまま棚の上のせーちゃんに話しかけましょう。

 おーい、そんなところで何してんの?

 

「……」

 

 すっと伸ばされた手にはピンポン玉らしきもの。

 それをぽとっと落とされて、優衣ちゃんの頭を跳ね、めぐねえの頭を跳ね、ポンポンポン……。

 なんだァ? てめぇ……!

 

「もうっ、星夜ちゃん! 危ないから下りてきなさいっ」

 

 ぷんすこ怒るめぐねえに、くすくすと声無く笑うせーちゃん。悪戯っ子ですねぇ……今日はもうちょっと踏み込んでいきましょ。

 ピンポン玉を拾いに行き、せーちゃんに向けて放ります。

 

「……」

 

 掴んですぐ投げ返されました。額にクリーンヒット……なんだよ……結構あたんじゃねーか。

 キャッチボールで友好度も稼げたんじゃないでしょうか(てきとう)。ついでにここで名前を呼んでおきましょう。

 

「せいよ」

「……」

 

 うえーって顔してますけど……好感度下がってませんかねこれぇ。

 ぴ、とこちらを指さしてきたせーちゃん、胸元でしゅぱぱっと印を組んできました。

 やめてくれ星夜、その術はオレには効かない。やめてくれ。

 

 こっちもてきとうに手を動かしてお返事しましょう。くらえ、適当手話の術!

 

「………………」

 

 うおっ、飛び降りてくんの!? 軽やかに着地した彼女は、おすまし顔で去って行きました。マイペースな子だなあ。……会話もできないし、表情も窺い辛くなかなか扱いが難しい子ですね。仲良くなれてるのかもよくわかんにゃい。

 できれば最終日はせーちゃんにつきっきりで、勝手にどこかに行ったりしないよう見張っておきたいですね。

 

 ちなみに動画編集中に調べてみたところ、これ、優衣ちゃんの名前を呼び返してくれてたみたいです。

 マスターハンドのイラストとドンキーコングのイラストを描いたので右に載せときます。たぶんあってるはず。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 手の甲をこちらに向けて三本の指を立て、手の平をこちらへ向けて小指のみを立てる動きで「ゆ」「い」。

 唇に当てた指をすいっとこっちに動かすセクシーな動きで、「呼ぶ」の意味を持つ「言う」。

 つーんとしてますけど挨拶はちゃんと返してくれるんですよね……やっぱよいこなのかな?

 

 それじゃあ屋上に向かいましょう。めぐねえ、じゃあね!

 

「ええ。また後でね」

 

 控えめに手を振ってめぐねえと別れ、部屋を出たらダッシュで屋上へ。

 到着! オープンザドアー!

 

「あら、千翼さん」

 

 農家スタイルのりーさんが反応してくれました。首にかけたタオルで頬を拭いながら立ち上がって振り返る彼女の傍には、収穫物が山盛りの籠を抱えたるーちゃんもいます。

 おなじく土いじり中のみーくん、如雨露でお水をあげて回っているゆきちゃんに、影になっている部分で涼んでいるせーちゃんと太郎丸。

 

 部室にいないメンバーはみんな屋上に集まっていたようですね。

 ではまずみーくんから……よっ!

 

「おはようございます、優衣先輩」

「みぃくんおはよう~」

「……由紀先輩とは、さっき挨拶したじゃないですか」

 

 名前呼びをしようと思ったらぬるっとゆきちゃんが入ってきました。そのねっとりみーくん呼び……いいね。真似しましょう。

 み~くぅ~~ん!

 

「なっ……みーくんじゃないです! そのっ、ぬるっとした呼び方やめてください!」

「みぃくぅん」

「みー、くん」

「み・い・く・ん」

「みき……」

「やめっ、やめっ、やっ」

 

 二人がかり、左右から挟んでねっとりねっとり責めると、みーくんは顔を真っ赤にしてにょきにょき伸びました。こういうのやっぱ好きなんすね~。「やっ」「やっ」と鳴くだけになったみーくんは放置して、ゆきちゃんと向き合います。

 

「ゆきちゃん」

「!」

 

 自然な流れでゆきちゃんの名前も呼んでおきましょう。

 けーちゃんに負けないくらい顔を輝かせた彼女は、今度はこっちにひっついて……きませんね。直前で止まりました。

 

「っとと、ごめんね。ゆいちゃんって触るの苦手なんだよね?」

「うん……」

 

 お、こっちの事情をしっかり汲んでくれますね。ここがゆきちゃんのめちゃつよポイントです。

 大体の人物と速攻で仲良くなれるし、気持ちを汲み取るのも上手いので、精神値が危険域に達した時なんかに傍に行くと凄い勢いでケアしてくれます。

 たまに巻き込んで心中しちゃうこともありますが、そこはそれ。培った経験によりゆきちゃんの言動をしっかり見て察知し、そういったミスを回避していきましょう。

 

「じゃあ、こう!」

 

 ぐっと親指を立てた拳を差し出してくる彼女に、こっちも同じモーションで応えるとしましょうか。といっても優衣ちゃんは胸元でへにゃっとしたのを作る程度ですけども。

 わたしたち、これで友達だね! ってな感じでにっこり笑う太陽(ゆき)。なんというか……さすがですね……。

 

 ここら辺で手紙を飛ばしてるかどうか聞いちゃいましょう。

 

「うん? お手紙? んー……それおもしろそう!」

 

 この反応はまだやってないっぽいですね。まじかー……。ちょいロスですね。

 いや、イベントで友好度を稼げるならロスではないのか?

 ないですね(自問自答)。最速でこなしてヘリを呼ぶとしましょう。

 

「やっぱりそうだよ!」

 

 ほっ? 何が?

 

「ゆいちゃんも学園生活部に入ろう!」

 

 ああなるほど、そっちから切り出してくれるなら話は早い。

 きらきらと目を輝かせて押し込んでくるゆきちゃんにこくこく頷きましょう。

 

「じゃあ入部届を……みーくん!」

「やっやっやっ……えっ! あっ、はい……」

 

 するとなぜかみーくんが入部届を虚空から取り寄せてくれるので持っているボールペンにて記入し、ゆきちゃんに渡します。これで入部完了! 様々な恩恵が受けられるようになりました。

 ……入部届を出すなら顧問のめぐねえか部長のりーさんな気がしますが、なぜかゆきちゃんに渡さないと入部できない仕様になってます。ゆきちゃんがいなかったら? 当然入部できません。というか学園生活部は結成されません。

 

 突然ですが、学園生活部が崩壊した時のゆきちゃんの反応っていいですよね……。まだ見た事のない兄貴や姉貴はこのゲームを今すぐ買ってプレイしよう!

 

 ぬるっとチャプター10に移りました。

 大目標は「部活動をしよう!」、小目標は「「彼ら」の動向を追ってみよう!」。

 

「るり」

「…………」

 

 最後にるーちゃんに話しかけにいきましょう。じっとこちらを見上げてくる彼女をじーっと見下ろす優衣ちゃん。なんだこの絵面……。どっちも表情がないのでシュールですね。

 

「どうしたの、るーちゃん」

「……」

 

 見つめ合っていると保護者の方が介入してきました。そっちを向いたるーちゃんがやわやわと手を動かすと、りーさんはふんふん頷いて……。

 

「『急に名前を呼ばれてびっくり……ちょっと、こわい』……だって」

「…………」

 

 優衣ちゃん、迫真の真顔。

 まあ気持ちはわからなくもないですね……るーちゃんが表情に乏しいのは事情が事情ですけど、優衣ちゃんは元からこんなですからね。笑ったり怒ったりはキャラクリ時のエモーションでしか確認できない……本当に人間なのか?

 

 (……重力を無視して3階分飛び上がる優衣……走っても音がしなくなってきた優衣……か細い腕で「彼ら」の首を断つ優衣……)

 

 人間ですね。間違いないな。

 

「ゆうり、さん」

「ふふっ、はい、優衣ちゃん?」

 

 頬に指を当てて微笑みながら呼び返してくれるりーさん、すき。ちゅっちゅ。

 

「そろそろご飯の時間ね。みんな、作業はいったん止めて、手を洗ってから下へ行きましょう」

 

 最後にりーさんに話しかけることでめぐねえに頼まれていた朝ご飯へのお誘いを完了します。

 移動を始める彼女達についていきましょう。あ、部室に戻る前にお手洗いに行っておきましょうかね。

 空腹値がギリギリ限界になりますので床を見つめながら戻ります。

 

「いただきまーす!」

 

 さて、朝ご飯の時間ですが……。

 昨日の夕飯時と同じく、優衣ちゃんはどれにも手を付けようとしません。美味しくないものは食べたくないグルメちゃんですからね。

 

「優衣ちゃん……少しだけでも食べないと……」

「……」

 

 めぐねえの言葉にも微かに首を振って嫌がる優衣ちゃん。ここで味覚障害なのを明かし、ケアしてもらうとしましょう。学園生活部に入部していると軽い精神異常は工夫でなんとかしてくれます。

 好感度の高い部員が元気づけてくれる事で、精神値を犠牲にしながらも食事を行えます。団らんの効果で精神値が回復し、食人衝動で精神値と空腹値が微減するのでゲージが振動を続けてますね。

 

 めぐねえがきらめいておられるぞ、ちょっとだけ齧ってもばれへんかな……?

 

「ちゃんと食べられたわね。偉いわ」

 

 食事を終えるとめぐねえがよしよししてくれました。気持ち良いか~YI~。

 目を細めて安心しきっている優衣ちゃんは、確かに猫っぽいですね。

 ごろごろごろ……。

 

 ……こいつめぐねえ相手でしか表情変化してないな?

 

 ささ、食事が終わったら行動開始! 水を手に入れるために水道を借りましょ。洗い物をしているりーさんに話しかけて退いてもらいます。ゆいさまのお通りだ~。

 

「水気の多いきゅうりなら、優衣ちゃんも食べられるかしら……」

 

 優衣ちゃんのために頭を悩ませてくれるりーさん、あったかい……。でもきゅうりは無理ですね。精神値を削らず口にできるのは水のみです。がば飲みクリームソーダも吐きます。コラボアイテムなのにその扱いでいいのか……?

 

「……」

「優衣ちゃん?」

 

 んー、よし。ちょっと迷いましたが、りーさんの調整もしましょう。後で隣の教室に来てもらうよう頼みます。

 

「…………ええ、いいわよ」

 

 長考しましたね。それも仕方ないか……けーちゃんの件で個別呼び出しを警戒されてるみたいです。

 しかしりーさんは優衣ちゃんの頼みを断れません。理由はもちろんおわかりですね? るーちゃんを助けたからです。よっぽど無茶なお願いでない限りは無条件で聞き入れてくれますし、今回みたいな本来警戒されて他の部員も呼ぶような場面でも、黙って一人で来てくれます。

 

 調整の前にお手紙イベを起こしましょう。

 今めぐねえに接触すると確率でお勉強会が発生するので避けつつ……購買部に向かい風船を入手。

 ガスボンベ等は……くるみちゃんに持って来てもらいましょう。台車があるとはいえあれを部室まで運ぶのって辛くないか? 優衣ちゃんには無理そう。

 便箋は棚の上のケースに入ってます。準備ができたらゆきちゃんに話しかけて……。

 

「じゃああたしは……鳥を捕まえる!」

 

 アッくるみちゃん……そんなイベント起こさなくていいから!

 鳩を捕まえるイベントが挟まってしまいました。アルノー鳩錦二世を捕獲しましょう。

 巣箱的な何かを作ったり罠を用意したりと方法はいくつかありますが、さっさと済ませたいのでくるみちゃんと協力して直接捕まえます。屋上に移動!

 

「行くぞ優衣! あたしのシャベルが血に飢えているっ!」

「ん……」

 

 さあ、ミニゲームの開始です。

 俊敏ばかりに振ってきた優衣ちゃんのスピードを見せてあげましょう。

 ダッシュ! 緊急回避! 飛び込み!

 ア゜ッ!

 

「てぇい!」

 

 画面端で優衣ちゃんがスッ転んでる間にくるみちゃんが鳩を捕まえました。 

 終わり! 閉廷! みんな解散!!!!!

 

 

「よーし、書くぞー!」

「おー!」

 

 気合十分なゆきちゃんとけーちゃん。

 自分の分を書き終えるまでは自由行動でそれぞれがどんなものを書いているか見て回れます。

 せーちゃんが何書くのか気になるけどタイムを気にしてさっさと優衣ちゃんに書かせましょう。

 

 「無難に」「芸術的に」からは「無難に」を選び、「明るく」「暗く」からは「明るく」を選び、「助けを求める」「重ねて助けを求める」といった選択でしたためましょう。

 できたら屋上へ移動し解き放ちます。人数分の風船が飛んで行くのはなかなか壮観ですね……。きゃっきゃと声無く喜ぶ子供達も微笑ましい。

 

「あ、優衣ちゃん」

 

 ヘリ乞いの儀式が終了し、屋上を出ようとしたところりーさんが追いかけてきました。

 はいはい、なんでしょ。

 

「野菜の収穫を手伝ってもらえないかしら」

 

 うーん、布と水を集めてささっと時間を進めたいのですが……いや、1も2も無く手伝いましょう。共同作業でみんなの好感度を荒稼ぎだぜ!

 地味な作業が続くので倍速。

 

 完了! 収穫物のきゅうりとプチトマトを貰えたので後でくるみちゃんに横流しして好感度を稼ぎましょうね~。

 

「もっともっとしっかり育てていかなくちゃ。食事の安定は生活の安定、ひいては心の安定に繋がるのよ」

 

 一本指を立てて説くりーさん。菜園を大きく出来るようになった時の台詞ですね。

 今拡張しても爆発して燃えるので意味ないよ。

 

「そうすれば、助けを待つだけじゃなく、探しに行く事だってできるかもしれないわ」

「他の県や国には、生きている人もいるのでしょうか……」

「きっといるよ!」

 

 わちゃ、と集まり心を強くもつ彼女達の生の輝きってやつぁ……最高だぜ。

 生存者の存在ですが、ゲーム的には……うん。

 

 空のペットボトルを集め、大量に水を用意します。

 最終日は食事をしている余裕はないので、空腹値を埋めるため。それとかなり早く喉も乾くので水分補給に必要です。万一炎上「彼ら」に当たった時もこれをぶつければ鎮火でき、真っ向からスニキルできるのでガバ対策にもなります。認識されてるのにスニキルとはいったい……?

 

 ま、ちゃんとプレイすれば防衛戦以外で「彼ら」と戦うこともありません。

 全員生きてシェルターに駆け込めば簡単にSランクが取れます。

 私的にはここが一番楽に高評価得られるかな。

 

 外スタート外エンドやモールエンドの場合は条件が結構厳しく、この難易度でさえAになっちゃうことが多いです。だから学校に駆け込んでる……というわけではないのですが、やっぱり学校でのエンディングが楽ですね。

 

 ああでも、生存している部員の数が数ですし、難しいかな。一人でも倒れたらSは無理です。

 誰か倒れた時点でこのRTAも終了なんですけどね。

 

 ハンカチを集めます。

 教室を巡って確率で出現するアイテムを入手する方法もありますが、簡単なのはみんなから貰う事です。

 そしてみんなに配る……それってなんか意味あるの?

 

 チョーカーさんは持ってること確定してるのでいいとして、みんながハンカチを所持しているか確認しましょう。

 女の子なんだから持ってるに決まってるだろ! と思うかもしれませんが、優衣ちゃんは持ってないんですよね。荷物は開始時点で落としちゃったからね。

 以降は無駄なアイテムを拾うのなんてロスなので持ってません。

 なので余ってたら誰かちょうだい。

 

「ごめんなさい……余ってるハンカチはないのよ」

 

 ワッザーファー。

 じゃしょうがないので拾いに行きましょう。教室巡りじゃー。

 たまに見つかるボールペン以外は不要なのですぐさま捨てて行きましょう。ただでさえ水を複数持ってて重いのに、これ以上持ったら優衣ちゃんがふらふらし始めてしまいます。

 

 幸い1階まで制圧済みなので3階になくても気楽に探しに行けるのがいいところ。

 あ、見つけましたね。名も無き生徒のハンカチ。ちょっと血で汚れているので後でお手洗いででも洗っておきましょう。

 

 ついでに購買に寄って石鹸を集めます。

 「大ジャンプ」やイベント中のキャラを転ばせるためだけのアイテムではないって事を見せてあげましょう。

 

 さ、部室に戻って時間を進めます。りーさんを呼び出すのは寝る直前がちょうどいいですね。

 くるみちゃんにお野菜いっぱい押し付けて好感度を稼ぎます。

 

「あげる」

「あたしに? ありがと」

 

 手渡したきゅうりをその場で齧り始めるくるみちゃん。こうして見るとやっぱかわいいですね……すき。ちゅっ。

 

「くるみちゃん餌付けされてるー」

「なんだとコラ、ゆきー!」

 

 ぷくくと笑うゆきちゃんも愛くるしくてすき。ちゅっちゅっ。

 餌付けされてる、の発言は前の動物園の話からの派生ですかね?

 AIの動きの技術も凄いですが、バグというかお約束な挙動が多いのに対して、会話の派生が凄まじい。

 

 こちらの言葉尻を捉えて無限に話を広げてくるので、生きている彼女達と実際に会話しているように感じられます。

 1音1音を様々な発音で収録しているのだと思われますが、いつだって流暢なのでほんとにすごい。

 

「優衣ちゃん、ちょっといい?」

 

 ん? なんかめぐねえが話しかけてきました。このアングルは……お勉強のお誘いですかね?

 日常を維持するための催しの一つ。部員はまばらに参加し、それに加わることで参加した部員との協調性を高めることができます。

 本チャートでは残り日数が少なくまともに開催されませんでしたが、学校スタートならかなりの頻度で行われ、確定で参加するゆきちゃんとの好感度を早々にカンストさせることができ、精神的に安定した学園生活を送れます。

 

「みんなとは仲良くできているみたいね。先生安心したわ」

 

 ……?

 あ、シーン入ったから何かしらのイベントかと思ったんですけど、別にそんなことなかったですね。

 ルートに入ってるよーっていう断片的な演出でした。

 

「その調子で私のことも先生って呼んでくれたら──」

「めぐねえ」

「──よかったんだけどなー……」

 

 るー、と涙を流すめぐねえ、すき。頭撫でてあげたくなります。撫でました。

 

「あの、私、先生……」

 

 ああん!? いいから黙ってよしよしされるんだよぉ!

 めぐねえの頭撫でるの楽しいです。……タイム? ……タイム!

 よしよししてる場合じゃなかった(あほ)。急いでりーさんを闇に葬りましょう!

 

 泣く泣くめぐねえから離れ、他の部員に気付かれないようりーさんにちょいと接触してから教室を出ます。

 ……察してついて来てくれました。よかった。

 隣の教室に入ったら、鍵を閉めます。

 

「っ……。それで……優衣ちゃん、用件は何かしら」

「これ……」

 

 めちゃくちゃ警戒してるりーさんに「がっこうぐらし!」を手渡しましょう。

 これで一回精神値を削り切り、みんなにケアしてもらって即座に持ち直してもらい、覚醒させるとともに回復に専念して時間を潰す完璧な計画です。大事な大事な精神値を自分の手で消し去るのは気が引けますが……同時に気が狂うほど気持ちええんじゃ。

 やっちゃいけないことほどやりたくなるあれですよ。

 

 りーさんのために舞台は整えました。

 ほら、見ろよ見ろよ!

 

「これ……! なによ、これ……!」

 

 1ページ捲った時点でおめめかっぴらいたりーさんは、こちらが何を言うでもなくペラペラと捲って……ん? ん?

 

「……、……。」

 

 青白い顔で漫画を見下ろす彼女は、今ので6ページくらい見たはずなんですけども……。

 

「これ、他の子には?」

 

 あれ、発狂しませんね。普通に話しかけてきたんですけど……。

 えっ、この場合……えっ? あの、え?

 いや、私しか読んでないですけど。

 

「そう……なら、これは私が預かるわね。……優衣ちゃん、辛かったわね」

「……」

 

 ぎゅ、と抱き締められて真顔になる優衣ちゃん。

 うそー……これを読んで発狂しなかったりーさん初めて見た……いつも今みたいに余分に読んで自滅するのに、今回に限ってなぜ?

 うーむ、わかんないです。というか人を気遣う余裕があるとは……もしかしてすでに覚醒していらっしゃる?

 

「でも、もう大丈夫よ……これはあなた一人で抱えている秘密じゃない。……それにね」

 

 体を離したりーさんは優衣ちゃんの髪に指を通すと、肩を撫で、手を柔く握って持ち上げるとまっすぐ目を合わせて……。

 

「私達は、ここにいる」

 

 それでいいのよ。この手の温もりは嘘じゃない。

 

「だからきっと、これはただの記録。……今日はもう寝ましょう? ホットミルクを作るわ。体をあったかくして、みんなと一緒に眠れば、怖いことなんてなんにもないからね」

「……ん」

 

 ゆっくり、やさしく、言い聞かせるような声音にこくこくと頷く優衣ちゃん。

 凄くいい話ですし、私もこれ編集しててじーんときてるのですが、接触と視線とで精神値と空腹値がガリガリ削られていってるんですよね。

 そしてホットミルクは飲めないのであった。

 

 就寝!

 

 きららチャンスはダンスdeダンスでした。

 ピッ! ピッ! ピッピッピーッ!

 笛の音に合わせて前に立つ人物が取るポーズを真似ていくリズムゲーです。

 太郎丸が笛くわえてサイリウム振ってますね……ええ……。

 

 ゲームスタートです。

 音感には自信があるんですよ!

 

 どべっ。

 

 ……ボタンがね、悪いんだよね。

 はいっ☆

 

 久々のきららジャンプ、総勢10名で大ジャンプ!

 眩い朝の光の中、スローでハイライトされるのはゆきちゃん周りでした。

 

 6日目の始まり始まり。

 まずは空腹値を確認。……やっぱり微妙に残っておる。

 食人衝動持ちだと朝を迎えたら空腹値が限界ギリギリ! なことが多いのですが、昨日今日となんかミリで残ってますね。というか今日はミリではなくセンチくらい残ってる。

 

 ま、どの道お水飲んで回復はするのですが。

 

 さて、今日もまた一人取り残されている優衣ちゃん。起こしてくれる人がいないのは、触るのが駄目なのを考慮してですかね。実は結構新鮮な光景です。……めぐねえはなんで起こしてくれないんでしょうかね?

 

 学園生活も残すところ1日。生活部の楽しい楽しいイベントは全てキャンセルしていきましょうね~。

 

 ここまでくれば注意すべき点はそうそうありません。

 部員の精神値に気を付けて万全の体制で最終日を迎えましょう。

 繰り返しになりますが、精神値は非常に大事です。強制バッドエンドになることもしばしば。

 

 たとえば、学校で気を付けたいのは卒業ですかね。

 エンディング 「そつぎょう」

 条件は

 

①学園生活部が全員生存している

②全員の精神値が一定を下回った状態で1回目の「あめのひ」を迎える

③佐倉慈が覚醒している

 

 この三つです。

 厳しい戦いが続き食糧や安全の管理が難しくなる最高難易度で初めて迎えるパターンが多いらしいこの強制バッドエンディングの内容は、そのまま「卒業式を行う」こと。

 

 既プレイ兄貴達も驚いたんじゃないでしょうかね。みんなボロボロの状態で、精神値の回復もままならないながらも、戦力に頼もしい覚醒めぐねえを加えての雨の日を迎えて、いざ防衛戦! と意気込んだところでのムービーには。

 

 3Dではなくアニメで開始されるのは教室で執り行われる卒業式の様子。過去の出来事でもなく未来の出来事でもなく現在進行形。プレイヤーの操作なく雨の日を乗り切ったメンバーは、みな晴れやかで明るい顔をして、めぐねえからの卒業証書を受け取っていきます。ことさらに明るいゆきちゃんのモノローグに、これが見た目通りの明るい行事ではないと察することでしょう。その通りです。

 

 今執り行われているのは、「この世界からの卒業」式。

 

 雨というたったそれだけの条件で押し寄せる「かれら」の大群。

 未来が見えず、現状もろくに生き抜けない学園生活部の面々は、そんな選択をしてしまいました。

 彼女達卒業生はめぐねえが先生として、大人として責任をもって天国へ送り届けてくれます。

 

──私達は今日、卒業します!

 

 曇りなきゆきちゃんの宣言に、白む画面。シンと静まり返る中、「エンド17 そつぎょう」と浮かび上がり、終了です。なんだこれは……たまげたなぁ。

 ちなみにボタンを押さずに放置していると徐々に暗転していき、校庭を徘徊する「かれら」の姿。

 そこから屋上へカメラが動き、疲労困憊の面々を映します。

 

「いやよ! もういや!」

 

 精神値が底をつき発狂するりーさん。誰も声をかけることができず、座り込んだまま動かない。

 いつまでこんなことが続くのか。助けはいつくるのか。それまであんなにたくさんの「かれら」を凌ぎ続けなければならないのか。

 考えれば考えるほどそれは困難に思えて、重苦しい雰囲気に包まれる……そんな中、よろよろと立ち上がったのはゆきちゃんでした。

 

 ゲームの進行の中で誰かの精神値が大きく減少すると、ゆきちゃんは何かを発案してそれを回復させてくれます。

 しかしさすがの精神安定剤もこの状況ではどうしようもなく、だから、今のみんなに笑顔を取り戻させる最後の提案をしました。それが卒業式を行おう……。

 

 このエンディングはめぐねえが覚醒していないか、存在していないと起こらないのですが、彼女とのエンディングを夢見て試走を繰り返してきた私は幾度となくこういった強制バッドエンドに誘われてきました。

 めぐねえの覚悟は良い方向ばかりに作用するものではないようですね……。

 

 条件に「1回目の」とあるなら、今回迎える2回目の「あめのひ」では関係ないんじゃないかと思うかもしれません。私もそうだとは思うんですけど、7日目にめぐねえ達が助けに来てくれて……学校組は覚醒めぐねえを加えてのその日を超えてないので、もしかしたら起こるかもなーってくらいの気持ちです。

 

 全員の精神値を参照するっぽいので人数の多いこの状況じゃ起こりようもない気もするんですけどね。

 

 というわけで起床! とろい動きで起床!

 お布団を畳み……あっ。

 

「……」

 

 中身入り寝袋が一個残ってました。寝坊助さん、発見。

 ていうかゆきちゃんですね。お前も置いてかれたんか……。

 

「ぐー……ぐー……」

 

 おーおー幸せそうな顔で寝ておる。提灯を破壊して起こしてあげましょう。

 

「んぇえっ、なになに!?」

 

 ゆきちゃんがいないとみんなの精神が安定しないんだからはやく起きて欲しかっただけです。

 という訳で部屋を出ます。「……えっ?」という困惑の声は無視します。

 

 ……結局みんな集まらないと朝食始まらないからゆきちゃんと一緒に行っても良かったかもですね。

 こんなガバムーブしてるから困惑されるんだよなあ。

 

 今日もみんなの励ましで優衣ちゃんもお食事することができました。

 そういえばずっと真顔な印象のあるイメージの優衣ちゃんですが、結構嫌そうな顔もしてる気がしますね。

 

 自由時間になりました。すごいプチトマト食べたい。優衣ちゃんの顔を歪めたい。

 しかし時間は有限なので欲望を投げ捨てて外に出ます。3階のバリケードの補強とみんなとの会話で時間を進めてしまいましょう。

 

 バリケードの補強やみんなの精神値を回復させるための様々なイベントの提案、相談はゆき・りーさん・めぐねえにできます。勉強会避けでめぐねえはなし、りーさんは……見当たらないのでゆきちゃんに話しかけます。

 

「バリケードの補強? うん、わかった! みんなを呼んでくるね!」

 

 と言った直後には全員集まってる不思議。みんなで力を合わせて「彼ら」を寄せ付けない強固な一品を作り上げていきましょう!

 2階と1階のやつはどうせ突破されるので手は付けません。時間的にも1箇所に注力するのが一番ですしね。

 

 天井を見上げながら移動します。ところで資材は集まってますかね?

 

「そうね……そこそこね」

 

 そんなに無いってことですね。昨日のうちに集めとけばよかった(小声)。

 という訳で作業タイム。倍速です。

 子供達もせっせこ働いてくれるのが嬉しい。人数が多ければ多いほどより早く、より強固なバリケードを拵えることができます。

 

 ……今気づいたんですけど、りーさんいなくない?

 いつからだ? 最初からいませんでしたかね? 私が見落としてただけ?

 だってほら、休憩する時るーちゃんはりーさんの腕にくっつくんですけど、今は一人で壁際に座り込んでますし、ここにはいないってことですねこれ。

 

 まーた隠れて発狂してるのかな? ちょっと精神脆すぎんよー。

 これが終わったら探しに行きましょ。案外なんか脇道イベント起こってるだけかもしれませんけど、そうじゃなかったらケアしなきゃ。

 

 るーちゃんが倒れたらりーさんも道連れになるのは前も言ったと思いますが、その逆もしかり。姉妹の繋がりは強い。支え合い助け合い生きているうちは安心だけど、崩れる時はとても脆いものです。

 

 ……はい。

 

 えー、どう考えてもこれ私のせいなんですけども、プレイ時の私の頭の中は呆れ一色でした。鳥頭なの。ゆるしてゆるして。

 

「これでばっちりね!」

「お疲れさん」

 

 お、頑丈なバリケードを築くことができたっぽいですね。みんなの雰囲気と言葉で察せますので注意深く観察しましょう。

 

「っとと由紀、大丈夫?」

「あはは、ごみん……足滑らせちゃった」

 

 ゆきちゃんがバリケードの完成度を確かめていたのですが、降りる際に滑ってしまうというアクシデントがありましたね。あ、ゴミィって言ってる……割と聞かないレア台詞ですね。猫帽子を深くかぶるゆきちゃん……あんまりそっちの方見てても空腹値が削られるだけなので視線を外して、さて自由行動の再開です。

 

 部室に戻って……りーさんの不在を確認。あ、そうだ、みんなを呼びに行ったのはゆきちゃんだから何か知ってるかもしれませんね。話しかけてみましょう。

 

「……りーさん? ……ううん、見なかったよ」

 

 んー、そうですか。ていうかなんかゆきちゃん調子悪そうですね?

 合図の一つである咳をしてないので感染でも風邪でもない。他の部員が平気にしてるから食中毒でもない。朝食の際にばくばく食べてたので空腹でもない。

 ……?

 

 ???

 

 ……。

 

 ……???

 

 考えてもわかんない時は行動あるのみだね。動きます。

 各教室を巡るりーさん探し。一応これはチャート通りです。

 といっても、「最終日前は部員の精神値を高く保つ」という大雑把なものですが。

 

「……」

 

 図書室で発見しました。扉の開閉音は聞こえているはずですが動きが見えませんね。呼びかけても反応なし。よっぽど面白い漫画でも読んでるのかな?

 りーさーん?

 

「ッ!!」 

 

 うお! あっぶぇ!!

 あの、緊急回避……緊急回避されました……。共通モーションの、ボールペンで「彼ら」の目を突くあれですね。

 

「あ……ご、ごめんなさい。優衣ちゃんだったのね」

「……」

 

 とはいえ、寸止めで許されました。やべぇよ……やべぇよ……。Re:さんガチで発狂してますやん!

 ああいや、踏みとどまってくれたってことはギリギリ大丈夫なんですかね?

 でも手に持ってる「がっこうぐらし!5巻」は叩き落としておきましょう。こんなもん読まなくていいから。

 

「…………うん。……優衣、ちゃん……ごめんね。一人に……してもらえる?」

 

 だめです。

 精神的に追い詰められた人間特有の一人になりたい願望(ムーヴ)はほんとなんなんですかね。

 さっさと部屋を出て部室に戻りましょう。ダッシュダッシュダッシュ!

 

「わ、どうしたのゆいちゃん?」

 

 ちょうど部室を出ようとしていたのかゆきちゃんが扉を開けてくれたので脇から頭を出し「わわっ」、チョーカーさんに編み物を教わっているるーちゃんへ手招きします。床に寝そべって絵を描いていたせーちゃんと顔を見合わせたるーちゃんは、二人してこっちに来てくれました。

 

「……」

「……」

 

 あ、手話なくてもせーちゃんの表情で言いたいこと結構わかりますね。ついてこいのジェスチャーで図書室に取って返します。

 おらっ開けろ! 巡ヶ丘市警だよっ!

 

「……ぁ。るーちゃ……」

 

 おめめかっぴらいてるりーさん、なんか笑っちゃうんですよね。とことこ向かってったるーちゃんを凄い顔で迎え入れたりーさんは、その両腕にしっかりと妹を抱いた時にはもう目をつぶっていました。

 触れ合うことで心の安寧を得る。美しき姉妹の愛情……。

 

「……」

 

 混ざれないせーちゃんが寂しそうにしている気がします。慰めたいところですが、優衣ちゃんは一人を除いて人肌では安心できない状態ゆえ、無理ですね。

 

「ほら、おいで」

 

 そんな優衣ちゃんに代わってりーさんがせーちゃんを呼んでくれました。

 少しの躊躇いのあと、おずおずと近づいていった彼女を片腕に抱くりーさんは、すっかり元通り。

 ここまで速い精神値の回復はあまりにも美味しい。子供二人いると楽でいいなあ。

 

 さらに、夕飯を迎える頃にはなななんと! 優衣ちゃんの味覚障害も治りました!

 というのも、露骨に眉を寄せてご飯を口にした優衣ちゃんがあれっと首を傾げて普通に食べ始めたのと、それに気づいた部員がことさらに囃し立てたのでわかりやすかったですね。

 

 精神値と空腹値のケアがしやすくなりました。わっしょい!

 はちゃめちゃに飯を掻っ込んで満腹になっておきましょう。もう水なんていらねぇんだ……!

 ……? 水集めに動いた時間が全てロスに錬金された……?

 

 まま、未来のことはわからないものですし、前向きに行きましょう。

 そもそも水が必要な場面はまだある、あるはず、たぶんある……ので!

 

「優衣ちゃん、ちょっといい?」

 

 にっこにっこして優衣ちゃんを見ていためぐねえが夕食後に呼びかけてきました。

 寄って行けば、何かをくれそうな気配。ついにきたか、信頼イベ……!

 明日最終日なんですけど、今さら貰って何か意味あるんですかね?

 

「これ」

「……」

「優衣ちゃんのものよ?」

 

 めぐねえがくれたのはグーマちゃんではなく、指輪でした。

 結婚の申し込みかな? 給料三ヶ月分なんでしょうね! 式場は押さえてますか? ウェディングドレスの準備をしておいてください。近いうちに届け出ます。

 

 冗談は置いといて、えー、台詞から考えるに、おそらく親からドロップする指輪を彼女が入手していた、ということなのでしょう。親「彼ら」を倒したのめぐねえですしね。それを貰えるんだ……知らなかった。

 ただこれ、地雷アイテムなんですよね。持ってても精神値削れるだけです。呪いだよこれは。

 

 そんなもの渡してこようとするめぐねえは、ぬぐねえですねこりゃ。

 通常プレイならたとえ不利益しか生まないとしてもこんなエモいアイテム捨てたりはしないのですが、RTAなので迷わず捨てます。ぽーい。

 

「ゆっ、いちゃ……!?」

 

 ショックを受けてるめぐねえにすまんなと謝りつつ眠りに行きます。

 なんか今プレミしてなかったか……? いやでも水で重いしなー。

 指輪くらいなら大して負担にならないから持ってた方が良かったかもしれない。

 思い返すとめぐねえ凄い顔してた気がするし……。

 

 くよくよしててもしょうがない。いざ就寝!

 

 ちなみに、きららチャンスは「たまいれ」でした。

 紅白にわかれてその色のボールを投げて蛍光灯に吊るした籠に出し入れする競技ですね。ボーナスは体力に+1。

 投擲は取ってないので補正はありませんでしたが、辛くも我が白組の勝利でした。やったぜ。

 

 はいっ☆

 

 最大最後のきららジャンプ、これで見納めだと思うと感動しますね。

 といったところで本日はここまで。ご視聴、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

「おなか、すいた……」

 

 

 

 夜半。

 みんなが寝静まった後に聞こえてきた微かな声に、私は目を開いた。

 

 腹部に掛かる体重と、押さえつけられた両肩にある鈍い痛み。

 顔を覗き込む彼女の口から垂れた唾液が頬を濡らした。

 

「っ!」

 

 カァ、と口を開いてゆっくりと沈み込んでくる頭に、全身に力を込めて腕を跳ね除け──沈んでくる彼女の両の二の腕をそれぞれ支えて受け止める。

 激しい鼓動で視界が揺れる。緊張で呼吸が乱れる。片手で彼女を押し留めながら、どこに置いたかも定かでない布を探して布団の脇を探る。

 

「あったっ……!」

 

 布に包んだ棒状のもの。

 指の動きだけでなんとか布を剥がし、それを──優衣ちゃんの口へ押し込む。

 

「むぐ……むぅ……むぅ」

 

 シャクシャクと心地の良い音がする。零れ落ちた水分が私の首と、襟を濡らす。

 それは、屋上で採れたきゅうりだ。

 

「はあっ、ふうっ、……優衣ちゃん?」

 

 暗闇に浮かぶ金の瞳は細められたまま揺らめいているだけで、反応はない。

 腋へ手を差し込んでなんとか持ち上げて横に座らせる。彼女は、両手で持ったきゅうりを齧って満足そうにしているのみだ。

 

 ほっと息を吐いた。

 良かった……彼女の衝動は、止まったらしい。

 

「……やっぱり、意識はないのね」

 

 シャクリ、シャクリ。

 ゆっくりした咀嚼と、ぼうっとした目は、意識が半分夢の中にあるのを窺わせた。

 単なる食欲であることを……それを再確認したこの時に、私は、胸を強く押さえて今一度深く溜め息を吐いた。

 

 自分の首に手を当てる。

 巻かれた包帯の下に残る歯型。……一緒の布団で寝た一昨日も彼女は空腹を訴え、そして、その時の私は防ぐ術を持っていなかった。

 首に食いつかれた時、私は死を覚悟した。自分の死と、彼女の死、両方を。

 

 けれど優衣ちゃんは噛みつくだけで止まって、それ以上はなかった。

 ……とはいえ、一度感染した彼女のそれは、「彼ら」への変貌を強く感じさせて……だから、朝を迎える前に布団を抜け出した私は、空き教室の一つに鍵をかけて閉じ籠もった。

 

 結局危惧していたことはなかったけれど。

 

 ならば問題は優衣ちゃんの……食欲だ。

 彼女は味覚に異常を抱え、普通に食事ができない状態だった。

 また、私以外に触れる事に強い忌避感を抱いているようだった。

 そして、人間に食欲を抱いている、という話もあった。

 

 だから彼女が空腹を覚えた時、私を食べようと思ったのは、きっと自然なことだったのだろう。

 

 ……その思考に至って然るべきだったのに、私は何も考えず彼女と寝床を共にした。

 一度だけじゃない。首を噛まれたその日の夜にも、僅かな忌避感とともに彼女を布団へと招き入れた。

 

 人に食欲を抱いているなんて話を信じたくなかったのかもしれない。

 少なくとも、考えたくなかったのは事実だ。

 実際に噛まれたのに。二度もそれを経験したのに。

 

 昨日はプチトマトを口に押し込んだ。

 彼女は今と同じように夢うつつでそれを飲み込んで、それきり眠ってしまった。

 だから今日も大丈夫だとは思っていたのだけれど……。

 

「……」

 

 実際、満足した彼女は糸が切れたように布団へと倒れると、無垢な顔をして寝息を立て始めた。

 

 手を伸ばす。

 

 ……撫でた髪は指に心地良くて、先程までの姿なんてまるで連想できなかった。

 でも、忘れてはならない。優衣ちゃんは……こんなにも整った環境の中にいてさえ、優衣ちゃんは……我慢、できないんだ。

 

「……」

 

 学校での暮らしが安定してきて外部へ救助を求めに行けるようになっていても、彼女を残して外に向かおうとはとてもではないが思えない。

 彼女の抱える問題が全て解決しない限りは……。

 

 彼女とどう向き合うべきか。未だに答えが見つからない。

 

 連日頭を悩ませていると、一つの吉報があった。

 今日の夕食の折、彼女は異常を訴えることなく食事を行った。祠堂さんが我がことのように喜んでいたのをよく覚えている。

 

 味覚の問題が解決された。原因は考えるまでもない。部員達の励ましと、それによる精神面の負担の軽減。

 非常に喜ばしい出来事だ。……そのはずだ。

 

「……」

 

 けれど……今日もこうして私を噛もうとした彼女には、確かに人への欲望があって……。

 

 ……味覚の、復活。

 食べる事を……楽しめるようになったのは……良いことよ。

 

 それは娯楽であり、人としての営みの大部分であり、私達との共同の作業であり、互いの不安に満ちた心を慰める行為でもある。

 食べ物を美味しいと感じられるようになったのは、そういうこと……だけど。でも。

 

 それは、つまり。

 

 味がわからないから食べる事を嫌がっていた。唯一私にだけその欲望を向けていた。

 だというのに、それが解消されたならば矛先は私以外にも向いてしまうかもしれない……?

 

 ……。

 

 やっぱり私には、何をどうしたらいいのかがわからない。

 考えても、考えても、資料を漁り調べてみても、解決策が浮かばない。

 どうしようもなくて、ただ、こうしてその場しのぎの行為しかできていない。

 

 それを考えると味覚が戻ったのは、やっぱり良かったかもしれない。

 口に何かを含ませれば、とりあえずは彼女の欲求は収まるのだから。

 味覚に異常があった時は食べる事を嫌がって、それが治っている今は、口にしたものを咀嚼することに注力してくれる。

 これが、その場しのぎ……。今この場での解決にしかなっていないとわかっていても、まだ、何をどうすればいいのか……ううん、時間が解決するのを待つ、とか、しか……。

 

「……優衣ちゃん」

 

 髪を撫でる。

 どこまでも幼く、私に似ていて、でも私の小さい頃とは似つかないその顔に胸が締め付けられる。

 専門家のいないこの世界では、もしかするとこの子のこれは、一生治らないものなのかもしれない。そう思うと、憐れでならなかった。

 あるいは、味覚と同じようにあっさりと治るかもしれない。そうだったらどんなに良いか。

 

「……」

 

 クロスに手をかける。

 そこに通した指輪に、優衣ちゃんは拒絶を示した。

 それきり、目の前にこうしてぶら下げていてもなんの反応も見せなくなってしまった。

 

 それが何を意味するのかさえ私にはわからない。

 由紀ちゃん達に囲まれてどこか穏やかな雰囲気を纏うようになった彼女でも……やはり、遺品を渡すのは早すぎたのだろうか。まだその時ではなかったのだろうか。

 

 この指輪が彼女の心の安定になれば。それで異常が消えれば……。

 ……異常。異常だなんて……いいえ。現実を、見ないと……。

 

 わからないことばかりでいやになる。

 ……泣いてしまいそうになる。

 

「でも……」

 

 穏やかに吐息する彼女の汚れた手と口を拭いてやりながら、思う。

 この子達は……何があっても、どんなことがあっても、守り通さねば。

 

 ……それは、教師として?

 

 ……それ以外の答えが見つからない。出てこない。

 何か間違っている気がする。これじゃいけない気がする。

 そんな、気がするのに……。

 

 

 暗闇の中に揺らめく金の光のように……答えは曖昧で、すぐさま掴み取れるようなものではなさそうだった。




TIPS
・「お腹……空いた……」
空腹値が限界を迎え、操作不能状態が近い事を示す台詞
精神異常のない通常の場合でも似たような台詞を喋るため頻繁に呟いていると錯覚する



・精神値

・千翼優衣
51/90

・丈槍由紀
29/100

・恵飛須沢胡桃
62/150

・若狭悠里
29/100

・直樹美紀
66/100

・柚村貴依
83/130

・祠堂圭
92/100

・若狭瑠璃
81/100

・月日星夜
79/100

・佐倉慈
32/90




次回、ゲーム「がっこうぐらし!」最終回。


「優衣ちゃんが優しい子だってこと、先生はちゃんと知ってますからね」

「るーちゃんは、もう死んでるの」

「あたしたち……ずっと友達だよな」

「優衣先輩っ!!」

「ゆい先輩は死んだんだよ」

「さよならも、ばいばいも、しないよ」




わたしたちは、ここにいます。



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10最終日ラッシュ1

いよいよ初投稿です。



 おはようございまーす。朝でーす。

 信頼イベを起こさなきゃいけないのになかなか好感度が稼げず顔が梅干しになるRTAの続き、はじまるよ。

 

 

 とうとう迎えた最終日、空模様はしっかり雨。今はまだ弱くぽつぽつと降っているだけですが、やがて本降りになるでしょう。雷鳴が轟く前に迅速に行動し必要な要素を全て満たさなければこの宇宙は終わりだ。

 

 とろい動きで布団から抜け出すと、案の定部屋の中には誰もいなぶぶぶぇっべべべ。

 

「わふわふわふ……」

「っ、っ、」

 

 太郎丸顔舐めスギィ!

 

 今日も一人かと思いましたが、なんと太郎丸がいてくれました。嬉しい!

 でも布団から抜け出すのを妨害するのはやめてほしかったですね。おタイムの破壊者め。

 

 優衣ちゃんは驚き戸惑っている……じたばたと暴れる手足が弱っちくて笑っちゃうね。

 

「わぅーん」

 

 ふてぶてしい顔だなぁ……。お尻ぺしぺしして退いてもらいましょ。THE・起床!

 さて、布団はもう使わないので放置してエコバッグを背負い、ふらふらっとしつつアイテム欄を見ておきます。

 サバイバルナイフの存命を確認!

 

 空腹値が絶妙に尽きそうなのでガムを口に含んでおきます。これも久し振りですね。

 ところで……そのガム……開封したのはいつですか?

 

「いこ、たろー」

「わん!」

 

 部室へ移動します。

 

「おは──」

「あ! ゆいちゃんおはよう!」

 

 はじめにホーミングゆきちゃんありき。

 

 前回の配慮はなんだったのか、すっ飛んできたゆきちゃんにばっちり抱き着かれてしまいました。

 精神値の管理に苦心している私の心を破壊しようというのでしょうか。そんな子に育てた覚えはないぞ。

 抱き返そうとしてみたけど優衣ちゃんは拒絶の動きをするのみでした。残念。

 

「由紀ちゃん、優衣ちゃんが困っているわ」

「あっ、そうだった。ごめんね、ゆいちゃん」

「ううん……」

 

 めぐねえは天使。おずおずと離れたゆきちゃんは、えへっと笑って下から覗き込むように優衣ちゃんを見上げてきました。目と目が合う時、精神値が削れてる事に気付くの。事情をはかってくれているのかいないのか判断に困るね。太郎丸を見つめる作戦に切り替えていけ。

 

「太郎丸もおはよう!」

「わんわん!」

 

 なんとゆきちゃん、屈みこんで太郎丸を撫で始めました。そんなに優衣ちゃんの視界に入りたいんですかね? 空腹値削れてるってば~。暴走して食べちゃうゾ♡

 ぴゃっとゆきちゃんの手から抜けて駆けて行った太郎丸は、窓際で本を読んでいた物憂げな美少女に飛び掛かかりました。

 

「ひゃあ! た、太郎丸!?」

 

 みーくん迫真のかわいいムーヴ。くすくすと笑うけーちゃんも素敵ですね。

 一生がっこうぐらししてぇなあ私もなあ……。

 

「おなか、すいた……」

「うん、朝ご飯にしよっか!」

 

 どうやら全員部室に集まっているみたいですね。優衣ちゃんが空腹を訴えるとスムーズに朝食に移れました。

 あー、それもそうか。雨だし屋上には行きませんよね。たまに音楽室とかにいる圭とかも今回は普通にここにいた、と。

 

 それと、やや薄暗い部屋内と雨音が前回の「あめのひ」を思い起こさせるのか、部員の顔色がちょっと暗いです。

 その雰囲気を打破するためのホーミングゆきちゃんだったのではないかと私は考察しますが、どうなんでしょうかね。

 くるみちゃんの真横の席を確保し、食事が始まれば自分の分をがんがんくるみちゃんに横流していきます。好感度稼ぎじゃー。

 

「あのなあ……あたしはいいからさ、ちゃんと自分で食べろよな。お前ちっこいんだから」

「…………」

「それはどういう感情の顔なんだ」

 

 正論+精神異常がなければ頭をぐりぐりされていただろう言葉に優衣ちゃん、お得意の真顔です。

 えっ、表情に突っ込んでくるのか……あんまり聞かないタイプの台詞ですね。

 

 エモーションしない限りそんなに表情が変わらないのはプレイヤーキャラの悲しいところ。

 生活部のメンバーを選んでプレイし始めればころころ変わる顔を楽しむ事もできるんですけどね。

 

 それでもってくるみちゃんの言葉は全無視して横流ししまくりましょう。

 

「あのなあ……」

 

 あきれ顔のくるみちゃんですが、俺は止まんねぇからよ……。

 何を言ってもわかりあえないと察したくるみちゃんは、緩やかにお箸を動かし始めながら「優衣って、不器用なんだな」と失礼なことをのたまいました。

 失礼な! 私のバリケード構築大成功率は2割を切るんだぞ! だから最初から人任せにしていたんですね。えっへん。

 

「いや、だからそれはどういう感情の顔なんだ……」

 

 困惑の眼差しを受けつつ完食! 一口も食べてませんけど完食!

 

 こういう時に注意してきそうなめぐねえ達はどうしてるのかというと、優衣ちゃんを真似したせーちゃんがるーちゃんのお皿に嫌いなものを移そうとするのをやんわり阻止しているし、影響されて悪い子になったるーちゃんがお皿の端にすいっすいっと箸で寄せてるのをりーさんが見つめていたり、あっおい見ろよ、みーくんがけーちゃんにあーんされてるぜ! カップルかな? スクショしました。RTAってなんだろな。

 

「おーよしよし、お前はよく食べるねぇ」

「わんわん!」

「由紀、行儀悪いぞ」

 

 ゆきちゃん周りは平和ですね。こんな風に部員がたくさんいると、部屋が暗かろうとめちゃくちゃ雰囲気明るくなるんですよね……酷い時を知ってるとなおさら明るく感じる。

 にしても太郎丸がカリカリ食べてる時の音がすっごい耳に心地良いですね……延々聞いていたくなります。

 

 さ、朝食が終わりましたのでホーミングゆいちゃんと化してくるみちゃんに突撃しましょう。

 信頼イベカモン!

 

「天気、あんまりよくないな。洗濯物は部屋干しするしかないか。……なんつーか、みょーに胸騒ぎがするんだよな……」

 

 むー、起きませんね。好感度が足りん!

 他の子に話しかけてアイテムを貰い、それを貢ぐとしましょう(運頼り)。

 チョーカーさん、なんかちょーだい。

 

「今ご飯食べたばっかりなのに、まだお腹空いてんの? じゃあ……はい」

 

 飴を貰いました。やったあ。

 Uターンしてくるみちゃんに供えに行きます。

 

「くれるなら貰うけどさ……あー、なんだろな……」

 

 微妙な顔をしているくるみちゃんから離れ、りーさんるーちゃんの下へ。

 なんかくださいな!

 

「えっと、じゃあ、余り物で悪いんだけど」

「……」

 

 ふむ、新鮮サラダですか。よろしい。

 るーちゃんは紐をくれました。あやとりしたり縛られたりするのに使われるやつですね。

 ここでりーさんの顔色を確認。むーん、悪くない。昨日削ってから放置してましたけど、かなり回復してるみたいですね。これが全員生存の良い所。脱落者がいないので精神値の回復がお早い。

 しかし単に隠しているだけって可能性もあるんですよね、りーさんの場合。りーさんは難しすぎる……。

 

 ゆーきちゃーん、何かくださいな!

 

「ふふー、じゃあゆいちゃんにはこれあげちゃう!」

「ん」

 

 得意げな笑みを浮かべたゆきちゃんは、スケッチブックと油性ペンを取り出すとずばばばっと猛烈に描き、それをくれました。

 「胡桃の似顔絵」を入手!

 ……忖度してくれてますね。

 

 説明しますと、誰かにアイテムをあげる際、その人物に関連したものを渡すと友好度や好感度の上昇にボーナスが入ります。それが顕著なのが部員で、わかりやすいのも部員。

 今ゆきちゃんがくれた「似顔絵」は自分でも作ることができますが、芸術スキルを持っているかいないか、芸術スキルのレベルで完成度が変わってきます。

 

 もらった似顔絵は………………はい。

 ゆきちゃんの色がよく出ていて素敵ですね(忖度)。

 

 というわけでこれらすべてをくるみちゃんに貢ぎます。

 

「まあ、貰っとくよ。ありがとな、優衣」

 

 先程までのぎこちない関係から何歩も進んで、柔らかな笑みを見せてくれたくるみちゃん。

 ふと伸ばされた手は優衣ちゃんの頭に触れる前に止まり、すっと戻されてしまいましたが、つまりはそこまで関係が進んだったことですね。

 

 でもまだ信頼イベが起こるレベルには達していないようです。

 うー、じゃあボールペンあげる……むむむ、防犯ブザーも! もってけドロボウ!

 

「雨、強くなってきたな……あたしちょっと様子見てくるわ」

 

 しかし信頼イベは起こらない、と。痛いですね……これは痛い。

 さらにタイムアップも近づいてきました。くるみちゃんが偵察に行き、戻ってくると最後の防衛戦が始まります。

 うぐぐ、くるみちゃんだけじゃなくゆきちゃんやチョーカーさんとの信頼イベも起こしたかったのですが、ここはくるみちゃんのみに絞ります! 彼女から貰えるアイテムの中で最高ランクは「くるみのシャベル」! それさえあればあらゆる戦闘はヌルゲーと化します。なおシャベルは分身するもよう。

 というわけでついて行きましょう!

 

「優衣ちゃん、見回りは恵飛須沢さんに任せましょう? あなたは休んでていいのよ」

「?」

 

 げ、めぐねえに阻まれてしまいました。ワンマンプレイがここにきて響いてきてますねぇ!

 タイプCでこの性格で目をかけられてるのに一人でやりすぎましたね。かなり心配されているようです。

 ですがタイムのために、信頼のために、めぐねえの心遣いを無視する必要がある。

 かなり辛いですが、心を鬼にしてくるみちゃんの後を追いましょう。

 

「ね、ゆいちゃんってあのお店でもずっと頑張ってたんだよね」

 

 傍へ来てほしそうにしているめぐねえを無視し、出入り口に来たところで声がかかりました、ゆきちゃんですね。

 ゆきちゃんは、けーちゃんやみーくんとの交流の中で、二人のために、四人のために、一匹のためにゆいちゃんが危険な探索に出続けていた事を聞いていたようです。

 そういった場合に呼び止めてくるのは、「ここには仲間がたくさんいるんだから、もう一人で頑張る必要はないんだよ」と伝えるためですね。

 

 ここで伝える言葉のパターンはチャートにちゃーんと記入してあります。

 数多の試走を乗り越えてきた私がコミュニケーションでガバるなんてありえませんぞ!

 

「わ」

「やばいっ! 奴らが押し寄せてきてるぞ!」

 

 おま、くるみちゃん戻ってくるのはっや! 見回りRTAでもしてんですかね!? ほんとにちゃんと1階まで行った!?

 

「それは本当なの!?」

「それじゃあ、前と同じ……また、また「彼ら」が……」

「……」

 

 浮き足立つめぐねえに、青褪めるりーさん。

 タイミングよく雷鳴が轟き、激しい風雨が窓を叩き始めました。

 

「校庭に、あんなにたくさん……!」

「どうする? バリケードはあるけど、前より脆いぞ!」

 

 前より? え、チョーカーさん今なんて……一回壊されてるんですか? なにそれ聞いてないよ!

 その場合のバリケードって応急処置で作り直されただけで紙みたいなもんじゃないですか!

 初期状態のそこそこ持つものだと思ってたから手を入れなかったのに!

 

 もっとちゃんと会話しておくべきだった……こ、コミュニケーションガバ……!!

 なんで? なんで? ちょっとチャートを……あ、うん。

 めぐねえ達が「あめのひ」にモールに来たから十分な戦力がなくバリケードを突破されちゃってたんですね。

 

 ちなみに学校初日のトイレでそれを思わせる会話がありましたが、完全に聞き逃してました。

 やび!

 

 覚醒めぐねえ頼りのこんなチャートはゴミ箱に仕舞っておいて、続きと行きましょう。

 大丈夫! あらゆるチャートはこの桃色の頭脳の中に……!

 

 というか、もはやどうもこうもありません。みんなには上にいてもらって覚醒組で対応しようと思っていましたが、総力戦以外取れる手段がありませんからね。

 

「ええ、打って出ます。恵飛須沢さん、柚村さん……ごめんなさい。また力を貸してほしいの」

「もちろんだよめぐねえ。こんな時こそ協力していかなきゃな」

 

 生徒に危険な事はさせたくないと顔に書いてあるめぐねえですが、判断はそこそこ的確ですね。

 でも今の口ぶりだと挙がった部員でしか防衛に出なさそうなので、優衣ちゃんの方からみんなのもとを巡って参加するよう誘っていきましょう。

 

「うん! 先生やくるみちゃん達にばっかり任せてちゃいけないよね。ゆい先輩、がんばろ!」

「わかりました。怖いですけど、全力を尽くします」

「ええ、わかったわ。るーちゃんと星夜ちゃんを屋上の方へ連れて行ったら、急いで戻るから」

 

 いや、二人にも参加してもらわないと困ります。少しでも1階と2階のバリケードを生き永らえさせないと時間まで持ちそうにないですし。

 

「そんな! でもっ、」

「……」

「っ……わ、わかったわ」

 

 くい、と袖を引くるーちゃんに言葉を改めたりーさん。うーん、るーちゃんから迸るやる気が見えますね。偉い!

 せーちゃんもゴム銃を手にして参戦する気満々です。

 

「よーし! 学園生活部、出動!」

「おー!」

「わんわんっ!」

 

 ゆきちゃんの号令に「おー」と腕を上げて応えつつ、総出で部室を出ました。

 どやどやどやーっと廊下を行く部員達が壮観ですね。今みーくんにぶつかって転ばせてしまったのは乱数調整です……(小声)。

 気を取り直して、「全力疾走」にて合間を縫って先頭へ出ます。

 

「きゃっ!」

「ちょ、ちょっと!」

「優衣ちゃん!?」

 

 ごめんて! めっちゃぶつかりました! コントローラーが悪いよコントローラーが!

 何が辛いって、るーちゃんを転ばせた時の罪悪感が凄いところですね……。涙ぐんだりするんですよね……。

 

 到着!

 時間の経過や場合によってまちまちですが、今回は1階バリケード前についたところでイベントに入りました。

 すでにバリケードには大量の「彼ら」が取りついてガシャガシャやっております。

 総員迎撃態勢!

 

「ここだけを守っても意味がないわ! ここは私と恵飛須沢さんが守ります。北は柚村さん、あなたに。南は──」

 

 この場面、本来主人公が各バリケードを守る部員の選別を行うのですが、めぐねえがいるとこうして勝手に選んでくれます。異議がある場合は話しかければ自分で選び直せますが、必要なさそうですね。

 ちなみに北をチョーカーさんのみに任せているように聞こえましたが、実際は何人か割り当てられてます。チョーカーさんの傍に移動した部員がそうです。みーくんとけーちゃん、ゆきちゃん、太郎丸……けーちゃんは怪我をさせずに3階まで連れて行って「けーちゃん保険」に賭けたいのでこっちに引き抜きましょう。

 

「ゆい先輩……うん、わかった! でもそうするとあっちには……」

 

 りーさん出すとるーちゃんがついてくし、せーちゃんはこっちで見ておきたいし、うーむ。

 なしで! 優衣ちゃん率いる南のメンバーはけーちゃん・りーさん・るーちゃん・せーちゃんです。これで決定!

 

「優衣ちゃん! っ、……気を、付けてね……!」

「うん」

 

 めぐねえの言葉に頷いて返し、南側のバリケードへ向かいます。ここでもたもたしていると辿り着く前に突破されたりするんですよね。

 ついたらまず取りついている奴らを大雑把に剥がします。そうしてもらうようみんなに指示を出したら防衛開始。近場の掃除用具入れからモップや箒を取り出している彼女達が加わってくれるまで全力で時間を稼ぎます。

 

 チラッ。チラッチラッ。

 逐次ロッカー方面を振り返り、『ロッカーに潜む「彼ら」が襲い来る』とかいう不測の事態にも備えましょう。悲鳴が聞こえてからじゃ間に合わないんだよね。

 ん、大丈夫そうですね。みんなきました。

 

 ならばブザーを隙間へ投げ入れ、「彼ら」の注意をバリケードから逸らす事で時間稼ぎを……投げたブザーがバリケードに弾かれました。よし! よしじゃないが!

 

「私が!」

 

 さっとりーさんが拾い上げてくれました。オナシャス!

 ……ナイッシュー! 見事隙間から向こうへ投げ入れられましたね。

 こうなればこっちのもんです。取りつく「彼ら」が劇的に減るのでらくちんらくちん。

 

 ただ、こんな爆音バイノーラルを開催すると当然このバリケード前に大量の「彼ら」を呼び寄せてしまうのでブザーを絶やさないようにしましょう。尽きたら即突破されるでしょうしね。

 

 2個目いくどー!

 

「……!」

 

 ははっノーコンだぜ。弾かれたブザーをキャッチしたるーちゃんが全身を使って放ってくれました。天井に当たって向こうに落ちていったブザーに群がる「彼ら」。

 しばらく小物を投げつけて時間を稼いだら、ブザーが途絶える前に3個目を……。

 ないね。

 

 ……えっ、3個目ないじゃん!

 

 あっそうだった、くるみちゃんに1個あげたんだった。

 いやだって1階に1個、2階で1個って計算してたから……あ、突破されそう。詰み上げられた椅子が落ちてきたら耐久値消滅寸前の合図です。ヤバヤバヤバイ! ちょちょ、ここら辺でトイレ休憩にしません!?

 引き分け……! 引き分けで手を打たないか……!?

 

「っ」

 

 せーちゃんのゴム銃による援護でバリケードを崩そうとしていた「彼ら」が弾かれました。やっちゃー!

 最後尾にいるのによくもまああんな隙間を通して当てられるもんですね。滅多に出会えない子なだけはある。出会えたー喜びにー♪

 

 今です! みなのもの、撤退ー!!

 

「うえ、いこ」

「そうね、もうまずそうだわ……るーちゃんと星夜ちゃんを連れて先に行って! めぐねえ達に声をかけるのを忘れないでね!」

 

 ばっと腕を廊下の奥へ向け、力強く引き戻して箒を構えるりーさん。

 いや、殿は私が勤めるのでりーさんが行ってね。優衣ちゃんが行くと二箇所のバリケードへわざわざ向かって声をかけなければいけませんが、りーさんなら走りながらどっちにも伝える事ができるので。

 

「っ、わかったわ。でも決して無理はしないで!」

「ん」

 

 迷いは一瞬、強く吐息してから横を駆け抜けていくりーさんに返事をし、一歩遅れてついていきます。えって顔されますが撤退する状況になると残っててもなんも変わらないんですよね。優衣ちゃんが最後尾になりさえすればいいんですよ。

 るーちゃんやせーちゃんが転んだりしないかだけ見ておきましょう。もちろん自分も転ばないように気を付けて……りーさんが声を響かせ、撤退を促すのを聞き届けたらみんなで2階へ駆け上がります。

 

 バリケードを超えるのにもたつくと追いつかれて死にますが、ここが「石鹸」の使い所さん!

 階段にまきびしのごとくばら撒いて足止めに使いましょう。そうすれば、たとえばゆきちゃんがもたついても余裕を持って各員配置につけます。

 

「急いで!」

 

 めぐねえがバリケード脇に立って促してくれるので、みんながちゃんと登るのを見届けてから最後に登ります。

 そこからそれぞれのバリケードに分かれていくのですが、何も言わないとさっきと同じ人員と配置になってしまうので、メンバーはそのままに東──真ん中のバリケードを譲ってもらいましょう。

 

 試走を繰り返していて気付いたのですが、1階は南、2階は東、3階は北のバリケードが最も楽に防衛できます。

 どこか一箇所でも突破されれば撤退することになるのでここは楽な場所を選ばせてもらいましょう。

 大丈夫! 私は学園生活部のみんなを信じてる……きっと時間を稼いでくれるって……!

 

「ごめん! もう、もう無理だ!」

 

 (笑)

 

 なに笑ってんだよぉ! はあ!? はっや! はっや! なにこれ!

 爆速で突破されました。きっと「彼ら」の中にバリケード突破RTAでもやってる走者がいたんでしょうね。

 しょうがない、気を取り直して大急ぎで3階へ駆け上がりましょう!

 

「ぅらあ!」

 

 崩れたバリケードを乗り越えてくる「彼ら」はくるみちゃんが薙ぎ払ってくれるので任せましょう。ぶっちゃけ雪崩れ込む彼らに優衣ちゃんを向かわせたところで踏み潰されるのがオチです。

 そうだそうだ、「物持ち上手」を活かして右手にせーちゃんを、左手にるーちゃ……りーさんが連れてってるので代わりにみーくんを捕まえ、階段を駆け上がります。こうしていれば3人とも転ぶ心配は皆無です。

 

 最後尾じゃなかったので階段に「石鹸」を撒くことができませんでした。ちょっとまずい流れですね……。

 3階のバリケードの防衛に入りました。押し寄せる「彼ら」の数が減っている気がしません。ちゃんと下の階で減らせていればもっと楽なんですけども……!

 

 消耗した掃除用具を取り換える部員達に代わり、優衣ちゃんに「小物」や「石鹸」を拾わせ、とにかく投げつけましょう。数うちゃ当たる! 数うちゃ当たる!

 

「うん! えいっ!」

「……!」

「……」

 

 あのさぁ……「投擲」取ってないからってここまで弾かれることあります?

 代わりにみんながぽいぽい投げてくれるのですが、今せーちゃん思いっきり溜め息吐く動作してましたよね。ア゛ア゛ア゛ア゛!

 

 ……大人しく箒でも拾って柄でつんつくやりましょう。

 掴まれないことだけ注意して、体力の続く限り動き続けます。

 

「これじゃ埒が明かない……!」

「もうそろそろ危ないかも……離れないと!」

 

 舌打ちでもしそうな勢いのりーさんに、撤退を促すけーちゃん。

 いいえ、まだです! 倒さなくても怯ませさえさせればいいんです! 時間さえ経過させられれば……!

 

 りーさん達も必死に「彼ら」を怯ませてくれますが、なかなかこれは……辛いですね……!

 

「わぉーん!」

 

 腕を振り上げてバリケードを崩しにかかってた「彼ら」が太郎丸の吠え声に怯みました。ナイッス!

 しかしそろそろ限界です。一番楽な場所を選んだつもりでしたが、どうにもここが最初に陥落しそうですね。

 

「なら、なら、私が……!」

「祠堂さん!?」

 

 音楽室へ駆けていくけーちゃんを後ろに、りーさんに撤退を伝えましょう。屋上へ!

 太郎丸は……太郎丸は一緒にいてもらいましょう。フォローミー!

 

「優衣ちゃん!」

 

 ついて行かない優衣ちゃんにりーさんがおめめかっぴらいてますが、無視してバリケードに向き合い続けます。

 あ、雷。窓の外が明滅し、その轟音に「彼ら」が数秒硬直しました。遅れてピアノが鳴り始めます。

 その音色で「彼ら」を引き寄せてくれるのが「けーちゃん保険」。正直辿り着く前に雪崩れ込まれるかと思いましたが、乱数に助けられましたね。

 

 ならばバリケード前で待機する意味はなし! いくぞ太郎丸、いったん屋上へ続く階段へ退避だ!

 みんなもぞくぞく集まってきておりま……みーくん顔色わっる!!!

 

「そんな……圭……!」

 

 大丈夫、今から助けに行くからよ! 「彼ら」が音色につられて音楽室へ殺到し始めたのを確認してから取って返し、こちらに背を向ける「彼ら」へスニキルを叩き込んでいきます。向かうのが早すぎると足の遅い「彼ら」に背後を取られて乙ります(7敗)。遅すぎると音楽室に入り込まれてしまいます(20敗)。

 

 お前ら一列に並んで順番にスニキルされに来い!

 服を引っ掴んで引き倒し、屈みこむ勢いを乗せたサバイバルナイフで胸を一突き。ぐっと呻いた「彼ら」は活動停止! 立ち上がり、続けて両手で持って掲げたナイフを振りかぶり、体全体で刺して! 足を蹴飛ばして倒す!

 連続スニークキル、1.2.3! もいっちょくらえい!

 

「やーっ!」

「圭、今助ける!」

 

 お、めぐねえとくるみちゃんが来てくれました。二人とも範囲攻撃のごとく「彼ら」を薙ぎ倒してくれるので助かります。

 階段を昇ってやってくる「彼ら」はみーくんにチョーカーさんが対処してくれるみたいです。か、完璧な布陣……思ったより上手くコトが運んでますね! 屋上まで行ってしまえばこっちのもんです。その先はもう何度も何度も練習したので……こりゃもう……勝ったな!(フラグ)

 

「っ!」

 

 しばらく奮闘している轟音とともに学校全体が揺れ、生活部のみんなも「彼ら」も隔てなくバランスを崩します。

 どうやら時間が来たようですね。ヘリが落ちました。

 

 音楽室前に(たか)る「彼ら」をあらかたやっつけるとほどなくして火の手が上がり、火災報知機が鳴りだしました。そうすると「彼ら」はみんなそこに集まるので、音楽室へ突入してぐったりしているけーちゃんを回収し、……みーくん、頼んだ!

 

「圭、しっかり!」

「う、へへ……腰が抜けちゃったみたい……」

 

 屋上へ退避するぞー!

 誰かがはぐれる事のないようにここでも最後尾になりましょう。

 体力が尽きてるのでへとへと走りですが、ムービー中に回復するのでこのまま行きます。

 

 

「菜園が……私達の……命が、燃えていく……」

「りーさん!」

 

 呆然と呟いたりーさんが膝をつき、るーちゃんじゃ支え切れないところに慌ててゆきちゃんが駆け込みました。

 おーおーよく燃えておるわ。あわよくば何か残っていたら回収するつもりでしたが、満遍なく火の絨毯に覆われてますね。

 

 さあ、ここからが正念場です。

 

 ヘリが落ちようが落ちまいが、落雷により避雷針の傍の発電設備が破壊され、炎上するのですが……結果、今学校は上下から火攻めされてます。

 燃える菜園、校庭の端で燃えるヘリの残骸、集う「彼ら」のムービーを挟み、自由行動ができるようになるので地下シェルターへの移動を──ファッ!?

 

「うっ、すげぇ爆発……!」

 

 あーびっくりした。ヘリの爆発に連鎖して停まってる車も爆発炎上!

 当然めぐねえカーも爆☆散! きもちいー。

 以降、散発的に車が爆発し様々な悪影響を校舎に及ぼすようになりました。

 ここからシェルターへの移動には結構な運要素が入ります。といっても難易度の上下くらいですが。

 

 全員で固まって移動し続けられるのは稀で、分断されたり、あるいは一人で行く羽目になったり。

 炎や「彼ら」に阻まれて遠回りを強要されるパターンや廊下の崩壊によって怪我をしつつもショートカットできるパターン、報知器を無視する難聴「彼ら」の大群から隠れて進むスニーキングパターンなどなど。

 

「これからどうすれば……」

「ここにいても、いずれ火に囲まれてしまうわ。どうにか地下まで移動して、あの避難区域へ逃れましょう」

「そっか、あそこがあった!」

 

 鳴り響く警報の中、途方に暮れるチョーカーさんの呟きにめぐねえがシェルターへ向かう事を提案しました。

 ああ、めぐねえやっぱり知ってたんですね。そうでなくても優衣ちゃんとみーくんが行った事でその情報は共有されているでしょうから、誰が言いださなくとも優衣ちゃんに提案させるところでした。

 

 では休憩もそこそこに地下へ向かうとしましょう。

 

「ゆいちゃん、大丈夫? 行こ?」

 

 とととっと寄ってきたゆきちゃんに誘導されて屋上を出ます。扉脇に立つめぐねえを除くと、動き始めたのは私が最後みたいですね。こりゃまずい。急いで先頭に出ましょう!

 ……人数が多くて階段だと先頭にいけませんね。もどかしい。

 

 3階に下りたらすぐみんなにハンカチを配り、自分も口元を覆います。廊下に漂う煙でたまに大ダメージを受けたり行動不能になったりするのを防ぐ効果があるので余裕があったらやっておくといいでしょう。

 適度にお水も飲んでおきます。スニーキングルートの場合大量に水が必要になるので飲み水に使えるのは一本だけ。

 

 炎が回った時、大抵崩壊したバリケードの方に炎の壁が立っています。簡単には進ませんぞという制作者の強い意思を感じますね。残っているバリケードに向かう必要があるのですが……。

 

「うわ!」

 

 バリケードを崩し、炎上「彼ら」が現れるイベントがたまに起こるんですよね。わかっていれば対処は簡単です。

 まずその時に誰かが掴まれる事はないので、すばやく水入りペットボトルを投げつけて鎮火しましょう。

 今回襲われたのはチョーカーさんだったため、勝手に反撃して処理してくれました。手間が一つ減りました。

 「彼ら」が現れなかった場合は設置されている消火器で火を消す必要があります。もしこの日までに消火器を使い切ってる場合は屋上の水を持ってくる必要があります。

 

「足元に気をつけて! 優衣ちゃん、手を!」

「ん」

 

 めぐねえが注意しつつ差し伸べてくれた手を掴み、バリケードの残骸を乗り越えていきます。たまーに中から腕が出てくる時がありますが、掴まれても特にダメージとかはないびっくり要素ですね。

 そしてロッカーから現れる「彼ら」!

 

「こんなとこにもいんのかよ!」

 

 なんてね。わかってますよーだ。何回ここ練習したと思ってんですか! くるみちゃんを真ん中あたりに配置しておくと前にも後ろにも出てくれるので突発的な事態でも安心です。

 なぜか炎上している一匹はすかさず飛び出したくるみちゃんによって倒されました。ほらね。

 

 2階へ下りてきました。火の手は上下からきているのでこの階が一番ましかもしれませんね。

 さて、そろそろ分断される可能性が出てきました。ムービーによる強制分断か、突発的な事態による回避可能な分断か、あるいは何も起こらないか。

 

「ゆいちゃん、大丈夫?」

 

 何度かこちらを振り返っていたゆきちゃんが後ろ向きのまま戻ってきて、寄り添うように話しかけてきました。

 ずっと最後尾取ってる関係上、生存者を見ている事で精神値と空腹値が削られてきています。水を飲む事で空腹値は誤魔化せますが、水分で回復したゲージは炎に当たると減少するので気を付けよう。よっぽど操作がガバらない限り当たりませんけどね。

 

「由紀ちゃん、優衣ちゃんをお願いね。先生は前に出ます。後ろにも気を付けてね」

「うん。めぐねえ、頑張って!」

「ありがとう……!」

 

 優衣ちゃん達を見て頷いためぐねえは、シェルターへの誘導のために先頭へ向かいました。

 それでもって廊下が崩壊して落ちていきました。めぐねえええええ!!!!!!

 

「きゃっ、わ!」

「ゆきちゃ」

 

 外で起きる爆発に校舎が揺さぶられ、いくつもの悲鳴が重なって、どんどん広がる穴に飲み込まれていく学園生活部。

 画面も揺れ、まともに歩く事もできなくなりますが緊急回避はできるのでゆきちゃんを突き飛ばして落下から逃れましょう。

 あいや待って、一緒に落ちた方が良くない? 選択をミスりました。すぐに立ち上がって後を追いましょう。1階分程度なら飛び降りても大したダメージにはならないし、みんなが受け止めてくれます。

 

「わ、わ、ごめっ」

「んっ」

 

 ちょ、ゆきちゃんどいて! 立ち上がれないんだけど!

 あー、急がないと「彼ら」が……!

 

「おい、来るぞ!」

「くそっ、由紀! 優衣! なんとか別の場所から降りてこい! そっちで合流しよう!」

「優衣ちゃん……!」

 

 くんずほぐれつから解放され、支え合うように立ち上がったゆきちゃんと優衣ちゃんが見たのは、燃え盛る大量の「彼ら」に追われて逃げ始める部員達の姿。誰もが不安げにこちらを見てはいましたが、こうなると穴から降りるのは危険です。

 今の、ムービーを挟まないタイプでしたので判断が間に合えばはぐれることなく進める状況でしたね。思わず崩壊から逃れるように動いてしまったのが間違いだった……。

 

 ていうか二人以外全員落っこちるパターン初めて見ました。逆はよくあるんですけど……ありえなくはないし、想定内ではあります。ただ、一緒にいる部員が誰になるかって相当パターンがあるので、えー、ゆきちゃんの場合は……戦闘力ないし、強行突破は難しい……素直にスニーキングするしかないですかね。

 

 ここまで結構いいタイムでこれてるので駆け抜けていきたいのですが……っと、爆発!

 

「うう、どうしよう……」

「……」

 

 パラパラと何かの欠片を零す天井を見上げて不安げに呟くゆきちゃん。彼女にとっても一緒にいるのが戦闘力皆無(?)の優衣ちゃんだったのは不幸ですね。

 ただ、これ(編集)見返してて気づいたんですけど、ここでゆきちゃんと一緒になるのは必然だったっぽいですね。

 ゆきちゃん、普段はわりと自由に動き回っているのですが、部員の精神値が低くなると寄ってきてケアしてくれるんですよね。さっき優衣ちゃんがかなり削られてたのでやってきて、そして二人で取り残された、と。

 

「ううん、落ち込んでる場合じゃないよね! ゆいちゃん、がんばろ!」

「……」

「あっごめ! ……ごめんね」

 

 心を切り替えたゆきちゃんは、ずっとゆいちゃんの手を握り続けていたことに気付いて慌てて離しました。助かる。

 でも精神値の減りはそんなでもないんですよね。たぶん優衣ちゃんがゆきちゃんを気に入り始めてるからなんでしょうけど。相手からの友好度と好感度が最大でも部員によって減少度変わってくるし接触恐怖症の判定はようわからん。

 

 さ、ここでもたもたしてても意味ありませんし、当然こうしている間も他の部員は動き続けています。できればチョーカーさんが言っていた通り合流したいので行動開始!

 ここはもう通れないので反対のバリケードに急ぎましょう。道中消火器を抱えていきます。ゆきちゃんが大丈夫かと声をかけてくれますが、ここでも物持ち上手が活きてますねぇ! 二つ持ったってふらつきません。必要な時にゆきちゃんに渡して、二人がかりで鎮火しちゃいましょう。

 

 バリケード前につきました。いったん二つとも床に下ろし──爆発。んー、すっ転びました。地味にうざいなこれ。

 気を取り直して片方をゆきちゃんに渡し、もう片方を手に取って、と。

 

「ゆいちゃんっ!!」

 

 ホースをバリケードへ向けたその瞬間、ぶち破って伸びてくる手。

 避ける暇なく腕を掴まれ、ごうっと燃える火が制服の袖に移り──うお、アッツ!

 アーチャチャチャチャチャチャ! アーチャチャチャチャチャチャ!

 

 チャチャチャ オモチャの チャ! チャ! チャ!

 

 

 

 

 

 

 優衣ちゃんの症状に関しては、時間の解決を待つしかない……。

 

 そんな悠長な事を言っている場合ではなかった。

 こんなにも呆気なく、こんなにも早く、安定した生活が崩れてしまうなんて思っていなかったとはいえ──先延ばしにしてしまったのは間違いだった。

 

 そのうち助けを待つだけでなく、呼びに行けるようになるだろう。

 若狭さんの言葉に盲目的に同意していた。他の人の口から出てくる希望に縋って、先のことを考える責任を放棄していた。それはあまりにも──愚かだというのに。

 

 ──未来のことなんて考えても無駄よ。

 

「うあああ!」

 

 燃え盛る「彼ら」を叩き切る。

 ここにいるはずの無い泉さんの形をした影。

 それが、至る所に現れては、冷たい言葉の刃で貫いてくる。

 

 生徒達の身を危険に晒したのは誰なのか。

 不確かな希望をぶら下げて心の緩みを持たせてしまったのは誰なのか。

 力のない二人を取り残して逃げることしかできない存在を教師と呼べるのか。

 

「なんで、こんな、いんだよ!」

「前より多くなってる……どうして!?」

 

「やあああ!」

 

 一心不乱にモップを振るう。若狭さんの言葉への疑問が頭の端っこに浮かんで、消える。

 わからない。私はその時にいなかったから、比べようがない。

 でもたしかに、倒しても、倒しても、倒しても、「彼ら」がいなくならない。

 

 殿を持つ私でさえそう感じているのだから、先を切り開く恵飛須沢さんは尚更そう感じていることだろう。

 

「ふっ、く!」

 

 持ち手を跳ね上げ、棒をしならせ、先に括ったナイフで風とともに「彼ら」を切る。

 熱を持ち軋む筋肉が今にも硬直してしまいそう。疲労が蓄積して、動かなくなってしまいそうだ。

 服の中にこもる熱が、足を動かすたびに外の空気と入れ替わって、熱く、冷たく、風邪と似た症状を引き起こす。

 濡れた肌には強い不快感が纏わりついて離れず、鋭い痛みを発する首に目眩と吐き気を感じていた。

 

「っ」

 

 傍で転びかけた星夜ちゃんの腕を掴んで引き起こす。何人も連なって追い縋る「彼ら」を薙ぎ払って遠ざける。

 這って進んでくる者の焼ける臭いに包まれて、閉じられず乾ききった目に、馴染み深い巡ヶ丘の制服ばかりが映っていた。

 

 

 シェルターへ逃げ込むまでは、そう難しくはなかった。

 命の危険が付きまとい、何かを間違えれば死んでしまっていただろうとしても。

 迫りくる「彼ら」に、最後まで頑張ってくれていた太郎丸がこちらへ駆けて来るのを見てやむを得ず判断を下す。

 

「恵飛須沢さん!」

「っ、……くそっ!」

 

 完全に閉まらないようつかえになっていた机を蹴飛ばした恵飛須沢さんと協力してシャッターを下ろす。

 私はモップで、彼女はシャベルの先で、高熱を持つシャッターを押し込んで。

 外界とこちらとを閉ざす激しい音に胸が痛む。

 

「ちょっと待ってよ! そこ閉めちゃったら、ゆい先輩もゆき先輩も……!」

「わかってる! けど、いくらなんでも数が多すぎる……!」

 

 触覚を持たない「彼ら」がシャッターを叩く。

 怯える子供たちを抱く若狭さんが、抗議の目を私に向ける。

 

 どうしよう、どうすればいい? 彼女達がここに無事に到着するのを祈ることしか、私にはできないの?

 

「じゃあ優衣先輩も由紀先輩も見捨てるっていうんですか!!」

「そうじゃない! けど今出ていくのは自殺行為だろ!?」

 

 生徒達の声にも焦りと不安から棘が立っている。

 今は彼女達を落ち着かせなければ……。

 

「……!」

「るーちゃん……」

 

 声なく泣き出してしまう瑠璃ちゃんを、若狭さんが慰める。

 つられて星夜ちゃんまで泣き出してしまって、柚村さんがあやす。

 彼女だって由紀ちゃんの事が心配だろうに、それでも。

 

 パチパチと音を立てて揺れるシャッターに、何もかも終わりなのだと悲観的になってしまいそうだった。

 

 ……。

 

 重い体を動かして電気をつけてみても、安全なはずのここはいやなにおいに満ちていて……。

 薄暗いままだった。

 

 

 

 

 ペッ! カスが効かねぇんだよ!

 

 うそです。瀕死です。しかし炎上「彼ら」は始末し、ペットボトルを1本消費して水を浴びた優衣ちゃんはやや顔色悪くも元気そうにしてます。

 

 あークッサ! 「彼ら」の焼け焦げた臭いのせいでゆきちゃんが具合悪そうにしてますね。見た目の問題もあるな……。見ちゃ駄目だよー目が腐るよー(かつての級友に向ける辛辣な言葉)。

 

 なにはともあれバリケードは超えられました。何体か「彼ら」がうろついてますけど、大体が報知器に向かっている最中ですね。容易く背後を取って始末できます。ペットボトルを投げつければ破裂した水が火を消し、飛び掛かった優衣ちゃんによってナイフを突き立てられた「彼ら」が崩れ落ち。

 

「うう、すっごくいっぱいいる……!」

「ん」

 

 階段から下へ行こうとすると、階下に蠢く這いずる「彼ら」。登りたくても登れない奴と、それらが邪魔で前へ進めない「彼ら」の姿もありました。

 通れない……通れなくない? しかし後ろには戻れませんのでここからいくしかありませんね。

 

「頑張って、飛び越えてみる? えいやーって行けば、もしかしたら」

「……」

「無理だよね……燃えてるし……。そうだ! 消火器!」

 

 タッと2階へ戻って行くゆきちゃんについていきましょう。

 それでもって消火器を回収し、階下の「彼ら」へ向けて噴射します。

 

「……だめだ」

 

 煙幕のように白い煙は立ったものの、そこを潜り抜けていくのは不可能でしょうね。

 「彼ら」の鎮火はできたので……まあ、飛び越えるしかないですね。

 ここで小技。このまま一緒に飛ぶだけじゃ確率で足を挫いたりしてしまいますが、「物持ち上手」がある場合、抱えて飛べば安全に移動できます。

 問題は……いや、考慮する必要はないですね。確率的にないので。

 

「わたしに、まかせて」

「……ゆいちゃん、でも」

「だいじょうぶ、よ」

 

 ゆきちゃんより小さい優衣ちゃんに「任せて!」とか言われてもそりゃ困惑されますが、そこはごり押しして承諾してもらいましょう。

 おらおらさっさと身を委ねるんだよ! ホラホラホラホラ!

 

「……ん! わかった、ゆいちゃん……跳ぼう!」

「うん」

 

 海より深いゆきちゃんの優しさにより承諾をもぎ取れました。

 ん? いや肩を組むんじゃなくてね、優衣ちゃんがお姫様だっこ的な感じで抱えるんで。

 

「3つ数えていくよ!」

 

 壁際まで下がって助走のための距離を稼ぐゆきちゃんに、神妙に頷く優衣ちゃん。

 あっちょっと待ってもらって……。

 

「いち!」

「にの」

「さーん!」

 

 駆け出した2人は幸せな跳躍をして終了。幸せな跳躍ってなんだよ?

 

()っ……!」

 

 「彼ら」の頭上を飛び越え、着地した2人ですが、案の定ゆきちゃんが足を捻ってしまいました。

 だからゆいちゃんが抱えるって言ったのに!

 まあタイミング悪く外で爆発が起こってたので、抱えてても投げ出しちゃってたと思いますけどね。くそが。

 

「うああっ」

 

 無理に立ち上がろうとして痛みに呻くゆきちゃんを庇い、迫りくる彼らへペットボトルを投げつけます。

 こいつらを殲滅しない限りゆきちゃんが生き残れません。ここは最高速度で始末して2人でシェルターまで逃れましょう!

 

 ぶっ頃してやる……水入りペットボトルはもういらねえ……へへ、水なんて必要ねぇ! ……へへへへ、タイムも必要ねぇや。

 誰が「彼ら」なんか……てめぇらなんか怖かねー! やろうぶっころしゃー!!

 

 

 

 

 なんとか、落ち着いた。

 ……いや、みんな疲れ切っているだけだ。

 誰も何も言わず、ただ俯いている現状を「落ち着いた」と評するのは……私も、疲れているのだろう。

 

 壁に手をついて立ち上がる。

 とにかく、優衣ちゃんを……由紀ちゃんを助ける手立てが必要だ。

 「彼ら」が離れてくれれば言うことはなかったが、未だに叩く音、引っ掻く音が続いている。

 

 そちらから出られない以上、奥に向かうしかない。

 あるいは、外の「彼ら」を一掃し、火や煙をどうにかしなければならない。

 何か……武器。そう、こんな間に合わせじゃない強力な武器でもあれば……。

 

 そんなものがあるとは思えないけれど、一縷の希望に賭けて奥へ進む。階段を下りて、下りて……直線の廊下へ。靴の中へ入り込んでくる水に不快感と嫌悪感を抱きながら、先へ。

 ……いくつもの水音が背後に続く。振り返れば、みんなついてきていた。

 

「……」

 

 パシャパシャと水を蹴って歩んできた星夜ちゃんが私の腕を掴んで、揺らした。

 言いたい事はわかる。……みんな、同じだ。

 誰も二人を見捨てようだなんて思ってない。助けに行きたいと思っている。

 

 ただ、強い絶望も胸に伸し掛かっていて……誰かが動かなければ動き出せなかったのだろう。

 ……この学校はもう駄目だ。消火活動をしようにも「彼ら」に妨げられてスムーズにはいかないはず。

 整っていた設備も、食料も無くなって……それでも、決して諦めてはいけない。

 

 奥へ進む。

 重厚な扉を押し開けると、──っ!

 

 ……人が、首を吊っていた。

 間違いでなければ、これは──。

 

 ふと横を抜けていった星夜ちゃんが部屋を物色し始めるのに息を呑む。

 こんなものを見せてはいけないのに、目を塞いであげる事さえできなかった。

 

「入ってきては駄目よ」

「めぐねえ……?」

「ちょっと待っててね」

 

 外へ声をかけ、扉を閉める。それから…………、……。人を、下ろす。

 冷たくも熱くも無い硬い感触に強く唇を引き結びながら、それを……どこか……。あそこがいい。

 ロッカーの中へ押し込む。

 踏み台に使われたのだろうダンボールも隠そうと振り返れば、そのすぐ傍に星夜ちゃんが屈んでいた。

 

「……」

 

 視線に気づいたのか、私を見て立ち上がった彼女が歩み寄ってきて、一枚の紙を手渡してきた。

 三つ折りにされた縦長の……どう見ても、これは遺書だ。

 開こうとした指が止まる。

 

 ……開くことが、とてつもなく重いことであると、思ってしまった。

 しかし、受け止める覚悟だとか、あるいは感化されないよう心を保護するための時間や何かはない。

 薄く息を吐いてゆっくりと開く。

 文章は、とても短かった。

 

 

最後ノ審判ハ下サレタ

コノ穢レタ街ハ熱消毒デ浄化サレルダロウ

 

 

「……勝手なことを」

 

 びく、と星夜ちゃんが震えるのに、慌てて手に籠っていた力を抜く。

 遺書を畳みなおし、「見つけてくれたのね、ありがとう」と頭を撫でれば、彼女は何も言わず──言えず──抱き着いてきた。

 

「めぐねえー、まだ入っちゃだめかー」

「あ、いえ、もう大丈夫よ」

 

 外から聞こえてきた声に返事をすれば、恵飛須沢さんを先頭にみんなが入ってきた。

 若狭さんの手から離れて駆け寄ってきた瑠璃ちゃんに星夜ちゃんを任せ……何人かの視線が天井へ向かっているのに気づく。

 

「……あ」

 

 振り仰ぐと、輪の形を持つロープが吊り下がっていた。

 

 片手落ちになってしまったことに額を押さえる。けれど、それ以上の反応を示す人はいなかった。

 何か有用なものは見つかったのか。まだなら探そう。

 

 ……それくらいだった。

 

 

 

 

「ゆいちゃん、いいんだよ」

 

 時折起こる爆発で手に持っているものを取り落とすことがあります。

 それは人物にも及び、つまりは、肩を貸して運んであげていたゆきちゃんさえ転ばせてしまうこともある、ということです。

 ついでにサバイバルナイフ、落としました。いや拾いましたけど、小さい武器を落としたのは初めてだったのでびっくり。

 

「怖くったっていいんだよ。泣いたっていいんだよ」

 

 あとなんかすっごいゆきちゃんに話しかけられてるんですよね。

 何を受けての台詞なのかまったくわからない。似た台詞は聞いたことあるな……でも場面が違う。

 

「ゆいちゃん、いっつも我慢してるよね」

 

 待ってね。いやほんと待って!

 今すっごい必死にシャッターに取りつく「彼ら」処理してるから!

 ていうかできる限り離れていて欲しいんですけども。1匹でもそっち行かせたらまずい!

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……(無言プレイ)。

 

 

「こんな時なのに、全然弱音を吐かなくて、それは凄いし、強いなって思うけど……でも!」

 

 ……。

 

「……いいんだよ。ひとりきりで頑張らなくたっていい」

 

 ラストォ!

 全部やっつけました。優衣ちゃんの体はもうボロボロや。

 炎に巻かれて体力はギリギリ、ゆきちゃんとくっつき続けていたので精神値も僅か。水で補っていた空腹値も完全に削られて明滅しております。

 しかし! このシャッターを開きシェルターへ入ってしまえばエンディングはすぐそこ!

 床でも見て進めばなんの問題もないんですよ!

 

「…………」

 

 じゃあシャッターを開け、開け、開け。

 ……振り返るような入力はしてないぞおい。

 

 

「お腹……空いた……」

「えっ?」

 

 

 アア、オワッタ。

 




次回は明日か明後日かしあさって。


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11最終日ラッシュ2


そろそろ……エンディングは近いようだな!
このチャプターには、あらゆる運命がかかってる! 最高のRTAだな……!

初投稿は一度きり……。

学園生活部の運命は、僕が変える!
「彼ら」の運命は、俺が変える!




 

 

 

──優衣ちゃん、いいんだよ。

 

 振るったナイフが「彼ら」を裂いて、飛び散ったものが床を汚す。

 焦げた臭いと、取り落とさないよう強く握りしめたせいで痛む手の感覚が、頭を冴えさせていた。

 

──怖くたっていいんだよ。泣いたっていいんだよ。

 

 あんなにたくさんいた「彼ら」も、頑張って動き続けると、いつの間にか全部死んでいた。

 何かに突き動かされるみたいに、無我夢中で、よくわからない世界の中にいた。

 すごく疲れた、けど……ゆきちゃんを守れたし、いっか。

 

──優衣ちゃん、いっつも我慢してるよね

 

 ……。

 バックからお水を取り出そうとして、何も残ってないのに手を彷徨わせる。

 それを、首へ当てた。喉が渇いていた。

 

「……いいんだよ。ひとりきりで頑張らなくたっていい」

 

 ナイフを、仕舞う。空いた手になんだか違和感を感じて、何度か握ったり開いたりした。

 

 振り返る。

 座り込んで、足を押さえて痛そうにしているゆきちゃんがいる。

 それ以外、怪我は無さそう。よかった。ちゃんと守れた。

 これでわたしは、ちゃんと、ゆいだ。

 

 ね。

 ひとりでも、だいじょうぶ、よ。

 

 ……あ。

 なんにも喋らないから、ゆきちゃん、それがわからないんだ。

 ちゃんと喋ろう。そうすれば、けいちゃんみたいに、みきちゃんみたいに、お喋りできると思う。

 

「……わたし」

 

 ……うん。声、ちゃんと出た。

 でも、すっごく喉が渇く。……何か飲みたいな。

 

「……わたしは、……、……だから。ゆきちゃんのこと、守らなくちゃ、だから」

「ゆいちゃんは、すごいよ。それでほんとにわたしのこと、守ってくれてる。みんなのこと、助けてくれてる」

 

 痛そうにしながら立ち上がったゆきちゃんが、まっすぐわたしを見る。

 視線が合ったのに、嫌ではなくて、見つめ合った。

 

「でもね……大丈夫なんだよ? そうしなくたって、いいんだよ」

 

 それって……どういう意味?

 助けなくて良かった、ってこと?

 

「無理しなくていいんだよ。わたし、頼りなく見えるかもしれないけど……一緒に頑張ろう?」

 

 だめだよ。

 わたしが、守ってあげるから。

 優しくしてあげるから、それ以外のことはしちゃだめだよ。

 

 

優 衣 ち ゃ ん が 優 し い 子 だ っ て こ と

 

先 生 は ち ゃ ん と 知 っ て ま す か ら ね

 

 

 ……わたしは、優しいこ、だから。

 優しいこでいなくちゃ、だから。

 

 じゃなきゃ、めぐねえは、知らない。

 優しいわたしじゃなきゃ、めぐねえは、知らないの。

 

 みきちゃん、けいちゃん。

 学年が下のこを守るのは、優しいせんぱい。

 

 るりちゃん、せいよちゃん。

 子供を守るのは、優しいおとな。

 

 たろー、まる。

 動物に優しくするのも、優しいこ。

 

 おかあさんが死んじゃったら、泣いてあげるのも。

 それが優しいこの条件だから。

 

 

 わたしは、千翼優衣、だから。

 おかあさんの子供でいるには、約束を守らなくちゃいけないの。

 

 ゆきちゃん。どうして「いい」なんて言うの?

 おかあさんの子でいちゃいけないの? ほんとのおかあさん以外はだめなの?

 すきって言うのはだめ? だいすきって思うのは、だめ?

 

 やくそく、よ。

 生きて。新しいしあわせを見つけて。笑顔でいてね。

 

 ……わたしは、悪いこだから。おかあさんとの約束、守れなかった。

 

 生きるのは辛いよ。おかあさんがいないんだもの。

 しあわせって何かわからないよ。難しいことは、わからないの。

 笑顔は得意じゃないよ。笑いたくなることってないもの。

 

 

 でもね、わかったの。

 まだ、わからないことも多いけど……。

 

 めぐねえは……わたしに、優しくしてくれたから……。

 おかあさんとおんなじくらい、優しくしてくれたから……。

 

 だからすき。

 

 だから、会いたいの。

 

「えっ……?」

 

 ……?

 

「ゆ、いちゃ……なに、言ってるの……?」

 

 ……。

 変なこと、いったかな。

 

 ゆきちゃんにとってはそうなの?

 人をすきになるのは、ヘンだ、って……。

 だれかを愛するのは、いけないっ、て……。

 

 

 どうしてそんなこというの?

 

 

 ゆきちゃん、優しくて良いこだなって思ってたのに。

 会いたくて仕方ないくらい、すきになってたのに。

 

 だから。

 

 だから。

 

 …………あ。

 

 

 ……。

 

 

 ……。……。

 

 

 …………お腹、空いたな……。

 

 

 

 

 ゆいちゃんは、頑張りすぎだと思う。

 ううん、こんな状況なんだから、いくら頑張っても頑張り足りないくらいだとは思うけど……。

 

 それでもやっぱり、ゆいちゃんは頑張りすぎだと思う。

 もっとみんなに頼ってもいいと思う。

 

 大人しい子だからか、なんにも言わないけど……本当はきついんじゃないかな、って考えて。

 だから、聞いた。……燃える校舎の中で、たくさんの「彼ら」と戦うゆいちゃんに向けて。

 

 タイミングは変だったかもしれないけど、ここで言わなくていつ言うんだ、って考えたら、勝手に喋り出していた。そうしたら、だんだんゆいちゃんの様子がおかしくなっていって。

 

「えっ?」

 

 ふらふらと寄ってきた彼女に抱き着かれた。そうと感じた時には押し倒されていて。

 本当に様子が変だ。ゆいちゃん、どうしちゃったの……!?

 クァ、と口を開く音が耳元で聞こえて、一気に怖くなった。

 

「ゆいちゃっ、やめてぇっ!」

「……!」

「ぃぎっ……!? あ、あっ……!」

 

 腕が熱くなった。そう思ったら、すぐ痛くなって──ああ、食べられたんだ、ってわかった。

 二の腕にぽっかりと穴が開いているのがわかる。……それ以外は、わからなかった。

 だって、痛い……ううん、熱い? あ、寒い、かも……。

 

「あっ、あっ、あっ」

 

 何度もゆいちゃんの頭が動いて、肌に張り付く唇の感触がはっきりとあって。

 頭の中がぐるぐるして、ふと思い出した。

 そういえばめぐねえが言ってたな……。ゆいちゃんって……人が、食べたくなっちゃう時もある、って。

 

 それって。

 

 

 ──それって、どれだけ辛いことなんだろう。

 

 

 だって、人が食べたいのに、周りにはたくさん人がいて。

 それでも我慢して、わたし達を守ってくれてた。

 今こうなっちゃってるのは……もう、我慢しきれなくなっちゃったからなんだ。

 

「う、くっ……」

 

 わかってる。わかってなかったかもだけど、でも、わかってるよ。

 ゆいちゃん、人が食べたいんだよね。でも「彼ら」とは違うんだよね。

 

 手を伸ばす。食べられてるのとは反対の手を、背中に回す。

 そっと撫でる。

 

 一心不乱にわたしを食べてたゆいちゃんは、動きを止めて、はっきりとわたしを見た。

 

 ほんとは……いやだよね……こんなの。

 だってゆいちゃんは。

 

 ──優しい子だから。

 

「あ……」

 

 口の周りを真っ赤に汚したゆいちゃんは、目を大きく開いて、瞳いっぱいにわたしの顔を映し出した。

 背中を撫でる。

 かすかに動くゆいちゃんの口からぽたりと零れた血が、ちょっと冷たかった。

 

「食べていいよ。お腹、空いたんだよね」

「で、でも、ゆきちゃ……い、いたく、ないの?」

 

 目をつぶる。

 強張っていた体から力が抜けていく。

 どくどくと脈打つ腕の感覚も、どこか遠くにあって、痛みとかは全然なくて。

 

 ただ、お腹が空いてるんだな、わたしが食べたいんだなって思ったら……こうしたくなった。 

 

「……」

 

 頬にかかる手がぬるりと動く。

 両側から挟まれて、撫でるような動きに薄目を開く。

 

「ごめんね……ゆきちゃん、ごめんね……」

 

 いたいよね。あたりまえだよね。

 わからなくってごめんね。食べちゃって、ごめんね。

 

 呟くように、囁くように、ほんの小さな声で……目に涙をためて、ゆいちゃんが言う。

 

「なか……ないで」

 

 ゆっくりと、背中を撫でる。

 きっと今、ゆいちゃんの心だって痛いんだ。

 

 ……痛いよね。ゆいちゃん、痛いよね。

 

「みんな、同じだよ。痛くて、辛くて、苦しくて……けど

 ここまで頑張ってきたんだよ。もうひとふんばり、がんばろ?」

 

 大丈夫。わたしたちは、いつだって支え合って、助け合って、生きていくって決めたんだから。

 こんなのへっちゃらだよ。

 

 微笑みかけると、ゆいちゃんはすんって鼻を鳴らして、つらそうに何かを飲み込んで、喉を鳴らして。

 

「……もっと食べていい?」

 

 

 

「いいよ」

 

 そう答えると、ゆいちゃんはぶんぶんと首を振った。

 だめだよ、って。そんなのだめだよ、って。

 

「食べたいなって思うのは当たり前のことだよ」

 

 ふるふると首を振るゆいちゃんから零れた涙が、熱かった。

 

「だから、いただきますって言うんだよ」

 

 ぽたぽたと降る涙が愛おしくて、自然と笑みが浮かんでくる。

 でも、ちょっと、目の奥が暗くて……だんだん自分で何を言ってるのか、わかんなくなってきた、かも……。

 

「ゆきちゃん……先生(めぐねえ)みたい……」

 

 いつも静かで平坦なゆいちゃんの声が、上擦って、跳ねていた。

 なんだか珍しい……そういう風に考えるのはひどいかな。

 

 なんとか腕を持ち上げて、両腕で優衣ちゃんを抱きしめる。

 されるがままに胸へ抱かれたゆいちゃんは、やっぱり震えて、泣いていて……でも、へんに我慢してて、泣き方がわからないみたいだった。

 それが──よく、わからないけど……とろとろと腕から流れる血もなんともないくらいに……、……。

 

 頭を撫でる。

 それから、肩を押して、顔を合わせて。

 前髪を上げて、額にキスをする。

 

 ゆいちゃん、気に病むことなんかなんにもないんだよ?

 わたしは、全然へいき。

 

「っ!」

 

 ばっと立ち上がったゆいちゃんが、何かを堪えるような顔で離れて行く。

 それを追うために立ち上がる気力は……さすがになかった。

 ううん、違う。立ち上がろうとしたけど、体に力が入らなくて……ふわふわしてて。

 

 校舎の燃える音と、ずっと遠くで響く警報の音だけに包まれていた。

 ああ、だから、か。

 

 わたしたち、結構騒がしくしたと思ったんだけど……きっと、避難区域っていう場所……ゆいちゃんが目指してた、地下……目の前の、「彼ら」が群がっていたシャッターの先。

 開いていたはずのそこが閉まってるってことは、きっとみんな、あそこにいるんだよね。

 でも気付いてもらえてないみたい。まだ……シャッターの開く音はしない。

 

 サイレンの音が邪魔だったのかな。時々起こる爆発の音が、邪魔だったのかな。わたしたちがいるってこと、きっとめぐねえ達に届いてない。

 

 ……じゃあ、ここで、終わり?

 ゆいちゃん、あんなに頑張ってたのに……熱くて、痛くて、苦しいのに……。

 

 ああ、寒い。とっても寒いよ……。

 

 ……でもね。

 さよならも、ばいばいも、しないよ。

 

 前の雨の日の時は、諦めかけちゃったけど。

 今は、助けてくれるたかえちゃんも、りーさんもいないけど。

 だったら今、わたしが、頑張らなくちゃ。

 ゆいちゃんを、せめて、助けてあげなくちゃ。

 

 目をつむる。

 ……あ。あ、だめかも。

 今つぶっちゃったから、元気になるまでもう一回目を開けるのは、無理そう。

 

 息を吸う。

 ……吸えてるのかわからない。

 わからなくても、やろう。

 

 大きな声で、ううん、もっと……すごく、いっぱい!

 かなり! 叫んで! みんなに伝えて! とどけて!

 

「みんなーーっ!! あけてぇーーっ!!」

 

 「わたしたちは、ここにいます」って。

 

 

 

 

「み……な……」

 

 掠れた声で助けを呼ぶゆきちゃんの声で、意識が浮き上がった。

 

 駆け戻って、抱いたゆきちゃんは、青白い顔でぼうっとしていた。

 いっぱい齧ってしまった腕も、もう血は止まってるのに、全然元気じゃない。

 揺らしても、声をかけても、なんにも言ってくれない。

 いつも笑ってた顔が、今はなんにもない。

 

 それが悲しくてたまらなかった。

 

「ゆきちゃ……っ」

 

 誰かのために涙を流したのは久しぶりだった。

 最初のおかあさんが死んじゃった時と同じくらい……悲しいのかもしれない。

 だって、ゆきちゃんの未来が消えていく。私の腕の中で、熱と一緒に、命が、想いが、消えていく。

 

 こんなの、あっていいことじゃない。

 

 わたしが……わたしのせいで。

 こんなの、優しいこじゃない。

 こんなの……わたしじゃない!

 

 ……そんなのどうでもいいの!

 優しいこじゃなくてもいいの、ゆきちゃんが元気じゃなくちゃだめなの!

 

「ぅぁ……」

 

 もっと強く揺らすと、かすかに声が聞こえた。

 でも、たぶん、これはだめなやつだ。

 あんまり揺らしちゃだめなんだ。

 

 壁の方へ連れて行ったゆきちゃんをもたれかけさせる。

 お腹の上に両手を置いて、ほっぺについた汚れを拭う。

 拭っても拭ってもべったり張り付いた血はとれない。

 

「ん……」

 

 頬に舌を這わせると、きゅうっとお腹が締め付けられるような感じがして、ゆきちゃんの涙はしょっぱくて。

 きれいになった。

 ……ずれてるねこのぼうしをなおす。

 

「ゆきちゃん」

「……ひ、……ぅ」

 

 すー、すー、って、小さな風の音みたいな呼吸がこわい。

 死んじゃう……ゆきちゃんが……。

 

 ──わたしたち、これで友達だね!

 

「ぅ、う……」

 

 目を拭う。涙が止まらなくて、喉が辛くて、息ができなくて。

 頭を振る。胸のクロスを強く握って、はっとする。

 乱暴に外したクロスをゆきちゃんの手の中に押し込んだ。ぎゅうっと握らせて……お祈りする。

 

 しなないで。しんじゃやだよ。

 ……このお守りがあれば、生きるのが辛くても、何をしていいのかわからなくても、夜の部屋の暗闇も平気になれる。

 きっと、これがゆきちゃんを守ってくれる。

 

 顔を上げる。それから、シャッターの方へ駆け寄った。

 開けようとして触れてみたけど──っ、熱くてすぐに手を離してしまった。

 これじゃ、開けられない……。

 なら、なら、ゆきちゃんみたいに呼びかければ。

 

「あけてっ」

 

 小さな声。それくらいしか出なかった。こんな声じゃ、ぜったい届かない。

 でも、おかあさんなら……めぐねえになら、届いてほしい。とどいて。

 

「ぅっ、く……ぁ……」

 

 弱まってくゆきちゃんの気配。かすかな声。

 溢れてくる涙に、頭を押さえて首を振る。

 だめだよ。こんなの、だめだよ……!

 

「っ!」

 

 シャッターを開けようにも、やっぱりフライパンみたく熱くて、触れない。

 だから頑張って大きな声を出してるのに……!

 

「あけて……っ。あけてっ、あけてっ、あけてっ」

 

 声が、出ない。

 おっきな声の出し方がわからない。

 だって、今までそんな風に声を出したこと、ない。

 

 必要がなかったから。相手がいなかったから。

 大きな声を出すひとは、悪いひとだから。

 

 どうすればいいの? こんなの、どうしたら……。

 右を見たって、左を見たって、答えなんてどこにもない。

 きっと教えてくれる人は、このシャッターの向こうにいる。

 

 わからない。

 わかんない。

 

 わたし、どうしたらいいのかわからないよ。

 

 悲しくて、うずくまってしまいたくなるのを、制服の裾を掴んでたえる。

 もっと声を出さなきゃ。もっと、がんばらなきゃ。

 

「めぐねえっ……あけてっ、あけてっ」

 

 にこにことしためぐねえの顔が浮かぶ。

 

「おねがいっ、あけてっ」

 

 眉を寄せて、半目になってわたしを見つめるみきちゃんの顔。

 

「み、ちゃ……けいちゃんっ」

 

 わたしの苦手なこと、だめなことも、いいよって言ってくれたけいちゃん。

 

「どうして……っ」

 

 怖いけど、ほんとは優しい同級生(たかえちゃん。くるみちゃん)

 頼りになるお姉さ(ゆうりさん)ん。やんちゃだけど、いつだって元気づけてくれた子供達(るりちゃん。せいよちゃん)

 そして──わたしの、初めての友達。

 

 必死に頭を巡らせて、考えて、考えて、考えて。

 吐く息が熱くて、甘い匂いがいっぱいして、お腹が空いて、頭がぼうっとして……。

 

「っ!」

 

 炎の爆ぜる音と、煙の臭いの中にいやな気配を感じて振り返る。

 廊下の向こうから「彼ら」がやってきていた。

 ナイフを抜く。悲しみを超えて違う感情(こころ)が浮かんでくるのを感じた。

 

「じゃまするな……!」

 

 駆けて、飛んで、首を切る。

 着地して、振り返って、膝の裏を蹴る。

 転んだ「彼ら」の首へナイフを突き立てて、足をかけて抜く。

 

「……、……。………………」

 

 ゆきちゃんからできるだけ離そうと端の方へ押しやっていると、もう一匹きた。

 頭が真っ白になる。息が詰まって、体中が硬くなって──。

 

「いいかげんに……!」

 

 何回も刺した、制服姿の「彼ら」を炎の中に押しやる。

 そうしている間に、体のなかに満ちていたよくわからない何かはなくなっていた。

 おんなじように、ナイフも根元だけを残して壊れた。

 

 立ち上がる。力を抜いた手から落ちたナイフが音を立てて、それが、答えな気がした。

 

 ……そうだ。

 ゆきちゃんは……いいんだよ、って言ってくれたけど。

 ……やることは、変わらない。

 

 友達だから。 

 "友達のゆきちゃん"には、まだなんにもしてあげられてないから。

 

 ……優しいこでいるには。

 ……代わりに怖いこと、痛いこと、してあげないと。

 

「……ゅ、ぃ……」 

 

 そばを通ったとき、名前を呼ばれた気がした。

 立ち止まらず、シャッターの前に立つ。

 胸に手を当てて息を吸う。吐く。

 

 シャッターに両腕を押し付けた。

 

 

「うぅあああああああああ!!!」

 

 腕が焼ける。

 熱い。痛い。はなれたい。

 

「あぁあああぁあああああああ!!!!」

 

 だめ。大きな声、出さなくちゃ、なんだから。

 こうでもしないと、わたしは大声、出せないんだから。

 

 少しでも痛みから逃れようと上を向いて、逃げようとする体を押さえ込むように前に傾く。

 自分のもののはずなのに、全然違うふうに聞こえる声に……。

 

 ダダダダッと激しい足音が混じった。

 

 シャッターが揺れる。そう思った時には上がり始めていて、離れると、一気に開けられた。

 

「ぐぅうううあっ! ──優衣ちゃんっ!」

 

 めぐねえだ!

 手の平と腕とでシャッターを押さえためぐねえは、すぐわたしの腕を取った。刺すような痛みに体が勝手に反応してしまって、思わず腕を引く。

 

「つっ、う!」

 

 それはめぐねえもおなじだった。……めぐねえも、手でシャッターに触ってたからだと思う。めぐねえは、赤くなった手を庇いながら、それでもほっと息を吐いた。

 

「優衣先輩っ!!」 

「せんぱいっ!」

 

 あ、みきちゃん……けいちゃん。

 屈んでくぐり抜けてきた二人が私の手を見て悲しそうな顔をする。

 何かを言おうとしたみきちゃんのすぐ横を、たかえちゃんが駆けて行った。

 

「由紀!!」

 

 ……ゆきちゃん。

 わたしのことなんてどうでもいいの。

 ゆきちゃんが……。

 

 めぐねえと、くるみちゃんも外へ出て、ゆきちゃんを連れてくる。

 避難区域へと入ると、すぐにシャッターは下ろされた。

 

 やっと、ここまでこれた。

 そう思ったけど……みんなの顔が暗くて、何も言えなかった。

 

 

 

 

 このままエンディング入っていースか?(コキ……)

 

 ……いや、なんか……ゆきちゃんモグり始めた時はどうなるかと思いましたが、信頼イベが起こったおかげで難を逃れましたね。

 それでもって本来消火器や水が必要なシャッターを強行突破しました。火傷のバステがつきますがもうすぐエンディングなので関係ないね。

 

 全てがおじゃんになるかと思っていたのでここまでこれて小躍りしているのですが、なぜかみんなの顔色が優れません。どうしたんでしょうかね~。

 ……はい。ゆきちゃんが「彼ら」に噛まれたと思ってるんですね。

 ここら辺で全力で口を洗いたいんですけどもー……水、あの、下の階に行かせてもらえませんか……浸水した場所で寝転がれば大抵の汚れは落とせますからね。

 

「優衣、ちゃん……? その、その、口の……」

 

 ぎゃあ! こそこそ移動してたらりーさんに気付かれました!

 やべえ! 連鎖する視線! ゆきちゃんを襲った犯人が誰か判明してしまいます!

 

 ……いや、大丈夫! 大丈夫だ! 学園生活部との絆を信じろっ!!

 

「お前っ! まさか由紀をっ……!」

 

 だめみたいですね! くるみちゃんに胸倉掴まれて壁に叩き付けられました。あかん死ぬぅ!

 処刑じゃ……処刑の時間じゃ……。

 

「待って……くるみちゃん……」

「ばか由紀、喋るな!」

「ううん、あのねっ……ちがうの」

 

 お、チョーカーさんの制止を振り切って、復活したゆきちゃんが弁明をしてくれるみたいです。

 

「お腹減ってるみたいだったから……わたしが、食べてってお願いしたの」

 

 う、うーん? それ苦しくないですかね……。

 案の条みんな「それはない」って顔してます。子供達とか露骨に人の影に身を隠してます。

 めぐね……めぐねえの顔から感情という感情が抜け落ちとる。

 

「そ、んな」

 

 膝から崩れ落ちるめぐねえ。何事かと手を離すくるみちゃん。

 今や! そそくさと下の階へ移動します。イベント会話? 無視だ無視だ!

 首吊り氏体から「車の鍵」さえゲットしてしまえばこっちのもんです! 奥の部屋へ突撃ィー!

 

 ……。

 ……えー、氏体がありませんね。

 そういうパターンかー……あれですね。主人公不在で生活部がここへ辿り着いた時、たまにそれを片付けちゃうことがあるんですよね。

 そうなるとこっちでできることってなんもない。みんなで探し始めると不思議と鍵だけ生えてくるので戻ってイベントを進行させるとしましょう。

 

 足元の水で口の血を落とします。放っておくと事故のもと。最後まで油断しない走者の鑑ですね。

 

 あ、廊下の棚から「水入りペットボトル」と「ホワイトチョコレート」「消毒液」「包帯」「ガーゼ」等のアイテムを持って行きます。

 この状況で手ぶらで帰ったら話の中心人物の癖に途中でふらっと抜け出してふらっと戻ってくる精神異常者になってしまいますからね。そうなったらさすがに終わりよ。

 

「先生! こんな時に貴女がそんなのでどうするんですか!」

「あ……」

「っし、血は止まってるな……由紀、意識ははっきりしてるか?」

「うん……」

「優衣先輩! あのっ、う……」

 

 B1Fに戻ると場は混沌としてました。りーさんがめぐねえの腕を掴んで立たせようとしてるのメチャコワなので壁際すれすれを歩いて反応されないようにしつつ、くるみとチョーカーさんが診ているゆきちゃんの下へ駆け寄ります。話したそうにしているみーくんはこっちが何もしなくとも道を譲ってくれました。さあゆきちゃんを助けましょう!

 

 厳しい目で見られますが、接触の妨害はされませんでした。抱えていたアイテムのおかげでしょうかね。

 

「これ……」

「……ああ、ありがとな」

 

 くるみちゃんは何も言わず、チョーカーさんが険しい顔つきでお礼を言ってくれました。声ひっく!

 消毒し、包帯を巻き、チョコを食べさせたことでゆきちゃん復活! ……とはいきませんが、まあこれで安定でしょう。なぜか既に血が止まっていたのでガーゼが無駄になりましたがまあいっか。

 

 こうしたように部員が負傷し、かつ奥の部屋に首吊りが無い場合、休憩時間を挟まないと探索が開始されません。ので、壁に向かって真正面からくっついて視界を潰しつつ待機しましょう。

 

「優衣ちゃん、優衣ちゃんっ!」

「……めぐねえ」

 

 お、復活したらしいめぐねえがやってきました。肩を掴まれ、頬を両手で挟まれて顔を上げさせられましたね。

 感染の確認をしてる時みたいだぁ……。取り出したハンカチで口元を拭かれました。お? お? 血残ってましたかね?

 

「ごめんね……!」

 

 なぜか抱き締められる優衣ちゃん。おー……わからん。なんもわからん。

 体を離しためぐねえはさっと優衣ちゃんの頭をひと撫ですると、由紀ちゃんの傍に屈みました。そのまま動かなくなりましたね。

 

「……あのね、ゆいちゃんは、悪くないよ……」

「わかってる。わかってるから、今は休んどけ」

「ん……」

 

 ぽつぽつと話す由紀ちゃんの額に濡らしたハンカチを乗せるチョーカーさん。

 あとは時間経過するのを待つだけなので、倍速。

 

 ちなみにさっきからぐすぐす聞こえるのは優衣ちゃんが泣いてるからでした。





こんなのRTAじゃないわ! ただのSSよ!

三日以内に更新できたら格好良いと思うんですよね、私。


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12トゥルーエンディング


1000%……初投稿です。



 

 正真正銘の最終回、イクゾー(カーン)

 

 由紀ちゃんが動けるようになるくらいまで回復すると、探索が開始されます。

 「彼ら」が燃え尽きて校舎内に動くものはいなくなっているのでシャッターを開けても問題なし。閉塞感を打ち破るために開け放ちましょう。わっしょい! ……地味にダメージが入りました。めぐねえ~火傷がいたいよ~!

 

 めぐねえもめっちゃ痛そうにしてますね。幸いここには「はちみつ」があるので取得して腕に塗りたくりましょう。太郎丸と子供達に要注意! めっちゃ腕を舐められます。…るーちゃんもせーちゃんも怖がって近づいてこないので太郎丸だけが敵ですね。

 

 ここで小ネタ。めぐねえの視界内で民間療法をすると「よく知ってるわね」と褒められます。

 めぐねえに医療系の心得があるのは、保健の先生を目指していた名残らしいですね。説明書の人物紹介に載ってました。

 

 さて、ここでヘリに向かい拳銃と地図を回収すると特定のイベント──たとえばくるみちゃんとみーくんの会話シーン、進学か就学かイベ等を見る事ができますが、取りに行かなくてもエンディングムービー中に勝手に地図を回収してくれますので行きません。

 

 というわけで誰かが鍵を見つけてくれるまで待機……するのは時間の無駄なので、廊下で突っ立ってる子供連中を追いかけて奥の部屋へ追い詰め手伝いをさせます。さりげなく、さりげなくね。るーちゃんイジメてるのバレたらりーさんに刺されるので(1敗)。雑な操作は100倍になって返ってくるからね……。

 

「ゆい先輩っ、二人とも怖がってるから!」

 

 けーちゃんにぐいっと腕を引かれて止められましたが、すでに任務完了したので問題ないですね。なにももんだいはない。

 そうそう、お水を飲んで空腹値を補っておきましょう。よっぽどゆきちゃんが美味しかったのか半分以上回復してましたが念のため。

 

 精神値は太郎丸をとっ捕まえて全力でもふる事で補います。今日はお前がわふわふされる日だぞ。

 わふわふわふ……。完了! おっと、腕は舐めさせないぞ。

 

「信じてると言った手前、どうすれば……」

 

 離れたところでぶつぶつ言ってるみーくんは……放置でいいね。

 というか動こうとするたびけーちゃんに腕を引かれて止められるようになりました。るーちゃんとせーちゃんを追う姿がよっぽどホラーだったんやろなあ……。なに? お腹空いてないかって? とくには。

 

「車の鍵があったわ。といっても、無事じゃないでしょうけど……」

 

 お、りーさんが見つけてくれたようですね。これだけ人がいると早いなあ。

 さっそくりーさんから鍵を貰い、外へ向かいます。するとみんなついて来て囲まれるのでぶつかったりしないよう動きましょう。

 校舎から離れた来客用の駐車場に向かい、ドアを開けて中へ入ればフィニッシュ!

 

 全員が車に乗ってわちゃわちゃするムービーをスキップし、街の中へ走っていくワンボックスカーの一枚絵が表示されれば……。

 

 

【おわり】

 

 

 お、お、お、終わったぁ~~~~~~!!

 

 何勘違いしているんだ? まだ私のRTAは終了してないぜ!

 街へ出ると自由に探索できるフリーシナリオモードが解放されるので、教会へ直行します。

 

 この場所でめぐねえエンドを迎えれば真のエンディングとなります。

 そのムービーもスキップし……スチルが表示されれば……。

 

 終 了 !

 

 グランドS! 今までのリザルトに労われ、この感動を噛みしめるのだ……!!

 

 

 

 

 

 地獄と化したこの世界にも、希望はある。

 私は、それを学園生活部で知った。

 ……たとえ学校が壊れようとも、部室が無くなろうとも、希望は潰えないということも。

 

「おわかれなんだよ、学校と」

 

 警報も消え、雨も上がり、「彼ら」の姿もない来賓用玄関前。

 白杖で体を支える……腕を包帯で覆った痛々しい姿の由紀先輩が校舎を仰ぎ見ながら、変わらない笑顔でそう言った。

 ゆっくりとして落ち着いた声音とは裏腹に輝かんばかりの笑顔なのは、その怪我を、その原因を私達に気にさせないためなのだろうか。

 

 その気遣いがわかっていても……由紀先輩は、優衣先輩が怖くないのかと聞いてしまいたくなる。

 だって……彼女は、喰われたのだ。その身を……異質な怪物である「彼ら」ではなく、同じ人間である千翼優衣に。

 それなのに由紀先輩は、まるで十年来の友人であるかのように優衣先輩に話しかけていた。どちらかといえば優衣先輩の方が怖がっているようだった。

 

「つまりは、卒業だね!」

 

 ぱっとこちらを振り返った由紀先輩のそれは……あんまりピンとこない言葉だった。私達にとって1年先の行事であることもあるし、それ以前にこんな世界じゃ卒業式など行われることはないだろうから。

 ただ、私が何も言わないでいると困ったようにはにかむ由紀先輩を見たら、なんとなくその意味が胸に染み込んでくるような気がした。

 

 卒業、か。

 ……地下室の奥の部屋の、天井から垂れるロープが作る輪を思い出すと、あまりポジティブな意味で捉えられなくなってしまう。

 世界が完全に死んでしまう前に耐え切れなくなって"卒業"を選ぶ人もいる。それだけの話だと、割り切るほかない。

 そして、私達は決してそうはならないと言い切ろう。

 

 ……生活の場である学校は壊れてしまったが、未来が暗い訳ではない。

 「彼ら」に噛まれてしまったくるみ先輩は案外元気にしているし、墜落したヘリとは離れた場所にとめてあった車は傷一つなく、全員と一匹を乗せてまだ余裕があるくらい。食料や医薬品はあの避難区域にたくさんあって、車に積み込むのも一苦労なほどだ。

 私も最初はダンボールを運ぶのを手伝っていたのだけど、交代して休憩がてら由紀先輩の傍にいるよう言われた。

 

 その由紀先輩だってすこぶる元気で、腕まくりをして作業を手伝おうとするから止めなければならなかった。腕の傷も足の捻挫も治っていないのに元気すぎる。車の中に備えてあった折り畳み式の杖が無ければ、支えていないと一人で歩けもしないのに。

 

 ……その究極の前向きさが、優衣先輩を救ったのだろう。

 

 ひどい異常を抱えている優衣先輩も、危惧していたような排除の動きは誰にもなく……先程由紀先輩に問いかけようと思っていてなんだが、不思議と私には……きっと、圭にも、みんなにも……恐怖心というものはなかった。

 ……それはやはり、由紀先輩がけろりとしているから、なのだろう。

 

 口元を赤く汚した優衣先輩の姿には肝が冷えたが……やっぱり、なぜだか受け入れられてしまう。

 

 

 怯えを見せていた子供達も、優衣先輩がおどおどしているといつの間にか傍に寄っていて、蹴りを入れたり腕を引っ張ったりして果敢に挑んでいた。ちょっとスキンシップが過剰な気がするが……そういう時は主にりーさんが止めているから、心配はいらないだろう。優衣先輩も、戸惑いながらも嬉しそうに──複雑な表情ではあれど──していた。

 

 ……あんなにわかりやすい表情をするようになったのはいつからなのだろう。人形のように変わらない顔が、子供達と同じ年代のようにころころと変わっている。

 ……3階ではぐれるまではそうじゃなかった。常に感情の無い顔が正面を向いているか、困ったような顔をするのみだったのに、地下で合流した時には強い悲哀の表情を持っていた。

 

 何が要因かとするならば、それはやはり由紀先輩か。

 

 どういったやりとりがあったのかは聞いていないけれど、憶測はできる。

 由紀先輩が受け入れたから、優衣先輩は変わった。

 

 ……私達が数日かけてもできなかったことを、顔を合わせてほんの数時間ばかりの由紀先輩が成し遂げた事に、嫉妬に似た何かを抱いてしまう。

 ……変えようとしなかったのは私なのに。触れる事を恐れていたのは、私なのに。

 だから私の言葉は響かなかった。

 

 ……そういう風に考える一方で、ただ単純に由紀先輩と優衣先輩の相性が良かったからなんじゃないかとも感じた。

 

「みーくんは、……けほっ。次の行き先はどこだと思う?」

「私ですか? そうですね……」

 

 そっと横へ来た由紀先輩の問いかけに、先程まで車でしていた会話を思い返す。

 鎮火したヘリからみつけた、この街の地図。

 思わせぶりにつけられた印が二つ。一つは「ランダルコーポレーション」に。一つは「聖イシドロス大学」に。

 

「大学じゃないでしょうか」

「やっぱりそうだよね! わたしもそう思う! じゃあさ、じゃあまた……こほっ、んんっ……学校暮らしになるのかな?」

「かも、しれませんね」

 

 ……「そうなるといい」と思いつつも、不安はある。そこに生きている人々がいたら。私達と……相容れなかったら。

 いや、確実に受け入れられることはないだろう。普通はそうだ。それが当たり前だ。

 頭を振る。今考えるべきことではあるけど、これは今考えるべきことじゃない。

 今は……そう、由紀先輩だ。先程から咳が出ている。一言かけてから、車から水を取ってきた。

 

「先輩、大丈夫ですか? これを」

「みーくんありがとー」

 

 喉を擦る由紀先輩にペットボトルを差し出すと、ふにゃっとした笑顔で受け取ってすぐ、口をつけて背を反らしてまで飲み始めた。かなり喉が渇いていたようだ。

 

 ……燃える校舎の中を歩いて来たのだから当然か。シェルターでも飲んでいたようにみえたけど、足りなかったのだろう。あるいは、煙に喉がやられてしまったのかもしれない。私達もハンカチである程度防いでいたとはいえ、喉に違和感があるくらいだし……その余裕がなかった由紀先輩や優衣先輩はよっぽどだろう。……その割には優衣先輩はけろっとしているけど。代わりのように、めぐねえがけほこほと咳込んでいた。

 

「由紀先輩、無理はしないでくださいね。体調を崩したりしたら、困るのは先輩だけじゃないんですから」

「へへ、ごみん」

 

 あえて厳しめの言葉で伝えると、けほ、と誤魔化すように咳をして、由紀先輩はもう一度校舎を見上げた。

 

「どんなところかなー、大学!」

 

 横顔を窺う。

 近い未来に思いを馳せる言葉は、誤魔化しやなんかじゃなく、その目は希望に輝いていた。

 自分の中で膨れ上がる違和感を我慢できなくなる。

 

「由紀先輩は、優衣先輩が怖くないんですか?」

「え?」

 

 結局聞いてしまった……。虚をつかれたような顔を向けられて後悔が過ぎるも、一度出してしまった言葉は戻せない。もう一度同じ言葉で問いかける。

 

「みーくんは、こわい?」

「っ」

 

 問い返されて、心臓が跳ねる。

 それは……そんなはずは……。

 

 否と答えたくても声が出ない。

 だって、五感の全てが警鐘を鳴らしている。体中が、優衣先輩を怖いと、気味が悪いと、近づきたくないと訴えている。無いと断じていたはずの感情が際限なく湧き出てきてしまう。

 人を食べるだなんて「彼ら」と同じだ。下手に受け入れられている分なおさらたちが悪い。

 そんなものを抱えていては他のコミュニティと出会った時、拒絶される可能性が高まる。私達が生きるためには、優衣先輩を──。

 

「わたしは全然。だってゆいちゃん、わたしのこと助けてくれたし」

「……」

 

 一度始まると止まらない思考の流れが断ち切られる。

 なんでもないことのように言う由紀先輩が信じられない。

 

「助けられたから、助けた。それだけだよ、みーくん。人間支え合いだよ!」

 

 えへん、と腰に手を当てて無意味に威張る由紀先輩は、そのままバランスを崩して倒れそうになったので支えた。

 ──……。

 

「ね?」

 

 どこまでも悪意の欠片もないだらしなくてヘンな笑顔に、悩んでいるのが馬鹿らしくなってきてしまった。

 優衣先輩を信じる。その異常性は怖いけど、それはそれとして……信じたいから、信じる。

 それでいいじゃないか、なんて……。

 

「はぁ」

「あ、みーくん溜め息ついた!」

 

 何か勘違いして膨れ始める先輩をしっかり立たせて、車の方へ視線を向ける。

 白く大きな車体の傍にちょこんと立つ、小さな黒い影。

 くるみ先輩と何事か話しているようで妙な緊張に身を固くしてしまったが、どうにも談笑といった様子だった。

 

「そろそろ準備も終わるみたいですし、行きましょうか」

「そうだね」

 

 積み込み作業も一段落して、今は休憩しているみたいだった。圭がこちらに駆けてきている。

 

 校舎を見上げる。

 

 半壊した建物は、それでもどっしりとこの地に根付いて、私達の日常の象徴としてあった。

 

 

 

 

「るーちゃんはもう死んでるの」

 

 

 私達の予想に反して、次に辿り着いた場所は教会だった。

 夜がきて、休憩できる場所を探していて、たまたま目に入った場所がここだった。

 

 警戒しつつ侵入すると、中は案外綺麗に保たれていて、されど人の気配はなく、「彼ら」の姿もなかった。

 並ぶ長椅子に乱れはなく、仰いだステンドグラス……二羽の鳥の絵も罅一つ入ってない。

 それだけに人の痕跡がないのが不気味だった。

 

 探索を終え、本当にここが安全だとわかって緩んだ空気が広がると、ここを拠点とすることをめぐねえが宣言し、夕食の準備にあたる人間以外は各々好きな時間を過ごし始めた。

 

 古びたにおいのする教会は厳かでありながらもどこか恐怖心をあおるつくりになっているような気がして、神父の化け物でも現れやしないかとホラー的な思考に流れながらも、端の方でかけっこをする子供達をぼんやりと眺めていると、近くの椅子の背から不穏な言葉が聞こえてきた。

 

 長椅子に腰かけるりーさんが、今の声の主で間違いないようだ。

 彼女は薄く開いた目を膝に乗せた本……カバーが外された漫画らしきものに向けていた。

 

「この本によるとね」

 

 それを閉じたりーさんが横を見る。……あ、優衣先輩。小さくて気付かなかったが、隣に座る優衣先輩に話しかけていたらしい。

 盗み聞きのような形になってしまった。なんとなく気まずくなってその場を離れようと思ったが、なんの話をしているのかという興味が勝って留まる。

 るーちゃん……りーさんの妹なら、そこで元気に駆けまわっているように見えるのだが……死んでいるとはどういうことだろう。

 

「でも現実はそうじゃない。この私は手を離してしまったようだけど、私は離さなかった。その違いがある」

 

 話の内容は理解できずとも、二人の間で通じていることだけはわかる。

 

「ねぇ。この世界も、私も、あなたたちも。全てが偽りのものだったのよ」

「ぅ……」

「……なんてね。ふふ、ごめんね。おどかすつもりじゃなかったんだけど……つまりはね、関係ないの。どうだっていいのよ、そんなことは」

「?」

「大事なのは、自分がどう感じるか……でしょ? 優衣ちゃんは……みんなが受け入れてくれること、受け入れられない?」

 

 間をおいてふるふると頭を振る優衣先輩に、ああ、そういう話をしているのかと理解した。

 学校を出る前もそうだったけど、優衣先輩は一人一人に話を聞いて回っているみたいだった。どうしてみんな平気に自分と接しているのか、と。

 その中の一つ、なのだろう。だったらなおさら盗み聞きするような真似はするべきじゃなかった。

 

「決して悲観的にならないで。諦めないで。自分達の力で未来を切り開きましょう? ……ね」

「……うん。……ありがとう、りーさん」

「どういたしまして。さ、配膳くらいは手伝わないとね」

 

 立ち上がるりーさん達に、慌てて近くの椅子に腰を下ろして息を潜めてしまった。

 こちらには気付かないまま料理をしているめぐねえ達のもとに向かうのを見送って、ほっと溜息を吐く。

 それから、なんとなく彼女達の座っていた場所を覗いてみて──本が置かれているのを見つけた。

 

 ブルーが主体の、2人の人物が描かれた表紙。

 気のせいでなければ、それは私と由紀先輩──

 

「みき」

「っ!」

 

 表紙を捲ろうと摘まんだところで声がかかって、肩が跳ねた。優衣先輩だ。

 金色の瞳をまっすぐ私に突き刺して、「……ちゃん」だいぶん遅れて敬称をつけるのに、距離感をはかっているのだと察した。

 

「美紀でいいです。……みーくんでも構いませんけど」

「みーくん。あのね」

 

 あ、やっぱりだ。

 ちょこちょこと寄ってきた先輩は、やっぱり由紀先輩に雰囲気が似ていた。

 姿はめぐねえに似ているのに、どうしてそう感じるのだろう。

 無機質にも思えた丸い瞳が、顔の傾きに合わせて揺れたり、細められたりしている。そこにはやはり感情があった。

 

「みーくんの、こと、食べたいっ……て、いったら、こわい?」

「え、怖くは……いえ、怖いですよ。それは」

「……だよね」

 

 突拍子もない……訳ではない問いかけに咄嗟に否定しないよう答えかけてしまったが、それでは何も変わらないと思い、言い直す。

 今優衣先輩に必要なのは、理由のない受容ではなく、私達の気持ちそのものだろうから。

 

「わたしも、こわい。……また傷つけちゃわないか、こわい」

「それは」

 

 そうでしょうね。なんてわかったような答え方をしてしまいそうになって、なんとか言葉を飲み込む。

 私にはその気持ちはわからない。想像はできるけど……我慢できないほどの人への食欲や、本当に食べてしまったことへの後悔も、彼女にとっては細い針の上に立っているかのような現状への不安も……。

 

「その時は、その時です。きっとなんとかなります」

「……」

 

 無責任な励ましと思われただろうか。

 困ったような顔をする優衣先輩に、緩く首を振って見せる。

 

「それでも不安に思うなら、はっきり言わせてもらいますけど。もう優衣先輩にそんなことはさせません」

「……」

 

 カーディガンの裾を掴む先輩の手がにじにじと動くのを見下ろしながら、続ける。

 

「止めますから。私が……私達が」

 

 これは、信頼だ。

 優衣先輩を信用とするのと同じく、私はみんなを信じている。

 たとえまた優衣先輩が人を食べたくなっても、彼女が後悔しないように止めるし、代わりに欲を満たせる方法を考える。

 

「……あり、がと。みーくん」

「いえ」

 

 そっと近づいてきた優衣先輩が、非常にゆっくりとした動きで私へと手を伸ばし、手を包んできた。

 やわやわと握るその動作は……。

 あんまりにも気恥ずかしくて顔に熱が生まれるのを感じる。

 

 お礼なんて必要ない。だってこれは、当然の話だから。

 部員はいついかなる時も互いに助けあい、支えあい、楽しい学園生活を送るべし。

 ……学園生活部第四条。私達の共同体の掲げる信条。

 

 トトトッと離れて行った優衣先輩の次の目的は、どうやら圭のようだった。

 どのような話をするのか気になるけど、私が聞くべきではないだろうから……私も配膳を手伝うとしようかな。

 

 椅子の方を見る。

 りーさんが持っていた本は変わらずそこに置いてあって……けれど、もう興味はなかった。

 なぜなら──

 

「ゆい先輩は死んだんだよ!」

 

 ぎょっとして圭の方を見る。子供達も足を止めて、不穏な言葉を大声で口にした圭に注目していた。

 視線を集めているのを知ってか知らずか、圭は優衣先輩の腕を取ると天井の端を指さし見上げて、「そして生まれ変わったんだよ! 新しいゆい先輩に!」というよくわからない……いや、本当にわからない、おそらくは励ましだろう言葉を贈っていた。

 

 

 

 

「ええ。ずっと一緒よ、優衣ちゃん」

「めぐねえ……」

 

 ちょうど、ステンドグラスを通して月の光が差し込む教会の中で、向かい合い誓う二人。

 食事を終え、交代で見張りをしながら一息入れていると、いつの間にかめぐねえと優衣先輩はただならぬ雰囲気になっていた。

 

「これ。受け取ってもらえる?」

「……。……うん」

 

 どのようなやり取りがあったかはわからない。

 でも、クロスにかけていた指輪を──四色の宝石がきらめくそれに紐を通して優衣先輩の首にかける姿からは、侵しがたいものを感じた。

 

「じゃあ、やくそく……してくれる?」

「そうね。約束……」

 

 小指どうしを絡ませた彼女達は、小さく歌いながら、なにか大事な……約束をしたようだった。

 

 

「ほら、そんなとこでぼーっとしてると風邪引くぞ」

 

 車に背を預けて空を見上げていると、両手にマグカップを持ったくるみ先輩がやって来てその片方を手渡された。

 

「あ、ありがとうございます」

「なんか悩んでるみたいだったけど、気のせい?」

「いえ、その……」

「優衣のことだったりする?」

 

 言いつつも、確信しているのだろう。というより、今その事で悩んでいない人はいないんじゃないか。

 ……と思ったが、かすかな笑みをたたえたくるみ先輩は、特に悩みや何かは持っていないみたいだった。

 

「いいんじゃない」

 

 空を見上げる先輩につられて、私も空を見る。

 地上の惨状なんて何も関係ないとばかりに輝く星たちは、変わらない光を保っていた。

 

「悩み続けるってのも、いいと思うよ」

「……」

 

 でも。

 答えを出してあげた方が楽になれるんじゃないでしょうか。

 

 だって。

 悩み続けたって、答えなんて出ないかもしれないじゃないですか。

 

 そんな。

 ……簡単な話じゃないんです。それじゃだめなんです。

 

 いくつか胸の中に浮かんだ言葉は、どれも表には出てこなかった。

 くるみ先輩の言う通りだとも思うし、そうじゃないとも思う。

 

 答えなんて場面場面で変わってくるものだから、私達はひたすら明日を目指して生き足掻けばいい。

 開き直りだけど……今この現実と向き合うのには、そういう考え方の方が良いのだと思う。

 

「あたしたち……ずっと友達だよな」

「きっと、そうですよ」

 

 反射で答えてしまったが、その言葉に嘘はない、けど、少し驚いた。今のはたぶん、先輩の弱音だったと思うから。

 

 今、たしかに私達は不安定で、いつ崩れるともしれない足場の上に立っているけど。

 それでも今が一番安定していて、みんな笑える余裕があって……だから、この状態がずっと続けばいい、と。

 その関係性を言い表すには、「友達」が一番近かったのかな。

 

「わり、友達は嫌だったか?」

「……どうでしょう? 先輩は先輩ですし」

「後輩は生意気、と」

 

 つんと額を突かれて、それから、なんとなく笑い合う。

 あまりにも濃い時間を過ごすと、お互いの関係性を表す言葉が見つからなくなる。

 それがなんだかおかしかった。

 

 

 

 先へ進む。

 今の関係性から、その先へと。

 先へ進みたいと、強く願う。

 その時間を作るために……生きるために、私達は互いに支え合う。

 たとえ世界が終わっていたとしても、誰かが挫けようとも決して見捨てないだろう。

 

 

 人類はこれまで幾度となく災禍に見舞われてきた。

 でもそのたびに再び歩み始めてきたんだ。力強く、希望を捨てず。

 

 身近にも、そうやって動き続けてきた人がいることを、私は知っている。

 

 だからきっと、心配することなんてないのだろう。

 未来は、暗くなんてないのだから。

 

 

 

 

【つづく】

 

 




TIPS
・単行本
ゲーム内アイテム、漫画「がっこうぐらし!」は細々としたアップデートに合わせて最終巻まで実装されている。
どの巻を読ませても人物の反応は変わらないので長らく単なる精神値調整用アイテムだと思われていたが、万が一人物が耐えきった時やそのような状況になった時、得てしまった知識に基づいた行動をし始めることが最近になってわかった。

ヘリが落ちる事はわかっていた。だからみんなに避難を促した。
「彼ら」の習性は知っていた。だから玄関付近のバリケードを強固なものにした。
解決法を知っていた。けれど浄化槽の水はなんの効果ももたらさず絶望に苛まれた。


・約束の指輪
母から妹へ、そして優衣へ受け継がれるはずだった指輪。
幸せになって欲しいという一つの願いがこめられている。


・感染
「彼ら」に噛まれる、空気感染するなどした場合、咳や体調不良によって
その予兆が現れ、警告する
病院等にある薬によって感染状態を解除できる



あとは完走した感想書いて、おわりっ!


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完走した感想&おまけ&わるあがき


おかあさんは……おいしかったよ。



 

 

 ここでタイマーストップ!

 タイムは!? ……3時間58分24.34秒……ギリ! でしたね……。

 おっかしいなーもっと縮んでいると思ったのですが……ま、これでもベストタイムだしまあいっか!

 がっこうルートという括りでは惜しくも記録更新とはいきませんでしたがね。

 

 さて、完走した感想ですが……再走して、どうぞ。

 いやです(鋼の意思)。もうしました(編集中に再走n回)。

 

 部員達の優しさに助けられ、ゲーム的機敏に助けられ、思わぬ幸運に助けられ……プレイヤースキルが関与したのは最後のシャッター前「彼ら」戦くらいで、あれだってよくタイプCのこの性格で突破できたもんだと思います。

 

 ヴォー……。何を自信満々に4時間縛りしてたのか知りませんが、以降のRTAでは4時間切りできてません。つまりは、そういうことですね。

 先駆者たちの輝かしい(?)栄光に魅せられて走り始めてみたのですが、なかなかうまくはいかないものです。

 

 それでも、このRTAを通してゲーム「がっこうぐらし!」に興味を持ってくれる方、アニメを見たい、原作漫画を読もう! 実写映画も気になる! となってくれる方が少しでも増えてくれたなら重畳です。

 それぞれにそれぞれの良さがあり、輝きがあります。それに魅せられてRTAを走るのも良いでしょう。

 というか走って? 私もやったんだからさ(同調圧力妖精)。

 

 ゲーム中は一度もやりませんでしたが、イベント開始前にキャラの移動ルートに石鹸を置いて転ばせたりなど、このゲームの自由度はひたすら高い。愛の逃避行だってやろうと思えばできますし、るーちゃんとラブラブになったりもできます。

 とはいえやっぱり少し古いゲームなので、「がっこうぐらし!大学編」と銘打たれ正式に続編として出ている2020年版をプレイしていると、グラフィックや挙動の進化にびっくりしますね。

 いずれはそちらでも走ってみたいです。

 

 さて、ここら辺で本筋に話を戻して、と。

 由紀を食べた優衣が排除されることなく進みましたが、これはひとえにタイプCかつ臆病な性格かつ片親かつめぐねえの庇護下であり精神異常を持ち、それを生活部によって治療された経緯をもつからそうならなかっただけで、どれか一つでも欠けていれば誰かに処理されて終わってました。

 だから、タイプCで走る必要があったんですね。

 

 もうちょっと私のプレイスタイルが上手ければ不信感を募らせず行動でき、ここまでガチガチに固めなくても走れるのでしょうが、私にはこれが限界でした……。精進したいところです。ほんとに。

 

 短くなりますが、あまり長々と語っても面白くないと思うので、ここら辺でお開きとさせていただきます。

 最後にひとこと。

 

 

がっこうぐらし!RTA流行らせコラ!!

 

 

 以上。ここまで読んで下さりありがとうございました!

 

 以下おまけ

 

 

 

・トロフィーを獲得!

 

実績:ウォリアー

単独行動中に「彼ら」を10体以上殺した

 

実績:アイアムレジェンド

大型施設に単独で侵入し、安地化させた

 

実績:伝説の運び屋

荷物を100回以上運んだ

 

実績:暗闇に住む

スニークキルを100回以上成功させた

 

実績:暗殺ちゃん

5体以上の連続スニークキルを成功させた

 

実績:死神

10体以上の連続スニークキルを成功させた

 

実績:幽霊じゃない!?

慈をたすけた

 

実績:友達の友達

貴依をたすけた

 

実績:その手を離さないで

圭をたすけた

 

実績:むずかしいはなし

美紀をたすけた

 

実績:隣人

太郎丸をたすけた

 

実績:2016年の邂逅

瑠璃をたすけた

 

実績:だれ?

星夜をたすけた

 

実績:へんな帽子

由紀と友好を結んだ

 

実績:お姉さん?

悠里と友好を結んだ

 

実績:守り人

胡桃と友好を結んだ

 

実績:悪くはないです

美紀と友好を結んだ

 

実績:素敵な先生

慈と友好を結んだ

 

実績:明日もいい日に

圭と友好を結んだ

 

実績:あったかもしれない未来

瑠璃と友好を結んだ

 

実績:悪戯の果てに

星夜と友好を結んだ

 

実績:がっこうぐらし!

学園生活部が結成された

 

実績:それってつまり……

バグから助けられた

 

実績:オメガ

感染した

 

実績:新しき人

感染を克服した

 

実績:硝子の幸福

佐倉慈と結ばれた

 

実績:生徒じゃなく人として

佐倉慈の好感度がMAXになった

 

実績:生涯の伴侶

佐倉慈の特殊ENDを見た

 

実績:小さな生存者

タイプCでクリアした

 

実績:あなたってすごいよ

全てのチャプターをSランクでクリアした

 

実績:私たちはここにいます

タイプCでトゥルーエンドを迎えた

 

実績:ぎゅうぎゅうのパンパン

全生存者を集めて車で脱出した

 

実績:だいすき、ありがとう。

全ての生存者を救った

 

実績:おいしかったよ

精神異常[食人衝動]を治療せずトゥルーエンドを迎えた

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆:Thank you for reading!

この小説を最後まで読んでくれたあなたに贈る

特別な称号

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 感情(こころ)という特別なものを持つには、特別な人(おかあさん)が必要なんだと思っていた。

 

 でも、それは違ったんだ。

 

 わたしがいて、わたしが好きな人がいて。

 誰かがいて、わたしを好きでいてくれる。

 

 そうすればもう、いつだってどこだって、わたしたちは特別だ。

 みんながいてくれたから。おかあさん(みんな)が、愛してくれたから。

 

 みんなが、わたしを、千翼優衣を作ってくれた。

 わたしがなんなのか、どういう風に生きればいいのかを教えてくれた。

 だからわたし、今、すっごく幸せだ。

 

 明日だよ。

 みんなの明日が、わたしの幸せなんだよ。

 

 

 ずっといっしょ。

 ずっとずーっと、いっしょ。





ゆきちゃん。わたしの、さいしょのともだち。
ゆいちゃん。わたしを食べた人!
(平和になった世界で SNSの投稿より。それぞれ屈託のない笑顔の少女が映っている)


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