転生者たちの現実 (かや芝)
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一人目 とあるデバイス技師

にじファンから引っ越してきました。名前が違いますが中の人は同一です。
思いつきをつらつら書いただけなので設定に無理や穴があるとは思いますが、暇つぶし程度にお付き合いいただけたら幸いです。


 今日も今日とて辛い整備業。下っ端には発言権なんてなく、お偉いさんから言われたことを淡々とこなしていくだけの簡単な(・・・)お仕事である。

 

「おう、おはようさん。今日も一段としけた顔してんなぁ」

「おはようございます。しけた顔、を否定する気はありませんが出会い頭にそれは人としてどうなんですか」

 

 職人、と全身でアピールしているような容姿の上司といつものやり取りを交わし自分の机に向かう。

相変わらず汚い机だ。工具が散乱しているのはともかく、オイルや削りカス、焦げ跡やアイディアを書き留めるためのメモなどが散らばっている。

 最初こそ片付けていたが、いつからかその時間すら作業にまわさなければ定時で帰るどころか家に帰れなくなったので、必要最低限デバイスを乗せるスペースのみ確保してあとは放置している。

 

「俺は立派に人間だが、お前は人間だと思っちゃいねぇからな」

「いや、さすがに人間ですよ。れっきとした」

「どこの世界に一人で日に100以上のデバイスの整備を終わらせるような人間がいるんだ?」

「………」

 

 上司の戯言を黙殺し、今日の仕事を確認する。……決して言い返せなかったわけではない。断じて。

 

 今日の仕事は……ストレージデバイスが80、アームドデバイスが62、インテリジェントデバイスが3か……。

確かにできる。俺にならこの量を一人で今日中に終わらせることは可能だ。だが、別にそれによる利点があるのだろうか?

 いや、上司からすれば俺が限界いっぱいの量を一人で引き受ければ、その分他の人間に新しい仕事を回せるから、請けられる仕事の量が増えるためありがたいだろう。だがそれはここの整備課の話であり、仕事を依頼する側の理屈ではないはずだ。

 ここ以外にも整備を引き受けているところはあるし、俺が整備したデバイスが使いやすくなるとか性能が上がるとかいったこともない。だというのに、これら大量の――今日は145個――のデバイスの整備依頼は全て俺宛(・・・・)なのだ。

 

「なんでこうなったのか……」

 

 慣れたこととはいえ、疲れないわけでも、面倒さを感じないわけでもない。俺自身の体は紛れもない人間のそれであり、決してチート性能を持っているわけではないのだから。

 

「ま、今日もよろしく頼むぜ。早めに終わったらいきつけの飲み屋、連れてってやるからよ」

「……おごりなら」

「足下見やがって……。まぁ常識の範囲内ならおごってやるよ。お前のおかげでだいぶ昇給したしな」

「なら今日もがんばりますよ。やさしい上司の給料のために」

「…お前はやっぱりひねてんな」

 

 さっそく、俺と同じ下っ端が使うストレージデバイスを手に取る。修理箇所は………。

 

 

 

 無駄に存在する並列思考(マルチタスク)のひとつで、仕事とはまったく別のことを考える。思い返すは20年以上も前になるあの日。

 

 

―――――こんなはずじゃなかった世界が、始まった日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、平凡な家庭に生まれた子供だった。父はサラリーマン、母は専業主婦。兄弟姉妹はいなくて、家は裕福ではないけど貧乏でもない、要するに普通。友達はそこそこいたし、恋人が居たことだってある。

 俺自身に何か特殊な、もしくは秀でた才能はなかったけど、人並みの努力をして、人並みの大学に入り、人並みの企業に無事就職もした。どこにでも居る平凡な人間、それが俺だ。

 

 俺は、とにかく小さい頃から本が大好きだった。本であれば大体なんでも読んだ。最初は絵本、そこから海外のファンタジー小説。純文学も読んだしミステリー小説、評論文なんかも読んだ。漫画も好きだし、ライトノベルも買い漁った。

そこから、徐々にアニメやゲームに手を出し始め、高校を卒業する頃には世間一般で言う「オタク」が出来上がっていた。

そうなると、当然のごとくネットにはまり、今度はネット小説にのめりこんだ。

 

 特に、ファンフィクション、二次創作と呼ばれるものに強く惹かれていた。人々の願望、そして発想の逆転。それらをそこに見た。

 

 自分もこんな風になれたら。この世界(ものがたり)にもっと救いがあったなら。

僕ならこうしていた。私ならもっとうまくやれる。

そんな誰もが抱くであろう作品への思い、それをせめて形にしたい。ならばいっそ自分が物語(せかい)を創ればいいのだ。

 

 そうしてできた世界は、読み手だからこそ織り成せる理想と憧れに満ちたものだった。

時には笑顔で。またある時には涙で。生で、死で。さまざまな物語が始まり、終わる。そこには都合のいい世界があって、都合のいい終わりが待っている。

 

 そんな二次創作は、何事も平凡であった俺の夢にいつしか変わっていた。

俺だって、こんな世界で、こんな力があれば。世界を救うヒーローにだってなれるのに。泣いてる誰かを救うことだってできるのに。

 

そして、それが叶う瞬間が訪れた。否、降りかかった、というべきか。

 

 

 

 

 

「生まれ変わってもらおう」

「……………は?」

 

 目の前の男は言った。口元にわずかな笑みを浮かべて。

 

――暇だから楽しませろ。そのために必要なものはくれてやる。

 

 正直、何がどうなったのか、なんてどうでもよかった。

夢が、現実になる。手を伸ばせば掴める距離にあるのだ。

 

 当然、俺はそれに一も二もなく飛びついた。

 

 そうして俺は、現代日本での知識を持ったまま、アニメ『魔法少女リリカルなのは』の世界に転生した。

反則的な力を持った、ミッドチルダの魔道師の子供として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 必要なものはくれてやる、その言葉に従い、俺は転生するのにいくつもの要求をした。

一つ、主人公たちと同じ年にミッドチルダに生まれること。

二つ、4つのことを並列思考できるようにすること。

三つ、デバイスに関する知識を誰よりも多くもつこと。

四つ、魔力の量はBランク程度で、コントロールを精密にできるようにすること。

五つ、身体能力を鍛えれば鍛えただけあがるようにすること。

六つ、射撃や砲撃、補助、防御、どれもそこそこ使えるようにすること。

 

 正直、これだけあれば何とかなる。これは俺がずっと二次小説を読みながら考えていたことだ。

並列思考は4つもあれば大体のことは一人でこなせるだろうし、デバイスの知識があれば自分にぴったりのものを自作することができる。

 コントロールさえ精密にできれば、魔力量は極端に多くなくても色々な魔法が使えるし、努力がそのまま反映される身体ならば鍛えることも楽しいだろう。

そしてこんな力があれば、適正は平均的でかまわない。一芸に秀でるのでなく、器用貧乏でもいいからオールラウンダーになれればそれでいい。

 

 主人公たちと同じ年なのにミッド生まれにしたのは、そのほうが不自然さがないからだ。魔道師を親に持てば、小さい頃から魔法に触れ、鍛錬していてもおかしくないし、デバイスの知識を身につけているのも矛盾がない。また、地球で生まれるよりはるかに楽に管理局員になれるだろう。

 

 俺はもともとP.T事件や闇の書事件に絡むつもりはなかった。おかしなところもあった、悲しい出来事もあった。けれど結局、それがあったからこそJ.S事件のあの展開があったのだし、その前提から覆してしまえば未来がどうなるか分からない。

だから俺は、J.S事件が起きるまではミッドで腕を磨くつもりだった。

 

 

 

 

 

 

 思惑通り幼い頃から魔法に触れ練習することができ、また身体も鍛えただけ強くなった。デバイスの知識も、興味を示して独学で勉強する振りをし、あらかじめ知識を持っているとバレないようにした。

やがて順調に陸士訓練校に入り、陸戦魔道師になった。

そして俺は―――現実を知った。

 

 俺自身の魔道師としての力は、当初予定していたものとほぼ同じものになった。

それどころか、調子に乗って鍛えた身体能力がかなりすごいことになっており、ミッド式の魔法を使うにもかかわらず身体強化の魔法を使えば素手でベルカの騎士とも渡り合えるようになっていた。

 だからだろう。俺は忘れていた。天狗になっていた。

俺は「俺」のままなのに、あの頃物語にあこがれた俺そのものなのに。戦闘力という意味で強くなった俺は、「俺」という人間が強くなったと勘違いしていた。

 

 魔道師として働く初めての事件。

それは、クラナガンの街中で突如殺傷設定の魔法をばら撒いた麻薬中毒者を取り押さえるというものだった。

とはいえ犯人の魔導師ランクはC、錯乱して暴れてはいるものの危険度は低く、陸士の一小隊がいれば十分という程度。緊張はあったが極端なものでなく、俺はむしろこれをいい経験だと考えていた。

ここがまぎれもない、人々が生きる一つの現実と知っていたはずなのに。

 

 現場に辿り着いた俺が、一番最初に見たものは。

誰かの右手を握り、呆然としている小さな少年の姿。

 

 

 

少年が離すまいと固く固く握ったその手は、肘から先しか、残っていなかった。

 

 

 

 第二の生を受けてから十数年。俺は多分、この世界に現実感を持っていなかったのだと思う。

目にするものは画面の向こうにすでに見た。耳にする人の噂も真相を知っている。

 自身が大きな事件にあったこともなく、平凡に生きてきた。自分を客観的にしか見ていなくても、十分すぎるほどに順調に生きてくることができた。

それが、どこかRPGでもプレイしている気分にさせたのだろう。

 

充満する鉄錆のにおい、響き渡る断末魔。

懇願の叫びに、立ち込める黒煙。

バラバラになった大事な人の亡骸に縋り付く人。

呆然と涙を流し放心している人。

 

 目に映った現実は、平和に甘えていた俺を地獄に突き落とすには十分な威力を持っていた。

 

 

 

 

 

 そのあとのことは、あまり覚えていない。

同僚から聞く限り、青い顔をしていたが仕事はこなしていたらしい。

気絶したりして周りに迷惑をかけなかったのが救いか。

 なんにせよ、この一件だけで俺は管理局の魔導師を辞めた。原作に介入したいから、なんて甘ったれた考えで現実を生きる人たちを守ろうなんておこがましいにもほどがある。それ以上に、現実という凶器の鋭さを知ってしまった。わかっている気になっていただけで、ここ(・・)で生きるには俺には覚悟が足りなかった。

 

 平和な日本で一般人として生きていた俺に、こんな世界は重すぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たった一回の出動で仕事を辞めた俺は、その現実で生きる人にせめてもの手助けをしようと管理局にデバイス技師として就職した。

 

 もたらされた知識は、俺の心の強さを変えることはできない。けれど他の誰かの助けにはなれる。

前線で戦う元同僚たちのデバイスを最高の状態で渡してやれば、少なくともデバイスが原因のケガや殉職は格段に減る。そして俺にはそれをするだけの力がある。

そんな思いから、いろんな人に臆病者と後ろ指を指されながらも管理局に戻った。

 

 ありとあらゆるデバイス知識に加え、微細な身体強化魔法によって可能になった高速修理や組み立て。また、並列思考による作業の効率化。

結果として俺は就職から1ヶ月で誰からも認めてもらえる技師になることができた。まぁ、既存の物の知識があるだけなので修理、整備一辺倒で開発はからっきしだが。

 

 技師になり数年して記憶にある通りJ.S事件も起こったが、もう何かをしようという気は起きなかった。

ただ、自分用にチューニングしていたデバイスを使い、本当にごく一部の周りにいた人たちを守っただけ。すごく感謝されたが、それでいいと思った。自分にできるのはこんなわずかな範囲をできる限り救おうとあがくことだけで、世界を救うことなんかできやしない。

 そんなのは、空で戦う英雄(しゅじんこう)たちがやってくれるだろうし、事実、原作通りに解決していた。

 

 

 

 

 

 J.S事件からさらに数年。

それからも特に何もせず、仕事の異様に早いデバイス技師として未だ管理局で働いている。

収入も結構あるから親孝行はできていると思うし、あとは結婚かな……。

 

「おい、ちょっといいか?」

 

 突然かけられた上司の言葉に我に返る。

 

「なんですか?」

「いや、それがな……」

 

 嫌な予感。こんな風にこの上司の歯切れが悪くなるときは決まって追加の依頼が入ったときだ。

 

「ちょっと、とんでもねぇところから仕事がな」

「はぁ……。やっぱり俺宛の仕事の追加ですか。いいですよ、それでどこからなんです?」

 

 こういうことはちょくちょくある。

何かの任務で大量のデバイスが破損したとか、緊急で支給デバイスが必要になったとか、そんなときに仕事が早い俺のところへ依頼がいきなりやってくる。

それにしてもとんでもないとこ?どこだ?

 

「そうか、やってくれるか!お前ならそういってくれると信じてたぜ。ここに置いとくからな」

 

 詳しいことを告げず、早く手放したくてしょうがないようなそぶりで荷物を置いて去って行った。

そんなに恐れ多いとこからだったのか?

 

 破天荒を絵に描いたようなあの上司があんなに冷や汗を流しているのは珍しい、と後姿を眺めつつ依頼文のファイルを開く。

中身は簡潔な整備依頼のテンプレート文。仰々しいとか何かの紋章入りとかそんなことはない……って、

 

「依頼者、航空武装隊戦技教導官、高町なのは、および本局執務官、フェイト・T・ハラオウン………?」

 

 しばしディスプレイを眺めたまま呆然とする。

さすがにこんなところからまで直接俺に依頼が来るとは。おおかた何処かの元部隊長さんがあるデバイス技師の噂を聞いて二人に教えたってところだろうが。

 

 たっぷり60秒は固まり、それから徐々に笑いが込み上げてきた。

こらえようとするが、くすくすと笑いが止まらない。

 

 

 

 ここは確かに俺の知るアニメの世界。

そんなことすっかり忘れていたけど、俺もこの世界の歯車(いちいん)として働い(いき)ている。

だからこうして思わぬところで思わぬものと噛み合ったりするんだ。

 

今までも、これからだって。

 

 

――この場所で、俺は、一人の「俺」として、確かに生きていくんだ。




3話まではにじファン投稿分を見直しつつ上げます。


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二人目 チート転生

「生まれ変わってもらおう」

 

 目が覚めたら真っ白な空間にいた。

壁も終わりも見えない空間。自分が立っているのを自覚することもできない。

 

 目の前にはやたらイケメンな若い男。この状況、まさか………!

 

「暇なんだ、楽しませろ。ちょうどよく死んだことだし。必要なもんがあるなら言え。くれてやる」

 

やっぱりか!

 

「きたきた、マジでテンプレ転生だ!よっっっしゃ、もうこれはチートでハーレムやるしかねぇだろ!」

「行先はこの世界だ」

 

 男が空中を指さすと、そこに半透明のウインドウが浮かびなのはとフェイトの決戦シーンの映像が流れ出した。

 なのはか!あれはアニメも全部見たし、SSもかなり読んだ。漫画はうろ覚えだが、まぁStrikerSまでに原作改変すれば思い通りになるだろ。

 

「何が必要なんだ」

「今考えるからちょっと待っててくれ!」

 

 やったね、二次創作で鍛えた俺に隙はねぇ。しかもなんか神が娯楽を求めてるタイプっぽいから、もらえるもんの制限もほとんどなさそうだぜ。

とりあえず、何が相手でも余裕でチートできるようにしておきたいな。

 

 何がいいか……。

まず万華鏡写輪眼の力は欲しいし、ハガレンの錬金術もいいな。それから一方通行(アクセラレータ)にゼロ魔の偏在、あとは…………。

 

「決まったぜ!欲しい能力は」

「言わずともよい。すでにお前の希望は叶えた」

「マジかよ、神様お得意の読心術ってか?ま、なんでもいいけどな」

「それでは行ってこい」

 

 そう神が言った瞬間、視界と思考が同時にホワイトアウトした。

 

 

 

 

 

「神、と名乗った覚えはないのだがな」

 

ポツリ、そんな声が白い空間に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転生から9年。俺は希望通りの能力に容姿を持って、海鳴市にいた。

神に要求したのは、あらゆるチート能力に加えなのはたちと同じ年に翠屋の近くに生まれることだ。聖祥大付属小に通うようにするのもデフォで。

 

 あとはDevil May Cryのダンテの容姿。簡単に言えば銀髪のイケメンだ。

両親は父をアメリカ人、母を日本人にしてもらったので容姿に矛盾はない。最近のSSじゃ銀髪オッドアイのオリ主が、日本人なのにありえない容姿だと叩かれて痛い厨二として書かれていたが、そんなものハーフなら何の問題もない。

 

 俺がもらった能力は見た目通りダンテの身体能力と魔人化能力と、禁書目録(インデックス)一方通行(アクセラレータ)の能力、両手を合わせるだけの錬金術、視力の落ちない万華鏡写輪眼などなど。他にもかなりもらったが、主に使うのはこのくらいだ。

 それからもちろん魔力量は管理局基準じゃ計測不能レベルだし、魔力変換資質はないが電気、炎熱、凍結すべて特に苦労せず行える。稀少技能(レアスキル)もないが、他作品の能力があるからそれで十分だ。

 

 デバイスは今のところは演算補助特化のストレージデバイスをもらっておいた。形状は待機状態もバリアジャケット展開後も黒いチョーカーで、もちろんアクセラさんをイメージ。ちなみにスイッチを付けて、普段はoffにしている。間違ってなのはたちに使っちまったら大惨事だからな。

 インテリジェントデバイスもいいかな、と思ったが、それは管理局になのはたちと入ってからもらえばいい。それに能力を使うなら演算以外の機能は必要ない、というか邪魔だ。

 

 

 さて、前置きが長くなったが、今俺はなのはと一緒に下校中だ。

原作開始前、なのはが「いい子」にしていた時期に仲良くなり、今ではアリサとすずかを含めて親友という関係にこぎつけた。よく、転生者がニコポナデポにこだわりすぎて原作キャラにキモがられているが、そんなものは必要ない。

 なのはが一人ぼっちの時期に仲良くなれば警戒は解けるし、それならよほどのへまをしない限りアリサとすずかにも心を開いてもらえる。「なのは」の世界は恋愛があまり絡まない代わりにみんな仲良しになる、って話ばかりだから誰かと仲良くなっておけばおそらくほとんどのキャラと良好な関係が築けるはずだ。

 

 今は3年生になったばかり。希望していなかったがなのはたちと同じクラスになれたし、今現在なのはたちの周りをうろつく男もいない。どうやらここに他の転生者はいないらしい。

覚悟はしていたが、いないに越したことはない。

原作はまだ始まっていないようだが、時間の問題だ。おそらく2、3日中には念話が届くだろう。

 

 ユーノには悪いが、最初に人間の、それも男だってことをきっちり話してもらうぜ。なのはと一緒に風呂なんて絶対に許さない。

 

「……くん、透夜くんってば!聞いてるの!?」

「ん?…ああ、聞いてるよ。なのはの運動神経がちっともよくならないって話だろ?」

「にゃー!そんなこと一言も言ってないし私だってちょっとは運動神経あるもん!」

「………この間の体育で、」

「なのはが悪かったの。だからその先は言っちゃダメ!」

 

他愛ない会話。今ここでアニメの主人公を話してるんだ、と思うと現実味はないが最高の気分だ。

 

「ごめんごめん。それで、なんだって?」

「むぅ。やっぱり聞いてなかったの……。あのね、今日はちょっと用事があるから、帰った後は遊べないよって話」

「そうなの?寂しいなぁ、なのはに明日まで会えないなんて」

「にゃっ」

 

 そういったきり顔を俯けてしまった。

……ほらな、ニコポなんてなくてもこうしてオトすことなんて簡単なのさ。さすが物語の中の住人というか、ちょっと歯の浮くようなセリフを言えばすぐに顔を真っ赤にして照れる。

 

「えと、えと……それじゃあまた明日!」

 

 なのははそのまま走り去ってしまった。まぁ嫌われて、じゃないから大丈夫だ。

 

 それにしても暇になっちまったな……。

そうだ、まだはやての家を見つけてなかったな。よし、今日ははやてを探すことにしよう。

 図書館に行ってもいいが、面倒だし、何よりそろそろ夕方だ。はやても家に帰る時間だろう。多分、猫姉妹が隠蔽結界みたいなのを張ってるだろうからすぐわかると思うんだが。

 

…………………………。

 

見つけた。

俺は反応のあった方向へ走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 案の定、人の認識を曖昧にして納得させる認識阻害+はやての魔力と結界そのものの魔力を隠す隠蔽の効果を持った結界が張られていた。

俺の魔力と補助特化デバイスがなければ見つけるのは難しいだろう。

 

 家の中には明かりがついている。

読み通りはやてはもう帰っているらしい。……が、今日のところはこれで引き上げるとしよう。この状況で訪ねるのは不自然すぎるし、家が見つかっただけでも前進だ。接点はこれからいくらでも作れる。なんせまだ無印が始まってすらいないからな。

 

そう思い帰ろうと踵を返したところで、俺は異変を感じた。

 

「なんだ、身体が、うまく」

 

声が途切れる。手足が不自然にしびれて動かせない。

 

「とんでもない魔力を感じてやってきてみれば……」

「こんなのも対処できないとはな」

「デバイスを持っているところをみると一応魔導師のようだが」

 

 俺を挟むように一本道の前と後ろに仮面の男が二人立っていた。

ちくしょう……!猫姉妹来るの速すぎんだろ!しかもいきなり攻撃だと……!?

 

「な……に、しや…がった………」

「まだ意識があったか。それは私たち手製の毒だよ」

「毒、といっても効果は睡眠と麻痺程度だがな」

 

 意識に靄がかかる。ふらついて思わず膝をついた。

瞼が重くて目を開けていられない。

 

「心配……ひきわた…」

「素…をしら……クロ………」

 

 くそ………!こんなことならここに来る前からチョーカーのスイッチを入れておくんだった!

俺は歯噛みしながら意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……」

 

 目を開けると、白い天井が目に入った。

見渡しても保健室のような印象を受けるだけ、あとは見慣れない機械がたくさんあるくらいだ。病院か?

何が起きたんだ?ここはいったい………?

 

「目が覚めたようだな」

「!!」

 

 部屋に入ってきた黒い服の少年が声をかけてきた。それと同時に意識を失う前のことが思い出される。

状況も一瞬で読めた。

 

ちくしょう、あのクソ猫ども……よりにもよってKYなんかに引き渡しやがって……!

 

「四季透夜くん、だったな。まずは手荒な真似をしてしまったことを謝罪する。現段階で君が犯罪を犯しているわけでもないのに強制連行のような形になってしまった」

「……」

「だが、デバイスまで持っている君が管理外世界にいる、というのは確かに不自然なんだ。少し調べさせてもらったが、ご両親も魔法とはかかわりない人のようだし、事情を聴きたいんだ。かまわないかな?」

 

 このやろう……何がかまわないかな?だ。この状況で拒否権なんかねえだろ。

ご丁寧に両手足に拘束具なんてつけやがって。

 

 まぁダンテの身体能力があれば引きちぎれるし、デバイスは取り上げられてるみたいだがデバイスなしでも魔法は使える。いつでも逃げだせるんだがな。

 

「デバイスは、拾ったんだよ。近くの山で歩いてる時に。で、適当にかまってたら動いて、魔法が使えるってわかった。それから一人でちょくちょく練習してたんだよ」

「拾った?おかしな話だな……。どこのあたりか詳しく教えてくれるか?」

 

チッ。めんどくせぇな。逃げちまうか?

 

「ああ、ちなみにその拘束具は魔法を使えなくするからな。力でどうにかしようとすれば内側から麻酔針が飛び出すようになっている。妙なことはしないほうが身のためだぞ、こちらの心証的にもな」

「なんでそんなに厳重なんだよ。俺何もしてないだろ!」

「すまないな。だが君の魔力量が計測不能というとんでもない結果を出している以上、暴れでもされたらこちらにそれを止める術はないんだ。君のような子供が凶悪な犯罪者だと思っているわけではないが、もし武力行使に出られると周りへの被害が尋常じゃないんでね」

 

くそっ!どうなってやがる!こんなのは計算外だ!

 

「そうかよ。天下の管理局とやらもこんなガキを拘束してまで事情聴取とは、恐れ入ったね」

「………どうして管理局を知っている?まだ何も話していないはずだが」

 

!!!

この野郎、あえて自己紹介もせずカマかけやがったな!!

 

「魔法文化のない管理外世界に魔力をもった人間がいるのは別におかしなことじゃない。それがとてつもない魔力量なのも、稀にだが見られることだ。だがデバイスを持っている上に拾ったなどと言い、知らないはずの管理局のことまで知っている。どうも怪しすぎる。君は何かを隠していないか?」

 

 なんてやろうだ、コイツ。伊達にこの年で執務官やってねぇってことか。

尋問に手馴れてやがる。

 

「管理局のことはデバイスのデータを見たんだよ」

「ふむ、魔法の演算データしか入っていなかったが?

「っ消したんだよ!地球では必要のない情報よりも魔法のデータ入れたほうが有意義だからな!」

「そうか。それならあの不可解なスイッチはなんだ?調べさせてもらったが、どうも何かの力場を制御する術式のようだが、あの術式では何も起こらないぞ?」

「それは……俺のレアスキルの補助だからだよ。デバイスなしでも使えるが、あったほうが演算がスムーズだしな」

 

 ちくしょうちくしょうちくしょう!こいつ完全に俺の言うこと信用してねぇ!

明らかに疑ってかかってやがる。うぜぇ、この拘束具さえなければ……!

 

「なら、最終確認だが、君は魔法の練習をして何をするつもりだった?あの世界では使えないものだろう?管理局のことを知っているなら管理外世界での魔法の秘匿義務も知っているだろうし」

「ただ人にないものが使えるのがうれしくて練習していだけだ。魔法なんておとぎ話の中のもんだからな」

「そうか……、なら管理局と敵対する気も、法を侵すつもりもないんだな?」

「ああ」

「ならば拘束は解除しよう。悪かったな」

 

 そういうとKY――クロノは俺の拘束を順に外していった。

この野郎、マジで覚えてろよ。原作が始まったらその鼻っ柱たたき折ってやるからな。

 

「デバイスも返却するが、君は魔法教育をちゃんと受けたほうがいい。遅くとも明日にはこちらから君のご両親にに説明に行くよ」

 

 予想外すぎる。こんなの俺のシナリオにはなかった!

拙いな、このままだと無印に介入しづらくなっちまう。かといってここで反発するのも得策とは言えないし……。

 

「ん………。ああ、少し待っていてくれ。ここからは別の者が君につくから。僕は別の仕事があるのでこれで失礼するよ」

 

どうも念話で呼び出しを受けたらしい。急いだ様子で部屋を出て行った。

 

「くそ、もとはと言えばあの猫どもがふざけた真似をするからじゃねぇか……」

「私たちが猫だって、あんたはなんで知ってるんだろうねぇ?」

「!?」

 

 すぐ後ろから聞こえた声に慌てて振り返ると、今度は(・・・)猫耳女の姿の猫姉妹がにやにやと笑いながら立っていた。

 

「ねぇ?どういうことなのか、ちょっと聞きたいんだ・け・ど・なぁ?」

 

ガチャリ。呆然としている間に両手首にさっきと同じ枷をはめられてしまう。

 

「ここじゃなんだし、もっといい場所に案内するよ」

「お前っ……」

 

 浮かび上がる魔法陣。

それが発動し一瞬の強い光に視界が包まれた。

 

 

 

 

 

転移魔法陣(・・・・・)が発動した後、部屋には誰の影もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、海鳴市からある一家が消えた。

引っ越したのでもなく、事故や事件によって死亡したわけでもない。

文字通り、消失したのだ。

 

そして……………。

 

 数日が経ち、数週間が経ち。

さらに奇妙なことに、誰もいない家が未だそこにあるというのに、市の住民たちは誰もそれに疑問を覚えず、いつも通りの日常を過ごしている。

 そう………かつて四人組(・・・)であった子供たちが、今は三人(・・)であることを不思議に思わないように。

 




今回はBAD ENDで。


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