"イカれた戦闘狂"の隣の人 (キシンの変態)
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死ぬ死ぬ言ってる内はだいたい死なない定期
お初の方もそうでは無い方も
お気軽にどぞ
誰でも知っているように物語というものには、主人公という話の本筋を担う存在が必要になるのが常だ。
主人公が恋をするにしろ、はたまた世界を救うにしろ。
何らかの役割を持たされた他のキャラクターと同じように。
まず、ハッキリと言っておこう。
天気は快晴、雲一つない最高の空模様、絶好の運動日和。
……だが。
ブォン、と。
奴の剣が空を切り、一筋の閃光が奔る。その瞬間に強烈な風圧が吹き荒れ、油断していればそれだけで吹き飛ばされてしまう程の圧だ。これを弾き返そうとすれば、剣の方は大丈夫だろうが腕の方はきっと持たない。
──力強過ぎる一振り、直撃すればタダでは済まないな……!
その攻撃のワンテンポ早くその場を飛び退り、両手に持った長さが異なった片刃剣を握り直す。渾身の一撃を外してしまった相手方も同じように呼吸を整えているらしく、しばしの静寂が流れるがそれも一瞬。
眼前の騎士は闘志──というより愉悦の心をギラキラと滾らせた眼差しをこちらに向けながら、真っ直ぐに突っ込んでくる。
体をコンパクトに縮めた姿勢から一歩踏み抜き、放たれる神速の上段のインパクト。即座に左逆手に持った短めの剣を用いて、下方向から軌道を逸らそうとする。
しかし、奴の得物である両手剣とも片手剣とも取れるヘビーな剣を、左手の剣一本では凌ぎきれずに。
結果的に軌道は逸らせたものの、短い剣をそのまま打ち落とされてしまった……が。
今の攻撃を受け流せればそれだけで良かったのだ。
奴はさっき得物を弾かれた衝撃から立ち直っていない。
──必中の間合いだ、これで決着が着く……!
フリーになった奴の胴体目掛けて、右手の長剣を思い切り振り抜いた。
だが、奴はその攻撃が来る事が最初から分かっていたのかのように、弾かれた衝撃を利用し体をしならせて回避している。それどころか、その勢いを殺さずに俺の左側へと流れ込んで来る。
本能だけで動いているような、不規則過ぎる乱舞。傍から見れば華麗な剣舞にも見えなくないが、受けているこちらとしては気が気ではない。あまりにもに危険すぎるのだ。
慌てて剣を右手から両手に持ち替えて斜めに握り、攻撃のタイミングを合わせて弾きを入れて凌いでいく。
あの細い身体のどこから力が出るのかは分からないが、相変わらず一撃一撃が非常に重い上に、的確にこちらの体幹と集中力を削り取ってくる。
先程大振りを外してしまったところから、ようやく態勢を立て直した頃に。
一瞬、たった一瞬。
思考にうつつを抜かしたその一瞬に。
「あっはっは☆隙ありだ!
そう言って彼女は繰り出されればまず無事では済まない、必中必殺の大技を繰り出そうと強く足を踏み込む。地面にヒビが入っていき、そのまま地面が崩れてしまいそうな程に力が込められている。
──っておいこいつ馬鹿なのか!?
受け切れるわけねぇだろうが!!
「おいバカ野郎! 一応模擬戦なんだぞ! そんなの貰ったら首と胴体おさらばだっての!」
慌てて言葉で止めようとするが、彼女は高笑いを続けていて全く止まる気配が無い。彼女から感じるのは殺意でもなんでもなく、ただ戦闘を楽しんでいるという純粋な愉悦のみだ。
それなのに、眼前に迫って来る剣が一向に止まる気配ないのマジなんなん?
確かに戦闘中に気を抜いた俺が悪いところは当然あるけど、必殺の一撃を打ち込まれるような事じゃないだろ──
「そこまで、クリスちゃん。今回もクリスちゃんの勝ちだよ」
「……はぁ。ホント助かります、団長」
「君も無茶し過ぎだよ。何度かホントにクリスちゃんを殺す気で剣を振るっていただろう? 君にせよ、クリスちゃんにせよ、実戦じゃなくて模擬戦で死なれたら
間一髪という所で、世界に一つしかない俺の頭蓋を砕かれる前に団長のジュンが助けに入ってくれた。が、同時に苦言も呈される。
こちらとしても手加減をするつもりは無いが、殺すつもりで掛からなければ一瞬の気の緩みで死にかねない。実戦と同じような感覚が味わえるのは、それなりに収穫なのだ。
奴──クリスティーナは模擬戦と称して俺を2日に1回のペースで命を刈り取ろうと……。本人としては楽しんでいるだけなんだろうが、俺個人の意見としてはいつ殺されるか分かったモノじゃない。
「あははは☆ つい油断すると殺してしまいそうになってしまう! いつもすまんな」
「自覚してんなら直す努力をしろっての……」
「そうだよクリスちゃん。本番と同じ感覚でやりたいのは分かるけど、それで戦場に行く前に怪我でもされちゃったら困るんだから」
──まぁ、王宮内は人が住んでるのか分からないくらいに静かなもので、騒動などそうそう起こりはしないけど。
「そうは言うがな団長。ワタシ達が出なければならない程の大きな騒動などなかなか起きないではないか。前に出動命令が下ったの、いつだか分かるか?」
「2ヶ月くらい前の、ランドソル市街に潜伏してた盗賊団の鎮圧が最後だったね。平和で何よりだと思うんだけど」
「団長はそれでいいかもしれんが、ワタシ達はそれからずっと音沙汰も無く毎日毎日暇を持て余しているというのだ。少しくらい熱くなるのは仕方ないだろう☆」
「俺をその『達』の中に入れるな。基本巻き込まれてるだけだっての……」
思わず溜め息が漏れ出てしまう。たかが模擬戦で命を張るのも正直バカなことだ。なるべくなら1週間に一回くらいに抑えて欲しいところだが、コイツに逆らったらマジで殺されかねないのが辛いところだ。
「熱くなるのはいいが、その場のノリで俺が斬り殺されたらお前の模擬戦相手は未来永劫現れんだろうな」
「おっと、それは困ってしまうな。善処しよう!」
全く、ホントまったく!!
信用ならない言葉だが、多少はその心に響いてくれていると信じたい。響いてくれて無ければ、戦場に出立する前にあえなくお陀仏になるだけだが。
いや、こいつが素直に人の言う事を聞いたら聞いたで、明日は槍の雨でも降ってくるんじゃないかと思ってしまうから、改めて常日頃の行いがすこぶる悪いのがよく分かる。
それ程までに自由奔放な戦闘狂、クリスティーナ。
元はいい所の王侯貴族だか騎士の家系の出らしいが、退屈な人生は嫌だという信条の下、王宮内部の秩序とランドソル市街の治安を維持する
これは前に聞いた話だが、家計の風習として年一回自分に
そしてその誓約というのも、親の意向によって決められてしまう政略結婚が死ぬほど嫌だから『胸を触る事が出来た人間と結婚する』という、なかなかにぶっ飛んだ約定を付けて利用している始末なんだとか。
「それで、心優しいクリスティーナ様は今日はどんなお店に連れて行ってくれるんです?」
「おっ、今日はどうしたのだ? いつもならば、死ぬ程ゲンナリした様子でレストランに行くというのに」
「今日はマジで三途の川渡りかけたんだぞバカが! さっさと飯屋に連れてけ! ヤケ食いさせろ!!」
「いいだろういいだろう☆オマエがそこまで乗り気ならば私も嬉しいよ。それはさておき、団長も昼食の方は如何かな?」
模擬戦を無事に終えた後は、ほとんどクリスティーナの奢りで飯を食べるのが流れとなっている。なぜそうなったのかは、強過ぎるのもあるが、なにより危険すぎる彼女の模擬戦相手を務めている事から察して欲しい。
そんなクリスティーナは、模擬戦の様子を見守ってくれていた団長を誘っているところだが、団長は申し訳なさそうな顔……いや、素振りを見せて。
「……誘ってくれたのは嬉しいんだけど、今日はこれから夜まで王宮門の前で警備の任務があるんだ。本当に申し訳無いけど」
と、続けた。
王宮騎士団長の仕事として、王宮への唯一の入口である王宮門の警備がある。高い城壁に囲まれた王宮へは、必ずここを通らなければならず他の侵入方法は何一つ無い。
魔法による掘削も国王の強大な魔力によって検知され、直ぐに警備兵が駆け付けてしまう為、文字通り鉄壁。城門を通らずに王宮内へ侵入するには、魔法をも超えた超常的な何かが必要になる。
もしくは──。何らかの方法であの生命体の意識を奪えれば、王宮内部への侵入も可能と言えば可能だろうが。
……いや、考えるのも止しておこう。
あの強烈な殺気と疑心が織り交ざった不思議な感覚、心の中を見透かすような不愉快な視線。あれに敵う生命体は存在しないだろうと、人間の──生物としての──本能がそう告げていた。
──無論、隣を歩くクリスティーナも。
ただ当のクリスティーナは、今は飯の事しか頭に無いらしい。
ずっとそのままだったら、大人の女性の風格もあって男なんかすぐにホイホイ引っ掛けられそうなものだが。
まぁ、こんな戦争大好きなイカれた性格だし、何より本人が弱い男は嫌いそうだし──。
「む、マクシーム。オマエ、何かワタシに対して失礼な事を考えたな?」
「バカ言え。お前は失礼という言葉すら生温いわ」
「あっははは☆殺すぞぉ?」
「殺気を隠せ殺気を。ランドソルのど真ん中だってのにお前の覇気で一般市民を気絶させる気か」
「オマエへの愛が溢れてしまった! すまない☆」
「意外と吐き気……」
軽口を叩き合いながら、目的の店に到着。
この店はリーズナブルな価格と1品毎の量を上手く釣り合わせた、ランドソルにも何軒も構えている人気店だ。先程の俺の発言を聞いていたクリスティーナは、量が食べれるここに連れてきたのだろう。
──戦闘に絡まなければ、こういう所で気を遣えるいい女性なのに……。
「おい、何をしている。あの席へ行くぞ」
「仰せのままに、お財布様」
「オマエもなかなかに失礼な奴だな……」
そうして、窓際の4人掛けのテーブル席へと腰を下ろす。店内は昼時ということもあり、ほとんどの席が仕事休憩でやって来た人間で埋め尽くされていた。
ほかの客と同様にテーブルに置かれていたメニューを2人して眺めていると。
「いらっしゃいませー!」
店員さんがお冷とお手拭き、それとナイフやフォークなどが入ったカトラリーケースを持って現れた。いかにも元気そうな女の子で、胸が大きくて可愛い。橙色のロングヘアにカチューシャを付けている彼女は、そのまま注文を取るつもりらしくテーブルの前でメモの用意をしている。
──どこかで見た事があるような……、いやいや。こんな可愛い子の知り合いなんて……俺は?
とりあえず、こんな可愛い子に対して見覚えがあるって事は絶対何かあるんだろうが。
「ご注文はお決まりですかー?」
「ふーむ、すまないな。ワタシの方は既に決まっているのだが……、そっちの情けない男がまだのようでな」
「一言余計だっての。……よし、決まった」
注文を取った彼女が、小走りで厨房前へと向かうのを確認したあとで。
「おいクリスティーナ」
「なんだ? これ以降の追加注文はカンベンだぞ?」
「違う違う、そっちはもう十分だ。──あの女の子、どっかで見覚え無かったか? あの子の事、なんか知ってるような気がするんだよな……」
その言葉を聞いた彼女は、眉を少し動かし。
「──む、確かに。知り合いでは無いのだろうが、何故か知っている気がする……。とても気持ちの悪い違和感だが、知らないモノは解き明かしようがないだろう」
彼女もなにか不思議な、既視感のようなものを感じているらしい。本来の演目から掛け離れた……、いやこれが正常な位置なのか。
何より議論できるほど情報が多くあるわけでもなく、何となくから始まった話はそのままお流れとなってしまった。
と、一区切りついたところで。
「お待たせしましたぁ〜! 先に『山盛り! 2種のソース付きポテトフライ』と『ボリューム満点! 特性チャーハン大盛り』、それと『暴力的三段重ね特大ハンバーグ』のセットのお客様!」
さっき話にも出た店員がカートに注文した品を載せてやって来た。そのまま流れるようにご飯という流れになってしまったので、その話をもう一度するなどという考えは何処かに消え去ってしまっていた。
「いつも思うが、よくもまぁそんなにものが詰め込めるものだ……。正直、毎日驚いているよ」
「そりゃ毎日死ぬような思いしてんだから腹も減る」
「はぅ〜〜……、おいしそう〜……」
「いやあの店員さん?ヨダレ垂らしてないで仕事したらどうなんです?」
──彼らはいずれまた、何処かで巡り会うが。
なお今作の主人公の名前は、かのTASで活躍なさっているドゥエリストのお名前と全く関係がありませんのでそこら辺ご了承くださいませ。
こいつがムッムッホァイとかドゥエドゥエドゥエドゥエしだしたらマージお話壊るる^〜ってなってしまいます。
後書き前書きは基本こんな感じでダラダラぺちゃくちゃ喋っていきます、よろしくお願い致します。
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