それでも月は君のそばに (キューマル式)
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原作開始前
プロローグ


色々あって小説から遠ざかっていましたが、リハビリをかねて執筆している作品。
不定期更新になると思いますが、気楽にご覧下さい。


 白昼の街に悲鳴と怒号が飛び交う。数分前まで何の変哲もない日常の光景だったそこは、まるで戦場の様相に即座に様変わりした。

 ……否、これは戦場ではない。こんな一方的な虐殺など戦場では断じてない。

 『屠殺場』……これが今の光景にもっともふさわしい言葉だろう。

 

 なんの前触れもなく空間から現れ、人々を炭素の塊へと変えていき最後には自壊する。人間以外には目もくれず、人を次々に殺す作業を繰り返す。

 そこに感情などなく、ただただ人を殺すだけの正体不明の化け物……それが『ノイズ』と呼称される異形たちだ。

 ノイズに対して、人が今まで培ってきた武器は何一つ通じなかった。銃弾もミサイルも、或いは核さえもノイズの前には等しく無力。だからノイズに出会ってしまったときに人ができることはただ一つ、『逃げる』ことだけだ。

 

 我先にと逃げ出す人々。そんな人々に追い縋り、次々に炭に変えていくノイズ。ここは阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

 

「ああ……」

 

 ほんの数秒前まで生きた人間だった存在が炭へと変わる姿を、目の前ではっきりと見せつけられ、その女性は地面へとへたり込む。

 ガクガクと恐怖で震えが止まらない。逃げなければと分かっているのに、腰が抜けてしまって立つことができない。そんな彼女にノイズがゆっくりと迫る。

 

「誰か……誰か助けてぇぇ!!?」

 

 無駄なことだと頭の片隅で分かっていても生き物としての本能が叫び声を上げさせる。しかし、そんな彼女の声を聞き届けるものはそこにはいなかった。

 神や仏様への祈りも届くはずもない。それが届いているのなら、とうの昔に世界は平和になっていだろう。

 この世に神も仏もいないのだ。

 だが……!

 

「えっ……?」

 

 白銀の風が、駆け抜けた。

 その女性に迫っていたノイズたちが一瞬にして弾け飛ぶ。自壊したわけではない。明らかに何かによって破壊させられたのである。

 そしてそこには、白銀の戦士が佇んでいた。

 まるで西洋甲冑のような、全身を覆う白銀の金属質な外見。深い緑の複眼のような眼。そして黒いベルトの中央には緑の光が輝く。

 

 その姿に脅威を感じたのか、ノイズたちが一斉に白銀の戦士へと襲い掛かる。

 凄まじい数のノイズ、しかし白銀の戦士はまるで動じることもなく構えをとるとノイズへと躍りかかった。

 

「ふんっ!!」

 

 『圧倒的』……その戦いはまさにその一言に尽きる。

 白銀の戦士が廻し蹴りを放てば、まるで稲穂を鎌で刈り取るかのごとき容易さでまとめてノイズが弾ける。運良く接近したノイズが攻撃しようとするが、そこに肘打ちが叩き込まれノイズが崩れ去る。

 今まで人類を蹂躙する立場だったノイズはもはやその立場を逆転させられ、白銀の戦士に一方的に蹂躙されるままであった。しかし、未だノイズの数は多い。残ったノイズすべてが、白銀の戦士を倒そうと集結する。

 視界を埋めるであろうノイズの群れ。しかし白銀の戦士はそれに動じることもなく、腰を落とし構えをとる。

 

「バイタルチャージ……」

 

 白銀の戦士のベルトが、緑色の光を放つ。すると、緑色の光が白銀の戦士の身体を駆け巡り、それが両足へと収束した。

 

「シャドーキックッッ!!」

 

 空中に飛びあがった白銀の戦士は、両足を突き出しながら目にも止まらぬ速さでノイズへと突っ込む。両足でのキックだ。まるで天空から振り下ろされた神々のハンマーのようなそれは、ノイズの集団の中央に突き刺さる。

 その一撃に空間が震えた。直撃を受けたノイズはもちろん、そこを中心として緑色のエネルギーの波が広がり、その場にいたすべてのノイズを吹き飛ばす。つい数分前までノイズによって阿鼻叫喚の地獄と化していたその場所は、元の日常へと帰還を果たしたのだった。

 

「……」

 

 戦いを終わらせた白銀の戦士の元に、一台のバイクが走ってくる。バッタを模したような茶色と灰色のバイクだ。

 そこには誰も乗っていない。まるで自分の意思を持つかのように走ると、主人を迎える名馬のように白銀の戦士の前で停車する。

 バイクに跨り戦場を去ろうとする白銀の戦士に、助けられた女性は思わず言葉を口にする。

 

「あなたは……一体……?」

 

 その言葉に一瞬だけ白銀の戦士は動きを止めた。そして……。

 

「俺は仮面ライダー……。

 『仮面ライダーSHADOW』だ」

 

 それだけを呟くと白銀の戦士……仮面ライダーSHADOWは凄まじいスピードで戦場を後にする。

 

「仮面ライダーSHADOW……」

 

 九死に一生を得た女性はその名を繰り返す。そして自分の命があることを安堵しながら思った。

 

 神にも仏にも祈りは届かなかった。

 この世に神も仏もいない。だが人の祈りを聞き届ける者は……仮面ライダーは存在するのだ、と。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 ノイズを屠り、そのあとに追ってくる人間を振り切って白銀の戦士こと『仮面ライダーSHADOW』は人気のない裏通りへとやってきていた。

 バッタを模したようなそのバイクを降りると呟く。

 

「まったく……こっちは入学したてで結構忙しいんだぞ」

 

 カシャリと金属質な音を立てながら肩を落とすその姿。そしてその体躯とは明らかに合わない、先ほどまでとは違う少年の声に、ノイズを一方的に屠った強き戦士の面影はない。

 仮面ライダーSHADOWは2・3度辺りを見渡す。何かを探っていたのか、まるでセンサーのようにその緑の眼と額が数度点滅する。

 

「周りには……何もないな。 よしっ」

 

 すると、淡い光とともに仮面ライダーSHADOWの姿がほどけて消えていく。白銀のその姿が消えると、そこには変わりに一人の少年の姿があった。

 着ている学生服は真新しく、見る人が見れば近所の中学のものだというのが分かるだろう。

 

「さて……さっさと帰ろうか、バトルホッパー」

 

 少年がそう声をかけると、『少年の引いたママチャリのかごに入った、バッタのようなオブジェ』が電子音のような声をあげた。 

 少年はそのまま、表通りへとママチャリを引いて出ていく。

 

 これがどこからともなく現れノイズを屠っていく存在、『仮面ライダーSHADOW』の正体だとは、まだ誰も知らないことだった。

 




作者「ムッ! 弟者弟者、唐突に閃いた!」

弟「うん、絶対にロクでも無いことだって分かってるけど、なんだ兄者よ?」

作者「シンフォギアの393って、響にとって『ひだまり』なわけじゃん」

弟「うん、そうだな兄者」

作者「『ひだまり』ってことは……つまり『太陽』、『ブラックサン』なわけじゃん」

弟「うん?」

作者「ということは、『シャドームーン』が響の傍に出てくるシンフォギアSS書いても何もおかしなことはないわけだ!」 

弟「OK兄者、このまま病院に行こう。
  頭は専門じゃないけど見てやるから」

作者「やめろぉ、ジョッカー! ぶっとばすぞぅ!!」


と、こんな感じのやり取りを経て発掘したSSを改造しながら見せれるレベルにしたのが本作です。
シャドームーンって人気キャラなのに、ハーメルンではジオウとかのライダーものはよく見かけるけど、シャドームーンは見かけないなぁと思い、『無いなら俺が書く』のマイノリティー精神が働きました。
うん、私は謝らない。
次回もお楽しみに。


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第1話

 突然だが、俺こと月影信人はいわゆる『転生者』である。

 だがいつどうやって死んだとか、前世の名前はとかはまったく分からない。気がつけば赤ん坊として泣き声を上げていたという状態だ。

 だが、自分に前世があったというのだけは確信を持てる。それを裏付けるように記憶には『仮面ライダー』と呼ばれるヒーローたちの物語や物事が存在していた。

 動けるようになって調べたが、この世界には『仮面ライダー』という単語は物語にも都市伝説にも存在していないのだ。それを知っているというのは、自分という存在が普通ではないという証拠である。まぁもっとも、産まれたばかりの赤ん坊の状態から完全に自我がある段階で普通でないことは確定なのだが。

 

 とにもかくにも俺は『転生者』なわけだが、『だからどうした?』といえばそれまでだ。漫画じゃあるまいし特別な使命を背負った子、なんて話は両親やら親戚の会話で今まで聞いたこともない。うちはごくごく一般的な家庭だ。

 俺にあるのは『仮面ライダー』と呼ばれるヒーローたちの物語だけ。むしろ誰も知らない『仮面ライダー』たちの物語を知ってるなんてお得だね、程度にしか思っていなかった。最初は……。

 

 で、世の男というのには必ず通過儀礼というものがある。ヒーローへの変身願望……つまり変身ごっこ遊びだ。

 当然俺も男なわけで当時3歳になった俺はさっそく、この世界で自分だけが知っている『仮面ライダー』の変身ポーズをとって見たんだが……本当に変身できてしまったのである。あの時は両親不在の時で本当に助かった。

 

 鏡の中にうつるのは変身前の3歳の自分とは似ても似つかない、2m近い背格好の姿だ。

中身である俺を無視して、完全に仮面ライダーの姿に『変身』し、声すら変わっている。

 だが……。

 

「なんでシャドームーンなの? BLACKの変身ポーズやったんだけど」

 

 『シャドームーン』……それは『仮面ライダーBLACK』、そして続編である『仮面ライダーBLACK RX』に登場したライバルキャラ、史上初の『悪の仮面ライダー』である。

 その力は絶大で、しばしば最強ライダー論争で名前のあげられる『仮面ライダーBLACK RX』とも互角以上の戦いを繰り広げるなど、『チートのライバルは当然チート』な存在であると同時に、悪のカリスマ性に富んだダークヒーローとして下手をすると主役ライダーよりも人気のある存在だ。

 鏡では白銀のボディに緑色の眼を持つ姿が肩を落としていた。間違いなく鏡にうつるシャドームーンは俺である。

 

「……これ、どうやったら戻るんだ?」

 

 嫌な予感がしたものの、変身を解除したいと心の中で願うと割と簡単に変身が解けてくれた。

 ホッと安堵の息をつく俺。

 

「もしかして、他にも変身出来るんじゃ……?」

 

 気になった俺はさっそく片っ端から変身ポーズをとって見たものの、変身出来たのはシャドームーンだけだった。

 シャドームーンに文句があるわけじゃない。むしろシャドームーンは一番好きなくらいだが、だからといって他が惜しくないわけでもなく少し肩を落とす。

 そんな俺の肩に背後から何かが飛び乗ってきた。

 

「うわっ!?」

 

 シャドームーンの姿と声で情けない悲鳴を上げてしまった俺が見たのは、何やらバッタ型のオブジェのようなもの。

 

「んー……ホッパーゼクター?」

 

 感覚的にはそれが一番近い。色はパンチホッパー側の茶色と灰色だ。

 そんなホッパーゼクター(仮)はどこからともなく現れると、そのままついて来いとでもいうように跳ねだす。

 その後ろについていくと、庭に出た。ご近所様にこの姿が見られたらとビクビクしながらホッパーゼクター(仮)を眺めていると、ホッパーゼクター(仮)が庭に転がっていた三輪車に飛びつく。

 すると何と三輪車が光とともに形を変えていき、そして……。

 

「嘘だろ……」

 

 目の前に鎮座しているのはバッタを模したバイク。

 

「お前……バトルホッパーか?」

 

 その言葉にうなずく様に目の部分を点滅させる。

 カラーリングは灰色と茶、それに目の部分は緑とシャドームーン専用っぽくなっているものの、その形状は間違いなくバトルホッパーだ。

 

「つまり……お前がくっついた乗り物はすべてバトルホッパーになるってこと?」

 

 またもうなずく様に目を点滅させると、光とともに三輪車とバトルホッパーが分離する。こいつゴウラムみたいになってるな。まぁ、三輪車をバイクにするとか強化どころの騒ぎじゃないからゴウラムってのも厳密には違うけど。

 ホッパーゼクターっぽい外見でゴウラムっぽい特性を持ったバトルホッパーって、どんなごった煮なんだ?

 というかそれ以前に三輪車に乗るシャドームーンって……ああ、『マイティライダーズ』で乗ってたなそう言えば、と現実逃避ぎみに考える俺はもうすでに理解力がキャパシティーオーバーをしていた。

 

 時間をかけて色々と状況を呑み込んで分かったことは次の通り。

 

 

1、シャドームーンに変身できる

 

2、ホッパーゼクターのように呼べば空間を超えてどこへでも現れるバッタ型オブジェで、どんな乗り物でもバイクに変化させるバトルホッパー

 

 

 というところだ。

 1に関してだが、これは俺の知っている仮面ライダーに出てくるシャドームーン同様の能力があると、感覚的にだがわかる。腰の辺りに力の源である『キングストーン』の存在も明確に感じられる。どうやら今まで気付かなかっただけで『キングストーン』は最初から俺の中にあったらしい。それが覚醒したようだ。

 

 2に関しても無茶苦茶。三輪車がバトルホッパーに変わるのも頭を抱える光景だが、廃車場にあった大型トラックまでバトルホッパーに変形した。もう物理法則さんが息をしていない、あまりの無茶苦茶さである。

 

 自分には恐るべき能力が隠されていたことが分かったわけだが……「じゃあ、どうするの?」と言われても正直、反応に困る。

 いくらシャドームーンだからってこの力で何か悪事をとは考えられないし、日常生活にはあまりに過ぎた力だ。使いどころがない。

 せいぜいたまに一人コスプレを楽しもう……その程度に考えていたのだが、その考えはそうかからずに改めることになる。

 人類共通の脅威とされ、人類を脅かす認定特異災害―――ノイズの存在である。

 

 空間からにじみ出るように突如発生し、人間のみを大群で襲撃。人間の行使する物理法則に則った一般兵器ではダメージを与えられず、触れた人間を自分もろとも炭素の塊に転換させ、発生から一定時間が経過すると自ら炭素化して自壊する特性を持つ異形の怪物。その有効な対処法は『逃げる』ことだけだ。

 

 そんな神出鬼没の怪物であるノイズなのだが……俺はノイズの現れる気配を何となく察知することができた。さらにキングストーンの力なのだろうが、変身したシャドームーンならば本来ダメージが与えられないはずのノイズを容易く葬ることができる。

 ならば、と俺はノイズと戦うことを選んだ。

 

 正義感もあるし、誰かのためになるならという気もある。無論俺もすべての人々を救えるなど思ってはいないし、シャドームーンの力で戦うのを楽しんでいる一面も否定しない。

 戦いを決めた理由はちょっと一言では言い表せないくらい複雑だ。だがその中に『恐怖心』があることは否定しようもない。

 俺は転生してからの今の生活に満足している。両親も出来た人だし、周りにいるのも気持ちのいい人ばかりだ。

 自分が何もせずに、もしノイズの被害がそんな自分の身近な人に及んだら……そう思うと『怖い』のである。

 シャドームーンの姿をしながら、『怖い』という理由で戦うなんて何とも情けない話だが、それが俺の限界である。

 だから後悔しないようにやれる限りのことはやろう……そう考えてノイズとの戦いに身を投じて早数年、というのが今の俺の状況である。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「はぁ!!」

 

 腕を振り回すように水平チョップ。エルボートリガーのエネルギーも加わり凶悪な威力のそれがノイズを吹き飛ばす。

 

「シャドービームッ!!」

 

 遠くで人を追おうとしていたノイズの集団に、キングストーンのエネルギーを左手に集め放つ。稲妻のように枝分かれした緑の破壊光線はそのままノイズの集団を蹴散らした。

 十分、避難する人とノイズの距離は稼いだ。あとはいつも通り薙ぎ払う。

 

「バイタルチャージ!」

 

 構えてそう叫ぶと、キングストーンのエネルギーが全身を駆け巡り、右手に収束する。

 

「シャドーパンチッ!!」

 

 飛びあがってからノイズの中心に拳を叩き込む。するとエネルギーの余波でノイズたちは粉々に吹き飛んでいった。

 

「……」

 

 ノイズとの戦いが終わりいつものようにバトルホッパーで戦場を去ろうとすると、男の子と目が合う。震える母親に抱かれた5歳くらいの男の子は満面の笑みでこう言った。

 

「ありがとう、仮面ライダー!」

 

「……」

 

 俺はそれに静かに頷いて返すと、バトルホッパーを発進させる。

 ノイズと戦い続けて数年、俺はノイズとの戦いでは『仮面ライダーSHADOW』を名乗っていた。そのせいで『仮面ライダー』という単語が都市伝説くらいには知られるようになっている。世間では、『ノイズを倒して人を助ける謎のヒーロー』くらいにかなり好意的に受け入れている。

 正直に言えば奇妙な化け物呼ばわりや、石を投げつけられるくらいはあるかと覚悟していたので嬉しいことだが……どうも作為的なものを感じるのは気のせいか?

 

 何故俺が『仮面ライダー』を名乗っているのかというと、これは自分への戒めのためだ。

 俺は本家本元の仮面ライダーのように、『正義の味方』ができるとは思っていない。身近な何かを救う程度がせいぜいの器だろうと自覚している。だが『仮面ライダー』を名乗る以上その名を汚すようなことはしないよう精一杯をしよう、という自己流の誓いである。

 

 しかし……バトルホッパーを走らせながら考えるが、このシャドームーンの力は本気でヤバい。ノイズなど物の数ではない圧倒的な戦闘能力だ。しかもそれを完全に使いこなせている。

 産まれてこのかた格闘技などの経験のない俺が、変身をするとまるで最初から戦う術を知っているかのように身体が動くのだ。何と言うか、ここまでくると半自動のロボットに乗っているような感じだ。

 だがシャドームーンの凄さは単純な戦闘能力だけでなかった。むしろ、キングストーン『月の石』の与える数々の能力が凄い。大きなところでは回復能力だ。

 シャドームーンは月光を浴びることで死んでも蘇ったが、同じように夜になると回復力が爆発的に跳ね上がる。たまに戦いで手傷を負うこともあったが一晩で傷跡すら残らない完全回復をしているし、ここ数年ノイズとの戦いで不規則な睡眠時間になっているが、身体が疲れることは一度もなく、産まれてこのかた病気にもかかったことがない。睡眠をとらなかったとしても疲労もなく、常にベストコンディションを維持している。

 他にも列挙すればきりがないくらいにキングストーン『月の石』の力はすごかった。まさしくチートである。こんなシャドームーンの互角以上に強い『仮面ライダーBLACK』と『仮面ライダーBLACK RX』がいかにチートか間接的によく分かった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 いつものように人気のない裏路地で変身を解除し、バトルホッパーをバイクから通学用ママチャリに戻して表通りを歩きながら、俺はノイズたちのことを考える。

 

(奴らは明らかに人工物だった)

 

 シャドームーンの持つ分析透視能力『マイティアイ』でノイズを分析してみたが、あれは生命ではなく、何らかの目的があって何者かに造られた『人工物』であることが分かっている。

 

(だとしたらノイズの裏にいる何者かとは一体……?)

 

 だが思考は一瞬で終わった。

 シャドームーンである俺の存在。そして人類を襲う正体不明の異形の人造怪物であるノイズ。この二つの事実から、俺は即座に真相にたどり着いたからだ。

 

「なるほど、ゴルゴムの仕業か!」

 

 おそらくこの世界にはどこかに『暗黒結社ゴルゴム』が存在し、ノイズは奴らの使役する戦闘員のようなものなのだろう。実際、戦闘能力としては怪人のほうが遥かに強く、ノイズは簡単に倒せる程度の耐久力だ。だが、それは俺にとっての話である。

 個ではなく集団、しかも突如として現れ対抗手段もなく無差別に人を襲うなど、怪人よりもタチが悪い。『人類皆殺し作戦』とか、そういうゴルゴムの作戦なのだろう。間違いない。

 

「おのれ、ゴルゴムめ!」

 

 ゴルゴムがいるのなら、黙って見過ごすわけにはいかない。奴らの行いは確実に世界を暗黒に変える。そうなれば確実に俺の身近な人々が害を受ける。それが怖い。ならばやるしかないだろう。

 俺はまだ姿を見せぬゴルゴムに闘志を燃やす。

 

「しかし、そうなるとブラックサン……仮面ライダーBLACKもこの世界にいるのか?」

 

 それが気がかりだ。もしゴルゴムにいて敵だとすると最大の脅威になるだろう。

 だが、何となくだが俺の中のキングストーンが『違う』といっているような気がするし、そんな気配も感じない。ブラックは俺のようにキングストーンがまだ覚醒していないのかもしれない。

 

「原典のように戦う気は俺にはないし、共闘できたら心強いんだが……」

 

 そう呟いて俺は帰り道を急ぐ。

 中学生には学業も大事なのだ。帰って勉強しないと中間試験で酷いことになってしまう。

 学生と仮面ライダーの両立は中々に難しいのだった。

 




SHADOW「正義の味方として認知されて嬉しいんだが……何だか作為的な感じがするぞ」

OTONA「いつでも味方になれるように、情報操作で好印象にしておいたからな!」

SHADOW「なんという厚いお・も・て・な・し。
     それにしてもノイズを使い人々を襲うゴルゴムめ、ゆ゛る゛さ゛ん゛っっ!!」

フィーネ「ファッ!?」

いわれないゴルゴム認定がフィーネさんを襲う。

次回もよろしくお願いします。


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第2話

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


 ノイズと切った張ったを繰り返す俺こと『月影信人』だが、それでも中学生である。学生生活を送る義務があるわけで、こうして夜中までノイズと戦った後に学校へ向けて五代目バトルホッパー(通学用ママチャリ)を走らせていると、声が聞こえてくる。

 

「ノブくん、おはよ!」

 

「ああ、おはよう響」

 

 俺はママチャリから降りて、同じ中学の学生服を着た少女にあいさつを返した。

 彼女の名前は立花響、俺の幼馴染だ。家がすぐ近くの響との付き合いは長く、それこそ初代バトルホッパー(三輪車)で一緒に遊んでいたくらいである。そんな彼女とはそのまま小学校・中学校と一緒の学校に通っている。

 

「聞いたよ、昨日も猫の救出してたんだって?」

 

「だって木から降りられなくてかわいそうで……」

 

 俺が少し呆れたように言うと、そう言って響は頬を掻いた。

 立花響を一言で表すなら『善人』という言葉で事足りるだろう。困っている人がいたら見捨てられない強い正義感に前向きで明るい性格は見ていて好ましい。まるで、仮面ライダーたちのような性格だ。ただ少し向こう見ずなところは幼馴染としては直して欲しいものだが。

 そうやって響と取り留めのない話をしていると、またも声をかけられた。

 

「おはよう響、信人」

 

「おはよう、未来!」

 

「おはようさん、未来」

 

 そこにいたのは後頭部のリボンが特徴的な少女、俺のもう一人の幼馴染であり響の親友である小日向未来だ。彼女とも付き合いはかなり長い。三代目バトルホッパー(子供用自転車補助輪付き)のころには一緒に遊んでいたか。

 未来はすぐに響に並ぶと、通学路での取り留めのない話に加わる。いつもと変わらない、見慣れた日常の風景だ。

 そんな中、今日は少しだけいつもと違うことがある。

 

「そうだ、はいこれ」

 

 そう言って未来が取り出したのはいく枚かの音楽CDだ。

 

「ありがとう、未来」

 

「それが未来が言ってた?」

 

「そう、ツヴァイウィングの曲」

 

 響がCDを受け取ったのを横目に俺が聴くと未来が答える。

 『ツヴァイウィング』とは今をときめくアイドルユニットらしい。かなりの人気で、未来もファンらしく俺も響も何度も勧められていたのだ。

 

「信人も響の後に貸すよ。かっこいいからきっと気に入ると思うな」

 

「ふぅん……じゃあ、響の後にでも聴いてみようかな」

 

 正直あまり興味はなかったが幼馴染のここまでのおすすめだ。無下にするのもどうかと思いそう答えて、何気なく響の手の中にあるCDを見る。

 

「……ん? ちょっといいか?」

 

「? どうしたの?」

 

 響からCDを一枚受け取って、そのジャケットをマジマジ見つめる。そこに写ってるのは二人組の女、これが件の『ツヴァイウィング』らしい。

 

「……いや何、この間テレビでチラッと見たのが噂のツヴァイウィングだって納得しただけ」

 

 しばらく眺めてから響にCDを返すと、俺はそう当たり障りのないことを言って誤魔化した。だが本当はそんなわけもなく……。

 

(数時間前に会いました、とは言えないよな)

 

 そんなことを考えながら、俺たちは学校への道を急いだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 初めてあの白銀の戦士と出会ったとき、風鳴弦十郎は戦慄と同時に歓喜で心が震えたのをよく覚えている。

 突如として現れ、ノイズを倒していく謎の白銀の戦士『仮面ライダーSHADOW』。その出現を聞きつけ、その真意を見極めようと現場へ急行した弦十郎が見たものは、噂に違わぬ強さを見せつけるSHADOWだった。

 場所は深夜の郊外の廃工場。

 今まで人類では手も足出なかったはずのノイズ。人々の絶望の権化だったその恐怖の軍団が、歯牙にもかけられずにSHADOWによって蹂躙されていく。

 チョップが、蹴りが、SHADOWが何か動作を一つとるごとにノイズが集団で弾け飛ぶ。

 

「バイタルチャージ……」

 

 決め技を放つつもりだ。見ているだけで魂を鷲掴みにされるような強烈なエネルギー、それがSHADOWの全体を駆け巡り両足に収束していくのが弦十郎にもわかる。

 

「シャドーキックッッ!!」

 

 空中から打ち下ろされた飛び蹴りがノイズの集団の中心に突き刺さる。インパクトと同時に空間が打ち震え、緑色のエネルギーの余波がノイズを一匹残らず消し飛ばした。

 ノイズの殲滅を終わらせた仮面ライダーSHADOWはカシャカシャと足音を立てながらゆっくり去って行こうとするのを見て、弦十郎は隠れていた物陰から出ると彼を慌てて引き止める。

 

「待ってくれ!!」

 

「……」

 

 現れた弦十郎に、SHADOWはゆっくり振り向いた。その時、空を覆っていた雲が割れ、月が顔を覗かせた。廃工場の崩れた天井から月明かりが差し込む。

 

「!?」

 

 月明かりに佇むその白銀の美しさに、弦十郎は一瞬言葉を失う。月明かりを従えた王の風格を、弦十郎は幻視していた。

 

「何か用か?」

 

 その言葉にハッと意識を取り戻すと、改めて弦十郎はSHADOWに向き直る。

 

「聞かせてくれ、君は何のために戦っている?」

 

 その言葉にSHADOWは視線を頭上の月へと向ける。その時、エンジン音を響かせながら、バッタを模したようなバイクがやってきてSHADOWのそばに停車する。

 無論誰も乗っていない。自我を持つかのようなその様子に弦十郎は驚きながらもSHADOWの言葉を待った。

 SHADOWはバイクに跨りながら弦十郎を見る。

 

「無論正義……と答えたいが、少し違う。俺は正義の味方ではないからな」

 

 そう言うと、SHADOWは再び頭上の月を見た。

 

「月は一人では輝かない。そばにいる何かがあって初めて光り輝く。

 俺はそばにある光を、どれも消したくないだけだ……」

 

 それだけ言うと、SHADOWはバイクを発進させ廃工場を後にした。後に残されたのは弦十郎ただ一人。そして心の中で今しがたの言葉を反芻する。

 

「君は……君のそばにある大切なものを守るために戦っているのだな」

 

 彼にとってはそれが第一、他の人々が助かったことは『ついで』でしかないのだろう。確かに、皆を助ける『正義の味方』とは少し違う。

 

「だが……そっちの方が『人間』らしい理由だ」

 

 ノイズを圧倒的な力でなぎ倒す正体不明の怪物……仮面ライダーSHADOWをそう恐怖し警戒する者もいるが、弦十郎はもうそんな風には思わない。むしろ仮面ライダーSHADOWの人間らしさを知った。それが嬉しいのだ。人間同士なら、手を取り合えるはずなのだから。

 

「仮面ライダーSHADOW……いつか必ず、仲間として共に戦えるときが来るだろう。

 その時を、楽しみにしているぞ」

 

 そして弦十郎も自分の仕事に戻るために、廃工場を後にした。

 

 そんな彼がまず着手したのが情報管制だ。

 ノイズについての情報は全て管制しているが、その管制する情報の中に仮面ライダーSHADOWについての情報も一部追加したのである。全ての情報は隠さないが、あまりに否定的なマイナス要素の強い情報、デマの類いは消していくようにしたのだ。

 「もしデマや悪評によって暴走し暴れ回ったら止めようがない。敵に回らないように刺激しないようすべき」と弦十郎は上をなんとか説得したのである。

 上はSHADOWを刺激せずに様子見するこの案に渋々頷いたが、直接SHADOWと邂逅した弦十郎は、SHADOWと供に戦うときに悪評が彼の足枷にならないようにしたのである。

 そんな準備を着々と進めている弦十郎だったが、彼を仲間とすることには未だ成功してはいない。

 そして、今日も……。

 

 

 特異災害対策機動部二課本部。

 ノイズ被害の対策を担っている部門であるが、その存在を知るものは少ない秘匿部署。

 その存在が秘匿される最大の理由は、ノイズに対抗できる『シンフォギアシステム』を保有しているからだ。

 

 『シンフォギアシステム』―――身に纏う者の戦意に共振・共鳴し、旋律を奏で、その旋律に合わせて装者が歌唱することによって稼働する対ノイズの希望ともいえる存在。

 その歌は位相差障壁を操り物理攻撃を無力化するノイズの存在を調律し、強制的に人間世界の物理法則下へと固着させる。

 さらに炭素変換を無効化するバリアコーティングを発生させることで、触れただけで炭素の塊にされるというノイズの圧倒的な攻撃力という優位性を消し去る。

 この2つの特徴を併せ持つことでノイズと戦うことのできる唯一の存在、それが『シンフォギアシステム』……だったのだが、『仮面ライダーSHADOW』というノイズを倒す白銀の戦士がいるためすでに『唯一』ではない。

 

「……」

 

 弦十郎は目の前のモニターを見つめる。そこにはノイズの発生と、現れた『仮面ライダーSHADOW』が交戦中だということが映されていた。

 

「仮面ライダーSHADOW……」

 

「あら、また彼なのね」

 

 そう言うのは弦十郎の隣で同じくモニターを見る特異災害対策機動部二課所属の技術主任、シンフォギアシステムの生みの親である櫻井了子である。

 

「相変わらず早いわね。 一体どんな探査能力をしてるのかしら?」

 

 SHADOWのノイズ探査能力はこの二課の施設を超えているらしく、二課がノイズの出現を察知する前にSHADOWが現場でノイズと戦闘を始めていることも多い。

 

「ああ、仲間になってもらったらその辺りも教えてもらおう」

 

 そう弦十郎が言うと、了子は処置なしといった感じでため息をつく。

 この二課の司令である弦十郎が、『仮面ライダーSHADOWを仲間にする!』と言っていることは有名な話だ。色々もっともらしい理由はつけているが、あれはただのヒーローファンの子供の目だと了子は内心で呆れている。

 

「しかし彼の力……あれはシンフォギアなのか?」

 

「少なくとも私の知っているものではないわね。

 新しい聖遺物なのか、それとも別の由来の力なのか……今あるデータで判断することは不可能よ」

 

 お手上げ、と肩を竦める了子。

 ノイズと戦えることから何かしらの人智を超えた力を持っているのは分かるが、それがどんなものなのかは予想すらできず、技術部はいつも頭を悩ませている状態だ。

 

「装者、現場に到着します!」

 

「市民の安全確保とノイズの殲滅を最優先だ。

 SHADOWへはあちらから敵対行動があった場合以外は戦闘行為は禁止、戦闘後に交渉にあたるように」

 

「了解!」

 

 二課全体が慌ただしく動くのを横目に、了子は頰に手を当てたまま考えを巡らす。

 

 あの力はいったいどんな力なのか?

 自分にとって利用価値はあるのか?

 

 とにもかくにも、まずは情報収集だ。どんな力であろうとも、情報があればとれる手立てはいくらでもある。

 

(場合によっては、計画の変更が必要ね)

 

 目的のために走り続ける了子は決意を新たにする。

 

 だが……先史文明期の巫女としては、よくよく思い出しておくべきだった。

 

 それは先史文明期ですら『伝説』とされていた逸話。

 神々すら凌駕する暗黒の存在たちが支配する時代。その王子がその支配を断ち切り、この惑星を先史文明人に託したという『創世伝説』。そこに登場する月を司る『影の王子』の姿。

 とはいえ現代にはまったく伝わっていない伝説であり、彼女にこの状況だけでその伝説を思い浮かべろというのも酷な話だ。

 

 ともかく、彼女がそれを思いだすことはなく物語は続いていくのだった……。

 

 




よく分かるこの世界の歴史

ゴルゴムの皆様「この世界は俺らのもんだ、いやぁ住みやすい住みやすい!
        カストディアンくん、ここにきて馬になりなさい」

カストディアン「うぐぅ……ゴルゴム強すぎ。この惑星ブラックすぎだろ。
        でも、あんなんどうしようもないっす」

ゴルゴムの皆様「あ、新しくウチの頭になった王子から挨拶があるんで夜露死苦!」

影の王子さま「うん、やっぱ暗黒の世界ってオワコンだと思うんよ僕ぁ。
       これからのトレンドはホワイトで。
       というわけで……今日限りでゴルゴムはこの世界の支配者を卒業しまぁす!!
       あ、ゴルゴムの連中は封印な」

ゴルゴムの皆様「「「えぇぇぇぇ!!?」」」

影の王子さま「この星はあとはカストディアンくんたちに任せる! いい星造ってね!
       あ、時代が必要としたときは僕は転生して戻ってくるからヨロシク!」

光の王子さま「お前が転生するなら俺も行くぞぉ!」

カストディアン「我が世の春が来た!
        よぅし、いい星造っちゃうぞ!」



シェム・ハさん「ワレハ、ソウセイオウ。
        ゴルゴム、フッカツサセル」

カストディアン「なんかシェム・ハがおかしな電波受信しちゃったぞ!
        これダメだろ、伝説の2人の王子はどうした!?」

影の王子さま「あ、ちょっと立川で休暇中です」

カストディアン「シェム・ハ何回倒しても復活するんだけど!
        こりゃもう言葉乱して封印するしかないぞ!」

シェム・ハ「ぬわーーっっ!!」

カストディアン「こりゃもう無理!
        我々は脱出する、未来に向かって脱出する!
        というわけで人類くん、あとこの星ヨロシク!」



月の石「というわけで、そろそろ人類に転生しようと思うんよ」

太陽の石「お前行くなら当然俺も人間に転生するぞ。
     転生先は最近のトレンドの美少女かな。
     あ、俺が転生する子にはちっぱいのまま成長しない因子植えこんどくから」

月の石「お前……いくらナイチチスキーだからって女の子になんという呪いを……」

太陽の石「何を言ってるんだ?
     例えば太陽光パネルとかには凹凸はないだろ。あれは太陽の光を受けやすいためだ。
     つまり……凹凸のないナイチチボディは、太陽の祝福をもっとも受けた身体ということなんだよ!!」

月の石「ナ、ナンダッテーー(棒」

太陽の石「で、そっち転生先どうすんの?」

月の石「うーん、今選んで……ん、ナニコレ凄い面白い魂みっけた!
    なんか並行世界あたりから紛れ込んできてる魂なんだけどさ」

太陽の石「ああ、あのギャラなんとかだかギャラドスだがの影響で最近多いよな、そういうの」

月の石「その世界、俺とお前の話みたいなのがある。
    俺の力持った奴、悪の組織のドンだって」

太陽の石「マジウケるww」

月の石「よし、俺こいつに決めた。
    この仮面ライダーって話の記憶だけ維持させて転生させるよ」



SHADOW「ゴルゴムめ、ゆ゛る゛さ゛ん゛っっ!!」

フィーネ「ファッ!?」←今ここ


次回もよろしくお願いします。


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第3話

 時刻は真夜中の12時近く。

 都市は眠らない。繁華街のネオンの光が、昼以上の明るさで夜の闇を切り裂く。そしてそんな光に、1日の疲れを癒そうとする人々が数多く集まっていた。

 そんな中にノイズ出現を知らせるサイレンが響く。

 人々は政府によって設置されたシェルターへ避難しようと急ぐが、酒の入っている人間が多く、まともに走ることができない者が続出。瞬く間にそこは助けを求める声が響く阿鼻叫喚の地獄になっていた。

 

「ひ、ひぃぃぃ!!?」

 

 酒も入り、腰が抜けて立てない中年男性が恐怖の悲鳴を漏らしながら、それでもノイズから精一杯離れようと後ずさる。だが、そんな距離などノイズにとってはゼロに等しい。すぐにノイズはその中年男性に近付こうとするが……。

 

 

 ブロロロォォォォォ!!!

 

 

 夜の闇を切り裂くようにエンジン音が響き渡る。

 そして……。

 

「ダイナミックスマッシュ!!」

 

 突如現れたバイクの体当たりによって、そのノイズは周囲にいたノイズごと轢き潰された。

 ブレーキ音とともに急停車するそのバイクに乗っていたのは。

 

「か、仮面ライダーSHADOW!?」

 

「早く逃げろ」

 

 仮面ライダーSHADOWは中年男性を一瞥するとそれだけ告げて、バイクを降りる。カシャカシャという特徴的な足音とともに前に出ると、ベルトのバックルから緑の光が放たれる。

 

「シャドーフラッシュッ!!」

 

 緑の光が放射状に放たれると、周囲にいたノイズが一斉に弾け飛ぶ。

 

「おぉ!!」

 

「何をしている! まだノイズはいるのだ、早く逃げろ!!」

 

 身近に迫っていたノイズが消え、一時の安堵とともに先ほどまで悲鳴を上げて逃げ惑っていた市民から歓声が上がったが、SHADOWの苛立たしげな一喝に慌てて避難を再開する市民。

 その様子を見てため息でもつくように肩を揺らしたSHADOWは、自身を優先目標としたらしく一気に集結してくるノイズに向けて腰を落として構えをとる。

 その時だ。

 

「相変わらず早いね、アンタ」

 

 その声とともに2人の女性がSHADOWの前へと着地した。

 2人とも身体にぴったりとしたインナースーツに各所に装甲のようなものが施された鎧を身に纏い、片や槍を、片や剣を手にしていた。

 この2人こそ特異災害対策機動部二課に所属するシンフォギアの装者である天羽奏と風鳴翼である。

 仮面ライダーSHADOWとこの2人は初対面ではない。とはいえ、ここ何度かノイズ殲滅のために出動した現場で顔を合わせている程度でせいぜいが顔を知っている程度、SHADOWとしては相手の名前すら知らないというレベルだ。

 

「知らん。お前達が遅いだけだろう」

 

「そうかい。その秘訣を是非教えてもらいたいもんだね」

 

 そう言って奏はアームドギアをノイズに構える。

 

「また、とりあえずはノイズを倒す共同戦線ってことでいいかい?」

 

「そう言うなら、そっちの女の殺気を消せ。

 今にも俺に斬りかかろうとしているように感じるが?」

 

「……」

 

 言われた翼は無言だ。その姿からはSHADOWに対する警戒心がありありと感じ取れる。それを横から奏が制した。

 

「悪いね。ウチの相方は心配性なのさ」

 

「俺を警戒しているというのは理解する。殺気を向けるくらいは構わん。だが、降りかかる火の粉は払いのけさせてもらうぞ。

 それが嫌なら行動には移さんことだ!」

 

 そう言うとSHADOWは大きくジャンプしてノイズの集団へと飛び込んでいく。

 

「翼ッ!」

 

「わかってる!!」

 

 奏と翼もそれを追うようにしてノイズへと接近した。

 奏と翼のコンビネーション、そしてSHADOWの圧倒的な戦闘能力によってノイズは瞬く間に殲滅されていく。

 

「シャドーキックッッ!!」

 

 そして最後に残った集団をSHADOWが決め技で吹き飛ばすことで、その日の戦いは終わった。

 すぐさまバトルホッパーで戦場を去ろうとするSHADOWだが、それを奏が止める。

 

「待った待った。 話を……」

 

「お前たちの仲間になれ、だったか。

 その話なら前に断ったはずだ」

 

 実を言えばSHADOWは今回のように今まで何度か2人に接触しこうしてスカウトまがいのことを受けていたがいつも「断る」の一言で切って捨てていたのだ。

 

「そこを何とか、さ」

 

「断る」

 

 そう言うとSHADOWはバトルホッパーを発進させようとするが、その進路を翼が塞ぐと手にした剣の切っ先をSHADOWに向けた。

 

「……何の真似だ?」

 

「おい、翼……」

 

 奏は翼を止めようとするが、それよりも早く翼から言葉が飛び出す。

 

「それだけの力を持ちながら、何故私たち二課に協力しない!

 お前が正義や人を助けるために戦うのなら、私たちに協力するのがもっとも効率的なのは分かっているはずだ!

 何故それをしない!

 それを拒み続けるのは、何か悪しき企みでもあるとしか思えん!!」

 

 翼はSHADOWの存在そのものを嫌っていた。正体不明の、人類の敵か味方かも分からぬ存在など無秩序極まりない。

 師父である弦十郎は『SHADOWは大切なものを守るために戦う戦士』と称していたが、それなら人類を守るために戦う自分たちに協力しない道理が分からない。

 返答次第ではこの場で斬って捨てると翼は剣を向ける。

 

「……俺が『正義の味方』ではないのは確かだがな」

 

 そんな翼に、表情は分からないのに呆れたような様子のSHADOWは言葉を続ける。

 

「お前たちの協力を断る理由は簡単、それはお前たちが信用できないからだ」

 

「貴様がそれを言うか! 正体不明の怪しげな貴様が!」

 

「それはお互い様だろう。まわりを見ろ」

 

 そうSHADOWに言われると、ノイズがいなくなって安全と思ったのか避難しそこねた人々が遠巻きにこちらを見ている。

 

「お前たちと何度か共闘したが……ネットでもニュースでも『仮面ライダーが現れてノイズを倒した』という話は見ることはあっても、『2人組の美少女がノイズを倒した』という記事は一度も見たことがない。

 こんな悪人顔より『美少女2人』の方がよほど話題性があるだろうに……」

 

「悪人顔だって自覚はあったんだな、アンタ」

 

 奏のツッコミは無視してSHADOWは続ける。

 

「明らかに国家、またはそれに類する組織が情報統制をしているのだろう?

 俺もお前たちの存在は知っていても目的もその力のことも、それどころか名前すら知らん。『正体不明』なのはお互い様だ。

 そんな『正体不明』な相手にホイホイ着いていって、気がついたら全身を縛られてモルモットとして切り刻まれる……そんな最後はごめんだ」

 

「私たちをそんな外道だと思っているのか!!」

 

「思うも思わないも、判断できるだけの情報がないと言っているんだ。

 逆にそこまでして何故自分たちの存在を隠す?

 こちらも一市民としてノイズに対抗する戦力があると大々的に発表してもらった方が安心できるのだが?」

 

「おいおい、アンタが『一市民』ってのは無理がないかい?」

 

「これでもノイズの件以外では平和に暮らしている、ごくごく一般的な一市民のつもりだ。

 とにかく、俺にも事情はある。ノイズを倒すために戦場で共闘することは構わないが、そちらを全面的に信用して協力しろというのはごめんこうむる。

 少なくとも今のところはな」

 

「『今のところは』、なんだね?」

 

「状況は変わるものだ。そういうこともありえるという話にすぎん」

 

「OK、今はそれだけで十分さ」

 

 そう言うと奏は翼の手を掴んで剣を下げさせる。するとその間にSHADOWは方向転換するとバトルホッパーを発進させて去っていった。

 

「奏ッ!」

 

「いや、あいつの言うことはもっともだよ。

 私たちも秘密があって、あっちにも秘密がある。それで一方的にこっちを信じて従えって言ってもね」

 

「でも、私たちは人類を守るために……!!」

 

「それを知ってるのは結局私たちだけ。

 他の誰も、日本に住んでる普通の人はそのことを知らないんだよ」

 

「……」

 

 そう言われ、翼は黙ってSHADOWの去って行った方を睨む。その胸中はどんなものであるか、窺い知ることはできない。

 

(真面目なのはいいんだけど、融通が利かないのがね)

 

 奏は内心でそう思いながら肩を竦めると、同じくSHADOWの去って行った方を眺める。

 奏としてはSHADOWの印象は悪くない。むしろここ数回の接触で、SHADOWは『正体不明の怪物』ではなく、弦十郎の言うように『話の分かる人間』だと好感を持っている。

 それに……。

 

(アタシには、タイムリミットがある……)

 

 奏は、自分の時間がそれほど長くないことを理解していた。シンフォギアの装者として必要な適合係数、それが低い奏は『LiNKER』と呼ばれる薬品を投与することによって適合係数を無理矢理引き上げているが、その無茶による激しい薬理作用によって確実に身体が蝕まれていっていることを理解していた。

 戦えなくなってリタイアか、あるいは『死』か……どちらにせよ、奏が翼とともに戦場に立てる時間には限りがある。その時間が尽きる前に、翼とともに戦う仲間が欲しいと奏は思っていた。だから弦十郎の言うように、SHADOWには本当にいつか仲間として戦う時が来ると期待しているのだ。

 

「早いところそうなってくれたら心強いんだけどね……」

 

 そう言って空を見上げた奏の視線の先では、今日も月が綺麗に輝いていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 今は学校の昼休み、学生にとっての憩いの時だ。俺はアンパンを片手に雑誌を読んでいる。

 

「ツヴァイウィング、ねぇ」

 

 俺の見ているのは音楽雑誌だ。その表紙はツヴァイウィングの2人組、特集記事が組まれており、かなりの紙面が使われているあたりその人気が伺い知れる。

 俺は特に音楽に興味はないのだが、今回はよくノイズと戦ってるとやってきて成り行き上共闘する機会のある2人組について、確認するためにこの音楽雑誌を買ってきていた。

 

(ああ、やっぱりどう見てもノイズと戦う2人組、このツヴァイウィングの天羽奏と風鳴翼で間違いないな)

 

 というか、あの2人は戦闘中は普通にお互いに名前で呼び合ってるし、正体を隠そうという気がないんじゃなかろうか?

 おまけにあのノイズと戦うための装備らしきプロテクター、顔が丸わかりだし、これで間違えろという方が無理がある。

 しかし……。

 

(当然だがノイズ退治のことは書いてないな)

 

 『人気アイドルはノイズを倒すスーパーヒロインだった』……なんて最高のネタだろうに雑誌にはもちろん、ネットやニュースでもそんな話はまったく出てこない。それだけ2人の所属する組織の力は強いのだろう。

 そんな風に思っていると、響と未来がやってくる。

 

「あっ、ノブくんがツヴァイウィングの記事見てる」

 

「まぁ、せっかくの未来のお誘いだからな。

 予習くらいはしっかりしておこうと思ってさ」

 

 やってきた響にそう答える。

 ツヴァイウィングのファンである未来はどうやったのか、今週末に行われるツヴァイウィングのライブチケットを3枚手に入れて俺と響を誘ってきてくれたのだ。

 俺はライブというもの自体が生まれて初めてであるが、こういうものは友達と一緒に行く事自体が楽しい訳で、俺も楽しみにしている。

 

「えへへ、私ライブって初めて」

 

「俺もだ」

 

「楽しみなのはいいけど、時間には遅れないでよ2人とも」

 

「「は~い」」

 

 そんな楽しい幼馴染たちとのやり取り。ふと俺は響と未来を眺めながら思う。

 向日葵のような大輪の笑顔を見せる響。そんな響を『太陽』のように照らす未来。そして俺。

 ああ、なんて光あふれる優しい世界なんだろうか。

 だが……運命の分岐点は刻一刻と迫っていた。

 




今回のあらすじ

防人「この悪人顔めっ!」

SHADOW「いや、元々悪の仮面ライダーなんで当然というか……お前らこそ、その対魔忍みたいなエロいインナーなんなん?
    しかもお前らがゴルゴムじゃないって保証はないし……」

フィーネ「ゴルゴムって何よ?」

SHADOW「えっ?」

フィーネ「えっ?」


毎日投稿は明日辺りが打ち止めです。
次回もよろしくお願いします。


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第4話

 今日はツヴァイウィングのライブ当日だ。

 

「あっ、ノブくん!」

 

「よっ、響」

 

 待ち合わせの場所で俺を見つけて走ってくる響。

 響は女の子らしい可愛らしい恰好だ。ちなみに俺は白の光太郎ルック。白の指抜き皮手袋は外せません。

 俺は走ってくる響に手を振って答える。笑顔で走ってくる響を見ていると、なんだか人懐っこい大型犬のようなイメージを思い浮かべてしまい、クスリと笑ってしまった。

 

「あれ、未来は?」

 

「ああ、俺も探してるけど見当たらなくてな」

 

 そう言って周囲を見渡すがそれらしい姿は見えない。しっかり者の未来らしくないと俺は首を傾げる。

 

「じゃあ私電話してみるね」

 

 そう言って響はすぐに携帯をかけ始めた。

 

「未来、いまどこ? 私とノブくんもう会場だよ」

 

 響が電話をしている間、俺はボーっと周りを見渡してみる。

 

「えっ、どーして!?」

 

「ん?」

 

 突如、隣で電話していた響が素っ頓狂な声を出す。

 何事かと見ている俺の前で響は電話を終えると、ため息をついた。

 

「未来、叔母さんが怪我したらしくて家族で今から行くことになっちゃったって。

 だからライブには来れないって」

 

「一番楽しみにしてたのに、残念だな」

 

「私って呪われてるかも……」

 

「おいおい、俺が一緒じゃ不満なのか?」

 

 そんな風に少しふざけて意地悪く聞いてみると、響はブンブン首を振る。

 

「そ、そんなことないよ!

 ノブくんと二人っきりなんて、なんかデート見たいで嬉しいかな、って……えへへ~」

 

「そ、そうか……」

 

 少し顔を赤くしながら言う響を見ていたら、こっちも顔が赤くなるのを感じる。

 幼馴染として一緒の時間がそれこそ物心ついたころ辺りまで長い俺と響、当然気の置けない友人であるのだが、最近こういう響のふとした言葉や動作に思わずドキリとする瞬間がある。

 『意識している』、という自覚はある。だが、この感情を言葉という形にするのはまだまだ難しい。

 ……ちなみに未来は同じ幼馴染だし大切な友達ではあるんだが、そういう浮ついた感情がどうしても沸いてこない。響とは違う方向で負けないくらい美少女の未来なのだが……時折、響を見ている眼が何やら重い想いに溢れていて怖い。それでもってそんな時に俺を見る眼はもっと怖い。なんか『宿敵』でも見ているような眼なのだ。

 もしかして未来は響のことを……いや、考えるのはよそう。

 

 ……なんだか未来の視線を思い出したら寒気がしてきた。

 ブルブルと頭を振ってそれを振り払うと響に話しかける。

 

「それにしても……すごい人数だな」

 

「だね」

 

 周囲は人、人、人、どこを見ても人だらけだ。これがすべてツヴァイウィングのライブの客だというのだからすごいものである。

 

「何だか俺たち、場違い感が凄いな」

 

「あはは……」

 

 ツヴァイウィングのチケットは大人気で完売御礼だというから、ここにいるのはみんな熱心なファンなのだろう。そんな中にツヴァイウィングのことをあまり知らない俺と響はある意味異分子だ。

 ライブは初めてということもあり、少しその熱気に引き気味な俺たちである。

 こうだと少し楽しめるか不安なのだが……。

 そんな心配をよそに遂にツヴァイウィングのライブが始まる。

 

 結果だが……俺たちの心配はまったくの杞憂だった。

 ステージに立つツヴァイウィングの2人、その歌声は俺も響もすぐに魅了していたのだ。

 

「すごいね! これがライブなんだね!」

 

「ああ、これは確かに凄いな!」

 

 気がつけばノリノリで歌声に夢中になっている俺たち。

 何かで『歌は人類の生み出した文化の極み』という言葉を見たことがあるが、なるほどこれがその歌の力かと納得してしまう。それほどまでに凄いものだった。

 だが、だからこそ何故ノイズと戦っているのか疑問である。

 

(アイドル稼業一本でやっていけるだろうに、何だってノイズ退治を?

 戦いの中でも歌ってたし、あのプロテクターはノイズを倒すのに『歌唱力』でも必要なのか?)

 

 まぁ、今そんなことを考えるのは無粋だろう。

 俺も響もサイリウムを振りながらライブを楽しむ。そんな時、それは起こった。

 

「!!?」

 

(この感覚は!?)

 

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 俺がその感覚に反応するのとほぼ同時に、ライブ会場に爆発音と悲鳴が響き渡る。

 

「ノイズだぁぁ!?」

 

「早くシェルターに!!」

 

 逃げ惑う人々、それに追い縋り容赦なく炭素の塊に変えていくノイズ。ライブ会場は一瞬にして地獄絵図に変わった。

 

「響、シェルターに!!」

 

 そう言って響の手を引こうとするが、必死に逃げる人の波に呑まれてしまう。

 

「響っ!」

 

「ノブくん!」

 

 繋いだ手が離れ、別々に人の波に流される俺と響。

 

「くそっ!!」

 

 これではもう簡単には合流できないだろう。響を追うのを諦め、俺は避難のための時間を稼ぐべきだ。

 俺は苛立ちに舌打ちしながら、ノイズの方へと向き直った。

 バッと慣れ親しんだ、身体を丸めるようにする動きをとる。握り締めた拳で、皮手袋がギリギリと音を立てる。そして……。

 

「変……身ッッ!!」

 

 キングストーンの放つ緑色の光、その中でキングストーンの強大なエネルギーが全身に駆け巡ると俺は仮面ライダーSHADOWへと変身を果たした。同時に一気に跳躍する。

 

「きゃぁぁぁ!!?」

 

 転んだ少女に圧し掛かろうとジャンプしたノイズを空中で粉砕しながら着地した。

 

「仮面ライダー!?」

 

「立てるか?」

 

 俺の登場に驚きと、命が助かったことへの安堵の表情を浮かべるがすぐに顔が絶望に染まる。

 

「こ、腰が抜けて立てない!?」

 

「くっ!?」

 

 彼女一人を守って戦うわけにもいかず、かといって動けない彼女をここに置いていけばすぐにでもノイズに殺されるだろう。

 視界の中では、同じような人が何人も見える。

 

(やってみるか……)

 

 俺はキングストーンエネルギーを操作して、解き放った。

 

「シャドービーム!!」

 

 両手から発射した稲妻のような緑の光線が幾条も放たれる。だがそれはノイズには向かわず、この少女を含めた動けなくなった人々に向かった。そして人々が光線に抱えられるように空中に浮く。

 

「とぁ!!」

 

 そしてその人々をそのまま、出口付近まで移動させた。

 シャドービームの派生形の一つ、本来は敵を拘束するための念動光線だがそれを使って動けない人々を強引に動かして投げたのだ。少し着地は荒いが、この場で死ぬよりはマシだろう。

 

「早く逃げろ!!」

 

「は、はい。ありがとう仮面ライダー」

 

 一喝すると、その少女も他の人々もノロノロと立ち上がると避難していく。

 もう目の前に残っているのはノイズだけだ。

 

「はぁ!!」

 

 ノイズの集団に飛び掛かると、チョップを叩き込んで近くのノイズを一刀両断する。そして大きくまわし蹴り、レッグトリガーによって威力を増大させた一撃がノイズたちを薙ぎ倒す。

 すると、俺は視線の先に見知った顔を見つけた。先ほどまでライブの主役だったツヴァイウィングの片割れ、風鳴翼だ。今は先ほどまで纏っていた煌びやかなステージ衣装ではなく、あのプロテクター姿で倒れたノイズに剣を突き刺しトドメを刺している。

 

「SHADOWか!」

 

 あちらも俺に気付いたらしい。だが随分切羽詰まった状況だからだろう、驚きの声の中にはいつもの俺への警戒は見られない。

 

「手を貸す!」

 

「いいや、こっちはいい! それより奏を!

 頼む、奏を早くっ!!」

 

 すぐに手を貸そうとするが、それを拒否して必死の顔で叫ぶ翼。

 何事かと視線を探ると……いた。もう一人のツヴァイウィング、天羽奏だ。

 

 だが、その動きにはいつものようなキレがない。迫るノイズに悪戦苦闘している。何かしらの不調か?

 だが、奏の後ろの人影に俺は言葉を失った。

 

(!? 響ッ!!)

 

 それは紛れもなく響だ。奏は足を引きずりながらも逃げようとする響の盾となり、守っていたのだ。

 ノイズの攻撃によってボロボロと砕けていく奏のプロテクター。

 

 そして……俺は見てしまった。

 岩か何かだろうか、高速で飛んできた銃弾のようなソレが響の胸を貫いた。

 何が起こったのか分からないような顔で倒れる響。そして、広がっていく赤い液体。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 その光景を見た俺の中の何かが弾ける。

 自分でも分からない叫びを上げながら、俺は響の元へと跳躍していた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 天羽奏はすでに満身創痍だった。

 すでにガングニールの出力は最低にまで落ちており、その身に纏う鎧も見る影もないほどボロボロだ。だが、それでも奏は一歩も退かずに戦い続ける。それは自身の後ろにいる少女を守るためだ。

 しかし、どんな想いがあろうと戦場での現実は過酷だ。逃げようとしていた少女の胸を、何かの破片が貫く。

 奏は残された力で周りのノイズの薙ぎ払うと、血だまりの中に倒れる少女に駆け寄った。

 

「おい、死ぬな! 生きるのを諦めるなッ!!」

 

 奏の叫びに、少女は閉ざそうとしていた目を再び開けた。

 まだ少女の命があることに安堵し、そして決意した。

 

(ここで……『絶唱』を使う!)

 

 シンフォギアに備えられた最大最強の攻撃手段―――それが『絶唱』である。

 増幅したエネルギーを一気に放出することで得られる攻撃力はまさに最強の一撃。しかし、それは代償なしには放てない。高めたエネルギーはバックファイアとして装者にも襲い掛かる諸刃の剣なのである。

 すでにボロボロの状態の今の奏が使えば、その力は奏の命を奪い尽すだろう。

 

 恐怖は、当然奏にもある。

 だが、だがそれでもこの歌が守るべき未来に繋がるのなら!!

 

 吹っ切れた顔で奏は自身の槍を拾い、今まさに『絶唱』を歌おうとしたその時だった。

 

 

 ズサッ!!

 

 

 白銀の輝きが、奏の目の前に降ってくる。それは……。

 

「アンタか……仮面ライダーSHADOW……。

 今日は、アタシらの方が早かったね」

 

「……」

 

 おどけたような奏の言葉に、SHADOWは無言だった。

 そしておもむろに『奏の方に向かって』腰のベルトから光が放たれる。

 

「シャドーフラッシュ!!」

 

「なっ!?」

 

 今までの共闘の経験で、それがノイズたちをまとめて吹き飛ばすような攻撃であることを知っていた奏は、何故このタイミングであのSHADOWが攻撃をしてくるのか分からないが咄嗟に背後の少女を庇う。

 

 

 その時、不思議なことが起こった。

 

 

 いつもノイズを吹き飛ばしている閃光を受けたのに痛みはまったくなかった。それどころか奏の傷ついた身体が癒され、活力を取り戻していく。

 

「ありがとう。 その技、攻撃のためのものじゃなかったんだね」

 

「シャドーフラッシュは俺の持つエネルギーを放射する技。その効果は俺が望む通り、相手を破壊することも傷を癒すことも可能だ」

 

 奏が傷が癒えたことに驚きとともにSHADOWに礼を言うが、それに応えるとSHADOWは奏の隣を素通りし、傷ついた少女の前でしゃがみ込む。

 血だまりに倒れた少女、だがその傷から新たな血が溢れることはない。それを確認し、SHADOWが胸をなで下ろしたのが分かる。

 その様子に奏は理解した。SHADOWがさっきの光で本当に癒したかったのはこの少女で、自分の傷を癒してもらったのはほんのおまけに過ぎなかったのだ。

 

「知り合い、なのかい?」

 

「……黙っていてもらえると助かる」

 

 そう言ってゆっくりとSHADOWは少女に背を向けて、ノイズたちの方へと向き直った。

 

「ノイズは俺が相手をする。

 お前はここで彼女を守っていてくれ。出来れば医者も早急に呼んでくれればありがたい」

 

「お、おい。 いくらアンタでもあの数のノイズを1人じゃ……」

 

 傷も癒してもらったし自分も戦えると奏は声をかけるが、その言葉は最後まで言うことが出来なかった。

 まるでオーラのように怒りがSHADOWから立ち上っているのが、奏には分かった。怖くて触れることなどできやしない。

 ノイズの行いは、完全にSHADOWの逆鱗(さかさうろこ)に触れたらしい。奏にはこの先の、今までを超える蹂躙劇が目に見えるようだ。

 

「バイタル、フルチャージ!!」

 

 SHADOWは構えをとると、腰のベルトから緑色のエネルギーが全身へと駆け巡る。全身を緑色に光らせたまま、SHADOWは宣言する。

 

「貴様ら……ゆ゛る゛さ゛ん゛っっ!!」

 

 ノイズの命運はここに決定した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 胸が痛い。意識が呑まれそう。そんな朦朧とした意識の中で、響はそれを見ていた。

 

 大量のノイズ。

 炭素の塊に変えられていく人々の断末魔。

 槍と剣で戦う『ツヴァイウィング』の2人。

 

「おい、死ぬな! 生きるのを諦めるなッ!!」

 

 その叫びに、響の意識はまだ反応する。だが、それも時間の問題だ。忍び寄る死の闇は、今にも響を呑み込もうと迫っている。いつまでも抗えない。

 そんな時だ。

 

(あれ、この光……)

 

 気がつけば、響は光を浴びていた。

 だがそれは『太陽』の温かい光ではない。もっと違う……。

 

(ああ、お月様の光だ)

 

 響は直感的にそう悟る。

 太陽の強い、ともすれば煩わしくなる光ではない、優しい眠りに誘う柔らかい『月』の光……それに自分は包まれている。

 いつの間にか、響に忍び寄る死の闇はその月の光に切り裂かれていた。

 朦朧とする意識の中で響は目を開ける。

 その目に映ったのは、ノイズたちに立ち向かう白銀の背中。それを瞼に焼き付けると響はそのまま気を失う。

 

「私、生きてる……」

 

 次に響が目を覚ましたのは、すべてが終わった後、病院でのことだった……。

 




今回のあらすじ

SHADOW「ああ、響が大怪我を!貴様ら完全に俺の逆鱗(さかさうろこ)に触れたな!
      不思議なこと+ゆ゛る゛さ゛ん゛っっ!」

奏+防人「なんてわかりやすい今日の10割。もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」

フィーネさん「『急募 こいつに勝てる方法』っと」

ゴルゴム+クライシス帝国の皆さん「そんなものはない(無慈悲」

フィーネさん「(´・ω・`)ショボーン」


シンフォギア二次では鉄板な奏生存ルートでした。
次回もよろしくお願いします。


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第5話

 あれから……あのライブでの惨劇から3ヶ月が過ぎた。

 響は何とか一命を取り止めた。

 何となく出来ると感じてやってみたシャドーフラッシュでの回復はしたものの、胸を完全に貫通した傷だ。どうなるかと思ったので、ホッとしたというのが正直なところだ。

 医者の処置も早かったことが功を奏した。この辺りはあの時奏がすぐに医者を手配してくれたおかげだ。今度共闘する際には、一言礼を言わなければならないだろう。

 しかし胸を完全に貫通された傷がすぐに良くなる訳もなく、傷が癒えてからもリハビリが必要となった。欠かさず未来と2人でお見舞いに足を運んでいるが、本人の「へいき、へっちゃら」という言葉が逆に痛々しかった。

 

 ここ最近、ノイズは現れていない。ライブ会場であれだけ倒したのでいい加減数が減ったのか、はたまた別の理由か……とはいえ今は助かっている。

 ツヴァイウィングの2人は現在活動休止中。ライブ会場であれだけの惨劇があったのだから仕方ないだろう。

 そう、惨劇だ。『死者・行方不明者合わせて8856人』……これがあのライブでの戦いの最終的な結果である。

 改めて凄まじい数だ。しかし、それでも世間は冷静だ。

 『ノイズだから仕方ない』と、諦めにも似たような感情で処理し、昨日と同じ日々を送っていく人々。これがいいことなのかと言われれば分からないが、ヒステリーが起こるよりマシである。

 そんな世間と人の意外な冷静さに俺は感心していたのだが……俺は甘かった。心の底から甘かった。

 世間や人は感情を冷静に処理したわけじゃない、ただ心の奥底に無理矢理沈めていただけだったのである。

 そしてそれは、ジッと『生贄』を待っていたのだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 響が無事退院した。

 実はこっそりとシャドーフラッシュ、というかキングストーンエネルギーを流し込んで回復を後押ししていたので医者の予想をはるかに上回る速さで完治に至った。

 これで前と変わらない日々が戻ってくる……そう思った矢先に俺と響への迫害が始まった。

 

 始まりはあのライブ会場での被害者でノイズの被害にあったのは全体の1/5程度、 残りは混乱によって生じた将棋倒しによる圧死や、 逃走の際に争った末の暴行による傷害致死であることが報道されたことだ。

 死者の大半がノイズによるものではなく人の手によるものであることから始まる『生存者バッシング』。そして被災者や遺族に国庫からの補償金が支払われたことから、民衆による『正義』が暴走を始めた。

 

 そしてウチの学校であのライブの被害者は俺と響、それにサッカー部のキャプテンだった。キャプテンは行方不明……ノイズによって殺され炭となり、遺品すら回収されていない。

 そんなキャプテンを慕っていたとある少女のヒステリックな叫びが始まりだった。

 

「何でキャプテンは死んだのにあんたたちは五体満足で生きてるの!

 どうせ誰かを犠牲にして生き残ったんでしょ、この人殺し!!」

 

 ……意味が分からない。

 百歩、いや千歩譲って全くの無事な俺だけがそれをやったとバッシングを受けるなら分かるが、響は胸を貫くような大怪我をしていたのだ、普通に考えてその状態で他人を押し退けて殺せるわけないだろう。そう指摘してやると「怪我を負う前に人を殺して生き残った」と屁理屈としか思えない言葉を返してくる。

 そこまで言うなら俺たちが人を殺したって証拠持ってこいと返すと、「そんなもの無くてもやったに決まってる!ニュースでやってた!」と話にならない。

 

 普通ならば無視を決め込むだけの話だが、この根拠のないヒステリーを世間が後押しした。

 

 俺や完治して間もない響に押し寄せるマスコミ。

 その報道がまた『生存者バッシング』を煽るような内容で、それを見た学校の生徒が『正義』として迫害を行ってくる。

 教師たちも『正義』として、その迫害に加担していた。

 

 その様を見ながら、俺は思った。

 人々はノイズへの恐怖を冷静に処理していたんじゃない。無理矢理心の奥底に沈め、それを発散する生贄をジッと待っていただけだった。

 そして、その生贄に俺と響が選ばれたのである。

 

 だが、俺の方は正直なんとかなっている。というのも最初期の頃に俺をリンチしようと集まった連中を返り討ちにしたからだ。

 キングストーンのエネルギーを常に循環させている俺の身体能力は、変身しなくてもかなり向上している。ノイズとの戦闘経験も多いし、今さら普通の中学生が束でかかってきても後れは取らない。

 男のいじめというのは結構単純なもので、相手が強ければ恐怖して表立った行動はしなくなる。せいぜい目に見えない嫌がらせ程度、それなら耐えられる。

 問題は響の方だ。

 

 女のいじめは陰湿でねちっこく、そして精神的に追い詰めていく。それが抵抗できない響を容赦なく襲っていた。

 机の落書き、私物がどこかに捨てられるのは序の口。その内容はすべてを上げていれば枚挙にいとまがない。たまに石を投げつける、不良たちに襲わせるなど本当にシャレにならないものが混じっているので、俺は常に響といるように心掛けている。

 とにかく大変な状態の響だが、それでもギリギリの笑顔で「へいき、へっちゃら」と言う。響の状態はギリギリのところで保たれていた。

 未来はこんな状態になろうと常に響の味方をしてくれている。そして俺は同じライブに行き、同じ迫害に合う当事者、いわば『同族』だ。そんな2人の幼馴染が、響の心を支えていると自惚れでなく思う。

 そして俺たち幼馴染3人は誓い合ったのだ、「支え合ってこの苦境を乗り越えよう」、と。

 だが……そんな俺たちの誓いは思わぬ形で崩れてしまった。

 未来の転校である。

 

 ……仕方ないことだと思う。

 『生存者バッシング』は世間全体を巻き込んでいた。生存者の家族・関係者にもその被害は広がっており、実際に俺や響の家は落書きがされたり窓を割られたりしている。

 未来も、学校で俺や響の味方をしていることで危ない場面がいくらでもあった。そんな娘を守るため、と未来の両親の決断だろう。仕方ないし、理解は出来る。

 

「信人……響を……お願いっ!!」

 

 未来の最後の別れの言葉は響にではなく、俺へ響を託す言葉だった。

 涙を流しながらの血を吐くようなその言葉を、俺は忘れない。誓いを守れないことへの無念がありありと伝わってくる。

 

「大丈夫だ。 次に未来と会えるその時まで、俺が響を守る!」

 

 そう未来に約束し、俺たちは次に会う時まで別れることになる。

 

「未来はね……私にとってあったかくてかけがえのない、『太陽』だったんだ……」

 

 響はその日、帰り道で俺にそう零す。

 未来は響の幼馴染であり親友だ。そして響をいつでも守ろうと戦っていた。そんな未来がいなくなると、響への学校での迫害はさらに加速した。

 俺も常に傍にいるが男では防ぎきれないシーンが出てきてしまう。

 そして加速した迫害は家族にも及び……ついに耐えられなくなった響の父親が失踪した。

 ただでさえボロボロの響の心に、父親の失踪。このままでは響の心が崩壊すると心配していた矢先、最後の一手が追い打ちをかける。

 

 響とともに一緒に学校から無言で帰っていた時のことだ。

 俺と響の進む方向から、モクモクと昇る黒煙が見える。嫌な予感に駆られて駆けだした俺と響の見たものは、燃える響の家だった。

 後に分かったが、これはのうのうと生きている『人殺し』に罰を与えようという『正義の味方』たちによる放火だった。

 幸い、響の母と祖母はうまく逃げ出せたのか、家の外にいた。

 血相を変えて家族の無事を確認しようとする響に、響の母と祖母が振り向く。

 酷く疲れた、生気のない顔だった。そして打ちひしがれる2人の瞳を前に、響は金縛りにあったかのように動きを止め、まるで恐怖で後ずさるように2、3歩下がる。

 そして……。

 

「ッッ!!?」

 

「響ッ!!?」

 

 俺の叫びを無視して、響は全力でどこかに走り去って行ってしまった。しかし響の母と祖母はそのまま燃え広がる家に視線を戻している。

 

「……」

 

 俺は拳を握りしめ決意を固めると、自宅へと全速力で走った。手早く着替え、すでに心のどこかでこうなることを予想して部屋に用意しておいたバックパックを肩にかける。

 そして部屋を出たところで、俺は両親に出くわした。

 

「そんな荷物を持ってどこに行くつもりなんだ、信人?」

 

「……響の家が放火されて、響が家を出た。

 響を一人にはしておけない。俺も響と行く」

 

 それは両親への家出の宣言だった。

 

「俺のせいで父さんと母さんには迷惑がかかってる。

 俺も、ここにはいない方がいい」

 

「バカなことを言うな!

 こんな風評なんて長続きはしない、お前が気にすることじゃないんだ!」

 

「そうよ、信人も響ちゃんもただ巻き込まれただけで悪いのはノイズなの!

 なのに何で家出なんて……」

 

 両親は俺のことを心から心配してくれている。

 ああ、俺の両親は本当に素晴らしい人間だ。そんな2人の子に産まれたことが心から誇らしい。

 

「父さんと母さんには本当に心から感謝してる。嘘じゃない。

 でも、今の響を1人にはしておけないんだ」

 

 そう言って、俺はそのまま2人へと土下座した。

 

「今の響を1人にしたら駄目だ。

 だから頼む、父さん、母さん。俺のわがままを……聞いてください」

 

「「……」」

 

 十秒か二十秒か、どれだけの時間そうしていたかは分からない。おもむろに両親はどこかへ行き、しばらくすると俺のところへ帰ってくると封筒を突き出した。

 

「今、家にあるお金をかき集めてきた。 持って行きなさい。

 あと、この通帳も。 お前が産まれてからずっと貯めていた、お前のための口座だ」

 

「ほとぼりが冷めたら、必ず響ちゃんと一緒に帰ってくるのよ。

 いい、わかった?」

 

「父さん、母さん……!」

 

 耐えられず、俺の眼からは涙が止まらない。

 その涙を拭い去ると、俺は立ち上がり玄関へと向かっていく。

 そして……

 

「いってきます!」

 

「「いってらっしゃい……」」

 

 俺は家を飛び出した。

 涙を拭い、渡されたものをバックパックにねじ込む。

 

「行くぞバトルホッパー、響を見つけるんだ!」

 

 空間から呼び出したバトルホッパーが電子音で答え、跳ねながらどこかに消えていく。

 俺も夜の街へと走った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 私は呪われている……響はそう確信している。

 あのライブ会場……ツヴァイウィングの2人が変身しノイズと戦う光景を見て、何かが自分の胸を貫いた。

 迫る死に朦朧とする意識の中で聞いた奏の「生きるのを諦めるなッ!!」という言葉、そして優しい『月』の光と白銀の背中のおかげで生き残れた。

 だが、「生きていてよかったの?」と響は何度も自問自答していた。

 

「何で生きてるの! この人殺し!!」

 

 見知らぬ誰かから、そんな言葉をかけられたのは一度や二度ではない。

 辛くて苦しくて、そして心が痛かった。

 それでも「生きたい」という理由はまだ響の中に残っていた。それは大切な幼馴染たちのため、そして家族のため。

 だが……それがどんどん崩れていく。

 

 『太陽』とも言える幼馴染で親友の未来の転校。

 父の失踪。

 疲れ切っていく母と祖母。

 

 その原因が自分だと思うと、「自分はあの時死ぬべきだったんじゃないか?」……そんな風に思ってしまう。

 そして……最後の決定打が今日の火事だ。

 自分のせいで燃やされた家。

 そして疲れ切り擦り切れたような母と祖母の空虚な瞳が、『すべてお前のせい』と言われた気がして耐えきれなくなった響はそのまま逃げ出した。

 

「はぁはぁ……」

 

 どこをどう走ったのかは覚えていない。見ればそこは見たこともないような路地裏だ。

 

「あぅ!」

 

 足がもつれ、そのまま倒れ込む響。

 いつの間にか振りだした冷たい雨が、容赦なく響を叩く。

 

「う……うぅ……」

 

 耐えられなくなり、倒れたまま涙を流す響。

 次々に自分が大切だったものが無くなっていく……まるで真っ暗な闇の中にたった1人で放り出されたような心境だ。辛くて心細い。

 

「助けて……誰か助けてよ……」

 

 いつも「へいき、へっちゃら」と必死で耐えてきた響は、絶望に染まりながら今まで押し隠していた本音を漏らす。

 彼女を覆う闇は濃い。

 しかし……どんなに闇が濃くても、それでも闇を切り裂き道を照らし出してくれる『月』は彼女のそばにあったのだ。

 

「見つけた! 響!!」

 

 響が誰かに抱き起こされる。それは響にまだ残っている大切なものである幼馴染、信人だった。

 

「ノブくん……どうして……?」

 

「話は後まわしだ。 とにかく、落ち着けるところに行くぞ」

 

 そう言って響は抱き起こされるように立ち上がると、2人はゆっくりと移動を始めた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 炎……キャンプ用品の缶の固形燃料の炎が俺の前でゆらゆらと揺れている。

 あの後、俺は響を連れて街はずれの廃工場に来ていた。雨風が凌げて人の目のないところというのがここのため、俺はここを当面の拠点にしようと考えている。

 

「ノブくん……着替えたよ」

 

「ああ」

 

 声をかけられ振り向くと、俺の持ってきていたジャージに着替えた響が立っていた。響の着ていた制服は雨に濡れていたので着替えてもらったのだ。

 そのまま響は俺の隣に座ると、一緒に暖をとる。

 

「飲み物入れるよ」

 

「うん……」

 

 力なく頷く響をよそに、俺はケトルに水を入れると固形燃料の上に置く。

 

「用意、いいね」

 

「うちは元々キャンプとか好きで行ってたから、道具はあったからな。

 それに……いつかこういうことになるんじゃないかと準備してた」

 

「そう……」

 

 それっきり響は黙ってしまう。

 

「なぁ、響。 家には……」

 

 俺の言葉に、響は首を振る。

 

「今は帰りたくない。 もう学校も家も嫌……」

 

 膝を抱える響。

 

「そうか……なら俺も響と一緒にいる」

 

「……いいの?」

 

「俺だってあの事件の生き残り、当事者だ。学校がいい加減うんざりなのは同感だよ。

 未来にだって響を守るって約束してる。

 それに……何より俺が響と一緒にいたいんだよ。

 だから、俺は響と一緒にいる!」

 

 ゆっくりと顔を上げる響。

 

「俺はいつだって響の傍にいて守る。

 だから……1人で抱え込まないでくれ。

 俺を、頼ってくれ」

 

「ノブくん……」

 

 そのまま響は涙を流しながら、俺の胸に顔をうずめた。

 

「ありがとう、ノブくん……」

 

 そう涙ながらに言う響の頭を、俺はゆっくりと撫でた。

 

 

 しばらくそうしてから、俺と響はお互いに顔を赤くしながら離れた。

 ……そうだ、ここまで来れば隠し事はなしにしよう。

 

「これで俺と響は運命共同体、なら……響には俺の秘密を見せるよ」

 

「えっ……?」

 

 何のことか分からない響をよそに、俺は立ち上がると響の正面に立った。

 そして……。

 

「変身ッ!」

 

 キングストーンの緑色の光とともに、俺はSHADOWの姿に変身する。

 

「ノブくん、その恰好は……!」

 

 驚きに目を見開く響。その時、雨がやみ雲の切れ目から月光が廃工場内に飛び込んできて俺を照らし出す。

 何故自分がシャドームーンの力を持って生まれたのか、それに意味があるのならきっと、それは響のためだ。

 『太陽』である未来とともに、『月』として響を守り襲い掛かる闇を払うために俺はこの力を授かったのだ。

 だからこそ、今ここで『月』に誓う。

 

「俺は月影信人。またの名を……仮面ライダーSHADOW。

 どんなことになっても響を守る、響の味方だ」

 

 そう俺は宣言した。

 




今回のあらすじ

SHADOW「さぁ蘇るのだこの電撃でー(キングストーンエネルギーびりびり)」

ビッキー「あべべべべべべ!!」

SHADOW「メタルマックスゼノは色々許せんがドクターミンチの存在を消したことは特に絶許」

ビッキー「『翳り裂く閃光』系ルートだから迫害酷いわ未来もいなくなるし家燃やされて、もう家出する。一緒に来る者はいるかぁ!」

SHADOW「ここにいるぞぉ!! 問おう、君が俺のマスターか?」

ビッキー「あ、私インド村の女代表なんで、インド人、ぶっちゃけカルナさん以外は別にいいッス」

SHADOW「中の人がはみ出てるぞ。俺はさくら……じゃない、響だけの正義の味方だ」

ビッキー「それだと私ラスボスじゃない?」

SHADOW「安心しろ。さくらはさくらでも、色といいエロいインナーといい『井河さくら』の方が近いと思う今日この頃」

ビッキー「それ対魔忍! 鼻フックはいやぁ!!」

ビッキーとのドキラブ家出生活はっじまるよー(棒
次回もよろしくお願いします。


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第6話

「えへへっ♪ おはよう、ノブくん♪」

 

「ああ、おはよう」

 

 目覚めれば目の前には響の顔がある。抱き合うように身を寄せ合い、2人で包まっていた毛布からもぞもぞと出る。

 最初は毛布は1枚だし、俺はキングストーンのおかげで身体はありえないほどに丈夫だから響に使ってもらおうと思ったのだが響がそれを頑なに拒否、最後には「不安」「一緒にいて」「いなくならないで」など涙目で言われたら断れず、こうして一緒に抱き合って寝ている。

 ここはあの廃工場の片隅、二階の事務所か何かだったと思われる場所。外からは見えないこの場所に、そこにあったものや拾ったブルーシートで造った簡単なテントのようなものが俺と響の寝床だ。

 

 2人で家出して、こうして一緒の朝を迎えるようになっておおよそ2週間が過ぎようとしている。

 最初の夜、俺の力の話をした。とはいっても前世があるやらの話はしない方がいいだろうから詳しいことはすべて省いて、あくまで『物心ついたときからあるノイズを倒せる不思議な力』として響に説明した。

 少しだけ受け入れてもらえるか不安だったのだが、それは杞憂だった。響は俺のことを微塵も怖がるようなことはせず、むしろ格好いいと言ってくれた。

 響はあのライブ会場でのことを朧げに覚えていて、俺に「助けてくれてありがとう」とお礼まで言ってきた。

 俺としては怪我を負わせてしまい守りきれていないわけで、お礼なんて言われる資格はないのだが。

 

「おはよっ、バトルホッパー」

 

 響の言葉に、バトルホッパーが電子音で答えた……響の服の中で。

 最初の夜にバトルホッパーも紹介したのだが、響は「可愛い」と妙に気に入ってしまった。バトルホッパーもなんだか妙に懐いている。だがバトルホッパーよ、いくらなんでも響の服の中から出てくるのはいい加減にしろよ。

 どういうわけか相棒(バトルホッパー)は響が呼ぶと、必ず響の服の中、もっと言えば同年代と比べても大きな胸の谷間から出てくるのだ。実は相当駄目な自我なんじゃないかと、この2週間で少しだけ相棒(バトルホッパー)を見る目が変わった。

 響は手早く、アウトドア用の折り畳みウッドストーブに、拾ってきた木で火をつけると湯を沸かし始める。

 響の精神はこの2週間でかなり安定していると思う。

 しかしそのかわりなのか、一緒に過ごしていると腕を組んできたり、抱きついてきたり、一緒に寝たりと随分と甘えるようになってしまった。あの状況で弱音を吐いて甘える場所がなかったせいだろう。その反動が来ているのだとは分かっている。

 だが、意識している相手のこれは刺激が強すぎて困るんだが。響はそういうことはないんだろうか?

 というか、もしかして意識しているのは俺だけで響は俺のことをただの幼馴染としか思ってないんじゃなかろうか?

 ……やめておこう。とにかく今は、今後の話をするべきだ。

 

「響……朝食をとりながらでいい。 今後の話をしよう」

 

 俺の言葉に響は頷いた。

 2人で朝食にアンパンをかじりながら、今後の話をする。

 

「正直に言うと……今のままの生活は長続きしない」

 

 そう俺は断言する。

 今の俺たちの状況など、キャンプの延長線上でしかない。長期的に同じことをするのは無理がある。

 両親から当面の間は心配ないお金は貰っているが、それでも長続きはしないだろう。そもそも、俺たちはどう言ったところで中学生だ。家を借りたり働いたり、そういうことが『まともな方法』では一切できない。今の状態では、生きるのに必要な衣食住すべてが心もとない状態なのだ。

 

「それは……もう元のところに戻るってこと?」

 

 不安そうに言う響に俺は首を振る。

 

「違うよ。

 たった2週間ばっかり程度じゃ何一つ状況は変わってないだろう。何もかも同じままだ。

 だから家出はこのまま続行。でも、続行するには今のままじゃ無理だ」

 

「それじゃあどうするの?」

 

 響の問いに、俺は残っていたアンパンの欠片を口に放り込みながら答える。

 

「無論、大人に保護してもらう」

 

「それは……」

 

 響が不安そうな顔をする。

 俺たちのようなあのライブでの生き残りをターゲットにした『生存者バッシング』は世間全体、当然のように大人だってそれに加わっていた。世間全部が自分たちを攻め立ててくる敵のような状況で、まともな保護など望めるはずもない。

 頼った瞬間、何をされるか……そんな不安が響からありありと感じられるし、俺もそれはありえるとは思っている。

 だが、俺には1つ勝算があった。

 

「絶対……とは言わないが1つ勝算がある。

 それは……俺の力だ」

 

「ノブくんの力って……」

 

「実は何度かノイズと戦う現場で、ツヴァイウィングの連中に「仲間にならないか?」って言われてるんだ。

 ノイズを倒せる『仮面ライダーSHADOW』の力が欲しいんだろう。

 今までは連中のことを何も知らないし、何をされるか分からないから断ってたんだが……俺たちの保護や、まぁ色々……こっちの条件を受けるんなら、その話を受けようと思ってる」

 

 これが俺が考え抜いた結論だった。

 正直、正体のまるで分らない組織に身売りするのは気が引ける。仲間になった翌日には手術台のモルモットという結末だってあり得るだろう。

 

(いや、それ以上に……ゴルゴムの息のかかった組織という可能性もある)

 

 あのノイズと戦うためのプロテクターからして、現在の科学から一線を画すものだ。それを運用している以上、普通でないことは間違いない。ゴルゴムの一員、そうでなかったとしても組織内にゴルゴムの息のかかった人間がいる可能性は否定できないだろう。

 ノイズを操って人類を抹殺しようとしているだろうゴルゴムとは、俺は確実に敵対する。その疑いのある組織の懐に飛び込むなど、普通なら正気の沙汰じゃない。だが、響のためを思うとどこかでの保護は必須だ。他に当てがない以上、賭けるしかない。

 それに何度かツヴァイウィングとは戦場で共闘し、悪い相手ではないとは理解している。何より天羽奏は身体を張り命懸けで響を守ってくれたし、そこに邪な他意は感じられなかった。

 そもそもツヴァイウィングのいる組織がゴルゴムの一員だと仮定すると、ノイズを操るゴルゴムが自分でそのノイズを倒しているという構図になってしまう。それもおかしな話だ。だから大丈夫じゃないか、という希望的観測を持っているのも事実だ。

 

 しばらくして響はゆっくり頷く。

 

「……分かった。ノブくんの判断を信じる。

 でも……もしそこの大人も他と同じだったら?」

 

「その時は……俺が本気で戦う。それで2人で逃げよう。

 そのあとは海でも渡って、誰も知らないところで2人で暮らすか」

 

 その時は多分、俺は『仮面ライダーSHADOW』ではなく『シャドームーン』となるだろう。力で他者の幸せを踏みにじってでも、俺と響の居場所を造る『悪』となる。

 俺もそのぐらいの覚悟を持って響と一緒に家を出たのだ。

 

「だからツヴァイウィングのところに突撃かノイズ待ちか、ってところかな」

 

 そんな風におどけて笑ったときだ。

 背中を駆け巡るような予感、ノイズの前兆だ。

 

「……ナイスタイミング、なのか?

 ノイズが来る!」

 

「えっ!?」

 

 キングストーンの感覚の方がノイズの警報よりも早い。

 

「変身ッ!!」

 

 俺は驚く響を尻目に、仮面ライダーSHADOWに変身する。

 

「バトルホッパー!!」

 

 俺の声に答え、バトルホッパーが捨ててあった廃自転車に張り付くと、バイクへと変形した。

 

「……」

 

 さっそくバトルホッパーに跨ろうとするが、その時ふと不安になり、バトルホッパーから降りる。

 

「ノブくん?」

 

「バトルホッパー、今日はここに残って響を守っていてくれ」

 

 よく考えたら今の響はノイズが現れてもシェルターにも避難できない。万一を考えておいた方がいいだろう。

 

「ノブくん……いってらっしゃい!」

 

「トォ!!」

 

 響に見送られ、俺はノイズの現れる現場へと急ぐ。無論徒歩で。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 俺が現場にたどり着くと、ツヴァイウィングがすでにノイズとの戦闘を始めていた。

 

「久しぶりだね、仮面ライダーSHADOW。

 今日はちょっと遅いじゃないか。 いつものバイクはどうしたんだい?」

 

「車検中でな。 徒歩で来た」

 

「車検!? あれ車検に出せるの!!

 しかもライダーなのに徒歩!?」

 

「冗談だ」

 

 はじめに俺に気付いたのは奏の方だった。相変わらずこちらにフレンドリーに話しかけてくる。

 一方の翼の方はというと、こちらも以前までのように殺気をぶつけてくることはない。警戒はしているようだが、どういう事情か随分と丸くなっていた。

 

「久しぶりで話したいこともあるけど、まずはノイズ殲滅が先だね」

 

「分かった。 トォッ!!」

 

「翼、アタシたちも行くよ!」

 

「わかった、奏!!」

 

 今回のノイズは数もそれほどではなかったので、SHADOWとツヴァイウィングの2人の活躍によって殲滅はすぐに終わった。

 

「さてっと……それじゃあちょっと話に付き合ってもらうよ、SHADOW」

 

 戦いが終わると、奏と翼は俺の前に立つ。

 

「まずは礼を言わせて。

 ライブの時はありがとう。 アンタのおかげでアタシは今もこうして生きていられる」

 

「私からも。奏を救ってくれてありがとう。

 あの時、あなたがいなかったら奏は……」

 

 どうやら翼が俺への不信感が減っていたのは、ライブの一件で奏を助けたことが原因らしい。

 ……俺としては響が怪我を負い、正直それを助けるついでだったので、こうも感謝されると逆に恐縮してしまう。

 

「その……面と向かって言われると、少し照れる」

 

「照れるって顔かい、ソレ?

 それにアンタのあの回復のおかげで、最近はすこぶる調子もいいんだ。

 そこも感謝してるんだよ」

 

 するとスッと奏は俺に近付いて小さな声で「あの子のことはナイショにしてるよ」と言ってきた。どうやら約束を律儀に守ってくれていたようだ。

 

「……実は俺からも話がある」

 

「へぇ、アンタの方からとは珍しいね。 何だい、サインでも欲しいのかい?」

 

 奏はそう少しおどけて言うが、それを無視して俺は切り出した。

 

「前にあった俺にお前たちの仲間になれという話……受けてもいい」

 

 その言葉に、奏と翼は息をのんだ。

 

「どういうことだ? あれだけ私たちが信用できないと拒んでいたのに」

 

「何度も共闘しているし、お前たちはそれなりに信用できる。

 正体の分からないお前たちの組織が信用できないことは変わらないが……俺の方でも大きく事情が変わった」

 

 突然の方針転換に訝しむ翼に、俺は答えて続ける。

 

「ただし、当然だが条件がある」

 

「……いいよ、言ってみなよ」

 

「いや、事情が込み入っているから直接話をしたい。

 明日朝10時、今から言う場所に意思決定のできる人間を連れてきてくれ。

 場所は……」

 

 そして俺は、拠点にしている廃工場の位置を教えた。

 

「OK、必ず司令を連れてくよ」

 

「ああ、待っている」

 

 それだけ言って、俺は大きく跳躍し、そのまま全力でその場を離れていく。

 これで賽は投げられた。あとはどんな目が出るのやら……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ここか……SHADOWに指定された場所は……」

 

 車から降りた弦十郎は目の前の廃工場を見上げる。同じように車から降りた奏と翼も揃って廃工場を見上げた。

 

「弦十郎のダンナ、随分燃えてるね」

 

「やっと仮面ライダーSHADOWを仲間にできる機会がやってきたんだ。

 興奮するなという方が無理だ」

 

 何やら全身からオーラのようなものがみなぎる弦十郎の様子に、奏は肩を竦める。

 一方の翼は、少し不安げな顔だ。

 

「しかし……こんな人気のないところに呼び出す真意が見えません。

 万一のことも考えないと。それに向こうの言っていた条件というのもまだ分かりません」

 

「いや、SHADOWの今までの行動は一貫して人を守る側についていた。あまり初めから疑うものじゃない。

 それに彼ほどの力の持ち主だ、秘密もあるだろう。それに関係する条件じゃないかと思うぞ」

 

 弦十郎はそう言うと、軽い足取りで廃工場に入っていく。それを追って奏と翼も廃工場へと入っていった。

 しばらく中を進むと、広い場所にでる。そこには、2人の人影があった。

 

「子供?」

 

 それは中学生くらいの少年と少女だった。

 その2人がキャンプ用品のウッドストーブでたき火にあたりながら、ケトルで湯を沸かしている。

 こんなところでキャンプの真似事というわけでもないだろう。普通なら学校に行っている時間、しかも少しくたびれた恰好の2人は明らかにおかしい。

 『家出』……節度ある大人である弦十郎は、すぐにその単語にたどり着く。

 すると……。

 

「ああ、来たのか……待ってたよ」

 

 そう言って、少年の方が立ちあがって3人の方を見る。

 そして……。

 

「変……身ッ!」

 

 少年の腰のあたりから緑色の光が溢れだす。

 そして、気付いたときには少年のかわりに立っていたのは、白銀の戦士『仮面ライダーSHADOW』だ。

 それは、仮面ライダーSHADOWの正体があの少年だという事実。

 

「君は……」

 

「自己紹介だ。

 俺は月影信人、そしてまたの名を……仮面ライダーSHADOW」

 




今回のあらすじ

ビッキー「なんかヒロインである私とのドキラブ家出生活2週間が、一瞬で終わった件について」

SHADOW「まぁ、家出って言うほど簡単じゃないし長々できんからしょうがないだろ。
    俺はデュエリストじゃない、リアリストだ!
    ……それよりこのままの生活だと俺はともかく響はまずいんで、ゴルゴムっぽいけどツヴァイウィングの組織のスカウト受けようと思う」

【悲報】特異災害対策機動部二課にゴルゴムの疑い

OTONA「何と言う風評被害」

フィーネさん「だからゴルゴムって何よ、ゴルゴムって!?」

SHADOW「というわけで徒歩で参った!」

奏「緊急事態なんだから少しは急いで来なよ!」

SHADOW「シャドームーンは威圧感たっぷりにカシャカシャ言いながらゆっくり歩いてくるのが王道と信じる俺がジャスティス」

防人「わかりみが凄い」

SHADOW「お前らの仲間になってもいい。だが俺はレアだぜ」

OTONA「やっとSHADOW仲間にできると思ったら家出中学生だった件」


毎日更新はさすがにここまで、ここからの更新は不定期になると思います。
次回もよろしくお願いします。


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第7話

 やってきた3人……ツヴァイウィングと、いつだかノイズとの戦いの時にあったことのある男を前で変身して見せると、驚きのあまりか目を見開いて動かなくなってしまった。

 俺はそのまま変身を解くと、たき火の近くの手近なところに座るように促す。3人は戸惑いながらも、手近な瓦礫に座った。

 

「響」

 

「うん」

 

 響が紙コップに安物のティーパックを入れて、そこにケトルから湯を注いでいくと紙コップを3人に渡していく。

 

「悪いね、天下のツヴァイウィング相手にこんなものしか出せなくて」

 

「それはどうでもいいんだけど……」

 

 俺の言葉に奏は驚きで何を言ったらいいのか混乱しているようだ。隣の翼も同様である。そんな中、唯一の大人である男は一つ咳払いすると話し始めた。

 

「俺は特異対策機動部二課司令官の風鳴弦十郎だ。

 ノイズ対策を行っている、この2人の上司だと思ってくれればいい。

 さっそくだが……君たちのことを聞きたい」

 

「さっきも言ったが、俺の名前は月影信人。それでこっちが……」

 

「立花響です。 奏さん、あの時は助けてもらってありがとうございました」

 

 そう言って響はぺこりと奏に頭を下げる。

 

「知り合いか、奏くん?」

 

「ああ、あのライブ会場で助けた娘だよ。

 元気になってよかったよ……」

 

 奏も気に掛けていたのか、響の無事を喜んでくれた。

 ……まぁ、実はあまり無事ではないとこれから話すわけだが。

 

「話の続きだが、俺も響も現役中学二年生。

 でもって絶賛家出中、といった状態だ」

 

「やはり家出か……」

 

 どうも俺の提示する条件というのが、何となく察しがついたようだ。

 

「察しが付いたみたいだが、俺からの条件の1つは俺と響の保護だ。

 俺たちに衣食住を提供してほしい」

 

「それは『家出先になって欲しい』、ということか?」

 

「まぁ、そういうことだよ」

 

 その言葉に、弦十郎は渋い顔をする。

 

「確かに対ノイズのために、仮面ライダーSHADOWという戦力はぜひとも欲しい。

 しかし中学生の家出を手助けするというのは、大人としてはとても頷けないな」

 

 どうやら、この風鳴弦十郎という人物は良識ある大人のようだ。

 

「言うことはごもっとも、でも俺も響も好きで家出中なんじゃない」

 

「何? 何か事情があるのか?」

 

「ああ、これが俺からの2つめの条件……『俺たちの事情を解決してほしい』」

 

 そして、俺は現在の俺と響の置かれている状況を説明した。

 学校、世間での『正義』の名の元に行われる陰湿な嫌がらせ。

 その標的が家族にまでおよび、家に火までつけられたことを、だ。

 

「そん……な……」

 

 話を聞き終えた翼がその内容に絶句する。

 

「何だ、あれだけ世間で生存者バッシングが巻き起こってるのに知らなかったのか?」

 

「生存者へのバッシングがあることは知ってたよ。

 でも、ただのヒステリー程度で、そこまで腐ったことが平然と行われてたなんて……」

 

 奏もバッシングの存在自体は知っていたが、具体的な状態までは知らなかったらしい。その凄惨な内容に顔を青くしている。

 

「確かに、報道のいうように自分の命のために他人を犠牲にした奴もいるだろう。

 でもそうでない奴だっている。そんな響のような境遇の奴が『ただ生きているだけで悪い』とされているんだ。

 恐らく家庭崩壊して俺たちみたいに家出したやつ、それを苦に自殺したやつや、『正義』の名の元にリンチで殺された奴だってたくさんいると思うぞ」

 

「私と奏が戦って救ったはずの命が……そんな風に散らされているなんて」

 

「弦十郎のダンナ……」

 

「分かっている、みなまで言うな。

 こんなまだ中学生の子供が心身をボロボロにされるような話を黙って見過ごせるほど、俺は無責任な大人になったつもりはない!」

 

 おもむろに弦十郎が立ち上がり、俺に向かって手を差し出してくる。

 

「わかった。 君の言う条件を呑もう、月影信人くん!」

 

「……じゃあ契約成立だな。

 あんたが信用を裏切らない大人だって信じるぞ」

 

 そう言って俺はその手を握り返した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 俺と響はそのまま車に乗り、特異対策機動部二課の本部へと向かうことになる。

 その道すがら、俺と響は特異対策機動部二課やツヴァイウィングの2人についてを聞くことになった。

 

 『シンフォギアシステム』―――これが奏と翼の纏う対ノイズプロテクターらしい。

 聖遺物というものを核として、歌のエネルギーによってノイズに攻撃を通し、歌のバリアであるバリアコーティングでノイズの炭素変換を無効化する、文字通り『歌で戦う戦士』だそうだ。

 ただしその適合者は少なく、今までの戦いで他の人間を見たことがないので何となく察していたが、今のところ二課の戦力は奏と翼の2人だけのようだ。

 人不足甚だしいことこの上ない。明らかに怪しい俺でも、仲間に引き入れたいわけだ。

 と、ここまで明らかに機密だろうことを俺だけじゃなく響にも聞かせていいのか気になったが、響はこれから民間協力者という扱いになるらしい。

 やがて車が到着したのはかなりの敷地面積を誇る高校だった。

 『私立リディアン音楽院』―――ツヴァイウィングの特集を読むために買った音楽雑誌に書いてあった、奏と翼の通っている女子高だっただろうか。

 

「学校の地下に秘密基地か……まるで映画だな」

 

「それ、地下研究所で造られてた謎のウイルスのせいで、学校がゾンビで溢れるような話じゃなかったっけ?」

 

「いやいや、アタシらそんな物騒なことはしてないから……多分」

 

 俺と響の会話に奏が突っ込みを入れるが、その言葉が途中で小さくなっていく。

 ……本当に大丈夫か、ここ?

 エレベーターはかなりの速度で降下していく。かなり深い地下施設のようだ。

 案内されるまま、SF映画に出てきそうな廊下を進んでいく。

 暫く歩くと弦十郎があるドアの前で立ち止まり、俺に開けるよう促したのでゆっくり開け放つ。

 

 するといくつもの破裂音が響いた。

 すわ発砲音かととっさに響を庇うように立つが、音の正体はパーティー用クラッカーの炸裂音。

 

 

『特異災害対策機動部二課へようこそ!!』

 

 

 歓迎の声が唱和する。大勢の拍手の出迎えに俺も響も呆気に取られていた。 

 室内は制服やスーツ、研究者のような白衣の格好をした者達が大勢おり、テーブルの上には様々な料理とグラスと飲み物が用意されている。

 

「改めてようこそ、月影信人くん、立花響くん!

 我々は君たちを歓迎する!」

 

 こんな豪勢な食事は2人で家出してからは縁遠かったせいもあって、そこからは俺も響も遠慮もなく料理をかき込んだ。

 特に響は食べることが大好きだ。だが、家出中はお互い最低限の食事だけだったし、少しひもじい思いをさせてしまったかもしれない。そんな響が久しぶりに思いっきり食べて笑顔を見せてくれていることが嬉しかった。

 

 やがて夜も更け歓迎パーティはお開きになり、詳しい話は明日以降ということになって俺と響はこの施設に泊まることになった。

 俺と響は部屋をあてがわれ、寝る前に案内された浴場で汗を流す。

 

「ふぅ……」

 

 家出中はまともに風呂は入れなかったので、余計に気持ちいい。湯につかりながら、その気持ちよさに思わずため息が出る。

 と、そのときガラリとドアが空き、独占状態だった風呂に誰かが入ってきた。

 

「邪魔するぞ、信人くん」

 

 入ってきたのは腰に巻いたタオル一丁の弦十郎だ。

 

「君ともっと話をしてみたくてな、裸の付き合いというやつだ。

 響くんの方も、奏くんと翼くんが行っているよ。

 隣はいいかね?」

 

「……どうぞ」

 

 身体を手早く洗った弦十郎はそのまま湯につかると、俺の隣に座る。

 

「俺は数年前に出会った仮面ライダーSHADOWに、いつか必ず仲間になってもらおうとずっと考えていたよ。

 それがまさか中学生の少年だったとは……」

 

「幻滅しました?」

 

「いいや。

 逆にどんな力があろうと、10歳そこそこでノイズたちと戦って誰かを助けるなんて普通にはできない。

 俺が君くらいのころは、向こう見ずでやんちゃなガキだったよ。

 それに比べて君は立派だ。いつも、ノイズから人を助けて戦っていた。

 だからこそ……君に聞きたい」

 

 そこで弦十郎は一度言葉を切る。

 

「……君や響くんの受けていた仕打ち、調べさせてもらった。

 思わず目を覆いたくなるような、酷いものだった。

 君はこれだけのことがありながら、まだ人を助けるために戦えるのか?」

 

 弦十郎が真っ直ぐに俺を見ながら、そう問うた。

 

「……前にも言ったけど、俺は『正義の味方』じゃない。だから人のために戦っているかって言えばノーだ。

 俺は常に『俺の大切な者の味方』だ」

 

 俺は浴室の天井を向いて目を瞑る。目蓋に浮かぶのは両親や響や未来の姿。

 

「俺は、俺の大切なもののために戦ってる。その結果、救われてる他人がいるだけなんだよ。だからこれからもそう、人のためじゃない、俺の目的のために戦うんだ」

 

「なるほど……」

 

「……もっとも、俺の大切な者はみんな『善人』だ。誰かがノイズに殺されて涙を流す人がいると知ると悲しむんだ。

 だから、そうならないようにできる限りは人を助けるよ。

 この答えで満足か?」

 

「もちろんだとも。君が思った通りの『善』であることが分かったからな。

 これからよろしく頼む」

 

「こちらこそ、よろしく」

 

 そう言って、俺は差し出された手を握る。

 その手は大きく、温かかった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 男湯で信人と弦十郎が裸の付き合いをしているころ、女湯では響も奏や翼と裸の付き合いをしていた。

 

「ほれー、うりうり~」

 

「や、やめて下さい奏さん!」

 

 まるで大型犬を丸洗いするように響の身体を洗う奏に、響は困惑気味だ。

 

「ほれほれ。 翼も来なよ。面白いよ」

 

「奏がそう言うなら私も」

 

 助けを求めるように響は翼の方を見るが、奏の言葉で秒で敵に回る翼。

 結局、響は終わるまで大人しくツヴァイウィング2人から身体を洗われ続けるしかなかった。

 

「うー、酷いですよ2人とも。

 すっごく恥ずかしかったです……」

 

 洗い終わり湯船に浸かった響が、恥ずかしそうに顔を赤くして顔を隠すように湯に口元辺りまでブクブクと沈みながら言うと、それがまた何やら奏と翼の琴線に触れる。

 

「あーもう、可愛いなぁこの娘!」

 

「なんだろう、今ちょっとドキッとしたぞ!」

 

 実はツヴァイウィングの2人を前に緊張気味だった響をリラックスさせようとした奏なりの気遣いなのだが、それは成功したと言っていいだろう。

 奏と翼が響を左右から思わず、挟み込むようにして頬ずりをする。

 一方の響は悟ったような顔をしながらも、内心ではどこか嬉しそうだった。もともと響は明るく、他者との繋がりを大切にする娘だ。他者とのスキンシップも多かった。それがあの事件によってそう言った絆はほとんどが切れてしまったため、こうして久方ぶりに誰かとスキンシップを図るのは結構嬉しいのである。

 

「……ごめんね、その傷。

 アタシが守りきれなかったばっかりに……」

 

 しばらくじゃれるようにしていた奏だが響の胸に残る、ライブ会場での傷を見て少ししんみりした声で奏が謝る。女の子としては、身体に消えない傷があるというのはつらいことだろう。

 しかし、その言葉に響は首を振る。

 

「あの会場では、ノイズのせいでたくさんの人が死んじゃいました。それに比べたらこんなの、へいき、へっちゃらです。

 その後のつらい時にだって、あの時の奏さんの『生きるのを諦めるな』って言葉が私の支えの一つでした。

 奏さん、翼さん。2人やノブくんのおかげで、私は今こうして生きています。

 だから改めて……助けてくれて、ありがとうございました」

 

 奏と翼はその言葉に何も言えなくなった。

 感謝の言葉……それが欲しくてノイズと戦っているわけではないが、それがあるというのは嬉しいものだ。しかもその相手は生死の境を彷徨うような大けがをし、守れたとは言い難い相手である。

 それに……。

 

(この娘……あれだけのことがあっても……)

 

 奏も翼も、響たちの状況については詳細を聞かされていた。

 響たちは『あの惨劇を生き残った』、ただそれだけでいわれのない迫害を受け、大切な家族まで被害にあっている。ともすれば「何で助けたの!」と恨み言を言われることも覚悟していた2人にとっては、この言葉は嬉しいものだった。

 

「ほんっとにいい娘だね……」

 

「強いのだな、立花は……」

 

 まだ出会って少しだというのに、その人となりを知りいつの間にか『守るべき妹分』と言えるくらいにまで2人は響を気に入っていた。

 そのあとは3人は打ち解け、たわいない話をしていく。そんな話は必然的に『仮面ライダーSHADOW』こと月影信人のことになった。

 

「何回も戦いで共闘してその強さは知ってるからね、あいつが仲間になってくれるってのは心強いよ。

 できればもっと早く仲間になってもらいたかったけどね」

 

「まぁ、ノブくんなりの考えがあってだと思います」

 

「翼なんてSHADOWのことを『目的が分からなくて不気味なやつだ』ってずっと言ってたんだよ」

 

「し、仕方ないだろう。彼は今まで何も語ってくれなかったんだから。

 こんなに家族や幼馴染想いの男だと知っていれば私だってそんなことは言わなかった!」

 

 そんな話を続けていく。

 奏も翼も、信人の話になると響が饒舌になるのを気付いていた。

 

「好きなの? 彼のこと?」

 

 不意に奏が問うが……。

 

「……好きに決まってるじゃないですか。

 幼馴染でどんなにつらいことがあっても、いつだって一緒にいてくれた。

 私を襲うたくさんの嫌なことから、未来と一緒に守ってくれた。

 逃げ出して家出しても、それでも私と一緒にいて守ってくれる。

 そんなの、大好きになっちゃうに決まってるじゃないですか」

 

 顔をほんのり赤くしながら、それでも迷いなく、すぐにはっきりと断言する響。

 そんな響のことを、奏と翼は綺麗だと純粋に思う。同時に素敵な恋をしている響をうらやましく思った。

 そしてそんな純粋な想いを見せられ、奏と翼は『この娘を全力で応援しよう』と決意する。『響の恋を応援する会』が人知れず結成された瞬間であった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 風呂も終わり、用意された部屋で就寝という時間になったのだが……。

 

「別々で部屋用意してくれたのに、何で一緒に寝てるんだか」

 

「えへへっ♪」

 

 少し呆れたような信人の言葉に、響が笑って答える。眠ろうとベッドに入った信人の部屋に響が訪ねてきて、そのままベッドに潜り込んできたのだ。信人は未だに響が心細くなっているのは理解していたので、拒否するようなことはせず響のしたいようにしている。

 

「……まぁ、まだ完全に信用したわけじゃないし、万一を考えれば離れないほうがいいか」

 

「奏さんや翼さんはいい人だったよ」

 

「それは分かってるけど……いつだって万一の可能性はあるさ」

 

 明日から2人の生活は家出生活からまたガラリと変わる。そこには期待もあれば不安もあった。

 

「……これから私たち、どうなるのかな?」

 

「いい方に転がることを祈りたいな。

 ただ……どうなっても、俺は響と一緒だ。1人にはしないよ」

 

「……うん」

 

 頭を撫でられ安心したような響が目を瞑り、信人も目を閉じる。

 寝る直前まで、2人は考え事をしていた。だが、その時考えていたことは……。

 

(えへへっ、ノブくん大好き♪

 一緒に寝る男の子なんてノブくんだけだし、こうしてそれを許してくれるんだからきっと私のことを……。

 でも、一緒に寝るなんて結構大胆なことしてるのに反応が薄いような……?

 ただの幼馴染程度にしか思ってない、ってことはないよね?

 うーん……)

 

(俺は響のことを意識してるんだけど、響は俺のことをどう思ってるんだろうな?

 こうやって甘えてくれるんだし嫌いってことはないだろうけど、逆に男として意識もしてくれてないってこともありえるんじゃ?

 いっそ思い切って……いやいや、不安で頼れるのが俺だけって今の状況でそれを言うのはいくら何でも卑怯だしなー。

 でも……うーん……)

 

 寝る直前にお互いが考えていたのは今後への不安ではなく、そんな胸の内のもやもやとした想いだった。

 奏や翼がこのことを知ったら『つべこべ言わずさっさと付き合えバカップル!』とお互いの尻を蹴りあげていたことだろう。

 しかし不幸なことにそんなツッコミができる人間はここにはおらず、やがてゆっくりと部屋には2人の寝息が聞こえてくるのだった。

 




今回のあらすじ

SHADOW「そっちに協力するから家出先になってくれよな。あと生存者バッシングの火消しヨロシク」

OTONA「OTONAとして当然助けよう」

防人「しらそん」

奏「つーか、警察は一体何してるんだよ?やってることが完全に魔女狩りで社会全体がヤバい」

SHADOW「学校地下の秘密基地とか燃えるが……ちょっと深過ぎね、ここ?」

フィーネさん「そ、そんなことないわよ(目そらし」

OTONA「裸の付き合いだ! あんなんひどいことされて、まだ人助けできるん?」

SHADOW「いやいや、響とか未来とか助けてるだけなんで。ついでで助けるけど」

OTONA「男のツンデレ発言は流行らないぞ」

奏「あのカシャカシャ銀色お化け好きなん?」

ビッキー「当たり前ですやん。でも響様は告らせたい」

SHADOW「選択肢ない状態で告白するのは卑怯(キリッ」

防人「何だろう、砂が吐けそうだ」

奏「さっさと付き合えこのバカップルが!」

自分の書いてる他作品のように、寝る前の主人公とヒロインの一緒の布団での会話が一番スラスラと書ける不思議。
次回もよろしくお願いします。


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第8話

 俺と響が保護された翌日から、俺たちの二課での生活が始まった。

 朝食を終えると、俺と響は会議室のようなところに通された。司令や奏や翼、そしてスタッフだろう人間が何人もいる中で話し合いが始まる。

 

「まずはいくつか約束して欲しいことがあるが、構わないだろうか?

 一つ目はここでのことは誰にも口外しないこと。国の重要機密に関わることだからだ。

 二つ目はこの後信人くんにメディカルチェックを受けてもらうこと。

 とりあえず以上の二点を約束してもらいたい」

 

 秘密を守れというのは当然のことだし、俺の力のことを知りたいのは当たり前だろう。このことは最初から覚悟の上なので俺は頷く。

 

「そのメディカルチェックっていうのが『人体解剖』の別名じゃないっていうなら構わない」

 

「そんなことはない! ……はずだ」

 

 ……ホントに大丈夫だろうな?

 すると、メガネに白衣という女性が不満そうな声を上げる。

 

「失礼な、この私がそんなことすると思うの!

 解剖は一番最後のお楽しみ、まずは隅々までくまなくデータをとってからに決まってるじゃない!!」

 

「……ヲイ、司令」

 

「いや、大丈夫。 了子くんなりのただの冗談……のはずだ」

 

 今の間は何だ? 急に不安になってきたぞ。

 俺は胡散臭げに白衣の女性―――櫻井了子を見る。彼女は二課の技術主任らしく、あの『シンフォギアシステム』の開発者であるらしい。

 

「それよりもさっそく、あなたの話を聞かせて頂戴」

 

 技術者として、未知の存在である『仮面ライダーSHADOW』に興味津々なのだろう。パンパンと手を叩きこの話はおしまいと強引に切ると、さっそく俺のことを聞いてきた。

 

「……期待して貰ってるところ悪いけど、あまり大した話はできないと思うぞ」

 

 そう言って、俺は説明を始めた。といっても前世やらの話はできないのであくまで『物心つく頃から使える不思議な力』『自分の中に大きな力があることが分かる』『戦い方は何となく分かる』という程度の話になった。

 ゴルゴムの話はできない。

 未だ二課を完全に信用しきったわけではないし、俺の知っているゴルゴムは様々なメンバーが参加していて、大学教授に優秀な研究者、芸能人に政治家とどこにでもその息のかかった人間がいた。例えば目の前の彼女、優秀な科学者である了子さんがゴルゴムメンバーでないという保証はどこにもないからだ。

 同じようにSHADOWの力に関しても今まで見せたことのあるものくらいしか教えないようにしている。

 そんなわけで与える情報をかなり選択したわけだが、それでも彼女は興味深そうに俺の話を聞いていた。

 

「何らかの聖遺物の効果? それが使用者に制御方法や戦闘技術をインストールしている?

 とても興味深い話ね……他には何かないかしら?」

 

「ああ、俺の相棒の……」

 

「呼ばれてるよ、バトルホッパー」

 

 響の声に電子音のようなもので答え、もぞもぞとバトルホッパーが出てくる。響の服の中から。 

 ……そろそろこの相棒は一度〆るか分解したほうがいいのかもしれない。

 

「それは?」

 

「バトルホッパー。 俺のいつも乗ってるバイクだ」

 

「……はぁ?」

 

 そうしてバトルホッパーのこと、『能力に目覚めた時に現れた』『自我がある』『呼べばどこへでも現れる』『どんな乗り物でも合体することでバイクに変える』といったことの説明をする。

 

「使用者を支援するための、自立起動型の聖遺物……かしらね?

 能力の覚醒と同時に使用者の元に駆け付けるようにプログラムされている?

 空間跳躍能力を持っているみたいだし、それでノイズの位相差障壁を無効化できるのかしら?

 そして『どんな乗り物でも合体することでバイクに変える』……物理法則に真っ向からケンカを売るような能力ね」

 

「いやアンタの造った『シンフォギアシステム』だって大概、物理法則さんにケンカ売ってると思うぞ。

 ……もちろんだけど相棒(バトルホッパー)の分解とかも無しだ」

 

「……ちぃっ」

 

 舌打ちが聞こえた気がするが、聞かなかったことにしよう。その方が精神安静上、楽だ。

 その日はそのまま、俺はメディカルチェックを受けることになった。その結果だが……『不明』である。

 検査の結果、俺の身体は普通の人と何ら変わりはないそうだ。身体の中に聖遺物でもあるんじゃないかと思っていたらしいが、レントゲンや各種スキャンでも、俺の体内には何も異物は発見されなかったらしい。

 

「何度調べても、身体の中に異物は存在しなかったわ。

 中に聖遺物でもあった方が分かりやすいのに……つまりあなたの力は『不明』、今のところ現在の科学では解明できない『超能力』の類としか表せないわ」

 

 俺としては体内にある『キングストーン』の存在を明確に感じ取れるから、そこに『キングストーン』があることは間違いないはずなんだが……どうやら『キングストーン』が自らの存在を隠しているようだ。自動ステルスとか、チートな機能である。

 ちなみに変身後の俺は、そもそも分析しようとしても分析機材が謎のノイズだらけでまともに調査できないようだ。恐らく『キングストーン』によるジャミングか何かだろう。

 バトルホッパーの方は、破損もなく自立行動していることから『完全聖遺物』に属するものではないか、という結論に至った。

 そしてバトルホッパーの存在から、俺のような力の持ち主が過去にもいて、それらをサポートする目的で造られたのではないかという推測が出る。

 

「人を超えた人……いわゆる『超人』の伝説は世界各地に存在しているわ。

 それはもしかしたら、あなたのような力を持った人たちだったのかもしれないわね」

 

 そう、俺を検査した了子さんは締めくくる。

 何だか俺の正体不明度やうさん臭さが爆発しすぎている気がするが……前世の記憶を持ってるというだけで最初から怪しさ大爆発なのだ、俺自身もう細かいことは気にしないことにした。最悪、対ノイズのための戦力にさえなれば二課としても文句はないのだろう。

 

 それからしばらく、行く場所のない俺も響も二課での生活を送っている。

 俺の方はさまざまな検査やシンフォギアを纏った奏や翼との訓練戦闘、そしてたまにノイズとの実戦といった生活サイクルだ。

 響の方も、機密の関係やらでまだ二課から出られないため、色々なところで雑用手伝いなどをしている。

 あとは……。

 

「俺と戦ってくれ!!」

 

 弦十郎司令に最初そう言われた時には何事かと思った。なんでも司令は武術をやっているらしく、俺と戦ってみたかったらしい。

 俺は正直何も考えず、軽くOKを出して変身して戦い始めたのだが……戦った時の記憶は正直思い出したくない。仮面ライダー的にいうと『おやっさん』とか『滝』とか、生身の人間なのに場合によっては怪人を圧倒できるバグキャラのような人だった。

 この人は本当に普通の人なんだろうか?

 俺の力はあのライダー界の悪のカリスマ『シャドームーン』なんだぞ。何でそれを相手に正面から殴り合えるんだよ。

 というか『超人』ってこういう人を言うんじゃないのか? この人用のシンフォギアかなにかが開発できたら最強な気がするんだが……。

 とにかく司令の強さをいやと言うほど思い知らされた俺は司令に弟子入りすることにした。多分、俺はこれからの人生で戦いから抜けることはできないだろう。今後のことを考えると、変身前の生身もしっかり鍛えなければどこかで絶対にダメになると思ったからだ。

 ただ、予想外だったのは響だ。

 

「私も弟子にしてください!」

 

 俺と司令の戦いを間近で見ていた響まで、司令に弟子入りしたいと言いだしたのだ。

 理由を聞くと、あのライブ会場で自分がノロノロしていたせいで奏を苦戦させてしまったから、せめて邪魔にならないように逃げるだけの力が欲しいというのだ。

 そんな俺と響の弟子入りを司令は快諾、そんなわけで俺は響と2人で、毎日のように司令の漫画のような特訓を続けている。そのせいで一日が終わるころには2人揃ってヘトヘトのボロボロなのだが、その疲れが翌日まで続いたことはない。

 何故なら……。

 

「ノブくん、アレやって~」

 

 そう言ってヘトヘトになって俺の部屋にやってきたパジャマ姿の響は、ベッドにごろんと仰向けで転がる。まるで大型犬がじゃれてお腹を見せているみたいだ。

 

「はいはい」

 

 俺は若干呆れながら、キングストーンのエネルギーを放射する。シャドーフラッシュによる体力回復だ。これを毎日、俺は響に頼まれるままかけている。

 

「あ~、生き返る~♪」

 

「俺は温泉か何かか?」

 

 この回復があるおかげで、俺も響も前日の特訓の疲れも身体の痛みも残すことなく翌日の特訓に臨めるのだ。おかげで教わっている武術の実力は俺も響もメキメキと上がっていると司令も驚いている。

 ちなみにこの回復だが、奏にも時折かけている。

 なんでも奏は戦うために『LiNKER』と呼ばれる薬品を投与しているらしいが、その副作用でかなり身体に無理がきているらしかった。だが以前ライブ会場でシャドーフラッシュを浴びてかなり調子が良くなったらしく、奏に今後も戦えるようにと頼まれたのである。

 薬物まで使って無理矢理戦うのはどうなんだとも思うが、奏には奏の戦う理由がある。聞けばノイズに殺された家族の復讐らしい。

 そんな話を聞いてしまえばそれに俺が口出しするわけにもいかないし何より今は仲間だ、助けることに異存はない。

 

 そんな二課での日々がおよそ1ヶ月ほど続いたある日のことだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「響……始まるみたいだぞ」

 

「……うん」

 

 ここは俺に宛がわれた部屋だ。俺に寄り添うようにして膝を抱えながら座る響と一緒に、テレビを見ている。

 今日は俺と響にとって重要なことがテレビで行われるのだ。

 

 そして、俺たちの前で始まったのはツヴァイウィングの2人の活動再開の会見だった。そこで『生存者バッシング』について語ったのである。

 自分たちのライブで不幸にもノイズが現れ沢山の人が犠牲になったこと。そしてそれに生き残った人たちが謂われない誹謗中傷や暴力の対象となっていること。それによって家庭崩壊や家族離散、そしてそれを苦にした自殺が凄まじい数あるということ、そして『正義』の名の元に正当化された暴行殺人などの事実を語る。

 そして悪いのはノイズであり、生き残った人を攻撃するなんて間違っていると『生存者バッシング』を批判した。

 

「生きていていけない人間なんていやしない。

 だから、生きるのを諦めるな!」

 

 そんな奏のライブ生存者への言葉で、その会見は締めくくられた。

 

 この会見によって、世論の流れが変わった。その裏には二課お得意の情報操作もあったらしく、もはや『逆流』とも言っていい急激な変化だ。

 あれだけ過熱していた『生存者バッシング』は一気になりを潜め、逆に『正義』を称して行われた過激な生存者バッシングがクローズアップされるようになり、数多くの者が法によって裁かれることになる。

 結果、器物損壊に集団暴行、放火に殺人と、『正義』の名の元で行われた非道がそこらじゅうから出るわ出るわで、ワイドショーのネタには事欠かない状態だ。

 無論、俺や響の家に石を投げて壊した奴らは器物損壊、響の家を燃やした奴らは放火という罪で警察に捕まった。

 

 とはいえ、失われたものは戻らない。

 調べてみれば生存者バッシングの中で自殺したもの、家庭が崩壊したものなどは凄まじい数に上っているし、リンチで殺されたものもいる。

 多くの場所……例えば学校では『生存者バッシング』に加担したり傍観した教師が一気に消え、『生存者バッシング』に加担した生徒も同じ学校には通えなくなったりで大混乱が起こっている。

 それらはどうやっても、元には戻らない。

 だがそんな高い授業料を支払うことになりながら、社会は『生存者バッシング』という狂気から元に戻っていっていた。

 

「これで終わったな……」

 

「うん……」

 

 すでに完全に『生存者バッシング』は下火、あれだけ誰も彼もが熱に浮かされたように生存者バッシングに参加していたのが嘘のようだ。

 こんなにもすんなりと解決するものに俺も響も、そして家族も振り回され続けたのかと思うと複雑な心境だ。

 

「契約完了。 これで俺はアンタらのものだ。

 好きに使ってくれ」

 

「そういう言い方をするな、信人くん。

 君を仲間にする交換条件として提示されはしていたが、まだ中学生の少年少女があんな状態になっているのをいい大人が黙って見過ごしていいわけない。

 これは大人として当然のことをしただけだ。

 それに、まだしっかりとは終わっていないさ。

 最後まで君たちのことを面倒見なければな」

 

 こうして、まともな『善人』である大人が傍にいてくれる……ああ、本当に俺は運がいい。

 

「それじゃ改めてよろしく……『おやっさん』」

 

 俺は最大の信頼と感謝を込めて、司令のことを『おやっさん』と呼ぶことにした。

 この出来事で、俺と響は本当にこの二課の一員になったのだった……。

 

 




今回のあらすじ

SHADOW「二課はゴルゴムの心配もあるし、教えることは最小限にするよ。特に了子さんのような優秀な科学者はゴルゴムのメンバーの可能性が……」

フィーネさん「だからゴルゴムって何よ、ゴルゴムって!! おまけに調べても全然分かんないし!!」

SHADOW「キングストーンさん空気読み過ぎ」

OTONA「俺と戦ってくれ!!」

SHADOW「何なの、このバグキャラ……とはいえ今後も戦いからは抜けられなそうだし、OTONA塾に弟子入りします」

ビッキー「あ、私も私も!」

奏&防人「ライブ生存者のみんな、生きるのを諦めるな!」

OTONA「こっちも情報操作全開だぞ」

SHADOW「なんか一気に状況が変わったぞ。トップアイドルの影響スゲェ! 国家権力の印象操作ヤベェ!」

ビッキー「というかこの魔女狩り状態をなんでこれをやってもっと早く収めてくれなかったのか? この世界の日本、法治国家として駄目過ぎなんじゃ……」

OTONA「安心しろ、この世界の世界各国はすべてこんなもんだから」

SHADOW&ビッキー「「ダメダメじゃねぇか!」」

次回もよろしくお願いします。


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第9話

 ツヴァイウィングの2人や弦十郎(おやっさん)、そして二課の働きかけによって、俺と響の家出の理由である迫害は無くなった。

 となれば次は俺たちの家族との問題だ。そこで動いてくれたのはやはり弦十郎(おやっさん)だ。

 弦十郎(おやっさん)は家出していた俺たちを政府が保護してくれていたと、俺たちを連れて保護者へと説明に向かってくれたのだ。

 そこで俺は両親と再会した。両親は俺や響の無事な姿を泣きながら心底喜んでくれた。本当に、俺はこの2人の子供に生まれたことを心底運がいいと思う。

 響も(おばさん)祖母(おばあちゃん)と再会、2人はあの時は気が動転していて響を気にかけられなかったと泣きながら謝罪し、家出した響をずっと心配してくれていた。それは響にも伝わり、晴れて立花家は和解を果たした……失踪した親父さんを除いて、だが。

 感動の家族の再会ではあるのだが、未だに逆恨みをする輩が出ており保護は継続すべきであるとの弦十郎(おやっさん)の言葉に、少し戸惑いながらも家族は静かに頷く。

 俺たちの一件で、俺たちの通っていた中学は転出者続出、教員も多くが罰を受ける形で消え去り、もう学校としての機能そのものがマヒしかかっている状態。さらにお互いの家に嫌がらせをしてきていた近所の人は逮捕者も多く出ている。

 これだけの大事の中心にいた俺と響にとってここは住みにくい場所だということは家族も理解しており、割とすんなりと弦十郎(おやっさん)の保護の継続を受け入れた。

 

 こうして俺と響の一人暮らしは始まった。 一人暮らしとしては十分すぎる広さのマンションの一室が、二課の用意してくれた俺の新しい家である。

 ちなみに響の部屋は隣で、ベランダ越しに会話も出来る。何だか実家暮らしより互いの家が近くなってしまった。

 挙句の果てにしょっちゅうお互いの部屋に入り浸り、食事は基本的に一緒に作ってるものだからほとんど一緒に暮らしているも同然の状態である。

 

 そんな暮らしを続けていた俺たちに、学校への復学の話が持ち上がってきた。もう問題もなくなったのだし、中学生らしく学校に行くべきだという弦十郎(おやっさん)のもっともな意見に押され、響には『私立リディアン音楽院中等科』に、そして俺にはその姉妹校である『私立ファリネッリ男子音楽院中等科』へ編入ということになったのだ。

 二課のある『私立リディアン音楽院高等科』でも分かるように、この2校は二課の息のかかった学校であり、護衛や協力など今後のために都合がいいからの選択だろう。とは言え、今まで音楽にあまり触れる機会のなかった俺や響が音楽院などに編入して大丈夫なのか、という不安はある。

 

「私、リディアン音楽院なんかでやってけるかな?」

 

「あら、響ちゃんの声はすごく綺麗で、間違いなくやっていけるわよ。

 この私が太鼓判を押すわ」

 

 不安の声を漏らす響を了子が心配ないと請け負うと、そのまま俺に視線を移す。

 

「信人くんの歌も……まぁ、味があると思うし、ウケるところにはウケると思うわ」

 

「それ、どういう意味だよ?」

 

 俺は思わずジト目で睨み返した。

 

 

 ……実は以前、実験として俺に歌を歌ってみてほしいと言われ、困った俺は『Long long ago, 20th century』を歌ってみたのだが……。

 

 

『なんだろう。上手いとかじゃないのにまた聞きたくなるような……』

 

『噛めば噛むほど味が出るような、何とも面妖な歌声だな……』

 

『ノブくんの歌って上手いとか下手とかじゃなくて、『のぶと』って感じ』

 

 

 トップアーティストであるツヴァイウィングの2人と響に散々、意味不明な評価を受けたのだ。

 特に響、歌の評価が上手い下手じゃなくて、『のぶと』っていう名前のところが訳が分からん。

 とにかく、音楽には全く自信がないというのに音楽院へと編入することが決まってしまったわけだ。

 それにしても……。

 

「『私立ファリネッリ男子音楽院』か……。 学校名が随分とまぁ……」

 

「あら、沢山の女性がそのあまりに美しい歌声に失神したと言われている有名な男性歌手の名前よ」

 

「で、入校条件は『アレ』をちょん切ることか? だったら絶対にごめんなんだが」

 

「……よく知ってるわね」

 

「親が映画好きでね、子供のころファリネッリの生涯を描いた映画で見て覚えてるよ」

 

「……あの映画を幼少期に見せてる親御さんは少し問題がある気がするわ」

 

「幼少期に見ると『去勢』って言葉の意味が分からなくて親に聞いて、親がかなり困る代物だ」

 

「そんな困る映画を子供に見せるなって話なんだけど」

 

「そりゃごもっとも」

 

 そう言って肩を竦める。

 『ファリネッリ』とは1700年代のイタリアに実在した有名な男性歌手だ。そのあまりに美しい歌声に多くの女性が魅了され失神したという逸話をいくつも持つ凄まじい歌手なのだが……彼は『カストラート』という、現在では存在しない、特殊な歌手だったのだ。

 『カストラート』とは、去勢することで男性ホルモンを抑制して人為的に『声変わり』をなくした男性歌手のことだ。そうすることでボーイソプラノの声質と音域を、成人男性の肺活量で歌い上げることが出来、甘く官能的な声を出せたという。

 

「多分分かってると思うけどこの2校はそのまま、フォニックゲインの研究を行っているのよ。

 特にファリネッリ男子音楽院は『男性の歌声でのフォニックゲイン活用や生体データ収集』や『男性が使える対ノイズ兵装の研究』などの『男性』をテーマにして研究を行っているの。

 シンフォギア装者が女の子だけだし、『男が戦う力を!』っていう声が結構根強くてね。

 まぁ、私から言わせてもらえばそんな『男(イコール)戦う』って考え方がもう前時代的でナンセンスだと思うけどね」

 

 なるほど、ファリネッリは去勢という犠牲によって美声を手に入れた。同じように生徒をモルモット替わりにデータをとってフォニックゲインの技術のさらなる発展を手に入れようとする、ということだ。なかなかに皮肉のきいた校名である。

 

 そんな学校での新たな生活も始まり、新しい友人も出来て俺も響も次第にそれに慣れていく。

 

「んっ! この気配……ノイズだな!

 少し遠いな」

 

「行くの?」

 

「ああ」

 

 一緒に部屋で夕食をしていたところでノイズ発生の気配を感じ取り、俺は素早く二課に連絡を入れるとベランダへと移動する。

 

「ノブくん、いってらっしゃい!」

 

「ああ、行ってくる!!」

 

 響に見送られ、俺はベランダから空中へと身を投げ出した。

 

「変……身ッ!!」

 

 俺は空中で仮面ライダーSHADOWに変身すると、月明かりを背に地面に着地する。

 

「バトルホッパー!!」

 

 俺の呼び声に答え空間から飛び出したバトルホッパーが、六代目バトルホッパー(マウンテンバイク)に取り付くとバイクへと変形を果たす。

 それに跨りアクセルを吹かして、俺はこの感覚の告げるノイズの方へと走り始めた。

 

 響と学校に行って、学校で授業を受けて学友とたわいない話で盛り上がり、二課で訓練やミーティングをやって、響と一緒に食事をして眠る。それに時々、ノイズとの戦いが混じるという生活サイクルで俺たちの生活は安定していた。

 以前と変わらないような日常……だが、どうしてもこの日常に欠けてしまったピースが一つだけある。

 それは俺たちにとってあまりにも大きなピースだ。それを理解している俺たちは、筆を取ることにした……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 木枯らしが吹く夕方、たった1人で歩く少女の姿があった。

 

「……」

 

 学校帰りの少女―――小日向未来は無言で家路を急ぐ。

 あれから……ここに未来が突如として転校してからしばらくがたった。

 未来は突然の転校によって、あまり新しい学校に馴染めないでいた。今でもその心を占めるのは2人の幼馴染の存在だ。

 

「響……信人……」

 

 意識せず、その名が口から漏れ出る。

 

 幼馴染3人で誓った、『3人で支え合ってこの苦境を乗り越えよう』という誓いを、未来は転校によって果たすことが出来なかった。そしてその直後、響の家が焼かれたこと、そして響と信人が家出をしたことも未来は知っていたのだ。

 それを知った時の、やはり転校なんてどんな手を使ってでもすべきじゃなかったという後悔、そして2人の身を案じる心は筆舌に尽くしがたい。それほどに未来の心は乱れていたが、それでも心のどこかで確信があった。

 響が心配で心配で仕方ない。だが信人が一緒にいるのなら絶対に無事だと、未来は心から幼馴染を信用し、確信していた。しかし、その無事だという確証が欲しい……そんな晴れない霧がかかったような心で今、未来は日々を生きていた。

 

「……」

 

 あれほど過熱していた『生存者バッシング』はもう完全に下火、今ではもう過去のこととして世間の誰も彼もがなかったことにして流そうとしている。まるで流行り物の流行が過ぎたかのようだ。

 こんなことのために響たちはあんなにも傷つけられ、自分は大切な幼馴染たちと離れ離れになってしまったのかと思うと悔しくて仕方がない。だが、その感情を向ける先などどこにもなく、まるでポッカリと穴が開いたような空虚な思いが募る。

 そんな思いで家に帰り、いつもの習慣から家のポストを覗いた時だ。

 ドクン、と心臓が跳ね上がる。それは未来宛ての封筒だった。差出人の名前は書かれていない。だが、その字には確かに見覚えがある。

 

「ッッ!?」

 

 未来はその封筒を持って自分の部屋に駆けあがるとペーパーナイフで封を切る。そして、取りだすのももどかしいと封筒を逆さにして中身を机にぶちまけた。

 何枚かの手紙、そして最後にハラリと一枚の写真が机に広がる。そして写真を一目見た瞬間、未来の瞳から涙が溢れ出た。

 

「響……よかった……よかったよぉ……!

 信人、約束……守ってくれたんだね」

 

 それは響と信人の写った写真だった。どこかのアパートか何かだろうか、その一室で2人で寄り添うように写っている。

 写真の響はあのころの、迫害が始まる前のころのような大輪の向日葵のような笑顔だ。それは信人があの時の約束……『響を守る』という約束を確かに果たしてくれた証拠だ。それが分かると、自然と未来の目から涙が溢れ、止まらない。

 

 しばらく喜びの感情のまま泣いていた未来は涙を拭うと、手紙を読み始める。

 そこには2人で家出していたところを政府の機関に保護されたこと、生存者バッシング騒動は下火になったものの騒動の中心人物であったため今度は逆恨みなどの危険があって地元には戻れないこと、今は政府の保護と援助で響が『私立リディアン音楽院中等科』に、そして信人はその姉妹校である『私立ファリネッリ男子音楽院中等科』に通っているという近況が書かれていた。

 大切な幼馴染たちが無事だと確証ができ、元気にやっていると分かって未来はホッと胸をなで下ろす。

 胸にあったつかえがとれたようだ。同時に、今までの空虚な心が満たされたという実感があった。自分にとって幼馴染たちがどれほど大切だったのかを、未来は噛みしめる。

 

「『私立リディアン音楽院』……あそこは確か高等科の編入試験があったはず!

 今度こそ、今度こそあの時の誓いを……3人で支え合ってどんな苦境も乗り越えるために、私はリディアンに行く!」

 

 高校入試でなんとしても『私立リディアン音楽院高等科』に受かり、再び響たちと一緒の時を過ごす。未来は再び幼馴染たちと過ごすために決意を固めた。

 今度こそあの誓いを果たす。どんな苦境があっても3人だ、離れることなく3人の力で乗り越えるのだ。

 

 

 ドクンッ……

 

 

 そんな未来の想いに呼応するように、『太陽』のように温かい何かが未来の中で脈動する。

 しかし、未来はそれには気付かない。

 今はまだ……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 暗い部屋で、カタカタと端末を打つ音が響く。

 

「仮面ライダーSHADOW……か。

 シンフォギア装者を超える謎の超能力の持ち主、といったところか……」

 

 SHADOWの様々なデータを見ながら呟く。それはシンフォギアを超える凄まじい数値を叩き出していた。

 

「あの力を見た時には私の大事な計画に支障を来すかと肝を冷やしたが……」

 

 そう言って、ニィっと口を釣り上げる。

 例えば、人は野生の熊を怖がる。だが、動物園の熊が怖いという人はそれほど多くはいないだろう。それは動物園の熊は、分厚いガラスや檻という『安全装置』によって管理出来ているからである。

 どんな猛犬であっても鎖で繋がれていれば、鎖の扱い方次第でいくらでも管理することは可能だ。

 そしてこの猛犬……仮面ライダーSHADOWは愚かにも自分から『鎖』をつけてやってきた。

 

「立花響……このただの一般人さえ押さえれば、SHADOWはいくらでも制御できる。計画の変更は必要ない。

 計画が動き出すその時まで、じっくりとその力を研究させてもらうとしよう」

 

 そんな声が暗闇に消えていく。

 もし仮面ライダーSHADOWの真実に気付いていたら、こんな悠長なことはしなかっただろう。

 だが、何も気付かないまま、時は流れていくのだった。

 




今回のあらすじ

SHADOW「おやっさんのおかげで1人暮らし&復学することになったぞ。まぁ俺の歌の評価はおかしいが……」

ビッキー「上手い× 下手× のぶと○。 というか何で『Long long ago, 20th century』を選んだし。ノブくんがカシャカシャ歩いてくるイメージが浮かんで仕方ないんだけど」

SHADOW「いや、他のBLACKとかRX関係の歌だとほとんど『仮面ライダー』って単語入るし、仮面ライダーが自称してる俺一人しかいないこの世界でそれやったら俺、自分の応援ソング作って歌う痛い子だよ」

ビッキー「作者が大好きなRXの挿入歌『すべては君を愛するために』は?あれも『仮面ライダー』って単語入らないよ?」

SHADOW「アレはそのうち、外伝劇場版って感じで題材にした異世界をやるらしいから保留。ぶっちゃけ、マジモンのラブソングを意識してる相手の前でいきなり歌えるかい」

ビッキー「ぽっ♡」

フィーネさん「しっかしオリジナルの男子音楽院の名前が随分とアレよね……」

SHADOW「これは『フィーネ』がイタリア語だし、『イタリア』『逸話持ちの男性歌手』って条件で作者が思い浮かんだのがこれだから、らしい」

フィーネさん「その条件で真っ先にあの映画が頭に浮かぶあたり、この作者相当バカだわ」

393「響も信人も生存確認! 私もリディアンに行く!!」

????「アップをはじめました」

???「お前の出番しばらく無ぇから座って、どうぞ」

????「(´・ω・`)ショボーン」

フィーネさん「ふっふっふ……立花響などしょせんただの一般人。こいつ人質にでもとればSHADOW対策はもうバッチリ!勝ったな、風呂入ってくる!!
       ……これ冷静に考えたら私にハードモード過ぎない?ちょっと本編開始前の現状を書き出してみるけど……」

①シャドームーンが正義に目覚めて敵
②奏生存、翼の精神安定
③シャドームーンと響が本編1年前から二課に合流
④シャドームーンと響が本編1年前からOTONA塾で修行

フィーネさん「……なんか①の段階で無理ゲー以外の何物でもないんだけど……。
       他のも二課の戦力アップになるのばっかじゃない。これで本編開始となると私、フルボッコにされるんじゃ……。
       でもウチのキネクリなら、キネクリなら何とかしてくれる!」

キネクリさん「ファッ!?」

キネクリさんはこの先生きのこれるのか?

次回はしないフォギア風の幕間の物語の予定。
次回もよろしくお願いします。


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戦姫絶唱するまえシンフォギア 幕間の物語その1

その1『脅威の生体メカ バトルホッパー』

 

 爆音のごときエンジン音が響きわたり、エキゾーストが金切り声を上げる。

 力強く大地を噛みしめるタイヤは高速で回転し、そして産まれ来る速度はまさに風のごとく。

 灰と茶のボディに緑の眼を持つそのバイクこそ、仮面ライダーSHADOWの相棒とも言える生きるマシン『バトルホッパー』だ。

 そしてそれに跨るのは当然……。

 

「ひゃっほぅぅぅぅぅ!! サイッコーだぁぁぁぁ!!」

 

 シンフォギアを纏った風鳴翼(SAKIMORI)が、ちょっと人には見せちゃいけない系の顔をしながら走っていた。

 それを遠くから見つめる人影が3つ。天羽奏に立花響、そして俺の3人だ。

 

「……なんだあのファンの方々には絶対に見せちゃいけない顔をしたアイドルは?

 ここにファンがいたら絶対に百年の恋も冷めるぞ」

 

「ノブくん、私もツヴァイウィングのファンなんだけど……」

 

「大丈夫、明日からはツヴァイウィングの奏のファンだって言えばいいだけだ」

 

「あっ、そっか!」

 

「2人とも、何気に酷いこと言ってるね!」

 

 さすがに奏がツッコむが、俺は爆走する風鳴翼(SAKIMORI)を指さす。

 

「いや、だってあれは完全にアヘ顔っていうかアホ顔というか……」

 

「ファンの私でもちょっとこれの擁護は……」

 

「……」

 

 相方として何かフォローをと思う奏だが、何も言葉が出ないようで途中で諦める。

 

「あひゃははははははは!!!」

 

 3人の視線の先では風鳴翼(SAKIMORI)が爆走しながら爆笑していた。風鳴翼(SAKIMORI)が楽しそうで何よりです。

 何が起こったのか……それは今から数日前のこと。

 

 

「月影、この通り伏して頼む!!」

 

「おいおい……」

 

 ここは二課の食堂だ。

 新しい学校生活にも慣れはじめたこの日、俺と響はいつものように弦十郎(おやっさん)に修行をつけてもらっていた。それも終わってシャワーで汗も流し、ちょっと家に帰る前に一服しようかと食堂に足を運んだところを翼に見つかり、今の状態になる。

 今にも土下座でもしそうな勢いで翼が俺に頭を下げるその理由は……。

 

「バトルホッパーに乗せてくれ!!」

 

 というものだった。

 聞けば翼は大のバイク好きでずっとバトルホッパーに興味があったらしく、どうしても乗ってみたいというのだ。

 俺は気持ちは分からなくもないものの、はいそうですかとはすぐに頷けない。バトルホッパーは俺にとって相棒だ、軽々しく貸すような真似はできないし、何より形状が特異すぎて乗り回せば目立ってしょうがない。

 そう思って断ろうとしたのだが……。

 

「あら、面白そうな話をしてるわね」

 

「櫻井女史! 櫻井女史もそう思うか!」

 

「……」

 

 偶然、そばで聞いていた了子さんが興味を持ったのをいいことに仲間に引き込もうと必死の(SAKIMORI)

 この段階で厄介ごとは避けられないだろうと諦めた俺は深い深いため息をつく。

 そのあとはとんとん拍子に話が進み、『バトルホッパーの能力を測る』という名目で二課がサーキット場を貸し切って今に至るというわけだ。

 

 

「ああ……ヤバいよぉ、これぇ……」

 

「うん、一番ヤバいのは今のあんたの顔だからな。そこのところ自覚してるか、うん?」

 

 サーキットを一回り走ってきた翼がもう蕩け切った顔でバトルホッパーから降りてくるのを、俺は呆れた顔で見つめる。この顔を写真にとってSNSで拡散でもしたら、確実に大炎上だろう。

 

「翼さん、タオルです」

 

「ああ、ありがとう立花」

 

 響からタオルを受け取り翼はキリッとした表情に変えるものの、あの顔を見せた後では後の祭り。ツヴァイウィングの2人を尊敬していた響でさえ明らかに引いていた。

 しかしそんなものは気にせず翼は言う。

 

「凄まじいマシーンだな、バトルホッパーは。

 今までに見てきたどんなマシーンもバトルホッパーにはかなわない。

 最初はシンフォギアを纏ってから乗れと言われたときには大げさな話だと思ったが……バトルホッパーの力を知った今ならシンフォギアを纏っていてよかったと心底思う」

 

「そりゃ変身した仮面ライダーSHADOW()専用のマシーンだからな」

 

 バトルホッパーは最高時速500km、自我を持って行動し、悪路走行にジャンプに水上移動なんでもござれの文字通りのモンスターマシーンだ。どんな名レーサーでも常人がその全力を出せるはずがない。

 ちなみに専用マシーンとは言っても俺以外誰も背に乗せないという気難しいタイプではない。その証拠にその後試しにと響が乗ってみたいと言いだしたが、響がアクセルとハンドルに触れることがなくとも、バトルホッパーは安全な自動運転で走ってくれた。俺が許し、俺が味方だと認識する相手は普通に乗せてくれる融通の利くマシーンなのである。

 

「ところで……当然月影は16歳になったらバイクの免許を取るんだろうな! 仮面『ライダー』なんだし!!」

 

 翼は目を輝かせながら言ってくる。翼は大のバイク好きだが身近にバイク趣味に付き合うような知り合いがおらず、絶対にバイクの沼に俺を引きずり込むとやる気満々だ。とはいえバトルホッパーを三輪車やら自転車から変形させるのは何とかしてやりたいとも思っていたし、バイクの免許はすぐに取るつもりだ。

 

「確かに、いい加減バトルホッパーを普通のバイクで変形させてやりたいからな」

 

「うっしゃらぁぁぁ! 今度、今度絶対カタログ持ってくからね!

 これでボッチライダーから卒業できるぅ!!」

 

 俺を自分の趣味に引きずり込めると踏んだ翼は上機嫌で鼻歌まで歌い出す。

 のちに俺がバイクの免許を取りバイクを購入してからも色々と振り回すバイクバカの先輩、『芸人ライダーSAKIMORI』の誕生である。

 ちなみにのちに俺が購入したバイクにちょっとした遊び心で『ロードセクター』と名前を付けたら2週間ほどバトルホッパーが返事をしなくなり、あえなくその名前は没になった。相変わらずバトルホッパーの自我は、『これ設定したの誰だよ?』と思ってしまう茶目っ気溢れる仕様である。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

その2『SHADOW的な日常風景』

 

「ふぅ……」

 

 チャイムがなり授業が終わって、俺は硬くなった身体をほぐす。ここは俺が通うことになった『私立ファリネッリ男子音楽院』である。

 転入からしばらく経ち、この学校にも慣れてきた。最初危惧していた音楽の授業に付いていけないという事態も起こっていない。

 むしろ『リディアン音楽院』同様、かなりの進学校のため編入組にとっては勉強の方が問題である。響も『リディアン音楽院』でかなり勉強には苦労させられているが、俺はそこはキングストーンさんの力で乗りきった。

 仮面ライダーSHADOWとしてノイズと戦う時俺はとてつもない集中力で戦いに臨んでいるが、その集中力を俺は日常生活でも発揮できるのだ。そんな生死を分かつ戦いで使う、針に糸を通すような集中力を勉強で使うとどうなるか……普通に授業を受けるだけでテストでは十分すぎる点数が取れるということだ。しかもキングストーンさんの力で、何徹しても体調不良を起こさない。というより、本来は根本的に睡眠すら必要なさそうだ。

 うん、普通にすがすがしいチートである。さすがはキングストーンさんだ。

 そう言えば仮面ライダーBLACK RXでは南光太郎は設計図があったとはいえあのライドロンを完成させるほどの天才的な頭脳を発揮していたが、なるほどこう言うカラクリだったのかと納得してしまった。

 

「よっ!」

 

 帰り支度をしていた俺の肩を、誰かが後ろから叩いた。振り返ると、そこにいたのは少し軽そうな感じの男だ。こいつの名前は『霞野(かすみの) 丈太郎(じょうたろう)』。この『ファリネッリ男子音楽院』に来てから出来た友人である。愛称は『ジョー』。

 

「何だ、ジョー? 今日は何も予定はないはずだが……急な用事でもできたのか?」

 

「いやいや、今日はお客さん(ノイズ)が来なけりゃ何もないよ」

 

 少し周囲を伺い、誰も聞いていないことを確認してから俺はいつもの愛称で呼ぶと、ジョーは違う違うと手を振る。

 この男実は二課の関係者で、ツヴァイウィングのマネージャーであり二課の一員であり忍者である緒川さんの親戚にあたる。なんでも姉のくノ一が緒川さんの婚約者らしい。

 ……今おかしな単語が大量に入ったが、頭の痛いことにすべて事実だ。

 ツヴァイウィングのマネージャーの緒川さんは正真正銘の忍者で、仮面ライダーSHADOWの状態で影縫いを受けて動きを封じられたときには本気で驚いたものだ。

 弦十郎(おやっさん)といい、二課にはなんで人類の規格外みたいなのが揃っているんだろう?

 明らかに人類の規格外であるこの2人が対ノイズ戦力になれば心強いことこの上ない。そう考えると『男がノイズと戦う方法』を研究しデータをとっている『ファリネッリ男子音楽院』の重要さが分かる。

 とにかくそんな関係者であるジョーはコイツ自身も忍者(とは言っても緒川さんとは違い駆け出し程度らしいが……)であり、俺のサポートをする連絡員のようなものらしい。

 名前と愛称、そして役目を聞いて「こいつはこの世界の『霞のジョー』か?」と思ってしまった俺は悪くないはずだ。

 

「で、どうしたんだ?」

 

「なに、ちょっと遊びにでも行かないかってお誘いだよ。

 帰りにゲーセンでもどうだ?」

 

「それいいな、いくか」

 

「おうっ!」

 

 そう言って連れだって俺とジョーは学校から外に出てゲームセンターへ向けて移動を始める。

 そしてゲームセンターの近くに来た時だ。

 

「あっ、ノブくん!」

 

「やあ、響」

 

 偶然にも学校帰りの響と鉢合わせた。響は1人ではない。他に3人のリディアン音楽院の生徒を連れている。

 それに気付いた響が3人を紹介してくれた。

 

「あ、この人が噂のビッキーの幼馴染のノッブ?」

 

 そう言ってきたのは安藤創世という娘。個性的なアダ名を付けるのが好きな娘らしい。俺にも名付けられた結果、なんかガチャでも廻しそうな名前になっている。

 

「思ったよりかっこよくてナイスです!」

 

 この娘は寺島詩織。なんとなくお嬢様っぽい感じで、響曰くどんな事でも褒めてくれる娘らしい。

 

「物心つく頃から一緒で家がすぐ近くの幼馴染なんて、まるでアニメじゃない」

 

 そう言ってきたのは板場弓美という娘。アニメをこよなく愛する娘だそうだ。

 この3人は響がリディアン音楽院に編入してから出来た友人たちだ。よく一緒にいるときに響が話しをするので名前だけは知っていたが初顔合わせである。

 

「ノブくんは何してるの?」

 

「いや、特に何もすることがないからジョーと一緒にゲーセンでも行こうかと思ってな」

 

「あっ、それじゃあ一緒に遊びません?」

 

 そう創世から誘いをかけられる。俺もジョーも特に断るような必要もなく、二つ返事で了承すると6人でゲームセンターへ向けて歩き出す。

 俺は歩きながらさりげなく響の横に並ぶと、小声で言った。

 

「学校、楽しいか?」

 

「……うん。未来がいなくて寂しいけど、新しい友達も出来て楽しいよ」

 

「そうか……俺もだ」

 

 あの日失った、楽しかった学校生活というのは戻りつつある。あとは未来がいれば……だがそれもそう遠い話ではないだろう。

 そう思いながら、俺と響は友人たちと歳相応の放課後を過ごすのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

その3『お出かけは幸せごはん』

 

 

「おお、これは……」

 

「どうしたの、ノブくん?」

 

 ある日、部屋で唸る俺に遊びに来ていた響は小首を傾げる。

 

「いや、今通帳を見てるんだが……二課から結構な額の金が入ってるんだよ」

 

 そう言って手にした通帳をヒラヒラと振る。

 

『君は今はこの二課、政府の特務機関の一員であり最前線で命をかけて戦っている。それに対し、正当な報酬は払わせてもらう』

 

 弦十郎(おやっさん)からはそう言われていたがどうせ中学生相手、小遣い程度だろうとは思っていたのだが、これがかなりの額だ。

 こちらを子供と思って甘く見ていないというのは非常に好感が持てるのだが、何と言ってもこちらはしがない小市民だ、いきなりの大金を前に喜ぶよりも困惑が勝ってしまう。

 貯金は当然としてあれやこれや考えるが、それでも多い。

 そこで俺は、膝を叩いて立ち上がった。 

 

「よしっ、この金で今日は何か食いに行こう! 今日は俺の奢りだぞ、響!」

 

「でもノブくんのお金だし、奢りは悪い気が……」

 

「いや、でもな……なんかこの金を自分のためだけに使ったら、なんだか『仕事』として仮面ライダーやってるような気になって、ちょっとイヤなんだ」

 

 『職業=仮面ライダー』はロクなことがない、というのは俺は仮面ライダーの記憶で何となく知っていた。特に剣。

 えっ、響鬼さん? あれは『職業=鬼』ですよ。

 

「そういうわけで今日はパーッと何か食おう。俺の金で食うごはんは美味いぞぉ、響」

 

「ウェヒヒ……ごはん&ごはん!」

 

 俺の奢りということで悪いと思っていた響だが、乗り気になってくれたらしい。ごはんの魔力は偉大、人類はだれもそれには勝てないのだ。

 

「それで、何食べに行くの?」

 

「ふっふっふ……そんなものは決まっている!」

 

 そしておもむろに響に両手を向け、

 

「カルビーム!」

 

「私は焼肉が食べたいのッ!!」

 

 2人で映画を見に行くと必ずやってるCMを真似ておどける。

 

「というわけで今日は焼肉だ!! 今すぐ用意だ響隊員!!」

 

「はい、ノブくん隊長!」

 

 ビシッと敬礼をして響は出かける準備を始める。

 

「ポンポンポンカチッポンカチッ~♪」

 

 またも映画館で毎回聞くドレッシングのCMソングを口ずさみながら一端自分の部屋に戻る響。

 すぐに響が準備を終えて戻ってくると、俺たちは連れだって焼肉店へと向かった。

 

「ふぉぉぉぉ!!」

 

 店の前に来ただけで食欲を煽る香ばしい肉の匂いの洗礼に響が興奮の声を上げる。もう完全にしいたけみたいな目だ。

 そんな響の手を取って焼肉店に突入した。席に座り、メニューを開く。

 

「さぁ行くぞ響!」

 

「うん! まずはどこから行く?」

 

「それはもちろん……初手にて『タン』で仕る!!」

 

 運ばれてきたのは表面に切れ目の入った『厚切りタン』。

 トングを使い表面と裏面をしっかりと焼き、茶色くなるまでしっかり焼いたところを塩レモン汁を少々。そしてそれを口に運んだ。

 

「「んんっっ~~!!」」

 

「この口の中の心地よい肉に歯を立てるときの食感!」

 

「これぞ『ザ・お肉』って感じだよね!」 

 

 タンの余韻はそのままにその流れを継続、お次は『ネギ塩タン』。肉の上にたっぷりと載ったネギが眩しい。

 

「ネギ塩タンって裏返すとネギが落ちちゃうから、私が焼くといっつもただの塩タンになっちゃうんだよね」

 

「クックック! そういうことならば俺の秘儀を見せてやろう!

 秘儀ねぎ包み焼き!!」

 

「なにぃぃぃ!!」

 

 トングを二つ使い、ネギがこぼれないようにタンで包みながら焼く。

 表面がしっかりと焼け、包まれたネギが肉からの熱でゆっくりと熱せられていく。それをそのまま口へと運んだ。

 

「くぁぁぁ! ネギとタン、これぞパーフェクトハーモニー!!」

 

「ジューシーなお肉とネギが口の中で奏でる相性抜群の絶妙なハーモニー! これこそ『肉のツヴァイウィング』状態だよ!!」

 

 テンションが上がり過ぎてお互いにおかしなことを口走る俺と響は、その勢いのままコーラをグビグビと流し込む。

 心地よい炭酸の刺激が喉を滑り落ちていく。

 

「「かぁぁぁ! 悪魔的だぁぁぁ!!」」

 

 そしてついにやってくるのは、焼肉の定番『カルビ』だ。肉厚にカットされカラメル色に輝くそれはまるで肉の宝石。

 その肉の宝石を小細工なしでしっかりと焼き上げる。

 

「うまい、うますぎる!!」

 

「噛めば噛むほどに溢れる旨みが口の中で絶賛ライブ中だよ!

 ごはん、ごはんのおかわりを!!」

 

 口の中に溢れる旨みにごはんを放り込めば、そこは桃源郷。口の中では幸福な気分になる『不思議なこと』が連続発生中である。

 響はかきこむごはんが無くなったことに気付き、即座にごはんの追加注文をした。

 

「響……これでまだ(いくさ)は序盤戦だ……」

 

「肉は多いね、ノブくん……」

 

「大丈夫だ、今夜は俺とお前でダブルライダーだ。

 行くぞ、響! 俺たちの作戦目的は……肉!!」

 

「うん!!」

 

 そしてその後も『ホルモン』や『ロース』など、様々な肉との戦いを繰り広げる。

 

「美味しかったね、ノブくん。

 私お腹いっぱいだよ」

 

「俺もだ」

 

 焼肉店を出るときには、俺も響も腹いっぱいで幸せな気分だ。

 

「よし、今度もいろんなものを一緒に食べに行こう!」

 

「うん!」

 

 やはりごはんは偉大だ。響をこんなにも笑顔にしてくれるのだから。

 そう思いながら、俺たちは家路についたのだった……。

 




今回のあらすじ

防人「あひゃははははは!! バトルホッパーしゅごい!!
   最高にハイッてやつだぁぁぁ!!」

奏&SHADOW&ビッキー「防人が楽しそうでなによりです」

防人「で、お前は当然免許取るんだろうな?」

SHADOW「よく考えたら本来バイク動かせない年齢だって思い出したぞ」

ビッキー「新しい友達できて学園生活楽しい! でも勉強は勘弁な!!」

SHADOW「俺はキングストーンさんの力で乗り切りました」

ビッキー「すがすがしいほどのチート乙」

SHADOW「で、俺も友達できたけど……」

ジョー「俺は忍者DAZE!」

SHADOW「普通の人間は二課関係者にはいないのか……?」

ビッキー「ウェヒヒ! ごはん&ごはん!」

SHADOW「俺の金で喰う焼肉は美味いだろう、響」

ビッキー「最高! 作者、こういう飯テロを一度やってみたかったって。今回はそのお試しみたいよ」

SHADOW「しかし……今回の内容で作者の住んでる地域バレるんじゃなかろうか?」

ビッキー「大丈夫でしょ、多分」


ついに次回からシンフォギア無印編がスタート。
来週用事で投稿できないので、かわりに次話は2月2日に投稿します。
次回もよろしくお願いします。


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無印編
第10話


 一人の少女が、電車に乗っている。

 彼女の名は小日向未来、高校に入学するために上京してきた少女だ。

 桜舞う景色を車窓から眺め、しかしその向こうに乱立するビルにもうここが故郷では無いことを悟るものの、未来はどうでもいいと首を振る。

 彼女にとっては、もう故郷とはあの場所ではないからだ。

 望まぬ転校、誓いを果たせず置き去りにしてしまった幼馴染たち……そんな嫌な思い出に塗りつぶされた場所など、未来にはもはやどうでもいいのだ。

 やがて電車は駅に到着し、未来は人の流れに押されるようにしてホームに降り立つ。広い駅構内に若干戸惑いながらも、未来は目的の場所へとやってきた。

 

「……」

 

 自分が落ち着きが無くなっているのが分かる。心臓もドキドキと早鐘のようだ。

 当然だ、未来は今この瞬間のためにこの1年近くを努力し、リディアン音楽院へと合格したのだから。

 そして、その間違えるはずのない声が未来の耳を打つ。

 

「未来~~!!」

 

「響ぃ~~!!」

 

 手を振りながらこちらへ走ってくる響。

 久方ぶりに見る本物の響だ。一緒に過ごした記憶のままの響を見た途端、未来は抑えが効かなくなる。

 思わず走りだした未来は、そのまま響へと抱きついた。

 その感触に、未来にやっと故郷に帰ったかのような安心感が湧き上がる。

 

(ああ、やっと私は響のいるところに戻ってこれた……)

 

 そんな言葉を考えつつ、未来は響との再会を喜ぶ。

 

「やっと会えたね、響!」

 

「うん!」

 

 手紙やメールでのやり取りは頻繁にしていたが、こうして直接会うのはあの別れ以来だ。2人はたわいのない話から近況報告と様々な話をしていく。

 

「じゃあ響は寮じゃないんだ」

 

「うん。あの一件以降、一応国に保護されてる状態だから……大丈夫、すぐ近くだから未来も遊びにくればいいよ」

 

「そっか……それで、信人のほうは?」

 

 そんな話をしながら、話題は信人のことになる。

 

「ノブくんは今ちょっと忙しいんだけど、未来には絶対に会いたいって言ってたよ。

 夕方には戻れると思うから後で合流して一緒にごはん食べようって」

 

「そっか、忙しいんだ。

 バイトとかやってるの?」

 

 そう未来が聞くと響は少し目を泳がせる。

 

「まぁ、バイトって言えなくもないかな。 お金ももらってるし……」

 

「?」

 

 響の歯切れの悪い言葉に、未来は首を傾げた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 夕暮れ迫る山間部の村に、連続した銃声が響く。

 突如として発生したノイズの集団に対し自衛隊が攻撃を仕掛け時間を稼ぐが、その攻撃はまるで効果がなく、ノイズの歩みは止まらない。

 

「装者はまだか!」

 

「それが、他方面のノイズ掃討がまだ完了しておらず、こちらへの到着は……」

 

「くそっ! おい、撃ちまくって一分一秒でも時間を稼げ!!」

 

 止まらないノイズの歩みに悲壮感すら漂う現場、だがその現場にバイクの爆音が響きわたる。

 

「こ、このバイクの音は!!」

 

 その音はまるで福音のラッパのように、たったそれだけで現場の悲壮感漂う空気を吹き飛ばした。

 

「彼です! 彼が来てくれました!!

 仮面ライダーSHADOWです!!」

 

「ああ、見えている!」

 

 彼らの視線の先には、夕陽を背負いながらやってくるバイクに跨った白銀のボディ。そして深緑の双眸が煌めく。

 神も仏も助けてくれないこの世界で、それでも存在した救い……『仮面ライダー』の到着を全員が祝福していた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ブロロロォォォォォォォ!!

 

「ダイナミックスマッシュ!!」

 

 バトルホッパーの速度をそのままに、俺はノイズの群れを轢き潰して停車する。

 

「来てくれたか、仮面ライダーSHADOW!!」

 

「ここは任せて後退しろ!」

 

 俺の登場に歓声を上げる自衛隊員にそういうと、俺はそのままノイズへと躍りかかった。

 

「シャドーチョップ!!」

 

 エルボートリガーを高速振動させて威力を倍加、巨大な岩すら一撃で両断する水平チョップで大きくノイズの集団を薙ぎ払う。

 

「シャドービーム!!」

 

 俺を援護しようとしていた自衛隊員たちに、空中から襲い掛かろうとしていたノイズたち。それに向けて左手に溜めたキングストーンエネルギーを稲妻状にして放射する。

 空中で稲妻は幾条にも枝分かれし、そのすべてが空中にいたノイズたちを吹き飛ばした。

 

「SHADOW! デカいやつがこっちに!!」

 

「ムっ!」

 

 自衛隊員の言葉にその方を見ると、首が無く両手がハサミのようになった人型の大型ノイズが地響きを立てながらこちらにやってくる。

 

「バイタルチャージ!!」

 

 構えを取り叫ぶと、黒いベルト『シャドーチャージャー』に収められたキングストーン『月の石』から凄まじいまでのキングストーンエネルギーが全身を駆け巡り、それが両足へと収束する。

 

「トオッ!!」

 

 そのまま俺は空中高くへと飛びあがる。大型ノイズを眼下に望みながら空中で体勢を変え、両足を突き出す。

 

「シャドーキック!!!」

 

 そのまま俺の必殺キック、シャドーキックは大型ノイズへと突き刺さった。30mを超えるだろうノイズの巨体が、シャドーキックで天からハンマーで叩きつけられたように地面へとめり込む。同時に、キックを通して大型ノイズの体内にキングストーンエネルギーが叩きつけられ、そのエネルギーが内側から大型ノイズを喰い破る。その攻撃に耐えきれず、大型ノイズが爆散した。同時に俺のキングストーンエネルギーである、緑の波動が衝撃を伴って周囲に拡散、ノイズを一匹残らず吹き飛ばす。後に残ったのは元の夕方の静寂だけだ。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

「SHADOW! 仮面ライダーSHADOW!!」

 

 ノイズが一気に殲滅されたことに自衛隊員たちから歓声が上がる。俺はそれを尻目に通信機に話しかけていた。

 

弦十郎司令(おやっさん)、こっちのノイズの掃討は終わった。 他はどうだ?」

 

『奏や翼の方も掃討は完了した。付近にノイズの反応はない。 状況終了だ、後始末は俺たちに任せてくれ』

 

「なら一足先に上がっていいか? 今日は大切な日なんだ」

 

『分かった、今日はこれで上がってくれていい。お疲れさま』

 

「ありがとう、弦十郎司令(おやっさん)

 

 そう言って通信機を切る。こちらに向かってくるバトルホッパーに、カシャカシャと足音を立てながら跨ると俺はアクセルを吹かして街へと急ぐ。

 今日は大切な日、響にとっての『ひだまり』、俺たちの大切な幼馴染である未来との再会の日だ。

 あれから……俺と響が二課に身を寄せてから1年少々、俺と響も高校1年になった。

 俺と響はそのまま『私立ファリネッリ男子音楽院高等科』と『私立リディアン音楽院高等科』へと進学。高校の編入試験に合格した未来も『私立リディアン音楽院高等科』に進学、寮生活になる。これでまた俺、響、未来の幼馴染3人が近くで過ごせるのはいいことだ。

 

 しかしこの1年、二課の一員として動くかたわらで周りに気付かれないようにそれとなく二課でゴルゴムのことを探ってみたのだが、その影は全くつかめない。二課に入った途端にいきなり実はゴルゴムのメンバーだった二課の人物に襲われるような事態が起こらないのはいいんだが、それにしても静かすぎる。

 俺は正直、このシャドームーンの姿でいる以上、勧誘にせよ敵対にせよすぐにでも何かしらのアクションがゴルゴムの方からあるものだと思っていた。だが、予想に反してそれがまったく無いのである。

 これは一体どういうことなのか?

 

(俺の存在をゴルゴムが認識していないから、接触がないのか?)

 

 だがそれもおかしな話だ。

 俺は二課に所属することで、完全な機密ではあるものの存在自体は国の中枢に知られているはず。『仮面ライダーBLACK』でのゴルゴムは日本の政治中枢にまでその一員を送り込んでいるくらいの高い組織力があった。この世界のゴルゴムがそれと同等なら、俺の存在を認識していないはずがないのだが……?

 となるとまさかとは思うが……。

 

(この世界……まさかゴルゴムが存在していないのか?)

 

 ここまで影も形もないとその可能性も考慮した方がいいだろう。だが、そうなるとノイズの存在が完全に宙に浮いてしまう。

 ノイズは間違いなく『人工物』、何者かが何らかの目的を持って作り出した存在だ。しかも現在の科学では解析不能、俺の透視分析能力である『マイティアイ』だからこそ人工物だと分析できた代物である。このことから『現在の科学力より数段優れた技術力を持ち、人類を無差別に殲滅しようと考える何者かの存在』がそこにはあるということだ。

 だからこそ、それがゴルゴムなのだと思っていたのだが……。

 

(ノイズの裏にいるのがゴルゴムでないとしたら一体何者が……ハッ、まさか!?)

 

 その時、俺の脳裏に閃くイナズマが走る。

 

(そうか! そういうことなのか!?)

 

 瞬間、俺は思い至った。

 『突如として空間から現れる』『現代科学よりも高い技術で造られた人工物』『人類抹殺が目的』……ノイズについてのそれらのキーワードが、まるでパズルのピースを合わせるかのようにカチリと合わさっていく。

 何と言うことだ!? 何故気付かなかったんだ、俺は!!

 

 

 

「これは……クライシス帝国の仕業か!!」

 

 

 

 ノイズがクライシス帝国の先兵だというのなら『突如として空間から現れる』という特性も納得だ。クライシス帝国の本拠地は異次元世界である『怪魔界』、別の空間からやってきているのだから。

 そんな異次元空間航行を可能にするクライシス要塞など『地球より明らかに高い技術力』をクライシス帝国は持っている。

 しかもクライシス帝国の目的はこの地球全土への移住である。そのため土地……地球環境に多大な影響を及ぼす大規模作戦はクライシス帝国は避けていた。そのうえで先住民である人類の存在はクライシス帝国には不要で、『地球上の全人類の抹殺の上での地球への移住』を目論んでいた。だからこそ『地球環境に影響を与えず、人類だけを執拗に抹殺する』というノイズの特性はクライシス帝国の目論見にはぴったり、あまりに合いすぎている。ノイズには生物的なものも多いし、ゲドリアン辺りの部下で怪魔異生獣か何かをその技術力で改造したものなんだとしたら納得できる話である。

 しかも、ノイズが時間で自壊するのもクライシス帝国の先兵だというなら説明がつく。『怪魔界』は汚れた空気と曇天に満ちた世界であり、その住人であるクライシス帝国の者にとって地球の空気と太陽光は死をもたらす猛毒だ。それを防ぐために、上級幹部や怪魔戦士には地球の環境に適応する『強化細胞』を移植し、それによって地球での生存を可能にしている。

 おそらくノイズは安価に大量生産したためこの『強化細胞』を移植していないのだろう。だから地球環境下で長時間の生存ができず、時間がたてば自壊して果てるのだ。そしてそんな自壊を前提とし、人類だけを確実に消滅させるために炭素化させるクライシス帝国の送り込んだ使い捨ての人類抹殺特攻兵器……それがノイズの正体なのだ!

 何ということだ、これならばすべての辻褄が完全に合うじゃないか!!

 

 

 

「おのれ、クライシス帝国めッッ!!」

 

 

 

 クライシス帝国の地球侵略は先の通り、人類の絶滅を目指している。そしてその中には当然両親、そして響や未来が含まれているのだ。そんなものが許せるはずがない。

 クライシス帝国が相手であろうが何であろうが、守るべき者のために俺は必ず勝利してみせる。

 この身はシャドームーンの力を、『単体でクライシス帝国と同等以上の脅威』と言わしめるシャドームーンの力を持っている。『仮面ライダーBLACK RX』と同等のキングストーンをその身に宿しているのだ、『仮面ライダーBLACK RX』がクライシス帝国に勝利出来て俺に出来ないという道理はない。

 しかも『コミックボンボン』の漫画では正義の心に目覚めたシャドームーンが自爆とはいえクライシス帝国をしっかり滅ぼしているのだ。『勝てない』ということはないだろう。

 

「例えこの身が砕けても、俺の守るべき者を好きにはさせんぞ、クライシスめ!」

 

 俺は決意を新たにし、来るだろうクライシスとの全面的な戦いに覚悟を決めてバトルホッパーのアクセルを吹かす。

 とはいえ今は未来との再会パーティの方が大切だ。

 守るべき者、そして帰るべき場所である響や未来の待つ街へと、俺は急ぐのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 未来もやってきて高校生活が始まって数日、今日はツヴァイウィングのシングルの発売日だ。個人的にもツヴァイウィングはよく知る先輩であり今や響は、ツヴァイウィングのCDは必ず初回特典付きで購入するどこに出しても恥ずかしくないツヴァイウィングの大ファンである。

 CDを購入するためにやってきた響だが、生憎今日は信人や未来は用事があり1人だ。

 

「CD! 特典!」

 

 そう鼻歌を歌いながら走る響は、ふと付近の様子がおかしなことに気付く。

 黒いものが舞っていた。ふと見れば、そこには人の形をした黒い塊が横たわっている。

 

「ノイズッ!?」

 

「いやぁぁぁ!!」

 

 そう響が気付いた瞬間、幼い悲鳴がその場に響いた。

 反射的に身体が動いた響の見たものは、今にも襲われそうになっている幼い少女の姿だ。

 

「ッ!!」

 

 全速力で少女を掻っ攫うように響が駆け抜け、間一髪でノイズの魔の手から少女を救いだす。

 

「お、お姉ちゃん?」

 

「逃げるよッ!!」

 

 そう言って響は少女を背負うと、迫りくるノイズを避けながら走りだした。その動きは鋭く、少女とはいえ人1人を抱えているとは思えない速度だ。

 

(師匠との特訓の成果、これなら逃げ切れる!)

 

 この1年、信人とともに弦十郎の特訓を受けてきた響。毎回のように信じられないハードな特訓と信人のキングストーンエネルギーによる超回復を受け続けてきた響の身体能力は、一般的な女子高生とは桁が違うところまで来ていた。もしも今の響がスポーツの世界に入ったのなら、世界記録があらかた書き換わってしまうだろう。

 ノイズを避け狭い路地を駆け抜ける響。

 だがその先は用水路が行く手を塞いでいた。急いで左右を見るもののそこには迫るノイズの姿がある。左右を、そして後ろからゆっくり近付いてくるノイズたち。

 

「お姉ちゃん!」

 

「大丈夫、お姉ちゃんが一緒にいるから!」

 

 恐怖で背負う少女が響の背に顔を埋めるが、響は諦めなど微塵もなくキッと正面の用水路を見た。

 

(幅は約6メートル。 必要歩数は大体600から700踏みくらい……なら!)

 

「問題ない、10メートルまでなら()()()!!」

 

 すると響はそのまま用水路に入ると……()()()()()()()()()()()()()()()

 工程は簡単、足が水面下に沈む前に目にも止まらぬ速さで次の足を踏むだけ。弦十郎の特訓を受け続けた今の響なら可能な芸当だ。

 しかし完全には行かず、その身体が沈み始める。

 

「2人だと……さすがに沈むね」

 

 そう苦笑しながらも、響はそのまま用水路を走って渡り切った。

 

「はぁはぁはぁ……!!」

 

 対岸へと渡り切り、息を整えると再び走り始める響。しかし……。

 

「シェルターから離れちゃってる!」

 

 ノイズを避けながら走り続けたため、どんどんと響たちはシェルター方面から離れてしまっていた。方向修正しようにも、執拗に追ってくるノイズがそれを許さない。

 

「お姉ちゃん、私、死んじゃうの?」

 

「大丈夫、絶対に大丈夫だから!!」

 

 不安そうな背中からの少女の声に、確信をもって響は答える。

 他でもない響はノイズを打ち砕く『歌の戦士』を、そして何よりも『白銀のライダー』の存在を知っているのだ。

 

(ノブくんは、絶対に駆けつけて来てくれる!)

 

 その絶対の自信がある。だから、それまでの時間を稼げばいいのだ。

 そう思いながら沿岸のプラントまで逃げた響だが……ついに細い路地へと追い詰められてしまった。

 

「お姉ちゃん……」

 

 恐怖に泣きながら縋り付く少女を抱きしめ、響は周囲を見て方策を探る。

 

(左右の壁を交互に蹴って()()まで登れば……ダメ、この子を連れながらじゃ10メートル登るのがせいぜい。屋上までは届かない!

 なら、もし飛行型が後ろにいたら避けられずに一巻の終わりだけど……一か八かで()()()()()()()()()()()()()()()()!!)

 

 響一人なら逃げ切ることはいくらでもできるだろう。だが、響の中で少女を見捨てる選択肢は欠片も無い。

 覚悟を決めた響は背中の少女へと語りかける。

 

「大丈夫、お姉ちゃんがついてる。 だから、生きるのを諦めないで!!」

 

 そう呼吸を整えようと息を吸ったその時だった。

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron……」

 

 

 胸に歌が浮かび上がる。そして、その歌を自然と響は口ずさんでいた。

 

 パァァァァ……

 

 瞬間目のくらむような閃光が辺りを包む。

 

「あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 何かが自分の身体に浸透してくるような怖気と、強大な力に包まれる高揚感に響は閃光の中で叫んでいた。

 そして閃光が止むとそこには……。

 

「私が……シンフォギアを纏ってる?」

 

 自分の手や身体を見れば、それは明らかに奏や翼の纏っているのと同じもの……すなわち対ノイズプロテクター『シンフォギア』だ。

 何故? どうして『シンフォギア』を私が?

 様々な疑問が駆け巡るがそんな響のそばで少女の声がする。

 

「お姉ちゃん、カッコイイ!!」

 

 その言葉に今の状況を思い出した響は左手で少女を抱きかかえると、右の拳を握りしめた。

 

「何でシンフォギアを私が纏えてるのか、全然わかんないけど……今私がやるべきことははっきりと分かる!

 この子を全力で……守ることだぁぁ!!」

 

 あの日あのライブ会場で見たツヴァイウィングの2人の背中、そしていつでも自分を守ってくれていた白銀の背中を思いながら、響は眼前のノイズへと拳を打ち込んだ!

 




今回のあらすじ

ビッキー「未来ぅ~!」

393「リディアン受かって、やっと響たちと再会できた」

SHADOW「おかしい……この1年ゴルゴムのことを探っていたのに影も形もない。
    まさかこの世界……ゴルゴムいないんじゃ……?」

フィーネさん「そうよ! やっとわかってくれたのね!!
       そう、すべてはこのフィーネの……」

SHADOW「なるほど……これはクライシス帝国の仕業か!!」

【悲報】フィーネさんクライシス帝国認定される

フィーネさん「どうしてそうなるのよぉぉぉぉぉぉ!!」

SHADOW「ノイズの特性を考えれば考えるほど、これはクライシス帝国の仕業に違いない!
    おのれクライシス帝国め!!」

ビッキー「ノイズ……キサマは中国武術を嘗めたッッッ!」


原作のビッキー:用水路を『泳いで』渡る

本作のビッキー:用水路を『走って』渡る


奏「なんかウチの妹分が烈海王みたいになってんだけど……えっ、なんで?」

防人「挙句平然と10mくらいなら人を抱えてロックマンXみたいなキッククライムができるとか言ってるし……一年でここまでの差がでるのか……。
   OTONA塾は本当に怖いなぁ……」

ビッキー「作者がOTONA塾で私がレベルアップしたことを表そうとしたら、いつの間にかこんなギャグみたいな状況に……」

キネクリ「こんなのと戦う羽目になるの?
     割とマジでアタシ様が生き残る方法を誰か教えてくんない?」


一年のOTONA塾で超強化されてしまったビッキー。
このビッキーとシャドームーンを敵に廻してフィーネさんはこの先生きのこることができるのか。

来週用事があるので来週の投稿は休みます。

次回もよろしくお願いします。


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第11話

 バイタルチャージによって右拳に溜めたキングストーンエネルギー、それを眼前のノイズの集団に飛び掛かり叩きつける。

 

「シャドーパンチ!!」

 

 拳の一撃はノイズを砕き、余波が諸共に周辺のノイズを砕く。

 

弦十郎司令(おやっさん)、こっちは終わったぞ!」

 

『引き続き次のポイントに移動してノイズの掃討を頼む!』

 

「了解した!」

 

 言われて、俺は次にノイズの気配を感じる場所へとバトルホッパーを走らせる。

 今日もノイズの気配を感じて戦いを始めた俺こと仮面ライダーSHADOW。だが、運悪く奏と翼の2人は新曲PVの撮影のため留守にしており、結果俺だけで複数個所に現れたノイズの掃討に追われていた。

 

『装者2人、ヘリに乗り込みました! これより現場に向かいます!!』

 

 どうやら奏と翼はこちらに向かい始めたらしい。

 だがそんな俺の眼前、沿岸のプラント地帯方面で光の柱のようなものが天へと昇る。

 すると通信機の先、本部が騒がしくなった。

 

『これは……アウフヴァッヘン波形!?』

 

『ガングニールだとぉ!!』

 

 了子さんと弦十郎司令(おやっさん)の声が聞こえる。

 

「どういうことだ、奏はまだヘリで移動中なんだろ」

 

『分からん。 分からんが何かが起きている!』

 

「分かった、急ぐ!!」

 

 俺はバトルホッパーのアクセルを全開にして大ジャンプ、そのまま海へと出るとバトルホッパーで海上を走り始める。障害物の多い市街地を走るより遮蔽物のない海上を走った方が速いと判断したからだ。

 俺はバトルホッパーのアクセルを全開にする。バトルホッパーの無限動力源『モトクリスタル』、そして俺の体内のキングストーンが共鳴し合い、バトルホッパーはそのすべての能力を解放した速度で沿岸のプラント地帯へ急ぐ。

 何か重大な『予感』がする。そして往々にしてこういう俺の予感は当たるのだ。

 そして到着した沿岸のプラント地帯で待っていたのは……。

 

「響ッ!?」

 

 幼い少女を抱きしめながらシンフォギアを纏って戦う、響の姿だった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 胸から溢れる歌、それを口ずさむと湧き上がる力……それを拳に乗せてノイズに叩き込む。直撃を受けたノイズが吹き飛び、その衝撃が後続のノイズまでも吹き飛ばす。

 

「凄い……これがシンフォギアの力!?」

 

 奏や翼のことでシンフォギアのことは知っていたものの、ノイズを圧倒する凄まじい力に響が目を見開く。

 

「お姉ちゃん!!」

 

「シィッ!!」

 

 腕の中の少女の声に、少しだけ呆けていた響はすぐに心を取り戻し、後ろから飛びかかってきたノイズにカウンターで鋭い廻し蹴りをお見舞いする。その蹴りをモロに受けたノイズは、他のノイズを巻き込みながら吹き飛んだ。

 

「今のうちにノイズを突破する!」

 

 師匠にならった武術とシンフォギアの力で自分だけならいくらでも生き残れるだろうが、幼い少女を連れたままノイズと戦うのは危険だ。響はノイズを突破し狭い路地を抜け出ると、プラントの広場に出た。

 

「っ!?」

 

 しかしそこにいたのは視界を埋めるノイズの群れ。四方を囲まれ、逃げ場がない。

 

「お姉ちゃん……」

 

「大丈夫、絶対助ける!!」

 

 響は少女をおろすと、両手で構えを取った。不退転でこの少女を守り切るつもりだ。四方八方の気配を探り、その全てを迎撃するため深く深く息をついて腰を落とす。

 だが、ノイズが襲い掛かるより先に状況が動いた。

 

 

 ブロロロォォォ!!

 

 

 闇を切り裂くバイクの音、その音を響は誰よりよく知っている。

 

「響っ!!」

 

「ノブくん!!」

 

 バトルホッパーがノイズを薙ぎ倒し、空中でバトルホッパーから飛び上がった仮面ライダーSHADOWが響と少女の目の前に降り立った。

 

「仮面ライダーSHADOWだぁ!」

 

 『ノイズを倒して人を助ける謎のヒーロー』として都市伝説になっている仮面ライダーSHADOWの登場に歓声を上げる少女。

 それを視界の隅に見ながらSHADOWは響へと話しかけた。

 

「事情は後で聞く。 今は俺の背中、預けられるか?」

 

「……うん! 師匠から習った技とシンフォギアの力で!!」

 

 はじめはポカンとしていた響だが、言われた意味を呑み込むと喜色を満面にたたえた。

 バトルホッパーがノイズを威嚇するように少女の廻りを旋回し、少女を守る。SHADOWが構え、その背中を守るように響も構えた。

 一斉にノイズたちがSHADOWと響に飛びかかる。

 

「タァ!!」

 

 SHADOWのパンチが正面から迫ったノイズを砕き、返す刀の水平チョップがノイズを薙ぎ倒す。

 

「ハァ!!」

 

 SHADOWの後ろから迫ったノイズに響の鋭い蹴りが叩き込まれた。響に接近した人型ノイズがその刃のような腕で響を突き刺そうとするが、響はその腕を跳ね上げるとがら空きの胴に肘を叩き込む。中国拳法『八極拳』の技の一つ、『裡門頂肘』だ。

 

「すごーい、仮面ライダーとお姉ちゃん、躍ってるみたい!」

 

 少女の言うように互いの位置を変えながらその背を守り続ける2人は、クルクルと踊りを踊っているようにも見えた。同じ師から武術を習い、さらに人生の多くの時間を一緒に過ごした幼馴染だからこそ出来る、抜群の即興連携である。

 その2人の苛烈な舞踏に、残った観客(ノイズ)は大型人型ノイズだけだった。

 

「仕上げてくる! バイタルチャージ!!」

 

「やっちゃえ、ノブくん!!」

 

 緑色のキングストーンエネルギーを両足に溜めたSHADOWが空中に飛び上がった。

 

「シャドーキックッッ!!」

 

 必殺キックが大型ノイズに炸裂し、大型ノイズが爆散する。

 爆発の炎を背に、カチャカチャと足音を鳴らしながら歩いてくる仮面ライダーSHADOW。

 

「ノブくん!!」

 

 そんな仮面ライダーSHADOWに手を振りながら近付くと抱きつく響。

 

「仮面ライダーとお姉ちゃん、仲良しさんなんだ!」 

 

 バトルホッパーの傍らでそれを見ていた少女の楽しそうな声が、ノイズの消えたその場に響いた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 突然、響がシンフォギアの装者になった夜から一夜明けた。

 あの後、ノイズを倒し俺と響が連れだって二課に行くと全員が大混乱状態だった。シンフォギア、しかも奏と同じ『ガングニール』だ。奏など何度も自分のギアを確認していたくらいである。

 何が一体どうなってこうなったのか? 誰一人として、その理由が欠片も分からない。

 響はすぐに精密検査にかけられ、そしてその結果が今日、了子さんから発表されるのだ。

 

「結論から言うと……響ちゃんの身体、手術で摘出不能な心臓付近に奏ちゃんのガングニールの破片が突き刺さってたわ。

 これが反応してシンフォギアとして発現したというわけ。

 で、その破片の出所なんだけど……」

 

「あのライブの時の怪我……だね?」

 

「そうよ」

 

 あのライブで響を貫いたものは岩の破片ではなく、損傷した奏のガングニールの破片だったのだ。そしてその破片が響の身体に融合し、力が引き出されてシンフォギアとして発現したということだった。

 

「ごめんよ響……アタシがあの時もっと強ければこんなことには……」

 

 そうやってすまなそうに謝る奏に、微笑んで元気いっぱいに響は返す。

 

「へいき、へっちゃらです。前にも言ったけど奏さんは私の命を助けてくれました。

 それに今回のことだってガングニールの破片が私の中になかったら、昨日私もあの女の子もノイズから逃げ切れずに死んじゃってたかもしれないんです。

 だからまた、奏さんに助けられちゃいました。

 奏さん、ありがとうございます」

 

「……アンタって子は、本当にいい子だね!!」

 

 奏が響を抱き締める。その光景に皆が苦笑していた。

 そんな中その輪から少し離れていた俺に、隣にいた翼が俺にだけ聞こえる小声で言ってくる。

 

「月影、あなたには思うところはないの?」

 

「……そういうあんたら2人は?」

 

「私も、それに奏も立花のことはこの1年でまるで妹のように思っている。だから危険な戦場(いくさば)などに近付いてほしくない。

 私たちの帰りを待って応援してくれる日常であればいい……そう思ってる。

 だが同時にあの子の性格もよく知っている。

 立花は誰かを助けたい、守りたい、そう想い行動できる真っ直ぐで、同時に危険でいびつな子だ。

 あの子のそれは、もはや『前向きな自殺衝動』のようなものだぞ。

 そんな子がシンフォギアのような大きな力を持ったら……答えは一つ。誰かを救うために戦場(いくさば)だろうが危険を顧みず突っ込んでいくだろう」

 

「……さすが先輩、よく分かってらっしゃる」

 

 そう言って俺も小声で答えた。

 

「本音を言えば、俺も戦うような真似はやめてほしいしすぐにでも回れ右して日常に戻ってほしい。

 でもな……」

 

 そう言って思い出すのは昨日の夜、響と一緒に背中を預けて戦ったときのことだ。

 

「昨日の夜、響と一緒に戦ったときな……『楽しかった』んだ。

 守るべき者だとわかっているのに、日常にいた方がいいって思っているのに……戦場(いくさば)であっても響が隣にいてくれるっていうのが嬉しくて、今の俺ならどんなことでも出来ると思ったんだ。

 ……翼にはそう言うことはないか?」

 

「……私も奏と2人ならどこまでも行ける、何でもできるって思っている。

 だからその気持ちは分からなくもない。分からなくもないが……」

 

「響だって俺と一緒に弦十郎司令(おやっさん)の特訓を受けてきた。

 昨日の戦いも実戦が初めてとは思えない動きでノイズを倒してた。

 大型ノイズはまだしも、通常のノイズくらいなら敵じゃないはずだ」

 

「だが戦場(いくさば)に絶対はない。

 分かっているだろう?」

 

「……その時は、俺が命に変えて守る。

 だから今は響の思うようにさせてやりたい……」

 

「……わかった、私も奏もできる限りの手助けはしよう。何と言っても大切な妹分だからな」

 

「ありがとう」

 

 俺は翼に小声で礼を言う。

 実際に、何の運命のいたずらか響は俺と一緒に弦十郎(おやっさん)から武術を習い、シンフォギアという力を纏ってしまった。ノイズと戦えるだけの技も力もあるのだ。そしてノイズに対抗する手段である『シンフォギア』が貴重なことも知ってしまっている。だから響が、『自分もノイズと戦う』と言いだすのはもう間違いないのだ。

 そんな時だ。

 

「!? ノイズの気配!!」

 

「えっ!」

 

 それを感じた俺は即座に走りだす。それに真っ先について来たのは響だった。

 

「ノブくん、私も!!」

 

「いいのか、ここからは完全に戦場(いくさば)だぞ?」

 

「そんな場所を、ノブくんはずっと走って沢山守ってきたんでしょ?

 その銀色の背中で、守ってきたんでしょ?

 私にも力があるなら……背中を眺めるんじゃなくて隣にいたいよ」

 

「……」

 

 やがて、俺と響は地上へのエレベーターに到着し、エレベーターが急上昇を始める。

 その時、ちょうどノイズ発生を知らせる警報音が鳴り響いた。

 

「バトルホッパー!!」

 

 着いた場所は各種車両の置かれた格納庫だ。

 俺の声に応え現れたバトルホッパーが車の一台に取り付くと、バイクへと変形する。

 

「変身!!」

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron……」

 

 2人で光の中で変身を果たすと、俺はバトルホッパーに跨りながら響に言った。

 

「後ろに乗れ、響! しっかりつかまってろ!」

 

「うん!」

 

 響がバトルホッパーに跨り俺の腰をつかんだのを確認すると、俺はアクセルを吹かして車両格納庫を飛び出した。

 

『ノイズの座標確認、リディアンより距離200』

 

「ああ、もう見えてる!」

 

 二課からの通信があった時には、すでに俺も響もノイズの姿を確認していた。

 

「響っ!」

 

「ノブくん!」

 

 バトルホッパーで大ジャンプ、空中でバトルホッパーから飛び降りた。

 

「「たぁぁぁぁ!!」」

 

 そのまま空中でクルリと回転すると2人でノイズの集団へとダブルキックを放つと着地する。

 

「響、慣れないんだからあまり前に出過ぎるなよ」

 

「じゃあお手本見せてね、ノブくん」

 

「じゃあ、張り切ってやろうかな……バイタルチャージ!!」

 

 容赦なく、初手からバイタルチャージで一気にキングストーンエネルギーを高める。

 俺と響によってそこのノイズが殲滅されたのはそれから3分後のことだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 どことも知れない場所、暗い部屋の中。

 

「立花響……仮面ライダーSHADOWを制するための鎖が、まさか新たなシンフォギア適合者となるとは……」

 

 何の力もない一般人である立花響は仮面ライダーSHADOWの動きを封じ込めるために使おうと思っていたのだが、それがシンフォギアという力を持ってしまった……頭の痛い話である。

 

「しかし……研究材料としては大いに興味がある」

 

 立花響は人と聖遺物の融合症例第一号だ。

 人と聖遺物の融合という現象には大いに興味をそそられる。ともすれば自らの切り札にもなりえる話だ。

 

「『あの娘』を使って何とか攫えないものかしらね?」

 

 ただその時には仮面ライダーSHADOWには細心の注意を払わねばならないだろう。

 どのような作戦で行くべきか、策を巡らせる。

 

「いずれにせよ、誰が相手であろうと『計画』の邪魔はさせない……」

 

 そんな決意の籠った声が、闇に響いた……。

 




今回のあらすじ

SHADOW「なんか響が対魔忍スタイルで暴れまわってるんだけど!」

ビッキー「対魔忍いうな!
     あ、でもノブくんとの共闘すっごい楽しい!」

幼女パイセン「超仲良し。さっさと結婚汁」

奏「妹分の変身理由がアタシの不手際で落ち込む」

防人「あれ、戦場(いくさば)に出てもいいの?」

SHADOW「響が楽しそうで俺も鼻が高いよ。
    俺もダブルライダー状態で超楽しかったし、精一杯ケツ持ちするから好きなようにやらせてやってくれよ」

防人「まぁ、できる限り協力はするけど……」

フィーネさん「……ただの一般人だったはずが、何でシンフォギアなんか纏ってるのよ。
       これ計画が……いやでも科学者としては大いに興味あるし、キネクリ、ちょっとあいつ攫ってきて」

キネクリ「いきなりの無茶振り。
     まぁ、あたし様もレベルアップしてるみたいだからやるけどさ。でもSHADOWだけは勘弁な!」

今週は休みだと言ったな。あれは嘘だ。
何とか都合がついたので投稿です。できる限りこのまま週一投稿は継続させたい。

次回もよろしくお願いします。


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第12話

「行ったぞ、立花!」

 

「了解です! ここから先は、通さない!!」

 

 翼の声に答え、ノイズの前に立ちふさがる響。

 殺到するノイズに対してしっかりと腰を落とした構えで迎え撃つ。

 

「たぁ! はぁ!!」

 

 右の正拳から流れるように左の裏拳、鋭い右蹴りが次々にノイズに突き刺さる。

 そのすべてが完全にノイズの芯を捉えており、響の攻撃を受けたノイズは次々に砕け散っていく。

 

「とりゃぁぁぁ!!」

 

 攻撃してきた人型ノイズの手を逆につかみ体勢を崩すと軽くしゃがみ、全身のバネを使って思い切り踏み出すと、背中で体当たりをする。中国拳法『八極拳』の技の一つ、『鉄山靠』だ。

 それを受けたノイズが、他のノイズを巻き込みながら吹き飛んで砕け散った。

 しかし、それでもノイズの数が多い。

 

「数が多い! このままじゃ市街地にまで……」

 

「無辜の民を守ることこそ防人の務め。 立花、全力で抑えるぞ!」

 

 その時だ。

 

『ここか、祭りの場所は?』

 

「奏!」

 

「奏さん!」

 

 別方面のノイズを掃討するために別行動だった奏からの通信が入る。

 

『こっちはかたがついた。 そっちに超音速で向かってるよ!!』

 

 ほぼ同時に、バイクの排気音が響き渡る。

 そして……。

 

「ダイナミックスマッシュ!!」

 

「ノブくん!!」

 

 その場所に乱入してきたのはバトルホッパーに乗ったSHADOWだ。その後ろには奏が乗っている。

 バトルホッパーの体当たりでノイズの集団を一つ蹴散らし、休む間もなくバトルホッパーのアクセルを吹かすSHADOW。そんなSHADOWの後ろで奏が叫んだ。

 

「行くよ! ハイヨー、シルバー!!」

 

「SHADOWだ! 銀色でも俺のことをシルバーとか呼ぶな!!」

 

 SHADOWのツッコミを無視して、奏が手にしたアームドギアである槍を振るうとそれが巨大になっていく。

 

「だりゃぁぁぁ!!」

 

 そして奏は身の丈を超えるほどに巨大になった槍をグルグルと振り回し、SHADOWはそのままバトルホッパーでノイズの集団に突っ込んだ。

 凶悪な巨大ミキサーと化したそれに高速で迫られてはノイズも堪らない。ノイズは近寄っただけで次々に粉々になり、そのまま大型ノイズの足を切り落とす。

 

「決める!!」

 

 バランスを崩し倒れた大型ノイズを前に、翼が空中へ飛び上がった。

 

 

『天ノ逆鱗』

 

 

 アームドギアである剣を巨大化させ、そのまま蹴り貫く。

 巨大化した剣は大型ノイズの中心をとらえ、そのまま大型ノイズは爆散した。

 

『周辺からノイズの反応は消えた。 状況終了だ』

 

「やったね、ノブくん!」

 

 弦十郎からの通信にSHADOWと装者たちに漂っていた張り詰めた緊張感が弛緩し、響がSHADOWに声をかける。

 響は順調にノイズとの戦いの経験を重ね、戦士として変わりつつあった。

 元々、響は信人と一緒に弦十郎による武術の特訓を1年以上も続けている。戦う力は十分にあったのだ。何よりノイズを倒し人を守れるという真っ当な正義感、憧れのツヴァイウィングの2人や信人の隣に立てることの喜びが高いモチベーションとなり、結果として響はツヴァイウィングの2人からは『守るべき妹分』から『戦場で背中を預けるに足る後輩』へと変化しつつある。

 こうして響が装者になってから約1ヶ月は過ぎていった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「最近、響の様子がおかしい?」

 

「うん……」

 

 その日、俺は未来から話があると言われて学校近くの喫茶店に来ていた。

 お互いに飲み物を注文し一息ついたところで言われたのが、この未来の言葉である。

 

「授業は上の空で考え事してることが多いしレポートの提出は忘れるし、放課後にみんなで遊びに行こうって言ってもすぐに断るし……理由を聞いても『ちょっとした用事』としか言わないの。第一あの響が、あの美味しい『ふらわー』のお好み焼き食べに行こうってみんなで誘ってるのに何度も断るなんておかしいと思わない?」

 

「ああ、まったくもって未来の言う通りだ」

 

 ごはん、食べ物関係を断る響は確かに偽物を疑うレベルでおかしいことは同意する。しかも、響と何度も行ったことがあるが『ふらわー』のお好み焼きは美味いのだ。確かにおかしいと言われても仕方ない。

 

「明らかに響は何かを隠してるのよ。

 一度突っ込んで聞いてみたんだけど『別にたいしたことじゃないよ』とか言ってごまかされちゃうし……信人は何か知らない?」

 

「……さぁ、俺も知らないな」

 

 俺はそう言って肩を竦めるとコーヒーを一口啜る。

 無論俺は理由を知っている。響はシンフォギア装者になり、ノイズ退治や訓練で忙しい日々を続けている。だがそれは二課の機密事項だ。

 シンフォギアの情報、特に装者の情報は特に気を付けなければならない。もし悪意ある何者かにばれたのなら、家族や友達まで悪意の被害にあってしまう可能性が高いのだ。無論、未来をそんな危険に巻き込めるはずもないので、どうやってもこのことは話せない。

 

「まぁ、響のことだ。 隠し事があったとしても何か悪いことしてるってことは絶対にないだろ?」

 

「それは……そうだけど……」

 

「誰だって隠し事の一つや二つはあるさ。そのくらい大目に見てやれよ」

 

「……そう言う信人も、何か隠し事してない?

 前とは少し……何か違う気がするの」

 

「『男子三日会わざれば刮目して見よ』、だ。 俺だって日々成長してるってことさ」

 

 そんな風におどけて未来に答える。

 ……未来は勘が鋭い、下手なことを言えば疑いをかけられるだろうから俺は内心ではドキドキである。

 しばらく俺を胡散臭げに見つめていた未来だが、ため息を一つつくと口を整えるためか一口紅茶を飲んでから話を再開する。

 

「私は……あの『事件』で自分だけ転校しちゃって響たちと離れ離れになってからもずっとあの時の約束を……『3人で支え合ってどんな苦境も乗り越える』って言葉を忘れてなかった」

 

「それは俺も響も同じだよ」

 

 あの『事件』の時の3人で交わした誓い……『3人で支え合ってどんな苦境も乗り越える』という誓いを俺も響も忘れたことはない。

 

「私は、私だけが逃げるように転校することになって誓いを守れなかったのを後悔してた。だから今度こそ、何があってもあの時の約束を守りたい……そう思ってリディアンに来たの。

 なのに響が何かを隠して様子がおかしいのに何もしてあげられなくて……それに前みたいに一緒の時間も取れなくって……なんて言ったらいいのかな?」

 

 胸の気持ちを表すのにいい言葉をなかなか見つけられない未来に、俺は言った。

 

「つまり……『寂しい』ってことか?」

 

「……そう、だね。

 多分、信人の言う通り私は『寂しい』んだと思う」

 

 未来はそう、胸の内を明かした。

 一年……人によってはたった一年かもしれないが、その別離の期間は当人にとっては途方もなく長い。やっと再会できてさぁこれから以前のような日々を、と思った矢先に響の謎の隠し事だ。

 

「『何かあったのかも? 何か悪いことに巻き込まれてるんじゃ? 何で何も教えてくれないの? 私じゃ力になれないの?』……そんな風に思って、あの頃のように頼ってもらえないことが寂しくって……。

 ねぇ……私って、響や信人にとってはもうただの『過去』なのかな?」

 

 そんな弱気なセリフが未来から飛び出す。

 

「何をバカなこと言ってるんだ、お前は……。

 響も、それに俺だって未来との再会出来る時をずっと待ってたんだ。一緒に『今』を過ごせるのが嬉しいんだ。

 未来を『過去』になんてするものか」

 

「そう……。 信人にそう言ってもらえると嬉しいな。

 でも……」

 

 そんな未来の様子を見ながら俺は思う。

 

(こりゃ重傷だな……)

 

 俺はコーヒーをすすりながら心の中でため息をつく。だが、未来の気持ちも分からなくもない。

 

(何とか響と未来が一緒にいれる時間を作らないとな……)

 

 幸いにしておあつらえ向きなイベントはある。ちょうど流星雨が近く、流れ星を一緒に見ようと俺も響も未来から誘われているのだ。そのために響は溜まったレポート作成のため、最近は夜遅くまで俺が響の勉強を見たりしている。

 

(これで未来の不安も無くなってくれればいいんだが……)

 

 そんなことを思いながらしばらく未来と取り留めない話をして喫茶店を出ると、俺は二課へと向かう。今日は二課での定例ミーティングだ。

 今日の議題はここ一ヶ月あたりでのノイズの活動についてである。

 

「どう思う、響くん?」

 

「いっぱいですね」

 

 ノイズ発生地点を記したマップを前に身も蓋もないことを言う響。だが、響の言う通りこの件数はいっぱい、つまり『異常』だ。

 そのことを了子さんは『何らかの作為が働いていると考えるべき』と言う。

 ノイズはクライシス帝国の先兵なのだから、それについては全面的に肯定する。

 

「中心はリディアン音楽院高等科……つまり狙いはココかい?」

 

「サクリスト『L』……『レーヴァテイン』を狙って何からの意思が向けられていると考えられます」

 

「『レーヴァテイン』?」

 

 奏と翼の言葉に、ここで初めて聞く単語が出てきて俺は聞き返す。聞けば二課よりも下層で保管・研究されているほぼ破損のない『完全聖遺物』なのだそうだ。一応、バトルホッパーも『完全聖遺物』にカテゴライズされている。

 奏や翼、そして響のように聖遺物の欠片はその力を発揮するのに歌を歌いシンフォギアとして再構築しなくてはならないが、この完全聖遺物は一度起動したら誰でも使えるという。しかしその起動には相応のフォニックゲインが必要であり、起動は容易ではないらしい。

 

「『レーヴァテイン』は凄いわよぉ。 過去のそれらしい伝説を見ると、起動した状態で使われノイズたちを大量に倒したってことがあったみたいだからね」

 

「そりゃ凄いな。 それを起動させて、弦十郎(おやっさん)あたりに使ってもらったらノイズなんて楽勝なんじゃ……」

 

「ただ、使った人はもれなく狂戦士(バーサーカー)状態で理性を無くし、ノイズごと町一つ吹っ飛ばしたみたいだけど……弦十郎くんに使わせたい?」

 

 俺が全力でも暴走した弦十郎(おやっさん)なんて止めれるとは思わない。そんなことやったが最後、間違いなく世界が滅ぶぞ。

 

「完全に呪われた魔剣の類じゃないか。 そんな危ないモンさっさと捨てろよ」

 

「それでも『完全聖遺物』だし研究材料としては特一級なのよ」

 

 しかし『レーヴァテイン』とやらのことは二課に入ってからもう1年くらいたつが、初めて聞く話だ。特に俺や響には必要ない話なので聞くような機会もなかったのだろう。

 あるいは知る必要のない情報として弦十郎(おやっさん)がしないようにしていただけかもしれない。

 そのまま話はアメリカが『レーヴァテイン』の引き渡しを要求しているだの、本部が数万回単位でハッキングをかけられていて黒幕がアメリカの可能性があるなどアメリカ政府の陰謀論にまでなっているあたり、そういうものに俺や響が巻き込まれないように配慮してくれていたのかもしれない。

 

(クライシス帝国め……その『レーヴァテイン』とやらを奪って一体何をするつもりなんだ?)

 

 クライシス帝国がやろうとしていることならロクでもないことなのは確実、挙句それは呪われた魔剣の類だ、どこをみてもアウトだろう。

 

(しかしこれだけの動きだ。 作戦を主導するクライシス帝国の怪魔戦士や幹部が近くにいる可能性が高いな……)

 

 そう思いながらも、何でもない日は過ぎていく。

 そして……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 夕闇迫るリディアン音楽院、その職員室から響が出てきて待っていた未来が駆け寄る。

 

「先生、なんて?」

 

「壮絶に字が汚いって。まるでヒエロなんとかみたいだって言ってた」

 

「いや、そうじゃなくって。レポートは受け取ってもらえたの?」

 

 未来の問いに、響はすぐに笑顔になって答える。

 

「今回だけは特別だって。 イェーイ、これで今夜流れ星見られそう!」

 

「やったね、響。 教室からかばんとって来てあげる!」

 

 そう言って嬉しそうに教室へ走っていく未来の背中を響が見つめていた時、ポケットの携帯端末から呼び出し音が鳴った。

 

「……はい」

 

 硬い表情でそれに出る響。中身は響の思った通り、二課からのノイズ出現による出撃の話だった。

 

(よりにもよって、何で今日なの?)

 

 心の底からどす黒い何かが噴き出しそうになるのを必死で抑え、響が返事をしようとしたその時だった。

 

弦十郎(おやっさん)、それは待ってくれないか?』

 

 そんな信人の声が通信機から聞こえる。信人が二課との会話に割り込んできたのだ。

 

『信人くん、何か意見があるのか?』

 

『いちいち毎回馬鹿正直に全員でノイズ退治に行く必要はないだろ? こっちはもう何年もノイズと戦ってるベテランが3人もいるんだ。今回は響なしでもできる』

 

『それは響くんを今回のノイズへの対応から外せということか?』

 

『有り体に言えばそうだ。

 弦十郎(おやっさん)、ここ最近のノイズ発生は不自然だってこの間話をしていたばかりじゃないか。本部の『レーヴァテイン』とやらを狙っている何者かの仕業かも、って。

 今回のこれがその何者かの仕掛けた『陽動作戦』って可能性だってある。

 戦力は使い切らずにいた方がいいと俺は思うぞ』

 

『響くんを出撃させずにいて非常時戦力として温存しろということか……確かに一理ある。 だが……』

 

 当事者である響を置いてけぼりで話をする信人と弦十郎(師匠)。信人が響を出撃させるなといい、それについて弦十郎(師匠)が考え込んでいる。

 

(もしかしてノブくん、未来との流れ星の約束のために……)

 

 そんな風に響が成り行きを見守る中、了子から助け舟が入った。

 

『いいじゃない弦十郎君。 信人君の言う通り、二課に敵対する何者かがノイズを操ってるという可能性がある以上、ノイズに対抗できる戦力を残しておくのは正しい判断だと思うわ。

 正直対応人数が昔の倍、4人になっているんだから出撃のローテーションを組んでもいいと思うのよね』

 

『……分かった、信人くんの意見を採用しよう。

 響くんはいつでも呼び出しがかかってもいいようにそのまま待機を。他の3人は指示する現場に急行してくれ』

 

「わ、分かりました」

 

『了解。 響の分まで暴れて見せるよ』

 

 そう言って二課からの通信は切れる。

 と、直後に信人からの連絡が入ってきた。

 

「ノブくん……」

 

『響、悪いけど未来には今日の流星雨は俺は急なバイトで間に合わないかもしれないって伝えてくれ』

 

「やっぱりさっきのは未来との約束に私を行かせるために……ノブくん、みんなが命がけで戦ってるのに私だけが遊びになんていけないよ。

 今からでも私も出撃を……」

 

『響、確かに俺は未来のためにもお前は未来と一緒に行くべきだって思ったからあんなことを言ったのは確かだが、さっき俺が説得した内容は別に嘘でも何でもない、十分あり得る話なんだ。だから今回は響には出撃せずにいて欲しい』

 

「……わかった。 でも、必要な時には必ず連絡してね。仲間外れは嫌だよ」

 

『……ああ。 未来に上手く伝えてくれよ』

 

 そう言って信人からの通信も切れた。

 ちょうどそこに、自分と響のカバンを持った未来が戻ってくる。

 

「響~。 ……どうしたの、響?」

 

「あ、うん。 今ノブくんから連絡があって、ノブくん急なバイトで来れないかもって……」

 

「信人が……でも用事があるんじゃしょうがないか」

 

 信人の不在を聞いて残念そうにする未来。だが、すぐにそれを振り払うように笑顔をつくった。

 

「じゃあ、信人にも話せるように2人で見ておかないとね」

 

「うん……」

 

 響は若干浮かないながら、それでも未来との約束を果たせるのが嬉しいという微妙な顔のまま未来の手を握ったのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……」

 

 響との通信を終えた俺は通信機をポケットにしまうと、先ほどの響の言葉を思い出す。

 

「『仲間外れは嫌』、か……多分それは今の未来の思っている言葉だぞ」

 

 今回響を残した……未来との約束に行かせたのは、未来のためだ。この間の未来との話で、未来がかなり精神的に参っているのを知ったためである。

 

「……やっぱり俺は『正義の味方』にはなれないな」 

 

 どうしても身内を優先してしまう自分の気質に、改めて俺は『正義の味方』にはなれないと思う。

 

「さて……」

 

 そして、俺はゆっくりと振り返ると、そこには数えるのも馬鹿らしい大量のノイズの集団の姿があった。

 

「俺も響や未来と流れ星が見たかったんだ。 邪魔したからには覚悟しろよ!

 変ッ身!!」

 

 そしていつものようにSHADOWの姿に変身すると、俺はノイズの集団に躍りかかった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ノイズが発生した地域から離れた自然公園。

 ここは林に囲まれ人工の光が少なく、夜になると星が良く見える隠れスポットである。この日のために未来が探した穴場だ。

 情報通り、空の星が良く見える。雲はところどころにあるものの、月と星の光があたりを照らしていた。流れ星も問題なく見えるだろう。

 しかし、どうにも響の表情は明るくなり切れない。

 

「響ったら、心ここにあらずって感じね」

 

「えっ!? そんなことは……」

 

 そう未来に指摘され思わず反論しようとするが、言葉が続かない。

 そんな響に未来は笑顔で言う。

 

「信人のこと?」

 

「それもあるけど、他にもいっぱい……」

 

 そう言って、響は慎重に言葉を選びながら続ける。

 

「私ね、最近ノブくんとかと一緒に『ちょっとしたこと』をしてるの。

 さっき急な呼び出しがあったんだけど……ノブくんと先輩たちで何とかするから大丈夫だって。

 ノブくんたちに押し付けて私だけここにいるのは申し訳ないなぁって思っちゃって……」

 

「バイトは校則違反だよ、響」

 

「えへへっ、だからクラスのみんなにはナイショだよ、未来」

 

 どうやら未来は響の最近の隠し事というのが『隠れてバイトをしている』のだと思ったようだ。それに便乗して響はそういうことと話をする。

 

(信人のやつ……何が『響の隠し事なんて知らない』よ。 思いっきり知ってるじゃない、嘘つき)

 

 未来は前に信人に相談したときに平然と嘘をつかれたと、次に会ったらどうしてやろうかと心の中で考える。もっとも響が口止めを頼んだのだろうと思うと、そこまで信人を責められないとも未来は思った。

 

「わかった、ナイショにするけど……でも無理は駄目だよ、響。

 レポートとかもギリギリ、最近は授業にも支障がでてるじゃない」

 

「その辺は未来やノブくんに協力してもらって乗り切りたいなぁって思って。

 えへへっ♪」

 

「もうっ、調子いいんだから」

 

 そう言ってクスクスと2人で笑う。しばらくして響は真面目な顔をして続けた。

 

「でもね、本当にやりがいがあることなんだよ。

 今、私は『正しいことの白』の中にいる、って思えるんだ。

 だから……最後までやり抜きたい。

 それにノブくんの隣にいれるのも嬉しいしね」

 

 そう真面目に語り最後に少しだけ顔を赤くする響に、未来は微笑みを浮かべる。

 その時。

 

「あっ、始まったみたい!」 

 

「えっ!?」

 

 未来が指差す先の夜空へと響が視線を移す。そこには……。

 

「「わぁ……!!」」

 

 いくつもの流星が煌めいていた。

 流れ消えゆく儚い星たちの光景を、2人は無言で眺める。

 そして、2人は奇しくも同じことを願っていた。

 

((これからも私たちが3人で一緒にいられますように……))

 

「……次は信人とも一緒に見ようね」

 

「うん……」

 

 そうやって2人が頷きあったその時だった。

 

「……あれ?」

 

「何、あの光?」

 

 何か、緑色の光が放物線を描くようにこっちに向かって来ている。その光を目で追う2人。

 そしてその光が2人の前の地面に着弾する。

 すると……。

 

「ッ!!?」

 

「ノイズ!?」

 

 何とその光の中からノイズが現れたのだ。咄嗟に未来を後ろに庇う響。

 そして……。

 

「こんなところでのんびりお星見たぁ、いいご身分だな融合症例!」

 

 そのノイズたちをかき分けるようにして、白い鎧のようなものを纏った少女が現れたのだった……。

 




今回のあらすじ

ビッキー「とぉぉぉう!!」

防人「なんかたった一ヶ月で妹分が超やる気すぎて戦友状態になってる件」

奏「ここか、祭りの場所は?」

SHADOW「人を盾に出来る距離でその言葉はやめてくれませんかねぇ」

393「で、響ともどもなんか隠してない? 隠し事されて超寂しいんだけど」

デュランダル「『レーヴァテイン』? あれ、僕は?」

SHADOW「おめぇの出番ねぇから!
    しかし……こんな呪いの装備を狙って何を企んでいるんだクライシスの奴らは」

フィーネさん「だからクライシスってなによ!?」

ビッキー「よりにもよってノブくんや未来との流星デートの日に来るとかノイズは本当に空気が読めない」

SHADOW「ここは俺に任せてお前は行けぃ!多分行かないと393暴走しそうだからガス抜きしてきて!」

ビッキー「おK」

393「親友と流星を見てたら、痴女とエンカウントしました」

キネクリ「誰が痴女だよ、誰が!!」


デュランダルくんは死んだ、もういない!
この作品ではデュランダルくんはなかったことになり、EUから借金のかたにもらったのは『レーヴァテイン』くんとなりました。一応大きな意味のある改変です。
次回もよろしくお願いします。


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第13話

「ハァ! タァ!!」

 

 俺は地下鉄構内に沸いたノイズを片っ端からパンチやチョップを駆使して叩き潰していく。ノイズは容易く弾け飛ぶが、いかんせん数が多い。

 今日のノイズは地下鉄の路線に現れていた。

 ノイズを逃がさないために俺と奏と翼は別々の場所から路線に突入し、二課の指示でノイズを掃討しながら移動中だ。

 

「シャドーチョップ!」

 

 大岩をも両断する手刀の一撃でノイズは砕け、俺はまた別のノイズに跳びかかる。 

 地下鉄の路線内に多量に現れているため崩落の危険性があるから大技は使えない。そのため地道な駆除作業である。

 しかし、こうして入ってみると地下鉄の路線というのはまるでゲームのダンジョンのようだ。暗い洞窟で魔物に襲われるシチュエーションと似ていることに気付き、俺は苦笑する。

 

「未来は今頃、響と一緒に流星は見れているかな?」

 

 ノイズを処理しながらポツリと俺は呟いた。

 これで響の隠し事の一件で『寂しさ』を抱えていた未来も、少しは楽になってくれれば……そう俺が考えたその時だった。

 

「ッ!!?」

 

 ゾクリと何かの悪い予感が背筋を駆け抜ける。

 いわゆる『虫の知らせ』のようなものだがキングストーンのおかげなのかその精度は未来予知並み、俺がこれを感じるときにはほぼ確実に悪いことが起こると決まっていた。

 そして案の定、今回も悪いことが起こる。

 

『響ちゃんの周辺にノイズ反応!』

 

『なにっ!?』

 

『同時に未確認のエネルギー反応が!』

 

『響ちゃんのガングニールの反応から、ノイズと未確認物体(アンノウン)と交戦に入ったものと思われます!!』

 

「バトルホッパー!!」

 

 二課からの通信を聞いた瞬間、俺は反射的にバトルホッパーを呼び出していた。バトルホッパーに跨り、アクセルを全開にする。

 

『どこに行くつもりだ、信人くん!』

 

「決まってるだろう、弦十郎司令(おやっさん)! 響のところだ!!

 物言いだったら後でいくらでも聞く! だからここは任せた!!」

 

 俺はノイズを薙ぎ倒しながら出口を目指しバトルホッパーで疾走する。

 今日、この時間では響のいる場所には未来もいるはずだ。響と未来……どちらも決して失ってはならない幼馴染の危機である。

 

(待ってろ! 響! 未来!)

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 突然のノイズ、そして白い鎧の少女の登場。ノイズに怯える未来を背に庇い、響は目の前の少女に声を張り上げる。

 

「あなたは誰! それにこのノイズたちはあなたが操ってるの!?」

 

「そんなこと今からあたしに攫われるお前に知る必要があるのかよ、『融合症例』」

 

 響の言葉に鎧の少女は鼻で笑って答えるが、響はその聞き捨てならない言葉を聞き逃さなかった。

 

「『融合症例』!? どうしてそのことを……!?」

 

 『融合症例』とは、聖遺物と人が融合した症例……つまり響のことを指す言葉だ。

 だがこの『融合症例』については、特に厳重に秘匿されているのである。理由は簡単、聖遺物と人が融合可能でしかもシンフォギアのような強い力を操れると分かったが最後、様々な国でどこからか連れてきた少女たちの身体に聖遺物を埋め込むような人体実験が巻き起こるだろうからだ。

 公的には響も『新たに発見された適合者』であり、『融合症例である』とはされていないはずなのである。だが、その『融合症例』のことをこの鎧の少女は知っていたのだ。

 

「おしゃべりはここまでだ。さっさと捕まりな!」

 

 だが響の問いに答えることはなく戦闘態勢に入る鎧の少女。

 

「何がどうなってるの、響?」

 

「未来……」

 

 何が起こっているのか分からない未来に響は叫ぶ。

 

「未来はここから逃げて!!」

 

「でもっ!」

 

「何が何だかわからないと思うけどお願い、未来! 私は……未来の通る道を切り開く!!」

 

 響にとって、信人と同じく未来は何物にも変えられない大切な幼馴染だ。

 無論、二課やシンフォギアを秘密にしなければならないということは重々承知している。だが、今やらなければ大切な幼馴染を失うかもしれないという『恐怖心』が、響に今ここでシンフォギアを纏う決断させた。

 響はシンフォギアを纏うために胸に浮かんだ歌を口ずさむ。

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron……」

 

 

 光が溢れシンフォギアを纏うと響は構えを取った。

 

「響、その姿っ!?」

 

「あたしとヤル気か、融合症例?」

 

 驚きの声を上げる未来と、響の姿を見てニィっと好戦的な笑みを浮かべる鎧の少女。

 

「はぁっ!!」

 

 響は踏み抜かんばかりの勢いで地面を蹴ると、そのまま拳をノイズへと叩きつける。シンフォギアによって強化されたその拳圧は、そのノイズを砕くだけでなく後ろに控えたノイズも吹き飛ばし、そこに一本の道ができる。

 

「未来、説明は全部後で! 今は走って!!」

 

「でも響を置いては……!」

 

「行って! お願い、未来ッ!!」

 

 響を置いていくことに躊躇していた未来だが、響の必死の叫びにギュッと唇を噛み締めると、響に言われた通りに走りだした。

 

「自分が囮になってお友達を逃がすたぁ、泣かせるじゃねぇか融合症例」

 

「未来に何かしようとしたら……絶対に許さない!」

 

 周囲に気配を配り未来にノイズが近付いていかないかを探りながら、響は低い声で言った。

 すると……。

 

「安心しな。 関係ないやつを巻き込むような真似はしねぇよ」

 

「えっ……?」

 

 返答は期待していなかった響だが、予想外の返答に思わず声が出てしまった。

 その言葉通り去っていく未来の近くにはノイズの気配はないし、周囲のノイズも未来を追うような真似はしない。

 ノイズを操って、しかも自分を誘拐しようとした相手だ。もっと見境のない危険人物かと思ったが、そうではないようだ。

 それを感じ取った響は目の前の鎧の少女に呼びかける。

 

「ねぇこんなことなんてやめて話し合おうよ。

 私たちノイズじゃなくて同じ人間なんだよ。

 あなたに何か事情があるなら話し合えればきっと……」

 

「はンッ! 戦場(いくさば)で何をバカなことを!!」

 

 だが響の呼び掛けを鼻で笑ってあしらうと、鎧の少女が仕掛けてきた。着ている鎧から伸びたピンク色のトゲトゲのムチのようなもの、それをしならせ、叩きつけるようにして響を狙う。

 

「シィッ!」

 

 紙一重でそのムチの一撃をかわすが追撃の2本目のムチが迫り、響は後ろへ大きく跳んで距離をとってそれをかわす。

 

「お前の相手はあたしだけじゃねぇぞ!」

 

 そんな響にノイズたちが殺到してくる。

 

「たぁ! はぁっ!」

 

 もはやただのノイズなど物の数ではない響は、拳、蹴り、肘と膝とコンビネーションで次々にノイズを砕いていく。

 そのまま再びノイズに拳を繰り出そうとした響だが、嫌な気配を感じて身体を一歩引かせた。

 

「っ!!」

 

 その目の前を、あのピンクのムチが通り過ぎた。そして時間差で襲い掛かるもう一本のムチも身体を低くして避ける。

 

(ノイズたちに紛れてのあのムチの攻撃、そう何度も避けられない!?)

 

 そう判断し、響はノイズの囲いを一気に突破して鎧の少女を目指す。ムチの間合いの内側に入り込むためだ。

 だが……。

 

「読めてるんだよ、バーカ!」

 

 いつの間にか鎧の少女の両脇に見たことのないタイプのノイズがいた。フラミンゴのような鳥に短い足がついたかのようなフォルムのノイズだ。

 そのノイズのくちばしのようなところから白い液体のようなものが響目掛けて噴射される。

 

「っ!?」

 

 嫌な予感がした響はそれを横に跳んでよけた。

 ネバネバしたその液体が地面に広がる。観察すると「とりもち」のような特性のものだったと分かる。もし当たっていたら動けなくなってしまったかもしれない。

 そんな響に再びノイズたちが襲い掛かり、響はそれに応戦し始めた。

 

「聞いてるぞ。 お前、武術をやっててかなり強いんだってな。

 戦ってわかる。 お前、なかなか強いよ。

 でもな……お前、ノイズの相手は出来ても人間相手の、狡すっからい人間相手の戦いなんてやったことないだろ?」

 

「っ!? またっ!!」

 

 ノイズの攻撃に隠れるように襲い掛かるムチをかわす響。

 

(次! もう一本のムチは!!)

 

 そう警戒する響だが、もう片方のムチの攻撃の気配がない。

 チラリとノイズの隙間から鎧の少女の姿が見える。その片方のムチは……。

 

(まさか!? しまった!?)

 

 その瞬間、響の足に『地面から飛び出した』ピンクのムチが絡みついていた。響の視線の先では、鎧の少女のムチの一本が、『地面に突き刺さっている』。

 

(一回目と同じムチの連続攻撃だと錯覚させて、一本のムチを『地中を進ませて』私の足元に絡み付かせた!?)

 

「そら、よっ!」 

 

 足を取られ空中に大きく振り上げられた響は、そのまま地面に叩きつけられてしまう。

 

「くっ!?」

 

 何とか受け身を取ることでダメージを最小限にした響はそのまま立ち上がろうとしたが、受け身をとった手が地面から離れないことに気付いた。

 

「ここ、さっきの!?」

 

 そこはさっきのフラミンゴのようなノイズが発射したネバネバした液体の広がった地面だったのだ。

 今までのすべての攻撃は響を捉えるこの罠への巧妙な布石だったのである。

 

「取れないし……うご、けない……!?」

 

 脱出しようと力を込める響だが、この「とりもち」の強度は予想以上で動けない。

 

「ごきぶりホイホイならぬ『融合症例ホイホイ』ってか」

 

 響の様子を鎧の少女はあざ笑うと、再びフラミンゴのようなノイズからネバネバした液体が発射される。

 避ける術のない響はそれに直撃し、指一本動かないほどに固められてしまった。

 

「一丁あがり。楽勝だな!」

 

「くっ!?」

 

「それにしても、なんだってこんなやつが必要だって言うんだよ。

 あたし1人でやれるっていうのに……」

 

(……この子、仲間がいるんだ。 多分、私を誘拐しろって言ったのはその仲間でこの子の意思じゃない!)

 

 ブツクサと独り言を言う鎧の少女の言葉で、響は思考を巡らす。

 

「じゃあさっさと行くぞ、融合症例。空の旅にご招待だ」

 

 鎧の少女が杖のような何かをかかげると、あの緑の光が放たれノイズが姿を現す。そのノイズは飛行タイプのものだ。それで動けない響を運ぼうというのだろう。

 近付く飛行型ノイズに、もはや動けない響に為す術はない。

 だが……。

 

「だめぇぇぇぇ!!」

 

「ッ!? 未来!!」

 

「バッ!?」

 

 突然、逃げたはずの未来が手を広げ響の盾になるかのように立ち塞がった。

 響は驚きの声を上げ、鎧の少女は咄嗟にムチを振るい響を運ぼうと未来に接近していたノイズを打ちすえて砕く。

 

「未来、私はいいから逃げてッ!!」

 

「せっかく逃げたのに生身でノイズの前に出てくるとか、バッカじゃねーのかお前! バカの友達はバカの総大将なのか!!

 さっさと安全なところに逃げてろよ!!」

 

 響と、どういうわけか鎧の少女までさっさと逃げろと言うが、未来はそれを首を振って拒否した。

 

「私たちは誓った。『3人で支え合ってどんな苦境も乗り越える』、って。

 それなのにあの時は私だけが安全な場所に逃げた。

 今度もあの時みたいに、響を置いて自分だけが安全な場所にいるなんて、絶対に、絶対に出来ない!

 そんなことしたら、わたしは響や信人の幼馴染と名乗れない!!」

 

 そして一歩も退かないと、鎧の少女を睨み付ける未来。

 

「……チッ、予定変更だ」

 

 鎧の少女は舌打ちすると、だらりと垂らしたムチを振るう。すると、そのムチがバチバチと紫電を纏った。

 

「少しばかしビリッとするけど自業自得だ! しばらくおねんねしてな!!」

 

 そう言ってそのムチが未来に絡み付こうと迫る。

 

「未来っっ!!」

 

 叫ぶことしかできない響。

 その時だ。

 

 

 ブロロロォォォォォ!!!

 

 

 バイクのエンジン音が響き渡る。

 そして……。

 

「未来ッッ!!」

 

 白銀の風が未来に伸びていたムチを断ち切る。

 そしてそこに立っていたのは……。

 

「ノブくん!!」

 

 誰よりも頼れる、白銀の背中だった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 未来に伸びていたムチのようなものをシャドーチョップで断ち切ると、俺は辺りを見渡す。

 未来は無事だ、傷一つない。響はシンフォギアを纏い、何やらノイズの放ったとりもちのようなものにがんじがらめで捕らえられていた。

 

(ノイズを操っている!? ついにクライシス帝国の手先が現れたか!!)

 

 即座にそう判断し、まずは響と未来の救出に専念する。

 

「シャドーフラッシュッッ!!」

 

 俺の腰の黒いベルト『シャドーチャージャー』から、緑色のキングストーンエネルギーが放射された。その光によって響を捕らえていたとりもちのようなものとそれを操るノイズが光に溶けるように消えていく。

 

「ありがとう、ノブくん」

 

 周辺のノイズを消し去り響に手を差し出すと、その手をとって立ち上がりながら響が礼を言ってくる。

 

「『ノブくん』って……まさか信人なの?」

 

 その言葉を聞いていた未来が信じられないという風に呟いた。

 響は自分の失言に『マズい』という顔をするが、響が未来にシンフォギアの秘密を見せた以上、俺も未来に隠し立てする気はなかった。

 

「……すまない、未来。詳しい話は後だ。

 今は……」

 

 そう言って俺はゆっくりと、白い鎧の少女……クライシス帝国の手先の方を向いた。

 恰好や性別からしてクライシス帝国の怪魔妖族大隊所属だろう。

 

「アンタが仮面ライダーSHADOWかい?

 あのムチもネフシュタンの一部だってのにああも容易く断ち切るなんて……聞いてた以上にイカれてるヤツみたいだな!」

 

「どんな話を誰から聞いてるかは知らないが、響や未来を傷つけようとした以上ただではすまさんぞ!!」

 

 俺は拳を握り、構えを取る。

 しかし、その拳が振るわれることはなかった。隣から響が身体で押さえつけるようにして俺の拳を制したからだ。

 

「ダメだよノブくん、相手は人間、しかも私たちと同じくらいの女の子なんだよ!

 それに……さっきだって関係ない未来は巻き込まないようにしようとしてたし、未来がノイズに触れそうになったらノイズを倒してくれた!

 きっと、何か事情があるんだよ!」

 

「同じ人間……?」

 

 言われて、俺は落ち着いて透視分析能力である『マイティアイ』で目の前の鎧の少女を分析することにした。

 その結果だが、マリバロンのようなクライシス人だと思ったがそうではなく彼女は間違いなく『地球人』だ。だがそれ以上に気になる結果が出ている。

 

「お前は……その鎧がどんなものか分かっているのか?」

 

「何だ、お前このネフシュタンの鎧について知ってんのか?

 そうだよ。こいつは無限の再生能力を持つかわりに再生のたびに着たやつを取り込んで、最後には喰い殺す呪われた鎧さ!」

 

 彼女の語った通り、あの鎧は最後には着た者を喰い殺すような代物だ。

 その話を聞いていた響と未来は驚きの後に、痛ましそうな顔をする。

 

「そこまで分かって何故それを着ている?

 そうダメージを受けなくても徐々に鎧に身体を喰われているはずだ。その痛みもおぞましさもあるだろうに……」

 

 俺もその凄惨さに眉を顰めるように問うと、鎧の少女はそれがどうしたとばかりに俺たちを笑い飛ばす。

 

「はんっ! 『痛いか?』だって?

 もちろん痛ぇよ。でもな!

 『痛みだけが人の心を繋いで絆と結ぶ、世界の真実』! あいつはあたしにそう教えてくれた!

 この痛みがあいつとあたしを結ぶ絆だって言うんなら、この痛みすら愛おしい!!」

 

「……そうか、だいたいわかった」

 

 鎧の少女が咆えるのを聞いて、俺は頷く。

 

(なるほど、彼女の裏には何者かが……クライシス帝国の者がいるんだな。

 響の言う通り彼女自身は悪というわけではないかもしれないが、鎧を渡したというクライシス帝国の者に命を救われるような恩義か何かがあるのだろう。だからこそ、その命令を聞いて響に襲い掛かったというわけか……)

 

「……お前は(クライシスに)騙されているぞ」

 

「あたしが(フィーネに)騙されてるって?」

 

「そんな命を蝕むようなものを平気で着せるような者が語る『絆』が、信用できるわけがない」

 

「チッ! テメェもそこの融合症例と同じで甘っちょろいことばっか言って気に入らねぇ!

 でもな、お前が出て来たらすぐに退けって言われてんだ。ここは退いてやるよ!」

 

 そう言って鎧の少女が手にした杖のようなものから緑の光が放たれ、大量のノイズが現れる。

 

「逃がすと思うか?」

 

「ああ、お前や融合症例は甘っちょろいからな!」

 

 俺が身構えると、再びノイズが現れる。それは見たことのないタイプだ。

 まるで巨大なブドウのように球体が身体に大量に着いている。その1つが本体から分離すると、バウンドしながらそれが迫ってきた。

 

「これは!?」

 

 『マイティアイ』でその正体を悟った俺は響や未来の前に出て腕をクロスしてガードの態勢をつくる。

 すると俺の身体にぶつかったその球体が爆発した。あの球体の正体は爆弾だ。

 

「気付いたみたいだな。

 このままあたしを追ってもいいけど、それだとそのノイズが爆弾を一斉発射したらお前らは無事でもそっちの生身の奴は無事じゃすまないな」

 

「くっ!?」

 

 そう言ってその鎧の少女が宙に浮く。どうやらあの鎧には飛行機能も付いているらしい。

 

「じゃあな融合症例に銀ピカ野郎!!」

 

 そう言って鎧の少女は飛び去って行った。後に残ったのは俺たちとノイズだ。

 

「響、未来を連れてすぐに下がってくれ!!」

 

「わかった!」

 

 すぐに響が未来を抱きしめて大きく跳躍する。同時に俺は叫んだ。

 

「バイタルチャージ!!」

 

 キングストーンエネルギーを両足に収束し、跳び上がる。

 

「シャドーキックッッ!!」

 

 シャドーキックがノイズたちの中心に突き刺さり、溢れたエネルギーがノイズたちをまとめて吹き飛ばす。

 ノイズたちを殲滅し終えた俺は、ポツリと呟いた。

 

「しかし……結局あのブドウノイズの爆弾、最後まで爆発させなかったな」

 

 あれが一斉爆発したときの威力はかなりのもので、もしそうなっていたら俺と響が全力で守っても未来が無事だという保証はなかったのでかなり危なかったが、結局あのブドウノイズはほぼ棒立ちで俺に倒された。響の言うように関係のない者は巻き込まないという意識があるらしい。

 

「敵とはいえ話は通じそうだな」

 

 そんなことを考える。だが、今一番考えるべきはそんなことではなかった。

 

「さて……未来に説明をしないとな……」

 

 これからのことを考えて、俺は少し肩を落としながら夜の自然公園を後にするのだった……。

 




今回のあらすじ

393「野生の痴女が現れたと思ったら親友も痴女だった。
    何を言っているのかわからねーと思うが(以下略」

ビッキー「痴女言うな! ここは私に任せて行って!」

393「あ、それ負けフラグ」

キネクリ「楽勝だな!」

ビッキー「超パワーアップした私が負けとか、うせやろ?」

フィーネさん「うーん、この二年アメリカ軍人からの軍事訓練をみっちりうけさせてたけど……普通に強くなってるわね。
       『ちょっとノイズと連携を取る』っていうだけでここまで変わるとは……原作キネクリに足りないのはINTだった?」

キネクリ「これでSHADOWが来る前に撤収を……」

393「ダメェ!」

キネクリ「バッ、お前こんなところで時間喰ってたらあいつが……」

SHADOW「ハァイ、ジョージィ(邪神スマイル」

キネクリ「Oh, Shoot!」

SHADOW「出たなクライシスの怪魔戦士。
    怪魔妖族大隊所属の爆ニュウ鬼!」

キネクリ「おいコラ、今なんつった!」

SHADOW「俺の『マイティアイ』は『透視』分析能力だ。
    この意味が……分かるな?
    あと何の数字か言わんが上から90・57・85だ」

ビッキー「はぁいノブくん、今からそのお目々潰しましょうね♪(ビキビキッ」

SHADOW「MA☆TTE!!
    ストップ! ストップだ響!?」

キネクリ「ここであたしの生存戦略発動!
     名付けて『実はいい人じゃね?ムーヴをして響の気を引き、SHADOWを止めてもらう』作戦だ!!」

ビッキー「実はいい子だと思うから攻撃ダメ!」

SHADOW「くっ、響にそう言われちゃ攻撃できん。
    だがお前、そんなんでいいのか?」

キネクリ「生存、重点!」

SHADOW「あとその鎧、メチャクチャキチってる仕様だぞ。気付いてる?」

????「痛みすら愛おしい!」

ビッキー「あの、これシンフォギアなんでほむらちゃんはまどマギに帰ってもらっていいかな?」

????「ほむぅ……」

キネクリ「というわけで生き残った! あたし生き残った!」

防人「あれ? 私の絶唱顔は? 私の見せ場は?」

奏「それ、『響が絶唱を知らない』をネタにするために無くなったぞ」

フィーネさん「おめでとう。 それじゃ次もよろしく」

キネクリ「(´・ω・`)ショボーン」


ビッキーVSキネクリ第一ラウンドはキネクリさん作戦勝ちでした。
戦いは知性だとキン肉マンスーパー・フェニックスも申しておりますのでキネクリさんはINTを上げてきた次第。

次回は大きな分岐点になる『レーヴァテイン移送作戦』。
次回もよろしくお願いします。


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第14話

 あの後……響と流星を見て、突然現れたノイズとそれを操る鎧の少女と、突然変身した響が戦い出し、挙句に巷で噂される謎のヒーロー『仮面ライダーSHADOW』が乱入し、しかもそれが信人が変身したものだと知らされて。

 そして未来は響や信人と一緒にここ、母校であるリディアン音楽院の地下にあった二課の本部に来ていた。そこで響や信人、そして二課の司令であるという風鳴弦十郎という人物から今までのいきさつを聞いたのである。

 はっきり言って未来の理解力は完全にオーバーフローを起こしていた。そこで少し休憩となり未来は1人、二課の自販機スペースでベンチに座っている。

 未来は自販機で買った紅茶で喉を潤すが、気持ちはまったく落ち着かない。どこから話を整理をすればいいのか分からない。

 憧れのツヴァイウイングは実はノイズを倒す変身ヒロイン、母校の地下には秘密基地、おまけに大切な幼馴染2人も変身してはノイズと戦っているという。

 

「まるでアニメじゃない……」

 

 響と未来の共通の友人の口癖が思わず出てしまうが、アニメだってここまで設定盛り込み過ぎなものも今日日あるまい。

 そんな未来に声が掛けられた。

 

「ここいいかい?」

 

「霞野くん……?」

 

 それは信人の学校の友人として紹介された、霞野丈太郎だった。丈太郎は未来の許可も待たずにコーラを購入するとベンチの隣に腰かける。

 

「ここにいるってことはあなたも……」

 

「ああ、俺は忍者。 信人付きの連絡員ってとこだ」

 

「忍者……」

 

 今度は忍者と来たか。幼馴染2人の変身ヒーロー・ヒロイン設定だけでお腹いっぱいである未来は再び頭を抱える。

 

「何か用なんですか?」

 

「未来ちゃんのことは、前々から信人も響ちゃんもずっと気にしてたからな。

 今はあいつら2人もどんな顔して話すればいいのか分からないみたいだし、秘密がバレてどんな様子かと思ってかわりに様子見に来た」

 

 そう言ってコーラを煽る丈太郎。

 

「……少しはオブラートに包んで隠したらどうです?」

 

「ああ、俺必要なこと以外は忍ばない忍者なんで」

 

 あまりにあけすけな話に呆れる未来に、あっけらかんと丈太郎は答える。その態度にため息をつくと未来はポツリと言った。

 

「……実は私、そんなに怒ってないんです。

 事情を知った今なら、秘密にしなきゃならないことだって分かります。それでも今日響は、『詳しくは言わないけど隠し事してる』ってことを私に告白してくれました。

 どうしても秘密にしなきゃならない中で、響は私に精一杯を伝えてくれたって分かるんです。

 だから、怒ってなんかいません。

 ……まぁ、信人のやつは一度とっちめてやりますが」

 

「あはは……」

 

 『ご愁傷さま』と丈太郎は心の中で信人に合掌する。

 

「私は……今度こそ『3人で支え合ってどんな苦境も乗り越える』、その誓いを守ろうと思ってこの街に来たのに。

 でも2人の抱える秘密は大きくて……何も力になってあげられない自分の無力さが悔しいんですよ」

 

「そうかな? 未来ちゃんは十分すぎるほどに2人の力になってると思うけどな」

 

 そう言って丈太郎は飲み終えたコーラの缶をゴミ箱に投げる。綺麗な放物線を描いて缶はゴミ箱に収まった。

 

「うちは忍者の家系でね。布団で平和に死ねた人間の方が少ないんだ。

 そんな家系だから、『帰る場所』の大切さっていうのは身に染みて分かるつもりだよ」

 

 少し遠い目をする丈太郎。恐らく『布団で平和に死ねなかった人』を思い出しているのだろうと感じた未来は、何も言わずに次の言葉を待った。

 

「あの2人が迷わず戦えるのは未来ちゃんがいる日常を守り、未来ちゃんのいる日常に帰りたいと思うからだよ。

 だから未来ちゃんはそこにいるだけで2人に力を与えているんだ。

 ほら、無力じゃない」

 

「そういうものかな?」

 

「そういうもんさ。

 ほら、あいつらが来たぞ」

 

 言われて見ると、響と信人がこちらにやってきている。

 何をどう話したらいいのか迷っているのだろう、何やらシュンとした様子が叱られた犬みたいだと内心で未来は思う。

 

(そっか……響も信人も私と同じ、『不安』なんだ)

 

 未来は2人が遠くに行ってしまい自分が2人の助けになれないことを『不安』に思い、2人は大きな秘密に巻き込んでしまい未来が離れていかないか『不安』に思っている……それが分かるとスッと胸のつかえが取れたような気分になる。

 

「ありがとう、霞野くん」

 

「なんのなんの」

 

 未来は丈太郎に礼を言うと、そのまま響と信人に合流し続きの話をするために会議室へと歩く。

 丈太郎との話で確かに未来も納得できるところがあった。

 だが……胸の奥底にある想いもまた真実、未来は否定できないでいる。

 

(私は……やっぱりどんなところであろうと2人と一緒に歩みたい。

 私はあの生存者バッシングという『地獄』に2人を置き去りにした。今度こそ、そこが『地獄』の奥底だろうと2人と一緒に……)

 

 

 ドクンッ……

 

 

 その胸に秘めた想いは誰にも聞こえず、しかし、未来の奥底には確実に届いていることを今は誰も知らない……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 どことも知れない湖畔の屋敷、そこに少女の悲鳴が響く。

 少女……響を攫おうと襲い掛かった鎧の少女はまるで磔刑に処される救世主のように十字の拘束具に括り付けられていた。

 周囲には何かが焦げるような嫌な臭いがする。少女には今、その身体に高圧の電流が流されているのだ。

 そして、その電流のスイッチを操っているのは金の髪をした女。

 この拷問じみた行いは『ネフシュタンの鎧』を纏った代償だ。『ネフシュタンの鎧』は驚異的な防御力と再生能力を纏った者に与えるが、じょじょに宿主を浸食しいつか喰い殺すという呪われた鎧だ。その鎧の因子を電流を流すことで休眠状態にし体内から除去する作業なのである。

 電流が止まり大きく息をつく少女に、金の髪の女が話しかける。

 

「まったく……私はあの融合症例を攫って来いと言ったはずよ。

 それが何で手ぶらで帰ってくるのかしら?」

 

「フィーネ……」

 

 少女の呟きを無視するかのように再び電流が流され、少女の悲鳴が再開される。

 その激痛の中で少女は考えた。

 

(あたしは……相手を舐めてかかったりはしなかった。 『融合症例』には驕りも無く、無駄なく勝ったはずだ。

 計画通り、どう急いだってSHADOWが到着する前に『融合症例』のやつを攫えたはずだ。なのに、あたしは失敗した……。

 どこだ? あたしはどこに無駄な時間を使ってSHADOWの到着を許した?)

 

 すると、その原因はすぐに思い至る。

 

(あいつだ、あの『融合症例』の友達だって言う一般人だ。

 あいつの相手をしていた時間のせいで、SHADOWの到着を許しあたしは失敗した……)

 

 安全な場所に逃げるチャンスを捨て、友達のために生身で自分やノイズの前に立ったあの一般人の少女。

 その姿は、鎧の少女にも『友情』という感情を強く意識させるものだった。

 

(『友情』、か……あたしには縁の無い言葉だ)

 

 鎧の少女は、特殊な環境にいたせいで『友情』などという言葉とは無縁の生活を送っていた。

 そんな自分を拾い、行動を共にしている金の髪の女……フィーネは『痛みだけが人の心を繋いで絆と結ぶ、世界の真実』だと教えてくれ、そして鎧の少女はその言葉を信じてフィーネから与えられる痛みを、フィーネとの『絆』と信じて縋ってきた。

 だがそんな特殊な境遇の少女でもあの『何の力もない者が危険に身を晒しながらも友を助けるために命を賭ける』という光景には、『友情』という確かな『絆』を感じたのだ。

 

「まぁ、猪突猛進でまともに言うことも聞けない子だったあなたが、私の命令通りSHADOWが出て来たらそのまま退いたのは大きな成長よね」

 

「……なあ、フィーネ」

 

「……何かしら?」

 

「『痛みだけが人の心を繋いで絆と結ぶ』……そうなんだよな?

 『痛み』と一緒にある『絆』をあたしは……信じていいんだよな?」

 

「……」

 

 その少女の問いに答えはない。

 かわりのように、『これが答えだ』と言わんばかりにフィーネが再び電流のスイッチを入れる。

 

「あああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 再びの痛みに響く少女の悲鳴。それはしばらく止むことはなかった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 あの鎧の少女との戦いの後、俺と響、そして未来はすぐに二課へとやってきた。色々な秘密を知ることになってしまった未来への事情説明のためだ。

 色々秘密にしていたことが未来にバレて未来がどういう反応をするか俺も響も戦々恐々としていたのだが未来は特に変わらず、俺や響の心配をしてくれる。

 秘密のせいで俺たち幼馴染の間に亀裂が入ることだけは俺も響も絶対にいやだった。もしかしたら今回のことで距離が離れてしまうのではと危惧していたので、本当に助かった。ただ、俺のことは「ゆ゛る゛さ゛ん゛っっ!」らしく、随分高い焼肉を奢らされたが。

 ああ見えてかなり健啖な未来とどういうわけなのかちゃっかり一緒にやってきた響とが遠慮なく飲み食いしたせいで、最近やっと免許を取り新車で買ったバイクと合わせて今月は高校一年生とは思えない出費をすることになってしまった。まさに『オデノサイフハボドボドダ!』という状態なのだが、まぁ俺たち幼馴染の友情のためと思えば安いものである。こうして未来は秘密を知る『民間協力者』となることになった。

 それからしばらくはノイズも現れず世界は平穏だが、二課にとっては考えなければならないことはいくらでもあった。

 

 まずはあの鎧の少女。

 あの鎧は『ネフシュタンの鎧』といい、何とあの忘れもしない2年前のライブの時に盗まれたものだったらしい。あのライブが実は『ネフシュタンの鎧』を起動させるための実験だったという裏を初めて知り、俺も響も複雑な心境である。とにかく、その時に何者か……恐らくクライシス帝国の者に奪われたのだろう。そしてそのクライシス帝国の者に恩義のあるあの少女が『ネフシュタンの鎧』を纏い、何かしらの目的で響の身を狙ったのだ。

 そしてその鎧の少女が発した響を指す『融合症例』という言葉……これは聖遺物と人が融合出来るということが周りに知られてしまえば、様々な国で人体実験が起こりそうだということで堅く隠されていた言葉だ。

 とにかく『ネフシュタンの鎧』の存在と、『融合症例』という言葉を知っていること……このことから、二課の中に敵に通じる『内通者』がいるのではないかという結論に至り、二課内部には緊迫感が漂っていた。

 そんな中、緊急事態が起こる。二課を裏から支えてくれていた広木防衛相が暗殺されたのだ。

 

 これらの動きから敵の狙いは二課に保管されているサクリストL……完全聖遺物『レーヴァテイン』の強奪であると政府は結論付け、その移送が行われることになりその護衛には奏・翼・響の3人のシンフォギア装者と俺がつくことになったのだ。

 

「防衛大臣殺害犯を検挙する名目で、検問を配備。移送先である記憶の遺跡まで、一気に駆け抜ける。

 護衛車四台の内二台に奏と翼が一人ずつ、そして響くんは了子くんの車に乗ってもらう。

 『レーヴァテイン』を積んだ了子くんの車を中央に、前方に翼が乗った車を、後方に奏が乗った車を、そして護衛車の後を信人くんがバイクで追従する。

 俺はヘリで上空から警戒に当たる」

 

「名付けて、天下の往来独り占め作戦!」

 

 それから割り振られた配置通り、俺は最近納車されたばかりのバイクに乗り込む。

 どこぞの(SAKIMORI)が大量に持ち込んだバイク雑誌の中で気に入った、タフな旅に耐えるための条件を総合的に満たしたアドベンチャーツアラーと呼ばれるタイプのバイクだ。時間ができたらツーリングで遠出をしたいと思って選んだバイクである。

 やがて車列が動き出し、俺もそれを追う。

 車列は進み、都市部とを繋ぐ橋に差し掛かった所で俺は嫌な予感がした。

 途端、それが即現実となって車列前方のアスファルトにヒビが入り地面が割れて、橋の一部が崩落する。その穴を避けきれず、翼の乗った先頭車両が穴から落ちていった。

 

「翼ッ!」

 

 思わず俺は叫ぶが、落下する車両に亀裂が走ったかと思うと、シンフォギアを纏った翼が一緒に乗っていた搭乗員を抱えて跳ぶ。

 翼の無事にホッと息をついたところで俺も叫んだ。

 

「変身ッ! バトルホッパー!!」

 

 俺がSHADOWに変身すると同時に、呼び出したバトルホッパーがバイクに取り着いて変形する。そのままバトルホッパーをジャンプさせて穴を回避、俺は前の車両を追った。

 その俺の目の前で今度は奏の乗っていた車が宙を舞っていた。翼と同じようにシンフォギアを纏って搭乗員を連れて脱出する奏。

 

『ノイズだ! ノイズは下水道を使って攻撃を仕掛けてきている!!

 奏と翼はそのままノイズの迎撃に当たれ!!

 そして……』

 

 弦十郎司令(おやっさん)からの指示は輸送の続行、敵が『レーヴァテイン』を確保したいというのならそれを逆手に取り敢えて危険な薬品工場に逃げ込むことで、攻め手を封じるという作戦だ。弦十郎司令(おやっさん)らしい、思い切りのいい作戦である。

 だが、その予想とは裏腹に薬品工場にはノイズが、そしてあのネフシュタンの鎧の少女が待ち構えていた。

 

「融合症例!!」

 

 ノイズによって横転させられた了子の車の後部がネフシュタンの鎧から伸びるムチによって切り裂かれる。

 そのままムチが『レーヴァテイン』の入ったケースを掴み取りそれを一気に引き寄せようとするが、そこにバトルホッパーから飛び降りた俺が降り立った。

 

「シャドーチョップ!!」

 

 空中で繰り出したシャドーチョップによってネフシュタンの鎧からのムチが切り裂かれ、『レーヴァテイン』の入ったケースが大きく吹き飛ぶ。

 

「ちぃ!」

 

 ネフシュタンの鎧の少女が即座にケースの確保に向かい、俺もそちらに向かおうとするが……。

 

「私が行く! ノブくんは了子さんを守って!!」

 

 横転した車から這い出た響がシンフォギアを纏うと、そのまま俺の返事を待たずに一足飛びにノイズの群れを飛び越えて行った。後には大量のノイズが、横転した車を囲んでいる。こうなれば俺がここで守らなければ、了子さんはノイズの餌食になるだろう。

 響と同じく横転した車から這い出してきた了子さんを背に守り、俺はノイズへと構えをとったのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「とぁぁ!!」

 

 飛び出した響は、『レーヴァテイン』の入ったケースの確保に向かったネフシュタンの鎧の少女へと空中から突き刺すようなキックを放つ。

 響の纏うガングニールの腰辺りにあるブースターが点火、爆発的な推進力を持ってネフシュタンの鎧の少女に迫る。

 

「ちょっせいっ!」

 

 ネフシュタンの鎧の少女は身を翻して距離をとり、同時にムチを響へと振るう。

 空中で響のキックとネフシュタンの鎧のムチとがぶつかった。その衝撃をそのままに地面を削るように着地すると、響はネフシュタンの鎧の少女と相対した。

 

「こんなことやめて! 話をしようよ!!」

 

「またそれかよ、融合症例!

 でもな、今日のあたしは『レーヴァテイン』を持ってこいって言われてるんだ。

 お前の相手なんざ二の次だ!!」

 

 そして戦闘の態勢に入るネフシュタンの鎧の少女に、響も迎撃の態勢に入る。

 その時だ。

 

「こ、これは!!」

 

「なんだ!!」

 

 ケースが突如として吹き飛び、その中に収められていた『レーヴァテイン』が飛び出して空中で静止した。

 刃渡り120cmほどの両手剣(ツーハンデッドソード)だ。柄の辺りに小さな紅い宝玉のようなものがあるのが目を引く特徴である。

 その剣からは、禍々しさを感じさせる紅い光がにじみ出ていた。

 

「こいつが『レーヴァテイン』か!」

 

 『レーヴァテイン』を確保しようと跳び上がるネフシュタンの鎧の少女。

 

「渡すものかっ!!」

 

「ぐっ!!」

 

 だがコンクリートの地面を踏み抜く勢いで跳躍した響がそのままネフシュタンの鎧の少女に体当たり、その隙に響が『レーヴァテイン』の柄を掴む。

 その瞬間だった。

 

 

―――チガウ

 

 

(えっ? 何これ?)

 

 戸惑う響をよそに、頭の中に何かの声が響く。

 

 

―――チガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウチガウ!!

 

 

―――ニタニオイ!デモチガウ!!

 

 

―――オマエジャナイ!!

 

 

 そして、響の意識は濁流のごとく押し寄せた黒い何かに塗りつぶされた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ゾクリッ!!

 

「ッッ!!?」

 

 まるでつららを背中に突きこまれるような悪寒が走った。

 同時に、周囲のノイズたちがすべて俺にわき目も振らず一斉に矢のように飛んでいく。

 その先には、紅い光の柱のようなものが立っていた。

 

「まさか……『レーヴァテイン』が起動した!?」

 

 了子さんの言葉に、俺は全速でその場所へと走った。

 そしてそこで待っていたのは……。

 

「アアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 『レーヴァテイン』と思われる剣を振り上げ、獣のような雄たけびを上げる響の姿だった。

 天高く禍々しい紅い光の刃が立ち上っている。響の目は紅く輝き、理性がないことは明白だった。

 

「響ッッ!!」

 

「アアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 俺の呼び掛けにも、答えるのは響から飛び出したとは到底思えない獣の咆哮だ。

 

「そんな力を……見せびらかすなぁぁぁ!!」

 

 ネフシュタンの鎧の少女が、周辺のノイズたちをまるで弾丸のように突撃させるが、ノイズたちは一体たりとも響に届くことなく紅い光によって崩れ去る。

 その攻撃に、暴走した響の視線がネフシュタンの鎧の少女に向いた。

  

「ひッ!」

 

 響から放たれる圧倒的かつ絶対的な殺気。それを本能的に感じただろうネフシュタンの鎧の少女からわずかに悲鳴が漏れた。

 ネフシュタンの鎧の少女に狙いを定めた響が、『レーヴァテイン』を振り下ろそうとするのを見て、俺はネフシュタンの鎧の少女の前に躍り出る。

 

「銀ピカ野郎、何のマネだ!?」

 

「響を人殺しに出来るか! さっさと逃げろ!!」

 

 俺のその言葉に、ネフシュタンの鎧の少女が弾かれたように飛び去って逃げていく。

 だがこのまま何もしなければ、『レーヴァテイン』の紅い光の刃はネフシュタンの鎧の少女へと届くだろう。

 

「エルボートリガー、フルパワー!!

 バイタル、フルチャージ!!」

 

 俺は叫びエルボートリガーを全力で起動、キングストーンエネルギーすべてを防御へと廻すと、腕をクロスしてガードを固める。

 そんな俺が感じていたのは、紛れもない『恐怖』だった。

 

(……怖い。 怖くてたまらない!?)

 

 確信を持って言える。あの一撃は俺を、『シャドームーンを明確に殺せる』一撃だ!?

 

「アアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

「響ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 そして、響が『レーヴァテイン』を振り下ろした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……あれっ?」

 

 響が目を覚ます。頭がボーッとして、すべてが霞がかったようだ。

 シンフォギアもすでに纏っておらず、元のリディアン音楽院の制服姿である。

 

(何かが……頭の中が何かに塗りつぶされるようになって、全部吹き飛ばせと思って……)

 

「……響……大丈夫か?」

 

「ノブくんッ!!」

 

 すぐ近くから聞こえた幼馴染の声に、響は飛び起きる。

 SHADOWは響の目の前に立っていた。だが、どこか様子がおかしい。

 SHADOWの両腕は力なくダランと垂れ下がり、そして顔はうつむき加減で猫背気味の前傾姿勢で立っている。

 そして……。

 

「えっ……?」

 

 SHADOWに『線』が入っていた。その『線』はSHADOWの右肩から腰の中央……黒いベルトの中央の緑の輝きにかけて斜めに『線』が入っている。

 いや、これは『線』ではない。

 これは……『傷』だ!

 

「う、おおぉぉぉぉぉ……!?」

 

 響が『傷』を認識した瞬間、耐えられぬとばかりにSHADOWの『傷』から小さな爆発のように火花が散る。

 そして……腰の黒いベルトからひと際大きな爆発が起きるとSHADOWはガクリと片膝をついた。

 ベルト中央の緑の輝きが悲鳴を上げるように弱々しく点滅を繰り返す。

 

「ぐ、うぅ……」

 

「ノブくんッッ!?」

 

 そしてSHADOWの姿から信人の姿へと戻るとそのまま倒れ込みそうになり、慌てて響がそれを支える。その響の手にヌルリと、生温かい感触が触れた。

 

「えっ……?」

 

 呆然と響が自分の右手を見ると、そこはべったりと赤く濡れている。

 それが信人の血だと気づいた響は絶叫した。

 

「いや……いや……いや……!

 いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 ノブくん! ノブくんっっ!!」

 

 信人の名を泣き叫びながらその身体を抱きしめる響。だが信人からの返事はない。

 

「誰か! 誰かぁ!!

 ノブくんを、ノブくんを助けて!!

 誰かぁぁぁ!!!」

 

 戦いの終わったその場所に響の慟哭がこだまする。

 

「……フフッ」

 

 その様子を了子だけが、どこか恍惚とした表情で見つめていた……。

 




今回のあらすじ

ジョー「怒ってるん?」

393「響は隠し事してること自体は教えてくれたし許す。信人はゆ゛る゛さ゛ん゛!!」

SHADOW「やっぱ響は流星見に行かせて正解だったな。代わりに俺が死にそうだが」

キネクリ「あたしはバカには勝った。だが393に負けたのだ!」

ビッキー「こういう、『一見なんの効果もないと思っていたキャラの精一杯が、廻り廻って強敵を倒す一手になっていた』っていいよね」

奏「ちなみに作者的にそういうシーンで最高に好きなのは、からくりサーカスの『アルレッキーノ』と『パンタローネ様』らしいぞ」

防人「うむ、特に『パンタローネ様』の辺りは神。基本的にアニメ版にブチ切れていた作者も、暇乞いからのニッコリーネ様まではよくぞ映像化してくれたと大絶賛だ」

キネクリ「作者的には今回のあたしの負けは、空の境界の『荒耶宗蓮』の敗北をイメージしたらしいぞ」

SHADOW「オデノサイフハボドボドダ!
    やっとバイク買ってバトルホッパーをバイクから変形させられる!」

防人「ちなみに月影のバイクは『スズキ Vストローム250』のつもりらしい。これの新車にトップケース・サイドケースのオプション全部乗せ……明らかに高校一年生がする出費ではないな」

SHADOW「BLACK基本だから、スズキ車からは離れられなかったよ。これで旅にでも出たら乾巧っぽいな」

キネクリ「レーヴァテインをこっちにYOKOSE!」

ビッキー「私もーらい!」

レーヴァテイン「お前違う! 暴走しる!!」

ビッキー「アンギャァァァァ!!」

SHADOW「闇落ちのプロ、響さんの暴走コンボだぁぁ!
    このままだと響がキネクリ殺しちゃうし盾になるぞ。
    まぁ、シャドームーンボディだし大丈夫大丈夫……」

ビッキー「ズンバラリン!」

SHADOW「アイエェェェ!? ナンデ、死にかけの大ダメージナンデ!?
    あれヤベェ! マジでヤベェ!?」

奏「おいおい、シンフォギア名物の病院送りが誰も来ないと思ったら……」

防人「まさかその第一号が月影だとは……」

フィーネさん「やたーーーっ!
       なにこの超強い完全聖遺物。レーヴァテインくんサイッコーーー!
       これ手に入れたらもうSHADOWなんて楽勝、私の勝ち確じゃないの!
       あはははは! 勝ったな、風呂入ってくる!!」

キネクリ「……なんか嫌な予感しかしてこねぇんだけど」

防人「……奇遇だな、私もだ」

キネクリ「デュランダルを無かったことにしてまで投入した呪われた『魔剣』……。
     説明する中の色んな所で出てくる『紅い』ってワード……。
     で、『シャドームーンを明確に殺せる』ような力……。
     なぁ、レーヴァテインの正体ってもしかしてサ……」

防人「それ以上は言うな! フィーネがショック死するぞ!!
   夢を見続けることがファンタジーだ、勝利の希望の夢を見させてやれ」

奏「まぁ、真実知った瞬間が死ぬ瞬間だと思うけどな」

キネクリ「(`;ω;´)ゞ 」


393のほうは流星デートのおかげで精神的に安定しました。
覚醒したレーヴァテインで信人が大ダメージを。
凄いですねー、何なんでしょうねー、レーヴァテインって(棒

次回もよろしくお願いします。


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第15話

 その日は夕方あたりから冷たい雨が降り出していた。

 

「嫌な雨……」

 

 寮の自室でお茶を飲みながら何となくそれを眺めていた未来がポツリと呟く。その時、来客を告げるインターフォンが鳴った。

 

「こんな時間に誰?」

 

 訝しみながら未来はドアスコープを覗き込む。

 すると……。

 

「響!」

 

 ドアスコープ越しにいたのは響だった。

 即座に未来がドアを開けると、その姿に未来は目を見張る。響は雨に打たれずぶ濡れだったのだ。

 

「どうしたの響!」

 

 ただ事ではないことを感じ取った未来は問う。そんな未来に、響はうつむきながらポツリと言った。

 

「……未来、入っていいかな?」

 

「わかった。 とにかく入って、響」

 

 未来は響を自室に招き入れるとすぐにタオルを持ってきて響の身体を拭くが、響は為すがままで動こうとしなかった。

 

「一体何があったの、響?」

 

 本格的に様子がおかしい響に、未来が再度問う。

 響は答えない。しかし未来は辛抱強く響の言葉を待つ。

 そしてどれだけか時間がたったころ、ようやく響は絞り出すような小さな声で答えた。

 

「ノブくんが……大怪我を……」

 

「信人が!?」

 

 響から告げられたその衝撃的な言葉に、未来も顔を青くする。

 

「ノイズ!? それともこの間の鎧の女の子にやられたの!?」

 

 未来は信人が巷で噂の『仮面ライダーSHADOW』の正体だと知っている。だから信人の怪我の原因になりそうなものを咄嗟に上げた。

 しかしその時、うつむいていた響からボロボロと涙がこぼれる。そして続けて響から発せられたのは衝撃的な言葉だった。

 

「違う……違うの未来……!

 私が……私がノブくんに大怪我をさせたの!!」

 

「響が……信人を!?」

 

 そんなバカな、響が信人を傷つけるなんてそんなことあり得るはずがない……未来は咄嗟にそう思うが、響の様子は決して冗談や間違いのようなものではなかった。

 

「うっ……ああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 そして響は跪いて、未来に縋り付くようにして泣き始める。

 未来は何がどうなっているのかひどく混乱しながらも、震える響の肩を優しく抱きしめた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 どことも知れない湖畔、その桟橋で少女は1人湖を眺めていた。

 彼女はあのネフシュタンの鎧の少女だ。今はネフシュタンの鎧ではなく、女の子らしいごく普通の服を身につけている。

 その彼女が考えるのは、この間の『融合症例』のことだ。

 

(『完全聖遺物』の起動には相応のフォニックゲインが必要だとフィーネは言っていた。

 あたしは『完全聖遺物』の『ソロモンの杖』を起動させるのに半年かかずらった。でもあいつはそれを目の前であっという間に成し遂げた。

 それだけじゃない、『レーヴァテイン』の力を無理矢理でもブッ放して見せた……)

 

 『レーヴァテイン』から放たれるあの圧倒的な力を持つ紅い光を思い出し、身震いする。あれは完全に『ネフシュタンの鎧』の力を超えていた。

 

「化け物め……!」

 

 思わずそんな言葉が口に出る。

 

「このあたしに捕獲を命じるほど、フィーネはあいつにご執心ってわけだ」

 

 目を瞑り、思い出すのは忘れることのできない幼い頃の思い出。

 紛争地帯で両親を目の前で殺され、奴隷として売られて過ごした日々。それを抜け、やっと縋り付く相手が見つかったというのに……。

 

「そして、またあたしは一人になるってわけだ……」

 

 あの『融合症例』がここにやってきたら、自分はフィーネにとってもういらなくなる……そんな不安が胸を締め付ける。

 そんな彼女の背後に、人影が現れた。金の髪の女……フィーネだ。

 フィーネを前に、彼女は生来の強気さで不安を振り払うように宣言した。

 

「わかってる、自分のやるべきことぐらいは。あいつを叩き潰してここに引きずってくる。

 あいつよりもあたしの方が優秀だってことを見せてやるよ!

 そして……あたし以外に力を持つ奴は全部この手でぶちのめしてやる!!

 あの『融合症例』も、他の装者も、それにあの『仮面ライダーSHADOW』もな!!」

 

 少女は手にしたノイズを操る杖のようなものをフィーネに投げよこすと、ネフシュタンの鎧を展開し飛び去った。

 そんな少女の後姿を見ながら、フィーネはポツリと呟く。

 

「……そろそろ潮時かしらね」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 目が覚めると、見たことのない真っ白な天井が広がっていた。

 自室とも学校とも二課とも違うその天井にここはどこだと顔を巡らすと、俺にいくつものコードが繋がっておりベッドの横の機械に繋がっている。

 

「ああ、これドラマでよく見る、死んだらピーって鳴るアレだ……」

 

 心電図モニターを見て、俺はここが病院なのだと理解する。子供のころからキングストーンのおかげで病院に縁がなかったため、これが病院初体験だ。

 そんなことを考えていると、俺が目が覚めたことを気付いたのか医者や看護師たちが慌ただしく部屋に入ってきて機器をチェックしたり様子を聞いてくる。俺はその問いに静かに答えながら時間が過ぎ、医者や看護師がいなくなった辺りで弦十郎司令(おやっさん)が病室にやってきた。

 

「無事か、信人くん!!」

 

「ああ、人生初の病院を楽しんでるよ」

 

「……そんな冗談が言えるなら大丈夫そうだな」

 

 俺の答えに苦笑すると、弦十郎司令(おやっさん)はベッド横の椅子に座る。

 

「君は何が起きて自分がここにいるか、覚えているか?」

 

「ああ、大丈夫。全部覚えてるよ」

 

 俺はあの『レーヴァテイン』輸送の時、『レーヴァテイン』を手にして伝承通り狂戦士(バーサーカー)状態となった響の一撃を受けて倒れたのだ。

 

「『レーヴァテイン』はあの後……」

 

「起動したことで輸送計画は中止。 回収されて二課本部に戻された」

 

「そうか……それで弦十郎司令(おやっさん)、俺はどのくらい寝てたんだ?」

 

「丸2日だ。 本来なら1週間は生死の境を彷徨うような大けがのはずなのに驚異的な回復力だと医者が驚いていたぞ」

 

(2日か……随分遅いな)

 

 俺は弦十郎司令(おやっさん)の言葉を聞きながら心の中で呟く。

 今まで長く戦ってきたが、回復までこんなにかかったことはない。

 いや、今も回復などしていない。胸から腰にかけた傷は未だに激痛を発し、包帯にも真新しい血が滲む。

 だがそれも仕方がないだろう。何故なら……今俺は力の源であるキングストーンそのものが損傷しているのだから。

 

 響の『レーヴァテイン』の一撃は、俺の力の源であるキングストーンを大きく傷つけていた。

 今キングストーンはその傷を治すべく、その力のほとんどすべてを自己修復にあてている。そのために俺の身体の傷を治すために力を振り分けられずに、未だ俺は病院のベッドに寝ているというわけだ。

 感覚的に自己を分析すると、SHADOWへの変身は可能だろうことがわかる。だが万全の状態の、4分の1も力が出るかどうか怪しいところだ。

 キングストーンの自己修復が完了するまではこの状態が続くだろう。

 

 『レーヴァテイン』は、思い出すだけで寒気のする力だった。

 あの時俺はエルボートリガーをフルパワーで起動させ、さらにバイタルフルチャージですべてのキングストーンエネルギーを防御に振り切った全力の防御を行った。だというのに『レーヴァテイン』の紅い光の刃はSHADOWの強固な装甲『シルバーガード』を突き破り俺に大ダメージを負わせ、キングストーンまで大きな傷を負わせたのだ。

 

(なるほど、クライシス帝国の連中が狙うわけだ。

 あれをもし制御して使えるようになったら、シンフォギアじゃ防御すらできない。俺も今度こそやられるだろう……)

 

 『レーヴァテイン』の脅威に改めてクライシス帝国に渡すわけにはいかないと決意を固める。同時に俺は『レーヴァテイン』の力に、何かを感じていた。

 

(だが『レーヴァテイン』のあの力……俺は何か大切なことを忘れているような気がするんだが……これは何だ?)

 

 しかし俺はそんな思考を端において、一番重要なことを聞いた。

 

「それで弦十郎司令(おやっさん)……響は?

 『レーヴァテイン』のせいであんな状態になったんだ。何か異常があったりはしないのか?」

 

「あの後、すぐにメディカルチェックを受けさせたが異常はなかった」

 

「そうか……よかった」

 

 俺はホッとして胸をなで下ろす。

 だがそんな俺に弦十郎司令(おやっさん)は苦い顔で首を振る。

 

「響くんは確かに異常ない。だがそれはあくまで身体面での話、心の方は別だ。

 あのあと信人くんと響くんを見つけた時、彼女は泣き叫び半狂乱の状態だった。

 駆け付けた奏と翼の声も届かず、結局は鎮静剤を打って無理矢理に眠らせるしかない状態だった……。

 君を……大切な幼馴染を危うく自分の手で殺しかけたんだ。 響くんの受けたショックはどれほどのものか……」

 

 すると弦十郎司令(おやっさん)は椅子を立つと俺に深々と頭を下げた。

 

「すべては君や装者のような、本来我々大人が守らなければならない若者を戦場に出さなくてはならないという俺たち大人の不甲斐なさが原因だ。本当にすまなかった」

 

「おいおい、弦十郎司令(おやっさん)……頭を上げてくれよ」

 

 俺は弦十郎司令(おやっさん)の姿に、少し困りながら頬を掻く。

 

「今回のことは、俺が好きでやったことなんだ。

 それで、ただ単純に自分の力を過信してしっぺ返しを喰らっただけだ」

 

 あの時、暴走した響は完全にあのネフシュタンの鎧の少女を殺そうとしていた。そして『レーヴァテイン』の攻撃はそのままなら、ネフシュタンの鎧の少女を殺してしまっていた。だから俺は響を人殺しにしないために盾となって『レーヴァテイン』を防いだのだ。

 あの、まるで大輪の向日葵のような響の笑顔、それが曇ることなど俺は決して許せない。もう一度同じ状況になったとしても、俺は迷いなく同じ行動をとるだろう。

 『レーヴァテイン』の攻撃を防ぎきれなかったのはひとえに俺の未熟さ故、響や弦十郎司令(おやっさん)、それにあのネフシュタンの鎧の少女すらも責める気など毛頭ない。

 だが……。

 

「響に、会いたいな……」

 

 ただ、無性に響の顔が見たかった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「「……」」

 

 響と未来は互いに一言も話さず、歩いていた。

 未来はチラリと響の顔を見るも、うつむき加減の響が今どんな表情なのか窺い知ることはできない。

 

 

 あの後……未来の部屋にやってきて泣き叫ぶ響が落ち着くまで待って、未来は詳しい話を聞いた。

 聞けば任務で『呪いの魔剣』のようなものを運んでいる最中あの鎧の少女が襲ってきて応戦、そこで盗れまいとその『呪いの魔剣』を掴んだ瞬間その呪いのようなものに意識を乗っ取られて暴れまわり、止めに入った信人をその剣で思いっきり斬りつけてしまったそうだ。

 話を聞いた未来としては、悪いのはその『呪いの魔剣』であって響に非はないと思うが、実際にそれを体験した響にはそんな言葉はなんの慰めにもならなかった。

 

「ノブくんがこのまま死んじゃったら私……私!」

 

 頭から離れない信人の血の感触と匂い……そしてそれを為したのが他ならぬ自分だという事実が響を責め苛む。

 

「大丈夫、あの信人がこんなに響を泣かせてそのままになんてするはずない。信人はきっと大丈夫だから」

 

「未来ぅ……」

 

 その日はそのまま響が泣き疲れて眠るまで傍にいた。

 翌日も響の様子は変わらず、部屋の隅で座り、俯くだけで何もしない。そしてたまに思い出したように啜り泣く。こんな状態の響を1人にしておけるわけもなく、響と未来はそのまま学校を休んだ。

 そんな状況が動いたのはついさっき、信人が目を覚ましたという連絡が入ったのである。

 そして2人は信人のいる病院へと向かっていたのだった。

 

 

 ついに響と未来は信人のいる病室の前までやってきた。

 響がそのドアに震える手を伸ばそうとするが、しばらくしてその手が力なく垂れ下がる。

 

「……やっぱり私、ノブくんに合わせる顔がない!」

 

 そう言って去ろうとする響の手を、未来が掴んだ。

 

「ダメ……絶対に行っちゃダメ。

 何となく感じるの。 ここで響が信人に会わないと、響は幸せになれないって」

 

 未来は胸の奥底から湧き上がってくるような『直感』が、ここで響を行かせてはならないと警鐘を鳴らしている。

 今この瞬間こそが響・未来・信人の幼馴染3人の関係の『分水嶺』、そう強く感じた未来は響を抱きしめた。

 

「大丈夫、きっと大丈夫だから。

 さぁ、一緒に信人に会おうよ」

 

「……うん」

 

 そして2人は意を決して、病室のドアを開けた。

 そこには……。

 

「よっ、2人とも」

 

 病室のベッドの上にはいつもと変わらない、2人のよく知る信人の姿があった。

 

「ノブ……くん……!」

 

 その姿を見た瞬間、響は泣きながら信人に抱きついた。

 

「よかった、よかったよぉ!

 ごめんなさい、ごめんなさいノブくん!」

 

「響……」

 

 そう言って涙を流す響の頭を、信人が優しくなでる。

 その光景に、未来は自分の選択が正しかったことを悟ったのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 俺の病室に、響と未来がやってきた。

 響には目を合わせた途端に抱きつかれて泣かれ、未来も涙を浮かべよかったと言ってくる。どうやら随分と心配をかけたらしい。

 だが、響の場合はそれだけじゃないだろう。

 俺と話をしているときも、響はどこかぎこちない感じがしている。響のあの大輪の向日葵のような輝く笑顔に影が差しているのが分かった。多分、俺を殺しかかったとか自己嫌悪に襲われているのだろう。

 あれは呪われた魔剣『レーヴァテイン』と俺が未熟だったことが原因だ。響を責める気は毛頭ない。

 そのことを少し落ち着いて話をしたいところなのだが……俺がそう思った時だった。

 

「さて……私はちょっとトイレに。 あと飲み物とか買ってくるね」 

 

「えっ、未来……!」

 

 突然部屋を出ようとする未来に響が戸惑いの声を上げるが、未来はそのまま部屋を出て行ってしまう。

 去り際、俺に向かって未来は目配せをしてきた。どうやら俺が響と2人で話したいというのを察したようだ。

 よくできた幼馴染に内心で感謝しながら、俺は響の方を見る。

 すると響はうつむき加減のまま、少しずつだが話し始めた。

 

「その……ノブくん、ごめんなさい……。

 私……あの時はもう少しで取り返しのつかないことをするところだった……」

 

「あれは『レーヴァテイン』のせいだし、怪我も自分の責任だ。

 響が気に病むことじゃないよ」

 

「ううん、それでもノブくんに大怪我させたのは紛れもなく私だよ。

 それでね……私、考えたんだけど……」

 

 そこで一度言葉を切り、響は意を決するように言った。

 

「シンフォギアの装者を……やめようかと思ってるの」

 

 そんな響の言葉が、病室に響いた……。

 




今回のあらすじ

ビッキー「未来、入ってもいいかな?」

????「ほむぅ!!」

ビッキー「いや、だからこれシンフォギアなんでほむらちゃんはまどマギに帰ってね。まぁ、このシーンのイメージは完全にまどマギの最終回直前のほむほむの家に行くまどかのシーンだけど」

393「どうしたの響?」

ビッキー「私、ノブくんに大怪我させちゃったぁぁ!!」

393「落ち着いて響(ああ、響の涙ペロペロッ!響の涙うめぇ!)」

奏「シリアスシーンでクソレズはNGな」

キネクリ「やばー、このままだとあたしお払い箱だわ。今度こそ勝たないと」

防人「後が無くなった状態でヒーローを襲撃した悪役が勝ったことなんて見たことないんだが……」

SHADOW「人生最初の入院生活はっじまるよー! つーか、戦闘力が4分の1になってるとか……バッタ怪人にも負けないか、それ?
    それにしてもレーヴァテインって何か変な感じがするんだよなぁ。どこかで知ってるような……」

OTONA「レーヴァテインの移送は中止。本部で預かることになったぞ」

SHADOW「ああ……無性に響の顔が見たい」

ビッキー「ちょっとショックが大きすぎて、私普通の女の子に戻ろうと思いまぁす!」

奏「……普通? ああ、『腐痛』ね。腐って痛いって意味で。
  なに、腐女子になるの?」

防人「用水路走って渡り、ビルの壁をキッククライムできるような、ゴリラゴリラみたいな能力の持ち主が『普通』とか激しくワロスwww」

ビッキー「よしそこになおれ先輩ども。呵責なく加減なく温情なく全力でぶちのめすから……キネクリちゃんが」

キネクリ「ファッ!?」


次回はシリアスから一転、カオス度当社比200%のキネクリ最終戦の開始です。

次回もよろしくお願いします。


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第16話

 病室にやって来た響から飛び出したのは、衝撃的な、そしてある意味では真っ当な話だった。俺はその言葉を飲み込むようにひとつ頷くと、響に尋ねる。

 

「……何でシンフォギアの装者をやめようと思ったのか、聞いていいか?」

 

響は俯きながら、ゆっくりと答えた。

 

「ノブくんを大怪我させたとき、私は『全部壊れちゃえ!』って思って剣を振り下ろしてた。

 ノブくんがいなかったら私、あのネフシュタンの鎧の女の子を殺してたかもしれない。

 『怖い』んだ……シンフォギアの力でまたノブくんを、それに他の誰かを傷つけちゃうんじゃないかって……」

 

「なるほどな……」

 

 俺は納得できる話に、大きく頷いた。

 至極もっともな話だ。そもそも、大きな力を持ったからと言って『はい戦います』と昨日まで普通の日常を過ごしていた人間が、いきなり戦場に出れるという今までの響がある意味では『異常』だったのだ。その異常性と危なっかしさは、以前翼に指摘された通りである。

 しかし……。

 

「でもさ……響は目の前でノイズが現れて、ノイズを倒す力を持っていながら人助けを止められるのか?」

 

「それ……は……」

 

 俺の言葉に響は口ごもる。

 響は『趣味が人助け』と言ってしまえるくらい善良な人間だ。仮にシンフォギア装者を辞めたとしても、その気質は変わらないだろう。そこからただ単純に『力』だけ無くしたとしたら、『ただの無鉄砲』が完成するだけだ。

 それに現実問題としてあのネフシュタンの鎧の少女の件もある。

 彼女、そしてその背後にあるであろうクライシス帝国は響の身柄を欲していた。そんな状態で響が戦う力を失うのは危険すぎる。

 

 ……いや、本音を言おう。俺は、『シンフォギアを纏って戦う響』が嫌いではないのだ。

 だから、俺は思ったままのことを口にする。

 

「……なぁ、響は初めてシンフォギアを纏った時のことは覚えてるか?」

 

 頷く響。たった一ヶ月少々前の話だ、もちろん忘れてなどいないだろう。

 

「その時の響は、誰かを傷つけようなんて思ってなかった。ただ純粋に『守りたい』と思って戦ったのを俺は知ってる」

 

 迫るノイズの恐怖に泣く幼い少女を抱きかかえ、その命を守り抜くために拳を握りしめていた響。

 その姿は、俺にも鮮明に焼き付いている。

 

「シンフォギアは、響の歌は誰かを傷つけるためのものじゃない。響の手は誰かを傷つけるためじゃない、誰かの手をとり救うためのものだって俺は知ってる。

 今までの戦いでお前の手は、もうたくさんの命をノイズから救ってきたんだ。誰かの生きる明日を、お前はその手で守り抜いてきたんだ。

 守ることと戦うこと、この相反する2つのことのジレンマは恐らくきっと終わることはないだろうけど……守るために伸ばした響の手は間違っていない。

 だから……力を怖がらないでくれ」

 

 言っていて、自分が卑怯なことを自覚する。

 響は平和に安全にいて欲しいと願いながら、『戦場でも響が隣にいてくれることの喜び』、そして『誰かを守るために頑なに戦う響の美しさ』を知っている俺はそれを求めてしまっている。この矛盾する想いを俺は自覚していた。

 すると、響は神妙な顔で頷く。

 

「……わかった。もう少し、しっかり考えてみる。

 私がやれること、やりたいことを……」

 

「急がなくてもいい、ゆっくり考えてみろよ」

 

「ねぇ、ノブくんはもう戦いたくないって思ったことはない?」

 

「ないな」

 

 響からの問いに、俺は即答する。

 夜中でウザイと思ったこともあったし、遊びに行こうとしたらノイズが出てムカついたこともいくらでもある。

 自由が制限されて眉をしかめることはいくらでもあった。だが不思議と『もうやめよう』と思ったことはなかった。

 そして……こうして生きる死ぬの大怪我をしても『もう戦いはいやだ』とは思えないのだ。

 

「強いね、ノブくんは……」

 

「俺が強いなんてとんでもない。俺は臆病なだけだ。

 俺も響と同じで『怖い』んだ。『怖い』から戦ってるんだ」

 

「『怖い』? ノブくんが?」

 

 響が驚きだという表情で言ってくる。

 

「例えば……地雷を除去できる知識と能力がある人がいるとする。そしてその人が家族と住む街にはそこらじゅうに地雷が埋まってるとする。

 その人はきっと、自分の知識と能力で地雷撤去を始めるだろう。

 そこには被害者を減らしたいという正義感もあるだろう。でも一番の理由はおそらく、自分が何もしなければ家族が地雷を踏んで怪我をするかもしれないっていう『恐怖心』や『危機感』だと思う。

 俺は、まさしくそれだ。

 ノイズって地雷が俺の大切なものを傷つけるかもしれなくて『怖い』から戦ってるんだ。

 俺は……『正義の味方』なんかじゃないんだよ」

 

 まさしくその通り、俺は俺の知る仮面ライダーのような誰でもすべてを守れる『正義の味方』ではない。

 人が誰かを救えるのはその手が届く距離くらいとはいうが、俺は少しばかり広げる手が大きいだけのただの人間でしかないのだ。

 

「そんな『正義の味方』じゃない俺でも、絶対に無くしたくないものはある。

 だからそれを守るために俺は『怖さ』を『力』に変えて戦ってるんだ」

 

「『怖さ』を……『力』に……」

 

「だから、俺はこれからもずっと戦うよ。

 守りたいものを守るために」

 

「……ノブくんの『守りたいもの』は幸せだね。

 ノブくんに絶対に守ってもらえるんだから」

 

 そう言ってちょっと羨ましそうに、寂しそうに笑う。その顔は、自分こそがその『守りたいもの』の筆頭だと気付いている様子はない。

 ……ああ、ダメだ。響のこの顔を見たら抑えが利かなくなった。

 

 響のどこか低い自己評価を改めさせたい。響がどれほど俺の中で大きな存在なのか知らしめたい……その想いが勝手に勢いよく口を動かす。

 ……後々冷静に考えてみると、俺も怪我の影響と響の笑顔に影が差している状態を見て少し不安になっていたのかもしれない。

 

「響、一度しか言わないからよく聞けよ。

 俺がこの世で一番に守りたいのは響だ。あの1年前、一緒に家出したときに誓った言葉に嘘偽りはない。

 だからその……なんだ」

 

 ここまで勢いに任せて言ってしまったというのに、肝心なここにきて突如廻らなくなる自分の口が恨めしい。

 響を見ると、少し顔を赤くしながら次の言葉を待っている。その表情に『期待』が混じっていると思ったのは俺の気のせいではないと思いたい。

 もう後には退けない……俺は自分の顔が赤くなっているのを自覚しながらも何とか次の言葉を絞り出す。

 

「その……響?」

 

「は、はい!!」

 

「俺は響のことが……好きだ!」

 

 ……言った。言ってしまった!

 賽は投げられた。さぁ、響の反応は……。

 

「な、何で泣くんだよ!?」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

(ノブくんが私を『好き』って言ってくれた。

 私と同じ気持ちでいてくれた……ああ、なんて、なんて素敵なんだろう!)

 

 長年の気持ちが通じたことの喜びに、気がつけば響の目からは涙が流れていた。

 

「な、何で泣くんだよ!?」

 

 しかし突然泣き出した響に信人はうろたえた声を上げる。

 

(いけない!

 早く、早く私も好きだって、大好きだって答えないと!)

 

 すぐにでも気持ちを返そうと思うのに、涙のせいで上手く言葉が出ない。

 

(なんで!? なんでなの!?

 早く、早く答えないといけないのに!!)

 

 しかし響がそう焦っても上手く口が動いてくれない。

 

(だったら何か行動で! 何でもいいから行動で私の気持ちをノブくんに伝えないと!!)

 

 そして完全にテンパった響は、その気持ちと持ち前の思い切りの良さが妙なテンションでミックスされたことにより動き出す。

 

「ひび……」

 

 信人の戸惑いの声より早く響が飛びつく。そして……。

 

「んっ……」

 

 2人の影が重なる。

 そして……この瞬間に2人は彼氏彼女になった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……」

 

 あのあと、未来が帰ってきてしばらく話した後に2人は帰っていった。

 残された俺はきっと今、鏡を見たら最高に気持ち悪い顔をしていることだろう。頬が緩みっぱなしで止まらない。

 勢いに任せてだが長年意識していた響に告白し、そして響からの返事は……。

 

 

 バンバンバンッ!!

 

 

 思い出し、気恥ずかしさに思わず枕を叩く。

 

「キングストーン、俺を治してくれ。

 はやく治してくれないと俺はこのまま響の姿を思い出して尊死するかもしれん」

 

 キングストーンから、「知らんがな」という呆れた声が聞こえたような気がした……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「~♪ ~~♪♪」

 

 病院からの帰り道、響の様子は行きとは真逆、喜色に溢れていた。

 行きはうつむき加減で表情は暗くまるで処刑場へと歩く罪人のような状態だったのに対し、今響の右頬を叩いたら笑顔で左頬を差し出すだろうぐらいの機嫌の良さである。

 その様子を横目で見て、どこか呆れるように未来はため息をついた。

 

「機嫌、一気に良くなったね響」

 

「ウェヒヒ、そうかな♪」

 

 そう言ってニヤけが抑えられないといった顔を向けてくる響。響の様子が元に戻ってくれたことは嬉しいが、その顔に未来は少しだけイラッとするものの「仕方ないか」とため息をつく。

 

「その顔はどうかと思うよ響。 まぁ、やっと信人と付き合えるようになって嬉しいのはわかるけどね」

 

「えぅっ! も、もしかして未来見てたの!?」

 

「あのね……私2人の幼馴染だよ。2人の気持ちくらい何となく知ってるよ。

 そんな響が行きは今にも死にそうな顔してたのに帰りはルンルン、しかも目には泣いた跡まであれば何となく分かるよ。

 あとはカマをかけてみただけ。それでその反応で確信に変わったよ」

 

 未来の鋭さに驚くものの、響は決定的なキスシーンは見られてないらしいことにホッと息をついた。

 そして、隠し立てするようなことでもなく、響は一番の親友に報告する。

 

「うん。 私、ノブくんと彼氏彼女になったよ」

 

「……おめでとう、響」

 

 照れながらそれでも綺麗な笑顔で言う響に、未来は心からのおめでとうを贈る。

 響に友情を超える友愛を持つ未来だが、信人は未来にとっても幼馴染である。信人も響も幸せなので文句はない。

 というよりも響を幸せにできるような男性は信人しかいないとも未来は常々思っていた。あの地獄のような生存者バッシングの中で、たった1人で響を守り続けた信人以上の男などいるわけがない……そう考えるほどの全幅の信頼を未来は信人に持っているのだ。

 もっとも……。

 

(まぁ、響にとっての男性側の一番の座は信人に譲ってあげるけど、響にとっての女性側の一番の座は私が座るし)

 

 そんな風に前向きに信人との響の共有化を目指している未来である。

 男性側から信人が響を捕まえ、女性側から未来が響を捕まえる。つまりハサミ撃ちの形になって響は2人から逃げられないわけである。

 これが3人の幼馴染の形、未来も納得する3人の関係だった。

 

 とにかく未来にとってもこの話は喜ばしい話、響のお祝い変わりにどこかこのまま遊びに行こうかと口を開きかけた時だった。

 

「? 響?」

 

 響が未来の前を手で塞いだ。そしてその響の視線の先には……。

 

「!? あなた……!!」

 

「これで三度目だな、融合症例……」

 

 道路脇の林の辺りからゆっくりと、あのネフシュタンの鎧の少女が現れた。

 彼女は声を上げた未来には目もくれず響へと声をかける。

 

「……私を攫いに来たの?」

 

「そうだよ。 今日こそはお前を叩き潰し、引きずってでも連れて行く!」

 

 響と彼女の視線が交錯する。

 そして、響が胸に浮かんだ聖詠を口ずさむ。

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron……」

 

 光の中で響がガングニールを纏った。

 

「……いいよ、それなら誰もいないところで2人だけで『話』をしようよ」

 

「面白ぇ……ついて来な!」

 

 言うとネフシュタンの鎧の少女が、林の奥へ向かうように飛び上がる。

 

「響!」

 

「大丈夫だよ、未来……」

 

 未来の呼び掛けに、響は顔だけ振り向きながら答える。

 

「ノブくんは言ってくれた。シンフォギアは、私の歌は誰かを傷つけるためのものじゃない。私の手は誰かの手をとり救うためのものだって……。

 私は、私を攫うって言いながら本当は人の好さそうなあの子としっかり話したい。

 この想いを伝えたい。だから……思いっきりぶつかってみる!!」

 

 その響らしい答えに、信人を傷つけ落ち込んでいた響は、完全に立ち直ったと未来は悟る。

 ならば、そんな親友にすべきことを未来は知っていた。

 

「いってらっしゃい、響!!」

 

「うん!!」

 

 未来(親友)の声に押されるように、響はガングニールの脚部のジャッキを展開、大ジャンプでネフシュタンの鎧の少女を追う。

 林の奥まった場所でネフシュタンの鎧の少女は響を待っていた。ここならば誰にも邪魔されないだろうし暴れまわっても周りに被害はないだろう。

 

「今日はノイズは出さないの?」

 

「お前なんてあたしだけで十分、あんなの無しでやってやるさ!!」

 

 途端にネフシュタンの鎧から垂れた2本のムチがしなり、響に襲い掛かった。

 響はその動きを見切り、懐に入り込もうとする。

 

「バーカ、読めてんだよ!!」

 

 響の背後から急に方向転換したムチが襲い掛かってくる。それをギリギリのところでかわした響、だがその眼前にネフシュタンの鎧の少女の膝が迫っていた。

 

「ッ!?」

 

 咄嗟のガードが間に合い直撃は避けるものの、その衝撃で大きく吹き飛ばされる響は空中でクルリと体勢を整えると着地する。

 

「どんくさそうなくせに中々いい反応するじゃねぇか、融合症例!」

 

 そう挑発するものの、彼女の中では驚きが広がる。

 

(こいつ……前からわかっちゃいたが勘の良さも反射神経も並じゃねぇ。

 おまけにこいつ、勝負所を嗅ぎ分けるセンスがズバ抜けてる。

 一瞬でも気を抜いたらお陀仏だ……)

 

 彼女もフィーネが連れてきた軍人によってここ2年ほど軍事訓練を受け続けていた。彼女のセンスと努力もあり、今の彼女は特殊部隊員だろうがスパイだろうがやっていけるだけの実力を持っている。

 そんな彼女をして、響は戦いを知らない格闘技のできるだけの素人ではなく『強敵』だと認識していた。

 だがそんな戦闘用の思考に切り替えた彼女の耳に、響の声が響く。

 

「私は『融合症例』なんて名前じゃない!!」

 

 そして響は両手を広げると大きな声で言った。

 

「私は立花響、15歳! 誕生日は9月13日で血液型はO型!

 身長はこの間の測定では157cm、体重は……もう少し仲良くなったら教えてあげる!

 趣味は人助けで好きなものはごはん&ごはん!

 あと……

 

 

 彼氏いない歴は今日でゼロになりました!

 

 彼氏いない歴は今日でゼロになりました!!

 

 

「何をトチ狂ったことを!

 あと最後、何ででっけぇ声で2回も言った! 惚気てんのかテメェ!!」

 

「私的に今一番大事なことだから2回言ったの!!

 とにかく、私たちはノイズと違って言葉が通じるんだからちゃんと話し合いたい!!

 だって、言葉が通じていれば人間は……」 

 

「うるさいッッ!!」

 

 響の呼び掛けを、彼女はさらなる叫びによって打ち消す。

 

「分かり合えるものかよ、人間が! そんな風に出来ているものか!!

 気に入らねぇ! 気に入らねぇ!! 気に入らねぇッ!!!

 分かっちゃいねぇことをペラペラと口にするお前がァァァ!!」

 

 響の言葉が、彼女の逆鱗(さかさうろこ)に触れたらしい。激昂して叫び、彼女は肩で息をしながら怒りで血走った目で続けた。

 

「お前を引きずって来いと言われたがもうそんなことはどうでもいい……。

 お前をこの手で叩き潰す!!」

 

 宣言した彼女がネフシュタンの鎧のムチを振り上げると、そこにエネルギーが収束、エネルギー弾が形成された。

 

 

『NIRVANA GEDON』

 

 

「吹っ飛べぇぇ!!」

 

「くっ!」

 

 放たれたエネルギー弾をとっさに腕を突き出し防ぐ響。エネルギー弾の破壊力とガングニールの防御が拮抗する。

 

「持ってけダブルだ!!」

 

 そこに追撃の二発目のエネルギー弾が放たれた。それは響へのトドメになる一撃。

 だが……。

 

「そう来ると思った!!」

 

 叫ぶ響が、渾身の力でエネルギー弾を押し返した。

 それはそのまま、二発目のエネルギー弾とぶつかり辺りに爆発が巻き起こる。

 

「なぁ!?」

 

 その閃光と爆発によって舞い上がった土埃が、彼女の視界を一瞬塞いだ。

 だが、その一瞬があれば響には十分だった。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 地面を踏み抜く勢いで蹴った響が一気に迫る。

 

 

ズドンッ!!

 

 

 足元にクレーターが出来るほどの『震脚』。そして握りしめた拳を突き出す。

 

(最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に!!

 込める想いは一つ! この子と話をして、分かり合いたい!手を取りたい!!

 ならそれを全部乗せる! 二つはない、たった一つのこの想いを!!

 だからこれは! この一撃は!!)

 

 

「我流、无二打(にのうちいらず)!!!」

 

 

 響の想い全部乗せの一撃がネフシュタンの鎧の少女の真芯を捉えたのだった……。

 

 




今回のあらすじ

ビッキー「誰かを守りたいのに傷付けるのが怖いんでシンフォギア装者やめようと思って……」

SHADOW「諦めんなよ! 諦めんなよ、お前!!
    正直、身柄狙われてて戦えなくなるのはヤバいし、一生懸命な響とのダブルライダー状態が最高なんで説得するぞ。頑張れって」

ビッキー「Justiφ'sは名曲だね」

SHADOW「ヤバッ、響が超可愛すぎてもう辛抱たまらん!
    勢いで告白することにした! これぞザ・青春!
    さて、響の答えは……?」

ビッキー「ズキュウウウン!!」

奏「や、やった!?」

防人「さすが立花、私たちにはできないことを平然とやってのける!!」

キネクリ「……393の反応が怖いんだが?」

SHADOW「393ッ! 君の意見を聞こうッ!」

393「男側から信人が響を押さえる。女側から私が響を押さえる……つまりハサミ討ちの形になるな」

ビッキー「何が何だかわからない……彼氏とレズ友のよく分からないクロスボンバーで夜も眠れなくなりそう」

SHADOW「あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~。彼女が可愛すぎて尊死する」

月の石「ウワァァン、キモイヨー!」

ビッキー「ウェヒヒヒヒ!」

393「うん、こっちもキモイ」

キネクリ「今日こそ勝ちに来たぞ!」

ビッキー「私の彼氏いない歴は今日でゼロになりました!
     私の彼氏いない歴は今日でゼロになりました!!(ドヤァ)」

キネクリ「そのドヤ顔マジで殴りたくなるからやめろ!
     つーか今回、完全にこれが言いたかっただけだろ!!」

ビッキー「无二打(にのうちいらず)! 七孔噴血、巻き死ねぃ!!」

奏「もうまるで言い訳できない『必ず殺す技』なんだが……」

SHADOW「一応、『響の持てる技も想いもすべてを込める』って意味もあって『二つはない』ってことで『无二打』らしい。李書文先生がかっこよすぎで作者が大好きなせいもあるがネタの領域だな」

防人「これ、キネクリ死なない?」

キネクリ「大丈夫、ガッツで耐える」

色々カオス度マシマシなキネクリ最終戦の前半でした。
次回はさらに色んな意味で大暴走の後半戦です。

次回もよろしくお願いします。


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第17話

今回は真面目なビッキーVSキネクリ最終決戦……だと思っているのかぁ?
そのような真面目な文章を書くことはできぬぅ!!
残念ながら恐らく過去最大級のカオス回です。


 響の想いを乗せた拳が、ネフシュタンの鎧の少女の真芯を捉える。

 

「がはっ!?」

 

 そのあまりの威力と衝撃にそのまま吹き飛んだ彼女は、周囲にクレーターができる勢いで地面にめり込んでいた。

 『完全聖遺物』であるはずのネフシュタンの鎧がボロボロになり、自身もボロボロだ。頭はふらつき視界は歪み、臓腑を掻き回されるような吐き気がする。

 

「なんつぅ威力だ……。 まるで『絶唱(ぜっしょう)』じゃねぇか……」

 

 驚愕し呟いた言葉。だが、それに響が首を傾げながら答える。

 

「えっ、今の『絶招(ぜっしょう)』だけど……」

 

「何ぃ!!?」

 

 響の言っているのは中国拳法における自分に合わせて昇華した技のことで、いわゆる『奥義』という意味での『絶招(ぜっしょう)』だ。シンフォギアの決戦機能である『絶唱(ぜっしょう)』のことではない。

 そもそも、響はシンフォギアの決戦機能である『絶唱(ぜっしょう)』のことを知らなかった。

 まだシンフォギアを纏って1ヶ月たらずの響には危険で、奏や翼も大事にしている妹分に危険な自爆技を喜んで教えるわけがなかった。それに響は幸か不幸か、『誰かが絶唱(ぜっしょう)を使う現場に居合わせる』ということもなかったため、『絶唱(ぜっしょう)』を知る機会がなかったのである。

 しかし『絶唱(ぜっしょう)』と『絶招(ぜっしょう)』、読みが同じことと自身が受けた大ダメージがここで大きな勘違いを発生させる。

 

(こいつ……『絶唱(ぜっしょう)』を歌わずにぶっ放しやがったのか!?

 しかもバックファイアも出ている様子もない……一体どんな化け物なんだよ!!)

 

 彼女はシンフォギアについてはよく知っている。だからこそその決戦機能である『絶唱(ぜっしょう)』の特性はよく分かっていた。

 『絶唱(ぜっしょう)』はそのための特別な歌を必要とする。さらに攻撃とともに余剰エネルギーが使用者すら傷つける。以前あのライブ会場で『絶唱(ぜっしょう)』の使用を決断した天羽奏が死を覚悟したように、それだけのダメージを受けるのが普通なのだ。

 だが専用の歌すら歌わずバックファイアもなく『絶唱(ぜっしょう)』を操る響は完全な『規格外』として彼女の目には映ったのだ。そしてその『規格外』と比較され、劣った自分が捨てられるという未来(みらい)を幻視する。

 人のぬくもりもなく、誰からの助けもなく彷徨う……そんな過去の『恐怖』に押され彼女は立ち上がる。

 フラフラと今にも倒れそうなおぼつかない足元。今追撃を受けたら彼女には対処する術はないだろう。だが響はその間何もせず構えすら解いて待っていた。

 その姿を『見下されている』と認識した彼女は激昂し叫ぶ。

 

「お前、バカにしてんのか! このあたしを、雪音クリスを!!」

 

「そっか……クリスちゃんって言うんだ。

 ねぇクリスちゃん、もうこんなことやめようよ」

 

 だがそんな彼女……クリスの激昂を響は受け流すと手を差し伸べる。

 そんな響に一瞬唖然とするクリスだが、身近なところからのビキビキッという不吉な音と内臓をまさぐられる様な不快感に現実に引き戻された。

 

(マズい、あいつの『絶唱(ぜっしょう)』で受けたネフシュタンの鎧のダメージがでかすぎる。

 このままだと鎧に喰い破られる!?)

 

 大きく破損したネフシュタンの鎧が、修復のためにクリスの身体を蝕み始めたのだ。

 無傷で『絶唱(ぜっしょう)』を使いこなす『規格外』……それを倒すためクリスは自身の本当の『切り札(ジョーカー)』をきる決断する。

 

「吹っ飛べや、アーマーパージだ!!」

 

「ッ!!?」

 

 次の瞬間、ネフシュタンの鎧が粉々に砕け散り、まるで散弾のように響へと襲い掛かる。腕をクロスさせガードする響。

 そこに、『歌』が響いた。

 

 

「Killter Ichaival tron……」

 

 

「この『歌』……まさか!?」

 

「……見せてやる、イチイバルの力だ!」

 

 そして舞い上がった土埃が吹き飛ばされると、そこには先ほどまでとは違う姿で立つクリスがいた。ネフシュタンの鎧とは違う、赤い装甲を纏ったクリス……それは間違いなく響の纏うものと同じ『シンフォギア』だ。

 

「歌わせたな……教えてやる、あたしは歌が大ッ嫌いだ!

 あたしを歌わせた以上、ここからはテメェは全力で叩き潰すッッ!!」

 

「私だって簡単にやられるわけには!!」

 

 そして響とクリスの第二ラウンドが開始される。

 響の繰り出した正拳をクリスは空中に身を躍らせてかわすと、そのまま両手を響へと突き出す。すると左右の腕装甲が形状を変化させ、2丁のボウガンのような形になってクリスの手に収まった。

 ボウガンから連続して放たれる光の矢を響は身を捻りかわし、距離をとる。

 

「はぁぁ!!」

 

 そこへ追撃の光の矢が殺到するが、それを響は腕の装甲で弾いて叩き落とす。

 しかしその動きが止まった瞬間をクリスは見逃さない。

 3砲身2連装のガトリング砲、それが両手に1基ずつで2基。ボウガンが変形したそれが周囲の空間を切り裂くかのような重低音のヘビィサウンドをかき鳴らし、鋼鉄をも粉々にする鉛玉の暴風を発生させる。

 だがその暴風を前に響は一歩も退かずに構えを取ると、手を円の動きで動かす。ガンガンガンという音とともに、響の周辺にガトリング砲の弾が弾かれていき、響へのダメージはない。

 ボウガンの矢どころかガトリング砲の弾丸すら防ぎきるその見事な防御に、クリスも舌を巻いた。

 

「マ・ワ・シ・ウ・ケ……ちぃ、見事なもんだな!」

 

「矢でも鉄砲でも火炎放射器でもどんと来いだよ!」

 

「ああそうかい! だったらお言葉に甘えて持ってけや!!」

 

 クリスの腰の装甲が左右に展開したかと思うと、そこから大量の小型ミサイルが飛び出した。

 

「ちょっ!?

 矢でも鉄砲でも火炎放射器でもとは言ったけど、ミサイルまで来いとは言ってないよ!!」

 

「知るかよぉ!!」

 

 自身に追い縋る小型ミサイル群にたまらず響は回避にうつる。だがクリスが恐るべき精度でコントロールするミサイルたちは、まるで訓練された軍用犬のごとく響を様々な方向から追い立てる。クリスの見事なオールレンジ攻撃に、ついに響が一発のミサイルに当たる。

 

「くぅ!?」

 

 腕をクロスしてガードしたものの、その衝撃で空中へ投げ出される響。そこに再びミサイルが迫った。

 

(しまった、空中じゃかわせない!?)

 

 空中で2発目のミサイルが爆発し、叩きつけられるように地面に落下する響。そして響が体勢を崩したところに、残ったすべてのミサイルが殺到した。

 爆発が立て続けに起こり、土埃が舞って視界を遮る。

 

「はぁはぁはぁ……」

 

 息を整えながら、それでも油断なく目を凝らすクリス。すると、その視界の先に金属質な輝きが見えた。

 

「盾ッ?」

 

 

「彼氏だッ!!」

 

 

「テメェもかよ!!

  戦場(いくさば)で盛大に惚気てんじゃねぇよ、仮面ライダーSHADOW!!!」

 

 

 クリスの視界の先には、響の盾となり腕をクロスさせてミサイルを防ぎ切っただろう、仮面ライダーSHADOWの姿があったのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 あの後……2人が帰って病室で気持ち悪い顔を晒していた俺のところに、未来からの連絡が入った。その内容は響の前にあのネフシュタンの鎧の少女が現れ、一対一の勝負を始めたという内容だ。

 それを知った俺は、俺に繋がった機器をむしり取るように外すと窓からダイブ、空中でSHADOWへと変身するとそのままバトルホッパーで2人の戦う場所にやってきた。するとちょうど響にミサイルが殺到しているところだったので、慌てて防御を全開にして響を守ったのである。

 ……まぁ、ちょっと勢いに任せたらおかしなことを口走ってしまったわけだが、そこはご愛敬というやつだ。

 

「バカなのか!? 2人揃ってバカなのかよ!?

 このバカップルどもっ!!」

 

 しかし俺の勢いに任せた言葉がどうやらかなり癇に障ったようで、目の前で地団太を踏んでいる響と戦う赤いシンフォギアの少女。

 そんな彼女を尻目に、俺は響に声をかける。

 

「大丈夫か、響?」

 

「ノブくんこそ大丈夫なの!? まだ怪我が治ってないのに……」

 

「なに、響のためならこのくらい……」

 

「ノブくん……!」

 

「だ・か・ら!! いい加減にここが戦場(いくさば)だってことを思い出せよバカップルども!!」

 

 そんな俺たちの様子が気に入らなかったらしく、再び赤いシンフォギアの少女の怒鳴り声が響く。

 

「あはは。 ごめんね、クリスちゃん」

 

「クリス? あのネフシュタンの鎧を着てたやつか?」

 

「うん、あの子の名前。 雪音クリスって言うんだって」

 

 言われて俺は改めて赤いシンフォギアの少女……雪音クリスの方を見る。

 そのとき、力が抜けて俺は片膝をついた。

 

「ぐっ!?」

 

「ノブくん!?」

 

 やはり未だキングストーンが修復されていない状態での戦いは辛いものがある。俺はぶり返す激痛に呻き、そんな俺を響が慌てて支える。

 

「死に体でおねんねしてるところで、女にいいとこ見せようと無理すっからだ!

 この際2人まとめておねんねさせてやるよ!」

 

「ノブくんはやらせないよ!!」

 

 ガドリング砲を構えるクリスの前に割って入る響。だがそんなクリスに俺は不敵に笑いながら答える。

 

「2人まとめて? おいおい、数を数え間違えてるぞ」

 

 その時、クリス目掛けて何から空中から降ってくる。

 

「何っ!?」

 

 クリスが大きく跳びのくとそこに空から降ってきたものが突き刺さった。それは槍と剣だ。

 

「よぉ……会いたかったぜ、ネフシュタンの鎧のやつ!」

 

「2号聖遺物『イチイバル』まで所持しているとは……聞きたいことが増えたな!」

 

 そしてそこに現れたのはその槍と剣の持ち主である奏と翼だ。

 俺はここに来る前に二課にも連絡を入れていた。そして知らせを聞いた奏と翼の2人が駆けつけてくれたというわけだ。

 

 2人にとって忘れもしない2年前のライブで奪われた『ネフシュタンの鎧』を持っているクリスは看過できない相手だ。

 そしてノイズを操るあの杖のような代物……これは奏にとっては、家族の仇の一味かもしれない相手というわけである。そのため、2人はずっとクリスとの対峙を待ち続けていたのだ。

 

「まぁとりあえず話は……」

 

「ベッドでゆっくり聞かせてもらおう!!」

 

「ハッ! のぼせ上がんな人気者ども!!

 全員揃って返り討ちにしてやんよ!!」

 

 奏と翼が構え、それに応えるようにクリスも咆えてガドリング砲を構える。

 一触即発の空気、だがそれを遮るように響が前に出た。

 

「奏さんも翼さんも待ってください!

 クリスちゃんはきっと何か事情があります。ちゃんと想いをぶつけて、分かり合わないといけないんです!

 だからここは私に!」

 

「響……でもねぇ……」

 

「立花がそう言うなら刃を交える敵ではないと信じたい。だがな……」

 

 響の言葉に難色を示す奏と翼。

 

「頼む、響のやりたいようにやらせてやってくれ。

 響は戦うことに迷い、それでも今、前を向いたところなんだ。

 だからここは好きなように最後までやらせてやってくれ」

 

 そんな2人に俺は痛みで片膝をつきながら頭を下げる。

 響は病室に来た時に戦うことに迷っていた。そんな響が迷いを払って、『想いを伝えて手を取りたい』と戦っているのだ。俺としては響の決意をくんで欲しかったのだ。

 

「……後輩2人にそこまで言われて無視できるほどアタシは物分かりが悪いわけじゃないよ」

 

(ともがら)の願い、私はそれを踏みにじるような防人ではない」

 

「ありがとう、2人とも……」

 

 言いたいことはありそうだったが、結局2人は俺と響の意思を尊重し、構えていたアームドギアを下げる。

 その視線は対峙する響とクリスに向けられていた。

 

「で、最初の相手はお前かよ。

 いいのか、そいつらの力を借りなくて?」

 

「うん。 これは私たちが始めたことだから……最後までやろう!」

 

「面白ぇ! そいつらの前の景気づけですぐに沈めてやるよ!!」

 

 響が拳を構え、クリスがガドリング砲の砲口を向ける。

 高まっていく緊張感。だがそれはまったく別のところから破られた。

 

「なっ!?」

 

 突如として上空から、大量の飛行型のノイズが降り注いだ。

 奏、翼がアームドギアを振るいノイズを払いのける。俺もシャドーチョップで迫るノイズを振り払った。

 すわ、クリスの呼んだ伏兵かと思ったが、どうやら違う。

 クリスの構えていたガトリング砲、それが両方ともノイズによって破壊されていたからだ。

 

(仲間割れ? もしくは……口封じで消すつもりか!?)

 

 そのままノイズたちがクリスへと襲い掛かろうとするのを見て、俺は咄嗟に駆け寄ろうとするが、それより早く響が動いていた。

 

「たぁぁぁ!!」

 

 一足飛びでクリスに迫るノイズたちを打ち払う。だが、それでもノイズの数が多い。

 そして響はそのまま自分の身体を盾にしてクリスを守ったのだ。

 

「響っ!?」

 

「お、おい!?」

 

 ダメージで倒れる響をクリスが支え、俺はその傍に駆け寄った。奏と翼は周囲の警戒し、鋭い視線を四方に向ける。

 

「お前何やってんだ、あたしは敵だぞ!?」

 

「それでもクリスちゃんが危ないと思ったら身体が動いてて……」

 

「……余計なことしやがって」

 

 そんな響の言葉に、クリスは言いようのない表情をすると絞り出すように言った。

 そこに、新たな人物の声が響く。

 

「まったく……命じたこともできないなんて。あなたはどこまで私を失望させる気かしら?」

 

 その声の方に視線を向けると、そこには大量のノイズを従えた金の髪の女の姿があった。

 

「フィーネ!」

 

 その女……フィーネの登場にクリスは明らかにうろたえる。そしてダメージを受けた響を俺に押し付けるように渡すとクリスがフィーネに言った。

 

「こんなやつがいなくたって、戦争の火種くらいあたし1人で消してやる!

 そうすればあんたのいうように人は呪いから解放されて、バラバラになった世界は元に戻るんだろ!?」

 

 その言葉を聞きながら俺が思うのは、響の考えは間違ってはいなかったということだ。

 『戦争の火種を消す』……これがクリスの真の願いなんだろう。クリスはそれを利用されたのだ。

 だがそのクリスの言葉を聞いたフィーネは憂鬱そうにため息をついて言った。

 

「もうあなたに用はないわ」

 

「な、なんだよそれ!?」

 

 フィーネの突然の用済み宣言に、クリスの目に涙が浮かんでいる。

 それほどあのフィーネという女を信用していたのだろう、痛ましい限りだ。

 しかし、同時に新たにクリスから飛び出したキーワードに俺に疑問が生まれる。

 

(『バラバラになった世界』? 一体何のことだ?)

 

 クライシス帝国のせいで『世界がバラバラ』などということはなかったはずなのだが……。

 そこで俺の脳裏にきらめくイナズマが走る!

 

(まさか……まさか、まさか!!?)

 

 そうだ、それなら『世界がバラバラ』というキーワードも説明がつく。

 

 

 

 

(これは……大ショッカーの仕業か!!!)

 

 

 

 

 そうだ、クライシス帝国は仮面ライダーBLACK RXだけに登場したわけではない。その後も登場する機会はあった。

 そのうち、クライシス帝国が『ショッカー』や『大ショッカー』に組み込まれた作品もあったはず。こいつらがその『大ショッカー所属のクライシス帝国』だとしたら?

 そして1つの世界がバラバラというのは……『ショッカーや大ショッカーが世界支配を完了し悪によって世界が1つになった状態が、仮面ライダーによって崩されたこと』と捉えるのならどうだ?

 

 悪による世界征服が完了した世界は確か映画作品でいくつかあったはずだ。だがそれはすべて仮面ライダーたちのおかげで崩され正しい歴史の流れに戻された。

 だが、歴史と世界は1つではない。世界は数多くの可能性を内包し、『リ・イマジネーションの世界』という形で分岐することを俺は仮面ライダーの知識でよく知っている。

 『ショッカーや大ショッカーが世界支配を完了し悪によって世界が1つになった状態が、仮面ライダーによって崩されたこと』によって多くの可能性を内包した『リ・イマジネーションの世界』に分かれたとしたら……この世界はそうして生まれた『仮面ライダーのいない世界』の一つなのかもしれない。

 

 そして『バラバラになった世界を元に戻す』というのは……『大ショッカー残党が再び複数の並行世界に干渉し、世界を一つに征服しようとしている』ということなのだとしたら!?

 

 俺は大ショッカーの幹部と思われる女……フィーネに向かって言った。

 

「フィーネ……(大ショッカー残党という)過去の亡霊が、今に蘇って何を企んでいる?」

 

「何っ!?

 この私が(先史超文明期の巫女という)過去の亡霊だと?

 貴様、一体どこでそれを知った!?」

 

 俺の言葉に、フィーネは明らかに驚愕の表情を見せる。やはり俺の考えは正しかったらしい。

 しかしそうなると、大ショッカーの残党だと指摘しただけでのこの驚き様と、怨敵である『仮面ライダー』を名乗る俺に襲い掛かるなりで今まで接触がなかったのが少し気になるのだが……?

 いや、それ以前に『大ショッカー』の大首領格である『シャドームーン』の姿を見て、俺に対してアクションがないのがおかしいか。

 

 とはいえシャドームーンの大首領への就任は、シャドームーンが本性を隠し続け土壇場で仮面ライダーディケイドを追い落としてのいわゆるクーデターのようなものだし、その直後に仮面ライダー軍団によって大ショッカーは壊滅させられたわけで、シャドームーンの存在は大ショッカー内ではそれほど認知されていなかったのかもしれない。特に『フィーネ』なんて名前は聞いたことがないから末端レベルだろう。それなら新大首領であるシャドームーンの姿を知らないのも頷ける。だから『仮面ライダーの名を騙る偽物』と思われ捨て置かれたのだろう。

 

「すべてはこの力(仮面ライダーの知識)が教えてくれているだけだ。

 だが一つ確かなことは……(大ショッカーの支配による世界統一という)貴様のたくらみは必ず阻止してみせるということだけだ!」

 

「ほぅ……(統一言語を取り戻し、人と人、神と人が相互理解出来ていた時代に戻す)私のたくらみを阻止すると?

 そう言うか、仮面ライダーSHADOW!!」

 

 そう言って手にした杖が光を放ち、さらに大量のノイズを呼び出す。

 

「……ふん、貴様への興味は尽きないが今は優先すべきことが違う」

 

 するとフィーネに向かって小さな青い光たちが集まって行った。

 その正体を『マイティアイ』を起動させた俺は悟る。

 

「それは……『ネフシュタンの鎧』か!」

 

 その粒子はクリスの破棄した『ネフシュタンの鎧』だ。

 

「計画はすでに最終段階に入った。 何者にも邪魔はさせない!

 当然仮面ライダーSHADOW、貴様にもだ!」

 

 そう言ってその大量のノイズを俺たちに向けてけしかけてくる。

 

「待てっ!!」

 

 迫るノイズをシャドーチョップで薙ぎ払うが、もうすでにそこにフィーネの姿はない。すでに逃げた後のようだ。

 すぐにでも後を追いたいところだが、これだけのノイズが住宅地にでも雪崩れ込んだら大変なことになる。今はノイズが先だと、俺も響も、奏も翼も構える。

 だがあまり状況はよく無い。俺は戦闘能力が4分の1ほどにまで下がっているし、響はクリスとの戦いとクリスを庇ったときのダメージでフラフラだ。実質万全なのは奏と翼だけという状態である。

 これでは殲滅に時間がかかり一般市民への被害も考えられる……そう思った瞬間、俺たちの後ろから攻撃的な歌声が響く。同時に無数のミサイルとガドリング砲の弾丸が大量のノイズを一気に吹き飛ばした。

 クリスの攻撃だ。その攻撃でもうもうと立ち上る土煙で視界が遮られた中で声が響く。

 

「融合症例……いや、立花響(バカ1号)

 これでさっきの貸し借りはナシだ!」

 

 どうやら先ほど響に庇われた借りを返したらしい。ほぼ同時にクリスの気配が遠ざかって行くのでどうやら撤退したようだ。

 残ったのは、先ほどよりはかなり数を減らしたノイズたち。

 

「このぐらいならアタシ達だけで十分だ!」

 

「2人はここで休んでいてくれ。

 防人の剣は、この程度の数に後れをとることはない!!」

 

 

『LAST∞METEOR』

 

『千ノ落涙』

 

 

 奏の槍の穂先が回転して生み出された竜巻がノイズたちを消し飛ばし、翼の生み出した大量の剣が空からノイズを串刺しにする。その猛攻を前に一気にノイズの数が減った。

 そして残ったノイズに果敢に飛びかかる奏と翼。

 10分ほどで最後のノイズも砕け散り、静寂が戻ってきた。

 

「一応、終わったね……」

 

「ああ……」

 

 ホッと息をついての俺に寄りかかっていた響の言葉に、俺は頷く。

 

「クリスちゃんは……次に会う時にはどうなっているのかな?」

 

「さぁな。 ただ……響の伸ばした手は絶対に無駄じゃない。それだけは断言する」

 

 あの戦闘でクリスの雰囲気は確かに変わっていた。

 『戦争の火種をなくす』という想いや、最後に響に借りを返すと手を貸してくれたりと、俺ももうクリスのことは『敵』とは思えないでいた。

 だからこそ、フィーネに『用済み』とされてしまった彼女の行方は心配である。そんな俺たちのところに奏と翼がやって来た。

 

「大丈夫かい?」

 

「おかげさんで俺も響も無事さ」

 

 奏と翼に差し出された手を握り、俺と響は立ち上がる。

 

「信人……今さっきのフィーネとか言うやつとの会話はなんだい?」

 

「……詳しいことは俺にも分からない、言ったようにこの力(仮面ライダーの知識)がそう教えてくれているだけだ。

 俺の力とあのフィーネという女には、何か関係があるんだろうさ」

 

 さすがに『前世』という話はできないので、この力のせいだとお茶を濁す。奏も少し不満そうながら納得したように頷いてくれた。

 

「『ネフシュタンの鎧』に『イチイバル』、そして大きな企て……より一層の調査をする必要があるわね」

 

 翼の言葉に全員が同意するように頷く。

 実際、これが『大ショッカー』の多数の並行世界を支配するため作戦なのだとしたら、俺が当初思っていた以上の大事件だ。本来ならば複数の仮面ライダーが力を合わせて戦うような案件である。

 だが、この世界に『仮面ライダー』を名乗るものは俺しかいない。その俺も今はその戦闘能力が激減している。

 だからといって他の並行世界から『仮面ライダー』が救援にくる……そう考えるのはいくらなんでも楽天的すぎた。

 俺が、いや俺と二課のみんなだけで戦って勝つしかないのだ。

 思わず隣にいた響を抱き寄せる。少し驚いた顔をした響だが、すぐに力を抜いて俺に身を預けてくれた。

 

(だがどんな状況だろうと負けてたまるか。 響や、俺の大切な者を守るために!!)

 

 響の体温をシルバーガードの装甲越しに感じながら、俺は決意を新たにした……。

 

 

 ……ちなみに、俺と響が付き合い始めたことは一発で奏にバレ、しばらくの間からかわれ続けることになったのだった。

 




今回のあらすじ

キネクリ「ブレイクゲージシステム採用してなかったら即死だった……。
     つーかマジで『絶唱』みたいなことをしよる」

ビッキー「え、今の『絶招』だよ?」

キネクリ「なにぃ!?(バックファイアなしで『絶唱』ブッパとかどんだけ化け物だよ。これ連れてったらあたしお払い箱確定だわ)」

ビッキー「? (このOTONA塾に1年以上鍛えられた私が『絶招』にまで至ってないだろうとかナメてんのかな?)」

奏「なんというバカなすれ違い……つーか、アタシも翼も『絶唱』やらなかったのはこんなバカなネタのためかい……」

防人「こうやってお互いに勝手に勘違いしてそのまま話進めるから、人類同士の争いって無くならないんだろうなぁ……」

キネクリ「イチイバル解放!
     お払い箱の恐怖が完全に現実化したんで、ちょっとマジでブッ潰すわ!!」

ビッキー「マ・ワ・シ・ウ・ケ……矢でも鉄砲でも火炎放射器でも持ってこいやァ!!」

奏「で、また妹分が人間やめちゃった件について。
  いやマジでどうしてこうなった?アタシのことを慕って後ろからチョコチョコついてくる可愛い妹分はどこ行った?」

防人「そんなの初めから奏の脳内にしかいないから。いたのは最初からゴリラゴリラの化身だけだったから。
   でも『烈海王+李書文先生+愚地独歩』とか一体どんな悪魔合体事故を起こしたら出来上がるのよ。悪魔将軍か何かなの、あの娘……つーかガドリング砲を廻し受けって……」

OTONA「飯食って映画見て寝るッ! これだけで案外簡単に出来るぞ」

奏・防人「「できねぇよ!!」」

キネクリ「お言葉に甘えてミサイル全弾発射!」

ビッキー「これには流石に功夫が足りない……」

奏「足りれば何とかなると申したか……(困惑)」

キネクリ「盾?」

SHADOW「彼氏だ!!」

防人「で、また私の見せ場が減ったぞ。
   剣だ× 彼氏だ○ とか……完全に今回の『これが言わせたかっただけだろ』だな」

SHADOW「響のためだったら怪我とかそんなの完全無視ダゾ♡」

ビッキー「ノブくん♡」

キネクリ「……このバカップルを思いっきりぶん殴ってやりたいんですけど構いませんね!!」

奏・防人「「海軍は陸軍の提案に賛成である!」」

奏「でもその前にアタシらも到着したんでお前ちょっと囲んで棒で叩くわ」

キネクリ「コワイ!」

ビッキー「あ、まだお話(高町式)の最中なんで私に譲って下さいね」

防人「アッハイ」

フィーネさん「ここで満を持して私参上よ!」

SHADOW「ぬぅ……何だかクライシス帝国じゃないっぽいぞ。これは一体……?」

フィーネさん「そうよ! やっと分かってくれたのね!
       そう、すべてはこのフィーネの……」

SHADOW「なるほど。 これは……大ショッカーの仕業か!!」


【悲報】フィーネさん大ショッカー認定される


フィーネさん「どうしてそうなるのよぉぉぉぉぉぉ!!」

奏「えーと、今までを纏めると……」


ゴルゴムの幹部『フィーネ』

クライシス帝国怪魔妖族大隊所属の『フィーネ』

大ショッカー残党の『フィーネ』←今ココ


奏「……なんだこの出世魚みたいなのは? たまげたなぁ」

防人「スーパーアポロガイスト並に色んな組織を渡り歩いてるな。
   すごいなーあこがれちゃうなー(棒)」

SHADOW「(大ショッカー残党という)過去の亡霊め……」

フィーネさん「私が(先史超文明期の巫女という)過去の亡霊だと知っている、だと……!?」

奏「で、奇跡的なことに致命的な勘違いがまた広がっているんだが……」

防人「……人類から争いが無くならない理由がよく分かった」

キネクリ「お前らを助けるんじゃなくて借りを返すだけだからな!」

ビッキー「ツンデレ頂きました。
     やっぱり人は分かり合える(主に拳で)!!」

奏「……ここは修羅の国か何かかい?」

SHADOW「ついに黒幕の大ショッカーが現れたか……。
    本当なら仮面ライダー集結して当たるような、並行世界をまたぐような大事件だったことにちょっと俺もびっくりだ」

フィーネさん「むしろ私の方がびっくりしてるんだけど? その何でも仮面ライダーの敵の仕業にする重篤なライダー脳患者はなんとかならないの?」

SHADOW「仮面ライダーがライダー脳以外で動けるとでも?
    393とか友達や家族いるし、響がいるからどんな敵でも負けないぜ、マイハニー♡」

ビッキー「やーん、ダーリンステキ♡」

奏・防人・キネクリ・フィーネさん
((((……このバカップルいつか助走つけて全力でブン殴ろう……))))

統一言語が無くてもみんなの心が一つになった瞬間であった……。



人はこうして勘違いを繰り返し、要らぬ争いを繰り返すんだろうなぁ……(達観)。

次回もよろしくお願いします。


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第18話

 どことも知れない湖畔の屋敷、この屋敷の主であるフィーネはどこかと電話で会話していた。

 そこに吹き飛ばすような勢いでドアが開け放たれる。そこにいたのはクリスだった。

 

「あたしが用済みってなんだよ!? もう要らないってことかよ!?

 あんたもあたしを物のように扱うのかよ!!」

 

 「違う」と言ってほしい、「何かの間違い」だと言ってほしい。そんな想いを込めたクリスの叫び。

 しかしフィーネはそんなクリスを鬱陶しそうに一瞥すると、電話を切って椅子から立ち上がる。

 

「……どうして誰も私の思い通りに動いてくれないのかしら」

 

 言うと同時に、フィーネの手にした杖から緑の光が発射される。それが床に着弾すると、それがノイズとなりクリスの前に現れた。

 それはどうしようもなく決定的なフィーネからの意思……クリスは自分が捨てられたのだと悟った。

 

「あなたのやり方じゃ、争いを無くすことなんてできやしないわ。

 せいぜい1つ潰して新たな火種を2つ3つばら撒くことぐらいかしら?」

 

「あんたが言ったんじゃないか! 痛みもギアも、あんたがあたしにくれたものだけが……!!」

 

「私が与えたシンフォギアを纏いながらも毛ほども役に立たないなんて……そろそろ幕を引きましょう」

 

 クリスの言葉を遮るように、フィーネへと青い光が集まって行く。そしてそれが徐々に形になっていった。

 

「!? 『ネフシュタンの鎧』!!」

 

 フィーネの纏ったものは、クリスの身につけていた完全聖遺物の『ネフシュタンの鎧』だ。

 しかしクリスが白銀だったのに対し、フィーネのそれは黄金に輝いている。

 

「『カ・ディンギル』は完成しているも同然……もうあなたは必要ないわ」

 

「『カ・ディンギル』……?」

 

 クリスが謎の言葉に疑問を浮かべる中、フィーネが杖を向けた。

 

「あなたは知り過ぎてしまったわね……」

 

「ッ!?」

 

 自分目掛けて飛んできたノイズをかわし、クリスは屋敷のバルコニーへと転がり出る。

 そして振り向いたクリスが見たのは、まるで邪魔な虫けらでも潰すかのような嗜虐的な笑みを浮かべるフィーネだ。

 

「ちくしょぉ! ちくしょぉぉぉ!!」

 

 今まで信じてきたフィーネに裏切られたクリスの、涙をはらんだ叫びが湖畔に木霊する……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 あの戦い……響とクリスの激突、そして事件の黒幕と思われる大ショッカーのフィーネとの遭遇のあと、二課は判明した情報を俺たちに教えてくれた。そして、その中の情報には『雪音クリス』のものもあった。

 世界的ヴァイオリニストの父、雪音雅律と声楽家の母ソネット・M・ユキネの間に生まれた音楽界のサラブレッドでありシンフォギア装者候補として注目されていたクリス。しかしNGO活動で訪れた南米の『バルベルデ共和国』で内戦に巻き込まれ両親を失ってゲリラに捕まり捕虜になり、悲惨な幼少期を過ごしたようだ。そんな彼女は2年前に発見され日本に帰国するものの、その帰国直後に行方不明となっているらしい。恐らくその時にあの大ショッカーのフィーネがその身柄を確保したのだろう。

 あの戦いの時クリスがフィーネに言っていた『戦争の火種を無くす』という思いは、そんな過去から生まれた純粋な想いだというのがわかる。そして恐らくそれを誘導し捻じ曲げて利用し、フィーネが自らの手駒としたのだ。

 

(彼女の純粋な想いを利用する……なるほど、大ショッカーのやりそうなことだ)

 

 俺はそう、大ショッカーのやり口の汚さに眉をしかめる。

 一緒に話を聞いていた響は悲しそうに目を伏せ、しばらくするとしっかりとした表情で顔を上げたのが印象的だった。恐らく、クリスのことを救おうと響は心に決めただろうことが声にしなくてもわかる。そして俺も響には賛成だ、その時には力になることを俺は心の中で誓う。

 しかし……まさかその誓いをこんなすぐに果たすことになるとは俺も思ってはいなかった。

 

 

 今日は朝から雨、俺は学校への道を響と一緒に歩いていた。

 ちなみに、あの戦いの後、俺はすぐに病院を退院した。医者や弦十郎司令(おやっさん)はまだ入院していろと言っていたが、黒幕であろう大ショッカーのフィーネが出てきた以上ゆっくり入院などしていられない。最後には脅しにも近いことを言って無理矢理に退院することにした。

 心から俺を心配してくれていたのは分かっているし、申し訳ないとは思う。しかし黒幕が顔を見せてきた以上、何か大きな作戦が発動間近だと推測できる状況だ。こればかりは譲るわけにはいかなかった。

 

「くっ……」

 

「大丈夫、ノブくん」

 

「大丈夫だ。心配ないよ」

 

 不意に襲ってくる痛みに顔をしかめると響が俺を心配そうに覗き込んでくる。そんな響に即座に心配させないように答えながら、俺は自分の状態を分析する。

 

(キングストーンの修復は進んではいるがまだまだ……今は万全の時の3割いくかどうかってところか……。

 おまけに戦闘能力だけじゃなく、ノイズに対する感知能力も下がってるな……)

 

 大ショッカーを相手にするには心細いどころの騒ぎではないが、無いものねだりはできない。今は少しでも回復が進むことを祈りながら、学校へと急ぐ。

 だが、そんな俺のところに電話がかかってきた。相手は未来、こんな朝から珍しいこともあるものだと思いながら俺はその電話に出る。

 

「もしもし」

 

『信人、響もそっちにいる?』

 

「ああ、響なら俺の隣にいるよ」

 

『そう……なら、ちょっと助けが欲しいの。 2人とも今すぐ来て!』

 

 今から学校という時間に来いという未来、普通ではない様子に俺はすぐに今日の学校はサボって未来のところに向かうことを決める。

 

「わかった、すぐ行く!」

 

『あっ、でも誰にも知らせずに目立たないようにね。 場所は……』

 

「わかった!」

 

 またまたおかしなことを言う未来に、これは何かあると確信しながら俺は電話を切った。

 

「未来が今すぐ来てくれってさ」

 

「ノブくん、未来が『学校サボって来てくれ』なんて言うなんてただ事じゃないよ!」

 

「分かってる。 急ぐぞ、響!」

 

「うん!」

 

 俺と響は未来に指定された場所へと急いだ。

 

「あっ、2人とも!」

 

 そこで未来が手を振って俺たちを招く。

 

「どうしたんだ、未来。 何があった?」

 

 未来の様子に変わりが無いことに、俺も響もホッと胸をなで下ろすと未来に詳しい話を聞こうと詰め寄る。

 

「そこ……」

 

「これは!?」

 

 未来の指さす先……裏路地には1人の少女が壁にもたれかかるようにして目を閉じていた。

 

「クリスちゃん!?」

 

 それは響の言うようにあの雪音クリスだ。

 

「今朝登校しようとしたら見つけたの。でもこの子、確かあの鎧の子だって分かったから。

 私1人じゃどうしようもないし、何か事情があるだろうし響が気にかけてたから、2人に相談しようと思って……」

 

 言われて俺と響はクリスに駆け寄ると、その様子を観察する。だがそれと同時に、俺の視界の隅に黒い塊が入ってくる。ノイズの残骸、砕けた炭素の塊だ。

 恐らく、あの大ショッカーのフィーネに用済みとされたクリスはここまでノイズたちと戦いながら逃げてきて、ここで体力の限界に達して倒れたのだろう。

 クリスの服は薄汚れてくたびれていた。今は未来の傘で雨を防いでいるがそれまでの間にかなり雨に打たれたのだろう、服はびしょびしょだ。その濡れた服がクリスの体温と体力を容赦なく奪う。

 額を触るとかなり熱い。熱が出ているようだ。

 

「……急いでここを離れよう」

 

 そう言って俺はクリスを背負う。

 

「でも、どこに行こう?」

 

「響や信人の家はどう?」

 

「いや、俺や響の家は二課の借りてる家だからな。 確実に二課にバレる。

 クリスを二課に引き渡すつもりならそれもいいかもしれないが……」

 

 何となくだが『二課への引き渡し』はやめた方がいいと『直感』が囁いている気がする。

 そんな俺に響も賛成だったらしく頷いた。

 

「まずはちゃんと話を聞いてみたい。 きっと色んな事情があるだろうから」

 

「そうなると差し当たって休める場所を探さないと……」

 

「それなら私にいい考えがあるよ」

 

 そんな未来に誘導され、俺たちは急いでその場を離れるのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 クリスはいつも嫌な夢を見る。その内容はまちまち、両親が死ぬ夢だったりあのバルベルデでの奴隷時代のことだったり様々だ。いい夢なんて見た覚えはない。

 そしてその夢に新しいバリエーションが加わった。フィーネに捨てられる夢だ。

 自分を拾い教養を与えてくれた。自分の想いを理解し、そしてそれを実現できるような強い力を与えてくれた。心から信じていたフィーネ。

 だがフィーネにとって自分は、何かの企みのための駒でしかなかった。

 捨てられたくなくて手を伸ばして、結局今までの大人たちと同じく絶望の闇に突き落とされる……そんな夢からクリスは目を覚ます。

 

「はっ!?」

 

 目を覚ましたクリスはすぐに周りを見渡す。和室に敷かれた布団にクリスは寝ていた。着ていたはずの服はなく、変わりに体操着が着せられている。

 そしてそんなクリスの傍らには……。

 

「クリスちゃん、よかったぁ!」

 

「目が覚めたのね。 服はびしょ濡れだったから着替えさせてもらったわ」

 

「お前ら……!?」

 

 それはクリスにとって予想外の人物、『融合症例』の立花響と、その親友で最初の響の誘拐を失敗させる原因になった『一般人』の未来だ。

 それに気がついた瞬間、クリスは飛び起きようとするが響に捕まれてしまいそれができない。

 

「ダメだよ、まだ寝てないと!」

 

「くっ!?」

 

 単純な力ではクリスは響に敵わない。おまけにギアのペンダントもなく、現状ではどうしようもないクリスは力を抜いてされるがまま布団に戻る。

 するとそこに洗濯籠を持った女性が現れる。

 

「2人ともどう? お友達の具合は?」

 

「ちょうど今、目が覚めたところだよ」

 

「ありがとう、おばちゃん。布団まで貸してもらっちゃって」

 

「気にしなくていいんだよ。 あ、お洋服洗濯しておいたから」

 

 その洗濯籠に入っていたのはクリスの着ていた服だった。

 その時、香ばしい食欲をそそる匂いがクリスの鼻孔をくすぐる。

 

「いい匂い」

 

「これって……」

 

「ああ、昼も近いだろ。 あの子が昼食を作ってるんだよ」

 

 そしてしばらくして現れたのは……。

 

「ようやく起きたか。大事ないみたいでよかった」

 

「月影信人……」

 

 割烹着姿でお盆を抱えた仮面ライダーSHADOWこと月影信人だった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 こちらを鋭い目で睨み付けるクリスに、俺は肩を竦める。

 

「おいおい、そう睨むなよ」

 

 そう言って手にしていたお盆をちゃぶ台へと置く。

 

「いい匂いね」

 

「ノブくん、このお好み焼き……」

 

「ああ、おばちゃんから材料貰って俺が作ったんだ。もう昼だからな。

 お前の分もある。言いたいことも聞きたいこともあるだろうがまずは食事だ。

 その分だとまともに食事もしてなくて、かなり体力が落ちてるだろ?」

 

「……」

 

 そう言って誘うが、クリスは警戒心を隠そうともせず睨み付けるばかりだ。

 俺はそんなクリスに肩を竦める。

 

「おばあちゃんが言っていた。『病は飯から。食べるという字は人が良くなると書く』ってな。

 食わなきゃ体力が戻らないぞ」

 

「えっ、ノブくんのおばあちゃんそんなこと言ってたの?」

 

「いや、言わないぞ」

 

「じゃあ今の言葉はなんなのよ……」

 

 俺たち幼馴染3人のやり取りを聞いていたクリスが大きく息をつく。

 

「お前ら見てたら、毒でも入れられてるんじゃないかって警戒してるあたしがバカみたいだ。

 わかった食べる。このままじゃお前らの幼馴染漫才をいつまでも見せられそうだからな」

 

 そう言ってもぞもぞと布団から出てきて、俺たちと同じくちゃぶ台についたクリスだが、お好み焼きを見た途端に半眼になって俺を睨んだ。

 

「これ、ツッコミ待ちか?

 なんだよこのマヨネーズで『わがまおう』って……」

 

「これが『ウォズお好み焼き』の正しい食べ方だ。

 祝え、新たなお好み焼きの焼き上がりを」

 

「なんだよそれ……全っ然意味分かんねぇぞ」

 

「大丈夫だよクリスちゃん、私たちにも分からないから」

 

 そんなことを言いながらも俺たちは食事を始める。

 食事を始めてから分かったことだが、クリスの食事の食べ方は汚い。戦闘訓練はかなりしている風だが、どうもその辺りの訓練はなかったようだ。

 

「クリス、口にソースついてるよ」

 

「あ、ありがと……」

 

 未来がそう言ってクリスの口元を拭くと、クリスは照れながら礼を言った。なんとも微笑ましい光景だ。

 もしこうしてクリスと対面しているのが敵対していた俺と響だけだったら、多分クリスの反応はもっと攻撃的だっただろう。未来がいてくれてよかったと心底思う。

 そんなこんなで食事も終わったところで、クリスは口を開いた。

 

「ここはどこだ?」

 

「俺たち行き付けのお好み焼き屋『ふらわー』の2階だ。

 おばちゃんに頼み込んでお前の体調が戻るまで布団を貸してもらったんだよ」

 

 あの時未来が提案したのが、俺たちの行き付けのお好み焼き屋『ふらわー』だった。

 俺や響はもう1年以上の行き付けだし、おばちゃんはいい人だ。友達が倒れて休ませてやって欲しいと響や未来が頼んだら快く布団を貸してもらえたのである。

 ちなみにクリスの体調はそれなりに回復しているはずだ。何故なら俺がキングストーンの修復を一端後回しにして、キングストーンエネルギーを放射して体調を回復させたからである。

 

「で、この後はお前ら二課にご招待ってわけか」

 

「そのつもりなら最初っからここには来ずに、お前を抱えて二課の本部に駆けこんでるよ」

 

「じゃあ、どういうつもりなんだよ?」

 

「この前の続き……私はクリスちゃんと話がしたいんだ」

 

 そんな響に何か言い返そうとしたクリスだが、それを呑み込むようにすると口を開く。

 

「……わかった。 今日助けられて飯を喰わせてもらった借りを返すってことで少しだけ立花響(バカ1号)の話を聞いてやる」

 

 そう言われて響が喜色を浮かべる。

 

「クリスちゃん、私たちが争う理由なんてもうないんだよ。

 だから一緒に……」

 

「……確かに、もうあたしとお前らが争う理由なんてないのかもな。

 だからって、争わない理由もあるものか。

 ついこの間までやり合ってたんだぞ、そう簡単に人が分かり合えるものかよ。

 お前ら……どうせあたしの過去は知ってるんだろ?」

 

「「……」」

 

 言われて、クリスの大まかな経歴を聞かされていた俺と響は顔を見合わせた。

 

「地球の裏側……バルベルデ共和国でパパとママを殺されたあたしはずっと一人で生きてきた。

 大人はどいつもこいつもクズぞろいだ。

 痛いと言っても聞いてくれなかった、やめてと言っても聞いてくれなかった。

 あたしの話なんて、これっぽっちも聞いてくれなかった!

 たった1人理解してくれると思ったフィーネも、あたしを道具のように扱って要らなくなったら捨てた!

 誰も……誰もまともに相手してくれなかった!

 そんな人が、あたしが誰かと分かり合えるものかよ!!」

 

 途中から涙を浮かべて、クリスが感情を吐露する。

 クリスは一体どれだけの人の闇を見て、それに傷つけられ翻弄されてきたのだろう?

 それは響がいて未来がいて両親がいて、満たされていた俺には到底想像もできない。 

 だが、そんなクリスの心の闇を垣間見ても響は止まらなかった。

 

「できるよ、誰とだって仲良くなれる」

 

 すると響と、そして微笑みを浮かべた未来が動いた。

 

「私の名前は立花響」

 

「私の名前は小日向未来」

 

 そう言って響はクリスの右手を、未来はクリスの左手をとった。

 

「私はクリスちゃんの友達になりたい!」

 

「私も、クリスがいいのならクリスの友達になりたい」

 

 そう言われたクリスは最初は何が起こったのか分からないという顔をしていたが、すぐにその手を振りほどこうとする。

 だが、響と未来はその手を離さない。

 

「やめろよ……あたしは、お前たちにひどいことをしたんだぞ! 敵だったんだぞ!

 あの流星のときだって……!」

 

「過去はそうかもしれないし変えられないけど……でも今と未来(みらい)は変えられるよ」

 

「だから変えようよ、分かり合えないって思ってる今を」

 

 響と未来に言われ、クリスは何も言えずにうつむく。

 その時だった。

 

 

ウーーーーーーー!

 

 

「この警報は!?」

 

「ノイズ!?」

 

 ノイズ警報が周辺に響き渡る。

 

(ちぃ! 探知能力も衰えているのは分かってたが、まさかここまでとは……)

 

 警報が出る段階までノイズを感知できなかったということは、予想以上に俺の能力が下がっているということだ。その事実に俺は歯噛みする。

 そんな中、クリスはいの一番に外へと飛び出していった。慌てて俺たちもそれを追う。

 目の前に広がっていたのは、我先にとシェルターへ急ぐ人々。誰もがノイズという恐怖に顔を青ざめさせ、中には泣き出す子供もいる。

 その光景を見て、クリスはギリッと歯を軋ませた。

 

「おい、あたしのイチイバルをよこせ!」

 

「でもクリスちゃんは病み上がりで……」

 

「そんなことを言っている場合かよ!

 目の前の光景……これは全部あたしのせいだ! あたしを消すためにフィーネが放った追手のノイズのせいだ!

 あたしがしたかったことはこんなことじゃない! こんなことじゃないのにぃ!!」

 

 響の心配する言葉に、涙を流しながら崩れ落ちるクリス。

 自分が無関係な誰かを巻き込んでしまったと激しい後悔をしているのだろう。

 だがクリスはそれでも涙を拭って立ち上がる。

 

「……懺悔も後悔も後回しだ。

 『今と未来(みらい)は変えられる』んだろ? なら……今は戦ってノイズどもをぶっ潰す!

 だから早くあたしのイチイバルをよこしやがれ!!」

 

「……わかった。 なら私たちもクリスちゃんと一緒に戦う!」

 

 そう言って、響はポケットからイチイバルのペンダントを取り出し、それを渡しながら言った。

 

「お前ら……」

 

「だってクリスちゃんは友達なんだもの。友達が泣いてるのに、見て見ぬふりなんてできない。

 一緒に……戦う!」

 

「まぁそう言うことだ。 ノイズが相手ならこっちも見て見ぬふりはできないからな」

 

 そう言う俺たちにクリスはうつむきながら顔を背けた。

 

「そういうことなら……惚気て遅れんじゃねぇぞ、バカップルども!!」

 

 

「Killter Ichaival tron……」

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron……」

 

 

「変身ッ!!」

 

 

 そして響とクリスがギアを纏い、俺もSHADOWへと変身を果たす。

 

「未来はおばちゃんと一緒にシェルターへ!」

 

「うん、いってらっしゃい!

 帰りを待ってるからね響、クリス、信人!」

 

 未来の声に押されるように俺たち3人は同時に跳躍した。

 

「シャドービーム!!」

 

 俺はまずは機動力のある飛行タイプのノイズを薙ぎ払おうとシャドービームを放つ。稲妻状に放出されたキングストーンエネルギーが枝分かれし、ノイズたちを砕いた。

 だがそれは俺の当初想定していた数の半分にも満たない。

 

「ちぃ! ここにもパワーダウンの影響が!」

 

 舌打ちして第二射を放とうとするが、それよりも先にクリスのガトリング砲が空中のノイズたちを次々に薙ぎ払う。

 

「空中の奴はこっちに任せろ!

 お前(バカ2号)立花響(バカ1号)は地上の敵を!!」

 

「その呼び方には色々言いたいことがあるがそれは後だ!

 いくぞ、響!」

 

「オッケー、ノブくん!!」

 

 俺と響は地上のノイズへと躍りかかる。

 

「シャドーパンチ!」

 

 シャドーパンチの直撃したノイズが周囲のノイズを巻き込んで吹き飛ぶ。だが、いかんせん万全の状態ほどの殲滅力はない。

 

「とりゃぁぁぁ!!」

 

 その間を縫うように響が空中からキックを繰り出し、残ったノイズを蹴散らす。

 万全には程遠いコンディション、どんどん集まってくるノイズ……だが不安は何もない。背中を任せられる仲間がいるというのは本当に良いことだと思う。

 ノイズ殲滅は苦も無く進み、最後はクリスのガトリング砲と小型ミサイルの一斉射撃が完全にノイズを消しつくした。

 

「……終わったな」

 

 ノイズの殲滅を確認すると、クリスは大きく跳躍した。

 

「クリスちゃん!?」

 

「……あたしはお前らや未来はまだしも、他の連中はまだ信用してない。

 だから今は二課の連中に捕まる気はないからな、ここで退散させてもらう」

 

 電柱の上に降り立ったクリスが、俺たちを見ながら言った。

 

「あたしは……フィーネを倒す!

 それがあたしがやらかしたことへの償いの第一歩だ。

 だから、もしそれが終わった時には……」

 

 何か言おうとして首を振り、クリスはそのまま背を向けていくつものビルの屋上を跳躍して去って行った。

 だが、クリスが言い淀んだ言葉を俺も響も理解していた。

 

「クリスちゃんを一人にはさせない。その戦いの時には……」

 

「ああ、俺たちもフィーネとの戦いに協力する!」

 

 償いのために1人でフィーネと戦おうと考えているだろうクリスを決して一人では行かせないと響は言い、俺も同意する。

 戦いを通じて分かり合えたクリスの去って行った方を、俺と響はいつまでも見つめていた……。

 




今回のあらすじ

フィーネさん「とりあえずキネクリは処すことにしたわ」

キネクリ「あのさぁ、そういう現場責任者に責任押し付けてしっかりと失敗原因を組織全体のこととして捉えられない『悪の秘密結社症候群』は普通にダメだと思うぞ、組織運営的に」

ビッキー「おかしい、クリスちゃんがINT高いこと言ってる……」

キネクリ「お前あとでボコるわ」

393「捨てキネクリ拾いました」

SHADOW「わかった、まずは俺のマイティアイで異常がないか検査を……ぎゃぁぁぁぁ!!」

ビッキー「……彼女の隣で堂々と何してるの? 潰すよ、色々と」

SHADOW「……それは目潰しの前に言ってほしかった。ちなみにこのまま二課に連れてくと死亡フラグだとキングストーンさんが教えてくれてるので『ふらわー』に行くぞ」

フィーネさん「キングストーンさんを便利な攻略本にするのはやめなさいよ。まぁ連れて来たら私が殺してるけど」

月の石「大丈夫。ファミ通の攻略本だよ」

SHADOW「……いつか致命的なことになりそうだ。とりあえず基本は餌付けだろう。ほら、おばあちゃんも言っていたわけだし」

393「なんでせっかく『ふらわー』来ておいて、おばちゃんじゃなくて信人がお好み焼き焼くのよ……?」

SHADOW「祝え、新たな仲間の誕生を!」

キネクリ「そんな飯にあたしさまが釣られ……クマァァァ!」

ビッキー・393「「キネクリまじチョロイン!」」

SHADOW「まぁ、基本的に原作でもキネクリは人の優しさに飢えた、他者への依存傾向の高いキャラだからな。響と未来の2人がかりで攻めれば、そりゃ一発で絆レベルMAXになるわ。
    二次創作じゃないが、普通にヤンデレとかありえそうで困る」

キネクリ「よし、あたしは改心したってことで死亡フラグとはおさらばだ!」

フィーネさん「いいわね……私は立場上、最後までやらんといかんし……」

キネクリ「というわけでフィーネとの決着をつける。あたしさまはクールに去るぜ」

SHADOW「まぁ、そこは俺たちも介入する気満々だがな」


捨てクリスの保護イベントでした。
次回もよろしくお願いします。


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第19話

「来るぞ、響!」

 

「うん!」

 

 眼前に迫るノイズたちに向かって俺と響は構えをとった。

 奏と翼はいない。というか、俺たちが出動を断った。

 何故なら……。

 

「今日は奏さんと翼さんの、ツヴァイウイングの大事なコンサートの日なんだ!

 その邪魔をさせるものかぁ!!」

 

 響が叫びながらノイズに拳を叩き込む。

 そう、今日は大切なツヴァイウイングのコンサートの日だ。なんでもツヴァイウイングは今後、海外に進出し世界を舞台に歌うというのだ。今日はそれを発表する大切な晴れの日、それを汚すようなノイズを俺も響も許しはしない。

 だがフィーネもこちらの事情を把握しているのかノイズの編成がいやらしい。

 まるでパリの凱旋門のような形状で砲台を突き出した城塞型大型ノイズ2体を中心に、いつぞやクリスが響を捕らえようとしたときに使ったトリモチノイズ、機動力の高い飛行型ノイズが多量にいてこちらをかく乱する。それらを始末しようと意識を向けると、近接型の大量の人型ノイズが迫ってくるといった状態だ。

 フィーネは中々に集団戦闘というのを心得ていると見える。まぁ、大ショッカーの幹部なら戦闘員の指揮はお手の者だろうし、それがノイズに変わっただけか。

 

「ちぃ! 中々数が減らないな!」

 

 シャドーチョップでノイズを薙ぎ払いながら俺はぼやく。

 俺もシャドービームを撃ったりはしているが、威力が下がっているため決定打にはなりえない。かといってバイタルチャージからのシャドーキックなどの決め技で薙ぎ払うとしても、こちらも万全な状態ほどの殲滅力も持久力もないため、大型用に温存しておきたいところだ。

 

「でもやらないと!」

 

「それは分かってるが……って響っ!!」

 

「っ!?」

 

 響目掛けて飛んできたトリモチを、俺はシャドービームで近くのノイズを捕まえると響の方に投げつけて響の盾にする。トリモチは防げたものの、その間に飛行型ノイズがドリルのような突撃形態になって響へと迫る。

 シャドービームは今しがた放って『溜め』になってしまっていて連射できない。

 だが、響を狙う飛行型ノイズがガトリング砲の弾丸で粉々に砕け散った。

 この攻撃は……。

 

「クリスちゃん!」

 

 舞い降りたのはシンフォギアを纏ったクリスだ。

 

「よそ見してんなバカップル!

 雑魚どもはあたしが薙ぎ払ってやるから大物を狙いやがれ!!」

 

 クリスが咆え、腰アーマーが左右に展開する。

 

 

『MEGA DETH PARTY』

 

 

 ガトリング砲が重低音を奏でる中、小型ミサイルが一斉発射された。小型ミサイルはもっとも効果的に敵を薙ぎ払う位置に着弾、ガトリング砲の弾丸が押し潰すように空中のノイズを消し去る。

 その様を見て顔を見合わせた俺と響が頷く。

 

「バイタルチャージ!」

 

「この一撃に、すべてをのせて!」

 

 俺は空中に飛び上がり、響が中国拳法の高速移動『活歩』で瞬時に間合いを詰める。

 

 

「シャドーキックッッ!!」

 

「我流、无二打(にのうちいらず)!!!」

 

 

 俺と響の決め技が同時に2体の大型ノイズに叩き込まれた。シャドーキックによって発生した余剰エネルギーが溢れ、響の拳圧による衝撃が周囲を穿つ。

 その一撃が決め手となり、ノイズはすべて消え去った。

 

「やったね、ノブくん!」

 

「ああ!」

 

 俺に響が抱きついてきて喜ぶ。そんな中視線を巡らせると、そこにはすでにクリスの姿はなかった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……あたし、雪音クリスはあたしを消そうとしてるフィーネからはもちろん、二課からも身を隠している最中、つまり『潜伏中』ってわけだ」

 

 クリスの独白は続く。

 

「当然、そんなあたしの隠れ家ってのは重要で、誰にも知られちゃならない。

 だってのによ……」

 

「あはは、やだー響ったら!」

 

「あはは、だよねぇ!」

 

「なんでそんな潜伏中のあたしの隠れ家を、お前らはダベり場に使ってんだよ!!」

 

 ピクピクと頬を引きつらせたクリスは、もはや耐えられぬと吠えた。

 ここはクリスが独白したようにクリスの隠れ家、郊外にある無人のマンションの一室だ。

 ノイズの被害に晒されるこの世界においては、家族全員がノイズの被害にあったことで空き家になってしまった家やノイズ被害地のすぐ近くということで人がいなくなってしまったマンションなどが数多く存在しており、ここもそんな住民がいなくなり放置されているマンションの一つである。

 そんなクリスの秘密の隠れ家は現在、響と未来と信人の3人によって放課後のダベリ場へと変貌していた。

 

「なんだ、ただ友達の家に遊びに来ただけなのにそんなにカッカしてどうしたクリス? 菓子が足りないのか?」

 

「あ、そうなんだ。 はい、クリスちゃん新作ポテチの辛味噌味だよ」

 

「ほら、クリスは銃使いなんだしこれ食べて『この距離ならバリアは張れないな!』とゼロ距離射撃をだな……」

 

「いやまったく全然意味が分からねぇ。その微妙な味のポテチとそのセリフに何の因果関係があるんだよ。

 ……って違ぇよ! そうじゃねぇ!!」

 

 信人と響の様子が気に入らなかったのか地団駄を踏むクリス。

 

「ここは喫茶店でもなけりゃ○ックでもねぇ! ダベリたいんなら他行けよ!

 つーか、それ以前にどうやってあたしの潜伏場所探したんだよ!!」

 

「あっ、それなら俺のマイティアイとセンシティブイヤーとシャドーセンサーとキングストーンの導きで探し出した」

 

「よく分かんねぇけど、軽々しく全開でスーパーパワーを使うんじゃねぇよ月影信人(バカ2号)

 ……とにかく、ダベるんだったらどっかの店でやってくれ。下手に騒いで潜伏場所(ここ)がフィーネや二課にばれたら目も当てられない」

 

「だってお店でこんなに騒いだら迷惑になっちゃうじゃない。 それにお金かかるし……」

 

「それにこういうのなんか子供のころの『秘密基地』みたいでわくわくするしな!」

 

「そうだよね、いいよね『秘密基地』!」

 

「お前ら……いい加減にしねぇとマジでぶん殴るぞバカップルども……!」

 

 信人と響に本気で額に青筋をたて始めるクリス。それを未来が諫める。

 

「まぁまぁクリス、これでも食べて落ち着いて」

 

「あんぱん……まぁ、貰うけど……。

 こいつらふざけ過ぎだ、未来も何か言えよ」

 

 モグモグと未来に餌付けされながらクリスが言うと、未来は少し呆れながら信人に言った。

 

「信人もいい加減にふざけてないで正直に理由を話したら?」

 

「まぁ、『遊びに来た』って言うのも本当のところだ。

 お前、毎回ノイズ倒したらいつの間にかドロンするだろ? だから響や未来が心配してたんだよ」

 

「……そうかよ。

 でも、その口ぶりじゃそれだけじゃないんだろ?」

 

 心配されていたのが嬉しいのか照れくさいのかクリスは少しそっぽを向くが、すぐに信人に顔を向ける。

 

「もう一つの用事はお前の『監視』だよ」

 

「……何だ、ついにあたしを二課に売る気になったのか?」

 

「そうじゃない、お前……体力が回復したら1人でフィーネのところに突撃かけるつもりだろ?」

 

「……」

 

 信人の言葉に無言になるクリス。それが真実を雄弁に語っていた。

 クリスが自分のしていたことに罪の意識を持っているのは知っている。自分を消すために放たれたノイズたちによって罪のない人々の日常が脅かされる様を見て、それを止めようとがむしゃらに戦っていた。響や信人が一番心配したのはそんなクリスがすべて1人で背負い込んで、単身でフィーネのところに突っ込んでいくことだ。

 

「今回の一連の事件の黒幕『フィーネ』……どんな隠し玉を持ってるか分からない相手だ。

 それを相手に1人は無謀すぎる。

 1人より3人の方ができることが多いのはお前も分かってるだろ?」

 

「でも、これはあたしのせいだ。

 誰かに迷惑をかける気は……」

 

「違うよクリスちゃん。 迷惑なんかじゃない」

 

 そんなクリスの手を未来と響が取る。

 

「私には何の力もないし無事を祈ることしか出来ないけれど……クリスの出来るだけ力になりたいの」

 

「友達だもの。友達が困ってるのに手を差し伸べられないなんて私は嫌だ。

 それに……ノイズを使って何かを企んでるなら、それは絶対に止めなきゃならない。それをクリスちゃんだけに押し付けるなんて間違ってる」

 

 言われてクリスは嬉しかったのか少し目を潤ませ、それに気付いたのか顔を赤くしてそっぽを向く。

 

「……そこまで言ったんだ、今さらなかったことになんかならねぇぞ」

 

「うん!」

 

「まぁ、俺らは最初から覚悟の上だ」

 

「私は帰りを待ってることしか出来ないけどね」

 

「……そういうことなら景気づけだ。 今日は付き合えよ、おまえら!」

 

 そう言って菓子に手を伸ばすクリスに笑顔の3人。

 そして……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……あそこか?」

 

「ああ、あれがフィーネの隠れ家だ」

 

 俺と響、そしてクリスの3人が林の木々に身を隠しながら目の前の邸宅を眺める。俺と響は、クリスの案内でフィーネの隠れ家へとやってきていた。

 

「物凄い豪邸だね。 まるでテレビでやってるお金持ちの家みたい」

 

「実際はそんな平和なもんじゃない。 中はあたしでも訳わかんねぇ研究施設や実験施設やらが満載だ。

 金ってのは悪いことをすればするほど集まるんだろうよ」

 

 響の言葉に肩を竦めるクリスが言い捨てる中、俺は黙ってSHADOWへと変身する。いきなりの変身に面食らう2人を尻目に、俺はマイティアイで周囲を分析した。

 すると……。

 

「おい、クリス。 何だか様子がおかしいぞ」

 

「どういうこった、月影信人(バカ2号)?」

 

「いや、屋敷の周辺には侵入者向けだと思うトラップが幾重にもあるんだが、それが全部無力化されてる」

 

「何っ?」

 

 ここは大ショッカーの一員であるフィーネの基地だ。だとすれば罠の1つや2つは普通にあるだろうと思いマイティアイで探っていたのだが、罠はあるもののすでに無力化された後という結果がでているのである。

 

「……なぁ、二課以外にフィーネと敵対しているような相手はいるのか?」

 

「あたしが知る限りいないはずだけど……」

 

 クリスは俺の質問に自信なさそうに答える。フィーネの計画について何も知らず、クリスも自分が客観的に『手駒』としてしか見られていなかったことを悟りそんな相手に重要な情報を渡すはずがないと理解しているのでクリス自身、自分の持つ情報に信憑性がないことが分かっているからだ。

 俺はそんな様子のクリスから視線を外し、少し考える。

 

(大ショッカーの敵と言えば、言わずと知れた『仮面ライダー』だが……ものによっては同種の『悪の組織』と抗争してたりもするからな。

 ショッカーとノバショッカーみたいなことも考えられるんだが……)

 

 しかしそう考えればおかしな点に気付く。

 屋敷があまりに静かだ。これはまだ戦闘が終わったというのなら説明がつくが、屋敷や周辺があまりに『綺麗過ぎる』。派手な戦闘の痕跡が見当たらないのだ。

 俺は首を捻りながらも、考えても仕方ないと気持ちを切り替えた。

 

「とにかく、何かおかしい。

 ここから先は生身は危険だ、2人ともシンフォギアを纏って突入しよう」

 

 俺の言葉に響もクリスも頷くとシンフォギア纏った。

 一気に屋敷に突入し、クリスを先頭に走り抜ける。そしてドアを蹴破る勢いで大広間に飛び込むとそこには……。

 

「なっ!?」

 

「響、見るな!」

 

 そこに転がっていたのはいくつもの死体だ。それに気付き驚きの声をクリスが上げ、俺は咄嗟に響の視界を塞ぐ。

 血だまりには屈強な男たちが物言わぬ骸となって転がっている。生体反応はない、全員がすでに事切れていた。

 

「これって……?」

 

「……恐らくフィーネの仕業だろうな」

 

 正直、響にはこんなものは見せたくないのだが本人が「大丈夫」といって俺の陰から出て俺やクリスと一緒に様子を調べている。響の声は少し震えていた。

 全員が身体を何かで刺し貫かれて死んでいる。

 

「そもそも、この人たちって一体誰なの……?」

 

「こいつらはアメリカの軍人だ……」

 

 響のそんな疑問にクリスが答える。

 

「白人と黒人が一緒の部隊で戦ってて、今日本にこれだけの規模の部隊が送れるのはアメリカくらいだ。

 それに見覚えがある顔がいる。あたしの戦闘訓練を担当してた教官だ。

 フィーネはあたしに『アメリカ軍人だ』って紹介してたよ」

 

「アメリカか……」

 

 以前、二課に対する数々の妨害工作などの黒幕がアメリカだという『アメリカ陰謀論』の話は聞いたことがあったが、これはそれに現実味が帯びてきた。

 しかし、この状況はどう考えたものか。

 クリスの教育のためにアメリカ軍人を派遣させることができるなどを考えると、フィーネはアメリカと手を組んでいたのだろう。しかしそれをフィーネが裏切り、戦いになった……恐らくはそんなところか。

 その時、俺のセンシティブイヤーがいくつもの足音を感知する。

 

「誰か来る!」

 

「フィーネのやつか!」

 

「いや……この足音は……」

 

 そして現れたのは……。

 

「お前たち、独断専行が過ぎるぞ」

 

弦十郎司令(おやっさん)!」

 

「師匠!」

 

 現れたのは弦十郎司令(おやっさん)だ。その後ろには拳銃を構えた黒服のエージェントたちの姿がある。

 それを見て俺と響は咄嗟にクリスを庇うように前に出た。

 

弦十郎司令(おやっさん)、話を聞いてくれ!」

 

「そうです師匠、私たちもクリスちゃんも何にもしてません!」

 

 だがそんな俺たちの声を素通りし、黒服のエージェントたちは遺体を調べ、周辺を警戒して散開した。

 

「誰もお前たちがやったなど疑ってはいないよ。

 俺たち大人も遊んでいるわけじゃない。お前たちが遭遇した一連の事件の黒幕である『フィーネ』について探り、ここまでたどり着いたというわけだ」

 

 弦十郎司令(おやっさん)はそのまま警戒心を剥き出しのままのクリスに近付く。

 

「雪音クリス……ヴァイオリン奏者雪音雅律とその妻、声楽家のソネット・M・ユキネが難民救済のNGO活動中に戦火に巻き込まれて死亡したのが8年前。残った1人娘も行方不明となった。

 その後国連軍のバルベルデ介入によって事態は急転、現地の組織に囚われていた君は発見され保護、日本に移送されることになった」

 

「へっ、そういう詮索反吐が出る」

 

「当時の俺たちは適合者を探すため音楽界のサラブレッドに注目していてね。天涯孤独になった君の身元引受人に手を挙げたのさ」

 

「こっちでも女衒(ぜげん)かよ……」

 

 心底うんざりしたようにクリスが言うと、隣で聞いていた響が小声で俺に聞いてきた。

 

(ノブくん、『女衒(ぜげん)』って何?)

 

(若い女性専門の人買いのことだ。 江戸時代とかにいたらしいぞ)

 

(へぇ、そうなんだ。 ノブくん物知り)

 

(ま、まあな……)

 

 ……まさかエロ漫画で知った知識とは思うまい。まぁ、正しい知識は出所が何であろうと等しく尊いものだし俺とて健康的な男子高校一年生、そういうこともある。

 そんな中弦十郎司令(おやっさん)とクリスの話は続く。

 

「ところが君は帰国直後に突如として消息不明。相当数の捜査員がその調査に駆り出されたが、その多くが死亡あるいは行方不明という最悪の結末で幕を引くことになった……」

 

「何がしたいんだ、おっさん?」

 

「俺がしたいのは君を救いだすことだ。

 俺は当時その件に関わった最後の生き残り、一度受けた仕事をやり遂げるのは『大人の務め』だからな」

 

 そんな弦十郎司令(おやっさん)の言葉は、『大人』を嫌うクリスの怒りに触れたらしい。クリスが声を荒げた。

 

「はっ! 『大人の務め』と来たか!

 余計なこと以外は何もしてくれない大人が偉そうに!!

 あたしは大人が嫌いだ! 死んだパパとママも大嫌いだ!

 戦地で難民救済? 歌で世界を救う? いい大人が夢なんか見てるんじゃねぇよ!!」

 

 それは辛い幼少期を過ごすことになったクリスの、心からの叫びだった。

 さすがに死んだ両親を貶すような言葉に思うところはあるものの、何か言えるわけもなく俺と響はその展開を見守るだけだ。

 だが、そんなクリスに弦十郎司令(おやっさん)は軽く首を振って返す。

 

「そうじゃない。大人だから夢を見るんだ。

 大人になれば背も伸びるし力も強くなる。財布の中の小遣いだってちったぁ増える。

 子供のころはただ見るだけだった夢も、大人になったらかなえるチャンスが大きくなる。夢を見る意味が大きくなる。

 お前の親はただ夢を見に戦場に行ったのか? 違うな。

 歌で世界を平和にするっていう夢をかなえるため自ら望んでこの世の地獄に踏み込んだんだ。

 きっとお前に見せたかったんだろう。 夢はかなうという『現実』をな。

 お前は嫌いと吐き捨てた両親は、お前のことを本当に大切に想ってたんだろうな」

 

 きっと弦十郎司令(おやっさん)の言うそれは真実だろう。それを感じたのかクリスも涙ぐむ。

 その時。

 

「風鳴司令、これは……」

 

 黒服のエージェントの一人が、死体に添えられていた手紙のようなものに手を伸ばす。

 ゾクッ、とする感覚が背を駆け抜けた。このキングストーンが教えてくれる直感は……!!

 

 

ドゥン! ドゥン!! ドゥン!!!

 

 

 手紙を手に取るとピアノ線で仕掛けられていたトラップが作動、仕掛けられた爆弾が連続して爆発を起こした。

 爆発によって支えを失った天井が瓦礫となり、俺たちを押し潰そうと迫る。

 

「シャドービーム!!」

 

 俺は咄嗟にシャドービームを放った。種類は捕縛のための念動光線、それで落ちてきた天井の瓦礫を支える。

 

弦十郎司令(おやっさん)!!」

 

「総員退避だ!!」

 

 俺の言葉に弦十郎司令(おやっさん)が黒服のエージェントたちに指示をとばす。

 その指示に従って全員がその場から退避すると、俺もシャドービームの効果を切って外へと飛び出した。

 背後から瓦礫の崩れる音が響く。

 あの爆発は証拠隠滅も兼ねていたのだろう。振り返ってみると見事に屋敷の大部分が崩壊していた。

 

「信人くん、感謝する」

 

弦十郎司令(おやっさん)なら、俺がいなくともどうとでもなっただろ?」

 

「いや、君がいなかったら彼らは運び出せなかった」

 

 そう言って背後を指すと、そこにはアメリカ軍人の死体がいくつか転がっていた。

 

「さすがに全員は無理だったがな。まぁ、アメリカがこの件に絡んでいるという証拠の一つであると同時に、調べれば色々なことも分かるだろう。

 それに……彼らも国の命令を忠実に聞き国に尽した者だ。できることなら綺麗なまま故郷に還してやりたいという気持ちがある」

 

 後半の方は何とも弦十郎司令(おやっさん)らしい言葉だ。

 

「じゃあ、今回は俺と響はお咎めなしってことでひとつ」

 

「それはない」

 

「デスヨネー」

 

 どうやら弦十郎司令(おやっさん)からのお叱りが俺と響には待っているらしい。

 

「さて、俺たちはこのまま戻るがお前も一緒に来るか?」

 

 弦十郎司令(おやっさん)はそう言ってクリスを誘うが、クリスは少し考えた後首を振る。

 

「やっぱりあたしは……」

 

「まだ俺たちを信用できない、か……だろうな。

 だが、2人のことは信じてるんだろ?」

 

 そう言って弦十郎司令(おやっさん)が俺と響を指すと、クリスは頷く。

 

「お前はお前が思っているほどひとりぼっちじゃない。

 いずれすぐにお前の道は俺たちの道と交わる。その時にお前に信用してもらえるようにせいぜい頑張るさ、大人として、な」

 

 そう言って弦十郎司令(おやっさん)はクリスに通信機を投げ渡す。

 

「それがあれば限度額なら公共機関にも乗れるし買い物もできる。便利だぞ」

 

 そして弦十郎司令(おやっさん)が車に乗ろうとしたところに、クリスが声をかけた。

 

「『カ・ディンギル』!」

 

「ん?」

 

「フィーネが言ってた。『カ・ディンギル』って……。

 それが何なのか分からないけど、そいつはもう完成しているみたいなことを……」

 

「そうか……情報感謝する。では、また会おう。

 そこの2人、説教は今回のことが終わるまでお預けだ。早めに戻れよ」

 

 それだけ言うと、弦十郎司令(おやっさん)は車列を率いて去って行った。

 

「さて……俺たちも戻るか」

 

「そうだね……あ、そうだ! クリスちゃん今日からウチに泊まりなよ」

 

「はぁ!? 何言ってんだよ立花響(バカ1号)?」

 

「だってどうせ師匠にはバレちゃってるんだし、秘密基地(あそこ)よりは過ごし易いよ」

 

「そうだな。どうせバレてるならもう俺たちのところで問題ないだろ?」

 

月影信人(バカ2号)まで……」

 

 俺たちの言葉にしばし考えていたクリスだが、やがて少し顔を赤くしながら頷く。

 

「じゃあ、世話になる……」

 

「うん! これからお泊り会だね!

 あっ、未来も呼ぼうよ!」

 

「ほどほどにしとけよ、響」

 

 そう言って俺たち3人も揃って街へ向けて移動を始める。

 

 

「……ありがとな」

 

 

 クリスの小さな声が耳を打つ。俺と響は顔を見合わせ微笑むと、そのまま3人で未来の待つ街へ移動を始めたのだった……。

 




今回のあらすじ

SHADOW「ツヴァイウイングのライブを守る男、地獄からの使者『仮面ライダーSHADOW』!!」

キネクリ「お、お前らを助けに来たわけじゃないんだからな!」

ビッキー「ナイスツンデレ。 本当にクリスちゃんはチョロインだなぁ」

SHADOW「というわけでお宅訪問の時間だコラァ!!」

ビッキー「ちなみにこの辺りのシーンはクロマティ高校の前田家のイメージまんまらしいよ」

キネクリ「お前らいい加減にしねぇとマジで殴るぞ……」

SHADOW「いや、そうでもしないと一人で突撃かましてバッドエンドとか十分ありえるし」

ビッキー「ほら、クリスちゃん無鉄砲そうだし」

キネクリ「無鉄砲の王様に言われてマジでショックなんだが……」

SHADOW「とにかく、大ショッカーの基地に行くんだ。俺たちもいくぞ!」

フィーネさん「だから大ショッカーって何なのよ!!」

OTONA「俺のHAKKEIの見せ場が削られたんだが……」

ビッキー「もう師匠には全部バレてるし、家に連れ帰っていいよね。野良クリス拾ったので虐待してみることにした」

キネクリ「風呂場に連れ込みお湯攻めからだな(ワクワク」

SHADOW「完全に調教されてて、もうチョロ過ぎて笑いしか出てこない」


今回は半分日常回のような普通(当社比)の回でした。
次回からは無印編最終決戦に向けた話となります。

次回もよろしくお願いします。


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第20話

「『カ・ディンギル』か……」

 

 二課で弦十郎が呟くのは、クリスからもたらされたフィーネという一連の黒幕の漏らしていたという謎の言葉だ。

 

「了子くん、『カ・ディンギル』という言葉の意味を、何か分からないか?」

 

 そう問いかける通信先の人物は了子である。

 数瞬の間の後、了子からの答えが返ってきた。

 

『『カ・ディンギル』とは古代シュメールの言葉で『高みの存在』……転じて天を仰ぐほどの巨大な塔を意味しているわ』

 

「巨大な塔……何者かがそんな巨大な塔を建造していたとして、何故俺たちはそれを見過ごしていた?」

 

『さぁ? ただ常識的な観点から言って、それほどの巨大な建造物を極秘裏に一から建造するのは不可能に近いわね。

 だとすれば……既存の高層建造物、それを改造するという可能性の方がまだあり得る可能性よ』

 

「既存の高層建造物の改造、か……わかった、調べてみよう」

 

『まぁそれよりも何かしらにあやかって付けたただのコードネームであり、塔は関係ないという可能性の方が現実的じゃないかしら?

 あまり捉われすぎるのもよく無いわ』

 

「そうだな。様々な方面から考えてみよう。

 急にすまなかったな、了子くん」

 

『何の何の、こっちの野暮用が終わったら私も合流するわ』

 

 そう言って了子の通信は切れた。

 弦十郎は司令席に深く腰掛けると呟いた。

 

「最終決戦、だな……」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……」

 

 通話の切れた通信機、それを見ながら了子は呟く。

 

「……相変わらず嘘は下手ね、弦十郎くん」

 

 苦笑するように言うと、了子はその髪を解いた。長い髪が風に揺れ、その黒い髪が金色へと変化していく。

 

「さぁ……最終決戦を始めましょう」

 

 そう了子……いや、フィーネは呟いたのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「誰も知らない秘密の塔、『カ・ディンギル』か……」

 

 時間は昼休み、俺は『私立ファリネッリ男子音楽院』の屋上でジョーと一緒に昼飯として焼きそばパンを咀嚼しながら通信機で話を聞いていた。

 あの時クリスの言っていた『カ・ディンギル』というのは、『高い塔』を意味するものらしい。秘密兵器のような『高い塔』……だがそんなものが建造されているのであればさすがに二課の情報網に引っかかるだろう。だがそれがないということは……。

 

「『上』じゃなくて『下』かもな」

 

『……どういうことだ、信人くん?』

 

「いや、単純に地上じゃないなら地下じゃないかって思っただけ。

 それでほら、実は塔じゃなくてプールとかが割れて地下からせり上がってきた秘密兵器の巨大ロボ発進、とか?」

 

『さすがにそれはどうなの?』

 

『ノブくん、そういう巨大ロボットアニメ好きだもんね』

 

 俺の言葉に翼は呆れ気味だが、響は分かってくれるようで相づちをうってくれる。いい彼女を持てたと俺は喜びながら、俺は自分の言った言葉を考えていた。

 

(……相手が大ショッカーだと考えると、十分に可能性がある話なんだよな)

 

 大ショッカーに所属していた大幹部の1人、『キングダーク』の存在だ。Xライダーと戦った敵だが大ショッカーにも所属していた、いわゆる『巨大ロボット』である。漫画版ではシャドームーンが操縦しているという、何気に関係性もあったりする。

 『キングダーク』は巨大な体躯、両手からの電撃や指先からのミサイル、目からの光線や口から毒ガスなど強力な兵装で固められており、『カ・ディンギル』とやらがこれの2号機や3号機の建造のことを指しているのであれば十分すぎるほどの脅威だ。

 

『なるほど……』

 

『なんだい、弦十郎のダンナまで敵の巨大ロボットが出てくると思ってるのかい?』

 

 どうにも女性陣には呆れられた俺の意見だが、弦十郎司令(おやっさん)には思うところがあったのか考え込んでいる。

 その時だ。

 

 

ビーーー! ビーーー!! ビーーー!!!

 

 

 通信機越しに、二課にノイズ発生のアラートが鳴るのが聞こえた。また探知能力で本部のセンサーに後れをとったことを内心で舌打ちしながら、俺たちは通信機越しに状況を確認する。

 

『ノイズは大型の飛行タイプが複数体、それがそれぞれ別の方向から東京スカイタワーに向かって進行中だ。

 東京スカイタワーは俺たち二課の活動時の映像や通信といった電波情報を統括・制御する役割が備わっている。

 それをやられるわけにはいかない』

 

「東京スカイタワー?

 ここからだと結構な距離があるな……わかった、リディアンで響を拾ってからすぐにバトルホッパーで向かう」

 

 俺は通信機に耳を傾けながら、食べ終わった焼きそばパンの包装を丸めてゴミ箱へと投げ捨てて立ち上がる。

 だが、そんな俺に弦十郎司令(おやっさん)が待ったをかけた。

 

『……いや、信人くんと響くんは残ってくれ。 東京スカイタワーには奏と翼に向かってもらう』

 

弦十郎司令(おやっさん)、いいのかよ?」

 

『ここからでは東京スカイタワーまでかなりの距離があるが、奏と翼は今はPV撮影で距離は比較的近くだ。

 それに……万が一のことを考えると、2人は防衛のために残しておきたい。

 奏、翼、いけるか?』

 

『もちろんだよ、弦十郎のダンナ!』

 

『任せてください』

 

 そうして方針が決まり、通信が終わった。

 

「ジョー、聞いてたな?」

 

「ああ、とりあえず午後の授業はキャンセルだな」

 

「俺は今すぐ本部に向かうよ」

 

「俺もここの処理を終わったら本部に行くぜ。

 頑張ってくれよ、仮面ライダーSHADOW!」

 

「ああ!」

 

 そう言って俺とジョーはそれぞれの役割のために走りだしたのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 収録スタジオの屋上にやってきたヘリに乗って、奏と翼は現場へと向かう。

 

「大型飛行ノイズを目視で確認!」

 

 ヘリのパイロットがノイズを目視できたことを教えてくれる。すると、その目の前でボロボロと何かが大型飛行ノイズから落ちていくのが見えた。

 それは通常サイズのノイズだ。すると通信機の向こうから弦十郎の切羽詰まった声が響く。

 

『奏、翼、聞こえるか! たった今入った情報によると巨大な飛行型のノイズは、他のノイズを大量に街へと降下させているようだ』

 

「ああ、こっちでも見えてるよ!」

 

『どうやら輸送機としての側面を持っているらしい。被害が拡大する前に優先的に叩いてくれ!』

 

「「了解!!」」

 

 そう言って2人はヘリのドアを開け放つとノイズを睨む。

 大型飛行ノイズが4体、しかもそれぞれからノイズが降下しておりその数は増え続けている。

 

「凄い数だね。それに……2人だけで戦うのは久しぶりかな」

 

「ええ。でも両翼揃った私たちツヴァイウイングなら!」

 

「ああ、いくよ翼!!」

 

「ええ、奏!!」

 

 そして2人は手を繋ぎながら空中へと身を躍らせた。

 

 

「Croitzal ronzell gungnir zizzl……」

 

「Imyuteus amenohabakiri tron……」

 

 

 起動聖詠を歌い上げると、2人が空中でシンフォギアを纏う。

 そして落下しながら奏の構える槍の穂先が高速回転をはじめた。 

 

「そりゃぁぁ!!」

 

 

『LAST∞METEOR』

 

 

 奏のアームドギアから発生した竜巻がそのまま我が物顔で街にノイズの投下を続けている大型飛行ノイズに迫るが、雑魚ノイズたちが一斉に集まるとその身を盾にして大型飛行ノイズを守った。

 

「はぁ!!」

 

 

『蒼ノ一閃』

 

 

 着地した翼も蒼いエネルギーの斬撃を飛ばすものの、またしても雑魚のノイズたちが盾となって威力が減退し、有効打には程遠い。

 

「相手に頭上を取られるのがこうも立ち回りにくいとは……!?」

 

「こっちももう一度ヘリに乗って空に……」

 

 言いかけた奏の目の前で、今しがた自分たちを運んでくれたヘリがノイズの攻撃を受けて爆発し、火の玉となって落下していく。

 

「こいつら、よくも!!」

 

 怒りを燃やす2人に、頭上から飛行型ノイズの大軍が迫った。

 それを必死に捌きながら戦うが、空中からは新たに陸上型のノイズも投下され目の前を埋め尽くしていく。

 

「あの空中のノイズを何とかしないとどうしようもないね!

 アタシたちも東京スカイタワーに登って、同じ高さから攻撃するっていうのはどうだい!?」

 

「でも、この数のノイズを後回しにしたら街に甚大な被害が!」

 

 お互いに新たに現れたノイズの集団を切り飛ばしながら戦うが、基本的に接近戦型の2人には空中のノイズに対する有効な攻撃が欠けていて、打開策が思いつかない。

 目の前のノイズの集団を倒した矢先、新たな飛行型ノイズの集団が空から迫り2人は身構える。

 だが……そんな飛行型ノイズの一団は横合いから乱射されたガトリング砲によって粉々に引き裂かれた。

 

「今のは!?」

 

 驚きに視線を巡らせると、そこにいたのは赤いシンフォギア『イチイバル』を纏った、雪音クリスだった。

 

「お前……」

 

「ふん、こいつがピーチクパーチクうるせぇし、立花響と月影信人(バカップルども)に頼まれたからな。

 でも勘違いするなよ、人気者ども。 お前らの助っ人になった覚えはねぇ」

 

 通信機を片手にどこか言い訳じみたことを言うクリス。だがそれを二課からの通信が否定する。

 

『助っ人だ。第二号聖遺物『イチイバル』のシンフォギアを纏う戦士、雪音クリスだ』

 

「っ……!?」

 

 自分の発言をすぐに潰され恥ずかしいのか、ほんのりと顔を赤くしながら背けるクリス。

 そんなクリスに奏は言った。

 

「……まぁいいさ。 今は猫の手も借りたい状況だし、響や信人からあんたの話は聞いてる。

 妹・弟分の信じた相手さ、アタシも信じるよ。

 ただね……一つだけ答えな」

 

「奏……」

 

 真剣な表情の奏。

 奏としてはクリスは家族の仇の一員だったかもしれない相手だ。可愛がっている響や信人に事情を聞いているとはいえ、その複雑な心中を察している翼はことの成り行きを静かに見守る。

 

「あんたの今の目的はなんだ?」

 

「……パパとママに遺された『夢』のため、かな」

 

 問われたクリスは少し遠い目をしながら答えた。

 

「パパとママは『歌で世界を平和にする』って夢を持って精一杯生きた。

 色々あったけど、あたしはやっぱりパパとママが大好きだ。だから、その夢を継ぎたい。歌で平和を掴みたい。

 ……知ってるか? 『夢』を持つと、時々すっごく切なくなるけど時々すっごく熱くなるんだ。その熱さが今、あたしを動かしてる。

 でもあたしのやったことは償わなきゃならないことがたくさんあって、しなくちゃならないこともたくさんある。その一つ目がフィーネとの決着だ。

 だからそのために……『夢』に正しく向き合うために、あたしは戦うんだよ」

 

 その言葉を聞いた奏は「そっか……」と短く答え、そして続ける。

 

「ただ……その『夢』、『呪い』にするなよ」

 

「『呪い』?」

 

「『夢』ってのは『呪い』に近い。夢を叶えなければって想いが、時には人を縛り付ける。

 その『呪い』を解くには『夢』を叶えないとならない。でも、途中で挫折した人間はずっと呪われたままになる……」

 

「……」

 

「まぁ、そんな風になるなよっていう激励だよ」

 

「へっ……人気者が、余計なお世話だよ」

 

 そう言いながらも2人は今の会話でお互いに思うところがあったのだろう、どちらも微笑んでいた。

 この2人は大切な家族を失うという痛みを知る者同士であり、どこか似ていた。それをお互いに感じ取ったのである。それを見て、翼はホッと胸をなで下ろす。

 

「それでどうする? あの大型飛行ノイズ(デカブツ)をやらないと雑魚の無限湧きだ」

 

「だったら、あたしに考えがある。

 イチイバルの特性は『長射程広域攻撃』、派手にブッ放してやるよ」

 

「あなたまさか、『絶唱』を?」

 

 クリスの言葉に『絶唱』の危険を知る翼が眉をひそめたが、それをクリスは否定する。

 

「フィーネと決着つけて、パパとママの『夢』を継ぐんだ。こんな雑魚どもにくれてやれるほどあたしの命は安物じゃねぇ」

 

「ならどうするんだい?」

 

「ギアの出力を限界まで高めて放出を抑える。 そして臨界にまで溜め込んだエネルギーを一気に放出して殲滅してやるよ!」

 

 それは言うほど簡単なことではない。フォニックゲインの上昇とその精密制御が必要な高等技だ。

 しかしそんなことを露とも見せずクリスは言ってのける。

 その姿に、自分たちのすべきことを理解した奏と翼は頷いた。

 

「なるほど。 でも、そのチャージ中は丸裸も同然」

 

「なら、それを守るのがアタシらの仕事ってわけだ!」

 

 言ってクリスを背にすると、2人はアームドギアを携えてノイズたちに斬り込んだ。

 

「ちっ……頼んでもいないのに余計なことを。 二課(トッキブツ)の連中はみんな立花響と月影信人(バカップルども)と同じお人好しなのかよ」

 

 残ったクリスはそう言いながらも笑っていた。

 

(ここまでやられたら……あたしも引き下がれないじゃないか!)

 

 一時は歌を嫌っていたこともあった。だがそんな歌を今は無性に歌いたい。だから胸から浮かぶままに全霊で歌い上げる。

 ツヴァイウイングの2人が戦場を駆ける中、高まるエネルギーが赤いオーラのようにクリスを包みそれが炎のように吹きあがった。

 

「「託した!」」

 

 機が熟したと判断したツヴァイウイングの2人が射線を空けるように飛び退いた。するとクリスのイチイバルが発生した高密度のフォニックゲインを糧に形を変えていく。

 両手のボウガンがガトリング砲に変形し、腰アーマーが左右にスライドし多弾頭ミサイルが展開される。そして肩部に4基の大型ミサイルが展開され、衝撃制御用アンカーが地を噛んで発射体勢を整えた。

 

 

『MEGA DETH QUARTET』

 

 

 クリスのすべての武装が一斉に発射された。

 ガトリング砲の弾丸が無慈悲に雑魚の飛行ノイズを蹴散らし敵集団に穴を開ける。そしてそこに飛び込んだ多弾頭ミサイルが分裂、大量のマイクロミサイルが周辺のノイズたちを巻き込み吹き飛ばす。

 そして雑魚の飛行ノイズという護衛を失った大型飛行ノイズに、本命である大型ミサイルが突き刺さった。あまりの威力に空に我が物顔で浮いていた大型飛行ノイズは身体をくの字に叩き折られ、爆炎の中に砕け散っていく。

 

「やったか!?」

 

「ったりめーだ。このあたしが仕損じるかっての!」

 

「これであとはすでに降下したノイズたちだけ。 残敵を掃討しましょう!」

 

「あたしに指図するな! まぁやってやるけど」

 

 そして3人はそのまま残ったノイズたちの掃討戦に入る。

 大型飛行ノイズを倒したためノイズの増援はないが、それでも今までに降下したノイズだけでもの凄い数だ。しかしもはや一流の戦士である3人にはこの程度は脅威ではなく、『倒し切るのに少し時間がかかる相手』である。

 だが……それこそがこの事件の黒幕、フィーネの思惑だった。

 

「これで終わり!」

 

 倒れたノイズに槍を突き刺しトドメを刺した奏が一息をつく。

 もはや周辺にあるのは元ノイズだった残骸である黒い炭素の塊だけ、動くノイズはいない。

 

「そっちも片付いたみたいだな」

 

 2人の元にクリスもやってくる。2人と同じくクリスにも怪我はない。ただ少し疲れたように見えるのはさっき大技を放ったためだろうか。

 

「ええ……本部、ノイズの掃討が完了したわ。状況終了よ」

 

『……』

 

 そう翼が呼び掛けるものの、二課からの応答がない。

 

「どういうことだい?」

 

 翼と同じく二課への呼び掛けても何の応答もないことに、「もしかして壊したか?」と奏がイヤーガード部分を指でトントンと叩く。

 しかしその様子を見ていたクリスは、嫌な予感がしていた。

 

「……お前ら最後に二課(トッキブツ)と会話したのはいつだ?」

 

 言われて2人は「そういえば……」と顔を見合わせた。

 大型飛行ノイズがいた時には二課からの指示を聞きながら行動していたが、その後の雑魚ノイズの掃討は数が多いだけの『倒し切るのに少し時間がかかる』程度で二課に指示を仰ぐようなこともなかった。だから二課との交信を最後にしたのはかなり前、雑魚ノイズの掃討に入る前のことである。

 それを聞いたクリスは天を仰ぐ。

 

「クソッ、やられた!?

 ここは多分囮だ! フィーネの本命は恐らく二課(トッキブツ)の本部だ!!」

 

「な、なんだって!?」

 

「そうじゃなきゃ、このタイミングで二課(トッキブツ)本部と連絡を取れなくなるのはおかしい。

 バックアップ含め幾重もの通信網があるのに一斉に使えなくなるなんておかしいし、そもそも通信網(それ)を支える東京スカイタワーは守り切ったんだぞ。それなのに通信不能なんてもう何かしらの形でフィーネの攻撃を受けてるに決まってる。

 『ハッキングで本部機能麻痺』なんて穏当なこともあり得るけど、ノイズを使って直接侵攻ってことは十分あるだろ!」

 

 クリスに言われ2人は顔を見合わせると、ことの重大さに顔を青くした。

 

「今すぐ本部に戻らないと!」

 

「でもどうするんだい!? ヘリは落とされちまったし、この辺りの交通網は完全に壊滅してる状態だよ!!」

 

 しかし今の状態で本部へ行くための移動手段がない。

 どうしたものかと2人が右往左往する中でクリスが口を開く。

 

「おい、正義の味方ども。 悪者(あたし)と相乗りする勇気はあるか?」

 

「なんか手でもあるの?」

 

 奏に言われ肩を竦めると、クリスは路肩に乗り捨てられた車に近付く。

 

「ふん!」

 

 そして迷いなくシンフォギアで後部座席の窓を割ると、そのまま手を突っ込んでドアを開ける。何事かと唖然とする奏と翼を尻目にシンフォギアを解除したクリスはそのまま運転席に潜り込むと、キー差し込みの部分をいじりケーブルを引きずり出すとカチャカチャと何かの作業を行う。そして数秒すると車のエンジンに火が灯る。

 

「ほら、ひとっ走り付き合えよ」

 

「……随分手馴れてるね。アンタもしかして……」

 

「初めてだよ。 ただこういう訓練も受けたってだけだ」

 

 シンフォギアを解除し車に乗り込む奏と翼。助手席に座った奏があまりの手際の良さに常習犯なのかと疑うが、それをクリスは肩を竦めて返した。

 実際、車両の調達や動かし方は訓練としてアメリカ軍人にみっちり仕込まれただけで、クリスは自動車泥棒の経験などない。

 

「じゃあ出発するぞ」

 

「ああ、任せる」

 

「OK、任された!!」

 

 言ってクリスは最初からアクセル全開で踏み込んだ。

 クリスの受けた訓練はスパイが追跡を振り切るための運転だ、そんな急発進からのアクセル全開で障害物をよけながら進む運転はまるでアクション映画さながらである。

 基本運転手付きのお行儀のいい車しか知らない奏と翼は、安全装置のついていないジェットコースターに乗せられた気分だ。

 

((こいつの運転する車には2度と乗らない……))

 

 奇しくも2人は同じことを胸中で誓う中、クリスの運転する車は二課へと急ぐ。

 時刻は夕刻へと迫っていた……。

 




今回のあらすじ

OTONA「『カ・ディンギル』ってなんぞや?」

フィーネさん「でっかい塔のことやぞ」

SHADOW「でかい塔……塔のように巨大……!?
    なるほど……キングダークの建造だな! おのれ大ショッカーめ!!」

フィーネさん「だからでっかい塔だって言ってるでしょうが! 誰かこの重篤なライダー脳患者なんとかしなさいよ!!」

OTONA「敵が現れたが恐らく囮。信人くんと響くんを防衛に残して奏と翼で出撃だ」

奏「やっとアタシらの戦いだよ」

防人「なんだか戦闘描写での登場は久しぶりだ。でも空中のノイズがうざくてどうしようもないんだけど」

キネクリ「お、お前らを助けに来たんじゃないんだからな!」

奏・防人「ツンデレ乙」

奏「キサマの作戦目的とIDは!?」

キネクリ「夢! 雪音クリスッ!!」

奏「夢っていうのは、呪いと同じなんだ。途中で挫折した者は、ずっと呪われたまま……らしいぞ」

防人「この辺りの『夢』の会話はまんま仮面ライダー555ネタだな。ちなみに作者は平成ライダーだと555大好きらしいぞ」

奏「使ってみてキネクリとかなりマッチしていて驚いたらしい。『呪い』の方はティアーズ・オブ・ピースメーカーでのキネクリの両親が担当だな」

キネクリ「ヒャッハー!! ぶっ放せ!!」

防人「……一斉発射を見ると近くの人を盾にしたくなる」

奏「おいやめろ馬鹿!」

防人「近くにいたお前が悪い」

キネクリ「って、ヤベェぞ。これ完全に囮だ」

奏「やだ……キネクリに指摘されるなんて、アタシらINT低すぎ……」

キネクリ「本作のあたしは超優秀スパイ仕様だぞ。マーベルの『ブラック・ウィドウ』くらいのつもり」

防人「超人どもとガチで渡り合う怪物スパイじゃないか。で、再びのライダーネタか」

奏「今度はWとドライブだな」

キネクリ「原作の方だと、ヘリも落ちてどうやってリディアンまで移動したのか作者が疑問だったから、本作ではあたしがGTAしたことになったぞ」

奏「次はリディアン側サイドだな」


今回から最終決戦編に突入しました。
フィーネさんはこの先生きのこることができるか?

次回もよろしくお願いします。


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第21話

 奏と翼、そしてクリスが大型飛行ノイズを倒し、数だけが多い残ったノイズたちを殲滅しているころその異変は起こった。

 二課本部にいた俺にゾクリと、慣れ親しんだ不快感が背中を駆ける。

 

「これは!?」

 

 同時に二課のアラートが鳴り始める。

 

『ノイズの反応多数! 凄い数です!!

 場所は……ほ、本部直上、リディアン音楽院です!!』

 

 その声を聞き終わるより先に、俺は駆けだしていた。エレベーターに飛び乗ると地上へと出る。

 そんな俺の目に見えたのは……。

 

「ノイズ!?」

 

 大型から小型のものまで種類豊富な、リディアン音楽院へと迫る視界を埋め尽くすような数のノイズの群れだった。

 

「ノブくん!」

 

「信人!」

 

 どうやら騒ぎを聞きつけ、俺に気付いたらしい響と未来がやってくる。

 

「すごい数のノイズ!?」

 

「あれ、学校に向かってるの!?」

 

「どうやらそうらしい」

 

 2人の言葉に頷くと、弦十郎司令(おやっさん)から通信が入る。

 

『今すぐ一課の部隊を展開し避難活動を開始する!

 信人くんと響くんは今すぐにノイズ撃退に出撃! 少しでもいい、避難の時間を稼いでくれ!』

 

「言われなくてもやるさ! 響!!」

 

「うん!!」

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron……」

 

 

「変身ッ!!」

 

 

 そして響がギアを纏い、俺もSHADOWへと変身を果たす。

 

「未来は学校のみんなを、避難をお願い!」

 

「わかった。 響、信人……頑張って!」

 

「任せて!」

 

「ああ、任せろ!」

 

 学校へと向かう未来に答えて、俺と響はノイズたちに向き直った。

 

「改めて物凄い数……」

 

「全力全開、最速最短でヤツラの頭数を減らして避難までの時間を稼ぐ!

 バイタルチャージ!!」

 

 俺は初手からバイタルチャージをして飛び上がる。

 

「シャドーキックッッ!!」

 

 シャドーキックでノイズたちの中心に飛び込み、そこを中心にノイズたちが砕け散る。

 

「はぁ!!」

 

 響は身体をたわませ全身のバネをまるで強弓のように引き絞ると、放たれた矢のごとく疾走する。

 その動きとともに放たれた拳が、ノイズたちを次々に無に帰していく。

 だが、後から後から湧き上がるようにノイズの濁流は止まらない。

 

「くっ!?」

 

「このままじゃ学校が!?」

 

 俺も響もノイズたちを殲滅しながらも焦燥を募らせる。

 だが、今の俺たちに出来ることはこうして全力で戦い続けることだけだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 突然のノイズ襲来、それは平和だったリディアン音楽院を混乱の坩堝に叩き起こした。

 ノイズの被害に、日本は国家的に対応してシェルターの作成や避難訓練などを実施し備えている。無論、リディアン音楽院に通う生徒たちも避難訓練には参加していた。しかしノイズの被害が実際に自分の身に降りかかってくるなど思ってもみなかったのだ。

 遠くから聞こえる時間稼ぎのためにノイズと戦闘する自衛隊員たちの銃声や爆音が、これが現実なのだと訴えている。

 

「落ち着いて、シェルターに避難してください!」

 

 そんな中、同じリディアンの生徒であるのに混乱することなく自衛隊員とともに冷静に避難を促す未来の存在は、彼女たちを落ち着かせるのに一定の効果があった。

 その声に従ってスムーズに避難していくクラスメイトたちを未来は見送る。

 

「未来」

 

「あっ、みんな!」

 

 するとそんな未来の元に、板場弓美、安藤創世、寺島詩織の3人がやってくる。

 

「どうなってるの? 学校が襲われるなんてアニメじゃないんだからさ」

 

「みんなも早く非難を!」

 

「小日向さんも……」

 

 詩織の言葉に未来は首を振る。

 

「まだ残ってる人がいないか見てくる!」

 

「あ、ヒナ!」

 

 そう言って創世を振り切って未来は駆けだした。

 人のいなくなった教室をまわり、人がいないことを確認。そのままグラウンドにも人がいないかを見に出る。

 ……そこに広がっていたのはついさっきまでの平和な学び舎の光景ではなかった。

 響と信人の2人の力も万能ではない。2人の奮戦してもなお多すぎるノイズたちは防ぎきれず、リディアン音楽院を破壊していく。

 

 体育館は大型のノイズによって半壊していた。小型のノイズたちの攻撃で、ところどころで火の手が上がる。

 それは平和な日本にはあってはならない光景、まさに『戦場』そのものだった。

 

「酷い……」

 

 思わず口元を押さえて呻く未来。だがその間にも戦場では戦いが続いていた。

 自衛隊員たちが、無駄と分かっていながらも避難完了までの時間稼ぎのためにノイズたちに戦いを挑む。バラバラと絶えず銃声が響き、爆発音が相次いでいた。

 未来はもはやここにいては自分は邪魔でしかないと悟り、シェルターへと急ごうとする。

 だが、そこに不幸が降りかかる。

 

「う、うわぁぁぁ!!」

 

 断末魔の声とともに、隊員の1人が炭素へと変えられていく。だがその隊員はノイズたちに向かって対戦車無反動砲を構えていた。

 引き金を引かれ発射される対戦車砲弾だが、支えとなる隊員を失ったためそれは見当違いの方向へと放たれる。

 そしてその砲弾は未来の正面数十メートルの辺りに着弾した。

 

「きゃぁぁぁぁ!!」

 

 爆発の衝撃に未来の華奢な身体が吹き飛ばされ、そのまま校舎の壁へと叩きつけられてしまう。頭を打った拍子に出血、未来は壁にもたれかかるようにそのまま意識を失ってしまった。

 そして自衛隊員との戦闘を終わらせ移動を開始しようとしていたノイズの集団が、未来の存在に気付いてしまう。

 気を失い意識のない未来にノイズたちがにじり寄っていく。

 そんな時だった……。

 

 

 ユラァ……

 

 

 倒れた未来が起き上がる。しかしその未来の目は虚ろで、普通の状態では無いことが一目瞭然だ。

 しかし、感情など持ち合わせていないノイズにはそんなことなどお構いなしだ。そのまま突撃していく人型ノイズ。

 逃れようのない死が未来に迫っていた……はずだった。

 

 

 バシィ!!

 

 

 突撃してきたノイズを未来は右手を突き出して受け止めていた。

 ノイズは触ればそれだけで人を炭素の塊へと変える凶悪な攻撃力を持っている。それは信人のような力持つものか、シンフォギアのようなものでなければ防ぐことは敵わない必滅の力……だが未来はそんなノイズを受け止めても微動だにせず、炭素へと変わる様子もなかった。

 

 

 ドカァ!!

 

 

 未来が掴んだノイズをそのまま地面へと叩きつけると、ノイズは炭素の塊となって崩れる。

 その姿に未来を敵だと認識したノイズたちが一斉に飛び掛かって行った。

 

「■■■■■■■■■■■■……」

 

 だが未来が何かを呟くと、未来の腰のあたりから『太陽』のような赤い光が溢れだした。

 その光の放射を前に、ノイズたちは一匹残らず未来に届くことなく崩れ去っていく。

 すべてのノイズが消えると、未来は力を失ったかのようにフラリと倒れ込んだ。

 その3分後、倒れた未来はやってきていたツヴァイウイングのマネージャーであり二課のエージェントの忍者である緒川慎次が発見する。

 

「未来さん!」

 

 緒川は未来に駆け寄り様子を見る。そして気絶しているだけだと分かると、ホッと息をついた。

 

「運がよかった……」

 

 気絶したところをノイズにでも見つかっていたら、今頃未来は死んでいただろう……緒川はそう未来の幸運にホッと息をつくが、そのとき校舎の壁の血痕に気付いた。

 意外なことだが、ノイズの被害において『出血』という事態は多くない。何故ならノイズは人間を炭素の塊にして殺すため、基本的に血は流れることなく人体そのものが無くなってしまうからだ。

 『出血』はノイズによる副次的な被害……例えば生存者同士の暴行や瓦礫などによる怪我……にほぼ限られる。

 しかし、この場にはその『出血』の主となりえそうな者がいない。そう……『()()()()()』の未来以外はこの場にはいなかったのだ。

 そのことに少しだけ違和感を感じる緒川だが、今は気絶している未来の保護が先だ。頭を打っているという可能性もある。

 緒川は未来を抱えると、シェルターへ向けて走り出した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 未来が残っている人間がいないか走りだした後、残された板場弓美、安藤創世、寺島詩織の3人は途方に暮れていた。

 避難しなければならないというのは分かるが、このまま友達の未来を残したままで行っていいものか……そんな友情による迷いが、彼女たちの避難を妨げる。

 

「君たち、急いでシェルターに向かってください!」

 

 そんな3人を見つけた自衛隊員が避難を促すために近付いてくる。

 

「校舎内にもノイズたちが……!」

 

 だが、彼はそれ以上言葉を続けられなかった。窓を割り突入してきた飛行型ノイズ、それがドリルのような突撃形態になって自衛隊員を刺し貫いたからだ。

 そして3人は、目の前で数秒前まで話をしていた人間が黒い炭素の塊になって崩れ去るという瞬間を見てしまう。

 

「い、いやぁぁぁぁぁ!!」

 

 ノイズの被害とはこういうものだと言うことは知識としては知っていた。しかし平和に暮らす高校一年生の少女たちにはあまりにも衝撃的な光景に、弓美は悲鳴を上げる。

 だがその悲鳴は結果としてノイズを呼び寄せることになってしまった。

 窓を突き破り、ナメクジのような形状をしたノイズが校舎に飛び込んでくる。壁に張り付いたナメクジ型ノイズは未だショックで呆然とした弓美へと飛び掛かってきた。

 

「「っ!!?」」

 

 創世も詩織も、ショックと突然のことにまともに声すら出せなかった。ただ親友に「逃げろ」の一言さえ言えなかった。

 そして親友の弓美が先ほどの自衛隊員と同じように炭素の塊となって消える様を思わず幻視し、それは数瞬の後に現実になるはずだった。

 

「危ないっ!!」

 

 だが、横合いから飛び込んできた誰かが弓美を押し倒すと、ナメクジ型ノイズはその上を通過していく。

 創世と詩織、そして九死に一生を得た弓美は呆然としながら、飛び込んできたのが誰なのか悟った。

 

「か、霞野くん!?」

 

 それは3人の共通の友達である響や未来の幼馴染である信人の親友として紹介され、何度か遊んだことのあるファリネッリ男子音楽院高等科の男子高生であった。

 

「ファリネッリの霞野くんが何でここに……?」

 

 このリディアン音楽院と姉妹校とはいえ女子高内に男子高生が、しかもこんなノイズの現れる緊急事態に何故彼がここにいるのか分からず弓美の混乱に拍車がかかるが、丈太郎はそれらを無視すると弓美の身体を抱き起こす。

 

「説明は後! 今助けられたのは運がよかったからだ!

 今みたいなことは何度も出来ないぞ!!」

 

 丈太郎の視線の先では、目標を外したナメクジ型ノイズがゆっくりとこちらに振り向いたところだった。

 

「さっさと逃げるぞ! そこの2人も早く、こっちだ!!」

 

 戸惑う弓美の手を引き、さらに創世と詩織を伴って丈太郎は走りだした。そしてエレベーターに滑り込む。

 

「頼む、間に合ってくれよ!」

 

 言いながら丈太郎はパネルを操作すると間一髪、ノイズたちがやってくるよりも早くエレベーターが地下へ地下へと動き出した。

 

「ふぅ……助かった……」

 

 丈太郎はエレベーターの壁に背中を預けて大きく息をつく。

 

「あ、ありがとう。 助けてくれて……。

 それでさ、もう手を……」

 

「ああ、わるいわるい」

 

 九死に一生を得て、未だ手を握られたままの弓美が少し顔を赤くしながら言うと丈太郎はその手を離す。

 弓美たちは命の危機を脱したことで少しだけ精神的に余裕が出来た。そしてエレベーターの窓の先に映る、巨大な施設に気がつく。

 

「何なの、ここ……?」

 

「凄いです……」

 

「嘘でしょ、私たちの学校の地下にこんな施設があったなんて……。

 まるでアニメじゃない……」

 

 3人の説明を求める視線に、もはや秘密にできることではないと悟った丈太郎は肩を竦めると話を始めた。

 

「ここは『特異災害対策機動部二課』、その本部だよ」

 

「それって、政府の……」

 

「ああ。 そして俺はファリネッリ男子音楽院高等科に通う高校一年生ってのは仮の姿。

 うちの家系は忍者の家系でね、二課所属のエージェントで忍者の高校一年生っていうのが俺の正体さ」

 

「『忍者』って……何そのまるでアニメみたいな盛り込み設定?」

 

「そう言われても実際そうなんだからしょうがないだろ。

 あっ、ここのことも含めて今のことは全部国家機密になるからな、秘密を知る民間協力者ってことであとで色々約束してもらうぞ」

 

 この秘密の施設を見て、自分たちが知っていいことではないと薄々気付いていた3人は黙って頷く。

 

「それにしても……ノイズの襲撃と同時に外部への通信システムにロックがかけられてるな。 外部に連絡がつかない」

 

 通信機で外部へと通信を試みるものの、ザーという雑音しか返ってこないことに丈太郎は天を仰ぐように見上げ、苛立たしそうにガリガリと頭を掻いた。

 

「それってただノイズにやられたってことじゃないの?」

 

 ここまで来れば毒を喰らわば皿までの精神で、と弓美は半分開き直って聞くと、丈太郎は首を振る。

 

「いや、二課はノイズ対策の本部だ。 通信システムだっていくつものバックアップ回路があって、一つ二つ壊されたって通信不能になんてならない。

 それが一斉にダウンするってことは……いや、それが出来るってことは敵の正体は……」

 

 そう丈太郎が言いかけたそのときだった。

 

 

 ガコンッ!! キュィィィィン!!

 

 

 エレベーターの上部から何かが乗ったような音がした。それと同時にまるでチェーンソーのような音とともにエレベーターの天井が切り裂かれていく。

 

「きゃあ!?」

 

「何々! 今度は何なの!?」

 

「!? ちぃっ!?

 こっちだ!!」

 

 すわノイズかと悲鳴を上げる詩織と創世。丈太郎は素早くエレベーターのパネルを操作して手近な階に停止させると、近くにいた弓美の手を引き、創世と詩織を促してエレベーターの外へと転がり出る。

 そして破壊されたエレベーターからゆっくりと出てくる黄金の鎧の人物。

 

「何よあれ……まるでアニメに出てくる悪の女幹部じゃない」

 

「ははは……そりゃ随分的を射た話だな。

 なんたってノイズを操ってここを襲わせた、一連の事件の犯人だ。

 そうだろ、フィーネ……いや、了子さん!!」

 

 言うが早いか、丈太郎は懐に忍ばせていたクナイを引き抜くとそのまま投擲する。狙いは鎧のない左胸、心臓だ。

 だが鎧もなくその柔肌に突き立ったと思ったクナイは、そのままフィーネに一滴の血すら流すことができずに乾いた音とともに地面に転がる。

 

「随分硬いおっぱいだな。 それがネフシュタンの鎧の効果だって言うんなら全人類の男の敵だな、それ」

 

 冷や汗を流しながらも軽口を叩く丈太郎。そこにフィーネが手を振ると、トゲのムチのようなものが蛇のように丈太郎に絡み付いて締め上げた。

 

「どうして私の正体に気がついた?」

 

「当たり前の消去法だよ。 この本部の通信システムすべてをロックして完全に外部との連絡を絶つなんて真似が出来るのは了子さんくらいだ」

 

「なるほど、私の優秀さゆえにバレたというわけか」

 

 つまらなそうにフィーネが呟くと、ムチの締め付けが強くなる。

 

「ぐぁぁぁぁ!!」

 

「か、霞野くん!?」

 

 苦悶の表情を浮かべる丈太郎に、弓美は何もできずことの成り行きを見守っていた。すると……。

 

「そこまでだ、了子!」

 

 突如、天井に穴が開いたかと思うと人が降ってきた。フィーネは咄嗟にムチを振るい丈太郎を投げつけると距離をとる。

 そして投げつけられた丈太郎をキャッチしたのは……。

 

「か、風鳴司令……」

 

「丈太郎くん、よく頑張った」

 

 弦十郎が丈太郎をゆっくりと床に降ろす。

 

「霞野くん!」

 

 それを見ていた3人はすぐに丈太郎に駆け寄った。それを横目に、弦十郎はフィーネへと視線を向ける。

 

「了子……」

 

「私をまだその名で呼ぶか」

 

 弦十郎はゆっくりとフィーネに向かい構えをとる。

 

「この私を止められるとでも?」

 

「応とも! そしてお前の……『カ・ディンギル』とやらを使った企みも止める」

 

「ほう……『カ・ディンギル』の正体に気付いたか」

 

「ヒントは信人くんの言葉にあった。

 『地上に無いなら地下』……天を突くような巨大な塔のような地下構造物……それはこの二課本部だ。

 この本部こそがお前の言う『カ・ディンギル』、それを使って何かをするのだろう。

 だからここから先は……ひと汗かいた後で話を聞かせてもらおうか!」

 

 そして弦十郎はフィーネに向かって踏み込んだ……。

 

 




今回のあらすじ

SHADOW「案の定ノイズの大軍が攻めてきたぞ」

ビッキー「未来は避難をお願い」

393「……これさ、原作でも思ったけど私普通に邪魔じゃね?自衛隊の人が避難しろって言ってるところ勝手にいなくなったりしたら……」

SHADOW「そういう正論は言ってはいけない」

393「グワーッ!」

ビッキー「おーっと、393吹っ飛ばされた!」

SHADOW「ここのシーンはハリウッド版ゴジラの、南極でキングギドラが目覚めたところで、ミサイルの爆発で吹っ飛ばされる主人公のシーンをイメージしてたらしい」

393「ノイズ、センメツ」

ビッキー「で、何だか未来が意識のないままノイズボコボコにしてるんだけど……」

SHADOW「今はまだそれを語るべきときではない……」

弓美「目の前で人が死んでPTSDになりそう」

ジョー「待たせたな!」

SHADOW「393が気絶して緒川さんに保護されるんで、ジョーに3人が保護されて二課に降りてきたぞ」

ビッキー「XDUの竜姫咆哮メックヴァラヌスで一躍話題に上った3人がフィーネさんと遭遇したよ」

ジョー「銃弾防いだりナイフ刺さらない硬いおっぱいに変えるとか、お前は世界の男すべてを敵に廻したぞネフシュタンの鎧!!」

SHADOW「100%いいことを言った!
    第6条 男の夢を奪い、その心を傷つけた罪は特に重い!」

フィーネさん「それバイオロン法でしょ! 私にも適応されるのそれ!?」

OTONA「俺、参上!」

SHADOW「よし勝ったな、風呂入ってくる!」

次回はフィーネさんの受難その1。対OTONA戦です。
次回もよろしくお願いします。


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第22話

 どうしてこうなった……そんな思いがフィーネの胸中を埋め尽くす。

 

 『カ・ディンギル』は完成した。

 二課にとって決して無視できない通信網の要である東京スカイタワーへと大量のノイズを出現させ二課の戦力を分散、通信システムを遮断し陸の孤島となった二課直上リディアン音楽院に同じく大量のノイズを出現させることで二課の残った戦力も釣り出し、あとは本部最奥で保管中である『レーヴァテイン』を『カ・ディンギル』のパワーソースとすべく奪取するだけだ。

 残った戦力は風鳴弦十郎のみ。だがそれも立花響の症例を研究することで完全聖遺物である『ネフシュタンの鎧』との融合を果たし、その力を完全に、そして強化した形で扱うことのできる自分の敵ではない。

 すべては計算通り、今度こそ数千年に渡る宿願が成就される……そのはずだった。

 しかし現実は……。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

「がはっ!?」

 

 気合いの籠った声とともにフィーネの腹に弦十郎の拳が突き刺さる。衝撃にくの字に折れ曲がる身体。そこに間髪入れず鋭い蹴りが突き刺さりフィーネの身体が吹き飛んだ。

 もうフィーネがその身に受けた衝撃は2桁では数え切れないだろう。『ネフシュタンの鎧』の再生能力がなければとっくの昔に死んでいる。

 完全な誤算としか言いようがない。

 確かに弦十郎の強さはフィーネは知っていた。しかしそれはあくまで『生身の人間としては』という認識だ。まさか完全聖遺物を凌駕するほどの生身の人間がいるなど常識的に考えているわけがないのだ。

 だが、どんなに常識的に考えてありえなくても、目の前に存在する現実は非情である。

 

「……まだやるかい?」

 

「……元気いっぱいよ!」

 

 短い時間で身体を最低限回復させたフィーネが飛び起きる。『ネフシュタンの鎧』から伸びる棘のムチを弦十郎へと振るった。

 

「はぁっ!!」

 

 しかしそれを掻い潜って接近した弦十郎の拳がフィーネに突き刺さり、再びフィーネは吹き飛ばされる。

 再び床に転がるフィーネ。痛みがアラートのように、脳に戦闘停止をがなり立てる。

 だがフィーネはそれを完全に無視し、歯を食いしばりながら立ち上がった。

 

「私は……諦めるわけにはいかんのだ!!」

 

「了子……何がお前をそうさせるんだ?」

 

 どれだけ打ちのめされようと立ち上がるフィーネに、ただならぬ気迫と覚悟を感じた弦十郎は思わず問う。

 そこには未だに自分を気遣うような心が見え隠れし、フィーネは心の中で苦笑した。

 

「古今東西、女が狂う理由はたった一つ……愛のためだ。 遠い過去に置き去りにした愛のため……私は立ち止まるわけにはいかない!!」

 

 言って再び戦闘態勢を整えるフィーネだが、その頭の中では弦十郎への勝利の方法を高速で計算する。

 いかに規格外でも弦十郎は人間だ。ならばノイズが一番効果的だが、肝心のノイズを操る『ソロモンの杖』は戦闘開始と同時に真っ先に警戒されて弾き飛ばされて通路の天井に突き刺さっている。

 当然弦十郎も『ソロモンの杖』は最大限の警戒をしており、回収は事実上不可能だ。

 

(他に、他には何かないのか!?)

 

 そして視線を巡らせると、その視界の端に丈太郎とリディアン音楽院の生徒3人の姿が映る。

 ネフシュタンのトゲのムチに締め上げられたことでそこらじゅうの骨にヒビを入れられた丈太郎が苦悶の表情でうずくまり、残った3人はそれを気遣いながら目の前で展開される埒外の光景に目を白黒させていた。

 

(これだ!)

 

 逆転の一手はこれしかない。そう考えながら顔を上げるフィーネ。しかし、その様子から弦十郎はフィーネの考えを素早く察する。

 

「彼らを人質に取るつもりか?」

 

「何っ?」

 

「俺は職業柄、そういう外道は何度も見てきた。だからそういう外道な考えは匂いで分かる!」

 

「だとしてもぉぉぉ!!」

 

 フィーネがムチを伸ばす。

 

「ふんっ!!」

 

 だが弦十郎はその鋼鉄をも両断するムチを素手で掴むと、そのままフィーネを引き寄せた。そして拳の連打をフィーネに叩きつける。

 その衝撃にフィーネは吹き飛ばされるとそのまま壁へとめり込んだ。

 

「がはっ!?」

 

 盛大に血を吐くフィーネ、それを見下ろしながら弦十郎は再び問う。

 

「……まだやるかい?」

 

 ボロボロになり、誰の目から見ても勝敗は明らかだ。しかし……そんな中、フィーネは嗤う。

 

「かかったわね、弦十郎くん……」

 

「何?」

 

「何の策もなく、私が飛び掛かったと思うの?

 違うわ、これは私の勝利の方程式。 あなたは私との知恵比べに負けたのよ!」

 

 その時、背後から悲鳴が上がった。

 

「きゃぁぁぁ!!」

 

「なにこれ!?」

 

「う、動けません!?」

 

 弦十郎が振り返れば、そこでは弓美、創世、詩織がネフシュタンのムチに締め上げられていた。

 そのムチの出所に目をやると……。

 

「ダクトだと!?」

 

「この施設の設計は誰がやったと思っているの?」

 

 いま飛び掛かり、弦十郎によって返り討ちにあったように見えたのはすべてフィーネの計算通り。吹き飛ばされその壁にめり込んだところで、そこに通っている通気ダクト内をネフシュタンの鎧のムチを伸ばし、3人を締め上げて人質にとったのである。

 

「そこまで……そこまで外道に堕ちたのか了子!」

 

「うるさい! 動くな!動けばあの小娘どもがどうなるか……分かるな?」

 

「……」

 

 弦十郎はフィーネの言葉に従って構えを解く。

 それを見てフィーネは、まずはソロモンの杖をもう一方のムチを伸ばして回収する。

 そして……そのムチでそのまま弦十郎のわき腹を貫いた。

 

「いやぁぁぁぁ!!」

 

「し、司令っ!?」

 

 その光景を見た弓美が悲鳴を上げ、丈太郎は激痛の走る身体に鞭打って駆け寄ろうとする。

 しかしそんな丈太郎を、身体を貫かれ口とわき腹からおびただしい血を溢れさせながらも不動で立ち続ける弦十郎が手で来るなと制する。

 

「……お前の要求は呑んだ。 さぁ、彼女たちを解放しろ」

 

「……ふん」

 

 フィーネは3人を拘束しているムチを解き、弦十郎を貫くムチを引き抜く。

 

「司令!?」

 

 すぐに丈太郎が駆け寄り、3人も困惑しながらも自分たちのために弦十郎が傷を負ったことを分かっていたので駆け寄ってきた。

 

「小娘どもたった3人の命を無視するだけで私を止められたというのに……最後まで甘さは変わらなかったわね、弦十郎くん。

 殺しはしない、その甘さの結末を生きて見届けるがいい」

 

 そう言って背を向けようとするフィーネ。

 だがその背中に声が掛けられる。

 

「あんた……負けるわよ」

 

「何?」

 

 振り返ってみればその声の主は先ほどまで悲鳴を上げ震えていた弓美だった。

 ここまでまるでジェットコースターのように状況がコロコロ変わり、今までの常識では知りえないはずの光景と体験を連続して味わった弓美。

 当然、埒外の出来事にひどく混乱しひどく怯えた。だがそれがついに限界を超え、逆に思考がクリアになったのだ。『覚悟が決まった』ともいう。

 それに、自分たちを助けるためにその身を差し出した弦十郎をあざ笑うかのような、この悪の秘密結社の女幹部にはアニメ・ヒーローファンとして一言言ってやりたかったのだ。

 

「私は何が起こってどうなってるのか何一つ分からないけど、確実に分かることがある。

 それは弦十郎(この人)が『正義』で、あんたが『悪』だってこと。

 教えてあげる。 『悪』は必ず、『正義』に負けるのよ」

 

 そんな言葉をフィーネは嗤った。

 

「『正義』だと? これは傑作だ。いや物の道理を知らぬ小娘らしいと言った方がいいか?

 お前の言う『正義』など、金と状況でいくらでも変わる虚ろいやすい『幻想』に過ぎない。私はそれを数え切れないほど見てきた。

 そんな『幻想』になんの意味がある?」

 

「それはあなたが本当の『正義』を見たことがないだけよ。

 金や状況? そんなもんで変わりゃしないわ、本当の『正義』ってやつは」

 

「ならば、私を滅ぼす本当の『正義』とやらの出現を震えながら祈っているのだな」

 

 そう言ってフィーネは背を向けて歩き出した。

 

「ぐっ!?」

 

「司令!?」

 

 フィーネを見届けると、弦十郎が膝から崩れ落ちる。

 

「カスみん、どうすればいい!?」

 

「とりあえず司令部まで運ぼう!」

 

 弦十郎の傷をハンカチで押さえながら聞いてくる創世に答え立ち上がった丈太郎だったが、こちらも傷が響き崩れそうになってしまう。

 

「あんたも怪我してるんだから無茶しないで!」

 

 言って弓美が丈太郎を支え、創世と詩織が弦十郎を支えた。

 

「行先を指示して。 私たちだってこのくらいのことは出来るから」

 

「ありがとう……」

 

 少女たちに支えられながら、一行は司令部へと向かう。

 そして傷付いた弦十郎と丈太郎を支え、弓美、創世、詩織が司令部へと到着した。

 

「丈太郎くん!」

 

「慎義兄(にい)さん、俺よりも司令が大変なんだ!」

 

 いの一番に一行に気付いたのは緒川だった。義理の弟となる予定の丈太郎のことを気遣うものの、すぐに弦十郎の傷に気付いた。

 

「応急処置をお願いします!」

 

 血塗れの弦十郎の姿に誰もが驚きつつ、オペレータの一人であるあおいが素早く動き、緒川とともに処置していく。

 

「痛ぅ……」

 

「霞野くんは大丈夫なの?」

 

「ああ、多分アバラが何本かやられてるけど司令ほどの傷じゃないよ」

 

 そう言いながら弓美に支えられた丈太郎は手近な椅子に腰かけた。

 一応の一段落がついた弓美たち3人、そこに声が掛けられる。

 

「皆っ!」

 

「小日向さんっ!」

 

 それは避難誘導の時に別れた未来だった。

 

「よかった……みんなが無事で」

 

「そっちこそヒナが無事でよかったよ」

 

 抱き合い無事を喜び合うと、お互いの今までを話し合う。

 

「それで外で気絶して倒れてたところを緒川さんに助けてもらったんだ……」

 

「こっちは悪の女幹部が現れたりで何が何だか……まるでアニメよ」

 

「それで弦十郎さんがあんな大怪我を……」

 

 痛ましそうに治療を受ける弦十郎を見る未来。

 

「あれ? 小日向さん、あの人のことを知ってるんですか?」

 

「それは……」

 

 弦十郎のことを知っていることに疑問を持った詩織が小首を傾げながら尋ねると、機密もあってどう言ったらいいものかと未来は返答に窮する。

 そこに横から丈太郎が助け舟をだした。

 

「ああ、未来ちゃんは民間協力者の一人だ。

 ここのことも、もちろん司令や俺のことも知ってるよ」

 

「未来が民間の協力者!?」

 

 驚きの声を上げる弓美と、同じく驚きを隠せない創世と詩織。

 

「機密だから教えられなかったの。 ごめんね」

 

「それは分かるけど……何で未来が政府機関の協力者になったの?」

 

 弓美からの再びの核心をつく質問に、再びどう答えたものかと未来が思ったその時だった。

 

 

ビーーー! ビーーー!! ビーーー!!!

 

 

 がなり立てるアラートに、未来たちは何事かと視線を向ける。

 すると主電源が切れたのかすべての機器の電源が落ち、非常灯の淡い光だけが司令部を包む。

 

「クソ、内部からハッキングされてすべてのシステムが掌握された!

 こんなことができるのは了子さんくらいしか……」

 

 焦った口調のオペレーターの朔也の言葉。その言葉に、応急処置を受けていた弦十郎が身を起こす。

 

「遺憾ながら本部施設を放棄する! 全員脱出だ、最低でもシェルターまで避難するんだ!!」

 

 弦十郎の言葉に司令部が慌ただしく退避準備にかかり、未来たちもそれに合わせて移動を始めるのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「これで終わりだ!! シャドーキック!!」

 

 シャドーキックが炸裂し、ノイズが炭素の塊へと還っていく。すぐにシャドーセンサーで周囲を探るが、そこにはノイズの反応はなかった。

 

「やっと終わったか……」

 

「ノブくん……」

 

 俺が息をつくと、一緒に戦っていた響が俺の元に駆け寄ってくる。

 俺たちは変身を解除すると周囲を見渡した。

 

「学校が……リディアンが……」

 

 響が呆然と呟く。

 目の前に広がるのは瓦礫の山。ここが数時間前までは皆で笑い歌った、日常の象徴であった学び舎だと信じたくはないのだろう。

 俺は震える響の肩をソッと抱く。

 

「ノブくん……」

 

「大丈夫だ。学校は壊れても大切な未来も友達もきっと無事だ。

 だから……」

 

「……うん」

 

 響は溢れだしそうになる涙を拭うと、キッと前を向いた。

 その時、俺は殺気と敵意を感じてそちらを睨み付け、響もその方向を向く。

 そこにいたのは、髪を解いた了子さんだった。

 

「了子さん、無事だったんですね!」

 

 思わず駆け寄ろうとする響を、俺は手で制する。

 

「? ノブくん?」

 

 響は何をするのかと目で問いかけてくるが、俺はそれには答えない。

 さっきから俺の中のキングストーンが『敵だ』と囁き続けている。

 それを証明するように強化された感覚があるものを察知して、俺は抑え込むように低い声で了子さんに聞いた。

 

「了子さん……血の匂いがするぞ。

 しかもこの匂いはあんたのじゃない。 弦十郎(おやっさん)の匂い……それは弦十郎(おやっさん)の血か?」

 

「えっ?」

 

 俺の言葉に驚いた顔をする響。そして、そんな俺たちの反応に対する答えは狂ったような哄笑だった。

 そして了子さんが光に包まれると、その姿が変わった。

 クリスの纏っていた『ネフシュタンの鎧』、クリスとは違い黄金に変わったその鎧を身に纏い、響とクリスの戦いの時に現れた金の髪の女……フィーネの姿へと変わっていたのだ。

 これで決定的だ。了子さんの正体こそ、この事件の黒幕であり大ショッカーの一員のフィーネだったのだ。

 だがそれでも一年以上、俺も響も付き合ってきた相手だ。簡単には割り切れず、俺は続けて問いを投げかける。

 

「何が目的だ、了子さん!!」

 

 だが、それにさも当然と了子さん……フィーネは答えた。

 

「知れたこと、再び世界を一つに束ねる!

 そのために今宵、月を破壊するのだ!」

 

 迷いが一遍も感じられないその言葉に、俺は心の中で理解した。

 

(駄目だ……『世界征服』という大ショッカーの目的をこんなにも迷いなく言うなんて……。

 彼女はもう俺たちの知る了子さんじゃない。完全に大ショッカーの一員、『フィーネ』だ)

 

「……残念だよ、了子さん。

 でも……例えあんたが相手だろうが、そんな真似はさせはしないぞ!!」

 

「止められるとでも? この私を、そしてこの『カ・ディンギル』を!!」

 

 その瞬間、地鳴りと共に大地が大きく揺れる。

 

「何!? 地震!?」

 

「いや、これは地震じゃない!」

 

 地震に似ているが違う。地下深くで途方もなく大きなものが蠢き、地上に這い出ようとしているのを俺は感じていた。

 

(まさか……キングダークが出て来るのか!?)

 

 そう考え身を固くした俺だが、瓦礫の山と化していたリディアン校舎を粉々に吹き飛ばしながら現れたのは、巨大な塔だった。

 

「これが『カ・ディンギル』なのか?」

 

「収束荷電粒子砲『カ・ディンギル』……二課のエレベーターシャフトを砲台とし、『レーヴァテイン』をパワーソースとしたこの魔塔からの一撃によって、月を穿ち破壊する!!」

 

 ……なるほど、ゴルゴムが造っていた超兵器『ソーラービームキャノン』の強化版のようなものか。

 どちらにせよ、やるしかない。

 

「響!」

 

「……わかってるよ、ノブくん!」

 

 バッと慣れ親しんだ、身体を丸めるようにする動きをとる。握り締めた拳で、皮手袋がギリギリと音を立てる。そして……。

 

「変……身ッッ!!」

 

 キングストーンの放つ緑色の光、その中でキングストーンの強大なエネルギーが全身に駆け巡ると俺は仮面ライダーSHADOWへと変身を果たした。

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron……」

 

 同じく歌声とともに、響がシンフォギアを纏う。

 そんな俺たちを、フィーネはあざ笑った。

 

「『仮面ライダーSHADOW』、そして予期せぬ聖遺物との融合症例『立花響』……お前たちは私の計画にとってイレギュラーだ。

 だが……仮面ライダーSHADOW、お前はまだ傷が癒えず万全には程遠い状態だということは知っている。

 そして立花響、お前のシンフォギアごときではこの完全聖遺物である『ネフシュタンの鎧』には敵わん。

 私の勝ちは揺るがないのだ!」

 

 言って、フィーネはソロモンの杖を使い、大量のノイズを召喚した。

 だが、その軍勢を見ながら俺と響は構えをとって言い返す。

 

「そんなことはやってみなくちゃ分からない! 行くぞ、響!」

 

「うん!!」

 

 そして俺と響は同時に地を蹴った……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 何とか避難所にたどり着いた二課の一行は、すぐに電源やモニターの確認に動き出す。

 

「モニターの再接続完了、こちらから操作できそうです」

 

 朔也が報告しながらテーブルの上の情報端末を操作すれば、モニターに外の様子が映し出された。

 せり上がった巨大な塔の前に対峙するフィーネと、信人と響。

 

「ビッキーとノッブ!? 何であんなところに!?」

 

「大変です、早く助けないと!?」

 

 創世と詩織がそう口々に言うがその時、モニターの中の2人が光に包まれたかと思うとその姿が変わる。

 

「響のあの姿!? それに……月影くんが仮面ライダーSHADOW!?

 未来はこのことを……!?」

 

 そう問われ、未来は無言で頷くとそれを弦十郎が継いだ。

 

「信人くんはSHADOWに変身する超能力のような力で、そして響くんはあの特殊な装備でノイズと戦う我々の仲間だ。

 そのことで未来くんには民間協力者として協力してもらっていたのだ」

 

 そして端末の操作を続ける朔也に問う。

 

「奏たちとは連絡はつきそうか?」

 

「……駄目です、外部への通信に関しては復旧は……」

 

「そうか……」

 

 それだけ呟くと、弦十郎はモニターへと視線を戻した。

 

「すぐの増援は見込めない。たった2人での戦いだ。

 だが……すべての命運は君たちに託す。 頼むぞ、信人くん、響くん!」

 

 その声が静かに避難所へと響いたのだった……。

 

 




今回のあらすじ

フィーネさん「どうしてこうなった! どうしてこうなった!!完全聖遺物を凌駕する生身とか、もう完全にギャグの領域でしょこれ!」

SHADOW「というか、下手するとOTONAの存在のせいでシャドームーンが登場してもチートにならないパワーバランスというのがもうね」

OTONA「まだやるかい?」

フィーネさん「げ…元気イッパイだぜ…」

弓美「あの悪の女幹部、花山VSスペックばりにボコボコにされてるんだけど……」

フィーネさん「私は諦めない!」

ビッキー「ここだけ切り取るとプリキュアのセリフみたいに見える不思議」

SHADOW「最新のブラック家族の奴が何を言ってるか」

フィーネさん「これ、人質でもとらないと勝ち目ないんだけど……」

OTONA「こいつはくせえッー!ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーーーーッ!!」

フィーネさん「思った段階でバレている!?」

OTONA「オラオラオラオラオラオラオラオラァァッ!!」

フィーネさん「かかったなOTONA! これが我が逃走経路だ!
       貴様はこのフィーネとの知恵比べに負けたのだ!!」

OTONA「人質とられて負けたんご」

SHADOW「ぶっちゃけ、こうでもしないとOTONAがフィーネに負けるヴィジョンが見えない……」

弓美「金や状況で正義が変わる? 変わりゃしませんよ、本当の正義ってやつは(ドヤァ」

キネクリ「アニメ版住めば都の最終話の名セリフじゃねーか。まーたあの作者は誰も知らなそうな名セリフを使う……マイノリティー攻めすぎだろ」

奏「これ、初見で何のセリフか分かった奴いるのか?」

防人「作者としてはいると信じたいらしいが、かなり古いしそこまで有名でもないから、アニメマニアの弓美に言わせたそうだ」

SHADOW「作者はあの作品……というかあの作者の作品は全般的に大好きだからな。緩いハーレムにギャグ、そのくせしっかり熱血するところは熱血して感動させてくれるし。
    住めば都は小説版・漫画版・アニメ版すべてが違う結末で、すべてが面白かったと作者は絶賛してるぞ」

ビッキー「ちなみに仲間内で『CV釘宮 理恵のキャラ』って話になったとき、作者は迷うことなく真っ先に『エーデルワイス』と答えてたよ」

キネクリ「そこまで絶賛だと逆に怖いんだが……」

393「3人とも無事でよかった……」

弓美「なんかアンタ、変身ヒーローが事件起こると突然姿が見えなくなって終わったらシレっと戻ってくる感じになってるわよ」

ビッキー「学校が崩壊してる……」

SHADOW「大丈夫、きっと皆無事だぞ(肩抱き)」

ビッキー「ノブくん♡」

フィーネさん「はいはい、隙あらばイチャつくんじゃない!」

SHADOW「こいつはくせえッー!ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーーーーッ!!(本日二回目)」

フィーネさん「またなの!?」

SHADOW「……でもぶっちゃけ、シャドームーンの嗅覚センサーとかならこれまでで不自然な血の匂いとかで犯人がフィーネだともっと早く気付きそうだとは書き終わってから思ったらしい」

フィーネさん「世界を一つに!」

SHADOW「やはり大ショッカーか!! ゆ゛る゛ざん゛!!」

フィーネさん「いでよ『カ・ディンギル』!」

SHADOW「キングダークかな(ワクワク」

フィーネさん「……申し訳ないけど普通の荷電粒子砲なんで変形はしないわよ」

OTONA「頼むぞ、2人とも」


3人はまだ到着せず、2人だけで最終決戦に突入します。
次回もよろしくお願いします。


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第23話

 迫り来る大量のノイズたち。その軍勢を前に俺と響は臆することなく飛び掛かる。

 

「はぁ!!」

 

「たぁ!!」

 

 ノイズたちは俺や響の敵ではなく次々に砕け散っていくが、いかんせん数が多い。自らの損害を考えない、後から後から続く波状攻撃を仕掛けてくる。

 

「きゃっ!?」

 

「響!?」

 

 響の短い悲鳴、見れば響がいつかと同じようにトリモチノイズの吐きだしたトリモチに絡めとられている。

 

「シャドーフラッシュ!!」

 

 キングストーンエネルギーが放射され、響を拘束していたトリモチが消え去ると響はそのまま残ったノイズたちへと躍りかかる。

 しかし先ほどトリモチに絡めとられたことといい、響の動きには明らかな疲れの色が見れる。

 無理もない、ノイズたちのリディアン襲撃からこっち、数時間以上戦いっぱなしの状態なのだ。その蓄積された疲労はかなりのものだろう。

 

(……もっとも、俺も人のことは言えんがな)

 

 かく言う俺も連戦と、それに何よりキングストーンが未だ修復中で万全な状態でないことによって身体に溜まったダメージはかなりのものだ。

 

(だがこの戦い、退くことはできない!)

 

 フィーネは今までノイズを使い、多くの人々を恐怖のどん底に陥れ殺してきた大ショッカーの一員だ。なんとしてもここで倒さなければ、もっと多くの悲しみが生まれることになる。

 そしてその気持ちは響も同じなのだろう。響の握る拳には、その心がよく現れているのが分かる。

 そんな俺たちの攻撃に思ったよりも数段速くノイズたちを全滅させ、俺と響はフィーネの目前へと到着した。

 

「さぁ了子さん……いや、フィーネ! 無駄な企みは捨て、観念してもらおう!」

 

「了子さん! もうやめて下さい!!」

 

 俺や響の呼び掛け、だがフィーネからの答えは嘲笑だった。

 

「私の勝ちだ!」

 

 その瞬間、再び地鳴りのような音が周囲に鳴り響く。

 

「これは!?」

 

「お前たちが雑魚の相手をしている間に『カ・ディンギル』のエネルギーチャージが完了した!

 後は微調整を行えば『カ・ディンギル』は発射される!」

 

 巨大な砲、『カ・ディンギル』にエネルギーの収束を感じる。フィーネの言うように発射間近のようだ。

 

「ちぃ! あの塔を破壊する!!」

 

 俺はバイタルチャージからのシャドーキックで『カ・ディンギル』を発射前に破壊しようと考えたが、その瞬間ゾクリとキングストーンからの『直感』が俺の身体を駆け巡った。

 『このままシャドーキックを放ったらとんでもないことになる』……そんな俺の嫌な予感を証明するかのようにフィーネが言った。

 

「おっと、『カ・ディンギル』の破壊はよく考えた方がいいぞ、仮面ライダーSHADOW。

 すでに『カ・ディンギル』のエネルギーチャージは完了した。今の『カ・ディンギル』は膨大なエネルギーを蓄積した火薬庫に等しい。それもお前を殺しかかり、一撃で沿岸の工場地帯を破壊しかかったあの『レーヴァテイン』の、すべてを破壊せしめるエネルギーを使っているのだ。

 そんなものを無理矢理破壊してみろ、溢れだしたエネルギーはすべて周囲に解き放たれる。そうすればこの一帯は完全に吹き飛ぶだろう。

 シェルターに避難した者はもちろん、お前が大切にするその小娘も死ぬことになるだろうな!」

 

 その言葉は間違いではないだろうことが俺には分かった。

 

「時間稼ぎをされ、エネルギーチャージを許した段階で俺たちの負けだったというのか!?」

 

「そういうことだ、仮面ライダーSHADOW!」

 

 フィーネの嘲笑、その事実に俺は歯噛みする。そんな俺を響が見ていた。 

 

「ノブくん……」

 

 不安そうな響の顔。そんな顔は響には似合わない。

 俺は考えを巡らせた。

 

 『カ・ディンギル』が発射されれば月は破壊され、フィーネの企みは成就する。

 『カ・ディンギル』を破壊すれば響を含め、この一帯のすべての人が死んでしまう。

 ならば……俺は覚悟を決める!

 

「響……俺があの砲撃を止める!」

 

「何する気なの、ノブくん!」

 

 何かを感じ取ったのか心配そうな響の声に、俺は笑って答えた。

 

「大丈夫だ! 必ず俺が何とかしてみせる!!

 俺に任せろ!!」

 

 グッと構えをとって、俺は叫んだ。

 

「バイタルチャージ!!」

 

 キングストーンエネルギーが身体中を駆け巡り、俺の全身から緑色のオーラが吹き上がる。

 

「トォォォォ!!」

 

 そして俺は一度しゃがむようにし、地面を手で叩くようにして全力のジャンプ……いわゆるRXジャンプをする。

 その瞬間、俺は音の速度を超えて天に駆け上がった。

 ジャンプからおよそ3秒ほどで大気圏を突き抜け、俺は宇宙空間へと飛び出す。そして身体を反転させ、月を背に眼下の青く輝く地球を睨んだ。

 俺のマイティアイにははっきりと、『カ・ディンギル』の姿が見て取れる。

 

 エネルギーの発射前に『カ・ディンギル』を破壊すれば、行き場を無くしたエネルギーが暴走する。

 発射されれば、月が破壊されフィーネの企みは成就する。

 この双方を解決する方法はたった一つだ。

 

(発射されたエネルギーに俺の全力のシャドーキックで正面からぶつかり、すべて弾き飛ばして月の破壊を阻止する!!)

 

 『カ・ディンギル』を発射させつつ、それを防ぎ月の破壊を阻止するのだ。

 万全の状態でも可能かどうか分からないというのに、今のキングストーンが傷付いている状態でそんなことをするのは無謀極まりないことは重々承知だ。

 しかも『カ・ディンギル』は俺をも殺せるだろう『レーヴァテイン』のエネルギーを収束して放つ砲だ。放たれる『レーヴァテイン』のエネルギーはあの時響が使ったものとは比べ物にならないだろう。

 だが、それでも!

 

(多くの人々のため、そして何より響や未来や仲間のために俺は命を賭ける!!)

 

「レッグトリガー、フルパワー!! バイタル・フルチャージ!!」

 

 俺は両手を広げ叫ぶ。キングストーンエネルギーが全身を駆け巡り、俺の全身を緑のオーラが包み込む。

 同時に、地上から『カ・ディンギル』が発射された。

 

 

「シャドーキックッッ!!」

 

 

 俺は(みどり)に輝く流星となりながら、『カ・ディンギル』から放たれたエネルギーの奔流と正面から激突した。

 

「ぐぁぁぁぁ!!?」

 

 瞬間、凄まじい負荷が俺の身体を襲った。レッグトリガーとエルボートリガーが負荷に耐え切れずに粉々に砕け散り、全身のシルバーガードの装甲にヒビが入っていく。

 エネルギーの奔流は容赦なく俺を襲い、今にも意識を手放しそうな激痛が俺の全身をくまなく襲う。

 だが、逃げるわけにはいかない!

 ここで俺が退けばフィーネの企みは成就され、響たちの未来(みらい)に暗い影が落ちることは確実だ。そんなことは絶対にさせない。

 それに……月を司る『影の王子』である俺が、月を破壊するなどという暴挙を許すわけにはいかないのだ!

 

「月よ、俺に勇気を与えてくれッ!!」

 

 背にした月へと俺は吼えて、持てる力のすべてを絞り出す。

 

 

 その時、不思議なことが起こった。

 

 

 遮る物のない宇宙空間、そこにいる俺に月の光が集中すると俺のシャドーチャージャー、そこに納められたキングストーンへと月の光が集まり、キングストーンが光を放つ。

 そして、キングストーンが瞬時に完全修復され、俺の身体に活力が蘇ってきた。

 仮面ライダーBLACKの進化した姿である仮面ライダーBLACK RXには、太陽の力を溜めておきいざという時に身体を急速に回復させる『サンバスク』という器官が備わっていた。

 それと同じことが遮る物のない宇宙空間で月の光を浴びることで起こったのだ。

 

「おおおぉぉぉぉぉ!!」

 

 力を取り戻した俺のシャドーキックが、『カ・ディンギル』のエネルギーと拮抗する。

 だがここまで来てあと一手、『カ・ディンギル』のエネルギーを弾き飛ばすには一手が足りない。

 

「くそぉ! 響! 未来! みんな!」

 

 俺の脳裏を、俺の大切なものたちが通り過ぎて行く。

 そんな中でクリスの顔を思い浮かべた時、俺の脳裏に煌めくイナズマが走った。

 

「バカ『2号』?」

 

 クリスの俺に対する呼び名だ。

 響を『バカ1号』と呼んでいたからそれに懸けているのだろうが、この俺にとってはこれは別の意味を持つ。

 この世界で俺だけが持つ『仮面ライダーの記憶』……その中にある始まりの2人、赤いグローブの男……すなわち『仮面ライダー2号』!

 それこそが現状を打開する突破口だ。

 

「これだ!!」

 

 叫んで、俺は回転を始める。すると『カ・ディンギル』のエネルギーの奔流が、その回転によって弾かれていく。

 

(2号ライダー、その技借ります!!)

 

 これこそは始まりの仮面ライダーの1人、力を司る『2号ライダー』の必殺キック。

 それは!

 

 

 

「シャドー卍キックッッ!!」

 

 

 

 ドリルのように回転し、『カ・ディンギル』のエネルギーの奔流を弾き飛ばしながら、流星と化した俺は地上へと突き進んでいく。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 天に向かってそびえ立つ魔塔『カ・ディンギル』。そこから禍々しい紅い光が発射される。その光に響は身震いした。

 『レーヴァテイン』によって暴走したときの記憶は響にはない。だが、身体はその力を確かに覚えていた。だからこそ、その力が何となく分かる。

 あの光は信人を、『仮面ライダーSHADOW』を殺し、月を破壊するに足るほどの力だ。

 

「アハハハハハ! これで私の願いは成就される!!」

 

 フィーネの狂ったような笑い声、だが響はこれで終わりとは思っていない。

 

(ノブくんは『任せろ』って言ってくれた。 なら……必ずノブくんが何とかしてくれる!!)

 

 そしてそんな響の信頼に応えるように(みどり)に輝く流星が地上へ向かって落ちてくると、それが『カ・ディンギル』から放たれたエネルギーと正面からぶつかり、そのエネルギーを押し留めている。

 その(みどり)に輝く流星が何なのか、響にはすぐにわかった。

 

「ノブくん!?」

 

「バカな!? 月をも破壊する『カ・ディンギル』のエネルギーをたった1人で押し留めているだと!?」

 

 しかし、響とフィーネの前で(みどり)に輝く流星はだんだんと小さくなっていく。それは信人が追い詰められている証だ。

 

「ああ、ノブくん!?」

 

「ハハハ! そうだ、『カ・ディンギル』のエネルギーを貴様如きが押し留められるものか!

 そのまま月とともに粉々に砕け散れ、仮面ライダーSHADOW!!」

 

「ノブくん、ノブくん!」

 

 フィーネの声が響く中、何もできない響は信人の無事だけを祈る。その響の祈りが届いたかのように、消えつきそうだった(みどり)の光がその輝きと大きさを取り戻す。

 

「『カ・ディンギル』のエネルギーと拮抗したというのか!?」

 

 驚愕するフィーネ。そしてそんな中、(みどり)の流星はまるでドリルのように回転を始める。

 その回転で『カ・ディンギル』のエネルギーの奔流を弾き飛ばしながら、(みどり)の流星は地上へと降ってきた。

 

「ま、まさか!?

 やめろぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 その狙いに気付いたフィーネの声。だが、それを無視して(みどり)の流星は魔塔『カ・ディンギル』へと突き刺さった。

 エネルギーを放出し尽した砲身に(みどり)の流星が突き刺さり、大小さまざまな爆発が『カ・ディンギル』のそこらじゅうで起きる。

 そして轟音とともに『カ・ディンギル』が中ほどからへし折れ、崩れていく。

 

「バカな……カ・ディンギルが……。

 私の想いは、またも……」

 

「ノブくん!!」

 

 その光景に呆然と膝を突くフィーネをよそに、響は自分の大切な人の名を呼ぶ。

 すると、それに応えるように音が響いた。

 

 

 カシャ、カシャ、カシャ……

 

 

 特徴的な金属質な足音。

 爆発する『カ・ディンギル』を背に、その瞳を緑に光らせながら歩く白銀の身体。

 

「ノブくん!!」

 

 信人の無事を知り響の声に喜色が混じる。

 だが、そんな響の目の前でSHADOWは膝を折った。

 

「ぐっ……!?」

 

「ノブくん!?」

 

 慌てて駆け寄った響はSHADOWを支えようとするが……。

 

「熱ッ!」

 

 SHADOWの身体のあまりの熱に思わず手を引っ込める。

 『カ・ディンギル』の超エネルギーをその身に受け、さらに大気圏突入の際に生じた摩擦熱。それらの超高温に晒され続けたSHADOWの身体はそこらじゅうから燻るように湯気が立っていた。

 よく見れば綺麗な銀だったシルバーガードの装甲はそこらじゅうボロボロでヒビが入り、ところどころに赤熱化した影響で赤く錆のような変色をしてしまっている。

 そのダメージは計り知れないもので、さしもの信人も満身創痍の状態にまで追い詰められていた。

 

「ノブくん、すぐにお医者さんに……!」

 

 だがその時、それまで破壊された『カ・ディンギル』を見ながら我を失ったように呆然としていたフィーネが、幽鬼のようにユラリと立ち上がった。

 

「貴様が……貴様が私の『カ・ディンギル』を! 私の想いを!!」

 

 怒り狂った表情でムチをしならせるフィーネ。 

 

「許さん……貴様だけは絶対に許さん!!

 肉をそぎ落として八つ裂きにしてくれる!!」

 

 フィーネからムチが放たれ、それがSHADOWのシルバーガードの装甲に火花を散らす。

 

「ぐぁ!?」

 

 苦悶の声とともに吹き飛ばされ、瓦礫へと叩きつけられるSHADOW。

 

「ノブくん!? このぉぉぉ!!!」

 

 『カ・ディンギル』の超エネルギーに全力を出し切ったSHADOWはもう戦える状態ではない。

 それを見た響が前に飛び出すと、それ以上の追撃をやめさせるために拳を叩き込もうと接近する。

 振り上げられた響の拳、それがフィーネに届こうかという瞬間だった。

 

「響ちゃん!」

 

「ッ!?」

 

 フィーネの口から響の名前が呼ばれる。それは響のよく知る櫻井了子のもの。

 1年以上、色々なことでお世話になってきた人だ。それを認識した響の拳が止まる。

 そしてフィーネの口がニィっと釣り上がる。

 

「お前も風鳴弦十郎も、師弟揃ってその致命的な甘さは変わらんな!」

 

 下から掬い上げるようなムチの一撃を受けて、響の身体が宙を浮く。そこにフィーネの追撃が襲い掛かる。

 

 

『ASGARD』

 

 

 フィーネが発生させた六角形(ヘキサゴン)で構成された板状のバリア、それを響へと叩きつける。

 

「がはっ!?」

 

 まるで巨大なハエ叩きのようなそれで叩きつけられ、半ば地面にめり込む響。

 

「トドメだ!!」

 

 

『NIRVANA GEDON』

 

 

 いつかクリスも使ったエネルギー弾、クリスのものよりも明らかに大きなそれが4発同時に放たれ、それが倒れた響に襲い掛かる。

 響は回避はできないと咄嗟に腕をクロスさせ防御の態勢に入った。

 だが、それが響に襲い掛かることはなかった。

 

 

 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 

 

 連続した爆発音、そしてその爆炎が晴れた先には……。

 

「の、ノブくん!?」

 

 そこには両手を広げ、響の前に立ち塞がるSHADOWの姿があった。 

 SHADOWが満身創痍の身でありながら響を守るためにその身体を盾にしたのである。

 

「ぐ……うぅ……」

 

 光とともに、SHADOWが信人の姿へと戻っていく。

 

「ついに変身を維持する力も無くなったようだな!」

 

 嫌味ったらしい笑みを浮かべ、フィーネがネフシュタンのムチを振り上げる。

 

「私の積年の想いを壊した報い、その命で受けろ!!」

 

「や、やめてぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 放たれたムチは鋭い槍のように信人に迫り、響の声が響く。だが、その凶刃は止まらない。

 

 

 ザクッ!

 

 

 生々しい音とともに、響の身体に生暖かい液体がへばり付く。

 響は自分の身体に付着した液体が何なのか、すぐに気付いていた。しかし響の脳が、心が、それを認識することを拒否している。

 だが、それでも目の前の現実は変わらない。

 

 その液体は……血だ。

 目の前でネフシュタンの鎧のムチが信人の胸を背中まで刺し貫いていた。地面はおびただしい量の赤で染まり、広範囲に血飛沫が広がっている。

 信人は腕を広げ、刺し貫かれたまま微動だにしない。まるで響にこの凶刃に触れさせまいと。

 そして響はこの状況を改めて理解して、身体を赤く染め上げた血が誰のものかを認識した。されてしまった。

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!! ノブくん!!!!!」

 

 響の悲鳴とともに、信人の胸に突き立ったムチが引き抜かれ、信人は血しぶきを上げながら倒れ込む。

 響は自身のダメージを無視して、倒れた信人へと駆け寄る。

 

「ノブくん! 待ってて、今お医者さんに!!」

 

「無駄だ、心臓を確実に貫いた。 確実に殺した」

 

 そんなフィーネの言葉を無視して傷口を抑える響だが信人の胸から溢れる血は止まらない。止まるはずがない。

 そんな中ゆっくりと血塗れの信人の震える手が響に伸びる。

 

「ひび……き……」

 

 だがその手は力なく地面に落ちる。

 同時に分かってしまう。信人から命が零れ落ちたことを……。

 

 

「あ……ああ……ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 涙とともに、どす黒い感情が決壊したかのようにあふれ出す。

 それと同時に響の体内のガングニールが響を浸食し、それに合わせるように響の身体が黒く変わっていく。

 

「ほぅ……体内の聖遺物との融合を促進し、力を得るか。

 獣に堕ちようと愛する男の仇を討とうとするとは……中々好感が持てる。

 だがしかし……所詮獣では人にはかなわん」

 

「アアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 獣のような雄たけびを上げ、理性を完全に失った響はフィーネへと飛びかかる。

 響の目からは血のように赤い涙が流れ、それを月だけが見ている。

 

 

 

 仮面ライダーSHADOW、月影信人は死んだ。

 愛する者たちを守る長い戦いの末に死んだのだ。

 最早この世界を救う者はいない。少女の心を救う者もいない。

 このままフィーネの横暴に任せるしかないのか?

 誰がこの美しい世界を救うのだ……?

 

 




今回のあらすじ

SHADOW「おのれ大ショッカーめ、ゆ”る”さ”ん”っっ!」

ビッキー「とりあえず了子さんを殴って止めよう!」

フィーネさん「なんて見事な脳筋思考……それはそうとカ・ディンギルのチャージ完了、私の勝ちだ!」

SHADOW「完全にノイズを使った時間稼ぎにしてやられた……」

奏「まぁノイズの正しい使い方だわな」

SHADOW「こうなったらちょっと宇宙空間まで行ってカ・ディンギルのビーム蹴り倒してくるね」

防人「行けるんだ、宇宙空間……」

SHADOW「キネクリがミサイルで行けるのに、なんでSHADOWが行けないと?」

キネクリ「なんだその訳わかんねぇ理屈は」

SHADOW「ぬわーーっっ!!」

ビッキー「なんかノブくんがパパスみたいな声出してる!?」

フィーネさん「そりゃ原作より破壊力上だもの。よし、やれそこだ。頑張れカ・ディンギル!」

SHADOW「月よ、俺に勇気を与えてくれ!」

ビッキー「ここはBLACK RXのOPをイメージだね」

月「ええよ(ニッコリ」


そのとき、不思議なことが起こった


フィーネさん「それ反則でしょぉぉぉぉぉ!!」

SHADOW「ゲームとかでは全回復になってたりするしこのくらい普通普通。むしろRX形態にしなかっただけ、月さんはフィーネさんに配慮なさったと思うぞ」

フィーネさん「何のフォローにもなってないわ! って、ああカ・ディンギルがぁ!!」

奏・防人・キネクリ「「「これはひどい」」」

ビッキー「役に立ったのですよね?
     カ・ディンギルは!!
     フィーネさんの野望の糧になったのですよね!!!?(煽り)」

フィーネさん「何の成果も!! 得られませんでした!!
       ……って、これいくらなんでも酷いでしょ!? 二次創作界隈でもこんなのほとんど見たことないわよ!?」

防人「確かに……事前の妨害やら改心やらでカ・ディンギルが発射されない話も見たことあるが、カ・ディンギルが発射されながら月に傷一つ付けられなかったというのは……」

SHADOW「あのさぁ、俺は『月を司る影の王子』だよ。その力の源で象徴の月を傷つけさせると思う?」

キネクリ「確かに分かるが徒労感がすごい……というか、あたしと先輩の『絶唱』シーン完全に潰れたぞ」

ビッキー「『絶唱』? 何ですかそれ?
     食べ物ですか? 美味いんですか、それ?」

奏「ああ、この作品はもうそういうスタンスでいくんだ……」

フィーネさん「おのれSHADOW!!」

SHADOW「なんかフィーネさんがマジギレしとる。何故だ?」

奏「残当」

フィーネさん「よし、変身解除されたからトドメだ!!」

SHADOW「グフッ……」

フィーネさん「おっしゃぁぁぁぁぁ!! SHADOWブッ殺したぞ!!」

ビッキー「お前を殺す……」

キネクリ「まーたバカ1号が暴走しておられる」

防人「しかし……この最後は……」

奏「なぁ……」

フィーネさん「なによ、私の大勝利でしょ。
       最後に思いっきり『死んだ』ってナレーション入ったじゃない。政宗一成の声で」

奏・防人・キネクリ「「「だからヤバいんだろうが!」」」

キネクリ「しかも最後の部分、仮面ライダーBLACKの47話『ライダー死す!』のナレーションのもじりだろ」

奏「となるともう先の展開が見えてて……」

防人「ちなみに作者曰く、『この最終決戦ではあと2回、不思議なことがおこる。その意味は分かるな?』、だそうだ」

キネクリ「……もう処刑BGMが聞こえてきたんだが」


ライダー死す! この先世界は一体どうなってしまうのか(棒)
無印編も残り3回の予定、次回もよろしくお願いします。


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第24話

 猛スピードでやってきた車が急ブレーキで停まると、そこから3人の人影が出てくる。

 それは東京スカイタワーでノイズの迎撃を終えた奏・翼・クリスの3人だ。

 

「あのでっかい塔はなんだ!!」

 

「リディアンが……破壊されているだと!?」

 

 目の前のがれきの山とまるで松明のように燃える折れた巨大な塔『カ・ディンギル』の光景に驚愕する奏と翼。その瞬間、地を震わせるような衝撃が響く。

 即座に動いたのはクリスだった。

 

 

「Killter Ichaival tron……」

 

 

 未だ事態が動いていることを悟ったクリスが即座にギアを纏う。

 

「おい人気者ども、お前らもギア纏え!

 まだ戦いはこれからだぞ!」

 

 

「Croitzal ronzell gungnir zizzl……」

 

「Imyuteus amenohabakiri tron……」

 

 

 言われ、クリスにワンテンポ遅れて奏と翼も起動聖詠を歌い上げギアを纏った。

 ギアを纏った3人はその衝撃の響いた場所へと向かう。立ち上る土煙、そこにいたのは……。

 

「居たな、フィーネぇぇぇ!!」

 

 それは黄金のネフシュタンの鎧を纏った金の髪の女……フィーネだ。

 3人に気付いたフィーネはゆっくりと振り返る。

 

「誰かと思えばクリスか……お前も存外にしぶといな。

 それに……奏ちゃんに翼ちゃんも、随分と遅刻じゃない」

 

 フィーネの物言いと声に、奏と翼はフィーネの正体に思い当たる。

 

「まさかアンタ……了子さん!?」

 

「バカな! 櫻井女史がこの惨状を創り出した首魁だというのか!?」

 

 明かされた真実に奏と翼が驚愕する中、クリスは右手のアームドギアであるボーガンを構え一歩前に出る。

 

「お前の表の顔がなんだろうが関係ねぇ。 あたしはお前を倒す。

 それがパパとママの夢を継ぐためにしなきゃならない償いの第一歩だ」

 

「大きく出たな、小娘。

 ……だが丁度よかったと言うべきか」

 

「何?」

 

 その時、積み重なった瓦礫が勢いよく吹き飛ぶと、土煙を引き裂きながら何かが飛び出してくる。

 それは……。

 

「アアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

「響!?」

 

 それが響だと気付いた奏が驚きの声を上げる。だがその変わりようはどうだ。

 口から洩れているのはけだもののような雄たけび、いつも戦いの際に響いている凛とした、それでいて綺麗な声は見る影もない。

 その姿は黒く禍々しく変色し、赤く光る目からは赤い涙を流し続けている。

 

「貴様、立花に何をしたッ!?」

 

「別に何もしていないわよ。 この娘には……ねッ!!」

 

 明らかに常軌を逸した響の姿に、翼はフィーネに言葉を投げつける。

 しかしとうのフィーネは肩でも竦めるように返すと、飛び掛かってきた響の前に六角形(ヘキサゴン)で構成された板状のバリアが形成される。

 

 

『ASGARD』

 

 

 フィーネが発生させた板状のバリアに響は構わず拳を叩きつける。バリアにみるみるヒビが入っていくが、フィーネは慌てることなくバリアが破れるその前にもう1枚バリアが形成し、それを横合いから響に叩きつけた。

 そのまま吹き飛ばされた響が再び瓦礫の中に突っ込み、土煙がその姿を覆い隠す。

 

「どういうことだ!?」

 

「そのままの意味よ。

 この娘は人と聖遺物の融合という可能性を示した。融合した聖遺物はそれまで以上の力を人に与えると分かったのだ。

 このネフシュタンの鎧の力を引き出すことに大いに役に立ったよ」

 

 そこで言葉を切ったフィーネは、「だが……」と続ける。

 

「制御できない力に、やがて意識が塗り固められていく……聖遺物との融合は確かに多くの可能性に満ちているが制御に関しては未だ見直す点があるな」

 

「まさかお前……立花を使って実験を!?」

 

「ええ、前回のレーヴァテイン使用時の暴走とガングニールの破片との融合のデータは大いに役立ったよ」

 

「じゃあ立花響(バカ1号)があんな風になったのもすべてお前のせいかよ!」

 

「だから違うと言っているでしょ。 あの娘は自らの意思でけだものに成り下がったのよ」

 

 クリスの言葉を否定するフィーネ。その時、奏が違和感に気付いた。

 

「……おい、信人はどうした? あの信人が、響があんなことになって何もしないわけがない!!」

 

 奏に言われて翼もクリスも、その事実にはたと気付く。そして、その最悪の想像に行きついた。

 

「まさか……!?」

 

「どうやら察したようだな! そうだ、私の計画を潰したあの憎き月影信人は、仮面ライダーSHADOWは死んだ!!」

 

「嘘だろ……月影信人(バカ2号)が死んだだって……」

 

「それ以外に今をどう説明する?

 あの娘は愛する男の死に嘆き悲しみ、私を討とうと自らけだものに成り下がったのだ!

 だが……!」

 

 その瞬間瓦礫が吹き飛び、再び飛び出した響がフィーネへと襲い掛かる。

 

「アアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

「悲しいかな。

 強大なパワーを得ても所詮はけだもの、人には敵わない!」

 

 だがその直線的な動きに対応してフィーネのムチが振るわれ、またも響は吹き飛ばされると3人の前に転がる。

 

「立花、落ち着け!

 これ以上は聖遺物との融合を促進するばかりだ! そんなことになれば……もう元には戻れなくなる!!」

 

 翼の声に立ち上がった響はゆっくりと視線を向ける。

 そして……。

 

「アアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

「!? 響ッ!!」

 

「何やってんだよ、立花響(バカ1号)!?」

 

 響は雄たけびを上げると、あろうことかそのまま3人に向かって襲い掛かってきたのだ。

 そんな様子にフィーネは嗤う。

 

「アハハハ、これは傑作だ!

 愛しい男の仇を討とうと力を求めたはいいものの、理性を無くし人の形をした破壊衝動となり果て同士討ちとは!

 アハハハハ、面白い! とても面白い見世物だ!」

 

「くっ……響、目を醒ませ!」

 

「アアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 フィーネの嘲笑の中、赤い涙を流す響と3人の望まぬ戦いが始まった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 二課の一行がたどり着いた避難所は、重苦しい雰囲気に静まり返っていた。

 

「ノッブが死んじゃって……ビッキーがおかしくなっちゃった……」

 

 創世の泣きそうな声が、状況をよく表している。

 目の前のモニターでは暴走した響が3人と戦い、その元凶たるフィーネはその光景を愉快そうに嗤う。

 

「私たち……もうおしまいなの?」

 

 弓美の絶望的な声、だがその重苦しい空気を未来は首を振って振り払う。

 

「違うよ、何も終わってなんかない。

 響は必ず元に戻ってくれる。 それに……信人だって本当は死んでなんかいないはず!」

 

「何言ってるの! 胸を貫かれて、あんなに血だって出てたんだよ!

 そんなの……」

 

「それでも! この目で確認しないかぎり私は信じない!!」

 

 その涙をこらえるような未来の大声に、弓美もそれ以上の言葉が出ない。

 未来も実際には不安でどうしようもない。

 響が元に戻る保証はないし、信人に至ってはモニター越しでも分かる致命傷……どこにも安心できる要素などあるはずがない。

 だが……不思議なことだが、未来には何か『直感』めいたものがあった。

 

(信人は死なない……絶対に!)

 

 「そうだ!」と応えるように、未来の鼓動がひと際大きく鳴った……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ぐぁっ!?」

 

 暴走する響に殴られ、クリスが地面を転がって吹き飛ばされる。

 奏にも翼にも、そして当然クリスにも響を害そうという気はない。元に戻そうと呼び掛けるが、暴走した響はそんな3人にお構いなしだ。

 そのため響を相手に3人は劣勢を強いられていた。

 

「あんの立花響(バカ1号)め……バカ力しやがって……」

 

 素早く身を起こし、口の中に広がった血をペッと吐き出す。そして視線を横に向けたクリスは、見つけてしまった。

 

「何やってんだよ、お前……」

 

 そこに横たわっていたのは信人だ。胸を貫かれ、周囲には血が池を作っている。

 その血の池に足を踏み入れ、ゆっくりとクリスはそこに近付いた。

 

「何寝てんだよ、月影信人(バカ2号)!」

 

 そしてクリスは信人の胸倉を掴んで引きずり起こしながら叫んだ。

 

「聞こえねぇのかよ!

 あいつが! お前の大切な女が泣き叫んでるんだぞ!!」

 

 当然、信人からの反応はない。だがそれでも構わずクリスは続ける。

 

「寝てんじゃねぇ! 立てよ!

 立ってあいつを……響を……救ってやってくれよぉ……。

 お前とあいつがあたしを救ってくれたみたいに……救ってやって……くれよぉ……」

 

 クリスの叫びは途中から嗚咽となっていた。

 フィーネに言われながらもどこかで信じたくなくて無視していた信人の死……それをクリスは確認してしまったのである。

 

「……」

 

 しばらくしてクリスはゆっくりと、そして優しく信人の身体を横たえる。

 

「……立花響(バカ1号)は、必ずあたしが助けて見せる。

 見ててくれよな……」

 

 そう言って涙を拭うと、クリスは決意を新たに戦いの場へと戻っていく。

 クリスが立ち去ったその後、信人の身体、その腰辺りに緑色の光が灯った。

 そして……動かないはずの信人の指先がピクリ、と動いた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 上下左右全く分からない暗い闇の中、そこに俺はいた。

 だが不快ではない。まるで温かい海にでも潜っているような心地よい浮遊感すら感じる。

 そして何より……。

 

(眠い……何でこんなに眠いんだ……?)

 

 少しでも気を抜けば意識は眠りに誘われるだろう。

 だが……何で寝てはいけないんだ?

 

(俺は何でこんなに眠りに逆らってるんだ?)

 

 分からない。思い出せない。

 そのまま俺は、目を閉じようとする。その時……。

 

(……何か、聞こえた?)

 

 確かに、聞こえた。

 それは俺の名を呼ぶ声、俺を求める声だ。

 それを自覚した瞬間、俺は鮮明に思い出す。

 

(そうだ! 俺はフィーネの攻撃を受けて……)

 

 それを自覚した途端、俺の周りの闇が一層俺を包む。

 苦しいぞ。もうやめてもいいんだぞ……そんなブラックホールみたいに深く魅力的な甘い声が聞こえた気がした。

 だが、それに俺は首を振る。

 何故なら……。

 

(響の泣く声が聞こえた!)

 

 ならば俺が動かない道理はない。だが、闇はより一層の誘惑を持って俺を引き止めようとする。

 ……今なら分かる。この闇は『死』だ。『死』が俺を強く、そして優しく包んでいるのだ。

 だが、すまないが今は俺はその安息に浸るわけにはいかない。

 

(響が泣いている……泣いて、俺を呼んでいるんだ。

 それをたかだか……()()()()()()()()()()()()()()!!)

 

 俺の行く手を遮ろうとするかのように包みこむ『死』の闇。その時、俺の想いを受けとってくれたのか俺の腰のキングストーン『月の石』が、緑の光を放ち出す。

 

「どけ! 俺の歩く道だ!!」

 

 そして俺の言葉と同時に光が溢れ闇を塗り替えて行った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「がはっ!?」

 

 響によって瓦礫へと叩きつけられたクリスが衝撃に重い息を吐き出す。

 奏も翼も同じように壁へと叩きつけられめり込み、うめき声を上げながら身動きできない状態だ。

 そんな3人に暴走した響が近付いていく。

 そしてその様子を嘲笑とともにフィーネが眺めていた。

 

「こんなにも綺麗な同士討ちとは……これで私の計画を潰してくれたことへの溜飲も少しは下がる。

 次回の計画には新たな気持ちで臨めると言うものだ」

 

「次回の計画、だぁ……?」

 

 フラフラとした足取りで立ち上がるクリスの言葉に、フィーネが答える。

 

「私に敗北はない。私は永遠を生きる巫女、フィーネなのだから!

 ここで今回の敗北の目を潰し、次回では確実な勝利を手に入れる!」

 

 クリスはフィーネが何を言っているのかよく分からなかったが、そんなことはどうでもよかった。

 その視線は近付いてくる響へと向けられている。

 

(こうなったら……『絶唱』を使う!

 あくまで立花響(バカ1号)をダメージで動けなくする程度に……加減は難しいが絶対に成功させる!)

 

 覚悟を決め、響を救うためにクリスは絶唱を歌おうと息を吸う。

 

 

 

 その時、不思議なことが起こった。

 

 

 

 突如として緑色の光の柱が天に向かって立ち上ったかと思うと、周囲にまばゆい光が溢れだす。

 

「な、なんだこの光は!?」

 

 誰もが目を開けていられないほどの閃光がその場を包み、フィーネが戸惑いの声を上げる。

 そして、その閃光の中に音が響いた。

 

 

 

 カシャ、カシャ、カシャ……

 

 

 

 独特の金属質な足音が辺りに響き渡る。

 

「まさか……この足音はまさか……!?」

 

 フィーネの戸惑いをよそに、その足音とともに現れる銀の身体(ボディ)に緑の眼。

 その姿に、クリスは嬉しそうに笑う。

 

「へっ……なんだ、ただの死んだフリだったのかよ。

 随分遅い到着だな、仮面ライダーSHADOW!!」

 

 それは倒れたはずの月影信人、仮面ライダーSHADOWだ。

 

「すまないクリス……それに奏に翼も……」

 

「そんなの後でいい。 それより……立花響(バカ1号)を任せる」

 

「ああ……」

 

 言ってSHADOWはクリスの横を通り過ぎ、そのまま暴走した響のもとに歩いていく。

 

「響……」

 

「ア……アアア……」

 

 理性を失ったはずの響、だが響は攻撃を仕掛けることはなくその動きを止めていた。

 SHADOWは変身を解くと、信人の姿に戻る。

 そして、そのまま暴走した響の身体を抱きしめた。

 

「ごめんよ響……心配をかけた……」

 

「ア……アアア……ノブく……ん……! ノブ……くん!!」

 

 すると響の獣のような雄たけびは消えていき、変わりに意味ある人の言葉が口から漏れ出す。

 黒く変色していた身体も、まるで消しゴムで消すかのように元の姿に戻っていく。

 そしてしばらくの後にその場にいたのは、抱き合う信人と響の姿だった。

 

「ノブくん! ノブくん!! ノブくんッ!!

 私、ノブくんが死んじゃったと思って……怖かった! すごく怖かったよぉ!」

 

「ごめんよ、怖がらせて」

 

「いいの。そんなのどうでもいいの!

 ノブくんが、ノブくんが無事なら!!」

 

 そうして熱い抱擁を続ける2人。

 

「お熱いことだね……」

 

「でも……あの2人がああしていると、なぜか私たちも安心する……」

 

「へっ……バカップルどもはああじゃなきゃな……」

 

 奏と翼、そしてクリスもフラフラの身体で互いに支え合いながらその光景を眺める。

 だが、そんな光景にヒステリックな声が響いた。

 

「バカな、確かに心臓を貫いた!? 間違いなくお前は死んだはずだ!!

 それなのにどうして、どうしてお前は生きている!?」

 

 目の前の光景を理解したくないのか、髪を掻き毟りながらヒステリックに絶叫するフィーネ。

 その声にその存在を思い出したのか、全員がゆっくりとフィーネの方を向く。

 そして、信人は抱き締めた響を離して一歩前に出ると言い放った。

 

「……知らないらしいな。なら、教えてやる。

 俺を呼ぶ声がある限り、俺は、仮面ライダーは何度でも蘇る!!」

 

 そして、信人は全員へと振り返った。

 

「まだ歌えるか?

 まだ頑張れるか?

 まだ……戦えるか?」

 

 信人の問いに、全員が笑顔で答える。

 

「なに当たり前のことを聞いてるんだい?」

 

「防人たる私が、ここで膝を付くなどない!」

 

「まだまだ暴れたりねぇくらいだ!」

 

「ノブくんと一緒なら……何だって出来る!!」

 

 それに信人も笑う。すると信人の腰にベルト、『シャドーチャージャー』が出現し緑の光を放ち始めた。

 

「なら……一緒に戦おう!

 シャドーフラッシュッッ!!」

 

 『シャドーチャージャー』から放たれた温かい緑の光が4人を包み込むと、大きな輝きを放ちながら4人の姿が覆い隠される。

 そしてその光の中からゆっくりと、白を基調とした4人の戦姫たちが姿を現した。

 その姿にフィーネは驚愕する。

 

「その姿はまさか……エクスドライブモード!?

 バカな! 理論上は可能であろうと、そいつらのフォニックゲインではどうやっても不可能な形態のはず!?

 何故、何故それが出来る!?」

 

 エクスドライブモード……それはシンフォギアに存在する決戦形態。しかしそれは理論上可能と言うだけの机上の空論に過ぎない奇跡の産物のはず。

 しかしその奇跡は今、現実となってフィーネの前に存在していた。

 それはSHADOWの力、『キングストーン』の力だ。信人が4人とともに戦うことを願い、それを聞き届けてキングストーンが4人のフォニックゲインを増幅、傷を癒すばかりかエクスドライブモードの起動も果たしたのである。

 自らの理解を超える現実の連続に、フィーネが絶叫した。

 

「……お前だ! すべてはお前の存在のせいで私の計算が狂った!

 お前は……お前は一体何なのだ!?」

 

 その言葉に、信人はフッと笑った。

 

「なら答えてやるっ!」

 

 そして、信人は慣れ親しんだ身体を丸めるようなポーズを取る。

 ギリギリと皮手袋が軋んだ音を立てた。

 そして……。

 

「変……身ッッ!!」

 

 キングストーンが放つ強大なエネルギーが信人の身体を駆け巡り、緑の光を放つ。

 そしてその光の中から、カシャカシャと金属質の足音を立てながら現れる銀の身体(ボディ)に緑の眼の戦士。

 その名は!

 

「俺はSHADOW! 仮面ライダーSHADOWッッ!!」

 




今回のあらすじ

奏「なんか大事なところに大遅刻しながらアタシら参上!」

防人「で、もうリディアン音楽院は更地でカ・ディンギルも燃え盛ってるぞ!」

キネクリ「何の役にも立たなかった秘密兵器ワロス」

フィーネさん「やっと来てくれたわね! というわけであとは任せた!」

ビッキー「アンギャァァァァ!!」

奏「あ、こいつトレインで擦り付けやがった!」

キネクリ「汚い、さすがフィーネ汚い!」

フィーネさん「やかましい、こんなの相手してられるか!!」

弓美「もうダメだ、おしまいだぁ(棒)」

未来「信人があれで死ぬわけないと思うよ」

〇〇〇〇「そうやで、あれで『死ねるわけない』やろ」

ビッキー「アンギャァァァァ!!」

キネクリ「原作よりも地力が大幅に底上げされた状態で暴走、しかもこっちも全力で叩き潰すわけにもいかないから先輩あわせて三立て……あいつマジハンパないって。
     んっ?」

SHADOW「( ˘ω˘)スヤァ……」

キネクリ「てめぇ、さっさと起きんかい!!」

SHADOW「どけ! 俺の歩く道だ!!」

奏「今回のライダーネタだな。555劇場版の最後のセリフか……」

防人「本当に555好きだな、作者」


そのとき不思議なことにが起こった


フィーネさん「またなの!? で、生き返るだけじゃなくてキングストーンでフォニックゲイン増幅で4人がエクスドライブモード起動ってどんなイジメよ!!
       あんた、一体なんなのよ!?」

SHADOW「通りすがりの、仮面ライダーだ!(ニヤリ」

キネクリ「あーあ、本編では使いたいシーンだけど合わないからって理由で必死で使わないように耐えたセリフだってのに、あとがきで躊躇なく言いやがったよこいつ……」

フィーネさん「まて、落ち着くのよフィーネ。
       まだレーヴァテインが、レーヴァテインがある。
       まだ慌てるような時間じゃないわ……」

奏「ああ、『アレ』を最後の希望にしてるのか……なんか見てて悲しくなってきたよ、アタシは」


SHADOW復活とエクスドライブモードの起動でした。
無印編もあと2回の予定。
次回もよろしくお願いします。


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第25話

 空には純白の翼の4人の戦姫が舞い、正面には白銀の戦士が佇む。

 ありえない、どこまでもありえないはずの光景。一体自分はどこで間違えたのかとフィーネはほぞを噛む。

 だがそれに対する反応は早かった。

 フィーネはソロモンの杖を掲げると、そこから上空に向かって緑色の光が伸びていく。

 その光は枝分かれし、最終的には数千をゆうに超える数の光となって街へと降り注いだ。そしてその光がノイズとなって街を埋め尽くす。

 人型から飛行型、小型から大型までもはやその種類と数は識別不能な状態だ。

 それは今までの人類史には存在しえない、存在してはならないほどのノイズの群れ。

 だがしかし、そんな大軍勢を前にしても誰一人臆するものはいなかった。

 

「今さらどれだけノイズがいようと、俺たちに勝てると思うな!

 バトルホッパー!!」

 

 SHADOWの声に答えて次元を超えて現れたバトルホッパーが、クリスたち3人が乗ってきた車に取り着くと車をバトルホッパーへと変形させる。

 バイクへと変形を果たしたバトルホッパー、それに跨ったSHADOWはいきなりアクセルを全開にする。

 SHADOWの求めに答え、バトルホッパーの動力源であるモトクリスタルが生み出した超パワーが速度となって現れた。

 

「とぅっ!!」

 

 バトルホッパーを使っての大ジャンプ、さらにそこから飛び上がる超超高度へのジャンプをするSHADOW。

 

「バイタルチャージ!!」

 

 空中でバイタルチャージを発動させたSHADOWは緑のオーラを両足へと集中させながら降下する。

 

 

「シャドーキックッッ!!」

 

 

 放たれたSHADOWの必殺キックが、大型の人型ノイズに突き刺さった。

 すると30メートルを超えるだろうその巨体が、まるでボーリング球を当てられたピンのように吹き飛ぶ。

 辺りの大小さまざまなノイズを巻き込み吹き飛ぶ大型ノイズ。それがキックとともに叩き込まれ体内を暴れまわるキングストーンエネルギーに耐えかねて爆散した。

 その衝撃が、またも大小問わずノイズたちを吹き飛ばした。

 

「ヒュゥ……派手な号砲だねぇ、信人!」

 

「ああ、初手から奥義……私も先輩として負けていられんな!」

 

「あたしらもいくぞ!」

 

「うん! ノブくんに続く!!」

 

 奏が槍を振るい、翼が剣を振るう。それだけで巨大な竜巻と刃と化した衝撃波が発生し、ノイズの群れを吹き飛ばしていく。

 クリスのアームドギアが変形し、まるで戦闘機のようになるとそこから数え切れないほどのレーザーが発射され、それがノイズたちを打ち砕く。

 響が拳を繰り出せば、その拳圧だけでノイズの群れたちが吹き飛ぶ。

 もはや5人にとってノイズなど数が多いだけのただのカカシに過ぎず、瞬く間に刈り取られていく。

 

「響!」

 

「ノブくん!」

 

 SHADOWの声に響が答え、2人が揃って拳を構える。

 そして。

 

「「ダブルパンチッ!!」」

 

 同時に繰り出された拳から発生したキングストーンエネルギーとフォニックゲインが荒れ狂い、最後のノイズの集団を跡形もなく消し飛ばした。

 

「これで終わりかい?」

 

「残るは本丸、櫻井女史のみ!」

 

 奏に応じて翼が言うと、視線をリディアン跡地へと向ける。するとフィーネはソロモンの杖を自らの腹部へと突き刺した。

 フィーネの全身から光が溢れ、それが柱のように立ち上る。だがノイズが召喚されることはない。まるで泥が湧き上がるように溢れる何かがフィーネの身体に纏わりつき、形を成していく。そしてその場に現れたのは巨大な赤黒い蛇のような存在だ。その大きさは『カ・ディンギル』に匹敵する。

 これこそ億単位のノイズたちによって形成された戦闘集合体、フィーネの最後の切り札であった。

 その巨大な蛇の頭部が5人の方を向くと、紅い光が集まって行く。その光の危険性に、SHADOWはいち早く気付いた。

 

「みんな、避けろ!!」

 

 その言葉に散開した5人。一瞬前まで5人のいた場所を、深紅の閃光が通り過ぎた。

 目標を外した閃光はそのまま街のビルを薙ぎ倒し、それだけに飽き足らずその背後にあった山に穴を開けて貫通する。

 

「なんだい、あのバカみたいな火力は!?」

 

「あれは『レーヴァテイン』の光だ!」

 

 奏の戸惑いの声。その正体に、SHADOWがいち早く気付いた。

 

「なるほど……櫻井女史は『レーヴァテイン』も取り込んでいるというわけか……」

 

「で、その超火力をブッ放してくるってことか……厄介だな」

 

 その時、蛇の胴体の側面、そこがまるで無数の目があるかのように穴が開く。そしてその穴から紅い光が漏れ出した。

 

「まさか!?」

 

 言い終わるより早く回避に5人は移る。するとその無数の穴から大量に光が放たれた。

 

「なんだあの弾幕のフィーバー状態は!? あれ全部『レーヴァテイン』の攻撃かよ!?」

 

「『レーヴァテイン』をとり上げない限り、どうしようもないみたいだね……」

 

 言って奏と翼は顔を見合わせると頷き合う。

 

「翼!!」

 

「私たち両翼で、道を切り開く!!」

 

 奏と翼がともに空へと飛び出した。

 

「ならあたしも全力をぶち込んでやる!!

 トドメは任せたぞ、バカップル!!」

 

 言って、クリスも2人を追って空へと向かった。

 

「行こう、響!」

 

「うん、ノブくん!!」

 

 そしてSHADOWと響が地を駆ける。

 空を舞い、一直線に巨大な蛇へと駆ける奏と翼。二人はその持てる力を互いのアームドギアへと収束させる。

 

「これが!」

 

「奏と私の!」

 

「「ツヴァイウイングだぁぁぁぁ!!!」」

 

 2人から放たれたエネルギーは合わさり、やがて一つになって形を成す。

 それは炎を纏った鳥のようで、両翼をはためかせてまっすぐに巨大な蛇へと突き進み直撃した。

 閃光と爆発、その威力に巨大な蛇の身体が揺れ、喰い破った装甲の隙間から中のフィーネと接続された『レーヴァテイン』をクリスは視認する。

 そしてクリスは迷うことなく再生より早くその隙間へと飛び込んで、蛇の内部へと侵入した。

 

「昔っから、デカいやつの倒し方ってのは同じだ……」

 

「まさか……!?」

 

 ニィッと唇を吊り上げて笑うクリスに、何をするのか気付いたフィーネが顔を青くするがもう遅い。

 

「そいつの腹の中に飛び込んで暴れまわればいいんだよ!!」

 

 数えるのも馬鹿らしくなるくらいのミサイルが巨大蛇の、そしてフィーネの元で炸裂する。

 その衝撃によって巨大蛇は内部から腹を吹き飛ばされる。そしてそんな腹から吹き飛んでいく輝きが一つ……それは『レーヴァテイン』だ。

 

「そいつを渡すな!」

 

「『レーヴァテイン』の攻撃力がなければ敵の脅威は半減だ!」

 

「そいつをどこかにやっちまえ!!」

 

 その言葉に反応した響が『レーヴァテイン』へと走る。

 

「させるものか!」

 

 そうはさせじと、巨大蛇からいくつもの触手が生えるとそれが転がり落ちた『レーヴァテイン』を拾おうと向かう。

 先に『レーヴァテイン』の元にたどり着いたのは響だ。響は『レーヴァテイン』を掴みどこか遠くへ投げようとするが……。

 

「アアアアアァァァァァァ!!」

 

 いつかと同じような、破壊衝動の奔流が響を襲う。

 すぐにどこかに投げるくらいなら、と考えて破壊衝動を耐えようとするがそれは甘かった。

 響の意識は濁流に揺れる木の葉のように、いつかと同じ破壊衝動に翻弄されていく。

 

「響!?」

 

「立花!?」

 

立花響(バカ1号)!?」

 

 そんな様子にフィーネは嗤った。

 

「アハハ、愚かな! 『レーヴァテイン』の呪いを甘く見たな!

 『レーヴァテイン』を返してもらうぞ!!」

 

 そんな破壊衝動を耐えようと苦しむ響に、巨大蛇からの触手が殺到した。

 響が触手の海に呑まれる……だがその瞬間、横からやってきたSHADOWが響から『レーヴァテイン』を掠め取ると一閃、触手の海を切り裂いた。

 

「の、ノブくん! 早くそれを捨てて!!」

 

 破壊衝動から解放され肩で息をする響は、同じものが信人にも襲い掛かっているだろうことに気付き叫ぶ。

 

「アハハハ! これは傑作だ!!

 さぁ、SHADOW! 『レーヴァテイン』の破壊衝動に呑まれ暴走するがいい!! 

 そしてお前はその手で愛する者と仲間を殺すのだ!!」

 

 今から起こるであろう光景に、フィーネは愉快そうに嗤った。

 だが……。

 

「何故だ!? 何故貴様は暴走しない!?」

 

 いつまでたっても、『レーヴァテイン』を手にしたSHADOWに変化はない。その予想外の出来事にフィーネが混乱したような声を上げた。

 やがて、そんなフィーネに答えるようにSHADOWは言った。

 

「フィーネ……お前は本当に運がない」

 

「なん……だと……?」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 フィーネの困惑した様子に、俺は笑いを堪えるのに必死だった。

 『レーヴァテイン』を掴んだ瞬間、俺にはすべてが分かった。

 よく考えてみれば、推理のためのヒントはいくらでもあったのだ。

 

「の、ノブくん、本当に大丈夫なの?」

 

「ああ、大丈夫。 なんたってこれは俺の……いや『俺たち』の剣だからな」

 

「どういうことだ!?」

 

「フィーネ、お前は『レーヴァテイン』の能力だけを見ていた。 だが、真実を何も知らなかったんだよ」

 

 困惑するフィーネの様子がおかしくて、少し興に乗った俺はそのまま解説を始める。

 

「『レーヴァテイン』は完全聖遺物……古代から経年劣化や破損がなく本来の機能を残したままの代物だ。

 でもな……同時にこいつは『シンフォギア』だったんだよ」

 

「?? どういうこと?」

 

「つまり『レーヴァテイン』の機能は暴走や絶大な破壊の力じゃない。『レーヴァテイン』の本来の機能っていうのは……『内部に埋め込んだ力ある欠片から力を引き出す』という機能なんだ。つまり聖遺物の欠片から力を引き出す『シンフォギア』と、同じ機能だったんだ。

 だから暴走や絶大な破壊の力はその『力ある欠片』のものなんだよ。

 そして……その『内部に埋め込まれた力ある欠片』のことを俺は知っている」

 

 病院で入院中、『レーヴァテイン』に何かを感じたのも当然のことだ。

 そしてあの移送中、『レーヴァテイン』が何故響に反応して起動した理由も分かる。融合症例である響のフォニックゲインに反応したと思われていたが実際はもっと簡単なこと、『レーヴァテインは響と俺を間違えた』のだ。

 そしてその間違えた理由……それは俺がここ1年以上に渡って毎日のように響にかけている体力回復のための『シャドーフラッシュ』、もっと言えばそのときの『キングストーンエネルギー』が響の身体に残留していたためだ。

 そして『レーヴァテイン』の暴走とは、本来の持ち主以外が使おうとしたことによる『レーヴァテイン』の拒絶反応なのである。

 俺を殺せる一撃を放つ? 当然だ、『レーヴァテイン』の正体は俺や『太陽』のみならず、創世の王すら屠る魔王剣なのだから。

 

「待たせたな……」

 

 手の中の『レーヴァテイン』に呟くと、まるで歓喜するように柄の紅い宝玉が点滅する。

 事実、『レーヴァテイン』は喜んでいた。永き年月の果てに、あるべき場所に戻れたと歓喜の声を上げている。

 俺はそんな様子に微笑むと、その真の名前を呼んだ。

 

 

 

「起きろ、サタンサーベル!!」

 

 

 

 その言葉とともに『レーヴァテイン』の柄の紅い宝玉……そこに納められた紅い欠片が激しい光を放つ。そして……紅い欠片が『レーヴァテイン』を浸食する。

 『レーヴァテイン』を喰らい、紅い欠片が本来の姿を取り戻していく。

 そしてしばらくの後、俺の手の中には『レーヴァテイン』とは全く違う剣が握られていた。

 血のように紅い刀身、リンゴに喰らい付く黄金のヘビのような柄とナックルガード……これこそシャドームーンの象徴としてあの仮面ライダーBLACKすら殺し、シャドームーンすら殺した魔王剣『サタンサーベル』だ。

 

「さて……」

 

 俺はサタンサーベルを手にフィーネへと振り返る。

 フィーネはそんな俺を見て顔面蒼白、これ以上ないほどに狼狽えていた。

 そして震える唇から、絶叫のような声がほとばしる。

 

「伝説の魔王剣『サタンサーベル』だと!?

 そしてその白銀の身体に緑の瞳……まさか……まさかまさか……!?

 お前の正体は……ゴルゴムを滅ぼした伝説の2人の王子の1人、影の王子『シャドームーン』だというのか!?」

 

「……その名前を知っているとは、聞きたいことができたな。

 それじゃあ……決着をつけてから話を聞かせてもらおうか!」

 

 言って、俺は跳躍した。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 フィーネは悲鳴のような声を上げながら持ち得るすべての触手を俺へと向ける。

 

「ふん!」

 

 だがその触手はサタンサーベルの一太刀ですべてが消滅した。

 俺はそのまま、刀身を指でなぞる。その指に合わせるようにサタンサーベルの刀身が紅い光を放ち出した。

 そしてそのまま、空中から飛びかかると巨大蛇へとサタンサーベルを突き刺す。

 

「組織が崩壊していく!?

 バカな、ネフシュタンは無限の再生能力を持つはず!? それを超える無限の破壊力だとでもいうのか!?」

 

 火花を散らしながら崩壊していく巨大蛇にフィーネが戸惑いの声を上げるがこれは当然のことだ。

 俺はサタンサーベルを突き刺すと同時にキングストーンエネルギーを流し込んでいた。そのキングストーンエネルギーがサタンサーベルによって増幅され、巨大蛇を体内から破壊しているのだ。

 これはあの仮面ライダーBLACK RXの必殺技『リボルクラッシュ』と同じもの、いうなればサタンサーベルを使った『サタンクラッシュ』とも言うべき技である。

 

「私の、私の想いがこんなことでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「ふん!!」

 

 俺はサタンサーベルを抜き振り返ると、サタンサーベルを振るう。

 そして……。

 

 

 

 

 

 

 俺の背後で巨大蛇が大爆発を起こしたのだった……。

 

 




今回のあらすじ

フィーネさん「私は一体どこで間違えた?」

ビッキー「最初からなんじゃないかな?」

SHADOW「小便は済ませたか?神様にお祈りは?部屋の隅でガタガタ震えて命乞いする心の準備はOK?」

フィーネさん「あんたそれ完全に悪役でしょうが!
       でも大丈夫、私にはまだレーヴァテインくんがいる!
       というわけで時間稼ぎの戦闘員のみなさーん!」

ノイズ「「「イーッ!」」」

奏「今さらノイズ如きじゃなぁ……」

防人「これ原作でも思ったんだが、ノイズ倒しに行く必要あったのか?
   街は避難完了してるんだしそのままフィーネ叩いた方がよくないか?」

キネクリ「まぁ都市インフラが完全に破壊されたら復興が大変だし、人だけじゃなく生活も守るのが正義の味方ってことなんじゃないか?」

SHADOW&ビッキー「ラブラブ天驚拳……もといダブルパンチ!」

キネクリ「こういう合体コンビ技はやっぱ映えるな」

フィーネさん「よし、時間稼ぎのうちにノイズと合体完了!さらにレーヴァテインも取り込んだわよ!
       これが真なるデスザウラーの真なる荷電粒子砲だ!!」

SHADOW「それ、惑星全土に被害の出るヤバいのだろ」

奏「レーヴァテインの火力はやっぱヤバいな」

防人「よし、こっちも奏と一緒に合体技だ!」

キネクリ「さらに一寸法師戦法でドーン!」

フィーネさん「ああ、私のレーヴァテインが!」

ビッキー「アンギャァァァァ!!」

奏「また響が暴走してるよ。なんかここまでくると暴走が芸の一つだね」

防人「で、案の定月影がレーヴァテインを持って……」

キネクリ「おや!? レーヴァテインの様子が……!」

フィーネさん「B、B、Bボタン!!」

SHADOW「オメデトウ、レーヴァテインは『サタンサーベル』に進化した!!」

奏&防人&キネクリ「「「知ってた」」」

奏「というかヒントがあからさまだったからなぁ」

防人「シャドームーンが主役という段階でその象徴である『サタンサーベル』は外せない。そんな中でデュランダルをいちいち降板させてまでの登場だからな」

キネクリ「まぁ、普通に何かあると思うよな」

サタンサーベル「ああ、ご主人様! ずっとお会いしたかったです!」

SHADOW「……俺、一度斬られて死にかけたんだが?」

サタンサーベル「よくあることです」

SHADOW「……まぁとりあえず、さきにフィーネと決着をつけよう」

フィーネさん「ゴルゴムのシャドームーンじゃない。そんなの何でいるのよ!?」

ビッキー「あっ、ついにフィーネさんの口からゴルゴムという単語が」

SHADOW「とりあえず話はトドメを刺してからな」

フィーネさん「だ、誰か助けて!
       『シャドームーン』が『サタンサーベル』で『リボルクラッシュ』してくるの!!
       誰でもいいから助かる方法教えて!!」

ビッキー「酷い文章を見た。短い言葉の中に3つも即死ワードが混ざってるんだけど……」

ゴルゴム&クライシス帝国のみなさん「「そんな方法あればこっちが聞きたい」」

SHADOW「一欠」

奏&防人&キネクリ「「「こ れ は ひ ど い」」」

奏「約束された勝利の爆殺」

防人「んっ? そう言えば今回の戦い、もう1回『不思議なこと』が起こる予定のはずなんだが……」


な、なんとレーヴァテインの正体はサタンサーベルだった(棒)
フィーネさんは運がないなぁ(棒)

今回は短めな話ですが、個人的にはサタンサーベルで『一欠』できたので、この作品のノルマの一つを達成した思いです。

次回は無印編最終話。
次回もよろしくお願いします。


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第26話

今回は無印編最終回。
今回は作者としては初めてのことに挑戦した、実験色の強いものになっています。さて、吉か凶か……。


 戦いは終わった。

 俺の『サタンクラッシュ』により巨大蛇は完全に瓦解、そしてその中にいたフィーネは響によって助け出され、今ゆっくりと瓦礫に座らされる。

 まわりには奏・翼・クリスの3人に加え、戦いの終了を知って避難所から出てきた二課のメンバー、それに未来やどういうわけか板場弓美さんたち3人の姿もある。

 

「いいのか?」

 

「お前さんが戦ってる裏で色々あってな、未来ちゃんと同じ民間協力者って扱いになるから」

 

 板場弓美さんに肩を借りたジョーの話に頷くと、視線をフィーネと響へと向ける。

 

「了子さん……なんでこんなことをしたのか話してくれませんか?」

 

「……そんなことのために私を助けたのか?」

 

「このまま何も分からないままなんて嫌です。だから教えてください。了子さんの想いを……」

 

 まるで数十年分一気に老け込んだのではないかと思えるくらい覇気の消えたフィーネは、そんな響の懇願に小さく頷くとゆっくりと語り出した。

 

 

 数千年の昔、先史文明期と呼ばれる時代にこの世界の人類を創り出した創造主……カストディアンという存在に仕えていた巫女であるフィーネは創造主の一人、エンキという名の男性に恋をした。

 神に恋するなど不遜とは思いながらも、それでもどんな結果になろうと胸の想いを伝えようとフィーネは塔を建てる。しかし、想いを伝える前にその行いは創造主の怒りに触れた。

 塔は砕かれ、月から『バラルの呪詛』が降りかかることで、人類同士だけに留まらず創造主とも意志疎通と相互理解を可能としていた『統一言語』が失われてしまったのである。

 それ以来、フィーネは『バラルの呪詛』を解くために呪詛の発生源……月を破壊しようと考えた。だがそれには圧倒的に時間が足りない。そのため自身の子孫がアウフヴァッヘン波形に触れた場合、記憶と人格と能力を継承して子孫の身体を乗っ取り転生するシステムを己の遺伝子に仕込んだのだ。

 そうして何度も何度も子孫に転生を繰り返してきたフィーネは、その度に歴史の裏で暗躍してきた。そして同じように12年前に翼によるアメノハバキリの起動実験に立ち会った時に櫻井了子へと転生、今回の事件のための計画を練り続けていたそうだ。

 

 ちなみにノイズの正体についてもフィーネは語った。

 バラルの呪詛により統一言語を失い、言葉の通じる者同士のコミュニティへと分かれた古代人。それが他の言葉を操るコミュニティと手を取り合うことではなく殺すことを選択した結果、環境を破壊せずに相手を殺す為に産み出された兵器……それがノイズの正体だという。

 何故それが無差別に襲い掛かってくるのかというのも、その生産工場兼倉庫である『バビロニアの宝物庫』という異空間の扉が開けっ放しになっており、たまにそこから出てきたノイズが災害として扱われているそうだ。

 

「全てはバラルの呪詛を解いてあの方に胸の想いを伝えるため……私はそのためだけに永遠の刹那を繰り返してきた」

 

 そうフィーネは自身の物語を締めくくる。

 

「「「……」」」

 

 誰もが人類の起源から続く、あまりにもスケールの大きな話に声も出ない。

 だが、俺は今の話を聞いていて明らかな違和感を覚えた。

 フィーネの恋したエンキという神、彼はいちいちフィーネの想いが気に入らなかったからといって全人類から統一言語をはく奪するような処置をとるのだろうか?

 それこそ傲慢で横暴な神だというなら分からなくもないが、聞いている感じだと柔らかな優しい神だと思われる。そんな相手が普通に考えて全人類連帯責任のようなことをするとは思えないのだが……?

 そうなればエンキはフィーネのことは関係なく、何か事情があって『バラルの呪詛』を発動させたのではないかと思う。

 いや、そもそも……。

 

(『バラルの呪詛』とやらだが……コレを『呪詛』呼ばわりしている時点で何かの事情があるな)

 

 『俺だけが感じるもの』によって俺はフィーネの話す内容にはフィーネが知らない裏の事情があることを確信していた。

 だが、それを指摘するより前にどうしても俺は聞いておかなければならないことがある。

 

「今回の件の事情は分かった。 だが、俺はそれとは別で聞きたいことがある。

 さっき俺を『シャドームーン』と呼んだな? 俺について何を知っているんだ?」

 

 その俺の言葉にフィーネは俺をジッと見た。

 

「……そう、力だけで記憶とかは継承されないのね。

 いいわ、話してあげる……とはいえ、私もそれほど詳しいわけじゃない。

 何と言っても……私がフィーネとして巫女をしていた段階で『伝説』として語られていたのよ。現代にはまったく伝わっていない、失われた『伝説』の話よ……」

 

 そしてフィーネの口から、さらに驚愕の地球の歴史が語られ出す。

 先史文明期よりもさらに過去の時代、そこは暗黒の時代だった。それを支配していたものたちこそ、『ゴルゴム』と呼ばれる暗黒の存在である。

 フィーネたちにとって神であったカストディアンですらゴルゴムには敵わず、支配されながら明日も見えぬ暗黒の時代を生きていた。

 だが……暗黒の時代に、転機が訪れる。

 ゴルゴムの2人の王子が、ゴルゴムによる暗黒の支配に疑問を抱いたのだ。暗黒の力による支配……そんな惑星(ほし)が正しいと言えるのか、と。

 一説にはそのゴルゴムの王子の1人がカストディアンの少女と恋に落ち、その少女が虐げられていることに怒りを覚えたためとも言われている。

 結果として2人の王子はゴルゴムへと反旗を翻した。そしてゴルゴムの王を討ち取り、暗黒の時代を終わらせたのである。

 戦い終わると2人の王子は、『この惑星(ほし)の未来を託す。ゴルゴムの暗黒ではない、より良い未来を創って欲しい』、『いつか時代が必要とした時、我々は再び現れる』……そう伝えていずこかに去って行った。

 

「その伝説の2人の王子こそ、『太陽を司る光の王子 ブラックサン』そして『月を司る影の王子 シャドームーン』。

 『白銀の身体に深い緑の眼差し』……ふふっ、思い返してみれば伝説の通りの姿じゃない。なんであなたが『シャドームーン』だと気付かなかったのかしらね……。

 そんな伝説の再臨を相手にしてたのに気付かないなんて……あなたの言う通り、私は絶望的に運がない」

 

 そう言ってフィーネは自嘲気味に笑った。

 皆は俺の力のルーツに驚愕しているが、俺としては『やはりゴルゴムは存在したか……』とそれどころではなかった。

 

「これが私の知るすべてだ……」

 

 そしてフィーネは話を終えるとフラフラと瓦礫から立ち上がり、こちらに背を向けネフシュタンの鎧の鞭を握り締める。

 

「人が言葉よりも強く繋がれること、分からない私達じゃありません。だから了子さん、きっと私達は分かり合えます」

 

「……私は今までの永遠の刹那の中で何度となく人の愚かさを見た。

 そんな愚かな人間が分かり合えるものか……。

 だから私はこの道しか選べなかったのだ……」

 

 響が諭すような優しい口調で語りかけるもフィーネは動かない。

 そして……。

 

「でりゃああああああ!!」

 

「響っ!!」

 

 突如、フィーネがくるりと反転しながら握っていた鞭を投げつけた。俺は咄嗟に響の盾になるようにするが、フィーネの狙いは響でも俺でもなかった。

 

「私の勝ちだぁっ!!」

 

「まさか……!?」

 

 そのまま伸び続けたネフシュタンの鞭の行先は……月だ!

 

「あああああ、ああああああああっ!!!」

 

 フィーネの魂を賭けるような声とともに踏みしめた大地が砕けた。

 ……いやそれは誇張ではなく魂を賭けたものだ。その証拠にフィーネの身に纏っていたネフシュタンの鎧が砕け、同様にフィーネの肉体も砕け始めている。

 

「月の一部を拝借しました、影の王子。

 私の全霊を込めて引き抜けたのは十数キロ程度……だがそれをここに落とし、私の悲願を邪魔する禍根はここで纏めて叩いて砕く!」

 

「……」

 

 皆が唖然とする中、俺はゆっくりと崩れていくフィーネに近付いた。

 

「次のために……伝説の影の王子でも私の邪魔はさせない! この想いを伝えるために!!」

 

 そんな俺に気付いたフィーネはそう言うが、俺はゆっくりと語りかけた。

 

「なぁ了子さん……そもそもなんだが、なんでその『バラルの呪詛』とやらが『呪い』だと思ったんだ?」

 

「話を聞いていたはずだ。『バラルの呪詛』のせいで統一言語は失われ相互理解を失い、人はいがみ合い、争い合うようになってしまった。

 これを呪いと言わず何と言う!? 神は私の想いを不遜とし、人類に不和を呼ぶ『呪い』を与えたのだ!!」

 

「そうか……なら、月を司る影の王子として、一つ断言しよう」

 

 そして、俺は『俺だけが感じるもの』を話す。

 

「確かに月から別の何かの波動を感じる。これがあんたの言う『バラルの呪詛』なんだろうが……俺はこの波動から『人類への確かな深い愛情』を感じる」

 

「……えっ?」

 

 俺の言葉があまりにも予想外だったのかフィーネは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をする。

 

「バカな、『バラルの呪詛』によって統一言語が失われたせいで人類は多くの悲劇を味わってきた。

 それが……『呪い』じゃない?」

 

「そもそも、あんたがそこまで愛した男は、全人類に呪いを振りまくような男だったのか?

 答えてくれ、了子さん」

 

「違う、断じて違う! あの御方はどこまでも優しかった。

 人である私を自分と対等に扱ってくれた。誰よりも慈悲深く、思慮深い方だった。

 そんな方だからこそ、私は心の底から愛した!

 どれだけ永遠の刹那にあっても変わらないほどに、愛した!!」

 

「……ならそれが答えだろ。

 『バラルの呪詛』は『呪い』じゃない。 何かの事情があったんだ。

 『呪い』と蔑まれながらも……それでも月は(あなた)のそばに、変わらぬ『愛情』を持って存在していたんだ」

 

「それじゃあ……すべては私の勘違い……?

 私は今まで……あ、ああぁぁぁぁぁ……!!」

 

 すべてを理解し泣きじゃくる彼女の姿は、ひどく小さく見えた。

 そんなフィーネに俺は背を向ける。

 

「不幸な行き違いは今回限りだ。

 次の時には、まずはその事情を探してくれ。

 そしてそこにはきっと……その人からのあんたへの気持ちがあるはずだ」

 

 俺の言葉に、泣きながらもフィーネは確かに頷いた。響はそんな俺の様子を見て微笑んでいる。

 そんな響へ、崩れていくフィーネは言葉を紡いだ。

 

「響ちゃん……あなたにアドバイスよ。

 胸の気持ちは、仕舞い込んでいたら何も変わらないの。伝えられなかった後悔だけが後に残るだけ。

 だからその胸の気持ちを歌にして、その歌を信じて伝えなさい。

 きっと……あなたの月の王子様はいつだって答えてくれるわ」

 

「はい……」

 

「その想い……大切にしなさいね」

 

 そう最後に微笑んで、全身が灰色の塵となって崩れ去る。それがこの事件の黒幕である櫻井了子……フィーネの最後だった。

 しかし彼女にとってこの死は終わりではなく、先程言っていたように何処かの場所でいつかの時代に復活を果たすだろう。

 だが、そのときの彼女はこんな事件を起こすようなことがないだろうと、俺も響も確信していた。

 

「軌道計算、出ました……直撃は避けられません」

 

 皆が了子さん……フィーネの死に悼み、その気持ちへの一応の整理をつけたころ情報端末を操作していたオペレーターの朔也さんがそう結果を告げてくる。

 

「だ、大丈夫よね? たった十数キロくらいの大きさしかないんでしょ?

 今から逃げれば……」

 

 弓美さんが不安そうにそう言うが、それに朔也さんが首を振る。

 

「十数キロの隕石っていうのはね、恐竜を絶滅させた隕石とほぼ同じ大きさなんだ。

 そんなものが落ちて来たらこの街どころか人類そのものが……」

 

「そんな……」

 

 そんな重苦しい空気の中、俺は一歩を踏み出す。

 

「少し、行ってくる」

 

「ノブくん!?」

 

「信人!?」

 

 心配そうな響と未来に、俺は笑って答えた。

 

「了子さんの話を聞いただろ?

 俺は、月を司る影の王子だ。そして今ここに落ちてくるのが月から抉り取った欠片だっていうんなら……その始末は俺がつけるのが筋だ。

 心配しないでくれ、すぐに戻ってくる。

 ただ……」

 

 そこで俺は振り返って響を見た。

 何故だろう、今無性に俺は響の歌が聞きたかった。

 

「響……俺のために何か歌ってくれないか?

 俺はお前の歌声が大好きなんだ。

 だから……」

 

 すると、響はいつものような、俺が大好きな大輪の向日葵のような笑顔で俺に答えた。

 

「私歌うよ。 ノブくんのために、ノブくんへのこの胸の歌を!」

 

 そして響が歌い始める。それは今まで一度も聞いたことがない歌だ。

 それも当然、それは『仮面ライダーSHADOWの歌』だったのである。

 シンフォギアシステムは、胸の想いを歌に変換するという。ならばこれは、響の心からの俺への応援歌だ。

 

 

 

その時、不思議なことが起こった。

 

 

 

 光とともに俺の姿が変わっていく!

 全身の銀色の装甲はそのままに、頭部のアンテナがまるでクワガタムシのようになっている。肩の形状も変わっていた。

 腹部に月光を取り入れて蓄積するエネルギー器官『ルナバスク』が備わっている。

 外見的な一番の変更は腰の『シャドーチャージャー』部分だ。三角形に光をたたえた三連装ベルト『トライルナライザー』へと変化している。

 ベルトの3つはそれぞれがキングストーンの『緑』、月の光の『青』、そして『黄』の3色だ。

 最後の黄色からは、響を感じる。この黄色は『フォニックゲインの黄色』だ。

 俺の中でキングストーンエネルギーと月光とフォニックゲインの三つが混ざり合ったハイブリッドエネルギーが、渦巻いていた。

 言うなれば『銀色のアナザーシャドームーンとアナザーRXの合いの子』のような姿に三連装ベルト……それが今の俺の姿だ。

 

「これは……俺の、SHADOWの強化形態か!」

 

 だが、これは仮面ライダーBLACK RXのような『進化』ではないのが何となく理解できた。

 この姿は今一時のもの、いうなれば平成ライダーの最強フォームのような今一時のパワーアップだろう。

 だが、それでも十分すぎる。

 

「ノブくん、その姿!」

 

「ああ……響の歌が、俺に力を与えてくれたんだ」

 

 そして俺は響たちへと背を向けた。

 

「響、アンコールを頼む!」

 

「うん!」

 

 その返事を背中で受けると、俺は全力のジャンプで音を置き去りにして宇宙を目指す。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 残された響は空を眺めながら息を吸い、信人に求められるままに胸の歌を歌い始める。

 自分たちを守るために飛び立ったその背中を、少しでもこの歌が支えられるように祈りながら……。

 

 

『MoonLight~仮面ライダーSHADOW~』

 

1.

迫りくる闇の衝撃に

嘆きの声が響き渡る

でも顔を上げて 前を向いて

そこにはほら 銀の風が吹くの

 

足音を 響かせて 月の光とともに

 

MoonLight! 闇を切り裂き!

MoonLight! 未来(みらい)を照らす!

 

希望を求める声に

 

MoonLight! イナズマまとい!

MoonLight! 降り立つ戦士!

 

その輝く希望の名は

仮面ライダーSHADOW!

 

2.

繰り返す悲劇の連鎖に

誰かの涙が零れてる

でも涙拭い 顔をあげて

そこにはほら 銀の影が立つの

 

その拳 握り締め 月の光とともに

 

MoonLight! 闇を断ち切り!

MoonLight! 悲劇を止める!

 

救いを求める声に

 

MoonLight! 銀の身体(ボディ)!

MoonLight! 翠(みどり)の瞳!

 

その煌めく光の名は

仮面ライダーSHADOW!

 

その力 未来(あす)のため 月の光とともに

 

MoonLight! 闇を切り裂き!

MoonLight! 未来(みらい)を照らす!

 

希望を求める声に

 

MoonLight! イナズマまとい!

MoonLight! 降り立つ戦士!

 

その輝く希望の名は

仮面ライダーSHADOW!

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 宇宙空間に飛び出した俺は、マイティアイで地球へ迫る月の欠片を見据えていた。

 もしも失敗すれば響や未来、俺の大切な人たちの命が無い……そう理解していても心は穏やかだ。

 何故なら……今の俺に失敗などあり得ないと確信しているからだ。

 

「歌が聞こえる……」

 

 ここは宇宙空間、音は響かず、そもそも地上にいる響の歌声が聞こえるはずはない。

 だがそれでも、響の歌を俺は感じていた。

 

「キングストーンに月の光、そして響の歌……その3つが揃った今の俺に、出来ないことなどない!!

 バイタル・マキシマムチャージ!!」

 

 俺の全身から、今までとは比較にならないエネルギーが全身へと駆け巡る。

 そして俺はその全てを両足へと込めると全力の一撃を放った。

 

 

「シャドーキックッッ!!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 全員が空を見上げる中、弓美が声を上げた、

 

「見て!」

 

 弓美が指差す先には、こちらに落ちてくるであろう月の欠片。それに翠に輝く流星が突っ込んでいく。そして閃光が広がった。 

 

「流れ星……」

 

 粉々に砕かれた月の欠片が、光の尾を引きながら降り注いでいる。

 そんな幻想的な光景を誰もが見惚れていた。

 

「おい、あれ!!」

 

 クリスが指さす方向からは、煌めく白銀が下りてくる。

 そして……。

 

 

 

 カシャ、カシャ、カシャ……

 

 

 

 独特の金属質な足音が辺りに響き渡る。

 その姿は元のSHADOWのものに戻り、ゆっくりと足音を響かせて歩いてくる。

 

「ノブくん!」

 

「信人!」

 

 飛び出した響と未来、SHADOWは変身を解き信人へと戻ると、飛び込んできた響を抱き止めた。

 

「ただいま、響」

 

「おかえりなさい、ノブくん!」

 

 微笑む信人に、同じように笑顔で答える響。

 

「ごくろうさま、信人」

 

「ああ、ただいま、未来」

 

 そしていたわるように隣に並ぶ未来に、信人が答える。

 そして、信人はふと空を見上げて言った。

 

「そう言えば3人で流星を見ようって約束してたな……。

 ほら、綺麗な流星だ」

 

 言って3人は空を見上げる。

 幻想的な流星は、3人の前途を祝福するように降り注いでいた……。

 

 




今回のあらすじ

フィーネさん「た、助かった……」

キネクリ「何気に一欠ポーズまで出て生き残った奴ってフィーネが初めての快挙じゃね?」

ビッキー「キリキリしゃべれ。 おう、あくしろよ」

フィーネさん「要するに『振られて全人類に呪いかけられたから呪い解いて想いを伝えようとしました』。
       きゃ、私ったら恋するオ・ト・メ♡」

奏「いやいや、完全にストーカー系のヤバい何かだろ。恋するオトメとか頭沸いてんのかい」

防人「……ところで原作でも思ったんだが、仮に『バラルの呪詛』解けたとして、どこにどうやって想い伝えるんだ?
   エンキさんって、物凄い過去の人のはずなんだが……フィーネの最終的な着地点が見えないぞ」

フィーネさん「……か、考えてなかった! 私、どこに想いを伝えたらいいの!?」

ビッキー&奏&防人&キネクリ「「「「あ、アホかぁぁぁ!!」」」」

フィーネさん「……マジでどうするつもりだったのかしら?原作でもそれらしい資料見た覚えないし……」

ビッキー「目的と手段がもうめちゃくちゃだよ」

奏「知っている方はぜひご連絡ください」

SHADOW「それはわかったが、俺のこと知ってたの何で?」

フィーネさん「あんた、うちの神々を奴隷状態にしてたヤバいのをぶっ潰した、ヤバい奴の片割れでうちの神々の解放者よ」

SHADOW「やはりゴルゴムは存在した! 俺は間違っていなかったか!」

キネクリ「ついに正式にこの作品の歴史にゴルゴムの存在が確定しちゃったよ……」

防人「まぁ、あとがきでは前から確定した話として載せていたがな」

フィーネさん「よーし、最後の力を振り絞って月抉って隕石落とすわ!」

SHADOW「なぁ、これは原作から思ったことなんだが……フィーネさんの目的って『バラルの呪詛を発生させてる遺跡壊して呪詛を消す』ことなんだよな?」

フィーネさん「そうよ」

SHADOW「原作の『月の欠片』とか今回の抉った隕石とか、地球に引き寄せずにそのまま横に動かして月に叩きつければ、『バラルの呪詛』出してる遺跡壊せないか? こう、プチッと」

フィーネさん「あ……ああああ!! 考えたこともなかったぁぁぁ!!!」

SHADOW「やっぱアンタただのバカだろ!!」

フィーネさん「まぁ、こうでもしないとG編に行けなくなっちゃうしそのために必要だったということで。
       ほら、作者も響ちゃんと同じくらい好きな怒su毛be絵ti血イィ娘とか出せないと困るでしょ?」

SHADOW「……許そう、すべてを」

ビッキー「……やっぱり色々潰した方がいい気がしてきた。こう、全力で蹴りあげて」

393「手伝うよ、響(足真っ赤」

SHADOW「Hey、ストップストップ! これからいい話するからやめて!!
    で、『バラルの呪詛』は『呪詛』じゃなくて愛に溢れてるぞ。
    『それでも月は君(あなた)のそばに』」

キネクリ「おっ、こんなところで題名来るのか?」

奏「しかもこれ、フィーネに言うのか。 どう考えてもお前と響のことだとばかり……」

SHADOW「作者曰く実はこの題名は『響とフィーネ双方にかかっていて、響とフィーネは対比関係になっている』らしい。
    『月の愛に気付いている響』と『月の愛に気付かなかったフィーネ』って感じだな」

フィーネさん「ああ、完全に浄化されたわ。私はこれから綺麗なフィーネになりまぁす!
       じゃ、あとヨロシク」

防人「原作で思ったんだが、あのサイズの隕石って確実に人類絶滅案件どころか地球ぶっ壊れ案件なんだが……なぜそれで『次がある』と思ったんだろうか?」

SHADOW「なんか原作よりかなりショボい気がするが……とにかく行ってくる」

ビッキー「私の歌を聞けぇ!!」


その時不思議なことが起こった。


奏「ああ、今夜最後の『不思議なこと』はここで使うのかい」

キネクリ「バカ1号の歌でオリジナルフォームに変身か……」

SHADOW「これが本作のスタンスだ。
    作者としては『シンフォギア』である以上『歌』という要素は必須、しかし既存の曲を使おうとすると規定で色々面倒だ。そこで考えた答えが……

    『何? 既存の歌が使えない?
     逆に考えるんだ、完全オリジナル曲を作詞すればいいんだ』

    だったらしい」

防人「相変わらずアホな作者だな」

SHADOW「というわけでこの作品では『要所要所でオリジナル曲』という形になるぞ。作者としては作詞なんて初めてやったわけだが、どうせ正式なメロディラインがあるわけでもなし、イメージされるキーワードを並べてみると案外それっぽくなって驚いたらしい。一応、作者の中では歌おうと思えば歌えるし」

奏「これ、今後も出てくるの?」

SHADOW「一応、作者も連載開始の段階で今回のも合わせて3曲完成させてから連載を始めたからしばらくは大丈夫らしいぞ。
    ちなみに今回の『MoonLight~仮面ライダーSHADOW~』が仮面ライダーSHADOWのOPテーマ曲のつもり」

キネクリ「これ、オリジナルフォームの名前は?」

SHADOW「このまま何もなければ『仮面ライダーSHADOW(シンフォニックフォーム)』とかになるかもだが、まだ決めてない。
    いい案があったらメッセージの方に助言がほしいそうだ。無論歌詞とかでもご意見あればメッセージに欲しいそうです。歌詞もEDテーマとか最終決戦挿入歌とか作詞が難航してるみたいだからな。

    というわけで隕石壊して響や393と流星見る約束を守って無印編は終了だ」


今回は『歌』が要素として切り離せないシンフォギアということで初の試み、『オリジナル曲の作詞』に挑戦しました。
本作では要所要所で『オリジナル曲』が入り、それで強敵に打ち勝ったりする流れになります。

次回から2週ほどしないフォギア風の話を行ってから、G編の前に『番外劇場版』編に行きます。

次回もよろしくお願いします。


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戦姫『絶唱』?なにそれ?シンフォギア 幕間の物語 その2

今回はしないフォギア風のお話。
完全に骨休め回です。
本筋とはほとんど関係ない話なので力を抜いて読んでください。


その1『友情とは……』

 

 

 フィーネの起こした事件……世間では月に隕石が衝突したことにより発生した破片が地球に降ってきたとされ、『月の涙(ルナドロップ)』事件と呼称される事件から二週間がたった。

 俺と装者はその事件に関わる一連の処理や調整が済むまでは行方不明扱いにしていた方が都合がいい、という弦十郎(おやっさん)の判断により行動制限……簡単にいえば軟禁されることとなった。

 ちなみにフィーネとの戦いでその真の姿に変わった『サタンサーベル』だが、あれはそのまま『レーヴァテイン』として二課で保管ということになった。まともに使用できるのは俺だけなので、必要になったら借り受けるという形になる。『サタンサーベル』には悪いが小市民である俺としては日本政府がEU経済破綻のおりに正式に譲り受けたものなので凄まじい金銭価値があり、それをいつもブンブン振るうのはなんか怖いのである。

 というわけでそんな各種ゴタゴタを解決するための行動制限なのだが、さすがに何もやることがないと暇で参ってしまう。そこでみんなでゲームをやることになったわけだが……。

 

「ああ、アタシはいいよ」

 

 ゲームを見た奏は辞退、結局俺たち4人でゲームをすることになったのであるが……。

 

 

テッテレレレレレレー

桃太郎《おめでとうございます!キネクリ姫が目的地に一番乗りです!

    なお目的地に一番乗りしたキネクリ姫さんには賞金一億円が支給されます。》

 

 

 俺たち4人は『桃鉄』をしていた。

 

「うっしゃぁ! 一番乗り!」

 

「くっ……雪音に先を越されてしまったか!?」

 

「うぅ……あともうちょっとだったんだけど」

 

 一番乗りを喜ぶクリスに、あと一歩足りなかったことを悔しがる翼と響……いや、言い直そう。

 一番乗りを喜ぶ『キネクリ姫』に、あと一歩足りなかったことを悔しがる『SAKIMORI歌姫』と『ビッキー星人』。すべては役職をお任せにした結果だ。

 ちなみに俺は『シルバー仮面』……なんだか別のヒーローになったような気がする。

 

「しかし……月影、勝負を捨てるのは感心しないぞ」

 

「そうだよ。 ノブくん全然目的地に向かわずに、黄色いマスばっかりグルグル回ってたじゃん」

 

 皆が目的地を一目散に目指す中、俺はまったく目的地には向かわず開始地点周辺の黄色マスを廻り続けていたのである。それが勝負を捨てたように見えたんだろう。 

 

「なぁに、俺はマジメにやってるさ……」

 

「まぁいいけどな。 そんなお前にゃ貧乏神をプレゼントだ」

 

 

桃太郎《なお、目的地から一番遠かった シルバー仮面には貧乏神との旅を楽しんでもらいます》

貧乏神《シルバー仮面さん。よろしくなのねん》

 

 

「よし、次は勝つぞ!」

 

「今度こそ私が!」

 

「はんっ、次もあたしが勝つに決まってんだろ!」

 

「……」

 

 皆が息巻く中、俺は無言を貫く。そんな俺を奏が突いて小声で言う。

 

(アンタ……結構このゲームやり込んでるでしょ?)

 

(気付いたか?)

 

(そりゃその動き見てりゃね。 まぁ30年設定で一年目の一回目なんてどうでもいいし……。

 それより、ほどほどにしときなよ。

 これ、ガチ1人にエンジョイ3人だとガチを止められずにめちゃくちゃなことになるんだから)

 

(クククッ……大丈夫、貧乏神が『アレ』に変わる5年目辺りまでは大人しくしてるさ)

 

(……ホント、ほどほどにしときなよ)

 

 そしてゲームは進み5年目……。

 

 

桃太郎《社長の皆さーん!決算ですよ〜!今回で五回目の決算になります》

夜叉姫《それでは今年の収益発表です》

 

1位

キネクリ姫

4億1200万円

 

2位

ビッキー星人

2億2200万円

 

3位

SAKIMORI歌姫

5500万円

 

4位

シルバー仮面

0円

 

 

夜叉姫《つづきまして総資産の発表です!》

 

1位

キネクリ姫

15億0200万円

 

2位

ビッキー星人

6億8600万円

 

3位

SAKIMORI歌姫

2億9500万円

 

4位

シルバー仮面

ー2億4800万円

 

 

「はっ、楽勝だな!」

 

「クリスちゃんに倍以上の差をつけられちゃってる」

 

「中々に強いな、雪音は。 しかし……」

 

 言って翼は俺を睨む。

 

「遊びだからと勝負に真面目に当たらないのは感心しないぞ、月影!」

 

「おいおい、俺はいたって真面目にやってるぞ」

 

 翼の非難じみた言葉に、俺は肩を竦める。後ろで見ている奏も、翼をなにか微笑ましいものを見るような温かい視線で見ていた。

 

「まぁそんなこと言ってるうちに今回もあたし様の勝ちだ!」

 

 そう言って『キネクリ姫』が目的地の沖縄に一番で到着した。

 

 

夜叉姫《次の目的地は時計台が有名な『札幌』です!目的地を目指して頑張ってください〜》

 

 

 ……どうやら仕掛け時のようだ。

 

「指定うんちカードを使う」

 

「なっ!? あたしが沖縄に閉じ込められただと!?」

 

「さらにワープ駅カード……苫小牧に行くぞ」

 

「月影、まさか今まではこのための布石!?」

 

 

テッテレレロレレレ

桃太郎《おめでとうございます!シルバー仮面が札幌に1番乗りです〜!》

 

 

「ノブくんが一番だ」

 

「さて……当然次に貧乏神がつくのは」

 

 

桃太郎《キネクリ姫さんです。貧乏神との旅を楽しんでください》

 

 

「は、はンっ! 一回勝ったぐらいで……」

 

 

《おや……?貧乏神の様子が?》

《キーーーングボンビィーーーーー!!!!》

 

 

「「「……」」」

 

「さぁ、地獄を楽しみな!」

 

 ……そこからどんなことが起こったかは詳しくは割愛するが最終的な結果は次の通り。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

総資産  30年

 

1 位     

シルバー仮面          

4580億1200万円

 

2 位      

ビッキー星人          

2510億2200万円

 

3 位      

SAKIMORI歌姫

ー2630億3300万円

 

4 位      

キネクリ姫          

ー4400億0400万円

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「絶望がお前のゴールだ」

 

「や、やってられっかぁぁぁ!!」

 

「Zzz……あ、何だ終わったのか?」

 

 俺の勝利宣言を聞いて、クリスがコントローラーを投げつけてキレた。途中から勝ち目がないと理解した翼は寝に入っていた。ちなみに響が善戦しているが……途中から俺が響にだけ甘くした結果である。

 

「おい、ふざけんなよ! なんだこれ!!」

 

 ……おかしい、皆で楽しくゲームをしていたはずなのにクリスが怒り狂っている。 コレガワカラナイ。

 

「わかったわかった、次は別のゲームにしよう」

 

「おう、やってやらぁ!!」

 

「いいだろう、先ほどは僅差で敗北してしまったが防人に後退はない。受けて立とう!!」

 

「翼さん、僅差どころかボロ負けで途中から寝てたのに……」

 

 息巻くクリスと翼を響がジト目で見る。そんな3人を尻目に、俺は次のソフトをセットした。 

 それを見た奏が深いため息をついたが知ったことじゃない。

 そのソフトは……『ドカポン』と書かれていた。

 

 

 

「皆で遊びに来たよ……ってどうしたの!?」

 

 翌日、未来と板場さんと安藤さんと寺島さんの4人が遊びにきた。この4人は民間協力者ということで多少の接触ならと許され、俺たちの顔を見に来たらしい。

 そんな4人にクリスと翼が泣きながら抱きついた。

 

「き゛い゛て゛く゛れ゛、み゛く゛ぅぅぅ!!」

 

「月影に! 雪音も私も月影に力づくで大切なものを奪われたぁぁぁ!!」

 

「「「「なっ!?」」」」

 

「の、信人ぉぉぉぉぉ!!」

 

「違う、誤解だ!!」

 

 顔を赤くしながら何かの誤解をした未来が言葉を荒げ、俺は画面を指さす。

 

「お金も村も、装備品も全部奪われた……」

 

「挙句に名前まで奪われて私たちは辱められたんだ……」

 

 クリスと翼……いや『エロタイおっぱい』と『面白芸人歌女』が訴えかける。

 

「うわぁ、えげつなぁ……」

 

「ノッブ、これはちょっと……」

 

「これ、ナイスじゃないです」

 

 3人も引き気味だ。

 おかしい、全力でゲームを楽しんだだけだというのに何故こんなことに……まさかこれは俺たちの離間を狙うゴルゴムの仕業か?

 

「とにかく、このゲームはやめだやめ!!」

 

「同感だ! ゲームならもっと別のものをするぞ!!」

 

 クリスと翼がこれ幸いと主張する。すると……。

 

「あっ、それじゃみんなでボードゲームしようよ」

 

 そう言って板場さんが持ってきたボードゲームを取りだす。

 

「結構有名なゲームなんだけど人数が必要で中々出来ないゲームなんだよね」

 

「よし、それやろう!」

 

「ああ、ボードゲームならさっきのようなことはあるまい!

 今度こそ月影に意趣返しを!!」

 

「……アタシは今まで通り見てるよ」

 

「響は私と一緒にやろうね」

 

 今度こそと準備を喜々として始めるクリスと翼。

 奏は何も言わずに辞退し、未来は響とコンビを組むという。

 

(……流石だな未来、響を負けさせないために頭脳役を買って出たか。

 そうなれば響陣営とは共同路線で、他を喰い荒らすか……響たちを裏切るタイミングも考えないとな)

 

 そして俺は目の前のボードゲーム……『ディプロマシー』を見てニヤリと笑う。

 そんな俺たちを見てため息をつきながら、奏はポツリと言った。

 

「『友情とはコボルトよりも弱く、トーレナ岩よりも消えやすい』……か」

 

 

 ちなみにしばらく後、リアルファイトに突入し暴れ始めた翼とクリスは弦十郎(おやっさん)と緒川さんによって制圧され、俺たちは仲良く厳重注意となったのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

その2『SHADOW的なダブルデート風景』

 

 

「……」

 

 晴れて俺たちの行動制限の解除された。

 フィーネの一件による被害の復興も始まり、俺たちの学校も再開する。

 ちなみに今回の一件の中心だったリディアン音楽院は移転、そして俺のファリネッリ男子音楽院も被害を受けていたことで同じくリディアン音楽院の隣に移転ということになった。クリスも復学しリディアン音楽院2年生として女子高生活を送っている。

 そんな平穏を取り戻したある日曜日、俺は家の前でバイクに跨りながら人を待つ。

 その相手はもちろん……。

 

「ノブく~ん!」

 

 出てくるのはもちろん響だ。可愛らしい私服姿である。

 今日は響とのデートなのだ。

 

 あの病院での告白によって俺と響は晴れて彼氏彼女として付き合い始めたわけなんだが、思えばルナドロップ事件のせいで恋人らしいことなど忙しくて何も出来ていない。

 だからこれが初デート、ということになるのだ。

 

「可愛い恰好じゃん。 似合ってるぞ、響」

 

「えへへっ……」

 

 俺の言葉に響が照れくさそうに顔を赤らめる。そんな響にバイクのヘルメットを渡すと、俺は後ろを指した。

 それに従って響がヘルメットをかぶると、バイクに跨って俺に後ろから抱きつく。

 その柔らかさと温かさに、俺も思わず緊張してしまう。

 

「それじゃ行こうか?」

 

「うん!」

 

 俺はアクセルをふかせると街に向けてバイクを発進させた。

 

 

 デート場所は街の総合施設、オーソドックスに映画館で映画を見て、昼食を食べる。

 昼食もおしゃれなイタリアンとかではなく、ボリューム重視な美味しい定食屋な辺りが俺たちらしい。

 そして午後はショッピングである。

 

「響は何か欲しいものとかあるのか?」

 

「うーん、しいていえば……」

 

 手をつないでそんな話をしながら歩いているときだった。

 

「……あれ? あれって……」

 

「ジョーと板場さん、だな?」

 

 前方に見えたのはジョーと板場さんだった。プライベートだからだろうが、当然双方私服である。

 しかし珍しい組み合わせだ。確かにお互いに顔見知りではあっただろうが……。

 

「ん? おお、信人と響ちゃんじゃないか!」

 

 そう思っていると俺たち2人に気付いたのか、ジョーが手を振って俺たちに声をかけてきた。隣の板場さんは「げっ」という顔をしているがいいんだろうか?

 ともかく声をかけられた以上無視をするわけにもいかず、俺と響は2人のほうに歩いていく。

 

「奇遇だな、信人。 響ちゃんと2人でデートか?」

 

「まぁな」

 

 俺と響が付き合っていることはみんな知っているので、いちいちデートのことを隠し立てする必要もなく正直に答える。

 

「そっちの方こそ何なんだ? 珍しい組み合わせみたいだけど……もしかしてそっちもデートか?」

 

 俺はからかい半分で聞いたのだが……板場さんが顔を赤くし、ジョーも照れくさそうに頬をかく。

 

「えっ? マジなのか?」

 

「ああ、実は……」

 

 そう言ってジョーが言うには、あの事件……ルナドロップ事件でフィーネと対峙したジョーは身体の所々の骨にヒビが入っていたり、他にも結構なケガをしていて、事件後に少し入院していたのだ。そんな入院中のジョーのところに板場さんは、自分たちを助けてくれたせいといった負い目もあったのか足蹴く通っていたらしい。

 

「だってあんな風に助けてもらえるなんてまるでアニメみたいだったし……。

 それで色々話してるうちに……その……いいかな、って……」

 

 顔を赤くしながら言う板場さんが微笑ましい。

 

「おめでとう!」

 

「ええ、ありがと響」

 

 響の祝福に照れながらもお礼をいう板場さん。

 

「信人、もしよかったらこのままダブルデートってことにしないか?」

 

「おいおい、いいのかよ?」

 

「実をいうとお互いにぎこちなくてな……信人たちに声かけたのも何とかその空気を変えられないかと思ったんだ」

 

「まぁ、俺はいいけど……」

 

 そう言ってチラリと響を見ると、別に響も異存はないようだ。

 

「それじゃ行こうよ!」

 

「あっ、待ちなさいよ」

 

 先導する響とそれに並ぶ板場さん。その時、俺は板場さんにふと気付く。

 

(何だか少し疲れてる感じだな……)

 

 入院中のジョーのところに通っていたようだし少し看病疲れが残っているらしい。

 

「……」

 

 俺は無言で体内のキングストーンに意識を集中させると、シャドーフラッシュのエネルギーを板場さんへと注入する。

 せっかくのデートだ、疲れていて楽しめないというのも可哀想だろう。それに友人の彼女だし響の友人だ、このくらいは許されるだろう。

 

「ノブくん、ジョーくんも早く」

 

「ああ、今行くよ」

 

 言われるままに俺とジョーが後に続き、俺たちは楽しい休日を過ごしたのだった。

 

 




今回のあらすじ

SHADOW「というわけで事件も終わりしばらく監禁生活を送ることになったぞ。サタンサーベルも二課に預けた。つーか時価が明らかに億の単位になる代物だし小市民的に怖くて管理できない」

奏「シャドームーンが小市民とか何のギャグなんだか。
  しっかし……原作の『ルナアタック事件』が、この作品では『月の涙(ルナドロップ)事件』に変わったんだね」

防人「『隕石が月にぶつかってその破片が落ちてきた』、か……物凄く規模が縮小されたな」

ビッキー「というか月の4分の1くらいの大きさが地球目掛けて落ちてくるっていう原作が規模が大きすぎな気がする」

キネクリ「だよな。あれ完全に人類絶滅、下手すりゃ地球が割れる(直喩)事件だもん。それで人類絶滅したらフィーネの子孫だって全滅して転生できねぇだろうに……なに考えてたんだ?」

フィーネさん「いや原作ではちょっとその場の勢いだったというか、とりあえず隕石落として次回のために邪魔者潰そうかくらいしか考えてなかったというか……」

キネクリ「だめだこいつ……はやくなんとかしないと……」

SHADOW「何とかなればこの数千年アホな片思いはしてないと思うぞ。
    とにかくゲームでもして楽しく時間つぶししような」

奏「わたしはえんりょしておきます」

防人「奏がシタン先生みたいなこと言って逃げたぞ」

ビッキー「ちなみに作者の家ではよく家族で桃鉄やってたから今回みたいな光景はよくあったらしいよ」

キネクリ「家族団らんで桃鉄もどうかと思うが、そんな家族を容赦なく狩る作者は間違いなく鬼畜。
     で、被害担当があたしと翼パイセンなのかよ」

SHADOW「だってこういうゲームは2人とも弱そうだろう」

防人「女騎士がオークに弱いくらい訳わからん偏見だぞ、それ」

ビッキー「そして、こんなどうでもいいところで使われるエターナルとアクセルの決め台詞……まぁ、ぴったりなんだけど」

SHADOW「そして桃鉄で蹂躙後、すかさずドカポン+ディプロマシーの友情破壊ゲーコンボだ!!」

奏「酷いモンを見た……。
  ちなみに作者は実際にこのコンボを大学のサークルでやったらしい。
  当然、サークル内の雰囲気がボコボコになった」

防人「……なぁ、『友情』とか『絆』とか、シンフォギアでは結構重要なファクターのはずなんだが……何故それを壊すような話をするんだ?他のゲームをする話にはならんのか?」

SHADOW「作者が人が集まってやるゲームとして真っ先に思い浮かんだのがこれだから、らしい」

キネクリ「……作者歪んでね?」

ビッキー「後半は私とノブくんのラブラブデートだよ♡」

SHADOW「今日も可愛いぜ、マイハニー♡」

ビッキー「やぁん、ノブくん♡」

キネクリ「……誰でもいいからこのバカップル止めろよ、マジで」

奏「そう言ってたらあの子が止めに入ったぞ」

弓美「ほら、アニメみたいに助けられちゃったし……忍者ってアニメみたいでカッコイイし」

防人「……おい、なんかバカップルが増えたぞ」

SHADOW「……ジョーの彼女になるのか……なんか看病疲れしてるしシャドーフラッシュで回復させてやろう」

キネクリ「そんな誰彼構わず回復させんなよ」

SHADOW「大丈夫大丈夫、体力回復と同時に『呪い』とかも解けちゃうだけだから」

奏「……おい、それヤバい伏線じゃね?」

防人「とりあえず今後のために伏線ばら撒いた感じだな。まぁ、回収するかは神のみぞ知るレベルらしいが」


というわけでしないフォギア風幕間の物語でした。
正直、今回の話は本筋とはほとんど関係ないので力を抜いて読めるものにしました。骨休め回です。
次回はしないフォギア風幕間その3、今度はちょっと大切な伏線が入る話になります。

次回もよろしくお願いします。


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戦姫『絶唱』?なにそれ?シンフォギア 幕間の物語 その3

今回もしないフォギア風のお話。
今後のための重要な伏線回となります。


その3『灰色の庭園の邂逅』

 

 

「……あれ? ここどこ?」

 

 気がつけば、響は見知らぬ場所にいた。

 間違いなく自室で就寝したはずなのに……そう思いながら響はここはどこだと辺りを見渡す。

 どうやらさまざまな花の咲く庭園のような場所だ。

 しかし、奇妙なことにその場には『色』がない。花も茎も、その場にある植物はすべてが『灰色』だった。

 

「やっと来たか……」

 

 奇怪な灰色の庭園に困惑する響に、声が掛けられる。

 振り返るとそこにいたのは女の子だった。豪奢な血のように紅い色のドレスに金の髪、そして透けるような白い肌の女の子である。

 胸元には『リンゴに噛り付く黄金の蛇』の形をしたブローチが輝いていた。

 

「あなたは……?」

 

「こっちだ」

 

 灰色の庭園で唯一の色のある存在に出会えて響は彼女に尋ねるが、彼女は響を促すとどこかへと向かって歩き出す。響は訳も分からず彼女の後を追った。

 やがてたどり着いたのは庭園を見渡せる西洋風東屋、ガゼボだ。ガゼボにはテーブルと椅子が2つ設置されいる。テーブルの上にはティーセットが2人分用意されていた。

 

「そこに座るがいい……」

 

 その少女に促されるも、響の視線はテーブルに釘づけだった。

 

「これだけ色がある……」

 

 テーブルには花瓶が一つ置かれており、そこには3本の花がささっていた。

 花の色は『青』『赤』『黄色』……それはこの灰色の庭園で少女以外に『色』のある唯一の存在である。

 

「何をしている。 早く座れ」

 

「う、うん……」

 

 訳も分からず言われるままに座る響。そんな響に少女は流れるようにお茶を淹れるとそれを響の前に置き、自らも淹れたお茶を優雅に口にする。

 

「あ、ありがと……あの……ここはどこ?

 あなたは?」

 

「……」

 

 だが少女はそれには答えずお茶を口にしている。

 仕方なく、響もお茶を口にすることにした。そして一口、口にすると……。

 

「うぇ!

 苦っ! むちゃくちゃ苦っ!!」

 

 あまりの苦さに悶絶する響。そんな響に少女はニタリと笑った。

 

「それは当然、それはお前の記憶の中でもっとも苦かったものを再現しているからな。

 ほれ、口直しだ」

 

 言ってどこからか液体の入ったグラスが現れ、それを少女は差し出してくる。

 余裕のない響はそれをひったくるように受け取ると口に流し込んだ。

 

「あ、甘っ! 今度はめちゃくちゃ甘っ!?」

 

「砂糖とガムシロップとカルピスの原液と、その他もろもろのお前の記憶にある甘いものを合わせて再現したものだ。

 美味いか?」

 

「美味しいわけないよ!

 口の中が苦くて甘くて訳わかんないよ!!

 普通の、普通のお水頂戴!!」

 

「ふふふっ、わがままなお客様だ」

 

 そう言ってパチンと少女が指を鳴らすと、響を襲っていた苦みも甘みも、最初からなかったように消えていった。

 

「これは……?」

 

「ここはお前の夢の中だ。 甘いも苦いも、お前がそう感じているだけに過ぎない。

 その感覚をリセットしただけだ」

 

「それって……」

 

「あまり気にしなくていい。

 とにかく、ここはお前の夢の中というわけだ」

 

 そう言って改めてお茶を出してくるものの、響はさすがに警戒して手を付けない。

 

「少し悪戯が過ぎたか。 許せ」

 

「まぁいいけど……それよりここは? それにあなたは?」

 

 響の質問に少女はティーカップを置くと話し出した。

 

「私は……まぁ誰でもいい。ここのことも気にするな。

 さっきも言ったがここはお前の夢の中だ。

 どうせ夢から覚めれば、お前はここのことも私のことも忘れているからな」

 

「でも私の夢だっていうなら、私の知ってる場所とかになるんじゃないの?

 こんな場所、私見たことないよ」

 

「この光景はお前の夢に私がリンクして見せている、私の意識を映像化したような代物だ。

 だからこの光景はお前の見たことのある景色ではない」

 

「あなたの意識を……?」

 

 言われて再び響は辺りを見渡す。

 見渡す限り灰色の庭園、唯一の色あるものはテーブルにある3本の花だけ……何とも寂しい光景が目の前の少女の意識だというのだろうか?

 その響の視線に気付いたのだろう、少女は遠くをみるような目をしながら答える。

 

「アレは今までの私の歩みだ。

 ……数え切れないほど、本当に永劫とも思える時の中で数え切れないほどの『月』を刺し穿ち、『太陽』を切り裂いた。

 それが私の役目、それに私は何も思わずにいた。

 しかし……」

 

 そう言って少女は優しい顔でテーブルの唯一色のある3色の花を撫でる。

 

「永劫の時の中、ただの一度だけ『月』も『太陽』も手に掛けずに済んだことがあった。

 『月』と『太陽』に請われるまま、その敵だけを討ち続けた。

 それは今までに味わったことのない……たった一つの色づく記憶だ」

 

「……」

 

 響には少女の言葉が何のことか分からない。そもそも夢の中……現状は明らかな超常現象なのだが、響には恐怖はなかった。

 それは目の前の少女が、とても大切な思い出を語っているのだということは分かったからだ。

 そんな少女の感情を感じ取った響は、彼女を恐れることなく彼女の言葉を静かに聞く。

 

「お前にはわけのわからない話だったな。 許せ」

 

「ううん、別にいいの。

 それで……あなたが私にこの夢を見せてるのはなんで?」

 

「なに……お前とゆっくりと話がしてみたかった。

 『月』と『太陽』に愛されるお前と。 そして……あの時『月』が愛した魂と同じものを持つお前と。

 先ほどの茶も、そんなお前のことが羨ましい故のちょっとした悪戯だ」

 

「??」

 

「そうだな……ただお前と話をしてみたかっただけだ。

 何でもいい、お前の話を、そしてお前の大切なものの話をしてくれ。

 私はそれを聞きたい」

 

「うん、いいよ」

 

 請われて響は自分が大切だと思うものを、信人や未来、奏や翼やクリス、それにたくさんの友達や知り合いの話をする。

 少女はそれを興味深そうに頷き、聞いてくれた。

 やがて、どれだけ時がたっただろうか……少女が響の話を手で制す。

 

「名残惜しいが、そろそろお前の目覚める時間だ」

 

 そう少女が言うと、響の辺りの光景がぐにゃりと歪み始める。少女の言うように、夢から覚めるのだろう。

 

「あなたとはまた会える?」

 

「……さっきも言ったがこの夢のことはお前はすべて忘れる。起きればここでの話も私のことも覚えてはいない。

 だが……良い時間だった。 またそのうちに話を聞かせてもらおう」

 

「うん、待ってるよ」

 

 そうして響は夢の世界から現実へ帰還する。残されたのは灰色の庭園に佇む少女が1人。

 その少女はテーブルの3色の花を撫でる。

 

「此度も『月』も『太陽』も、そしてできることなら今度は月と太陽を繋いだ『歌』も、この身が討つことがないよう願う……」

 

 『黄色』の花を撫でながらの少女のその呟きは、夢とともに誰にも届かずに消えた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

その4

『若さはふりむかないことなので欲望に忠実になりたい男子高校生は正常だというそんな言い訳』

 

 

「……」

 

 季節は初夏。その日、俺は少し緊張の面持ちでバイクの前で座っていた。

 少し気分を落ち着かせようと缶コーヒーを購入したものの、手にした缶コーヒーはすでに飲み切りそれでも落ち着かない自分に苦笑いする。

 

「ノブくん……」

 

 そんな俺に声が掛けられ、俺は跳ね起きるようにして立ち上がった。

 

「や、やあ響……おはよう」

 

「うん、おはよう……」

 

 お互いにどこかぎこちない、視線を反らしながら俺と響はあいさつを交わす。

 

「荷物、入れるね」

 

「あ、ああ……」

 

 響が手持ちの荷物をバイクのサイドケースに入れる。そしていつものように俺は響のヘルメットを渡すとバイクに跨った。

 響は、いつもと違い少しだけおずおずとした感じでバイクに乗ると、俺に手をまわして抱きついてくる。

 

「それじゃ、行こうか……」

 

「うん……」

 

 そう言って俺はアクセルを開けてバイクを発進させる。

 こうして俺たちは恋人として特別なデート、『お泊りデート』へと出発したのだった。

 

 

 俺と響が恋人同士になってからしばらく経った。

 その間に俺も響も何度もデートを繰り返していたのだが……はっきり言って恋人同士になる前とあまり変わらなかった。

 元々俺も響も幼馴染で今までも休日に一緒に出かけることなど珍しくも何ともなかったので、いざ恋人同士になってもほとんど変わりがなかったのである。

 これはこれで男として問題だ。恋人という『特別』になった以上、今までない『特別』を響に用意できなければ男として失格なのでは?とも本気で思って悩みもした。

 そして、それは響も同じだったらしい。

 

『ノブくんは、私にどんなことしてもらいたい? 恋人として、私はどんなことをしてあげればいいのかな?』

 

 そんなことを響は俺に真面目に聞いてきたりした。

 なまじ同じ時を長く過ごし心が互いに知れているからこそ、『恋人同士』として改めて何をすればいいのかお互いに分からなくなってしまったのだ。

 

 では何をしたら『恋人同士』なのか?

 そんなことを2人で大真面目に話し合う俺たちは、傍目から見たら酷く滑稽だっただろう。

 そしてどちらともなく、『男と女の身体の結びつき』という結論に行きつく。

 お互いにそういう方面に興味津々な年頃だ、遅かれ早かれこの話は出ただろう。だが、そうすると今度は『何処で?』という現実的な問題が出てきた。

 俺も響も一人暮らしとはいえ、このマンションを借りているのは2課であるし、俺も響も重要人物だ。無いとは思うが、監視でもされていてそういう現場を見られるのは……そう思ってしまうともう家は選択肢に入らなかった。

 では街に出てそういう場所でと考えたが……これももし知り合いに会ったりでもしたらと思うと二の足を踏んでしまう。俺も響も、ことこの件に関しては双方ヘタレであった。

 そして……そんな俺たちが考えたのが『お泊りデート計画』である。

 バイクを買った時からいつか行こうと計画していたツーリング、2人でツーリングに行きそのまま一泊してくる計画だ。

 

「「……」」

 

 バイクで移動中もお互いにほぼ無言状態。初夏の気持ちのいい風が吹き抜けていくというのに、触れ合う肌はお互いに緊張でいやに熱い。

 そんな様子で俺たちは、旅行先の箱根に向かって走っていった。

 

 

「わぁ!」

 

 流れていく綺麗な景色に、響が感嘆の声を上げる。目の前に映るのは雄大な富士山と、自然豊かな光景。それが心地よい初夏の中で鮮やかに流れていく。

 最初はお互いに緊張していたが、さすがにいつまでもそのままではない。俺も響も、いつの間にか普通にツーリングを普通に楽しんでいた。

 

「来てよかったな」

 

「うん!」

 

 2人で昼食を食べながら午前中の感想を言い合う。やはりいつもの街とは違う、富士山や緑の見せる風景は見ごたえのあるものでお互いに興奮気味である。

 

「私も誕生日が来たらバイクの免許とる!」

 

「いいな、それ。 それでその時は2人でツーリングに行こう」

 

「うん。 でも、そうなるとどんなバイク買ったらいいかなぁ?」

 

「響の場合、まずはそのためにお金溜めないと。

 お前、俺と同じで2課のおかげで結構な高給取りなのに、ほとんど食い物で消えてるのはちょっと問題だぞ」

 

「あはは……美味しいものが多いからついつい買い食いで無駄遣いしちゃって」

 

「そのくせ全然太らないのは凄いよなぁ……」

 

「鍛えてますから」

 

 シュッと敬礼のようなポーズとともに響がおどけて言うと、お互いに笑ってしまう。

 こう自然にしていれば朝のような緊張はもはやなく、旅行を楽しんでいるのだが……。

 

「あっ、ノブくん。 口のとこアイスついてるよ」

 

「んっ? ああ……」

 

 食後にアイスクリームを2人で食べていると響がそんなことを言ってくる。

 俺は生返事をして口の辺りを拭おうとするが……。

 

「とってあげるね……」

 

 そう言って響は少し背伸びをすると、俺についたアイスを舐めとる。

 

「えへへ……甘くて美味しいね♡」

 

 そして赤い顔で悪戯が成功した子供のようにチロリと舌を見せた。

 ……前言撤回である。緊張しないわけがない、心臓はバクバクである。

 

(あー、うちの彼女が可愛すぎるんだが! 可愛すぎるんだが!!

 とても大切なことなので2度言ったわけだが!!

 こんな可愛すぎる響と俺は今夜……。

 キングストーン! キングストーンはやく治療してくれ!

 早くしないと心臓バクバクで俺がこの瞬間にも尊死するぞ!!)

 

 キングストーンからは相変わらずのように「知らんがな」という呆れた声が聞こえた気がする。

 とにかく、それは響との甘く楽しい時間だった。

 しかし……。

 

 

 

 

 

その時、不可思議なことが起こった。

 

 

 

 

 

 ブロォォォーーー……

 

「んっ?」

 

「どうしたの、ノブくん?」

 

「いや、なんか聞き覚えのある排気音が……」

 

 昼食も食べ終わりさて次のところへと思って響と2人でバイクに跨ったときだ、どこかで聞いたことがあるような排気音が聞こえる。

 そして俺の隣に並ぶように停車したのはその名前の通りまるで『刀』のようなシルバーメタリックのボディにシャープなデザインのバイク。そしてそれに跨っていたのは……。

 

「やっと見つけた2人とも!」

 

 どこかで見たことのある女ライダーであった。

 ……正直俺も響も、脳が誰であるか認識するのを拒否していた。しかし、そんな俺たちにお構いなしでその女ライダーは続ける。

 

「小日向に聞いたぞ、2人でツーリングだって。

 酷いじゃないか、ツーリングということなら私も誘ってくれ!」

 

「「……」」

 

 そう捲し立てる女ライダーの正体は、認めたくないことだが俺や響の先輩であり『歌の上手い芸人ライダーSAKIMORI』こと翼である。

 

「だが私が来たからには安心だぞ。 バイクの先輩として最高のツーリングを案内しよう!!」

 

「「……」」

 

 どうやらこのボッチライダーはやっとバイク仲間ができたとウキウキのようで、俺と響の反応をまったく認識していない。

 そして俺たちに着いてくる気マンマンである。

 完璧な俺たちの計画に、暗雲どころか晴れない常闇が立ち込めた瞬間であった……。

 

「どうだ、素晴らしい光景だろう!」

 

「「……」」

 

「そうそう、ここの足湯がまたいいのだ!」

 

「「……」」

 

「今日は2人はどこに泊まるんだ?

 ふんふん……ああ、あの旅館か! いいところを選んだな、あそこは温泉も気持ちいいし食事も美味い!

 よし……私もそこに泊まるようにいま電話したぞ!

 今日は色々夜まで話そうな!」

 

「「……」」

 

「立花は中々派手な下着を着ているな。

 先輩としては立花にはもっと落ち着いたものの方がいいと思うぞ」

 

「……」

 

「今回は楽しかったな! またツーリングならこの私が先輩として色々案内するぞ!

 それじゃあおやすみ、2人とも!」

 

「「……」」

 

 ……気がつけばすべての行程が終わり、俺と響は2人揃って暮らしているマンション前に立っていた。

 

「「……」」

 

 無言でお互いの部屋に向かう俺たち。そして互いの部屋に戻る途中、俺は言った。

 

「次は……次こそは!」

 

「……うん!」

 

 これは意地だ。お互いの『覚悟完了』を無駄にしないために、必ずや『お泊りデート』を成功させてやる……そう2人で次回の『お泊りデート』を堅く決意し、頷き合う。

 だがまさかその『次』があんなことになるとは……響は当然、俺ですら予想出来ていなかったのだった……。

 

 

 ちなみに、芸人ライダーSAKIMORIはというと……。

 

「なぁ、奏、それに雪音。 この間ツーリングに行った辺りから月影と立花の私に対する態度がよそよそしい気がするんだが……」

 

「「残当」」

 

「……そうか……そういうことなら、もっといいツーリングスポットを紹介しなくてはな!」

 

「「違ぇよ!!」」

 

 ……いつも通りの通常運転であったそうな。

 




今回のあらすじ

ビッキー「目が覚めたら見知らぬ場所にいた。これで美少女とか出て来たらお約束達成……」

謎の少女「やっと来たか。ずっと話したかったから呼んだぞ」

ビッキー「美少女キター! もうこれ完全なお約束展開だよ! これ絶対夢の中で出会った少女と現実でも会うよ! 夢の中で逢った、ような……ってやつだよ!」

??「ほむぅ!」

ビッキー「いや、だからほむらちゃんはまどマギに帰ってね」

奏「まぁ、あんた原作主人公なんだしこういうお約束展開は有りだろ」

防人「ちなみにこの謎の少女さん(正体バレバレ)の外見だが、作者の好きな蒼き鋼のアルペジオのコンゴウさんをイメージしているらしい」

キネクリ「だからお茶会なのな。 バーニングラブ的な」

奏「それもちょっと違わない?」

防人「それにしてもなんか立花の設定が、この間のフィーネの話と合わせるととんでもない方向にメガ盛りされたような気がするぞ」

キネクリ「これ鵜呑みにすると……ウン十万年前から愛してる~、って感じになるのか」

フィーネさん「つまりまとめると響ちゃんの魂とこの世界の歴史はこうなるわけね」


ウン十万年前、シャドームーンと恋仲になる

歌でシャドームーンとブラックサンの歴史的和解を果たす

シャドームーンの盾になって創世王のサタンサーベルで死ぬ

ブチギレたシャドームーンとブラックサンがゴルゴムを滅ぼす

カストディアン解放

シェム・ハ封印、現人類の時代開始

現代に響として生まれ変わる


フィーネさん「……となるわけね。転生の重要度が私の比じゃねぇ……」

奏「もう完全に今後に関わるような伏線回だね。
  で、この次に来るのが……」

キネクリ「もうこのタイトル、完全に銀魂かなにかじゃねぇか。前半の真面目さとの高低差で耳がキーンとするんだが……」

SHADOW「フィーヒヒヒ! 今夜は響とヨイデワ・ナイカ・パッション重点!」

ビッキー「アタシいま体温何度あるのかなーッ!?
     ノブくん、アイスとってあげるね♡」

SHADOW「舐めとるとか、キスよりもあからさまにエロスなのだ!」

奏「青少年のなんかがあぶない」

フィーネさん「このバカップルどもめ!(ギリギリ)」

キネクリ「いちゃつくバカップルに万年処女のフィーネ=サンが血涙を流しておられる(笑)」

フィーネさん「キネクリ、お前今度殺すわ」

奏「このままだとこの作品の対象年齢が上がっちまう。誰かいないのかい!」


そのとき不可思議なことが起こった。


防人「この作品に卑猥は一切ない。イイネ?」

SHADOW・ビッキー「「アッハイ……とか言うと思うかコノヤロウ!!」」

SHADOW「お前どういうセンサーしてんだよ! 的確に俺らを見つけ出しやがって!!」

防人「うむ、前にツーリングに行った先で知り合った人から伝授された技を使った」

ビッキー「どんな技を誰から習ったんです?」

防人「水晶湖のホッケーマスクつけたJさんという人から習った、いい雰囲気になったカップルの居場所に現れる技だ」

SHADOW「ハリウッド的風紀委員長じゃねぇか!」

ビッキー「あとそれ、完全にカップルぶっ殺すための技ですよね!?」

防人「というわけで今後も何かあればこの私が現れるぞ! 青少年のなんかは私が守る!」

SHADOW「てめぇ、男子高校生のエロスに対する情熱を舐めるなよ!
    次こそは、次こそは!!」

奏「……この引きで次回からの番外劇場版編に続くのかい?」


今回もしないフォギア風のお話。とはいえ今後に繋がる伏線回でした。
実は伏線回収という意味では後半の方が重要だったり……。
あと個人的にやらせたかった響に「鍛えてますから」も言わせられた。
何、本編でやれ? 俺もそう思う、誰だってそう思う。

次回からはG編の前にやっておきたいことがあり、オリジナルの『番外劇場版』編に突入します。

次回もよろしくお願いします。


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番外劇場版編 『仮面ライダーSHADOW(異)世界を駆ける』
第27話


今回から無印~Gまでの間にあたるオリジナル編に突入します。
というのもG編のためにもやっておきたいことがありまして、それを消化するためのお話となります。


 ブロォォォーーー……!!

 

 

 甲高い排気音が響く。

 その発生源は俺たち……俺と響を乗せたバイクはアクセル全開で駆け抜けていく。

 そして俺に抱きつくようにしている響がポツリと俺に言った。

 

「ノブくん……私やっぱり呪われてるかも」

 

「心配するな、そういうことなら俺も絶対呪われてるから」

 

 心の底からの言葉を俺は絞り出す。

 その時!

 

「ノブくん、来たよ!!」

 

「ッ!!?」

 

 響の鋭い声に俺はハンドルを切り、バイクを左へとスライドさせる。

 すると……。

 

「フシャァァァァァ!!」

 

 今しがたバイクのいたところに白っぽい何かが降ってきて鋭い爪を振るった。

 それが憎々しげに一瞬こちらを見ると、そのまま景色とともに後ろへと流れていく。

 しかし……。

 

「ノブくん、来てる! いっぱい来てるよ!!」

 

 ミラーを見れば、先ほどの白っぽい影が何体もこのバイクを『走って』追ってきている。

 俺は訳の分からないあまりの理不尽さに、思わず叫んでいた。

 

「なんで『魔化魍のバケネコ』がいるんだよ! ここは一体どこなんだよ!?」

 

 どことも知れぬ無人の街に、俺の叫びが響く。

 何がどうしてこうなったのか……話はしばらく前に遡る……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「『お泊りデート』のやり直しをしよう!」

 

 俺の言葉に響はコクリと頷く。

 初夏、俺たちは『恋人同士として特別な関係を!』と一大決心と覚悟を決めて『お泊りデート』に出かけた。

 しかし結果は……『芸人ライダーSAKIMORI』こと翼が現れたことで完全に失敗に終わる。俺と響はあまりの不完全燃焼に、『次こそは必ず!』とリベンジに燃えていた。

 そして立てた『第二次お泊りデート計画』……奏や緒川さんから翼のスケジュールを徹底的に聞き出し、絶対に翼が現れることがないように日程を調整する。同時に誰にもデート予定は話さず、徹底的にその日程と場所は秘匿した。

 計画は完璧、すべては計画通りに進み、デート当日を迎えて俺は勝利を確信していた。

 しかしバイクの走行中……。

 

「の、ノブくん!?」

 

「何だ? キングストーンが光を……!?」

 

 俺の体内のキングストーンが突如として光を放ち出す。

 そして気がつけば……俺たちは見知らぬ街にいた。

 

「どうして街に……?」

 

 海の見える街道を走っていたはずなのに突如として街にいることに、響が戸惑いの声を上げる。

 

「現在位置が出てこないぞ。それに2課との通信も出来ない……。

 一体何がどうなってる?」

 

 バイクを停車させた俺は、通信機を取りだし現在位置を調べようとするも現在位置はまったくの不明、2課との通信もまったく反応が無い状態になっていた。

 

「とにかく、ここがどこか調べてみよう」

 

「うん……」

 

 不安そうながら頷く響とともに俺はバイクを発進させ、街の様子を見て廻る。

 すると、すぐにその街の異常に気付いた。 

 

「ノブくん、さっきからここ……人が誰もいないよ」

 

 この街、人の気配が全くしないのだ。

 ビルも商店もある。道路もあればそこに車も停車している。しかし、そこにいるべき人の姿が全く見当たらない。

 

「街全体で『メアリー・セレスト号』か?」

 

「そういう怖い話はやめてよ」

 

 俺は有名な都市伝説の話をすると、響は嫌そうに眉をひそめる。

 その時だった。

 

「フシャァ……」

 

 獣のような声とともに、向こうの道の角から現れるもの。

 それは身の丈2メートルを超える人影、身体中が白っぽい毛に覆われている。

 そしてその顔は猫科のそれだ。そんな顔が、俺たちの方を向いた。

 

「フシャァ!!」

 

「何あれ!? 襲ってくるよ!?」

 

「響、しっかり掴まってろ!!」

 

 俺たちの姿を認めると同時にそいつは牙と爪を剥き出しにしてこちらに向かってくる。どう見ても友好的な雰囲気はない。

 俺はバイクをその場でアクセルターン、そのままアクセル全開でバイクを発進させるとそのままそいつ……『魔化魍のバケネコ』は俺たちを追ってきていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「来てる来てる来てる!?」

 

「ちぃっ!?」

 

 アクセル全開でバイクを走らせながらミラーを見ると、かなりの数の『魔化魍のバケネコ』が迫ってきている。

 

(『魔化魍のバケネコ』だと? どういうことだ!?)

 

 『魔化魍』は仮面ライダー響鬼と戦った怪人の総称だ。当然ながらノイズとは違うし、そんなものの存在を感じることも今までできなかった。

 どういうことだと混乱する俺に、さらに混乱に拍車がかかる事態が襲う。

 

「ノブくん、前! 前!?」

 

「なっ、あれは……!?」

 

 前方には後ろのバケネコとは違い、緑色の身体の一団がいた。

 それは……!

 

「『ワームのサナギ体』じゃないか!!」

 

 俺は叫んで、その集団を避けるように急カーブで道を曲がる。

 『ワーム』は仮面ライダーカブトが戦った、敵性宇宙人の総称だ。そして『サナギ体』はその幼体にあたるもので、もちろんこんなものがいるなんて聞いたこともない。

 ここまでくると、俺の方も状況を冷静に見れるようになってきた。

 

(俺たちはキングストーンの導きで、『別の世界』に来たのかもしれない……)

 

 『魔化魍』や『ワーム』がいて2課との通信がまったくできない場所……となればここは今までいた場所とは異なる世界である可能性が高い。

 『魔化魍』や『ワーム』がいる以上、ここは『何かの仮面ライダーの世界』なのだろう。

 

(だが『仮面ライダーの何かの世界』だとして……どんな世界なんだ?)

 

 全く違う作品間の敵が同時に現れている以上、ここは共演作品……いわゆる『劇場作品の世界』である可能性が濃厚だ。

 しかし、そのどれなのかということで今後俺たちがとるべき行動が変わってくる。『劇場作品』では、ものによっては悪によって世界征服がされディストピア化した世界観のものもあるからだ。そのため、俺や響の安全を図るためにも『ここがどんな世界か?』を見極めることは重大である。

 

(やはりここは、大ショッカーの仕業と考えるのが妥当か?)

 

 そんなことを考えながらバイクを走らせていると……。

 

「ッ!?」

 

「きゃっ!?」

 

 キングストーンからの『直感』が俺の背中を駆けると同時に、俺は響を抱きかかえてバイクから空中に跳んだ。

 同時に『ビルのガラスから』何かが飛来する。それが一瞬前まで俺たちの乗っていたバイクを両断した。

 両断されたバイクがそのままビルに突っ込み爆発炎上する中、響を抱えた俺は着地する。

 そして……。

 

「ガラスから何か出てくる!?」

 

「キィアアアアアッ」

 

 『ビルのガラスから』赤い身体の、どこかイモリを思わせる人型が何体も現れる。

 

「バケネコ、サナギ体のワームときて、今度は『ミラーモンスターのゲルニュート』かよ……」

 

 『ミラーモンスター』は仮面ライダー龍騎に登場した敵の総称だ。一番の特徴は『ミラーワールド』という鏡の中にあるもう一つの世界に行き来する能力があることだろう。『ミラーワールド』はその名のように鏡でなくても今のようにガラスや水面からでも出入り出来、神出鬼没な厄介さを持っている。今バイクを両断したのはゲルニュートの巨大手裏剣のようだ。

 と、そんなところに俺たちを追ってきたバケネコの集団、ワームサナギ体の集団が合流してしまう。

 

「……どうしよう、ノブくん?」

 

「状況はまるで分らないが……やるしかないみたいだな……」

 

 抱きかかえた響を地面にゆっくり降ろしながら言うと、響も頷く。

 そしてにじり寄ってくるその異形の集団相手に、俺たちも戦闘態勢を整える。

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron……」

 

 

「変……身ッッ!!」

 

 

 響が起動聖詠を歌い上げギアを纏い、俺もSHADOWへと変身を果たす。

 

「いいか響、油断するな!

 ゆっくりでいい、確実に倒していくぞ!!」

 

「うん!」

 

 そして俺と響は状況も何も分からないまま、戦いを強いられることになったのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「フシャァァァァァ!!」

 

「ふっ!!」

 

 鋭い爪を振るって素早い動きで飛び掛かってくるバケネコ。響はその鋭い爪の一撃を身体をかがめて避ける。

 

「たぁぁ!!」

 

 そのまま響は全身のバネを使ってバケネコの腹に一撃を加えた。しかし、バケネコはその一撃に身体をくの字に曲げるが決定打とはならず、怒りとともに響へと視線を向ける。

 

「ノイズよりもずっと硬い!?」

 

 いつも戦っているノイズたちとは段違いの耐久力を誇るバケネコに、響は驚きの声を上げる。

 そんなバケネコは怒りのせいか響へと向かっていく。ビルの壁を三角飛びで飛び回るアクロバティックな動きで響を狙い、その必殺の牙を突き立てようとうかがう。

 

「フシャァァァァァ!!」

 

 かく乱し好機と見たバケネコが響の背後の頭上から飛び掛かった。

 しかし、バケネコよりも弦十郎に鍛えられ、信人たちとともに幾多の実戦を超えてきた響の方が、完全に上手だった。

 

「たぁぁぁぁぁ!!」

 

 完全な死角からの攻撃と思われたその一撃、それを響は完全に読んでいた。

 両足を連続して蹴りあげる八極拳の『連環腿(れんかんたい)』が、響に喰らい付こうと大口を開けていたバケネコの顎をカウンターで蹴りあげる。

 自慢の牙が砕け、バケネコの身体が宙に浮いた。そしてそのがら空きになった胴体に、響は渾身の拳を突き刺す。

 その一撃に耐えられなかったバケネコの身体は土塊となって崩れ落ちた。

 

「ふぅ……!」

 

 バケネコを一体屠り息をした響。だがそこに間髪入れずに2匹のバケネコが飛び掛かった。

 左右から挟み込むような爪の攻撃。だが響はそれに臆せず、まずは右から迫ったバケネコの爪を避けるとそのままバケネコの腕を掴みバランスを崩し、左から襲い来るバケネコの盾にした。

 バケネコが同士討ちに驚く中、そのまま盾にしたバケネコの背中に響は背中からの体当たり、『鉄山靠(てつざんこう)』を叩き込む。

 

「たぁぁぁぁぁ!!」

 

 その衝撃で2匹でもつれるように転がったバケネコに、跳び上がった響が急降下の蹴りを叩き込むとそのフォニックゲインが衝撃となってバケネコ2匹を直撃、その存在を土塊に還した。

 だが、響は油断なく周囲を警戒する。

 

(さっきからこの猫の怪物、かなりうまく連携をとって攻めてきてる……)

 

 アクロバティックな動きからの同時連携攻撃といった攻撃をバケネコたちは仕掛けてきていた。そしてこういった攻撃をしてくる以上、それを統率する存在がいると響はすぐに考えて周囲をよく見る。

 

(……いた!)

 

 白いバケネコたちの中に茶色い色で尾が何本も生えた個体が1匹だけ交じっていた。常にその身を白いバケネコたちで隠し、周到に動くその姿に響はこの茶色い個体こそがこの集団を統率するリーダーなのだと確信する。

 

(群れはリーダーを倒せば瓦解する!!)

 

 それを理解していた響は一気に勝負に出た。

 

「だぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 響が中国拳法の高速移動『活歩』で踏み込み、周囲の白いバケネコたちを土塊に変えながら茶色いバケネコに接近する。

 

「フシャァァァァァ!!」

 

 そんな響に一瞬驚いたような様子をするもののその茶色のバケネコも流石は群れのリーダー、すぐに響を迎撃しようと右手の爪を振り下ろす。

 だがそれを響は頭上で腕をクロスさせて、バケネコの振り下ろされた右手を受け止めた。

 

「ぐぅ!?」

 

 その衝撃に響の踏みしめたアスファルトが陥没し、響が苦悶の表情を浮かべる。

 

「負けるかぁぁ!!」

 

 だが響はそのままバケネコの右手を弾き上げた。そして腕を跳ね上げられ、バケネコががら空きの身体をさらす。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

 拳を握り両脇を締め、そこから放たれるのは拳の連打。ありとあらゆる急所に、相手が倒れるまで止まらない拳の嵐だ。

 その嵐とともに、響から放たれるフォニックゲインが叩き込まれていく。それは奇しくも、魔化魍たちの天敵である音撃戦士の攻撃に似ている。そしてトドメの肘が叩き込まれると、耐え切れずに茶色のバケネコは土塊へと還っていった。

 残ったのはリーダーを失い統率を欠いた白いバケネコ達、響は油断することなくそれを各個撃破していく。そしてしばらくすると最後のバケネコが土塊へと還っていった。

 

「ふぅ……」

 

 敵の掃討が終わり、響が息をつく。見れば信人のほうも緑の怪物やガラスから出てきたヤモリの怪物……ワームサナギ体やゲルニュートたちをあらかた倒し終えている。

 

「ノブく……」

 

 そんな信人に声をかけようとした瞬間だった。

 

 

 シュッ!

 

 

「きゃぁ!?」

 

 気がつけば、『ビルのガラスから』糸が伸びてきて響は絡めとられていた。

 

「くっ……動けない!?」

 

 強くしなやかなその糸は響が力を込めても破れない。そしてもがく響の前に、『ガラスから』その糸の主が現れる。

 それは巨大なクモの怪物……ミラーモンスターの『ディスパイダー』である。

 ディスパイダーはそのまま糸に絡まれた響を引き寄せた。大きさとパワーにものを言わせるディスパイダーに、響はジリジリと引き寄せられていく。

 響はさながらクモに囚われた可憐な蝶だ。その蝶を喰らおうとディスパイダーが鋭い牙の並ぶその顎を開く。

 だが不幸にもディスパイダーは知らなかった。

 この可憐な蝶は月に愛された、いわば『月光蝶』だ。その蝶に手を出せばどうなるか……当然、月の怒りを買い、粉々にされるのである。

 

 

 ガシッ!

 

 

「……響に何をしようとしているんだ、クモ野郎!」

 

 響に喰らい付こうと目前にまで迫った鋭い牙の並ぶ顎。そしてそれを押さえつける銀の身体。

 ディスパイダーは顎を閉じようとするがビクともしない。

 

「ノブくん!!」

 

 響がその名を歓喜とともに呼んだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「トォ!!」

 

 俺はワームサナギ体たちの集団に飛び込んだ。

 

「シャドーチョップ!!」

 

 横に薙ぎ払うようなチョップ、エルボートリガーで強化されたそれの直撃を受けたワームサナギ体が緑の炎とともに吹き飛ぶ。

 だがそんな仲間の最後にもひるむことなく残されたワームサナギ体が飛び掛かってきた。

 その振るわれた腕が俺のシルバーガードの装甲を叩くが、たいしたダメージはない。

 

「ハァ! タァ!」

 

 お返しとばかりに2度3度と拳を叩き込み、のけ反ったところを突き刺すような蹴りを叩き込む。するとそれに耐えきれずにそのワームサナギ体は爆散した。

 それを見ながら俺は静かに分析する。

 

(やっぱり、ノイズよりも耐久力があるな)

 

 ノイズほどに数は多くないが、その分耐久力も攻撃力も上だ。

 響は大丈夫だろうかとチラリと視線を送ると……ちょうど響が『連環腿(れんかんたい)』でバケネコの顎を蹴りあげているところだった。

 どうやら心配はないらしい。

 それより魔化魍を薙ぎ倒しているのはやはり名前のせいだろうか……そんなどうでもいいことを思って俺は苦笑する。

 するとそんな俺を狙ってなのか、ゲルニュートの巨大手裏剣が飛来する。

 

「ハァ!」

 

 俺はそれを後ろへ飛んで避けた。

 

「投げ物対決がお好みか? だったら!」

 

 俺は殴りかかってきたワームサナギ体の腕を掴むと振り回す。

 

「シャドースイング!!」

 

 ジャイアントスイングの要領で、ワームサナギ体を武器として周囲の敵を殴り倒す。そして最後にワームサナギ体をゲルニュートに向けて投げつけた。

 

「!!??」

 

 そのままワームサナギ体はゲルニュートに直撃、緑の炎になって爆散したあたりかなりの衝撃だったことが伺える。

 そんな隙だらけのゲルニュートに、俺はトドメをさすべく拳を握り飛び上がった。

 

「シャドーパンチ!!」

 

 俺のシャドーパンチの直撃を受けたゲルニュートはそのまま粉々に吹き飛んだ。それだけではなく、荒れ狂うキングストーンエネルギーが周囲にいたワームサナギ体の集団もまとめて吹き飛ばす。

 その一撃でほとんどの敵は吹き飛んだ。

 あとは……そう思った瞬間だ。

 

「きゃぁ!?」

 

「!? 響!!」

 

 響の悲鳴にその方向を向くと、響が糸に囚われている。そしてその先にいたのは……。

 

「あれは土蜘蛛? いや、ディスパイダーか!?」

 

 それはミラーモンスターのディスパイダーだ。その顎は強力で、その牙は仮面ライダーすら砕くことができることを俺は知っている。

 そしてその牙を、よりにもよって響へと向けていた。

 それを見た瞬間、俺は加速した。

 地を蹴るのと同時にレッグトリガーからパワーが放射され、まるでブースターのように加速し即座に響の元へ。

 そして響に喰らい付こうとしていたディスパイダーの顎を押さえつける。

 

「……響に何をしようとしているんだ、クモ野郎!」

 

「ノブくん!!」

 

 ディスパイダーは俺に喰らい付こうと顎を閉じようとするが、俺が押さえつけビクともしない。

 そんなディスパイダーに俺は言った。

 

「薬は注射より飲むのに限るぜ、ディスパイダーさん!」

 

 おもむろに腰の『シャドーチャージャー』が輝き出す。そして!

 

「シャドーフラッシュ!!」

 

 そのままシャドーフラッシュをディスパイダーの口の中へと叩き込んだ!!

 

「!!!???」

 

 口の中から飛び込んできたキングストーンの破壊エネルギーがディスパイダーの体内で暴れ回る。

 それに耐えきれずに、ディスパイダーは粉々に吹き飛んでいった。

 

「大丈夫か、響?」

 

「ありがと、ノブくん」

 

 ディスパイダーが吹き飛んだことを確認し、俺は響に絡まった糸を断ち切る。

 響はお礼を言いながら俺の差し出した手を握り、立ち上がった。

 

「怪我はないか?」

 

「私は大丈夫。 ノブくんの方は?」

 

「こっちも大丈夫だ」

 

 互いの無事を確認しあうと俺たちは周囲を探るが、もう周囲には敵の姿は見当たらない。

 

「ノブくん……今の怪物たちは一体?

 それにここは何なんだろう?」

 

 敵の姿が消え、一息をついたからか響が不安そうに聞いてくる。

 とはいえ、俺も分からないことだらけで考えが纏まっていない。

 取り合えずこの街をもっと調べようと響に提案しようとした、その時だった。

 

「侵入ーーー者の諸君ッッ!!」

 

「「ッ!!?」」

 

 その声に反応し、俺と響はビルを見上げる。

 すると、ビルの屋上から飛び降りてきた紫の人影が俺と響の前、20メートルの辺りに着地した。

 

「随分と好きに暴れ回ってくれたね。

 どこから入ってきたのか知らないが、ここまでだ」

 

「カッシスワーム、だとっ!?」

 

 仮面ライダーカブトにおける最強のワーム個体と言われる『カッシスワーム』の登場に、俺は動揺を隠せずにいた。

 そんな俺にカッシスワームは右腕の毒針状の剣を向けると言い放つ。

 

「その姿……王の姿を騙る偽物め! 生かしては帰さない!!」

 

「王の姿を騙る?」

 

 俺の疑問には答えることなく、完全な敵意とともにカッシスワームがこちらに走り出す。

 

「ノブくん!?」

 

「響、気を抜くな! あいつは今までの奴らとは桁が違う!

 全力で行くぞ!!」

 

「うん!」

 

 俺の言葉に響が構え、俺も拳を握りしめる。

 こうして俺たちは訳も分からぬまま、幹部級の強力な怪人との戦いに突入するのだった……。

 




今回のあらすじ

SHADOW「男子高校生のエロに対する執念を舐めるな!
    懲りずに第二次お泊りデート計画を発令する!!」

ビッキー「今回は未来にも教えてないし防人の動向もよく調べた!
     前回みたいな勝負下着を無駄にするような真似はしない!!」

キネクリ「あーあ、バカップルどもがマジだ」

奏「まぁ、お年頃だからねぇ」

フィーネさん「あー、この世のカップル全部死なないかなぁ!!」

SHADOW「よし、これでめでたくゴールイン!」

ビッキー「激しく前後に動く。ほとんど違法行為。激しく上下に動く。あなたは共犯者」

防人「くっ!? この私が破れたら誰が青少年のなんかを守り、猥褻は一切ない健全な作品にするというのか!?」

月の石「そのとき、不可思議なことが起こった」

SHADOW&ビッキー「「YAMERO!!」」

SHADOW「てめぇ、キングストーンてめぇ!
    男子高校生の切なる願いになんてことを!!」

ビッキー「いきなりキングストーンに鉄火場に放り込まれた件」

キネクリ「魔化魍にワームにミラーモンスターと、仮面ライダーの敵のオンパレードだな」

奏「というわけで今回からの『番外劇場版編 仮面ライダーSHADOW(異)世界を駆ける』のスタートだ」

防人「ああ、2人が仮面ライダーの世界に放り込まれて戦う話なわけだな」

ビッキー「爆裂強打の型(拳)!」

キネクリ「爆裂強打の型という名前のスペックばりの無呼吸連打でバケネコさんをぶっ殺すバカ1号……うん、名前からして何の違和感もないな!」

奏「実際シンフォギアって歌のエネルギーであるフォニックゲインをぶち込んでるんだし、その辺り音撃戦士と変わらない気がするからね」

防人「で、月影の方はサナギワームとゲルニュートを撃破。それで……」

SHADOW「薬は注射より飲むのに限るぜ!」

キネクリ「権藤一佐乙。特撮ファンとしては一度は使ってみたいセリフだな」

奏「日常のどんなときに使えるんだい、このセリフ……?」

カッシスワーム「ゼェェェクトの諸君!!」

ビッキー「何とか敵倒したらボスキャラがでた!?」

SHADOW「おいおい、初の幹部級強力怪人戦でいきなりカブトで最強クラスのカッシスワーム相手とかどんなクソゲーだよ!?」

防人「それにしてもこのカッシスワームの物言い……なるほど、ここは『あの世界』か」

キネクリ「ああ、作者がやりたいことってのも何となく分かったわ」


というわけで今回から『番外劇場版編 仮面ライダーSHADOW(異)世界を駆ける』に突入します。
キングストーンさんによってライダー世界に送り込まれた2人。この世界が何の世界かはバレバレですが、それをG編の前に消化しておこうといったところ。
次回はVSカッシスワーム戦。

次回もよろしくお願いします。


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第28話

「ノブくん!」

 

「来るぞ、響!」

 

 カッシスワームが俺に向かって走ると、右腕の毒針状の剣を振り上げる。

 

「はぁ!」

 

「ぐっ!?」

 

 振り下ろそうとしたその右腕を、俺は一歩踏み込んで左腕で抑える。衝撃が踏みしめた足にまで響く凄まじいパワーだ。

 俺はそのまま右手の拳をカッシスワームに叩き込もうとするが、その右拳はカッシスワームの左手で防がれていた。 

 

(やはりノイズやさっきの怪人どもとは文字通り桁が違う!?)

 

 今まで相対してきた相手とは根本から違う強さに、俺は内心舌を巻いた。

 

「シャドースイング!!」

 

 俺は左手でカッシスワームの右腕を掴むとそのまま回転、ビルの壁に叩きつけようと全力で投げつける。

 だが。

 

「ふん!!」

 

 アスファルトがカッシスワームの踏ん張った跡で一直線に抉れる。

 投げつけられたカッシスワームは空中で右腕の毒針状の剣を地面に突き刺して身体を支えて、ビルへ叩きつけられるのを防いだのだ。そこにあまりダメージがあるようには見えない。

 

「たぁ!!」

 

 体勢を崩していたカッシスワームに、響が飛び掛かる。

 響の拳の連打とともに、フォニックゲインが叩き込まれる。しかし……。

 

「全然効いてない!?」

 

「まるで子猫に噛まれているような攻撃だ」

 

 響の拳にまるで怯む様子を見せずカッシスワームは毒針状の剣を振るった。それを間一髪で避けた響は大きく飛び退く。

 

「シャドービーム!!」

 

 響が飛び退いたその瞬間、俺のシャドービームがカッシスワームに直撃した。

 

「ぐっ!?」

 

 響とのコンビネーションで直撃したシャドービームは流石に効いたのかカッシスワームが苦悶の声を上げる。

 初の有効打に「いける!」と心の中で喝采を上げる俺だがその瞬間、嫌な『予感』が駆け巡った。

 シャドービームで直撃したエネルギーがバチバチとカッシスワームに停滞している。そしてそのエネルギーがカッシスワームの口へと集中すると、カッシスワームから破壊光弾が放たれた。

 

「うぉぉ!?」

 

「きゃぁ!?」

 

 破壊光弾の爆風によって吹き飛ばされる俺と響。

 

「い、今のは一体?」

 

「奴め……俺のシャドービームのエネルギーを跳ね返しやがった!?」

 

 体勢を整えた響に、俺は答える。『敵の攻撃をエネルギーに還元吸収し、敵に返す』というカッシスワームの力だ。原作の仮面ライダーカブトではこの能力で多くのライダーの必殺技を破っている。

 

「生半可な攻撃じゃ跳ね返されて逆効果ってことだ!」

 

「それじゃ攻撃出来ないよ!

 どうすれば……」

 

「……奴が吸収しきれないレベルの破壊力をどうにか叩き込むしかないな」

 

 そう言って俺がカッシスワームに構えた時、再び嫌な『予感』が駆け巡る。それに従い防御の態勢に入った俺に凄まじい衝撃が襲い掛かり、俺はビルの壁へと叩きつけられていた。

 

「ぐぁっ!!?」

 

「ノブくん!?」

 

「響、防御を固めろ!!」

 

 響からは何の前触れもなく突然俺が吹き飛んだように見えただろう。響の悲痛な声が聞こえるが、俺は自身のダメージを無視して響に叫んでいた。

 

「きゃぁぁぁ!?」

 

「響っ!?」

 

 俺の声に咄嗟に防御を固めた響が、悲鳴を上げながら吹き飛ばされた。

 このままでは響がビルの壁に叩きつけられると見た俺は跳ね起きると、吹き飛ばされる響を空中で抱き止める。

 

「ぐぁ!?」

 

 そのまま自分の身体で響を庇い、俺は再びコンクリートへとめり込んでいた。

 

「ノブくん!? 大丈夫!?」

 

「……ああ、大丈夫だ」

 

 心配そうな響にそう言って、俺は立ち上がる。

 

「何をされたのか全然分からなかった……今のは一体……?」

 

「アレは目にも止まらぬ超高速攻撃……『クロックアップ』だ!」

 

 『クロックアップ』……それは成虫となったワームたちの持つ基本能力の一つにして、同じ能力を持つ仮面ライダー以外がワームに対抗できなかった理由だ。

 『クロックアップ』は厳密には超高速攻撃ではなく、タキオン粒子を全身に駆け巡らせることによって時間流を自在に活動できるようになるある種の『時空間干渉能力』であり、これを使えば使用者以外はまるで時間がゆっくりになったかのようにしか動けない。受けた側としては、目にも止まらぬ超高速攻撃を受けているようなものだ。

 そう、掻い摘んで響に説明する。

 

「そんなの、どうやって倒せば……」

 

「……」

 

(くっ……ワームにとっては『クロックアップ』は基本。カッシスワームが使ってくるのは当然だ。

 よりにもよって仮面ライダーカブトの代名詞とも言える『クロックアップ』を相手に戦うことになるとはな)

 

 そんなことを考えていると、カッシスワームは勝利を確信しているのか悠然とこちらに歩いてくる。

 

「『クロックアップ』の出来ないものが私に敵うわけがないだろう。

 大人しく諦めろ、偽物め」

 

「その偽物ってのがどういうことなのか詳しく聞きたいところだが……『クロックアップ』が出来ないからどうしたって?

 『クロックアップ』が出来ないから俺がお前に勝てないとでも思ってるのか?」

 

「何?」

 

 俺はカッシスワームに向かってクイクイっと手を動かす。

 

「来いよ、そのご自慢の手品をもう一度見せて見ろ」

 

「言ってくれるな、『クロックアップ』も使えない分際で。

 ではお望み通り……受けるがいい!!」

 

 そしてカッシスワームの姿が掻き消える。どうやら『クロックアップ』に入ったらしい。

 確かに『クロックアップ』は強力無比な能力である。本来なら『クロックアップ』が有効な対抗手段だが……それ以外の手段が皆無というわけではない!

 

「マイティアイ!!」

 

 俺はマイティアイを起動させた。同時にセンシティブイヤーやシャドーセンサーなどの感覚系をすべて最大で起動する。

 そして!

 

「見えた!!」

 

 そう、たとえ『クロックアップ』が使えなくてもそれを認識できるほどの超高感度センサーや超感覚を持っていればその姿を捉えることは可能なのだ。

 同じ方法でロボライダーは『クロックアップ』を補足していた。そしてあの仮面ライダーBLACK RXと互角の能力を持ち、その全能力を短時間で完全に分析した俺のマイティアイがそれと同じことを出来ないはずがない。

 俺のマイティアイは『クロックアップ』中のカッシスワームを補足する。あとは攻撃手段だ。

 前述したロボライダーは『クロックアップ』を補足することはできたが、ボルティックシューターの弾速が『クロックアップ』に追いつかず攻撃を当てられなかった。

 これの対処は相手の動きを完全に見切り予測偏差射撃を当てることなのだが……流石にそれは難しそうだ。

 となれば、やるべきことは1つ。

 

「シャドーフラッシュ!!」

 

 俺の腰の『シャドーチャージャー』から、緑のキングストーンエネルギーが放射される。

 完全に相手を見切り予測偏差射撃は今の俺の技量では少し難しそうだが、それでも予測くらいはできる。そしてそこに避けようのない広域攻撃を叩き込むことで『クロックアップ』に対抗しようというのが俺の作戦だ。

 

「ぐおっ!?」

 

 身体中から火花を散らしたカッシスワームが、突如空間から飛び出るようにして地面を転がる。狙い通りだ、どうやらシャドーフラッシュに『クロックアップ』中に突っ込みダメージを受けたようだ。

 

「今、何が?」

 

 『クロックアップ』を完全に見えていない響からすると、突如ボロボロになったカッシスワームが飛び出して来て転がったので何が何だか分からないらしい。

 だが今はそれどころではない。

 

「今はそんなことはいい! それよりチャンスだ、畳みかけるぞ!!」

 

「わかった!」

 

 俺と響は地面から立ち上がりつつあるカッシスワームに飛び掛かる。

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

「ぐぅ!?」

 

 シャドーフラッシュのダメージのおかげか、先ほどまでは効果がほとんどなかった響の拳の連打が確実に効いている。

 

「人間、調子にのるな!」

 

 そう言って右腕の毒針状の剣を響に向かって振り下ろす。だが!

 

「シャドーチョップ!!」

 

 エルボートリガーを起動させ攻撃力を増した左のシャドーチョップでその剣を弾き返す。

 

「シャドーダブルチョップ!!」

 

 そのまま同じくエルボートリガーを起動させ攻撃力を増した右のシャドーチョップを十文字に叩き込んだ。

 

「ぐぁぁぁ!!」

 

 その衝撃に、カッシスワームが吹き飛ばされ再び地面に転がる。

 

「やった!」

 

「まだだ、やつが倒れるまで隙を与えるな!」

 

 俺は再びの追撃で勝負を決しようとしたその時だった。

 

「……いいだろう、私の本当の力を見せてやろう!!」

 

「ッ!!?」

 

 背中に氷柱を突き入れられるような悪寒が走り、嫌な『予感』が駆け巡った。

 そして……次の瞬間には、俺は衝撃に吹き飛ばされていた。

 

「ぐぁぁぁぁ!?」

 

「ノブくん!?」

 

 吹き飛ばされ転がる俺。だが、次の瞬間にはまたも衝撃が俺に襲い掛かり、再び吹き飛ばされる。

 

「今のは何だ? 俺のマイティアイでも探知できないぞ」

 

 『クロックアップ』すら感知する俺のマイティアイでも正体がつかめないその攻撃……そこで俺はカッシスワームについてを思い出した。

 

「まさか今のは……『フリーズ』か!?」

 

 『フリーズ』……それは仮面ライダーカブト作中に登場する能力である。

 『フリーズ』は『クロックアップ』の上位能力であり時間遡行すら可能とする『ハイパークロックアップ』、さらにその上位に位置するクロックアップ系の最上位能力である。

 その効果は『時間停止』だ。この能力を使うことで世界の『時間』を凍りつかせ、その間に一方的に攻撃する……これが今しがた俺が受けた攻撃の正体だった。

 カッシスワームは仮面ライダーカブト本編において、3度形態を変化させて仮面ライダーたちに襲い掛かった。そしてそれぞれが別の能力を使っていた。

 第一の形態が『フリーズ』。

 第二の形態が『敵の攻撃を吸収し、技をコピーして跳ね返す』という能力。

 そして第三の形態が『分裂能力』、まったく能力の同じ2人に分裂し同時攻撃を行う能力である。

 ここで重要なのは仮面ライダーカブト本編においてカッシスワームは、『他形態の能力を使えなかった』のだ。

 俺はそんな『原作』を知っているせいで、最初にシャドービームを跳ね返したことからこのカッシスワームを『第二形態』だと決めつけていたのである。だから第一形態の能力である『フリーズ』を使うことをいつの間にか警戒すら出来ていなかったのだ。

 

(くっ……油断した! 『原作』と同じだといつの間にか錯覚していた……!)

 

 そう俺が臍を噛むと、俺の背中を冷たい『予感』が走り抜けた。

 そして、それを証明するかのように未だ体勢を立て直せていない俺たちの前にカッシスワームが現れる。

 

「王の偽物、お前が何者であろうと私の完全に凍り付いた世界の前には無力だ。

 その無力さ……今から思い知らせてやろう!」

 

 そしてカッシスワームの視線が、俺を支えようとしてくれている響へと向かう。

 

「まさか……!?」

 

「まずはその女から血祭りにあげてやろう!」

 

 そうカッシスワームは宣言すると、俺のシャドーセンサーがタキオン粒子の動きを感知する。宣言通り『フリーズ』を発動させるつもりだ。

 それが発動した場合には……。

 

(響が……殺される!?)

 

 この俺のシルバーガードの装甲ですらかなりのダメージを受けたのだ。それよりも防御力の低いシンフォギア、しかも防御も何もできない状態で響が攻撃を受ければ致命傷になりえる。

 そしてそれは『フリーズ』が発動したら、瞬きの間もなく現実となるのだ。

 

(こいつは今……俺の目の前で『響を殺す』と言ったのか!?

 俺の、この俺の前で!!)

 

 それを理解した俺の腹の底から、マグマのように怒りが湧き上がる。

 その俺の怒りに応えるように腰のキングストーン『月の石』が煮えたぎるように熱くなっていく。

 そして……カッシスワームの『フリーズ』が発動した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 時間が凍り付き、すべての者が動きを止めた『世界』。そんな中を、その『世界』を創り出したカッシスワームが悠然と歩く。

 目の前には仮面ライダーとは違う、おかしな恰好をした人間の小娘。

 その小娘に毒針状の剣を突き立てようと右腕を振り上げる。

 それを前にしても小娘……響は何の反応もしない。時間が止まっているのだ、できるわけもない。

 そして、カッシスワームが右腕を振り下ろす。

 だが……。

 

 

 ガシッ!

 

 

「なっ!?」

 

 何かによってその右腕が捕まれて動きが止まる。

 驚きにその方向を見ようとしたカッシスワーム、その顔面に銀の拳が突き刺さった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「がぁぁぁ!?」

 

「えっ、またなに!?」

 

 響視点で見ると突如現れゴロゴロと地面を転がるカッシスワーム。その姿を俺は右手でカッシスワームの顔面を殴り抜けた形で見下ろしていた。

 

「ば、バカな!?

 私の『フリーズ』に、私の完全な『世界』にクロックアップすら使えないお前が入門してきたというのか!?」

 

 体勢を立て直そうとするカッシスワームから驚愕の声が響く。

 それに俺はゆっくりと答えた。

 

「『フリーズ』は時空間干渉系の能力だ。ならば……同じ時空間干渉能力があれば対抗はできるはずだ」

 

 俺の言葉の通り、キングストーンには時空間干渉能力がある。仮面ライダーBLACK RXでは、過去改変によって時空を乱したクライシス帝国に対しRX・ロボライダー・バイオライダー・BLACKの4人が時空間を超えて揃って戦うといった『不思議なこと』が起こっている。

 それを知る俺はキングストーンの力によって時空間干渉、カッシスワームの『フリーズ』によって時間の凍り付いた世界での活動を可能にしたのである。

 

「そんなバカな話があるものか!?」

 

「ふんっ!!」

 

 カッシスワームがまたも『フリーズ』を発動させ襲い掛かってくるものの、俺もそれに対応して凍り付いた『世界』で動き、再び顔面に拳を叩き込んだ。

 またも地面を転がるカッシスワームを見下ろしながら、俺は宣言する。

 

「カッシスワーム……お前は今まで俺が戦ったどんな相手よりも強い。 だが、お前は最大のミスを犯した。

 お前は俺を、怒らせた!!」

 

 そして俺は構えをとって叫ぶ。

 

「バイタルチャージ!!」

 

 キングストーンエネルギーが全身を駆け巡り、拳と両足が緑の光を放ち出す。

 

「響、決めるぞ! 合わせる準備を!!」

 

 言ってから俺はカッシスワームへと飛び掛かった。

 

「シャドーパンチッッ!!」

 

 エルボートリガーを最大に稼働させ、さらに身体の屈伸の反動を加えた全力のシャドーパンチがカッシスワームの胸板に炸裂する。

 

「ぐ、おぉぉぉぉ!?」

 

 それに苦悶の声を漏らすもののさすがは最強のワームと呼ばれた幹部級怪人、地面を削りながら後退するもそれに耐えて見せる。それだけではなくパンチを叩き込まれた胸板からそのエネルギーを吸収、その右手にエネルギーが移動して行っている。

 俺のシャドーパンチを返そうというのだろう。だが、それを許すほど俺はお人好しではない。

 

「響ッ!」

 

「ノブくん!」

 

 俺の声に準備が出来ていた響が飛び上がりそれを追うように俺も飛び、空中で体勢を整える。

 そして……。

 

「「ダブルキィィィックッッ!!!」」

 

「ぐわぁぁぁぁぁ!!?」

 

 俺と響のダブルキックがカッシスワームの胸板に直撃した。

 カッシスワームの『敵の攻撃をエネルギーに還元吸収すると技をコピーして敵に返す』という能力は強力だが、複数の攻撃を同時に叩き込まれてその許容量を超えれば跳ね返すことなどできない。

 先のシャドーパンチ、そしてダブルキックで俺のキングストーンエネルギー、そして響の高めたフォニックゲインがインパクトと同時に叩き込まれ、そのエネルギーを処理しきれずにカッシスワームが吹き飛ぶ。

 

「ば、バカな……この私が……こんなことでぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 そしてヨロヨロと立ち上がったカッシスワームはそんな最後の言葉を残すと、緑色の爆炎とともに四散した。

 

「やったか……」

 

「そうだね……」

 

 未だ燻る緑の炎を前に、強敵を倒し俺と響はホッと息をつく。

 

「それにしても本当にここは一体どこなんだろ……」

 

「さぁな、まだまったく分からない。 これから調べてみないとな」

 

「うん、そうだね……」

 

 そう言って頷き合う俺と響。その時、俺の背中をゾクリとする『直感』が駆け巡る。

 同時に、どこからか機械音声のようなものが響いた。

 

 

『エクシードチャージ』

 

『ファイナルベント』

 

 

「ッ!?」

 

「えっ……うご、けない……?」

 

 俺は見た。何かに捕まったかのように固まった響の背後、そこに黄色い円錐形のエネルギーが浮かぶ。

 さらに俺のシャドーセンサーは、俺の背後から黒いドリルのようなものが迫ってきているのを捉えていた。

 それが何なのか気付いた俺は、身体が反射的に動いていた。

 

「バイタルチャージ!」

 

 叫びとともに腕と足にキングストーンエネルギーが集中し、エルボートリガーとレッグトリガーが最大稼働する。

 

「シャドーパンチ!!」

 

 響を背後から貫こうとしていた黄色い円錐形のエネルギーにシャドーパンチを叩き込み弾き飛ばした。

 

「ぐぅ!?」

 

 だがその代償に、右腕のエルボートリガーが負荷に耐えかねて粉々に砕け散り、右腕の感覚が無くなる。しかし、今はそんなことを気にしている余裕はない。

 

「シャドーキック!!」

 

 同時に響を庇うように抱きしめると、響を抱き締めたまま仮面ライダーカブトのライダーキックのような右足で廻し蹴りのシャドーキックを放ち、背後から迫っていた黒いドリルを蹴り飛ばした。

 

「ぐっ!?」

 

「ノブくん!?」

 

 こちらも生半可な衝撃ではなく、足のレッグトリガーが砕け散り右足の感覚が無くなったことで身体を支えられなくなり右ひざから崩れ落ちる俺を、響が慌てて支えた。

 

「また敵っ!?」

 

「ああ、しかもとびっきりだ……」

 

 驚きの声を上げる響に答える俺の前で、弾き飛ばした黄色い円錐形と黒いドリルは空中でクルクルと廻っていたかと思うと、そこから人影が地上に降り立った。

 それは……。

 

「仮面ライダーカイザに仮面ライダーナイト……だと!?」

 

 魔化魍にミラーモンスター、それにさっきのカッシスワームと続いて今度は仮面ライダーの登場だ。

 

「一体、何がどうなってるんだ……?」

 

 絞り出した俺の呻きに答えるものは、その場にはいなかった……。

 




今回のあらすじ

SHADOW「で、なし崩し的に始まったカッシスワーム戦なんだが……」

ビッキー「硬すぎ! 全然効かない!?」

奏「さっすが最強ワーム、その肩書は伊達じゃないね」

防人「防御力がノイズの比じゃないからな」

キネクリ「で、挙句の果てに攻撃跳ね返しやがる。攻防隙なしだな」

カッシスワーム「一方的に殴られる痛さと怖さを教えてやろうか!」

SHADOW「ヤバッ! なんかヤベぇニュータイプみたいなこと言いながらクロックアップ発動しやがった!?
    よし、ここはロボライダーよろしくクロックアップを探知!
    アンド広域攻撃で対処だ!
    イヤーッ!!」

カッシスワーム「グワーッ!」

フィーネさん「クロックアップ対処法は『超感覚で感知+広域攻撃』にしたのね」

SHADOW「クウガみたいな先読みはちょっと技量が足りないということでここは一つ……」

カッシスワーム「見せてやろう、私のこの力は世界を制する力だということを!!」

SHADOW「こいつ、第二形態の反射使いながら第一形態のフリーズまで使いやがった!?」

ビッキー「この辺り、『あの世界』だって分かる描写だね。
     あのときは思いっきり第二形態のくせに第三形態の分身使ってたし」

奏「というか、原作でなんでやられるたびに微妙な能力に変わっていったんだろう?
  フェニックスさんみたいに強くなって復活するもんだろ普通は」

防人「それ、『再生怪人は弱い』の法則に真っ向から逆らったフェニックスさんが特殊なだけだから。
   まぁそんな風に強いせいフェニックスさんは、最後はカーズ様とディアボロ足してそのままみたいな悲惨な最後になったけど」

キネクリ「とはいえ、前の能力が使えなくなるってのはよく分からない制限だったのは事実だよなぁ……」

カッシスワーム「WRYYYYYYYYYYーーー」

SHADOW「響が死にそうってことで思い出したんだが、キングストーンって時間干渉系能力に介入できんじゃん!
    というわけで顔面パンチ!」

カッシスワーム「仮面ライダーが我が……止まった時の世界に……入門してくるとは……!!」

SHADOW「お前の敗因はたったひとつ……たったひとつの単純(シンプル)な答えだ……。
    てめーは俺を怒らせた」

SHADOW&ビッキー「「ダブルキィィィック!!」」

フィーネさん「BLACKサンがカニ怪人に勝つために特訓で使えるようになった屈伸仕様の強化パンチにダブルキックとか、アンタら鬼か」

SHADOW「よし勝った……って、響後ろ後ろ!」

ビッキー「……作品中、もっとも死に近付いた瞬間でした」

SHADOW「今度は仮面ライダーカイザと仮面ライダーナイトが襲い掛かってきたぞ」

ビッキー「……私って呪われてるかも」


というわけでVSカッシスワーム戦でした。
シャドームーンの能力でクロックアップ対策とフリーズ対策はこんな感じになっております。
しかし当時は無敵と思ったクロックアップも、対処法がそれなりに出てきたなぁと思う今日この頃。

次回も引き続き危機は続きますがついに……。


次回ですが、残念ながら来週の投稿はできそうにありません。
というか6月20日現在も体調不良でふらつきながら入力している有り様ですので……。
というわけで来週はゴルフ番組で潰れたと思ってください(笑)
何とか再来週には体調を戻して投稿しようと思いますので。

次回もよろしくお願いします。


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第29話

 訳も分からず始まった幹部級の強力な怪人であるカッシスワームとの戦いを制した俺と響。しかし、その先に待っていたのは仮面ライダーカイザと仮面ライダーナイトの問答無用での必殺技の応酬だった。

 

「ぐぅ……」

 

「ノブくん!?」

 

 仮面ライダーカイザと仮面ライダーナイトの必殺技、『ゴルドスマッシュ』と『飛翔斬』は防ぎ切ったもののそのダメージは決して小さくはない。ダメージによって右ひざから崩れ落ちた俺を響が慌てて支える。

 右腕のエルボートリガー、そして右足のレッグトリガーが負荷に耐えかねて粉々に砕けている。それだけでなくシルバーガードの装甲もひび割れ、止めきれなかったダメージが俺の身体に襲い掛かっていた。

 俺は襲い来る激痛の中で、自分の受けたダメージを分析する。

 

(さすがは仮面ライダーの必殺技、防ぎ切ったとはいえかなりのダメージだ。

 これ以上の戦闘は危険すぎる……となれば逃げるべきだが……)

 

 俺はチラリと視線を移す。そこにはゲルニュートの巨大手裏剣によって破壊され、爆破炎上した俺のバイクの残骸が転がっている。

 

(ある種の賭けだが……信じてるぞ、相棒!)

 

 俺は心の中でそう呟くと、その名を叫んだ。

 

「バトルホッパーッ!!」

 

「きゃっ!」

 

 その俺の声に答えるように、バトルホッパーが『響の胸元』から現れる。

 ……色々言いたいことはあるが今はやめておこう。

 空間から飛び出したバトルホッパーはそのまま壊れたバイクの残骸に取り着くと、いつものバトルホッパーの姿をとった。そしてカイザとナイトに向かって走り出す。

 

「「ッ!!?」」

 

 たまらずカイザとナイトは横に転がってバトルホッパーを避けた。その隙に突っ込んできたバトルホッパーに乗り込む。

 

「つかまれ響! 全力で逃げるぞ!!」

 

「分かった!」

 

 後ろから響が掴まると同時に、バトルホッパーが最初から全速で加速し始めた。だが、もちろんそのまま逃がしてもらえるほど甘いわけもない。

 

「ノブくん、後ろ! なんかガションガションいってる!」

 

「はぁっ!?」

 

 語彙が壊滅的な響の言葉に思わず背後を振り向いてみると、仮面ライダーカイザが自身の専用バイクであるサイドバッシャーで俺たちを追ってきている。

 そしてサイドバッシャーがロボット形態『バトルモード』に変形すると、左手の六連ミサイル砲『エグザップバスター』を発射した。

 

「バトルホッパー、ジャンプだ!!」

 

 俺の声に応え、バトルホッパーが大ジャンプで巨大なビルを飛び越える。俺たちを追っていたミサイルはそのままビルに直撃し、轟音をたてながらビルが倒壊する。

 その隙に、俺と響を乗せたバトルホッパーはその場から全力で去るのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 陽が落ちるまで走り回り、俺と響が潜り込んだのは郊外にあった廃工場だった。

 

「ぐぅ……」

 

「大丈夫、ノブくん!?」

 

「ああ、何とか……」

 

 変身を解いた俺たちはバトルホッパーを隠し、俺は響に支えられながら廃工場内に入り込む。事務所だっただろう場所で壁にもたれ掛かるようにして座り込むと、俺たちは息を吐いた。

 

「身体の調子はどうなの?」

 

「絶好調……とは口が裂けても言えないな」

 

 そう言って右手を上げようとするが、右手はほとんど上がらない。

 

「ご覧の通りだ。 回復までは少なくとも今夜いっぱいかかると思う」

 

 カッシスワームとの戦いと比べれば、仮面ライダーカイザと仮面ライダーナイトとの邂逅は奇襲を破ったあとに俺たちが即座に逃げることを決断したため時間としては微々たるものだが、俺が受けたダメージはそちらの方が大きい。

 

(それに何より、『ゴルドスマッシュ』がヤバすぎる……)

 

 仮面ライダーファイズに登場したすべてのライダーは、それまでの仮面ライダーと比べると破壊力のスペックにおいては一段下に設定されている。しかしその低い攻撃力を補うように、強力な特性を持っていた。それが『フォトンブラッド』だ。

 『フォトンブラッド』は仮面ライダーファイズに登場するすべてのライダーの活動源である流体エネルギーだ。仮面ライダーファイズに登場するライダーの必殺技は、基本的にこのエネルギーを相手に叩き込んで破壊するものである。だがこの『フォトンブラッド』、ただの超エネルギーというわけではなく尋常ではない『超猛毒』である可能性が各所で示唆されており、仮面ライダーファイズに登場するライダーは『低い攻撃力を毒で補う毒使い』という側面があると言われていた。

 まぁ、普通に考えて『爆発したら半径3kmがフォトンブラッドで汚染されつくす』だの『相手を灰にして倒す』ようなエネルギーがオルフェノク以外には無害なんて都合のいい話があるわけがない。説は様々あったようだが、どうやらここではその説通り『フォトンブラッド=物質を灰化させる超猛毒』のようだ。

 結果、『ゴルドスマッシュ』を弾き飛ばすためにシャドーパンチを放った右腕は今、キングストーンが全力で解毒中でそれが終わるまでまともに動かせない状態だ。もしこれが響に直撃していたらと思うとゾッとする。

 

「とにかく、今は休もう。 お互い、さすがに限界だろう」

 

「そうだね。 私も疲れたぁ……」

 

 そして安心と同時にどちらともなくグゥ……と腹が鳴る。

 

「……ノブくん、何か持ってる?」

 

「……これぐらいだな」

 

 荷物はバイクが炎上してしまったせいで響の荷物は全滅だ。奇跡的に残っているのは俺のバックに入っていたチョコレート菓子に飴、それに500mlのペットボトル飲料が一つ。あと役立ちそうなのはツーリングの非常時用に常備していたアルミブランケットくらいか……そんな菓子と飲み物を2人で分けて食事にすると、少しでも体力を回復させるために寝ることにした。

 動く左腕は何があってもいいように常に動かせるようにし、右側から響が俺に抱きつき2人でアルミブランケットに包まる。

 

「大変な旅行になっちゃったね」

 

「全くだ。 本当なら今頃、美味いもの食べて温泉入って2人であったかい布団にいただろうに……」

 

 だが現実は廃工場の中で空きっ腹を抱えて、アルミブランケットで野宿である。

 ……おかしい、俺たち2人で練りに練った『第二次お泊りデート』が、どこで何を間違えたらこうなるんだ?

 

「俺たち2人、絶対前世でヤバいことやって呪われてるんだろうなぁ。

 じゃなきゃこんなに不運(ハードラック)(ダンス)っちまったような酷い目に合うはずないぞ」

 

「あははっ、そうだよね。

 でも……何だか2人で家出したあの時みたいでちょっと懐かしいかも」

 

「それは確かにな」

 

 しばらくの間、2人で笑い合う。だがそれも終わると、ポツリと響が不安そうに言った。

 

「ねぇノブくん……私たちどうなるのかな?」

 

「……ここは間違いなく俺たちのいた世界とは違う『異世界』だ。

 いきなりよく分からない世界に来たが……来れる以上、必ず帰る方法もあるはずだ。

 まだこの世界のことは何も分からないが……必ずこの世界で生き抜いて、未来やみんなのところに2人で帰ろう!」

 

「……うん!」

 

 俺の言葉に力強く頷く響。それで安心したのか、昼間の戦闘で疲れていたのか……まぁ、両方だろう。しばらくすると響が寝息をたて始める。

 

「……」

 

 そんな響の頭を一撫ですると、俺は今日の情報を頭の中で纏める。

 魔化魍にワームにミラーモンスター、カッシスワームに仮面ライダーカイザと仮面ライダーナイト……まだこの『世界』の正体にはたどり着かないが、嫌な予感めいたものがある。

 

「……例え何が相手でも、俺は必ず響を守る」

 

 眠る響にそう誓うと、俺も回復のために眠ることにする。

 キングストーンエネルギーが、優しく俺と響を包んでいた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 翌朝の目覚め……気分は目が覚めたら目の前に響の寝顔がある以外は最悪であった。 

 そのセンサーで寝ずの番をしてくれたバトルホッパーからの警告、そして何よりキングストーンからの『直感』が敵の来襲を告げている。

 

「響起きろ、敵だッ!」

 

「っ!?」

 

 響も今までいくつもの戦いを超えてきた猛者だ。俺の声に一瞬で飛び起きると、手や足を動かし、今の自分のコンディションを推しはかる。

 

「昨日の疲れも残ってないし、身体も少しお腹が減ってること以外は大丈夫だよ」

 

「響が腹ペコってあんまり大丈夫そうじゃないな」

 

 俺は響の言葉に苦笑すると、真顔に戻って言う。

 

「それじゃ……響!」

 

「うん!」

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron……」

 

 

「変……身ッッ!!」

 

 

 

 俺の言葉に頷いた響が起動聖詠を歌い上げギアを纏い、俺もSHADOWへと変身を果たす。

 変身して動かしてみると、キングストーンのフォトンブラッドの解毒は完了したようで右腕の動きには問題はない。同じように仮面ライダーナイトの『飛翔斬』とぶつかり合ったことで受けていた右足のダメージも残ってはいない。だが、右のエルボートリガーとレッグトリガーの修復は間に合わなかったようで砕け散ったままだ。

 

「ノブくんは大丈夫なの?」

 

「ああ、問題はない。 それより……来るぞ!」

 

 その瞬間、廃工場の中に入ってきたのは……。

 

「えっと……槍を持った灰色の鬼に、ミイラ男?」

 

「魔化魍・ワーム・ミラーモンスターと来て、今度はグールと屑ヤミーかよ!?」

 

 それは仮面ライダーウィザードに登場した量産型ファントムであるグールに、仮面ライダーオーズに登場した屑ヤミーだ。

 

(本当に、ここはどんな『世界』なんだよ!?)

 

 心の中で毒づきながらも俺と響は構えをとる。すると、そんな俺たちにグールと屑ヤミーの集団が襲い掛かってきた。

 

「はぁ!!」

 

 響の拳が屑ヤミーを捉える。衝撃に数歩後ずさる屑ヤミーに、さらに追撃の膝が叩き込まれるとそれに耐えきれず屑ヤミーはセルメダルの破片を残して崩れた。

 だが、そんな響の後ろから槍を構えたグールが数体襲い掛かろうとしていた。

 俺はキングストーンに意識を集中させると、そのエネルギーを物質化する。

 キングストーンから引き抜かれたのは左右大小の紅い剣……これぞ本邦初公開のシャドーセイバーだ。

 

「はぁ!!」

 

 右の長剣で響を襲おうとしていたグールを横薙ぎに一閃して倒す。すると俺に向けて槍を突いてくるがそれを左の小剣で受け流すと、長剣で一閃して倒した。

 

「ノブくん!」

 

「こっちは任せろ! お前はそこのミイラどもに全力を叩き込め!!」

 

「うん!!」

 

 俺の言葉に頷いた響が拳を構える。同時にブースターが点火し、響が屑ヤミーの集団に踏み込んだ。

 まるで火の玉のようになった響に、屑ヤミーの集団が吹き飛んでいく。そして響はそのまま飛び上がると、全力の蹴りを放った。

 

 

「我流、星流撃槍!!!」

 

 

 それはまるで空から降り注いだ槍の一撃だ。その衝撃と巻き起こるフォニックゲインが屑ヤミーの集団を残らず吹き飛ばした。

 

「こっちも負けてられないな!」

 

 響の戦いを見て奮い立った俺は、グールの集団へと向き直るとその集団の中心へと飛び込んだ。

 

「はぁ! たぁ!!」

 

 グールどもの槍衾を強引に乗り越えると、左右のシャドーセイバーを振り回す。さすがはシャドーセイバー、あのリボルケインと同質と言われるだけありその威力は絶大だ。それこそ温かいナイフでバターを切るかの容易さでグールたちが切り裂かれていく。

 

「シャドービーム!!」

 

 そして最後はシャドーセイバーを介して増幅したシャドービームを放つ。シャドーセイバーの先から扇状に放たれた稲妻状のビームに巻き込まれ、グールの集団は吹き飛んでいた。

 

「終わった?」

 

「……いや、まだだ! 本命が来る!?」

 

 俺は響を抱き締めるように抱えて飛びずさると、上から屋根を突き破ってミサイルが飛び込んできた。

 閃光と爆発、その衝撃が容赦なく俺と響を襲う。

 

「うぉぉ!?」

 

「きゃぁぁ!?」

 

 抱き合ったまま地面を転がる俺たちの前に、バトルモードに変形したサイドバッシャーが降り立つ。

 そしてその操縦席から仮面ライダーカイザが飛び上がった。

 

 

『エクシードチャージ』

 

 

 機械音声とともに、カイザが空中で拳を輝かせながらこちらに迫ってくる。

 

「くぅ!?」

 

 俺は素早く起き上がるとシャドーセイバーをクロスさせて防御態勢をとった。カイザの必殺パンチ、『グランインパクト』がシャドーセイバーとぶつかり合う。

 

「お、おぉぉぉぉぉ!!!」

 

 衝撃に俺の足が地面へとめり込むが、抑え切った。

 

「このぉぉぉぉ!!」

 

 その隙に体勢を立て直した響が起き上がると、カイザの腹に蹴りを叩き込んだ。カイザは衝撃で空中に吹き飛ぶものの、空中で体勢を整えると地面に降り立つ。

 そこを追撃しようとした俺と響に、別の方向からの攻撃が襲い掛かった。

 

 

『ナスティベント』

 

 

「「あああっっ!?」」

 

 機械音声とともに巻き起こった超音波に脳を揺さぶられ、思わず苦痛の声を漏らす俺と響。

 衝撃で揺れる視界には、契約モンスターである『ダークウイング』に超音波を発生させながら剣を片手にこちらに迫ってくる仮面ライダーナイトの姿が!

 

「負けない……音には歌でぇぇぇ!!」

 

 歯を食いしばった響が歌を口ずさむとギアを纏う時に展開されるフォニックゲインのバリアフィールドが展開、ダークウィングの超音波を中和する。

 

「はぁ!!」

 

 その範囲内にいた俺は素早く立ち直ると、左の小剣で仮面ライダーナイトの剣を受け止めると右の長剣を振るう。

 その攻撃にたまらずナイトは大きく距離をとった。

 そんな俺たちに、今度はバトルモードのサイドバッシャーが右手にあたる部分を向けようとする。4連装濃縮フォトンブラッドバルカン砲の砲口がこちらを向こうとするが、そこにバトルホッパーが体当たりをし、サイドバッシャーが吹き飛んで廃工場の壁にめり込んだ。

 

「「……」」

 

 攻防の後、カイザとナイトは変わらず俺たちに敵意を向けながらこちらににじり寄ってくる。

 

「何故だ! 何故俺たちに襲い掛かってくる!?」

 

 何か分からないかと俺は問いかける。するとカイザがネクタイを緩めるように襟元に触れる仕草をしながら言った。

 

「……王の偽物。お前は邪魔なんだよ……」

 

「王の偽物?」

 

 カッシスワームも言っていた『王の偽物』という単語……俺が『偽物』だというのなら当然『本物』は『アレ』なわけだが……。

 

(カイザとナイトが『アレ』を王だと従うような世界……あったか、そんなの?)

 

 俺の中をそんな疑問が駆け巡る。

 だが、いまはそのことをゆっくりと考える余裕はない。

 

「ノブくん……」

 

「やるぞ、響……絶対に油断するな!」

 

 響の言葉に俺はシャドーセイバーを構え、響も拳を構える。

 カイザとナイトも臨戦態勢、いつ戦端が開かれてもおかしくない状態だ。極度の緊張が俺や響を襲う。

 だがその緊張は、別のところから遮られた。

 

 

ドンッ!!

 

 

 再び、廃工場の壁が何かによって突き破られる。

 そしてそこから飛び出してきたのは……。

 

「ロボットと赤い龍?」

 

 空を飛ぶそれは銀のロボットと赤い龍だ。その正体を知る俺は心の中で叫ぶ。

 

(オートバジンとドラグレッダーだと!?)

 

 それはオートバジンとドラグレッダーだ。それがいるということは!?

 

「草加ァ!」

 

「蓮!」

 

 そして飛び込んできたのは仮面ライダーファイズと仮面ライダー龍騎だった。

 

「ちぃっ!」

 

「くっ……!」

 

 その様子に形勢不利と見たのか、カイザはサイドバッシャーをビーグルモードに変形させると廃工場を去っていき、ナイトは廃工場に残っていたガラスからミラーワールドに消えた。どうやら退いてくれたようだ。

 

「……助かった?」

 

「いや、それは早計かもしれないぞ」

 

 俺は響の希望的な言葉に首を振る。すると案の定、ファイズと龍騎は俺に向けて構えをとった。

 

「見つけたぞ」

 

「お前、蓮達を元に戻せ!」

 

 その言葉に、俺は頭を抱えた。 

 

(しょうがないことだが……やっぱり俺を完全に『シャドームーン』だと認識している!?)

 

 俺は頭を抱えたくなる気持ちを押さえつけ弁明の言葉を述べようとするが、それが新たにやってきた2台のバイクの急停止の音にかき消された。

 そしてそこにいるのは……。

 

「出やがったな銀ピカ野郎! 今度こそ倒してやるぜ!

 いくぜいくぜいくぜ!!」

 

 やたら好戦的な物言いで、マシンデンバードから降りた仮面ライダー電王がいきなり剣を片手に走ってくる。

 俺は咄嗟にシャドーセイバーで防ごうとするが……。

 

「ま、待って下さい!!」 

 

 止める間もなく、響が電王の前に割って入った。

 

「なんだぁ、この水着みてぇなの着た恥ずかしい恰好の娘っこは?」

 

「は、恥ずかしい恰好とか言わないでください!!」

 

 恥ずかしい恰好というあんまりな言葉に響が顔を赤くするものの、ブンブン首を振ると言い放つ。

 

「ノブくんに何するんですか! ノブくんは何にもしてないじゃないですか!!」

 

「何言ってんだお前? 俺たち仮面ライダーを歴史から消し去ろうとした悪ぃヤツじゃねぇか、そいつ」

 

 響の言葉に返す電王。その言葉を聞いて、俺の脳裏に閃くものがあった。

 

(歴史から仮面ライダーを消す!? となるとこの『世界』はまさか……『あの世界』かッ!!)

 

「待て」

 

 その時、意外なところから助けが入った。

 

「その子といい、何か様子がおかしいな。

 お前……本当に俺たちを消そうとした『秋月信彦』とやらか?」

 

 そう言ってきたのは電王と一緒にやってきた、マシンディケイダーから降りた仮面ライダーディケイドだ。

 

(よしっ! そのまま「だいたい分かった」っていいながら誤解を解いてくれ!)

 

 そう心の中で俺が喝采を上げていると再び、3つのバイクの急停止音が響く。

 そしてそれを見た俺は……正真正銘、固まった。

 その3台のマシーン……青、赤と白、緑のマシーンとそれに跨る者に俺は動けなくなってしまったのだ。

 

「あれ……バトルホッパーの色違いだ」

 

「違う」

 

 響の呟きを、つい俺は否定する。

 

(あれは色違いじゃない。 ()()()()()()()()()()()!)

 

 そしてそこにいるのは青いマシーン……アクロバッターから降りた『仮面ライダーBLACK RX』。

 赤と白のマシーン……サイクロンから降りた、すべての始まりの『仮面ライダー1号』。

 そして緑のマシーン……バトルホッパーから降りた『仮面ライダーBLACK』。

 その3人がそこには並んでいたのだった。

 

「シャドームーン! ……いや、何かが違う!?」

 

「お前がこの事件の黒幕、シャドームーンか……違うな。

 そこの少女ともども、邪悪な気配を感じない」

 

 RXと1号が次々に、俺の疑いを晴らすようなことを言ってくれる。

 

「この気配……信彦じゃない! 君は一体……」

 

 そして最後にBLACKも、俺が『秋月信彦』とは別人だと分かってくれたようだ。

 

「……響、ギアを解除してくれるか」

 

「……うん、ノブくんの判断を信じる」

 

 このメンバーを相手に、いくらなんでも勝つことも逃げることも不可能だろう。ここで誤解を解くしかない。

 俺の言葉に、響は頷くとギアを解除する。同時に、俺も変身を解除した。

 

「子供!? 君は一体……?」

 

 俺と響の姿に、1号が驚きの声を上げる。

 

「俺は……」

 

 だが、俺はその先の言葉が出なくなってしまった。そして、俺は言葉を絞り出す。

 

「俺は月影信人、またの名を……『SHADOW』、戦士『SHADOW』だ……」

 

「?」

 

 そんな俺の横で聞いていた響だけが、どうしたのかと首を傾げるのだった……。

 




今回のあらすじ

SHADOW「あかんこれじゃ俺ら死ぬゥ!」

ビッキー「ゴルドスマッシュと飛翔斬はもう殺意高過ぎ!」

SHADOW「というわけでここは逃げの一手だ。バトルホッパー!!」

バトルホッパー「呼んだ?」

防人「……またコイツは響の胸の谷間から出てきたぞ」

バトルホッパー「文句は胸に谷間つくってからどうぞ」

防人「……なぁ月影、コイツ処す処す?」

SHADOW「色々言いたいことはあるが後回し! さっさと逃げるぞ!」

ビッキー「後ろからサイドバッシャーもエグザップバスター撃ってくるしシャレになってない!!」

キネクリ「あたしの方が弾幕は上手だな!」

奏「何と争っているんだか……」

SHADOW「とりあえず水ポチャを狙ったが出来なかったんで、爆発に紛れて逃げてきたぞ。とりあえずまたいつもの廃工場で休む」

ビッキー「廃工場とかって普通そんなにないってのは、こういうのではお約束なんだから言わない約束だよ」

SHADOW「フォトンブラッドの猛毒でオデノカラダハボドボドダ!」

奏「この辺りの『フォトンブラッド=猛毒』って、公式ではアナウンスはないんだろ?」

防人「作者がコンビニで買った『仮面ライダーの秘密』とかにはそういう記述もあったらしいけど、あれを公式とは出来ないしな」

SHADOW「とはいえ『アクセルフォームで爆発したらフォトンブラッドで周囲が汚染される』とかそれっぽいのもあるし、何よりオルフェノクを瞬時に灰にするまでは相性で理解できるが、劇場版のコロッセオ(さいたまスーパーアリーナ)をあれだけボコボコにする超エネルギーが安全です、ってのはな……」

スマートブレイン社「わが社のフォトンブラッドはとてもクリーンなエネルギーです」

SHADOW「欺瞞ッ!」

キネクリ「さすが暗黒メガコーポ、一かけらも信憑性がない」

ビッキー「というわけで、少なくともこの作品では『フォトンブラッド=ヤバい超猛毒』で『ファイズは低い攻撃力を毒で補う毒使いライダー』ってことになるよ」

SHADOW「おかしい……今夜は響とベッドで情熱大陸(意味深)の予定だったのに何故野宿に……?」

ビッキー「なんでこんな、不運(ハードラック)と踊(ダンス)っちまったような酷い目に……?」

フィーネさん「リア充の不幸でメシが美味い!」

キネクリ「で、当然のように追撃がきたぞ」

奏「今度はグールと屑ヤミーか……本当に仮面ライダーの敵オンパレードだね」

SHADOW「で、今回が初公開のシャドーセイバー!」

カイザ「邪魔なんだよ……」

SHADOW「ぎゃー、空中グランインパクトとかクロコダイルオルフェノクになるぅ!?」

ビッキー「音は歌に弱い!」

防人「なんだその『砂は音に弱い』並のゆで理論めいた超理論は……?」

キネクリ「で、戦いが始まるかと思ったら……」

SHADOW「仮面ライダーのエントリーだぁ!!
    ……龍騎にファイズに電王にディケイド、RXに1号にBLACK……いや、仮面ライダーファンとしては普通に感動なんだが、こんなのに囲まれて敵だと思われたら確実に死ぬわぁ!
    ディケイドさん、お願いですから無敵の『だいたい分かった』で超速理解してくださいよぉぉ!!」

ビッキー「見た感じシャドームーンと同じ悪人顔に見えるかもしれんけど、ひとりひとりの個性を見てもらいたいから」

奏「いやいや、そんなんわからへんやん!
  そんなもん、お前……チビッ子は見た目やで?」

BLACK「信彦じゃないな!」

SHADOW「てつをさん超信じてました!
    そういうわけで変身解除して事情説明するぞ!」

ビッキー「あれ、『仮面ライダーSHADOW』って名乗らないの?」

SHADOW「……まぁ、これがG編前にやっておきたかった今回のテーマだからな。今回の劇場版通してやっていくよ」


というわけで歴代仮面ライダーとの邂逅でした。これでここが『何の世界』か分かったんじゃないかと……。
『フォトンブラッド=猛毒』の辺りはネットではそう言われていますが公式ではしっかりとは明言されていません。なのであくまで『この作品ではそうである』と思ってください。

次回はあの列車に乗ることに。
さて……『あれ』と『あれ』やらなきゃ!


コロナ関係で仕事が忙しく、体調もよく無いのですがなるべく来週も変わらず更新したいなぁ……。

次回もよろしくお願いします。


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第30話

お久しぶりです、作者のキューマル式です。
前回の投稿から約2ヶ月ほどたってしまいました。

プライベートで色々……はっきり言うと不幸があって未だ何かするような気力がほとんど湧かない状態です。
そのため定期的な投稿は無理そうなので、できる限りでゆっくりやっていこうと思います。

今回はついにあの列車に搭乗です。


「『聖遺物』に『ノイズ』、そして『シンフォギア』……なるほど、興味深い」

 

 俺と響の話を聞き頷くのは仮面ライダーWの半身、フィリップさんである。

 そんな俺たちの話を、その場にいた全員が興味深そうに聞いていた。

 

 ここは時を駆ける列車『デンライナー』の食堂車だ。

 あの後……仮面ライダー1号たちとの邂逅を果たした俺たちは、そのままこのデンライナーへと連れてこられた。どうせ俺たちには行くあてもない。それに、この世界にやってきた理由は確実にこの事件のためだろう。俺たちもそれに関わらねばならない以上、渡りに船である。

 そして俺と響は歴代の仮面ライダーたちに囲まれながら俺たちの事情……こことは違う世界からきたこと、俺たちの世界の歴史、今までの俺たちの戦いといったことを説明していたというわけだ。

 この時、俺は完全に呼吸を忘れるレベルで緊張していた。

 よく考えて欲しい、昭和ライダーから平成ライダーまで勢ぞろいで、しかもリイマジではなくオリジンが自分を囲んでいるのだ。物心つく前から彼らの活躍を知る者としては失神ものである。ちなみに俺はフィリップさんの生で『興味深い』が聞けて感動的だな。決して無意味ではない。

 とはいえ、今は響もいるしそんな状況でもないのでそんな俺の心情は表に出さないように努めて話を続けた。

 

「だいたい分かった。 俺たちの知らない世界のシャドームーンとその仲間ってことだな」

 

 仮面ライダーディケイドこと門矢士さんの『だいたい分かった』も飛び出し感激である。だが今までの行動とここまでの説明で『大体わかった』してくれないと最悪、俺と響が囲んで蹴られる(オールライダーキック)になるので冷や汗ものだ。

 

「そうか……シャドームーンが正義のために戦う世界もあるのか……」

 

 感慨深そうに頷くのは仮面ライダーBLACKと仮面ライダーBLACK RX……黒ジャケットと白ジャケットの2人の南光太郎さんだ。

 ……直接シャドームーンと関わりの深い2人にとっては俺という存在に思うところがあるのだろう。その心中を測ることはできない。

 

「しかし響ちゃんのあの姿……確かどこかで……?」

 

 ……何やらRXの方の南光太郎さんが響のことに言及しているのだが……なんだろうか?

 ひとしきり説明が終わり、歴代仮面ライダーたちに納得という空気が流れる中、今度はこちらと響が口を開く。

 

「あの……それでみなさんのこととか、さっきから皆さんの話に出てる『シャドームーン』って人は……?

 たしか超古代文明よりずっと前に『ゴルゴム』って悪いやつらをやっつけた、ノブくんと同じ力の人の名前だったような……?」

 

「君たちの世界の歴史ではそうなっているのか?」

 

 響の発言にまたも驚きを隠せない2人の南光太郎さん。

 そんな中、今度は歴代仮面ライダー側の事情が始まろうとしたその時。

 

 

ぐぅ……

 

 

「はぅ!?」

 

 響のお腹が可愛らしく鳴った。さすがにこれだけの人数に注目されながら腹が鳴るのは恥ずかしかったらしく顔を赤く染めるとお腹を押さえる。

 歴代仮面ライダーたちの方も、緊張感がなりを潜め、柔らかい空気に変わった。

 すると、そこを狙ったかのように大きな2つの皿を持った女性がやってくる。両腕と両足首には大量の腕時計を纏い、髪には1束だけ濃いピンク色のメッシュが施された女性……デンライナーの乗務員のナオミさんだ。

 そんなナオミさんが俺たちの前に皿を置くとクローシュ(金属製の覆い)を取る。

 するとそこには……。

 

「はい、そろそろお腹が空く頃だと思ってつくってました!」

 

「わぁ……!」

 

 そこにあったのは予想通り、『旗付きチャーハン』である。昨日からまともに食べ物を口にしていない俺もそのいい匂いにつられて、自然とゴクリと喉が鳴る。

 

「これ、食べていいんですか!?」

 

「はい、どうぞ」

 

 ナオミさんがニコニコ笑いながら言ってくれると、俺たちに話を聞く進行役をしてくれていたフィリップさんも頷いてくれる。

 

「そうだね、続きは食事を取りながらにしよう」

 

「それじゃいただきま……」

 

「待て、響!」

 

 さっそくチャーハンに匙を向けた響を、俺は慌てて止める。

 

「どうしたの、ノブくん?」

 

「……響、このチャーハンは『旗を倒さないように食べる』んだ」

 

「??」

 

 突然何を言っているのか分からないという様子の響を尻目に、俺は慎重にチャーハンに匙を入れる。視界の隅でデンライナーのオーナーがすごくいい顔をしてこちらに頷いていたのが印象的だった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……というのが現在の僕たちの状況だ」

 

 そう説明を終えるフィリップさん。俺は予想が確信に変わり、頷いた。

 

(やっぱり、ここは『バトライド・ウォー創世の世界』だったのか……)

 

 『バトライド・ウォー創世』……これは仮面ライダーを扱ったゲームのタイトルだ。

 昭和ライダーと平成ライダーが協力して大量の怪人たちと戦っていた時、次々と仮面ライダーたちが消滅する現象が発生。消滅を免れた仮面ライダーゴーストと仮面ライダー電王の2人は、仮面ライダーの消滅は何者かによって仮面ライダーたちの歴史が改変されたためだと知る。消滅した仮面ライダーたちを救うためゴーストと電王は過去に跳び、歴史改変を阻止しようとする……それが大まかなあらすじだ。

 

 この『バトライド・ウォー創世』、話が大きくいくつかの章に分かれる長い話だ。

 まず『平成ライダーたちが最初に戦った敵が何者かに強化されたことで敗北した』ことになってしまった歴史に介入、救出する『平成ライダー救出編』。

 平成ライダー救出後、仮面ライダー響鬼の提案で戦力強化のためにお互いに戦う『特訓編』。

 そして次は昭和ライダーたちを救おうと過去に向かおうとするも、ついに現れた歴史改変の黒幕である『シャドームーン』が襲撃。あわやというところで所謂『平成2号ライダー』たちがシャドームーンを抑える中、過去へ向かう。

 そのまま『仮面ライダー1号』や『仮面ライダーV3』を救う『昭和ライダー救出編』に突入。

 助け出した1号の助言に従いシャドームーンと深いつながりのある『仮面ライダーBLACK』を救出。BLACKの案内でシャドームーンの待つ時の向こうのゴルゴム神殿へと向かおうとするも、シャドームーンを抑えるために挑んだ『平成2号ライダー』たちが敗北し洗脳され、シャドームーンの手駒にされてしまう。そんな平成2号ライダーたちを救出するのが『平成2号ライダー救出編』。

 そしてゴルゴム神殿にたどり着きシャドームーンと決着をつける『決戦編』という中々に長い物語なのだ。

 

 話を総合して考えると、どうやらここは『バトライド・ウォー創世の世界』で間違いない。そして今の時系列は『平成2号ライダー救出編』の真っ最中というところのようだ。

 

(こりゃ、俺の姿で敵味方襲い掛かってくるもの当然か……)

 

 俺はカッシスワームやカイザの言葉、そして歴代仮面ライダーの俺への警戒に納得してしまう。

 何と言ってもこの『仮面ライダー消滅歴史改変事件』、黒幕は『シャドームーン』なのだ。それと同じ姿の俺は敵から見たら『偽物』、仮面ライダーから見たら『事件の元凶』……襲ってきて当然である。

 

(……本当に俺、呪われてるんじゃないか?)

 

 そんな風に思って心の中でため息をついた。

 

「それで……君たちはどうする?」

 

 話が一通り終わり、目の前でそう聞いてくるのは仮面ライダー1号こと本郷猛さんだ。

 その言葉にチャーハンを食べ終えた俺たちは顔を見合わせるとお互いに頷き合う。

 

「俺と響も、みなさんと一緒に戦います」

 

 俺の言葉に、隣で響も頷いた。

 

「ここは俺たちにとっては、まったくの異世界です。

 でもここに来た以上、何か理由があるはず……その理由はきっと、この事件なんでしょう。

 だから……元の世界に帰るためにも、俺も響もみなさんと一緒に戦いますよ」

 

「……わかった。

 では我々は君たちを歓迎するよ、信人くん、響くん」

 

「「はい!」」

 

 そう言って差し出された本郷さんの手を俺と響は思わず握り返す。

 その手は大きく、温かだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 こうして、俺と響は歴代仮面ライダーたちと一緒に、『仮面ライダー消滅歴史改変事件』に関わることになった。

 今仮面ライダーたちは洗脳された『平成2号ライダー』たちを救出して回っているわけだが、四六時中戦うというわけでなくまずはその居場所を探ることから始めねばならず時間がかかる。その間はデンライナーで生活をすることになったわけだ。

 すると少し困ったことも起こるわけで……。

 

「どうしよう、ノブくん……」

 

「うーん……」

 

 話も食事も終わり、デンライナーを案内してもらっているときに俺たちはそれに気付いた。

 

「荷物、全部燃えちゃった」

 

 そう、俺たちが今回の旅行のために持ってきていた荷物はバイクと一緒に炎上した。

 そのため俺も響も揃って、着替えもないことに気付いたのだ。

 

「うーん……少しの小銭と明日のパンツがあれば大概は何とかなるけど、それすらないと困ったね」

 

 ……火野さん、確かにその通りですが響は女なのでパンツだけあってもそれはそれで困りものです。

 とはいえ、衣類が無いのは問題である。手に入れようにもデンライナーで俺たちの世界の金が使えるわけもないし、携帯通信機の支払いも出来ないだろう。

 すると……。

 

「私に任せて!」

 

「きゃっ!?」

 

 そう言ってナオミさんがどこかに響を引っ張っていく。

 そしてしばらくすると……。

 

「ひ、響……その恰好ッ……!」

 

 やってきたのはナオミさんと同じデンライナー乗務員ユニフォームを着た響だ。

 

「ナオミさんが私にって……その……下着とかも新しいのを一緒に……。

 ノブくん……どうかな?」

 

 顔を赤くしてもじもじと恥ずかしそうに身体をくねらす響。

 響のあまりに可愛すぎる様子に、俺は思わず視界の隅でウインクするナオミさんに心の中で最敬礼した。ナオミさん、あなたを神として崇拝しよう。

 

「その……陳腐な言葉しか出ないけど……すっごく可愛いぞ」

 

「えへへっ♪」

 

 そんな風に嬉しそうに笑う響を見て、俺も自然と笑う。

 その後はデンライナーを案内してもらいつつ、歴代仮面ライダーたちに色々な話を聞くことになった。俺としてはもう、感動で死んでしまいそうである。

 ただ……一つ思うことがある。

 

(ああ、この人たちは正しく『本物の仮面ライダー』なんだ……)

 

 話せば話すほど、そんな当たり前以外の何物でもないことを痛感する。

 それを思い知るたびに思うのは、自分との差だ。

 

(俺は……所詮は自分への戒めのために仮面ライダーを『自称』しているだけでしかない……)

 

 偶然にも持っていたシャドームーンの力、その力を悪用しないという自分への誓いと戒めのために『仮面ライダー』を名乗った……それが間違いだとは思わない。だが、本物を前にしてまで『仮面ライダーを自称』できるほど図太くもない俺は彼らを前に『仮面ライダーSHADOW』とは名乗れなかった。おかげで響には妙な顔をされてしまったが……。

 話をするうちにいい時間になっていた。俺も響もデンライナーの入浴車で風呂を使わせてもらいあとは寝るだけである。

 ……俺と響が恋人同士だという話はしているが、当然ながら同じ部屋にしてもらえるはずもなく、響はナオミさんのところで寝ることになった。

 

「ノブくん」

 

「んっ?」

 

 日課になっている響へのシャドーフラッシュによる疲労回復も終えて就寝のためお互いに宛がわれた部屋へ向かう最中、響はそう言って一度周囲を見る。

 そして……。

 

 

 チュッ♡

 

 

「ちょっと旅行の予定と変わっちゃったからその……『そういうこと』はできないから今はこれで……ね」

 

 少し背伸びをしてキスをしてくると、いたずらが成功した子供みたいに響が笑う。

 

「おやすみ、ノブくん♪」

 

 そして、そのまま響はナオミさんの部屋へと入っていった。

 

「んっ~~~!!?」

 

 俺はデンライナーの通路で響のあまりの可愛らしさに身悶える。多分、今俺は過去最高クラスにキモイ顔をしていることだろう。

 俺はそんな熱を覚まそうと食堂車に向かったのだが……。

 

「あっ……」

 

 入るなり、俺に視線が集中する。それで俺は察してしまった。

 

「若いっていいもんだね」

 

 ヒビキさん、あなたも十分若いでしょうに。

 というか、天道さんとかクール系な人たちは我関せずといった感じだが、平成ライダーの人たちの視線は微笑ましいものを見るような目だ。

 だが、昭和ライダーの人たちの視線は少し厳しめである。

 

「信人くん……」

 

「は、はい」

 

 しばらくすると、代表するように本郷さんが俺に言ってくる。

 

「君と響くんが愛し合う恋人同士なのは分かるが……そんな若い身空で不純異性交遊はいけない。

 互いの人生に責任を持てる大人になるまでは、節度を持った異性交遊でなければいかんぞ。

 いいね?」

 

「アッハイ」

 

「そもそも男女の付き合いというものは、だ……」

 

 その後、俺はしばらく本郷さんから清いお付き合いという『指導』を受けることになるのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 どことも知れぬ神殿、その玉座の間。

 

「キングストーンの……『月の石』の気配がする」

 

 その中心で銀の影が呟く。

 

「不愉快だな、『偽物』め……」

 

 その呟きとともに、銀の影は紅い剣を手に歩き出す。

 

 

 カシャ、カシャ、カシャ……

 

 

 神殿内に金属質な足音が響く。

 嵐が、迫っていた……。

 

 




今回のあらすじ

フィリップ「なるほど……興味深い」

もやし「大体わかった」

SHADOW「生名台詞が聞けて俺の興奮が有頂天!」

ビッキー「なんかノブくんが死ぬほど興奮してる件」

SHADOW「ライダーファンが本物と会えれば、こうもなろう!
    ……ぶっちゃけ、これで説得できなかったら『オールライダーキック=相手は死ぬ』の刑に処されるので内心ではドキドキだぞ。
    そして!!」

ビッキー「ごはん&ごはん!!」

防人「名物チャーハンの登場に今度は立花が興奮しているぞ」

奏「まぁ、こういうシーンがクロスオーバーの醍醐味だからね」

SHADOW「やはりここは『バトライド・ウォー創世』の世界だったか!」

キネクリ「まぁ、普通に清めの音なしでバケネコさんぶっ殺せたし、色んな敵がわんさか出てきておまけに『平成2号ライダー』のナイトやカイザが襲い掛かってくるわでヒント盛りだくさんだったし、分かりやすかったんじゃないか」

SHADOW「つーか、敵味方(怪人とライダー)両方から問答無用で襲われるような状況にいきなり放り込むキングストーンさんマジ鬼畜!」

月の石「君ならできるよ(笑)」

ビッキー「バーリア〜!平気だも〜ん!(笑)」

SHADOW「おい、月の石とウェヒヒ蜂。作者含めたシューターの皆さんを煽るんじゃあない!」

OOO「少しの小銭と明日のパンツがあればいい」

SHADOW「少しの小銭と明日のパンツだけの響……素晴らしいッ!Happy Birthday!」

393「……フゥ、言い値で買おう!」

キネクリ「おい、2人揃ってとんでもない欲望がダダ漏れてんぞ!」

ビッキー「彼氏と親友がクズ過ぎてワロエナイんですがどうしたらいいですか?」

奏「諦めたら?」

防人「そしてクロスオーバーの醍醐味その2的な、ナオミさん衣装な立花」

ビッキー「えっと……どうかな?」

SHADOW「露出だけがエロスじゃないと教えてくれる、とても素晴らしい衣装です」

393「わかりみが深い」

キネクリ「……世界平和のためにもこの2人は早く封印したほうがいいと思うぞ」

SHADOW「ああ、話すとわかる。俺って所詮、『自称』仮面ライダーなんだな……」

奏「ここが今回の劇場版編のテーマの一つだね」

ビッキー「ノブくん♡ おやすみのチュッ♪」

SHADOW「背伸びおやすみキッスとか、響が可愛すぎるんじゃぁ!!」

フィーネさん「……もしもし、ミュージアムさん。大至急、スパイダーメモリを送って頂戴。この世からリア充をすべて爆殺するから」

防人「あのメモリって最初期のメモリのくせに滅茶苦茶強いわよね。使いようで世界崩壊させられそうだし」

キネクリ「間違ってもフィーネみたいな永年喪女には持たせちゃいけないメモリだよな」

フィーネさん「キネクリ、お前今度マジで殺すわ」

SHADOW「こんなことされて健全な男子高校生が耐えられるわけないやろ! どこかで隠れて響としっぽり初体験を………」

1号「不純異性交遊はいけない、イイネ?(ライダー威圧)」

SHADOW「アッハイ」

???????「偽物の気配がするでム~ン」

SHADOW「それ違うバージョンだろ!?」


というわけでデンライナーに乗車するの巻でした。
色々クロスオーバーとしてやっておきたいことを好き勝手にやりました。

次回もよろしくお願いします。


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第31話

 ギンッ!! キィィン!!

 

 硬い金属同士がぶつかり合う音が、埠頭へと響く。

 今は『平成2号ライダー救出』の真っ最中、それに協力した俺に相対するのはあの仮面ライダーアギトで最強ランクの敵である『水のエル(強化体)』である。

 

「ヌゥン!!」

 

「ぐっ!?」

 

 繰り出される長斧『怨念のバルディッシュ』のその重い一撃を、俺はシャドーセイバーで受ける。だがその衝撃を受け止めきれず俺は空中へと投げ出された。

 

「シャドービーム!!」

 

「ヌゥッ!?」

 

 だが俺は空中で体勢を立て直すと、シャドーセイバーからシャドービームを放射する。

 その衝撃に一歩下がる水のエル、だがすぐに踏みとどまると手を掲げた。

 

「ッ!!?」

 

 俺の頭上に、ロードの紋章状のエネルギーが現れるとそれが降ってくる。

 着地と同時に横に転がると、今まで俺のいた場所にエネルギーが炸裂し大爆発が巻き起こった。

 

(さすがはアギトとギルス、それにG3-Xにアナザーアギトの4人がかりでも苦戦した相手だ……本当に強い……)

 

 カッシスワームの『クロックアップ』や『フリーズ』のような驚くような特殊能力があるわけでもないが、『水のエル』は単純明快に強い。

 

「……」

 

 体勢を立て直しシャドーセイバーを構え直す俺、そしてそんな俺を見据えて『水のエル』も『怨念のバルディッシュ』を構え直すと互いにジリジリと間合いを測る。

 その時、声が響いた。

 

「エレクトロサンダー!!」

 

「!!?」

 

 空中から降り注ぐ稲妻に、『水のエル』が大きく飛び退く。

 

(この攻撃は!?)

 

 その時、声が響いた。

 

 

「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ!

 悪を倒せと、俺を呼ぶ!

 俺は正義の戦士! 仮面ライダーストロンガー!!」

 

 

 そして城茂さん……仮面ライダーストロンガーが建物の屋根から飛び、俺の隣に降り立った。

 

「城さん、ジャガーロードの方は?」

 

「もう倒した。

 それより、苦戦してるみたいじゃないか。 手を貸そう」

 

 ここに一緒にきてジャガーロードと戦っていたはずのストロンガーの登場に俺は驚く。

 

(さすが栄光の7人ライダーの1人……名前の通り強い人(ストロング)だ)

 

「それじゃお願いしますよ!」

 

 言って、俺はシャドーセイバーで『水のエル』に斬りかかる。

 

「とぉ!!」

 

 激しいつばぜり合いの後、俺は飛び上がると両手のシャドーセイバーを投擲した。弾き返そうと『水のエル』が『怨念のバルディッシュ』を振るうが、その瞬間にシャドーセイバーが爆発した。シャドーセイバーはリボルケインと同じく俺のキングストーンエネルギーを物質化したもの、剣の形状を解除すれば内包したキングストーンエネルギーが炸裂する爆弾になる。

 

「エレクトロファイアー!!」

 

 その瞬間、ストロンガーから電撃が地面を走り『水のエル』に襲い掛かる。

 その怯んだところに、俺はエルボートリガーを起動させながら飛び込んだ。

 

「シャドーチョップ!!」

 

「電パンチ!!」

 

「グゥ!?」

 

 俺のシャドーチョップで切り込んだところを、ストロンガーが電パンチで追撃した。

 その攻撃に直撃した『水のエル』がたまらず吹き飛ばされ地面を転がる。

 

「決めるぞ!」

 

「はい!!」

 

「チャージアップっ!!」

 

「バイタルチャージ!!」

 

 俺とストロンガーが同時に叫ぶ。俺の身体をキングストーンエネルギーが駆け巡った。

 同時にストロンガーの頭の角が銀色になり、胸の赤いプロテクターに銀色のラインが入ると全身に電撃を纏う。

 

「シャドーパンチッ!!」

 

「ぐぉぉぉ!!?」

 

 フラフラと立ち上がった『水のエル』に、俺の身体の屈伸の反動を加えた全力のシャドーパンチが直撃し空中へと吹き飛ぶ。

 そして空中の『水のエル』に、同じく空中に跳び上がったストロンガーの追撃が炸裂した。

 

 

「超電稲妻キックッッ!!」

 

 

 その一撃を受けた『水のエル』はそのまま爆発して四散した。

 

「終わったな」

 

「あとは津上さんの方は……」

 

「こっちも終わったよ」

 

 俺の言葉に応えるように現れたのは津上翔一さん……仮面ライダーアギトだ。そしてその肩に支えられているのは青いボディのメカニカルなバトルスーツ……氷川誠さんこと仮面ライダーG3-Xだ。その姿に、俺はホッと息をついた。

 ここにシャドームーンに洗脳されたG3-Xがいるということで俺はアギトとストロンガーと一緒にやってきたが、来るなり出迎えてくれたのはアントロードの大軍に武装ヘリ、やる気満々のG3-XとG4、そしてジャガーロードと『水のエル』という地獄めいた状況だった。手分けして戦っていたがどうやらこれで無事終了のようである。ホッと息をつくのも無理はないだろう。

 未だ戦いの余韻残る埠頭で、空からやってくる迎えのデンライナーを俺たちはゆっくりと見上げていた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「おかえりなさい、ノブくん!」

 

「ただいま、響」

 

 デンライナーへ戻った俺たちを迎えてくれたのは響だった。ナオミさんと一緒にタオルと冷たい飲み物を持ってきてくれる。響の恰好はナオミさんと同じデンライナー乗務員ユニフォームのため本当にデンライナー乗務員のようだ。

 ……ちなみに有名なナオミさんの淹れるコーヒーは興味本位で頼んだことはあったが、あのメチャクチャ派手な色のクリームが盛られたコーヒーは味がむちゃくちゃすぎで俺ではとても飲めなかったとだけ記しておく。

 

「どうだったの、ノブくん?」

 

「ああ、少しヒヤッとさせられるようなシーンはあったけど無事だよ」

 

 今回相対した『水のエル(強化体)』は普通に強敵だった。城さんがいてくれなかったらもっと苦戦したことだろう。

 

「そういう響の方はどうだったんだ? 怪我はないか?」

 

 響は今日、他のライダーと一緒に行動していたはずだ。気になって尋ねてみると、別の場所から答えが返ってくる。

 

「なに、君の恋人は怪我一つないよ」

 

「ヒビキさん」

 

 それは今日響とともに行動したヒビキさんだった。

 

「響ちゃんはすごいね、よく鍛えているのが分かるよ。

 バケネコの集団を打倒し、突然現れた乱れ童子まで撃破したのには驚かされたね」

 

「すぐにでも『猛士』にスカウトしたいぐらいですね」

 

 ヒビキさんに続いて、今回の救出対象だったイブキさんも響の活躍を褒める。続いて、一緒に行動していた沖一也さんも続けた。

 

「よい師に学び、よく鍛えているな。

 俺も少しだけ赤心少林拳を教えたが、まるで真綿が水を吸うようにものにしかけている。

 このままいけば、そう遠くないうちに『梅花の型』も会得できるんじゃないかな」

 

「えへへっ」

 

 褒められて嬉しいのか照れ笑いの響。

 しかし仮面ライダースーパー1と仮面ライダー響鬼に『よく鍛えている』とか言われるとは……正直驚きだ。

 こういっちゃなんだが弦十郎司令(おやっさん)の修業は独特というか……映画のシーン再現になっていることもままあって、本当に大丈夫なのかと思ったこともある。特にジープに乗った弦十郎司令(おやっさん)に採石場で追いかけ回されたときは死ぬかと思った。それでもここまで褒められるほどに強くなっているということは、あの修業はあれで正解なのだろう。正解ということにしておかないと精神が保たん。

 

 俺も響もデンライナーでの生活が5日は過ぎ、慣れ始めていた。5日もあれば誰にでも手を伸ばせるコミュ力オバケのような響はもちろん、俺も歴代仮面ライダーたちとの交流はそれなりに出来る。

 おとといは天道さんと津上さんのつくった料理を堪能し、昨日は同年代ということで如月さんにダチ認定されお互いの高校のトークをしてみたりした。五代さんと火野さんから旅の話を聞いたり、左さんから今まで関わった事件の話を聞いたりフィリップさんから俺たちの世界のことを聞かれたりとその交流は色々だ。

 ……仮面ライダーカブトと仮面ライダーアギトの手料理を食べ、仮面ライダーフォーゼと学校の話題で盛り上がり、仮面ライダークウガと仮面ライダーオーズから旅の話を聞いて、仮面ライダーWと今までの事件や質問をされるとか、自分で言っていてどんな状況なのか完全に意味不明である。少なくとも俺のライダーファンとしての理解のキャパシティーは超えていた。

 そんな風に考えていると……。

 

「よう、おかえり。 シルバーボーイ」

 

 そう言ってやってきたのは左さんとフィリップさんの仮面ライダーWの2人だ。左さんの帽子で会釈しながら俺を迎えてくれる。ただ、俺の呼び名が『シルバーボーイ』と言うのはちょっと安直な気がする。まぁ、『マッチョマン』とかよりは恰好のいい呼び名なのでいいんだが。

 

「君の帰りを待っていたんだ。 正確には君と響くんが揃うのをね」

 

「? 俺たちを、ですか?」

 

 フィリップさんは無駄な話はしないタイプの人だ。その人が俺たちに揃って話があるというのはどういうことだろう?

 

「実は今日俺たちが戦った相手に、誰も見たことのないタイプのエネミーが居たんだ」

 

「これだ。 君たちなら何か知ってるかと思ってね」

 

 そう言ってデジタルカメラ型ガジェット『バットショット』の映像を見せてくれる。

 

「これはっ!?」

 

「嘘っ!?」

 

 そこに映っていたのは間違いなく俺たちのよく知るもの……『ノイズ』だった。

 

「……その様子だと、やっぱり君たちの世界の敵『ノイズ』というものかな?」

 

「そうです。 でも……何でノイズがこんなところに……?」

 

「それを言い始めたら、俺たちだって『何でマスカレイド・ドーパントがこんなところに大量に?』って話になる」

 

 思わず出た俺の言葉に、左さんは肩を竦めた。

 

「彼らは僕たちの知ってる通常のマスカレイド・ドーパントとは違うのだろう。

 これは推測だけれども、僕たちの世界の記録から外見を造り出した『模造品』のようなものだと思われる。

 そうでないと、あれだけ大量に出てくることに説明がつかない部分があるからね」

 

「ああ、なるほど……」

 

「そして、この『ノイズ』が敵として現れたということは……」

 

「その敵の『シャドームーン』って人が、私やノブくんのことを知ったってことですか?」

 

「そういうことだ。 どこかで君たちのことを認識し、そして君たちの世界のことを知ったということだよ」

 

「……」

 

 フィリップさんに言われ、俺は何とも言えない気分になる。

 あの『シャドームーン』が俺たちのことを知り、俺たちの世界を知った……それはとてつもなく厄介なことに思えるからだ。

 

「とにかく、君たちには注意を促した方がいいと思ってね」

 

「……分かりました」

 

 俺は嫌な予感を抱えながら頷くことしかできなかった。

 そして、その予感は翌日に現実のものとなる。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 その時は居場所の判明した橘朔也さん……仮面ライダーギャレンの救出のために俺と響、そして仮面ライダーブレイドをはじめとする数人とともに広い採石場のようなところに来ていた。

 全員が手分けして各所で戦う中、俺と響はペアになって目の前の敵と戦っている。

 そしてその敵というのが……。

 

「ホントにいやがった」

 

「ノイズッ!?」

 

 そこにいたのは俺たちとしては見慣れた、そしてこの世界からしたら異物でしかない存在『ノイズ』の集団だった。それがダークローチ、レイドラグーンの集団とともに俺たちに向かってくる光景は違和感が沸き立つ。

 

「とにかくやろう、ノブくん!」

 

「言われるまでもない!!」

 

 俺と響は頷き合い、戦闘に突入する。

 

「はぁ! たぁ!!」

 

 響の拳が人型ノイズを砕いていく。沖さんやヒビキさんに手ほどきを受けたことでさらに技のキレがましたようだ。その鋭さは一段階上がっている。

 

「シャドービーム!!」

 

 そんな響に頭上から襲い掛かろうとしていたレイドラグーンの集団に、俺がシャドービームを放つ。それに巻き込まれてレイドラグーンの集団が空中で爆発した。

 

「響ッ!」

 

 そんな中響に迫っていたダークローチが攻撃のために左手を振り上げる。

 

「はぁ!」

 

 だが響はその腕を取って体勢を崩すと軽くしゃがみ、全身のバネを使って思い切り踏み出すと、背中で体当たりをする。中国拳法『八極拳』の技の一つ、『鉄山靠』だ。

 それを受けたダークローチが、他の敵たちを巻き込みながら吹き飛ぶ。だが、それだけでは終わらなかった。

 

「いくよ、私の必殺技パート48!!」

 

 響の握りしめる拳にフォニックゲインが集中し、炎のように揺らめき始める。

 

 

「我流、音撃烈火弾!!!」

 

 

 連続して突き出される拳から、フォニックゲインが弾丸となって連続して放たれる。それが次々に爆発し、ダークローチの集団が吹き飛んでいった。

 

「なぁ響、今の前口上とか技って……」

 

「うん、モモタロスさんがやってみろって言ってたカッコイイ名乗りと、ヒビキさんから教えてもらった『烈火弾』って技をちょっとアレンジしてみたの!」

 

 いい笑顔で言う響。それを見ていて、俺は何とも言えない気持ちになってきた。

 

(ちょっと色んな人に毒され過ぎなんじゃないかなぁ……)

 

 響が元の世界に戻ってから大丈夫なんだろうかと、少しだけ心配になる。

 

「とにかく、ここはあらかた片付いたな」

 

「他の人たちはどうなのかな?」

 

「まぁ、あの人たちが遅れをとるってことはないだろう」

 

「だよねぇ……みんなノブくん並に強いもんね」

 

「……」

 

 何気なく響は言ったようだが、俺にとっては少し考えてしまう言葉だ。

 『本物』を知れば知るほど、仮面ライダーを『自称』している自分との差を突き付けられる。

 

(……俺は確かに、連中の言うように『偽物』だな)

 

 そんなことを自嘲気味に思う。

 

「?」

 

「何でもない。 さっさっと終わらせてナオミさんのチャーハンでも食べたいなと思っただけ」

 

「あっ、私も食べたい! ナオミさんのチャーハン美味しいもんね!」

 

「……その代わりコーヒーは響の料理並みだけどな」

 

「ノブくん、それってどういう意味?」

 

「さぁ? 自分の胸に聞いたらどうだ?」

 

「うー、いじわるなんだから」

 

 そういって可愛らしくほほを膨らませる響に苦笑して、俺は響の頭を撫でる。

 

「悪かったよ、響。 とにかく速く戻って一緒にゆっくりしよう」

 

「うん!」

 

 そう言って笑顔を見せてくれる響に、俺も笑顔になる。

 その時だった。

 

 

 パチパチパチッ

 

 

 拍手の音が響き、俺と響はバッとその方を見た。

 そこにいたのは白の体色。後頭部に髷のようなもの、肩と首回りにかけて風神の風袋のようなデザインの怪人だ。

 

「若いカップルは戦場でもところ構わずベタベタとする。 笑わせてくれますねぇ……」

 

 悠然と歩くその姿からは強者のオーラが見て取れる。

 俺はこいつの名を知っていた。その名は……!

 

「ウェザー・ドーパント!?」

 

 それは仮面ライダーWにおいて強敵として立ちはだかったウェザー・ドーパントだった。

 

「笑わせてくれたお礼に、派手に消してあげましょうか!」

 

 現れたウェザー・ドーパントに俺と響は構えを取る。だが、現れたのはそれだけではなかった。

 

「恋人たちの愛……それはとても美しい……」

 

 そんな言葉とともに空から舞い降りてくるのは紫の影。

 ティラノサウルスの意匠を持つ頭部、プテラノドンの顔をあしらった肩鎧、胸部にあるトリケラトプスの顔、そして背中のマントをはためかせたその姿。

 こいつは!?

 

「恐竜グリード!?」

 

 それは仮面ライダーオーズと最後まで戦った強敵、恐竜グリードだ。

 

「しかし、そのままでは美しい恋人たちの愛もいつか醜く変わってしまうでしょう。

 そうなる前に、美しく優しいうちに完成させる……私が終末によって完成させてあげましょう。

 さぁ……善き終末を」

 

 恐竜グリードもこちらに向かって歩き出した。

 

「ノブくん!?」

 

「響、こいつらは強敵だ! 油断はするな!!」

 

 そして俺と響は、強敵を前に構えを取るのだった……。

 

 




今回のあらすじ

SHADOW「いきなりの鉄火場な件」

ビッキー「ゲームの方でかなり苦戦させられたG3-X救出編だね」

奏「武装ヘリは悪い文明」

防人「で、難易度追加でジャガーロードと水のエルがそこに加わる、と……なんというアビ・インフェルノ・ジゴク。
   ところで『バルデッシュ』という単語に何か感じるものがあるのだがどうか?」

キネクリ「いや面白芸人ライダーと、はかな可愛いフェイトちゃんと比べちゃいけないだろ」

防人「……お前月のない夜には覚えてろよ」

ストロンガー「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ!
       悪を倒せと、俺を呼ぶ!
       俺は正義の戦士! 仮面ライダーストロンガー!!」

SHADOW「名名乗りが聞けて、感動でほぼイキかけました。ライダーファンとしては感無量だぞ!」

ビッキー「そしてノブくんと昭和ライダーとの連携攻撃シーン!」

奏「やっぱ合体攻撃は映えるなぁ。
  で、妹分がさらに人間やめてきたんだが……」

キネクリ「えーと今までの段階で『烈海王+李書文先生+愚地独歩』って状態で、ここにさらに響鬼+スーパー1から手ほどきとか……悪魔合体も大概にしろよ」

防人「そして特訓と言えば採石場でジープ特訓!」

SHADOW「やめてください、OTONA隊長!」

OTONA「ノブト!逃げるな!逃げるんじゃない!車に向かってくるんだ!」

ビッキー「……これ、私とノブくんよく1年間生き残れたなぁ」

SHADOW「キングストーンがなければ即死だった……。
    それはさておき、デンライナーの日々がライダーファン狂喜の連続過ぎて辛いです」

奏「作者としては外伝的に色んなライダーとの絡みをやりたいみたいだからそのうちこの辺りの細かい話も出てくるかもね」

防人「そしてライダー世界にしれっとノイズ登場だ。まぁ、所詮は戦闘員枠でシンフォギア本編の能力をオミットした感じの『姿を真似た別物』レベルの扱いみたいだな。
   そのため、普通にライダーに倒されるしライダーを一撃抹殺とかはできないぞ」

キネクリ「そうじゃないと魔化魍とか響鬼とか一部以外手が出せなくなっちまうし、ここではそういうものって感じでいいんじゃないか?」

ビッキー「私の必殺技パート48!!」

SHADOW「俺の恋人は、一体どこに向かっているんだ……(困惑」

井坂先生「若いカップルは戦場でもところ構わずベタベタとする。 笑わせてくれますねぇ……」

ドクター真木「さぁ……善き終末を」

フィーネさん「超正論!
       さぁ、バカップルをギタギタにしてやりなさい!!」

SHADOW「医者とか科学者キャラにまともな奴はいないのか……」

ビッキー「というわけで次回は私&ノブくんVSウェザードーパント&恐竜グリード戦だよ」


というわけでクロスオーバーの醍醐味、強敵との戦いと合体攻撃、それに強敵コンビの登場でした。
他の人の作品だと平成ライダー系はいくらでもあるけど、昭和ライダー系が出てくる作品は少ないので、私としてはあえて昭和ライダーとの共闘描写で行くという意図。まぁ、マイノリティー精神なんですが。

一週間ほど前に再び身内で不幸が。
一つでも辛いのが連続とかちょっと精神的にもキツいので正直更新のペースは不定期でできる限りとなります。
楽しみにしてくれてる方には申し訳ないですが……。

では、次回もよろしくお願いします。


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第32話

 現れた強敵2人……ウェザー・ドーパントと恐竜グリードに、俺と響は構えを取る。

 

「「ッ!!?」」

 

 ほぼ同時に恐竜グリードから破壊光弾が放たれ、俺と響はそれを左右にとっさに転がって避けた。

 

「ではお嬢さん、私が相手になりましょう。私の研究はドーパントが専門ですが、あなたも中々興味深いですね。

 さあ……あなたの能力(ちから)、よく見せてください」

 

「……」

 

 避けた響の目の前にゆっくりと迫るウェザー・ドーパント。それを前に響は静かに構えを取る。

 

「響ッ!」

 

「おっと、あなたの相手は私ですよ」

 

 

 ブンッ!!

 

 

「ぐぅっ!?」

 

 すぐさま響の元に駆け出そうとした俺の腕を恐竜グリードが掴むと、その凄まじいパワーで俺を放り投げた。

 空中で体勢を立て直し着地した俺に、まるで響たちのところには行かせないとでもいうように恐竜グリードは両手を大きく広げて立ち塞がる。

 

「さて、あなたの終末をはじめましょうか」

 

「……いいだろう、そういうつもりなら全力で抵抗させてもらう。 この拳で!!」

 

 そう宣言すると、俺は拳を握りしめ恐竜グリードへと飛び掛かった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「たぁ!!」

 

 ウェザー・ドーパントと相対した響は先手必勝とばかりに胸から湧き上がる歌を歌い上げ、高まったフォニックゲインを拳に乗せて叩きつける。

 しかし……。

 

「そんな攻撃で私が倒せるとでも?」

 

「つぅッ!?」

 

 響の拳を受けながらも平然と反撃に出るウェザー・ドーパント。ガードの上からでも身体の芯に響くような衝撃に思わず苦悶の声が漏れてしまう。

 

(やっぱりノイズとは桁違いに一撃が重い!?)

 

 ここ数日で怪人との戦いを何度も経験した響は、今までのノイズとはまるで違う怪人の力を存分に思い知っていた。

 パワーも防御力も桁違い、自分の攻撃がまともに効かないこともしょちゅうだ。しかも相手は信人が警戒心を露わにした強敵である。

 響は気を引き締めると意識を集中させた。

 

「ふん!」

 

 再び振るわれるウェザー・ドーパントの剛腕。だが響はそこから逃げるようなことはなく、その攻撃をよく見る。

 

「ここっ!!」

 

「何っ!?」

 

 響は迫る剛腕をいなすとその勢いのまま、その顔面に拳を叩き込んだ。

 だが怯むことはなく、再びのウェザー・ドーパントから拳が響に振るわれる。しかし響は今度はそれを上に反らした。

 

「たぁ!!」

 

 そしてがら空きの胴に並足を揃えて膝で軽くしゃがみ、踏み出して背中の体当たり……八極拳の『鉄山靠(てつざんこう)』を思い切り叩き込む。

 

(私の力だけでダメージが与えられないのなら、相手の力も利用して……カウンターでダメージを与えていけばいい!!)

 

 これが響の対怪人戦の回答であった。

 

「ぐぅ!?」

 

 この衝撃は流石に応えたのか、ウェザー・ドーパントが数歩下がってたたらを踏んだ。そこに響が追撃する。

 踏み込みとともに強力な肘打ち『外門頂肘(がいもんちょうちゅう)』、そして足を踏み出すと同時の突き『冲捶(ちゅうすい)』を流れるように連続して叩き込んだ。

 直撃に確かな手ごたえを感じた響は即座に追撃に移ろうとするが、ウェザー・ドーパントも黙ってはいない。

 

「やってくれますね!」

 

「ッ!?」

 

 突如として発生した突風が響を空中へと吹き飛ばす。空中で体勢を立て直して着地する響だが、その表情には困惑が見て取れた。

 

「今のは一体……」

 

「私はウェザー、つまり『気象』を操ることが出来るのですよ。

 このように、ねっ!」

 

「ッ!!?」

 

 困惑する響に種明かしだと自らの能力を語るウェザー・ドーパント。その瞬間、響の背中に灼ける様なチリチリとした予感が駆け抜け、その予感に従って響は横に思い切り転がった。

 

 

ドウンッ!

 

 

 一瞬前まで響の居た場所に轟音とともに何かが落ちる。バリバリと地面に青白い光が走るのを横目に見た響はこれが何なのか即座に悟った。

 

「雷!?」

 

 それはウェザー・ドーパントの能力によって発生した落雷だ。そんなものを受ければシンフォギアを纏っていても大ダメージは免れないだろう。

 

「さぁ、先ほどまでの勢いはどうしました!」

 

「くぅっ!?」

 

 連続して落ちる雷、たまらず響は回避に専念する。

 その直感と卓越した反射神経でウェザー・ドーパントの雷を避ける響だが、避けているだけではどうしようもない。

 

(何とかして、倒すための方法を考えないと……)

 

 勝利のための隙を狙う響。しかしウェザー・ドーパントとて信人が警戒するほどの強力な怪人だ、響の次の一手を待つほど甘くはなかった。

 

「あなたは理科の授業は得意ですかね?」

 

「えっ? ………わっぷ!?」

 

 何のことだと疑問に思う響に、突如として冷たい雨粒が降り注ぐ。ウェザー・ドーパントによる局所的な豪雨だ。

 圧倒的な雨量により視界を遮られた響は、その隙にウェザー・ドーパントが攻撃をしてくるものだと考え、最大限のカウンターを繰り出せるように身体を引き絞る。

 しかし、響の予想に反して何の攻撃もないまま豪雨は止んだ。どういうことかと思考を巡らす響に、ウェザー・ドーパントが続ける。

 

「では問題です。 水に濡れた手で電気製品やコンセントを触るとどうなるでしょう?」

 

「ッ!?」

 

 その瞬間背中に嫌な予感が駆け抜け響はその場から飛び退こうとするが、そんな響に落雷が直撃した。

 

「きゃぁぁぁぁ!!?」

 

「正解は感電して黒焦げになる、でした!」

 

 電撃の痛みに悲鳴を上げた響に、愉快そうにウェザー・ドーパントが答える。

 ウェザー・ドーパントの起こした豪雨によってずぶ濡れになった響、その水を伝い電撃が響へと襲い掛かったのだ。

 

「ぐぅ……」

 

 大ダメージに片膝をつく響。それをウェザー・ドーパントは愉快そうに見下ろす。

 

「ではそろそろ終わりにしましょうか!」

 

 ウェザー・ドーパントの指先で風が逆巻き、次第にそれが大きなうねりとなって巨大な竜巻が形成された。

 そしてそれを響へと向ける。

 

「ッ!?」

 

 自身に迫り来る竜巻。響は歯を痛みを抑え、食い縛って立ち上がる。

 しかし避ける暇はない。

 

「ふぅぅぅぅ……!」

 

 大きく息を吐き腰を落とす響、その視線は死を前に覚悟を決めた者のものではない。

 そして、そんな響をすべてを粉々にするウェザー・ドーパントの竜巻が飲み込んだ……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ズドンッ!ズドンッ!!

 

「ぐぅっ!?」

 

 連続した轟音の中、それをガードしながら俺は呻く。

 それは、恐竜グリードの拳だ。ただの拳でさえ、まるで爆発音のような音をさせる凄まじいパワーである。

 

「はぁ!!」

 

 俺も拳には拳で応えるべく、パンチを繰り出す。

 しかし……。

 

「甘いですよ」

 

「なっ!」

 

 突き出した俺の右の拳は、そのまま恐竜グリードの右掌で受け止められていた。

 俺の拳が微動だにしない、凄まじいパワーだ。

 

「ふんっ!」

 

「ぐぁ!?」

 

 右手を掴まれたまま俺は恐竜グリードにブンッと振り回され、大地に叩きつけられた。しかし恐竜グリードはまだ俺の腕を離していない。

 再びの浮遊感、俺をまた叩きつけるつもりのようだ。だが、俺とてやられっぱなしではない。

 

「シャドービーム!!」

 

 俺は自由な左手を恐竜グリードの顔面に叩きつけるとそのまま零距離でシャドービームを放つ。

 シャドービームの爆発が起こり、恐竜グリードが俺の右手を離した。俺はそのまま空中で体勢を立て直すと着地する。

 シャドービームの爆煙がゆっくりと晴れた。すると、そこにはまるで様子に変わりがない恐竜グリードの姿がある。

 

「凄いパワーと防御力だな……」

 

 シャドービームの直撃でもさほどダメージを与えられない様に、内心で冷や汗を流す。

 そんな中、恐竜グリードは一気に俺に接近してきた。

 

「速い!?」

 

「ふんっ!!」

 

 恐竜グリードの繰り出すパンチとキックの猛攻に、俺も慌てて応戦する。

 二度三度と打ち合い、俺の蹴りが入って恐竜グリードは吹き飛ばされて後退するが、すぐに平然として立ち上がった。

 

「パワーや防御力だけじゃなくて、スピードも速いな……」

 

 恐竜の力強さと打たれ強さ、そして俊敏性のすべてを兼ね備えている難敵、それが恐竜グリードなのである。

 そんな警戒をする俺に、恐竜グリードは話しかけてきた。

 

「あなたは何故終末を、完成を拒むのですか?

 あなたたち2人は美しい、本当に美しい若々しい恋人たちだ。

 その美しさは、とても尊い……」

 

 恐竜グリードは天を仰ぐように大仰に手を広げて言った。

 そこには邪念は感じられない。本当に彼がそう思っているのが分かる。

 

「しかし、その愛という美しさは時がたつにつれ醜く変わってしまうでしょう。

 だからこそ、そうなる前に美しく優しいうちに完成させようというのです。

 それはとても価値のあることなのですよ」

 

「……」

 

 ……驚くべきことだが、彼はこの言葉を本気で言っている。俺と響の関係を『美しい』と称し、そのために慈悲の心から来る『親切心』で俺と響を『終わらせようとしてくれている』のだ。

 それが分かり絶句する俺はその瞬間、恐竜グリードを前に隙を見せてしまった。

 

「フンッ!!」

 

「ぐぁ!?」

 

 急接近してきた恐竜グリードの拳が顔面に直撃し、俺が地面を転がる。

 慌てて俺は身体を起こすが、すぐに周囲の異変を感じ取った。

 

「気温が急激に下がっている!

 これは……ヤバい!?」

 

 それに気付いた瞬間、俺はビル一つを飲み込めそうな氷の中に閉じ込められていた。

 

「では、善き終末を」

 

 氷漬けにされた俺の耳に、そんな言葉が聞こえた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「これで耳障りな歌も終わり……なにぃ!?」

 

 すべてを粉々に破砕する竜巻に響が飲み込まれる様を確認しウェザー・ドーパントはほくそ笑むのもつかの間、それは驚きに変わった。

 どこからともなく、歌が響いてくる。竜巻の暴風ですら遮ることのできないその歌は当然、響の巻き込まれた竜巻から響いていた。

 そして、竜巻が『割れた』。

 

「……は?」

 

 あまりの出来事に、ウェザー・ドーパントから間の抜けた声が漏れる。

 その視線の先にいたのは胸から溢れる歌を歌いあげながら左右の腕を振るい、それによってすべてを粉々にする竜巻の暴風を文字通りに『捌き切った』響の姿だ。

 

「ふぅぅぅぅ……」

 

 竜巻を消し去った響は深く息を吐くと呟く。

 

「……沖さん、ありがとうございます。

 これがすべてを守り切る、赤心少林拳『梅花の型』!!」

 

 それは沖一也こと、仮面ライダースーパー1から指導を受けていた赤心少林拳、その『梅花の型』を自己流に響が組み込んだものであった。

 いかなる悪意からも花を守るがごとき鉄壁の防御は、ウェザー・ドーパントの竜巻すら凌ぎ切ったのである。

 自身の竜巻が完全に消されたことにしばし呆然としていたウェザー・ドーパントだがさすがは幹部級の強力怪人だ、すぐに調子を取り戻す。

 

「竜巻で消せないのなら、幾らでも他の方法はありますよ!」

 

「ッ!?」

 

 言って、先ほどと同じくバチバチと紫電が舞う。雷の前兆現象だ。

 

(雷までは今の私じゃ防ぎきれない。なら!!)

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 響が選んだのは前進だった。

 地面を踏み抜く勢いで蹴った響が、拳を握りしめウェザー・ドーパントへと一気に迫る。

 

 

ズドンッ!!

 

 

 足元にクレーターが出来るほどの『震脚』。そして握りしめた拳を突き出す。

 

 

「我流、无二打(にのうちいらず)!!!」

 

 

 響の最大の一撃がウェザー・ドーパントに炸裂する。

 だが……!

 

「どんなに技巧を凝らそうが所詮は虫けらの一撃。無駄ですよ!」

 

 衝撃は受けたもののウェザー・ドーパントを倒し切るには至らない。ウェザー・ドーパントはダメージを受けながらもその隙に最大の雷を響に叩きつけようとする。

 その刹那の瞬間、響の思考は際限なく加速した。

 脳裏に過ぎ去るのは、自分を特訓してくれた2人の人物の言葉。

 

 

(響くん。百発の拳で倒せぬ相手だからといって、一発の力に頼ってはいけない。一千発の拳をぶつけるんだ!)

 

(響ちゃん。 爆裂強打の型の基本はね、清めの音を連続して隅々にいきわたるようにすることなんだよ)

 

 

弦十郎司令(師匠)、響鬼さん! 私、やります!!』

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 響はそのまま拳の連打を始める響。

 

「そんな軽い攻撃、何発こようが……何ッ!?」

 

 響の攻撃を軽いものだと笑うウェザー・ドーパントが驚愕に染まる。

 響の攻撃は確かに一撃一撃はウェザー・ドーパントにとって軽い。しかしそれが連続で叩き込まれることで威力が増してきている。

 それは衝撃波の干渉効果。池に大きな石を投げても波紋は一度出れば終わりだが、小さな石を波紋が弱まる直前に次々に投げ込んでやると波紋が重なって力は強まる。流体力学の基本だ。

 それを響はその拳とフォニックゲインでやっていたのだ。

 響のフォニックゲインが拳とともに流れ込み、波紋が生まれる。連続して叩き込まれる拳とともに次々生まれる波紋は、響の歌とともにフォニックゲインがビートを刻み始める。

 そしてそれは奇しくも、ウェザー・ドーパントを打ち砕いた仮面ライダーアクセルトライアルの必殺技『マシンガンスパイク』によく似ていた。

 

「こ、これは!?」

 

「これが私の自慢の歌! これが!!」

 

 

「我流、音撃連打の型!!!」

 

 

 気合いとともに、最後に強烈な一撃がウェザー・ドーパントに叩き込まれた。

 

「ば、バカな! この私が!!」

 

 その言葉とともにウェザー・ドーパントは爆発の中に消える。

 

「ふぅ……弦十郎司令(師匠)、沖さん、響鬼さん。ありがとうございました!」

 

 それを見届けながら響は、自分へ教えを授けてくれた人たちへと感謝するのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「では善き終末を」

 

 氷漬けになった俺を砕こうと恐竜グリードがトドメの破壊光弾を放とうとする。

 だが……。

 

「悪いがまだ終わる気はないんだよ!」

 

 俺はキングストーンへと意識を集中させ、それを解き放った。

 

「シャドーフラッシュッッ!!」

 

「何!?」

 

 シャドーフラッシュの光が俺を包み込む氷を消し去り、ついでのように迫る光弾すら消し去った。

 

「まだ終末に抗いますか?」

 

 そう言って構える恐竜グリードに、俺は静かに言う。

 

「恐竜グリード……いや、ドクター真木さん。

 俺はあんたの価値観に文句をつけるつもりはない……」

 

 俺は、あえて人間としての名前で彼を呼んだ。

 俺はライダーたちの物語を知っている。だからこそ、どうして彼がその価値観を持つに至ったかも知っているし、その価値観を持つに至った過去を知り納得した。

 だからこそ俺は彼の『物事の終わりに価値を見出し、醜く変わる前に美しく優しいうちに完成させる』という価値観自体に文句をつけるつもりはないし、純粋に『悪党』と断じるつもりもない。

 その上で、敢えて言う。

 

「でもな……俺と響の関係にあんたの価値観を押し付けるな!!」

 

 俺は飛び掛かると恐竜グリードと組み合う。

 

「俺と響の関係はまだ始まったばかりだ。 まだまだ先がある。

 あんた風にいうなら……まだまだ美しくなる余地がいくらでもあるんだよ!

 その可能性を今、全部捨て去るなんてするものか!!」

 

 そうだ、俺と響はまだ付き合い始めたばかりだ。デートも恋人としてのイベントも、まだまだ足りない。

 それなのにこれで終わってたまるものか!

 

「……愛とは移ろいやすいものです。 もしかした明日には醜く変わるかもしれない。

 それでも、今の美しいままの完成を拒むのですか?」

 

「俺は明日あるかもしれない最悪に怯えるより、明日にあるかもしれない今よりも幸せな日々に想いを馳せる!」

 

「今日よりよい明日を……なるほど、それがあなたの『欲望』ですか」

 

「そうだよ! 俺の『欲望』の邪魔を、するな!!」

 

 叫び、俺は組み合った体勢から零距離で『シャドーフラッシュ』を放つ。

 

「ぐっ!?」

 

 その衝撃に吹き飛ぶ恐竜グリード。

 ここがチャンスと、俺は叫んだ。

 

「バイタルチャージ!!」

 

 そう構えて叫ぶと、全身にキングストーンエネルギーが駆け巡る。そして大きく跳び上がった。

 

「シャドーパンチッ!」

 

 身体の屈伸、そしてエルボートリガーを起動させ威力を高めたシャドーパンチが恐竜グリードに直撃する。だが、まだ決まらない。

 間髪入れずに、俺は再び跳び上がった。

 

「シャドーキックッッ!!」

 

「ぐぉ!?」

 

 レッグトリガーを起動させた最大威力のシャドーキックが恐竜グリードに炸裂した。

 吹き飛ばされた恐竜グリードはヨロヨロと立ち上がるが、その体内でキックと同時に流れ込んだキングストーンエネルギーが暴れ回り、緑のスパークがところどころで巻き起こる。

 

「なるほど……君たちはまだ、美しい……」

 

 そう、どこか納得したように呟くと恐竜グリードは爆発して果てる。

 

「……」

 

 俺は、何とも言えない気分でその爆煙を眺めるのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ノブくん!」

 

「響!」

 

 恐竜グリードとの戦いの余韻もそこそこに、俺は響の声で我に返る。

 

「響、無事か!? 怪我は!?」

 

「うん、大丈夫。 ノブくんは?」

 

「俺も大丈夫だ」

 

 響に大きな怪我もなく、俺はホッと息をつく。

 それにしても、あのウェザー・ドーパントを一人で撃破するとは……。

 

(何だか本当に強くなっているな)

 

 響の成長に驚きながらも頼もしい気分になる。

 

「まぁとにかく、他の人たちと合流しよう」

 

「そうだね」

 

 俺の言葉に響が相槌を打つ。俺は他のライダーに合流しようとバトルホッパーを呼び出そうとしたその時だった。

 

 

ズンッ!!

 

 

「「っ!!?」」

 

 背筋に氷柱を突き刺されたかのようなプレッシャーが俺と響に襲い掛かる。

 同時に、俺と響の周りに突如として不思議な光沢で光る『壁』が現れていた。

 

「これは!?」

 

「私たち……閉じ込められた?」

 

 そう理解する俺たちの前方およそ20メートルの位置、その空間に突如として光のモヤのようなものが現れる。

 そして……。

 

 

 カシャ、カシャ、カシャ……

 

 

 どこかで聞いたことのある、よく聞く音が響く。

 そして……光のモヤから現れる銀の身体。

 それは!

 

「ノブくんと全く同じ姿!?」

 

「お前は……!!」

 

 そして目の前のそいつは高らかに宣言した。

 

 

「我が名は……シャドームーン!!」

 

 

 『仮面ライダー消滅歴史改変事件』の黒幕が、ついに姿を現したのだった!

 




今回のあらすじ

ビッキー「前回の引きから私&ノブくんVSウェザー・ドーパント&恐竜グリード戦だよ。
     私の相手は変態医師の井坂先生!」

井坂先生「さあ……よく見せてください!」

キネクリ「井坂先生は相変わらずの大変な変態だなぁ」

SHADOW「で、俺の相手はドクター真木ってわけだ。
    もちろん俺らは抵抗するで? 拳で!」

奏「草」

ビッキー「とりあえず普通には効きそうにないんで、もうカウンター狙いで行くね」

防人「いや、カウンター狙いって……相手より技量が高くないとできない気がするんだが……」

ビッキー「あべべべべ、電撃はちょっとマズい!」

ドクター真木「何故終末を拒むのですか? せっかく美しいまま終わらせようと言うのに」

SHADOW「こっちも安定のドクター真木だよ!」

奏「方向性がガン&ソードの『カギ爪の男』に近い気がするよ……」

キネクリ「そうこうしている間にバカ2号も氷漬けか……」

防人「で、ピンチタイムから反撃開始となるわけなんだが……」

ビッキー「竜巻を『割る』!」

井坂先生「……は?」

奏「おい、あの井坂先生が絶句してるぞ! というか何やった!?」

ビッキー「両手を互いに旋回させることでその間に生じる真空状態の圧倒的破壊空間を造り出して竜巻をぶち割りました。
     これが『梅花の型』なんですね!!」

スーパー1「えぇ……」

防人「立花、スーパー1さんが完全に困惑しているぞ!」

キネクリ「つーかそれ神砂嵐じゃねぇか! 今度は柱の女になったのかお前ぇぇ!?」

OTONA「インストラクション・ワン!百発のスリケンで倒せぬ相手だからといって、一発の力に頼ってはならぬ。一千発のスリケンを投げるのだ!」

響鬼さん「とりあえず連続で殴ろう」

ビッキー「ありがとう、お師匠様たち!」

奏「……何だかまた無茶苦茶なことに開眼しているんだが」

防人「OTONAはニンジャだった? いや、NINJAなら緒川さんがいるだろうに……」

NINJA「僕を司令と一緒にしないでください」

キネクリ「人外度は五十歩百歩だと思うんだが……?」

ビッキー「ふるえるぞハート! 燃えつきるほどヒート!! おおおおっ 刻むぞフォニックゲインのビート!」

奏「……今度は山吹色の波紋疾走し始めたよ(困惑」

防人「この子はまた遠くに行ってしまったのだな……(達観」

SHADOW「俺も反撃開始だ。
    俺たちの可能性をあんたの価値観で否定するな!」

393「……で、本音は?」

SHADOW「響とにゃんにゃんもしてないのに死ねるか!
    いや、普通だけじゃなくてもっとコスプレとか色んなシチュでにゃんにゃんしたいんで死んでも死ねません!」

ビッキー「ノブくん♡」

キネクリ「どストレートに男子高校生の欲望丸出しだな、オイ!」

フィーネさん「ケッ……ゾンビ映画の即死フラグセリフ言いおって……このまま死ねばいいのに」

SHADOW「さて、強敵も倒したんでさっさと帰って……」

シャドームーン「我が名はシャドームーンだム~ン」

ビッキー「次回はこの劇場版編でやりたかったことの一つ、『SHADOW対シャドームーン』だね!」


というわけで対ウェザー・ドーパント&恐竜グリード戦でした。
ビッキー……君は一体どこに向かっているんだ(笑
次回はVSシャドームーン戦です。

次回もよろしくお願いします。


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第33話

 カシャ、カシャ、カシャ……

 

 

 特徴的な金属質な足音とともに、銀の身体(ボディ)が現れる。

 俺と同じ姿……そう、この『仮面ライダー消滅歴史改変事件』の黒幕である『シャドームーン』だ。

 

「あれがノブくんと同じ力を持った悪人……シャドームーン」

 

「……」

 

 響も俺もシャドームーンから放たれる凄まじい威圧感に、警戒しながら様子を伺う。

 そして、シャドームーンは俺に視線を向けた。

 

「貴様が不愉快な偽物か……」

 

「俺は偽物でもなけりゃ、初対面で不愉快がられるようなことをした覚えもないんだがな」

 

 威圧感に押されまいと、俺は努めて飄々と答える。

 その瞬間、シャドームーンからの俺への敵意が一気に膨れ上がる。

 

「仮面ライダーの真似事をする我と同じ姿をした者……その姿、不愉快極まりない。

 だが……利用価値はある」

 

「それはどういう……?」

 

 シャドームーンの不穏な言葉に問い返すが、奴は問答無用と手にした剣を抜き放った。

 

「あれ、サタンサーベル!?」

 

 それに気付いた響が驚きの声を上げた。

 だがサタンサーベルはシャドームーンの象徴とも言える武器、俺は驚くことなく構える。

 

「響……下がってくれ」

 

「ノブくん!?」

 

「俺とシャドームーンに姿形で差異はない。 どっちがどっちだか分からない状態で援護は無理だ」

 

「でも!?」

 

「……俺だってシャドームーンを1人で倒し切れるかって言われたら、おそらく無理だ。

 きっと異変を感じた他のライダーたちがやってきてくれる。だからそれまでを俺がもたせるようにするさ」

 

「……わかった。ノブくん、気を付けてね」

 

「大丈夫、こんなところで死ぬつもりはないよ」

 

 心配する響に、あくまで時間稼ぎに専念すると言って下がらせると、俺はシャドームーンに向かって一歩を踏み出した。

 

「今生の別れは済んだか?」

 

「生憎、まだ死ぬつもりはないからな。そんなものは必要ない」

 

「そうか……では死ねぃ!!」

 

「そんなに簡単に死ねるかよ!!」

 

 シャドームーンがサタンサーベルを振り上げ、俺は拳を握りしめ走りだす。

 こうして俺とシャドームーンの戦いは始まった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「フンっ!!」

 

「くっ!?」

 

 サタンサーベルを寸でのところで躱しシャドームーンの懐に入ろうとするが、隙なく振るわれるサタンサーベルに阻まれてそれが出来ない。

 

「それなら!!」

 

 俺がキングストーンへと意識を集中させるとキングストーンエネルギーが集束し二振りの剣、シャドーセイバーとなりそれを俺は振り抜いた。

 

「ここからは俺の番だ!!」

 

 俺は大小二振りのシャドーセイバーを連続して振るう。しかし……。

 

「当たらない!?」

 

 嵐のような連続攻撃を繰り出しているというのに、それがシャドームーンには当たらない。

 

(これが本家シャドームーンの剣技か!?)

 

 ある攻撃はかわされ、またある攻撃はサタンサーベルで逸らされる。そこには純然とした技量の差が存在していた。

 俺も翼を相手に多少は剣の特訓もしていたが、あのゴルゴムの剣聖ビルゲニアを一刀のもとに切り裂いたシャドームーンの剣技は別格だ。

 それに……。

 

(こいつは純粋なシャドームーンじゃないからな……)

 

 今のところ俺だけが知っているだろう事実……この『バトライド・ウォー創世』におけるシャドームーンは、『シャドームーンであってシャドームーンではない』。その正体は仮面ライダーBLACKによって倒されたゴルゴムの創世王が復活、シャドームーンの亡骸に乗り移って操っているものである。

 そもそも仮面ライダーBLACK本編における2人の世紀王の戦い、『ブラックサンとシャドームーンの2人が戦い勝った方が次のゴルゴムの支配者である創世王となる』というのは真っ赤な嘘で、最初から勝った方の身体を創世王が乗っ取る予定の出来レースだったのだ。

 そんなことを繰り返し、それこそ気の遠くなる時間をゴルゴムの支配者として生き長らえてきたのが創世王であり、サタンサーベルはゴルゴムの象徴、本来は創世王の武器だ。その扱いに関しても、比喩ではなく万年単位のキャリアがあるだろうし、剣技に関しては俺とは比べるべくもないだろう。

 

(しかし、本来の創世王の戦闘能力はここまでのものなのか……)

 

 正直に言えば俺は仮面ライダーBLACK本編を知っているだけに創世王という存在の強さに懐疑的……はっきり言って舐めていた。

 仮面ライダーBLACK本編で登場した創世王は偉そうなことを言うデカい心臓でしかなく、やったことはバリアを張って地球を壊すと仮面ライダーBLACKを脅したくらいだ。その最後もあっさりとサタンサーベルで貫かれて終わりで、たいしたことはしていない。

 だが後の世で蘇り歴史に介入してくるような超常的な力を振るい、シャドームーンの身体を手に入れた今の創世王の力は凄まじいものだった。仮面ライダーBLACK本編の創世王は本当に寿命で死にかけだったのだろう。

 

 俺は自身の認識の甘さを改め、冷静にシャドームーンの動きを観察する。

 すると、シャドームーンはサタンサーベルを構え直す。

 

「お前に本当の剣というものを教えてやろう……」

 

「っ!?」

 

 鋭いサタンサーベルの連続攻撃が繰り出され、それをシャドーセイバーで防ぐのが精いっぱいだ。

 

「ふんっ!」

 

「ぐあっ!?」

 

 サタンサーベルを防ぐと同時に繰り出された蹴りを受け、俺は後方へと吹き飛ばされる。

 何とか体勢を立て直すも、その時には目の前に接近したシャドームーンは振り上げたサタンサーベルを俺目掛けて振り下ろす。

 回避は間に合わない……そう悟った俺は、2本のシャドーセイバーをクロスさせサタンサーベルを防ぐ。

 しかし……。

 

「お、折れたぁ!?」

 

 サタンサーベルとかち合った2本のシャドーセイバーが折れていた。シャドーセイバーは仮面ライダーBLACK RXのリボルケインと同じく、俺のキングストーンエネルギーを剣の形に結晶化したものである。それを砕くサタンサーベルの力に俺は戦慄するが、俺にそんな暇はなかった。

 

 

 ザンッ! ザンッ!!

 

 

「ぐぁぁぁっ!!」

 

「ノブくんっ!?」

 

 そのままサタンサーベルの刃が俺の左肩から腰に掛けての袈裟切り、横薙ぎと連続して振るわれる。

 その強力な斬撃に、強固なシルバーガードの装甲が火花を散らし、衝撃に俺は二歩三歩と後ずさる。激痛によって思わず漏れた声に、響が悲痛な声を上げた。

 そんな俺にトドメとシャドームーンは突きを放とうとするが、俺はそれよりも早く動いていた。

 

「トゥ!」

 

「グッ!?」

 

 そのまま大きく後ろに跳ぶと同時に手にしていた、もはやほとんど柄だけになった2本のシャドーセイバーを放り投げる。

 同時にシャドーセイバーを形成していたキングストーンエネルギーが解放され、大爆発が起きた。

 さすがにこの衝撃は堪えたらしく、吹き飛ばされてゴロゴロと転がるシャドームーン。その拍子に、シャドームーンの手からサタンサーベルが落ちた。

 

「ここだ!!」

 

 勝機と見た俺はそのままシャドームーンへと跳びあがる。シャドームーンも立ち上がり構えると跳び上がった。

 

 

「「シャドーパンチッ!!」」

 

 

 正面からぶつかり合う、俺とシャドームーンのシャドーパンチ。

 威力は互角のはず……だが!?

 

「ぐぁぁ!?」

 

 俺のシャドーパンチははじき返され、そのままシャドームーンのシャドーパンチが俺の顔面に突き刺さった。

 

「くそっ! トゥッ!!」

 

 俺は吹き飛ばされながらも何とか空中で体勢を立て直し、着地したと同時に再び跳び上がる。

 同時に、シャドームーンも跳び上がっていた。

 

 

「「シャドーキックッッ!!」」

 

 

 再び空中でぶつかり合う俺とシャドームーンのシャドーキック。

 そして……。

 

「ぐぁぁぁぁ!!!?」

 

「ノブくん!?」

 

 またしても当たり負けしたのは俺の方だった。

 そのまま吹き飛ばされ、その衝撃に地面に身体を何度もバウンドさせながら転がる俺に、思わず響が駆け寄ってくる。

 響に肩を借りながら立ち上がろうとする俺に、シャドームーンはカシャカシャと足音を立てながら歩いてくる。

 

「やはり弱いな。 しかし、だからこそお前を『呼んだ』」

 

「ッ!? それは一体どう言うことだ!!」

 

 シャドームーンの聞き流せない言葉。

 『呼んだ』……シャドームーンは確かに今そう言った。俺は身体の痛みも忘れ、シャドームーンへと言葉を投げるとそれにシャドームーンが返す。

 

「あの忌々しい仮面ライダーたち……奴らをすべて消し去る計画が失敗し、あの奇妙な列車で奴らの存在が戻っていくのを感じた時、我は一つの保険を掛けることにした。

我が更なる力を得るために『別の世界のシャドームーン』を呼び出すことに決めたのだ。

 しかし……さすがは我と同じ、キングストーン『月の石』を持つ者たち。どの世界のシャドームーンも一筋縄ではいかぬ者たちばかりであった。

 これでは仮面ライダーどもとの戦いに支障も出るやも知れぬ……そんな折に、貴様を見つけた。

 キングストーン『月の石』を持ちながら、あろうことか『仮面ライダーの真似事をするシャドームーンの偽物』……これぞ我の求めていたものと我の『月の石』を貴様の『月の石』に共鳴させ、この世界へと呼びだしたのだ」

 

「……要するになんだ、俺が弱くてしかも天敵の『仮面ライダー』を名乗ってるのがムカつくから、自分が強くなる餌にするために俺をこの世界に呼んだ……そういうことか?」

 

「そういうことだ」

 

 シャドームーンの口から語られた、俺たちがこの世界に来た理由に頭に血が上るのを感じる。

 

「……俺は確かに仮面ライダーの偽物かもしれないが、お前に負けるつもりは毛頭ない!!」

 

「だめっ! ノブくん冷静になって!?」

 

 俺は吼えて、支えてくれている響を押し退けるようにして距離をとらせると、再びシャドームーンに飛び掛かった。

 

 

「シャドーパンチッ!!」

 

 

 右手に最大限のキングストーンエネルギーを集中させ、俺は空中でシャドーパンチの体勢に入る。

 だがシャドームーンはそんな俺を相手に動く気配がない。

 

「この力……キングストーン『月の石』を持ちながら、その力を自分のためだけに使おうとしないなど、宝の持ち腐れにすぎん。

 その弱さを、思い知るがいい!」

 

 そして、シャドームーンの視線が俺から外れる。その視線の先には……響!?

 その瞬間、俺の背筋に『直感』が駆け巡った。

 

「フンッ!」

 

「ッ!?」

 

 シャドームーンの手に現れたシャドーセイバー、その短剣をシャドームーンは響に向かって投げつけたのだ。

 

「響っ!?」

 

 叫ぶが、俺には分かってしまう。このままいけばあの投げつけられたシャドーセイバーは響を貫くだろう。

 そして、俺は迷うことなく決断した。

 

「シャドービームッ!!」

 

 俺はシャドーパンチのキングストーンエネルギーを即座にシャドービームに変換して放った。

 シャドービームの念動光線が響に当たり、俺はそのまま響をシャドーセイバーの射線から逃すように響を放る。

 だが、そのためにキングストーンエネルギーを放った俺は無防備なままシャドームーンの元へと飛び込む。

 そして……。

 

 

 ザクッ!

 

 

 俺はシャドームーンの突き出した長剣のシャドーセイバーの切っ先に自分から突っ込んでいた。

 

「が、ガハッ!?」

 

「の、ノブくん!!?」

 

 腹に突き刺さったシャドーセイバーに俺は血を吐き出し、響の悲鳴が響く。

 

「フンッ!」

 

「ぐ、うぅ……」

 

 シャドームーンがシャドーセイバーを引き抜くと、俺はそのダメージに片膝を付く。

 同時にダメージによって変身の状態が保てなくなり、俺はSHADOWから元の姿へと戻っていた。

 

「シャドームーンならば敵を倒すためならばあんな小娘一人、どうなろうが知ったことではない。

 それすら出来ないような軟弱なものがシャドームーンの姿をしているとは……許しがたい」

 

 そう言って俺を見下すシャドームーン。俺は襲い来る激痛の中、それでも精一杯シャドームーンを睨みながら返した。

 

「へっ……ほざくなよ。お前だってシャドームーンの偽物だろうが。

 お前がシャドームーンを語るなよ、寄生虫!」

 

 仮面ライダーBLACK本編のシャドームーンは、シャドームーンの姿になっても妹や恋人への愛を完全には捨てきれていなかった。

 そんなシャドームーンのことをこいつが語るというのは俺には許せなかったのだ。

 

「ほぅ……貴様何かを知っているな?」

 

「さぁ、何のことだか。 知りたきゃもっと近くに来たらどうだ?」

 

 俺は軽口を叩きながらもキングストーンエネルギーを握りしめた拳へと集中させた。もはや変身はできそうにないが、それでも最後まで戦うと決意を込めて睨み付ける俺にシャドームーンは手を掲げる。

 

「……貴様への興味はあるが、まぁいい。 それよりも貴様をこの世界に呼んだ理由を終わらせることにしよう」

 

 瞬間、シャドームーンの手から迸った紫電が俺に襲い掛かった。シャドービームだ。

 

「ぐぁぁぁぁ!!」

 

 身体が灼ける痛みが駆け巡る。だが、それと同時にシャドービームが俺の体内をまさぐるのを感じ取っていた。

 

(まさか……奴の狙いは!? マズい!!)

 

 そのことを察したそのときだった。

 

「ノブくんから……離れろぉぉぉぉぉ!!!」

 

「!? ダメだ響!!」

 

 拳を握りしめた響がシャドームーンに飛び掛かっていた。

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

 響がその拳とともにフォニックゲインを叩き込むが、シャドームーンの強固な装甲『シルバーガード』に阻まれてダメージにならない。

 

「小娘風情が……そんな力で我が身体を傷つけられると思っているのか?」

 

「あぅっ!?」

 

 シャドームーンに跳ね飛ばされる響がその衝撃で地面を転がる。

 

「響っ!!」

 

 だが、俺が響の名を叫んだその瞬間、俺は『決定的なもの』に触れられたのを感じた。

 

「……見つけたぞ!」

 

 その瞬間、体内で暴れ回るシャドービームが、俺の身体を内側から喰い破った。

 

「がぁぁぁぁぁ!!」

 

「の、ノブくぅぅぅぅぅん!!」

 

 吹き上がる血に地面に倒れそうになった俺を、ボロボロになりながらも響がキャッチする。

 

「こ、こんなに血が!? ノブくん、しっかりして!!」

 

 響は青い顔をしながら俺の腹の傷を押さえる。

 

「さて、目的は達した。 後は不愉快な偽物にトドメをさしてやろう」

 

 そんな俺たちに、シャドームーンはレッグトリガーのカシャカシャという音を響かせながらゆっくりと近付いてくる。

 

「ひ、響……お前だけでも……逃げろ……!」

 

 俺の腹の傷を押さえる響に、俺は朦朧とした意識の中で逃げろと促した。

 だがそんな俺に、響はイヤイヤと首を振る。

 

「イヤッ! ノブくんは私が守る!!」

 

 そう言って響は俺を左手で抱きながら、残った右手で拳を握りしめる。

 その時だった。

 

「ムッ、これは……?」

 

 突如としてシャドームーンが俺たちから視線を外し、どこか別の方向を見る。

 瞬間、獣のような咆哮が響き渡った。

 

 

 

「ケケエエエエエーーーッ!!」

 

 

 

 この咆哮は……!?

 そして、俺と響を閉じ込めていた『壁』が切り裂かれる。

 

 

 

「スーパー大切断ッッッ!!」

 

 

 

 『壁』を切り裂き飛び込んできた影は、倒れた俺と響を守るようにシャドームーンの前に立ち塞がる。

 

「あ、あなたは……アマゾンさん!」

 

「ノブト、ヒビキ、トモダチ!

 トモダチ、マモル!」

 

 アマゾンさんこと仮面ライダーアマゾンは両手を広げたような戦闘態勢でシャドームーンを睨み付けた。

 

「仮面ライダーか……1人で我の相手をしようと?」

 

「おっと、俺もいるぜ」

 

 アマゾンに対し構えるシャドームーン、そこに新たな声が響く。

 

 

『ファイナルアタックライド ディ・ディ・ディ・ディケイド!』

 

 

「はぁっ!!」

 

 シャドームーンに向かって空中にカードが並び、そのカードを突き破るようにしながら仮面ライダーディケイドが必殺キック『ディメンションキック』を繰り出した。

 

「クゥ!?」

 

 たまらず腕をクロスさせてそれを防いだシャドームーンは衝撃で大きく吹き飛ばされる。

 その隙に、俺と響の前でアマゾンと並ぶように仮面ライダーディケイドが降り立った。

 

「門矢さん……」

 

「お前たちは休んでろ。 こいつの相手は俺たちでする」

 

 チラリと俺と響を見ると、仮面ライダーディケイドもシャドームーンに構えを取った。

 

「仮面ライダーが2人か……少し時間をかけすぎたか……。

 よかろう、必要なものはすでに手に入れた。

 ここは退いてやるとしよう」

 

 そう言って、いつの間にか拾っていたサタンサーベルをシャドームーンが掲げると光のもやのようなものが現れ、シャドームーンの姿が消えていく。

 

「奴に、ブラックサンに伝えるがいい。

 我が神殿で待つ、とな」

 

 そう言ってシャドームーンは消えていった。

 シャドームーンが消え緊張感が消えると、思い出したかのように激痛が俺を襲う。

 

「ぐぅっ……!?」

 

「ノブくん!?」

 

「おい、信人。 しっかりしろ!」

 

 響は悲鳴のような声を上げ、ディケイドが腹の傷口を押さえにかかる。

 

「ノブト、この薬草塗る。

 少しは痛みが薄れる」

 

「がっ!?」

 

 アマゾンが万能サバイバルキットであるベルト、『コンドラー』を薬研にして何やら取りだした薬草をすり潰して俺の傷口に押し当てた。

 痛みに思わず悲鳴が漏れるが、確かに少しは楽になる。

 その時、視界の隅に空から降りてくるデンライナーの姿が映った。

 それで安心したのか、俺の意識は完全に闇に沈む……。

 

 

「ここ、は……?」

 

 俺が目覚めたのはデンライナーの寝台車、その一室だ。

 

「ノブくん!!」

 

「おわっ!?」

 

 目が覚めた途端、響が飛びつくように俺に抱きついてくる。

 

「よかった……よかったよぉ……ノブくん、ノブくん、ノブくん……!!」

 

「……ごめんよ、心配かけて」

 

 泣きながら俺の名を連呼する響。随分心配をかけたことを申し訳なく思いながら、俺は響が落ち着くまでその頭を撫で続ける。

 しばらくして落ち着いた響が俺から離れ、俺はあの後の話を聞くことにした。

 

「あの後すぐにデンライナーにいた2人の光太郎さんが、キングストーンフラッシュでノブくんの傷を癒してくれたの」

 

「ああ、だから傷は塞がってるのか……」

 

 シャドーセイバーで刺されたあげく、シャドービームで身体の内側から腹を破かれたのだ。ほぼ致命傷だというのに痛みはあるものの傷は塞がって元通りだ。

 

「……」

 

 ……いや、元通りではない。俺にとってもっとも重要なものの存在が……ない。

 

「こうしちゃいられない。このことを他の人たちに伝えないと……」

 

「ノブくん、まだ動いちゃダメだよ!」

 

 痛みに顔を歪めながら立ち上がろうとした俺を、響が押さえつけて止める。 

 

「そんなこと言ってる場合じゃない。 奴が、シャドームーンが俺をこの世界に呼んだ理由を、みんなに伝えないと……」

 

「なら私が伝えるから! お願い、ノブくんは休んでて!」

 

「……わかったよ」

 

 目に涙を浮かべながらも強い口調で言う響に押され、俺は力を抜いてベッドへと戻る。

 そして、その言葉を伝えた。

 

「俺のキングストーン『月の石』を奪われた……奴は俺の『月の石』を奪い、自分の中に取り込んでさらに強くなって確実にライダーを倒すつもりで俺をこの世界に呼んだ……そう、すぐに伝えてくれ……」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ここは時空のどこかに存在するゴルゴム大神殿。

 その玉座に座るシャドームーンの手には、青く輝く石が握りしめられていた。

 それは信人から抉り取られたキングストーン『月の石』である。

 そのキングストーンをシャドームーンは自身のベルト、シャドーチャージャーに押し当てると吸収されるように『月の石』が消える。

 

「ぐ、おぉぉぉぉ……!!」

 

 途端にシャドームーンの身体に変化が起こってきた。

 

「ククク……異なる世界とはいえ同じ『月の石』、この身体によくなじむ。

 キングストーン2つを持った我にもはや恐れるものはない。

 ククク……アハハハハハハッ!!」

 

 神殿にシャドームーンの高らかな笑い声が響き渡った……。

 

 




今回のあらすじ

ビッキー「今回はノブくんVSシャドームーンだよ!」

SHADOW「しかし敵として現れると、レッグトリガーのカシャカシャした音って威圧感半端ないな」

フィーネさん「やっとそこに気付いてくれたのね……」

シャドームーン「死ねよやでム~ン」

奏「サタンサーベルまで持って万全な状態のシャドームーンの相手はやっぱキツイわな」

防人「シャドームーンって剣技も凄いし……剣聖を一太刀でってアレは当時衝撃だったわぁ」

キネクリ「シャドームーンは登場が遅かったから、BLACK本編だとライバルってどっちかっていうと直接戦う機会の多かったビルゲニアの方になりそうだしな。それを一撃ってことでシャドームーンの登場のインパクトは凄かった……」

SHADOW「ここからは俺のステージだ!」

ビッキー「うん、やっぱり予想通りシャドームーン相手に剣で勝つのはちょっと無理」

SHADOW&龍騎「お、折れたぁ!?」

奏「おいおい、リボルケインと同質だって言ってるシャドーセイバーが折れたよ」

防人「まぁ、歌でも『リボルケインも歯が立たぬ』ってものがあるんだし、そういうこともあるんじゃない?」

キネクリ「いや、その歌はどう考えても嘘だろ!」

SHADOW「剣技で負け、地力で負け……オデノカラダハボドボドダ!」

ビッキー「まぁ、ここのシャドームーンって『シャドームーン+創世王の力』って超強化モードだし多少はね」

シャドームーン「と、ここで今回の話のネタばらしだム~ン」

キネクリ「えーと……要約するとこういうことか?」


シャドームーン「初手ライダー全滅を防がれたでム~ン。ブラックサン復活を阻止しようとしたけど出来なかったでム~ン。このままだと負けるかもしれないム~ン」

シャドームーン「そうだ、もう一つ『月の石』を取り込んでパワーアップすればいいでム~ン!」

シャドームーン「……どの世界でもシャドームーンって凶悪ム~ン。下手に呼び出すとこっちが負けるかもしれないム~ン。こわいなーとづまりすとこ」

シャドームーン「おっ、『月の石』持ってて仮面ライダーのモノマネしてる弱いの見つけたでム~ン!さっそく招待するでム~ン」


奏「で、今に至ると」

SHADOW「あべしっ!!」

ビッキー「ああ、ノブくんがひでぶぅした!?」

防人「いや、このキングストーンを抉り出されるシーンはどちらかというと映画『エイリアン』をイメージしたらしいぞ」

アマゾン「ケケエエエッ!!」

もやし「おい助けにきたぞ」

キネクリ「で、アマゾンとディケイドの救援で何とか助かったか……」

フィーネさん「ところで『ケケエエエッ!!』って叫び、小学校のころプールでやらなかった?ほら、友達の水泳帽奪って握りしめながら」

奏「アトランティスごっこは小学生の基本」

防人「で、月影のキングストーン『月の石』を奪われて、シャドームーンがパワーアップしたと」

ビッキー「味方に『太陽の石』×2で敵に『月の石』×2でバランスがいいね!」

SHADOW「いいわけあるかぁ!!」

キネクリ「キングストーン二連装のシャドームーンとか、もうヤバさが爆発しすぎてるんだが……」



というわけでVSシャドームーン戦と、信人達がどうしてこの世界に来たネタばらし回でした。
よし、ノブくん各章1度は死にかけるノルマは達成したぞ!

次回もよろしくお願いします。


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第34話

 俺がシャドームーンに敗れ、キングストーン『月の石』を抉り出されてからすでに3日がたっていた。

 

「……」

 

 デンライナーの寝台車を病室代わりにした俺は、ほかの仮面ライダーたちから身体を休めるように言われ横になっていた。

 チラリと横を見ると、そこには響が座っている。

 俺のところには仮面ライダーの皆が代わる代わる見舞いとしてやってきてくれており、どこからか持ってきた見舞いの品を持ってきてくれていた。そのため短い間にベッドサイドは見舞いの品で賑やかなことになっている。

 響は座りながら、そんな見舞いの品の1つで仮面ライダー鎧武こと葛葉 紘汰さんが持ってきてくれたみかんやバナナやぶどうといったフルーツ盛りからリンゴを手にすると皮をナイフでむいていた。

 

(……今さらながら葛葉さんが持ってきてくれたこの果物、本当に食べても大丈夫なものだよな?

 元は黄金だったり、食べたら変なことにならないよな?)

 

 そんな風に思いながらリンゴの皮をむく響を眺める。

 こう言ってはなんだが響の女子力はそれほど高くない。手元が危なっかしく、見ている俺はハラハラしっぱなしである。

 

「できたっ!」

 

 出来上がったリンゴは案の定、かなり小さくなっていた。

 

「……随分豪快なカットだな」

 

「そういう意地悪なことを言うとあげないよ」

 

 少し頬を膨らませて抗議する響に、俺は苦笑する。

 

「悪かった。 ありがとう、響」

 

「素直でよろしい。 はい、ノブくん、あーん」

 

「あーん」

 

 身体を起こし、差し出されるがままにシャクっとリンゴを咀嚼する。リンゴの瑞々しさが身体に染みた。

 

「ノブくん、身体の調子は?」

 

「ああ、大丈夫だ。 もう十分に起きれるよ」

 

 当初致命傷に近かった俺の傷は、2人の光太郎さんによるキングストーンフラッシュによる癒しによってすでに癒えている。動くことも問題はない。

 

「それより、そっちの方は?」

 

「うん……今日の戦いで仮面ライダーディエンドさんを助けたの。 これで全員助けたって」

 

 これで『平成2号ライダー』は全員救出が終わったことになる。あと残すはゴルゴム神殿でシャドームーンとの決戦だけだ。

 すでに俺たちがこの世界に来た理由……シャドームーンがさらなる力を得るために、俺からキングストーン『月の石』を奪うためだったということは話してある。

 そして……今のシャドームーンは復活した創世王が乗っ取り操っているものだという話もしていた。

 シャドームーン……秋月信彦が黒幕ではなく創世王が黒幕だという話に、2人の光太郎さんが脅威を感じながらも少しだけホッとしたような複雑な表情をしていたのが印象的だった。

 

「でも厳しい戦いになる。 主に俺のせいでな」

 

「そんな風に言わないで」

 

 肩を落とす俺を、響がゆっくりと撫でさする。

 

「本郷さんたちが『俺たちに任せてくれ』って。 あの人たちが言うんだもの、きっと大丈夫だよ」

 

「……ああ、確かに安心できる。何と言っても『仮面ライダー』の言葉だからな。

 ……偽物の俺なんかとは違う、本物の言葉だ」

 

 ……キングストーンを奪われ、俺は随分弱気になっているらしい。意識せずにそんな愚痴のような言葉が漏れた。

 

「……ねぇ、ノブくん。 この世界に来てから、何かおかしいよ。

 何でこの世界に来てから『仮面ライダーSHADOW』って名乗らないの?」

 

 そんな俺に響はずっと気になっていたのだろう、意を決したかのように聞いてきた。

 

「……そう、だな。 響には話してもいいかもな……」

 

 確かにそろそろ頃合いだろう。それに晴れて恋人同士になった響に隠し事をし続けるというのも気分のいいものではなかった俺は、俺の『秘密』を話す決意をした。

 

「今からする話は今まで誰にもしたことのない話だ。 もし信じられないならそれでもいい……」

 

 そう前置きして、俺は自分の秘密……子供のころから自我があり、『仮面ライダーの物語』を赤ん坊のころから知っていたことを話した。

 

「多分『前世の記憶』とかそういうのなんじゃないかと思う……まぁ、仮面ライダーのこと以外は知らないんだけどな」

 

「……そっか、それでノブくんって最初から仮面ライダーの人たちのことを知ってたんだ」

 

 俺の話を聞き終わった響は納得いったようにうんうんと頷く。

 

「……俺のこと、不気味だとか思わないのか?」

 

「なんで? 前世の記憶があると、今のノブくんは何か変わっちゃうの?」

 

 俺の問いに、響は訳が分からないとでも言うようにキョトンとしながら答える。ともすれば不気味がられることもあるかもしれないと悩んだ自分がバカみたいだった。

 

(本当に、俺はいい恋人を持ったな……)

 

 俺は心の中で響に感謝しながら続ける。

 

「何も変わりはしないよ」

 

「それじゃいいじゃない。

 ……あれ、でもその話と『仮面ライダーSHADOW』って名乗らないのに何か関係があるの?」

 

「……俺の力はシャドームーンの力だ。でも俺はそれで悪事を働くつもりはない。この力は響や未来、それに俺の大切だと思うものを守るために使いたいって思った。

 だからそれを自分に誓うために『仮面ライダー』を……『仮面ライダーSHADOW』を名乗って戦ってたんだ。

 いわば自分への戒めのために『仮面ライダー』を名乗ってたんだよ」

 

 そこでいったん言葉を切る。そして「でも……」と続けた。

 

「この世界にきて、本物の『仮面ライダー』に出会って……恥ずかしくなったんだ。

 俺は偶然シャドームーンの力を手に入れて、ただ自分への戒めだけで『仮面ライダー』を名乗ってる……そんな俺が本物を前にして『仮面ライダー』は名乗れない……。

 ……何だ、奴らの言うように俺はまさしく『偽物』じゃないか」

 

 俺はそう言って自嘲気味に笑う。

 そう、俺の出会ったのはまさしく本物の『仮面ライダー』たちだ。それと比べてどんな偶然かシャドームーンの力を手に入れ、自分への戒めのためだけに『仮面ライダー』を名乗る自分があまりにちっぽけで恥ずかしい『偽物』に思えた。

 だからこの世界に来て俺は『仮面ライダーSHADOW』とは名乗れなかったのだ。

 

 そんな俺の胸の内を聞いた響は少し考え、そして口を開こうとしたその時だった。

 

「やれやれ、やっぱりガキだな。 そんな下らないことを悩んでるなんて」

 

「あなたは……門矢さん」

 

 ドアを開けて入ってきたのは仮面ライダーディケイドこと門矢士さんだ。

 

「少し様子を見に来たんだがな、悪いが話は聞かせてもらった。

 まぁ、下らない話だったが」

 

 門矢さんはヤレヤレと、俺を呆れたように見下ろす。

 

「……どういう意味で?」

 

「そのままの意味だ。 『本物の仮面ライダー』だの『偽物の仮面ライダー』だの……本当に下らないことを言ってると思ったまでだ。

 何だ、そんなに言うんなら俺が『仮面ライダー』って書いといてやろうか?」

 

 そう言って門矢さんは懐から取りだした四角いものにさらさらとペンを走らせるとそれを投げよこす。

 それは門矢さんが撮った俺と響が写った写真だ。

 俺と響が並んで写っているが背景は歪み、そこ何が写っているのかわからない。その写真にペンで馬鹿にするかのようにひらがなで『かめんらいだー』と書かれている。 

 

「門矢さん……俺は『仮面ライダー』を尊敬はしてるが、コケにされてまで怒らないわけじゃないんだぜ……!」

 

 俺は怒気を滲ませながら門矢さんを睨む。

 俺の怒気に響がオロオロするが、そんな俺に門矢さんは肩を竦めた。

 

「何だ、こんなことで怒ったのか? だからガキだって言ってるんだよ」

 

 そう言って門矢さんは振り返って部屋から出て行こうとする。

 その直前、扉のところで門矢さんは肩越しに俺に振り返った。

 

「信人……お前は俺たちの、『仮面ライダー』の戦いを知ってるんだろ?

 なら、もう一度よく考えてみろ。

 『仮面ライダー』っていうのが、一体何なのかをな」

 

 それだけ言うと門矢さんは部屋を出て行く。

 

「『仮面ライダー』が何なのか……?」

 

 俺は手の中の写真を見つめながら、その言葉を反芻するのだった……。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 信人の部屋を出た門矢司は、すぐに傍にいた男に気付く。

 

「門矢くん……」

 

「ああ、アンタか。 1号ライダー、本郷猛」

 

 そこにいたのは1号ライダーの本郷猛だ。

 

「信人くんの見舞いに来たのだがな……俺も話を聞いてしまって、君の教導が始まったので出るタイミングを逸してしまったよ」

 

「教導? 何のことやら。

 俺はガキが下らないことを悩んでるのが気に入らなかっただけだ」

 

 そっぽを向く司に本郷は「素直ではないな、君は」と苦笑しながら心の中で呟く。

 

「後輩を教え導くのが先輩の役目……君は良い指導をしたと思っている」

 

「だからそのつもりはないと言ってるだろう。

 ……俺はもう行くぞ」

 

 そう言って司はどこかに行ってしまう。

 廊下に一人残った本郷は信人のいる部屋に視線を向けた。

 

「信人くん……君が俺たちの戦いを知っているというのなら、『仮面ライダー』とは何なのか、よく思い出してくれ。

 君なら、その答えにたどり着けるはずだ」

 

 それだけ呟くと本郷もその場所を後にした……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 そしてその翌日……ついにデンライナーはシャドームーンの待つゴルゴム大神殿へと到着した。

 この事件の最終決戦とすべての仮面ライダーたちが戦いに行く中、俺はデンライナーに残されていた。

 キングストーンを失った俺は、危険だと他の仮面ライダーと響によって半ば強制的にデンライナーに居残りをさせられていた。

 

『ノブくん、必ずノブくんの力を取り戻してくるからね』

 

 笑顔とともにそう言った響の顔が脳裏をよぎる。

 

「くそっ!」

 

 今の俺の力などなんの役にも立たないかもしれない。だが、だからといって響たちが戦っているときにただ待っているのはキツい。誰にともなく思わず悪態をついてしまう。

 

「……俺や響が戦ってる間、未来もこんな気分だったのか」

 

 そんなことを思っているときだ。

 

「信人くん」

 

「あなたは……オーナー」

 

 デンライナー廊下にいた俺は、デンライナーのオーナーに話しかけられていた。

 そのままオーナーは俺に並んで窓を眺める。

 

「彼らは……仮面ライダーたちは戦いに行きました。

 私に出来ることは後は待っていることだけです」

 

「……」

 

 何も言えずにいる俺。そんな俺をチラリとオーナーは見ると、妙なことを聞いてきた。

 

「信人くん……この世で唯一、誰にも平等で優しく残酷なものは何か知っていますか?」

 

「? さぁ……わかりません」

 

 突然のなぞかけに俺は首を振る。そんな俺に向き直ってオーナーは言った。

 

「正解は『時の流れ』ですよ。

 時の流れは誰にでも平等、優しく、そして残酷に流れていきます。その流れは止まりませんし、決して止めてはならないものです。

 大事なのはその流れに対しどうするかです……。

 何もせず流されてもいい。ですが同時に、何かをしてもいい……それが人が生きるということです」

 

「生きる……」

 

 その言葉を呟く俺に、オーナーは頷いた。

 

「信人くん……君はこの流れゆくただ一度の時を、思うままに後悔が無いように行動するといい。

 それが流れゆく時を生きる我々人間のできる、ただ一つのことでしょう」

 

「思うまま……後悔が無いように……」

 

 その言葉に、俺は拳を握りしめる。

 今の俺が思うことは……ただ1つだ!

 

「……ありがとうございます、オーナー!」

 

 吹っ切れた俺は、そうペコリと頭を下げると走り出す。

 

「それではまた……後ほどナオミくんのチャーハンでも食べましょう、信人くん」

 

 背中からそんなオーナーの声が聞こえた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ゴルゴム大神殿の戦い……それは熾烈を極めていた。

 創世王の力によって復活した無数の怪人たち、ライダーたちを苦しめた怪人たちが数を武器に襲い掛かってくる。

 だがそれ以上に信人のキングストーンを奪い取り、パワーアップを果たした『創世王の乗り移ったシャドームーン』が問題だった。

 

「くっ!?」

 

「どうした、その程度かブラックサン」

 

 放たれたシャドービームをガードした仮面ライダーBLACKが大きく後ずさる。

 その姿を見ながら威風堂々といった感じで歩く紅い姿……角はクワガタムシを思わせる形状となり、腰のベルトは二連装で2つの緑の光をたたえていた。それはある世界で『アナザーシャドームーン』と呼ばれていた姿に酷似している。

 

「BLACK、今行くぞ! トァ!」

 

「来るか、もう1人のブラックサン!」

 

 仮面ライダーBLACK RXがリボルケインを引き抜き斬りかかるが、それを『アナザーシャドームーン』は手にしたサタンサーベルで受け止めた。

 

「くぅ……このパワー、ロボライダー以上だ!?」

 

 力を込めるRXだが『アナザーシャドームーン』の凄まじいパワーにギリギリと押される。

 そんなRXを救おうと仮面ライダーファイズと仮面ライダーディケイドが必殺技を繰り出した。

 

 

『エクシードチャージ』

 

『ファイナルアタックライド ディ・ディ・ディ・ディケイド!』

 

 

「たぁぁぁぁ!!」

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

 フォトンブラッドが紅いドリルを形成し、空中に何枚ものカードが浮かぶ。

 

「フンッ!!」

 

「ぐっ!?」

 

 だが『アナザーシャドームーン』は慌てることもなくサタンサーベルでリボルケインを切り払う。その衝撃で吹き飛ばされるRX。

 そして左の拳を握りしめると、迫る紅いドリルと空中のカードを弾き飛ばした。

 

「なっ!?」

 

「ちぃっ!?」

 

 必殺技を完全に防がれたファイズとディケイドが着地した。そこに『アナザーシャドームーン』はサタンサーベルを向けると、稲妻状のシャドービームを放つ。

 

「「うぉぉぉぉ!?」」

 

 その衝撃に大きく飛ばされるファイズとディケイド。なおも追撃を放とうとする『アナザーシャドームーン』。

 

「そうはさせん! 響くん!」

 

「はい! 本郷さん!!」

 

 1号ライダーと響が一足飛びに『アナザーシャドームーン』の懐に飛び込んだ。

 

 

 

「我流、音撃連打の型!!!」

 

 

 

 フォニックゲインとともに叩き込まれる響の拳の嵐は秒間およそ80~100発、響の掛け値なしの全力だ。

 しかしその全力攻撃が『アナザーシャドームーン』にはまるでダメージにならない。

 

「ふん、小うるさい小娘風情が」

 

「させんっ!」

 

 『アナザーシャドームーン』が響を切り裂こうとサタンサーベルを振り下ろすが、それを1号ライダーが『アナザーシャドームーン』の腕を掴んで防ぐとそのまま『アナザーシャドームーン』の首を掴んだ。

 

「響くん!」

 

 1号ライダーの声に響は後ろに大きく跳んで退避、同時に回転を始めた。

 

 

 

「ライダーきりもみシュート!!」

 

 

 

 大回転によって竜巻が発生し、『アナザーシャドームーン』を空中に投げ飛ばす。

 

 

 

「ライダーキックッッ!!」

 

 

 

 そして空中の『アナザーシャドームーン』に1号ライダーのライダーキックが直撃した。

 『アナザーシャドームーン』はそのまま地面へと吹き飛ばされる。

 しかし……。

 

「効かんな、このような攻撃など」

 

 『アナザーシャドームーン』は地面へ叩きつけられる前に体勢を立て直し、膝を付くこともなく着地する。

 その言葉は決して強がりのようなものではなかった。

 

「2つの『月の石』をこの身に宿した我は、創世王は無敵よ!

 今これより我が暗黒の治世が再び始まるのだ!!」

 

「ふん、身体も『月の石』も全部人のもののくせに偉そうに良くまわる口だな」

 

「そのようなことは、俺たちが決してさせんぞ創世王!」

 

 『アナザーシャドームーン』の言葉にディケイドと1号ライダーが答える。

 双方戦意は十分、再び戦端が開かれようとしたその時だった。

 

 

 

 ブロォォォーーー……!!

 

 

 

 甲高い排気音が響く。そして……。

 

「とぉっ!」

 

「の、ノブくん!?」

 

 バトルホッパーから飛び降りた信人がその場に着地した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「誰かと思えば『偽物』か。 いや、もはやキングストーンを失い『偽物』ですらなかったな」

 

「前にも言ったが俺が『偽物』ならお前はシャドームーンにくっついた寄生虫だろうが」

 

 『アナザーシャドームーン』の言葉に言い返して響の方を見る。

 

「ノブくん、なんで!?」

 

「響や他のライダーが戦ってるのに、のんびり待ってなんてられないよ」

 

 そして「それに……」と『アナザーシャドームーン』を見つめながら構えを取る。

 

「『本物』だの『偽物』だの関係なく、あのままやられっぱなしってのは気に入らないんだよ。

 だから俺も奴に一撃入れにきた!」

 

 そう言って俺は両の拳を握りしめる。握りしめた拳からギリギリと音がした。

 同じキングストーンを持つ者として俺と光太郎さん、そしてシャドームーンを比べれば力では俺は劣るかもしれない。

 だがそんな俺でも確実に光太郎さんやシャドームーンと比べて勝っている点が1つある。それはキングストーンエネルギーでの『変身のキャリア』だ。

 光太郎さんやシャドームーンが変身をしたのはせいぜい1年少々前からだ。対する俺の初変身は3才……10年以上前から変身を続けている。

 キングストーンエネルギーでの変身への慣れは確実に俺の方が上だ。そうして長年変身を続けてきたこの身体はその仕組みを完全に覚えている。

 そして……この身にはキングストーンが無くとも、まだキングストーンエネルギーが残留しているのだ。

 

「変……身ッ!」

 

 身体に残ったキングストーンエネルギーを身体に巡らせる。それに反応して俺の身体は変わっていた。

 

「ノブくん、その姿は……!?」

 

 響の驚きの声が響く。

 まるで仮面ライダーシンのような生物的な、灰色と茶色のバッタのような姿……BLACKとは色違いの『バッタ怪人』、それが今の俺の姿だ。

 そんな俺の姿に、創世王の嘲笑が響く。

 

「その程度の力で何が出来るというのだ?」

 

「何ができるのか、今見せてやるよ!」

 

 俺は拳を握り、創世王へと跳躍した……。

 

 




今回のあらすじ

奏「シンフォギアお約束の病院送りモードになってるね」

防人「……そう言えばこの話、病院送りになってるのって月影だけの気がする」

鎧武「これ、お見舞いだ」

SHADOW「……なぁ、このフルーツ本当に食べて大丈夫なやつだよな?」

ビッキー「……大丈夫、ノブくんなら強者になれるはず」

キネクリ「それ、安心できる要素がみじんもないぞ」

ビッキー「はい、あーん♡」

SHADOW「あーん♡」

フィーネさん「この連中、隙あらばイチャ付きおる」

ビッキー「え、どこがイチャイチャ?」

SHADOW「口移しでもないのにこんなの普通だろ?」

鳴滝さん「また健全な高校生の倫理観が破壊されてしまった……おのれディケイドぉぉ!!」

フィーネさん「ああ、もう常識も吹っ飛んでるのねこのバカップルは……」

SHADOW「最終決戦が俺のせいで超ハードモードに変更、さすがに少し効く……」

防人「さすがの月影も落ち込んでいるか……」

奏「お、そのまま響に秘密を語り始めたぞ」

ビッキー「でも前世って言っても『仮面ライダー』関連の記憶しかないし『あっ、そうなんだ』くらいしか言いようがないんだよね」

キネクリ「だよな。 別段『シンフォギアの記憶』があるわけでもなく、未来知ってますムーブかましてるわけでもなし、あたしらにとってはどうでもいいところなんだよな」

SHADOW「俺はやっぱり『偽物』だ……」

もやし「下らないことを悩んでるな」

奏「お、ここでディケイドが説教に来たぞ。ここは今後やるためのシーンに繋げるためのところだな」

キネクリ「まぁやるのは当然あのシーンだ。ヒントはBGMパラレルワールド」

1号「素晴らしい後輩への指導だった」

防人「これには本郷さんもニッコリ」

SHADOW「最終決戦開始したけど置いてかれたでヤンス……」

オーナー「時の列車デンライナー。次の駅は過去か、未来か……」

キネクリ「オーナーの意味深な時語りでバカ2号が吹っ切れたな」

奏「正直、こういう意味深なセリフ吐くおっさんキャラって格好いいよな」

防人「そのかわりキャラエミュが難しくて作者は難儀するが……」

ビッキー「爆裂強打の型!」

キネクリ「……もうコイツ人間やめたの隠してねぇよ。何だよ秒間80~100発の拳って……」

ビッキー「大丈夫、まだまだ青銅クラスだよ」

奏「小宇宙まで感じ始めたかぁ……(遠い目」

防人「おかしい……シンフォギアに世紀王ってバグキャラがいる作品なのに一番のバグキャラがヒロインってどういうこと?」

ビッキー「ノブくん!」

SHADOW「俺、参上! そして本邦初公開のバッタ怪人への変身だ」

キネクリ「……おい、何でできんだよ! 光太郎さんがキングストーン無くても変身できたのは、バッタ怪人に改造されてるからだぞ!
     それしてないお前が何で出来るんだよ!?」

SHADOW「これもキングストーンエネルギーのちょっとした応用だ」

奏「次元連結システムみたいなこと言いだしたぞ」

防人「まぁどっちも同じくらいのヤバさだけど」

ビッキー「次回はバッタ怪人ノブくんVSアナザーシャドームーン(月の石二連装)だよ」

キネクリ「いや、バッタ怪人だってゴルゴム大怪人クラスの強さだろうけど……字面だけだと勝ち目が全くないぞ」


というわけで今回から最終決戦に突入です。
果たして信人は自分の力を取り戻せるのか?

次回もよろしくお願いします。


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第35話

「はぁ!!」

 

 バッタ怪人の姿へと変身した俺は『アナザーシャドームーン』へと拳を叩きつける。

 いかにゴルゴム大怪人級とはいえ、バッタ怪人と『アナザーシャドームーン』の差は歴然だ、ただのパンチではダメージにもなるまい。だから、これも無論ただのパンチではない。

 バッタの羽根を動かす筋肉は高速振動を生み出す。それを利用し、振動波を拳に集中して威力を高めた『超振動拳(バイブレート・パンチ)』だ。

 ……ようするにエルボートリガーとレッグトリガーの劣化版とも言える効果をもった攻撃なのだ。それを何発も連続で叩き込んだ。

 

「ぬるいわ!」

 

 しかし避けようともせずそれを受けた『アナザーシャドームーン』は無傷、逆に俺の首を掴むと締め上げる。

 

「ぐっ!?」

 

「ノブくん!?」

 

 首を絞めあげられる俺に響や仮面ライダーが助けに入ろうとするが、その前に『アナザーシャドームーン』の顔面に何かが叩き込まれた。

 

「なんだ!?」

 

 予想外の方向からの攻撃に、『アナザーシャドームーン』が俺の首を絞める力が緩む。

 

「おらぁ!!」

 

 その間に俺は両足に振動波を集中、『超振動脚(バイブレート・キック)』を『アナザーシャドームーン』の腰に叩き込んで脱出に成功すると着地した。

 そんな俺に、響が驚きの声を上げる。

 

「ノブくん、背中のそれ!?」

 

 響が指を指すのは俺の背中……正確にはそこから生えた『腕』だ。

 バッタ怪人の形態は、その名の通りバッタとしての生態を色濃く残している。そのため背中に隠された先の尖った副腕、『第二の腕』を持っているのだ。さっき『アナザーシャドームーン』の顔面に叩き込まれたのはこの『第二の腕』の一撃である。

 バッタ怪人の姿は、確かにSHADOWの時よりは弱いだろう。

 しかしバッタ怪人形態はよりトリッキーな戦い方ができる。それで逆転の一手を狙うしかない。

 俺はチラリと視線を『アナザーシャドームーン』の腰に向ける。

 

(創世王の力は強大だ。その力を削ぐためにも、俺のキングストーンを取り戻す!)

 

 腰の二連シャドーチャージャー部を攻撃し、どうにか俺のキングストーンを取り戻すことで創世王の力を削ごうというのが俺の考えだ。

 だが……。

 

(火力がまるで足りない……!?)

 

 先ほど脱出の際に、渾身の『超振動脚(バイブレート・キック)』を腰の二連シャドーチャージャー部に叩き込んだというのにまともにダメージになっている様子が無い。

 他の仮面ライダーたちの援護があっても突破できないような巨大な壁だ。

 

「だからって諦められるか!」

 

 そう自分を叱咤すると俺は再び『アナザーシャドームーン』へと向かっていく。

 しかし!

 

「そう何度もやらせると思うか!」

 

 『アナザーシャドームーン』が手にしたサタンサーベルから、シャドービームが稲妻のように降り注ぐ。

 

「うぉぉぉ!!」

 

 その奔流を地面を転がり、ギリギリのところで何とか避けきった俺に間髪入れずに『アナザーシャドームーン』が接近してくる。

 

「ぐぁぁぁ!!」

 

 振り下ろされたサタンサーベルをかわしきることが出来ず、咄嗟に前に出した『第二の腕』が切り落とされ地面に転がった。

 

「こ、のぉぉぉ!!」

 

 俺は、今だ激痛とともに緑色の体液が溢れ出す『第二の腕』を掴むとそのまま力を込める。

 昆虫は外敵に襲われたとき、足などを切り離して逃げるということができるものがある。そんな昆虫の生態を持ったバッタ怪人形態の俺は、先端の切り落とされた『第二の腕』を自分で背中から引き千切ると、そのまま『第二の腕』を鈍器にして『アナザーシャドームーン』に叩きつける。

 

「無駄、無駄ァ!!」

 

「がっ!?」

 

 しかしダメージを与えることはできず、カウンターで叩き込まれた左の拳が俺の胸板を叩き、その衝撃で俺は吹き飛ばされた。

 

「トドメだ!」

 

「ッ!?」

 

 体勢を崩した俺にトドメと『アナザーシャドームーン』がサタンサーベルを振り上げた。

 俺に避ける術はない。

 死を運ぶ凶刃が、俺に迫る……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ノブくん!?」

 

 信人に迫る凶刃を認識した瞬間、響の身体は信人を救うために勝手に動き出していた。

 しかし身体とは別に、今まで弦十郎や仮面ライダーたちによって鍛えられた響の戦いの思考は状況を残酷なまでに冷静に計算していた。

 

(私が防ぐ? ダメ、ノブくんの盾になっても、私ごとノブくんが斬られて死んじゃう!?

 ノブくんを突き飛ばす? ダメ、一撃は私が犠牲になってそれで避けれても返す刀をノブくんは避けられない!?)

 

 戦いの中で際限なく加速する思考をどう巡らせても、信人の死の運命を覆す一手が見当たらない。将棋やチェスで言う『詰み(チェックメイト)』だ。

 そんな時だ。

 

 

『私を……呼べ……!』

 

 

 響の脳内、どこからともなく声が響いたような気がした。

 聞いたことがない、だがどこかで聞いたことがあるようなその少女のような声。極めて近く、限りなく遠い場所から響くその不思議な声に、不思議と響は恐怖も疑問も抱かなかった。

 

 

『欠けた我らの月を取り戻すため私を……呼べ……!!』

 

 

 その声に導かれるように響は意識することなく、『ソレ』を呼んだ。

 

「来て、サタンサーベルッ!!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 俺に振り下ろされるはずだった紅い刃、だがそれは直前で同じ紅い刃によって防がれる。

 それは……!

 

「響!?」

 

「ノブくん!!」

 

 それは響が手にしたサタンサーベルだった。

 

「バカな、それは異世界のサタンサーベルか!

 異世界とはいえ、サタンサーベルがそんなただの小娘に使われることを良しとするだと!?」

 

 自分のサタンサーベルが異世界のサタンサーベルに、しかもそれを使ったのが世紀王でも何でもない響だったことに『アナザーシャドームーン』は驚愕の声を上げる。

 

「今だ!!」

 

「ムゥ!?」

 

 響のつくってくれたチャンスを生かし、俺は全力の『超振動脚(バイブレート・キック)』を『アナザーシャドームーン』の胸板に叩き込むとたたらを踏んだ。

 その隙に響を抱えるように一度飛び退いて距離をとる。

 

「響、ソレは……。それに大丈夫なのか?」

 

「……うん、私もよく分からないんだけど身体も異常はないし行けるよ!」

 

 何故サタンサーベルがここにあり響が扱えているのか分からないが、どうやら大丈夫なような。

 それに……サタンサーベルなら『アナザーシャドームーン』にも通じるはず!

 

「……響、手伝ってくれるか?」

 

「……うん!」

 

 一瞬キョトンとする響だが俺の言葉を理解すると、笑顔で返してくれた。

 

「異世界のサタンサーベルめ、そんな小娘風情にも使われるとは……貴様のような不良品はその偽物とともに砕いてくれる!」

 

 体勢を立て直した『アナザーシャドームーン』は俺たちに、そしてサタンサーベルへ敵意を向ける。

 

「行くぞ響、合わせてくれ!」

 

「うん!」

 

 俺の言葉に響が頷き、俺たちは同時に走りだした。

 

「はっ!!」

 

 響はサタンサーベルを構えながら『アナザーシャドームーン』に、そして俺は走りながら地面に落ちた、切り裂かれた『第二の腕』を両手で拾い上げると『アナザーシャドームーン』に交互に投げつける。

 同時に俺は加速、後ろから響に追いつくとその身体を左手で抱きしめ、響の握るサタンサーベルを俺も右手で握った。

 

「「はぁぁぁぁ!!」」

 

 2人でサタンサーベルを握りしめながら、俺と響は『アナザーシャドームーン』に迫る。

 

「バカめ、これでかく乱したつもりか!」

 

 俺の投げつけた2本の『第二の腕』は、片方は『アナザーシャドームーン』には当たらないところに飛んでいき、片方が直撃するコースへと乗っていた。『アナザーシャドームーン』は、直撃するコースで飛んできた『第二の腕』をサタンサーベルで切り払う。

 

「2人まとめて葬ってくれる!」

 

 そしてそのまま『アナザーシャドームーン』はサタンサーベルを振り上げた。一刀のもとに俺と響をもろとも切り裂こうというのだろう。

 一見して絶体絶命の状況。だが……そんな中、俺はニィっと口を吊り上げて笑った。

 そして異常が現れる。

 

「なっ、これは……!?」

 

 サタンサーベルを振りあげた『アナザーシャドームーン』が不自然な体勢のまま硬直した。

 

「これがお前の知らない、人の技だ!!」

 

 俺の視線の先には地面に突き刺さった……正確には『アナザーシャドームーンの影』に突き刺さった、先の尖った『第二の腕』がある。

 さっき俺が投げつけた2本の『第二の腕』、この片方は『アナザーシャドームーン』には当たらないところに飛んでいった。しかし、俺の狙いは最初から『アナザーシャドームーンの影』だったのである。

 狙い違わず『アナザーシャドームーンの影』に当たり、それが『アナザーシャドームーン』の動きを止めたのだ。

 これこそ俺たちの頼れる大人、忍者である緒川さん直伝の忍術。

 その名は……!

 

 

『影縫い』

 

 

 翼も使う拘束技である。

 とはいえ、『影縫い』で『アナザーシャドームーン』を拘束するのは無理がある。

 だが……。

 

(0.1秒の隙ができた!)

 

 たったそれだけの、だが必勝のその隙が出来ればそれでいい!

 

「「たぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 俺と響が手にしたサタンサーベルを振り下ろす。

 

「ぐわぁぁぁ!?」

 

 サタンサーベルの刃はあれだけ強固だった『アナザーシャドームーン』の装甲を切り裂く。左肩から腰の二連シャドーチャージャーにかけて袈裟切りにし、激しい火花が散った。

 しかし、致命傷ではない。

 

「貴様らぁぁ!!」

 

「!? マズい!?」

 

 激昂した『アナザーシャドームーン』から周囲に向けて、緑の光の波動が放たれた。全方位への高出力な『シャドーフラッシュ』だ。

 それは咄嗟に飛び退こうとしていた俺たちだけでなく、俺たちを援護していた仮面ライダーにも襲い掛かったのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ぐ、うぅ……」

 

 『アナザーシャドームーン』のシャドーフラッシュによって吹き飛ばされたことで変身が解除されてしまった俺は立ち上がろうとするが、ダメージで立ち上がることができない。

 辺りを見れば、同じようにシャドーフラッシュの衝撃を受けたファイズ、ディケイド、BLACK、BLACK RX、1号、そして響がダメージで変身を解除させられて倒れていた。

 そんな俺を見下すように……いや、事実こいつは俺を虫けら程度にしか思っていないのだろう、俺を見下しながら言ってくる。

 

「しょせんはただの『偽物』、お前はその程度でしかない。

 仮面ライダーどものような下らない『理想』もなく、さりとてシャドームーンとしての『野望』も持つわけでもない。

 貴様は偶然手に入れたキングストーンとシャドームーンの力で、ただ好きに暴れる子供にすぎん。

 そんなものがこの我にかなうと本気で思っているのか?」

 

「……」

 

 『アナザーシャドームーン』のその言葉に、俺は何も言えなくなってしまった。

 俺は仮面ライダーたちのように『人類の平和のために』という気高い魂も、悪の仮面ライダーであるシャドームーンのような大いなる『野望』もない。

 偶然手に入れた力で暴れるだけの半端な『偽物』……それはまさしく俺の中に渦巻いていたものを的確に指していた。

 だが……。

 

「そいつは違うな……」

 

「門矢さん……」

 

 『アナザーシャドームーン』の言葉を否定しながら、ゆっくりと門矢さんが立ち上がった。

 

「偶然手に入れた力? それがどうした?

 偶然だろうが何だろうが、手にした力を自分以外の誰かのために使うと誓う……人はそれを『決意』って言う。

 コイツは、信人は自分の手に入れた力を大切な誰かを守るために使うと『決意』した……それが出来た連中のことを、どこかの誰かは『仮面ライダー』って呼ぶんだぜ」

 

「この創世王たる我に向かって偉そうに……貴様、何様のつもりだ!」

 

 『アナザーシャドームーン』のそのセリフに、門矢さんはフッと笑って変身のためのカードを構えながら答える。

 

「通りすがりの仮面ライダーだ……と言いたいところだが……」

 

 そう言って門矢さんは俺に振り返った。

 

「今回は信人、お前に譲ってやるよ!

 変身!!」

 

 

『カメンライド! ディケイド!』

 

 

「ハッ!!」

 

 ディケイドに変身を果たした門矢さんが『アナザーシャドームーン』に飛び掛かる。

 それに続くように乾さんが俺に向き直った。

 

「俺もファイズの力と出会ったのは偶然だ。

 だが人間として、ファイズとして戦うと決めたのは間違いなく俺の意思だ。

 俺は今、やれることをやる。

 お前はどうするんだ、信人?」

 

 

『5・5・5 Enter』

 

 

『STANDING BY……』

 

 

「変身!!」

 

 

『COMPLETE!!』

 

 

「ハァ!!」

 

 ファイズへと変身を果たした乾さんもディケイドと同じように『アナザーシャドームーン』へと挑みかかっていった。

 ディケイドとファイズは2人で『アナザーシャドームーン』を押さえ、時間を稼いでくれている。

 2人は……俺が立ち上がると信じてくれている。それが俺の胸を熱くさせる。

 そんな俺に今度は本郷さんが語りかける。

 

「信人くん……」

 

「本郷さん……」

 

「君は俺たち仮面ライダーの戦いを知っているのだろう?

 ならば知っているだろうが、俺は決して自分から望んでこの身体を手にしたわけではない。

 『偶然』ショッカーに目を付けられ、『偶然』この身体に改造され、『偶然』脳改造前に脱出できた。

 つまり俺も君と同じ……『偶然』力を手に入れたに過ぎない。

 そして、仮面ライダーの多くは同じ……自ら望みその力を手にしたものは少ない、『偶然』力を手にした者だ」

 

 「だが……」そう言って本郷さんは、偉大なる始まりの仮面ライダーは続けた。

 

「身体を改造されたことは俺の本意ではないが、この偶然手に入れた力で救えたものがある!」

 

 

「ライダァァァ……変身!!」

 

 

「人知れず、人類の未来を影で支える戦い……光を浴びることのない、人々の目にはとまってはならない闇との終わりなき戦い……。

 この力でその戦いに身を投じると決意した俺の、俺たちの名は……『仮面ライダー』だ!」

 

 1号ライダーへと変身した本郷さんが背中越しに振り返る。

 

「信人くん……『仮面ライダー』の名はたったそれだけの、『決意』をした者の名だ。

 俺は君はそれに相応しい戦いをしてきたと彼女から、響くんから聞いている。

 だからこそ立ち上がるんだ、『仮面ライダーSHADOW』!」

 

 そう言って1号ライダーもディケイドとファイズとともに、再び『アナザーシャドームーン』との戦いに入った。

 あの本郷さんが、伝説の1号ライダーが俺のことを『仮面ライダー』と呼んでくれた……その事実は俺の心に燻っていた下らない想いを晴らしていく。

 最後に残っていたのは黒と白の2人の光太郎さんだった。

 

「信人くん……君も知っている通り、俺はシャドームーンを、信彦を倒した。

 そんな俺は君を見て思ったよ。もしかしたら信彦を取り戻し、ともに戦う未来もあったのかもしれないと……。

 そんな……とてもいい夢を見させてもらった」

 

「信人くん、君は信彦じゃない。 シャドームーンでもない。

 悪の手で脳改造をされたわけじゃない君は、その力で胸を張り君の望むことをすればいいんだ」

 

「光太郎さん……!」

 

 光太郎さんたちの言葉に拳を握りしめ、ゆっくりと俺は立ち上がる。

 そしてそんな俺の背中を優しく押すように……俺の大好きな歌声が聞こえてきた。

 

「響……!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ノブくん……」

 

 仮面ライダーたちに励まされ、立ち上がろうとする信人。その信人の姿に、響はどうしようもないほどの愛おしさ感じる。

 同時に、響は仮面ライダーたちにわずかな嫉妬を感じた。

 

(私も……私もノブくんの力になりたい!)

 

 信人の背中を押していく仮面ライダーたち。しかし、多くの戦いを超えてきただろう仮面ライダーたちに比べたらちっぽけな自分には、そんなことなんて……。

 その時、響の脳裏に響く声があった。

 

 

『あるだろう、お前にも月に力を与えるものが……』

 

 

「えっ……」

 

 どこからともなく脳内に響く声。どこかで聞いたような少女のような声は続ける。

 

 

『その胸に湧き上がる歌……それは、お前だけが持つ月への想いだ』

 

 

「……そうだ!

 あの時了子さんは言ってた。 『胸の歌を信じなさい』って……!」

 

 拳を握りしめ、響はゆっくりと立ち上がる。

 確かに自分は仮面ライダーたちのような力はないかもしれない。でも……!

 

「この胸に湧き上がる歌は……ノブくんへの想いは……誰にも負けない真実だ!」

 

 

『そうだ、お前のその溢れる想いは言葉では足りない。

 だから……歌え、その胸の歌を! 月への純粋な想いを!

 それこそ、欠けた月を取り戻す最後の力になる!』

 

 

「……うん!」

 

 響は脳裏に響く謎の声に答えると、自然とそばに転がったサタンサーベルを手に取った。

 どうしてサタンサーベルを手に取ったのか……それは響にも分からない。

 そもそもサタンサーベルには暴走させられた挙句信人を殺しかけたという前歴がある。いい印象はないはずだ。

 だが自然と響はサタンサーベルを呼んでいたし、それに応えて現れたサタンサーベルはいつかのように響を暴走させることはなかった。

 そして今は、『サタンサーベルを手に取ることが正しい』と確信できる。

 そして……響は胸に浮かんだ歌を歌う。

 信人への想い、ただそれだけを想いながら……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

『影の王子~仮面ライダーSHADOW~』

 

 

1.

平和な街に 突如吹き荒れる

悲しみ運ぶ 闇の凶ツ風(まがつかぜ)

 

人は救いを 求めながら

あなたを待つの 銀の救世主(ヒーロー)を

 

前を 向いて 拳 握り

誰かの 幸せ 取り戻すため

 

SHADOW! 大地を蹴って!

SHADOW! 悪を砕く!

 

輝く銀の背中

 

SHADOW! 明日(あす)を守る!

SHADOW! 愛の戦士!

 

誰かの 未来(みらい)を 守る

愛しい あなたの その名は

 

仮面ライダーSHADOW!

 

 

2.

平和な街に 突如降りかかる

悲劇を運ぶ 暗い涙雨(なみだあめ)

 

人は涙を 流しながら

あなた求めるの 銀の救世主(ヒーロー)を

 

闇に 向かい 怒り 込めて

誰かの 悲しみ 止めるため

 

SHADOW! 光を放ち!

SHADOW! 闇を払う!

 

煌めく銀の身体(からだ)

 

SHADOW! 人を守る!

SHADOW! 月の戦士!

 

誰かの 生命(いのち)を 守る

恋しい あなたの その名は

 

仮面ライダーSHADOW!

 

 

光 纏い 闇を 砕く

人の 平和を 守るため

 

SHADOW! 闇を砕く!

SHADOW! 月の光!

 

優しき月の化身

 

SHADOW! 愛を守る!

SHADOW! 影の王子!

 

誰かの 希望(ユメ)を 守る

愛する あなたの その名は

 

仮面ライダーSHADOW!

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

その時、不思議なことが起こった。

 

 

 

 

 響が歌うのはまさに仮面ライダーSHADOWに向けた応援歌だ。

 響の胸から溢れる歌を歌い上げるとフォニックゲインが巻き起こり、それを手にしていたサタンサーベルが増幅させる。

 周囲に濃密なフォニックゲインが降り注ぐ中、響のシンフォギアがそのフォニックゲインに反応し形状を変化させ、その姿をあのフィーネとの最終決戦の時の純白の姿……エクスドライブモードへと変化させる。

 だが変化はそれだけではなかった。

 

「ぐ、ぐわぁぁぁぁ!?

 な、なんだこれは!?」

 

 1号、ディケイド、ファイズの3人と戦う『アナザーシャドームーン』が、突如として戸惑いと苦悶の声を上げた。

 見れば『アナザーシャドームーン』の二連シャドーチャージャー、そこに出来た今しがた俺たちがサタンサーベルでつけた傷から青い光が漏れ出している。

 

「そうか、響のフォニックゲインだ!」

 

 俺のキングストーン『月の石』は他のどの並行世界にもない力、歌の力『フォニックゲイン』を唯一知るキングストーンだ。

 サタンサーベルでつけた傷から、サタンサーベルによって増幅された響のフォニックゲインを感じ取った俺の奪われたキングストーンが反応していたのだ。

 その青い光を見て、立ち上がった俺は叫んだ。

 

 

「還ってこい、俺のキングストーン!!」

 

 

 俺の声に応えるように、『アナザーシャドームーン』の二連シャドーチャージャーを内側から突き破るようにして青い光の球体が飛び出す。それは奪われた俺のキングストーン『月の石』だ。

 それはそのまま俺に向かって飛んでくると、スッと俺の身体の中に消える。途端、俺の胸のエンジンに火がついたように身体が熱くなった。渦巻くキングストーンエネルギーが身体中を駆け巡っているのがわかる。

 

「ぐぅぅぅ……バカな!?

 キングストーンが、『月の石』が選んだというのか!? この創世王ではなく、ただの下らない『偽物』の貴様を!?」

 

「……俺は誰かの偽物じゃない」

 

 衝撃に片膝をついた『アナザーシャドームーン』に、俺は答える。

 

「そう、俺は『仮面ライダーの偽物』でも、『シャドームーンの偽物』でもない。

 仮面ライダーたちが認めてくれた。響が俺への想いを歌にして贈ってくれた……こんなにも思われた俺が、何かの『偽物』であってたまるものか!

 もう迷いはない! 俺はこの力で響や、俺の大切な人たちのために戦い続ける!!

 だから見ていてください、俺の、変身!!」

 

「ああ!」

 

「行こう、信人くん!」

 

 俺の左右の光太郎さんが頷くと変身のポーズへと入る。俺も同じく、慣れ親しんだ変身のポーズへと入った。

 

 

「「「変身ッッ!!」」」

 

 

 同時に変身を果たす俺と2人の光太郎さん。

 

 

「仮面ライダー……BLACKッ!!」

 

「俺は太陽の子! 仮面ライダーBLACK RXッッ!!」

 

 

 変身を果たした2人の光太郎さんの名乗り、それに続けて俺も叫ぶ。

 

 

「俺はSHADOW! 仮面ライダーSHADOWだッッ!!」

 

 




今回のあらすじ

ビッキー「というわけでバッタ怪人ノブくんVSアナザーシャドームーンの戦いだよ!」

奏「もう字面だけでわかる、完全な無理ゲーなんだが……」

SHADOW「おどりゃぁぁぁ!!」

キネクリ「副腕攻撃とか自分で副腕引き千切って鈍器にして殴るとか、戦い方が完全にヒーローのそれじゃねぇ!」

防人「この辺りの戦闘描写は、漫画版の『仮面ライダーBlack』をイメージしてるらしい。というか月影のバッタ怪人形態はそのまま『漫画版 仮面ライダーBlack』のイメージだそうだ」

奏「生物っぽさと必死さが出てる戦いだな」

ビッキー「ちなみに作者としては最高に必死さが伝わるライダーパンチだから、レンガを握って殴りつけて『ライダーパンチ!』ってやりたかったらしいけど、また今度にしたらしいよ」

キネクリ「いつかやるのか、あのレンガライダーパンチ……(困惑」

シャドームーン「無駄無駄ァだム~ン!」

SHADOW「ぱ、パワーが違いすぎる!」

防人「なんか月影がスパロボの雑魚みたいなこと言い始めたが、まぁ気持ちは分かる」

奏「バッタ怪人形態も十分強いけど、さすがに今回は相手が悪すぎだわな」

ビッキー「と、ここでできる彼女の私が突如謎の声を受信してノブくんへの攻撃をカット!」

キネクリ「謎の声(正体バレバレ。
     つーか、いつの間にこのバカは無機物の絆レベルMAXにしたんだ?」

ビッキー「その辺り外伝後のエピローグでやる気らしいけど、毎回記憶が無くなるのをいいことに2~3日に一度くらいの割合でお茶会してたらしいよ」

防人「それ、下手すると私より付き合いが深くないか?」

SHADOW「そして俺と響のラブラブサタンサーベルアタック!」

ビッキー「ノブくん♡」

奏「見た目完全に水着ブリュンヒルデの、『せめて、死の刹那までは(ブリュンヒルデ・シグルテイン』だな」

フィーネさん「創世王ケーキに見立てて、サタンサーベルのケーキ入刀アタックとか、戦場で当然のようにイチャつくこのバカップルを誰か止めなさいよ!!」

SHADOW「そして影縫い発動!」

防人「現代忍者のチート技発動。 拘束技はやはり強いなぁ」

SHADOW「0.1秒の隙がある!」

キネクリ「それは隙とは言わねぇよ!!」

シャドームーン「あ、危なかったでム~ン」

奏「惜しい、やっぱり仕留めきれないか。
  そして突然のMAP兵器シャドーフラッシュ」

SHADOW「グワーッ!」

シャドームーン「お前は偽物ム~ン」

もやし「それは違うな」

防人「もやしの説教タイムキター!!」

キネクリ「前回から絡めて準備してたし、やらなきゃ詐欺だからな。当然BGMは『パラレルワールド』だ」

たっくん「俺は戦う、人間として、ファイズとして」

1号「立ち上がれ、仮面ライダーSHADOW!」

2人の光太郎さん「シャドームーンが正義とかいい夢見させてもらった……」

奏「と、作者お気に入りのファイズ、それに1号にBLACK、BLACK RXとライダー界の御歴々から次々激励が」

SHADOW「これが今回の外伝通してやりたかった『自称仮面ライダーが、本当の仮面ライダーとなる』という内容だな」

ビッキー「この作品は転生ものだけど、『仮面ライダーの力を与えられただけの誰かが好きに暴れる作品』にはしたくはなかったらしく、どうしても『仮面ライダーと認めてもらう』というのをしたかったんだって」

奏「ライダー論を語って先輩ライダーに仮面ライダーだと認めてもらう。そして胸を張って仮面ライダーを名乗るという過程……それが今回の外伝編の目的ってわけだ」

キネクリ「そして最後の一押しはオリジナル曲か」

ビッキー「この作品は『シンフォギア』だからね。作者としては一番大事なところでノブくんに力を与える最後の一押しはやっぱり『歌』以外にない、って考えらしいよ」

SHADOW「前回フィーネ最終決戦のときのはSHADOWのOPテーマ曲で、今回のオリジナル曲は挿入歌のつもりだそうだ」

防人「フォニックゲインに反応して取り戻したキングストーンでSHADOWに変身だ」

キネクリ「BLACK、BLACK RX、SHADOWの三人同時変身とかディケイドの時を超える凄い絵面だな!」

奏「当然、BGMは『Millions of Me』だよ!」


というわけでバッタ怪人形態の戦いからSHADOW復活まででした。
今回はやりたいシーンのオンパレード。個人的には満足の内容です。
この外伝編も残すところあと数回、年内には終わらせたいものです。

次回もよろしくお願いします。


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第36話

少し時間を開けてしまったキューマル式です。
今回は生まれて初めてファンアートというものを頂きました。
掲載の許可も頂いたので掲載します。


【挿絵表示】


はんたーさんから頂いたファンアートとなります。
本文のほうにも挿絵として、はんたーさんから頂いたファンアートを掲載しました。どうもありがとうございます。
こういったものは初めてなので感激で励みになりますね。

今回は番外編の最終決戦となります。



 響の歌声が響く中、俺は仮面ライダーBLACK、BLACK RXとともにキングストーンを取り戻しSHADOWの姿へと変身を果たす。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「グゥゥゥゥ!?」

 

 そんな俺とは対照的に、キングストーンを1つ失った『アナザーシャドームーン』はうずくまったまま苦しそうにもがくと、その姿が『レッドシャドームーン』へと変わっていく。

 

「どうやら形勢逆転らしいな、創世王」

 

「ほざくな、偽物め!」

 

 

 そう叫ぶと、『レッドシャドームーン』は自らのサタンサーベルを天に掲げる。すると空間からにじみ出るようにして数えきれないほどの『グリーンシャドームーン』の集団が現れた。

 

「最初から貴様らなど我の力だけで十分なのだ。貴様のキングストーンを求めたのも慎重を期したにすぎん!

 だが、貴様のような偽物を選ぶような異世界のキングストーンの不良品を手にしようとした、我が間違っていた!

 貴様らのすべての並行世界に我が影たちを送り込み貴様ら仮面ライダーも、そしてその世界のすべても破壊しつくしてくれるわ!!」

 

「そうはさせんぞ、創世王!!」

 

 創世王のすべての世界への宣戦布告に、1号ライダーが立ちはだかる。

 

「仮面ライダー1号か……貴様もそろそろ休んだらどうだ?」

 

「人々が助けを求める限り、この世に悪がある限り、俺が戦いから退くことはない!

 行くぞ、仮面ライダーたちよ! 俺に続け!!」

 

 始まりの仮面ライダー、1号の号令の元で仮面ライダーたちが一斉にグリーンシャドームーンたちに向かっていく。

 

「響っ!」

 

「うん!」

 

 そして俺と響も一緒にグリーンシャドームーンへと向かっていった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「はっ!!」

 

 響の正拳がグリーンシャドームーンに叩き込まれる。だがそれでもグリーンシャドームーンは止まらず、響に攻撃しようと拳を振り上げる。

 

「そうはさせん!」

 

 それを俺がカット、グリーンシャドームーンの拳をガードするのと同時にシャドーパンチをその胸板に叩き込む。

 衝撃で吹き飛ぶグリーンシャドームーン。だがすぐになんの変わりもなく再び俺たちに向かってくる。

 恐らく、根本的に痛みといったものが無いのだろう。

 

「予想はしてはいたが……スペックはほぼシャドームーン同等だな」

 

 マイティアイで分析した結果を俺は隣の響に話す。

 グリーンシャドームーンは攻撃力・防御力・スピードなどの基本的なスペックに関してはほぼシャドームーンと同等である。

 シャドームーン同等の相手……それは本来であればどうしようもなく危険な相手であったはずだ。

 しかし今の俺も響も、その程度では脅威を感じることなどない。

 

「今さら魂の籠っていない影にやられるかよ。 やるぞ、響!」

 

「うん!」

 

 俺の言葉に響が頷き、俺はグリーンシャドームーンに向かって一直線に向かっていく。

 即座にパンチとキックによる迎撃がくるが、俺はそれを掻い潜って懐に飛び込んだ。そしてグリーンシャドームーンの腕と首を掴む。

 

 

「ライダーきりもみシュートッ!!」

 

 

 それは仮面ライダー1号の必殺技の一つだ。グルグルと超高速で回転し、その回転によって竜巻が発生、グリーンシャドームーンを高く空中へと投げ飛ばす。

 

「響っ!」

 

 俺の声の先、その純白の翼を広げた響が空を舞う。

 そして響が投げ飛ばされたグリーンシャドームーンに向かって急降下、その首に向けてのニードロップを叩き込んだ。

 

 

「我流、断頭脚刃!!!」

 

 

 そのまま首へのニードロップで地面に叩きつけられたグリーンシャドームーンはボロボロと崩れて消えた。

 その時、俺の背後から別のグリーンシャドームーンが飛び掛かってくる。

 

「ノブくん!」

 

「わかってる!」

 

 だが俺は油断することなくその攻撃を防ぐと、そのまま右の拳をグリーンシャドームーンの胸板に押し付ける。

 

「俺だって、弦十郎(おやっさん)の弟子なんだぜ!」

 

 瞬間、零距離からの拳の衝撃でグリーンシャドームーンが大きく吹き飛ぶ。

 八極拳の一つ『寸勁(すんけい)』だ。零距離から全体重と力を叩き込む一撃である。俺のはそれにエルボートリガーの超振動波を上乗せして同時に叩き込んでいた。

 

「はぁっ!!」

 

 吹き飛ぶグリーンシャドームーンに、俺はすかさず空中に跳び上がりトドメの体勢に入っていた。

 

 

「シャドーキックッ!!」

 

 

 シャドーキックが直撃し、先ほど響の倒したグリーンシャドームーン同様ボロボロとその姿は崩れ去る。

 辺りを見れば、仮面ライダーたちによって次々とグリーンシャドームーンたちは倒されていっていた。

 

「バカな……こ奴らは我の影、力はシャドームーンとほぼ同等なのだぞ!

 それを何故、こうも容易く凌駕する!?」

 

 その光景に理解できんとばかりに『レッドシャドームーン』が叫んだ。

 そんな『レッドシャドームーン』に、俺は今までのお返しとばかりに言ってやる。

 

「シャドームーンが途方もなく強かったのはその力と同時に、『野望にかける魂』を持っていたからだ。

 どんなに力があろうが、魂がこもっていない影に俺たちが負けるものかよ。

 まぁ、お前に言っても理解できないかもな。シャドームーンの『偽物』のお前には!」

 

「貴様……この我を『偽物』だと?」

 

「何度でも言ってやるよ寄生虫。

 お前はシャドームーンじゃない。お前の方こそシャドームーンの『偽物』だ!」

 

「貴様ぁ!!」

 

「ノブくん……煽るのはどうかと思うよ」

 

「今まで散々言われたお返しだよ」

 

 激昂した『レッドシャドームーン』を前に、響が少し呆れながら俺に言う。

 そんな俺たちの前で『レッドシャドームーン』が紅いオーラを立ち上らせていた。

 

「ぬぅぅぅぅあぁぁぁぁぁ!!!」

 

 大地を震わせるような力が解放されると『レッドシャドームーン』が巨大になっていく。

 そしてその巨体で俺と響を見下ろしながら『レッドシャドームーン』が言い放つ。

 

『貴様らだ、貴様らの存在で我が完全な計画が狂った!

 その不良品のキングストーンと耳障りな歌、この手で八つ裂きにしてくれるわ!!』

 

「俺たちをこの世界に連れてきたのはお前だろうに、何を勝手なことを!

 行くぞ響、これがラストバトルだ!!」

 

「うん!」

 

 俺と響、そして他の仮面ライダーたちが巨大化した『レッドシャドームーン』へと飛び掛かる。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 響と、スカイライダーを中心とした空を飛べる仮面ライダーたちが『レッドシャドームーン』の近くを飛び回りかく乱と同時に攻撃をしていく。

 

『小うるさいハエどもが!!』

 

 そんな彼らを叩き落とそうと紅い稲妻……『レッドシャドームーン』のシャドービームが周囲に降り注ぐ。

 そんな中を俺を含めた仮面ライダーたちが駆け抜けていく。

 

「おばあちゃんが言っていた。まずい飯屋と悪の栄えた試しは無い。

 悪であるお前はここで終わりだ」

 

 誰よりも早く、仮面ライダーカブトがクロックアップを駆使した連続攻撃を『レッドシャドームーン』に叩き込む。

 

『どこまでも邪魔な仮面ライダーどもめ!

 貴様らを倒し、我が新たな支配者としてすべてを支配するのだ!

 その邪魔をするな!』

 

 仮面ライダーカブトに反撃しようとした『レッドシャドームーン』、その振り上げた腕の周囲に突如として数十もの紅いドリルが浮かび上がった。

 紅いドリルは一斉に『レッドシャドームーン』の腕に突き刺さり回転を始める。

 仮面ライダーファイズアクセルフォームから繰り出された『アクセルクリムゾンスマッシュ』だ。

 

「そんなふざけた悲劇、俺たちがハッピーエンドに変えてやるよ。

 お前を倒してな!!」

 

『ぐぁっ!?』

 

「今だ!!」

 

 『アクセルクリムゾンスマッシュ』によって体勢の崩された『レッドシャドームーン』に、仮面ライダーたちの集中攻撃が叩き込まれる。

 四方から叩き込まれるライダーキックの嵐に『レッドシャドームーン』はまるで強風の前の木の葉のように揺れた。

 

『バカな、この我が!!』

 

 

「「「ライダーキックッッ!!!」」」

 

 

 そして俺と1号とBLACKでのトリプルライダーキックがトドメに、巨大化した『レッドシャドームーン』の胸板に炸裂した。

 

『む、ぐぅぅぅぅ……!?』

 

 その一撃で満身創痍であった『レッドシャドームーン』が二、三歩後ずさる。

 

「やったか!?」

 

 確かな手ごたえを感じた俺は思わずそう口走る。

 

『バカな、この我が! 創世王たるこの我が再び敗れるというのか……!?

 しかし……!!』

 

 敗北を悟った『レッドシャドームーン』。

 しかし、その身体の内側から危険な光が漏れ始めた。

 

『我だけがここで消えてなるものか!

 我は人の心の闇があるかぎりいつの日にか再び蘇る! その時のために、貴様ら仮面ライダーはここで確実に消してやる!!』

 

 『レッドシャドームーン』……『創世王』は自爆してここで仮面ライダーたちすべてを葬るつもりだ。

 

「道連れなど子供みたいなことを!!」

 

 俺は思わず毒づいた。

 シャドームーンの自爆は、漫画版ではあるもののクライシス帝国を滅ぼすだけの力を持っている。そんなものがここで発生したら流石に全滅だ。

 かといって今攻撃を仕掛けるのは破裂寸前の風船を針でつつくことに等しい。

 その時、マイティアイで『レッドシャドームーン』を分析した俺は気がついた。

 

 『レッドシャドームーン』が自爆で用いようとしているのは、シャドームーンの体内の『月のキングストーンエネルギー』なのである。

 ならば……全く同じ『月のキングストーンエネルギー』ならばそれを中和させることが可能だ。

 そして、それが出来るのはキングストーン『月の石』を体内に宿した俺だけなのだ。

 

(俺はこのために、『世界』に呼ばれたのかもな)

 

 そんなことを思いながら俺は駆ける。そして叫んだ。

 

「来い、サタンサーベルッ!!」

 

 俺の声に応えるように、サタンサーベルが飛んできて俺の右手に収まった。刀身を指でなぞり、サタンサーベルが紅い光を放つ。

 そして、それを『レッドシャドームーン』に突き立てた!

 

『ぐぅっ! 貴様ッ……!!』

 

「させるかッ!!」

 

 俺の意図を読んだ『レッドシャドームーン』が即座に自爆しようとするが、俺がサタンサーベルを通してキングストーンエネルギーを流し込み、『レッドシャドームーン』のキングストーンエネルギーを中和していく。

 だが!!

 

「ぐっ、これは!?」

 

 『創世王』の力によって制御されたキングストーンエネルギー、それは俺が出せる力を上回っており、サタンサーベルで増幅してなお中和しきれないほどだったのだ。

 このままでは中和が間に合わず、自爆されてしまう。

 そう思ったその時……!!

 

「信人くん、これを!!」

 

 飛んできた『ソレ』を俺は空いた左手で掴む。

 それは!

 

「リボルケイン!?」

 

 それはBLACK RXのリボルケインだ。

 リボルケインもキングストーンエネルギーを増幅して流し込む、ブースターの役割を持っている。それを思い至った俺は、そのまま左手でリボルケインの輝く刀身を『レッドシャドームーン』に突き立てた。

 

『がっ!?』

 

 サタンサーベルとリボルケイン、2つで増幅された俺のキングストーンエネルギーが、『レッドシャドームーン』の自爆のためのキングストーンエネルギーを中和する。

 しかし……足りない! あとほんの少し、足りない!!

 

 

 

 

その時、不思議なことが起こった。

 

 

 

 

 空から聞こえる歌……響の歌う、俺の背中を後押しする歌声が、俺に力を与えてくれる。

 クワガタムシのような頭部のアンテナに、形状の変わった肩アーマー。

 『緑』、『青』、『黄』の三つの光をたたえた三連装ベルト『トライルナライザー』。

 俺は月の欠片を破壊するときに変わった、あの『アナザーシャドームーン』に似た強化形態へと変身を果たしていた。

 そんな俺の姿に、『レッドシャドームーン』は狼狽の声を上げる。

 

『貴様、その姿は!?』

 

 それに俺はゆっくりと答えた。

 

「これは俺が、俺とこのキングストーンだけが手に入れた可能性の力……響きあう歌声を力に変えた姿……。

 名付けて……『シンフォニックフォーム』だ!!」

 

 響の歌声で力を得、『仮面ライダーSHADOW シンフォニックフォーム』へと変化したことで、今完全に『レッドシャドームーン』のキングストーンエネルギーを上回った。

 

『バカな……こんなバカな……!?』

 

「ふんっ!!」

 

 自爆のためのキングストーンエネルギーを完全に中和しきり、俺はサタンサーベルとリボルケインを抜くと『レッドシャドームーン』から離れる。

 そして……。

 

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおっ……!!」

 

 

 

 『レッドシャドームーン』は断末魔の叫びとともに閃光の中に消えた。

 ゴルゴム大神殿の空を覆っていた雷雲が消えていき、光が差し込んでくる。

 その光景を見ながら、1号が言う。

 

「我々の勝利だ」

 

 それは、この熾烈な戦いの終わりを示す言葉だった……。

 

 




今回のあらすじ

SHADOW「キングストーンを取り戻して形勢逆転だ」

奏「BLACK、BLACK RX、SHADOWと並ぶとすごい豪華さだな」

防人「もう絶対負けないって感じがひしひしするのが凄い」

シャドームーン「人のもの盗っておいてイキるとか恥ずかしくないのかム~ン?」

ビッキー「今日のお前が言うなスレはここですか?(笑)」

1号「仮面ライダーたちよ、俺に続け!」

SHADOW「これってやっぱり初代様だけに許された、特別な言葉だよなぁ……」

防人「そして量産型のグリーンシャドームーンとの戦闘だな。
   緑ってザクとかのイメージから量産型の雑魚っぽいイメージしない?」

??「何言ってるデスかこの人は?」

キネクリ「今どこからか通りかかったのと、地上最強生物のガチャピン様に謝れ」

奏「で、グリーンシャドームーンとの戦いのほうなんだが……」

ビッキー「地獄の断頭台!! バゴアバゴア!(笑い声)」

防人「あー、立花は今日も元気に人間やめてるなぁ(達観)」

キネクリ「人間じゃなくて完全に悪魔超人だよ。 将軍様だよオイ」

ビッキー「師匠と仮面ライダーさんたちの修業の成果です」

奏「……仮面ライダーは目覚めさせてはいけないものを目覚めさせてしまったのかもしれない……」

SHADOW「こっちもおやっさんから習った『寸勁(すんけい)』出したんだが……響と比べるとまるで派手さがないぞ」

防人「そしてついにレッドシャドームーンとの戦いだが……」

SHADOW「ぷぷっ、偽物とかウケるんですけどぉ!(煽り」

奏「おお、今までのうっぷんを晴らすように煽ってるね」

キネクリ「で、ライダーボコりタイムが始まるわけだが、その中でもカブトとファイズを取り上げてるんだな」

防人「両方とも作者が大好きだからな」

シャドームーン「この数に勝てるわけないだろム~ン!」

ビッキー「ライダーファイト!!」

奏「某赤いやつの『レッ○ファイト!』みたいなノリで言うんじゃない!」

キネクリ「やってることは大差ない残虐行為だがな」

シャドームーン「私だけが死ぬわけがない……お前の魂も連れて行く……ム~ン……」

パプテマス=シ○ッコさん「道連れなどと子供じみたことを」

ビッキー「通りすがりの人にブーメランが刺さりまくってるんだけど……」

防人「そしてレッドシャドームーンの自爆をキャンセルするために、サタンサーベルでリボルクラッシュするわけだが……」

SHADOW「マズい、サタンサーベルで俺のキングストーンエネルギー増幅してるけど中和には足りないぞ」

RX「SHADOW、新しいリボルケインだ!」

キネクリ「あのー、アンパ○マンの新しい顔並の気軽さでリボルケインなんてヤバいブツをよこさないでくれませんかねぇ……」

SHADOW「じゃあ追加でいっときますね。 ブスッッッ!」

ビッキー「追撃の歌でさらにダメージは加速した!」

防人「強化形態でサタンサーベルとリボルケインの二刀流リボルクラッシュとか……鬼じゃ、ここに鬼がおる」

シャドームーン「自爆キャンセルとか、一番心に来るやられ方したでム~ン……」

奏「あ~、わかるわかる。PS4のプ○デターハンティンググラウンズでプレ○タープレイのときに自爆キャンセルされるとキツイもんなぁ」


番外編の最終決戦でした。
次回エピローグでこの番外編も終了となります。

次回もよろしくお願いします。


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第37話

 かくして、仮面ライダーたちをすべて歴史から消そうとした創世王の企みは、仮面ライダーたちの活躍によって防がれた。

 世界は元通りとなり、戦いを終えた仮面ライダーたちはともに戦った仲間たちに別れを告げ、それぞれの世界へと帰っていくことになる。

 そんな中、俺と響は一つの重大な問題に直面していた。

 

「デンライナーの路線上に、俺たちの世界がない?」

 

 他の仮面ライダーたちの世界はデンライナーで行ける場所らしいが、俺たちの世界はその路線上に存在せず、デンライナーでは行けないというのだ。

 さもありなん。デンライナーは俺の知る『仮面ライダーの世界』を行き来している。何の縁もない『俺たちの世界』とは路線など繋がっていないのだろう。

 『創世王』によって無理矢理この世界に連れてこられた俺たちには帰る手段がない。だからデンライナーで送ってもらおうと思っていたのだが、その頼みの綱がいきなりプッツリと切れてしまった感じだ。

 

「どうしよう、ノブくん……」

 

 響が不安そうに俺を見た。

 キングストーンの力と導きで戻れるかもしれないのだが、正直それは不確定な話だ。俺一人ならいいが、響を連れていてそんな冒険はできない。

 

「……大丈夫だ、ここに来れた以上は必ず帰る方法もあるはずだ。それを見つけて2人で元の世界に帰ろう」

 

「……うん」

 

 とりあえず響を不安にさせないように言ってからどうしたものかと考え出した、その時だ。

 

「そういうことなら、任せてほしい」

 

 そう言って俺たちに声をかけてきたのは……。

 

「光太郎さん」

 

 それは仮面ライダーBLACK RX、白い南光太郎さんだ。

 そして光太郎さんの呼びかけとともに現れたのは……。

 

「これは……ライドロン!?」

 

 赤いボディのその車は通称『光の車』とも『重装騎マシン』とも呼ばれる超マシーン、BLACK RXの愛車であるライドロンだ。

 

「さぁ、2人とも乗って」

 

 そう促されるものの、俺は少しためらいがちに言う。

 

「俺もライドロンのことは知ってるけど、俺たちの世界の場所が分からないといくらライドロンでも……」

 

 ライドロンは地上を走破するだけでなく、水上・水中・地中、さらには地球と怪魔界……つまり異なる世界間を行き来する『異次元航行』すら可能とする超マシーンである。確かにライドロンならば俺たちの世界に行くことも可能かもしれない。ただし……それはあくまでも可能不可能の話だ。

 例えば、船があるとする。当然船だから海を渡ることはできるだろうが、海図も何もなく船でハワイに行け、と言われてもハワイにたどり着くことは困難だろう。

 同じようにライドロンには異次元航行能力はあるものの、目標となる『俺たちの世界』がどこなのか分からないのだ。

 そう俺が指摘すると、さすがに光太郎さんはその辺りは分かっていたらしい。

 

「大丈夫。 俺を信じて欲しい」

 

 他でもないあの光太郎さんの言葉だ、信じないということはない。

 荷物が燃やされ、着の身着のまま同然だった俺たち。荷物は少なく、サタンサーベルと響が記念にナオミさんから貰ったデンライナー乗務員服くらいのもので支度はすぐに終わった。

 俺たちは促されるままにライドロンの後部座席に乗り込む。

 

「うおぉ……!」

 

「ノブくん、目が輝いてるよ」

 

 ライドロンはベースとなった車と同じようで4人乗りくらいの広さだ。戦闘用のため車内は流石に狭い印象を受けるものの、用途不明な装置の点滅がところどころでしており未来的な雰囲気が凄い。ライダーファンである俺は興奮しっぱなしである。そんな俺を見て響が苦笑いをした。

 

「それじゃ次元航行に入るよ」

 

 光太郎さんの言葉とともにライドロンは加速、しばらくしてまるでライドロンは光になったかのように進む。

 そして……。

 

「わぁ……綺麗!」

 

 窓の外は極彩色のオーロラのような空間になっていた。

 どうやら実世界から異次元空間に入ったようだ。窓の外の光景に響が感嘆の声を上げる。

 ……あの光太郎さんの運転するライドロンで異次元ドライブとか、ちょっと意味が分からない状況である。

 そんな響を横目に、俺は光太郎さんに尋ねる。

 

「それで光太郎さん。 さっきも言ったけど本当にライドロンで俺たちの世界に行けるの?」

 

 そんな俺の疑問に、光太郎さんは笑って、そして驚くべき話を始めた。

 

「初めて見た時から少し引っかかっていたんだけど、響ちゃんの歌の力『フォニックゲイン』を見て思いだした。

 実を言うと……俺は響ちゃんの使う『シンフォギア』というのを以前に見たことがあるんだ」

 

「それは……!?」

 

 話によると光太郎さんはある時キングストーンの力に導かれて光に包まれ、気がつくと燃え盛る炎の中で『白い怪物』と『白銀のシンフォギアの少女』が戦うところにいたらしい。

 

「その『白銀のシンフォギアの少女』はその背後に何人もの少女たちを庇い、守るために命を賭けて戦っていた。

 それに……」

 

 そこで光太郎さんはその時の光景を思い出しているのか、一度言葉を切る。

 

「少女が対峙していたあの『白い怪物』……キングストーンが『倒さなくてはならない存在』だと訴えるような存在だった。恐らく、俺があの場所へと導かれたのもそのためだったんだろう。

 それで俺は『白銀のシンフォギアの少女』たちを守るために戦ったんだ」

 

 誰かを守るために邪悪な怪物と戦う少女……その時の光景が目に浮かぶようである。

 

 

 突然のことに混乱する光太郎さん。目の前で繰り広げられる邪悪な怪物と誰かを守るために戦う少女。

 「いたいけな少女を襲う怪物め、ゆ”る”さ”ん”っ!!」という掛け声とともに変身し、容赦なく怪物を爆殺するBLACK RX。

 

 

 ……うん、話を聞いただけでその場面が容易に想像できた。

 

「でも『白銀のシンフォギア』なんて、二課にはないよね」

 

「二課以外の別のところにもシンフォギアはあるのか?」

 

 『シンフォギア』は了子さんが作り出した国家機密の代物だ。それがどこか他にもあるというのだろうか?

 そう考え始めると光太郎さんは言った。

 

「もしかしたら、君たちの未来(みらい)の仲間かもしれない」

 

未来(みらい)?」

 

 光太郎さんの話によると、次元間の移動というのは時間の概念もあいまいで、特にその時はキングストーンの導きで突然の次元移動だったらしい。当然、その場で日付を聞くようなこともしていない。

 つまり、『光太郎さんにとってはその少女を助けたのは過去の出来事だが、俺たちにとっては未来(みらい)に起こる出来事なのかもしれない』というのである。

 分かるような分からないような話だが、次元間移動は大変だということだろう。

 

「それで最初の話に戻るけど、そういうわけで俺は君たちの世界だと思われるところに行ったことがあるんだ。

 だから……」

 

「そこを目指してライドロンを走らせれば、俺たちは元の世界に還れる!」

 

 俺の言葉に、光太郎さんは「よくできました」といった風に微笑んで頷いた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 光のオーロラを突き破るようにして実世界に飛び出したライドロン。そこはどこかの山間部の道路だった。

 路肩にライドロンを停車させ、俺と響がライドロンから下りる。

 時刻は夜、星が輝いているが街の明かりは見えない場所だ。

 

「やった、端末に位置情報が表示された!

 元の、俺たちの世界だぞ響!」

 

「やったね、ノブくん!!」

 

 今まで位置情報などもまったく使えなかった俺の端末に反応があったことで、ここが俺たちの世界だと確認できて俺と響は手を合わせて喜ぶ。

 

「どうやら無事に送れてよかった」

 

「ありがとうございました、光太郎さん」

 

 俺は光太郎さんへとお礼を言って頭を下げる。

 

「お礼なんていいよ。

 そうだ、お土産じゃないけど……これを信人くんに受け取って欲しい」

 

 そう言って差し出されたのは1枚のディスクだった。

 

「これは?」

 

「これは俺がワールド博士から貰った、このライドロンの設計図だ」

 

 あまりの言葉に噴き出しそうになった。

 今しがた間近で見た超マシーン『ライドロン』、その設計図……それがどれほどのものか、わからないほど俺はバカではない。

 

「どうしてこれを俺に……?」

 

 思わず俺はつぶやく。

 すると、光太郎さんは少しだけ目をつぶって意識を集中させるようにする。そして目を開いて答えた。

 

「信人くん……薄々気付いていたけど、ここに来て確信が持てた。

 俺と同じキングストーン『太陽の石』の気配が、この世界にする。

 キングストーン『太陽の石』を宿した人間が、この世界のどこかに必ず存在するはずだ。

 そして2つのキングストーンは必ず惹かれ合う。

 君は、必ずキングストーン『太陽の石』を宿した人間と出会うだろう……」

 

「……はい」

 

 それは俺も理解していたことだ。

 

「信人くん、君は俺のたどった運命は知っているだろう?

 だからこそ、君は俺とは違う運命を掴み取って欲しい。

 ライドロンはきっと、そのための君の力になる。だからこそ、君にライドロンの設計図を貰ってほしいんだ」

 

 光太郎さんにとって、シャドームーンこと親友である『秋月信彦』との戦いは覆したかった運命だった。

 最後の瞬間まで、光太郎さんは信彦が元に戻ることを信じた。

 しかしその結果は残酷だった……。

 だからこれは、それと同じ運命を俺には辿るなという光太郎さんの想いだった。

 

「……分かりました光太郎さん。

 まだどんな相手か知りませんが……戦うだけしかない未来(みらい)は回避してみせますよ。

 俺だけじゃできなくても、響と一緒ならどんな運命だって変えて見せます!」

 

「どんな人でも、胸の歌を信じて想いを届ければ手を取り合えると思うから。

 きっと、ノブくんと戦う運命だとしてもその人とも手を繋いで見せます!」

 

「……頼もしいね、2人とも」

 

 俺と響の言葉に少しだけ、光太郎さんは眩しそうに目を細めた。

 

「光太郎さん! また、またいつか会いましょう!!」

 

「ああ、また会おう。 信人くん、響ちゃん」

 

 俺たちが見送る中、光太郎さんの乗ったライドロンは発進し次元の向こうへと帰っていった。

 

「さて、と……」

 

 光太郎さんとの別れを終え、残された俺たちは揃って空を仰ぎ見る。

 夏の夜空に、綺麗な星が輝いていた。

 

「大変な旅行だったな」

 

「だね」

 

 そう言ってどちらともなく苦笑する。

 2人で旅行に出かけたら別の世界に渡り、仮面ライダーたちと多くの世界の命運をかけた戦いに参加するなど、ひと夏の想い出にしてもちょっとスケールが大きすぎる話だ。

 

「でも……悪くはなかった」

 

「うん」

 

 俺はこの旅行で、本当の意味で『仮面ライダーSHADOW』を名乗れるようになった。

 胸には仮面ライダーたちから受け取った『決意』と『魂』がある。それを確認するように、俺は拳を握った。

 その時、一陣の風が吹いた。

 その風に乗って、何かが俺の目の前に飛んでくる。俺はそれを思わず手に取った。

 

「これは!?」

 

 それは一枚の写真だ。

 俺と響が並んで写り、そしてその背後には変身した俺たちが写っている。そしてそこには『仮面ライダーSHADOW』と書かれていた。

 

「ノブくん、あれ!」

 

 響の声に視線を向けると、その向こうにはトイカメラを手にした門矢さんの姿があった。

 俺たちの視線に気付くと門矢さんはフッと笑い、そして灰色のオーロラに消えていく。

 恐らく、俺たちが無事帰れるか確認をしてくれていたのだろう。先輩ライダーの心遣いに胸が熱くなる。

 

「響……」

 

「ノブくん……」

 

 ……ああ、この笑顔を、そして大切な人たちの明日を守るためならば、俺はどんな敵とでも戦える。

 改めて、俺はこう名乗ろう。

 俺の名はSHADOW、仮面ライダーSHADOWだ!

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでさ……」

 

 決意も新たにし終わった俺は、改めて現実を見る。

 

「移動しないとマズくないか?」

 

 位置情報で近くに街があるのは分かるがここは山間部、このままここで夜を明かすのはご免被りたい。

 

「俺が変身して抱きかかえてジャンプしてけば街なんてすぐだ」

 

「そうだね、それじゃすぐに移動しようよノブくん。

 きっと未来とかみんなにも心配かけちゃってるだろうし……」

 

 そう言って自然に俺に身体を預けてくる響。

 その柔らかさ、そしてふんわりとした優しい響の匂いが鼻孔をくすぐり……俺ははっと気づいた。

 

(そう言えば……俺たち、旅行の『目的』果たしてない!?)

 

 ゴタゴタでそういう状態ではなかったが、ゴタゴタはもう終わったし、昭和の皆さんはもういないわけだし『目的』のために行動してもいいのではないか!

 むしろ、そうしなければいけないのではないか!?

 それに気付いた俺は、意を決して響に言った。

 

「その……さ……。

 せっかくだし帰るのは明日にして……今夜はその……ちょっと『ホテル』に泊まっていかないか?」

 

「ノブくん、それって……」

 

 俺の言葉とニュアンスでどういうことか気付いた響が顔を赤くしながら、しかししっかりと頷く。

 その様子に俺は心の中でガッツポーズをして、変身しようとキングストーンに意識を集中させたそのときだ。

 

 

 

 

 

その時、不可思議なことが起こった。

 

 

 

 

 

 バラバラバラバラッ!

 

 

「立花、月影! 無事か!!」

 

 夜空を引き裂く爆音とともにヘリが現れると、ヘリからギアを纏ったSAKIMORI()が降ってきた。

 

「今までどうしていた! 突然行方不明になって心配したんだぞ!!」

 

「「……」」

 

「おまけに保管されていたサタンサーベルも突然消えるし……月影がアレを呼ぶほどの難敵と戦っているのだと思って皆で探していたのだ!!」

 

「「……」」

 

 心配させていたのは確かに悪いとは思うのだが……何もこのタイミングは無いだろうに!?

 

「「はぁ……」」

 

「何だ!? 一体どうしたんだ2人揃って!?」

 

 何やら言っているSAKIMORI()は見なかったことにして、俺と響は揃って肩を落としため息をつく。

 こうして、俺と響のひと夏の旅行は本当に終わったのだった……。

 




今回のあらすじ

SHADOW「創世王も倒してもう帰るって話になったが……えっ、デンライナーで送れないの?」

奏「そりゃあんな電車が空から降りて来たら騒ぎになるしな」

防人「でもデンライナーって一般人に見えたっけ?」

キネクリ「そこらへんは曖昧じゃね? 確か映画の時には見えてたし……ほら、象の代わりに」

ビッキー「どうしようノブくん……」

RX「俺に任せろ!」

奏「歩く生存フラグに声かけてもらったしこの問題は早くも終了だね。で、帰る方法ってのが……」

SHADOW「うほっ、いいライドロン!」

RX「行かないか?」

防人「そんな近所のコンビニ並に別世界へ行くとか……」

キネクリ「でもライドロンなら絶対できそうって信頼感がヤバい」

ビッキー「と、ここで光太郎さんの突然のカミングアウト!」

SHADOW「ここは『第30話』で始めてデンライナーに搭乗した時、響の姿を見て考え込むシーンの伏線回収部分だが……覚えてる人おりゅ?」

奏「それでRXが助けたのが『白銀のシンフォギアの少女』ねぇ……この話だとアタシだけじゃなくてあの子も生きてるんだね」

防人「『王大人死亡確認!』並の絶対安心の生存フラグ」

キネクリ「おい、でもあの白い化け物って『キングストーンが絶対倒さないとって思う』ような代物だったか?」

SHADOW「その辺りは今後に。 当然、原作とはまるで別物だぞ」

ビッキー「やったぁ! 無事元の世界に戻れたよ!」

奏「で、異世界旅行のお土産としてライドロンの設計図を貰う、と……」

防人「そんな温泉のお饅頭並の気軽さで貰える代物じゃないだろうに……」

RX「この世界にも確実に『太陽の石』があるからきっともうすぐ出会うぞ」

キネクリ「今後の露骨な伏線だな、おい。
     そして最後は作者も好きなもやしがお見送りしてくれたな」

奏「何気にもやしなら絶対やってくれそう、ってシーンだ」

防人「しかしディケイドがシンフォギア世界に来てましたって、この世界ヤバくない?」

SHADOW「さて綺麗に収まったところで響……。
    なぁ……スケベしようや……」

ビッキー「ノブくん♡」

キネクリ「きめぇぇぇぇぇぇ!!
     でもバカ1号もノリノリだぞ!!」

奏「マズい、このままだと対象年齢が上がっちまうよ!
  何とかならないのかい!?」


月の石「そのとき、不可思議なことが起こった」


防人「仮面ライダー1号から不純異性交遊禁止を任された正義の使者『SAKIMORI仮面』参上!
   私が来たからには大丈夫、もう濡れ場は無いぞ!」

SHADOW&ビッキー「「おいぃぃぃぃ!?」」

SHADOW「やりました……やったんですよ! 必死に!
    その結果がこれなんですよ!
    創世王と戦って人知れず世界の危機を救って、今はこうして最後のご褒美の邪魔をされてる。
    ……いや、マジで泣くぞコレ!!」

ビッキー「でも普通に考えるとノブくんと私の反応が消えて、おまけにサタンサーベルも消えたとなると物凄い騒ぎになるよね。
     ……あれ、こんなにすぐにみんなに位置がバレるとか今後も一線超えるの無理じゃね?」

キネクリ「というわけで先輩でオチがついたところで劇場版番外編は終了だな」



これにて番外劇場版編 『仮面ライダーSHADOW(異)世界を駆ける』は完結となります。
番外編と言っても『SHADOWが本当の意味で仮面ライダーになる』『RXがシンフォギア世界に来ていたことを知る』『ライドロンの設計図を貰う』等、今後のために必要な長い伏線の話でした。
やるべきことはやって仮面ライダーとの共演も出来たし、個人的には満足のいく結果です。

今年はこれが最後の投稿です。
みなさん今年一年ありがとうございました。

今後は新年から少しの間『お正月特番編』をやって遂にG編に行く予定。
明日の新年早々から連続投稿の予定なのでよろしければご覧下さい。

……なお『お正月特番編』は特にシンフォギアでやる必要のない内容の模様。この作品メンバーがみんなでワイワイやる話だと思ってください。

ではみなさん来年もよろしくお願いします。
よいお年を。


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お正月特番編 『A.D.1937 人類滅亡戦記 クライシス』
お正月特番編 第00話


皆さん、あけましておめでとうございます。作者のキューマル式です。
今年もよろしくお願いします。


注意:今日からしばらく毎日投稿する『お正月特番編』は先の未来に起こった事件についての物語です。
   そのため、まだ本編で登場していないあの子やこの子が登場します。
   さらに内容は『シンフォギアのシの字も無い話』『仮面ライダーのラの字も無い話』です。皆でワイワイと騒いでいるだけの内容だと思ってください。
   
   それが受け付けないという方は、このまま戻るようにして下さい。


 これは今よりも未来の一場面……。

 この地味に世界の危機であったこの物語の始まりはここ、S.O.N.G本部内にあるキャロルとエルフナインの実験室兼私室から始まった……。

 

「フナ~、いるデスか~?」

 

 そんな言葉とともにドアを開けて部屋を覗き込んだのは切歌と調である。

 

「……いないね、切ちゃん」

 

「どこ行ったデスかフナは? 今日は兄チャマたちとお泊りでゲームの約束なのに」

 

 と、その時軽快な音とともに調の端末が鳴る。

 

「あ、フナちゃんからだ」

 

「フナは何て言ってるデス?」

 

「実験でちょっと遅くなるから、先にゲーム持って兄くんのところに行っててって」

 

 さすがしっかりもののエルフナイン、見れば部屋の机にはあらかじめ各種ゲームが置かれていた。

 

「それじゃ一緒に持って行こう、切ちゃん!」

 

「わかったデス、調!」

 

 そう言ってお互いにエルフナインの用意したゲームをカバンに詰める切歌と調。

 

「おろっ?」

 

 そしてふと視線を巡らせた切歌は視線の先に、1台のゲーム機を見つけた。

 

「こんなところにもゲーム機があるデス!」

 

「きっとフナちゃんがまとめ忘れちゃったんだよ」

 

「そういうことならこれも持って行くデスよ!」

 

 言って、切歌はそのゲーム機もかばんに詰めた。

 

 ……ここは錬金術師であるキャロルとエルフナインの実験室兼私室だ。そんなところに普通はゲーム機なんて置いているはずない。だからこのゲーム機が今回の『お泊りゲーム大会』のために用意されたものだという2人の推理は的外れなものではなかっただろう。

 ただし、この推理には『このゲーム機がただのゲーム機だとしたら』という前提条件が必要だった。

 そして……その前提条件は、残念ながら満たされていない。

 切歌のカバンの中でそのゲーム機が怪しい輝きを放っていた……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ところ移ってここは信人の家。

 今日はここに家主である信人をはじめ、響、未来、奏、翼、クリス、マリア、セレナというメンバーが揃っていた。

 

「クックック……みんな今日はよくぞ集まってくれた」

 

 のっけからテンションがおかしい信人である。

 

「で、今日はゲーム大会なんでしょ? 何でみんなを集めたの?」

 

「そうだぞ月影。 いつかのようにお互いに競うゲームだと、ボロ負けして前のように雪音が泣いてしまわないか心配なんだが……」

 

「おい、どの口が言ってんだこのパイセンは」

 

 半ば呆れながらみんなを代表して未来が問い、翼が以前ルナドロップ事件後のゲームでの惨状を思い出しながら言う。ちなみにクリスのツッコミは翼は完全に無視した。このSAKIMORI……強い。

 

「そこは今度は大丈夫。 今回やりたいのはみんなで協力するゲームだ。

 これ、多人数じゃないと正直クリア無理じゃないかってシロモノでな。 それでみんなに集まってもらったんだよ。

 ネットでっていうのもいいが、どうせこんな広い部屋なんだ。みんなでワイワイやりながらやりたいと思ってな」

 

 そう言って信人はやりたいゲームというのを紹介した。

 

「あー、これかー……信人好きだよね」

 

「これ、初心者には辛くないか?」

 

「……今夜は徹夜確定ですかね?」

 

 そう言っていきなり理解を示したのは経験者らしき未来・奏・セレナの3人である。

 

「これ戦争ゲーム?」

 

「ノブくんの好きそうなゲームだね」

 

「どのようなゲームでもこの防人逃げも隠れもしない!」

 

 マリアと響は未経験のようだ。ちなみにSAKIMORI()は平常運転である。

 

「まぁ、さすがに全員で別れることもないし経験者とのペアでやろう。

 あとはあの3人が来たらだが……」

 

 その時インターホンがなり、件の人物……切歌と調がやってきた。

 

「兄チャマ、来たデスよ!」

 

「兄くん、来たよ」

 

「んっ……フナはどうした?」

 

「フナだったら少し遅れるそうデスよ」

 

「だからフナが持ってくるはずだったゲームを先に持ってきたよ」

 

 そう事情を話し、机にゲームを大量に並べる切歌と調。

 

「さすがフナ、準備がいいな。

 よし、じゃあフナが来る前に、先に2人にも今回やるゲームの説明をしておくか」

 

 そう言って2人も今回みんなでやるゲームの説明をしていく信人。

 

 

 

 

 

その時、不可思議なことが起こった。

 

 

 

 

 切歌と調が机に置いたゲーム機、それがまばゆい光を放ち始めたのだ。

 

「切ちゃん!?」

 

「デスデス!? なんデスか、これ!?」

 

「な、なんだこれ!?」

 

「なんの光!?」

 

「おい見ろ。身体が!?」

 

 驚き混乱する一同。そして、みんなの身体が光に溶けるようにして崩れていき、ゲーム機の中に吸い込まれていく!

 そして光が収まったとき、広いリビングには人影は1つも残っておらず、謎のゲーム機だけが不気味な駆動音を上げていたのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 同時刻、S.O.N.G本部内の食堂、その一角で3人……『サンジェルマン』と『カリオストロ』と『プレラーティ』がお茶を飲んでいた。

 

「ふぅ……」

 

「サンジェルマン、随分とお疲れなワケダ」

 

 息をつくサンジェルマンにプレラーティが言う。

 

「まさか私が学校の講師とはな……経験のないことをするとなると気疲れをするものだ」

 

 そう言ってサンジェルマンは肩を竦めた。

 

「とはいえ、我々を受け入れてもらったことに対する恩もある。

 特にシンフォギア装者たちの通うリディアン音楽院(あの学校)に警備の戦力が必要なのは理解できるのでな」

 

「その割にサンジェルマン楽しそう。

 あーしもファリネッリ男子音楽院の講師でもやればよかった」

 

「それは絶対やめろ。

 お前のことだ、どうせ生徒たちをからかって遊んで、あの『影の王子』の怒りを買うぞ」

 

 カリオストロの言葉に、サンジェルマンは本気で止めに入った。

 特に『ヤツ』の暴挙を止めるために『S.O.N.G』へと協力した3人と彼女らに付き従って着いて来た女錬金術師たち……居候のような状況であの『影の王子』の不評を買うなどたまったものではないからだ。

 と、そんな和やかな3人の居る食堂に、どたどたと慌ただしい足音とともに飛び込んでくる2つの影。

 それは……。

 

「サンジェルマン、少し厄介なことが起きた。 力を貸せ」

 

「何だ、どうしたキャロル?」

 

 錬金術師『キャロル・マールス・ディーンハイム』と、キャロルと瓜二つの容姿の少女『エルフナイン』の2人である。

 キャロルは食堂に入ってくるなりサンジェルマンにそう切り出した。

 そんな中、その隣で縮こまったような様子のエルフナインが事情を説明する。

 

「実は、僕たちの研究室に置いてあった『ある聖遺物』が無くなっているんです!」

 

「犯人は分かっている。 あの緑とピンクの2人組だ」

 

 即座にキャロルの言う犯人というのが、シンフォギア装者の切歌と調のことだと分かった。

 

「そもそも、『聖遺物』をポンと研究室に置いておくのがおかしいワケダ」

 

「使い方によっては研究に非常に有益な『聖遺物』なんです。

 ですから本来の用途には使用せず、その能力だけを利用していたんですが……」

 

「何をどう間違ったのか持ち出されたというわけだ。

 あれが『本来の機能』で起動した場合……とんでもないことになる可能性がある」

 

「具体的には?」

 

 サンジェルマンの問いに、キャロルは絶望的な言葉を放った。

 

「キングストーン保持者とシンフォギア装着が1人残らず全滅する」

 

「なっ!?」

 

 『ヤツ』とその軍団との戦いの最中で、それはとてつもない絶望的な言葉だ。

 その言葉にサンジェルマンがことの重大さを悟る。

 

「ことが起きる前に収めたいがもしもの場合、お前にもサポートをしてもらいたい」

 

「わかった、協力しよう」

 

 キャロルの言葉に、サンジェルマンが頷いた。

 

「では早速……」

 

 そしてキャロルたちが動こうとしたその時だった。

 

 

ビーッ、ビーッ、ビーッ!!

 

『高エネルギー反応を検知! 場所は……信人くんの家です!!』

 

 

「遅かったか……」

 

 警報とともに響く声に、キャロルはすでに手遅れだったとため息をついた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「「? ? !?」」

 

「いかがしましたか、陛下に皇后様?」

 

 突如として謎の光に包まれた信人と響は、気が付くと豪奢な椅子に並んで座っていた。

 そして目の前には多くの軍人やスーツ姿の人物が……。

 

「えっ!? なにこれなにこれ!?」

 

「なんだこりゃ!?」

 

 当然のことのように大混乱の響と信人である。

 

「いかがしました、陛下に皇后様?」

 

「いやいかがも何も……って陛下と皇后様って俺と響のことか?

 誰かと間違えてないか?」

 

「いえ、お二人こそこの『大日本帝国』の陛下と皇后様で間違いありませんが……」

 

「「はぁ!? 『大日本帝国』!?」」

 

 もう混乱の極致である。

 その時、ファンファーレのような音とともに声が響いた。

 

 

『ようこそ、Hearts of Iron IVの世界へ!

 皆様は地獄のような大戦争をどうぞお楽しみ下さい』

 

 

 それはこの世界での戦いの合図であった……。

 

 




Q:これ何?
A:有名なストラテジーゲーム『Hearts of Iron IV』の世界、さらにそのあるMODの世界編です。作者が実際にプレイした内容を元にしているから小説よりもAAR(After Action Report:プレイレポ)に近いかも。

Q:何で?
A:好きだからに決まってるだろう(真顔)
 あとHOI4プレイヤー増えろという気持ち。

Q:本編で出てないキャラがいるんだが……。
A:未来の話だししょうがないしょうがない。
 ……本当のことをいうと登場前キャラたちの動きと口調を確認しているところもある。

Q:この話、シンフォギアでやる必要は?
A:ないです。
 ただし、このMODの設定と題名を見た瞬間「やるしかねぇ!」という気持ちになった。そしてお正月の今ならいけると思った。
 あと本編では使わないフォントや説明を入れてみる練習。

Q:いや、こんなんより本編進めろよ。あの子とこの子の登場とか。
A:ンンン~~! まさに!! 正論!!
 しかし作者は謝らない!!


はい、というわけで正月特番編『A.D.1937 人類滅亡戦記 クライシス』の開始です。お正月特番ということでお目こぼしを。

お正月特番は毎日2話ずつ投稿予定。
明日は8時と12時に投稿します。

次回もよろしくお願いします。


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お正月特番編 第01話

『どんな時でもまずは状況確認は大事だね、という話』

 

 

「『Hearts of Iron IV』だと……」

 

 戦慄するように信人が呟く。それは、ついさっきみんなでやろうとしていたゲームの名前だ。

 『Hearts of Iron IV』……第二次世界大戦を舞台としたストラテジーゲームであり、プレイヤーは各国の首脳となり激動の時代を国の存亡を賭けて操作するというゲームである。

 

「でも、何でその名前が……まさかここはゲームの世界だとでもいうのか?」

 

 その時、信人と響を除いた全員が時が凍り付いたように固まった。

 再びの異常事態、しかしそれと同時にモニターのようなものが浮かび上がる。

 そしてそこに映っていたのは……。

 

「みんな!?」

 

 そこには今まで一緒にいた仲間たちの姿が。

 

「お前らも無事か! 一体何がどうなってる!?」

 

 混乱したクリスの声に、誰もが答えられない。その時、先ほどとは違う声がどこからともなく響いた。

 

『お前たち、無事か!?』

 

「この声……!」

 

「キャロルちゃん!」

 

 その声は錬金術師であるキャロルである。

 

『サンジェルマンたちの協力で干渉させてもらった。時間がないので手短に言うぞ。

 お前たちは今、ある聖遺物の中に取り込まれている。

 その名は……『ジュマンジ』! 人間を取り込み内部でゲームを行い、ゲームがクリアできなかった場合にその人間の魂を喰らう聖遺物だ!』

 

「おい、アタシら全員信人の家に居たんだぞ。

 そんな聖遺物一体どこから紛れ込んだんだ!?」

 

 奏の問いに、ややあってキャロルとは別の声が答えた。

 

『それは……今日、切歌さんと調さんが持って行ったゲーム、あれが『ジュマンジ』です!』

 

「フナちゃん!?」

 

「ということは……これ、私たちのせいデスか!?」

 

 切歌と調の声に、再びキャロルが答えた。

 

『元々『ジュマンジ』は双六の形をしていたのだが……こいつは順応性が高く、時代に合わせてニーズに合ったゲームへと自らの形状を変化させる。

 今は『ジュマンジ』は時代に合わせてテレビゲームの形状をしていた』

 

「なんでそんな危険な代物が研究室に転がってるのよ!?」

 

『……『ジュマンジ』は人間を取り込み、その内部でゲームをする。

 ゲームとはいえ内部に『一つの世界』を作り出し、動かしているんだ。

 その機能だけを使えれば、研究の際に大いに役立つ』

 

 つまりキャロルとエルフナインは、この呪われたゲーム機を『超高性能エミュレータ』として『内部に一つの世界を造り動かす』という機能だけを利用していたのである。

 しかし切歌と調によって運び出され正常な動作……『人間を取り込みゲームに負けたら魂を喰らう』という動作を行った結果が今だという。

 その時、金切り声のような雑音とともにキャロルとエルフナインの通信が乱れる。

 

『ちぃ、長くはもたないか……。

 こちらからの干渉は多くはできない。 いいか、お前たちの脱出の方法は『ゲームで勝つこと』だ。

 『ジュマンジ』はゲームを忠実に再現し、お前たちを潰しにかかるだろうが……勝利条件を満たせば無事にお前たちを元の場所に返す。

 だから『そのゲームで勝て』!』

 

 その言葉を最後にキャロルたちの通信は途絶えた。

 

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

『おのれクライシスめ!!』

『いえ、人違いです(真顔)』

 

 

 

「「「……」」」

 

 突然の出来事に固まる中、いち早く元に戻ったのは信人だった。

 

「……みんな少し整理しよう。

 とりあえず……みんなはどこの国にいるんだ?」

 

 その問いの結果……

 

 

 日本……信人&響

 ドイツ……クリス&未来

 ソ連……奏&翼

 アメリカ……マリア&セレナ

 イタリア……切歌&調

 

 

 だということが分かった。

 

「で、このゲームの経験者は……俺に未来、奏、セレナの4人か。

 全部ペアで、しかも全員七大強国のどこか、しかも上手いこと経験者もばらけたし……最悪の状態にはなっていないな」

 

「私と調、2人とも未経験者デスよ」

 

「そこはフォローするよ。 イタリアならフォローくらいできるしな」

 

 その時。

 

「それなら私に任せなさい」

 

 言ったのは調、しかしその瞳は金色に輝いている。

 これが調に宿ったもう一つの人格、お騒がせ転生喪女『フィーネさん』である。

 

「……なんか物凄く失礼なこと考えなかった?」

 

「いや全然。それよりフィーネさんこのゲーム経験者なの?」

 

「私は永遠を生きる巫女よ。その時代をリアルに生きてた記憶もあるしHOIなら何度もやったわよ。

 具体的には……アルバニアで世界征服くらい」

 

「完全な廃人じゃねぇか!*1

 

 ともあれ優秀な経験者は大歓迎、今回が完全な初心者の切歌と調の頼れる相手というのはいいことだ。

 その結果に信人はホッと息をつく。そんな中、切歌が聞いてきた。

 

「それで兄チャマ、このゲームどうすれば勝ちなんデスか?

 第二次世界大戦を扱った戦争ゲームなんデスよね?」

 

「ああ、それは……」

 

 その疑問に信人が答える。

 この時代は世界には3つの陣営が存在していた。

 ドイツを中心とした『枢軸』、イギリスやアメリカの『連合』、ソ連を中心とする『コミンテルン』の3つである。

 その他、日本の立ちあげる『大東亜共栄圏』やイタリアの『神聖ローマ帝国』など独自の陣営を立ち上げることも可能。

 最終的に戦争などで都市を占領し、決められた年で最も『戦勝点』の高い陣営の勝利だ。

 

「えっ、それじゃあ……このメンバーでお互いに戦争しなきゃならないの?」

 

「いや、やり方によっては戦争なしでも陣営を乗り換えることはいくらでも出来るからな。

 お互いに同一陣営になるだけでいいなら簡単だし、このメンバー全員が同一陣営になればそれだけで確実に勝利条件である『戦勝点』は稼げるんだが……それだと逆に簡単すぎるぞ」

 

 調の不安そうな声に信人は心配なないと答えるが、逆にそれだと簡単すぎて何かがおかしい。

 その時、経験者として今の状況を調べていた未来と奏から声がかかる。

 

「信人、世界地図を見て。 明らかにおかしい」

 

「歴史概要もだ。 書いてあることがおかしいぞ」

 

 言われて信人も世界地図と歴史を読む。

 

「……月影、この世界地図なんだが国が20個くらいしかないぞ。

 歴史の授業では、もっと大小さまざまな国があるはずだが……?」

 

「おまけに第一次世界大戦にイタリアが未参戦、アメリカの参戦の遅れで第一次世界大戦の終結が遅れその間に無制限の毒ガスと枯れ葉剤の応酬でドイツの餓死者100万人とか書いてあるわよ。

 これは明らかに私たちの知ってる歴史じゃない」

 

 翼とマリアの言葉に、信人は心当たりがあった。

 

「この地獄めいた世界線……

 そうか、ここは俺が今日みんなとやろうとしてた、クライシスMODの世界か!!

 

 『Hearts of Iron IV』は様々なMOD……いわゆる改造データを入れることで、普通とは違うシナリオが楽しめる。

 ここは『Hearts of Iron IV』でもそのMODの1つ、『クライシスMODの世界』だったのである!

 

「ノブくん、それってどういうストーリー?」

 

「ああ、それは……」

 

 そう言って信人が説明を始める。

 

 第一次世界大戦が史実以上の地獄になったせいで中小国が立ち行かなくなり国家が統廃合され、世界には20程度の国しか残っていない状態。

 汚染された大地で、それでも復興に向けて歩み始めた人類。

 そこに突如アナザーアースという別世界から現れた存在が全世界に宣戦布告、人類は一丸となってこの敵と戦う……というのが大まかなストーリーだ。

 

「これはPVE(プレイヤーVSエネミー)、つまりみんなで協力して強大な敵と戦うって話だな」

 

「それじゃあ、みんなで戦争し合うってわけじゃないんだね!」

 

 お互いに潰し合うようなデスゲームでなくてよかったと響が言うが……俺の顔色は晴れない。

 

「まぁ仲間で互いに潰し合うってことにならずに済んでよかったんだが……このクライシスMOD、俺が今日みんなとやろうとしてたんだけど……『超高難易度MOD』なんだよ。

 正直、熟練プレイヤーが複数で挑んで全員がしっかり仕事をして、それでやっと勝機が見えるってくらいのな」

 

「でも大丈夫だよ。今までだってどんな強力な敵にだってみんなで力を合わせて戦ってきたんだし、今回だって何とかなるよ!」

 

「……そうだな」

 

 響の言葉に、信人は頷いた。

 

「それじゃ俺の知ってる情報から、各自の方針を話しておくよ」

 

 そうして、信人は自分の知りえる情報と方針を伝えていく。

 

「なるほど、アタシらのソ連が最前線ってことかい。

 とにかく歩兵師団を大量に用意しないとダメだね」

 

「どのような敵が来ても倒す、ロシアンSAKIMORIたちを育てて見せよう!」

 

 ソ連の方針は歩兵重視の戦力拡張に。

 

「ドイツは機甲師団での突破担当だね」

 

「戦車とか派手でいいよな!」

 

 ドイツは機甲師団を中心にした戦力増強。

 

「アメリカはとにかく戦力の増強ね!」

 

「……早めに国内を立て直して何とか南北アメリカ大陸の守護くらいは出来るようにしたいですね」

 

 アメリカは内政を片付け、とにかく頑張る。

 

「イタリアは台所事情を見ながら、一戦線をしっかり抑えるようにってさ切ちゃん!」

 

「一緒に頑張るデスよ、調!」

 

 イタリアは国力を鑑み、とにかく一戦線を支え切れるだけの戦力増強。

 

「Xデーは1939年初頭、今から約2年が準備期間だ。

 皆、頑張ろう!」

 

 こうして方針を決めたみんなは各々の国の運営に戻っていく。

 そして残ったのは信人と響だ。

 

「それで、日本はどうするの?」

 

「日本は最初っから強力な海軍力を持ってるしアメリカと一緒に海からの援護と……陸軍の大陸派遣と空軍の増産……こりゃ全部だな。

 とにかく色々動く。

 『ジュマンジ』がこの世界を選んだのも、俺がやろうとしてたからだろうし俺が必死にならないとな。

 差しあたって……このゲームの常套戦術をやるか」

 

 そして……信人はちょっと表の世界では見せない、黒い笑みを浮かべた。

 

 

 ……『ジュマンジ』は間違えた。

 この男……この世界ではもうシャドームーン真っ青な思考でものを考えていたことを知らなかったのである。

 かくして、世界を舞台にした大乱戦は始まってしまったのである。

 

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

『私がナイムネ? よしわかった、シベリア送りだ』

 

 

 

 ここはソ連、寒さの厳しい北の大地は今、ツヴァイウイングという二翼を頂くことで希望を見出していた。

 しかし、いつの世もきっかけというのは些細なことである。

 

「ツヴァイウイングっていいよな!」

 

「ああ! あの歌だけで俺たちは戦える」

 

 立ち話をする兵士たちの顔には生気が満ちている。

 

「奏書記長と翼書記長とかけて、我らのウラル山脈ととく」

 

「お、その心は?」

 

「ウラルのごとき高い()と、敵を防ぐ絶壁(ナイムネ)*2

 

「ははは、そりゃいいな!」

 

 

「「「はははははっ」」」

 

 

 そして兵士たちは笑い声が一つ多いことに気付く。

 そこにいたのは……。

 

「つ、翼書記長!?」

 

 ニコニコ笑顔の我らの赤い(主に返り血と自分の血で)歌姫、翼である。

 

「諸君、いま面白いことを言っていたね」

 

「いえ、あのそれは……」

 

 そしてポンッと兵士2人の肩に手を置き、言った。

 

「よしわかった。 君らには栄誉あるシベリアで木を数える仕事を与えよう!」

 

「「つ、翼書記長、お許しを!?」」

 

 

 世に言う『大粛清』の開始である。

 

 

 

 

「「何やってんだよ(デスか)、センパイ!?」」

 

「あなた何をやってるの!?」

 

 ことの顛末を聞いたクリスと切歌、マリアが言うが翼は口を尖らせそっぽを向いている。

 

「人の身体特徴をとやかく言う悪しき輩は滅せねばならん。 小日向と月読は分かってくれるな?」

 

「そこで何で私たちの名前が出るのか小一時間問い詰めていいですか翼さん?」

 

「私には成長の余地がある。一緒にしないで」

 

 と、助けを求めた未来と調まで敵にまわしていたSAKIMORI。

 

「つーかセンパイ、何でこんな暴走止めねぇんだよ!」

 

 しかしクリスに振られた奏は肩を竦めた。

 

「まぁ、ゲーム的にはこれで正解だからね*3

 

「だな。 まぁいわゆる『コラテラルダメージ』というやつだな。

 致し方ない犠牲というやつだ」

 

「まぁ……」

 

「うん……」

 

 経験者である信人・奏・未来・セレナはうんうんと頷く。

 そんな中、ソ連の『大粛清』は続いていくのだった……。

 

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

『俺が本当の宣伝というものを教えてやろう……』

『で、伝説の宣伝相!』

 

 

 

 ここはドイツ。第一次世界大戦で甚大な被害を受けた人々は、希望の光を求めていた。

 そこに舞い降りた1人の天使……うたずきん『雪音クリス』である。

 瞬く間にドイツの希望となった銀髪の少女に、国民は国の行く末を預けた。

 『国家うたずきん主義ドイツ労働党』の誕生である。

 

「「「ジークリス!」」」

 

 今日も街頭にはクリスを讃える声が響く。

 

 

 

「何なんだこの『国家うたずきん主義ドイツ労働党』ってのは……」

 

「ああ、それは『みんな頑張って労働してうたずきんグッズを買い漁りましょう』という主義で……」

 

「どんな主義だそれ!?」 

 

 執務室に響くのはクリス総統閣下と、実質的な国を動かす未来の声。

 

「とにかく、国内は纏まったから軍備の増強をしないと」

 

「だな。あと2年しかないもんな」

 

「……」

 

 そう言うクリスに、未来は無言だ。

 何故なら……未来は信人の性格を知っているからだ。

 

(信人は次の国家統廃合イベントで中国を取り込んだと同時に動くつもりだ)

 

 そしてその未来の考えを確信に変えるように、日本から同盟国であるこのドイツの西側の都市……ヴェーザー=エムスに大日本帝国海軍のほぼすべてと、大日本帝国陸軍1個軍*4が向かっていた。

 

(恐らくそこからはしばらく連戦、こっちも軍を西側に移動させないと……)

 

 そう心に決めた未来であった。

 

「軍備の増強だけど、ドイツの強みは最初からⅠ型中戦車『三号戦車』が造れることだね。

 これをとにかく増産して機甲師団を増強、歩兵師団も増強しないと。

 同時に制空権を取るための戦闘機に、敵地上部隊を叩く近接航空支援機の増強も必要。

 海は……輸送船とコストの安い潜水艦を少々程度で。 とにかく陸と空に国力を割かないと」

 

「んー、細かいところは未来に任せる」

 

「もう、クリスったら」

 

 未来の指揮の元、ドイツはさらに精強さを増していく……。

 

 

 

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『眠れる○○って、起きる前に死んでること多くない?』

 

 

 

 ここは自由の国アメリカ。

 当時、『世界すべての国家と戦争しても勝てる』とも言われた世界最強の国家アメリカを指揮するのはアイドル大統領マリアとセレナの2人である。

 

「……今、凄く失礼な声が聞こえた気がするんだけど」

 

「姉さん、無駄口叩く前に目の前の資料を片付けてください」

 

 そんなホワイトハウス執務室で2人は頭を抱えていた。

 

「何なのこの国の状態……アメリカって最強国家なんじゃなかったの?

 何このボロボロの状態……*5

 

「嘆いても仕方ありませんよ、姉さん。

 とにかくデバフ上等で軍需工場を建てて、軍備を増強しましょう。

 せめて2年でまともに戦えるまでには軍備を整えないと話になりません」

 

「ええ、そうねセレナ」

 

 アイドル大統領マリアの苦労は続く。

 

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

『実際にいたら最悪の鬼畜、それがストラテジーゲープレイヤーという生物』

 

 

 

 ここはイタリア。

 第一次世界大戦に未参戦ながら大恐慌による爪痕により、不安の残る国内……しかしこの地に舞い降りた可憐な2人の天使にイタリア国民(主に男)の士気は天を突くほどに高い。

 その2人の天使、ドゥーチェ切歌とドゥーチェ調は今……。

 

「おかわりデス!」

 

「美味しい、美味しい!」

 

 美味いイタリア料理を絶賛堪能中だった。美少女2人が美味しい美味しいと絶賛しながら幸せそうに食事中……これにはイタリア全国民もニッコリ。

 

「一時はどうなるかと思ってたけど、フィーネが詳しくてよかったデス!」

 

「本当。 フィーネの言うこと聞いて美味しいご飯食べてるだけでいいなんて凄く楽」

 

「でもフィーネ、旧式のⅠ型重戦車なんて開発してどうするデスかね?

 高い戦車より鉄砲がたくさん必要なのに」

 

「何でも重自走対空砲が欲しいんだって」

 

 実務はフィーネにほぼ丸投げし、2人はひたすらイタリアを楽しんでした。

 食事が終わり食後のお茶を2人が飲んでいるその時、執務官がやってくる。

 

「お2人とも大変です。

 たった今、大日本帝国がドイツから陣営主導権を握りました。

 大日本帝国が人類国家同盟の盟主となります」

 

「へー、兄チャマが私たちのリーダーになったデスか?」

 

「まぁ兄くんの方がこのゲームよく知ってるみたいだし、クリス先輩よりいいんじゃないかな」

 

 そういって2人がお茶をすする。

 そして……。

 

「そして盟主となるのと同時にフランスとイギリスを同盟から追放。

 オランダ・フランス・イギリスに対して宣戦布告の準備に入りました!」

 

「「ぶふぅぅぅぅ!!?」」

 

 思いっきりお茶を吹き出した。

 

 

 

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『経験値を貯めて物理で殴る』

『経験値貯めるのも物理な件』

 

 

 

「ノブくん、あれ一体どう言うこと! 同盟のリーダーになったと思ったらいきなり仲間だったフランスとイギリスを追放して戦争準備とか!

 人類一丸になって敵と戦う話じゃないの!?」

 

「まぁまぁ落ち着けよ、響」

 

 あまりの鬼畜な所業に響皇后様はご立腹である。

 

「これも一丸になるためにこのゲームで必要なプロセスなんだよ」

 

 そう言って信人は真意を話す。

 

「このシナリオ、はっきり言ってプレイヤーが入っている国以外はまるで役に立たない。

 各国は敵に攻められると自国の防衛を最優先するから、敵が迫ってる中で平気で退却するんだよ。

 だから仲間がいない国家をプレイヤーが取り込んで戦力の一本化をしないと各個撃破されることになる。

 勝利のための致し方ない犠牲……いわゆるコラテラルダメージというやつだ。

 それに重大な話、陸軍と空軍の経験値が欲しい*6

 

「でもそのために戦争って……」

 

 それでも難色を示す響の肩をポンと叩くと、信人はいい笑顔で言った。

 

「大丈夫、彼らは我がゴルゴム……じゃなかった、大日本帝国の一員となるのだ。

 不満などあろうはずがない」

 

「ゴルゴム、いまゴルゴムって言った!?

 ノブくんシャドームーン乗り移ってたりしない!?」

 

「ははははははは、何をバカな。

 俺は正義の仮面ライダー、SHADOWだ」

 

「正義の仮面ライダーが笑顔で戦争吹っ掛けようとするなぁ!!」

 

「はははははっ!」

 

 こうして強大な敵と戦う前に人類同士の戦争が始まるのだった。

 

 

*1
アルバニアは『Hearts of Iron』シリーズ伝統の絶望的弱小国家。

1 人的資源(人口)がなく軍隊が作れない。

2 工業力(IC)が壊滅していて工場が作れない。

3 資源もない。

4 史実の確定イベントとして1939年にイタリアから宣戦布告される。つまりドイツと敵になる。

という『ほぼ完全に詰んでいる』国家であり、ゲームシステムを知り尽してなお、『タイムアップまで生存すら難しい』という有り様。

おそらくこれより難しいのはルクセンブルクくらいじゃないだろうか……?

*2

このゲームは山岳地帯は守りやすく攻めにくい。ヨーロッパの国々でスタートしソ連と戦う場合、ウラル山脈要塞は難攻不落の絶壁と化すのだった。

*3
ソ連の国家方針(ナショナルフォーカス)である『大粛清』。これは優秀な将軍が大量に死に、国家全体にいくつもの凶悪なデバフがかかるイベントである。しかもそれから回復するには長い時間を要する。

と、これだけ聞くと『じゃあそんなイベントやらなきゃいいのに』と思うだろうが、『大粛清』をやらない場合、ソ連はほぼ確定で内戦が勃発してしまうのだ。

今回は『クライシス』との戦争が控えているため内戦を起こさせないために奏は最優先で『大粛清』を進めているのである。

*4
ここではこのシナリオで将軍が指揮できる最大数、『48個師団=1軍』

*5
アメリカは国力はぶっちぎりのトップなのだが、このゲーム中最悪のデバフである『大恐慌』の国民精神がついており、何と国力の8割減、軍需工場の建設速度-50%という状態でスタートする。

プレイヤーはまずはこれを段階的に解除していかなければ話にならず、アメリカは凄まじくスロースターターなのだ。

こんなボロボロの状態のため、このゲームにおいてまずはアメリカを占領する『初手アメリカ』はプレイヤーの間では常套手段となっているのである。

*6
このゲームは陸軍・海軍・空軍はそれぞれ経験値を得ることで師団編成の変更や装備の改造などを行える。

特にこの『クライシスMOD』では改造限界が通常の5段階から99段階にまで引き上げられているだけでなく、通常プレイでは改造出来ない装備(歩兵用小銃など)も改造可能であり、これらを上手く使うことが圧倒的不利な状況にある人類を勝利に導く鍵になっているのだ。



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お正月特番編 第02話

『BGMは『パリは燃えているか?』』

『いつもの』

 

 

 

 人類同盟の盟主になった大日本帝国はまず手始めにフランスとイギリスを同盟から追放。

 そしてオランダ・フランス・イギリスに対して宣戦を布告。

 人類同盟VSオランダ・フランス・イギリスの戦争、『第一次人類統合戦争』が開始されるのだった……。

 

「大いなる危機が迫る中、人類同士で相争うなど愚かしい!

 皆で仲良く我が栄光あるゴルゴム……じゃなかった、大日本帝国の一部になるのだ!」

 

「またゴルゴムって言った!? ねぇ、ホントに創世王とかに乗っ取られてないよねノブくん!?」

 

 大日本帝国皇后様である響の言葉も、もうシャドームーンモードに入ってノリノリの信人には届いていない。

 実はこの男、正義の味方より悪の魔王の方が合っているのかもしれない。

 

「みんなも一緒に戦うって……もう訳が分からないんだけど……。

 いや、対人類の戦争で一致団結しても……」

 

「経験値の大事さは経験者ならみんな知ってるし、経験者いるなら全力で参加しに来るだろう。

 まぁ、これで終わりってわけじゃないしな。(ボソッ)

 よし、ヨーロッパにありったけの戦闘機と爆撃機を配置! 一気に終わらせるぞ!!」

 

 

 大日本帝国陸軍の精鋭1個軍とさらに増援の1個軍、さらに追加でドイツ、イタリア、ソ連、アメリカに攻められたオランダとフランスは2週間ともたずに降伏。*1

 ドーバー海峡を挟み海軍と空軍を駆使して防衛に努めていたイギリスだが、大日本帝国の海兵隊に上陸を許し橋頭保を造られたことで防衛戦略は瓦解、ブリテン島のほとんどを占領され、イギリスは人類同盟に対して降伏した……。

 

 

「我らが正義の勝利である(大本営発表)!

 よし、これで一部は適当な傀儡国つくって資源を搾取……じゃなかった、お買い得な値段で資源が買えるぞ!

 接収した工場で装備をさらに生産だ!」

 

「なんか出来たものに血がついてそうで怖いんだけど……」

 

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

『何事も暴力で解決するのが一番だ!』

『サツバツ!!』

 

 

 

「とにかく、今回のことで人類同士の戦いは終わりってことでいいんだよね」

 

「いや、まだだ!」

 

 そして世界地図を指さす我らが大日本ゴルゴム帝国皇帝、信人陛下。

 

「まだスペインにハンガリーにポーランド、バルト会議(バルト三国連合)に北欧連合(フィンランド)それとルーマニアが残っている。

 これらも統合しないと人類に勝利は無い」

 

「またなの!?」

 

「いや、本気でいうとスペインってどんな状況でも『スペイン内戦』が結構な確率で起こるんだが……これ、ほっとくと片方が人類の敵の『クライシス』と同盟を組む可能性がある。場合によっては人類同盟に未参加の国が、『クライシス』に義勇軍を送ってこっちを殴ってくる」

 

「えっ? なにそれ?」

 

「よく分からんがシステムの仕様上じゃないか……?*2

 それにクライシスとの戦いの舞台は全世界だ。基本的にプレイヤーの入っていない非同盟国は邪魔なんだよ。

 とにかく不確定要素を減らすため、そして戦力増強のためにも人類統合を進めなくては!」

 

「いや、もう世界の緊張度も無茶苦茶状態なんだけど……これ、本当に人類のための戦い?」

 

「これは人類のための戦いである(真顔)」

 

 

 かくして対オランダ・フランス・イギリスとの『第一次人類統合戦争』の終結から3ヶ月後には、スペイン・ハンガリー・ポーランド・ルーマニア・バルト会議・北欧連合との『第二次人類統合戦争』が開始される。

 スペイン・ハンガリー・ポーランド・ルーマニア・バルト会議・北欧連合の各国は果敢に防戦するものの、世界強国のすべてに攻められてはどうしようもない。

 人類同盟軍の各国は「経験値ウマーっ!」という謎の奇声を発しながら間断なく各国を攻め立て、数カ月で人類同盟以外の陣営はこの地球から消え去ったのだった……。

 

 

「我ら勇猛なる人類同盟軍の活躍で人類は一つに纏まったな。

 接収した工場もウハウハで、これで我が大日本帝国はアメリカ同等かそれ以上の国力になった。

 ここからさらに工場を建設しながら兵器を備蓄し、人類の敵『クライシス』との戦いに備えるぞ」

 

「むしろここまで無茶苦茶やっておいてアメリカと同等か少し上程度なんだね……」

 

「アメリカはホントに頭おかしい……」

 

 

 

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『大日本帝国の科学力はァァァァ世界一ィィィィィ!!』 

『頭オカシイ(真顔)』

 

 

 

「というわけでヨーロッパの国々を(力尽くで)仲間にしてから内政と軍備増強に全力を出して気付けば1938年もあと1月ちょっとで終わりだけど……ノブくんが待ってたⅡ型歩兵銃とⅡ型戦闘機の開発が完了したって報告が来たよ」

 

「よし、来たか!

 このために国家方針(ナショナルフォーカス)で研究力ブーストしまくって無理矢理ぎみに研究した甲斐があった……。

 今(1938年)の段階で1940年式のⅡ型歩兵銃とⅡ型戦闘機が生産可能になったのは大きすぎる*3

 

「ここ最近よく起こる自然災害系イベントでもノブくん、ずっと研究速度重視の選択をしてたもんね*4

 

「研究速度アップ系が多かったし運も良かった。

 さっそく改造案を上げてみたんでそろそろ軍が完成品を持ってくるはずなんだが……」

 

 コンコン……

 

「陛下、皇后様。 新型歩兵銃と新型戦闘機『隼 改』の説明に参りました」

 

「おお、噂をすればだ!」

 

 入ってきた軍部の人間が、信人と響に新型兵器の説明を行っていく。

 そして新型歩兵銃の実物のお披露目となった。

 

「……は?」

 

 響は目が点になった。

 響は銃には詳しくない。しかし、それが異常だというのは一目瞭然だった。

 小銃の下部、取り付けられた銃剣が銃剣じゃない。完全に『刀』だった。

 

「おお、俺の注文通りだな」

 

「ってノブくんの仕業なのアレ!

 何なのあれ!? 完全に銃に刀付けてる感じなんだけど!?」

 

 響はこの異様な光景の原因が信人だと知る。

 

「実はいつの間にか、()()()溜まっていた大量の陸軍経験値をほぼすべてつぎ込んでⅡ型歩兵銃を改造したんだ*5

 

「いや、いつの間にかも何故かも、ヨーロッパの国々と戦争しまくったせいだよね?」

 

「とにかく、その溜まった陸軍経験値のほとんどをつぎ込んで、銃剣の長さをできる限り長くした。

 具体的には40cm以上」

 

 ジト目の響を無視して信人は胸を張る。

 

「いや、そんなことして何の意味が……」

 

「防御力が上がる」

 

「……は?」

 

「だから銃剣の長さを長くすればするだけ防御力が上がる。

 陸軍の一番の基本は歩兵だからな、その防御力が爆発的に上がるのは強すぎる。

 デメリットとして代わりに貫徹力が下がるが……どのみち歩兵銃で装甲目標を貫くのは不可能だし必要ない。そういうのは対戦車砲とか駆逐戦車の仕事だ」

 

「いやそうじゃなくて……銃剣の長さと防御力の因果関係は?」

 

「知らん、そんな事は俺の管轄外だ。

 そして同じように空軍経験値を全部つぎ込んだⅡ型戦闘機『隼 改』の最大の特徴がこれだ!!」

 

 

つ 航続距離 3200km

 

 

「おかしいよねコレ!

 確かⅡ型戦闘機の航続距離って通常1000kmでしょ。何でそれが3倍以上になってるの!

 形状も何も、普通のと変わってないんだけど!?」

 

「大日本帝国の、科学力はァァァァ、世界一ィィィィィ!!

 ……この戦い制空権の確保は絶対に必要だから強力な戦闘機は必須なんだが、戦いの舞台は世界中だ。まともに航空基地が無い地域での戦闘も多い。

 そこで今まで貯めた空軍経験値をすべて使って航続距離とエンジンの信頼性を改造して、長い距離をカバーできるようにしたんだ。

 ぶっちゃけ、これくらいやらないとクライシスのやつらとまともにやり合えない。

 今回、俺は勝つためには何でもやるぞ」

 

「ノブくん……」

 

「クライシス襲来のXデーは1939年の初頭だ。

 今すぐに新型歩兵銃と新型戦闘機『隼 改』を全力生産。 もう最悪の大戦争は間近だぞ」

 

「……」

 

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

『そして赤い月が昇り、災厄が始まる』

『ナイトウィザード(TRPG)ですか?』

 

 

 

 『赤潮』『消えた渡り鳥』『急速な砂漠化』『野生動物たちの大移動』『竜巻』『熱波』……地球全土で頻発する異常は明らかに何かとてつもないことが起こる前触れであった。

 そして1939年1月19日、調査でタクラマカン砂漠上空を飛行する飛行船『ヒンデンブルグ号』は遂にそれを目撃する。

 一面が砂丘で覆われた地域で突如として赤い間欠泉が噴出したのだ。地球が血を吐いているかのようなその赤い液体は粘性を持ち、次第に空へと昇ると禍々しい光を放つ赤い月へと変貌する。

 禍々しい光に照らされた砂漠はゆっくりと、そして確実にその姿を地球とは別の何かへと変えていく。

 粘性を帯びた黒い水がゆっくりと大地を浸食し……そして異形の軍勢が現れる。

 それは人類の存亡を賭けた戦いの幕開けだった……。

 

 

 

「緊急連絡! タクラマカン砂漠と周辺が『崩壊文明』を名乗る謎の存在に占拠されました!

 同時に全世界に向けて『全ての人類を抹殺する』との謎の声明が発せられ、異形の怪物の軍勢が攻撃を仕掛けてきました!!」

 

 緊急連絡と飛び込んできた連絡員に、信人と響はついに始まったことを悟る。

 

「ついに来たか! 各地の状況は!?」

 

「現在、タクラマカン砂漠とその周辺に発生した『崩壊文明』はその勢力を全方位に伸ばしている最中です。

 すでにソ連軍が接敵、防衛戦に入っているようですが……敵の異常な強さの前に状況は果てしなく劣勢の模様!」

 

 その時、空中にウィンドウが開き奏と翼の姿が映り、響が状況を尋ねる。

 

「奏さん、翼さん、そっちは大丈夫なんですか!?」

 

『何とか……と言いたいとこだけど、相手の強さが異常だ。ソ連軍(こっち)の平均攻撃力と防御力の倍以上の数値を平気で叩き出してる』

 

「ば、倍以上!?*6

 

『クッ……このロシアン防人である私が母国を蹂躙に任せるしかないとは……。

 だが口惜しいが今の状況では勝利は不可能だ』

 

『こっちは何とか遅滞戦術を繰り返して時間を稼いでヨーロッパ方面まで行かせないようにする。

 逆にいうとアタシらのソ連軍じゃそこまでが限界だ。

 南側の防衛、それとその時が来たら反撃は頼んだよ』

 

「わかってる、俺たち大日本帝国軍と切歌と調のイタリア軍で何とか抑えて、反撃の糸口を見つけるよ」

 

 そして奏と翼からの通信は切れた。

 

「ノブくん……」

 

「ついに始まったな……。 平和な世界に襲い掛かるクライシスめ!

 俺は貴様らを絶対にゆ”る”さ”ん”ッッッ!!

 

「平和な世界に襲い掛かるって……イギリスとかフランスとかのヨーロッパの国々を思い出しながら、鏡見て言った方がいいよ、ノブくん」

 

 響のジト目を無視して信人は決意を新たにする。

 こうして遂に人類の存亡を賭けたクライシスとの戦いが幕を開けたのだった……!

 

 

 

*1
オランダ、フランスともに開始時点から部隊があまり多くなく、しかも簡単に降伏してしまう割には東南アジアの資源地帯を押さえて資源が豊富なため、このシナリオに限らず通常プレイでも『初手オランダ』『初手フランス』はともにプレイヤーの常套手段である。

*2
『スペイン内戦』に限らず『クライシス勢力』が存在する場合に内戦や非同盟国と戦争が起こると、どういうわけか片方が『クライシス』と同盟か不可侵を結んでいる場合がままある。このシナリオではクライシスは言葉すら通じない昆虫人類的な何かのはずなのだが……こいつらはどうやって同盟を組んだのだろうか?

 また普通に『クライシス勢力』は国家として換算されるので普通の戦争と同じく義勇軍を送ることが出来る。『クライシスに混じって人類同盟を攻撃してくるフィンランド義勇軍』などというものが見れたりもするのだ。

*3
このゲームは研究を行い、新型兵器を開発し生産して戦闘に投入、ということを繰り返すことになるのだが、ではいきなり超強力な兵器を開発できるかというとそうでもない。

ほとんどは前提条件をクリアしないと開発出来ないものであるし、何よりも『先行研究ペナルティ』というものが存在する。

これは史実の開発された年より早くその兵器開発を始めると、研究速度にペナルティを受けるというもので、当然年数が先であるほどペナルティが重くなる。

それら2年先の装備を研究するために、信人はかなり細かな計算をしながら国家運営をしていたということなのだ。

*4
このクライシスMODの特徴的なランダムイベント。研究速度や生産コストなどに大きなバフがかかる代わりに、戦闘部隊に大きなデバフがかかるなど、メリットとデメリットで構成されており、これもどのような選択をしたかが内政に大きく関わるようになっている。

*5
『クライシスMOD』の特徴の一つ。通常は改造できないはずの歩兵銃の改造が可能になっている。

*6
クライシス勢力は、実を言えば技術的にはプレイヤーサイドとほぼ同等の技術レベルである。最初からジェット機を持ってるような無茶苦茶なことはしない。

それでありながら圧倒的な強さを誇る理由は、あまりにも強すぎる『国民精神(国家特有の国家全体へのバフ)』が原因である。

ざっと上げるだけでも『師団速度1.5倍』『師団消耗半減』『師団指揮統制率・攻撃・防御2倍』『航空機と艦艇の能力が2倍』『資源採掘量10倍』『毎月人口が1.5倍増』という頭のおかしいバフが『最初から』付いている。しかも『これが最終形態ではない』。国家方針(ナショナルフォーカス)によってどんどん凶悪な『国民精神』が追加されていくのだ。

人類にとっていかに絶望的状況かが分かるだろうか……。



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お正月特番編 第03話

『まずは状況確認』

『全世界規模でヤバさが爆発している件』

 

 

 

 ついに開戦となり、すでに戦闘で忙しい奏と翼を除いた全員がウィンドウを開いて話し合いをしていた。

 

『おい、こうしてる間にももう戦闘は始まってるんだぞ。

 こんなことしてないで早く先輩たちを助けに行こう!』

 

 クリスは言うが信人が待ったをかける。

 

「クリス、気持ちは分かるがまずは現状確認だ。

 タクラマカン砂漠から出てきたクライシス勢力、『崩壊文明』がその異常な戦闘力でその勢力を各方面に伸ばしている。

 だが……実はクライシス勢力はこれだけじゃない。同じように突如として、しかもランダムに世界各地に現れるんだ」

 

『こんなのがまだまだたくさん出てくるデスか……』

 

 信人の言葉に、切歌が戦慄した。

 

「そういうわけでみんなで協力して、全世界規模で軍を展開しないとならない。

 とりあえず今出ている『崩壊文明』が敵の首魁、一番強いんでこいつらを何とか抑える必要があるんだが……全部を守るのは無理だ。

 今、俺たち大日本帝国の陸軍師団は約200個師団、4個軍だ。そのうちインド南部に1個軍、インド東部から中国の山岳地帯に1個軍、アフリカ大陸に1個軍、そしてヨーロッパに1個軍と全軍を4つにわけて配置している。

 残念ながら戦線が伸びすぎないようにインド北部はいったん放棄だ。初動はインド南部と、資源地帯である東南アジアに行かせないように防衛に徹する」

 

「ノブくん、アフリカ大陸に1個軍を送り込んでるのは何でなの?」

 

「相手が現れる場所はさっき言ったようにランダムなんだが、一応傾向はあってな。

 次の敵が現れるのはアフリカ大陸の可能性が非常に高い。*1その対策として1個軍を送り込んでる。もし現れた時にはすぐにその1個軍で叩き潰すさ。

 切歌と調のイタリア軍にはイラン高原に戦線を張ってもらって『崩壊文明』を食い止め、アラビア半島、ひいてはヨーロッパの盾になってもらいたい。出来るか?」

 

『もちろんデスよ、兄チャマ!』

 

『兄くん、私も頑張る!』

 

 信人の言葉に切歌と調が頷く。

 

「マリアとセレナのアメリカ軍は南北アメリカ大陸に敵が出て来たら対処してくれ。

 傾向として出現の確率は高いし、遠くてアメリカ大陸にまで正直俺たちじゃ手が回らない。

 余裕があるなら航空機や艦隊を送って支援してほしい」

 

『わかったわ! 新大陸のことは私たちに任せない!』

 

『ユーラシア大陸は任せますよ、信人さん』

 

 決意を漲らせ頷くマリアとセレナのアイドル大統領姉妹。

 

「クリスと未来のドイツ軍はヨーロッパに出て来た敵の迎撃を第一で頼む。ヨーロッパにも確実に敵が出現するはずだ。

 ドイツ自慢の機甲師団はインフラの整ったヨーロッパでこそ真価を発揮するからな。そいつらの処理を頼む。

 その上で余力があったら防衛戦の真っ最中の奏と翼のソ連軍の援護をしてくれ」

 

『任せな、派手にやってやるよ!』

 

『ドイツ機甲師団の強さ、見せてあげる!』

 

 クリスと未来も自分のすべきことを認識し、やる気を漲らせる。

 皆が力を合わせ、人類のために戦うと決意したその時……。

 

「き、緊急連絡です、陛下!!」

 

 飛び込んできた連絡員が最悪の凶報を伝えた……。

 

 

 

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『ウェルカム、トゥザ、クレイジーワールド』

『お前はアタシ達を怒らせた!』

 

 

 

 

 ここはソ連の地、『崩壊文明』との最前線。

 その指揮を取る奏と翼が夜になっても次々に舞い込む凶報に眉をしかめる。

 

「ここまで圧倒的とはね……」

 

「防衛線がほとんど機能してないわ」

 

「仕方ない。 後方に増援部隊で塹壕を掘って防衛線を構築、順次部隊を下げるよ!」

 

 そう奏が指示を出したその時だった。

 

 

 

 ズゥゥゥゥゥン……!!!

 

 

 

 地鳴りのような音とともにかすかに地面が揺れる。

 

「まさか……!?」

 

「奏!?」

 

 そのことにハッと気づいた奏が指揮所を飛び出し、翼も慌ててそれに付いていく。

 そして2人が見たものは……。

 

「アレは……まさか……」

 

「ヤツらめ……やりやがったね!!」

 

 夜だというのに明るくなった彼方の空、そこに立ち上るキノコの形をした雲……それは禁断の兵器『核爆弾』が使用されたことを意味していた。

 

「至急、増産した戦闘機隊をまわして制空権を握って!」

 

「全軍に後退命令! もうここでの戦いは決した!

 再起のために生き残ることだけ考えろ!!」

 

 一気に指示を出す奏と翼。

 

「あいつらはアタシ達を怒らせた……!!」

 

「必ず、必ずいつかこのロシアン防人の刃が貴様らを討つ!」

 

 やがてひと段落をついたところで怒りに燃えた瞳で2人は決意を新たにしたのだった……。

 

 

 

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『制空権を制するものが戦争を制する』

『これ本当』

 

 

 

 ロシアのアクチュビンスクに核爆弾が投下された……その凶報に全員が押し黙る。

 

「そ、そんなものまで相手は持ってるの!?」

 

「ああ、戦闘機から戦略爆撃機、何ならタクラマカン砂漠から沸いたくせに何故か大艦隊まで持ってるぞ」

 

『無茶苦茶じゃねぇか!?』

 

 クリスの言葉に全力で同意したいところだが、そう言ったところでどうしようもない。

 

「とにかくみんな、制空権だけは絶対に相手に取られるな!

 ありったけの戦闘機を突っ込んででも空の戦いを制せ、いいな!」

 

 信人の言葉に全員がコクコクと頷いた……。

 

 

 

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『美味い飯と美少女の応援』

『これがあるとイタリア軍はマジ強い』

 

 

 

 1939年3月……怒涛の勢いで進むクライシス勢力『崩壊文明』はインド北部を制圧、インド南部に防衛線を張る大日本帝国陸軍と交戦に入っていた。

 同じく東進した集団が東南アジアから中国山岳部に防衛線を張った大日本帝国陸軍と交戦を開始。防衛側の有利と量産体制で数が揃い始めたⅡ型戦闘機『隼 改』による制空権の確保、そして航空爆撃による援護のおかげで戦線を押し留めていた。

 そして西進する一団が遂にイラン高原へと迫っていた……。

 

「来たよ、切ちゃん……」

 

「見えてるデスよ、調……」

 

 2人の視線の先には、昆虫のような異形の軍勢『クライシス』の姿がある。巨大な芋虫のような『戦車級』も多数混じっており、その脅威度は圧巻だ。

 

「こうして見ると、やっぱり怖いね……」

 

「大丈夫デスよ、調は私が守るデス!」

 

 異形への根源的な恐怖に少し身を震わせた調の手をそっと握る切歌。

 

「このために出来るだけの準備はしたデスよ。

 全部で80個師団、本土防衛用の20個師団以外は全部連れてきたです。

 正面戦力40個師団に予備の20個師団。野砲に対戦車砲、それにⅠ型重自走対空砲を組み込んだ部隊*2をこれだけ揃えたデスよ。

 それに陸ドクも大規模作戦を選んだデス。これなら大丈夫デスよ*3

 

 そう言って切歌と調は後ろを振り返る。

 そこにはイタリア軍60個師団が完全な防御陣地を敷いて待機し、ドゥーチェたる2人の言葉を待っていた。

 そして調と切歌が言った。

 

「みんな、今夜の夕食は美味しいパスタだよ!」

 

「だからみんな頑張るデスよ! あんな奴ら追い返して、美味しいご飯を食べるデス!!」

 

 

 オオオオォォォォォォ……!!

 

 ドゥーチェ! ドゥーチェ!! ドゥーチェ!!!

 

 

 イタリア軍から湧き上がる歓声とドゥーチェコール。その士気は天を突くほどに高まった。

 

「やろう、切ちゃん!!」

 

「それじゃ悪い虫退治デス!!」

 

 そしてイタリア軍と迫り来るクライシスとの戦いが始まった。

 

 

 

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『インフラ整備は大切』

『敵より環境が怖い』

 

 

 

 1939年4月27日。

 

「インド南部と東南アジア・中国方面の戦いは膠着、何とか持ち堪えてるって。

 イラン高原でも切歌ちゃんと調ちゃんのイタリア軍が敵を押し留めてくれてるよ。

 ソ連でも奏さんと翼さんが河や山を利用して遅滞戦術で何とか敵の進行速度を遅らせてくれてるって」

 

「初動は何とか防いだな……」

 

 フゥ……と一息を突く信人。

 しかし油断は出来ない。まだ『崩壊文明』以外のクライシス勢力が出てきていないからだ。

 その時、連絡員が飛び込んでくる。

 

「陛下、皇后様! 緊急連絡です!

 アフリカ大陸西、ラゴスにて『荒廃文明』を名乗る敵勢力が出現! 『崩壊文明』と同種のものと思われます!!」

 

「来たか、第2のクライシス勢力!

 アフリカに移動させておいた1個軍に至急の攻撃命令を出せ! 全力で叩き潰せ!!」

 

 用意していた1個軍に至急の攻撃命令を出す信人。しかし……。

 

「それが……現地の部隊が補給不足にあえいでおり、十分な戦闘能力がないとのこと」

 

「……は? 確か補給物資用にアフリカの港を事前に拡張しておいたはずだが?」

 

「それがインフラがまったく整っておらず、物資が港から部隊まで行き届かない状態でして……」

 

 その報告に信人は自分のミスを悟り頭を抱える。

 

「ヤバい、インフラのことは完全に忘れていた……」

 

「どうするのノブくん。 物資が無かったらいくら練度の高い兵隊さんでも戦えないよ」

 

「仕方ない……少しずつつくってた輸送機を投入! 効率は悪いがないよりマシだ、空輸で補給を!」

 

「了解しました!」

 

 連絡員はその指示を伝えに下がった。

 こうして準備万端で臨んだはずのアフリカ戦線は、環境とインフラに悩まされ当初の予定を外れてズルズルと長引いてしまうことになるのだった……。

 

 

 

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『ヨーロッパの火薬庫』

『人類全部吹き飛びそうなんですけど(真顔)』

 

 

 

 1939年5月7日。

 

「ノブくん、バルカン半島で奇妙な黒い雨が降ってるって!」

 

「クライシスの予兆イベントだな……」

 

 響からの話に信人は頷く。

 

「バルカン半島なら自分たちが行くって未来とクリスちゃんから連絡が来てるけど……」

 

「いや、あの辺りはアルバニアとかブルガリアとか山岳地帯が多い地形だし歩兵の方がいい。

 ヨーロッパに残してる大日本帝国陸軍(うちの)1個軍を向かわせる。

 旗色がまずそうなら援軍をくれって言っておいてくれ」

 

 

 そして1939年6月6日……。

 

「旧ギリシャの首都アテネを中心に黒化現象! 同時に『融解文明』を名乗る『崩壊文明』と同種の敵が現れました!!」

 

「ヤバいところに来たな……」

 

 その報告に信人は顔をしかめる。

 

「いま友軍のトルコ軍はイラン高原方面にほぼ全軍出兵中だ。

 このままだとボスポラス海峡とダーダネルス海峡を渡ってトルコを抜かれて東進されたら、イラン高原が東西から挟み撃ちになってクライシス勢力の2勢力が合流することになる。

 それをやられたらどうしようもないぞ」

 

「大変だよ、ノブくん! すぐに切歌ちゃんと調ちゃんを助けないと!!」

 

「分かってる!

 準備していたヨーロッパ方面軍をすぐに向かわせろ! 東進されるまえに叩き潰す!!」

 

 

 

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『私たちって呪われてるデスよ……』

『それ私の台詞なんでマネはやめてね(威圧)』

 

 

 

 1939年6月12日、イラン高原イタリア軍防衛陣地。

 

「それで兄チャマたちの軍がアテネに新しく現れた敵軍と戦ってくれてるデスか……」

 

 旧ギリシャ……この歴史では国家統廃合によってイタリアの一部となっている場所だ。

 突然の本国の危機に、しかし信人たちが即動いてくれたことに切歌と調はホッと胸をなで下ろす。

 

「一時はどうかるかと思っちゃたよ、切ちゃん」

 

「そうですね、兄チャマに任せればもう安心デスよ」

 

 そう言って2人は気持ちを落ち着かせようとお茶を口に含む。

 その時だ!

 

「た、大変ですドゥーチェ!

 たった今ローマから入電、パルレモを中心とした南イタリア地域が黒化、『消失文明』を名乗る敵が現れました!!」

 

「「ぶふぅぅぅぅぅぅ!!?」」

 

 2人揃って口に含んだお茶を吹き出した。

 

「どどどどうするデスか!? 首都ローマの目と鼻の先デスよ!?」

 

「本土防衛に残した20個師団はどうしたの!?」

 

「敵総数は約100個師団以上、今のところギリギリで防衛はしていますがかなり劣勢です。

 このままでは首都ローマは……」

 

 

 果たして迫り来るクライシスの猛攻の前に、切歌と調のイタリアは亡国となってしまうのだろうか……?

 

 

*1
同じく、事前に意味深な警告のようなイベントが起こるのでその内容からある程度現れる場所は推測できる。もっともだから対応出来るかと言われても難しいのだが……

*2
歩兵部隊にⅠ型重自走対空砲を組み込んだ編成……通称『FLAK』と呼ばれる編成である。

最大の特徴は『低コストでⅠ型重自走対空砲の装甲ボーナスを得る』という防御力が高めなこと。対空砲なので万一相手に制空権を取られても制空権ペナルティを軽減できるとゲーム序盤では強力な編成である。

*3
陸ドクとは『陸軍ドクトリン』の略。その国の陸軍の基本的な戦術思想のこと。4つの系統が存在し選んだものによって各種のバフを手に入れることができ、それが各国の陸軍の特徴となる。

切歌たちイタリア軍が選んだのは史実のイギリス・フランス・イタリア・日本をイメージした『大規模作戦ドクトリン』。この特徴は歩兵を強くするものであり防御力に秀でるのが特徴。

つまり切歌と調のイタリア軍は『FLAK編成』と『大規模作戦ドクトリン』で、『低コストで防御力優先で引き上げる』ことを選んだのだ。



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お正月特番編 第04話

『後輩を助けるのは先輩の仕事!』

『キネクリ先輩マジ格好いいデス!』

 

 

 

 突如としてイタリア本土に現れた新たなクライシス勢力『消失文明』。その猛攻を受け本土守備隊は劣勢を強いられていた。

 敵は水陸両用トラクター……機械化水兵に相当する硬い攻殻を持った昆虫を中心とした部隊であり、『戦車級』の機甲師団もいた。

 その硬い装甲に対抗する対戦車砲の数が少なく、その猛攻に苦しめられていたのだ。

 防衛線はもう首都ローマの目前まで後退している。

 このままでは……そんなイタリア軍の焦燥が募る中、凄まじい砲声が戦場に響いた。

 

「今のはどこから!?」

 

「増援部隊か!?」

 

「おい、あれを見ろ!!」

 

 イタリア軍兵士が指さす向こう、そこには土煙をもうもうと上げながら突き進む鋼鉄の獣の群れ……戦車機甲師団の姿があった。

 そしてその戦車師団の先頭車両の上に仁王立ちの少女が咆える。

 

 

 

「お前ら、あたし様の登場だぁぁぁ!!!」

 

 

 

 それはドイツを率いるクリスだ。クリスがその自慢の機甲師団を引き連れてイタリアの増援に間に合ったのである。

 それと同時に戦車が一斉に主砲を発射、あれだけイタリア軍が手こずらされた敵の硬い装甲を突き破り、撃破していく。

 そんなクリスの横に控えた未来が通信機で指示をとばす。

 

「グデーリアン将軍、ロンメル将軍! お二人の師団でヤツらの後方に廻りこんで包囲殲滅を!

 連中に人間の戦争というものを教えてあげてください!!」

 

 高速でありながら装甲と火力を兼ね備えたドイツ機甲師団の到着によって、首都ローマ目前まで迫っていた敵をからくも押し返すことに成功したのだった……。

 

 

 

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『これガンパレードマーチじゃないんですけどぉ!?』

『なお危険度は幻獣と同等の模様』

 

 

 

 1939年7月1日、大日本帝国帝都『東京』。

 

「クリスちゃんと未来のドイツ機甲師団の援軍が間に合ってローマに迫ってた敵は押し返したって!

 でも『消失文明』の本拠地になってるパルレモまでは攻めきれないみたい」 

 

「それはしょうがない。シチリア島に渡る必要があるが、そこで防衛に徹しられると攻撃側が圧倒的に不利だ。下手に攻めるとこっちの被害が大きくなる。特に機甲師団はそういう戦いには弱いからな。

 しばらくは敵をシチリア島から出さないように防衛してもらって、アフリカの『荒廃文明』戦線かギリシャの『融解文明』戦線が片付き次第その戦力を援軍に送ることにしよう」

 

 そう言って何とかなりそうだと一息をつくと、信人は苦笑した。

 

「しかし2人(切歌と調)も運が無いな。 いきなり本土に敵が出現するなんて」

 

「もう、そんなこと言っちゃダメだよノブくん」

 

 緊張が解け、少し緩くなった空気の中でアハハと笑い合う信人と響。

 その時だ。

 

「た、大変です陛下、皇后様!

 新たな敵勢力、『停止文明』が現れました!!」

 

 その凶報に、2人は即座に真顔に戻ると、しかし慌てることなく頷く。

 

「そうか……それで、どこに現れた?」

 

 信人の中ではその答えによってどこから戦力を捻出しようかと考えを巡らせる。

 だが……さすがの2人も次の知らせで言葉を失った。

 

「場所は……日本です!!

 九州『長崎』を中心とし、九州全域と四国、そして南朝鮮が黒化!

 敵はそのまま、本州へ向かって侵攻中とのこと!!」

 

 

「えぇぇぇぇぇっっ!!?」

 

「いきなりの本土決戦って、イタリアでつい先日やった流れだろうがそれ!!

 そんな天丼いらねぇよ!!」

 

 

 執務室に信人と響の悲鳴が響いた……。

 

 

 

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『ガルパンのカメさんチーム『ヘッツァー改造キット』!!』

『この世界ではその無茶苦茶がデフォです』

 

 

 

 突如現れた新たなクライシス勢力『停止文明』、それによって突如として九州と四国、そして南朝鮮地域が敵の勢力下となってしまう。

 これによって信人と響の率いる大日本帝国は突然、滅亡の危機に直面してしまった。

 しかもここは極東、距離が遠すぎて先日のイタリアのように他国からの援軍は期待できない。

 つまり信人と響は独力でこの『停止文明』と戦わなければならなくなってしまったのである。

 

「ありったけの戦闘機と爆撃機を出せ! 倉庫でホコリかぶってる旧式機も全部だ!!

 制空権の確保、そして敵の侵攻スピードを少しでもいいから抑えろ!!」

 

 矢継ぎ早に指示を出す信人。

 

「で、敵の編成は……海兵隊に重戦車、中自走砲を中心とした120個師団以上か……」

 

 対人攻撃力に優れ分厚い装甲の重戦車の守り……はっきり言って歩兵部隊との相性は最悪の敵だ。だが、戦うしかないのだ。

 しかし、それ以前に響には懸念があった。

 

「でもノブくん……日本の戦力は全部出払ってるんじゃ……」

 

 日本の保有する4個軍はインド、中国、アフリカ、ヨーロッパと全て出払っているのだ。

 そう指摘するも「大丈夫」と信人は首を振る。

 

「流石に俺も本土をがら空きにはしないよ。

 余剰でつくってた重戦車機甲師団が8個師団、これが帝都の守りについてるがまずこれを動かす」

 

「あ、そうなんだ!

 でも……何で重戦車機甲師団なんて凄いのを前線に出さずに本土に残してたの?

 前線に出して、変わりに歩兵師団を本土防衛で残せばいいのに……」

 

 そう指摘されると「あー……」と信人は言いにくそうにしばらく呻くと言った。

 

「実はこれⅠ型重戦車なんだよ。 1934年製のⅠ型重戦車は足は遅いし攻撃力は低いしでその……どうしようもなく弱いんだ。

 だからそれを前線で使うっていうのはする気がなく、かといって大量にあるんだし遊ばせとくのも……ってことで編成して置いておいたやつなんだよ」

 

「……待って。

 だったら、何で使う気もないⅠ型重戦車を師団が編成できるくらいに大量に生産してるの?」

 

 この大戦争だ、兵器はいくらあっても足りず軍需工場はフル回転、軍需工場の新規建設も続いている。

 だというのに使う気もない、しかもコストも高い重戦車を大量に造るという無駄遣いに響の信人を見る目が冷たくなる。

 だが、信人は「落ち着け、しっかりした理由はある」と理由を話しだした。

 

「まず……今の大日本帝国陸軍(うち)の主力歩兵師団の編成は何か分かるか?」

 

「確か……歩兵11、砲兵5、対空砲兵1、重駆逐戦車1……だっけか?」

 

「後それに支援中隊として工兵隊、偵察隊、補給隊、野戦病院、支援砲兵を付けたやつだ*1

 

「それとⅠ型重戦車の生産とどんな関係があるの?」

 

「クライシス勢力は必ず戦車や装甲車といった装甲目標を連れてるから対戦車能力は絶対必須。

 本来なら対戦車砲兵を付ければそれで事足りる話だが……重駆逐戦車の対戦車力はⅠ型でもかなり高いし装甲もある。

 そういうわけでうちでは歩兵師団に重駆逐戦車がついてる。

 ここまではいいな?」

 

 信人の話に響は頷く。

 

「で、Ⅱ型重戦車……いわゆる『ティーガー』なんだが、ここからが本命だ。

 Ⅱ型重戦車は普通に強い。ただ速度が遅いことだけが気になるポイントなんだが、このクライシスMODならそこは経験値を大量に使った改造で補うことが出来る。

 さらにⅡ型重戦車が出来たら当然、Ⅱ型重駆逐戦車も造っていくんだが……このゲーム『装備転換』ってものがある。

 旧式の戦車を一段階先の自走砲や駆逐戦車に改造するってやつだ。そうやってⅠ型重戦車をⅡ型駆逐戦車に改造すると普通に1から造るよりもコストが低くなるんだ。

 そういうわけで先を見据えて重戦車機甲師団の編成とⅠ型重戦車の生産を進めてたってワケだ」

 

 説明を聞き「なるほどー……」と納得する響。

 

「でもさ、そんなプラモデルみたいに戦車ってHOIHOI改造出来るものなの?」

 

「知らん。そんなことは俺の管轄外だ」

 

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

『日本の秘密兵器、『出撃、銀の部隊』!!』

『本当に強いのがたちが悪い……』

 

 

 

「で、話を戻すがまずその重戦車機甲師団が8師団くらい。攻撃力はあまり期待できないが装甲もあるし時間稼ぎの盾くらいにはなる。

 これと今訓練中の、やっと作れるようになった『日本の秘密兵器部隊』……こいつを投入する。

 訓練は終わってないから新兵状態だが……背に腹は変えられん。

 これをまとめれば、約1個軍規模の戦力が捻出できる。

 これを主力にあとは空軍と海軍の力を借りて連中を叩き潰す!」

 

「ひ、秘密兵器部隊!? そんな凄いのつくってたの!?」

 

「ああ……日本と、あと一国くらいでしか出来ない、特別な部隊だ」

 

 すると、信人は椅子から立ち上がる。

 

「俺も最前線に出て指揮を取る!」

 

「なら私も……」

 

 そういう響に信人は首を振った。

 

「いや、ここを開けるわけにもいかない。

 俺が九州や四国を解放する間、国内の生産なんかを頼むよ」

 

「ノブくん……」

 

 戦場へと向かおうとする恋人に、響は自然に寄り添う。

 信人はそんな響を掻き抱き、口づけをかわそうとした……。

 

 

 コンコン……。

 

 

「陛下、皇后様。 出陣式の準備が整いました。

 どうぞ、外へ」

 

「「……はぁ」」

 

 いいところを邪魔された2人は思わずため息をつくが、お互いの顔を見て微笑み合いながら言った。

 

「続きは帰ってきたら、な!」

 

「うん!」

 

 

 

 

 外に整列していたのは未だに訓練が終了していない新兵の集団、しかしクライシスから日本本土を守ろうという気迫に満ち溢れていた。

 信人はそれに満足そうに頷く。そして……。

 

「変ッ身ッ!!」

 

 信人はSHADOWの姿となり、彼らを前に演説を始める。

 

「今現在、諸君らの愛する母国である日本、その一部である九州と四国は『停止文明』を名乗る異形の軍勢に占拠された。

 これは我々の敗北を意味するのか? 否、始まりなのだ!

 母国を守らんと立つ我らに敗北はない! その胸に宿る大和魂を力に変えて立てよ兵たちよ!

 諸君らはもはや新兵ではない! この国を護るもののふなのだ!

 各員、死力を尽くし奮戦せよ! 奴らをこの日本から叩き出すぞ!!」

 

 

 オオオオォォォォォォォォ!!

 

 

 割れんばかりの歓声が上がる。

 そして……

 

「じゃあ行ってくる、響……」

 

 信人はSHADOWの姿でその『秘密兵器』へと乗り込んだ。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「……ストップ、ノブくん」

 

 走りだそうとする信人を思わず止める響。

 

「なんだ響、名残惜しいのは分かるが今はそんな時間は……」

 

「いやそうじゃなくて……明らかにおかしいよね、それ!

 何それツッコミ待ちなの!?」

 

「いやだから何を言ってるんだ、響?」

 

「だーかーらー!! それ、ただの自転車だよね!

 っていうかまわりのみんな自転車乗ってるし!

 ねぇ、これやっと作れるようになった秘密兵器部隊なんじゃなかったの!?

 何で自転車なの!?」

 

 思わず突っ込む響に、しかし信人は平然と返した。

 

「いや何もなにも……これが日本と、あとDLCを入れたオランダでしか作れない秘密兵器部隊、『自転車大隊』こと銀輪部隊だぞ」

 

「……はい?」

 

 その回答に響はもう目が点である。

 

「これ本当に強いんだぞ。

 歩兵系バフがすべて乗るくせにスピードは歩兵の1.5倍以上、支援装備(自転車)は必要になるが歩兵がそれだけで騎兵と同等の速度になるとか強いにもほどがある。

 基本、日本は戦車は高くてほとんどつくれないし、使おうにも主戦場がインフラが劣悪な中国とか東南アジアのジャングルだから戦車のせっかくのスピードも役に立たない。

 でも自転車師団は純粋に歩兵がスピードアップした存在だからどこでもスイスイ行けるんだ。

 もっとも作れるようになるのにそれなりに時間はかかるがな。*2

 とにかく、この秘密兵器部隊『銀輪部隊』でクライシスの連中から九州と四国、それと南朝鮮を解放してくる」

 

 

 チリンチリン……

 

 

 鈴を鳴らしながら走ってゆく大量の自転車部隊。

 その先頭に立つ、ママチャリに乗る仮面ライダーSHADOWの姿は夢に見るほどにシュールであった……。

 

 

 

 

「来たか……」

 

 信人の視線の先には迫る異形の軍勢、クライシスの姿がある。

 信人はSHADOWの姿のまま、シャドーセイバーを掲げながら一言、言った。

 

「全軍、突撃ィィィィィ!!」

 

「「「陛下バンザァァァァイ!! 突撃ィィィィィ!!」」」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 異形の群れへと突っ込んでいく勇猛なる銀輪部隊。

 ここに、本土奪還作戦が開始されるのだった……。

 

*1
米帝様仕様の超豪華編成である。強いには強いがコストが重いのでこれを数そろえるのは普通には結構厳しい。この話では最序盤から無理矢理に全世界の工場と資源をなりふり構わず集めまくったから可能なのであって、これを読んでHOI4を始めようと思う人がいたらマネをしないでもっと軽めで効果的な歩兵7、砲兵2の編成が一番のおすすめ。

ただ、重駆逐戦車は対戦車として強力だし装甲もある。足の遅さも組ませるのが歩兵なら歩兵の方が遅いから問題はない。

対人攻撃に優れる砲兵いっぱいで、対空砲兵で対空防御もできると強いには強い。コストが重すぎるだけである。

*2
自転車師団の解禁は、日本の国家方針(ナショナルフォーカス)の陸軍系ツリーの最後に存在する。最速でも4つの国家方針を取らねばならないので開始すぐには使えない。

陸軍系ツリーの最後ということは、これが大日本帝国陸軍の最終形態ということ……日本、恐ろしい子!



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お正月特番編 第05話

『いい話と悪い話、どっちから聞きたいって言われた時』

『あれほとんどは結局悪い話になるよね』

 

 

 

 1939年8月初頭。

 クライシス勢力との戦い……全世界規模で凶報が飛び交う中、その日は久しぶりに人類に朗報が舞い込んできた。

 アフリカ大陸で猛威をふるっていた『荒廃文明』、さらにバルカン半島を恐怖のどん底に叩き込んだ『融解文明』……人類はこの2勢力の制圧に成功したのだ!

 人類は負けない……そんな大いなる希望を抱ける大きなニュースだった。

 

 

「アフリカは補給のせいで予想以上にグダグダしたな……。

 バルカン半島の方ももう少しスムーズに行くかと思ったが……攻めきれずに結局、クリスと未来からドイツの機甲師団の一部に増援に来てもらったり、切歌と調の機転でイタリア海軍の戦艦『リットリオ』と『ローマ』の艦砲射撃で沿岸部で援護してもらったりで何とか制圧か……。

 やっぱりみんなで勝ちに行くんだし、俺一人でいろいろ考えてもダメだな。

 少し反省だ、こりゃ」

 

 未だ続く『停止文明』との本土解放戦争の最中、そんな話をウィンドウ越しにみんなとしている信人。

 『崩壊文明』から見れば格下とはいえ、2勢力を制したことで仲間たちで口々にお祝いを言う。

 そして一しきりそんな話をし終わった後に、信人は言った。

 

「で、いい話はここまでにして……また新しい予兆イベントがあったな」

 

『『アマゾンという大森林の奥地で、ダーウィンの説を根本から否定するかのように異常な生物が生まれようとしていた……』か……。

 こりゃ明らかに次の発生地点は南米だろうな』

 

 クリスの言葉に誰もがうんうんと頷く。

 

『ということは私たちアメリカの出番ね!』

 

 そう言ったのはアイドル大統領閣下マリアである。何の根拠もないが何故か自信満々だ。

 

『とりあえずですがかなりの質の陸軍をそれなりの量は準備できました。

 これなら不測の事態にも対応は出来るはずです。

 足りなければ爆撃機で叩きます』

 

 一方のセレナの言葉は経験者だけあって頼もしい。

 

「うちのアフリカ戦線で戦った1個軍を増援に送ろうか?」

 

『大丈夫、新大陸の戦いは任せておきなさい!』

 

 信人は増援を送ろうかと言うがマリアはそれをやんわりと断る。

 

「それじゃアフリカ戦線の部隊はイタリアのシチリア島に陣取ってる『消失文明』戦線の増援に送るよ。

 こいつでアフリカ側から強襲上陸をかけるから同時に攻撃して『消失文明』にトドメをさそう。

 あとバルカン半島の『融解文明』と戦った1個軍は……」 

 

 その言葉に、奏と翼が反応する。

 

『その戦力、出来ればソ連(アタシら)の増援にくれないか?』

 

『そろそろウラル山脈周辺まで追い立てられている。

 正直、かなり厳しい。このままだとヨーロッパ平原にまで敵の突破を許してしまうぞ』

 

「わかった、そういうことならバルカン半島の1個軍はソ連の増援に送るよ」

 

『あたしたちからも増援を送る』

 

『機甲師団をいくつか見繕っておくね』

 

 奏と翼の危機に、信人とクリス、そして未来は増援を決める。

 その時。

 

『北側の敵はまだそんなに強いんデスか?

 最近はイラン高原の方では敵の攻撃は散発的になってきたデスよ』

 

「……なんだって? それは本当か?」

 

 何気なく言っただろう切歌の言葉に信人は聞き返す。

 

『本当だよ兄くん、最近は空も陸も全然攻めてこないの』

 

「……これはもしかしたら……」

 

 それを聞いて考え出す信人、やがて……。

 

「なぁ切歌、調……攻勢、できるか?」

 

 そう聞いた。

 

「恐らく一番厄介な『崩壊文明』の主力は今、北部方面にいるんだろう。

 なら西のイラン高原、南のインド南部、東の東南アジア・中国の3つの戦線で同時に攻勢に出れば北部の主力を廻すしか無くなる。

 そうなれば北部の敵が減って……」

 

『先輩たちの助けになる、デスね!』

 

『大丈夫、私たちのイタリア軍は行けるよ!!』

 

「分かった、こっちのインド戦線と東南アジア・中国戦線も攻勢の準備に入る。

 準備ができ次第始めよう!」

 

 かくして『崩壊文明』に対して守勢に回っていた人類が攻勢に出ることが決定したのだった。

 

『で、話は変わるけどそっちの『停止文明』戦線はどうなんだい?』

 

「もう四国は解放した。あとは九州と南朝鮮方面だけだ。

 アラビア半島に援護に行っていた海軍艦隊の一部を呼び戻して、援護してる。同時に、各地の航空隊もいくつか呼び戻して爆撃し続けてる。

 最初から地の利はこちらにある。制空権を完全に握り、絶え間ない陸・海・空の同時攻撃で敵はもうボロボロの状態だ。

 ヤツラはもう電子レンジに入れられたダイナマイトだ。メガ粒子の閉鎖空間で分解してやる」

 

『メガ粒子とか全然関係ないよね、ノブくん』

 

 

 1939年8月29日、自転車部隊の奮戦により大日本帝国は『停止文明』の殲滅に成功。

 日本本土決戦は人類の勝利で幕を閉じた。

 そして、9月中旬に予定される一斉反抗作戦『星一号作戦』に向けてイラン高原でイタリア軍が、インド南部と東南アジア・中国方面で大日本帝国軍が準備するそんな最中の1939年9月10日……。

 

 

「緊急連絡! 新たな敵勢力『昏睡文明』が現れました!!

 場所は……スイス『チューリッヒ』です!!」

 

「「南米じゃなかったのかよ(なかったの)!!?」」

 

 

 信人と響の叫びが執務室に木霊した。

 

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

『最強の兵器など存在しない』

『しかし最良の戦術は存在する』

 

 

 

 1939年9月10日……。

 

「おい、南米じゃなかったぞ!」

 

『まさかドイツ国内に来るなんてな……』

 

『またすぐ近くに敵が湧いたデスよ……』

 

『もう嫌ぁ……』

 

 信人の言葉にクリスはどうしたものかと考え、切歌と調は頭を抱える。

 イタリアにとっては工業地帯で生命線とも言える北部イタリア、その隣接する先に敵が現れたのだ。下手をすれば首都ローマ近くを攻められたときよりマズい状況である。

 

「……強襲上陸で『消失文明』にトドメをさすつもりだった大日本帝国(うち)の元アフリカ戦線軍、そっちに廻すか?

 今アフリカの北部沿岸に来てるから輸送船ですぐだぞ」

 

『……ううん、大丈夫。 信人は予定通りに大反抗作戦『星一号作戦』と『消失文明』の殲滅の方をお願い。

 新しく現れた『昏睡文明』は、ドイツ軍で相手をするよ』

 

 信人はそう提案するもののそれを未来が断る。

 未来は慎重な性格で、決して自信のないことは言わない人間だ。それをよく知る信人は頷く。

 

「策があるんだな?」

 

『もちろん。 間違いなく勝つよ』

 

「わかった。 そこまで言うんなら未来に任せる」

 

 そう言って信人は通信を切った。

 

 

 

 

 

 

「なぁ未来、本当に大丈夫なのか?」

 

「うん、大丈夫」

 

「その自信、どこから来るんだよ……」

 

 執務室で不安そうなクリスに未来は自身を持って答えた。クリスはその自信の源を問う。

 

「実はね、敵の『昏睡文明』の部隊編成が分かったの」

 

 そう言って見せられた情報、それは……。

 

「き、機甲師団約60個師団以上!?」

 

 相手の編成は軽戦車や中戦車の機甲師団のみで編成された勢力だったのだ。

 戦車大国のドイツ陸軍でさえ、機甲師団の総数は30個師団いかない。その倍以上の数だという。

 

「おい、こんなの増援を貰わないとマズいだろ!?

 ……今から国外に増援に行ってる機甲師団を呼び戻すか?」

 

 機甲師団の強さをよく知るクリスは青い顔で言うが、未来は首を振った。

 

「機甲師団は要らない。 今回は空軍と……陸軍は歩兵だけで戦う」

 

「はぁ!?」

 

 クリスはもう訳が分からなかった。

 ドイツ機甲師団はいくつもの歩兵師団を叩いてきた。歩兵は戦車に弱い、そのはずだ。そういう戦いを今までしてきた。

 なのにドイツの倍以上の大機甲軍団に、陸上戦力が歩兵だけでどう戦うというのか……?

 そんなクリスを諭すように、未来は言う。

 

「クリス……戦車は『強いけど、弱い』の。

 条件がそろえば強いけど……条件さえ揃わなければどうとでもなるんだよ」

 

 そう言って未来は地図を広げた。

 

「クリス、よく敵の居る地形を見て。

 スイス周辺はすべて山岳地帯なの」

 

 言われる通り、敵の支配地域は山岳地帯だ。

 

「山岳地帯は戦車の天敵、戦車の能力はまったく発揮できないよ。

 逆に、こっちの歩兵隊の中には山岳戦闘のプロである『山岳兵』の師団が結構いる。

 それに機甲師団の戦闘可能時間は極端に短い。*1

 おまけに敵の支配地域が狭いから全周を包囲することが出来る。

 これだけの条件が揃えば全周からの包囲波状攻撃と、あとはありったけの近接航空支援機からの爆撃をすれば簡単に殲滅できるはずだよ」

 

 

 果たして、未来の言葉は的中した。

 平野では歩兵などものともしない機甲師団が、まるでその能力を発揮することができずに次々に歩兵と山岳兵によって撃破されていく。

 もし他の場所に現れていたら厄介だった60個師団を超える機甲師団は、狭い山岳地帯に現れた絶望的な運の悪さの中、歩兵の対戦車砲と近接航空支援機の爆撃によってすり潰される。

 そして戦いから1ヶ月もたたぬ1939年10月3日、ドイツ軍は『昏睡文明』の殲滅に成功したのだった……。

 

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

『勢いは大事だが、止まる勇気はもっと大事』

『何事もほどほどが肝心』

 

 

 

 ドイツ軍が『昏睡文明』との戦闘を開始した1939年9月15日、大日本帝国・イタリア共同の反抗作戦『星一号作戦』が開始された。

 ソ連国旗にある星、この救出をするということで『星一号作戦』と名付けられたこの作戦、息切れの見える『崩壊文明』の西部方面軍・南部方面軍・東部方面軍に対し一斉攻勢をかけることで『崩壊文明』の北部方面軍を誘引し、ソ連にかかる圧力を減らしてソ連を援護するという作戦である。

 

「みんな、行くデスよ!!」

 

「今までのお返し、思いっきりやる!!」

 

 イラン高原で塹壕に籠り、約半年間ひたすらに猛攻に耐えていたイタリア軍がその塹壕から一斉に飛び出して『崩壊文明』の西部方面軍に襲い掛かる。

 今までの戦いでイタリア軍の粘り強さに戦線を突破できず、補給不足なのか極端に能力を落としていた『崩壊文明』の西部方面軍の戦線は瓦解した。

 

「押せ押せ押せ、デース!!」

 

「今がチャンス!!」

 

 そのまま攻めるイタリア軍に、能力を落としていた機甲師団なども撤退の最中に追い越し、師団ごと殲滅させていく。*2

 

「兄チャマの方も順調みたいデスね」

 

 信人の大日本帝国陸軍も、攻勢によってインド北部アフマダーバード周辺まで、東南アジア・中国方面はブータン近くまで戦線を押し上げることに成功する。

 

「このままどんどん行こう、切ちゃん!」

 

「わかったデス、調!」

 

 順調な作戦に、どんどん前に進むイタリア軍。

 このままなら信人のインド方面軍との合流も見え始めた、その時だった。

 

「え、作戦中止デスか、兄チャマ!?」

 

 信人から突然の作戦中止、そしてイラン高原までまた後退するように指示が来たのだ。

 

『飛ばした偵察機で、『崩壊文明』の北部方面軍の一部がこちらに増援に向かってるのが分かった。

 奏と翼のソ連軍への圧力は減って戦力を立て直す時間ができたそうだ。

 作戦は成功だよ』

 

「作戦成功はいいけど……どうしてイラン高原まで戻らないといけないの?」

 

『今まで相手の攻撃に耐えてこれたのはイラン高原の有利な地形あってこそだ。

 今この地形じゃ防衛には不向き……作戦は成功したんだし、今の戦線にこだわる必要はない。

 俺も、双方の戦線は後退させて元の守りやすい河川、山岳のラインに戻る。

 お前らも元の守りやすい場所に戻るんだ』

 

 そう言って信人からの通信は切れる。

 

「「……」」

 

 しかし言われた2人にとってはこれだけ勝っているのに元のところにまで戻るというのは中々納得できないものだった。

 

「もう少し、もう少しで兄チャマの軍に合流できるところまで来たのに……」

 

「……もう少しだけだし、何ならイタリア軍はこのまま進もうか、切ちゃん」

 

 そんなことを調は言い出すその時だった。

 

『全く……何を考えているのやら』

 

 次の瞬間、調の瞳の色が金色に変わった。

 調の内に住むもう一人、お騒がせ転生巫女のフィーネさんの登場だ。

 

「あなたたち、悪いことは言わないから信人くんの言う通りにしなさい」

 

「でも、せっかくここまで来たデスよ。

 こんなに簡単に行くならもう少しくらい……」

 

「このおバカ! どれだけ一時的に戦線を押し上げられても、最終的に負けたら意味ないのよ!

 信人くんの言うように、ここは意固地になって今の戦線にこだわる必要なんて無いのよ。

 最終的な勝利のために、今は退くのよ」

 

「……分かったデスよ」

 

 フィーネさんの説得に、切歌がしぶしぶと頷く。

 こうして11月までの約2か月に渡る一大反抗作戦『星一号作戦』はその目的……ソ連にかかる『崩壊文明』の北部方面軍を誘引し、その圧力を減らすという目的を達成した。

 その後イタリア軍と大日本帝国インド方面軍と東南アジア・中国方面軍は作戦開始前の防衛ラインにまで後退、勢力圏は変わることがなかったが大した被害もなく一方的に相手を殴りつけて反撃前に帰っていった人類側の完全勝利であった。

 

 そしてその作戦の最中、地球の裏側ではまた新たな動きがあったのだった……。

 

 

*1
このゲームには師団のHPに当たる『指揮統制率』という数値があり、戦闘を行うとそれが減っていき無くなると戦闘続行不能として後退する。この『指揮統制率』が戦車などの機甲ユニットは極端に低く設定されており、『戦車のような機甲兵器を多用すればするほど、戦闘持続時間が短い』という事態になってしまうのだ

*2
このゲームはHPに当たる『指揮系統率』が無くなっても師団が消滅することはなく後方に退却し、補給や人員の補充などによって回復するだけで一向に敵の数は減らない。

敵の数を減らすにはどこにも退却できない状態で『指揮系統率』をゼロにする『包囲殲滅』か、相手の退却する場所にこちらが先回りする『追い越し殲滅』が必要となる。

受けた被害によって極端に能力を落としていたこと、機甲師団の速度が極端に落ちるイラン高原という山岳地帯であること……これらの条件が重なり、『歩兵が速度で戦車を追い越す』という事態が発生しているのである。



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お正月特番編 第06話

『人の振り見て我が振り直せ』

『でも自分で失敗しないと中々覚えないよね』

 

 

 

 1939年10月9日……。

 つい数日前にドイツ軍によって『昏睡文明』が殲滅され、一斉反抗作戦『星一号作戦』が発動中のころ……不吉な予兆の通り、遂に南米にクライシス勢力が姿を現した。

 

「南米の旧チリ地区、現在アルゼンチン領であるアントファガスタを中心に黒化が発生!

 同時に『滅亡文明』を名乗る勢力が現れました!」

 

「遂に現れたか……予想通りの南米だが、本当に任せちゃって大丈夫なのか?」

 

『もちろん任せなさい!

 一気に決めるために部隊を送り込んであるわよ!』

 

 アフリカで散々に苦しめられた信人は一抹の不安を覚えて心配するのだが、どうにも自信満々のマリアさん。

 何故だかそれが不安を煽る。

 

「……まぁ経験者のセレナが監修してるだろうし大丈夫か……」

 

 そう何とか安心する材料を見つけようとするが……。

 

『えっ、今回は私関わってませんよ。

 何だか姉さんが勉強したから任せてって……』

 

「……」

 

 もはや嫌な予感が数え役満だ。

 

「おい……一体南米戦線に何を送り込んだ?」

 

『それはもちろんアメリカ歩兵部隊よ。

 野砲なんてもう古い! 将来の機甲師団用にも作ってる中自走砲マシマシの火力強化兵団よ!』

 

「随分豪華編成だな……。

 で、数は?」

 

『一気に決めようと思って100個師団近く送り込んだわ!』

 

 と、得意そうに胸を張った。

 

「……」

 

『……』

 

『……あれ、信人もセレナもどうして黙るの?

 数は多い方がいいでしょ?』

 

「数が多いのはいいことだが……それは補給がしっかりとできていたらだろうが」

 

『姉さん、ちなみに補給のあては?』

 

『えっ、周りに友軍の港がいくらでもあるしそこから来るんじゃない?』

 

「……」

 

『……』

 

 その回答に信人とセレナは頭を抱えた。

 

「……どうしてこうなるまで放っておいたんだ!」

 

『すみません、勉強したという姉さんを信じた私のミスです』

 

『ちょっと、セレナも信人もどうしたのよ!』

 

「いやどうしたも何も……その南米に派遣したご自慢の火力強化歩兵100個師団の補給状況見てみろ」

 

 アイドル大統領確認中……。

 

『えっ、何で補給が真っ赤なの?

 まだ戦闘も始まってないんだけど……』

 

「そりゃインフラレベルが低くて、供給量が100個師団の腹を満たすだけ確保できないからだよ。

 しかも友軍ってもアルゼンチンとかブラジルとか、プレイヤーの入ってない奴だ。港の拡張もインフラの改善もやってない。

 俺はアフリカ戦線の戦いの時は、自分のできる限りで事前に港の拡張とインフラ改善をやっておいてなお補給に悩まされてヒィヒィ言ってたからな。

 その辺りやらないNPC国家じゃ供給量が低くて移動すらままならないぞ。

 『強い部隊がたくさんいれば強いだろう』って、初心者が始めたばかりのころによくあるミスだな」

 

『補給の切れた100個師団より十全に補給できてる20個師団のほうが強いですからね。

 お腹を満たせない以上、100個師団は過剰戦力すぎます』

 

 アイドル大統領マリアさん、複雑な補給システムの前にフルボッコにされる。

 

悪人以外は何でもできるたやマ(ただの優しいマリア)さん

      ↓

悪人と大統領以外は何でもできるたダマ(ただのダメなアイドル大統領マリア)さん(New)

 

 

『うぅぅ……セレナぁ、信人ぉ、どうしたらいいの?』

 

『……輸送機をありったけ送って空輸補給で水増ししても、十分に動かせるのは半分くらいですかね?』

 

「ああ、こっちの輸送機もいくらか送り込んで補給物資を投下する。少しは腹の足しになるはずだ」

 

『お願いします。 これでまともに動けるようになった約50個師団=1個軍で『滅亡文明』との戦いを続けましょう』

 

 南米戦線は早くもグダグダになりそうな予感が濃厚になっていた……。

 

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

『具体的なことが全く書いてない』

『なのに一発で分かる不思議』

 

 

 

 1939年11月10日、一大反抗作戦『星一号作戦』が完了して数日後……こう着状態になっていたシチリア島パルレモを占拠する『消失文明』に対し総攻撃が開始された。

 戦闘機による制空権の確保と爆撃機による爆撃、これに加えイタリア軍とドイツ軍がシチリア島への攻撃を開始。

 海峡による防御効果により今までそれを防ぎ続けてきた『消失文明』だが、今回はそこに大日本帝国軍が加わった。

 イタリア海軍の戦艦『リットリオ』と『ローマ』の艦砲射撃の援護を受け、シチリア島の反対側に強襲上陸作戦を行ったのだ。

 これによって戦力を分けることを余儀なくされた『消失文明』の防衛線は崩壊する。

 そして1939年11月25日、パルレモを制圧したことにより『消失文明』の殲滅に成功したのだった……。

 

 

「『消失文明』、トドメをさすまで結構かかったね」

 

「だな。

 この戦い、はっきり言って一番怖いのは『地形』だよ。

 シチリア島っていう防衛に徹するならうってつけの場所に陣取られたからな。

 今後も発生地点次第では今回みたいに手こずる羽目になる」

 

 そんな風に信人と響が今回の戦いを振り返っていたその時だった。

 

「あ、また新しいイベントだね。

 えっと……『紅茶が、床に零れ落ちた』?

 なにこれ? これしか書いてないんだけど……」

 

 おかしな文言に首を傾げる響。

 だが、それが何のことか信人はすぐに分かった。

 

「いや、これはクライシス勢力の予兆イベントだ! 次の奴らの出現地点がわかったぞ!

 次の奴らの発生地点はここ……旧イギリス、ブリテン島だ!」

 

 紅茶=イギリスという推理から、次の戦いがブリテン島だと確信した信人はそのまま指示を出す。

 

「『消失文明』との戦いを終わらせた1個軍はそのままブリテン島に向かって敵への備えにする!

 とはいえ、これで自由に動かせる戦力が無くなるのも問題だな……。

 『停止文明』戦線で使っていた我が大日本帝国陸軍最強の自転車部隊と重戦車機甲師団の1個軍、これをヨーロッパへ派遣する!」

 

 実は各種の研究力ブーストによって、遂にⅡ型重戦車、いわゆる『ティーガー』に相当するものが完成していたのだ。

 信人は完成したⅡ型重戦車にすぐに陸軍経験値をつぎ込んで速度を強化、そのまま生産ラインに乗せ量産体制に入った。

 これによってその能力に不安のあった張り子の虎であった重戦車機甲師団は強靭な、本当の虎の子へと生まれ変わったのである。

 

「それはいいけど……本土の守りはどうするの?」

 

「今、自転車師団をもう1個軍分訓練してる真っ最中だ。

 それを本土の守りとして残すよ」

 

 こうして本土防衛戦力を錬成しながら、信人は名実ともに虎の子といえる自転車師団と重戦車機甲師団をヨーロッパへと派遣することを決定する。

 しかし……悲しいことに予定というのは往々にして狂ってしまうのが常なのだ。

 

 

 1939年12月10日……。

 

「陛下、皇后様、緊急連絡です。

 アメリカ南部、フロリダを中心とした地域に黒化現象!

 同時に『低迷文明』を名乗る敵勢力が現れました!!」

 

「アメリカ本土!?」

 

「イギリスじゃなかったのかよ!?」

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

『重防御兵器は運用が難しい』

『でもはまるとヤバいくらいに強い』

 

 

 

 1939年12月10日、突如として本土内に現れた『低迷文明』によってフロリダを中心とする南部が黒化、占拠された。

 これに対しアメリカはすぐさま攻撃を仕掛ける。

 かくして『第二次南北戦争』ともいうべき戦いが始まったのだが……。

 

「セレナ、戦況は? もちろん我がアメリカ軍が勝ってるのよね?」

 

 今まで育ててきた戦力に自信満々のアイドル大統領閣下たダマ(ただのダメなマリア)さんは、ホワイトハウスの執務室でペプシコーラをグビグビやりながら妹に聞く。

 しかしそんな姉に、セレナは無言で首を振った。

 

「残念ながら……全戦線で劣勢です、姉さん」

 

「んおほぉぉぉぉぉぉ!!?」

 

 何だが感度が3000倍にでもなったかのような奇怪な声を上げて、マリアがコーラを噴出した。

 

「何!? 一体何がどうなってるの!?」

 

 予想外のことに詳細を聞くマリアに、セレナは語った。

 

「まず……姉さんが南米に送った過剰戦力、100個師団のせいで国内の防衛力が低下していました。

 余剰戦力の50個師団を本国に戻そうとしてた矢先のことで、まだ国内に戻ってきていませんでしたので」

 

「ま、まずってことは他にも理由があるのよね!? 何、何が原因?」

 

 妹に自分のミスをジト目で指摘され、露骨に話をそらすマリア大統領閣下。

 そんな姉に一つため息をつくとセレナは続ける。

 

「第二に、それら南米戦線やユーラシアの援護のために航空機を廻していて、国内に廻す航空機がほとんどなかったこと。

 制空権を取られて、そのペナルティで各師団の能力が落ちていたところを一気に攻められました。

 そして第三……これが致命的なんですが……」

 

 そう言ってセレナは何かの資料を取りだした。

 

「これ、判明した『低迷文明』の師団編成なんですが……敵は『重戦車機甲師団』を中心としています。

 で、最悪なことにこの重戦車の装甲、今の我が軍の対戦車砲では貫徹不能です。

 全部装甲で弾かれて、ダメージを与えられません」

 

「えっ……ということは……私たちは敵重戦車を撃破出来ないってこと?」

 

「その通りです、姉さん」

 

 敵が倒せない……その致命的な話にマリアは流石に青くなった。

 

「ど、どうすればいいのセレナ!?」

 

「一応、師団編成を変えて対戦車砲兵を増やしたのでこれで少しは一方的な戦いでは無くなるはずです。

 あとは航空隊の呼び戻しですが……それ以上に問題なのが予想以上に敵の進行速度が早くてアメリカが東西に分断されかかってます。

 これによって戦力の一点集中が出来ない状況ですね。

 南米から呼び戻した50個師団が西側の軍と合流すれば、もう少し戦力的な不利は無くなるんですが……」

 

 その時、さらなる凶報が舞い込む。

 

「敵軍が南部から西海岸に到達したとの報告が入りました!?」

 

「!? 予想以上に敵の侵攻速度が速い!?」

 

 『低迷文明』によってメキシコへの出口が塞がれてしまっていた。これにより南米から呼び戻していた50個師団は帰り道を寸断され、海路での帰国を余儀なくされるが……その輸送船団に敵艦隊と航空機が襲い掛かる。

 アメリカ海軍の奮戦虚しく、50個師団のほとんどが海の藻屑と消え果てる大惨事が勃発してしまのだった。

 

「せ、セレナぁ! 私、どうしたらいいの!?」

 

「戦線を後退、残された師団で確実に守る範囲だけを堅く守ります!

 アメリカを亡国にするわけにはいきません。アパラチア山脈とジェームズ河に首都絶対防衛線を引き、ここを死守します!

 その間に……姉さん、信人さんに頭を下げて増援を送ってもらって下さい」

 

 かくして出現場所の悪さ、そして相手の装甲重視編成によって戦力を分断されてしまったアメリカは独力での反撃が難しい状況に陥った。

 こうして、ヨーロッパへ派遣される予定だった大日本帝国の虎の子、自転車師団と重戦車機甲師団は急遽アメリカ戦線へ投入されることになったのである……。

 

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

『大和魂を見せてやる!』

『大和魂の力ってすげー!』

 

 

 

 さて、全世界規模で戦いの続く状況だが……今一つ影が薄いのは海軍だ。

 そこはどうしても陸軍と空軍を優先せざるを得ないため仕方ない。地球の70%は海だが、人はその残った30%の陸で生きているのだから。

 

 しかし、海軍は海軍で当然ながら遊んでいるわけではない。

 陸軍の支援も仕事だが、『崩壊文明』がインド北部を制圧し軍港を手に入れたことで『崩壊文明』の艦隊が出現、それを相手に日米聯合艦隊がアラビア海・ベンガル湾・西インド洋・東インド洋で激しい戦いを日夜繰り広げている状況なのだ。しかも、陸軍や空軍よりもなお厳しい状況で、である。

 優先して新型兵器を開発された陸軍や空軍と違い新兵器の研究もおろそか、しかも『艦艇の製造には時間がかかる=戦力化するまでの時間が長い』という悪条件に悪条件を重ねた状態で日々奮戦していたのだ。現状、最も苦しい戦いを強いられているのは海軍と言っても過言ではないだろう。

 今回は、そんな海軍にスポットを当てることにする……。

 

 

「海軍は必要なのは分かるが、増強となるとちょっとキツいんだよなぁ……*1

 

「海軍の人たち、今日も大型艦建造の嘆願書を持ってきてたよ。

 最初に造ってた戦艦『比叡』、あと正規空母『蒼龍』『飛龍』以降大型艦の建造なしで輸送船と駆逐艦の生産だけしてたから……」

 

「仕方ないだろう、日本は島国なんだ。

 兵員の輸送も資源の輸入も、全部輸送船頼りだ。すぐに数が減らされるものだし、輸送船の建造は持続しないと。

 同じように駆逐艦も正直、完全に消耗品だ。大型艦が活躍するためには駆逐艦が大量に必要だしコストも安いし建造時間も短い。そこに力を入れるようになるのは仕方ない。

 というか駆逐艦はすごいぞ。最高だ!*2

 

「うーん、それは分かるけど……やっぱり海軍の人たちも自分の命を預ける船だし、大きくて強い船がいいんじゃないの?」

 

 そういう響に、信人は首を捻りながら言った。

 

「何を言ってるんだ響……この世界、『海軍の海兵は不死身』だぞ?」

 

「……はい?」

 

「いや、だから『不死身』。 死なないの」

 

「ちょっと待って、『不死身』って何!? どういうこと!?

 陸軍なんて毎回のように凄い死者を出しながら戦ってるのに!?」

 

「と言っても、実際乗っていた艦艇が轟沈してもそこに使っていた人的資源……つまり海兵なんだが、それは『国家の人的資源プールに100%戻る』んだ。

 『人的資源が減ってない=死んでない』んだよ。

 全員、大和魂で日本まで泳いで帰ってくるんだ」

 

「いや、意味が分かんないんだけど……」

 

 もう意味不明な話で頭が混乱する響。

 そんな響に信人は続ける。

 

「ただな、そんな不死身の海兵を殺せる存在もいる。 こいつには注意が必要だ」

 

「……もうなんか聞きたくない気がするけど、それって何?」

 

「サメ」

 

「……はい?」

 

「だからサメ。 さめサメ鮫シャーク。

 こいつらが出没する海域で船が沈むと、サメに海兵の6割が必ず喰い殺される。

 きっと連中、シャークトパスとかメガシャークとかシャークネードとかダブルヘッドジョーズとかアイスジョーズとかビーチシャークとかゴーストシャークとか……まぁ、そういう化け物の群れなんだと思う。

 さすがの大和魂も、サメの前には無力だ……*3

 

「今、私の常識もこの世界の前には無力だって思い知ってるよ……」

 

「……ともかく、海軍の嘆願は分かった。

 数日中には大型艦を2隻生産ラインに加えるから待っているように伝えてくれ」

 

「あ、建造の予定はあったんだね。 分かった、海軍の人たちには伝えてくるね!」

 

 

 数日後……。

 

 

「あの……ノブくん」

 

「なんだ、響?」

 

「今海軍から連絡があって……ドッグに『75%完成した戦艦大和』と『50%完成した戦艦武蔵』が『突然現れた』らしいんだけど……。

 えっ……なにこれ? 無から何かを生み出す魔法?」

 

「国家方針(ナショナルフォーカス)『究極の戦艦』をとっただけだ。そうしたら出てきた*4

 

「いやいやいやいや、そんなことあるわけないじゃない!」

 

「ジオンの精神が形になるとノイエ=ジールになるんだから、大和魂が形になって戦艦大和と戦艦武蔵ができたんだよ!」

 

「大和魂とは一体……うごごごご!!」

 

 意味不明な出来事に響の思考回路はショート寸前、しかし今すぐ会いたいよとはならなかった。

 残念!

 

「とにかく待望の大型艦、しかも超巨大戦艦大和型2隻だぞ。 海軍も文句はないだろう。

 大和と武蔵は完成次第、同じく完成した駆逐艦十数隻と一緒にインドの日米聯合艦隊に合流、敵を一掃する作戦に出る」

 

「大和と武蔵が凄いのは分かるけど敵の艦隊の方が強いんだし、それだけじゃ反撃は出来ないと思うけど……」

 

「安心しろ、俺に『秘策』がある。

 しばらくしてそれを発動したら、周辺の敵艦艇はすべて海の藻屑だよ」

 

「? ?」

 

 各種バフにより凶悪な敵艦隊を相手に妙に自信満々な信人……響はそれに首を傾げる。

 そしてしばらくして大和と武蔵が完成しインドの日米聯合艦隊と合流、敵艦隊との決戦が始まったが……

 

 

 

ドガァァァン!! 

 

 

 

「ノブくん”””~~~~!!!」

 

 

 

 執務室のドアをぶち壊しながら現れたのは、片手に報告書らしき紙を握り、ギアを纏った響だった。

 その顔は完全に怒りで染まっている。

 

「なんだなんだ! どうした響!!」

 

「うるさい! お前、実は創世王でしょ!?

 ノブくんが、あの優しいノブくんが『あんなこと』をするはずない!

 ノブくんの身体から出ていけ!!」

 

 突然現れた響に混乱する信人に、響はその正体が創世王だと言い放つ。

 

「お、落ち着け響。何を思ってそう言ってるのか分からないが、ギアを纏って拳なんて向けられてちゃブルって話もできねぇ。

 とりあえず俺の話を聞け。

 OK?」

 

「オッケー!!(ズドーン!!)」

 

「OKとか言いながら拳を叩き込むなぁ!!」

 

 響の拳が執務室の机を吹き飛ばし、信人は床に転がって間一髪でそれを避ける。

 響はマジだ……それが分かり信人は冷や汗を垂らす。

 

「一体何なんだ!? 何があったら俺が創世王に乗っ取られたなんて話になるんだよ!?」

 

 すると、響が話を始める。

 

「……ついさっき海軍の人が報告に来てその結果を貰ったの。

 西インド洋で敵主力艦隊と決戦。その結果……敵の空母3隻、戦艦2隻、重巡洋艦4隻、駆逐艦18隻、潜水艦11隻を撃沈。

 こっちの被害は駆逐艦2隻が撃沈だったんだって」

 

「物凄い大勝利じゃないか! それで何で俺が創世王だって話になるんだよ!?」

 

「私もこれ読んで最初は「凄い!」って喜んだよ。でもね……そこで海軍の人が言ったんだよ。

 ノブくんの指示した……『カミカゼ攻撃』のおかげで勝てました、って!!」

 

 キッと響は信人を睨む。

 

「空母機動艦隊の人にカミカゼ攻撃の指示が出ていて、それでみんな敵艦に突っ込んでいって勝ったんだって!

 ノブくんが特攻指示なんてするはずがない! そんな非人道的な戦法をとらせるなんて……お前はきっとノブくんに取り憑いた創世王なんでしょ!!

 ノブくんは……ノブくんは私が助ける!!」

 

 そう言って拳を構えた響に、信人は「なるほど」と頷く。

 そして言った。

 

「まず……俺は創世王じゃなく間違いなく信人だ。

 そして……『カミカゼ攻撃』の指示は間違いなく俺が出した」

 

「そんな……そんな非人道的なことをノブくんがするはずがない!!」

 

 それを聞いて、『響の勘違い』と悟った信人は肩を竦めた。

 

「あのな響、『カミカゼ攻撃』を非人道的って言うが……どのあたりが非人道的なんだ?」

 

「当然、航空機のパイロットの人に敵艦に体当たりして死んで来いって言うんだよ!

 非人道的じゃない!!」

 

「響……その海軍の戦闘結果をよく読んでみろ。

 戦死者……居るか?」

 

「それは当然……って、あれ?」

 

 そこまで来て響は気付いた。戦死者欄に人の名前が1つも……無い。

 

「わかったか。この世界……空軍兵はいくら搭乗機が壊れようと絶対死なず、人的資源は減らない。

 海兵を殺すサメみたいな相手もいない、『完全に不死身』の存在なんだ。

 そんな死なない奴が『カミカゼ攻撃』をする……それがどういう意味か分かるか?」

 

 そして信人は大仰に手を開き、叫んだ。

 

 

「この世界の大日本帝国のカミカゼ攻撃は誰も死なずに敵艦だけを高威力で潰す、対艦ミサイルと同じなんだよ!!」

 

「な、なんだってぇぇぇぇぇ(MMR調)」

 

 

「いや、本当に『カミカゼ攻撃』は日本海軍の切り札の一つなんだぞ*5

 

「わ け が わ か ら な い よ!!」

 

「響、すべては大和魂の力だ!」

 

「やまとだましいの ちからって すげー!(宇宙猫顔)」

 

 

 こうして帝国海軍は今日も戦い続けているのだった……!

 

 

*1
このゲームは海軍の戦闘というのは特殊で、それに耐えうる艦隊編成というのはコストが鬼のように重い。

まず航空母艦は4隻がデバフなく最も効率がいいので4隻運用がデフォとなる。次に航空母艦1隻につきそれを護衛する主力艦(戦艦・巡洋戦艦・重巡洋艦)が1隻なければ空母が丸裸になるためそれが必要。そして空母や大型艦の3倍の数の直衛艦(軽巡洋艦・駆逐艦)がなければ主力艦が守れず丸裸になるためこれも必須。

つまり『最も基本的かつ最低限の攻撃艦隊』の編成は空母4+主力艦(戦艦or巡洋戦艦or重巡洋艦)4+直衛艦(軽巡洋艦or駆逐艦)24の『32隻』の艦隊となる。

……これを揃えるのがどれだけ大変かは分かるだろうか?

*2
艦これやアズレンのロリかわょぅι゛ょっょぃ……という話ではなく、大型艦を全く造らず艦隊のすべてを駆逐艦にして海で駆逐艦による人海戦術をするという『全駆逐艦戦術(オールデストロイヤードクトリン)』はこのゲームにおいては立派な戦術である。

航空機には弱いが、駆逐艦たちが数の暴力と必殺の魚雷で大型艦を次々に爆殺していく姿は圧巻。特に空母や戦艦などを造る工業力がない場合にはおすすめとも言える。

さらに日本では魚雷威力を20%アップさせる国家方針(ナショナルフォーカス)『酸素魚雷』と、日本でしか造れない重雷装巡洋艦『北上』の存在のため、空母や戦艦といった大型艦をすべて捨てるのも十分選択に入るのである。

*3
このクレイジーな世界における、生物の強さのランキング。

第1位 レジスタンス(民間人)・サメ→双方とも絶対倒せず一方的にこちらを殺してくる

第2位 空軍兵→不死身

第3位 海軍兵→不死身だけどサメには一方的に殺される

最下位 陸軍兵→ボトムズのAT並に消耗品の命

という順位になるのである。いかにサメが恐怖の存在かということがお分かりいただけるだろうか?

しかし……不死身の軍人をはるかに凌駕する、絶対に殺せずこちらを一方的に殺してくる民間人とサメの溢れる世界……改めてこの世界は一体何なんだ!?(驚愕)

*4
日本の最強の国家方針(ナショナルフォーカス)『究極の戦艦』、これは超大型戦艦の開発が一瞬で完了し、即座に『75%完成した戦艦大和』と『50%完成した戦艦武蔵』が造船ドッグに現れるというもの。

前述したように海軍の大型艦は建造が下手をすれば年単位でかかる代物である。それが一瞬で手に入るというのはとてつもなく、ゲーム中最強クラスの国家方針(ナショナルフォーカス)である。

とはいえ、これを取るためには海軍ツリーの択一選択である『空母ルート』と『戦艦ルート』で、『戦艦ルート』を選ばなければならない。

そうすると日本についているデバフ国民精神『二重の研究体制(航空機研究速度-10%)』を永遠に取り除けなくなってしまう(取り除く条件が『空母ルート』にあるため)。

大和型戦艦2隻か、航空機の研究速度か……プレイヤーはなかなか悩ましい選択を迫られることになる。

*5
『カミカゼ攻撃』は日本の国家方針(ナショナルフォーカス)、『武士の魂』を取ることによって解禁になる対艦攻撃法。日本の他にはソ連と汎用国家方針の国家で使用できる。

航空機を体当たりさせることで敵艦艇に通常の20倍(!?)、空母艦載機の場合5倍のダメージを与えるというとんでもない火力を叩き出す。航空機を損耗するものの、この火力は破格の一言。

そして何よりこの攻撃、何度も言っているように『人的資源が減らない=死者が出ていない』攻撃法なのだ。単純に空母が対艦ミサイル艦になっている状態である。

そのため、これは普通に大日本帝国海軍の切り札の1つなのだ。それを駆使して信人は能力が上の『崩壊文明』艦隊に対して旧式艦艇だけでも優位に戦っているのである。

なお日本の国家方針(ナショナルフォーカス)、『神風の強化』を取ることで造れるようになる、日本でしか造れないカミカゼ攻撃専用航空機『桜花』はもう完全に対艦ミサイルの状態。本当に強く、最終段階のⅣ型空母を一撃で沈められるという恐らくゲーム最強の対艦攻撃法。

……HOI4の地球は宇宙の法則が乱れているに違いない……。




……今ほどイラストを描けない自分を恨んだことはない。
宇宙猫顔で叫ぶ響のイラストが描きたかった……絶対面白いのにぃ……!


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お正月特番編 第07話

『平和な欧州村に大日本ゴルゴム帝国が!』

『帰って、どうぞ(迫真)』

 

 

 

 1940年1月7日……。

 

 『選択』

 例え現状がどのように悲惨であったとしても、私たちは勝つために何か出来ることをこの世界の中で模索し続けなければならない。

 次は本命が来る。だとするならば狙いは欧州、それも大都市に……。

 

 

 

「また意味深なイベントが来たね……」

 

「明らかにクライシス勢力出現の予兆イベントだな。

 それにしても次は欧州の大都市か……」

 

『……まさかイタリア(うち)のローマってことはないよね』

 

『アテネ・パルレモ・チューリッヒとまわりにもう3回も出てきたんデスし、もうお腹いっぱいで勘弁デスよ……』

 

『次に来るのが欧州って言うならあたし達ドイツの出番だな!』

 

『インフラの整った欧州なら機甲師団の力も最大に発揮できるし、その時にはドイツの全力を見せてあげるよ』

 

 新たな予兆イベントの発生に皆で意見をかわし合う。

 

「この平和な欧州のどこかにクライシスの魔の手が……おのれクライシスめ!!」

 

 

「「「「「平……和……?」」」」」

 

 

( ゚Д゚) ( ゚Д゚) ( ゚Д゚) ( ゚Д゚) ( ゚Д゚)-------→クッソ汚い欧州地図

↑ビッキー ↑キネクリ  ↑393  ↑切チャン  ↑シラベェ

 

 

「資源地帯だけ資源と人的資源搾取用の適当な傀儡国つくって他が軒並み大日本帝国領になってるこの細切れ欧州が……平……和?」

 

『バカ2号、お前は何を言っているんだ?』

 

『平和の法則が……乱れる……!!』

 

 響とクリスと未来からジト目でツッコミが入るが、残念、今の信人には通じない。

 

「まぁ確かに少し各地でレジスタンスが暴れててスパイが全開で火消しに回ってるけど。

 まったく……我がゴルゴムの統治を受けれるだけで『平和』だと、何故欧州の連中はわからんのだ」

 

「いや、突然難癖つけられて戦争でボコボコにされた挙句に国を細切れにされたら、まったくもって自然な反応だと思うよ。

 あともう隠す気もなくゴルゴムって言ってるよね、ノブくん」

 

 

 平和な欧州(大本営発表)にクライシスの魔の手が迫る!!

 

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

『諦めんな、諦めんなよぉ! ジョンブル魂を見せろよぉ!!』

『と、イギリスを滅ぼした大日本ゴルゴム帝国が申しております』

 

 

 

 1940年2月6日……。

 

「ブリテン島ニューカッスルを中心とした地域に黒化現象が発生!

 『減衰文明』を名乗る敵勢力が現れました!!」

 

「来たか、やはり予想通りのブリテン島!」

 

「ノブくん、これがちょっと前に出てた欧州に来るって言ってた本命かな?」

 

「いや違うな。

 今師団の編成を見てみたが特に変なバフがあるわけでもなく、ごくごく普通の自動車化歩兵中心の高速師団がおよそ40個師団程度。

 ブリテン島はインフラも整ってるからこっちの補給には心配はないし、島は狭いから動き回れず敵は自慢の高速を生かせるような包囲殲滅なんかができるわけでもない。

 正直言って今までで一番の雑魚だ。

 準備していた1個軍ですぐにでも殲滅するよ」

 

「それならよかった……。

 あ、イギリスの女王陛下が何か演説をするって。

 戦意高揚のためのやつかな?」

 

 

 

 『覚悟』

 かつて栄華を誇った大英帝国。今朝、女王陛下が国民に対し演説を行われた。

 イギリス国民と等しく危険と耐乏を分かち合い、最後の時はロンドンで迎えると宣言したのだ。そして、それは英国人すべての人の願いでもある。

 ビックベンの鐘は今日もロンドンに響いている。きっと人類が滅びた後でさえ、その鐘の音は遠くへ響き渡るだろう……。

 

 

 

「って、なに負けそうな雰囲気の演説やってんのこの女王陛下!?

 今戦いが始まったばっかりなんだけど!?

 雑魚! 相手今までのクライシス勢力の中で一番の雑魚だから!

 こんなことで負けてたら話にならないから!!」

 

「うーん、ブリテン島の人、やる気ないんじゃないかなぁ、ノブくん……」

 

「まったく……人類一丸となってクライシスと戦おうって時に何を敗北主義的なことを!

 『俺たちは負けるかぁ!!』というジョンブル魂の入った気合いを見せんかい!!」

 

「と、難癖をつけて同盟からイギリスを追放した後に細切れにした大日本帝国のノブくんが申しております……」

 

 

 気分的に出鼻をくじかれたものの、『減衰文明』は明らかにブリテン島に合っていない編成で、しかも数が少数であった。

 有事のためにブリテン島に配備されていた大日本帝国陸軍1個師団がこれに即相対する。

 『減衰文明』軍は、今までの戦いを潜り抜けて歴戦のつわものへと変貌していた大日本帝国陸軍の相手にはならず、次々に掃討されていく。

 そして開戦からわずか2週間後の1940年2月20日、大日本帝国陸軍は『減衰文明』の殲滅に成功した……。

 

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

『スーパーサイズ・ミー!』

『デカい、重い、素晴らしい!!』

 

 

 

 ブリテン島を舞台に大日本帝国陸軍1個軍と『減衰文明』とが戦闘中の1940年2月10日……。

 現地のインフラによる補給不足に悩まされながらも『滅亡文明』と戦闘中だったアメリカ陸軍50個師団の南米派遣軍が遂に『滅亡文明』の本拠地であったアントファガスタを制圧し周辺残党を掃討。『滅亡文明』の殲滅に成功した。

 

「やったわ、セレナ!」

 

「やりましたね、姉さん!

 これで南米派遣軍を本国に戻せます。 と、その前にアメリカ本国戦線の状況ですが……」

 

 そうして説明を始める。

 

「フロリダを中心に発生した『低迷文明』は南部を制圧。

 その後全方位に勢力を伸ばしていますが、特に西側への侵攻が早く、テキサスを制圧。しかし西部アメリカ軍がロッキー山脈に防衛線を展開、突破を防ぎました。

 そこで『低迷文明』は旧メキシコ方面に向かい、結果タマウリパス・ハリスコ・メキシコシティと制圧し、北米と南米を分断しました。

 さらにロッキー山脈を北上するようにコロラド州あたりにまで前進中です。

 中部はケンタッキー州やミズーリ州までを制圧。そして東部はバージニア州まで制圧、もう首都ワシントン目前のジェームズ河首都防衛ラインまで目前です」

 

「かなり攻められてるわね……」

 

「ただ姉さん、相手の戦力は東部と西部中心のようで中部はそれほどでもない様子。

 速度と突破力さえあれば戦況を一気に好転する手段があるんですが……」

 

 だが、すでにそんな戦力はアメリカにはない。

 その時だ。

 

『そういう事なら任せてもらおう!』

 

「信人!」

 

 それは増援としてアメリカ戦線に送られていた大日本帝国陸軍の虎の子、自転車師団と重戦車機甲師団である。それがついに到着したのだ。

 

『今、大日本帝国(うち)の師団はオレゴン州ポートランドの港に到着した。このまま、まだ敵の占拠していない地域を東に進んでネブラスカ州に入る。

 そのあとは全力の攻勢を開始してテキサス州のヒューストンまで一気に南下、『低迷文明』のやつらの柔らかい腹を横からぶん殴ってやる!!』

 

「姉さん、これが成功すれば一気に戦況が有利になります!」

 

「信人、お願いできる?」

 

『任せてくれ』

 

「じゃあ、アメリカ軍は同時に攻勢をかけて敵を前線に釘づけにして援護します。

 航空支援もしますから制空権は任せてください!」

 

『頼むぜ!』

 

 そして『低迷文明』からアメリカを取り戻す一大作戦『オペレーション・メテオ』が発動された。

 

 

「大和魂を見せてやれ!!」

 

「「「陛下バンザァァァァイ!! 突撃ィィィィィ!!」」」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 『低迷文明』は東側と西側に戦力を集中していた。そしてその柔らかい中部の横っ腹を速度強化した重戦車機甲師団が高速で突破していく。

 そしてその後を追う自転車師団がその傷口を広げた。

 異常に気付いた『低迷文明』だが、同時に東部・西部ともにアメリカ軍が攻勢が開始。その目的は『低迷文明』軍の足止めだ。

 アメリカ軍が必死で足止めをしている隙に、作戦名にある『メテオ=流星』のような凄まじい勢いで重戦車機甲師団は南下していく。

 そして『低迷文明』の横っ腹を突き破り、遂にテキサス州の都市ヒューストンにまで到達した。

 

 『低迷文明』の西と東は完全に寸断され、西部方面軍への補給路は断たれた。

 これにより『オペレーション・メテオ』の目的……すなわち『低迷文明』西部方面軍をすっぽりと囲む大包囲網が完成したのである。

 補給が断たれたことで一気に戦闘力を低下させた『低迷文明』西部方面軍、そこに今まで散々煮え湯を飲まされ続けたアメリカ軍の逆襲が始まった。敵の重戦車機甲師団も、まともに動かない重戦車など脅威でも何でもない。

 『低迷文明』西部方面軍の殲滅は時間の問題であり、そうなれば戦況は一気にアメリカ軍に傾くだろうことは誰の目にも明らかの状態だった。アメリカ戦線には早くも勝利ムードが漂う。人類にとっても朗報だ。

 

 だが……1940年3月9日、突如として届けられたその凶報に、世界は激震した……!!

 

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

『気分は『トランスフォーマー コンボイの謎』』

『見えない攻撃でいつの間にかやられているの意』

 

 

 

 よく晴れた日だった。

 その日世界強国の一つ、ドイツを指揮する2人……クリスと未来はベルリンの執務室で仕事をしていた。

 

「ブリテン島にわいた『減衰文明』も倒したし、アメリカ大陸を荒らしまわってた『低迷文明』も、信人たちの『オペレーション・メテオ』が上手く行ってる」

 

「『低迷文明』の西部方面軍を大包囲が完成すれば、あとは殲滅のみ。

 西部方面軍が片付いたらその戦力を東部方面にまわせば、『低迷文明』の殲滅は時間の問題だね」

 

「あとはこの間の意味深な『本命』の話か……」

 

 クリスが総統用の豪奢な椅子に身体を預けながら執務室の天井を仰ぐ。

 

「今残ってる軍を西部、南部、東部の3つに分けて欧州のどこに出てこようが即応できる体制は整えているよ。

 大丈夫だよ、クリス」

 

「ああ、未来がそういうなら安心だ」

 

 そう言って砂糖たっぷりの紅茶に口を付けたその時だった。

 

 

ズゥゥゥゥンッ!!

 

 

「今のはなんだ!?」

 

「クリス、あれ!!?」

 

 何事かと窓の外を見、未来の言われる方に視線をうつしたクリスが見たものは……。

 

「なんだありゃ!?」

 

 地面から尖った何かが突き出ていた。まるで巨大な削岩機(シールドマシーン)のようなソレ、その先端のドリルのような部分が開閉する。

 そして……そこから異形の怪物たちが飛び出して来ていた。

 

「ま、まさか連中の狙う『本命』の大都市って……!?」

 

「ここ、ベルリンへの直接奇襲攻撃!?」

 

 地獄の釜の蓋が開く。敵の突然の攻撃によってベルリンに火の手が回っていく。

 

「クリス総統閣下、未来参謀総長!

 もはや、もはやベルリンはおしまいです。 どうかお2人だけでも退避を!?」

 

 総統府を護衛していた親衛隊長がそう訴える。

 

「バカ! 総統のあたし様がいの一番に逃げてどうするんだよ!?

 あたしも一緒に……」

 

「総統閣下! 閣下はここで終わってはならない御方!

 我らはあなた様にこの国の未来を預けたのです!

 ……今は耐え、そしていつか必ず奴らの手からこのベルリンを、取り戻して下さい。

 お願いします……」 

 

「……クリス、言う通りにしよう」

 

 決死の覚悟を決めた親衛隊を前にこのまま残るというクリスだが、親衛隊長に深々と頭を下げてドイツの未来を託され、未来はクリスの手を強引に引いた。

 

「郊外の飛行場へ! そこに迎えが来ているはず!

 そこまでのつゆ払いは我々がいたしましょう!」

 

 そして親衛隊長は隊員たちへと振り返る。

 

「諸君! 諸君とともに戦えたことを誇りに思う。

 ヴァルハラで会おう!」

 

 クリスと未来を逃がすため、総統府親衛隊が捨て身の攻撃を行い血路を開く。

 

「ちくしょう……ちくしょう……!?」

 

「……」

 

 クリスは悔し涙を浮かべ血を流す勢いで歯を食いしばり、未来は能面のような表情のない顔でその道を行く。

 そしてボロボロになった郊外の飛行場、そこには一機の飛行機が待っていた。

 Ju87スツーカ、その翼下に37mm機関砲を装備した改良機……通称『カノーネンフォーゲル(大砲鳥)』だ。そして、それを愛機とするのはドイツの誇る『空の魔王』だ。

 

「あとはお願いします、大佐どの……」

 

「わかった。諸君は任務を完遂した。

 胸を張ってヴァルハラに行くといい……」

 

 片足義足の空の魔王はクリスと未来を守り切りここまで連れてきて事切れた最後の親衛隊員を看取ると、2人を機体へと促す。

 

「ではお2人とも後部座席へ。

 快適な旅とは言いませんが、必ずお2人を安全な場所へお連れします」

 

 促されるままに後部座席に乗り込み、『カノーネンフォーゲル』が離陸する。

 

「おっさん、機体を傾けてくれ。

 離れる前にもう一度、ベルリンの街を見たい……」

 

「分かりました、閣下……」

 

 幼いころに戦争を体験したクリス。その彼女が炎に燃えるベルリンに何を思ったのか……。

 その街を目に焼き付けながら言った。

 

「連中を倒して、あたしたちは戻ってくるぞ!

 必ず、必ずだ!」

 

「……」

 

 クリスの言葉に、未来が頷く。

 

 人類とクライシス勢力との戦争は、まだまだ激化していくのだった……。

 

 




流石に残弾が尽きました。
次回投稿は日曜日あたりにします。

次回もよろしくお願いします。


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お正月特番編 第08話

はんたーさんからまたファンアートをいただいたので紹介します。


【挿絵表示】


やまとだましいの力に驚愕する、宇宙猫顔ビッキーです。
やまとだましいのちからってすげー!

もう1月も終わりですので、今日明日の投稿でお正月特番編は終了の予定です。



『私にいい考えがある!(コンボイ司令)』

『意外にも人事関係は当たることもある』

 

 

 

 1940年3月9日、突如として現れたクライシス勢力『新世界』により、ベルリンが占拠される。人類同盟の強国の一つ、しかもその首都が突如として占拠されたという事実に、世界中が震撼した。

 ドイツは中枢機能を臨時首都に移し徹底抗戦の姿勢を見せる。

 そして人類同盟もまた、新たに現れたクライシス勢力『新世界』に対して戦いに入るのだった……。

 

『『……』』

 

「未来にクリスちゃん、無事でよかった……」

 

『……無事なもんかよ。 抵抗する間もなくベルリンを陥とされたんだ。

 何もできず、一方的に……ちくしょう!』

 

『……』

 

 響の気遣う言葉にも取り合わないクリス。ベルリン陥落の光景を思い出しているのだろう、目に涙を浮かべたクリスは血を吐くように何度も「ちくしょう!」と繰り返す。

 だが皆が一番恐れているのは無言の未来だ。

 はっきり言って、仲間たちの中で怒らせたら一番怖いのは未来だ。その未来が終始無言なのだ、その圧といったら……殺気がプレッシャーになって襲い掛かってくるレベルである。

 と、そこにタイミングがいいのか悪いのか、新しいイベントがポップする。

 

 

 

 『ジェリコのラッパ』

 人々の抵抗により、戦線はまだ崩壊はしてはいない。しかしそれも時間の問題かもしれない。

 実質的な最後の楽園となりつつある欧州だが、そこに機械兵器が登場したというのだ。

 人類の生み出した文明が人類を襲う最大の敵となる。

 この世界に神はいるのだろうか?

 

 

 

『……あいつら、自分たちのことを『この新しい世界に適応し君臨する新人類』だとさ。

 あたしたち旧人類には『絶滅しろ』だとよ。

 面白ぇ……やってやろうじゃねぇか!!』

 

『……』

 

 完全にブチ切れモードのクリスともうとっくに怒りが天元突破している状態の未来。

 そして当然のように未来は指示を出す。

 

『……クリス、他方面に展開していた師団の移動準備が完了したよ』

 

『おう! 

 あいつらベルリンを『ベルリンネスト』とかに変えやがって……すぐにあいつらをベルリンから叩き出してやる!!

 全軍に進軍命令だ!!』

 

 クリスも未来も全力で『新世界』に対して攻勢に出ようとしたその時だ。

 

「2人とも……その攻勢、待ってくれないか?」

 

 触れただけで爆発しそうなクリスと未来に、信人が『待った』をかけたのだ。

 

『バカ2号……お前何言ってるのか分かってんのか?』

 

『私たちは首都を奇襲で陥とされたんだよ。

 それを……その怒りと悔しさを知りながら、『待て』って言うの?』

 

 返答次第で陣営関係なく戦争が始まりそうな雰囲気……聞いている方はヒヤヒヤものである。

 だが、それでも信人は続ける。

 

「今現れた『新世界』は今までの文明とは違って、『崩壊文明』と同じような強力なバフを持っている。

 考えもなく攻めたら手ひどい目に合うのは間違いない。

 だからここは奴らの膨張を食い止めるための防衛ラインを構築し、防御に徹するべきだ」

 

 そして、「それに……」と信人は続ける。

 

「俺に考えがある。

 こいつら『新世界』が最後のクライシス勢力だ、これ以上は連中は湧いてこない。

 だから、この戦争をここで一気に終わらせる最終作戦に出たい。

 だがそのためには戦力の移動が必要だ。

 北米に派遣した大日本帝国(うち)の軍と、西部方面の鎮圧を終えて手の空いたマリアたちのアメリカ軍。それと本国防衛に残した大日本帝国(うち)の軍……それらをこの欧州の『新世界戦線』と、ユーラシアの『崩壊文明戦線』に投入して全員で最終決戦をするんだ。

 だからその準備のために3ヶ月……いや2ヶ月の間待ってほしい」

 

『『……』』

 

 心情的には今すぐにでも『新世界』に攻め込みたいクリスと未来。しかし頭の片隅ではしっかりと敵の強大さは理解していた。

 荒れ狂う感情と合理的な計算がせめぎ合う。

 

『……絶対に勝てるんだな?』

 

「絶対とは言わないが……これで押し切れないならそっちの方が打つ手なしだ。

 そのぐらいのもんになる」

 

『……わかったよ。2ヶ月の間は『新世界』の連中の膨張を止めるための防戦に専念する』

 

 しばらくの後、クリスは苦虫をかみ殺したような顔で結局信人の提案を飲むことにした。

 

『ただし、2ヶ月以上は絶対に待たないからな! それと一番槍はあたしたちドイツ軍だ、それは譲らないからな!』

 

「了解だ。

 とりあえず、ブリテン島の大日本帝国(うち)の1個軍をそっちの増援に送る」

 

『私たちも本土防衛の戦力を送るね』

 

『『消失文明』のときに助けてもらった恩を返すデスよ』

 

『……ありがとう、おまえら』

 

 こうしてドイツ軍だけでなく大日本帝国・イタリアの両国からの援軍が送られ、ドイツを舞台に『新世界』の膨張を防ぐための防衛戦が開始されることになる。

 

「……みんな、次の大攻勢がこの戦い最後の決戦になるはずだ。

 進軍の戦闘計画と戦力の見直しを頼む」

 

『任せな、お返しは存分にしてやるよ!』

 

『雪音や月影の援軍によって、我らロシアン防人が体勢を立て直す時間も出来た。

 次の戦いでロシアン防人の真の力を奴らに見せてやろう!』

 

 始終最前線であったソ連の奏と翼。

 

『こっちも西部方面軍を倒した軍を送るわ!』

 

『ええ、東部の鎮圧も間近ですし、最後くらいアメリカの強いところを見せてあげないと!』

 

 本土への直接侵攻を切り抜けたアメリカのマリアとセレナ。

 

『私たちも!』

 

『今度こそ兄チャマとインドで握手デスよ!』

 

 3回もの周囲への危機を乗り越えたイタリアの調と切歌。

 

『ド派手なパーティを見せてやるよ!』

 

『ドイツ機甲師団の速さと強さ、存分に見せるよ!』

 

 首都陥落の危機にありながらみじんも戦意に衰えのないドイツのクリスと未来。

 そして……。

 

「よし、これが最後の数ヶ月だ。

 これで皆で全力でやつらを叩いてゲームクリアと行こう!」

 

「うん!」

 

 決戦への決意を新たにする大日本帝国の信人と響。

 こうして最終決戦へ向けた最後の2ヶ月が始まった……。

 

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

『戦争は時にリアルチートを大量に生み出す』

『休んでいる暇はないぞガーデルマン、出撃だ!!』

 

 

 

 

「バカ2号は『攻勢に出るな』とは言ってたが『攻撃するな』とは言ってないよな、未来?」

 

「うん、確かに信人は『攻撃するな』とは言ってないよね」

 

 臨時首都の執務室で頷きあうクリスと未来。

 そして……。

 

「すべてのドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)に命令を出す!」

 

 

 

 

 航空基地の滑走路脇、そこで風に吹かれながら空を眺める一人の男。燃えるベルリンからクリスと未来を助け出した片足義足のその男……通称『空の魔王』は空を眺めながら手にした牛乳のビンをあおっている。

 そこに基地から男が駆けてきた。

 

「大佐、クリス総統閣下から全ルフトヴァッフェに命令です」

 

「ほぅ……どんな命令だ?」

 

「命令はただ一言……『蹂躙せよ!』です」

 

「はははははっ、総統閣下は分かりやすくて良い命令を出してくれるな!」

 

 その命令がツボに入ったらしい、『空の魔王』はひとりきり笑うと残った牛乳を飲み干す。

 

「行くぞガーデルマン、全スツーカ隊出撃だ!!」

 

「了解です、ルーデル大佐!」

 

 そして『空の魔王』ハンス・ウルリッヒ・ルーデルとその相棒エルンスト・ガーデルマンが率いるスツーカ隊が『新世界』の地上部隊へと襲い掛かる。

 悪魔のサイレンが鳴り響き、急降下爆撃で落とされた爆弾が『新世界』の重戦車を吹き飛ばす。

 そんなスツーカの中でルーデルが言った。

 

「何だ、今日の空は平和だな。 いつものしつこい犬のように追い回してくる敵戦闘機の姿が見えないぞ」

 

「ああ、それなら……」

 

 と、そのときルーデルのスツーカに襲い掛かろうと敵戦闘機隊が空へと上がってくる。

 しかし、その戦闘機たちはスツーカ隊に襲い掛かる前にすべて火の玉になって落ちていった。

 

「あれはエーリヒ・ハルトマン少佐とゲルハルト・バルクホルン少佐の制空部隊ですね」

 

「……なるほど、両エースのエスコート付きというわけだ。

 どうりで飛びやすいはずだ」

 

「あの両エースだけではありませんよ。

 日本からも坂井三郎中尉に岩本徹三少尉、菅野直大尉と戦闘機エースたちがこの空域を守っています」

 

「ならば我々スツーカ隊はいくらでも戦車を吹き飛ばし放題というわけだな。

 休んでいる暇はないぞガーデルマン、補給をしたらすぐに出撃だ!!」

 

 

 ドイツの空を舞台に繰り広げられた『新世界』との戦いは、今までの戦争を戦い続け生き残ってきた強力なエースパイロット*1たちの活躍により制空権を完全に確保、そこに近接航空支援機の絶え間ない攻撃が加わった。

 これにより『新世界』の侵攻速度は大幅に鈍化、その間に塹壕によって防御陣地を形成していた陸軍に阻まれ『新世界』の膨張は止まった。

 人類同盟軍も攻勢に出ることはなく、戦場がこう着状態に陥る。

 

 そして、1940年5月10日……。

 

 

 

--------------------------------------------------

 

 

 

『そして始まる最後の戦い』

『でも戦争って最後だからって別に盛り上がるわけじゃないよね?』

 

 

 

 『新世界』によるベルリンの占拠から約2ヶ月後の1940年5月10日……ついにその時は来た。

 

「ノブくん……全戦線で攻勢準備完了したって」

 

「わかった……」

 

 響からその報告を受けた

 

 

「これより敵文明軍封殺最終作戦『オペレーション・スピットブレイク』を発動する!!

 ディシジョンの大規模作戦から『バグラチオン作戦』*2、発動!!

 全世界すべての戦線で一斉攻勢を開始する! これでこの戦いに終止符を打つぞ!!」

 

 地球上の全ての戦線で同時に攻勢が開始される。

 

 

 

「……こと、ここに至ってあたしから言うことはたった一つだ。

 『敵を完膚なきまでに、徹底的に蹂躙せよ!!』」

 

「クリス総統閣下からの命令だよ。

 陸・海・空、すべてのドイツ軍は死力を尽くしてこの命令を全うしなさい!!」

 

「「「「ジークリス! ジークリス!! ジークリス!!!」」」

 

 クリスの号令のもと、すべてのドイツ軍が攻勢に打って出る。

 目標は当然、『新世界』の本拠地であるベルリンネストだ。

 イタリア・大日本帝国・アメリカからの増援によって総数200個師団規模の大攻勢、さらに上空は空を覆い隠さんとするかのような航空機の大編隊。

 この人類の総力を前に、『空の魔王』率いる近接航空支援機隊による集中爆撃によって大きなダメージを負った『新世界』の防衛線は耐えることができなかった。

 綻びの見えた『新世界』の戦線にドイツ自慢の機甲師団が集中的に投入され、その戦線が完全に崩壊する。やがてその崩壊は伝播し、すべての戦線での人類の反撃が始まっていた。

 

 

 同時刻、『崩壊文明』戦線でも一斉に攻勢が開始された。

 

 

「ロシアン防人たちよ、今こそ反撃の時! 私に続けぇぇぇ!!」

 

「突撃、突撃、突撃ィィィィィ!!」

 

「「「Ураааааааа!!」」」

 

 最初から最後まで最前線であり続けたソ連、ここまで生き残ってきたものは誰も彼もが歴戦のつわものだ。

 そんなつわものたちは翼と奏に導かれ、今までの逆襲に出る。

 

 

「私たちも行くデスよ、調!」

 

「イタリアの強いところ、見せてあげよう切ちゃん!」

 

 切歌と調のイタリア軍もイラン高原から攻勢を開始。

 

 

「日本軍全部隊へ、これが最後の戦いだよ!」

 

「こっちも攻勢開始! 

 総員、大和魂を見せろ!! 全軍突撃ィィィィィ!!」

 

「「「陛下バンザァァァァイ!! 皇后様バンザァァァァイ!! 大日本帝国バンザァァァァイ!!」」」

 

 ベルをかき鳴らしながら走る、日本の誇る自転車部隊。

 南部インド戦線・東南アジア中国戦線での攻勢が開始される。

 地球のすべての戦線が動き出し、地球の各地で弾丸が飛び交う。

 そして、人類にとっての最初の朗報はすぐに届けられた。

 

 

 

 1940年5月15日……

 

「ノブくん、マリアさんたちから『低迷文明』の制圧が完了したって連絡がきたよ!」

 

「よし!」

 

 もともと西部方面軍を失い制圧も時間の問題だった『低迷文明』軍の戦線はこの一斉攻勢によって瓦解、こうしてアメリカ軍はアメリカ北部を取り戻すことに成功したのである。

 

 

 そして続く1940年5月22日……

 

 

「やっさいもっさい!!」

 

「機甲師団、突撃! 突撃!! 突撃ィィィィ!!!」

 

 

 クリスと未来の指示の元で猛攻を加えていたドイツ陸軍が遂に『新世界』の本拠地であるベルリンネストを制圧、ベルリンの奪還に成功した。

 『新世界』はそれでも抵抗を続けていたが、もはや組織的な抵抗は不可能な状態であり、1940年5月26日には『新世界』の制圧に成功する。

 

 そして最後のクライシス勢力となった『崩壊文明』軍も今までの戦いによって部隊の充足率はボロボロの状態、そこに行われた『バグラチオン作戦』を発動してからの大攻勢による損害によって、『バグラチオン作戦』の効果が終了しても怒涛の勢いの人類軍を止める力は残っていなかった。

 

「兄チャマ!」

 

「兄くん!」

 

「おお、2人ともよく頑張ってくれた!!」

 

 イラン高原から攻勢に出たイタリア軍と南部インドから攻勢に出た大日本帝国軍が北部インドで合流、ともにこの戦いの始まりとなったタクラマカン砂漠……『オリジンネスト』を目指す。

 

 

 そして……

 

「ついにここまできたな……」

 

 すでにタクラマカン砂漠、『崩壊文明』の本拠地であるオリジンネストをめぐる攻防戦は終結に近付いていた。

 勢いを増した人類同盟軍の猛攻に、『崩壊文明』の防衛線は機能停止の状態だ。

 宙天に浮かぶ禍々しい『赤い月』、しかしその元に集う異形にはもはやこの戦況を覆す手はない。

 

「……それじゃちょっと決着をつけてくるよ」

 

「いってらっしゃい、ノブくん」

 

「変……身ッ!!」

 

 響に見送られSHADOWの姿に変身した俺は、キングストーンからシャドーセイバーを抜くと一気に跳躍、『赤い月』へと肉薄する。

 その時、声が俺の頭の中に飛び込んできた。

 

『……待て、人類よ。私は間違えたことはしていない。

 人類は私を汚し、壊してきた。だから私は自分の身体を癒すために行動した。

 それのどこがいけないのだ?』

 

「……」

 

 その言葉を聞きながらも、俺は迷うことなくシャドーセイバーを『赤い月』に突き立て『キングストーンエネルギー』を流し込む。

 だが声は動揺も苦悶もなく、俺との会話を続けてきた。

 

「……それでその結論が『人類を抹殺する』なんだろ?」

 

『原因を取り除かなければ、すべて同じことの繰り返しだ。

 それは何もおかしなことではないだろう?』

 

「人類はバカじゃない。これだけのことがあったんだ、この世界の人間だって自分たちの行いを考えて、同じ間違いは繰り返さないさ。

 人類だって地球(あんた)の生み出した自然の一つだ。自然を……自分たちを大切にする心くらいは持っている。

 なぁ、こんなことを別の世界の人間である俺が言うのも何なんだが……もう少し、人類(俺たち)を信じてくれよ。

 とにかく、今回は命ある者の権利として人類は生存のために地球(あんた)に抗い、勝利した。

 今回はそれで終いにしてくれ」

 

『……いいだろう。

 だが、それでも変わらないのなら……いつかまた、私は自分の傷を癒すために行動するだろう』

 

「まぁそこは俺たちのあずかり知るところじゃないがな」

 

 そう苦笑したところで、流し込んだ『キングストーンエネルギー』によって『赤い月』は爆散した。

 

 

 1940年6月29日……タクラマカン砂漠『オリジンネスト』は人類同盟軍によって制圧、『崩壊文明』軍は殲滅された。

 これによって1939年1月19日から始まった『文明戦争』は人類の勝利で幕を閉じたのだった……。

 

 

 

*1
このゲームでは空戦においてエースが生まれることがあり、空軍ドクトリンの中にはエース発生率を増やすものもある。エースは各航空隊に一人まで配備でき、その航空隊を強化することが出来る。

しかしエースパイロットは死亡することもあるので注意が必要。

空軍兵は不死身のはずなのにエースになった途端死亡する可能性がでるとか……やはりこの世界の宇宙の法則は乱れている。

*2
クライシスMODの特徴の一つ。指揮力を消費することで1度のみ強力な効果を持つ作戦を発動することが出来る。この『バグラチオン作戦』の効果は30日間の間、師団攻撃力を+300%……つまり攻撃力が4倍となる。

 しかしこの特殊作戦は敵……つまり『崩壊文明』が使ってくることもあるので、そのときには同じく特殊作戦でカウンターしなければ一瞬で戦線を突破されてしまう。

 これをうまく使うことが人類勝利の鍵となる。



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お正月特番編 第09話

『ハイクをよめ。カイシャクしてやる』

『サ、サヨナラーーー!?』

 

 

 

 『赤い月』は消え去り、こうして人類対クライシス勢力の戦いは終わった。

 それと同時に、この世界にやってきたときに聞いたあの声が世界全体に響き渡る。

 

 

『すべてのクライシス勢力は駆逐されました。人類の勝利です。

 おめでとうございます!!』

 

 

 どうやらこの聖遺物『ジュマンジ』からのゲームクリアのアナウンスらしい。

 同時に全員が、ここに来るときと同じく光の粒子のようになって身体が崩れていく。

 そんな中、信人は隣の響と会話を交わしていた。

 

「どうやらこれでこの世界から出られそうだ。

 思えば結構楽しかったなぁ……」

 

「そうだね……」

 

 響の胸に去来するのは様々な意味不明なルールと自転車で戦場を蹂躙する大日本帝国……アカン、これじゃ常識が死ぬぅ!?

 響はその思考を振り払い、別のことを考えようと信人に聞く。

 

「ところで結局、今回の敵の『クライシス勢力』って一体何だったの?」

 

「ああ、『地球と、その意思に触れて再構成された元人間と元動物』だ」

 

 そう言って、信人はこのクライシスMODの裏の世界観についてを話し出す。

 

「さっき潰した『赤い月』は『地球のコアの分身=地球の意思』だ。

 環境破壊によって傷付いた地球は自分を治そうと『黒い水』で地上全体を覆おうとした。まぁ、傷口にかさぶたが出来るのと同じような感じだ。

 地球としては人類を明確に滅ぼす気はなかったんだろうが……『傷を癒して再発を防ぐ=人類の絶滅が必要』ってことになったらしい。

 この『『黒い水』に触れて溶かされ、再構成された元人間や元動物』が俺たちの戦っていた『クライシス勢力の構成員』だ。

 『クライシス勢力の構成員』は最初は地球の意思を反映するように環境汚染の源である人類に襲い掛かってきたんだが……やがて『元人間』に自我が芽生え始める。

 そして自分たちを『新たな環境に適応した新人類である』と定義、地球の意思に関係なく人類に襲い掛かってきたのが……」

 

「最後に出てきた『新世界』ってこと?」

 

「そういうこと。

 一度『黒い水』に溶かされて死んでも、人間の本質が変わらない辺り皮肉な話だ」

 

 そうして信人が肩を竦めたあたりで完全に身体は光の粒子になり、2人の意識が消える。

 次に信人や響が目覚めたのは現実世界に戻ってからだった。

 

 

 

「全員無事か……」

 

「まったく……今回は流石に肝が冷えたぞ」

 

 ここはS.O.N.G.本部内。全員無事に『ジュマンジ』から解放されたことにキャロルとサンジェルマンたちが胸をなで下ろす。

 

「ふぃー、さすがに疲れたデスよ」

 

「もう帰って休みたいね、切ちゃん」

 

 コキコキと肩を鳴らす切歌と同調して眠たそうな調。だが、

 

「おっと、お前たちはこれからオレと弦十郎で説教だ。

 今夜は寝れると思うなよ」

 

「ゲェェェェ!!? フナ、助けてほしいデスよ!」

 

「フナちゃん、ヘルプ!」

 

「残念だけど僕ではどうしようもありません……」

 

「「NO~~~!!?」」

 

 やってきた弦十郎に連れてかれる切歌と調に全員が合掌した。

 

「ところで……今回の原因の聖遺物『ジュマンジ』、どうするんだい?」

 

 そう言って奏は、今は起動していないゲーム機……聖遺物『ジュマンジ』を指さす。

 

「どうするか……。エミュレータとして優秀なのは確かなのだが……。

 オレも居候同然の身、こんな面倒ごとを起こしたというのは問題だ。

 S.O.N.G.側から封印や破壊の要請があれば考えるが……本音を言えば破壊などせずそのまま使いたい。

 まぁ、結論が出るまでは保留だ」

 

 そう言ってこれからのことを考えただろう、キャロルは頭を抱える。

 こうして人間をゲームの中へと取り込みゲームクリアできなければその魂を喰らう聖遺物『ジュマンジ』によって引き起こされた小さな事件は幕を閉じた。

 しかし……

 

「……」

 

 信人の視線が『ジュマンジ』に注がれていたことに気付くものはその場にはいなかった。

 そしてその2日後……。

 

 

 

「あのバカ2号ッーーーー!!?」

 

 クリスの怒号がS.O.N.G.本部内に響き渡る。他の装者も渋い顔だ。

 ただ一人、エルフナインだけが泣きそうな顔で申し訳なさそうにしている。

 

「ごめんなさい、みなさん……」

 

「ああ、フナちゃんは謝らなくていいの」

 

「そうだよ、今回悪いのは全部信人なんだから!」

 

 そう言って響と未来がエルフナインを慰める。

 何と信人は言葉巧みにエルフナインを丸め込み再び『ジュマンジ』を起動、ゲームの中に取り込まれたというのだ。

 

「それで、ゲームは今回も同じ『Hearts of Iron IV』なんだな?」

 

「そうらしいが……知っての通りMODで様々な内容に変わるゲームだ。

 信人がどんなものを選択しかのか分からんから、状況はほとんど分からん」

 

「それで、結局また私たちが『ジュマンジ』に入り込んでノブくんを引っ張り出して来ればいいってことだね、キャロルちゃん」

 

「その認識で間違いない」

 

 かくして再び『ジュマンジ』の中に入り込むことになった一行は、すぐに目を点にする。

 

「あの……なんか見たことのある緑色のロボットがたくさんいるんだけど……」

 

「信人のやつ! 今度は『ガンダムMODの世界』じゃないの!!?」

 

 一瞬でこの世界が何なのか分かった未来が叫ぶ。

 そして信人の居場所も一瞬でわかった。

 

 

『このキャスバル=オレ=ノブクンが増長しきった連邦政府に鉄槌を下そうというのである!!』

 

 

 街頭のテレビから流れる演説に映っているのは間違いなく信人だ。

 

 

「「「「「……」」」」」

 

 全員が無言のまま頷くとギアを展開、そのまま総統府の執務室へと突撃をかける。

 

「ちょ!? お前らなんだよ!?

 男の夢のロボットだぞ、ガンダムだぞ! もう少しくらい楽しく遊ばせてくれよ!」

 

「やかましいバカ2号! とっととゲームクリアしてお前はさっさと帰るんだよ!!」

 

 信人に銃を突き付けてクリスが至極もっともなことを言う。

 本当ならここで信人をボコボコにしてからゲームクリアして終わりなのだが……ここに波乱が舞い込む。

 

「なんですかあなたたちは! 兄君様に何をするんですか!!」

 

「「「あ、兄君様ぁぁぁ??」」」

 

 その波乱の形はツインテールの少女の姿をしていた。少しでもガンダムを知ってるファンならば、物凄く見たことのある人物だ。

 その少女が信人を庇うように立ち塞がったのだ。

 

「兄チャマ……私たちだけでなく……」

 

「その子にまでそんな呼ばせ方してるの?」

 

「ところでどこかで見たことがある子なんだけど……あなたは?」

 

「私はハマーン=カーン! 兄君様のお嫁さんです!!」

 

「……歳は?」

 

「14歳ですけど……」

 

「「「「「……」」」」」

 

「待て待て待てぇぇ! そんな冷たい視線はやめて!

 キャスバルルートだと結婚イベントがあってララァとナナイとハマーンの誰かと必ず結婚することになるの!

 だからこれは仕方のないことなの!!」

 

 信人はわめくが聖遺物を無断使用で遊んで、さらに14歳はにゃーん様に兄君様と呼ばせて結婚……もう完全にスリーアウトでギルティである。抹殺することも許される。

 

 

「質問だよノブくん。

 私が殴るか、未来が殴るか……当ててみて」

 

「ひ、ひと思いに響がやってくれ!」

 

「「NO!NO!NO!NO!NO!」」

 

「じゃ、じゃあ未来?」

 

「「NO!NO!NO!NO!NO!」」

 

「ふ、2人ともですかぁ!?」

 

「「YES!YES!YES!YES!YES!」」

 

「もしかしてオラオラですかぁ!?」

 

「「YES!YES!YES!YES!YES!」」

 

 

 信人は星の屑となり、以降簀巻きのまま転がされることになる。

 

 ゲーム自体は未来が無慈悲に小惑星アクシズを地球に落下。ただでさえ『ラプラスの箱』の公表によって混乱する連邦政府には、ネオジオンに対して有効な手を取ることができなかった。未来はザクを使った電撃戦で数ヶ月のうちに地球連邦政府から勝利をもぎ取る。題名になっている『ガンダム』が開発される前に片を付ける結果になった。*1

 

 こうしてゲームをクリアし帰還を果たした装者と、今回の下手人である信人。

 

 

「くそぉ……次はマブラヴMODのつもりだったのに!」

 

「「「「「いい加減にしろぉぉぉぉ!!」」」」」

 

 

 まるで反省の足りない信人には響と未来と弦十郎、そしてキャロルとサンジェルマンによるキツイ一撃が叩き込まれることになったそうな……。

 

 

 

 お正月特番編 『A.D.1937 人類滅亡戦記 クライシス』  ~完~

 

 

 

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『あとがきのような何か』

『HOI4プレイヤーもっと増えろという雑念』

 

 

SHADOW「これにて今回の『クライシスMOD編』は完結だ」

 

ビッキー「うん、本当にシンフォギアでも仮面ライダーでもない話だったね」

 

SHADOW「まぁ、そこは作者も少し反省している。今回の話は小説というよりほとんどプレイレポみたいなものだからな。

    ただHOI4のタグの小説は片手で数えるほど少ないから正月特番と銘打ってあれば多少は許されるかと思ったし、何より『環境汚染によって現れたクライシスという敵』という『クライシス帝国』を彷彿とさせる内容だったんでやってみようという気になったそうだ。

    あとこれでHOI4に興味を持ってくれるようになることを期待しているそうだ。

    HOI4プレイヤー増えろぉぉぉ!!」

 

ビッキー「いや、この作品を呼んでHOI4やってみようというのは結構無理あるんじゃ……」

 

SHADOW「というわけで今回は最後にHOI4をやってみようという人向けに、HOI4での7大国の紹介をしてこの話を終わりにするぞ」

 

 

 

~ドイツの場合~

 

 

キネクリ「ドイツはHOI4において主人公みたいな国だ」

 

393「第二次世界大戦を題材にしたゲームだから、その中心的な存在として色んなことがあるね」

 

キネクリ「とにかく色んなイベントもあり、IFルートも色々あるしHOI4の中で一番面白い国ではあるな」

 

393「特に陸軍の強さは最強クラスで、機甲師団による『電撃戦』が強力だね。 それが出来るだけの国力も技術力もあるし」

 

キネクリ「ただ史実を知ってれば分かるように、当然みたいに敵が多い」

 

393「ルートにもよるけどざっと考えただけでイギリス・アメリカ・ソ連……どれも難敵なんだよね。資源の問題もあって戦争で資源地帯を奪わないとまわらないから戦いを避けることはほぼ無理だし……」

 

キネクリ「総評としては『面白いけど初心者向けというより中級者向け国家』かな?」

 

 

 

~アメリカの場合~

 

 

マリア「アメリカはHOI4において最強の国家よ!」

 

セレナ「国力(IC)が普通に二番手であるソ連の倍以上。日本とかと比べれば3倍以上ありますからね」

 

マリア「さらに資源も輸入の必要がほとんどない状態で、もうアメリカ国内だけでほぼすべてが完結するという始末……文字通りの桁違いの化け物国家よ。

    この国力を背景に大量生産される武器・航空機・艦艇はそれだけで圧倒的で他国を鼻歌気分で叩けるわ。

    とはいえ……」

 

セレナ「それもこれも『覚醒すれば』という注意書きがつくんですよねぇ……」

 

マリア「アメリカは当初、二重三重のデバフをつけられて、この有り余る国力を全くいかすことができなくなってるわ。

    それを順番に解除していく必要があるんだけど……どうしてもスロースターターになっちゃうのよね。

    このゲームの花形である『戦争』に関しても、民主国家だから自分から殴りにいけないし……」

 

セレナ「序盤から中盤までずっと内政だけっていうのはキツイですよね。

    おまけに独自の『議会システム』もあって初心者には向かない気がします」

 

マリア「というわけで総評としては『内政が長く面倒くさいけど絶対に負けない国家』かしら?

    死に覚えをしたくない初心者にはいいんじゃないかしらね」

 

セレナ「ちなみにIFルートでファシスト化すると、『化け物国力を他国を滅ぼすために全力で使う最悪の狂犬』が誕生するのでこっちの方が初心者にはおすすめですかね」

 

 

 

~ソ連の場合~

 

 

奏「ソ連は国力的にはアメリカについで世界第二位の国家だ」

 

防人「初期の軍隊がとにかく多く、初期から約140個師団が存在する。

   資源も多く人的資源も豊富とかなり恵まれてはいる」

 

奏「とはいえ質はと言われるとちょっと頭を抱える部分もあるけどな」

 

防人「小銃は兵士2人に1丁で十分だ!(スターリングラード的に)」

 

奏「あと技術研究スロットが初期3枠……これはフランスと並んで七大国最低数で技術研究は遅くなるし、『大粛清』とかのマイナスイベントもあって本気のソ連が見れるまでにはそれなりに時間がかかる。

  アメリカほどじゃないけどスロースターターだね」

 

防人「だが史実通りのルートなら敵はドイツだけ、それに集中すればいいので簡単と言えば簡単だ」

 

奏「総評としては『史実通りにやるなら初心者向けの国家』かな?

  立地的に海軍は捨てることになるから陸軍と空軍に注力すればいいだけで、操作内容としても簡単だ。

  逆に世界征服プレイとかしようとすると、有力な国はほとんどどこも同盟を結んでくれないから独力で戦うことになって少しキツい」

 

防人「みんなもソ連で気に入らない国はシベリア送りにしてやろう!」

 

 

 

~イギリスの場合~

 

キャロル「世界に冠たる大英帝国、イギリスは世界各地に植民地を持ち、かなりの国力を持っている」

 

フナちゃん「特に海軍、ロイヤルネイビーはアメリカや日本に並んで世界最高峰です」

 

キャロル「陸や空も決して弱くはない。そして国家方針(ナショナルフォーカス)には研究速度ブーストが多く、最終的にはアメリカに追い抜かれる可能性があるが、こと技術力という点においては世界最高峰であることは間違いない。

     そうして開発した新型兵器をいち早く戦場に投入できるというのは強みだ」

 

フナちゃん「資源に関しても植民地から搾取……ゴホゴホッ……えぇと……お安く譲ってもらえるのでほとんど問題ありません」

 

キャロル「と、ここまでいい点を言っていたが当然イギリスにも弱点はある。

     人的資源(人口)が少ないためとにかく数を揃えるのが苦手だ」

 

フナちゃん「戦いは数だよ、姉貴!」

 

キャロル「……おい、なんだそれは?」

 

フナちゃん「信人お兄様から教えてもらった言葉だけど……」

 

キャロル「……(あいつはいつか必ず殺そう)。

     とにかく戦いではどうしても数の不足に悩まされる。

     それに資源を輸入に頼る関係上、海上護衛や全世界の植民地の管理とやることは多い」

 

ガリィちゃん「植民地はお得意の三枚舌外交で兵隊を出させたりしないといけませんからねぇ」

 

キャロル「性根の腐ったガリィの言う通り、植民地の使い方や他国との外交などやるべきことがとにかく多い。

     しかも連合国宗主だからどこかしらで確実に戦争をすることになるので戦争を回避するようなことはほぼ不可能だ」

 

フナちゃん「総評としては『やることがいっぱいで初心者にはちょっと難しい国家』です。

      逆にその辺りを出来ると面白い国ですね」

 

キャロル「あと、当然のようにIFルートも存在しているからファシスト化してドイツと手を組んで世界征服というのも面白いぞ」

 

 

 

~フランスの場合~

 

サンジェルマン「さてフランスだが……最初にはっきりと結論を言ってしまおう。

       『七大国最弱の名をほしいままにし、絶対に初心者にはお勧めしない・してはいけない国家』だ」

 

かえる「いきなり凄いぶっちゃけたワケダ!?」

 

サンジェルマン「それ以外の言いようがない。

        国内安定度が低くほとんど政治力が得られない。しかもイベントで政治力を消費することが多々あるため政治力を使っての行動がほぼ取れない状態。

        国家精神『政治的準内戦』のせいで戦争協力度も低く、パリを占拠されればすぐ降伏だ。

        普通にやれば1939年には強力なドイツ軍が攻めてくるし、こちらの技術研究スロットはソ連と並ぶ3枠で技術的にも後塵を拝しているし、ドイツと同時にイタリアも攻めてくるから二正面作戦をする必要がある。

        質・量・政治の何もかもがすべて劣る状態で枢軸陣営と戦いになるんだ。おまけに同盟国のイギリスは頼りにならない。

        ……改めて、この国は一体何なんだ? こんなだから『世界征服の養分』とか『初期拡張のエサ』とか言われるんだ!!」

 

あーし「サンジェルマンが壊れた!?」

 

サンジェルマン「とにかく、普通にやるならとてつもない苦労をすることになるだろう。

        強みというかいい点をなんとかあげるなら、国家方針(ナショナルフォーカス)で工場をもらえる機会が多いことか。上手くすればこれだけで最大50近い数の工場を貰える。ルートにもよるが20以上は比較的簡単に増やせるだろう。

        とはいえ、それも戦争で降伏せずに戦線を持たせていたら、という話に限る。

        幸い、ドイツとの国境には最強の要塞『マジノ線』があるのでここを少数で守り切り、ベルギー国境とイタリア国境を固め、数年は防戦に徹してからの枢軸陣営への反撃というのが基本的な戦争計画だ。……基本的なとは言ったが、はっきり言ってこれ以外にほとんどできる手がないしこれでも普通に負ける。

        IFルートも完備されているのでファシスト化してドイツと共闘という手もあるが……これはこれでソ連やイギリス・アメリカとの戦争を覚悟することになるので終始厳しいことに変わりはない。

        ある意味では『史実ルートフランスを守り切れればHOI4プレイヤーとして一人前』というベンチマークのような国家だ。

        脱初心者という意気込みならぜひやって欲しい国家だな」

 

 

 

~イタリアの場合~

 

切ちゃん「ファシズム発祥の国、イタリアは国力としては七大国最弱級デスよ」

 

しらべぇ「おまけに資源輸入国だから、民需工場を資源輸入に廻さなきゃならなくて工場の新規建設も結構遅いね。ゴムはまだしも石油が国内で全く取れないのはかなり致命的な弱点」

 

切ちゃん「とはいえ、イタリアは『公式チュートリアル国家であり、初心者に最もおすすめできる国家』デス!!」

 

しらべぇ「他の国のようにややこしいイベントも厄介なデバフもなく、陸・海・空の三軍がバランスよくてしかもファシスト国家だからこのゲームの一番面白い『戦争』もやり易い」

 

切ちゃん「特に海軍はなんと初期から100隻を超える数の艦艇が存在するデスよ! これはアメリカ・イギリス・日本に次ぐレベルで強力デス!

     もっとも、主に戦うことになるイギリスには質・量ともに敵わないデスが……」

 

しらべぇ「それを言ったらおしまいだよ、切ちゃん」

 

切ちゃん「ともかく、全軍がバランスよく、しかも新ローマ帝国とか独自陣営をつくったりと面白いことが色々出来るデス!!」

 

しらべぇ「ポテンシャル自体は高いから初心者から上級者まで、色んな人に対応できる。

     ノリと勢いだけじゃないところを皆に見てもらいたいな」

 

 

 

~大日本帝国の場合~

 

SHADOW「最後は我らが日本こと『大日本帝国』だ」

 

ビッキー「自分の国ってことで日本人なら必ずプレイしたくなるんじゃないかな?

     それにこの作品は日本プレイを基本にしてるから、この作品読んでHOI4に興味を持ってくれたのなら一番やりたくなるんじゃない?」

 

SHADOW「その日本だが……先に結論を言うと『やることが色々あって、それをしっかりやらないとどこかで簡単に詰む国家。総じて初心者向けじゃない』

 

ビッキー「史実通り、全然資源がないからね」

 

SHADOW「しかも日本本土は狭い。工場を建てて国力(IC)を増やそうにも早い段階で頭打ちになる。それに資源輸入国だから輸入に民需工場を消費して新規工場建設速度はあまり早くない。

    領土拡張の『戦争』の方も、『包囲殲滅』に『強襲上陸』、『海軍の運用』に『制空権の確保と航空支援爆撃』と、戦争・内政・外交とこのゲームのおよそ全てのシステムを理解して動かせるようにならないと日本でプレイするのは難しい。

    そしてそれらのシステムを理解して、それでもなお史実通りにプレイすると最初の相手は中国なんだが……このゲーム、日中戦争の泥沼を再現するために『日中戦争が始まると日本軍すべてに鬼のようなデバフがかかる』んだ。

    それを解除するためには政治力を使ったディシジョンを何か月にもかけて実行する必要があるんだが……普通初心者ならそんなことわからずに無駄に攻めて一瞬で戦線崩壊、大陸から叩き出されて即座に詰む」

 

ビッキー「どう考えても初心者向けじゃないね」

 

SHADOW「だが、決して『弱い』ってわけじゃない。むしろ『日本は今現在、もっとも世界征服の容易な最強格の国家』だ。

    陸軍も初期からそれなりに多く、空軍も悪くない。海軍に至ってはアメリカやイギリスと正面からやり合って勝てるだけのポテンシャルを秘めている。

    国家体勢がファシストだから戦争もしやすく、史実にこだわらない自由な動きができる。

    この作品でもやったが『初手オランダ』や『初手フランス』は日本プレイの常套手段だし、『初手アメリカ』も比較的簡単だ。これは立地や海軍力、政治体制による攻略の自由度が噛み合った結果だな」

 

ビッキー「それに忘れちゃいけないのが他の国にはない国内の安定性だよね」

 

SHADOW「このゲーム最強キャラの1人である『昭和天皇陛下』が強すぎるんだよ。いらっしゃるだけで国内安定度が+60%とか……現人神にも程がある。

    そのおかげで国内安定度は95%スタート、最初から選択できる国家方針(ナショナルフォーカス)の『皇道派の粛清』を選ぶと安定度+10%だからこれでもう安定度100%。

    さらに国民戦争協力度は最初から100%。安定度と協力度が両方最初からほぼMAXってのは明確な日本の強みだな。

    しかし……全国民が戦争のために一致団結とか、ここの日本人はサイヤ人か何かか?」

 

ビッキー「それにこの作品でも散々活躍した日本とオランダにしかない『自転車大隊』とか『死なないカミカゼ攻撃』とか『何もない空間から現れる大和型戦艦2隻』とか、ユニークなものも多いしね」

 

SHADOW「操作に慣れて来たら是非ともやって欲しい国家だな」

 

 

 

 

 

ビッキー「これで本当に今回の話は終わりだね」

 

SHADOW「これでHOI4に興味を持ってもらえたら嬉しい限りだな。

    みんなもHOI、しよう!!」

 

 

 

*1
HOI4『ガンダムMOD』、ジオンから派生するキャスバルルートの基本的な流れ。

ザビ家は不正が暴かれ失脚、ジオンの後継者となったキャスバルはニュータイプの存在を確信して政治を進める。そんな中、ビスト財団がキャスバルに接触し『ラプラスの箱』の情報を渡す。回収された『ラプラスの箱』を公表し混乱する連邦を相手にキャスバルはジオンをネオジオンに改名、地球寒冷化作戦でアクシズを落とし連邦との戦争に突入する……という流れになる。

このMODは題名になっているガンダムが敵に搭乗すると一気に厳しくなるので、ジオン側プレイ時には敵にモビルスーツが出てくる前に決着をつけるのが基本。ガンダムとモビルスーツ戦で戦おうとしてはいけないのである。




これにてお正月特番編『A.D.1937 人類滅亡戦記 クライシス』は終了となります。
シンフォギアやライダーとは全く関係のないお話で、いまだ本編登場前キャラのセリフ回しや動かし方のチェックなど少し実験色が強くなりましたがいかがでしたでしょうか?
これでHOI4に興味を持ってもらえたら幸いですね。


次回からはついにG編を開始する予定。
次回もよろしくお願いします。


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G編
第38話


お待たせしました、作者のキューマル式です。
今回から遂に『G編』に突入、今回はプロローグ的なお話しになります。


 『ソレ』は深い海の底で静かに時を待つ。

 

 『ソレ』は『滅び』へと抗う、1つの解の移し身……バックアップシステムであった。

 しかし『ソレ』は広大な星の海を行くうちに恒星間跳躍航行(ワープ)の失敗により、主であるシステムとははぐれ、この宇宙へとやってきた。

 そんな中、『ソレ』は自身の知るただ一つの存在意義を全うするために星の海を行く。

 その意思は『より完全な存在となるためにすべてを取り込み進化する』だ。

 それこそが『滅び』へと抗う唯一の術だと信じ、それこそが宇宙における正義だと信じた。

 ここは別世界、あの『滅び』はもはや存在せぬ世界であろうと関係はない。自らの存在理由のために進む『ソレ』を止めるものはなかった。

 

 そして『ソレ』はその星へと襲い掛かる。

 その星の知性体は抵抗を試みるも失敗、惑星を放棄し逃走するその知性体を追って『ソレ』はこの星……地球へとやってきた。

 しかし……そこで『ソレ』は自らの埒外の存在を目の当たりにする。

 キングストーン『太陽の石』と『月の石』、それを取り込んだ『創世王』と名乗る地球の支配者。かつて自らが相対した『滅び』とは方法性が違うものの、それに匹敵・凌駕するような『創世王』との戦いによって『ソレ』は敗北というものを知ることになった。その戦いによりほぼすべての外殻ユニットは破壊され、残っているのはこの深い海の底に沈んだこのコアユニット、そして少々の端末のみ。

 そして『ソレ』は気の遠くなるような時を海の底で過ごした。

 しかし……。

 

『創世王……キングストーン……!』

 

 自らを破壊した『創世王』、そしてその力の源たる『キングストーン』……その力を忘れることはない。

 

 そして、今日も『ソレ』は海の底で眠り続ける。

 いつか再び目覚め、そして完全なる存在となるために『キングストーン』を手に入れる、その日を目指して演算を続けながら……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 響はその日も、色のない『灰色の庭園』にいた。

 あの『ルナドロップ事件』の後いつの間にかやってきていたこの灰色の庭園の西洋風東屋『ガゼボ』、ここで響はあの少女とまたもお茶を飲んでいた。

 

「でね、その時のノブくんったら」

 

「ほぅ、『月』は相変わらずか……」

 

 話をする響にウンウンと相づちをうつ少女。それはここが響の夢の中という非日常の空間でさえなければ仲の良い友達同士のお茶会にしか見えない。

 そんな中、しゃべり続ける響の言葉を少女が制す。

 

「……名残惜しいが、もう時間だ」

 

「あ、そうなんだ」

 

 もう何度となく経験した感覚に、響は自分の覚醒が近いことを知る。

 そして、響はいつも少女にしている話を今日も切り出した。

 

「……ねぇ、この夢の記憶って現実に持って行けないの?」

 

 響がこの夢の中の『灰色の庭園』でこの少女と会うのは1度や2度のことではない。

 あの『ルナドロップ事件』後の初めての邂逅からこっち、ほぼ2~3日に1度の割合で響はこの『灰色の庭園』で少女と会っていた。それだけ会って一緒に話してお茶を飲んでを繰り返しているのだ、響の中ではこの少女は立派な『友達』である。

 その友達のことを目覚めると忘れ、再び夢の中で思い出すということを続けるのは響としても思うところがあったのだ。

 だからこそ毎回のようにこの夢の記憶を現実に持って行かせてほしいと言っているがしかし、今日も変わらず少女はその言葉に首を振る。

 

「私との邂逅など、覚えていないほうがいい。

 お前も……私が何なのかはもう気付いているんだろう?」

 

「……うん。

 でもだからってそんなの関係ないよ。私は『友達』の記憶を、一時とはいえ忘れたくない」

 

 この少女が普通の人間でないことは響もとっくの昔に気付いているし、その『正体』にも響はたどり着いている。

 ……正直響はこの少女の『正体』に最初、いい印象は持っていなかった。しかしこうして何度も話をし、それに以前は危ないところを助けられているのだ。悪い印象など、とうの昔に洗い流されている。

 だから『正体』など気にしていないのだが、言われた少女はまたも首を振った。

 

「私は『月』と『太陽』、請われるままに等しく振るわれる道具だ。

 もし『太陽』が私を手にし請うのなら……私は『月』もお前も手に掛けることだろう。だから私の記憶など、忘れた方がいいのだ。

 それに……」

 

 そう言って少女は真剣な顔で続ける。

 

「運命を感じる……。

 『月』と『太陽』が相まみえるその瞬間は、恐らくそう遠い未来ではない」

 

「それって……ノブくんと同等の力をもつその『誰か』が近いうちに現れるってこと?」

 

「そうだ。

 ……心せよ、響。『月』と『太陽』のキングストーンを持つ者同士は戦い合うのが運命。

 その運命の流れは大河のごとく強大な流れだ」

 

「だとしても、私とノブくんはきっとその人とも手を取り合って見せる!」

 

 迷いなく言い切る響を、少女は眩しそうに見つめると頷いた。

 

「では、またな。響」

 

「うん! また会おう、『ベル』ちゃん!!」

 

 その言葉を最後に、響の姿が灰色の庭園から消える。

 

「まったく……この私におかしな呼び名をつけおって」

 

 そう言いながらも、彼女の口元には薄い笑みが浮かんでいた。

 しかしそれも束の間、彼女は真剣なものへと表情を戻す。

 

「運命の時は近い……。

 此度も、あの時のようにどうか私の刃が『月』も『太陽』も貫かないことを……」

 

 祈るように、彼女は呟いた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 その日、俺と響は二人っきりの部屋で汗だくになっていた。まるで蛇のように絡み合う恋人同士の甘い甘い時間……ならばよかったのだが、生憎と一かけらもそういうムードのあるものではない。

 ここは貸しガレージの一室だ。翼が趣味のバイクのために使用していて紹介してもらった場所で、かなり広いスペースを借りれている。もちろん二課の息のかかった場所だ。その貸しガレージ中央では、一台の車が鎮座していた。

 この車の名は『ライドロン』。『光の車』とも『重装騎マシン』とも言われる、仮面ライダーBLACK RXの愛車だ。灰色のボディに緑色のキャノピーとオリジナルとは配色が違い俺……仮面ライダーSHADOW仕様になっているものの外見は同一である。それを俺は響と2人で汗だくになりながら作成していた。

 

 この夏に俺と響は旅行に出かけ、そこで様々な仮面ライダーたちとともに戦う機会を得た。その時に仮面ライダーBLACK RXこと南光太郎さんにこの世界に送ってもらった時に渡された設計図をもとに造っていたのがこの『ライドロン』である。

 造りながら、俺は我が身に宿る『キングストーン』のチートさを改めて噛みしめる。

 

 俺は当然ながら、普通の高校生レベルの知識しか持っていない。だというのに光太郎さんから貰った異世界の技術の粋を結集したようなライドロンの設計図、これが瞬時に理解できたのである。

 今の学校に編入されたときも勉強に対して異様なまでの集中力を発揮し驚いた。俺もそれを期待し、それこそ数年かけて前提となる知識を蓄えてからライドロンを作成しようと思っていたのだが……予定が斜め上にずれてしまっていた。

 集中力やら物覚えの良さやら、これはそれとは次元が違う。まるで異世界の知識を頭の中にインストールしているような感じだ。あるいは実際にライドロンを完成させた光太郎さんの知識が、キングストーンを通して俺に植え込まれているのかもしれない。

 しかしキングストーンのチートさはそれだけにとどまらない。

 ライドロンはその全体は全て超特殊流体合金『ハイドロジルコン』で出来ている。太陽光に月光、ありとあらゆる光をエネルギーに変え貯蔵し、駆動させる一種のナノマシンでライドロンは全体がリアクターでありエネルギータンクであり駆動システムという、『ハイドロジルコン』製の機械生命体のようなものなのだ。

 だが当然ながらそんな現代科学の埒外にあるような代物はどこにもあるはずがない。ではこの目の前のライドロンはどうして出来ているのかといえば……キングストーンエネルギーを照射することによって元になった車の構造材が『ハイドロジルコン』に変化したのである。

 原子レベルでの物体の変化とか、もう開いた口が塞がらない。もっともBLACK RXからバイオライダーの変化がこれに近いのできっとその応用なのだろう。

 ……深く考えると精神衛生に悪いので深く考えないようにするが、とにかくライドロンは完成間近だ。

 

 そして、それを響が手伝ってくれていた。

 響は今後バイクの免許をとって、俺と一緒にツーリングに行くと張り切っていた。これにバイク仲間が増えるとSAKIMORI()が大張り切り、免許を取る前に整備の仕方を教えると言ってそれを教えたのである。

 俺にとっても嬉しいことなので、俺も翼と一緒になって機械の整備について教えたのだが……これが大当たりした。

 響は学校の勉強の成績はあまりよくはない。だが興味のあることには一途に打ちこむタイプでその時の吸収力は凄いものがある、ある種の天才なのだ。

 響は弦十郎司令(おやっさん)との修行と同じく、この機械いじりに関しても覚えが良く、今では普通に機械をいじれるくらいの知識を蓄えていた。

 

『ノブくんと一緒にツーリングとか行きたいから一生懸命覚えたんだよ』

 

 そんな嬉しいことを言ってくれる可愛いすぎる彼女である。可愛すぎる彼女である。大事なことなので2度言ったが。

 とにかくそんな響とライドロンの作成を続けているが……。

 

「これで一応完成のはずなんだが……」

 

「……ウンともスンとも言わないね」

 

 俺は運転席に入り込み、響は窓からこちらを覗き込む中で起動スイッチを押したが……案の定というかライドロンからの反応はない。

 

「まだ足りないパーツとかあるの?」

 

「いや、これで設計図通り完成のはずなんだがな……」

 

 響にそう答えながらも、俺は心の中で『やっぱりか』と呟く。

 BLACK RXの本編でも、光太郎さんはライドロンの車体は完成させてはいたが起動できずにいた。最終的にBLACKの命を救った聖なる海の洞窟で生命のエキスを与えることで人工頭脳『ライドマインド』による自意識を得て完成したのだ。しかし、当然ながら俺たちの世界には『聖なる海の洞窟』はない。仮にあったとしてもどこだか分からない。

 だからそれ以外の方法でライドロンに命を与える方法を考えていたのだが……全く思いつかなかった。

 

「前途多難だな」

 

「あはは、ゆっくりやろうよノブくん」

 

 俺は天井を仰ぐようにして休憩用のイスに腰かける。響も隣のイスに腰かけた。

 未だ残暑が残り暑い日が続く。そんな中、ガレージの中でライドロン作成を続けていた俺も響も汗だくだ。

 すると……。

 

「まだまだ暑いね、ノブくん」

 

 響が熱そうにつなぎの上着をはだけ、胸元にパタパタと風を送り込む。したたる汗と白いタンクトップ、そして自己主張の激しい双丘……そのどれもが眩しく俺を狂わせようとしてくる。

 そんな猛攻に健康な男子高校生が抗えるはずもなく……。

 

「響……」

 

「ダメだよノブくん、私いま汗臭いし……」

 

 と言いながらも逃げるようなことはしない響。

 俺の伸ばした手が響の頬に触れ、お互いの顔がゆっくりと近付いていく……。

 

 

 

 

 

その時、不可思議なことが起こった。

 

 

 

 

「2人とも、作業は進んでいるか!」

 

 突然のSAKIMORI()のエントリーに、俺と響はバッと身を離した。

 やってきたのは奏と翼の2人だ。

 

『『お、おのれーSAKIMORIィィィ!』』

 

 俺と響の元に漂っていたHな雰囲気は一気に吹き飛ばされ、俺は思わず睨む。すると奏はバツ悪そうに頬を掻いて苦笑してかすかに頭を下げた。いい雰囲気を邪魔したと何となく察しているようだ。

 なお翼は何も気付かなかったらしい。そういうとこやぞ、SAKIMORI()

 

「それでどうなのだ月影、進捗状況は?」

 

 翼はバイクだけでなく車も行ける口らしく目を輝かせている。

 ……何だか邪気を抜かれ、俺は小さくため息をついた。

 

 一応、ライドロンについては弦十郎司令(おやっさん)をはじめとした仲間たちには説明してある。

 夏の事件……俺と響が異世界に行き、仮面ライダーたちと共闘した事件は、二課の中ではかなりの大事だった。

 俺と響という重要人物が痕跡も残さず忽然と行方不明になり、さらに超強力な聖遺物である『レーヴァテイン』……『サタンサーベル』までもが消えたのだ。騒ぎになって当然であり、発見された俺たちは当然のように説明を求められた。結局、俺と同じような力を持つ『仮面ライダー』、そんな彼らが存在する異世界に呼び出され戦ったと俺と響はありのままを説明することになる。

 とはいえいきなり『異世界』という荒唐無稽な話だ。響のガングニールのログなどの証拠はあるものの二課としてはまだ半信半疑というところもある。そこでライドロンだ。

 ライドロンのことは俺は『設計図を貰った異世界のマシーン』だと説明し、作成したいということを伝えた。二課は実際にライドロンを作ってみて『異世界』の存在を確認しようという考えのもとで許可を出したのである。

 もっとも……。

 

(まだライドロンの詳しいスペックは説明してないが……これ、スペックを説明したらまたひと悶着あるんじゃないか?)

 

 ライドロンの性能は『異世界の証明』程度で済むはずがない。今から説明の時を思うと気が重かった。

 とはいえ、それも完成したらの話だ。

 

「ダメだな、一応設計図通りに完成はしてるはずなんだが……全く動かない」

 

「そうか……」

 

 俺がガシガシと頭をかきながら現状を答えると、翼は少し残念そうにする。

 

「ライドロンの完成がそんなに楽しみか?」

 

「それはそうだろう。異世界のマシーンだぞ。

 なんでも立花の話では『まるで光になった気分』という、バトルホッパーに匹敵する超マシーンなのだろう?

 興味がでないはずあるまい」

 

 そう言って翼は優しくライドロンのボディを撫でる。その顔は穏やかで、本当にバイクや車のようなマシーンが好きなのだなと伝わってきた。

 

「それで、今日は奏さんと翼さんはどうしてここに?」

 

「ああ、近くで今度のコラボレーションライブの打ち合わせがあってね。その帰りに翼がライドロンの様子を見たいって言いだしたんだよ」

 

 そう言うと奏はイヤフォンを耳から外して言った。

 

「煮詰まってるなら音楽を聞いてリラックス、ってのはどうだい?」

 

 そして流れてくるのは英語の歌だ。

 

「これは……?」

 

「今度私たちがコラボする相手……マリア・カデンツァヴナ・イヴとセレナ・カデンツァヴナ・イヴ姉妹の曲だ」

 

 翼の言葉に、俺は最近のニュースを思い出していた。

 たった2ヶ月で全米を席巻するほどの人気を誇る姉妹、いうなればアメリカ版ツヴァイウイングともいえる2人が奏と翼のツヴァイウイングとコラボレーションライブを開催するという。

 

「……いい曲」

 

「ああ、ホントに凄いよこの2人……」

 

 響がその歌声にうっとりと聞き惚れ、奏は同じ世界の人間として相手の力量を素直に認める。

 

「……凄いな、この歌声。 もしかしたらツヴァイウイング(お前ら)以上なんじゃないか?」

 

「確かに凄いが、私と奏の両翼ならば彼女らにも負けぬということをコラボレーションライブでは証明してみせよう」

 

 俺も歌には詳しくないが、この歌から伝わる熱量は相当なものだ。

 だがそれでも負けぬと胸を張る翼の様子に、俺は何とも微笑ましくなる。

 

「それで、俺はよく知らないんだが……その2人は何てグループなんだ?」

 

 俺の何の気なしに聞いたその言葉に奏が答える。

 

「ああ、マリア・カデンツァヴナ・イヴとセレナ・カデンツァヴナ・イヴの2人のユニットの名前は……『シャイニーシスターズ RX』って言うんだ」

 

「「……RX?」」

 

 何やらアイドルユニット名にはおおよそ似つかわしくない単語が着いている気がして、俺と響は同時に聞き返してしまった。

 

「……なぁ、その『RX』ってどういう意味なんだ?」

 

「色々なインタビューで聞かれているが、2人は『自分たちにとって特別な意味を持つ言葉』としか答えていないので意味までは分からないな」

 

 俺の質問に翼が答える。

 そんな俺の脳裏には、夏の事件での仮面ライダーBLACK RX……南光太郎さんの言葉を思い出していた。

 

(光太郎さんが助けたという『白銀のシンフォギアの少女』……そして『RX』を名乗るアイドル……。

 まさか……なぁ……)

 

 ただの偶然と流したいが……生憎と俺は波乱の予感を感じていたのだった……。

 




今回のあらすじ

SHADOW「今回からG編の開始だぞ」

ビッキー「外伝と特番やってたから、本編の続きはずいぶん久しぶりだね」

奏「……おい、開始と同時に海にヤバいものが沈んでることになったぞ」

防人「この描写ということは……今回のラスボスは『アレ』か……。管轄違いというかライダー違いというか……」

フィーネさん「それにしてもこの作品、ちょっとウチの神様に厳しすぎない? 今回新たに判明したカストディアンの歴史をまとめると……」


ウン十万年くらい前
ワープ失敗でこの宇宙にやってきた○○○○○のバックアップ、カストディアンの母星に襲い掛かる。

カストディアン、○○○○○にボロ負けして惑星脱出。地球に向かう。

○○○○○、脱出したカストディアンを追って地球へ。

カストディアン「すいません助けてください!なんでもしますから!」
創世王「ん?今何でもするって言ったよね?」

○○○○○、当時の創世王にボコボコにされて海に沈む。

創世王「何でもするって言ったよね? お前ら今日から奴隷な」
カストディアン「えぇぇぇ!?」

以後、シャドームーンとブラックサンによるゴルゴム壊滅までカストディアンの奴隷時代の開始


フィーネさん「……となるわけよ」

キネクリ「神の威厳もへったくれもねぇな」

奏「で、一方響の方は謎の少女(正体バレバレ)と順調に交遊を深めていると」

防人「……2~3日ごとにお茶飲んでるとか、それ下手すると私より付き合い深くない?」

ベルちゃん「そのうち『太陽』が近くに現れるぞ」

ビッキー「そして今後の露骨な伏線だね」

SHADOW「そしてライドロンの作成風景だが……」

キネクリ「えっ、もうほとんど完成してんの? 設計図貰ったのが夏あたりで、今9月頃だしちょっと早すぎね?」

SHADOW「俺もそう思ったが……RX本編だと1週間で完成してるし、問題はないだろう」

奏「一週間で完成って……プラモデルじゃないんだから」

ビッキー「そして私の出来る女描写!」

防人「ここまで立花の能力が盛られているシンフォギアSSも珍しい」

SHADOW「ちなみにライドロンの『ハイドロジルコン』についての解説はほぼすべて作者の妄想なので、『この作品ではそういうことになってる』ととらえてくれ」

ビッキー「いくら探しても『ハイドロジルコン』についての設定が見当たらなかったみたい」

キネクリ「で、またいきなりイチャつき出したぞこのバカップル! つーか、バカ1号に整備能力持たせたのって、このシーンで『ツナギ+したたる汗+タンクトップ』ってエロコンボやらせたかったためだろこれ!!」

SHADOW「Exactly(そのとおりでございます)。
    というわけで響……。
    なぁ……スケベしようや……」

ビッキー「ノブくん♡」

フィーネさん「……まったく学習しないバカップルね。そんな雰囲気つくれば当然……」


月の石「そのとき、不可思議なことが起こった」


防人「若者を不純異性交遊から守る正義の使者『SAKIMORI仮面』参上!
   私が来たからには大丈夫、もう濡れ場は無いぞ!」

SHADOW&ビッキー「「おのれSAKIMORIィィィ!!」」

キネクリ「で、話は今度の先輩たちのコラボライブになるんだが……」

たダマ&セレナ「「私たちは太陽の姉妹 シャイニーシスターズ アーーーエックッッッス!!(例のシャウト)」」

奏「……えぇ、アタシらコレとコラボするの?」


というわけでG編のプロローグにあたる話でした。
次回もよろしくお願いします。


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第39話

今回は全編BGMは『仮面ライダーBLACK RX』か『光の戦士』でお楽しみください。


 彼女……セレナ・カデンツァヴナ・イヴは神というものを信じていない。

 両親を失い姉と2人きりとなり、そして人を人とも思わぬ組織へと拾われたその身……幼いながら数々の不幸を体験した彼女が一体どれだけ神に助けを求め祈ったか、それはもはや数え切れない。

 しかし、どれだけ彼女が助けを求めて祈ろうとも、一度たりとも『神』から救いの手が差し伸べられることはなかった。

 だからセレナは神など決して信じない。この世に神も仏もいないのだ。

 しかし……神も仏もいなくても、誰かの助けを聞き届ける存在がいることを、セレナはあの時、知った……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 それは6年前のことだ……。

 

「くっ……うぅ……」

 

「セレナァァ!!?」

 

「「セレナッ!?」」

 

 半ばコンクリートの壁にめり込んだセレナは苦悶の声を上げる。そんなセレナの姿に悲鳴を上げた姉であるマリア、そして同じ境遇の妹とも言える切歌と調。

 視界は霞み歪み、風の前のろうそくの火のように揺らめいていた。

 そんな視界に映るのは燃え盛る炎と、セレナたちにゆっくりとにじり寄る白い怪物の姿……。

 

 ここはフィーネから流された情報によって造られたアメリカの極秘聖遺物研究機関、アメリカ版二課とも言える『F.I.S.』の施設である。

 この施設で今日行われていたのは聖遺物『ネフィリム』の起動実験だった。

 しかし起動と同時に制御を離れ暴走を始めた『ネフィリム』により実験施設は火の海に。

 シンフォギア『アガートラーム』の装者であったセレナはこんな境遇をともに生きる姉妹といってもいい仲間たちのため、死を覚悟して『ネフィリム』を止めるために剣を取る。

 しかし……戦いの現実はそんな少女の覚悟とは関係なくいつも残酷だ。

 『ネフィリム』のあまりの強さにほとんど抵抗することも出来ず追い詰められ、自らの命と引き換えに『絶唱』で相打ちを狙うものの、『絶唱』を歌うための一瞬の隙をつかれ、吹き飛ばされてこうしてコンクリートの壁にめり込まされている。

 

 息を吐けば、ゴボリと壊れかけたコーヒーメーカーのような嫌な音とともに口に血の味が溢れる。

 チカチカと点滅する意識は、今にも闇に呑み込まれそうだ。

 しかし……。

 

「ダメ……!!」

 

 もう意識を手放して楽になれという闇からの甘い誘惑にあらがい、セレナは歯を食いしばって身体を起こす。

 

(せめて、せめて姉さんたちだけでも守る……!)

 

 しかしどれだけ強い想いがあっても身体が言うことを聞いてくれない。いや、よしんば身体が自由に動いたとしてもあの『ネフィリム』に自分は敵わないほどの絶望的な差があることをセレナは冷静な部分で理解していた。

 泥のような絶望感が、セレナを襲う。自分だけではなく、このままではマリアたちの命もすぐにでも刈り取られるだろう。

 今まで耐えてきた涙が一筋、頬を伝う。

 

「誰か……誰か助けて……」

 

 か細い、小さな助けを求める声。

 それはどこへも届かず消えていく……はずだった。

 

 

 

その時、不思議なことが起こった。

 

 

 

「なっ!? ここは一体!?」

 

 突如その場に炎とは違う、フラッシュを焚いたかのような光が走った。

 一瞬思わず目を瞑った一同が再び目を開けると、そこには困惑した様子の白い服の青年が一人……明らかに『F.I.S.』の関係者ではない。そもそもついさっきまで彼は間違いなくそこにいなかったのに、一体どこから現れたというのか……だがそんな謎はすべて後回しだ。

 セレナたちにゆっくりとにじり寄っていた『ネフィリム』が、新たに現れた青年に対して注意を向ける。

 

「いまっ!!」

 

 その瞬間、飛び出したセレナが放ったムチのような連接剣が『ネフィリム』に絡み付きその自由を奪った。

 そしてセレナが叫ぶ。

 

「そこの人、お願い! 姉さんたちを連れて逃げてぇ!!」

 

 これは賭けだ。『ネフィリム』の隙など、今この瞬間しかない。マリアたちが逃げて生き残れるとしたらこの瞬間だけなのだ。

 そして連接剣の拘束はそう長く保つものではない。その間にあの謎の青年がマリアたちを連れて逃げてくれればみんなは助かる……セレナはすでに自身の命は諦めていた。しかしマリアたちの命を諦められないセレナの、それは最後の賭けだった。

 しかし……。

 

「あっ……」

 

 『ネフィリム』が力を加えただけで、数秒ともたずに連接剣が砕け散る。その破片を見ながら、セレナは自らの賭けの敗北を悟った。

 振り上げられる『ネフィリム』の腕、それが振り下ろされたとき自分の身体が砕かれて死ぬということを直感的にセレナは悟る。そして死を覚悟したセレナは絶望の中で目を閉じた。

 しかし……振り下ろされるはずの死神の鎌は、セレナをとらえることはなかった。

 

「えっ……?」

 

 自らを包むような柔らかい感覚に、セレナは目を開ける。

 そこにいたのはあの謎の青年だ。セレナは謎の青年に抱きかかえられ、マリアたちのすぐそばにいたのだ。

 

(この人、あの『ネフィリム』の攻撃を私を抱えて避けた?

 それに私を抱えて一足飛びで姉さんたちのところに戻った?)

 

 今しがた起こったことが信じられずマリアたちに視線をうつすと、どうやらセレナと変わらず混乱しているらしいことが見て取れる。

 そんな中、謎の青年はセレナをマリアたちのところに預けるようにゆっくりと降ろすと『ネフィリム』へと向き直った。

 

「……ここがどこで何が起こったのか、俺には分からない。

 だが……!」

 

 ギリギリギリと青年が握りしめた拳から、皮手袋の軋む音がする。

 

「貴様がこの少女たちを手に掛けようとしていることはわかった!

 いたいけな少女たちをいたぶり襲う怪物め、俺は貴様をゆ”る”さ”ん”っ!!

 

 謎の青年は両の拳を握りしめる。太陽を掴むかのように掲げられる右手が、そして左手が力強い軌道を描く。

 

「変ッ身!!」

 

 そして、どこからか光が溢れた。

 光が収まったその先に先ほどの青年の姿はなく、代わりにそこには黒い体躯の何者かが立っていた。

 そして、彼がその名を名乗る。

 

「俺は太陽の子! 仮面ライダーBLACK RXッッ!!」

 

「仮面……ライダー……?」

 

 その呆けたような言葉を発したのは自分だったのか、はたまたマリアたちのうち誰かだったのか……それは全員共通の言葉だった。しかしその疑問に答えるものは誰もいない。

 『ネフィリム』は彼……仮面ライダーBLACK RXを敵と認識したのか、一気に飛び掛かるとその腕を振るう。

 

「RXさん!?」

 

 その一撃はシンフォギアを纏っていても大ダメージは必至、人であれば一瞬で命を刈り取られるような暴威だ。それを身を持って知らされたセレナは叫ぶが、彼は臆する様子はない。

 そして、目の前で不思議な光景が繰り広げられる。

 

「!!?」

 

「ふんっ!!」

 

 倍以上は巨大な『ネフィリム』の一撃、それを彼は難なく受け止めたのだ。

 受け止めた『ネフィリム』の腕を弾き上げると、彼は『ネフィリム』の胴体にパンチとキックのコンビネーションを叩き込む。すると、まるで巨大なトラックでも衝突したような衝撃音とともに『ネフィリム』が吹き飛ばされたのだ。

 

「!!?」

 

 言いようのない苦悶の声を上げながら『ネフィリム』は立ち上がると身体をかがめる。それはまるで陸上のクラウチングスタートのような、相手に全速力で飛び掛かるための予備動作だということをその場にいた全員が何となく悟る。

 しかも……。

 

「なるほど……俺が避ければこの少女たちに突っ込むというんだな」

 

 『ネフィリム』の位置は彼を挟んでセレナたちの正面だ。彼の言う通り、彼が避けて『ネフィリム』が突進してきたらセレナたちは一瞬で挽肉にされることだろう。

 そして『ネフィリム』の突進が開始され、辺りに先ほどよりも凄まじい衝撃音が響いた

 あまりの音に思わず目を瞑ったセレナたち。しかし痛みもなく、恐る恐ると目を開けた。

 

「ッ!? 姿が!?」

 

 その目の前では『ネフィリム』が彼に受け止められていた。凄まじい力の突進だったのだろう、『ネフィリム』の足元の強化コンクリートの床はひび割れ砕けている。だが彼は元の場所から微動だにせず、不動でその『ネフィリム』の突進を受け止めていたのだ。

 そんな彼のその姿は先ほどまでの黒い姿とは変わり、いつの間にかメカニカルなものに変わっていた。

 いくら力を込めても微動だにしない相手に恐れをなしたかのように『ネフィリム』は二歩三歩と後ずさる。

 すると、再び彼が名乗りを上げた。

 

「俺は悲しみの王子、アールエックス! ロボライダー!!」

 

 するとゆっくりと彼は拳を握ると、それを『ネフィリム』に叩きつけた。

 

「!!?」

 

 三度響く衝撃音。彼のパンチ一撃で『ネフィリム』は吹き飛ぶ。『ネフィリム』の巨体が、床と天井の間でまるでボールのようにバウンドした。

 再び立ち上がろうとする『ネフィリム』に、彼が動く。彼の手の中に光が集まったかと思うと、いつの間にか一丁の銃が彼の手には握られていた。

 

「ボルティックシューター!!」

 

 その声とともにその銃から光線が発射される。

 銃火器どころかシンフォギアの攻撃ですらもまともにダメージを与えられなかった『ネフィリム』、だがその銃の一撃は『ネフィリム』の防御力を容易く貫いた。

 

「!!?」

 

 光線が放たれるたびに『ネフィリム』の身体に穴が開き削れていく。

 声にならない悲鳴を上げた『ネフィリム』。彼への攻撃のためかはたまた恐怖で我を忘れたのか、そこらじゅうに転がっているガレキや研究機材のスクラップを手当たり次第に投げつけた。

  

「っ!?」

 

 そのガレキやスクラップは、もし人に当たりでもすれば致命傷は間違いない質量と速度を持つ砲弾だ。

 セレナがマリアたちを守るため前に出ようとするが……それよりも先に、またも不思議な光景が展開される。

 先ほどまでいたはずの彼がいない。その代わりのように、青い水のような……高エネルギーな何かが空中を飛び回り、飛んでくるガレキとスクラップをすべて叩き落とす。

 そしてそのまま、その青い高エネルギー体は『ネフィリム』に体当たりのようにぶつかった。

 再び転がされる『ネフィリム』の前に、その青い高エネルギーが降り立つと人型になっていく。

 そして、またも彼の声が響いた。

 

「俺は怒りの王子、アールエックス! バイオ、ライダー!!」

 

 今度は青い姿に変わった彼が、手にした剣を振るった。

 一刀で右腕が断ち切られ、腰から左肩までを逆袈裟で大きく切り裂かれる『ネフィリム』はそのまま膝を付く。

 

「今だ!」

 

 そしてそこがチャンスだと見た彼は、最初の黒い姿に変わると腰のベルトへと手を添えた。

 

「リボルケイン!」

 

 その呼び声に答えるように、彼のベルトのバックルから光輝く剣が引き抜かれる。

 

「ふんっ!!」

 

 光輝く剣を片手に跳び上がった彼はそのままその剣を『ネフィリム』へと突き立てた。

 

「!!!!??」

 

 光輝く剣で貫かれた『ネフィリム』は、身体中から火花を散らせながら断末魔の声を上げる。

 そして……。

 

「ふんっ!」

 

 

 

一欠

 

 

 

 彼が剣を引き抜き振り払うと、その背後で『ネフィリム』は大爆発を起こした。

 

「『ネフィリム』を……倒した? 私たち、助かったの……?」

 

 未だに目の前の光景が信じられず呆然とするセレナたち。そこに炎を背にした彼がゆっくりと歩いてくる。その時になって、ハッと気づいた。

 今まであまりにも不思議なことが連続して起こって頭が追いついていなかったが、彼が正体不明であるのは間違いない。『ネフィリム』を葬ったその力が今度は自分たちに向けられるかも……そう思い当たり、思わず身を硬くして皆の前に出ようとするセレナ。

 しかし、その前に彼が動いていた。

 

「キングストーンフラッシュ!」

 

 彼のベルトのバックルから光が溢れ、まるで太陽の光のような温かな光にセレナたちは包まれた。

 

「これは……?」

 

「傷が……治ってる」

 

「身体が軽くなってくデスよ……」

 

「気持ちいい……」

 

 セレナは『ネフィリム』から受けた傷がみるみる治っていく光景に驚きの声を上げる。そしてマリアたち3人の身体にも変化があった。

 彼女たちは全員、『F.I.S.』で人を人とも思わぬ人体実験の被検体とされていた。そのため様々な薬物を投与され、薬が抜けたとしても鉛のような倦怠感が身体の奥底に残り続け、いつだってどこか好調とは言い難かった。しかし、その倦怠感がまるで光に溶けるようにして消えていったのだ。『奇跡』という言葉以外、出てこない。

 

「無事でよかった」

 

「ありがとう……ございます……!」

 

 彼の優しい言葉を前に涙が零れる。

 命を救われ、身体を治してもらった……その感謝を伝えたいのに、嬉し涙に震えた喉はたったこれだけの言葉しか絞り出せない。他の3人もセレナと同じく涙を流してお礼を言おうとしていたが感動で声が上手く出せないでいた。しかし、そんな彼女たちにまるでわかっているとでも言うように優しく静かに彼は頷いていた。

 すると……。

 

「これは……?」

 

「!? RXさん!?」

 

 彼の指先辺りから光の粒子のようなものが零れると、ゆっくりと彼の姿が薄くなっていく。

 驚きに声を上げるセレナたちを前に、彼は『心配するな』とでも言うように静かに首を左右に振った。

 

「どうやら、俺はこれで元の世界に帰るらしい」

 

 薄れていくその姿に、セレナたちも彼との別れを予感する。

 そして最後にセレナは問う。

 

「あなたは……どうして私たちを救ってくれたんですか?

 見ず知らずの私たちを、何故……?」

 

 しかしその問いに彼、仮面ライダーBLACK RXは至極当然のように答えた。

 

「この力で救える誰かがいるのなら全力で救う。 俺が戦う理由はそれだけで十分だ」

 

 そして彼は現れた時と同じようにその場から消え去った。戦いが終わり静かになったその場に遠くからの喧騒が聞こえてくる。

 ボロボロの施設に残った4人は静かに、そして自らの胸の奥深くに今しがたの奇跡の出会いを刻み込む。

 

「仮面ライダーBLACK RX……」

 

 セレナは小さく、その名を呟く。そして知った。

 この世には神も仏もいない。しかしそれでも誰かを救う存在……『仮面ライダー』は存在するのだ、と。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「セレナ」

 

 名前を呼ばれ、セレナは閉じていた目を開けた。

 

「姉さん……」

 

「どうしたのセレナ」

 

「あの時のことを……RXさんのことを思い出していました」

 

 セレナの言葉に納得したようにマリアは頷く。

 

「そうね……もうすぐ日本だものね」

 

 マリアとセレナは、ツヴァイウイングとのコラボライブのために移動中だ。しかし、彼女たちはもっと大きな目的のために日本へと向かっていた。

 マリアもあの日を思い出しながら、少しだけ遠い目をしながらセレナに言う。

 

「RXさんは……私たちのしようとしていることを見たらどう言うかしらね?」

 

「……きっと褒めてはくれないでしょう。私たちのすることが世界を混乱させることは間違いないですから。

 でも……私たちにはこれ以外に方法がない。これ以外の方法がないのならこの方法を貫くだけです。

 あの日RXさんが私たちを救ってくれたようにこの力で……きっと人々を、世界を救ってみせます!」

 

「私も同じ気持ちよ、セレナ」

 

「それに日本にいるという『仮面ライダーSHADOW』……彼にも必ず直接会わなくては!」

 

 彼……仮面ライダーBLACK RXと同じく、『仮面ライダー』を名乗る存在である『仮面ライダーSHADOW』……彼との邂逅も必ずしなくてはならない!

 マリアとセレナの姉妹は決意を新たにし、お互いに頷き合う。

 その時……。

 

「う、うぅぅ……」

 

「調、大丈夫デスか?」 

 

 トイレから出てきたツインテールの少女、月読調。そしてそんな調を心配そうに支える少女、暁切歌。2人ともマリアとセレナにとっては苦楽を共にした仲間であり妹のような存在だ。

 調はお腹を押さえながら切歌とともに座席に座る。

 

「ちょっと、大丈夫なの調?」

 

「ううぅ……最近胃が痛いの……」

 

 調の様子に心配そうにマリアが訪ねると、調は取りだした胃薬をミネラルウォーターで流し込んだ。

 

「しっかりするデスよ、調……」

 

「これからのことで緊張してるんでしょうか……?

 少し肩の力を抜いたほうがいいですよ」

 

「わかってるんだけど……うぷっ……!?」

 

 調は青い顔で胃を押さえるのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ……ここは『どこ』か。そこに『誰か』の声が響く。

 

「ちょっと! また信人クンたちと敵対とか冗談じゃないわ!

 こうなったら身体の主導権を乗っ取って……!?」

 

 その時、背後から猛烈な威圧感を感じ背後を振り返る『誰か』。そこにいたのは黒いボディに真っ赤な目の仮面ライダーだった。

 

「す、ストップよRXさん! 今のは言葉の綾、言葉の綾よ!

 無いから! この娘を害そうなんて気は全然、欠片も、これっぽちも無いから!

 ただこのまま行くとこの娘たちが不幸になりそうってだけで心配なだけなの!

 だからその光る剣をしまって! お願いだから!!」

 

 そんな会話が、どこかでされていた……。

 

 




今回のあらすじ

SHADOW「今回は回想編というわけで俺たちの出番はなしだな」

セレナ「今回から私たちF.I.S.組が本格参戦です」

たダマ「で、6年前の事件のことが分かるわけなんだけど……」

セレナ「神も仏もいなくても、仮面ライダーはいる」

切チャン「このセリフ、この作品だけじゃなく他の作品でも結構使ってる台詞デスね」

しらべぇ「これ、作者が『仮面ライダーSPRITS』で物凄く好きな台詞なんだって。だからこの作者の作品にはほぼ確実にどこかで使われてるらしいよ」

RX「ここはどこだ!?」

ビッキー「ああ、分かり切ったことだけど光太郎さんの助けた白銀のシンフォギアってやっぱりこういうことなんだね」

RX「いたいけな少女たちをいたぶり襲う怪物め、俺は貴様をゆ”る”さ”ん”っ!!」

SHADOW「この戦いは早くも終了ですね」

ロボライダー「俺は悲しみの王子、アールエックス! ロボライダー!!」

バイオライダー「俺は怒りの王子、アールエックス! バイオ、ライダー!!」

キネクリ「おい、ロボライダーにバイオライダーまで出して容赦がひとかけらもねぇぞ!?」

RX「一欠」

全員「「「知 っ て た」」」

防人「いやぁ、ネフィリムは強敵だったなぁ(白目)」

RX「キングストーンフラッシュ!」

奏「おまけにアフターサービスもバッチリだ」

しらべぇ「うぅ……胃が痛い……」

フィーネさん「ちょっと!またSHADOWと敵対とか冗談じゃないのよ!それなのにちょっと身体を乗っ取ろうとしたら……」

RX「この少女たちはこの俺、仮面ライダーBLACK RXが守る!」

SHADOW「キングストーンフラッシュの影響で、F.I.S.組全員に最強のセキュリティシステム『仮面ライダーBLACK RX』がインストールされてる件」

ビッキー「わぁ、仮面ライダーと同居なんて羨ましいなぁ。憧れちゃうな」

フィーネさん「そう思ったら変わりなさいよ! 自分を簡単に爆殺できる相手がリボルケイン準備万端で後ろでいつも控えてるとかストレスがマッハで死ぬわぁ!」


といわけで今回は6年前の過去編でした。
恐らくみなさんの思い描いた通りの場面ではないかと。

次回もよろしくお願いします。



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第40話

何とかギリギリで第2・第4日曜日更新を死守。
体調もよろしくないし、異動期はキツいです。

今回はついにG編の最大の問題児の登場です。


 その日……『ツヴァイウイング』と、アメリカから来た『シャイニーシスターズRX』とのコラボレーションライブの日、俺と響、そしてクリスは列車の中にいた。当然ながら遊びのためではなく、二課の任務のためだ。

 クリスが起動し、フィーネがノイズを操るために使っていた完全聖遺物『ソロモンの杖』……『アークセプター』とも呼ばれるそれは事件後に回収され、厳重に保管されていた。ノイズを呼び出し操るその聖遺物の危険性を考えれば当たり前の話だ。しかし、その効果を考えれば保管だけしておくというのはあまりに愚かな話である。もしその仕組みを解析することができたら、ノイズそのものを根絶できる可能性があるからだ。

 そこで『ソロモンの杖』を解析するために山口県の岩国基地へと移送するのが今回の任務だ。

 

「うぅ……せっかくの奏さんと翼さんのライブの日に任務が……。

 私って呪われてるかも……」

 

「おいおい、それだとあたしたちも呪われてるってことになるだろうが」

 

 列車内の待機所で待機している俺たち。机に突っ伏す響に、チューっとストローで野菜ジュースを飲むクリスが肩を竦めて言う。

 

「おい信人(バカ2号)、お前も(バカ1号)に何か言ってやれよ」

 

「ん、ああ……」

 

 俺はクリスの言葉に生返事をしながら、手元の端末を眺めていた。

 そこには端末に移したライドロンの図面が映されており、俺はそれを眺めながらライドロンの起動の方策を考えていたのだ。

 それを見てクリスは言っても無駄だと悟ったようで、大きなため息をつく。

 

「それで、あたしらを待たせてるアメリカのお偉い博士とやらはいつ来るんだかな?」

 

 俺たちの今回の任務は『ソロモンの杖の移送』と同時に『アメリカからソロモンの杖の解析のためにやってきた博士の護衛』というものだ。その護衛対象との顔合わせのために俺たちはここで待っているのである。

 

 ちなみに、今回の任務にはアメリカの影が随所に見え隠れしている……というかあの『ルナドロップ事件』以後、アメリカは始終政治的な攻勢を日本にかけていた。

 『ルナドロップ事件』後、アメリカは日本の持つフォニックゲインに関する技術を独占することを非難、その圧力によりフォニックゲインに関する基礎理論……通称『櫻井理論』が世界に開示されることになった。

 さらに『ソロモンの杖のような危険なものを日本だけが管理するのは許されない』ということで、アメリカとの共同研究という形で『ソロモンの杖』が移送されることになったのが今回の任務の発端だ。

 ……そもそも『ソロモンの杖』自体がアメリカからフィーネの手に渡っていた聖遺物であったり、親二課の姿勢だった広木防衛相を暗殺してみたりとアメリカは無茶苦茶なムーブをあれだけしていながらこの言い様である。

 俺としては「連中(アメリカ)には恥ってもんがないのか?」と本気で首を捻るが、これが俺が知らない『大人の世界』というやつなのだろう。正直、永遠に関わり合いになりたくない世界だ。

 

 と、そんな風に思い思いに過ごしているとオペレーターの友里あおいさんが人を伴って待機所に戻ってきた。

 どうやらやっと『アメリカのお偉い博士さん』の登場らしい。

 

「やれやれ、やっとお出ましか……」

 

 俺は端末をポケットにしまい立ち上がろうとしたその時だった。

 

 

ゾクッ……

 

 

「ッ!?」

 

 背筋を冷たい予感が伝う。この感覚はキングストーンの『直感』だ。それが大きな警戒を示していた。

 

「初めまして、ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスです」

 

 現れたのは一人の男だ。

 

「お、おう……」

 

「は、初めまして……」

 

 

ウィーーーン……

 

キチキチキチキチッ……

 

 

 クリスと響は戸惑い気味な様子だ。すると男……ウェル博士は『赤い左目のセンサー』をまるで瞳孔のように大小させ、『かすかに機械音のする金属の左手』を開いたり握ったりする。

 そう、ウェル博士の姿は普通ではなかった。

 左目を覆う機械の義眼、そして左手は金属製の義手になっていたのだ。

 

「ははは、戸惑うのも無理はありません。 自分の見た目がいかついのは自覚していますからね。

 ですがこのデザインは僕の趣味です。いいでしょう?」

 

 クリスと響の反応は慣れっこだったのかウェル博士は苦笑した。

 そしてそんなウェル博士の視線が俺をとらえると大仰に手を広げた。

 

「ああ、月影信人くん。白銀の戦士『仮面ライダーSHADOW』! ルナドロップから世界を救った『英雄』!

 君には是非とも会いたかったよ!」

 

「……そうですか」

 

 ウェル博士は「感激だ!」、と言った感じで俺に話すが……俺の中では相変わらずキングストーンの警鐘が鳴りっぱなしだ。

 

「ルナドロップの件は、仲間やそれを支えてくれたスタッフ、その誰か1人でも欠けていても成立しなかった。

 だからあれは皆で成した成果だ。俺個人が『英雄』なんて呼ばれるシロモノじゃないよ」

 

 そう事実として思っているし、何より本物の『英雄』である仮面ライダーたちを知る身である。

 俺はもう仮面ライダーを名乗ることに何のためらいもないが、それで自分を『英雄』だと思うこともなかった。

 

「なるほど、英雄らしい実に謙虚な姿勢ですね。 好感が持てますよ。

 とにかく、今回の護衛の件はよろしくお願いします」

 

「ああ、そこは俺たちに任せてほしい」

 

 ニコニコと手を差し出してきたウェル博士に、俺も手を出して握手を交わす。非常に友好的な感じのするウェル博士だが、俺はその握手に何の温かみも感じなかった。

 別に右手も血の通っていない機械であるとか、そういう物理的な温かみの話ではない。ニコニコと友好的な様子の裏側にある精神……他人に向けるそれがどこか機械的な温かみのないものを感じてしまったのだ。

 

(こいつ、明らかに胡散臭い気がするが……)

 

 とはいえ、人を見た目やキングストーンの警鐘だけで本人の行動を見ずに判断するのはさすがに問題なので俺もこの場では何も言う気はない。俺に続けて響やクリスに挨拶するウェル博士を、俺は少し離れたところから見ているに留める。

 その時だった。

 

「!? この気配は……!!」

 

 

ドゥン!!

 

 

 俺がその気配を感じ取るのとほぼ同時に爆発音と衝撃によって列車が揺れた。

 

「な、何今の!?」

 

「何って敵襲に決まってんだろ、(バカ1号)!!」

 

 即座にあおいさんが二課に連絡を取ると、予想通りの回答が弦十郎司令(おやっさん)から帰ってくる。

 

『ノイズの襲撃だ!!』

 

「やっぱりか……このタイミングでの襲撃ってことはやっぱり……」 

 

『ああ、了子くんの時と同じく、何者かに制御されたノイズだろう』

 

 思えば、了子さんーーーフィーネはノイズを召喚し操る『ソロモンの杖』を手に入れる前から、ノイズを従える何らかの術を持っていた。

 ノイズを召喚し操る『ソロモンの杖』はクリスが半年をかけて起動させたものだが、ノイズによって奏が家族を失った皆神山での一件はそれより前に起こっている。そしてこの件はフィーネによるものだということがわかっていた。ならばフィーネは『ソロモンの杖以外にもノイズを召喚し操る術を持っていた』と考えなければ時系列的におかしいのだ。

 もっともノイズというのは超古代文明で造られた人間同士の殺戮の道具、『兵器』であったことが分かっている。『兵器』は当然だが制御できなければ『兵器』足り得ないから制御法は確実にあるのだろう。

 その制御法をどこかの誰かが解析して襲撃してきた……そう考えるのが妥当である。

 

(問題は『どこの誰が』ってことなんだが……今はそんなこと言ってる場合じゃないな!)

 

弦十郎司令(おやっさん)、俺が出る」

 

 俺にはバトルホッパーもあるしこの中では機動力は一番だ。バトルホッパーなら列車に並走しながらの戦いもできるだろう。

 俺の意図を組んでくれたのだろう、すぐに弦十郎司令(おやっさん)からの返事が来る。

 

『分かった、信人くんはノイズの殲滅を頼む。

 響くんとクリスくんはそのまま列車に残って信人くんが打ち漏らしたノイズの迎撃だ』

 

「了解だ、弦十郎司令(おやっさん)!」

 

 言って、俺は後部車両に向かう。そんな俺の背中に響の声が投げかけられた。

 

「気を付けてね、ノブくん」

 

「任せてくれ。 響もクリスも油断はするなよ」

 

 それだけ言って、俺は後部車両へと走った。そして後部車両へと飛び込むとそこには……。

 

「なるほど、お早い御着きだ」

 

 すでにその後部車両にはノイズたちがひしめいていた。

 ノイズはすぐに俺に気付き、向かってくる。

 

「変身ッ!!」

 

 即座にSHADOWへと俺は変身し、そのまま間髪入れずにキングストーンエネルギーを解放した。

 

「シャドーフラッシュ!!」

 

 キングストーンエネルギーを意図的に破壊エネルギーに転化させたシャドーフラッシュによって爆発が巻き起こる。

 その爆発でノイズはすべて吹き飛び、同時に連結部が壊れた後部車両は響たちが乗る車両とは切り離され遠ざかっていく。

 

「これで一旦の侵入は防げたな……」

 

 呟いて、吹き飛んだ屋根から空を眺めると、空には飛行型のノイズたちがひしめいている。

 それを指さして俺は言った。

 

「お前らを叩き潰すがいいよな?

 答えは聞いてない」

 

 そう宣言すると同時に俺はバトルホッパーを呼び出す。

 

「バトルホッパー!!」

 

 俺の呼び声に答え、電子音とともに空間からバトルホッパーが飛び出した。

 ……何だか響の胸元から出てこないバトルホッパーを見たのは久しぶりな気がするが、気にしてはいけないのだろう。

 そして飛び出したバトルホッパーはそのまま、『切り離した後部車両』へと取り着いた。

 

「トゥッ!!」

 

 俺が飛び上がると同時に後部車両が光を放ちバトルホッパーへと変形、それに飛び乗ると同時にアクセルを全開にして走り出す。

 

「シャドービーム!!」

 

 俺はバトルホッパーを操りながらシャドービームを発射、稲妻状に枝分かれしたシャドービームがノイズたちを貫いた。

 しかし未だノイズの数は多く、俺を無視して飛行型ノイズたちが列車へと追い縋る。

 さらに……

 

『信人くん、大型のやつがいる! そいつの排除を頼む!』

 

 弦十郎司令(おやっさん)からの通信で空を見れば、いつだか東京スカイタワーを襲ったあの輸送機型大型ノイズの姿があった。輸送機大型ノイズはこちらの攻撃の届かない場所からその腹からどんどんノイズを投下してくる厄介な相手だ。早急に倒す必要があるが、護衛となっている取り巻きの飛行型ノイズが盾になってしまいシャドービームもまともに届かない。

 

「だったら……取り巻きで殴る(・・・・・・・)!」

 

 俺は再びシャドービームを撃つ。しかし今度は相手を破壊する光線ではなく、相手を捕まえて動かす念動光線だ。

 念動光線に捕まったノイズたちを一か所に集めると、俺はそのまま念動光線を振り回す。

 グルグルと振り回すたびに周辺のノイズがまるで磁石に吸い寄せられた砂鉄のように集まって行く。

 そして完成したのは巨大なハンマー投げ用のハンマーだ。念動光線で繋がった先に吸い寄せられた大量のノイズが塊になっている。

 

「ふんっ!!」

 

 そして、俺はそれを躊躇なく輸送機型大型ノイズへ投げつけた。

 輸送機型大型ノイズは慌てて身を守ろうと周囲の護衛の飛行型ノイズを集結させるも、巨大ハンマーの大質量には為す術がない。護衛の飛行型ノイズを巻き込みながら突き進んだ巨大ハンマーが輸送機型大型ノイズに直撃、その身体がくの字に折れ曲がる。

 そこにトドメの一撃を入れる。

 

「バイタルチャージ! トゥ!!」

 

 俺はバトルホッパーで大ジャンプ、さらにそこからバイタルチャージをしながら大ジャンプをして上空の輸送機型大型ノイズへと肉薄する。

 

 

「シャドーキックッ!!」

 

 

 シャドーキックが直撃し輸送機型大型ノイズが爆散する。同時に拡散したキングストーンエネルギーによって周囲のノイズが連鎖的に爆発して消えていった。

 俺はそのまま空中でバトルホッパーに戻ると、そのまま着地する。

 かなりの上空からの着地だったが、バトルホッパーの謎の性能によってそれほどの衝撃はなく着地することができた。

 

「さて、響たちの方は……」

 

 周囲の敵を掃討し意識を輸送列車へと戻すと、その時ひと際大きな爆発音が響く。

 

弦十郎司令(おやっさん)、今のは?」

 

『大丈夫、響くんの一撃だ。その一撃でノイズの掃討は確認された。

 輸送列車と合流してくれ、信人くん』

 

「了解だよ、弦十郎司令(おやっさん)

 

 俺は答えて、輸送列車に合流すべくバトルホッパーのアクセルを全開にしたのだった……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「これで搬送任務は完了となります。ご苦労様でした」

 

「ありがとうございます」

 

 到着した山口県岩国米軍基地であおいさんが書類に電子印鑑を押し『ソロモンの杖』が引き渡されると、ウェル博士が口を開く。

 

「この目で確かめさせていただきましたよ、シンフォギア装者の皆さんと仮面ライダーSHADOWのその凄まじい力を!」

 

「はぁ、それはどうも」

 

 テンション高めのウェル博士の言葉に、俺はそんな気のない生返事を返す。

 結局、キングストーンからの警鐘はそのままだ。そのせいでどうにも俺はこのウェル博士に対して不信感をいだいていてそれが拭えない。

 そう考えを巡らせる俺の前で、俺の様子は目に入ってないようでそのままテンション高めで続ける。

 

「しかし素晴らしい! 世界がこんな状況だからこそ、僕等は『英雄』を求めているッ!誰からも信奉される偉大なる『英雄』の姿をッ!!」

 

「『英雄』ねぇ……」

 

「おや、『英雄』という言葉に何か思うところがおありで?」

 

「……さっきも言ったけどあの成果は全員の成果、古今東西たった1人で何かを為しえた英雄はいないよ。

 それを支援して支える誰かがいてこそ『英雄』になれる……だから誰か1人を指して『英雄』ってのはな。

 それに……俺は『絶対に英雄になれない条件』ってのを知ってるし、英雄云々を抜きにしてもそれだけはやらないように心掛けてるからな」

 

「ほぅ……」

 

 どうやら俺の言葉に興味を示したらしい、赤い左目の義眼センサーを大小させる。

 

「なるほど、あなたにはあなたなりの『英雄論』がおありのようだ。

 できればそれを聞かせてほしいところです」

 

「機会があったらにして欲しい。 俺たちも今日は忙しいからな」

 

「それは残念。 ではまたの機会に」

 

 

 

 

 

 そして無事任務を終わらせた俺たちは岩国基地を後にする。

 

「皆頑張ってくれたから司令が東京までのヘリを出してくれるそうよ」

 

「やったぁ!」

 

「これでセンパイたち(奏と翼)のライブには間に合うかもな」

 

「……」

 

 響とクリスが任務終了の開放感から伸びをする中、俺の思うことはやはりあのウェル博士のことだ。

 

「ノブくん、まだあの博士のこと考えてるの?」

 

「まぁな……」

 

「確かに『英雄英雄』言ってる変な博士だったな。 ありゃ完全にメサイアコンプレックスだよ」

 

 クリスが処置なしといった感じで肩を竦める。

 

「まぁ変な人ってだけならいいんだがな……それ以上に何かがある気がするんだよ。

 ただの勘なんだがな」

 

「おいおい、嫌なフラグたてるなよ。

 おまえの勘はかなりの確率で当たるから、嫌な予感がビンビンだな」

 

 うへぇといった感じでクリスが言ったその時、背後から轟音と共に熱波を感じる。

 その場の全員が振り返った先には、大量のノイズが米軍基地を襲う光景が広がっていた。

 

「いきなりフラグ回収かよ!?」

 

 クリスが思わずそう叫び、俺たちは走り出す。

 これが新たな戦いの始まりだとは、この時は俺を含め誰もそのことに気付かなかったのだった……。

 




今回のあらすじ

ビッキー「奏さんと翼さんのライブの日に任務とか……私って呪われてるかも」

キネクリ「まぁ一応主人公なんだし、厄介ごとがいくらでも舞い込んでくるあたり呪われてるのかもな」

SHADOW「そして遂にG編で登場するアメリカのお偉い博士の登場だぞ」


ウィーン、キチキチキチ……


メカウェル「メカチガウ、メカチガウ」

SAKIMORI「メカだこれぇぇぇぇ!!」

奏「というわけでG編の最大級の変更点であるメカウェル博士の登場だ」

キネクリ「いや、魔改造にしたってやり過ぎだろコレ!!」

ビッキー「ちなみに外見は東映版スパイダーマンの『モンスター教授』とかサイバーフォーミュラシリーズの『エデリー・ブーツホルツ』さんを参考にしてるよ!」

SHADOW「機械化された左目と左腕ってことだな。ちなみに目の挙動に関する辺りは映画『ターミネーター』を意識しているそうだ」

メカウェル博士「私の趣味だ。いいだろう?」ニコッ♪

SAKIMORI「……ああ、もう完全にこの辺りの描写で海に沈んでる仮称『フロンティア』の正体が分かってしまったな」

奏「というか作者としては今回の描写で仮称『フロンティア』の正体が読者に分かるつもりで前回はわざとぼかした表現を使ってたのに、前回の段階で結構な人が仮称『フロンティア』の正体に気付いてて驚いたらしい」

キネクリ「とんでもない厄ネタが海に沈んでるんだが……この世界マジで大丈夫かよ?」

フィーネさん「私もカストディアンが後生大事に保管してるただの宇宙船だとばかり思ってました!
       ……今さらだけど、当初の計画通り月を破壊しても『アレ』の封印を解いたら地球滅亡状態で、私の計画って1から10まで最初から詰んでいたって後から分かると泣けてくるんだけど」

たダマ「さすが私のご先祖様!」

SHADOW「で、予想通りのノイズの襲来だ」

ビッキー「……ところで今回も時系列的にまとめて書いたけど、『フィーネさんってソロモンの杖以外にもノイズの召喚と制御の術を持ってた』ってことでいいよね?」

フィーネさん「その辺り原作でも見覚えないけど、そうじゃないと説明つかないから、『少なくとも本作ではそういう設定』にするらしいわよ」

キネクリ「まぁ、後々の錬金術師の件を考えるとノイズのレシピ自体は存在するからノイズの生産ってそこまで難しくはなさそうだし、そういうことでいいんじゃね?」

SHADOW「倒すけどいいよね? 答えは聞いてない!」

奏「今回列車護衛だからって電車ライダーのキメ台詞を入れてきたね」

SHADOW「敵で殴る!」

SAKIMORI「この辺りは映画『パシフィックリム アップライジング』の主人公機『ジプシー・アベンジャー』の武器『グラビティースリング』をイメージしてるそうだ。『グラビティースリング』は重力制御で物体を引き寄せて相手に叩きつけるが、それをこっちはシャドービームで集めて叩きつける感じ」

SHADOW「質量攻撃は正義! ガンダムハンマーは正義だった!」

キネクリ「まぁいいんだけどさ」

メカウェル「エイユウ、エイユウ」

SHADOW「なぁお前さ、絶対に英雄になれない条件が1つあるんだけど教えてやろうか?」

ビッキー「ここは北岡弁護士ことゾルダの名セリフを今後言うための伏線だね」

奏「というわけで次回はコラボレーションライブが始まるぞ」


遂に登場した大問題キャラ『メカウェル博士』。その正体は謎に包まれている(棒)

異動期はツラい、本当にツラい。
それでも何とか第2・第4日曜日更新は死守したいところ。

次回もよろしくお願いします。


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