すみません、一味ありませんか? (アナタ)
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一食目

一昔に流行った奇抜なタグを使ったら逆に人気が出るんではないかという高度な策略。

sprite様がまた再結成されたということで少しでも皆様に「あおかな」に興味を持って貰えたらなと思います。


「すみません、一味ありませんか?」

 

お昼時を少し過ぎて忙しさが幾分かましてパタパタとお客さんが返った後そんな声を掛けられた。

 

「一味ですか?七味じゃなくて」

「そです。七味じゃなくて一味です」

 

人の良さそうな笑顔でそう言うお客さん。

あれ、何処かで見た事があるような。

むむむ、と脳内で検索を掛ける事2秒。

頼りなさげに垂れた目にぽわぽわと気の抜けた雰囲気。

間違いない。

クラスメイトの唐津 空くんだ。

店員さん?と心配そうに私を見上げる唐津くんに、ハッとなって思考の海から現実に帰ってくる。

 

「あぁ.......えぇと、ちょっとあるか聞いてきますね!」

 

突然のクラスメイトの襲来に気恥しさ半分混乱半分。

取り敢えず戦略的撤退を選択した。

唐津 空くん。

私のクラスメイトだけど特に絡みはない。

挨拶ぐらいはすれどそれ以上の会話はした事はなくぼーっとしている所や友達とニコニコとお喋りしている所しか見た事がない。

本当にそれぐらいしか彼の事は知らなかった。

ただいつもぽやぽやしてるなーとか、ニコニコしてるなーとかそれぐらいの印象しかない。

幸いな事に彼は私がクラスメイトだと気が付いてない様子。

まだクラスメイトに覚えられていないのを悲しく思えばいいのかバレなかったのをラッキーと思えばいいのやら。

 

「すみません、お待たせしました。あったのでお渡ししますね」

「無理言ってすみません。ありがとうございます」

 

ぱぁ、と笑顔の質というか雰囲気が一気に明るくなったような気がする。

私から受け取った一味の蓋を空けて振り掛ける。

しかしうどんに一味とは珍しい。

一味は七味に比べて辛みが強く単に辛さを増したい時に使う事が多い。

なのでうどんには本来の風味を増してくれる七味を使うのが一般的だ。

もちろん辛い材料を使ったうどんには一味でもいいのだけれど、彼の食べているのはきつねうどん。

自慢の出汁に癖のない油揚げ、そして我が家のウリでありお父さんが作る麺。

うどん本来の美味しさ、風味が全面に出てくるきつねうどんに一味はその良さを殺してしまいかねない。

ホクホクと嬉しそうに一味を振りかけ終えた唐津くんはお箸をと、らずに七味を振りかけ始めた。

 

「ええっ!?」

「うん?どうかしましたか可愛い定員さん」

「か、かわっ!?」

 

心底不思議そうにそう聞いてくる唐津くんに内心穏やかじゃない私はあわあわと視線を右往左往させてパクパクと口を開いたり閉じたり。

お世辞じゃない事は良くわかる。

唐津くんは心の底から本心でそう言ってくれている。

それが分かったから一味や七味の驚きなんて吹っ飛ぶぐらいに自分が動揺しているんだと思う。

 

「あのあの、えぇと.......どうして一味と七味両方使うのかなぁって」

 

自分は今顔が真っ赤なんだろうなと自覚しながらも振り絞れたのはこんな言葉。

 

「あぁーこの八味の事?」

 

八味。

一味と七味だからか。

コクコクと頷く。

 

「ごめんね。麺も出汁も凄く美味しいし、麺なんて四島特有の細麺なのに物足りないなんて事はないし何よりコシがある。これの良さを潰してるのはやっぱり失礼だったよねごめんなさい」

「あ、いえそんな.......」

 

そこまで褒められると怒る気にもなれない。

心なしかいつも垂れている目がいつもより垂れているような気がする。

もう恥ずかしさは引いていた単純な疑問だけが私の中に残っていた。

じゃあ何故そんな使い方をするんだろう。

彼は照れくさそうに頭をかきながら答えてくれた。

 

「良くこうやって食べてる人が知り合いにいて、無理矢理される間に僕も好きになっちゃってたんだ。こうすれば美味しさ2倍だーって。別にそんなことないのに笑っちゃうよね」

 

あははは、と苦笑いする。

きっと恥ずかしいとか変だとか思っているんだと思う。

けど

 

「いえ.......確かに突拍子もなくて普通はしないですけど誰かの好きなものを好きになれるのは素敵な事だと思います」

 

きっとそれは素敵な事だ。

誰かの好きなものを好きになる。

簡単なようで簡単でない、でも好きなものを共有出来れば笑顔だって楽しさだって2倍になる。

うん、やっぱり素敵だな。

そう言うと唐津くんは驚いた顔をして固まった。

 

「そう言われたのは初めてだよ。ありがとう店員さん」

「えっと.......どういたしまして、です」

 

気恥ずかしくなって頭を下げてからその場を離れていく。

何だか、不思議な人だなぁ。

それが唐津くんと私の初めてのまともな会話だったと思う。

 

 

 

 

「こんにちは、店員さん」

「あ、どうも」

 

1週間もしないウチに唐津くんはまた店にやって来た。

ニコニコとメニュー片手に私に会釈する彼に条件反射のようなもので私もそれを返す。

 

「またいらしたんですね」

「うん。あれで味をしめちゃってね、気に入っちゃった」

「それはお店の娘としても、とても嬉しいです」

 

実際にとてもありがたいことだと思う。

けして都会とは言えないここで気に入ってくれて繰り返しお店を利用して貰えるというのはありがたい。

 

「それで今日のオーダーは決まりましたか?」

「んー、そうだね。うん決めた。今日はカレーうどんにしよう」

 

 

 

 

 

カレーうどん。

シンプルかつ王道にして定番。

取り敢えずうどん屋さんに来て何にするか迷った時にカレーうどんにしておけばハズレはないと言っていい。

カレーうどんは確かに王道にして定番だがそれでいて正解がない。

家庭でカレーの味や具材が違うように同じようにカレーうどんにもバリュエーション、と言うより店や家の個性が良く出る。

 

 

「お待ちしました、カレーうどんです」

「ありがとう。店員さん。あとまた良ければ一味頂けませんか?」

「あー.......すぐお持ちしますね」

 

そう言って店員さんは一旦厨房に帰っていく。

暫くして店員さんは長いツインテールを揺らしながら帰ってきた。

あれ?

 

「何だか顔が赤いよ?」

「な、なんでもありません」

「え、いや.......」

「なんでもありませんから!」

「あ、うん」

 

どんっ、と机の上に一味を置かれる。

小さい身体の何処からそんな言い様がない迫力が出ているのか。

それに店員さんの目がもうこれ以上語るな聞くな殺すぞ、とそう言っている。

その迫力に押されつつ僕は苦笑い。

ふと厨房の方を見ると、とてもいい笑顔でニコニコと此方を見詰める女性が1人。

あ、手を振られた。

?が大量に頭から出て来ていたけど首を傾げながらも僕は手を振り返しておく。

 

「お客様?さっさとうどん食べやがれ下さい、伸びちゃいますよ?」

「あの.......店員さん?顔近い、あと目が怖いです」

 

取り敢えず早く食べないと何だか危なそうだ。

一味、それから七味を振り掛けて.......よしっ完成っと。

一見普通に見えるカレーうどん。

具材は最低限でこれはカレーの残り物を使った訳ではなくカレーうどんにする為に作られたカレーだということ。

立ち込める湯気と共に香ってくるカレー独特の匂いにごくりと喉が鳴る。

 

「では、いただきます」

 

軽く掻き混ぜるようにカレーとうどんを馴染ませながら先ずは一口。

 

「うん、辛過ぎずそれでいてピリッとくる絶妙なバランス。カレーの味に負けがちになる麺もしっかりと存在感があってとても美味しいよ」

 

これは予想以上に美味しい。

カレーとうどんという組み合わせの都合上、どうしても味で目立つのはカレーの方。

正直カレーの味が相当変でなければカレーうどんという料理は成立してしまう。

その中で細麺でありながらここまでの存在感を出して馴染んでいるうどんには驚きだ。

そこで適当にならずカレーの味とうどんのバランスをしっかりと調整しているのはさすがだと言いざるおえない。

 

「ありがとうございます。でもそんなに一味と七味を掛けているのに良く味が分かりますね」

「そりゃ分かるよ。少し味に風味や辛みを追加する事になるけどそこにある味自体がコレで変わる訳じゃないからね。なんなら少し食べてみる?」

「え」

 

 

ぴしり、と店員さんの顔が固まる。

なんか向こうの厨房のほうから、あらあらという声が聞こえた気がする。

箸にうどんを掴んで持ち上げた状態ってのも中々厳しいんだけども。

何だかぐるんぐるんと目を回し両手をバタバタさせながら店員さんは言った。

 

「にゃ、にゃに言ってるんですかっ!?それに私店員ですしそんなのダメですよ.......」

「でもほら向こうの美人な店員さんはOKって言ってるよ?」

 

ほらだってめちゃくちゃ良い笑顔で頭上に手で大きくまるサイン出てるし。

ばばばばっ、と物凄い勢いで厨房に掛けていくツインテールの小さな店員さん。

お、お母さんっ!だとかあらあら、だとか聞こえないでもないけれど麺が伸び切ってしまうまでにこの美味しいカレーうどんを食べる事にしよう。




唐津 空
本作の主人公。
久奈浜の1年生でずっと窓の外を見ているような常にボーッとしていて何処が抜けていてぽやぽやしている系男子。
一味、七味を愛している。
最近行き始めたうどん屋の小さな店員さんがクラスメイトだと気が付いてない。

有坂真白
飲食店「ましろうどん」の一人娘。
主人公に一味を要求されそれから何かと喋る間柄。
クラスメイトとバレていないのを喜べばいいのか悲しめばいいのか分からない。
最近の悩みは彼がクラスメイトだと親に漏らしてしまってそれから関係を探ってくること。
大体赤面するのは母親のせい。


因みに自分が1番好きなルートはみさきルートです。


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二食目

二食目

 

 

 

 

 

「店員さん店員さん」

「分かってますよ。はい、これ」

「すみません、いつもありがとうございます」

 

彼はそれから頻繁にウチにくるようになった。

もうすっかり常連さんの仲間入りだ。

おかげで私のポケットには一味が常備される事となったのは運命だったのかもしれない。

.......まぁこれで厨房に行かなくて良くなったのでお母さんからの冷やかしは受けなくてすむんだけど。

何というか唐津くんが来るのはいつも昼間から結構ズレた時間に来るのでこの時間帯は割と暇なのだ。

何を言いたいのかと言うとお母さんがどうせ暇なんだから、と決まって唐津くんが来ると貸し出されるようになったという事。

いつから「ましろうどん」はキャバクラになったのだろうか。

そのおかげで格段にお母さんからの冷やかしは減ったのだけどその代わりこう、むず痒い視線を背中に良く感じるようになった。

うん、うん.......気にしたら負けだと思ってる。

 

「それで今日のオーダーは決まりましたか」

「うーん、そうだね.......」

 

唐津くんは本当に楽しそうにオーダーを選ぶ。

見ているこっちが気恥しいぐらいだ。

何というか唐津くんは確かにうどんが好きらしいけど、特別好きという訳でもないらしい。

実際に他の食べ物の話をする時だって同じような顔をしているから唐津くんは感情が顔に出やすいのだと思う。

こういうのはもっと顔に出にくい人だと思っていたのに、やっぱりこうやって話したりしてみないと人って分からないんだなって。

よし決めた、と唐津くんはメニューを置いた。

 

「今日はかき揚げうどんにしようと思う」

「かき揚げうどんですね、わかりま.......」

 

 

こ、この気配はっ!?

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 

 

「たのもー」

 

気の抜けた声が店の中によく響いた。

ん?この声は.......

 

「みさきせんぱーいぃーーーーーー!」

 

物凄い勢いで小さい店員さんがすっ飛んで言った。

比喩じゃなくて本当に吹っ飛んで行った。

まるでグラシュを起動したみたいだった。

どうやら小さい店員さんは初速の速いスピーダーのようだ、いやスピーダーなのに初速が速いのは可笑しいか。

ならファイターかな?

だって今も凄いインファイトしてるし。

 

「こんちには、みさき先輩」

「おぉ?唐津くんじゃん」

「え、みさき先輩と唐津くんは知り合いだったんですか?」

 

唐突にインファイトは終了した。

席に座る僕を見つけたみさき先輩が声を掛けてくる、それに合わせて戸惑った顔で小さい店員さんもこっちを見てくる。

 

「そうですね、主人とペットの間柄といいますか」

「んー、確かにそうだったかにゃー」

「えぇっ!?お二人はそういう関係だったんですか!?」

「物覚えの悪い僕でもあの時の事は忘れないよ。だって僕の買ったクレープをあんなに穴が開くほど見つめられちゃもう渡すしかないじゃないですか」

「あははー、でも仕方が無いよね。あの時はものすっごくお腹空いてる時に目の前で美味しそうなクレープが歩いてたんだもん。見ない方が失礼だよねー」

 

丁度休日の時間があった時に行列が出来るほど人気があるクレープ屋さんに行ってみようって唐突に思い付いたのはいいんだけど、行ったら行ったで物凄い行列が出来てて結局買えたのは並び初めて1時間後だったんだ。

僕が買ったのはストロベリーマウンテンという山のようなイチゴに生クリームとカスタードを加えたシンプルだからこそ普通に美味しいメジャーな組み合わせのクレープ。

多分その時僕はだらしない顔をしていたんじゃないかなって思う。

さぁ食べようって思った時だ、何だか視線を感じてそっちを見てみれば僕を凝視する人がいた訳で。

どうにもその視線が気になって僕は、僕を凝視する人まぁみさき先輩に話し掛けたんだ。

 

「どうかしましたか?」

「..............」

「?」

 

話しかけても返事がなかったから僕は首を傾げたけどよく見れば何だか手の方を見てるような気がして僕はクレープを上に持ち上げてみた。

 

「.......」

「.......」

 

下に下ろす。

視線も降りてくる。

空中で円を書くように回す。

視線も円を書くようにそれを追う。

 

「あの、食べますか?」

「食べるっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「まぁそんな感じで僕のクレープはみさき先輩に食べられちゃったって訳だよ」

「いやー、面目ない面目ない」

「相変わらずですね、みさき先輩は.......」

 

何処か呆れた目を向けながらも小さな店員さんは優しい顔でみさき先輩を見ている。

腕に抱き着きながら。

 

「でもでもっ、私そんなみさき先輩が大好きですよ?」

「はいはい。ありがとねー」

「あーん、みさき先輩のいけずー」

 

小さい店員さんがみさき先輩に飛びつくが寸のところでかわさらる。

再び飛び付く。

かわされる。

飛び付く。

かわされる。

飛び付く方もさる事ながら回避してる方もなんだか手馴れてる気がするのは気の所為だろうか。

何だか僕はお邪魔なような気が。

2人は仲がいいんだね、けどそれより。

 

「あの店員さん、僕のかき揚げうどんは?」

「あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「かき揚げうどん2人前になりますっ!」

「ん、ありがとうございます」

「まってましたっ!」

 

 

待ちに待ったかき揚げうどん。

うよう曲折このかき揚げうどんが運ばれて来るまでに色々あったがこうして目の前にあるのを見るとごくりと喉がなるほど食欲がそそられる。

はい、どうぞと小さい店員さんに一味を手渡される。

うんこれこれ。

サッサ、と八味を振り掛けて出来上がり。

 

「相変わらずそれやってるんだ」

「そうですね、基本的になんにでも使いますから。オムライスにもラーメンにも.......白米にも」

「白米っ!?」

「.......綺麗ですよ?」

「綺麗って何、美味しいって言わない辺り作為的なものを感じる!?」

「ははは、普通に美味しいですから」

 

少し赤っぽくなったがこれで僕のかき揚げうどんは完成だ。

うん、うん。

相変わらず僕はこのお店の麺は本当に美味しい。

ここまでは分かり切っていた事だけど問題はこのメインとも言えるかき揚げ。

スーパーやコンビニでも見掛ける何処にでも有りそうなかき揚げだけど、カレーうどんの事もあり期待している自分がいる。

 

いざ、サクッと気持ち良いぐらいにサックサクだ。

.......やっぱりこのかき揚げも手作りだ。

そこまで甘くはないけどしつこくない程度に甘く、これもまた汁との相性が抜群にいい。

麺と一緒にかき揚げを食べ、そしてまた食べる。

うん.......うんこれは美味しい。

 

「.......あ」

 

気が付けばかき揚げは無くなっていた。

これには僕も苦笑い。

何だか久しぶりに食べる事に夢中になっていてかき揚げが無くなったことにすら気が付かなかったようだ。

隣を見れば幸せそうにうどんを食べているみさき先輩、でも何だか不思議そうにうどんを見詰めている。

あぁ、分かりますよ先輩。

 

「先輩も気が付いたらかき揚げが無くなってた口ですか?」

「うん、そうなの。可笑しいよね、1口食べただけなのにかき揚げが消えたんだよ。もうこれは事件だね、密室で行われた完全犯罪だよコレは」

「うん、よく分かんないけどびっくりしたってはよく分かりました」

 

要するによく分かってない事だ。

 

「にしてもお二人とも凄い食べっぷりで私も嬉しくなってきちゃいました」

「あれ、真白まだいたんだ」

「何気にみさき先輩が酷いっ!?でも好きです!」

 

本当に仲がいいなぁ。

けど何だろう、何かが引っ掛かるような.......あぁそうだ。

 

「そう言えばみさき先輩」

「何かにゃー?」

「確か先輩ってうどんきら.......」

「はいストーップ」

「みさき先輩?」

 

口を塞がれた俺もそうだけど小さい店員さんも不思議そうにみさき先輩を見詰める。

へらへらと笑ってた先輩がだってちょっとだけ真面目な顔をしていたから。

みさき先輩と目が合う。

うん、うん。

納得してくれたか、といったかのように先輩は頷いた。

まぁ全然分かってないんだけどね。

 

「あー!なんかずるいです、アイコンタクトで意思疎通とか私でもやった事ないのに!」

「ざんねーん。真白はまだみさきちゃんLvが足りてません、レベリング頑張って!」

「もうカンストですこれ以上上がりませんよぉ.......」

「よく分からないですけど小さい店員さん元気だして?」

「小さいって言わないでっ!」

 

お、怒られた。

それを笑いながら楽しそうに僕と小さい店員さんを見る先輩。

うん、まぁたまにはこういうのもいいかな。

 

 

 

 

 

 




オリ主
趣味は食い歩き。
いつか都会に行って沢山の食べ物を食べ歩きしたいと思ってる。
食べ歩き時のみさき先輩との遭遇率はかなり高い。

鳶沢みさき
胃袋ブラックホール系女子。
基本おちゃらけてボケているがツッコミもこなせるハイブリット。
基礎スペックは恐ろしく高い。
主人公には得ずけされた関係。
食べ歩きに同行する事が多い、なおオリ主は財布な模様。

有坂真白
みさき先輩大好きちゅっちゅ。


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三食目

真白ちゃんはチョロインだと思う。
間違いなくあおかなの童貞殺し枠。

あ、今回うどん食べてないです。


3食目

 

 

 

 

 

 

「はぁ」

 

思わずため息が出てしまった。

陽もだいぶ落ちてしまってそろそろ暗くなり始める時間帯の帰り道、私は今日の部活での出来事を思い出して少し憂鬱な気分になる。

そう最近私は部活に入った。

 

フライングサーカス部 通称FC

 

グラシュ、正式名称アンチグラビトンシューズを履いて行うスポーツだ。

グラシュは履くことによって全身に反重力場を纏うことが出来、自由に空を飛ぶことが出来る靴の事。

それを使い空を飛び各ポイントに配置されているブイか対戦相手の背中をタッチする事でポイントを稼ぎ制限時間までにポイントが多かった方が勝ち、という全く新しい新感覚のスポーツ。

そこにみさき先輩が入ると言うから私も、と入ってみたのは言いものの何もかもが上手くいかない。

部員である部長はもちろんみさき先輩、全くの初心者である明日香先輩にですら私より上手く飛ぶ。

元々私は何をするにしても不器用で容量が悪く才能といったものとは無縁の人間だ。

 

だからこうなるというのは薄々分かっていた。

みさき先輩は経験者でなおかつ運動神経は抜群。

明日香先輩はまだぎこちないけどそれでも時折垣間見るセンスが凄まじく将来有望だ。

部長もスピード一筋だけど私なんかよりもちろん上手い。

 

自分が部の中で1番弱い。

 

そんなの分かりきっていた事だ。

だと言うのになんだろう。

 

「はぁ」

 

この胸のモヤモヤというか歯に魚の骨が挟まった感じというか。

なんとももどかしくてそれがため息として形に出てくる。

 

やっぱりみさき先輩が入ったからって安易に入部するんじゃなかったかなぁ。

でもでもみさき先輩と合法的に一緒に居れるし.......

 

「はぁ」

 

思考がだいぶ駄目な方向へ傾いてしまっている。

今もこうして一般用のグラシュを使って空を飛んでいるけどみさき先輩や明日香先輩と私は何が違うんだろう。

 

「あ、なんでこんな所に.......」

 

ふと下へと視線を向けると見覚えのある人が見えて私は興味から無意識にその人の方へ降りて行った。

それに今はこの気持ちを整理するのには丁度いいと思うから。

 

「おっとっと.......」

 

ぎこちなく砂浜に降り立った。

結構近くに降りたのにこちらに全く気が付いた様子はなく、砂浜に座り込みながらぼーっと空を見上げている。

 

そういえば教室でもずっとこんな感じで窓の外を見てたっけ。

 

私が見ている時だけかも知れないけれど、私の家であるましろうどんに彼が来てから良く彼に目線が行くようになった。

他意なんてなくてただ知り合いになったから目に止まるようになっただけだけど決まって彼は窓の外、正確には空を見上げている。

その姿と今の姿が重なって見える。

 

一体彼には何が見えているんだろう。

 

「何か見えますか?」

 

自然と私は彼、唐津くんに話し掛けていた。

話し掛けようとは思ってはいたけど余りにも自然に声が出てしまっていて、何も悪くないのに妙にやってしまったと感じてあたふたとしてしまう。

 

いきなり声をかけちゃ迷惑じゃなかったかな?

 

顔を伏せがちになりながら伺うように顔を動かして唐津くんを見る。

でも唐津くんは未だに背中を向けたままで無反応だ。

 

あれ、もしかして気がついてない?

 

もう一度声を掛けようかなと思った時だった。

 

「君には何が見える?」

 

落ち着いた声でそう唐津くんは問い掛けてきた。

ほらこっち、と言ってるかのようにぽんぽんと横のスペースを叩いているのはそこに座れと言う事なのだろうか。

近すぎたら恥ずかしいしだからと言って離れ過ぎたら私が意識してるみたいに思われてしまうのは嫌なので近過ぎず遠過ぎず、そんな微妙な距離を開けて私は座り込み空を見上げた。

 

もう殆ど陽が落ちて暗くなった空。

そこに海に煌めく光のように輝いている星々。

 

素直に綺麗だなって思う。

けど此処に住む人達ならばそれなりに見慣れている筈で特別その風景に何かを思う事はない。

なので私は素直に思った事を口にした。

 

「星が輝いてますね」

「確かにそうだね。他には?」

「いえ、特に何も見えませんけど.......他に何か見えるんですか?」

「いや星もそうだけど空しか見えないよ」

「でもずっと見てるじゃないですか」

「綺麗だなって。空、見てたんだ。きっと他の場所でも色々な人がこの空を見ていてそこでも空は綺麗なんだろうね」

 

横を見れば唐津くんの瞳を通して空の星々が輝いているのが見えて、まるで小さな子供が空を見上げて目を輝かしているように見えてきてそれが可笑しくってクスッと笑い声が漏れてしまう。

 

何だか子供っぽくて可愛いな。

 

「うん、そっちの方が綺麗だ」

「えっ?」

 

横を向く。

気が付くと唐津くんの顔が目の前にあって、真っ黒なのに光が反射して輝いて見える目が真っ直ぐ私を見詰めている。

口で息を吐けば当たってしまうような距離で、近くで見るとまつ毛ながいなぁと何処か見当違いな思考が流れている。

 

..............。

 

ていうか近過ぎだよっ!?

顔がどんどん赤くなっていっているのが自分でも分かる。

きっとこうやって砂浜に座り込んでなければすっ飛んでいただろう。

けど余りに突然で頭が回ってなかったのと、足場の悪い砂浜だったからか私は今この現状を把握してただ羞恥に顔を赤くしただけで1歩も動けない。

煩いぐらいに心臓が脈打っている。

かつてない恥ずかしさに頭がどうにかなってしまいそうだ。

 

「僕は君じゃないから良く分からないけど、偶にはこうして空を見上げて休憩すればいいと思うよ。少なくとも顔を顰めて色々考えるより、頭もスッキリするだろうしね」

 

そうやって笑う唐津くんの言葉。

あぁそうか、唐津くんには私が何かを悩んでいるように見えたんだ。

こう見えて私は細かい気を使う事が得意でそういうのを隠すのはそれなりに上手いと思っていたのに。

私の事、良く見てくれてるんだなぁ。

 

そう思うとどうも急に恥ずかしさがぶり返してきて、顔を直視出来なくてぷいっと顔を背けてすすっと少し距離をとる。

 

は、恥ずかしい.......

あんな近くで話してたなんて、顔なんてそれこそき、キス出来てしまうぐらい近くて。

っ!?

 

声にならない悲鳴を上げながら今更かよ、と思うかも知れないけどその事を自覚して膝を抱えて丸くなる。

 

変に思われてないかな?

もしかして変な匂いとかしてたとか.......うぅ部活終わりに消臭スプレーを使ったけどもっと使ってれば良かったかも。

 

 

「あ、何処かで見た事あるなって思ってたけど小さな定員さんじゃないですか」

「ってそこからなのっ!?私の感動返してよっ!」

 

あと小さいって言うなっ!

気が付けばもう胸のモヤモヤは晴れていた。

 

 




オリ主
珍しくうどん食べてない。
日頃からぼーっとしてる、特になにも考えてない。

有坂真白
周りが割と化け物なので自分はこれっぽっちも才能がないと思っている。
成功経験が少ないのも拍車をかけて自分に自信が無い。
故にチョロイン。
ずば抜けて才能があるわけじゃないが優等生の枠組みに入れる程度には才能はある。
きっとあの後邪神ちゃんとの語らいがあってお母さん乱入からの「ぎにゃー」があったに違いない。
詳しくはあおかなの真白ルートをプレイしてみよう。


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