真剣で最強の弟子に恋しなさい! (TE)
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BATTLE.1 初任務!

こんにちは、TEと申します。
結構前ですが、まじこいのアニメと漫画を見てこんなの書いてみたいなと思って書いてみました。
楽しく読んでいただけたら幸いです。


梁山泊

 

そこは武術を極めた最強の豪傑達が集う場所

 

その道場で日夜地獄の修行を耐え抜き、幾人もの強者を倒し己の信念を貫き通して、ようやく達人の領域へと踏み込んだ少年・白浜兼一

 

達人へとなった彼はそこで満足せず、更なる高みへと修行を続けている

 

「戦略的撤退!!」

 

「弟子が逃げたぞ! 捕まえろ!」

 

「くっ! 今日こそは逃げ切って見せる!!」

 

「甘い!」

 

「げえっ、岬越寺師匠!? ぎゃああああああああああっ!!??」

 

・・・・・・・・修行を続けているのであった

 

 

 

 

 

********************************

 

 

 

 

「今回は結構もった方ね。けれど、まだまだおいちゃん達を出し抜くのは50年早いね」

 

「まったくだ」

 

「アパパパパパ!」

 

「ううう・・・・・・・・」

 

暫くして道場の中、鎖で縛られボロボロになった兼一が正座で座っていた。そしてその周りを囲むようにして座っているのは兼一の師匠たちである

 

「ほっほっほっ! 兼ちゃんや何故逃げる? まだ話の内容を全て話しておらんのじゃがのう」

 

兼一の目の前で笑う金髪で身長が2m近くある老人。この老人こそ梁山泊の長老・風林寺隼人

どうやら長老の話が原因で逃走(戦略的撤退)を行おうとしていたようだ

 

「あ、当たり前です! 『裏社会・実践・1人』その3つの単語を聞けば逃げたくもなりますよ!!」

 

裏社会、政府や警察では手に負えない事件のことである。そんな事件に兼一は裏社会科見学として何度も(強制的に)経験している。その裏社会科見学で兼一は酷い目にあっていることがほとんどである

 

「兼ちゃんもようやく達人への道へと入ったのじゃからそろそろ良いかと思ったのじゃが?」

 

「そろそろって、まだ僕には早いですよ! つか、達人への道って言っても片足が入っただけって師匠方全員がそういってるんですよ?」

 

「じゃが、達人になったことに変わりはあるまい。それにわしの孫娘美羽も今裏社会で任務を1人で行っておるし、兼ちゃんが早いってことはあるまいて」

 

「うっ・・・・・・・・」

 

「それに今回の依頼は政府からではない。そして兼ちゃんに一番適しておるのじゃよ」

 

「? 政府からの依頼じゃなくて、僕に一番適してるってどういうことです?」

 

今までの裏社会とは異形なパターンに疑問を持った兼一。長老は一息入れた後、話し出す

 

「依頼者はわしの友人でのう。内容はその孫娘の護衛なのじゃ」

 

「長老の友人で、その孫娘の護衛が任務ですか・・・・・・・・。その孫娘さんはどうして狙われているのですか? 一体誰に?」

 

「正体は不明じゃが、狙われている理由は『世界最強』の肩書きじゃろう」

 

それを聞いた兼一は首を傾げた。『世界最強』その肩書きが欲しいなら自分の目の前にいる梁山泊の長老・無敵超人風鈴寺隼人を狙うのではないのかと

 

「そ奴らの狙いは『表世界』での世界最強、という訳じゃ」

 

「ああ、裏世界じゃ通用しねえから表世界で名を挙げて金儲けしようつうことだな? 弱え奴が考えそうなことだぜ」

 

「で、でもその川神さんも強いんですよね? 表世界最強って呼ばれているんですから。護衛が必要なんですか?」

 

「わしは一度その孫娘にあったが達人級(マスタークラス)には程遠いのう。兼ちゃんより数百倍の才能なだけにもったいない」

 

「うぐっ!」

 

長老の言葉に心を痛める兼一。確かに兼一は武術の才能は全くと師匠たち全員が口を揃えるほどないのだ

 

「アパパ! 大丈夫よケンイチ! 才能がこれっぽっちも無くても達人になれるってケンイチがショーメーしてるよ」

 

「うぐぐっ!?」

 

「という訳で兼ちゃんには川神百代の護衛の任務に就いてもらう。良いかの?」

 

「・・・・・・・・わかりました。その任務お受けいたします!」

 

「おや、兼一君? いつもならもう少し駄々をこねると思ったが今回はやけに素直だね?」

 

「ええ。いつもならもう少し抵抗したかもしれません。ですが、いつまでもその調子では駄目だと前々から思っていました」

 

兼一は何かあるたびに戦略的撤退(逃走)を繰り返していた自分を思い浮かべ後悔を語りだす。周りから聞こえる「今さらかよ?」という声は軽く聞き流す

 

「ですから! これを機に自分を変えようと思います。それに・・・・・・・・お金や名誉のためだけに川神さんを襲うなんて絶対に許せない!!」

 

「ふっ・・・・・・・・」

 

最初の戦略的撤退時の表情とはまるで違う真剣な表情と目をしている

 

「流石は俺達の弟子だ」

 

「うん。兼ちゃんの真っ直ぐな心意気は称賛に値するね」

 

「アパパ! 兼一偉いよ! とってもとっても偉いよ!」

 

「う・・・・ん。偉・・・・・・い」

 

「えっ? そ、そうですか? えへへっ」

 

予想以上に褒めてくる師匠たちに思わず照れてしまう兼一

 

「うむ。今まで過ごしてきたこの街を出る覚悟を即断で決めたのだからのう」

 

「・・・・・・・・えっ?」

 

「さて、では兼一君が正式にOKを出したと親と学校には私から伝えておきましょう」

 

「・・・・・・・・えっ?」

 

「いや~助かったぜ! つまんねえ任務やらされなくて済んでよぅ」

 

「・・・・・・・えっ?」

 

「まったくね。それにおいちゃんや秋雨どんが長期の任務に出てたら病院が大変なことになるね」

 

「アパパパパ!」

 

「・・・・・・・・えっ?」

 

師匠たちがぞろぞろと部屋から退出していく。しかし、退出する際に出てきた『街を出る』、『長期の任務』という単語に兼一は唖然としてしまっている

 

「あ、あのそれって一体・・・・・・・?」

 

「そういえば任務についての詳細を言っておらんかったのう。川神百代の護衛じゃが、刺客の奴らがいつ狙ってくるのか正直わからんのじゃよ。じゃから24時間体制で護衛しなければならん。ちゅう訳じゃから兼ちゃんはこの街を出て川神市に引っ越してもらう。そして、川神百代が通っておる川神学院に転校するのじゃ!」

 

「え、えええっ!? な、なぜそこまで・・・・・・・・? はっ! 僕に一番適しているってまさかこのことだったのか!?」

 

確かに兼一は梁山泊のメンバーの中で最年少である。転校して川神学園に潜入することが一番不自然ではなく怪しまれる可能性は低い

 

「だからって急にこんな・・・・・・・・それに準備も何も」

 

「おい兼一。お前の荷物はここにまとめておいたからな」

 

「準備良すぎ!? というか初めから僕に行かせるつもりでしたね!?」

 

「ほっほっほっ! では兼ちゃんやさっそくわしの友人である依頼人の元へといくとするかの」

 

「あっー、やっぱり僕お花の手入れや本の片付けで忙しいんでした! ですからこの依頼は別の人に────」

 

「さて、よいしょっと。ほう? また筋力が増えたみたいじゃのう。前より重くなっておる」

 

「そりゃあ、いつもしごかれてますからって何普通に人を荷物みたいに持ち上げてんですか!?」

 

じたばたと抵抗する兼一だが微動だにしない。達人の域に達した兼一でも無敵超人にはかなわないのだ

 

「往生際が悪いからじゃ。安心せい、兼ちゃんが育てておる花達はアパチャイ君やしぐれに任せておる」

 

「全然安心出来ません!? なんで寄りによってその組み合わせ!?」

 

「それでは皆の衆行ってくる」

 

「待って、長老! せめて、岬越寺師匠か馬師父にいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!??」

 

こうして、兼一は初めての一人で裏社会を経験(強制的に)する事となった。

 

 

 

 

 

************************

 

場所は変わって川神市。川神院と呼ばれる場所で黒髪で長髪の美少女がお茶を飲んでいた。

 

「んっ?茶柱が立ってる‥‥‥。可愛い子ちゃんに会えるような気がするな!」

 

少しオヤジ臭い顔をした美少女はそのままお茶を一飲みし、ご機嫌で部屋を飛び出した。しかし、彼女は気付かなかった。その湯呑に亀裂が入っていたことに・・・・・・

 

 

 




何かおかしな点などがございましたらご報告ください。
後、感想等ありましたらよろしくお願いいたします。


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BATTLE.2 到着!川神市!

ようやくまじこいメンバー登場。少しですが・・・・・・


「さて、ここが川神市じゃ」

 

「ここが・・・・・・」

 

長老と出発した兼一は目的地である場所へと到着していた。

 

「どうした兼ちゃん?疲れているようじゃが?」

 

「そ、そりゃ梁山泊からここまで全部走ってきましたからね・・・・・・」

 

膝に手をつきながら言う兼一。なんと2人は約100kmはあるであろう道のりを走ってきたのだ。そのかかった時間は一時間半ちょっと。

 

「まだまだ修行が足りんのう。まあ、昔に比べたら大した進歩かのう。ほっほっほっ」

 

「は、ははは」

 

貶して褒める長老の言葉に失笑で返す兼一。

 

「さて、兼ちゃんやまずは依頼人に会う前に護衛対象を見てもらおうかの」

 

「えっ?」

 

長老が指さす方向へと目を向けるとそこは河川敷で人が集まっている。そしてその中央に集まった原因であろう人を確認した。

 

 

 

 

 

 

「「「ぎゃあああああああああ!!??」」」

 

「あははははっ!」

 

約50人はいるであるだろう不良たちをまるでゲームでありそうな感じでぶっ飛ばしていく。しかも確実に急所へと打ち込み不良たちを撃退していく。そして

 

「よしっ!人間テトリス完成!!」

 

満面の笑みで言う彼女だが、その足元は美少女の足元にはあってはいけない肉の塊がそこにはあるのであった。

 

 

 

 

 

 

「もしかして、表世界最強の……」

 

「そう、あの子が護衛対象の『川神百代』じゃ」

 

「えええっ……」

 

兼一は再び彼女の方へと向く。彼女は友達であろう人たちと話していた。さすがの兼一も人間テトリスを作り上げる所業に戸惑いを隠せなかった。

 

「さすがに表世界最強ですね。あの数を一瞬で・・・・・・」

 

「うむ。まあ、兼ちゃんでもあのくらいはできるじゃろう。それよりも落ち着きなさい」

 

「は、はい」

 

ぶるぶると震える手をゆっくりと緩める兼一。

 

「あの人間テトリスとやらになった者たち助けたいのはわかるがしばしの我慢じゃ」

 

「わ、わかっています。今は姿を見せてはいけないんでしたよね?」

 

「うむ。依頼人の頼みでのう。まあ、あの者たちの自業自得ではあるし、少し反省してもらうとしよう。それと兼ちゃん、少し気を収めなさい。じゃないとあの子が気づいてしまうぞい」

 

「は、はい。すみません」

 

 

 

 

 

「ん?」

 

「?どうしたの、姉さん?」

 

「いや、なんでもない・・・・・・」

 

百代はいつもの仲間たちと供に学校へと歩き出す。

 

(今、何か強い気を感じたような気がしたんだが気のせいか?)

 

 

 

 

 

「す、凄いですね。あの距離で些細な気を感じ取れるんですね。」

 

「うむ。どうやら彼女は気の運用は兼ちゃん以上のようじゃ」

 

「ま、まじですか・・・・・・」

 

仮にもマスタークラスになった兼一。気の運用も一般人より上である。だが、百代はそれ以上だった。長老が言うのであるならばまず間違いではないだろう。

 

「じゃが、それ以外は兼ちゃん以下じゃ。安心せい。」

 

「は、はあ・・・・・・」

 

「さっさとこやつらを手当てして依頼人の所へ向かうとするかのう」

 

兼一と長老は話しながら人間テトリスとなった不良たちを解放し、手当てしていた。もちろん、百代や大勢の人たちに気づかれないように。

 

「はい!・・・ん?」

 

急にバイクの音が聞こえ振り向くとそこには百代にやられた不良の1人がバイクに座っていた。兼一はもちろんその男に声をかけた。

 

「おい!何をしているんだ!?」

 

「うっせえバカヤロウ!このまま女に負けて引き下がれるか!」

 

「いや、あなたも体験したでしょ?あなた達じゃあの人には敵わないって」

 

「うっせえうっせえ!あいつに敵わなくてもあの周りにいる奴らを利用すれば!!」

 

「!!」

 

不良はバイクを発進させる。だが、何故か途中でピタッと止まってしまう。

 

「あ、あれ?なんで動かねえ?壊れたか?」

 

「おい、あんた」

 

「ああ?なっ、なにいいい!?」

 

困惑しながら振り向いた不良はその光景を見て驚愕した。

 

「そんなことは僕が許さないぞ!」

 

それはバイクの後輪を片手で持ち上げて進行を止めた兼一の姿だった。

 

「あ、ありえねえ!?仮にも今40キロは出してたんだぞ!それを片手で!?」

 

しかも先ほどからアクセルを全開で回しているのだがビクともしない。

 

「不良さん。僕はこれ以上皆さんに無駄な争いを起こしてほしくない。それに他に関係ない人たちまで巻き込もうとするならば僕は容赦しないぞ」

 

「ぐっ・・・・・・!?」

 

「ほっほっほっ。どうやら少し痛い目を見んとわからんようじゃのう」

 

「ひいぃぃぃぃ!?」

 

兼一の背後から現れた長老にびっくりする不良。2mもある巨人の老人が急に現れれば仕方ないと言えば仕方ない。

 

「兼ちゃん」

 

「はい!」

 

長老の声とともにパンと大きな音が鳴り響く。不良はその音がなんなのかわかっていたが信じられずにいる

 

「た、タイヤが破裂した!!??」

 

人間がリンゴを片手でつぶすには握力が約60キロは必要らしい。だが、タイヤをつぶすなど一体どれほどの握力が必要なのか不良には全く理解できない。

唯ひとつ理解したのはこの2人には敵いっこないということであった。

 

「さて、若いの。せっかく拾った命じゃ。無駄に散らす必要もないと思うのじゃが?」

 

「は、はい!おっしゃる通りです!申し訳ございませんでした!!」

 

不良はすぐにバイクから降りて土下座をしながら謝った。

 

「兼ちゃんや。不良の手当ては済んだからそろそろ依頼人の所へと向かうとしようかのう」

 

「あ、はい。わかりました。不良さん、もうこんなことしては駄目ですよ?」

 

「はい!すみませんでした!!」

 

兼一と長老は依頼人が待つ場所へと向かうのであった。




読んでいただきありがとうございます。
何か質問・感想がございましたお願いいたします。


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BATTLE.3 闇 

「ここが川神院・・・・・・」

 

兼一と長老は目的地である「川神院」へと到着していた。兼一が最初に思ったことはまずでかい、だ。

2人がいるところは入り口である門なのだがそこからもう見上げるぐらいでかいのだ。梁山泊でも結構でかいし、敷地も広いのだが川神院はその比ではない。

 

「相変わらず盛んなところじゃのう。元気な声聞こえてくる」

 

「そ、そうですね」

 

兼一もわずかであったが聞き取れた。「せいっ!やあっ!」と掛け声がかけられ修行をしている者たちの声である。門下生の数もどうやら比較にならないようだ。ちなみに梁山泊の門下生は1人(兼一)である。

 

「さて、そろそろ依頼人が来るはずなのじゃが…・・・」

 

「お待たせしたのう、風林寺殿」

 

ごごごっ、と門が開くと1人の老人が現れる。白い袴を着て長老以上の立派なひげを生やしている。

 

「ほっほっ、いや今来たところじゃ川神殿久しぶりじゃのう」

 

「そうですな。まあ、立ち話もなんじゃ。中でお茶をしながら話そう・・・・・・依頼についての」

 

「・・・・・・はい」

 

2人は老人の案内により川神院へと入るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっそくで悪いのじゃが依頼についてを・・・・・・」

 

「おっと、川神殿。悪いがまずは自己紹介じゃ。兼ちゃん、この方が今回の依頼人でワシの友人『川神鉄心』殿じゃ」

 

「これは失礼したの。わしがこの川神院の総代で依頼人の川神鉄心じゃ。よろしくの」

 

「は、はい!よろしくお願いします!」

 

「元気がよい青年じゃ。してこの者は何者じゃ?」

 

さっきから鉄心は気になっていた。無敵超人が連れてきた男は一体何者なのかと

 

「申し遅れました。僕は白浜兼一。梁山泊の一番弟子です!」

 

「なんと!?」

 

鉄心は思わず目を見開いて驚いてしまう。風の噂で梁山泊に弟子がいることは聞いていたがこのような青年だとは思っていなかったようだ。

 

「そして今回の依頼もこの一番弟子が受け持つ」

 

「なっ!?本気で言っておるのか、風林寺殿!?」

 

ばんと机を叩きつける鉄心。その顔は信じられないと言った表情をしている。

 

「本気じゃよ。何か不満があるかの?」

 

「当たり前じゃ!孫娘の命がかかっているというのに、それを梁山泊の一番弟子とはいえこんな若者では不満に決まっておる!それに弟子の命も危ういのじゃぞ!」

 

「勿論、それも承知の上。わしらの弟子は快く引き受けてくれたわい」

 

「ほぼ強制的でしたけどね。それに気になるものもありますし……」

 

「気になるもの?なんじゃそれは?」

 

「彼女の目に宿る闇です」

 

兼一の言葉に鉄心はその立派な髭を撫でながら兼一をみる

 

「刺客に襲われる襲われない以前に彼女は危険な物を宿しています。このままでは彼女は自分で自分の身を滅ぼす、そんな気がします」

 

「……確かに百代は最近ヤバい目をする時がある。それは自分と同等に闘える者が現れないための欲求不満が原因じゃろう。じゃが、阿奴は知らん。自分より強い者なとごまんといるとな。まあ、それも当然じゃ。わしがそのようにしたのじゃから」

 

「?どう言うことですか?」

 

「百代が産まれるちょっと前くらいかの。わしは『闇』と名乗る奴らと戦ったことがある」

 

「!?」

 

鉄心の言葉に顔色を変える兼一。

「闇」とは世界の裏社会に暗躍する悪の武闘組織である。

 

「そのときわしは全く相手にもならなかった。たまたま通りかかった風林寺殿に助けられなかったらこうして孫娘の顔を拝むことはなかったじゃろう」

 

「そんなことが・・・・・・」

 

「百代には闇と戦ってほしくない。孫娘が殺される所など見たくないのじゃ。だからこそ風鈴寺殿に依頼を頼んだんじゃ」

 

「ふむ、わしも孫娘がいるから気持ちはわからなくもないのじゃが・・・・・・本当にそれだけかのう?」

 

「なに?」

 

長老の言葉に鉄心は目を向ける

 

「えっと、どういう意味ですか長老?」

 

「うむ、孫娘に戦って欲しくないのなら武術を習わせないなり遠ざけるなりすればよい。そうしなかったのは恐らく川神殿には逆の考えだったのではないか?」

 

「逆の考え?」

 

「闇の奴らを倒せるほどの強さを身につけてほしかった、そう考えたのではないかのう?」

 

長老の話に鉄心はただ黙って聞くだけだった。そのまま長老の話が続く。

 

「でも孫娘には恐らくサボり癖があった。修行も真面目に行わなかった。その結果が表世界最強の称号、じゃがその力では闇には勝てない。そして闇を知られたくないもう一つの理由が生まれ出したのじゃ」

 

「戦いへの欲求不満・・・・・・」

 

「そうじゃ。兼ちゃんも感じたじゃろう?彼女の心の闇を」

 

「はい・・・・・・。それに百代さんの一発一発の攻撃に殺意がありました。そしてそれを楽しんでいるかのようにも・・・・・・」

 

「うむ。その感情や行動は限りなく闇の者たちと近い・・・・・・。川神殿、お主が本当に恐れているのは孫娘が殺されることではなく、孫娘が闇へと堕ちてちまうことじゃないかのう?」




ご感想お待ちしております。


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BATTLE.4 闇を払う光

「さすが風林寺殿。そこまでお見通しとは・・・・・・」

 

ふぅとため息を吐く鉄心。

 

「百代の眼の光。わしが戦った闇の奴らと同じものじゃった。そんな状態の百代に闇と出会いでもしたらどうなるかわかったものじゃないからのう」

 

「なるほどのう。安心なされ川神殿。お主の孫娘はしっかりと守ってみせようぞ」

 

「おおっ!では風林寺殿が・・・」

 

「うちの一番弟子が」

 

がん、と頭を机に打ち付けてしまう鉄心。その光景に兼一も呆然としてしまう。

 

「何が不満なのかのう?仮にも兼ちゃんは梁山泊の一番弟子。闇の奴らと戦ったこともある」

 

「・・・・・・。風林寺殿や白浜君に悪いと思って言わなかったがここは孫娘のためはっきりと言わせてもらうぞい」

 

「・・・・・・」

 

ごくりと唾を飲む兼一。

 

「正直、白浜君が闇と戦えるような豪傑に見えん!!」

 

「!?」

 

「どう見ても学校で虐められてそうな顔をしとるし!」

 

「!?」

 

「わしの目から見ても武術の才能は百代と比べて天と地の差じゃし!!」

 

「!?」

 

「ぶっちゃけ、弱そう!!」

 

「ぐはっ!?」

 

今度は兼一が机に頭を打ち付けた。両手は胸に当てながら

 

「ほっほっほっ。川神殿の心配も同感じゃがこの一番弟子はわしと同じ領域に足を踏み入れておる。実力は折り紙つきじゃよ」

 

「同感って・・・・・・」

 

「ふむ。風林寺殿が言うからには本当じゃとは思うのじゃが・・・・・・。どれほどの実力・・・なのかのう!!」

 

「!」

 

ぶわっ、と座っていたはずの鉄心が飛び上がる。そしてそのまま拳を兼一へと放った。

しかし、鉄心の拳は兼一の顔の寸前で止まる。兼一は微動だにしていない。

 

「どうして避けようとせん?」

 

「拳に殺気が感じられませんでしたから」

 

「ふむ。いきなりすまんかったのう」

 

「いえいえ。鉄心さんが百代さんを想う気持ちを考えれば当然ですよ。」

 

謝る鉄心に兼一は手を振ってそう答える。

 

「・・・・・・白浜君。お主はどうして百代のために戦ってくれるのじゃ?まだ会って話したこともないのに」

 

「・・・・・・鉄心さんの言うとおり僕には武術の才能はありません。そんな僕が武術の世界に入ったのは理由があります。」

 

「理由?」

 

「誰もが見て見ぬ振りするような悪を、片っ端からやっつける力を手に入れるためだったからです!」

 

「!」

 

「だから闇に狙われた百代さんを放っておけません。それに闇に堕ちようとしてしまっているならなんとかして助けてあげたいんです!」

 

鉄心は兼一の目を見て光を感じた。何故かはわからないが信じてみたくなる、そんな気持ちになってしまう

 

「白浜君の気持ちはよくわかったぞい。では一つその実力を見せてもらおう。着いてきてくれんか」

 

                                              

 

 

 

 

 

 

「はあ・・・・・・」 

 

 

百代は現在、授業の真っ最中なのだがどこか上の空で授業を聞かす窓の外をぼんやりと眺めていた

 

(最近、歯ごたえのある挑戦者がいなくなってきたな……。さっきの不良たちは論外だし、やっぱりちゃんと拳をまじ合うことができる奴とやりたい)

 

先ほどの不良たちの戦闘は逆に百代の欲求不満を増加させてしまっただけなようだ

 

(そういえば大和の話では転校生来るとか言っていたな。授業が終わったら聞いてみよう。もし、美少女ならばキープしとかないとな。ふふふ)

 

もの思いにふけるその顔はまさに美少女なのだが考えていることはやっぱりオヤジな百代である

 

(そうと決まれば英姿を養うため一眠りするか……ん!?)

 

居眠りしようと顔を腕枕の上に乗せようとした百代だったが途中で止まり、逆に席から立ち上がって先ほどまで見ていた窓の外を見る。

百代が立ち上がったことで回りの生徒達がざわめき出す。しかし百代はそんなことは気にもとめていない

 

(今のはジジイの気だ!しかも本気で戦う時の!!)

 

自分の祖父が真剣で戦っている。そう判断した百代は居ても立ってもいられず窓から飛び出した。

 

その顔には満面の笑みを浮かべて……

 

 

 

 

 

 

「まさかここまでとは……」

 

鉄心は今、目の前に映る光景に唖然としていた。

 

それは自分の門下生で師範代クラスの実力を持つ強者達が一人の青年に数分もかからず倒されてしまった光景である。

その青年が兼一であるのだがこれにはちゃんとした理由があった。

 

鉄心は兼一に護衛を任せることに条件を出した。それが「師範代クラスの門下生50人との試合」であった。

 

「ありがとうございました」

 

礼で始まり礼で終わる、そこのところはちゃんとしている兼一は相手をしてくれた門下生の人たちに頭を下げていた

 

「どうかの川神殿?これで兼ちゃんが護衛をすることに納得してくれたかのう」

 

「・・・・・・」

 

長老の言葉に鉄心はただ黙って兼一を見ている。そしてなにを思ったか兼一の元へと歩きだす

 

「顕現の参・毘沙門天!」

 

一瞬だった。兼一の頭上から巨大な足が現れ、兼一を押しつぶす。

これは川神流奥義がひとつ「顕現の参・毘沙門天」。0.001秒の一瞬で、闘気によって具現化した毘沙門天の巨大な足によって対象を踏み潰す神速の奥義。

 

それを背後から不意打ちという形で繰り出した鉄心。流石にやりすぎたかと思ったがそれは杞憂に終わった。

 

「い、いきなり何をするんですか!?」

 

足を受け止める兼一の姿がそこにあった。

 

「これが最後の試練じゃ。この状況を打破してみせよ!」

 

だんだんと足の力が強まっていく。このままでは兼一が潰されてしまうがそう簡単にはいかない

 

「だらっしゃい!!」

 

「なんと!?」

 

兼一は足を上に持ち上げて宙へと浮かす。鉄心はすぐに足を再び兼一に向かわせるが、それよりも早く兼一の動作が速かった

 

「チェストぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

兼一の右正拳が足へと直撃する。その瞬間、轟音と共に光が溢れだし周りを包み込んだ。

 

「・・・・・・この強さ。確かに百代を安心して任せられるの」

 

光が晴れたとき、そこには兼一が無傷で立っていた。それは決して兼一の武術の力としてだけではない。

鉄心は光が晴れ、姿を見たとき兼一の目には光を感じた。百代に宿った闇を振り払ってくれるのではないか、そう感じたのだ。

 

「梁山泊の弟子はなかなか面白い存在のようじゃな」

 

「それが兼一君じゃからのう・・・・・・と今の激しい気の流れで元気な若者が吸い寄られてきおったわい」

 

「!?」

 

どーん!、と空から何からなにか降ってくる。それはミサイルでも隕石でもなかった。

 

「美少女参上!」

 

鉄心の孫娘、川神百代が登場した




第4話を投稿時点でお気に入り130件、感想は12件と嬉しい限りです。
その感想も内容が自分のはるか上の濃いものでよく考えさせられました。
それなのにこの内容で申し訳ありませんが、それでも応援していただければ幸いです。
今も感想をお待ちしております!


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BATTLE.5 手のかかる孫娘は可愛い

「も、百代!?」

 

いきなり現れた百代に驚愕する鉄心

 

「おい、ジジイ!ジジイのマジな気を感じて何事かと思って飛んできてやったぞ!」

 

きょろきょろと周りを見渡すと百代の顔が一瞬、歪んだがすぐににやけ出した。

 

「川神院の門下生が酷い有様じゃないか!しかも全員師範代クラスの実力者だ。」

 

まるで新しいおもちゃを見つけた子供ようであった。そんな百代の姿に鉄心は焦りを感じていた

 

(ヤバい。今、百代に2人を会わせるわけには行かないっちゅうに)

 

ここで百代に知られれば闇の存在が知られてしまう恐れがある。それだけは避けたかったのだが今からではどうしようも出来ない

 

「それで?こんな事をした奴はどこのどいつだ?それらしい奴は見当たらないんだが、ジジイがやっつけちゃったのか?」

 

「なんじゃと?」

 

鉄心も同じように周りを見渡す。そこには兼一によって倒された門下生と百代しかおらず、長老と兼一の姿が見当たらなかった。

 

(川神殿)

 

「っ!?」

 

いきなり耳に聞こえる自分を呼ぶ声。それは長老の声であるのだが姿が見えない。

 

(わしと兼ちゃんは今、お主の孫娘に気づかれぬよう隠れておる。適当に話をつけてくれんかのう?)

 

声は聞こえる。だが、その声で百代にばれるのではないかと危惧したが百代はこちらを向きはしているものの驚いた表情はない。

 

これは無敵超人の秘儀の一つ「肺力狙音声(ハイパワーソニックボイス)」。声を超音波ビームというごく狭い振動にすることで、周りには聞こえない波に変えて発している

そのことを理解した鉄心はすぐに百代を追い返すために動いた。

 

「まあ、の。お前さんと立ち合いたいとうるさくての終いには暴れ出したんでちょっと本気を出して追い払ったのじゃ」

 

「ええ~!ふざけんなよ!これだけの門下生を倒せる奴なら資格充分じゃん」

 

「馬鹿者。礼儀も知らん奴にそんな資格があるわけなかろう。ちゅうか、百代。学校はどうした?」

 

「うっ・・・・・・」

 

露骨に目を逸らそうとする百代。鉄心はすぐさま追い討ちをかけた

 

「ほう。学園長の前でサボりとは良い度胸してるのう」

 

「ち、違っ!私はジジイの気を感じたから心配して着てやったんじゃないか!」

 

「何が心配して着てやったじゃ。余計なお世話じゃし、満面の笑みを浮かべながら現れた奴がなにいっとるんじゃ」

 

「うぐっ・・・見られてたのか」

 

「大方、猛者と戦えると思って来たのじゃろうが残念じゃったの。わしが倒しちゃいました~」

 

「ぬぐぐぐっ~、このジジイぃぃぃ」

 

年甲斐もなく舌を出して挑発する鉄心。それをただ見ていることしか出来ない百代であった

 

「さあ、用も済んだじゃろ?さっさと学園に戻るんじゃ。学生は勉強が仕事なんじゃからな」

 

「はいはい、わかったよ。とんだ無駄骨だったよ。これだったら可愛い子ちゃんと触れ合うために英姿を養うんだったよ。まったく」

 

心底残念そうに百代は川神院から跳び去っていった

 

「まったくはこちらのセリフじゃよ」

 

「ほっほっほっ。川神殿も苦悩なさっているようじゃのう?」

 

「それがまた可愛くもあるんじゃがな?おや?」

 

百代が居なくなったことを確認して出てきた長老と兼一。2人を見て鉄心はあることに気づく

 

「白浜君。頭部に傷が出来とるようじゃが、どうしたのじゃ?」

 

「いや、鉄心さんが付けたんじゃないですか。あの最後の技で」

 

「なんと防いだのではなかったのか?」

 

「流石にあの形で防ぐのは無理でした。倒れないよう踏ん張るのがやっとでしたよ」

 

兼一の言葉に長老はやれやれといった表情。鉄心は驚きの表情を浮かべていた。

 

「それで川神殿。兼ちゃんは合格かの?」

 

「う、うむ。風林寺殿が言う通りその実力に偽りなしじゃった。白浜君、百代のことを守ってやってほしい」

 

「は、はい!」

 

「では、これからの詳細を説明しよう。付いてくるのじゃ」

 

兼一は鉄心に連れられて川神院の中へと入って行った。

その表情はやる気に満ちていた。しかし、兼一はあることを忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日からこの学園の1年C組に転入する白浜兼一君です。みんなも仲良くしてあげてください」

 

「・・・・・・」

 

川神学園に入学することを。

しかも、何故か1年に・・・・・・




今回はいつもより短めになってしまいました。
まあ、元から短めですけど(笑)

ですが、まじこいヒロインというか女性のセリフを多くだせてました。
今まで男ばかりの会話ばかりでむさ苦しかったからよかったかな?

さりげなく前回の修正的な会話をしています。
百代の成長もですが兼一も成長していく過程にしないとつまらないですもんね。

皆様の感想をお待ちしております。
感想でよりよい作品に出来るように頑張りますので応援のほどよろしくお願いいたします。


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BATTLE.6 川神学園と剣聖

やっと更新できました。
そして新たな武士娘が登場します


「えっと、今日からこのクラスに転入してきました。白浜兼一です。歳は今年で19歳です。こちらの都合で1年からの再スタートですが仲良くしてください」

 

頭を下げるとクラスがざわめき出す。年上の兼一が1年に転入してきたこともそうだが、こちらの都合とういう言葉にさらに違和感を与えた。

 

「では白浜君になにか質問はありますか?」

 

「はい!趣味は何ですか?」

 

「読書と園芸ですね。前の高校では園芸部に入ってました」

 

「転入してきた理由は?」

 

「そ、それは秘密です。」

 

次々と浴びるような質問攻めになんとか答える兼一。そしてまた一人兼一に質問をするために立ち上がる。

 

『オラも質問良いか~?』

 

「あ、はいどうぞ・・・?」

 

視線の先は1人の少女なのだが両手を突き出してこちらに向けている。それは馬の形をしたストラップのようだ

 

『オラのこと、つかまゆっちのこと覚えてないか?』

 

「まゆっち?」

 

「っ!?」

 

視線を少し上げてストラップを持った少女の顔を見る兼一。目があったが恥ずかしいのか顔を真っ赤にして俯いてしまう

 

「・・・・・・!もしかして黛由紀江さん?」

 

「!」

 

「それにそのストラップは確か松風だったかな?」

 

『おお~!オラのことも覚えてくれてたのか!!』

 

兼一の言葉にぱあっと表情が明るくなる少女は黛由紀江。どうやら兼一と面識があるようだ

 

「黛さんとお知り合いみたいですね。ちょうど良かった。では白浜君の席は黛さんの隣にしましょう。」

 

「あっ、はい、わかりました。」

 

兼一は空けてもらった由紀江の隣の席に座った。

 

「久しぶりだね、黛さん」

 

「お、お久しぶりです!」

 

兼一が小声で話しかけるも動揺したのか大声で返事をしてしまう由紀江。そのせいでクラス全員の視線がこちらに向けられてしまう

 

「えっと、積もる話は授業の後で」

 

「は、はい・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業が終わって休み時間

 

「改めまして久しぶりだね」

 

「は、はい!おおおお、お久しぶりです、しりゃひゃまさん!」

 

『落ち着け、まゆっち!名前が全然言えてないぞ』

 

ガチガチな由紀江に思わず苦笑する兼一

 

「一年ぶりかな?剣聖・黛十一段に剣術の間合いを教えてもらうために香坂師匠に連れられたとき以来だね」

 

「あ、あのときは私も勉強になりました。香坂さんのあの剣技は凄かったです。父以上に剣を極めている人は始めて見ました」

 

『もう目にも止まらない速さでびっくりしたぜ~。ちゅうか、それ以来会ってなかったのによく覚えてたな~』

 

「修行のために何度か手合わせしたし、松風のインパクトぶりがかなり印象的だったよ。それに友達のことを一年やそこらで忘れたりはしないよ」

 

「えっ・・・・・・?」

 

何故か呆然としながら兼一を見る由紀江。そんな由紀江に首を傾げる兼一

 

「し、白浜さん。い、いいい今なんて?」

 

『今、おいらとまゆっちにとって衝撃的な真実を聞かされた気がするんだが・・・?』

 

「えっ?『松風のインパクトが印象的だった』のこと?」

 

「そ、そのあと!」

 

「『友達のことを忘れてリはしない』?」

 

『まゆっち!やっぱりオイラ達の聞き間違えじゃなかったぜ』

 

「わ・・・・・・」

 

「わ?」

 

「私と白浜さんって、友達だったのですか!?」

 

由紀江の大声がクラス中に響き渡る。それほどの驚愕なことだったようだ。

 

「ぼ、僕はそのつもりだったんだけど・・・・・・」

 

『でもよでもよ!まゆっちと白浜っちが友達となった過程がまったくなかったじゃんか』

 

「一緒に修行したり、ご飯も食べたし。あっ!メアドも交換したよね!友達になるには十分じゃないかな?」

 

「た、確かにそうかもしれません。」

 

『すげーぞ、まゆっち!超急展開だ!』

 

深刻な表情で考え込む由紀江に兼一は表情を曇らせる

 

「ごめん。一度しか会ってないのに友達面とかして迷惑だったよね・・・?」

 

「ええっ!?」

 

『やべーぞ、まゆっち!まゆっちが早く答えねえから白浜っちがネガティブになっちまってるぜ!』

 

「ち、違いますよ白浜さん!そんなことあるわけないじゃないですか!」

 

慌てて否定する由紀江。兼一はそっと右手を突き出した。

 

「だから改めて、僕と友達になってくれませんか?」

 

「!は、はい!」

 

由紀江は突き出した兼一の手を握ると嬉しそうな表情をして答えた

 

『やったぜ、まゆっち!新たな友達をゲットだぜ!』

 

「はい!これで9人目のお友達です!」

 

『目指せ、友達100人!』

 

「はははっ・・・・・・んっ?」

 

盛り上がる由紀江を見ていると何やら騒がしい事に気づく

 

「グラウンドで何かやっているみたいだけど?」

 

「あっ、それは多分決闘をしているんだと思います」

 

「け、決闘?」

 

物騒な言葉に兼一はグラウンドを見る。どうやらリレーを行っているようだ

 

「この川神学園は争い事が起きると決闘という形で勝敗を付けているんです。もちろん、大事にならないよう教師の立ち合いにて行ってます。種目も生徒たちが決めているんです」

 

『決闘はほぼ毎日行われているんだぜ?どんだけ過激な学園なんだよって感じ』

 

「す、凄い学園だねここは。あっ、そうだ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど?」

 

「はい。なんでしょうか?」

 

「島津寮ってどこにあるか知らない?今日からそこに入ることになっているんだけど・・・・・・」

 

「島津寮ですか!?」

 

兼一の言葉に由紀江はまた驚きの表情を見せる。だが、少し嬉しそうであった

 

「私もそこに住んでいるんですよ!」

 

『これはもはや運命的な出会いってやつか~?』

 

「ホント!それじゃ案内を頼みたいんだけど・・・・・・」

 

「もちろんです!むしろこちらからお願いしたいくらいです!」

 

「ありがとう、黛さん。お願いするよ。あっ、僕学園長に呼ばれてるからその後で良いかな?」

 

「は、はい!」

 

兼一は由紀江と一緒に帰る約束をして教室を後にした。




まゆっちこと黛由紀江が初登場です。
設定はちょっと無理矢理感があるかもしれませんが気にしないでもらえれば嬉しいです。

感想お待ちしております。


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BATTLE.7 協力者

こんにちは、TEです。
ふと、お気に入り登録者を見たら500人近くもいてびっくりいたしました。
さらにはランキングで一時的にとはいえ25位と初ランキング入りを果たすことが出来ました。
ただの思いつきで書き始めた作品がこんなになっているなんて驚きです。
なんとか読者の皆様の期待に答えられるように更新を頑張りたいと思います。
長い前書き失礼いたしました。


「どうじゃ?この川神学園は?」

 

「そうですね。決闘というシステムには驚きましたけど良い学校だと思いますよ」

 

学園長室へと訪れた兼一は学園長こと鉄心とお話をしていた。

 

「それにまた一年生から高校生をやり直すなんて・・・・・・」

 

「仕方あるまいて。1年が一番百代とは接点が低い。秘密裏に護衛するにはそこが最適なのじゃ」

 

兼一が1年に転入した理由は百代の護衛。しかも秘密裏であるため正体がばれる訳にはいかない。その条件で合うのは息を忍んで見守っているか、1年に転入するかの二択であった。

しかし、兼一は隠密はさして得意な訳でもなく、ただ見守っているよりも勉強しながら、かつすぐに対応できる場所となればやはり1年の転入が一番だった。

 

「確かにそうですが・・・・・・」

 

「細かい事は気にする出ない。お主のクラスもさほど気にしておらんじゃろ?この学園には色んな生徒がおるからお主の転入を不審がる者はいまいて」

 

「確かに普通に同年代なノリで質問とかされましたね。そういえば、クラスに友達がいましたよ。剣聖・黛十一段の娘さん」

 

「ほう?あの剣聖と知り合いじゃったのか?」

 

「ええ。後、決闘でリレーをしている人たちがいましたけど、その中にも知り合いが・・・・・・」

 

「なんじゃと?それは誰なんじゃ?」

 

「不死川さんや九鬼さんです」

 

「ほう・・・・・・。知り合った経緯は?」

 

「今回と同じ護衛です。もちろん師匠達と一緒に。まあよくある裏社会見学です」

 

さも、当たり前のように言う兼一だが、視線を下に向けると足が震えていた。

 

「その時に仲良くなりまして。年も近かったですし」

 

「そ、そうか。ちなみに足が震えているようじゃが?」

 

「い、いえ。闇の連中が乗りこんで来た時、一番強い敵は師匠が相手したのですがそれ以外の武器を持った闇の部下たちは僕に押しつけられまして・・・・・・。『一対多数かつ護衛者がいる時の実践練習だ』とか言われて・・・・・・。ああ、囲まれてしまった!刃物!刃物怖い!!」

 

「す、すまん。もうよい。どうやら梁山泊の修行は常識を超越してるようじゃの・・・・・・」

 

「ええ。あっ!一つ思ったのですが・・・・・・」

 

「なんじゃ?」

 

「あの2人は闇について知っています。そこから情報が伝わる可能性があるんじゃないですか?」

 

「その心配はない。あの2人にも口止めしてもらっておる」

 

鉄心の言葉にやはりかと思う兼一。でなければとっくに闇について百代は耳にしているであろう。特に九鬼は世界でも有名な財閥。九鬼財閥と繋がりもある百代が知らないのはおかしい

 

「九鬼財閥はよもかく不死川の方はいろいろと条件を出してきおって大変じゃったがなんとか了承してもらった。」

 

「・・・そこまでして百代さんには秘密にしているんですね」

 

正直なところ兼一は百代に闇のことを秘密にすることに反対だった。心に不安定な要素があるとはいえ、いずれ知ってしまった時の反動が大きくなってしまうのではないかと

 

「じゃが、一生秘密にする訳ではない。心身共に成長し、心に余裕を持てるようになれば打ち明けるつもりじゃ」

 

「そうですか・・・・・・」

 

「兼一君が納得いかない気持ちもわかる。じゃが、今回は引いてくれんか?」

 

鉄心にも思うところがあるのであろう。兼一は黙りながらも頷いて返事を返した。

 

「すまないのう。さて、そろそろ本題に入るとするかのう。兼一君に会ってもらいたい人がおる」

 

「会ってもらいたい人?」

 

 

 

 

 

 

 

「我、顕現である!」

 

 

 

 

 

 

 

どどん!と効果音が付きながら登場したのは1人の男であった。

 

「学園長の呼び出しでここにはせ参上した!我に会わせたい人物とは・・・・・・ややっ!?」

 

「あっ、英雄くん」

 

「我が友の兼一殿ではないか!もしや、今日転入してきた者とは兼一殿であったか」

 

「そうなんだよ。いろいろ事情があって・・・」

 

「そうかそうか!して、学園長。兼一殿がここにいるとはもしや・・・・・・」

 

「うむ。兼一君は知っているようじゃがこの川神学園の生徒で九鬼財閥の長男『九鬼英雄』。今回の隠密護衛に協力してくれる者じゃ」

 

護衛の協力者。兼一1人では荷が重いであろうと鉄心の気遣いでもある

 

「英雄君が協力者か・・・・・・」

 

「おい。英雄様になにか不満があるのか、こら」

 

いきなり背後から女性の声が聞こえる。さらに兼一の首筋には短刀が突き付けられていたりする

 

「こんにちは、忍足さん。別に不満はないですよ。むしろ頼もしいくらいです」

 

「・・・ちっ。少しは動じたりしやがれってんだ」

 

「いえ、英雄君が入って来た時から気配をけして動いていたのは気付いてましたから。さすがは忍足さん。素晴らしい気配の立ち方です」

 

「ちっ、てめぇに効かないんなら意味ねえよ」

 

「あはは・・・」

 

短刀をしまいながら言うメイド服を着た女性。『忍足あずみ』は英雄の専属メイドである。だが九鬼のメイドはただのメイドではない。先ほど見せたように戦闘に特化している者が多い

 

「ふははは!あずみも兼一殿と久しぶりに会えて嬉しいようだな」

 

「はい、英雄様!とても嬉しいです!・・・・・・殺したいほどに」

 

ぽつりと兼一に恐ろしい事を言うあずみに兼一はただ笑うしかなかった。

 

「兼一殿。姉上や紋も会いたがっておったぞ!今度家に遊びに来るがよい」

 

「うん、せっかく近くまで来たから行くよ」

 

「うむ!2人とも喜ぶぞ!」

 

「盛り上がっておるところ悪いがその辺にして本題に入らせてもらえんかのう」

 

申し訳なさそうに鉄心が言うと兼一と英雄は話を止めて鉄心を見る

 

「と言っても特に話すことはない。普段通りに学園生活を過ごしてもらえればそれでよい」

 

「えっ、それで良いんですか?」

 

「本来は兼一君と協力者の顔合わせで来てもらったのじゃがその必要はないみたいじゃからのう」

 

「護衛が兼一殿であるならば我は何の異論もない!だろう、あずみ?」

 

「もちろんです、英雄さま!・・・・・・奴の寝首をかくチャンスが増える訳だ。ククク・・・」

 

「ははは、ありがとう。これからよろしくね、英雄君、忍足さん」

 

「うむ。大船に乗ったつもりでいるがよい」

 

再会と同士の挨拶もこめて兼一と英雄は握手をするのであった。




英雄とあずみさん登場!
兼一が九鬼と何があったのかはいずれ書きたいなと思います。

感想お待ちしております。


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BATTLE.8 お友達と一緒

協力者(英雄達)との挨拶も終わり、放課後。

兼一は由紀江に島津寮に案内してもらうため一緒に下校していた。

 

「ああ・・・・・・。こうしてクラスメイトと下校できる時が来るなんて・・・」

 

『まゆっちの夢がまた一つ叶った瞬間だ~。今日のまゆっちは神に愛されてると言っても過言じゃないぜ~』

 

いつも以上に上機嫌の由紀江。クラスメイト(兼一)と一緒に帰ることそれほど嬉しいのだろう

 

「大袈裟だな~。僕以外にも友達はいるんでしょ?」

 

「はい。でも同じ学年の友達はいなかったものですから・・・・・・」

 

『白浜っち以外の友達は全員年上で学年が違うから帰る時は1人が多いんだよね』

 

「なるほど。じゃあ、同い年の友達がいない訳か。僕以外のクラスメイトの友達も欲しいよね」

 

「は、はい・・・・・・。」

 

先ほどとは逆に落ち込んでしまう由紀江。入学して結構日が経っているがクラスメイトの友達がいないことは気にしているようだ

 

「なにか協力できそうなことがあったら言ってね?案内のお礼って訳じゃないけど僕も多少なりとも力になりたいから」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

『白浜っちが協力してくれるなら鬼に金棒、まゆっちに真剣だぜ!』

 

「そういえば、黛さんも島津寮に住んでるんだよね?そこにお友達がいるの?」

 

「はい!皆さんとても良い人ばかりで大変お世話になってます」

 

兼一は由紀江の楽しそうな表情を見て本当に良い人なんだなと理解できる

 

「ちなみにどんなん人がいるの?」

 

「えっとですね。女性の方は私を入れて3人います。お名前は椎名京さんにクリスティアーネ・フリードリヒさんです。京さんは二年生で弓道部に入ってます。クリスさんはドイツからの転入性です。男性の方も3人います。お名前は直江大和さん、風間翔一さん、源忠勝さんです。3人とも二年生で同じクラスです。大和さんは『軍師』と呼ばれておりまして・・・」

 

「軍師?」

 

軍師と言う珍しいあだ名に反応する兼一

 

「はい。とても頭の良いお方で風間ファミリーで作戦をよく立てていたり、色んな人からご相談を受けて解決しているところからそう呼ばれているらしいです」

 

「へえ。それで『風間ファミリー』というのは?」

 

「同じ寮に住んでいる風間さんを中心としたグループです。私も最近そのグループに入れてもらったんですよ!」

 

『でも入って早々怒られちゃったんだけどな』

 

「うっ・・・それは言わないで下さいよ松風」

 

「その風間ファミリーってグループはとても楽しいところなんだね?」

 

「はい!それに白浜さんもご存じかと思いますが、武道四天王の川神百代さんもいらっしゃいまして・・・」

 

「えっ?」

 

ぴたりと進めていた足を止めてしまう兼一

 

「・・・ということはその直江くんも川神百代さんのお友達なの?」

 

「?はい。それに源さん以外の島津寮に住んでいる方々は全員風間ファミリーでモモ先輩のお友達です」

 

「なっ・・・・・・」

 

(なんだってぇぇぇぇぇ!?)

 

心の中で驚愕の叫び声をあげる兼一。百代とは出来る限り接触はもちろん存在を知られることは出来る限り避けたい。

鉄心もそれがわかっているはずなのに何故百代と深い関係にある友達がいる寮へと住ませることにしたのだろうか。その理由は川神院と仲の良い島津寮であることもそうだが、誰も転入してきた一年に興味は持たないだろうと考えたからだ。

しかし、誤算が生まれてしまう。それは兼一と由紀江の関係である。まさか2人が知り合いであるなど思いもしなかったのである

 

「どうかしましたか?」

 

「い、いやなんでもないよ」

 

「そうですか?・・・ああ、私、寮に帰ったら皆さんに白浜さんのことをご紹介するんです。」

 

『なんかわかんねえけど変なフラグみたいの立っちまったんだが大丈夫か?」

 

(大丈夫じゃない!?)

 

そう思った兼一はどうしようかと考え込む

 

「あの、黛さん。ちょっとお願いがあるんだけど良いかな?」

 

「はい?何でしょうか?」

 

「僕が武術を行っていることは秘密にしてもらいたいんだ」

 

「秘密ですか?」

 

兼一が出した考えは口止めであった。まあ、それしか思いつかなかったのであるが・・・・・・

 

「うん。川神さんはかなりの戦闘狂だと聞いてね。出来る限り戦闘を避けたいんだ」

 

「なるほど。確かにモモ先輩は強者に飢えているようですし。白浜さんが強い事を知られたら大変ことになってしまいますね。わかりました。白浜さんの武術に関しては誰にも言わないように致します」

 

快く兼一のお願いを了承してくれる由紀江に一安心の兼一

 

「あ、あのですね。その代わりと言ってはなんですが、わ、私も一つお願いがあるのです・・・・・・」

 

「お願い?」

 

「は、はい!その、白浜さんのことを『兼一さん』と・・・お、おおお、お呼びしてもよろしいでしょうか!?」

 

大声でお願いを伝える由紀江。何をお願いされるのかとちょっと不安になった兼一であったが内容を聞いてその不安が一気に消えてしまう

 

『おうおう、白浜っち。まゆっちがお願いを聞いてやったのに、まゆっちのお願いが聞けねえってか?』

 

「こ、こら松風。白浜さんは同学年とはいえ年上のお方です。それなのに気易く下の名前で呼ぶのは失礼に値します」

 

『でもよ、まゆっちは大和とかモモ先輩とかは下の名前で呼んでんじゃんかよ』

 

「そ、それはちゃんと許可をもらって・・・・・・」

 

「良いよ」

 

「えっ?」

 

「僕のことは好きに呼んでもらって構わないよ。そうだ、僕も松風みたいに『まゆっち』って呼んでも良いかな?」

 

笑顔でそういう兼一に段々と表情が笑顔に変わっていく

 

「も、もちろんです!」

 

「それじゃあよろしくね、まゆっち」

 

「はい!よろしくお願いします、兼一さん!」

 

由紀江との仲が一層深まった兼一なのであった。

ちなみに島津寮に着いた兼一は由紀江によって紹介される。もちろん武術については一切話さずにしてくれたことに兼一は感謝するのであった。




まゆっち無双な一話になってしまいました。
紹介シーンはあえて抜かします。
別に書くのが面倒になったとか、そういうのではないので・・・
いや、本当ですよ?

次回は新たなマジ恋原作メンバー登場する予定です

感想お待ちしております


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BATTLE.9 武神の憂鬱

「はあ・・・・・・」

 

兼一が川神市に来て数日が経過した。闇の狩人は現れず、平和な毎日だった。

だが、兼一にはある悩みを抱えていた。

現在の時刻、朝の4時誰もが寝ているであろう時間に兼一は起きていた。

 

「いつもなら修行の時間なんだけど場所がな~・・・・・・」

 

梁山泊にいた頃は修行を開始している時間。しかし、修行ができる場所がなかった。

走ったり、筋トレなどはなんとか出来るかもしれないが技の鍛錬が出来ない。下手に行えば誰かに見られて噂になってしまう可能性は高い。

兼一は自分の修行内容が普通ではないことは自覚している。だからこそ人に見られてしまうのは面倒であった。

何故知られたら困るのか。それは川神学園に入ってすぐ分かったことだが、ここの生徒たちは噂話に敏感であった。そこから尾ひれはびれがついてしまうことも理解する。

そんな噂話が百代の耳に入ったら間違いなく興味を示す。それだけは避けたいと兼一は思ったのだ。

 

少し考え過ぎかとも思ったが兼一の知り合いで噂に真っ赤な嘘を付けたして人を追い詰める地球外生命体がいるため油断は出来ない

 

「どうしたものか・・・・・・」

 

悩む兼一はあることを思い出した。

昨日、梁山泊から送られてきた荷物である。一緒にあった手紙には困ったときに使いなさい、との一文だけ。

まだ荷物を空けていない。もしかしたら何かしら役に立つかもしれない。

 

そう思った兼一は荷物空ける

 

「こ、これは・・・・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!け、兼一さん、おはようございます」

 

「・・・・・・おはよう、まゆっち」

 

「?どうしましたか、け、兼一さん。元気がないようですが?」

 

『白浜っち。朝からそんなんじゃ良い事起きねえぞ!」

 

朝から元気のない兼一に声をかける由紀江

 

「いや、師匠達は悩む僕を見て楽しんでるんじゃないかと思ってね・・・」

 

「は、はあ?け、兼一さん今日はお暇ですか?」

 

「ん?暇だけど・・・ってそれよりもまゆっち。まだ僕の名前を呼ぶ時ぎこちないね?」

 

「あうっ!」

 

兼一とまゆっちは名前で呼び合う仲となったはいいが、まゆっちは未だに兼一の名前を言う時どこかぎこちないのだ

 

「大和君や翔一君を呼ぶ時は普通なのになんでなんだろう?」

 

「わ、私にもよく・・・・・・」

 

「おおーい、まゆっち。そろそろ時間だぞー。って、兼一さんじゃないっすか、おはようございます」

 

2人が話していると入ってきた青年が兼一に挨拶する。

この青年は『直江大和』。由紀江が入っている風間ファミリーで参謀役を担っている。『軍師』と言うあだ名通りかなりのキレ者である。

由紀江に紹介してもらった時、地球外生命体みたいに失礼な奴じゃなくてほっとした兼一

 

「大和君、おはよう。時間ってなにかあるの?」

 

「あれ?まゆっちから聞いてませんか?」

 

「す、すみません。今、話そうとしていたのですが・・・・・・」

 

「そうなんだ。んじゃ、ついでに説明しときますか。俺達これから姉さんの試合を観に行くんですが兼一さんもどうですか?」

 

大和の言う『姉さん』とは百代のことである。姉弟なのかと聞いたら舎弟らしく大和はあまり気にしていなそうだ

 

「試合?」

 

「ええ。姉さんに挑戦者が現れたんですが、結構名の知れた人らしいから観戦しようかと」

 

「へえ。その挑戦者の名前は?」

 

「カルカラ兄弟といってそこそこ強いらしいですよ?」

 

「そうなんだ・・・・・・」

 

兼一はそれとなく気配を探ってみた。

特に大きな気が二つ同じところで感じるがこれは鉄心と百代の気である。その気の近くにある一般人よりかは大きい気と小さな気が二つあるところその2人がカルカラ兄弟であろう

 

「ごめん。ちょっと片づけないといけない荷物があるから今回は止めとくよ」

 

「そうですか?まあ、引っ越してきたばかりだからいろいろあるんでしょうけど」

 

「大丈夫なんですか?私もお手伝いいたしますが・・・」

 

「大丈夫、大丈夫。ちょっといらないものを処分するだけだから」

 

「わかりました。頑張ってください」

 

「け、兼一さん。帰ったらお手伝いいたしますので」

 

『まゆっち、また言えてねえぞ?』

 

「うん、いってらっしゃい」

 

兼一は出かける2人を見送った

 

「気配からして闇の狩人とは関係なさそうだし。部屋の片づけとこの師匠達からの贈り物をどう処分するか考えよう・・・」

 

はあ・・・とため息をついた兼一は部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「それまで!」

 

「・・・・・・」

 

川神院で試合終了の言葉が言い渡される。

立っているのは百代。そして壁にめり込んでいる男が今回の挑戦者カラカル兄弟の兄ゲイル

 

その試合時間はわずか1秒。まさに瞬殺であった

別にゲイルが弱いのではない。百代が強すぎなのである

 

「さすがお姉さまだわ!」

 

「お見事です」

 

「もう世界王者を名乗ると言い」

 

「はっはっはまあそれほどでもあるかな」

 

仲間からの祝福の言葉。だが、百代の心には響かない。あまりにの呆気なさに勝利の実感がわかないのだろう

シャワーを浴びてくると言い、1人歩く百代はただただ同じこと考えていた

 

(もっと、もっと強い奴はいないのか?私をわくわくさせてくれる奴はいないのか?)

 

百代が求めているものは強さではなかった。自分と戦える強者、戦いの実感ただそれだけであった

 

(もっと戦いたい。これでは人ではなく退屈に殺されてしまいそうだ)

 

「ん?」

 

百代はふと空を見上げた。そして不機嫌だった顔が少し笑みが入る

 

「なかなかの殺気だ。こいつは少しでも私を楽しませてくれるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

川神市上空。そこには謎の戦闘機が飛んでいた。

 

「ここが武神の住む国か・・・お嬢様、ただいま参ります」

 

そこには怪しい影がたたずんでいた。




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BATTLE.10 史上最強戦隊参上!

なんとか投稿できました
二週連続の雪。皆様は大丈夫でしたか?
私は仕事から帰ろうしましたが、車が雪で動けず、会社で一日を過ごしました。

ちなみに投稿が遅れたのは雪の影響ではありません。
私の文才がないせいです。すみませんでした


「よし。これで荷物の片づけは終了っと」

 

ゴミ置き場で最後のごみを捨てに来た兼一だがまだ例の物は片付いていなかった

 

「さて師匠達の贈り物どうするか。捨てるとばれたらあとが怖いし・・・ん?」

 

悩んでいると携帯電話が鳴り響く。番号を確認すると梁山泊からだった

 

「はい、兼一です!」

 

『やあ、兼一君。秋雨だ」

 

「岬越寺師匠!」

 

かけてきたきた人は柔術の師匠秋雨であった

 

「どうしました?」

 

『うん。我々からの贈り物はちゃんと大事にしてくれているかなと思ってね』

 

「えっ?」

 

今まさに捨てようかどうか迷っている最中です、とはいえない兼一。というかなんていうタイミングでで電話がくるのだろうか。本当にどこかで見ているんじゃないかと疑ってしまう

 

『というのは冗談で君の戦友から梁山泊に連絡が来たのだよ』

 

「戦友?それは一体誰・・・・・・!?」

 

兼一はばっと振り向くと同時に大きな音が鳴り響いた。

気を探ってみると一つは百代の気。もう一つはカラカル兄弟とは比べ物にならないほど大きな気であった

 

「場所は島津寮みたいだ。なんて場所で戦闘始めるんだ・・・」

 

『兼一君。どうやら忙しそうだから簡潔に言おう。君の戦友『ボリス・イワノフ』君がドイツで軍用機が日本の川神市に向かったという情報が入ったのだがなにか知らないか、とのことだ」

 

「ボリス!?・・・・・・ドイツの軍用機・・・」

 

ボリス・イワノフ。かつて兼一が生死をかけた死合いをした戦友である。そしてドイツの軍用機、兼一には心当たりがあった

 

「恐らくこちらの関係者です。ボリスには問題ないって伝えてくれませんか?」

 

『わかった。頑張りたまえ』

 

「はい!」

 

兼一は島津寮へと走り出した

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐはっ!?」

 

「マルさん!?」

 

島津寮では戦闘が行われていた。1人は百代。その相手は両手にトンファーを持った軍服の女性だった

 

「おいおい。その程度かマルギッテ?もう少し楽しませてくれると思ったのだがな」

 

「くっ・・・」

 

軍服の女性は『マルギッテ・エーベルバッハ』。ドイツ軍の中将を父に持つクリスの関係者だ。クリスの父の部下でクリスの姉的存在で『マルさん』と呼ばれている

 

「どうやら片目では無理があったようですね」

 

「え?左目見えるの?」

 

マルギッテが眼帯をとる行動に少女がクリスに質問する。

この少女は『川神一子』。名前の通り、百代の妹である。

 

「これはいわゆる自分で自分に課したハンデみたいなもの。能力が高すぎるのも問題です」

 

「ふん。ご託はいいからさっさとこ・・・・・・!?」

 

「はあ!」

 

マルギッテが一瞬で百代の懐に入り込み、トンファーの連撃を繰り出す。百代はなんとかそれを防ぐが反撃が出来ず防戦一方であった

 

「お、お姉さまが押されてるなんて初めて見たかも・・・」

 

「マルさん」

 

押されている中、百代は内心喜びを感じていた。久しぶりの強者、全力を出しても大丈夫な相手に

 

(これは久しぶりに・・・・・・死合いができるか?)

 

「っ!?」

 

「?マルギッテが下がった?」

 

「百代先輩が気をぶつけたのです。マルギッテさんもなんとか食い下がっているみたいですが、正直ぎりぎりな所でしょう」

 

「す、凄い・・・」

 

一子が2人の戦いを見て見惚れてしまう。一子の目標は姉の百代みたいに強くなること。次元の違う戦いを見て体が震えるのがわかる

 

「この・・・化け物め・・・」

 

「くくくっ」

 

「お、お嬢様の前で屈する訳にはいかない!」

 

トンファーを強く握りしめるマルギッテ。そして大きく踏み込んだ

 

「はああああああっ!!」

 

「見事」

 

百代の拳とマルギッテのトンファーがぶつかり合う

 

「ぐああああっ!?」

 

「マルさん!?」

 

マルギッテのトンファーが粉々に破壊されてしまう。そして、マルギッテがその衝撃によって軽く吹き飛ばされる。

百代は追撃をするため一瞬でマルギッテの懐に入り込む

 

「くっ!?」

 

「死ね」

 

「ま、マルさん!?」

 

「姉さん!?」

 

百代は最強の拳を振りぬいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだと?」

 

「・・・・・・」

 

「マルさん!」

 

マルギッテは無事であった。

確かに振り切った百代の拳。その拳はある者の掌によって受け止められていた。

 

「貴様何者だ?」

 

「・・・・・・」

 

その者は何も答えない。黒いジャージを着てフードを深く被っていたため顔は見えなかった

左手には百代の拳。右腕にはマルギッテを支えている

そして静かに黒ジャージが言葉を発した

 

「ひとつ問おう。どうして追撃した?」

 

「質問に質問で返すのは関心しないぞ!」

 

百代は蹴りを繰り出す。だが、黒ジャージはマルギッテを抱えたまま跳んで蹴りを交わす。そのままクリスたちが居るところに着地し、マルギッテを渡した。

 

「マルさん!」

 

「大丈夫。気絶しているだけだ」

 

「あ、ありがとう」

 

黒ジャージは百代の方へと向いた。そして百代の顔を確認するとその顔は笑顔だった。新しいおもちゃを見つけたかのような無邪気なものだった

 

「もう一度聞くぞ?お前は何者だ?」

 

「・・・・・・」

 

黙りを続けるのかと思いきや黒ジャージは顔を隠していたフードに手をかける

周りの全員が注目する。武神の拳を止めたのは誰なんだろうと

 

「なっ!?」

「ええっ!?」

「はあっ!?」

 

そのフードの中身を見た瞬間、気絶しているマルギッテ以外の全員が驚きの声を上げた

 

「私は史上最強戦隊の一人!」

 

その中身は素顔ではなく、どこかの戦隊物のマスクを着用していた

 

「その名は『我流ブルー』!!」

 

「「「・・・・・・」」」

 

全員がその正体に唖然としており、言葉を発すること出来なかった

 

『な、なんじゃそりゃー!?』

 

全員が思った言葉を松風が代わりに叫ぶのであった




現れた我流ブルーとは何者なのか!?(笑)

余談ですがランキング9位にこの作品がなっている所を見ました
まさかそこまで上がるとは思っていませんでした。読者の皆様のおかげですね。
そんな皆様の為にも更新が早くできるように頑張ります。

感想お待ちしております


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BATTLE.11 我流ブルー

久しぶりの更新です。
お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。


「が、我流ブルー・・・?」

 

「そうだ。地球の平和を守るためパトロールをしていたら不穏な気を感じて駆けつけたのだ」

 

「な・・・・・・」

 

未だに唖然としている百代たちだが一子が次第に震えだす

 

「どうしたワン子?あの怪しい奴を知っているのか?」

 

「な、な、な、なんてカッコイイのかしら!!」

 

「だはっ!?」

 

輝く眼差しで我流ブルーを見るワン子にずっこける大和

 

「大和。あれが噂のジャパニーズ戦隊ものなのか!」

 

「知るか!」

 

「と言うよりもどうしてマスクだけなのでしょうか?」

 

『マスクだけじゃかなり変質者ぽっくね?』

 

「うむ。スーツは洗濯をしていて着て来られなかったのだ」

 

『理由がかなり庶民的だー』

 

「そんなことはどうでもいい」

 

ぶわっと百代を中心に土ぼこりが舞う

 

「お前は私の戦いを邪魔したのだ。どう落し前をつけてくれようか・・・」

 

「その前に聞きたいことがある。どうして、追撃した?」

 

「なに?」

 

「なぜ、あの赤い髪の女性に追撃をしたのだ?吹き飛ばされた時点で戦いは決まっていた」

 

「決まってなどいない。奴はまだ意識が残っていた」

 

「意識があるなしの問題ではない。それに彼女は限界だった。それくらいわからない実力ではいだろう?」

 

「・・・・・・」

 

頭をかいて目をつぶる百代。一度ため息を吐いて喋り出す

 

「満足出来なかったからだ。私は今日、久しぶりに挑戦者と戦ったが話にならなくて欲求不満が溜まっていた。そしたら、多少は欲求を満たす強者が現れた。その欲求を全てぶつけた、ただそれだけだ」

 

「・・・・・・最後の物騒な言葉は気が高まってつい言ってしまった、としておこう」

 

「さて?なんのことやら?」

 

百代の態度に我流ブルーはここから立ち去ろうとする

 

「待て。私はお前のせいで欲求不満が治ってないぞ?どう落とし前つけてくれる?」

 

百代は我流ブルーが逃げないように戦闘体制をとる。それをすぐに感じ取った我流ブルーは進めていた足を止めて百代の方を向いた

 

「逃げようと思えば逃げられるが私のせいというならば仕方ない。一手あげよう」

 

「なんだと?」

 

「君の全力の一撃で私を地面に叩きつけることが出来れば私は君が満足するまで戦ってあげよう。私がその一撃を耐え、立って居られたら帰らせてもらう」

 

「な、何を言っているんだあいつは!?」

 

我流ブルーが百代に出した条件を聞いて驚愕する

 

「姉さんは武神だぞ!?例え一撃でもまともに喰らえば生死に関わるぞ!」

 

「確かに止めた方がいいわ」

 

「無謀すぎるね」

 

「・・・・・・」

 

我流ブルーの無謀ともいえる条件に周りのメンバーがそう口にする

 

「貴様、私をなめているのか?」

 

「そんなつもりはない。それでは君が私を倒した時の条件を追加してあげよう」

 

「追加だと?」

 

「ここの片づけを手伝ってあげよう」

 

「あっ・・・・・・」

 

我流ブルーに言われてようやく気付いた。マルギッテとの戦いで島津寮の庭がほぼ半壊状態だった

 

「・・・・・・いいだろう。私や弟達では大変そうだしな」

 

『いつの間にかオラ達も片づけ要員にされてやがる』

 

「言っとくが姉さん。手伝わないからな」

 

「ちっ、薄情な奴らめ。まあ1人は確保できるからよしとしよう」

 

そういうと百代は構えた。それと同時に我流ブルーも構える

 

「皆さん、衝撃に気を付けてください」

 

『激しいのがやってくるぜ』

 

「・・・・・・」

 

「・・・こぉぉぉぉぉ」

 

静寂が周りを包み込む

 

 

 

 

 

 

(何だこの違和感は?)

 

百代は我流ブルーが現れてから観察していた

 

(奴の気は普通の一般人さして変わらない。隠しているのか?それなのに隙がない)

 

今まで戦ってきた挑戦者は気は一般の倍以上はあった。だが、百代の一撃を片手で止めている。さらには打ち込めるタイミングが掴めないでいた

 

「安心したまえ。私は反撃しない。思う存分打ち込んできたまえ」

 

「ふん・・・・・・」

 

(こいつはバカなのか?それとも・・・・・・)

 

「川神流・・・無双正拳突き!」

 

百代は我流ブルーに一撃をぶつける。その瞬間、爆風が舞いあがる

 

「・・・・・・これで片づけ要員確保っと」

 

ふぅ、とため息を吐く百代。その顔はどこか残念そうな顔であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、約束通り。私は帰らせてもらおう」

 

「!?」

 

百代の顔が驚きの表情へと変わった。目の前には確かに殴られたはずの我流ブルーであった

正確には5mほど離れた場所であった。百代が殴られた衝撃であそこまで行ったのであろう。

 

「ば、ばかな。姉さんの一撃を喰らって立っていられるなんて・・・・・・」

 

「た、倒れた後すぐに立ったのではないか?」

 

「で、でもお姉さまの一撃をまともに喰らってすぐに立った人なんて見たことないわ!」

 

「服には一切汚れはついておりません。モモ先輩の突きを受けきったのです」

 

唖然としている大和たちをよそに我流ブルーは構えを解いて歩き出す

 

「ま、待て!」

 

「・・・・・・今のは良い一撃だった。ダメージがない訳ではない。ただ私はこのレベルの一撃は喰らい慣れている。それゆえに耐えられたのだ」

 

「私の一撃レベルを喰らい慣れている?ということは私と同じ強さの奴がいるということか?」

 

我流ブルーの言葉に百代が反応する

 

「ああ。君は武神と呼ばれているようだが気をつけることだ。私や君以上に強い者はたくさんいる。つねに修行を怠らないように。・・・主に精神修行をね」

 

「なんだと?おい、それはどういう意味・・・・・・」

 

「では、さらばだ!シュワッチ!!」

 

『ウル〇〇マン!?戦隊ものじゃないのかよ!?』

 

「逃がすか!!」

 

塀を飛び越えた我流ブルーを追いかける百代だったが・・・

 

「・・・・・・もう気配すら感じない」

 

我流ブルーの姿はどこにもなかった




皆様に近況を少しご報告

私の友人からまじこい無印とSをお借りしました!

これで原作知らずで弄られることはなくなるぜ!!

とりあえず、百代ルートから行って、友人から一子とまゆっちは
感動するから最後にした方がいいよと言われたのでそうしたいと
思います。

これからも更新頑張りますのでこれからもよろしくお願いいたします。

感想お待ちしております。


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BATTLE.12 早朝

久々の投稿です。
原作をちょいちょいやってますが、未だに1人も攻略できておりません!?

百代BADendは見ているのですが・・・

それを見て思ったのは正直な心が一番なんだなと思いました。

下手に誤魔化すとすぐに京endでそれはそれで面白かったです。

と、言うことで楽しんで読んでいただけたら幸いです。


「さて、行ってくるか」

 

朝の4時半。島津寮の玄関に兼一が立っていた。こんな朝早くから何をしているのだろうか

 

「け、兼一さん」

 

「あっ、まゆっち」

 

「ま、毎日修行お疲れ様です」

 

そう。 兼一は再び修行を開始していた。黒いジャージを着た兼一はさらに顔になにかを被った

 

「行ってらっしゃいませ、我流ブルーさん」

 

「はははっ、行ってきます」

 

先日、百代の一撃を耐えた我流ブルーのマスクを被った兼一は外へと走り出した。

そう。我流ブルーの正体は兼一であった。

 

師匠たちの贈り物がその我流ブルーのマスクだったのだが、まさか使うことになるとは思わなかった兼一。

再び付けることはないだろうと思ったがあることに気づく。このマスクがあれば正体がバレることなく修行が出来るのではないかと

 

そう思った兼一は一度試してみたら誰にもバレることなく修行に専念する事が出来た。さらには我流ブルーであると幾分かは力を使えることが出来るため一石二鳥であった

 

そう思っていたのだが数日後、由紀江にあっさりと正体を見抜かれてしまう。

理由を聞けば身のこなしで解ったそうだ。短期間とはいえ一緒に修行した仲なのだからと納得する兼一。本当は別の理由があるのだが兼一はおろか由紀江本人でさえよくわかっていなかったりする

 

「さて、まずはこの川神市の見学も兼ねてランニングをしよう」

 

そう言った瞬間、その場には兼一の姿はなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

現在の時刻は朝6時

兼一は河川敷で修行を行っていた

 

「はあ!やあっ!」

 

空手、柔術、ムエタイ、中国拳法と基本の形を繰り返していた。それが終われば筋トレ。腹筋、背筋、腕立てなどを行う。

やろうと思えば誰でも出来ること。しかし、異常なのはその回数と速さだった。

形は一つにつき千回以上。筋トレにしては万を超えている。速さは一般人が見れば兼一の姿がぶれて見えるだろう。

もちろん、ずるはしていない。したら自分のためにはならないと分かっているし、何故かは分からないがサボるとすぐにバレてお仕置きを喰らうのだ。命がいくつあっても足りない

 

「あっ!我流ブルーさん!おはよう!」

 

「んっ?やあ、一子ちゃん。おはよう」

 

同じく朝練中の一子が兼一に挨拶を行う。何度かこのように出会ったりしているが、正体はバレていない

一子は兼一とあまり話したこともないのもあるが、一子の兼一に対する印象は園芸が好きな先輩と武術を嗜むとは思っていなかった

 

「毎日頑張って偉いね一子ちゃんは」

 

「えへへっ。でも我流ブルーさんと比べたら私なんてまだまだよ。もっともっと頑張らないと!」

 

拳を握り締め気合いを入れる一子に兼一は笑みがこぼれていた

 

「確か一子ちゃんは将来、お姉さんの百代ちゃんをサポートするために頑張ってるんだよね?」

 

「うん!将来、川神院の総代になったお姉様を師範代になった私がサポートするの!っと、言うわけで我流ブルーさん、私も一緒に修行をしてもいい?もちろん、我流ブルーさんと同じ内容で!」

 

「それはダメ」

 

一子のお願いに兼一は即答する

 

「何度も言っているけど私の修行内容を一子ちゃんが行えば日が暮れてしまうよ」

 

「うう~、じゃあまたお手伝いさせて!見るのも修行って言うし、私の修行の参考にしたいから!」

 

両手を合わせてお願いする一子。なんだかんだでこのやりとりは毎日行われている。

最初は断っているが何度もお願いしてくるので兼一が折れて了承している。今回もそうなりそうである

 

「わかった。では手伝ってもらえるかな?」

 

「うん!」

 

ぱあっと表情が明るくなる一子を見て兼一は適わないなと思うのであった

 

 

 

 

「おっ、兼一さんじゃねえか!おはようっす!」

 

「おはよう翔一くん。今日も元気一杯だね」

 

一子との修行を終えた兼一は島津寮に戻って朝食である

兼一に挨拶したのは風間翔一。由紀江が所属している風間ファミリーのリーダー。ファミリーからはキャップと呼ばれている

 

「おうよ!いつでもどこでも元気が一番だからな!」

 

「それとは真逆にクリスさんの元気がないようだけどどうしたの?」

 

「・・・・・・」

 

仏頂面にしながらご飯を食べるクリスに兼一が声をかける。しかし、返事が返ってこない。どうやら考え込んだら周りが聞こえなくなるようだ

それを見かねた大和が代わりに答える

 

「どうやらマルギッテに合うトンファーが見つからないんだそうだ」

 

「そう言えばモモ先輩に破壊されてしまいましたね」

 

『トンファーが拳によって木っ端微塵だったな~』

 

「でもよ。トンファーだったら何でもいいんじゃねえの?」

 

「いや、普通のやつだとマルギッテの力に耐えきれなくて壊れちまうんだと。俺もマルギッテにいくつか宛のある店を紹介した」

 

「さすが大和。既に手を打ってたんだね。付き合って」

 

「お友達で。でも全部ダメだったらしい」

 

大和もこればっかりどうにもならないらしくお手上げ状態のようだ

 

「うーん‥‥‥。僕の知り合いならなんとかなるかも知れない」

 

「おおっ!兼一さんの知り合いにトンファーを作れる人がいるのか?」

 

「いや、主に刀なんだけどあの人ならトンファーでも作れると思う。でも、腕前は超一流だからマルギッテさんも気に入ってくれるはずだよ?」

 

「それは本当か!?」

 

兼一の話に一番に食いついたのはクリスだった

 

「う、うん。多分、頼めば一週間以内には届くと思うけどそれでもいいかな?」

 

「うむ!宜しく頼みます。兼一殿」

 

兼一と約束したクリスは安心した表情に変わりご飯を食べ始める

 

「意外ですね?兼一さんってそういう関係のツテがあるとは」

 

「えっ?その、父さんの仕事関係で、ね?」

 

「へえー、どんな仕事してるんすか?」

 

「えっとその・・・」

 

翔一の質問に口ごもる兼一

 

「た、確か兼一さんのお父様はクレー射撃をやっておられましたよね?その関係ですか?」

 

「う、うん!そうなんだよ!」

 

「クレー射撃・・・。射撃は得意だけど銃は嫌い。でも大和のビッグマグナムは好き(ポッ)」

 

「朝から下ネタ禁止!」

 

こうして兼一たちの朝食が続かれるのであった

 

 

 

 

 

 

「まゆっち、朝は助かったよ。ありがとう。」

 

「い、いえいえ!お困りのようでしたので・・・」

 

「というか、よく知ってたね。僕の父さんがクレー射撃をやっていることを」

 

「えっと、一緒に修行していた時に家族の事とかお話ししたりしましたので・・・」

 

『あの時がまゆっちの人生初の長話だったぜ』

 

そんな長話したかな?と思った兼一だったがそこは流すことにした

 

「おい!白浜兼一はいるか!」

 

「あれ?忍足さん?」

 

ガラッと教室のドアが開かれるとそこにはメイド服を着た女性だった

 

「おおっ?居やがったな。ちょっと面貸せ」

 

「ん、なんだろう?まゆっち、ちょっと行ってくるね」

 

「は、はい。行ってらっしゃいませ」

 

兼一はあずみの元へと行く

 

「どうしました?」

 

「・・・腹が減った。焼きそばパン買ってこい」

 

「えっ?」

 

あずみの発言はもはや一昔前の不良みたいだった。普通ならば戸惑うだろう。どこかのスキンヘッドならば嫌そうな顔をして従うだろう

 

「はい」

 

「えっ?」

 

兼一は何かを取り出すとそれをあずみに渡す。

あずみが渡された物を見るとそれは焼きそばパンだった。

 

「念の為、常に買っているようにしてるんですよ」

 

「常にって・・・あたいが来なかったらどうするんだよ?」

 

「えっ?来なかったら来なかったらで僕が食べればいいですし、忍足さんは英雄君のメイドで頑張ってますからそれくらいの我が儘くらい・・・」

 

「・・・ちっ。おい、調子に乗るんじゃねえぞ!また来るからな!」

 

舌打ち+凄まじい剣幕で睨みつけながらあずみは去って行った

 

「最近よく来ますね、忍足さん・・・」

 

「えっ?まあ、最初は驚いたけど忍足さんも息抜きが必要じゃない?」

 

「そうかもしれませんが・・・」

 

なんか納得いかないような表情をする由紀江。そんな由紀江によくわからないといった表情をする兼一なのであった

 

 

 

 

 

 

兼一から焼きそばパンを貰った?あずみはその焼きそばパンを一口

 

「・・・・・・美味えな」




兼一の修行再開で一子強化フラグ?

ついでにマルさん強化?

まあ、原作はトンファーの替えはなんてすぐに用意できるんだけど、ここではマルギッテのトンファーは特注で替えが存在しない設定です。

後、原作やって気付いたのですがまゆっちって携帯持ってないんですね。

普通にメアド交換したって兼一が言っちゃったよ・・・

そこは皆様の寛大な広い心で流して頂けたらと思います。

次の更新はいつになるか分かりませんがよろしくお願いします。

感想もお待ちしております。


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BATTLE.13 朝のひと時から

久しぶりの更新となりました。
どうもビジョンは出るけどそれを文章にする才能がない。
本当にすみませんでした。


「えっ!もう完成したのですか!?」

 

朝の登校中、クリスの驚きの声が響き渡る

 

「うん。トンファーも朝に届いてるから帰ったら渡すよ」

 

「おおっ!!ではマルさんも連れて取りに行きます!」

 

笑顔でそう言うクリスに兼一も思わず笑顔になってしまう。

 

「それにしても頼んだのは昨日ですよ?一日もしない内に届くなんて・・・」

 

「えっと、頼んだら速達で送ってくれたんだよ。ちょうどトンファーを作ってたみたいなんだ」

 

「速達でも翌日の朝に届くなんて・・・」

 

「うん。速達の速達なんだ・・・」

 

大和の疑問に答える兼一はどこか遠い目をしていた。

兼一は速達で届いたことを思い返してみよう。

 

 

 

 

 

 

 

「うーん・・・」

 

朝の2時30分頃。兼一は唸されていた。特に暑いわけではない。何か異様なものを感じていた

 

「う、うーん・・・」

 

次に頬に何やら違和感を感じる。それでも兼一は起きない

 

「そろそろ・・・・起き、ろ」

 

「はっ!?」

 

聞きなれた声にようやく目が覚める兼一。そして目が覚めた兼一の目の前には綺麗な女性の顔があった。さらにその女性は兼一がよく知っている人だった

 

「し、しぐれさん!?」

 

「おは、よ、ケンイチ」

 

この女性の名前は香坂しぐれ。

梁山泊が豪傑の1人。そして兼一の師匠。

何故、しぐれが来ているのか兼一は理解出来ずにいた。

 

「な、なんでしぐれさんがここに?」

 

「なんで・・・ってケンイチが頼み事をしたのだ、ろ?」

 

「えっ?」

 

いきなりのことで頭が回らない兼一であったが、頼み事について思い出すとすぐに理解した。

 

「もう出来たんですか?頼んでまだ1日も経ってないのに!?」

 

「うん・・・素材は足りてたからすぐに作っ・・・た」

 

そう言ってしぐれは兼一に何かが入った風呂敷を渡した。兼一はそれをすぐに開いて中を確認した。

 

「・・・流石しぐれさんが作ったトンファー。かなりの業物ですね」

 

「当然・・・だ」

 

しぐれ作のトンファーを確認して正直な感想を述べる兼一に誇らしげに胸を張るしぐれ。兼一に褒められたからか感情豊かではないしぐれの表情はとても嬉しそうだ。

 

「この埋め合わせは任務が終わったら必ずしますね」

 

「それは、いつに・・・なる?」

 

「えっと、1年後くらい?」

 

百代の護衛任務の期間は百代が卒業するまで。

卒業したら全て打ち明けると鉄心に言われたのだ。

百代は武神と言われてはいるが今は学生。卒業するまでは学生生活を楽しんで欲しいという鉄心の孫娘に対する思いなのだろう。

 

「そんなに、待て・・・ん」

 

「と、言われましても・・・」

 

「だから、今もら・・・う」

 

「えっ?」

 

兼一に馬乗りしていたしぐれがどんどん近づいて行く。

 

「ぎゅー」

 

「ええっ!?」

 

しぐれが兼一の身体に抱きついた。兼一はいきなりのことで動揺を隠せないが師匠であるしぐれを突き飛ばして離させるわけにもいかず、しようとしても無駄な抵抗で終わるのであるが。

そして、何より

 

(身体に2つの柔らかいものが当たっている?!)

 

兼一の煩悩がそれを許さないのであった。

 

「うん・・・満足・・・」

 

「そ、そうですか」

 

言葉通り満足そうなしぐれ。逆にしぐれが離れたことに安心したような少し残念なようなと複雑な心境である兼一。

 

「梁山泊じゃ、ケンイチに、会う、のは控えるように、言われてる・・・。会えない分、充電し、た」

 

「じゅ、充電って・・・」

 

「じゃあ、僕は帰、る・・・」

 

そう言うとしぐれは窓開けて身を乗り出すと首だけ振り向けた。

 

「兼一、また、ね・・・」

 

「は、はい!」

 

しぐれが兼一の返事を聞くと窓から飛び去った。

兼一は窓の方に移動するがしぐれの姿はもう見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、別に何でもないよ。」

 

思い返してたら大和に声をかけられたのですぐに切り替えた。

 

「クリスさん、しぐ・・・製作者の人も良く出来たと言ってたから楽しみにしててね?」

 

「うむ!マルさんにもそう伝えておきます!」

 

「みんな、おはよう〜!」

 

クリスと話していると元気な声が兼一たちを呼んだ。見てみるとタイヤを引いた一子がいた。

 

「ワン子おはよー」

 

「お前またタイヤ引いてんのかよ」

 

「うん!走り込みと言えばやっぱりタイヤ引きでしょう!」

 

「なんともまあ、一時代前の考えだな。それ最悪周りの人に迷惑かけるだろ」

 

「そんな事ないわよ。周りの人は笑ってこっちを見ていたわ!」

 

「それって、馬鹿にされているか、暖かい目で笑われてるかのどっちかだよね?」

 

「でも、良い修行だよねって、今朝我流ブルーさんに言われたわよ?」

 

どうだと言わんばかりに胸を張る一子だがそれは無視して大和がある単語に食いついた

 

「つか、ワン子我流ブルーに会っているのか?」

 

「うん!最近修行中によく会うのよ」

 

「へー、最近巷で噂になってるよね?正義の仮面我流ブルーって」

 

「おう。川神で起こる事故を防いで回ってるとか聞いたな。前なんか交通事故でひっくり返ったバスを元に戻したって聞いたぜ?我流ブルーはこの俺様以上に筋肉がある奴なのか?」

 

「うーん。見た感じ大和と背格好は同じだからガクト見たいに気持ち悪くはないわ」

 

「おい、さりげなく俺様の筋肉を罵倒してないか?」

 

ガクトのツッコミはスルーされるが一子の言葉は続いた。

 

「それにいつもジャージ着てるからわかんないわよ。聞いてみたらスーツは破れて本部に支給待ちとか言ってたけど」

 

「ますます怪しい上にスーツが支給制って何さ?」

 

「しょーもな」

 

ツッコミ所満載な我流ブルーの事情に呆れる一同。それでも大和は話を聞く

 

「他には何か聞いたりしてないのか?それかおかしな行動とか」

 

「えっ?そうね〜・・・あっ、そう言えば一つ気になる事があるわ」

 

「なんだ?」

 

「我流ブルーさん、お姉様が来る度に姿を消すのよね」

 

「姉さんが?」

 

「そうなんだよな〜」

 

「あっ、モモ先輩!」

 

いきなり現れたのは百代だった。その様子は少しどんよりとした様子だった。

 

「あいつ、ワン子には仲良く話すのに私には気配を感じた瞬間に逃げるんだぞ?酷くないか?」

 

「と言われても姉さんと我流ブルーのファーストコンタクトって最悪だったし、仕方ないんじゃないかな?俺も我流ブルーみたいな力があったらそうするかも」

 

「そうだけど〜、何も顔も合わせずに逃げる事はないだろ?」

 

ぐてーと大和にのしかかる百代。ちなみに腕は大和の首をしっかりとキメていた

 

「そう言えば一回どうしてお姉様と会わないのか聞いたことがあるわ。流石に挨拶ぐらいはと思って」

 

「さすがは私の妹。この愚弟とは大違いだ」

 

「そ、それでなんて言ってたんだ?」

 

「えっとね、気配を感じる度に殺気を感じるからだって」

 

「姉さん、挨拶する気すらないじゃないか」

 

「ぐぅ、仕方ないじゃないか!久しぶりの強者がこの川神にいるのだからヤリたくなるに決まってるだろ!」

 

いや、その理屈はおかしい。そうツッコミたかったが百代の腕がさらに強まりそうなので抑える大和

 

「少しだけでもいいからヤらせてくれないかな〜。先っちょだけでもいいから〜」

 

「なんかモモ先輩の言い方が別の意味に聞こえるんだが・・・」

 

「それは思春期男子に起きる幻聴だよ、ガクト」

 

「んっ?」

 

ガクトとモロをよそに百代はあることに気づいた。

 

「お前、みない顔だな?」

 

「えっ?」

 

百代の視線は兼一に向けられていた。

 

「この人は白浜兼一さんだよ。最近、島津寮に来た新入りさんだよ。それとまゆっちの友達」

 

「ああ。まゆっちが嬉しそうに話していたあの・・・」

 

「あうあう・・・。私そんなに嬉しそうに話していたでしようか?」

 

恥ずかしそうに喋る由紀江だったがその声は誰にも聞こえてはいない。兼一はとりあえず挨拶をすることにした。

 

「おはようございます。僕は白浜兼一。宜しくお願いします。」

 

「ああ、宜しくっとそう言えばあなたは年上でしたね。私は川神百代です。此方こそ宜しくお願いします」

 

お互いに挨拶が終わると握手する2人。

 

(やっぱり、この子は凄い才能の持ち主だ。握手しただけでわかる。大きな気に武術のセンス、計り知れないものがある・・・)

 

(ふむ・・・よく分からないが少し違和感を感じる。だが、気は少ないし、特に注意すべき点はないか・・・)

 

お互いに握手したことで相手の気を探った2人。お互いに感じるものがあったようだ

 

「白浜さんはどうしてこんな時期に転入を?」

 

「えっと、ちょっとこちらの事情で勉学をもう一度行うことになりまして。ここの川神学院なら年は関係なく入れると聞きまして」

 

「まあ、じじいはそう言うところは自由ですからね」

 

百代の質問に答える兼一。百代が兼一を疑っているのは兼一も理解している。だから、してくるであろう質問の内容を読んで練習をしていた。

 

川神学院に着くまで色々質問されたがボロは出さず、どうにか兼一の正体はばれずに済んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は朝から疲れたよ。でもなんとか百代さんに僕の正体がばれずにすんだ。これもまゆっちが練習に付き合ってくれたおかげだよ」

 

「いえいえそんな!私なんて何もしてませんよ!」

 

朝の出来事を話す二人であったが兼一に事件が降りかかる

 

「ここに白浜兼一さんはいらっしゃるかしら?」

 

扉が開けられたかと思いきやいきなり兼一を呼ぶ声が響き渡る。目線を向けると体操着(ブルマ)を着た少女がいた。

兼一と由紀江は目を合わせて知ってる人ですか?いや知らない人とアイコンタクトをしてから兼一は1人で扉の方へと向かった

 

「えっと、僕が白浜ですけど・・・」

 

兼一が話しかけると少女はにやりと不敵な笑みを浮かべた

 

「初めまして、白浜さん。私の名前は武蔵小杉、1年S組所属よ。私はあなたにプレミアムに決闘を申し込むわ!」

 

「え、ええっ!?」

 

小杉からの決闘の申し出に兼一は驚きの声を上げるのであった。




まさかのあの後輩登場!?

せっかくなので出してみました。

次回はいつになるかわかりませんが長い目で見て頂ければ幸いです。


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BATTLE.14 初決闘

意外と早くかけたので投稿します。
いろいろ私が都合の良いように設定を付けたりしておりますが気にせず楽しんで頂ければ幸いです。


プレミアムな皆さん。

こんにちは、プレミアムな武蔵小杉よ。

 

この川神学院の1年ではトップであるS組に所属し、さらにそのS組で1番に君臨しているのがこの私なのだ。

生徒だけではなく、先生も私を特別な存在として見てくれていた。

だけどもつい最近、その座が崩れそうになっているの。その原因が転入してきた白浜兼一という男。

事情はわからないけど転入して数日。彼の名前は1年の間では人気が出始めていたりする。

 

その理由は年上で頼り甲斐がある、困っていると声をかけてくれる優しさ、らしい。

歳は仕方ないとして、もう一つの理由だけど聞いた話では荷物持ちで困ったり、人手が足りない時に手伝ってくれたりと小さな行いを何度も行なっているらしい。

 

その実績から周りの信頼を得ているみたい。小さな事からコツコツと、とはよく言ったものだわ。

 

そんな事で私が積み上げたトップの座を開け渡してなるものですか!

 

 

 

 

 

 

「け、決闘ですか?」

 

「そうです。貴方は最近転入して来たから決闘について教えて差し上げようと思いまして」

 

いきなり決闘を申し込んできた武蔵小杉さん。親切で言ってそうだけど違うと思う。

だって武蔵さんの目がギラギラとギラついていて少し怖い。

 

「あの、僕が何か気に障ることでも?」

 

「えっ!い、いえいえ!な、何を言い出すのですか?!」

 

とても分かりやすい反応だなぁ。

どうやら僕のなにかしらの行動が武蔵さんの何かを刺激してしまったのかもしれない。

 

「あいつは確か片っ端から決闘を申し込んでくる武蔵小杉じゃないか?」

「ああ。自分より人気がある奴には決闘を申し込んで自分が上だと証明させなければ気が済まないらしい」

「転入して来て知名度が上がってきた白浜さんを次のターゲットにしたのか?」

 

クラスメイトの声を聞く限り、僕が決闘のターゲットにされたと言うのはよくわかった。

 

「まあまあ、とりあえず話し合いましょう。争いは何も生み出さないよ」

 

決闘はどうにかして避けたい。目立った行動は百代さんに見られる可能性があるからね

 

「流石、兼一さんね。大人な対応だわ」

「年下が、あんな生意気な事言ってんのに怒りもしないしな」

「クールで素敵ね!」

 

外野の人たちの声が聞こえるけど、これって武蔵さんを挑発してしまうんじゃ・・・

 

「ぐぬぬっ!」

 

や、やっぱり!?

 

「で、でもあなたは決闘未経験なのでしょう?わけも分からず決闘することになったら困るでしょう?」

 

「いや、一通りは生徒手帳に書いてあるから大丈夫ではあるのだけれど」

 

「でもいざ本番となると緊張して動けなくなるわ。だから、一度でも経験をしといた方が良いのではなくて?」

 

いや、そもそも僕には決闘をするつもりはないのだけれども・・・・・・。いや、待てよ?

 

「わかりました。その決闘の申し出お受け致しましょう。」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

とても嬉しそうな表情を見せる武蔵さん。どんだけ決闘がしたかったのやら

 

「で、では決闘の合意としてワッペンをぶつけ合いましょう」

 

「うん、わかった」

 

僕はワッペンを取り出して机に置くと武蔵さんは自分のワッペンを取り出し大きく振りかぶった。

 

「プレミアムに決闘よ!」

 

そして、僕のワッペンに武蔵さんのワッペンが重なりあった。この瞬間、僕の初の決闘が決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休み時間。

大勢の人が校庭に集まっていた。その中心にいるのは兼一と小杉の2人であった。

 

「では、これより1年S組武蔵小杉対1年C組白浜兼一の決闘を行う!審判は2年F組担任の小島梅子が行う!両方、決闘の内容は決まってないようだがどうする?」

 

「僕は何でも構いませんけど?」

 

兼一は小杉に目を向けて決闘内容をどうするか訪ねる。それを理解した小杉は笑みを浮かべる。

 

「決闘内容は・・・プレ〜ミアムな拳と拳のぶつけ合い。どちらかが気絶するか参ったと言うまで戦い続けるのよ!」

 

「なっ!?」

 

兼一の驚く顔にさらに笑みがよくなる小杉

 

(ふっふっふ。年上のあなたが年下の私に不様に負ける姿を見せれば評判はガタ落ち、私がプレミアムである事が証明されるわ!)

 

小杉のそんな思惑をよそに兼一は悩んでいた。

 

(なんてこった。まさか武蔵さんがそんな決闘を挑んでくるなんて・・・)

 

「出たぞ。武蔵小杉の決闘は真剣な殴り合い。今のところほぼ負けなしだそうだぞ」

 

「ああ。しかも、自分のひと回り大きい男相手でも余裕で倒しちまうみたいだぜ?」

 

(確かに一般人より少し出来るみたいだけど・・・)

 

兼一の敵ではない。ましてや、百代や由紀江などのクラスとはほど遠いレベルである。

 

(わざと負けるつもりだったのに内容がそれをしようとするなんて・・・)

 

そう。兼一が決闘を受けたのはわざと負けてさっさと終わらせてしまおうという考えであった。決闘で一時は注目を浴びるが最終的には勝者がその注目を独り占めする。

兼一はわざと負けて小杉を目立たせようと考えたのだ。

 

しかし、兼一は達人と呼ばれるほどの武術家である。一昔前の兼一であれば武術による決闘でもわざと負けるなど普通に行えたであろう。

武術家となった兼一はわざと負けるという行いをしたくはない。武術家の誇りもあるが、どんな形であろうと負けたことが梁山泊の師匠たちに知られればお仕置きは避けられないだろう。

 

「あ、あの僕はそういう荒っぽいのは・・・もうちょっと穏便な決闘をしたいのですが」

 

「白浜はそう言ってるがどうする?」

 

「あら、逃げるんですか?それが大人のすることかしら?」

 

「・・・・・・」

 

小杉の挑発に兼一は微動だにしない。逃げることが嫌いであった兼一だがこの程度では怒ったりはしない。どうしたらこの状況を打破出来るかを考えていた。

 

「そう言えばあなたはよく黛由紀江と一緒にいるようね」

 

「?」

 

考え込んでいた兼一は小杉の気になる一言に反応する。

 

「彼女はあなたが来るまで友達がいなくていつも1人で、変な携帯ストラップに声をかける変人だったそうよ?」

 

「・・・・・・」

 

兼一は自分が来るまでの由紀江の話は全く知らない。もちろん、由紀江がクラスで変人扱いされていたのは今初めて知った。

 

「あなたはそんな変人と仲良くなることで自分の株を上げようとしたのではなくて?」

 

「なんだって?」

 

「変人の黛由紀江でも仲良くなれるその懐の深さ。周りのみんなもかなり評価しているわ。そう言えば、決闘では勝者には敗者に一つ言うことを聞かせることも出来るわ。もちろん、両者が納得した上での事だけど」

 

「・・・・・・」

 

「私が勝ったら・・・そうですね。黛由紀江の友達なんて辞めてプレミアムな私の手下になりなさい。そうすれば私には劣るけど人気者になれるわよ?」

 

「・・・僕はそんなつもりでまゆっちの友達になっているんじゃない」

 

静かにそう答える兼一。そんな兼一の様子に小杉は戸惑い言葉を発せないでいた。

 

「わかりました、決闘内容と勝利した時の報酬はありで構いません。ですが、決闘内容で条件があります。」

 

「じょ、条件?なんですかそれは?」

 

「制限時間まで僕は一切手を出さないし、避けたりしません。武蔵さんは自由に攻撃して僕を気絶させるか参ったと言わせれば君の勝ち、耐え切れば僕の勝ちだ」

 

兼一の条件に小杉だけではなく、審判の梅子や周りのギャラリーが驚きの表情を見せていた。

 

「あなた舐めてますの?圧倒的に私が有利な条件で勝てるとでも?それとも負けるのがお好みなのかしら?」

 

「僕は女性は殴らない主義なんだ。そんな僕が勝つにはこの条件が1番可能性が高い」

 

「ふ、ふーん。そうやってまた良い人アピールですか?」

 

「さあ、始めよう。時間がなくなっちゃうからね」

 

「っ・・・。小島先生お願いします!」

 

これ以上の挑発は無意味と判断した小杉は梅子に開始宣言を要求した。

 

「では、時間制限は休み時間が終わるまで。急所攻撃は禁ずる。武蔵は白浜を気絶または降伏させること、白浜は時間制限まで耐え切ることが勝利条件とする。決闘・・・開始!!」

 

梅子の開始宣言からすぐに動いたのは小杉であった。

 

「喰らいなさい!」

 

小杉の右ストレートが兼一の顔面に繰り出される。

 

「・・・・・・」

 

「なっ!?」

 

小杉の助走付きの右ストレートを顔面に喰らいながらも兼一は微動だにしない。

 

「なるほど。この頑丈さがあなたの自慢と言うわけね。でもそのやせ我慢はいつまで続くかしら?」

 

「・・・・・・」

 

小杉の容赦ない連撃が兼一を襲うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兼一さん・・・」

 

兼一と小杉の決闘を見ようと集まったギャラリーの中に混じっている由紀江は兼一の様子がおかしいと感じ取っていた。

 

兼一がわざと負ける事は小杉から決闘を受けた後すぐに本人から聞いている。事情を知っている由紀江にとってもそれが最善と判断し賛成していたのだが、兼一の様子を見る限り負けようとするようには見えない。むしろ、絶対に勝つという気迫を感じられた。

 

「でも、兼一さんから気を全く感じられない。武蔵さんは見る限り実力はあります。私でも気を纏わないで無防備に喰らえばダメージはかなり受けてしまいます」

 

ただ攻撃を受ける兼一には気を纏う様子が見られない。由紀江の見たてではそこらにいる一般人レベル。例ではモロぐらいの防御力まで下がっている。

一般人で体を鍛えた人でも無意識に気を使用して防御力を上げている。由紀江レベルにでもなればその気を巧みに扱うことでき、気を纏うことで防御力の強化や身体能力の底上げを行うことも出来る。

それはもちろん逆も可能であった。

 

「つまり兼一さんは気による強化は一切なしで武蔵さんの攻撃を純粋な筋力で出来上がった身体のみで受けていることになります」

 

『それってヤバくね?最悪大怪我の可能性もあるぜこれは?』

 

「ええ。モモ先輩にバレないようにするためとはいえ危険です。でも・・・」

 

由紀江はこの決闘を止めることは出来ない。なぜならば、兼一の負けられない理由を由紀江が知っているからである。

兼一が負けたら由紀江の友達ではなくなる。そんな無茶苦茶な条件を飲んだ兼一には勝てる自信があるのだろう。由紀江はそれに関しては絶対的な信頼がある。

しかし、その絶対的な信頼がありながらも安心して決闘を見ることは出来なかった。

 

「はあっ!」

 

「ぐっ!」

 

小杉は身体への攻撃は無駄であると判断したのか頭部への集中攻撃を仕掛けていた。ジャブやフック、ストレートと様々な拳を浴びせ、男性にしては兼一は小柄であるため上段蹴りも通ってしまう。

兼一は両腕を前にして顔を隠すように防御しているが、小杉はその両腕には隠しきれない側面から攻撃しているため意味はほぼなかった。

 

(恐らくあの防御の仕方も素人に見えるようにしているのだと思います。ですが、あの顔についた痣や傷は本物・・・)

 

自分のせいで兼一が酷い目にあっている。そう考えると由紀江の心が酷く痛む。我慢などしないで負けてしまえば兼一は楽になれる。しかし、その瞬間兼一は由紀江の側から居なくなってしまう。

由紀江は何も出来ない自分が嫌になってくる。

そう感じていた時、戦況が動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、このぉ〜!」

 

「!」

 

小杉は拳での攻撃を諦めたのか武器に切り替えた。その武器とは刀でも槍でもなかった。鈍器、ハンマーを持ち上げたのだ。

 

「流石のあなたでもこれを喰らえばひとたまりもないでしょう?例えその両腕で防いだとしても骨が粉々でしょうね?」

 

「そ、そこまでする普通・・・」

 

兼一も小杉のでた行動に苦笑せざるおえなかった。

 

「あなたが降参すればこれは振り下ろさないわよ。どうかしら?」

 

「残念だけどその選択肢はないよ」

 

「そうですか。では喰らいなさい!」

 

小杉がハンマーを振り下ろす。兼一は避ける動作は見られない。当たる直前、誰もが兼一の大怪我を覚悟した。

バキッという鈍い音が響きわたる。その悲惨な光景になるだろうと目を瞑っていたギャラリーが恐る恐る目を開けるとそこには驚愕な光景だった。

 

「そんなばかな・・・」

 

小杉は自分の持っているものを見て震え出した。持っているものはハンマーだった筈なのだが先端の鈍器部分が消えてしまっていた。

ギャラリーはどうなっているのか理解出来なかった。しかし、ハンマーを振り下ろした小杉と由紀江には見えていた。

 

小杉のハンマーは確かに兼一の両腕に直撃した。しかし、兼一は当たった瞬間、筋肉を膨張させることで鉄のように硬くした兼一の腕は鉄製のハンマーを受け止めることができたが、木製の柄の部分が耐え切れず折れてしまったのだ。

 

「い、いてててっ。流石に少し痛い」

 

「そ、そんな反応で済ましていい一撃じゃないわ!確実に骨が折れている筈の一撃だったのよ!それを・・・」

 

「ぬっ!武蔵!上だ!?」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

私は急な先生の声にすぐに上を向いた。

そこにはハンマーの先端部分があった。

ああ・・・。私の手にはハンマーの柄の部分があるのだから先端部分がどこかにあるのは当たり前よね?

でも、どうして私の頭上にあるのかしら?

まさかボールみたいに鉄の鈍器が跳ね返ったでも?物理の法則を完全無視ね。

 

というかやけに冷静ね私。しかも、鈍器は確かにこちらに向かって来ているけどスローモーションだし。

これが死の直前に起きる走馬灯ってやつね。私こんなところで死んじゃうの?

私は先ず、1年のトップの座について最後には川神学園のトップを目指してたのに・・・

今まで卑怯な手段を使ってきた罰が当たったのかしら

 

 

 

 

 

 

 

ゴスッ

 

 

 

 

 

 

 

私の目の前が真っ暗になった。鈍器が私にぶつかったのかしら?

でも痛みはないし、何故か身体中暖かい何かに包まれているような・・・

 

「武蔵さん!」

 

「えっ?」

 

どうやら私は目を瞑っていたようだ。ゆっくりと目を開けると光が溢れ出す。

 

「武蔵さん、大丈夫かい!?」

 

そこには頭から血を出した決闘の相手である白浜兼一さんの顔があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「武蔵さん?」

 

「・・・・・・」

 

兼一の問いかけに全く返事がない小杉

意識はしっかりしてるが心ここに在らずなようだ。

 

「あの・・・」

 

 

 

キーンコーンカーンコーン!

 

 

 

もう一度兼一が小杉に話しかけようとしたらチャイムが鳴り響いた。

 

「むっ?次の授業の予鈴がなったな。これにて決闘終了!勝者は勝利条件である時間制限まで耐え切った1年C組白浜兼一!」

 

「「「うおぉぉぉぉっ!」」」

 

高らかに挙げられた勝者宣言に周りのギャラリーから雄叫びにも似た歓声が響き渡った。

 

「武蔵さん!」

 

「はっ!?・・・私が負け?プレミアムな私が負け?そんな・・・」

 

ずっと小杉に話しかけていた兼一。小杉が自分の負けを認識すると頭を抱えながらふらふらと立ち去ってしまう。

兼一は話しかけようと思ったが小杉の様子を見てしばらくはそっとしておくことにした。

 

「兼一さん!」

 

「まゆっち?」

 

「お怪我の方は大丈夫ですか!?」

 

必死の形相に何事かと思ったが由紀江の言葉に思い出したかのように自分の身体をチェックした。

 

「うん。見た目以上に酷い怪我じゃ・・・」

 

「白浜。頭に鈍器が直撃して血が出てるぞ。大丈夫か?」

 

梅子が近づいて来て自分の立場を思い出す。考えてみればあの直撃は一般人だったら重傷間違いないだろう。

 

「いてててっ。そう言えば身体の節々が痛いや」

 

「せ、先生!私が兼一さんを保健室に連れて行きます!」

 

「うむ、黛頼んだぞ。さあ、貴様らもさっさと教室に戻れ!」

 

梅子の号令により周りのギャラリーが解散し、兼一は由紀江と一緒に保健室へと向かうのであった。




初決闘は兼一の勝利!

今回は区切らずに1話終了で頑張ってみました。
しかも、小杉フラグを立てて見たり・・・
そのフラグをいつ回収しようかな・・・
次はどうしようか考え中と見せかけてドイツな人達が登場です。

出来る限り早く投稿するように頑張ります。

ついでに感想・評価をお待ちしております。
して頂ければは私のテンションが上がったり下がったりします。
宜しくお願い致します。


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BATTLE.15 師弟と狂犬

久しぶりに投稿致しました!

待っていてくださった読者の皆様申し訳ございませんでした。


決闘を終えて学校から帰ってきた兼一。

島津寮の自室で兼一は掃除を済ませてお茶の準備をしていた。

何故ならば朝にクリスと約束していたマルギッテに武器を受け渡す約束を果たすためだった。

「よし、準備は終わった。そろそろクリスさん達がくる頃かな」

兼一がドアを見るとそれと同時にノックされる音が聞こえる。すぐにドアを開けてクリスとマルギッテに挨拶をした。

「やあ、クリスさん」

「お邪魔します、兼一殿」

「マルギッテさんは初めましてですね。僕は白浜兼一です。よろしく」

兼一は手を出して握手しようとする。しかし、マルギッテは何も反応せず兼一を鋭い眼光で睨みつけていた。

「あ、あの・・・」

「・・・・・・」

「マルさん?」

「っ!・・・マルギッテ・エーベルバッハです。覚えなさい」

「あっ、はい」

結局、握手はしてもらえず諦めた兼一は2人を座らせた。

「粗茶ですがどうぞ」

「うむ、ありがとうございます!おおっ!美味い!」

「そうですね、お嬢様」

お茶を飲んで喜んでいるクリスを見て微笑むマルギッテ。しかし、兼一には相変わらず人を倒せそうな眼で見ている。

何か悪い事をしたのだろうかと思いつつ兼一はさっそく本題に入ることにした。

「クリスさん、マルギッテさん。これが私の知り合いから作って頂いたトンファーです」

「おおっ!」

「・・・これは!」

机に置かれたトンファーを見て目を輝かせるクリス。マルギッテもそのトンファーに目の色を変えた。

「・・・・・・」

「どうだ、マルさん?」

「・・・少し振っても宜しいでしょうか?」

「はい。物を壊さない程度でなら」

「では・・・」

トンファーを手にしたマルギッテは構えを取る。そして我流であろうトンファー捌きを見せる。

トンファーは空を斬ってマルギッテはまるで舞っているかの様に動く。しかしその動きは舞と言う緩やかなものではなく、一発一発の動きが必殺になりうるものばかりだった。

「・・・これは素晴らしい。まるで自分と一つになったかのような一体感を感じられます」

「本当か!それは良かった!兼一殿、マルさんも気にいってくれた。ありがとうございます!」

今まで感じた事のない手応えで感動するマルギッテ。クリスもマルギッテが気にいってもらえて嬉しそうである。

「それでこれはいくらするんだ?」

「お金なんていりませんよ」

「えっ?しかしそんな訳には・・・」

「この制作者とお金が欲しくて作ってくれた訳じゃないし、そのトンファーを大切に使って頂ければ満足ですよ」

笑顔でそう言う兼一だが、クリスはそれで納得がいかない顔をしていた。

「むぅ・・・。では兼一殿に何かお礼をさせてもらえないだろうか?あなたにもお世話になった。是非ともお礼をさせて欲しい」

「大丈夫ですよ。僕は満足して頂いただけで充分です」

「そう言う訳にはいかない。ここまで世話して頂いて何もしないのは騎士の名折れだ!」

「うーん・・・」

必死に言うクリスだが、兼一としては大した事でもないから礼など必要はないと考えている。

しかし、少しの付き合いだがクリスがこういう場面では譲ることは決してないと理解している。

理解した上でどう応えるか考えているとマルギッテが行動に出た

「貴様・・・お嬢様のありがたいお礼を受け取りたくないと言うのか?」

「い、いえ・・・そういう訳では・・・」

マルギッテが殺気を放ちつつ貰ったばかりのトンファーを使い兼一を脅していた。

「じゃ、じゃあ僕が困った時にクリスさん達にお手伝いしてもらう。それで良いかな?お礼なんて全く考えていなかったから決められないんだ」

「ふむ。まあ、無理に寄り添って決めさせるのは良くないな。了解した。マルさんもそれで良いか?」

「はい。勿論ですとも」

殺気を無くしてすぐにいつもの表情で返事をするマルギッテ

「では困った事があれば何時でも呼んでくれ。では、また明日!」

「・・・・・・・・・失礼します」

2人は満足そうに部屋を出て行った。その出て行く際、満足そうに出て行くクリスに対して冷たい眼差しを送りながら出て行くマルギッテを兼一は見逃さなかった。

「では今月も異常なしかのう?」

「はい。問題ありませんよ」

兼一はクリス、マルギッテの話が終わった後、近況報告をする為川神院に来て鉄心と話している。

「現われるのは表一般レベルの武闘家くらいですね。百代さんは余裕で倒していました」

「そうか・・・。残り数ヶ月なにもなければよいのじゃが・・・」

兼一の方向に安心してもらう鉄心。最後の高校生活を無事に過ごして欲しい鉄心はため息を吐く

「では、僕はこれで。あっ、ついでにここの見学して行っても良いですか?」

「むっ?それは構わんぞい。お主からみたらつまらんかもしれんが、好きにせい」

「ありがとうございます。前からここの造りが気になってたんですよね」

「川神流の鍛錬ではなく、川神院の造りの方が興味あるとは・・・」

嬉しそうに部屋を出て行く兼一を見て呆れる鉄心であった。

「やっぱり、この川神院の造りは面白いな。うん・・・?あれは・・・?」

兼一が川神院を周っていると見知った人を見つけた。

「一子!ラスト1セットネ!」

「は、はい!あっ!ちょっと待って下さい、ルー師範代!おーい、兼一さーん!」

一子が兼一に気づいて手を振ってくる。兼一もそれに応えるように手を振った。

「一子。ラスト1セットやってなさイ。私は彼ト話をして来るヨ」

「あっ、はい!」

一子が走り込みを始めると一人の男が兼一の方へと向かった。

「やア。君は白浜兼一クンだったネ?」

「はい。あなたは川神学園の教師であり、川神院の師範代ルー・リーさんですね?そして今回の事情を聞いている関係者の一人」

「そうだヨ。今日は総代に近況報告の日だったネ。私モ気になってるヨ」

「特に問題はありませんよ。今のところはですが・・・」

「そうだネ。油断ならなイ。いつ襲ってくるカわからないからネ」

真剣な顔で話すルー。闇がいつ襲って来るのか誰も分からない。

「まあ、気にし過ぎても仕方ないですよ。余裕を持っていきましょう」

「・・・凄いナァ、君は。その歳で裏の世界生きているだけはあるネ」

「まあ伊達に死線を潜っていませんよ。ハハハッ」

「おうっ、目が笑ってないネ・・・」

兼一の遠い目が色々物語っているのを理解したルーは思わず苦笑い

「うりゃああああぁぁぁぁっ!!」

「・・・頑張ってますね」

「うん!一子は毎日頑張ってるヨ」

「それで修行はこれから始めるんですよね?見学しても良いですか?」

「えっ?」

兼一の言葉にルーが唖然とした表情を見せる。兼一もルーの表情を見て意外そうな表情を見せた。

「これは準備運動では?」

「いや、もう最後の訓練を行っているところネ・・・」

「そ、そうなんですか・・・」

最後の走り込みを追えたのか、手を膝につけて息を整える一子。

兼一から見てあの一子の状態ならばまだまだ修行は行える。

もし梁山泊の修行だったら片方に100キロの重りを付けて計600キロくらいの重りを付けた複数のタイヤを引いて都内を一周したり、各師匠から技の修行受けたりなど様々な修行を開始していただろう。

残念そうにしている兼一。その様子を見てルーは話しかけた。

「君の目から見テ、一子は師範代クラスまで強くなれルと思うかイ?」

「・・・・・・」

兼一は困った。

答えではなく、ルーの質問に苛立ちを感じたのだ。

ルーは仮にも一子の師匠と言っていい存在。その師匠が弟子を信じきれてないのだ。

師匠と弟子は共に成長し合う存在。

それは兼一も身を以て感じている。そうでなければ今頃兼一はここに居ないのだから。

弟子である一子は師匠であるルーを信じ、学び、真っ直ぐな心で修行を行っている。

しかし、肝心の師匠ルーが弟子の一子が強くなれるか、他人に聞いてしまうくらい自信を持てていなかった。

師匠と弟子が共に成長しない限り、強さの一線を乗り越える事は出来ない。

その事を伝えるべきか?

だが、これは人から言われて行うのと自分で気付くのとでは大きな差が出てしまう。

「一子ちゃんは・・・いえ、なんでもありません。用事がありますので、僕はこれで失礼します」

「・・・・・・」

兼一はそう言うとその場から逃げるように立ち去る兼一。

ルーはそんな兼一をただ見ていることしか出来なかった

川神院から島津寮ではなく、なぜか河原に来ている兼一。

「こんな時間にどうしました?マルギッテさん」

「やはり気づかれていましたか・・・」

近くにあった橋の影から現れたのは放課後に会ったマルギッテだった。

「僕に何かご用でも?」

「なに、あなたにご教授願おうと思いましてね。梁山泊の史上最強の弟子」

「!・・・どうしてマルギッテさんがそれを?」

マルギッテは兼一が何者なのか知っている。その理由を聞いてみるが、マルギッテは笑みを浮かべる。

「私と戦って勝てたら教えてあげましょう!」

「うわっ!?」

トンファーを使って襲いかかってくるマルギッテ。兼一はそれを避けて距離を取った。

「どうしました?あいつの話が本当ならばあなたは数秒で倒せる筈ですが?」

「マルギッテさん。その人から僕の話を聞いていたならどうして襲いかかってくるのですか?」

「川神百代と同じですよ。強者がいれば戦いたい。ただそれだけです!」

「眼帯を取った。・・・と言うことは本気で来るのか?」

兼一はマルギッテの眼帯の意味を理解していた。マルギッテの気が膨れ上がったのを感じ取っていたからである。

「うおおおぉぉぉぉ!!」

眼帯を外したマルギッテが猛攻を仕掛ける。

だが、兼一はそれを簡単に避けている。受けもせず、ノーガードでマルギッテの猛攻をすれすれで避ける。

「白浜兼一。なぜ反撃しない?」

「えっと・・・僕は女性に手を上げない主義でして・・・」

「なんだと?」

兼一の一言にマルギッテが目をさらに鋭くする。

「貴様、この私を愚弄するか!」

怒りでさらに気が膨れ上がり、マルギッテの猛攻がさらに激しくなる。

兼一はこれ以上続ければ百代に気づかれる恐れがある。そのため兼一は苦渋の選択をする事にした。

「仕方ない・・・」

「来るか・・・」

兼一が初めて構えをとる事で警戒するマルギッテ。じりじりと間合いを詰める。

「トンファーキック!」

マルギッテの強力な蹴りが兼一を襲う。それを避け兼一はマルギッテの懐に潜り込んだ。

「馬師父直伝!馬家縛札衣!」

「なっ!?」

マルギッテの表情は驚きのものへと変わり、同時に顔を赤く染め上げた。

兼一は一瞬の内にマルギッテの軍服を剥ぎ取り、それを使ってあられもない姿で縛り上げたのだ。(どんな姿なのかは大きなお友達のご想像にお任せいたします)

「う、動けない・・・」

「ああ・・・。これだけはしたくなかったけど手っ取り早く抑えるにはこれしかなかったんです。ごめんなさい」

「白浜兼一・・・!言葉と顔が一致してないぞ!」

「何のことでしょう?」

川神に来てから一番だらしない顔を見せる兼一。美人があられもない姿で縛られているのだから男としてそうなってしまっても仕方がないことだろう。

「くぅっ!振り解こうとすると、んっ!余計に食い込んで、あっ!」

「もう襲い掛からないというのでしたら開放しますが?」

「・・・わかっ、た。んんっ!だ、から、解いて、くれ、ああっ!」

「・・・・・・・・・」

「お、おいっ!な、なんだ、その少しもったいないなって顔は!」

負けを認め開放してもらえるようにお願いするマルギッテ。しかし兼一はそんなマルギッテを見て少し考え込んでしまった。

「そ、そそそそんか顔していませんよ!?」

「動揺しまくりの言動と鼻血を流したその顔で信用できるか!」

「すみませんでした」

兼一は素直に謝るとマルギッテの拘束を外す

「んっ、んんっ、あっ!」

「・・・・・・・・・・・・」

外す時にきつくしてしまったのか、時折マルギッテの喘ぎ声に兼一はなんとか理性を保ち外した。

「そ、それで僕のことは一体誰から聞いたんですか?」

「その前に鼻血を拭いたらどうです?」

「はい」

河原の水で顔に付いた鼻血を洗い流す。何とも締まらない感じになってきたが兼一は気を取り直して再度聞いた。

「僕のことは一体誰から?」

「・・・それはロシア軍最年少で少佐となった男。潜熱の氷塊(グローラー)の異名を持つボリス・イワノフだ」

「ぼ、ボリス!?」

まさかの戦友に驚きを隠せない兼一。それに構わずマルギッテが話を続けた。

「私は奴と国同士の軍事会議でよく顔を合わせていた。一目で奴には敵わないと思わせるほどの雰囲気を醸し出していたよ。とある日、私がクリスお嬢様に日本の陶芸品を贈り物にしようと雑誌を読んでいたら奴が私、いやその雑誌を凝視していたのだ。理由を聞いたら自分のライバルが日本にいると答えた」

マルギッテは兼一を一度睨み付けてから話を再開する。

「その男の名前が白浜兼一。貴様の事だった。正直、信じられなかった。当時、闇を知らなかった私は日本で奴に対抗できる者など川神鉄心か川神百代ぐらいかと思っていたのだから」

「闇のこともご存知で?」

「ああ。貴様の話をクリスお嬢様のお父上で私の上官であるフランク・フリードリヒ中将からお聞きした。決して触れてはならないものの一つである説明された。白浜兼一という男はその闇と戦っている正義の武道集団梁山泊の一番弟子と」

「ま、まさか僕の名前も知れ渡っているなんて・・・」

「今更なにを言ってる。闇の存在を知っている者ならば一度は必ず耳にする」

頭を抱える兼一に呆れるマルギッテはさらに追い討ちをかけて兼一を落ち込ませた

「話を戻すがボリス・イワノフが一度も勝てず、闇と言う裏世界を蹂躙する者達と戦う男に興味を持ったのだ。その実力が一体どれほどのものなのかと」

「それで僕に襲い掛かってきたと・・・」

「ああ。やはり想像以上の腕前だった。私の攻撃は一度も当らず、一瞬で私の動きを封じた。破廉恥な技でしたが・・・とても破廉恥な技でしたが、とてもお見事でした」

「・・・・・・・・・」

じっと睨み付けるマルギッテに顔を背ける兼一。

「あなたが何の理由でこの川神市にいるのか理解できませんでしたが何かの任務で?」

「川神百代さんの護衛です。僕の正体がばれないようにですが・・・」

「なるほど。だから決闘のときは全く気を感じられなかったのですね」

「見ていたんですか?」

「ええ。ですが、あれでは逆に怪しまれますよ。私ではなく川神百代が見ていたのであらば私と同じことをしていたでしょう」

確かに軽率だったなと反省している兼一。

「マルギッテさん、この事は内密でお願い致します」

「わかりました。あなたにはこのトンファーを頂いた恩があります。約束致しましょう」

「あ、ありがとうございます!」

「ですが、条件があります」

「じょ、条件?」

何か無茶なことでも頼まれてしまうのだろうかと心配しながら兼一は身構えた。

「一つは機会があれば私と戦うこと。もう一つ、これは絶対に守ってもらう・・・」

マルギッテの言葉に唾を飲む兼一。私闘以上に大切な条件と一体何なのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリスお嬢様には絶対に手を出さないことだ!いいな!わかったか!」

「・・・あっ、はい。わかりました」

拍子抜けした兼一。

だが、自分の正体を知る人物が増えたことで悩み事が増えてしまった兼一であった。




いかがでしたでしょうか?

久しぶりに書いたので違和感とかあるかもしれません。

その時は本当にすみません。

次はもっと早く更新できるように頑張ります。

ろくに返事していませんでしたが、感想や評価を入れてくださったらやる気が上がりますので宜しくお願い致します。


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BATTLE.16 フラグとは知らない内に立っている

前回投稿してまさかのランキング2位!

目を疑いました。

疑うあまり兼一がアパチャイに殴られてる動画を観てしまいました(意味不明

そんなこんなでテンションが上がり更新しました。

今回は初登場のキャラがたくさんでます。

そして、キャラが違うぞ!って言われても私は頭を下げる事しか致しませんm(_ _)m

楽しんで頂ければ幸いです。


とある日の昼休み、兼一は廊下を歩いていたが何かそわそわと落ち着かない様子だった。

「(何だろう?なぜか視線を感じるぞ?)」

すれ違う生徒や遠くでお喋りしている生徒たちがなぜか兼一に視線を送っていたのだ。

しかも、その視線には殺気が時折含まれて(主に男子生徒)いたりして気が気でないのだ。

何かしたのだろうかと、振り替えてみるも何もした記憶がないので余計気になってしまう。

「ん?なんだろう?」

歩いていると前には人だかりが出来ており、何かを見ているようだった。

気になった兼一は人ごみをスルスルと抜けて中心地へと移動するとそこには張り紙があって生徒たちはそれを見ていた。

「・・・ええっ!?」

兼一はその張り紙を見て驚愕した。

その張り紙は川神新聞と呼ばれる、生徒が自主的に集めた情報を張り出している学園長公認の新聞である。

その表紙の一面に自分の名前と顔写真が思いっきり写し出されていたのだ。しかも、その内容がまた兼一を驚愕させる。

それは『謎の年上転入生 白浜兼一 惜しくも川神学園のイケメン四天王、エレガンテ・クアットロ入りならず!!』といったものだった。

イケメン四天王、エレガンテ・クアットロとはその言葉の通り川神学園内のイケメン達の事をそう呼ぶのだ。

それが『惜しくも』と言う単語に記事を詳しく読んでみると兼一の順位はまさかの第5位。

コメント欄では兼一に投票した人の言葉が載っていた。

『困っている人は放っておけない優しさが良い』

『決闘で鈍器にぶつかりそうになった相手(武蔵小杉)を身を挺して助けたのがかっこよかった』

『決闘の時に見せた真剣な表情が普段の可愛い系の表情とギャップがあって良かった』

「・・・・・・・・・」

兼一は開いた口が塞がらない状態であった。

人助けの件はともかく、この前の決闘でそこまで認知度が上がるとは思ってもいなかった兼一。

「あっ!白浜さんよ!」

「えっ!?どこどこ!?」

「きゃー!白浜さん!」

「っ!」

兼一はすぐに人ごみの中へ潜り込んで凄い速さでその場を離脱した。

「・・・どうしてこうなったんだろう?」

逃げてきた兼一は屋上の片隅で頭を抱えていた。

目立たない為に一年生になって潜り込んだのに、決闘で目立ち、さらにはイケメンランキング上位に君臨して目立ってしまうとは思いもよらなかった。

これを百代が見てどう思うだろうか?

百代自身興味がなくても周りが騒げば少しでも興味を持たれるのはよろしくはない。

「・・・でも、一時的なものだと思うし気にしないでおこうかな」

考えた結果放置することにした兼一は教室に戻ろうと思い足を進めようとしたがある光景が目に付いた。

「あれは・・・心さん?」

屋上のベンチで一人お弁当を食べている女の子を発見した。その女の子は兼一の知っている人であった。

「心さん!お久しぶりですね!」

「・・・・・・・・・!?け、兼一く!?ごほっ、ごほごほっ!?」

ぶふぁっと飲んでいた飲み物を盛大に噴出した女の子。思わず兼一も驚いてしまう。

「だ、大丈夫?」

「ど、どうして、こ、ここに!?」

「とりあえず落ち着きましょう、不死川心さん」

慌てる着物少女の名前は不死川心。あの九鬼財閥の次に並ぶほどの名家のお嬢様である。

「深呼吸しましょう。すぅ~、はぁ~」

「すぅ~、はぁ~」

「どう?落ち着きました?」

兼一の言葉に頷く心。ほっとした兼一は話し出した。

「本当に久しぶりですね。最後に会ったのは1年半くらい前ですよね」

「う、うむ・・・」

「?どうしました?」

「な、なんでもないのじゃ!前に会った時よりも逞しくなったのう、なんて思ってないのじゃ!」

「?」

何が言いたいのかよく分からないでいる兼一。心は兼一の顔を直視できずにいた。

「あっ、もしかして!」

「な、なんじゃ・・・?」

「この前、一子ちゃんに決闘で負けた事を気にしているんですか?」

「・・・いや、別にそういう訳ではないのじゃが。というか見られておったのか」

引きつった顔で言われて首を傾げる兼一。そんな兼一に溜息を吐いて心から話し始めた。

「それで、兼一くんはまた人助けじゃろう?あの川神百代の。本当によくやる」

「ええ、まあ。ところで僕の呼び方なんですけど、どうしてくん付け?前は普通に呼び捨てだったのに」

「べ、別に良かろう!と、ところで兼一くんはどうしてここに来たのじゃ?もしかして此方に会いに来てくれたのかえ?」

「ううん。ちょっと困った事になってて何か良い案がないか考え事をしようと屋上にきたら偶然、心さんを見つけたんですよ」

「そ、そうかえ・・・」

少し機嫌が悪くなった心。その理由が全くわからない兼一であった。

「それで先程言っておった困った事とはなんじゃ?此方が解決に協力してやろう」

「えっ、本当ですか?」

「もちろんじゃ!此方と兼一くんは友達じゃからの!」

「あ、ありがとう、心さん・・・」

とても嬉しそうな言う心に感動する兼一は先程の事を話した。そしたら心に変な目で見られてしまう。

「『人気者じゃなくなるようにするにはどうすればいい?』って兼一くん、どれだけ贅沢な悩みなのじゃ」

「僕も影からの護衛って立場でなければそう思ってますよ」

溜息を吐く兼一と心。

「まあ兼一くんに嫌われるような事をしろって言っても無理じゃろうし、このまま放っておいて治まるのを待てばよいのではないか?」

「やっぱりそうですよね・・・」

「それに川神百代は見た目より中身で判断すると思うし、武術で目立たなければ大丈夫じゃろう。気にする必要はなかろう」

 

「な、なるほど。確かにそうですよね!」

 

心のアドバイスに少し元気を取り戻した兼一。

隣に座っていた兼一は立ち上がり心にお礼を言った。

 

「心さん、ありがとうございます。少し楽になりました」

 

「そ、そうかえ?それは良かったのじゃ」

 

「そろそろ昼休みが終わるので先に戻りますね。それじゃあ、また」

 

「あっ、兼一くん!」

 

歩き出す兼一を止める心。兼一は止まって心を見た。

 

「ま、また前みたいにメールとか送ってもいいかのぅ・・・」

 

「もちろん!」

 

心の質問に笑顔で応える兼一。その返事を聞いて立ち去る兼一を見ながら笑顔になる心であった。

「さて、いつもの日課を始めるかな?」

 

兼一は最近、百代の護衛のついでに市内のパトロールを行っていた。なんだかんだで騒ぎが多い川神市、我流ブルーこと兼一が活躍することがあったりする。

 

「「「ぎゃあああぁぁぁぁぁっ!!??」」」

 

「ん?」

 

早速叫び声を聞き取った兼一はすぐにその現場へと向かった。その場所はゲームセンター前で、一人の女の子と三人の青年がいた。

状況は、三人の青年が倒れており、女の子はそれを睨み付けている。どうやら女の子が倒したようだ。

 

「おい、ウチに喧嘩売って五体満足で帰れると思うなよこら!」

 

「ひ、ひいっ!?」

「お、俺達が悪かった!」

「だ、だから許してくれ!」

 

必死に謝る青年達、しかし女の子の怒りはその程度では治まらなかった。

 

「うるせえっ!死にやがれ!」

 

女の子はどこからかゴルフクラブを取り出して青年達に襲い掛かる。

足が震えて動けない三人にゴルフクラブが当る直前、誰かの手によって受け止められた

 

「そこまでだ」

 

「っ!?」

 

女のはが受け止めた誰かを見るとそこには我流ブルーの仮面をつけた兼一がいた。

女の子はすぐに距離を取って兼一を睨み付ける。

 

「な、何もんだ、てめぇ?」

 

「私か?私は史上最強戦隊の1人、我流ブルーだ!」

 

シャキーンと効果音が出そうなポーズをとって挨拶する兼一。なんだかんだでノリノリである。

その声を聞いてか周りにいた人達が集まりだす。

 

「おい!我流ブルーが現れたぞ!」

「まじか!?次はどんな活躍を見せてくれるんだ!」

「きゃー、我流ブルー様!」

 

「・・・へぇ、あんたが我流ブルーか。会いたかったぜ!」

 

野次馬の歓声を聞いて女の子は睨み付けてはいるがその顔は笑みを浮かべていた。

 

「君とは初対面の筈だが、私のファンかな?生憎サインはお断りしているんだ。ごめんね?」

 

「ちげぇよ!ウチはお前と戦いたかったんだ!お前にやられた竜の敵討ちとしてな!」

 

ゴルフクラブを兼一に突きつけて言う女の子。兼一は首を傾げた。

 

「竜?どの人のことかな?ゴロツキや不良は沢山倒してきたから分からないぞ」

 

「ウチの兄貴のことだ。竜兵って言って、ホモで変態だ。男狩りしてたらお前に邪魔されたって言ってたぞ」

 

「・・・ああ(路地裏で男性を性的に襲っていた)あの人か。不良の割にはかなり強かったから覚えてるよ」

 

脳内でその光景を思い出して吐き気がした兼一。それほど見たくない光景だった。

 

「あの竜をそこらの不良と同じ扱いするって事は、竜が手も足も出なかったてのは本当の話みたいじゃん。ウチはその話を聞いてめっちゃ戦ってみたいと思ってたんだ!」

 

「そ、そうなんだ・・・」

 

「つう訳で・・・。いくぞ!」

 

女の子が兼一に襲い掛かる。ゴルフクラブを器用に振り回し、攻撃を仕掛けてくる。

だが、兼一はそれを難なくとかわしていく。

それが数分続き、とうとう女の子の動きが止まってしまう。

 

「はあっ、はあっ・・・。ま、全く当らねえ。まるで蜃気楼と戦っているみてえだぜ」

 

「気が済んだかな?私は女性に手を上げない主義でね。諦めて帰ってくれるとありがたいのだが?」

 

「ば、馬鹿にすんじゃねえ!!本番はこれからだ!」

 

女の子はポケットから何か取り出す。それは何か錠剤のような形をしていた。

それを女の子が飲み込むと雰囲気が変わった。兼一はそれを見て仮面で見えないが表情を変える。

 

「今、何を飲んだんだい?」

 

「楽して強くなれるお薬だよ!」

 

先程までノーガードだった兼一は女の子が構えると同時に構えをとった。

 

「行くぜええええぇぇぇ!!」

 

ゴルフクラブを振り上げてそのまま振り下ろす。兼一はそれを避けるが、驚きなのは振り下ろされたゴルフクラブでコンクリートの地面をめり込ませたのだ。

 

「動の気が急激に膨れ上がった?あの薬の影響なのか?」

 

「おらおら!どんどん行くぜ!」

 

「おっと!」

 

力・速さが数段レベルが上がった事で女の子は責める手をさらに増やしていく。

しかし、それでも兼一に攻撃が一発も当る事はなかった。

 

「くそがああぁぁぁ!!」

 

「はっ!」

 

「うおっ!?」

 

ゴルフクラブを掴み、それを軸にすることで女の子の身体を回転させる。着地時に怪我させないように優しく落とす事を忘れないところが兼一の凄い所である。

 

「・・・・・・このお面野郎!馬鹿にしやがって!ぜってぇ、ぶっ潰す!」

 

女の子は再びポケットに手を入れて薬を取り出そうとするがその時に気づいた。

 

「なっ!薬がねえ!?まだ沢山あった筈なのに!?」

 

「お探しのものはこれかな?」

 

兼一は女の子に見えるように掌をかざした。その掌の上には女の子が持っていた筈の薬があった。

「中身は分からないが危険そうなので私が預かっておこう」

「こ、このっ!返しやがれ!」

「そうはいかないな。もしかしたら身体に異常をもたらすかも____」

「だからって、盗みはいけねえな。正義の味方さんよぉ」

「!」

兼一は素早く横に跳んだ。

すると同時に先ほどまでいた兼一の場所に男がいた。足下には男の足くらいの大きさの穴が開いている。

男は上からコンクリートに穴を開けてしまう程の飛び蹴りを兼一に喰らわせようとしたのだ。

「ちっ、やっぱ、この程度の不意打ちじゃ当たんねえか」

「し、師匠!?」

「よおっ、天。なに、遊んでやがる?帰んぞ」

師匠と呼ばれた男は女の子の事を天と呼びその頭に手を置いて帰るようにうながした。

だが、天という女の子は言う事を聞かなかった。

「な、何言いやがんだ師匠!ウチはまだ戦える!」

「さっきまで赤子のように扱われてた奴が何言ってんだか」

「う、うるせぇ!ちょっと油断してただけだ!もっと薬を飲めば奴を倒せる!」

「バーカ。あの薬を何錠飲もうとお前はあいつに勝てねえよ!周りを見てみろ?」

「えっ?・・・何だよ、何があんだよ?」

師匠の男の言う通りに周りを見渡すが特に変わった様子がなかった。

「たくっ、何もない事が異常なんだよ。薬を飲んだ全力のお前が物や壁、地面を壊さずに戦うなんて器用な真似出来っか?」

「っ!?」

言われた通り最初に付けた窪み以外どこも破損した様子がない。周りの事を全く考えずに全力で戦っていた女の子がだ。

それは兼一が女の子の力を操って周りの物が壊れないように緩和させたのだ。

「これでお前とあいつの差が分かったろ?」

「ううっ・・・」

男に説明され、兼一との実力差は理解出来た女の子だが、それでも納得出来ない様子だ。

そんな女の子に男はとうとうきれた。

「おらっ!ぐずぐず言わず帰っぞ!これ以上我が儘言えば飯抜きだ!」

「・・・わ、わかったよ。おい、我流ブルー!今度会った時覚えてやがれ!」

女の子は兼一に一言言うと逃げるように走り去って行った。

残された兼一と男は対面し合い、男の方が動き出した。

兼一の横まで歩き話し出す。

「すいやせんねぇ。うちの馬鹿弟子が迷惑かけたみてえで。また、戦ってくだせぇ。裏の達人級(マスタークラス)様」

「!?」

驚く兼一をよそに男は人ごみの中へと行ってしまう。

追いかけようと思ったがそれはできなかった。

「み~つ~け~た~!」

再び空から誰かが降ってきた。

その誰かというのは百代であった。

「ここで会ったが百年目!我流ブルー、私と戦ってもらうぞ!」

「やれやれ。君と戦うと町の被害が酷くなるのでお断りさせてもらおう。では町の皆さん!また会う日まで、ジュワッチ!」

「逃がすか!」

兼一は百代と数分間、鬼ごっこをする羽目になったのであった。

とある倉庫。そこには兼一と戦った女の子と師匠の男。他にも女性が二人、男が一人いた。

「おいっ、天!てめぇ、我流ブルーと会ったら俺に連絡しろって約束したろうが!」

「はあっ?そんな約束してねえし!この馬鹿竜!」

この言い争っている二人。

女の子の名前は板垣天使(エンジェル)。赤髪でツインテールが特長。

男の名前は板垣竜兵。天使の兄で一度兼一(我流ブルー)に倒されており、いずれ仕返ししようと企んでいる。

「ちっ!あの仮面野郎、俺の楽しみを邪魔しやがったんだ。今度会ったらヒィヒィ泣かしてやる!」

「ウチをまるでガキのように扱いやがって!絶対に許せねえ!」

「何言ってやがる。実際にガキだろうが」

「んだと!」

「止めねえか、馬鹿共!どっちみちあの我流ブルーって奴はお前らが束になっても勝てねえ。もちろんそこに俺が加わってでもだ」

天使と竜兵が言い争いを止めた男は釈迦堂刑部。過去に川神院の師範代であった男。

「師匠にそこまで言わせるなんて、一体何者なんです?」

「グゥ~・・・zzz」

ショートカットの女性は板垣亜美。天使、竜兵の姉である。

そして青髮ロングで立ちながら寝ている女性は板垣辰子。竜兵の双子の姉らしいが全く似ていない。

「奴は達人だよ。だが、ただの達人じゃねえ。裏の世界の達人さ」

「へえぇ。師匠が手も足も出なくて殺されかけたあの?」

「いやちげえ。あれとはまた別もんの達人だ。裏の世界には大きくて分けて2種類の武術家が存在する。人を殺す為の武術、殺人拳と人を活かす為の武術、活人拳がある」

「zzz・・・その我流ブルーって人はどっちの達人なの~?」

辰子が目を擦りながら聞いてくる。

「あれは活人拳だな。それもかなりのレベルだ。雰囲気もあの超人に似てやがった」

「師匠が殺人拳の奴らに止めを刺されそうになった時に助けてもらった超人の事ですか?」

「おうよ。あの『無敵超人』風林寺隼人だ。奴と出会って俺の人生が変わっちまったのよ。武術で捻くれもんが殺人拳の達人と渡り合える弟子を育てようと思っちまうんだからよ」

けけけっと笑いながら刑部は嬉しそうに話す。

「なんで師匠は戦おうとしないの~?」

「ああ?殺人拳の奴らに喰らった傷で俺はこれ以上の成長は望めねえ。それに無敵超人が俺に言ってくれたのよ。『お主には弟子を育てる才能がある』ってよ」

「まあ確かに私達をここまで強くしたのだからあながち間違いじゃないですね」

亜美の言葉にそうだろ、そうだろと子供のようにはしゃぐ刑部。だが、いきなり刑部の雰囲気が変わった。

「つうことはだ。今まで川神市にはいなかった活人拳の達人級が現れたって事はいずれ殺人拳の奴らが姿を現すってこった」

刑部の言葉に再び寝始めた一人を除いて緊張が走る。

「お前ら、明日から修行をさらにきつくすっから覚悟しておけよ!」

「今でも十分きついのにさらにきつくなんのかよ!?」

「ええ~!やだよ!めんどい!」

「師匠。ちなみにどれくらいきつくなるんです?」

「ああ?そうだな・・・基礎トレと形の反復をいつもの倍。そして我流ブルーとの組手だ!」

刑部の言葉に天使と竜兵の目が光り輝いた。

「うおおおっ、マジかよ師匠!」

「あいつと再戦できんならウチはめっちゃ頑張るぜ!」

「師匠・・・。それって我流ブルーに許可とってあるんですか?」

「許可?んなもん必要ねえ。やりたい時に襲えばいいのよ!」

「はあ・・・」

「すやすやぴーzzz」

兼一との再戦に燃える天使と竜兵。悪い顔をして笑う刑部。そんな三人を見て呆れる亜美。そして我関せずと眠る辰子であった。

こうして兼一はなぜか知らない所で不幸なフラグを立てるのであった。




すみませんm(_ _)m

とりあえず最初に謝っておきます。

出したいけど喋り方やキャラが合っているか不安な人達を出させて頂きました。

大丈夫ですかね?

心が兼一と会った時のお話も書こうかと思いましたが諦めました。

心可愛いけど残念な子それがいい!

と言う訳で、次もこれくらい早く更新出来たらいいなと思います。

感想や評価をお待ちしております!


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BATTLE.17 まゆっちのお友達作り大作戦!

こんにちは!

今回は予想以上に文字数が長くなりました!

そして、タイトル通りあの子が大活躍!?

楽しんで頂けたら幸いです。


兼一が来てから数ヶ月。川神市にも初夏の季節がやってきた。

そんな季節の朝、一人の少女、黛由紀江が機嫌よく席に座っていた。

 

「ふんふん~♪」

 

『久々の登場でオイラの機嫌上げ上げだぜ~♪』

 

何故こんなに機嫌良いのかというと今朝、島津寮で由紀江が朝ごはんを作ったのだが、それがとても美味しいと兼一が絶賛してくれた。

それだけではなく、登校中川神学院の制服が夏服に変わった。その夏服姿になった由紀江を兼一が褒めてくれたのだ。

特に意識して言ったのではなく素直にそう思ったから言った兼一なのだが、由紀江はそれでもとても嬉しかった。

由紀江は今日一日良い日であると確信していた。

 

「では一時限目の授業を始める前に皆が楽しみにしていた席替えを行います」

 

「・・・・・・えっ?」

 

『な、なんだって!?』

 

由紀江の目の前が真っ白になった。

「・・・・・・・・・」

 

『燃え尽きた。オイラとまゆっちのハートが灰になっちまったぜ』

 

結果は散々なものであった。前回は兼一と隣の席だったが、今回は兼一とは全く逆方向の席にいた。

しかも、由紀江が前で兼一が後ろと後ろを振り向かなければ見えない場所だった。

 

「まあ、くじ引きだから仕方ないよ。休み時間とか昼休みには会いに行くから」

 

「は、はい・・・」

 

『上げて落とすとか神様は残酷な事をしやがるぜ・・・』

 

「ははは。それじゃあ」

 

兼一は自分の席へと戻る。由紀江はその兼一を目で追った。

兼一が隣の席になってからはいつも一緒にいた為、いざ離れると不安が圧し掛かる。

兼一が席に着くと周りにいるクラスメイトが話しかけてくる。

そんな光景に松風が声を上げる。

 

『ま、まゆっち!お、オイラ重要な事を思い出しちまったぜ!』

 

「えっ?一体何を思い出したのですか、松風?」

 

『落ち着いて、今のまゆっちと白浜っちの状況を比べてみるんだ』

 

松風に言われて状況分析を行う由紀江。

今の由紀江は、兼一と席が離れてしまった為、一人寂しく席に座っている。

変わって兼一は他のクラスメイトと楽しそうにお話をしていた。

 

「こ、これは!?」

 

『気づいたか、まゆっち?』

 

「は、はい・・・。私、考えてみたらこのクラスで兼一さん以外にお友達がいません・・・」

 

がくりと頭を俯かせる由紀江。由紀江は忘れていたのだ。自分が山を降りてまで川神学園に入学した理由を。友達100人計画の事を。

 

「黛由紀江、一生の不覚です。これではお父様に会わす顔がありません!」

 

『まゆっちは現状で満足し、白浜っちに甘えっちまった。・・・でも、今こそ立ち上がる時!』

 

「は、はい!松風!私やります!」

 

両拳に力を込めて気合をいれる由紀江だった。

 

「ま、まずはどうしましょうか、松風?」

 

『そうだな~。とりあえず前後左右の席はキープしたい。ここはまゆっちの笑顔を振りまこうぜ』

 

「わ、わかりました!黛由紀江、行きます!」

 

由紀江は前、後ろ、左とクラスメイトに笑顔で挨拶するが、顔をあらぬ方向に向かれてしまった。

由紀江の笑顔は引きつって今にも襲い掛かりそうな怖い顔をしていた。

 

「だ、ダメです・・・。もうお終いです」

 

『諦めるのは早いぞ、まゆっち。まだ右が残ってるがな!』

 

「は、はい!」

 

決死の覚悟で右の席を見るとそこには前を向いてぼーっとしている女の子がいた。

 

「・・・・・・」

 

「・・・!」

 

由紀江の視線に気づいた女の子は顔を向けた。

すかさず、由紀江は女の子に笑顔を向けた。

 

「(に、にごー!)」

 

「(ニコッ♪)」

 

「!!」

 

明らかに質が違う笑顔で返された由紀江は感動を覚えた。

この子なら友達になってくれるかもと思い、再び声をかけようと動き出そうとする。

 

「っ!もう!なにやってんのよ!!」

 

「す、すみません!?」

 

いきなり女の子が席を立って怒声を上げた。

由紀江は反射的に謝ってしまい固まってしまう。

 

「はっ!・・・す、すみません!トイレ行ってきます!」

 

女の子は逃げるようにして教室から飛び出してしまった。

その後、帰ってきたは良いが機嫌が悪いのか雰囲気が暗かった。結局、由紀江は女の子に話しかける事が出来ず、友達作りは失敗に終わるのであった。

時は流れ放課後。

兼一と由紀江は一緒に下校していた。

 

「ううっ・・・。私には友達を作る才能がないのでしょうか?」

 

「まあまあ、そういう時もあるよ」

 

落ち込む由紀江を慰める兼一。由紀江は涙目で兼一に質問した。

 

「どうしたら私は、兼一さんみたいに友達をたくさん出来るのでしょうか?」

 

「うーん・・・。僕の実体験だけど、自分の気持ちに真っ直ぐでいる事かな?」

 

「自分の気持ちに真っ直ぐ?」

 

「自分を偽ってっちゃ本当の友達は出来ないから。自分の気持ちを真っ直ぐに伝えればきっと自然と友達は出来るよ。頑張ってね」

 

「は、はい!頑張ります!」

 

「おーい!まゆっちに兼一さん!」

 

兼一が由紀江を励ましていると大和が声をかけてきた。

 

「やあ、大和くん。今帰り?」

 

「はい。2人で何してたんですか?何か話してたみたいですけど?」

 

「あっ、その・・・」

 

オドオドと返事がまとまらない由紀江を見て大和はある程度把握できた。

 

「なるほど。まゆっちの友達作りで悩んでる訳だな」

 

「あう・・・」

 

「流石、大和くん。鋭い観察眼だね」

 

「伊達に軍師を名乗っていませんからね。よし!ここは俺も力を貸すぜ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ああ!同じファミリーだからな」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

こうして、軍師直江大和の力が加わり、由紀江の友達作りが始まった。

翌日の放課後。

兼一たちはとあるファミレスにいた。

そして兼一たちの視線の先には由紀江が昨日好感も持った女の子がいた。

女の子の名前は大和田伊予。

兼一、由紀江と同じ1年C組で、地方転入組みである。

そして大和の独自の情報ネットワークで伊予が良くここのファミレスにいることが分かった。

「ここに何度も通って何度も偶然を装って接近するのはどうかな?同じ店をよく利用することでまず印象付ける」

「な、なるほど」

「まあ、それはさておき・・・」

大和はゆっくりと振り向くそこには兼一がいるのは良しとして___

「なんで君ら全員来てるの?」

風間ファミリー全員が集結していた。

「大和が現れるところ私はどこでも現れる!」(京

「まゆっちが無謀な挑戦をすると聞いて」(モロ

「大和が奢ってくれると聞いて!」(百代

「聞いて!」(翔一

「ドリンクバーって最高の文化よね」(一子

「ぶっちゃけると野次馬だ!」(岳人

「自分は純粋に応援だ。野次馬じゃないぞ。本当だぞ!」(クリス」

「・・・別に良いけど目立たないで。お願い。後、奢りません」

はあ、と溜息を吐く大和。

「えーっ!なあなあ、兼一さんは奢ってくれるだろ?」

「えっ?」

百代がいきなりターゲットを兼一に変えてきた。兼一も流石に予想外で呆けてしまう。

そんな時に事件が起きた。

「おい、ねーちゃん!なにしやがんだこら!」

「ひっ!?」

伊予が不良たちに絡まれている。

兼一は見ていなかったが、伊予が急に両腕を広げながら立ち上がった所を不良にぶつかってしまったようだ。

「あ、あの・・・ごめんなさい」

「ごめんですんだら警察はいらねえんだよこら!それに何イヤホン付けながら話してやがる」

「ああっ!」

不良は伊予からイヤホンを奪い取り、何を聞いているのか気になったのかイヤホンを付けて聞いてみた。

「野球中継?七浜ベイかよ。だっせえ!」

「むっ」

不良の言葉に顔色を変える伊予。

伊予は親の影響で七浜ベイスターズの大ファンなのだ。しかもその結果によって機嫌が変わってしまう程である。

「きゃあ!?」

「っ!!」

伊予の態度が気に障ったのか不良は乱暴に叩き倒した。それを見た由紀江は目を鋭くさせた。

「おいおい!そっちからぶつかったくせになんだその態度は!!屑チームのファンは屑だなおい!」

「わ、私はいいですけど七浜を悪く言わないでください」

自分よりも七浜ベイを優先する伊予はファンの鏡と言えるだろう。しかし、そんなことはどうでもいい不良は伊予の腕を掴んだ。

「ちょっと付き合えや。けっこう好みのタイプなんだぜ?」

「ひいっ!?」

伊予は恐怖で反抗出来ず不良に連れて行かれそうになった次の瞬間だった。

「はっ!」

「っ!?」

「えっ!?」

由紀江が不良に軽い当て身をして伊予を救いだした。

「な、なんだおめぇ?」

「黛さん!?」

「あ、謝ったのに乱暴はダメです。それに・・・ひ、人の大事なものを馬鹿にしたらいけません!」

由紀江は不良達に立ち向かう。不良はいきなり現れた由紀江に睨みをきかせた。

「おうゴルァ!!」

「なんだおめえ!!」

「喧嘩売ってんのか!!」

「なんだはお前達だろ?」

「ああん!・・・って、てめえは川神百代!?」

百代が現れたことで不良達が動揺する。

「あいつら、前にモモ先輩が人間テトリスした奴らじゃねえか?」

「もしかして、モモ先輩にリベンジしにきたのかな?」

「お、臆するな!俺達にはあの人達がいる!」

動揺する不良たちだが何かあるのか自信満々な表情に変えた。

「そ、そうだったな!おい、川神百代!今日がてめえの年貢の納め時だ!」

「・・・ふん。まあ良いだろう。ここでは周りに迷惑がかかる。場所を移動しよう」

百代が歩き出す。それに付いて行く不良たち。そこで兼一はある事に気付く。

「(やばい。この人達僕が介抱した奴らじゃん!と言うことは僕の顔は見られている訳で・・・)」

非常にやばい。これで不良達が慌て出したら百代や風間ファミリーが兼一を怪しむだろう。

「ん?」

「!?・・・ってあれ?」

一人の不良と兼一の目が合う。しかし兼一を無視してそのまま百代の後に付いて行った。

「も、もしかして忘れられてる?」

確かに殆どの不良は気絶していた。しかし、今の不良は兼一と対面している。もしかしたら兼一よりも長老の方がインパクトがありすぎて忘れ去られてしまったのかもしれない。

「助かったけど・・・複雑・・・」

ほっとしたが何とも言えない兼一はみんなの後に付いて行くのであった。

「さてここで始めようか?」

多馬川にやってきた一同。ここで決闘を始めるそうだ。

「へへへ、その余裕もここまでだぜ。橘の姉御!お願いします!」

「おーう出番かい?」

「な!?」

全長2メートル以上で身体が筋肉で覆われている老婆が現れた。風間ファミリーの面々が驚愕の表情をする。

「聞いて驚け!このお人はかの武道四天王の一人、橘天衣!川神百代を倒すべく雇った用心棒よ!」

「ぶ、武道四天王!?」

「あれが日本最強の一人だと言うのか!」

老婆の紹介に驚愕する一子とクリス。しかし、百代と由紀江の反応が違っていた。

「どうしたの姉さん?今にも大笑いしそうな顔をして」

「いやな、おかしな話なんだが実は・・・私は橘天衣と戦った事があるんだ」

「そ、そうよね!あたしの勘違いかと思ったわ!」

「つまり何が言いたいかというと、おまえのような天衣がいるか!第一、天衣は四天王以外の誰かにやられてもう四天王ではない」

百代の明かされた事実に不良達が唖然となる。そして偽天衣に視線を向けた。

「ちょ、ちょっと聞いてないっすよ!」

「あんたニセモンかヨ!?」

「ええい黙れ!強さは本物じゃい!こいつを倒せばいいんじゃろ!」

「ふん、まあいいだろう。相手してやろう」

「ま、待って下さいモモ先輩」

偽天衣の相手をしようとするが由紀江がそれを止める。

「最初に私のお友達(候補)が絡まれたので・・・その・・・この勝負・・・私にやらせてくださいっ!」

「・・・良いだろう。だが条件がある。力を見せろ。『お前が倒した強敵』を騙り侮辱した返礼も含めてぶちのめせ」

「モモ先輩・・・わかりました。ありがとうございます!そういうわけですので」

由紀江はいつも所持している刀を取り出して不良達の前に立った。

「川神学園1年C組黛由紀江。お相手します!」

「はあ!?俺らは川神百代に用があるんだよ!邪魔すんな!」

「で、ですよね・・・」

「ああ、そっちはご不満か。じゃあ、こうしよう。このまゆまゆに勝てれば私に勝ったとしてかまわない」

「な、なんだと?」

百代の言葉に不良達が円になって集まった。そして不良達は好条件に手を出さない訳はなかった。

「上等だ!あの女に勝てば最強の看板はこちらのもんだ!」

「ふっ・・・。では立ち会いは私自ら務めよう。それでは・・・尋常に・・・・・・はじめ!!」

百代の掛け声で由紀江対偽天衣の戦いが始まった。最初に動き出したのは偽天衣であった

「死ねえ!!」

偽天衣は懐に仕込んでいた暗器を由紀江に投げつけた。

「いきなり暗器!?」

「見た目に反してセコイ!」

「威力は十分ですが・・・」

「!?」

偽天衣の暗器はすべて叩き落とされていた。刀を抜刀した由紀江によって

「暗器を使うときは殺気を隠さなければ無意味ですよ」

「ぐっ!だが暗器だけが実力じゃないよ!喰らえ!」

偽天衣は拳を由紀江に繰り出す。だが、簡単に避けられ由紀江はそのまま懐に潜り込んだ。

「せいっ!!」

「へげっ!?」

「懐に潜り込んだ由紀江はそのまま刀を一閃。偽天衣は吹き飛ばされてしまう。そのダメージは強大で偽天衣が立ち上がることはなかった。

「すげえ!一撃だ!」

「あの巨体を・・・やるわね、まゆっち!」

「やれやれ。さあ、お前達の用心棒は倒された訳だが・・・ん?」

盛り上がる風間ファミリー達だが何故が不良たちにはまだ余裕が

あった。

「・・・武道四天王の橘が偽物だったのは驚いたが俺達にはまだ切り札がある!!」

「なに?」

「その切り札はな。俺ら不良の世界で史上最強と言われ、数年前には最大の不良グループを壊滅させた男だ!」

「『白浜』兄貴!お願いしやす!」

「お前達、待たせたな」

不良達に呼ばれて現れたのは巨大な男。さっきの偽天衣よりは小柄だがその体つきはその場にいる人たちよりも大きかった。

そして次に不良の言った言葉に兼一達は驚愕した。

「このお方は史上最強の不良『白浜兼一』さんだ!!」

「!?」

まさかの自分の偽者が現れた事に戸惑う兼一。

兼一は自分の名を騙る男をもう一度確認してみた。

その男は身長2メートル近くあり、腕や足はまるで丸太のように太い筋肉、顔はかなり厳つい。

「(僕とは正反対の人物じゃないか!?)」

自分の姿がどう間違えたらこのように伝わってしまうのだろうと思い絶望する兼一

「兼一さんと同姓同名ですね?」

「え!あっ、うん・・・凄い偶然もあったもんだね?」

「どうしたの、兼一さん?凄い汗だけど?」

「き、気にしないで」

焦る兼一に頭を傾げる大和と一子。そんな事は気にせず不良が偽兼一の凄さを自慢し始めた。

「このお方はな!ボクシング・レスリング・少林寺拳法・剣道と様々な武術を学んでおり、当時最強の不良集団『ラグナレク』を暇つぶしという理由で壊滅させた伝説の男なんだよ!」

「(ちょっと待って!その情報全然違うんだけど!?)」

兼一の習っている武術が一つもかすっておらず、ラグナレクを壊滅させたのだってそんなくだらない理由ではない

「へえ。あの『ラグナレク』か」

「姉さん、知ってるの?」

「ああ。なかなかの武闘派集団と聞いた事がある。だが、所詮不良に毛が生えた程度だろうと思って気にしてなかったな」

そういう百代だったが少し興味を持ったのか少し笑みを浮かべている。

「いいだろう。お前の相手はこの私がしてやろう」

「へっ、八つ裂きにしてやるよ!」

百代と偽兼一が互いに睨み合って構えをとった。

「待ってください」

「むっ?」

しかし、またもや由紀江に止められてしまう。

百代からでは俯いている由紀江の表情はわからなかったが恐らく偽天衣のように変わってほしいと言いにきたのだろうと予測した。

「まゆまゆ。流石に二度も譲る気はないぞ。これ以上お預けされたら___うっ!?」

「姉さん?どうした・・・っ!?」

喋っている途中で止まってしまう百代。しかも何歩か後ずさり顔が青ざめていた。

その様子を見て大和が百代の後ろから覗き込むように由紀江を見た。

その時、何故百代がそうなったのかを瞬時に理解した。

「なになに?どうしたの?___あわわわっ!?」(一子

「どうしたんだよ?___うおっ!?」(岳人

「皆、まゆっちが___ひっ!?」(クリス

「・・・・・・・・・」(京

「・・・・・・・・・」(モロ

「大和田さん。ちょっとごめんね?」

「えっ?白浜さん?」

兼一は伊予の目を手で覆って由紀江を見えないようにした。なぜならば今の由紀江の顔は般若であった。

いつも怖がられていた引きついた笑顔などまだ可愛いものだと思える程である。

そんな由紀江の顔を伊予に見せたら大変な事になる。そう思った兼一は目隠しを実行したのだ。

由紀江は今までにないほどの怒りを感じていたのだ。

初めての友達である兼一の名を騙り、ましてや偉そうにこちらを見下している。

そんな本来の兼一と正反対な事をしている男に我慢が出来なかったのだ。

「わ、わかった。奴もまゆまゆに任せよう・・・」

「ありがとうございます・・・」

誰もが怖がる由紀江の顔は百代の許可を得たと同時になくなった。その代わり、無表情で目にハイライトが消えている。

「お待たせ致しました。引き続き私がお相手致します」

「別にいいぜ。どっちみちお前ら全員潰すつもりだったからな」

「ちっ、この下衆が・・・」

「大和田さん。耳を塞いでもらってもいいかな?」

「あ、はい」

完全に怒りに性格が変わってるなと思った兼一は伊予に何も聞こえないように耳を塞いでもらうように頼んだ。

「いつでもどうぞ・・・」

「んじゃ、遠慮なく」

偽兼一はステップを踏んで見た目にそぐわない華麗なフットワークを見せる。

「や、奴はどうやらボクシング主体のようだな」

「そ、そうみたいね。あっ、タックルを仕掛けてきたわ!」

まだ由紀江の顔の事で動揺していたが、決闘が開始されたことでなんとか意識をそちらに移動させた。

偽兼一は低い姿勢からのタックルで由紀江を転ばせに行くが由紀江はそれをかわす。

「よく避けたな!なら、これでどうだ!」

タックルの勢いを殺さず、そのまま蹴りを繰り出してくる。しかし、由紀江は冷静だった。

「遅い!」

「ちっ!ぬおっ!?」

由紀江は蹴りをいなして懐に潜り込む。

偽兼一は先程の偽天衣のように刀で同じところにぶつけてくると踏み、ガードを固める

しかし由紀江は足払いを行って偽兼一を転ばせた。

そして、偽兼一の首筋に刀を突きつけた。

「な、なかなかやるじゃねえか。この史上最強の不良、白浜兼一様相手n___」

「黙りなさい!この偽者!!」

今までに聞いた事のない大声で偽兼一を叱咤する由紀江。偽兼一はその由紀江の怒気に飲まれ何も言い返せないでいる。

「私は一度だけ本物の白浜兼一さんと出会い、共に修行をした事もあります!」

さりげなく一度だけとすぐ後ろにいる兼一の事ではないと主張している辺り由紀江はまだ冷静である事がわかる。

由紀江の言葉に周りがざわめき出すがそんな事関係なしに由紀江は言葉を続けた。

「それに兼一さんが習っている武術は、空手、柔術、中国拳法、ムエタイ、武器術。ラグナレクを壊滅させたのは友を救う為と言っておりました。兼一さんはあなたみたいな下衆ではなく、心優しいお人なのです!!」

由紀江の熱弁に不良たちがざわめき出した。

「おいおい。あの人も偽者なのか?」

「いや、そんな筈は・・・」

「でもあの女が言ってる事も本当っぽいし・・・」

「認めて謝罪して下さい!この偽物!」

 

「・・・わ、分かった。認めるだから___」

 

由紀江の気迫に偽兼一は自分が偽物だと認め、土下座の姿勢に入ろうとしたその時だった。

 

「これでも喰らえ!」

 

「あっ!あいつ砂利を投げつけた!」

 

「どこまで往生際が悪い奴なんだ!」

 

「はあっ!!」

 

しかし、偽兼一の投げた砂利は由紀江の気合いによって吹き飛ばされる。

由紀江はすかさず攻撃を仕掛けた。

 

「十二斬!」

 

「ぎゃああああぁぁぁぁ!!?」

 

由紀江の十二もの斬撃が偽兼一に襲いかかり全てが直撃した。

偽兼一は耐えられる筈もなく、吹き飛ばされて意識を失った。

 

「け、兼一の兄貴!?」

「あいつは本物だと思ってたのに!」

「お、お前ら!に、逃げ___」

 

「そんなこと言うなよ。私と遊ぼうじゃないか?」

 

「「「!!??」」」

 

偽兼一がやられた事で退散しようとする不良たちだったがそれを百代が許さなかった。

 

「今日は2度もお預けされてムシャクシャしてるから覚悟しておけよ?」

 

「「「ぎゃああああぁぁぁぁ!!??」」」

 

「・・・・・・・・・」

 

未だに怖い顔をしていて誰も話しかけられない状態の由紀江に兼一が動いた。

 

「まゆっち」

 

「!け、兼一さ___はゔっ!?」

 

由紀江は視線を向けると兼一に両手で顏を挟まれた。

 

「顔が怖いよ。でも、僕の代わりに偽物を倒してくれたことは嬉しかった。ありがとう」

 

周りには聞こえないように小さな声でお礼をする兼一に由紀江は顔を赤らめる

 

「それにその顔じゃ今から行う事に失敗しちゃうからね」

 

「あっ・・・」

 

もう大丈夫だろうと兼一は両手を話すと由紀江にある方向を見させる。

そこには伊予が心配そうにこちらを見ている

 

由紀江は兼一の目を見ると、兼一は黙って頷く。由紀江はそれを見て覚悟を決め歩き出した。

 

「大和田伊予さん!わ、わわわわ私とお友達になって下さい!」

 

「・・・・・・」

 

覚悟を決めて告白した由紀江。少し唖然とした伊予であったは笑顔で答えた

 

「うん!宜しくね、黛さん!」

 

川神学園に入学して数ヶ月。風間ファミリーと兼一以外に初めての友達が出来た瞬間であった。

 




如何でしょうか?

漫画の流れで書いてみました。

まあ、漫画の流れだと体育祭が先なんですが私の都合でこっちを先にした次第です!

次はどうしようかな?

まだ考え中ですが早く更新出来るように頑張ります!

感想や評価もお待ちしております!
宜しくお願いします!


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BATTLE.18 激闘!水上体育祭!! 前編

久々に投稿出来ました。

言い訳ですが仕事中に小説書いてるのがバレて危うくクビになりそうになったので書くのは押さえてました。

仕事に影響出ないようにこれからも投稿頑張りたいと思いますので宜しくお願いします。


今日は川神学園の体育祭。

川神学園の体育祭は夏に行われ、場所は年によって変わる。

今年の場所は海。

生徒達、主に男子生徒のテンションが鰻登りであるのだが___

 

「水着だ!女子の・・・スク水だあぁぁぁ!!」

 

「男子以上に盛り上がってるね、姉さん・・・」

 

とても嬉しそうに女子達を見る百代に大和が引いた目で話しかける。

 

「まあ、ジジイに参加を制限されているからな。こういう時に楽しまないとやっていけないからな」

 

「姉さんが出ると戦力バランスが崩壊するからね。ところで朝から気になってたんだけど・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

大和が視線を変えるとその場所には元気で明るいのが取得な一子がいた。

百代とはまた逆のベクトルで大盛り上がりしている筈の一子がぼーっと呆けていた。

 

「おい、犬。さっきからどうしたんだ?犬らしくないぞ」

 

「うん・・・。実はね、見ちゃったのよ・・・」

 

「なにを?」

 

「我流ブルーさんの・・・あうぅぅ・・・」

 

何かを言おうとした一子だったが顔を赤らめて黙り込んでしまう。

しかし、大和は最初に言った言葉を聞き逃さなかった。

 

「ワン子!我流ブルーのなにを見たんだ?」

 

「え、えっと・・・」

 

正体不明の我流ブルーの情報が手に入るかもしれないと大和は一子に言い寄った。

「が、我流ブルーさんの・・・」

 

「我流ブルーの?」

「は、裸を見ちゃったのよ!」

 

「はぁ?えっとそれは素顔込みで?」

「ううん。顔はいつもの仮面を付けてたわ」

「・・・・・・」

 

赤らめた顔を手で覆い隠して喋った一子の情報に大和は思わず頭を悩ませてしまう。どうやら望んだ情報とは違っていたようだ。

 

「あっ!裸と言っても上半身よ!誤解しないでよね!!」

 

「そう言う事じゃねえし、紛らわしいわ!」

 

「今さら男の上半身を見たくらいで何を動じているの?川神院の人達で見慣れているじゃない?」

 

「そ、そうなんだけど・・・。我流ブルーさんの身体は違うのよ・・・」

 

京の言う通り、修行僧である男の人達で上半身の裸ぐらい何度も見てきたであろう。

しかし、一子は我流ブルーもとい兼一の上半身は違った。

ちなみに何故一子がそんな場面に出くわしたのか、それは兼一の油断であった。

 

夏で暑くなり、修行で汗をかいた兼一は水を浴びるため河原に入った。

その後、河原からでた兼一と日課になった修行の見学に来た一子と出くわしてしまったのだ。

上着だけじゃなく、仮面も外してなかったのは不幸中の幸いと言える。

 

「裸を見ちゃった私はすぐに逃げ出しちゃったんだけど、我流ブルーさんの身体が目に焼きついちゃって・・・」

 

「そ、それほど凄い身体だったんだね」

 

「ということは、この俺様並みに鍛え抜かれた身体だったんだろうな!」

 

岳人の言葉に一子は首を振って否定をする。

 

「我流ブルーさんの身体は普通に鍛えて大きくなった筋肉とは違っていたわ。なんと言うか・・・戦う為に無駄な筋肉がない、筋肉を限界まで絞りあげた筋肉・・・」

 

「なにそれ?一体どういう筋肉なのさ?」

 

「ていうか。この俺様より鍛え上げられた筋肉なんてありえねえだろ!」

 

「そんな事言われたって私だって分からないわよ・・・。あんな身体見たの初めてなんだから!」

 

言い寄るモロと岳人に一子は顔を真っ赤にしてそう答える。

そんな三人を見て大和は結局我流ブルーの情報を得る事が出来ず落胆するのであった。

「あ、暑い・・・」

 

「だ、大丈夫ですか兼一さん?」

 

大和達が盛り上がっている中、兼一は夏の暑さに参っていた

 

「というか、そのジャージを脱げば良いんじゃないですか?」

 

「いや、それは出来ないんだよ・・・」

 

由紀江と友達になった伊予がジャージを着た兼一にそう言うが兼一はそれを拒否した。

兼一の身体は師匠達の手によって改造もとい鍛え上げられた結果、その身体は一般人にとってひいてしまう程のものになったのだ

 

「僕は直射日光に弱いんだ」

「そうなんですか?それは大変ですね」

 

「うん・・・(今なら夏くんの気持ちがよく分かる)」

 

兼一は親友でライバルである谷本夏の気持ちをよく理解した瞬間であった。

 

「あっ!次は私達が出る競技ですね!」

 

「うん!行こう、まゆっち、兼一さん!」

 

楽しそうに歩き出す由紀江と伊予に兼一も付いて行った。

百代と同じく普通に出たら戦力バランスを崩壊させる兼一だが今から出る競技は問題なかった。

 

「二人三脚ならぬ三人四脚なんてよく考えたなあ」

 

「これならいくら片方が凄くても片方に合わせなければなりませんから平等に戦う事が出来ます」

 

「頑張ろうね!」

 

「ちょっと待ちなさい」

 

準備している中、兼一達に誰かが話しかけてきた。その人物とは1年S組の小杉武蔵であった。

 

「武蔵さん、久しぶり。会いに行っても逃げ出しちゃうから心配してたんだ」

 

「べ、別に逃げたりしてないわ!あなたが来た時にちょうど用事があっただけよ!」

 

顔を真っ赤にして怒る小杉は兼一に指さした。

 

「次の競技に出るのよね?そこで私と勝負しなさい!」

 

「勝負?」

 

「この競技で負けた方が勝った方の言う事を聞く。如何かしら?」

 

「・・・その勝負は僕と武蔵さんの話であって、ペアの子は関係ないよね?」

 

兼一の質問に小杉は笑みを浮かべて答えた。

 

「もちろん。これは私と白浜さんのみのお話。故に言う事を言うのも従うのも私か白浜さんのみ!プレミアムに安心なさい!」

 

「わかった」

 

「兼一さん!?」

 

勝負を了承する兼一に驚愕する由紀江

 

「い、良いんですか白浜さん?」

 

「大丈夫。さあ行こう」

 

心配する伊予に兼一は笑顔で答えて競技の準備へと移動する。

そんな兼一の様子を見て小杉は怪しい笑みを浮かべていた。

そして兼一達の順番が来る。

左に由紀江、右に伊予、そして真ん中に兼一という配置だった。

 

「2人とも、僕と武蔵さんの勝負は気にしないで楽しくやろう」

 

「で、ですが・・・」

 

「うん・・・」

 

『位置について~』

 

笑顔でそういう兼一だが由紀江と伊予は不安そうな顔で兼一を見る。何かを言いたそうだが無情にも開始の合図が出された

 

『スタート!』

 

「さあ、プレミアムに華麗な走りを見なさい!」

 

合図と共に素晴らしいスタートをした小杉ペア。兼一達は他のペア達よりも少し遅れて走り出した。

 

「1、2!1、2!」

「1、2!1、2!」

「いっ、1、2!1、2!」

 

兼一達は声を合わして順調に進んでいく。しかし、小杉達とはどんどん離されていく。

 

「これは性能の差ね!ペアが無能だと苦労するわね!!」

 

「むっ!1、2!!1、2!!!」

 

「あっ!大和田さん!いきなりペースを上げたら!?」

 

「きゃっ!?」

 

伊予が急にペースを上げたせいで態勢を崩して倒れてしまう

 

「・・・・・・」

 

「大和田さん?」

 

「伊予ちゃん?」

 

「ごめんなさい・・・」

 

俯きながら謝りだした伊予に戸惑う兼一。その間にも小杉や他のペア達

追い越していく

 

「せっかく今日の為に練習してきたのに・・・私のせいで足を引っ張っちゃって・・・。それに白浜さんにも迷惑を・・・」

 

「そんな、迷惑なんて・・・」

 

「初めての体育祭だったのにな・・・」

 

「!!」

 

涙目になっている伊予を見て兼一は衝撃を受けた。

兼一はこの体育祭にやる気を出せないでいた。二度目の高校生活に体育祭。普通の体育祭ではないがそれでもやる気は出なかった。

 

しかし、由紀江と伊予は違った。基本負けず嫌いな伊予。負けることは悔しい。

初めての体育祭は良い思い出にしてあげたい。兼一は徐に由紀江を見る。由紀江は微笑みながら頷いた。

 

「大和田さん。諦めるのはまだ早いよ」

 

「えっ?」

 

「まゆっち、大和田さん、協力お願いね?」

 

「はい!」

 

「???」

 

兼一は伊予を立たせて作戦を告げる。勝つための作戦を。

「後、もう少しでプレミアムにゴールよ!そして白浜さんに・・・」

 

『おおっと!!下位グループの選手が凄い追い上げを見せているぞ!!』

 

「なんですって!?一体どこが・・・っ!?」

 

「「うおおおおおおおっ」」

 

「ひゃあぁぁぁ!?」

 

後ろを振り向くとそこには凄い早さで小杉のすぐ後ろまで追い上げている兼一達。

その様子は異様な光景で兼一と由紀江が走り、2人に比べてひ弱な伊予は兼一に叫びながらしがみついていた。

 

『これは凄い!一人が走らずにしがみつく事で三人四脚ではなく二人三脚の要領で走っております!ちなみにこれは反則ではありません!なぜなら、片方に負荷が大きく掛かってしまう為、逆にお奨めしない方法です!!』

 

「ば、馬鹿な!?」

 

「「うおおおおおおおっ!!」」

 

『ゴール!一位は序盤で転倒した白浜、黛、大和田ペアです!まさかの大逆転勝利だ!』

 

「そ、そんな・・・」

 

兼一達の後に続いてゴールした小杉は逆転負けという事実に愕然としていた

 

「やりましたね、兼一さん!」

 

「うん!大和田さんもよく頑張ったね!」

 

「えっ、でも私はただ白浜さんにしがみついてただけだし・・・」

 

「ううん、それは違うよ。大和田さんの勝ちたいという気持ちが、あのスピードでも最後までしがみつくことが出来て、僕の気持ちをも動かした。これは大和田さんが居たからこそ勝てたんだ」

 

「し、白浜さん・・・ありがとうございます!」

 

涙目でお礼を言う伊予。

今度の涙は悔し涙ではなく嬉し涙なのは伊予の満面の笑みを見ればすぐに分かった。

 

「さて、僕らの勝ちな訳だけど武蔵さん。僕は別にさっきの話はなかった事にしてもいいけど?」

 

「ば、馬鹿にしないで!私は武士娘の端くれ。一度交わした、自分が言った約束をなかったことにするなどありえないわ!」

 

「そう・・・。それじゃあ早速だけど僕のお願い聞いてもらえるかな?」

 

「い、良いですとも!煮るなり焼くなり好きにすれば良いわ!」

 

一瞬、怯えた表情を見せたがすぐに胸を張って兼一を睨みつける。

兼一は小杉に内容を伝える。

 

「さっき言っていたペアが無能だという発言を撤回して謝って欲しい!」

 

「・・・なっ!?」

 

兼一のお願いに目を見開きながら驚く小杉。構わず兼一は言葉を続けた

 

「武蔵さん。君は周りを蔑んで一番になる事に執着しているみたいだけど、それじゃあ君が本当に望む一番にはなれない」

 

「くっ・・・」

 

兼一の言葉に小杉は何も言い返せず逃げ出してしまう。

その行動に兼一はただ見ている事しか出来ず、この一件で少しは変わってくれる事を願いながら

「川神戦役。第4戦を行います!!」

 

アナウンスと共に生徒達の大歓声が響き渡る。

その渦中の中心になぜか兼一の姿があった

 

「おおっ!兼一さんじゃねえか!」

 

「翔一くん!」

 

兼一の前に翔一が現れて話しかける

 

「兼一さんと勝負か!悪いけど手加減は出来ねえぜ!大和の命運がかかってるからな!」

 

現在、翔一のクラスである2年F組は2年S組と川神戦役を行なっていた。

1戦はビーチバレー、2戦は女装水着コンテスト、3戦は巨大棒倒し。

戦績は1勝2敗。

勝てば相手のクラスの生徒を引き抜くことが出来る川神戦役でS組は大和を選んでいた。

翔一は大和を救い出す為、気合いが入る。

そして4戦目は水上徒競走。海面に浮いた足場を渡って行く競技である

この競技は川神戦役とは関係ないクラスも参加する事が出来るので兼一も参加していたのだが、まさかの戦役が行われる番で当たってしまったのだ

 

「うん。頑張ってね、翔一くん。僕も全力で頑張るよ」

 

「おう!」

 

「ふふふっ!そんな余裕ぶっているのも今のうちだ!このS組にして陸上部の斎藤が相手だからな!」

 

「・・・翔一くん、お友達?」

 

「いや、知らん」

 

「そ、そうなんだ」

 

兼一の質問にきっぱりと答える。その反応に陸上部の斎藤の怒りを買った。

 

「き、貴様ら~~・・・」

 

「えっ?僕も!?」

 

その怒りは何故か兼一にも向けられてしまう。そこで準備の声がかけられる。

兼一は嫌な予感を感じながらもスタート地点に着いた

 

『位置について~!よーい、スタート!!』

 

「うらうらうらうら!行くぜ!!」

 

合図と共に抜け出したのは翔一だった。

まるで風のように駆け出す。

そんな光景を見て翔一のぶっちぎりの一位で決まると生徒達は思われていた。

 

『おおっと!風間選手の後ろを誰かが付いて行ってるぞ!!』

 

「なんだと!?」

 

翔一はちらっと後ろを見るとそこには兼一の姿があった

 

「言ったでしょ?僕も全力で頑張るってね!」

 

「へっ!良いねぇ、燃えてきた!」

 

翔一がさらにスピードを上げる。それと同時に兼一も付いて行く。ちなみに兼一はもちろん全力ではない。

周りを盛り上げる為、そして少しでも自分のクラスに貢献する為に百代に目につかない程度で力を出していた。

 

『一位はこの2人に絞られました!果たしてどちらが勝つのでしょうか!?』

 

「俺が一番だああああぁぁぁぁ!」

 

「・・・・・・!?」

 

ゴールまで残り1メートル。そこで何故か兼一は反転して逆方向に走り出した。

 

『ゴール!!激闘を制したのは2年F組、風間翔一選手だ!!』

 

「な、なにしてんだよ、兼一さん!?急に反転なんかし___っ!?」

 

「た、助けてくれ!!??」

 

ゴールした翔一が兼一の行動に驚いて振り向くと、選手の一人だった陸上部の斎藤が海に落ちて溺れていたのだ。

兼一と翔一の接戦に全員が目を奪われて誰も気づかなかったのだが、兼一だけが後ろの異変に気付き動き出したのだ。

 

「大丈夫か!この手に掴まれ!」

 

兼一が陸上部の斎藤に手を伸ばす。しかし、兼一は気づけなかった。

手を差し伸べる兼一を見て笑うその顔に

 

「落ちやがれ!この糞野郎!」

 

「えっ!?」

 

兼一の手を掴んだ陸上部の斎藤はそのまま兼一を海へと引きずり込んだ。

引きずり落とされたことによって水しぶきが舞う。

その間に陸上部の斎藤や他の選手達はゴールへと走り込む。

 

「ぶはっ!・・・あれ?」

 

海に引きずり落とされた兼一は海面から顔を出すと写った光景に唖然としてしまう。

それは兼一以外の全選手がゴールしてしまったいたのだ。

 

「・・・・・・」

 

兼一は黙り込みながら浮いた足場へと登ってゴールへと走った。

せめてゴールはしようと考えた兼一。同じ組の人達からの罵声を覚悟しながら____

「「「うおおおおぉぉぉぉ!!!!」」」

「うえっ!?」

 

しかし、兼一が浴びたのは罵声ではなく大歓声であった。

予想外の出来ごとに唖然とする兼一。

 

『今、目先のゴールよりもはるか後ろにいた溺れた人の救助を優先したヒーローがゴールしました。それは演技でしたがそれでも助けに行った白浜兼一さんに大きな拍手をお願いします!!』

 

「「「わああああぁぁぁ!!!!」」」

 

アナウンスの声と同時に再び歓声が沸いた。

 

「え、えっ!?なにがどうなってるの?」

 

「なにって、兼一さんの行動にここの生徒が感動したんだよ」

 

「翔一くん?感動って、何を?」

 

「何って・・・。兼一さん、案外面白い人なんだな!気に入ったぜ!」

 

「は、はあ?」

 

理由は分からないが翔一に気に入られた兼一。

一方、兼一を騙した陸上部の斎藤はと言うと___

 

「ぐはっ!?」

 

「この屑めが!よくも兼一くんに酷い事してくれたな!成敗してくれる!」

 

心が陸上部の斎藤を投げ飛ばす。心はS組の勝利なんかよりも兼一を騙した事が許せないでいた。

 

「あずみ!S組の誇りを忘れたこやつにお灸を据えてやれ!何より、我が友を騙し陥れた罪をつぐなってもらうぞ!」

 

「かしこまりました!英雄様!!」

 

心と同じように陸上部の斎藤の行動は英雄の怒りを買ってしまった。

心に投げ飛ばされた陸上部の斎藤の頭を鷲掴みにしたあずみは森の方へと引きずり始めた。

 

「テメェ、英雄様の友人に手を出したんだ。覚悟は出来てんだろうな?」

 

「ひ、ひい!?」

 

「それと・・・あれを酷い目に合わせて良いのはアタイだけだ。それをその身を持って教えてやるから覚悟しな・・・」

 

「ぎ、ぎゃああああぁぁぁぁ!?」

この後、陸上部の斎藤の姿を見た者は誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ・・・」

 

体育祭も終盤に入り盛り上がっている中、1人の少女が溜息を吐いている。

その少女とは、あまりの力で出場制限をされてしまった百代である。

 

「良いな~。みんな盛り上がってて~」

 

ぐてーっと百代がダラけているとある放送が流された。

 

『3年F組、川神百代さん。クラス対抗障害物競争が始まります。急いで来て下さい!』

 

「なに?」

 

その放送を聞いて立ち上がる百代。

クラス対抗障害物競争も百代は除外されていた筈なのに何故か呼ばれている。

どういうことだと考えていると鉄心が百代の前に現れる。

 

「何をしておるか、百代。早く行かんか」

 

「ちょっと待て、ジジイ。この競技は、私は出場出来ないはずだぞ?どういう風の吹き回しだ?」

 

「まあ、ハンデはもちろんある。他のクラスは全員参加じゃが、3年F組は百代1人だけと言うルールじゃ」

 

「おいおい、それじゃあハンデになってないじゃないか?私1人でも余裕で勝てる自信があるぞ」

 

「まあ、騙されたと思って行ってみんさい」

 

「・・・これでつまらなかったらただじゃ済まさないからな、ジジイ!」

 

そう言い残して百代は障害物競争のスタート地点に向かって行った。




如何でしょうか?

とりあえず、前編です。

後半は明日くらいに投稿すると思いますので宜しくお願いします。

後ついでに感想と評価を頂けたら幸いです!


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BATTLE.19 激闘!水上体育祭!! 後編

後編です。

楽しんで頂けたら幸いです!


そして始まったクラス対抗障害物競争。

そこで周りのクラスを圧倒し、トップに立っているのは当然の如く百代であった。

 

「次で最後の障害物だな・・・(今まで通って来た障害物は私だけでも余裕でクリア出来る物ばかりだった。てっきりクイズの所でメッチャ難しい問題でも出してくる物かと思ったが・・・)」

 

百代が最後の障害物ステージへとたどり着く。

ここまでは独走の百代。その顔はとても退屈そうな表情だった

 

「(確か最後はぬいぐるみを着た川神院の門下生達が行く手を塞ぐ奴だったな。という事は私には門下生を複数相手にしているのか?)」

 

そこまで考えて溜息を吐いた百代。

例え門下生が複数相手だろうと自分の相手ではない。ものの数分で片付けられる

それを分からない鉄心ではない筈なのだが・・・

 

「来たか・・・ん?」

 

百代の相手となる障害物が現れるが百代の予想とは違い、1体のぬいぐるみが佇んでいた

 

「まさかお前1人だけか?」

 

百代がそう聞くとぬいぐるみは頷いた。

鉄心の考えがますます分からなくなった百代はだんだんと苛立ち始める。

 

「・・・まあいい、さっさと終わらせて大和を弄りでもするか」

 

そう言って百代は普通の人では見る事の出来ないスピードで潜り込み、鳩尾に向けて拳を振るう。

それでぬいぐるみは砂浜へと沈む。

その筈だった。

 

「なに!?」

 

その拳はぬいぐるみの片手によって防がれていた。

まさかの出来事に百代は驚愕する。

百代は川神院の門下生ならば強めでも大丈夫だろうと思い、強めに撃ち込んだ。

それなのにまさか片手で受け止められるとは考えもしていなかったのだ。

 

「・・・貴様、川神院の門下生じゃないな?一体何者だ?」

 

「私か?良いだろう、教えて差し上げよう!」

 

ぬいぐるみがそう言うと、そのぬいぐるみを脱ぎ捨ててその姿を現した。

 

「ある時は町を見守る一般人、ある時はか弱い少女の行く先を遮る可愛いぬいぐるみ。その正体は!我流戦隊!我流ブルー!」

 

シャキーンとポーズをとる我流ブルー。まさかの人物に会場が沸いた

 

「おおおっ!我流ブルーだ!」

「最近、話題の正義の味方か!」

「我流ブルーさん、こっち向いて~!」

 

我流ブルーの人気はかなりのもので川神学園の生徒達は大興奮だ。

しかし、それ以上に興奮している者がいた

 

「くくくっ・・・ははははっ!まさかあなたが出てくるとは思っていませんでしたよ!」

 

「君の祖父、鉄心殿の願いで馳せ参上した。君の最後の体育祭を最高のものにしてあげたいと」

 

我流ブルーこと兼一は体育祭が始まる前に鉄心からそうお願いされていたのだ。

兼一も鉄心のお願いを快く承諾し、我流ブルーとして百代の障害物として参上した。

 

「確かにこれは3年間で最高の体育祭になりそうだ!久々に全力で試合が出来るのだから!」

 

「残念だが、そういう訳にもいかない」

 

「なに?」

 

「私はあくまで障害物。ある条件をクリアすればそこでおしまいだ」

 

「・・・その条件とは?」

 

「なに。そんな難しい事じゃない。私の身体にダメージを与える。それが条件だ」

 

我流ブルーの言葉に百代は不満そうに目を細めるが、それは一瞬ですぐに笑顔に戻る。

百代は武術に関しては頭が良く働く。

我流ブルーの条件は、他のクラスがゴールするまで百代からダメージを喰らわず防ぎきることが出来るのだという自信の表れであった

 

「貴様がどこまで耐えきれるか、楽しみだ!」

 

百代は我流ブルーに向かって跳んだ。

 

「はあああぁぁぁぁ!!」

 

百代はそのまま拳の嵐を我流ブルーに浴びせる。

しかし、我流ブルーはそれを全て叩き落とした。

 

「流石だな!いつもの挑戦者なら今の連撃で沈んでいたよ!」

 

「悪くない連撃だったがまだ粗い。もっとコンパクトに振るわなければ当たらないぞ?」

 

「吐かせ!」

 

今度は上中下と蹴りを放つ。我流ブルーはそれを上段と中段を両手でいなし、下段は足の裏で受け止める

 

「うおおおおおっ!!」

 

受け止められても百代は攻撃の手を休めない。

しかし、その攻撃は空を切るばかりで1発も我流ブルーには届いていなかった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

「どうした?まだ私には1発も当たっていないぞ?」

 

一方的に攻撃を仕掛ける百代だったがその分体力が消耗するのは当たり前なこと。

しかしそれは受ける側も同じ。それが百代の考えであったが我流ブルーは全く息を乱していない。

 

「百代さんに問題だ。なぜ、同じ運動量の筈なのに此処まで差が出来ているのか?」

 

「・・・貴方は必要最低限の避け方で体力の消耗を抑えていました。空手の『前羽の構え』からの回し受け、太極拳の『化勁(かけい)』を完璧に使いこなす事で体力の温存が可能に出来る、という事ですね?」

 

「その通りだ。でも、それでも50点。理由はわかるかな?」

 

我流ブルーがそう言うと百代は黙り込む。

 

「じゃあ、違う問題だ。あらゆる武術の段を持っている蟻と象が戦ったらどちらが勝つと思う?」

 

「・・・・・・」

 

我流ブルーの問題に馬鹿にしているのかと苛立ち、睨みつける百代

我流ブルーはそれを見て話し出した

 

「もちろん象だ。どんな優れた技を持っていようとそれを覆す強大な力には勝てない。ではその強大な力を手にするにはどうすればいい?そう基礎鍛錬だ」

 

「・・・・・・」

 

「百代さんは長年、基礎鍛錬を怠っているみたいだね?だから、百代さんと僕にはこれ程の差が出る」

 

「・・・では今の私は技・力両方とも貴方に劣っていると?」

 

「まあ、ぶっちゃけるとそうなる。しかし、君にはもう一つ重大な差があるのだが・・・。今日のところは此処までとしよう。百代さんも聞いてばかりではつまらないだろうしね」

 

我流ブルーが視線を横に移す。

百代も同じように視線を向けるとそこには競技に参加していた他のクラスが百代と同じステージまで追いついたところであった。

 

「とても気になるところで終わりましたが確かにそうですね。私は座談よりも身体を動かした方が良いですよ!」

 

百代は再び我流ブルーに襲いかかる。

 

「川神流、無双正拳突き!」

 

強烈な正拳が我流ブルーの鳩尾に向けられるがまたしても避けられてしまう。しかし、それは百代も百も承知だった

 

「川神流、致死蛍!」

「離れ際に遠距離攻撃。悪くないけど通用しないよ」

 

避けた方向に気弾を放つ。それも我流ブルーによって叩き落される。

 

「単発がダメなら連発だ!」

 

百代は気弾を連発して弾幕を張り我流ブルーの逃げ場を消す。

 

「無駄だ」

 

我流ブルーはその気弾を受け流す。それだけではなく、受け流した気弾を別の気弾にぶつける事で相殺している。

 

「私の気弾を受け流したり叩き落されることはありましたが、貴方みたいに気弾を受け流した気弾で相殺する人は初めてです!」

 

「そうか。だが、気弾で弾幕を張って逃げ場をなくすのは良いがもう少し回りを見てくれないかな?私が受けなかったら他の生徒達に被害を受けていた」

 

「それも計算の内ですよ。それにそうでもしないと貴方を捕らえる事は出来ませんから!」

 

「なんとも危ない考え方だな・・・。それと、さっきから気になっていたがどうして敬語になっているのかな?始める前は違ったのに」

 

「私は尊敬に値する人には常に敬語で話すんですよ。特に貴方みたいな人には」

 

話がらも気弾を放ち続ける百代とそれを受け流し続ける我流ブルー。そんな光景に始めは大騒ぎしていた生徒たちは静かに観戦していた

 

「おいおい!我流ブルーってあんなに強かったのかよ!モモ先輩と互角じゃねえか!?」

 

「で、でもここじゃ本気は出せないだろうし手加減しているからじゃ・・・」

 

「確かに姉さんは全力を出してない。だが、本気で我流ブルーを倒しに行っているのは間違いない筈だ」

 

岳人とモロが不安そうに話しているところを横から割り込んだ大和がそう答える

その大和の答えに一子も賛同した。

 

「大和の言う通りよ。あんな嬉しそうなお姉様の顔、私初めて見たかもしれないわ!」

 

「確かにマルさんと戦っていた時よりも楽しそうだ。だが、それ以上に・・・」

 

「うん。マルギッテと戦っていた時よりも気が高まってるね」

 

「あの我流ブルーもなかなか面白い奴だ。あの素顔は一体どうなっているんだろうな!」

 

大和たちが話していると気弾の嵐が止み、百代はすぐに行動を取った

 

「なら、これはどうだ!川神流、か~わ~か~___」

 

「おっと、それはいけないな」

「っ!?」

 

我流ブルーは両手に気を集め始めたのを見てすぐに百代の背後へと回り込む。

そこであるアナウンスが流れた

 

『ゴール!今、最後のクラスがゴールしました!』

 

「なにっ!?」

 

我流ブルーとの戦いに夢中になってしまい、他のクラスが追い抜かれていた事に気付かなかった百代。さすがにショックが大きかったのか驚きの表情を見せる

 

「残念だったね。僕も少し大人気なかったかな。まあ、良い経験にはなったでしょ?」

 

「何を終わったような口振りをしているんですか?まだ私と貴方の決着はついてませんよ!」

 

百代はすかさず背後にいる我流ブルーに裏拳を打ちかます。

しかし、その裏拳には手ごたえが無い。

その後すぐに裏拳を出した手首を掴まれてしまう。

「百代さんならそう来ると思ったよ。さっきの周りの迷惑を考えない気弾攻撃のお仕置きも兼ねて頭を冷やしてもらうよ」

 

「なn___」

 

「せいっ!!」

 

「うわあああああああああああぁぁぁぁ!!??」

 

我流ブルーは百代を海の方へと投げ飛ばした。

百代は我流ブルーの力に逆らえず、簡単に投げ飛ばされてしまいそのまま海へと落下してしまった。

 

「ぶはっ!」

 

少しして海面から百代の顔が出てくる。怪我は無いようで視線は陸の方へとやると我流ブルーはまだ砂浜にいる。

 

「逃がさないぞ!我流ぶふっ!?」

 

我流ブルーの方へと向かおうと海面から飛び出そうとした百代の顔面に何かが当る。

 

百代は当った何かを手にして確認してみるとそれは黒い布の塊であった。

「なんだこれは・・・水着?」

塊を広げて見てみるとそれは黒ビキニであった。

しかもどこかで見覚えのあるものでふと、視線を自分の身体へと向ける。

「・・・・・・・・・」

すると百代の顔がみるみると赤に染まっていく。

「う、うわああああああああああああっ!!??」

百代は叫び声を上げながら海に潜り込んでしまう。

そう。それは我流ブルーに投げられる直前まで着ていた筈の水着だったのだ。

 

「これぞ、馬師父直伝のすれ違い際の脱がし術・・・。すまない、百代さん。君から逃げるにはこうするしか他に方法はなかったんだ」

 

「・・・・・・」

そっと顔を出して我流ブルーに目を向ける百代。

こうなっては流石の百代も戦闘意欲が沸いてこない

「では川神学園の生徒達よ、さらばだ!」

そう言って我流ブルーは森の中へと姿を消したのであった。

「・・・・・・・・・・・・」

「あの・・・まゆっちさん?」

百代と戦ってきた我流ブルーこと兼一は今、百代以上の大敵と対峙していた。

それは同じクラスの由紀江である。

大敵と言っても機嫌が悪くなった由紀江に兼一が戸惑っているだけであるのだが・・・

何故このような状況になっているのかというと由紀江が兼一を迎えに行ったのが事の始まりであった。

少し帰りが遅いなと思った由紀江は兼一を迎えに行ったのだがそこには仮面を洗っている兼一の姿であった。

もしかして、どこか怪我して血が出てしまったのかと心配して声をかけたのだが、それは兼一の顔を見て理解した。

兼一の鼻に鼻栓が付けられていたのだ。

それだけでは怪我したのではという考えにも至るのだが、兼一の表情は鼻の下を伸ばしており、由紀江が今まで見てきた兼一の中でかなりだらしない表情をしていた。

それを見た由紀江は何故か嫌な気持ちを感じてしまう。

そんな由紀江に気づいた兼一はよく分からなかったが焦りを感じて、弁明を始める。

しかし、由紀江は聞く耳を持たずそのまま現在に至るわけである。

「そのですね、まゆっちさん。男である僕も目の前で女性の裸を見てしまえば鼻血も出てしまうわけでして・・・」

『おいおい、自分で脱がしといてそんなこと言うのか~?まあ?あのモモ先輩の綺麗な裸を見ちゃ仕方ねえのかもしれないけど~』

「そのですね・・・あの・・・仰るとおりかもしれませんが・・・えっと・・・」

『知ってたか、白浜っち。大抵の小説家は更新を長い間していなくて読者の人達に言い訳する時に「その」「えっと」が出る時はくだらない言い訳なんだぜ』

「ぐはっ・・・」

松風の言葉に胸が痛む兼一。どうにかして機嫌を直してもらう為に考えようとするがそれは叶わなかった。

「白浜さ~ん!次の競技、白浜さんの番ですよ!」

「えっ!?」

遠くから兼一を呼ぶ伊予の声に驚く。

何故ならば既に兼一が出る競技は全て終わっている筈だからである。

 

「実は、次の競技は『益荒男決定戦』というもので川神戦役で追加されたんです。それで誰が出るか話し合った結果、白浜さんになったんです」

 

「えっと、ちなみにどうして僕?」

 

「耐えられそうなのは白浜さんくらい、と満場一致してしまいまして」

 

「た、耐えれそう?なんか物騒な言葉なんだけどどんな競技なの?」

 

「はい。まずは出場者は身動きできないように十字架に磔にされます」

 

「既に体育祭とは思えない状態!?」

 

伊予の説明に驚愕する兼一。伊予は苦笑しつつも話を続けた。

 

「そして、磔にされた出場者に女子生徒がゆ、誘惑して興奮させます」

 

「・・・はい?」

 

「ゆ、誘惑に負けず興奮しないで最後まで耐え切る事の出来る漢の中の漢を決める競技、だそうです」

 

「おかしい。こんな競技があって良いのだろうか!?」

 

「ちょうど良いんじゃないですか?」

 

あまりの内容に頭を抱えてしまう兼一。そこに由紀江が話しかける。

 

「私、兼一さんの漢らしい所を見たいです」

 

「ぐっ・・・」

 

「し、白浜さん。まゆっち、どうしちゃったんですか?」

 

「いや、まあ、色々ありまして・・・」

 

明らかに様子がおかしい由紀江に伊予が兼一に尋ねる。流石に理由は言えない兼一は適当にはぐらした。

 

「えっと、益荒男決定戦だっけ?僕出るよ」

 

「本当ですか!ありがとうございます!」

 

「頑張って下さいね、兼一さん」

 

「う、うん・・・」

 

由紀江に名誉挽回する為、兼一は益荒男決定戦に出る事を決意するのであった。

『さあ!準備は整いました!益荒男決定戦、開始です!!』

 

全クラスを巻き込んだ川神戦役最後の競技『益荒男決定戦』が始まった。

それと同時にどんどんと悲鳴が上がる。

それは、誘惑に負けて興奮した男子生徒達が電撃を流されているからである。

兼一はそれを見て冷や汗が止まらない。

自分がそうなってしまう可能性があるのだから無理も無い。

 

しかし、その冷や汗の原因はそれだけではなかった

 

「まさかテメェがこの競技に出るとは思わなかったぜ。白浜兼一」

 

「お、忍足さん・・・。あの、クナイを押し付けるのは勘弁してください」

 

現在進行形であずみに凶器を押し付けられているからであった。

 

「ああっ?こんな絶好のチャンスに何もしない訳ねえだろうが?」

 

「いや、でも、今大和くん達がいるF組と川神戦役しているんでしょ?だからF組のところに行かなくてもいいんですか?」

 

「他の奴らが行ってるから問題ねえよ。べ、別にアタイの魅力がねえから必要ないとかそんな理由じゃねえんだからな!」

 

「それはもちろん。忍足さんはとても魅力的な女性ですから」

 

「・・・・・・・・・」

 

「わっぷ!どうして砂をかけてくるんですか!?」

 

あずみは黙り込みながら兼一に砂をかけ始める。もちろん顔目掛けて。

今の兼一の言葉に下心は一切無い本心からの言葉であった。

もし下心があったのならばその瞬間、電撃の餌食であるからである。

それを理解したあずみは顔がとても熱くなるのを感じた。

 

「う、うるせえ!お前は感電死よりも砂に埋もれて窒息死のほうがお似合いだと思っただけだ!」

 

「まさかの人殺し発言!?というか、立てられている状態で埋められると言う事はかなりの手間がかかるのでは?」

 

「うるせえ!!」

 

「女王蜂。あなたは一体何をしているのです?」

 

「!・・・猟犬か・・・」

 

顔を真っ赤にしながら兼一に目掛けて砂をかけるあずみにマルギッテが話しかける。

 

「テメェこそどうしてこっちにいる?F組の直江大和の所に行ってる筈だろ?」

 

「ついさっきS組の代表で参加した井上が脱落しました。故にもう直江大和に構っていてもしょうがないと判断したのです」

 

「んだと?ちっ、あのハゲが!自信満々だったくせにもう脱落しやがったのか?」

 

「なので、史上最強の弟子を見ておこうと思った訳です」

 

そう言ってマルギッテは兼一を見る。その視線はウサギを狩ろうとする猟犬の目のようであった

その視線に兼一はただ苦笑で返す事しか出来なかった。

「うわぁ、白浜さん。大変そうだね」

 

「ええ・・・そうですね」

 

遠くで見ていた伊予と由紀江は今の兼一の状態を見て同情していた。

最初は複数の女子生徒達が集まっていたのだが、それをあずみが追っ払い。あずみが兼一を物理的に責めていたらマルギッテが来て凄い目つきで睨み付けている。

普通の男子生徒ならば最初の女子生徒達で脱落していたかもしれない。

それをマルギッテが来た時点でも興奮せず頑張っている。

あずみやマルギッテも生徒達よりも年上ではあるがかなりの美人。来た時点でリタイヤしてもおかしくはないのだ

「でも、それを耐えているのはやっぱり白浜さんってすごいね」

 

「ええ・・・そうですね」

 

「・・・まゆっち。その松風って腹話術だよね?」

 

「ええ・・・そうですね」

 

「・・・・・・・・・」

 

伊予の問いかけに同じ言葉で返している由紀江。

由紀江の目にはもはや兼一とその周りにいる女性しか写っていなかった。

そんな由紀江の姿に恐怖を感じた伊予。

そして無事で兼一が帰ってくることを祈るのであった。

「まあいい。こいつはアタイが始末しておくから猟犬は違う男でも狩ってろ」

 

「いや。史上最強の弟子は私に任してもらます」

 

「・・・んだと?」

 

マルギッテの言葉にあずみがゆっくりとマルギッテを見る。

 

「先程まで見てましたが特に反応もされず、逆に失態を見せていたでしょう?貴方では無理なのでは?」

 

「無理じゃねえ!勝手な事ばっかり行ってんじゃねえぞ!つうか、何でテメェがそんなにこいつを気にかける?」

 

「それは、私と史上最強の弟子には因縁があるからです」

 

「因縁?」

 

「私は史上最強の弟子にあられもない姿にされてしまったのです」

 

「ぶふっ!?」

 

マルギッテの言葉に兼一は思わず噴出してしまう。その様子を見てあずみは何かがあったことは理解した

 

「ま、マルギッテさん?出来ればもう少しオブラートに言ってはくれないでしょうか?」

 

「何を言っているのです?私をあんな風に縛り付け、そんな姿を見て鼻血を出しておきながら」

 

「・・・テメェ!命を失う覚悟は出来ているんだろうなぁ!!」

 

「ご、誤解です、あずみさん!?そうしなければいけない状態だったんです」

 

「黙れ!こうなったらテメェも猟犬と同じ目に合わせてやるよ!」

 

そういうとあずみはどこから取り出したのか刀で兼一が磔にされている十字架の根元叩き切り、兼一を仰向けにした。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!?男のあられもない姿なんてここの読者は誰も望んでませんよ!?」

 

「意味分からないこと言ってんじゃねえ!覚悟しやがれ!」

 

「お、お主ら!兼一君に何をしておるのじゃ!!」

 

あずみが兼一に手をかける寸前に心が呼び止めた。

 

「心さん!」

 

「不死川?テメェまでどうしてここにいんだよ?直江はどうした?」

 

「や、山猿は雪に任せてきた。そんなことよりお主は兼一君に何をしようとしておるのじゃ!」

 

心があずみの前に来てそう問いただす。

 

「はあ?テメェには関係ねえだろ!」

 

「関係はあるのじゃ!兼一君はわらわの友達。その友達が酷い目に合うのならばほっとく訳にはいかん!」

 

「心さん・・・」

 

心の言葉に感激する兼一。あずみもいつもと違って気迫がある心に少し驚いていた。

 

「あ~・・・こいつがしぶといから別の方向で責めようと思ったんだよ」

 

「い、一体何をするつもりなのじゃ?」

 

「それはだな____」

 

「なっ!?」

 

「それに____」

 

「そ、そんなことまで!?」

 

あずみに何を吹き込まれているのか分からないが心はあずみの話を聞いて顔を真っ赤にしてしまう。

 

「どうだ?お前もそんな姿のこいつを見たくないか?」

 

「そ、それは・・・」

 

「もし手伝ってくれんならお前だけに写真を撮る許可をくれてやるぜ」

 

「わかった。協力するのじゃ」

 

「あずみさん!?貴方の懐柔スキルは大したものですが一体何を吹き込んだんですか!?写真って!?」

 

もう嫌な予感しかしない兼一は必死に説得を試みるが三人は兼一の前に立ち真ん中にいたあずみが兼一の服に手をかける。

 

「安心しろ。少しの間涼しくなるだけだ」

 

「嘘だ!絶対に嘘だ!?」

 

「いい加減に覚悟を決めなさい。それでも私を倒した男ですか?」

 

「それとこれとでは話が違いますよ!?」

 

「だ、大丈夫じゃ、兼一君。撮った写真は誰にも見せないのじゃ」

 

「撮るのを止めていただけませんか!?というか何時の間に最新式のカメラを持ってるの!?」

 

兼一よりも興奮状態になっている三人に兼一は必死にツッコミを入れるがまるで効果なしであった。

 

「たく、こんな暑いのにジャージなんか着やがって暑苦しいんだよ!」

 

あずみは兼一のジャージのホックを全開まで落として兼一の上半身を露にさせた

 

「・・・これは」

「・・・ほう」

「あわわわわっ!?」

 

そして、兼一の上半身を見た三人はそれぞれ違う反応を見せる

 

「テメェ、あの時よりもさらに傷が増えてんじゃねえか・・・」

 

「素晴らしい・・・。こんな体が存在するとは・・・」

 

「け、兼一君の裸・・・」

 

あずみは修行によって生傷が絶えない兼一の身体を見て顔をしかめる。

マルギッテは全身をピンク筋に鍛え上げられた身体を見て魅了される。

心は気になる異性の上半身裸を見ないように両手で顔を覆ってはいるが指の隙間からまじまじと見ていた。

 

「あの・・・皆さん?」

 

「たく・・・こんなところまで傷が付いていやがる・・・」

 

「人間はここまで鍛え上げることが可能なのか・・・?」

 

「き、筋肉がとても硬いのじゃ・・・」

 

最初は見ているだけであった三人は兼一の身体を触り始める。

そんな三人に触られて、くすぐったく感じるが問題はそこではなかった。

 

「(やばい・・・。三人とも無防備すぎる・・・)」

三人が兼一の身体を触っているという事は触る為に近くまでいなければならない。

さらに兼一の身体に夢中になっている三人はとても無防備で身体が今にも密着しそうで少し視線をずらせば女性の色んな場所が見えてしまうのだ。

その為、兼一は視線を上にのみ向けてどうにか興奮しないように耐えている。

「うわ~、あれは白浜さんでもキツイんじゃないかな?まゆっち出番だよ!」

「痛っ!?わ、私の出番?」

あずみ達の行動で由紀江の表情がさらに危なくなった所を伊予が背中を叩く事で元に戻す事が出来た

「そうだよ!今、白浜さんを助けられるのはまゆっちだけ!」

「で、ですが・・・」

「まゆっちは良いの?誘惑に苦しんでいる兼一さんを見てて何も思わないの?」

「それは・・・」

伊予の言う通り、兼一が誘惑に苦しんでいる所を見て心が痛かった

それならばやる事は一つしかない

「わかりました。伊予ちゃん、私行ってきます!」

「うん!頑張ってね!!」

伊予の応援の言葉と同時に走り出す由紀江。

「兼一さん、待っていてください!今、お助けいたします!」

『オラとまゆっちがいれば百人力だぜ!』

「殺気!」

「敵襲ですか!」

「はえ?」

由紀江が三人の近くまで来たときあずみとマルギッテはずぐに反応して距離を取る。

しかし、心だけ気づけず振り向くとそこには殺気を纏った由紀江の姿があった。

「ひいっ!?」

心も急いでその場から離脱。兼一の周りかは誰もいなくなった。

「や、やりました。これで____」

ここで由紀江は油断をしていた。

兼一の周りから人が居なくなった事で安心しきってしまったのだ。

それで足元にあった心が落とした最新式カメラがあることに気づけなかった。

「きゃっ!?」

カメラに足をとられてしまった由紀江は態勢を崩してしまい、前のめりに倒れ始めた。

「ん?」

「ああああぁぁぁ!?」

兼一から見て正面方向に誰かの悲鳴が聞こえる。

仰向けなので下を見る感じで顔を向けるとそこには兼一に向かって倒れてくる由紀江の姿があった。

そこから兼一はまるでスローモーションになったかのように感じた。

兼一の方にゆっくりと倒れてくる由紀江。

由紀江の顔がどんどんと兼一の顔へと近づいていき、最悪の事態は免れる為に顔を横にずらす。

これで最悪の事態は免れたと思った兼一だったが、最初に想像したものとは違う結果となる。

由紀江の顔は兼一の顔を通り越したのだ。

そして、首、鎖骨と体の部位を順番に確認し最後に見たのは由紀江の豊満な胸であった。

「(あっ・・・とっても・・・柔らかい・・・)」

「いたたた・・・気が緩んでしまって転んでしまいました。あれ?」

由紀江は自分の状態を確認した。

今の由紀江の状態は兼一の上に覆い被さっており、胸が兼一の顔を埋めていた。

「・・・きゃああああぁぁぁ!!??」

由紀江は悲鳴を上げながらその場を離れたその瞬間だった

「ぎゃああああぁぁぁぁぁ!!??」

流石の兼一も胸を顔面に押し当てられてしまえば興奮してしまう。

その結果、脱落となり兼一の身体に電流が流されてしまうのであった。

こうして、益荒男決定戦の勝者は2年F組の大和に決定した。

と言っても障害は何も無く、唯一S組から来ていた榊原小雪は途中で飽きて帰って締まった為、実際は終わるまで一人ぼっちだった。

この時の大和はなんとも虚しい勝利だ、と語っている

「・・・本当の敵はまさかの身内だったなんて。・・・白浜さん、ごめんなさい」

由紀江を出動させた伊予は電流を流されて叫ぶ兼一とそれを見て大慌てしている由紀江を見て謝罪を述べるのであった。




如何でしょうか?

戦闘描写は難しいですね・・・

そして兼一にしては誘惑に堪えたのではないでしょうか?

原作だったらもっと早い段階で終わっていたかもですが・・・

感想と評価を頂けたら幸いです!
宜しくお願い致します!


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BATTLE.20 義を持つ騎士

久しぶりに投稿致しました。

楽しく読んで頂けたら幸いです。


水上体育祭が終わって翌日、兼一はいつも通り我流ブルーの姿で修行を行っていた。

「我流ブルーさん!おはようございます!」

そしていつも通りにタイヤを引いた一子が元気よく挨拶をしてくる

「おはよう、一子ちゃん。良かった、今日は元気だね」

「えっ?私はいつも元気よ?」

「いや、昨日はすぐに帰っちゃったから心配してたんだ」

「・・・あっ!」

我流ブルーこと兼一がそう言って一子は上半身裸を見て逃げ出してしまった事を思い出した

「あ、あれは気にしないで!ちょっと急用を思い出してすぐに帰らなきゃいけなかったの!」

「そうなんだ。宿題でもやり忘れてたのかい?」

「うっ・・・それはまあ・・・」

確かによく宿題を忘れて怒られる事が多かったりするの強く否定ができない。

「修行も良いが勉強も頑張らないとダメだぞ?」

「わ、わかってるわよ、もう・・・。それよりも今日は何を手伝えば良いかしら?」

「ふむ。今日は___いやその前に一子ちゃんに聞きたい事があるのだがいいかな?」

「なあに?」

「昨日の体育祭で私と百代さんが戦っただろ。その事について何か話していなかったか?」

兼一は水上体育祭で百代にしたことを後悔はしていないが反省はしていた。

逃げる為とは言え、脱がす必要はなかったのではないかと。

「うーん。最初は顔を真っ赤にするほど怒っていたけれど、久々に本気で戦えて楽しかったって嬉しそうにしてたわ!」

「そ、そうか・・・」

「それと今日のお姉様はいつも以上に修行を真剣に行っていたわ。主に技の鍛錬」

「ふむ・・・」

一子の話に一安心したが、その後の百代の話を聞いて考え込む兼一。

兼一としては技よりも力の鍛錬をして欲しかったのだが上手く伝わらかったようだ。

「我流ブルーさん?」

「いや・・・百代さんが嬉しそうにしていたのならば私も出た甲斐があったよ。では一子ちゃん修行を手伝ってもらおうかな」

「うん!宜しくお願いします!」

一子は笑顔で兼一の修行のお手伝いをするのであった。

「ふう・・・今日も学校が終わった・・・」

学校が終わり下校時間。昨日の水上体育祭の活躍もあってか周りから色々と質問攻めされてお疲れな兼一

いつもなら由紀江と帰っているのだが、今回は一人である。

なぜならば、由紀江は伊予とお買い物をするとの事で兼一も誘われたが今回はお断りしたのだ

「帰ったら何をしようかな・・・。ん?」

考えていると前方に見知った人がいた。

「おーい!クリスさーん!」

「むっ?おおっ、兼一殿じゃないか!」

その人物とはドイツからの留学生クリスだった。兼一とクリスは同じ寮なので一緒帰らないかと誘ってみた

「もちろん、構わない。一緒に帰ろう」

お誘いに快く承諾してくれたクリスは兼一と一緒に歩き出す。

「そういえば兼一殿は何かスポーツか、武術をしているのか?」

「えっ・・・?いきなりどうしたの?」

「いや、昨日の体育祭で兼一殿は凄まじい身体能力であったのでな。少し気になったのだ」

「な、なるほど・・・」

クリスの言葉に兼一は少し頑張りすぎたと反省。

これからは感づかれないように気をつけようと心に決める。

「それに徒競走の時に見せたあの救出活動!私はとても感動した。兼一殿は立派な義の心の持ち主なのだな!」

「はははっ、ありがとう。でも結局は演技に騙されたわけだし」

「確かに演技ではあったが私は兼一殿のその行動に感動したんだ。結果など今は関係ない。それに兼一殿は助けに言った事に後悔はしていないのだろう?」

「それはもちろん」

クリスの質問に迷い無く答える兼一。

そんな兼一を見てクリスは笑みを浮かべた。

「うむうむ。兼一殿は大和丸みたいに真っ直ぐな義を持ったお人だ!私はそれがとても嬉しい」

「大和丸って確かクリスさんがよく見ている時代劇の?」

「そうだ!大和丸は素晴らしい義を持っている。しかし、ここに来て大和丸みたいな日本人は少ない。私はその事を残念に思っていたのだが兼一殿みたいな人に出会えてよかった」

クリスは熱中している『大和丸夢日記』の事となると話が止まらない。しかし、楽しそうに話しているのを止めるわけにもいかないので黙って聞いているとあることに気づいた

「名前や声が似ている大和は大和丸とは全く逆の考えて仕方の無い奴___って兼一殿?」

「おばあちゃん、大丈夫ですか?」

話に夢中になりすぎて隣に兼一が居ない事に気づいたクリスは周りを見渡して兼一を探すとなにやら重たそうな荷物を背負った老人に話しかけていた

「もしよろしければ家までお運びいたしますが?」

「本当かい?それじゃあ、お願いしようかね」

「任して下さい。あっ、クリスさん。すみませんが、一人で帰っててください。僕はおばあちゃんの荷物を家まで運んでから帰りますので」

「・・・いや、私も手伝おう。これを運べば良いんだな?」

「えっ、でも・・・」

クリスは置いてある荷物を持ち始める。

しかし、兼一としては手を患わせたくなかった

「気にするな。私がしたくてしている事だ」

「・・・そうですか、ありがとうございます。これとあれは僕が持ちますんでクリスさんはこれを」

「うむ。了解した」

兼一とクリスはおばあちゃんの荷物を持って歩き出した

「ここがお家ですか?」

「ええ。そうですよ」

「おおっ!ここは!」

おばあちゃんの荷物を持ち歩き始めて数分。

辿り着いたのは年季の入った建物の駄菓子屋だった

「荷物はここに置いておけばいいですか?」

「はいはい。そうですよ。ありがとうございます」

「ここがジャパニーズ駄菓子屋!商店街にもあったけどここはまた違った雰囲気だ!」

クリスは子供のようにはしゃいで周りを見渡している。そんなクリスに兼一が話しかける

「クリスさん。おばあちゃんが荷物を運んでくれたお礼に好きな物を何個か持って行っていいって」

「本当か!!」

兼一の言葉に今度は目を輝かして喜ぶクリスはどのお菓子を貰おうか選び出した。

「なんか懐かしいな。昔住んでた近所にもこんな駄菓子屋があったっけ・・・」

それは武術を始めるきっかけとなる女の子との出会い。そして親友とぶつかりあった。そんな思い出のある場所

「なあなあ、兼一殿。稲荷寿司はないのか?」

「流石に駄菓子屋には稲荷寿司はないでしょ。って、クリスさん、それは貰いすぎでは!?」

苦笑しながらクリスの方を向くとクリスの両手には沢山のお菓子があった。

「構わないよ。持っていきなされ」

「あ、ありがとうございます」

「なあなあ!この綺麗なお菓子はどうやって食べるんだ?」

「水飴だね?これは割り箸でこねるようにして___」

「おおっ!甘くてとても美味いぞ!」

お菓子を美味しそうに食べるクリス。兼一もお菓子を何個か貰って食べ始めた。

「お二人さん。お茶でもいかが?」

「おおっ!頂きます!」

「お嬢さん。良い彼氏を持ってるねえ。大事にしなさいな」

「ぶふっ!?い、いや、私と兼一殿はそんな仲では・・・」

少し動揺しながらそう答えるとクリスの反応が微笑ましかったのか優しい笑顔で言った

「そうなのかい?でもあのお兄さん。最近じゃ見ないくらいの好青年じゃよ。何も思わないのかい?」

「それはまあ・・・」

クリスはお菓子を食べている兼一を見る。

容姿はカッコいい系よりかは可愛い系で親しみやすい。

性格もクリスが好きな大和丸みたいに真っ直ぐな義を持っている。

総合すればかなり理想的な人である事が分かる。

それを自覚すると何故だか顔が熱くなって心臓の鼓動も早くなっていくのが分かった。

「ん?クリスさん、どうしたの?」

「い、いや、なんでもない!?」

「?」

慌てるクリスに首を傾げる兼一。

とても初々しい光景におばあちゃんは微笑んでいた。

しかし、その光景をぶち壊す者達が現れた

「おうおう!邪魔するぜ!」

「ん?」

店に入ってきたのは3人組みの男達。雰囲気からしてお客ではなさそうだと兼一は思った

「よう、ばあちゃん。ここを立退く気になったか?」

「またあんた達かい。あたしゃここを去る気はないよ。商品を買う気が無いんならとっと帰りな」

「商品?こんなもん誰が買うんだよ!」

「あいつ!」

男達は並べてある商品を蹴ったり、ひっくり返したりして店を荒らしていく。

この男達は地上げ屋で相当たちの悪い部類であった。

「テメェもこんな風に荒らされたくなけりゃ、大人しくここを引き渡すんだな」

「止めないか、お前達!!」

「ああ?」

「これ以上の横暴は許さないぞ!!」

地上げ屋の行動に我慢の限界に達したクリスが怒声を上げて静止させる。

地上げ屋達はクリスを見てにやにや笑い出す。

「おいおい。邪魔しねえでくれねえかお嬢ちゃん。あんたの相手は後でじっくりしてやるよ」

「黙れ、下衆。荒らした商品を綺麗に直してとっとと立ち去れ!」

「ああ?調子に乗ってんじゃねえぞ、糞餓鬼!お前らこいつを大人しくさせろ」

そういうと2人の男がクリスを捕まえようと手を伸ばす。

しかし、クリスはその手を払いのけ、すかさず懐に潜り込んだ

「せいっ!」

「うおおっ!?」

男の襟を掴んだクリスはそのまま店の外へと投げ飛ばす

「この女!」

「はあっ!やあっ!!」

「ぐっ!?うあああっ!?」

味方がやられたのを見てもう一人の男が怒りのままにクリスの後ろから襲い掛かる。

しかし、クリスは顔面に当身を喰らわして怯んだ所をさっきの男と同じように店の外へと投げ飛ばした

「こ、この女ただの餓鬼じゃねえ!?」

「大人しくここから消えろ。そして二度とこんな事はしないと約束しろ」

クリスは常備しているレイピアを抜いて男を脅す。

しかし、男はあまり動じていなかった。

「ふ、ふざけんな!お前こそ俺達にこんな事してただで済むと思うなよ!俺達には凄く強え用心棒様がいるんだからな!!」

「用心棒だと?」

「そうだ!俺達の組が束になっても敵わない程の強さだ。お前みたいな餓鬼なんて目じゃねえ!」

「・・・ふん!こけおどしを!では今からその用心棒が居るお前達のアジトを潰しにいく!場所はどこだ?」

「クリスさん!?」

クリスの言葉に驚く兼一。地上げ屋の男はクリスの言葉ににやけ始めた

「いいぜ。場所は___だ。お前が用心棒様に屈する姿を拝めるのが楽しみだぜ。ぐおっ!?」

「そんな日は一生来ない。来るのはお前達の組の滅亡だ。気絶している奴らを連れて、ボスとその強い用心棒とやらにそう伝えろ」

「ちっ!」

クリスに投げ飛ばされた男は悔しそうにその場から気絶した仲間を連れて逃げ出した

それを確認したクリスは地上げ屋のアジトを潰すべく部屋の外へと歩き出す。

だが、兼一がそれを許さなかった。

「待つんだ、クリスさん!本当に行くつもりなのか?」

「当たり前だ!このような横暴を放っておけない!私が成敗してくれる!」

「落ち着いて!単独で動くのは危険だ。ここは他の人にも相談してからでも遅くはない」

頭に血が上っているクリスを止める為声を掛け続けるがクリスが止まる事はない。

「うるさい!兼一殿も直江大和と同じように言うのか!?私は策やらを何やら考える間に民が苦しんでいるのをただ見ていなければならないのか?私は・・・私はそんなのは嫌だ!」

「あっ、クリスさん!すみません、お婆ちゃん。後で片付けを手伝いに行きますので!」

兼一も店から飛び出してしまうクリスを追いかける為に走り出す。

地上げ屋達の言葉がこけおどしならばクリスの実力でも問題ない。

しかし、本当であれば流石のクリスでも危険である。

「ここがアジトだな」

「えっ、近い!?」

追いかけている内にアジトに到着してしまう。と言っても駄菓子屋から1キロも離れていなかったのだ。

まさに目と鼻の先。到着するまでに説得しようと考えていた兼一は愕然としてしまう。

そして、アジトの入口には沢山の部下らしき男達が武器を持って立ち構えていた。

「クリスさん!危険だから止めよう!お婆ちゃんも心配しているし!」

「そのお婆ちゃんの平安の為に今戦うのだ!いくぞ!」

「「「うおおおおぉぉぉ!!」」」

クリスがレイピアを持って突撃する。それと同時に部下達もクリスに向かって襲い掛かる。

「やああああああぁぁぁ!!」

「「「ぎゃああああぁぁぁ!!??」」」

「もう!蓮華さん以上に話を聞かない人だな・・・」

クリスは部下達を紙のように吹き飛ばしながらアジトへと乗り込んでいく。

兼一は溜息を付きながらその後を付いて行った。

「クリスさん、もう止めましょう!この人達も反省してますって」

「ここで最後の部屋だ!行くぞ!」

「少しは僕の声に耳を傾けて!?」

部屋のドアを叩き切って突入するクリス

その部屋にいたのはスキンヘッドっで顔には無数の傷がある男が一人。

クリスはその男にレイピアを向けながら質問した。

「お前がこのアジトの親玉か?」

「・・・いかにもこの俺こそがここの頭だ」

「これ以上の乱暴な地上げをするのは止めると約束しろ。そうすればお仕置きはここまでにしておいてやる」

「くくくっ!ここまで荒しておきながらよく言うお嬢さんだ。だが、その約束は守れねえな」

笑いながら言う頭にクリスは睨み付ける。

この絶対絶命の状態に何故笑っていられるのかクリスには理解出来なかった。

しかし、兼一にはその笑っていられる理由を知っていた。

「クリスさん、下だ!」

「なに?っ!?」

兼一に言われて下を向くとそこから微かな殺気を感じ取れた。クリスはすぐにその場から退くとすぐ後に地面が割れ、その割れ目から槍が飛び出してくる。

そして、その槍を持った男が現れる。クリスはその男にレイピアを向けて警戒する。

「貴様、何者だ?」

「俺か?俺はここの用心棒をやっている勘瞑(かんべい)というものだ」

「貴様が用心棒だと?だがここにくるまでに全ての部屋を回ったが見かけなかったぞ」

「隠れていたのだよ。気配を消してな」

「・・・なるほど。あの男の話は嘘ではなかったみたいだな」

勘瞑がかなりの実力者であると判断したクリスは気を引き締めて対峙する。

「そういう貴様は何者だ?ただの女ではあるまい?」

「私は川神学園2年F組、クリスティアーネ・フリードリヒ。誇り高き騎士だ!」

「ほう・・・」

「(やばいな。あの勘瞑って人『妙手』の域まで達している。クリスさん一人じゃ荷が重い)」

兼一は2人が名乗っている間に二人の実力差を測っていた。

兼一の見立てではクリス以外に一子、眼帯状態のマルギッテの3人がかりで漸く倒せるくらい。

つまり、クリス一人では倒せないという事だ。

それはクリス自身も承知していた。

「(力の差は歴然。ならば!)はあああぁぁぁ!!」

先に仕掛けたのはクリスであった。

レイピアの長所でクリスが得意とする突きの連続攻撃。初見でかつ突きならば交わす事は難しい

「確かに初見で突きを交わすのは難しいが、残念ながら初見ではないのだよ」

「なに!?」

クリスの突きの連続攻撃は勘瞑の槍による突きによって全て防がれてしまう。

「さっき言ったであろう。気配を消して隠れていたともちろんお前の動きを観察しながらな」

「くっ・・・」

一気に形成が逆転するのがわかったクリスはせめて兼一だけでも逃がそうと考える。

「おおっ!勘瞑の旦那が女と戦っているぞ!」

「勘瞑の旦那!頼みますぜ!」

「ちっ・・・」

その考えも復活した部下達によって無駄になる。勘瞑を相手にしてしながら他の部下を相手にして兼一を逃がすのは不可能だった。

クリスは兼一にしか聞こえないような声で話しだした。

「兼一殿。私が出口に居る奴らを吹き飛ばして逃げ道を作る。その逃げ道からこのアジトを抜け出して風間ファミリーの誰かに応援を呼んでくれ」

「クリスさん!?そんなの無茶だ!」

「無茶なのはわかっている。しかしそうするしか___」

「何がそうするしかないんだ?」

「っ!?はあっ!」

勘瞑に急接近されてしまったクリスはレイピアを横薙ぎに振るって距離を取る。

そしてすぐに反転して出口にいる部下に斬りかかろうとする

「おいおい。騎士様が敵に背を向けんなよ?」

「っ!?かはっ!?」

しかし、勘瞑に回り込まれてしまい失敗に終わる

しかも、槍の刃が無いほうを腹部に叩き込まれる。部下に斬りかかろうと突撃した勢いを利用された為威力は倍増されている。

「おい、お前らこの女を拘束しておけ。餓鬼だが中々楽しめそうだからな」

「了解です。勘瞑の旦那!」

勘瞑は槍に刺さっているクリスを放り投げて部下達に渡す。

しかし、それを兼一が許す筈がなかった。

「おおっ?」

「・・・・・・」

「け、兼一殿・・・」

意識が朦朧としているクリスは兼一に視線を向けた。

「クリスさん。大丈夫だから安心して眠ってて」

「兼一ど・・・の・・・」

力尽きたクリスはそのまま気絶してしまう。

兼一は気絶したクリスを近くにあったソファーに寝かした。

「・・・お前ら何をぼさっとしてやがる!あの男から女を奪い返せ!」

「「「応!!」」」

「チェストぉぉぉぉぉぉ!!」

「「「ぎゃあああああぁぁぁ!!??」」」

「何だと!?」

部下達が兼一に襲い掛かるも連続の正拳突きによって吹き飛ばされる。

「・・・貴様、一体・・・?」

「僕かい?僕はただの平和と植物と読書が好きな普通の学生だよ」

「・・・ちっ、ふざけてんじゃねえぞ!この糞餓鬼!!」

勘瞑は渾身の突きを兼一に喰らわす。しかし、兼一に難なくと掴まれてしまう。

「くっ、この!う、動かない!?」

押しても引いてもびくともしない槍。

そして、勘瞑は漸く理解した。

自分と兼一には大きな差があることに

「この気当り・・・貴様、まさか、達人級(マスタークラス)!?」

「山突き!カウ・ロイ!烏牛擺頭!朽木倒し!最強コンボ1号!!」

「ぎゃあああぁぁぁ!!??」

兼一が最強コンボ1号を勘瞑に喰らわして撃沈する。

「さて・・・」

「ひいっ!?」

兼一は椅子に座っていた頭の目の前へと移動した。

頭は今の兼一の事をまるで悪魔のように感じているだろう。

「僕と約束してくれないかな?」

「は、はい!なんなりとお申し付けください!」

今の頭は兼一の笑顔でも恐ろしく感じている。

なぜならば兼一と頭の間にある机には勘瞑の槍が突き刺さっていて、兼一が近づく際に投げつけたものであるからだ。

兼一は机に刺さった槍を持て横に曲げる事で刃部分を折る。

その際になった音で頭をさらなる恐怖に駆り立てた。

「もう二度と乱暴な地上げはしない。あのお婆ちゃんには迷惑をかけない。この約束を守らないと・・・」

兼一は頭の目の前で見えるように槍だった棒を向けると握力だけでその棒を折った。

まるで、約束を破るとこうなるぞと言わんばかりに

「わ、わわわわわっ、わかりました!!」

体中冷や汗を流し号泣しながら兼一と約束をする頭。

兼一はそれを確認すると気絶したクリスを背負ってアジトから出て行った。

「・・・ふう」

「・・・良かった。逆鬼師匠風の交渉術が上手くできて」

内心びびりまくりだった兼一。アジトを出て本音を思わず呟いてしまう。

交渉術と聞いて教わったがこれは交渉ではなく脅しであるのは兼一自身も承知しているのであった。

「う、ううん・・・」

クリスが薄っすらと目を開いて起きはじめる。

その目から最初に写ったのは広い誰かの背中であった。

「お、お父様・・・?」

「ん?あっ、クリスさん。目が覚めましたか?」

「ふぇ?」

自分の父とはまるで違う声。そして首を振り向かせて見えた顔はいつも頬に絆創膏をつけている兼一であった。

「・・・・・・・・・・・・け、兼一殿!?」

かなりの時間を要したが自分がどういう状態であるのかを理解した。

「お、降ろしてくれ!恥ずかしい!」

「ダメですよ。クリスさん、怪我をしているんですから無理しちゃダメです」

「・・・あっ!あの後どうなったんだ?もしかして兼一殿が倒したのか?」

自分が勘瞑によって気絶させられた事を思い出す。

兼一におんぶされていると言うことは全て解決したという事。

アジトに残されたのは兼一のみなのでそう結論に至っても仕方の無いことであった。

「違いますよ。我流ブルーが助けてくれたんです」

「我流ブルーが・・・そうか・・・。兼一殿、今日は本当にすまなかった」

「・・・何がですか?」

急に謝り出すクリス。理由は分かっているがあえて聞き返す兼一

「私は兼一殿の話を全く自分の考えだけで行動してしまい危険な目に合わせてしまった。本当に申し訳ない・・・」

「・・・そういえば我流ブルーが言ってたよ」

「え・・・?」

「『自分の義を信念を貫く事はとても良い事だ。しかし、義を貫き通し仲間が不幸になる事は悪と同じ。その義は本当に仲間にも幸せがあるのかをよく考えて行動すべし』だって」

「・・・なるほど。確かにその通りだ。自分だけでなく仲間の為にもなる義。それこそが私が目指さなければならないもの・・・。今度・・・我流ブルーに・・・会ったらお礼を・・・言わなければ・・・」

「クリスさん?・・・眠っちゃったか・・・」

どうやら兼一のおんぶがおんぶが心地よかったのか再び眠りの中へと行ってしまうクリス。

本当に気持ち良さそうに眠るクリスを見て思わず微笑んでしまう兼一。

今後クリスは我流ブルーの兼一の言葉を心に刻み本当の義を果たしていく事ができるだろう。

「史上最強の弟子・・・。貴様、クリスお嬢様に何をしている・・・?」

しかし、兼一はマルギッテとの約束を果たす事は出来なかったようだ。

「クリスお嬢様がいつもの時間になっても帰って来られなかったから血眼になって探していたというのに・・・。貴様は眠っているお嬢様をおんぶして・・・一体何をしていた?」

「ま、マルギッテさん?これには深い事情というものがありまして」

「ああ、聞いてやる。貴様を私のトンファーの錆びとしてからな!!」

マルギッテは兼一に攻撃を仕掛ける。

兼一は大慌てその攻撃を避けつつ、逃げ出した。

「待てええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「嫌あああああぁぁぁぁぁ!?」

結局、クリスが目を覚ましマルギッテを説得してくれるまで(捕まったら撲殺される)鬼ごっこをする羽目になった兼一。

しかも兼一は無意識に、おぶっているクリスを起こさないように動いていた為かなりの長時間、鬼ごっこをしていたのであった。




如何でしょうか?

明日にも投稿する予定です。

感想・評価してくれたら嬉しいです。


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BATTLE.21 夢は崩れ、新たな夢へ

明けましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします!

今年こそは早く更新出来るように頑張りたいと思います。


太陽が沈み始めて景色が赤く染まり始めた頃。

河原に、我流ブルーに変身した兼一と一子の姿があった。

「・・・・・・・・・」

一子の目からは涙が溢れ出しており、その表情もいつもの元気なものではなく悲しそうな表情であった。

そんな中、兼一が一子に向けて話しかけた。

「それでも一子ちゃんは強くなりたいかい?」

兼一の言葉に一子の心臓が脈動する。

何故このような状況になっているのか。

それは今日一日を振り返ってみよう。

今日の川神学園は良くも悪くも大盛り上がりである。

その理由の一つである決闘が今日も行われていた。

どの決闘者は、川神一子と川神戦役によって2年S組からF組へと転入してしまった榊原小雪であった。

「頑張れ、ワン子!!」

「絶対、勝てよ!!」

F組からの応援が凄い。主に男子が血眼になって一子を応援している。

この決闘では小雪が勝てばF組からS組に帰る事が出来る。

逆に一子が勝てば、エレガンテ・クアットロの一人葵冬馬とおまけに不死川心がF組に転入する事になっているのだ。

一子が負けたら天使(小雪)は居なくなり、勝てばイケメン(冬馬)と奴隷(心)が入ってくる。

F組にとっては是非とも勝って欲しいのだろう。

「相変わらず騒がしいな・・・。あれ?一子ちゃんが決闘しているね」

「そうですね。相手はあの白髪の方でしょうか?」

偶然通りかかった兼一と由紀江が決闘を始めようとしているのを発見した

「そうみたいだね。見ていこうか?」

「はい。決闘内容は1対1の組手みたいですね」

「武器もありみたいだ。一子ちゃんはいつも通り薙刀であの子は小刀」

「剣の心得でもあるのでしょうか?」

小刀を手にした小雪がその感覚を確かめるように振り回している。

「いや・・・多分違う」

「ではあの小刀は___あっ!決闘が始まりましたね」

話している間に決闘が始まると最初に仕掛けたのは一子であった。

「薙刀の長いリーチを生かした攻撃だけど、やけに単調だ」

「あれでは簡単に避けられてしまいます。どうしたんでしょう?いつもの一子さんではないようですが?」

「うん・・・。心に乱れが生じているね。もしかしたら今回の決闘になった原因が影響しているのかも」

冷静に分析している兼一と由紀江。大和など一般人から見たら一子が怒涛の攻めで優勢に見える

「あっ!凄いですね!あの攻めを掻い潜って蹴りを当てました!」

「うん。それにダメージも大きい。彼女はどうやら蹴り主体のテコンドーをやっているとみた」

「テコンドー・・・。と言うことはあの小刀は一子さんの注意を向かせる為の囮?」

「そうだろうね。あの攻めの中、小刀で防いだ様子もなかった。一子ちゃんも小刀を意識するあまり上半身を集中的に狙っていたからほぼ思い通りの展開だろうね」

「なるほど。一子さんも彼女の狙いも気づけたと思いますし、少しは冷静に対処するのでは?」

「いや・・・一子ちゃんが気づくまで攻撃を見られすぎた。冷静になっても彼女に攻撃を当てるのは難しいね」

「・・・確かに一子さんの攻撃が一向に当りませんね。お相手の方は余裕が見られるようになりました」

「でもただ避けているわけじゃない。分かるかな?合間合間に足を伸ばして一子ちゃんの急所に触れているよ」

兼一に言われて見てみると由紀江もその事が確認できた

「素晴らしい技術です。でもそれはいつでも攻撃は当てられると言うこと。何故仕掛けないのでしょうか?」

「それは分からないけど・・・僕、この学園に来てから驚かされてばかりだったけど。一番驚いているのは武に関して才能豊かな人が沢山居る事だよ。全くもって羨ましい」

「ははは・・・」

兼一の溜息に苦笑する由紀江。

そんな羨ましく思っている兼一がこの学園で一番強いわけなのだが、由紀江はあえてその事はつっこまないようにした

「・・・あんた!さっきからどういうつもりよ!なんで攻撃しないの!?なめてんの!?」

攻撃の合間に触れられている事に気づいた一子が激怒しながら小雪に質問した

「えー?なめてないよー。・・・ただ痛いのは嫌かなって思ってー」

「っ!!ふざけんじゃないわよ!手加減されるくらいなら大怪我した方がましよ!!」

「!」

「てりゃあああぁぁぁぁ!!!!」

「・・・っ!」

一子の今日一番の連撃を放つ。

流石の小雪もその攻撃を捌ききれず、掠り始めた。

「好機!!はああああああああぁぁっ!!」

「・・・・・・・・・」

流れを掴んだ一子は薙刀を頭上で振り回し始めた。

その様子に小雪は警戒して防御の構えをとる

さっきまで盛り上がっていた生徒達も黙り込んでその戦いを見守っている。

もうすぐ決着がつくのだと感じたのだろう。

「やああああぁぁぁぁぁ!!」

一子の上段が小雪に目掛けて一直線。

小雪は今まで使っていなかった小刀で防御の姿勢を取った。

「と見せかけて!!」

「!?」

上段の攻撃は小雪の手前で通り過ぎ、一子はすかさず下段の構えへと変わった。

「これでお終いよ!!」

上段から下段への切り返しで、がら空きになった顎下目掛けて降り抜いた。

だが、一子は気づけなかった小雪の顔には笑みを浮かべていた事に

「なっ!?」

一子の視線から小雪の姿が消えてしまう。

そして、当った手ごたえのない薙刀で一子は避けられた事が分かる。

「っ!上!?」

一子が上を見るとそこには小雪の姿があった。

小雪は持ち前の脚を生かした跳躍力と瞬発力で一子の薙刀よりも早く跳び、避ける事に成功したのだ。

そして、一子が気づいて上を向いた時には小雪が既に足を降りぬいていた。

「ぎゃふっ!?」

小雪の蹴りが一子の顔面に炸裂し、吹き飛ばされた。

「勝者、榊原小雪!!」

「「「おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!??」」」

吹き飛ばされた一子はその蹴りによって気絶。

小雪の勝利が宣言された。

小雪の大技返しに生徒達は大盛り上がりである。

「一子さん、負けてしまいましたね・・・」

「うん。一子ちゃんは攻め急ぎすぎた。冷静に戦いに臨んでいれば、勝つのは難しいだろうけど、違う結果だったと思う」

「そうですね・・・」

「むっ?おおっ、まゆまゆに白浜さんじゃないか」

「モモ先輩!」

話していると百代が2人の前に歩いてきていた。

「2人も見ていたのか?」

「はい。一子さん、残念でしたね。いつも修行を頑張っていますから頑張ってほしかったのですけど・・・」

「ああ・・・。よく頑張る自慢の妹だ。でも性能の差が出た」

少し残念そうな表情を見せる百代は続けて話した。

「いくら頑張っても、武の頂に行けるのはほんの一握りの選ばれた者だけだ。私やまゆまゆのようにな」

「・・・そうでしょうか?」

「ん?」

「才があってもなくても関係ないです。私は武で頂に行けるのは最後まで諦めずに頑張り続けた人だと思っています。いくら才があろうと努力がなければ実りませんから」

「・・・そうか」

由紀江の百代とは正反対の意見を言われても何も言い返さずそのまま立ち去ってしまう。

百代は何を思ったのか笑みを浮かべていた。

その笑みが何を意味しているのかは分からない。

しかし、兼一は百代より一子の方が気になっていた。

「一子ちゃん・・・」

兼一には見えていた。

一子がその場から立ち去る時には明るく振舞っていたが誰も見ていない角度ではとても悲しい表情をしていた事に。

授業が終わって一子は師匠であるルーに指導を受けた後、走り込みをしようと準備をしていた。

「一子。今日はモウ止めたほうがイイヨ。学園では決闘もしてたし、ダメージがまだ残ってルかもダヨ」

「大丈夫ですよ、ルー師範代!あれくらいいつもの事ですから!」

「しかし・・・」

「それじゃあ、いってきまーす!!」

強引に走りこみに出かける一子。

ルーは心配そうに数この背中を見つめていた。

「勇・往・邁・進!勇・往・邁・進!勇・往・邁・進!」

掛け声を上げながら一子は河原まで到着。

そして、疲れが出たのか足を止めて休憩する。

そして河原を見てぼーっとしていると水面に、自分を倒した小雪とその小雪に嬉しそうに抱きつく百代の姿が映って見えた。

「はっ!?ダメダメダメダメダメ!!休憩終わり!」

何かを振り払うかのように頭を振った後、一子は再び走り始めた。

「・・・・・・・・・」

さっきまでの掛け声はなくなり、一子は無心で走り続ける。そうでなければ嫌な事が頭の中を過ぎってしまう。

「はあ、はあ、はあっ・・・」

走って走って走り続けて、一子の体力が限界に達した。

それでも走ろうと足を動かす一子だったが上手く動かす事が出来ない。

「あっ、へぶっ・・・」

最後には石に躓いてしまい転んでしまった。

「・・・・・・・・・」

一子は転んだまま動かない。

今の転倒で怪我をした訳ではない。体力の限界で指一本動かせない訳でもない。

「う、ううっ・・・」

痛い訳でもないのに涙が溢れ出す一子。

心の奥底から溢れ出す感情を抑え切れずにいた。

それは今まで何度も体験してきた悔しさという負の感情。

楽しい時には笑い、悲しい時には泣く。一子はそんな感情を包み隠さずオープンにしてきた。

しかし、武に対してのそれは違っていた。

もちろん、勝ったときは全力で喜ぶし、負けたときは全力で悔しがる。

しかし、全部を吐き出した訳ではなかった。

勝って嬉しい。

でも、百代お姉様だったらルー師範代だったらもっと綺麗に勝てた。

負けて悔しい。

どうして負けたのだろう。応援してくれる家族やみんなに申し訳ない。

小さい頃から約数年。

吐き出すも残ってしまい、溜まってしまった負の感情が抑えきれなくなった。

「ううっ、ひっぐっ・・・」

涙によって負の感情が流れていく。後数分すればいつもの一子に戻るだろう。

しかし、それを許さない男がいた。

「大丈夫かい?川神一子ちゃん」

「・・・えっ?」

急に話しかけられて涙が止まった一子は地面に向けていた顔を起こす。

そこには我流ブルーの仮面を被った兼一の姿があった。

「立てるかい?」

「あっ、はい。ありがとうございます」

兼一が差し伸べた手を掴んで立ち上がる一子。

兼一は土手に座ると一子にも座るように言った。

「それでどうして泣いていたのかな?」

「・・・・・・」

兼一は一子に泣いていた理由を聞いてみる。

だが、返事はなく唯俯いていた

「無理にとは言わないが恐らく今日の決闘で君が溜め込んでいた何かが崩壊したって所かな?」

「っ!?」

兼一の的を得た言葉に一子は顔を上げて兼一を見る。

その顔はどうしてわかったのかと言いたげなものだった。

「私はそういうことには敏感なのだよ。それにずっと前から君の瞳は迷いや不安が宿っていたからね」

「・・・私は今日、榊原さんに決闘で負けた。とても悔しかったけど、一番悔しかったのは興味津々でお姉様に話しかけられる榊原さんの姿だったの。

私は今日まで武を一生懸命やってきたけど一度も私と戦いたい言われた事はなかったわ。私が妹だからって事もあるだろうけど一番の理由はそれじゃないと私は思うの。

私が弱いから、戦っても楽しくないからなんだろうなって・・・。

お姉様と私は血は繋がってないけど本当の妹のように可愛がってくれる。私はそれがとても嬉しい

でもお姉様と本当の意味で姉妹になるためには、武でお姉様を支えられるような妹に私はなりたいの。

その為には私はもっともっと強くならないといけないわ。それも、川神院の師範代くらいの強さじゃないと・・・

だから、私の夢は川神院の師範代になる事。でも、それを榊原さんには無理だって、才能がないから努力しても無駄だって言われて・・・

悔しかった。でも負けて、心の奥底で本当に無理なんじゃないか?努力した数年間は無駄だったんじゃないかって、お姉様の隣には立てないんじゃないかって、そんな気持ちがどんどん大きくなって怖くなって・・・」

話している間にも涙が溢れてくる一子の姿に兼一はただ見守っている。

一子は涙を腕で拭って兼一のほうへ向いた。

「我流ブルーさん。私は川神院の師範代になる事が出来ますか?」

「・・・・・・・・・」

一子の質問に答えない兼一。

仮面を被っているため、兼一がどういう表情をしているのかがわからなくて不安になってくる一子。

そして兼一は一子の質問に答えた

「・・・無理だ。

今のままではね」

「えっ?」

兼一の最初の言葉に俯いた一子だったが続けて言った言葉を聞いて俯いた顔をすぐに向かせた。

「今の修行内容では一子ちゃんが師範代になるのは無理だろう。でも、私の修行を受ければ可能性はぐんっと上がる」

「ほ、本当ですか!?」

「唯、半端な覚悟では途中で死んでしまうかもしれないよ?」

「死!?」

修行で死ぬ、という考えは全くなかった一子は驚愕を隠せない。

「才能のない一子ちゃんが百代さんを支えたいと言うのならばそのくらいの覚悟が必要なんだ」

「・・・・・・」

「それでも一子ちゃんは強くなりたいかい?」

「強くなりたい!!」

「!?」

即答だった。

一子は大きな声でそう答えたのだ。

「正直、私は死ぬ覚悟なんて全くしたことがなかったわ。でも、お姉様に近づく為、私の夢を叶えるために必要ならば私は死ぬ覚悟を持つ!!」

「その覚悟に偽りはないか?」

「ないわ!」

「死ぬほど辛い修行だ。怖くないのか?」

「私の座右の銘は『勇往邁進』!どんな修行でも恐れず前へ進み続けるわ!」

「・・・・・・素晴らしい!」

一子の答えに兼一は拍手を贈った。

いきなりの拍手に一子は戸惑うが兼一は言葉を続けた。

「君の覚悟・信念は確かに受け取った。私はそれに応えたいと思う」

「じゃ、じゃあ!」

「私が一子ちゃんに修行をつけてあげるよ」

「や、やったーー!!」

言葉通り跳ねながら喜ぶ一子。今までの悲しい表情はどこに行ってしまったのだろうか。

「それじゃあ、我流ブルー師匠!さっそく今からやりましょう!」

「それでも良かったけど、修行は明日からにしよう。今日はある目標を決めようと思う」

「目標?それはもちろん、川神院の師範代になれるくらい___」

「それじゃあダメなんだよ、一子ちゃん」

「えっ?」

兼一の言葉に首を傾げる一子

「百代さんは一子ちゃんが師範代クラスまで強くなっても今の関係は変わらない。百代さんが君に一人の武術家として見てもらうにはそれ以上の強さでないといけないんだ」

「し、師範代以上の強さ?」

「そう。簡単に言えば百代さんのライバル。川神流次期総代候補!」

「え、ええっ!?」

兼一は一子の夢であった師範代は通過点であって、目標は百代と次期総代を争う程に強くしようと考えていた

「そ、そんなに私が強くなれるのかしら・・・?」

「なれる!それに君なら私以上に強くなれる可能性だってあるんだ」

「師匠以上に!?それこそ無理よ!?」

兼一より強くなれる。そんな事など想像できない一子はついつい弱音を吐いてしまう

「そんな事はない。私は一子ちゃん以上に才能がないにも関わらず、今の強さなのだから。しかも、私は今二十歳だが、高校一年生の時なんて今の君よりも弱かったんだぞ」

「嘘っ!?経った五年で今の強さを手に入れたの!?ていうか師匠ってそんなに若かったの!?」

兼一の驚くべき真実に驚愕する一子。

「信じられないのも分かる。だが、事実だ。一子ちゃんは私と同じ強い信念を持ち、私以上の才能を持っている!自信を持ちたまえ!」

「は、はい!私、お姉様みたいに、師匠みたいに強くなるように頑張ります!」

こうして今日、新たな師弟が誕生した。

それは、かつて師匠達全員から武の才能はないと呼ばれた達人と武の才能がないと言われても諦めない少女の師弟であった。




一子の強化フラグが漸く立てれました。

タイトル詐欺と思いました?

残念、夢が師範代から次期総代=百夜のライバルに変更になっただけでした。

前から一子の夢が師範代というのが納得出来なかったんですよね。

師範代は確かに凄いけどそれ以上は目指さないのか?って

ケンイチの弟子になるのだったらそれくらいになってもらわないとダメですよね?

これからこ一子にご期待下さい。

感想・評価を頂けたら嬉しいです。
宜しくお願い致します!


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BATTLE.22 寡黙な男の一撃と元気娘の宣言!

少しは早く更新出来たと思います。

一カ月経っているんですけどね

申し訳ありません!


俺の名前は直江大和。

 

行き成りだが、俺は川神学園2年F組でいつでも騒がしいクラスなんだ。

でもそのF組の生徒達は俺を含めて困惑していた。

 

なぜならば、いつでも元気一杯で我が風間ファミリーの特攻隊長川神一子ことワン子が席で大人しくしているのだ。

ただ寝ているだけならよくある光景だ。しかし、そうじゃなかった。

 

ワン子は白目を向いていて身体はぴくぴくと痙攣。しかも口からは出てはいけないような白い何かが出ているように見えた。

ファミリーとしてではなく一般男子から見たワン子の容姿は美少女の分類に入るのだが、そんな美少女がしていい表情ではない。

もしアニメやゲームだったらモザイクをかけてほしいレベル。

 

そんなワン子が皆気になってしょうがないのだ。でも、聞くのが怖くて誰も近づけない。

だからクラスの軍師たる俺が話しかける事になった。

 

「お、おい。ワン子、大丈夫か?」

 

「・・・あ、あうあ」

 

返事が返ってこない。これは重症だ。

 

「や、やばいなら保健室いくか?」

 

「あああ・・・」

 

「ダメだこりゃ。ガクト、手伝ってくれ。ワン子を保健室まで運ぼう」

 

「よし来た!」

 

俺はガクトを呼び、ワン子を運ぶように指示をした。ガクトもすぐにワン子を運ぼうと近づくがいきなり俺の手首を誰かが掴んだ。ワン子だった。

 

「だ・・・ダメよ。保健室には連れて行かないで・・・」

 

「意識が戻ったか。でもお前明らかに状態がやばいことになってるぞ」

 

「わかってる・・・。でも授業を受けなきゃ、師匠から修行を受けさせてもらえないのよ・・・」

 

「師匠?」

 

一子の師匠で一番に思いつくのはルー先生だ。でも、あの人がここまでワン子を追い込む修行をするようには思えない。

 

「が、我流ブルー師匠よ・・・」

 

「!?」

 

その言葉にクラスがざわめいた。なんせ、『武神』川神百代と互角、それ以上の実力と噂されている謎の男『我流ブルー』が一子の師匠になっているなんて、俺ですら知らない情報をワン子は言ったのだから。

 

「お、お前いつから我流ブルーを師匠に・・・?」

 

「き、昨日から・・・」

 

昨日・・・。それなら知らないも仕方ない。でも昨日ということは修行は今朝行ったことになる。

 

「あの体力自慢のワン子がグロッキーな修行って一体どんな修行なのさ?」

 

「わ、分かんねえ・・・!」

 

「なあなあ、ワン子!どんな修行をしたんだよ!俺にも教えろよ!」

 

モロ、ガクト、キャップがワン子に喋り出す。そう姉さんを除いてファミリー一番のワン子がここまで衰弱するなんてどんな修行だよ。

ワン子はびくっと反応したと思ったらぷるぷるとまるで子犬のように震えだした。

 

「あばばばばばばっ・・・!!??」

 

「わ、ワン子!?」

 

「ばばばば、はっ!?修行の事を思い出したら震えが・・・」

 

「そ、そうか・・・」

 

修行大好きなワン子がここまで怯える。本当にどんな修行だったんだ。

 

「でもその状態で授業に出れるのか?」

 

「だ、大丈夫・・・」

 

本当に大丈夫だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

「兼一さん?何を書いているのですか?」

 

場所は変わって1年C組。兼一の元に由紀江が話しかける。

 

「ああ、これ?これは一子ちゃんの修行内容を考えてたのさ」

 

「一子さんの修行、ですか?」

 

「うん。昨日、話したよね?一子ちゃんを弟子にしたって」

 

我流ブルーの正体が兼一と知っている由紀江には、一子を弟子にした事を伝えていた。

 

「ちなみに今朝はどんな修行をしたのですが?」

 

「初日だからね。軽い内容にしたよ。朝5時からランニングを両腕両足に50キロの岬越寺師匠特製『しがみつき地蔵』を付けて七浜まで10往復。その後は地蔵を付けながら手押し車川原を20往復。一子ちゃんを顔が川に沈むくらいに調節したロープで橋に括りつけて腹筋背筋300回。もちろん地蔵付き。」

 

「そ、そうですか。一子さん、今頃机でどうなっているのでしょうか?授業をまともに受けれないのでは?」

 

「それはどうかな?」

 

ふふふと兼一が笑うと由紀江は首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん!今日も一日疲れたわ!」

 

放課後になり、一子は身体を伸ばして一言。

 

「最初は心配してたけど、何の心配もいらなかったな」

 

「うん。まさか一度も居眠りせずに授業を受けるなんて、初めてじゃない?」

 

「酷いわよ、京!私だって寝ないで授業に受けたことぐらい、8、7、6、5、4回くらいあるわよ!」

 

「犬!増えるんじゃなくて、減るとはどういうことだ!授業くらいまじめに受けろ!!」

 

「うううっ・・・」

 

京とクリスに言われてへこむ一子。

 

「兼一さん、これは一体・・・?」

 

「一子ちゃんは皆が言うとおり、体力が有り余ってる。今までの修行だと下手に体力を持て余すと眠気を誘うからね。眠気すら吹っ飛ぶほど鍛えれば寝る事はない。その一線を越えると死んだように眠る事になるけど。これは調節が難しんだ。成功して良かった」

 

「な、なるほど。流石兼一さんです」

 

「そういえば、モモ先輩見てねえけどどうしたんだ?」

 

「姉さんなら授業が終わった後、すぐに帰っていったらしい。多分、修行に行ったんだと思う」

 

「最近、モモ先輩付き合い悪いよな。金曜集会にも来ないし」

 

「強敵が出来たから嬉しいんだろうけど、なんか怖いよね」

 

「うむ。1分1秒でも早く力を得たいと焦っているようにも見えるが・・・兼一殿はどう思う」

 

顎に手を添えて考えるクリスが兼一に話を振った。振られた兼一はびくっと肩を震わせて驚いた。

 

「え、えっとそうだね。百代さんは心に余裕が全く感じないかな。もしかしたら修行が上手くいってないのかもしれないね」

 

「なるほど。所謂、スランプというものだな」

 

兼一の言葉に頷くクリス。

 

「・・・最近、クリスって白浜さんに懐いてない?」

 

「・・・モロもそう思ったか?俺様も思ってたんだ。大和の話だと、飯は隣で食べるようになったり、時代劇のDVDを兼一と見ている事が多くなったとか」

 

「・・・うわあ、これはもしかするね」

 

「畜生!まゆっちだけでなく、クリスまで野郎の毒牙に!」

 

「(2人とも聞こえてるよ。別に僕はまゆっちやクリスさんになにもしてないんだけど・・・?それにもしかってどゆこと?)」

 

モロとガクトの言葉に頭を傾げる兼一。

 

「よーし!私もお姉さまに負けていられないわ!帰ったらさっそく修行よ!」

 

「我流ブルーの所に行くのか?俺もその修行を見学したいんだが」

 

気合入れる一子に大和が尋ねる。すると一子は腕を組んで悩んだ。

 

「そうね・・・。別にダメって言われていないから大丈夫だと思うけど」

 

「それなら見学させてもら____」

 

「俺も見学する」

 

大和が言いきる前に背後から男性が遮った。その男はゲンさんこと源忠勝だった。

 

「たっちゃん!」

 

「勘違いすんじゃねえぞ。俺は一子がグロッキーな状態で教室にくると教室がざわざわ煩くて仕方ねえから我流ブルーに文句言ってやるだけだ」

 

「ゲンさん。まだ何も言ってないんだけど。まあいいや、キャップ達はどうする?」

 

「もちろん、見に行くぜ!」

 

「俺様も参加!」

 

「じゃあ、僕も」

 

「大和が行くなら私も」

 

「私も行くぞ!兼一殿は?」

 

「ぼ、僕は用事があるから」

 

「そ、そうか・・・。まゆっちはどうだ?」

 

「あっ、はい!私も参加させて頂きます!」

 

「ようし!各自帰ったらすぐにワン子の修行場所である川原に集合だ!」

 

こうして一子の修行見学会が始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やああああああっ!!」

 

「踏み込みが甘い」

 

「はぶっ!?」

 

修行が始まって一時間ちょっと、一子と我流ブルーの組手が行われていた。

しかし、何も知らない人から見たらその光景はあまりにも奇妙に感じるだろう。

 

一子が薙刀で斬りかかるも我流ブルーは片手にノートとペンを持って何かを書き込んでいる。

まるで勉強している仮面を被った一般人?に襲いかかっているようだ。

しかし、一子の攻撃はかすりもしない。我流ブルーからダメ出しをされる始末である。

 

その組手が行われて数分経った後に我流ブルーがノートの中身を見せてくれたかと思えば一子の似顔絵が描かれていた。

一子だけではなく、見学に来た大和達の似顔絵もあったのだ。

 

そのふざけた態度に怒りを感じ、ヤジを飛ばす外野(主にガクト)だったが、一子は一切の怒りを覚える事はなかった。

寧ろ、一子には我流ブルーをさらに尊敬していた。

 

似顔絵を描きながら指導しつつ組手をこなす。川神院の師範代であるルーでも無理であろう。

それが我流ブルーと自分のいる立ち位置がしっかりと理解出来た。

 

「はぐっ!?」

 

再び特攻する一子だったが足を引っ掛けられ転んでしまう。

それでも一子はすぐに立ち上がり我流ブルーに挑んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・」

 

「げ、ゲンさん?」

 

一子と我流ブルーの組手を見学していた大和たち。

その中で一番、一子の事を考えている男源忠勝が歩み出した。

 

「おっ?源、行くのか?俺様も行くぜ!」

 

忠勝の後ろを付くようにガクトも歩き出す。口角を上げてはいるがその目は笑っていない。

 

「来んな」

 

「なに?」

 

「来んなって言ったんだ。大人しくしてろ」

 

「ゲンさん!1人で我流ブルーに挑むつもりなのか?無茶だ!」

 

ガクトを止めて再び歩く忠勝を大和が止める。百代と同レベルの相手に忠勝が勝てるわけがない。

大和は必死に止めようと声をかける。

 

「別に挑むつもりなんてねえよ。俺はちょっと挨拶しに行くだけだ。テメェは隣にいる奴を止めるのを手伝ってやれ」

 

「えっ?」

 

忠勝に言われた通り、隣を向いてみる。

 

「我流ブルー、殺す!」

 

「止めろ、京!」

 

「だ、ダメですよ!」

 

大和の隣に立っていた京が弓矢を引いて我流ブルーに攻撃を仕掛けようとしている。それを阻止しようとクリスと由紀江が止めている。

 

「んじゃ、頼んだぜ」

 

「ゲンさん!」

 

忠勝は真っ直ぐ一子と我流ブルーの元へと向かう。

そして、忠勝は我流ブルーの目の前までたどり着いた。

 

「・・・思ったより背は低いんだな」

 

「た、タッちゃん?」

 

一子と我流ブルーの間に立つように現れた忠勝に動揺する一子。

我流ブルーはなんの反応もせず、ノートを閉じて忠勝に視線を向けた。

 

「君は源忠勝君だったたね。何か用かな?今、稽古の真っ最中なのだけど?」

 

「いや、少し挨拶をと思ってな・・・」

 

「そう、挨拶か」

 

「ああ。挨拶、だ!!」

 

「タッちゃん!?」

 

ばきっ!と鈍い音が響き渡る。

忠勝が言葉を言い終わると同時にアッパーを繰り出したのだ。

 

「な、に?」

 

「し、師匠・・・?」

 

忠勝と一子は驚愕した。忠勝の拳は我流ブルーの顎を捉えていたのだ。

だが、我流ブルーは首が跳ね上がるどころかびくともしない。だが、2人が驚いている事はそこではなかった。

 

「・・・何故避けない」

 

「只避けるだけじゃ君は納得しないと思ったからね?」

 

「・・・ちっ」

 

忠勝は拳を戻すとその拳を解いて振りだした。

 

「殴った方がダメージでかいとかどんだけだ。糞が・・・」

 

「はははっ。そこらの不良だったら宙を舞っていたね」

 

「えっ?えっ!?」

 

毒を吐く忠勝に我流ブルーは笑い出す。いきなりの空気の変化に戸惑う一子。それは遠くから見ていた風間ファミリーも同じ事であった。

 

「一子ちゃん。君は良い友達がいるね、大事にしなさい」

 

「は、はい・・・って、これはどういう事ですか!?」

 

いきなり褒められた一子は何がなんだが分からずパニック状態だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一子が新しい師匠が出来たと言っていた。

その師匠の名前は我流ブルー。

あの一子の姉である武神川神百代と同等の武力を持った正体不明の男。

 

調べてみたが何一つ手がかりを掴める事は出来なかった男が一子の弟子だと?

そんな男に一子を任せられる訳がない。

それに今朝の一子の姿を見れば不安にもなる。

あんな一子の姿は俺ですら見たことない。ルー師範代でもあそこまで追い込むことはしない。

あれではいずれ、一子が倒れてしまう。俺は一子について行き修行を止めさせてやろうと思った。

 

俺は我流ブルーとの組手に驚いた。

あの一子が言葉通り指一本触れられない。それどころかノートに俺らの似顔絵を書くなんてふざけた遊びなんてしやがる。

 

やっぱり、あの野郎は一子を見て馬鹿にしてやがんだ。

許せない。一子だってあんな事されて怒っているに違いない。

 

「まだまだ!」

 

いや、一子は怒る所か心なしか笑ってないか?

確かにあいつは修行が大好きな奴だが、それ以上に馬鹿にされるのは大嫌いな奴だ。

なんでだ?今、あいつの考えている事が分からない。

 

「もういっちょ!!」

 

何度も何度も倒れては立ち上がりを繰り返す。

 

「もう一回お願いします!」

 

「・・・・・・」

 

分かった。一子は我流ブルーを師匠を信じているんだ。

信じているからこそ、一子はああやって立ち上がれるんだ。

そして、その一子を信じさせた我流ブルーはそれほどの男。一子は単純だが人の見る目はある方だ。

 

我流ブルーって奴は信用できる奴なのだろう。だが、やっぱり自分で確認しないと気が済まない。

 

俺は我流ブルーにアッパーを繰り出した。

だが、びくともしない。まるで、鉄でも殴ったかのようだ。

そして、俺の拳なんて簡単に避けられる。それをあえて受けやがった。

 

「君は優しいね。私の仮面を割らないように顔面にしなかったんだろ?」

 

「・・・思い違いですよ」

 

恐ろしい奴だ。だが、少しだけ信用に値するな。

 

「我流ブルー・・・さん。ひとつ、聞いていいすか?」

 

「なんだい?」

 

俺はかつてルー先生にも聞いた。言葉を問いかけた。

 

「一子は師範代になれるほど、自分の夢を叶えられるほど強くなれますか?」

 

「師範代?」

 

俺の言葉に我流ブルーは首を傾げた。

なんだ?一子の夢は川神院の師範代。師匠ならそれくらい知っている筈

俺には我流ブルーが何を思ったのか分からなかった。

この質問をした時、ルー先生はただ苦笑しなかった。何も答えてもらえかった。

それは暗になれないと言っているのも同じだった。

まさか、我流ブルーも同じなのか?

 

「一子ちゃんの夢は師範代じゃない」

 

「・・・なんだと?」

 

「一子ちゃん、言ってあげたら?」

 

「そういえば言ってなかったわね」

 

あははっ、と笑いだす一子。

夢が変わった?

昔からあれほど師範代になると言っていたのにどういうことだ?

 

「タッちゃん!皆!私の夢はね!」

 

一子はいつも通り元気な姿で俺達に宣言した。

そして、その宣言で我流ブルーを俺は信用することになる。

 

「私はお姉さまを超える!私の夢は次期川神院総代!」

 

一子が昔の夢(師範代)よりも遥か上の夢(川神院総代)を持たせる師匠だ。信用しない訳にはいかねえよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん。今日は初日だし、軽めにしといたよ。明日に備えて早く宿題をやって寝るように」

 

「・・・・・・」

 

一子は今朝のような状態になっていた。ま、まあ、これも一子の夢の為だ仕方ないな。

 

「よし。では私は新たな修行マッシーンを仕入れる為に帰らせてもらうよ」

 

俺達に手を振ると我流ブルーはまるで霧のように姿消した。風間ファミリー達は力尽きている一子の介抱をしている。

 

「ん?我流ブルーの奴。ノートを忘れていきやがった・・・」

 

俺は落ちていたノートを拾い、悪いと思ったがそのノートを開いて読んでみた。

最初の数枚は俺達に見せた似顔絵。

そしてその後のページには一子の長所・短所をこと細かく書かれている。

さらにページを開くと、

 

 

 

 

 

煉獄28号改二

発電鼠す~ぱ~(改良版)

投げられ地蔵(50キロ~200キロ)

生死ハ足次第マッシ~ン(改々良版)

鬼人君ハイパー(改良版)

ETC...

 

 

 

 

 

なんだか物騒な言葉が書かれている。

最初の5行でも怪しげで、何かの名前なのか?

他の言葉にも『地獄』や『死』、なんかがいっぱい書かれている。

ん?マシンって書かれてるってことは・・・もしかして、我流ブルーが言ってたマッシーンってやつは・・・

 

「私とした事が落し物をしてしまうとは」

 

「ぬおっ!?」

 

いきなり我流ブルーが現れた。そして、奴の手には俺が持っていた筈のノートを持っている。

急に出てくるのは止めろ!変な声出しちまったじゃねえか!

 

「源君、このノートの内容は一子ちゃんや皆には内緒で頼むよ。では、去らばだ!!」

 

「・・・・・・」

 

・・・うん。

違う意味で心配になってきた。やっぱりちょくちょく様子を見に行く事しよう。




皆さんが気になっているだろう一子の修行初日を書きました!

そして一子と言えばこの男!と思って出しました。

一子が修行後の兼一みたいになっていれば誰でも心配になりますが、たっちゃんが首を出さない訳がない!

これで読者の皆様が納得してもらえるか不安ですが、、、

次はもっと早く更新出来るよう頑張ります!

評価・感想を頂けると嬉しいです!
宜しくお願い致します!


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BATTLE.23 九鬼とクローン

お久しぶりです!

二カ月ぶりの投稿になってしまい申し訳ありません!

書いていただいた感想も返事出来ていませんが投稿させていただきました。

本当に申し訳ありません!

それでも楽しく読んで頂けたら幸いです!


「今日の修行はここまで!」

 

「あ、ありはひょうごひゃいまひた(あ、ありがとうございました)・・・」

 

我流ブルーこと兼一は一子との修行が始まって一週間が経過した。

初めての弟子である一子は最初の修行では返事も出来なかったのになんとか返事を返せるようにまで成長していた。

 

「では修行マッシーンは片づけておくように!」

 

「・・・ひゃい(はい)」

 

そう言うと一子は置かれている地蔵やまるで拷問器具のようなものを片づけていく。

その間、兼一はノートに何かを書きこんでいく。

これは、一子が修行を始めてからの成長具合を記入していた。

 

「(やっぱり一子ちゃんは僕なんかよりも才能があるし、根性もあるから成長が早い。一年後にはまるで別人に変わるかもしれない)」

 

兼一は一子の成長具合に感動し、期待を抱く。

 

「!」

 

「ひ、ひひょう?(し、師匠?)」

 

「なんでもないよ・・・」

 

そう答える兼一だが、その手にはある筈の無い弓矢。そしてその弓矢には紙が結ばれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かここら辺だったよな・・・」

 

深夜23時頃、兼一はとある山奥にいた。

理由は兼一に放たれた弓矢に付いていた紙、矢文だった。その矢文にはこう書かれていた。

 

 

 

敬愛なる『史上最強の弟子』白浜兼一殿

 

○○○山の奥にある建物にいらっしゃいませ。

貴方を長年会いたいと言うお方いらっしゃいます。

来なければ、川神百代に貴方の存在をばらします。

 

 

 

「僕の事を知っているという事は裏の事情に何かしら関係している人、ってなるんだけど・・・」

 

考えても全く分からない兼一はとりあえず指定された山と複数感じた気配を頼りにたどり着いたのは、山奥には全く相応しくない豪華な建物を発見した。

 

「・・・この気配は」

 

兼一はそう呟きながら、明らかに怪しい建物の中へと正面玄関から入って行った。

 

「おっと!」

 

兼一は横に跳ぶ。その瞬間、兼一のいた場所に無数の弓矢が降り注いだ。

 

「!!」

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

しかし、兼一が跳んだ後、身体全体マントを包んだ2人が襲いかかってきた。

1人は刀、もう1人は錫杖を持っている。どのような姿なのかはマントのせいで分からないが只者ではない事が分かる。

 

「いきなり襲いかかるなんて、貴方達は何者なんですか!?」

 

「・・・ワタシタチハアナタノジツリョクガシリタイ」

 

「ジツリョク?実力?」

 

声が変声機のせいで男か女かですら分からない。しかし、目的は兼一の実力を知る為のようだ。

 

「何で貴方達は僕の実力を知りたい?」

 

「メンドクサイケドアルオカタカラミヲモッテシッテオケトイワレタカラネ」

 

「あるお方?」

 

「アア。ヨシツネモ、シラハマドノガドレホドノジツリョクシャナノカ、ジッサイニタタカッテミタカッタノダ!あg___」

 

「ハイ、オハナシソコマデ。メンドクサイケド、ゼンリョクデイクヨ」

 

「うわっ!?」

 

錫杖を持った者が襲いかかってくる。兼一はそれを避ける。その錫杖が地面にぶつかると衝撃と轟音が鳴り響く。

 

「マイル!!」

 

「わわわっ!?」

 

刀を持った者が次に襲いかかる。その剣筋は由紀江に匹敵もしくはそれ以上。

だが、兼一にとっては避けられるスピードである。その刀を紙一重で避けている。

 

「ハアアアアアアアアアッ!!」

 

「ちょ、ちょっと待って!?」

 

「・・・ヨシツネの斬撃ノ嵐ヲヨケルダケデハナクシャベレルヨユウモアルトハ・・・アゲハサマノカダイヒョウカトイウワケデハナカッタカ」

 

仲間と兼一が戦っている光景を見て感心する錫杖を持った者。しかし、ひとつの疑問を持った。それは刀を持った者もそうだった。

 

「ヒトツ、キイテモ?」

 

「なに?」

 

「ナンデハンゲキシテコナイ?」

 

2人が兼一に攻撃を仕掛けてから数分は経過しただろう。その間、兼一は一度も攻撃をしていない。やろうと思えばいつでも手を出せた筈なのに

 

「えっと、実は僕、女性には手を上げない主義なんです」

 

「「!?」」

 

表情は見えないが2人は驚愕した。確かに2人は兼一の言うとおり女性だった。

しかし、それがばれない様に身体を隠すマントや変声機まで用意したにも関わらず女だと言い当てられた。

 

「ドウシテワカッタノダ?」

 

「身のこなしとか」

 

身体を隠しているのに何故身のこなしがわかるのか2人は分からなかった。

 

「弁慶。もう変声機やこの格好の必要はないのでは?」

 

「・・・まあ、そうだね。暑いし」

 

2人の声は透き通るソプラノ声。マントを脱ぐとその姿は美少女だった。

刀を持った者はポニーテールで幼さを残した可愛らしい顔をした女性。

錫杖を持った者はロングでぼさぼさとしていており、顔は大人の雰囲気を感じられる。

 

「後は窓の外から弓で狙っている彼だけど・・・」

 

「!!わかるのか?」

 

「うん。最初に部屋に入った時やけに窓が多い造りだなと思ったけど外に居る彼が狙いやすくする為のものだと見つけた時に理解したよ」

 

「・・・与一。あんた、ばれてるみたいだよ」

 

『ああ。さっきから移動して弓を構えると必ず目が合う。奴の言っている事は本当だ。今からそっちに向かう』

 

無線機を持ちだした錫杖の女性は兼一の言った狙撃者と話していた。その狙撃者も兼一に気付かれている事を理解していた。隙を窺っていたのだが無駄と分かり諦めて向かう事を伝えて無線を切った。

 

「義経。与一がこっちに来るって」

 

「そうか!では、白浜殿、改めてさっきの続きを!」

 

「ええっ!?」

 

刀を構える女性に驚く兼一。隣にいた錫杖を持った女性は溜息を吐いた。

 

「やめときなよ、義経。それにこのまま続けても永遠に避けられ続けて私たちがばてるのがオチだよ」

 

「そうかもしれないが、このまま終わりというのも・・・」

 

残念そうな女性に苦笑する兼一。これで一騒動が終わる。そう思っていた。

 

「ふはははっ!!やはり敵わぬか!!」

 

建物の天井が轟音と同時に破壊された。崩れ落ちる瓦礫と一緒に声が建物内を包み込んだ。

 

「やっぱり貴方でしたか揚羽さん」

 

「うむ!久しぶりだな、兼一!」

 

彼女の名前は九鬼揚羽。ロングな銀髪に自信に満ち溢れた顔をしている。

九鬼財閥の長女。九鬼英雄の姉である。

 

「前にあった時よりもさらに腕前を上げたようだな。この3人相手にノーダメージなど百代でも相当難しい事だ」

 

「そんな事ありませんよ。揚羽さんもお忙しいのに気が充実してますね。修行を怠っていない証ですね。それに・・・」

 

兼一が横に跳んだ。その跳んだ兼一を追いかけるように黒い影が現れた。

 

「よっ!ほっ!そこっ!」

 

黒い影は兼一に猛攻を仕掛けてきた。だが、兼一は冷静に対処し右手首を掴んだ。

 

「一本背負い!」

 

「・・・・・・腕はなまっていないな。上等な赤子よ」

 

兼一に投げ飛ばされた黒い影は着地し話し出した。その黒い影は執事服を身に纏った老人。

だが、その老人はただの老人ではない。

 

「ヒュームさんもお変わりないようで・・・」

 

「当たり前だ・・・」

 

「ふはははっ!九鬼家従者序列0位のヒューム・ヘルシングも兼一相手では形無しだな!」

 

高笑いしながら話す揚羽。そして兼一を襲った2人と弓で狙った男性も合流し3人ともその光景に唖然とした。

 

「揚羽様。俺はまだ本気を出しておりませんぞ」

 

「それは兼一も同じであろう?それにヒュームの言い訳など滅多に聞けないしな!」

 

「・・・・・・」

 

痛いところを突かれたのかヒュームは身嗜みを整えながら黙り込んでいる。

揚羽はその光景も可笑しいのかにやにやと笑っていた。

 

「えっと揚羽さん。僕を呼び出したのは一体何用で?」

 

「うむ!用は2つ!1つはこの3人を兼一に会わせること」

 

「この子たちを?」

 

兼一が視線を3人に向ける。刀を持った女性は礼儀正しくおじき、錫杖を持った女性はいつの間にかひょうたんを取り出し中身を飲みながら会釈、弓を持った男性はそっぽ向いている。

 

「こいつらは九鬼財閥が秘密裏で行われている計画『武士道プラン』によって生み出されたクローン人間だ」

 

「・・・はい?」

 

揚羽の言葉に今度は兼一が唖然とした表情をしていた。

兼一の目の前に居る3人は正規の人間ではないのだから。

 

「紹介しよう。左から、『源義経』『武蔵坊弁慶』『那須与一』だ」

 

「義経は源義経だ!宜しく頼む!」

 

「武蔵坊弁慶。宜しく」

 

「・・・・・・」

 

「ああっ!すまない、白浜殿!彼は那須与一だ。少々気難しい奴だが優しい奴なんだ宜しく頼む!」

 

無愛想な態度を取る与一に義経が慌てて謝罪をしながら自己紹介を済ませる。

 

「ああ、うん・・・」

 

「すまない。後、もう1人いるんだが今回はお留守番をしている」

 

「はあ・・・それは別に構いませんが、秘密裏って僕に話しても宜しかったんですか?」

 

特に九鬼財閥の秘密裏は国家が絡んでいる場合もある。容易に他人に話していいものではない筈である。

 

「構わん!我は兼一を信頼しているからな!問題ない!」

 

「その自信は一体・・・」

 

「上等な赤子よ。貴様は揚羽様の信頼を裏切ると・・・?」

 

「ま、まさか・・・。だから殺気を飛ばすのは止めてください」

 

老人とは思えない殺気を飛ばすヒュームにびくびく震える兼一

 

「この計画は簡単に言えば過去の偉人に学ぼうと、クローン人間を造り出した」

 

「とても信じられませんが、信じましょう・・・」

 

「信じてくれるのか!!」

 

兼一の言葉に明るい笑顔を見せる義経。そして逆に弁慶と与一は睨みつけていた。

 

「理由を聞いても白浜兼一殿?」

 

「理由は3人の動きです。歩法や武器の振りが現代では使われていないものでした。僕も滅多に使いませんが師匠に教えてもらって知っているレベル、それを使いこなしている。武術家視線からの意見ですけど・・・」

 

「なるほど・・・。私達が自然に使っている動きは未来の武術に影響与えていた訳か・・・恐れ入りますよ。今の武術家はここまで成長しているんですね」

 

「普段の喋り方でいいですよ、武蔵坊弁慶さん。それに僕なんてまだまだです。武術家は沢山います。僕以上に強い人は沢山いますからね」

 

「私達が総掛りでも相手にならない貴方以上が沢山いるなんてぞっとするね・・・。私の事は弁慶でいいよ。貴方は私たちの命の恩人だからね」

 

「い、命の恩人?」

 

「そうだぞ!白浜殿は私たちの命の恩人なのだ!」

 

弁慶だけではなく、義経もそう答えた。しかし、兼一は3人に会うのは初めてであるはず。全く心当たりがない兼一に揚羽が助け舟を出す。

 

「兼一に心当たりがないのは当然だ。義経達も実際に会うのは初めてだし、此方が一方的に知っているだけさ。1年半前、我が梁山泊に依頼した護衛任務があったであろう?」

 

「ありましたね。あの時にヒュームさんと初めて会ったんですよ。衝撃的でした。空手の師匠、逆鬼師匠は何も言わなかったのに僕を見たら急に襲いかかってくるんですもの・・・」

 

「・・・普段の貴様が気を緩ませすぎなのだ。だから下の相手から舐められるのだ・・・」

 

兼一を見下しながら言うヒューム。その時2人に何が起きたのか、揚羽は知っている為笑っているが、知らない3人は気になるもヒュームが怖くて聞けない。

 

「その時はある施設に保管されているモノの警備。何を警備するかは伝えられなかったが、それがクローン人間の媒体装置。つまり目が覚める前の義経達だった」

 

「そ、そうだったんですか・・・」

 

その時の任務は兼一も覚えていた。

逆鬼と一緒に裏社会科見学に訪れていた兼一は、特例の指名任務でもあった為緊張していた。

何故ならば、梁山泊に要請された九鬼がらみの任務はそれで3回目。その度に兼一も参加(強制)していたのだが師匠達よりも注目・信頼されていた。

それは兼一の特性ともいえる人柄がなしたものだがその話はまた後日。

 

その任務で見事に敵を撃退。その時に兼一は知らず知らずに義経達を護っていた事になるのだ。

 

「白浜殿が知らなかったといえど義経達を護ってくれたのは真実。正直、半信半疑だったのだが手合わせて理解した。試すような事をして申し訳なかった。そして、義経達を護ってくれて感謝する!」

 

「まあ、お互い知らなかった訳だしお礼言われても実感ないだろうけど私からも礼を言っとくよ、ありがとね」

 

「・・・・・・ありがとよ」

 

義経や弁慶だけでなく、与一もお礼を言う。それほどまでに感謝を感じていたのだろう。

 

「そんな僕はただ必死だったし、弁慶さんの言うとおりお互い知らなかった訳だし・・・」

 

「ぬはははっ!兼一は相変わらずであるな」

 

揚羽は笑いながらそういうが一気に表情を変えた。

 

「兼一。この3人に貴殿と戦わせたのはある理由があったからだ。それが本来の1つ目の用」

 

「・・・ただ偉人と戦わせたいって訳ではないと思っていました。もしかしてこの前の依頼と何か関係が?」

 

「さすがに分かるか。まだ内密の話だが・・・。近々、この3人+1人を川神学園に転入させるつもりだ」

 

「!!」

 

揚羽の言葉に兼一は驚きの表情を見せる。揚羽はそのまま話を続ける。

 

「そしてその時に計画の事やクローンの事も世界中に流される。それは勿論、闇の連中にも耳に入る。義経達の命を狙ってくる可能性もある。そこで、兼一にお願いがあるのだ。クローンである義経達を護衛してほしい」

 

「ぼ、僕がですか?確かに今は川神百代さんの護衛で川神学園にいますけど・・・」

 

護衛対象が増える。それもその護衛対象は同じ学校に在籍するとはいえ、それぞれ全く接点がない。

当然、行動もばらばら。それを一度に護衛をするのは至難である。

 

「九鬼も全力で兼一のサポートをする。それに鉄心殿や梁山泊の長老風林寺隼人殿にも許可は得ている」

 

「ちょ、長老にも?」

 

「その事で言伝がある。ヒューム」

 

揚羽に呼ばれてすぐに紙を取り出してそれを読み上げる。

 

「兼ちゃんや、頑張るのじゃぞ」

 

「それだけ!?」

 

なんかもっと重要な事が書かれているのかと思ったらなんてこともないただの応援の一言だけだった。

 

「他の達人方も依頼の重複なんてよくある事と笑いながら言っていたぞ」

 

「あの師匠方は・・・」

 

そんな光景が嫌でも思い浮かべてしまう兼一。一度溜息を吐いた後、兼一は覚悟を決める。

 

「その依頼、受けます。一度関わっているんだから放ってはおけない」

 

「うむ!さすがは兼一!我の認めた男だ!」

 

「当然だ。もし断っていたらこの俺がお前を八つ裂きにしてやるところだ」

 

「これは心強いな、弁慶!与一!」

 

「そうだね、義経」

 

「ふん・・・」

 

兼一の応えにその場にいる全員は各言葉を述べていた。

こうして、兼一は百代だけではなく義経、弁慶、与一。そしてまだ顔をあわせていないクローンの一人の護衛をする事となった。

そして、兼一は揚羽に話しかける。

 

「そういえば、用は二つと言ってましたが・・・?」

 

「おっと、そうであった。これも大事なことだ。兼一、我の前に」

 

揚羽にそう言われて兼一は揚羽の前に立つ。雰囲気が先ほどと打って変わって明るいものだったのでどんな用だろうかと考え込んでいると揚羽が動き出した。

 

「会いたかったぞ、兼一!」

 

「!?」

 

目の前に立った兼一に揚羽は急に抱きしめた。揚羽の行動に何一つ邪気を感じられなかったので対応できなかった兼一はなすがままに抱きしめられて動揺している。

 

その光景にヒューム以外の3人は呆気にとられていた。

 

「あ、あのこれは・・・?」

 

「・・・揚羽様は奴を大層気に入っているのだ。恋をするほどにな」

 

「ええっ!?」

 

歯ぎしりを上げながら言うヒュームの言葉に義経は声をあげて驚く。

恋をするきっかけは初めてあった依頼の時なのだがそれはまた後日。

 

「それに酷いではないか!英雄からは挨拶に行くよう兼一に言ったと聞いているぞ!私と紋は訪れるのを楽しみにしていたのだぞ!」

 

「あ、それは、その・・・。色々と忙しくて・・・」

 

「ほう。朝は剣聖黛十段の娘と登校。昼はそ奴とその友人、さらにはドイツの留学生と一緒にお昼ご飯。そして夕方には我流ブルーとなって百代の義妹川神一子と修行をしているそうだな。ああ、これは確かにそうだな。忙しそうだな。だが、護衛とは全く関係ない事で忙しいとはどういう了見だ?」

 

「・・・・・・」

 

何故か冷汗が止まらない兼一。揚羽は笑顔なのに何故か怖くて堪らない。

遠くから見ている3人も怯えた表情。ヒュームは視線どころか背を向けていた。

 

「こ、これには学園に馴染む為に必要な事でありまして・・・」

 

「そうか、そうか。水上体育祭で大活躍したり、エレガント・クワトロ候補になったりするのはやりすぎではないか?」

 

「・・・・・・」

 

揚羽の威圧感が増すと同時に抱きしめた両腕に段々と力が増してきているのは兼一の気のせいではないのであろう。

どうしたら良いのかと考えていると揚羽は兼一の胸に顔を埋めた。

 

「・・・・・・」

 

「あ、揚羽さん?」

 

威圧感が消え、両腕にも力がかからなくなった。しかし、黙り込む揚羽に兼一は新たな動揺が生まれる。

 

「ふ、ふはははははっ!!冗談だ、兼一!」

 

「じょ、冗談?」

 

いきなり笑い出して冗談と言い出す揚羽に兼一は思わず聞き返した。

 

「うむ!焦る兼一を見ていたらつい苛めたくなったのだ!許せ!」

 

「そ、そうなんですか・・・?」

 

「当たり前だ!我は寛大だ!兼一が何十人と女性と仲睦まじくなろうと構わん。我の事をちゃんと見てくれればな!」

 

「いやいや!何十人ってありえませんよ!」

 

「そうか?兼一なら出来ると思うぞ!九鬼の占い師に聞いてみたら貴殿には女難の相が出ているそうであるからな!」

 

「こ、怖いこと言わないで下さいよ!僕にそんな羨ま・・・ふしだらな事あるわけありません!」

 

「兼一が望むなら九鬼の力でこの国を一夫多妻制に変えてやろう。どうだ?」

 

「本当に出来そうだから怖い!?って、これも冗談なんですよね?」

 

「・・・・・・」

 

「冗談ですよね!?」

 

何も答えてくれない揚羽に違う意味での冷汗が流れる兼一。

 

「一夫多妻制、ね・・・。義経も兼一を狙ってみたら?」

 

「ふぇっ!?な、なななな何を言っているんだ弁慶!?よ、義経はそういう色恋沙汰は、いやっ、別に兼一殿が嫌いとかではなく!寧ろ好ましい殿方だが!その、あの!?」

 

「義経は可愛いな~」

 

「ちっ、くだらねえ」

 

「上等な赤子、揚羽様を悲しませたら殺すからな、覚悟しておけ」

 

「僕に一体どうしろと!?」

 

未だに抱き付いている揚羽。慌てふためく義経。そんな義経を見て和む弁慶。悪態を吐く与一。殺気を飛ばすヒュームとカオスな空間に兼一はただ叫ぶしかなかった。




いかがでしたでしょうか?

久しぶりの投稿だったので色々とおかしな点があるかもしれませんが、そこは皆様の温かい何かを期待しております!

次はもっと早く投稿出来るように頑張りたいと思います!


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BATTLE.24『夢を叶えたら?』

新年明けましておめでとうございます!(今さら)

なんと一年ぶりの投稿です。

もう忘れられていると思いますが、思いきって投稿しました。

楽しんで頂けたら幸いです。

宜しくお願い致します!


私の名前は川神一子。

私は少し、ほんの少しだけ後悔していた。

 

私は我流ブルーという師匠の元で修行を行っているのだけれど、それが想像を絶していた。

 

「あの、師匠?」

 

「なんだい?」

 

「このハムスターが遊ぶようなものでいったい何を?」

 

師匠の修行はもうすぐ一週間になるわ。その内容は基本的なことからもう常軌を逸していた。

筋トレは命懸け。

腕立てをする際は『しがみつき地蔵』と呼ばれるものすっごい重いやつをつけながら行うの。

腹筋背筋は奇人、変人が多く通る橋、通称『変態橋』に吊るされて、顔が川に着き溺れる前に出なければならない。これを限界まで繰り返す。勿論、これも地蔵付よ。

普通にこれ拷問に分類するんじゃないかしら?

師匠に聞いてみたらこれは本来、川ではなく火の上で行うらしいの。師匠は綺麗な髪を燃やす訳にはいかないからと工夫してみたと言ってたわ。髪を褒めてくれたのは嬉しいんだけど素直に喜べないわ。

他に色々な筋トレをしたけど、思い出したくないからここまで。何度叫んだかわからないとだけ言っておくわ。

 

他に組手も必ずボロボロになるまで行われるの。でも一回一回私のいけない所を指摘してくれる。

長年、川神院でルー師範代に教わってきたけどそこまで体を痛めつけられる事はしなかったわ。でも、それじゃあダメなんじゃないかと思ってきていた。

我流ブルーは女性は殴らない主義だと言ってたけど修行の時は別なの。どんな主義であろうと弟子に全てを叩き込むためにはそんな主義は二の次だって。

私は嬉しかった。ルー師範代も厳しかったけど心の奥底まで厳しくはしてくれなかった。私はそれが心苦しかった。

だから遠慮なく厳しく修行をつけてくれる我流ブルーにはとても感謝している。

 

・・・でも、今目の前にあるこの謎のマシンを見て私の決心は揺らぎそうだわ。

 

「これは私の師匠が作った修行マッシーン『発電鼠す~ぱ~』だ」

 

「は、『発電鼠す~ぱ~』?」

 

とてもユニークな名前だと思うのに全然笑えないわ。

 

「これは私もよく使ってたよ。懐かしい・・・。最後に使ったのは川神に来る前なんだけどね・・・」

 

最後に言った言葉は聞こえなかったけどそれほど思い入れのある修行マッシーンみたいね。不安しかないけど、夢のために頑張らなきゃ!

 

「それじゃあさっそく中に入って」

 

「はい!」

 

私は中に入ると蓋が閉められ、師匠にベルトを着けるように促された。

 

「それじゃあ走ってみようか?」

 

「は、はい!」

 

私は恐る恐る足を一歩ずつ進めた。私を閉じ込めている丸い形状のカゴはそれと同時に回りだして行く。

そのスピードは私が軽くジョギングで走る程度、思った以上に楽なもので拍子抜けだわ。

そう思っていると師匠は私の足元にあるこの機械の調節器をいじり出した。

 

すると、機械のスピードがどんどん上がっていく。私は負けじと走るスピードを上げていく。

 

「うんうん。長年、走り続けているおかげでなかなかの脚力だよ、一子ちゃん」

 

「あ、ありが、とう、ござい、ます!」

 

私がなんとか返事を返すと師匠はまた調節器をいじり少しだけスピードを上げたかと思うと悪魔の言葉を述べた。

 

「このスピードで1時間走り続けてね」

 

「・・・・・・」

 

私は返事を返せない。それほどのスピードで私は走っていたわ。このままじゃ1時間経つ前に力尽きてこの回転の餌食になってしまうわ。とても痛そう。でも痛い修行じゃなきゃ身に付かないわよね!

そう覚悟を決めたのだけど、この修行は痛いで済むようなそんな生易しいものではなかったの。

 

この後の本当の悪魔の言葉に私は戦慄した。

 

「その後ろの奴に当たらないように死ぬ気で走ってね」

 

「・・・え?」

 

私はその言葉に振り向く余裕がないはずなのに振り向いた振り向かざる負えなかった。

そこには、黄色い光。その光にはバチバチと音が鳴っている。間違いないわ。あれは電気!?

 

「『発電鼠す~ぱ~』は走る事で中にある発電機が電気を作り、その電気が一子ちゃんを襲うから気を付けてね」

 

そんな軽い感じで言わないで!?下手したら死んじゃうわよ、これ!?

 

「大丈夫!僕が何年も使ってるけど死んだことはないよ!」

 

それはあの電気を師匠が喰らったことがないからでしょ!?

 

「心肺停止になった事はあったけど、後遺症はないから安心して!」

 

喰らったことあった!!というかそれ安心出来ないわ!!??って、あれ?私、声を出す余裕がない筈なのに師匠と会話してない?

 

「してないよ~。後、冗談だよ一子ちゃん。今日は初めてだから1時間じゃなく30分だ。頑張ってね」

 

ま、待って師匠!会話してるし、冗談にして欲しい所はそこじゃないの!?というか、30分どころかもう___

 

「「あっ」」

 

私と師匠の声が重なった。

私が足を踏み外して転んだのだ。その時の私は小さい頃お婆ちゃんと暮らしていた時を脳裏に浮かんでいた。それは初めての走馬灯。私が床に着くまでその走馬灯は続き、とても長く永遠に感じたわ。

でも、永遠なんてなかった。床に着いた瞬間、走馬灯は消え次の瞬間には

 

「うきゃああああああああああぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁ!!!!????」

 

私は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ・・・はあ・・・」

 

「はあ・・・ふう・・・」

 

場所は川神院。

そこで向かい合う2人の女性。川神一子とその姉百代だった。

互いに満身創痍で息が乱れ、着ている道着はボロボロだった。

 

「やあああああああああっ!!」

 

「っ!?」

 

先に動いたのは一子だった。百代は動けないのか避けずに、前の手を交差させ防御に徹する。

 

「川神流奥義!真・大車輪!」

 

「ぐうっ!?う、うううわああああああっ!!??」

 

一子が我流ブルーとの修行で編み出した新必殺技を百代に繰り出す。

両腕で受け止めた百代だったが、一子の強烈な一撃に耐え切れず吹き飛ばされ、奥の壁へと激突した。

 

「はあ・・・はあ・・・」

 

一子はすぐに薙刀を構えて百代の攻撃に備えた。だが、いつまで経っても百代は戻って来ない。

審判を務めていた川神鉄心は激突したことで崩れて瓦礫に埋もれた百代を確認した。

 

「・・・・・・」

 

「勝負あり!!」

 

百代は気絶していた。それを確認した鉄心は声高々に宣言した。

 

「勝者川神一子!よって川神院総代は、川神一子とする!!」

 

「えっ・・・えっ!?」

 

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」」」

 

一子が未だに百代に勝った真実を理解できておらず戸惑っている。しかし、川神院総代を決める決闘を観戦していた門下生や世界各国の武道家達、新しい川神院総代を世界に伝えようと集まった報道陣は声を荒げて大盛り上がりだった。

次期総代は確実と言われていた武神、川神百代が敗れたのだ。それも妹である武道の才能がなく師範代にもなれないと思われていた川神一子にだ。大騒ぎになるのも当然である。

 

「一子!ヨク頑張ったネ!」

 

「ルー師範代・・・」

 

「よくぞ、ここまで腕を上げたのう。さすがは儂の孫じゃ!」

 

「じいちゃん・・・」

 

「やったな、ワン子!」

 

「ワン子頑張ったね。えらいえらい」

 

「お前ならやってくれると俺様は信じてたぜ!」

 

「モモ先輩に勝っちゃうなんて、凄いよワン子!」

 

「すげえな、ワン子!我が風間ファミリーの自慢だぜ!」

 

「やるな、いn・・・いや、川神一子!私も負けていられないな!」

 

「素晴らしいです、一子さん!」

『もう世界最強を名乗っちまいなよー』

 

「みんな・・・」

 

祝福の言葉を送ってくれる大切な人達。一子は漸く自分が成し遂げたことを理解した。そしてまた大切な人が目の前に現れる。

 

「成長したな、ワン子」

 

「お、お姉さま!!」

 

「正直、負けるとは思っていなかった。でも私は負けた。お前は計り知れない信念と努力に私を打ち負かした。おめでとう、一子」

 

「お姉さま・・・。一つ聞いていいかしら?」

 

「なんだ?」

 

一子は少し怯えた表情と声を出しながら百代に訪ねた。

 

「私との戦いは楽しかった?」

 

「!!・・・ああ。とても楽しかった!」

 

その百代の言葉に偽りはなかった。それは妹である一子が一番理解できた。

 

「また、やろうなワン子!」

 

「う、うん!!」

 

再戦の約束をした一子今までこんな幸せなことは今まであっただろうかと思い返してしまう。

そんな至福の時を味わっていると背後から声が聞こえた。

 

「おめでとう、一子ちゃん」

 

「師匠!」

 

「よくここまで頑張ったね」

 

「師匠のおかげです!師匠の修行がなかったら私はここまで強くなれなかった。こんなに幸せだって思うことはなかった!」

 

「そうか・・・。ではこれからはどうするんだい?」

 

「え?」

 

師匠である我流ブルーの質問に一子は首をかしげる。

 

「君は夢を叶えた。総代になり、百代ちゃんとのライバルにもなれた。では次はどうする?」

 

そう。一子の夢は叶えることが出来た。すなわち今は夢と呼べるものはない。

 

「一子ちゃんはこの夢を叶えて満足し余生を生きるか。それとも新たな夢を見つけて走り続けるか。どうする?」

 

「・・・私は・・・私は___」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?あ、あれ?」

 

一子は上体を起こして辺りを見渡した。そこはいつもの修行場所。

それを理解すると一子は険しい表情になって俯いた。

 

「夢を叶えたその後か・・・」

 

一子は寝ていた時に見ていた夢を鮮明に覚えていた。まだ実感が湧かないがもしあの夢通りになったら自分はどの道を歩むことになるのだろう。あの夢の自分は最後に何を言おうとしていたのだろう。今の一子には思いつくことはできなかった。

 

「やあ、一子ちゃん。起きたようだね」

 

「し、師匠!?」

 

いきなり話しかけられたことに驚く一子。気にせず我流ブルーは話を進めた。

 

「まずは済まない。僕の見立てではギリギリで出来る筈だったんだけど足を滑らせてしまうとは・・・」

 

頭を下げる我流ブルーこと兼一。一子は慌てる。

 

「そ、そんな気にしないで下さい!私が緊張してたせいもあるんで次は大丈夫ですよ!」

 

「・・・そうか。ありがとう、一子ちゃん。君は優しいね」

 

「え、えへへ」

 

頭を撫でて褒める兼一。一子は嬉恥ずかしいのか少し頬を赤く染めて照れた。

 

「では、その反省を生かして早速次の修行だ!」

 

「・・・えっ?」

 

一子の顔が強張った。電撃で気絶し、起きたばかりなのに修行再開するとはさすがの一子も予想外だった。

そんな一子をよそに兼一は一子の後ろへと歩き出す。

兼一を追うように一子は振り向いた。そしてその先に見た物を見て一子は絶望した。

 

さっきの『発電鼠す~ぱ~』が可愛く見えてしまうおぞましい修行マッシーンが置かれている。

 

「さあ、一子ちゃん。総代目指して頑張ろう!」

 

「・・・や、やってやろうじゃないの!!」

 

一子は気合を入れて立ち上がり足を踏み出した。今はあの夢を叶えるために走り続けようと決心を固める。『勇往邁進』。それが一子の生き様なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃああああああああああ!!??死ぬううううううううう!!??」

 

その決心がどこまで続くのか。

決心が折れるのが先か、死ぬのが先か。それは誰にも分らない。




どうでしたか?

久しぶりすぎておかしな所があったかも?

なんとか完結目指して頑張ります!

次はいつ投稿できるか分からないけど・・・


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