鬼の出づる刻 (九条なお)
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前日譚

久し振りに書きまする。拙いところ&亀ペースでの更新になると思いますがなんとか書いていこうと思います。よろしくお願い致します。


曰く鬼とは、お伽噺や伝説・伝承に伝わる空想の存在である

曰く鬼とは、人に仇なす悪しき生き物である

曰く鬼とは、時代に生きることを許されない

 

「皆様、本日も中央聖教会のミサへようこそおいでくださいました。」

教会の端まで届く透き通る声を発する修道女。

「本日のミサを担当させていただきます、聖道教所属、ノエルと申します。皆様どうぞ宜しくお願い致します」

深々とお辞儀をするノエルと名乗った少女。顔を上げたその表情は柔らかく、慈愛に満ち溢れていた。

 

レガリア大陸は1000年程前より6つの国が存在しそれぞれの国が大陸の覇権を求めて長く戦争行為が続いていた。その6つの国の内の1つ、大陸の名を冠したレガリア聖皇国。中央に存在するこの国は宗教が盛んな国である。が、国というものの所謂王族というものは傀儡のようなものであり国政を担っているのは聖道教の教皇が握っている。国政が王族から教皇に代わったその年から瞬く間に軍事力が強化され他国の侵略を赦さぬ大陸随一の強国となった。

 

そのレガリア聖皇国はこれ以上の戦争行為は悪戯に大陸を疲弊させるとし、6つの国の代表により休戦調停が交わされる事になる。この調停によりレガリア大陸はそれぞれ6つの国による統治が行われ交易などで豊かになっていったと伝わっている。それがおよそ800年前の話となる。しかし、この時大陸に未曾有の脅威が訪れることとなる

 

「本日のミサはここまでとなります。皆様ご静聴ありがとうございました」

ノエルはミサ開始の時と同様に訪れた人々に対して深々とお辞儀をした。

「道中お気を付けてお帰りくださいませ。次回のミサは来週となっております。またお越しくださいませ。皆様に主の祝福があらんことを」

ミサが終わり人々は口々に神への感謝を述べながら教会を去っていき、教会の中にはノエル一人だけとなった。

「今日も上手に喋れたかな?さて、教会のお掃除をしなきゃ」

ノエルは慣れた手付きで箒と塵取りを持ち隅々まで掃除を行う。

「ふぅ、今日も綺麗になりました。」

箒と塵取りを掃除用具入れに戻し、ノエルは主である像の前に膝立ちとなり手を合わせ祈りを捧げる

「主よ、本日も沢山の方々を見守っていただき感謝致します。」

祈りを捧げるとノエルは宿舎へ戻る準備をする。

「宿舎に戻って今日の反省をしなきゃ。宿題もあるし早く帰ろう」

ノエルは荷物を纏め教会を出ると、扉に鍵を掛け自身が通う修道学園の宿舎へと帰路に着いた。

 

ノエル・アトラス。決して裕福な家の出ではないが、両親ともに熱心な聖道教の信者でありノエルもまた幼い頃より両親に連れられミサに通い、将来は修道女となり人々と共に主へ祈りを捧げたいと考え13歳の誕生日を迎えた時にレガリア聖皇国主導の学園、レガリア修道学園へと入学をした。勤勉で真面目な性格もあり修道女としての知識や経験を多く学び、15歳の時より聖道教主催のミサを担当するまでになった。そのミサの評判も良く多くの人が彼女のミサを聞きに訪れるようになった。

「今日の反省と宿題終わりました〜。」

ノエルは1つ息を付くと背伸びをしてベッドに向かう

「明日の準備も終わったし、ちょっと早いけどもう寝ちゃおうかな」

学園の朝は早いためノエルは部屋の電気を消し、ベッドに潜り込んだ。

(明日はレガリア大陸の歴史の授業だったよね...。確か災厄が起きた所から)

そこまで考えた所でノエルは眠りについた。

 

深夜、教会の前に人影が現れ扉の前で止まった

(……。教会か...。人々は実体も何もない神とやらに祈って本当に救われると思っているのだろうか。俺には無意味な行為にしか見えないが)

暗闇の中教会の前に一人の青年が物思いに耽っていた。そして扉の横にある次回のミサのお知らせの紙を手に取る。

(ミサか...。これも1つの経験になるか)

そうして青年は暗闇の中に消えていった

 




前日譚ということで、分からない単語などあると思いますので次回はここまでの単語の説明を挟みたいと思います。なので、なるべく単語の説明と前日譚2話は同時に上げたいと考えていまする。


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鬼の出づる刻 設定説明1

タイトルの通り、いきなり沢山の単語が出てきても混乱すると思うので要点の単語の説明を少し挟ませてもらいます。後書きでもいいのでは?というのは無しで


レガリア大陸

このお話においての舞台となる場所です。この大陸には前日譚に登場したレガリア聖皇国の他に5つの国があり、計6つの国がそれぞれ自治しているという状態になっております。昔はそれぞれの国が覇権を狙って常に争うという所謂戦争状態でしたが現在は休戦調停により国交は安定している。2話目で触れますが、この6つの国ととある者たちによる「厄災」という日が1つのキーパーソンとなります。

 

レガリア聖皇国

前日譚でも少し説明しましたが、この国は6つの国の中で最も強大な力を持った国となります。レガリア大陸の中央に存在し、国の名前からしてその強大さが分かると思います。軍事力も強大ですがそれ以上に力を持っているのが宗教関係者たちであり、国という以上国政を担うのは王族のはずですがその王族も教皇の操り人形状態となっています(つまり、教皇が王様にあれこれ指示を出している)。宗教を重んじる国なので、自ずと宗教に関係する役職についている人々が力を持っている。将来の神父や修道女を育成する学園の運営も行っている

 

レガリア修道学園

上記でも説明したレガリア聖皇国が運営学園。メインヒロインのノエルが通う学園でありそれぞれ初等部・中等部・高等部と3つの編成となっています。年齢に関係なく最初は初等部からのスタートとなり初等部では主に宗教に関する知識や儀礼の作法などを教わります。中等部から大陸や国の歴史、実際に教会などで活動を行うというより実践的な授業となり、高等部から聖道教会への配属先が決まり成績に応じて役職が振り分けられ卒業となる(実際こういうのってどうなってるのか知らないのでこれはあくまで僕のオリジナルな考えと受け取ってくださいな)因みに、ノエルは中等部になります

 

聖道教 聖道教会

レガリア聖皇国の宗教。大陸の戦争を終結させた初代教皇により立ち上げられた宗教であり、レガリア聖皇国の至る所に聖道教会が建っており毎週日曜日のミサには多くの人が訪れる。主=神が絶対であるという思想であり、過去には不信人物には苛烈な仕打ちがされたという噂がある。

 

ノエル・アトラス

本作のメインヒロイン。前日譚でもちょっと触れましたが、もう少し踏み込む説明をば。人物としてはとても心の広い少女であり滅多な事で感情を荒ぶらせることがない。けれども芯は強くちょっとやそっとじゃ揺らぐことのない強いメンタルの持ち主でもある。髪は綺麗な銀色で瞳は深い藍色です。体型についてはまぁ…いい感じですw




というわけで、設定でした。今後も新しい単語が出る度にちょいちょい挟んでいくと思います。よろしくお願い致します


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前日譚2話

遅くなりました。正月は色々あってだな……。取り敢えず週に2話、最低でも1話は上げたいと思います。


レガリア修道学園宿舎

「う……うん。すぅ」

カーテンの隙間から朝日が射し込む。ダイレクトにその光が眼に入り少女は眩しそうにしながら頭を反対側へ向ける。

「………んぅ、朝ぁ?」

まだ半分眠っているであろう身体をゆっくりと起こし、そのまま少しだけ頭を揺らす。

「ふぁぁぁぁ、んー」

一人なのをいいことに大きな欠伸をし、身体を伸ばす少女。次第に頭が冴えてきて眼がはっきりと開いてくる

「ふぅ、お父さん・お母さんおはようございます」

家族の写真に向かって朝の挨拶をすると少女は顔を洗うため洗面所へ向う。

少女−ノエルは学園へ行くための身支度を始める。昨夜しっかりとこなした宿題や教材を鞄に入れ制服に着替える。

「よし!じゃあ、行ってきます!」

ノエルは元気よくそう言うと宿舎を出て、一路学園へと向かった

 

「それでは……本日の講義はレガリア大陸の歴史についてお話しようと思います」

大陸史担当の教授が教本を手に教壇に立ち講義が始まった

「レガリア大陸が初代教皇の手により長く続いた戦争を終わらせた……ここまでが前回の講義の内容でしたね。今回はその続きからになります」

教授の話に真剣に耳を傾けるノエル。教授はゆっくりとした口調で話し始めた。

 

初代教皇の手によって国同士の戦争が終わり、各国で国交が正常になり通商などで平和になったレガリア大陸。中には小さないざこざなどもあったが目立った争いなどもなく、平和な時は永遠とも思われた。

その平和が突如として崩されたのは、休戦より約200年後。現在からおよそ800年前となる。

教皇も次々と代替わりをし国力を増していたレガリア聖皇国は1つの調査隊を築いた。

レガリア大陸には6つの国の他にもう1つ禁忌とされた土地が東にあった。

その土地は不毛などという言葉では収まらない、まさしく死の大地とも言うべき場所であり誰も近寄ろうとはしなかった。水は干上がり動物も植物も、所謂「命」というものが存在しない……そう言われていた。

しかし、たまたまその土地の近くを通っていたレガリアの通商隊がその土地の方角から悍しい叫びが聞こえたという報告があがってきたのだ。

その事に興味を示した教皇はレガリア軍の中でも特に探索に秀でた人物およそ100人という大規模な探索隊を結成しその土地の調査を命じたのであった。

 

探索隊は重装備を整え死の大地へと向かった。確かに異様な土地ではあるが脅威と呼べるものはなく探索隊の調査は順調に進むかと思われた。

それからおよそ1ヵ月が経過した。探索隊帰還の一報を聞き、出迎えた教皇は目を見開いた

100人も居た探索隊は僅か3人になっており、その3人もまた一人は両目を失い、一人は腕を、一人は精神が異常をきたし言動がおかしくなっていた。

かろうじて喋る事のできた隊員からの報告書に教皇は目を通すとそこには死の大地についての詳細とその恐ろしさが記されていた

 

−死の大地には所謂生命と呼ばれるものが存在しないとされていたが、悍しい異形を見た。その異形は角のようなものが生えておりかなりの巨体であった−

ー死の大地の果ての先には海上に浮ぶ村のようなものが存在している−

−探索隊が帰還をしようとした際に、先で述べた異形が探索隊を急襲。戦闘になるもこちらの武器が殆ど通用せず次々と殺されてしまった−

 

教皇は報告書を見終わると、各国の代表を集め協議を行った。今までの説を覆したこの報告書に各国の代表は半信半疑といった状態であった。そもそもその土地を調べた所でなにもすることはできないので意味がないとされていたからだ。

しかし、報告書の通り異形というものが本当に居るのなら話は別である。現実、探索隊の殆どがこの異形に襲われ命を落としているからだ。異形は一匹とは限らない……。もしもこの異形が国へ攻め込んできたら恐らく甚大な被害が被るだろう…と。

教皇がそう言うと暫しの沈黙の後、「討伐せねばなるまい」と口々に言い始める。

教皇は採択を取った。異形を討伐することで満場一致となり連合軍の創設が決定したのである。更に大陸の歴史に詳しいとある国の長が「異形……。この異形を明確な敵とするために仮称ではありますが名前を付けたほうがよろしいかと」と発言をした。

教皇がその仮称について名を求めると「………。国の歴史書にはこう記されていました。この大陸は我々の他にも様々な生物が居ますが太古に絶滅したのでは、と推定されている生物も居ました。その中に、この報告書の特徴に酷似した存在もあったとされています」長はそう答える

 

「その生物は……「鬼」と呼ばれ恐れられていたそうです」

 

「こうして、レガリア連合軍が誕生し禁忌の土地に居ると言われている鬼の討伐が始まったのです」

教授はそこまで話すと教材を閉じ「今日の講義はここまでです」といい教室から退出していった

(レガリア連合軍………。鬼……。)

今日の講義を紙に纏めていたノエルは鬼と呼ばれるものについて考えていた。

(このような恐ろしい生き物が…この世界には居るんだ)

半ばお伽話を聞いたような感覚ではあったがノエルはこの鬼について僅かではあるが興味を抱いた

(次の大陸史の講義は来週…か。ここからどうなったんだろう)

そう考えたノエルは居てもたっても入られず、学園の書庫へと足を運ぶことにした。




はい、前日譚2話でした。まーだ主人公は出てきません。前日譚は次で終わりの予定です。前日譚が終わってからノエルの運命は少しずつズレて行きます。新語がある程度出てきたらまた説明を挟みたいと思います。遅れてしまって申し訳ありませんでした。


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前日譚3話

本当に遅くて申し訳ありません


講義が終わり書庫へと足を運ぶノエル。

教授の講義は週に数回、それも大陸の歴史についてはことさら少ないので知りたいと思ってもその機会が中々ないのだ。

そういった学生はそこそこ多く、そんな学生の為にあるのがレガリア修道学園の書庫である。

ここには聖道教に関する本から、大陸に存在する国の本、動植物の図鑑など。様々な物が存在する

その中でノエルは書庫の一番奥にある棚へと向う。

この棚にはレガリア大陸に関する本がずらりと並んでおり、その中でもレガリア大陸史は全20巻からなる分厚い本だ。

「確か……ここら辺だと思うんだけど…」

ノエルはレガリア大陸史の本を手に取ると机の上で広げた

「……。ここからかな?」

教授の講義の続きの歴史。ノエルはそこから先の歴史を読んでいった

 

レガリア連合軍による鬼の討伐計画は順調に進んでいった。

しかし、それは軍事の面でのみであり肝心の鬼の情報収集が難航していた。

人ならざる鬼に人の武器では歯が立たぬのではないか?

人の防具は鬼の攻撃に対して意味を為さないのでは?

各国の学者達はそう意見を唱える

学者達の意見を聞き、情報を集めるための部隊を作り死の大地へと送り込むも誰一人として帰ってくることはなかった。

ここで遂に連合軍の将軍は全隊による鬼の討伐作戦の嘆願を教皇へと送った。

教皇は暫くの間悩んだ後攻撃の許可を出した。

しかし、この攻撃はあくまでも偵察を兼ねたものであり後々へ繋げるものであるという念を押した。

こうして総勢50万超という大規模部隊による鬼の討伐作戦が始まったのである

 

連合軍は死の大地へと足を踏み入れた

全員が一斉に緊張に包まれ、慎重に歩を進める。

それから暫く後、部隊の遥か前方から怒号が響く

更に上空から何かが飛んできた

 

鬼である

 

禍々しい体躯の色に赤い目。鋭く尖った角がその生き物が異形であるということを象徴していた。

「鬼だ!鬼が出たぞ!」

誰かがそう叫んだ

鬼は大きく息を吐くと、周りをぐるりと見渡し四肢に力を込める

突如大きな体躯が跳ね部隊の一角に襲いかかった。

「怯むな!鬼は一匹だぞ!」

部隊は鬼を囲むようにぐるりと隊列を円にした。

盾を持った者が前に出て、槍兵と弓兵による波状攻撃を行う

しかし、鬼はそんな攻撃をまるで蚊に刺されたかのように振り払い槍兵の槍を掴み振り回す

「ま…まるで効いてないぞ!」

明らかに兵士達に動揺が走る

隊列が後ろへ下がる。

そこへ後方で待機していた大砲部隊が一斉に大砲を放つ。

鬼がいる場所へ砲弾が降り注ぐ

轟音と共に爆発が起き、煙が大きく舞い上がる

兵士達が固唾を飲んで見守る

「グォォォォォォォォォ!!!」

砲弾の着弾位置から耳を劈く程の声が響く

鬼の身体から煙が立ち込めており、明らかに怒りに満ちている事が分かる

「た……大砲でも駄目なのか」

そう言った兵士の上半身が吹き飛んだ

鬼は苛烈な攻撃を放つ

その攻撃は一人ではなく数十人という兵士を巻き込む。

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

隊列が崩れる。ここからはもう地獄だった。

鬼の攻撃に成す術もなく倒れていく兵士達

更に兵士達に追い打ちをかける出来事が起こる

「お………鬼だぁ!後ろからも鬼が来るぞぉ!」

兵士達は後方を視認する。

凄まじい勢いで後方の兵士が飛び交い、噴煙を撒き散らしながらそれは迫ってきた

体躯は同じぐらいだがその身体の色と角の形状が違う

明らかに別個体の鬼であった。

「た……助けてくれぇ!」

悲痛な叫びだけが虚しく響く

「てっ…撤退!撤退しろー!」

将軍の撤退命令が下るが、余りにも遅すぎた。

現在部隊のいる位置より更に後方。そこには絶望の壁が建っていた。

「……………なんだあれは?」

将軍はその光景が現実のものと認識できなかった。あるいはしたくなかったのだろう。

そこには明らかに数十匹はいる鬼の大群が退路を塞ぐように横一列になっていた

「………」

この世の終わりの様な顔をする将軍。

そこからはもう一方的であった

逃げ惑い、悲鳴を上げながら絶命する兵士達

将軍も鬼の攻撃により命を落とす

ものの数十分もしないうちに連合軍は崩壊。そこにはおびただしい数の死体だけが残った。

「グォォォォォォォォォ!!!」

鬼たちが一斉に声を上げる

その響きは或いは勝鬨のようなものなのだろう

どこまでも聞こえるような声は暫く続いた

 

それから後、鬼たちは先程まで生きていた者たちを一瞥すると興味を失ったのかその場から立ち去っていった。

「……………」

死体の山の中に動く者がいた

それは軍の中では新兵であり鬼の攻撃に巻き込まれ、吹き飛ばされた兵士の下敷きになった者であった。

顔は汚れ、恐怖で涙が止まらなかった

「ほ………報告しなくては」

陰からこっそり覗いていたその兵士は鬼達が居なくなったのを確認した後、ゆっくりと這いずり出る。

「こ、この犠牲を……無駄には……」

震える足を少しずつ前に動かしながら兵士は皇国へ帰還した

 

「………なんて恐ろしいの……」

ノエルはそう呟きながら本をめくる。

大陸史に書いてあるのは鬼の苛烈さと残忍さ、恐ろしさを報告を元に記したものである

事実かどうかは分からないが、それでも文字を通してその恐怖を伝えてきた

「ここから…どうなったのかな。」

ノエルが続きを見ようとしたその時だった

「こらっ!」

「ひゃっ!」

突然後ろから大声で怒鳴られる

「君、もう閉校の時間だよ。早く帰りなさい」

「えっ、えっ。もうそんな時間に……」

外を見ると既に夕日が窓から見える

「勉学に熱心なのは良い事だが、規律は守りなさい」

「は……はい。すみませんでした。すぐに帰ります」

ノエルは一礼して謝ると、本を元あった場所に返し荷物を纏めて学園を後にした

 

「夢中になり過ぎちゃったなぁ…」

好奇心というものは制御し難く、ノエルは自分の知的好奇心の貪欲さを少しだけ恨んだ。 

「続きはまた今度かな。明後日にはまたミサもあるし、気持ちを切り替えなきゃ」

自分に喝を入れ家路に着く、道中聖道教会の前を通ろうとした時だった

「ん……?あの人……」

ノエルの目に一人の人物が目に入る

それはボロボロになった外套を身に纏っており、男か女か判別できない。

その人物は何をするでもなくじっと教会の前に佇んでいた

「あのー……?」

何か困り事だろうか?

ノエルはそう思い、恐る恐る声を掛けた

「ん?」

その人物はノエルの方を向く

(あ…男の人なんだ)

声の感じからその人物が男性であるということがわかった

「あ…いえ、じっと立っていらっしゃったので何か困り事かと…」

ノエルはそう答える

「ああ、いや特別困り事はしていない。今度ここで行われるミサとやらに参加したくてね。」

夜にしか教会に来たことがないからもっとはっきりと見たくてねと、その男は答える

「ミサですか……。ミサは明後日の日曜日にありますよ。」

「どうやらそうらしいな。やれやれ明日までどこで暇を潰すか…」

聞く限り、皇国の外から来た人なのだろう。あまりミサの事に詳しくはなさそうだった

「あの…どうしてミサを?」

また悪い癖が出てしまった!と言葉にしてすぐに心の中で後悔してしまった

「……興味があってね。俺はミサとやらを見たことも無いし、何ならこの国に来て初めて知った。何事も体験できるものは体験するのが信条でね。」

男は外套の中で恐らく苦笑いしているのだろう。やれやれといった感じで体をすくめる

「ミサはいいですよ!神に祈りを捧げて、日々健やかに過ごせることを感謝するのです。」

ノエルは少し興奮気味に話す

「そ……そうか。まぁ明後日になれば分かるか」

男は少し驚いた様子でそう言った

「ふむ、じゃあ俺は宿に戻るかな。直に日没だ」

男は空を見上げる。

確かにもう橙色の空も暗くなってきた

「女の一人歩きをする時間でもないしな。お前さんももう帰りな」

「そうします。あ、それと明後日のミサの司会私が担当なんですよ、楽しみにしてて下さいね」

「ほー、そうなのか。それは楽しみだ。」

それだけ言葉を交わすとノエルは足早に宿舎へと帰っていった

「……。ミサは神に祈りを捧げるか……。」

「神なんて存在するのかね…。」

男はそう呟くと やることをやらんとね と言い夜道に消えていった

 

日曜日になりノエルはミサへの支度を終わらせ礼装に着替えた。

「ノエル…今日も頼むぞ」

「はい、司祭さま」

ノエルは司祭に一礼すると壇の前に立ち

「皆様、本日は聖道教会のミサへようこそお越し下さいました。この度のミサの進行を務めさせていただきます、ノエル・アトラスと申します」

ノエルは深々と頭を下げる

一礼を終えて頭を上げると席の後方で先日出会った外套の男を見付ける

(あ……あの人。)

男は腕を組み、静かにノエルの方を見ていた

(よーし、頑張ろう!)

ノエルはそう心の中で意気込みそしてミサが始まった

 

 

 

 

 




遅くなりました。誠に申し訳ありません。色々バタバタしてまして……。これにて前日譚は終了となります。次回からはいよいよ本編に入っていきます。今回はちょっと長くなってしまいましたが、基本的には2000文字以内で収めていきたいと思います。遅れて申し訳ありませんでした。


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