ロマン兵器(*だけとは言っていない)を愛する変態、異世界に転移する (ELDIAN)
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第1話:突 然 の 死

 

 

 

 2019年3月13日

 

 

 

 天井の電球が壁一面に貼られた各種ロマン・試作・ペーパープラン兵器の写真等々を照らし、部屋のあちこちにはカップ麺の山が形成され、窓がカーテンで塞がれ太陽光が全くと言っていいほど差し込まない不健康極まりない部屋に、椅子に座り込みパソコンをじっと見つめる、全身青のジャージで身を包んだ人影の姿があった。

 

 「アメリカも大概だな、うん」

 

 その人影は、声を荒げてそう言う。

 最も、少々ヨダレを垂らしながらパソコンの画面いっぱいに表示された”原子力”巡航ミサイル……『SLAM』のイメージ図を、じっくりと見つめている時点で説得力はないのだが。もしそれを一般人が見たとすれば、おそらく……いや、確実に”変態”と、呼ぶことだろう。いや、絶対にそうだ。

 よりにもよって、放射性物質の燃料棒を露出させて速度で冷却させようと思ってしまった結果、発射された後の地域に敵味方関係なく放射線を撒き散らし、更には多数の核爆弾までをも搭載する、まさに終末戦争極まれりと言わんばかりの究極兵器を見てヨダレを垂らす輩なんて、そうそういない。これを変態と言わずして何と呼ぶだろうか。

 その人影……否。変態の名前は、多田野 繋 (ただの つなぎ)。生まれた時から軍オタの両親に囲まれ育てられ、5歳頃に『パンジャンドラム』の存在を知り、以来ロマン兵器を貪り食う、19歳の日本男児だ。こんな日本男児までもが湧くとはこれが敗戦国の末路というものだろうか。

 さて、彼……以下、変態、と呼ぼう。変態は、現在進行形で毎日の日課、ネットサーフィンをしている。理由は単純。彼が未だ知らぬ、未知のロマン兵器を発見するためだ。もちろん今日”も”、原子力巡行ミサイルとかいういかにもな兵器を発見し、脳内ではアドレナリン爆発どんちゃん騒ぎ。興奮が収まり切らないでいる。

 

 「……はぁ」

 

 が、それもいつもの如く勢いが弱まる。やはりこの兵器も、例の如く試作止まりのようだったからだ。2億6千万ドルの計画費用をつぎ込んだ末の結果であるにも関わらず、である。失望の念を抱かざるに得ない。

 いやまぁ……これに関しては変態も納得せざるを得ないが。

 そういえば、最近は9M730とかいう原子力推進巡行ミサイルが露国で誕生しているらしいが、あっちは燃料の冷却一体どうやってるんだとか思う……矢先、パソコンに、一つの通知が届く。

 

 「ん?なになに……」

 

 変態は通知をクリックし——用とした瞬間、その意識は暗闇の向こうへととてつもない勢いで投げ込まれた。

 彼の意識を現世からそれは、彼の住む家……いや、住処にしていた街のど真ん中に巨大な爆発が発生させ、爆風が吹き荒れ、木々は、家々は吹っ飛ばされ、人も、車両も、その全てを、破壊し尽くした。

 平和な日本にあるまじき光景。その破壊をもたらした存在……それは、『神の杖』。都市伝説場でしか語られることのなかった……存在しないと思われていた、究極の、破壊兵器。ソレによる、低軌道からのタングステン弾頭の誤発射によるものだった。

 

 

 

——

———

——

 

 

 

 ……芝生の上に寝ているような感覚。風が心地よく吹き……って……。

 

 「……ハッ!!」

 

 変態はその瞬間、目を覚ました。何やらとてつもなく悪い夢を見ていたような……自分が住む家に戦術核でも投げ込まれたかのような……いや、気のせいか。うん。

 

 「一体……何が……?」

 

 変態は体を起こすと、周囲を見渡す。

 

 「……え?ここ……どこ?」

 

 さっきまで家にいたはず……なのに……。

 

 「……ナニコレ?」

 

 どこを見渡せど、周囲一帯、木、木、木、である。人っ子一人、家一つも見えない。先ほどまでは自宅の自室にいたはずなのだがなどと考えるが……まぁ、考えるだけ無駄だろう。現に、自分は森にいる。その事実だけは変わらないのだから。

 

 「……これって、もしかして……」

 

 ”異世界転生”なんて言う、馬鹿馬鹿しい想像が頭をよぎる。

 ”異世界転生”。偏見で悪く言ってしまえば、トラックに轢き殺されて異世界に転生する云々が王道の、10個小説を用意されたら9個はやれハーレムだ、やれ中世的な雰囲気の街だ、やれ俺TUEEEEだと、さも当然のような流れで同じような世界を量産する現代の魔境。もはやほとんど全てが同じ作品に見えてくる禁書だ。

 変態も以前、ロマン兵器漁りの為書店に行った時は、腐る程見たことがあるが……最近はほとんど買っていない。だって、テンプレが多すぎるんだもん!仕方ないね!!

 

 「いや、ないか……」

 

 心の中の甘えは放って……とにもかくにも、確かに可能性はあるかもしれない。だが結局、あんなのは単なる空想に過ぎないのだ。むしろ、誰かに麻酔でも打たれてこんな山奥まで連れてこられたんだ、と言う考えの方がしっくりくる。最も、そんなことをされるような覚えは一度もないが。

 

 「うーん……とりあえず、森を出ないとなぁ」

 

 スマホでも持っていればよかったのだが、あいにく持ち合わせていない。つまり、完全に行く道知らずでこの森の中を突っ走ることになる。山でもあればよかったのだが、それも付近にはないようだ。

 そうして歩みを始め……左足に、何かが当たる。変態はなんだと思い反射的に足元を見る。

 

 「……おぉ!!おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 足元にあった物——。それは、緑に塗られたPadだった。それも、ただのPadではない。画面いっぱいに様々な国家が開発した、陸海空様々な兵器が記載されたPadである。パンジャンドラムから80cm列車砲ドーラ&グスタフ、更にはコロボフおじさん……え?……まぁいいや!とりあえず、多彩な兵器(?)が記載されていると理解していただけたら構わない。その摩訶不思議なPadを変態は迷わず手に取った。すると、画面いっぱいに『所有者登録を行いますか?』との文面が表示される。

 

 「はぁぁぁぁぁ!?」

 

 変態は、驚愕を目一杯詰め込んだかのような叫びをする。その瞬間、脳内では、とりあえず所有者登録云々が何なのかを考えるべきではないか、と言う思考が過ぎる。が、それは一瞬でロマン兵器に対する欲望で抹消。

 

 「放送禁止用語(ファ○キュー)!!!」

 

 変態は甲高い声で放送禁止用語(ファ○キュー)と叫ぶと、さも当然のように『はい』を勢い良く押してしまう。すると、画面は元通り様々な兵器(?)が表示された画面へと戻った。

 それに満足したのか、変態は血眼になって夢中で食い入るように見る。このPadがどこからやって来たものなのか、どんなものなのかなんて関係ない。ただただ、眼前に見えるロマン兵器一点に集中する。

 

 「おっ!!!おっ!!!おほぉぉぉぉぉぉぉぉ↑↑!!!」

 

 反応が完全に頭のおかしいソレである。と言うのも、どうやらこのPad、陸、海、空、そこから更に試作やらペーパープランやらで兵器のジャンル分けが可能なようで、変態は迷わず通常兵器(邪魔物)を排除し、画面をロマン兵器で満たして行く。

 

 「……ん?なんだこれ?」

 

 通常兵器の排除(整理)が終わり落ち着いたところで、変態は画面右下のボタン……『兵器の『具現化』』と言う項目に、気づく。これをそのままの意味で捉えるなら、おそらく兵器を実際に召喚する、と言うことなのだろうが……。

 

 「んーと……何々?」

 

 『兵器の『具現化』』と言う項目を押すと、今度は『『具現化』対象の兵器をお選びください』と、液晶画面に表示される。変態は『ツァーリボンバ(世界最強の核爆弾)』を冗談半分で選択——しようとしたが、本当に『具現化』できたら絶対色々やばいよな、と言うことで、ひとまず『SilenserCo MAXIM 9』を選択する。

 この銃はアメリカのサイレンサー販売シェアの約半分を占める『SilenserCo』が販売中のサプレッサー一体型のハンドガンで、『S&W M&P』を元に作られている。色々と特徴はあるが(反動が小さいとか)……何よりも特徴的なのはやはり、見た目がアレ……完全に”ドミネー〇ー”であることだ。今回は見た目もそうだが、やはり銃の扱いに慣れない素人と言う観点から見て、反動の小さいこの銃を選んだ。

 

 「個数指定ね、えーっと……」

 

 『SilenserCo MAXIM 9』を指定すると、今度は

 『個数を指定してください(『具現化』の個数上限は、実際に試作等で製造された数となります(例:Ⅷ号戦車 マウスを具現化する場合、『具現化』の上限は1日で2台まで)ペーパープランの場合は、ランダムな数で『具現化』が実行されます*個数上限は、1日経過することによりリセット』

との文面が表示される。

 つまるところ、1日で『具現化』できるのは、実際生産された数まで。その数は1日経過すればリセットされると言うことらしい。今は大量に『具現化』しても仕方ないので、とりあえず2丁……いや、1丁でいいだろう。

 最後に

 『『具現化』対象:SilenserCo MAXIM 9 個数:1 

          以上を確認した上で、『具現化』を実行してください』

 と、表示される。まぁどうせできないでしょと思いながら、変態はそっと『具現化』を実行。

 一瞬、本当に一瞬だけ、周囲一帯が光で包まれる。

 

 「うっ!まぶ——って、ファッ!?」

 

 眩しいと、言う感情の次には、常軌を逸した光景に目が釘付けになっていた。

 眼前に、『SilenserCo MAXIM 9』が、浮いている。なんの仕掛けもない。ただ、浮遊している。

 

 「え……?え……?これ、どうなってんの?」

 

 変態は手を伸ばし、そっと、『SilenserCo MAXIM 9』に指先で触れる。が、微動だに動かない。

 今度は、Padを地面に置き、両手で掴んでみる。すると、『SilenserCo MAXIM 9』は急に浮遊する力を失い、両手の上へとぽとん、と落ちる。

 

 「結構軽いな」

 

 変態は両手でグリップを握り、いろいろな方向に向けて構えながら呟く。やはり拳銃と言うこともあり、本体重量1105g程度と軽い。

 

 「いやいや……でも、流石にエアガンだよな……」

 

 疑いの目で『SilenserCo MAXIM 9』を見つめ、近くの適当な木に向けて構え、撃つ。

 

 パッ!

 

 「うッ!?」

 

 乾いた音と共にサイレンサーを通して9mm弾が発射、木へと着弾する。

 

 「……いや。マジか」

 

 それを見て、変態は絶句した。いや、これマジで本物だわ。銃刀法違反になったりしないよね?ね?

 

 「って、待てよ……これ、つまりは、他にも色々『具現化』できるってわけか……。それも、本物が」

 

 もうワクワクが止まらない。と、同時に、内心では『『ツァーリボンバ(世界最強の核爆弾)』召喚したら絶対やばかったでしょ……流石にセーフティがついてるとは言え』とも感じていた。もっとも、機会があればTu-95を召喚してフルパワーで使ってみようとも思ったが。

 

 「……でも待てよ?」

 

 変態は『SilenserCo MAXIM 9』にセーフティをかけ地面に置き、Padを拾うと、その画面をまじまじと見つめる。

 

 「これ……色々兵器載ってるけど……整備とか兵站とか人員とか、どうするんだ……?」

 

 そう。どんなに兵器があっても、使える人材、それを維持する機材、そして、燃料弾薬等がなければ、使うことは非常に困難だ。何よりも兵站が重要、大東亜戦争時の大日本帝国がそれを身を以て証明してくれたもんね……!!

 

 「……まぁ、何とかなるかな?」

 

 だって、コロボフおじさんがいたんだもの。恐らくは人員や機材も『具現化』できるのだろう。

 

 「とりあえず、このPadの機能を一通り確認した方がよさそうだな……」

 

 変態はそう呟き手頃な切り株に座ると、Padの機能の確認を始める。



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第2話:森からでませう

 

 

 

 「——っと。とりあえず、設定は一通り確認できたかな?」

 

 変態はそうぼやく。変態は『SilenserCo MAXIM 9』を『具現化』し、実際に本物であることがわかってからと言うものの、今に至るまでずっとPadの機能を確認し続けていた。……え?調べてる時間のうち9割くらいは兵器についてだろ、だって?……そうだよ!!

 

 「この機能全部が使えて、なおかつ全部実際に『具現化』できるわけでしょ……。改めて考えるととんでもないな」

 

 変態は、自分の座っている切り株に立てかけられた『SilenserCo MAXIM 9』と、無造作に置かれたそれのマガジン数本、そして一つの軍用バックパックを横目に呟く。多少(?)ロマン兵器巡りに時間は取られたが、おかげでこのPadのシステムについてはおおよそ把握できた。

 まず、このPad最大にして、現状唯一の特徴……『具現化』。これが可能な対象物は、大きく分けて4つ存在する。それぞれ、『兵器』、『兵員』、『建築等構造物』、『機材・補給物資・その他』だ。確認してみると、その全ては、時代に関わらず、様々な年代のものが『具現化』できるようで、世界最強の(げん)の騎馬軍団にWhinchesterやらSAAを持たせ、騎兵突撃よろしく塹壕に突撃させることも可能だし(多分……いや、確実に機関銃の餌食だろうが)、古代ギリシアの重装歩兵にライオットシールドを持たせて、治安維持をすることも(なんか死傷者出そう)、理論上は可能と言うことだ。

 『建築等構造物』、『機材・補給物資・その他』も、現状知り得る限り最新のものから、原始的なものまで、軍民問わず様々なものがある。これら全てがたった一人の手で『具現化』できるのだから、ワンマンアーミーもびっくりであろう。

 もちろんだが、これら全てにも『兵器』同様に『具現化』上限が存在する。

 例えば、『兵員』を『具現化』する場合、最大兵力時の数字を基準に『具現化」できる(上限リセットは6ヶ月に一回)。

 『建築等構造物』、『機材・補給物資』は、『兵器』同様、製造された数が上限、上限リセットは『兵器』とは異なり、一週間で一回のようだ。ただこれらには飛行場等の大規模施設は含まれておらず、もし航空機を運用するのであれば構築するところから始めることになるだろう。

 また、これら『具現化』したものは、任意のタイミングで『消去』も可能なようだ。……隠密工作にでも使えというのか。いやまぁ後片付け楽だけどさ?

 

 「……やっぱり、どう考えてもやばいよなぁ……」

 

 おそらく……いや、確実に、このPadをフル活用すれば、一国なんて余裕で落とせる。下手をすれば、あの”合衆国”すらも落とすことができるだろう。……あ、それは無理か。核使われたらさすがに厳しいね!うん!

 ……と、まぁそんな危険極まりないブツが足元に落ちていたわけである。もしこれが、一般人である変態ではなく、テロリストや覇権国家にでも渡っていたと思うと……。

 

 「……24時間365日家宝として持ち歩いておくのが賢明だな……うん」

 

 うん。それがいい。これがもし万が一にでも、テロリストなり国家なりの手に渡ってしまったら……。考えたくもない。

 ……最も、他人に渡そうという気持ちは微塵もないが。これはロマン兵器を大量に召喚できる、まさに天国(ハーレム)への切符なのだから……。うへ、うへへへへ!!!!

 

 「……さて、と」

 

 切り株から腰を上げ、バックパックに『SilenserCo MAXIM 9』とそれのマガジンを無造作に放り込む。個人的にはこんな終わりの見えない森、ヘリでも使って手っ取り早く脱出したいのだが、何せ離着陸が可能なスペースが存在しない。車両に乗るにせよ乱立する木が邪魔で、現状徒歩が精一杯だ。

 

 「……いや、待てよ?」

 

 アレ(・・)なら、いけるかもしれない……。変態はそのひらめきに従い、Padを起動。『兵器』の項目をタップし、一心不乱にアレ(・・)を探し……。

 

 「……あった!!!あったぞ!!!」

 

 彼は大声で叫ぶ。

 彼が探していたアレ(・・)……それは。

 

 「『X-ジェット』!!!!」

 

 『X-ジェット』。ウィリアムズ・インターナショナル社によって1970年頃代から1980年まで開発された一人乗りの小型VTOLジェット機で、その小さな丸い胴体に積み込んだターボファンエンジンを用い、飛行する珍妙極まりない小型VTOLジェット機だ。飛行方法は単純で、体を傾けて加速、減速、旋回を行う……それだけ。ラダーもエルロンも何もない。ただただ、それだけである。丸い胴体に人一人が乗り、操作するだけの単純な構造のため、もちろんながらその安定性はいいとは言えない。これが開発された当時、既にヘリや無人機などが台頭してきており、『わざわざこいつ使う必要ないじゃん』ということで、敢え無く開発が中止されてしまった。もっとも、操縦士の真下にエンジンがあるおかげで、故障した場合足が吹っ飛びかねないという危険性を孕んでいた以上、仕方がないことではある……が、まだHZ-1*と比べるとおとなしい方ではある。HZ-1と比べるとな!!!

 

 「へっへっへ……これに乗ってパパっと森を脱出してしまおう……」

 

 変態はいやらしい声でそう呟くと、問答無用で『X-ジェット』を一機『具現化』する。

 

 「うっ!!」

 

 前回『AA-12』を具現化した時と同様、目の前が一瞬閃光に包まれる。

 目を開けば、眼前には平然と佇む『X-ジェット』。我ながら、このPadの力には驚かされる。……まだ数回しか使っていないが。

 

 「出したはいいんだが……問題は操縦できるかどうか、だな……」

 

 変態は懸念事項を口に出す。

 実際のところ、変態もこの『X-ジェット』の存在自体は知っていたが、実際どのような手順でエンジンを起動するのか、一切合切知らない。まずこの機体に関して資料が少なすぎるし、実物を見に実地調査に赴いた事もないため、仕方がないといえば仕方がないが。そもそも、こんな危険なモノに好き好んで乗ろうとする輩、よほどのことがなければいないわけだが……。

 

 「ま、物は試し!!とりあえず適当にいじってみるか!!!」

 

 でもまぁ……手っ取り早く森から出た方が何かといいし……何とかしてみるしかないよね!うん!

 

 「よいせっと……」

 

 変態は『X-ジェット』の後ろ……操縦手が乗る側に周り、乗り込む(?)。

 その瞬間、変態の脳内に電撃が走った。

 

 「——!!!……わかる……わかるぞッ!!!」

 

 急激に脳内に流れ込む数多の情報。それらはどれも『X-ジェット』に関するもので、急激にそれの操作方法を変態は習得する。

 

 「これをこうして……ってどうしてわかるんだッ!?」

 

 変態は無意識的に、どれがどれかよくわからない機器類をその手で弄る。まるで何かに操られているかのように、腕は動き続けている。そして——。

 

 キィィィィィィィィン……

 

 「う、動いたッ!!!」

 

 それは、人類史における偉大なる第一歩であった——。

 

 

 

______

HZ-1:至極単純に言えば、操縦士が直立状態で乗り込み(と言うか上がり)、足の真下で二重反転プロペラが回転しながら飛行する機体である。カウリングも何もなし。落ちたらバラバラなのは言うまでもない。



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第3話:GPSは偉大也

 

 

 

 人類史における偉大なる第一歩と言ったな。あれは嘘だ。

 まぁ人類初の飛行にはライトフライヤー号がいるもんね!仕方ないね!(玉虫型飛行機……?知らない子ですね……)

 

 「う、う、う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」

 

 何はともあれ、変態は飛んだ。少なくとも、空を飛ぶと言う行為は変態における人生で初である。初めて空を飛んだのがヘリでもグライダーでも旅客機でもなく、こんな本来なら乗ることができなかったであろう珍品によるものとは、なかなか複雑な気持ちだが……悪くはない。

 変態を乗せた『X-ジェット』は甲高い音と共にふわっとした感触とともに上昇し、あっという間に木々の上へと到達する。

 

 「す、少し怖いな……」

 

 変態は、少しこわばった表情のまま2つのハンドルをがっちり掴んだ状態で呟く。先述の通り、この機体は安定性が皆無であったと言われている。その証拠に今も風に少し揺られているわけだが……半ばノリで選んだのは、間違いだったかもしれない。

 

 「ま、まぁもう乗ってしまったものは仕方ないか……」

 

 変態は覚悟を決めると、一度周囲を見渡す。

 

 「んーとどれどれ……ん?端までそこまで遠くなさそうだな」

 

 どうやら機体から見て背後と左後ろは山岳部で、それ以外はちょっとした森が広がっているだけのようだ。目測で森の端まで2,3kmあるかないか程に見えるので、こいつの巡航速度(大凡100km/h)であればすぐに森から抜け出せるだろう。

 変態は体を前に倒し、機体ごと前傾姿勢を取る。

 

 「とっとと森から出て、乗り換えよ……」

 

 変態はそうぼやき、前進を開始する。

 

 「な、なんだあれはッ!?」

 

 『X-ジェット』の放つ甲高い音を聞きつけ、偶然目撃してしまった”誰か”が見ているとは、露知らずに——。

 

 

 —数分後

 

 

 キィィィィィィィィン……

 

 森の一角。そこに今、変態を乗せた『X-ジェット』が搭載するエンジンの回転数を徐々に下げ、地上へと降下、着陸しようとしていた。

 

 「横転と横風だけは勘弁……!!横転と横風だけは勘弁……!!」

 

 変態はただひたすらそれを繰り返しながら、慎重に機体を操縦する。

 が、変態の懸念事項など起きるはずなく、変態を乗せた『X-ジェット』はなんの問題もなく着陸。エンジンはそのまま停止した。

 

 「ふぃぃぃぃぃぃ……」

 

 変態は一瞬気が緩む……が、もしかするとエンジンが爆発するかもしれない。そんなことあったらごめんだと言わんばかりにエンジンが停止しているか、何度も何度も確認する。

 

 「よ、よし……いいよな……」

 

 変態は慎重に、その足をゆっくりと地面へと下ろす。

 

 「こんなの作ろうと思ったアメリカ……改めて頭おかしいわ……」

 

 変態は『X-ジェット』から完全に降りると、そのままの勢いで脱力するかのように地面に倒れこんだ。

 その姿は冷や汗でびっしょりであった。そりゃそうだ。風に揺られに揺られ、いつ落ちるかたまったもんじゃないこんな代物に乗っていたのである。いつ落ちるかわからない恐怖と戦いながら操縦するとなれば、冷や汗でベトベトにならないわけがない。

 

 「……いやまぁ、出したのは自分なんだし仕方ないんだけどさ……」

 

 今度からはちゃんと乗る機材は選んだほうがいいな、と確信する。

 やっぱ口だけで知ったかぶりはダメだね、うん。

 

 「ひとまずそこの木陰で一休みしよ……」

 

 そう呟くと、変態は『X-ジェット』から慎重に『SilenserCo MAXIM 9』やPadが入ったバックパックを取り出し、近くの木陰へと移動する。

 

 「よいせっと……」

 

 体の横にバックを置き、木にもたれる。

 

 「さて……これからどうしよう……。もうそろそろ日も暮れそうだし」

 

 眼前に広がっているのは、ただただ、草原。遠い向こうには森が見えるが、それ以外目立つものは何もない。森から出たのは良かったが、これはこれで面倒ではある。森から出たら街がありました、的展開でもいいんじゃないかと思う。もっとも、それだとラノベで見そうなご都合主義も甚だしいが。

 

 「あ、そういやGPS使えるのか?……って……」

 

 そうだった……。

 

 「GPS使えば済む話じゃん!!!」

 

 万能機器GPS!!これの存在をすっかり忘れていた。……なぜこれを忘れていたのかは甚だ疑問ではあるが……(白々しい)。

 変態はバックパックからPadを取り出すと意気揚々と画面をスクロールし、スマホ……それの最新型を『具現化』する。

 

 「頼むから機能してくれ……!」

 

 早速スマホを起動すると、素早い手つきで検索アプリを立ち上げ、Go〇gle mapを開く。

 

 「よっしゃktkr(キタコレ)!」

 

 どうやら問題なく見れるようだ。

 

 「まずは現在地の確認っと……」

 

 画面いっぱいの草原から倍率を下げ……絶句した。

 

 「……なんだ、これ……」

 

 変態の手が、(かす)かに震える。彼が何気なく位置情報を確認しようという思いつきで『具現化』したスマホ。それの画面は、本来なら北米大陸、南米大陸、アフリカ大陸……といった、様々な大陸が表示されるはず(・・)

 だが変態が持つそれは、画面のあちらこちらに未知の大陸を……”地球に存在しないはずのもの”を幾つも表示していた。



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第4話:街へといかう

 

 

 

 「いやいやいやいや……なんだよ……コレェッ!?」

 

 信じられない。退役した艦艇を座礁させて前哨基地にするくらい、信じられない(いや前例*あるけどね?)。

 

 「GPSの不具合……?いや、それはあり得ない……。じゃ、じゃあどゆこと!?」

 

 全くもって、謎である。そもそも、死んだと思えば実は生きてて森の中に……ハッ!!

 

 「まさか……本当に『異世界転生』だったのか!?」

 

 ……まぁ、うん。このシチュエーションは、おそらくソレなのだろう。いや、きっとそうに違いない!!実際、物的証拠はこうして眼前にあるわけだし。

 

 「いや、でもなぁ……」

 

 だがそうだと仮定すると、少なくとも一般常識で考えればこの世界はおかしい。異世界なのであれば、衛星があること自体信じられないのだ(偏見)。……いやまぁ、地球レベルで文明が発展している異世界があってもおかしくないのだが。

 だが、実際衛星軌道上に衛星がなければGPSは使えないはず。そのはずなのに、このスマホは確かに衛星を介して得たのであろう画像を表示しているのだ。

 

 「……自分の目で確認した方がいいな、これ」

 

 考えるだけ無駄、と言ったところか。

 変態は地図の倍率をある程度下げ、周辺に何か目印になるものがないか探す。街でもあればいいのだが。

 

 「あるじゃん、街!!」

 

 はい。街、あった。

 

 「んーとどれどれ……距離は……結構近いな」

 

 どうやら、今いる位置から見て右側約10kmほど先に、小さな街……というよりも、村に近いものがあるようだ。

 

 「よいせっと……適当に軍用車でも出して、街に向かうとするかな」

 

 変態はそうぼやくとスマホの電源を切り、バックパックへと無造作に詰め込む。それとは逆にバックパックからPadを取り出すと、後片付けと言わんばかりに『X-ジェット』を『消去』。

 それを終えると、変態は静かにちょうど良さそうな車両がないか探すのであった。

 ……あ、因みに『消去』は何気に初めてしたが、それの印象を言うとすれば『なんか一瞬で消えた』……それだけである。

 

 

 _一方その頃

 

 

 「く、クソッ……!グラティナの連中……もうこんな近くまで来てやがったのか!?」

 

 『X-ジェット』に乗り、森上空を飛行していた変態。そいつを偶然目撃してしまったのは、どこかの悪の組織でもなく、ただの一般人——運悪く木の伐採のために、この森林へと足を運んでいた木こりのハンス・ヴァーデノンであった。

 彼は今、田舎では(・・・・)特に珍しくもない馬車に乗り、馬車を引く二匹の馬とともに林道を突っ走っている。

 

 「とにかく村に知らせなければ……!!」

 

 彼がここまで急ぐのには理由があった。

 発端は2週間前……。突如として、アレース大陸南方に位置するエリス大陸の長、グラティナ帝国がエリス大陸に侵攻を開始したのだ。その侵攻速度たるや凄まじく、既にアレース大陸南部に位置する最大の半島を要した国である、フェルア共和国が陥落してしまったという。

 今の戦況がどうなっているかわからないが、彼らの住む地域にも奴らの魔の手が忍び寄る日は近いだろう。事実、彼が現在住んでいるこの地域は旧フェルア共和国領土から100キロも離れていない。侵攻を予測し、既に村では疎開準備が始まっている。ハンスは森林伐採を早々に繰り上げ村へと帰る予定だったのだが……。まぁ、あの変態が現れたおかげで大騒ぎである。

 

 「そろそろか……」

 

 林道は徐々に開けていき、道路も無舗装のソレから……無舗装のままである。

 何はともあれ森を抜けたハンスは、そのまま村へと向かう——。

 

 「ぉぉぉぉぉぉぃ!!……」

 

 「ん?」

 

 つもりだったのだが、その流れを、後ろから発せられた声が断ち切った。ハンスは反射的に後ろを振り向く。

 

 「ちょ、ちょっと……待ってくれぇ!」

 

 「なっ……!?」

 

 ハンスはそれを見て、驚愕した。こんな辺境の地……文字通り、彼の拠点である丸太小屋以外、何もない地に、何やら見慣れぬ青い服を着た男がいるではないか。

 ハンスは慌てて馬車を止めると、青い服を着た男は走って馬車へと駆け寄る。

 

 「あ、あんたこんなところで……何してるんだ!?」

 

 ハンスからの問いに、男は若干困ったような表情で答える。

 

 「えーっと…‥その……なんだ……」

 

 青い服を着た男は少し間を置き、再度口を開く。

 

 「——そう!ヒッチハイク!ちょ、ちょっと街まで連れて行ってくれないか!?」

 

 「は、はぁ……」

 

 ハンスはその答えに、若干の疑問を覚える。

 その疑問は至極単純。『戦争中にヒッチハイクなんてやる馬鹿がいるのか』ということだ。

 ただまぁ、実際そう言っている輩が目の前にいるわけで。それに、ここにもグラティナの連中がやってくるであろうことは時間の問題。彼を置いて見捨ててしまった、となるとまぁ……後味が悪い。

 

 「だ……だめ……か?」

 

 「……まぁいいさ、乗れ。街まで連れて行こう」

 

 「ほ、本当か!?……あ、ありがとう!」

 

 青い服を着た男は鞄を馬車に乗せたあと、自分も嬉々として馬車へと乗る。

 

 「乗ったな?」

 

 「あ、あぁ!」

 

 青い服を着た男は、鞄を抱えた状態で答える。

 

 「それじゃ行くぞ——馬車から落ちるなよ!」

 

 

 

 ______

 *前例:南沙諸島にフィリピンが意図的に座礁させたシエラ・マドレ号の事。艦齢76歳だけど、今日も元気に働いてます。



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第5話:テンプレは死んだ!

 

 

 

——

 

 

 

_グラティナ帝国前線司令部

 

 

 グラティナ帝国。15年前に分裂状態にあったエリス大陸の諸国を、初代皇帝ヴェルシュタール・ミュラーが統一し、あるもの(・・・・)と引き換えに誕生した、一大陸を丸々有する大国である。

 その大国は、今現在多くの”娯楽”と、”資源”を渇望していた。増え続ける”娯楽”と”資源”の需要は今尚無制限に増殖し続けており、それの解決策として彼らは『Heiliger Krieg(聖戦)』を開始。それに参加した兵士は皆一様に『Heilige Kriegskräfte(聖戦従軍者)』と呼ばれ、”恩賞”が約束された。

 その”恩賞”は侵攻を進める大きな足がかりとなり、侵攻が始まって数ヶ月と経たずに、今や大陸の3分の1が彼らの支配下に置かれている。

 

 

 

 場所は前線から遠く離れたアレース大陸南部に位置する、半島の付け根部分に設けられた侵攻軍の指揮を行う、軍司令部。本国や前線部隊との交信を行うそこで、3日に1回の間隔で行われる定期報告が始まろうとしていた。

 

 「やあやあ諸君。揃っているかい?」

 

 今回の侵攻、それの総指揮官フェイン・シュミットは、定期報告用のテントに入って早々どこか期待げな口調で右手を振ると、定期報告のため集まった北部・西部の両戦線責任者に声をかける。

 

 「えぇ。揃ってますぜ」

 

 北方戦線責任者のクラウゼ・ヴェインは言う。

 

 「私もいますよ。というか、その口調……また”的”を全部撃ったんですか?」

 

 呆れた、と言いたげな口調で西方戦線責任者のシュワーズ・アーレインは尋ねる。

 

 「まぁねぇ。こうも暇だと仕方がないから」

 

 「……はぁ。皇帝陛下や臣民にお渡しする分も考えてくださいよ……。私だって、最近は特に”欲求不満”なんですよ?」

 

 「ほんとほんと。俺らは前線でしたい放題だからとはいえ……あは、あははッ!!」

 

 クラウゼは奇声を発し、シュワーズはそれをいつものことだ、と割り切ると小さくため息をつく。

 

 「うーん、ゴメンねぇ。こうも後方勤務だと、やっぱり暇なわけだし……。ついつい()っちゃうのさ!」

 

 「……まぁいいですよ。今回もたくさん”的”が手に入りましたからね。本国に送る分から捻出したものを回しておきます。今回くらいは少しくらい落ち着いて”消費”してくださいよ?」

 

 「わかってるわかってるって!——っと、そろそろ話し合い始めないとダメか」

 

 「あ、そういえばそうでしたな!」

 

 フェインの言葉に続き、クラウゼも思い出したかのような口ぶりで言う。

 

 「それで?北方戦線はどうなってるの?」

 

 「んーっとですな……。ま、侵攻は順調に進んでますぜ。言われた通り”的”も回収して、兵士には好きにやらせてますわ」

 

 「わかったわかった。ま、そっちはそっちでいつも通り任せとくよ」

 

 「あーい」

 

 クラウゼは気の抜けた声で返事をする。

 

 「んで、シュワーズ。西にある国への侵攻準備はもう最終段階だったっけな?」

 

 フェインは話の内容を北方戦線から西方戦線へと変える。

 

 「そうですね。明日の朝には侵攻できますよ」

 

 「そっか、了解了解。いつも通り”的”の回収は忘れるなよ!」

 

 「言われなくても忘れませんよ……」

 

 唯一まともに見えるシュワーズ。だが、彼の目にはどこか怪しげな思惑が含まれているようにも見える。

 その後いくつかの話を終えると、自然な流れで定期報告は終了した。

 

 

 

——

 

 

 「それであんた、名前は?」

 

 「繋……多田野繋だ」

 

 変態は素の自分を隠して改まったような口調で返事をする。

 

 「ツナギ……なかなか聞かない名前だな……。出身地はどこだ?」

 

 「極東の国……。それ以上は言えない」

 

 「そうか。俺はハンス。ハンス・ヴァーデノンだ」

 

 ハンス、と名乗った初老の男は落ち着いた口調でそう告げる。

 あ、なんか怖そうじゃなくて安心。

 

 「それで、ツナギ。お前を拾った時から疑問に思ってたことがあってな……」

 

 ハンスは一言置くと、続ける。

 

 「これだけははっきりさせておきたい。お前は……”転生者”か?」

 

 「ッ——……」

 

 変態はスッと目を逸らした。

 脳内では『え?どゆこと?なんでそんな的を射たような質問してくるの?』なんて疑問がさも濁流のように流れ込む。い、いやマジでドユコト?これじゃ異世界転生系テンプレぶっ壊れじゃん。

 

 「……安心しろ。お前が転生者だからと言って、取って食ったりするような真似はしない。それに……」

 

 ハンスは落ち着いた口調で言うが……安心できない。急に、ハンスが怖く見えてきた。

 

 「どうなんだ?”転生者”か……”転生者”ではない、のか……」

 

 が、そんなこと御構い無しにハンスは疑問をAPFSDS*並みの速度で叩きつけてくる。

 実際のところ、図星である。少なくともこの世界の住人は、量産型ラノベのような脳みその空っぽな一般人ではない、と言うことなのだろう。

 だが問題は、どう考えたら”転生者”と言う結論に至るのか、だ。普通考えて、”転生”なんてものはあまりにも非常識。よほどの変わり者でもなければ、そんな結論には至らないはずだ。良くて、どこか知らない国に住んでいる人間くらいで落ち着くだろう。

 だが、眼前にいるハンスは違う。どこからどう考えても普通の人間だ。そんな常人がその結論に行き着いたと言うことは、少なくともそれなりの根拠はあるはずだ。

 

 「……どうして、”転生者”だとわかったんだ?」

 

 「そりゃぁ……」

 

 ハンスはちらっと変態を見ると、さも当然のような口調で言い放つ。

 

 「その服装に……加えて、聞いたこともない習慣。加えて……」

 

 ハンスは一言置くと、続ける。

 

 「こんな何もない辺境の地にいるわけだろ?そりゃ、”転生者”じゃないかと思うさ」

 

 「で、でもどうしてそんな結論に至るんだ?」

 

 「ハハ」

 

 変態の納得のいかないような疑問にハンスは少し声を出して笑うと、その問いに答える。

 

 「この世界じゃ、”転生者”がゴロゴロいる(・・・・・・)らしいぞ?」

 

 ……え?何それ。異世界転生系テンプレマジでぶっ壊れてんじゃん。これ常識通用しないパターンですね、うん。

 と言うか待てよ?それが正しいなら他にも”転生者”がいるってことじゃん。正面衝突とかあるのかな。だとしたらロマン兵器で……。口元が歪見、よだれが垂れる。

 

 「お、おい……大丈夫か?」

 

 「——ハッ!」

 

 ハンスは少し引いたような目で変態を見ている。

 

 「い、いや!なんでもない! ——と、ところでハンスは会ったことはあるのか?……その、転生者に」

 

 その質問に対して、ハンスは少し顔を背け、答える。

 

 「……すまない、俺はない。なにせ木こりをやってる身だからよ。一生木こりやって、木こりとして死ぬ運命……”転生者”様に出会うなんざ、一生に一度あるかないか……本来なら、な」

 

 ハンスは付け加えるように言うと、変態をちらっと見る。

 

 「まぁ、こうしてお前……”転生者”のツナギと話してることを考えると、もうそれも過去の話さ」

 

 「それもそうか」

 

 その後は、無言の空間が続くのだった。

 

 

_数時間後

 

 

 「……ギ……ナギ!」

 

 「……ん……」

 

 「お、起きたか、ツナギ?」

 

 「あ、あぁ……」

 

 どうやら、気づかぬうちに寝てしまっていたらしい。変態は、体を起こすと、虚ろな目を(こす)って、あたりを見渡す。

 既に辺りは一様に暗闇に包まれ、明かりといえば馬車の片隅に置かれたランプか、月——は、はい。2つあります。ここは異世界チックなのね。

 

 「寝てたところを起こして悪いな。そろそろ街に着くぞ」

 

 「ん……?どうしてそんなことがわかるんだ?」

 

 「ほら、あれを見ろ」

 

 ハンスは右腕を馬車前方へと向け、人差し指を指す。

 彼の指が指す先には、明かりを宿す家々や、ほのかな灯りが幾つも乱立していた。

 

 

______

*APFSDS:簡単に言うと現代戦車が使う装甲を貫くのに特化した砲弾。日本語では装弾筒付翼安定徹甲弾(そうだんとうつきよくあんていてっこうだん)って言います。長ったらしいね、うん。



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ほんへ
第6話:前哨戦(全話若干改稿しました)


 

 

 

 「——さーて、ついたぞ、ツナギ。ここが俺たちの住む街……”ハイマート”だ」

 

 「……お、おぉ」

 

 変態は別の意味で驚嘆の声を上げていた。一本の舗装された道路と、そこから伸びたいくつかの道路沿いに沿って長く作られた小さな住宅街は、そのどれもが中世的雰囲気とは打って変わった、近代的な雰囲気を醸し出す赤茶色のレンガ造りで作られた家々で構成されている。道路の脇にはいくつかのガス灯のような物が立ち並び、道路と住宅をほんのり照らしている。

 さも異世界ファンタジーのテンプレを払拭するような光景だが、今回に限って言えば驚いたのはそこではない。

 

 「これ、何やってるんだ?」

 

 「多分……疎開準備、だろうな」

 

 変態の眼前には、慌ただしい雰囲気の中道路のあちこちに馬車が止まり、人々が緊迫した表情で荷台へと荷物を積み込んでいる光景が広がっていたのだ。

 

 「ん、ちょっと待て。疎k」

 

 「——っと、そうだ。ちょっと用事を思い出した、あっちに行って来る」

 

 ハンスはその言葉を遮るかのように言い、手綱を置く。

 

 「え、あぁ……わかった」

 

 変態はあっけにとられた表情で答えると、ハンスは一人変態を放置し、馬車から降り彼らの方へと走った。

 

 「おーい!ちょっと聞いてくれーっ!」

 

 「「ん?」」

 

 先ほどまで慌ただしく動いていた人々が、急にその動きを止め声の聞こえた方を振り向く。

 

 「お、ハンス。帰ってたのか?」

 

 そのうちの一人が、抜けた声で言った。

 

 「あ、あぁ。それよりも、大変な事態になったぞ」

 

 「な、なんだよいきなり……?」

 

 ハンスは緊迫した表情で彼らの方を見る。

 

 「俺が木の伐採に使ってる森があるのは知ってるよな?」

 

 「もちろん、みんな知ってるさ」

 

 周囲の人間は皆頷く。

 

 「それでだ。その上を今日の昼ごろ、得体の知れない”何か”が飛んでいた」

 

  (うん?)

 

 「な、なんだって!?」

 

 周囲が(ざわ)つく。一人、馬車の中で聞き耳を立てていた変態を除いて。

 

 「そ、そりゃぁ竜種*とかじゃないんだよな?」

 

 「あぁ。あれは間違いなく……得体の知れない”何か”だ。翼がついていなかったしな。しかも、人が乗っていた」

 

 「人が乗っていた!?しかも、得体の知れない何かに!?そりゃ、まさか……」

 

 変態は、馬車の中で若干苦笑しつつ小さく答える。

 

 (そうです、私です)

 

 が、そんなことは御構い無しに話は進んでいく。

 

 「グラティナ——奴らの可能性がある」

 

 「おいおいおい……それ、マジかよ!?」

 

 「とにかくここから早いところ離れたほうがいい。奴らがいつ来てもおかしくはない」

 

 「……分かった。お前ら、とっとと疎開準備をすませるぞ!」

 

 「「応!!」」

 

 男たちは力強い声で答えた。

 ハンスは一瞬、ツナギのことについても話そうと思ったが、今の状況で下手に混乱を招くのもあれなのでやめることにした。

 

 「……なぁ、一つ、聞いてもいいか?」

 

 変態はハンスが馬車に戻るのを見計らって言う。

 

 「ん?あぁ、だが手短に頼むぞ。疎開準備で忙しいんでな」

 

 「……何か、隠してないか?」

 

 「いやいや、そんなことは……あっ」

 

 思い当たる節はないよな——と、考えた瞬間、ハンスの脳裏に”戦争中”と言う単語が()ぎる。

 

 「……そうか、お前は知らないんだったな。今、ここが戦火に呑まれようとしていることを」

 

 

 

——

 

 

 

 「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

 西方戦線責任者のシュワーズ・アーレインは、西方戦線指揮陣地、その中のテントの一つで深いため息をつく。

 

 「どうしたんです、司令?」

 

 側で執務中の補佐官が、執務の手を一旦止め尋ねる。

 

 「……ない」

 

 シュワーズの口元がわずかに動き、微かに声が漏れた。

 

 「……なんです?」

 

 補佐官がそう尋ねると、シュワーズは席から勢いよく立ち、一言。

 

 「我慢できなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁィッ!!!!」

 

 「はっ!?」

 

 補佐官がいきなりの大声に驚愕する。

 

 「全前線部隊に伝達ッ!!!『侵攻を開始せよ』とな!!」

 

 「りょ、了解。ですが……いいのですか?まだ最終確認中の部隊がいくつかあると思いますが……」

 

 「構わん!!!『入手した”恩賞”のうち、3割を部隊に授ける』とでも言っておけばいい!!」

 

 「ッ!?そ、そんなにっ……よろしいのですか?」

 

 3割と言えば、いつもの”恩賞”分割量の3倍……端的に言えば、破格の数字である。

 

 「あぁ!!そっちの方がやる気が出るだろう!?分かったらとっとと伝達しろ!!」

 

 「は、ハッ!!」

 

 補佐官はテントから即座に退出し、通信陣地へと向かう。

 テント内には一人シュワーズだけが取り残され、何やらブツブツつぶやいていた。

 

 「あの快感……もう忘れられない……。絶望に満ちた顔で……逃げ惑い……それを……撃つ……。女も……子供も……平等に……いひッ!!いひひひひひひッ!!」

 

 シュワーズはひたすらに顔を抱え、狂気に満ちた顔で笑い続ける。

 狂気の帝国は、未だ手付かずの西方に向け、その魔の手を向けようとしていた。

 

 

 

 _西方戦線最前線より20km 西方戦線前線航空基地 第4戦闘航空団(JG4)司令部

 

 

 

第4戦闘航空団(JG4)。この西方戦線に展開する3つの戦闘航空団のうちの一つであり、12機の航空機を保有する中隊2つを所有する飛行隊2つ、航空機総数48機で構成される、グラティナ帝国空軍航空部隊である。

 設立はここ最近の話で、現在はユーバータング社(UT)製戦闘機のUT59 D-1戦闘機及び、同じくユーバータング社(UT)製のUT111 B-2爆撃機を所有する各2個中隊が配備されている。

 もし旧ドイツ国防軍に詳しい人間が見たら、前者はBf109E-3、後者はJu87B-2に見えるであろうそれを配属したこの部隊に出撃を指示する暗号電文が舞い込んだのは、つい先ほどの話であった。

 

 「……以上、西方戦線司令部からの電文です」

 

 第4戦闘航空団(JG4)司令のランゲ・ケラー中佐の部下が緊張した顔で言う。それを聞いたランゲは、司令部の窓から未舗装の滑走路や野外に駐機された自軍機を眺めつつ、部下からの報告に応えた。

 

 「……そうか、わかった。直ちに第Ⅱ飛行隊及び第Ⅳ飛行隊に出撃を下令、前線侵攻部隊と連携し、敵地上部隊及び”街”への攻撃を行うよう連絡しておけ」

 

 「承知致しました」

 

 部下はそれだけ応えると、報告のためランゲの元を離れる。反対に、彼の補佐官であるシュバート・ウェイラーが歩み寄る。

 

 「ここ最近手持ち無沙汰でしたが……念のためいつでも出撃できるように準備していたことが回ってきましたね、司令」

 

 「ああ。久しぶりの戦闘だ……隊員の腕が鈍っていなければいいが」

 

 ランゲの少し心配げな表情に、シュバートは余裕ぶった顔で言う。

 

 「大丈夫じゃないですか?初期の侵攻では大した航空戦力はなかったですし。それに、北方戦線司令部からの情報だと、相手はどれだけ良くても複葉機レベルらしいじゃないですか。それも、最初期の。きっと、すぐに終わりますよ」

 

 「それもそうか」

 

 ランゲは納得げな表情で、自軍機へと乗り込むパイロット達を見つめるのだった。

 

 

 

——

 

 

 

_街に到着してから3時間後

 

 

 「……ふぅ。これで最後、か」

 

 ハンスは家の中から荷物を持ってくると、変態に手渡しする。

 

 「あぁ」

 

 変態は荷物を馬車に置き、馬車から降りながら言う。

 

 「にしてもねぇ……まさか戦争中だったとは」

 

 「すまないな、ツナギ。すっかりそのことを忘れていた」

 

 「……いや、いいさ。人にも忘れることは……ある」

 

 変態は顔を背け、見られないように口元を微か歪め、例の如くヨダレを垂らす。

 

 ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ………

 

 「ん?」

 

 この中でも特に聴力のいい者が、何やら聞いたことのない音を耳にする。

 

 「な、なんだ……あれはッ!?」

 

 それと同時に、道路上で荷物を運んでいたうちの一人が荷物を慌てて置いて、変態がいる馬車から見て後ろ側の空を指差した。

 変態や周囲の人間は、反射的にその向きの空を見る。

 

 「あ……あれは……」

 

 薄暗い空に浮かび上がる、ソレ。

 特徴的な逆ガル翼に、はっきりと視認できる固定脚。加えて、液冷エンジンを搭載した故に形成されたスッとした機首。それはまるで——。

 

 (Ju87(スツーカ)……!?)

 

 Ju87(スツーカ)第三帝国(ナチス)が採用し、WWⅡ初戦における電撃戦で活躍した、急降下爆撃機である。それが3機、編隊を組んでこちらへと向かってきていた。

 

 「ありゃぁ……なんだ?」

 

 街の人々が(ほう)けながらそれらを見つめる。

 

 「お、おい!!こっちに来るぞッ!!」

 

 街の上空に差し掛かった瞬間、それら3機は機体を回転(ロール)、ジェリコのラッパに似たサイレン音を甲高く鳴り響かせながら、街へと向けて勢い良く急降下を開始する。

 

 ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……ッガァァンッ!!!

 

 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 乱立する家屋のいくつかに落下した各機6発、計18発の爆弾は、その信管が正常に作動、その威力を発揮する。

 周囲にいた人々や荷物、馬がその爆発に巻き込まれ、あらぬ方向へと吹き飛ばされる。

 

 「く、クソッ!!グラティナのやつらめッ!!!」

 

 人々がパニックに陥る中、たった一人の男だけは、どこか嬉しげな顔を浮かべていた。

 

 「やった!!……やったぞ!!」

 

 そう、変態である。

 変態は馬車からバックパックを手に取ると素早く降り、適当に広い場所へと向かい、これ見よがしにバックパックからサッとPadを取り出して画面を操作。瞬時に『ZSU-23-4 シルカ』を2両、そして各車両に搭乗させるための乗員を『具現化』する。

 今は状況があれなので『ZSU-23-4 シルカ』の詳しい説明は省くが、簡単に言えば『人を瞬殺するレベルの23mm弾を4門計4000発/分レートで発射することが可能な世界初の射撃統制システム(FCS)を搭載する第二世代対空戦車』である。

 

 「——ソ連地上軍第一戦車師団所属の我ら、戦闘者様の『具現化』に応じ馳せ参じました。何なりとご命令を」

 

 いくつもの眩い光とともに、眼前にこの世界ならざる兵士8名と鋼鉄の怪物2両が『具現化』される。

 

 「とりあえず……あれを撃ち落せ!!」

 

 「了解(да)

 

 付近にいた街の住民たちがあっけにとられる中、変態からの命令を受けた乗員達は素早い手つきで『具現化』された2両の『ZSU-23-4 シルカ』に4人ずつ乗り込む。

 

 「ベルトリンク接続、いつでも発射可能——」

 

 「レーダー起動。目標5時の方向……」

 

 「了解。……目標捕捉、射撃開始」

 

 

 

 「……ッチ、大して殺せてないな」

 

 グラティナ帝国空軍所属のマイヤー・アルヴェルトは、やはり50kg通常爆弾(S C 5 0)6発程度ではやはり大量の”標的”を倒すことは叶わないようで、それを見ながら風防越しに街の様子を見ながら舌打ちをする。

 

 「ん?なんだ、あれは?」

 

 機体を若干旋回させながらしばらく街を見つめていると、何やら見たことのない戦車のようなものが2両、街の外に現れ疾走するのが目に入る。まだ地上軍が進出していないにも関わらず現れたソレは、形状は帝国軍のものとは違い、色が全体的に緑がかっている。

 マイヤーはそれが友軍のものであるか、確認のため凝視——

 

 バラララッ……バラララッ……

 

 しようとした瞬間、その戦車はこちらへと向けて凄まじい量の発砲煙を吹き出す。

 

 「なっ!?」

 

 刹那、機体前方を飛行していた僚機が、燃料に引火したのか爆散。あっという間もなく塵と化し、爆炎の中から機体を構成していた各部品がバラバラに落下する。

 

 「な、何が起きたッ!?」

 

 が、彼がそれを確認する機会は永遠に訪れることはない。

 もう一両のシルカが放ったいくつもの23mmは、申し訳程度しか施されていない機体の装甲板を容易に貫通。そのうちの1発はパイロットに直撃し、ほんの一瞬で冥府へと搬送した。

 

 

 

 「敵1、撃墜確認……次、3時の方向」

 

 「了解。……目標捕捉。射撃開始」

 

 レーダー照準による、僅か2秒のバースト射撃。たった2秒にもかかわらず、その圧倒的高レートで発射された約120発の23mm弾は鋼鉄の矢となり、最後のJu87もどきを襲う。

 戦後凄まじい勢いで発展し続けるジェット戦闘機に対応するため開発された『ZSU-23-4 シルカ』。相手が亜音速だとか遷音速であった時代に生まれたこの自走対空砲にとって、たかだか300km/h程度で飛行するJu87もどきは敵ですらない。回避機動をする間も無く、まるで七面鳥撃ち(ターキーショット)のように、無慈悲に撃ち落とされる。

 

 「……レーダーに反応なし。全機撃墜」

 

 「了解。全車周囲警戒を継続。警戒を怠るな」

 

 「了解」

 

 結果、上空を飛行していたソレは数分とかからずに全滅。街の付近には、2つの天高くもうもうと立ち上る黒煙が出来上がる。

 あまりにも、一方的な戦いであった。

 

 

 

______

*竜種:UNKNOWN

 

 登場しろ!!!って兵器は随時募集中です。皇帝爆弾からオナラ爆弾まで、少なくとも現実で名前が実際に存在し、ある程度知名度のあるものであればどんな兵器でも構いません。衛星兵器でも、TR-3Bとかいう明らかに存在しないだろ、って言う機体でも、なんなら現在進行形で中東を食い荒らしているバッタでも構いません。気軽にリクエストしてくだしい。



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第7話:さいきょうのせんちゅうせんしゃ

 気づいている方もいるかもしれませんが、全話若干改稿されてます。主に繋くんが初めて召喚した武器の変更と、敵視点をもう1つ追加しました。

______

 

 

 

——

 

 

 

_グラティナ帝国陸軍前線部隊 第8戦車大隊

 

 

 

 第8戦車大隊。最新のⅣ号戦車13両(一両は中隊指揮車)を有する戦車中隊2個や、1個機械化歩兵小隊を持つ西方戦線に展開中の小規模機械化部隊のひとつで、現在は”ハイマート”侵攻のため、そこから僅か2km地点の草原を疾走していた。

 

 「面白い……。たかが蛮族の分際で、我々に被害を与えるとはな」

 

 先行して攻撃を行なっていた友軍機が墜落したことにより形成された、2つのもうもうと立ち上る黒煙。それを見ながら、第8戦車大隊大隊長のシュルツ・バーガンはキューポラから上半身を出した状態で呟く。

 

 「どうします?大隊長。友軍機の援護がない状態ですが……」

 

 通信士は車内で、下半身しか見えないシュルツに尋ねる。

 

 「そうだな……」

 

 シュルツはキューポラから車内に戻り、頭を抱える。

 可能であれば航空支援を受けつつ攻略したい、と言うのが彼の本音である。だが、そんなものを待っていれば、折角目と鼻の先まで来たにもかかわらず”餌”が逃げてしまう。折角西方戦線司令部が『”恩賞”はいつもの3倍!』なんて言っているのだ。この機会を逃すわけにはいかない。

 

 「……全車、突撃隊系を下令。街まで最大速で向かう」

 

 「……了解」

 

 通信士は余裕ぶった笑顔で答え、手元の無線機を手に取った。

 

 「全車突撃隊系……街まで最大速で向かえ。以上」

 

 『了解。突撃隊系を形成し、街まで向かう』

 

 通信士からの通信に、各車が少々ノイズが入った状態で返信した。

 

 

 

——

 

 

 

 爆撃で崩れ落ちた家、燃え盛る炎、焼き焦げた肉の匂い……様々なものが散乱・充満する中、変態は一人Pad片手に突っ立っていた。

 

 「あ……あんた……何者だ……?」

 

 煤にまみれた”ハイマート”の住人の一人が、勇気を出して震えた声で変態に尋ねる。

 

 「ん……?」

 

 それを聞いた変態は首をゆっくり後ろに向け、崩れ落ちる家をバックにうつろな目で答える。

 

 「俺は多田野繋……”転生者”さ……」

 

 「な……」

 

 その場にいた変態とハンスを除く全員が、絶句する。

 ありえない。この街に”転生者”は、いないはず。いや、”いなかった”と、言うべきだろうか?事実、眼前には自らを”転生者”だと名乗る男がいる。それに、彼らを攻撃していたグラティナの連中を攻撃した理由は?

 様々な疑問が、濁流のように脳内へと流れ込む。

 

 「あ、そうそう。安心しろ……」

 

 そして”ソイツ”は、まるで心を読んだかのように、一言言い放つ。

 

 「あんた達を殺す気は毛頭ない。俺はただ……」

 

 一言溜め、暗い顔で続けた。

 

 「ロマン兵器の活躍が……見たいだけ、だ」

 

 変態はそれだけ言うと、呆気にとられた”ハイマート”の住人をよそにその場から立ち去る。それと同時に、街の外に展開していた『ZSU-23-4 シルカ』の一両が変態の元へと戦闘報告のため戻る。

 『ZSU-23-4 シルカ』の上部乗員用ハッチが開き、中から出た乗員が変態の元へと移動する。

 

 「戦闘者様。敵航空兵器は確認できる範囲で全滅、現在もう1両が周辺空域の警戒に当たっています」

 

 「わかった……毎回直接会って話すのは面倒だな、無線機を出しておくか……」

 

 ゲームのように容易に使える物ではないだろうが、少なくともないよりはマシだろう。変態はPadを操作し、適当な無線機を一つ『具現化』する。

 

 「さて……」

 

 変態は『具現化』した無線機をバックパックに押し込み、兵士と向き合う。

 

 「敵は航空機……もし”電撃戦”そのままなら、おそらく近郊に敵機甲部隊か、歩兵部隊がいるはず……」

 

 「おそらく……そうかと」

 

 乗員の顔が、若干こわばる。

 変態がそう言い切る理由は単純だった。”航空機では地上の占領・維持ができないから”である。例え空挺部隊であろうとも、武器や弾薬、燃料の補給が滞れば戦闘は不可能。必ず地上部隊による進出、及びその地域の占領が必要となる。

 相手が何者かは知らないし、わからない。だが、少なくとも先ほどの航空機による攻撃が挑発でないのであれば、付近に何らかの地上部隊がいるはずだ。

 

 「——如何なされますか?」

 

 「お前達は引き続き周辺空域の警戒を行え。俺はもしものことを考えて”ある物”を出しておく。何か接近する物体があれば……」

 

 変態はバックパックをチラッと見て、続ける。

 

 「知らせてくれ。わかったな?」

 

 「承知しました。戦闘者様」

 

 そこで会話は終了——しかけけたところで、変態が一つ頼みごとを言う。

 

 「あ。それと、その”戦闘者”って呼ぶのはやめてくれ。俺の名前は”多田野繋”だ」

 

 ”戦闘者”と言う単語に、変態は若干の違和感を覚えていたのだ。変態はロマン兵器の活躍見たさと言う欲望に負け、どこの軍所属かもわからない航空機を撃ち落とすなどと言う狂気の沙汰に走ったが、たったそれだけで”戦闘者”と呼ばれるのは、少々癪に触ったのだ。

 だが、その言葉に対し、乗員は申し訳なさそうな顔で答えた。

 

 「すみません……『規則』なので……」

 

 「『規則』ねぇ……分かった」

 

 『具現化』したものとかにも規則があるのねぇ、と思いながら、半ば諦めた口調で言った。

 

 「それでは、戦闘者様」

 

 兵士はそれだけ言うと、『ZSU-23-4 シルカ』のハッチを開けて車内へと戻った。

 

 「さて……地上部隊対策、しておくか」

 

 ……分かっている。どこの国に所属している軍かも分かっていないのに、こんなことを言うのは頭がおかしい、と。でも……ロマン兵器の活躍が見れるなら、それで——ね(威圧)?

 

 

 

 「おい……あいつ、何者だと思う?」

 

 一方の”ハイマート”に住む男3人は、突如として現れた”自称”転生者に関して、街の片付けや早急な疎開の準備の合間に話し合っていた。

 

 「さぁ……?だが、敵意はなさそうに思えるな。ハンス、お前はどう思う?」

 

 男はハンスに話を振る……が、当のハンスは何やら口を(つぐ)んでいた。

 

 「……おい?ハンス?」

 

 もう一度呼びかけると、ハンスはその口を重々しく開いた。

 

 「……あいつは……俺が、”ハイマート”に戻る途中で拾った……”転生者”、”タダノツナギ”だ……」

 

 「「……は?」」

 

 その場にいた2人の男が絶句した。

 

 「いやいや、おい、待て。お前、どうしてそれを黙っていたんだ?」

 

 「いや……疎開が終わってからでいいだろう、と思ったんだ……。下手に混乱を招くとまずいからな……」

 

 成る程、と少し納得する。確かに、ただでさえ疎開で忙しい中”転生者だわーわー”なんて言ってしまえば、疎開準備が遅れていただろう。もっとも、もう手遅れではあるが。

 

 「……成る程な。でも待て。それだとあの男……ツナギとか言う奴……まさか、本当に”転生者”なのか?」

 

 「あぁ、そうだ……。じゃないと、森のすぐ外で見慣れない服装を着た状態で馬車に乗せてくれ、なんて普通……言わないだろ?それも、こんな戦争中にヒッチハイクだ、なんて言ってだ」

 

 「そりゃそうか……」

 

 納得げな表情でうなづく。

 

 「だが……あれは、何なんだ?武器みたいな物と、人のようなものを出していたが?」

 

 その疑問に対し、もう一方の男が思い出すかの口ぶりで答える。

 

 「そういえば、行商人から聞いたことがあるんだが……いくつかの”転生者”は固有の”能力”を持っているらしい。おそらくその”ツナギ”が出した武器のようなものも、それなんだろう」

 

 「そんなものが……」

 

 初めて聞く内容に、一同は青ざめる。

 確かにこの世界において、”転生者”とはありふれたものだ。だが、情報の伝わりにくい田舎では”転生者”について正確な情報や詳しい情報が入っていないのが現状だ。

 

 「……俺たち、どうなるんだろうな」

 

 男が暗い表情でボソッと呟く。

 

 「さぁ……?ただ、あいつの言うことを信じるのなら……」

 

 ハンスは先を読むように言った。

 

 「少なくとも死にはしない、か」

 

 「だといいがな」

 

 彼らは、今後の自らの身に着いて案じるのだった。

 

 

 

 「うへ……うへへへへ」

 

 一方の変態はと言うと、そんな彼らの心配など毛頭気にしていなかった。彼は今、街の外のひらけた場所でPad片手にバックパックを背負った状態で立っていた。

 

 「あぁぁぁぁぁぁ……待てない……」

 

 変態はいかにもヤバい顔で、Padの画面をタップする。

 一瞬で眼前が光に包まれ、次の瞬間には晴れる。

 

 「あはは……出たよ……」

 

 変態は、笑いなのか何なのかわからない口調で、眼前に現れたその”バケモノ”を見上げながら呟いた。

 

 「Ⅷ号戦車……『マウス』……」

 

 車体正面装甲厚200mm、砲塔正面装甲厚240mm……。主兵装、12.8cm長砲身戦車砲。副武装、7.5cm短砲身戦車砲、及びMG34……。そして、総重量約188tの、”バケモノ”。

 それが……Ⅷ号戦車『マウス』。ナチスドイツのでっかいものだいすきおじさんが作り上げた、実用性ガン無視ロマン満載の第二次世界大戦最強を誇る”超重戦車”の、一角。当時連合軍の保有したどの戦車でも貫通することができないとされたそれが、彼の眼前に一両(たたず)んでいた。

 

 「いや……まだだ……」

 

 だが、変態の暴挙はそれに(とど)まらない。

 

 「もっと……もっと、化け物を……」

 

 変態はさらにPadの画面をスクロールし、目的の”ブツ”を『具現化』する。

 

 「『E-100』……!!!!」

 

 彼の眼前に再び眩い光が形成され、それが晴れると、そこにはもう一両の”化け物”が鎮座していた。

 

 「うへへ……」

 

 変態はヨダレを垂らしながら、その容姿を見つめる。

 『E-100』。前面装甲400mm相当*の装甲を有し、砲塔は『Maus』主砲塔を流用したものを搭載する、最大重量140tの化け物である。現実では試作車両が一両、製作途中で終戦を迎え、その後行方が分からなくなった*それが、確かに眼前に存在していた。

 ……この際はっきり言おう。こいつはバカである、と。やりたい放題やるにも限度がある。幾ら何でも100t超えの重量を有する超重戦車2両を『具現化』し運用するなど、戦車で地面を耕すぜベイベーと言うようなものだ。

 だが……それがいい。ロマン無くしてこんな兵器、運用しようと思うはずがない。ロマン万歳!!!!

 それに、これら2両の超重戦車を『具現化』した理由もちゃんと存在する。先述の通り、これら2両は第二次世界大戦最強の戦車であり、その正面装甲厚は破格の数字だ。だが、もしこの装甲が貫通されたら……。それを考慮し、今後のことも考え試しに使ってみようと言うことで『具現化』されたのだ。これの結果次第で、敵地上部隊に対し使用するそれは大きく変わるだろう。

 もし貫通されるようなら戦後主力戦車(MBT)使えばいいしね!!(投げやり)

 

 (さぁて……どうなるかなぁ……?)

 

 変態は両車両に乗せるための兵士を『具現化』しつつ、『Maus』と『E-100』が敵地上部隊を蹂躙する……それを、夢見るのだった。

 

 

 

______

 

*400mm相当:実際は200mm。Mausよりもきつい角度の傾斜装甲を採用した結果。

 

*行方が分からなくなった:イギリス軍が興味を持ったらしく、製作を続行するよう命令した。が、その後の音沙汰はないので……うん。

 

米軍の『The Warrior Song』がスコい。

深夜テンションで書き上げたから少しおかしい部分あるかも……?



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